少年士官と緋弾のアリア (関東の酒飲)
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民間人編
なんで来ちゃったのかね・・・


初めての2次小説です。設定グダクダの自己満足の作品ですが、温かい目で見てくれると嬉しいです。





 みんなは神様転生って知ってる?死んだかなんかで神様にあってさ、特典もらってどっかの世界に転生するってやつさ。俺も転生(?)したよ、神様には会わなかったけど。信仰心が足りなかったのかね?

俺はとある地方の国立大学に通っていた、アニメやラノベが好きな理系の学生だった。高校1年のころはまじめに勉強してたけど、高校2年から勉強に疲れて、ゲーム三昧。かろうじてノートは取っていたから、運よく地方の国立の大学にぎりぎりで入れたわけだ。

 で、大学の微積の授業中つい、うとうと寝ちまったわけだ。朝7時まで「戦車の世界」で小隊組んでやるんじゃなかった。そう思いつつ寝ていたら、やけにまぶしい。なんだ隣の野郎の悪戯か?そう思って起きたらおばちゃんの顔がドアップ。こんなことが起こったら誰だって驚くはずだ。「うわ!!!!!」っていうつもりだったのだろう、俺は、でも

「おぎゃぁあああああああああ!!!!」

人間驚くと、まともな声が出ないらしい。そうしたら今度はおばちゃんから若いお姉さんの顔がドアップになった。そろそろ自分も落ち着いてきて、「誰ですか?」聞こうとしたんだ。

「だぁだぁ~」

・・・・ちょっと待とうか。俺しゃべれないの?どうなってんの?しかもなんか若いお姉さん、聖母のような微笑み浮かべてるんだけど。今度は若いお姉さんと若いお兄さんがドアップになってなんか話している。なんかすごい夢見てるな、しかも夢の中でも眠いし。うん、寝よう。そうして俺は転生(?)した瞬間を、夢だと思っていたわけだ。

 

 3歳くらいになると、そろそろなんかおかしいと思い、どっかの世界に行ったのでは?と考え始めた。新聞を読んだら(親は父親の真似をしていると思っていたらしい)日付がおかしい。毎日読んでいても、微積の授業を受けてた時よりだいぶ前だった。しかも、西暦の隣に皇歴あるし・・・・。自衛隊関連の話であろうことも全部が「日本軍~~~~~」って書いてある。8月半ばによくやる第二次世界大戦のドラマなど見ると「日本が条件付き降伏した・・・・・」ってあった。うん、知ってるのと違う。3歳の年のドラマはレイテ沖と沖縄戦のことやっていたけど、レイテでは栗田長官が反転命令したとき、彼が倒れてしまい、そのあと栗田長官の後を継いだ宇垣司令官が指揮を執って、突撃し、満身創痍で何とか帰ってきたらしい。沖縄戦では残存航空戦力を全部使って何とか機動部隊を撤退させ、戦艦の艦砲で敵輸送船と上陸用舟艇を全部破壊して、米兵が飢えたところを襲撃し、大量の捕虜を取り、その兵を人質にして和平交渉したそうだ。・・・・・全然知らないんですけど・・・・・。

 これらのことから異世界に転生(?)したと確信した。転生前にPCのデータ全部消去すりゃよかったと思い頭抱えて転がっていたら、遊んでいると思われたのか両親に写真やビデオを撮られてしまった。黒歴史撮るんじゃねぇ!!と今でも思ってる。

 まだ、この時はよかったんだ。ただ違う歴史を進んでいても、この世界と、転生前の世界じゃそこまで変わりないじゃん。ちっちゃいころは記憶力がいいから今のうちに勉強すれば、将来遊んで旧帝国大学なんて余裕だぜ!!!そう気楽に考えていたんだ。

 

 5歳のころニュースで犯罪が多発しているため、武装探偵(略して武偵)が設置されたそうで・・・・・。これ、絶対「緋弾のアリア」だよな、昔この作品好きで読んでたなー・・・・・。うん、現実に戻ろうか。最後にあのラノベ読んだのいつだよ。もう概要くらいしか覚えてないぞ。そういえば幼稚園で仲いい友達が「トオヤマ キンジ」だったような・・・・・・。なんかキンジが前

「俺のパパは武偵なんだ~」

とか言って自慢してたな・・・・。うん、主人公ですね、わかります。まぁ・・・武偵にならないで一般人でのんびりすればいいと思っていたんだよ。でも、キンジとキンジの兄ちゃんと(キンイチというらしい、そういえば名前そのまんまだな)とデパートで買い物に行ったんだ。そこで強盗が発生。まぁ、キンイチさんがいたからすぐに終わったけど、そのとき思ったんだ。自分の身くらい自分で守れないとまずい!!!そのせいで軍人を目指すようになったんだ。

 なんで武偵じゃなくて軍人かって?そりゃぁ公務員で、はるかに安全だからですよ。武偵はしょっちゅうドンパチだけど、軍人は戦争中か紛争地帯に行かない限り、訓練中だけ銃撃てばいいだけ。海軍や空軍(空軍は太平洋戦争終わってからできたらしい)なら船か飛行機の中ででボタン押すだけでいい。軍人は公務員だから一定の金がもらえるし、働けなくなっても、国から金がもらえるしな。これほど簡単で安定してる職業ないでしょ?そう考えて軍人になろうと思って努力しようと決意したんだ。キンジやキンイチさんは応援するぞ!!って言っていたけど、今思えば、あまりにも甘い考えだと呆れるけどね・・・・。

 

 7歳の夏、俺はキンジとキンイチさんに連れられ青森まで旅行に行った。よくトオヤマ家で遊んでいたため、俺の両親とキンジの両親が仲が良かった。青森旅行は俺のの両親たちとトオヤマ家で行こうとしていたんだけど、俺の両親とキンジの両親に外せない仕事が入っちまった。そこでこの旅行はお流れに・・・・・となるはずだった。キンジがぐずったのだ。そこで困り果てたところ、キンイチさんが

「俺が連れて行くよ」

そういってくれたため、急遽三人で行くことになった。

 今考えると、星伽神社って男が入れないんだけど、なんで入れたんだ?キンジ達と一緒だったから特例かな?

 そこで原作キャラの一人、白雪に会った。意外に暗い性格をしていたが、ちっこい子供はすぐに友達になれる、俺らと白雪と白雪の妹たちとすぐに仲良くなった。特に粉雪は自分に懐いた。俺らが帰るときは泣いてぐずっていたなぁ・・・・。

 星伽神社に泊まっている時、近くで花火大会をやると聞いて、みんなで行きたいとキンジが言った。大人達はもちろんダメの一点張り。そこで俺もキンジに加勢し、  

「なんでダメなんですか?理由を教えてください。」

「ダメなものはダメだ」

「理由を教えてくれなきゃ納得できないです!!」

「ダメだ!!これだからどこの馬の骨ともわからない子供は・・・・・・・・」

さすがにキレてもいいよね。ただ、ここで怒っても意味がない。脱走して、花火を見せてやる!!って思ったね。そこで夕方、納屋にあったリアカーにくすねた懐中電灯と白雪と妹達を乗せて、星伽神社を脱走、花火会場まで行っちまったんだ。白雪と妹達の花火を見た時の驚いた顔は今でも鮮明に覚えている。だってあんなかわいい子たちの驚いた顔だぜ?おっと俺はロリコンでないぞ。でも同い年だからロリコンにならないか?まぁいいや。それで花火大会から帰ると、大人達はカンカンに怒っていた。怒られたが

「ここの警備がザルだから抜けだしたんです。ザルな警備をしているのが悪くないですか?」

「あんなにダメダメって言ってるから、押すなよ押すなよのやつだと思いました。」

「花火大会くらい行かせない、しかも警備がザルなことを棚に上げて怒る心の狭い大人にはなりたくないなぁ。」

とか言って仕返しをしてやった。あの時の大人の怒った顔はみんなに見せてやりたいぜ。

花火を見てから、白雪は明るくなっていった。キンジにべったりだったけどな・・・。別に羨ましくないんだからね、こっちには粉雪がいるし・・・・とか思いながら残り数日を過ごし、帰る日になった。

白雪はまだ分別がつくらしく、普通に見送ってくれたが、問題は粉雪だった。俺つかんで離そうとしない。しかも泣いてるし・・・・服に鼻水ついたし・・・・。

「粉雪ちゃん、放してくれない?」

「や゛だぁ」

「また会えるからね」

「や゛だぁ」

そこで白雪が

「粉雪、いい?」

「な゛に゛?」

「お嫁さんになれば、ずっと一緒にいられるよ」

おいこら、何言ってますか。ってなんで粉雪泣き止んでんの?

「お兄ちゃん、粉雪お嫁さんにして」

うん・・・どうしようか・・・・

「お嫁さんは難しいかな・・・・」

ちょっと粉雪さん?泣きそうになってるんですけど・・・・

「お嫁さんは大人にならないとなれないから、今はダメなんだよ」

「じゃぁ、大人になったらお嫁さんにしてくれる?」

「そうだね、大人になっても覚えていたら、お嫁さんになってくれる?」

「うん!!」

「「ゆーびきーりげんまん・・・・・」」

とお嫁さんにするという約束を交わし、俺たちは帰っていった。

なんかヤバいことしたなぁと感じたが気のせいだと思いたい。




さすがに白雪は落とせない・・・。
粉雪のしゃべり方が違う?まだ幼いからさ(そういう設定にする)

キンジの父親は武装検事ですが、キンジは武偵と勘違いしています


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ダイ・〇ード!!上 初めての海外旅行なのにな・・・

主人公と両親の名前が明らかに・・・・


7歳のクリスマス、俺は両親に連れられてアメリカ、ロサンゼルスにいた。この世界に来て初めての外国だ。とてもわくわくする。なぜロサンゼルスに来たのかというと、日系アメリカ人が作った会社「ナカジマ商事」のクリスマスパーティーに出席するためだ。両親曰く

「ナカジマ商事は結構お世話になってるから今年こそは出なきゃ」

だそうで。でもなぜか・・・俺の勘はここにいるとまずいと言っているんだが・・・大丈夫かね。

この時、勘に従ってホテルに閉じこもっていればなぁ・・・と今は思う。

 

 ナカジマ商事のクリスマスパーティー中、どうしてもトイレに行きたくなった。ジュースでも飲みすぎたか?まぁ、やけにうまかったからな、ジュースより酒のほうが飲みたかったけど。

「父さん、母さんトイレ言ってくるわ」

「迷子にならないでね。迷子になったら近くのウェイターさんやウェイトレスさんに声かけるのよ」

「分かってるよ」

このころの記憶力ってすごいな。外国語とか古典漢文とかすらすら覚えられるの。転生前に中高で必死に英語を勉強したのがバカバカしいと思うぜ。

当時の俺(今もだけど)英語堪能だから、外国なのに一人でトイレ行かせちゃってもいいやとか思ってたのだろうな。ここでもし、俺の親が一緒に行ったら何か変わっていたかな・・・。うん親と一緒に殺されていたかもな。

 

 トイレで用を足している時、後ろから疲れてそうな30代の白人のおっさんが来た。なぜか知らないが、無性にこのおっさんに声をかけなきゃいけないと思ったんだ。

「メリークリスマス、おっさん。おっさんもパーティーに?」

「ん?あぁ・・・そういうところだ」

「へぇ~、おっさん刑事やってるの?」

「なんでそう思ったんだ?」

「靴がやけにすり減ってる。歩くような職についてる、それなら刑事としか思えない」

「記者だってそうじゃねぇか。」

「肩が不自然に下がっている。この国でも銃を携帯しているのは警察かせいぜい軍人でしょ?」

「・・・・すげぇな坊主」

「おっさんの名前なんていうの?」

「お前、親から名前を聞くときは自分からって聞いたことあるか?まぁ、いい、俺の名前はジョニー・マクレーだ」

「おっさん結局自分の名前いうのかよ、俺は村田維吹って言うんだ。」

ん?「ナカジマ商事」、「ナカジマプラザでパーティー」、「ジョニー・マクレー」、なんか映画で似ているの見たことがあるぞ。あれは確か・・・・

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!!!!!!!

「なんだなんだ!!!。くそッタレ!!!」

 ダイ・〇ード!!!!!!!!!!!?????????え?なんで?ここ緋弾のアリアじゃないの?

「おい、坊主!!ここでじっとしてろ!!!」

「・・・うん」

なんか若干違うけど、ダ〇・ハードまでクロスかよ!?

 

 数分間じっとしてたけど、ここで隠れていてばれたら殺されるんじゃね?とか考えて、マクレーのおっさん探したんだ。だって、緋弾のアリアよりも前に見たんだぜダイ・ハー〇。覚えてるの、それこそ有名なアクションシーンぐらいしかねぇよ。

 もしかしたらテロリストは子供に平気で銃撃つかもしれねぇ。それならまだマクレーのおっさんについて行ったほうがいい。そう思ったんだ。だけど、今だからこそ言える。当時の俺、馬鹿じゃねぇの?

 探していたら、銃声がしたほうの階段からマクレーのおっさんと誰だかわかんない男が落ちてきた。そのあと、その誰だかわかんない男が動かないからか、安心しておっさんが男から手を放して肩で息していた。そしたら動かなかった男が急に動き出して・・・っておっさんが危ない!!!手に持っていたハンマーでとっさにその男を殴った。だいぶいい衝撃がして男はうごかなくなった。

「おっさん、油断すんなよ・・・」

「坊主なんでここにいやがる。トイレでじっとしてろッて言ったはずだぞ。」

「トイレでじっとするより、おっさんについて行ったほうが安全だと思ったんだ。敵は子供にも容赦なく撃ちそうな感じだったから。」

「来たって足手まといだ。すっこんでろ。」

「少なくとも今は役に立ったはずだぞおっさん。」

そういって動かない男の腰から拳銃を取り出して、10メートルくらい先のドアノブに向かって5発撃った。全て命中。意外と当たるもんだな。

「人を殺さなきゃなんねぇぞ。」

「どうせ殺さなきゃ、殺されるんだ。座して待つよりあがくほうがいい。」

「っけ!ませやがって。ロン・ロジャーにでもあこがれたか?足手まといになったら置いてくからな、くそッタレ!!」

「合点だぁ!!」

 

 こうして、マクレーのおっさんと一人一人敵を無力化していったわけだ。通気口のとこもぐったり、俺の上着破いて作った即席の靴履いてガラス片ばかりのところ走ったり、屋上で俺がホース見つけてきて、それを使って二人一緒に屋上からダイブしたり・・・・。あのおっさん格闘は弱いというか力任せだから二人で一人に当たらないときついし、しかも爆弾をエレベーターに落としたのにずっとのぞきこんでるんだぞ。慌てて伏せさせて何とか負傷しないで済んだけど・・・。そして、敵のボスがおっさんの嫁さんの腕につかまって宙ぶらりんはさらに驚いた。慌てて俺がパンツの中に隠しておいた拳銃で敵のボスの頭に風穴開けてなんとか一件落着。そして敵のボス無力化した後、おっさんと嫁さんが濃厚なキッス・・・・・・大丈夫自分は空気が読める人間・・・・・・邪魔はしないさ。何分か待っているとキスが終わったのか嫁さんが

「そういえば、あの坊やは誰?」

「ん?あの坊主は俺の相棒だ」

うれしいこと言ってくれるじゃないか。そういえばマクレーのおっさんは嫁さんと別居中だっけか、

「こんばんは、マクレー夫人。ジョニー・マクレーさんと一緒に戦った、村田維吹と言います。戦闘中や移動中にさんざん夫人ののろけ話聞かされましたが、なるほど納得です。」

あ、マクレーのおっさん眉ひそめてる。

「あら、ずいぶんませたこと言うのね。この人が言えって言ったの?」

「本当のことですよ。戦闘に関係ある話以外は、ほとんどのろけ話・・・・。」

遠い目をしていった。これぐらいしたらマクレーのおっさんも喜ぶだろ。

「フフフ、本当みたいね。」

「そういえば坊主、お前両親に会ったらだいぶ絞られるんじゃないか?。」

無理やり話し変えたな、このおっさん。ってそういえばそうだった。

「っておい。なんでそこまで落ち込んでんだ坊主。」

orzの状態になっちまったよ。ヤバい、そうだった、忘れてた・・・。マクレーのおっさん思い出させるなよ・・。

「マクレーのおっさん助けてくれ。」

「俺はお兄さんだからな、おっさんって誰だw?」

このおっさん地味に歳のこと根に持ってやがった。

 

 そんなこんなでナカジマプラザでのテロリスト襲撃事件が終わり、かろうじて生きてたやつも警察のおっさんが無力化して一件落着・・・・・・。

「維吹、何てことをしていたの!!!!。」

「心配したんだぞ!!!。」

俺の親と再会して、涙ぐみながら抱いてくれた我が両親は今、修羅になってます。お母様、お父様、ここ他人の目が沢山あるところ・・・。

「ちょっといいですか?」

「なんですか!!!」

マクレーのおっさん!!もしかして助けて・・・

「彼は本官と一緒にこのテロリスト達を無力化していました。彼は何度も本官を助けてくれました。まぁいささか蛮勇な部分もありましたけどね。ここでは人がたくさん見ています。ホテルで叱ってはどうですか?」

このおっさん、問題先送りにしやがった・・・・。

「私はニューヨーク市警察巡査部長のジョニー・マクレー。彼女は私の妻マリー・マクレー。」

「ご親切にどうも。私が維吹の父親の村田康夫、こちらが母の村田勝子です。」

「母の勝子です。」

「戦友をここで叱らせたままはさすがに私も思うところがあります。車でホテルまでお送りしましょう。」

って言ったらリムジンが来て乗るように誘ってきた。マクレーのおっさん・・・普通にしゃべれたんだな・・・似合ってねぇぞ。」

「おい、聞こえてるぞ坊主。こういうようにしゃべらないといけない場合があるんだよ。さぁお二人とも乗ってください。」

俺の両親はリムジンに乗ってナカジマプラザを後にした。

 今ならよくわかる、あのおっさんと俺はよくテロリストに対して生きてたな・・・。あのおっさん火器爆薬の知識はあっても格闘は力任せ、俺は銃と棒は多少できるが、体が小さいせいで力が入らないし至近距離ではテロリストには完敗であっただろう。

 これがマクレーのおっさんとの初めての出会いだった。

 

 




ダイ(死に)・ハー〇(辛い)
あの映画借りたいけど、今、お金がない・・・


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ダイ・〇ード!!下  追い掛け回されるのは嫌いだ・・・

二人でテロリストを鎮圧すればこうなりますよね


リムジンが俺らの泊まるホテルに着いた時、マクレーのおっさんは急に俺と二人で話がしたいと言って、運転手と俺の両親、おっさんの嫁さんをリムジンから出した。

「俺、おっさんと二人きりで話すことなんかねぇぞ。・・・もしかしておっさん。若い男の趣味があったりして・・・。」

「くそ野郎!!そんな趣味はねぇ!!これだからませたガキは・・・。」

「冗談はこれくらいにしてマクレーのおっさんなんだ?」

「ったく、お前から冗談出したんだろうが。まじめな話をするとだな坊主、坊主は殺しっていうのは初めてか?」

「・・・・・・」

「この反応じゃ、初めてか。まぁその歳で初めてじゃなかったらおかしいか。坊主は正当防衛とはいえ人を殺した。それは一生ついていくだろう。坊主、今どんな気持ちだ。」

「なんか殺したって気がしないな。ぎりぎりまでリアルなゲームのゾンビを殺したって感じ。」

「今のガキって怖いねぇ。人殺してゲームと同じ感覚だとよ。おそらく、時間がたってから殺したって感覚が出るだろう。坊主はまだ幼い、このことに関してだいぶ気に掛けるかもしれねぇ。そういう時は俺に連絡しな、いつでも相談に乗ってやる。時差は考えろよ。」

そう言って、マクレーのおっさんは数字が書かれた紙きれを俺に渡してきた。

「それにしてもクリスマスパーティーがこんなクソのようになっちまった。残念だったな。」

「でも、俺はマクレーのおっさんからクリスマスパーティーじゃ学べない大切なことを教わったぞ。」

「ん?なんだ?」

「敵に イピカイエー・マザーファッカー って言って銃をぶち込むこと。」

「 イピカイエー・マザーファッカー か。」

「そう、 イピカイエー・マザーファッカー ってね。」

「「 イピカイエー・マザーファッカー 」」

マクレーのおっさんと俺はそう言って互いの拳をぶつけた。

俺はリムジンから降りて、両親と一緒にマクレーのおっさんと嫁さんを見送った。

「さぁ維吹、説教は終わってないわ。」

「さんざん心配かけさせたからな。」

・・・マクレーのおっさん、一緒にリムジンでもう少しドライブしたかったよ・・・。

 マクレーのおっさんがこんなに気を遣うってことは何か企んでいることだ。当時の俺でも、この短い付き合いでもわかっていただろうに。マクレーのおっさんを疑わなかった当時の自分は考えなしだったんだろう。

 

 翌日、起きるとホテルの前に大きな人だかりができていることに気が付いた。テレビ局員らしい人までいるし・・・。なんだ?このホテルに有名でも泊まっているのか?ホテルの部屋に備え付けてあるテレビをつけてみると

「昨日ロサンゼルス、ナカジマプラザでテロリストによる人質事件ですが偶然その場に居合わせた警察官と少年の二人によって事件は解決されました。」

あぁ・・・昨日のことは夢じゃなかったんだな・・・。お、マクレーのおっさんがインタビューに答えてる。あの人こういうこと苦手そうだけどなぁ・・・

「あの事件は少年によって解決されたといっても過言ではないです。少年に事件のことを聞いたほうがいいでしょう。本官は彼の手助けをした程度です。」

あのおっさん俺を売りやがった!!!!もしかしてこのホテルの前にある人だかりって・・・

「今、その少年が泊まっているホテルの前にいます。まだ少年は表れていません。情報によると、事件を解決した少年の名前はイブキ・ムラタというそうです。」

やっぱり俺だよね・・・。両親も苦笑い。・・・お父様、お母様、ロサンゼルス観光はどうなります?

「うん、旅行は中止にして、日本に帰ることにしたよ。」

「そうね、さっきホテルの人もタクシー代航空券代ホテル持ち、キャンセル料もとらないから帰ってほしいって言われたわよ。」

なんていうホテルだ・・・。そういえばマクレーのおっさんから電話番号もらってたな

「・・・ハァイ、ハロー、ただいまロン・ロジャー似のイケメンでナイスガイなジョニー・マクレーお兄さんは外出中だ。要件がある人はガチャッてなった後、要件を言いやがれ。」

おっさんふざけてやがる・・・。

「おい、マダオいるんだろ?」

「なんだぁ、マダオっていうのは。」

「まるで ダメな マクレーのおっさん 略してマダオだ。」

「・・・・・・俺が悪かった。おっさんでいいからマダオだけはやめてくれ。」

マクレーのおっさんマダオはやけに嫌がるな。

「まぁいいや、マクレーのおっさん、俺をマスコミに売りやがったな。」

「何言ってんだ。相談に乗るって言ったろ?その報酬さ。しかも、マスコミにちやほやされて英雄になれるぞ。」

そしてマクレーのおっさんは電話を切った。何度もかけ直したが出ない。あのおっさん電話線抜きやがったな。

「じゃぁ帰るか、ほら維吹、帰り支度をしなさい。」

こうして、初めての海外行きはたったの一泊二日で日本に帰ることになったんだ。  まぁ、日本でもマスコミに追い掛け回されたけど、ロサンゼルスのホテルで見た人だかりほどの量じゃなかったからよかったよかった・・・・・・・。

 

「イブキ、アメリカでテロリスト相手に大活躍したんだって?すごいな!!」

「おい、キンジ、マスコミに追い掛け回されたいなら、いつでも変わるぞ。」

「それならいいや。」

この野郎、他人事だと思いやがって・・・。

なお、日本に帰ってキンイチさん、キンジの両親、俺の両親によるステレオ説教はだいぶ辛いものがあった。

 今思えば、怒ってくれる親がいるってのはありがたいことだ。なんだかって?それはな・・・

 

 12歳のクリスマス、両親が死んだ。




あくまでジョニー・マクレーという人です


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もうメインヒロインに会うなんて・・・

とうとうあの子に会う・・・


 俺の親が死ぬより少し前、俺が12歳の時の秋にキンジの両親が他界した。仕事での殉職だったそうだ。キンジとキンイチさんは人前では泣かなかった。さすが遠山家の人間だ って思ったっけか。キンイチさんは寮に住んでいるけど、キンジはキンジのじいちゃんに引き取られるらしい。まぁキンジは武偵中学に行くから3月からは寮暮らしになるって言ってたっけ。そういえば、その葬式に星伽の人間が葬式に来ていたのは驚いた。原作で遠山家と星伽はなんか関係があったらしいが詳しくは覚えてない。(なお白雪、粉雪は葬式に来ていない。) 

 星伽で思い出した、あのマクレーのおっさんといっしょにナカジマプラザで戦い日本に帰ってから数日後、俺の携帯電話に知らない番号から電話が来たんだ。なんだろうと思って電話に出たんだ。

「はい、もしもし。」

「お兄ちゃん大丈夫!?ケガしてない!?あちこちケガしたって聞いたよ!?」

「あぁ、大丈夫大丈夫、無事に歩けてるよ。」

「お兄ちゃんが単身テロリストと戦ったって聞いたからとても心配したんだよ!?」

だいぶ早口でしゃべってるな。ってなんで俺が単身で倒したことになってるんだよ。

「いや、単身で倒してないから。ジョニー・マクレーって言う警察のおっちゃんと二人で倒したんだ。それにテロリストは13人しかいなかったし。」

「13人もいたの!?どうして戦ったの!!!。」

そこから1時間も電話で説教・・・。まぁ心配させたから贖罪のつもりで聞いてたけど、さすがに長すぎませんかね?説教が終わった時に

「なんで俺の携帯の番号がわかったの?急に電話が来てびっくりしたよ。いつも手紙だったのに。」

粉雪とは星伽神社訪問の後から文通をしていた。信じられるか?この時代に文通だぜ。

「星伽の力を使ってお兄ちゃんの電話番号を知ったの。」

なにそれ、星伽って怖い。

「お兄ちゃん、本当に心配したんだからね。」

「あぁ本当にごめんね。あんな偶然、もう起こらないだろうし大丈夫だよ。」

これがフラグになったんだろうなぁ・・・。まぁ、普通あんなビルの中二人でテロリストを倒すみたいなこと2度も起こるとは思わないしな・・・。

 

 話を戻そう。キンジの両親の葬式を終えて数ヵ月、12歳のクリスマス、俺はニューヨーク、ジョン・F・ケネディ国際空港に来ていた。俺のかあさんの友達がクリスマスパーティーに我が一家を招待したからだ。両親は毎年断っていたが、俺が幼年学校に入学することが決定したこと、7歳の時の事件から5年もたっていること、俺に世界を見せて勉強させよう、などの理由から今年は参加することにした。

 そういえば幼年学校の説明はしていなかったな。武偵を養成するための武偵高校、武偵高校付属中等部が設置されたとき、当時の兵部省(転生前の世界で例えると防衛省、太平洋戦争後に再設置。兵部省の下に陸軍省、海軍省、空軍局、大本営がある。)が人材が武偵のほうに流失すると考えたため、中学から士官を育て上げる幼年学校、高校から士官を育て上げる予備士官学校、そのあと陸海空に分かれ陸軍士官学校・海軍兵学校・空軍士官学校 というようなシステムを作ったそうだ。簡単に言うと、

武偵高校付属中等部(武偵)=幼年学校(軍)

武偵高校(武偵)=予備士官学校(軍)

武偵大学(武偵)=陸軍士官学校・海軍兵学校・空軍士官学校(軍)

って思ってくれればいい。

 おっとだいぶ話がそれたな。そんな理由で俺はこの世界に来て2度目の外国に来たわけだ。前回はさんざんだったからな、期待しないわけがない。だけど一つだけ不安があったんだ。俺の勘が「この空港にいちゃいけない」ってめっちゃ騒いでいたんだ。ナカジマ商事のパーティーでもこういう感じしたしな、早く出たい。だけれど、迎えに来てくれるらしい母の友達(パーティーの招待主ではない)になかなか見つからなかった。早く見つけてこの空港から出たい。

 

「初めまして、あなたのお母さんの友達の神崎かなえよ。よろしくね。」

「初めまして、村田維吹です。維新の風が吹くで維吹です。」

 迎えに来た母さんの友達のかなえっていう人、やけに若くねえか。うちの母さんも結構若いけど、この人もっと若いぞ。

「それで、この子がアリアで、車いすの子がメヌエットよ。維吹君とアリアとは同い年ね」

・・・・・・まじ?そういえばアリアの母親が「かなえ」だったか「かおり」だったかうろ覚えだったけど、この人がアリアの母親!?うちの母さん交友ヤバくないか?まさかここで会うとは思わなかったぞ。だけどアリアの髪、金髪だな・・・緋弾をホームズに撃たれてないのか?

「こんばんは、初めまして自分は村田維吹と言います。よろしくね。」

「私は神崎・H・アリアよ!!」

やけに元気がいいな・・・。このころから活発だったのか。三つ子の魂百までとは言ったものだ。

「私は・・・メヌエット・ホームズ・・・」

このころのメヌエットはおとなしいな。何かあるのか?

「メヌエットはね、すごく頭がいいのよ!!すぐにどんなことでも当てちゃうんだから!!」

アリアがない胸を張って自慢している。メヌエットが足が悪いことで馬鹿にされることを防ごうとこういう話を切り出しをしているのか?そうだとすると妹思いだな。

「そうなの?」

「・・・うん」

「そうだね・・・自分は武道をやっているんだけど何をやっているかわかる?」

「・・・・・・銃剣道・・・やってると思う・・・・」

「なんでそう思ったの?」

「・・・・まず手・・・手にタコがついてる・・・この形は何か棒を握ってできる・・・だから剣道などの棒を使う武道・・・手のタコが左右で不均等にできてるから銃剣道だと思った・・・。」

このお嬢ちゃんすげぇな・・・。8つでこれだけできるとは・・・。

 あのナカジマプラザで起こった事件の後、俺は家の近くにある元軍人の人が開いた道場に通い始めた。今のうちにある程度鍛えなければ死ぬかもしれねぇ!!って思ったからだ。このことを師範に言ったら喜んで銃剣道を教えてくれた。ただでさえ厳しい練習なのに俺だけそれ以上に厳しかったけど。しかも、本物の38式と銃剣使って訓練させるってどうなのよ・・・。そういえば、幼年学校に入学が決まったって報告したら、すごくあの師範は喜んでた。俺が引くくらいだもの、懐かしいなぁ。

「すごいね、正解だ!!!」

「でしょ!!メヌエットはすごいのよ!!!」

アリアが自分のことのように自慢する。あぁ・・・そういえば、このぐらいからアリアの体はほとんど成長しないのか、かわいそうに・・・。

「でも・・・足が悪いし・・・。それで馬鹿にされる・・・。」

なるほど、だから暗いのか?

「メヌエットは人よりも断然、桁違いで頭がいい。だから足が悪くてもプラスマイナスゼロどころかプラスだ!!馬鹿にされるならメヌエットの頭を使って仕返しをすればいい。それでもだめなら俺が日本から飛んできてとっちめてやる!」

「・・・・・・・うん!!」

 これ以降、なぜかメヌエットは俺に懐いたんだっけか。この初めて会った時にメールアドレスを交換して以来ずっとメヌエットとメールのやり取りしてるな。今でもメールくるしね。

 

 そのあと、ホームズ姉妹と仲良くなり、三人でしゃべっていたら、見覚えがある顔を見つけた。

「よう坊主。久しぶりだなぁ元気か?ってナンパ中か、悪かったな。」

「おい、マクレーのおっさん。どう見てもナンパに見えねぇだろうが。それになんか額が前見たよりもでかくなってないか?海藻は髪にいいらしいぜ。日本のワカメやコンブを送ってやろうか?」

まさかマクレーのおっさんに会うとは!!って思ったっけ。

「うるせぇな、髪の件は気にしてるんだよ。なんで坊主がここにいるんだ?」

「クリスマスパーティーによばれてな。あぁナカジマ商事のやつじゃないぜ。あれはもうごめんだ。おっさんは何で?。」

「マリーを迎えにな。俺もあのクリスマスパーティーはもうごめんだ。」

「イブキ!!このおじさんだれ?。」

「お姉さま、彼はジョニー・マクレー警部補だと思う。」

すげえなメヌエット当たりだ

「ジョニー・マクレーってテロリストを単身で鎮圧した人じゃない!!」

アリアよ、単身じゃないぞ。いや、このままでいいか。

「いや、あの事件はこの坊主と‘‘二人で’’解決したんだ。」

おい、「二人で」を強調するな。このまま勘違いさせておこうと思ったのに

俺の両親もマクレーのおっさんに気がついたのか、マクレーのおっさんに挨拶してる。

そのあと、アリアがナカジマプラザでのことを俺とマクレーのおっさん二人に質問攻め・・・。

「なぁ、おっさん。あれ・・・。」

「なんだぁ、坊主も気づいたか。」

俺とマクレーのおっさんが見ていた先には、怪しげな二人の男がいた。その二人組は置いてあった荷物を持って立とうとしていた。

「イブキ!!マクレーさん!!聞いてるの!?」

「アリアごめん、ちょっとトイレに行きたくなって。マクレーのおっさんはどうする?」

「あぁ、今日はコーヒーの飲みすぎのせいで、トイレが近くてな。俺も行く。」

「おっさん年じゃねぇの?」

「っは!言ってやがれ。」

そう言って俺とマクレーのおっさんは立った。

「イブキ!!マクレーさん!!早く帰ってくるのよ!!」

「あぁ ちょっと長くなるかもしれねぇ。」

マクレーのおっさんはそう言って、俺と二人でトイレとは逆方向に行った怪しい二人組の後を追ったんだ。

 この行動のおかげで俺とマクレーのおっさんは「ナカジマプラザの人質を救った英雄達」から「もっとも不幸な、不死身の二人組」になっちまったんだ。こんな行動しないでアリア達と話していたらどうだったかなぁ・・・。結局なんだかんだでこの後と同じ展開になりそうな気がするな・・・。

 

 

 




兵部省は明治初期、海軍省・陸軍省ができる前にあった防衛省のような省庁です。陸海空を統合するため再設置されたという設定です。
兵部省の下なのに陸軍省・海軍省という名前なのは警察庁、警視庁のような関係と思ってください。

メヌエットのしゃべり方は同級生にいじめられてたからこうなっている、という設定です。イブキによって自信をつけ、原作のようなしゃべり方になっていくという設定。
メヌエットの母親はメヌエットを生んだ後死亡、神崎かなえが我が子のように育てるという設定にします。

この後、「ナカジマプラザの人質を救った英雄達」はどうなるのか・・・
わかる人ならわかるか。


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ダイ・〇ード2!!上  銃撃のない海外はあるのかね・・・

主人公が天才のように見えるかもしれないけど、幼少から「このぐらいの年では一番〇〇が発達するから▲▲したほうがいいな」って考えて勉強や体を鍛えたりすれば、結構優秀な人間になると思う。


 俺とマクレーのおっさんは怪しげな二人組を追っていたんだが・・・。

「人混みのせいで進みづれぇ・・。外人は体が大きいから見えねぇし・・・。みんな小っちゃくなっちまえ。」

「っは!小っちゃいより大きい方が良いだろうが。」

マクレーのおっさんよ、そんなにでかいことを自慢したかったのか?子供相手だったんだぞ。

「っけ、でかいからって調子に乗りやがって。マクレーのおっさん、あの時は格闘は力任せのお粗末なものだったけど、今はどうだ?」

格闘はおっさん力任せだからな、何か言われたらこのこと言ってやろうって思ってたんだっけ。

「うるせぇ、坊主だってそうだっただろうが」

「俺は銃剣道をやっててね。少なくともおっさんよりは活躍しそうだ。」

「言ってやがれ。」

軽口を言い合っていたら、二人組の男は荷物室に入っていった。

「・・・おい、荷物室に入ったぞ。どうする、おっさん。」

「俺は警察だ。何とかなる。坊主、てめぇは自分で何とかしな。」

このおっさん一人でやる気だな?格闘は弱いくせに。

「おい、警備員の兄ちゃん。ちょっと荷物室の中に入れてくれねぇか。警察なんだが怪しいやつが入ったみたいでな。」

そういってマクレーのおっさんは警察手帳を見せびらかした。絶対ついて行ってやるって思った俺は、銃剣道の師範から教わった「影を薄くする技」を使い、マクレーのおっさんと一緒に荷物室に入った。この技のおかげで誰にも気づかれず荷物室に潜入できた。今思えばあの師範何者だよ、「影を薄くする技」なんて一般兵じゃ教わらないだろ。

「なんだ坊主、ついてきたのか。」

「なんだって俺は、おっさんの‘‘相棒’’だからよ。」

「懐かしいこと言ってくれるねぇ」

「あっちだ、おっさん」

話し声が聞こえる。俺は近くに落ちていた1.5メートルほどの金属の棒を拾った。

「おい、兄ちゃん。ここは一般人は立ち入り禁止だぞ。」

「あんただってそうじゃないか」

「いやぁ・・・俺は警察だ。」

おっさんが言った瞬間、あの二人は拳銃を抜いて撃ち始めた!!絶対あの二人組は一般人じゃないぞ。チクショウ!!俺は銃持ってないから隠れるしかねぇ!!撃ち合っていると一瞬、銃声が止んだ。野郎、回りこむ気だな。

「おっさん、囲まれるぞ」

「分かってらぁ、ちったぁ黙ってやがれ。」

するとまた、銃撃が始まった。そうしたらマクレーのおっさん拳銃落としやがった!!

こいつはヤバい!!俺とおっさんはベルトコンベアに乗り、ばれないように敵に接近し、接近戦を挑もうとした。敵の中肉のほうの男に近づいた瞬間、おっさんはその男に殴りかかろうとし・・・

「三段突き!!!!」

俺が持っていた棒で中肉の男のみぞおちに突きをくらわした。「三段突き」はFateシリーズに出てくる喀血美少女剣士の放つあの突きの槍版だと思ってくれ。というかこれ、師範から教えてもらったんだけど、よくこんな技できたな。絶対転生する前の世界じゃ無理だ。マジで三回の突きが一つしか見えないもの。あの師範、絶対一般兵じゃないだろ。できるようになった自分も大概だけどさ。

 話を戻そう、中肉の男は声も上げずに気絶してしまった。

「やるじゃねぇか坊主。」

「おっさん、拳銃落とすってどういうことだよ。」

「うるせぇ、この傷見ろ」

おっさんの手の甲に傷があった。弾がかすったのか?ってもう一人の細見の男が撃ってきやがった!!俺とおっさんは逃げ、細身の男が俺らを探しに来たところで奇襲、殴りかかって・・・っておっさん何コンベアに男と一緒に落ちてんだよ!!俺は急いでコンベアに乗り、おっさんと細身の男が殴り合っているところに合流し、細身の男に三段突き!!細身の男が気絶し一安心・・・かと思ったらすぐ近くにコンベアに乗ってる荷物の形を整えるローラーが!!俺とおっさんは急いでコンベアから降り、細身の男はローラーに挟まり痙攣してる・・・。南無阿弥陀仏・・・。

「おい、おっさん!中肉の野郎がいない!」

「なんだと!!」

中肉の野郎が気絶させたのに全然見当たらねぇ。そいつがさっきまで転がっていたところに走ると、男の姿はなく、一面に水や溶けかけの氷が落ちている。

「あの野郎が倒れていたところに、解けかけの雪がある。誰かに回収されたか?おっさん。」

「というと外部関係者か。面倒臭ぇことになりそうだぜ!!」

ガチャッ!!

俺とおっさんの後ろで銃を構えた音がした。俺とおっさんは手にしていたものを落とし、手をあげ、恐る恐る後ろを向いた。

 銃を持った太った警察官がいた。

 

 そのあと俺達はこの空港を管轄する署長の部屋に連れていかれた。この時、俺は「自分はこのおっさんの息子だ」と嘘をついて何とかごまかした。マクレーのおっさんは嫌な顔してたけど。

 ここのハゲた署長は俺らの話を聞かないで、「置き引き相手に銃撃戦なんてどういうことだ!!」と言って聞かなかった。・・・いや空港で泥棒が銃使うってことは、ヤバい奴らだろって思ったが駄目だった。

 その後、ハゲの署長から解放された俺達は納得がいかなかった。

「おっさん、どうする。あのハゲまともに話を聞こうとしねぇ。」

「こういう時は、友人に頼むのがいいんだ。黙ってみてろ。」

そういうと、マクレーのおっさんはいつの間に撮ったのかわからないが、細身の男の指紋の写真をメールで送り、そのあと携帯電話で何か話してた。数分後話が終わったのかマクレーのおっさんは携帯電話をしまいつつ。

「これはヤバいことになりそうだ。」

「どうしたんだ、マクレーのおっさん。空港で銃撃ちまくるよりまずいことなのか?」

「あの細身の野郎、2年前にホンジュラスで死んだ元アメリカ軍軍曹だそうだ。」

うん、こいつはヤバいことになりそうだ。

 

 俺とおっさんはあのハゲ署長は話にならねぇ。しょうがねぇ、管制室で直談判だ、ということになり、警察手帳を見せびらかしながら管制室に突んだ(俺は「影を薄くする技」を使って誰にもばれていない)。そこの管制部長に事の重大性を話していたが(なぜかハゲ署長がいた)急に走路の着陸誘導灯が消えちまって、管制室にある部屋の機械が制御不能になっちまった。

 その後、急に放送が流れてきた。放送の内容は「俺は元米軍特殊部隊だ。麻薬王の将軍を奪還するため、我々は空港の管制システムを乗っ取った。余計な真似はするんじゃねぇぞ。」

うん、ここまでくればわかるさ・・・。俺は絶対違う、ただの偶然だって思いたかったけど、そろそろ現実を向くさ。ダイ・〇ード2!!!???あれって第一作の1年後とかじゃなかったっけ!?なんで5年後になるのさ!?

 こんな風に混乱していたらマクレーのおっさんと、なぜかここにいた女の人がエレベーターに乗せられて管制室から締め出されようとされていた。ちょっと待って、俺も一緒にエレベーターに乗るから・・・。

 何とか乗れたよ・・・・。

「おっさん、こいつぁヤバいことになっちまったな。」

「お、坊主いたのか。」

「ずっといたぞ、気づかなかったのか?」

なんか一緒に乗ってる女の人がすっごく驚いてる。

「坊主ならどうする。」

「建設中の管制室へ威力偵察。敵も構えていそうだけど。それと敵の本拠地の捜索。どう考えても空港の近くに敵の本拠地はあるだろうね。」

「まぁ無難なところだな。」

そう言って、マクレーのおっさんはエレベーターの天井を開け、そこからエレベーターを出ようとした。あ、俺小さくてエレベーターの天井に届かねぇ・・・。

「ほら坊主。手を出せ。」

「なんだ、邪魔じゃなかったのか。」

「それなら、こなくていいんだぞ。」

俺はしぶしぶおっさんに手伝ってもらいエレベーターから出た。なんか女の人が喚いていたけど

「お姉さん、このことは内緒だよ。」

俺がそう言って天井を閉めたから、きっと内緒にしてくれる・・・・・・・・・・といいなぁ。 

 

 エレベーターを出た俺達は迷っていた。そりゃぁ空港の裏の通路。職員じゃない限り迷うわな。ほんとあの時の俺って考えなしだわ。今の俺はそうじゃないと思いたい。

 迷い続けていたら今時珍しくレコードでクリスマスソングを流してあった。なんだ?と思った瞬間後ろに気配!?俺は迷っている途中で拾った棒をそいつに突き付け、おっさんは銃を突きつけた!

 結果を言おう。清掃員のおじさんでした。本当にあの時はごめんなさい。おじさん曰く「一人でクリスマスは寂しい、せめてクリスマスソングでも流そうって思って自宅から持ってきたレコードを流していた。」って震えながら言っていた。余計に寂しくならないのかね?

 俺たちはおじさんに謝り、そして、このおじさんから空港の図面をもらった。(脅迫ではない、いいね?)その図面を見て、俺たちは管制室から建設中の管制室への道へ出る方法を見つけた!!

「普通のクリスマスなら、たいていツリーに、七面鳥の丸焼き・・・。なのに俺はパイプのなかを這いずり回る・・・。」

「マクレー父ちゃん、プレゼントにケーキを忘れちゃだめだよ。期待してるよ。」

「うるせぇ!坊主のような奴が俺のガキなら、俺は一生家に帰んねぇぞ。」

マクレーのおっさんよ、そこまで嫌なのか・・・。

「マクレーのおっさん、通気口を移動するなんて懐かしくないか?」

「こんなことはもう二度とやりたくねぇよ・・・。坊主は楽しいのか?いい感性をお持ちで。」

「前回の下から弾が飛び出てくる通気口よりだいぶましだ。」

「違いねぇ。」

そう、たどり着く方法は定番の通気口を通るだ!!うん、これ本当にきついぞ。埃だらけだし・・・。

ダダダダダダ!!!!

「おいおっさん銃声が聞こえるぞ急げ!!後ろがつっかえてるぞ!!」

「うるせぇ!!こっちも急いでんだよ!!」

こういう狭いとこだと大きいより小さいほうが有利だ。っへ!何が大きい方が良いだ!

 

 銃撃戦のするところの通気窓にやっと着くと銃声は止んでいた。ったくおっさんが遅いから・・・。そこからのぞくと白髪の初老が銃を突きつけられてる!!マクレーのおっさんは通気窓を蹴破り、突きつけてる野郎に銃をぶっ放した!!マクレーのおっさんよ、さすがに敵一人に対して5,6発はもったいなくないか?っとアブねぇこっちにほかの敵が撃ってきやがった。マクレーのおっさんは銃で反撃して敵が撃たなくなった瞬間、換気窓から飛び降りた!!残存兵力は4人、おっさんと俺で二人ずつか・・・。

 俺は「影を薄くする技」を使い、俺も換気窓から降りた。すげぇ、全然ばれねぇ。この技の名前、いつか考えておくか?とか思いながら、こと切れている空港警察特殊部隊の隊員から銃をパクっていた。って隣で死んでるテロリストのやつ、ルガーP08なんて珍しいの持ってるな、これもいただくか。

 M16(銃剣付き)とルガーで武装した俺は「影を薄くする技」を解き、銃を敵に連射した。やっと俺に気づいてくれたか。連射によって2人死亡、残り2人。俺に注意が向いたところで、マクレーのおっさんは敵の一人を鉄パイプでできている大きな足場の下敷きにさせ無力化に成功、残り一人・・・。っておっさんなんであんたも長机の下敷きになってるの?銃も落としちゃったし・・・。やべぇあと一人無力化しないと、そう思って引き金を引いたが、アサルトライフルから弾が出ない!!不発弾かよ!?というか弾倉に弾ないし!?

 この時焦ってたんだろうな・・・。残弾管理なんて基本中の基本なのにな・・・。

 俺は「影を薄くする技」を使い、最後の敵に気づかれないようにし、一気に接近。(マクレーのおっさんに注意がいってるな・・・?まぁ長机の下敷きだしな。)バレないギリギリまで接近し、「影を薄くする技」を解いて、銃剣で

「三段突き!!」

見事に決まった。何とか全員倒したようだ・・・。まぁ空港警察特殊部隊も全員倒されたけどね・・・。

 やっとマクレーのおっさんは長机から抜け出せたようだ。というか銃突きつけられてた白髪の初老、ケガしないで生きてるし。なんて豪運だよ。俺やマクレーのおっさんだって弾丸は直撃はしてないけど結構かすって傷作ってるのに・・・。

「おい、爺さん大丈夫か?まったくなんてクリスマスだ、くそッタレ。」

マクレーのおっさんそれは同感だよ・・・。

ドーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!

爆発音がした。煙が晴れてくると建設中の管制室がボロボロになってる。爆破されたようだ。なんてクリスマスプレゼントだ・・・。

 

 この後、敵が放送を無視した報復をしたんだっけ。そのせいで200人が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写って始めて書いたけどすっごく難しい・・・。かける人を尊敬します。

 「影を薄くする技」の原理はもう少し先で紹介します。

 


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ダイ・〇ード2!!中  銃弾のプレゼントかよ・・・

主人公は、赤ん坊のころから、〇〇歳の時は▲▲が一番発達するから、××をして鍛えようなどと考えているため、普通の人以上の頭の回転、運動能力を持っています。どうしようもないところは、どうしようもないけど。

「特典がないから自分で何とかしなきゃ!!」と自分で頭の回転の速さ、知識、記憶力、運動神経を赤ん坊のころから鍛えれば、下手な特典もらうよりチートになると思う。


 敵がウィンザー114便に偽の管制指示と誤ったILS情報を与え、墜落させようとしていることを俺とおっさんは聞いた。おっさんは鉄パイプと布、灯油を使って即席の松明を作って、滑走路に出ていき、危ないことを知らせようとした。しかし、ウィンザー114便は墜落し、乗員乗客約200人は全員死亡してしまった。

「くそっ 今空港の上で旋回している飛行機の中に、マリーがいるんだ!!」

「おっさん、落ち着け。ここで焦ってもだめだ!!。ナカジマプラザでも人質に取られても冷静に対処しただろ!!」

「そうだったな坊主。ところで、ナンパした子と坊主の親、心配してるんじゃねぁか。」

「・・・・・・僕ノ名前 イブキ・マクレー ジョニー・マクレー父サン ノ 息子サ。」

「現実逃避したっていいことねぇぞ。」

うるせぇ・・・わかってるよ・・・・。

「どうせ、今戻ろうが、おっさんについて行ってから戻ろうが、どうせ怒られるんだ。最後までついていく・・・。」

「ませてるなぁ・・・。子供が入れねぇとこはてめぇで何とかしろよ。」

ですよねー。

 この時戻っていれば、だいぶ変わっていたかな・・・。ダメだ結局おっさんと合流して同じ展開になりそうだ。

 

 アメリカ陸軍対テロ特殊部隊が到着した。アメリカ陸軍対テロ特殊部隊を率いているグレーン少佐は、敵の頭であるエドワード元大佐(そういえば、そんな名前だったな)の教え子だったらしい。グレーン少佐はあえて消極策をとり、麻薬王の将軍の身柄を渡し、彼らが要求した航空機で高跳びする際に一網打尽にするという。どう考えてもおかしくないか。

「なぁ、おっさん。おかしくないか。」

「っ!!坊主いたのかよ。」

そういえば、「影の薄くなる技」使ってたな。

「この作戦、一網打尽に失敗したらどうするんだ?空軍に連絡して飛行機落とすのか。」

なんか、この部屋にいる人全員こっち見て驚いている。あ、「影の薄くなる技」解いちまった。

「少年、どこから入ったのかわからないが、君はここにいちゃいけない。早く出ていきなさい。」

グレーン少佐はすぐに我に返ったのか、俺に出ていくように言った。

「グレーン少佐、出ていくのでこれだけは教えてください。一網打尽に失敗したらどうするんですか。」

「大丈夫、我々アメリカ陸軍対テロ特殊部隊は失敗しないさ。」

「考えてないんですか?」

「さぁ、出ていくんだ。」

渋々、俺は作戦室(仮)から追い出されてしまった。

 

 しばらくすると、マクレーのおっさんが出てきた。

「おっさん、結局どうなった。」

「坊主も聞いていただろう。あの作戦で決行だ。」

「となると、だいぶ怪しいな。空軍に連絡してないだろうし、最悪あの部隊の独断で来たのかもしれない。」

そうだとしたらマジでヤバい。確かダイ・〇ード2は裏切りがあったような覚えがあるけど、ほとんど忘れちまった。それに、完全にクロスはしてないからな・・・。ったく、転生前のこういう知識は全く役に立ってないな。

「ん?坊主、空軍はなんとなくわかるが、独断の理由がわからん。」

「おっさん、簡単だ。この作戦は、失敗したらそれこそ戦闘機で落とすしかない。なら空軍と協力しなきゃいけないから、空軍は佐官、せめて大尉クラスは絶対に来るんだ。なのに空軍関係者は誰も来ていない。」

「あぁ、それは理解できた。部隊の独断ってやつはどうしてだ?」

「あんな、一か八かの作戦。上が許可しないだろ。すでに200人以上の犠牲者が出てるんだ。どんなに頑張ったって隠せない。だから、上は慎重になる。失敗したらマスコミに叩かれるからな。それなのに、失敗したら終わりの作戦なんて絶対に許可しないんだ。これらのことから、上が奇跡のような無能か、部隊の独断が考えられるんだ。待てよ、もしかしたら・・・・。」

「坊主どうした?」

「何でもない、心配すんなおっさん。」

原作では確か・・・あの部隊裏切ってたんだっけ?でも、ここは原作とは違っている世界だ。慎重にして、原作知識は参考程度にしないと・・・。

「坊主は、親とカワイ子ちゃんに叱られることでも心配してろ。」

orz・・・。

 

 何とか立ち直った俺は、マクレーのおっさんと何をするか考えてた。

「気に食わねぇ軍人は護送機で将軍をここにまで来させるつもりだ。」

「となると、敵はその将軍を確保しようとするな。俺たちは将軍の身柄を確保し続けないとやばいぞ、おっさん。」

「あぁ、なのに軍人様は将軍の護衛をしようとしない。俺らで身柄確保しなきゃだめだ。坊主、護送機はどこに着陸するかわかるか?」

「詳細な図面が必要だ。あそこに行くぞおっさん。」

「あいつのところか。」

そういって、俺とマクレーのおっさんは「クリスマスを資料室の中で一人寂しくレコードを流す清掃員のおっさん」のところに行くことにした。だけど・・・。

「イブキ!!どこに行っていたんだ!!」

「また、心配させて、どういうこと!?」

両親に見つかりました。お父様、お母様ここ公共の場よ・・・他人が見てる・・・。

「イブキ!!トイレ長すぎよ!!どこ行ってたの!?」

アリア様まで怒るとは・・・。

「・・・・・・・・・・(涙目)」

メヌエットのこれはだいぶつらい。車いすの美少女が涙目でずっと見ている。

「ご両親、お嬢さん達、本官と彼は今とても重要なことをやるために急いでいます。叱るのは後でにしてもらえないでしょうか。」

・・・また、問題先送りにしやがった、このおっさん。って俺を置いていかない。

「・・・それはとても大切なことかい、イブキ?」

「・・・父さん、‘‘義を見てせざるは勇なきなり’’って言葉があるだろ。俺、これをやらないと、将来ずっと引きずりそうなんだ。」

「・・・わかった。行ってきなさい。」

「あなた!?」

「男にはやらなきゃいけない時があるんだ。臭いセリフだけどね。でも、これは真実だと思うんだ。」

「・・・分かったわ・・・イブキ、ケガをしないでね、無事に帰ってくるのよ。」

「父さん、母さん、俺言ってくるよ。」

驚いたことに、俺の両親は納得してくれた。

「叱るのはホテルについてからだな。」

お父様、勘弁してください・・・。

「私たちは納得したけど、この子たちの説得は自分でするのよ。」

そういって、母さんはアリアとメヌエットを見た。え?俺がやるの・・・。

「アリア、今やらなきゃいけないことができたんだ。ナカジマプラザのことは、クリスマスパーティーの時に話すから。」

「分かったわ・・・。」

アリアはなんとかなったが(ナカジマプラザの件・・・おっさんの功績にするか)、問題は・・・。

「・・・・・・・・・・・・(ウルウル)」

メヌエットだ。彼女は頭がいいからな。

「大丈夫、無事に帰ってくるから、心配しないで。」

「・・・ちゃんと帰ってきて、お兄さん。」

「大丈夫、約束するさ。」

・・・・・・お兄さんと言われて、なんか、こう、グッとくるものがあったぞ。落ち着け俺・・・俺はロリコンに非ず。

「よし、じゃ、行ってきます。」

そう言って俺と、マクレーのおっさんは資料室へ走った。

珍しくおっさんは何も言わなかったな。意外と空気が読めるのか?

 これが、俺の親の最後の言葉になっちまったんだっけ?あ、違ったこれは最後じゃねぇ、間違えた。

 

 「また、あんたたちかい!?」

清掃員のおじさんは震えていた。あ、本当にあの時はすいません。事情を話し、おじさんは空港の図面を探してきてくれた。

「おい、坊主。護送機の着陸するとこはどこだ。」

「落ち着け、おっさん。ウィンザー114便は第一滑走路を南西から北東に向かって墜落した。第三、第四滑走路は第一滑走路とクロスしている部分があるから使用は難しい。だから、第二滑走路に着陸だ。一人の護送だし大型機でもないだろうしな。」

「さすがだ坊主。行くにはどうすればいい。」

「ここから行くとなると、相当時間がかかる・・・」

ヤバいな、図面を見た限りだと、だいぶ行ったり来たりしなきゃいけないらしい・・・。

「あのう・・・。」

「あぁ、すまんな。せっかくのクリスマスを邪魔しちゃってな。」

清掃員のおじさんが何か言いたそうだ。

「第二滑走路までの早い道を知ってますよ。」

マジかよ、このおじさん。というか清掃員でよくそんなこと知っているな。

「どこだ?早く言え。」

・・・マクレーのおっさん、脅すんじゃねぇよ・・・。

「ち、地下から行けばいいんです・・・。」

あんた、清掃員のくせに、よくそんな抜け道知ってるな・・・。

 

 

俺とマクレーのおっさんは清掃員のおじさんに教えたもらった道から何とか第二滑走路まで来た。そうしたらもう護送機がもう着いちまった。早すぎだろ!?

 護送機が止まり、ドアが開いた。すると写真で見たことがある奴が護送機から降りてきた。って麻薬王の将軍!?なんでイの一番に降りるんだよ!?まぁいい、急いで確保しなければ・・・。俺とマクレーのおっさんは将軍に駆け寄り・・・

「「イピカイエー・マザーファッカー!!」」

二人で将軍を殴った。将軍は倒れ、銃を落とした後、俺とマクレーのおっさんは将軍に銃を突きつけた。

「ターミナル到着まで席を立たないでください。坊主、銃持ってたんだな。」

「ご搭乗ありがとうございました。拳銃ならコートの下に隠せられられるからな。」

ほんと、拳銃って小さいから隠しやすいな。親にも軍人にもばれなかったし。メヌエットはわかってそうだけど。

「お前達は誰だ。」

まぁ、急に銃を突きつけられたら、そう思うよな。

「俺は警察、こいつは相棒。こっちはイイやつ、そっちはワルイやつ、お分かり?」

「このおっさんの嫁さん助けるために、人質になってもらうぞ。」

そういった瞬間俺たちの後ろから弾が飛んできた。アブねぇ!!

 車から武装してきた男たちが何人も出てきた。俺達はとっさに反撃をして、二人を倒したが、敵は一斉に銃を撃ってきた!!これはたまらんと護送機の中に隠れたら将軍が銃構えた。

「「じっとしてろ!!。」」

俺とマクレーのおっさんは将軍に向けて発砲、将軍の肩に一発命中し、将軍は銃を落とした。

 俺とマクレーのおっさんは将軍が銃を落としたのを確認すると、コックピットに入り、立てこもった。

「坊主どうする。」

「八方ふさがりだ。まぁこの護送機は軍用機のようだ。敵が使っているサブマシンガンぐらいじゃ、軍用機のコックピットは抜けやしないさ。軍用機でよかったなおっさん。まぁ、最悪の場合射出座席で逃げよう。」

 これがフラグだったんだろうなぁ・・・。

 敵のほうも何かしゃべっているが聞こえない。

「マクレー、そして村田少年!!またお前たちか!!実に勇敢だ!!軍人の理想像だ!!」

エドワード元大佐が急に俺たちのことを褒めちぎった。え?マクレーのおっさんはともかく、俺まで知られてるの!?

「坊主コックピットのドアが開かねぇ!!」

マクレーのおっさんがそう言った瞬間、敵は一斉に銃をコクピットに撃ち始めた。これ軍用機よ、コックピットには多少の防弾装置あるからサブマシンガン程度じゃ抜けないぞ?

 って普通に抜かれてるんですけど!!ちょっと待って、これどう考えても欠陥品でしょ!?ガラスも普通に割れたし・・・。あれ、防弾ガラスじゃないのかよ!?ちょっと、弾がかすったぞ。

 銃声が収まってから

「手榴弾を放り込め!!」

マジかよ!!

「おっさん急いでシートベルトつけろ!!」

「なんだ、どうした急に」

「いいからつけろ!!!急げ!!」

このおっさん、銃声のせいで、耳が遠くなって、敵が言ったの聞こえなかったな?

「っ!!わかった。」

マクレーのおっさんがこう言った瞬間。ゴトッ、ゴトゴト!!手榴弾が外から投げ込まれ始めた。おっさんが焦って、シートベルトに手間取っている。急げよ!!

 敵のほうから

「退避--!!」

と聞こえた瞬間、俺とおっさんは射出装置のレバーを引いた!!

ドカーーーーーーーーーーーーン!!!

手榴弾が爆発した。俺とおっさんは、手榴弾の爆発より一瞬早くレバーを引けたので、死なないで済んだ。そういえば、敵の使ってる手榴弾、やけに爆発までの時間が長かったんだよなぁ。

「うわぁああああああああああああああああああああ!!!!!」

「ばんざーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」

さすがに、爆風に巻き込まれながらの逆バンジーは怖い。・・・あれなんだな、「ばんざーい」って言って突撃するのって、大きな声出して恐怖心を忘れさせようという理由もあるんだな。実感したわ。

 結局俺とマクレーのおっさんは大小多くの傷を作って、将軍を確保できなかったわけだ。

 

 そして、俺たちは、またハゲの署長に怒られていた。しかし、グレーン少佐は俺達の勇気を称えハゲの署長を批判した。弁護してもらった恩はあるんだけど、この少佐やっぱり怪しいんだよなぁ・・・。

 すると銃撃戦の時に助けた白髪の初老が来た。敵の本拠地の予想がついたそうだ。

「敵は、ジョン・F・ケネディ国際空港に隣接しているアイドルワイルドパークにある小屋が怪しい。」

そこで俺とおっさんが先行し、見てくることになった。ただの厄介払いだろ、これ。

 

 この小屋を発見し、この小屋での戦闘のおかげで俺とマクレーのおっさんは、敵の本当の計画を知ることになったんだよなぁ・・・。

 

 

 

 

 




ルガーP08は自分の好きな銃の一つなので出しました。特に理由はありません。
本当は子供でも握りやすく、自分の好きな銃である14年式、94式、モーゼルC96とか出したかったけど、さすがに無理があるのでやめました。
  
 次でダイ・〇ード2は完結・・・・・できますように



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ダイ・〇ード2!!下  最も長いクリスマスの終わり・・・

空港の中を客や荷物を運ぶあの小さい車、あれなんて言うんだろう・・・。


俺とマクレーのおっさん、白髪の初老は小屋に行くため、車に揺られていた。

「そういえば、なんで子供がいるんだ?」

「あぁ、巻き込まれちゃってね。安心して、あのおっさんよりは戦えるから。」

「何言ってやがるんだ坊主、まぁ役には立ってるけどよ。」

「そ、そうなのか・・・。」

「俺は村田維吹っていうんだイブキって呼んでくれ。」

そういえばこのじいさんの名前知らなかったな。

「あぁ、私の名前はレス・バーンっていうんだ。よろしく、イブキ君。」

「じゃぁ、バーン爺さんって呼ぶね、よろしく。」

とまぁこんな感じで車に揺れていたが、

「イブキ君、君は本当にこれで戦うのかい?」

俺の持っている装備はルガーP08と銃剣一本。民間人の少年が戦うのに、こんな軽装備でいいのか?って聞きたいのだろう。

「大丈夫、大丈夫。バーン爺さんは後ろで気楽に通信してくれればいいよ。」

 

 小屋の近くに着いたので、車から降り、徒歩で小屋まで行くことになった。小屋に着くと、二人の武装した男が見回りをしていた。こいつは黒だな。

「おっさん、俺が処理してくる。無いとは思うが、バレたら援護よろしく。」

「何言ってんだ坊主。」

「管制室で直談判してた時、俺はずっとおっさんの後ろにいたんだぞ。」

「・・・気をつけろよ、坊主。」

「わかってらぁ」

雪が降り積もっている。足跡っていう「違和感」ができちまうけど仕方ない。俺は少し遠回りをして、二人のうちの一人に近づき、銃剣を振るった!!

ドサッ・・・

首が落ち、敵は倒れた。あと一人だ。

 あの銃剣道の師範から、ナイフの術も教わったんだっけ・・・。しかもナイフによる首の落とし方とか教えられたし・・・。

 あと一人に向かおうとしたところ、急に携帯が鳴る音が!!おっさん、なんで携帯鳴らすんだよ!!電源切っとけよ!!そのせいでおっさんは敵にバレ、敵と格闘してるし・・・。

 今思ったら、なんであの敵は銃を持っているのに、使わなかったんだろう。今でも不思議でならない。

 おっさんがだいぶ不利だし!!急がないと!!マクレーのおっさんがマウントポジションを取られナイフに刺されようとした瞬間、一閃!!俺はそいつの首を落とした。そのせいで、マクレーのおっさんは返り血で見事な紅に染まったけど、気にしない気にしない・・・。

「ったく、服が真っ赤じゃねぇか。何てことしやがる。」

「助かったんだから、いいじゃねぇか、おっさん。」

マクレーのおっさん、いい体格してるのに格闘は力任せだから弱いって、本当もったいないよな。

 

 バーン爺さんが急いで空港へ連絡したため、アメリカ陸軍対テロ特殊部隊のグレーン少佐達が数分も待たずに来てくれ、小屋を包囲した。そのとき、ハゲの署長にまた色々言われたが、またグレーン少佐に助けられた。助けてくれるのはありがたいけど、俺グレーン少佐のこと疑っているんだよな・・・。

 小屋の窓が割れる音がした。

「伏せろ!!」

誰が言ったかわからないが急いで俺とマクレーのおっさんは近くの木に隠れた。

ズダダダダダダダ!!!

あいつら気づいてこっちに銃を撃ってきた。アメリカ陸軍対テロ特殊部隊の隊員達は反撃を開始したがあたる気配はない。ちょっと待て、あの隊員たちの射線の先には小屋があるのに、なんで小屋に一つの穴も開かないんだ!?しかも隊員の近くに大量に紙の燃えカスが落ちている・・・。もしかして・・・あいつら!!いや、そっちよりも敵が逃げちまう。

「おっさん追うぞ!!」

「馬鹿野郎、弾が当たるぞ。隠れてろ!!」

「弾は絶対に当たらないから大丈夫だ!!急がないと逃げちまうぞ!!」

「わかったよくそッタレ!!」

俺とマクレーのおっさんは走り、敵を追いかけた。しかし、敵はスノーモービルに乗って逃走した。敵は8台。後の2台はやれる!!俺とマクレーのおっさんは拳銃を撃った!!

 この2台に乗ってたやつは動かなくなり、俺とマクレーのおっさんはそのうちの一台に乗り込んだ。

「なんで坊主が乗るんだよ。」

「子供がスノーモービルなんて動かせるわけないだろ!!」

さすがにスノーモービルは動かせねぇよ。というか触ったことすらないよ。

「そういえば坊主はガキだったな。射撃は任せたぞ。」

「任せろ。安全運転で頼むぜ。」

「そいつは無理な相談だ、お客様。」

 俺とマクレーのおっさんを乗せたスノーモービルは敵を追いかけた。

 

 「おい、もっと当てろ坊主!!」

「こんなに、荒い運転で3台やったんだぞ!!褒めてくれたっていいだろう!!」

こんな上下左右に揺れているところで素人が3台も敵を撃破したんだ。普通に考えたらすごいことだろ!?

「なんだ、褒めてほしいのか!?」

「・・・ごめん、寒気がしてきた。」

「本気にするなよ、坊主・・・。俺も傷つくんだぞ。」

だって、このおっさんが褒めるって気持ち悪くないか?

カチッカチッ

「チクショウ!!弾切れだ!!」

「仕方ねぇ、俺のやる!!、俺の脇にあるからテメェで取れ!!」

俺はマクレーのおっさんの脇から拳銃を出したが

「おっさんのも無いじゃねぇか!!しかも予備弾倉もないし!!」

「わりぃ、忘れてた。」

残り三台これじゃきついぞ。敵の2台が視界から隠れるとこに入り、一台はこっちに近づいてきた。

「ヤバいぞ囲むつもりだぞ!!」

「どっちにしろ、行くっきゃねぇ。坊主、強行突破は好きか?」

「嫌いじゃないね、ハァ・・・。おっさん、こっちに来るやつに、ギリギリまで近づいてくれ!!」

「死ぬんじゃねぇぞ、坊主!!」

「おっさんこそな!!」

そういって俺はナイフを持った。近づいてきた敵はサブマシンガンを連射してきたが、こっちは反撃できねぇ・・・。そして敵と交差した瞬間

「イピカイエー・マザーファッカー!!!」

俺はナイフを敵の額に向けて投げた。敵に当たったのか、そいつはスノーモービルから転げ落ちながら、大量の血を出していた。

 敵を倒し一安心したその瞬間、見えなかった2台が視界に入った。そいつらスノーモービルから降りて、こっちを狙ってやがる!!

「「伏せろ!!」」

俺とマクレーのおっさんは伏せ、敵が一斉に打ち始めた。俺とマクレーのおっさんは撃たれながら、スノーモービルをフルスロットにした!!やべぇ煙ふきだし始めたよ。ってヤバい、正面にジャンプ台みたいなのがある。

「おっさん、前、前!!」

「なんだ?ってうわぁあああ!!」

俺とマクレーのおっさんの乗ったスノーモービルは宙を舞った。これは敵のいい的だ。

「手離せ、坊主!!」

「分かった!!」

俺とマクレーのおっさんがスノーモービルから手を放し、さらに宙を舞った瞬間、俺たちの乗っていたスノーモービルが大爆発!!

「うわぁああああああああああああああああああああ!!!!」

「ぎゃぁああああああああああああああああああああ!!!!」

俺たちは地面に叩きつけられた。完全に満身創痍・・・超痛ぇ・・・

 敵は爆発に巻き込まれて死んだと思ったのか、どっかに行っちまった。

今よく考えたら、なんであんな至近距離から撃たれたのに、俺達は一発も直撃してないんだ?運良すぎだろ。

 

 俺とマクレーのおっさんは体を引きずるようにし、空港に戻った。

「ん?あんたたちか・・・って、おい!!どうした!?」

あ、清掃員のおじさんだ。まぁ、俺達はボロボロだから驚かれてもしょうがないか。俺とマクレーのおっさんは清掃員のおじさんに事情を話し、空港内で荷物や乗客を運ぶ小さな車で、署長室に行ってもらうように頼んだ。

「どいたどいた!!」

「危ないからどいてくださーい!!」

なんで、一般人を避難させてないんだよ・・・。あ、アリアとメヌエット発見。手振っておこう。

「おっさん、その持ってる銃はやっぱり。」

「あぁ物的証拠だ。」

「となると、相当まずいぞ、避難すらしてねぇし。」

「まぁ、何とかするしかねぇな坊主。」

 

 俺とマクレーのおっさんは署長室に車ごと乗りこんだ。そしてエドワードとグレーン少佐達の銃撃戦で使われたマシンガンのマガジンが空砲であったことを身をもって知っていただき、初めからグラントが裏切り者であったことを教えた。その時のハゲの署長は赤鬼のごとく怒ってな、俺らに協力したんだ。それで俺たちは、敵と裏切者たちが向かった航空機へ急いだんだ。だけど、ハゲの署長は警察部隊はクリスマスの混雑とウィンザー114便の墜落による混乱で何もできないとか言い出した。ったく使えねぇ・・・。

 

 何とか滑走路に着いたら、敵の高飛び用の飛行機が動き始めていた。どうしようかと思ったところ、マクレーのおっさんは近くにあった報道用のヘリを見つけた。

「ヘリはいい思い出がないなぁ」

「なんなら来なくてもいいぜ、坊主。」

「っけ、来るなって言われてもついて行ってやるよ。」

おっさんは報道中のニューキャスターに警察手帳を見せびらかせ、ヘリコプターを動かしてもらい、敵の飛行機の主翼に行くように言った。

「カメラマンのお兄さん、このレンチ借りるよ」

なんかカメラマンとニュースキャスターも一緒に来ちまったけどしょうがない。

 

 俺達はヘリコプターから飛行機の主翼に飛び移った。マクレーのおっさんが主翼の可動部に上着を詰めて、動かせないようにしていたら、ドアが開き、グレーン少佐が来た。

「君たちには何年もかけた計画を台無しにされたよ。まさか、中年オヤジと少年によって、計画が水の泡になる一歩手前になると思わなかったよ。」

「グレーン少佐には色々と弁護してもらった恩があるけど、まさか裏切者だったとはな。少佐、かかってきやがれ!!」

「私は子供だからって手加減はしないぞ!!」

グレーン少佐がそう言って俺に近づいてきた。っとアブねぇ師範ほどではないけど、ボロボロの体じゃきついぞ。

 しかし、俺のほうが上手だったか、レンチでグレーン少佐の頭を殴ることに成功した。グレーン少佐はそのまま地面に落ちていった。

「おっさんここに給油口がある。開けてくれ!!」

「っ!!あぁ、わかった。!!」

俺の考えが通じたのか、マクレーのおっさんが給油口を開けようとしたら。今度はエドワードが主翼に来やがった。クソッ!!血の流しすぎで意識が朦朧としてきやがった・・・。

「さぁこれで終わりだ、ガキ、マクレー!!」

エドワードがそう言ってナイフを俺に向かって突き出してきた。何とか食らいついてるけど、大分きついぞ・・・おっさん早く給油口を開けてくれ・・・。そう思いつつレンチとナイフをぶつけていた。俺が力を振り絞り、何とかナイフを弾き飛ばしたけど、勢い余って俺のレンチも飛んで行っちまった。お互い素手か・・・殴り合いなんざ、大人と子供だぞ、勝てる自信がない・・・。おっさんはまだか?思った瞬間、マクレーのおっさんは、俺とエドワードの戦っているところに来た。え?さっさと逃げようよ。

 エドワードは意外と強かったらしく、俺とマクレーのおっさん二人で殴り合っても圧倒していた。そして俺達は給油口の近くまで押されていた。その時、飛行機が大きく揺れたせいで、おっさんは主翼から転げ落ち、俺は給油口の近くでぶら下がっているようになってしまった。おっさんはちゃんと仕事をしたようで、給油口は開いており、そこから滝のように燃料を出していた。そこで俺は、さっきグレーン少佐と戦っている時に、奪った二つの物を給油口に入れた。うん、この感覚だとちゃんと燃料タンクまで行ったな。その瞬間

「オラァ!!」

と掛け声でエドワードの蹴りを受け、俺も飛行機から落ちてしまった。

「今度こそ、さよならだぁ!!!」

俺も、あんたらともう会いたくねぇよ。

 

 体が小さいせいか、よく吹っ飛び、マクレーのおっさんの近くまで転がってしまった。飛行機は加速を始めた。

 おっさんはジッポを取り出し火をつけ、

「イピカイエー・マザーファッカー」

そういって漏れ出た航空燃料に火をつけた。その火はどんどん燃え移り、飛行機に近づ・・・かなかった。むしろ追い放されてる。

「おっさん、さすがに火は飛行機より早くないぜ。」

「じゃぁどうして開けさせたんだよ。」

「まぁ、見てなって。イピカイエー・マザーファッカー」

言った瞬間、飛行機は大爆発をした。って俺のすぐ目の前に飛行機の骨だと思うやつが刺さったし、アブねぇ・・・。

「燃料タンクの燃料をいい具合に抜いて、燃料と空気を混ぜ、そこに手榴弾を爆発させたのさ。ここまででかい爆発になるとは思わなかったけど。」

ほんと、あんな大爆発になるとは思わなかった。火薬でも積んでいたのかね。

「・・・坊主よく考えたな。ハハハ。」

「何笑ってんだよ、おっさんククッ・・・」

なんか急におかしくなっちまったんだ。

「「っはっはっはっはっは!!!!」」

二人して地面に横になって笑いころげた。

 今思うとよく生きてたよなぁ・・・。実はもう一つ、この後、重大な事件が起こったんだが。

 

 おっさんがつけた火を頼りに飛行機が下りてきた。それを聞いて安心したぜ。マリーさんが乗ってた機体は燃料が少なかったらしいからな。マリーさんの飛行機が下りてきて、そこから乗客が出てきたとき、

「マリー!!!マリー!!」

とか言っておっさん大きく手を振ってたっけ。それでマリーさんと会ったら、マクレーのおっさんとマリーさんが抱き合ったんだ。結構感動したなぁ。その後、俺とマクレーのおっさん、マリーさんと一緒に俺の親のところに行こうとしたら、マスコミにマイクとカメラを向けられた。

 

 マスコミを避けて、ターミナル内に入り、俺の両親たちを探していた。両親は何とか見つかった。あちこちケガをしていたのでみんな驚いたようだったが、よく帰ってきたと言ってくれた。その時、違和感があった。顔をあげると、アリアの後ろに空間を無理やりつないだような丸い穴があった。その穴の中には、柱のようなものと、根暗そうな男、ピンク色の髪の少女、そしてアリアに向けて驚きながら銃を構えているオールバックの青年が・・・

「アリア!!避けろ!!」

根暗そうな男がそう言って、アリアが後ろに振り向いた瞬間、我に返り

「伏せろ!!」

そういって、俺の近くにいたアリアとメヌエットを押し倒した!!

タァーン!!ダダダダダダダ!!!!!

銃声が聞こえ、俺は胸を撃たれた。

 薄れていく意識の中、俺はこう思ったんだっけか、「俺、外国に行ったら厄介ごとに巻き込まれる運命にでもあるのか?」今のところ正解だよ、くそッタレ。

 

 こうして、12歳の長いクリスマスは終わった。

 




大分長くなったけど、これで終わらなかった・・・。
あと2話で民間人編終了。民間人編が終わってから、主人公は幼年学校に行きます。

あと、暦鏡がなぜここででたのか・・・。
 
わかる人ならわかるかな?


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ダイ・〇ード2!!その後 やっと家に帰れる・・・

ダイ・〇ード2!!編やっと終わった・・・。


 目が覚めた俺は、周りを見渡した。やけに大きな部屋にいるらしい。部屋の窓からは曇天が見えるから、夜ではないだろう。隣のベッドにはアリアが寝ている。他にもベッドがあって、みんな寝ているようだ。自分のベッドを見ると、メヌエットが俺のベッドに寄りかかって寝ていた。あれ?どういうこと?なんで知らない部屋にいるんだ?そういえば「知らない天井だ」っていうの忘れた。などと考えていると部屋のドアが開いた。

「いよぉ坊主、こんなに早く起きるとは思わなかったぜ。」

包帯だらけのマクレーのおっさんとマリーさんが来た。

「おっさん静かにしろ。」

そう言って、俺はメヌエットのほうを見た。

「悪かったよ。」

 そして、俺はマクレーのおっさんから、俺が撃たれ後のことを教えてもらった。あの時、敵の生き残りが、道連れとばかりに空港内に入って銃を乱射したらしい。ちょっと待て、そういえば、別の空間のような穴が見えたよな・・・。あれはただの幻覚か、そうだよな。

「一応、そういう事になってるが・・・。」

なんか嫌な予感がする・・・。

「お前を貫通し、あの嬢ちゃんの体にある弾だけ、口径が違うんだ。」

うん、あれは幻覚じゃないらしい・・・。

「あのテロリスト共が使った銃の口径じゃない。古い銃の弾だ。だが、これ以上捜査を混乱させないため、このことは隠すことになった。だから、お前と嬢ちゃんはテロリストに撃たれた、ということになってる・・・。」

そして、おっさんの顔が曇った。

「どうしたおっさん、気分でも悪いのか?」

「・・・いや。じゃぁ、聞いてくれ。お前の両親が死んだ。」

はい?

「おいおい、さすがにそんな冗談、面白くねぇぞ。」

「今、俺が冗談言っているように見えるか?」

マクレーのおっさんの顔が深刻だ。

「死因は?」

「銃弾を頭に食らって即死だ。」

この世界に来て約12年。色々世話してくれた両親が・・・そうか・・・。

おかしいな、涙が出ない。そういえば、転生する前の世界でも、いつも世話してくれてた爺ちゃん、婆ちゃん死んでも、あまり涙が出なかったな。人間相当ショックを受けると涙が出ないらしい。そうなのかもしれない。

「なぜか、涙が出ないな。」

「最初、事実を事実として認識しなく、その後少しづづ受け入れてく人間はこういう人の死であまり涙を流さないらしい。坊主はそうなのかもな。」

「なるほど。マクレーのおっさんは詳しいな。」

「俺は刑事だぞ?人の心のことも頭に入れなきゃいけねぇんだよ。」

そういえば、マクレーのおっさん刑事だったな。職業、リアルスタントマンと勘違いしてたよ。

「坊主、お前の爺さん、婆さんは死んでいるし、叔父、叔母はいねぇ。これからどうする。」

天涯孤独になっちまったわけかぁ・・・

「イブキ君、よければ・・・」

「マリーさん、俺3月から寮暮らしなんで大丈夫ですよ。それに、入寮までの2ヵ月くらい一人暮らしなんて平気です。あと、ジョニー・マクレーさんと一緒にいたら、毎日なんかの事件に巻き込まれそうです。」

さすがに、マクレー家に世話になるのはなぁ。実際子供もいるみたいだし。

「坊主、俺のこと疫病神かなんかと思ってねぇか?」

「え?違うの?」

「俺にしちゃ、坊主のほうが疫病神だ。」

両方、疫病神なのかね。

 

 その後、ある程度話をしてからマクレー夫妻は帰っていった。

「ところでメヌエット、どこから聞いてたんだい?」

「お兄さん、おはよう。お兄さんの両親が即死したってこと。」

だいぶ前から起きていたようだ。アリアのことについては聞いていなかったみたいだ。だけど、メヌエットは賢い。すぐに気づきそうだな

「お兄さん、こんなに沢山ケガして心配したんですよ!!」

そう言って俺を叱り始めた。その後、起きたアリアも加わってしまった。そういえば、俺の両親も帰ってから説教って言ってたっけ・・・。

「イブキ!!(お兄さん!!)聞いてるの!!(聞いてるんですか!!)」

「ちゃんと聞いてるから!!」

 

そういえば、飛行機の主翼で戦っていたところをばっちり取られたため、俺とマクレーのおっさんはまた、マスコミに追いかけられた。ナカジマプラザの事件の解決のことも持ち出され、「ナカジマプラザの人質を救った英雄達」から「もっとも不幸な、不死身の二人組」になっちまった。しかも、俺とマクレーのおっさんに二つ名までつけられた。マクレーのおっさんは「 不死身の男(ダイ・ハード)」、俺は「不死の英雄(ノーライフ・ヒーロー)」だそうで。いらないよ、そんな中二病臭いの。

 まぁ二つ名は、その後ちょっと変わるんだけどな・・・。

 

 マクレーのおっさんと神崎かなえさんはありがたいことに、書類のことをやってくれた。そうして俺は一週間後、マクレー夫妻と、かなえさん、アリア、メヌエット、バーン爺さん、清掃員のおっちゃん、あとなぜかハゲの署長が見送ってくれ、日本へと帰っていった。さんざんなクリスマスに年末だったぜ・・・。

 今でも、よく生きていたなぁって思うよ。

 

 日本に着いた後、最初に行ったのは携帯ショップだった。まぁ、あんな事件に巻き込まれて、俺の携帯は見るも無残な状態になってしまったからだ。データを取り出せないほど木端微塵に・・・。

 携帯を買い、キンジの電話番号とメールは覚えていたからよかったけど、他なんて覚えてない・・・どうしよう・・・と思った瞬間、俺の携帯が鳴りだした!!相手の番号を見ると見覚えがある・・・。恐る恐る出たら。

「お兄ちゃん!!大丈夫!?心配したんですよ!!!」

粉雪か・・・。

「あぁ、だいじょうb・・・・」

「銃撃たれたんですよね!!それで大丈夫なはずがありません!!」

また、前回のように俺は怒られた。俺、海外に行かないほうがいいのかなぁ・・・。

「聞いてるんですか!?」

「ハイ!!聞いてます!!」

 

 叱られながら、我が家に着いた後、俺は必要書類などの処理をしようとした。だけれど、天涯孤独になった身、保護者などいるはずがない。必要な書類も作れない。そこで幼年学校にそのことを連絡すると、後日、軍のほうからある人が来た。

「テロリストと戦い!多くの人を救ったのに!!天涯孤独になるとは!!!この希信!!悲しみでいっぱいだ!!!!(号泣)」

来てくれた人は辻希信陸軍大尉という人だった。涙もろく、感受性が人よりもあり、理性より感情が先に行く人であったが、有能な人間だった。てきぱきと必要な書類を全部用意してくれ、後は読んでサインするだけの状態にしてくれた。

 今でもほんと感謝してますよ、辻さん。ただ、感情をもうちょっと抑えてくれると嬉しいんだけどな。

 これが辻さんとの初めての出会いだった。

 

 書類整理や遺品整理をして、入寮まで残り2ヵ月弱。俺は遺品を整理していたら出てきた、ある物がとても気になっていた。虹色に光るトゲトゲの石と、十字の楯、黄金の高坏(?)、そして本。 俺はあの時、転生前の知識を少しでも憶えていれば、これが何かわかっただろうなぁ・・・。

 これらの物によって俺は濃い性格の人達と会うことになった。

 




辻希信大尉のモチーフは誰だかすぐわかるか。この人は「有能だけど理性より感情が先に出て、フットワークが軽すぎるために、有能さをつぶしてしまっている人」という設定。
 
虹色に光るトゲトゲの石と、十字の楯、これで次回は何が起こるか・・・

次回で民間人編が終わったら・・・・いいなぁ・・・・


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爺ちゃん、いらない物は捨てとけよ・・・

皆さん、いらない物は棚の肥やしにしないでどんどん捨てましょう。


辻さんは遺品整理まで手伝ってくれた。

「イブキ君の父!村田中将は!この希信に!!後方の重要性を教えてくえれました!!!そのせめてもの恩返しとして!この希信!!遺品整理も手伝いましょう!!!」

だそうで。初めて知ったよ、俺の父さんが軍人だったなんてさ。いつもスーツ着て出かけて、出張の以外毎日家に帰ってきてたんだぜ。気づけるはずがない。なるほど、幼年学校に行くことに抵抗がないわけだ。俺の父さんが軍で何をやっていたか辻さんに聞いたところ

「村田中将は!‘‘後方の鬼’’や‘‘後方の神様’’と呼ばれ!!・・・。」

あまりにも長かったので掻い摘んで説明すると、俺の父さんは、「後方の鬼」、「後方の神様」って呼ばれていたらしい。予算の無駄遣い、横領を軍用犬の如く見つけ、武器弾薬食料などの必需品は最低でも要求の1.5倍は確保することで有名だったそうだ。また、浮いた予算で工廠や軍需品工場の設備を最新式にして生産力をあげていたらしい。おかげで、軍上層部や兵、軍関係の民間企業は頭が上がらなかったそうで・・・。

 ついでに、辻さんが陸軍士官学校生の時、俺の父さんはそこの寮長を務めていた。その時に辻さんに後方の重要性を叩き込んだそうだ。

「なので、この希信!!村田中将に多大な恩が!!おや?怪しいものを見つけましたよ。」

辻さんは大量のお札が張ってある、大きな桐の箱を見つけてきた。

「この希信、軍務で様々なものを見てきましたが、ここまで強く封印された物は見たことありませんなぁ。」

一人が余裕で入るくらいの大きな箱に、これでもか!っていうくらいお札が張ってある・・・。しかも何か大きな力を感じるし・・・。

「開けませんか?辻さん。」

「開けましょうか、イブキ君」

俺と、辻さんは好奇心に負けてしまい。その箱を開けてしまった。中には小さい箱、大きな十字の楯、黄金の高坏(?)、本、あと一枚の紙が入っていた。

 見たことあるような、ないような・・・

「ここまでの封印、とても大きな呪術か何かの物かと思いましたが、この希信、安心しました。」

「あれ?辻さん。こういうの見たことあるの?」

「軍機なのであまり詳しくは言えませんが、ここまでのじゃありませんが、いくつか・・・。」

軍ってこういう、オカルト系もやってるのか・・・。そういえば緋弾のアリアには超能力者がいるんだっけ?ならこういうことやっていてもしょうがないか・・・。

 

 辻さんと一緒に遺品整理を終わらし、辻さんは帰っていった。

「イブキ君!!ぜひ!!ぜひ!!陸軍に来てくれよ!!!」

辻さん・・・俺、比較的楽そうな海軍や空軍狙ってるんだ・・・。

 辻さんが帰った後、あの怪しい箱の中にあった紙切れを読んだ。内容は

「昭和〇〇年■月▲日

 大逆を犯した者達より没収したものである。処分するにも恐れ多い物であるので、星伽の者を内密に呼び、封印したのちに憲兵〇〇科によって分散、処分したうちの一つである。憲兵〇〇科隊長、村田弘大尉」

 なんか、曰くつきなんだな。要は、俺の爺ちゃんが処分するの面倒で物置に入れっぱなしのやつを、俺と辻さんが掘り出しちまったってわけか。

 本には使い方があった。この十字の楯を地面に置き月光にあて、深夜2時にトゲトゲの石を3の倍数だけ楯に投げるそうだ。他にも書いてあったけど、カビちゃってもう他は読めなかった。この本は燃えるゴミ行きだな。

 黄金の高坏(?)の使用方法はわからなかったけど、まぁいいや。実際やってみて、なんか起こったら対処すればいいし、何もなかったら燃えないゴミに出せばいい。そう思ってたんだ。

 今思うと、馬鹿なことしたなぁ・・・。二つの事件解決して、若干天狗になってたんだよ。まぁ、でもこれしなかったら俺、今生きてなかっただろうな。

 

 深夜2時前、俺は庭に十字の楯を置き、一応のため、縁側に黄金の高坏(?)を置いておいた。トゲトゲの石は124個と微妙に3で割れない数であったので、半分の60個くらい投げとけばいいや、と考えていた。

 今思えば、深夜テンションだったのだろう。十字の楯が若干光っていたのに気づかなかったんだ。

 深夜2時、俺は待ってましたとばかりに石を60個、楯に向かって投げた。その瞬間、大きな爆発音がし、力が一気に抜けていくような感覚がした。立っているどころか、意識すら保てそうにない・・・。俺は、意識を手放した。意識を手放す瞬間こう思ったんだっけ、「やべぇ・・・近所迷惑じゃん。」

 

 目が覚めた俺の目の前には、槍を持った全身タイツの痴女がいた。どんな夢だよ、さっさと寝よう・・・。俺は寝ようと・・・

「む?起きたか。」

現実でしたか。ショウガナイ、起きるか。って全身タイツの痴女?もしかして・・・いや、ただの偶然、この人はきっと、最近日本に来た痴女のは・・・。

ドス!!

目の前に槍が刺さった。

「おぬし、よからぬことを考えてないか?」

「いえ、めっそうもございません。」

「そうか・・・。」

どうしよう、この空気。

「えっと僕は村田維吹、イブキって呼んでください。」

「影の国よりまかり越した、スカサハだ。マスター、と呼べばいいのかな? お主を」

・・・ここまでくればなんだかわかるよ。まさかのFGOまでクロスとは思わなかった。でもちょっと待て、魔術師じゃないと呼べないんじゃなかったっけ。

「まぁいい、おぬし、私たちを呼んだせいか、魔力枯渇で死ぬ寸前だったぞ。」

はい!?まぁ普通、一般人が英霊呼び出したら、そうなるよね。

「じゃぁ、どうして生きているんです?」

「私とそこのキツネとファラオで聖杯をおぬしに入れたからだ・・・。」

なるほど、あれ聖杯だったのか・・・。

「そうなんですか、えっと、これからもよろしく?」

「あぁ、そうなるな」

そういって俺とスカサハ師匠は握手をした。これが師匠との最初の出会いだった。

 

 「イブキ、そろそろ現実を見よ。」

「あ、はい。そうですよね。」

俺は家の中にいる愉快な仲間たちを見た。テレビを分解し、いじっているライオン頭のスーパーヒーロー。こっちを見ながらニコニコしている緑髪の中性的な人。目を輝かせこっちを見ている、まるで主人を待つような感じの痴女。俺のためてた洗ってない食器を楽しそうに洗っているキツネ耳と尻尾がついた巫女(?)さん。白い謎の物体に囲まれた褐色痴女。残念な歌声で歌っている赤い服の少女と、その横でシャドウボクシングをしてる上半身裸の男・・・・。大体誰だかわかるよ。誰だか。

 すると目を輝かせた痴女がこっちに来た。

「牛若丸、罷り越しました。武士として誠心誠意尽くさせていただきます」

「俺は村田維吹っていうんだ。よろしくね。」

「よろしくお願いします!!主殿!!」

元気があってよろしい。

「ところで寒くないの?」

真冬でその恰好は寒そうだけど・・・。

「はい!へっちゃらです!」

そ、そうなんだ・・・。

 その次にニコニコしている緑髪の中性的な人が来た。

「サーヴァント、ランサー。エルキドゥ。君の呼び声で起動した。どうか自在に、無慈悲に使ってほしいな、マスター」

「よろしくね、俺は村田維吹っていうんだ。」

「ん?おぉいみんな!!マスターが起きたみたいだぞ!!」

ライオン頭のスーパーヒーローが気づいたみたいだ。そうするとみんな、やってることを止め、こっちへ来た。

「サーヴァント、キャスター。トーマス・アルバ・エジソンである!顔のことは気にするな!これは!アメリカの象徴である!」

「サーヴァント・キャスター。天空の神ホルスの化身、ニトクリス、召喚に応じました。このようにファラオではありますが、私はあまりに未熟の身。故に、今回だけ特別に貴方を‘‘同盟’’の相手と認めましょう。 ……ですがその前に、言うべき事は言っておきます。頭を垂れなさい。不敬ですよ!」

「ご用とあらば即参上! 貴方の頼れる巫女狐、玉藻の前 降臨っ! です!」

「サーヴァント・セイバー。ネロ・クラウディウス、呼び声に応じ推参した! うむ、よくぞ余を選んだ! 違いの分かる魔術師よな!」

「サーヴァント・バーサーカー、真名ベオウルフ。じゃあ、殴りに行こうぜマスター!……オイオイ、引くなよ…」

皆さん、真名はわかってるけど、せめて別々に言ってくれない?一斉に言われてもわからないよ・・・。

 

 そこから、幼年学校の寮へ入るまで濃厚な2ヵ月弱を過ごしたんだっけ。ある一日を例にとると、

「しっ!」

「ッ!!」

俺は素早く起きて、投げられた槍を避ける。

「師匠!!目覚まし代わりに槍投げるなっていってるだろ!!」

「これも修行だ。」

こんな修行なんて嫌だ。

 その後、顔を洗い、牛乳を飲んで体操し、

「オラオラオラ、どうしたどうしたァ!」

「少しは手加減してくれよ!!」

「それじゃ生き残れないだろォ!!」

ベオウルフと組合。

 組合が終わると朝食

「あぁ・・・御飯が美味しい・・・。」

「良妻ですもの、このぐらいできて当然です。そういえば、牛乳がなくなりそうなので、学校から帰ってきたら一緒に買い物行きません!?ついでにホテルにも!!」

「いえ、遠慮しておきます。」

最後の一言さえなければ、完全な良妻なのに・・・。

 朝食食べて、牛乳飲んだら、

「主殿!!頭をなでてください!!」

「奏者よ!!余に構うがよい!!」

学校行くまでの時間、牛若とネロと遊ぶ。

放課後

 学校から帰ってきて、牛乳飲んで、道場へ行って師範と取っ組み合い・・・。

 道場から帰って、牛乳飲んで、

「遅い!」

「いい声を聞かせておくれ」

「ちょっと待って、今槍が折れた!!って、ぎゃぁああああああ!!!」

今度は師匠とエル(こう呼んでくれって言われた。)による修行。

「今日はブリが安かったのでぶり大根にしてみました。マスター?たくさん食べてくださいね。」

「あぁ・・・さすが良妻。とてもおいしい。」

「もう褒めたってなにも出ませんよ!後でリンゴむいちゃいます!!」

玉藻の作った夕食食べて、牛乳飲んだら、

「わっはっはっはっはっはっ!マスターもアメリカという二律背反の国家を分かってきたようだな。我々は、未熟にして最強なのだよ!」

「どうにもあなたは私への畏敬が足りていません! 今更言うまでもないことですが私は天空の神にして、冥界の神。そして、ファラオなのですよ? 只人であれば、ははーっ! っと平伏するところなのです!そんな私に魔術を教わっているんですよ!」

「基礎は備わって来たな。ならばいよいよ、基礎からの実践だ。気を抜くなよ。趣向を凝らしてあれこれ用意してみた故、一歩間違えば命は無いと思え」

 エジソン、ニト(こう呼んでみたら他のみんなもこう言い始めた)、師匠による魔術と科学、そして社会科(?)の授業。授業が終わって牛乳飲んだら、

「何度裏切られても、やっぱり私は誰かの為に戦いたいです。主殿が許してくれるのなら、最期まで一緒に……いえ、なんでもありません」

「余は充実している。なんと幸福な皇帝であることか。遠くローマを離れた世界で、よき勇者と巡り会えた。ん、誰のことかだと? ……貴様に決まっていよう、我が自慢のマスターよ」

「僕は相変わらず兵器だし、精神は一向に成長しない。だけど、いつも僕は君のことを考えている。これは、どう言うのだろう……どう、言うのだろうね」

牛若、ネロ、エルと戯れ、牛乳飲んで体操して寝る。

 このキチ〇イのような修行のおかげで、俺生き残ってるんだよなぁ・・・・。

 

 そして、あっという間に2ヵ月は過ぎ、幼年学校の寮へ行くこととなった。

「おぬしにはこれをやろう。」

そういって師匠は赤い日本刀を俺に渡した。

「師匠、これは・・・。」

「おぬしは槍より刀のほうが向いている。これは私とエジソン、ニトが作ったやつだ。大切にするがいい。」

「師匠、エジソン、ニトちゃん・・・。」

「イブキ!!失敗を恐れるな!!何時、如何なる時でも、フロンティア!!!」

「そのニトちゃんって何なんですか!?私はファラオなんですよ!?」

やっぱりニトをからかうの楽しい。

「この生活も慣れてきましたが、マスターがいなくなるのは、寂しいですね。」

「マスターが向こうでもうまくいくよう、僕は祈ってるよ。」

玉藻、エル・・・。

「余は寂しい・・・。早く戻ってくるのだぞ!!」

「主殿、私待ってますから!!」

「一皮むけて帰って来いよ!!あと、こいつら寂しがり屋だからな、休みの時はなるべく早くかえtt ってイテェ!!」

ベオウルフがネロと牛若に剣で刺されてる。

「じゃぁ、行ってきます!!」

「「「「「「「「いってらっしゃい!!」」」」」」」」

そうして俺は幼年学校へ行ったんだ。

 

 「イブキ、書類忘れてるよ。」

「あ、やべぇ!!エル、ありがと。」

 

そうして俺は幼年学校へ行ったんだ。実は「行っただけ」になっちまったんだけどな・・・。

 

 

 

 

 

 




辻さんは後方の重要性を知ったのでめちゃくちゃ優秀な参謀に!!!だけど、感情が先に出ちゃうからそれを抑えられるいい補佐役がいないかなぁ~

実はこの大逆を犯した人が神様転生した人で、イブキは書類ミスでこっちに来てしまい、イブキが死ぬまで神様は気づかなかった、って言う設定です。まぁ、本人は人より記憶が多いだけの普通の人間って思って、気にしていませんが。

本当はここに邪ンヌも入れようとしましたがキャパオーバーのため消しました。
エジソンと装備科をコラボしてみたい・・・

次から幼年学校へ行くので民間人編は終わり・・・ではなく、閑話を入れてから次の章にしたいと思います。


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閑話:民間人編

短編集です。


1:花火

 私は5歳の時、大きな花火を見ました。花火を見せに行かせてくれた人はトオヤマ様とお兄ちゃんです。お兄ちゃんは、私たちをリアカーに乗せ、花火大会へ連れて行ってくれました。花火を見終わった後、みんな怒られるところでしたが、お兄ちゃんは一人で泥をかぶってくれました。花火を見る前からお兄ちゃんは優しい人だなぁと思っていましたが、これを見てかっこいいと思うようになりました。

 お兄ちゃんが帰っちゃうとき、私は泣いてしまいました。でも、お兄ちゃんは私をお嫁さんにしてくれると約束してくれました。私、ちゃんと覚えてるからね。

 その後、お兄ちゃんは大きな事件を二つ解決しました。流石お兄ちゃん!!すごい!!と思いましたが、お兄ちゃんは銃に撃たれたり、ナイフに刺されそうになったりしたそうです。私は不安になりました。私は急いでお兄ちゃんの携帯電話を探し、電話を掛けました。

「ハイ、もしもし・・・」

お兄ちゃんだ!!よかった無事だったんだ。でも私、とても心配したんだよ?

「お兄ちゃん!!大丈夫!?心配したんですよ!!!」

ちょっとくらい怒ってもいいよね。

 

 

2:汚ねぇ花火

俺がこのガキに話しかけられた時、面倒臭いガキだなって思った。だけど坊主、俺を一瞬で刑事と見破った。こいつは驚いた。その後色々あって俺はテロリストの一人と一緒に階段から落ち、そいつを無力化した。そうしたら、坊主が急いできて、立とうとしていた、テロリストの頭をハンマーで殴ったんだ。その時、俺は助けてくれたことより、勝手にこっちに来たことで頭がいっぱいになった。

「坊主なんでここにいやがる。トイレでじっとしてろッて言ったはずだぞ。」

「トイレでじっとするより、おっさんについて行ったほうが安全だと思ったんだ。敵は子供にも容赦なく撃ちそうな感じだったから。」

そう言われればそうだ。その後、坊主は拳銃で、10メートルくらい先のドアノブに向かって5発撃ち、全て命中させた。撃ち方は素人っぽかったがこいつはセンスの塊だな、初めての銃であんなに当てるなんて。はぁ・・・坊主ここまで来ちまったからには連れてかねぇと危険だな・・・。

「っけ!ませやがって。ロン・ロジャーにでもあこがれたか?足手まといになったら置いてくからな、くそッタレ!!」

「合点だぁ!!」

俺は移動する前に銃の撃ち方をそいつに教えた。驚くぐらいに呑み込みが早かった。

 

 坊主と2度目に会ったのは、5年後の空港だった。坊主は嬢ちゃん二人と楽しく話してた。その後、俺と坊主は嬢ちゃんの一人に質問攻めにあっていたが、俺は刑事の癖で怪しい二人組を見つけてしまった。

「なぁ、おっさん。あれ・・・。」

坊主も気づいちまったか・・・。しかし、この質問攻めからどうやって逃げよう。

「アリアごめん、ちょっとトイレに行きたくなって。マクレーのおっさんはどうする?」

お?いいことするじゃねぇか坊主。そうして俺と坊主は二人組を追った。

 実は、坊主に一緒に来てほしくなかった。坊主はまだ子供だ。犯罪が多発しているからって、子供にドンパチさせるなんて間違ってる。でもこいつは来ちまった。そういうやつだとわかっていたがな。しかもこの坊主、格闘戦が強くなってやがった。おかげで、何度も助けられたぜ。普通なら、子供に助けてもらったって思い、情けなく感じる。しかし、この坊主には不思議とそう思わねぇ。むしろ、年下の相棒って思えるから不思議なもんだ。そうして俺達は、テロリスト共を「汚ねぇ花火」にしたわけだ。

 

 あとこれだけは言わせてくれ。俺じゃなくて坊主が「疫病神」だ!!

 

 

3:師範

私はもともと軍にいた教官だった。しかし、私の技を完全に習得した者はいなかった。軍には完全に習得できる者いないのだろう、そう思い軍を辞め、道場を建てた。しかし、習得できる者は表れなかった。諦めていたその時だ,ある少年が来た。その少年はテロリストに会い、自分の無力を知り、強くなりたいといった。最初から意思のある者は強い。だが、私はこの少年にただならぬ気配を感じた。

 この少年の呑み込みの早さは異常だった。教えたことをすぐさま吸収し、それを応用してくる。私はこの少年との組合が楽しくなった。

 この少年がどこまでできるか、試したくなったのはいつからであろうか。私は軍人の中でも習得できたものがほとんどいない技を教えていった。「ナイフで首を切り落とす技」「三段突き」そして、

「今日は‘‘影を薄くする技’’を教える。」

「その名前、何とかなりませんか?師範。」

「うるさい。この技は相手に違和感を持たせない技だ。人間文字をじっと見ていると本当にこんな形だったか?と思うことがある。あれの原因は、変化のない物をずっと見続けるからそう思うんだ。」

「ゲシュタルト崩壊っていうんですよね。」

「よく知っているな。人間は変化や違和感があるとそこに注意が行く。逆に変化や違和感がないものは素通りする。この技はその変化、違和感を相手に認識させない技だ。」

「簡単そうなこと言ってますね。」

「うるさい、では見てみろ。」

この技を教え、2週間で習得したのは驚いた。

 もしかしたら、私の技を完全に習得してくれるかもしれない。そう思い始めた時だった。

「師範、俺、幼年学校受かったよ!!」

彼は幼年学校に行ってしまうらしい。あそこは寮暮らしだ。私の道場に通えるのもあと1年もないだろう。1年で私の全ての技を教えるのは無理だ。私は寂しくなった。しかし、そのことを少年に感づかせたくなかった。だから私は大げさに喜んだ。なんで引いてるんだ?

 数か月後、彼は幼年学校へ行ってしまった。ん?軍からの手紙で「教官として、軍に来てくれ」とあった。そうだな、今私には門下生がいるから非常勤ならいいかもしれない。

 

ところで、「ナイフで首を切り落とす技」「影を薄くする技」の名前を教えてくれ?、「ナイフで首を切り落とす技」「影を薄くする技」が名前だ!!わかりやすくていいだろう?

 

 

4:師匠

 私は驚いた。影の国で生きているから、英霊の座には登録されていない。それなのに私を呼び出した者がいる。「私を殺せるものが呼んでいる」そう私の勘は言っていた。

 そして呆れた。私を呼んだ者はほかにも色々と呼び、そのせいで魔力枯渇で死ぬ寸前ではないか。この者が私を殺せるのか?しかし、私の勘は「是」と言っている。面白い。私とそこにいた魔術師と協力し、その場になぜかあった聖杯をその者の中に入れた。

 

 私の勘は当たっていたようだ。まだまだ未熟だが驚くほどに吸収する。セタンタといい勝負かもしれない。まぁ、イブキはセタンタと違い、槍よりも刀や飛び道具そして銃剣?といった物が得意そうだが。他の分野でも吸収がいいのだろう。他の者達もイブキに色々と教えていった。私では教えられない他の分野を英霊が教えるのだ。もしや、セタンタ以上の者になるかもしれぬ。私は興奮した。

 

 召喚されてからある程度たった時、イブキはいまだに銃剣を教わっていると聞いた。。我々英雄に教わっているんだ。そっちが最優先だろうに。

 きっと私は、その師範とやらに嫉妬し、恐れていたのだろう。「私の物が盗られる」と。

 私はある日、イブキが学校に行っている時にその師範に会いに行き、勝負を挑んだ。ルールという制限があり、しかも木銃での勝負であったが、私はその師範に負けてしまった。長い間、影の国で人と接触しなかったせいだろうか、私は慢心していたようだ。師範、貴様がイブキに教えることを認めよう。しかし、イブキは私の物だ。貴様には渡さん。

 その日から修行を10倍に増やした。

「いい声を聞かせておくれ」

「ちょ、ま、ぎゃぁああああああああ!!!。」

泥人形よ、それはやりすぎではないか?

 

 

5:どっち?

「そういえばエル。普段は男か女どっちでいるの。」

俺は素朴な疑問をエルに尋ねた。

「僕は兵器だからね男も女もないさ。」

「でも聖娼シャムハトをモデルにしてるんでしょ。」

「そうだね。」

「じゃぁ、肉体は男女どっち?」

「イブキ、君はどっちのほうがいいかい?」

なるほど、普段は男でもあり、女でもある状態なんだな。

「そうだね、さすがに男より女のほうが華があっていいかな。」

そりゃぁ、男より女のほうが何倍もいいでしょ。

「了解、イブキ。」

よく考えればセクハラだなこれ。これを聞いていた玉藻に俺は叱られた。

 

 1週間後、

「何度裏切られても、やっぱり私は誰かの為に戦いたいです。主殿が許してくれるのなら、最期まで一緒に……いえ、なんでもありません」

「余は充実している。なんと幸福な皇帝であることか。遠くローマを離れた世界で、よき勇者と巡り会えた。ん、誰のことかだと? ……貴様に決まっていよう、我が自慢のマスターよ」

「僕は相変わらず兵器だし、精神は一向に成長しない。だけど、いつも僕は君のことを考えている。これは、どう言うのだろう……どう、言うのだろうね」

英霊三人の授業の後の、牛若とネロと戯れるところにエルも加わってきた。あの、エル様。瞳孔を開いたまま、俺に抱き着くのやめてくれませんか、怖いです。

「主殿!!私には撫でてください!!。」

「奏者よ!!抱きつくことを許そう!!」

あぁ!!クソ!!要求に答えてやらぁ!!!(思考放棄)

 

 

6:職業

「えぇ、皆さん聞いてください。」

俺は夕食の時間、重大なことをみんなに打ち明けた。

「マスター、お代わりですか?今、尻尾にピーンときました♪」

「あ、玉藻お願い。」

やっぱり白いご飯は美味しい。日本人でよかった・・・。

「じゃない!実は今、遺産を食いつぶして生活してるんだけど、このままだと1年後には、遺産がなくなっちまうんだ!!」

そのことにみんな驚いた。どのくらいっていうと、急に少女漫画のショックを受けたシーンのようになったんだ。まぁ、生きていた時代より遥かに美味な食事を毎日食べていたんだ。食べられなくなるのはきついだろう。

「そういう事なんで、ネロと牛若、玉藻以外はある程度の食事代を入れてほしいんだ。」

「な!!ファラオに向かって働けというのですか!!それにあの3人は例外とはどういうことですか!?」

ニトが文句を言いだした。まぁ確かにファラオに向かってこの言葉はだいぶ不敬だけど、食べるためにはショウガナイ。

「ネロと牛若は見た目が大人に見えないから、職に就けないんだ。もし就けたら、その仕事かなりまずいやつだし・・・。玉藻は全員の炊事洗濯してもらってるから例外。」

ニトは観念したのか黙ってくれた。ありがたい。

「まぁ、この理由から二人には中学に通ってもらうけどね。」

「了解しました主殿!!」

「うむ!!学校か、面白そうなところよな!」

二人も納得してくれたようだ。

「さすがに、働けって言うだけっていうのも悪いし、色々仕事見つけてきたよ。」

そういって紙を個人個人に渡していった。

「まずエジソンなんだけど、電気に詳しいから教師なんてどうかな?非常勤だからあまり厳しく調べられないし。あと、これが特許の取り方ね。エジソン=発明だからいいかなと思って。」

「うっはっはっはっはー!!さすがマスター!!この大統王のことをわかっている!!期待に応えるとしよう!!」

納得してくれて何より、

「師匠は、師範の道場でのアルバイト。なんか師範、今度から道場よく開けるようになるらしいから、バイト探しているみたい。師匠なら大丈夫でしょ。」

「あ、あぁ・・・食べるためだ、仕方あるまい。」

以外なことに、師匠は嫌そうだな、教えるの好きだと思ったのに。

「残りの三人は難しいから迷ったんだ。嫌ならやめていいからね。エルは農家の派遣のバイト、ベオウルフはジムのコーチ、ニトは内職ね。」

「わかったよ。」

「しょーがねぇ、食べるためだしな。」

「私は細かい作業できませんよ!?」

ニト以外は好評だよかったよかった。

「マミー達にやってもらおうと思ってさ。流石にファラオに仕事させるのはどうかと思ってね。ニトのためならマミー達はやってくれそうだし、なんなら、マミー達の分まで御飯作ればいいかなぁ~って。」

「しょうがないですね・・・。皆が払うのに私だけ払わないのはファラオとしてもどうかと思いますし・・・。わかりました。」

 

 そうして、俺の新しい家族は仕事に就いたわけ。どうやって戸籍を準備したって?それは

「もしもし、辻さん?実は・・・・・」

「わかりました!!この希信!!8人分の戸籍を準備しましょう!!」

困ったときは友人に頼めばいい。さすが、マクレーのおっさん。これは座右の銘にしようかな。

 




「影を薄くする技」の原理を紹介しました。いやぁ~書くだけなら簡単でいいなぁ~。

さてと、これで民間人編は終わりです。
 
玉藻のセリフが難しい・・・。


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新人軍人編
学生生活が短すぎる・・・


今回の話はイブキがHS部隊へ行くまでの流れとなっております。短いです。


幼年学校の位置づけは民間人編「もうメインヒロインに会うなんて・・・」を読んでほしい。ここからは細かい説明をする。幼年学校は小学校卒業後入ることができる学校だ。この学校は授業料、食費、家賃すべてタダ、それに一応公務員になるため給料が発生する(幼年学校の場合、月5000円、夏冬ボーナスあり)。そして、この学校は、入学への偏差値もまぁまぁ高く、制度として、年間に赤点を一個以上とると退学、飛び級がある。制度上、飛び級は幼年学校入学してすぐ、陸軍士官学校、海軍兵学校、空軍士官学校を卒業することが可能だ。(しかし、陸軍士官学校、海軍兵学校、空軍士官学校の最後の1年半は実地訓練になるため実際は不可能)そして、飛び級卒業した者は、主席卒業を同じ扱いをされる。そして、飛び級試験は春と秋に行われるのだが・・・。

 

 俺は幼年学校に着くとすぐ、教室へ行かされた。他の生徒もそうだ。そして、教室に入り、しばらくすると、試験問題が配られた。え?なんで?

「諸君、入学おめでとう。このテストは今の君たちの学力を計るものだ。手を抜かず、全力で解くように。」

なるほど、入学前の頭の出来を調べるわけか。ここはまぁまぁの難関校だし、ある程度本気出しても不思議がられないはずだ。そう思って俺は、その試験問題を真面目に全部解いちまったんだ。

 あの時の俺、問題の難易度考えろよ・・・。あの試験、ちゃっかり大学入試レベルまであるのわからなかったのか・・・。

 

試験を回収され、近くの生徒と適当に話していると、教官がこの教室に走って入ってきた。

「村田学生、試験に不備が出たからもう一回受けてくれないか?」

なんだ?何かおかしいことでもあったか?そう思いつつも教官に連れられ、違う教室に行かされた。その教室にはほかの教官が何人もいた。どうしたんだ?

「ではもう一度問題を解いてもらう。用意、はじめ。」

俺はもう一度試験を受けた。なんかさっきより難しいと思ったんだが。とりあえず全部解いてみることにした。

 この時の俺、おかしいと思えよ。どう考えても、大学クラスの問題が出されていただろうに・・・。

 時間が来た。多少わからなかったところがあったが、まぁまぁの出来だと思う。教官達はその解答用紙を回収し、別室へ移動してしまった。しばらくすると、教官の一人が来て、俺の対面に座った。

「村田学生、君は陸軍士官学校、海軍兵学校、空軍士官学校、どこに行きたい?」

「海軍兵学校ですかね?海軍は給料イイですし。なんでそんなことを聞くんです?」

「原のやつ・・・説明してないな。」

教官は額を抑えた。

「そういえば君、この学校は飛び級があるのを知っているかい?」

「はい、知ってます。」

飛び級制度は有名だからな。

「さっきまでの試験は飛び級ができるかどうかの試験なんだ。」

え?

「君の学力では、士官学校3年後期からがいいと判断された。」

ちょっと待って・・・

「だから君は、海軍兵学校へ行ってもらう。あ、必要な書類はこれだから、サインと拇印を押すだけでいいからね。」

「え?ちょと待ってください自分飛び級の自信ないですよ!?」

当たり前だ。そんな目立つこと誰がするか。

「安心して、君の学力では、大学院クラスだから。」

「いやいや、軍事関係とかさっぱりですし!!」

軍事関係だってある程度は勉強したけど、素人に毛が生えたようなものだぞ。

「君はこのテストの結果から言うと軍事の基礎はできているようじゃないか。向こうで補修という形でやってくれるそうだ。」

クソッ!!最後の手だ・・・。

「ほら、体動かすこととかも素人だし・・・。」

「体の動かし方は、士官学校3年後期からになるから大丈夫。それまでみんな素人さ。」

なにがなんでも俺を行かせる気だなチクショウ。

「下世話な話になるんだけど、飛び級の生徒を出すとね、その子を受け持つ予定だった教官に手当がつくんだ。その手当が結構大きくてね、飛び級ができる子は無理やり飛び級させる教官もいるんだ。僕は君の意思を尊重するけど、君が飛び級しなかった場合、他の教官に僕が小言を言われるんだよね。」

・・・チクショウ、本気を出すんじゃなかった。俺のミスで他人様に迷惑かけるのはなぁ・・・。

 諦めて俺はその教官から書類を奪い、サインと拇印を押し、書類を教官に渡した。

「よし書類を確認した。村田学生!貴官は江田島に行き、訓練生配属部署を聞き、そこに配属せよ!!」

「了解・・・」

 そうして俺は、幼年学校名物「班対抗マラソン」、予備士官学校名物「遠泳」、海軍兵学校名物「カッター競争」を体験することなく、俺は訓練生として、さまざまな船に乗り、また陸軍や空軍に出向し、一年半を訓練漬けで過ごしたわけだ。

 今もこれらの行事に参加できなかったことは後悔してる。やってみたかったなぁ・・・。

 

 一年半後、俺は海軍兵学校を卒業し、晴れて少尉となったわけだ。なに?ジュネーブ条約で少年兵は軍人になれない?そう、俺は正確には軍人でなく、少尉待遇のただの軍属ってわけ。戦場に行って戦う事もあるけど、「軍属が偶然そこに行ったら、撃たれたため、自衛のために銃を取った。」ということにしているらしい。この手のやり方は、最近、先進国でも結構使っている。世の中物騒になったな・・・。

 話を戻そう、卒業してすぐ、俺は新たな配属先を知った。

「村田少尉!!貴官は兵特部隊、略称HS部隊第2中隊所属第1小隊へ配属せよ!!」

「ハイ!!」

どこだよ、HS部隊なんて、知らねぇぞ。あ、場所は関東か。休みの時は家に帰りやすいな。

 

 そうして俺は化け物だらけのHS部隊へ所属したわけだ。まぁ、配属して半年後、HS部隊第2中隊はロスアラモスに行くわけなんだけどな・・・。

 




HS部隊、これの正式名は何か・・・まぁ次回わかるけどね。


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HS部隊とか濃い人ばっか・・・

HS部隊着任!!


 俺は江田島から関東の某所へ行くことになった。HS部隊駐屯地は軍機によって教えられないからあきらめてくれ。俺は新幹線に乗りながら、この部隊のことについて考えてた。どう考えても、この部隊は船じゃねぇ・・・。後方の事務作業でもなさそうだ・・・。とすると・・・陸戦隊!?待って、俺、船の上でボタン押すっていう楽な仕事(実際楽じゃなかったけど)するために海軍入ったんだぞ!?なんで陸戦隊!?

 そう考えながら、俺は関東に着いたわけだ。東京駅で迎えが来るって言ってたけど・・・。

「久しぶりだイブキ君!!いやイブキ少尉!!この希信!!また君に会えて感激だ!!」

この人が迎えに来たのかよ。

「さぁ!イブキ少尉乗った乗った!!部隊の説明は!この希信が!車の中でしよう!!」

「ちょ、辻さん押さないでって!!」

なんか面倒なことになりそうだ。

 

 俺と辻さん、あと運転手が車に揺られていた。

「まさか、イブキ少尉が海軍に行くとは!この希信!悲しいが!!同じHS部隊第2中隊に配属されるとは!!」

「そういえば、そのHS部隊ってなんですか?あと辻さん、少佐になったんですね。おめでとうございます。」

襟章が大尉から少佐に代わっていた。なぜか飾緒つけてるし・・・。

「軍機だからイブキ少尉は聞かなかったか。正式名所は兵部省直属特殊作戦部隊第2中隊だ。略称が兵特部隊でね。そこからHS部隊って誰かが言って、そのまま通称になってしまった。この部隊は‘‘表にできない面倒なことを内密に処理する部隊’’第1中隊は国内、第2中隊は海外担当。その第1小隊は殴り込み部隊だ。」

これまた面倒なことになったな。なんで殴り込み部隊なんだよ。

「なんでそんなところに、俺が配属されたんですか?」

「うむ!君は陸軍の出向の際、とても優秀な陸戦能力があることが認められた!!この希信!!そのことを聞いて驚いた!!だからこの希信が君を!!引っ張ってきた!!」

厄介なことするんじゃねぇよ・・・。陸軍への出向の際、そういえば陸戦訓練があったけど、向こう殺しに来てたから、全力出したんだよね・・・。

「この部隊は特殊なため、人が少ない!!イブキ少尉のことだ!!すぐに部隊の人と仲良くできる!!この希信は第2中隊の参謀長をしている!!ついでに運転手は第一小隊隊長の鬼塚鬼次中尉!!彼は叩き上げだ!!イブキ少尉に色々教えてくれるだろう!!」

え、あの運転手の丸坊主のマッチョで片目にケガの後があるおっさんが隊長?

「こいつが‘‘不死身の英雄(ノーライフ・ヒーロー)’’か。俺が泣く子も黙る第2中隊第1小隊隊長の鬼塚よ。びしびし鍛えてやる!!覚悟しろよ!!。」

この人、この中二病のような名前知ってるのかよ!!あと、なんか見たことあるような顔だけど・・・。

「は!!ご指導、ご鞭撻!!よろしくお願いします!!!」

「っはっはっはっは!!威勢があるなボウズ!!」

あ、この人もボウズっていうのか、マクレーのおっさんと色々かぶらなきゃいいけど・・・。

 これが、HS部隊第2中隊第1小隊隊長、通称「自走式暴力装置」鬼塚鬼次中尉との初めての出会いだった。

 

 俺はHS部隊駐屯地につき、辻さんにある一室に行かされた。

「イブキ少尉!!ここが第2中隊中隊長の部屋だ!!中隊長にはちゃんと挨拶するように!!」

「わかりました。辻少佐。」

「辻少佐、村田少尉入ります!!」

そうして俺と辻さんがその部屋に入った。その部屋には二人の男がいた。

「ほぉ、君が‘‘不死身の英雄(ノーライフ・ヒーロー)’’で、作戦参謀が気に入り、参謀長が無理やり連れてきた村田少尉か。自分は角山中佐。この部隊の隊長をやっているものだ。」

へ?作戦参謀が気に入った?どういうことだ?あとこの人も知ってるのかよ・・・。やだなぁ・・・・

「村田少尉です!!至らぬこともありますが、粉骨砕身努力していくつもりです。」

「ほぉ、元気があっていいじゃないか、なぁ作戦参謀?」

「そうですね、私の作戦にはもってこいの人材です。あぁ、私は神城(かみしろ)大尉です。作戦参謀をしています。」

この人が作戦参謀か、ちょび髭とはまた珍しいな。

「よし、村田少尉、君は部隊に挨拶に行け。」

「了解しました。」

俺は、話が通じそうな人でよかった。

 まさか、こんな人たちが、イケイケドンドン、ガンガン行こうぜの人達とは思えないよなぁ・・・。

 

 俺は、鬼塚隊長から駐屯地の滑走路で集合とあったため、滑走路へ来た。C-1の横で、鬼塚中尉と他3人が談笑していた。

「鬼塚中尉、中隊長への挨拶終わりました。」

「おぉ!!やっと来やがったか・・・。お前ら、こいつが今日から配属された。村田だ。仲良くしろよ。」

「村田維吹少尉です。よろしくお願いします。」

3人はこっちへ敬礼した。

「堀二等兵曹です。情報担当。メガネって呼んでください。」

メガネをかけたオタクっぽい人が言った。

岩下(いわしも)一等兵曹ッス。狙撃が得意ッス。」

顔の上半分がヘルメットで隠れている人が言った。

「田中曹長、工兵だ。よろしくな。」

色黒のニイチャンの人が言った。

「ハ!、よろしくお願いします!!」

 

 「ボウズ、後で自分の使う銃を買っておけよ。この部隊は秘密部隊だからな、弾薬がバラバラのほうがバレにくくなるからな。」

そうなんだ。今度の休みに買いに行かないと・・・。家族に会う時間が減る・・・。

「訓練始めるぞ!!ほら乗った乗った!!」

そういって、鬼塚中尉と3人はC-1乗り込んだ。

「おい!!ボウズ、早く乗れ!!」

「イタイ、イタイ乗りますから!!引っ張らないで!!」

そして、C-1は飛び立った。

「ぶっつけで地上500メートルからの降下訓練だ!!天国へ連れてってやるぞ!!っはっはっはっはー。」

え?この隊長、今なんて言った?

 

 「お待ちかねのパーティの時間だ!!受付時間に遅れるなよ!!さぁ、行ってこい!!」

そういって、三人はC-1から飛び出していった。あの三人ちゃっかりパラシュート持ってやがった。

「どうしたボウズ!!男らしくスパッと飛んでみせろ!!」

は?

「いやいやいや、パラシュートなしにどうやって降下するんですか!!」

「パラシュートぉ? あんなもんただの飾りよ!!」

「パラシュートなしの空挺とか死にますから!!いや押さないで落ちる落ちる!!」

ちょ、隊長足で押さないで!!

「おらぁ!!」

「うわぁああああああああああああああああああああ!!!!」

俺はパラシュートなしで降下訓練に参加したんだっけ・・・。

 

 なぜかパラシュートなしでも空挺は成功した。月日がたち、この部隊に来て半年、訓練に明け暮れていた。そして悲しいことに、パラシュートなしの空挺も慣れてきた。

 そういえば、俺の武器は、メインが38式歩兵銃、サブで14年式とワルサーP38,師匠からもらった赤い日本刀にした。38式は、師範との組合で慣れていたから。14年式は小さい俺でも持ちやすく、反動が少ないため。ワルサーP38は相手の弾を鹵獲した時撃てるようにするため、それと俺が好きだから。これを申請したら受理された。マジで武器は適当でいいんだな。

「おい、ボウズ。」

「なんでしょう?」

俺は鬼塚中尉に呼ばれた。

「中隊長に呼ばれた。お前もこい。」

そういって俺は鬼塚中尉に引きずられ、官舎のほうへと連れ去られた。

「イタイイタイ、自分で歩けますから!!」

 そして俺と鬼塚中尉は中隊長の部屋に入った。そこに、角山中佐、辻さん、神城大尉その他数人がいた。

「中隊長、なんでしょうか。」

あ、鬼塚中尉って普通にしゃべれるんだ。

「うん、それはだね、第一小隊には今からロスアラモスに行ってほしいんだ。」

は?

「辻少佐、説明を。」

そして、辻さんは言い出した。

「アメリカ政府の機関ロスアラモス・エリートというものがあります。そこでは人工的に天才を作るという研究をしていたようです。ですが、そこの研究者は!!そこの被験者の子供たちに!!非人道的な行為を行い!!さらには政府を転覆させる計画まで立てる始末!!この希信!!怒りでいっぱいだ!!!」

やべぇ・・・辻さんが真っ赤になってる。

「辻さん落ち着いて、今怒っても何もならないですよ!!」

「そ、そうですね、イブキ少尉。この希信、怒りで周りが見えませんでした。」

俺はこの時、周りの人間の目が光ったことに気が付かなかった。

「そこで、アメリカ軍精鋭部隊がその施設へ攻撃したところ、反撃を受け、壊滅状態になってしまいました。」

ちょっと待って、アメリカの精鋭部隊でも壊滅ってどんな武力持ってるんだよ!?

「そこで、アメリカ軍より精鋭のわが日本軍に!!その施設へ攻撃し!!ロスアラモス・エリートを処理してほしいということだそうです。」

え?マジかよ、なんでアメリカの尻ぬぐいしなきゃならねぇんだ。

「まぁ、なぜアメリカの尻ぬぐいをしなければならないか。そう思うのも無理はない。まぁ、取引としてね.そこのデータは取れた分だけ取っていい。そういう事があったらしい。それに、持ちつ持たれつでね、こういうことはお互い、けっこうやっているんだ。もちろん、これらの情報は軍機だし、この作戦も軍機だからね。」

なんか、嫌なこと知ったなぁ。

「大丈夫!!この希信と神城作戦参謀、そして中隊長殿が一緒についていき!!後方で支持をだしましょう!!!」

 そうして俺は三度目の外国行きも、ドンパチすることになってしまったんだっけ。

 

 そういえば、なんで回想文のようになっているかって?それは・・・

「村田少尉!!聞いているのか!?」

「イブキ少尉!!ちゃんと聞いていますか!!」

「村田少尉、ボーっとしないでほしい!!」

ロスアラモスから30キロ離れた先で、作戦が紛糾しているからさ。あまりにも長いから、今までのことを回想してたんだ・・・。

「そうだ、村田少尉、君は、飛行機による殴り込み、戦車による殴り込み、ジープによる殴り込み、どれがいいかい!?」

まさか、中隊長、参謀長、作戦参謀、全員が真正面からの殴り込み作戦で決定しているからさ・・・。

 早く家に帰って、家族に会いたいよ・・・。

 

 

 

 




辻さんは前回は恩人の息子さん、今は部下と考えてるのでしゃべり方が変わっています。

角山中佐、は某海軍の航空艦隊司令長官がモデル。
神城作戦参謀は某海軍の殴り込み大好きな「神がかった」人がモデル。

鬼塚中尉は「やわ〇か戦車」をモデルにし、隊員の3人はほかの人物も「やわ〇か戦車」ともう一つモデルがあります。
 
 さぁ、結局何で殴り込みに行くのか・・・


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精神論はいやだ・・・

あの二人も鬼塚中尉に影響された・・・。


結局、鬼塚中尉が

「空挺なら奇襲ができるな。」

その一言で、中隊長の案である「飛行機による殴り込み」が決定され、辻さんの「ジープによる殴り込み」、神城作戦参謀の「戦車による殴り込み」は廃案になった。そこからの作戦立案は早かった。

「では、第一小隊の諸君。今回の作戦を発表する。神城作戦参謀、説明を。」

「はっ!!では作戦を説明いたします!!今回、敵研究者たちは国家安全保障科学館に立てこもっています。そこで、我々はC-1で高度10m以下から接近し、2キロ圏内になってから上昇。水平飛行になった瞬間に国家安全保障科学館の屋上へ空挺を慣行。その後、国家安全保障科学館に潜入、被験者の子供、研究者たちのデータをなるべく多く保護し、首魁の研究者4人を殺害。その後、第一小隊は脱出します。第一小隊脱出後、米軍からの攻撃により、国家安全保障科学館は破壊されます。

 質問はありますか。」

「ハイ!!」

俺は手を挙げた。

「村田少尉、発言を許す。」

「二つあります。一つ目、政府転覆を狙う計画に反対、もしくは無関係の研究者たちはどうなっていますか?」

無関係な民間人を殺したくないからな。

「この希信が答えましょう!!彼らはすでにロスアラモスから、データのバックアップを取り、避難している!!国家安全保障科学館は被験者以外は全員敵だ!!。」

なるほど、避難は完了してる。会ったやつは基本ぶっ放していいんだな。

「ではもう一つ、なぜ、辻少佐と神城大尉が武装してるんですか?」

これが一番不思議だった。参謀でしょ?後方で待機じゃないの?

「参謀が前線視察をしないとは!!それでは現場と本部の意識の差が出る!!この希信が一緒についていき!!現場の有無を確認しましょう!!」

「私も一緒です。」

「納得したかい?村田少尉。」

うん、なんとなくこんな性格だってわかっていたけどな。

「はっ!!了解いたしました!!」

そういって俺は、席に座った。

「他には質問はないようだね。よし!!全員C-1に搭乗せよ!!」

「「「「「「「了解」」」」」」」

 そうして、我ら第一小隊と参謀二人がC-1に乗り込み、敵陣に向かって殴り込みをかけた!!

「そういえば、辻さん、神城大尉。二人はパラシュートなしで大丈夫なんですか?」

「この希信も、この部隊に来たときは落下傘がないと空挺ができないと思っていたがね。」

「あの鬼塚中尉からパラシュートは飾りだと知りましてね。いやぁ、常識に囚われていましたなぁ、参謀長?」

「そうですな、作戦参謀?」

あぁ・・・この二人もこっち側なんだ。

え?俺だって?パラシュートは持ってないぞ。だって、「パラシュートはただの飾り」だからね(白目)

 

 出発して数分後

「おい、敵陣から何か来てるぞ!!レーダーが反応してる!!」

C-1は鬼塚中尉が操縦していた。ってもう気づかれたのかよ!?

「この感じからすると無人機だな。動きが直線的だ。」

すげぇ・・・鬼塚中尉ってそんなことわかるんだ。敵が目視できるようになった。敵は2機か。すると、岩下さんがドアを開け、そこからライフルを構えた。

「まぁ、ここは俺の出番ッスね。」

そうして岩下さんがライフルを2発撃つと、その2機は煙を上げて落ちていった。

「まぁ、このくらい朝飯前っす。」

訓練中、狙撃がうまいなぁって感じていたけど、まさかたった2発で、でかい無人機を打ち落とすとは。

「おい、今度はミサイルが来やがった!!」

「さ、さすがにミサイルすべて落とすのは無理ッスよ!!」

「手伝いますよ!!」

「手伝うぞ!!」

俺と田中さんは別のドアから身を乗り出し、ミサイルの迎撃を始めた。

「俺、近距離が専門なんですけどねぇ!!」

俺は38式を連射して迎撃する。俺はほとんどを拳銃か銃剣、刀で戦うから長距離戦はきつい。

「俺なんて、爆弾、爆薬が専門だぞ!?」

田中さんは40ミリ自動擲弾筒を撃ち出した。よくあんな重い物持ってきてたなぁ・・・。

「何とかミサイルにハックしてますけど、目標誤認できるのはよくて3割です。」

メガネさんは持ってるタブレットをすごい勢いでたたいていた。

 5分経ってもミサイルの雨は止まない。

「神城作戦参謀!!これ敵に感づかれてますよ!?作戦中止はしないんですか?」

バレてるのに突っ込むのはどうかと思うぞ。

「戦闘において、失敗するのは勇気が足りないせいだ!!勇気さえあれば敵が優勢であっても不可能でない!!!!」

ダメだ、こりゃ。

「辻さん!?」

「なぁに、我が大和民族に不可能はない!!!」

ウソだろ!?

「上昇地点だ!!全員つかまれ!!」

鬼塚中尉がそう言って、C-1を急上昇させた瞬間

ドカーーーーーン

右エンジンに被弾。よかった、俺は破片浴びたけど致命傷はない。

「ボウズ、大丈夫かァ!!」

「俺は大丈夫です中尉、しかし右エンジン被弾!!」

「なぁに、C-1はエンジン一つでもなんとかなるんだよ!!」

 

「もうすぐ降下地点だ、降りる準備をしろ!!」

鬼塚中尉はそういって、コックピットから出てきた。すると、第一小隊員の三人はパラシュートの準備をしだした。

「あれ?なんでパラシュート持ってきたんですか?」

「バカヤロウ!!パラシュート無しじゃ死んじまうだろうが!!」

おかしいな「パラシュートはただの飾り」なのに・・・。

「お待ちかねのパーティーの時間だ!!手厚い歓迎をされてるぜ!!俺らは泣く子も黙るHS部隊の第2中隊第1小隊だ!!その誇りを忘れるな!!!!」

そういって、鬼塚中尉はC-1から飛び降りた!!それに続き、俺たちも飛び降りた!!!「うわぁああああああああああああああ!!!!」

 パラシュート無しの空挺は慣れてきたけど、いい思いがしないな・・・。まだ師匠とエルの修行のほうがいいかな・・・・。すいません嘘つきました。生身の空挺のほうが何倍もいいです。

 

 

 「辻少佐、神城大尉、ボウズ、あいつらが到着するまで待機だ。」

そう言って、鬼塚中尉は一服しだした。ほんと「パラシュートはただの飾り」だし、着陸するのも時間かかるから、むしろ邪魔じゃないかなぁ・・・。

 あの3人が到着した後、辻さんと神城作戦参謀がどういう風に動くか指示を出した。

「敵は地下にいるでしょう。おそらく被験者とメインコンピューターもそこです。地下を目指して進んでください。」

「しかし、敵は傭兵を雇ったようだ!!それに被験者をも戦わせると考えられる!!この希信!!被験者の子供無理やり戦わせるとは!!・・・」

「辻さん、落ち着いて落ち着いて、その子たちを助けるためにいるんでしょ。」

「・・・そうだったな、イブキ少尉。」

また辻さんが熱くなった。この人はすぐに熱くなるな・・・。

 辻さんが落ち着いた瞬間、屋上のドアが開き、そこから銃を持った男たちが5,6人出てきた。

ダダダダダダダダダダ!!!!!!

その男たちは、俺たちに向かって一斉に撃ち始めた。急いで物陰に隠れた。

「ボウズ、奴らを始末してこい!!俺らは援護だ!!」

そう言って鬼塚中尉は銃を撃ち始めた。それに続き、他の隊員も撃ちはじめ・・・って辻さんと神城作戦参謀も撃つのかよ・・・

 俺は「影を薄くする技」を使い敵に近づいた。敵は向こうに集中している。こっちには違和感を持たないな・・・。俺は刀を抜刀し一閃!!

ザシュ!!

一気に敵兵三人の首を落とした。そのまま返す刀でもう一人を真っ二つ。

「なっ!!」

慌てて、残り二人がこっちに気づいたが遅い、俺はもう一人を刀で胸に刺し、もう一人をワルサーで射殺。

「おらぁ!!」

なんだ、もう一人いたのか。でも遅すぎるんだよ。刀を抜き、ワルサーをそいつに構えた。

ダァン

弾は一発で十分だ。俺はマクレーのおっさんのようにバカスカ撃たない。

「処理、終わりました。」

これで中に入れるな。

 

 中に入りしばらくすると、大きな部屋があり、大きな機械とゴーグルをし、手にガトリングを持った子供が一人そこにいた。どう考えてもおかしい。

「ここ、通らないといけませんかね?どう見ても怪しいんですけど・・・。」

「この部屋を通らないとだめです。地下には行けません。」

そうですか、神城大尉。

「子供を無理やり戦わせるとは!!これが人間のやることか!!!!!」

辻さん落ち着いて・・・。あ、やべ、こっち向いたし。

「あ、あそこにケーブル菅があります。あれからこの施設の情報を取ります。運が良ければセキュリティシステムと研究データを奪いますから、時間を稼いでください。」

メガネさんが言った。

「ボウズはあいつの相手。岩下はボウズの援護だ。田中、ケーブルを切らないようにケーブル菅を壊せ。少佐と大尉はメガネからの情報を見てください。始めろ!!」

ショウガナイ、俺は近接戦だしな・・・。室内戦の中で一番こき使われるのはわかってたよ・・・。

 「影を薄くする技」を使い、ガトリングを持った子供の射線に出た瞬間

ダーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

あいつなんでわかった!?もしかしてあのゴーグル、サーモグラフィー積んでるのか!?それならどんなに頑張ったってバレるぞ!!イテッ今かすったぞ!!

俺は刀を抜き、銃口の向きから直撃するであろう弾を予測し、弾をはじいていた。

「おい、お前は操られているのか!!!」

今回の作戦はデータ奪取と被験者である子供の救出だ。この子がもし被験者なら、救出対象になる。

「・・・・・・・・・・・・」

そいつは無言のままガトリングを撃ち続けている。クソッ、埒が明かねぇ・・・。俺はその子供接近し、そいつの首に峰で殴った。師匠たちの修行でさんざんやられたからな。どうやれば気絶するかわかる。

 そして、その子が倒れようとした瞬間、俺の勘は「そいつに急いで離れろ!!」といった。俺が離れようとした瞬間

ドカーーーーーーーーン

その子は爆発してしまった。俺は爆風をもろにくらい音が聞こえなくなった。

 

「・・・・・・・・ズ、・・・・・・・・・・・・・じょか。ボ・・・・・」

なんだ?

「ボウズ!!大丈夫か!!」

「ハイ大丈夫です!!」

あぁ、鬼塚中尉が言っていたのか。

「ボウズ、爆発をもろに食らったが大丈夫か!!」

「ハイ!!致命傷はありません!!」

致命傷はないけど、満身創痍だ。ケーブル菅のほうを見ると、辻さんと神城作戦参謀、メガネさんが神妙な顔をしていた。・・・辻さんと神城作戦参謀に話しかけると面倒なことになりそうだ。

「メガネさんどうかしたんですか。」

「あぁ、イブキ君。一応セキュリティーシステムを奪って、データも奪ったんですけど・・・。」

すごいな、メガネさん、この短時間でそこまでやるとは・・・。

「各階に脳に無理やり機械を埋め、体に爆弾を埋め込まれた子供たちが待機しているようです。」

マジかよ・・・。

「これが!!!!人間のやることかっ!!!!!この希信!!!怒りでいっぱいだっ!!!改造もそうだが!!!子供に銃を撃ちストレスを発散し!!!それを訓練だと!!!廃棄個体で遊ぶだと!!!!ふざけているのか!!!!!」

やべぇ・・・辻さんが怒り心頭だ・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・(何か言ってるが聞こえない)。」

神城作戦参謀も何かすごいことになっちゃうし。ハァ・・・・正気に戻させるか。

「辻さん、神城作戦参謀落ち着いてください!!」

「落ち着いていられるかっ!!!」

「(ギロッ!!)」

うわぁ・・・・なんか二人とも、狂気に取りつかれたような顔だよ・・・。

「俺らはその子たちを保護するために来たんですよ!!落ち着いて対処しないと、救える子ですら救えなくなりますよ!!」

「・・・そうだな、確かにイブキ少尉の言うとおりだ。この希信、礼を言おう。」

「・・・そうでしたね。そうだ、落ち着かなければ・・・。」

何とか辻さんと神城作戦参謀は落ち着いたようだ。第一小隊のみんな、なんで俺を神様のように見るんだ?

「その改造された子は助かるんですか?」

「ダメなようですね・・・。もうほとんどが人間じゃない・・・・。」

神城作戦参謀は悔しそうな顔をしていった。

「武士の情けだ・・・。この希信、悔しいが、せめて楽にさせよう。・・・堀二等兵曹、彼らを自爆させることはできるか?」

「できますよ。」

「彼らを・・・自爆させろ・・・。」

辻さんは俯いて言った。

「了解しました。」

メガネさんは強く唇をかみながら、タブレット叩いた。爆発音が連続でした。

 

「もう一つ、報告があります。なぜか地下で戦闘が起こっています。仲間割れですかね?」

は?なんで戦闘が?

「わからねぇが、助けに行くしかねぇだろ。全員で残敵掃討。一階に着いたら俺と岩下、メガネで脱出用の車を鹵獲。残りで地下へ行って子供たちを助ける。これでいいですか?辻少佐、神城大尉。」

そういって鬼塚中尉は二人を見た。二人はうなづいた。

「おい、田中、‘‘あれ’’持ってきてるか?」

「はいはい、ちゃんと持ってきてますよ。」

そういって普通の手榴弾より一回り大きい物体を出した。もしかして「あれ」か・・・。

 

そこからの掃討は簡単だった。「あれ」とは田中さんお手製の手榴弾で、ちょっと大きな部屋ぐらいは一発で木端微塵にできるほどの威力だ。田中さんは敵のいるところにそいつを投げ込み、ほとんどの敵をそいつで処理してしまった。また、トラップにも鼻が利き、仕掛けられていた罠を彼一人で解除してしまった。

 田中さんの手榴弾の威力はヤバい・・・。爆炎が部屋の外にまで出るとか、映画かアニメでしか見たことなかったぞ。

 そうして一階までたどり着き、鹵獲組と別れ、俺と田中さん、辻さん、神城作戦参謀は地下に潜った。地下に潜り、研究者と被験者の子供たちがいる部屋にたどり着いた。その部屋はでかい扉があり、その扉は閉まっている。

「ここは俺がやるか。」

そういって田中さんは扉に爆薬をくっ付けようとしたが、

「待ってください田中さん、俺のほうが早いです。」

そういって俺は刀を抜いた。

「おぉ、そうだったな。じゃ、よろしくな。辻少佐、神城大尉、すこしイブキから離れてください。」

田中さんは辻さんと神城作戦参謀を下がらせた。ありがたい。

「しっ!!」

そういって俺は刀を振るった。その瞬間、扉は音をたて、崩れ落ちた。家族のみんなで「ルパン三世」を見ていた時、石川五ェ門の切るシーンを見たせいか、師匠がこの技を俺に無理やり教えたんだっけ・・・。だいぶきつかったなぁ・・・。なぜか牛若とネロも影響したのか、この技二人も覚えちまったし・・・。

 

 そうして俺は、敵の首謀者と被験者の子供たちに会った。




今回は室内戦なので、岩下一等兵曹の活躍はあまりありません。

ロスアラモスと言えばあの二人ですが、二人は次で登場します。


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休日くらい上司から離れたい・・・

ロスアラモス編終了


「よく来たな諸君盛大に歓迎sh・・・。」

なんか言ってたけど、俺は研究者4人を峰で殴り、気絶させた。わざわざ向こうの話聞く義理なんてないし。

「大丈夫かい、私たちは助けに来たんだ。」

「大丈夫、君たちの安全は、この希信が、保証しましょう!」

参謀の二人は被験者の子供たちの保護に向かったようだ。

「田中さん、こいつらどうします?」

「そうだなぁ・・・。こいつら爆発させようとしてたんだろ?じゃぁ・・・。」

そういって田中さんは爆薬を持った。

「そうしますか。」

また、汚い花火ができるのか。

 

 俺たちは子供たちを引き連れ、地上に出た。その瞬間殺気!?俺は急いで抜刀し、構えた。

ガキィイイン!!

師匠からもらった刀と鍔迫り合いとかどんなナイフだよ!!

「ウラァ!!」

敵の少年(どこかキンジに似てるような気がする)はナイフを振るった。

「っと危ねぇ!!テメェ研究者の仲間か!!」

「研究者?ふざけるな!!!」

そういって、切り合いをしていた瞬間

「キャァアアアアアアアア!!」

なんだ!?たがいに振り向いた先には、茶髪の女の子が傭兵に捕まってる。

「へ、へへへ。よ、よしお前ら、武器を下ろせ・・・。俺は生き延びるんだ・・・。」

あちゃぁ・・・・。掃討してたけど、生き残ってたのか・・・。しかもだいぶベタだし・・・。とりあえず「影を薄くする技」使うか。

「!?」

「テメェ!!どこ行きやがった。」

少年と傭兵が驚いてる。まぁ、向こうからすれば消えたように見えるからな。

一気に近づいて・・・。

「ここだよ。」

正面に出て殴る!!傭兵は気絶したみたいだ。

「大丈夫?怖かったね。」

そういって女の子の頭をなでようとした瞬間

「妹に手出すんじゃねぇ!!」

いや、助けたんですけど!?そういって切り合っていたら、

「サード止めて!!その人は私たちをたすけにきてくれたんだよ!!」

少女かそう言ったら、少年は切り合いをいったん止めた。

「そうだ。俺たちは被験者の子供たちを助けるために来たんだ。君は被験者か?」

研究者の仲間かどうか聞いたら、「ふざけるな」と答えたんだ。こいつは被験者に違いない。

「ちっ!!てめえらなんて来なくても逃げられた!!まぁいい、お前らはこの後どうする。」

何とか収まったのかな?

 

 そうして、この子たちも保護し、鹵獲組と合流し、ロスアラモスから去った。ある程度してからロスアラモスから爆発音が聞こえてきた。アメリカ軍がやり始めたのかな?

「ねぇ・・・。」

あの時に助けた茶髪の子が俺の袖を引っ張ってきた。

「あなたの名前って何?」

「イブキっていうんだ。」

「私にはお兄ちゃんがいるんだけど・・・。あなたのことイブキにぃってよんでいい?」

は?まぁ・・・呼び方なんてどうでもいいか。

「あぁ、いいよ。」

「イブキにぃ、私はGⅣっていうのよろしくね!」

ジー・フォースっていう名前なんだ・・・。珍しい名前だなぁ・・・。やっぱりかぁ・・・。

「フォースちゃん、よろしくね。」

「うん!!」

これが、まさか布石だったとは思いもしなかった。

 

 基地に戻ってから俺は治療を受けてた。致命傷がないって言っても満身創痍には変わりないしなぁ。空港の時よりも作った傷が多いんじゃないか?

「イブキさん、ちょっと問題が・・・。」

メガネさんが来た。

「どうしたんですか?メガネさん。」

「実はですね、保護した子のうち一人が君についていきたいと言い出してね。」

保護した子はアメリカが責任をもって育てるそうだ、心配だけど。だが一人が俺についていきたいと言い出したそうで。

 その子がいるところに俺は行かされた。そこには俺に切りかかってきたキンジ似の少年と、助けた茶髪少女がいた。え?もしかして・・・。

「フォース俺とこい!!」

「サードは大きくなってから合流するよ。私はそれまでイブキにぃについていく。サードはこれから逃げるんでしょ?それなら一人のほうが合理的だよ。」

・・・・・・。帰っていいですか?

「おぉ!!イブキ少尉!!来たか!!」

辻さんが笑顔でこっちに来た・・・。なんか嫌な予感が・・・。

「いやぁまさかイブキ少尉が!!短時間でこの子と仲良くなるとは!!この希信!!驚きを隠せない!!この希信は!この子たちをアメリカに渡すのには反対だが!しかし!!自ら日本に来たいというのなら問題にはならない!!さすがイブキ少尉!!仲良くなり日本へ行きたいといわせるようにするとは!!」

・・・だいぶ誤解なんですけど・・・。

「あ、あの・・・辻さん・・・。」

「イブキ少尉のことをイブキにぃと呼ばせたと聞きました!!そう呼ばせたということは!!妹として引き取るということ!!さすがイブキ少尉!!この希信!!急いで戸籍を準備しましょう!!」

そこへ角山中隊長と神城作戦参謀が来た。

「村田少尉、妹さんのことは任せたまえ!!自分が上の説得をしておこう!!」

「流石ですね、村田少尉は。まぁ、面倒なことは私たちに任せてください。」

・・・・・・。GⅣを見ると、「計画通り」とでも言いたそうな顔で笑ってた。

 そうして俺はなし崩し的にGⅣを引き取ることになった。

 

 なお、帰りの飛行機でGⅣは研究所であったことを話し、辻さんと神城作戦参謀、それに角山中隊長と鬼塚中尉が号泣した。。

「イブキ少尉!!この子の名前をどうしよう。流石に‘‘村田GⅣ’’だと、この希信でも、戸籍を作るのが難しいのだが・・・。」

そういわれればそうだ・・・。GⅣは俺を見ている・・・。名前をつけろとでもいうのか?原作道理でいいか。

「・・・では‘‘村田かなめ’’でお願いします。彼女の元になった人の家族を知ってましてね、そこの人たち名前に金を入れるのでかなめにしました。」

「・・・ふふふ。イブキにぃ、あたしはかなめ!!かなめだよ!!」

なんか泣いて抱き着いてきた。頭を胸にグリグリするな、傷が開くだろ!?ってなんでみんな泣いてるんですか!!辻さんと鬼塚中尉なんて号泣してるし!!

 まぁ、皆さん、俺に妹ができました。

 

「キンジへ

俺、お前の妹を義理の妹にしちゃった。」

「イブキへ

病院行くか?そんなに軍隊ってきついのか?」

普通は信じてくれないよな。

 

 中隊長は俺たちに2週間の休みをくれた。かなめと包帯だらけの俺は二人で俺の家へ帰ることにした。

「ここがイブキにぃと過ごす愛の巣!さすがイブキにぃ!!合理的ぃ~!!」

「いや、違うからね。他の人いるからね!?」

 家の前で、玉藻がホウキを掃いてた。

「玉藻~、帰ったよ~。」

「まぁ、おかえりなさいまし。って、マスターが女の子を誘拐したぁああああ!?」

何言ってるの?人聞きの悪いこと言わないで!!

「いや、これ違うから!!」

「ほう、まさかイブキが手を出し連れ帰るとは!おぉ!!美しいではないか!!イブキよ!!余にも分けよ!!」

ネロ、何言ってるの!?

「主殿~!!寂しかったです!!撫でてください!!」

牛若はかなめのことが見えていないようだ。

「フフフ・・・、まさか、イブキがほかの女を連れてくるなんてね・・・。」

エルさん?瞳孔が開いて怖いんですが・・・。あと、鎖で俺のこと縛らないでくれません?

「傷だらけとは情けない・・・。修行だ!!まずは竜を狩りに行くぞ!!」

待って、師匠。引っ張らないで!!って、この世界に竜なんているの?

「イブキ!!誘拐とはどういうことですか!?あなたはファラオである私の同盟者であることを・・・・(以下省略)」

ニトちゃん・・・。

「男前になったじゃねぇか。」

「わっはっはっはっはっはっ!英雄色を好むという!!」

ベオウルフにエジソンも・・・。

 

 俺は何とかその誤解は解き、かなめのことを紹介してくれた。みんなは彼女を温かく迎えた。そこから俺は休みの2週間を家族とゆっくり過ごした。これほど癒されるものはない(修行を除く)。だが、休みの最終日、事件が起こった。鬼塚中尉の買い出しに俺がつき合わされたのだ。

「生麺タイプってやつがあるがあれは邪道よ。カップは乾麺!店では生麺!適材適所、メリハリってものがないとなぁ・・・。」

「そうですか・・・。ところでまだ買うんですか?」

なんで家族とゆっくりしたかったのに!!なんでこんなおっさんと二人で買い物しなきゃいけないんだ!!

「当り前よ!!俺は三食カップ麺を食わなきゃ力が出ねぇ!!」

この中尉、カップ麺箱買いして、全部俺にも持たせる。しかもカートを使おうとしたら睨まれたし・・・。

 5分後、鬼塚中尉は満足したのか

「よし、レジまで運べ!!いい運動になるぞ!!」

てやんでぇ!!!じゃぁ、テメェがしろよ!!

 

 買い物が終わり、俺と鬼塚中尉は食堂に来ていた。

「たまには部下と一緒に休日を過ごすのはいいもんだ、なぁボウズ!」

「ソウデスネ・・・。」

上司と過ごす休日ほどクソなものはねぇ!!

「おい!楽しいか!はっはっは!!」

「ソウデスネ・・・。」

楽しくなんかねぇ!!

「ご注文は?」

「こってりチャーシュー麺2つ!!」

「かしこまりました。」

「え?ちょっと待って・・・。」

ウエイターさんは厨房のほうへ・・・。俺、疲れたから、あっさりしたラーメンじゃないのが良かったんですけどぉ・・・。

「俺のおごりだ!!遠慮せず食え!!」

「ラーメンじゃないのが良かったんですけど・・・。」

 俺は、渋々ラーメンを啜っていると、

「お?鬼塚じゃん。」

「おぉ!!ジミよ!!」

アフロで道着を着たおっさんが来た。二人は親友なのだろうか?二人で盛り上がっている。

「この時間じゃ、飲み屋は開いてねぇな。」

「じゃぁ、カラオケカラオケ。」

そういって二人は席を立った。しめた!!この流れなら俺は帰れる!!

「二人の邪魔だろうし、俺は帰りますね。」

そういって俺は席を立ち、帰ろうとすると

「よし、ボウズも来い!!」

そう言って、俺に買ったカップ麺の箱を持たせ、カラオケに連れていかれた・・・。

 そのあとは悲惨だった。カラオケと居酒屋は鬼塚中尉が代金を持ってくれたが、男二人のヘタクソな歌を何時間も聞き、その後居酒屋で二人が盛り上がっている中、ジュースをチビチビ飲む・・・。これならまだ、ネロのワンマンライブのほうが何倍もイイわ!!しかも、居酒屋でジミさんと別れた後、鬼塚中尉が俺の家まで来て泊まっちゃったし・・・。ベオウルフと鬼塚中尉はお互い気に入ったのかだいぶ仲良くなったけど、女子勢が怖かった。エルとかなめは瞳孔開いて鬼塚中尉を見るし、師匠と玉藻とニトは額に青筋があるし、牛若なんか鬼塚中尉を何度も切ろうとしたし・・・。あまりにも女子勢の怒りが怖かったのか、エジソンとネロは早く寝てしまった。

 そして次の日、俺と鬼塚中尉は駐屯地に戻っていった。休んだ気がしねぇ・・・。

 

 「おい、起きろ。」

田中さんが銃床で俺をつついた。俺は訓練中、トラックに揺られながら寝ていたようだ。

「どうした、休暇ボケか?」

「すいません・・・。休暇の疲れがどっと出ちゃって・・・。」

「どうした、休暇中なんかあったのか?」

鬼塚中尉はトラックを運転してる。俺たちはトラックの荷台にいるから、ここで話しても鬼塚中尉には聞こえないか。

「昨日、一日中、中尉につき合わされてたんです・・・。買い物つき合わされて、うまくもない歌をさんざん聞かされて、挙句の果てに俺の家まできて泊まったんですよ!?」

「あぁー・・・。そいつは災難だったな・・・。上司と過ごす休日ほど、空しいもんはないからな・・・。」

田中さんは俺の背中をポンポンと叩いた。

「まったく・・・。休暇を返してほしいですよ・・・。」

「部下とのコミュニケーションのつもりなんスかねぇ?」

岩下さんが言った。

「そんなの知るかよ・・・。俺こないだ休みの日にスーパーで刺身を見てたらよ・・・。」

田中さん曰く、スーパーの刺身を見ていたら鬼塚中尉に会い、そのまま無理やり築地に連れていかれ、そこで2,3時間魚の講釈を聞かされた。その後、家まで来られて捌き方の講釈が始まったらしい。

「結局、うまかったんですか?」

俺がそう聞いた後、田中さんは銃を床にガンガンとぶつけながら

「それがありえねぇぐらい、クッソまずいんだよ!!」

と言った。

「長々講釈垂れてる時点で、新鮮さもクソもないッスよね・・・。」

「俺には刺身食わせて、テメェはカップ麺啜ってんだよ!!」

「うわぁ・・・・。」

流石にそれはないな・・・。するとメガネさんはタブレットから目を離し、

「俺もこの間、中尉に誘われたんですが、ウザいから断ったんですよ。」

「「「断った!?」」」

俺と、田中さんと岩下さんは驚いた。

「いや、服買いたかったんで一人で行ったんですよ・・・。」

メガネさん曰く、一人で服を選んで試着室に入ったらそこに中尉が待ち構えていた。そのまま、試着室で酒盛りとばかりに中尉はビールを飲み、カップ麺を啜っていたらしい・・・。

「「「怖っ!!」」」

「休日ほかにすることないんですかね?」

そう俺が言ったら、

「単に寂しがり屋って説があるな」

田中さん、よく知ってるな。

「ハイ、俺、中尉と二人で遊園地いったッス。」

「「ああああああああ!!!!」」

俺と田中さんはあまりの衝撃で悲鳴をあげた。

「お、男二人だぞ!?」

「中尉はそういうの気にしないッスから。カップルだらけのところに野郎二人が並んで、観覧車乗って、きつかったなぁ・・・。しかも観覧車の中でカップ麺食うんッスよ!?」

岩下さん・・・。

「よ、よく耐えたな・・・。」

「そのあとが大変なんスよ。ゴンドラがグーって上がって、てっぺんぐらいまで来たとき・・・。」

「突風によりトラブル発生、観覧車の動きが止まる。当たってます?」

急にメガネさんが言い出した。

「あ、あぁ・・・。」

「4時間宙づりじゃ、トイレ大変じゃありませんでしたか?」

「ちょ、待って、なんでメガネが知ってるんスか!?」

「ちょっと面白い物見つけまして・・・。」

そういって、メガネさんがタブレットをたたき始めた。

「イブキさん、先月の15日。中尉とカジノ行って、ボロ儲けしませんでしたか?」

「え?俺のことまでわかるんですか!?」

確かに、俺は中尉にカジノに連れていかれ、身分を偽って中に入り、そこでだいぶ儲けて帰ったんだけど・・・。

「「「って何見てるんですか!?(見てるんだ!?)(見てるんッスか!?)」」」

俺たち三人はメガネさんのタブレットを覗いた。そこには「あおぞら特殊部隊 ~部下と過ごす楽しい日々~」という名前のブログがあった。

「「「中尉のブログ!?」」」

「適当なワードでググったら 一発でしたよ。」

まさか、あの厳つい中尉がブロガーとか・・・。全然そう見えねぇ・・・。

「ってこれ、俺の話じゃないッスか!?」

「まさか行間開ける系とはな・・・。」

「アーカイブ三年分はありましたよ。」

俺らからネタを拾っていたのか・・・。だから、色々つき合わされたのか・・・。

「おいおいおい!!これって俺の写真じゃないッスか!人の写真勝手に使っていいんッスか!?」

 覗いていくと、コメントのところがあった。

「だいぶコメントがありますね。開けますか?」

「よし、開けてみろ。」

田中さんがGOを出したので、メガネさんがコメントのページを開いた。すると・・・

「・鬼中尉の部下への愛が伝わってきます。

・いつもほほえましい記事をありがとうございます。部下さんがんばれー!!

・初めまして、鬼中尉は部下さんが大好きなんですね

・余は、イブキの記事をもっと読みたい!!イブキの記事はまだか!!

・主殿の記事を楽しみにしてます!!

・イブキにぃの記事を多くするのは合理的だと思います。

・イブキの記事を探してしまう・・・。これは、どうしてだろう・・・。」

などと、心温まるコメントが沢山あった。

「「「「なんか照れますね~(照れるなぁ~)(照れるッスね~)」」」」

そういって俺達は盛り上がった。

 「このブログは見なかったことにする。いいな?」

そう田中さんは言ってこの話は流れた。さて、今日も訓練に励みますか。

 

 

 そういえば、あのコメント見たら、脳裏にうちの家族のことが思い浮かんだんだけど・・・気のせいだろう。

 

 

 




セリフって難しい・・・。

機械兵などもいましたが、メガネさんがハックしたせいでただの置物になっています。

かなめはGⅢがビックになってから、ジーサード・リーグに入ります。

 

次は有名な三角諸島沖・・・。


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私事に部下を巻き込まないで・・・

Fateで沖田さんのガチャが出るそうで・・・。出たらこっちでも呼んで書こうかな・・・。キャパ不足でなければ・・・。


そうして俺はこの部隊で1年を過ごした。まさか忘年会の王様ゲームで、鬼塚中尉が

「3番が、北方部隊へ島流し~。」

と言ったら、次の日、本当に北方へ送られるとは思わなかった。(その時、俺が3番だった。)そのせいで年末を家で過ごせず、家族に怒られた。

 4月、キンジからメールで東京武偵高校に入学したと教えてくれた。それはめでたい、あいつはベレッタを使ってるんだっけ?俺はキンジの入学祝として9mmパラベラムを木箱で送ってやった。きっと喜ぶに違いない。

5月、かなめが家を出て行った。やりたいことがあるそうだ。きっとサードと合流するつもりなのだろう。寂しくなるな。特に可愛がっていた玉藻とネロはすごく寂しそうだった。

 11月ごろ、ある事件が起こった。ニュースは

「三角諸島沖に絡み、某国外務省は緊急声明を発表しました。」

「我が国の潜水艦が領海内を潜航中、日本軍の攻撃を受け消息を絶った。国際社会の平和を乱す日本の愚劣な行為に対し、我々は厳しい対抗措置を取る用意がある。」

「某報道官は三角諸島沖を自国の領海とした上で日本を激しく批判、厳しい対抗措置とる可能性を示唆しました。」

と言っていた。これを見ていた。俺、田中さん、岩下さん、メガネさんは

「「「「ふざけるなよ!!!」」」」

「被害者面してるんじゃねぇ!!」

「不法侵入はそっちッスよ!!」

と言っていた。ニュースは続き、

「総理はこのことに対し、コメントを出しました。」

「え~事実関係は把握しておりませんが、今回の件は国の主権に関わる問題ですので、国内法に基づき粛々と・・・グー・・・」

・・・おい。

「粛々と寝やがった!!」

「現実から目を背けないでほしいッス!!!」

「・・・鬼塚中尉が見てなくてよかったですね。」

「というか、立ったままで寝られるとかすごいな。」

などとしゃべっていた。そうしたらすぐに速報が入ってきた。

「緊急速報です。某国政府は武力衝突事件の報復措置として、日本に対するレアアース輸出の全面差し止めを決定。予定された輸出分のすべてを、強制的に冷凍餃子に切り替える方針を明らかにしました。」

・・・なんで冷凍餃子?それよりも・・・

「「「「いらねぇっつーの!!」」」」

「なんで冷凍餃子なんだよ!!」

「そんなに冷凍餃子あっても冷凍庫の肥やしになるだけッス!!」

「向こうって冷凍餃子余ってるんですか?メガネさん。」

「そういう情報はないですね。イブキ君」

などと話していた。本当にこの場に鬼塚中尉、辻さん、神城さん(かなめの件で仲良くなった)、角山中隊長がいなくてよかった。絶対爆発しそうだ・・・。

ドカーーン!!この希信!!!

 兵舎の一部が爆発し、爆発の中心部であろうところから騒音と妖気が出てるのは気のせいなはずだ。きっとそうだ、そうに違いない。

 そして、本日は訓練がなくなり、代わりに兵舎の修復となった。

 

 

 俺は起きたら海で浮かんでいた。え?どういうこと?周りには何も見えない。というか陸地も見えない・・・。俺は海パン一つと水泳帽、ゴーグルのみ・・・。は?どうして?すると近くから何かが浮かんできた。・・・それは、どう見ても手作りのタコ足を首につけた鬼塚中尉、同じく手作りのイカの足を首につけた辻さんだった。あんたら何やってるの?暇なの?

「・・・鬼塚中尉、辻さん。なにやってるんですか?」

「俺たちは、鬼塚や辻少佐じゃねぇ・・・。俺は‘‘通りすがりのタコ’’!!」

「この希信は!‘‘偶々いたイカ’’!!」

「・・・大丈夫ですか?」

「なぜこんなことをしているか、この希信が、説明しよう。今、我々、希信たちがいる場所は、三角諸島から北西に50kmの、我が国の、排他的経済水域内だ!!」

そういえば、辻さん陸軍なのに海の上で立ち泳ぎできるのか・・・。

「なんで俺がここにいるんです?」

「事前の説明は省かせてもらった、この希信が、情報の漏洩を危惧したためだ!」

「極秘の任務、ですか?一応、国内になるので第一中隊の管轄だと思うんですけど・・・。」

「「・・・・・・。」」

黙り込むってもしかして・・・。そこに違法操業中であろう漁船が通りかかった。鬼塚中尉と辻さんはその船に近寄って行った。

「なーに他人のシマで操業してんだよ!!!なめてんじゃねーぞ!!」

「我が国への侮辱行為!!!受けて立つぞ!!!キェエエエエ!!!」

そう言ったら漁船は去っていった。わかる、その気持ち・・・。タコとイカのコスプレした人たちが近寄ってきて、何言っているかわからないことを怒って言ってるんだよ。それは逃げたくなるさ・・・。

すると鬼塚中尉がこっちを振り向き、説明しだした。

「見ての通り、この海域では他国の漁船による違法操業が常態化している。このたび海保が追っ払っちゃいるが、いかんせん、いたちごっこよ。連中は三角諸島を自分の領土だと思っているからな。」

「はぁ・・・それは我が国の領土保全にかかわる問題ですね。」

そう俺が言うと、

「俺たちの海は!!!」

「俺たちが守る!!!」

そう言って、鬼塚中尉と辻さんは決めポーズを取った。あんたら元気あるなぁ・・・。

「しかし、丸腰のパンツ一丁でどうやって・・・。」

「「気合で乗り切れぇ!」」

いや・・・丸腰の3人に何ができるんだよ・・・。

「そもそも、第2中隊は海外が専門でしょう?それに特殊部隊が海上警備って・・・。」

そういうと、鬼塚中尉と辻さんは首を横に振った。

「お前は特殊部隊隊員じゃねぇ・・・。」

「イブキ少尉は、‘‘ブイ’’だ!!」

は?

「何言ってるんですか?」

そうすると・・・鬼塚中尉は俺に指をさした。

「だから、‘‘名も無きブイ‘‘と・・・」

今度は鬼塚中尉自らを指さした。

「‘‘通りすがりのタコ’’よ!」

「この希信は!‘‘偶々いたイカ’’!!」

・・・。何を言いたいんだ?

「さっきから、何を言ってるんですか?」

そうすると、鬼塚中尉と辻さんはあたりを見回した。いや・・・近くに何もねぇよ・・・。そして、鬼塚中尉はこっちに手招きし、

「おい、近くに寄れ、大きな声じゃ言えねぇんだけどよ、実は・・・。」

 

 「出動命令出てないってどういうことですか!?まさかの独断ですか!?」

俺たち三人は漁船を追いながら話していた。

「だったらどうした!!お上の命令なんて待ってられるか!!」

「最悪、この希信が煽り、正当化すればいい!!」

「「オラ、帰れ帰れ!!!」」

これ、軍法会議クラスだよね・・・。

「いやいや、お上の弱腰な対応にいら立つのもわかりますが、それに耐えるのも軍人でしょう!?これ、バレたら軍法会議物ですよ!?」

「大丈夫!!タコとイカとブイがやったこと!!バレるはずがない!!この希信が保証しましょう!!」

「いやいやいや、政治の判断待ちましょうよ!!」

すると鬼塚中尉が

「じゃぁ何か!このまま指咥えて見てろっていうのか!?奴らがただの漁船かどうかなんてわかったもんじゃねぇんだぞ!!」

そう言うと、鬼塚中尉は急にまじめな顔をし、

「俺には政治だの、外交だのはわからねぇ。だけどよ・・・。」

「「祖国を蹂躙するが如く!!なめ腐った挑発行為は!!俺(この希信)個人に対する!!宣戦布告と判断する!!」」

「じゃぁ、俺を巻き込まないでくれませんか・・・・。」

私的な事のために俺は、こんな南方まで拉致されたのか・・・。

 

「ブイじゃァ!!!」

「タコじゃァ!!」

「イカだぁ!!!!!」

「べらんめぇ!!!貴様何処のもんだァ!!ケツからてぇ突っ込んで歯がたがた言わせたろか!!べらんめぇ!!!しまいにゃミンチにして餃子にして食うぞ!!この野郎!!」

色々諦めた俺は、「名も無きブイ」として、違法操業中の漁船を追い掛け回していた・・・。

「い、イブキ少尉・・・。それは言い過ぎだ・・・。流石にこの希信も引く・・・。」

え?そうでしたか?

 

「あらかた、追い払いましたね。」

「おう、よく頑張ったな。」

「そういえば、神城大尉はどうしてるんです?」

あの人も来そうな気がするんだけどなぁ・・・。

「あぁ、この希信が答えよう。神城大尉は今頃兵部省と総理官邸に殴り込みをかけて、我々の擁護と、違法操業中の漁船への殴り込み作戦の草案を出しに行っている。」

あぁ・・・お上にこのことバレてるのか・・・。家族とどこか遠くへ逃げようかな・・・。なるべく海外以外で・・・。

「ボウズ、お前ブイ向いてるんじゃねぇのか」

鬼塚中尉がそう言った。うれしくないんですが・・・。

「いやぁ~・・・(泣)お二人のタコとイカも見事でしたよ(お世辞)。」

「そ、そうか?」

「この希信、それはうれしい!!」

なんでそんな喜んでんだよ・・・。すると下から大きな影がゆっくりと・・・え?

「「「うわぁあああああああ!!!」」」

大きな潜水艦が浮上してきた。その潜水艦の横には「伊・U」の文字が・・・はい?

「オラオラオラァ!!潜ってんじゃねぇぞ!!!」

「我が日本の領海に来るとは!!この希信が相手になりましょう!!!!」

そうして二人は海パン一丁に手作りの足をつけたまま、その潜水艦に乗り込もうとした。

「いやいやいやいや、乗り込むのはまずいでしょ!?」

聞くそぶりはなく、二人はハッチをこじ開け、中に入って行った。追うしかないのか・・・。

 そうして俺は、海パン一丁に水泳帽をつけた丸腰の格好で、イ・ウーの人たちと戦わなくてはならなくなった・・・。




実は中国潜水艦がイ・ウーのボストーク号を攻撃したため、イ・ウーも攻撃し、その後中国潜水艦は消息不明という設定。日本にしてみれば濡れ衣でレアアースを冷凍餃子にされるという・・・・。

イ・ウーとの接触は、北方への島流しか三角諸島のどっちかで迷ってましたが、三角諸島のほうが自然なのでこっちにしました。



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これ以上変人奇人になりたくない・・・

FGO80連で爆死・・・。もう一万課金するか?


俺は鬼塚中尉と辻さんを連れ戻すために潜水艦の中に入った。なんなのここ?剥製とか骨格の標本とか沢山あるんだけど・・・。下手な博物館よりすごいぞ・・・。最初は海水の跡を追っていたんだけど、途中でなくなってる・・・。ショウガナイ、すべての部屋探すか・・・。俺は近くにあったドアを開けた。

「フフフ・・・・。ッ!!誰かいたような・・・・。」

銀髪のかわいい女の子がフリフリのドレスを着て、鏡見て笑ってたよ・・・。俺は何も見なかった・・・。

 ほかの部屋を見て回り、変装用具一式とナイフ、銃が置いてある部屋を見つけ、そこから色々と拝借した。ただ、そこにあった服は小さくて着れなかった。だから俺は「名も無きブイ」から「海パン一丁にカツラとサングラスをつけ、銃とナイフを持った変質者」にジョブチェンジしてしまった。・・・泣きそう。

 

 人間堂々とすれば意外とバレないもんだな。

「どうもー新入りでーす。相棒のタコとイカのコスプレした人見ませんでしたか?」

ずっとこれ言ってるんだけど、全然不審がられてない。時々、名前聞かれるけど

「ジョニー・マクレーです。」

そう言ったらそれ以上質問されなかった。海パン一丁の武装しているやつを平気でスルーするって、この組織、変人奇人が沢山いるのか?あとマクレーのおっさん、有名人になるよ。やったね!!

 

 潜水艦を探索していると、ある一室から声が聞こえてきた。あそこか?

「どうもー新入りでーす。相棒のタコとイカのコスプレした人見ませんでしたか・・・。」

そこには、二本足で立っている獣と銀髪(?)に近い髪をしたメイドさんがいた。なぜかメイドさんは泣いてた。・・・これ、ブラドとリサだよな。

「あぁ?新入りなんて聞いてないぞ?」

「最近入ったんですよ。ジョニー・マクレーって言うんです。お嬢さん、あなたの名前は?」

「え?私はリサ。リサ・アヴェ・デュ・アンクです。」

やっぱりなぁ・・・。どう思った瞬間、殺気!?慌てて避けたら、俺がいたところにはでっかい槍が刺さっていた。

「新入りなんて聞いてねぇ。それにな、俺は本物のジョニー・マクレーを知ってるんだよ。テメェはここで死ねぇ!!!!」

そういってブラドは腕を振るった。って、あのままだとリサに攻撃が当たる!?俺は慌ててリサを抱え避けた。

「リサ!!危ないから隠れろ!!この野郎!!こんなかわいい子泣かせやがって!!まるで勇者と魔王だな・・・。」

前世は中高ともに男子校なんでね、かわいい子を泣かすのはすごく頭にくる。それにこのシチュエーション、まるで攫われたお姫様を助けに来た勇者だな。・・・勇者が海パンだけなのが笑えるが・・・。まぁいい、騒ぎを起こすのは厄介だ。あと、こいつ殺しても問題は起きないんだっけ?ならこの技で仕留める!俺はその場にルーンとヒエログリフを刻んだ。

「‘‘反魂蝶’’!!!」

その場から大量の光る蝶が出てきてブラドを襲った。こいつは魔術の時間にニトから教えてもらった物だ。本当は苦しんだ顔をした人魂もどきが出てきて、敵を即死させる、という魔術だった。でも、さすがにそんな人魂もどきを使いたくないじゃん・・・。祟られそうだしさ・・・。そこで師匠がその人魂を蝶の姿にするMOD・・・間違えた、ルーンを作ってくれ、さらに師匠はその術自体も簡略化してくれた。ほんと師匠様様です。

 しかし、効いてるようだがブラドは死なない・・・。FGO風に言うと、即死は入ってるんだけど、連続してガッツで耐えてるから一向に死なないって感じ。そういえば、リサが俺を驚いた顔をして見てるんだが・・・。

「ゲバババババ!!俺は魔臓がある限り不死身だァ!!!」

そうか、魔臓の場所なんて忘れちまったしな・・・。原作読んだのももう10年以上前だし・・・。ショウガナイ、師匠直伝「不死殺し」をやるか!!俺は持っていたナイフに力を入れた。

 

 よかった。ブラドの肉体は哺乳類に近い。これなら何とかなりそうだ。

「テメェの首はいらねぇ!!べらんめぇ!!命置いてけよ!!命置いてけよ!!なぁ!?なぁ!?」

「わ・・・悪か・・・ヤメテ・・・」

そう!師匠直伝「不死殺し」とは、「相手の精神が死ぬまで痛めつける」です。肉体は不死身でも、精神は不死身じゃないやつが多いからな。

「なんだ、まだしゃべれるのか。足りねぇようだな!!」

・・・なんか、客観的に見ると俺のほうが悪者だな。って、そういえば俺は鬼塚中尉と辻さんを追いかけに来たんだった!!急がないと!!俺は治癒を抑えるルーンと体内時間を遅くするヒエログリフをブラドに刻んだ。そして

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

とどめにナイフを頭に刺し、リサのほうを向いた。なんかこの子、すごく目を輝かせてるんだけど・・・。

「リサさん、タコとイカのコスプレした男二人組知らない?」

「リサとお呼びください。勇者様。」

・・・やっちまった。

「リサ、タコとイカのコスプレした男二人組知らないか?」

「はい、教授の部屋のところに行きましたよ。リサが案内します。勇者様。」

そうして、リサは俺の手を取り、案内してくれた。あの、リサさん?俺は勇者じゃないですからね。それに俺の手、血と肉片がついてるから汚れるぞ。

 

 リサが案内してくれた部屋に入った。すると、オールバックの青年と鬼塚中尉と辻さんが戦っていた。というか、押されてるとはいえ、鬼塚中尉と辻さんが素手でシャーロックと互角の勝負してるってマジかよ!?

「君たちは誰なんだい!?僕の推理でもわからないよ!?」

「‘‘通りすがりのタコ’’よ!」

「‘‘偶々いたイカ’’だぁ!!」

・・・まだその設定続けてたんだね。

「「テメェ(貴様)!!どこのもんじゃぁ(だぁ)!!!!」」

「イギリス出身だね」

教授さんよ、律儀に答えなくていいから。

「鬼畜米英だオラァ!!」

「イギリスが我が領海に入り挑発だと!!このイカ!!憤慨だ!!!」

・・・帰る準備するか。

「リサ、この潜水艦から脱出できて、日本まで送ってくれるっていう便利な乗り物とかある?」

確か原作だと、魚雷を改造した乗り物があったような・・・。

「はい、ありますよ。案内しますか?」

「うん、ちょっと待って。」

はぁ、あの二人を止めなきゃ・・・。

「イカさん!!タコ中尉!!撤退するので戦いを辞めてください!!」

「「ふざけるなぁ!!祖国を蹂躙するが如く!!なめ腐った挑発行為を!!見逃せというのか!!」」

・・・聞いてくれないか。ショウガナイ、嘘も方便だしな。

「このままだと敵の思うつぼです!!囲まれてしまいます!戦略的撤退!転進です!!」

「なんだと!逃げるぞ!!ボウズ!!」

「この希信!一生の不覚!!危うく敵の策謀にはまるなんて!!」

そうして、鬼塚中尉と辻さんは俺のほうへ急いで逃げてきた。

「君も僕の推理にない!!君は一体誰なんだ!?」

「ただの‘‘名も無きブイ’’だよ!!べらんめぇ!!リサ!!案内してくれ!!」

「はい!!」

俺たちは走った。

 

 騒ぎを聞いたのか、道中でいろんな人が妨害しようとしていたが、先頭を走る鬼塚中尉と辻さんの手によって難なく障害を突破していた。あの二人、すごいな・・・。

「ってそっちじゃないです!!右です!!」

「早く言え!!ボウズ!!」

あんたらが先頭突っ走るからだろ・・・。

 

 リサは俺たちをたくさんの柱があるところへ案内した。え?これってもしかして・・・。

「これに乗れば日本に帰れますよ、勇者様。」

「う、うん。ありがとう。」

その柱の中にハッチがあって、そこに乗れといった。これICBMを改造した奴だよね・・・。

「勇者様、勇者様の本当の名前はなんていうんですか?」

・・・どうしよう。言わなきゃいけないかな。でも、案内してくれたんだよな・・・。

「村田維吹、イブキって呼んでくれ。」

「はい!!イブキ様!!」

「ボウズ!!早く乗れ!!」

「ブイ少尉!!早く!!」

まだその設定生きてるのかよ!!

「じゃあね、リサ」

「はい!!」

そうしてハッチを閉めた。リサがその時なんか言っていたような気がするが気のせいだろう。

 そして、ICBMはゆっくりと宇宙空間へ飛んで行った。

「イタイイタイ!!鬼塚中尉!!辻さん押さないで!!」

「狭いんだからしょうがねぇだろ。」

「イブキ少尉!!この希信も我慢している!!」

二人乗りであろうものに、ガタイがいい3人が乗り込めば狭っ苦しい・・・。そうして俺たちは宇宙空間へ行った後、駐屯地の演習場へほぼ直角のまま落ちていった。

 あとで聞いた話だが俺が寝ている時、部屋にガスを流し、完全に寝たところを拉致ったらしい。そこまでして領海守ろうとするのかよ・・・。

 

 

 俺たちが宇宙空間にいる頃、第2中隊兵舎の一室で田中さん、岩下さん、メガネさんは一つのPCを見ていた。そこには「三角諸島の真実」という題の動画があった。

「深夜0時ごろアップロードされたみたいですよ。」

その動画には、某国漁船が海保の船に体当たりした様子が映されていた。

「流出とはな・・・中尉はこの動画見たのか?」

そう田中さんが聞いたら、岩下さんが

「さぁ・・・知らないッスけど。」

と答えた。

「こんなもん見たら、相当ブチギレるぜ、あのおっさん。」

「いきり立って、現地に乗り込みそうッスよね。」

「そこまで馬鹿じゃねぇだろ。」

「「っはっはっは」」

田中さんと岩下さんがそう言って笑っていた時、メガネさんは動画にある物を見つけた。そこにはタコのコスプレをした鬼塚中尉、イカのコスプレをした辻少佐、諦めた顔をして水泳帽をかぶるイブキが漁船を追い回していたのだ。

「ちょっと!!これを見てください!!」

流石にメガネさんも驚いた。そしてメガネさんはその写っている部分を田中さんと岩下さんに見せた!!

「タコとイカとブイだろ?」

「タコとイカとブイ、ッスよね?」

「・・・タコと・・・イカと・・・ブイ・・・ですか・・・。」

 

 演習場にICBMが落ち、そこからイブキ、鬼塚中尉、辻中佐が出てきて驚いた数時間後、メガネさんは一人でパソコンをいじっていた。メガネさんは動画のタコとイカとブイに疑問を持ち、その部分を何度も見ていた。そういえば中尉のブログはどうなってるんだろう。急にメガネさんはそう思い、中尉のブログを覗いた。そこには海パン姿の中尉と辻少佐、海で浮かんでいるイブキ、そして大きな潜水艦の写真があった。

「部下と上司で一緒に南の島に行ってきました。

だいぶ日に焼けました★

場所は秘密です(爆)」

メガネさんは考えるのを止めた。

「自由な人だなぁ・・・。」

 

 次の日のニュースでは

「総理は本日記者会見を開き、記者団の前で国内法に基づき、粛々と餃子を食べました。」

「えー、今回輸入に踏み切ったこの餃子は安心して食べてもらって大丈夫です。レアアースより餃子のほうがいいですね、ええ。だってレアアース食えないですしね。」

・・・あぁ、天国のお父様お母様、家にいる家族のみんな、かなめ、今日も日本は平和です・・・。

 

 そして、俺と鬼塚中尉、辻さん、神城さんは中隊長の部屋に呼び出された。

 

 




なぜ二人でとはいえ、シャーロックと互角に戦えたのか。生身で空挺して無事な人に攻撃なんて効かないでしょ。という理由です。あれ?ということはイブキも・・・。

不死?そんなの精神を殺せば終わりでしょ?



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ドンパチからもっと近づいた・・・

小説って難しい


俺と鬼塚中尉、辻さん、神城さんは中隊長室の前で話していた。

「これ、絶対中尉と辻さん、神城さんが起こした奴の話ですよね。俺言いましたよね、ヤバいことになるって。」

「まぁ、確かにあの時テンション上がりまくっててよ。確かにちょっとやり過ぎたかもな・・・。」

「この希信も、さすがにやり過ぎた・・・。」

「まぁまぁ、でも、鬼塚中尉。流石に君のブログで潜水艦の写真をあげるのはどうかと思いますよ。」

あ、神城さん、ブログのこと中尉に言っちゃった。

「あぁ、さすがにヤバいと思ったので速攻消し・・・神城大尉、俺のブログ見ましたか?」

「うん、みんな知ってると思いますよ。」

その瞬間、鬼塚中尉は茹ダコのように赤くなり、その場でジタバタしていた。

「なんで俺のブログ知ってるんだよ!!!!」

「中尉、あのブログ第1小隊の全員知ってますよ。」

「あのブログ、知らない人はいないと、この希信が保証しよう。」

さらに鬼塚中尉は赤くなった。そこで俺がもうひと押し。

「中尉落ち着いてください。第1小隊は全員黙認してますから。」

「ウガァーーーーーーーーーーー!!!」

あぁ、これが愉悦というものか・・・。

 鬼塚中尉が落ち着いたころ、中隊長室から角山中隊長が来た。

「鬼塚中尉は落ち着いたかい?落ち着いたなら早く入ってくれないか?」

その一言で俺たち4人は中隊長室に入った。

 

 角山中隊長は呆れたような顔をして言った。そういえば中隊長が中佐から大佐になっていた。

「「「「中隊長、昇進おめでとうございます」」」」

「あぁ、ありがとう。」

そうして中隊長は机の上で手を組んだ。まるで某使徒と戦うアニメの司令みたいだな。

「君たち、よくもやってくれたね。特に神城大尉、あなた兵部省は普通に入ったけど、総理官邸に本当に殴り込みに行ったそうじゃないか。」

「すいません。だいぶテンションが上がってました。」

神城さん本当に殴り込みに行ったのかよ。流石に辻さんの冗談だと思ってたぞ。

「まぁ、向こうは警備体制が甘いということが分かったから不問にするって言ってたけど。それにほかの部隊も行って結構煽ったそうじゃないか。そのせいで他部隊も不満が爆発寸前。政府もある程度動かないとまずいって認識したみたいだけど。3人もやらかしてくれたね。特に鬼塚君、あの写真はブログに上げちゃまずいよ。」

おい、中隊長まで見てたのかよ。鬼塚中尉また真っ赤になってるし。

「でも、神城君。あの煽りはよくやった。あれは辻君が作ったやつかい?僕も政府の対応には頭に来ていたからね。君たちがもう少し遅くやっていたら自分も一緒に三角諸島に行くところだったよ。」

え?この人も行こうとしてたの!?

「まぁ、でも信賞必罰だからね。君たちには罰を与えなきゃいけないんだけど・・・。村田君以外の3人は1階級昇進と今日から一週間便所掃除ね。」

え?なんで昇進?降格じゃないの?というか俺は例外!?

「なぜここで降格じゃなくて昇進か?って顔だね。本当はロスアラモスの件でみんな一つ昇進だったんだ。そうなると部隊編成とか考え直さなきゃいけないからさせてなかったんだけどね。」

確かに今まで鬼塚中尉が小隊長だったけど大尉になっちゃったら面倒だよな・・・。

「それで今回の三角諸島の件、その罰としてロスアラモスの昇進はなかったことにする。そしてあの潜水艦、実は相当な機密なんだ。君たちがもし今後黙ってくれるのなら、口止め料として1階級昇進という事だ。」

だから1階級昇進なんだ。

「「「了解しました。」」」

三人は納得したようだ。ところで俺は?

「村田少尉は今回無理やりだったんだろう。しかも上司を止めようとしていたそうじゃないか。だから君は2階級特進。」

なんか戦死したみたいだなぁ・・・。

「それに君は飛び級しまくったせいで同期の友人はいないし、同じぐらいの年の友達も少ないだろう?」

いやさすがに友達はいるし!!ボッチじゃないし・・・。

「だから東京武偵高校へ出向を命じる。村田大尉、東京武偵高へ出向し、無事卒業せよ!!」

「ハイ!!」

つい、脊髄反射でハイって言っちゃったけど、東京武偵高へ出向!?

「出向の件は前々からあったんだ。辻君や神城君が心配していてね。三角諸島の件の罰と研修のためって対外的にはなるけど。」

「了解しました。」

平和に生きるために海軍入ったのに・・・。ロスアラモスでドンパチやるわ、上司に連れられて潜水艦でドンパチするわ、挙句の果てに原作であるように常日頃ドンパチやる東京武偵高へ入校か・・・。

「君は1月から1年生として入ってもらう。ちょうど君の友達もいるそうじゃないか、同じ強襲科にしておいたよ。」

「いやいやいや、強襲科って一番危ないところじゃないですか!?」

明日なき学科って言われてるんだぞ!?せめて探偵科のほうが・・・。

「戦闘を学ぶためって名目だから。転科は許さないよ。」

「りょ、了解しました・・・。」

「今日は家に帰り、このことを家族に話すように。」

 

「あぁ、忘れてたけど、君の二つ名。上層部が君の働きに期待して‘‘不死の英雄(ノーライフ・ヒーロー)’’から‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’になったから。あのサイボーグ船坂にあやかっているそうだよ。」

「・・・ハイ。」

この中二病の名前忘れようと思ったのに・・・。

 

 中隊長室から出た後、鬼塚中尉、辻さん、神城さんの喜びようはすごかった。でも皆さん、ドンパチが日常の高校へ行くんですよ?

「ドンパチがなんだ!!いつものことだろう!!」

「いやぁ~めでたい!!この希信!!イブキ大尉の入学祝はどうしよう!!」

「まぁ、ドンパチなんていつも訓練でやっていますよね。大丈夫、ロスアラモスのようなことは起きないはずですよ。」

そうだった・・・。俺いつもドンパチの訓練してるんだった。海軍って何だっけ?

 第一小隊のみんなにもこのことを言ったら、おめでとうと言ってくれた。顔には不憫だな、と書いてあったけどさ・・・。

 

 俺は家に帰りこのことを家族に言った。

「ほう!!イブキが学校に!!余もその学校へ行こう!!」

「主殿!!私もついていきます!!」

「イブキ・・・僕も一緒に行きたいと思うのは・・・おかしいかな・・・。」

「うん、大分荒い学校だけど・・・。行きたいならいいんじゃないかな?まぁエルの場合は戸籍改竄しなきゃならないけど。」

まさか行きたいとは・・・。戦闘能力は大丈夫だと思うけど、逆にやり過ぎないか心配だ・・・。

「ほぉ・・・行くがよい。」

珍しく師匠は何も言わない・・・。何か企んでいるのか?

「そうなると、4人は寮生活ですか。寂しくなりますねぇ。っは!通い妻という手が!!」

「うん、ヤメテ。これ以上面倒なのはヤメテ。」

玉藻は本当にやりそうだから怖い。

「ほぉ!!私が教えている学校に行くとは!!これも何かの縁だな!!」

そういえばエジソンはそこの教師してたのか・・・。

「最近あまり殴り合いができなくてなぁ・・・。俺も行こうかな。」

「さすがに学生はベオウルフの相手は無理だぞ。」

「そうか?行けそうだと思ったんだがよ・・・。」

ベオウルフさん、あなたが行ったらみんな死んでしまいます。

ニトがこっちを見て何か言いたそうな顔をしてる。スルーするか。

「まぁ、そういう事で1月から東京武偵高行くから、よろしくね。」

「私をスルーしないでください!!私は天空の神にして、冥界の神。そして、ファラオなのですよ! ・・・(以下省略)」

「まぁまぁ、で、ニトはどうするの?」

あぁ、やっぱりこの子からかうの楽しい。

「あなたの世話をするのは私の役割。今までは付いていけないというので家にいましたが、今度は付いていきましょう。」

あら、そう思ってくれてたんだ。

「でも、来るんだったらファラオとしてのニトだと難しいよ。普通の女の子ニトじゃないと。」

そうするとニトは固まってしまった。その後、何かぶつぶつと言っていたが、無視することにした。

「とりあえず、一緒に学生として行きたい人は俺に報告して。書類と戸籍改竄するから。」

結果、自分入れて5人分の転入書類と2人分の戸籍改竄が必要になった。

 

「そういえば師匠、ニト、エジソン。英雄王の‘‘王の財宝’’の宝具がないような、いつでもどこでも取り出せる倉庫みたいな魔術ってある?」

「今のところ私はないな、よし!!発明してみせよう!!」

そう言ってエジソンは自分の部屋へ行ってしまった。あぁ、ないならないでよかったんだけど。

「ありますよ。冥界へ行ってもファラオがいつでも物を出せるように、ということで作り出されました。」

「あってもどうする。得物があればどうってことはなかろう。」

あるんですか?俺は今回、名も無きブイとして得物なしで戦ったことを話した。あとダメ押しとしてこの言葉を何度も使った。

「師匠とニトが作ってくれた刀をいつも大切に持っていたいんだ!!」

そのおかげでニト発案、改良師匠の「4次元倉庫」は完成した。ルーンとヒエログリフを俺に刻み、俺はいつでも英雄王のように宝具を出せるようになった。やったね!!(中身は自分で調達)

「毒にやられるとは情けない、イブキ、ちょっとヒュドラを狩って来い。」

「え?師匠?何言ってるのってうわぁああああああああ!!!」

師匠に拉致られ、どっかの山で八岐大蛇みたいなやつと戦わされた。その蛇の血がやけに痛かったけど、気合で乗り切ったのは言うまでもない・・・。

 

「キンジへ

軍の命令で東京武偵高へ転入することになった。お前と同学年だ。よろしくな。あと俺の家族からも何人か行くから。

追伸、キンジの妹で俺の義妹は家を出てやりたいことをやりに行きました。」

「イブキへ

そうか、よろしくな。

追伸、まだその設定やってたのか。こっち来たら病院紹介するぞ。」

やっぱり、信じてくれないなぁ・・・。

 

 俺は転入希望者4人を引き連れ駐屯地へ向かった。4人は武偵高で必須の銃を買うため。俺は「4次元倉庫」を得たのでこの機会に大口径、長射程、連発性の高い銃が欲しかったからだ。ロスアラモス殴り込み作戦、ミサイル落としの時さすがに三八式だと威力不足、射程不足、連発性が不足していると感じたからだ。

 駐屯地へ着くと辻さんが待っていてくれた。あれ?参謀長だよね。暇なの?

「いやぁ、イブキ大尉とご家族が銃を選びに来るというので、この希信、待っていた!!」

「いやぁ、すいません忙しいところに来て。」

「何、最近はゴタゴタがなくて、この希信も暇だからな。どっか煽って騒ぎ起こそうかと・・・。」

おい待て、この危険人物。

「まぁまぁ、軍が暇ってことは平和ってことですし。あと、戸籍改竄の件ありがとうございます。」

変なこと考えさせる前に話し変えないと。

「なぁに、この希信にかかればなんてことない。銃を探してるんだろう、射撃場へこの希信が案内しよう。」

 辻さんと俺達5人は射撃場へ向かった。

「さぁ、この中から選ぶといい。ここにある銃は安値にしよう!!。イブキ大尉から欲しい銃は聞いていたからこの希信が厳選したぞ!!」

そういうと、辻さんは奥へ行き、銃を取りに行ってしまった。事前に行くことと、どのような銃が欲しいということは伝えてあった。とりあえず女性でも使える銃と大口径、長射程、連発性の高い銃を選んで欲しいとは言ったけど、辻さんが選んだのか・・・。

「イブキよ!!余は銃はわからぬ。余のため選ぶがよい!!」

「主殿!!これはどうでしょう。」

「うん・・・わからないね・・・。」

「同盟者よ、選ぶのを手伝ってください。」

うん、みんな待ってて、俺の選んだらすぐやるから。あと牛若、そのパンツァーファウストはしまいなさい。どこから選んできたの!?

 少しして、辻さんが台座付きの銃を持ってきた。え?

「倉庫に眠っていたが、信頼性はこの希信が保証しよう。九六式二十五粍機銃だ!!」

「待ってください、それ200キロくらいありましたよね!?そんなの持てませんよ!?それに在庫処分でしょ絶対!?」

「正確には250キロだ。この希信に言ったじゃないか。重さは問わない、大口径、長射程、連発性の高い銃、さらに信頼性もあるといい。まさにこれのことじゃないか!!」

倉庫に眠っているって言ってたし、それに重さは問わないって言ったけど、そこまで重いのはふつう考えないぞ!?

「いやいや、そんな重いの持てませんって!!」

「大丈夫、気合で持てる。この希信が保証しよう!!」

悲しいかな、魔力を筋肉に振ったら軽々持てた(泣)

 そして、自分の銃はあっさり決まり、4人の銃の選択に移った。牛若とネロ、エルは直感で選んだものを自分のにしたようだ。牛若はモーゼル・ミリタリー 9mm、エルはS&W M500を選んだ。ネロはさんざん迷った結果、二十六年式拳銃にした。待って、三人とも個性ありすぎない!?それに結構古い銃ばっか置いてあるけど、もしかして在庫整理も兼ねてやってるの!?だから伝えた時だいぶ安値にするって言ってたのか。まぁ、古いけど、丁寧に整備されているのは一目でわかる。それに英霊だし、拳銃なんてそんな使わないだろう。いいや。

「ニトはどうしようか。」

「これとかどうでしょう?」

そうしてニトはルガーP08を出した。懐かしいなぁ。

「自分がいいって思った物を持つのでいいと思うよ。どうせほとんど使わないだろうしね。」

みんなの銃は決まった。

 

1月、俺たちは東京武偵高へ転入した。

 




この時代のヒュドラは伝説のヒュドラより毒素はだいぶ退化しています。

緋弾のアリアで機関銃や対物狙撃銃がOKなら対空機関銃もきっと行けるはず!最悪辻さんがゴリ押す!!そう思っての選択です。

サーヴァントの銃?自分の好みからチョイス。文句はありますか?

3月18,19,20日は祖母の家に行くことになったので更新は難しいです。プロットは考えておきます。


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辻さんの使い過ぎもよくない・・・

やっと家に帰ってこれた。


俺達5人は東京武偵高に来た。とうとう来てしまったんだな。おかしいな、平穏に生きるため海軍に入り、軍艦の中でボタンを押す仕事になりたかったのに・・・。

 東京武偵高で手続きをし、俺達は荷物を整理するため、それぞれ充てられた寮の部屋へ行った。(なお、サーヴァント4人はみんな同じ部屋だそうだ)

「どうも~、転入する村田維吹です。って何だキンジか。」

「転入生がここに住むって聞いてたからまさかとは思ったけど、イブキとはな。」

まぁ、確かこいつは原作では一人ででかい部屋に住んでたんだっけ。それなら充てられても不思議じゃないな。

「キンジ、お前強襲科なんだって?俺もなんだ。先輩よろで~す。」

「まぁ、多少のことは教えてやるけどさ。イブキのほうが実力上だろ?俺が引き取られた後、空港でテロリストとやりあったってニュースで聞いたぞ、‘‘不死の英雄(ノーライフ・ヒーロー)’’だっけ?」

この野郎、からかってやがる。

「実は軍の意向で変更になってね。‘‘不死の英雄(ノーライフ・ヒーロー)’’から‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’になったんだ。あとからかってるだろう。」

「悪かったって。あと妹の件、頭は大丈夫か?」

やっぱり信用できないよなぁ・・・。

「軍の秘密作戦で保護されてな。まぁ、DNAでキンジの父さんが親ってことがわかったから、キンジの妹なんだ。ついでに俺が引き取ったから俺の義妹でもある。」

「そうなのか、複雑な関係だなぁ・・・。父さん、不倫してたのか・・・。」

あ、そう思っちゃうよな。

「軍機だから出生のことは言えないけど、少なくともキンジの父さんが不倫してできたってわけじゃないから安心しろ。あとキンジの弟もいるから。」

そう言ったらキンジはorzの体勢になってしまった。急に家族が増えたんだ、気持ちはわかる。

 

 そして次の日、久しぶりに白雪に会った。そこにエルと牛若、ネロ、ニトが来て一悶着があったが気にしない。その後、俺たち5人は武偵ランクを計るために東京武偵高に来ていた。俺とネロ、牛若は強襲科、エルとニトはSSRに行った。エルは強襲科に行きたかったみたいだが、さすがに戦い方がなぁ・・・。自由履修ができるなどと言い、何とか説得した。

 強襲科に行った俺たちは部屋に案内された。そこから一人づつ呼ばれ教官と戦い、簡単なランク付けをするそうだ。何でも、どうせ近々来年のためのランク付けの試験があるし、仮でいいだろって思ったからだそうだ。

「村田~。お前の番だ。」

「ハイ。」

生徒であろう人に呼ばれ、俺は試験が行われるであろうとこまで誘導された。って強襲科の円形闘技場みたいなとこでやるのか、なんか多くの生徒が見てるし。そして闘技場の中には私服の師匠がいた。why?

「あの、師匠?なんでここにいるんですか?」

「ここで非常勤であるが教師をしている。セタンタほどではないがここには勇者が沢山いるから教えがいがあっていい。さぁ、お主の実力を計るとするか。イブキ、私を殺せるか?」

道場のバイトに加えて教師もやってたのか。だから俺が東京武偵高に行くって言った時何も言わなかったのか。今理解した。

「師匠が相手とか、きつすぎでしょ。はぁ・・・やるしかないんですよね・・・。」

「当り前だ。力を見せるがよい、勇士よ。出来なければお前の命を貰うまで。」

チクショウめ!!

「てやんでぇ!!その命!もらって見せラァ!!」

 

 もちろん、負けましたよ、えぇ。闘技場が壊れるから宝具なしの技術勝負だったけど。というかやっぱり師匠は異常だ。25ミリ機銃撃っても槍で弾を弾く、銃は効かないからって「影を薄くする技」を使って近づいても普通に対応してくる、懐に入っても槍で普通に対応するってどういうことだよ?距離1メートルもないところから拳銃撃っても対応するとか化け物過ぎる。

 ネロと牛若も師匠と対決したらしい。二人も負けたそうだ。宝具さえ使えれば・・・って言ってたけど使ったらこの学園島、最悪沈むぞ。

 俺とネロ、牛若はAランク(仮)だそうだ。正式じゃないから、殺そうとしていたから、という理由でSではないらしい。どう考えても師匠と対決するなら殺す気でやらないときついし、師匠は死なないだろうという考えでやったのがまずかったかな。ニトとエルはSSRでのランクはS相当のA(仮)だそうだ。こっちは正式じゃないからという理由でAらしい。納得の結果だ。

 

 俺達5人は1週間ほどでずいぶんとなじんだ。キンジが友達の武藤や不知火を紹介してくれたり、4人に慕われてるからって強襲科で戦いを挑まれたり、エルが強襲科に居座るようになったり、挙句の果てに4人のファンクラブができたらしい。まぁ、ドンパチが多いが、この世界ではほとんどできなかった学生生活を謳歌していた。その時、あるニュースが飛び込んできた。キンイチさんが死んだという話だ。ただでさえキンジは家族親戚は少ないのにキンイチさんが死んだというのはショックのようだ。さらに、キンイチさんが乗っていた船の船会社は責任をすべてキンイチさんに押し付けようとしていた。これにマスコミが便乗、連日寮の部屋の玄関までカメラが回る。さすがに俺はこのことにブチギレた。

「キンジ、キンイチさんは武偵だろ?任務のために死んだことになっているだけだと思うぞ。キンイチさんの実力はキンジが良く知ってるはずだ。」

「そうかな・・・。」

「船会社とマスコミは俺が何とかする。キンジお前は部屋で休んでろ。」

「あぁ・・・。」

キンジは大分ショックを受けているのだろう、ふらふらとベットへ向かった。さて、マスコミ対策をするか。俺一人では何もできないが、マクレーのおっさん曰く「こういう時は、友人に頼むのがいいんだ」。早速俺は携帯を手に取った。

「もしもし?」

「おぉ!!イブキ大尉!!元気に学生を楽しんでいるか!?この希信は心配で。」

「あぁ大丈夫、楽しんでますよ。ところで辻さん、今暇?」

「毎日訓練だけで。希信は暇で暇で・・・。」

よし、暇だな。

「辻さん、その暇を解消させる出来事を持ってきたんですよ。」

「なんだと!?イブキ大尉!!この希信に早く!!」

よし!!食らいついた。

「最近ニュースで船が沈んで、そこにいた武偵が批判されていますよね?その武偵の弟が俺の友達で、しかもルームメイトなんですよ。その友人がこれの件で大分落ち込んじゃいまして。」

「なるほど、あのニュースは船会社の責任逃れのために色々と言ってるのはすぐに分かった。それにマスコミも便乗するとはおかしいはずだし、この希信もおかしいと思っていたが・・・。もしや・・・。」

「はい、辻さんに船会社にちゃんと責任を取らせるようにしたいなと。あと、俺たちの部屋にまでマスコミは来るし、マスコミの報道もだいぶ偏っています。ちょっとマスコミも自重ってのを覚えてもらいたいと思いまして。報道しない権利とか言って、偏向報道するのは国民の知る権利を阻害する。それにマスコミによって国防の危機になったこともありましたし。」

「この希信!!全力で協力しましょう!!なに、脛に傷がないやつはいない!!火のないところに煙は立たないが、人間は有史以来どこにでも火をつけられる!!この希信に任せなさい!!イブキ大尉は・・・。」

辻さんもやる気だな。そして辻さんは俺が何をすればいいかという作戦を伝えた。

「・・・わかりました。道具と人は送ってくれませんか?」

「明日の午前には着くだろう。作戦は早い方が良い、明日の午後には決行するように。希信は兵部省へ行き、陸軍省の永田鉄海中将、大本営の東条英雄少将にこのことを話す。すぐに決行されるはずだ。では。」

「よろしくお願いします。」

 

 次の日はちょうど休みだった。これは好都合だ。10時ぐらいに道具と憲兵さんがやってきて、キンジも加えこの作戦を話した。キンジは最初乗り気ではなかったが、俺が

「流石にマスコミに追われるのは嫌だろ?」

この一言で参加を決意したようだ。

 午後、俺たちはわざと玄関を半開きにした。そうしたらマスコミは来るわ来るわ、土足で上がり込むやつもいるし・・・。掃除が大変だな・・・。そしてマスコミは軍機と書かれてある紙を持つ俺、キンジ、憲兵を見つけた。

「シージャックについて・・・。」

「午後一時十二分、住居侵入罪および軍機保護法違反の現行犯によりお前らを逮捕する!!!」

そこから憲兵さん達はその場にいたマスコミを全員逮捕。留置所に連行された。また、船会社の幹部とマスコミが繋がっていたことが発覚。違うところからマスコミが軍・武偵を貶めようとしていた、という証言が出てきた。マスコミはこのことを少ししか報道しなかったが、SNSでは大炎上。これらのおかげでマスコミ各社と船会社の上層部は全員が辞職したようだ。やっと俺らはマスコミに追われることがなくなった。

「なぁ、これってイブキの仕業か?」

「俺じゃないけど、上司がやったんだ。後悔はしてないが反省はしてる。」

 後日、

「もしもし辻さん?そういえばあの件ってどこまで本当なんですか?」

「まぁ、証拠の大半は希信の作った捏造だが、ほとんど事実だ。だいぶ希信が大きくしたがね。あとはSNSで炎上させれば終わりだ。‘‘9割の凡人を扇動すれば、1割の知識人は動かざるを得ない’’このことは覚えておくといい。今はこの事件の処理で希信は忙しい。この件を持ってきてくれて希信は感謝する!!では。」

うん、無関係の方達、どうもすいませんでした。

 

 そして、俺達5人は武偵高校の授業を受けたり、依頼を受けたりした。意外に充実した生活に満足した。キンジは転科願いを出し、来年は探偵科になるそうだ。やっぱりあの事件を引きづっているようだな。

 学年末にテストを受け、俺達5人は全員Sランクを取った。あんな訓練していたんだ、取れて当然だと思うだろ?実は不殺がだいぶ難しかったんだ。テストの時に教師が試験場に潜んでいるのだが、俺の試験の時に潜んでいたのが師匠だった。流石に殺す気でいかないときつい。おかげでSランクギリギリだったそうだ。おい、師匠・・・。

 

そして時は過ぎ4月、とうとう原作が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




軍機と書かれた紙には廃案になった昔の作戦が書かれてあって、仮にばれても痛いところはないという設定。

実は辻さん、これでも自重したほう。流石に部下に迷惑はあまりかけられないと思い、自重した・・・っていう設定。自重しなかったらどうなるんだろう・・・。

閑話を入れてから原作を開始します。



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閑話:新人軍人編

閑話編です。


1:コスプレ

 俺達HS部隊第2中隊第1小隊は「七生報国」を胸に、今日も訓練に明け暮れていた。そんな部下たちを見守るのが「自走式暴力装置」こと鬼塚鬼次中尉。その暴君ぶりからみんなに恐れらている中尉だが、秘密のブログ「あおぞら特殊部隊 ~部下と過ごす楽しい日々~」を開設し、部下との思い出をマメに綴るなど見かけによらず部下思いの一面もある。そんな中尉だからこそ、部下たちに関する悩みは人一倍深いようだ。

「厳しい戦いになるな・・・。」

「ハイ?」

そう言って鬼塚中尉は去っていった。部下の命を預かる上官としての責任と重圧、それがどれほど重い物なのか、俺もいつか知るときが来るんだろう。

 ちょうど辻さんが通りかかったので、

「辻さん、鬼塚中尉が独り言で‘‘厳しい戦いになる’’って言ってたんですけど・・・。」

「少なくても、この希信が知っている限りないと・・・あぁ、もしかして・・・。」

「知ってるんですか?」

「いや、何でもない。まだ希信の憶測を出ないからな。」

なんか嫌な予感するなぁ・・・。

 

 俺は兵舎近くで食料弾薬の運搬をしていた。すると兵舎から鬼塚中尉が出てきた。

「ボウズ!!」

「はい、なんでしょう?」

「ちょっといいか?」

鬼塚中尉はまじめな顔をし、

「岩下、呼んで来い。」

なにか重要な事でもあるのか?

 俺は岩下さんを呼び出しに行った。岩下さんは銃の整備をしていたが、それをすぐ片付け、中尉の部屋へ俺と一緒に向かった。途中で田中さんとメガネさんも加わった。

「なんで俺だけ呼び出されるんッスよ・・・。中尉、イブキに何か言ってたッスか?」

「いえ、俺は呼んで来いとしか聞かれてないです。でも、やけにまじめな顔で言ってましたね。それに最近悩んでいるようだったので、岩下さんに伝えたいことでもあるんですかねぇ?」

「まーた、一緒に遊園地とか笑えないッスよ・・・。」

そう言って岩下さんはため息をついた。

「岩下、入ります。」

そう言って岩下さんは鬼塚中尉の部屋へ入って行った。もちろん俺、田中さん、メガネさんは聞き耳を立てる。

「そこ座れ。」

「な、なんスか、改めて話って・・・。」

「俺なりに考えた結果だ。恨んでくれるなよ・・・。お前は次の作戦の選抜メンバーだ。」

「え?選抜メンバー?またまた!なんスか、選抜メンバーって!こないだみたいに平日の徹マンとかは厳しいんで勘弁してほしいッスよ・・・。へへへ・・・。」

そして、しばらくたった後、鬼塚中尉は言った。

「残念だが、今回は遊びじゃねぇ・・・。作戦は市街で行われる。ハチの巣つついたような戦場よ!!俺に・・・命預けるか?」

「・・・余裕ッス!!」

「よし・・・今から言うことを頭に叩き込め!!!」

「ハイ!!」

「一つ目!!お前の語尾は‘‘ヤンス’’!!」

「はぁ?」

「お前のキャラ設定はこうだ!‘‘かつては盗賊を生業とする子悪党!!現在はその俊敏さを生かし、主人公と行動を共に!」

「何言ってるんスか?」

「語尾に‘‘ヤンス’’をつけろといっただろうが!!あの戦場に飛び込んだら生半可じゃ勝てねぇんだ!!口を開く際には語尾に‘‘ヤンス’’をつけ、努めてすばしっこく行動しキャラへの理解を深めるように!!以上だ!!」

それを盗み聞きしていた俺たち三人は逃げだした。俺たちまで被害が来る前に逃げなくては!!

 だが、岩下さんは絶対に道連れにしてやるという執念か

「オヤビンがお呼びでヤンスよ。」

そう言って田中さんを引きずっていった。田中さんあなたのことは忘れないよ。

「俺もかよ~~~!!!」

 そして、メガネさんも岩下さんと田中さんに

「オヤビンがお呼びでヤンスよ。」

「呼んでるでゴワス。」

「なんで俺もなんですか~~!!」

メガネさん犠牲は忘れない!!

 その後、三人の執念はすごく、「影を薄くする技」を使っても連行された。マジかよ・・・。

「オヤビンがお呼びでヤンスよ。」

「呼んでるでゴワス。」

「呼んでるニョ。」

「俺もか~~!!あとメガネさんが女装とか俺はどうなるんだぁ~~!!」

 連行され、鬼塚中尉の前に出された。

「お前は主人公を助ける妖精!!語尾は‘‘ピポ’’だ!!」

「不幸だピポ~~!!」

 

 東京ビックサイトにおいて、辻さん、神城さん、それになぜか角山中隊長三人で大きなドラゴンの被り物で暴れていた。(獅子舞のようにやって大きなドラゴンを再現)そこにヌンチャクの先に鎌をつけ飛行帽をかぶった岩下さん、毛皮を着てハンマーを持つ田中さん、ツインテールで女装するメガネさん、羽の生えた服を着る俺が来た。

「おいでやすったでヤンスね。」

「オイドンに任せるでゴワス。」

「あの子泣いてるニョ。」

「ピポー!あのモンスターに僕らの村は滅ぼされたピポ!!主人公キャラじゃないと倒せないピポ!!」

そして、ビックサイト上空を飛んでいるC-1から大きな剣を担いだ鬼塚中尉が飛び降りてきた。(もちろんパラシュート無し)

「呼んだかーー!!」

そしてきれいに着地、見ている人たちからフラッシュの雨が・・・。

「超撮られてるッスよ・・・。」

「中尉にとっちゃ、最高のブログネタだな。」

「あの、ハマりそうなの、俺だけですか?」

「メガネさん、きっと疲れてるんですよ。きっと・・・。」

中尉はドラゴンに向けて剣を振り、

「9999、9999、9999、俺強ぇえええええええええ!!!」

 

 悩みぬいた鬼塚中尉の配役がうまかったのか、エフナルエフタジーのコスプレショーで多くのギャラリーを魅了することに成功した。

 

「〇〇テレビの者ですが・・・。」

マジかよ・・・。

 

 

2:かなめ

「とりあえず俺の義妹になったからよろしく。」

「イブキにぃの義妹の村田かなめです!!よろしく!!」

俺の家族を追い出そうとしたりしたら、縁斬るぞって脅したから何とか大丈夫そうかな。

「まさかの妹キャラ!!もっと押さないと良妻の位置が危ういか!?」

意外に玉藻は敵愾心全開あれぇ?

「イブキ・・・新しい女かい?なぜか、こう、むかむかするっていうのかな?」

エルさん、瞳孔開いて僕を見ないでください。

「主殿の義妹ですか!!よろしくお願いします!!」

あぁ、牛若が暴走しないでよかった。

「余はネロ・クラウディウス!!かなめとやらも美しいな!!イブキよ!よくぞ連れてきた!!」

ネロさん、あなた手出しちゃだめだよ。

「そうですか、私はニトクリス。イブキの同盟者であり、ファラオです。」

「彼女は信じられないがファラオだ!私はトーマス・アルバ・エジソンである!」

「スカサハだ。」

「ベオウルフ。じゃあ、殴りに行こうぜ!!って引くなよ・・・。」

・・・まぁ、最初の印象はよかったのかな?

「イブキにぃ、顔がライオンの人がいるんだけど・・・。」

「大丈夫、顔がライオンでもすごく優秀な人だから。」

かなめはだいぶ驚いてた。

 

 数日後、かなめはみんなと仲良くなった。特に玉藻にはだいぶ懐いたようだ。よく玉藻と一緒に家事をしたりしている。玉藻曰く

「娘のような、妹のような子と思ってますねぇ。」

でも玉藻さん、かなめに一夫多妻去勢拳を教えるのやめてください。怖いです。

 

 

3:島流し

 私は山口多聞丸少将。第5艦隊参謀長で司令長官代理だ。第5艦隊は日本の北方を守る艦隊だ。

「中央から荷物が届きました。」

そう言って従卒の兵と数人で人間が一人は入るくらいの箱を持ってきた。

「何でも兵部省直轄部隊から来たようです。」

となるとHS部隊か?なぜそんなところから。

「開けてくれないか?」

「は!!」

そうして箱を開けると、軍服を着た少年が気絶していた。これは村田少尉か。彼は士官候補生の時に会っていたな。幼年学校から一気に海軍兵学校の実地訓練まで行ったのは初めてだそうなので驚いた覚えがある。おや?彼の上に手紙がある。

「北方部隊での研修をお願いします。

 HS部隊第2中隊長 角山中佐  

 HS部隊第2中隊第1小隊長 鬼塚中尉」

・・・なるほど。たぶん「自走式暴力装置」による結果か。ここまで噂が広まっているんだ。本当のことなのだろう。お?少年が起きたようだ。

「え?はい?って山口少将!!」

「落ち着きなさい。ここは第5艦隊だ。」

そうして彼にどうしてここにいるかということを伝えた。とりあえず私の近くで研修してもらおう。士官候補生の時もだいぶ面白かったし。

 

 村田少尉が来て数日後、所属不明の漁船群が我々の艦に向かって攻撃してきたそうだ。幸い弾は当たらなかったそうだ。

「攻撃しろ!!すべて沈めろ!!」

私は頭にきた。我が艦隊を攻撃だと!?すべて沈めてしまえ!!

「ちょっと待ってください少将!!」

そこに村田少尉が手をあげ発言を求めた。

「少尉風情が意見具申か!!」

「大人にもなってない者が意見するか!!」

参謀たちが村田少尉を避難した。その光景を見て、私は少し落ち着いた。

「まぁまぁ、彼は入ったばっかりだ。柔軟な意見が聞けるかもしれない。」

そう言って私は村田少尉の意見を聞こうとした。士官候補生の時もだいぶ面白かったな。

「は!!私の意見としましては一部漁船を沈め、残りの漁船を逃がしてしまおうと思います!!」

「「「なんだと!!」」」

参謀たちは憤慨しているな。

「まだあります。その漁船を偵察機やレーダーで追い、どこ国に所属しているかを知り、そのことを中央に流します。そこから国を非難させようと思います!!」

「もし、中央が何もしなかったらどうする?」

「漁船が我々の艦を攻撃した映像は残っているはずです。その映像を流出させましょう。我が艦隊は架空の人物がその情報を流したとすればいいと思います。」

「面白い、その案を修正し実行してみよう。」

この少尉は面白い。何とか私の下におけないものか?

 

 

4:師匠再び

 イブキが東京武偵高へ転入すると聞いて驚いた。最近、私は道場のバイト以外にそこの高校の非常勤ではあるが教師をやっていたからだ。エジソンがそこで働いており、彼からの推薦で入った。そこの生徒はセタンタやイブキほどではないが骨のあるやつが多い。道場より教えがいがあっていい。そこにイブキが転入か・・・。また私がイブキを修行させることができる!!私はうれしかった。

 転入生は仮のランク付けをするため、教師と戦闘するらしい。そこで私が名乗り出た。イブキが軍でどのくらいになったのか知りたかったからだ。文句を言ったやつには槍を投げ、全員一致で私が担当することになった。

 私は驚いた。イブキの銃はもう少しというところがあるが、あの「影の薄くなる技」で私は一瞬イブキがどこにいるかわからなくなった。また、懐の中にまで入ることができるようになっていた。もっと成長し、私を殺せるようになってほしい。

 最近、ベオウルフもこの学校で非常勤で働いているらしい。殴り合いはいいが、全員イブキと同じようにはいかない。そのことを頭に入れろ。入って一週間で何人病院送りにしたんだ?まったく・・・。

 

 

5:勇者

リサはボストーク号にいた時、勇者様に出会いました。まさにシャーロック卿が言った通り、「東からくる。ちょっと目つきが悪くて、しゃべり方はぶっきらぼうで女たらし」「渡り蝶を空に見るとき。」東とは極東から、目つきはブラド様を解体してる時はとても悪かったです。しゃべり方はぶっきらぼうというより乱暴のほうが合ってるような気がしますね。女たらしかどうかはわかりませんがそうなのでしょう。渡り蝶とは、この世とあの世を渡る蝶という事だったんですね。流石シャーロック卿です。

「なので、リサはここを降ります。シャーロック卿、長い間お世話になりました。」

「うん、ちょっと待とうか。そんなこと僕の推理にないよ。」

「冗談がきついですよ。では。」

そうして私は一礼し、ここを降りた。

「イブキ様は軍人ですが今は東京武偵高校に通っているそうですね。きっとリサのご主人様になってくれるはずです!!」

早く会いたくてしょうがないです。

 

ボストーク号にて

「うん、あのタコ、イカ、ブイの襲撃は僕の条理予知にはない。それに彼女のことも予想外だ。推理が鈍った?いや違う・・・。僕の知らないイレギュラーがいるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




師匠にベオウルフも学校関係者に・・・。他のキャラが魔改造されそう・・・。生徒の間では、師匠は「話は通じるけど、訓練がおかしい人」、ベオウルフは「話が通じるイイ兄貴だけど、脳筋」

シャーロックでも辻さんと鬼塚の行動は予想外。さらにその二人に神城とイブキの丈夫さはさらに予想外。このせいで推理に大きな穴が開いています。

次回から原作開始!!


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高校生活一学期編
せめて人に当てないで・・・


原作開始!!


空から女の子が降ってくると思うか?

確かに映画やアニメ、漫画なら物語が始まる良いきっかけになるだろう。だけどリアルだとどうだろう。女の子が空から降ってくるなど絶対面倒なことの前触れだ。空から女の子が降るなんて、自殺志願者か、鬼塚大尉の手の者か、自分の妄想以外はありえないからだ。だから俺は空から女の子が降ってほしくない。

 

 俺の住んでいる寮の部屋には、俺とキンジが住んでいる。朝と夕方はそこに白雪に、サーヴァントの4人が来て、みんなで朝食・夕食をとることになっている。キンジは料理ができないし、ネロは残念な腕前、牛若はなぜか毎回兜焼き、エルはサラダとフルーツだけ、ニトは豆のスープとパンを作ってくれるけど苦手な様子。そこで、うまいけど見た目が雑、時々ゲテモノあり(ゲテモノじゃないと思うんだけど・・・)な料理を作る俺が飯を作ることになってしまった。でも毎日俺が6人分の朝夕を作るのは面倒・・・間違えた、大変なので白雪を説得し(キンジと一緒に自分の作ったあったかい飯食いたいだろと言ったらすぐだった。)7人で一緒に食べることになった。

「イブキ君もうすぐできるからキンちゃん呼んできて。」

「了解。いつもすまんねぇ・・・。」

「ううん、好きでやってることだから。」

白雪さんや、答え方が違うぞ。そう思いながら俺はキンジのベットへ向かった。

「起きろ~キンジ~。」

「・・・・・・。」

こいつ・・・俺や白雪が朝食の準備している間、のんきに寝やがって。そして俺はサイレンのボタンを押した。

ウ~~~~!!!ウ~~~~~!!

「うわぁ!!!」

「キンジ、おはよ~。」

「イブキ!!朝からサイレンつけるな!!」

「え?だってキンジが起きるの一番遅いし。それに俺が朝飯作ってるときものんきに寝てたのかって思うと、つい。」

「ついじゃねぇ!!」

「ほら早く着替えて飯食うぞ。みんな待ってんだ。」

「わかったよ。」

 俺とキンジはダイニングへ向かった。

「遅いぞ!!余は待ちくたびれた!!」

「主殿!!準備は終わりました。」

「さぁ、食べようか。」

「相変わらず、キンジは遅いですね。」

「キンちゃん、おはよう。御飯できてるよ。」

すでに5人は席についてるようだ。

「あぁ、おはよう。」

「待たせてごめん。」

そして俺達も席に着き

「「「「「「「いただきます。」」」」」」」

みんなで食べる飯はうまいな。

 

 俺とキンジは別々に登校してる。なるべく白雪にキンジと二人の時間を増やしてあげたいからだ。なので俺たちはキンジ達より少し早く出て、車で学校へ行っている。その時、使用する車が第2中隊のみんなからもらった「高機動車」だ。廃車予定のやつもらってきて、整備してくれたらしい。また、在庫処分か・・・。いや、くれるのはうれしいんだけどさ・・・。

 今日、始業式があるのだが、キンジは始業式をさぼったようだ。そうか・・・もしかして原作が始まるのか。アリアがここに来ていたのはわかっていた。3月ぐらいには会って話もしたし。メヌエットからもメールが来てたしな。

「お姉さまが日本へ行って相棒を探しに行きました。お姉さまが迷惑をかけますのでどうかご容赦してくださいね、お兄さん。」

「メヌエットも来ればよかったのに、残念。」

本当に来ればよかったのに。

 キンジが教室へ来た。

「キンジ、どうした?まるで空から女の子が降ってきて、そのせいで覚醒。白馬の王子モードで敵を倒し、そのことについて後悔しているようだぜ?」

「イブキ、見てたのかよ。」

「いや、そんな感じがしただけだぞ。」

当たりってところか。

 

 「私、あいつの隣に座りたい。」

アリアが転校生としてみんなに紹介された後、こんな発言をした。

「よかったなキンジ!!何だか知らんがおまえにも春が来たみたいだぞ!!先生!!俺席変わりますよ!!」

武藤、お前アリアとキンジがくっついたら白雪がフリーになるとでも思ってるのか?その後、アリアがキンジにベルトを返し、見ていた理子が

「理子わかっちゃった!これフラグバキバキに立ってるよ!!キー君ベルトしてない。そしてそのベルトをツインテールさんが持ってた!これ謎でしょ!?でも理子には推理できちゃった!!」

お?ここは俺も乗ろうかな。

「ほう、理子ームズ探偵にはどういう推理ができたのかな?」

「イブソン君、これは簡単な推理だよ。キー君は彼女とベルトをとる必要がある何らかの行為をした。そしてキー君はベルトを忘れていった。」

「理子ームズ、じらさないでくれ。」

「しょうがないなぁ、イブソン君。つまり答えは・・・二人は熱い恋愛の真っ最中なんだよ!!」

「な、なんだってーー!!」

完全な間違いです。そして、みんなが盛り上がった瞬間

ダァンダァンダァン

「恋愛なんてくだらない!!」

教室の後ろに二発の穴が空いていた。あと一発?俺の胴体に一発だよ。抜けなくてよかった。

ジャララララララ、チャキ

エルが鎖でアリアを拘束、牛若が刀を抜きアリアの首に添えた。

「主殿に攻撃するとは・・・。」

「ふふふ・・・フフフフフフフ・・・イブキに攻撃するのか・・・。」

「な、なによ!!」

ヤバい!牛若とエルが暴走した。

「エル、俺は大丈夫だから。流れ弾当たっただけだから。鎖戻して、瞳孔も戻して!!牛若も、ほら頭を撫でてあげるから。」

「本当ですか!!」

「僕には何かないのかい?」

「エルも撫でてあげるから!!」

何とか治まったようだ・・・。

 

 放課後、俺とキンジは寮の部屋にいた。

「俺、アリアと知り合いでなぁ。空港でテロと会った事件の時に初めて会ってな。」

「へぇ~、というとだいぶ昔だな。」

「そうだなぁ、その時はキレイな金髪のちっこい元気な子だったのに、今は髪をピンクに染めて・・・銃をボカスカ撃つようになっちゃって・・・。反抗期なのかね?」

「どうなんだろ?」

などと話をしていたら

ピンポーン、ピンポーン

「キンジお前が出ろよ。」

「いやいや、イブキが出ろよ。」

「「ジャーんけーんぽん」」

 

 ピンポーンピンポーンピピピピピピンポーン

「ハイハイ、今出ますよ~っと。」

負けたので俺が出る羽目になった。

「なんだ、アリアか。」

「遅い!!あたしがチャイムを押したら5秒以内に出ること!!イブキもこの部屋なのね!手間が省けてよかった。」

落ち着け・・・ブッダフェイスも三度までだ。まだ一度だ。

 そしてアリアは玄関で靴を脱ぎ散らかし、泥がついているトランクを持ってリビングに行ってしまった。(二度目)

「ねぇ、トイレどこ?」

「あぁ、あっちだ。」

アリアはトイレに行ってしまった。落ち着け・・・。俺は仏、俺は仏・・・。

 アリアはトイレから出た後、ソファーにドカッと座り

「コーヒー!エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!!砂糖はカンナ!!一分以内!!」

仏様、三度目いったのでいいですよね。

「アリア・・・正座せい・・・。」

この雰囲気で何か感じたのか、キンジは自分の部屋に避難していった。

「何よ!!」

「てやんでぇ!!!正座せよと言っているのだァ!!わからんのかぁ!!べらんめぇ!!!」

「は、ハイ!!」

アリアが床に正座した。

「貴様ぁ親しき中にも礼儀ありという言葉を知らんのかぁ!!汚れているトランクを部屋にまで引きずり、誰が掃除すると思っているのだぁ!!!べらんめぇ!!!挙句の果てに、コーヒーを要求するだとぉ!!!なめてるのかぁ!!!・・・。」

 

 ある程度たった後、

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ・・・」

アリアは虚ろな目でゴメンナサイしか言わなくなったので、説教はここで終わりにするか。

「終わりだ、正座を崩してよろしい。」

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ・・・」

「崩してよろしいといったのだァ!!!」

「ハイ!!」

アリアは正座を崩し、足が痺れているようだが何とかソファーに座った。

「イブキ、終わったか?」

「いや、すまんなぁ。」

キンジが緑茶を持ってきてくれた。俺コーヒー好きじゃないから、あるの全部お茶なんだよね。

「アリア、キンジと俺に用事があるようだけど何か用か?」

俺がそう言うとアリアはまだ痺れているであろう足を引きずり、ベランダのほうまで行った。そしてくるっと(痺れてるせいでぎこちないが)こっちを向き、俺達のほうに指をさして

「あんたたち!あたしのドr・・・

「イブキよ!!余は帰ってきたぞ!!」

「主殿!サワラが安かったので買ってまいりました!!」

「まったく、廊下が汚れてましたよ。掃除しないと。」

「イブキ・・・ただい・・・懲りずに来たのかい?」

「イブキの料理が食べたくなってな。邪魔するぞ。」

「キンちゃん、イブキ君、ただいま・・・。」

ネロ、牛若、ニト、エル、白雪が帰ってきたようだ。それに師匠まで来たようだ。

グー

アリアから何か聞こえたようだが気にしない。

「今日の夕飯は俺が担当か。無難にサワラの塩焼きと、マテ貝があるからそれの酒蒸しとサラダにでもするかな。アリア食っていくか?エル、大丈夫だからね。俺とキンジに伝えたいことがあるらしいから。だから瞳孔戻して。」

そうして俺は台所へ向かった。ニトと白雪がついてきた。手伝ってくれるようだ。まぁ、飯食いながらならゆっくりしゃべれるだろう。

 

「イブキ、コゴミがあるからこれも茹でてくれないかな?」

「ほんと、エルは農家の人と仲良くなれるねぇ」

 

 

 




ヒヒイロカネのせいでピンク色になることをイブキは忘れています。

サワラってうまいよね。あれの塩焼きと御飯はうまい。コゴミは塩ゆでにマヨネーズが・・・。マテ貝はテレビでやっていたけど(〇空レストラン)うまそうだったなぁ



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もう少し話が通じないかな・・・

バスジャック前半まで。


「で、アリアは何言おうとしてたんだ?」

普段2人しかいないのに7人で一緒に飯を食うとはなぁと思いつつ、さっき何か言おうとしていた事を聞いた。

「あんたたち!あたしのドレイになr・・・・

「その首、落とすか・・・。」

「さあ、どこを切り落とそうか。」

「ほほぅ・・・火事場の臭いがするぞ。出撃だイブキ。派手に暴れるとしよう。」

「キンちゃんを・・・。」

牛若、エル、ネロ、白雪がそう言って得物を持った。あの、殺気がダダ漏れなんですけど・・・。ニトと師匠は何が言いたいのか分かったのか、ため息をついた。

「間違えました。強襲科であたしのパーティーに入りなさい。そこで一緒に武偵活動をするの」

それを聞いた途端、キンジは反論をした。

「何言ってるんだ。俺は強襲科がイヤで転科したんだぞ。それにこの学校からも、一般高に転校しようと思ってる。武偵自体辞めるつもりなんだよ。それを戻れなんてムリだ。」

「あたしには嫌いな言葉が3つあるわ。」

「「人の話聞けよ。」」

急に話し変えるなよ・・・。

「‘‘ムリ’’‘‘疲れた’’‘‘面倒臭い’’人間の持つ可能性を押しとどめる良くない言葉。あたしの前では二度と言わないこと。いいわね?」

「それは違うぞ。‘‘ムリ’’だから可能な作戦を作る。‘‘疲れた’’から疲れない方法を考える。‘‘面倒臭い’’から合理的な方法を考える。そんなものとらえ方次第だろ?」

俺がそう言ったらアリアがこっちを睨んできた。おかしいな?

「そうね、キンジとイブキのポジションはフロントがいいわね。」

ですよねー。流石に岩下さんやレキのような狙撃は無理だしなぁ・・・。俺は突撃兵だし・・・。

「よくない、そもそもなんで俺なんだ。」

まぁ、負傷率が高いとこにキンジは行きたくないよな。

「太陽は何で昇る?月はなぜ輝く?」

アリア、さすがに話し飛びすぎ。

「キンジは質問ばっかりの子供みたい。仮にも武偵なら自分で推理して見せなさいよ。」

面倒な子になったな・・・。昔は・・・昔もだいぶ我が強かったな、うん。

「とにかく帰ってくれ。俺は一人でいたいんだ。帰れよ」

流石にキンジは面倒だと思ったのだろう。

「そのうちね。」

「そのうちっていつだよ。」

「キンジとイブキが強襲科であたしのパーティーに入るって言うまで」

「でももう夜だぞ。」

まさか、トランク持ってきたってことは・・・。

「何が何でも入ってもらうわ。あたしには時間が無いの。うんと言わないなら泊まr・・・」

「言わないならなんだァ、泊まるとでもいうのか?アリア、飯の前にもさんざんやったが、今もするつもりか?べれんめぇ。」

流石に、泊まるとかふざけてるのか?入ってほしいなら、せめて下手に出ろよ。

「それにな、俺はすでにネロや牛若、エルにニトと組んでいる。一時的ならまだしも、永続的には俺は無理だ。」

俺はキンジのほうへ向いた。

「キンジ、お前も多少は折れてくれ。女子供が一人で男二人の部屋に泊まるって言ったんだ。よっぽどの度胸と事情があるみたいだ。こいつの度胸に免じて組んだらどうだ。一回二回程度なら別に問題ないんじゃないか?」

ここにアリアが泊まるとなると、サーヴァントたちが何しでかすか分からないから・・・。

 何とか二人は納得し、みんな帰っていった。

「まぁ、キンジ。こうしなかったら、もっと面倒なことになっていたのはわかるだろ?諦めなって。人生諦めが肝心だぞ。」

「わかってる・・・。」

 

 俺は次の日の放課後、装備科の平賀文さんのところに行っていた。

「おーい、平賀さーん注文の品終わった?」

「おーイブキ君、終わってるのだ。」

俺は平賀さんに、25ミリ機銃を二脚で撃てるように改造してもらったのと、特別なスタングレネードを作ってもらった。流石に25ミリ機銃を台座で撃つのは面倒だからな。ほう、25ミリはいい出来じゃないか。スタングレネードは使わなきゃわからないか。

「ちゃんと、故障しないか?故障なんてしたら死ぬからさ。」

時々甘いから怖いんだよなぁ。

「大丈夫なのだ!それにしても、そんな大きい銃何に使うのだ?」

普通はそう思うよね。

「昔、大口径、長射程、連発性の高い銃がないときついってことがあってね。これが料金の40万。自分でも数えたけど一応確認しといて。」

そう言って俺は封筒に入った40万を渡した。銀行に振り込みってあんまり好きじゃないんだよなぁ。なんか数字の移動みたいで、これだけの分の金を俺は出したって実感が湧きづらいんだよなぁ。

「イブキ君はお金に正確だから信用してるのだ。スタングレネードはレバーを抜いて3秒後に爆発するのだ。」

「ありがとうね。」

そうして俺は25ミリ機銃を背負い、スタングレネードの入った箱を持って部屋に帰った。

 

 そして夕方になるちょっと前ぐらいの時間、俺は理子と会っていた。アリアのことと、キンジのことだ。原作で何があったのかはある程度は覚えているけど、その知識は参考程度にしかならないから調べてもらう必要があった。流石にメガネさん頼るわけにもいかないし。

「イブイブー!!」

「・・・そのイブイブは止めてくれないか。」

俺は理子にイブイブなんて呼ばれている。なんで、こんな呼び名になったんだろう。

「報酬のギャルゲーは持ってきたから。2とか3とかはいらないんだっけ?買ってきてないぞ。」

「2や3は蔑称、嫌な言葉。」

「そうかなぁ。俺としては第1作だけとか足りないと思うんだけどなぁ。」

だって、ラノベの第1巻だけ買って、2,3,4,とか出てるのに買わないとか普通はしないと思うんだけど・・・。いや・・・、確か理子って何とかの2世3世4世だったんだっけ?覚えてないや。

「いつもの通り、紙にしてくれたか?メールで貰っても結局印刷するから面倒なんだよなぁ。」

紙だといつでも見れるし、消去も簡単だし重宝するんだよな。環境?電気とタブレット分考えたら、紙のほうが環境に良くないか?

「あい!!そういえばイブイブ、機関砲を背負ってたって聞いたけどよくそんなの持てるね。理子びっくりだよ!!」

やっぱおかしいって思うよね・・・。よく辻さんあんなのチョイスしたな。

「大分軽量化しているからな(嘘)。情報ありがとね。」

「バイビー。」

 

 次の日、学校に着き車から出ようとした瞬間、携帯が鳴った。アリアからだ。

「なんだ?朝っぱらから。事件でも起きたか?」

「そうよ、C装備して女子寮の屋上に来なさい!!すぐに!!」

「ハイハイ・・・」

C装備はしていないが、俺は車を急発進させ女子寮へ行った。

 

 俺が女子寮に到着したとき、アリア、キンジ、レキが作戦会議中だった。

「これだと俺は必要ないかな。じゃぁ学校に戻るわ。」

「あんたも来なさい!!」

そうして俺は強制的にこのパーティーに入れさせられた。

 なんでもバスジャックが起こったらしい。バスに爆弾をつけられ、ある程度スピード出してないと爆発だそうだ。

「レキも大変だな。朝っぱらからこんな事件に会うなんて。」

「いえ、大変ではありません。」

「そうか。」

話し続かないな・・・。

「今日の風の音はどこのだ?」

「故郷のです。」

「そうか・・・。」

続かねぇ・・・。

「あんたたち!話してないでさっさと乗りなさい!!」

そういって俺とレキにヘリに乗るよう催促してきた。ヘリか・・・嫌な思い出ばっかりだなぁ。

「ハイハイ・・・。」

 

「見えました。」

レキがバスを発見したらしい。俺もあそこらへんかな?程度だけど、この距離はっきりと分かるのはすごいな。

「よく見えるな、視力どんくらいだい?」

俺が聞くと

「両目ともに6.0です。」

・・・はい?

「なんかの薬とかやってないよな。」

「やってません。」

やってるとしか思えないよ。

 バスがある程度見えてきた。

「おい、ヘリを最高速に上げてくれ。そろそろ降下する。」

俺がそう言うと

「何言ってるのよ!!バスはまだ遠いし、それにあんたC装備つけてないじゃない!!」

「いやいや、これが俺の戦闘服だぞ。」

下手に装備つけても動きづらいだけだしね。制服のままだ。

「いやいや、イブキ。お前パラシュート持ってないだろ!?」

「何言ってんだキンジ?‘‘パラシュートはただの飾り’’だぞ?中学の頃、体育で習ってないのか?」

「「習わねぇよ!!(習わないわよ!!)」」

おかしいなぁ。俺、お前たちが中学ぐらいの時に訓練で習ったんだけど・・・。

「お?そろそろ降下か、んじゃ行ってくるわ。」

そう言って俺は飛び降りた。

 

「ほんとに降りて行ったわね・・・。」

「気をつけの姿勢のまま飛び降りて、そのままの体勢でバスの天井に着地ってどういうことだよ・・・。」

 

俺はバスの中の生徒に窓を開けてもらい、中に入った。

「よぉ武藤。まさか教室じゃなくてバスで会うとはな。放課後暇か?車の改造してほしくてな。」

「今はそれどころじゃねぇだろ!!」

「場を和ませようと思ったのに・・・。車の件は本当だぞ。で、かわいそうな子は?」

「あの子だ。」

メガネをかけた中等部であろう子が震えながら携帯を持っていた。

「む、村田先輩!!ど、どうすれば・・・。」

完全に慌ててるな。すると、その子の持ってる携帯から

「速度を落とすと、爆発しやがります。」

面倒なことになったな。そう思った時、バスの天井からドン、ドンと音がした。

「お二人さん、遅いぞ。」

「パラシュート無しで降下するイブキがおかしいから!!」

「‘‘パラシュートはただの飾り’’なのにそんなの付けてるから遅いんだよ。」

「パラシュートつけるほうが普通なの!!」

なぜかバスにいるみんなが驚いた表情で俺を見るんだが・・・。

 その後、キンジとアリアが色々と話していた。何でもバスの裏に電車も吹き飛ぶくらいの爆弾をつけられたらしい。それを聞いた瞬間、バスに車が近づいてきた。その車にはUZIがついて銃口はこっち側にって・・・ヤバい!!

「伏せろ!!!」

ダダダダダダダダダ

そのUZIが発砲しだした。4,5発貰ったし・・・。って運転手が血まみれになってる!?

「武藤!!運転代われ!!俺の上着貸すから速度落とすな!!」

そういって俺は武藤に上着を投げ渡し、その車のタイヤに銃を撃った。

バンバン

タイヤが破裂しその車はガードレールに激突した。

「俺はほかの車の迎撃をする!!」

そういって、バスの天井の部分に戻ると、バスの後ろにガトリング銃を積んだ車が5台いた。

「うん、ちょっと待ってくれない?」

俺を狙って、5台が一斉に火を噴きだした。

「ウソだろ!?」

 

 

 

 




機関砲を背負うって普通はおかしいですものね。聖杯の魔力を筋力強化に使ってるからできるんだけれど。

次回でエアジャック終わるかな?


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誤診なんてひどい・・・

これが不死の英霊(イモータル・スピリット)だ!!

あと、さらに一万課金して沖田さん爆死・・・


ガトリング銃は1丁おおよそ毎分3000発なので毎秒50発という速さで撃つ。単純計算すると、そのガトリング銃が5丁あるので毎秒250発イブキに向かってくるという事に・・・。

「リアルな数字なんて考えなきゃよかった!!くたばれガトリング!!」

クソッ!!案の定「影を薄くする技」使っても狙っていやがる!!でも一瞬だけ動きがおかしかったな。機械の助けを借りた人間が遠隔操作してるのか?今とっさに刀抜いて自分に当たる銃弾だけを何とかしてるけど、このままだとジリ貧だ。すでに何発もかすって血まみれだし。

「バンザーーーイ!!!」

俺はバスから飛び、車の一台へ!!その間に散々撃たれたけど致命傷になる部分しか弾けなかった。クソッ!!何発被弾した?あちこちがイテェ!!俺の動きが変化する時に一瞬「影の薄くなる技」使っているから敵の銃の動きが若干遅いけど、それでも何発も被弾する。「緋弾のアリア」から「被弾のイブキ」にでもするか!?うん、絶対売れないな。カット

 俺は一台に乗り移り、その車にあった銃に一閃。そして刀を納刀し、二丁拳銃で残り4台のタイヤを破壊。よろめきながら乗っている車の運転席に乗り込み、減速・・・。ヤバい、意識が朦朧としてきた。血の流し過ぎか?もう一台新しいのが来たな。そいつのタイヤを破壊し

「おう、俺離脱するからよろしく・・・。」

インカムでそう伝えた俺は意識を失った。

 

 なぜか、お経のようなものが聞こえる。なんでだ?俺は目を開けると、箱に入れられていた。しかも俺は白装束を着させられてるし。え?ふざけるな!!これは冗談でもしちゃいけねぇだろ!?

「おい!!俺は生きてるぞ!!!」

俺は箱のふたを蹴り、何とかどかした。そして、その箱から俺は出て

「冗談でもこれはないだろ!!」

と怒鳴った。あちこちがイテェ・・・。流石に結構傷を負ったしな・・・。その場を見渡すと、そこには坊さんと、涙を流す第2中隊の面々、山口少将、カジノで会った山本さん、士官候補生の時に世話になった人たち、武偵高校の面々に、家族まで・・・え?なんでみんな驚いた顔してるの?まるで死人が蘇ったような・・・。

「「「「「「ぎゃぁあああああああああ!!!生き返ったぁああああああああ!!!!」」」」」」」

 

 どうも、バスジャックから三日も経っていたようだ。矢常呂イリン先生から

「銃創18箇所、また20箇所以上弾丸や車の破片が食い込んでいたのよ!?脱臼や捻挫もあったのになんで生きてるの!?何度も死亡判定したのよ!?」

なんて言われた。18箇所しか被弾してないのか、運がいいな。俺は

「人ですし間違えくらいありますよ。」

そういうと、矢常呂先生は、おかしい、間違えるはずがない・・・。などとブツブツと何かをしゃべってた。後日、俺のサンプルが欲しいと強請られた。

 矢常呂先生がブツブツと何か言いだした時、やっと我に戻ったのか、第2中隊と武偵高

の面々が俺に駆け寄り、、俺を叩いてきた。

「なんだ生きてたのかよ!!」

「心配かけやがって!!」

「この希信!!感涙の涙が止まらん!!」

「死んだって聞いてたのにこの野郎!!」

イタイ、イタイって!!

 

 何とかみんな落ち着き、俺は病院に搬送されることになった。その時に聞いたのだが、家族のみんなは生きていることはわかっていたようだ。まぁ、死んだらパスが切れるし。でも、ネロと牛若は泣いて抱き着いてくるし、エルとニトに師匠はしきりに俺の体に触っていた。ところで、エル?瞳孔開いて

「こんな風にしたのは武偵殺しだっけ?・・・どこを切り落とそうか」

なんて言わないで。ほら武偵は不殺だからね。牛若も

「首・・・落とす・・・。」

なんて言わないで!!

 病院に着くころ、俺はアリアとキンジがどうなっているのか気になった。何でもアリアは今日、羽田から4時の便でイギリスに帰るらしい。思い出したぞ、そこに武偵殺しがいるんだった。犯人は理子だっけ?

 家族のみんなが病室から出て行ったあと、俺は鬼塚大尉に電話をした。家族にこの事伝えたら絶対理子を殺しに行くだろうし・・・。

「どうした、ボウズ。さっき会ったばっかりだろう。」

「鬼塚大尉!!俺を羽田まで送ってください!!友人が危ないんです!!」

「・・・ボウズ。それは傷だらけのお前が行かなきゃダメな事なのか?」

「そうです!!今日の4時の便には間に合わないと!!」

「もう3時過ぎだぞ。それでもか?」

「そうです!!何とかなりませんか!!」

「わかった。病院の外で待ってろ。」

鬼塚大尉は電話を切った。これできっと羽田に間に合う。武装は「4次元倉庫」に全部入ってるな。俺は「影が薄くなる技」を使い、病院の外に出た。よかった家族がいたらバレそうだし・・・。

 そういえばそろそろ「4次元倉庫」の名前をつけないとダメかな。「王の財宝」がもとだし「一般人の雑貨」にでもするか?うん、ネーミングセンスないな。などと考えていると、病院の大きな駐車スペースにC-1が着陸した。そこから辻さんが出てきた。あ、この人も巻き込んだのか。

「イブキ大尉!!早く来い!!」

「ハイ!!」

C-1の中で鬼塚大尉、辻さん、神城さん、角山中隊長に散々泣かれながら、よかった、生きてたか、と言われたときは悪いことしたなぁなどと思った。

「イブキ大尉、これは本当に君がやらなきゃいけないのかね?」

辻さんが聞いてきた。

「友人の命の危機です。それにその便に乗っている一般人も危機に瀕するので。」

そう言ったら、角山中隊長が

「まぁ、村田大尉はやるって言ったら聞かないだろうしね。ナカジマプラザや空港の件でもそうだったらしいじゃないか。行ってきなさい。でも我々は行けないからね。」

「なんでです!?行きましょうよ!!」

コックピットから鬼塚大尉が反論をした。

「私も行きたいんだけど、三角諸島の件がまだ引きずっていてね。あの事件があったのに1年もたたずにもう一回となると弁護は難しい。もちろん、‘‘通りすがりのタコ’’や‘‘偶々いたイカ’’は無理だからね。」

「「「・・・・・・。」」」

三人がそっぽを向いた。おい、やる気だったのかよ。だから隅っこにタコやイカの足や魚の被り物があるのか・・・。

「ところで、その飛行機は4時12分羽田発ロンドン・ヒースロー空港行き、ANA600便ボーイング737-350だよね。」

「え?多分そうですが?」

角山中隊長は急にそんなことを聞いてきた。

「うん、神崎・H・アリアという名前が乗客名簿にあったからね。」

・・・・・・嫌な予感がするなぁ。

「ちょうど村田大尉の葬式があったから有給を4日もらったんだ。でも村田大尉が生き返っちゃったしなー。ちょうどその便でイギリスにでも旅行しようかと考えていたんだー。」

・・・もしかして。

「旅行鞄ありませんよ?パスポート持ってるんですか?」

「必需品は現地調達。パスポートは持っているし大丈夫さ。軍人ではなく、旅行者として行く。チケット代だいぶかかったなぁ」

「「「中隊長!!!ずるいです!!」」」

三人が猛抗議。

「君たち有給は二日しかとってないでしょ?それにパスポートも持ってきてない。前回の件で君たちは自重しなきゃいけないしね。」

その一言で三人は黙ってしまった。よって、角山中隊長も同行することになった。

 

「ところで、村田大尉。君は二階級特進だったんだけど、それ取り消しになるからね。」

「ですよねー。中佐になれるかも!!って思ってたんですが・・・。」

 

何とかギリギリで羽田に着いた。俺と角山中隊長は空港内を走り、搭乗ゲートに向かっていた。その時、武偵高の制服を着た人間が走っているのを見つけた。キンジだ。

「キンジ!!お前もアリアの飛行機止めようとしているのか!?」

「え?イブキ!?なんでいるんだよ!?死んだって聞いたぞ!?幽霊か!?幽霊なのか!?」

キンジは大分慌てている様子。

「矢常呂先生の誤診で死んだことになってたんだよ!!」

「あの先生が誤診とかありえないだろ!?俺も確認したぞ!?イブキ、本当に幽霊じゃないのか!?」

「しつこいな!!俺は生きてるよ!!あちこちケガばっかりだけど!!」

そうすると、走りながらキンジは俺の頭を指さした。頭になんかついてるのか?

「なんで白装束に三角のやつ頭に着けてるんだよ!!」

え?そういえば式場からここまで着替えるの忘れてた・・・。だから空港内でジロジロ見られるのか。

「・・・着替えるの忘れてた。」

「ふつう忘れるか!!!」

なんでC-1内で指摘されなかったんだ?

「中隊長、なんで教えてくれなかったんですか!?」

「いや、わざわざ着けてたから意味があるのかなって。」

せめて教えてくれよ・・・。頭巾くらいは取るよ。

「イブキ、隣の人は?」

「俺の部隊の中隊長。角山大佐。」

「どうも少年。角山です。」

「あ、どうも。遠山キンジです。」

 

 ゲートに着き、ボーディングブリッジを過ぎ、何とか飛行機に乗った。バタン、ハッチが閉められた。キンジはフライアテンダントに飛行機を止めるよう説得するが、結局無理なようだ。まぁ、動き出しちゃったしな。キンジは諦めたようで、アリアの部屋であろうとこへ行ってしまった。角山中隊長も自分の席へ行ってしまった。一応聞いておくか。俺はフライアテンダントに声をかけた。そして、フライアテンダントが俺を見たらすごく驚き、困惑、そして少し怯えていた。まぁ、白装束だからショウガナイか?

「お嬢さん、ところでこんな子を見ませんでしたか?」

俺はそういって懐から理子の写真を出し、フライアテンダントに見せた。

「い、いえ。み、見ていません・・・。」

「そうですか、こんなかわいい子見たら、印象に残っていると思うんだけど、やっぱり見覚えありません?」

「は、ハイ・・・。」

なんか怪しいがショウガナイ。

「そうですか。何か思い出したら教えてください。」

俺はアリアのところへ行った。

 

 アリアを驚かせようと思い、取っていた三角のあれを頭に着け、中に入ろうとした。

ガガガーーーン!!

お?雷の音か。いい雰囲気だな。そして俺はアリアの部屋に入り

「キェエエエエ!!よくも!!よくもぉおおおお!!」

「「ぎゃぁああああああああああああああ!!」」

二人して驚きやがった。おい、キンジ、お前は知ってただろうが。

「幽霊!?幽霊なんでしょ!?イブキは死んだって!!」

「いや、生きてますからね、ちゃんと足もあるぞ。」

俺はそう言って三角のやつを取り、足を見せた。それでもアリアは落ち着かない。どうしよう。

 

「医者の誤診だったのね。驚いちゃったわ。」

「泣いて驚いてたよな、アリア。」

俺がそう言ったら睨まれた。もう少しいい反応してくれないかな。愉悦を感じられないじゃないか・・・。そう思いながら俺は刀を差し、銃を身に着けた。

「キンジの分は払うになったけど、イブキはどうするの?」

「そのくらい出すさ貴族様。平民だからってこっちにも矜持はある。」

そう言ったら、アリアはフーンと納得したようだ。あれ?キンジ、なんか苦悶の表情だけどどうした?そう思った瞬間

ダァンダァン

始まったか。俺たちは部屋を出て機体前方のほうへ向かった。その時に角山中隊長と合流した。すると、コックピットへの扉が開いており、そこからさっきのフライアテンダントが基調と副機長を引きずって出てきた。小さい体でよく男二人引きずれるな。

「「「動くな!!」」」

そう言って俺とキンジ、角山中隊長は拳銃を構えた。するとフライアテンダントが

「Attenntion please.でやがります。」

そう言って胸から出した缶をこっちに投げた。缶からは煙が・・・。フライアテンダントは防毒マスクなんてつけてないから、ただの発煙筒だろう。

「みんな部屋に戻れ!!ドアを閉めろ!!」

そう言ってキンジは近くの部屋に避難し・・・って、おい!!

「キンジ!!こいつは毒ガスじゃねぇ!!発煙筒だ!!」

っち、フライアテンダントは一階のほうへ避難しやがった。そこからアリアも合流し、一階に行くと、そこのバーでフライアテンダントが足を組んで座っていた。

「お嬢さん、ところでさっきの写真の女の子。見覚えあるんじゃないですか?」

俺がそう言うと、フライアテンダントは顔に貼ってあった特殊メイクであろう物をベリベリと剝がしながら

「えぇ、毎日見てますから。」

と言った。特殊メイクを剥がした後、その顔には写真に写っていた顔と同じ顔があった。同じくらいの背、胸、そして若干の怯え、もしかしてって思ったけど当たりだったか。

「理子!?」

「やっぱりなぁ・・・。」

「Bon soir」

理子はそう言って横にあったカクテルを飲み、ウインクをした。

 

「おい、理子。お前未成年だよな。」

「ちゃんとノンアルコールだよ!!」

 

 

 




イブキのモデルはあの船坂。アリアの登場人物はほとんど何かの子孫という設定ですが、主人公だけは何かの子孫とかにはしたくなかったので名前は全く違います。主人公は雑種です。(ただ、一族ほとんどが軍人。父ちゃんは事務がすごかったよ、というぐらい。)

あの船坂が赤ん坊のころから鍛えて、途中から英霊や準英霊クラスの人に鍛えてもらったら・・・このぐらいにはなるはず。

新人軍人編でカジノでボロ儲けしたときに山本さんと知り合った。高校生活一学期編の閑話で出会いを書きたいなと思います。

土日月とバイトなので毎日の投稿が難しいかもしれません。努力はしますが・・・。


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飛行機なんて大っ嫌いだ・・・

船坂っぷりが出てます。


理子は足を組み直した。

「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才がけっこういる。でも・・・お前の一族は特別だよ、オルメス。」

「っ!!!!!」

理子の言葉でアリアは硬直した。確かホームズのフランス語読みがオルメスだっけ?あと「お前たちみたいな遺伝系の天才」?

「そういえば、俺のご先祖様もなんか天才がいるのか?」

「いや、イブキのご先祖は誰もいない。せいぜい一族が軍人って程度。」

マジですか・・・。orzの体勢になった。そういえば今、コックピットに人がいないんだっけ?俺はorzの体勢のまま、角山中隊長にモールスで

「コノ機体 P(パイロット)ナシ」

と送った。すると角山中隊長は2階へ戻っていった。よかったバレなかったようだ。

「理子・峰・リュパン4世。それが私の本当の名前。」

話が多少進んでたようだな。ところでなんで理子の話を聞いてるんだろう?逮捕してから聞いてもいいような気がするんだけど。

「でも・・・家の人間はみんな理子を‘‘理子’’とはよんでくれなかった。お母様がつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方がおかしいんだよ。」

「おかしい・・・?」

アリアがつぶやいた。

「4世、4世、4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人共まで・・・。理子をそう呼んでたんだよ。ひどいと思わない?」

とりあえず、偉大なご先祖様と毎日比べられるから嫌だ、ってとこか?徳川幕府2代将軍の秀忠とか親父の家康に散々比べられて苦労したってこと聞いたことあるような・・・。そんな感じかな?

「そ、それがどうしたってのよ・・・。4世の何が悪いってのよ。」

おい、アリア。お前自分で何でも聞くな、推理しろなんてこと言わなかったっけ?

「悪いに決まってるだろ!!あたしは数字か!?あたしはただのDNAかよ!?あたしは理子だ!!数字じゃない!!どいつもこいつもよぉ!!」

理子は俺達じゃない何かに言っているような気がする。DNA・・・?数字・・・?それにイ・ウー・・・。あとちょっとで何か大切なことを思い出せるような気がするんだが・・・。

「曾お爺様を越えなければ、あたしは一生あたしじゃない、‘‘リュパンの曾孫’’として扱われる!!だからイ・ウーに入って、この力を得た・・・。この力であたしはもぎ取るんだ・・・あたしを!!」

面倒になってきた。しかも武偵殺しの件とかキンイチさんの事とか・・・。なんか俺、邪魔な子?とりあえず理子を捕まえておこう。俺は「影の薄くなる技」を使い、理子の後ろに移動した。その瞬間

ダァンダァンダァンダァン!!

アリアが理子に撃った。もちろん、理子の後ろにいる俺も射線に入るわけで・・・。

「ぐぁああああ!!」

チクショウ!!白装束だから普通に貫通するぞ!!二人は俺に構わず至近距離の撃ち合いに・・・。

「イブキ!!大丈夫か!?」

キンジだけが俺に気が付いてくれた。

「なんだよ、理子の後ろに移動して、気絶させようと思ったのに、アリアのやつ撃ちやがって・・・。」

「おい、止血するか!?」

「・・・大丈夫だ。運よく弾が貫通してる。この服破いて止血するかr・・・ぐぁああああ!!」

「イブキ!?」

流れ弾がまた当たった・・・。計4発の被弾・・・。神様、あんた俺に恨みでもあるのか?

「キンジ!!」

アリアと理子が弾切れになったようだ。キンジは理子へナイフを向けた。

「そこまでだ理子!!」

「双剣双銃・・・奇遇だよね、アリア」

なんか嫌な予感がする・・・。

「理子とアリアはいろんなところが似ている。家系、キュートな姿、それと・・・二つ名」

「「「?」」」

「あたしも同じ名前を持っているのよ‘‘双剣双銃の理子’’でもね・・・。」

そう言って理子の髪は不自然に動いた。でも二つ名自慢とかよくできるな・・・。俺恥ずかしくてできないもん。

「アリアは本当の双剣双銃じゃない。お前はまだ知らない。この力の事を!!」

理子の髪はアニメのようにゆらゆらと動き、その髪が持っていたナイフでアリアを切りつけた。アリアは一本は避けれたようだが、もう一本に切られたようだ。

「うあぁ!!」

アリアは紅の血を撒きながら倒れた。ったく、俺がもっと早く動いて理子を拘束させれば・・・。

「あははは!!!!曾お爺様。108年の歳月は、こうも子孫に差を作っちゃうもんなんだね。勝負にならない。こいつ、パートナーどころか、自分の力すら使えてない!!勝てる!!勝てるよ!!理子は今日、理子になれる!!あは、あはは、あははは!!」

理子が狂気に取りつかれたように笑った。理子は何かから解放されるような喜びを・・・。あ、DNA、数字、イ・ウー、解放・・・。思い出した。あの獣野郎!!!だけど、まずは手当だ。

「キンジ!!アリアを手当てしろ!!流れ弾の当たらないところで!!」

「っ!!わかった!!生きて帰れよ!!」

「てやんでぇ!!別に倒してしまっても、構わねぇだろう!!」

キンジは急いでアリアを連れてどこかへ行った。この死亡フラグ、折ってみせラァ!!

 

「イブキは作戦の最大の障害だった。だから、確実に殺すためにあそこまでやったのに・・・。どうして生きてるの!?死んだことは確認したのに!!」

理子は俺を見て、若干怯えていた。・・・まぁ、ボロボロの白装束に三角のやつ着けっぱなし、しかも血まみれとなればどこのお化け屋敷ですか?ってなるか。

「俺は死んじゃねぇ、先生の誤診だ。だから俺はここにいる。」

俺はどうも理子を完全に敵とは見れない。背後にあるものを知っているせいだろう。それに一度刀を抜いたら確実に敵として処分することになるからかもしれない。

「思い出したよ。DNA、数字、イ・ウー。理子はブラドから解放されたいんじゃないか?」

俺がそう言うと、理子は驚いた顔をした。うまく説得すれば穏便に終わるかもしれない。俺は理子に近づいた。

「イ・ウーで、タコ、イカ、ブイが襲撃してきたとか話聞いてないか?」

「もしかして・・・。」

イイ感じだ。俺はさらに近づいた。

「そこでブイがブラドを半殺しにしたのを知っているか?もし、それをやったのが俺だと言ったらどうする?」

俺はもっと近づいた。もう、理子との間はもう1メートルもない。

「なぁ、こんな犯罪を犯さないで自首しようぜ。俺もついていくからさ。ブラドのことも協力する。そうすれば理子はもう堂々とお天道様が見てるところを歩ける。」

だって、理子は服も着ることができずに監禁されて、それから解放されるために犯罪を犯したんだ。情状酌量の余地なんて沢山あるだろ?それに武偵殺しは公式上キンイチさんしか殺してない。キンイチさんは生きているから、誰も死んでいない。それに俺を殺した、と言った時理子は顔がゆがんだ。殺そうとしたことに後悔があるからだ。だから、俺は理子に刃を向けたくない。

「なぁ、キンイチさんだって生きてるんだろ。理子は誰も殺していない。情状酌量の余地は大いにある。」

ダァンダァンダァン!!

俺は理子に撃たれた。理子が驚いたような、諦めたような顔をしたような気がした。でも、それが答えか・・・そうか、よろしい。ならば戦争だ。でもその前に休ませてくれ・・・。もうイタイっていうか熱い・・・。

 

 何か声が聞こえる・・・。ってヤバい!!眠ってた!!

ドウウウン!!

理子は爆弾で壁を開け、そこから脱出したようだ。俺に宣戦布告し、逃げるだと!!許さん!!意地でも捕まえてやる!!

「まぁてぇえええええええ!!理子ぉおおおおおおお!!!」

俺は血まみれの白装束の格好で飛行機から飛び降りた。なんかアリアとキンジが化け物を見るような感じで俺を見ていたんだが・・・。

 

 飛行機から降りると、下から2本の線がこっちに・・・ってミサイル!?なんで!?

ドーンドーン

「ぐぁあああああ!!」

2本のミサイルは飛行機のエンジンに当たり、その破片が俺に降りかかってきた。その破片を俺は浴び、さらに大きな傷を作った。なんか、もう痛み感じなくなったぞ、おい・・・。

 破片を浴びた後、パラシュートで降りている下着姿の理子を見つけた。

「まぁああああてぇええええええええ!!りぃいいいいいこぉおおおおお!!!」

その声が聞こえたのだろう、理子はこっちを向き、驚いた表情をした。俺は空中で理子の胴体をつかみ、そしてパラシュートのロープを刀で一閃。

「イ、イブキ!?なんで!?どうして!?ってパラシュートなんで切ったの!?」

「てやんでぇ!!テメェ!!手ぇ差し伸べたら銃弾の答えとかふざけてるのか!!まだ拒否するならわかるけど、銃弾の答えはないだろ!!意地でも捕まえてやるよ!!」

「そのためにパラシュート切ったの!?」

「‘‘パラシュートはただの飾り’’だ!!」

「何言ってるの!?」

 

 俺は理子を抱えたまま着水。衝撃は理子のほうに行ってないから大丈夫なはずだ。それにしても、海水が傷にしみてイテェ・・・。

「うわぁ・・・理子・・・生きてる・・・。」

「だから言っただろ‘‘パラシュートはただの飾り’’だって。」

俺はそう言って理子に手錠をかけた。

「時計壊れてるから時間わかんないや。とりあえず、峰理子、お前を殺人未遂で逮捕する。」

リュパン4世はさすがにつけねぇよ。あそこまで嫌がるんだから。

「・・・大人しく捕まると思う?」

「捕まんないと何するかわかる?」

その一言で理子は黙った。

「さて、じゃぁお互い頑張りますか。」

「ゴメン、イブイブ。理子わからない。」

うん、理子はある程度調子が戻ってきたようだな。

「もちろん、陸に上がるために泳ぐんだけど?」

「え?」

「見た感じ10キロもないだろ。三角諸島の時に比べれば近い近い。」

 

 大量の血が抜けてたの忘れてたよ。しかも現在進行形で抜けてるし・・・。何とかたどり着いた俺と理子はお互い、ヘトヘトだった。そして格好は、血まみれ・びしょびしょの白装束を着た男と、下着姿の痴女、完全に俺たちは変質者だった。そこに偶然通りかかったヤンキーそうな少年達から電話を狩り・・・間違えた借り、第2中隊に連絡。基地から近かったのだろうか、10分もしないうちに来てくれた。

「辻さん、殺人未遂の現行犯で峰理子さんを逮捕しました。あとはお願いします。」

俺はそう言って、意識を失った。

 

 

 

 




大きな負傷、至近距離の発砲のため、イブキは弾くことができず被弾しました。

説明が遅くなりましたが、なぜイブキはブラドに圧勝できたか。常日頃から英霊や準英霊クラスの人たちにしごかれていたため、人外に対しては沢山の経験があるという点。またブラドは自分の不死性と怪力を主の武器として戦うために素早さは師匠の比べてあまりにも遅いという点。なのでブラドの攻撃は当たらず、一方的にボコボコにできた、という事なのです。
要は、師匠達の修行のおかげで「当たらなければどうということはない」を実現できた、という事です。

次回で一巻終了!!(だといいな)


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怪我人にボディーガードさせるのかよ・・・

FGOクラス別ピックアップ!?婦長が欲しい!!婦長ぉおおお!!


俺は起きると、ベッドに鎖で繋がれていた。え?

「イブキ、起きたんだね。」

俺の横に瞳孔が開いたエルが座っていた。

「あのエル?なんで俺は鎖で縛られてるの?なんとなく想像はできるけど。」

大怪我したままで家族に何も言わず病院を抜け出し、瀕死の重傷をして帰ってきたわけだしなぁ・・・。でも抜け出すこと伝えれば、絶対だれか来るし、理子を殺そうとするよな・・・。

「イブキ、僕って価値はないのかな。僕は君が使う兵器に過ぎない。兵器をどう扱い、どう思うかは君の自由なんじゃないかな。だけど、僕を連れて行ってくれなかった。そして、イブキは傷ついて帰ってきた。僕に価値はないのかい?無いのなら無いと言ってほしい。廊下に出て自爆するだけだから。」

エルがすごいこと言ってきた!?・・・まじめに話さないとだめだよね。

「まず、エルに価値はないなんて思ってない。俺の掛けがえのない家族だ。それだけは覚えておいてほしい。そして、俺はエルを兵器として見てないし、見たくない。家族を兵器としてみたくないから。それに兵器なら今のようなことは言わないはずだ。兵器とは無感情であり、命令に忠実であり、最低限の思考しかしない。だから、‘‘価値がないなら自爆する’’なんて言わないはずだ。だけど、兵器として壊れているかもしれないけど、俺は今のエルを好ましいと思ってる。だかr・・・。」

「マスター!?起きたのですか!?玉藻心配したんですよ!?」

玉藻が部屋に入り、慌てている。慌てすぎて完全に素が出ている。その後、ネロ、牛若、ニト、師匠、エジソン、ベオウルフが来てみんなからステレオで怒られた。俺はこの世界の両親はいなくなったけど、叱ってくれる家族がいたんだなぁと思うと、うれしかった。

 

「このぐらいで瀕死とは情けない。怪我が治ったら修行を10倍に増やすか。」

「そのほうがいいな。このぐらいの殴り合いで倒れるのはなぁ。」

「ふむ、特訓用の機械を発明しよう!!」

「流石に10倍はきついよ!!!」

 

 俺は家族からお叱りを受け、みんなはいったん出ていった。流石に授業があるからしょうがないか。

「エルちょっと待って。」

「なんだい?」

エルはこっちに来てくれた。

「俺は例え、兵器として壊れているとしても今のほうがいいと思う。ったく、よくもまぁ、こんな恥ずかしいこと言ったなぁ。それだけ。」

俺はそう言ってベットに包まった。エルの笑い声が聞こえたような気がするが大丈夫だろう。きっと・・・。

 

 その後、矢常呂先生が来て、俺の状態を教えてくれた。

「前回の傷が癒えてないのに、新しく銃創7箇所、火傷に14箇所の金属片の食い込み。あなたは死にに行きたいの?」

そんなありがたい言葉をもらった。

 キンジとアリアも見舞いに来てくれた。二人によると、飛行機は角山中隊長のおかげで無事羽田に不時着したらしい。また、もう少しコンビを組んでみようと思っているようだ。。それはよかった。

「そういえば理子のことなんだが・・・。」

「どうしたキンジ。ちゃんと理子は留置所だろ?」

「それがな、護送中に逃走して、そのまま行方不明らしい。」

理子の護送中に護送車が何者かに襲われ、そのまま理子は逃げていったそうだ。俺がここまでして捕まえた意味なかったよね・・・。

「キンジ、俺は疲れた。不貞寝させてもらう。」

「あ、あぁ。お大事にな。」

不貞寝しても、理子が脱走した事実は変わらなかった。

 不貞寝して起きた後、携帯が鳴った。この電話番号は・・・。

「もしもs・・・。」

「お兄ちゃん!!死ぬ寸前だったって本当ですか!?」

「えっと、粉雪?落ち着いてほしいんだけど・・・。」

「お兄ちゃんが死んだって聞いた時、私は!私は!!」

そう言って、粉雪は泣いてしまった。悪いことをしたなぁ。

「粉雪、ゴメン。こういうことが無いように海軍に入ったのに・・・研修で武偵高に行っちゃって。危ない真似はしないようにするから。」

その後、俺は粉雪に叱られた。

 

 粉雪からのお叱りを受けた後、俺は嫌な予感がしてパソコンを開いた。するとスカイプでかなめからテレビ電話が来た。

「イブキにぃ!!心配したんだよ!!死んだって聞いてどう思ったかわかる!?」

かなめの目にはクマと涙があった。

「ごめんなさい。」

「イブキにぃが生きてて・・・本当に゛よ゛がっだぁああ!!」

かなめは泣き出してしまった。俺は謝り続けるしかなかった。

 

 かなめが落ち着き、ある程度話してスカイプは切った。メールには27件ほどメヌエットからのメールがあった。俺は最初と最後のメールだけ読んだ後

「心配をかけてしまい、誠にすいませんでした。後悔はしてませんが反省はしています。今後はこのような無茶をしないよう努力してまいります。」

と送った。

 

 俺は一週間後には退院できた。矢常呂先生は驚異の回復力だ、ありえない、みたいなこと言っていたけど気にしない。それで俺は寮の部屋に帰ると、アリアが部屋を要塞化していた。何言っているかわからないと思うけど、俺もこの状況を理解できてない。

「あの?アリアさん?人の部屋に何してるんですか?」

「見てわからないの?部屋を要塞化してるのよ。」

「何でそんなことしてるんだ?」

「ボディーガードをやるからよ。アンタもやるのよ!!」

何それ、初めて知ったんだけど。

「・・・怪我人に仕事しろというのか?」

「あんたには無理しない程度でやってもらうわ。流石に重症の怪我人を前線に出すほどあたしは鬼じゃないわ!!」

怪我人にボディーガードやらせるのは鬼じゃないとでもいうのか?まぁ、体鈍っているだろうし、多少はイイかな。すると、白雪と桐のタンスを運んでいるキンジが来た。

「イブキ、退院したのか?おめでとう。」

「あ、イブキ君。退院おめでとう。」

「あぁ、二人ともありがと。ところでボディーガードやるんだって?俺も参加するみたいでな。対象者って誰だ?」

「それって私のことだよ。」

白雪!?なんで!?

 

諜報科とSSRから白雪が「魔剣」に狙われている、という情報があったらしい。アリアは「魔剣」の逮捕を狙っているため無償で白雪のボディーガードになった。ついでにキンジとアリアが同棲していたそうなので、白雪もここで一緒に暮らす!!ということになり、急遽この部屋を要塞化しているそうだ。・・・待とうか、キンジが同棲してる?

「おいキンジ。お前同棲してたなんて聞いてないぞ。まさか、俺がいないからってしっぽりやりあってたんじゃないだろうな。」

「そうなの?キンちゃん・・・。」

白雪は刀に手をかけ、瞳孔が開いた。

「そ、そんなわけないだろう!!それに白雪、おまえには説明しただろ!!アリアが部屋から出ていかなかったんだよ!!」

なんだ、やっぱりか。

「とりあえず俺の部屋はいじってないよな?」

「アリアにも釘刺したし大丈夫だろ?入ったらあの時のように怒るぞって言っておいたし。」

俺ってそんなに怖いかねぇ?

 

 部屋の要塞化&白雪の私物運びの手伝いをしていたらキンジがいつの間にか消えていた。あの野郎サボりやがったな。手伝いが終わるとアリアが警護よろしくと言って、キンジを探しに行った。どうせだからと白雪と夕飯を作っているとキンジとアリア、それにサーヴァントの4人が帰ってきた。今日の夕飯はカニチャーハン、エビチリ、酢豚、餃子にミニラーメン、アワビのオイスターソース和え・・・。流石に作り過ぎじゃないですかね。料理の手伝いだって何時もは「これ切って」とか「これ見ておいて」程度なのに、今日にいたっては「これやったら、あれやって、これ見ながらあれもやって!!」みたいな感じでしたよ・・・。

「食べて食べて。全部キンちゃんのために作ったんだよ。」

そう言って白雪はジャスミンティーを人数分持ってきた。みんなで「いただきます」をした後、キンジが箸をつけ

「お、おいしいですか?」

と白雪が聞いた。

「うまいよ」

キンジがそう言ったら白雪はだいぶ舞い上がっていた。あぁ、お熱いことで。でも白雪さん?アリアに何にも出してないのはどうしてですかね?

「で?あたしの席には食器がないのかしら?」

「アリアはこれ。」

そう言って白雪はドンッとアリアの前に割りばしが刺さっているドンブリ飯を出した。

「なんでよ!!」

「文句があるのならボディーガードは解約します!!」

白雪がそう言うと、アリアは諦めて飯を掻き込み始めた。流石に冗談のようで、ある程度たったら取り皿を白雪が渡していたけど。

 

 4人も泊まりたいと言ってきたが、着替えの問題、人数の問題を出して何とか自分たちの部屋へ帰らせた。その後、キンジとアリアがテレビのチャンネルを巡って争い、俺は銃の簡易整備をしていた。すると白雪はお札?みたいなものを持ってきた。

「キンちゃん、あのね、これ・・・巫女占札っていうんだけど。」

「巫女せん・・・?」

「占いの道具じゃないか?」

俺がそう言うと

「うん、キンちゃん将来のことで悩んでいたから、占ってあげようと思って。」

「よかったなキンジ。現役の格式高い神社の巫女さんに占ってもらって。」

「じゃぁ、やってもらおうかな。」

キンジがそう言うと、アリアも一応女の子なのだろうか、占いには興味があるらしく、何々?と言って近寄ってきた。

「キンちゃんはなにがいい?恋占いとか金運占いとか恋愛運、健康運、恋愛占いとかあるけど。」

「数年後の将来について占ってくれないか?」

白雪はそんなに恋に関して占いたかったのかよ・・・。キンジが答えると、白雪はその札を並べ始めた。

「どうなのよ。」

アリアがそう言った時、白雪の表情が曇った。そのあとすぐに顔を戻し、

「総運、幸運です。よかったねキンちゃん」

「おい、それだけかよ。何か具体的な事わからないのか。」

キンジよ、さすがに占いだぞ。そこまで詳しいことはわからないだろ。

「え、えっと。黒髪の女の子と結婚します。なんちゃって。」

明らかに作り笑いな白雪。なんかいい結果じゃなさそうだな。

「はい!!じゃぁあたしを占ってよ!」

アリアが机から身を乗り出して言った。

「生年月日は言わなくていい?私は乙女座よ。」

「へぇ、似合わないね」

白雪はそう言って適当に一枚を引き

「総運ろくでもないの一言に尽きます。」

「白雪、俺を占ってくれ。外国行くと絶対ケガして戻ってきたり、最近も色々あって何かに憑かれてるような気がしてなぁ。何か憑いてるか憑いてないか、あとちょっとした将来でも占ってくれないか?」

喧嘩になる前に俺を占ってもらうことにした。

「わかったよ。」

白雪がそう言って札を並べた瞬間

ダァン

札に弾が着弾した。え?

「ど、どっから飛んできたのよ!?ってイブキの銃から!?あんた弾抜いときなさいよ!?」

弾は俺の整備していた銃の方向から飛んできたようだ。

「いやいや!?俺銃に弾なんて入れてないし、弾倉入れてないぞ!?それに弾倉にすら弾入れてないぞ!?」

俺は銃を組み立てた後、銃本体・弾倉・弾に分けておいたはずだ。

「そうみたいだな。薬莢があんなとこまで飛んで行ってる。暴発か?」

キンジは空薬莢を見つけ、なぜそうなったか推理した。

「「「「・・・・・・」」」」

占いの時に暴発し、札に弾が当たる・・・。俺は得体のしれない恐怖を感じた。

「あ、あたしもう寝るから!!お休み!!」

「そ、そうだな。明日も朝練あるし俺も寝るわ。白雪、イブキお休み。」

「お、俺怪我人だし、早く寝て傷を癒さないと。お休み。」

結局、俺は結果も知らないで早く寝ることにした。

 

 

「イブキ!!銃ちゃんとしまっておけよ!!」

「あ、忘れてた。」

リビングに戻って銃を片付け、俺は布団に包まった。

 

 

 




普通、銃弾単体で暴発はしません。よっぽどの特殊な状況下にある限りは暴発はしません。でも、今回は・・・。

ダイ・ハード(第一作)を見て、またダイ・ハード書きたくなりました。でも残ってるのはダイ・ハード3,4,5だしなぁ・・・。とりあえず、4はエリア51の時と関連させるとして、3は香港か欧州かで迷ってます。別に東京でもいいんだけど、ジョニー・マクレーとは海外でばったり、からの事件に巻き込まれる、っていう風にしたいからどうしても国内でやるのは難しい・・・。って香港戦、欧州戦、それにエリア51とかだいぶ先じゃん・・・・・・。頑張らないと・・・。



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任務中に喧嘩しないで・・・

婦長はどこじゃぁあああああああああ
まだだぁあああああああああああああ
はやくぅううううううううううううう


でもバーサーカーピックアップのころには春休み終わるんだよなぁ・・・。


俺は夜中に目が覚めた。やけにのどが渇く。台所へ向かった。冷蔵庫で冷やしてある水を一杯飲みベッドへ帰ろうとした時、人の気配がした。慌てて振り向くとそこには白雪がいた。

「なんだ白雪か。喉でも乾いたのか?」

「イブキ君に占いの結果を教えようと思って。」

・・・わざわざ起きて占いの結果を教えようとするのはうれしいんだけど、こんな深夜に結果を聞くって大分怖いんですけど。

「ワザワザこんな時間じゃなくてもよかったのに。いや、教えてくれるのはうれしいけど。」

「みんなに言えない内容だったから・・・。」

みんなに言えない結果ってどういうことだよ!!

「そ、そうなんだ・・・。どうだった?」

「うん、イブキ君。あ、あのね・・・。」

すごく言いづらそう・・・。

「うん。」

「あのね。沢山の霊と神様に取りつかれてるの。」

・・・何それ。

「現役の巫女様。どうかお祓いはできますでしょうか。」

「お祓いしないほうがいいよ。今、霊によって守ってもらってるから。」

「どういう事?」

「神様のほうがイブキ君を殺そうとしていて、沢山の霊がイブキ君を守ってくれているの。」

「とりあえず、死神が俺のこと狙っていて、沢山の守護霊がその死神から俺を守ってくれてるって感じか?」

「そうだね。」

なんか聞かないほうがよかったような、悪かったような。

「外国に行って怪我するのは、外国だと守ってくれてる霊の力が弱まるから。この前の怪我は沢山の守ってくれる霊のおかげで助かったみたい。」

つまり、守護霊様のおかげで理子の攻撃から生き延びたわけか。

「その神様を何とか祓ってもらえないか?」

「普通、神様を弱めるとか鎮めるならできるんだけど祓うってできないんだ。それにこの神様、とても力が強いからちゃんとした設備があるとことじゃないと逆に力が強くなっちゃう。」

何でそんな神様に憑かれてんだよ。まぁいい・・・それなら神様のほうはショウガナイ、守護霊様の方だ。

「守護霊様を強くしてくれませんか。」

「うん、そうだと思ってお守りとお札を家から取り寄せてるから。あと神棚作って毎日参拝するだけでも効果があるよ。」

たったそれだけで効果があるとは・・・。

「明日から神棚作るわ。いや、時間としては今日か?」

「そうしたほうがいいよ。」

「ありがとう、いいこと聞いた。今日はぐっすり眠れるぞ!!おやすみ~。」

そう言って俺は部屋に帰り、ベッドに潜った。

 

「将来のことを聞かれなくてよかった。あんなこと言えないよ・・・。」

 

 俺は翌日の放課後、神棚制作のために材料と飾るお札を買ってきた。さて、部屋に帰ろうとすると、アリアがももまんの包み抱えていた。

「イブキ、その荷物は何?」

「あぁ、白雪から神棚作って毎日拝めば運がよくなるって聞いてな。武偵殺しの件とか海外行くと大きな事件に巻き込まれて怪我して帰ってくるから運を上げようと思ってな。」

「確かにイブキは運が悪すぎるわよね。まさか初めて会った時の空港でイブキとテロリストが戦うなんて思いもしなかったわ。」

「これまた懐かしい話を。アリアがマクレーのおっさんと会って、マクレーのおっさんと俺を質問攻めしてただろ?その時に置き引き見つけて一緒にそいつについていったらテロリストだったんだ。」

「トイレ行く途中にテロリストに会ったと思っていたわ。」

などと懐かしい話に花を咲かせさた。

「「ただいまー」」

いざ部屋に入ろうと扉を開けたら

「大人しくしろ!!!」

キンジが裸で嫌がる白雪を襲おうとしてました。あれ?でも白雪がキンジに襲われたら嫌がらないと思うんだけど・・・。

「こ・・・こんのぉおおおおお。」

アリアが俯きながらキンジに近づいてゆく。なんか嫌な予感がするなぁ。

「バカキンジィイイイイ!!」

そう言ってアリアは裸のキンジにガバメントを発砲しだした。

「バカヤロウ!!アリア!!キンジを殺す気かぁああ!!」

俺がそう言ってアリアの銃を叩き落とした。

 その後、アリアと白雪が合意だとかなんだとか言い合っていたけど、最終的にまたキンジはアリアに撃たれ、東京湾へダイブした。

 

「おい、アリア。お前キンジを殺す気かぁ?どうなんだよ?べらんめぇ!」

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ・・・。」

 

 俺は東京湾に落ちたキンジを急いで回収したが、結局キンジは風邪をひいてしまった。なんかキンジは特定の薬じゃないと効かないっていう事は覚えてるんだけど、忘れちまったしなぁ・・・。とりあえずショウガがカゼに効くしこいつでいいか。などと考え、料理を作ろうとしたが白雪に代わってくれと懇願されたため、今日は白雪が飯を作ることになった。

 今日も4人は泊まると言っていたがキンジを理由に自分たちの部屋へ帰ってもらった。

 

 そういえば、俺はアドシアードは出場しないことになっている。アドシアードの好成績者は武偵大への推薦を得ることができる。だけど、俺この学校出たら軍に戻るから武偵大への推薦はいらない。なので他のやつに譲ろうと思ったからだ。で、アドシアードに出場しないやつはこの大会の準備に駆り出されるんだが・・・。

「というわけで村田君は地下倉庫での弾薬運搬だからね。」

「高天原先生、何とかなりませんかね。」

俺の入院中にその役割分担が決まってしまっていた。

「代わってくれる人を探さないことには・・・。」

牛若とか喜んで代わってくれそうだけど、申し訳ないしなぁ・・・。

「・・・わかりました。」

「ゴメンね。村田君。」

俺に憑いている神様とやらよ!!これもあんたのせいなのかぁあ!!!

 

 アリアとキンジが喧嘩したらしい。そうキンジが俺に言った。はぁ・・・、キンジはイイとしてもアリアのフォローに行ったほうがいよなぁ・・・。そういう事で俺はアリアを探した。アリアは女子寮の屋上にいた。狙撃屋のレキならもしかして、と思って連絡したら一発だったよ。というか、アリアとレキ一緒にいたのかよ。

「よぉ、アリア。キンジと喧嘩したんだって?」

「そうなのよ!!キンジったら!!・・・。」

そう言ってアリアは愚痴と一緒に喧嘩の内容まで話してくれた。なんか「魔剣」はいる、いないなどのことに発展し喧嘩別れしたようだ。

「まぁなぁ、仮にも受けたボディーガードとはいえ、いないこと前提でボディーガードするのはさすがにバカだなぁ。ボディーガードは最悪の時の保険なんだから、いること前提にして動いてそれでいなかったよかったね、って感じなのにな。」

「そうなのよ!!なのにキンジは・・・。」

「でもアリアも悪い。アリアは言葉がきついし、それに‘‘私の勘ではいる’’だぁ?お前キンジとコンビ組んでどのくらいたつ?」

「ひと月経ってないわね。」

「ひと月経ってないのに信頼関係なんて築けるかってんだ。軍だって早くても3ヵ月は常に一緒に行動してやっと構築できてきたかなって感じのなのに、結成一ヵ月も経ってないのに私の勘を信じろは無理があるぞ。」

「武偵殺しのことだtt・・・。」

「武偵殺しの件一回だけだろう。人間は二回以上繰り返さないと普通は信じない。」

流石に言い過ぎたかね。

「あんたはどうなのよ。」

俺か・・・。

「俺個人としては信じている。だけど軍人としてはなぁ・・・。ボディーガード受けるんならいること前提で進めるが、何もないとこでそんなこと聞いても証拠は?ってなるな。まぁ、‘‘魔剣’’は軍でいるって聞いたことがあるから信じているけど。」

「そう・・・。」

アリアが落ち込んでしまった。うん、フォローのつもりだったんだけど、フォローどころか攻撃しちまったな。

「少なくとも俺は‘‘魔剣’’がいることは信じている。」

そう言って俺はその場を去った。

 

 さて、昨日はキンジの看病とかあって神棚づくりが終わってないから今日中に仕上げないとなぁ、あと喧嘩の件どうすればいいかなぁなどと思いながら俺は部屋に帰った。

「ただいまぁ~」

玄関にはみんなの靴がない。まだ帰ってきてないな、と思った瞬間、隅に見知らぬ靴がポツンと置いてある。え?リビングからパタパタと、銀髪のかわいいメイドさんが来た。え?もしかして・・・。そしてメイドさんは俺の前に来ると一礼し、

「おかえりなさいませ!イブキ様!」

見惚れるような可愛い笑顔で出迎えてくれた。

「リサ!?」

「はい!リサです!」

 

 

「鍵閉まってたと思うんだけどどうして入れたの?」

「え?鍵は開いていましたよ。鍵が開いていたのに誰もいなかったので、リサは留守番をしていました。」

あいつら!!戸締りぐらいしておけよ!!




白雪の見た将来とは何なのか。閑話に書きたいと思っています。今のところの予定では、理子主観の話と白雪の見た将来、山本さんとの出会いを閑話に書こうと思っています。ここに書いとけば何かくか忘れた時に見返せばすぐわかるからいいかw(メモ帳替わり)

流石にコンビ結成一ヵ月も経ってないのに、「私の勘を信じろ」って言われても信用できないと思います。

木金土日と連続のバイトなので毎日更新は難しいです。


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また家族が増えるのか・・・

嫌だぁあああ。学校が始まるぅうううう





俺は進められるままリビングへ行き、ソファーに座った。

「イブキ様、お茶です。」

「あ、ありがとう。」

俺はそしてお茶をグイッと

「あつつ。」

「大丈夫ですか!?」

「あぁ、大丈夫だから。」

ってこんな事してる場合じゃないな。

「リサ、単刀直入なんだが、なんでここに?」

なんとなく理由はわからんでもないけど、一応・・・。

「はい、リサの・・・いえ、私のご主人様になってください!!」

・・・某武偵さんの「ドレイに・・・」よりは断然いいと思うんだけど、真逆だねぇ。

「パーティーに入れてくださいっていう意味じゃないよね。」

「はい。リサをメイドとしてお傍においてください。」 

マジか・・・。でも会ったのって潜水艦だよね。たった一回だけど・・・なんで?

「俺と一回しか会ってないよね。なんで俺なの?」

「はい。イ・ウーで運命の勇者様に出会えずに悩んでいた私は、シャーロック卿に御助言をいただいたことがあるんです。そこで卿は言われました。私がお仕えするお方は東からくる。ちょっと目つきが悪くて、しゃべり方はぶっきらぼうで女たらし・・・。」

ちょっと待て、目つきが悪いとぶっきらぼうはショウガナイにせよ、女たらしはないだろ・・・。それはキンジだ。

「そのお方と運命の時を迎える際の光景も、卿は予知しました。渡り蝶を空に見るとき、と。それはあの時の潜水艦で会った時です!!私は運命の勇者様に巡り会ったのです!!」

うん、あの技出さなきゃよかった。うーん人違いですって言おうにも、感動でリサの翡翠の瞳に涙が・・・。

「ですからイブキ様。どうかリサのご主人様になってください。どうぞリサをメイドとしておそばにおいてください。」

・・・誠にどうしましょう。確か原作だと、この子はあのキンジに仕えようとしたんだっけ?あのキンジに仕えようとするってことは、ひどい言い方をすると自分を確実に守ってくれる強い奴に仕えたいってところか?

「リサって何ができるんだ?」

「はい。お料理、お洗濯、お掃除、リサは何でもします。ご主人様が望むことなら何でもいたします。その代り・・戦いたくない、傷つきたくないリサに代わって、その御手に銃を、剣を持ってください。そうして、リサを苦しめるものから救ってください。」

「なぁ、もし断られたらリサはどうする?」

「え?リサはシャーロック卿にお別れをしてしまいました・・・。帰る場所がありません・・・。」

リサが泣きそう・・・。はぁ、かなめだけ拾ってリサは捨てるってできないよな。

「わかった。でもご主人様にはなれない。」

「え?」

「形式上はなるけど家に帰ってまで上下関係があるのは嫌だな。家では主人とメイドじゃなくて家族としてなら・・・。まぁ、仕事中に上下関係で苦労するのに家でも上下関係とか・・・ねぇ。」

ただでさえ鬼塚大尉に辻さん神城さんで苦労しそうなのに・・・。家でも畏まられたら・・・。するとリサは泣いてしまった。え?マジ?ご主人様じゃないと嫌なの!?

「え・・・いや・・・リサの主人になるのがイヤってわけじゃないんだよ。ほら、主人とメイドって固い関係より、こうフランクなね、家族のような・・・」

「いえ、嫌じゃないんです。うれしいんです。」

そう言ってリサは泣きながら笑顔を作り、

「村田イブキ様。リサのご主人様。リサはイブキ様を元気づける妹になります。慈しむ姉になります。お母様にもなれるよう努めます。イブキ様の身の回りのお世話はみんなリサがして差し上げます。イブキ様の家族の一員になれるよう頑張ります。だから、どうかリサと一緒の時は家族と一緒にいるように、寛いでおすごしくださいませ。今からこの身は全て、頭から爪先までイブキ様の所有物です。」

リサは跪き、胸の前に手の平を組んだ。うん、待とうか。いまサラリとすごいこと言わなかった?こう、リサの体は俺の物みたいな。

「「「「「「ただいまー」」」」」」

キンジ、白雪、サーヴァント4人が帰ったきた。そしてこっちをガン見・・・。あ、泣いている美少女が俺に跪いている。

「ちょっと待とうか。」

ジャラジャラジャラジャラ、チャキ、

「浮気だね!わかるとも!!」

「決まっておろう。浮気者には、この世の地獄を味わわせるのみだ!」

「同盟者とあろうものが女を泣かせるとは・・・どういうことですか!!」

「主殿のお客様ですか?」

そう言ってエルは鎖で俺を拘束し、ネロは原初の火を俺へ構え、ニトの後ろにはメジェド様が・・・。牛若はただの客と思っているようだ、流石天才よくわかってらっしゃる。

「ちょっと待って!!落ち着いて!!」

「イ、イブキ様!?」

 

俺はまだ怪我が癒えてないのにも関わらず、リサは俺の知り合い、最近家族になったという事を何とか肉体言語で説得した。

「こう・・・胸が締め付けられるような・・・これはどう言うのだろう・・・どう、言うのだろうね。」

「うん、わからないからって感情で動いて、鎖で拘束しないでください。」

未だに瞳孔開いたまんまだけど、もういいや。

「そのことを余に早く伝えよ。そなた、なかなか美しいよな。」

「ネロ様、伝える間もなく抜きましたよね、後ナンパしない。」

ネロはリサを口説きに・・・。

「わ、私は最初からわかっていましたよ。」

「違うよね、メジェド様けしかけた後気づいたよね。メジェド様けしかけた後気づいた素振りしてたけど攻撃したよね。」

ニトは謝ってくれたけど、最初からわかってたはないでしょ・・・。

「主殿のお客様でしたか。牛若丸と覚えてください。」

「イブキ様!すでにメイドがいたのですか!?」

「牛若、間違えないとは偉いな。あと、リサ牛若はメイドじゃないから呼び方訂正してもこのままだから諦めただけだから。」

なんかリサも大きな勘違いしたようだけど、何とか訂正・・・。

「えっと、とりあえずあんたの名前は?」

そう言ってキンジはリサに尋ねた。

「はい、イブキ様の新しい家族であり、メイドであるリサ・アヴェ・リュ・アンクと申します。あなたはキンジ様ですね。えっとそちらは・・・キンジ様の奥さまですか?」

リサが盛大な間違いを犯した。

「キンちゃんの奥さんの遠山白雪です!」

「違う!!こいつは星伽白雪!!ボディーガードの対象者なんだ。」

キンジは訂正したものの、白雪は「奥さん・・・奥さん・・・お嫁さん、キャー」などと呟きながらだいぶ浮かれている様子。

「とりあえず飯にでもするか・・・。今日の当番俺だっけ。

そう言って俺は台所へ行こうとすると、

「イブキ様!!リサにお料理をさせてください。」

そういえば料理ができるんだっけ?

「そうだな、お願いできるか?」

「はい!!」

 

リサは肉団子やコロッケのようなもの、豆のスープ、そしてご飯を作った。とても楽しそうに作っていたな、きっと家事が好きなのだろう。なるほど、メイドは天職だな。玉藻のキャラを取られたような気がするけど、戦闘ができるかできないかで居場所の分別ができるし大丈夫だろう。実際今も玉藻が家にいるのって家の防衛も兼ねてるし。

「イブキ様どうですか?」

「うまい!!ありがとう!!」

「はい!!」

チクショウ、うますぎるんだよ!!こんなの食ったら戦闘糧食なんて食えなくなるだろ!!戦闘糧食は一定の時期になったら消費し、新しい糧食に変えておくんだけど、消費する日のテンションダダ下がりになるぞ!!

「ほう!これはうまい!!リサよ、余の専属料理人にならぬか?」

「うん、この味を・・・おいしいというんだね。」

「リサ殿!!美味しいです!!」

「このスープ、懐かしいですね。」

「これはうまいな。」

「リサさん、洋食を教えて!!私、和食得意だから教えるよ!!」

みんなにも大好評のようだ。

「これからもよろしくなリサ。」

「はい!!」

 

 夕食を食べた後、デザートのフルーツとお茶を飲みながらリサの今後をどうするかという話になった。

「リサはカバン一つもってここまで来たと・・・。泊まるとこどうしよう・・・。こっちか、女子寮のほうか・・・。」

「リサはイブキ様のおそばにいたいです。」

だろうと思ったけどさ・・・。

「ずるいぞ!!余もここに泊まる!!」

「主殿のそばにいたいです!!」

「あなたの世話をするのは私の役割。私が泊まるのは当然です!!」

「僕は・・・いらないのかい?」

リサをこっちに泊めると、4人に不満が・・・。さてどうしよう。まて、逆に考えるんだ。今はボディーガード中・・・。泊めるんじゃない、ボディーガードとして雇うんだ。

「キンジ、泊めても大丈夫か?」

「いや、それはさすがに・・・。」

キンジは反対か。

「でも、お前。アリア泊めてたんだっけ?しかも俺のいない間に?自分はよくて俺はダメか。わかった。」

そうすると5人はキンジを非難するような目で見た。

「いや、あのな・・・。」

「ボディーガードとして雇う。それならいいだろ?寝るところは白雪のところ。寝る時の守りは薄いからもってこいだろ?」

「・・・わかったよ。でもベットが足りないぞ。」

「俺のを使わせればギリギリ足りるだろ。俺は軍のお下がりのハンモック使うから何とかなる。」

ずっと昔に在庫整理と言われてハンモックをもらったことがあった。よくもまぁ、あんな骨董品を今まで保管していたなぁと思うくらいの古さだけど。

「泊まるならボディーガードをタダですることが条件。いいか?」

4人は急いで部屋を出ていった。荷物を取りに行ったようだ。

 

 4人が荷物を取りに行き、リサが夕食の後片付けをしている時、キンジと白雪はPCを覗いていた。白雪はすごく喜んでいる。

「おう、お二人さん。何見てるんだ。」

そうしてPCを覗くとあるサイトが表示されていた。

「東京ウォルトランドの花火大会?」

「あぁ、白雪と行こうと思ってな。葛西臨海公園から見ようと思って。」

こいつボディーガードだよな。

「ボディーガードをして花火大会ってお前大丈夫か?」

「葛西臨海公園ならそんなに人いない。それにずっと引きこもってばっかりじゃストレスたまるだろ。」

「はぁ・・・ちゃんと考えているんならいいけどよ。気をつけろよ。」

「わかってる。」

キンジと白雪の二人の時間は邪魔したくないけど、たった二人って言うのもなぁ・・・。俺がついていけばリサにサーヴァント4人は付いてくるし・・・。うん、レキに頼んで見張っていてもらおう。俺はレキにメールでキンジと白雪の監視を頼んだ。とすると、明日暇だな。リサの件を話すにしても急に家に帰れないだろうしどうしよう。

「「「「ただいまー」」」」

4人が帰ってきたようだ。まぁ、リサと家族にあいさつ回りでもいいかな。

「おかえりー」

 

 

「ちょっと待って。ネロにニト。その異常な量の荷物は何?」

二人は荷物が異常に多く、メジェド様などにも持たせている。

「何を驚くことがある。余は皇帝だぞ。これでも荷物を少なくしたのだ。」

「私はファラオですよ。それに、あなたの世話をするのは私の役割。荷物が多くなって当然でしょう?」

結局俺のほうが折れて、荷物は俺たちの部屋の物置き場に保管されることとなった。

 

 




流石にバイト四日連続はきつかった。ゆっくり進めていたけど、大分難産でした。


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弾運びとか地獄だ・・・

婦長がきたぁああああ!!!
ついでにヴラド(狂)もきたぁあああ!!!

とりあえず婦長はLv90になりました。スキルは9/6/1に。

ヴラド公の育成はだいぶ先ですね。


リサが俺の部屋に来た翌日、師匠、ベオウルフ、エジソン、玉藻にリサを紹介しに行った。師匠とベオウルフは以外にも好意的(好戦的?)で、リサと戦おうとしていた。(リサってなんかの獣なんだっけ?)エジソンは何かの開発中で忙しかったようだがいつもの大きい声であいさつ。玉藻は最初「キャラが被る・・・」などと言っていたけど、裁縫や料理のことで意気投合していた。かなめにはメールを送っておいたし大丈夫だろう。

 

そしてアドシアード当日。俺は傷が完治していないのに、地下倉庫で弾薬運びをしていた。弾薬運び、これ簡単そうに見えてすごくきつい。軽いのなら20~30キロ、重いと50キロある箱を数十個も運ばなければいけない。

「オイ村田ァ。15分でA-25-Bを10箱とD-56-Cを7箱、G-64-H61を12箱運んどけや。」

「イヤイヤ蘭豹先生!!15分は無理ですよ!!俺怪我人ですよ!!それに綴先生にチャン先生、高天原先生の分もあるんですよ!?」

「そぉか?なら20分でいいぞ。」

何言ってんだこの野郎は?

「かなり譲歩してやったような言い方ですけど、それでも全力でやっても25分はかかりますからね!そもそも交代要員はいつ来るんですか!?朝7時から始まって昼休憩なしでずっとやってるんですよ!?」

「あぁん? そんなんないわ。今日一日お前のシフトや。明日は火野が一日やって、それ以降二人で最後まで回すんやぞ。」

今なんて言った?

「弾薬運び二人とかふざけてるんですか!?」

「じゃぁ、25分後までに急げや。」

切りやがった・・・。この地下倉庫には携帯の電波が入らず、専用の無線によって指示されている。だけどこんなにきついのに感謝の言葉は高天原先生だけだ。やってらんねぇ・・・。こんな仕事を後輩の火野ライカがやるとは・・・。向こうはくじ引きで決まったらしいからまだいいのかな・・・。俺、入院中に決められちまったし・・・。明日俺が手伝いに行ったら、俺の時も手伝いに来てくれるかな?などと考えつつ俺はカートに箱を運び、それでエレベーターまで持って行き、そこから弾薬用エレベーターに箱を乗せ換えるということを延々とやっていた。途中、暇になった牛若と弁当を届けに来たリサが手伝ったおかげで弾薬運びはスムーズに進んだ。

 

「村田君、1時間休憩して大丈夫ですよ。」

「本当ですか!?ありがとうございます!!」

高天原先生から休憩の許可が下り、やっと昼が食べれるようになった。あの先生は神だ。神棚に先生の名前が書いてある紙でも置いておこうかな。嘘だけど。

「主殿!!荷物の運搬が終わりました。」

牛若もちょうど終わったか。やっと昼飯が食える・・・。

「やっと休憩していいようだから、昼食べよう。遅くなっちまったな・・・。」

「イブキ様お昼の準備はできてますよ。」

リサは弾薬箱の上に布を敷き、簡易のテーブルとイスを作った。まぁ、弾薬箱だけどショウガナイか。ここにはそれしかないんだし。弁当はおにぎりに卵焼き、ソーセージ、唐揚げ、漬物と日本では一般的な弁当だった。なのにこんなにうまいとは!!

「すげぇ!!唐揚げがサクサク!!卵焼きもちゃんと出汁が効いてる。おにぎりもうまい!!」

「私もすでにお昼はいただいているのですが、またいただきたくなるくらいおいしいですね!!」

「ありがとうございます。」

リサは手を合わせ、幸せいっぱいっていうような笑顔を見せる。あぁ、この笑顔で癒される。

 

 デザートのリンゴを食べていると話し声が聞こえてきた。

「キンちゃんは欠陥品じゃない!!」

え?白雪?なんでここに?

「今白雪の声が聞こえなかったか?」

「聞こえましたね。主殿」

「はい、聞こえましたよ。」

残っているリンゴを俺と牛若が口に詰め、声の聞こえるほうに向かった。するとそこには銀髪の少女と白雪が話していた。あれ?あの少女って潜水艦の中でフリフリドレス着て、鏡に映った自分見て笑っていた子じゃなかったっけ?

「迷惑をかけたくない、か。だがな白雪。お前も私の策に一役買ったのだぞ。」

「私・・・が?」

「‘‘電話を覚えているだろう’’」

銀髪の少女がキンジの声を真似した。だいぶうまいな。電話でしゃべられたら完全に分からないぞ。

「‘‘すぐ来てくれ白雪!来い!バスルームにいる!’’」

そのことを聞くと白雪は息をのんだ。なるほど、キンジの強姦未遂はこういうことが原因で起きたのか。というか、あのイ・ウーでのコスプレ少女が魔剣だったのか。俺は牛若に殺さず・傷つけず捕縛、リサは隠れて待機、と命令した。牛若はちゃんと言わないと何するかわからないからな・・・。

「ホームズは無数の監視カメラを仕掛けていたが、お前達の部屋を監視していたのは、私のほうだ。お前はリビングの窓際にいて、遠山が入っていたバスルームの灯りが消え・・・。そこにちょうど神崎アリアが帰ってきた。私はそういう好機を逃さない正確でな。」

「キンちゃんのフリをして私を動かして、キンちゃんと、アリアを・・・仲間割れ、させたの?」

「途中で護衛が増えるのは予想外だったが、転がる石のように、だ。数日も経たずして、アリアはお前たちから離れた。全ては私の策通りに、な。」

牛若はバレずに配置に着いたようだ。さて、行きますか。

「これも、策通りか?てやんでぇ!!」

「やぁ!!」

俺と牛若が銀髪の少女にめがけ突撃しだした。魔剣と白雪が驚いた顔をしている。予想外の展開だな?

「また貴様か!!イブキ!!貴様はいつも私の策を崩していく!!」

崩した憶えないんだけどな?

「白雪!!逃げろ!!」

そう言ってキンジも突撃してきた。

「キンちゃん!?来ちゃダメ!!逃げて!!武偵は超偵に勝てない!!」

白雪が悲鳴のような叫び声をあげた。すると、魔剣は銃剣を俺と牛若、キンジに投げた。銃剣は俺と牛若、キンジの足元に刺さり、そこから白いものが広がり、俺と牛若、キンジの足に絡みついた。冷たい氷か。俺と牛若の足がゆかに縫い付けられた。キンジは体勢を崩し、コケた状態で床に縫い付けられてしまった。

「‘‘ラ・ピュセルの枷’’罪人とされ枷を科される者の屈辱を知れ、武偵よ。」

「そんな中二病みたいな技名とか恥ずかしくないのか?フリフリドレス大好きで、鏡に映ったフリフリドレス姿の自分を見て笑う‘‘コスプレ少女 魔剣ちゃん’’?」

「貴様なぜそのことを知っていr・・・。フ、そんな戯言を・・・。」

そう言ってるけど魔剣ちゃん、顔が真っ赤ですよ?その後、魔剣ちゃんは深呼吸をして何とか真っ赤な顔を戻したようだ。

「我が一族は光を身に纏い、その実態は、陰の裏・・・。策士の裏をかく、策を得意とする。その私がこの世で最も嫌うもの、それは‘‘誤算’’でな。」

「じゃぁ、これも魔剣ちゃんが嫌いな‘‘誤算’’かな?」

俺はそう言って足に着いた氷を破壊し、俺はまた魔剣に突撃した。その時、地下室のライトが消え、周りが見えなくなった。クソ、目が慣れるまで何もできない・・・。

「・・・い、いやっ!!やめて!!なんにするの!?うっ・・・。」

ジャラジャラという音と、白雪の悲鳴が聞こえる。目が慣れた時、魔剣は鎖で白雪を拘束させた終わったようだ。手際がいいな。すると魔剣は剣を抜きキンジのほうへ・・・。

「たぁ!!」

ギャリギャリ

牛若が魔剣に攻撃し、魔剣もそれに対応。

「じゃぁ、バトンタッチね!!」

パパパパパ

ライトが灯り、後ろからアリアがきた。

「そこにいるわね‘‘魔剣’’!!未成年者略取未遂の容疑で、逮捕するわ!!」

アリアがキンジを踏み台にし、キンジの前に出た。

「「アリア!?」」

「ホームズ、か」

魔剣は牛若の攻撃を振り払い、白雪を連れて去ってしまった。火薬棚の裏側へ行ってしまったらしい。その火薬棚の隙間から銃剣が合計6本が俺、牛若、アリアへ投げられた。アリアは刀を風車のように回転させ銃剣を弾き、俺と牛若は普通に刀で弾き飛ばした。

「何本でも投げてくれば?こんな物、バッティングセンターみたいなモノだわ。」

アリアがそう言うと

ガチャン

扉が閉まった音がした。まずはリサの無事を確認しないと。

「二人とも、リサの回収をしてくる。」

近くにあった罠であろうピアノ線を切り、リサのもとへ向かった。

 

リサは無事だった。

「イブキ様!!お怪我はございませんか!?」

「あぁ、俺も牛若も無事だ。急いでここを脱出するぞ。俺が‘‘魔剣’’ならここを海水で沈めて、ノコノコと上の階へ避難したところを狙う。」

俺がそう言った途端

ドーーーン

という音と、水が流れてくる音が聞こえた。完全にフラグでしたね。

「急ぐぞ!!リサ、牛若!!」

「「はい!!」」

 

出口へ向かおうとしたらアリアに会った。

「おい、キンジと白雪はどうした?」

「白雪が鎖で拘束されているからキンジは対応しているわ。」

「了解。」

俺達は上の階へ続く隔壁を開けた。アリアが先行し上階へ上がったが襲撃はなかった。この階には壁のようなコンピューターが大量にあった。俗にいうスーパーコンピューター室だ。あぁ、このスパコンもきっとダメになるのか・・・。何億するのかな・・・このスパコン・・・。

「いい?分散して探すわよ。あたしはこっちに行くから、あんた達はあっちとそっちから行きなさい。」

「リサは戦闘ができない。牛若、リサの護衛を。リサ、そこでじっとしているんだ。いいね?」

「お任せを。」

「イブキ様・・・。ご武運を・・・。」

俺は牛若とリサの頭を撫で、俺は言われた方向に駆けていった。

 

 探し始めてから5分後、隔壁が再び開く音が聞こえた。キンジと白雪が上ってきたのだろう。その音がしてしばらくすると白雪に会った。しかし、この白雪何か変だ。胸の大きさが一回り以上小さい。それに胸の部分に何か金属板を入れているようだ。もしや・・・。

「あ、イブキ君。無事だったんだね。」

「あぁ、ところでフリフリドレスに飽き足らず、巫女服まで着るとは。最近の流行りは巫女さんかい?」

それを言った瞬間、少しであるが表情が曇った。間違いねぇ、魔剣だ。俺は日本刀で切りかかった。すると魔剣は諸刃の西洋剣で応戦をした。

「貴様・・・。また貴様か!!!」

「うわぁ・・・嫌われてる・・・。俺何かしたかなぁ?」

「自覚がないのか!?」

俺と魔剣は切り合ったが。少しして、お互いのにらみ合いになった。

「で、‘‘魔剣’’ちゃんは本当の顔は出さないのかい?白雪を襲っているようであまり乗り気じゃないんでね。」

「私をその名で呼ぶな。人に付けられた名前は好きでない。」

そう言って魔剣は特殊メイクをベリベリと剥がし、巫女服を脱いだ。銀髪に整った顔の女騎士がそこに現れた。

「へぇ、じゃぁなんていえばいい?」

「私は600年にも及ぶ、光の歴史を誇る一族の末裔。我が一族は、策の一族。聖女を装うも、その正体を歴史の闇に隠しながら・・・誇りと、名と、知略を子々孫々に伝えてきたのだ。私はその30代目。30代目・・・ジャンヌ・ダルク。」

あれ?Fateとクロスしてると思ってたんだけど・・・。あのジャンヌちゃんが子持ち?

「ジャンヌ・ダルクって聖処女と言われて、10代で死んだって聞いてるんだけど?」

「我が始祖は危うく火に処されるところだったものでな。その後、この力を代々探求してきたのだ。」

そう言って白い氷が俺のほうへ広がり、魔剣は俺へ切りかかった。

 

 

 

 

「というかジャンヌちゃんよ。お前、女騎士のコスプレしたまま戦闘とか、根っからのコスプレ好きかよ!?」

「違う!!これは戦装束だ!!コスプレではない!!」

え?どう考えてもコスプレでしょ?

 

 

 

 




いつか婦長とジャンヌを出したいと思ってます。いつも怪我して病院を抜け出すイブキに婦長の折檻・・・。ジャンヌ(Fate)とジャンヌ(緋弾のアリア)のしゃべり・・・。これらを書きたいけど、今のままでも飽和状態なんだよなぁ・・・。


次回で3巻の序盤まで行きたいけど・・・きついよなぁ・・・。


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意外と耐久無いな・・・

大学の手続き、バイト、などで遅くなりました。

土方ピックアップ?婦長とブラドいるからいらんです


「おらぁああ!!」

ギャリギャリギャリ

ジャンヌと切りあいをしているが剣の腕は師匠ほどではない。それに氷という面倒な能力もあるが、気合で氷を割れるから言うほど面倒ではない。ただ氷漬けされて何も感じなくなってきたのが怖いんだけど・・・。さて、もう終わりにするか。

「らぁ!!」

俺は刀に魔力を一杯に込めた。刀は異様なほど紅に染まり、俺はそのままジャンヌの西洋剣を文字通り切った。

ガラガラ・・・

ジャンヌの剣は二つに切れてしまった。ジャンヌはその事実に呆然とした。

「・・・・・・・!?」

彼女の中では最大の「誤算」だろう。彼女はサファイアの瞳を大きく見開き、立ち尽くしてしまった。だが、その隙を見逃すほど俺は甘くねぇ!!

「これで終わりだ!!ジャンヌ!!」

俺はそう言って「4次元倉庫」から25ミリ機銃と平賀さん特製25ミリ機銃用ゴム弾の入った弾倉を出した。

「ちょっと待て!!武偵法9条を知らないのか!!」

「てやんでぇ!!これなら逃げらんねぇだろ!!それに俺は軍人だ!!」

ガチャ、ガチャッコン

イ・ウー戦だと、ブラドの耐久に手こずって、理子にも逃げられた。今度こそは確実に仕留める!!こいつなら何とかなるはず!!

「待て!!私が悪かった!!」

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

ダンダンダンダンダンダンダンダン

撃たれたジャンヌは数メートルほどぶっ飛んだ。弾倉の半分ほど撃ち、いったん射撃を止めると、ジャンヌは動かなくなっていた。

「午後4時24分!!未成年誘拐の疑いと殺人未遂で現行犯逮捕だァ!!」

俺は動かなくなったジャンヌのもとに向かい手錠をかけようとしたら・・・。あれ?息してない?え?念のため脈を計ると脈がない!?え?ブラドほどではないにせよ、それに近い耐久あると思ってたんだけど・・・。理子だって戦闘して上空6~7000メートル程度から飛び降りた後、海を10キロほど泳いだくらいタフなのに!!

「ちょっと待て!!死ぬんじゃねぇ!!!」

「イブキ、助けに来たわよ!!って、あれ?」

「なんだイブキ、もう倒しちゃったのか?」

アリアと白馬モードのキンジが来たけど、そんなことより蘇生だ!!俺はジャンヌの甲冑を剥ぎ、上半身の服を破いた。

「ちょっと!!アンタ何やってんのよ!!」

アリアが騒いだけど、気にしない。俺は人工呼吸と心臓マッサージを開始した。

 

 結果、何とか息を吹き返したようだ。

「う、うう・・・。ん?ムー!!!!」

「よかった・・・。何とかなった・・・。」

なんかジャンヌは真っ赤になっているが気にしない。俺はそのままジャンヌに手錠をかけた。廻りを見回してみたら、キンジと白雪がなんか二人の空間ができてるし、アリアは顔真っ赤だし。

「アンタ!!いきなり何してんのよ!!」

「いやぁ、今までイ・ウーと戦ってきて、大分タフな奴ばっかりだったから。それで確実に仕留めようとして25ミリ撃っちゃったらジャンヌが死ぬ寸前で。」

「バカなの!?そんな大口径撃ったら普通は死ぬわよ!!というかジャンヌって誰よ!!」

あぁ、そういえば「魔剣」の名前は知らなかったっけ?

「あぁ、‘‘魔剣’’の名前がジャンヌ・ダルク30世だそうで。本人曰く、聖処女は何とか火刑から逃れて、子を成したんだと。」

「そうなの。まぁいいわ。あんた!!あたしは神崎・ホームズ・アリア!!ママに着せた冤罪、107年分はあんたの罪よ!!あんたが償うのよ!!」

アリアはそう言ってビシッとジャンヌに指をさした。当のジャンヌは

「わ・・・私にキスをするとは・・・貴様!!私の初めてだったんだぞ!!責任を取れ!!」

「人工呼吸だから!!死ぬ寸前だったんだからね!?原因俺だけど!!ノーカンだから!!ほらよく言うだろ、犬にかまれたと思えって!!」

そんな混沌とした状態に。

「主殿!!リサ殿を守り通しました!!撫でてください!!」

「イブキ様!!無事でよかったです!!」

牛若とリサが合流し、さらに混沌と・・・。はぁ、まず最初に解決しなきゃいけないことは・・・

「とりあえず、肌の感覚がないから病院行ってもいいですか?」

ジャンヌの氷のせいで肌の感覚がないから早く病院に行きたい。

 

 ジャンヌをほかの人たちに任せ、俺は牛若とリサの頭をなでながら病院へ行った。診察の結果、俺は軽い凍傷になっていた。矢常呂先生は一日入院したら帰っていいと判断。神棚作って拝んだせいか、いつもより怪我の度合いが小さい。これは白雪のアドバイスのおかげか?いつかお礼しないといけないな。

地下倉庫が海水に浸ってしまった関係で、業者が弾薬置き場(仮)に置き、弾薬置き場(仮)から会場へ動かす仕事を地下倉庫係が担当することになった。・・・要は、係りの仕事の量がさらに増えた。流石に女の子一人でその仕事はかわいそうということで、俺は病院を抜け出し弾薬運びの手伝いに行った。なんか火野ライカの友人も手伝っていたから俺いらなかったかな・・・。

 

 アドアシアードが終わった。

「I'd like to thank the person...」

不知火のボーカル、キンジのギター、そして罪袋&全身包帯姿の俺による踊りによって閉会式のアル=カタが始まった。誰だか知らないけど某同人音楽サークルの「帝都行動的自宅警備員共」の真似をして罪袋やろうぜ!!って言ったやつのせいで、俺がその役を急遽やることになった。

「Who shoot the flash...」

ねぇ・・・、みんな普通に受け入れているけど、俺怪我人なんだよ。まだ入院していなきゃいけないんだけど、蘭豹先生にM500構えられて「やれ。」って言われたら、さすがに断れないよなぁ・・・。あぁ・・・天国のお父様、お母様、今日もいい天気です。

「who flash the shot like the bangbabangbabang'a?」

曲が急にアップテンポに変わると、左右からポンポンを持ったチアリーダーの女の子達が舞台に上がってきた。やっぱり思うんだ。この子たちいるんだから俺いらないよね?

「で、でもやっぱりこんなの・・・。」

舞台の袖でもじもじしている白雪を発見。まぁ、いきなりチアリーダーやるのは誰でも恥ずかしいよな。

「白雪様。大丈夫です。似合っていますよ!!」

「あーもう!!ここまで来て何言ってるの!!ほら出る!!」

リサの応援と、アリアの蹴るような仕草によって白雪は舞台の中央に出てきた。白雪はセンターだ。白雪の隣にはアリアとリサがいる。運動神経がいいアリア、フォローのうまいリサ、みんなからの期待が厚い白雪・・・あれ、最高のチアリーディングじゃね?

「Each time we're in frooooooont of enemies!! We never hide'n sneak away!!」

俺はそんな華を見ながら必死に罪袋(ピエロ)を演じていたわけさ。

 

 俺は案の定、衛生学部の面々に連行され、病院のベッドに縛り付けられることになった。おかしい、俺は自分の意思じゃなくて脅されてショウガナク舞台に立ったのに、俺が勝手に病院から抜け出したことになっている・・・。なんでだ・・・。

 

俺は退院し寮の部屋に帰る途中、知らない電話番号から電話があった。俺は不審に思いつつ出ると・・・

「もしもし?」

「イブキ?あんた、どこにいんの?」

アリアだった。それにおかしいな、俺は今日退院するって伝えておいたはずなんだが。

「どうだっていいだろ。それよりもこの前のももまん代早く払えよ。」

「後でちゃんと払うわよ。それと、すぐに来なさい。女子寮、1101号室にいるわ。」

もちろん、俺はアリアにももまんを奢ったり、代わりに払ってはいない。ますます怪しい・・・。

「なんで女子寮に行かなきゃならねーんだよ。」

「うるさい!!あたしが来ると言ったらすぐ来る!!来ないと風穴!!」

怪しさ満載だけど・・・行くか。

 

 警戒度MAXで1101号室に向かうと、その部屋の鍵は開いていた。

「来たぞ、何の用だ。」

「遅い!!でも許してあげる。」

セーラー服のアリアが洗面所から出てきた。アリアが許すだと?ありえなくないが、今までの言動からするとそう簡単に許さないと思うだが・・・

「こっちにきなさい。」

そう言われ、リビングに入ると、そこには足の踏み場がないほど様々な衣装がある。そういえば、アリアの胸が若干膨らんでいる。おかしい・・・あの空港の件のころから、ほとんど成長しないはずだ。それにこの大量の服・・・。もしや・・・。

「ところで・・・よくも逃げやがったな。俺が瀕死の重傷を負ってまで捕まえたのに、パァになりやがった。」

「はぁ?何のこと?」

「お前は俺に捕まりに来たわけじゃねぇんだろ?だとすればなぜノコノコと現れた。・・・いや、司法取引か?」

「・・・・・・」

「俺を殺そうとしたのは、まぁ・・・お前の作戦のために止む無し、同情の余地ありだけど・・・俺の問いに銃をもって答えた。それをしたのにも関わらず、俺の前に現れるたぁ、どういう事だ。なぁ、理子?」

言った瞬間、アリアは苦笑した。

「やっぱり、イブキにはバレたか。」

そう言って、特殊メイクであろうマスクをベリベリと剥がし、カツラを取ると・・・そこには理子が現れた。

 

「お前、胸あるのにアリアの変装とかだいぶ無理あるだろ。」

「イブイブ!!それはセクハラだよ!!」

 

「で、敵対した奴の前に現れる理由って言うのはなんだ?」

俺がそういうと理子は悲しいそうな顔を一瞬した後、ポーカーフェイスに戻った。

「イブキ、お前がいるといつも計画が破綻する。だから私の計画に関わるな。」

「俺って疫病神かなんかだと思ってねぇか?」

「ナカジマプラザ、ジョン・F・ケネディ国際空港、ANA600便、学園島地下倉庫・・・これら全て、お前がいたせいで計画が破綻している。」

・・・おかしいな、説得力がある。

「オイオイ、前二つはマクレーのおっさんのせいだって可能性もあるだろうが。残り二つは否定できないけどよ。」

「私はブラドから奪われたお母様の形見を取り返す!!そして、ホームズに勝つ!!その邪魔をするな!!」

・・・まだ勝つことに執着しているのか。

「ブラドをまだ恐れているのか?おm・・・」

「うるさい!!終わりだ!!」

そう言って理子は部屋を出ようした。

「待て!!俺も一つだけ用がある!!」

俺は理子を引き留めた。そして理子がこっちを向いた瞬間。

ガツン!!

「ッ~~~~!!!イブイブ!!何するの!?」

俺は理子の頭を殴り、理子は頭を押さえ転がっていた。

「これで銃の件はチャラだ。気にするんじゃないぞ。変に遠慮されたらこっちがまいっちまう。」

そう言って俺は理子を立たせた。

「これで終わり。もう、理子に同情もしない。友人としてなんかあったら呼んでくれ。」

俺は理子の頭を一撫でした。

「なぁに、友人がなんか困ってたら助けに行ってやっから、その計画とやらをやって来い。じゃぁな。」

俺はそう言って女子寮の1101号室を出ていった。

 

 

 

「友人と思われてなかったら、大分恥かいたよな俺・・・。」

 

 

 

 

 俺は自分の部屋の寮に戻ると、玄関に大量の靴がある。あれ?この部屋って、俺とキンジだけだよな。

「ただいま」

俺がそう言ってリビングに入ると

「あ、イブキ様。おかえりなさいませ。」

「イブキ君おかえりなさい。」

リサと白雪が夕飯を作ってた。

「イブキよ。戻ったか。」

「おかえりなさい。イブキ。」

「主殿!!おかえりなさいませ!!」

「帰ってきましたか。お帰りなさい。」

テレビを見ていたであろうネロと牛若、ニト。観葉植物やベランダにある植物の世話をしていたであろうエル。おかしいな、やけに順応してる・・・。

「イブキ様!!退院祝いで御馳走を作りますからね!!」

リサは張り切っているけど・・・。あれ?君たち、ボディーガードの仕事中は許可したけど、終わった後も家にいていいって言ってないよ。

「「ただいま」」

キンジとアリアが帰ってきたようだ。

「おい、キンジ!!なんでまだいるんだ!?」

これだけでわかったのだろう。キンジは疲れていそうな顔を上げて

「言っても出ていかなくてな・・・。」

「納得したわ。っていう事は、俺、ベッドじゃなくてハンモックで寝ろと?」

「そういう事になるわね。」

・・・マジか。あれで寝ると腰が痛くなるんですけど。っていうか原因の一人、何偉そうに言いやがる。

「俺もソファーで寝てるんだ。諦めてくれ。」

布団・・・買おうかな・・・。

 

「イブキ様。夕食ができました。」

「ありがとう、リサ。」

俺は今日もハンモックで寝るであろうことを忘れるために、リサの手料理をヤケ食いした。

 

 




イ・ウーでの戦いでブラドの異常な耐久、理子の体力から考えるに、ジャンヌもタフだろうと思って25ミリを撃ったという事です。

理子は自分の計画の詳細は言っていない・・・。なので偶々、あってもしょうがないよね!!



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狼に轢かれるのはないわ・・・

大学の授業、バイト、のために遅れました。一週間に1話をノルマにしよう。




さて、我が部屋に大量の住民が住むことになった翌日。一般授業が終わった後、理子が教室に来た。

「たっだいまぁー!!」

いつも通りのフリフリ制服で現れた理子にわぁーー!!とクラスの皆はすごく盛り上がった。理子=武偵殺しということをみんな知らないからだ。武偵少年法によって未成年の武偵が犯した犯罪の情報は公開されない。全く、完全に悪法だろ。ついでにクラスの認識では4月からアメリカで依頼を受けて、昨日帰ってきたということになっているようだ。

「みんなー!!おっひさしぶりー!!りこりんが帰ってきたよー!!」

理子は教壇にあがりくるっと一回転のあと決めポーズ、するとAクラスの一部が理子に集まる。ついでに腕を振りながら「りこりん!!りこりん!!」と言っているやつまで・・・。

「みんな寂しかったかなー?」

( ゚∀゚)o彡゜りこりん!りこりん!

・・・帰ろう。このクラスより部屋のほうが落ち着く。

 

 りこりん事件の翌日、中間テストが行われた。午前中にやった一般科目については前世からやっているし楽勝であった。そして昼休みを挟み、午後はスポーツテストに。やることは普通の50メートル走や反復横跳びなどのテストだけど・・・試験監督やっている先生たちがおかしい。

 香港マフィアの愛娘、「死ねや」が口癖、試験監督中もM500と斬艦刀を振り回す蘭豹先生。この時間もタバコのようなものを吸ってラリっている綴先生。背後に立ったからと言って、生徒を手刀で骨折させた南郷先生。声は聞こえているけど姿が見えないチャン・ウー先生。・・・こいつらと比較すれば、教師をやっている師匠、エジソン、ベオウルフが普通に見えてくるから驚きだ。

「イブキ、この成績はどういう事だ。手を抜いているだろう。」

師匠が俺のところに来て成績について尋ねてきた。

「イヤイヤ、魔力使ったら不味いくらいはわかりますよ。それにある程度手抜かないと部活の勧誘があるんですよ。」

「それにしてもこの成績はなかろう。最近修行をしていなかったせいか、何度も病院へ入院していると聞いている。たるんでいるのではないか?」

なんか嫌な空気に・・・。するとベオウルフがこっちに来た。

「最近、イブキに構ってもらえないからって機嫌が悪いんだ。たまには修行に付き合ってやれよ。あと、俺もたまには殴り合いしようや。ここの生徒は教えがいはあるっちゃあるが、楽しめる奴はほとんどいなくてよ。」

そう言った瞬間、ベオウルフに槍が飛来・・・。

「アブねぇ!!じゃあな!!」

流石は叙事詩『ベオウルフ』の主人公、何とか槍を躱し逃げていった。

「久しくやっていなかったからな、趣向を凝らしてあれこれ用意してみた故、一歩間違えば命は無いと思え。」

俺は師匠に首根っこをつかまれた。

「ちょっと待って、顔赤くして言うセリフじゃないですよ!?ちょ、エル、ネロ助けて!!」

そこに偶々通りかかったエルとネロに助けを求めたが・・・。

「そうだね、最近入院も多かったし鍛えなおしたほうがいいんじゃないかな。」

「俗に言う‘‘でぇと’’というものではないのか?」

ネロさん、なんでそう思いますか!?

「さて、行くか。最近新しい女もできたしな。」

「いや!?それ関係ありませんよね!?」

 

 修行が終わり何とか部屋に帰ってきたとき、エルがニコニコしながら俺に近づいてきた。

「イブキ、一緒にこの任務を受けてほしいんだ。」

そう言って紙を俺に差し出した。

「ん?コックと庭師の任務?」

紙にはコックと庭師の募集があった。

「うん、二週間程度で2単位だね。」

「なんで俺なの?コックならリサのほうが向いているんj・・・」

「僕と一緒なのは嫌かい?」

そう言ってエルは瞳孔が開いた。

「ま、待って。ほら、俺はエルと一緒にやりたいけど料理そこまでうまくないし、ね?」

「大丈夫さ。条件は肉の串焼きができることだけだそうだよ。」

・・・確かに単純な料理だけどさ、単純だからこそ難しい物があるんだぞ。それでいいのかよ。

「わかった。いつからやればいいんだ?」

「四日後からだって。衣服は向こうで支給されるそうだよ。じゃぁ、僕は申請してくるね。」

そう言ってエルは瞳孔を戻し、ニコニコしながら部屋を出ていった。だいぶ嬉しがっているな。

 

 次の日、おれは救護科棟の近くにいた。矢常呂先生の定期健診があるためだ。俺はあの誤診の後、一ヵ月に一回定期検診を受けるよう矢常呂先生に言われた。先生曰く

「サボったらスカサハ先生か、ベオウルフ先生に連れてきてもらうから。」

おかげでサボれなくなりました。ついでだ、リサも救護科に入ったから、リサの様子でも見ようかな~なんて歩いていると

ガシャーン!!

という音がした。俺は走って音のしたほうへ行くと、割れた窓ガラスと、茂みに隠されている武藤のバイクを見つけた。武藤がのぞきに失敗した?それにしては銃声が聞こえないけど・・・。俺は不思議に思い、部屋を覗くと・・・めちゃくちゃ大きな狼がこっちに突っ込んできた。

「は?ってま、グハッ!!!!!!」

体重が100キロを優に超える狼が俺を跳ね飛ばし、どっかへ逃げてしまった。チクショウ胸が特に痛い・・・肋骨でも折ったか?

「追いなさいキンジ!!先生はあたしたちが手当てするわ!!」

「使えキンジ!!そこの茂みの向こうにある!!」

そういう話声が聞こえた後、キンジが窓から飛び出してバイクにキーを差しこみ、キックスターターでエンジンをかけ始めた。

「よぉ、キンジ。狼なら向こうへ行ったぞ。」

「わかった・・・ってイブキ!?お前何してるんだ!?」

「あぁ、ちょっと狼に轢かれてな。全くついてねぇ。」

そんな話をしていたらレキが下着姿でバイクに二人乗りをしてきた。

「レキ!?戻れ!!防弾制服を着ろ!!」

キンジが焦ったようにレキに言う。流石に下着姿のレキと二人乗りとか噂になったら最悪だよな。

「あなたでは、あの狼を探せない。」

まぁ、レキの目じゃないときついものがあるかもしれない。

「おいレキ、これ着ていけ!!」

俺は制服の上着をレキに投げ渡した。

「ありがとうございます。」

そう言ってレキは俺の制服に腕を通した。

「しっかり捕まってろよ!!」

キンジがそう言った後、バイクは加速し始めた。まぁ、あの二人ならスタジオ・シブリの犬神みたいな狼をちゃんと処分してくれるだろう。・・・うん、とりあえず検診と、治療を受けに行くか。

 

 矢常呂先生の診断の結果、あばら三本の骨折と打撲だそうだ。今日明日と入院すれば問題はないらしい。・・・まぁ、ガトリングよりはよかったと思おう。そうじゃないとやってらんねぇ。

 俺は診断の後、衛生科と救護科の生徒達十数人によって速攻ベッドに縛られた。俺は病院抜け出しの常習犯であるための措置であるらしい。おい、俺が何かしたか?

リサの説得のおかげでベッドに鎖と手錠、足枷での固定はなくなり、病室(牢屋の間違いでは?)に軟禁になった。

 次の日、リサから朝食と弁当を扉についている小さな窓から届けられた。朝食は御飯、納豆、サケの切り身、漬物、味噌汁だった。相変わらずうまい飯を作ってくれる・・・。

 昼のチャイムが聞こえ、楽しみの弁当でも開けようとした時だった。

「抜け出しの常習犯だから牢屋に入れられているのか。情けないな、イブキ。」

俺は声がした方向を見ると、そこには小さな監視用の窓からこっちを覗いているジャンヌがいた。

「よぉ、学生のコスプレか?やけに似合っているじゃないか。」

ジャンヌは東京武偵高の制服を着ていた。まぁ、司法取引だろう。だけど、こいつをからかうと面白い。

「うるさい。私とて恥ずかしいのだぞ?・・・未婚の乙女はみだりに足を出すものでない。」

ジャンヌは顔を赤くし、そっぽを向きながら言った。

「俺は似合っていると思うけどなぁ。そういえばフリフリした奴がいいんだっけ?それなら理子かリサに言えば何とかなるだろ。今度頼むといいぞ。イ・ウーでは制服は必要ないよな。」

ジャンヌはキレイな銀髪にほりの深い顔、すらっとした背、これだけの素材があれば何でも似合うだろうに。

「ほぉ、イ・ウーのことを知りたいか?」

ここに来るってことは、イ・ウー関係のことを教えようとしている、それぐらいしか考えられんのだけどな。まぁ、乗ってやるか。

「まぁな。ある程度は知ってるが、情報源が信用できなくてな。」

この世界は、歴史も変わっているし、他作品ともクロスしている。それに記憶もあいまいだしな。

「イ・ウーは知っているだけで身に危険が及ぶ、国家機密だからな。計画を破綻させ、捕まえ、しかもファーストキスさえ奪った貴様に情報を与え、破滅させてやりたいとは思うが、何もかも話すわけにはいかんのだ。」

「おい、ファーストキスの件は事故だ。ノーカンだ。・・・司法取引に、情報次第でお前を狙うやつもいるんだろ?言えないことは言わなくていいぞ。」

こいつ、まだ根に持ってやがる・・・。

「まぁ、答えられる範囲で答えてくれ。イ・ウーは伊号潜水艦の‘‘伊’’とUボート‘‘U’’がもとだよな。」

「そうだ。」

「イ・ウーではお互いが生徒であり先生だ。互いが得意なものを教えあう。例えばお前は作戦立案を、理子が変装術を・・・ってとこか?」

「その作戦立案もお前のせいで破綻してるがな。」

ここまでは合っているか。

「若干、イ・ウーからは話がそれるが、理子はイ・ウーのナンバー2のブラドによって監禁されていた。あいつはブラドから自由を得るために強くなろうとした。合っているか?」

すると、ジャンヌは驚いた顔をした。

「イブキ、貴様よく知っているな。そうだ、リュパン家は理子の両親が死んだあと没落した。理子は‘‘養子にとる’’と騙されルーマニアにわたり、長い間監禁されたのだ。」

良かった、俺の知っている通りか。ブラドが人間に擬態できる能力とか持っているって記憶にあるけど、それ以上はジャンヌも言えないか。

「ジャンヌ、ありがとな。情報が合っててほっとしたよ。」

「そういえば、理子を護送車から脱走をさせた後、寝言で‘‘ゴメンナサイ・・・イブキ・・・ゴメンナサイ’’と散々言っていたが、何やった?」

「いや、俺やられたほうなんですけど・・・。って、テメェか!!護送車襲撃した奴!!俺が瀕死になってまで捕まえたのに逃がしやがって!!俺の努力と苦労を返しやがれ!!てやんでぇ!!」

そういうと、ジャンヌは俺を馬鹿にしたような目で見た。

「よかったではないか、責任も取らずに乙女のファーストキスを奪ったのだ。まだ足りないくらいだろう?」

この野郎・・・。俺は監視窓に手を入れ、その手でジャンヌを顎をクイッと持ち上げた。

「なら、俺がファーストキスの責任を取るって言ったらどうする、ジャンヌ?」

そう言ったら、ジャンヌは顔が再び赤くなった。少し経った後、ジャンヌは俺の手を払い、窓から拳銃を入れて発砲しだした。

ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン

「ふ、ふざけているのか貴様は!!」

「ちょっと待て、俺丸腰、丸腰だぞ!!」

防弾制服を着ていたおかげで、貫通はしなかったからよかった。

「貴様のような醜男などいらん!!」

そう言ってジャンヌは怒って帰って行ってしまった。あんな歯が総入れ歯になりそうなセリフは俺に合わないけどさ・・・醜男はないよ。俺だって傷つくんだぞ。

 

 

 

 

「あぁーーーーー!!!!弁当が!!!!」

ジャンヌの銃撃のせいで、弁当が見るも無残な形になってしまった。ただ、幸運なことに料理があまり床にこぼれていないのが救いか・・・。ただ中身はシェイクされた状態になっていて、何が入っていたのが区別ができない状態になっていた。そんな状態でもおいしかったです。

 

 

 

 

 




ジャンヌに地下倉庫で一方的に25ミリを撃ったイブキは、病室でジャンヌに一方的に撃たれる。



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空港の時より嫌な予感がする・・・

2万でネロ・ブライトは無理でした。


 ジャンヌ発砲事件から数時間後、俺は牢屋から解放された。

「ただいまぁ~」

「おかえり、イブキ。」

俺が部屋に帰ると、玄関にエルが立っていた。

「イブキ、明日だから。」

もしかして、確認のためにずっと待っていた?いや、そんなことはないよな。

「わかってるよ。神奈川だっけ?」

「そうだよ。」

エルの目が輝いているように見える。

「神奈川の紅鳴館だっけ?ちゃんとルート調べておくから。」

「頼むよ。」

エルはそういうと俺の手をつないでリビングに連れて行った。そこまでうれしいですかエルさん。

 リビングに入ると、キンジとアリアが明日の予定を相談していた。なんか、「執事が・・・メイドが・・・」って聞こえるけど・・・。そういえば原作だと、執事とメイドをどこかでやるんだっけ?ま・・・まぁ、まさか紅鳴館じゃないだろう。きっとそうだ、そうに違いない。

 

 次の日、キンジとアリアは多めの荷物を持って何処かへ出かけてしまった。何でも理子と一緒に任務らしい。きっと理子の作戦とやらが始まるのだろう。

「イブキ、そろそろ行こうか。」

エルがボストンバッグを持って俺に言ってきた。

「じゃ、俺らも行きますか。」

俺は車のキーを手の中で回しながら、もう一方の手で荷物を持った。一応、肉の串焼きの作り方をネットで調べ、リサにマンツーマンで教わったから大丈夫なはず・・・。

 例の紅鳴館は横浜の郊外にあるらしい。で、俺は指定された住所に来ているんだが、何かおかしい。そう、そこはうっそうとした森なのだ。これ絶対ふざけてるよね。

「エル?本当にここか?」

「言われた住所はここなんだけど・・・あれ?アリアとキンジがいる。」

エルの指さした方向を見ると、そこにはアリア、キンジ、そしてキンイチさん(女装Ver)がいた。え?なんでキンイチさん?ってよく見ると胸がでかくなってるし、厚底靴も履いてる・・・。キンジもあまり気にしてないから、これは理子が変装でもしているのか?

 俺は門の前に車を止め、エルと一緒に車を出た後、キンジ達に話しかけた。

「よぉ、まさかここで会うとはなぁ。ところでここ、紅鳴館でいいのか?」

「あ・・あぁ。なんでイブキがいるんだ。」

キンジが驚きつつも答えてくれた。

「いや、俺とエルがここでコックと庭師の任務があってな。もしかして、最近執事だ~メイドだ~なんていってたけど、ここでやるのか?」

俺達は門から玄関まで歩きながら話していた。

「まさか一緒の場所で任務とはなぁ。こんな偶然なかなかないな。」

「コックはともかく、庭師はここに必要ね。」

うっそうとした森、茨が絡まっている鉄串の柵、薄気味悪い霧、時々横切る蝙蝠・・・。これは必要ですわ。

「何でここにイブキがいるんだ!?なんでまた私の計画に関わる!?」

キンイチさんに化けている理子が苦虫をこれでもかというくらい噛んだような顔をして言った。

「イブキ。そんな約束をしていたのかい?」

エルは首をかしげながら俺に聞いてきた。

「いやいやいや。俺もさ、さすがにあそこまで言われたら関わろうと思わなかったよ!!でも、その肝心の計画を知らないんだぞ!!まさか一緒に紅鳴館で仕事するなんて思いもしなかったもの!!」

どこで何やるって聞いてないから、関わるなって言われても難しいものがあるぞ。それに原作知識なんて、あてにできないand忘れてきてるしで使えないし。

 屋敷の前に着いた。玄関もまた気味悪い形をしている・・・。

「はぁ、計画が破綻しそうな気がする・・・。いいか!?イブキ!!計画に絶対関わるな!?」

理子は俺に詰めよってきて言ってきた。

「あ、あんた。さすがにそこまで言わなくてもいいんじゃないの?イブキもあんたのお母様の形見を取り返す計画に入れたらいいじゃない。」

ナイス、いい助け舟だアリア。そうだもっと理子に言ってやれ!!

「ナカジマプラザ、ジョン・F・ケネディ空港テロ事件、三角諸島沖に北方漁船襲撃事件、それに武偵殺しに魔剣・・・。これら全てイブキのせいで計画が破綻している。それでも関わるなと言うなというのか?」

一同、シーンと静まり返ってしまった。・・・俺そこまで疫病神と思われてるのかよ!?まぁ、確かに言われると否定できないけどさ。

「いやね、理子のハイジャック以外は全部偶然だからね。ほら、安心して。」

「でも、今回も偶然一緒に出会ったんでしょ。」

アリアさん。それいったら終わりよ・・・。

ガチャ

玄関のあく音がして、理子は急いで猫をかぶった。

「初めまして。正午からで面会のご予定をいただいております者です。本日よりこちらで家事のお手伝いをさせていただく、ハウスキーパー2名を連れてまいりました。」

「こんにちは。お聞きかと思いますが、庭師とコックを一時的にさせていただくものです。」

俺と理子がそう言ってドアを開けた人物を見ると・・・そこには小夜鳴先生がいた。は?なんでここにいるんだ?

「い、いやー。意外なことになりましたねぇー・・・あははー・・・。」

小夜鳴先生は笑っていたが、瞳の奥底では「計画通り」とでも言いそうに見えた。きっと気のせいだと思うが・・・。

 

 俺たちは小夜鳴先生に連れられて館の中に入った。館のホールには「狼に槍(?)」の模様が描かれた旗が飾られていた。家具は全体的に年代物、しかも色褪せていると来た。これは気味悪い。

「いやー、武偵高の生徒さんがバイトですかぁ。まぁ正直な話、難しい仕事ではないので誰でもいいと言えばいいんですが・・・ははっ。ちょっと、気恥ずかしいですね。」

小夜鳴先生は腕にギプスをつけていた。何でも、救護科棟に突撃してきた狼にやられたそうだ。そして、俺達をソファーに座らせた後、小夜鳴先生は座った。

「小夜鳴先生、こんな大きなお屋敷に住んでいたんですね。びっくりしちゃいましたよ。」

キンジが努めて平静を装って言っているけど、動揺してるのバレバレだぞ。

「いやー、私の家じゃないんですけどね。私はここの研究施設を借りることが時々ありまして、いつの間にか管理人のような立場になってしまっていたんです。ただ・・・私はすぐ研究に没頭してしまう癖がありますからね。その間に不審者に入られたりしたら、あとでトラブルになっちゃいますから・・・むしろ、ハウスキーパーさんにコックさん、庭師さんが武偵なのは良いことなのかもしれませんね。」

小夜鳴先生は予定通り、俺達を雇ってくれるようだ。でも、なんか俺の勘が怪しいって言ってるんだよなぁ。あのジョン・F・ケネディ空港であったグレーン少佐の時より悪い感じがする・・・。

「私も驚いております。まさか偶然、学校の先生と生徒だったなんて。」

そういえば理子、お前、派遣会社の人間を装っていたんだな。

「ご主人様がお戻りになられたら、ちょっとした話のタネになりますね。まぁ、この4人の契約期間中にお戻りになられれば・・・のはなしですが。」

あれ?小夜鳴先生って管理人(仮)なんだよな。ということは主人であるはずのブラドが帰ってきたら、いない間に何があったかの報告くらいはするはず・・・。なのに、なんで契約期間中に帰ってこないと、話のタネにならないんだ?一回ヴラドに会ったが、しゃべるのが嫌いor無口ではないはず・・・。これまた怪しいな。

「ご主人はいつお戻りになられるのですか?」

理子がさりげなく確認したところ、

「いや、彼は今とても遠くにおりまして。しばらく帰ってこないみたいなんです。」

俺はこの時、小夜鳴先生の答え方がよそよそしく、そして俺達と自分に言い聞かせるように言ったように感じた。やっぱり怪しい・・・。

「ご主人は、お忙しい方なんですか?」

理子がさらに尋ねる。

「それが実は、お恥ずかしながら・・・詳しくは知らないんです。私と彼はとても親密なのですが・・・・・・直接話したことが無いものでして。」

と苦笑いをして小夜鳴先生は言った。絶対に怪しい。親密なのに、直接話したことがない。直接話したことが無いということは、会う事すらないorほとんどないということだ。それなのにヴラドは小夜鳴先生に屋敷の管理をさせている。絶対にありえない・・・。まて、話さなくても屋敷の状態が分かるのなら、直接話さなくてもいいかもしれない。だけど、どうやってわかるんだ?監視カメラの類は一切なかった。じゃぁ、どうやって屋敷の情報が分かるんだ?カット。

 これ以上考えると迷宮入りしそうな感じがしたため、これ以上の考察はやめた。まぁ、とりあえず分かったことは、面倒ごとにまた巻き込まれた、という事か・・・。神棚に捧げてあるワンカップを四合ビンの高級酒に変えたほうがいいかな・・・。そういえばあのワンカップ、蓋開けてないのに一週間で空になってたんだけど・・・。カット

 

 理子が去った後、俺達は二階へ案内され、部屋をあてがわれれた。

「すいませんねぇ。この屋敷の伝統といいますかルールで、ハウスキーパーさんとコックさん、庭師さんは全員制服を着ることになっているんです。昔に仕立てられた制服がそれぞれの部屋にあって、サイズも色々ありますから、選んできてくださいね。仕事については、前の人達が簡単な資料を台所に置いておきましたから・・・適当にやっちゃってください。」

そう言って小夜鳴先生は笑うが、瞳の奥ではやはり笑っていない。

「で、申し訳ないのですが私は研究で多忙でして・・・地下の研究室にこもり気味の生活をしてるんです。ですから、お二人と遊んだりする時間はあまりとれないんです。ほんと、すいませんねぇ。」

地下で研究・・・ようは何やってるか、こっちは小夜鳴先生に気づかれず何やっているかを知ることは難しいか・・・。

「暇なときは・・・そうですねぇー・・・あ、そこの遊戯室にビリヤード台があるんですよ。それで遊んでて結構です。誰も使ってないから、ラシャもほとんど新品なんです。」

そう言って、小夜鳴先生は一階ホール脇にある薄暗い遊戯室を示した。

「それじゃぁ早速ですが失礼します。夕食の時間になったら教えてくださいねー。」

そう言って小夜鳴先生は地下室へ行ってしまった。

 

「なぁ、エルさんや。」

「どうしたんだい、イブキ。そんな口調で。」

「面倒なことに巻き込まれたねぇ。」

エルは首をかわいらしく傾げた。エルは面倒ごとに巻き込まれたって気づいてないな。・・・まぁ、ただの考えすぎで終わることを祈ろう。俺たちはあてがわれた部屋に入り、制服を着ることにした。

 

 

俺はコックなため、普通の白いコックの服だった。キンジやアリアも、普通の執事とメイド(?)さんだった。廊下でお互い、似合っているなぁ、とか、さすがにそれはないわ、など話していると、エルが部屋から出てきた。

「似合っているかな?」

そう言ってエルはくるっと一回転。でもその服装は・・・「紅鳴館」と書かれた紺のハッピ、紺の乗馬ズボン、地下足袋だった。

「・・・うん・・・似合ってるよ。」

「そうかな。」

そう言ってエルはにっこりと笑顔を見せた。誰だよ!!この制服にしたやつ!!!

 




次回にはヴラドの戦闘に入ってほしいなぁ・・・。

あぁ・・・マクレーのおっさんを書きたくてウズウズする・・・。

あと、Fate×ドリフも書きてぇ・・・



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ここまで怪しいとか逆にすごいな・・・

スランプに、バイト、艦これにFGOのイベントが重なりほとんど進めませんでした。すいませんでした。


俺達がこの紅鳴館に到着してから七日が過ぎた。うん・・・完全に暇。俺の仕事は小夜鳴先生に朝と夜に肉の串焼き(これだけでいいらしい、米食えよ!!)を出す、あとキンジ、アリア、エルにご飯(朝昼夜の三食)を作るそれだけ。

エルは時間があるから、ということで鬱蒼とした森に間違えた庭を日本庭園に変えて時間を潰している。ここ洋館なのに、なぜ日本庭園なのかと尋ねたところ、

「日本庭園のほうが、植物たちが伸び伸びできていいからね。」

だそうだ。小夜鳴先生に許可を取ったので木を伐採し、石を置き・・・と結構楽しんでいる。小夜鳴先生は最初冗談だと思っていたみたいだが、翌日木を伐採し、池を作っているところを見て苦笑いしていたのは見間違いではないと思う。

 キンジとアリアは作戦のために信用を得ようとしているのか、広い館を隅から隅まで掃除、洗濯をしている。なので、この館で俺だけが暇なのだ。

 そこで俺は暇な時間、この屋敷のことや小夜鳴先生のことを調べていた。すると、色々なことが分かってきた。到着してから五日目までは、監視カメラの類は地下への廊下にしかないことが分かった。(六日目以降から監視カメラが増えた。)また、小夜鳴先生は京大卒と聞いていたが京大に問い合わせたところ、そのような卒業生はいないと返答された。なので、小夜鳴先生に変装し役所で戸籍をもらってきて、出生地の役所に出生届があるかどうか聞いたところ、

「小夜鳴 徹 さんの出生届はありませんね。」

と帰ってきた。

怪しさいっぱいである。

 これらの材料が集まった昨日の夜、ある仮説がひらめいた。「小夜鳴=ブラド ではないか?」という仮説だ。

小夜鳴先生の話から、ブラドはこの横浜の郊外の屋敷にはある程度は戻ってくるようだ。だが、あの巨体の毛むくじゃらがここを出入りすればSNSなどで話題になるのではないか?車で隠れて館に来ているならバレないが、屋敷のタイヤ痕を調べると俺の車と小夜鳴先生のクラウンのタイヤ痕しかなかった。(後日、小夜鳴先生に聞いたところ、今までの人たちは電車で通勤しているらしい)だけど・・・、もし「小夜鳴=ブラド」ならお互い話したことがないのも分かる、会ったことがないのも分かる、すべてが説明つく・・・。人化はどこかのやつに教えてもらったとすれば説明がつく。・・・・・・面倒なことになった。

「イブキ、できたか?」

「ん?あぁ、後はわさび擦って、肉炙るだけだ。」

「イブキ、深刻そうになにか考え事してたみたいだけど・・・相談にでも乗ろうか。」

キンジに心配されるほど考えていたか。

「いやぁ・・・こいつぁ面倒なことに巻き込まれたなってな。」

「盗人計画に巻き込まれるのは、災難だよな。」

「まったくだ。あとでこいつで一杯やるかい?」

俺はそう言って、一升瓶を持ち上げた。

「イブキ!!武偵は‘‘女、酒、毒’’に気をつけろって教わってないのか!?それに俺らは未成年だろ!!」

キンジは焦ったように言った。

「まぁまぁ、冗談だって。あと五分もしないでできる。もうちょい待ってくれ。」

俺はそう言ってキンジを追い払った。武偵は大変だな、酒の一杯にも気をつけなきゃいけないなんてな。

実は未成年の軍人(正確には軍属)は16歳以上であれば軍医の診断次第で飲んで良いことになっている。(酒の味も知らずに死ぬのはかわいそうだろう、という事らしい)だけど買うことはできない。だから、最近ご無沙汰だったんだけど、この台所には沢山の酒が置いてある。引き継ぎ書には、「台所にある物は好きに使っていい」と書いてあったために色々と拝借している。(俺が死んだらもしかしたら返す)「マッカラン1926 60年物」と「グレンフィディック1955 55年物」のウイスキーを見つけた時は驚いたね。前者は600万、後者は810万もするんだ。今、旅行中のコックさんに電話したら

「やけに古いビンだったから捨てようと思ってたんだ。よかったらあげるよ。」

これを聞いた瞬間、俺は急いでバックの中にしまった。後日、ゴミ箱の横に置いてあった「1762 Gautier Cognac」(三世紀前のコニャック、一本650万)を見つけた時は、前のコックは全く知識が無いんだな、なんて思ったっけ。

「キンジー、運んでくれー。」

俺はキンジを呼び、小夜鳴先生以外の夕食を作り始めた。

 

 最終日の夕方、キンジとアリアは作戦を実行したようだ。アリアが小夜鳴先生と外で話している間にキンジが盗むということをしていた。二人はその作戦が終わった後、二人は即座に帰った。おい・・・小夜鳴先生が帰っていいよって言った瞬間、すぐ帰ったよこいつら・・・。俺とエルもキンジ達が帰った後、荷物を片付けて、車に乗った。

「いやぁ、助かりましたよ。ありがとう。」

小夜鳴先生がワザワザ見送ってくれるようだ。

「すいません。串焼き作るだけでこんなに(お酒を)もらっちゃって。」

俺は結局、20本くらい酒を頂戴した。いやぁ~、あんな高級酒をありがとうござます。

「いえいえ、(給料は)これくらいが正当なんですから。」

「そうですか?では(酒を)有難く頂きます。では、失礼します。」

俺とエルを乗せた車は、洋館と日本庭園がある敷地から出ていった。

 敷地から出て少しした後、GPSでキンジ達がどこにいるかを調べた。キンジ達が帰るときに、俺は二人に発信機を着けておいた。紅鳴館を昨日調べたところ、警備はさらに厳重になっていたが、不自然に警戒していないところがあった。これは絶対怪しい。こいつはワザとその形見とやらを盗ませようとしているに違いない。ということは、あの3人が危なくなるだろう。それらのことから、俺は二人を追いかけることにした。

「イブキ、何しているんだい?」

エルがカーナビを覗いてきた。

「いやぁ、実は・・・」

おれはここで初めてすべてを説明した。

「・・・というわけで、二人を追おうと思っているんだ。」

「イブキ・・・なんでもっと早く、僕に教えてくれなかったんだい?」

エルが頬を膨らまし、俺に言った。

「いや、今も確信はしてないよ。あくまで保険だよ保険。無駄な気遣いでよかった、で済めばバンザイですよ。あとね・・・もしかしたら、そいつがガトリングを俺にぶっ放した原因のやつかもしれなくてね・・・。」

そう言った瞬間、車の中に殺気が一気に充満した。

「フフフフ・・・。」

「・・・エルさん。こうなるかもしれないと思って言わなかったのよ。それにあくまでも憶測だからね?」

すると、エルは殺気を出さなくなった。

「さて、キンジ達は横浜に向かっているようだな。」

俺は横浜へ車を走らせた。

 

 キンジ達のGPSの移動が止まった。止まった場所はランドマークタワー。

「人目がないところは・・・・屋上くらいか。じゃ、エル一緒に行こう。」

「わかったよ。」

エルはうれしそうに俺の手を握った。あれ?俺、手出してないんだけど・・・。

 屋上にはキンジとアリア、理子がいた。

「この十字架はただの十字架じゃないんだよ。これはお母様が、理子が大好きだったお母様が‘‘これはリュパン家の全財産を引き換えにしても釣り合う宝物なのよ’‘って、ご生前にくださった・・・一族の秘宝なんだよ。だから理子は檻に閉じ込められてた頃も、これだけは絶対にとられないように・・・ずっと口の中に隠し続けてきた。そして・・・」

理子の髪はまるで意思を持つように動き始めた。

「イブキ、彼女が原因かい?」

「いや、理子じゃない。」

俺がそう言った瞬間

バチッ!!!

雷のような音が聞こえた。音が鳴った後、理子は倒れ、後ろに小夜鳴先生がいた。

「遠山君、神崎さん。ちょっとの間、動かないでくださいね。」

小夜鳴先生は拳銃を抜き、倒れた理子へ銃口をむけた。これは・・・当たりか?

「前には出ないほうがいいですよ。お二人が今より少しでも私に近づくと襲うように仕込んでありますので。」

小夜鳴先生の後ろから狼が2匹出てきた。これは面倒だな・・・。「影を薄くする技」は匂い誤魔化せないぞ。

「イブキ、あいつかい?」

エルが訪ねてきた。

「まだ確定じゃないけど、黒に最も近い灰色。原因の姿は2本足の獣だけど、もしそいつが人化できるなら確定だ。エル、いつでも襲撃できるように配置に着こう。」

エルは小夜鳴先生の正面に隠れて待機、俺は後ろ側へ移動し「影の薄くなる技」を使った。

「教育してあげましょう、4世さん。人間は、遺伝子で決まる!!優秀な人間は、いくら努力を積んでも・・・すぐに限界を迎えるのです!!今のあなたのようにね!!」

そう言って小夜鳴先生は理子の胸元から十字架を奪い取った。そして明らかに偽物であろう安物の十字架を口に押し込む。俺はその瞬間、狼を襲った。狼たちは、匂いはあるが姿が見えないせいか狼狽していた。おかげで楽に気絶させることができた。

「い、いい加減にしなさいよ!!理子をいじめて何の意味があるの!?」

アリアが叫ぶ。チクショウ!!小夜鳴=ブラドの証拠さえ掴めれば理子を助けられるのに!!

「絶望が必要なんです!!彼を呼ぶにはね。彼は絶望の詩を聞いてやってくる。この十字架も、ワザワザ本物を盗ませたのは・・・こうやって小娘を一度喜ばせてから、より深い絶望に叩き落とすためでしてね。ついでに、‘‘不死の英霊’‘のおかげで計画が破綻したところを楽しもうと思っていたんですが、彼は何もしませんでしたね。全く見当違いです。・・・まぁ、これだけでもいい感じになりましたよ。」

あの野郎、俺は計画を破綻させるための人間かよ!!今までのは偶然だぞこの野郎!!小夜鳴先生がまたしゃべりだした。

「遠山君、よく見ておいてくださいよ・・・」

小夜鳴が話に集中している。俺はその隙に理子を回収した。

 

「理子!!大丈夫か!!」

俺が「影の薄くなる技」を解き、話しかけた瞬間、理子は目を思いっきり開け驚いた。

「イ・・イブキ・・・どうしてここに・・・。」

「小夜鳴が怪しいと思って念のためついてきたらこうなってたんだよ!チクショウ!!」

そう言って俺は理子の脈を計ったが正常・・・よかった。俺は小夜鳴のほうを見た。まだあいつしゃべってる・・・。

「脈は正常だけど、後で病院行けよ。それにしても、あんな猛獣用のスタンガン喰らって無事ってのはすごいな。」

すると理子は俺を睨んだ。

「なんで・・・追ってきた・・・。無視しても・・・いいはずなのに・・・。わ、私は・・・お前を殺そうと・・・。」

「てやんでぇ、それはもうチャラだろうが。それに友達が心配で来ちゃ悪ぃか、べらんめぇ。・・・友達じゃねぇとか言うなよ。すごく悲しくなるから。」

こんなセリフ言って、友達と思ってないとか思われたら悲しいものがあるから・・・。

「理子、これからどうするんだ。計画は破綻、約束は守られない。このままだと、ずっとブラドに縛り付けられたままになるぞ」

「・・・・・・」

だんまりかよ・・・。

「俺は今、結構頭にきてる。あいつは、家族に親友虐めてたって聞きゃぁ頭に来ないほうがおかしい。だから、俺はブラドにちょっと挨拶しに行きてぇんだ。だけど理子、お前ブラドに恨み辛みあるだろ。どうする?そこで引きこもっているか、それとも一緒にやりに行くか。」

「なんで私にそこまでする。」

普通に話せるようになったようだ。回復早いな。

「友達だから・・・っていうのじゃ納得しないよな。お前、一緒に東京湾泳いだ時、いつでも俺をやれたはずだろ?なのに何もしなかったから・・・。あと一年の時の貸し、まだ返してもらって無いだろ?これでも足りないか?」

俺は一年の頃、任務で2〜3回ほど理子と組んだ。その時、理子が爆発に巻き込まれたが俺が間一髪で助け出した。その時の事を貸しにしておいた。

「安心しろ。引きこもっていても、ちゃんと形見は返してもらうかr・・・

「イブキ、あたしに協力しろ!!」

理子はバッと立ち上がり、その、力強い瞳で俺を見た。

「親友の大事なものが盗られたんだ。協力しろ。」

「てやんでえ!!あたぼうよ!!」

 

 

「でもイブイブ。理子はまだ処女で初恋もまだだからね。」

「こんな状況で下ネタ言えるとは・・・お前、だいぶ元気だな・・・おい。」

 




理子がとても難しく、理子との話でだいぶ難航しました。

艦これの占守だけが出ない・・・・・・なぜ・・・・・


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俺は計画破壊の疫病神じゃねぇ・・・

艦これとFGOのイベントが終わった!!!

艦これは最終日の午前4時になんとか占守を落としました。(その日は睡魔が猛攻を振るったのは言うまでもない。)

FGOはキアラピックアップを引いたところ孔明が・・・。ピックアップすり抜けは初めて何で驚きました。











「よぉ~ブラド、久しぶりだな。あんなにしても生きてるとか、正真正銘の化け物だな。」

俺と理子はブラドの前に姿を現した。するとキンジとアリアが何やら驚いていた。

「あぁん、テメェになんか会ったことないぞ。」

あら、ブラドさん俺のことをお忘れのようで。

「覚えてないようだな・・・。全く、あそこまでやったのにな・・・。‘‘ジョニー・マクレーって言うんです。’’」

それを言った瞬間、ブラドが固まった。よし、影武者じゃないな。

「家族に親友と色々とお世話になったそうじゃねぇか・・・。‘‘やれ’’」

俺が言った瞬間、ブラドは胴体から黄金に光る鎖を生やした。

「さぁ・・・どこを切り落とそうか!!!」

エルさんがだいぶ張り切っているようで・・・。エルは自分の腕を刃にし、また鎖を使いブラドの再生よりも早く手足、首を落としていく。その様子を見ているキンジ、アリア、理子が引いているように見えるのは気のせいに違いない。よし、俺も行くか。

「おい理子、早くしないとお前の分がなくなるぞ!!」

そう言って俺は抜刀し、ブラドへ突撃した。

「首はいらねぇ!!命置いてけ!!命置いてけぇ!!!べらんめぇ!!」

 

 俺が切り刻み始めた時、理子は我に返ったようだ。理子は手に拳銃、髪にナイフを持ってこっちに来て、ブラドへのお礼(意味深)に参加した。少し遅れてアリアとキンジも援護射撃を始めた。

 俺、エル、理子でブラドにお礼(意味深)をし始めて10分程度たっただろうか、ブラドはミンチになっていても生きていた。

「いい声を聞かせておくれ。」

エルさんは張り切って(しかもいい笑顔で)ブラドを切り刻んだり鎖で拘束したりしているがこれでは埒が明かない。

「理子!!そういえばコイツの殺しk・・・倒し方はどうするんだ!!」

俺の生半可な知識より理子のほうが知っているだろう、そう思い俺は理子に聞いた。

「イブキ!?お前知らずにやってたのか!?それとナイフが壊れた!!何か貸せ!!」

理子が目を大きく開き驚いた。でも手を止めないのはさすがというべきか・・・。

「目玉模様を一緒に刺すってのは聞いたことはあるが、情報源が信用できなくてな!!それにミンチにしてればいつか殺s・・・倒せるだろ!!得物はこれでいいか!?」

俺は銃剣を渡した。理子は呆れたような顔をして受け取り、再び解体作業を開始した。

「・・・イブキの言った通り、目玉模様の場所にある魔臓を4つ同時に破壊すればいい!!」

「だそうだ!!エル!!」

「わかったよ。」

エルはそう返事をし、切り刻むのをいったん止め、4つの鎖を出した。そして4つの鎖は右肩、左肩、右わき腹、ブラドの首へ飛んで行った。

「くぁwせdrftgyふじこlp;@!!!」

ブラドは最後に聞きとれない悲鳴を上げた後、あちこちから血が大量に出て、静かになった。

 

「終わったな・・・。」

俺は「4次元倉庫」からティッシュを取り出し刀に付いた血を拭い、納刀した。

今回の戦いを俺なりに考察すると、ブラドの敗因は自分の耐久性に過信し過ぎていたことだ。ブラドは自分の弱点をなくそうとし、結果的に異常なほどの耐久力を得た。ゲーム風に言うと超高HPに毎ターンの異常な回復量、そして無限に近い残機持ちってところか。だけど、攻撃は力任せにしていたために俺達には当たらなかった。俊敏性も無かったから俺達の攻撃は当て放題だった。もしブラドが何かしらの武術を学び、俊敏性を少しでも上げていれば俺達は負けていたかもしれない・・・。でもこいつってイ・ウーのNo2なんだよな。ってことはシャーロック以外のイ・ウーのメンバーってそこまで強くないんじゃ・・・・カット。油断は危険だな。

ヘリの音が聞こえる。空を見上げると、神奈川県警のヘリが飛んでいた。これならワザワザ警察に連絡しなくても来てくれそうだな。

「あたしが散々苦労して作った作戦が・・・ハァ。イブキ、お前は疫病神じゃないのか?」

理子がため息交じりに言ってきた。

「俺は疫病神じゃねぇ!!・・・ったく、結果的に解放されたわけだ。ある意味、計画大成功じゃないか?」

俺のことを散々「計画破壊の疫病神」みたいなこと言っているけど、この程度の不測の事態くらい計画立案時に予想できるだろ。

「言われればそうかもしれないな。」

理子は憑き物が取れたような清々しい笑顔を俺に向けた。でも顔に大量の血が付いているために、その笑顔が怖い・・・。

「ほら、顔ふけ。せっかくの顔も血で台無しだぞ。」

そう言って俺は「四次元倉庫」からタオルを取り出し、理子とエルに渡した。このタオルは捨てなきゃ駄目か・・・。

「やったな理子。」

キンジとアリアがこっちに来て。理子に声をかけた。

「イブキ、警察呼んでおいたぞ。」

上空のヘリはキンジが呼んだのか。

「ありがとな、キンジ。」

すると、アリアが理子に話しかけた。

「なんか理子、初代を超えるだの超えないだのってこだわってたけど――あんた、いま、初代リュパンを超えたわね」

・・・半分以上はエルがやっていたけど、協同で倒したことになるよな。

「うーん・・・やっぱりこんなものか。イブキ、タオルありがとう。」

エルが俺にタオルを渡そうとした。しかし、エルの頰にはまだ血が・・・。

「エル、ちょっと動かないでね。」

「イブキ!?くすぐったいよ!」

俺は頰の血を拭ってあげた。

「ちゃんと拭けてなかったよ、エル。」

「ありがとう。」

エルの顔が少し赤くなったような気がしたが・・・気のせいだろう。

「ブラドのこと――感謝はしないよ、オルメス。今回は偶然、利害が一致しただけだ」

キンジとアリアは途中から援護射撃をしてくれた。・・・理子、お前照れてるのか?

「オルメス家がリュパン家の宿敵であることに変わりはない。永遠にな。」

うん、セリフだけならかっこいいのだけれど・・・タオルで顔を拭きながら言われてもなぁ。

「そうね。あたしもあんたなんかと馴れ合うつもりはないわ。で? あんた、これからどうするの。逃げようってんなら捕まえるわよ。ママのこと、尋問科にぶちこんででも証言させてやるんだから。観念しなさい――理子。得意の口先ももう通用しない。得意の双剣双銃をやろうにも、武器が無い。得意技を全部封じられたら、人間、何もできないものよ」

そういえば、理子のやつ持ってた弾全部使って、ナイフも折れたとか言って、俺から銃剣借りたんだっけ?あと、このブラドから奪った十字架、いつ返せばいいのか・・・。

「……神崎・ホームズ・アリア、遠山キンジ。あたしはもう、お前たちを下に見ない。騙したり利用したりする敵じゃなくて、対等なライバルと見なす。だから――した約束は守る。‘‘Au revoir. Mes rivaux.(バイバイ、ライバルたち)''あたし以外の人間に殺られたら、許さないよ」

「おい、待て。俺は!?」

俺の言葉を聞かずに、理子はビルから飛び降りた。俺は慌てて理子が落ちたところへ行き、下を見た。そこにはパラグライダーで夜の街を飛ぶ理子の姿が・・・。俺はポケットに手を入れ、入っていた十字架を出した。その十字架は偽物だった。理子、お前いつの間に取ったんだよ・・・。取られたの気づかないとか、鈍ったなぁ。

後日、宛先不明の荷物が届いた。中身は、新品のタオルと銃剣が入っていた。

 理子がパラグライダーで逃走してすぐ、警察が屋上に来た。若い警察官がミンチのブラドを見て吐いていたのは見なかったことにする。

 警察が来て、15分くらいたった時、俺たちの所に一人の老いた刑事が来た。その刑事はベージュのトレンチコートとソフトという格好で、コートとソフトの使われ具合から長い間現場に立っていたのであろうと推測できる。しかし、その刑事は頰が痩せこけ、大きな隈があり、死んだ魚のような目をしていた。何かとても悲しいことがあり、それを引きずっているように見えた。

「今日はもう遅い。君達の取り調べは後日やる。君達は武偵かな?君達の武偵手帳を見せてくれるかい?」

その刑事が渋い声で話しかけた。俺達は言われた通りに武偵手帳を見せた。

「ここにいたのは君達だけかい?」

「いや、もう一人いまして・・・うちの学校の峰理子っていう子なんですが・・・。」

俺が答えた。答えなくて後からなんか言われるのも嫌だし報告した。

「峰理子さんか・・・ん?峰・・・理子・・・。もしかして本名‘‘峰・理子・リュパン四世’’か!!!」

刑事が俺の肩を持ち、揺らしながら言った。

「そうです!‘‘峰・理子・リュパン四世’’です!!だから刑事さん揺らさないで!!」

それを聞いた刑事さんの目がランランと輝き始めた。そして敏腕刑事のオーラがではじめた。刑事さんは俺を離し、大きな声で叫び始めた。

「リュパーーーーーーーーン!!今度はお前の娘を逮捕してやる!!ちゃんと矯正させてやるからな!!覚悟しろよ!!!!」

「じっとしてる場合じゃない!!ここに3〜4人残して残りはリュパン逮捕に動け!!」

刑事さんは警察官達に命令した後、再び俺たちの所に来た。

「少年!!教えてくれてありがとう!!ありがとう!!!」

刑事さんは号泣しながら俺の手を握り、感謝し始めた。

「え・・・いや・・・頑張って下さい。」

「よし、リュパン逮捕へ出動だ!!」

刑事さんは俺の手を放し、泣きながら敬礼した後、警察官を率いて屋上から去ろうとした。

「ちょっと待って刑事さん!!刑事さんの名前は!?」

そういえばこの刑事さんの名前知らない。すると、刑事さんは走ってこっちにまた来て、名刺を渡した。

「私は元ICPO、今は神奈川県警警部の銭形幸一であります!!!」

 うん、理子がヤバイことになりそうな感じがするが・・・、気のせいに違いない。俺達は帰ることにした。俺の車にアリア達が乗って来たが、帰りは同じ場所だ。何も問題はない。

「あの人が銭形幸一!!リュパン三世を何回も捕まえた刑事よ!!」

アリアが興奮気味に銭形警部の話しをした。アリアにとって銭形警部は尊敬する人物だったらしい。

 警察関係で思い出した。マクレーのおっさん、元気にしてるかな・・・。うん、あのおっさんのことだ。どうせピンピンしてるだろう。

 ブラドを倒した翌日の放課後、俺、エル、アリア、キンジは特別教室へ行くようにとの放送が流れた。特別教室に4人で行ってみると、そこには銭形警部に叱られている理子がいた。

「あ、イブイブ!!助けて!!」

「お取り込み中失礼しました。」

俺は静かに開けた扉を元に戻した。

「先客がいるみたいだし帰ろうぜ。祝勝会だってリサと玉藻が今、張り切ってご馳走作ってるんだ。」

「君達どこへ行こうというのかい?君達を待っていたんだ。」

ガラガラっと特別教室の扉が開き、銭形警部が俺達に言った。俺達は諦めて中に入った。

銭形警部がいたのは司法取引のためだったようだ。俺達は書類にサインをした後、説教を10分くらい食らった。

「イブイブ〜!!親友を見捨てるなんてプンプンガオーだぞ!!」

説教が終わった後、理子は指で角を作り、頰を膨らましながら言った。

「いや・・・さすがに警察からの厳重注意受けてる所に割り込むほどの度胸はないわ。それが原因で第2のゴー・ストップ事件になるかもしれないし。」

ゴー・ストップ事件とは、戦前に信号無視で陸軍兵と巡査が喧嘩し、最終的に陸軍と警察が互いのメンツにかけて対立した事件。このような事件があったので、普通の軍人はよっぽどのことがない(任務とか戦地とか占領地とか)がない限りは基本警察に従う。それを聞いた理子は頭で角を作っている手を下ろした。

「祝勝会があるんだよね。理子りん沢山食べちゃうぞ〜!!」

「お前参加するのか!?今日帰って来ると思ってなかったから足りないぞ!!」

「理子りんもこんな早く捕まると思わなかったからね!!」

「胸張って言うなよ!!」

「何?理子りんの胸に興味があるの?」

「なんでお前は下ネタに持ってくんだよ!!しかも恥ずかしいなら言うなよ!!」

理子は顔が真っ赤になっていた。

「イブキは、胸が大きい方がいいの?それなら作り変えるけど。」

「イブイブは理子りんのようなロリ巨乳が好みなのだ!!」

「おい理子!!適当なこというな!!エル!!別に作り変えなくていいから!!今のままで十分魅力的だから!!」

「イブイブ!!理子りんは魅力的じゃないの!?」

「ハイハイ、理子りんも魅力的魅力的。」

ガラガラガラガラガラガラ

「うちの理子は渡さーーーーーーん!!!!!」

「なんで銭形警部が出てくるの!?しかも頑固おやじ役で!!」

「うるさーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」

ダァンダァンダァンダァン

「静かにしないと風穴!!!!!」

「「「すみませんでした!!!」」」

 

 

 

 この件の後、エルの胸が気持ち大きくなったような気がするが、気のせいだと思う。

 




理子の親ってどう考えても「ルパン三世」をモデルにしてますよね。(というか、そのものの可能性も)なら、「緋弾のアリア」の世界できっと、ルパン三世と銭形警部の攻防戦があったんだろうなぁ~という考えがありました。そのルパン三世は「緋弾のアリア」の世界では病死・・・その時の銭形警部は・・・などと考えたら、銭形警部を書かなきゃならん!!と思って銭形警部を書きました。

ルパン三世が死に・・・その一人娘は行方不明・・・銭形警部はどう受け止めたんでしょうか・・・?

銭形警部の話は閑話にでも書こうと思います。




(備忘録)
えっと閑話で書くって言ったのって、これに、山本さんとの話、理子視点の話、だけだっけか・・・。


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ニコラ・テスラ引かないとまずいかな・・・

平日は学校、休みはバイト、空き時間は中間の勉強・・・。やってらんねぇ!!(翌日もテスト)


酒呑童子は引けましたか?自分は1万使って諦めました。


「「「「「カンパーイ」」」」」

みんな思い思いのグラスをとって乾杯をした。

 あの後急いで一人増えたことを伝えた。するとリサと玉藻はバイキング形式にして、さらに何品か作ったらしい。おかげで足りないということはなくなった。流石はメイドさんと良妻である。

 しばらくして俺はふと窓を見た。何か嫌な予感したからだ。窓を見ると、そこにはビッシリとカナブン(みたいなやつ)が引っ付いていた。数が多いせいで外が見えない・・・。あまりの衝撃で固まっていると、

「どうしたのよ、イブキ。」

おかしいと思ったのか、アリアが話しかけてきた。

「ま、窓がな。」

「窓がどうしたのよ・・・ぎゃーーーーー!!!」

アリアが女の子としては出してはいけないような悲鳴をあげた。みんなも気づいたのか、窓を見て驚いている。

 みんなが落ち着いた。

「呪術の類いですねぇ。この系統はニトの方が詳しいんじゃありません?」

玉藻がニトに尋ねた。

「えぇ、エジプト魔術ですね。それも比較的新しい部類です。この程度なら造作もないですね。」

ニトはそう言って、杖を振った。すると振ったところからカー(頭が人間、体が鳥の人魂みたいなもの)が数体出てきた。カーは窓をすり抜け、カナブン(モドキ)を駆逐し始めた(潰したり、食ったり・・・)。うん・・・ニトの魔術は見た目が残念なんだよなぁ。ほら、うちの家族は慣れてるからなんともないけど、キンジにアリア、白雪、理子は引いてる・・・。

 

 

「マスター、これをどうぞ。」

カナブンがある程度駆逐されたぐらいに玉藻が俺に何かを渡してきた。それは首にかけられるお守りだった。

「え?あ、ありがとう」

「マスターに何かあったら嫌なので作りました。呪術の無効と、かけた野郎に倍で呪術返しするものです。」

こう、キャピキャピ言っても、エグいことには変わりないんだけど・・・。

「ちょっと過激すぎるような気がするけどありがとう・・・。俺、何か恨まれる様なことしたかなぁ・・・。うん、あり過ぎるわ。」

ビルに空港、科学者、イ・ウー、その他色々・・・恨まれない方がおかしいか(泣)玉藻は他の人にもお守りを配り始めた。

「まぁ、その、なんだ。いつでも相談に乗ってやるからよ。」

ベオウルフが俺の背をさすりながら言った。やめろよ、余計に自覚するだろ。

俺はその日、ブラドからの贈り物(紅鳴館で貰った酒)を飲みまくった。

 

 

 次の日、俺は二日酔いもしないですっきりと起きれた。酒は飲んでも飲まれるな、って言うのは基本中の基本だからな(酒瓶抱えて寝てたのはご愛敬だ)。俺がダイニングへ行くと、キンジは珍しく椅子の上で寝ていた。何があったか知らないがそっとしておこう。 その後、リサと白雪の朝食をみんなで取り、教師陣は先に学校へいった。そういえばエジソンが、連絡掲示板を見ておくように、とか言ってた。

 車を駐車場に止め、掲示板のほうへ俺は歩いた。すると掲示板の前に人だかりができている。人を押しのけ前のほうへ行くと、掲示板には単位不足者の発表があった。一応の為、確認したが俺の文字はなかった。何か間違いがあったりして単位不足者になるのは嫌だからな。いやぁ~書かれてなくてよかった。・・・。でも、知り合いが書かれていたような気が・・・。

{2年A組  遠山金次  専門科目(探偵科) 1.9単位不足}

キンジの名前が・・・。あいつ、何してんだよ。あんなに事件解決してるのに・・・。

「よかったな、貴様の名前が無くて。」

振り向くとそこには松葉杖をついたジャンヌがいた。

「よぉジャンヌ、お前まだ制服改造してないのか?それとも普通の制服のほうがいいのか?てっきりそのフリフリが付いた・・・ロリータってやつ?あれが好きだと思ってたんだg。」

「うるさい、静かにしろ。」

ジャンヌが松葉杖に仕込んだデュランダルを俺に見せてきた。しかも目が座ってやがる・・・。

「・・・あぁ、その足どうした?あそこに居たお前なら下手にケガしないと思うんだが。」

超高耐久で不死身のブラド、戦闘後にスカイダイビングと遠泳をこなす理子、25ミリ機銃に撃たれても肋骨3本骨折で済むジャンヌ・・・イ・ウーって化け物ばかりじゃねぇか!!

「・・・虫がな。」

「虫?」

「道を歩いていたら、コガネムシのような虫が膝に張り付いたのだ。」

「・・・もしかして、黒色でカナブンにしては頭がでかい奴じゃないか?」

「イブキ、貴様知っているのか?」

「昨日窓にビッシリ張り付いててな・・・。中から外が見えないんだぜ。」

昨日はトラウマになるくらい張り付いてたな・・・。駆除もトラウマものだけど。

「・・・災難だったな。」

「ジャンヌほどじゃないさ。あれ呪術だそうだ。気をつけろよ。」

「わかってる。あの魔術を使う者の見当もついている。」

ちょうどその時キンジ、アリア、白雪が来た。

「イブキ、ジャンヌ、この人混みはなんだ?」

「単位不足者の発表だ。めでたくお前の名前があったぞ。」

キンジは掲示板を見た後顔が引きつった。

「・・・そういえばジャンヌ、お前の足どうしたんだよ。」

キンジ、現実から目をそらそうとしているのはバレバレだぞ。

「イブキにも言ったのだが、コガネムシのような虫が膝に張り付いたのだ。私は驚いてな。そのせいで道の側溝に足がはまった。」

「「「「・・・・・・」」」」

「そこを通りかかったバスに轢かれてな。全治2週間だ。」

バスに轢かれて全治2週間・・・さすがはイ・ウー。体の丈夫さは化け物クラスばかりだぜ。

「キンジ、現実から目をそらすのは良いけど現実を見ようぜ。隣の掲示板でも見ろよ。」

俺は隣の掲示板を示した。そこには「夏季休業期・緊急任務」と書かれた張り紙がある。緊急任務とは単位が足りない生徒のためにある任務だ。学校が割引価格で任務を沢山とってきてくれる・・・簡単に言うと補修授業の武偵版だな。なので報酬は大分安くなってしまうが・・・。

 キンジはその掲示板を見た。その時キンジはある任務をじっと見ていた。どれどれと俺も見るとそこには

{場所・港区 アクア・エデン 

内容・カジノ「ピラミディオン」私服警備 (強襲科、探偵科、他学科も応相談)

詳細・要帯剣又は帯銃 必要生徒数6人 女子推奨 被服支給あり

単位・1.9単位}

アクア・エデン・・・身分証が無いとは入れない、出入りがヤケに厳しい人工島だ。しかも入るための交通手段が鉄道だけ・・・。そして、日本でカジノや風俗が許される数少ない場所の一つだ。関東甲信越ではここだけだったな。ここでよく第2中隊のみんなで博打したっけか。敵の観察及びその他観察力の向上訓練とかいって結構連れていかれたなぁ・・・。プレイヤーとかの表情を読み、カードについているほとんど見えない傷やカードの種類を区別したり、ボールの回転速度から止まる数字の場所を把握したり・・・。田中さん曰く

「カードは細工がすべてだ。」

岩下さん曰く

「カジノは観察で決まるッス。」

メガネさん曰く

「賭け事は計算ですよ」

うん、全員の性格が出てるな。ついでに鬼塚中尉は「勘だ!!」だそうだ。全く参考にならなかったな。そういえば、よく使っていたのはちょうどこの「ピラミディオン」だったな。あそこのディーラーは元気だろうか。

 キンジはじっと見た後、急いでスマホをいじくりだした。が・・・急に手を止め、アリアのほうを向いた。単位ではない、何か別のことで切羽詰まっているように見えるのは何でだろう。

「アリア・・・お前もこの仕事、一緒にやれよ。」

「・・・なんで?あたしは単位、不足してない。」

そう言ってアリアは頬を膨らました。

「パートナーだろ。」

他にも何か思惑があるように見えるが、キンジは初めてアリアをパートナーだって公言したな。これはめでたい。

 アリアは多少もったいぶったように腕を組み、考えるような仕草を見せた。

「ふーん。キンジがあたしを仕事に誘うなんてね。ま、いい傾向と言えるわね。」

こんなこと言っているアリアだが、その顔はうれしさを必死に我慢しようとしているのがバレバレな表情をしていた。

「最低6人以上って書いてあるし。・・・そうね。パートナー同士、困ったときはお互い様。やってあげてもいいわよ。」

今日はリサに頼んで赤飯にするか?

 

 

 今日の3時限目は体育・・・プールでの水泳の授業だった。まぁ、この授業を担当しているのは蘭豹ということもあってだいぶいい加減な授業なのだ。今日の授業も

「拳銃使いながら水球やれ。2,3人しぬまでやれ。」

そう言い残し帰ってしまった。こんな授業で給料もらえるって羨ましいな。

そんな授業、しかも疲れるプールときたら・・・生徒のほとんどはフケてしまっている。俺はプールで浮かびながらボーっとしていると、プールサイドから団体さんが来た。

「おー、ほとんど人がいねぇ!!おーいイブキ、不知火、プールから上がれよ!!邪魔だ!!」

俺はプールから上がりながら聞こえてきたほうを見ると、丸太のような黒い物体をプールに運び入れている何人かの生徒と、ライオン頭のスーパーマンがいた。これは車輛科と装備科の連中だな。男女ともに水着か・・・キンジは嫌がるだろうな。

「武藤君!!すぐ浮かべて!!時間が無いのだ!!」

平賀さんもこれに一枚嚙んでるのか・・・エジソンと平賀さんとか変に化学反応しなきゃいいけど。

「すぐって平賀!!暖機運転しなくて平気なのかよ!!」

「そこは改造しておいたよ!!人間に不可能はないのだ!!」

平賀さんはでっかいリモコンのコントローラーを持ちプールサイドで正座をした。うん、無邪気に笑っている。

「さぁ!!早速発進せよ!!」

「了解なのだ!!」

エジソンの一声でその黒い物体(潜水艦か?どっかで見たことあるような)がブルンブルンと音を立て進み始めた。

「ミサイル発射!!」

「発射なのだ!!」

すると黒い物体(潜水艦に違いない。でも海軍の船じゃないな)のハッチが空き、そこからロケット花火がピューピューピューと10発程度発射された。驚いたことにそのロケット花火は車輛科か装備科の生徒が持ってきた大きな的に全て当たった。こいつはすごいな。

「「「おぉーーーー!!!」」」

車輛科と装備科の生徒達は拍手喝采、一部には泣いている者すらいる・・・。

「諸君!!!この成功は我々の99%の努力によって成し得たものである!!!」

「「「「然り!!!然り!!!然り!!!」」」」

「この成功をもとに!!我々はさらに改良を加える!!!」

「「「「然り!!!然り!!!然り!!!」」」」

「そして諸君!!失敗を恐れるな!!何時、如何なる時でも、フロンティア!!」

「「「「然り!!!然り!!!然り!!!」」」」

「さぁ諸君!!闇を照らせ!!世界を創造せよ!!!」

「「「「直流万歳!!!直流万歳!!!直流万歳!!!」」」」

エジソンの演説によって車輛科と装備科は拳を振り上げ、声を上げている。その中にはもちろん武藤に平賀さんも・・・。この前、平賀さんの工房に言ったら「直流こそ至高」って掛け軸が飾ってあったな。これ家に帰ってニコラ・テスラ召喚しないとやばいかな・・・。でも絶対にほかのサーヴァントも召喚されるわけだし・・・カット。

 演説が終わり、場の空気がある程度冷めてきた。

「おう、お前ら!!見ろよこれ!!超アクラ級原子力潜水艦ボストークだ!!」

俺とキンジ不知火を見つけた武藤がこっちへ来た。あぁ、ボストークか、イ・ウーの潜水艦か。なるほど、それは見たことがあるわけだ。

「ボストークは悲劇の原潜なんだぜ!!空前絶後の巨大潜水艦だったんだが、1979年、浸水直後に事故で行方不明になっちまったんだ。それを俺と平賀とエジソン大先生で現代に蘇らせた!!どうよお前ら!?感動するだろ!?ええ!?」

そして行方不明のほうはイ・ウーが使用中と・・・なるほど武藤、解説をありがとう。

「せめて屋外プールでやれ。」

熱っぽく解説した武藤に、キンジは冷たく返す。

「すごいのはわかるが、せめて花火打ち上げるなら屋外じゃないとなぁ。なぁ不知火。」

屋内で花火やるのはさすがにねぇ・・・。

「まぁ、そうだよね。」

不知火も否定的なようだ。そういえば、俺の勘が不知火を警戒しろって言ってるんだが、なんでだろう。

「お前らは感動が足りねぇ!!後で原潜で轢いてやる!!」

武藤は残念な捨て台詞を吐き、プールサイドに胡坐をかいた。ボストーク号の鑑賞でもするようだ。

「二人とも、雑談してもいいかな。」

不知火が白い歯をニコッと見せ、話しかけた。というか、そんなセリフ初めて聞いたぞ

「別に許可なんか取らなくていいって。」

「許可取る奴なんて初めて見たぞ。」

キンジと俺は不知火に言った。

「ちょっと、良くない話なんだけど。聞く?」

「良くない話・・・?何だよそれ。まぁ、話したきゃ話せよ。」

「さっき2時間目。休講だったじゃない。」

2時間目の綴先生は二日酔いで休講だった。いいよなぁ・・・そんなので金もらえて。

「ああ。」

「そうだったな。」

「その時僕、ちょっと強襲科に顔出したんだけどさ。神崎さんも来てたんだよね。」

なんだ、練習でもしてたのか?いや、それならワザワザ話題に上がらないか。

「・・・・・・アリアに何かあったのか。」

キンジの目が怖くなった。

「ははっ。そんな怖い目しなくていいよ。そういう事じゃないから。」

不知火は小さく笑う。

「・・・神崎さんって彼氏いるの?」

コイツは何を言ってるんだ?

「しらねーよ。アリアに直接聞けって。」

「そんな話は聞いたことがないぞ。」

「遠山君、ライバルがいるかもしれないよ。」

「なんだそれ?」

「神崎さんが武偵手帳にメモってる時、偶然見えちゃったんだけど・・・手帳に男の人の写真が入ってたんだよね。細かくまでは見なかったけど、君じゃなかった。」

あぁ、あれか。若き頃のシャーロックの白黒写真がそう言えば挟まってたな。

「・・・・・・そんなこと、俺に関係ないだろ。」

「ははっ。今一瞬、君黙った。」

「気を付けたほうがいいよ遠山君。神崎さんって、一部の男子に結構人気あるからねぇ。ボヤボヤしてたら取られちゃう。ポピュラーな言い方だけど、夏は・・・男女の仲が大きく進展する季節なんだよ?」

夏か・・・もう夏になるのか。そういえば今年の梅干し作りは参加しなくていいのかな。

 梅干しは健康に良く、昔ながらの製法で作れば何年でも持つという優れた食品だ。おかげで軍の最重要食品の一つに入れられ、最低1日1回は梅干しが出る。そんな理由で大量に仕入れているわけだが、あまりの消費に一時期買占めに近いとこまでいったらしい。それ以降軍の敷地に空いているスペースがあれば桜か梅を植えることになった。初夏の時期には敷地にある梅の実を梅干しにするという行事までできてしまった。(なお、イベントで試しに売ったら意外と好評だったらしい。)その梅干し作りに参加せよって命令を聞いてないけど、大丈夫なのかね・・・カット。

そんなことを考えていたら、不知火がヒョイっとキンジの携帯を取り上げた。

「おい!!」

「そういえば神崎さん言ってたけどさ。君たち夏休みにカジノの警備やるんだよね?混雑地での警備訓練ってことで、一緒に緋川神社の夏休みに行ってみたらどう?うん、そうしよう!!あそこは縁結びの神社ってことでポピュラーだし。ねぇ二人とも?」

不知火はポーンとキンジの携帯を武藤に投げた。武藤はキャッチすると悪戯する悪ガキのような笑顔をした。

「おう!それはいいアイディアだ!!お誘いメール、俺が書いてやるよ!!」

「コラ武藤!!返せ!!」

キンジは携帯を必死に打ち込んでいる武藤のほうへダッシュするも

「イブキ!!パス!!」

「俺は白雪応援してるんだけどなぁ。でも、アリアの援護しちゃいけないって理由はないしな。」

どれどれ・・・覗き込んだ瞬間俺は吹き出した。

「武藤お前!!{親愛なるアリアへ。カジノ警備の練習がてら、二人っきりで七夕まつりにいかないか?7日7時、上野駅ジャイアントパンダ前で待ち合わせだ。かわいい浴衣で来いよ?}ってこんなの見たら絶対悪戯されたってわかるだろ!?{親愛なる}と{かわいい}は削除っと。これでいいかキンジ?」

俺は武藤に羽交い絞めされているキンジに聞いた。

「言い訳ねぇだろ!!」

「送信っと。」

Lineじゃないからちゃんと見てくれるかね?

 

 

 

その後、俺たち三人は仲良くキンジにプールに落とされたのは言うまでもない。(その時、ボストークに当たりそうだったのだが、ボストークが異常な機動力を見せて俺達を避けていったのは見間違いではないはずだ。)

 

 

 

 




もっと早く更新したいけど・・・夏休みに入ればきっと更新早くなるから!!(どうせバイトがたくさん入りそうだけど。)


このペースじゃダイ・ハード3を書けるのはいつになるやら・・・。

夏休み編でまた何かとクロスさせたいと思っていますが、どこにしようかと迷ってます。


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まさか女装姿で会うなんて・・・

頼光ママが1万で出ました!!
アガルタの女の‘‘不夜城のキャスター’’も欲しいし・・・6月は大金が出てくなぁ・・・。




 午後からは専門科目の授業である。ところで、俺はある悩みを抱えていた。

{イ・ウーの中には銃どころか刀を喰らっても平気な奴がいるかもしれない・・・}

ブラドのようなHPチートがいるのなら、防御力チート、回避力チートがいてもおかしくない。今まで対峙したのはブラド、理子、ジャンヌの三人だけだが、この三人は耐久が半端ない。ジャンヌに至っては、一発でも当たったら上半身と下半身がサヨナラする威力を持っている25ミリ機銃を喰らっても肋骨3本骨折で済んだ。もしかしたら25ミリ機銃を喰らっても平気な奴がいるかもしれないと考えると・・・。もう、対戦車ミサイルや対戦車砲を使わなきゃいけないかも・・・。いや、直死の魔眼が無いとやっていけなくなるかも・・・。でも、死を理解するとか無理な話だし、それに精神やられそうだし・・・。もう戦艦の砲弾投げるか?

 などと考えがだいぶ飛躍してきた頃

「イブキ、久しぶりね。元気にしてる?」

俺に話しかけてきた人がいた。懐かしい声だが誰だかわからない。振り向くとそこには、キンジの兄のキンイチさん(女装Ver)がいた。え?

「キンイチさん、お久しぶりです。いくら弟が心配だからって女装して潜入は無理があるんじゃ・・・。」

カチャリ

俺の腹にリボルバーが・・・

「今の私はカナ。いいわね。」

「イエス、マム。」

リボルバーが下ろされた。

「カナさん、なんでここにいるんです?来るなら連絡してくださいよ。」

「悪かったわね。ちょっと用事があってここに来たの。」

その用事とやらを知りたいけど、深入りは禁物だしな・・・。

「そうですか。キンジには会いました?だいぶ心配してましたよ。」

おかげで憲兵動員したしな。

「ええ、もう会ったわ。元気そうでよかった。」

「そうですか、偶には連絡くださいよ。」

「ええ、分かったわ。」

そう言ってカナさん(キンイチさん)はスタスタと何処かへ行ってしまった。ったく、無事なら連絡くらい欲しかったぜ。

 

「イブキ、今の人は誰かな。」

エルが瞳孔を開きったまま、俺に話しかけて来た。うん、何か大きな誤解をしていそうだ。

「あまり大きな声で言えないけど、キンジの兄さんだから。俺がちっさい頃世話焼いてもらった人だから。」

「じゃあ、なんで女装してるのかな?」

「俺が知りたいよ。何でも用事があるそうだ。その為じゃないか?」

そう伝えるとエルの瞳孔は元に戻った。よかった。ついでだ、エルにさっきまで悩んでたことを相談しよう。

「なあ、エル。ty・・・」

「おい!!札幌武偵高の生徒と神崎が戦うってよ!!」

知らない生徒が走ってきて、この大部屋にいる皆に大声で伝えてきた。

「イブキ、どうしたの?」

「いや・・・何でもないわ・・・。」

なんか、喋る気失せちゃったよ。いいや、平賀さんに今度25ミリ機銃用の 硬芯徹甲弾(APCR)でも作ってもらおう。それに辻さんに頼んでパンツァーファウストかそれに近い物貰ってくればいいか。

 

 

 俺とエルは第一体育館に行くと、そこはすでに人だかりができていた。

「おい、あの札高の子すげぇぞ。」

「こりゃ神崎の不敗伝説も終わりか?」

「ハァハァ、アリアたんの汗、太もも・・・ハァハァ。」

なんか怖い奴もいたけど気のせいに違いない。人をかき分け最前列へ行くと、そこではアリアとカナさん(キンイチさん)が戦闘をしていた。これは・・・まぁ、戦力差ありすぎだろ。アリアはいくら将来性があるからって言っても経験の差がなぁ・・・。霊基再臨1段のアリアが聖杯使われたカナさん(キンイチさん)と戦っているって思えばいい。圧倒的な戦力差だ。というかなんで戦ってるんだ?カナさん(キンイチさん)に殺気はないし、全力を出しているようにも見えない。アリアの実力を計っているのか、稽古しているかのどっちかだな。

 俺とエルが観戦をしていると聞きなれた声が聞こえてきた。

「どけ!!どいてくれ!!」

キンジが人波をかき分けて最前列にいる俺たちの隣に来た。

「キンジ、お前も見に来たのか?」

「アリア!!!!」

こりゃぁ、俺達のこと視界に入ってないな。・・・試合でも見るか。

「おいで、神崎・H・アリア。もうちょっと・・・あなたを見せてごらん。」

そう言ってカナさん(キンイチさん)は憂いた表情をしたまま、早撃ちをした。この早撃ちはすごいな、普通じゃこの早撃ちが見えないぞ。

「っう!!」

アリアの体から鞭でたたかれた音が聞こえた後、前のめりに倒れた。アリアは防弾制服を着ているから弾が貫通しないけど、その分そのエネルギーすべてを受けるからなぁ・・・。流石に倒れるよなぁ・・・。・・・これが普通なんだよね。初期の戦車を貫通できる威力の銃弾何発も喰らって肋骨三本骨折で済むのっておかしいよね・・・。イ・ウーって化け物ばっかりなんだろうなぁ・・・。カット

「蘭豹、やめさせろ!!こんなのどう考えても違法だろ!!また死人が出るぞ!!」

キンジが蘭豹に抗議をし始めた。確かに武偵法によって実弾使用の訓練においてはC装備(全身フルアーマー)の着用が義務付けられている。まぁ、生徒同士の私闘や蘭豹の命令のせいでC装備なんてほとんど着けている奴はいないけどな。どうせ戦闘の時なんてC装備つけていることなんてほとんどないから、初期訓練以外はC装備いらないと思うんだけどなぁ。

「おう死ね死ね!!教育のため、大観衆の前で華々しく死んで見せろや!!」

そう言って蘭豹は瓢箪をグイッと・・・あの中酒入ってるのかよ。それで給料よく出てるな。・・・それに蘭豹もあんなこと言ってるが、カナさん(キンイチさん)がアリアに殺意や殺気が無いのは分かってるだろう。そうじゃなかったら絶対に門前払いだからな。

 キンジは蘭豹の説得を諦めたようで、今度は防弾ガラス製の扉の鍵を開け中に侵入した。

「カナ!!やめろ!!」

キンジがここまで焦ってやるということは・・・アリアとカナに何か関係があるのか?

「くぉらキンジ!!!授業妨害するなや!!脳みそぶちまけたいんか!?」

ズドォン

そう言って蘭豹はキンジの足元にS&WM500をぶっ放した。キンジはそのせいで転びかけたが、それでもカナさん(キンイチさん)のほうへ駆け寄る。ここまでやるってことは大分ヤバいことでもあったのか?

「・・・キンジ?」

カナがキンジのほうへ注意がいった瞬間、アリアは逆立ちをするように立ち上がりカナさん(キンイチさん)へ蹴りを入れようとした。カナさん(キンイチさん)はほとんど動かずに避ける

「こんのぉ!!」

そう言ってアリアは至近距離で発砲するも、カナさん(キンイチさん)に手首を叩かれ射線がずれる。

ダンダンダンダン・・・ガチャ

アリアの拳銃が弾切れを起こした。ちょうどその時アリアはカナさん(キンイチさん)の背後に入り込んだ。絶好のチャンスとばかりに拳銃から小太刀に替えて切りかかった。

ガガガ!!

金属と金属の激しい衝突の音が聞こえたと思ったら、アリアの小太刀は真っ二つになっており、刀身は宙にくるくると飛んでいた。カナさん(キンイチさん)は頭の三つ編みにナイフでも仕込んでいたのだろう。ただ軽く髪を振っただけで小太刀を切り刻む威力を生むとか、カナさん(キンイチさん)も化け物だな・・・。

「はぁ・・・はぁ・・・さ、さっきの銃撃・・・‘‘ピースメーカー’’ね!?」

アリアはカナさん(キンイチさん)を睨みながら言った。

「よくわかったわね。そう、私の銃は、コルトSAA・・・通称、平和の作り手(ピースメーカー)。でも、あなたはそれを見ることができなかったはずだけど?」

アリアよくわかったな。俺見えていても、古い6発装填のリボルバーくらいしかわからなかったぞ。・・・勉強不足か。

「イブキよ!!この集まりは一体何だ?」

いつの間にかネロも来ていたらしい。

「アリアとカナさん(キンイチさん)の戦闘をみんな見ようと来たみたいだ。まぁ、キンジの乱入でもうそろそろお開きになりそうだけど。」

「ほう、カナとやらはあの三つ編みの子か?」

「あぁ、キンイチの兄さんだ。」

「なかなか美しい奴よのう。」

「・・・ネロさん。あの人男だし彼女いるぞ。」

「余は関係ない!」

・・・そういえば、両刀だったんだっけ。そういえば、キンイチさんはパトラと結ばれるんだっけか?

「妬いているイブキは見ものよのう。愛い奴め。」

「ネロ、お前揶揄ってたのかよ・・・。あと妬いてない。」

流石に親友の兄貴を家族が寝取り(NTR)とか笑えないから言ったんですけど。

 そんなこんなネロと話していると

ピーーーーーー!!!

ホイッスルの音が聞こえた。なんだなんだと音がしたほうを見ると、そこには小さな婦警さんがいた。は?なんでここに警察が?

「あなたたちも解散しなさい!!」

婦警さんがそう言うと生徒たちはワラワラと散っていった。学校に警察が入ることはめったにない。それに女性の警察が一人で来るなんて絶対あり得ない。身長、胸の大きさ、声の質からして理子か?

「ッケ!!サムい芝居で水差しやがって。後で教務課に来いや!!・・・峰理子!!」

蘭豹は防弾ガラスの衝立を飛び越え、小さな婦警さんにガン垂れて言った。

「・・くふっ!くふふふふふふふふふ・・・」

婦警さんは笑い出した。理子の声で・・・。うん、正解だな。

 するとカナさん(キンイチさん)はフラリと踵を返し、あくびを一つ。そしてそのまま体育館を去っていった。

緊張の糸が切れたのだろう、キンジは脇腹を抱え、その場に膝をついた。遅れてアリアも膝を折り、顔面から倒れた。

「帰りますか。」

「「そうだね(そうしよう。)」」

アリアの手当とかしようと思ったけど、後はキンジに任したほうがよさそうだしな。

 

 

 「平賀さんいる~?」

俺はあのアリアとカナさん(キンイチさん)の決闘(?)の後、エルとネロから分かれ、平賀さんの工房に顔を出した。

「ここなのだ~。」

平賀さんは大きな箱に頭を突っ込み、足をバタバタ振っていた。パンツが丸見えだが、なんかこう・・・小さい子が遊んでいるようで、まったく興奮しない。よかった、俺はロリコンでない。

「どうしたのだ?」

「あぁ、25ミリ機銃の貫通特化の弾を作ってほしくて。」

それを聞くと平賀さんは少し引いた。

「これ以上威力を増すって何に使うのだ・・・?」

「ちょっ!!何引いてるの!?人には使わないよ!!非装甲や軽装甲の車とかだよ!?」

これ人に使うと思ってやがる!?

「よかった~。イブキ君が警察に捕まるのはさすがに嫌なのだ。」

「・・・俺を何だと思ってるんですか。流石に人に通常弾使うとかしないから。」

25ミリの通常弾(弾の中に火薬が入っている)とか使ったら人間木っ端みじんだぞ!?そのくらい俺だってわかってるぞ!?

「ジャンヌちゃんという例がいるのだ。」

「あれ、あなたが作ったゴム弾使いましたよ!?」

「流石にゴム弾でも対人用じゃないのだ。」

「そうだったの!?」

確かに「ゴム弾作って」と言って、「対人用ゴム弾作って」とは言ってないけどさ。・・・やっぱりジャンヌは化け物だ!!・・・まぁ、対人じゃなかったから倒せたのか?

「対人と思ってました。これ以降、人間には使いません。(人外には使います。)」

「わかったらいいのだ!!」

「それで、貫通特化。作ってくれます?」

「もちろんなのだ。装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)でいい?」

え?25ミリの小口径で作れるの!?

「費用無視の貫通特化50発と、費用を抑えた貫通特化を200発お願い。」

あ、費用無視したらどこまではね上がるかわからないし・・・。

「あぁ、費用無視のほうは50発で3000万を目安にして。」

この程度なら支払えないことはないしな。最悪カジノで稼いでくればいいし。

「了解したのだ!」

「よろしくね~」

俺は平賀さんの工房から出ていった。

 

 

 

 

・・・俺は疲れているんだろう。掛け軸が「直流こそ至高」から「直流を崇めよ」って変わっていることは、俺の見間違いだろう。そうに決まってるんだ。

 

 

 

 

寮に戻り、部屋の扉を開けようとすると

ガチャリ

扉が向こうから開き、アリアが出てきた。

「アリア、どっか行くのか?」

俺はアリアに話しかけたが、アリアはフラフラと歩き、何処かへ歩いて行ってしまった。どうかしたのか?

俺は靴を脱ぎ、リビングへ向かった。

「ただいま~。キンジ、お前またアリアとなんかあったのか?」

「起きたら殺すのか?アリアを。」

・・・・・・え?

「殺さないわ。・・・あら、イブキ。おかえりなさい。」

「え?あ・・・ただいま。・・・何の話ですか?物騒な。」

すると、カナさん(キンイチさん)はソファで足を組み、

「‘‘第2の可能性’’がある限り、アリアを殺さない・・・という事よ。」

・・・詳しくはわからないが、今日のキンジとアリアを見てキンイチさんのアリア殺害計画は取りやめた・・・という事か?

「ある限り・・・ってことは、それが無くなったらまた襲うのか。何なんだ、その‘‘第2の可能性’’って・・・」

キンジはカナさん(キンイチさん)を睨みながら言った。・・・またってことは前もあったのか?いや、今日のか?殺気や殺意はなさそうに見えたが・・・。

「・・・ごめんね、教えてあげられないわ。ヘンに意識させたくないもの。」

そう言ってカナさん(キンイチさん)はソファーからスクッと立った。

「創世記2章18・・・人、独りなるは善からず。我、彼に適うt・・・

バーーーン

「主殿!!漁師の者から初ガツオをいただきました!!」

「イブキ、農家の人からキュウリにトマト、山椒、そら豆、ミョウガを送ってもらったよ。」

「イブキ様、今日はごちそうですよ!!あら、キンイチ様、いらっしゃったのですか?」

扉を思いっきり開けた音が聞こえたと思ったら、大きな発泡スチロールの箱を持った牛若、段ボールを抱えたエル、腕まくりをしたリサが入ってきた。

「イブキ、この前もらってきた酒があろう。あれを開けろ。」

「こいつぁいい肴だぜ!!竜ほどじゃないがな!!あぁ、エジソンは研究があるって言って血の涙を流してたぞ。」

師匠にベオウルフも・・・。というかお二人、ほぼ毎日家で飯食ってない?エジソン・・・そこまで大事な研究があったのか・・・残念・・・。

「初ガツオと聞いたなら黙っちゃいられねぇ!!良妻の意地、見せますとも!!」

「今までファラオでしたのでビール造りは初めてなのですが・・・。今日というハレの日のために作ってよかったです。」

すでに着物の上から割烹着セットの玉藻に、大きな(かめ)を持ってきたミイラとメジェド様にニト・・・。ってニトそれ密造!?・・・まぁ、バレなきゃいいか。

「うむ!!至高の肴には至高の酒よな!!」

ワインの瓶を両手に持ったネロまで・・・ってネロ!?あんたどこで買ったの!?

グーーーーキュルルル

音が鳴ったほうを見ると、そこにはおなかを抑え顔が赤くなったカナさん(キンイチさん)が・・・

「食べてきます?」

カナさん(キンイチさん)はコクリと頷いた。まぁ、今日は華の金曜だし、酒解禁でいいかな。

「キンちゃん、実家から梅干しが来たよ。って・・・キンちゃん・・・」

白雪が大きな壺を持って部屋に入ってきた。入った瞬間、瞳孔が開いたが・・・。

「ふっふっふ!!イブイブ~、見よ!!この立派なビワを!!この理子を崇めよ!!」

立派なビワを持ってきた理子も入ってきた。・・・・・・こいつは大宴会だな。一応アリアにも連絡しておくか・・・。そういえば・・・前もこんなことあったような・・・。

 

 

 

 

 

 その後・・・酒を大量に飲まされ、酔っぱらったカナさん(キンイチさん)のカツラが取れたのは秘密だ。

 




イブキはキンイチさんが女装する理由を知りません。

バイトに中間テストにレポートに課題に・・・書く時間が無いです・・・。「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ。」なんですけどね・・・。

夏休み編のクロスもある程度決まってきました。でも、またアメリカは無理があるかな?


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若頭はないだろ・・・

明日テストですができました。いや~テストがあるとはかどりますね。(サボってるとも言う)




 キンジとアリアがまた喧嘩してアリアが部屋を出ていった。どうせ2~3日で戻ってくるだろうとか思ってたら、1週間たっても帰ってこない。こりゃ最高記録更新だな。アリアは「話しかけるな」というようなオーラを出しているためにキンジはカジノの件を話せないでいる。あ、そうだ。

「キンジ、カジノのあれあるだろ?俺も参加させてくれよ。」

「ん?お前単位不足してないだろ?」

「いや、ちょっとでかい出費があってな。カジノで稼ぎながら、さらに金をもらえるってメチャクチャいい仕事と思わないか?・・・まぁ、そこのカジノに知り合いがいるからってのもあるけどな。」

「お前・・・まぁ、人数が心配だったから助かるけど・・・。」

「おう、まぁ稼がせてもらうわ。」

確実に3000万は吹っ飛ぶからな・・・。稼いどかないと・・・。

 

 

 さて、武偵高の夏休みは早い。何と7月7日には夏休みに入ってしまうのだ。で・・・だ。俺の前には二つの券がある。これは二つの違う商店街の福引でネロとベオウルフ、ニトの当てた旅行券だ。一つは海鳴温泉3泊4日の4人分券、そして、ロサンゼルス4泊5日の4人分チケット・・・。

 このチケットのせいで、今年の夏の予定が決まった。・・・が、2つ問題があった。一つ、券が足りない。まぁ、これはみんなでお金を出し合うということで解決した。そしてもう一つ、俺の勘が

「行くなよ!!絶対に行くなよ!?絶対だぞ!?」

と言っているのだ。振りじゃなくてガチのほうだ。俺の勘は危機察知に関しては外れたことがない。なので行きたくないのだが・・・。

「主殿!!旅行楽しみですね!!」←牛若

「日本の温泉は気持ちいと聞きます。楽しみですね。」←ニト

「イブキ様!!今から準備しますね!!」←リサ

「日本のテルマエに祭り・・・なんと楽しみであるか・・・。」←ネロ

「折角だ。ハメを外すか。」←師匠

「うふふ。滾ってきた……滾ってきましたよぉ」←玉藻

「楽しいといいね、マスター」←エル

「殴って蹴っていい汗かいて、汗を流す・・・。こいつぁ最高だ!!」←ベオウルフ

「旅行だと!?しかもアメリカ!?開発を急がなくては!!耐久EXの本領を見せてやろう!!ぬっはっはっはっはー!!!」←エジソン

これを目にして、行くのを反対できる人はいますか・・・。ということで旅行計画が進行していった。

 さて、俺達家族は7月7日に旅行に必要なもの(パスポートとか旅行鞄とか・・・)を申請したり買いに行ったりしよう、そういう話になった。そして当日、新宿へ行こうと俺が玄関を出て外に出たところ、待ち伏せていた鬼塚中尉に拉致られた。・・・うん、なぜ?

 

 

「よぉボウズ!!」

俺は今、C-1の中で第2中隊の面々に囲まれていた。

「・・・鬼塚中尉、なんで俺を拉致ったんですか?」

「梅干し作りの人手が足りなくてよ。だからお前を連れてきた。・・・あと、俺昇進したからな。」

そう言って鬼塚中尉は襟章を見せた。・・・この人少佐になってるよ。何があったんだよ。

「えぇ、私たちもあの後、色々とやりましてね。結果昇進という事です。」

そう言って神城さんも襟章を見せた。・・・中佐になってやがる・・・。

「あれ、角山中隊長は?さすがに少将で中隊長はきついんじゃ・・・。」

「この希信が説明しよう!!角山少将は今!!第4航空艦隊司令をやっていらっしゃる!!」

あぁ、少将になったのか。・・・ん?では中隊長は?

「あの・・・じゃぁ・・・。第2中隊中隊長は・・・」

「この希信である!!!」

そう言って辻大佐(昇進してた)は軍刀を正面で杖のように持ち、いつも以上の大声で言った。・・・この人が中隊長とか大丈夫なのかな・・・。

「・・・皆さん、昇進おめでとうございます。でも、言ってくれたらちゃんと行きましたよ。なんで拉致ったんですか?」

「「「そのほうが面白いからな!!(ですね)(である!!)」」」

・・・俺がこんな部隊に所属していた、ということに改めて驚いたよ。

 

 

 

俺はそのままC-1で駐屯地まで拉致され、その日から4日間、梅干しが乗っている大量のザルを出し入れしたり、箸で1個1個丁寧に梅をひっくり返していたりしていた。

 

 

 

 

そういえば、雇った人にジミさんや博打仲間の山本さんはともかく、両川さんはないだろ。両川さんは警官だぞ。・・・まぁ、あの人勤務中に賭け事やってる不良警官だけどさ・・・。

 

  

 

 

俺が帰った時、部屋の中ではいつも通りアリアがキンジをいじめている姿があった。よかった、アリアは戻ってきたのか

「イブキ、カジノ警備用の服が届いてるから試着しといてくれ。」

「おう、キンジありがとな。」

そう言って俺はキンジからビニールに包まれた服を受け取った。そのビニール上に紙が付いていた。たぶん演じる役でも書いてあるんだろうとでも思い見てみると・・・。

「やくざの若頭」

・・・黒のスーツに黒のワイシャツ、灰色のネクタイ、ご丁寧にシール式の入れ墨まであらぁ。

「おい!!これなんだよ!!やくざの若頭とか絶対警備に向いてないだろ!!」

「まぁまぁ、落ち着けって。」

「・・・なぁキンジ、お前の役は?」

「青年IT社長。」

「キンジ、お願いだから代わってくれないかなぁ・・・。」

俺がそう言うと、キンジは俺の正面に立ち、両手を俺の肩に置いた。

「無・理。」

ですよねー。

 

 

 

 

 月日は流れ、7月24日。俺とキンジは港区アクア・エデンにいた。今回の警備任務参加者は、俺、キンジ、アリア、白雪、レキ、ニトの6人。ニトは俺が誘った。何でも、キンジが「人数が足りない」と言ってきたからな。まぁ、たぶんエジプト関係者が裏に居そうだから対策として連れてきた。で、その6人うちの女子のほうは早めに行くことになっているため、俺とキンジとは別行動だ。

「なぁイブキ、ここの警備って本当にいるのか?中に入るだけでも大分厳重だぞ。」

アクア・エデンに入るためには身分証明書、血液検査、持ち物のX線チェック、金属検査まである。武偵や警察、軍人は申請すれば銃刀の持ち込みはできるが、その申請にも一苦労だ。

「まぁ、需要があるってことはいるんだろ。ちょっと早く着いたしなぁ・・・。キンジ小腹が空いてないか?うまいカフェ知ってるんだ。」

そう言って俺たち二人はアクア・エデンの街を歩きだした。

 

 

 

「そういえばイブキ。若頭の役似合ってるぞ。周りの人たちがお前を避けていってるし。」

「キンジ、それは触れない約束だぞ。」

 

 

 

俺たちはアクア・エデンの一角にあるカフェバーに来ていた。

「キンジ、ここだ。ここのBLTサンドはうまいぞ。」

「へぇ・・・、楽しみだな。」

カランカラン

俺は店の扉を開けた。

「いらっしゃいませー。アレクサンドリアへようこs・・・ひぃいいい!!」

「待って大房さん!!俺、俺だって。イブキだって!!」

青がかっている黒色の髪のウエイトレスがあからさまに怯えた。俺は急いでサングラスを取った。

「あ、あれ?イブキさん?」

「そうです。イブキです。だからそんな露骨に怯えないで。ほら、他のお客さんこっちガン見してるから。」

俺がそう言うと、他の客は急いで視線を俺たちのほうから逸らした。

「・・・イブキさん。なんでそんな恰好を?」

「まぁ大きな声で言えないけど・・・任務の都合上ね・・・。」

そう言ったら納得し、俺達をカウンターのほうへ誘導してくれた。

 カウンターへ座ると、赤みがかった茶髪で細目の色っぽいお姉さんが向かいに来て、水の入ったコップを2つ置いた。彼女はここのマスターだ。

「あらイブキ君。久しぶりね。」

「淡路さんご無沙汰してます。すいません、最近来れなくて。」

「いえいえ、軍人から武偵に出向でしょ。大変よねぇ。」

相変わらず、しゃべってないのになぜか情報を持ってる・・・。

「・・・なぁイブキ。ここってカフェじゃなくてバーか?」

キンジがジト目で俺に聞いてきた。キンジ君、確かにこの店は酒の瓶をドンと置いているし、俺は酒が好きだけど、さすがに昼間の仕事前からは飲まないから。

「うちは、昼間はカフェ、夜はバーをやってるのよ。二人とも、何を頼む?」

「BLTサンド4人分で。俺は紅茶、こいつにはコーヒーを。」

「ちょ・・おま・・・。」

「かしこまりました~。」

そう言って淡路さんは奥の厨房へ行ってしまった。

 

 

 

「イブキ、昼食ってるから2人分なんて食えないぞ!」

「何言ってるんだ、キンジ?俺が3人前食うんだけど?」

 

 

 

 

「キンジ、ここへ来た目的はBLTサンドともう一つあるんだ。」

そう言って俺は水を飲んだ。

「俺の勘がアクア・エデンで何か起こるって言ってるんだ。俺の勘の危機察知能力はすごいぞ。ビルに空港、エアジャック、全部外れたことがねぇ。・・・まぁ、結局避けられないんだけどな。」

俺がそう言うと、キンジは呆れたような表情で俺を見て言った。

「避けられないんじゃ意味ないだろ。」

「まぁ・・・心持ちが違うだろ?・・・言ってて悲しくなるからそれ以上そのことは言わないでくれ。・・・で、だ。ここのマスターの淡路さんはアクア・エデンについて知らないことはない。情報のスペシャリストだ。」

「知らないことは知らないわよ。お姉さんは知っていることがちょっと多いだけよ。」

そう言って淡路さんは厨房から出てきた。

「BLTサンドはもう少しかかるから待っててね。」

そう言って淡路さんは紅茶とコーヒーを入れながらしゃべり始めた。。

「イブキ君の連れてきた子は遠山キンジ君。イブキ君の幼馴染。両親ともに他界。兄はシージャック事件の時から行方不明。でも最近女装姿で再会したみたいね。」

キンジは目と口を大きく開けた。

「今日ここに来たのはキンジ君の単位取得のため、ピラミディオンでのカジノの警備。イブキ君、若頭の役似合ってるわよ。キンジ君、砂糖とミルク入る?」

淡路さんがそう言うと、キンジは慌てながら「ブラックで」と言った。

「まぁ・・・ありがとうございます。・・・淡路さん、単刀直入に言いますが、アクア・エデンで最近出たおかしい噂とかないですか?」

俺がそう言うと、淡路さんは手を顎に当て、「そうねぇ」と言いながら少し考えた後、

「最近、エジプト神話に出てくる頭がジャッカルのアヌビス?を見たって噂があるわね。それに海を走る人間や艦首と艦尾に長い柱をつけた船を見たっていう噂もあったわね。」

そう言って淡路さんは俺とキンジへ紅茶とコーヒーを置いた。うん、ニト連れてきて正解だったな。

「そうそう、日本では確認できない外来種のコガネムシが発見されたみたい。風紀班が全力で駆除してるみたいよ。このくらいかしら。」

うわぁ・・・虫の駆除は大変だ。後で風紀班の二人に差し入れしておくか?

「淡路さん、ありがとうございます。」

「いえいえ~常連さんだもの。少しはサービスしちゃうわ。」

「BLTサンド4人前、おまたせしました。ってイブキさん?お久しぶりです。」

ほんわかした声で紫がかった髪のナイスバディなウエイトレスがBLTサンドを運んできた。

「やぁ稲叢さん、久しぶり。最近色々あってここに来れなかったんだ。そうそう、こいつは遠山キンジ、幼馴染で仕事仲間。」

「初めまして、稲叢莉音です。」

「初めまして。」

すると淡路さんはくすっと笑い

「後は若い子たちに任せるわ。」

そう言って厨房へ去って行ってしまった。なぜニヤニヤしてたんだろうか・・・。

「稲叢さん、寮のみんなは元気かい?」

俺が稲叢さんに尋ねると、稲叢さんは少し顔を曇らせた。

「元気ですけど、エリナちゃん寂しがってましたよ。」

最近、忙しかったり怪我したりでアクア・エデンに来れなかったからなぁ。

「最近、色々あって時間がなかったんだ。で、今日これからカジノ警備の任務があって、ちょうどエリナのとこのカジノで警備なんだ。稲叢さん、エリナは今日カジノにいる?」

俺がそう言うと、稲叢さんは笑顔を浮かべた。

「今日、エリナちゃんはカジノにいますよ。きっと喜びます。」

「それなら少し早めに行こうかな。・・・そうだ、風紀班の二人に伝言頼める?今俺武偵やってるんだ。何か困ったことがあれば割安で依頼を受けるよって。」

すると稲叢さんは首を傾げた。

「あれ?イブキさんって軍人さんでしたよね。」

「武偵に出向になったんだ。今は東京武偵高の二年生ってわけ。」

稲叢さんは納得したようだ

「イブキ、風紀班ってなんだ?」

キンジが俺に聞いてきた。

「あー・・・ここは賭博と風俗が合法の土地だ。そんな地だと治安が悪くなる。で、警察ができないようなことをして治安維持に努めるのが風紀班だ。」

本当は裏に吸血鬼とか人外とか関わってくるけど、そこら辺は軍機だからな。

 俺と風紀班との関係は、俺がHS部隊に所属していた頃まで遡る。俺の所属していた第2中隊は海外問題の処理が主な任務だ。しかし、なぜかアクア・エデンは第2中隊の管轄だった。そのせいで何度かここでの任務があった。その時、俺と歳が近いと言う理由で矢来さんや布良さんと協力して任務に当たっていた。

「なるほどな。軍関係で?」

「これ以上は軍機。」

 稲叢さんとキンジと俺で雑談しながらBLTサンドを食べていたらそろそろ時間が近づいてきた。

「キンジ、少し早いけど行くか。」

「そうするか。ごちそうさま。」

「あ、長々と喋っちゃってすいません。」

「いいって。・・・とちょうど100円玉しかないや。いいかい?」

「大丈夫ですよ。」

俺は財布から大量の100円玉を出した。

「行くよ〜。1、2、3、4、・・・・・・13、14、あれ?今何時だい?」

「え?えっと・・・3時です。」

「24時制だと?」

「15j・・・」

「16、17、・・・・・・よしぴったり。」

そう言って俺は稲叢さんの方を向くと、

「はい、確かに頂きました。」

そう言って稲叢さんは満面の笑みを浮かべた。おいキンジ、そんなに睨むな。からかってるだけだ。ちゃんと料金は払うぞ。

「稲叢さん、1枚足りないから。はい。」

「え?ちゃんと料金はもらいましたよ?」

「いやいや、もう一回数えてみなって。」

俺がそう言うと、稲叢さんはもう一回数え始めた。

「あれ?100円足りないです!」

「だから、はい。」

「ちゃんと数えたのに・・・」

そう言って稲叢さんは100円玉を受け取った。この子、ちょっと天然過ぎるんだよなぁ・・・。心配だ。

「それじゃ、伝言よろしくね。ごちそうさま。」

「はい、ありがとうございました!」

 




DRACU-RIOT!より大房ひよ里、淡路萌香、稲叢莉音、エリナ・オレゴヴナ・アヴェーンが登場しました。

アレクサンドリアではBLTサンドが有名ということにしました。

両川さんは次回詳しく。

実は夏休みで「ナショナル・トレジャー」クロスさせようかと思いましたが・・・あそこって某ネズミーな会社から出されたと知って急いで変えました。ロサンゼルスです。国立公文書館で独立宣言書盗むのを目撃するとか絶対にありません。


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金を貸すのもほどほどに・・・

葬式などの都合があり、遅くなりました。

アルガダの女のピックアップガチャ。2万費やしましたがキャスターは出ず・・・バーサーカーが3枚・・・もう一万費やすか?


アレクサンドを去った俺たちはピラミディオンに来ていた。ピラミディオンはアクア・エデンの中にあるホテル&カジノで、アクア・エデンでも屈指の大きさを誇る。形は大きなピラミッド状になっている。設計者曰く、「日本に漂着したピラミッド状の物体」をイメージしているそうな。

 さて、自動扉を開けて中に入るとクーラーが効いているエントランスホールに出た。うん、客が俺から遠ざかってゆく・・・。ここから、カジノホールへ向かう。

「両替を頼みたい。今日は青いカナリヤが窓から入ってきたんだ。きっと、ツイてる。」

キンジが先に両替をし、中に入って行った。俺が先に行くと面倒になりそうだからな。

「両替を頼む。」

そう言って俺が200万を出したところ、受付のお姉さんが涙目になった。そこまで怖いか?

 

 

カジノホールに入ると海とつながっているプールが周りを囲っているある。これはバニーガールのお姉さんが水上バイクで移動するためのものだ。

「ドリンクいかがですかー。」

「カクテル、ウイスキー、コーヒー全て無料でお配りしてまーす。」

「ご注文の方は近くのウエイトレスをお呼びくださーい。」

・・・・・・俺はいま任務中。酒を飲むなんてことはない!!

 

 

 

 

 

「ウエイトレスさーん。ウイスキーくださーい。」

知ってる?江戸時代は朝昼夜普通に飲んでたらしいぜ。

「はぁ・・・。イブキ!!仕事中に酒をたしなむとはどういうことですか!!」

そう言って俺の後ろにバニーガール姿のニトがいた。あれ?やけに似合ってるね。

「い、いやぁ~。」

「だいたい、イブキは同盟者としての自覚があるのですか!!・・・」

やくざの前にバニーガールがズカズカと出てきて説教を始めてというので周りのお客さんが集まってきている。

「まったく。飲むのならこれにしなさい。」

そう言ってニトはビールを俺に差し出した。え?ビールって酒でしょ?

「ビールであれば問題ないです。パンとビールを弁当にしていたのをよく目にしていました。」

それは古代エジプトであって、日本じゃないと思うんですけど。まぁ、いいや。いただきます。

「どうもすいませんでした。ありがたくいただきます。」

「えぇ、そうしてください。」

そう言ってニトは去っていった。あのニトクリス陛下、当時ビールは冷やさなかったって言うのは知っていますが、今は冷やしたビールが一般的・・・冷えたビールを下賜してくれると嬉しかったなぁって・・・。

 

 

 

 さて、俺はビールを飲みほした後、特等ルーレット・フロアに行った。特等フロアでは掛け金の最低額が100万という膨大な金額であり、特別会員パスが無いと見物だけでも金がとられる。・・・まぁ、特別会員パス持ってるんだけどね。で、中に入るとそこには大きなルーレット台につく、金ボタンのチョッキを着たレキがいた。うん、周りに人もいないしやりやすいな。

「やぁ、ではやってもらっていいかい?あぁ、もう投げちゃっていいよ。」

レキはコクリと頷き、球を投げた。

 さて、ルーレットはディーラーが「ノー モア ベット」(NO MORE BET)と言ってレイアウトの上に手をかざしたらその時点でベット(台にチップを置くこと)は終了だ。なので玉が回っている間も「ノー モア ベット」(NO MORE BET)と言わなければ、ベットは続けて大丈夫なのだ。ついでに俺が最も得意なのがこのルーレットだ。師匠達との訓練のせいで目と状況把握が良くなったため、落ちるところをけっこうな確率で当てることができるようになった(8割程度)。今回、レキのボールはあまりにも素直な回転のおかげで予想がしやすい。これは・・・・・・行ける!!

 俺は25番に全額(200万)を置いた。

「NO MORE BET」

レキがそう言ってテーブルをなでるような仕草をした。やけに発音良いな。

カツン、カツ、カツ

玉が25番に入って行った。

「赤25.プレイヤーの勝ちです。」

・・・やっべ調子乗り過ぎた。配当は200万×36=7200万。当初の目標の5000万と元金の200万差し引いても2000万はある・・・。よし、遊ぶ金もできたし、エリナのとこで遊ぶか。

「レキ、なんかあったら知らせろよ。」

「はい。」

そう言って俺はレキにチップを渡し、特等ルーレット・フロアを出ていった。

 

 

 さて、カジノでは会員パスに一時的にチップを預けておくことは可能だ(簡単に言うとSuicaのようなものか)。盗難などを防ぐためでもある。なので俺は稼いだチップを両替機のような機械で会員パスに入金(?)をしようとしたところ・・・。

「クッソー!!また負けた!!」

「まぁまぁ。両さん、今日はついてなかっただけさ。」

聞きなれた声が聞こえる。俺はその声が聞こえたところへ行くと、そこには両川さんと山本さんがポーカーをしていた。

 両川さんは亀有にある交番の警察官で鬼塚少佐の友人の一人だ。この人、かなりの不良警官で、パトロール中にギャンブルは当たり前、副業をして本職(警察官)の給料より多い金額を稼いでいたりする。そのため、給料は一般の人よりだいぶ多いが、それ以上の借金をしているためにトータルマイナスという・・・。そんな問題児ではあるが、人望があったり、肉体は某G以上の生命力があったりと、さすが鬼塚少佐の友人だなぁと思う。今も制服を着てきているということは仕事をサボっているのだろう。

 山本さんは博打仲間だ。よくアクア・エデンで博打をしているため、部隊のみんなと仲良くなった(その時メガネさんが大分慌てていたがなぜだろう)。歩き方がどうも訓練をした歩き方なので一般の民間人には見えない(軍人、警察、武偵などの訓練を受けたのか?)。時々、部下であろう人たちに捕まって強制的に仕事場へ連れていかれることもよくある。

 簡単に言うと、二人とも博打仲間だ。

「両川さん山本さんお久しぶりです。両川さんまた負けたの?」

「お?村田じゃねぇか、久しぶりだな。何だってそんな恰好してるんだ?ところで村田、ちょっと金貸してくれないか?」

副業で結構稼いでるくせにギャンブルとおもちゃ、借金で給料がすぐ無くなるのが両川さんの悪いところだ。

「やぁ、村田君。最近は見なかったけど何かあったのかい。」

そして山本さんは逆にギャンブルはめっぽう強く、トータルでマイナスになることがほとんどない。本人曰く、稼ぎ過ぎてモナコのカジノのブラックリストに入れられてしまったそうだ。今日も見る限りだいぶ儲かってるな。

「いやぁ、最近武偵に出向になっちゃいまして。任務の関係でこんな格好してるんですよ。まぁ・・・出向の後も事件だ怪我だで・・・。山本さん葬式に来てますから知ってますよね。」

「葬式ぃ~?」

「あぁ、村田君は一回死んだんだよ。」

・・・まぁ、そうなるけどさ。その言い方は誤解を招くぞ。

「村田が死んだぁ!?じゃあ、ここにいるのは幽霊とでもいうのか!?」

そう言って両川さんは俺に指をさした。

「両川さん、俺医者の誤診で一回死んだことになっちゃったんですよ。」

俺がそう言うと両川さんはくっついている眉をひそめた。

「そいつぁ災難だったな。」

「まったくですよ。起きたら坊さんがお経あげてるんですよ。あと少し起きるの遅かったら燃やされてましたね。」

両川さんが引いた。

「ほんと、村田君が復活したときは驚いたねぇ。」

「ほんと、起きたらお経読まれてるんですよ。何て不謹慎なって思いましたね。」

「そうだ村田。ちょっと金貸してくれねぇか?10倍にして返すからよ。」

両さんが俺に両手を出した。

「両川さんまたスッたの?両川さんに貸したお金まだ返してもらってないんだけど。」

聞いた話だと両川さんのボーナスを巡って、ツケがたまってる商店街の人たちや借金取りと戦争してるとか聞いたけど・・・。でもまぁ、色々世話になってるしな。

「はぁ・・・両川さん、偶然さっきルーレットで大当たりしたんで財布に余裕がありましてね。ちゃんと返してくださいよ。」

俺はそう言って百万のチップを両川さんに渡した。

「さっすが村田!!ありがとよ!!。」

「村田君、いいのかい?そんな大金。」

山本さんが心配した。

「百万なら・・・って思うくらい大当たりしたんで大丈夫ですよ。」

「山本!!早く席に着けよ!!村田も入るか!?」

両川さん・・・金が手に入ったらすごく元気になるな・・・。

「いや・・・久しぶりに来たんでエリナのところでやろうかと。それに鈍ってるのに山本さんと勝負はきついですよ。」

俺がそう言うと、二人は「あ~・・・」とでも言いそうな顔をした。

「村田・・・お前あいつにゾッコンだしな。」

「村田君、彼女と何時くっつくんだい?」

二人とも何を言ってるんだ?

「エリナとは友人の関係ですが?」

そう言うと二人は「はぁ~」と大きなため息をついた。

「村田君はまだ若いからね。」

「そうだな。やるか。」

そう言って二人は台に座った。・・・気にしないでエリナのところへ行くか。

 

 

 

 

「おー?おー!イブキー!」

台に行くとバニーガールとディーラーの服を足して2で割ったような服を着た銀髪の少女・・・エリナが驚いた。

「久しぶり!!最近会わなかったから心配してたよ!!」

「いやぁ、最近あまりに忙しくて。武偵に出向になっててね。ほんと、任務地と病院に行ったり来たりで・・・。」

「病院!?イブキ怪我したの!?」

「ちょ、触るなって!!」

エリナは俺の体をベタベタと障りだした。

「そこまで大きな怪我はしてないから。」

「よかった~。」

そう言ってエリナは体を触るのをやめた。

「それじゃイブキ、どうしよっか?エリナが相手してあげるから、お金かけなくてもいいよ?」

「イヤイヤ、ちゃんと売り上げに貢献するから。」

俺はそう言ってチップを出した。

「お~、イブキ。今日は大分持ってきたね~。」

「さっきルーレットで大当りしたからね。」

そう言うとエリナが頬を膨らました。

「む~、イブキ。エリナに挨拶する前にほかの子と遊んでたんだ~。あの新人の子かわいいもんね~。」

・・・なぜ妬く。

「今日これたのは任務があったからこれたんだ。それに支出が最近バカでかくて。そのせいでまず必要資金をルーレットで稼ぐ必要があったんだ。」

そう言ってもエリナは不貞腐れたまんまだ。

「・・・今度からエリナのところへ先に行きます。」

「・・・いいよ。許してあげる。」

そう言うとエリナはにっこりと笑った。

「ではエリナ。よろしくね。」

「うん、任せて!!」

俺は椅子に座った。

 

「こうして勝負するのは久しぶりだね。今まで通りブラックジャックでいい?」

エリナは両手を台に着き、前かがみの状態で訪ねてきた。その体勢だと、ちょうど胸の谷間が・・・眼福眼福。

「あぁ、よろしく。」

「それじゃ、さっそく。」

そう言って慣れた手つきでエリナはシューターからカードを引いていく。

「ルール、忘れてないよね。」

「おい、そこまでの期間は開けてないよ!?」

「にひひ、手加減しないからね。」

「久しぶりだから最初は手加減してくれると嬉しいかなって。」

俺の前に二枚のカードが来た。ハートのAとクローバーの5だ。

「それじゃ、ヒット?ステイ?」

「ヒット」

「ほっほ~、強気だね~。」

楽しそうにエリナはカードを引いく。するとダイヤの4が来た。Aは1か11かを任意で決めていいから・・・計20。これなら勝てるか?

「ステイで」

するとエリナは自分のカードを表にした。ハートのQとJ・・・。Q、J、Kは10とカウントされるから・・・計20。

「20対20.初戦は引き分けだね。」

「エリナは運がいいな。」

まさか2枚で20出すとか・・・。

「よし、次はちゃんと勝つからね!あ、そうだ!お金とは別にまた罰ゲームかけて勝負しよか?」

そう言ってエリナはさらに前かがみになった。

「今度はもちろん、脱衣もありで。何だったら・・・その先でも、エリナは構わないよ?にひひ。」

「・・・エリナさんよ、前それやろうとして怒られたでしょ。それに今、遊んでるけど任務中なんだ。だからこんな格好してるんだよ。」

そう言って俺はサングラスを指さした。すると周囲から異様な気配が・・・。襲撃か?ってエリナの後ろに何かいる!?

「それにもう勝負やってる暇はないだろうしな!!」

そう言って俺は立ち、台を飛びこえエリナを抱きしめながら14年式を発砲した。

「お~、イブキは激しいのが好きなんだね。エッチなんだからもぅ~。」

「そんなこと言ってる場合かよ!!エリナ!!ちゃんと隠れてろよ!!」

上半身裸で越布を巻いたアヌビスがワラワラと湧き出した。クソッ、民間人が大量にいるから迂闊に発砲なんてできない!!しかも障害物が多いから刀も使いづらい。俺は14年式をしまい38式と銃剣を出した。

「出ませい!!」

聞きなれた声が聞こえた。すると周囲のアヌビスがスーっと砂に帰っていった。

「まんまとやられました。やはり私はあまりに未熟の身。」

「ニト!!ここ頼めるか!?」

「えぇ、任せてください。」

流石はファラオ、何とかなりそうだ。俺は民間人を避難させようとすると・・・

「あー!!!わしの一千万!!!」

・・・聞きなれた声が。そっちの方向へ向かうと両川さんが一体のアヌビスを追いかけていた。

「まてー!!わしの一千万!!!」

あ、勝ったんだ。

「まてー!!!」

そうだ、避難させないと。俺は両川さんを追いかけた。

「両川さん、避難!!避難して!!」

「わしの一千万を返せー!!!!」

コイツは聞いてないな。

 両川さんが追っていたアヌビスは驚いたことに周囲にあるプールへ向かうと、水面を走りだした。すると両川さんが近くにあったアヒルさんボートに飛び乗ったので、俺も急いでそのボートに乗り込んだ。

「両川さん避難、避難してくださいって!!」

「あぁ!!村田!!あの野郎に追いつけるように漕げ!!」

そう言って両川さんはペダルを全力で漕ぎ出した。・・・・・・ショウガナイ、諦めよう。

 

 

 

「「うおぉおおおおお!!!」」

二人で漕いだアヒルさんボートとアヌビスは一進一退の攻防を続けていた。ボートがスピードを上げればアヌビスもスピードを上げ、アヌビスがスピードを上げるとボートもスピードを上げる・・・完全に鼬ごっこだな。

 しばらくすると、アヌビスが水面から急にジャンプをした。なぜ?と思って周囲を確認すると・・・目の前にでっかい異様な船が浮いていた。

 長さは50メートルほどであろうか。細長い船体は金銀で装飾され、艦首と艦尾は塔のように上を向き、長い櫂が何本も横から生えている・・・。ってぶつかる!?

「両川さん!!前!!前!!」

「ん?ってうわぁあああああああ!!!」

みんな知ってる?船って簡単に止まらないんだよ。

ズドォーーーーン!!!

猛スピードのアヒルさんボートと謎の船が衝突し、アヒルさんボートが沈み始めた。

「わしの一千万――――!!!」

両川さんは一千万のチップを取り返すために装飾された謎の船に乗り込んだ。

「クソッ!!チクショウめ!!べらぼうめぇ!!」

このままではアヒルさんボートと一緒に沈んじまう。俺も謎の船に乗り移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗り移った先には目と口を丸く開けたキンイチさんと、あちこち包帯にガーゼ、松葉づえをついたエジプトのファラオっぽいものにコスプレした少女、転がってゆくチップを追いかける両川さんがいた。・・・・・・なんてカオス。

 




 自分が調べたカジノのルールと原作でのルールが違ったので、調べたほうのルールにしました。

両川さんは某亀有の不良警察官がモデル。

山本さんは説明は後です。


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起床ラッパはヤメテ・・・

もうそろそろ期末の勉強しないと・・・。

アルガダピックアップ?もう一万課金しましたが今度は★4鯖も出ませんでしたよ(血涙)




 アヒルさんボートが沈んで行く・・・。あれを弁償するのは誰になるのだろう。 あれって確か一隻80万以上したような気がするんだけど・・・。

「裏社会でイブキとジョニー・マクレーがいると計画が破綻するって言う噂は聞いたことがあったが・・・ここまでとは思わなかったな。」

現実逃避をしていると、キンイチさんが我に帰ったのか喋り出した。・・・俺って裏社会で有名なのか。やだなぁ・・・。

「それは違いますよ。たかが一人二人の異分子程度で破綻する計画を立てたほうが悪いです。」

そう言った瞬間、船が傾き始めた。

「お前がムラタイブキか!!この妾の計画を邪魔しおって!!殺してやる!!まず生きたまm・・・きゃーーー!!!」

包帯ガーゼ・松葉杖のファラオコスプレ少女は何か言っていたが、船が傾いたせいでバランスを崩したのだろうか?近くにあった棺(?)と共に海へ転がり落ちてしまった。

そして、ファラオコスプレ少女が海に転落すると、船が一気に傾いた。これ、沈むぞ?!

「ワシの一千万取り返したぞーーー!!!」

両川さん、あんたまだそれ探してたの!?

「キンイチさん両川さん!!避難、避難ーーー!!」

「アリア、アリアーーーーー!!!!」

そうして、俺と両川さん、キンイチさん、水上バイクで近くにいたキンジは海に引きずり込まれていった。

 俺は海に引きずり込まれた後、必死に水面へ向かって泳ぎ出した。海軍で沈む船からの脱出方法、海に引きずり込まれた時の対処方法を習っていてよかった。なんか、初めて軍に所属してよかったと思う。

「プハッ!!」

水面に出て辺りを見回すと、角材に捕まる両川さん、浮き輪につかまって気絶しているキンジがいた。

「やっと村田も上がってきたか。」

両川さんが軽く手を上げて言った。キンイチさんとファラオコスプレ少女は周りにいない。そのことを両川さんに聞いたが

「ん?そんな奴知らんぞ?」

あんた、船の上ではチップだけを見てたのかよ・・・。・・・まぁ、キンイチさんは大丈夫だろう。ファラオコスプレ少女はキンイチさんの仲間みたいだし心配しなくていいか。

 

 でっかい方の船が沈んで5分くらいだろうか、モーターボートが3隻ほどこっちへ来た。お?救助してくれるのか?

「こらぁあああああ!!!両川ぁあああああああああ!!!」

「ゲェ!!!部長!!!」

3隻のうち、先頭を走る1隻にチョビ髭の警察官が身を乗り出して怒っていた。両川さんはそれを確認するなり必死に泳いで逃走を始めた。

「サボってギャンブルをするとは何事だ!!!馬鹿者ぉおおおおお!!!」

「ひぇえええええええ!!!!」

うん・・・あの人は両川さんの上司、大田部長か。時々サボっている両川さんを叱って、そのまま交番へ連行してるのを見る。今回もサボってるのがバレたのだろう。

「イブキ君ほら手出して。」

「イブキ。手を出しなさい。」

「イブキ、心配したんだよ!!」

俺は山本さんとニトに引き上げられた。エリナ、海水が苦手なのに良く来れたな。キンジのほうも別のボートで白雪に回収されてる。

「まぁああああああてぇええええええ!!!!両川ぁあああああああ!!!」

「ほ、ほんの出来心なんですぅうううう!!!」

二人はまだ追いかけっこをしているようだ。

「あの二人は放っておいて大丈夫なのですか?」

「あぁ・・・。ニト、あの二人はよくこんなことやってるから。いつも通り放っとくのがベストだよ。」

俺達は二人を置いて、アクア・エデンに帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬っ鹿者ぉ!!!なんで貴様はそういつもいつも・・・」

「ヒェ〜!!!部長、すみませんでした〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちはあの後、学園島に戻った。そこで俺はアリアが誘拐されたことを知った。どうしよう・・・。アリアはどこに連れていかれたかわからない。それにキンジもいつ起きるかわからない。結局、その日は寝ることにした。

 

 

「起きなさい!!」

なんかニトの声が聞こえるような気がする・・・。

「お嬢ちゃん、これをかければ一発だ。」

鬼塚少佐の声も聞こえる・・・。なんて夢だよ・・・。

ぱーぷぱーぱぱーぷぱーぱ・・・

起床ラッパ!!!???

俺は急いで飛び起き、近くに置いてある着替えを探したが・・・・・・ない!?周りを見ると笑っているニトと鬼塚少佐が・・・。

「なんて起こし方するんですか!!」

起床ラッパで起こすとか心臓に悪すぎるぞ!

「うるせぇ!!」

ガツン!!!

「グハァ!!!」

俺は鬼塚少佐に殴られた。クソッ!この自走式暴力装置め!!

「・・・で、起こしたと言うことは何か進展でもあったんですか。それに、なんで鬼塚少佐がいるんです?」

チラリと部屋の時計を見ると朝の4時。すると、部屋の扉が開き理子が入ってきた。

「あ、イブイブ起きたんだ。おはよーございます!」

ビシッと両手で敬礼・・・。この理子式の敬礼は慣れないな。

「アリアの居場所が分かった。付いて来い。」

裏理子か・・・ふざけてられないか。

途中で合流したジャンヌと理子に連れられて、俺、ニト、鬼塚少佐は車輌科に向かいながら状況を聞いた。

「東経43度19分、北緯155度03分。太平洋、ウルップ島沖の公海。理子がアリアにつけといたGPSと白雪の占いはこれと同じことを言ってる。」

ち、千島列島ですか・・・。この世界の歴史では北方領土(択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島のこと)は太平洋戦争終結後も防衛戦として戦い続けたおかげで(アメリカの支援もあり)日本の領土となっているが、樺太・千島列島問題がロシアとあり、それで今も揉めている・・・。その問題の千島列島沖かよ。ヘマすると第二次日露戦争になるぞ・・・。

「こいつぁー面倒な場所に連れて行ったものだな。」

「そして・・・アリアの状況だ。」

「アリアは今、パトラの呪いにかかっている。撃たれて24時間後確実に死ぬと言う呪いだ。逆に言うと、24時間以内なら生きている。」

「なんで、そんな呪いを?」

「パトラはイ・ウーのNo2だったが素行が乱暴で退学させられたのだ。」

すると今度は理子が喋り出した。

「パトラには誇大妄想のケがあるんだよ。自分は生れながらのファラオだと思い込んでいる。‘‘教授’’が死んだら・・・自分がイ・ウーのリーダーになって、自分の王国を作るための戦争を起こすつもりなんだよ。まずはエジプトを支配して、いずれは世界を征服しようとしてる。本気で。」

・・・とりあえず、一つわからないことがある、と言うことが分かった。

「なぁ・・・その・・・丁寧に説明してくれたことは有難いんだが・・・その‘‘

パトラ’’って誰だ?」

すると二人は目と口を大きく開きそのまま固まってしまった。少し経ったら我に帰ったのだろう、勢いよく喋り出した。

「貴様!!パトラを知らないのか!?」

「いや・・・ホント誰のこと?」

「イブイブ・・・あの船の上でファラオっぽい人いなかった?」

「ん?・・・そういえば眼帯、包帯、ガーゼ、松葉杖の重傷者セットつけたファラオのコスプレ少女がいたっけ?」

「そ、そんな人がいたんですか?」

ニトは引いた。

「あぁ、なんか喋ってたような気がするけど、船が傾いた時に近くにあった棺と仲良く海に落ちてったぞ。」

「・・・・・・イブイブ、多分その人。」

「イ・ウーってやっぱり変な奴が多いんだな。」

理子にジャンヌにヴラドにシャーロック・・・・・・変人奇人ばっかりじゃねえか!!

「だが・・・何故そんな包帯やガーゼを?」

ジャンヌが悩み出した。その時、理子は何か閃いたのか、急に自分の胸に手を入れ、ガサゴソと何かを探し、取り出した。玉藻からもらったお守りだ。・・・理子、お前どんな所にしまってたんだよ。・・・と言うか、そのお守り変なオーラ出してるし。

「そういえば、・・・これ持ってたら近くに虫の死骸が山積みになってたんだよね。」

え?言われてみれば・・・もらってからずっとポケットの中に入れてたんだが、外のベンチに座って5分も経つとカナブンモドキの死体が山になってたな。

「理子もか?そういえば玉藻が‘‘呪術の無効と、かけた野郎に倍で呪術返しするものです’’って言ってたな。」

と言うことは、もしかして・・・あのお守り持ってた全員分の呪いが倍になって返ってきたと。自業自得だけど・・・同情が禁じ得ない・・・。

「ゴホン・・・で、パトラはイ・ウーのNo2でな。名前から察しがつくだろう?パトラはクレオパトラの子孫だ。古代エジプト思想にかぶれた本人は自分がクレオパトラ七世の‘‘生まれ変わり’’と称しているがな。」

イ・ウーのNo2・・・ということは頑丈なんだろうなぁ・・・。平賀さんから貫通特化の弾丸をまだ受け取ってないぞ・・・。って何かオーラを感じる!?俺は感じた方を見ると・・・そこには・・・俯いたニトが・・・。

「あの・・・ニトクリス陛下?」

「イブキ、私は未熟なファラオです。ですが、長きに渡ったエジプトを再建させようと努力した彼女を知っています。私は彼女を尊敬しています。エジプトは滅びましたが・・・それは運命だったのでしょう。この国で言うなら”盛者必衰”でしたか。」

うーん「栄枯盛衰」じゃなくて「盛者必衰」か・・・これはまた・・・。

「エジプトは滅び異民族に支配されました。しかし彼らは・・・文字も文化も神話も忘れても・・・エジプトの再建ということを忘れませんでした。滅びてから何百年何千年かけて民は努力し、エジプトを再建・独立させることができました。その努力を・・・無意味なものにする!?私は未熟なファラオですが・・・それを許すことができません!!」

まさに(ファラオ)として、威厳をもってニトは言った。

なるほど・・・だから「盛者必衰」ね。平氏は壇ノ浦で負けて散り散りになったけど、平氏の血を引く織田(自称だけど)に羽柴(自称でその後、藤原も自称してる)が再び源氏を倒して、また負けても今度は倒幕で(有名人としては木戸孝允、後藤新平、小松帯刀)(でも普通に倒幕側に源氏混ざってるけど)再び国の中枢へ・・・。そう考えると平氏って化け物だな。源氏も化け物だけどさ。カット

 でもとりあえず・・・ここで言われても・・・。

「ニト。みんな見てるんですけど・・・。」

ニトはハッと我に返り、周りを見た。理子、ジャンヌ、鬼塚少佐がジーっとニトを見ている。ニトの褐色の肌が赤に染まっていく・・・。

「なぜ止めなかったのですか!!!???」

ガスッガスッガスッガスッ

ニトは持っていた杖で俺を殴り始めた。ってちょっと待って!!それ地味に痛いから!!そのクチバシ(?)みたいな部分で殴らないで!!

「イヤイヤイヤ!!!急すぎて止められなかったから!!」

「それでも止めるのが同盟者でしょう!?」

「ンな無茶な!?」

ガスッガスッガスッガスッ

「え?ニトニトってニトクリスなの?」

理子が聞いてきた。ってニトニトってなんだよ。・・・って、もうバレてるようなものかね。

「どうする?ニト。」

「・・・・・・もうバレてるようなものですし、知っても普通は信じないでしょう。」

そうか・・・。言われれば、普通は信じないよな。

「ニトは古代エジプトのファラオ、ニトクリス本人。生まれ変わりとかじゃないぞ。なぜか現代に蘇った。」

正確には俺が呼んだ・・・呼んだって言っていいのか?俺がこのことを言うと3人はぽかんとした。

「ボウズ・・・」

鬼塚少佐が深刻な顔をしながら訪ねた。

「さっぱりわからねぇ・・・。」

「ですよね・・・。普通蘇る、とか理解不能ですよね。」

俺も当事者じゃなければ信じねぇよ、こんなこと。すると、鬼塚少佐は深刻な顔のまま、ゆっくりと首を横に振った。

「そうじゃねぇ・・・。最初から何言ってるかわからねぇ・・・。」

「最初から!!!???」

え?イ・ウーって何?ってところから!?

「イブキ・・・あまり人にイ・ウーのことは教えたくないのだが・・・。」

ジャンヌがそっと俺に耳打ちをした。

「いや・・・この人‘‘通りすがりのタコ’’だから。無関係じゃないぞ。」

と言った瞬間、バッと理子とジャンヌは鬼塚少佐から離れた。

「ちょ!!おい!!わかってないからってそこまで引くことないだろ!?」

・・・三角諸島沖で潜水艦見つけたからって言って、辻さんと一緒にハッチこじ開けて中に入り・・・イ・ウーの生徒たちを薙ぎ払いながら前進、シャーロックと二人がかりで押され気味だったとしても、己の肉体一つでシャーロックといい勝負してた化け物・・・。そう思うと、改めてこの人が化け物だって思えてくるな・・・。ん?俺?俺はそこら辺によくいる普通の軍人ですから。

「鬼塚少佐、三角諸島での潜水艦憶えてます?」

「あぁ。」

「イ・ウーって言うのはその潜水艦の乗組員や組織のことを言うんですよ。」

まぁ、間違ってないだろ。すると鬼塚少佐からオーラが・・・。なぜか後ろに不動明王っぽいものが見える。

「あいつらのことかァ・・・。あの時の宣戦布告・・・許しちゃねぇぞ・・・!!!!」

それは単に鬼塚少佐が勝手にそう受け取っただけでしょ。

「鬼塚少佐、次‘‘通りすがりのタコ’’やったら軍法会議って角山少将にきつく言われてますよね!!約束破るんですか!!」

「うっ・・・だがよ・・。」

「‘‘だがよ’’じゃないですよ!!あの事件、もみ消すのは大変だったって角山少将は愚痴ってましたよ!!」

そう言った後、俺は鬼塚少佐にそっと耳打ちをした。

「ブログ・・・この子達にバラしますよ。」

それを言った瞬間、鬼塚少佐からオーラが出なくなった。不動明王っぽい奴も見えない。

「そうだな。みんな、のど乾いてないか?ジュースを買ってこよう。」

そう言って鬼塚少佐はどこかへ行ってしまった。・・・ブログはそこまで隠したいことなんだ。・・・・・・これは使えるな。

「イ、 イブキ・・・。貴様は何をしたんだ?」

「いや?これ以上やったら軍法会議ですよって言っただけだ。」

 

 

 

 

 

「パトラの戦い方ってどういうのなんだ?どうせ、耐久か体力が化け物なのか?」

「お前は何故そう考えるんだ。」

ジャンヌは頭を押さえた

「いや、だってな。今までイ・ウーと戦ってきてそうとしか思えないんだよ。戦闘後、高度6000~7000メートルを飛び降りて、そのまま海を10キロ程度遠泳した奴だろ。一発貰ったら上半身と下半身がサヨナラどころか木っ端微塵になる威力の銃をゴム弾とはいえ、何発も喰らってるのに肋骨数本が骨折するだけで済んだ奴だろ。挙句の果てに何をやっても死なないHPチートだろ?イ・ウーは頑丈な奴ばっかりとしか思えないんだよ。」

おれがそう言うと、ジャンヌと理子は顔をそらした。

「で、どんな戦い方をするんだ?」

するとジャンヌが説明をしだした。

「パトラはピラミッド型の建物がそばにあると無尽蔵に魔力を使える・・・。お前のように言うなら・・・ブラドはHPチート、パトラはMPチートというところか。後はニトクリス陛下に聞いたほうが早いだろう。」

そう言ってジャンヌはニトを見た。

「ジャンヌよ。今の私はただの少女ニトクリスです。畏まらなくても結構ですよ。さっきのは私が未熟であるがゆえになってしまったものです。」

「しかし・・・。」

「まぁ、ジャンヌ。ニトは生前楽しめなかった青春をここで楽しもうとしてるんだ。畏まられたら、楽しめないだろ。」

「そういう事です。」

そう言ってニトはにっこりと笑った。

「わかりまし・・・いえ、わかった。」

「よろしい。」

そう言って二人は握手をした。うん・・・仲良きことは良いことだな。

「ジュース買ってきたぞ。」

鬼塚少佐が戻ってきた。

「そういえば、なんで鬼塚少佐が来てるんですか?」

「あ、そうだったな。お前に渡すものがあってよ・・・」

そう鬼塚少佐が言った時、田中さん、岩下さん、メガネさんが走ってきた。

「整備終わりました。」

「おう。」

「あの整備って・・・。」

「あぁ。何故だか分かんねぇが、連合艦隊司令長官の山本四十六(よおろく)大将から零式水偵をうち経由でお前に渡せって命令があってな。何でも旧式だから何しても構わないってよ。」

「え?俺、連合艦隊司令部との繋がりとかありませんよ。」

「俺もなんだよ・・・。お前たちもないよな・・・。」

鬼塚少佐が田中さん、岩下さん、メガネさんに聞いても。

「ないです。」←田中さん

「ないッス。」←岩下さん

「え?あの・・・カジノの山本さんでは・・・。」←メガネさん

そうメガネさんが言った。え?

「何言ってるんだ?あの人は違うだろ。」←鬼塚少佐

「違いますよね。」←俺

「違うだろ~あのおっさんは。」←田中さん

「どう考えても違うッスよ。」←岩下さん

「え?・・・ち、違い・・・ますか・・・。」←メガネさん

 

 

 

 

 この世界では零戦(ゼロ戦、零式艦上戦闘機)と零式水偵(零式水上偵察機)はつい最近(と言っても1980~1990年代前半)まで生産、運用されていた長寿兵器だ。と言っても零戦は二人乗りにして初期練習機、零式水偵は水上機用の練習機&機上訓練機&カタパルト訓練機だが。零戦は着陸速度が遅く、癖がなく、安価な割に足が頑丈で無茶が効くということで使われ続けていた。零式水偵は3人乗りのため訓練機材を乗せるのに向いていて、滞空時間が長い、武装が無いに等しいので他国との問題にならない、などの理由だそうだ。そのため、零戦と零式水偵は結構有り余ってるんだが・・・まさかタダでもらえるとは思わなかったな。

「マジかよ・・・。」

「本当は私の乗ってきた‘‘オルクス’’でいかせてやりたいが、あいにく武藤がまだ整備中でな。」

ジャンヌがそう言うと、今度は鬼塚少佐が訪ねた。

「ちゃんとGPSにコンパスは正常に作動してる。ところでボウズ・・・飛ばし方、覚えてるよな。」

「覚えてますよ。あんな小さいときに無理やり覚えこまされたんですよ・・・。」

鬼塚少佐との免許取得訓練はきつかったよ・・・。

「ところで・・・理子、ニト、なんで飛行服なんて着てるの?」

「もっちろん!!イブイブと一緒に行くからだよ!!」

「相手はエジプト魔術の使い手です。私も行ってせっきょ・・・ゴホン。戦うのがいいと思いますが?」

・・・そう言われると反論できない。

「ほらよ。」

鬼塚少佐がそう言って、俺に何かが入ってる袋を渡した。

「なんです?これ?」

「何って・・・。お前の飛行服と搭乗員セットだぞ。」

・・・マジでこいつで行くのか。

「ついでに弁当は稲荷ずしと巻きずしな。」

「ちょっくら着てきます。」

そっか~、寿司かぁ~ならしょうがないかー。

 俺はさっさと着替えて零式水偵に乗り、みんなに見送られながら、理子とニトと共にウルップ島沖へ出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私ことメガネは村田大尉を見送った後、隊舎に戻りパソコンを開いた。そして山本司令長官を検索した。

「うーん・・・。やっぱりカジノの山本さんと瓜二つなんですよね・・・。」

そう言ってパソコンの画面とにらめっこをしていたら

ガチャ・・・

私の後ろに誰かが銃を構えている!?私はゆっくりと両手を上げた。

「メガネ君。世の中には知らないほうがいいこともあるんだよ。」

私の後ろにいた誰かはそう言って去っていった。冷汗が止まらなかった。

「そ、そういえば少佐のブログはどうなってるんだろう?」

少佐のブログを開くとそこには

「部下に水上機を届けに行きました。

 

そして、部下の彼女さん達との写真です。」

という文字と、水上機から撮ったであろう風景、少佐と村田大尉、そして銀髪と金髪、紫の髪の3人の少女計5人が写った写真が上がっていた。

「自由な人だなぁ」

今日も日本は平和だ。

 




アヒルさんボートって意外と高いんですね。調べてびっくりしました。

歴史って面白いですよね。壇ノ浦で源氏に負けても、今度は源氏の作った幕府(鎌倉幕府)を乗っ取って。幕府(鎌倉幕府)を滅ぼされても今度はこっちが幕府(室町幕府)を潰して。で、また源氏に幕府作られても(江戸幕府)今度は源氏の一部と手を組んで幕府潰して(明治維新)。そう考えると面白くないですか?

山本四十六は某太平洋戦争初期の連合艦隊司令長官がモデルです。カジノでの山本さんとは別人なのか否か・・・。

零戦と零式水偵の設定は無理あったかな・・・。でもどうしても零式水偵で行きたかったんや・・・。瑞雲や晴嵐は早すぎ&もっと設定がきつくなりそう。94式水偵に零式観測機は航続距離の問題が・・・。


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水上機が陸上機に勝てるわけないだろ・・・

FGOがこんなに早く水着イベやるなんて・・・破産決定
ただでさえ、葬式に試験のせいでバイトあまり出れないから、給料少ないのに・・・。
それに艦これのローソンコラボ!?
ハハハハハ・・・・・・


俺が連合艦隊司令長官からもらった零式水偵(零式水上偵察機)は、零式水偵改と呼ばれるものだ。零式水偵改は戦後生産型でアメリカからタダ同然で貰ったエンジン(プラット・アンド・ホイットニー R-1830、F4F ワイルドキャットのエンジン)を乗せた零式水偵だ。何でも日本の航空技術を退化させないため、当時の航空技術者全員を集めて改造したという逸話もある(同時期に零戦の練習機への再設計をしたらしい)。

 そんなことはともかく、俺は今ちょうど青森沖を高度4000で飛行中だ。大体あと半分くらいか?で、後ろにいる二人は何をしているかというと

「「グ~・・・グ~・・・」」

イビキをかいて寝ている・・・。最初は

「トランプやろうぜ!!」

とか理子が言っていたが、持っていたトランプは風に飛ばされ、

「お、オセロやろう。」

今度はオセロを出し、理子とニトの二人で対戦していた。が、2~3時間ぶっ続けでやって疲れたのだろう、そのまま寝てしまった。羨ましいことで・・・。

 もちろんこの機体、自動操縦装置なんてない・・・。よって10時間以上俺がずっと操縦してなければいけない・・・。鬼塚少佐・・・GPS着けてくれたのはすごくうれしいんですが・・・自動操縦装置も着けてくれると嬉しかったなって・・・。俺はそう思いながら意識を失った。

 

 

 

 

 

  ガツン!!!!

「いってぇええええ!!!」

いきなり俺は頭を殴られ、飛び起きた。

「な、何しやがらぁ!!」

「イブイブ、寝てたよ。」

俺は後ろを振り向くと、そこにはニトの杖を持った理子がいた。その後ろのニトもうんうんと頷いている。

「・・・もうちょっと優しい起こし方とかありませんでしたかねぇ?」

「手っ取り早く起こすのがこれだったのですよ。」

「それよりもイブイブ、だいぶ流されてない?」

理子がそう言うと、俺は慌ててGPSとコンパスを見た。・・・あちゃぁ、これは1~2時間程度遅れるな。だとすると・・・アリアのタイムリミット1時間前ぐらいには着くか?

「え~・・・お客様に報告します。当機の到着は偏西風の影響により、到着が2~3時間ほど遅れます。ご理解とご協力をお願いします。」

「「イブキ(イブイブ)が寝てただけですよね!?(だよね!?)」」

  ガツン!!

イタイ・・・。

 

 

 

 

 出発してから13時間が立とうとしてる。・・・空の上にいるとGPSのおかげで細かい作業が一切ない(多少の風による修正程度だ)がそろそろきついぞ・・・。と思った時、船が2隻見えた。お?と思い少しスピードを上げて近づいていくと・・・。でっかいピラミッドを無理やり乗せた客船とコンテナ船が見えた。俺は客船よりもコンテナ船のほうに注意がいった。

コンテナ船は普段、コンテナを5段6段と山積みにしているが、そのコンテナ船は全て2段で平らになっている。それに艦橋も船の横についている・・・。そう、まるで空母のような・・・って殺気!?

俺は急いで操縦桿を傾けた。

「ちょっと!?イブイブ!?」

と理子が言った瞬間、機体の横を機銃と機関砲の雨が通り抜けた。俺は弾が飛んできた方向を見ると・・・スツーカ!?

「なんでここにスツーカなんているんだよ!?」

俺は急いで逃走を開始した。

 

 

 スツーカ(ユンカース Ju 87 シュトゥーカ)は、ドイツにおいて第二次世界大戦中に使用された急降下爆撃機だ。後継に恵まれなかったこともあり大戦前に初飛行しているが、終戦まで使われた長寿兵器だ。で、このスツーカ、逆ガル翼を主翼とする複座機で、急降下爆撃に耐えうるために頑丈に設計されていて、安定した飛行能力、精密爆撃などの長所がある。短所は低速 、防弾設備がほとんどない、航続距離が約1,000kmと短いぐらいか・・・。でも俺たちは今、この短所を攻めることができない。

低速←こっちは下駄履き機(水上機)なのでそこまで変わらない(辛うじて零式水偵が優速)

防弾装備がない←こっちの武器は拳銃しかない

航続距離が短い←こっちも燃料が心もとない

・・・なんて無理ゲー。

 

 

 

 状況は悪化の一途だった。敵のスツーカのパイロットは腕がメチャクチャいい。零式水偵改は戦後生産機なので最高時速400キロ以上出せ、旋回性能も自動空戦フラップのおかげで大分いい。その機体性能の差のおかげでド素人パイロットが歴戦パイロットとタメを張れているのが現状だ。辛うじて互角の勝負をしているが、こっちに攻撃用兵器がない&時間制限付き・・・なんてこった。強いてありがたいことを言うのなら、敵はスツーカを一人乗りしているおかげで、スツーカの後部機銃は火を吹かないってところか。

それにしても、このままではまずい。何か・・・何か敵を落とすことができる物はないか・・・?

「ホルアクティ!!」

ニトはそう言って光の玉(?)を飛ばしているが、お互いが空戦機動をしてるために当たる気配がしない。理子も拳銃をスツーカ目がけて撃っているが威力不足だ。俺は一瞬「四次元倉庫」に手を入れた。すると

ゴツ・・・

俺の勘が「こいつは使える」と言っているので慌てて触ったものを出した。それは平賀さんお手製の‘‘閃光音響筒(スタングレネード)’’だった。・・・攻撃兵器じゃねぇよ・・・。チクショウ、こいつが‘‘手榴弾(グレネード)’’なら何とかなったのに・・・。

「当たりなさい!!!」

ニトはそう言ってカーを出したがあたる気配がない・・・。ん?・・・当たる?カー?・・・・・・閃いた!!!

「理子!!ニト!!合図をしたら、目と耳をふさげ!!」

二人ともなんか言ってたが

「説明する時間が無い!!」

この一言で黙らした。

 攻撃開始はスツーカが俺の真後ろを取った時・・・。そして、その機会はすぐ訪れた。・・・距離、大丈夫だな。

「オラァアアアア!!!!」

俺は平賀さんお手製スタングレネードを上空へ投げた。

1・・・2・・・

「今だ!!!ふさげ!!!」

キィイイイイイイイン

激しい音と共に、目を焼くような光が空中に現れた。俺が後ろを振り向くと、スツーカのパイロットが目を塞いでいる。・・・かかったな!!

 俺はその隙に機体を急旋回させヘッドオン(正面からの真っ向勝負の状態)にさせる。旋回させ終わった数秒後、スツーカのパイロットの目が治ったのだろう、俺達を見て驚いた表情をしている。慌てて衝突を避けようとしてるがもう遅ぇ!!

「イピカイエー・マザーファッカーーーーーー!!!!」

ドカーーーン!!!

俺は「下駄履き機」の「下駄(フロート)」をスツーカに当てた。おかげで「下駄」の片方が落ちていったが、スツーカの垂直尾翼と水平尾翼の半分を持って行った。スツーカのほうを見るとパイロットが脱出しようとしている。よかった何とかなった・・・。

 

 

 

 

空に一輪の白い花が咲いた

 

 

 

 

なんか、あのパイロットこっちに敬礼してるように見えるが、俺の見間違いだろう。

 

 

 

 

「うー・・・気持ち悪い・・・」

「オェ・・・。」

理子がダウンしてる。ニトは紙袋を口に当て、呻いて(うめいて)いる。

 さて、問題が一つ解決したが、今度は新たな問題ができた。「下駄(フロート)」が片方無くなってしまったため、海上に降りることができない。もう・・・これ答えは一つしかないよな。

「ニト、泳ぐことできる?」

「オェ・・・で、できますが・・・ウッ・・・。」

ファラオとしてなのか、少女としてなのかは知らないが、いっそ吐いてしまったほうが楽になると思う。

「理子、ピラミッド状の建物があるとMPチートなんだよな。」

「そ・・・そうだよ・・・。」

決定だな。

「二人とも、パラシュートの開き方は知ってるよな。」

それを聞いた二人はビクッと肩を震わせた。

「ほ・・・本気ですか!?」

「イブイブ、本気でやるの!?」

「だってそれ以外ないでしょ。ほら、そろそろ下りないと泳ぐ距離が多くなるよ。」

二人はいそいそと準備をしだした。

 

 

「イブイブのことは忘れないよ。じゃぁね。」

「イブキ、ご武運を。」

そう言って二人は零式水偵から飛び降りていき、空に白い花が二つ咲いた。・・・ちょっと待って、なんか俺死にに行くように思われてない!?カット

 俺の作戦はこうだ。

1 零式水偵をピラミッドへぶつけるコースまで操縦。

2 コースに乗ってある程度したら、俺は脱出。

3 零式水偵がピラミッドにぶつかって大きな穴をあける。

4 そこに俺が着地し中に侵入

これ以上ない作戦だろう。いやぁ、俺のこの作戦立案能力はすごいなぁ!!!・・・これぐらいの作戦しか考えられないんだもの。もう少し、ちゃんと学校で習いたかったなぁ・・・。

 さて、零式水偵が急降下をしだした。流石は戦後生産機、たかが急降下したところでビクともしないぜ!!・・・さて、そろそろかな。

「イピカイエー・マザーファッカーーー!!」(本日二度目)

俺は零式水偵から飛び降りた。もちろん「パラシュートはただの飾り」だからつけてない。あれ、船の横に魚雷みたいな小さな潜水艇が横付けしてる。何故?

ブーーーン・・・ドカーーーン!!!

零式水偵がピラミッドにぶつかって穴をあけた。あれ?穴が意外に小さいんだけど・・・ってやべぇ!!このままだと穴に入らねぇ!!

 横風が吹いていることに気づいた俺は必死で落下コースを変えようとしたが、努力も空しく、穴から10メートルほど離れた場所に落ちた。こいつは死んだな。

ズドーーーン!!

 

 

 

 

 

 ピラミッドがメチャクチャ薄いベニヤ板で助かった。だから穴が小さかったのか。・・・まぁ、普通考えればそうだよな。船体ギリギリにでっかいピラミッド作るんだもの。鉄なんかで作ったらこんな外洋じゃすぐ横転するよな。

 さて、あたりを見渡してみると、気絶したであろうアリア(ビキニ?着用)を抱えるキンジ(鼻血つき)、白雪をかばうカナさん(キンイチさん)、ふらふらと折れた松葉杖で立とうとするファラオコスプレ少女がいた。こいつがパトラか。

「き、貴様は・・・ムラタイブキ・・・。」

「おう、とりあえず逮捕な。」

俺は松葉杖を突きながら逃げようとするパトラを歩いて追い、腕をつかんでそのまま逮捕した。

「時間は・・・また壊れてる。とりあえず殺人未遂で逮捕。」

ガチャ

他に余罪がありそうだけど、わかるのはこれぐらいだしな。

「こ、こら!!何をしておるか!!妾は覇王・・・」

「うるせぇ!!」

「・・・パトラ、ピラミッドは神聖なものでしょう。静かにして、ね。」

パトラはおとなしくなった。俺とカナさん(キンイチさん)の説得がうまくいったのだろう。

 

 

 

 

 あれ?そういえばキンジと白雪がいる。なんで?

「キンジ、寝てたんじゃないのか?」

「イブキが行った後起きて、白雪と一緒に魚雷でここまで来たんだ。」

魚雷・・・?あぁ、船に横付けしてたちっこい潜航艇のことか。そんなことを話しながら壊れたピラミッドを出て舳先に出た。ゆっくりと傾きつつあるからなこの船。いつでも脱出できるようにしないと。

舳先に出た時、ちょうどアリアが起き、そしてニトと理子が降りてきた。アリアのほうはキンジに任せよう。

「え!?もう終わっちゃったの!?理子の出番は!?」

「あ・・・あんなこと言ってやることがないなんて・・・。」

「まぁまぁ・・・俺だってやることほとんどなかったんだし・・・。」

などと二人をなだめていたら、カナさん(キンイチさん)が急に焦りだし、何か叫びだした。

「みんな!!逃げなさい!!」

すると理子が急に震えだした。どうした?

 ズズズズ・・・・

そんな音と共に、何かが浮き上がってきた。この感じからすると潜水艦か?それにしてはかなり大きいな。

そして浮き上がってきたものは・・・お馴染み、イ・ウーのボストーク号。・・・と、なぜか隣に古めかしい潜水艦が。第2次世界大戦の物か?少なくとも日本のじゃなさそうだ。大きさからは伊号(1000t以上)じゃなくて呂号(1000t未満400t以上)クラスか?

「‘‘教授(プロフェシオン)’’・・・や、止めてください!!この子達と・・・戦わないで!!」

そう言ってカナさん(キンイチさん)はキンジ達の前に出た瞬間

パシュッパシュッパシュッパシュッ

銃弾が俺のほうに3発カナさん(キンイチさん)に1発・・・俺は急いで3発を刀で防いだ。そしてカナさん(キンイチさん)は吹っ飛んだ。こいつは結構な威力だ・・・拳銃じゃない。小銃クラスだ・・・。

撃った奴は・・・こいつか。

「・・・曾、おじい様・・・?」

アリアがかすれた声で言う。正解だよクソッタレ!!

 

 

 

 

 

「カナっ!!!カナっ!!!」

キンジが叫んでる。アリアと理子は呆然と立ち尽くしてる。おいっ!!もうここは戦場だぞ!!

 俺が理子を伏せさせようとした瞬間、こっちのほうへ進む2つの青白い物体が・・・魚雷!?

「魚雷だ!!伏せろ!!」

ズドォオオオオオン!!

二つの水柱が空高く上がった。チクショウ!!この船はただでさえ傾いてるんだ!!魚雷なんて喰らったら一瞬で沈むぞ!!・・・あれ?轟沈(一分前後で沈没)すると思ってたんだけど・・・。傾斜するスピードがちょっと上がっただけかよ。

「「白雪!!(理子)艦尾に救命ボートがあるはずだ!!それを下ろせ!!」」

俺とキンジが白雪と理子に命令した。こう呆然としている奴には何か仕事を与えないと何もできないからな。

「キンイチ!!キンイチ!!」

びっくりしたことに、パトラはこのどさくさに紛れて手錠の鎖部分を切断し、カナさん(キンイチさん)のほうへ走っていった。逃げるつもりじゃ・・・ないな。

「キンイチ・・・あぁ、キンイチ・・・。」

そう言ってパトラはカナさん(キンイチさん)の撃たれたところに手を当てると・・・そこが青白く光り始めた。

ドォオオオン・・・

ボストーク号とこの船が接舷したようだ。そしてその潜水艦から・・・男が一人、海面を凍らせこっちに来た。

「こいつもあんたの計算通りってか?シャーロックさんよぉ?」

「いや・・・君の存在は推理になかったよ。」

オールバックの青年がそう言った後・・・。

「だが、イブキ君以外は・・・・・・もう会える頃だと思っていたよ。」

シャーロックがこの船に降り立った。

「卓越した推理はやがて予知に近づく・・・それを僕は‘‘条理予知(コグニス)’’と呼んでるがね。」

シャーロックが何か説明しだした。俺は「影の薄くなる技」を使い、シャーロックの後ろへ移動する・・・。エアジャックの時のようになりませんように・・・。

 シャーロックがアリアをひょいっとお姫様抱っこした・・・。ここだ!!俺はシャーロックに切りかかった。

ザシュ!!

切った!!と思った瞬間俺は殺気を感じ避けた。

ガンガンガン!!

俺がいたところには3本の矢が刺さっていた・・・。は?

「っ・・・。流石だね・・・。僕の推理でも今のはわからなかったよ・・・。」

と言いながら、シャーロックはアリアを抱え、ボストーク号のほうへひとっ跳び・・・。っち!!あの野郎、すぐ回復してやがる!!ブラドの回復力まで持ってやがるのか!?

「君は僕の推理をかき乱す・・・。だから・・・君を隔離させることにした。」

シャーロックが言った瞬間、俺に向かって矢が!!避けようとしても追いかけてくる!?俺は一瞬「影の薄くなる技」を使い、何とか矢を避けた。撃たれた方向を見ると・・・。タンカー!?なんかすごく近くにいるし!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンダンダン!!

今度は銃撃!?俺は弾を避け、弾の飛んできた方向を見ると・・・ボストーク号の隣にあった小さい潜水艦の上に、トンガリ帽子にマント、卍の眼帯に軍服、肩にカラスをのせた少女が立っていた。

「イブキ!!貴様の相手はこのあたしだ!!」

「えーっと・・・仏教の方ですか?」

おそらく、ナチス関係の人なのだろうが、その関係の人が間違ってはいけない物を間違っていたため、俺はそう聞いてしまった。

「貴様・・・何言ってんだ?」

「いや・・・その眼帯・・・時計回りじゃなくて、反時計回りだぞ。」

え?という言葉と共に、彼女はいそいそと手鏡を出して確認した。あ、顔が真っ赤になった。

ダンダンダンダン!!

彼女は顔を真っ赤にしながら、今度は拳銃を空に向けて撃った。眼帯は逆卍になってる。直したようだ。

「イブキ!!貴様の相手はこのカツェ=ぐr・・・

「イブイブ!!早く逃げよ!!」

理子が俺のほうへ走ってきた。とりあえず落ち着いたらしい。

「いや!?今それどころじゃないって!!・・・で、何?」

俺はカツェ=某さんに聞いた。take2失敗で結局わからなかったし。

「・・・貴様の相手はこのカツェ=ぐっらs・・・」

ブロロロロロロロロ!!!

急に飛行機の音が聞こえる・・・。俺は聞こえたほうを見ると・・・スツーカ!?しかもG型!?

タタタタタタタタタ・・・・ドォオオン!!!!

撃ってきやがった!?

俺と理子は機銃と機関砲から走って逃げた。逃げた先は小さい潜水艦の甲板の上だった。あのスツーカ乗り・・・わざとこっちに誘導したな!?あとついでに鉄の矢も俺のいた場所に刺さってるし・・・。

 あ・・・・・・・・・take3失敗・・・

カツェ=某さんは俯きながらプルプルと震えていた。そして顔を上げ、俺を睨んだ。

「イブキ・・・よくもあたしをコケにしてくれたな!!コロス!!コロシテヤル!!!」

ダンダンダンダン!!!!

「いや待って!?俺が何したの!?」

ブロロロロロロロ・・・タタタタタタ、ヒュンヒュンヒュン!!!

上空のスツーカが火を吹き、2キロは離れてるタンカーから矢が飛んできた。

「イブイブの近くって、命いくらあっても足りないよね。」

「うるせぇ!!理子!!手伝え!!」

「あいあいさ~!!」

 




零式水偵の設定はきついかもしれないけど・・・これで通します。

スツーカ乗りの方も次回ちゃんと登場しま・・・できるといいなぁ。スツーカならこの人でしょ。

教授は推理の間違いの原因を突き止め隔離しますが・・・それだけで推理は正しくなるのでしょうか・・・。

ちょっと早いですがカツェ=某さん、風の某さんが登場です。流石にこのメンツにココを足すのはきついのでやめました。


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大量破壊兵器は使っちゃいけない・・・

試験が近いと書くスピードが上がる~
だけど単位から遠のくの~


・・・言ってて悲しくなった。


 俺と理子の二人は大分苦戦していた。突っ込んでくるカツェ=某と手下数名、艦橋からその手下達の援護射撃、スツーカからの援護射撃と矢の援護射撃・・・。本来であるならば俺が突撃し、理子が支援するのが一番の理想ではあるのだが・・・理子ではスツーカと矢の対処ができない。そのせいで、理子がフロントを守り、俺が支援するという変則的な戦い方をしていた。     

 いやぁ・・・どれかを狙わせないようにスツーカ、弓兵、手下の機銃手がうまい具合に連携してやがる。そのおかげで理子のほうへ援護が行ってないのはありがたいが・・・。理子のほうも6、7人いっぺんに来られてるから守るので精いっぱいだ。うん・・・これじゃジリ貧だな。

2キロ離れた弓兵・・・25ミリ機銃だと射程圏内だけど、しっかり狙わないと当たらない。(そんな余裕はない)

スツーカ・・・25ミリ機銃で対処可能。潜水艦ごと俺をヤルことができるので早急な対処を

艦橋の機銃手・・・対処可能。しかし接近しなきゃいけない。その間、弓兵とスツーカに狙われる

カツェ=某の手下たち・・・対処可能。しかし、接近させまいとスツーカと弓兵、機銃手が頑張っている。

一番厄介なのはスツーカか・・・。あのスツーカ乗りは潜水艦ごとヤル、とまで考えてないようだ。俺と理子が潜水艦の甲板に乗ってから、あの巨砲は撃ってないしな。・・・ん?潜水艦?・・・そうか、鬼塚少佐と同じことすれば何とか・・・

「理子!!スツーカをヤったら入るぞ!!」

「イブキ!!正気か!?」

おっと、今は裏理子のようだ。でも何やるかは伝わったようだ。

「各個撃破するしかないだろ!?安心しろ!!今まで2回こういうことやってるからよ!!」

ビルと空港な・・・。それに今度は潜水艦も入るのか・・・。

「わかった!!」

了解したか。

「おらぁああああああああ!!」

俺は一瞬「影の薄くなる技」を使い理子の傍まで行くと、25ミリ機銃を連射しながら理子と戦っていたカツェ=某含む6、7人をふっ飛ばした。俺と理子はそのまま艦橋の元まで走る。今のうちに弾倉交換だ。

タタタタタ・・・ヒュンヒュン

スツーカが超低空で俺たちの後ろから撃ってきた。矢も飛んでくる。

「ッ!!!」

俺に今弾が当たった。そのままスツーカは俺達を追い越そうと腹を見せ・・・ここだ!!弾倉交換が終わった25ミリ機銃をスツーカに向けた。

ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!!

この至近距離、当たらないほうがおかしいぜ!!

ブロロロロロロ・・・ドーーーン!!

スツーカは主翼が折れ、そのまま海へ落ちてしまった。っへ、ざまぁ見やがれってんだ。

ヒュンヒュンヒュン

「ッ!!!」

俺の腿に矢が刺さった。クソッ、矢が当たらないところへ・・・。

 

 俺と理子はタンカーとは逆側の艦橋の根元で小休止をしていた。

「イブイブ、止血した?」

理子は拳銃を撃ちながら俺に聞いてきた。流石は理子、俺が血まみれになっていても驚かない。

「今してる。」

俺は「4次元倉庫」からガーゼと包帯を取り出し、止血を始めた。ありがたいことに銃弾は全部貫通してる。

「ムンッ!!」

そして腿の矢を抜き、ガーゼを当てた。よし・・・これで止血は完了。理子の援護のために立ちあがった瞬間

ガシッ!!

「は?」

俺の足が何かに捕まれたせいで俺は転んでしまった。俺は自分の足を見た。そこにはずぶ濡れの飛行服を着て、長い金髪を後ろで一纏めにした女性がいた。その女性の顔は、まさにヨーロッパ系といった感じに彫りが深く端正な顔だが、鼻に大きく横一線の傷があった。

 え?もしかしてスツーカのパイロット!?見た感じ、ケガがない。おい、飛行機ごと海に落ちたんだのに無傷とか鬼塚少佐並の頑丈さだな!?俺は呆気に取られてしまった。

 すると彼女は立ち上がり、腰の拳銃を抜いた。そのまま俺に向けようと・・・ヤベェ!!俺は急いで彼女の拳銃をはたき落とし、組み伏せ、彼女の額に14年式を構えた。

「降参だ、降参。降伏する。」

彼女は体の力を抜き、抵抗を辞めた。

「捕虜取れるほど余裕ないぞ。」

こんな時に捕虜取っても逆に負担になる。

「何、お前達の後ろをついて行くさ。」

「お前何言ってるの!?」

捕虜が戦闘中の敵前線部隊について行くなんて聞いたことないぞ!!

「ところでお前、アイチE13Aのパイロットか?」

E13A・・・?あぁ、零式水偵の略語か。この人、話が飛ぶなぁ。

「俺が零式水偵を操縦していた。」

「ほぉ・・・お前か・・・。」

そう言って、彼女は俺を値踏みするようにジロジロと観察し出した。

「イブキ!!何やってる!?・・・って何やってるの!?」

理子がこっちを見て言った。あ、傍目から見れば女性を組み伏せてる危ない人だ・・・。

「理子、チェンジ。この人スツーカのパイロットで俺達に降伏するんだってよ。武装解除お願い。」

「お前がやっても構わないぞ。」

うるせぇ、ややこしくするな。

「え?降伏・・・?って、ハンナ・ウルリーケ・ルーデル!?パイロットってこの人だったの!?」

表理子と裏理子がごちゃ混ぜになってるぞ。

「お前、有名人なのか?」

「そうみたいだな。」

「イブイブ、この人は魔女連隊で最強の飛行機乗りの一人だよ!?」

理子は銃を撃ちながらそう言った。

「その魔女連隊って何だ?」

「今戦ってる敵のことさ。」

ハンナさん?が答えてくれた。

「我々魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)はテロを叩いて世界を平和に・・・という考えなのだが、魔女連隊(レギメント・ヘクセ)自体がテロになってきてな。この機会だ。降伏して魔女連隊(レギメント・ヘクセ)から抜けよう・・・とな。」

なるほどなぁ。

「で、お前さん個人の意見は?」

俺はなんとなくだが、こいつは本心を言ってないような気がした。

「何、テロを叩ければそれでいい。特に赤ならもっといい。」

「アンタも大分あぶないな!?」

「そうか?フフン。」

そう言ってハンナさん?が豊かな胸を張った。何か疲れた。でも、嘘は言ってないようだ。

「・・・で、どうする?捕虜にする?」

「・・・イブイブ、チェンジ。」

「了解。」

そう言って、俺と理子の場所をチェンジした。

 

ダンダンダンダン

敵はうまい具合にハッチから頭を出し、俺達を狙ってくる。有難いことは真上の艦橋から何もしてこないってとこか。上から撃ったら潜水艦にもダメージ行くからな・・・。

「ったく!!野郎!!」

ハッチの方へ行けば艦橋と矢の射線に入るからな・・・。だからといって、艦橋に侵入しようとするとハッチからはいい的だしなぁ・・・。・・・あ。

 俺は平賀さん特製のスタングレネードを2つ出した。ピンを抜き、艦橋とハッチへ投げ込んだ。ハッチへ投げたほうはキレイに潜水艦内へ入って行った。

キィイイイイイイン!!

すると敵は撃たなくなった。今だ!!

「理子!!中はいるぞ!!」

「よし、分かった。」

「なんであんたが返事するんだよ!?」

「イブイブ、こういう人なんだよ・・・。」

理子は大分疲れ切っていた。

 

 

 

 

 艦橋を上り、上にいた機銃手をロープで縛りあげた後、ハッチにもう一回スタングレードを投げ込んだ。

潜水艦の中に入ると最初は発令所に出た。周りには呻いている人が10数人いた。そいつらをロープで縛りあげていると・・・。

「イブイブ、この後どうするの?」

「このまま艦首方面まで行って発射管室まで制圧、そのまま魚雷装填して、タンカーに向けて発射。簡単だろ。」

「うむ、実に良い作戦だな。」

ハンナさん?が頷く

「・・・これ大丈夫かな。」

理子が天を仰いだ。

「そういえば自己紹介してないな。俺は村田維吹。あんたは?」

「私はハンナ・ウルリーケ・ルーデルだ。よろしく。」

俺とハンナさんは握手をした。

「ルーデルさん、あんたは陸戦できるか。」

「陸戦は逃げるのは得意だが、本職に負ける。それと、私のことはハンナと呼べ。」

・・・なるほど、地上に落ちても逃げて基地に戻れる、くらいの能力はあるってことか。

「・・・ハンナさん。銃の腕前は?」

「そこそこ程度だな。あと、ハンナと呼べと言っただろう。」

ジロリと俺を睨んだ。

「・・・了解、ハンナ。」

「うむ、それでいい。」

「そういえばイブイブ、艦尾のほうはどうするの?」

理子が焦ったように俺に聞いてきた。

「あぁ、こいつを使う。」

俺はそう言って二つの瓶を取り出した。

 

 俺がまだHS部隊にいた頃、ある時山形の田舎町で訓練をした。その時、現地の高校生のお兄さんたちと仲良くなり、2種類の瓶を大量にもらった。その高校生達は町の駐在さんとイタズラ戦争をしているらしく、その時に使った余りものだそうだ。

 一つは化学部を脅して作った世界一臭い液体で化学部曰く「人体にどういう影響があるか保証できない」

 もう一つは仲間で自作したものだそうで、牛乳、卵、納豆、クサヤ、ドブの水を材料に作ったものだそうだ。

 当時、自分は軍人であったため、駐在さんへの悪戯の実行犯はあまりできなかったけど、楽しかったなぁ・・・。自転車でレーダー測定器の前を車と一緒に走ったりとか。カット

 

 

「こいつを艦尾方向に投げ入れれば、そっちにいる奴らは絶対に手を出してこれない。あ、ちゃんと扉閉めといて。閉めないと死ぬ(嗅覚が)。」

そう言うと二人はドン引きした。

「イブイブ・・・化学兵器はまずいんじゃない?」

「・・・ジュネーブ条約違反ではないか?」

「イヤイヤ、これ数年前に普通科の高校通ってたお兄さんたちからもらったやつだから。」

そう言うと二人は安心した。俺は二つの瓶を艦尾方向の扉の向こうへ投げた

パリンパリン

そんな音と共に異臭が・・・

「二人とも急いで閉めて!!!」

キーーーーガッチャン

急いで扉を閉め、ロックをかけた。すると艦尾方向から人が出してはいけないような悲鳴と扉をたたく声が・・・。

「イ、 イブイブ・・・。これほんと大丈夫なの。」

「・・・俺も一回嗅いだけど、死にはしなかった。」

ずいぶん前、部隊のみんなでふざけてこの液体を演習場の一角にまいたら、すごい異臭でメガネさんと田中さん、鬼塚少佐が気絶して緊急搬送されたっけ。命は別状なかったみたいだけど、時々小さな小瓶見ると反応してるな。

 

 

 

 艦首方向へ進むと、残りの敵が降伏してきた。艦尾での悲鳴が聞こえたのだろうか。俺は発射管室まで行ったが・・・

「クソッ!!!魚雷がないってあり得ないだろ!!これ潜水艦だぞ!?」

まさか潜水艦なのに魚雷を持っていなかった。正確にはあったけどデコイだった。・・・どうしよう。・・・あ。

「おい、そこの君」

「は、はい!!」

俺は降伏してきた少女の一人に尋ねた。

「この潜水艦の艦砲は使えるかい?」

「つ、使えます!!弾薬は発令所の下に・・・。」

「うん、ありがとう。」

甲板に乗っていた砲(90ミリクラス)は使えるのか。しかし、見た感じあれは大分古いぞ・・・。あそこまで古いのを使ったことない。

「問題は照準か・・・どうしよう。」

「・・・イブイブ、あの機関砲使えばいいんじゃない?」

理子は思い出したように言い出した。え?

 

 

 

 

 俺は魚雷を分解し、盾を作った。それと砲弾を持って俺はハッチから出た。

ガンッガンッガンッ

矢が盾に当たるが、さすがに鉄板は抜けないようだ。俺は盾で身を隠しながら砲のもとへ行き、撃てる状態にセットする。

ガンガンガンガンガン

敵が連射してきた。俺は砲身に対して水平に25ミリ機銃をガムテープでくっ付ける。後でガムテープの跡を取るのは大変だな・・・。

ガンガンガンガンガンガンガンガン

盾が凹んできた。これは急がないとまずいな。俺は「4次元倉庫」から角形双眼鏡(カニメガネ)を出し、25ミリ機銃に取りつける。

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン

もう盾がベコベコだ。急がないと・・・。俺は砲を動かし弓兵を狙う。ここだ!!俺は25ミリ機銃を撃った。

ダァンダァンダァンダァン

ガンガンガンガン・・・ドン!!

「っ!!!」

とうとう盾に穴が空き、そこから矢が出てきて俺の腿に刺さった。その瞬間、25ミリ機銃の弾が弓兵の足もとに穴をあける。銀髪にブレザーの制服(?)、羽のついた帽子をかぶった弓兵の少女が一瞬口元を少し上げ、笑ったような気がした。馬鹿め、ここで逃げなかったお前の負けだ!!

「イピカイエー・マザーファッカー!!!」(本日三回目)

俺は潜水艦の艦砲を撃った。

 ズドォオオオオオオン!!!

 スポッティングライフル、又はレンジングガンというのを知っているだろうか。無反動砲や戦車砲に同軸、又は直接つけられた銃のことだ。使い方は、そのくっついた銃を撃って狙いを定め、そして本命の無反動砲や戦車砲を撃つ。簡単に言うとレーザー照準器のなかった時代の、レーザー照準器代わりの物って思えばいい。俺はそれを25ミリ機銃をそのスポッティングライフル(レンジングガン)の代わりにしたんだ。

ドガァアアアアアアン!!!

タンカーの一角が爆発した。爆発した後、矢が飛んでくる気配はない。

「敵沈黙・・・。イブイブ、やったよ!!!」

そう言って艦橋で観測していた理子が俺に抱き着いてきた。

「イタイイタイイタイ!!!」

今俺の腿に矢が刺さってるの!!理子の足がその矢にぶつかってグリグリってなってるから!!

「ほぉ・・・羨ましいな・・・。」

俺は理子を離そうとするのに手いっぱいだった。

 

 

 

 その後、甲板で気絶してるカツェ=某を含む7人と一匹(カツェ=某を捕縛しようとするとカラスが襲ってきた。カツェ=某に乗っていたカラスだろうか)をロープで縛り上げると。

キー・・・バッタン

機関部のほうのハッチが開き、そこから涙としゃっくりが止まらない少女たちが這う這うの体で出てきた。え?ちょっと待って・・・

「ゴホッ…ゴホッ!!!っちょっと待って!!!なんでここまゴホォ・・・異臭がしてくるんゴホォ!!!」

ちょうどこっちが風下であったせいで異臭がこっちに・・・。

 

 

 

 

 あの後、鼻栓にマスク、ゴーグルを必死(まさに必死)で「4次元倉庫」から探し出し、理子とハンナに渡し、それらを装着して機関部のほうから出てきた子たちを捕縛していった。・・・ここまでやっても匂いがやばい。ママチャリさん・・・これ高校生が作っていいものじゃないぞ・・・。

 




スツーカと言えばこの人でしょ!!ストライクウィッチーズからハンナ・ウルリーケ・ルーデル(がモデル)です。

魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)はオリジナルです。

「僕たちと駐在さんの700日戦争」からあの薬品が登場です。ブログ版と映画版の劇薬です。なお、回想や閑話以外では「僕たちと駐在さんの700日戦争」のキャラは出ない(予定)です。もう高校卒業してますしね。
 





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槍なんていらないんですが・・・

今回は短いです。
いやぁ・・・はかどるなぁ・・・(試験から目逸らし)


 俺たちは必死(まさに必死、そこ自業自得とか言わない)で艦尾から這い出てきた潜水艦の乗組員(全員女の子)を拘束した。

「この後どうするんだ?」

ハンナがマスク&鼻栓&ゴーグル装備のまま聞いてきた。うん、色々と台無しだな。

「・・・すごい適応力の高さだよ。」

理子もその装備のまま呟いた。そうだよな・・・数時間前まで空戦やってて、20分前くらいまで俺達に機関銃に機関砲ぶっ放してたのに、普通に仲間のように接してる。それに対して疑問を抱かせなかったしな。

「とりあえず、イ・ウーに殴り込むか。シャーロックにはちゃんと挨拶しなきゃいけないしな。」

それにキンジ達はすでに殴り込みに行ってるだろうしな。もし、ある程度兵がいたら苦戦してそうだし。

 俺たちは鼻栓をしたせいで声が高く、しかもマスクにゴーグル着用で会議をしていた。他人が見れば不審者の集まりだな・・・。

 

 

 2度目ともなると、どう行けばいいかある程度わかってきた。それに今回は案内人が二人いるから迷うことはない。ボストーク号に入りしばらくすると金の延べ棒に各国の紙幣が山積みにされている部屋に来た。

「理子・・・これある程度拝借していかないか?」

「何言ってるの!?今急いでるんだよ!?それに、そんなの持ってたら戦えないよ!!」

「ってことは時間がかからなくて、戦闘の邪魔にならなければいいってことか?」

「う・・・確かに・・・。」

理子が動揺しだした。流石は大泥棒の曾孫、泥棒集団の棟梁(リーダー?)の娘。血は騒ぐようだ。

「戦利品か・・・私の分け前もあるのか?」

ハンナさん・・・あんた敵だったんだよね?

「5秒もしないで終わるって。」

俺はそう言って「四次元倉庫」の扉を延べ棒と紙幣の下に出し、扉を開いた。すると、延べ棒と紙幣はストンと「四次元倉庫」の中に入って行った。

「すごい魔術だな・・・あれはどこにでも出せるのか?」」

「そうだけど・・・ハンナ、何に使うんだ?」

「なに、あれがあれば弾切れが無くなると思ってな。さらにテロにプレゼントできる」

「・・・なんだかんだブレないね。」

俺と理子はため息をついた。

 

 

 

 分け前は恨みっこなしの1:1:1で分けることになった。思わぬ臨時収入、何に使おうかなと考えながら進んでいくと、大きな教会のような部屋に出た。圧倒するような美しい教会だったのだろうが、あっちこっちに弾痕があるせいで台無しになっている。

「イブイブ!!この扉開かない!?」

理子はそう言って鉄製の扉(自動扉の鉄バージョン)に手をかけ引っ張っているが、開く気配がしない。

「理子、どいて。」

俺は刀を抜くと扉に一閃、扉は切れてブロック状になり、そのままバラバラと落ちていった。

 

 

 

 

 扉切りを何度か繰り返していくと、ICBMの部屋に出た。懐かしいな・・・これで辻さんと鬼塚少佐と俺で脱出したんだっけか。中に入ると、ICBMの扉に捕まった白髪交じりのシャーロックがいた。シャーロックは俺に気づいたようでこっちに手を振り、

「イブキ君!!僕が何年もかけて建てた計画をよくも壊してくれたね!!何とか緋弾は継承で来たけど、ここまで狂うとは僕の推理にはなかったよ!!」

「てやんでぇ!!人ひとりで狂う計画を立てるテメェが悪ぃだろ!!」

「いや、これは失礼。確かにそうだ。」

シャーロックがそう言うと、俺に何かを投げた。それは俺の足元でズドンと刺さった。

「僕の推理を覆してくれたお礼にそれをあげよう。キンジ君にもそれをあげよう。」

ドスッ

刺さっていたのは・・・真っ赤な槍だった。

「俺、槍なんか使わないぞ。違うものにしてくれ。」

「イブキ君・・・それ女王陛下から借り受けたもので、大英帝国の至宝だよ。」

「って言われてもなぁ・・・。こんなの貰っても博物館に寄付するだけだぞ。」

使わないのに持ってるだけなら、博物館に寄付したほうが「世のため人のため」になるしな。

「それだけはヤメテ。」

シャーロックは真剣な顔で言った。

「わかった・・・これも君にあげるから・・・博物館へ寄付はやめてほしい。」

ドスッ

そう言って、シャーロックが投げたのは・・・両刃で柄と鍔は青と金で装飾されている見事な剣だった。

「まぁ・・・これなら使えるけど・・・。」

「いいかい・・・絶対に博物館に寄付はしないでね。」

シャーロックは真顔で言った。

 

 

 がすっ・・・がすっ・・・

アリアは俺とシャーロックがしゃべっている間、小太刀を両手に握り、それをICBMに突き刺してロッククライミングのように登っていた。そしてシャーロックと何かしゃべった後、そのままICBMは発射され、キンジも急いでICBMに掴まってそのまま空高くまで行ってしまった。

「イブイブ、追いかけなくてよかったの?」

「いや、走ってもどうせICBM発射されて終わりだし、アリアが登ってるの見えてたからな。せいぜいしゃべって時間稼ぎを・・・ってね。それに・・・」

そう言って俺は槍と剣を抜こうとした。って槍重っ!!俺は魔力で腕を強化し、やっと抜いた。

「アリアの曾爺さんなんだろ。捕まえる手柄はアリアにあげないとな。」

 

 

 

 ボストーク号から出た俺たちは救命ボートに乗っている、ニト、白雪、パトラ、キンイチさんを発見した。キンイチさんは何とか生きていたようだ。よかった。

 タンカーはそのまま逃げていたようで、俺達はカツェ=某の乗っていた潜水艦の見回りをしていた(途中キンジとアリアが空から降ってきたのは驚いた)。

ブロロロロロロロ・・・

飛行機の音が聞こえる。空を見上げるとUS-2が飛んでいた。大湊所属か?

ボーーーーーー

汽笛が聞こえる、あれは・・・第5艦隊か?

 俺たちはこの後すぐに救助され、第5艦隊の一部を指揮していた山口少将の手によってボストーク号とカツェ=某の潜水艦は回収された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「村田大尉、君あの小さいほうの潜水艦何やったの?中に入った兵たちから防毒マスクとかボンベの使用許可をくれってうるさいんだけど・・・。」

「え・・・えっと・・・民間人のお兄さん達からもらったイタズラ道具使っただけです。」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、単冠湾にいた車輛科秘蔵の水上機に乗り移り、一日がかりで東京に戻った。カツェ=某たちは大湊で尋問らしい。ハンナは大湊で司法取引をする予定で、やった後はそのままドイツへ帰国だそうだ。

「イブキ、ここでお別れだ。」

「ハンナ、なんだかんだあったけど元気でな。」

なんだかんだあったけど、なんか憎めないやつだったな。するとハンナは顔を赤くした。

「イブキ、私の後部座席はお前のために空けておこう。」

「はぁ・・・?」

「と言ってもお前には伝わらないだろう。ちょっとこっちへ来い。」

俺はハンナに近寄ると、ハンナはいきなり俺の顔を両手で固定した。

「え!なっ!?」

ガチッ

ハンナはそのまま俺へ顔を近づけキスをした。勢いをつけたせいで互いの前歯が当たり、すごい痛かった。

「さらばだイブキ!!」

そう言ってハンナは去っていった。・・・そういえば前世、中高は男子校、大学も工業系だったから彼女の一人もいなかったんだよな。前世から数えても、これがファーストキスか・・・。ッ!!口の中切れちゃってるし・・・。ファーストキスは血の味・・・。

 水上機が飛んだあと、ニトと理子、操縦手の武藤が俺をボコボコにしたのは言うまでもない。

 

 

 

 戻った翌日、家族にシャーロックからもらった槍と両刃剣を見せたところ、師匠が槍に興味を持った。そういえば師匠の使ってるのに似てるような・・・

「そうか・・・セタンタ・・・。」

師匠はそうつぶやいた後、持っていた槍を俺に渡した。

「イブキ、それを使えるようにしろ。」

「え?あの師匠?俺もっぱら銃か銃剣か刀で戦うから槍は使わないんですが・・・。まだこっちの両刃剣のほうが・・・。」

「うるさい。久しぶりに稽古をつけてやろう。」

そう言って俺をつかみ、そのまま引きずりながら歩き始めた。

「ちょ、まって!!!俺まだ怪我人!!!!!」

「そのぐらいの怪我がなんだ。私を殺せるまで・・・とはいかんが、せめてセタンタ並みの槍の腕前にしてやろう。」

「え!?セタンタってだれ!?・・・不幸だーーーー!!!」

俺は某ツンツン頭の幻想殺しのような発言をしながら、闘技場へ連行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、皆さんはパトラの船に突っ込んだアヒルさんボートを覚えているだろうか。あのアヒルさんボートは両川さんが弁償することとなった。何でも、未成年にあんな大金を払わせることができないから。

 それと両川さんの勝った一千万は勝手にコインを外に持ち出したということになり無効となった。

「そ、そんなぁあああああ!!!」

「こら!!両川!!静かに仕事せんか!!!」

 

 




次回閑話を書いて、「高校生活一学期編」は終わりです。


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閑話:高校生活一学期編

あぁ・・・明日は勉強するんだ。明日は・・・


ガチャ、2万でサモさん出ず・・・。でも槍きよひーは宝具5、弓メアリー&アン、槍玉藻も出た。おかしいなぁ・・・。サモさんのために回してるのに・・・。


1:免許取得

俺は鬼塚中尉に呼び出された。呼び出された場所は・・・トイレの中。俺が到着すると、鬼塚中尉は個室で踏ん張っていた。

「おい!!ボウズ!!お前確か免許持ってたよな?」

「え?はい。普通と特殊を持っています。」

「ん?お前、それは特殊って言わないで大特って言うんだ。」

すると鬼塚中尉は俺のほうに何かを投げ渡した。

「ボウズ!!外に軽トラ回しとけ!!」

それは部隊で使っている軽トラの鍵だった。

「え・・・?あの鬼塚中尉・・・」

 

 

「なにーー!?運転できねぇだと!?お前確か免許持ってるって・・・。」

「いやぁ・・・。普通フグ調理師免許と海上特殊電波技師免許ですよ。」

「ンなもん分かるかァぁあああ!!」

ガツン!!

俺は鬼塚中尉に殴られたため、天井に頭をのめりこませることになった。

 

 その後、鬼塚中尉に引っ張り出され、そのまま軽トラの運転席に座らせられた。

「ったくしょうがねぇ・・・。俺が運転を教えてやる。ボウズ!!エンジンかけろ!!」

俺は鍵をひねった。

キュルキュルキュル・・・ブロロロロロ

「お・・・おぉ~~!!」

「そのままギアをDに入れろ。後はアクセル踏めば前に動く。」

ブロロロロロ・・・

軽トラが前進を始めた。

「ハッハッハ・・・。うまいじゃねぇかボウズ。」

そう言って鬼塚中尉は俺のほうを向いた。

「・・・ボウズ。何やってるんだ?」

俺は席からずり落ちたような体勢でアクセルを踏んでいた。もちろん前は見えない。

「いや、こうでもしないとアクセル踏めないんですよ。」

「バ、バカヤローー!!席を前にすればいいだろうが!!」

「え?そんなことできるんですか?」

俺はそう言ってちゃんと席に座ろうとした。そのせいで、間違えてアクセルをベタ踏みしてしまった。

「ボウズ!!前、前!!」

ガッチャーーーーン!!

軽トラは倉庫に激突・・・

「ウガァアアアアアア!!」

「いってぇ・・・・・。」

音を聞いて飛んできた田中さん、岩下さん、メガネさんの手によって救助してくれたおかげで大事には至らなかった。

 

その翌日、俺は鬼塚中尉に連行されていた。

「お、鬼塚中尉?・・・軽トラの件はワザとじゃないんです。」

「ンなことは分かってる・・・。こうなりゃ下は原付、上は戦車に戦闘機動かせるようにみっちりしごいてやる。」

「え?それって大分時間かかるんじゃ・・・。あの、訓練は?」

「中隊長と参謀長の許可はもらってる。2週間でお前は立派な操縦士になるってわけよ。」

「え?2週間で!?無理ですよ!!」

「うるせぇ」

ガツン!!

 

 俺は気づいたら零式艦上初歩練習戦闘機に乗せられていた。

「戦闘機が動かせれば車なんて簡単よ!!」

「え?ちょ、ま・・・・」

ブロロロロロロ・・・・

 

 北海道沖

ブロロロロロロ・・・・

「っていう事があって2週間で何とか車に戦車に飛行機の免許取ることができたんだよね。」

「イ、イブイブ・・・大変だったんだね。」

「うん・・・訓練中に、鬼塚少佐(当時中尉)の先輩の赤松少佐が来てね・・・。」

「だ、大分苦労したんですね」

 

 

 

2:私とあいつ

 私はあいつを始めてみた時、私は取るに足らない人間だと思っていた。正直言ってなんでナカジマ・ビル、J・F・ケネディ空港、それにタコ・イカ・ブイ襲撃事件・・・それを解決(又は実行)できたのは信じられなかった。

 その後、あいつと何度か組んだことで、ある程度わかってきた。純粋に巻き込まれ体質で悪運が強いのだ。そのせいで組んだ時に何度も巻き込まれ、そして何度か命を助けてくれた(あいつはそこまで気にしてなかったが)。だけれど、こいつがいると私の計画の邪魔になる・・・。私は自分の計画のためにあいつを・・・命の恩人を殺すことにした。

 

 

あいつは死んだ。流石に複数のガトリングによる掃射には耐えきれなかったようだ。私は棺の中のあいつに触れた。冷たい・・・。私は・・・自分のために、命の恩人を殺した。

 

 

「どうして生きてるの!?死んだことは確認したのに!!」

あいつは白装束で旅客機に乗ってきた。最初は疲れているだけだろう。そう思ったが違った。あいつは生き返って私の前に立ったのだ!!

「思い出したよ。DNA、数字、イ・ウー。理子はブラドから解放されたいんじゃないか?」

私はそれを聞いて頭が真っ白になった。あいつの黒い瞳はまるで私の全てを見ているようだった。理解できない・・・怖い・・・

「なぁ、こんな犯罪を犯さないで自首しようぜ。俺もついていくからさ。ブラドのことも協力する。そうすれば理子はもう堂々とお天道様が見てるところを歩ける。」

なんて魅力的な提案だ。あいつならやりそう気がする・・・。

「なぁ、キンイチさんだって生きてるんだろ。理子は誰も殺していない。情状酌量の余地は大いにある。」

ダァンダァンダァン!!

え?

私は、無意識のうちに銃を撃っていた。あいつの体から紅の液体がさらに出ていく・・・。あぁ・・・私は命の恩人を2回も殺してしまったのか・・・。それにあんなチャンスを逃すとは・・・。

 

 

「イ、イブキ!?なんで!?どうして!?ってパラシュートなんで切ったの!?」

「てやんでぇ!!テメェ!!手ぇ差し伸べたら銃弾の答えとかふざけてるのか!!まだ拒否するならわかるけど、銃弾の答えはないだろ!!意地でも捕まえてやるよ!!」

「そのためにパラシュート切ったの!?」

「‘‘パラシュートはただの飾り’’だ!!」

「何言ってるの!?」

あいつはあの後、旅客機から飛び降り、私を捕まえた。何でそこまでする?私はあいつを恐ろしく思い始めた。

 

私は東京武偵高に戻るとすぐあいつを呼んだ。

「で、敵対した奴の前に現れる理由って言うのはなんだ?」

あいつの中では私は敵対者として見られているのか。私は胸が痛かった。

「イブキ、お前がいるといつも計画が破綻する。だから私の計画に関わるな。」

私は再びあいつを殺したくない。あいつにはブラドやイ・ウーと関わってほしくない。私はそっけなく要件を言って部屋から去るつもりだった。

「待て!!俺も一つだけ用がある!!」

私はあいつに腕をつかまれ、引き留められた。

ガツン!!

「ッ~~~~!!!イブイブ!!何するの!?」

私はあいつに頭を殴られた。

「これで銃の件はチャラだ。気にするんじゃないぞ。変に遠慮されたらこっちがまいっちまう。」

え?

「これで終わり。もう、理子に同情もしない。友人としてなんかあったら呼んでくれ。」

何を言ってる?

「なぁに、友人がなんか困ってたら助けに行ってやっから、その計画とやらをやって来い。じゃぁな。」

私は・・・お前を殺したんだぞ・・・。

 

「何でここにイブキがいるんだ!?なんでまた私の計画に関わる!?」

あいつは紅鳴館にいた。私は・・・また敵対したくないのに!?

「いやいやいや。俺もさ、さすがにあそこまで言われたら関わろうと思わなかったよ!!でも、その肝心の計画を知らないんだぞ!!まさか一緒に紅鳴館で仕事するなんて思いもしなかったもの!!」

確かに・・・言われてみればそうだ。

 

 

「イ・・イブキ・・・どうしてここに・・・。」

「小夜鳴が怪しいと思って念のためついてきたらこうなってたんだよ!チクショウ!!」

あぁ・・・イブキらしいな・・・。

「俺は今、結構頭にきてる。あいつは、家族に親友虐めてたって聞きゃぁ頭に来ないほうがおかしい。だから、俺はブラドにちょっと挨拶しに行きてぇんだ。だけど理子、お前ブラドに恨み辛みあるだろ。どうする?そこで引きこもっているか、それとも一緒にやりに行くか。」

「なんで私にそこまでする。」

私はずっと抱いてきた疑問をイブキにぶつけた。

「友達だから・・・っていうのじゃ納得しないよな。お前、一緒に東京湾泳いだ時、いつでも俺をやれたはずだろ?なのに何もしなかったから・・・。あと一年の時の貸し、まだ返してもらって無いだろ?これでも足りないか?」

後半は言い訳だな。そうか・・・私を身内と思っているからこんなにやさしくするのか。私は胸が軽くなった。

「親友の大事なものが盗られたんだ。協力しろ。」

「てやんでえ!!あたぼうよ!!」

 

 

結局、私たちはブラドを倒し、私は晴れて自由の身になった。

「……神崎・ホームズ・アリア、遠山キンジ。あたしはもう、お前たちを下に見ない。騙したり利用したりする敵じゃなくて、対等なライバルと見なす。だから――した約束は守る。‘‘Au revoir. Mes rivaux.(バイバイ、ライバルたち)’’あたし以外の人間に殺られたら、許さないよ」

「おい、待て。俺は!?」

イブキ、お前は私の親友だよ・・・流石にそんなこと、恥ずかしくて言えなかった。

 

 

 その後、私はイブキがほかの女としゃべっているのを見ると、胸が痛くなった。そして、ハンナ・ウルリーケ・ルーデルがイブキにキスをしたとき、私はこの痛みの理由が分かった。

 

 敵が多いけど・・・イブイブの心、盗んでいくから!!

 

 

 

 

3:私とイブキ君

「明日から神棚作るわ。いや、時間としては今日か?」

「そうしたほうがいいよ。」

「ありがとう、いいこと聞いた。今日はぐっすり眠れるぞ!!おやすみ~。」

イブキ君はそのまま寝室に帰っていった。

「将来のことを聞かれなくてよかった。あんなこと言えないよ・・・。」

っは!?

呟いた時にはイブキ君はもういなかった。よかった・・・聞こえてない。

 

 私はイブキ君を始めてみた時、驚いた。イブキ君はとても大きな何かに憑かれてる。ここまで大きなものに憑かれてるのは初めて見た。私はイブキ君を警戒していた。

 

 

 次に会った時、イブキ君に憑いているものはさらに大きくなっていた。そして今日調べた結果、沢山の幽霊と強大な神様に取りつかれていた。強大な神様が自分のものにしようとイブキ君を狙って、それを防ごうと大量の幽霊が戦ってる・・・。そんな例聞いたことがない。

 それにイブキ君の将来・・・。

 

 

イブキ君は40代の丸坊主のおじさんと一緒にトラックに乗っていた。二人とも血まみれでボロボロだった。

「おっさん!!今度はA-10 がきやがった!!」

「坊主!!お前何とかしろ!!」

「F35やアパッチならともかくA10なんてどうやるんだよ!!って、おっさん!!傾けろ!!!」

ブォオオオオオオオオオオオオ!!!

布が破ける様な音が聞こえる。発砲炎が見える。そして、視界は真っ赤になった後、暗くなっていった。

 

 

 そして、もう一つ。みんなが寝た後、もう一度占った結果・・・。

 

 

 二人の女性、一人の少女、獣耳の男性が囲んだ真ん中で、髪の短い茶髪の少女(大きさは小学生くらい)がいったん裸になった(うまい具合に局部は見えない)。その後、体が光り、服が現れた。まるで魔法少女の変身シーンのような。

 その後、その少女は杖を植えにあげ、

「夜天の光に祝福を!!リインフォース、ユニゾンイン!!」

そう言うと、今度はその少女の服が光り、新たなものが出てくる

 

 

 うん、イブキ君には絶対に言えない。A-10 に攻撃される将来。それに女の子、しかも小学生のような子の裸を見る将来・・・

 将来のことは聞かれなくて本当によかった。

 

 

4:僕と村田君

 その日は暑かった。

「何、面白い少尉候補生がいる?」

僕は氷水に浸っている水まんじゅうに砂糖をかけながら答えた。

「はい、何でも幼年学校に入学と同時に海軍兵学校に飛び級し、今、実地訓練を受けているとか。」

宇垣君が報告ついでにそんな話を持ち掛けてきた。

「ふーん、そういうの時々いるけど。」

幼年学校や予備士官学校に入学と同時に士官学校の実地訓練に回されるのは珍しいが、決していない・・・というわけではない。僕は水まんじゅうをスプーンで切り分け始めた。

「ですがその少尉候補生、陸戦能力が化け物のように高く、柔軟な思考の持ち主で、高須中将、南雲中将、山口少将が目をかけているそうです。それに、ナカジマ・ビル、J・F・ケネディ空港の事件を解決した少年だそうで。」

「へぇ・・・。」

切り分けた水まんじゅうを頬張った。うん、甘い。・・・あの2つの事件を解決したあの少年か。最近ニュースでさんざん報道されてた。・・・ん?

「彼は何で海軍に入ったんだい?そんなに陸戦能力が高ければ陸軍に行くだろうに。」

「実は・・・泥まみれになるより、ボタンを押すだけの海軍のほうが楽、だからだそうで。」

ブッ!!

僕は水まんじゅうを吹き出してしまった。

「ゴホッゴホッ!!なんだい?その理由は。」

「ですが・・・実際そうらしく。」

「ハハハハハ!!そんな面白い子がいるなんてね!!うちは将来安泰だね!!」

「まったくです。」

ハハハハハ!!久しぶりに彼と笑ったような気がする。

 

 

 

そんな話があった数か月後。僕はそんな少尉候補生の話など忘れていた。

「君、これで初めてなのかい?」

僕は仕事から抜け出し、アクアエデンのピラミディオンで少年とポーカーをしていた。

「いえ、多少はやったことはあるんですが・・・彼女と数回程度やっただけです。基本ブラックジャックかルーレットです。」

少年はじっくりと考えながら、僕に行った。

「フフーン。このエリナがイブキを強くしたんだよ。」

ここのディーラーである銀髪の少女は胸を張って僕に言った。数回でここまでの腕前にするのは確かにすごい。彼の能力もあるだろうが、彼女の指導力が高いのだろう。僕は数時間も彼と一緒にポーカーにブリッジ、ブラックジャック、ルーレットとだいぶ遊んだ。

 

「おいボウズ!!帰るぞ!!」

「あ、鬼塚中尉!!」

軍服を着た厳つい中年男性が彼を呼んだ。

「すいません・・・そろそろ帰らなきゃいけないみたいで。」

「それは残念だね。」

視界の端に宇垣君、黒島君、三和君が見えた。僕のほうもそろそろ帰らないといけないようだ。

「そういえば君の名前は?」

「え?あぁ言ってませんでしたね。村田維吹海軍少尉です。」

へぇ・・・こんな面白いのがうちにいたんだ。

「僕は山本っていうんだ。ある組織の・・・幹部ってところかな。今日は楽しかったよ。今度君に水まんじゅうをごちそうするよ。」

彼には連合艦隊司令長官として接してほしくないな。

「え!?それは楽しみです!!」

「おい、ボウズ!!早くしろ!!」

「すいません。それではまた。」

そう言って彼は去っていった。

 

 彼を調べたところ、数か月前に話していたあの少尉候補生だったことが分かった。今はHS部隊の第2中隊にいるらしい。なるほど、あそこに居ればすぐに昇進するな。苦労は絶えないけど。

 それからというもの、HS部隊に監視をつけた。そして彼らがカジノへ行くと聞いたら、僕は仕事を抜け出すようになっていた。

 

 

 宇垣君、黒島君、三和君!!君たち僕を連れ戻すのはいいけどせめて軍服は脱いできてくれないかい!?

 

 

 5:ある車椅子の少女

「ただいまぁ・・・。」

図書館から家に帰ってきた。ただいま、といっても返事はない。この家は私しか住んでないのだから・・・。

「ってそんなの、考えちゃいかん。そやそや・・・」

と言っても結局は空元気。

 ・・・・・・父ちゃん、母ちゃん。何で逝っちゃったんや。

「寂しいよぅ・・・。」

 

 私が久しぶりに弱音を吐いた数日後、あらたな家族ができ、その一週間後にまた新たな家族ができることを、今のうちは知ることはない。

 

 




次回からは‘‘夏休み編’’始まりです。
試験勉強やんなきゃ・・・。


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高校生活夏休み編
魔法少女リリカル〇のは 旅行にはトラブルが付き物だけどさ・・・


お久しぶりです。遅れて誠にすいませんでした。
バイトのせいで学校があるときより時間が無いです。(朝から夜まで、疲れて帰ったらすぐ寝る)それに難産・・・。
これ、雛見沢終わるころには冬になってるとかないよな。





俺はボロボロのまま、高機動車を海鳴温泉旅行のために運転していた。そしてこの旅行、早速三つの問題が発生してしまった。

「師匠・・・。俺しか免許持ってないんだから、俺が運転するってわかってたでしょ・・・。昨日の修行、もう少しは優しくしてくれても良かったんじゃないですか?」

一つ目、出発が大幅に遅れたこと。俺は昨日、師匠と槍の修行を強制させられた(休みなしで)。しかも、終わったのは時間的に今日になった時・・・。その疲れのせいで、朝起きれなかった。結局、出発できたのは予定の9時から大幅にずれた昼過ぎだった。

「まぁ、確かに張り切り過ぎたな。」

師匠も少しは反省しているようだ。

「槍の腕は上がりましたけど、旅行前は勘弁して下さい。」

俺はペットボトルに入ってるリサ特製の麦茶を口にした。

「ネロ、ニト、エジソン・・・ロサンゼルスはこんな大量の荷物はダメだからね。」

「なんと!!(なんでですか!!)」

「これ・・・10人乗りなんだよ・・・。で、全員で10人。このままだと荷物が入らないから辻さんに頼んでトレーラー1台借りてきたんだ」

俺はそう言いながら、ミラーで車の後部を見た。

「まさか追加でトレーラーもう2台必要になるとは思わなかったよ!!しかもそれでも乗せられないからって、屋根の上にまで乗せるってどういうこと!?」

二つ目、荷物が多すぎてスピードが出せない。東京から海鳴市まで車で一時間半・・・それなのに2時間以上経ってるのにつかない主な理由はこれだった。

「余は皇帝だし・・・」

「私ファラオですので・・・」

「発明に必要・・・」

 

「減らせ」

 

「「「はい・・・」」」

3人はショボンと下を向いた。

「少なくてもロサンゼルスの時は減らして。こんな量、船じゃないと運べないぞ。」

ハァ・・・

俺はため息をついた。

「ねぇ、ベオウルフ・・・百歩譲って屋根に荷物を置くのは認めようか。だけどさ・・・邪魔だからってアンテナ折らないでくれないかな!?カーナビの表示が自宅から一歩も出てないことになってるんだけど!!」

三つ目、カーナビが壊れた。

「わ、悪かったな。」

「いや・・・時代考えればこんな物知らないよね。あのアンテナ普通に横に倒せるし、ネジでくっついてるから回せば取れるんだよね・・・。ごめんね、倒すか回して取るってことしないで、拳でへし折るなんて考えられなかったよ。」

そのおかげで海鳴の温泉旅館までの道のりが分からない。

「海鳴は横須賀から近いから何度か行ったことはあるんだ。そのおかげで海鳴まではカーナビなしでも行けるけど・・・旅館は現地の人に聞かないとわからないよ。」

「わ・・・悪ぃ・・・。」

横須賀から車でちょっと行ったとこだから、海軍兵学校の実習時代に先輩に何度か連れていかれたなぁ。まぁ、横浜や鎌倉のほうが近いからそっちをよく連れ行ってもらったけど。

「まぁ・・・チェックインには何とか間に合いそうだから。初めての旅行でこのぐらいの問題しかないのは上々なのかな・・・。」

 

 

「あの・・・イブキ様?荷物は‘‘四次元倉庫’’を使えば解決するのでは?」

助手席に座ったリサが小さな声で俺に尋ねた。

「うん、運転中に気づいた。帰りはそうしよう。」

 

 

海鳴市に着いた。久しぶりだなぁ・・・などと考えながらゆっくり車を進めていると、現地の人を発見した。近づいていくと何かおかしい。車椅子に乗った子供が動いてないのだ。

「すいませーんって、あぁ・・・。」

車椅子に乗っている子は側溝に車椅子の車輪を引っかけてしまい動けなかったようだ。

「あの・・・手伝います。」

俺はそう言って車を降りた。

「え?・・・あ、ありがとうございます。」

車椅子に乗っていたのは関西系の訛りがある、茶髪の小学生ほどの少女だった。周りには彼女が持っていたであろう本が散乱していた。

「いやぁ・・・実は家族で海鳴温泉に泊まる予定なんだけど、カーナビが壊れちゃってね。」

俺は本を拾いながら少女に話しかけた。

「それは大変でしたね。」

少女の顔が一瞬曇った・・・。ん?

「それで、旅館の場所おしえてくれないかい?」

俺は少女に本を渡した。

「えっと・・・。この道まっすぐ行って突き当りを右に出て・・・そのまま行けばわかると思います。」

「ありがとう。どうせだ。君を家まで送っていくよ。」

彼女は寂しそうな眼をしていた。だから俺はついついそんなことを言ってしまった。

「いや、そこまでは・・・。」

「道教えてもらった子がまた立ち往生してたら嫌だしさ。」

あ、これだけだと俺怪しい人か?俺は軍人手帳を取り出し彼女に見せた。

「俺はこういうものだから怪しくないよ。」

少女は少し考えた後

「じゃ、お願いします。」

 

 

 俺はベオウルフを呼んで、少女を車椅子ごと高機動車に乗せた。そして俺は運転席に戻り発進させた。

「俺は村田維吹。気軽にイブキって呼んで。軍人だけど最近東京武偵高に出向になって、武偵もやってる。」

「八神はやてって言います。ひらがな三つではやてです。」

ほう、小学生にしてはまともに返答が来たな。

「それにしてもだいぶ難しい本読んでるんだね。エジソンの伝記はともかく‘‘ケルト神話大全’’に‘‘ローマ帝国の栄光と滅亡’’、‘‘ベーオウルフ’’、‘‘ギルガメッシュ叙事詩’’、‘‘源平盛衰記’’、‘‘御伽草子’’、‘‘古代エジプトの歴史’’・・・。眠くならないの?」

ここまでくると運命感じるぞ。

「よく覚えてますね。」

「まぁ、俺が拾ったんだしね。」

俺がこの子ぐらいの時・・・前世だと漫画くらいしか読んでないぞ。

「でもまさか六法全書まで借りるって・・・すごいね。」

「え?・・・あ、ホントや!!」

 その後、他の家族と自己紹介して仲良くなっていった。

「あ、あの家です。」

はやてちゃんある一軒の家を指さした。俺はその家の前で車を止め、はやてちゃんを下ろした。

「あの、イブキさん。何日くらい止まるんですか?」

「ん?あぁ、3泊4日だね。」

「良かったら明日案内しましょうか?」

え?俺ははやてちゃんを見た。

「夏休みで暇ですし、いいかなって・・・」

やはり寂しそうな眼をしてる。なんかあるな、こりゃ・・・。

「明日、10時にココに集合で、いいかな?」

彼女は笑顔を見せた。

「はい!!」

「ここは、‘‘いいともー!!’’でしょ。」

「何です?‘‘いいともー’’って?」

・・・・・・そうか、もう世代が違うのか。

「いや、何でもない。じゃ、また明日ね。」

俺は車に乗り、発進させた。はやてちゃんは見えなくなるまで手を振っていた。

 

 

 

 

 旅館はすぐについた。これなら歩いて彼女の家まで行けるだろう。さて・・・この荷物どうしよう・・・などと考えていた時、車の近くに強い力を発しているものを見つけた。

「なんだ、これ?」

それは青い宝石だった。表面はローマ数字でⅨと書いてある。俺はどうしたものかと考えていたところ、

「あれ、マスターどうしました?」

玉藻が通りかかった。

「あぁ、こいつどうしようかと思って・・・。」

俺は落ちていた宝石を指さした。玉藻はそれを見た後

「ははぁーん、これは聖杯のパチモンみたいなものですねぇ・・・。マスター、モチロン触ってませんよね。」

「なんか嫌な予感がして触ってないぞ。」

俺がそう言うと、玉藻がお札を取り出しペタっと宝石に付けた。

「これ、大分危ないものですねぇ・・・。マスターあの倉庫に保管しといてくださいません?」

「え?これ入れて大丈夫なの?」

やだよ、入れた瞬間爆発とか。

「お札つけたんで大丈夫ですよ。」

あ、そっか。俺は「4次元倉庫」にその宝石を入れた。

「さ、マスター。ちゃっちゃとカタしちゃいましょ。」

俺はこのトレーラー3つ分と屋根に置いてある大量の荷物をどうするか考えると、頭が痛くなってきた。

 

 

 

 俺は荷物の問題を結局各自に任せた(一回苦労すればわかるだろう)。そしてみんなで荷物を運び終え、お風呂セットを取り出し、温泉に入った。

「「「あぁ~・・・」」」

俺、ベオウルフ、エジソンは同じ声が出てしまった。夏とはいえ、温泉はいいもんだ。

「エジソン、毛のせいで肩まで浸かれないのはきつくない?」

エジソンはそのライオン顔のせいで、肩まで浸かると毛がお湯に入ってしまうのだ。

「いや、半身浴もなかなかのものだ!!!」

エジソン、風呂の中で大きな声出さないで。まぁ、テンションが上がってるからだろう。まぁ、ここで無粋なことは言わないさ。

 

「こんにちは~。」

お湯に浸かってしばらくすると、若い二人の兄弟(?)に話しかけられた。

「こんにちは~。」

この二人、結構できるな。

「武道を嗜んでいるんですか?」

「えぇ、多少ですけど。」

俺のって武道って言うより、武術だし。というかほとんど実践形式だから、型とかほとんど習ってないし。

「お二人も結構鍛えていらっしゃいますね。そう言う職業に?」

「いえいえ、喫茶店の店長をやってるんですよ。」

は?

「え・・・喫茶店?こう、武道喫茶とかそういうものですか?」

これだけ鍛えて・・・趣味ってもんじゃねぇぞ!?

「普通の喫茶店ですよ。シュークリームが有名なんです。」

・・・最近は物騒になったから、これだけ鍛える人もいるのかな。

「弟さんも喫茶店で?」

「あぁ、こっちは僕の息子です。」

ん?

「え?息子さんですか?」

「よく間違えられるんですよ。」

・・・見た目は息子さん17歳、お父さん20代前半。25歳とすると・・・8歳差、小学生の頃にできた子供・・・はありえないか。ということは・・・

「・・・中学生で孕ませるって。どこの3年B組ですか・・・。」

リアルであるなんて・・・割とショックだ・・・。

「何か勘違いしてません?僕は37ですよ。」

息子さん17歳、お父さん37歳・・・19歳差。割とありえる。って37歳!?

「え?どう考えても20代前半、大目に見ても三十路前ですよ!?」

「いやぁ、よく言われます。」

超若作りで、めっちゃ鍛えている喫茶店のマスター・・・。絶対、喫茶店を蓑にしたなにかだろ・・・。

 俺はそんなことを思いながらこの人と長い間しゃべっていた。

 

 

 

 温泉に入った後、酒と御馳走をたらふく食べ、寝ていたが急に目が覚めてしまった。どうしようか・・・。なぜか眠気が起きない。そこで俺は近くに置いてあった海鳴の地酒「海の鳴き声」の4合瓶とコップを手に取り、その二つを持ちながら散歩に出かけた。

 夜の散歩もなかなか乙なものだ。俺はコップに入った酒を飲み、歩きながらそう思った。

「周りの音はあまり聞こえない。聞こえるのは砲撃音のみ。きれいな月と魔法少女らしき二人のビームが何とも・・・って、え?」

俺は酔っていたからだろうか、やっと異常を認識した。

チュドーン!!!チュドーーーン!!!

なんかビームのせいで地面に穴あいちゃってるし。

「・・・きっとこういう映画でも撮ってるんだろ、きっとそうに違いない。そういえばメガネさんが『魔法少女フィジカルこのえ ~友情の物理力で倒せ!!~』が実写化するって言って嘆いていたっけ・・・。」

俺は武高に行く前、メガネさんが嘆いていたのを思い出した。

 俺は近くにあったベンチに座り、ビームを肴に酒を飲み始めた。そろそろ中身がなくなりそうになった時、俺は殺気を感じた。

ヒュン

俺はとっさにしゃがみ、頭の上に足が通った。

「あんた!!時空管理局の人間かい!?」

俺を蹴ろうとしたのは、スタイルがよく、額に宝石(?)をつけた獣耳の女性だった。そういえば、こんな女優は見たことないな。って、あれ?・・・映画撮ってんだよね。いくら何でもエキストラを間違えるってまずくないか?

「いや・・・おれはエキストラじゃないですよぉおおおお!!」

しゃべった瞬間、その女性は俺に近づき殴りかかってきた。

「おい!!テメェ!!このまま続けると傷害未遂と公務執行妨害で逮捕するぞ!!」

「アンタやっぱりそうだね!!」

そう言って女性は俺に襲いかかり、俺に拳を入れようとした。そこで俺はその腕をつかみ、きれいな一本背負いを決め、すぐさま手錠をかけた。

「映画だか何だか知らねぇが、一般人を襲うたぁいい度胸だな!!傷害未遂の現行犯で逮捕だ!!」

すると、女性の髪が急に長くなり、爪が伸び始めた。俺は慌てて女性から離れると、女性は狼(?)になってしまった。自分でも何言ってるかわからない・・・。立体映像技術って触れるくらいまで技術進歩してたっけ?

「なんだよこれ・・・魔法かなんかか?」

あのブラドだって質量保存の法則(どんなことやったって全体の質量は変わらないという法則)は守ってあったらしく、人間形態と獣人形態の重さは一緒だってのに・・・。こいつ・・・狼になってからの重さと人間形態の重さは全く違うぞ!

「え?あんた魔法を知らないのかい?」

「お前・・・役に入りすぎだろ。この世に魔法はないぞ(厳密には違うが)」

ヒューン・・・。俺と彼女(彼獣?)の間に木枯らしが吹いたような感じがした。おかしいな。今夏なんだけど・・・。

「え?あんた管理局の人間じゃないのかい?」

「お前、すごい役者だな。俺は海軍軍人だ。それと武偵も訳あってやっている。」

なんかコイツ・・・役者じゃないような気がしてきた。だとしたらあの砲撃はなんだ?

「お前・・・何者だ。」

「・・・バイバイ」

そう言って人間形態になって彼女(?)は空を飛んで去ってしまった。

「おい!!待てぇええ!!!」

 

 

 

 俺は走って追いかけたが、結局彼女(?)は金髪の少女と合流して完全に去って行ってしまった。

「あの野郎・・・何者なんだよ・・・。」

俺はそうつぶやいた後、周りを見渡した。・・・周りには大きな穴が沢山。これどうすんだよ。

「あの・・・。」

白い服を着て、茶髪の髪を二つに縛った魔法少女(?)が俺に話しかけた。

「あぁ・・・君、映画かなんかは知らないけど、穴の処理どうするの?」

俺は魔法少女(?)に話しかけた。

「穴は結界が解除されると元に戻るので大丈夫ですよ。」

魔法少女の近くにいたイタチ(それともカワウソか?)がしゃべった。

「・・・君、将来の夢はいっこ〇堂かい?」

おかしいな・・・俺にはこのイタチ(?)がしゃべったと思ったんだが。

「え?・・・違います。」

「うん、俺疲れてるのかな・・・。質量保存の法則を無視した魔法に、イタチ(?)がしゃべるなんて・・・。」

流石に今日は疲れたようだ。まぁ、長時間運転してたしな。

「えっと・・・これらは君たちが直してくれるのかな?」

「え?・・・はい。そうです。」

「そうか・・・今日は疲れた、寝よう。君たち、ちゃんと直しておくんだよ」

俺は旅館に帰ることにした。

 

 

 

俺は一睡した後、「魔法少女フィジカルこのえ ~友情の物理力で倒せ!!~」を調べた。結果、演じている人たちは昨日見た彼女たちじゃなかった。まぁ、よく考えたら当たり前だ。スタッフに監督、カメラに照明すらないんだもの。じゃぁ、昨日のはなんだ?あの彼女(彼獣?)は魔術じゃなくて魔法を使っていた。なんか嫌な予感がするな。

 俺はスマホを取り出した。

「もしもし。」

「おはようございます。メガネさん、朝早くすいません。」

俺はメガネさんに電話を掛けた。

「イブキ君ですかどうかしたのですか。」

「メガネさん。今、海鳴市にいるんですが、なんか色々とおかしいことが起こりまして・・・」

俺はメガネさんに昨日の夜に起きたことを話した。部隊のみんなは超能力や魔術があることは(鬼塚少佐以外)知っている。

「なるほど・・・海鳴市ですか。実は第一中隊のほうでも、今ちょうど海鳴を注目しているようです。なんでも高濃度の魔力保有物質が複数落ちてきたり、不可思議なことが起こっているそうですよ。」

「え?それ初耳ですよ!?」

俺は驚いた。

「あまりのことで、情報統制されているそうですよ。なんでも監視カメラが一部の時間撮れていなくて、その間に道路や家の破壊、植物の以上成長とか起こっているようです。」

うん、そんなこと普通に流せないな。HS部隊第一中隊は国内問題が専門だ。そんなことが起こっているなら注目しないほうがおかしいか。

「そんなことが起こっているので、うちにも協力要請が来ました。近々俺たちもそっちに行くんで、その時はよろしくお願いしますよ。」

第一中隊は国内問題が主な仕事なので、基本は諜報に工作、策謀で解決する。今回は事が事だから、海外問題を武力解決するうち(第二中隊)にも協力してほしい・・・ということか。

 とりあえず・・・ただ温泉旅行なのにまた面倒に巻き込まれたってことか・・・。

「家族と温泉旅行に来たのに・・・。ハァ・・・。了解しました。」

「旅行中でしたか・・・それは災難でしたね。『おい!!メガネいるか!?』・・・では何かわかったら連絡しますね。」

「お願いします。」

電話が切れた。全く・・・俺は旅行に出れば何かしらに巻き込まれるなぁ・・・。それに、昨日のあのビームの威力・・・地面のエグレ具合から相当な威力だろう。あんなのポンポン撃たれたら・・・。まぁ、ありがたいことにあのビームは光速じゃないし、見てから避けることが可能ってくらいか。

「イブキ、どうかしましたか?」

俺は深く考えていたのだろう。ニトがいたことに気づかなかった。

「あぁ・・・深夜、結界があったみたいなんだけど・・・。」

「えぇ・・・イブキも感じましたか。成長したようでうれしいです。」

ニトはにっこりと微笑む。

「え・・・あ・・・うん・・・。感じたというか・・・その場にいたって言うのが・・・。」

「ほぉ、あの時イブキはその場にいたのか。」

ジャージ姿の師匠がいた。

「はい、そうです。」

ニト、期待を裏切ってゴメンナサイ。

「何か感じたことがあるだろう。」

師匠が聞いてきた。

「何というか・・・。今まで習ってきたのって、文系の中の理系?みたいな感じですよね。言葉や歴史、信仰を使って合理的に組み立てて効率よくする・・・。だけど、今回のは最初から計算して作られていて・・・どちらかというと、科学を組み立てて効率よくする・・・そう感じました。」

「及第点だな。そうだ、あの魔術はこの星にない。」

え?この星にない!?

「じゃぁ何ですか。使ってたのは宇宙人とでもいうんですか?」

「あながち間違えではないだろう。」

マジかよ・・・ん?そう言えばメガネさんが高濃度の魔力保有物体が落ちてきたって言ってたよな。もしかして宇宙から落ちてきたってことないよな・・・。宇宙から落ちてきたものを宇宙人たちが奪い合っている・・・どんなアニメだよ。

 

 

 

ガシッ

「イブキ、朝餉の前に軽く運動でもするか。」

「あの師匠・・・なんで襟首持ってるんですか?」

「なに、お主は逃げるからな。両刃剣のほうも修行をつけてやる。」

「え!?軽くですよね。ほんとですよね!?」

「あぁ、吐かない程度にしておいてやろう。」

「はい!?」

俺は逃げ出そうとしたが、がっちりと襟首を持たれているために逃げ出せない。

「玉藻に式神の使い方を最近習ってな。」

「実験台ですか!?」

俺はそのまま近くの公園まで連行され、式神(?)と戦わされることになった。

 

 




今後、リンカーコア=魔力回路という設定にします。ガバガバ設定なので深く考えないでください。

次は早くできるといいなぁ・・・(バイト表見ながら)


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魔法少女リリカル〇のは  高町一家怪しすぎだろ・・・

遅れてしまい本当に申し訳ありません!!リアルは忙しいわスランプだわで・・・(言い訳)


中間試験中なので、一気に書き上げられました。あぁ、留年が近づいてくる・・・。





師匠ある程度は手を抜いてくれたようで、一昨日のようなきついものではなかった。朝ごはんを食べ、早速はやてちゃんちへ・・・っと思ったが約束の時間まではだいぶ時間があった。みんなでゆっくり行くかと、みんなで話しながら歩いていたら、昨日温泉で一緒だった年齢と見た目が全く違うお父さんに出会った。

「おはよう、イブキ君。絞られたみたいだね。」

「おはようございます。まぁ、いつもよりは手を抜いてくれたからよかったですよ。今日帰るんですか?」

俺は大きめの荷物を持つ士郎さん、恭也さん、美女美少女(美幼女)達を見た。

「長い間、店閉めるのはできないからね。」

「そうですか。」

ほんとに喫茶店経営してるのか・・・。俺はそう思いながら再、再び美女美少女(美幼女)達を見た。士郎さんの奥さんだと思われる美女(見た目20代前半)、恭也さんの彼女と妹さん。それに紫がかった黒髪の少女、金髪の少女、昨日の魔法少女(?)、イタチ(?)が仲良くしゃべっている。・・・ん?なんでこの子がいる!?

 魔法少女(?)のほうも俺に気づいたらしく、俺をガン見・・・。

「イブキ君・・・うちのなのはに興味があるんじゃないだろうね・・・。」

士郎さんからオーラが出始めた。

「違いますよ!?昨日の夜、散歩してたらこの子に会ったんですよ!?迷子になってたみたいで!?ねぇ!?」

俺は魔法少女(?)に慌てながら聞いた。

「え?うん。このお兄さんが送ってくれたの。」

すると士郎さんから出ていたオーラは消えた。

「そうだったのかい?僕はてっきり・・・。いやぁ、送ってくれてありがとう。」

「いえいえ~・・・。そういえば昨日自己紹介してなかったね。俺は村田維吹大尉。海軍軍人で、訳ありで武偵もやってる。気軽にイブキって呼んで。」

「えっと・・・私は高町なのはって言います。聖祥大付属小学校の3年生です。」

「私は同級生のアリサ・バニングスです。」

「私は月村すずかです。」

3人組が名前を教えてくれた。この「なのは」っていう子は要注意人物だな。あとでメガネさんに報告して、この子の背景を調べてもらうか。

「なのはちゃんにアリサちゃん、すずかちゃんね。袖振り合うも多生の縁だ。よろしくね。」

だいぶ縁がありそうだしな。

「「「はい。」」」

「それじゃぁ士郎さん、喫茶店に行った時はよろしくお願いします。」

そう言って俺たちはその場を去った。

 

 

 

 

「イブキ、あのような体形が好みかい?だったら創り変えるけど・・・。」

「エルさん!?あなたは今のままで十分美しいですよ!?それに好みじゃないし!?夜に会った子かどうか確認するためにジッと見たんですよ!?」

「まさかマスターがロリコンで捕まるかと思ったぜ。」

「ベオウルフ!?おまえもか!?」

 

 

 

「・・・ということで高町なのはについて調べてくれませんか?」

俺はみんなと歩きながら、メガネさんに携帯で報告をしていた。

「ちょっと待ってください・・・・・・。出ました。高町なのは、私立聖祥大学付属小学校3年生で9歳。高町家の次女で5人家族だそうです。第一中隊と警察もこの子に注目しているみたいですね。ですが警察のほうは捜査をやめたようですね。」

え?

「どういうことです?確かに第一中隊が動くほどですから危険なため・・・とかで捜査終了ですか?」

あの警察が・・・銭形警部がこんなこと起こって素直にあきらめるとは思えない。

「表向きはそうみたいですが、政治家から圧力があったみたいです。その意趣返しかどうかはわかりませんが、第一中隊に警察の一部が出向しています。」

警察は政治家からの圧力に弱いところはある。しかし、軍だと文民統制の原則(軍のトップは政治家だよ、という原則)はあるけど、基本的に政治的圧力に強い(政治家は軍事のド素人なので)。

「その圧力をかけた政治家が過去に不破にボディーガードを受けてもらっていたようです。」

「不破・・・なんでその一族と?」

確かに不破と御神はその世界ではだいぶ有名だが・・・なぜこの事件に関わってくる?

「高町なのはの父・高町士郎は婿養子で、旧姓は不破だそうです。今は足を洗って喫茶店を営んでいるのですが、前はSPや裏の仕事で有名だったみたいです。その政治家とも知り合いのようですね。ついでにその喫茶店、結構繁盛していてシュークリームで有名だそうです。食えログでも高評価ですね。」

そうか・・・士郎さん、マジで喫茶店経営していたのか。てっきり冗談か、やっていても武道喫茶とか開いているのかと・・・。・・・って不破!?あの鍛えよう・・・納得できるな。

「家族構成も複雑ですね。長男は高町士郎の内縁の妻との子、長女は姪に当たりますね。今の妻との子は高町なのは一人です。それについ最近まで居候が3人いたようです。そのうち一人は歌手のフィアッセ・クリステラです。」

フィアッセ・クリステラ・・・英国の有名歌手か・・・。日本好きで日本語もペラペラって情報は聞いたことがあるな。

「とりあえず、高町なのはの父・高町士郎が政治家に何らかの形で接触し、その政治家が捜査の妨害をした・・・と。」

「そのようです。あ、今ちょうど携帯会社の通話記録が出ました。・・・高町なのはが第一の現場の公園から帰ってきた後、すぐに電話をしているようですね。」

・・・高町家、怪しすぎるな。調べれば調べるほど怪しさ満載だ。

「少し脱線してしまいましたね。高町なのはについてですが、最近フェレットを飼い始めたようです。飼い始めたのが事件発生と同じ時期なのですが・・・このフェレットもおかしいことが多いです。」

あれ、イタチじゃなくてフェレットだったのか。

「何がおかしいんですか?」

「まず一つに、毎回事件発生の時に連れて行っているようです。それに偶然音声の記録が見つかったのですが・・・会話しています。」

「え・・・フェレットと?」

「そう考えないと理屈が合いません。一応腹話術かもしれないと思って音声を調べましたが全くの別物です。」

・・・あのフェレットはしゃべっていたのか。てっきり腹話術か、幻聴かと・・・。

「もう一つなのですが・・・あのフェレット、今までに見つかっている種類に該当しないそうです。要は未発見の種類です。」

「もしかしたら、地球のものではないかもしれない・・・と?」

「そうかもしれません。あの高町家、権力も武力もあります。くれぐれも慎重にお願いします。ほかにわかったことがあったら連絡しますね。」

「お願いします。」

「では。」

プー、プー、プー・・・

電話が切れた。それにしてもさらに面倒なことになったな。

「イブキ様、何を話されていたのですか?」

リサが聞いてきた。

「この地域で結構重大な事件が発生していてね・・・。もしかしたら、さっきの人たちが中心人物かもしれないって。」

俺がそういった瞬間、みんなの空気が変わった。

「いや!!状況証拠だけでまだ犯人と決まったわけじゃないから!!??」

「余の旅行を邪魔するものがいるとはな・・・。」

「いいねぇ・・・。殴って蹴って・・・いい旅行になりそうじゃねぇか。」

「ネロにベオウルフ!?いま第一中隊が動いているからへんなことしちゃだめだからね!?」

事件よりも先にこっちの問題のほうが深刻だな・・・。

 

 

 

 ネロとベオウルフ、その他不安のある人達を説得していたら、すぐに目的地についてしまった。驚いたことに彼女は家の前で俺たちを待ってくれていたようだ。汗の量からだいぶ前から待っていてくれたのだろう。もっと早くにつけばよかったかな。

 はやてちゃんは俺たちを見つけたら大きく手を振っていた。

「いやぁ、案内してくれるなんてありがとね。」

「いえいえ、夏休みで暇なので。何処か行きたいところあります?」

車椅子の少女が外でずっと待機しているのに付き添いの人がいない。まして俺たち怪しい集団に娘を一時預けるのだ。親が出てくるのが普通なのに出てくる気配はない。

「まずは海鳴公園に行きたいんだけど。」

とりあえず第一現場に行ってみるか。

「タマモ~、商店街に寄ってみたいな~。この翠屋って言う喫茶店は有名で行ってみたかったんですぅ~。」

「あそこのシュークリームは美味しいですよ!!」

玉藻がそんなことを言うと、はやてちゃんも反応をした。

「まぁ、昼に行けばいいでしょ。・・・・・・それに第一現場だからね(ボソッ)」

「しょうがないですねぇ・・・。まぁ、今行っても早いですけど。」

俺がボソっと言ったことが聞こえたのだろう。

「あそこ、最近ガス爆発があったみたいですけど・・・行きます?」

ガス爆発のせいになったか・・・。ガス会社の人、どうもすみません。

「お願いするよ。あと敬語いらないから。」

「え?でも・・・。」

「仕事柄、敬語ばっかりで疲れるんだ。オフくらいはそう言うのは・・・ねぇ?」

「わかりまし・・・わかったわ!!こっちや!!」

はやてちゃんが指さした方向に俺は彼女の車椅子を押して進み始めた。

 

 

 

 

「あ、財布と水筒忘れた。イブキ兄ちゃんもどって。」

「はやてちゃん、いくら何でも慣れるの早すぎない?」

「でも言ってたやんか。」

「いや、そうだけどさ。」

 

 

 

 

 公園に着くと、広範囲で公園の木々は荒れ果て、舗装はメチャクチャになっていた。そしてあちこちに「KEEP OUT」のテープが・・・。うん、よくこれを情報統制できるな。

「さっきも言ったけど、ガス爆発してこんなんになったんやって。近くの動物病院にも被害が出たそうや。」

「KEEP OUT」のテープ内には警察と軍人が多数いた。

「爆発さえなければ綺麗な公園だったろうね・・・。」

ここが第一現場か。実際にあのビームの威力を考えれば妥当か・・・。などと考えていると見知っている人を見つけた。

「瀬島少佐~!!」

「ん?あぁ、村田大尉か。それと私は昇進した。」

ん?襟章を見ると中佐になってる。

「おめでとうございます。ん?っていう事は、今は参謀長ですか?」

この人は瀬島龍二郎中佐。第一中隊の幹部だ。ついでに辻さんの永遠のライバル。

「それが今、中隊長が不在でな。中隊長代理もやっている。ところで辻大佐はいるのか?」

「いえ、旅行できたらこんなことになってました。」

「それは運がなかった。・・・まぁ村田大尉らしい。」

「それはないですよ!」

っはっはっは。お互いにそんなことを言って笑った。

 この人は戦略家で、戦術家の辻さんとは思考が違う。そのせいでよく辻さんと衝突が起きて、俺か中隊長が仲裁していた。そのおかげか俺と瀬島中佐とは仲がいい。

「やっぱりM関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)ですか。」

「それ以外考えられない。これがガス爆発に思えるか?」

「どうやっても見えませんね。」

本当にガス爆発だったらこの地域が燃えている。

「マ関(魔術関係という意味の隠語・陸軍式)の専門家に聞いたが、このような術式は初めて見るそうだ。」

師匠も言っていたけど・・・マジで宇宙人かもしれないな。

「辻大佐から後で聞くと思うが、情報統制されているため住民の避難はされてない。今うちで必死に犯人の特定をしているが何かあったら応援を頼む。」

そう言って瀬島中佐は頭を下げた。

「頭を上げてください瀬島中佐!!協力するのは当たり前ですよ!!」

瀬島中佐は作戦や戦略のためなら物乞いにも土下座をするような人だ。

「そういえば瀬島中佐、昨日の深夜に大規模結界があったのをご存知ですか?」

「あぁ・・・知っているが・・・」

「自分、あの中にいまして。中で高町なのはと金髪の少女に橙色の髪の女性が戦っていました。」

すると瀬島中佐は大きくため息をついた。

「やはりそうか・・・マークはしているが物的証拠がない。さらに後者の二人の身元は不明だ。」

ハァ・・・俺と瀬島中佐はため息をついた。

「あの・・・ガス爆発って誰かがやったんですか?」

ん?俺と瀬島中佐が声のしたほうに振り向いた。そこには車いすを自分で進ませてこっちに来ているはやてちゃんがいた。

「お嬢さん、ガス爆発なんてそうそう起きない。だから我々は人為的なものかどうか調べているところだ。まぁ・・・無いことを証明するのは難しいから面倒だ。」

「この人は隣の部署の幹部の人でね。結構お世話になっていたから声かけたんだ。」

俺と瀬島中佐ははやてちゃんに事実を隠蔽した。機密だしね。

「・・・そうですか。」

はやてちゃんはジト目で俺を見た。はやてちゃん、これ軍機だから答えられない・・・。

「瀬島中佐、お仕事を邪魔してしまい、すいませんでした。」

「あぁ、村田大尉も旅行を楽しめるといいな。全く・・・こんな事件がなければ妻と娘で旅行に行けたのだが・・・。」

あ、これは話が長くなる。

「では、失礼します!!」

「あぁ・・・今頃幼稚園かな・・・。この前のお遊戯会では・・・」

瀬島中佐の部下達が俺に「何しやがったこの野郎!!」みたいな視線を浴びせてきた。瀬島少佐は家族のことになると話が長くなるからな。最低でも1時間は嫁さんと娘の自慢と惚気話をしてくる。

「藤原、ちょっと来い。」

すると奥からふっくらした顔の青年将校が走ってこっちへ来た後、中佐に敬礼をした。

「中佐殿、なんでしょうか!!」

この青年将校は藤原石町少佐。同じ飛び級卒、そして隣の課ということで、良く俺の指導をしてくれた。俺の先輩って感じか。

「いや・・・最近仕事が忙しくてな、娘にちょっこしか会ってないっちゃ・・・」

瀬島中佐の愚痴が始まった。

「む、村田!!なんで親バカモードにしちゃったの!?」

「うちの家族見たらこうなっちゃいました。」

お互い声を潜めてしゃべっていると

「藤原、聞いているのか?」

「はい!!聞いております!!」

「全く・・・この前のお遊戯会も仕事で・・・」

俺は藤原少佐を尻目に急いでその場を離れた。藤原少佐、今度ブラドから貰った酒を送るんで勘弁してください。

 

 

 

 

『翠屋、海鳴市商店街にある大人気な喫茶店。ここのケーキは有名であり、遠出して買う人もいる。特にここのシュークリームは絶品で・・・』

適当なワードでググったら出るわ出るわ。翠屋についてたくさん出てきた。確かに、これだけを見れば俺も楽しみでしょうがなかったはずだ。けれど、嫌な予感は当たるものだ。

「まさか、もう来てくれるとは思わなかったよ。」

問題の中心人物、高町士郎の喫茶店だとは思わなかったけどな!!いろんなブログに『店長さんが若い!!』とかあったけど、まさかこの人とは。

「ですよね~。まさかここの店長さんだとは思いませんでした。」

「あれ、言ってなかったけ?」

「喫茶店としか聞いてないですね。」

俺はそう言って紅茶を口にした。・・・うまい。俺は味や香りの違いで産地が分かるほどの舌と鼻は持っていない。が、いい茶葉を使っているのは俺のような素人でもわかる。

「これはダージリンですか?」

「わかるかい?F&Mの高級品だよ。」

適当に言ったら当たるものだな。

そう思いながら俺はシュークリームをかじる。うん、うまいな。ど素人の舌でもスーパーの安売りシュークリームと別格なのはすぐわかる。

俺は問題を隅に投げつけ、紅茶とシュークリームを堪能した。

 

 

 

「イブキ兄ちゃん!!私の分は私が払うんや!!」

「いやいや、年長者の顔立てさせてよ。小学生一人分ですら割り勘にする高校生に軍人とか情けないからさ。」

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 シュークリームを堪能した後、商店街をぶらぶらと歩きまわり、夕方となった。

「私の家で夕飯食っていかへん?」

「旅館が夕飯を用意していると思うし大丈夫かな。」

「お茶だけでもどう?」

「ちょ、なにするのよ!!」

「助けてー!!!」

は?

俺たちは悲鳴の聞こえたほうを向いた。そこには今朝自己紹介していたアリサちゃんとすずかちゃんが誘拐されようとしている現場だった。

・・・M関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の次は誘拐ですか。海鳴市、ここってそんなに治安悪かったっけ?

止まっていたハイエースに二人を黒服が素早く押し込み、ダンケダンケ・・・じゃなかった、急発進した。ってこのままハイエースが進むとはやてちゃんが危ない!!

俺は駆け出し、はやてちゃんを庇おうと・・・

「あぶな!!」

はやてちゃんは自分で車椅子を動かし、車を避けた。え?

ガツッ!!!

・・・俺はただ、車に轢かれに行っただけかよ!!!

俺は車の衝撃で吹っ飛びながら、薄れ行く意識の中でそうツッコミを入れた。

 

   

 

         完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンなわけあるか!!!!」

 




高町一家って第三者から見れば怪しさ満点ですよね。


瀬島龍二郎中佐は陸軍の大本営作戦参謀などを歴任した陸軍軍人がモデルです。。


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魔法少女リリカル〇のは  誘拐犯弱すぎだろ・・・

連続投稿!!・・・ではなく、ホントは前話と一緒だったのですが、あまりに長かったので二つに分けました。(二つに分けると微妙に短くなるけど・・・)

このペースで行くと本編まで行くのにどのくらい時間がかかるやら・・・。





「ンなわけあるか!!!!」

俺はなぜか不穏な天啓が来たのでツッコミを入れた。

ガシッ!!

俺はフロントガラスと天井の境目のところに手をかけ、車にしがみついた。頭が裂けるように痛いし、視界が紅い・・・。こりゃ頭切ったな。

 俺は操縦席側のドアへ移動し、体全体に魔力を這わせる。

「おりゃぁあああ!!」

俺は全力でドアを引くと呆気なく開いた。え?ロックかけてなかったの?

 中にいる人はびっくりして固まっている。俺はすぐさま運転手をつかみ外へ投げ飛ばし、運転席に座る。幸いなことに助手席には誰もいない。俺はブレーキをベタ踏みし、サイドブレーキをかけた。

ギャリギャリギャリ!!!!!

ハイエースは嫌な音を出しながら急停止した。俺は急いでキーを抜き、後ろの二人を確認する。シートベルトをしていなかったせいで前に飛ばされているが大きな怪我はないようだ。

「おい!!二人とも大丈夫か!!」

二人の口に貼られているガムテープをはがし、手足を縛っている縄を切る。

「イブキさん!?」

すずかちゃんが驚いている。アリサちゃんは気絶しているようだ。決して急停止したせいで気絶したという事はないはず・・・。

「まさかこんな処で二人にもう会うとは思わなかったよ!!」

俺は二人を担いで外に出た。

「撃て!!撃てぇえええ!!!」

ダダダダダダ・・・!!!

犯人たちが復活し、撃ち始めた。え?ちょっと人質はこっちにいるんだぞ!!人質ごと仕留める気か!?

俺は急いで物陰に隠れた。ここは瀬島中佐に会った公園だ。近くに瀬島中佐達がいるはず・・・。運が良ければ今すぐに駆けつけてくれるか?・・・って、人っ子一人ここにいねぇし来ねぇよ。流石は公務員、もう帰ったのか!?・・・まぁ、民間人に被害でないからいいか。

「そこ動くなよ!!」

「何するんですか!?」

すずかちゃんが聞いてきた。

「ちょっくら懲らしめにね!!」

そう言って俺はシャーロックからもらった紅槍を「四次元倉庫」から出して物陰から飛び出た!!

敵はそこまで上手くないようだ。銃のエイムはガバガバ、これなら「影を薄くする技」を使わなくても余裕だな。俺は一気に近づいて槍を一回転!これで銃を持っていた三人を全員気絶させる。・・・上手くないどころかド素人に毛がほんの少し生えた程度じゃねぇか!!

俺はカシラだと思われる良質なスーツを着た男の首に槍を突きつけた。

「なぜソイツを助ける。」

スーツの男が聞いてきた。

「何故って・・・武偵で軍人だからだけど。誘拐を見逃すのはダメだろ。」

「お前はこいつらの正体を知らないからそんなことを言える!!こいつらは夜の一族だぞ!!」

・・・・・・こいつ大丈夫か?

「吸血鬼は滅ぼすべき存在だ!!それに‘‘夜の一族の吸血鬼’’!!真っ先に殺すべきだ!!」

・・・・・・あ~、こいつ頭逝ってるのか。

「そうだね、とりあえず精神鑑定だね。」

俺はスーツの男に手錠をかけた。その男の胸元には十字架が・・・。偏見持ちたくないけど、こういう関係の人って結構狂信者が多いよね。まぁ、人数が莫大だからそう思ってるだけかもしれないけど。

「この娘は、その一族の娘だ!!‘‘夜の一族’’は滅ぶべきなのになぜわかr」

「うるせぇ!!」

ガツッ!!!

男は静かになった。男のタンコブは逮捕する時にできたっていう事にしよう・・・。しかし、「夜の一族」ねぇ・・・。俺は第二中隊所属だったから国内はそこまで詳しくないけど、「夜の一族」なんて聞いたことがない。この男の頭がもし正常だったとしても、そこまで注目すべき一族ではないのだろう。

 そんなことを考えながら銃を乱射していた犯人たちにも手錠をかけ、一味全員を近くの木に縛り付けた。縛り付けた後、警察と瀬島中佐、辻さんに電話をし、もう一件落着かな。

「おう、終わったぞ。出てきても大丈夫だよ。」

そうすると二人とも物陰から出てきた。アリサちゃん起きたんだ。

「あの・・・聞いちゃいました?‘‘夜の一族’’のこと・・・。」

すずかちゃんが聞いてきた。

「・・・‘‘夜の一族’’ってやつか?あの男の妄言だろ?気にすんな。」

そう言って二人の頭を撫でる。

二人とも怖かったのだろう、撫で始めてしばらくすると二人とも抱いて泣き始めた。小学三年生で誘拐か・・・。むしろよくここまで我慢できたものだ。

しばらくたち、二人が泣き止んだ頃に急に殺気を感じた。

「ッ!!!」

俺はとっさ殺気の感じた方向に紅槍を構えた。・・・そういえば最近師匠に槍を仕込まれていたせいか、刀や銃剣付き小銃でなく槍を出すようになっちまったよ。

ギィイイイ!!

「貴様!!二人を誘拐するために近づいたのか!?」

そこには小太刀二振りを持った恭也さんがいた

「いや、違いますから!!助けたほうですから!!それと銃刀法違反!!」

この人、軍関係でも武偵でもなかったはずだよな!

「恭也さん!!これ以上やるなら公務執行妨害と銃刀法違反と傷害未遂の現行犯で逮捕しますよ!!」

そう俺が言った瞬間

キキーーーー!!

パトカーと装甲車、計10台ちょっとが俺と恭也さんを囲んだ。・・・うわぁ・・・後ろから戦車まで来てるし。

「武器を捨てて手を上げろ!!」

パトカーと装甲車から降りた警察と軍人が銃を構えて俺達に叫んだ。・・・うん、今頃ですか。俺と恭也さんはすぐに武器を捨てた。

 

 

 

 その後、犯人の一味と恭也さんは御用となった。なんかパトカーが来た後にすずかちゃんの姉とメイドさん達が来たが、警察の1人がその3人に対応してる。

「瀬島中佐。」

俺は近くにいた瀬島中佐に声をかけた。

「あぁ、村田大尉、今回はお手柄だな。」

「ありがとうございます。瀬島中佐、少し独り言を言いますがよろしいですか?」

俺は瀬島中佐が何か言う前に独り言をしゃべり始めた。

「これはあくまでも独り言ですが・・・。この海鳴市、M関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の事件のせいで戒厳一歩手前・・・。いえ、秘密裏に戒厳されていてもおかしくないのではないかと思っています。」

「・・・。」

瀬島中佐の目がギロリと俺を見た。

「そんな都市にこんな犯罪者が入れるとは思えません。」

「マ関(魔術関係という意味の隠語・陸軍式)の事件が発生する前からいたかもしれない。」

「いえ、犯人達の犯行はあまりにもおざなりです。第一中隊の皆さんならすぐに発見、対処をしていたでしょう。しかし、放置されていた。」

俺は瀬島中佐の目を見る。

「ところで、M関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の事件は高町家が関与している疑いがありますが、物的証拠が見つかってません。そんなときに高町家と親しい人間が誘拐される・・・。高町士郎と高町恭也は不破の一族で裏の家業をやっていた。ならば、親しい人が誘拐されたら自ら解決するはずです。何故なら、自分たちのやってきたことが公になってしまう可能性があるから。」

瀬島中佐はまだギロリと俺を見ている。流石は第一中隊、気迫が違う。

「誘拐犯が武器を持っているなら、解決するためには武装するのは当たり前です。不破は小太刀二刀流が有名、小太刀をもって解決に向かうでしょう。しかし、小太刀なんかを一般人が公の場で持っていたら銃刀法違反で捕まるのは当たり前。」

犯人達と恭也さんを乗せたパトカーが去っていった。

「高町家に誘拐されたことを伝え、高町家が解決しようと現場に来る前に確保し、あわよくば警察や軍人などの公務員を襲わせて捕まえる。事情聴取中にM関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の事件のことも聞ければ一気に解決する。家宅捜査もテロの可能性があるため、とかの理由でできる。政治家からの猛烈な圧力があっても何日間か確実に拘留できる。」

あ、俺の家族とはやてちゃんが来た。このくらいで終わらせるか。

「瀬島中佐、自分はこの事件、誰かが企んでいたような気がします。そう思いませんか、瀬島中佐。」

「長い独り言だな、村田大尉。」

瀬島中佐はそう言った後、俺から目を離した。

「君の家族が来たようだ。家族は大事にするといい。」

瀬島中佐は軍帽を深く被りなおした。

「これは独り言ではあるが・・・・・・私は国のため、民のため、陛下のためならばどんな犠牲を厭わない。これは嘘偽りのない言葉だ。」

俺はこれを聞いて安心した。瀬島中佐は謀略を得意とし、証拠をほとんど残さない。しかし、この人の国を思う気持ちは本当なのは良く知っている。・・・まぁ、それも演技って言われたら目も当てられないけど。

「ほら、早く家族のもとに行くといい。それとひどい傷だ、海鳴大学病院にすでに連絡はした。治療と検査に行くように。以上だ。」

「はっ!!」

俺は敬礼をした後、心配していたであろう家族のもとに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全身打撲に大量出血!!なんでこれで平気なんですか!!!」

家族と一緒に病院に行き、銀髪の可愛い女医さんに診察してもらったらこんな御言葉をいただいた。

「あの・・・旅館にもどりたいんでs」

「ダメに決まってます!!!今日一日は最低でも絶対安静です!!旅館に戻るなんてもってのほかです!!!」

・・・ウソだろ。

「そうですか・・・。はやて、イブキの分の夕食を一緒に食べませんか?」

おい、ニトクリス何言ってやがる。

「そうやね、イブキ兄ちゃんあまり反省しとらんようやし。」

そう言って二人が黒い笑顔を浮かべた。

「イヤイヤ!!!せっかくの旅行なのにうまい飯に温泉が無くなるとか嫌だぞ!!」

「村田さん!!病室に行きますよ!!!」

女医さんが俺の腕をしっかりホールドし、病室に向かって歩き始めた。え?この人すごい力持ってるんですけど!!!

「フィリス先生!!!俺平気ですから!!だからやめてぇええええ!!」

なお、翌日に傷などが全て治っているのを見て驚くフィリス先生がいた。

 




なんか書いてたら高町恭也が逮捕されてびっくりしてます。・・・でも、さすがに公務員に向かって一般人が小太刀で手を上げるとなったらこうなるしかない・・・。


十字架関係の皆様には申し訳ありません。悪意はありません。「隣人を愛せ」いい言葉です。(でも歴史的に考えると、こういう人がいても不思議ではn

戒厳令とは戒厳を定めた法律なので「戒厳令をしく」などの用法は間違いなようです。書いていて初めて知りました。











ネタばれ注意!!(ネタバレが嫌いな方はこれ以上見ないでください)













高町恭也はちゃんと出所します。厳重注意で釈放です。


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魔法少女リリカル〇のは  やっと原因が分かった・・・。

世間はクリスマスに正月・・・。なのに話は夏休み・・・。
急いで書いてるけどここまでクロスが難しいとか・・・。
年末年始に次話書きたいけどバイトが・・・。
一日一話どころか週一で上げられる人を尊敬します。


翌日フィリス先生から退院許可が出たので、家族が来るまでロビーでボーっとしていた。流石に病院のロビーで武器の整備なんてできないし暇だなぁ・・・などと考えているとすずかちゃんと彼女の姉であろう人、メイドさんの3人がロビーに入ってきた。

「お?すずかちゃんか、ちゃんと眠れたかい?」

小学三年生で誘拐はトラウマものだろうに。

「はい!ぐっすり眠れました。」

「そいつぁよかった。」

俺はそう言って頭を一撫でした。

「昨日は妹と妹の友人を助けてくださりありがとうございます。」

すずかちゃんの姉であろう人が俺に頭を下げた。

「いえいえ職務ですから。それとあなたは?」

「私はすずかの姉の月村忍と申します。」

ここで姉が登場するか。メイドを連れてきているところから良家のお嬢さんなのだろう。それなのに親が来ることができないということは海外にいるか、黄泉の国にいるか・・・。

「自分は村田維吹大尉です。命令により東京武偵高に出向しています。」

「お見舞いの品を持ってきたのですが・・・退院祝いになってしまいましたね。」

「わざわざそこまでしていただかなくても・・・。大きな怪我はありませんし、念のための入院ですから。」

今の言葉、フィリス先生が聞いたらすっ飛んできて説教されるな、きっと。

 忍さんはメイドさんの持っていた包みをもらい、俺に渡してきた。

「急だったのでこの程度の物しか用意できませんでしたが・・・受け取ってください。」

ここは貰っとかないとダメか・・・。

「すいません、いただきます。」

「少し場所を変えてお話しませんか?」

話?お礼はもらったし・・・ほかに話すことが?

「そうですね、中庭にでも行きますか。」

俺たち4人は中庭に移動した。

 

 

「単刀直入に聞きます。‘‘夜の一族’’についてどこまで聞きましたか?」

中庭のテーブルに座ったとたん第一声がこれだった。・・・・・・あれはあの男の妄言ではなさそうだな。忍さんは真剣な顔をしている。

「あの男の妄言をまともにしちゃぁいけませんよ。」

俺は肩をすくめた。

「ごまかさないでくれませんか?」

おおぅ、怖い怖い。俺はお互いそんなことを知らなかった、ということで一件落着させたかったのだが・・・。全く・・・。

「‘‘夜の一族’’は吸血鬼。あの男の話だとその吸血鬼の中でも有名な一族であるらしいという事。俺の部署は海外担当だったが‘‘夜の一族’’は聞いたことがないから有名な国内の一族。だけれど、国内担当の先輩から‘‘夜の一族’’なんて話は聞いたことがない。となると、有名なだけ、又は落ちぶれた一族である・・・。ついでにアクア・エデンに行っていないとなるとだいぶ歴史があるのだろう。あの男の証言をもとに考えるとこうなりますね。」

俺がそう言うと忍さんは苦虫をこれでもかというほど噛み潰したような表情を浮かべた。

「あれだけでそこまで・・・。ほとんど考えの通りです。」

はぁ、なんか嫌な予感がするんだよなぁ・・・。俺はすずかちゃんを見た。・・・・・・なんか目をキラキラさせてるんですけど、ナゼ?

「ところで、私たち‘‘夜の一族’’には掟があります。」

コイツが本題だな。

「掟とは・・・。どこかの小説のようですね。」

「正体を知ってしまった者は秘密を共有して生涯連れ添う関係を築くか・・・記憶を書き換えるか。」

「ッ!!!」

俺はとっさに銃に手が伸びた。吸血鬼なら何かしらの特殊能力を持ち、力も一般人よりも強い。メイドさんは一般人や訓練された人と違う足取りだ。全く戦力が分からねぇ。地の利も人の数も、純粋な力も負けてる・・・。ここで戦になったらきついな。

「ほう・・・物騒ですね。」

結婚して身内になるか・・・記憶を消されるか、かぁ・・・。

「えぇ、そうですね。」

いや、落ち着け・・・。俺は公務員だ。バックには日の丸がいる。向こうは力のない一族だ。今、戦いになっても逃げることは可能だ。それにこの都市は戒厳されていて行政に司法の一部か全ては軍にある。何かしようとしても向こうが不利になる。そして第二中隊のみんなに何かやられたって知られたら何をするか・・・。これは俺が面倒になるわ。

「両方とも拒否します。」

「え?」

向こうはそう答えるとは思わなかったようだ。

「憲法によって結婚の自由は保障されています。あなたには恭也さんという彼氏がいるようだ。となると、もし結婚するとなったらすずかちゃん。この歳で、しかも10歳近く年上の婚約者を持つのは可哀想だ。」

そう言って俺はすずかちゃんを見た。うん・・・なんで悲しそうな顔をするんだい?

「軍人は公務員です。法律のことは多少頭に入れさせられるんでね。」

そう言った後、再び視線を忍さんに戻す。

「記憶をいじられるのも嫌です。頭の中には機密がいっぱい詰まってるんで。これがバレたら最悪、俺と忍さんの首が物理的に飛ぶかもしれません。」

忍さんとメイドさんは目を丸くしたままだ。そう言えば、恭也さんの彼女が忍さんだよな。恭也さんもこの掟とやらを知ってそうだな。

「困りましたね。それでは私たちの面子が丸つぶれです。」

やっと回復したようだ。

「そう言われましても、法律を破るか、軍機をばらすか・・・。そんなに面子が大事ですか?」

「えぇ、分家の方々はうるさい人が多くて・・・。」

ハァ・・・二人でため息をついた。彼女も大分苦労してそうだな。多少は妥協するか。

「もし、結婚するとなるとすずかちゃんと・・・になるんですか?」

「そうですね・・・。分家の方々と・・・というわけにはいかないので。」

いや、分家のお年頃の人とも結婚しようとは思わないけど。

「これでどうです?『記憶の書き換えができなかったため、婚約ということになったがすずか嬢はまだ幼い。すずか嬢が結婚できる年齢になり、尚且つ大学・大学院を卒業してお互いに合意があれば結婚するということにした』・・・と。なんか言われたら『これは軍の意向だ』って脅されて仕方なくこうなったとでもいえばいい。」

問題先送りの将来ご破算な提案だ。まだ結婚する気はないぞ。

「記憶の削除ができないって言うのはさすがに・・・。」

「できないでしょう?軍機のせいで。」

あ!!という声を忍さんが出した。彼女も納得したようだ。

実際は『記憶を(軍機のせいで)書き換えなかった』だが、分家の人には『記憶を(書き換えようとしたけど)書き換えができなかった。』と誤解させればいい。

「これでいいですか?」

「そうしましょう。」

俺と忍さんはグッと握手をした。

「すずかちゃんも形式上とはいえ、こんな婚約者持って迷惑だろう。ゴメンな。」

「いえ!!イブキさんを大学卒業までにオトすので大丈夫です!!」

は?

「イヤイヤ・・・多分年上の憧れとか吊り橋効果とか入っちゃってるから、それ。」

「いい女になるので待っていてください!!」

なんだこの子!!すごい気迫・・・!!

「あ・・・うん・・・。在学中にいい相手見つけるんだよ?」

「はい!!もう見つけたので、あとは磨くだけです!!」

・・・最近の小学生はマセテルンダナ。・・・いや、落ち着け!!大学卒業は大体23~24くらいだ。となると今から13~14年後。つまり俺は三十路だ。三十路のおっさんを好きになる事はないはず・・・。

 

 

 

 忍さんとの交渉(笑)が終わった後、全員ロビーに戻った。

「イブキさん!!好きな食べ物は何ですか?」

「・・・好き嫌いはないけど、寿司は好きだね。」

「そうですか・・・お嫁さんは料理できる人のほうがいいですか!?」

「・・・職業柄、家はなれること多いからね。できるほうがいいよね。・・・ところですずかちゃん。」

「何ですか?」

「なんでそんなにくっつくのかな?」

すずかちゃんは俺の腕をギュッと抱きしめている。

「イブキさんを落とすためです!!」

彼女は自分の胸(?)を俺の腕に押し当てているようだが、悲しいかな・・・(どこが、とは言わないけど)ペタンコなので肋骨が当たってる。

「うん、俺が社会的に死ぬからやめようか。」

「死んだら私が責任もって結婚するので大丈夫です!!」

最近の子はマセてるんだな・・・。

 

ダダンダンダダン!!ダダンダンダダン!!

 

 急に携帯からターミネーターのBGMが流れてきた。鬼塚少佐からの電話だな。

「ちょっと電話出てきます。」

俺は忍さんとすずかちゃんにそう言い、すずかちゃんの拘束から逃れた。

 病院の外に出て電話を出ると、やはり鬼塚少佐が出た。

「よぉボウズ!!ケガは平気だな!!」

怪我の心配はないんですか・・・。

「鬼塚少佐・・・。確かにケガは平気ですけど・・・。心配ぐらいしてくださいよ。」

「そのくらいケガに入らねぇだろ?」

そんな・・・全身打撲に大量出血だぞ。普通では大怪我で・・・うん、今迄から考えるとケガのうちに入らないや・・・。おかしいな、平和に生きるために軍に入ったはずなのだけど・・・。大怪我ばかりして銃弾の雨に毎回吶喊してるような気がする・・・。

「・・・ボウズ、急に黙ってどうした?」

「いえ・・・人生儘ならないなと・・・。」

「?」

「・・・ところで鬼塚少佐、急な電話ですがどうしたのですか?」

「そうだった!!ボウズ!!今どこにいる!?」

「海鳴大学病院にいますが・・・。」

「よし!!そこで待ってろ!!」

ツー・・・ツー・・・ツー・・・

電話を切りやがった。病院のロビーで待ってたほうがいいのか?

「おはようございます。」

目の前にアリサちゃんと執事さんがいた。電話中に来たようだ。

「おはよう。大丈夫?昨日は眠れた?」

この子は大企業を経営する家の一人娘。流石にすずかちゃんのような事は起きないはず・・・はず・・・。

「はい。眠れました。昨日は助けてくださりありがとうございました。」

アリサちゃんはそう言って一礼。流石はお嬢様、礼一つとっても上品だな。

「いえいえ、軍人として当然のことをしただけです。」

「鮫島。」

「はい、お嬢様。」

そう言って執事さんは手に持っていた物を俺に差し出した。

「このくらいの物しか用意できませんでしたが・・・受け取ってください。」

月村家の受け取ってバニングス家から受け取らないのはいけないよなぁ・・・。

「こんな恐縮です。ありがとうございます。」

「イブキさんまだですか?・・・あ、アリサちゃん!!」

すずかちゃんが病院から出てきた。

「すずか?昨日はあの後大丈夫だった?」

「大丈夫だったよ!!」

二人は仲良く話し始めた。うん、和やかでいいな・・・。

「にいちゃーん!!」

はやてちゃんがタマモに車椅子を押されながら来た。

「にいちゃん!ケガ大丈夫?」

そうだよ!!普通は心配してくれるようなケガだよな・・・。

「もう大丈夫。退院許可をフィリス先生が出してくれたよ。今日は何処へ案内してくれる?」

「え・・・?どないしよ!!考えとらんかった!!」

キキーーーーー!!!

病院の前に高機動車が止まった。

 

 

 

 

 俺は高機動車の中で揺れていた。

「・・・あの、さすがにこのやり方は誤解を生むと思うんでやめてください。」

辻さん達は俺を拉致したのだ。俺は今、誤解を解くためのメールを打つので必死だ。

「イブキ大尉には悪いが・・・時間が無いため希信はあのような形になった。」

辻さんが焦り顔で言った。辻さんが焦るなんて珍しい・・・、これは何かヤバいな。

「本来はもう2~3日後に海鳴に着く予定だったんですよ、村田君。」

神城さんが説明を始めた。

「四日前まで大きな作戦についてました。休息をとっていたらM関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の大きな事件に名家の娘の誘拐があったという報告を受けまして・・・。」

瀬島中佐はそこまで考えてたのか・・・。

「それで海鳴に今日の朝着いたら早速結界が張られたようです。」

は?結界が?

「イブキ大尉!!この日本に対しテロ行為など!!この希信が許さん!!!敵と会っているのだろう!?情報を教えてくれ!!」

・・・全く。あの時捕まえてればよかったな。

「わかりました。敵は・・・・・・

 

 

 

 現場に到着し、田中さんが結界を破り高機動車は結界内に入った。

「岩下、狙撃位置に行け、田中は偵察及び罠の有無、村田は田中が戻るまで待機だ。」

鬼塚少佐が流れるように命令をした。

「「「了解」」」

岩下さんと田中さんはそれぞれの得物を持って走っていった。大きな音が聞こえるから目標の位置はすぐわかるだろう。

 田中さんは3分もしないで戻ってきた。

「目標10時方向に500mです。付近に罠はありませんでした。」

「おう、ボウズ行くぞ!!辻中隊長と神城参謀長も来られますか?」

「「当り前だ(です)!!!」」

・・・この二人は本当に元気だな、おい・・・。

 現場に着くと、黒い服を着た少年が金髪の少女に電撃を撃ち、撃墜させた瞬間だった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!!!!

後ろにとても大きなオーラを感じる・・・。後ろを振り向かないようにしよう。

「軍だ!!武器を捨て、手を頭に置き、地面に跪け!!!」

鬼塚少佐が大声で叫んだ。その声で俺は少年に向けて三八式を構えた。田中さんは墜ちた少女の救助と手当をしている。

「ま、待て!!僕は時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ!!銃を下ろせ!!!」

は?時空管理局?大丈夫かコイツ?

「うるせぇ!!10数えるうちに武器下ろして跪け!!10、9、8、7・・・」

少年の近くの空間にモニターが急に出てきて何か言ってるけど、手品か何かだろう。

「・・・2,1、やれ。」

パシュッ!!

急にクロノ・ハラオウン(?)の両肩両ひざから血が噴き出した。

ダァアアアアン!!

そして遅れて銃声が聞こえた。岩下さんがやったのだろう。岩下さんの狙撃は撃たれるまで気づかないからなぁ・・・敵ながら同情する。

 

 岩下さんは軍で5本指には確実に入る狙撃兵だ。彼の絶対半径(キリングレンジ)は1347mで、レキと比べればとても短い。しかし、岩下さんの持ち味は高度の隠蔽と観察力だ。岩下さんは「影の薄くなる技」ができる人の一人で、そのおかげで目標に弾が命中する前に存在がバレたことは一度もない。岩下さん曰く

「狙撃しようとしてたら敵の護衛が俺のいる部屋に入って来たんッスよ。あの時は冷汗が出たッスね。」

そして観察力は目標の読んでいる文書すら読めるらしい(本人曰く)。

 実際、演習だと岩下さんは何処にいるかわからない。そのため岩下さんの居そうなところに砲撃・爆撃がされるため、最初に死亡判定が出るか、最後まで生き延びるかの結果しか出していない。

 

 クロノ・ハラオウン(?)が墜ちていく。

「確保ぉおおおお!!!」

鬼塚少佐、神城参謀長、辻さんが彼に一気に群がる。俺は高町なのはに接近した。

「やぁ、昨日ぶりだね。なのはちゃん。」

「は、はい・・・。」

「ちょ~と一緒に来てくれないかい?そこのフェレットも。」

これでM関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の事件も一気に解決できるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は瀬島中佐の取り調べをマジックミラーで見ていた。

 金髪の少女、高町なのはとフェレット、少年の話は最初バカバカしく思った。魔法は隠さなきゃいけない?時空管理局は治安維持に司法と立法権の一部を有する組織?ジュエルシード?君たち、中二病で迷惑かけないでくれないかな。

「ジュエルシードは青い宝石のような形で、魔力が大量に入っていて危険なんです!!」

・・・あれ?最近そんなの見たような・・・。

「ん?これか?」

瀬島中佐は淡い青色のガラス(?)の粉を高町なのはとフェレットに見せた。

「・・・え?」

「魔力の大量に詰まった宝石を処分した残りカスだ。藤原が頑張って潜って取ってきてくれた。」

藤原さんが無理やりスキューバダイビングの資格取らされたって愚痴ってたけど・・・お疲れ様です。

「11個の残骸がここにある。危険物というのはこちらも知っている。君たちの持っている分を渡してくれないか?無理やり奪うのは気が引ける。」

その後、瀬島中佐は二人から5つジュエルシードをもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月村家の問題とか時空管理局(?)などの事件があった翌日、海鳴旅行3泊目。俺は第2中隊第一小隊と辻さん、神城さんで「時の庭園」にいた。

「・・・あの、辻大佐?」

「どうした、イブキ大尉。」

「他人の家庭問題に武力介入していいんでしょうか?」

「違う。我々、希信達は彼女の家庭問題を解決しようと‘‘個人的に’’しているだけだ。」

「・・・あの人、俺らに攻撃してきたんですけど。」

「それなら希信は自衛のために反撃するほかない。」

フェイト・テスタロッサに似ている少女が入っているカプセルを守るように立つプレシア・テスタロッサがめっちゃ切れているように見える。

「お兄さん、私見えてるんでしょ?」

そしてカプセルに入っている少女に似た、色素が薄い(そのままの意味)の少女が浮きながら俺の頬をつつく。

 どうしてこうなった!?

 




次話で魔法少女編は完結!!


できるといいなぁ・・・


魔法少女編の次はロサンゼルス編です。


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魔法少女リリカル〇のは 家庭訪問に武装はいらないだろ・・・

 遅れたことを謝罪します。
 年末と1月の前半、自分の休みの日全てバイトが入るという地獄があり、1月後半は留年をかけたテストがあったので・・・全く筆が進みませんでした。

もう春休みなので、ここで一気に稼ぎたいなぁ・・・。


  俺達が「時の庭園」にいた原因は黒髪の少年に攻撃された金髪の少女(フェイト・テスタロッサ)の取り調べだった。この子はパスポートを持っており、リヒテンシュタインからの旅行・・・ということになっていた。なのでスイス大使館(リヒテンシュタインはスイス大使館が兼轄しているため)に連絡をすると、そのような少女はいない・・・と返答が来た。

 よってこの少女はパスポート偽造をしたということが分かったが、理由が分からない。理由を聞いても

「お母さんがジュエルシードを取ってきてって言ったから・・・」

これと、彼女が小学生ほどの見た目から支援者がいると考えていた。ちょうどその時、彼女の保護者というものが現れた。その保護者というのがオレンジの髪をしたお姉さんで・・・ってコイツ!!

「てめぇ!時空管理局と間違えて俺を襲ったやつじゃねぇか!!」

「あ、あんたは!!」

その後の取り調べによって、プレシア・テスタロッサの虐待を知った。

 ・・・で、その日は鬼塚少佐に無理やり飲み屋に連れていかれ、帰りがあまりにも遅いから臨時の隊舎で寝た・・・。

 

 

 

「おいボウズ!!起きろ!!」

で、起きたのが天井、壁、廊下がすべて鉄でできている謎の場所・・・。知らない天井どころじゃねぇよ!!!

「「「「鬼塚少佐!!ここどこですか!!」」」」

ちょうど起きた田中さん、岩下さん、メガネさんと一緒に詰め寄った。

「この希信が説明しよう!!ここは・・・」

俺たちは辻さんの説明が頭に入らなかった。何故なら・・・

「あれ?お客さん?おーい!?見える~!?」

辻さんと鬼塚少佐、神城中佐の後ろにフェイト・テスタロッサ似の少女(体が透けている)が宙に浮きながらこっちに手を振っているのだ。

「田中さん・・・俺・・・少女が宙に浮いているように見えるんですけど・・・まだ酔ってるんですかね?」←俺

「お前も見えるか?体が透けているように見えるんだが・・・」←田中

「最近のホログラムって大分進歩してるッスね・・・。」←岩下

「近くに映写機はないですよ。」←メガネ

メガネさんの一言で俺たちは顔が真っ青になった。

「・・・ん?お前らどうした?」

「・・・というわけで!!どうした?そんな表情して?」

鬼塚少佐と辻さんが俺たちの表情が変わっていることに気が付いた。

「う・・・後ろ・・・。」

田中さんが後ろを指さしながら言った。二人が後ろを向いた。

「お客さん?用事は何??」

「メガネさん曰くホログラム用の映写機はないそうです。」

サーっと二人の顔が青くなった。

「こ、こういうのって銃じゃ殺れねぇんだよな!?」

鬼塚少佐は冷汗を滝の様に流しながら拳銃を握った。

「ん?なんのことだ?この希信には何も見えないぞ?」

・・・ゑ?

「全く、君たちはまだ酔っているのか?」

「あの辻大佐、そこにいるフェイト・テスタロッサ似の少女が見えないのですか?」

俺は彼女(?)を指さしながら辻さんに聞いた。

「イブキ大尉・・・君はロリコンだからそんな幻覚を見ているのではないのか?」

「俺はロリコンじゃないです!!」

 そんな冗談が辻さんと俺の間で飛び交っているうちに、みんなの緊張はほぐれたらしい。

「そ、そうだよな!!幽霊なんかいないよな!!・・・おい、ボウズ!!驚かすなよ!!」

鬼塚少佐が一番ビビッてたよな・・・。

「お~い!!無視しないで~!!」

幽霊(?)の彼女が両手を振って存在をアピールしているが無視しよう。

「ん?あんた達やっと起きたのかい?」

 

 

 

 オレンジの髪のお姉さん(?)は俺達を案内しながら自己紹介をした。彼女(?)はアルフという使い魔らしい。彼女(?)は辻さんと神城さん、鬼塚少佐に説得され、「時の庭園」まで俺たちを連れて行ってくれたそうだ。・・・ってあれ?

「あの・・・重要参考人を簡単に釈放しちゃっていいんですか?」

「彼女は希信達にすべて話してくれた上に、本拠地まで案内してくれるそうだ。なので!!この希信と瀬島が司法取引を持ち掛けたのだ!!」

瀬島さんのところだけ小さく言って・・・。

「それにこの戦力の中で脱走はできないと希信と瀬島は決断したのだ!!」

・・・確かに。白兵能力が高い俺に、バレない狙撃兵・岩下さん。手持ちの爆薬で何でも破壊できる田中さん、戦闘ができるハッカー・メガネさん。それに加えて、作戦の神様・辻さん、突撃殴り込み大好きな神城さん、天災・鬼塚少佐。

・・・うん、俺でもこんな部隊から脱走は無理だわ。

 

 

 

 

 ところで神城さん、笑いながら磨いている大きい筒は何です?え?パンツァーファウスト3?殴り込むなら大火力を持って行かないといけない?・・・そうですか。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、色々アピールしている幼女の霊(?)を無視しつつ、案内された部屋に入った。そこには一つの椅子(玉座と言ったほうがいいか?)があった。

「おかしいねぇ?ここにいるはずなんだけど・・・」

アルフが一言・・・。

俺達はこの部屋を探していると

「ここに扉があるぞ!!」

流石は田中さん、3分で扉を見つけた。俺達はそこに入るとガラスの円柱に入った幽霊(?)の彼女に瓜二つの少女と、黒髪の妙齢の女性がいた。

「狙え!!」

俺達は条件反射で女性に銃を構えた。

「ちょ!!母さんを狙わないで!!」

「うん、お願いだからあっち行ってね。」

「あ!!やっぱり見えてる!!」

思わず幽霊(?)の少女に反応してしまった俺は悪くないはず・・・。そう思いながら三八式を強く握った。

「あなたはフェイト・テスタロッサの母親のプレシア・テスタロッサか!?」

辻さんは大きな声で女性に尋ねた。

「貴様、愛娘のフェイト・テスタロッサに虐待とはどういうことだ!!」

・・・え?

「あの・・・辻さん?M関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の黒幕を逮捕しに行くんじゃないんですか?」

「ん?この希信達はフェイト・テスタロッサの家庭問題を解決するために来ただけだ!!それに今回の事件の原因は事故による二次災害だ!!」

・・・ふぁ!?

「我々、希信達はフェイト・テスタロッサの家庭状況に同情し!!個人的に!!家庭訪問しただけだ!!」

「じゃぁなんで装備持ってきたんですか!?」

ご丁寧に装備一式持ってきてるのにきて家庭訪問!?

「もちろん!!家庭問題解決のためだ!!」

チュドーーーーーン!!!

俺と辻さんの間に電撃(物理)が走った。発射元を見ると・・・妙齢の女性からだった。

「私のアリシアに!!近寄らないで!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・あの、辻大佐?」

「どうした、イブキ大尉。」

「他人の家庭問題に武力介入していいんでしょうか?」

「違う。我々、希信達は彼女の家庭問題を解決しようと‘‘個人的に’’しているだけだ。」

「・・・あの人、俺らに攻撃してきたんですけど。」

「それなら希信は自衛のために反撃するほかない。」

フェイト・テスタロッサに似ている少女が入っているカプセルを守るように立つプレシア・テスタロッサがめっちゃ切れているように見える。

「お兄さん、私見えてるんでしょ?」

そしてカプセルに入っている少女に似た、色素が薄い(そのままの意味)の少女が浮きながら俺の頬をつつく。

どうしてこうなった!?

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴ!!!

急に大きな音と共にロボット(?)が近くから出てきた。

「おぉおおおお!!!あれはMS-06C 初期量産型ザクII!!あっちにはMS-06E-3 ザク・フリッパー!!!」

「メガネさん、落ち着いて、落ち着いて・・・。」

メガネさんがなぜか興奮している。俺が落ち着かせようとすると

バシュ!!!!!!

・・・ズドォオオオオオオオン!!!

轟音と共に10体ほどのザク(?)が吹き飛んだ。

「やはり大火力こそ正義なんですよ!!!殴り込みはこうでなくては!!!」

神城さんが大声を出しヤバいことを言っている。・・・って神城さんの目が山口少将と同じ人殺しの目になってやがる!!!

「目標を確保せよ!!突撃ィイイイイ!!!」

「「「「「うぉおおおおおお!!!!」」」」」

辻さんの命令に条件反射で突撃始めちゃったけど、これ家庭訪問なんだよね。

バシュ!!!!!!

・・・ズドォオオオオオオオン!!!

「ヒャッホォオオオオオオ!!!!最高だぜぇええええ!!!!」

神城さんが興奮してる。あの人、大火力砲の発射音とか聞くと興奮するのに、頭はいつも以上に冴えわたるから立ち悪いんだよなぁ・・・。

 

 

 

 

「うぅ・・・そんなことがあったなんて・・・。」

「希信は・・・希信は・・・」

「チクショウ・・・前が見えねぇ・・・」

神城さん、辻さん、鬼塚少佐はプレシア・テスタロッサから動機を聞き、滂沱の涙を流していた。

彼女曰く、事故で死んだ娘(アリシアという名前らしい)を甦らそうとしてできた子がフェイトだそうだ。そして、プレシアはアリシアを甦らそうと無理をし過ぎたせいで、もう半月ほどしか生きられないそうだ。なのでフェイトにジュエルシードを集め、それの力で伝説のアルハザードとやらに行くことに最後の希望を託したらしい。しかしアルハザードは伝説の場所であり、本当にあるかどうかわからない。なので自分とアリシア(の死体)だけで行き、フェイトと泣く泣く離れることに決めたそうだ。そのため、プレシアはフェイトが自分についてこないように心を鬼にして虐待をし、嫌われようとしていたそうだ。(彼女曰く絶対に痕にはならないよう細心の注意をしていたそうだ。)

その話を聞いて、俺は近くをフワフワ飛んでいたアリシアに似ている幽霊に話しかけた。

「君、プレシアさんの娘のアリシアちゃんかい?」

「あ!!やっぱり私のこと見えてた!!!」

・・・あぁ、そういえば無視してたっけ。

「妖怪の類ならよく見てきたけど幽霊の類は初めてでねぇ。いやぁ・・・ゴメンナサイ。」

アリシア(?)はちょっと不満そうな顔をしながらも謝罪を受け取ってくれた。

「で、君はプレシアさんのアリシアちゃんかい?」

「そうだよ!!私がアリシア・テスタロッサだよ!!」

・・・あの死体、やけに新鮮だよな。もし、運が良ければできるか?

 

 

 突然だが、俺が第一次ブラド戦で使った‘‘反魂蝶’’の原理を説明しよう。あの技は冥界よりセクメト神(エジプト神話より)とアヌビス神(エジプト神話)の力を持った霊を召喚する技だ。セクメト神の力、「火のような息(人間を殺してしまう病の風)」の劣化版で敵を仮死状態にする。そしてアヌビス神の霊が冥界に敵の魂を運び、冥界の入り口で強制的に死者の裁判が始まる。そしてアメミット(エジプト神話)に心臓を食べられ、その結果本体は死ぬ。

 とても面倒な工程で即死させているのだが、その分手を加えられるところが多く、応用が利く技だ。

 ここでもし、冥界から呼ぶ霊をイシス(エジプト神話)とネフティス(エジプト神話)を呼べば、もしかしたら彼女は復活するかもしれない。

(エジプト神話にイシスとネフティスがバラバラに殺されたオシリス神の遺体を拾い、集めて復活させた・・・というエピソードがある。)

神話ではオシリスは復活した後、冥界へすぐ行ってしまったが・・・オシリスの遺体がバラバラだったからだと仮定すれば・・・遺体がキレイに残っているアリシアちゃんなら・・・。

 

 

 

「アリシアちゃん、もう一度生きたいかい?」

「え?急に何?」

「もしかしたらできるかもしれない。」

「え?」

「もう一度生きるということは、もう一度死ぬということだ。また死を経験するとしても・・・生きたいかい?」

俺が冗談で言ってるわけでないと感じたのだろう。アリシアちゃんは少し考えた後、頷いた。

「私は生きたい。例えもう一度、あんなに怖いのを経験するとしても、母さんとフェイトに抱き着きたい、お話ししたい!!お兄ちゃん!!私を生き返らせて!!!!」

「俺も初めてのことだから・・・失敗しても祟るなよ。」

「お兄ちゃん、失敗しても祟らないよ。むしろ生き返らせようとしてくれて、とても嬉しいよ!!」

「そいつぁ有難い。んじゃぁお母さん説得してから始めるよ。」

俺はそう言ってプレシアさんに近寄ろうとすると

ガシッ!!

田中さんが俺の肩をつかんだ。

「おい村田。生き返らせるのは良いが・・・お前は大丈夫なんだろうな。」

流石は田中さん、こういう危険察知能力は化け物だな。確かに、‘‘反魂蝶’’は霊の仕事の対価として敵の魂を贄にする。だから俺は実質対価を払わなくていいのだが・・・今回復活させるためにアリシアちゃんの魂を贄にするわけにはいかない。

「心配しないでください田中さん。俺だって家族残して死ぬなんてことしませんよ。」

「そうか、気をつけろよ。」

そう言って田中さんは俺の肩から手を離した。

 

 

 

「プレシアさん、もしかしたら生き返らせることができますが・・・どうしますか?」

「本当かボウズ!!!」

「鬼塚少佐、近い!!近いから!!!プレシアさん引いてますよ!!!」

鬼塚少佐のあまりの迫力にプレシアさんが引いていた。鬼塚少佐をなんとか離し、プレシアさんに再度聞いた。

「えぇ・・・ジュエルシードもこれしかないのならアルハザードには行けないわ・・・生き返らせる方法があるの・・・?」

「自分も初めてなので成功するかわかりませんが・・・一応可能性があります。」

「お願い!!最後にあの子に会わせて!!!」

あんたも近い!!近い!!

 

 

 

 プレシアさんを落ち着かせた後、儀式の準備を始めた。と言っても彼女の遺体に白の服を着せ、良く耕された畑の上に置き、近くにジュエルシードを置くだけだが。

「これでうまくいくの?」

「エジプトでは冥界の神と農耕の神は一緒なんだ。冬には枯れ、春に芽を出すのは、死と復活に見えたようだよ。それに芽を出すのは土の中から、つまり冥界からって言う考えもあるね。だから冥界に近い土の上、それに自分のテリトリーでもある畑だと力を行使しやすいと思うんだよね。」

「へー・・・」

アリシアちゃん・・・君の復活の儀式だよ?もうちょっと興味持とうよ。

 さて、準備が終わった。今回の儀式で使う贄はジュエルシードだ。4つで足りてほしい。

「では始めませす。皆さん下がってください。」

みんなが下がった後、俺はその場にルーンとヒエログリフを刻んだ。

「‘‘反魂蝶・改’’!!!」

そう言えば反魂の意味は『死者の魂を呼びもどすこと。死者をよみがえらせること。』・・・。むしろ今回のほうが意味合いは合ってるのではないか?カット

 ルーンとヒエログリフを刻んだ場所から蝶が大量に出てきて、幽霊のアリシアちゃんを襲った。

「ちょ!!助けてぇえええ!!!」

襲った後、蝶達はその勢いのまま彼女の遺体に襲い始めた。・・・これ大丈夫だよね。

 バリィイイイイイン!!!

4つのジュエルシードが割れ、蝶達は刻んだ場所に戻って行ってしまった。彼女の霊は何処にもいない。・・・え?失敗?俺が焦った瞬間

「うぅ・・・。」

彼女の遺体から声が聞こえた。すると遺体は目を開け、体を起こし、周りを見た。

「ア、アリシア!!!」

「母さん!!痛いよ!!」

プレシアさんは涙を流しながらアリシアを抱きしめる。よかった、成功したようだ。

「「「「「「「うぅ・・・。」」」」」」」

うちの部隊とアルフは感動で涙を流している。ん?俺はポケットに手を入れると知らない紙が出てきた。珍しい紙質の紙だ。日本ではほとんど流通してなさそうだな。その紙には文字が書いてあったが・・・

『هذه المرة أردنا مع أربعة.

التالي هو حياتك للنظر فيها.

كما شفي جسم أم الفتاة.』

・・・アラビア語か?さすがにアラビア語は読めねぇよ・・・。後でニトか師匠に読んでもらおう。俺は紙をしまった

「ピーヒョロロロ・・・」

俺はふと空を見上げた。そこには快晴の青空をバックにトンビが2匹、俺達を見守るように輪を描きながら飛んでいた。

 ・・・今は午前中だっけ、今日も暑くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん!!正座!!」

「ア、アリシア?」

「私のために沢山頑張って、体も壊したのは知ってる!!でも!!フェイトにあんな酷いことをしてたのはひどいよ!!」

プレシアさんが落ち着いた瞬間、アリシアちゃんが説教を始めた。さっきまで霊体&遺体だったのに元気だな。

「でも、母さん、寿命が・・・」

「私を生き返らせてくれた神様が母さんの体を治したって言ってたよ!!それよりもフェイトが傷ついてるんだよ!!!」

・・・ん?今すごい事言ってたぞ。

「あ・・・あの、アリシアちゃん。今体が治ったって言ったけど・・・。」

「あ、お兄ちゃん?なんか生き返らせてくれた頭に椅子乗せてる神様と、頭に祠を乗せてた神様が母さんの体もついでに治したって言ってたよ。」

・・・代償が怖いんですけど。

「だから母さん!!フェイトをいじめちゃダメ!!それに・・・」

アリシアちゃんは説教に戻った。・・・これで一連のM関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)の事件は解決だな。

「ピーヒョロロロ・・・」

俺はまた空を見上げた。トンビが2匹、俺達を温かく見守るように輪を描きながら飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件が解決したから、これでやっと海鳴観光ができるな。そうだなぁ・・・翠屋のシュークリームと紅茶はうまかったから、そこで一服だな。それに温泉入って、うまい酒と飯食って・・・。

「そう言えば村田君。」

「神城中佐、どうしたんですか?」

「そういえば・・・君、今日帰る日だよね。」

・・・ゑ?

「いや、私達がここに来たの昨日で、君その二日前に来たんだよね。三泊四日の旅行って私は聞いているよ。」

・・・ファ!?

   ブー・・・ブー・・・

その時、俺の携帯にメールが来た。そのメールは師匠からだった。

『イブキへ

帰りの準備は終わったから早く帰ってこい。

スカサハ』

「ピーヒョロロロ・・・」

俺は空を仰いだ。トンビが俺をあざ笑っているように見えた。

 

 




今回でリリカル〇のは編は終わりませんでした・・・。次回で、次回で終わると思います。



 本来はヒエログリフ、またはコプト語での手紙にしようと思いましたが
ヒエログリフ→表意文字と表音文字(簡単に言うと漢字とひらがな)で出来ているので自分では文章にできない。
コプト語→翻訳サイトが見つからなかった。
なので今エジプトの公用語であるアラビア語にしました。

 トンビはイシス、ネフティスの化身みたいなものです。



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魔法少女リリカル〇のは  休みをください・・・

今回で魔法少女リリカル〇のは編は終わりです。

旅行中に書いたんですが データが吹き飛んでしまい、作り直しました。バックアップは大切・・・。


あと、今回は短いです。


 灰になった俺を辻さんと神城さんが無理やり高機動車に乗せ、俺達は留置所に向かった。辻さん曰く、留置所よって、高町家の皆様を送った後、俺を旅館に送っていくれるそうだ。

「ここ海鳴は温泉が有名らしいな。希信達も疲れを取るべくみんなで旅館に泊まるか!!・・・どうしたイブキ大尉?自分の分?イブキ大尉の分はないぞ。帰らなければならないのだろう?」

・・・泣きそう。

 

 

 留置所に着くと、俺達はフェイト・テスタロッサ、高町兄妹とフェレット、クロノ・ハラオウンを拾い、ひとまず高町家に向かった

 ・・・留置所でテスタロッサ家感動の再会が起きたがここでは割愛しよう。

 

 

 

 

 高機動車は高町家に向かってゆっくりと向かっている。その間に今回の顛末を回想しよう。

 銃刀法違反、公務執行妨害、傷害未遂、殺人未遂などの罪に問われた恭也さんは文書厳重注意で釈放となった。帯刀帯銃免許を恭也さんは取得しているのにも関わらず、免許を携帯せずに刀剣を帯び、他人に刀を振るうのは何事か・・・ということで、後日講習を受ける必要があるそうだ。・・・恭也さん、緊急事態とはいえ免許不携帯は弁護できないですよ。

 そして、少女暴行の参考人のなのはちゃんとユーノ君(フェレットに擬態していたのは驚いた。)は調書を取り、簡単な注意を受けて終わった。今回の事は大人に言っても相手にされなかっただろう・・・ということ、政治家からの圧力、証拠不十分などもあってそのまま釈放だそうだ。瀬島さんはなのはちゃんに何かあったら連絡するようにと携帯電話の番号を教えていた。・・・今後こういう事があったら軍、警察に教えてね。

 テスタロッサ家は一切のお咎めなしだ。プレシアさんは事前に危険物を回収して、軍・警察の手伝いをしてくれていた・・・ということになった。フェイトちゃんも同じだ。プレシアさんは今後、「時の庭園」やその他諸々も売り、そのお金で海鳴に住むようだ。家族三人、幸せに過ごしてください。

 そして問題のクロノ・ハラオウンであるが、テスタロッサ家が許したこと、未成年ということで厳重注意となった。しかし、辻さんと瀬島さんは巡航艦「アースラ」艦長で、彼の母親であるリンディ・ハラオウンにそのことをひた隠しにして、彼女に恩を着せることができた。なんでも辻さんと瀬島さんが彼のために法を破るギリギリのことをやった・・・ということになっているそうだ。書類偽装は辻さんが、その他アリバイや証拠の処理は瀬島さんが・・・これならほぼ永遠にばれないだろう。リンディさんは釈放してくれたことに大変ありがたがっていて、辻さん、瀬島さんは時空管理局に伝手&貸しができたと喜んでいた。・・・まぁ、お互いがいいならそれでいいです。

 

 

 

 俺が回想(現実逃避)していると車が停止した。高町家の前に着いたようだ。

「お父さん!!」

「なのは!!」

なのはちゃんが士郎さんに抱き着いた。なのはちゃんの目元には薄っすらと水滴がついていた。流石に小学三年生で留置所一日体験はきついものがあるだろう。

「・・・」

「・・・」

恭也さんと忍さんはお互いに一言も発さず抱き合っていた。ッケ、リア充ガ・・・。

「イーブーキーさーん!!!」

そしてすずかちゃんは俺に向かって突撃・・・って、マジ

ドスッ!!!

ゴハァ!!!!

すずかちゃんは肉体能力が一般人より高いのだろう。見事な頭突きが俺のみぞおちに決まった。

ッハ!?

俺は一瞬気絶していたようだ。この子・・・子供と侮ったら・・・死ぬ!?

「イブキさん!!今日帰っちゃうんですか!?」

・・・この子、ついてくるとか言わないよな!?

「あ、あぁ・・・。今日帰っちゃうんだよ。残念だなぁ・・・。」

「そうですか・・・。本当はついていきたかったんですけど・・・お姉ちゃんに反対されて・・・。」

忍さん!!ナイス!!!

「でも・・・イブキさんが許可するなら行ってもいいって言ってました!!」

・・・責任はてめぇで取れってことか!?忍さんよ!!

「い・・・いやぁ・・・この後アメリカ行けなきゃいけないし・・・。(学校は)銃弾が雨の如く降る所だから・・・。あまり来て欲しくないかな。自分の身を守るので精一杯だと思うしさ・・・。」

「そうですか・・・。」

すずかちゃんは残念そうにしている。いや・・・マジであなた来たら家が混沌になって、学校と軍にロリコンって噂立つから・・・。

「イブキ君、軍の皆さん・・・家族が迷惑をかけてすみませんでした。」

士郎さんと恭也さんが俺達に謝ってきた。

「いえいえ、家族や友人が攫われたとなれば混乱しますよ。今後こういう事が無ければいいだけですし。」

免許不携帯以外、謀られたわけだし・・・。まぁ、大目に見ますよ。

「本当に・・・すみませんでした!!!」

「士郎さん、頭を上げてください。」

そのまま五分ほど士郎さんは頭を上げず、俺たちはその対処に追われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何を言っても頭を上げないので、今後うまいコーヒー(紅茶)を入れてくださいということになった。士郎さんのことだしタダにしそうだよな。・・・まぁ、問題になるからこっちは意地でも払うけどさ・・・。

 

 

 

 

 

 さて、すずかちゃんはとても名残惜しそうにしていたが・・・俺達は高町家を後にし、旅館へ向かった。時刻は11時過ぎ、チェックアウトは10時半まで・・・せめて温泉にと思ったけど無理だな、ハハハ・・・ハァ・・・。やってらんね。

 旅館へ着くと家族のみんなとはやてちゃんが待っていた。

「イブキ兄ちゃん、仕事終わった?」

「海鳴旅行ほとんどパァにしたおかげで何とか終わったよ。ハハハ・・・。」

「ハハハ!!仕事ならばしょうがない!!」

エジソン・・・あなたはそうかもしれないけど俺は一般人だぞ。

「イブキ様、帰りの運転ですが・・・大丈夫ですか?」

・・・あ。運転があった。

「うん・・・大丈夫・・・だと思う。」

「いつでもリサが変わりますよ?」

「あれ?リサ運転できたっけ?」

「免許はないですけど、運転はできますよ?」

それはいかんだろ・・・まぁバレないだろうけどさ。変わってほしいのは山々だけど・・・。

「イブキは余を放っておいたのだろう・・・。そのぐらいできるよなぁ?」

あの・・・ネロ陛下?あなたの笑顔が怖いのですが・・・。

 結果、俺が運転することになったとさ。・・・まぁ帰って三日もすれば飛行機の中だ。存分に休めるさ。・・・休めるよね。・・・休めるといいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は自分の高機動車を運転し、はやてちゃんの家の前に置いた。

「みんなさん、本当にありがとうございました。とても楽しかったです。」

「おいおい、水くせぇな。」

ベオウルフが苦笑しながら言った。そういえば・・・はやてちゃんの両親は共に終始見ることがなかった。もしかして・・・。

「はやてちゃん、あまりこういうのは聞かないほうがいいんだろうけど・・・。君、親は?」

そういった瞬間、はやてちゃんの顔が一瞬曇った。

「私の両親は2年前に交通事故で・・・。」

「そうか・・・保護者はいる?」

「えっと・・・グレアムさん?グレアムさんならイギリスに・・・。」

「ちょっと待って、海外?出張?」

車椅子の子を置いて出張・・・まぁ、はやてちゃんはしっかりしているし、重要な仕事ならしょうがないのか?

「え?・・・えっと、グレアムさんには一回も会ったことなくて・・・。」

・・・はい?

「グレアムさんって本当に保護者なの?」

「た、たぶん・・・毎月お金送ってもろうてるし・・・。」

一回も会ったことがない外人から毎月お金が送られてくる・・・何それ、怖い。

「い、イブキ・・・これって児童虐待では・・・。」

「ニト、良く知ってるね。」

ハァ・・・皆さん、お金だけ渡して放置は児童虐待になるんだよ!!・・・などと考えた(現実逃避をした)後、重い空気の中俺は口を開いた。

「はやてちゃん・・・それは、児童虐待だ。」

「え・・・あ・・・そう・・・ですね。」

児童虐待ということに気づいたようだ。

「イブキ様・・・。」

リサが言った。ニトと玉藻が俺を見た。・・・まぁ、はやてちゃん一人ぐらいなら養育できるし、寮がダメでも俺の家のほうに住まわせれば何とかなる。

「はやてちゃん。言ったと思うけど俺は軍人だ。軍人は公務員だ。流石に公務員が児童虐待を見逃すことができない。だから・・・」

はやてちゃんの目は絶望していた。

「だから・・・俺の家に来るか?」

「はい?」

まぁ、唯一の問題はアメリカ行きのチケットを一人分もう一枚取れるかどうか・・・ぐらいだな。

「たまに、はやてちゃんの家に戻るし、どうする?」

「えっと・・・イブキ兄ちゃんの家に?」

「今は寮暮らしだから寮のほうかな。嫌なら別にいいけど・・・。」

もし、拒否するのなら・・・孤児院に送るしかない。流石に小学生の少女一人で生活は認められない。はやてちゃんは深く考えた後、頭を下げた。

「よろしくお願いします!!」

「あたぼうよ!!はやてちゃん!!いや、はやて!!」

今日、新しい家族ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲しいお知らせがある。飛行機のチケットは取れた。ビジネスクラスだったけど。はやてが家族になったその日から引っ越しが始まったのだが・・・。

「イブキ兄ちゃん・・・大丈夫?」

はやての荷物全てを俺が運ぶことになった。

「なに、あれは修行だ。心配する必要はない。」

師匠曰く修行だそうだが・・・。

「でも・・・スカサハお姉ちゃん・・・。」

「ッ~~~!!!よ・・・よし、あっちでお菓子を食べよう。」

師匠・・・歳だからお姉ちゃんと言われたのが嬉しかったのか?

ドスッ

俺の足元に槍が刺さった。・・・すみませんでした。

 荷物を運び終えた後、リサがお茶を入れてきてくれた。

「ありがとう、リサ。」

「いえいえ・・・ところでイブキ様。」

「どうしたの?」

「あの・・・‘‘四次元倉庫’’で運べばよかったのでは?」

あ・・・・・・。

 




次回からアメリカへ!!

 





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ラッシュ〇ワー  海外にはこいつがいる・・・

 旅行先のキューバでは午前は博物館、午後はバーで葉巻ふかすか飲んだくれてたんで・・・。書けた時間は帰りの飛行機の中だけ・・・。(行きは飛行機酔いがヤバい。帰りも多少はしたけど)なのであまり書けませんでした(言い訳)。
 キューバいいですよ!!治安は良いし、葉巻と酒はうまい!!料理もうまい!!歴史の1ページになりつつある社会主義国の中で、数少ない成功した国(異論は認める)の一つ。塾の先生が
‘‘カストロが死ぬ前に行っておけ’’
って言ってましたけど、その言葉は本当です。(なお、自分は左ではない)
 冗談抜きで社会勉強になるので、お金と時間がある人は行ってみてください。(でも空港出た瞬間、タバコのにおいがムンムンとするので・・・タバコが嫌いな人にはキツイか?)

 

 地味にリアルが忙しい・・・(バイトなど・・・)。おかしいな、春休みなのに・・・。休みをくだち・・。

 

 ダイ・ハードと共に小さいころからよく見ていた映画の一つなので、とても書きたかったので、やっとかないました。(初期構成からこの作品も入れると決めていた)

 



 アメリカ編、始まります。








 俺達がロサンゼルスに行く2ヶ月前、香港マフィア、ジュン・タオから中国美術品を香港警察が取り返した・・・というニュースがあった。そして、俺達がちょうどロサンゼルスに行くとき、そこの中国博覧会でその美術品が展示されるそうだ。

「中国美術品か・・・楽しみだね。」

「ん?エルがそういうのに興味持つなんて意外だな。」

あのエルが美術品に興味・・・どういうこった?

「だって、そういう物のを美しいというんでしょ?勉強になるよ。」

「うん、美っていうのは人それぞれだから、受け売りを鵜呑みにしないほうがいい。」

「そうなの?」

エルはそう言って首を傾げた。やっぱりわかってないな。

「私海外なんて初めてや!!機内食って美味しいん!?」

玉藻が押す車椅子に乗って、メチャクチャ楽しみにしている子が一人。

「あまり期待しないほうがいいぞ。元々の味は知らないけど気圧のせいで味覚が狂うんだ。俺個人の感想としては不味い。」

それに飛行機酔いが入ると最悪になる・・・。まぁ、エコノミーとビジネス、ファーストによって断然違いが出るけどね。

「へぇ~・・・そうなんや。」

はやてはちょっとがっかりしたようだ。

「悲しむでない。きっと楽しい旅行になろう!!はやてよ。」

「ネロの言うとおりだ。きっといい旅行に・・・なるよね・・・なるはず・・・なるといいなぁ・・・」

海外旅行かぁ・・・ナカジマ・プラザにジョン・F・ケネディ国際空港・・・。いや、こう考えるんだ。あのおっさんに会ったからこうなったんだって・・・。今回は会わないはず・・・。

「イブキ兄ちゃん・・・大丈夫?顔真っ青。」

「大丈夫だ・・・問題ない。」

「それフラグや。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京国際空港、またの名を羽田国際空港。ここは日本最大の空港だ。乗客乗降数は世界5位、年間の航空機発着回数は約38万4000回、航空旅客数は約6,670万人でそれぞれ国内最大。また、皇族や内閣総理大臣、国賓や公賓のための専用施設としてVIP機専用スポットや旅客ターミナルビルとは別棟の中に設けられた貴賓室がある。

 で、その東京国際空港で手荷物検査をしているんだが・・・

「「「サモア・・・。」」」

手荷物検査近くで機甲師団所属の矢原嘉太郎(やわら かたろう)伍長とその弟さんがいた。

 矢原さんとは、昔ある作戦で一緒になったことがある。彼は撤退戦において無類の力を持っているが、それ以外はヘタレ・・・。あだ名は某‘‘や〇らか戦車’’より‘‘兄者’’、‘‘柔らか’’・・・。

「兄者さん、何処か行かれるんですか?」

「あ、村田少尉、そうなんですよ。サモアですサ・モ・ア。南国の楽園、サモア・・・。」

「良いですねぇ~サモア。後、昇進して大尉になりました。」

「それはおめでとうございます。そうなんです!!南太平洋の潮騒を聞きながら、ゆったり白波と戯れて・・・訓練で傷ついた心と体を癒すんです・・・。どんなにか素敵なところなんだろう・・・。サモア・・・。」

すごい楽しみにしてるようだ。

「でも兄者?このチケットには‘‘サモア行き’’じゃなくて‘‘サマワ行き’’って書いてあるけど・・・」

兄者さんがチケットを見た。

「あれ?ほんとだ。」

え?サモアじゃなくてサマワ?

「でも、サモアもサマワも響き的には同じようなものだし、気にすることはないんじゃないかなぁ。」

・・・・・・確かイラクにサマワがあるんですが。

「では、村田大尉。サマワに向かって行ってきます。南国の楽園に向かって退却~。」

「某しげるみたいに真っ黒に日焼けしてくるぞ!」

「「いーねいーね!!」

そう言って矢原兄弟は行ってしまった。

「あのイブキ様、サマワって・・・。」

「うん・・・。埼玉とサマワに海はない・・・。楽しみにしているし、ワザワザ夢を壊す必要はないんじゃないかな・・・。」

 

 

 

手荷物検査で、ジミさんが空港の警備員をやっていた。

「あれ?ジミさん今度はここで仕事ですか?」

「お?村田じゃん。そうそう、今度はこの仕事。そういえばさっき兄者が来てたよ。」

「何でもサマワに行くそうですよ。」

「へぇ~サマワかい。南国の楽園だっけ?」

・・・アンタもかい。

「いえ、イラクですよ。」

「い・・・イラク?なんでそんなところに?」

「さぁ?」

ビー!!ビー!!ビー!!

X線手荷物検査装置から激しい音が聞こえた。手荷物は牛若のだった。・・・おい。

「牛若・・・君はなんてものを持ってきてるんだい?」

「いえ、主殿を守るために飛び道具が必要と思いましたので。」

俺達武偵は武器を預けさえすれば、他国に武器を持っていくことが可能だ。・・・まぁ、審査や書類は特に面倒(特にアメリカは特段に厳しい)だ。なので、飛び道具は持っていくことが可能なのだが・・・。

「牛若・・・飛び道具でも、こいつは無理だぞ。」

牛若丸が持っていこうとしたのが・・・パンツァーファウスト。

「ダメなのですか?」

しかも一本どころではなく木箱三箱分。流石にアメリカだろうがどこの国だろうが無理です。

「威力過多すぎるだろ・・・。それにどこで買ったの?これ。」

「主殿の上司である神城殿が格安で分けてくれました!!」

神城さーーーん!!

「この威力・・・とても気に入りまして。ただ、首も吹っ飛んでしまうのが難点なのですが・・・。」

神城さんの同志が着々と増えています。これは怖い。

「とにかく・・・持ち込み無理だから。処分しよう。」

この後、珍しく牛若が引き下がらなかったので‘‘4次元倉庫’’にしまった。どうか、アメリカで使いませんように、バレませんように。

 

 

 

 

 

 あれ?免税店の酒ってそこまで安くねぇな。近くのスーパーよりも高ぇぞ。

「イブキ様、免税店は税金がない代わりに定価で売っているんですよ。」

「へ~そうなんだ。リサは博識だなぁ。」

まともに空港使ったのは12歳のクリスマスが最後だったからなぁ・・・。あの時酒の値段なんて見てなかったな。

「でも、なぜイブキ様はお酒の値段を?」

「いやぁ、安いのあったら買っておこうと思って。」

「イブキ様は成人になってないので買えませんよね?」

・・・そうだった。

 

 

 

 

 

 

 ロサンゼルス空港に到着した。俺達は入国審査を受け、荷物受取場でスーツケースを待っていると、やけに見覚えがある白人の男が視界に見えた。その男の頭は・・・スキンヘッド。なんか・・・前見たときは髪があったはず・・・。その男が振り向いた。

「「おっさん(坊主)かよ・・・」」

その男はジョニー・マクレーだった。

「なんでおっさんがここにいるんだよ・・・。」

「仕事帰りに家族に会いに来たにきまってるだろうが・・・。坊主こそ何だってここに。」

「家族旅行さ、おっさん。」

俺がそういうとおっさんは周りを見渡した。

「お前・・・あの時天涯孤独になったんじゃねぇのか?」

「いろいろあってな。血は繋がってないけど家族だ。」

「そうかい。」

おっさんは俺を温かく見守るような眼で見た。

「おっさん、その目キモいぞ。」

「うるせぇ、はっ倒すぞ。」

数年ぶりのおっさんとの掛け合い・・・。おっさんも変わってないようだな。

「イブキ様、もしかしてこのお方は・・・。」

「あぁ、リサの思っている通り、‘‘不死の男(ダイ・ハード)’’ジョニー・マクレー警部だ。」

俺がそう紹介するとおっさんはニヤついた。

「なんだ坊主、家族って嫁でも貰ったのか。」

その瞬間、リサは真っ赤になった。

「ッ~~!!そんな・・・。リサにはもったいないです・・・。」

「違うぞおっさん。リサは・・・。」

嫁ではないけど、メイドって説明したらさらに面倒になる・・・。

「イブキ兄ちゃん、荷物全部出たよ。」

はやてが日本語で俺に行ってきた。。

「坊主・・・子作りにはちょっとはやいんじゃねぇか?」

「ちげぇよ!!!。」

 

 

 

 

 俺たち家族とおっさんは税関に向かっていた。

「まぁ、色々あって行き場のない子(鯖組)とか、ついてきた子(リサ)とか身寄りのない子(かなめ、はやて)とか拾ってたらこんな大家族になってたんだ。」

「坊主・・・寂しいからって節操なさすぎじゃねぇか。」

「・・・否定できねぇ。」

寂しいから、天涯孤独だから、こんなに拾うか・・・。否定はできないよな。

「おっさんは元気にして・・・なさそうだな。頭見ると。」

「うるせぇ。」

ジョン・F・ケネディ空港の時は額のところが多少後退していたが、とうとうスキンヘッド・・・ストレス性か?

「マリーさんは元気か?」

おっさんの妻、マリー・マクレー。あの人にはナカジマ・プラザや空港の事件の後、色々世話してもらって頭が上がらない。

「ん?まぁな。」

おっさんのことだ。家族サービスは苦手そうだな。今の返事からすると・・・今は冷え切ってるのかな?

 

 

 

税関を抜けた。以前、かなめに‘‘ロサンゼルス行くから仕事空いてたら一緒に観光しよう’’とメールを送ったら、‘‘絶対に空ける’’とだけ送られてきた。もしかしたら迎えに来てたりしてなぁ・・・などと考えながら出口を出たら・・・

「イブキにぃーーーー!!ここだよ!!ここ!!!」

そこには‘‘ようこそロサンゼルスへ 愛しのかなめより’’と書かれたプラカードを持つかなめとぐったりしているGⅢがいた。GⅢの疲れ具合も気になるが・・・かなめ、恥ずかしいです。

「坊主・・・お前、ハーレムでも作ってるのか?」

「んなわけねぇだろ。」

かなめは俺に抱き着いてきた。

「イブキにぃ、久しぶり!!!」

「かなめ、大きくなったなぁ。元気にしてたか?」

「イブキにぃに会えばどんな状態でも元気になるよ!!」

そう言ってかなめは俺の胸に顔をうずめた。

「・・・恥ずかしいから離れてくれないか?」

「えぇ~・・・。イブキ成分取るのに一番合理的なのに・・・。」

何だよ、お兄ちゃん成分って。かなめは離れてくれた。

「イブキ兄ちゃん、あの人は??」

「あぁ、はやては初めてか。血は繋がってないが俺の妹だよ。」

「かなめお姉ちゃん初めまして!!私、八神はやてって言います!!ひらがな三つではやてです!!」

「ん?よろしくね。・・・お兄ちゃん、この子は・・・誰?」

かなめは声のトーンを1段階落とし、瞳孔を開きながら聞いた。

「虐待受けてた子を拾った。かなめの妹だ。」

嘘はついてない。

「妹キャラが被る・・・でも私の妹ができるのはうれしいし・・・。」

「かなめ・・・お姉ちゃん?」

「ッ~~~~!!!よろしく!!はやて!!」

そう言ってかなめははやてに抱き着いた。

「イブキにぃ!!この子可愛いよぉ~」

気に入ったようだ。

「フォース・・・会えたのなら帰っていいか・・・。」

疲れ切っているGⅢがかなめに聞いてきた。

「あ、サード、送ってくれてありがと。あと私の名前はかなめだから。」

・・・あの疲れ具合、かなめが無理やり送らせたようだな。

「サード・・・かなめを送ってくれたんだろ?疲れてるのに悪いな。なんか奢るぞ。」

「いや・・・いい。それよりも早く寝たい。」

GⅢはトボトボと哀愁漂う背をこちらに向けて去っていった。

 

 

 

 

 何とおっさんはホテルを取っていて、しかも俺たちの泊まるホテルと同じらしい(・・・なんでボニーさんに会うのにホテル取るんだよ)。なので俺達とおっさんは同じジャンボタクシーに乗ってホテルへ向かうことになった。

「すごいな・・・上下線ともに車がほとんど動かないなんて・・・事故でもあったのか?」

「ラッシュアワーだからね、イブキにぃ。しょうがないよ。」

「流石は車社会の国だな。」

まぁ、日本じゃ車の代わりに電車やバスがヤバいけど。俺は前の車を見た。黒塗りの高級車だ。ぶつけたら何されるかわからねぇな・・・などと考えながらボケーっとしていると

「主殿!!動き始めました!!」

車が動き始めた。

ある程度すると黒塗りの高級車と俺たちのジャンボタクシーは右に曲がり、脇道に入った。その瞬間・・・

キキーーーーー!!!

目の前にパトカーが急に進路を妨害するように入ってきた。そのパトカーから警察官が出てきて黒塗りの高級車に近づいて行った。

「坊主。」

「分かってるよ。」

俺とおっさんは事件が起きるんじゃないかと思い、いつでもタクシーから出れるようにした。その瞬間・・・

ダァンダァン!!

警察が発砲した。

「ッチ!!」

「出るぞ!!」

発砲した警察官は少女をとらえようと四苦八苦している。

「動くな!!武偵(警察)だ!!!」

ダァンダァンダァン!!!!

その警官は俺達へ発砲し始めた。

「やっぱりおっさんが居るとこうだ!!」

「坊主が居れば毎回これだ!!」

お互いにそう言いながら物陰に隠れた。誘拐されようとしていた少女はそのすきに脱出したようだ。

ブォオオオオ!!!

いきなり物陰からバイクが高速で出てきた。あいつも一味か!?どんだけ用意周到なんだよ!!というかもうこの時点で詰みだ。バイクを無力化しても、慣性の法則でバイクの残骸はその高速のまま、前に進んでしまう。そしてバイクの残骸は少女を轢き殺してしまうだろう。クソッ敵ながら天晴れだよチクショウ。

 俺達はせめてもの抵抗として逃げていく小型トラック、バイク、パトカーのナンバーを覚える以外、何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「‘‘不死の男(ダイ・ハード)’’と‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’がサンに接触しました。」

「噂に聞くあの二人が・・・か。噂とはいえ、今回の作戦は失敗できん。」

「殺りますか?」

「いや・・・‘‘不死の男(ダイ・ハード)’’はともかく‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’は日本の軍人だ。日本とは言え外交問題になると厄介だ。」

「ではどうしましょう?」

「・・・そういえば、香港の警察も来るそうだな。」

「はい、リーという男です。」

「彼は隔離することになっていたな。」

「ロス市警がお守りをするようです。」

「・・・‘‘不死の男(ダイ・ハード)’’と‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’も一緒にして隔離させておけ。FBIのラスにはそれとなく提案しろ。」

「承知しました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事情聴取を受けてホテルへ帰った。その日の夕方、FBIの捜査官が俺達の宿泊するホテルへ訪れ、近くのカフェに俺とおっさんを誘った。

「君達に勝手に捜査をされては困る。明日ロス市警の者が来るから、彼と事件が解決するまでロス観光でもしていてほしい。2~3日で解決すると思われるので我慢してもらえないか?」

・・・え?

「俺、家族とロス観光したいんですが。」

「妻と子供に会いに行きたいんですが。」

なんで俺達が勝手に捜査することになってるの?

「そういう口実で捜査をされては困るんだよ。」

「あの・・・なんでこう・・・信用も信頼もないんですか?」

俺は言った。FBIに信用や信頼を失うような事なんて何もやってないぞ。

「ナカジマ・プラザ、ジョン・F・ケネディ国際空港・・・」

「「・・・」」

「確かに、あの状況なら一考の余地はあるが・・・今回は事が事なんだ。」

そう言ってFBI捜査官はため息をついた。

「アメリカにとって中国は輸入相手国第一位、輸出相手国第三位のお得意様だ。」

・・・もしかして、誘拐された女の子って。

「今から言う事は他言無用だ。・・・被害者の名前はスー・ヤン。在ロサンゼルス中国総領事の愛娘だ。我々FBIと合衆国政府はこの事件を外交問題に発展させたくない。」

うわぁ・・・。また面倒な事件に・・・。FBIの気持ちもわかるわ。

「おっさんどうする?俺は今回、事故だと思ってFBIに従うけど・・・。」

こればっかりはショウガナイよなぁ・・・。めっちゃ楽しみにしているはやてとかなめになんて伝えよう・・・。

「そうだよなぁ・・・。こればっかりは・・・はぁ・・・。」

おっさんは深いため息をついた。

「何ならおっさん、マリーさんに俺も説明しようか?俺もあの時のお礼をしたいし。」

ジョン・F・ケネディ国際空港での事件の後、マリー・マクレーさんにはとてもお世話になった。あの時もお礼入ったとはいえ、改めてお礼を言いたい。

「では、明日の10時にロス市警の者が迎えに来るのでよろしく。・・・あぁ、そういえば、その総領事が本国から刑事を一人呼んだらしい。彼とも一緒に観光する予定だ。」

FBIも大変だな・・・。外部の、しかも外人の捜査協力はとても面倒だ。だからと言って、捜査に加えないとそれも問題になる・・・。ご愁傷様です。

「くれぐれも変なことはしないでくれ。・・・できることならその中国の刑事を中国領事館に近づけさせないようにしてくれると助かる。」

そう言って捜査官は椅子から立ち上がり、大きなため息をついた。

「はぁ・・・それでは・・・。」

彼はカフェを去っていった。・・・なんか苦労人な中間管理職みたいで、彼を見ていられなかった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、おっさん。この事なんて説明する?流石に‘‘FBIによる強制ロス観光ツアー’’に行くことになったなんて言えないぞ。」

「俺だってマリーに口が裂けても言えねぇよ。・・・無難に‘‘FBIに捜査協力を依頼されて断れなかった’’ってのが一番だろ?」

「俺さぁ・・・ここに来る前、日本の海鳴ってとこに温泉旅行行ってたわけよ。」

「ッケ。いいご身分なことで。」

「そうだったら、どれだけ良かったことか・・・。そこで事件に巻き込まれて・・・。初日しか観光できてないんだよ。そこで家族と一人離れて事件解決のため・・・ってわけ。」

「その時も俺が言ったような言い訳を言ったのか。」

「・・・あぁ。」

俺がそういった瞬間、おっさんが笑い始めた。

「家族が一回二回そういう事があったぐらいで嫌いになるかよ!!」

言われればそうかもしれない。俺の胸が軽くなったような気がした。

「それだから心も体も小っちゃいんだよ!」

・・・確かにおっさんは180cmほど、俺は170cmない。体はそうだとしても心はないだろうに。俺はカチンと来た。

「おっさんはその言い訳使いまくったから、マリーさんと冷えてるんじゃねぇのか?」

「「・・・」」

俺とおっさんは数秒間睨みあった。

「・・・おっさん、お互い傷に塩を塗りたくるのはやめよう。」

「そうだな・・・。坊主、マリーへの説明手伝ってくれよ。」

「わかってる・・・。おっさんも説明手伝ってくれ。」

「はいよ。」

今回は白雪特製御守りがあるから・・・そんなにひどいケガは負わないはず・・・。

「「はぁ~・・・」」

俺達はお互い大きなため息をついた。

 

 

 

 

「ところでさ、おっさん。」

「なんだ?」

「あの捜査官のコーヒーとサンドイッチ、だれが払う?」

「・・・」

 




 矢原嘉太郎伍長は某‘‘や〇らか戦車’’の兄者をモデルにしています。声はともかく、顔は・・・皆さんの思い浮かべるヘタレなモブを思ってください。(今後出ない・・・よなぁ?)


 イブキが酒を買えないのは『高校生活一学期編  ここまで怪しいとか逆にすごいな・・・』より、‘‘未成年の軍人(正確には軍属)は16歳以上であれば軍医の診断次第で飲んで良いが、買うことはできない。’’より。
 これ、この作品のため自分で考えたんですけど・・・、意外と飲酒に対していい法律だなぁ・・・と思っています。(他の作品でこういう法律があったらむしろ教えてください。自分はそのような作品を知らない。)


 ‘‘おっさん’’こと‘‘ジョニー・マクレー’’(ダイ・ハードのジョン・〇クレーンがモデル)の久々の登場です。とうとうスキンヘッドになってしまいました。


 アメリカの輸出入は2015年のデータを元に出しています。まぁ・・・今とそこまで違わないだろうと思います。


 次話は2月中にアップしたいけど・・・最低でも3月アップするはず・・・はず・・・。



 


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ラッシュ〇ワー やっぱり英語くらいは分かってるよな・・・

やっと書き終えた・・・。
このままいけば、あと3話以上になりそう・・・。



 FBI捜査官のコーヒーとサンドイッチ代は結局、割り勘ということになった。・・・おっさん、大人だろう?

 

 

 

 

 

「なに!?また一緒に行けないだと!?」

ネロ様がカンカンに怒った。

「イブキ兄ちゃん・・・。旅行中に仕事はないわぁ・・・。」

はやては呆れていた。

「さっきも言った通りなんだけど・・・FBIの捜査協力が断れないんだ。悪いのは分かってるけど・・・ごめんなさい!!!」

そういって俺は頭を下げた。

「ちょっと聞いてくれませんか?自分は皆さん知っているとは思いますが、ニューヨーク市警のジョニー・マクレーです。」

おっさんが間髪入れずにしゃべり始めた。

「今回の事件を知っているとは思いますが、被害者の女の子は他国の外交官の娘なんです。その国との外交問題やアメリカのメンツに関わってくるのでFBIは形振り構わず捜査してるんですよ。アメリカ合衆国のために、こいつを数日間貸してはくれませんか?」

そう言っておっさんは頭を下げた。おっさんのおかげか、みんなはシブシブ納得した。

「イブキにぃと一緒の時間を減らすなんて・・・。後で調べて潰す・・・。」

 

かなめのオーラがヤバいことになっているけど無視しよう。

 

 

 俺の家族の説得が終わった後、今度はおっさんの妻のマリーさんに電話をかけた。

「あら!?イブキ君!?久しぶりね!!」

「マリーさんご無沙汰してます。今、ちょうど家族と旅行でロサンゼルスに来たんですよ。しかも、ちょうど空港でジョニーさんに会いまして。」

「そう・・・イブキ君にも家族が・・・。結婚式呼んでくれたら日本まで飛んだのに。」

・・・普通、そう考えるよなぁ。

「まだ未婚です!!身寄りのない子とか保護してたらいつの間にか・・・って感じで。」

「あら、そうなの?・・・で、ジョニーが電話しないとなると事件に巻き込まれたのかしら?」

流石は奥さん、夫のことはよくお分かりで・・・。こいつは下手に嘘ついたらすぐバレるな。

「・・・正直に言います。おっさんと一緒のタクシーに乗っていたら、目の前で誘拐事件がありました。その被害者が他国の外交官の娘さんだったみたいで・・・。その事件をFBIが全力で捜査してるんですが、そのFBIはビルや空港の時のように勝手に捜査して欲しくないようで・・・。事件解決までFBIの監視下で大人しくしてろと言われまして・・・。」

「あら?空港はともかく、ナカジマ・プラザはFBIと市警が無能だっただけじゃない。」

・・・よく知ってるな。

「まぁ・・・今回は外交問題やアメリカのメンツがかかってるみたいで・・・。念には念をって言う事らしいです。2~3日で解決するだろうという事なんで・・・あまり、おっさんを責めないでください。」

マリーさんは少し間を置いた後

「・・・しょうがないわね。ジョニーに‘‘後で自分の口で私に言いなさい’’と伝えて頂戴。」

「了解しました。」

マリーさんもわかってくれたようだ。

 

 

 

「そういえばイブキ君。」

「はい?」

「ジョニーと会うと毎回事件に巻き込まれるわね。日本のことわざだと‘‘2度あることは3度ある’’でしたっけ?」

「・・・ハイ、合ッテマス。」

嫌な予感がした。

「またジョニーに何処かで会えば、その時も事件に巻き込まれるんじゃない?」

・・・それは言っちゃいけないよ、マリーさん。

 

 

 

 

 

 次の日、シボレーのカマロSSに乗った自称FBIの黒人捜査官がホテルに来た。

「よぉ!!お二人さん!!俺はFBIのカーターだ!!・・・なんだシケたおっさんとガキかよ!!」

・・・ガキはともかく、案内役はロス市警じゃなかったっけ?

「ロス市警が来るって聞いてたんだが・・・。俺はニューヨーク市警の者だ。偽るなら捕まえるぞ。」

おっさんが怪しげにその捜査官を見ながら警察手帳を見せた。

「ウソウソウソ、冗談だって!!ちょっとしたロス・ジョークさ!!俺はロス市警のカーターだ!!手帳見るか!?」

そう言ってFBI改めロス市警のカーター刑事が手帳を俺達に見せた。

「今日はガキのお友達かもしれない中国人も一緒なんだ!くれぐれも変なことしないでくれ!!」

この人、やけに陽気というかテンションが高いな。

 俺達はカマロの後ろ座席に乗った。

「シボレーは初めて乗りますけど、結構乗り心地いいしカッコいいですね。」

ただアメリカ人仕様のせいか、座席がでかい・・・。

「おう!!日本のガキのくせにGMのシボレーの良さがわかるなんてよくわかってるな!!今日はたまたまこいつだけど、いつもはコルベットでもっといいやつなんだ!!」

お?この人、もしかしてちょろい?

「おぉ!!コルベットいつか乗せてください!そういえばカーターさん!」

「ん?どうした?」

「ロス市警の刑事がFBIから任務を受けるってことは、とても優秀な刑事さんなんですね!!」

ゴマすりゴマすり・・・。

「・・・分かってるじゃねぇか!!そうさ、このカーター様はロスで1番の刑事なんだ!!」

めっちゃ機嫌がよさそうなカーター刑事

「よ~し、それじゃあ空港に行くぞ!!」

カーター刑事はルンルンと車を動かした。

 

 

 

 

「おっさん、この人ここまでお調子者だと思わなかったよ。」

「・・・だから観光ガイドに抜擢されたんじゃねぇか?」

「それもそうだな。」

 

 

 

 

ロサンゼルス国際空港はカリフォルニアのロサンゼルス市にある国際空港だ。アメリカ西海岸の主な玄関口となる空港の一つで、航空旅客数は約5900万人で世界第6位(アメリカ第3位)だ。空港が大きく、9つのターミナルがある。なので、ターミナルの間と間をシャトルバスが通っており、それで移動する。流石アメリカ、土地は余ってるな。

 ロサンゼルス国際空港の滑走路にて俺達は中国の刑事を待っていた。・・・滑走路で待ってていいんだ。てっきり空港の施設の中で待つものかと思ってた。

 ちっちゃな飛行機が車の近くまで来て、扉が開いた。そこから黒いスーツ、黒のワイシャツ、赤ネクタイを着たジャッキー・チェン似の・・・あれ?なんかこんなような映画、前世で見たような・・・。

『ラッシュアワーだからね、イブキにぃ。しょうがないよ。』

ふと、かなめの言った言葉を思い出した。・・・ラ、ラッシュ〇ワー!?そうだラッシュア〇ーじゃん!!でも、あの作品は香港返還前後の話だ。となると、前世の記憶から一気に逮捕とかムリだ・・・。いや・・・ちょっと待て、ラッ〇ュアワーはダイ・〇―ドより怪我は少なかったはず・・・。なら今回、怪我はしないかな?なんかちょっとホッとするな。

 俺が思考を巡らせていると、カーター刑事とおっさんはその中国人刑事に近寄って行った。俺も慌てて二人について行く。

「おい、英語わかんだろうな?」

カーター刑事は中国人刑事に聞いた。中国人刑事はキョトンとしている。

「ワ・タ・シ・ハ・かーたー・デス!!英語話セマスカ!?」

中国人刑事は近くにいた中国人機長と客室乗務員の顔を見た後、眉をひそめた。

「ワタシガ何テ言ッテルカ ワカリマスカ!?」

・・・作り笑いをした。可笑しいな、派遣されたなら英語くらいはできると思うんだが・・・。ショウガナイ・・・。

「自分は村田です。彼は、カーター。英語が分かりますか?」

俺は中国語で尋ねた。

「あぁ、中国語ができるのかい?私はリー警部。英語は少しだけ。」

・・・早口でわかんねぇ。

「すみません。ゆっくりでお願いします。」

「・・・わたし は リー。英語 は 少し。」

なるほど、リーさんか。

「カーターさん、彼はリー。英語は少ししかできないそうです。」

「坊主、お前中国語できるのか?」

おっさんが聞いてきた。

「片言しかできないけど。」

カーターさんはリーさんに背を向けた。

「冗談じゃないぞ!!クソッ!!なんでこの俺が中年とスシガキとチャーハン野郎のお守りをしなきゃなんねぇんだ!!」

・・・カーターさん、聞こえてますよ。

「オラ!!こっち来い!」

そう言ってカーターさんは自分の車に向かった。

「来てください。」

そう言って俺は歩き始めた。

「君 は FBI?」

「違います。日本人の観光客でした。」

「???」

俺だって‘‘?’’だよチクショウ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 荷物のことでもすったもんだあって、ようやくロス市内に入った。

「な~にが特別任務だ。頼むよ警部、俺をこの任務から降ろすよう連中に行ってくれ。」

カーターさんは電話しながら運転していた。

「せめて観光ぐらいは・・・と思ってたけど無理そうだな、おっさん。」

「坊主、見る目がねぇな。俺は最初から諦めてた。」

そう言っておっさんはタバコに火をつけた。

「早く事件が解決することを祈るんだな。」

プハ~と煙を吐いた。

「俺をコケにしやがって、許せねぇ!!」

カーターさんは携帯をしまいながら叫んだ。すると、リーさんが何か名刺のようなものを出してカーターさんに見せた。

「中国領事館?・・・そこへは行けねぇんだ。もし行ったら停職どころか首になる。」

すると今度は写真をカーターさんに見せた。

「スー・ヤン。」

その写真は被害者の女の子の顔写真だった。

「例の子かい?」

・・・。二人の間の空間を無言が占領した。

「おい、頼むよ!何か言えよ!!!・・・何が機密区分G40の任務だ!みんなバカにしやがって!!こうなったら俺の手で事件解決してFBIを見返してやる!!」

嗚呼・・・神様仏様玉藻様、どうか国際問題に発展せず、ケガもなく速やかに事件が解決しますように・・・。

 俺は‘‘神様なんてクソくらえ’’と思っているのに、この時ばかりは神仏に必死に祈った。

 

 

 

 

 

 

 ロサンゼルスのチャイニーズシアターに着いた。

「ここがチャイニーズシアターだ!なつかしいかぁ?」

カーターさんはリーさんの肩に手を乗せながら、俺達にチャイニーズシアターを案内していた。

「どうだ?ほぉら、お前さんらの故郷にそっくりだろぉ?俺は中国や日本に行ったことないが想像は付く。」

・・・まぁ、日本の中華街なら似たようなものはあるか。

「おい見ろ。チャップ〇ンだ!・・・チャップリ〇知ってるだろ?」

「チャッ〇リン。」

リーさんもかの有名な俳優の足跡を指さして言った。

「あ~そうだ、こいつを見ながらちょっくら待っててくれ!お前の親戚が通るかもしれないぞ!すぐ戻る。」

そう言ってカーターさんは地図売りのところへ行ってしまった。

はぁ・・・

リーさんは大きなため息をついた。

「リーさん。・・・落ち着いて。」

俺はリーさんに話しかけた。

「アメリカは中国と外交問題にしたくないと思っている。」

「どういうことだ?」

・・・聞くよねぇ。カタコトの中国語で伝わるかな。

「捜査で中国の刑事死ぬ。外交問題になる。アメリカはそれを避けたい。」

「・・・君は 何者だ?」

・・・あの二つの事件のこと言うか?ダメだ、俺の語彙で伝えられねぇ。

「観光で来たら、事件を目撃した人間です。」

‘‘俺は 伝えるのを諦めた!!’’

軍人って言えば余計に複雑になるし、武偵って言う単語知らないし・・・。

「FBIを信じましょう。あ、トム・ハン〇スのやつだ。」

俺はそう言ってスマホを出し、パシャリと一枚。まさに観光客。

「・・・坊主、楽しんでんな。」

「どうせまともな案内されないんなら、自分で少しは楽しめることしないと・・・。せっかくの旅行だしさ。」

「・・・それもそうだけどよ。」

「お!?ハリー・ポッター演じた3人のやつじゃん!!リーさん!こっちこtt・・・」

そこには、リーさんの姿はなく、唯々(ただただ)観光客で溢れかえっているだけだった。

「・・・リーさん?リーさん!!」

・・・逃げやがった!!俺の頭の中で

‘‘リーさんが逃げる

=FBIに迷惑がかかる

=FBIから信用を失う

=アメリカから信用を失う

=軍人生活に支障が出る’’

という方程式ができた。

「おっさん!!」

「どうした?」

おっさんはじっくりと手形足形を見て回っていた。

「リーさんが逃げた!!」

「・・・なんだと!?」

おっさんもヤバいと思ったのか、二人してリーさんを探し始めた。

 

 

 

 俺達は2階建てのバスから伸びる列に並ぶリーさんを発見した。

「おっさん!!あそこだ!!」

「ちっ!!面倒なことしやがって!!」

俺達は全力でバスへダッシュし、ギリギリ乗ることができた。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・。」

ドアにもたれかかるおっさん。観光客が俺達をガン見している。

「おっさん、刑事だろう?そのくらいで疲れたのか?」

「うるせぇ・・・歳だよ・・・。鍛え直すか?

「なんか言ったか?」

「なんでも・・・ねぇよ・・・。探すぞ。」

1階を探し、いなかったので2階へ向かった。そこにはカーター刑事撮影会と‘‘Hollywood’’と書かれた看板に捕まり、バスから脱出しているところだった。

「ん?お前らも逃げたのか!?」

「カーターさん!!後ろ後ろ!!」

カーターさんが振り向き・・・

「ちょっとあけてくれ!!」

そう言って走って階段を下りて行った。それと同時にリーさんはトラックに飛び降り、近くに泊まっていたキャンピングカーを経由し、タクシーに乗ってしまった。・・・鮮やかなスタントで。

「どうする?追う?」

俺はそのスタント技を見て戦意喪失してしまった。いや、だって映画と同じスタントを超能力とか魔力の補助なしにやるって、流石のキンジでも・・・うん、あいつなら近い将来普通にできそうだな。

「これ以上・・・俺に走れってかぁ!?」

おっさん、息がいまだに乱れている。

「おっさん、少し鍛え直したほうがいいぞ。」

「うるせぇ、俺は・・・ビルや空港みたいな・・・限定的な場所で動くのが得意なんだよ。」

「次は街中どころか大陸走り回るかも知れねぇぞ。」

「・・・変なフラグ立てんじゃねぇ。」

いや・・・もしダイ・〇―ド3とか4.0とかラスト・デイみたいな事に巻き込まれたらそうなるぞ。・・・もしその3、4.0、ラスト・デイ的な事が起こっても、俺は巻き込まれませんように。

 バスが止まった。カーターさんが止めたようだ。

「「カーターさんの(あいつの)車で待ってよう(待ってるか)。」」

俺達はのそのそとバスから降り、車に戻っていった。

 

 

 

 

 

 おっさんはタバコをふかし、俺はスマホをいじって待っていた。

「なぁ、おっさん。」

「どうした、坊主。」

俺は一つ疑問に思っていたことがあった。

「今回、おっさんはやけに静かだな。」

おっさんは確かに、勤務態度は勤勉とは言い難いだろう。しかし、正義感は人一倍にある。だから孤軍奮闘してビルや空港の事件を解決してきた。だが、今回はなんだ?少女が目の前で誘拐されたのに、事件解決に動こうとしないなんて・・・。

「坊主だってそうだろう?」

そう言っておっさんはタバコを携帯灰皿に入れ、皺くちゃの箱から新たなタバコを出し、ジッポで火をつけた。

「坊主と一緒だ。情報を待ってるんだ。」

・・・わかってらっしゃる。俺はちょうど今、理子にハン領事と娘さんについての情報を送ってもらったところだ。国防に関係ないからメガネさんに調べてもらうのは悪いし・・・。ついでに、今のロサンゼルスの時間は午後1時過ぎ、日本時間は朝の5時過ぎ・・・。理子にはいつもよりも多くお礼をしなきゃいけないな。

プルルルル・・・

おっさんの携帯が鳴りだした。

「はい、こちらマクレー。・・・・・・」

おっさんは携帯である程度話した後、電話を切った。

「坊主、お前は今回の事件どう考えている?」

おっさんは今時珍しいガラケーをしまい、俺に聞いてきた。

「・・・安直な考えだけど、ハン領事は在ロサンゼルス中国総領事になる前は香港特別行政区行政長官で、香港マフィアのジュン・タオから大量の美術品の奪還に成功した。そのことから、香港マフィアから相当恨まれていると思う。そして、明後日の夜から中国博覧会があって、ジュン・タオから奪還した美術品も数多く展示される。誘拐犯がうまく事を進めれば、ハン領事の面子を丸つぶれにすることも可能だ。このことから香港マフィア、とりわけその中でもジュン・タオによる犯行だと思ってる。」

俺はスマホをしまい、ペットボトルの水に口をつけた。

「ハン元香港特別行政区行政長官はジュン・タオ壊滅に力を入れていて、それ以外の事は今までの行政長官とほとんど同じ事しかしていない。まぁ・・・13億の人口を抱える国だから、ちょっとしたことで何万人にも影響が出る。だから些細なことで恨まれていて、それが動機なら面倒だけど・・・そこまで考えなくていいと思う。」

そう言って、ペットボトルのキャップを閉めた。

「俺と推理は一緒だ。坊主も成長したなぁ・・・。」

「うるせぇ。・・・でも、容疑者を絞ってもそいつの居場所が分からないと意味ないよなぁ・・・。」

ビルや空港のように居場所が特定できて、しかも敵も簡単に脱出できない状況なら楽なんだが・・・。

「あのロス市警はロスをよく知っているだろう。あいつに協力して有力な情報が出るまで待つしかないな。」

そう言っておっさんはタバコに口をつけ、紫煙を吐いた。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■!!」

遠くからカーターさんと誰かが言い争っているのが聞こえてきた。

「よくも俺をだましたな!!」

「君がしゃべれないと決め付けたんだ。」

えっと・・・隣にいるのはリーさん?

「全くよく言うぜ・・・。もう頭きた!!中国人ならカンフーでかかってこい!!」

そう言ってカーターさんはカンフーっぽいポーズを取った。

「英語が話せないとは一言も言ってない。」

リーさんが英語しゃべってる!!しかも俺より発音が上手!?

「じゃぁ、わざとしゃべれない振りをしたってのか!?」

「話せるが話さなかった、それだけのことだ。君はおしゃべりが好きみたいだねぇ?だから君にしゃべらせといた!それに自分は黙ってたほうが相手のウソを見抜きやすい。」

そう言ってリーさんはカーターさんに向かってドヤ顔。

「ちょ!ちょっと待ってください!!」

俺は二人の間に入り、リーさんを見上げた。(リーさんは175センチ程度、俺は170ない。)

「リーさん!!英語しゃべれたんですか!?」

俺はもちろん英語で尋ねた。

「ん?あぁ、まぁね。」

「じゃぁ、俺のカタコトの中国語の翻訳いらなかったんですか!?」

これが一番恥ずかしい。相手は、英語を理解しているのに俺がしゃしゃり出て、拙い中国語を使って翻訳者の真似事をする・・・。

「・・・大丈夫、君の中国語は日本語訛りがあるけど、香港でも通じるよ!」

そう言ってリーさんはサムズアップ&白い歯を見せ、とてもいい笑顔。

「てやんでぃ!!このすっとこどっこい!!(日本語)」

「「「???」」」

あぁ・・・恥ずかしい。

 

 

 

 

 




鯖組やその他は最後ぐらいや、雛見沢編で活躍するはず・・・。


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ラッシュ〇ワー お互い協力しようぜ・・・ 

 遅れて誠にすいませんでした。やっとバイトから解放されました。(言い訳)


 話が変わりますが、皆さん、車検は余裕をもってやってください。いくら一日車検だって事前点検とか必要です。(事前点検でどこが通らないか確認して、部品が無かったら発注をします。ついでに、部品屋さんは土日はやってません)・・・いや、車検を急に入れる人が2人も来たらきついですから!!
 それに年度末だからバイトの先輩もボロボロ辞めてくし・・・。
 3月4月は車検が多い・・・。マジつらかった。

 






「今すぐハン領事の家に連れてってくれ!!」

あの後、俺達はカーターさんの車で移動していた。

「ここは民主国家ではないんだ、お前は黙ってろ!なっんだよ偉そうに!」

え?アメリカは民主国家だよな?

「ん?民主国家だ!!」

リーさんは眉を上げた後、反論した。

「んやぁ~そいつは違うね。・・・お前がいるのはジム・カーター様の国だ!俺はここの大統領兼国王で、お前は家来。俺がジャイケル・マクソン、お前はペットの猿!俺の命令に従え。」

「となると、おっさんがキジで、俺が犬かな。ちょうど鬼退治ができる。」

「「「・・・」」」

急に車の中の空気が一気に冷えた気がする。

「・・・どうして捜査に参加できないんだ。」

俺の発言はなかったことになったみたいだ。

「FBIはお前が嫌いなんだ。当然さ!俺もお前が嫌いだ。」

「私が来たのは!スーヤンのためだ!!」

カーターさんが彼女について何か言いそうだったので、俺はカーターさんがしゃべりだす前に割り込んだ。

「あの子d「FBIはリーさんが事件で負傷するのを恐れているようですよ!それで外交問題になったら面倒だって!!俺とおっさんも面倒ごとを起こすかもって思われて、ここにいるんです!!」

「・・・君たちは観光客じゃないのかい?」

リーさんは怪しげな視線を俺に送った。

「アメリカに来た目的はロス観光ですけど、自分は軍人で武偵です。おっさんはニューヨーク市警で、奥さんに会いに来るためにロスに来たそうです。」

「そのせいで妻とは冷え切っちまった。」

「前からだろう。」

「うるせぇ。お前だってそうじゃねぇか。」

などと軽口を言い合っていると

「・・・どうして、そのことを教えてくれなかったんだい?」

良い笑顔(怖い方)でリーさんは俺に尋ねた。

「だって、‘‘武偵’’の中国語知らないし・・・。軍人と言っても、そのことについて中国語で説明できないですよ。余計に混乱しますよね?」

シーンと二人の間に静寂が支配した。

「・・・事件が解決して時間があったら中国語を教えてあげるよ。・・・しかし、軍人で武偵って言うのはどういうことだい?」

「そう言えば俺も武偵になったのは分かってたが、軍学校に通ってたんだろ?なんだって軍抜けて武偵に・・・」

そう言えばおっさんにも説明していなかったか。

「軍学校飛び級で卒業して、ある程度勤務した後に出向になったんだ。だから軍人で、東京武偵高校の生徒ってわけ。」

俺が説明すると、おっさんはため息をする様にタバコの煙を吐いた。

「物騒な世の中になったなぁ。」←おっさん

「全くだ。」←リーさん

「同感だ。その軍で何やってたんだぁ?スシ坊。」←カーターさん

カーターさんが聞いてきた。

「スシ坊はやめてください・・・。海軍入って憧れの艦隊勤務かと思ったら、陸戦隊で・・・。陸戦訓練やりたくないから海軍入ったのに、陸軍も顔負けの陸戦訓練とかさせられて・・・ハハハ・・・ハァ・・・。」

特殊部隊のことは機密なので言わなかったが、それ以外は説明した。・・・そうだよ、安全な船の上を目指したのに、鉄火場の陸戦隊。しかも兵部省直轄の特殊部隊に配属なんて・・・。

「・・・坊主、今日はいいもん食わしてやる。」←おっさん

「・・・ロスのうまい店紹介してやる。」←カーターさん

「・・・香港に来たら一番の店に招待するよ。」←リーさん

何時もなら有難いけど・・・今はその優しさが心に刺さる!!

「・・・ありがとうございます。」

心にグサグサ刺さってるのに、感謝の言葉を言えたのはすごいと思う(自画自賛)。

 空気が悪くなったせいか、リーさんはカーステレオをいじった。

「おぉ!!!ビーチボーイズだ!!!」

カーステレオから音楽が流れた。

「・・・おい、ちょっと待った。」

「ファンなんだ!!!」

リーさんは満面の笑みで答えた。ビーチボーイズか・・・年代差を感じるな。

「誰がラジオに触っていいって言った!?」

「彼らはアメリカを代表するバンドだ!!」

「ビーチボーイズがぁ!?冗談はよしてくれ!!いいか、黒人様のラジオに勝手に触るな!ここは中国じゃないんだ!もし次触ったらブッ殺すからな!!」

そう言った後、カーターさんはカーステレオをいじりだした。

「本当の音楽ってのはな・・・」

ラップで流れていそうな音楽が流れだした。

「・・・これさ。これが本当の音楽だ。」

音楽が流れだした瞬間、カーターさんの肩はリズムに乗って動いた。

「ノリが全然違う。ビーチボーイズで踊れるか?おどれねぇだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 その音楽が流れたまま、車は道の端に止まった。カーターさんが車から出たので、俺達も出る。

「領事館へ行かないって何をする気だ?」

リーさんはカーターさんに聞いた。

「ガサイレってやつさ。これも捜査の一部だ。俺のお手並みをじっくり見てるんだな。」

そう言ってカーターさんはボロいビリヤード場に入ろうとすると、リーさんがカーターさんの腕をつかんだ。カーターさんはすぐに振りほどいた。

「だったら私にも手伝わせてくれ。これは私の事件だ!」

するとカーターさんが急に笑いだした。そして、そのままリーさんの肩に手を置いた。

「ップハハハハハハ!!お前の!?・・・わかった、まぁ良いだろう。じゃ、中に入ったら俺の指示に従え!口を挟むな!いいな?あんたらもそれでいいな?」

そう言ってビリヤード場に入って行った。

 ビリヤード場の中は煙が充満していた。タバコと・・・何の臭いだ?

「ようニガー。」

そう言ってカーターさんはビリヤード場の片隅でタバコ(?)(なんか臭いが違う)を吸っている黒人の中年男性と拳をあわした。(リーさんも拳をあわそうとしたが避けられたが気にしないでおこう。)

「マリファナか!?」

カーターさんはその中年男性からタバコ(?)を取り上げ、強めな口調で尋ねた。

「あぁ・・・」

カーターさんはその煙を鼻で確かめた後

「医療許可証は?」

「あぁ・・まぁ・・・「見せて見ろ!!」」

中年男性は慌てだした。

「だからね・・・「どこにあるんだ!!」」

男はしどろもどろになり、カーターさんの追撃はさらに激しくなっていく。

 結局、マリファナはカーターさんが没収し、奥の部屋に入って行く。俺達も中に入ると、幹部っぽい黒人たちが銃を向けていた。俺達も慌てて銃を出す。

「銃を下ろせ!!早く下ろすんだ!!聞こえねぇのか!!・・・質問がある正直に答えろ!」

カーターさんが大声で叫んだ。

「おい、早くしまえ。」

すると真っ赤なスーツを着た、いかにもボスっぽい黒人が仲間に言った。

「おい、女の子は?」

カーターさんが言った。

「女の子?」

その赤スーツが答えた。

「少女だよ!」

「どこのだ!?」

「中国人の子だ。」

「何の話だかさっぱりわかんねぇ。」

「とぼけんのはよしてくれ!正直に言わねぇとこいつらを全員ブタ箱にぶち込むぞ!」

「カーター、銃を下ろせ。」

「馴れ馴れしく名前言うな!!おれぁデカだぞ!!・・・お前らのダチじゃねぇんだ。勘違いしねぇでくれ。」

なんか怪しい。この人数に対して俺達4人だけは不利すぎる。それにここの人たちとカーターさんはやけに馴れ馴れしい。今の言葉もカーターさんはこの人たちに言い聞かせるように言った。

「おい、3人とも外で待っててくれ。・・・ここにいると危険だ。」

・・・は?一人で残る気か!?

「質問に答え「リー!!!」」

「早くいけ、後は俺に任せろ。」

今の言葉で理解できた。この人たちとカーターさんは知り合いだ。しかも、銃を向けても大丈夫な・・・。身内とかか?

「でも・・・」

「良いから早くいけ!!」

リーさんはまだ気づいてないようだ。

「リーさん、ここはカーターさんに任せていきましょう。」

「え?ちょっと待って・・・」

俺はリーさんを引きずってこの部屋から出した。おっさんはこの間ずっとタバコを吸って観察していた。

 

 

 

「なにをするんだ!!」

「気づいてないのか?兄ちゃん。」

おっさんが言った。

「いくらあいつでもあの人数を相手にできる分けねぇだろ。こいつは情報源だ。情報源を見せてくれただけでも感謝しなきゃいけねぇ。」

その言葉でリーさんは引いた。

「まぁ、カーターさんに任せて俺達は待ってましょう。・・・気持ちはわかりますが。」

そう言って俺は店内にあるバーの椅子に腰を下ろした。するとバーテンダー(?)が出てきた。

「おじさん、バーボンちょうだい!ロックで!」

ここはアメリカだ。本場のバーボンが飲めると思ってウキウキしている。

「ん?」

バーテンダーは眉をひそめた後、グラスに氷を入れ、コーラを注いで俺に渡してきた。

「え?これコーラ・・・。」

「少年、確かにここはマリファナや他の麻薬をやっている奴がいるが、お前のような年の子がアルコールやマリファナをやっちゃいけねぇ。人生が灰色になるぞ。・・・カーターの知り合いだろ?こいつは金はとらねぇから、これでも飲んで待ってろ。」

バーテンダーは無表情でそう言って、今度はリーさんのオーダーを聞こうとしていた。・・・意外にいい人だな。

「よっ!ニガー!!」

「「「・・・・・・」」」

ビリヤード場の空気が変わった。

「・・・今なんて言った。」

「・・・よ!ニガー!!って言ったんだ。」

「リーさん!!その言葉は・・・」

俺が言い切る前に、バーテンダーはリーさんの襟首を持ってバーのカウンターにリーさんを叩きつけ、そしてそのままリーさんをひっくり返し、大きな腕で首を絞めた。他の客たちはビリヤードをやめ、ゆっくりリーさんに近づいていく。

「うがぁああああ!!」

リーさんはコーラの入ったグラスを掴み、そのままバーテンダーの額に叩きつけた。

「俺のコーラが!!」

そしてバーテンダーさんの善意が!!

「ゲホッ、ゲホッ・・・。後で・・・弁償・・・するからぁ!?」

「テメェ!!なんて言ったんだ!!」

迷彩服を着た男がリーさんを掴み、ビリヤード台に投げた。リーさんはビリヤード台に転がり、そのまま台から落ちて、もう一つの台の角に喉元を激しくぶつけた。

「もう一遍言ってみろ!!」

ガタイのいい大男がリーさんに近づいてきた。

「もうやめろ!!」

そう言ってその大男に向かって手の平を向けた。大男はそのままリーさんの手の平を掴み、握りつぶそうとしてきた。

「テメェもあいつの仲間か!?」

キューを持った男が俺に近づいてきた。

「ちょ、ちょっと待って!!そう言われればそうだけど!!偉い人も‘‘話せばわかる’’って・・・。」

「問答無用!!」

ブンッ!!

男はキューを思いっきり振り、俺に叩きつけようとしてきた。

「ちょっと落ち着いてくださいって!!キューだって安くないんですから!!ね!!」

俺はキューを白羽取りして説得をしようと

「オラァアアアア!!」

もう一人の男が俺をキューで殴ろうとしてきた。俺は説得を諦め、白羽取りをしていたキューを握り、そのキューを使ってもう一人の男からの攻撃を防ぐ。そのまま最初に襲ってきた男の股間に思いっきり蹴りを入れる。

「ッ~~~~~!!!」

股間を蹴られた男は声にならない悲鳴の後、白目を向いて倒れた。

・・・卑怯な戦い方だけど、体格の差がね・・・男としてゴメンナサイ。

俺は股間を蹴られた男のキューを奪い、そのまま流れるように居合の構えを取ってもう一人の男の眉間に一発。

「アァアアアアアア!!!」

そして、おっさんと取っ組み合いしている男をキューで殴り、近くにあったジョッキの取っ手にキューを引っかける。

「ハァアアアア!!」

そのままキューを振り、最後まで生き残っていた男に向けてジョッキを飛ばす。

バリィイイン!!

その男にリーさんのキューと、ジョッキが頭に当たりKO。

「頼むよ!!もうお終いにしてくれ!!」

「「リーさん(テメェ)が言うの!?(のか!?)」」

俺とおっさんは思わず言ってしまった。

「体に毒だよ!!」

リーさんは喧嘩に参加しなかったマリファナ中年からマリファナを取り上げ、それを床に叩きつけた。そしてカーターさんのいる部屋へ走っていった。

「そう言えばおじさん。中国人の少女が誘拐されたんだ。何か知らない?」

俺はそう言ってマリファナを拾って中年に返した。

「中国人?武器を最近たくさん買ってるって・・・。そう言えば販売人が、中国人街がキナ臭いから近寄るなって言ってたような・・・。」

この人から重要な情報が出てきた。

「ありがとう、おじさん!」

「気をつけな。」

すると奥の部屋からカーターさんとリーさんが出てきた。

「お前らもう帰るぞ・・・って何したんだ?」

死屍累々のビリヤード場を見てカーターさんは引いていた。

「「リーさん(この兄ちゃん)に聞いてくれ。」」

「え!?私!?」

あなた以外、誰がこの大惨事の原因だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、車はアメリカのコンビニみたいなところの前に止まった。

「・・・ここで何を?」

リーさんはカーターさんに訊ねた。

「とりあえずここで何か食おう。お前もスシ坊もカップ麺だったら食えるだろ?」

カーターさんは心配していそうな表情で俺達を見た。・・・怪しい。

「スシ坊は止めてください。」

「カーター、時間を無駄に使うのは止めよう。・・・スーヤンを助けるんだ。」

すると、今まで黙っていたおっさんが紫煙を吐き出すと同時に重い口を開いた。

「テメェ、事件を解決するとか言いながら、こんな時間を無駄にするようなことをしてやがる。・・・時間がもったいないとは思わねぇか?」

「・・・・・・。」

カーターさんは黙ってしまった。

「俺達四人は事件を解決したいと思っている人間が集まってる。その少女のためにもお互い協力しあわねぇか?」

そういった後、タバコを咥えて黙った。

「分かってる・・・、分かってるさ、。今みたいに時間を潰すような事をするくらいなら、情報を必死に探し出したほうがいいってことくらい分かってる。・・・だけど、こいつを中国領事館へ連れて言っちまうと停職処分になるんだ。」

「なぁ、カーターさん。」

俺は思わず口を挟んだ。

「つい数日前、爆薬の販売人の逮捕で大分無茶してきたんでしょう?なのに今回はビビるんですか?」

「なんだと!!」

まぁ。俺もビビったけどさ。まぁ、よく考えれば元々ロス市警・FBI・アメリカ陸軍の面子潰してるし(ナカジマ・プラザ、ジョン・F・ケネディ空港の件)、気にする必要ないかなって。

「なぁに、俺達だけで事件解決さえすれば停職処分になんてなりませんよ。俺とおっさんだって事件解決したから殺人罪で訴えられてないんですから。」

「あの後、書類が大変だったんだぞ。」

おっさんはため息をついた。

「「お前ら(君たち)何やったんだ!?」」

リーさんとカーターさんはめちゃくちゃ驚いた。

「改めまして、‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’、村田イブキ海軍大尉です。今は武偵もやっています。ついでにこの二つ名は嫌いです。」

二人は目を見開いた。

「ってことは・・・。」

「おっさんは‘‘不死の男(ダイ・ハード)’’、ジョニー・マクレー。」

「よろしく。俺もこの二つ名は嫌いでね。」

「ナカジマ・プラザの二人か!?あの時大変だったんだぞ!!」

カーターさんが文句を言った。

「まぁ・・・あの時はすいませんでした。・・・で、どうしようか考えたんですが、リーさんに一人で領事館へ行ってもらいましょう。」

「はぁ!?俺が停職になっちまう!!」

「まぁ、まずは聞いてください。」

俺はこの時、瀬島さん(HS部隊第一中隊、中隊長代理)だったらどうするか・・・を考えてみた。(辻さんと神城さんならイケイケドンドン作戦になるので参考にならない。)今回の場合、キーポイントはハン総領事だ。彼が俺たちのことを知ってもらわないと、俺達だけで解決してもFBIに揉み消される。

「で、リーさんには何とかして一人で行ってもらいます。その後、俺らがハン領事のところまで行ってリーさんが説明してくれればFBIはそういう事にすると思います。」

リーさんを捜査に参加させないように妨害してました・・・なんてFBIは絶対に言えないからな。逆にこっちが弱みを握っている。

「リーさんを捜査に加えないように妨害・・・なんてFBIは言えませんよ。下手すれば国際問題待ったなしです。弱みはこっちが握ってるんですよ!そう思わせつつも協力してやれば・・・自分たちで事件解決すればこの問題も吹っ飛びます!!」

まぁ、解決できなかったら・・・マスコミにリークしてワザと国際問題に発展させるか?(辻さんの影響による思考の過激化)

「ハン領事はFBIに囲まれてるんだぞ!そんな中行っても途中で捕まって帰らせられるだけだ!!」

「大丈夫でしょ。」←俺

「大丈夫だろ」←おっさん

「なんとかするさ」←リーさん

そう言えばカーターさんはリーさんの戦闘力を知らないんだっけ?

「ビリヤード場で倒れてた人はリーさんが短時間でやったんですよ。」

嘘はついてない。俺とおっさんもやったけど。

「マジかよ・・・って、おい!!何しやがったんだ!!」

「まぁまぁ、カーターさん、リーさんを領事館へ行かせないようにしつつ捜査は無理だ。ここはお互い協力してFBIの鼻を明かしてやりましょう!」

「そうしよう!!スーヤンのためにも!!」

リーさんも賛成した。

「・・・それともカーターさん。リーさんを領事館へ行かないようにしつつ、事件を解決して、FBIに手柄の横取りさせられないようにする方法はほかにあります?」

むしろあったら教えてくださいよ!!俺は飛び級のせいで、軍学校でまともな教育受けてないんだぞ!!作戦立案は苦手なんだ!!

「わぁったよ!!逃がした後、領事に会って、そこから俺達の手で解決すりゃいいんだろ!!」

カーターさんはやっと賛成してくれたようだ。

「カーターありがとう!!」

そう言ってリーさんは急いで領事館へ向かおうとした。

「あ、ちょっと待ってください。ちょっとスーツを汚してヨレヨレにしてください。カーターさんが頑張って妨害したってことにして。」

俺がそういうと、リーさんは砂をつかんでスーツにまぶし、手でシャツやスーツにしわを作った。

「じゃぁ行ってくる!!」

そう言ってリーさんはタクシーを呼んで中に入った。

「FBIから妨害を受けたって仄めかしてくださいよ!!」

リーさんは窓から手を出し、ヒラヒラと振った。

 

 

 

 

 

 

 俺達三人はビーフブリトーを食べながら時間を潰していた。俺がふと近くの川を見ると水辺に水死体のようなものが・・・。

「ッ!!」

俺は急いで救助に行ったが・・・。

「なんだよこれ・・・。」

ごみの体に古びた緑色の木のお面・・・。完全に見間違いです。

「おいスシ坊!!何やってるんだよ!!」

カーターさんとおっさんは目を丸くして俺を見ていた。

「・・・・・・何でもない。」

「どうせ水死体かなんかと間違えたんだろ。」

おっさんが言った。

「うるせぇ・・・。」

「「・・・プッ」」

「笑うなぁ!!」

二人は大笑いし始めた。誰だって間違いはあるだろうに・・・。そう思いながら木のお面を拾い上げると・・・

「ッ!!!」

何だこのお面!!すごい魔力が詰まってやがる!!海鳴であったジュエルシードと同じくらいかそれ以上は詰まってるぞ!!俺は‘‘四次元倉庫’‘にそのお面をしまった。

「おい!!戻らねぇとお前の分も食っちまうぞ!!」

カーターさんが俺のブリトーを持ちながら言った。

「待って!!今すぐ戻りますから!!」

そのビーフブリトーうまくて気に入ってるんだから。俺は急いで戻った。

 その後、水死体に見間違えた事を10分ほど二人に揶揄われた。

 

 

 

 




 おっさんことジョニー・マクレー(ジョン・〇クレーがモデル)はチェーンスモーカーです。ダイ・〇ードでそう言う設定だったそうです。なお、4、ラストデイでは規制がかかってしまい、喫煙シーンは映せなくなったそうです。
 
 ニガー(nigger)は黒人差別のひどい言葉です。原作順守のため使いましたが、絶対に日常会話で使ってはいけません。絶対だぞ!!絶対だからな!!(大切な事なので2回言いました。)

 ‘‘話せばわかる’’ ‘‘問答無用!!’’は犬養毅第29代内閣総理大臣の言葉。命乞いの言葉じゃなく、「道理を話して聞かせてやる」という対話の姿勢でしゃべった言葉です。

 マリファナは日本では犯罪です。合法化の議論はあるそうですが、法律上OKになるまでは所持も使用もいけません。‘‘悪法もまた法なり’’。所持したい、使用したい人は頑張って法律を変えてから、所持、使用してください。(この2次小説は麻薬を勧める物ではありません。)

 木のマスク・・・あれはなんのマスクなんでしょうねぇ・・・。
 


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ラッシュ〇ワー バンジーはやりたくない・・・

比較的早くできた!!

学校が始まり、かける時間も増えたので更新が早くなる(といいなぁ)。

おそらく次回でラッシュ〇ワー編最後です。


 ビーフブリトーを食べて時間を潰した後、俺達はゆっくりと中国領事館へ向かった。それにしても、あの拾った木のお面は何なんだろう・・・。

 領事館へ着くと、ボロボロの白人刑事が二人立っていた。

「できればここに来たくなかった・・・。おい!!東洋人が来なかったか!?このぐらいの背の。」

そう言ってカーターさんは自分腰ぐらいの高さに手を置いた。・・カーターさん、そのぐらいの大きさだと子供並みの大きさだぞ。(ついでに俺、おっさん、カーターさん、リーさんの中で俺がダントツで背が低い)

「・・・さっさと失せやがれ。」

「今なんつった!?」

今この刑事、‘‘失せやがれ’’って言わなかった!?リーさんなにしたの!?

「早く失せろと言ったんだ!」

「よくも俺にそんな口を!お前らこそサッサとドケェ!!どかないとブッ殺すぞ!!」

ボロの白人刑事がため息をついた後、もう一人の方に向かい

「・・・入れてやれ。」

・・・いや、ほんとすいませんね。二人は渋々シボレーを領事館の敷地へ入れさせた。

「ほぉ~れ見ろ。やっぱり俺が怖いんだ。」

違うと思うけどなぁ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 領事館の中に入ると白人刑事がお冠だった。

「自分の任務もわからないのか!?」

この人が上司か?

「バスと追いかけっこするのが俺の任務か!?」

カーターさんは威勢よく言った。

「落ち着いてください。あんな戦闘力を持った人を半日拘束できたのは奇跡ですよ。」

俺はその刑事に向かって言った。

「君達にも協力してほしいと伝えていたはずだが・・・。」

「あの刑事を殴ってよかったのか?そうしたらFBIがもっと困るんじゃねぇのか?」

おっさんがそう答えた後、扉が開き、中からハン領事とリーさん、それと白人の男が入ってきた。

「この人たちは誰だね?」

「ご紹介しm「カーター捜査官と事件の目撃者の二人です。私の捜査に協力を。」」

白人の刑事が言う前に、リーさんが間髪入れずに言った。

「自分は村田維吹、日本の軍人で訳あって武偵もやっています。彼はジョニー・マクレー、ニューヨーク市警の刑事です。僕たちは観光でロサンゼルスに来たら、誘拐現場に偶々居合わせたて・・・。ご息女を助けようとしたのですが・・・力及ばず・・・すいません・・・。」

「彼らはスーヤンを探すため必死でやってくれています。」

ナイス、リーさん!

「えぇ・・・。私達で必ずお嬢さんを必ず救出して見せます。どうかご心配なく。」

カーターさんもナイス!!FBIの刑事に何も言わせちゃいけねぇ。

「彼らは命がけでスーヤンを探し出す覚悟です。」

FBIの刑事は口がはさめず戸惑っている。

「あぁ・・・なんと礼を言えば・・・。」

ハン領事はカーターさんに握手した後、俺達を見た。

「あなた達も観光できたのに、ワザワザ協力してもらえるなんて・・・。おや?もしや、ジョン・F・ケネディ空港の事件を解決したお二人では?」

「そうです。私たちが全力でリー刑事の捜査を手伝わせてもらいます。」

おっさんが言った。

「お二人の噂は中国にいた時でも耳にしています。・・・本当に、ありがとう。」

・・・噂って何だろう。考えたくねぇ。

「君たちが、かの有名な二人か。」

ハン領事と一緒に部屋に入って来た男が俺達に言った。

「すいません、お名前は?」

「あぁ。これは失敬。私はトーマス・グラント元警視長。彼の古い友人で、彼の力になれないかと思ってきた。」

男は笑顔で答えた。この人、何かおかしいな・・・。こいつ、目が笑ってない。

「カーター捜査官ならリー刑事のお役に立てると思います。」

もう一人のガッシリした体形で額と頭頂部がスキンヘッドの刑事がハン領事に言った。

「そういえばラス捜査官?ハン領事に私の任務を説明しておくべきじゃぁないのか?」

カーターさんは上司と思われる刑事に言った。そうか、この人がラス捜査官か。

「ぜひ。」

ハン領事も聞いてきた。ここまでくればFBIもリーさんの捜査妨害をお願いしてました・・・なんて言えない。ここで言質を取っておこう。

「・・・カーター、君達、向こうで話をしよう。」

なるほど、ハン領事の前では言えないから場所を変えると・・・。だけどもう遅い。主導権はこちらにある。

「君と私とでか?」

カーターさんがラス捜査官に言った。

「そんなハン領事の前で言えないことを命令していたのですか?」

「俺達は休暇なのにワザワザ捜査に協力していたが、そんなに不味いことなのかねぇ?」

俺とおっさんが言った。向こうの口は2つ、こっち4つ、このままいけばこっちが勝てる。

「・・・あぁ~そうか、機密区分G40の件だな!彼は機密好きなんです。

カーターさんがハン領事とトーマス元警視長に言った後、

「その前に俺の上司に状況報告をしなきゃならない。話はその後だ。G40はもう一度考え直したほうがいい。・・・ハン領事、電話をお借りします。」

そう言ってカーターさんが部屋の受話器を上げようとした瞬間、電話が鳴った。カーターさんは受話器をそのまま上げた。

「誰だ?もしもし。」

カーターさんはスピーカーをオンにし、みんなに聞こえるようにした。

「FBIの人間と話がしたい。」

「おい、貸s「FBI!?それなら俺だ。」おい、カーター。」

ラス捜査官はカーターさんから受話器を取り上げようとし、カーターさんは彼の手から逃げる。

「おまえがFBI ?」

「あぁ俺がFBIだ。」

貸せ、カーター。

すると部下の一人がヘッドフォンをラス捜査官に渡した。

「良いか、俺の話をよく聞け。」

「わかった、メモを用意する。」

するとハン領事がカーターさんにメモを渡した。・・・カーターさん胆がでかすぎだろ。そう思いながら俺はスマホのボイスメモをオンにし、手帳を出した。

「よし、いいぞ。」

「身代金の受け渡し時刻は今晩11時、それまでに現金5000万ドル用意しろ。」

「現金で5000万ドル!?そんな大金何に使うんだ!?」

「50ドル札以下の古い紙幣を用意してくれ。」

「わかった5000万ドルだな。問題ない、用意する。」

「内訳は50ドル紙幣で2000万ドル。」

「50で2000万。」

「20ドル紙幣で2000万ドル。」

「20ドルで2000万。」

「それに10ドル紙幣で1000万だ。」

「10ドル札で1000万。5ドル札はいいのか?」

「・・・お前の名は?」

やけに調子がいい声のせいか、向こうは疑問に思ったようだ。

「電話してきたのはそっちだぞ。お前が名乗るべきだろ。」

「俺はただ領事に忠告したかっただけだ。お前のみたいなおしゃべり雇ってると娘の命が危ないって。」

「わかった。しゃべり過ぎないようにするよ。でもこれだけは言っておく・・・俺はお前の味方だァ。」

・・・こんな交渉人(ネゴシエーター)は前代未聞だよな。

「金の受け渡し場所と方法は受け渡し時刻の30分前に連絡する。無事に金を受け取ったら娘は返す。ハン領事は予定通り中国博覧会へ行け。」

今日博覧会があるのか・・・可哀想に、ちゃんと喋れるのかな?

「大丈夫、必ずうまくいく。5000万ドル受け取ったら少しくれよ。ここは給料が安いんだ。」

向こうは切ったようなのでカーターさんは受話器を置いた。

「逆探成功。南ブロードウェイの620。」

ふくよか一部スキンヘッドの刑事が言った。

 

 

 

 FBIは目標のビルに一目散に向かった。俺達もカーターさんのシボレーに乗ってFBIについて行った。

 現場に着くと、FBIはそのビルに突入しようとしているようだ。

「突入するのは危険だ!!」

「俺もそう思う。やめるように言おう。」

「「え?」」

罠はしかけられてそうだけど、危険だから犯人がいたと思われるところに行きませんでした・・・なんて言えないと思うんですけど。

「機動部隊は罠の解除ぐらいできないのか?」

「・・・軍じゃねぇんだよ。できても一握りだ。」

おっさんが答えてくれた。カーターさんとリーさんはラス捜査官とふくよか一部スキンヘッド刑事に抗議していたが相手にされていないようだ。すると俺達のほうへ戻ってきた。

「なんで君たちは抗議しないんだ!!」

「いや、だって相手にされないのわかってたし、危ないからって突入しないのもおかしいですよね?」

俺がリーさんに反論した。

「もし何かやるんなら、近くに実行犯がいるはずだ。怪しい奴を見つけろ。」

おっさんが言った。その瞬間・・・

ズドーーーン!!

ビルの最上階が爆発した。

「なんてこったぁ!!」

カーターさんが叫んだ。

「「周囲を探せ!!」」

俺とおっさんがとっさに叫び、二人はハッと我に返って周囲を見渡した。

「ッ!!!」

するとリーさんが急に走り出した。すると遠くにいる短髪で金髪の東洋人と銀髪のロングヘアーで帽子をかぶった少女が走り出した。あいつらか!!

「追うぞ!!!」

俺が言うと同時に二人も走り出した。

 

 

 

二人は路地裏に入り走った後、二手に分かれてしまった。

「「お前たち(君たち)はあっちだ!!」」

リーさんとカーターさんは俺達に少女を追えと言った後、男のほうへ走っていった。

 少女がビルに入ったので俺達もビルに入った瞬間

ビュン!!

何かが飛んできたので、俺は銃剣を取り出しそれを落とした。

「矢?」

ヒュン!!

俺はもう一度落とし、射った張本人を見ると・・・。

「テメェ・・・潜水艦の時の・・・。」

イ・ウーの潜水艦捕獲した時に、タンカーから狙撃していた弓兵じゃねぇか!!

ダァンダァンダァン

おっさんが発砲したが弾は当たらず。弓兵は逃げ出した。

「「待てぇ!!」」

 

 

 

 

 銀髪の帽子をかぶった少女は、時々俺達に矢を浴びせながらビルを上っていった。俺達は銃を撃ちながら追っているが弾が一切当たらない。まるで弾が自分の意思で避けるように・・・

 屋上に着いた。

「もう逃げられねぇぞ!!」

すると

「ここまで死に近いのに死相が見えない。・・・あなたたちは何者?」

・・・何言ってんだ?こいつ。

カラン

少女は何かを落とした後、

「これは使いたくなかった。だけど命令だから。」

ピ・ピ・ピ・ピ・・・

急にカウントダウンのような音が流れ始めた。音が出た方向を見ると

「「爆弾!?」」

C4と大きく書いてある。しかも起爆まで30秒しかねぇ!!少女の方を振り向いたら、彼女はビルとの間を飛んで逃げようと・・・

「待ちやがれ!!」

俺は四次元倉庫から適当につかんだ物を掴み引き金を引いた。

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

パシュッ・・・ドーーーン!!!

「・・・あ。」

それは牛若から預かっていたパンツァーファウスト。弾頭は彼女を逸れて近くに当たったが、爆風で彼女は俺達の方へ吹っ飛びそのまま気絶。

「おい坊主!!何しやがった!?」

おっさんは屋上にあった消化ホースを引きずりながら俺に尋ねた。

「・・・なんか爆発に巻き込まれて気絶した。」

ウソは言ってない。俺はそう言って近くに転がっていた、少女が落とした何かを拾った。何だこれ?

「おい坊主!!早く持て!!」

「いや!大丈夫だぁああ!!??」

俺は少女を担ぎ、飛び降りて脱出しようと・・・するのをギリギリで止めた。何故なら、下は4車線もある道路で、車がビュンビュン通っていた。このまま飛び降りても車に轢かれるだけだ。

「坊主!!何やってんだ!!急げ!!」

残り10秒。俺は急いで少女の体にホースを結んだ。これで彼女が落ちる心配はない。

「チクショウ!!なんでまたこんな事しなきゃなんねぇんだ!!」

「ナカジマ・プラザと同じだな!!もう仕事でも高いビル登るのやらないって言ってなかったっけ!!」

残り1秒。俺とおっさんは腕にホースを巻いた。

「「飛べ!!」」

二人(三人?)で屋上から飛び降りた瞬間

ドカーーーーーーーン!!!!!!!

「「うわぁあああああああああ!!!」」

ガンッ!!!

大量の熱風が俺達を襲った後、ビルの壁に激突した。俺とおっさんはビルを蹴って壁から離れた瞬間、

ダンダンダンダンダン・・・!!

拳銃で窓ガラスにひびを入れ、振り子の要領でガラスに体当たり

バリィイイイイン!!

俺達は無事、屋上から生還した。

「スタントしにロスに来たわけじゃないのになぁ・・・。」

「俺はあと何回、高いところから飛ぶんだ!?」

俺達が嘆いた瞬間、ホースが巻いてあったリールが落ちて行った。すると、ホースが俺達を引っ張り始めた。俺は銃剣で急いでホースを切った。

「う・・・。」

そう言えばこの子がいたっけ。すげぇ、あれだけのことがあっても弓を手放さないって・・・。弦は切れてるけど。

「とりあえず・・・逮捕。」

少女に手錠をかけた。後でFBIに引き渡しておこう。

「そう言えばおっさん、これなんだ?」

俺は拾っておいた銀髪の少女が落とした何かを血まみれのおっさんに渡した。爆発の時の破片やガラスで切ったのだろう。

「なんだこれ?爆破装置か?アメリカ製じゃないが、何処かでちゃんと作られた奴だな。少なくとも素人にゃ作れねぇ。」

うわぁ・・・。国外製造のちゃんとした奴か、その道のプロの物か。

「それよりもまず、そのお嬢ちゃんを引き渡すぞ。」

「だな。」

俺は額を腕でぬぐった。大量の血が腕についていた。・・・今頃になって痛みを感じだしたぞ、べらんめぇ!

 

 

 

 

 

 俺達はFBIに少女を引き渡した後、カーターさんに電話した。

「もしもし、カーターさん?」

「スシ坊か!?そっちはどうなった!?」

「・・・とりあえず確保してFBIに引き渡しました。そっちは大丈夫ですか?こっちなんて爆発に巻き込まれたんですが。あとスシ坊はやめてください。」

「こっちは逃がしちまった。向こう足が速くてなぁ、こtt「そうですか。」」

無駄に長くなりそうなんで、無理やり話を切った。

「あ、そうだスシ坊!!アジトが中国人街(チャイナタウン)福州飯店(フーチャオレストラン)ってわかった!!そこの近くで合流だ!!」

そこなら近い。

中国人街(チャイナタウン)福州飯店(フーチャオレストラン)ですね!!わかりました!!それとスシ坊はやめてください!」

・・・ピ。

電話を切った。

「おっさん。アジトが分かった。中国人街(チャイナタウン)福州飯店(フーチャオレストラン)だ!!その近くで合流だって!!」

「了解!」

おっさんはポリスバッチを手に持ってタクシーを止めると

「警察だ!!中国人街(チャイナタウン)福州飯店(フーチャオレストラン)へ急いでくれ!!」

俺も慌ててそのタクシーに乗り、中国人街へ向かった。

 

 

 

 

 タクシーが中国人街へ着いたと同時にカーターさんの車も着いたようだ。

「お前らも着いたか・・・って、その恰好どうした!?爆発にでも巻き込まれたのか!?」

「「・・・正解だよ、クソッタレ!!」」

俺とおっさんは叫んだ。

「お、おう・・・。」

俺達の剣幕でカーターさんは怯んだ。

「・・・いや、すいません。そっちは爆発に巻き込まれたりしませんでした?」

「爆発に巻き込まれたり、ビルの屋上からダイブしたり・・・チクショウ!なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!」

相変わらずのおっさんのぼやき。

「・・・こっちも落ちたんだ、二人して。」

リーさんが俺達を慰めるように言った。そっちは砂ぼこりが付いてるだけ、こっちは血まみれになって、爆発に巻き込まれる。・・・これが主人公補正ってやつか?カット

「まぁ、程度の差があれど、お互い大変だったみたいで・・・。そういえば踏み込まないんですか?」

俺がそういうと

「しばらく様子を見た方がいい。いきなり踏み込んでも撃たれるのがオチだ。」

カーターさんはまじめな声で言った。

「うぁ~・・・眠っちまうよ。」

リーさんは大きく伸びをした後、車から降りてボディーに寄り掛かった。カーターさんも暇つぶしのためかカーステレオでラジオをかけ、車から降りた。おっさんもタバコに火をつけみんな思い思いの方法で時間を潰す。俺も簡単な傷の手当でもしようと‘‘4次元倉庫’’から救急キットを出した。その瞬間

「ふー いぇあ わっいーず ぐーふぉー 」

リーさんがラジオで流れている歌(Edwin Starrの‘‘ War’’だそうだ)を歌い始めた。リーさんはうまくないが、聞いていられないほどではない。暇つぶしにリーさんの単独ライブでも聞くか。

「あぶそりゅりー なっしん ゆーおーる」

ん?

「ふー わっいーず わっいーず ぐーふぉー あぶそりゅりー なっしん ゆーおーる」

そこって y'all(ヨー)ってラジオでは歌ってないか?まぁ、確か語源はyou all の短縮だったから、合ってないわけではないけど。

「わっ ふー いぇあ ぐーふぉー あぶそりゅりー なっしん」

「この歌知ってんのか?」

カーターさんが不思議そうに尋ねた。

「誰だって知ってる歌だよ!! ふー! いぇあ! わっいーず ぐーふぉー! あぶそりゅりー なっしん! くっがー ゆーおーる!」

・・・初めて聞いたんですが。これが世代差というものなのか!?

「you all じゃない y'all!!」

カーターさんが指摘した。やっぱりそうだったか。っと俺の手当が終わった。

「おっさん、手当するから怪我したところ出してくれ。」

「・・・準備がいいな。」

そう言っておっさんは後ろを向いてシャツを上げた。・・・うわぁ、ガラスで切ったのか、背中は血まみれだった。俺はおっさんの背中と腕、頭の手当をした。手当が終わって、リーさんとカーターさんの方を見たら・・・

「「What is it good for!? Absolutely nothing...listen to me!!」」

二人は一緒に歌い、踊っていた。・・・観光客のみんなが見てるし。この二人、ここで監視していること忘れているのか?まぁ、とりあえず・・・

「仲良くなってよかったのか?」

「悪いよりはいいじゃねぇか。・・・タバコが切れた。坊主、買ってきてくれねぇか?」

俺17歳だから買えねぇから!!!

 

 

 

 

 

 

 

 おっさんがタバコを買いに行ったあと、リーさんによる‘‘敵の拳銃の奪い方’’の授業などで時間を潰した後(カーターさんとおっさんは真剣に教わっていた)、腹が減ったので中国人街にあるファストフード(?)の店でリーさんが適当なものテイクアウトして道端で食べていた。(カーターさんは店主ともめていたが別にいいだろう)

「「こいつなんなんだ?」」

おっさんとカーターさんがリーさんに訊ねた。

「ウナギだよ。」

「「「ウナギ!?」」」

ウナギなんて食べるのはいつぶりだろう・・・。俺はそう思いながらウナギを食べ始めた。・・・うまいけど、蒲焼のほうがいいな。おっさんとカーターさんは箸が止まったままだ。

「・・・うまいのか?」

カーターさんがまた訊ねた。

「最高だ。日本人はウナギが好きすぎて、日本のウナギは絶滅寸前だそうだ。」

リーさんが言った。

「そうですね。俺もウナギを食えたのは何年振りか・・・。まぁ、蒲焼のほうが良かったですけど、これはこれでうまい。・・・いらないなら貰いますよ。」

俺は二人の持ったウナギに狙いを定めた。すると二人は箸を動かし始め

「・・・ん~、悪くない!チリソースをかければもっとうまいだろうな。」

「・・・こいつはうめぇな。」

日本だと高級魚だからなぁ・・・。早く養殖出来るよう、科学者の皆さん頑張ってください!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食べ終わるころ、スーツ姿の金髪の東洋人が福州飯店(フーチャオレストラン)に入っていった。

「あいつか?」

リーさんが言った。

「え?おっさん、あいつって・・・。」

「警官の格好をして撃ってたやつだな。」

・・・顔バレしてますわ。

「そうだ!行こう!!」

「「「まぁ、待て待て・・・。」」」

リーさんが突入しようとしたので俺達は全力で止めた。

「お互い顔バレしてるんですよ!慎重にいかないと!」←俺

「顔バレしてるのに正面から行く気か!?」←カーターさん

「今正面から言っても裏から逃げられるに決まってる。」←おっさん

三人から止められ、渋々リーさんは引き下がった。

「で、どうします?三人も顔バレしてるんで客に混じって潜入なんてできませんよ。」

俺が訊くと

「俺は顔がバレてないから先に行く。で、リーはあとから行く。お前らは裏口から行く。これでいいだろ?」

カーターさんがそう言い

「わかった5分後に行く。」

「「了解。」」

俺達が頷いた後、

「あ、おい。身分証を貸してやる。」

そう言ってカーターさんは自分の警察手帳と拳銃をリーさんに渡した。

「もしなんかあったら、こいつを見せて踏み込むんだ。」

そこにはアフロ姿のカーターさんの写真が・・・。すぐバレないか?

「本人じゃないってすぐバレちまう!」

リーさんが言ったら

「大丈夫だって刑事っぽくやれば絶対にバレないさ。パッと開き、パッと閉じる。練習しとけ。」

そうカーターさんはリーさんに言った後、

「お前らもバレてるんだろ?」

リーさんはそう言ってシボレーのトランクを開けた。そこには・・・

「カーターさん、こんな趣味あったの?」

俺は引いてしまった。

「趣味は認めるが・・・車に常に入れてるってどういうことだよ・・・。」

おっさんも引いた。

「違う違う!!この前の事件での没収品だ!!」

慌ててカーターさんが言った後、

「これ使えば変装ぐらい簡単だろ!?」

カーターさん、・・・・・・できれば使いたくないんですが。

「こうか?」

リーさんが手帳を一瞬見せて閉じた。

「上出来だ。お前らもそれ使って裏口行けよ!!」

そう言ってカーターさんは福州飯店(フーチャオレストラン)へ入ってしまった。

「・・・使うしかないのかぁ。」

「・・・なんだってこんな目に。」

俺達は物陰に隠れてその変装道具を使った後、裏口へ向かった。

 




 実在の人物、組織と関係はありません!!

 木のお面はさらに進んだ時に出します。

 映画と違って中国博覧会は一日前倒しになります(そこ!!手抜きとか言わない!!)。手抜きではないです。

 爆薬があるのにパンツァーファウストをぶっ放したのは、方向が違う&C4は起爆装置や雷管が無いと爆発しない(衝撃による暴発は無く、火に入れても燃えるだけ)からです。

 ‘‘福州飯店’’を‘‘フーチャオレストラン’’としたのは、英語だと‘‘FOO CHOW Restaurant’’なのでそうしました。

 ウナギ・・・食べたいなぁ・・・。何年食ってないっけ?

 次回!!シボレーのトランクの中に入っていたものが明らかに!!!




 Next Ibuki's HINT!! 「口紅」






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ラッシュ〇ワー  締まらねぇ・・・

 あとがきに比較的重要なことが書いてあります。なるべく読んでください。


 ラッシュ〇ワー編もこれでラスト!!なんだかんだ感慨深い…。ラッシュア〇ーのDVDとDVD読み取り機にパソコン持ってキューバ行ったのが2月前半…。
 当初のプロットとだいぶ変わりましたが(ある意味いつも通り)、満足の結果です。

 関係ない事ですが、キューバに行って山ほど葉巻とラムを買った夢を見ました。また行きたいなぁ…。



 ・・・・・・(あたし)の名前は村田イブキ、17歳!!ピッチピチの漢女(おとめ)で、軍人なんだけど武偵もやっているの!!今、相棒のおっさん(お姉さま)と一緒に福州飯店(フーチャオレストラン)の裏口から乗り込むの!!

オエッ!!!!!

俺達はカーターさんの車にあった化粧品を使って女装(笑)をしたのだが・・・どっかのキンジの様にまるで本物の女性の様にな・・・らなかった。俺達の女装は、よく言ってシャーロック・ホームズ(映画 シャーロック・〇ームズ シャドウ ゲーム)の女装、悪く言うと恋姫○双の貂蝉・卑弥呼のようなものになってしまった・・・。

「アハハ・・・観光に来たのに、爆発に巻き込まれて・・・。次は全く似合わない女装して突撃なんて・・・。」

「・・・坊主、口に出すな。余計に意識するだろ。」

「「ハァ・・・。」」

俺達は大きな溜息をつきながら福州飯店(フーチャオレストラン)の裏口へ立った。

トントントン

俺がドアをノックすると中年のコックと思われる人が出てきた。

「こんばんは。ごめんなさいね、こんな時間に。」←俺

コックは怪しさいっぱいで俺達を見る。

「私達、こういうものなの。」←おっさん

おっさんはポリスバッチをコックに見せた。

おっさん(お姉様)(わたし)は、‘‘このお店が違法食品を使っている’’って通報が来たから確認に来たわ。」←俺

俺は吐き気を覚えながら言った。

「・・・え?いやいやいや!!私たちはそんなもの使ってませんよ!!」

コックが慌てながら言った。そりゃそうだ、だって嘘だもの。

(わたし)おっさん(お姉様)だって分かってるわよ。あなた達が使ってないくらい。通報したのだってマークされてる過激な白人至上主義者からよ。でも通報が来たからには形式的にもやらなきゃならないの・・・。全く、この後俺達(わたしたち)用事があったのにパーになっちゃったわ!」←俺

俺はそこで溜息をついた。なんでこんな口調で喋んなきゃなんねぇんだよ。

「それは・・・ご愁傷さまです。」

コックは俺達とあまり関わりたくないようだ。

「安心して、軽く見回ってすぐ出てく行くわ。上の人にわざわざ来てもらう必要はないわ。」←俺

「ゴメンナサイね、迷惑かけて。」←おっさん

うん、おっさんがオカマ口調で喋るとメッチャ気持ち悪いな・・・。

「いえ、お疲れ様です。どうぞ。」

コックが一切目を見ないで入れてくれた。

「ありがとう。じゃぁ見させてもらうわね。」←俺

俺達は裏の厨房から福州飯店(フーチャオレストラン)に潜入した。

 

 

 

 

 

 俺とおっさんは店の中の人目のない廊下で案内役の若いコックを気絶させ、カツラを外し、やっと女装をやめることができた。

「「もうやりたくねぇ・・・。」」

俺達はぼやいた。

「ハァ・・・これ片付けないと・・・。」

俺は気絶した案内役とカツラを隠すために近くの部屋を開けると・・・

「うわぁ・・・。」

「マジかよ・・・。」

その部屋には大量の手榴弾、大量のC4、拳銃やライフル、・・・重機関銃もあらぁ。

「・・・・・・戦争でもやる気かよ。」

俺はまたもぼやいた。・・・とりあえず起爆装置と雷管を破壊しておこう。そうすればC4は使えなくなる。

「・・・これはえらく古い銃だな。」

おっさんは重機関銃を見ていた。この機関銃は布製弾帯を使うようだ。ってことは最早骨董品だな。

 俺達はそれらの武器を細工して部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は廊下の角を曲がった瞬間

ドン!

角から人が急に表れてぶつかってしまった。

「いやぁ、すいません。」

「おう!気をつけろよ!」

男は頭に袋をかぶせた子供を抱えていた。

「「「・・・。」」」

微妙な空気が俺達と担いでいた男の間を支配する。

「助けて!!」

その子供が叫んだ瞬間、その空気が吹き飛んだ。おっさんが男を殴り、その瞬間に俺はその子供を確保する。

「うがぁあああ!!!」

男とおっさんが格闘している間に、子供がかぶせられている袋を取る。

「ひっ!!!」

少女は俺の顔を見て怯えた。・・・メイク落としてなかったな。

「こんばんは、スーヤンお嬢さんだな?俺は武偵で君を助けに来たんだ。・・・このメイクは潜入のためで趣味じゃないぞ。」

少女は頷いた。スーヤンお嬢さんを確保。

「うらぁあああ!!」

ドン!!ガラガラガラ!!

おっさんは男を棚にぶつけ、やっと無力化したようだ。

「ハァ・・・ハァ・・・こういうのは、坊主の仕事だろぉ!!」

「いやぁ、おっさんが先に動いたんで任せてもいいかなって。」

といった瞬間、

ダァンダァンダァンダァン

敵がもう二人現れて拳銃を撃ってきた。

「こっちは人質居るんだぞ!!」

おっさんがスーヤンお嬢さんを担ぎ、俺は14年式とワルサーP38を両手に持ち逃げ出した。奥から悲鳴が聞こえる。客も銃声で驚いたのだろう。俺達は角を曲がろうとすると・・・人の気配!?しかも二人!?チクショウ、やるっきゃねぇ!!

「「動くな!!」」

・・・そこには銃を構えたリーさんと驚いた顔をしているカーターさん、それとショートカットの気の強そうな女性がいた。

「リーさんとカーターさんか・・・。スーヤンお嬢さんを無事確保しましたよ。」

「「「・・・キモッ!!」」」

ブチッ!

「「うるせぇ!!」」

バキッ!!バキッ!!

俺達はついつい二人に手を出してしまった。

「元々これ持ってたのカーターさんじゃないですか!!てやんでぇ!!」

「こっちだって好きでやってねぇんだよ!!」

俺達が喧嘩し始めた瞬間、

「動くな!!」

ライフルを持った男たちが俺らに向けて銃口を向けていた。一部の男たちは武器庫(仮)へ行った。そう言えばあの銃は・・・ってヤバイ!!

「「隠れろ!!」」

俺とおっさんは少女を担ぎつつ、三人を押し倒して近くの部屋に無理やり非難させた瞬間

ドカン!・・・ドカーーン!!

男たちの方向から爆発音が聞こえた。予想以上の・・・可哀想に腔発(今回の場合、銃口を塞いだ状態で発砲による爆発)が手榴弾を爆発させたのか?

「何が起こってるのよ!!」

ん?そういえば武器庫に一部行ってたよな・・・。ってことは・・・。

「全員伏せろ!!」

「「「?」」」

おっさん以外は気づいたようだ。

「急げ!!」

おっさんも言った。おっさんは絨毯に横になり、タバコとライターを出した。三人もシブシブ横になった。

「お嬢さんも横になって!!」

スーヤンお嬢さんも横になった。

「何やってんだ?」

カーターさんがおっさんに聞いた。

「待ってる間吸おうと思ってな。」

おっさんのタバコに火が付き、紫煙を吐き出した瞬間

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

機関銃の掃射が始まった。壁の木片が俺達に降ってくる。

「あたしが何したってのよ!!」

女性が若干ヒステリー気味だが無視しよう。

「おっさん、仕掛けたとこ覚えてるよな。」

「ちゃんとやってやる。・・・爆発に飛び降りに女装に、今度は機銃掃射かよ。」

「戦闘機に追われないからよかったじゃねぇか。」

「フラグ立てんじゃねぇ!!」

ダイ・○―ド4.0で戦闘機に追われるから安心しろ。

 

 機銃掃射が止まるまでの間、俺とおっさんが武器庫(仮)で何をやったか説明しよう。俺達はまずC4用の起爆装置と雷管を1セット残してすべて破壊した。その次に、おっさんは重機関銃を移動できないように床に固定する。俺は布製弾帯の真ん中のほうの銃弾一発を外し、代わりにカーターさんの車にあった口紅を入れる(ちょうどぴったりの大きさだった)。そして、ライフルに口径の違う弾丸を銃口に詰めて塞ぎ、ついでとばかりに銃身に火薬も詰めておく。5丁のライフルの細工が終わったらおっさんも重機関銃の固定が終わった。そして俺は残りのライフルや拳銃は窓から外に捨て、おっさんはC4と残った起爆装置と雷管で爆弾を作ってセットその部屋に隠しておいた。(その時、おっさんが起爆装置のリモコンを壊してしまったので手動でしか動かない)

それでやっと部屋を出たのだが・・・念のための細工がまさか全部使うことになるとは思わなかった・・・。

 

 

 ダダダダダダダダ!!カチンカチン!!

機関銃が止まった。

「おっさん!!」

おっさんは機銃掃射で空いた穴に銃を構えた。

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

ダァン!!・・・ドカーーーーン!!!

壁が吹き飛び、熱風がまたも俺らを襲った。

「君たちはどんだけ仕掛けたんだ!!」

リーさんが文句を言った。

「ここまで爆発すると思わなかったんですよ!!」

実際、部屋一つ爆破する程度しか仕掛けてない。予想以上に性能が良かったようだ。

「逃げるぞ!!」

おっさんが言った。俺達は急いで立ち上がり、外へ出ようと

ダァンダァンダァン!!

まだいるの!?

「急げ!!」

俺達は応戦しながらなんとか外へ出て、そこに止めてあったライトバンの車に乗った。

 

 

 俺達がライトバンに乗って逃走したら、敵も車で追いかけてきた。

「チクショウ!!どんだけ湧いて出てくんだよ!!」

俺はハンドルを握りながら叫んだ。

ダンダンダン!!

敵は銃を撃ってくる。おっさんも応戦しているが、敵の数は減らない。

「あんた達何したの!?」

「落ち着いてくれ、これは捜査だったんだ。偶然店に君がいたんだ。」

女の人とカーターさんが言い合いをしている。そういえばこの女性は誰だ?

「カーターさんこの人は!?」

俺はカーターさんに聞いた。

「彼女はジョンソン。俺の相棒だ。」

「ちょっと待って、私はあんたと組んだ覚えh「ジョンソンさん初めまして、村田維吹です!!捜査の協力をしています!!」」

口喧嘩するくらいならさっさと応戦してほしい。

「スーヤン大丈夫だったかい!?」

「リー!!」

リーさんとスーヤンお嬢さんは感動の再開中。

「とりあえずこれを脱ごう。」

リーさんはスーヤンお嬢さんの上着に手を置いた。

「お前さんはロリコンだったのか!?」

おっさんが冗談を言った。

「ちがう!!爆弾のついた上着を脱がそうとしたんだ!!君たちも知ってるだろ!!」

リーさん冗談だからね。

「スーヤン、脱がすよ。」

「ダメ!!」

・・・声だけだと逮捕案件だな。

「少しでも触ると爆発するって・・・。」

まぁ、そのくらいの細工はするよな。

「・・・はぁ、見せて。」

ジョンソンさんはスーヤンお嬢さんの前に座るとC4製上着を見た。

「触っちゃダメ!!」

「大丈夫、彼女は専門家だ。・・・早く脱がしてやってくれ!」

ジョンソンさんは爆弾処理班出身なのか?

「えぇ、でも慎重にやらないと。」

そういって彼女は起爆装置の解除を始めた。その瞬間、前方から銃を撃ってくる5~6両の車が・・・回り込まれた!?

「坊主!!回り込まれたぞ!!」

「知ってらぁ!!」

今は陸橋の上を走っている。下には渋滞の車の列が見える。この時間でも渋滞かよ。ん?その渋滞の中に車を運ぶトレーラーやコンテナを運んでいるトラックが沢山いる。・・・迷っている暇はないか。

「ジョンソンさん!!解体中止!!みんな何かに捕まって!!」

俺は一気にハンドルを切った。

バキッ!!

俺達の車はガードレールを飛び越え、宙に飛んだ

「「「「「「うわぁあああ!!!」」」」」」

車はうまくトラックの上に着地。そのまま無理やり前進させ、渋滞の中のトラック、トレーラー、そして乗用車の上(字のまんま)を進む。

バキバキバキ!!

「なにやってんだぁ!!」

カーターさんが文句を言う。

「これ以外の方法があったら教えてください!!」

前も後ろも敵がいるんだぞ!!どうしろってんだ!!あ、ランボルギーニの車を潰した。

「ご請求はロス市警かFBI、中国大使館へお願いします・・・ってね!!」

俺は叫んだ。

「……始末書が大変ね。」

ジョンソンさんが他人事のように言った。…ロス市警の皆さんゴメンナサイ。

プルルルル

急に俺のスマホが鳴りだした。…かなめから電話!?

「もしもし!?」

「あ、イブキにぃ?今私達、中国博覧会にいるんだけど、」

「中国博覧会!?」

ベキベキベキ!!

絶賛、車を破壊中。むしろ俺達が捕まるんじゃねぇか?

「時間が空いてるなら一緒にどうかなって?イブキにぃの招待状も来てたし。」

中国博覧会…そういえばハン領事は予定通りそっちに行けって犯人に言われてたっけ?

「そっちにハン領事はいる!?」

「え?…いるけど。」

ってことはFBIの人もいるな。

「いまからそっちに行く!!中で待ってて!!」

「本当!!いぶきにぃ!!」

電話越しでもうれしそうなのが分かる。

「すぐに武装できるようにして待ってて!!あと民間人は避難させて!!ハン領事にお嬢さんを確保したって伝えて!!あと10分もしないで着くから!!」

ダンダンダン!!

敵は橋の上から撃ちだした。面倒な!!

「分かったよ!!あとさっきから破壊音と銃声がk……」

ピッ

電話を切った。

「今から中国博覧会へ行きます!!カーターさんどっち!?」

バゴン!!

俺達の車は渋滞中の上(文字通り)を無理やり抜けて、反対車線に出た。反対車線は空いててよかったぜ!!

「そのまままっすぐだ!!」

「了解!!」

 

 

 

 

 

 

 反対車線に出て数分でまた追手が来た。

「スシ坊!あそこだ!!」

目の前にガラス張りのタワーのようなビルが見えてきた。

「スシ坊はやめてください!!」

ピピピ・・・

またスマホが鳴りだした。…かなめかぁ。

「もしもし!?」

「イブキにぃ?民間人の避難できたけど……。」

「あぁ、もう目の前だから!後正面玄関に誰も行かせないで!!」

ダンダンダンダァンダァン!!

敵の車の一台が回転している。誰かの撃った弾が敵の運転手に当たったらしい。

ドカァーーーン!!

敵の一両が建物にぶつかり爆発炎上。

「ちょ、イブキにぃ!!今のh」

「あ、い、今……電波が悪い……み、見たいで……。」

・・・ピ。

俺は電話を切った。

「できたわ!!でも、まだ起爆可能よ!!」

ジョンソンさんが爆弾を解除したらしい。ジョンソンさんとリーさんは急いでスーヤンお嬢さんからC4製上着を脱がせた。

「ちょっとそれ貸せ!!」

おっさんがC4製上着を要求した。

「何に使うんだ?」

リーさんがおっさんに渡すと、

「…C4か、ビルを思い出すな。」

そう言いながら、おっさんは起爆装置をいじり始めた。

「この数どうしろってんだ!!こっちがハチの巣になっちまう!!!」

カーターさんが叫んだ。

「返品するぜ!!」

おっさんはいじっていたC4製上着を追って車に向かって投げた。

「伏せろ!!」

おっさんが言った瞬間

チュドーーーーン!!!

上着が爆発し、敵の車2~3両が宙を舞った。

「…あんな威力の物をつけさせていたのか。」

「…失敗しなくてよかったわ。」

リーさんとジョンソンさんが引きながら言った。

「まるで映画だな…って、もう距離がねぇ!!突入するからみんな何かに捕まれ!!」

俺は叫んだ。

ガシャーーーーン!!

車は中国博覧会の正面玄関を突き破り、無理やり来場した。

「ご搭乗ありがとうございました。お降りの際は銃を携帯してお降りください。」

「坊主に運転させちゃいけねぇってよくわかったぜ。」

おっさんうるさい。

 

 

 

 

 俺達が車から降りると、会場にいるのはハン領事とトーマス元警視長、会場スタッフとFBIの方々に俺の家族全員、それにマリーさんもいた。…なんではやてを避難させてないんですかね。

「パパ!!」

スーヤンお嬢さんがハン領事のもとに駆け出そうとした瞬間、トーマス元警視長が銃を持ち、ハン領事に向けた。

「つい2か月前まで、ここにある美術品はある一人の所有物だった。……私だ。」

トーマス元警視長がハン領事に銃を向けながら笑顔で言った。

「私は生涯を賭け、ここにある貴重な遺産を少しずつ収集してきた。博物館のずさんな管理から遺産を守るためにね。・・・なのにたった一晩で、私の手から奪われた。今夜は、そのお返しをさせてもらおうと思っていた!!」

その時、FBIの一人が腰の銃に手を伸ばした。

ガチャチャチャ!!

会場スタッフが一斉に銃を俺達に向けた。うわぁ…全員グルかよ。

「その手を下ろせ!!この間抜け!!」

ふくよか一部スキンヘッド刑事がそう言った後、彼はゆっくりと銃を抜き、俺達へ構えた。

「ホイットニー、これはどういうことだ。」

ラス捜査官がふくよか一部スキンヘッド刑事を睨みながら訊ねた。そういえば、この刑事の名前はホイットニーっていうんだ。

「どういうことも何も・・・私はこのお方の部下だ。」

おう、FBIにまで潜んでたのかよ。

「私はこの優れた美術品を取り返すため、そして慰謝料をもらうため、綿密に計画を練っていたのだが・・・予想外なことにこの二人がここに来るとは。不死の男(ダイ・ハード)!!不死の英霊(イモータル・スピリット)!!」

…あぁん!?

ブチ!ブチ!!

何か切れた音がした。

「「俺は悪くねぇ!!」」

「だいたいなんだぁ!!たった数人で計画が倒れるって!!そんな計画建てる奴が悪いんだよ!!」

俺は叫んだ。

「そんなずさんな計画建てて、良く恥ずかしげもなく他人のせいにできるなぁ!!そもそも家族に会いに来たんだ!!こんな計画に巻き込みやがって!!」

おっさんも叫んだ。その時、

「ふふ、ふふふふ。フフフフフフフフ!!!」

急に笑い声が響いた。笑い声は…かなめ!?

「へぇ~、そんなくだらない事のためにあたしとイブキにぃの時間を潰したんだ!そんな非合理なもののために!!」

みんなの視線がかなめに行った。俺はその間に「影の薄くなる技」を使いトーマス元警視長の近くに移動し、銃を持ってる腕をつかんだ。

「「「「「「「!!!」」」」」」」

「あらよっと!」

俺は一本背負いの要領でトーマス元警視長を床にたたきつけ、そのままミゾオチに一発。

「グハッ!!!」

トーマス元警視長は伸びてしまった。

「えっと…また時計が壊れてる。誘拐の罪で逮捕。」

俺は伸びたトーマス元警視長に手錠をかけた。…時計、もっと耐衝撃性の高いものにしたほうがいいのかな。

「「「「「・・・・・・。」」」」」

「アンタらはどうすr、ッ!!!」

ヒュン!!俺に向かって矢が飛んできた。飛んできた方向を見ると・・・ビルを爆破させた銀髪の少女だった。FBIの中にも敵は潜り込んでたんだよな。だったら逃がされるか。

「お前の名は?」

これで三度目、名前は知っておきたい。

「・・・セーr」

リーさんが銀髪の少女の弓を蹴飛ばした。

「や、やれ!!」

敵が撃ち始めた。そうして乱戦が始まった。

 

 

 乱戦は一分もしないで終わった。俺の家族全員がすぐ武装できるようにしたからな(リサはスーヤンお嬢さんと隅に隠れていたけど)。銀髪の少女(セー?)はリーさんがKOし、残りは一瞬で倒されていった。特にネロとはやてが凄かった。ネロは今までの鬱憤を晴らすかのように無双していた。そして、はやては巧みな車椅子捌き(ドリフトは当たり前)で敵の懐に入り、

「一夫多妻去勢拳!!!」

ズドン!!!

そう言って(こぶし)を股間に放つ。・・・やられた男には同情を禁じ得なかった。

 

 

 

 事件が終わった次の日、やっと事件が終って俺達は観光できる・・・はずだった。

「・・・ははは。4泊5日で2日は事件で潰れ、一日半は検査入院に書類や関係各所に謝罪とか。何のためにロスに来たんだろう。」

俺はぼやいた。

「坊主、書類と謝るのやめる代わりに損害賠償するか?額知りたいかぁ?」

おっさんが脅してきた。おっさんも書類を必死に作っている。損害台数はざっと50台強。

「…黙って作業します。」

車を何台も弁償するほどの財産はないからな…。

 検査入院、書類作成、関係各所への謝罪が終わった後のロス旅行はカーターさんオススメの店で俺と家族全員、カーターさん、リーさん、ジョンソンさん、スーヤンお嬢さんにハン領事、おっさんとおっさんの家族でパーティーをやっただけだった。(なお、パーティー全額ハン領事持ち。よっ!!太っ腹!!)

 

 

 

 

「そう言えばはやて。」

「どうしたん?」

「‘‘一夫多妻去勢拳’’って言って敵殴ってたけど、どこで覚えた?」

「タマモお姉ちゃんが私のためにアレンジしてくれたんや!!」

「…そうですか。」

 

 

 

 

 羽田に着いた後、俺は家族と離れてそのままの足で兵部省へ向かった。今回のことを報告するためだ。兵部省の階段を歩いていると

「村田大尉~!」

煤けた矢原 嘉太郎さん(兄者さん)に会った。

「……ってことがサマワであったんですよ。」

サモアだと思っていたらイラクのサマワに行ってしまい、現地の武装集団に襲われて来たらしい。…流石は‘‘撤退の柔らか’’、良く生きて帰ってこれたな。

「…ご愁傷です。俺も……ってことがロサンゼルスであって。」

その時、辻さんが通りかかった。

「ん?二人とも休暇に外国へ行ったと希信は聞いたぞ!!」

「「はい!!行ってまいりました!!」」

「休暇はどうだ!?」

「「ロス(サマワ)で焼かれて(焼いて)来ました!!」」

 

 

 

 

What is it good for? Absolutley nothing...say it again you all!!!

 

 

 

 

 

 

 




 誠に申し訳ありませんが、高校生活一学期編「若頭はないだろ・・・」において、‘‘「雛見沢綿流し祭3泊4日の団体券(最高8人までOKという太っ腹)」のチケットが当たった’’ということにしましたが、その文を消すことにしました。
 高校生活夏休み編において、雛見沢(要は‘‘ひぐらしのなく頃に’’)のクロスを考えていましたが、自分の文才では完結までに最小4ヶ月・最大1年以上かかるとわかり、取り止めることにしました。
 理由としましては、ある程度の骨組みはできていたが、登場人物の口調の把握、いれようとした話の多さによって断念しました。
 この作品「少年士官と緋弾のアリア」が完結、又はある程度見切りが付いてきた時点で、「もし夏休みに雛見沢に行っていたら」を書き始め、UPしようと思います。
 雛見沢綿流し祭3泊4日の事件を楽しみにされていた方々に謝罪いたします。

(いやね、‘‘高校生活一学期編「若頭はないだろ・・・」’’を書いていた時に‘‘相棒×ひぐらしのなく頃に’’のSS読んで感動したから書きたくなったんで、勢いで宣言しちゃったんだよね。)


今回の解説
 福州飯店(フーチャオレストラン)での腔発や機銃掃射、細工の一連は「映画 シャーロック・〇ームズ シャドウ ゲーム」での、列車の中での戦闘シーンがモデルです。

 車の上(字のまんま)を進むシーンは「映画 ダイ・ハード/ラスト・デイ」でのカーチェイスシーンがモデルです。

 文才がないので解説が無いとイメージがわかないと思います。すいません。


 次回、尺のせいで書くのを諦めていた原作にある青春シーン(?)になります!!
(そろそろ登場人物紹介も必要になると思ってきたので書こうと思います)


 Next Ibuki's HINT!! 「サッカーボール」


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サッカー編 スポーツってのもいいな……

 ゴールデンウィークはバイトと遺品整理に駆り出される。……give me 休み





ロスから日本へ戻った次の日、俺はキンジがオカシクなったことを知った。

「イブキ、サッカーやろうぜ!」

「……大丈夫?病院行く?」

「…なんか勘違いしてるだろ。」

なんでも、キンジは単位が足りてなかったそうだ。そこで緊急任務(クエスト・ブースト)で、停学になったサッカー部の代わりに人を集めて出なければいけないらしい。そのサッカー部員たちはダムダム弾とロケット砲、対人地雷の密造のせいで停学になったらしい。…なんとも武偵高らしい理由だな。

「カジノの依頼で足りたんじゃなかったのか?」

キンジはカジノの依頼でギリギリ単位は足りていたはずだ。

「襲撃されたから単位が半分になったんだ。」

……それはご愁傷様。

「キンジ、人は足りてんのか?」

こいつは交友関係が狭い。最悪、11人も集まらないかもしれない。

「…何とか集める。」

現状は足りてないな。流石にキンジが留年は悲しいものがある。

「俺も誰か声かけようか?」

サッカー大会なら爆発とか誘拐とかM関係(魔術関係という意味の隠語・海軍式)に会わないはず……はず……。

「俺の任務だし自分で人を集める。ありがとな。」

人数が集まるか不安だがそこまで言うなら……。

「わかった、頑張れよ。……あ、そういえば。」

「どうした?」

「それ普通のサッカーだよな?銃器使用OKとか超能力とか超次元とかじゃないよな!?」

まさかサッカー部の密造は試合で使うためだった!?

「普通のサッカーだよ……病院行くか?」

てやんでぇ!!正常だ!!

 

 

 

 

 

 俺はキンジと別れ、教務課(マスターズ)で高天原先生にロスの報告をした。

その次の日、キンジに「サッカーの練習のため第二グラウンドに来い」と連絡があったのでそこに向かうと・・・。

「……キンジ、留年おめでとう。」

「時間通りに集まってないだけだからな。」

グラウンドにいたのはキンジ、アリア、理子、レキ、白雪、不知火、武藤の7人。俺を入れても8人しかいない。

「そういえばイブキはサッカーの経験あるのか?」

「安心しろ!俺は足よりも早く手が出る。」

やったことはあるけど、素人同然だぜ!!

「……ボール蹴ってみてくれ。」

俺はリフティングをしてみると・・・12回で落ちた。

「お前下手だなぁ~」

武藤がからかって来た。

「野球ならある程度できるんだけどな。サッカーはあんまりだ。」

俺はそれに乗らずにスルー。野球は敵から奪った野球ボールに偽装した手榴弾をトスバッティングの要領で敵陣に打ち込んだことがあるからそこそこできるんだが、サッカーはなぁ……。

 現在来ている奴らのポジションは、キンジとアリアがFW(フォワード)、レキと不知火に俺がMF(ミッドフィルダー)、白雪と武藤がDF(ディフェンダー)、理子がGK(ゴールキーパー)に決まった。身長が一番でかい武藤がGK(ゴールキーパー)のほうがいいんじゃないか?

「遅れてすまない。サッカーとは何なのか調べていたら手間取ってしまってな。」

この声は……ブルマ姿のジャンヌだった。

「…いやね、君のコスプレ好きは知ってるし、いいと思いますよ。でも、まさかサッカーの練習でもコスプレをするt……」

ベキッ!!

「これ以上しゃべってみろ、今度は殴るぞ。」

「殴った後に言われてもなぁ…。」

俺は殴られた頬を撫でながらいった。

「それにだ、これは日本の伝統的な体操着だ。文献にあったから、わざわざ特殊捜査研究科(CVR)の友人に借りてきたのだぞ。」

……現在ではコスプレぐらいにしか使いません。

「いつの時代の文献を読んだんだよ……ていうかお前、この前‘‘未婚の女性は足を出すな’’とか言ってただろ!?」

キンジがジャンヌを瞳に移さないようにしながら言った。

「遠山。私は、みだりにこのような服を着ているのではない。競泳なら水着、新体操ならレオタード。いかに肌が出ようと、スポーツウェアは正装として認められるのだ。」

「という名目でコスプレをしているわk……。」

バキッ!!

痛い……。

「皆様、遅れてすいません。」

「遅れちゃったかな?」

リサとエルがグランドに来た。

「二人もサッカーをやるのか?」

それは知らなかった。

「いえ、リサはマネージャーとして皆さんをサポートします!!」

フンッと気合を入れるリサ……ということは

「イブキは僕とサッカーをやるのは嫌?」

エルは瞳孔が開いた瞳で俺を見ながら言った。正直不安しかないです。

「イエ、スゴク嬉シイデス。」

俺は自分の心を偽った。瞳孔が開いたエルが怖すぎる。

 キンジがエルにボールを渡した。

「これをあのゴールに向かって蹴ってくれ。」

「これを蹴ればいいのかい?」

「あぁ。」

エルはボールを地面に置き、そのまま軽く足を振り上げ

「えい!」

パァァァン!!!

エルの足がボールに当たった瞬間、ボールは割れて木端微塵(こっぱみじん)になってしまった。

「どうだい?」

「「「「「「……」」」」」」

みんな引いてる。

「エル、ボールを壊さないでもう一回。」

俺はエルにボールを再度渡した。

「分かったよ。」

今度は道端の小石を小突くようにボールを蹴った。

ズドーーーン!!!

大砲を発射したような音が聞こえたと同時にボールは一瞬でゴールまで飛んでいき、ゴールネットを突き破り、明後日の方向へ飛んで行ってしまった。

「キンジ、とりあえずPK要員は決まったな。」

俺はキンジに言った。キンジは頭を抱えた。

 キンジが何とか持ち直した時

ザァアア……

急につむじ風が起きた。

「…風魔………。」

キンジが呟いた。すると、つむじ風の中から手甲をし、手を忍者のように印を組んだ黒髪の少女が現れた。

彼女は諜報科(レザド)の1年 風魔陽菜(ひな)。キンジの戦妹(アミカ)だ。よく腹を空かせている赤貧少女で、バイトに精を出しているのを頻繁に見かける。

……これで11人にマネージャーまでついた。これで何とか試合はできるな。

キンジは風魔さんにボールを蹴らせようとしたところ…

ぐきゅるー

「…し、師匠……任務の前に、何か兵糧を…。」

そう言って風魔さんは倒れてしまった。

「…やき、そば、パン………。」

その一言を吐いて風魔さんは力尽きた。リサが慌てて風魔さんを救護する。

「その・・・サッカーってこんなに難しい競技なんだな。」

俺は不知火に愚痴った。

「…アハハ……。」

不知火も苦笑いするだけだった。

 

 

 

 

 

 さて、まともな練習ができずに8月30日、試合当日になってしまった。対戦相手は一般校・港南体育高校。なんでもそこは去年、都大会で優勝した強豪校らしい。しかもラフプレーも得意だそうだ。

「おいおい、かわいい子ばっかじゃねぇか。」

「これは当たり甲斐がありそうだな。」

「金髪の子プルプルしたい。」

Eu quero ser pisada por uma garota com cabelos verdes(緑色の髪の女の子に踏まれたい)!!!」

「ハァハァ……ちっちゃいピンクの女の子のおみ足……ハァハァ…。」

「おい、黒髪の子の写真を撮っておいてくれ!!言い値で買うから!!!」

港南体育高校のチームはお揃いのユニフォームを着て武者震いをしていた。…武者震いだよね?

 体操服にゼッケンをつけた俺達は円陣を組み、キンジがひと言…

「いいか、俺達h…「俺達はまだキンジ(おもちゃ)に飽きてない!!一緒に進級させるぞ!!」」

「「「「「「「「おぉーー!!」」」」」」」」

…いう前に武藤が号令をかけてしまった。締まらないねぇ……。

 

 

 

 

 

 試合前半は悲惨だった。敵は女の子の胸や尻にわざと体を当ててくる。体格で対抗できる武藤は外人選手にぶっ倒されてしまい、不知火には常に二人が守っている。一回、不知火が奇跡的に敵ゴールまで行きシュートをしたが2mぐらいある外人GK(ゴールキーパー)に弾かれてしまった。結果、0対5でこっちが負けてる。

 リサがスポーツドリンクを配っていたが、キンジは受け取らずにフラフラと誰もいない控室へ行った。……ハァ、このやり方は好きじゃないんだけどなぁ。俺はキンジが向かった部屋に足を進めながら‘‘四次元倉庫’’から一冊の雑誌を取り出した。

「キンジ、何うなだれてんだ。」

「……わかってるだろ。」

キンジは面倒臭そうに俺に答えた。俺はキンジの隣に座ると

「なぁキンジ、勝つ確率が0から50までは上がる方法があるんだが。」

「……」

まともに聞いてないな。

「これ、どう思う?」

俺はそう言って雑誌を見せた。

「ブッ!!!」

キンジが吹いた後、

「……全く、こういうのが嫌いだって知ってるだろう?」

俺はキンジに雑誌(エロ本)を見せた。しかもメチャクチャきわどい奴を(武藤セレクト)。そのおかげでキンジは‘‘白馬の王子様モード’’になったようだ。

「嫌いなのは知ってるが、進級を天秤かけたら嫌でもやるだろ。」

俺はそう言って立った。

「後はよろしくな、キャプテン。」

そう言って部屋を出た。

 

 

 

 

 

「あれ?理子、お前なんでアリアの恰好してんの?」

「……何言ってるの?」

「とりあえずキンジは‘‘白馬の王子様モード’’になったから色仕掛け入らないぞ。」

「……なんでわかるの?」

「前も言ったと思うけど、お前の胸でアリアのかkk「セクハラだよ!!」」

 

 

 

 

 その後、本物のアリアがキンジのいる部屋に行った。そして部屋から出てきたキンジは俺達一同を集め、二つ命令した。

・今までのポジションや理論はすべて忘れていい。

・自分らしくやれ。しかし港南高校を見習ってバレないように。

すると、俺と理子、エル以外は驚いた後、士気が高まった。キンジは何人かに個別指示を出した後、俺達は再びグラウンドに戻った。

 

 

 

 

 

 風が少し強くなったような気がする。後半は俺達からのキックオフだ。センターサークルにはレキ、近くにエルがいる。

ピピーー!!

ホイッスルが鳴ったと同時にレキはエルに正確なパスを出した後、

ズドーーーン!!!

エルが小突いたら、ボールは消えた。

「「「「「「???」」」」」」

ピー!!

ボールは敵のGK(ゴールキーパー)ごとゴールに入ったようだ。まずは1点。

「おい!!ユンカース!!!」

「しっかりしろ!!!」

敵のキーパーは股間を抑えながら泡を吹いて気絶していた。それを見て慌てる敵チーム。

「さぁ…今度はどこを切り落とそうか。」

エルは美しい笑顔をしながら言った。……何人もの男が股間を抑えたのは言うまでもない。

 敵のキーパーが担架で運ばれていった後、港南高校のキックから始まる。

ピッ

ホイッスルが鳴ると同時に俺、キンジ、アリア、不知火にDF(ディフェンダー)の武藤、GK(ゴールキーパー)の理子までも敵陣へ走り出す。敵は笑いながら武偵高のゴールへドリブルを…

「反撃の号砲は受け持とう……我に続け(フォロー・ミー)!!!」

「ぐあぁあああ!!!」

急に地面から腕が出てきて敵の足を掴み、転ばせた。そこを前半では動きの悪かったジャンヌが華麗な足捌きでこぼしたボールを奪う。それをホイッスルが鳴ってから一切動かないエルが見つめる…。

 

  エルが最初のシュートをさせた後、敵は絶対にエルへパスが回らないようにさせるだろう。なので俺はエルに一つ命令した。

「エル。」

「どうしたの?」

「次から敵がエルをマークするからボールはほとんど回ってこないと思う。だから、うまい具合に敵の妨害をしてほしい。」

「わかったよ。」

……あれ?妨害しろって言ったけど、この方法はヤバくない?……まぁ、絶対にバレないけどさ。

 

「星伽!!」

ジャンヌの長い生足からジャンヌは白雪にパスを出す。

「行きます……えい!!」

白雪がそのパスをもらい、蹴るとボールは文字通り火の玉になり敵陣にいる武藤へ一気に飛んでいく

「グハッ!!!」

そのボールを武藤は土手っ腹に食らい、サムズアップをしながら崩れていく。その崩れていく武藤の陰から理子が躍り出る。

「パスッ!!」

理子は不知火の方を向き……その逆方向に蹴る。

「ナイスパス!!!」

俺が‘‘影の薄くなる技’’を解き、フリーの状態で貰う。俺はホイッスルが鳴り敵陣へ向かう途中に‘‘影の薄くなる技’’を使って潜んでいた。港南高校のメンバーは理子が前線に出ているために、誰も気づかなかったようだ。

「お二人さんッ!!」

俺はキンジとアリアの中間の場所にボールをころがした。

「キンジッ!!」

「合わせろアリア!!」

キンジとアリアはボール目がけて左右から走り…

バシュ!!

交差しながら二人はシュートを放った。

ピピー!!

GK(ゴールキーパー)は反応できず、棒立ちのままシュートが刺さった。……さてと、これで勢いはこっちのもんだ。

 

 

 

 

港南高校は一気に崩れた。セオリーにポジションを無視した変則的な動きに、エルによる強制転ばしと殺人シュート(文字通り)からの恐怖心……。むしろ、ここまでやって崩れなかったら勲章物だ。

 結果、キンジとアリアの交差シュートが面白いように入り、残り10分で5対4まで差を詰めた。すると港南高校はDF(ディフェンダー)5人にし、ダラダラと安全なパスばかりして徹底的に守りに入っている。……逃げ切るつもりか、べらんめぇ!!

「お前たち!!それでも男か!!正々堂々勝負しろ!!」

ジャンヌは頭に来たのか敵陣に一人突っ込み、ボールを持っている選手とボールの取り合いをしている。

「クフフフ……。」

そこに理子も加勢した。すると理子の髪が不自然に動き…なるほど。俺は近くの審判とジャンヌとの直線状に立った。その瞬間

「うっ……。」

ジャンヌが思いっきり転倒した。

「「ジャンヌ!!」」

膝を押さえ、地面に付しているジャンヌに俺とキンジは走り近寄った。

「……うっ……くっ……。」

「ジャンヌ!!うわぁあああんジャンヌの足が折れたぁああああ!!バキって言ったぁあああ!!!」

「……君さ、ボールに夢中なのはわかるよ。だけど、これで一生足が動かなくなったらどうすんの?体格差あるんだよ?その歳で責任とれるの?」

苦悶の声を上げるジャンヌに、その場にへたり込んで大泣きする理子、静かに敵選手に抗議(脅迫)する俺。プレーに必死だったDF(ディフェンダー)はボールを放って呆然とし、顔が真っ青になる。

 審判は俺たち4人を見回し

ピッ

港南高校の反則とした。するとジャンヌと理子はスクっと立ち上がり

やったね(yuppi!!)!!」

ハイタッチをした。うん、やっぱりジャンヌはえげつない。

「イブキ。」

ん?ジャンヌが俺を呼んだ。俺はジャンヌの方を向くと……ジャンヌは俺の方へ手の平を向けていた。

「……意外だな。殴られると思った。」

パン

俺とジャンヌはハイタッチをした。

「貴様の協力もあってできたことだ。……か、勘違いするな!!」

ジャンヌは顔をそむけた。……これがツンデレか。

「可愛いところあるじゃねぇか。」

ドスッ

顔を真っ赤にしたジャンヌが審判に見えないように腹パンをした。

「貴様はいつも一言多いのだ!!」

……鳩尾(みぞおち)はないです。

「武偵高、フリーキックだ。」

審判がそう言うと…‥

「エ…エル、出番……。」

地味にダメージが残ってる……。

「イブキ、大丈夫?」

エルが心配してきた。

「大丈夫だ……問題ない。」

「それフラグ!!」

理子が何か言ってるが気にしない。

「わかったよ。」

エルはそう言ってボールの置いてあるところまで歩くと……

「…良い声を聞かせておくれ。」

そう言って美しい笑顔を……。港南高校の選手たちは慌ててグラウンドの隅に避難した。おい…キーパーも避難するんかい。

「…えっと……港南高校、それでいいのか?」

審判が港南高校に聞いていった。審判さん、素が出てます。

「「「「「「ドーゾドーゾ!!!」」」」」」

港南高校の選手たちは怯えながら答えた。……うん、あのエルのシュートの壁になりたくないのはよくわかる。

……ピッ

「えい。」

ズドーーーン!!!

エルは小突くように蹴ると、ボールはゴールネットを突き破り、そのまま壁に埋まってしまった。敵の選手たちは顔を真っ青にしている。 まぁ、これで5対5の同点、しかも残り時間は5分。このままいけば勝てるぞ。

 

得点が入ったので、港南高校のボールからだが

「『こっちだ!!ノールックパス!!』」

理子が敵キャプテンの声を真似し、敵は俺達にボールを渡してしまう。それと同時に俺達全員攻撃の体制に移った。 

この試合は引き分けになったら延長戦がなく、一次予選の勝ち点が多い方が勝ち上がるそうだ。……要は、引き分けは負けだ。

俺達は防御を明後日の方向に投げ捨て、突撃する。キンジの単位のため勝たなければならないというのもあるが……純粋に勝ちたいんだよな。この世界に来てからこういうスポーツにはとことん縁がなかった。久しぶりにスポーツをやるんだ、どうせならば勝って終わりたい。

「イブイブ!!」

ボールを頭上に浮かした理子がオーバヘッドキックで俺にパスする。

「ナイス!!」

俺は‘‘影の薄くなる技’‘を短時間に連続で使いながら敵を抜いていく。

「うおぉおお!!」

敵の一人が俺に特攻をかけた。その瞬間、

「アリア!!」

俺はボールより前に出て(かかと)で後ろに向かって蹴る。俺の体でも小さいアリアを隠すことは可能だ。そのままアリアはボールを受け取り、一気に左へドリブル。

「キンジ!!」

アリアのパスがキンジに届く。そのままキンジはドリブルで敵ゴールまでの突破を目指す。

「負けてたまるかぁああああ!!!」

キンジに向かってDF(ディフェンダー)で港南高校のキャプテンが咆哮しながら突っ込んでいく。

 キンジが港南高校のキャプテンとぶつかりそうになった時、キンジはその場で回転し、そのままキャプテンを抜いていった。

 サッカーの素人である俺にでも、その技を練習なしの本番一発で成功させるキンジはすごいことがよくわかる。……だからあいつはすごいんだ。

「もらうぞ!」

そう言ってキンジはシュートを……大幅に外した。あ、終わった。……なんで右後ろに飛ぶんだよ。ボールの飛んで行った方向を見ると

「忍!!」

風魔さん!?風魔さんはボールに合わしてヘディングをし、ゴールに……

「おらぁあああ!!」

GK(ゴールキーパー)は何とか反応し、ボールをはじいた。

「うかつ!!」

そう言って風魔さんが着地と同時に

ボフン!!

地面を変な動きで踏み、砂煙を発生する。…忍者の家の秘伝の動きとかか?

 宙に浮いたボールを一番に取ったのは俺だった。そのボールをオーバーヘッドシュートでゴールへ叩き込む。……あ、つま先に当たった。ボールは誰もいない、斜め前方へ吹っ飛んでいく。

「自分で蒔いた種は、自分で刈り取るでござるよ!!」

ボールの吹っ飛んでいく方向にある砂塵から風魔さんが急に出てきた。よかった、これでパスということにできる。風魔さんはノーバウンドでボールを蹴り上げた。

「師匠!!アリア殿!!」

そのボールをキンジとアリアが左右から飛び・・・ヘディング!

ピーーーー!!

ボールがゴールの中に入り、笛が鳴った。……試合時間も終わったようだ。

6対5で、都大会優勝したチームに勝った。ヒャッホゥ!!最高だぜ!!!

 

 

 

防弾制服に帯銃・帯剣をした俺は、武偵高の第2グラウンドへ向かった。まだ、さっきまでの試合の興奮が冷めなかったのだろうか。

ポンポンポン………

ボールの音が聞こえる。

「キンジか。何やってんだ?」

「ん?まぁな。」

キンジが一人、何か考えながらボールを蹴っていた。

「あらよっと。」

俺はキンジに向かって走り、ボールを奪った。

「ってめぇ!」

キンジは俺からボールを奪いに来る。

「武藤!!パス!!」

素人の俺ではボールの維持はできない。俺は偶然来ていた武藤にパスした。

「ナイスパス!!」

武藤はキンジからボールを守ろうと

「武藤君、後ろも警戒しないとダメだよ。」

背後から忍び寄った不知火にボールを奪われた。武藤は不知火からボールを奪い返そうと必死だ。

「不知火もな。」

俺は‘‘影の薄くなる技’‘を使って近づき、一気に不知火から奪う。

「イブキは奪えても維持できないな。」

俺のボールをあっさり奪うキンジ。

「キンジテメェ!!」

「不知火パス!」

「させねぇぞ!!」

武藤が不知火へパスが行かないようマークする……。

 

 

 

 日が落ち黄昏時、俺達はボールを片付けた後、水道の蛇口に上半身裸になり頭から水を被った。

「うぁああああ~~~気持ちぃ~~~~」

汗だくで火照った体に水をぶっかける快感を知らない人はいないはず。

「武藤水飛ばすんじゃねぇよ!!」

武藤の水しぶきが俺に当たる。

「狭いからしょうがねぇだろ!?」

「まぁまぁ、村田君も武藤君も落ち着いて。」

「お前ら見苦しいぞ。」

不知火とキンジが止めにかかるが……

「うるせぇ!!水も滴る良い男どもが!!」

「日頃の恨みを知りやがれ!!」

俺と武藤は蛇口に指をつけ、キンジと不知火に水をぶっかける。二人はたまらず逃げたようだ。

「「はっはっはっは!!」」

俺と武藤の勝利の笑い声もつかの間、キンジと不知火はホースを持ってきた。

「お、お前ら!!」

「それは卑怯だろ!?」

「先にやったのはそっちだよ?」

「これでも喰らえ!!」

 

 

 

 

 

 その後、俺達は別れて帰ることになった。

「全くパンツまで濡れちまったよ。」

「風邪ひくなよ。」

俺とキンジは同じ部屋なので、必然と一緒に帰ることになる……。

「……普通の高校生ってのはどうだった?」

「……。」

キンジは少し考え、重い口を開けた瞬間、横からタオルが出てきた。

「キー君、イブイブ、使って!」

フリフリの制服に着替えた理子だった。

「……そう言えば理子にお礼を言ってなかったな。」

「お礼?」

「単位のことだよ。この試合…というか任務は、お前のおかげで請け負えたんだからな。ありがとう。理子。今日は楽しかったよ。たまにはスポーツも悪くないな。」

キンジは顔を背け、理子に言った。

「……勘違いするな。あたしはお前たちとなれ合うつもりなんか、これっぽっちもない。」

理子の口調が鋭くなった。

「スポーツ?そんな下らない事どうでもいい。」

理子は俺達の前に歩き、くるっと俺達の方へ向く。

「この任務はキンジとアリアをより強く結びつけるために拾ってきた道具に過ぎないんだ。お前が3年に上がれず、アリアと疎遠になられちゃあたしが困る。あたしが倒したいアリアは、キンジというパートナーと結びついて完成する。」

「それでも、俺も今回の任務はとてもよかった。ありがとな、理子。」

俺も理子に礼を言った。軍学校卒業してからスポーツなんて無縁だと思ってたからな。理子の顔が赤くなった。

「な~に顔赤くしてるんだよ。」

俺は理子をからかった。

「う…うるさい!!」

「「……ップ」」

俺とキンジは思わず吹いた。

「ちょ!!イブイブ、キー君!!これ以上はプンプンガオーだぞ!!!」

理子が俺の胸をポコポコと殴ってきた。……地味に痛い。俺は理子を無視して歩き出した。

「今日はリサが祝勝でご馳走を作ってくれるらしいから早く帰んないと。」

「ん?もうこんな時間か。」

俺とキンジは走り出した。

「待ってよ!!イブイブ!!キー君。」

 

 

たまにはこんな、武偵高

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り、ご馳走を食べている時、キンジは携帯を見て震えだした。

「あんた、どうしたの?」

アリアが心配そうにキンジに聞く。

「……足りない。」

「は?」

「0.1単位足りない!!」

……なんでも、俺から風魔さんへの最後のパスがオフサイドだったらしい。試合の後、港南高校の猛抗議により、最後の1点が消され5対5に。結果、一次予選で勝ち点が多い港南高校の勝ちになってしまったらしい。

「嘘だろ!!!」

……俺達らしいっちゃらしいな。

 

 

 




 次回は閑話だと思いますが、今作っているのが思いのほか長くなりそうなので一話独立するかもしれません。


Next Ibuki's HINT!! 「ガルパンはいいぞ」


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ガールズ&パンツァー  畑違いなんですけど……

 思いのほか早くできた&この量に閑話はプラスできないと思い独立しました。



 あとがきの説明がちょっと長くなりました。誠にすいません。


 8月31日、俺はある依頼を軍から受けたため、武藤の操縦するヘリに乗って移動していた。

 

 

 

 

 サッカーの試合の二日前、サッカーの練習の休憩中に電話がかかってきた。相手は……辻さん!?

「もしもし。」

「はい!村田です!!」

「村田大尉!息災か!?」

「はっ!ロスでの傷も癒え、元気いっぱいです!!」

「そうか!!……これは希信からの個人的な依頼なのだが、」

意外なことに、あの辻さんが口ごもった。そんなに危険な任務なのか?……いや、それなら辻さんは嬉々としてるな。

「……どんな内容ですか?」

「……希信は村田大尉にある学校へ行き、戦車道を教えてほしいのだ。」

「……え?」

 

 

 

『戦車道……かつては華道・茶道と並び称されるほどの伝統的な文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきた。礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そのなりたちは、日本では‘‘馬上なぎなた’’、欧州では‘‘馬上槍’’であるという説がある』 ということになっているが、実際は全く違う。

 戦後、軍縮のせいで予算と人員が不足した陸軍が苦肉の策としてできたのが‘‘戦車道’’だ。

(第一次世界大戦後のドイツの

「これトラクターだから!!戦力じゃないから!!」

というのを参考に

「これスポーツだから!!戦力じゃないから!!」

ということをしたらしい。)

なので、初期は男子が圧倒的に多かった。しかし、ある時‘‘過激な’’女権団体と結びついてしまい、男子選手が消え、女子の嗜みとなってしまった。そのことで陸軍はブチギレ、資金援助など一切断った。だが、‘‘捨てる神あれば拾う神あり’’今度は文部科学省と国土交通省がバックに着いた。(開発の理由に戦車道で街がぶっ壊されたから……っていい理由!!)しかし、維持費に弾薬費、試合中の大量破壊による住民への賠償などの莫大な資金がメリットに合わない……などの問題で、近年お払い箱になってきている。そんな色々な問題を併せ持つのが戦車道だ。

 

 

 

 

 でもさ、俺、海軍出身だよな……。

「あの……俺は海軍出身で、戦車戦は畑違いなんですが……。」

確かに、戦車は操縦できない事はないけどさ……。

「希信も分かっているが……富士総合火力演習及び富士総合特種演習(総火演)で希信の信用している部隊は忙しい!希信自身もまた海外任務が入った!……だが!!希信の可愛い姪と西の娘の願いは聞いてやりたい!!そこで!!今フリーである村田大尉を希信は指名した。」

西さんとは、辻さんの同期だそうだ。

「教導隊広報部は使わないんですか?」

富士学校富士教導団教導隊広報部とは日本で唯一戦車道を教える部隊だ。ついでに俺の親父が設立したらしい。

「あそこは信用ならん!!」

「そうですか。」

辻さんは教導隊広報部となんかあったのか?

「希信の頼みを……聞いてくれるか?」

「条件付きなら……。」

俺の提示した条件は

・人数及び人員はこっちで選ぶ。

・教えるのは8月31日だけ。

・武偵高の単位が付くこと

この三つだ。

「わかった!!早速希信が武偵高へ申請しておこう!!」

ガチャッ!!ツーツーツー

 

 俺はさっそく武藤へこの話を持って行った。

「8月31日?夏休み最後の日くらい休ませろよ。」

「残念だ武藤、戦車道は女の子が沢山なのに……。」

「イブキ様!!喜んでやらさせていただきます!!」

まずは操縦手を確保。

 次は砲手を確保すべくレキに話を持って行った

「すいません、その日は予定があります。」

「わかった。悪かったな。」

「いえ。」

……続かねぇ。

 その他不知火、理子、アリア、キンジ、ジャンヌに聞いたが断られてしまった。結局……

「おぉ!!これが‘‘へり’’というものか!!見よイブキ!!空を飛んでおるぞ!!」

「あ、主殿……高すぎませんか?」

飛んでいることに興奮するネロと高所恐怖症気味の牛若、

「え……あ、む……むら……。」

それに、偶然空いていた中空知さんの計5人。その5人は辻さんから送られた陸軍の軍服を着てヘリで移動中……メチャクチャ心配です。そういえば、学園艦って日本だよな。学園艦に着いた瞬間から事件に巻き込まれるってことないよな。

「あと五分で着くぞ!」

やけにテンションが高い武藤が言う。

 改めて、今回人選誤ったかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 三段空母の時の赤城に似ている船にヘリが着艦し、俺達が下りると二人の少女がヘリに近づいてきた。

「こんにちは、辻大佐の依頼により戦車道の一日コーチとなりました村田大尉です。」

なお、海軍出身です……とは言わない。……陸軍の軍服は初めて着たから違和感しかしない。

「私は知波単学園戦車道隊長、辻つつじであります!こちらは副隊長の西絹代であります。」

長い黒髪をオールバックにして、額に一房の髪がくるんと巻かれたメガネの少女がいった。

「西絹代です!!」

長い黒髪でナイスバディな少女が元気よく答えた。

少女二人が敬礼したので俺も返礼をする。……あ、海軍式で返礼しちまった。

「今回、大尉殿に来てもらった理由は……」

なんでも、この学校の戦車道の部員は『猪突猛進で堪え性の無い者が多く、時には各自で勝手な判断で突撃に走ってしまうという悪癖がある』そうだ。それを何とか克服し、次回の第63回全国戦車道高校生全国大会で勝利したいと考えているそうだ。……要は意識改革か。いや、よかった。戦車戦の戦術なんて知らないからな。意識改革なら俺にでもできる。だから辻さんは俺に振ったのか。

「分かりました。ではまず、実際の練習を見せてもらってもよろしいですか?」

「はっ!!こちらであります!!」

つつじさん(辻さんじゃ間違えるから)が案内してくれるそうだ。

「おい武藤。」

俺は武藤を小突く

「あんまり鼻の下伸ばすなよ……。」

「悪い悪い。」

武藤は西さんの胸をガン見していた。

「お前らも行くぞ!!」

あちこち見て回るネロ、やっとヘリから降りれたことに安堵する牛若、なんもないところですっころぶ中空知さん……こいつら連れてこなくてよかったじゃん!!!

 

 

 

 

 練習を見て思ったことは、一人ひとりの連度が高いことだ。流石に富士教導隊や北鎮師団(北海道の戦車部隊)、近衛師団の戦車兵に比べれば大人と子供の差だが、下手な戦車兵よりは断然うまい。……が、なんでかさっきから突撃の練習しかしていない。

「いったん集合してください。」

「はっ総員集合!!総員集合!!」

西さんが九七式中戦車についているマイクで伝える。

「武藤、そろそろまじめな顔をしてくれ。」

「おっと。」

ついでにネロと牛若は好きなようにさせている。面倒ごとは減らしておくべきだ。

 

 

 

 今練習をしていた全戦車が集まり、乗員が俺たちの目の前で整列した。

「ひっ……!!」

「中空知さん、怖かったら後ろにいていいからね。」

なんかもごもごと中空知さんが言っているが、今回ばかりは無視させてもらおう。

「皆さん、軍から派遣されました村田大尉です。皆さんに戦車道を今日一日教えることになりました。よろしくお願いします。」

「総員敬礼!!」

ザッ!!

つつじさんの号令で全員が俺に向かって敬礼した。俺も条件反射で返礼を……また海軍式でやっちまった。

「今の練習を見ましたが……なぜ突撃練習ばかりなのでしょうか。あなたたちの戦車は他の学校の戦車に比べれば貧弱です。まともに当たれば一瞬で溶かされるでしょう。これらの戦車を使うなら待ち伏せ、隠蔽……これらは必須のはず。武藤、九七式に九五式は特段機動力に優れているわけではないですよね。」

俺はデレデレしている武藤に話を振った。

「あ、あぁ。九五式なら機動力は悪くはないが、特段いいってわけではないな。」

まじめな顔に戻し、解説をしてくれた。

「何故、突撃の練習ばかりなのでしょうか?」

俺は質問を投げかけた。

「知波単魂であります!!」

「突撃はわが校の伝統であります!!」

やっぱりこう来るか。

「突撃して潔く散るためであります!!」

……あ?

「潔く散るのが本校の伝統であります!!」

「散ることが本懐であるからであります!!」

……あぁ、陸軍で一般から戦車兵になった兵と、戦車道から戦車兵になった兵には溝があるってのは聞いたことがあったけどこういう事か。こいつら、負け=死って思ってないからそんなふざけたこと考えられるのか。……まぁ、スポーツだからそこまで考えなくてもいいんだろうけどさ。今回の任務は意識改革だし……大丈夫だよな。……利根川さん、オラに力を分けてくれ!!

「てやんでぇ!!ぶち殺すぞ、べらんめぇ!!」

シーーーーン

俺は魔力を使い、威圧しながら言った。

「貴様らは勝負における本質を見失っている!!おまえらは負けてばかりいるから、勝つ事の本当の意味が分かっていない!!‘‘勝ったらいいな’’ぐらいにしか考えてこなかった!!だから吶喊(とっかん)ばかりし、負けることも是としたのだ!!いいか!!本来なら負けたら死ぬんだ!!死ぬなんていい方だ!!鉄の棺の中で腕や足がもげ、胴体を鉄片でズタズタにされ、脳や腸をぶちまける!!これが本来の戦車戦だ!!」

知波単の生徒は顔を青ざめる。リアルに想像したのだろう。

「だから、今!!知波単は弱小校になり下がったんだ!!わかるか!?‘‘勝ったらいいな’’じゃない!!‘‘勝たなきゃダメ’’なんだ!!」

全員の目に火がともったような気がした。

「何故知波単で吶喊(とっかん)が持て囃されたかわかるか!?知波単魂?そんなもの狗に食わせろ!!何故持て囃されたか……言うまでもない、ただその戦術で勝ったからだ!!勝てたから持て囃され!!その指揮官に兵は称賛されているんだ!!」

武藤が白い目で見てきた。……うん、そろそろ恥ずかしくなってきた。

「それらに比べお前らはどうだ!!あまりにも幼稚な吶喊(とっかん)だ!!否、吶喊(とっかん)とすらいえない!!本来の吶喊(とっかん)

敵にその瞬間まで悟らせず!!

終わった後、一切の被害がなく!!

全弾貫通しなければならない!!」

ここまで言えばもう吶喊(とっかん)はしないだろう。俺はコインを出し、親指で宙へ飛ばした。皆の視線はコインへ行く。その瞬間に‘‘影の薄くなる技’’で集団のど真ん中に行き、それを解く。

「「「「「「!!!」」」」」

「今の技ができて、初めて吶喊(とっかん)が許されるのだ!!」

そろそろ終わりにしないと……俺の精神が終わる。

「貴様ら!!今まで突撃の真似事をし、戦車戦とまともに向き合わなかった負け組ども!!もう心に刻まなきゃいけない!!勝つことが全てだと!!

勝たなきゃゴミ!!

勝たなきゃクズ!!

1位以外はすべてビリと同じ!!

勝たなければ!!

勝たなければ!!!

勝たなければ!!!!」

最初は静寂が彼女たちの中を支配していたが、今は『勝つぞ!!』コールがやばい。

「勝つぞ!!」

「勝ってやる!!」

「今の技を絶対に覚えて吶喊(とっかん)で勝つぞ!!」

……この子達、将来詐欺とか簡単に引っかかりそうだな。俺はそろそろつらくなったのでその場を離れた。

「武藤軍曹(仮)、車両の隠し方とか動かし方はよろしく。手取り足取り教えられるぞ。」

「おう!!任せとけ!!……お前あの演説はk」

「それ以上言うな。感情の赴くままやっちまったんだ。……あとはよろしくな。」

そう言って俺は武藤から離れ、中空知さんの頭に紙袋をかぶせた。

「これなら緊張せずにしゃべれるでしょ。」

「すいません。ありがとうございます。」

「それじゃぁ、通信のことについてレクチャーお願い。……可愛いのに顔隠すのはもったいないな。」

「むむむむむ村田く、村田君!そそそれ、ほほほほんと「後は自信持てばモテモテだぞ」ッ~~~~!!」

これでキンジにもアプローチできるようになるだろう。ッケ、結局は主人公か。俺はそう思いながらどこかに行ったネロと牛若を探そうと……

「「村田大尉!!」」

つつじさんと西さんが声をかけてきた。

「私!感動しました!!勝つという事を忘れておりました!!」

つつじさんが敬礼しながら言った。……辻さん、あんたの姪が心配です。

「……あ、うん。ほどほどにね。」

「自分もただただ吶喊(とっかん)だけしか考えておりませんでした!!これから勝利のためにさらに技術を磨いていきます!!」

「……うん、頑張ってね。」

俺はそう言ってネロと牛若を探し、指揮官候補生たちに作戦立案の方法を教えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌年の第63回全国戦車道高校生全国大会において、知波単学園は優勝候補の筆頭・黒森峰女学園と一回戦で当たり負けた。しかし、パンターやティーガー・ティーガーⅡを含む黒森峰10両のうち、7両を決勝まで出場困難な状態にさせ、2両を修理不可能の状態に持って行った。そして、その試合のフラッグ車である黒森峰女学園副隊長・逸見エリカの乗機‘‘ティーガーⅡ’’を半壊させた。

『知波単学園侮りがたし』とさせ、再び強豪校の仲間入りをさせた辻つつじ隊長、西絹代副隊長、そして知波単学園の戦車道を改造した立役者・村田某を知波単学園の生徒たちが崇拝し、他校はその三人に注目するようになったのは言うまでもない。

「いや!!俺海軍出身だから!!あの時はただ感情的になってただけだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辻希信は村田イブキ大尉に告げた任務を東京武偵高へ申請した後、東京のとある料亭に向かった。

 辻希信は苦虫を潰したような顔で料亭に入り、ある部屋に案内された。

「廉太!希信は料亭が嫌いというのは知っているだろう!?」

「希信兄さん、遅かったね。……下手なレストランだと聞き耳されるからさ。我慢してよ。」

その部屋には、七三分けでメガネをかけた青年がいた。

「軍の寮舎を使えばいい!!」

「下手な役人が入れるわけないでしょ。」

「ム……。」

辻希信は不満そうに席に座った。

「廉太、本当に生贄になるつもりか?戦車道と学園艦のためだけに?」

「希信兄さんも分かってるでしょ?戦車道と学園艦の横暴さに。」

「知っている……知っているが!!なぜ廉太が生贄にならねばならん!!」

「……疲れたんだよ。『戦車道の試合のためだから』そう言って多額な住民への賠償金に膨大な維持費や弾薬を請求し、懐に収める戦車道。バブルの時に勝手に作って維持費が大変だからって国から多額な支援をしているのにもかかわらず、生徒達にまともな教育をしない学園艦。」

七三分けメガネは感情を押し殺すように言った。

「希信兄さん知ってるかい?金がないからって生徒に大々的に商売させるどころか、テントで寝させる艦まであるんだ。あんな大量にもらっているのにだ!!『生徒の自主独立心を養い高度な学生自治を行う』そんなので育つか!!!」

七三分けメガネはハッと我に返ると、再びトーンを落としていった。

「それに戦車道や学園艦と癒着する企業や政治家……僕はもう…疲れたんだ。だから生贄に志願した。」

「廉太、本当にそれでいいのか?」

辻希信が七三分けメガネに聞いた。

「うん、それに実家の炭焼きも誰かが継がないといけないし。」

そう言って七三分けメガネがビールを辻正信に注ぎ、その後手酌をして飲み干した。

「戦車道のプロリーグを作る噂も僕が作ったんだ。戦車道や学園艦と癒着している政治家や企業のための誘蛾灯としてさ。このままいけば汚職が発覚、今後十年から二十年は戦車道のプロリーグを作るなんてことはできなくなる。」

辻正信が七三分けメガネのコップにビールを注いだ。

「廉太、この希信が聞く。本当にいいんだな?」

辻希信がギロリと七三分けメガネを見た。心の奥底まで見逃さないように……

「あぁ、僕の国家公務員人生全てを賭けて、戦車道と学園艦を潰す。」

 

 




 キンジがこの任務を断った理由
「キンジ、戦車道の任務があるんだけど。」
「女ばっかの武道だろ。」
「そうだけどさ、負ければ0.1単位足りないぞ。」
「……0.1ぐらい何とかする。」
「……わかった。」


 

緋弾のアリアの世界で日本軍がいる現代に戦車道がある理由を考えると…陸軍の隠れ蓑って言うのが自然なんですよね。

 戦後、陸軍が練度と兵数の維持のために戦車道を作る
  ↓
 有名な戦車兵やその妻(主に未亡人)を起用する
  ↓
 未亡人達が‘‘過激な’’女権団体と結びつく
  ↓
 戦車道から男が一気に減る
  ↓
 陸軍ブチギレ、縁を切る
  ↓
 国交省、文科省が地域開発の理由作り&自分たちの領域にあった軍の権力を奪い返すため、戦車道のバックになる
  ↓
 戦車道の汚職や必要経費が莫大で、国交省や文科省が疑問を持つ←now!!

 『夫が軍のせいで死んだのに、私達まで軍のために働かされるの!?』と憤慨した未亡人達が‘‘過激な’’女権団体と結びつくのは必然……
あくまで‘‘過激な’’女権団体なので、実際に存在する女権団体を批判するつもりは一切ありません。
(でも、女性で壁を作って『触ったらセクハラで訴える!!』っと言い、通せんぼするのはどうk……。)

 
 
 ついでに学園艦については
 
 海軍が超大型艦の建造技術を積むため学園艦クラスの船を計画
  ↓
 莫大な建造費、維持費のために民間からの投資も考える
  ↓
 学園艦という理由で2~3隻作る(その艦の建造費、維持費の一部は軍が負担)
  ↓
 バブルで学園艦を作る学校が急増(自前)
  ↓
 バブルが弾け、学園艦を維持するため国を頼る。
  ↓
 海の上のなので監視が緩いため、多額の支援金を懐に入れる学校が急増←now!!

という理由で作られてます。


 
 ‘‘一般から戦車兵になった兵と、戦車道から戦車兵になった兵には溝がある’’というのは、武道か、殺し合いかの意識の違いです。イブキの父はその問題を教導隊広報部という部署を作って
「そこの部隊以外は戦車道教えないから、それ以外の部隊は実戦と思って訓練しろよ。」
とさせました。ついでに蝶野亜美はその部隊所属です。


 
 ガルパンで、文科省のある役人を主人公にした物語はありますが、その悪逆非道な行為までも肯定した物語がないな……と思って書きました。
 あそこまで悪辣な事をやるのは何故か……と思い、考えてました。


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閑話:高校生活夏休み編

 これで長かった夏休み編が終わる……。なんか感慨深いですね。

 ダイハード3をどこで入れようかいまだに迷っています。


1:粉雪と俺と武偵

俺が戦車道の任務を受けた翌日、

「ただいまぁ~……。」

任務の人数を必死で集めたり、矢原嘉太郎(やわら かたろう)伍長から戦車戦のことについて教わって帰るのが遅くなった。

「違います。私は武偵高なんて大っ嫌いです。ここはお姉さまが星伽を出る原因となり、お兄ちゃんを何度も怪我を、挙句の果てには瀕死の怪我をさせた場所ですから。」

俺はリビングに入るとキンジと白雪、リサとTVを見ている粉雪がいた。……あれ?粉雪が何でここに?

「え…‥粉雪か?いやぁ……大きくなったなぁ、中三だっけか。」

ついでに美少女になってまぁ…‥。

「お兄ちゃん!!」

粉雪が俺に抱き着いてきた。

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!」

粉雪は俺を呼びながら頭を腹に擦り付けてくる。しばらくそうしていると、満足したのだろうか粉雪は離れた。そしてトロンとした顔を凛々しい顔に戻し

「お兄ちゃん!!正座!!」

「……え?」

「…お兄ちゃん、‘‘危ない真似はしない’‘って言いましたよね。」

「‘‘危ない真似はしないようにする’‘って言ったような気が……。」

「……SE・I・ZAしてください。」

「ハイ……。」

瞳孔が開いた眼で脅されれば、誰だって言いなりになると思うんだ。

「お兄ちゃん!!何回危ない目に合ったんですか!!」

「……いつから数えてですか。」

……多すぎて何時からかを言ってくれないと分からねぇ。

「武偵高に入ってからです!!」

……事件数を考えよう、そうしないとメチャクチャ多くなる。理子、ジャンヌ、ブラド、シャーロックで4つ。夏休みの2つを合わして6つ……。多すぎねぇか!?

「6回です……。」

「お兄ちゃん!!もっと危ない目に合ってるのは知ってるんですよ!!どれだけ心配したと……。」

それから粉雪の説教が始まった。俺は正座のまま延々と続く説教を聞いていた。

「……私が、お兄ちゃんが死んだって聞いた時どう思ったかわかりますか!?」

「……スイマセン。」

粉雪の目には涙が溜まっていた。……悪いのはわかってます、心配なのも分かってます。でも、俺は巻き込まれた場合が多いような気が……

「お兄ちゃん!!わかりましたか!?」

「……ハイ。」

ようやく説教が終わった。あぁ……今日は疲れたな。家に帰りたい……ここじゃん!

「あの、キンちゃん、イブキ君。」

粉雪の説教が終わり、TVを見始めた粉雪を尻目に白雪が小声で話しかけてきた。

「粉雪は星伽の伝言を届けに来ててね……できそうなら私とイブキ君を武偵高から連れ出そうとしているみたいなの。だから武偵高ってどんなお仕事なのか……少なくとも悪い物じゃないってあの子に理解してもらった方が……ご、ゴメンねキンちゃん。私情も含めちゃって……。」

うん、ちょっと待とうか。

「白雪、なんで俺を連れ戻そうと?」

何で俺を連れ戻す?星伽に軍へ介入できる力でもあるのか?

「あれ?イブキ君は聞いてないの?イブキ君は粉雪と……」

「お兄ちゃん!!こっちに来てください!!」

俺は白雪から重要な部分を聞けず、粉雪に手を引かれてソファーへ連れて行かれた。

「座ってください!」

「はぁ……」

俺はおとなしくソファーに座った。俺の横に粉雪が座り、俺の腕に抱き着いた。

「こ、これは私を心配した罰なんですからね!!」

……顔お真っ赤にさせてTVを見ながら粉雪は言った。久しぶりに会った妹分だ、わがままには付き合おう。

「……粉雪、明日の午前中、付き合ってもらうぞ。」

武偵高の見学だっけか。

「ハイ……これはお姉さまのご命令ですから。私はお姉さまのご命令にはなんでも従います……が、条件があります。」

白雪が目を見開いた。

「お兄ちゃんも一緒じゃないと嫌です!」

……。キンジが俺を見た。……ショウガナイ。

「俺も行く。これでいいか粉雪?」

「はい!!!」

そう言えば白雪は何と言おうとしたんだろうか。

 

 

 

 

 

 さて、武偵高校の施設はとても充実している。下手な軍学校より断然いい。もともと羽田国際空港の増設予定滑走路であった人工浮島のため面積はかなり大きい。その広大な面積に武偵庁や武偵企業からの援助があるからだ。……全く、羨ましい限りで。

 例えば車輛科(ロジ)だと15歳から普通免許が取得でき、情報科(インフォルマ)通信科(コネクト)だと最新のPCや携帯端末などを支給してくれるそうで……。

 そういう事で、武偵高を見学した中学生は普通、気に入ってくれるそうだ。しかし……粉雪は不機嫌だった。超能力捜査研究科(SSR)は白雪が所属のためか多少興味を持っていたようだが、その他の学科は不機嫌のまま……キンジをずっと睨んでいた。……まぁ、粉雪はキンジじゃなくて俺に懐いていたからこうなのかもしれない。

「お兄ちゃん!」

「どうした?」

「次はお兄ちゃんの学科ですね!」

「……うん、そうだね。」

俺達が向かうのは、我らがキンジの古巣にて俺の所属させられた学科・強襲科(アサルト)だ。ここに所属する生徒は血の気が多いから気を付けないと……。

 強襲科(アサルト)の黒い体育館のような訓練施設の前に着いた。

「粉雪、ここは薬莢がゴロゴロ落ちてるから足元気を付けて。結構な人数がこれで転ぶんだ。」

俺は粉雪に注意した。

「わかりました!」

そう言って施設に入ると……

ガシッ バキッ ドカッ 

「この野郎死にやがれ!!」 

「てめぇこそ死ね!!」

「そいつをよこせ!!」

5人ほどの1年坊主が軽装備で殴り合っていた。……水着写真集の取り合いでこうなっているようだ。

「……。」

粉雪は……ゴミを見るような目とはこんなこと言うんだなぁ……。

 俺はその集団に近づき

ダンダンダン!!!

14年式を天井に向かって発砲した。1年達は俺を確認し、急いで喧嘩をやめた。

「よぉ一年、随分元気が有り余ってるようだな。」

「す、スイマセン!!村田先輩!!」

坊主頭の一人が謝った。

「「「「スイマセン!!」」」」

「いやいや、俺もこういうのは元気があっていいと思う。俺は否定しないさ。でも、今入学希望者の見学が入った。見えないところでやれ、いいな?

「「「「「ハイ!!!」」」」」

「総員駆け足!!始め!!」

脱兎の如く一年は施設を走って出ていった。俺は二人の元へ戻り

「じゃ、見学開始しますか。」

 

 

 

 夏休みで誰もいないため、見学はスムーズに終わった。映画の撮影所のような実物大の突入訓練室に、動く的のある射撃場、座学室では射撃に関する初歩理論をキンジがレクチャーした。

 しかし粉雪は無関心、座学中でも俺にしゃべりかける。

「……以上で見学は終了だ。他に見たいところはあるか?」

俺達は薬莢を踏まないように廊下を歩いていた。

「いいえ、もう充分です。」

粉雪は横に首を振りながら言った。

「武偵高がいかに乱暴かわかりましたから。」

「……乱暴なのは否定できないけど、まぁ暴力的でない学科もあっただろ?」

俺は一応この学校のフォローをした。

「いいえ、彼らも同じ穴のむじなです。そもそも、金銭のために武力を用いるという行為が卑しいものですし。清廉たるべきお姉さまとお兄ちゃんがそのような場所にいるなんて……私には耐えがたいことです!!」

うーーーん……。確かに、分からないこともない。でも、今の時代で完全に無償で働くのはあまりいないわけで……。というか、近代の戦争は経済的な理由があることが多いわけで……。

「逆に考えてみろよ、粉雪。供給の逆には需要がある。金を払ってでも解決したい問題を抱えている人が、今の日本は増えているんだ。通り魔や強殺、ストーカーや窃盗と言った犯罪は増える一方だし、警察は人手不足だろ?だから世の中には武偵が必要n……。」

「逆に考えるべきは遠山様です!!」

キンジと粉雪が喧嘩を始めた。

「そんな問題に巻きk……。」

「お前ら落ち着けって。確かにどっちも正しい。巻き込まれないようにするのは当たり前だし、そうしていても事件に巻き込まれる。それでいいj……。」

「お兄ちゃん!!そんな事はどうでもいいのです!!とにかく私は!!武偵高が!!武偵が大っ嫌いなのです!!武偵高のせいでお姉さまは星伽を出て行ってしまい!!お兄ちゃんを危険な目に合わせて!!」

……ゴメン、武偵高でも軍でも危険と隣り合わせなんだ。まぁ、頻度は多少上がったけどさ。

「粉雪、いったん帰ろう。ここは議論する場所じゃない。」

俺は移動を提案した。

「そうだな……忘れ物はないな?空薬莢に気をつけろよ。また救護科(アンビュラス)を見学する羽目になるからな。」

すると、粉雪は襟元を整え、雰囲気を変えた。

「はい……では、遠山様、お兄ちゃん。お仕事が終わったようですので、お伝えしたいことがあります。」

「……どうした?急に。」

「なんだよ。」

「実は昨夜、お二人についての‘‘(たく)’’が降りました。星伽の巫女の巫女の義務で、一昼夜のうちにお伝えしなければならない事になっていますから……少々唐突ですが、今お伝えします。」

「……吉兆の一種だっけか?」

俺は昔、星伽神社で小っちゃい頃の粉雪がたどたどしく言っていたのを思い出した。

「そうです。」

そういった後、粉雪はすごく、すっごく嫌そうな顔をした。

「遠山様は今月中に求婚されます。」

「「だ、誰にだよ。」」

俺達は思わず聞き返した。

「知りません。ただ、間違ってもお姉さまではありません。それは確実です。」

「知りませんってお前無責任だn……「まぁまぁ。で、俺はどうだい?」」

喧嘩の芽は早めに摘むのが一番だ。

「お、お兄ちゃんは……」

粉雪が顔を真っ赤にした。

「変態に会います。」

……ゑ?

「へ、変態に会う?」

「……ハイ。正確にはさせてしまうというのがあってるかも……。」

……調教!?

「……お前そんな趣味があtt……「ねぇよ!!!」」

……まぁ、変態に会うのはあり得るとしても、させるってどういうことだよ。

「今日は疲れたし帰ろう……うん。」

俺は足早に帰ることにした。

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん、まってくだs……」

ズルッ

ドンッ

ベキッ

「ッ~~~~!!!!」

粉雪が薬莢を踏んで転び、そのまま俺の背中にぶつかった。俺と粉雪はそのまま倒れ、俺の鼻と額は床に勢いよくキスすることになった。

「お、お兄ちゃん!!!大丈夫!!」

 

 

 

 俺は粉雪に部屋で手当をしてもらった後、辻さんから送られてきた軍服の試着や、今まであったことを粉雪に話していると白雪が帰ってきた。

「お姉さま!!おかえりなさい!!」

そう言って白雪に張り付く粉雪。……ちょっと度が過ぎてるような気がしないでもないけど、仲良きことはいいことだ。

 

 

 

 

 

 さて、白雪・粉雪・リサの飯を食べた後、粉雪は8時までに寝ないのは不衛生だと言って俺らを寝室に追いやった。キンジは諦めてベットに潜り、俺はシャーロックからもらった青と金で装飾された両刃剣を調べていた。

試しにその剣に魔力を通してみると発光することが分かり、以後その剣は懐中電灯代わりに使われていくことが多くなるが、そのことは割愛する。

 

 

 

 

剣のことが分かり、ベッドに潜ってウトウトしていると

ポスッ

何かやわらかいものが倒れたような音が聞こえる。俺はのそのそと起きてリビングを見ると、粉雪と目が合った。

「ッ~~~~~~!!!」

ファッションに疎い俺でもわかるほど、粉雪はおしゃれをして廊下に向かうところだった。

「粉雪。」

「……ハイ。」

「リビングで待ってて、着替えてくる。」

「え?」

俺は自室に行って着替えを始めた。……そうだな。俺の私服じゃ粉雪と釣り合わないし、たまにはこいつを着るか。

 

 

 

 

 第二種軍装に着替えた俺はリビングへ戻った。そこにはソファーに座ってうつむいている粉雪がいた。

「粉雪、明日帰るんだろ?」

「……ハイ。」

「じゃぁ、今晩付き合ってもらえるか?実は東京のことをあまり知らなくてな。私服もTシャツとズボンぐらいしかない。……一緒に東京散策にでも行かないか?」

「……!?はい!!お兄ちゃん!!」

俺は粉雪を連れて夜の東京へ出た。

 

 

 

 粉雪に切符の買い方を教え、モノレールに乗った。粉雪曰く、行先はお台場。

 お台場に着くと粉雪は大量の付箋が付いたタウンガイドを出し、

「お兄ちゃん!!こっち!!」

俺の手を握りながら歩き出す。……背後からキンジと白雪の気配を感じる、心配だから来たのか?

「そんなに急ぐと転ぶぞ。」

俺はそう言いながらついていくことにした。

 粉雪が向かったのは‘‘ウィーナスフォード’’という女性向けのショッピングテーマパークらしい。粉雪に連れられて来て初めて知ったよ。

 粉雪は雑貨、靴屋、服屋などで大量の紙袋を量産した。……本来だったら奢ってあげるところなんだろうけど、額と数がね。銀行の武器用の口座を抜いた俺の全財産より粉雪の財布の中のほうが数倍も多かったし……。

 俺は粉雪の大量の紙袋を持ち歩いた。すると、粉雪は休憩がてら洒落たオープンカフェに入った。そこで粉雪は小さな塔のようなパフェを注文した。

「おいし~~~!!」

「それはよかった。」

粉雪がパフェを食べて、ふにゅ~っとした笑顔で両手で頬を抑える。うん、可愛い。俺はそう思いながら紅茶を啜る。

「お兄ちゃん!!あーん」

「え?」

「あ~ん!」

「……あ~ん」

うん、甘い。そういえばパフェを食べたのは何年ぶりだっただろうか。そう思いながら顔を真っ赤にする粉雪を見る。照れ隠しなのかパフェをパクパクと食べていく。……たまには、こんな風に癒されるのもいいなぁ。紅茶はぬるくなっていた。

 

 

 カフェの代金くらい俺に払わせてくれ。いいからいいから外に出てて。………こんなにするのか。

 

 

 そろそろ終電が近いので帰ることにした。自由の女神像を経由し、ホテル日航を回り込むように台場駅へ向かうそうだ。……こんなのあったのか。俺はそう思いながら粉雪を見た。

「お兄ちゃん!今日はとても楽しかったです!!」

「それはよかった。」

俺は大量の荷物を持ちながら粉雪に微笑んだ。始めて会った頃に比べて、粉雪はだいぶ成長した。粉雪は潮風に美しい黒髪をなびかせながら、名残惜しそうに東京の夜景を見ている。……彼女はもう、始めて会った頃の彼女ではないことを実感させられた。時が経つのも早いものだ。

「お兄ちゃん。」

「どうした?」

「……花火の時のこと、覚えていますか?」

「リヤカーに姉妹乗っけて行ったな。」

「私……今でも覚えてます、あの時の事。」

「あの後、別れるのが嫌で泣いていた粉雪も覚えてるぞ。」

「ちょ!!忘れてください!!」

「てやんでぃ、あんなかわいい頃の事を忘れてたまるか!」

「……そういえばお兄ちゃん。」

「なんだ?」

冗談はもうやめておこう。

「星伽とお兄ちゃんの両親との約束って知っていますか?」

「……ごめん。分からない。二人とも死んじまったし。」

「星伽が軍に協力する見返りに村田家から一人m……。」

「こんばんはー!!いっぱい買い物したねぇ?お二人さん!!」

前方から6~7人程度の団体(大学生か?)が声をかけてきた。……大事な話をするときに邪魔すんじゃねぇよ。

「ちょっと悪いんだけどお金貸してくんない?」

「君可愛いね。こんな奴おいて一緒に遊ばない?」

おいおい、軍服姿の人間が隣にいるのにこんなことやるのかよ……。あ、荷物のせいで軍服が見えないのか。

「の、退きなさい!!星伽の巫女は悪従の威迫には応じません!!」

粉雪がキッと睨むと、男たちは一気に態度を急変し

「あぁ!?」

「犯すぞおらぁ!!」

「日本語しゃべれやクソガキ!!」

「ッヒ!!」

ハァ……なんでこんな奴らに合わなきゃいけないんだ。そう思いながら俺は荷物を地面に置いた。

「おまえら、これ以上にしないととっ捕まえるぞ。」

「ッ!!」

やっとどんな奴に喧嘩を売ったのか分かったのだろう。……なんで向こうは拳銃を持ってるんだよ。ガラの悪い男たちの一人に銃を持った者がいた。あれはトカレフ系統の拳銃だ。劣化コピーもあり得る面倒な奴だな。

「その銃寄越してさっさと失せろ。お前ら捕まえて警察に突き出すのは面倒なんだ。」

終電に間に合わなくなるからな。俺は銃を持った男に近づくと

「それ!」

リーさん直伝、‘‘拳銃奪い(仮)’’でその銃(純正トカレフじゃないな)を奪った。

「……そ、それはやる。う、撃つなよ!!」

そう言って男たちは逃げ出した。……こいつどうしよう。俺はとりあえず‘‘四次元倉庫’’にそのトカレフモドキを投げ入れた。

「お、お兄ちゃん……。」

粉雪は地面にフラフラとしゃがみこんだ。

「大丈夫だったか?」

俺は粉雪の頭をなでながら後ろの茂みと電柱の上を見た。やはり茂みにはキンジが、電柱には白雪がいた。俺は二人に目配せをした。

「要人警護はともかく、民間人を危険から未然に防ぐことは警察にはできない。お役所だからね。だから、武偵も一概に悪くはないとは思う。」

俺はそう言って粉雪を立たせ、モノレールへ向かった。

 

 

 そういえば、白雪は巫女服だったけど、あんなとこにいてパンツは見られないのだろうか?

「お兄ちゃん!!ほかの女の人のこと考えてたでしょ!!」

「え?……いや、巫女服って動き制限されるよなって。」

「???」

嘘はついてない。

 

 

 

 翌朝、俺とキンジの部屋に星伽の運転手のお姉さんが来た。すると粉雪は風呂敷包みを運転手に渡した後、廊下で正座し三つ指をついた。

「逗留中、何から何までお世話になりました。お兄ちゃん、お姉さま、遠山様、ごきげんよう……。」

 

 

 締まりが悪いので車まで見送ることにした。一階につくと、粉雪がキンジに話しかけた。

「遠山様、一つお謝りしたいことがあります。」

「謝る?」

「はい。私は武偵高と武偵を侮辱するようなことを言いました。」

「あ、あぁ。」

「でも、その……昨夜、私は認識を改めました。まだ好きに離れませんが……今の世の中では、このような仕事も必要になってきているのではないかと。」

昨日の件でわかったのかな。

「……そうか。まぁ気が向いたらまた見学に来いよ。」

「はい、また来ます。今度は本当の‘‘学校見学’’に……。」

「本当の?」

ん?もしかして……。

「はい、お姉さまは結局、星伽に帰る御意思はないとおっしゃり、お兄ちゃんも星伽に来てくれそうにないので……私、逆に考えたのです!それなら、私が来ればお兄ちゃんとお姉さまと一緒にいられるのではないかと……。」

そう言って、今度は満面の笑みで俺の方に振り向いた。

「お兄ちゃんにふさわしい女になってまた来ます!!不束者ですが、何ぞとよろしくお願いします!!お兄ちゃん!!!」

「てやんでぃ、あたぼうよ!!」

俺はそう言って粉雪の頭を撫でまわした。全く、この妹分は前に会った時よりも可憐に美しくなっていた。

 

 

 

 

 

 あれ?結局、‘‘星伽と俺の両親との約束’’って何なんだ?

 嫌な予感がしたのでその思考はやめた。

 

 

 

 

 

 

2:エキシビジョンマッチに至るまで

これは、翌年の第63回全国戦車道高校生全国大会の後の話。

 

 

 

 

 知波単学園はエキシビジョンマッチ参加を受諾した。

「西殿!!村田大尉殿を呼びましょう!!」

「大尉殿に我々の成長をお見せしましょう!!」

「むしろエキシビジョンマッチに参加してもらいましょう!!」

「いや、それはさすがに……。」

それは無理だろうと絹代は思った。一人で動かせる戦車ないし……。

「そもそも一人で動かせる戦車がないぞ。」

「倉庫に眠っている‘‘くーげるなんとか’’があるのであります!!」

「‘‘クーゲルパンツァー’’か……。」

確かに、村田大尉殿に我々の成長を直に感じてもらいたい。そして、あの村田大尉殿があの戦車をどう使うのか知りたい……。

「他の校の許可が出たら一緒に出てもらおう。」

「「「「「うぉおおおおおお!!!」」」」」

「い、いや。まだ決まったわけでは……。」

「「「「「バンザーーーイ!!!」」」」」

 

 

 後日、大洗、聖グロ、プラウダに問い合わせたところ許可が下りた。(なんでもどの校が調べても、知波単を改造した村田某陸軍大尉の情報は見つからなかったそうだ。)そのため試合前日に知波単学園が戦車10両以上でイブキを拉致しに来たのは言うまでもない。

「先に言っとけよ!!!というか俺、海軍出身!!!畑違いだから!!!何なの、その‘‘くーげるぱんつぁー’’って!?」

 

 

 

 

3:八神家発足?

8月31日の夜、俺は知波単学園学園艦から戻った。

「ただいま~。」

俺は寮のリビングに入ると見知らぬ4人組がいた。

バタン

俺はリビングの扉を閉め、玄関まで戻り部屋番号を確認した。……うん、合っている。

「イブキ兄ちゃん!!お帰りなさい!!」

リビングに戻ると、はやて、リサ、玉藻……そして見知らぬ4人組。……客か?

「ただいま。」

そういえば、はやては玉藻と俺の実家に住んでいる。玉藻が一人でさびしい&昼間誰も世話が出来ないためにそうなった。……うん、グレアミだったか、グレアムだったか、その人のこと批判できねぇな。

「えっと……玉藻さん?この人たちは?」

「はやてちゃんが呼んだサーウァントもどき……というか式神に近い存在ですねぇ。」

……はやて、君はどうやってそんな存在を呼び出したんだ?まぁ、とりあえず挨拶を……

「はじめまして、村田維吹です。海軍軍人で、軍の命令により武偵に出向中です。はやての兄です。」

深いことは言わないことにする。とりあえずさぁ……睨むのやめてほしいなぁって。ほら、警戒するのは分かるけど、初対面には笑顔で接しないと…ねぇ。

「烈火の将、剣の騎士シグナム。」

ピンクの髪をポニーテルにした、胸が大きい女性が言った。……さっきからこの人が一番睨んでくる。

「風の癒し手、湖の騎士シャマル。」

金髪ショートヘアでおっとり笑っているが、その目は一挙一動を見逃さないようにギロリと俺を見る。

「蒼き狼、盾の守護獣ザーフィラ。」

ガチムチの兄ちゃんが獣耳を付けている……多分、こいつがある意味一番の危険人物だ。

「紅の鉄騎、鉄槌の騎士ウィータ。」

はやてぐらいの、赤毛おさげの女の子が言った。

「ところで主はやて、この男は信用できるのですか?莫大な魔力を持っています。」

……あれか?昔、聖杯を取り込んだからか?

「イブキ兄ちゃんは私の家族や!!信用できないなんてありえへん!!」

「しかsh……」

バーーーン!!

「主殿!!宴会と聞き、漁師からアナゴとスズキをいただいてまいりました!!」

牛若がドアを蹴破り、発泡スチロールの箱を抱えて部屋に入ってきた。

「え、宴会?」

宴会なんて聞いてないぞ!?

「互いに分かり合うには、お酒飲んで腹を割って話すのが一番と、玉藻は思ったので~。あと、旅行中は全員でほとんど食事は出来なかったですし……」

玉藻が言った。

 その後、野菜を抱えてきたエル、ワインを持ってきたネロとジャンヌ、パンを焼いてきたニト、果物を持ってきた理子、それに教師陣の師匠・ベオウルフ・エジソンが来て宴会(酒あり)が始まった。

 

 

 

 

 

「あれ?そういえば何でお前らいるの?」

俺は理子とジャンヌに聞いた。

「む~、イブイブは理子りんがいるとお酒がまずくなるの?」

「いや、そういう訳じゃないけど……。」

「まぁまぁ、イブイブ、どうぞどうぞ。」

「いやぁ~悪いねぇ~。」

俺は考えるのをやめた。

「ほう…このワインはなかなかいいな。」

「そうであろう、そうであろう!!」

ネロとジャンヌは意外に仲がよさそうだ。

 

 

 

 

 この宴会によって4人組(ウォルケンリッターというらしい。)と仲が良くなった。それとシグナムさんの酔うと脱ぐ癖が皆に知れ渡ったのは言うまでも無い。

 

 




 実はもう一つ閑話で『四国R-14』のキャラ(又はモチーフ)を登場させようと思ったのですが、規約に引っかかるかどうか分からないので諦めることにしました。
「和泉君、僕たち出れないようだねぇ!!!」←額と声が大きい男
「うるさいよ!!うどんでも啜ってなさいよ!!マスターも一言言ってよ!!」←もじゃ男
「いやぁ~断念だなぁ~」←顔は二枚目、雰囲気三枚目
「……」←ビデオを撮る、離れ目メガネ
「……」←何かポーズをする着ぐるみ


上の会話はいつでも消す準備があります。



解説
・‘‘ウィーナスフォード’’という架空の場所です。
・知波単学園にクーゲルパンツァーがあるのはオリ設定です。
・同じくシグナムの脱ぎ癖もオリ設定です。

 




 Next Ibuki's HINT!! 「中華の姫」


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高校生活2学期編
キンジ、お前また女問題かい……


 夏休み編がおわり、やっと2学期……。心機一転、頑張ります!!



9月1日、一般であれば本日は防災の日だろう。しかし、武偵高では、世界初の武偵高……ローマ武偵高校の制服を模した‘‘防弾制服・黒(デウィーザ・ネロ)’’と言う真っ黒な制服を着るのが国際的な慣例だそうだ。

 さて、講堂には大量に並べられたパイプ椅子に座った‘‘防弾制服・黒(デウィーザ・ネロ)’’の中に一人、黒の軍服を着たものがいた。……俺だ。8月、旅行に行く前に採寸し、発注したのだが業者で問題が起こり、遅れに遅れて9月4日に届くらしい。

……ショウガナイから第一種軍装でいいや、同じ黒だし。

などと思って行ったら、まぁ目立つ目立つ……

「我が東京武偵高は……。」

校長が長々と話しているが、要約すると『留学生受け入れたから!!それを刺激に海外行っても負けんなよ!!』ということを言っている。……どこの校長も話は長いようだ。

「ようイブキ、キンジ。」

「武藤か……初日くらいビシッとしたらどうだ?」

「おはよう遠山君、村田君。隣いいかな?」

「おはよう。」

無精ヒゲを生やした武藤と、キッチリと制服を着た不知火が俺とキンジを挟むように座った。

「イブキ、その制服なんだ?」

「村田君の服は目立ってるね。」

二人が俺の服について尋ねてきた。

「業者が問題起こして今日までに制服が届かなくなっちまったんだ。とりあえず黒だしこれでいいだろと思って行ったらこうなっちまった。」

「そいつは残念だったな……。そういえば聞いてくれよイブキ、キンジ。昨日乱射(ラン)があったみたいでよぉ…‥。俺の四駆(サファリ)の窓ぶち抜かれて、また保険会社に連絡しなきゃなんねぇんだ。」

その時ピクリとキンジの肩が動いた。キンジ、お前なんかやったな……。

「そいつは災難だったな。今じゃソイツは日本で売ってないんだっけ?」

だいぶ前にニュースで見た覚えがある。

「そうなんだよ!!今じゃ日本で売ってないってのに!!」

武藤はそう言って俺の肩をがっしり掴み、揺らした。

「ちょ!!揺らすなって!!」

昨日の宴会のせいで軽い二日酔いになってるんだ。

「まぁまぁ、それより遠山君。また女性関係でスキャンダル起こした?」

……キンジ、お前またフラグ建てたのか。

「またキンジかよ!!」

「ッケ!!結局は顔かい!!」

俺と武藤はキンジ(イケメン)を妬んだ。……一瞬、‘‘他人の芝は青い’’と言う言葉が頭の中をよぎったんだが気のせいだろう。

「大声出すなよ。始業式中で、しかもイブキのせいで目立ってるんだぞ。っていうか不知火、なんでそんなこと知ってるんだ?」

「知ってる……っていうか予想?さっき強襲科で剣道の朝練があったんだけど、神崎さんが大荒れだったからね。多分これ、遠山君関連じゃないかなって。」

「不知火……お前朝練出たのか。偉いな。」

俺は昨日の宴会のせいで起きるのが遅くなり、出るのは諦めた。

「そういえば蘭豹先生が怒ってたよ。村田君、後で補修だって。」

「マジかよ……。」

「冗談さ。」

「不知火この野郎!!」

今マジで焦ったぞ!!

「「落ち着けって。」」

武藤が俺を羽交い絞めし、キンジは俺の肩に腕を置き落ち着くよう促す。

「あはは...ごめんごめん。話を戻すけど、一部ではポピュラーな話題だよ。今朝遠山君が、レキさんと一緒に女子寮から登校してきたって」

……何やってんだよ!!というか、昨日帰ってこなかったのはそれが理由か!!

「今度はレキか!…ああでも、根暗と無口でウマが合ったのか?」

武藤、それは言い過ぎじゃねぇのか?

「キンジ気をつけろよ。レキのファン……というよりレキ教は狂信者が多いんだ。……死ぬなよ。」

俺はキンジに忠告した。

「マジか……。」

キンジが燃え尽きたように見えた。

「……こっちの方もポピュラーな話題なんだけど…神崎さん、レキさんと仲良かったから、友達と恋人、両方失ったワケだからね…暴れ回った後、軽く鬱入ってたよ。」

おい、不知火。燃え尽きたキンジにガソリン注いでさらに焼くとかどんだけ鬼畜なんだよ。

「まぁ、とりあえず狂信者とアリアに殺されないようにな。」

普通にありえそうだから怖い。

「イブキ……助けてくれぇ!!」

悲愴な面持ちで俺を見て言った。

「いやいやいや……そう言われても、助ける方法なんて俺はわからねぇぞ。家族除いて女の子とまともに縁ができたのは、武偵高(ここ)に来てからなんだぞ。」

軍隊で……しかも男所帯の特殊部隊の中で女の子と縁ができるか!!

「そこを何とか……レキからは求婚された後‘‘狙撃拘禁’’されるし……アリアはご立腹だし……どうすればいいんだよ……。」

キンジはFXで絶対に返せないほどの借金を背負ったサラリーマン見たいな表情で俺に嘆いた。……おい、ちょっと待て。

「レキがお前に求婚!?」

俺は思わず聞き返した。

「なんでも‘‘風’’に命じられたからだってよ……。」

「「「うわぁ……」」」

……うん、レキは好きとか嫌いとかの感情は薄いから求婚なんておかしいと思ったら、こういう事か。‘‘風’’の命令……。うん、原作なんてもうほとんど覚えてないぞ。

「……とりあえず、キンジ。」

「…あぁ。」

「……‘‘修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)’’で何とかしろ、それ以外は考えつかねぇ。……いいかキンジ、これは冗談抜きで将来に直結することだ。今後の人生全てがかかってると思え。」

「……おう。」

心なしか、キンジの瞳が若干光を取り戻したように見えた。

「そういえば遠山君と村田君はどういったチーム編成にするの?」

不知火が気を利かせたのか話を変えてきた。チーム編成……武偵高は2年生の2学期になると、2~8人程度のチームを編成し、学校に登録するらしい。

 これが意外と重要なようで、国際武偵連盟(IADA)に登録されるようだ。

「ついでに俺は車両科(ロジ)装備科(アムド)から数人ずつ集めた兵站系だ。」

なるほど、武藤は兵站系を行くのか。

「俺はどうしようか迷ってるんだ。ネロ、牛若、エルは多分確定……というか他の奴が引き抜いても命令聞かないだろうし……。それにリサとニトは来るだろうし……。でもこれだとなぁ。」

「何か問題あるの?」

不知火が不思議そうに聞いてきた。

「俺と牛若、エルは完全な前線部隊、リサとニトは後方支援。前線と後方をつなげる役がいないんだよ……。ネロはできないこともないけど……本質は前線だし、適任じゃないんだよなぁ……。」

下手すると俺と牛若が遊撃に回る可能性があるから、エルをサポートしつつ後方もできる人……オールラウンダーな人間が欲しいが、そんな人はいるのだろうか。

「まぁ、俺は武偵高(ここ)卒業したら軍に戻らなきゃいけねぇし、最悪適当でもなんとかなるんだけどな。」

「単位取得に必死でそっちは考えてなかったな。」

キンジ、それは怠慢とも言えないか?

「遠山君……次にこれ着る時はどうなってるのかなぁ……。」

次着る時……それはチーム登録の時だ。……そういえばその時までに防弾制服・黒(デウィーザ・ネロ)は届くよな。また問題起こったとかありませんように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだキンジ。」

「どうした?」

講堂から解放された後、俺はキンジに声をかけた。

「ほら。」

俺は諭吉を一人キンジのポケットにねじ込んだ。

「どうせ学園島周辺は狂信者達に見張られてんだ。どっか遠いところで飯食うしかないだろ。」

「イ…イブキ!!」

「トイチな。」

「テメェこの野郎!!俺の感動を返せ!!」

「ちょ!!待て!!冗談だから!!その手を下ろせって!!なぁ!!」

 

 

 

 

 

 キンジと別れた後、俺は装備科棟(アムドとう)へ向かった。平賀さんに会うためだ。俺はロサンゼルスから帰った後、『もう消化ホースバンジーはやりたくない(切実)』ので平賀さんに‘‘どこにでも引っかけられて、頑丈(すごく大事)なワイヤー装置’’を頼んでおいた。それとずっと前に頼んでおいた25ミリ機銃の貫通特化(費用を抑えたほう)のうちの100発も今日出来上がったそうだ。価格は合わせて130万円。……高すぎないか?と思われるかと思うだろう。しかしパンツァーファウスト3(空飛ぶ日産マーチ)より少し高い値段と思えば、安く仕上がったと思うべきだろう。

 俺はそれらを取りに行くため、人気のない近道を使っていた。……まぁ、今日は‘‘水投げ’’の日(どんな奴にでも徒手空拳なら喧嘩を売ってもいい日)なので、喧嘩から避ける意味もあるのだが……。

 俺が細い道を歩いていると、小さい中学生ほどの少女がストローを吹き、シャボン玉で遊んでいた。……なんでこんなところで遊んでんだ?そんな事を思いながら俺は歩いていくと……

「お前、今5回死んだネ。」

「……ん?」

シャボン玉で遊んでいた少女が俺に向かって言ってきたようだ。……5回?さっきのシャボン玉の数か?

「だけどお前、今シャボン玉自分の息で膨らましてたよな。まさかお前、吐いた空気が水素です……とか面白くない冗談言うわけないよな。」

……。なんだかわからないが、しゃべりかけてきた黒髪ツインテールの少女との間に冷たい風が吹いたような気がする。

「……日本(リーベン)の武偵高、大したことないネ。けど、お前の観察は見事ヨ」

その黒髪ツインテール少女は中国の民族衣装を着ていて、アニメでしか聞いたことないような中国訛りっぽい日本語をしゃべった。

「お前さん、なんで中華娘のコスプレするかわからんけど、今時そんな喋り方はアニメでも見ないぞ。」

「何言うネ!!(ウオ)中国人(チョンゴーレン)ネ!!」

俺に近づき、大きな声で反論した。……うわっ酒くせぇ!!俺は思わず彼女の瓢箪(ひょうたん)を取り上げた。

「なにするネ!!」

「お前!!今何歳だ!?」

俺は魔力を込めて威圧し、彼女に聞いた。

「ウッ…14ネ‥‥‥。」

「お前さん、酒がうまいのはすごくわかる。だけどな、ここは日本なんだ。飲酒で留学生を逮捕はしたくないんだ。」

俺はそう言って彼女の手を取り、野口を一人握らせた。……今日は出費がかさむなぁ。

「今回は見逃す。これは没収だ。その代わりっちゃなんだが、その金でなんかジュースでも買え。おススメはカル〇スとサイダーな。」

俺はそう言って瓢箪(ひょうたん)の蓋を開け、匂いをかいだ。……うん、酒だ。そして瓢箪(ひょうたん)をあおると……

ゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッ…プハァ!!

「うおっ!!辛ぇ!!おい、これ中国産か!?」

俺は瓢箪(ひょうたん)を飲み干し、思わず聞いてしまった。

「……中国東北部(トンペイ)高粱酒(カオリャンチュウ)ネ。」

中国東北部(トンペイ)……あぁ、満州か!!秋山の爺ちゃんが満州の酒は辛かったって言ってたけど本当なんだな!!」

 秋山の爺ちゃんとは、俺の実家のはす向かいに住んでいる爺様だ。秋山の爺ちゃんは昔、騎兵隊でブイブイ(死語)いわせていて、老河口作戦(世界戦史における最後の騎兵の活躍)の時、騎兵第4旅団所属で大活躍したそうだ。

 そして、あの爺ちゃんは自他ともに認める酒好きで、食器代をケチってまで酒を買う酒豪だ(なんでも茶碗は一つしか持っていなかったらしい)。そして両親が死んだときに色々世話を焼いてもらった人の一人だ。

 ついでに、俺の家の隣に住んでいる吉田の爺様と(自他ともに認めるタバコ好き)俺を酒好きに育てるか、タバコ好きに育てるかで意地を張っている……。

まぁ閑話休題(無駄話をやめる)。今現在の満州の酒の感想は、その酒好きの爺様と感想と同じだった。

「うん!!これはこれでうまい!!……あ、お嬢ちゃん。俺は許可証があるから飲むだけだったら違法じゃないからな。」

「それはよかったネ‥‥‥って違う!!!」

「ん?どうした?」

(ウオ)の名前はココいうネ!!お前の名前も言うネ!!」

「村田維吹だ。」

「ちょっとお試しするヨ。姫から離れたら、すぐ、イタイことあるネ」

ココはふらふら、ふらふら、と千鳥足で、倒れるような動作から、側転に入り、俺に飛び掛かってきた。……‘‘水投げ’’か!!面倒な!!

「ほら!!」

俺はココに向かって瓢箪(ひょうたん)を投げた。俺はそれと同時に‘‘影の薄くなる技’’を使いココの背後へ行く。瓢箪(ひょうたん)をキャッチしたココはそのまま俺が消えたことに驚いている。

「よっと。」

俺は背後に回ると瓢箪(ひょうたん)を奪いつつ、足払いをしてココを転ばせた。

「これでいいか?」 

俺は瓢箪(ひょうたん)を振りながら言った。……うん、まだ結構残ってるな。まぁ、没収品を捨てちまうのももったいないし飲んじまうか。

 するとココはサッと立ち上がると、俺から距離を取った。

「ウ…(ウオ)万武(ワンウー)ココ……‘‘万能の武人’’ネ。イブキ、85点。」

「いや……手も出なかったのに格好つけるなよ。……というか、‘‘万能’’って器用貧乏だからそう言われたのか?」

「う、うるさいネ!!」

黒髪ツインテールが怒髪衝天……これはなかなかイジリ甲斐のありそうな子が来たもんだな。

「お前さんの所属は?何なら案内してやろうか?」

うまい酒も手に入って機嫌がいい。平賀さんに会った後なら武偵高(ここ)を案内してもいいぞ。

「やめとくネ。でも予想以上ヨ。……ココは大変満足ヨ。その瓢箪(ひょうたん)はやるネ。再見(ツァイチェン)。」

そう言って路地の奥の方へ消えて行ってしまった。

「なんか傍若無人な奴だったな……。」

俺は瓢箪(ひょうたん)を再び傾けた。……うん、辛いけど美味(うま)い。秋山の爺ちゃんはこれを片手に、馬と中国大陸を縦横無尽に走り回っていたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 平賀さんの作業室につき、ノックをした。

「開いてるのだー!!」

扉を開け中に入ると平賀さんがいた。

「費用を抑えたほうの25ミリ機銃の弾とワイヤー装置ができたんだよね。」

「出来てるのだ!!」

平賀さんはそう言って部屋の奥の方へ行ってしまった。少しするとデカい金属の箱を乗せた台車を押す平賀さんが戻ってきた。

「まずこれなのだ」

そう言って台車で運んできたでかい金属の箱を開けた。……そこには25ミリ機関銃の弾がぎっしりと入っていた。

「貫通特化の弾が100発入ってるのだ。これはRHA換算で100mの距離で150㎜は抜けるのだ!!」

弾は真鍮の薬莢に円柱が付いており、円柱の先に針のようなものが付いていた。……確かにこれは装弾等付翼安定徹甲弾(APFSDS)だ。こいつが貫通150㎜あるのなら、第一世代主力戦車の正面をぶち抜くことは可能だろう(まぁ、当たり所によるが。)。

「もう100発は一ヵ月しないでできるのだ!!後、お金を無視したほうはまだできないのだ……。」

もう一つの方、50発で3000万程度を目安にした、費用を度外視した貫通特化の弾。単純計算で一発60万。でも量産品である戦車の砲弾が数十万~100万円と考えると、一流の技術者によるハンドメイド弾が一発60万は安い方なのではないだろうか。

「平賀さん、無茶言っているのは理解しているから時間がかかっててもショウガナイと思ってるよ。まぁ…最悪来年までにはできてると嬉しいけど。」

まぁ、今年中にできるとは期待していない。来年の4月にできれば御の字だろう。

「村田君!!来年までにはできるから安心するのだ!!」

そう言って胸を張る平賀さん。彼女がそう言うなら、期待しよう。

「こっちがワイヤー装置なのだ!!」

そう言って平賀さんが出したのは艶消しの黒で塗装された無地のバックルだった。ピンを使わない、バックルにある穴にベルトを入れて固定するタイプ。だけど……一般的なバックルより二回りほどでかい。

「これは最大60mの長さが出るのだ。ワイヤーの想定重量は250㎏で、このフックならどこにでも引っかけられるのだ!それとセラミックとケブラー繊維で作ってあるからライフルの弾でも貫通はしないのだ!!」

そう言ってフックを伸ばしてワイヤーを出した。ほぉ、これはいい。

「ただ巻き上げの力は弱いのだ。」

「いやいや、これほどの物を作ってもらって……。ありがとう。」

消化ホースバンジーをやらないで済むのは本当に助かる。二回も消化ホースババンジーをやってるからわかる、安全なバンジーほどいいものはない。

「村田君、本当にこれでよかったの?もっといろいろな装置をつけられたのだ。」

「現状はこれで十分。何かあったらその時に平賀さんに頼むよ。」

実際、これ以外に必要な装置は思いつかない。

「それと村田君、これはサービスなのだ。」

そう言って平賀さんは腕時計を出してきた。どこのメーカーのものだ?

「これはワイヤー装置内蔵の腕時計なのだ。この時計はバックルに使った材料を使ってとても頑丈なのだ!!」

「ひ、平賀さん!!」

俺は事件のたびに毎回腕時計が壊していた。ある時はミリタリーウォッチ、ある時はJ-ショック……。理子によるエアジャックの後、時計は壊れるものと考えて1000円腕時計を使っていたのだが……これで腕時計を事件後に毎回買いに行かなくて済む!!

「ありがとう!!平賀さんありがとう!!!」

俺は思わず握手までして感謝した。

「ど、どうしたのだ!?」

「毎回毎回、腕時計が壊れてね……。」

俺はそう言った後、バックルと腕時計をつけた。

「似合ってるのだ!!かっこいいのだ!!」

「バックルはちょっと重いな。」

腰に一本ナイフを挿しているみたいだ。

「これでもかなり軽量化したのだ。」

「あぁ、そうだ代金。」

俺はそう言って‘‘四次元倉庫’’から封筒を出した。

「130万円、現金で一括。確認したけどそっちでも確認して。」

「わかったのだ。」

平賀さんは封筒を受け取り、中身を取り出すとカウンターにセットし、数え始めた。

「……130万ちょうどあるのだ!ご利用ありがとうございますなのだ!!」

さて、じゃぁ帰りますか。俺は銃弾の入った金属箱を持った

「銃弾出来たら連絡ちょうだい。」

「了解なのだ!!」

俺は作業室を出ると新品の腕時計を見た

「2時過ぎ……ランチは終わってるなぁ。」

俺は金属箱を‘‘四次元倉庫’’にしまった。さて、この後どうしようか。……あ、はやて達を車で送るんだった。完全に忘れてた。どうしよう……酒飲んじまったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやてとウォルケンリッター、玉藻と一緒に電車に乗って実家へ戻った。

 さて俺の実家は、兵部省や陸軍省に大本営の設置されている新宿、東京の重要な場所を管轄する練馬駐屯地、陸海空の兵站中枢施設のある十条駐屯地、東部方面総監部のある朝霞駐屯地、そして中央特殊武器防護隊のいる大宮駐屯所に電車や車ですぐに行ける場所にある。

 なので、レインボーブリッジ近くにある学園島からは電車を乗り継がなきゃいけないため面倒臭い。お父さん、もうちょっと東京から近くに家を構えてほしかったな……。

 駅から実家に、はやての車椅子を押しながら向かうと、隣の家に住んでいる吉田の爺様の門に張り紙がされていた。

『聖地巡礼に行ってきます。 吉田。』

あぁ、そう言えば今はもう9月だっけ。鷲宮神社の‘‘らき☆すた神輿’’見に行ったな。葉巻も好きだけど漫画も好き。葉巻はハバナ産にこだわり、漫画は‘‘のらくろ’’から深夜アニメの漫画まで。そう言えばこの前、メールで夏コミの戦利品自慢してたっけか。……この爺さん、100歳越えてたよな?

 俺達は実家に戻っていったん荷物を置くと、はす向かいの秋山の爺ちゃんの家に向かった。挨拶に行くためだ。

ピンポーン

「誰じゃあ?」

「秋山爺ちゃん、イブキです。帰ってきました。」

「おぉ!!イブキかぁ!?上がれ上がれ!!」

俺達は家に入ると(鍵かけとけよ爺ちゃん)、ガイゼル髭で垂れ目の好々爺がいた。

「イブキか!!よぉ~来た!!……?はやてちゃんは知っとんけど、そこのねー達は誰ぞな?」

そう言った後、秋山の爺ちゃんは茶碗を飲み干した。ちゃぶ台の上には4合瓶が数本転がっている。……ちゃんぽんか。

「なんか、はやての親戚筋でリヒテンシュタインからの留学生なんだって。」

ということになっている。戸籍関係は辻さんが改竄した。犯罪を犯すか、海外行かない限りはバレないだろう。ウォルケンリッターが(ザーフィラは犬になっていた)自己紹介すると、ギロリと秋山の爺ちゃんの眼光が光ったような気がした。

「………そういう事にして置くぞな。ねー達ははやてちゃんに忠義立てとるようじゃ。で、イブキ、その瓢箪(ひょうたん)は何ぞね?」

流石は秋山の爺ちゃん。鋭い観察だ。

「中国の留学生から貰った(嘘はついてない)満州産のカオリャンチュウだそうです。……辛いけど美味かった!」

「カオリャンチュウ……高粱酒!?懐かしいのぉ……。多美!!」

「はいー?」

台所で秋山の婆様(なんでも華族出身らしい)が返事をした。この人は上品で、俺はマナー関係の事は吉田の爺様と秋山の婆様に教わった。……なんで秋山の爺さんとこの人は結婚したのだろうか?

「たくあんを出せぇ!」

「宴会でもやるんですか?」

……たくあんが宴会かよ。相変わらずだな。

「そうじゃぁ!!」

「なら、他の料理も出しませんと。」

……婆様、スイマセン。

「おばあちゃん、手伝います。」

はやてがそう言って車椅子を台所へ動かした。

「はやてちゃん、悪いねぇ。」

「いえいえ、ここにきて、いつも助けてもらってますから。」

はやてはそう言って台所へ消えていった。

……あれ?この子小学生だよね?俺はそう思いながら瓢箪(ひょうたん)を秋山の爺ちゃんに渡した。

秋山の爺ちゃんはふたを開け、グビグビと飲んだ。

「プハッ!!確かに支那の酒じゃぁ!!」

「たくあんをお持ちしました。」

そう言って秋山の婆様がたくあんを俺がずっと前に送った皿に盛って持ってきた。

「ほかの料理はもう少しお待ちくださいね。」

「いえいえ、急に押しかけて料理なんて……本当にすいません。」

「ねー達も飲むぞな!!」

そう言って、秋山の爺さんは婆様の持ってきた茶碗に酒を注ぎ、みんなに渡した(ウィータにも)。

 そして宴会になり、再びシグナムさんが全裸になったのは言うまでもない。(なお、そのシグナムは秋山の婆様にこっぴどく叱られたのも言うまでもない)

 

 

 

 

 

「そう言えば、14日に京都行くんで地酒買ってきますね。」

「いやぁ~悪いのぉ~。」

 




 秋山の爺ちゃんは、‘‘日露戦争中コサック騎兵に勝った指揮官’’がモデルです。でも、秋山の爺ちゃんは老河口作戦で大活躍したことにします。
 
 吉田の爺様は、‘‘戦後総理大臣を務めた外交官’’と‘‘その孫’’を混ぜ合わせた人です。……これなら規約に引っかからないだろう。

伊予弁は難しかった・・・。

飲酒運転、ダメ、絶対。
 
シグナムの裸オチ、使いやすくて地味に気に入っています。



Next Ibuki's HINT!! 「京都・大阪」


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なんでこいつらがいるんだよ……

 前もって言います。今回登場する人物たちは架空の人物です。実際に存在する人物ではありません。
 もう一回言います。今回登場する人物たちは架空の人物です。実際に存在する人物ではありません。(死ぬほど大事なので2回言いました。)

 また、未成年の飲酒、公文書偽装を推奨する小説、SSではありません。
 もう一回言います。未成年の飲酒、公文書偽装を推奨する小説、SSではありません。(メチャクチャ重要なので2回言いました。)


では、どうぞ!!




 さて、秋山の爺ちゃんのところで飲んだ後、実家で一泊してから俺は寮へ戻った。

 

 

 そして9月14日、俺は新幹線のぞみ101号に乗っていた。この2週間の間に護衛の依頼があり、ボロボロになったのは割愛しよう。

 ……なんで新型戦車導入するだけでドンパチするんだよ。それに、その抗争中にほかの組織が来てシージャックするし……。戦車道なんてもう絶対関わらねぇからな!!

 俺はカバンから‘‘旅のしおり’’と書かれたプリントを出した。

『場所 京阪神(現地集合・現地解散)

1日目  京都にて社寺見学(最低3ヶ所見学し、後程レポート提出) 

2日目・3日目  自由行動(大坂か神戸の都市部を見学しておく事)』

……さすがは武偵高、適当すぎだろ。それはともかく、京都の社寺見学か。‘‘絶景かな絶景かな’’で有名な南禅寺の三門は見学に行きたいな。それと社寺と関係ないけど月桂冠大倉記念館、黄桜伏水蔵の見学は外せねぇ。

「というわけだから、この3つだけは見学させてくれ。……黄桜伏水蔵の見学は予約が必要だからもうやっておいたぞ。」

「……もっぱら酒ばっかだな。」

キンジは呆れながら言った。

「秋山の爺ちゃんに土産に酒買ってくるって言っちゃったし。」

「おい、公務員。法律破っていいのかよ。」

「まぁ、俺が買って飲むってわけでもない。買ったら近くの郵便局で送るよ。……上司も秋山の爺ちゃんと吉田の爺様にお土産買うのは許してるし。」

何故か法律にうるさい辻さんがこの二人のために、酒や煙草を買うのを許しているのだ。

「……まぁ、バレるなよ。武偵3倍刑に公務員の法律破りはだいぶ刑が重くなるぞ。」

「だから俺は今私服なんだろ。バレやしないさ。」

俺はTシャツにスラックス姿だ。それに偽造免許書(理子製)もある。……良い子は真似をしちゃいけない。

「俺も一緒に行く条件として‘‘3つ行きたい場所に行かせろ’’ってのキンジが呑んだんだから行かせてくれよ。」

「分かってる。」

「……」

俺とキンジの話をレキはジー……ッとみている。

 そう、俺はこのキンジとレキのチームに入って今回の京都旅行に行くことになった。アリアとの復縁のため、そしてチーム編成としても自分とレキ二人だけでは難しいとキンジは考え、俺に泣いて頼んできた。

「なんで俺に頼むんだよ!?」

「イブキが‘‘修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)で何とかしろ’’って言っただろ!?俺一人じゃ何もできそうにないんだ!!頼む!!」

「……いやね、キンジ君。お前さんの気持ちはわかるよ。だけど俺も機嫌を損ねたくない子がいるんだよ。」

「俺がイブキのチームに謝りに行くから!!頼む!!」

「ショウガナイ……。」

その後、チーム予定のネロ・エル・牛若・ニト・リサにキンジが謝りに行った。

 そのようなことがあり、俺はこのチームに入れさせられることになった。

「イブイブ、お茶ちょーだい!!」

「……ほら。」

俺は理子のコップに水筒のお茶を注いだ。理子は旨そうにそのお茶を飲むと

「プハァ!!やっぱりリサのお茶は美味しいよ!!」

「……そうか。ところで、」

「どうしたの?」

「なんで理子がいる!?」

なんで理子がいるんだろう……とか考えてたら、こいつもチームの一員だったらしい。

「私が頼みました。」

レキがぽつりと言った。……ハイ!?

「レキが頼んだのか!?」

キンジも驚きを隠しきれない様子だ。

「はい。‘‘風’’の命令です。村田さんは不幸を呼ぶ。なので村田さんともう一人で不幸に対処せよと言われました。」

「……不幸を呼ぶのは置いとくとしても、何かあったら理子とどうにかしろ…と?」

「はい。」

うん、別に理子と一緒に戦うのは構わない。イ・ウー戦の時も理子と一緒だと戦いやすかった。そっちは問題がないが……レキの淡々とした口調で不幸を呼ぶって言われるのは、大分傷つく……。いやね、分かってるさ。俺が不幸を呼ぶくらい。

「なぁ理子。」

「どうしたの?」

「俺ってそんなに不幸を呼ぶかなぁ……。」

理子は目をそらした。俺はキンジを見た……こいつも目をそらした。

「チクショウ!!それだったら特大の不幸を呼んでやる!!」

「それだけはやめろ!!」

キンジは焦って言った。

 

 

 

 

 

 京都駅に着いた。キンジは自分の荷物を持って降り、その後ろからレキがハイマキと一緒に付いてきた。本当にキンジからレキは離れないんだな。そして、その姿を他の生徒に見られてヒソヒソと何か小声で喋ってる。

「とりあえず見に行こう!!南禅寺、無鄰菴、知恩院、八坂神社のルートで行けばだいぶ楽しめるぞ!」

俺はそう言ってタウンガイドを出した。

「……準備良いな。」

「てやんでぃ!!こっちは旅行行ったら絶対事件に巻き込まれて観光できないんだ!!楽しみじゃないわけないだろ!!」

「お、おう……。」

キンジが引いてるが、なぜなのだろう。

「イブイブ隊長!!タクシー乗り場はこっちです!!」

理子がそう言って俺に敬礼した。

「良くやった理子曹長!!ではタクシー乗り場へ出発だ!!」

「ちょっと待て!!タクシーは高いんじゃないか!?」

キンジが俺に聞いてきた。

「タクシーだと一番早くて、料金は一台1500円~2500円だ。それを四人で割ると意外と高くないぞ。2400円だとすると、一人600円。そこまで高くないだろ?」

「た、確かに……。」

「それにほかの生徒に移動中は会わなくていい。……というか、南禅寺から八坂神社のルートだとあまり人はいないんじゃないか?」

せっかく京都に来たんだ。定番の清水寺に金閣銀閣を生徒たちは見るんじゃないのか?

「タクシー乗り場は何処だ?」

キンジはタクシーでの移動を選択したようだ。

「よし!!理子曹長!!」

「はっ!!」

「タクシー乗り場へ案内せよ!!」

「アイアイサー!!」

 

 

 

 

 

 

 南禅寺は臨済宗南禅寺派大本山の寺院で、日本の全ての禅寺のなかで最も高い格式をもつそうだ。そして、ここの三門は歌舞伎の‘‘楼門五三桐(さんもんごさんのきり)’’の二幕目返しで石川五右衛門が「絶景かな!絶景かな!」というセリフで有名だ。(でも石川五右衛門の死後に再建されている)

「確かに絶景だな。」

キンジが思わず声に出した。俺は京都を一望できる景色に圧倒された。

「絶景かな、絶景かな!春の眺めは値一億たぁ小せぇ、小せぇ!このイブキには値一兆!最早 陽も昇り、誠に秋の真昼に花の盛りもまた一層……。全く、綺麗な眺めだなぁ。」

俺は石川五右衛門のセリフを真似て、言ってみた。これで紅葉だったら、夜景だったら一兆なんて安いもんだろう。

「よっ!!村田屋!!」

理子が俺に向けて言った。

「……。」

レキは三門楼上内の仏像を見ている。……心なしか目が輝いているようにも思える。やっぱり、来て正解だ。

 

 

 

 さて、そのまま南禅寺から無鄰菴・知恩院・八坂神社を回り、今度は京阪本線で祇園四条駅から中書島駅へ行き、月桂冠大倉記念館・黄桜伏水蔵の見学(たんまり買った酒は郵便局で郵送、アルコール以外の土産は‘‘四次元倉庫’’へ)が2時半前に終わってしまった。

「……どうしようか?」

「ああ、ノルマの社寺3カ所に月桂冠と黄桜の見学もあったのにまだ2時半か。」

伏水蔵のエントランスホールのソファーにキンジとレキ、もう一方に俺と理子が座って休んでいる。

「イブイブたくさん買ったね~。」

「まぁね。吉田の爺様はともかく、秋山の爺ちゃんはたくさん飲むからなぁ。」

「秋山の爺ちゃん?」

「実家のはす向かいに住んでいる爺ちゃんで、色々世話焼いてもらったんだ。ついでに爺ちゃんは最低でも毎日5合は飲む。」

「「…‥‥。」」

キンジと理子がジーッと俺を見た。……な、なんだよ!‘‘その爺さんいてこの孫あり’’みたいな目は!!

すると、レキがキンジの方をギロリと向いた。……こぇえ。

「キンジさん。私と歩きながら、他の女子のことを考えていましたね。」

「おぉ~!!修羅場だぁ~!!」

「理子、今回だけは止めとけ。」

俺は理子の口を手でふさいだ。キンジは慌てている。

「アリアさんの事ですね?」

「……な、なんで分かるんだ、そんなことぉ!?」

キンジの声が裏返った。

「ムー!!ムー!!」

理子が何か言ってるがそのまま口を塞いでおこう。

「さっきそこの廊下で含み笑いをしていた顔が、アリアさんに見せる笑い方と一緒でしたから。」

さっきの廊下?……あぁ、地ビール醸造所見学のところか。うん、どうやってそこでアリアを思い出したんだろう?

「そっ、それは……まぁ、1学期はあいつと組んでたからちょっと思い出し笑いをしただけだ。」

「アリアさんには近づかないでください」

レキは青白い火の如く怒っているように見えた。……れ、レキが、怒ってるのか?

「ムー!!ムー!!」

まだ理子が何か言ってるが、そのまま口を塞いでおく。

「レキは、怒ってるのか?」

キンジはイライラしているのかレキに強めの口調で言った。確かにキンジの気持ちはわかる……キンジ拉致して勝手にチーム登録、そしてアリアに近づくなとはなぁ……。キンジ、ご愁傷様。

すると、レキは力無さげに首を横に振った。

「私は、怒ることはありません」

レキは静かに言った。……怒ってる奴ほど、‘‘怒ってない’’っていうんですよレキさん。

「ホントかよ。」

「キンジさんも、村田さんも、峰さんも私のあだ名はご存知かと思います。」

レキのあだ名?……あぁ‘‘ロボット・レキ’’だっけか?俺はあまり好きじゃないんだけどなぁ。

「人に陰で言われている通り、私は人並みの感情を抱くことは、ありません。‘‘風’’は、人の‘‘感情’’を好みませんから」

……このままだと、キンジ解放の交渉ができなくなるな。‘‘感情’’を好まない事は否定しなくちゃいけねぇ。

「レキ、俺も‘‘風’’に縁があるが……‘‘感情’’を好まなかった覚えはないぞ。」

あぁ……爆弾による爆風、消化ホースバンジーの風切り音、落下傘なしの空挺の時の風切り音……あれ?‘‘感情’’を好む好まないはともかく、俺を殺しに来てるのか?

「村田さんにも、‘‘風’’の声が聞こえるんですか?」

「……うん、声というか、意思が何となく。今思えば……よく俺生きてたなぁ……。」

「ムー!!ムー!!ムー――――!!」

あ、理子の口押さえたまんまだった。俺は手を離した。

「プハッ!!い、イブイブ!!理子りん死んじゃうところだったよ!!」

「いやぁ、ゴメンゴメン。」

「口はともかく、なんで鼻まで抑えるの!?」

「いや、ほんと悪かったって。」

「理子、そのぐらいにしとけって。レキ…大坂に行くぞ。修学旅行の目的の一部でもあるし、買いたい物もある」

キンジが理子を止めてくれた。

「はい」

レキの眉が少し下がったように見えた。……気のせいか?

「大阪かぁ……。大阪と言えば‘‘天下の台所’’で‘‘食い倒れ’’の町か。たこ焼きやお好み焼き、串カツ、イカ焼きに……。」

俺はタウンガイドを出して大阪の名所を調べだした。

「イブイブ。」

理子が俺の袖を引いた。

「二人行っちゃったよ。」

「キンジ、あの野郎!!」

俺と理子は走ってキンジたちを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、京都・中書島駅から大阪・心斎橋駅までは1時間弱で着いた。時刻は3時半過ぎ。地下鉄の駅から階段を昇り、心斎橋の地を踏んだ。

 ……街を見てみると若者が大勢歩いている。いや、俺たちも若いんだがな?こう、若者の街みたいな感じがする。東京でいう渋谷とか原宿みたいな雰囲気に近い。周りには、うんざりするくらいある服屋にアクセサリーショップ……。

 まぁ、そんなところに防弾制服に身を包んだ二人、月桂冠大倉記念館のTシャツに着替えた俺、ロリータ制服で秋葉原に居そうな服を着た理子……俺達は浮きまくっていた。

「来たのは、いいが……この街の流行とか、分からないな」

……おい、キンジ。お前はここに来たのにそんなこと言うのか。

「私もです」

……だろうね。

キンジとレキはそのまま黙ってしまった。キンジは目で俺と理子に助けを求めてくる。

「レキュはどんな服を持ってるの?」

理子がレキに聞いた。 

「私服はありません」

「はぁ!?」

「はい!?」

……え?私服がないってことは、制服が一張羅!?

「え、私服ないって……制服しか持ってないのか?」

俺は思わず聞いた。

「はい。」

これ……俺達じゃどうにもならねぇよ。俺とキンジは理子様にすがった。

「よし、理子りん隊長についてきなさーい!!」

俺達は理子様についていくことにした。

……‘‘風’’さん。理子を連れて正解だよ。あれ?でもこいつのせいで問題が起きてるんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 理子の足が止まった。

「ここで選ぼ~!!お~!!」

その店の名前は‘‘シャトンb’’。明らかに女性向けの店だ。

「理子りんは服を探してあげるから、イブイブはどこかで時間潰してて!!」

「おう。」

 

 俺は近くにある絶品たこ焼き屋に行くことにした。なんでもミシュランにも選ばれるほどらしい。俺はそのたこ焼きを堪能していると、ちっこいピンク色の髪が見えた、そのピンク髪は‘‘シャトンb’’の方へ向かっている。

 ……ここでキンジとレキにばったり会ったら…面倒な事になるよなぁ。

俺はたこ焼き片手にアリアに声をかけた。

「よぉアリア。こんな所で何やってんだ?」

「イブキじゃない。……ママの裁判のための機材を取りに来たの。」

アリアのママ……神崎かなえさんだっけか。ジョン・F・ケネディ空港であったなぁ……って裁判!?聞いてねぇぞ!?

「かなえさんが捕まったって俺聞いてないぞ!?」

「え?イブキに言ってなかったっけ?」

「一切全く聞いてないぞ!?」

いつ捕まったんだよ!?

「……イ・ウーの罪をかぶせられたのよ。呉で裁判があるの。」

「……知らんかった。……そうだ、たこ焼きでも食わねぇか。奢るよ。」

俺は思わずそう言った。

「誘ってくれるのは嬉しいわ。でも急いでるの」

そう言ってどこかに行こうと……ってそっちは‘‘シャトンb’’のとこだ!!俺はアリアの腕をつかんだ。

「‘‘急いては事を仕損じる’’。アリア、お前疲れてるだろ?見りゃわかる。……せっかく‘‘食い倒れ街 大阪’’に来たんだ。たこ焼き食いながら一休みして英気を養え。」

すると、アリアは何か思い出したような、懐かしいような顔をした後

「……そうね。少し休憩しましょうか。」

「おう、そうしよう!」

俺は最後の一個のたこ焼きを食った後、アリアと再び列に並びたこ焼きを買った。

 

 

 

「……意外と美味しいじゃない!」

アリアが舌鼓を打った。

「ミシュランにも選ばれたそうだぞ。」

「そうなの……イブキってキンジと違って優しいわね」

アリアの顔に影ができた。……キンジ、後でなんか奢れよ。

「キンジは確かにぶっきらぼうだ。けれども、悪気があってあんな態度取ってるわけじゃねぇと思ってる。」

……キンジの援護射撃をするか。

「そうなの?」

アリアが顔を上げた。

「キンジは、女の子が何故か苦手だ。だからと言って同性愛者でもない。それに小学校の頃までは普通に女の子と話せてた。……ってこたぁ、中学の頃に何かトラウマができたんじゃねぇかと思う。」

キンジは、無理やり‘‘白馬の王子様モード’’にさせるのを嫌がる。サッカーの時もそうだった。中学の頃、無理やり‘‘白馬の王子様モード’’にさせられたか、‘‘白馬の王子様モード’’で黒歴史量産したか……。

「トラウマ……。」

そう言ってアリアは考えだした。

「まぁ、それと……なんだ。アリアのタイミングが悪い時もある。」

「あ、あたし?」

アリアは大きい目をまん丸にして俺を見た。俺はたこ焼きを一つ食った後

「俺が見る限り、問題が起こった時にちょうどアリアが居合わせて、勘違いの後の爆弾発言……。まぁ、どう考えても誤解するような場面が多いから、ショウガナイっちゃショウガナイんだが……。それで向こうもテンパってるからそれに釣られて誘爆するんだ。」

俺はそう言って、またたこ焼きを口にした。うん、うまい。

「……どうすれば、いいかしら。」

アリアは楊枝で皿をいじっている。 

「まぁ、どっしり構えて聞くこと聞いてから判断するっきゃないだろうな。‘‘動かざること山の如し’’ってな。それ以外ないだろ。」

「分かってはいるんだけど……カッって来て……。」

アリアはそう言って、楊枝でたこ焼きをいじりだした。

「気持ちはわかるが……冷静になんないとな。戦闘だってそうだ。カッとしたまんまじゃうまく戦えないだろ?戦闘の練習と思って一旦、起こっている事を他人事と思ってそこから判断してはどうだ?俺はそうしてる。」 

俺はそう言ってたこ焼きを食らう。……なくなっちまった。

「お互い話せれば、互いを多少は理解できるはずだ。……アリアならうまくいくだろ。」

「ほ、本当?」

「まぁ、変わる意識をもって行動すれば何とかなるだろ。Que Sera, Sera(なるようになる)……それにキンジの中でアリアは‘‘特別’’なようだぞ。」

……そろそろ時間的に大丈夫だろう。

「ふぇ!?」

アリアは真っ赤になった。

「そういえばアリア。」

「ななななな、なによ!!」

俺は真剣な顔をした。

「実はな……」

ゴクリ、アリアが唾をのんだ気がした。

「呉に地酒があってだな……買って来てほs…‥。」

「未成年は買えないわよ!!!!」

バシンッ!!

俺はアリアに叩かれた。……まじめな話をして恥ずかしかったのもあるが、呉の地酒が懐かしいってのもあるんだよな。ついでに江田島の酒も買って来てほしかったけど。

 

 

 

 

 

 

 さて、アリアと別れてキンジ達と合流すると、服を変えたレキと理子に驚いた。

「あれだな……レキはともかく、理子が清楚な服って……意外だな。」

そしてすごく似合っている。

「イブイブ!!どういう事!?」

 ちょっとしたイザコザがあったが、そのあと、キンジが予約した民宿に向かった。場所は比叡山の奥の方。レトロな感じがする民宿‘‘はちのこ’’に一泊するようだ。……このレトロな感じは良いな。

 その民宿の前にワンボックスカーが止まってあって、俺達が小型バスから降りると同時に、そのワンボックスカーから男5人組が出てきた。声と体と額の大きい大男、ホームビデオを持った離れ目メガネ、帽子を被ったモジャ男、学生服を着た男2名。……この怪しい集団、見たことあるんだよなぁ。

「さぁ!!今回の宿!!民宿‘‘はちのこ’’に到着です!!」

声と体と額の大きい男がカメラに映らないところから言った。

「おい、藤崎君。君、最初有馬温泉に行くって言ってなかったかい?」

モジャ男が言う。

「実はですね……有馬温泉で部屋が取れませんでした!!」

「ここ、温泉はあるんですよね?」

顔は2枚目雰囲気三枚目の学生服を着た男が聞いた。

「そこは大丈夫です!!ここは温泉と御飯が最高だそうです!!」

「それは楽しみですねぇ~。」

「お、お腹すいた……。」

学生服を着た顔が濃い暗そうな男が付かれてそうに言った。あ……絶対、蝦夷(えぞ)テレビの人たちだ。ロスで会ったぞ。

 ロサンゼルスでスーヤンお嬢さんを誘拐した場所を偶然撮っていたため、FBIにビデオを提出させられたそうだ(その後、感謝状を贈ったとラス捜査官が言っていた)。その時にこの4人組を知ったのだが……なんか一人増えてる。

 俺は一通り撮影が終わった後、ディレクターの藤崎さんの肩を叩いた。

「ん?おぉ!!!!

声でかっ!!

「どうしたんだい藤崎君……ってあぁ!!!」

「いやぁ~、これはこれは……。」

「ん?どうしたの陽ちゃん?」

「……!!!」

ロスで会った人は全員驚いている。

「いや、お久しぶりです。ロス以来ですね。」

「いや君、僕たちは今度何を撮ったって言うんだい!?」

モジャ男の和泉陽司(いずみようじ)さんが驚いて言った。

「いえいえ違いますって。俺達も同じ宿に泊まるんです。」

「えぇ!!じゃぁ何だい!?前の様にFBIとか警察に色々説明とかしなくていいんだね!?」

「まぁ、おそらく……。」

事件が起こらなかったらな。

「い、イブイブ……この人たち……。」

「あぁ、この人たちはロス旅行で知り合ったんだ。えっと、初めまして村田維吹です。軍人で、今は東京武偵高に出向しています。」

俺は初めて会った顔が濃い暗そうな人に自己紹介をした。

「あ、ご丁寧にどうも安浦憲之助(やすうらけんのすけ)です。」

この顔が濃い暗そうな人の名前は安浦さんというのか。

「え……確か北海道で超有名な……。」

「え?そうなの?でもホームビデオで撮影のテレビ番組だぞ?」

ぶっちゃけロスでFBIとこの集団の通訳やって、その時テレビだって初めて知ったぞ。……というか、こんなにディレクターがしゃべる番組あるかよ。

「おい藤崎君、やっぱり言われてるぞ。可笑しいんだよ、やっぱり。こんなちんけなカメラで撮るのはさぁ。」

「じゃぁお前が担げよ!!この‘‘テンパ’’!!」

「なんだと!!この‘‘うどん’’!!」

藤崎さんと和泉さんが喧嘩をする。

「いや、ごめんなさいね。こんな醜いおっさんの喧嘩みせちゃって。」

鈴藤(すずふじ)さんが俺達に謝った。するとガラガラと民宿の玄関が空いた。

「あらあら、おいでやす。」

うるさくて女将さんが出てきちゃったよ。

「あ、えっと…ネットで予約してた遠山です。」

「予約しておいた藤崎ですが。」

キンジと音野さんが言った。和泉さんと藤崎さんはまだ喧嘩している。

「そう言えば村田君。」

「はい?」

鈴藤(すずふじ)さんが俺に声をかけてきた。

「この子は彼女かい?」

そう言って理子を指さした。

「そうで~す!!」

そう言って理子は俺の腕に抱き着いた。腕に心地よい柔らかさを感じるが……

「違います。」

「イブイブ、間髪入れて言うのは酷いよ……。」

「アッハッハッハッハッ!」

 

 

 

 

 

 

 ここは混浴であったため、女達、むさい男たちの順で入った後(ここの温泉は最高だった)、ご飯が運ばれてきた。

「「「「「「「アッハッハッハッ!!!」」」」」」」

キンジとレキは部屋に御膳が送られたのだが、俺の取った部屋と藤崎さん達の部屋は大広間で食べるようになっていた。で、俺と理子は同じ部屋だった(レキが決めた)ため……藤崎さん達と酒盛りが始まったのは必然だろう。

「おう!!村田く~ん、峰ちゃ~ん。君たち未成年じゃないのかい?」

相変わらず藤崎さんの声はバカでかい。

「俺は許可証あるんで、藤崎さんが奢ってくれるんなら大丈夫ですよ!!」

「理子りんも持ってるので~!!いえ~い!!」

「どうせ理子のは偽造だろ!」

「「「「「「「アッハッハッハッ!!!」」」」」」」

こんな風にみんなで酒を飲み、全員が気持ちよくなっているところ……

ガシャャァン!!

窓ガラスが割れた音がした。

タァァアアン!!

じゅ、銃声!?……ゑ!?

ダダダダダダダ!!

そう言って大広間の窓が割れた。

「全員伏せろ!!」

「なんだよ、なんだよ!!どうなってるんだよ!!ここ日本だぞおい!!」

「和泉さん伏せて!!」

俺は急いで和泉さんを伏せさせる。

 

 

 

 

「そう言えば和泉さん!!」

「な、なんだよぉおおお!!」

頭を押さえながら和泉さんが言った。

「また警察に説明しなきゃいけないですね。」

「うるさいわぁああ!!まだ藤木君の拉致のほうがいいわぁぁああ!!」

「アッハッハッハッハッハッ!!」

藤木さんの胆は大きいようだ。




 修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)までの間に受けた護衛任務は、この章の閑話に書こうと思います。

 南禅寺、無鄰菴、知恩院、八坂神社ルートはおすすめです。自分は無鄰菴の雄大さと小ささに驚きました。
 
 和泉陽司、安浦憲之助、マスターこと鈴藤、ディレクターの藤崎・音野は実在の人物ではありません。多少参考にはしましたが、実在の人物ではありません。空想上、架空の人物です。なので、規約に書いてある
『・芸能人などの実在する人物が登場する作品の投稿』
に触れていません。
 そして、この小説は未成年の飲酒、公文書偽装を示唆する小説ではありません。イイネ?

 
 Next Ibuki's HINT!! 「万能」


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山の登り下りは辛い……

 ヤバい、久しぶりにスラスラ出てくる。ここまで早く次話が仕上がるのは久しぶりで逆に怖い。


 今回は久しぶり(?)に船坂っぷりがガンガン出てきます。


俺と理子は蝦夷テレビの5人組を急いで大広間から脱出させた。

「って安浦さん!?なんでパンツ一丁なの!?」

大広間に来たときは全員浴衣だったのに、なんで今は浴衣を着てないんだよ!!

「いや、脱いじゃったから……。」

「それは分かりますよ!!」

だから、なんで脱いだかを聞いてんだよ!……ショウガナイ。俺は‘‘四次元倉庫’’から防弾制服を出した。

「安浦さん!!これ着てください!!」

「いやぁ……悪いねぇ……。」

 

大広間から廊下に出て少しのところに女将さんが電話を持って呆然としていた。

「女将さん!!頭を下げて!!」

「は、はい!!」

女将さんは我に返ったのか急いでしゃがんだ。

「女将さんと藤崎さん達の安全は俺達が保証します。女将さん警察に連絡してください。」

「はい!!」

女将さんは元気よく返事をすると高速で電話をいじりだした。

「おい、あれかい!?村田君に会うと毎回ドンパチがあるのかい!?」

和泉さんが俺にぼやいた。

「今の状況で軽口言えるなら大丈夫ですね。拳銃貸すんで周辺の警戒お願いします。」

「き、きみぃ!!僕がそんなことできると思っているのかい!?ぼかぁね、同級生から…‥」

「冗談ですから!!」

和泉さんをこのまま話させていたら長くなりそうだったので無理やり切った。

「理子、狙撃兵だけだと思うか?」

「……それはないと思う。」

裏理子で返答してきた。

「イブキ!!理子!!」

キンジとレキが部屋から出てきた。

「ってお前たち!!浴衣着てんのか!?」

あ……。やっべそうだった。

「私は中にちゃんと着てる。」

「え!?マジかよ!?」

俺なんて浴衣以外はパンツだけだぞ!?防弾制服も安浦さんに貸しちゃったし。

「連絡しました!!」

女将さんが言った。

「キンジ、俺と理子はまず民間人を避難させる。そっちは何とか犯人を引きつけといてくれ。」

俺はそう言いながら、嫌な予感がしたところに拳銃を撃った。落ちてきたのは……黒の艶消し塗料が塗られた短機関銃(サブマシンガン)搭載のラジコンヘリだった。

「い、和泉君……。今回の旅は波乱万丈だねぇ。」

「波乱万丈どころじゃないよ!!文字通り絶体絶命だよ!!」

藤崎さんと和泉さんが何かしゃべってるが無視しよう。……音野さんはビデオ回してるし。あんたが一番すごいよ。

「分かった。」

キンジが言った。

「民間人を警察に保護させたら援軍に行く。……ついでに狙撃の方向から、敵狙撃兵は比叡山の山頂近くで撃ってる。気をつけろよ。」

「あぁ!!」

「皆さんは俺と金髪の子についてきてください!!」

 

 

 俺達は玄関までたどり着いた。俺はあたりを見ると……ラジコンが3台

ダンダンダンダンダン!!

多少の無駄撃ちがあったが、ラジコンを全て落とすことができた。

「藤崎さん、車借りますよ。」

「どうぞ。」

俺は藤崎さんから鍵を借りると外に出た。

 ……撃ってこない。俺は急いでワンボックスカーのカギを開け、大きい方のドアを開けた。

「大丈夫です!!皆さん、走れ!!」

「僕が先だ僕が先だ!!」

「……!!」

和泉さんと鈴藤さんは我先にと走り出す。

「ちょ、二人とも待ってよ!!」

「クソッ!!ハゲでうどん好きはダメなのかよ!!」

「キャァアアア!!」

……なんだか、絶体絶命で危険な時なのに、蝦夷テレビの人達見てるとまるでコントだな。俺は不謹慎にもそう思ってしまった。

……ッ!!

俺はいきなり危険を感じ、後ろを振り向くと同時に銃剣を振るう。

ガァン!!

俺の銃剣が弾を引き裂いたようだ。……チクショウ狙ってきている。

 俺は全員乗ったことを確認すると同時に車に急いで乗り、発進させた。

 

 

 

「え~ただいま我々は旅館で襲撃を受けたため、必死で逃げております。」

「鈴藤さん!!あんた今この状態でよく実況できるな!!」

俺は思わずツッコミを入れてしまった。

「マスター、これはどうせお蔵入りだよ。ワザワザ無理してやる必要ないんだよ?」

和泉さんも鈴藤さんに言った。

「いやね、これやらないと我を忘れそうで怖いの。さっきまでジッとしてたら、妻と娘が脳裏に浮かんできて……。」

鈴藤さんの目には涙が……。

「マスター……でもさ、こんな銃声の中で音拾えるかい?」

「分かんない。」

音野さんが言った。

「ほんと緊張感ないなぁ!!」

俺はまたツッコミを入れた。

「アッハッハッハ!!」

藤崎さんの大きな笑い声も、幾らか元気がない。

「イブイブ!!漫才やってないで運転して!!」

理子様がお怒りのようだ。

「落としても落としても湧いてくるよ!!」

理子がラジコンヘリを落としているが、わんさか出てくる。

ダダダダダダダ!!

ッち!!窓ガラスが割れた。

「じゃぁ一気に抜けるぞ!!何かに捕まれ!!」

「イブイブ!!ここには比叡山ドライブウェイしかないよ!?」

「誰がほかの道で行くと言った!?」

バキッ!!!

俺は思いっきりハンドルを切り、ガードレールを突き破った。

「抜けると言ったんだ!!」

ガタガタガタガタ!!!

俺達の車は道なき道を走りだした!!

 

 

 

 

 

「いやぁ~今のセリフかっこいいですなぁ~!!」

藤崎さんが和泉さんに言った。

「聞いたかい!?今のセリフ!!……‘‘誰がほかの道で行くと言った!?抜けると言ったんだ!!’’。まさに主人公が言うセリフだねぇ。僕も一回はこういうセリフを言ってみたいよぉ。」

和泉さんもしゃべりだした。

「村田君が主人公ならヒロインは峰ちゃんで、我々は主人公の愉快な仲間たちですな!!」

「となると藤崎君は一番先に死ぬね。‘‘うどん取ってくる’’って言ったまま帰ってこなくて、僕と村田君が助けに行くか行かないかで口論に……」

「そんなに元気なら運転代わってくれませんか!?」

俺は思わずまたツッコミを入れた。

「「ゴメンナサイ……。」」

「「「「……ップ」」」」

なお、TV放映時には襲撃シーンなどはカットされたものの、DVD版には襲撃シーンをいれられることになるとは、この時誰も想像しなかったのである。

 

 

 

 

 

 犬(山犬?なんで今の時代に)を大量に轢きながら(動物愛護協会の方ゴメンナサイ)道なき道を突き進むと川沿いの道に出た。そして、そのまま一気に山を下りると、交番が見えた。俺は車を交番の前でドリフトさせながら止めた。

「終点、交番前、交番前でございます!!お忘れ物のないようにお願いします!!」

「……忘れ物しかないよ。」

安浦さんがぼやいた。

「衣服の着忘れなんて前代未聞ですから。」

俺は思わず言った。

 

 

 その後、交番の人たちが急いで出てきたので民間人6人を保護してもらい、俺と理子は再び比叡山へ車を出した。

「理子、あのラジコンはお前と手口が似てるんだが……。」

「あぁ、おそらくツァオ・ツァオの犯行だろう。」

裏理子か……。

「ツァオ・ツァオ?……ココか!?……中国人の小っちゃい子だっけ?」

「そうだ。」

あの子、気前よく酒をくれた子(嘘ではない)だったな。

「理子、そいつならどこを警戒する?」

「ここなら……道は絶対警戒だ。それに山にも警戒装置か何かはあるだろう。」

「面倒な……ならここならどうだ?」

俺はある移動手段を言った。

「そんなのバレるに決まってるよ!!」

今、表理子に戻った。……そんなに驚くことか?

「理子、確かにこれは使うが、乗り物は使わない。足で移動だ。」

「……確かに今日は新月だからバレないかも。」

「それじゃ行くぞ!!」

俺はボロボロになった車を飛ばした。

 

 

 

 

 

 俺達は今、空にいた。

「ハァハァ……い、イブイブ、やっぱり無理だよぉ……。」

「理子だって賛成しただろ?がんばれって!後、バレるから静かに。」

比叡山の頂上付近に陣取る敵にどうやって近づくか。頂上へ向かう道も獣道も山にも警戒装置がある。ならどうする……?

 答えは比叡山には頂上に向かう公共交通機関のケーブルカーとロープウェイを使う。しかし、勝手にそれらを動かしたらすぐにバレる。ならどうするか……。徒歩で線路を歩き、ロープウェイのワイヤーを綱渡りするしかないよね(なお、使う叡山ケーブルはケーブルカーで日本最大の高低差がある)。今夜は新月なので月明りでバレることもない。

 ……うん。おそらく、最も愚かな選択だと俺は思う。もし俺が敵なら思いついても外すからな。ケーブルカーはまだしも、ロープウェイを綱渡りで渡る馬鹿なんて普通いない。カット

 

 時を少し戻す。蝦夷テレビ一行と女将を交番に届けた後、俺達は叡山ケーブルのケーブル八瀬駅に車を止め、線路に出た。

「……靴履いてなかった。」

今の装備、浴衣、帯、パンツの三点セットのみ……。

「理子のは貸せないよ?」

「……わかってるよ。」

靴なんて‘‘四次元倉庫’’にも入れてねぇよ!!俺は諦めて、三八式歩兵銃を出し、艶消し黒で塗られた銃剣(ゴボウ剣)を着剣した。……あぁ、そういえばナカジマ・プラザのおっさんも裸足だったな。あの時の様に割れたガラスが散乱してなきゃいいけど。

 俺は銃剣をつけた三八式を持ちながら、高低差日本一のケーブルカーの線路を歩いて上り、ケーブル比叡駅に着いた。……足が痛ぇ。

 ケーブル比叡駅に到着すると、近くにある叡山ロープウェイ・ロープウェイ比叡駅に行く。三八式のスリングベルトを肩にかけ、ロープウェイのワイヤーにしがみついてさらに上を目指す。

 そして今、やっとロープウェイの3分の2まで来たところだ。……理子、俺だって文句の一言二言ぐらい言いたいんだよ。確かに俺が提案したけどさ、これ以外何があるんだよ。道もダメ、獣道も、山にも警戒装置があるなら、公共交通機関を歩くしかないだろ?しかも俺は裸足に浴衣だぞ?いくら9月でまだ暑いとは言え、この格好は寒いんだぞ?寒いのに素手素足でワイヤーにしがみついて登るんだぞ。痛いってもんじゃねぇよ。

「なんだって俺がこんな目に……。」

「イブイブ、バレるよ!あとあそこ見て。」

もう少しロープウェイを上った場所の真下に、大量の機材の近くに少女が狙撃銃をもって何か狙っている。

「あれがココだよ。」

……ここは世界遺産の比叡山。文化財保護のためには、銃をあまり使いたくない。……白兵戦しかないな。

「……真上まで登って、そこから一気に奇襲しよう。」

「い、イブイブ!?この高さで落ちたら死んじゃうよ!?この支柱から降りようよ!?」

「大丈夫だって、なんなら理子抱えて降りようか?」

「……わかったよ。」

なんか理子は真っ赤になりながらも覚悟を決めた顔をした。

「何顔真っ赤にしてんだよ。」

「う、うるさい!」

 

 

 

 

 

 俺達は必死になって再びワイヤーを登り、ココの真上に着いた。俺は何とかして理子を抱えると、命綱替わりの手錠(ベルトとワイヤーを手錠でつないでいた。)を外して下に落下した。

「うわぁあああああああ!!」

理子うるさい。

 着地すると同時にココが俺達に気づいた。

「ど、どこから来たネ!?」

「空からだ!!」

俺はそう言って三八式を持ち、突撃して銃剣をココへ突く。

ギィイイン!!

俺の銃剣をココが狙撃銃で防いだ。その瞬間……

パァアアアア!!

突然、探照灯が照射されたかのように俺とココの間が光りだした。せ、閃光弾か!?

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

目は見えなくても、ある程度の気配でわかる!!!俺はココを銃床で殴った。殴ったと同時に……

ギィイイイイイイイイン!!!

今度はココと俺の間に音響弾が……

「チクショウ!!なんだって俺がこんな目に!!!」

俺はそう言いながら、気合でその爆音に耐えつつココのマウントポジションを取って殴りつけた。

 ……あれ?前回会った時は格闘戦に白兵戦はある程度できると思っていたのだが、こんなに弱いのか?疑問に思いながらもココを殴り続けた。

「うがぁあああああ!!!」

理子が、女の子が言ってはいけない様な声で叫んでいるが無視しよう。

 

 

 

 

 目と耳が回復すると、そこには気絶しボコボコにされたココがいた。

「ハァ…ハァ…ハァ……時計が壊れてねぇ!!……午前3時34分、えっと……殺人未遂の容疑で現行犯逮捕だ!」

よく見るとココの股がビチョビチョに濡れている……。彼女の尊厳のためにこれ以上は言及しないでおこう。

 ハァ……なんだって裸足と半裸で比叡山を登山し、ワイヤーにしがみつき、挙句の果てには閃光と爆音でボロボロになんなきゃなんねぇんだよ!!

俺はそう思いながらココの襟首を掴んで引きずりながら、耳を塞いでゴロゴロ転がっている理子のもとに行った。

「おい、理子……大丈夫かぁ?」

「む、無理ぃいい……。」

俺は理子が回復するまで背をさすってあげた。

 数分後、理子も回復したようだ。

「イブイブ……ありがとね。」

理子は真っ赤になりながらお礼を言った。

「まぁ……相棒だそうだし……。」

なんだかこっちも恥ずかしくなってきたぞ。そう思った矢先

バラバラバラバラ……

ん?ヘリの音?なんで比叡山の山頂近くでヘリの音が聞こえるんだ?

バラバラバラバラバラ……

次第に音が大きくなってゆく……。近づいてきてるようだ。

「なぁ、理子。」

「な、なに?」

「今、メチャクチャ嫌な予感がするんだけど……。」

俺の第六感が危険を伝えている。……十中八九、このヘリのことに関してだろう。

「あ、やっぱり?理子もそう思うんだぁ…。」

「お互い似たもの同士だな。」

「「アハハハハハ……」」

バラバラバラバラバラ……!!!

すると、俺達を何かが探照灯(サーチライト)で照射した。それは……

UH-60(ブラックホーク)!?」

理子がそう叫んだが……そんな優しいもんじゃねぇぞ!?

「違う!!MH-60L Direct Action Penetrator(DAP)だ!!逃げろ!!」

HS部隊にいた時、アメリカの特殊部隊と共同で任務を遂行していた時に教えてもらったことがある。MH-60L Direct Action Penetrator(DAP)はただの兵員輸送ヘリじゃない。米軍特殊部隊が使用する、兵員輸送もできる攻撃ヘリコプターだ。武装はM230 30㎜チェーンガンにハイドラ70ロケット弾、M134 7.62mmガトリング機銃、ヘルファイア対戦車ミサイル……下手な攻撃ヘリコプターよりも恐ろしい。しかも赤外線装置もあるため、‘‘影の薄くなる技’’が一切使えない……。要は……八方ふさがり、絶体絶命。

 俺は気絶しているココを小脇に理子と一緒に逃げ出した!!

ドドドドドドドドド!!!

敵が30㎜チェーンガンを撃ち出した。

「何だってこんな裸足で山の中走り回らなきゃならねぇんだ!!」

「イブイブの消える技は使えないの!?」

「あれは人間の脳を騙して消えてるように見せかけるだけだ!!赤外線装置なんかから逃げられるはずねぇだろ!?」

ババババババババババババ!!!

チクショウ!!ガトリング機銃まで撃ち始めたぞ!?俺達は転がるように森林へ逃げ続けた。

 

 

 

 

 途中で襲ってきた犬達を倒しながら一気に山を下っていく。

ババババババババババババ!!!

「ウッ!」

俺が弾をもらったようだ。その時、目の前に洞窟が見えた。

「いったんあそこに避難するぞ!!!」

「わかったよ!!」

バシュシュシュシュシュ!!

ウソだろ!?敵は無誘導ロケット弾を斉射し始めた。

「逃げこめ!!」

俺は理子も抱えて洞窟へ飛び込んだ。

ズドドドドドドーーーン!!!

「「うわぁあああああああ!!!」」

俺は大量の鉄片を浴びながらも、何とか洞窟へ入った。

 

 

 

「イブイブ!!大丈夫!?」

「大丈夫なように見えるかぁ!?」

……まぁ、アドレナリンのせいか、痛みはあまり感じないが。俺は三八式を‘‘四次元倉庫’’へしまい、今度は25ミリ機銃を出した。

「理子、ちょっと落としてくる。」

俺はそう言いながら、弾倉に曳光弾と平賀さん製の装弾等付翼安定徹甲弾(APFSDS)を込めた。

「イブイブ!?囮になる気!?」

「そんなわけあるか!!」

俺はそう言って弾倉を銃に差し込んだ。……いつの間にか、帯も無くなってるよ。もはや文字通りパンツと浴衣だけか。

「あの自信家に灸をすえるんだ!!」

俺はそう言って洞窟の出口に足を運んだ。

 そう、向こうはいつでも俺達を殺せるはずだった。それなのに嬲る様にしか攻撃しない。……パイロットは舐めてやがる。

 俺は無駄だと思いながらも‘‘影の薄くなる技’’を使って洞窟の外に出た。

……バババババババババ!!!

少し遅れたな。俺は近くの大木に隠れた。そして25ミリ機銃の二脚を立てながら、一息休む。

「こっちだよ!!」

理子が洞窟から出てきた。あ、あいつ!!ヘリが理子の方へ向いた。それと同時に転がるように大木から出た!ヘリは急いで俺の方へ向きなおす。

……バババババババババ!!!

向こうが撃ってくるが気にしない。

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

ダンダンダンダンダンダン!!

俺はヘリのローターの軸にすべての弾を叩き込んだ。……ッ!!また被弾か!!

ベキッ

ローターの軸が折れたと同時にヘリが落ちて行く。俺は急いで大木に隠れた。

ドカーーーーン

ヘリは墜落と同時に大爆発。その爆風によってまたも鉄片を浴びたが、致命傷はなかったようだ。

 ……そう言えば、敵のヘリの操縦手がココと瓜二つだったのはどうしてだ?

 

 

 

 

 俺達は再び、急いで下山していた。途中で何匹も犬が襲ってきたので返り討ちにしながらも進んでいく。

「あそこに街灯が見えるよ!!」

理子が叫んだ。犬が襲ってくる以外は敵からの攻撃はない。……流石にもう襲撃はないだろう。そう思いながらその大きな道に出た瞬間

キキーーーーーッ!!

真っ赤なオープンカーが突っ込んできた。……轢かれる!?

「危ない!!!」

俺は理子とココを投げ飛ばした。

バキッ!!!

 ……今日は踏んだり蹴ったりだ。狙撃兵と短機関銃(サブマシンガン)搭載のラジコンヘリに追い回されながら急いで下山して、その後ケーブルカーの線路を徒歩で登り、ロープウェイのワイヤーにしがみついて自力で登って……。敵を倒す間にも閃光弾に音響弾で目と耳をやられて、敵を倒してきたと思ったら武装ヘリと犬に襲われて……。最後は車に轢かれるのかい。しかも半裸の不審者姿で……。せめて何か服を着させてくれ……。

 俺は薄れ行く意識の中でそう思った。

 

 

 

      完

 

 

 

 

「ンなわけあるか!!!!」

俺はそう言いながら起きると、そこは知らない部屋であった。え?どこ!?

 

 




 ちゃっかり飲酒運転をしていますが、今回の場合は緊急事態なのでショウガナク車を運転しています。この小説は飲酒運転を勧めていません。飲酒運転は絶対にしないでください。

 ‘‘影の薄くなる技’’は『変化、違和感を相手に認識させない』事の応用です。ですが、赤外線装置による『変化・違和感』は隠し通すことができないので、‘‘影の薄くなる技’’は通用しなくなります。

  Next Ibuki's HINT!! 「四国八十八カ所」


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試験かよ……

 前回の『Next Ibuki's HINT!! 』を『新幹線』から『四国八十八カ所』に訂正しました。
 理由は新幹線まで話が進まなかったせいです。
 なぜ『四国八十八カ所』なのかは読んでもらえればわかるはず……。

 
 中間テストが近づいてきました。……嫌だなぁ。


「ンなわけあるか!!!!」

俺はそう言いながら起きると、そこは知らない部屋であった。え?どこ!?

 俺は周りを見渡した。……俺はどうやら広い和室に敷かれた布団に寝かされていたようだ。

 今度は俺自身を見た。怪我を治療してもらったのか包帯が至る所に巻いてある。衣服は民宿できていたのと違う浴衣だ。俺は急いでパンツも見る。……こんな柄のパンツを俺は持ってない。

 俺は部屋を出た。……捕まったのか?それにしてはこの屋敷は純和風過ぎる。

「村田様?」

俺は声のする方向を向いた。そこには、巫女さんが……もしかして

「風雪か?」

風雪は白雪の一歳下の妹だ。ついで海外の教会や寺院との外交担当でもあるらしく、HS部隊にいた時は時々会っていた(そのことについて粉雪はすごく悔しそうにしていたが……何故だ?)。

「もう立っておられるんですか!?」

……あれ?そういえば風雪はクールな性格だった覚えがあるが……すごく慌てている。

「とりあえず部屋で寝ていてください!!お医者様をお呼びしてまいります!!」

「あ、あぁ……。」

なんであんなに慌てているんだろうか?俺はそう思いながらいったん部屋に戻った。

 

 

 

 するとすぐに若い女医さんが俺のいる部屋に駆け込んできた。

「おう、早く見せろや!!」

フチなしメガネの女医さんは銃を俺に突きつけながら言った。

「……見せるんで銃を下ろしてください。」

何で医者に銃を突きつけられなきゃいけねぇんだ。

 俺はおとなしく、女医さんの診察を受けた。

「なんであんな傷がこんな短時間でここまで回復するんや?」

不思議そうに俺の体を見た。

「……そんなに重傷だったんですか?」

すると、女医さんは深刻そうな顔をしていった。

「銃創5カ所、17の鉄片を取り出し、全身打撲、捻挫と脱臼、そして大量出血だ。手術が終わった後、良く生きているなと感心したほどだ。」

……重傷だ。普通なら死んでいるだろう。だけれど

「そのくらいですか。」

「そのくらい!?」

理子にやられて傷に比べたらなぁ……。

「お前どんだけ傷負ってたん!?」

「……色々ありました。」

……かれこれ十年前の地獄のような高層ビルに閉じ込められたあの日から、俺の‘‘ツイてない’’人生は始まった。……結局、いろんな場所で何度も死にかけた。今度は比叡山かぁ?

 俺の目はきっと瞳孔が開き、ハイライトは消えていただろう。

「……相談に乗ったるさかい、言ってみぃ。」

女医さんの眉が下がったような気がした。

「……言うと自覚しそうなんでいいです。」

「そうかい……。」

 

 

 

 

 

 

 女医さんがモルヒネを打ち、出ていったと同時に理子が俺に飛び込んできた。

「イブイブ!!大丈夫!?死んでない!?」

「大丈夫、大丈夫。モルヒネが効いてるから。」

俺はそう言いながら抱き着いてくる理子を離した。……モルヒネ効いてると言ってもさすがに痛い。

「ここは何処だ?」

なんとなく予想は付くが確認はした。

「ここは星伽神社の京都分社だよ。それよりもイブイブ!!本当に大丈夫!?最後は轢かれたんだよ!?」

「大丈夫だって、慣れてるから。」

……海鳴旅行でね。

「慣れてるって何!?」

「いや落ち着けって。」

「理子りんはそんなの聞いてないよ!?」

「いや、だって夏休み中にやったし。」

というか報告しなきゃいけねぇのか?

「なんで教えなかったの!?」

「なんで教えなきゃならねぇの!?」

あと、キャラブレすぎ!!……などと思いながら理子と話していると、外が騒がしくなってきた。

 俺と理子は口論を止めてその騒がしい原因のところに行くと……。

「和泉さんだ!!サインください!!」

「そして料理も作ってください!!」

安憲(やすけん)だ!!」

「‘‘0u(レイウ)ちゃん’’の中の人だ!!」

「マスターだ!!」

「インキ―マスターだ!!」

蝦夷テレビの5人組が鳥居の前にいて、彼らをここの見習い巫女の子達が囲んでいる。なんでこんなにこの5人が人気なんだ?……あぁ、本社は青森にあるからギリギリ蝦夷テレビが見えるのか。

「いやぁ~さすがは天下の和泉さんですなぁ~!!」

「やっぱり僕たちは有名人なんだよ。やっぱり京都はイイね。時代は京都にあり。1000年の古都・京都。京都は最高だね。」

……藤崎さんと和泉さんは相変わらず漫才のような話を続けている。

「いやね、やっぱり京都の人は本物を見つける目があるんだよ。」

「この子達は基本青森出身ですから知ってるんじゃないですか?」

俺は和泉さんに言った。

「え……そうなのかい?」

和泉さんは思わず見習い巫女の子たちに聞いた。

「私はそうです!」

「私は違うけど、青森にいた時見ました!!」

結局全員青森にいた時見たから知っているようだ。

 

   青森 出身!!

 

……なんかテロップが流れたような気がする。すると、安浦さんが出てきた。

「村田君、制服ありがとう。……ケガは大丈夫かい?」

そう言って安浦さんは紙袋を俺に渡してきた。中には……折りたたまれた制服が入っていた。

「そうだよぉ~村田くぅ~ん。何でも比叡山にヘリが墜落したって話題になってたよぉおおお!!」

藤崎さんが大声で俺に聞いてきた。

「まぁ、あの後……俺は裸足と浴衣だけで、理子と一緒にケーブルカーの線路を足で登って、ロープウェイのワイヤーにしがみついて自力で登って……。その後何とか犯人を押さえたら、その件の戦闘ヘリに追い掛け回されて……。野犬(?)に襲われながらなんとかそのヘリ落としたら、最後は車に轢かれましたよ。」

俺はよく生きて帰れたなぁ……。

「アハハ……ほんと、イブイブとよくあの山降りてこられたよね。」

「「アハハハハ……」」

俺と理子はカラ笑いをしていた。

「あ……あの……。」

すると、風雪が俺達に何か言いづらそうにしていた。

「どうした?」

「……捕まえた犯人なんですが。」

「俺達が必死に捕まえたよね?」

「イブイブが引かれた後、警察に引き渡したよ。」

俺は理子に聞いた。……やっぱりちゃんと捕まえてる。まさか理子の時の様に襲撃されて脱走なんて……

「連行中にパトカーが襲撃を受け、犯人が脱走したようです。」

 

    犯人 脱走!!

 

 またテロップが流れたような気がするが、それを気にしているどころの騒ぎではない。

「…‥‥ゴメン。よく聞こえなかったようだ。」

「…‥‥かざちゃん、理子りんも聞き間違いだと思うんだぁ。」

俺達は、『きっと今の言葉は間違いだ、間違いに違いない、間違いであってくれ』と思っていただろう。

「村田様と峰様が捕まえた犯人は、連行中に襲撃され、犯人は脱走したそうです。」

 

    犯人 脱走!!

 

 俺は、知らないうちに膝を地面につけていた。……俺のあの努力は無駄だったのか?ここまでケガを負ったのに?

「……ねぇ、イブイブ。」

「……なんだぁ?」

「……私達の努力って何だったのかなぁ。」

「てやんでぃ……俺は一回お前にやられてらぁ……。」

俺はエアジャックの時に、理子を捕まえたのにその後脱走された経験があった。

「……イブイブ、ごめんなさい。」

そう言って理子は土下座した。

「おぉう……理子ぉ……もう終わったことだろぉ……。蒸し返すな、余計に落ち込む。」

もう……考えたくないよ。

 

 

 

 

 少し経つと、俺と理子は何とか立ち直った。

「では皆さん!!最終試験はここでやろうと思います!!」

藤崎さんが言った。……最終試験?何のことだ?

「……藤崎君、確かに今日が最終試験の日だ。だけれど昨日襲撃があったんだよ!?だから生徒達は復習できなかったんだ!!このままやれば、ぼかぁまた四国へ行くことになるんだぞ!!」

和泉さんが慌てた口調で言い出した。

「それは我々も分かっています。なので……ここにお二人のノートがあります!!」

そう言って藤崎さんは2冊のノートを出した。

「今から1時間後に試験を開始します。そして、ここにいる方の中で4人参加してもらいます!!」

……ここにいる中で4人。俺達の中で4人か?

「あの~藤崎さん。」

「峰ちゃん!!何でしょう!?」

「‘‘ここにいる中で4人’’って、理子りん達の中から4人ってこと?」

「はい!!そうです!!」

藤崎さんが元気よく答えた。

「ってなると藤崎君!!生徒たちが満点取れないと僕は四国へ行くんだよ!?さらに人数増やして、余計に四国へ行く確率が増えたことになるだけでないのか!?」

和泉さんが焦りだした。

「わかっております。そこで……今から1時間、和泉校長に直前対策講座を開いていただき、全員8割以上取れれば合格とさせていただきます!!」

……とりあえず

「……風雪。」

「なんでしょう?村田様。」

いま、フリーなのは俺と理子だけだ。4人に足りない。

「星伽関係者は出てもいいのかい?」

「さっき確認したところ、出てもよいと本社の方々が言っておりました。そして、‘‘私たちは藩士なのでサインも欲しい’’という事です。」

……藩士とはファンの総称か?というのか、いいのかよ星伽神社さんよ。

「あ、イブキ君!立てるようになったの!?」

「い、イブキか!?」

俺を呼んだ方向を見ると、巫女服姿の白雪と寝間着姿のキンジが驚いていた。

「んぁ?……白雪とキンジか。おう、モルヒネが効いてっからピンピンしてるぞ。」

俺はそう言って肩を回す。……少し痛い。これ、モルヒネ切れたらメチャクチャ痛いだろうな。

「お、お前!!だって車に轢かれたんだぞ!!それに戦闘ヘリに犯人逮捕だって……。」

「キンジ。」

俺は真剣な顔をしてキンジを呼んだ。

「……犯人のことは俺と理子の前で言わないでくれ。マジで。」

「あ、あぁ……。」

……さて、嫌なことを忘れよう。

「藤崎さん、試験って何をやるんですか?」

俺は聞いた。

「今回は日本史のセンターレベルの問題をやってもらいます!!範囲は戦国時代です!!それで8割以上取れなかった場合、和泉さんに四国八十八カ所を巡礼してもらいます!!」

……俺達に何かあるわけでもないのか。

「キンジやろうぜ、この企画。」

「何でだよ。」

キンジは嫌そうに言った。

「お前、一般高校行ったら勉強しなきゃいけねぇんだぞ。その勉強をワザワザ、タダでやってくれるんだ。これほどうまい話はないだろう。」

するとキンジはしばらく考えた後

「参加します。」

そう言った。

ゴロゴロゴロゴロ……

見習い巫女達が黒板やゴザ、机に座布団を持ってきた。……授業は外でやるのか。

「では参加する皆さん!!席についてください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゅ~~~りょぉお~~~~!!!!」

藤崎さんの大声が星伽神社京都分社の前に響いた。……もう一時間たったのか。

「イブイブ……。」

「理子、どうした?」

「あの人、ふざけた声で喋ってたけど分かりやすかったね。」

和泉さんの授業は意外にも分かりやすかった(でも、変な声&覚えづらいゴロがあるが)。

「意外だよな。」

俺もうなずくと

「和泉さんはですねぇ~教員免許を持ってるんですよぉおおおおお!!!」

藤崎さん、うるさい。

「高校の地理と日本史を持っております。」

そう言って和泉校長(?)が色付き眼鏡をクイッと上げた。……意外だ。

 さて今回、この実力試験(?)を受けるのはこの6人。

「緊張するなぁ~。」

なんか、オチになりそうな鈴藤さん。

「今度こそは!!合格して見せます!!!」

やけに意気込んでいる安浦さん。この人は違う意味でオチになりそう。

「キンちゃん!頑張ろうね!!」

おそらくこの中で一番成績の良い白雪。

「あぁ、これならできるかも……。」

珍しく気合いを入れているキンジ。

「イブイブ、理子りんの本気を見せちゃうゾ!」

……理子。面倒だから関わらないでおこう。

「……間違っても和泉さんが八十八カ所回るだけですよね。テレビ的には間違えたほうが……。」

そして俺。

「イヤイヤイヤ!!高校生の皆様には是非とも満点を取ってください!!」

藤崎さんが言った。

「村田君、君は四国の恐ろしさを知らないからそんなことを言えるんだよ!?」

和泉さんも慌てて言った。

「でも四国八十八カ所ですよね?大体2週間程度で回るんじゃ……。」

「僕たちはね……五日で回ったんだ。幽霊も引き連れてねぇえ!」

……い、五日!?普通の半分のペースで!?

「四国はね……魔の島だよぉ……。ずっと同じ景色で山道を走らされるんだ。酔いながらねぇええ!!」

やべぇ……。和泉さんからオーラが見えるぞ。

「昼も夜もずぅっと回らなきゃいけないんだよぉお!それを僕たちにまたやらせるって言うのかい?」

「アッハッハッハ!!!」

和泉さんの脅しに藤崎さんの笑い声……これ本当にテレビかよ。

「和泉君、そろそろいいかい?」

藤崎さんが和泉さんに聞いてきた。

「……では皆さん。準備の方はいかがなもので御座いましょうか?……安浦君!!」

和泉さんは仕切り直し、安浦さんに聞いた。

「はい………大丈夫です!」

そう言って安浦さんは何か決心したように、ノートを両手で和泉さんに渡した。

「頂戴いたします。」

和泉さんはそう言ってノートを安浦さんから受け取った。

「鈴藤君の方はどうですか?」

「はい……ことのほか、こういう事をしばらくしてなかったものですから……若干緊張しております。」

そう言って鈴藤さんはノートを渡した。……確かに、笑顔が張り付いているように見える。

「緊張していますかwww。……では、飛び入り参加の諸君!!」

……俺らの事か。

「「「「はい!!一時間で…(この一時間…)(分かり易い…)(変な声で…)」」」」

「一気にしゃべるなよ!!」

「アッハッハッハ!!」

 

 

 全員のノートを回収すると、今回の試験の説明を始めた。

「え~……とにかく皆さんは全力を尽くしてもらえれば、必ずいい結果が生まれる……と思っております!では……試験のほう、説明させていただきたいと思います。」

そう言って和泉さんは全員の顔を見た。

「今から10問の、問題が出ます。そして、皆さんにはあくまでも満点を取っていただくと……。もし3問、間違えてしまった場合は……その時点でその方は、四国行き、決定!!ただし、飛び入り組の皆さんの場合は私だけが!!四国行き……と。私は信じております!全員満点を取って、家に帰ると……という事を私は望んでおります。………安浦君いいね?顔が歪んでるよ?」

安浦さんの顔は、顔芸と間違うばかりの顔つきだった。

「では……試験についての質問!!ありますか?」

「「「「「「……ないです!!」」」」」」

試験を受ける6人は威勢よく言った。

「……大丈夫だね!?行きます!!それでは……‘‘どうでぃ・日本史 ~信長の統一編~’’ 参りたいと思います。……第一問!!」

そして、試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

「第十問!!」

意外なことにみんな健闘しており、鈴藤さんと安浦さん、キンジが2問間違えリーチ。俺と理子が1問間違えギリギリセーフ。白雪はさすがの0問ミス……。

『第十問:次の戦国大名ア~エについて、守護から戦国大名になった者を下から一つ選べ。

 

 

ア 北条早雲

イ 武田信玄

ウ 上杉謙信

エ 毛利元就   』

(みんなも考えてみてね)

 

「これはちょっといやらしいねぇ~」

藤崎さんの声が響く。

ゴクリ……

解答者だろうか、見ている見習い巫女達からだろうか……つばを飲み込んだ音が聞こえた。

「できました!!」

安浦さんの声が聞こえる。俺もできた。流石に大丈夫なハズ……。

「皆さんできましたね?………では、答えをどうぞ!!」

その声と同時に俺達はフリップを回した。

「ア」←藤崎さん

「ウ」←安浦さん

「イ」←白雪

「イ」←キンジ

「イ」←理子

「イ」←俺

「わ、分かれましたねぇ~」

藤崎さんの声が聞こえてくる。

「確か……北条早雲は伊勢氏、上杉謙信は長尾景虎だから長尾氏、毛利は国人出身だったと思うんですよ。」

俺が思わず言った。前世で一時期、歴史物の小説にはまってたからな。この時代は得意だ。

「「あ……」」

藤崎さんと安浦さんの声が聞こえた。和泉さんが慌てている。……え?まさか。

「ふ、藤崎君!答えは!!」

和泉さんが震えた声で藤崎さんに聞いた。

「第十問……イ!!」

「「「うあぁああああああ!!!!」」」

和泉さん、鈴藤さん、安浦さんが叫びながら倒れた。

 

   校長先生

   マスター

   安浦君

   四国決定!!!

 

 ……今絶対テロップが出たな。

「色々ありまして8割合格にしましたが、今回も卒業生が出ませんでしたな~。」

藤崎さんがからかう。

「というか、飛び入り参加組が全員合格なのに、二人は落ちるって……。」

音野さんが珍しくしゃべった。すると、和泉さんがフラフラと座りなおした。

「うーん……‘‘試験に出るどうでぃ’’は難しいですなぁ……。だって、今まで通りにやってたら二人ともすぐ落ちちゃうんでしょ?あんなことがあったとはいえ……。」

和泉さんがぼやいた。

「え~……特別ルールのおかげで善戦しましたが、今回も純粋な合格者は出なかったと……。‘‘どうでぃゼミナール’’留年と……。という事でね、次回!!‘‘どうでぃゼミナール’’があれば、この二人で頑張っていきたい……という風に思っております。」

和泉さんが閉めの言葉をしゃべり始めた。

「私はもちろん!!四国行き決定!!そして鈴藤君、安浦君も一緒に四国に行くという事で……。一人よりも二人!!二人よりも三人で!!受験生の合格を祈願したいと思います!!案ずるな 受験生!!今年は三人で行くぞ!!どうもありがとうございました!!」

 

   四国八十八カ所3 withマスター&0u!!

 

 ……ここで次回予告でも入るんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 この後、俺達は東京に戻らないといけない。何故なら、神崎かなえさんの裁判が再開されるため、それに備えるためにイ・ウーと戦った俺達は弁護士との事前打ち合わせを予定していたからだ(なお、エル、牛若、ニトは不参加。戸籍改竄がバレないように、念のためだ)。

 そのために俺達は今日の夕方に新幹線に乗って東京に戻らなければいけないのだが……藤崎さんが新幹線代を奢ってくれた。何でも、ギャラの代わりとしてもらって欲しいそうだ。なので俺達は有難くいただいた。ついでに、和泉さん・安浦さんは東京での初舞台があるため、俺達と同じ新幹線で戻るそうだ(絶対ついでに買っただろ)。

 それが、和泉さん・安浦さんの悲劇につながるとは誰が思っただろうか。

 




 この5人組の番組名は‘‘木曜どうでぃ’’という名前です。(なお架空の番組です。)

 四国の方々、ごめんなさい。悪気があって『魔の島』と書いてません。

 次回はやっと新幹線に入ります。



 Next Ibuki's HINT!! 「気体爆弾」



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一般人に爆弾って……

 明日中間テストなのにアップする馬鹿がここに一人……。
 
 ところで、今の季節は梅の季節です!!梅干し、梅酒、梅の砂糖漬け、どれも美味しいので作ってみてください!!

 


 俺達4人と和泉さん、安浦さんは東海道新幹線のぞみ246号、東京行きに乗った。キンジと白雪、和泉さんと安浦さんは16号車、俺と理子は15号車に乗ることになった。なんでもそこしか取れなかったらしい。

 俺と理子が指定された席に座ろうと……

「あら、イブキと理子じゃない。ここの席なの?」

俺達の席の後ろにアリアがいた。

「あぁ、まさかアリアの前の席だとはなぁ。」

俺はそう言いながらアスピリンを‘‘四次元倉庫’’から出して煽った。モルヒネが切れたのか、体が痛くなってきたためだ。ついでにこのアスピリンはアメリカ土産だ。アメリカはアスピリンの大量消費国で、おっさんが(すす)めてきた。

「すまんアリア。昨日ココに襲われて疲れてるんだ。寝かしてくれ。詳細は理子が言う。」

俺はそう言って眠りに入った。昨日はなんだかんだあって、朝の5時まで戦ってたんだ。起きたのも10時くらいであまり寝てない。ここで体力を回復させてくれ……。

 

 

 

 

 

 周りがうるさくなって俺は起きてしまった。

「なんだぁ?こんなにうるさくなって……。」

『お客様に お伝えしやがります。』

アナウンスが流れてきたが……何故ボーカロイド?嫌な予感しかしない。

『この列車は どの駅にも止まりません 東京駅まで ノン ストップで 参りやがります アハハ アハハハハ!!』

……おい、ウソだろ!?

『列車は 3分おきに10キロずつ 加速しないと いけません さもないと、ドカーーン!大爆発!!しやがります アハハ アハハハハハ!!』

……戦闘ヘリに追っかけられて、車に轢かれて、次は特急列車乗っ取り(エクスプレス・ジャック)かよ!!

「なんで俺がこんな目に……。」

……ぼやいても始まらないか。これは理子の起こした事件にすごく似ている。しかし、これは理子がやったものではない。

「理子!!心当たりは!?」

「やられた!!ツァオ・ツァオ…‥もう、動いたのか。あの守銭奴め!!!」

鋭い目つきで、理子は呟いた。

「……因果応報だな、‘‘武偵殺し’’さんよ。」

キンジは理子の肩を叩く。

「ツァオ・ツァオは…子供の癖に悪魔染みた発想力を持った、イ・ウーの天才技師だ。莫大な金と引き替えに、魚雷やICBMを乗物に改造したり……キンジ、お前のチャリに仕掛けた‘‘減速爆弾(ノン・ストップ)’’の作り方を教えたのもツァオ・ツァオだ。これはその改良版……‘‘加速爆弾(ハリー・アップ)’’!!!」

……おかしい。何だって今日の早朝に逃げて、午後にはしかけられるんだ!? 

「イ・ウーの…爆弾戦術の講師ってところね。理子、アンタ……生徒ならこの爆弾の基本構造は分かってるんでしょ、すぐに起爆装置を探し出して解除しなさいよ」

アリアが言った。すると理子は、歯軋りをしながら両膝の間に手を突っ込んで、シートを探る様に動かしたあと、

「何故だ!?私の席に仕掛けがない!?」

理子が叫んだ。

「どういう事!?」

アリアが聞いた。

「私はこの爆弾の基本構造を知っている。だから私に何か仕掛けをして、動けないようにするのが定石だ!!」

俺と理子の切符は藤崎さんが手配した。そして、キンジと白雪、和泉さんと安浦さんの切符も藤崎さんが手配した。しかし、俺と理子、キンジと白雪は普通に立っている。……もしかして。

「「16号車へ行くぞ!!」」

俺と理子が同時に言った。

 

 

 

 

 

 和泉さんと安浦さんは爆睡していた。

「和泉さん!!安浦さん!!起きてください!!」

俺は二人をたたき起こした。

「なんだい?ぼかぁ、疲れてるんだ。もう少し寝かせて……。」

「……脱いだほうがいいですか?」

何で安浦さんは脱ぎたがるんだよ!!

「緊急事態です!!二人とも座ったまま足を上げてください!!」

俺は有無も言わせずに二人の足を上げさせると、理子と一緒に二人の座っている椅子の下にあるカバーを外す。

「「うわぁ………。」」

そこには、爆弾が二つあった。しかも感圧スイッチが座席についている。……もし、二人がこの席から立ってしまえば、木っ端微塵になってしまうだろう。

「な、何なんだよ!!何が起こってるんだよ!!」

和泉さんはやっと周りの異常性に気がついたのか、いつも以上に慌てている。安浦さんも周りをキョロキョロと見回している。

「和泉さん、安浦さん、悪い方とすごく悪い方のどっちの情報が聞きたいですか?」

「悪いのしかないじゃないか!!あれかい!?君たちは疫病神か何かかい!?」

和泉さんがぼやく。

「それなら確実に、疫病神はイブキだな。」

裏理子が答えた。

「俺は何があってもそれは認めねぇぞ。」

「……とりあえず、すごく悪い方からお願いします。」

安浦さんがどっしりとした態度で聞いてきた。

「……さすがは大人。貫禄がありますね。」

「もうね、どうにでもなれって感じよ。」

安浦さんはそう言って、ペットボトルのお茶を一口、口にした。

「……和泉さんと安浦さんの椅子の下に爆弾が置かれています。しかも感圧スイッチがついているので、席から立ったとたん…爆発です。」

二人の顔は真っ青になった。

「悪い方は……。」

ガンガン!ガキィン!

何回かの金属音が響いた後、周り乗客たちが悲鳴を上げながら通路を駆け逃げ出した。音のしたほうを見ると……誰かが運転室の内側から扉を叩き割って出て来た。

你好(ニーハオ)、キンチ。ここで立直(リーチ)ネ」

「「「ココ!!!」」」

「ツァオ・ツァオ!!!」

キンジとアリアも16号車に来たようだ。清の民族衣装を身に纏ったココは、ウィンクをした後、身の丈に合わない鉈のような物を振り回し始めた。

「この列車、お前たちの棺桶なるネ!きひっ!」

ザンッッッ!!

先頭の座席を簡単に叩き割る。あれは、多分青龍刀だったっけ?幅広で、重い中国刀。日本刀が鋭く切る為の‘‘人切り剃刀’’、そして、青龍刀はその重さを以って肉と骨を砕き割る‘‘人切り包丁’’だ。

 まぁ、そんなことはともかく……

「……悪い方はこのように、列車がジャックされたってことですかね。」

「じゃぁ、あれかい?ほかの客のように僕たちは逃げられないんだね?」

和泉さんが聞いてきた。

「そうですね。」

「この爆弾は外せないのかい?」

「今全力でやっている。」

裏理子が爆弾をいじりだした。

「理子、頼む。」

「任せとけ。」

俺はココのほうへ向いた。

 

 

 

 

「10分だけ遊んでヤルヨ。ココはデートの約束あるネ」

と言うココの後ろ…二重扉の先にある、運転席には女性運転士が半ベソで振り返っており、助手席には誰も居なかった。どうやらココは、助手席に乗り込んでいたようだ。

「てめぇ!!一般人を人質にしやがって!!」

「え!?何でイブキがいるネ!?爆弾で身動きができないはず……。」

うえええええん……

すすり泣く子供の声が聞こえた。声が聞こえたほうを向くと、16号車中央付近で、まだ避難出来ていない妊婦さんに子供が抱き着いていた。

この16号車に残っている一般人は、彼女らと例の二人だけだった。

 見れば妊婦さんは大きなお腹を抱え、苦しそうに脂汗をかいている。このパニックの中で、ストレスによる体調不良を引き起こしたようだ。

……クソッ!!これ以上妊婦さんにストレスを掛けられん!!そう思ったとき、アリアが俺を走って抜いていった。

「白雪!!彼女と子供をセーブして!!」

アリアは日本の刀を抜き、下段でクロスさせ、突撃する。

「おう、君たち安心しろ。悪い人たちは兄ちゃんたちが倒しちゃうからな。」

俺はその間に子供たちを安心させようとする。

「なんたって、ここには‘‘ご存知、和泉陽司’’がいるからな!!」

「何だって僕に振るんだよぉおお!!僕が何をできるってんだい!?」

「和泉さんもお笑い芸人なら気の聞いた言葉をしゃべってくださいよ!!」

「ぼかぁ俳優だ!!」

……え?そうなの?

「キンジ!セーブ・フォローー!!イブキも!!!」

「お、おうっ!」

 

 

 

 

 

星伽が妊婦さんを支え、さっきので笑顔になった子供を俺が抱き上げて15号車へ走り、背後をキンジに守ってもらいながら移動する。

  ガキィイイン!!

後ろで金属同士のぶつかり合う音が聞こえる。アリア、そっちは頼むぞ。

「謀ったわね、卑怯者!!初対面の時にはココと名乗っておきながら……偽名だったとはね!ツァオ・ツァオ!!」

「それは欧州人の間違った呼び名ネ。イ・ウーではシャーロック様がそう呼んだヨ、だからココは皆にそう呼ばせてたネ。曹操(ココ)、これ、魏の正しい発音アルッ!」

「おいおいおい!!危ないって!!僕に当たるから!!待って落ち着いて!!話せばわかるって!!」

「いやね、陽ちゃん。‘‘どうでぃ’’って危険な企画ってのは知っていたけど、‘‘シェフ・和泉’’企画以上に危ない目にあうとは思わなかったよ。」

「って、なにお前は堂々とタバコ吸ってんだよ!!」

「「何でこの状況で漫才やってんのよ(やってるネ)!!!」」

………俳優じゃなくて、お笑い芸人だろ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 子供たちと妊婦さんを何とか15号車へ非難させた。

「白雪、悪いけどこの人たちを頼む」

俺はそう言って銃剣を取り出した。あんな狭いところじゃ刀も38式も使えねぇ。

「乗客の中に医者がいないか探すんだ。俺達は4人で、アイツを逮捕する」

キンジも妊婦さんを支える星伽にそう告げる。

「は、はい!でも気を付けて、キンちゃん、イブキ君。あの犯人、普通じゃない感じがするの。」

……普通ねぇ?

「普通じゃない?それはいつもの事だろ。」

「てやんでぃ、こちとら毎回毎回、普通じゃねぇ敵と戦ってんだ。」

「「だから、普通だ。」」

星伽にそう言いつつ…俺とキンジは16号車へ向かう……。

 

 

 

 

 

 

 

 16号車に戻ると、アリアとココがほぼ同時に膝蹴りを繰り出し――互いの腰を蹴る形になって、飛び退いた。

その瞬間、ココは青龍刀を放り投げ、床を蹴り、アリアの膝、腰、胸を垂直に駆け上がる様にあがり、ビシィッ!と絹布の靴でアリアの顎につま先蹴りを叩き込んだ。

「アリアッ!」

キンジがバタフライナイフを構え、通路を駆ける。俺も‘‘影の薄くなる技’‘を使って一気に接近する。

「……ッ!!!」

よろめいたアリアが数歩後退した。その向こうで、運転室を背にしたココはバク転をしがら、バタバタと両袖の長い袂をヒレのように羽搏かせた。そして、その袖の中から、香水の容器のような物を取り出し……

泡爆珠(パオパオチュウ)ッ!!」

シュッ...と霧吹きみたいな音がした。小さなシャボン玉(?)がココの周りに出てきて、周囲に拡散していく。

「アリア避けろっ!!」

泡爆(パオパオ)は気体爆弾だ!あたしはイ・ウーで見た!シャボン玉が弾けて中身が酸素と混じると――爆発するぞッ!」

キンジと理子が慌てて忠告する。

 「「!?」」

それを聞いたアリアは、キュッ!と足元を鳴らし、俺は諦めて突っ込んだ。

バチィイイイイッ!!!

アリアと俺の眼前で弾けたシャボン玉から、激しい衝撃と閃光が上がる。

「きゃぅ...!」

アリアが車に撥ね飛ばされた様に吹っ飛ばされ、

「ッ!!」

俺は逆にココの方へ吹っ飛ばされた。

「この野郎!!」

「イ、 イブキ!?」

バキッ!!

俺は爆風の勢いを使い、ココを殴った。俺はそのままココのマウントポジションを取り

  ザクッ!!ザクッ!!

銃剣をココの首元にクロスさせるように床にぶっ刺した。

「た、救命(助けて)……。」

「すまんな!!」

 ドスッ!!

ココの鳩尾(みぞおち)に力いっぱいの拳を叩き込んだ。すると彼女は体中の力が抜けた。気絶したようだ。

 ジョワァ……

彼女の股間が濡れ始め、下半身から液体が出てきているが、彼女の尊厳のため無視しよう。

猛妹(メイメイ)!!」

もう一人のココが運転室から出てきた。やっぱり……そっくりさんが何人もいて、それを一人だと勘違いさせていたのか。さすがは世界で最も多い民族。3~4人そっくりさんが出てきても不思議じゃないぞ。

 もう一人のココは慌てながら気絶した方のココを見た後、アリアを見てニヤリと笑った。俺もアリアを見ると、アリアは立ちあがれず、膝をガクガクと震わせて……刀を手放してしまっている。

 すると、ココは‘‘前ならえ’’の様に腕を前に突き出し、袖からヌンチャクのような物を2本取り出した。

 ……違う!!小型ロケットだ!!

ロケットの先端同士をカチンと合わせ、ココが左右にソレを離すと、先端同士の間にワイヤーが1本、ピィッと張られて伸びた。まるで、ヌンチャクの様な形に……。

双火筒縛禁(シャンホートンフージン)!!!」

鋭い噴射音を上げて平行に飛んだ2発のロケットが、キンジとアリアの左右を通過した。そのロケットの間に張られたワイヤーがアリアとキンジに引っかかる。

「うゅっ!?」

アリアとキンジでワイヤーを固定されたロケットはグルグルッとキンジたちの周囲を勢いよく回り、二人を拘束していく。

「あッ……あ…!!」

「う…ぉ……ッ!」

  カキンッ!

二人の腕、胴、脚をグルグル巻きにしたロケットは、甲高い音を立ててワイヤーを切り離し、床に転がった。燃料を使い果たしたのだろう。

「きゃあっ!」

その転がったロケットをアリアが踏んで、キンジと一緒に倒れる。その衝撃のせいで、キンジはバラフライナイフを手から放してしまった。

 ……チクショウ!キンジとアリアを助けてやりたいが、俺がそうすればココが襲ってくるだろう。 

「きひっ。無駄ヨ...そのワイヤーはちょっとやそっとじゃ切れないアル」

「おいおいおい!!大ピンチじゃないか!!ぼかぁまだ死にたくないよ!!明日の東京初舞台に出るんだ!!お嬢ちゃん、落ち着いて一緒に話そうじゃないか!!」

相変わらず、口が閉じない和泉さん。

「うっひっひっひ……(ヌギヌギ)。」

ビールを山ほど飲みまくり、服を脱ぐ安浦さん。

……あれ?ここは戦場だよな?

 

 

 

 

 

「う……ふぇ……ツァオ・ツァオ……!!!」

その言葉に、ココが動きを止めて顔を向ける。この声は理子の声だ。

「…びええええええええ!!!理子はイ・ウーの仲間だったじゃーーーーーん!!!同期の桜じゃーーーーーん!!!理子は助けてぇえ!!理子だけは助けてぇえええ!!!!びええええええええ!!!」

理子が大声で喚き始めた。

「おいおいおい!!峰ちゃん何すぐ裏切っちゃってんの!?僕達の爆弾を解体してよ!!ぼかぁね、一般人だぞ!!一般人を巻き込んでもいいのかい!?」←和泉

「うっひゃっひゃっひゃっ!!(グビグビ)(パンツ一丁)」←安浦

……あれ?ここは戦場だよな(2回目)?ここまでコントのような戦場は初めてだ。

 理子のウソ泣きのおかげでココが俺から目をそらした。俺はその間にキンジのバタフライナイフを蹴ってキンジの手の届くところに送り、再び‘‘影の薄くなる技’’を使いロケットを発射したほうのココへ接近する。

「峰理子、ウソ泣きやめるネ!!ウソ泣き通用する相手、男だけヨ!」

「チッ!!」

理子はウソ泣きを止めて舌打ちをし、そしてアッカンベーをした。

 ココは理子から目線を外し、アリアを睨む。

緋弾のアリア(Aria the scarlet ammo)

……なんだそれ?‘‘Aria the scarlet ammo’’……緋色の弾薬のアリア。いや、‘‘緋弾のアリア’’か……。

「何もかも、お前のせいネ。イ・ウー崩壊した、世界中の結社、組織、機関、パワーバランス崩れたネ。乱世、これから始まるヨ」

ココが、罪人を見るような目でアリアを見る。俺はその間にココのそばまで回る。

「お前、緋緋色金(ヒヒイロカネ)喜ばせた。これも乱の始まりアル。緋緋色金と璃璃色金(リリイロカネ)、仲悪いネ。緋緋が調子づいた事感付いて、璃璃。百年振りに(おこ)たヨ。怒って見えない粒子撒いて、世界中の超能力者(ステルス)、力、不安定になった。」

……イロカネが、超能力を狂わせる?イロカネのことは兵部省で知ったけど……璃璃色金が超能力者(ステルス)を狂わせる事は聞いたこと……待て、確か辻さんに連れられて(強制)会議に出た時、聞いたような気が……。

「これから超能力者(ステルス)、役立たずになるヨ。その時、銃使いの価値増すネ。」

ココが、キンジを指差す。

「キンチは超能力者(ステルス)ちがう。でも、高い戦闘力持ってる良い駒ネ。主戦派(イグナテイス)研鑽派(ダイオ)、ウルス、みんなキンチ欲しがってる。」

どうやら……キンジはそういう業界で随分と人気らしい。確かに、キンジはフリーだからな。どこの組織でも欲しいはずだ。

「一番キンチに手出すの早かたの、‘‘ウルス’’ある。璃璃色金、姫に直接指令を送って、キンチを取りにかかったネ。でもキンチは、ココが横から貰うアル」

ココは実に嬉しそうに、ピョンピョンとその場で跳ねる。

「それに、イブキも気に入ったネ。ウルスのレキも、イブキも、アリアも、ココが貰うヨ。優れた狙撃手、暗殺に使うも良し、売るも良し、緋緋色金は高く売れるヨ。イブキは戦うもよし、その回復力を研究機関に売るもよしヨ。」

……ほう、俺を売るとは……だいぶ大きく出たな。

「キヒッ……乱世、ビジネスの好機ネ......この新幹線乗っ取り(ジャック)も、サイドビジネスある。さっき、日本政府に身代金として300億人民元要求したヨ。払えば良し、払わないなら……どっかぁああん!!!」

ツインテールが跳ねる程の勢いで、上を向いて甲高く叫ぶ。

「列車粉々にして、パオパオのデモンストレーションにするネ!」

……また金が目的か。定番だけど……つまんねぇ……

「キヒヒ……さっきのパオパオ、ほんの1ccネ。この列車には1㎥積んだアル」

1㏄は1㎤。なので

100×100×100=100万

よって、さっきの100万倍の威力の爆弾か……。新幹線なんて文字通り木っ端微塵になるぞ!?

泡爆(パオパオ)、目に見えない爆弾アル。何処にでも隠せる、誰にも気付かれない名品ネ。派手にふっ飛ばせば、注文、世界中から来るネ。ココ大儲けで、藍幇の女帝の地位買うヨ。」

さて、そろそろ襲いますかね。

「キンチ、レキ、イブキ、香港の藍幇城へ連れて行くネ。アリア、買いt……」

「ココ……こんな言葉を知ってるか?‘‘捕らぬ狸の皮算用’’ってな!!」

……修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)の前に受けた護衛対象の口癖が移っちまったな。

 バキッ!!!

俺は安浦さんの飲みほした日本酒の瓶でココを殴った。彼女の頭から血が流れ出る。

「おぉ!!村田君!!テロリストを早くやっちゃって頂戴!!あ、峰ちゃん。まだ解体できない?」←和泉

「あ……。それ、僕の日本酒……。(パンツ一丁)」←安浦

「これ空のやつですから!!」

……本当にこの人達、俳優なんだよな?

 

 

 

 

 

 

 

 俺は日本酒の瓶を捨て、銃剣でココの首を切り飛ばそうとした瞬間、ココが青龍刀を突き出し、その斬撃を何とか阻む。

ギャィイイイイン!!!

甲高い音を立て、火花を散らす。

「後ろから襲うのは卑怯ヨ!!」

「後ろ取られる方が悪いんだよ!!」

青龍刀を俺に突き刺そうとするが、俺は銃剣で軌道を反らし、足払いをかける。ココはそれを飛んで避ける。

 ココは座席に着地し、今度はその座席を蹴って俺に接近してきた。

「アイヤー!!」

ココが青龍刀を俺に振り下ろす。あれをそのまま受けたら銃剣が折れるな。

 俺は左手の甲をココの手首にぶつける。それでココの斬撃を止めさせたと同時に、右手の銃剣の峰をココの左手首に思いっきりぶつける。

「アウッ!!」

ッチ!!軍務だったら今の攻撃でココの指を切り落とせたのに!!武偵の不殺は面倒だな!!

 のけ反ったココを追撃しようと俺は前に出る。……下!?

 ココはのけ反った体制から俺の顎に蹴りを入れようとしてきた。俺は両腕でそれをガードする。

 ココは今の攻撃を失敗すると、俺から距離を取り、体制を整えた。

「どうした?俺を売るんじゃないのか?」

俺は手の中の銃剣をクルッと一回転させる。

「……ッ!!アイヤヤヤヤヤッ!遊んでたらこんな時間ヨ!ココ、デートの準備あるネ!」

そう言ってココは気絶した方のココを背負って前もって開いてたらしい天井の扉に続く簡易梯子を昇っていき、車外に出ていった。

……追いたいが、ここでいったん体制を立て直そう。

 

 

 

 

キンジはいつの間にかワイヤーから抜け出していたようだ。

「イブキ、見つけたぞ」

キンジの目つきと雰囲気が変わっている。‘‘白馬の王子モード’’になったな。

「何をだ?」

「1㎥の泡爆(パオパオ)だ」

1㎥なんて量はカバンなんかには入らないだろう。どこかの部屋に隠されているのか?

「何処だ?」

「この洗面室に満たされてるんだ」

「そうか……。」

そこに風船でも入っているのか、それとも完全密室になっているのだろう。

「……き、キンジ!!」

アリアが叫んだ。

「あ、あんた!!許さないk……。」

キンジとアリアがじゃれ合っているが無視しよう。

 

 

 

 

 

 

「理子、解体終わったか?」

俺は理子に聞いた。

「相当時間がかかる。ツァオ・ツァオめ、複雑なのを仕掛けたようだ。」

まだ裏理子か。

「まだ僕たちは立てないのかい!?」

和泉さんが聞いてきた。

「そのようですね。」

「それに洗面室に爆弾があるんだろ!?そっちの方も解体できないのかい!?」

そんな無茶な……。

「いやぁ~……。自分は戦闘専門でして。」

「……グ~…グ~…。」

「「「何寝てるんだよ!!」」」

安浦さんがいびきをかいて寝ていた。

「……おぉ!!…東京着いた?」

「「「着いてねぇよ!!」」」

 




 アスピリンはアメリカで大量消費されてるそうです。なんでも、何の症状もないのに日常的に飲んでる人もいるとか。


 安浦さんが脱ぎたがりの酒好きなのは……‥分かる人は分かるよね。

 ココは理子とイブキを動けないようにしようと爆弾を設置したのですが、結局座ったのは一般人だった……という設定です。



 Next Ibuki's HINT!! 「宙づり」



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宙づりなんて絶対やんねぇ……

 明日もテストとレポートがあるのにアップする馬鹿がここにいます。

 今月はバイトが少ないので楽です。でも中間テストががが……

 




俺は15号車に戻ると、妊婦さんを高齢の女医さんが冷静に診察をしていていた。

 ……良かった。HS部隊にいた時、衛生兵の真似ごと程度はできるようにさせられたから、最悪の場合は俺がやると覚悟していた。

「イブキ、武偵は俺達を合わせて10人だけだ。」

武藤が息を切らせながら言った。

「軍人や警察もいないのか?」

「元軍人のおじいちゃんが2人いたよ。戦うから武器寄越せって言っているよ。」

やれやれと不知火が言った。……この国の老人は元気だな。

 すると、キンジとアリアも戻ってきた。

「キンジ、武偵は俺達合わせて10人。軍人・警察は爺様が二人だそうだ。」

俺がそう言うと、通信科(コネクト)の女の子3人が走ってきた。

「爆弾は見当たらないわ。」

「警察にも通報したけど……。」

「犯人も見つかってない。」

なるほど、となると洗面所の爆弾と、俳優(?)二人の席にある爆弾だけか。

「もうどっちも見つけた。こっちで作戦を立てよう。」

キンジはそう言いながら白雪に手を回し、もう片方の手で手招きをした。

 

 

 

 

 

 15号車と16号車の間を簡易作戦会議室にした俺達はキンジがざっと状況説明をした。

「どこからか犯人が車内に戻ってきた場合の事を考えて……鷹根、早川、安根崎の3人は1号車、4号車と5号車の間、11号車と12号車の間、白雪は此処を守ってくれ。不知火は対テロリスト訓練の経験が豊富だから、7号車と8号車の間……中央を守ってほしい。理子は一般人に仕掛けられた爆弾の解除をやっている。それが終わり次第、加勢する。」

キンジは素早く配置を決めていった。

「それと待機中、鷹根たちは武偵高・警視庁・鉄道公安本部に連絡して爆弾の解除方法を模索してくれ。」

「爺様達にも手伝ってもらおう。予備の38式と44式騎銃がある。」

俺が言った。

「一般人にも武装させるのか!?」

武藤が慌てて言った。

「……新幹線は1000人とちょっとが定員なんだろ?ざっと計算しても1000人を10人で守るなんて無茶だ。少しでも人員は欲しい。それになんかの会員証で確認したんだろ?」

「ちゃんと確認した。」

不知火が俺の目を見て言った。

「俺達の命令に従うことを条件に渡す。それに会員証があるなら予備役だ。有事の際は手伝ってもらわなきゃな。」

俺はそう言って予備の38式・44式騎銃そして弾を通信科(コネクト)の子たちに渡す。

「……わかった。それで、俺はどうするよ。」

武藤は理解してくれたようだ。

「もう新幹線の運転士がグロッキーなんだ。武藤、操縦を代わってくれ。3分に10キロの加速だ。……繊細な操作だ、できるか?」

キンジが武藤の配置を言った。

「出来るに決まってんだろ?車輛科(ロジ)なら1年だって出来るぜ。」

「それは安心だ。……武藤、爆弾は運転席の真後ろだ。いいのか?」

俺が武藤に聞く。

「お前なら逃げるか?」

武藤は満面の笑みを浮かべた。

……こいつなら大丈夫だろう。

「よし、始めよう。アリア、イブキ、行くぞ。銃刀法違反と監禁の容疑で、ココを逮捕する。あの子に、子供はもう家に帰る時間だって事を教育してやろう。」

その言葉を聞き、俺は腕時計を確認すると、18時22分を指していた。

……3分に10キロの加速をすると……おおよそ1時間ほどの時間しかないのか

「う、うん!」

アリアはキンジと目が合うと、コクコクと頷いていた。

「さて、それじゃぁ行くか。イピカイエーってな。」 

俺はそう言って立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 有難いことに、通信科の3人は片耳に挿すタイプの骨伝導式インカムを複数持っていたようだ。それらを受け取った俺たちは互いに連絡を取れるようにと周波数を合わせた。

 その後、全員が配置についたのを確認していると、不知火から通信が入った。

『遠山君、7号車にどこかのTVスタッフが数人乗ってて、カメラ機材も持ってる。これが事件だと分かってからは、ずっと車両の無線LANを使って放送していたらしいよ』

『この状況で放送を?』

『うん、嬉しそうにしてる。スクープ現場に居合わせることができて』

全員の命が掛かってる状況なのに、実に楽観的な連中だ。

「不知火、それってホームビデオのようなもので撮影してないよな?」

違うとは思うが、蝦夷テレビの残りの3人(藤崎さん、音野さん、鈴藤さん)だったら、冗談抜きで漫才が16号車に響くぞ!?

『え?……そんな人はいないよ?』

良かった。ある意味災害は避けられたわけだ。

『……放っておこう。報道は、自由だ』

キンジはそう言いながらこの車両の先頭へと進んでいく。

 ……マスコミはいつも道理か、面倒な。 

 

 

 

 

 さて、車両の先頭についた。

「キンジ、イブキ、あんた達もヒールフックを使いなさい。」

アリアがそう言いながら白いスニーカーを履き直していた。

 

 不安定な足場に出る場合に備え、武偵は常にチタン合金の鉤爪(かぎづめ)を携帯しているそうだ。ベルトのバックルやホルスターの奥に秘匿されるその金具は、変形ロボットみたいに形状を何種類かに組み替える事が出来る。

……HS部隊でも支給して欲しかったなぁ。

 

 アリアはそれを靴底にセットし、新幹線の上から転落しない為のスパイクにしていた。

「バスジャックの時はルーフに打ちこんでワイヤーの支点にしたけど、今回は白兵戦(CQC)よ。ワイヤーを切断される恐れがあるわ」

「……正しい判断だ」

「……あれ?」

‘‘四次元倉庫’’を探したがどこにもない。俺はポケットを探し、ベルトのバックルやホルスターを探すが……ない。

 ……あ、比叡山の旅館の部屋に置きっぱなしだ!!……落ち着け、俺。今、俺が履いている靴は陸軍が採用した戦闘靴だ。新幹線から落ちることはないはず……。そういえば、ジョン・F・ケネディ空港の時、普通のズックで滑走する飛行機の翼の上で格闘したんだ。しかもあの時は雪が降っていて、コンディションはさらに悪かった。よし、大丈夫だ行ける!!

 俺は靴ひもを結びなおした。

 

 

 

 

「イブキ、終わったか?」

「あぁ、準備万端だ。……理子、あとどのくらいだ?」

『もう少しでできるが……最後が面倒だ。』

「了解。」

理子の後ろで何かの声が聞こえたが……和泉さんがしゃべっているのだろう。

 アリアは自分の両頬を両手でばしばし叩いて気合いを入れている。

「行くわよ。」

「おう。」

さっそく梯子に飛びこんだアリアの手を、キンジが包み込むように握った。。

「なっ何っいきなりっ!!手、手っ手っ……」

赤面したアリアのスカートを、キンジは小指でピン、と弾いた。

「梯子や階段を上る時だけは、レディー・ファーストの例外だよ。」

「……先行かせてもらうぞ。」

キンジとアリアのイチャイチャを見て、さっきまでのやる気が無くなっちまったよ……。しかも、体があちこち痛くなってきた。アスピリンが切れたな。

 

 

 

 

俺が急いで梯子を上ると……

「キヒッ!!!」

……このココは股が濡れている。気絶したほうのココか。キンジも急いで出ると同時にもう一人のココがキンジを襲ってきた。

「小便漏らしてそんな顔できるとは…ね!!」

「う、うるさいネ!!」

14年式で(何とは言わないが)股間が濡れているほうのココを撃つが、青龍刀で弾く。何発も撃っていると……

  カチンカチン

弾が無くなったようだ。

「キヒッ!!」

股間が濡れているココは青龍刀を持ち、待ってましたとばかりに姿勢を低くして突っ込んできた。

()ッ!!」

濡れているココは青龍刀を上段に構え、叩きつける様に振る。

「6時過ぎだ!もうお家に帰りな!!」

俺はシャーロックから貰った紅槍を出し、斬撃を防ぐ。

「キヒッ!!」

ガギィイイイイ!!!

紅槍と青龍刀から火花が出る。

「キンジ!!漏らしてない方は頼んだぞ!!」 

「あぁ!」

「いちいちそう言うナ!!」

俺はいったん後ろに下がり、距離を取ると突撃をする。

 ギィイン!!

ココは青龍刀で突きを受け流すが、俺はその勢いのまま一回転し、再び斬撃をココに喰らわす。

 ギュイィイン!!

『武藤だ!あと10秒で加速する!落っこちるなよ!!!』

『どうなってるのよ!出入り口が開かないわ!』

武藤とアリアは同時に言った。

「敵のそっくりさんが二人だ!!それ以上いる可能性がある!!」

俺はそう言いながら再び突きを連続で喰らわせるが、ココは何とか青龍刀で防ぐ。 

「手加減不要ヨ、猛妹(メイメイ)!!殺すもやむなしネ!!」

(シー)!殺すもやむなしネ!!」

ココはいったん距離を取ると、青龍刀を構えて一直線に突っ込んできた。時速250kmの追い風を受け、普段ではありえない速度で突っ込でくる。

 ……でもなぁ、師匠に比べればそこまででもないんだよなぁ。

 ココの斬撃を槍の柄で受け、俺はその力を利用し後ろに下がる。

「せぃや!!」

俺は再び突撃し突きを放つ。ココは青龍刀で突きを受け流した。

「これでも喰らえっ!!」

俺はその場でクルッと一回転し、石突きでココの手を叩き、穂先で青龍刀を弾き飛ばす。

「アウッ!!」

青龍刀を落としたココは驚愕している。俺はそのまま石突きで薙ぎ、ココを戦闘不能にしようと……

 ダッ!!

ココはとっさに姿勢を低くし、距離を取った。

……仕切り直しなんてさせねぇよ!!

 ベキッ!!

俺は穂先を新幹線の屋根に突き刺し、棒高跳びの要領で一気に近づく。

「おらぁああ!!」

俺は、空中で一回転し頭の上から槍を振りぬく。

「ヤイヤイヤッ!!!」

ココは両袖から大きな扇子を出し、俺の一撃を防いだ。

 ……鉄扇か!!

ココの使っている鉄扇は、檜扇の形をしていて、ふちは刃になっているようだ。

「おらぁああ!!」

俺はさらに力を入れココを押す。

ココがバランスを崩し、転びかけた瞬間……

ガクッ!!

新幹線が加速し、ココが転がり落ち……なかった。ココはクナイのようなナイフを出し、新幹線の屋根にぶっ刺して何とか落ちないようにした。

猛妹(メイメイ)!!!」

 ダダダダダダダ!!

漏らしていない方のココが短機関銃(サブマシンガン)を2丁両手に持ち、俺とキンジへ発砲してきた。

「クソッタレ!!」

俺は槍を回し、銃弾を弾く。

 ……これがなければ漏らしたほうのココを仕留められたのに!!

 キンッキンッキンッ!!

ココの使っている短機関銃(サブマシンガン)にはドラムマガジンが使われているせいで、なかなか弾切れが起きない。

 

 

 シャァアアアアアア

カーブに差し掛かったのだろう。新幹線が左に傾く。

 高速走行をする列車ではカーブの時、遠心力の影響で脱線しないようにするため、車体を斜めに傾むかせてカーブを曲がっていく……。

 

 

 

 ダダダ…カチンカチン

 カーブが終わると、やっとココ(漏らしていないほう)の弾が無くなったようだ。俺はキンジの相手をしていた方のココを潰そうとした瞬間、ココは(漏らしていない方)急にその場にしゃがみ、屋根にへばりついた。

「噂どうり、イブキは計画をぶち壊すネ。オマエ、危険ヨ。ここで……殺すネ!!」

すると、後ろの方から声がした。俺は急いで振り向くと、ココ(漏らしたほう)が立ち上がり、袖から何かをサッと取り出した。

 ……何か嫌な予感がする。

俺は急いでココ(漏らしたほう)に向かって突撃をする。

「花火の時間ネ!!」

ココは泡爆(パオパオ)のシャボン玉を出す小さな小瓶を出した。

 ……あの気体爆弾かよ!?俺は銃弾を弾いたり、避けたりすることはできても、面攻撃のような爆弾や爆風は避けることができねぇぞ!?

泡爆小龍鎖(パオパオシャオロンソ)!!!」

ココ(漏らしたほう)が叫びながら腕を左右に細かく振り、まるで龍が進むが如くシャボン玉の集合体が、俺達に向かって襲ってくる。

 ……うん、こいつぁ逃げられないな。ならば、漏らした方のココ、テメェも道連れだ!!

「キンジ!!後は頼んだぞ!!」

「何を言って……」

俺は自らその竜に突っ込んでいく。

 ザクッ!!

「ウガァアアアア!!」

槍の穂先がココ(漏らしたほう)を捕まえたようだ。俺は急いでベルトのバックルからワイヤーを出し、フックを新幹線に引っかけた。

「一緒に空中デートはどうでぃ?」

 ドッ!!ドドドドドドドドンッ!!

連鎖反応のようにシャボン玉は連続で爆発していく。

「うわぁあああああああ!!!」

俺はココ(漏らしたほう)と一緒に空中へ投げ出され、列車から落ちて行った。

 

 

 

 

 俺は列車から落ち地面に……

「グォオオオ……。」

何とか落ちなかったようだ。しかし、背中と足が地面に掠った。

「イッテェ……。」

アスピリンも切れたのか、昨日の傷も痛いし……。足には生暖かい液体が結構な量、流れている感触がする。

 ガシッ!!

何かが俺に掴まった。俺はそれを見ると……

「……てっめぇ!!」

漏らした方のココが俺にしがみつき、さらに登りだした。

「よくもやったネ。」

 ベキッ!!

ココ(漏らした方)が俺の顔を殴った。

「この野郎!!」

俺は新幹線の壁にココの頭を思いっきりぶつけた。

 グンッ!!

さらに新幹線が加速したようだ。

「「うわぁ!!」」

俺とココはその衝撃で、二人で新幹線の窓にぶつかった。

 ……通信科(コネクト)の子の、安根崎さんだっけか?その子と目が合ったような気がする。なんでここにいるんだ?

双蛇刎頸抱(シャンシーケイケイパー)!!!」

ココは俺の腰に両足でしがみつき、長いツインテールで俺の首を絞めてきた。

「グ……ウオ……。」

ココは俺の背中から首を絞めてくる。

 ……ってコイツ!!ただ首を絞めてるんじゃなくて、首の骨を外しに来てるぞ!?

「キヒヒッ!!イブキ!!初めから中華の姫に勝てるワケなかたネ!!平和ボケの日本人(リーベンレン)!!!」

「ウガァアアアア!!」

俺は何とか左手を首に巻き付いた髪の内側に入れ、締めるのを防ぐのと同時に、右手でココの後頭部の髪を掴み、思いっきり引っ張った。

阿阿阿阿阿阿(アアアアア)!!」

 ブチブチブチッ!!

ココが首を絞めるのをやめた。俺は急いで首を絞めていた髪をほどいた。

 ……右手に結構な量の髪の束を握っていた。女の子は髪が命なんだっけ?すまんな!!

「イブキ!!よくも髪ヲ!!」

ココは拳、肘で俺の顔を滅多打ちにしてきた。

 俺は再びココのツインテールを引っ張り、俺から引き離す。

痛痛痛痛痛痛(イダダダダダ)!!」

俺はココの顔面に頭突きをし、よろけたところで今度はココの頭を掴み、勢いをつけて再び叩きつける。

「このろくでなしめ!!スットコドッコイ!!ちょっとは大人しくしやがれ!!」

 ベキッ!!バキッ!!

俺はココを殴り返す。

()ッ……()ッ…阿阿(アァ)ッーー!!」

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

 ドスッ!!!!

 この一発が決まったのだろう。ココはグッタリとしてそのまま落ちて……ってヤバい!!俺は急いでココの腕をつかみ、落ちるのを防いだ。

 ……危なかった。武偵は殺しちゃいけないんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は気絶したココの帯と俺のベルトを手錠で外せないようにした。これでこいつが落ちることはないだろう。

 今度はココの服を触り、武器になりそうなものを処分する。決してやましい事はしていない。

「こ…こいつ、どんだけ持ってるんだよ……。」

まぁ出るわ出るわ……。俺はそれを‘‘四次元倉庫’’に仕舞う。

 ……こいつ、また漏らしてやがる。俺のズボンにもついてるし。……傷口に入って化膿しませんように。

「ハァハァハァ……チクショウ。体中がイテェ……。鎮痛剤を……。」

肩で息をしながら、俺は‘‘四次元倉庫’’からアスピリンを出し……

 ドォオオオオオオン!!!

「ぐぉっ!?」

新幹線はトンネルに入ったようだ。その時の風圧のせいで、俺はアスピリンの入ったボトルを落としてしまった。

「チクショウ!!……ハァ…ハァ…とりあえず…連絡するか。」

俺は耳の骨伝導インカムに手を当てた。

「こちらイブキ!!ココを一人確保した!!どうぞ!!」

……何にも聞こえない。

「こちらイブキ!!ココを確保した!!」

インカムからはザーという音もしない。

「べらんめぇ!!壊れやがった!!」

俺はインカムを投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 話が変わるが、シャーロックから貰った紅槍は有難い事に、魔力を込めて戻れと思うと勝手に飛んできて戻ってきてくれる。

 ……これは投げ槍だったのだろうか?

 俺は落とした紅槍を呼び寄せて‘‘四次元倉庫’’に戻し、銃剣を一振り取り出した。

 このワイヤー装置は巻き上げ機能が低い。だから自分で登って戻らなければいけない。しかし、左手でココを抱きかかえているために自由に使えるのは右手だけだ。だから右手で銃剣を新幹線の壁に突き刺し、ゆっくりと前進していく。

「……チクショウ!!レンジャー訓練じゃねぇんだぞ!?」

昨日散々ケガして、今も体中血だらけでこんなことやるなんて……。

「バスジャックにエアジャック、そしてエクスプレスジャック……次はシージャックでも来るんだろうなぁ……。」

俺は何とか16号車と15号車の間に着いた。

「……もう仕事でも!!移動中の列車の外に出てやるか!!」

まぁ……どうせ、必要になったら辻さん、神城さん、鬼塚少佐に強制的にやらされるんだろうけど。

 そう思っていた瞬間、

 ボウッ!!

俺の真横にある、車両と車輛の間の(ほろ)から縦一直線に火が噴き出た。

「ウソだろ!?」

俺は壁を蹴り、ワイヤーを一気に緩めて離れた。

「チクショウ!!どうなってやがるんだ!!」

俺の服にも火が付き、火傷もしたが、激しい風圧のおかげで火がすぐに消えた。

 16号車と15号車が切り離されたようだ。その新幹線の間にある(ほろ)の切り口、15号車側に白雪がいて、驚愕していたが何故だろうか……。

 ……それよりも火を避けるためにワイヤーを伸ばしたせいで、また頑張って戻らなきゃいけない。さっきまでの努力が水の泡になった。しかも、今度はワイヤー渡り……。さっきよりもさらに辛くなった。

「なんてこった……。」

 ドウウウウッ!!!

何かの爆発音とともに、レキが空を飛んでいた。……なんでいるんだ?

 

 

 

 

 

 俺は時間をかけて、やっと16号車にへばりついた。気絶している、2回も漏らしたココがとても重かったのは言うまでもない。

「……帰ったら、浴びるほど飲んでやる!!天下の酒豪もびっくりなくらい飲んでやる!!」

俺がそう言った瞬間、16号車の屋根から桃色の煙がブワァーっと流れていくのと同時に、顔に湿布を張りまくったココが落ちてきた。そして俺にしがみついた。

……こいつ!?比叡山で捕まえたほうのココじゃねぇか!!

「イ、イブキ!?」

「テメェ!!俺が必死に捕まえたのに逃げやがって!!」

俺はココ(比叡山で捕まえた方)の持っていた狙撃銃を蹴落とし、殴り始めた。

「てめぇ!!必死で捕まえて!!ヘリに襲われて、轢かれるのも助けたのに逃げやがって!!」

ガスッ!!バキッ!!ドカッ!!

()ッ……()ッ…阿阿(アァ)ッーー!!」

「これでも食らえ!!」

 ドスン!!

鳩尾を殴るとこっちのココも気絶し、股が濡れ始めた。

 ……もうやだ、こいつら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は二人のココを両脇に持ち、切られた車両の後端から何とか入った。高速で地面にかすり、二人のココと超近接戦闘をやったせいで、俺はもうぼろぼろだ。

「おぉ~い。」

「「「!!??」」」

理子と和泉さん、安浦さんが俺を見てギョッとしている。

「二人を捕まえてk……」

「おいおいおい!!村田君は新幹線から敵もろとも落っこちたって聞いたよ!?なんだってここに居るんだい!?ここにいるのは幽霊化なんかかい!?」

「…え?イブイブ?」

「………(日本酒のビンを落として固まる)」

和泉さんは俺の脚を触って幽霊でないことを確認し、理子と安浦さんが固まっている。

「む、村田君。僕たちは君が死んだって聞いたよ?」

安浦さんはそういいながら俺の体を触ってくる。

……メチャクチャ痛いんですが。

「……ワイヤーでぶら下がって何とか戻ってきたんです。この二人と戦いながら……。あと体中痛いんで止めてください。」

俺は二人が触るのをやめさせると、抱えていたココ(二人)を地面に降ろし、適当な席に座った。

「イブイブッ!!」

理子がダッと走り出し、俺の腹に思いっきり抱きついた。

「ぎゃぁああああああああ!!!」

全身に激痛が走り回り、俺は意識がなくなった。

「イブイブ!?生きてた!!生きてた!!……うわぁあああん!!!」

「あれだね、青春だね。僕も彼ぐらいのときは散々もてたねぇ。毎日とっかえひっかえでさ、バレンタインデーの時には……」

「それよりも捕まえたこの子達どうするの?(パンツ一丁)」

 

 




 元気な爺様二人は予備役なので、信用できるだろう……という事で武器を貸しています。

 ココとの紅槍VS青龍刀の戦いは、fateのアーチャーVSランサーの戦闘シーンをモデルに書きました。(文才がないのでうまく書けてないが……)
 
 ココ二人は何を漏らしたのでしょうか……

  Next Ibuki's HINT!! 「ドM」


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誰かこいつらを引き取ってくれないか……

 6月はずっとテストだし……7月は期末テストに向けて勉強しなきゃいけない。……あれ?書いてる暇ないような気が……。

 
 さて、今回は粉雪の予言した変態が出てきます。



 caution!!
今回はキャラ崩壊があります(これまでもあったけど)。


 俺は3分程度気絶していたようだ。その間に平賀さんが別の新幹線から乗り移ってきて、気体爆弾の気体を回収していたらしい。

  ギィイイイイイイ!!

耳を劈く音とともに、新幹線が急ブレーキをかけた。

「ッ~~~!!」

俺はとっさに理子を抱えた。慣性力のせいで傷口が圧迫される。これがめちゃくちゃ痛い。

 今までで最も激しい衝撃が、新幹線を襲った。

  バスン!!

爆発音がした。音の方向を見れば、洗面室の窓が吹き飛んでいる。しかし、気体爆弾は爆発しない。

 ……本当に速度落としたら爆発してたんだな。

平賀さんが使ったであろうボンベが壁際まで勢いよく転がって行く。そのボンベが爆発しないようにと祈りながら……

「うぅ………。」

俺はこの強烈な慣性力に耐えていた。

 窓の外では、車輪とレールから上がる火花が美しく舞っていた。まるでドラゴン花火のように……

「ククッ……。」

「……どうしたの?」

俺が急に笑いだしたので、理子が心配したようだ。

「いや、昔こんなことやったなぁって……。」

 

 俺がまだHS部隊に入りたての頃、山形の田舎で訓練をしていた。その時、地元の高校生の兄ちゃん達と仲良くなった。

 その兄ちゃん達は、地元の駐在さんとイタズラ戦争をしていた。まぁ、俺は軍人であったから、あまり実行犯はできなかったけど。

 しかし、数少ない実行犯として参加したイタズラに、カーチェイスならぬチャリチェイスで、駐在さんに向けてロケット花火を発射するというものがあった。最初は順調に進んだものの、花火を調達した人が‘‘花火大会をする’’と勘違いしていたためロケット花火をあまり買っておらず、すぐ無くなってしまった。結局、最終的にはドラゴン花火を駐在さんに向けて噴射していた。

 

「……なんてことがあってさ、あの時のドラゴン花火に似ているなぁって。」

「ククク……。」

理子も笑いを抑えるので精一杯のようだ。

「ついでに、イ・ウーの時の異臭は、そのイタズラ戦争の産物だ。」

「ッ!!あっはははは!!」

 

 

 そんな風に理子と馬鹿話をして笑いあっていると

  ギィィィィィィィィィ……ギィ……

という重厚な音と共に――窓の外に、JRの駅名表示板が見えた。

 

――東京――

 

車体の下からモクモクと上がる白煙の向こう。そこにあるJRの駅名表示板は止まって見える。

 ……停車、できたのか。

俺は額を腕で拭った。…べったりとした血が薄くなっている。汗もかいていたようだ。

 ……って、ヤベェ!! 

俺は慌てて理子を離した。理子の服や肌には血が付いている。おそらく、俺の血が付いたのだろう。

「理子すまん!!クリーニング代は出す!!」

俺は頭を下げた。血は簡単に落ちないんだ。それは散々理解している。理子は自分の服や体を確認した後、下から俺の顔を除いた。

「イブイブ、クリーニング代はいらない。けれど……」

……タダより高い物はない。何を言うんだ?

「いつか、理子のお願い、何でも聞いてくれる?」

「……クリーニング代を払います。」

こういうお願いは……何があるか分からねぇ……。

「イブイブ~……これ理子の自作なんだぁ……。ここまで血がついちゃうと落とせないよぉ~?捨てるしかないなぁ~。」

……脅してきたな。でも、何もできねぇ。

「……ワカリマシタ。」

「くふふっ!!言質は取ったからね!!」

理子の見惚れるような笑みが、悪魔の笑みに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

東京駅の新幹線ホームには、前もって人払いがされて、無人だった。

 爆発した際の盾にするつもりだったのか、駅には無人の車両が多数密集して停められていた。

 さらに停止標識の周囲には土嚢が積まれており、駅の壁という壁には補強用のシャッターが設置され、駅のいたる所にバリケードが展開している。

 ……念には念をってところか。

 

 

アリアとキンジが新幹線から降りた後、俺は漏らした二人を引きずりながら理子と一緒に降りた。

「……東京~東京~っと。」

俺はそう言ってココ二人をホームに転がす。

 ……この二人の目が潤んでいるのはなんでだろう。

「「アッ……」」

「お降りの際はお忘れ物のないようにお願いしますっと。」

後から降りてきた武藤も、もう一人のココ(漏らしてない)を同じ場所に転がした。

 ……こっちは近づいたらかみつきそうな目で見てる。

「あはっ!作業料として、これはもらっていくのだー!あややがイタダキなのだ!」

後ろから平賀さんが、泡爆(パオパオ)の詰まったボンベを無邪気に抱きかかえて出きた。

「……火遊びは程々にな」

キンジが苦笑いしながら、商魂逞しい平賀さんの頭に手を置いた。

「……」

次にドラグノフを肩に担いだレキが下りてきた。そして……

「ぼかぁ今回、生きた気がしなかったよ!!なんだってロケで襲われて、新幹線でジャックに合わなきゃならないんだい!?」

例の二人が降りてきた。

「まぁまぁ……とりあえず明日の公演に間に合ってよかったじゃない(パンツ一丁)。」

安浦さんが和泉さんをなだめる。

「その代わり僕の寿命は縮んだよ!!ぼかぁ拉致や命の危機をあの3人のせいで経験してきたけれど、ここまでじゃなかったよ!!」

「拉致や命の危機を感じるテレビって……どんな企画ですか……。」

俺は思わず聞いてしまった。

「ぼかぁね、ラジオ番組中にアメフト部に拉致されたり、カブでウィリーしたんだ。企画でねぇ!!」

……あぁ、一般人ってそれで命の危機を感じるのか。確かに、前世だったらそうだろうなぁ。

「何、懐かしそうな顔してるんだい?」

「いやぁ……パラシュート無しで空挺とか、弾幕の中の突撃とか、上司に拉致されてそのまま敵潜水艦に乗り込んだりとか……。一般人からすれば、自殺モノなんだなぁ…と思って……。」

俺は、HS部隊の無茶ぶりを思い出した。

「君こそ何があったんだい!?」

「それは……ご愁傷様……(パンツ一丁)。」

俺は和泉さんと安浦さんを見て思い出した。

「安浦さん、そろそろ着てもらわないと、逮捕案件になるんで。」

「あ、そうだった。」

安浦さんは抱えた自分の衣服をイソイソと着始めた。

 

 

 

 

 

 

「武藤くん!こっちから出られるのだ!」

「後は任せたぜ!そいつらは尋問科(ダギュラ)にでも引き渡してこってり搾ってもらえ!」

一刻も早くパオパオを分析したい平賀さんと、駅弁目当ての武藤がホームから小走りで出ていった。

 ……このような状況で駅弁なんて売ってんのか?

 アリアは炮娘(パオニャン)の袖から鈎爪やら、ナイフやら、スモークやら……様々な武器を取り出して回収している。キンジはアリアが取り上げた道具に興味を持っているようだ。

 俺は近くにあったベンチに座り、体重をあずけた。連戦や血の流しすぎで疲労困憊だ。

「ハァ……。」

俺は大きな溜息をついた。その瞬間

  ドカーーン!!ベキベキベキ!!

俺の真横の壁から装輪装甲車が出てきた。

 ……は?装甲車!?なんで!?

装甲車は俺の真横に止まり、そこから誰かが出てきた。それは……新しいココだった。

 ……ココはあと何人出てくるんだろう。

「姉ちゃん!!撤退するヨ!!香港戻るネ!!!」

メガネをかけたココが車体から上半身を出して言う。それと同時に装甲車の砲塔が俺達の方へ向く。

 ……ってこれはM1128 ストライカーMGSじゃねぇか!!

 こいつの主砲はロイヤルオードナンス系の105ミリ砲が付いている。この主砲は第2世代主力戦車に使われている砲だ。

「「「機娘(ジーニャン)!!」」」

  カチャ!!!」」

「レキ動くダメネ!」

ドラグノフを構えようとしたレキに機娘(ジーニャン)が拳銃を構えて警告をした。レキはピタリと動きを止め、ジッと機娘(ジーニャン)を見ている。

「「機娘(ジーニャン)!!(ウオ)は帰らないネ!!日本(リーベン)に残るヨ!!」」

 ……え?

「イブキ先生(シエンション)に殴られた時、(ウオ)はこの方に仕えるべきだと気がついたネ!」

「イブキ先生(シエンション)に殴られた時、ここまで気持ちいいことはなかったネ。」

 …………ゑ?俺の拳には矯正する力があったと?

「「だから香港に戻らないネ!!」」

二人(狙姐(ジュジュ)猛妹(メイメイ)だったか?)が芋虫の様にノソノソと俺の足元までやってくると

「イブキ先生(シエンション)请踩着我(私を踏んでください)!!」

「イブキ先生(シエンション)请踢我。(私を蹴ってください)!!」

 ……俺は理子に目で助けを求めた。理子は目を背けた。

 ……今度はキンジに目で助けを求めた。キンジは目を背け、ため息をついた。

 ……俺はまだ正常な方のココ(炮娘(パオニャン)だったよな?)に目で助けを求めた。彼女はブツブツと独り言を言っていた。

 ……蝦夷テレビの二人に目で助けを求めた。二人は開いた口が塞がず、こっちに気が付いてない。

 ……アリアに目で助けをm……いや、アリアは真っ赤になってるし無理か。

「イブキ!!姉ちゃんに何したネ!!!」

「俺が聞きたいよ!!」

「「ハァ…ハァ……」」

おかしい方のココ二人は俺の足に顔をこすりつけ、息が荒くなっている。

「俺も変態だけど……上には上がいるんだねぇ……。」

安浦さんが真っ黄色の被り物を被りながら言った。

「そうだねぇ……。ぼかぁ、安浦以上の変態がいたのは驚k……なんで簡易0u(レイウ)ちゃんつけてんだよ!!」

「いや……さっきまで裸だったから、体が冷えちゃったみたいで……。」

「なんでそんなになるまで裸になってんだよ!!」

「このままじゃ明日の公演きついかも……。」

  シュボッ

安浦さんはその真っ黄色の被り物をつけたまま、タバコに火をつけた。

「安浦タバコ吸ってんじゃねぇよお前!!0u(レイウ)ちゃんのイメージ悪いだろ!!」

「いやね、俺だって吸いたくて吸ってるわけじゃねぇんだよ。この意味わからない現実から逃げたいんだよ。」

  グイッ

 そして、安浦さんは日本酒の瓶をラッパ飲みした。

「テメェだけ現実から逃げるなんて許さねぇぞ!!俺にも寄越せ!!」

 ……和泉さんと安浦さんはまた漫才をしているようだ。

 

 

 

 

「「アッハッハッハ!!」」

「次は何呑む!?」

「ぼかぁやっぱり‘‘大法螺’’だ。……ってなんで北海道の地酒があるんだい!?」

「まぁまぁ、いいじゃない。」

「「アッハッハッハ!!」」

「……俺にも一杯くれませんか?」

俺も現実から逃げたい。

 

 

 

 

 

 

 

「……風、レキをよく躾けた。人間の心、失わせてる。この戦いでよぉーく分かたヨ。お前、使えない女ネ。だからもう、お前、いらない」

「……」

レキはギロリとココ(装甲車に乗っている方)を見る。

「仕切り直そうと思っているのは有難いけど……この姉ちゃんたち何とかしてくれよ!!」

俺の足元には二人の変態がまだ(うごめ)いている。

「ハァ……ハァ……ウッ!!」

「ハァハァ…‥アッ…アッ…アァーー!!」

ついでに、離れたところでは北海道のおっさん二人が酒盛りをしている。

「「アッハッハッハ!!」」

「レキ……お前、まだ弾を持ってるはずネ。それで死ね。今、ここで。」

「無視かよぉおおおお!!」

装甲車に乗ったココを倒そうと思っても、この足元にいる二人のせいで何もできない。ある意味詰んでる。

「お前死ねば、キンチは殺さないネ。キンチは使える駒ヨ、ココも殺したくない。でもイブキは殺ス。」

ギーっと装甲車の砲塔を微調整して、砲身を俺に合わした。

機娘(ジーニャン)止めるネ!!イブキ先生(シエンション)(ウオ)を躾けてくれるご主人様ね!!」

機娘(ジーニャン)止めるネ!!イブキ先生(シエンション)(ウオ)をイジメてくれるご主人様ね!!」

(かば)ってくれるのは嬉しいけど、靴舐めるの止めてくれません?

「ココ。あなたが言う通り……私はあと2発、銃弾を持っています。私が自分を撃てば、キンジさんを殺さないのですか」

「待って、それだと俺殺されちゃうんだけど!!」

「よせレキ!どうせアイツは俺を……」

俺とキンジが焦って言うと……

「キンチ、イブキ喋るな!!……レキ、今の話は曹操(ココ)の名にかけて誓ってやるネ」

キンジの声に、ジュジュが声を被せてくる。

「……ココ、藍幇(ランパン)の姫。」

レキはそう言って、自分の足元にドラグノフのストックを置いた。

「ウルスの蕾姫(レキ)が問います。今の誓い……キンジさんを殺さない事、守れますか?」

「バカにする良くないネ。ココ、誇り高き魏の姫ヨ」

「だったら誇り高き魏の姫の姉ちゃんたちを何とかしてくれよ!!誇りのかけらもねぇぞ!!あとレキさん、俺はどうなってもいいの!?」

「……誓いを破ればウルスの46女が全員であなたを滅ぼす。かつて世界を席巻したその総身を以て、あなたの命を確実に貰う。分かりましたね?……村田さん。」

「何?」

「村田さんは……死なないと信じていますから。後は、お願いします。」

そう言いながら笑みを浮かべたレキが、背を伸ばし、銃口を自らの顎の下につける。

「よせ……レキ!」

「レキ止めろ!!」

俺とキンジは叫んだ。

「「ハァハァ…‥ハァ……イブキ先生(シエンション)…。」」

「こいつらのせいで空気が台無しだよ!!」

俺はこの変態のココ達を足蹴にし、何とか離そうと……

「イブキ先生(シエンション)……もっと…。」

「もっと……蹴ってほしいネ…。」

ゾンビの様に俺にすり寄ってくる。

「て、てやんでぃ!!近づくんじゃねぇ!!」

俺はさらに蹴って離そうとしても、近寄ってくる。

「ですが、コレは造反には当たらないことを理解して下さい。なぜなら……」

レキが言った。クソッ……そろそろマズいぞ!!

 俺は思いっきり足元の変態を蹴り、距離を取った。

「「アッ!!」」

「……よせ……」

「レキ!!止めろ!!!」

そして、俺はレキに走り寄った。

「イブキ!!動くナ!!」

ダンダンダン!!

装甲車に乗っているココが拳銃を撃ってきたが構うものか!!

「…‥私は、一発の銃弾……」

素足になった足の指を、ドラグノフの引き金に掛ける。

「お前は銃弾なんかじゃない!」

キンジと同時に叫ぶが、その叫びも虚しく、レキはドラグノフの引き金を……

「間に合え!!」

  

バキッ!!タァーーン!!

 

銃声が、東京駅に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

レキの目が、再び見開かれた。その瞳はハッキリと、驚きに見開かれていた。

「……今日何発目の被弾だチクショウ。」

間に合ったのだ。俺はレキが撃つ寸前にドラグノフを蹴り上げ、照準を狂わせた。

 ……でも銃口が俺を向いたせいで、俺に銃弾が飛んで被弾したけど。

「今度は肩に被弾かぁ?このやろう……。」

  ダンダンダンダン!!カチンカチン!!

 

 

 

 俺はいつの間にか倒れていた。

「た、弾ガ!!」

ココの慌てた声が聞こえた。

 俺の目の前にはドラグノフの弾倉が見える。俺がドラグノフを蹴り上げた時に外れたのだろう。

「イブキ!!」

キンジは俺に近寄るが

「俺はいい!!それよりレキだ!!」

俺はレキの弾倉をキンジに渡し、‘‘影の薄くなる技’’を使い、姿をくらました。

 ……レキの弾以外にも何発か被弾している。もう、そんなに長い時間戦えないな。

「……キンチ!」

機娘(ジーニャン)は一瞬で、この状況の変化を把握したようだ。彼女は基本前線に出ないのだろう。彼女は拳銃の弾倉の替えを必死に探している。また、もし彼女が装甲車についている主砲や機関銃を撃ってしまえば、姉たちに被害が出る。

 ……要は、ココ達は詰んだ。

 

 

「……レキ。二度と自分を撃つな」

キンジはそう言いながら、レキの目の前で弾倉から弾を取り出し、両手でぎゅっと握りしめた。

 そして、キンジはレキを睨んだ。

「これは命令だ。お前、俺の命令を聞くって言ったろ?」

「……」

 ……さっさと襲って終わりにしたいが、今回の手柄はキンジとレキに譲ろう。

俺は機娘(ジーニャン)に近寄り、何が怒ってもいいように待機した。

「……さぁ、生まれ変わるぞ!!」

キンジはレキにそう告げ、弾倉をドラグノフに差し込み、装填した。

「……レキ。撃つべき相手は、あの敵だ。もう一度、俺を信じろ。」

キンジはレキにそう告げると、振り返ってレキを庇う様にジュジュを睨む。

「キンチ!」

機娘(ジーニャン)はやっと拳銃の弾倉を交換し、キンジ目掛けてトリガーを引いた。

  ダァン⁉

すると、キンジは、両手を前に押し出して、人差し指と中指だけを重ね、♯のようにしていた。

 ……おい、もしかして銃弾を掴む気か!?

ココの発砲した銃弾はキンジの指の四角形の中に吸い込まれるように入っていった。

「………ッ!」

  バシュッ!

銃弾は軌道が逸れ、キンジの頬を掠めるように通っていった。

  ガシャンッ!

銃弾は後ろの自販機に着弾したようだ。

 ……あいつ、本当に人間辞めてるな。銃弾を掴むってあり得ないだろ。

「き、キンジ……あんた、今……」

アリアも装甲車の上のココも唖然としている。

「……ここは暗闇の中、」

その声はレキだった。レキがドラグノフを機娘(ジーニャン)に向かって構えていた。

「一筋の、光の道がある……光の外には何も見えず、何も無い。私は……」

レキの狙撃の詩が変わっている。まさに、生まれ変わったか。

「……光の中を駆ける者。」

タァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レキの銃弾は、機娘(ジーニャン)の頭部を掠めた。

「キヒッ!」

 ……あのレキが外したのか!?

惚けていた機娘(ジーニャン)は我に返ったようだ。

 ……ショウガナイやるか。

俺は機娘(ジーニャン)の前に出た。

「イブキ!?」

「あらよっと!!」

俺はリーさん直伝の拳銃奪いをし、ココから拳銃を奪った。その瞬間、

「……? ? !?」

よろよろっと機娘(ジーニャン)はよろけ、自分に何が起こったのか分からないという様な表情で、ころんと倒れた。

  ダッ!! 

すぐさま、ホーム下の線路に隠れていたのであろう理子が飛び出し、機娘(ジーニャン)の背中に張りついた。

「みっ、峰理子ッ!」

「ツァオ・ツァオ!!?あれもツァオ、これもツァオ。くふふ、4人もいたんだねぇ!!くふふふっ!!」

理子は両足でジュジュの胴体にしがみ付き、両手で両腕を羽交い絞めにし、二つの髪束で機娘(ジーニャン)の首を絞めつける。

 この技は、ワイヤー上で猛妹(メイメイ)が使っていたっけ。理子も使えたのか。

「ツァオ・ツァオ!!あたしにこの技を教えたのが仇になったな!!姉の技で眠りな!!」

「……ッ!!」

機娘(ジーニャン)は何とか理子の拘束から逃れようと、羽交い絞めにされた両腕をなんとか動かすが、意味がない。

 俺は機娘(ジーニャン)の真正面に近づき

「「イピカイエー・マザーファッカー!!!」」

 俺は機娘(ジーニャン)の腹に拳をぶつけた。

「ゴフッ!」 

機娘(ジーニャン)は、装甲車の上で気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 アリアが理子を機娘(ジーニャン)から引き剥がし、グルグルと縛り上げていく様子にキンジは苦笑している。

 その間、俺は装甲車から降りると、そのタイヤを背もたれにして地べたに座り込んだ。

「あ~……きっつ……。」

緊張が解けたせいか、意識が朦朧としてきた。血を流しすぎたしなぁ。

「もう……聞こえないのです。」

レキの声が聞こえた。

「何がだ?」

「風の声が……もう、聞こえない。風はもう、何も言いません。」

 ……そういえば、今回のレキとキンジの騒動は‘‘風’’の命令だったんだっけ?

「風はもう何も言わない……か。それは‘‘自分で考えろ’’ってことじゃないのか?」

キンジがレキに言った。

「私には、分かりません。これからどうすればいいのか。これから、一人で……」

「いいさ。風は気ままに吹くもんだろ?それに……一人じゃない。俺が一緒だ。なんたって、お前が学校にチーム登録を提出しちまったからな。この間、勝手に」

 

 東京駅に、一陣の風が吹いた。

 

「anu urus wenui..., 永遠」

この歌声は……レキの声か?

「――Celare claia ol tu plute ire, urus claia... 天空――」

レキの声は、声量こそ慎ましいが、音階はピタリと一致しているのだろう。レキの美しい歌声は一切の不快感を与える事無く、俺の朦朧としている頭にすっと入っていく。

「――Raios Zalo Ado... Ясни,яснинанебезвёды――」

 ……ロシア語だろうか?朦朧とした意識の中では訳せないが……別れの曲の感じがする

「――Celare claia ol... tu plute ire, urus claia 天空――」

歌がリフレインするパートで、キンジがどこからか見つけてきた花束を吹き流し、宙へ放った。それらの花は風によって花びらになり……まるでレキを祝福するかのように舞っている。

「――anu urus wenuia... 永遠」

……これは、いい夢が見られそうだ。

俺は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラボー!!すごいよ!!これはもう歌手デビューしても問題ないよ!!」

「あれだね、この子が‘‘今日の汁物’’なんて歌っちゃったら陽ちゃんのCD売れなくなるね。」

「何で綺麗に終わろうとしてるのに出てきちゃうの!?酔っ払いの二人!!」

「「イブキ先生(シエンション)……」」

「何でこうなるんだよ!!」

俺はそう言った後からの記憶が一切ない。

「え?イブイブ?イブイブーー!!き、救急車早く!!」

「理子なに慌てて……ってすごい血じゃない!!」

 

 

 

 




 
 ココ(一部)が思いっきりキャラ崩壊をしました。ついでに先生(シエンション)は中国語で、男性の敬称(年上&目上)だそうです。

 和泉さんの言った、アメフト部による拉致・カブでウイリーは‘‘とある俳優(?)’’によるある番組内で起こった事をモデルにしています(あくまでもモデル)。

 また、安浦さんの簡易0u(レイウ)ちゃんを着けてタバコを吸うのは、ある番組のクリスマス企画でやったことをモデルにしています。

 ‘‘今日の汁物’’も‘‘ある俳優(?)’’の歌った歌をモデルにしています。


 モデルはあくまでもモデルです。実在の人物とは一切関係ありません。



   Next Ibuki's HINT!! 「チーム決め」


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パロディのチーム名は勘弁してくれ……

 アッハッハッハ、明日というか今日、英語のテストが二つ!!それに、今週の日曜までにレポート出さなきゃいけないなんて!!しかも今週末は法事で時間ないのに!!それなのにどんどんアイディアが出てくる!! 
 ……笑えねぇ。


俺は裁判所にいた。しかも被告側に

「村田維吹を、ボディービルダーの刑に処す。」

裁判長と思われる人が木槌を打ち鳴らし、俺に判決をいきなり言った。

「何だよ!!その刑は!!その前に俺が何をしたんだよ!!」

俺は文句を言うが、俺の横にいた謎の二人が俺の脇を抱え、無理やりその部屋から出されてしまった。

「ボディービルダーの刑って何だよ!!」

 

 

 

俺は、黄色いパンツだけを履かされ、牢屋に投げ入れられた。

「ちょっと待て!!ここから出してくれー!!」

俺は牢屋の鉄格子に捕まって抗議するが、その二人はそのまま去っていった。

「新入りかい?」

俺の斜向かいの牢屋から声が聞こえた。

「あ、あんたは……?」

「俺は………ウェイトレスさ!!」

 ……ウェイトレスのコスプレをした鈴藤さんがいた。

「まさかボディービルダーが捕まるとは思いませんでしたな!!」

正面の牢屋から、違う声が聞こえた。

「あんたは……」

「私はですねぇ……カミナリです!!」

 ……鉄腕アトムのようなカツラに子供の人形を背負った藤崎さんがいた。

「「俺たちを忘れちゃ困るぜ……」」

他の声が聞こえた。まさか……

「俺は筋肉だ!!」

「俺はマッドサイエンティストだ!!」

 ……筋肉の書かれた服を着て、その上からスーツを着る和泉さんと、爆発した髪・瓶底メガネ・汚れた白衣を着た安浦さんがいた。

「……このコスプレって刑罰なんですか?」

「……お前、それを知らないで来たのか?確かに、ボディービルダーの刑は軽いからな。」

また違う声が聞こえた。

 ……この声はまさか!!

「キンジか!?」

「……いや、深窓の令嬢だ。」

 ……目つきの悪い女性が、牢屋の中の椅子に腰をかけていた。いや、こいつは女装をしたキンジだ。

「俺もいるぞ!!……まぁ、お前よりは軽いけどな。」

「武藤!?」

俺は声がしたほうを向くと、

「いや、俺は消防士だ!!」

 ……武藤が消防士のコスプレをしていた。

「うるせぇなぁ……気持ちよく寝てたのに起きちまったじゃねぇか。」

ドスの聞いた声が聞こえた。

「この、裸スーツ様を起こすとはなぁ!!」

 ……裸の上に、マーカーでスーツを描いた音野さんが起きてきた。

「ガリガリガリガリ!!!」

音野さんは自分の鉄格子の触れると、顎でガリガリと柵を削っていき、最後はその柵をへし折った。

「よくも俺の安眠を妨害しやがったなぁ!!!!」

「う、うわぁあああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁああああああああああ!!!」

  ガバッ!!

俺は辺りを見回した。ここは武偵病院だ。俺は何度も入院しているからわかる。

「……よ、よかった。」

あれは夢だったようだ。

 俺は何とか息を整え、周りを見ると、俺の体に点滴と何かの機械のコードがくっついていた。よくドラマや映画である脈を測る機械じゃねぇか?

 時間は3時14分、周りが暗いので午前のほうか。

 

 

 

俺はナースコールを押してしばらくすると、血相を変えた矢常呂先生とナースたちがやってきた。

 しばらく俺を検査すると、矢常呂先生が説明してくれた。なんでも、昨日の20時前に急患で運ばれてきた俺を処置したが、結局死んでしまった。俺の仲間には明日言うはずだったようだが、まさか俺が蘇生するとは思わなかったようだ。

「……きっと矢常呂先生は疲れていたから死亡判定間違えたんですよ。」

「私が!!二度も間違えるわけないでしょう!!」

「まぁまぁ落ち着いてくださいって。」

 

 

 

 

 その後、プンスカと怒る矢常呂先生を何とかなだめ、俺は4日間の入院の後、俺は何とか退院できた。

 その入院中に、家族に軍の皆さん、官僚の方に粉雪が見舞いに来てくれ、大騒ぎになったことは割愛しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は何とか退院でき、自分の部屋に戻ることができた。

「ただいまぁ~。」

俺はそう言いながらリビングに入ると……

「も~!!」

「ンモーーー!!」

理子と白雪が四つん這いで頭突きをしていた。そして……

「声援を上げよ!!ファイトー!!」←ネロ

「……(ニコニコ)。」←エルキドゥ

「二人とも頑張りませい!!このファラオたる私が応援していますよ!!」←ニトクリス

「あ、主殿!!(俺に抱き着く)」←牛若丸

「イブキ様!!おかえりなさいませ!!」←リサ

 ……ゴメン、どういうことだい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 白雪がキンジのお世話を嬉々としてしている時に、理子が揶揄(からか)っていたそうだ。

さて、理子がそんな事をやったり、和泉さんと安浦さん達が出演する劇を見たりして幾日かたった後、俺達はある問題に直面した。

「え~、第2回チーム名考案会議を始めます。」

キンジと白雪がいない時、俺・ネロ・エル・牛若・ニト・リサ・理子によるチーム名を考える会議が始まった。

「え~、昨日の第一回は結局酒飲んじゃって有耶無耶(うやむや)になっちゃったから今日でチーム名を考えるぞ。………ところで理子。」

「何イブイブ?」

理子は小首をかしげた。

「なんでいるの?」

「あれ?イブイブのチームに入るって言ってなかった?」

「昨日、理子殿が‘‘私たちのチームに入る’’とおっしゃっていましたよ?」

牛若が答えた。

「……そうなの?」

昨日はみんないい感じになった時に理子が来たから、理子の発言は全く覚えてない。

「イブイブ~。理子りんの言葉覚えてないの~?」

「昨日だいぶ酔ってたから覚えてねぇ……。まぁ、そんなことはとりあえず、チーム名を決めよう。とりあえず意見がある奴は挙手をした後、何でもいいから言ってくれ。」

すると、ニトがスッと手を上げた。

「はい、ニト。」

「やはり、チーム名には神の恩恵があるといいと思うので‘‘あぁメジェドさまっ’’などはどうでしょう。」

「いや、それパロディーになるから!!似たような題名のアニメがあるよ!?」

俺が思わずそう言った。リサは備えてあったホワイトボードに‘‘あぁメジェドさまっ’’と書いた。

「そうなのですか?」

「そうなの!!」

次にエルが手を上げた。

「はい、エル。」

「なら、Nice  Action Clans から、‘‘チームN〇Cs’’に……。」

「それ、一昨日に和泉さんと安浦さんの出る演劇みたからそうなったんだよね!?多分それで登録したら、その二人以外にも抗議されるから!!」

俺がそう抗議しても、リサはホワイトボードに‘‘チームNA〇s’’と書いた。

 今度は、牛若が手を上げた。

「……牛若。」

「はい!!いろんな‘‘さーばんと’’が集まっているので、‘‘/Grand Order’’はどうでしょうか?」

「別に俺達は人理継続とかやらないからね!?多分それだと面倒なことになるよ!?」

俺がは思わずそう言ったが、リサはホワイトボードに‘‘/Grand Order’’と書いた。

 ……いやね、意見を出しまくった後に議論するのが当たり前だし、さっきから意見を出したすぐ後に反論出すのはマナー違反でもあるけど……パロディー臭が半端ないんだよ!!

「はい!!」

「……理子、お願いだからまともなのだしてくれ。」

「イブイブ任せて!!せっかく7人の武偵がいるから……」

「‘‘七人の武偵’’か?」

「イブイブ!!ひどいよ!!先に言うなんて!!」

 ……まだ、さっきまで上げられたやつよりはいいけどさ。

リサはホワイトボードに‘‘七人の武偵’’と書いた後、手を上げた。

「リサ……信じてるからな?」

「……?わかりました!!皆様は過去や現在の、また親族が勇者様とお聞きしましたので‘‘伝説の勇者様達の伝説’’はどうでしょうか?」

「……リサまでも裏切るなんて。」

「え!?イブキ様!?リサが何かしましたか!?」

リサがオロオロと慌てだした。

「……とりあえずホワイトボードに書いといて。」

「え?…あ、はい。」

リサは若干手が震えながら、ホワイトボードに‘‘伝説の勇者様達の伝説’‘と書いた。

「イブキ?さっきから否定してばっかりだけど、イブキの案はあるのかい?」

エルが聞いてきた。

「あぁ、ネタと真面目なの、どっちがいい?」

「イブイブ!!ネタから!!」

理子が勢いよく言った。

「相手を沈黙できるように‘‘沈〇の鉄拳’’ってのがネタの方。」

リサはホワイトボードに‘‘沈黙〇鉄拳’’と書いた。

「真面目なのは、今日は9月22日だから、‘‘0922隊’’でいいかなって。」

「「「「「「え~……」」」」」」

みんなは気に入らないようだ。

 

 ……俺にまともなネーミングセンスがあると思っているのだろうか?‘‘四次元倉庫’’や‘‘影の薄くなる技’’だって、もともと仮の名前だったのに、まともな名前がないからそれが正式名称になっちまってんだぞ?

 

リサは渋々、ホワイトボードに‘‘0922隊’’と書いた。

「ふっふっふ……。」

唐突にネロが笑い出した。

「ここは至高の芸術家たる余が!!皆をあっと言わせるチーム名を発表しよう!!」

ネロはダンッと机に手をつき、立ち上がった。

「余たちは酒を酌み交わすことが多い!!そこで!!」

ネロはリサからマーカーを奪い取り、ホワイトボードにでかでかと書いた。

 

  『COMPOTO』

 

「‘‘COMPOTO’’はラテン語で‘‘酒を飲みかわす’’という意味だ!!余たちにピッタリであろう!!」

 ……あれ?意外といいじゃん。正直に言って、ネロの案は期待していなかったから、この案は意外だ。

「これ良くない?」←俺

「そうですね。よいと思います。」←ニト

「そうだね。わかるとも。」←エル

「主どのが良いと言ったので、いいと思います!」←牛若

「ネロっち!!ナイスアイディア!!」←理子

「流石です!!ネロ様!!」←リサ

「そうであろう!そうであろう!!」←ネロ

 ……さて、ではチーム名も決まったことだし、由来道理にしますか。

「じゃぁ!!チーム名決定を祝い!!今日は飲みかわすぞ!!」

「「「「「「おぉ~!!」」」」」」

 

 

 

 

「お前ら何飲んでんだよ!!」

「おぉ~キンジ帰ったか。お前も飲むか?」

「俺は未成年だ!!」

「しょうがねぇなぁ……。」

  すっ

「なんだこれ?」

「サラトガ・クーラー。ノンアルコールカクテルだ。」

「……ありがとな。」

「おうよ!!リサ~、ラム持ってきて~!!ハバナクラブで~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴会をやった数日後、俺達『COMPOTO』は探偵科(インケスタ)の屋上にいた。ここでチーム編成・登録・撮影をするためだ。

 俺は再び申請書を見た。

『 チーム名COMPOTO(コンポート)

 

メンバー

◎村田維吹(強襲科(アサルト)

〇峰理子(探偵科(インケスタ)

 ・ネロ・クラウディウス(強襲科(アサルト)

 ・源牛若(強襲科(アサルト)

 ・ニトクリス(超能力研究科(SSR)

 ・エルキドゥ(超能力研究科(SSR)

 ・リサ・アヴェ・デュ・アンク(救護科(アンビュラス)

 

以上七名が申請します。』

 牛若だけは面倒回避のため、苗字を使っている。

 さて、このチームは良い編成だと俺は思っている。前線を張る俺、牛若、エル。前線に行ってもよし、援護もよし後方警戒もよしのネロと理子。前線支援、魔術的なものへの対処、救護もできるニト。救護に補給、交渉、情報分析などの、ある意味最も必要な人材であるリサ。

 ……ぶっちゃけ言って、このチームなら長期戦も可能だ。

俺は‘‘防弾制服・黒(デウィーザ・ネロ)’’のネクタイを直しながらそう思った(俺の‘‘防弾制服・黒(デウィーザ・ネロ)’’はギリギリ間に合った)。

「イブキよ!!何を見ているのだ?」

ネロはそう言って俺の手にある申請書を背伸びして覗いてきた。

「申請書だよ。……我ながらいいチーム編成に洒落た名前だなと。」

 ……銃弾ではなく、酒を飲み交わせるような世の中にしたいものだ。

「ふっふっふ!!そうであろう!!流石であろう!!」

ネロはそう言って胸を張った。

「おい、次早くしろ!!……イブキ達か。」

師匠が急かしてきた。俺は近くにいたベオウルフに申請書を渡した。

「ほぉ~……特化型じゃなくてバランス型か。これはこれで殴り甲斐のあるチームだな。」

「……お願いだから腕試しとか言って潰さないでよ?」

「お、おう……わかってらぁ!!」

 ……だったら、目を背けないでくれないかなぁ。

「まぁ…いいか……チーム‘‘COMPOTO(コンポート)’’、村田維吹が直前申請(ジャスト)します!!」

俺はそう言って

「そうか……よし、笑うな!!斜向け!!」

これは武偵の習わしで、正体を微妙にぼかす目的で、真正面を向かないそうだ。全員黒服なのも、そんな理由だそうで……

「9月23日10時14分、チーム‘‘COMPOTO(コンポート)’’……承認、登録!!」 

  パシャ!

我らが師匠の持っているカメラからフラッシュが出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、師匠に撮ってもらったチーム全ての写真がブレすぎていて、撮り直しになったのはご愛敬だろう。

「ちゃうちゃう、こうやった後、こうするんや。」

「こ、こうか?」

  パシャ!!

「これだとピント合ってないやん!!」

「むぅ……最近の機械はわからん。」

「婆ちゃんか!!」

……あ?

「いや……なんでもないです、はい。」

師匠に蘭豹が仲良くカメラを教える姿が見られたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チームを登録したその日、軽い夕立があった後、カラッカラの雲一つない快晴になり、沈んでいく太陽が東京の西の空を橙色に染め上げ、東の空が紫に染まり始めた。

 その時、学園島の西端の海を望む転落防止柵の外に、俺とキンジ、理子とレキ、ハイマキ(狼)がいた。

 何でも、前に俺を轢いた狼ことハイマキは比叡山で俺達を守るために囮になり、野犬(ココ達がそれで俺達を襲わせていたらしい)と大立ち回りをしたらしい。その時キンジは、ハイマキに魚肉ソーセージ箱買いの約束をしたそうだ。なので、キンジとレキはその約束を果たすため、俺と理子は知らない間に囮になってもらったお礼として、俺達は魚肉ソーセージのビニールを必死で剥がしていた。

「……ほら、食えよ。これ全部ビニール剥くの面倒だったんだからな。」

「助かった。ありがとな、ハイマキ。」

俺とキンジで重い箱をハイマキの足元に置く。

「流石だよ~。ありがと~」

理子は満面の笑みで、ハイマキをムツ○ロウさんのようにわしゃわしゃとなでる。ハイマキはよだれを垂らしながら魚肉ソーセージをギロリと見た後、

「ウォオンッ!」

一吠えして頭をソーセージの山に突っ込み、ガツガツと食い始めた。ハイマキの白い尻尾はプロペラの如くブンブンと振り回されている。

「………。」

レキはハイマキの傍らに膝を揃えてしゃがみ、その背中を撫でてやっている。レキの目尻が少し下がっているような気がする。

 ……全く、初めてまともに観光できたと思ったらあんなことになるなんて……まぁ、蝦夷テレビの人たちの方がもっと不幸だろうけど。

 

 

「そう言えばアリアの奴、ポジションまで勝手に申請してやがったぞ。知ってたか?」

キンジのその言葉は俺を驚かせた。

「アリアは真面目だなぁ。ポジション申請は義務じゃねぇってのに。」

俺はポジション申請を書くのが面倒だったので放り投げた。

前衛(フロント)が俺とアリア……アリアが先駆け(PM)で、俺が隊長(UL)。……で、白雪とレキが支援(サポート)。……そういえばイブキ。」

「なんだ?」

「アリアが理子を取られたの悔しがってたぞ。後尾(テール)役が取られたって。」

 ……理子はアリアの誘いを蹴って来てくれたのか。理子には感謝しないとな。

「ふっふ~ん。理子りんはイブイブの物だから、アリアには渡さないよぉ~!!」

 ………。

「……いらないからやろうか?」

「え?ちょっと!!ひどくない!?」

理子は俺の背をポコポコと叩きだした。 

 ……完治してないところに叩くのはやめてほしい。

「冗談だ、冗談だからな。」

実際、本当にやろうとは一切思っていない。理子が居なかったら、このチームの撤退戦は冗談抜きで‘‘島津の退き口(敵に突撃して、そのまま突破して逃げる)’’が主力戦法になっていただろう。俺は撤退戦はできなくないがあまり得意ではないし、上司も‘‘イケイケドンドン突撃ヒャッハー!!’’な人ばかりだから教わる事もほとんどなかった。

 ……あれ?俺もあの上司たちに染まってきたのかなぁ?

「……大丈夫?」

俺が急に遠い目をしたので、理子が心配したようだ。

「あぁ……自分も同類になってきたのかなぁ……って。」

「「??」」

俺は大きなため息をついた後、ハイマキを一撫でしてキンジとレキに背を向けた。

 レキが何か話したそうにキンジを見た後、俺と理子を見ていた。レキはキンジと二人で何か話したいのだろう。邪魔者は退散するに限る。

「んじゃ、用事もあるし、ちょっと出かけてくる。キンジも飯前には帰れよ?……そういえばココ達は司法取引のあと中国に帰ったってよ。」

見舞いに来た官僚の人が言っていた。全く、変態二人(あんなの)が家に居たら、気が落ち着かないったらありゃしない。

「…そうか。飯前には帰る。」

「じゃあなレキ、また明日。理子いくぞー。」

俺は理子の腕を掴むと歩き出した。

「はい」

「ちょ、イブイブ!?腕痛い、痛いから!!叩いたのそんなに根に持ってるの!?」

 ……別に、理子の拳が、まだ完治してない場所に当たりまくったわけではない。

「あし~たがある~さ、あすがある~……」

 観光もまともにできず、毎回何かの犯人に会うほどツイてなくて、いつも傷を負って、変態に気に入られ、ヤバい上司達の考えに染まっていた事なんて歌を歌って忘れよう。

 坂〇九の‘‘明日が〇るさ’’でも歌えばもう陽気になる。なんたって俺はまだ若いんだ。ウル〇ルズもいいが、俺達学生には坂本○の方が似合っている。

 

……明日があるさ、だから、明日はさらにいい日になりますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イブイブ!!そろそろ不味いって!!う、腕の感覚が……。」

 ……ゴメン理子、歌ってたら忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後理子に散々文句を言われ、服を数着買わされた。その数日後、俺は二つの書状が届いた。一つはジャンヌから、もう一つは兵部省からだ。

 ……なんだか面倒なことになりそうだ。

俺の直感がそう告げた。俺は諦めて兵部省からの手紙を開いた。

『勤務召集令状

村田維吹海軍大尉

右勤務召集ヲ令セラル依テ左記日時ニ武装ノ上参着シ此ノ令状ヲ以テ当直ニ届出スベシ

 

到着日時

 ・平成〇〇年九月三十日午後十一時三十分

到着地

 ・旧羽田空港滑走路延長用人工浮島A

招集部隊

 ・兵部省直属特殊作戦部隊第二中隊』

 ……有難いことに兵部大臣(兵部省の大臣)と事務次官のハンコまで押してあらぁ。でも、なんだって書状で?普通に電話やメールでもいいだろうに。

俺は封筒を見た。その封筒には、よく見れば封筒には結界がつけられており、該当者以外には開けられないようになっている。 

 ……なんたってこんなに厳重なんだ?

兵部省直属特殊作戦部隊第二中隊(HS部隊第二中隊)は俺の所属する部隊だ。ちょっと辻さんや神城さん、鬼塚少佐が電話一本かければすぐ行くってのに……。

 ……それに、集合場所の旧羽田空港滑走路延長用人工浮島Aってどこなんだ?

俺はゴーグル先生で検索をかけると……空き地島じゃん!!なんでそんなところに!?

 待て待て待て……勤務招集は基本、予備員を一定期間艦隊勤務に就かせる制度だ。そもそも俺が何で!?

 

 

 俺は考えることをやめ、ジャンヌの手紙を開けることにした。このジャンヌの手紙は昔の手紙のようにロウで封がされており、筆記体でJeanne d'Arc(ジャンヌ・ダルク)と書かれていた。

 俺はペーパーナイフで封筒の上を切ると手紙が二枚出てきた。一枚目は……達筆な筆記体の仏語で書かれていた。

 ……この野郎、人に読ませる気があるのか?

感覚としては、外国人に日本語の草書体で書いた手紙を送ったと思ってくれればいいだろう。

 ……リサと理子によって厳選されたフリッフリのドレスでも着させて、顔を真っ赤にしたところを写真に撮ってやる。

ジャンヌは顔もスタイルもいいから何でも似合うのに、本人自覚ないんだよなぁ……そんなことを考えながら、その手紙を解読しようとした時、手紙の下に小さな日本語が書いてあった。

『どうせ貴様は私の達筆な字は読めないだろうから、二枚目に日本語でも書いてやる。』

 ………返答を草書で書いてやろうか?

俺は二枚目を見た。

『 村田維吹殿

 

10月1日 夜0時

空き地島南端 曲がり風車の下にて待つ

武装の上、一人で来るように

 

ジャンヌ・ダルク 』

 ……短ッ!!わざわざ手紙で書くことか!?

いや待て、なんでこいつも、軍の命令書と同じ場所、同じ時間を指定したんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はジャンヌに電話をかけた。

「村田か?読んだようだな。」

「あぁ、その……ジャンヌすまん。その日、なぜか軍の召集があるらしくてな、同じ場所で。」

「ほう……。」

ジャンヌは言葉の一片ですら聞き逃さないように雰囲気を変えた。

「だから、告白はその日の翌日にしてくれ。」

俺は冗談を言った。手紙で揶揄(からか)ったお返しだ。

「な!?……き、貴様!!この手紙が告白だと!!!」

「お前さんが勇気を出して書いてくれたのはわかるが、軍務でな。」

「い、いや!!武装した告白なんてあると思っているのか!?」

ジャンヌは大分慌てだした。

「武偵高ならあり得るだろ?キンジとレキの求婚騒動だって、お互い武装中だったそうじゃねぇか。」

「い、いや、ちょっと待て!!」

「ジャンヌのような可愛(かわい)くて、いい女に(した)われるったぁ、俺は幸運だな。」

「か、可愛い……って村田!!貴様は誤解をs……。」

「じゃあな。」

  ピッ

俺は電源を切った。ジャンヌから何度も電話がかかってきたが無視をした。

 俺は辻さんに電話をかけると、‘‘内容は軍機で言えない。黙ってきてくれ。武装は忘れるな’’と言われた。何があるんだろうか……?

 

 

 




 夢オチは北のテレビ局の番組にあるネタです。‘‘アルカトラズ 地下牢’’で検索すれば出てくるはずです。

 Google翻訳(ラテン語)で‘‘COMPOTO’’は‘‘酌み交わします’’と出ますが、‘‘compoto’’だと‘‘経理’’になるので注意です。(なぜかわかる人は教えてください)

 

  Next Ibuki's HINT!! 「寿司屋」


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公衆の面前で振られるなんて……

 何とか中間テストが終わりました。だけど、一か月後には期末が……今から復習を始めないとまずい……。


今回は比較的短いです。(宣戦会議を一話でまとめようと思ったら、導入だけで結構な量になってしまったので。)


時は過ぎ、9月30日23時10分。俺は戦闘服を着て、腰にホルスター二つと刀に弾薬盒を()き、戦闘帽を被り、万全の体勢で武藤の妹・武藤貴希待っていた。本来なら兄の方に頼むのだが、なぜかいじけていたため‘‘触らぬ神に祟りなし’’という事で妹の方に頼んだのだ。

 ……勤務招集令状で呼び出され、ジャンヌにも武装の上で来いと言われた。いったい何をするんだ?

 俺は刀の柄頭をグッと握った。

「先輩、遅れてすいません!!って……どこか戦争でも行くんですか!?」

貴希が来たようだ。

……流石に武偵高の制服じゃなくて、軍の戦闘服を着ていれば誰だっておかしいと思うか。

「すまないな、こんな夜中に。まぁ……軍の召集があってね。」

俺は手配してもらったボートに乗り込み、エンジンを始動した。あ、忘れてた。

 俺は懐から封筒を取り出し、貴希に渡した。

「これレンタル料な。真夜中だから色付けといたぞ。」

「ありがとうございます、先輩!!」

貴希は封筒を受け取ると、小躍りでもしそうなくらいテンションが上がった。

「……そこまで大したものは入ってないぞ?」

「先輩は色付けてくれるって有名ですよ!!値引き交渉はあまりしないし、それどころかボート一隻貸すだけで色付けてくれるなんて!!」

 ……こんな夜中に貸し出してもらうんだ、色を付けて当然だろうに。

「先輩、今度もよろしくお願いします。」

「……おう。」

俺は喜ぶ貴希を尻目にボートに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

借りたボートの(もやい)係船柱(けいせんちゅう)に結んで船から降り、錆びた梯子を登って浮島へ上がった。人工浮島の上は暗く、濃霧に包まれていた。

「なんだってこんな時間に……。」

俺は思わずぼやいた。あたりを見回すと、浮島の濃霧の中で照明がついている場所がある。ついでにトンカンと何かを建てている音も聞こえる。

 ……あそこにいるのだろうか?

俺は勤務召集令状を片手に、その照明がある場所へ向かった。

 

 

 

「イブキ大尉!!時間前に来るとは!!希信は嬉しいぞ!!」

「あの……これはどういう事でしょうか?」

そこには、掘立小屋を作っている工兵隊の皆さんと、辻さん、それに空軍の制服を着た士官が一人いた。辻さんは勤務召集令状を俺から受け取り、ポケットに突っ込んだ。

 ……召集令状をそんな雑に扱っていいのかよ。

「イブキ大尉は、これから起こることは知っているか?」

辻さんはいきなり、ウキウキと俺に聞いてきた。まるで、買ってもらった玩具(おもちゃ)を自慢するように……。

「……何が起こるんですか?」

「戦争だ……世界規模の大戦争だ。」

辻さんはニタァと笑った。

 

 なんでも、イ・ウーが倒されたことで裏社会のバランスが崩れ、師団(ディーン)眷属(グレナダ)に分かれて戦争が起こるそうだ。

 そして、その宣戦布告とチーム分けをする場所がここ、空き地島でやるらしい。

「その戦争は我が軍も参加する。その宣戦布告の使者3人の護衛としてイブキ大尉が必要だった。だから希信が兵部省に働きかけたのだ!」

「俺、撤退戦苦手ですよ?矢原嘉太郎(兄者)さんの方が適任では?」

というか、辻さん一人いれば大丈夫だと思うんだが。

「希信達の逃げる時間を稼いでくれればいい。それに、矢原は他の任務でいないのだ。」

なるほど、それなら理解できた。理解できたけど……

「辻大佐!!設置完了しました!!」

「ご苦労!!では駐屯地に戻ってくれ!!」

「はっ!!」

工兵隊の隊長が辻さんに報告をして、そのまま工兵隊の皆さんは帰って行った。

「あの、辻大佐?」

「なんだ?わからないことがあれば希信が聞くぞ!!」

「……工兵隊の皆さんが建てたこの小屋は何ですか?」

柱と屋根があるだけの小屋には、カウンター席とテーブル席があり、カウンターには魚の切り身が入っているガラスケース、カウンターの後ろには、まな板とおひつがあり、おひつからは酢の香りがほのかにする。そして、柱と柱の間に暖簾(のれん)がかかっており、そこが入り口だとわかる。その暖簾(のれん)には‘‘寿司 多門丸’’と書いてある。

「これは!!ほかの使者たちをもてなすため!!建てた寿司屋である!!」

「……いるんですか?」

「最近は‘‘お・も・て・な・し’’が流行っていると希信は聞いているのだが?」

 ……それ、結構前じゃないですか?

「それに陸海空全てがこの案に賛成している!!」

……え?まじで?

「君が今日の護衛か?」

空軍の軍服を着た士官(見たら大佐)が俺に声をかけてきた。

「はっ!!護衛の村田海軍大尉です!!」

俺は敬礼をしながら答えた。

「君があの部隊のホープか……僕は加藤空軍大佐、今日はよろしく。」

この加藤大佐は、懐が大きそうな男に見える。辻さんが陸軍代表なら、加藤さんは空軍代表なのだろう。それだと、海軍代表は誰になるんだ?

「はっ!!全身全霊でお守りします!!」

「それはそれは……この時間だと寒いだろう?辻大佐、せっかく建てたのだし一杯やっていこう。」

「加藤大佐、今は勤務中であるぞ!!」

「使者達に飲んでもらうために酒を持ってきたのに、僕たちが飲まないとなると痛くない腹を探られる。飲まないにせよ、寿司ぐらい食べよう。少将殿が握る寿司なんて今後もないだろうし。」

 ……少将が握る寿司?しかも店名が‘‘寿司 多門丸’’。嫌な予感しかしない。

「まぁ、希信もそうは思うが……イブキ大尉!」

「はっ!!」

「寿司は好きか!?」

辻さんが俺に聞いてきた。

「大好物です!!」

「……寿司でも食べるか。希信が許可する!!」

辻さんがそう言うと、加藤大佐と辻さんはその寿司屋の暖簾をくぐった。俺も二人に(なら)って暖簾をくぐると、そこには、明らかにカタギでない人がいた。

「……らっしゃい。」

「流石は山口少将、寿司屋の大将が板についていると希信は思いますなぁ。。」

「これはこれは……。」

そこには、布袋(ほてい)のような朗らかな顔つきではあるが、目つきは殺人鬼の様な、おっかない人が板前をやっていた。ちょうど今、この明らかにカタギではないような板前さんが、布巾で包丁を拭いていた。まるで……包丁に付着した血油(ちあぶら)を拭きとるように……

「……え?山口少将?」

 

 山口多門丸少将は北方を守る第5艦隊の参謀長だったはず……。それが何で、こんなところで寿司を握ってるんだ!?というか、この人の雰囲気が恐ろしすぎて気軽にネタ頼めないだろ!?

 

「どうした?イブキ大尉?寿司を食べることを希信が許可したぞ?」

辻さんが不思議そうに俺を見た。

「どうした大尉?」

加藤大佐は隣の席をポンポンと叩く。

「え、あ……ハイ、スイマセン。失礼シマス。」

俺は考えるのをやめて席に着いた。

「では希信にはキスを!」←辻さん

「僕にはエンガワをお願いします。」←加藤大佐

「……スイマセン、ヒラメをお願いします。」←俺。

すると、板前・山口少将(?)がギロリと俺達を見ると

「………ヘイ。」

そう言って、包丁を拭くのをやめると、寿司を握り始めた。

 

 ……重い空気がこの寿司屋(?)の空間を占領したような気がする。

 

「……お待ち。」

そう言って板前・山口少将(?)は寿司下駄と共に、頼んだ寿司が2貫乗っていた。

「……いただきます。」

俺はその寿司を手に取り、醤油に軽く触れさせた後、頬張った。

「あぁ……。」

誰かから感嘆の声が上がった。

 ……うまい。俺は漫画や雑誌の様に料理の美味しさを多様な語彙で表現したり、一流料理人のような細かな違いが分かる舌を持っていない。しかし、この寿司を食べた感想が美味(うま)い以外の感想が見つからないという事がよくわかった。

 ……って違う!!!

「大将、とてもおいしいです!!……ところで山口少将、少将は第5艦隊参謀長であったと記憶していますが……。」

俺がこの重すぎる空気を破り、発言した。

「……聞いてなかったか。私はこの大戦中、第5艦隊からHS部隊に転属になった。」

俺の顔から血の気が引いていくのが分かった。

 ……少将クラスの転属だ。この部隊は特殊で、大佐で中隊を率いる。という事は山口少将は中隊長以上の階級、となるとHS部隊隊長以外ない。部隊長の顔を知らない部下など、どうなるかわからない……

「す、すいませんでした!!」

俺は席から立ち上がり、頭を下げて謝罪した。

「分からなかったのも無理はない。今回の大戦のため今の今まで軍機だった。」

 ……極秘で転属か。

「村田大尉、このことは許す。寿司でも食って忘れろ。」

「ありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ところで少将。」

「なんだ?それと、ここでは大将と言え。」

「大将、なぜ大将自身が寿司を握っているのですか?」

「使者達をもてなすためだが?」

「いえ、職人に頼んで、出張してもらってもよかったのではないかと……。」

「資材は空軍、人手は陸軍が出した。食材と職人が海軍が出す。それで、海軍の将官自ら寿司を握ればこれほどのもてなしはないだろう。」

「……はい。」

そう言われちゃそうだけどさ。

「それに最近は‘‘お・も・て・な・し’’が流行っているから、将官自らやった方がいいと加藤大佐が言っていたぞ。」

俺は加藤大佐を見た。加藤大佐は満面の笑みを浮かべていた。

 ……黒幕はあんたか!!

 

 

 

 

 

 

 

 俺は諦めて少将の握る寿司に舌鼓を打っていると、次第に人が増えていった。

「ここいいか?……って貴様!!」

「イブキも来てたのか?」

白銀の鎧を着たジャンヌと武偵高校の制服を着たキンジが来た。

「お、二人とも来たのか。あぁ、ここ空いてるぞ。」

俺は隣の席をポンポンと叩いた。ジャンヌは顔を真っ赤にしながらそこに座り、キンジもジャンヌの隣に座った。

「イブキ大尉の知り合いか?」

辻さんが聞いてきた。

「二人とも武偵高校の同級生です。」

「ほぅ……。」

辻さんは観察でもするかのように二人を見た。

「む、村田……。」

ジャンヌは真っ赤になりながら俺を呼んだ。

「どうした?」

「この前の手紙のことだが……確かに、私は貴様を悪からず思ってはいる。しかし好きだとは……こう、友人としては好きではあるが、男として貴様を多分好いてはいないと思うのだ。……私のことを可愛いとか、いい女と言った時、確かに私は舞い上がってしまった。貴様が本心で言ったことは分かる。だが、こう……私は……まだ恋やら愛やら経験したことがないのでよく分かっていない。だから……今の私は貴様に告白などできない。貴様から告白されても私は、きっと断ってしまうだろう。……勘違いさせた事については謝る。仮に今の状態で、恋人同士になどなってはいけないのだ。貴様を期待させてしまってすまない。だが、可愛いとか、いい女と言われて嬉しかった。……自分勝手だとは思うが……今まで通りに接してくれると嬉しい。」

ジャンヌは顔をトマトの様に赤くしながら、俺に言ってきた。

 ……え?あの冗談の件、真面目に受け取っちゃってたの!?

「……え?あ……うん。分かった。」

ガヤガヤとしていた‘‘寿司 多門丸’’がシーンとした。

「……。」

山口少将(大将)は無言で大トロを俺の寿司下駄に置いた。

「……辻大佐。大尉に今日ばかりは飲ませてもいいんじゃないか?」

加藤大佐が俺の肩をポンポンと叩きながら言った。

「……イブキ大尉、希信は本日、宣戦会議のせいで部下を監督する暇がなかったようだ。希信は何も見ていない。」

そう言って、辻さんは俺の目の前にビール瓶とコップを置いた。

 ……なんか、凄く(むな)しい。確かにあれはブラックジョークだったかもしれない。けれど、告白してない美少女に、しかもこんなに人がいる目の前で振られるなんて……。

俺はジャンヌを見た。彼女の顔は真っ赤だった。

 ……策略でやってるわけではないのだろう。という事は素やったんだ、ジャンヌは。

「アハハハハハ……。」

俺の虚しい笑い声が、‘‘寿司 多門丸’’に響いた。

「まぁ……その、なんだ。注いでやる。」

トンガリ帽に逆卍の眼帯をつけ、肩にカラスを乗せた少女が瓶ビールの栓を抜き、俺の目の前にあるコップに注いでくれた。

 ……そういえば、こいつ夏に俺と戦ってたよな。確か名前は……カツェ=某。

「ムラタさん、あなたに主のお導きがあらんことを。」

巨乳のグラマラスな体を、金糸の刺繍を施したロープで隠した美女が、ロザリオを手に、俺の隣で祈ってくれた。

「……フォースの事で世話になってるからな。食えよ。」

GⅢが俺の手にトマトを渡した。

 ……GⅢ、オマエも来てたのか。

「……強く生きなさい。」

カナさん(キンイチさん)が俺の背をさすってきた。

 ……あんたも居るのか。これでかなめも居たら遠山一家勢ぞろいだな。

「……泣く、ダメ。」

頭に生花を挿した、角のついた小学生ほどの少女が椅子を台にして俺の頭を撫でた。

 ……これが最後の一押しとなった。

「チクショウ!!今日は飲んでやる!!」

俺はコップのビールを一気に(あお)った。

「「「「「「おぉ~!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばトンガリ帽の魔女さん。」

「なんだ?」

「前回ちゃんと名前聞いてなかったからさ。俺は村田維吹。よろしく。」

「あぁ、そうだったな。アタシはカツェ=グラッセだ。よろしく。」

俺とカツェさんは握手をした。

「そういえばカツェさん、逆逆。」

俺はそう言って自分の目を指した。

「え?……ッ~~~!!」

カツェさんは急いで手鏡を見て確認した。

「お、おめぇ!!嘘つきやがったな!!」

「いやぁ、前回が前回だったし。」

「てめぇ!!ぶっ殺してやる!!」

  ギロリ!!!

「「ッ!?」」

圧倒的な圧力を俺とカツェは感じ、お互いその圧力を感じた方向を見ると……そこには

布袋(ほてい)のような優しい顔とは裏腹に、般若も逃げ出すような眼光を光らす山口少将(大将)がいた。

「お客さん……ここは暴力沙汰、禁止ですよ?」

「「すいませんでした。」」

俺とカツェは土下座した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「想定外のことが起き、開始時間が遅くなってしまったが……始めよう。各地の機関・結社・組織の大使たちよ。宣戦会議(バンディーレ)……イ・ウー崩壊後、求める者を巡り、戦い、奪いあう我々の世が……次へ進む為に(Go For Next)。」

ある程度時間がたち、騒ぎも落ち着いてきた所で、寿司屋の中にあった司会者席みたいな台にジャンヌは立ち、ここにいる全員に聞こえるように言った。ついでに、ジャンヌの顔はまだ若干赤い。

――Go For Next――

キンジは、バラバラに唱和したその一夜限りの飲み仲間達を、ヤケクソ気味に睨みつけていた。

 ……これが戦争への第一歩、宣戦会議か。辻さんが張り切っているってことは……メチャクチャ危険な戦争なんだろうなぁ。なんだってこんな目に……。

 俺はヤケクソ気味にイクラをほおばった。憎たらしいぐらいに美味かった。

 

 




 遅くなりましたが、山口多門丸少将は太平洋戦争中に第2航空戦隊司令官をしていた猛将がモデルです。この人は有名&名前もそこまでひねってないので、すぐに分かると思います。


 寿司屋では板前さんのことを‘‘大将’’と呼ぶので山口少将を‘‘大将’’と呼んでいます。

 公衆の面前で、一方的に振られれば……流石に同情すると思います。将来の敵だとしても……。


  Next Ibuki's HINT!! 「陣営決め」


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閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5 その1

前回、‘‘Next Ibuki's HINT!!’’において‘‘陣営決め’’と書きましたが、次話で章が変わり、閑話を入れることを忘れていました。ここにお詫び申し上げます。

 さて、7月後半は試験が近づいてくるので、投稿期間が短くなるか長くなるかになります。ご不便をおかけしますがよろしくお願いします。

 で、閑話を書いたのですが……我ながら酷い駄作となりました。


 この閑話は9月1日の始業式から、修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)の間に起こった時の出来事です。


 ……俺の名前は村田維吹、17歳。聖グロリア―ナ女学院の学園艦にある高級テーラー‘‘Kings Men’’の仕立て屋だ。本日はこの学校のとある生徒の依頼で、聖グロリア―ナの学園艦のパブで待ち合わせをしている。

「……これ絶対似合ってないよなぁ。」

俺は支給された衣服(高級スーツ)を見た後、エールを一口飲んでため息をついた。

 

 さて、俺が何故こんなお嬢様学校の学園艦でこんな変装をしているのかというと、教務課(マスターズ)直々の依頼のせいだ。内容は『聖グロリア―ナ次期戦車道隊長‘‘田尻凛’’の護衛をせよ』というものだ。期間は一週間。

 なんでも、新型戦車導入を阻止しようと、ここのOG会が最近、不穏な動きを見せているそうで……。なので念のため、俺を護衛に就かせるそうだ。

 で、なぜ俺がこんな似合わない高級スーツを着ているかというと、その護衛対象本人(たっ)ての願いで、架空の高級テーラー‘‘Kings Men’’の仕立て屋に変装して欲しいそうだ。

 ……絶対映画見たよな。確かに面白かったけどさ。

 

 俺は再びため息をつき、あたりを見回した。今の時間(午後2時過ぎ)のせいでほとんど人はいない。居るのは他校の制服を着て、亜麻色の髪を三つ編みにし、それを頭の後ろで巻いた(ギブゾンタックだっけか?)髪型の少女。そして、聖グロでも亜麻色の髪の子とも違う制服を着て、サンドイッチをガツガツと食べている真っ赤な髪の少女だけだった。身長や制服から考え、彼女らは学校見学に来た帰りだろうか?

「……全く、なんだって新型戦車導入ってだけで護衛がいるんだか。」

エールがコップの4分の1を切った。俺はパブだから喜んで(ショウガナク)エール(ノンアルコール)を頼んだのだが……ノンアルコールとは言え、仕事前に2杯3杯も飲むのはまずいだろう。

  カランカラン

すると、パブのドアが開き、金髪を三つ編みにし、それを巻き上げた(ギブソンタックだったよな?)髪型をした、聖グロの制服を着た淑女が入って来た。写真で見た護衛対象とそっくりだ。やっと来たのだろう。

 ……彼女が‘‘田尻凛’’か、結構な別嬪さんだな。

彼女は俺を見つけ、俺の真正面の席に腰を下ろした。

「こんにちは、お嬢さん。俺は‘‘Kings Men’’の仕立て屋、村田維吹です。あなたが‘‘田尻凛’’様ですか?」

すると、淑女が微笑んで言った。

「えぇ……私が依頼主の‘‘ダージリン’’ですわ。」

 ……‘‘ダージリン’’?今回の依頼主は‘‘田尻凛(たじりりん)’’だったはず。ちゃんとフリガナも書いてあった。ならば……こいつは誰だ?

「失礼、今回の依頼主は‘‘田尻凛’’様だったはず。‘‘ダージリン’’様とは聞いてないのですが?」

俺はそう言ってジャケットの中に手を突っ込んですぐ銃を抜けるようにし、その‘‘ダージリン’’に魔力で圧力をかけた。すると、彼女の額には冷汗が出てきた。

「……せ、聖グロでは、幹部クラスや幹部候補生はニックネームで呼びあっていますの。是非とも、今後はダージリンとお呼びください。」

 ……嘘をついている様には見えない。

「学生証を見せてもらっても?」

すると‘‘ダージリン’’は上品な財布をだし、そこから学生証を出して俺に渡した。そこには‘‘田尻凛’’と書かれていた。

 ……なんだ、警戒しすぎたか。

俺は魔力を解き、圧力をかけるのをやめた。

「いや、失礼しました。成り代わりが来たのかと思って警戒してしまいまして。」

「いえ、私も勘違いさせてしまい、すいません。」

すると、カウンターからマスターが出てきた。

「お客様、ご注文は?」

「では……エールを。」

「かしこまりました。」

 ……意外だな。この学園の生徒が紅茶を頼まないなんて。

「次期戦車道隊長のダージリンさんがこんなところでエールを飲んでいいんですか?」

「せっかくパブに来たんですもの、エールを頼まないと。それに、ここへ来たのは数年ぶり。……毎日紅茶ばかりでは飽きてしまいますわ。」

ダージリンさんは心なしか、ウキウキしているように見えた。

「「ダージリン様!?」」

すると、パブにいた二人の中学生(?)が‘‘ダージリン’’という言葉に反応した。二人は首をグルンッと回してダージリンさんを見ると、驚きと喜びを合わせたような表情をした。そして、その二人はダージリンさんに駆け出してきた。

「「ダージリン様ですか!?」」

「え、えぇ……。」

ダージリンさんは二人の勢いに圧倒されているようだ。

「私!!ダージリン様にあこがれてここに来ました!!」

「あたしもダージリン様のカッコいい姿にあこがれてきました!!」

二人がダージリンさんを(まく)し立てるように話す。ダージリンさんは慣れていない様で慌てている。

「エールです。」

マスターがダージリンさんの前にエールを置くと、逃げるようにカウンターに戻ってしまった。巻き込まれたくないのだろう。

 ……助け舟でも出すか。

「二人とも落ち着きなって、ダージリンさんがあわt……」

  バァン!

パブの入り口のドアが、叩きつけられたように思いっきり開けられた。

 俺達4人は音の方向に顔を向けると……そこにはいかにもヤンキーな青年達が10人ほどいた。そのヤンキー達は俺達4人を見つけると、ズカズカとこっちに近づいてきた。

「この子がターゲットの‘‘ダージリン’’ちゃんかぁ?」

「結構可愛いじゃないの?」

「回しちまってもいいって聞いてるぜ。」

「「「「「ギャハハハハハ!!!」」」」」

 ……おい、典型的な悪役じゃねぇか。しかも序盤での踏み台役のような悪役だ。

「この二人の嬢ちゃんも可愛いなぁ。」

「お前、ロリ専だもんな。何がいいんだか。」

「わっかんねぇかな?無知なところを、調教していくのがいいんじゃねぇか!」

丸坊主の長身の男がそう言うと、

「「ッ……!!」」

ダージリンさんのファン(?)である中学生二人が、涙目でダージリンさんにしがみついた。当のダージリンさんは優雅にエールを……

  ブルブルブルブル

エールを持つ手が大きく早く震えている。彼女の額からは大粒の汗が流れている。

 ……良く表情を崩さないもんだ。

俺は感心した。俺は一口エールを口にした後、

「よう、ここは手を引いてくれないか?」

「あぁ?」

髪を茶髪にして軽いパーマをかけた、リーダー格であろう男が俺を睨んだ。

「この学園艦には駐在所が一つしかない。警官も一人だけだ。この人数を拘束するとなると数日間、簀巻(すま)きのまま放置だってあり得る。あんたたちも仕事のようだが……もう一度言う。ここは手を引いてくれないか?」

調べておいたことだが、学園には駐在所一つが基本らしい。となると警察官は一人……一人で拘束した10人を預かるなんて難しい……。

 ……全く、面倒ったらありゃしない。

俺はエールを飲み干した

「黙ってろ。怪我してぇのか?」

茶髪パーマが答えた。

 ……交渉決裂か。そう言えば、ダージリンさんはきっと映画を見たから‘‘Kings Men’’に変装させたんだよな。ちょうど、あの映画のワンシーンの様に演出してやるか。

「ちょっとどいてくれ。」

俺は支給された蝙蝠傘を握ると、パブの入口へ向かった。

「「え?」」

ダージリンさんと亜麻色の髪の少女が、絶望したような声を上げた。

「ちょっとあんた!!何逃げてんのよ!!それでも玉はついてんの!?この玉無し!!イ○ポ!!皮被り!!」

 ……赤髪の嬢ちゃん。その口調で聖グロに入ろうとしてんのか?

「援交相手ならほかで探せよ、玉無し!」

リーダー格の茶髪パーマが俺の頭をひっぱたいた。

 ……敵の実力も分からない雑魚ってのは面倒なんだ。まぁ、向こうが最初に叩いてきた。だから、これで向こうから喧嘩を仕掛けてきたという口実ができるけど。

俺は大きなため息をつくと

  ガシャン!!

パブのドアの鍵を閉め始めた。

「Manners」

  ガシャン!!

「maketh」

  ガシャン!!

「Man.」

  ガシャン!!

入口にあるカギはおおよそ全てかけた。

 ……たまには俳優を気取るのは悪くない。まぁ、俺は大根役者だけど。

「訳せるか?」

俺はパブの入り口のドアの隣にある鏡でこのヤンキーたちの動向を探る。ヤンキーたちは全員俺の方へ向いたようだ。

「「「「えっと……。」」」」

「マナーは人を作る、でしたわね。」

 ……ダージリンさんが答えちゃ意味ないだろうに。

「意味は分かるか?」

俺がヤンキーたちに聞いた。

「こいつ急にそんなこと言って馬鹿じゃねぇの!?」

「「「「ぎゃははははは!!!」」」」

 ……何がそんなに面白いんだか。

「では、講義を始めますかね。」

俺の目の前の机に飲みかけのジョッキが置いてある。俺は蝙蝠傘の先を握り、曲がっている柄をジョッキに引っかけた。

「あらよっと!!」

俺はそのまま蝙蝠傘を一気に振り、ジョッキを勢いよく真後ろに飛ばした。

  バリィイン!!!

「うっ!?」

茶髪パーマの額にそのジョッキが命中し、茶髪パーマは崩れ落ちるようにぶっ倒れた。他のヤンキーはリーダー格を見て呆然とする。

 俺はゆっくりヤンキーたちに近づいていった。

「どうした?案山子(かかし)の様に棒立ちしてるか?それとも数に任せて戦うか?」

俺は棒立ちしている残りのヤンキーたちを睨んだ。

「うらぁあああああ!!」

がっしりした体形の坊主頭が俺に拳を振り上げてきた。

「よっ!」

俺はその男の拳を避けるのと同時に腕を掴み、そのまま背負い投げの要領でその男を投げた。

  バリィイイン!!!

男はパブのドアと一緒に店外へ投げられた。

「「「「うあぁああああ!!!」」」」

乱闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤンキー達は強制的にパブの床で寝る羽目になった。

 ……とりあえず、これで大丈夫だろう。

俺はダージリンさん達三人の元へ戻った。

「大丈夫だった?」

「えぇ……。」

ダージリンさんは表情を変えずに言った。

 ……流石だな。まぁ、目尻に薄っすら涙がたまってるけど。

「あ、ありがとうございます!!」

亜麻色の髪の子が頭を下げてお礼を言った。俺は思わずこの子の頭を撫でた。

 ……何この子、可愛い。

「う、後ろ!!!」

赤髪の子が俺の後ろを指さした。

 ……わかってる。ヤンキー達のリーダー格・茶髪パーマが起き上がったんだろう?

俺はゆっくり後ろを向いた。

「こ、このくそ野郎……。」

茶髪パーマはズボンの中から、でっかいリボルバーを出して俺に向けた。

 ……あの拳銃はS&W M29だろう。一昨日見た映画で、主役がその拳銃を使ってたのを覚えている。

「そこでやめとけ。今なら銃刀法違反と傷害罪と名誉棄損だけだ。大人しくその銃を渡せ。」

 ……構え方を見るに、素人だ。そんな奴がバカでかいマグナムを片手で撃って当たるはずがない。

男はワナワナと震えながらその拳銃を俺に向け、

「死ね!!!死ね死ね死ね死ね!!!」

  ダァンダァンダァンダァンダァンダァン!!!

発砲した。

「っち!!!」

  ギィイイン!!

俺は腰から銃剣を出し、ダージリンさん達と俺に当たりそうな弾をそれで弾いていった。

  カチンカチン!!

弾切れになったようだ。俺は茶髪パーマに一気に近づくと、銃剣の峰で茶髪パーマの首元を殴って気絶させた。

 

 

 

 

 

 俺は、ヤンキー達全員を縄で縛りあげ、ダージリンさん達のところへ戻った。

「う、うぅ………うぅうううう……。」

亜麻色の髪の子が俺に抱き着いて泣きだした。一般人の中学生があんな目に合えば、泣くのもしょうがないだろう。

「ありがとうございます。村田さん。」

ダージリンさんは俺に頭を下げて礼を言った。

「まぁ、これも‘‘Kings Men’’の仕事ですからね。しかし、OG会がこんなの雇うなんて……ハァ……。」

 ……ここは女子高の学園艦。若いヤンキーの男たちが10人も入れるわけがない。となると、裏で手を引いている奴がいる。OG会ぐらいしかないだろうな。

俺はそんなことを考えながら、大きなため息をついた。

「お兄さん!!」

「ん?」

赤髪のお嬢ちゃんが俺を呼んだ。

「カッコいい!!どうやったらあんなカッコいい事できるようになるの!?」

赤髪のお嬢ちゃんはキラキラした目で俺に聞いてきた。

「そうだなぁ……その前に……。」

泣き止んで顔が真っ赤になった亜麻色の子を引き離し、ハンカチを渡した。そして俺の両手を赤髪のお嬢ちゃんの頭に乗せ、

「俺の事、お嬢ちゃんなんて言ったっけぇ~~?」

  ミシミシッ!!

その手に力を入れて、赤髪のお嬢ちゃんの頭に圧力(物理)を思いっきりかけた。

「イ゛ダダダダダダダ!!!」

「なんて言ったけぇ~?」

俺はあの時、お嬢ちゃんの言った言葉を覚えているぞ。

「ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!」

俺は赤髪のお嬢ちゃんの頭から両手をどかした。

「ウゥ……。」

赤髪のお嬢ちゃんが涙目で俺を睨んでくる。

「高級テーラー‘‘Kings Men’’の従業員には、ああいう技術が必要になってくるんだよ。」

嘘はついてない。従業員、今のところ俺一人だし。

「そうなの!?」

 ……え?冗談なんだけど、気づいてる?

「とりあえず、警察に連絡だな。」

俺はスマホを出し、聖グロの学園艦の駐在所に電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 電話をかけて数分もしないうちに警官が来た。

「女の子を襲おうとしたんだって?」

聖グロの学園艦唯一の警官は年を取った好々爺だった。

「そうなんですよ。俺が武偵だったんで何とかして……。」

「えぇ、彼のおかげで私は助かりました。」

俺とダージリンさんが好々爺の爺さんにそう話した瞬間、

  プルルルル!!

パブの電話が鳴った。

「はい、こちら‘‘パブ・アーサー’’……。」

すると、パブのマスターが電話の受話器を差し出した。

「村田様にお電話です。」

 

俺は受話器を受け取った。

「はい、もしもし?」

「やぁ、君がダージリンの雇った護衛かい?」

 ……おかしいな。高級テーラー‘‘Kings Men’’のはずなんだが

「俺は高級テーラー‘‘Kings Men’’の従業員だ。」

「……そういう事にしよう。さっき不良を10人倒して、そこにはダージリンと駐在官と中学生二人がいるだろう?」

「ッ!!」

 ……監視されてるのか!?

俺は思わずパブを見回した。

「ここにいる全員に話をしたい。スピーカーにしてくれ。」

「……あぁ。」

俺はパブのマスターにスピーカーモードにしてもらい、それと同時にスマホの音声メモをオンにした。

「何だってスピーカーにしなきゃなんねぇんだ?」

「……パブの目の前に航空機用のハンガーがあるだろう?」

電話の相手は急に話を変えた。

 ……確かに滑走路を挟んで目の前に、連絡用飛行機の格納庫があるが、それがどうしたんだ?

「確かにあるが……。」

「では見ていてくれ。」

電話の相手がそう言った瞬間、

  ドカーーーーーーン!!!!

格納庫が大爆発を起こした。

 ……は?

俺達5人は口が開いたままだった。

「今、綺麗に爆発しただろう?これの10倍の爆弾を聖グロリア―ナのとある校舎と、学園艦のどこかに設置した。」

 ……ウソだろ!?格納庫が木っ端みじんになったんだぞ!?その量の10倍が爆発したら、生徒の骨すら残らねぇぞ!?

「我々は午後6時にそれを爆発させるようにセットした。……それとは別に、教員や生徒を避難させようとしたら爆発するようになっている。変なことはしないことだ。……止めるには一つ、方法がある。」

 ……なんてこった。この学園艦には駐在さんが一人に俺一人。何にもできねぇぞ!?

「どうすればいい!!!」

俺は叫んだ。

「ダージリンと護衛君、そしてそこにいる中学生二人に命令を与える。」

「待て!!ダージリンさんにこの二人は一般人だぞ!?」

 ……なんだって民間人3人も巻き込まなきゃなんねぇんだ!?

「話の腰を折らないでくれ……ダージリンとその護衛君、それにそこの中学生二人は艦首付近のAC-224589Dの部屋に置いてある携帯電話に25分後に出ろ。」

俺は時計を見た。今は午後2時15分。

 ……そう言えば、まだ昼飯食ってないなぁ。

カット。

「てやんでぃ馬鹿野郎!!少なくても中学生の二人は聖グロと関係ねぇんだぞ!!」

「静かにしてくれないか護衛君。それ以上言うなら、さっき以上の爆弾が爆発することになる。」

「ッ!!!」

「では25分後。くれぐれもそこの駐在官を連れてこないように。」

  ツー、ツー、ツー

電話が切れた。

 ……敵はこっちを監視している。ならば、この3人を連れて行かないとすぐバレる。

「ハァ……駐在さん、誠にすいませんが聖グロの生徒を校舎から出さないで、一カ所に集めてください。それと本土の警察にも連絡を。」

すると、好々爺の駐在さんの顔つきが一気に変わった。

「若ぇの……それだけか?」

学園艦の駐在さんの眼が鋭く光る。

「言い忘れていましたが、俺は軍から武偵へ出向しているものです。軍のツテがある。軍の爆弾処理班とその他を入れる許可をください。警察がヘリで来るよりかは早いかもしれません。」

 ……本来なら駐在さんの許可なしでも大丈夫だが、現場を混乱させないようにするためだ。

「分かった、許可する。住民の方もこっちがやっておく。……全く、今日は3時から孫とボコのショーを見る約束だったんだがなぁ。」

駐在さんは大きなため息をついた後、携帯電話を出した。

「連絡先だ。おめぇのも見せろ。嬢ちゃんたちもだ。」

「「「は、はい!!」」」

俺達は電話番号を交換すると、

「行ってこい若ぇの!!こっちは任せろ!!!」

「よろしくお願いします。……すまないみんな、協力してくれるか?」

「「「はい!!」」」

 ……彼女たちは迷いもなく頷いた。

「じゃぁ、一緒に来てくれ!!」

俺達は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は近くに置いてあったベンツのEシリーズを拝借し、3人を乗せるとアクセルを踏んだ。

「ダージリンさん!!AC-224589Dはどこですか!?」

俺はさらにスピードを上げながら聞いた。何とか昨日で学園艦の地図は覚えたが、そんな部屋は知らない。

「甲板から2階降りた場所にある4番艦の5条の89番の倉庫よ!!」

「距離は?」

俺達のいる場所は比較的艦尾付近の場所だった。そこから艦首は大分遠いぞ!?

「ここからですと……10キロくらいかしら?」

「もっとスピード上げるぞ!!」

俺はアクセルをさらに踏みこんだ。

 

 

 俺は中学生二人の名前を知らないことを思い出した。

「そういえば中学生の二人!」

「「は、はぃい!!!」」

 ……声が上ずってる。こんなことに巻き込まれたら当たり前か。

「俺は村田維吹大尉、海軍から武偵高校に出向中に任務で聖グロに来たら巻き込まれた男だ。二人の名前は?」

「と、橙辺夕子(とうべゆうこ)ですぅ!!」

亜麻色の髪を編み込んだ少女が涙目で答えた。

「あたしは矢場蘭(やばらん)!!」

赤髪の少女は逆に目をキラキラと光らせていった。 

 ……事の重大さが分かってねぇのか?

「三人とも安心しろ!!俺は7歳のクリスマスからテロリストと戦ってきたベテランだ!!つい2、3週間前にもテロリストと戦ってた。お前らの安全は俺が保証するぞ!!」

 ……アメリカの中国総領事の娘誘拐の件な。何だってこんなに巻き込まれるんだ?

俺がそう気休めを言うと、ダージリンさんと橙辺さんは落ち着いてきた。

「なんたって俺は不死の英霊(イモータル・スピリット)だからなぁ!!……この二つ名は嫌いだけど。」

「あ、そこ左で。」

ダージリンさんが言った。

「了解!!」

俺はスピードを維持したままハンドルを傾けた。

不死の英霊(イモータル・スピリット)!!あんたホントに不死の英霊(イモータル・スピリット)なの!?」

矢場さんが飛び上り、俺の肩を揺らして聞いてきた。

「おいこの野郎!!ゆらすな!!」

「本当に本物なの!?」

「ここで嘘ついてどうすんだよ!!」

「「ま、前!!」」

ダージリンさんと橙辺さんが指をさして叫んだ。前には右から左へ動く車列が……

「……ッ!?しっかりつかまれ!!」

俺はさらに車を加速させ、動く車の間を何とかすり抜けた。多少擦ったのはショウガナイ。

「う、運転中に揺らすな!!」

「ご、ごめんなさい……。」

矢場さんはシュンと落ち込んだ。

「……で、本物だけど、どうした。」

「ファンなんです!!あとでサインしてください!!」

 ……俺にまさかファンがいたなんて。

「傷ついても傷ついても、敵に立ち向かう姿にあこがれてました!!」

 ……俺はただ、ボロボロになってカッコ悪く敵を倒していただけなんだが。

「この事件が終わったら山ほど書いてやるよ!!」

「やったーーー!!」

矢場さんが飛び上がって喜んだ瞬間、

「そこ右です。」

「はいよ!!」

車には強い遠心力がかかり……

  ドスッ!!

「痛い……。」

飛び上がった矢場さんは車のドアに思いっきりぶつかった。

「……シートベルトしような。」

「「「……はい。」」」

三人はイソイソとシートベルトを締めた。

 

 




 実は、‘‘BOKO Hard 2.5’’の他に、‘‘花火盗人……ミカちゃんとミカと俺’’を書こうと思ったのですが、プロットの段階でスランプになりそうだったので諦めました。(文字数の問題もあるけど)

 ところで某有名映画‘‘ダイ・〇ード’’の3作目は船での戦いにしようとしたところ、‘‘沈黙〇戦艦’’が先に放映されてしまい、台本を変えざるを得ない状態になったことは有名(?)です。
 なので、‘‘幻の3作目’’を学園艦(船と言えるのか?)でテロと戦うことになりました。(なお、‘‘ジョニー・マクレー’’こと‘‘おっさん’’は今回出てきません。)
なので題名が‘‘2.5’’となります。
 なぜ‘‘BOKO Hard’’なのかは、閑話全部読んでくれたら分かると……いいなぁ。
 
 ‘‘Kings Men''です。‘‘Man''ではありません。‘‘e’’と‘‘a’’が違います。

 橙辺夕子と矢場蘭が出てきました。とあるガルパンの登場人物なのですが……本名のほうはオリジナルです。考えるのが大変でした。

 シートベルトはしっかりつけましょう。


 閑話なので、‘‘Next Ibuki's HINT!!’’はありません。ご容赦を。


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閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5 その2

さぁ、すでに出来上がっていたのですぐ投稿しますよ!!


 俺は車で移動中に軍へ要請を出した。本土から距離があるため、空挺部隊が40分以内に到着、本隊は1時間半以上かかるそうだ。ただ運がいいことに、近くに駆逐艦4隻が航行していたため、その4隻を大急ぎで向かわせるらしい。その駆逐艦の到着が20分後。

 俺はそのことを大急ぎで駐在さんに伝えると、とても喜んでいた。当たり前だ、生徒と住民の避難を一人でできるわけがない。

 

 

 そして午後2時36分、俺が散々飛ばしたおかげでダージリンさんと橙辺さんはグロッキーになっているが、なんとかAC-224589Cという倉庫にたどり着いた。

 俺はその倉庫のドアを蹴破り、拳銃を持って警戒しながら中に入ったが誰もいない。俺は3人を倉庫の中に入れた瞬間、

  プルルルル!!

倉庫の床に落ちていた携帯電話が鳴りだした。俺はスピーカーにしてその電話に出た。

「やぁ、時間以内に到着したようだね。関心関心。」

電話の主はパブにかけてきたのと同じ声だった。

「で、民間人も巻き込んで何をしたい。」

「なに、私は君達とゲームをしたいだけだよ、護衛君。」

電話の相手はキザッたらしく言ってくる。

「では命令を与える。この学園艦にあるローマ劇場に30分以内に向かえ。」

  ツー、ツー、ツー

電話が切れた。俺はその携帯電話を投げ捨てた。

「……はぁ、この学園艦にローマ劇場なんて場所があるんですか?」

俺はダージリンさんに聞いた。

「そんな名前の場所はないですわ。」

ダージリンさんが言った。

「チクショウ!!どこだ!?ローマ劇場ってのは……。」

 ……ローマ劇場、聞いたことがある。具体的には先週の土曜日に。

「えっと……ローマ劇場って、古代ローマ時代に造られた半円型の劇場でしたよね?」

橙辺さんが首をかしげながら聞いてきた。

「そうだ!!それだ!!」

 ……先週の‘‘世界ふ○ぎ発見’’でやってたな!!

「え……何それ?」

矢場さんは分からないようだが、もういい。

「艦尾付近にセレモニー用の半円の劇場がありますわ!!でも……。」

「どうしたんです!?ダージリンさん!!」

「ここから30分じゃ無理です。森や校舎を迂回しなければならないわ。」

俺は学園艦の地図を思い起こした。

 ……そう言えばでっかい校舎と校庭のせいで迂回しなければいけないはず。……そうだ!!

「急いで車に乗ってくれ!!」

俺は三人を車に戻すとアクセル全開にした。

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうするんですか?」

橙辺さんが俺に聞いてきた。目の前には聖グロリア―ナの敷地であることを示す柵が迫ってくる。

「……緊急事態だから多少壊してもショウガナイよな!!」

俺はそう言って‘‘四次元倉庫’’から、牛若から没収したパンツァーファウストを出し、片手でそれを持って窓の外に出して発射した。

  バシュ!!……ドカーーーーーーン!!!

なんという事でしょう。これまで装飾が施された上品で立派な柵が、(たくみ)の手によって見るも無残な姿へ変身してしまいました(某ビフォーアフター風)。

「「「……。」」」

三人は大きく口を開いたままだ。

……おい、聖グロの淑女。口を大きく開くのは品がない事じゃなかったっけ?

「こうすればまっすぐ行けるだろ!?」

車はさらにスピードを上げて聖グロの敷地へ入って行った。

 ……柵の残骸がタイヤに刺さらないか心配だったが、大丈夫なようだ。よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 車は敷地内の木々を抜け、校庭を抜けると今度は校舎が迫ってきた。

「こ、今度はそうするんですかぁ!?」

橙辺さんは涙目で聞いてきた。

「今度もバズーカ!?」

矢場さんはキラキラした目で俺を見てきた。

 ……あれはバズーカではないんだが。

俺はハンドルを傾け、校舎を沿って進むと、校舎と校舎の間の渡り廊下が見えた。

「流石に校舎は壊さないぞ?」

渡り廊下に車を突っ込ませる。

「「「キャーーーーー!!!」」」

渡り廊下の柱二つがギャリギャリと車の左右を擦った。

「わ、私まだ生きてます?」

ダージリンさんは泣きそうになりながらもそう言ってきた。

「ピンピンしてますよ!!」

俺は運転しながら言った。

「聖グロって凄くヤンチャな学校なのね!!」

「それは違うと……。」

橙辺さんは矢場さんに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車は半円の野外ステージに滑り込んだ。俺は車から急いで降り、ステージ内を見ると……小さな少女がぬいぐるみを抱えて席にポツンと座っていた。

 ……こいつが犯人か!?

俺は銃を抜いて、いつでも撃てるようにした。

「お嬢ちゃん、両手を上げてゆっくり後ろを向け。」

俺は恐る恐るぬいぐるみを抱えた少女に近づいた。

 ……おかしい。ぬいぐるみを抱えた少女の姿勢や重心が一般人の域を出ない。

少女は首をかしげながら後ろを向くと、俺の銃に気が付いたのかビクッと震え、ぬいぐるみを強く抱えて涙目になった。

 ……可哀想だが、犯人かどうか分からない限り、銃は下げられねぇ。

「お嬢ちゃん、どうしてここにいる?」

この野外ステージにはぬいぐるみを抱えた少女以外、人っ子一人もいない。 

「ぼ、ボコ……。」

少女はぽつりと呟いた。

「ボコ?」

ボコってなんだ?

「ボコのショーがあるから…………。」

少女の目尻には大粒の涙が……

 ……嘘をついてはいないようだな。ということは何にも知らずにショーを待っていた少女だったのか。

俺は銃をジャケットの中のホルスターにしまった。

「ごめんお嬢ちゃん。今、爆弾魔の事件があってな、その爆弾魔の指定した場所がここなんだ。銃を向けてしまってすまない。」

俺はそう言って頭を下げた。

「その楽しみにしているショーも、爆弾魔のせいできっとないぞ。」

「そんな……。お爺様と一緒に見るって約束してたのに……。」

ぬいぐるみを抱えた少女はorzの体勢になった。

「む、村田さーん!!」

顔が真っ青のダージリンさんの背をさすりながら、橙辺さんと矢場さんが戻ってきた。

  

 このローマ劇場(仮)に着いた時、ダージリンさんは近くの草むらに顔を真っ青にして走って行った。そんなダージリンさんを心配して中学生二人もついていったのだ

 

 俺と涙目の少女を見つけると、口元を押さえたダージリンさんと橙辺さんは驚いた顔をした。

「あぁ……ダージリンさん、大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですわ。……こ、こんな格言をsh……」

「ダージリン様は盛大にゲロ吐いてたわ!!」

矢場さんが大声で乙女が知られたくないであろう秘密を暴露した。ダージリンさんの顔色は真っ青から真っ白に変わった。

「……俺は何も聞いてないぞ、うん。」

「……大丈夫?」

俺とぬいぐるみの少女が放った言葉がダージリンさんの心をえぐったのだろうか?

「……グスッ。」

ダージリンさんはシクシクと泣いてしまった。

 

 

 

 

 

 

  プルルルル!!

 ステージから電話の音が鳴った。俺は泣いているダージリンさんと、ダージリンさんの頭を撫でていたぬいぐるみの少女を小脇に抱えてステージへ走りだした。

 ステージの上に置いてあった携帯のところで二人を下ろし、俺は電話に出た。

「はい!!もしもし!?」

「やぁ護衛君。時間ギリギリじゃないか。」

キザッた声が聞こえる。

「俺はいつだって時間ピッタシだ!」

「そうかそうか……。ではスピーカーにしてくれ。」

俺はその携帯をスピーカーにした。

「では早速だが命令だ。イギリスで最も有名な提督の噴水に模した場所に爆弾を仕掛けた。15分以内に爆弾を解除しないと爆破する。なお、護衛君と淑女三人のほかに、そこのぬいぐるみを抱えたお嬢様も一緒に行くこと。」

「ふざけるな!!なんだってさらに民間人を増やすんだ!!」

 ……こいつはどれだけ民間人を巻き込めば気が済むんだ!?

「まぁ落ち着け、護衛君。ここで一人残すより君達とついていった方が安全だろう?こんなところで一人ポツンといれば変な輩に誘拐されかねない。」

確かにそうだが……。

「では15分後。」

  ツー、ツー、ツー

電話は切れた。

 ……このぬいぐるみのお嬢さんも連れて行かなければならないのか。

俺は頭が痛くなった。すると俺の袖が引っ張られた。俺は引っ張られた方を見ると……ぬいぐるみの少女が俺の袖を引っ張っていた。

「……協力する。」

その瞳は強い意志がこもっていた。

「ボコのショーのためなら頑張る。」

 ……最近の子供ってのは大人びてるんだなぁ。

俺は海鳴で出会った少女達を思い出した。

「すまない、協力してくれ。」

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、協力な助っ人(笑)を加えた俺達五人は車に走って戻った。

「イギリスで最も有名な提督って誰だ!?」

「ネルソン提督じゃないですか?」

橙辺さんはそう言って車に乗り込んだ。

「ネルソン提督の噴水と言えばトラファルガー広場だと思います。ロンドンの中心部にある有名な場所ですよ。」

「橙辺さんは博識だなぁ。」

俺は思わず感心した。

「トラファルガー広場を模した広場がここから5分の場所にありますわ。」

流石はダージリンさん。学園艦のことをよく知ってらっしゃる。

「案内よろしく!!」

「えぇ、もちろんですわ。」

ダージリンさんは何処からか出したティーカップを持って答えた。俺はダージリンさんの言葉に頷くと共に、アクセルをベタ踏みした。

 

 

 

 

 

 

 そういえば、ぬいぐるみの少女の名前を知らない。

「俺の名前は村田維吹。お嬢ちゃんの名前は?」

「……私は愛里寿。」

橙辺さんが凄く慌てているが何故だろうか?そう言えばダージリンさんも、ティーカップ(何処から出したんだ?)の紅茶をビチャビチャとこぼしている。

 ……いいとこのお嬢ちゃんなのだろうか。

「じゃぁよろしく、愛里寿ちゃん。」

「……うん!!」

俺はハンドルから片手を離し、愛里寿ちゃんと握手をした。

「あたしは矢場蘭。よろしくね愛里寿ちゃん。」

「……よろしく、矢場おねぇちゃん。」

すると、矢場さんは感極まって愛里寿ちゃんを抱きしめた。

「あぁ~!!可愛い!!妹がいたらこうなんだろうなぁ!!」

「や、矢場おねぇちゃん……ちょっと苦しい。」

するとダージリンさんは白目を向き、橙辺さんは気絶した。

「おい大丈夫か!!二人とも!!」

 

 

 

 

 

 

 俺は運転しながら駐在さんに‘‘少女が巻き込まれたこと’’、‘‘トラファルガー広場(偽)へ向かっていること’’を携帯で伝えた。駐在さんからは‘‘駆逐艦4隻が到着し、その乗員が必死になって学校の爆弾を探していること’’、‘‘空挺部隊がもう少しで到着すること’’を教えてくれた。

 ……早く校舎に仕掛けられた爆弾が見つかることを祈ろう。

そう思った瞬間、ダンプカーの列が俺の運転する車の目の前を横切った。

  キキーーーーーー!!

「あ、あぶねぇ……。」

俺が慌ててブレーキを踏まなかったら衝突してた。ダンプカーは履帯のついた何かをキャンバスで覆って、運んでいた。

 ……いったい何を運んでるんだ?

 

 

 車はトラファルガー広場(偽)に滑り込んだ。俺は車から降りて噴水へ走ると……あった。噴水の腰を掛けられるぐらいの淵にスーツケースと、ウォーターサーバーに使われていそうなデカいボトルが大小合わせて二つ置いてあった。

「こ、これが爆弾ですか……?」

橙辺さんは後退り(あとずさり)しながら言った。

「「……(ゴクッ)」」

ダージリンさんと愛里寿ちゃんが唾を飲み込んだ。

「……(キラキラ)」

矢場さんはまるで映画のワンシーンだと思っているのか、ワクワクしているのがよくわかる。

「全員、車の後ろで隠れてろ。爆発する可能性がある。」

俺は4人が車を盾にして隠れたのを確認してからスーツケースを恐る恐る開けると……大量のC4と起爆装置、携帯電話が入っていた。

  ピピッ!

起爆装置が鳴った。

『起爆装置が作動しました。 残り299秒』

「おい……ウソだろ!?」

起爆装置が作動しやがった!?

  プルルルル!

今度はスーツケースに入ってあった携帯電話が鳴った。俺はその携帯を手に取った。

「もしもし!」

「やぁ護衛君。今度も間に合ったようだね。ではスピーカーにしてくれ。」

俺は4人に再び来てもらうとスピーカーにした。

「スピーカーにしたぞ。」

「では紳士、淑女の諸君、そこに10Lと6L入るボトルがあるだろう。」

確かに、スーツケースの隣にはボトルが二つ置いてあった。

「あぁ、あるな。」

「では命令だ。そこに重さを感知する装置がある。そこにピッタリ8Lの水を置け。そうすれば起爆装置が止まる。」

 ……なんでそんな遊びをするんだ?

「起爆装置が無事解除されたらまた電話する。」

  ツー、ツー、ツー

電話が切れたようだ。

 ……残りは4分。そう言えば、なぜこんな事を犯人はやらせるんだ?この学園艦には、軍人警官が、俺合わせて二人。もう一人の警官である駐在さんは生徒や住民の避難で手一杯だ。駆逐艦の乗組員も応援に来たが、爆弾探しと避難の誘導で精いっぱい。俺も爆弾探しで学園艦を探し回っている……。ってことは……治安維持をする人間がいない!?

もし、奴らが空き巣をしたとして、それが気付くのはいったい何時になる!?奴らは空き巣でもしようってのか!?

 カット。これ以上は爆弾を解除してからだ。

「わかったわ!!」

矢場さんが大きな声を上げた。

「6Lのボトルを満杯にして、10Lのボトルに移して……今度は6Lのボトルの3分の1を入れればいいのよ!!」

 ……え?

「矢場さん!犯人はピッタリ6Lって言ってましたよ!?」

橙辺さんが矢場さんに言った。すると、俺の袖が引っ張られた。……愛里寿ちゃんか。

「……村田お兄ちゃん手伝って。」

「分かったのか?」

「……(コクリ)。」

俺は矢場さんと橙辺さんからボトルを奪った。

「で、どうすればいい?」

「……まず、6Lのボトルをいっぱいにして、10Lのボトルに注いで。」

俺は6Lのボトルを噴水に沈めて満杯にさせ、その水を10Lのボトルに注いだ。

「注いだぞ。」

「……もう一回6Lのボトルをいっぱいにして、10Lのボトルに注いで。そうすると6Lのボトルに2Lの水が残るわ。」

なるほど、その残った2Lと、6Lの水を足せばぴったり8Lになるのか。

「あぁ、分かった。ダージリンさん、ボトル押さえてくれないか?」

「えぇ、分かりましたわ。」

そうして6Lのボトルの中に2Lの水が入り、それを空にした10Lのボトルに入れ、もう一度6Lの水を入れて、8Lの水が入ったボトルができた。爆発まで残り……157秒、2分半か。

 淑女たち4人は互いにハイタッチをして喜んでいる(聖グロの淑女がそんなことやっていいのか?)中、俺は慎重にそのボトルを装置の上に置いた。

  ピピー!

『爆発まで残り、15秒』

 ……ウソだろ!?なんで短くなってんだよ!!しかも解除されないし!!

「みんな逃げろ!!あのビルまで走れ!!」

俺は爆弾の入ったスーツケースを噴水の中に投げ入れ、走り出した。みんなも慌てて走り出す……。

  ビタン!!

俺が振り向くと愛里寿ちゃんが転んでいた。俺は急いで戻り、愛里寿ちゃんを抱きかかえてビルへ走る。

 ……あと、少し!!もう5歩でビルへ逃げれる!!

  ドカーーーーーーン!!!!

爆発音とともに、石や金属片が俺の背中にドスドスとぶつかる。

「うあぁああああ!!」

俺は爆風に飛ばされた。

 

 爆発が収まったようだ。背中が燃えるように痛い。

「よ、よぉ愛里寿ちゃん。ケガ無かったかい?」

腕の中の少女を見ると、擦りむいた時の怪我だけなようだ。

「う、うん……む、村田お兄ちゃん…血が……。」

「あ?あぁ……このぐらいなら日常茶飯事だ、大丈夫。……擦りむいただろ?見せて見な。」

俺は‘‘四次元倉庫’’から救急キットを出して、愛里寿ちゃんの擦りむいた場所を処置する。

 

 

……この爆弾でわかったことがある。確かに愛里寿ちゃんの答えは正解だ。それなのに爆発した。これは俺達を‘‘殺しに来た’’or‘‘負傷による無力化’’を狙って爆発させたのだろう。何故そうしたか……俺の考えが合っているはずなら、奴らは空き巣をしているはず。そう言えば、連絡用飛行機の格納庫の下には、戦車用の整備室や戦車用格納庫があったような覚えがある。おい、もしかして!?

 俺がそんなことを考えながら愛里寿ちゃんの処置をし、それがあらかた終わった頃に3人が恐る恐るビルから出てきた。

「3人とも大丈夫だったか?」

俺は3人に声をかけた。

「む、村田さん!!ち、血が!!」

橙辺さんは泣きそうになりながら言った。

 ……あ、そういえばこの服、聖グロの支給したスーツだった。これ弁償になるのかなぁ。

「橙辺さん、このぐらいなら大丈夫だ。……スイマセン、ダージリンさん。スーツをボロボロにしちゃって。」

「え、えぇ……緊急事態ですもの、しょうがないわ。」

流石はダージリンさん、弁償はしなくていいのかな?

「ご、ごめんなさい!!」

すると、愛里寿ちゃんが急に謝ってきた。

「どうしたの?」

矢場さんが膝を曲げ、愛里寿ちゃんの目線と自分の目線を同じ高さにして聞いてきた。

「私の答えが、間違ってたから……。」

 ……あの答えは合ってたってのに、わざわざ謝るなんて。

俺は思わず愛里寿ちゃんの頭を撫でた。

「愛里寿ちゃんのの答えは合ってた。気にしなくていいよ。あれは……俺達を殺そうとしていたんだ。何を置いても爆発する。」

その言葉に4人は驚愕の表情を浮かべた。

「なぁダージリンさん。連絡用飛行機の格納庫の下って、戦車用の格納庫か何かありましたよね?」

「えぇ……あります。そういえば村田さん。」

「はい?」

「かしこまった口調は似合ってないわ。いつも道理の口調で喋ってくれません?」

 ……おい、ダージリンさんや。俺は一応、‘‘Kings Men’’の従業員で、ダージリンさんが顧客ってことになってるんだが。

「いや、名目上‘‘Kings Men’’の従業員ってことになってるんで……。」

「私とは同い年でしょう?(かしこ)まられては、こっちが困ってしまいますわ。……雇い主の命令でもダメかしら?」

「……了解、ダージリンさん。」

「ダージリンでいいわ。」

「了解、ダージリン。……俺もイブキって呼んでくれ。」

「えぇ、分かったわ。」

ダージリンがにっこりと笑った。

 ……話が脱線してしまった。話を戻そう。

「とりあえず時間がない!!適当な車を見つけて連絡用飛行機の格納庫へ向かう!!」

さっきまで乗っていた車は爆発の影響で動かせなさそうだし。俺はそう言ってケガをした愛里寿ちゃんを抱えて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 今度はベンツの四駆を見つけ、その車を拝借させてもらった。

「じゃぁ、話を戻すぞ。この学園艦には軍人警官がほとんどいない。しかも今は避難と爆弾探しで治安維持の人間は全くいない。要は……空き巣がやり放題の状況だ。ところでダージリン、戦車用の格納庫ってセキュリティって頑丈でしたよね?」

俺は事前に理子が調べてもらった時の報告書を思い出しながら言った。

「えぇ……3重のロックがあります。」

「で、真上の飛行機用格納庫があんな大爆発が起きればセキュリティも故障する。そうなれば盗み放題になる。……さっきダンプの列が通ってたが、あの荷台には履帯がついた何かを運んでた。」

  パリン!

その言葉を聞き、ダージリンさんはカップを落としてしまった。

「この仮説があってるか調べるために俺は格納庫へ行く!4人は駐在さんの所で待っててくれ!!」

 ……さっきの爆発で俺達は死んだと犯人は思っているはず。4人には危ない橋を渡らせてはいけない。

「分かりましたわ。イブキさん、ご武運を。」

ダージリンさんが言った。

「……村田さん、生きて帰ってきてください。」

橙辺さんが言った。

「……村田お兄ちゃん、死なないでね?」

愛里寿ちゃんはクマ(?)のぬいぐるみをギュッと抱えて行った。

「おう、あったりめぇよ!」

俺が威勢よく言った。

「何かあったらあたしがすっ飛んで助けに行くわよ!!」

「……そうならないように頑張るよ。」

矢場さんが来ても何もならないと思うが……。

 

 俺は駐在さんに連絡し、連絡用飛行機の格納庫近くの校舎で駆逐艦の乗組員に4人を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは聖グロの学園艦にあるとある一室……

「全く、この聖グロにクロムウェルやブラックプリンス、コメット、ましてはチャレンジャーやトータスを配備するなんて言語道断ですわ。」

「その通りです。チャーチルこそ至高であるというのに……。」

「クルセイダーの方が最高でしてよ?……しかし、あの田尻とかいう小娘をあそこまでするのはやり過ぎではなくって?」

 コンコン

ノックと共に、その部屋には数人の男たちが入ってきた。

「報告にきました。」

そう言って短髪の男が三人の女性に近づいた。

「報告ご苦労ですわ。で、田尻とかいう小娘はどうなって?」

「報告は二つあります。一つはダージリンとその他4人は爆発で死亡しました。もう一つは……」

  ダダダダダダダダダ!!!

後ろにいた男たちは手にしていた銃でその3人の女たちをハチの巣にした。

「もうお前らは用済みだということだ。」

  パン!!パン!!パン!!

短髪の男はゆっくりと出した拳銃で、ハチの巣になった三人の女性の眉間に一発ずつ鉛玉をプレゼントした。

「さぁ、計画はあと少しだ。護衛がいたのは計算外だったが、二人も別嬪さんが増えるとは思わなかった。お前たち!!無事逃げられたら、この子以外は好きにしていいぞ!!」

そう言って短髪の男はぬいぐるみを抱えた少女の写真を他の男たちに見せた。

「「「「「「おぉ~!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 AC-224589Cという室名は適当です。聖グロ学園艦内の地図も、場所も適当です。ついでに前の話のパブも架空です。


 さて、この‘‘愛里寿ちゃん’’は何処の子供なんでしょうか……。ガルパンファンにはすぐわかるでしょう。


 最近、バイトのせいで、‘‘世界〇しぎ発見’’と‘‘笑〇’’、‘‘青空レストラン’’を見れていません。しかもテレビ用の録画機がお釈迦になったため、撮っておいた``ガルパン 劇場版’’も消えてしまいました。 
 ……泣きそう。



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閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5 その3

 フハハハハハ!!この連続投稿めったにないぜ!!
(‘‘Next Ibuki's HINT!! 「陣営決め」’’と書いてしまったために、閑話と次話を一遍に投稿することになった作者の見苦しい姿)

 実は、この駄作を書いている時がとても楽しかった。

 ……早く、エキシビジョンマッチの中で、‘‘クーゲルパンツァー’’に乗り活躍(笑)をするイブキを書きたい!!
 ……大学卒業前には書きたいです。


 俺は4人を預けた後、一人で格納庫へ向かった。

 俺は滑走路に車を止め、連絡用飛行機の格納庫へ走って向かうと、そこには工事の人間が複数いた。

 ……怪しい。今は住民全員避難させているはず。

すると、現場監督っぽい人が俺に気が付いた。

「やぁすまない。武偵の者なんだが、この中を見せてもらってもいいか?」

俺はそう言って武偵高の手帳を見せた。

「分かりました。上の者に聞くので少しお待ちください。」

すると、現場監督っぽい人が無線で話を始めた。

 ……なんか怪しい。現場監督っぽい人は、俺を観察するようにジロジロとみる。

「許可が下りました。案内するのでついてきてください。」

俺は現場監督(?)の人の後について中に入っていった。

 

 

 

 

 

 中に入ると案内人が増え、5人ほどに囲まれながら俺は進む。

 ……どうしようか。殺しはご法度、この5人をすぐに無力化できるのか?

「そういえば避難指示がされているはず……なんで避難しないんですか?」

俺は現場監督(?)に訊ねた。

「滑走路の邪魔になるから早く片付けないと……本土からの物資も届きませんから。」

一理あるが……まるで初めから定められたような答えだ。

「下の戦車用の格納庫は大丈夫でしたか?」

「爆発の衝撃でセンサーが逝ったそうです。幸い床がこれ以上崩れる事はないようです。」

現場監督(?)が飄々(ひょうひょう)と答えた。

 ……うわぁ。床に穴が開いて、戦車用格納庫が丸見えだ。

「戦車に被害は?」

「えぇ、戦車には被害がないと我々は知っています。」

  カチャッ

俺の背中に銃が付きつけられた。

「やれ。」

  ダンダンダンダン!!

現場監督(?)の言葉でその銃は発砲された。

「この野郎!!」

俺は数発貰ったがこの包囲を抜けて壁に隠れ、14年式を脇のホルスターから出し応戦する。

  カランカラン

すると、俺の目の前に手榴弾が転がってきた。

「ウソだろ!?」

俺は走って逃げだした。

  ダダダダダダダダダ!!

 ……敵は機関銃まで持ってんのかよ!!

  ドカン!!ドカーーン!!

手榴弾の爆発と共に俺も吹っ飛ばされた。

「う、うぅ……。」

俺は何とか壁に隠れて、敵の銃弾の嵐から身を守る。

 ……2度の爆発で体はボロボロだ。こいつらをヤらないと死ぬ!!

俺は拳銃をしまい、‘‘四次元倉庫’’から紅槍を出した。

 

 

 

 

 

 俺は‘‘影の薄くなる技’’を使って一気に敵へ接近した。俺はリーダー格であろう現場監督(?)に狙いを定め、槍を思いっきり振った。

「うぁああああ!!」

現場監督(?)は野球ボールのように飛んでいき、壁に勢いよくぶつかると、そのまま気絶した。

「お、お前どうしてここに!?」

「や、やれ!!」

俺は銃弾を槍で弾きながら一人ずつ吹っ飛ばしていく。

 

 

何とか最後の一人になった時、

「へ、へへ…‥‥これでみちづr!?」

  バコン!!

「アニメじゃねぇんだ!!セリフ全部言ってから倒すなんてことはやんねぇんだよ!!」

俺は最後の男がセットしていたものを見ると……爆弾!?トラファルガー広場(偽)にあった爆弾の10倍は少なくてもあるぞ!?あの野郎何処から持ち出した!?

『残り30秒』

「チクショウ!!なんでこんな目に!!」

俺は一目散で逃げだした。

 

俺は何とか格納庫跡から出た瞬間、

  ドカーーーーーーン!!!!

「うわぁああああああ!!!」

爆風と共にまた吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、生きてるのか……?」

俺は何とか死なずに済んだようだが……全身が痛い。

「ッ!!」

俺は左手を骨折したようだ。ついでに胸と足も尋常じゃなく痛い。ヒビでも入ったのか?

「ハァ……とりあえず連絡だな。」

俺はヒビだらけの携帯を出して駐在さんに電話した。

「やっとつながったか!?」

駐在さんは大分慌てている。

「爆弾を見つけて解体中だが、それ以上のことが起こった!!」

「どうしたんです?」

爆弾の発見以上にやばいことだって!?

「例の嬢ちゃん達が(さら)われた!!」

 ……は?駆逐艦の乗員達に預けたはずだが。

「おめぇが預けたあと、敵に襲われたんだ!!軍人たちは死んじゃいねぇが重症だ!!」

「分かりました!!探します!!」

  ピッ!!

俺は電話を切った。

 ……何処だ……どこにいる?敵はもう、あらかたの戦車は運び出している……。待て、どうやって運んだ戦車を学園艦の外に出すんだ?あんなものを運ぶなんて……ランプウェーで揚陸するくらいしか……。そうかランプウェーだ!!ほかの船を横付けさせて、そこにランプウェーを渡せば簡単にできる!!古代ローマの‘‘コルウス’’と同じようにすればいい!!学園艦の右舷には駆逐艦がいるから……左舷か!!

 

 俺は学園艦の左舷にあるランプウェーに向かおうと、車に乗り込……めなかった。車が爆風の影響で横転している。

「クソッタレ!!大事な時に使えないなんて!!」

俺は周りを見渡すと……あった。爆風の影響で荷台からずれ落ちている戦車が……。

 俺は走って近寄った。

 ……この戦車は……‘‘クルセイダー’’だったっけ?

俺はソロバン玉のような垂直砲塔を見ながらそう思った。見た感じ損傷はしてないようだ。

 

 急いで操縦席に乗り込み、エンジンをかけようとするが……かからない!!

「クソッタレこの野郎!!かかりやがれ!!テメェは戦車だろうが!!」

  ドゥルン!!!

俺が口悪く罵った瞬間、この戦車は眠りから覚めた。

「ハハハ……相棒!!この学園に全く相応(ふさわ)しくない、泥臭い戦い方するぞ!!」

  ドドドドドドドドド……!!!

戦車は勢いよく荷台から飛び降り、風になった。

「鬼塚少佐直伝の操縦技術なめんなよ!!」

 ……喋ってないと鬱になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 戦車はランプウェーがある船倉前に着いた。俺は相棒(クルセイダー)を船倉に入る扉の前で止め、ゆっくり扉を開けた。

 そこには、大量のダンプと荷台に乗った戦車があった。

 ……ここで発砲すれば跳弾しちまう。

俺は38式と銃剣を‘‘四次元倉庫’’から出し……しまった。

 ……たまには使ってやらねぇとな。

‘‘四次元倉庫’’から、師匠から貰った紅の日本刀を出した。今回は無力化と銃弾回避だ。俺一人ならともかく、多人数を守らなきゃいけないなら日本刀のほうがいいだろう。

 

 

 

 

 そろりそろりと歩いていくと、くぐもった声が聞こえた。俺は‘‘影の薄くなる技’‘を使いながら必死で声が聞こえたほうへ進む。

 そこには……猿轡(さるぐつわ)に縄で縛られた愛里寿ちゃんと、下着姿にひん剥かれているダージリン、橙辺さん、矢場さんがいた。

 ……ヤバい!?

俺は‘‘影の薄くなる技’’を解き、ワザと大きな音を立ててこっちに注目させた。

「て、テメェ!!何もんだ!!」

「てやんでぃ!!高級テーラー‘‘Kings Men’’の従業員でぃ!!」

俺は3人の服を破いていた5人を峰で一気に無力化し、4人の縛られている縄を切った。

「これでも喰らえ!!」

俺は発煙弾とママチャリさんから貰った液体の入った瓶数本を投げ、姿をくらます。

「4人とも、逃げるぞ!!」

 ……毒ガス(笑)から逃げるために!!

俺は4人を抱えて走り出した。

 

 

 

 何とか異臭がする船倉から逃げ出した。俺はさらに発煙弾とママチャリさんの液体が入った瓶をもう6,7発投げ入れて扉を閉めた。

  ガシッ!!!

「「「「うわぁあああああ!!!」」」」

4人が俺に抱き着いて泣きだした。

 ……怖かっただろう。下手すれば犯されてたんだから。むしろ良く我慢していただろう。

「あぁ、もう大丈夫だ。」

俺は痛む左手も使って4人の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 4人は何とか泣き止んだ。俺は駐在さんに連絡した後、‘‘四次元倉庫’’から上着3着を何とか探し、下着姿の3人に着せた。

「敵が追ってくる。逃げるぞ!!」

俺はそう言って4人をクルセイダーに乗せた。俺も操縦席に座ったその時、

  ドカーーーン!!!!

クルセイダーの後ろの扉が爆発し、そこから戦車が飛び出てきた。

「に、逃げるぞ!!!」

クルセイダーは轟音を上げて逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

  ドン!!ドン!!ドン!!…ヒュン!!

敵4両が砲弾を撃ってくる。

 ……あっぶねぇ!!今砲弾がかすったぞ!?しかも戦車道用の砲弾じゃなくて実弾使ってやがる!?

敵の使っている車輛はT-54かT-55のどっちかだ。HS部隊にいた時よく見てたからわかる。

 

 T-54/55は最新の主力戦車に比べたら雑魚だ。しかし、歩兵だけの部隊やクルセイダーにしたら脅威でしかない。機動力・加速力が良好で、西側の90ミリ戦車砲クラスの貫通力がある。しかも西側の90ミリよりも口径が大きいので、榴弾の威力は西側よりも高い。

 

 以上が実際に体験した時の感想だが……とりあえず、クルセイダーより‘‘早くて、機動力があって、砲は強くて、装甲もすごい’’というのがT-54/55だ。今でこそ敵との距離は開いているが、次第に縮んでいくだろう。

「俺が降りてやるしかないか……。」

俺がそうつぶやいた瞬間、

  ガチャ

愛里寿ちゃんが砲塔から身を乗り出し、敵戦車を眺めていた。

「愛里寿ちゃん!!危ないから中に入ってろ!!」

「……村田お兄ちゃん、私の言った通りに動かせる?」

 ……愛里寿ちゃんの雰囲気が変わった。まるで歴戦の兵が如く。

「やれるのか?」

俺は思わず聞いた。確かに、今のままだとやられるのは目に見えている。

「私の言った通りにできるなら。」

俺はバッと後ろを振り向いた。そこには……高速起動で吐きそうなダージリンさん、涙目で震えている橙辺さん、闘志を燃やす矢場さん、オーラが半端ない愛里寿ちゃんがいた。

 俺はなんとなく、愛里寿ちゃんの命令で敵を倒せると思えた。

「……あぁ!!‘‘自走式暴力装置’’で‘‘天災’’の鬼塚少佐と矢原 嘉太郎さん(兄者さん)直伝の腕を見せてやるよ!!」

……まぁ、武藤には全く及ばないけど。

「私をこんなにしやがって!!生爪剥いだ後○○を××して〆〆してこの世の絶望を味わせてやる!!」

 ……おい、聖グロ志望校の矢場さん。言葉が汚すぎだろ。

「……やーってやる、やーってやる、やーぁてやーるぜ……」

愛里寿ちゃんが歌い出した。その歌声で緊張が解けた気がする。

 愛里寿ちゃんがひとしきりうたった後、

「私が合図したら、左ターン、225度。矢場おねぇちゃん、砲塔を10時方向。」

  ゴゴゴ……

砲塔が動いた。

「やってやるぞ、こんチクショウ!!」

 ……矢場さんは本当に聖グロが志望校なのか?

 

 戦車が地下を抜け、広場に出た。

「……今。」

愛里寿ちゃんが合図を出した

「くらいやがれ!!」←俺

「死ねカスども!!」←矢場さん

「や、やってやる!!」←橙辺さん

戦車が急反転をし、激しい遠心力がかかる。

「「イピカイエー・マザーファッカー!!」」←俺&矢場さん

  ドォン!!ドォン!!ドォン!!ドォン!!

1秒以内に砲が装填され、クルセイダーが連射する。

  ドカーーーン!!!!

4両が爆発し、真っ黒な煙が上がった。

  バキィ!!ベキベキベキ!!

嫌な音がした。俺は戦車を動かそうとしたが動かない。駆動系が逝かれたようだ。

「ハァ……やったな。」

 ……それにしても、すごい早い装填だったな。

俺は後ろを振り向いた。そこには砲弾を握る橙辺さんがいた。

 ……あの強い遠心力の中、あんなに早く装填するなんて。全弾当てて貫通させた矢場さんもすごいけどさ。

俺がそう思った時、

  ギュラララララ!!

履帯が擦れる音がする。

 ……敵にはまだ戦車がいたのか!!

この戦車は駆動系が壊れ、今はただの砲台でしかない。

 ……今度は俺の番か。

俺はため息をついた後、

「今度は俺が活躍しますかね。」

そう言って、痛む体を無理やり動かして操縦席から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦車から出た俺が最初に見たのは、履帯と転輪が吹き飛んだ相棒(クルセイダー)の痛々しい姿だった。

「ありがとな、今度は俺の番だ。」

俺は相棒(クルセイダー)を撫でた後、‘‘四次元倉庫’’に残っていた最後のパンツァーファウストを握りしめた。

 ……あ、ダージリンが顔真っ青にして茂みに向かっていった。

俺はダージリンの後姿がとても痛々しく見えた。

 

 

 

 敵戦車は3両、T-54/55のようだ。

 俺は‘‘影の薄くなる技’’を使いながら、敵が接近するのを待つ。

  ……100m、まだだ。もう少し待たなければ。

  ……50m、もう少し、もう少しだ。

  ……30m、あとちょっと、ちょっとだけだ。

  ……20m、ここだ!!!!!

俺は引き金を引き、その後2両目に走り、張り付いた。

  ドカーーーン!!!

パンツァーファウストで狙っていた一両が爆発した。俺は2両目の砲塔に上り、ハッチを開けた。そして、‘‘四次元倉庫’’からママチャリさん特製の異臭瓶4発を戦車内に投げ込んで、すぐにハッチを閉めた。

「「「「ぐおぉおおおおおお!!!」」」」」

2両目の戦車の内部から人間が出してはいけないような声が、聞こえてくるが無視する。

  ダダダダダダダ!!

3両目がやっと気が付いたのか、機銃を俺に撃ってくる。

  ドスドス!!

 ……被弾した!?

俺は弾の威力のため、一瞬のけ反った。

「……べらんめぇ!!この野郎!!」

俺はなんとか体勢を立て直し、最後の一両に張り付いた。

「くらえ!!!」

俺は再びハッチからママチャリさんの異臭瓶数本と平賀さん特製のスタングレネードを投げ入れ、蓋をした。

  キュイィイイイイン!!

激しい音と、まぶしい光、そして異臭が最後の一両から溢れ出てきた。

 ……やっと終わった。

俺は戦車から振り落とされていた。

 ……全く、学園艦に来て早々、なんて日だよ。

  カチャ!!

誰かが俺に銃を向けた。

「やぁ、護衛君。まさか君が不死の英霊(イモータル・スピリット)だとは思わなかったよ。……良くもやってくれたなぁ。」

 ……こいつ!!電話の奴か!!

「一緒に来てくれないか?」

そう言って、電話の主は‘‘右を見ろ’‘というジェスチャーをした。そこには……再び掴まっている4人がいた。

 俺は頷くしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は再び左舷ランプウェーがある船倉(異臭がひどい)に来ていた。

「全くなんてことをしてくれたんだい?護衛君改め不死の英霊(イモータル・スピリット)?計画は丸つぶれ!!そして私の部下はこの二人だけになってしまった!!」

そう言って電話の主は俺を抱え、こめかみに銃を突きつけた。

 ……チクショウ。血を流し過ぎた。意識が朦朧(もうろう)とする。

不死の英霊(イモータル・スピリット)?君はもうくたばる様だが、もう少し待っててくれ!!この3人をお前の目の前で殺すから!!それをお前に見ててもらいたい。」

電話の主で、今回の主犯であろう短髪、身長180越え、鼻が高く、イケメンの男が言った。残りの部下は拳銃を4人に突きつけている。

「なぁ?聞いているのか?護衛君。」

電話の主が被弾した左肩に銃をグリグリと押し付けた。

「ぐぁあああ……。」

俺は思わず(うめ)いた。

「護衛君の墓にはこう彫ろうか!?‘‘世界で最も計画を潰した大迷惑な男’‘って!!どうだ!?」

 ……こいつは完全に油断している!!

俺は電話の主が持っている銃を握った。

「てやんでぃ!!イピカイエー・マザーファッカー!!」

  ダァン!!!

俺は電話の主が握っている拳銃の引き金を思いっきり引き、俺の肩越しに電話の主に発砲した。

「グァア!!」

電話の主が倒れる。

「っち!!」

「この野郎!!」

電話の主の部下が拳銃を俺に向けて発砲する。

 ダァンダァンダァン!!

俺は何発か喰らいながらも、一気に接近した。

「はぁ!!!!」

俺は電話の主が持っていた銃を鈍器にして、その部下二人を殴った。

  バタン!!バタン!!

部下達は気絶した。俺はフラフラしながら、‘‘四次元倉庫’‘から手錠三つを取り出した。

「……午後5時18分、逮捕だ。」

3人に手錠をかけた。そして淑女たち4人の縄を解き、俺は壁に寄りかかってズルズルと座った。

「む、村田さん!!!」

橙辺さんが走って俺に来た。

「大丈夫ですか!!」

橙辺さんは大粒の涙を浮かべながら俺に聞いてきた。

「あぁ、今回は医者の死亡判定が無かったから大丈夫だ。」

「ッ!!」

すると、橙辺さんは泣き出してしまった。

  ダッ!!

すると今度はダージリンが俺に抱き着いた。

 ……すごく痛いんですけど。

「よ゛がっだ!!よ゛がっだ!!う……うぅ……。」

ダージリンは俺に抱き着いたまま抱き始めた。俺は右手で彼女の頭を撫でた。

  ガシッ!!

愛里寿ちゃんがダージリンと逆の場所に抱き着き、静かに泣き始めた。

 ……すっごく痛いし、汗と血の匂いがするから抱き着いてほしくないんだけどなぁ。

俺は激痛がする左手を置き、痛みを我慢しながら愛里寿ちゃんを撫でた。

「村田さん!!」

 ……矢場さんか。

俺は声が聞こえた方向に顔を向けた。矢場さんは、まるで憧れのヒーローを見るかのように俺を見ていた。

「とってもかっこよかった!!」

矢場さんは俺をキラキラとした瞳で見ながら言った。

「……あぁ、右手は骨折してないからサインはできるな。」

 ……そう言えば約束してたよな。

  ドォン!!

扉が蹴破れる音と共に、空挺部隊と水兵達が小銃を抱えながら、船倉に入って来た。

「動くな!!!」

「動くな!!」

そう言って俺らに銃を向ける。

「待て!!若ぇのと嬢ちゃんたちは味方だ!!」

駐在さんが大声でそう言った。兵士たちは俺らを無視し、この船倉の捜索に入った。

「村田ざん゛!!」

橙辺さんが大泣きしながら言った。

「村田さんはどうかしてます!!」

「どうかしてるって……?」

俺は思わず聞き返した。

「自分まで撃つなんて!!」

 ……確かに、言われてみればそうかもなぁ。

「あの時はあれが最善だと思ってね。」

そう言って俺は周りを見た。兵たちは必死に周りを捜索をしている。

「みんなには言わないでね。」

「村田さんは自分を大事にしてください!!」

そう言って橙辺さんは俺を抱きしめた。

 ……全く、修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)の前にこんな大怪我をするなんてなぁ。そう言えば、今日は護衛の初日、残りの六日間は誰が護衛をやるんだろう?

俺はそんなくだらないことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 驚いたことに、この学園の駐在さんは愛里寿ちゃんのお爺ちゃんだったらしい。何でも、駐在さんの一人息子が名家に婿養子に行き、その子供が愛里寿ちゃんだそうだ。その息子さんは事故で亡くなってしまい、その息子さんの残した(愛里寿ちゃん)を駐在さんは溺愛しているらしい。

 なので俺は駐在さんにとても、とっても感謝された。具体的には、その大切な孫の婿になってほしいと……。

 流石に丁重に断らせてもらったが。

 

 

 

 

 

 

 護衛の件は学園艦が外洋に出ていたこともあり、3日目からは俺が再び護衛をすることになった。内地到着は2日後、初日から数えると5日目……。俺は包帯と三角巾姿でダージリンさんの後ろでずっと立たされることになった。

 

 ……なお、俺が偶然出したカップ麺とスナック菓子を、ダージリンとアッサムさん(ダージリンの同級生らしい)がとても興味を示し、泣きながらそれらを食べていたのは驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 橙辺さんと矢場さんは特待生として来年、聖グロに入ることが決まったようだ。二人は喜んで俺に報告してくれた。そして、聖グロのクラブハウス「紅茶の園」の入室許可とニックネームをダージリンから貰ったそうだ。(報告してくれたのは俺が救護室のベッドで寝ていた二日目の時)

 橙辺さんは‘‘オレンジペコ’’、矢場さんは‘‘ローズヒップ’’というニックネームだ。俺には今度からそう呼んで欲しいと二人は言った。

「えっと……オレンジペコ、ローズヒップ。今日は見舞いに来てくれてありがとう。」

二人は俺に抱き着き、俺はあまりの痛さに気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数か月後、俺は愛里寿ちゃんに呼ばれて映画館に来ていた。しかも貸し切りで……。

「あなたが村田さん?」

愛里寿ちゃんとそのお姉さんらしき人が映画館の前で待っていた。

「すいません遅くなって。自分が村田維吹です。……えっと、愛里寿ちゃんのお姉さんですか?」

するとお姉さんは愛里寿ちゃんの口をふさいだ後、愛里寿ちゃんの耳元で何かを呟いた。そしてから、

「えぇ、愛里寿の姉の千代です。」

まるで貴婦人のような雰囲気のまま、笑顔でそう言った。

  クイッ

俺の手を愛里寿ちゃんが引っ張った。

「あの時のお礼に、村田お兄ちゃんに見てもらいたいものがあるの!!」

愛里寿ちゃんはそう言って、俺の手を映画館へ引っ張っていく。

「愛里寿が頑張って作ったの。見てくださいな。」

千代さんもそう言って俺の手を取り映画館へ引っ張った。

 

 

 放映されたのは‘‘ボコられグマ’’というアニメ映画で、シージャックされた船の中で、主人公がただボコボコにされ、ボコるのに飽きた犯人達が警察に出頭していくという内容の映画だった。題名は『BOKO Hard』。

 ……あの時の事件を参考にしたのか?

「村田お兄ちゃんをモデルに書いたのよ!!」

愛里寿ちゃんが、‘‘どう!?面白いでしょ!?すごいでしょ!?褒めて褒めて!!’‘という瞳で俺を見てくる。

 ……あれ、俺ってただボコられただけだっけ?

「愛里寿が必死で台本を書いたの。村田さんのためだって。」

千代さんが嬉しそうに言った。

 ……あ、愛里寿ちゃんが必死で作ってくれたものなんだよな。あんまり嬉しくないけど。

「あ、ありがとう、愛里寿ちゃん。」

俺は考えるのをやめて愛里寿ちゃんの頭を撫でた。

「ところで村田さん。」

「なんです?」

「愛里寿を嫁にどうかしら。」

千代さんが爆弾発言をした。

「な、何言ってるんですか!?」

「あら、この子は良い嫁になると思いますよ。胸だって私のように大きくなるだろうし。」

「いやいや!!そう言う問題じゃないですから!!」

すると撫でていた手を愛里寿ちゃんがグッと掴み、自分の胸に俺の手を置いた。

「……ペタンコのほうがいい?」

「胸の問題じゃないからね!?」

俺は何とかその場を有耶無耶にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、4人との個人的な話はさておき、聖グロ内ではどうなったかを話そう。今回の事件はOG会のマチルダ会・チャーチル会・クルセイダー会が原因という事が分かり、その三つの会は発言権が地に落ちた。その結果、戦車道のOG会は資金を出すだけの組織へと成り下がってしまった。

 これを機にダージリンさんは学園の掌握に力を注ぎ、俺が送ったスナック菓子とカップ麺を使って聖グロのほとんどの組織を買収・掌握することに成功した。そのおかげもあり、クロムウェルの他に、チャレンジャー、コメット、TOG2、ブラックプリンス、トータス等の戦車が導入されることになった。

 

 翌年の第63回戦車道全国高校生大会準決勝において、聖グロは優勝筆頭の黒森峰女学園に善戦した。試合中、聖グロは黒森峰のフラッグ車・赤星小梅選手が操るパンターG型以外全て殲滅できた。しかし、そのパンターが放った流れ弾がビルの崩壊を起こし、聖グロの戦車全てがその瓦礫の下敷きになってしまい、聖グロは惜しくも敗退してしまった。

 

 

 

 

 

『い、イブキさん!!これはどういう事!?』

「え?ダージリン!?い、いや……この前送られてきたティーセットと手紙のお返しで、送ったんだけど……。いや、スナック菓子とカップ麺の箱は冗談だからね!?本命は小さいほうのはk……」

『イブキさん!!』

「はい!!」

『スナック菓子とカップ麺、ダース単位で送ってもらっていいかしら!!言い値で買うわ!!』

「お、おう……。」

 

 

 

 

 

 




 さて、橙辺さん・矢場さんのニックネームがやっと出てきました。
オレンジペコの場合は(オレンジ)  ()()
ロースヒップの場合、矢場蘭(やばらん)やばら(野バラ)ん→野バラ(ローズ)→ローズヒップ
 ローズヒップが一番考えました。流石に薔薇尻なんてないだろうし……。
 え?田尻凛?、あれはもう半ば周知の事実でしょう?(公式ではないが)



 後日談
『もしもし!!村田さんですか!?』
「ん?アッサムさん?どうしたんですか?」
『あなた!!ローズヒップの口癖を教えたのはあなただそうですね!!』
「え……口癖?」
『ローズヒップは!!い、‘‘イピカイエー・マ〇ーファッカー’’と言って発砲するのよ!!』
「えぇ……。」
矢場蘭こと‘‘ローズヒップ’’の言葉を矯正するのに苦労し、胃薬と頭痛薬が手放せないアッサムがいたとかなんとか。


 日本人であるダージリンとアッサムが毎日毎食イギリス料理ではきついであろうと思います。そして、聖グロでは校風的にスナック菓子とカップ麺はほぼ手に入らないと……。
 そんなところで、スナック菓子とカップ麺を数ヵ月ぶり、最悪数年ぶりに食べられたら……涙なしに食べられないと思います。
 そんなある意味、高級品(笑)で交渉されたら誰だって買収されると思います。

 
 
 ダージリンの格言が少なかった(というか無い)のは、それだけ余裕がなかったからです。


 愛里寿ちゃんと、千代お姉さん(?)の苗字はなんでしょうか……。いや、ガルパンファンならわかると思います。分からない人は‘‘ガルパン 愛里寿’’、又は‘‘ガルパン 千代’’で検索!!

 
 悪名高き聖グロOG会の三つの会が消えれば……こうなると思います。
 なに?そこまで強くない戦車が導入されている?……TOG2はWOTだと、高HPだし……。



それでは、次話は本編に戻ります。今度こそ
  Next Ibuki's HINT!! 「陣営決め」
です!!



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極東戦役:極東編
宣戦会議ってこんなに混沌としてるのか……


 本編に戻りましたが……今回はテンプレ回です。でも!!そのテンプレが寿司屋の中で起こるので!!多少は面白くなっているはず!!

 ……私には文才がない&自己満足小説なので期待しないでください。

 


 


宣戦会議(バンディーレ)に集いし組織、機関、結社の大使達よ」

夜の人口浮島・空き地島の‘‘寿司 多聞丸’’にある司会者席で、甲冑姿のジャンヌが異形の集団に語り掛ける。

 ……なんというか、宴会の幹事みたいだな。

俺は不謹慎にもそう思ってしまった。

「まずはイ・ウー研鑽派残党(ダイオ・ノマド)のジャンヌ・ダルクが、敬意を持って奉迎する」

その声は、喉奥に刃を秘めている様な感じがする。ジャンヌの口調は歓迎するものでは到底ない。そして、それに対抗するかのように、此処に集う者たちの殺気がピリピリと伝わってくるが……

 ……ここ、寿司屋なんだよなぁ。

場の空気と場所がチグハグすぎる。

 ……この場をちょっといじればドリフのコントにもなりそうだ。

俺は思わず頬がほころんだ。俺の場違いな表情に数人がギロリとみる。

 ……ごめんなさい。表情を元に戻します。

俺は顔の表情を無表情にした。

 

 さて、正体不明の武装集団に遭遇した場合、敵の総戦力を把握する必要がある。しかし、今は気配だけで考えなければいけない。また、誰が敵で、誰が味方か分からない。

 ……この大人数で辻さん、加藤大佐、山口少将を守りきらなければならないのか。

ジャンヌ、キンジ、レキ、カナ、GⅢ、から襲撃されないとは思うが……念には念を、俺は全員に襲撃された時の対処法を頭に浮かべる。

 ……あれ?詰んだ?

「初顔の者もいるので、序言しておこう。かつて我々は諸国の闇に自分達を秘しつつ、各々の武術・知略を伝承し……求める物を巡り、奪い合ってきた。イ・ウーの隆盛と共にその争いは休止されたが……イ・ウーの崩壊と共に、今また、砲火を開こうとしている」

 ……なるほど、辻さんが説明したとおりか。

すると、さっき俺のために神様に祈ってくれた、ナイスバディなシスターさんが席を立った。

「……皆さん。あの戦乱の時代に戻らない道はないのですか」

温和そうで、何処か艶のある甘い声。そして、一同の中で最も穏やかな、青く、潤んだ瞳。一般人が見れば、彼女のことを天使と見間違えるに違いない。……が、ここでは違う。ここはあらかじめ決められていた、宣戦布告をする場所だ。そんなところで組織の代表が平和を唱えるのは余りにおかしい。

 俺は何か裏があると思いながら彼女を見た。

「バチカンはイ・ウーを必要悪として許容しておりました。高い戦力を有するイ・ウーが、どの勢力と同盟するか最後まで沈黙を守り続けた事で、誰もが‘‘イ・ウーの加勢を得た敵’’を恐れて、お互い手出しが出来ず……結果として、長きに渡る休戦を実現できたのです。その尊い平和を、保ちたいとは思いませんか」

シスターは手を合わせて、十字架を握りしめている。

 ……確かに、平和は尊いものだ。だけれど抑止力が無くなっちまったら平和なんてすぐ崩れるんだぞ。

「私はバチカンが戦乱を望まぬ事を伝えに、此処へ参ったのです。平和の経験に学び、皆さんの英知を以て平和を成し、無益な争いを避けることは……。」

「……出来るワケねぇだろ、メーヤ。この偽善者が。」

シスター(メーヤさん?)の話をカツェがぶった切った。

「おめぇら、ちっとも休戦してなかったろーが。デュッセドルフじゃアタシの使い魔を襲いやがったクセに。平和だァ?どの口でほざきやがる。」

カツェは苛立たし気にシスター(メーヤ?)を睨む。

「黙りなさい、カツェ=グラッセ。この汚らわしい不快害虫。」

豹変した口調で、眉を吊り上げシスター(メーヤ?)は罵った。

 ……あぁ、彼女も安定の十字教狂信者だったのか。

「お前たち魔性の者共は別です。存在そのものが地上の害悪。殲滅し、絶滅させるのに何の躊躇いもありません。生存させておく理由が旧約、新約、外典を含めて聖書のどこにも見当たりません。しかるべき祭日で、聖火で黒焼きにし、(しかばね)を八つに折り、ソレを別々の川に流す予定を立ててやっているのですから!!!ありがとうと言いなさい。ありがとうと。ほら!!言いなさい!!!ありがとう!!ありがとうと!!!」

さっきとは打って変わり、カツェの首を締め上げながらシスター(メーヤ?)は叫ぶ。

  ギロリ!!

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 ……空気が一気に重くなった!?

俺は思わず振り向くと……そこには山口少将が仏陀スマイルで彼女たちを見ていた。

「お客さん……喧嘩すんなら外行ってくれませんか?」

「「……はい。」」

二人はおとなしく席に着いた。

「……とりあえず、うちはバチカンとの戦争は待ちに待ってた絶好の機会だ。このチャンスは逃せねぇ。……ヒルダはどうだ?」

カツェは背中から大きな翼を生やしたゴスロリ女に話しかけた。

「……そうねぇ、私も戦争は大好きよ。いい血が飲み放題になるし。」

翼を生やした蝙蝠女の犬歯は緋色の金属でコーティングがされていて、かなり牙が突き出ていた。

 ……吸血鬼のコスプレ?まさかこんな典型的な吸血鬼はいないだろう。

「ヒルダ……一度首を落としてやったのに、あなたもしぶとい女ですね」

シスター(メーヤ?)さんは鋭くカツェと蝙蝠女を睨みつけていた。

 ……‘‘隣人を愛せ’’ってキリストは言ったはずなんだがなぁ。……まさか!これがカト〇ック的な愛し方!?殺し愛が当たり前なのか!?

カット。

「……首を落とした位で、ドラキュリアが死ぬとでも?バチカンは相変わらずおめでたいわね。お父様が話して下さった何百年も昔の様子と、何も変わらない。」

ほほほっ、と赤いマニキュアをした指を口にあてがい、縦ロールの金髪ツインテールを揺らして笑う蝙蝠女

 ……うそぉ。こんな典型的な吸血鬼がいたよ。

でもブラドほどの威圧感もないし、ラスボス感もない。

 ……ブラド以下の実力しかないのか?

「和平、と仰りましたが……メーヤさん?」

呑気な感じの声を挟んできたのは、色鮮やかな中国の民族衣装を着たスマートな男だ。丸眼鏡の奥に、糸みたいに細い目をニコニコさせている。

 ……これまた典型的な中国人が出てきたな。

「それは、非現実的というものでしょう。元々我々には長江(チャンジャン)のように長きにわたり、黄河(ホアンホー)のように入り組んだ因縁や同盟の(よし)みがあったのですから。ねぇ?」

糸目の男は顔を上げて、カウンターの端っこに座るレキを見た。

 レキは黙って、狙撃銃を抱えながら寿司を食っていた。

「……私も、出来れば戦いたくはない。」

 ……字ずらだけ見ればかっこいいんだけど、頬に米粒がついてるぞ。レキさんや。

ジャンヌが碧い瞳で一同を見回しつつ、言った。

「しかし、いつかこの時が来る事は前から分かっていた事だ。シャーロックの薨去(こうきょ)と共にイ・ウーが崩壊し、我々が再び戦乱に落ちることはな。だからこの宣戦会議(バンディーレ)の開催も、彼の存命中から取り決めされていた。大使たちよ。我々は戦いを避けられない。‘‘我々は、そういう風に出来ているのだ’’。」

抑止力であったイ・ウーが崩壊したら……残った他の組織はその目的や欲望で動き出すのは目に見えてわかる。

 ……面倒なことになったもんだな。 

「では、古の作法に則り、まず三つの協定を復唱する。86年前の宣戦会議ではフランス語だったそうだが、今回は私が日本語に翻訳したことを容赦頂きたい。

第一項。いつ何時、誰が誰に挑戦する事も許される。戦いは決闘に準ずるものとするが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱は許される。

第二項。際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁ずる。これは、第一項よりも優先される。」

組織同士での戦闘はするが、総力戦はしないという事か。こいつは有難い。間違って民間人を殺したら目も当てられないからな。

「第三項。戦いは主に‘‘師団(ディーン)’’と‘‘眷属(グレナダ)’’の双方の連盟に分かれて行う。この往古の盟名は、歴代の戦士たちを敬う故、永代、改めぬものとする。それぞれの組織がどちらかの連盟に属するかは、この場での宣言によって定めるが……黙秘・無所属も許される。宣言後の鞍替えは禁じないが、誇り高き各位によりそれに応じた扱いをされることを心得よ。

続けて連盟の宣言を募るが……まず、私たちイ・ウー研鑽派残党(ダイオ・ノマド)は‘‘師団(ディーン)’’となることを宣言させてもらう。バチカンの聖女・メーヤは‘‘師団(ディーン)’’。魔女連隊のカツェ=グラッセ、それとドラキュリア・ヒルダは‘‘眷属(グレナダ)’’。よもや鞍替えは無いな?」

ルールを語り終えたジャンヌが、問題児(笑)3人組を指名した。

「嗚呼……。神様、再び剣を取る私をお赦しください……。」

スッと十字を切ったメーヤは、

「はい。バチカンは元より、この汚らわしい眷属共を討つ‘‘師団(ディーン)’’。殲滅師団(レギオ・ディーン)の始祖です」

白いレースの長手袋をした手で、カツェと蝙蝠女を指さした。

「ああ。アタシも当然‘‘眷属(グレナダ)’’だ。メーヤと仲間なんかになれるもんかよ」

 ……うわぉ。やっぱりカツェはシスター(メーヤ?)さんと犬猿の仲か。

「聞くまでもないでしょう、ジャンヌ。私は生まれながらにして闇の眷属……‘‘眷属(グレナダ)’’よ。玉藻、あなたもそうでしょう?」

 ……こっちはこっちでキャラづくり大変そうだな。

蝙蝠女がそういうと、さっきからお稲荷さんをムシャムシャ食べている狐耳と尻尾のついた小学生ほどの少女が顔を上げた。

 ……ん?玉藻?

「すまんのう、ヒルダ。儂は今回、‘‘師団(ディーン)’’じゃ。未だ仄聞(そくぶん)のみじゃが、今日の星伽は基督教会と盟約があるそうじゃからの。パトラ、お前もこっちゃこい。」

 ……まさかの、流行りのロリ婆という物か?

すると、デカい水晶玉を油と酢で汚れた指でクルクル回していたパトラは、

「タマモ。かつて先祖が教わった諸々の事、妾は感謝しておるがのぅ。イ・ウー研鑽派(ダイオ)’’の優等生共には私怨もある。今回、イ・ウー主戦派(イグナテイス)は‘‘眷属(グレナダ)’’ぢゃ」

アヒル口でそう返した。

  ツルッ!!バリン!!

 ……やっぱり、そんな手で水晶玉なんていじってるから。

水晶玉が床に落ちて割れてしまった。

「「「「「「ッ!!!」」」」」

また空気が重くなった。

「お客さん……ごみの処理は自分でお願いします。」

「……………ハイ。」

パトラは山口少将の威圧に負けたようで、涙目になりながら渡されたホウキとチリトリで水晶玉の破片をかき集める。

 

 

「あー……お前はどうするのぢゃ、カナ。」

パトラが水晶の破片をかき集め、山口少将にホウキとチリトリを返した後、テーブル席の正面にいるカナさん(キンイチさん)に尋ねた。

「創世記41章11――『同じ夜に私達はそれぞれ夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた』――私は個人でここに来たけれど……そうね。‘‘無所属’‘とさせてもらうわ。」

 ……最悪の場合は襲われる可能性があるのか。

俺は3人を逃がす策を必死で考える。

「そうか……それが道理ぢぁろうなぁ……。」

パトラはシュンとしょぼくれてしまった。

「ジャンヌ。リバティー・メイソンは‘‘無所属’‘だ。暫く様子を見させてもらおう。」

寿司を箸で上品に食べるトレンチコートの男装少女は、それを言ったっきり何も言わない。

 

「……LOO……」

今度は体育座りをしていた人型ロボットがしゃべった。立ち上がったら3mはあろうかという鋼鉄の二足歩行戦車のようなソイツは、ボディのあちこちから照準器、アンテナ、榴弾砲、発煙弾発射器、その他諸々をジャキジャキ突き出していた。

「LOO…LOO………LOO……」

 ……うん、何言ってるか全くわかんねぇ。

「……LOO(ルゥー)よ。お前がアメリカから来ることは知っていたが、私はお前をよく知らない。意思疎通の方法が分からないままであれば、どちらの連盟につくかは‘‘黙秘’‘したものと見なすが……いいな?」

全く物怖じしないジャンヌにビシッと言われたLOO(?)は、

「……LOO……」

そう言って頷いた。

 ……なんとなくだが、中に人が入ってるな。浪漫あるじゃねぇか、アメ公も。

 

「……‘‘眷属(グレナダ)’’、なる!」

いきなり元気な声を張り上げたのは、トラジマ模様の毛皮を着た、俺にある意味とどめを刺した鬼幼女だった。幼女は叫んだあと、足元に置いていた大斧を持ち上げ、そのバカでかい斧の派手な羽飾りをつけた石突きで地面に突くと、足元に微震が起きた。

  ギロリ!!!

「「「「「ッ!?」」」」」

また山口少将か!?

「お客さん……地面を揺らすのはやめてもらいますか?」

「……あい。」

鬼幼女は斧を持って店外へ出ていき、戻ってきたときには斧を持っていなかった。

 ……外に斧を置いたんだろうな。

「……ハビ…‘‘眷属(グレナダ)’’。」

鬼幼女はそう言った後、チビチビと寿司をかじっていた。

 

 

 

 

 

 

「遠山。‘‘バスカービル’’はどちらに付くのだ。」

ジャンヌに話を振られたキンジは慌て始めた。

 ……キンジは‘‘バスカービル’’代表として来てたのか。

「な、何だ。何で俺に振るんだよ、ジャンヌ。」

「お前はシャーロックを倒した張本人だろう」

ジャンヌが間髪入れずに行った。

「そ、それならイブキだって!」

 ……バッカ野郎!!俺に振るんじゃねぇ!!

俺は腕でバッテンを作って、キンジにアピールする。

「遠山、貴様にどんな理由があろうとも、抑止力であったイ・ウーを壊滅させ、戦争の口火を切ったのだ。」

「ッ!!」

キンジは気づいたのだろう。己がしでかしたことを、そして……その大きさを。

「貴様は‘‘やった’’のだ。ならばその責任を取れ。……男だろう?」

「クソッ……クソッ!!……なんで、なんでこんなことに。」

  ダン!!

キンジは拳をカウンターに叩きつけた。

「……遠山キンジ、村田イブキ、お前たちは‘‘師団(ディーン)’’、それしか有り得ないわ。お前たちは‘‘眷属(グレナダ)’’の偉大なる古豪、ドラキュラ・ブラド――私のお父様の、仇なのだから。」

 ……へぇ~。あのブラドの娘なのか。

「……それでは、ウルスは‘‘師団(ディーン)’’に付く事を代理宣言させて貰います。私は既に‘‘バスカービル’’の一員ですが……同じ‘‘師団(ディーン)’’になるのですから問題ないでしょう。私が大使代理になる事は、既にウルスの許諾を受けています」

レキが寿司を食べる手をいったん休め、いった。すると、糸目の中華男がニヤリと笑った。

「藍幇の大使、諸葛静幻が宣言しましょう。私たちは‘‘眷属(グレナダ)’’。ウルスのレキには、先日ビジネスを阻害された借りがありますからね。」

糸目の中華男が言った後、辻さんが勢いよく立った。

「希信達!!‘‘日本陸海空軍’’は今回合併し!!‘‘日本軍’’として‘‘師団(ディーン)’’につくことを!!この希信が宣言する!!」

その言葉に、山口少将と加藤大佐が頷く。

 ……ザワザワザワ。

すると、大使たちがざわめき始めた。何か予想外なことが起きたのだろうか。

「まだ宣言していないのは、そちらの方々だが……早く言って欲しいな。」

加藤大佐が笑みを浮かべて言った。

 

 すると、ピエロのような恰好をしたGⅢが、聞いていた携帯音楽プレイヤーを地面にイヤホンごと捨てた。

「……チッ。美しくねェ」

GⅢの顔は、どこかの戦闘民族がやる戦化粧のようなフェイスペインティングに彩られている。

「ケッ……バカバカしい。強ぇヤツが集まるかと思って来てみりゃ、何だこりゃ。要は使いっ走りの集いってワケかよ。どいつもこいつも取るに足らねぇ。使い走りってわけか。」

「なぁ、一応俺の義理の弟なんだろ。お願いだからそんなこと言わないでくれ……。中二病こじらせた痛い奴が義弟なんて俺は耐えられねぇぞ。」

俺は思わずそう言ってしまった。すると、GⅢは顔を真っ赤にした。

「ふ、ふざけるな!!誰がテメェの義弟になったんだ!!」

「だって、戸籍上GⅣ(かなめ)は俺の妹だぞ。そうなら、お前は義弟だろうに。」

「こ、この野郎!!」

GⅢが拳を振り上げて俺に近づいた瞬間

ギロリ!!!

「「「「「ッ!?」」」」」

我らが山口少将が威圧をかけた。

「お客さん……喧嘩は外でやれと何回も言っていますが?」

「……。」

GⅢは渋々自分の席に戻った。

「GⅢ、ここにいるのは大使だ。戦闘力で選ばれていない。お前の求める物がいないのは認めるが……このままでは‘‘無所属’’になるぞ。」

ジャンヌが仲裁するように言った。

「なぁ、これ以上義兄(兄ちゃん)にストレスを与えないでくれよ……頼むから。」

するとGⅢ、は猫背になり、

「……‘‘無所属’’だ。……お願いだからフォースつながりで喋るのはやめてくれ。」

疲れ切ったサラリーマンのような声を発し、ビールを(あお)った。

 

 

 

「これで全員済んだみたいね。そうよね、ジャンヌ?」

蝙蝠女がしゃべった。

「……確かにその通りだ。最後に、この宣戦会議(バンディーレ)の地域名を元に名付ける慣習に従い、極東戦役(Far East Warfare)……FEWと呼ぶことを定める。各位の参加に感謝と、武運の祈りを……。」

ジャンヌが閉めに入ったようだ。

「……じゃあ、いいのね?」

蝙蝠女がジャンヌに聞いてきた

「…………もう、か?」

「いいでしょう、別に。もう始まったんだもの」

「待て。今夜は……ここではお前は戦わないと言ってなかったか?」

「そうねぇ。ここはあまりいい舞台ではないわ。でも……気が変わったの。せっかくだし、ちょっと遊んでいきましょうよ。」

  ギロリ!!!

「「「「「ッ!?」」」」」

またも山口少将が威圧をかけた。

「お客さん……喧嘩は外でやれと‘‘何回も’’言っておりますが?」

すると、蝙蝠女は涙目になった。

「……でも、血を見なかった宣戦会議(バンディーレ)は過去になかったと……。」

「お客さん……喧嘩は外でやれと‘‘何回も’’言っておりますが?」

「……ハイ。じゃぁ、戦いたい者は店外に来て頂戴。」

蝙蝠女は涙目になりながら店を出ていった。

「……ありがとうございました。またのお越しを。」

山口少将はそう言って蝙蝠女を見送った。

 ……うん、山口少将は適任だったな。

俺はこの抜擢(ばってき)に感心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軍を辞めた後は、寿司屋にでもなるか。」

俺は山口少将のつぶやきをしっかりと聞き取れた。

 ……少将が寿司屋開いたら、店主が怖すぎて誰も近寄らないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、山口少将が店じまい(とどこお)りなく終わり、3人が帰るころには全員空き地島から帰っていたので、俺の仕事は全くと言っていいほどなかった。

 




 さて、辻さんの発言にほかの大使が驚いている理由は、
『前回、日本陸軍と日本海軍は別々の陣営で、凄惨な骨肉の争いをしたこと。‘‘師団(ディーン)’’と‘‘眷属(グレナダ)’’ですごい功績を残したこと。』
によるものです。





 Next Ibuki's HINT!! 「酒飲み」

 


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これは変装じゃないだろ……

 試験が来週からなのに呑気に投稿する馬鹿がここにいます。

 前の閑話のせいでガルパン熱がヤバいです。

 


 俺は山口少将・加藤大佐・辻さんを、迎えに来た第一師団の皆様に引き取ってもらった後、家に帰ることにした。

 ……あれ?俺って居る必要あったのか?

 

 

 

 俺は寮に着くと……その寮の入り口でウロウロしているシスター(めーや?)が見えた。 

 ……ウソだろ!?もう襲いに来たのか!?同じ‘‘師団(ディーン)’’の仲間だろ!?まさか、同じチームだから‘‘隣人を殺し愛(アイ)せ’’をしに来たのか!?

 俺は腰の日本刀に手を置きながらシスター(めーや?)に近づいた。

「あ!!ムラタさん!!」

彼女は重そうなコンビニのビニール袋を持っていた。

「……どうしてここに?」

俺は恐る恐る彼女に聞いた。

「キンジさんのお部屋に行かなくてはならないんですが……迷ってしまって……。」

 ……なんで俺とキンジの部屋に来るんだよ!!あれか!?今日の暴飲を咎めに来たのか!?

「なんだって部屋に行かなきゃならないんですか?」

「トオヤマさん達と今後のことでお話を……。」

 ……嘘はついていないようだ。無駄に警戒したなぁ。

俺はため息をついた後、

「キンジと俺は同室なんです。案内しますよ。……あとその袋は俺が持ちましょう。」

「え?そこまでしなくとも……。」

「まぁまぁ……。美女には格好つけたいんで。」

俺はそう言って袋をひったくるように取った。

 ……ないとは思うが、爆薬でも入っていたら目も当てられねぇ。

  カランカラン

すると、瓶の擦れる音が聞こえる。

 ……酒瓶?

その袋の中には、大量の酒瓶と菓子パンが入っていた。

「ふふっ……。」

するとシスター(メーヤ?)が天使のように頬を緩ませた。

「……どうしたんですか?」

俺は思わず聞いてしまった。

「いえ、私を女扱いする人は居ないものですから……。それもお世辞とはいえ美女だなんて……。」

「少なくとも、俺から見れば今までの人生の中でも5本指には入る美女ですけどね。」

 ……見てくれはな。

実際彼女は、‘‘外見だけは’’絶世の美女だ。イタリアだったら常にナンパされていそうだが……。

「そんな事、軽々しく言ってはいけませんよ。」

シスター(メーヤ?)は顔を真っ赤にしながら言った。

「そうですか……じゃぁ着いてきてください。」

俺は彼女を自分の部屋に案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は部屋へ案内する間、シスター(メーヤさんというらしい)と互いに自己紹介をした。

「ただいま~。」

俺はメーヤさんの重い荷物を持ちながら扉を開くと……キンジがアリアをソファーに寝かしているところだった。キンジの隣には玉藻(?)とかいう幼女がいる。

「イブキ様、おかえりなさいませ。」

リサはまだ起きていたのか、エプロン姿のままでキッチンにいた。リサはキッチンでお茶と茶菓子の用意をしている。

 ……ごめん。どういう事?

 

 

 

 なんでも、アリアは山口少将が店じまい中に空き地島に突撃していたらしい。その時、敵に緋弾の‘‘殻金’’という物を外されてしまったそうだ。その‘‘殻金’’7枚のうち、5枚を敵に奪われてしまい。その5枚を奪い返さないといけないらしい。

 ……山口少将が店じまいしている間にそんなことがあったのか。

「ん~!!これは美味じゃのう。」

それらを説明してくれた玉藻とかいう幼女は今、リサ特製のプリンを食べて頬がとろけている。

「……おい。」

キンジは呆れたように、その幼女を睨む。

「そう急かすな、儂も疲れたんじゃ。少しぐらい甘いもんを食べさせぃ。」

そう言って幼女玉藻(?)はリサ特製のプリンを頬張った。

 

 

 

 幼女玉藻(?)がプリンを完食すると、今度はキンジの顔をジーッと観察するように覗いた。

「な、なんだよ。」

「これが今代の遠山か……。かつて那須野で会った遠山と瓜二つじゃのう。……ちょっと昼行燈(ひるあんどん)な根暗のようじゃが。」

 ……こいつ?今なんて言った?

「キンジの先祖を知ってるのか?」

「数代前の遠山侍、星伽巫女と少しな。」

 ……流石は妖怪化け物の(たぐい)。何年も生きてるんだな。

「ん?」

すると今度は、幼女玉藻(?)は俺の顔をジッと見始めた。

「う~む……。」

「ど、どうした?」

「あぁ!!」

幼女玉藻(?)は何か思い出したような表情をした。

「お主、名前は?」

「え?……村田維吹って言うが。」

「そうかそうか……、お主の先祖をチラッと見た覚えがあるわ。」

 ……へぇ~、俺の先祖をねぇ。

「誰なんだ?」

俺は思わず聞いた。

 ……ずっと前に理子が、俺の先祖に有名人はいないとか言っていたけど。まさか誰かいたのか!?

「謙信公の軍にお主に似た足軽がいたのを思い出したわ。」

 …………足軽ですか。当時、足軽は基本農民だから……ご先祖様はただの農民だったのか。

「確か……‘‘なんで俺がこんげな目に’’とか言って敵兵相手に無双していたのう。あの足軽の目におぬしはそっくりじゃ。」

 ……俺のご先祖様も苦労してたんだぁ。…とりあえず、俺のご先祖は新潟だったのか。

「……そうですか。」

 ……キンジは遠山の金さんの家系、アリアはシャーロックホームズ。白雪は脈々と続く神社の巫女さん、理子はリュパンの子孫……。そんな有名人の子孫に囲まれる、足軽雑兵の子孫が俺か。

「いいやい、いいやい……俺は飛び級卒業だから短剣貰ったし……。」

「お茶をお持ちしました。夜遅いので麦茶にしました。」

リサはそう言って俺達の前に湯呑を置いた。

「メーヤさんには栓抜きとコップをお持ちしましたが……。」

「いえいえ、お構いなく。」

メーヤさんはそう言ってリキュールの入った瓶を開けると、コップになみなみ注ぎ、一気に飲み干した。

「……あれ?メーヤさん結構いける口?」

彼女の飲みっぷりを見て、さっきまでの鬱は吹き飛んでしまった。

「……(おっしゃ)りたい事はわかります。確かに修道女(シスター)はお酒を飲んではなりません。」

「いや、別にいいんじゃない?」

 ……いや、酒飲んでることをとがめたわけじゃないし。

「え!?」

メーヤさんはギョッと俺を見た。

 ……そんなに驚くことか?

「だってワインは‘‘キリストの血’’なんだろ?ワインは良いのに他の酒はダメなんてちゃんちゃらおかしい……。まぁ痴態をさらさなきゃ、いくら飲んだっていいだろ。」

 ……どっかのシグナムのように、真っ裸になるとかなければな。

すると、メーヤさんは感極まったように両手を胸の前で祈るように組んだ。

「……まぁ、でも飲酒は二十歳以上か許可証が無いとだめだけどな。」

俺は恥ずかしくなった。

「ムラタさん、大丈夫です!!許可証は持ってますし、一切酔わない体質なので!!」

彼女はそう言って俺の手を両手で包み込みながら握った。

 ……今日は踏んだり蹴ったりな日だ。誰かと飲み明かしたい。

「……味も分かるんだな?」

俺はメーヤさんの目を見て言った。

「私達、Ⅰ種超能力者(ステルス)は戦った後は大量に何かを摂取しなければならないのです。私の場合はアルコールなので、お酒を大量に飲むのですが……ちゃんと味わって飲んでいます。」

メーヤさんは至近距離で俺の目を見て言った。

「へぇ~、そいつぁ楽しみだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッハッハッハ!!」

「ふふふ……。」

俺とメーヤさんとの酒宴が始まったのは言うまでもないだろう。

「この梅酒おいしいですねぇ~。」

「そうだろう!!流石はメーヤさんだ!!こいつぁ~(軍の)敷地の梅を使い、秘密裏に部隊(うち)が作ってる秘蔵の梅酒だ!!」

俺とメーヤさんは互いに酌み交わしていたら、いつのまにか意気投合していた。

「不思議ですねぇ~。私一度も酔ったことがないのに、村田さんと飲んでたらとても気分が良くなってきましたぁ~。」

彼女の目はトロンとしている。

「へぇ~、そいつぁ不思議だぁ。そう言えば日本酒飲んでみるかぁ?」

俺はそう言って、‘‘酒蔵部屋’’(空き部屋に酒を保管してたら、いつの間にか部屋満杯に酒が保管されたのでこんな名前になった)から日本酒の一升瓶を持ってきた。

「こいつぁ‘‘松乃井’’って言う新潟の地酒だ!!ちょうど俺のご先祖も新潟らしいしなぁ!!」

  キュポン

俺は‘‘松乃井’’の栓を開け、メーヤさんのコップにナミナミと注いだ。するとメーヤさんはそれをグッと飲み干した。

「うわぁ~。日本酒は初めて飲みますけど、おいしいですねぇ~。すっきりとした辛口に柔らかさがありますねぇ~。」

「さすがはメーヤさん!!ちゃんと味わってらっしゃる!!」

俺も自分のコップに注ぎ、飲み干した。

 ……美味い!!これはどんな料理にも合う、スッキリした辛口!!ここにリサの手料理が無いのが残念だ。

「私のことはメーヤと呼んでくださいねぇ~。……そう言えば村田さぁ~ん。」

 

 ついでに、キンジは酔っ払い二人に絡まれるのを避けるため、自室に引きこもってしまった。幼女玉藻(?)はメーヤさんに2つ3つ何かを伝えると部屋を出て行ってしまった。

 

「なんでぃ、メーヤ。俺のことはイブキと呼んでくだせぇ。」

俺はそう言ってメーヤのコップに再び‘‘松乃井’’を注いだ。

 ……俺もまぁまぁ酔ってるな。そろそろ飲むのを控えるか。

「イブキさんはぁ~まるで悪魔ですねぇ~。」

「あ、悪魔?」

 ……キリスト教の中で‘‘悪魔’’は結構ヤバい表現では?

酔いが少しさめたような気がする。

「ダメですよぉ~、修道女(シスター)をたぶらかしちゃ~。私は主に使えてるんですよぉ~。」

 ……多少お世辞言い過ぎたのかね。

「お世辞が過ぎましたかね。でも実際イタリア帰ったらナンパとか結構されるんじゃないんですか?」

「帰ってもされないんですよぉ~。それに修道女(シスター)は恋愛禁止ですし……。イブキさ~ん、私を連れ去ってぇ~。」

 ……この修道女(シスター)もだいぶ酔っていらっしゃるな。そろそろお開きにするか。

俺はコップに入っていた日本酒を飲み干した。

 ……今度、新潟に行ったときは絶対にこれを買おう。

俺はそう決心した後、口を開いた。

「バチカンの敵になんてなりたくないですよ。‘‘我らは神の代理人。神罰の地上代行者。我らが使命は……’’とか言いいながら襲われるなんて嫌ですよ。」

 ……『HELLSING』のアンデルセンはいないにせよ、そういう人はいそうだしなぁ。

「あれぇ~イブキさん何で知ってるんですかぁ~?言いましたっけぇ~。」

「マジでいるのかよ!!」

完全に酔いがさめた。

 ……いるんだ!!アンデルセンのような奴!!

 

 その後メーヤは酔いつぶれてしまい、俺とリサで彼女を寝室の空きベッドに運んだ。メーヤを運んだあと、俺とリサも眠気に耐えられなくなってきた。リサは寝室のベッドで寝て、俺は自室のハンモックで寝ることになった。キンジはアリアが心配なのでリビングで寝るそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エロキンジィイイイイイイイイ!!!」

俺はアリアの怒鳴り声で目を覚ました。

「相変わらず朝からうるさいなぁ。」

俺がのそのそとリビングへ向かうと……キンジがアリアにボコボコにされていた。

「……なんだ。いつもの事か。」

俺は部屋に戻ろうと……

「イブキ!!助けてくれ!!」

「……こんな言葉を知ってるか?‘‘触らぬ神に祟りなし’’」

そうは言っても、流石に助けないとヤバい。

アリアの声で起きたリサとメーヤも加わり、アリアに事情を何とか説明するまでキンジはボコられ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メーヤはリサの朝食を食べた後、成田空港行きのバスに乗り、バチカンへ帰って行った。

 その日の4時間目、俺はLHRが行われる体育館へクラスの皆と移動していく。

「あぁ……面倒だ。」

「どうしました?憂鬱なようですが?」

ニトが俺の顔を覗いてきた。

「あぁ……あの変装する奴…変装食堂(リストランテ・マスケ)だっけ。あれが面倒だなって。」

「そうですか?私は変装初めてなので楽しみです!!。」

そりゃぁ、ファラオが変装するなんて、お忍びで城下へ向かうぐらいの時しかないんじゃないか?

  ズガァアアン!!

「よォーし!!ほんなら文化祭でやる変装食堂(リストランテ・マスケ)の衣装決めやるぞッ!」

俺とニトが体育館へ着いたとたん、蘭豹先生が天井へ威嚇射撃をして、生徒達を静まらせた。

 ……そういえば、ジャンヌの奴がいないな。どこへ行ったのだろう。

「じゃあ、各チームで集まって待機ィーゴホッゲホッ!!」

綴先生の言葉に従い、俺のもとにネロ、牛若、エル、ニト、リサ、理子が寄ってきた。

 

 俺達は適当に無駄話をしていると、キンジ達のチームがくじを引く番になったようだ。

で、キンジが今引いてる箱の中には、文化祭でやる変装食堂(リストランテ・マスケ)各々(おのおの)が着る衣装を決めるくじが入っている。

 変装食堂(リストランテ・マスケ)とは、カッコいい名前がついているが、結局はただのコスプレ喫茶だ。しかし、変装食堂(リストランテ・マスケ)は生徒の潜入捜査技術の高さを一般にアピールする機会も兼ねている。真面目にやらないと教務課(マスターズ)オールスターでのお仕置きがあるらしい。

 

 

 そんなこともあり、俺は、あるお題だけは絶対にやりたくなかった。

 ……女装だけはやりたくない。

俺はおっさんとロサンゼルスにて一緒にやった女装を思い出した。

 

 ここで女装なんて引いたら……俺は文化祭をボイコットして制裁を受けるか、吐き気のする女装をしてお仕置きを受けるかの2択しかない。

 ……何この地獄。いや待つんだ、女装を引かなきゃいい話だ。

「神様仏様玉藻様……どうか女装だけは勘弁してください……。」

『ん?今なんでもとおっしゃいました?』 

「言ってねぇから。」

玉藻の声が聞こえたような気がするが……気のせいだろう。

「やったぁぁあああああっ!!!やったよアリア!!ある意味ハマり役だよ!!きゃはははは!!!」

理子がアリアの引いたくじを覗き見て大爆笑をしている。

 ……理子、アリアの足元で転げまわって笑うのはどうなんだ?その前にアリアは何を引いたんだ?

あの白雪も耐えられなかったようで、土下座するみたいに伏せて、忍び笑いをしながら床を叩いている。

「ぅぐ、くく……ハッ!」

キンジは一瞬笑ってしまい……急いで止めたが、もう遅い。 

俺が目を向けると同時、アリアはホルスターからガバメントを抜き取った。

「今のは無し!無し無し無し無ぁあああああああしッ!!!まずアンタは死刑!!」

風魔目掛けて二丁拳銃を突きつけたアリアを、キンジが飛びついて押さえる。

「止めろアリアッ!!蘭豹もいるんだぞ!?」

「諦めなよ‘‘小学生’’アリアちゃん!!理子が衣装作り手伝ってあげる!!ふっ!!ふひひひ!!」

理子はアリアを指さしながら、まだ笑い転げている。

 ……アリアは‘‘小学生’’を引いたのか、ご愁傷様。

「誰がアリアちゃんよ!風穴!風穴流星群!風穴ビッグ・バーンッッッ!」

ばたばた暴れているのにも関わらず、確実にガバメントの銃口をくじ引きの箱を持った風魔さんへ向けているその技術に俺は驚いた。

「風魔さん!!次は俺達だ!!早く来い!!」

「しょ、承知ッ!!師匠、しからばこれにて!!御免!!」

煙幕を展開しつつ、風魔は一目散に俺達のチームに来た。

 

「村田先輩、助けていただき、感謝申し上げます!!」

風魔さんは俺に土下座するように礼を言ってきた。

「いや……うん、お疲れ様。じゃぁ引かせて。」

「ははぁ~!!」

……うん、献上するように箱を渡さないでほしいんだけど。

「引き直しは一度だけ認められているでござる。……ではご武運を。」

 ……どうか、いい役が出ますように。

俺は箱の中から四つ折りの紙を一枚取り出した。

  『女装(ビキニ)』

俺は無言で箱に戻した。

 ……むさい野郎がどうやってビキニで女装すんだよ!!

「チェンジすると一枚目は無効。2枚目の衣装が強制になるでござる」

「……了解。」

俺は……最後のくじに全てを賭けた。

「こいっ!!」

  『ボディビルダー』

 ……確かに、女装よりはいいけどさぁ。

俺は思わず膝をついた。

「……ハハハッ」

目の前が真っ白になった。

 ……変装の前に体づくりしなきゃいけねぇなぁ。

 

 

 

 次に、理子が女子用の箱からくじを一枚引いた。

「泥棒?えー…コレじゃつまんなーい!」

 ……いいじゃねぇか。お似合いじゃねぇか。俺だって『海軍士官(第2種軍装)』が良かった。持ってるしさ。

理子は似合っているはずのくじ『泥棒(漫画・キャッツアイ風)』を戻し、新しく引き直す。

  『ガンマン(西部開拓時代)』

「おー!!やるやる!!」

 

 その後、ほかのメンバーもくじを引いていき、ネロが『体操服(ブルマ)』、エルが『女学生(大正浪漫風)』、牛若が『振袖』、ニトが『メジェド(エジプト神話)』、リサが『提督』という結果になった。

 ……俺の様にどうしようもできないお題は誰一人いなかった。チクショウ!!

 

 

 

 

 

 ついでにアリアはあの後、体育館で「小学生ヤリマス」と言い続けるロボットになるまで、何回も蘭豹先生にジャーマン・スープレックスを食らい続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はくじ引きが終わった後、部屋にすぐに帰った。というか、不貞寝(ふてね)しようと思った。

「ただいまぁ~。」

無論、部屋には誰もいない。

 ……今から鍛え直すしかないのか?

俺がそう考えた時、

  プルルルル

俺の携帯が鳴った。電話は……藤崎さんからだった。

「はい、もしもし。」

「やぁ~村田君!!比叡山以来ですねぇ~!!!」

 ……電話越しなのに、なんでこんなに声デカいんだよ。

「実はですねぇ!!今度のロケは羽田空港からなんですけど、ちょうど東京武偵高の文化祭の日に近いんですよ!!」

 ……え?もしかして。

「なので、我々も見に行かせてもらいます!!」

「いやいやいや!!待ってください!!」

俺は‘‘『ボディビルダー』の変装のせいで最悪死ぬかもしれない’’ということを伝えたところ……

「分かりました!!‘‘ボディビルダー’’にうってつけの物があるんで送ります!!では!!」

「え!!ちょっと!!」

  ツー・ツー・ツー……

電話は切れてしまった。

 ……ほんとにあの4人(5人?)が来るのかよ。

俺は憂鬱になった。

 

 なお、翌日に蝦夷テレビから新品の黄色のボディビル用パンツと『マッスルボデーは傷がつかぬ!!』というDVDが送られてきた(なお、主演は安浦憲之助(ヤスケン)さん)。

 ……これでどうしろと?いや、パンツ代が浮いたのはよかったけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 くじ引きの数日後、俺達は21時過ぎだというのに教室に残って作業をしていた。理由は、その衣装作成のためである。

 衣装が間に合わなければ、もちろん教務課(マスターズ)オールスターからのキツイお仕置きが待っている。なので、〆切前日には教室に集まって徹夜で衣装を完成させる風習・‘‘仕上げ会’’が創られたそうだ。だからこんな夜中にわざわざ学校にきて、皆で最後の仕上げをする。

 

 ……俺は衣装はほとんどいらないけどな。

俺はそう思いながら体に茶色い塗料を塗っていく。なんでも、筋肉の陰影をはっきりさせるためにボディビルでは褐色の塗料を肌に塗るそうだ。

 ……こんな傷だらけの体を見せつけなきゃいけない場面が来るなんて。

俺は傷だらけの体に塗料塗りたくっていた。

 

 

  ウィィイイイイイン!!

  ズダダダダダダッ!!

機関銃のような音が教室内に響き渡る。しかし、この音は理子とリサが凄まじい速度でミシンを自由自在に操っている音だ。

 ……流石はプロ。あんな速さのミシンを使うなんて俺には無理だ。

理子とリサはミシンを使って、ただの布切れを美しい装飾品や小物に変えていった。

「どうよイブイブ!!これが理子りんのぉ~ミシン技術!!恐れ入ったか!!」

「イブキ様!!これがメイドの力です!!」

理子はその豊満な胸を張りながらドヤ顔で、リサは細い腕の上腕二頭筋を叩きながらムフーとした顔で俺に言った。

「恐れ入りました。」

俺は、ハハァ~というように彼女達に頭を下げる。

 ……あの技術はもはや職人だ。

 

 実はこの衣装、自分で作るのがルールなのだが……我がチームではこの二人がみんなの分(一部は自作)を作っている。

 俺と理子にリサを除いたチームメイト、ネロ(皇帝)、牛若(武将)、エル(大地の分身)、ニト(皇帝(ファラオ))……この4人は裁縫と一切縁がない。そんなの人たちが体操服に振袖、袴、メジェド……そんなものを作れるわけがない。まぁ、ネロとニトは自力で頑張るそうだが……。

 

 なので理子とリサは合わせて4人分作っているのだが……4人分はすでに作り終わり、それどころか小物まで作っている。

 ……相変わらず器用な二人だ。

牛若とエルはこのプロ二人が作ってくれるからいいとして(材料費は何故か俺)、ネロとニトが心配だ。

 ……自分で作るって言っていたが……大丈夫か?だって二人とも皇帝だぞ!?

 

 

  バァーーーーーーン!!!

教室の扉が思いっきり開けられた。全員が扉の方向へ向く。

「体・操・服であ~る!!余も着飾ってはいられぬと用意したが……うむ!! 心身ともに軽くなったようだ!!どうだ、似合っているであろう!?」

ネロは赤のハチマキを頭に巻き、赤のブルマを履いて、胸のゼッケンには『ねろ』と書かれていた。

 ……誰だ?このコスプレ美少女?

その後ろには、ウサギ耳の生えたメジェド様がいた。

「私ハ、メジェド……。頭ヲタレナサイ、不敬デアルゾ!!」

 ……あれ?この二人皇帝だったよな?あれぇ~?

俺は二人の再現度の高さに口がふさがらなくなった。

「どうだイブキよ!!余は‘‘万能の天才’’ゆえに!!この‘‘体操服’’も美しくできているであろう!?うん!?」

「崇メヨ……。」

「お二人ともお似合いで御座います。」

俺はサイド・チェスト(横向きになって胸を強調するポーズ)をしながら頭を下げ、そう言った。

 ……俺も塗り終わったから、ボディビルダーの真似をしないとな。

 

 教務課(マスターズ)から、『教室で衣装を着る時は最低一時間その役を練習すること』とのお達しが来ている。だから、俺は衣装(塗装?)を着終わったので‘‘ボディビルダー’’の役を演じなくてはいけない。

 

  ガシィ!!

俺はボディビルのポーズ(モストマスキュラー)をとるが……みんな引いている。

「……イブキよ。余も様々な戦士や剣闘士を見てきたが……そなたほどの傷を負ったものはほとんど見なかったぞ。」

ネロは俺の右わき腹にある縫痕(ぬいあと)を指でツツ―となぞる。

 ……くすぐったいから止めてください。

「流石です!!主殿!!武士の勲章ですね!!」

牛若が褒めてくれるが……俺は武士じゃねぇ。

「……。」

エルはいつも通りの笑顔でニコニコ笑っている……いや、その笑顔は大分ひきつっている。

「……メジェド様のご利益がありますように。」

ニトは白い布越しに俺の背中をさする。

「……イブイブ、ゴメンナサイ。」

理子は俺に土下座した。

……まぁ、この傷の3割以上は理子のせいだし。

「うん、許してるから。俺キレイサッパリ水で流してるから土下座は止めてくれ。」

俺は無理やり理子を立たせる。

「……(ジー)。」

リサは俺の体をジッとガン見している。

 ……リサさん、その目つきが怖いです。

「……お前も苦労してるんだな。」

遠山警官(キンジが警官の変装をしている)がポンと肩に手を置いた。

「……そろそろ泣きそうになるから止めてくれ。」

 ……おかしいなぁ。なんだってこんなに怪我する事ばっかりに巻き込まれるんだよ。

俺はキンジの肩をガシッと掴んで言った。

「あ、あぁ……。」

キンジは相変わらず、不憫(ふびん)な物を見ているような目で俺を見ていた。

 

 

 

 

 

 さて、俺のボディビルダー姿は見るに堪えない事がよくわかり、そして牛若とエルも変装し終わった頃、

  バァーーーーーーン!!!

「みんな、おっはよー!!」

扉が勢いよく開けられ、ガンマン姿の理子がやってきた。

 ……理子の奴、外で着替えてきたのか?

理子の姿はテンガロンハットを被り、厚手のブラウスを胸の前で結び、ヘソは丸出し。革のチョッキとブーツを身に着けて、デニムのスカートの裾には短い革紐がビッシリ並んでいる。拳銃は見たところシングルアクションのリボルバーを使用。

 ……芸が細かいなぁ。俺なんて黄色のパンツと塗料だけだ。

我がチーム‘‘COMPOTO’’の面々は器用な奴が多い事が判明した。

「ほら早く!!絶対ウケるって!!!可愛いは正義だよ!!!!」

理子はドアの裏側に居る誰に声をかけながら、その腕を引っ張っている。

「ッーーーーーー!!!」

人の可聴域を超えた高音で叫んでいる人物の足がズルズルと見えてきた。

真っ赤な靴に、ピンクと白の縞々靴下が見えた。ソックスの上縁には、ヒラヒラした白いフリルが付いてるようだ。

 ……おい。もしかして。

俺はこの場にいないピンク髪の暴君が引いたお題を思い出した。

「や、や、やっぱり!!!い~~~や~~~よ~~~ッ!!!」

 ……あぁ、やっぱり。

理子に引きずられてきたのは小学生(アリア)だった。小学生(アリア)は左右の胸の上部にでかいボタンをつけたブラウスを着て、丈が非常に短いスカートを履いている。当の本人は腕関節が外れるんじゃないかという勢いで理子に抗っていた。

 ……アリアもここまで芸が細かいなんて。

我らが小学生(アリア)ちゃんは赤いランドセルを背負っている。これをアリアが作ったとは思えない。

 ……どっちが作ったんだ?

俺はリサと理子を見た。……二人とも俺と視線が合ったらドヤ顔した。二人が協力して作ったのだろう。

 ……この二人は計5人分の衣装と小物を作ったなんて……どんだけ器用なんだよ。

「アリア、諦めろ。それより衣装の細部を作り込んでおかないと、後で市中引き回しの刑をやられるぞ。その服で……オフッ」

キンジは思わず吹いてしまったが、すぐに咳き込むような手つきで誤魔化した。

 ……キンジ、どうなっても知らねぇからな。

アリアをもう一度見れば、ランドセルの右側に『4年2組 かんざきアリア』と書かれた名札を付けている。

「っ!!ククク……」

俺は思わず笑いだしてしまった。

「よ、4年2組……!!!」

俺は床をバンバンと叩いた。

 ……なんだって真ん中の4年生をチョイスしたんだよ!!もう笑うの我慢できねぇよ。

褐色のボディービルダー(傷多し)が床を叩いて笑っている姿をアリアはギロリと見る。

「ヘイ!!アリアちゃん!!!お裁縫箱はこっちでちゅよ!!アリアちゃん!!!」

理子は星伽の裁縫箱を勝手にアリアの足の上に乗せた。

「アンタね……それ絶対、‘‘アリアちゃん’’って言いたいだけでしょうが……ッ!!!」

  ツン!!

アリアの額を穏やかな笑顔で白雪(教師の変装か?)がつついた。

「ダメでしょ、アリアちゃん?小学生がそんな口調で喋っちゃ。」

星伽は聖母のような(でもなぜか黒い)微笑みを浮かべてアリアに言った。

 ……役作り1時間のことを言っているな。

「……ぅぐう……!!!」

「はい、それじゃあ、道具を貸してもらったら御礼を言いましょうね?」

 ……あ、あれ?白雪先生?アリアの眉間に置いた指、爪立ててません?

「……あ、あ、後で覚えてなさいよ……!!!」

アリアは地獄の底から響くような声を出すとともに、顔の筋肉を痙攣させ、サーベルタイガーのような笑顔をした。

「が、ぐ……は、はいッ!あ‘‘い’’がとうございますッ!せん、せーッ!」

「あ、あ‘‘い’’がとうございます……!!あっはははは!!!!ゴホッ!!カハッ!!」

 ……小学生(アリア)ちゃん!!あんたは笑わせに来たのか!?

「か、風穴ァアアアア!!!!」

「うわぁ!!」

アリアが殴りかかってきた。俺は床から飛びあがり、サイドトライセップス(背中で腕を組み、横から見た上腕三頭筋を含めた腕の太さと脚の厚みを強調するポーズ)をしながら走って教室を出た。

 ……一応この教室内は役を演じないといけないってのが面倒だ!!

 

俺は教室を出ると一目散に逃げたように見せ、実際は、‘‘影の薄くなる技’’を使って扉の真横で教室内を観察する。

 俺が恐る恐る教室内を見ると、キンジと白雪がアリアを羽交い絞めにしていた。

 ……キンジ、白雪、今度なんか奢るな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアが(しず)まった(誤字ではない)後、俺はノソノソと教室に戻った。

 その後、俺は傷痕(きずあと)を隠すために思考錯誤(パテを盛ったり、メイクで隠してみたり)したが、無意味だという事が分かった。

……どうやってお仕置きから逃げられるんだ?

俺はその事で頭を痛めることになる。

 

 




 ここにきて、やっとイブキのご先祖様が判明しました!!『謙信公の足軽』です!!……うん、村人Aとそこまで変わりない。
 一応補足しますと、ご先祖は感状をもらえるほどの武功を(足軽なのに)挙げたが、それでも農民であることを貫いた異例の人物という事に設定上はなっています(なお、空想上の人物です。モデルもいません。)
 さらに補足すると、その感状は江戸時代初期に紛失していて、感状をもらったことすら子孫は知らないという設定です。

 
 貰った短剣は‘‘恩賜の短剣’’に準ずるものです。流石に戦後は『恩賜』の文字は彫られてませんが、形式上‘‘恩賜の短剣’’と呼ばれています。
 ‘‘恩賜の短剣’’をもらえる人物は海軍兵学校の卒業席次上位数名の優等者と、飛び級卒が貰えます。


 シスターが酒を飲むことについて。‘‘キリストの血’’はワインですし、中世では教会がビールの醸造をしていた記録もあります(当時、水が飲めないという理由もあったが)。なのに、飲酒はいけないと言うのは無理があるかなぁと『個人的には』思います。
 個人的にですからね?


 メーヤの酔った理由は、重度の‘‘雰囲気酔い’’です。


 ‘‘松乃井’’というお酒はうまいですよ(あくまでも個人の感想です)!!皆さんも新潟県の十日町、特に松之山温泉に来てみてください!!日本三大薬湯が待ってますよ!!(‘‘松乃井’’は新潟県十日町市の地酒です)


 『マッスルボデーは傷がつかぬ!!』は‘‘ドラ〇ラ鈴井の巣’’より‘‘マッスルボディーは傷〇かない’’をモデルにしています。
 わざわざこの作品のために、作者は少ない小遣いを使って‘‘マッスルボディーは傷つ〇ない’’のDVD(新品)を買って鑑賞しました。(個人的には気に入りました。)


 
 Next Ibuki's HINT!! 「近衛師団」

 



 


 

 


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場所考えろよ……

 試験にレポート……。
 追いつめられるほど筆が進む……


   タンタン

木槌の音が裁判所内で響いた。

「被告人、神崎かなえを……懲役536年の刑に処す。」

東京高等裁判所第八〇〇法廷に響いた判決に、弁護席に座っていた俺は口が塞がらなかった。

 ……死刑や終身刑では後回しにされるという『主文』を裁判長は最初に言わなかった。だから良くない判決が出るであろうとは予想はしていたけど……

執行猶予のない、重い判決をこのハゲ裁判長は下した。

 ……裏で何かあるな絶対、絶対に。

「……。」

隣に座るスーツ姿の理子がギロリと検察側を睨む。 

 宣戦会議から音信不通になったジャンヌ、長野のレベル5拘置所に拘置中の小夜鳴は不参加だったが、この裁判は勝てると誰もが予想していたのだが……。

 ……敗訴以外の何物でもない。

一審の時より多少は減刑されている。しかし、それでも……アリアの母であり、俺の母の友人である‘‘かなえさん’’の事実上の終身刑には変わりはないのだ。

 

 ……まぁ、あの時の悪夢の様に『ボディビルダーの刑』とかにならなかったのは救いか?

カット。

 

 しかし、この裁判には吐き気がする。何か仕組まれているのは明白だ。なぜなら、傍聴人は一人も居らず、マスコミだって誰一人来てない。実質、密室裁判と変わりがない。

 ……辻さんとメガネさんに今度聞こう。

何か大きなものが(うごめ)いているに違いない。

 

 

「不当判決よ!!!」

  ガタンッ!

椅子を鳴らして立ち上がったアリアが金切声を上げた。

「こんな……どうして!?こんなに証言、証拠が揃っているのに……どうしてよ!!!ママは…ママは潔白だわ!!どうして!?」

スーツ姿のアリアが、床を蹴って検察側に駆け出そうとした。すると、慌てて若い女性弁護士・連城黒江が抱き着くようにして押さえる。

「騒ぐなアリア!!次の心証が悪くなる!!即日上告はする!!落ち着け!!!」

次となると、最高裁しかない。そこで終身刑にされたら……再審という手もないことはないが、実際は最高裁の判決で最終決定になる。

「放しなさいっ!!放せ!!!アタシはアンタに怒ってるんじゃあないわッ!!アンタは有能で、全力でやってくれた!!おかしいのはコイツらだわ!!!」

検察官たち、更には裁判官まで指さしながら、アリアが泣き喚く。

「やり直しなさい!!やり直せッ!!!アンタたち全員入れ替えて、やり直すのよ!!こんなの、茶番だわ!!!アンタたち全員が結託して、ママをっ!!!アタシのママを!!陥れてる!!!陰謀だわ!!!!」

「やめろアリア!!まだ最高裁がある!!確定じゃない!!」

キンジが暴れるアリアを押さえにかかるが……元武偵の連城弁護士との2人がかりでも、手に負えないようだ。周りには……警備員たちが手錠を手に、アリアを囲むようにきている。

 ……気絶でもさせて無理にでもこの場を収めるか。

俺はスッと席を立った瞬間、

「……アリア、落ち着きなさい。」

被告人席から発せられた、静かな一言で……アリアが我を取り戻した。

 かなえさんの放った言葉がアリアの暴走を止めたのだ。

「ありがとう、アリア。あなたの努力……本当に嬉しかったわ。まさかアリアがイ・ウーを相手に、ここまで成し遂げるなんて。あなたは……大きく成長したのね。それは親にとって何よりの喜びよ」

落ち着いていた。かなえさんは、この場の誰よりも……落ち着いていた。いや、これは……

「遠山キンジさん。貴方にも心から感謝しています。アリアは、とてもいいパートナーに恵まれた。直接それを見届けられて、幸せです。でも……」

かなえさんはふっと、その表情を全て消し、目を閉じた。

「……こうなる事は、分かっていたわ」

かなえさんは悟りを開いたように、すべてを諦めているように、俺は見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなえさんのカメオが付いた銃を抱きしめて泣き続けるアリアを慰めようとしたのだろう。連城弁護士は自分のアウディにキンジ、アリア、理子を乗せた。俺はお古の高機動車にリサを乗せ、2両の車はかなえさんを乗せた護送車が高裁から出るのを追うように発進した。

 

 

 

 護送車・アウディ・高機動車の順に通行止めを避けて内堀通りにでた。

 きっとあのアウディの中ではアリアは泣き続けているのだろう。

 裁判に勝ち自分の母親をシャバに出すためだけに、アリアは自分の青春を投げ打って、世界中を駆け回り、理子やジャンヌと戦い、ブラドを捕らえ、パトラやシャーロックを退けて、証拠をそろえた。

 激戦の結果得たものは……理子とジャンヌ、ブラドの分の減刑だけだ。他のメンバーの罪については、弁護側の証拠不十分。

 ……世界中に散ったイ・ウーの残党全員捕まえて、裁判所まで引き連れてきやがれってか?

連城弁護士は時間稼ぎをするだろうが、最高裁には間に合わない。

 ……政治家に官僚は何を考えてこんなことをするんだ?

高機動車の中で、ベートーベンの第九が重く響いた。

 

 

 

 

 

 護送車とアウディは上野方面へ向かった。高機動車もそれに続く。すると、前方を走るアウディが信号の停止線からかなり離れた所で止まった。

「どうしたんだ?」

「い、イブキ様……信号が……。」

リサはそう言って指をさした。

「おい……マジかよ……。」

信号が消えている。3色全てついていない。歩行者用の信号ですらついていない。

 俺は一瞬、‘‘ダイハード4.0’’を思い出したが、その考えを捨てた。

 ……ハッカー爆殺事件はないし、ジョニー・マクレー(おっさん)は日本に来ていないはずだ。となると…‥なんだ?

見れば、左右のビルからサラリーマン達が困り顔で出てきている。昼間だから気付くのが遅れたが、ビルの一階にあるコンビニやカフェの中が薄暗い。

「……停電?」

何か嫌な予感がする。

「リサ、とりあえず車の中に居ろ。」

俺はそう言って高機動車から飛び降りた。

 

 

 

 

 高機動車を飛び降りると、異常なものを捉えた。停車中の護送車の下から……アスファルトの地面に、黒い物が広がっている。……こっちに向かって。

 ……影!?

ヘリの音は聞こえない。皇居の近くだ、飛行船だって飛んでないだろう。となると……

 ……敵襲だと!?皇居前だぞ!?

 

 

 影はみるみる内に、アウディの下を覆っていく。

  バチチバチバチバチッ!

閃光に続いて、車を包むような激しい放電音が耳を劈いた。アウディから連城弁護士の驚く声と、アリアの悲鳴が外へ漏れる。

 車は落雷を受けても中の人は無事というのは知っているので、なかの4人は平気だと思うが……敵にどうやって対処する!?ここは皇居前だ。うかつにドンパチなんてできねぇぞ!?

  ボンッ!!

ボンネットが勢いよく開き、そこから煙と炎が出ている。

 ……引火なんてしたら目も当てられねぇ!!

俺は‘‘四次元倉庫’’から日本刀を出して、扉を切り裂いた。それと同時に、逆側ドアが勢いよく蹴破られ、キンジたちが飛び出してきた。

 ……うん、切るのはいらなかったか。

 

 

 キンジ達の安全が確認出来たので、視線を前に戻すと護送車からも煙が上がっているのが見える。タイヤも全て潰れている様だ。

「かなえさん!!」

護送車にキンジとアリアが駆け寄ろうとした時

  バリィッ!!!

護送車の後ろで放電が起こった。

 ……罠か!!

あたりを見れば……影は既に無くなっている。

 ……極東戦役!?もう仕掛けてきやがったのか!?こんな場所で!?どんだけの自信家なんだ!?

「「ヒルダ……!!」」

俺とキンジは思わず声に出した。何時の間にか護送車の上に立ち、くるくるとフリフリの日傘を回す……退廃的で、何処か不吉な印象の、ゴシック&ロリータ衣装の蝙蝠女。

「……ヒルダ!!写真では見てたけど……会うのは初めてねッ!!!」

反射的に拳銃を抜くアリアに、ヒルダは鼻を鳴らす。

「アリア!!拳銃を捨てろ!!ここをどこだと思っていやがる!!」

俺は日本刀の峰でアリアの拳銃を叩き落とし、日本刀を‘‘四次元倉庫’’にしまった。

「逃げろ!!あいつは犯罪者だ!!」

俺はそう叫びながら14年式に空砲をつめ

  タァン!!

上空に向けて撃った。

 

 

 その直後、静まり返っていた町に爆発のような悲鳴が木霊し、蜘蛛の子を散らす様に人々が我先にと逃げていく。

「何するのよ!!」

「アリア落ち着け!!」

俺はそう言いながらキンジにモールスである言葉を伝える。

  『コ・ノ・エ』

キンジはこの言葉だけでどういうことか理解したようだ。キンジはアリアを必死でなだめる。

 

 

 ヒルダはその様子を、瞼を半開きして欠伸をしながらじっくりと眺め……不敵に笑いながら俺の方を見た。

「武偵というのも大変ねぇ……あんな塵芥みたいな存在たちを一々気に掛けなきゃいけないなんて……。」

「俺は逆にアンタの考えが分からねぇな。なんだってこんなところでドンパチをしようとすんだ?」

俺は思わず聞いてしまった。

「イヤねぇ……粗野ねぇ……。私、今はそんなに戦う気分じゃないのよ?日の光って、キライだし。」

日傘の柄を抱くように頬へ寄せながら、俺達1人1人の顔を舐め回す様に見てきた。

「でも、つい手が出ちゃった。だってぇ、タマモの結界からノコノコと出てくるんd……」

  

 

 ベキィ!!!

ヒルダがぶっ飛ばされた。

「この畜生が!!陛下の目の前でドンパチやるとはなぁ!!!!」

「死ねぇ!!!死ねぇええええ!!!!」

「汚物は消毒だァアア!!!!」

「死ねぇ!!メス豚がぁああああ!!!!」

「キィィェェエエエエ!!!!」

  ドカッ!!ベキッ!!グシャッ!!!

ヒルダがぶっ飛ばされたと同時に、汚れや皺一つないキレイな軍服を着た集団が現れた。その集団は地面に叩きつけられたヒルダに群がり、彼女を銃床でタコ殴りにしながら己の軍服を血で染めていく……。

「「「うわぁ……。」」」

キンジとアリアはともかく、さっきまでしゃがんで震えていた理子ですら引いていた。

「……流石は禁闕守護(きんけつしゅご)の責を果たす、最精鋭部隊。近衛師団だな。」

 ……うん兵部省直轄特殊作戦部隊(HS部隊)でも、ここまでの士気はない。

俺は改めて近衛師団の恐ろしさを知った。

 

続々と血走った目をした兵が集まり、ヒルダを殴ろうと一点に押し掛ける。 

「なぁ、アリア。」

俺はアリアに声をかけた。

「な、なによ……。」

「拳銃、払い落として正解だろ?」

すると、アリアは思い出したかのようにガバメントを拾うと

「……そうね。ありがと。」

アリアは小さな声で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒルダが不死身で、しかも傷がすぐ回復する事を近衛師団の兵達は理解したようだ。なので、彼らはさらに嬉々としてヒルダをタコ殴りにしていく。

 その姿を尻目に、俺達は近衛師団の士官から軽い事情聴取を受けていた。

「村田大尉殿、拳銃を撃った理由は?」

汚れ一つない軍服を身に着けた中尉が、調書を取るために質問をする。

「民間人に危険を知らせるために上空へ向けて撃ちました。使用したのは空砲です。」

 ……空砲にしておいてよかった。

「そうですか。ご配慮ありがとうございm……。」

  ドカーーン!!!

俺と中尉は音がした方向へ顔を急いで向けた。そこには……白銀のICBMが道路に突き刺さっていた。

「「ICBM!?」」

俺と中尉は声を上げて驚いた。なんで皇居前にICBMが落ちるんだ!?

 ……このICBM は爆発しない。となると……乗り物の方か!?

俺はイ・ウーで見たICBMを改造した乗り物を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 ICBMは白煙を上げながら側面のハッチが開いていった。キンジやアリアも事情聴取をいったん止め、ICBMを唖然としながら見つめている。

「……少し、手遅れだったか。君がアリアだね?一目でわかったよ。」

日の光を背に、‘‘Polaris 05’’と描かれた白銀のICBMから姿を現したソイツはどこか海外の武偵高の制服だと思われる、灰色のブレザーを着た男装少女だった。

 その男装少女は清潔感溢れる艶のある黒髪をひらめかせ、タッとハッチから地面へ降り立った。

 そしてやっと、今の状況を男装少女は理解したようだ。

「……え?」

男装少女は周りを見渡した。そこには……血走った眼をし、紅の戦化粧を体全体にした千を超す兵士がギロリと獲物を捉えた。

「クク……クククククク……」

「獲物が増えたぁ……」

「今日は祭りだなぁ……」

「カカカカカ……」

兵の中から歓喜を押し殺す声が聞こえてくる。

 ……ご愁傷様。

俺は思わず男装少女に手を合わした。

「……ご、誤解だ。誤解なんだ……。」

男装女子はその兵達の異様に高まる士気のせいか、後ずさりをした。

 

「確保ぉおおおおおおお!!!!」

 

俺を聴取していた中尉が体の奥底から叫んだ。

「ヒャッハァアアアアアアアア!!!」

「今日は祭りだぁああああ!!!!」

「ロケットをこんな場所に落とす不届き者めぇえええええええ!!!」

「コロス!!アイツコロス!!!!」

「キィィェェエエエエ!!!!」

「う、うわぁああああ!!!!」

ヒルダをあまりボコせなくて鬱憤が溜まっていた一部の兵達はこぞって男装少女に群がっていく。男装少女は泣きながら白銀の剣を振り回すが……意味がない。

 ……あ、男装少女の持ってた剣が吹っ飛んだ。

そうして、彼女の姿は人波に消えていった。

 ……あの男装少女、アリアの事知っていそうだったんだが。誰だったんだろう。

俺はそう思いながら、皇居前にICBMを落とした男装少女(どうしようもないバカ)の冥福を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、駆けつけた警察に状況を説明し、改めてやってきた護送車に乗せられ拘置所へ向かうかなえさんを俺達は見送った。

「……あの、ちょっといいかい?」

「はい?」

一人の中年刑事が俺に声をかけてきた。

「……あれ、どうすればいい?」

その中年刑事の指さす方向には……2点に群がって、血祭りをやっている集団がいた。

「……さらに上の者を呼ばないと止まらないと思いますよ?」

近衛師団は忠義が厚いのも有名だ。そんな集団が、皇居近くでヒルダ(テロを起こそうとしたバカ)男装少女(ICBMを落としたアホ)を許さないはずがない。

「……それしかないよなぁ。」

中年刑事は大きなため息をついた。

「頑張ってください。」

俺はその言葉をかける以外はできなかった。

 

 

 

 虎ノ門まで歩いて帰る連城弁護士、電車で帰るキンジとアリアと別れ、俺はリサと理子を連れて高機動車で戻ることにした。なんでも、アリアとキンジは話があるらしい。

「あのヒルダが……あんなに簡単に……。」

理子はヒルダのやられっぷりに衝撃を受けたのだろう。理子はポツリと言った。

 ……理子は吸血鬼親子に虐待されてたんだっけか。

「日本の最強部隊の一つだしなぁ……あのぐらいは普通じゃないか?」

俺もあのヒルダの純粋な戦闘力は低いと見ている。

 ……ただ、あの影(?)の力は厄介だけど。

「まぁ、なんだ。ヒルダが運よく近衛師団から逃げて襲ってきても守ってやっから……。気にすんな。」

「……うん。」

高機動車に‘‘俺ら東京さ行ぐだ’’が響いた。

 

 

 

 

「……雰囲気と曲が合ってないですね。」

リサがぽつりと言った。

「……なんで戦闘前には第九が流れたのに、今はこれが流れるんだよ。」

「……クク。」

理子が笑いを押さえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、

  『L・Watson』

と、包帯とガーゼでグルグル巻きにされ、端正な顔も(あざ)で見るのも痛々しい姿になった男装少女が黒板に流暢(りゅうちょう)な筆記体で書いた。

「「「「「「キャー!!!」」」」」」

と、クラスの女子が黄色い声を上げた。あまりの歓声に、高天原先生は教壇から足を踏み外した。

 ……あいつ、あんな事してよく釈放されたな。

俺はクラスの女子とは違う意味で声を上げた。

 

 

 

 数分前、高天原先生が

「それでは皆さーん、スペシャルゲストの転入生を紹介しまーす!!マンチェスター武偵高から来た、とーってもカッコイイ留学生ですよー!!」

とニコニコ顔で喋っていたが……まさかこいつだとは思わなかった。 

 

「エル・ワトソンです。これからよろしくね。」

男装少女ははそう言って一番後ろの席に着いた時、朝のホームルームの終了のチャイムが鳴った。それと同時に歓声をあげて女子達がワトソンの席を取り囲む。

「ごめん、ちょっとどいてもらっていいかな。」

男装少女(ワトソン)はぎこちない笑顔で囲んだ女子達を掻き分け、俺とキンジ、アリアの座る席へ来る。

「アリア、トオヤマ……そして君がムラタだね?ちょと話があるんだ。屋上へ来てくれないか?」

 

 

 

 

「で?なんか用でもあるのか?戦争になってもおかしくないことをした犯罪者さんよ。」

「……それは誤解なんだ。本当だ、信じてくれ。」

俺達3人はワトソンに連れられ(よく屋上への通路を知ってたな)、屋上に出た。

「アリアの危機と知って急いで向かったら、そこだったんだ!!決して日本と戦争したいなんて思ってない!!……それに、イギリスは日本に対して多大な賠償をすることに決まった。僕もこの任務が終われば降格処分さ。」

ワトソンはやけっぱちに言った。

 ……イギリスも甘いんだなぁ。それとも日本(こっち)の交渉人の能力がなかったのか?

「何しにここへ来たんだ?」

キンジはぶっきらぼうに聞いた。

「僕は……許嫁のアリアと、義理の母親を助けに来た。それだけだよ……。」

ワトソンは髪をかき上げそう言った。

「……許嫁?」

キンジは捻りだすように、何とかその単語を口に出した。

「あぁ……アリアは、僕の婚約者(フィアンセ)だ。」

 

 

 

 

「顔に大きな(あざ)作ってカッコつけてもなぁ。」

「…………。」

冷たい風が、一陣吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて教室に戻り、一般科目の授業が始まった。その一限の英語はともかく、数学、生物、挙句の果てには日本史に至るまでワトソンはしっかりとついてきた。

 ワトソン曰く

「少し予習してきたからね」

 ……うん、英語に数学、生物は英語を訳せばできるだろうけど、よく日本史を勉強したな。結構ニッチな範囲だぞ?

 

 

 

 

 休み時間になると自分を囲む女子たちに、いろんなことを苦笑しながら言うワトソン。

 ……女子たちは、ワトソンが女だってことをわかっているんだろうか?どう考えても重心の位置から考えて女だし、筋肉のつき方を見ても異常な胸の盛り上がり……。わっかんないもんなのかねぇ?

俺はHS部隊のメガネさんにメールを打ちながら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一般授業は終わり、一般校区から専門校区へ移動するため、巡回バスをキンジと待っているのだが……全然来ない。

 高機動車はちょっと歩いた場所に置いているため、取りに行くのは面倒なのだが……。

「キンジ、とってくるわ。」

「あぁ、頼m……。」

俺が高機動車を取りに行こうとした瞬間、目の前に黒い車が止まった。

 ……外車?

俺はボンネットのエンブレムを見ると……‘‘ポルシェ’’。しかも左ハンドル。運転席を見ればワトソンがいる。

 ……日本の道は左側通行だから、右ハンドルの日本車……又は英国車のほうが楽だろうに。

 

すると、ワトソンはサングラスを外し、

「やっぱりトオヤマとムラタか。」

そう言った。

「バスは来ないぞ。前の交差点で強襲科(アサルト)の生徒同士が車内で乱闘していた。駆けつけた蘭豹先生が怒ってバスを横転させていたから、しばらくは通行止めだよ。」

「おう、伝えてくれてありがとよ。」

俺は頭を押さえながら言った。

 ……また強襲科(アサルト)か。頭が痛い。うちは公共交通機関の中では大人しくすることもできないのか。

「乗れ、二人とも。徒歩でも間に合うだろうが…‥探偵科(インケスタ)強襲科(アサルト)まで送ろう。君たちとは少し話したいことがあるからね。」

そう言ってワトソンはドアを開けた。

「お、ありがとな。助かるわ。」

俺は大人しく後部座席に乗り込んだ。

「お、おい!!」

「車の中で何かしようとは思わんだろ。」

キンジは渋々ワトソンのポルシェに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……君たちはそう見えて、女たらしらしいな。」

車が発進し、しばらくしてからワトソンは呟いた。

「そう言われているらしいな、女子には。」

キンジはそう言ってドアに膝をつき、頬杖をついた。

「……キンジはともかく、俺も言われてるのかよ。俺なんてこいつのような甘い言葉なんてしゃべれねぇのに。」

「おいこの野郎……。」

キンジはミラー越しに俺を睨むが……

「否定できんのか?」

「……いつも適当に茶々入れるか、汚い英語言うもんな。‘‘イピカイエ―・マザーファッカー’’だっけ?」

「おう、やるのか?」

「君たち……これは新車なんだ。喧嘩はやめてくれ。」

ワトソンの言葉に俺達は渋々喧嘩を収めた。

「僕は、そう言うのが一番嫌いだ。じょ……女性に対する……その、ふしだらさ。それは最も良くない。非常に最悪だよ。」

そう言いながら、ワトソンはハンドルを握る手に力を入れた。

「お前さんの性別からしたらそう感じるだろうけど、おr……。」

  キキー!!!

ハンドルが思いっきりブレた。車はスピードの出たまま蛇行運転をする。

「ば、馬鹿野郎!!運転が下手なら見え張って高級車を高速運転すんじゃねぇ!!!」

俺は思わず叫んだ。

「君が動揺させたんだろう!!」

ワトソンがそう言い返した。

 ……シートベルトが無かったら、今頃地面に叩きつけられていたぞ!?

俺はワトソンの運転が一気に恐ろしくなった。

「……まぁいい。…だからアリアには、君たちの部屋に住むのはやめろと言っておいた。」

「ありがたい話だな。俺は迷惑してたんだ。」

そう言ってキンジは鼻を鳴らし、頬杖のついたまま外を眺めていた。

「なんとなく、君とは気が合わないみたいだな。」

「なんとなくじゃない、俺もそう思うからな。」

ワトソンとキンジは互いにそっぽを向きながらそう言った。

「こんな言葉を知ってるか?‘‘嫌よ嫌よも好きのうち’’」

「「ちがう!!!」」

  キキ―!!!

またワトソンのハンドルがブレた。

「「うわぁあああああ!!!」」

 

 

 

 なんだかんだありながら、やっと探偵科(インケスタ)の前に着いた。

「アリアとは、お互いに成人してから正式に組む予定だったが……その前にまず、トオヤマをアリアから遠ざける。アリアは君を気に入っているようだからな。」

ワトソンはむっとしながら言った。

「勝手にしろよ……。送ってくれてありがとな。」

キンジはそう言いながらワトソンのポルシェ(ロデオ)から脱出した。

 ……いいなぁ、俺も早く脱出したいんだが。

「よく覚えておけ。アリアのベストパートナーは僕だ!!」

ワトソンは宣戦布告するようにキンジに言うと、車を再び発進させた。

 

 

 

 

 

「そう言えば聞きたいことがあるんだが……。」

俺はワトソンに話しかけた。

「なんだい?」

「何だって男装して、アリアの婚約者を演じているんだ?」

  キキー!!!

ワトソンはまたハンドルを思いっきりブラした。

 ……いま、対向車とギリギリですれ違ったぞ!?

「ば、馬鹿野郎!!!ちょっとやそっとでハンドルをブラすんじゃねぇ!!!」

「ぼ、僕は男だぁ!!」

「それは関係ぇねぇだろうが!!」

 ……俺は本日数度目の命の危機に会った。

「……まぁいいや。百歩譲ってワトソンが男だとしよう。テメェがアリアを寝取る理由が見つかんねぇ。どういうことだ?」

  キキー!!!

ワトソンのポルシェは蛇行しながら急ブレーキをかけ、何とか強襲科(アサルト)の前に止まった。

「ぼ、僕は寝取りとかそう言……。」

「わかった!!わかったから!!人の趣味をどうこう言わないから!!」

俺はフラフラとしながら、何とか車を脱出した。

「全く……男装しても容姿端麗(ようしたんれい)で可愛いんだ。女の姿でも十分可愛いとは思うんだがなぁ。」

 ……まぁ、中身は結構黒そうだけどな。

俺がそう呟いた。

「か、かわいい!?」

ワトソンは顔を真っ赤にしながら俺に言った。

「何顔赤くしてんだよ。」

「う、うるさいなぁ!!」

ワトソンはそう言ってフラフラと車を発進させた。

 ……ちょっとした言葉で動揺するって、あいつ大丈夫なのか?

俺はそう思いながら強襲科(アサルト)の校舎に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  キキー!!!ベキ!!ドカーーーーン!!

「あいつ!!本当に大丈夫か!?」

音の方向には、電柱柱に突っ込んだポルシェが煙を吹いていた。

「おい!!ワトソン!!!大丈夫か!?」

俺は電柱柱に突っ込んだポルシェに駆け寄った。

 




 ついに近衛師団の登場です。内堀通りの……しかも近衛師団の司令部庁舎のある上野でドンパチ起こすとか……よっぽどの自信家か馬鹿ぐらいでしょう。

 ワトソンはまさか皇居の近くで戦闘が起こっていると思わなかったので、
「誤解だ!!」
と言っていますが……東京のような密集地帯にICBMで来るという考えがおかしいなぁと。

 ‘‘俺ら東京さ行ぐだ’’いい歌ですよね。自分は好きです。まぁ、でもシリアスシーン(笑)で流れる曲じゃないだろうと。

 Next Ibuki's HINT!! 「嫌がらせ」


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男装バレバレなんだけど……

 やっと夏休みだぁああああ!!いっぱい書けるぜぇええええ!!!
店長「お前、8日から夏休みだよな?」
作者「え?そうですが。」
店長「お前、テストとかであんまり出れてなかったから多めに入れとくな?」
作者「え!!ありがとうございます!!」

 後日、シフト表貰った時
作者「8日からほとんど休みないじゃん……。」
……泣きそう。


 ついでに、今年の夏の旅行は何処に行こうか考え中です。去年は京都に行きました(カブで)。


ワトソンのポルシェが電柱に突っ込み、廃車になってしまった翌日、

  バキッ!!

「ぐおぉ!!」

4時間目のバレーボールの授業中、体育館のコートの中でキンジのうめき声が響いた。

 ワトソンのスパイクが、キンジの顔面に突き刺さったのだ。キンジの顔に突き刺さったボールは、ワトソンのチームへ向かって宙を飛ぶ。

「えいっ!!!」

再び、ワトソンのスパイクが俺とキンジのチームのコートへ向か……

  

  バァン!!

 

「ゴファ!?」

わなかった。ワトソンのスパイクは再度キンジの顔面に当たり、またもワトソンの陣地へボールは飛んでいく。

「「「キンジ(キンジ君)!?」」」

キンジによる2度の顔面ブロックに、同じチームの俺・武藤・不知火は思わず声を出す。

 キンジは……何とか立っていた。キンジの意識は朦朧(もうろう)としており、顔を真っ赤にし、鼻血を垂らしながらも……己の意思で、地面をしっかりと踏みしめていた。

 今は14対14の同点、時間は20秒もない……。キンジは、醜態(しゅうたい)をさらしてでも勝とうと必死だった。

「やぁああああ!!!!」

 

  パァン!!!

 

ワトソンのスパイクが再び俺達のコートを襲う。

  ズバァアアアン!!!

キンジは今度も顔面で何とかボールを拾った。キンジが必死に拾ったボールは俺達のコートの頭上に浮いている。

 

  バタン……。

 

俺の近くで誰かが倒れた。きっと……(キンジ)が力尽きたのだろう。

 

 ……お前の死は、無駄にしねぇ!!!!

 

俺はキンジが己の命に代えてでも拾ったボールをトスする。

「行けぇえええ!!!!武藤ぉおお!!!」

「うらぁあああああ!!!!」

  ズドォオオオオン!!!

武藤の渾身のスパイクは敵のブロックを抜け、地面にぶつから……

「負けるかぁああああ!!!!」

敵がスライディングをしながら武藤のスパイクを拾った。

 

 ……嘘だろぉ!?

 

敵はボールをつなぎ、再びワトソンがスパイクをする。

  スパーーン!!

 

 ……チクショウ!!ワトソンの球は取れない!!負けるのか!?

 

  ズドン!!!

ボールは鈍い音ともに、宙へ跳ね上がった。

「え?」

そこには……倒れてもなお、顔面でボールを拾ったキンジがいた。

「き、キンジーーーー!!!」

俺は思わず叫んだ。キンジは、死んでも俺達のためにボールを顔面で拾ったのだ!!

 キンジの顔面で拾ったボールは虚しくもまた敵チームのコートへ飛んだ。

「えぇええい!!」

ワトソンが何度目かのスパイクを放つ

  ズドン!!

ワトソンの放ったスパイクは再びキンジの顔面にぶつかり宙へ舞う。

「これでも喰らえ!!!」

ワトソンがまたもそのボールにスパイクを打つ

  ベキ!!!

キンジは何度も顔面でボールを拾い、顔は鼻血で真っ赤になっている。

  ポーン……

ボールは敵陣の奥の方へ飛んでいった。

 

 

「武藤!!不知火!!キンジと一緒に勝とうぜ!!」

俺は二人に叫んだ。

「おうよ!!」

「……村田君、知らないよ?」

俺と武藤と不知火は白目をむいたキンジを抱え、持ち上げた。まるで、キンジの顔でブロックするように。

「これで終わりだァアアアア!!!」

ワトソンが最後の力を振り絞り、スパイクを撃とうと……

「キンジ行けぇええええ!!!!」

「防げぇええええ!!!!」

「遠山君、ゴメンね。」

  メキィ!!

キンジは顔面でそのスパイクを防いだ。ボールは敵陣に落ちていく。

  ポンポンポン……

 

 

 

 キンジの顔に当たったボールは、そのまま敵陣に落ちた。

  ピーーーー!!!

「「「「「「うおぉおおおお!!!」」」」」」

この試合を見ていた全員がキンジへ走り出した。

「「「「「「キンジ!!キンジ!!キンジ!!」」」」」」」

担架(たんか)に乗せられたキンジをみんなで神輿(みこし)の様に担いだ。

「「「「「「キンジ!!キンジ!!キンジ!!」」」」」」」

キンジの乗った担架(たんか)を揺らしながら、興奮する集団は医務室へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 この日、キンジは武偵高の伝説となった。彼のその雄姿(ゆうし)はみんなの心に刻み込まれた。……キンジは今も、みんなの心の中で生き続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなるからさ……。やったねキンジ!!今日から有名人だ!!」

「あぁ!?」

俺・武藤・不知火はあの後、学食にて席に座るキンジの前で、床に正座をしていた。

「いや……流石に最後のは悪かったけどよ……。結果として飯奢ってもらえたじゃねぇか。」

武藤はそう言ってキンジに弁解する。

 

 

 そう、今日の体育の講師が気持ち悪いぐらいに機嫌がよく(なんでもカジノでぼろ儲けしたらしい)、バレーの試合で勝ったチーム全員に昼飯(1000円以内)を奢ると約束したのだ。

 それを聞いた、いつも飢えている男子高校生達が全力を出さないわけがない。一時は銃で勝敗を決めようとしたようだが、

「銃とか刃物使った奴は蘭豹先生と綴先生に好きにしていいって突き出すぞ。」

この講師の一言で、珍しく健全にバレーの試合が行われた。……恐るべし、蘭豹と綴。

 

 

「キンジだって金がねぇって言ってたじゃねぇか。確かに最後のは悪かったけどよ……飯と相殺できるだろ?」

俺はキンジに言った。

 

 ……そろそろ足が(しび)れてきた。

 

「俺は飯欲しさに体を売ってねぇ!?」

キンジはそう言ってガーゼと包帯だらけの顔を指さした。

「まぁまぁ遠山君……。」

不知火がキンジを落ち着かせようとするが……

「不知火、お前も関与してたのはよく覚えているからな?」

「……アハハ」

不知火は苦笑いをした。

 

 

 

 

 

 キンジは大きなため息をつき、二枚カツ丼大盛(980円)を頬張った。

「もういい。」

「ほんと悪かった。今度奢る。」

俺はそう言って立ち上がった。

「神戸牛の霜降りステーキが3食も食えるのか。ありがとな。」

キンジのその言葉に俺達3人は固まった。

 ……神戸牛の霜降りステーキは学食で一番高い奴じゃねぇか!!

「「「ちょtt……」」」

「あぁ!?」

「「「……分かりました。」」」

俺達は倒れこむように椅子に座った。

 

 

 

 

 

 ……出費がでかいなぁ。

俺はそう思いながら箸を持ち、そば付き天丼大盛(890円)を食べ始めた。

「でもなんだってキンジの顔面ばっかりワトソンは狙ったんだ?キンジに恨みでもあるのか?」

俺はそう言った後、そばを(すす)った。

 

 ……あぁ、やっぱり逆二八だな。

 

「俺もそう思ってたんだ。あんなに顔面にぶつけるなんて、よっぽどの事じゃないとやんねぇぞ!?」

武藤は二枚カツカレー大盛(950円)を頬張った後、大声で言った。

「そうだね。正確に遠山君の顔にぶつけられる技量があるんだ。彼だったらこの試合は余裕で勝てたはずだ。」

不知火も海鮮丼(990円)を食べ、ちゃんと飲み込んだ後そう言った。

「恨み……?そういえばアリアの婚約者だからって、俺に宣戦布告してたな。イブキだって見てただろ?」

「え!?あれだけ!?」

俺はキンジの言葉に驚愕した。あの後なんかあったと思ってたんだが……。

「うわぁ……今度は神崎さんを遠山君と彼で奪い合うんだ。」

不知火はニコニコと……満面の笑みで言った。

 

 ……不知火は他人の色恋沙汰、好きだよなぁ。

 

「今までキンジの取り合いだったのになぁ。……こいつぁ飯がうまいぜ。」

武藤はこれまた旨そうにカツカレーを頬張る。

「あつっ!!」

武藤は口を押えた。揚げたてのカツか、カレーのルーで火傷でもしたのだろう。

 

 ……天罰でも落ちたのか?

 

俺はそう思いながら天丼をかきこんだ

 

 

 

 

 

 

 俺はパパっとそば付き天丼大盛(890円)を食べ終え、今度はリサお手製の弁当を出した。

「ムラタ……君は結構食べるんだね。」

「んあ?」

そこには、ステーキ・プレートセットのトレーを持ったワトソンがいた。

「ここ、いいかい?」

そう言いながらワトソンは、俺達が有無をいう前に座った。チラリとキンジを見ると、さっきまでブスッとした顔をしていたが、さらに不機嫌になっている。

「ムラタ、君はちゃんと味わって食べてるのかい?早食いは体に悪い。」

ワトソンはそう言った後、胸の前で十字を切り、ナイフとフォークで上品にステーキを切り始めた。

「江戸っ子はせっかちだ。しかも軍にいたから余計に早食いになっちまったんだ。」

俺はそう言って弁当を開けた。

 

 ……あぁ、今日も旨そうだ。

 

「パーティーに呼ばれた時はゆっくり食べる。でもここはそんな堅っ苦しいとこじゃないだろ?」

俺はそう言って卵焼きをつまんだ。

 

 ……うん、出汁がしっかりしていて旨い。

 

「そうか。」

そう言って、ワトソンはニコニコとキンジを一切見ずに一口大の肉を口に運んだ。

 ……空気重くなった。

 

 

 昼食の時間、俺達のテーブルはワトソンが時々しゃべる他愛のない話以外はシーンとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武偵高では、2学期でも月1回は屋内プールで体育をやることになっている。ワトソンとの昼食の数日後、そのプールで体育をする日になった。

 水泳の授業でワトソンが何か仕掛けてきたら、今度は反撃するとキンジは言っていたが……肝心のワトソンは見学だそうだ。

 

 ……なんだってワトソンは男装してるんだ?アリアと結婚していいことは……資産?ワトソンは金をだいぶ持っていそうだしこれはない。貴族の格?たかがそんなために、すぐにバレる男装をするのか?

 

俺はそんなことを考えながら準備運動をしていると、黒い長袖長ズボンのスポーツウェアのワトソンが現れた。ワトソンはグラサンをかけ、パイプ椅子を取り、埃をポンポンと入念に払ってからテーブルの横に広げた。。

 そして、その椅子に膝を揃えて上品に座ってから、何かに気付いたような素振りをした。ワトソンは慌てて、足を組んだ。

 

 ……別に膝をそろえて座ってもいいと思うがなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「よーしガキ共!!?プールを20往復しろや!!!サボった奴は射殺やからな!!!!」

  ズドォオオン!! 

蘭豹はそう言いながら、スターターの代わりにS&W M500を撃って、すぐいなくなってしまった。

 

 ……相変わらずだな、武偵高は。監督しないのかよ。

 

生徒達は一斉にプールへ飛び込み、横向きに20往復した。縦か横か蘭豹は言わなかったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 20往復が終わった後、大分時間が余った。俺は武藤がロッカーから持ってきた雑誌の束から居酒屋特集が組まれた雑誌を取り、ワトソンの傍にあるパイプ椅子を拝借して座った。

「……ん?」

俺はふとワトソンを見た。ワトソンは俺をジッと見たまま固まっていた。

「「……。」」

 

 ……最近、ボディビルのコスプレのために鍛え始めたのだが……そこまでガン見する物か?本職のボディビルダーに比べたら全然筋肉はついていないのだが。

 

俺はワトソンの顔を覗きこむと、ワトソンは顔を真っ赤に染めた。

「……ワトソン。」

俺はワトソンに声をかけた。

「ひゃ、ひゃい!!!」

ワトソンの声は上ずっていた

「おまえの性別上ショウガナイんだが……男に興味があると思われるぞ?」

「ぼ、僕は男だ!!」

ワトソンはそう言って(うつむ)いた。ワトソンの耳は真っ赤になった。

「……まぁそうだとしても、そんなに見るような体じゃないだろ?傷だらけだしな。」

俺はそう言って自分の体を見た。俺の目には、痛々しい縫い痕や銃痕が映った。 

「それがいいんじゃないか……。」

「……は?」

 

 ……今ワトソン(こいつ)、‘‘これがいい’’とか言わなかったか!?傷痕に興奮するドSなのか!?

 

俺は思わず距離を取った。

「な、なんで距離を取ってるんだい!?」

ワトソンはそう言いながら俺の体をじろりと見る。

「いや……傷痕に興奮するドSなんだろ?」

「ち、違う!!!」

ワトソンはそう言って手をバタバタした。

「……おい、ワトソン。体調悪いんなら救護科(アンビュラス)にでも行けよ。」

そう言ってキンジは映画雑誌を手にしながら、近くのパイプ椅子に座った。

「あれ、どうしたの?ワトソン君、調子悪い?」

律儀に縦20回に相当する横34回の往復を終え、濡れた髪をかき上げながら不知火がやってきた。

「う、あ……!?」

ワトソンはそんな不知火を見て後退りをしようとして……

  バタン!!

椅子ごとひっくり返ってしまった。

「……今日は帰って寝ろ。そもそもあんな怪我して、しかも大事故起こしたのに平気なわけないだろ?」

俺はそう言ってワトソンを引っ張り上げた。

 

 ……あんなことあったのに、よくバレーは出れたよなぁ。

 

俺はワトソンの回復力に感心した。

「あわわわ……」

ワトソンは慌てたような声を上げた後、俺の腹筋を見つめながら顔を真っ赤にして静かになった。

 

 

 

 

 

 

「おいイブキ!!キンジ!!これAKB全員載ってるぞ!!!不知火も来いよ!!総選挙やろうぜ!!!」

今度はプールサイドを歩きながら武藤が堂々とグラビア雑誌を広げながら歩いてきた。

「4人じゃあ総選挙は無理じゃないかなぁ」

不知火は苦笑いをしながら雑誌を覗いた。

 

 ……不知火の奴、乗り気だな。

 

「お前らなぁ……そんな事して、何の得があるんだよ。」

キンジもそう言いながら、武藤の雑誌に近寄って行った。

「好みのタイプが分かるくらいか?」

俺もそう言いながら武藤の雑誌を覗く。

「じゃあ、一人につき5票な。おいワトソン、お前も選べよ」

  プシュ!

武藤はそう言った後、コーラの缶を開けて口をつけ、雑誌をテーブルに開いておいた。

「こ、断る!!そ…そ、そんな本!!公共の場で広げるな!!!」

こっちを見ない様に俯いていたワトソンが、プイっとそっぽを向いて言った。

「お、ありがとな。」

武藤が俺にコーラの缶をくれた。俺は口を付けないように一口飲み、不知火に渡した。不知火はありがとう、と小さくお礼を言うとコーラを一口飲み、キンジに渡した。

「まぁまぁ、そう言うなって!!こんだけ居りゃ、絶対一人は気に入る子がいるもんだぜ!!騙されたと思って、全員ザッと見てみろよ!!」

武藤はそう言いながらワトソンと無理矢理肩を組み、と引き寄せる様にして写真を見せた。

「キャッ!!」

武藤の胸に顔を寄せる様になったワトソンは、短く悲鳴を上げた。

 

 ……あいつ、本当に男装するつもりあるのか?

 

サングラスがズレた先にあるワトソンの目は、若干潤んでいる。

「な、なんだよ女みてーな声出して!!……じゃあやんなくていいよ。てか……ちと熱っぽいんじゃねぇのか?ほら、コレやるよ!!熱あるときは気持ちいいぜ!!」

武藤はそう言いながら、キンジが持っていたコーラをひったくり、ワトソンに渡した。ワトソンは手渡されたコーラを両手で受け取り、

「で、でもこれはさっき、君たちが……」

「量が少ないってか?」

「ち、違う!!く、口をつけた物を!!」

「男同士で何言ってんだ。」

俺はため息をついた後、ワトソンの持っていたコーラを奪った。

 

 ……男装しているからショウガナイが、セクハラだからな。

 

「武藤、こいつぁ外国人で、しかも貴族様だ。文化的にそういうのは受け付けないんだろ?」

俺はそう言って助け舟を出した。

「あ、あぁ!!そうなんだ!!おばあ様がそう言ってたんだ!!!」

ワトソンはこれ幸いにと手をブンブン振りながら言った。

「そ、そうか。」

武藤は渋々引き下がった。俺は武藤にコーラを返し、

「ワトソン、蘭豹に言っとくから帰って寝ろ。……付き添いはいるか?」

ワトソンにそう言った。

「あ、あぁ!!ありがとう!!だ、大丈夫さ!!帰らせてもらうよ!!!」

声変わりしていない様な高い声でワトソンは言い、脱兎の如く走りプールを去った。

 

 ……なんだって、あんなにずさんな男装をするんだ?

 

俺は不思議で仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ズルッ!!ビタン!!!

「おい、大丈夫か!?」

 

 ……あんなに勢いよく走るから

 

ワトソンはプールサイドで勢いよく転んだ。

「ッ~~~~!!」

ワトソンはさらに顔を真っ赤(恥ずかしさと鼻血のせいで)にし、スクっと立ち上がると再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その放課後、俺は銀行強盗達をボコボコにし、お縄にし終わった時に携帯電話が鳴った。携帯を見ると……平賀さんからだった。

 

 ……弾ができたのか?結構早いな。

 

「もしもし?」

『あ、村田君!!96式25ミリ機銃の弾が73発できたから、その連絡なのだ!!』

案の定、平賀さんからの電話だった。

 

 ……あぁ、やっとできたのか。修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)で6発消費したから、今は94発しかない。そこで新たに補給できるのは有難いが……

 

「……あの、平賀さん。俺は200発注文したから27発分少ないんだけど。」

俺は200発注文し、100発をすでに受け取った。なので残り100発……27発分は何処(どこ)へ行った?

『実は弾の製造が予定より遅れそうなのだ。だから今できている分を先に渡しておきたいのだ。』

 

 ……製造が遅れる?材料調達に不備でも出たのか?

 

「珍しいな。なんかあったのか?」

教務課(マスターズ)からの緊急依頼で校舎の修繕を頼まれたのだ!!』

「……校舎の修繕?そんなに美味い依頼じゃなかったよな?」

 

 ……車輛科(ロジ)装備科(アムド)では、学校の備品などを整備・修繕する仕事がしょっちゅう回ってくるらしい(原因はだいたい強襲科(アサルト)生徒だ)。だがその修繕の仕事は、1年や単位・金が不足している奴が主に請け負うと聞いている。あの平賀さんが単位や金が足りないとは思えない。

 

『ワトソン君がお金を出してくれて、あややを指名したのだ!!!今月、あややは大忙しなのだー!!』

 

 ……ワトソンが平賀さんを?……なるほど、キンジや俺の兵站を潰しに来たか。

 

「……そいつぁショウガナイや。平賀さん、修繕頑張ってね…っと!」

銀行強盗の一人が袖口から針金を出したので、俺はそいつの手を蹴り、針金を明後日の方向に飛ばした。

『ありがとうございますなのだ!!』

  ッーッーッー

電話が切れた。

 

 ……平賀さんとの会話でわかったことがある。ワトソンはキンジと俺(俺はまだ不確定だが)を目の敵にしているという事だ。理由はアリアとの関係。しかし、ワトソン本人は女性なのだ……

 

「あ……」

俺は銀行に貼ってあったポスターのおかげでわかった。

 そのポスターには、自然の中にある綺麗な湖と山‘‘百合(ゆり)’’があった。

「……同性愛か?いや……両刀か?」

 

 ……同性愛を考えたが、プールサイドで俺達の姿(パンツ一丁)を見て真っ赤になっていた。きっと、アリアが本命の両刀なのだろう。

 

「……面倒になったもんだ。」

  ピーポーピーポー

やっと警察が来たようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワトソンの両刀疑惑が浮上した翌日、トイレから戻ってきた俺にキンジがドヤ顔で

「ワトソンの弱点を見つけたぞ!!」

なんて言ってくるので聞いてみると……くじ運の悪さらしい。

「俺達も運はすこぶる悪いぞ。」

 

……悪運は強いけどな。

 

キンジはその言葉でorzの体勢になった。

 

 

 

 

 俺がトイレに行っている間、ワトソンの変装食堂(リストランテ・マスケ)のくじ引きをやっていたそうで。

1年が休み時間に持ってきたクジ引きの箱のくじを引いたワトソンのお題は……

  『女子制服(武偵高)』

 

 ……男装少女が女子制服を着るなんてなぁ。

 

分かり易く言うと、某女性だけの劇団‘‘宝〇歌劇団’’の男役が女役をやると……うん、違和感ないな。

「Strategy is trick.…… If you don't wanna be suspected, you should show it.」

 

 ……直訳すると、『戦略は策略だ。疑われたくないなら、それを見せよ』。いや、今回の場合は‘‘策略’’より‘‘だまし合い’’と訳したほうがいいかもな。要は、『男装バレるくらいなら、見せちまえ!!』。でも、その言葉をここで言うのは、どう考えても悪手だぞ? 

 

「……イヤだなぁ。イヤだけど……まぁ、やらないと教官に絞られるそうだし。クジを引いたからには、やるよ。すぐに着替えるのかい?」

ワトソンのこの言葉で女子たちは狂喜乱舞。大喜びで自分たちの制服をワトソンに押し付けようと、我先にジャージ片手にトイレへと消えていった。

 男子は男子で「ついに三次元で男の娘が見れる」等と意味不明な事を叫びつつカメラを構えている。

 

 ……女の子が、女の子の格好をするだけなんだがなぁ。

 

その後、女子から制服を借りたワトソンは教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 暫く待っていると、

  ガタン

教室の天井のパネルがずれた。

「せっかくの変装だから、少しサプライズで登場するね。」

そんなワトソンの声が聞こえたと思ったら……

  パッ…スタッ!

天井の穴から教壇へ、制服姿の美少女が降り立った。

 ショートカットのボーイッシュな美少女はSIGを構えながらウィンクをした。

「「「「うぉおおおおお!!!」」」」

今度は野郎共の野太い歓声が上がった。

 

 ……素材は良いと思っていたが、ここまでだとは思わなかったな。そう言えば、最近見てくれはいい子ばっかり会うな。メーヤとかヒルダとかワトソンとか……騙されないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、この一件以降、ワトソンを快くないと思っていた一部の野郎共がワトソンに優しくなっていった。全く、現金な奴らだ。

 まぁそんなことはともかく、ワトソンは晴れてクラス全員の寵児となり、どんどん友達を増やしている。

 そのワトソンと険悪な関係のキンジや俺(なんだって俺もなんだよ)……居場所を奪われ始めていた。

 武藤曰くホームパーティーなんかにも誘われたらしく、うまい物をたらふく食ったと……。

 ワトソンは俺とキンジの外堀を埋めてきたようだ。キンジはワトソンのやり方を小汚いと言っているが……汚い・卑怯は負け犬の遠吠えでしかない。ワトソンの策も立派な戦術だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日の夜、俺とキンジは暇だった。リサはやっと部屋をあてがわれ、自分の荷物を置きに行ってそのまま一泊するそうだ。ネロやエル、牛若、ニトもその手伝いに行ってしまった。

 キンジは今、リビングでベレッタとデザートイーグルのオーバーホールで時間を潰している。

「キンジ、ちょっと部屋にこもるわ。」

「ん?あぁ。」

 

 

 

 俺は自室に行き、25ミリ機銃を整備用の台へ置いた。そしてパソコンとプリンターを起動し、メガネさんと辻さんから送られてきたメールをコピーした。流石に同居人の親友でも、軍からの情報は見せられない。

「ワトソンの情報とかなえさんの件、そして今後の事か。」

俺はその文章を読みながら、25ミリ機銃の簡易整備を始めた。

 

『  エル・ワトソンと神崎かなえについて

  

 時間が無いので単刀直入に書きます。

エル・ワトソンについて

・秘密結社「リバティー・メイソン」の諜報員

・貴族出身で子爵の地位にあり、シャーロックホームズの相棒、J・H・ワトソンの曾孫である。30年ほど前から凋落(ちょうらく)傾向にあり。

・「西欧忍者(ヴェーン)」・「全身武器(プレンティ)」などの二つ名を持ち、薬などを使った戦術、又は奇襲を得意とする。

・ワトソン家はエル・ワトソン以外子供がいなく、そのせいで男装をしている。

 

日本と英国の取引と神崎かなえについてはまだ調査中です。

   メガネより』

 

 ……なるほどなぁ。嫡子がいないから男装すると。アリアに固執する理由については……ワトソン家の凋落(ちょうらく)を防ぐため?それだけだと弱い気がするなぁ……アリアに恋したとすれば納得がいくな。ワトソンはやっぱり両刀だな。

 

俺はそう思いながら25ミリ機銃の分解が終わり、部品を見ると……

「撃針をそろそろ変えないとなぁ……替えはまだあったっけ?」

撃針が痛んでいた。俺は棚を探し、25ミリ機銃用の撃針を見つけた。

「残り4本か……FEW(極東戦役)もあるし、他の部品と一緒に発注しとくか。」

25ミリ機銃は撃針とエキストラクター、尾栓が傷みやすい。俺はどの部品を発注するか考えながら25ミリ機銃を組み立てていると……

  コンコン

ドアがノックされた。俺は急いでメガネさんと辻さんのメールを印刷した紙をしまい、パソコンを閉じた。

「イブイブ、いる?」

理子が来たようだ。

「ちょっと待ってくれ。」

印刷した紙をしまった棚に鍵をかけ、俺はドアを開いた。

「理子か、どうした?」

「イブイブ~、一人寂しく銃の整備ですかぁ~?」

理子は俺を下から覗き上げるように見てきた。

「なんだよ、こんな夜更けに……」

俺は自室の椅子に座り、25ミリ機銃の組み立てを再開する。

 

 ……理子の様子がおかしい。理子の笑顔はぎこちなく、耳には禍々しい気配を放つ蝙蝠の形のピアスを着けていた。何かあったに違いない。……我ながら全く情けない。てやんでぃ、何が「守ってやる」だ。

 

俺は大きなため息をつくと同時に、25ミリ機銃を組み立て終えた。

「ム~……なに?イブイブはこんな美少女がワザワザ来てくれたのに嬉しくないの?」

理子はプク~と頬を膨らます。

  ブシュッ

俺は両手で理子の頬を強めに潰し、某天才無免許医師の漫画に出てくる‘‘アッチョンブリケ’’の顔にした。

「ムゥーーー!!」

その変顔が面白かったので、俺は理子の顔でしばらく遊んでいたら理子が怒ったような(うめ)き声を出し、腕をブンブンと振り出した。

 ‘‘こいつぁたまらん’’と俺が手を放すと、理子の頬が再びプク~と膨らんだ。

「理子、飲酒許可証持ってたよな。」

俺は理子が飲酒許可証(偽造)を持っているのを思い出した。

「え?あれは偽z……」

「俺が見た時は本物だったような気がするんだよなぁ。一杯付き合ってくれないか?」

俺は(ほう)けながら言った。

 

 ……俺は酒が無けりゃ、何があったかも聞けないのか。本当に情けない。

 

俺は自己嫌悪と共に、‘‘酒蔵部屋’’に向かった。

 

 

 

 

 

 俺は貰い物のテキーラ・‘‘ホセ・クエルボ 1800 アネホ’’とショットグラス、岩塩とライムを持ってきた。

「テキーラ、苦手か?」

「……ううん。」

「そうか。」

そして、俺は銃剣でライムを8等分にし、皿に盛った。

 次に、俺はそのテキーラをショットグラス2つに注いだ。そして左手の甲の人差し指と親指の間の部分を、ライムで湿らし、岩塩を乗せる。その塩をなめ、口の中一杯になったしょっぱさをショット一杯分のテキーラで胃に流し込み、最後にライムをかじった。

 理子はその様子を凝視していた。俺と目が合うと、理子は同じように、そして上品にテキーラを飲んだ。

「いい飲みっぷりだな。」

俺はそう言って、また二つのショットグラスにテキーラを注いだ。

「イブイブもね。」

理子はそう言って腕で口を(ぬぐ)った。

 俺は再び同じようにテキーラを流し込んだ。

「何があったんだ。」

「…………。」

理子は無言だった。俺は三杯目のテキーラを飲み干した。

「言いたくなかったら……いい。ゴメン。」

俺はそう言って、再び自分のショットグラスにテキーラを注ごうとすると……理子がその瓶をひったくるように奪った。そして、理子は注いであったテキーラを一気に飲み干し、もう一杯注いで勢いよく(あお)った。

「お、おい……。」

「……イブイブ。」

理子はユラリと立ち上がり、俺に抱き着いてきた。

「……忘れさせて…全部忘れたいの。昔の、事……アイツ見てから、毎晩思い出すの……もう、耐えられない……」

理子はそのまま静かに泣き始めた。

 俺は理子の背に手を回し、抱きしめた。

「……」

理子はさらに力を入れて俺に抱き着き、俺の服を濡らしていく。嗚咽(おえつ)が聞こえる。

 俺は理子の頭を撫でた。さらに泣く勢いが強まる。

 

 ……俺も辻さんが居なかったら、理子と同じ目にあっていたんだろうか?

 

俺は理子が泣き止むまで、抱きながら頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…頭が痛い…気持ち悪い……」

理子が泣き止むと、顔を真っ赤にしながらそんなことを言い出した。

「酒に慣れてない奴がテキーラのショット三杯、しかも一気に飲んだらそうなるだろ?」

俺はそう言ってテキーラとライム、塩、ショットグラスを片付け、水の入ったコップを渡した。理子はそれを受け取り、ゆっくりと飲み干していく。キンジはもう寝たようだ。

 

 ……勧めた俺が悪いのだが、一気に3杯も飲むとは思ってもいなかった。

 

「うぅ……。」

理子は頭と胃を押さえながらうめき声を出す。

「酔い止めと水だ。これ飲んで寝るぞ。」

理子はそれを受取ろうとした瞬間、

「イブイブ……ゴメンね…」

理子はガシっと俺の体を掴んだ。

「は?」

  オロロロロr……

「おい!!馬鹿野郎!!トイレで吐けって!!」

あえて何をやったとは言わないが……理子は俺に向かって盛大にやった。

「……なんだよ、うるさいな。」

キンジが目をこすりながらリビングに来た。

「き、キンジ!!雑巾!!雑巾持って来て!!!早く!!!!」

  オロロロロr……

 




 キンジの顔面ブロック&セーブネタは、コメディアンの某スコット・ス〇ーリング氏のネタを参考にさせてもらいました。

 ‘‘逆二八そば’’は小麦8に対してそば粉2という、普通の二八そば(小麦2に対してそば粉8)の比率と逆なので、逆二八そばと言われます。

 イブキの‘‘ワトソン両刀疑惑’’は本当なのでしょうか……。

 テキーラの飲み方
 1.塩を舐めます
 2.テキーラを一気に飲み干します
 3.最後にライムをかじります
調べると、‘‘先にライムをかじってからから飲み干し、塩をなめる’’という方法もあるそうです。どっちが正しいのか分からないので、調べたサイトの中で一番多い方にしました。
自分は先にライム派です(酸っぱいの苦手でしょっぱいの大好きだから)。うまく飲めるのが一番ですよ!!



  Next Ibuki's HINT!! 「ウェイトレス」


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その果物は人を殺せるから……

 遅れて本当に申し訳ありません!!バイトに行って、そのまま疲れて寝て……そして起きたらバイト……。もう疲れた……。
 9月前半はバイトがほとんどないので更新が早い……はずです。





 翌日の朝、二日酔いのせいでいまだに頭が痛い理子のために、リサはシジミの味噌汁を作ってくれていた。

「うぅ……。ッ~~~!!!」

理子は頭がまだ痛いのだろう。頭を押さえていた理子は俺を見かけた瞬間、トイレに駆け込んだ。

 

 ……理子ってこんなに酒が弱かったっけ?

 

俺は疑問に思いながら、シジミの味噌汁を啜った。

 

 後日聞いたところ、空きっ腹に強い酒を一気に飲んだことが原因だそうで……。ゴメンナサイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は強襲科(アサルト)戦徒(アミカ)志望の一年から逃げ、その後教室で『戦略Ⅰ』を受講し、キンジと一緒に帰路についていた。

 

 

 

 俺は基本、戦徒(アミカ)はすべて断っているのだが……教務課(マスターズ)の命令により、どうしてもという子はエンブレムをやって落としている。

 

 ……そもそもなぁ……教えられることなんてないからなぁ。

 

 俺は今までの訓練を思い出した。落下傘なしの空挺から始まり、真冬の山のサバイバル訓練(衣服一着のみ可)、遠泳(訓練名:八丈島より泳 い で 参 っ た!!)、行軍訓練(辻さんが地図に定規で引いたラインの走破)、機銃掃射を避ける訓練(時々実弾)、……。これ以外にもキツイ訓練を山ほど思い出した。あんな訓練をさせられられない。

 

 

 

「イブキ、大丈夫か?」

キンジが怪訝な目で俺を見てきた。

「あ、あぁ……軍の頃思い出して……。」

俺はきっと今、遠い目をしているのだろう。よく生きてるなぁ、俺。

「軍の授業に比べたら簡単だったか?」

 

 ……あ、そっち?

 

「まぁ……初歩の初歩だからな。」

まだ授業は3回も超えていない。それなのに難しいことを講義はしないのは当たり前だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は高機動車に乗り込み、エンジンをかけようとした時、隣の通信科(コネクト)の棟から出てきた数人の女子たちがホウキやチリトリを柵の向こうに投げ込んだ。

「なっちー、後はヨロシクねー!!」

そう言って女子たちは商店区へ歩いて行った。

「……あ、は、はい……。」

林の中から声が聞こえた。この声は……

「中空知さん?」

「中空知、か?」

 林の中の人影はその言葉で、ビクっと身震いをした。この反応を見ると、中空知さんなのだろう。

  バサッ!!

「そ、そそその、その声は……む、むら、むた、むたら、むらた君!!!……と、おと、とおやま君!!!」

中空知さんはそう言いながら落ち葉の入った袋を落としてぶちまけ、尻もちをついた。

 

 ……気弱な中空知さんに面倒事(掃除)を押し付けて遊びに行ったのか。子供かよ……

 

俺はため息と共に高機動車のエンジンを止め、ズカズカと林の中に入った。

「ひっ!!」

中空知さんは怯え、尻もちをついたまま、後ずさりをした。

 

 ……え?そんなに怖い?

 

俺はショックを受けながらホウキとチリトリを拾った。

「ちゃっちゃと終わらせようぜ。」

俺はそう言って、中空知さんがぶちまけた落ち葉を集め始めた。

キンジもホウキを一つ拾い上げ、

「武偵憲章1条だ、手伝うよ。」

その言葉と共に落ち葉を集め始めた。

「あ、あ!!いいんです!!別に、いいんで……ひっ、ひっく、ひくっ!!!」

中空知さんは緊張のあまりしゃっくりが出始めた。

「まぁまぁ、知波単の時の借りもあるし。」

 辻さんによる知波単学園戦車道指導の依頼の人数が足りなくて、中空知さんには無理を言って来てもらった事がある。その借りをこんなので返せるとは思えないが……少しでも恩は返さないと。

 

 ……それに、‘‘義を見てせざるは勇無きなり’’だ。‘‘触らぬ神に祟りなし’’という言葉もあるが。

 

俺は集めた落ち葉をゴミ袋に詰めた。

「はひっ……ひくっ!!あ、ありがとうこいしますっ!!あいがと、ございましゅ!!」

中空知さんはスクっと立ち上がり、カラクリ人形のようにカクカクと頭を何度も下げた。

「チャチャッと終わらせようぜ。」

「は、はひっ、ひくっ、ひっく!!」

 

 ……大丈夫かなぁ?これ。

 

 なお、5分もせずに落ち葉を拾い集めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち葉の処理が終わった後、‘‘乗りかかった船だ’’と中空知さんを高機動車に乗せ、送ることにした。

「今日はそ、その……ありがりございました……。」

 

 ……‘‘ありがとうございました’’の間違えか?

 

「ちょっと手伝っただけだろ?いいよ別に。」

助手席のキンジがそう言った。

「そこまで気にしなくていいよ。」

俺はそう言いながらハンドルを握りなおした。

 

 ……それに、サボりを見逃した罪悪感もあるからな。

 

ああいうのは、見ている第三者も気分が悪い。本当に止めてほしい。

「わ、私、誰かに、こ、ここ、こういうの、手伝ってもらったの……は、初めてでしたから……。と、友達とか、ジャンヌさん、ぐらいしか、いないので……。」

中空知さんは相変わらずビクビクしながら言った。

 

 ……そんな悲しいこと言うなよ。ってジャンヌか。

 

俺は宣戦会議(バンディーレ)でフラれてから、ジャンヌの姿を見ていない。

「……ジャンヌがどこにいるか知らないか?」

キンジが中空知さんに聞いた。キンジもジャンヌが心配なんだろうか?

「今、ですか?わ、私の部屋に、と、というか、私とジャンヌさんとの、女子りゅ、女子寮の、相部屋していて……いますよ?」

「え?」

「へ?」

「き、昨日帰ってきて……け、欠席、欠席しました。怪我をしていたので、へ、部屋に、います。」

ジャンヌは……帰ってきていたのか、しかも怪我をして……。

 

 ……なんだかんだあっても、心配だな。

 

「ちょっと、そこに寄っていいか?」

俺は中空知さんに聞いた。

「へ!?ひゃ、ひゃい!!」

俺は野菜や青果が売られている購買の前に高機動車を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一番高いの買ってたけど、これはどうなんだ?」

助手席のキンジが顔をしかめながら言った。

「……これ以外の果物が黒ずんだバナナしかねぇんだぞ!?……流石は武偵、リンゴやミカンぐらいあると思ったんだが……。」

高機動車の窓を全開にしても匂いが伝わってくる……。圧倒的に臭い。中空知さんはあまりの臭さに白目を向き始めた。

「中空知さん、ジャンヌの見舞いに行ってもいい?」

「え、あ、ひゃい……、ひゃう……。」

中空知さんはそう言って気絶した。

 

 ……とりあえず、許可は取ったな。

 

 白目を向いた中空知さんと‘‘果物の王様(ドリアン)’’を乗せた高機動車は女子寮へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異臭のする高機動車は、ジャンヌと中空知さんの部屋がある第3女子寮に着いた。

 俺は異臭のする箱を持ちながら、二人の部屋に上がると……

「おぉ~……」

「うぉ……」

俺とキンジは思わず声を上げた。そこには……音響機器がびっしりと集められていた。

 黒塗りの防音壁に大量の、種類の違うヘッドホンがかけられている。他にも古今東西の通信機、無線機、携帯電話すらある。

 

 ……モールス用の電鍵ですら10以上あるぞ!?おい、これはベルの発明した世界初の電話のレプリカじゃねぇか!?

 

 

 失礼なことではあるが……多種多様な通信機に囲まれた部屋をキョロキョロと見ていた。すると、その部屋にある唯一の機械でない物……観葉植物と小さなサボテンを見つけた。観葉植物には‘‘トオヤマクン’’と書かれた小さなプラカードが刺さっており、サボテンの小さな植木鉢には‘‘ムラタクン’’と書かれた可愛いシールが貼られていた。

 

 ……見なかったことにしよう。

 

俺は視線をそらした。

「ちっちっ違います!!!しょ、植物に、話しかけたりとかしてましぇん!!!そ、そこまで孤独じゃありせんよっ!!!」

中空知さんはヘッドホンの空き箱で観葉植物を隠し、同時にサボテンを持って背中に隠し、涙目で弁明を開始した。

「……いや、珍しい種類の植物育ててるんだな。」

俺はそう言って目をそらした。

「ガサ入れしに来たわけじゃないから……ジャンヌは?」

「ジャンヌさんは!!そち、そちら!!です!!」

キンジの言葉を聞き、中空知さんは涙目でドアを指さした。そのドアは古城にでもありそうな、上品な雰囲気を醸し出す、木目調のドアであった。

 

 ……一目でジャンヌの部屋ってわかるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は‘‘果物の王様(ドリアン)’’の箱を抱えながら扉をノックしたのだが……反応はなかった。

 

 ……寝ているのか?

 

俺は思わず抱えている箱を見た。相変わらず異臭がムンムンとする。

 

 ……枕元に置いたらどんな反応をするんだ?

 

俺はそんなくだらないイタズラを思いつき、そっとドアノブに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 ドアを開けると、マホガニーの机、ガス灯のような古風なルームランプなど……一流企業の幹部や政治家が高級ウィスキーやブランデーを傾けていそうな、シックで洒落た部屋だった。

 本棚にはフランス語に英語、日本語の歴史書や小説、少女漫画、〇―ガレット……。

 

 ……コスプレが好きだと知っていたけど、こういうのも好きなのか。

 

 この部屋にはベッドが無い。どこにいるんだろう……と、キョロキョロすると、

  ごそ……ごそ……

その音の方向を見ると、もう一部屋あった。そこで寝ているのか?

 

 

 

 

 

 

 俺はそーっと開けると……そこには大量のフリフリな服がウォークイン・クローゼットの様にかけてあった。

 

 ……コスプレが趣味なのは知ってたけど、ここまでのガチ勢だとは思わなかったぞ!?

 

 俺は戦慄を覚えながら‘‘衣装のジャングル’’を潜り抜けた。

「フフッ……やはり良いな。」

 

 ……おう、いきなりですか。

 

 そこには、ジャンヌがウェイトレス姿で、キリっとした顔で立っていた。

 全身が映る大きな鏡の前で、膝に片手をついて前かがみになったり、振り返りながら背中の大きなリボンの細かい調整したり、腰に手を当てたりしてポーズをとっていた。

「フッ……私はこんなにも愛らしい……フフッ……。ん?変な(にお)いが……。」

鏡のジャンヌと目が合った。

「「……。」」

時間が止まったように感じた……。

 数秒か、数十秒か、数分だったかもしれない。お互い鏡越しに目を合わしたまま、二人とも動くことができなかった。

  ドスン!

俺は手汗のせいで、‘‘果物の王様’’の入った箱を落としてしまった。

「……やベっ!!」

「ッ~~~~~~~!!!!!」

銀髪美少女ウェイトレスは拳を握って俺に振り向いた。

「待て、落ち着け!?すごく可愛いから!!美少女待ったなしだから!!だから暴力系美少女になるのだけはやめよう!!……な!?」

俺は必死になって弁明(命乞い)をするが……ジャンヌは顔を真っ赤にしながら俯き、

  チャキ……

背中から魔剣(デュランダル)をゆっくり抜いた。

「ちょ、ちょっと待て!!どうやってそんなでかいの隠せるんだよ!?物理的におかしいだろ!?」

 

 ……そんな細い体にどうやって仕込んだんだよ!?

 

「……この部屋を見た者はいない。ここは私だけの秘密の花園だったのだ……。そして……今後もこの部屋を知る者はいないだろう……。」

  チャキ……

ジャンヌはスッと魔剣(デュランダル)を振り上げた。

「……私とて慈悲の心はある。辞世の句を聞いてやろう。」

 

 ……え!?マジで殺す気!?

 

「…………クールな美少女が顔真っ赤にして、コスプレするのっていいよね!!!このギャップがいい!!」

俺はサムズアップしながら、ここ数ヵ月で一番の笑顔をした。すると、ジャンヌは聖女のように、すべてを包み込むような笑顔をした。

「生者の為に施しを……

死者の為に花束を……

正義の為に剣を持ち……

悪漢共には死の制裁を……

しかして我等聖者の列に加わらん……

……サンタ・マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を!!!!」

そう言って聖女(ジャンヌ)魔剣(デュランダル)を振り下ろした。

「ちょっと待って!!それウェイトレスじゃない!!婦長だから!!!」

  

  バキッ!!!

  ベキ!!バキ!!ズドン!!!

 

俺は魔剣(デュランダル)によってぶっ飛ばされ、ドア2枚を破り、廊下に落ちた。

「……お、おいっ!!大丈夫か!?」

キンジは俺が吹っ飛んできたのを見て一瞬固まった後、走り寄った。

「……フフフフ。」

ジャンヌは左手に果物の王様(人を殺せる果物)を持ち、右手で魔剣(デュランダル)を引きずりながら、ゆっくりと歩いてきた。ジャンヌの瞳孔は完全に開ききっており、口は三日月形に笑っている。

 

 ……おい待て!!果物の王様(ドリアン)は人を簡単に殺せるんだぞ!?

 

「待て!!落ち着け!!可愛い子がそんな物持っちゃだめだから!!」

「フフフフ!!」

ジャンヌが果物の王様(ドリアン)を振り下ろした。

「……ッ!!」

俺はドリアンを持ったジャンヌの左手に、自分の右の拳をぶつけるようにして、攻撃を防ごうとした。

 すると、果物の王様(ドリアン)が重かったのだろうか……急に止めたせいで慣性力が働き、ジャンヌの手から果物の王様(ドリアン)がこぼれた。

 そのドリアンは勢いよく俺に向かって……

  ドスッ!

「ぐぅ……!!」

右胸に衝突した。俺はその衝撃や痛みを無視し、ジャンヌの左手を握り、一本背負いの要領で地面に投げた。

 俺はジャンヌに馬乗りになり、四肢を動けないように抑えた。

「ジャンヌ落ち着け!!ジャンヌは可愛いから!!めっちゃジャンヌは可愛いから!!お前は可愛くないと思っていても、俺はジャンヌのことを可愛いと思ってるから!!だから恥ずかしくない!!」

 

 ……今は亡き我が母親の秘技‘‘褒め殺し’’!!!

 

 俺は‘‘可愛い’’を連呼し、死んだ母親が良くやっていた‘‘褒め殺し’’を使って何とかジャンヌを無力化しようとする。

「わ、わかった!!わかったから!!もうやめてくれ!!!」

ジャンヌの顔は桃色から朱色に変化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とかジャンヌを褒め殺(説得)し、無力化することに成功した。

「……見舞いに来てくれたのは有難いが、この手土産は酷いな。」

ジャンヌはそう言って、鼻を押さえながら果物の王様(ドリアン)を持ち上げた。

「これ以外の果物が‘‘黒ずんだバナナ’’しかねぇんだよ。東京武偵高(ここ)には……。」

俺はため息をつきながら言った。

 

 ……流石に半額どころか‘‘7割引きのシール’’が付いた果物渡すわけにはいかねぇしなぁ。

 

「……まぁ、気持ちは貰っておく。」

ジャンヌもそう言ってため息をついた瞬間、

  ピピピピピ……

ジャンヌのポケットから携帯の着信音が聞こえた。

 ジャンヌはポケットから携帯を取り出し、発信者を確認した。

「……中空知だ。」

「中空知?中空知は隣の部屋にいるだろ?」

キンジは不思議そうに言った。

「あの中空知さんだ。面と向かって話せないだろ、あの性格だし。」

「……なるほどな。」

 

 

 

 俺達はそんな話をしている間、ジャンヌは携帯に出てしばらく話していた。その後、

「うむ……わかった。村田、遠山、お前たちは向こうの部屋で待っていろ。お前たちを見ると中空知は本領を発揮できなくなる。彼女とはこの携帯で話せ。」

ジャンヌはそう言ってさっきまで話していた携帯を渡してきた。

「ん?あぁ、分かった。」

俺はそう言って、ジャンヌの携帯を受け取った。

「先週、中空知に何か以来したらしいが……それか。」

キンジはジッとジャンヌを見ながら言った。

 

 ……え?そんな事やってたの?

 

「そうだ。エル・ワトソンの会話を盗聴させている。私は奴を疑っているのでな。」

俺は二人が話している間、多人数で話せるように設定した。男二人が一つの携帯に耳寄せるなんてことはやりたくない。

 設定した後、ジャンヌの携帯をキンジに渡し、俺は自分の携帯を耳に当てた。

「奴は動いたらしいぞ。アリアとリサが一緒に話している。」

 

 ……リサだと!?

 

 俺は頭の回転が一瞬止まった。リサは昨日できなかった掃除をすると張り切っていたはずだ。仮に買い物に行ったとしても……リサには自衛能力が皆無だ。ワトソンはリサを簡単に拘束できる。

 

 ……あいつなら、人質にする可能性があるぞ!?

 

 とても嫌な予感がする。

「ッ……!!!!」

「おい!!イブキ!!」

俺は血がにじみ出てきた胸を押さえながら、ジャンヌと中空知さんの部屋を飛び出した。

 目の前の柵を飛び越えて一気に1階へ飛び降り、高機動車に飛び乗った。

 俺は高機動車のエンジンをかけるとともに、携帯用のヘッドセットを起動した。

「中空知さん!!二人は何処にいる!?」

『今、店内です。台場1-9-1.ホテル日航東京3階、コンチネンタルレストラン、テラス・オン・ザ・ベイです。』

「了解!!!」

高機動車は白煙を巻き上げながら第3女子寮を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は運転をしながら、ワトソンの選ぶ戦場を考えていた。

 

 ……もし、ワトソンがこの辺でドンパチやるにはどこを選ぶ?ワトソンはすでに上野でやらかしている。人が多い場所でドンパチするとは思えない。

 

『……音声(ボイス)、ワトソン、アリア、リサ、車内にいます。車種はトヨタ・クラウン・RS。都道482号線を北東に走行中。』

 

 ……流石にワトソンも高級外車を短期間で2両も買えないか。

 

『ワトソン、アリア、リサに話しかけています。アリア、リサ、ともに返答無し。眠っている模様。』

 

すると、キンジが疑問を抱いたようだ。キンジはどんな眠りかを聞くと……投薬、麻酔などによるものである可能性が高いと中空知さんは答えた。

「やってくれるじゃねぇか。」

俺は思わず呟いた。

 

 ……なるほどな。‘‘イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない’’か。ダージリンの言うとおりだな。

 

『目的地特定できました。場所は建設中のスカイツリーです。』

「流石は中空知さん!!ありがとうよ!!!」

俺はさらにアクセルを踏み込んだ。

 

 ……その戦争、高値で買い取らせてもらうぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 高機動車はさらに加速する。その時、

  プルルルル……

俺の携帯が鳴りだした。発信者は……メガネさん!?

 俺はヘッドセット操作し、電話に出た。

『た、大変なことが分かりました!!!』

メガネさんは銃声や爆音をバックに慌てた声で言ってきた。

「どうしたんですか?」

『ひ、ヒルダが!!上野で事件を起こしたヒルダが逃げたんです!!!』

「……はい!?」

俺は思わず耳を疑った。

 

 ……え?あの近衛師団だぞ!?逃げたりしたら……東京はどうなるんだ!?

 

『昨日、警察に引き渡した後に脱走したようです!!今、近衛師団が血眼で探しているようです!!』

「……ほ、本当ですか?」

 

 ……下手したら、あの近衛師団(化け物ども)は警察庁と警視庁に殴り込みするんじゃねぇか!?

 

『本当です!!見つけたらすぐに連絡してください!!最悪巻き込まれます!!』

「わ、わかりました!!」

  ピッ!!ツー、ツー、ツー……

 俺は今の状態を整理した。ワトソンとの戦闘、ヒルダの脱走、(うごめ)く近衛師団……きっと警察もメンツをかけて動くだろう。なんせ皇居前でテロやったヒルダ(犯人)を逃がしたのだから……。

「…………とりあえず、ワトソンが先だ。」

俺は……考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高機動車は急ブレーキによって、強力な慣性力が車内を襲った。俺はそれに耐えた後、車から降りた。

 見上げた先にある東京スカイツリーは……魔王の居城のようにそびえたっていた。

 この付近に人の気配はない……となると、ワトソンは上にいるのだろう。

「‘‘毒を喰らわば皿まで’’……か。」

東京スカイツリーの階段と、エレベーター乗り場に監視カメラがあった。

 

 ……流石に東京スカイツリーの柱を伝って登るのは無理だ。となると、階段かエレベーターしかない。

 

 

 

俺はエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーター内には監視カメラがない。……油断しているのか、それとも時間が無かったのだろうか。しかし、これは好都合だ。

 俺はエレベーターの天井を外し、そこからエレベーターの外に出た。そして、紅槍を使ってボタンを押し、エレベーターを作動させた。

 

 

 

 

 

 

 ボタンを押して少しすると、エレベーターは上に向かって加速していった。その加速のせいで強烈なGが体にかかる。それは果物の王様(ドリアン)での傷も圧迫するわけで……。

「グゥ……。」

 

 ……めっちゃ痛い。

 

たった数秒が、数十秒にも感じる。

  

 

 

  チーン!!

その音と共にエレベーターが開いていく。

 

 ……俺なら、エレベーターが開いた瞬間に機銃掃射や爆弾を作動させるが……ワトソンはどうする?

 

 エレベーターが開ききった。その瞬間、

  ズドン!!ズドーーーン!!!

爆発音とともに数千発の鉄球がエレベーター内を襲った。

「ッ~~~!!!」

鉄球の数発はエレベーターの天井を貫通し、俺に当たる。

 ダダダダダダダ!!!

そして、煙が収まる前に機銃掃射が始まった。

 

 ……うわぁ、予想道理かよ。チクショウ。

 

 

 

 

 機銃掃射が終わると、俺は‘‘影の薄くなる技’’を使いながら、その階に降りた。

  ダァン!

すると俺の目の前、30センチほどの場所に弾痕が新たに作られた。

 

 ……バレてるってことか。

 

俺は弾が来た方向に銃剣付きの38式を構えた。

「……出てこいよ。コソコソ隠れてねぇでサシで決着着けようぜ。それともエージェントはコソコソ戦わないと勝てねぇか?」

俺がそう言うと、柱の影からゴーグルをかけたワトソンが、H&K MP5を構えながら出てきた。そのゴーグルは暗視装置か、それに準ずる何かだろう。

「まさかムラタが先に来るとは、全くの想定外だよ。」

 

 ……想定外、ね。よく言われるな。

 

 俺は38式を強く握った。

「リサに何をした?」

「どうしたと思う?」

  ダァン!!

俺は38式を発砲した。

「……あ、危ないじゃないか。」

ワトソンの髪が数本落ちて行く。

「俺はリサの安否を聞いてるんだ。……なれない事はしない方が身のためだ、二枚舌の飯マズ(イギリス)エージェントさんよ。」

俺がそう言うと、ワトソンはため息をはいた。

「君はバカか?……その古びた38式歩兵銃(ボルトアクションライフル)、ボルトを引いて装填するまでに、ボクは10発以上君に穴をあけることができる。」

  カチャ……

ワトソンはそう言ってH&K MP5を構えなおした。

「それに……イギリス(UK)では武偵の自衛のための殺人は認められている。そして僕は、治外法権を認めr……。」

「ゴチャゴチャしゃべるな、御託は良いんだよ。……どっちがここで生き残るか、それだけだろうよ。」

俺は空薬莢が薬室に入ったままの38式を構えた。

  ダダダダダダダ!!

ワトソンは発砲した。

 

 

 MP5は比較的早い発射速度、そして異常に高い命中率が売りの短機関銃(サブマシンガン)だ。その命中精度は100m以内であれば狙撃銃に匹敵するほどだ。

 

 

 ……そのおかげで弾を避けやすいけどな!!

 

俺はジグザグに動き、体に当たりそうな弾は銃剣で弾きながらワトソンに接近していく。

  ガチャ…ガコン!!

 38式の装填は終わった。俺は突撃しながら狙いを定める。

  ダァン!!

「うっ……。」

俺はH&K MP5に向けて発砲し、それを破壊した。

「うらぁあああ!!」

銃剣の突きをワトソンは右に避けた。

 

 ……右へ避けるのは悪手だぜ!!

 

 俺は、右に避けたワトソンの頭に銃床を思いっきりぶつけた。

  ベキッ!!

「ぐぁ……」

ゴーグルは割れ、ワトソンの頭から鮮血がほとばしる。

糞袋(くそぶくろ)になる覚悟はできてるんだろうなぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワトソンは銃床で殴られたのと同時に、カウンター気味にククリナイフを突き出してきた。

 

 ……この距離では避けられねぇ!!

  

  ザクッ!!

「チッ……!!」

すでにケガをしている右胸に、さらにナイフによる一本の線を刻み込まれた。

 俺は痛みに耐えつつワトソンの腕をつかみ、38式でその腕を押さえ、肘を無理やり外した。

「あぁあああ!!!」

そして、その苦痛の表情を浮かべるワトソンの(あご)に、アッパー気味に銃床で殴りあげた。

 体の軽いワトソンはそのまま数メートルほどぶっ飛び、そのまま動かなくなった。

 

 ……右胸が痛すぎる。

 

 俺は軽く右腕を回しながらゆっくりと、動かないワトソンへ近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

「……よう、立てよ。寝る時間にはまだ早いぜ。」

ワトソンは動かない。……いや、動いていない。師匠や軍で鍛えられたおかげで、意識の有無ぐらいはすぐにわかる。

 

 ……こういう場合は、敵は奇襲を仕掛ける場合が多い。しかも、ワトソンは地力で負けていることぐらいは理解しているだろう。となると、毒などの薬品・爆薬を使うことが考えられるな。

 

 俺は警戒しながら、ゆっくり近づいていく。

 

 ……千日手だな。

 

 俺はワトソンの奇襲を警戒して動けず、ワトソンも俺が警戒しているせいで動けないのだろう。

 俺はこの時、薬室にはまだ空薬莢が入っていることを思い出した。

  ガチャン!!

 俺がボルトを引いた瞬間、ワトソンは目をカッと開き、紅の唇をすぼめ、吹き矢のようなものを2本、俺に向かって発射した。

 

 ……なるほど、これか。

 

 俺は首を傾けて、針のような矢を避け、もう一本はゲートルが巻かれている部分に当たった。。

  ガコン!!

  ジャキン!!

38式の装填が終わると同時に、ワトソンの袖からスリーブガンの要領で拳銃を出した。

  ダダダダダダダ!!

ワトソンは拳銃を連射しながら距離を開ける。俺は38式を発砲し、ワトソンの拳銃を破壊した。

「……ハァ、ハァ。さ、流石その年でCIA、ペンタゴン、FBI、MI6、ロシアのSVR……それにRAF、FARCにマークされるだけあるよ。」

「マ、マジかよ……。」

それは知りたくなかったな……。

第三次世界大戦を起こせる男(辻希信)の下にいる切り札(ジョーカー)の一つなら警戒しないわけがない。」

 

 ……辻さん、あんたどんだけ警戒されてんだよ。

 

 俺は少し涙が出てきた。

「だが……実際戦ってみて分かった。その上で言わせてもらおう。……僕の勝ちは揺るがない!!!

「……大丈夫か?」

確かに毒矢と思われるものは2本飛んできて、一本は顔へ、もう一本は足に向かってきて、足の方は刺さってしまったが……ゲートルに阻まれ、肌に刺さっていない。

「無味無臭無色の揮発性の毒さ……平衡感覚やあらゆる感覚を狂わせ奪う薬でもあ……あれ?」

ワトソンは、やっと俺が……毒矢が効いていないことに気が付いた。

「……え?あ?う、嘘だ!!針は刺さっているはずだ!!」

「確かに刺さったが……ゲートルに阻まれたがな。」

俺がそう言って一歩前へ出ると、ワトソンは後ずさりをした。

「う、うわぁあああああ!!!」

  チャキチャキチャキ……!!!

ワトソンは全身から金属音を出しながら、肘、膝、ブーツの踵から短いナイフを出し、ククリナイフを持って俺へ突撃してきた。

 俺は銃剣の先を使ってククリナイフを払い落とし、そのまま胸に銃剣を刺した。

  ドスッ!!

 鈍い音と共に、銃剣はワトソンの胸に突き刺さ……らなかった。

 

 ……防刃チョッキを着ているのはわかってたぞ!!

 

「ゴフッ……」

防刃チョッキを着ていても……そのエネルギーを防ぐことはできない。

  ビリビリビリ……バタン

ワトソンはそのまま倒れていった。その際、銃剣に服が引っかかり、破れてしまった。

 

 ……あちゃぁ、防刃チョッキも破れちまった。

 

 その結果、可愛いブラが露出したまま、仰向けに倒れていた。

 

 ……気絶してるのはわかるから、とりあえず武装解除か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はワトソンの武装を解除しながら、こいつの戦闘能力を考察していた。

 

……戦った結果、ワトソンは強かった。強かったが……相性が悪く、しかも俺の土俵の上で戦った結果、こいつは持ち味を全く発揮できず負けたんだ。

 こいつの戦い方は暗器や毒などを使った奇襲・ゲリラ戦法だろう。それを一切せずに、俺に正々堂々(?)戦えばこうなることはわかっていたはずだ。

 毒矢はともかく、暗器やナイフのような短い得物で、銃剣をつけると160センチにもなる38式()と戦うなんて不利に決まっている。

 本気で勝つのなら、序盤で使った指向性対人地雷(M18 クレイモア)をこの階全てに設置し、それらを爆発させながら一撃離脱を繰り返せばいいのに……何故こんな戦い方をした?

 

俺はそう考えながらワトソンの体を調べて武装解除をし、口に指を突っ込んで暗器がないか調べる。

 

 ……まるで変態だな。

 

俺はそう思いながら口内をまさぐると……

「うわぁ……。」

出るわ出るわ……。暗器が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左手でワトソンの口を無理やり開け、右手で口内をまさぐって3つ目の暗器が出てきた時、ワトソンは意識を戻したようだ。

「……あ?へあ?……ッ!!ッ~~~~~!!!」

ワトソンは顔を真っ赤にして暴れ出した。

「……ちょっと待ってな~。これで最後か?」

口内から4つ目の暗器を摘出し、開放すると……ワトソンは一気に距離を取った。

「ムムムム、ムラタァ!!!き、君はなんてことをしたんだい!!貴族の、しかも未婚の淑女の口に!!あ、あんなことを!!!」

ワトソンは涙目で俺を睨んだ。

「……あぁ、とりあえずこれ着てから話してくれ。」

俺はそう言って‘‘四次元倉庫’’から上着を出し、ワトソンに投げ渡した。

 ワトソンはゆっくりと自分の姿を確認し……

  ビクッ!!

急いで上着を拾い、羽織った。

「こんな、こんなに傷物にして……お、お嫁にいけない……。」

ワトソンは俯き、ヒックヒックと嗚咽が漏れ始めた。ワトソンの足元には……ポタリポタリと水滴が落ちて行く……。

 

 ……え?ガチ泣き!?

 

「え?ちょっと待って!!裸になったのは戦闘での結果だし、口に手を入れたのは武装解除のためだからね!?」

「……エグッ!!ヒクッ!!」

 




 ‘‘八丈島より泳 い で 参 っ た!!’’のネタは、戦国武将、宇喜多秀家の鉄板ネタ。某〇ちゃんねる発祥。実際は、宇喜多秀家は泳いでいません。
 このネタを知ったHS部隊幹部たちが面白半分にこの訓練(文字通り)をした結果、年に数回はやるようになってしまった……という設定です。

 
 果物の王様(ドリアン)……それは余りにも臭く、硬い果物……。実際食べたことはありますが……自分は無理だった。
 あと皮はトゲトゲで、しかもめっちゃ硬いです。あれで殴れば普通に人が死にます。


 ‘‘生者の為に施しを……’’のセリフは‘‘BLACK LAGOON’’の婦長:ロベルタのセリフです。ロベルタはベネズエラ出身でこのようなセリフを言うのでカトリックだと思われます。また、フランスも主な宗教はカトリックなので、ジャンヌも同じセリフを言うかなぁ……と。

 
 ワトソンとの開戦シーンは‘‘ゴールデンカムイ’’の杉本VS二瓶鉄造をモデルにして書きました。
 ‘‘ゴールデンカムイ’’とても面白かったです!!‘‘Fate×二瓶鉄造’’を時間があったら書きたい!!(構想はある)
 ……昔、‘‘Fate×ドリフターズ’’を書きたいと言ってましたが……規約に引っかかりそうなので諦めました。え?いや……あのドリフですって、ドリフ。8時だy……


 CIA、ペンタゴン、FBIにマークされている理由は……‘‘おっさん’’こと‘‘ジョニーマクレー’’と一緒にアメリカのテロを(軍や警察のメンツを潰しつつ)解決したせいでマークされています(辻希信の部下という理由はおまけ程度)。その(おまけの)情報を知ったMI6もマークしています。
 SVR、RAF、FARCは逆に計画を潰されたため、マークしています。
なお、この小説はフィクションです。実在の人物、組織とは一切関係はありません。


あとがきがめっちゃ長くなりました。スイマセン。

  

 Next Ibuki's HINT!! 「不利な相手」



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獲物の横取り……

遅れて申し訳ございません。久々の難産でした。
人選を迷い、オチをどうつけようか迷い、書いたけど結局最初から書き直し……と。

 そして、北海道地震により被災された方々のご冥福を祈るとともに一日も早い復興を心からお祈りします。


 俺は必死にワトソンに謝り倒し、何とか泣き止ませた。

 

 ……下手すりゃ訴えられるからな。それだけは勘弁してくれ。

 

「……で、リサは何処にいるんだ?」

俺を上着で上半身を隠し、女の子座りをしながら涙目で睨むワトソンに聞いた。

「……上にいる。安心してほしい、傷一つついてない。」

「そうかい。」

俺は38式を杖のように使い、立ち上がった。そして、階段の方へ歩きながら、‘‘四次元倉庫’’から実包を2発取り出して装填した。

「……ムラタ、君は聞かないのか?なぜ僕がこんなことをやったのか。」

ワトソンはポツリと言った。

「なんだ、聞いてほしいのか。」

俺がそう言いながら振り向くと……ワトソンはコクリと頷いた。

 

 ……確かに気になる。敵はもういないだろうし、いいか。

 

 

 

 

 

 

俺はワトソンの前まで歩き、ドカッと胡坐をかいた。

「何だって男のフリをしてアリアに近づいたんだ。」

俺は頬杖を突きながら言った。

「アリアをワトソン家にいれるためだ。僕と結婚すれば、アリアをワトソン家に入れられる。だから……僕はずっと男として育てられた。」

ワトソンは俯きながら、ゆっくりとしゃべった。

「……そんなのすぐバレるだろうに。アリアの事が好きなら、同性婚ができる国でやりゃぁいいのによ。」

「…え?」

「……え?」

空気が一気に固まった様な気がする。

「ワトソン、一つ聞いてもいいか?」

「うん、君は何か誤解をしている。」

「…………アリアのことが好きじゃねぇのか?もちろんLoveのほうな。俺はワトソンが百合か両刀かどっちかだと思ってたんだが。」

ワトソンの顔はゆっくりと赤くなっていく。

「そ…その、百合か両刀って……。」

「レズビアンか、バイセクシャルか……って言えば分かりやすいか?」

 

 ……この反応を見るとやっぱり

 

「ち、違う!!ぼ、僕は男装はしていても!!普通の恋愛感情を持ってる!!」

ワトソンは俺の襟首を持ち、揺らしながら叫んだ。

「わ、分かったから止めて……痛い、メチャクチャ痛いから!!」

握っている拳が傷に当たってるから!!

「……と、とにかく!!凋落(ちょうらく)傾向にあったワトソン家は、アリアの誕生を知った先々代の当主がホームズ家と密約を結び……ちょうどその冬に生まれる予定だった僕の許嫁にしたんだ。」

ワトソンはそう言って俺の襟首を話した。

「でも、生まれた僕は女子だった。リバティーメイソンの規則では養子は認められなかったから、結婚しかなかったんだ。……ハハッ」

ワトソンはそう言いながら……空元気を出すように笑った。

 

 ……それらをやろうとして、両想い(笑)であるキンジが邪魔だったのか。しかし、なぜ俺も狙った?

 

「なぁ、キンジを狙った理由はわかるが……なんで俺も狙ったんだ。」

「そ、それは……」

ワトソンは顔をさらに赤くし、俯いた。

「……トオヤマの次にアリアに近い男だから……」

 

 ……なんか嘘をついているような気がする。いや、嘘はついてないが本当の理由ではないような気がする。

 

「本当か?」

俺はワトソンの顔を覗き込んだ。すると、ワトソンは目をそらし、さらに顔は真っ赤になる。

「ち、近い近い!!!」

「は、はぁ……?」

ワトソンは両手で俺を無理やり遠のけた。

 ちょうどその時……作りかけの東京スカイツリーから一望できる世界最大の巨大都市(東京)の灯りが、ポツリポツリと消えていく。

「え?」

「……!?」

その代わりに……俺達の上、第二展望台付近に探照灯の光源のように、激しく発光しているものがある。

 俺はメガネさんの言葉が頭によぎった。

 

  『ひ、ヒルダが!!上野で事件を起こしたヒルダが逃げたんです!!!』

 

 

 そして発光体は……ゆっくりと俺達の方へ落ちてきた。

「Watch out!!High!!」

「うるせぇ!!逃げるぞ!!」

俺はワトソンの手を取り、抱え走り出した。

 俺達の体よりも大きい発光体はゆっくりと落ちて行き、地面に接触した瞬間……

  バチバチバチ!!

激しい放電音と共に視界が真っ白になる。

 

 ……ヒルダが、‘‘球電’’を使うだと!?

 

 球電とは、空中を発光体が浮遊する自然現象、あるいはその発光体だ。知名度があまりにも低いので、この現象をUFOなどと誤解することがある。メカニズムはわかっていないが、大きなエネルギーを持っている。直撃して死んだ人もいるそうだ。

 

 ……そんな事、士官学校での補修の時に雑談で言ってたっけ。

 

「「うわぁあああああ!!!」」

俺はそんなことを思い出した後、思考を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り、その日の昼時。

 葛飾区にある公園前の交番に、角刈りで眉が繋がっている警察官が、あくびをしながらパトロール(笑)から帰ってきた。その警官は求人雑誌を脇に挟み、耳に鉛筆を挟んでいた。警官はそのままの姿でガラガラガラっと交番の扉を開けた。

「戻ったぞ~。」

その警官は自分の机にドカッと座り、求人雑誌を開いた。

「あぁ~、金がない!!……こうなったら新しいバイトを探すぞ!!」

警官はそう言って鉛筆で雑誌に何かを書き始めた。

「両ちゃんまた?」

婦警が呆れた目でその警官を見ながら言った。

「……先輩、まだ給料日から一週間も経っていませんよ。」

黄色い制服を着た警官も呆れながらそう言った。

 

 ダッダッダッ!!

すると、チョビ髭を生やした警官が紙を握りしめ、交番に駆け込んできた。

「「ぶ、部長!?」」

「ゲッ!!部長!?」

警官は急いで求人雑誌を背中に隠した。

「りょ、両川!!!貴様というやつは……まぁいい。今日は大目に見てやろう。」

ちょび髭の警官は、手に持っていた紙を机の上に広げた。

「なんです?これ?」

「皇居前でこの前テロを起こした犯人が……たった今、脱走した!!」

「「えぇ~~!!」」

婦警と黄色の制服の警官は驚いたが……眉毛が繋がっている警官は鼻をほじっていた。

「あんなの公安と軍が血眼になって探すに決まってる。そんなに慌てることはなぁい。」

眉毛つながりの警官は鼻糞をピンッと外へ飛ばした。

「バッカもーーーん!!!」

チョビ髭警官の怒号が交番に響く。

「貴様はどうして……まぁいい。この犯人は近衛師団が捕まえ、警察に引き渡した後、脱走したそうだ。後、言いたくないのだが……両川。」

「なんです?」

「捕まえたら……特別ボーナスが支給されるらしい。」

すると、その言葉を聞いた眉毛つながりの警官は目の色を変えた。

「と、特別ボーナス!?……この女ですね!!!」

「あ、あぁ……。」

「では、市民の平和のため!!パトロールに行ってきます!!」

眉毛つながりの男は自転車に(またが)り、ビューンと去っていった。

 

「……ただ事ではないですね。しかも捕まえれば特別ボーナスだなんて……。」

黄色い制服を着た警官はポツリと言った。

「そんな話、今まで聞いたことがないわ。」

婦警もそう言った。

「警察のメンツがあるからな。警察庁と警視庁に兵部省から抗議文が送られたらしい。」

「「うわぁ~……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、東京の某所。

 ある一室に、椅子に座り、パイプを咥えながら必死に机にかじりつく将校がいた。

「……全く、面倒なことになったねェ~。なんだい?HS部隊第1中隊(ここ)の中隊長になって数日で、こんな大事件が起こるなんて……。少しはこっちの都合も考えてほしいもんだねェ~。」

鈴木敬次(すずきけいじ)大佐はボヤキながら、地図にずっと何かを書き込んでいた。

「とは言っても……あんな大罪人、放っておくわけにもいかないしねェ~……。しかも、まさか‘‘あの’’近衛師団が頭を下げてくるとは思わなかったしねェ……。」

  プハァ~……

鈴木大佐はため息交じりの紫煙を吐き出した。

「しかも警視庁が特別ボーナス(懸賞金)を出すなんてねェ……。あの両川勘吉(暴走警官)を使うってことじゃぁない。東京がどうなってもいいってんのかねェ……。」

そして、地図の一部にグルッと円を描いた。

  

コンコン

「瀬島中佐、入ります。」

ノック音と共に、瀬島中佐の声が聞こえた。

「……入れ。」

鈴木大佐はダラッとした顔を引き締め、襟元を整えた。

「犯人の脱走後について報告しに来ました。」

瀬島中佐は敬礼をしながら言った。

「おいおい瀬島君、そんなに(かしこ)まらなくてもいいから。こっちまで緊張しちゃうぜ?」

鈴木大佐は笑いながら言うが……空気はとても重い。

「いえ、性分なので。……この報告書を見てください。」

鈴木大佐は張り付けた笑顔のまま、その報告書を受け取り、読み始めた。

「…………瀬島君、この報告書よくできてるじゃぁない。」

「ありがとうございます。」

「だけど、ここまでできるんだから、犯人の居場所や行動くらいすぐわかるだろう?」

鈴木大佐は報告書を机の上に投げ、咥えていたパイプを右手に持ち紫煙をまき散らす。

「……いえ。」

「そうかい?」

そう言って鈴木大佐はパイプを咥えた。

「本来であれば解説をしたほうがいいとは思うんだけど、時間が無いから……。……奴は深夜、ここに来る。……いや、正確にはここに誘導する。」

そう言って地図で丸を付けたところに鉛筆の先を置いた。

「しかし……私達には第2中隊ほどの力はありません。捕まえるのはm……」

「大丈夫だ。当てはある。」

鈴木大佐はスクッと立ち上がった。

「近衛師団を使う。こっちが工作をしておびき寄せるんだ。あとは向こうが勝手にやってくれるさ。」

再び紫煙がまき散らされる。

「ここまで高く喧嘩を売られるなんて、めったにないぜ?本当の謀略を奴に教えてやろう。……いや、奴は最期になっても気づかんだろうけど。」

 

 

 

 瀬島中佐が全員を呼ぶために退室した。それを確認した鈴木大佐は襟のボタンを外し、だらりと椅子に座った。

「……全く。瀬島の野郎は情報収集と分析能力がバカ高いのに、その後がまだできないんだよねェ……。2年、いや3年で使えるようにしなけりゃマズいねェ……。」

鈴木大佐は今まで吸っていたパイプを置き、新しいパイプに煙草を詰め始めた。

「それに第2中隊がいなくて助かったねェ……。あいつらは何をするかわかったもんじゃないしねェ~。全く、給料に対して仕事の量が多すぎるんだよねェ……。」

  シュボ!

鈴木大佐はマッチに火をつけ、そのマッチでパイプに火をつけた。

「……まぁいい。日本(俺ら)の最強戦力を叩きつけられて、訳もわからず消えちまえ。」

紫煙を囲まれながら微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は数秒気絶していたようだ。

「う、うぅ……。」

近くには気絶したワトソンがいた。球電の威力で気絶したのだろう。

「おい、起きろ!!」

俺はワトソンを揺さぶった。その時、

  チーン!!

‘‘エレベーターが階に着いた時の音’’が聞こえた。

 

 ……チクショウ、敵が降りてきたのか!?

 

エレベーターは確認できただけでも3つはある。例え、一つエレベーターがぶっ壊れても人や物の移動は普通にできる。

 

 ……上から敵が降りてきたのかもしれない。

 

 俺は急いでワトソンをコンクリートで囲まれた部屋に運んだ。

「うぅ……む、ムラタ?」

「ワトソン、ここで休んでろ。敵が来たかもしれない。」

俺はマル焦げのまま、14年式を取り出した。ワトソンはキョロキョロと周りを見る。

「あ、ありがとう……。そ、それより……アリアとリサは上だ。そこにはヒルダがいる。僕には……二人を連れてきた責任g……」

「静かにしろ。もう敵はこの階にいる。」

俺はワトソンの口をふさぎ、耳元でささやいた。ワトソンは顔が再び真っ赤になる。

「いいか、ここで休んでろ。」

  コクコクコクコク

ワトソンは頭をブンブンと振った。

「じゃぁ、行ってくらぁ。」

  カ…チャン……

俺は音がほとんど出ないようにボルトを引いた。

 

 

 

 

 

 

 俺は‘‘影の薄くなる技’’を使い音がしたほうへ向かうと……東京武偵高の制服を着た男がいた。

 

 ……こいつ、キンジか?

 

背格好はまんまキンジなのだが……雰囲気がまるで違う。

 俺は念のため、キンジ(?)の後頭部に銃を突きつけ、‘‘影の薄くなる技’’を解いた。

「手を頭の後ろへ置け。」

キンジ(?)はゆっくりと後頭部へ手を置いた。

「よし、ゆっくりこっちへ向け。」

 振り向いたその顔は……やっぱりキンジだった。

 しかし、雰囲気が全く違う。まるで……獰猛(どうもう)な獅子の様であった。

「なんだ、イブキか。」

そう言ったキンジの目は鋭い。

 

 ……念のため、カマかけとくか。

 

「キンジ、この前俺が奢ったステーキ、うまかったか?」

もちろん、顔面バレー(笑)の授業のあと約束したステーキはまだ奢っていない。

「……イブキ、何を言ってんだ?まだ奢ってもらってないぞ。」

「なんだ、本当にキンジだったのか。」

俺はそう言いながら14年式を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雰囲気が違うから誰かが変装したのかと思ったぞ。」

俺はそう言いながらエレベーターへ向かう。

「……まぁな。……ワトソンは?」

「俺が倒した。」

すると、キンジの雰囲気がさらに険悪になる。まるで……敵討(かたきう)ちに来たのに、その敵がもう死んでいるような……。

「だけど……」

  ビクン!!

キンジはその言葉で反応した。

「アリアとリサは上にいるらしいが……そこにはヒルダがいる。今さっき球電が落ちてきた。そんなことができるのは……ヒルダぐらいだろう?」

「……わかった。」

キンジの目はさらに鋭くなった。

 

 

 

 

 

 

 第二展望台へ行くエレベーターに俺達は乗り込み、さらに上の階へ行く。

 

 ……ヒルダは自信家だ。奴は指向性対人地雷(M18 クレイモア)や爆弾で一気に倒すなんてことはしないだろう。

 

 俺はそう思いながら金属物を全て‘‘四次元倉庫’’にいれ、代わりに紅槍を出す。

 師匠曰く、この紅槍は骨で出来ているそうだ。骨なら電気が通りづらいはずだ。

 

  チーン

第二展望台に着いたようだ。俺達はエレベーターを降り、しばらく歩くと……

「……キンジ、イブキ。」

アリアの声がした。俺達はその声の方向へ向くと……鉄骨の陰からアリアが出てきた。

「アリア!!」

キンジが声を上げた。

 

 ……いや、こいつはアリアじゃねぇ。

 

 ワトソンがアリアとリサをここへ置いた時……何かで二人を拘束するに違いない。起きて変な事でもされたら困るからな。

 そして、この二つが一番重要なのだが……アリアなのに胸がサラシのような物で抑えられているようで、しかも耳には禍々しいオーラを放つ蝙蝠のピアスがある。

「……理子、何やってんだ?」

  ビクッ!!

アリア(偽)はその言葉に反応した。

「……いや、だって胸がなぁ。やっぱり理子のその胸でアリアの変装h……」

「セクハラだよ!!!」

アリア(偽)はそう言った後、ハッと俺達を見る。

「「「……。」」」

 

 ……あぁ、やっぱり理子か。

 

 俺がそう思った瞬間、

  バチバチバチ!!!

「「「ぐあぁああああああ!!!」」」

(いなづま)が走り、俺達を襲った。

  バタタタン!

俺達三人は床に転がることになった。

「理子?何をしくじっているの?」

その言葉と共に現れたのは……ゴスロリ姿の大罪人(ヒルダ)であった。

「理子?お前には私にはない技術と能力があるわ?私はそれを評価し、お前を遺伝子としてではなく、我がドラキュラ家の次席に取り立てようと思っていたのに……。」

 

 ……理子が裏切った!?

 

俺は理子の目を見た。理子は……ヨロヨロと立ち上がった。

 

理子の目は……怯えていた。理子は……強制されているのだろう。いや、強制はさせられていなくても、そのような状態で交渉されたのだろう。

「理子、お前はうr……。」

キンジが口を開いたが、俺はそれにかぶせるように言った。

「理子……分かってるだろう?理子がそっちへ行ったら、俺は理子と戦わなきゃいけねぇ。」

俺は紅槍を杖代わりにし、ヨロヨロと立ち上がった。

「俺は理子ともう戦いたくねぇ。それに……これ以上そいつといれば、日本にすらいられなくなる。お前だってわかるだろう?」

俺は紅槍に寄りかかりながら……なんとか立っている。

「理子、もう過去を振り返ることはやめなさい。そのピアスは……ドラキュラ家の正式な臣下の証。外そうとしたりすれば……私が一つ念じれば弾け飛ぶ。そうなれば、中に封じた毒が傷口に入り……10分で死ぬわ。これはうr……」

「道理で醜いピアスだぜ。テメェのような化け物気取りの小悪党には十分似合う。だけど理子には似合わんなぁ。」

俺はヒルダの口上に被せていった。ヒルダは俺を睨む。

  バタン!!

 

俺は不自然にならないように、ワザと倒れた。 

「イブイブ……。」

理子は……無表情の能面を被ったまま、俺に言った。

「理子も……色々考えたんだよ?」

理子は無表情の能面のままだが……目は助けを求めている。

「理子はもともと、怪盗の一族。イブイブたちとは違う……闇に生きる、ブラドやヒルダ側の人間だったんだよ。それがいつの間にかイブイブ達のそばについていた。」

 

 ……全く、本心じゃねぇくせに。

 

 俺は二人に見えないように銃剣を取り出し、地面にルーン文字とヒエログリフを彫っていく。

理子は……目に涙が浮かんでいた。しかし……理子は気が付いていないのか、無表情の能面をつけたまましゃべる。

「ヒルダは闇の眷属。生まれながらの悪女だよ。でも……自分を貫いてる。ブラドが捕まって、最後のドラキュラ家になったのに…‥誰の庇護もなく、戦い続けてる。理子よりもずっと自分が何者か分かってる。それに……」

「もういい。」

 

 ……仕掛けは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は銃剣をしまい、ゆっくりと紅槍を持って立った。

「そんな表情で言われても……何にも説得力はねぇよ。」

俺はゆっくりと理子に近づく。

「それに生まれなんて関係ねぇよ。俺のご先祖様は江戸っ子になる前は、新潟で米作ってたってよ。その末裔が血生臭い軍人やってるんだぜ?一族云々言ってたら俺は農業高校に通っているはずだ。」

俺は理子の目を見た。

「あと……そんな目でしゃべるなよ。涙が出てるぞ。」

理子はやっと泣いていることに気が付いたようだ。

「あっ……」

俺は理子の目の前まで歩いた。

「……理子。こんな枷なんていらねぇだろ?」

俺は理子の耳についているピアスに触れた。

「……!?な、何故!?」

「対化け物用の結界だ。魔術関係は一切使えねぇぞ。」

俺はそう言ってピアスを外し、

  グシャ!!

それを踏み潰した。

  ブロロロロ……

「どうする?枷が外れても……向こうに着くか?」

「……イブイブ、酷いよ。」

理子はそう言って涙をぬぐった。

「死を覚悟してたのに……その決意を無駄にするんだもん。計画が台無しだよ。」

理子はそう言って拳銃を持ち、ヒルダに向けた。しかし、理子の足は……ガタガタと震えている。

  ブロロロロ……

「……よく言われるな。」

俺はそう言って紅槍をヒルダに向けた。

  ブロロロロ……

「おいおい……俺を忘れるなよ。」

キンジもそう言いながら拳銃を構えた。

  ブロロロロロ……

「そう……理子、あなたもムシケラと同じなのね。」

ヒルダ挑発的な笑みを浮かべながら棺桶を踏み台にし、

  バサッ!!!

大きく羽ばたき、照明をバックに3mほど飛び上がった。

  ブロロロロロ!!!

 

 ……さっきから何の音だ?

 

バイクの音のようだが……何故か近づいてきている。

 

 ……ここは東京スカイツリーの展望台だぞ?まさかバイクが来れるわけないしな。

 

 

 

 

 

 

 

俺は羽ばたいたヒルダに向かって槍を振り上げた。その瞬間、

「オラオラオラァアア!!!」

「いたぞ!!あれが犯人(ボーナス)だ!!!」

白バイに(またが)った二人組が展望台の外側(!?)から飛び出てきた。

  ギャリギャリギャリ!!

「ぎゃぁああああ!!!」

 ヒルダは空中で白バイに轢かれ、その白バイの運動エネルギーをもらい地面に激突した。そのままヒルダは何回もバウンドし、鉄骨にぶつかってやっと止まった。

 

「「「…………。」」」

 

俺達三人は……状況が理解できず、固まっていた。

 白バイも着地し、任侠漫画の主人公のような運転手が降りると、

「……せ、せんぱ~い。こんなことやって大丈夫なんですか~?」

いきなりナヨナヨしだした。

 

 ……え?本田さん?

 

 本田さんは葛飾署の交通機動隊に所属する白バイ隊員で、よく両川さんの下っ端としてコキ使われている。そしてバイクのハンドルを握ると人格や顔つきが変わり、ヤクザもビックリなぐらい攻撃的になる。

 ついでに、時々アクア・エデンのカジノに両川さんが行くときの足にされる。

 

 

亀有の平和のため、お前を逮捕する!!!(金金金金金金金金金金金金!!!)

両川さんは本音をダダ漏れにしながら、白バイから飛び降り、履いていたサンダルを飛ばした。

  ヒューーーーン!

  ベキッ!!

サンダルはヨロヨロと立ち上がろうとしたヒルダの眉間に当たり、ヒルダは転倒した。

  ヒューーーーン!!

「おりゃぁああああああ!!!」

両川さんは一気に距離をつめ、ヒルダと取っ組み合いを始めた。

  ヒューーーーン!!!!

 

 ……さっきから聞こえる複数の風切り音はなんだ?まるで爆弾や砲弾が落ちてくる音に似ているが……

 

 俺が疑問に思った瞬間、

  ドスドスドスドス!!!

「ぐぇええええ!!!」

「ゴフッ!!」

空から‘‘気をつけ’’の姿勢のままで、兵士たちが十数人‘‘文字どおり’’降ってきた。そのうち軍刀を()いた下士官は両川さんとヒルダの上に勢いよく落ち、二人をクッション替わりにしている。

 

「ヒャッハァアアアアアアアア!!!」

「ウヒャヒャヒャ!!!」

「畜生風情ノ化ケ物ガァアアアア!!!」

「死ネ、死ネェエエエ!!!」

「キィィェェエエエエ!!!」

 

 

 ……まさか、近衛師団!?

 

 ヨロヨロであちこち汚れているが、確かにこの軍服は近衛師団の物だった。

 近衛師団の兵たちは、『むしろお前らが吸血鬼じゃねぇの?』と思うほど目が充血している。その真っ赤な眼球で獲物(ヒルダ)を捉えると、一目散にそれに接近していき……

  バキ!!ベキ!!グシャ!!ベチャ!!

獲物(ヒルダ)にひたすら攻撃を加えていく。

 

「「「…………。」」」

 

 俺は……開いた口が塞がらなかった。

 視線を感じたので、俺はその方向へ向くと……さっきとは違う意味で助けを求める目をした理子がいた。

 

 ……ごめん、俺もどうすればいいか分かんねぇよ。アニメや漫画なら、ここは俺たち三人が戦って勝利した後、軍や警察が来るもんだろ?

 

「わしのボーナス!!!」

近衛師団に踏まれ、その後に蹴られて転がってきた両川さんは立ち上がり、近くに置いてあった棺桶を思いっきり投げた。

  チュドーーーーン!!

  ベキベキベキ!!

あの中身は爆弾だったのかは分からないが、両川さんが投げた棺桶は兵とヒルダのいる場所に着弾し、大爆発を起こした。

「待てぇええええ!!!」

そして両川さんは突撃していった。

 

 

「……うん、リサとアリアを探そう。」

「うん……。」

「……あぁ。」

俺達三人は現実から目をそらし、当初の目的であるリサとアリアを探した。

 

 

 

 

 

 

 二人はすぐに見つかった。俺達は拘束を解き、二人を起こそうと……

  ベキベキベキ……!!!

その時、異様な音と共に床が傾き始めた。

「な、なぁ……」

「おい……嘘だろ?」

「アハハ……」

ゆっくりとだが……確実に床が傾いている。

「ム、ムラタ!!」

ワトソンが体を引きずりながらやってきた。

「な、何が起こってるんだい!?」

「俺も分かんねぇよ!!」

 

 ……というか、わかりたくもねぇよ!!

 

このやり取りの間、両川さんと近衛師団の戦いは続いている。

  ベキベキベキ!!!

「「に、逃げるぞ!!」」

俺とキンジは気絶している二人(リサとアリア)を背負い、エレベーターへ走ったのだが……

「べらんめぇ!!この野郎!!」

「クソッ動かないなんて!!」

電気回路が逝かれたのか、エレベーターはウンともスンとも言わない。

 俺はエレベーターの扉に手を引っかけ、力任せに引っ張る。

「うぉおおおお!!!」

ドリアンでできた傷口が悲鳴を上げるが無視する。

 扉を開けると銃剣を2本取り出し、扉が閉まらないよう、ストッパー代わりにした。

「キンジ!!先に行け!!」

すると、キンジの表情はこわばった。

「……マジでやるのか?」

「それ以外にお前は方法があるのか?」

 

 ……俺は方法があるが、お前はできねぇだろ?

 

「……わかった。」

キンジはワイヤーでアリアを背中に固定し、エレベーターのワイヤーにしがみついた。

「うわぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……

  

 

 

  

  ベキベキベキ……ギギギギ!!!

キンジの悲鳴が聞こえなくなった時、大きな異音と共に一気に傾き始めた。

 

 ……ヤバい!!倒れる!?

 

俺はベルトのワイヤーを使い、リサを前で固定した。

「……イブイブ、もしかして」

理子は、(さと)った様な顔で俺に聞いた。

「理子は慣れてるし大丈夫だろ?」

ワトソンはこのやり取りを不思議そうに見ていた。

「……?ってうわぁ!!」

「……やっぱりかぁ」

 俺はそのワトソンと理子を抱え、エレベーターとは逆方向、真っ暗な闇夜が広がる外側へ走り出した。

「ちょっと、ムラタ!!何するんだい!!」

「うるせぇ!!ジタバタすんな!!」

  ギギギギ!!

東京スカイツリーは倒れていく。

 

  ダッ!!

俺は3人を抱えたまま、世界最大の巨大都市(東京)の夜空へ飛び出した。

「「「うわぁああああ!!!」」」

 

ズドーーーーン!!!

 

 俺達の後ろで、とうとうスカイツリーは伐採された(倒れた)ようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が着地してしばらくすると、サイレンの音が聞こえてきた。警察や消防が来たのだろう。

 

「こらぁあああああ!!!両川ぁあああああああああ!!!」

この声は……大田部長!?

「ゲェ!!!部長!!!」

近くにいた両川さんはその声で立ち上がり、走って逃げ始めた。

「両川ぁああああ!!!貴様という奴はぁああああ!!!」

「ゴ、ゴメンナサーーーーイ!!!」

 

 

大田部長と両川さんの鬼ごっこが始まった時、もう一つ声が聞こえた。

「まてぇえええ理子ぉおおお!!!!」

パトカーから体を出し、拡声器で叫んでいる銭形警部がいた。

「げっ!!!銭形の叔父様!!」

理子の顔は歪んだ。

「逮捕だぁあああ!!理子ぉおおお!!!」

「イブイブ!!逃げるよ!!」

「え!?なんで俺もなんだよぉおおおおお!!!」

理子は俺の襟首を持ち、走って逃げだした。

 

 

 

「待てぇえええ!!!両川ぁあああ!!!」

「待てぇえええ!!!理子ぉおおお!!!」

 

「「「吸血鬼なんてもうコリゴリだぁああ!!!(だよ!!!)」」」

 

 




 巨大都市(メガシティ)とは、都市圏人口が1000万人を超える都市のことを言います。実際、日本の首都圏は約3800万人で世界一多いそうです。

 
 球電(きゅうでん)(球電現象)とは、空中で発光体が浮遊する自然現象、あるいはその発光体だそうです。自分も調べて初めて知りました。

 
 鈴木敬次大佐は南機関の機関長をモデルにしよう……としましたが、人物像が分からなかったため、名前だけモデルになってしまいました。人物像は空想です。

 以前書きましたが、両川さん(両川勘吉)は某漫画の不良警察官がモデルです。大田部長もその漫画の人物をモデルにしています。


  Next Ibuki's HINT!! 「ハッスルマッスル」
 


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黒歴史を量産させられるなんて……

旅行中に投稿!!
 
あぁ……やっぱりネタ回は楽しい!!


前もって言います。今回登場する人物たちは架空の人物です。実際に存在する人物ではありません。
 もう一回言います。今回登場する人物たちは架空の人物です。実際に存在する人物ではありません。(死ぬほど大事なので2回言いました。)


 俺と理子・両川さんはその後現役の警察官(大田部長と銭形警部)捕まった。そして、多数の警察・消防・軍の皆様の前で説教を受けたのは想像できると思う。

 

 

 

 

 

「あの……銭形の叔父様?」

「ん?なんだぁ?」

「追いかけた時、‘‘逮捕だぁ~!!’’って言ってたよね?」

理子はおずおずと銭形警部に聞いた。

「いや、その……昔のクセで……」

銭形警部はそう言いながら頬を指で掻いた。

「クセでそんなこと言わないでくださいよ!!」

俺は思わず叫んだ。

 

 ……‘‘逮捕’’と言われて死ぬほど焦ったんだぞ!?

 

 

 

 

 

 

 ついでに、スカイツリー(倒木)関連の事故の損害賠償などは両川さんが払うことになった。爆発物(?)の投擲が事故の原因と分かったためである。

「そ、そんなぁ~!!!」

「こら両川!!しっかり謝らんか!!!」

 

 

 

 

 

 

 ヒルダは警察(両川勘吉)の手によって再逮捕することができた。今は留置所にいるようだが、近々‘‘網走監獄’’に収監されるらしい。

 

 ……大丈夫だよな。『ある人間がアイヌの金塊の在処を伝えるために、収監された網走監獄で囚人達(ヒルダも含め)の体に金塊の隠し場所を示す入れ墨を彫り、脱獄させた。』なんてことはないよな?

 

 事件の翌日、俺は総務省と法務省の役人にそのことを聞いて、そんな予感がしたのだが……気のせいだろう。

 そもそもあんな回復力があるんだ。入れ墨なんて彫れないだろうし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件の数日後、あのドリアンの傷のせいで三角巾を着けている(救護科(アンビュラス)の脅し付き)俺の目の前で、キンジとワトソンは美味そうに神戸牛のステーキを頬張っていた。

 

 ……いいやい、俺のは現役女子高生(メイド)お手製の弁当だい。

 

「あぁ……この炊き込みご飯!!キノコの香りがとてもいい!!まるで秋を食っているようだ!!!」

「イブキ……とうとう狂ったか?」

「……ムラタ、奢ろうか?」

キンジはともかく、ワトソンは本気で心配してきた。

「いや……いいから。……うん、ごめん。」

俺はそう言った後、かぼちゃの煮つけを口にいれた。

「……アリアとの婚約は破棄したよ。ワトソン家の事情についてもほとんど話した。」

ワトソンがぼそりと呟くように言った。

「怒らなかったのか、あいつ?」

キンジはそう言った後、肉汁がしたたり落ちる分厚いステーキを口にいれた。

「‘‘そんな事だろうと思ったわ’‘、だそうだよ。ちょっと安心した様な表情にも見えたけど。」

「「アリアらしいな」」

俺とキンジはそう言った。そして俺は再び炊き込みご飯を頬張った。

 

 ……なんか無性にサンマが食いたいな。リサにリクエストしようかな。

 

「ただ、その……ボクがじょ、じょし……」

「あー、なんだ。ワトソンの家の方は大丈夫なのか?」

 

……そう言えばキンジはワトソンが女の子であることを知らなかったな。

 

面倒事を避けるために、俺はワトソンの発言に被せていった。

「うん……向こうはどうするか保留しているらしい。結構問題を起こしたから……どうなるか分からない。」

「「そうか……」」

空気が重くなった。

 

 ……うん、話題を間違えたな。

 

「ま、何とかなるだろ。ワトソンの能力なら一人でもなんとかなる。」

「そ、そうだね……。」

ワトソンの顔も少し明るくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食の後、ワトソンが車(まだクラウン)で強襲科(アサルト)探偵科(インケスタ)へ送ってくれることになった。

 キンジを探偵科(インケスタ)で下ろした後、ワトソンは道端に車を止めた。

「……ん?どうした?」

「その……ムラタ。君は本当にあれだけでいいのか?」

ワトソンは前を向いたまま言った。

「……何の話だ?」

「ボクは……トオヤマとムラタを陰湿に(おとしい)れていたのに………謝っただけで君は許した。トオヤマのステーキで手を打つのも罪悪感があったのに……。」

そう言ってワトソンはメーターに視線を落とした。

「そう言われてもなぁ……そこまで実害はなかったし……。」

 

……一番きつかったのは、‘‘平賀さんに頼んでいた銃弾’‘の製造が遅れたぐらいだしな。

 

「そこまで実害が無くて、誠心誠意謝ったんなら……それで許すだろ?」

 

……これがキンジや武藤・不知火ぐらいだったら、じゃれ合い程度で殴ったり、飯を奢らせたり、無茶ぶりさせたりするが……そこまで親しいわけでもないしなぁ。

 

「でも……ボクを(うら)んでいるだろう?」

「いや、別に?……これっぽっちもねぇぞ。」

俺はそう言ってポケットに入っていた8㎜南部弾の空薬莢を見せた。

「ダメだ……ダメだ!!ムラタ、何か復讐しろ!!これじゃぁボクの気が収まらない!!」

「そう言われてもなぁ……」

 

 ……意外に面倒な奴だな、こいつ。

 

 俺は考えるポーズを見せ、どうやってこの場を切り上げようか考えた。

「何をしても構わない!!縄で縛って叩いてもいいんだぞ!!……むしろそのぐらいしてくれ!!」

 

 ……一瞬、ちらりとココ姉妹を思い出した俺は…悪くないと思う。

 

「ワトソン……お前、そんな趣味が……。」

「え?」

「……え?」

ワトソンはキョトンとした後、一気に真っ赤になった。

「ち、違う!!ボクはいたってノーマルな……って何言わせるんだ!!」

「痛い、痛いから!!拳が傷に当たってるから!!」

 

 

 

「ドMは(ウオ)達の専売特許ネ!!」

「ポッとでの小娘にはドMキャラ(これ)は渡さないネ!!」

 

 

 ……一瞬、ココ姉妹が脳裏に浮かんだのだが…気のせいに違いない。

 

 

 

 

 

 

 車が再び移動し、選択教科棟の前に止まった。すると、ワトソンが「ついてきてほしい」と言うので、俺はワトソンの後ろをついて行った。

 

 

 選択教科棟には美術室、音楽室、書道室などが集められた建物だ。芸術系統は武偵高(ここ)の学生に人気がないのか、いつも人気がない。

 

 

「……なんでこんなところに?」

確かに密会するにはうってつけの場所だが……何のために?

「その……一つ頼みがあるんだ。盗人猛々(ぬすっとたけだけ)しいが……。」

「……はい?」

すると、ワトソンは周囲を確認した。

「僕が……女子であることを、誰にも言わないでほしいんだ。」

「いや……別に言うつもりはないぞ。言ったところで誰も信用しないだろうし。」

俺がそう言った瞬間、ワトソンは俺の手を取り走り出した。

 

 

 

「痛い痛い!!なんでケガしている右手とるんだよ!!」

「……あ、ごめん。」

 

 

 

 

 

 美術準備室に入らされると……ワトソンは扉の鍵を閉めた。

 そして……ワトソンはジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、ベルトを外し、靴を脱いだ。

 俺と目が合うとワトソンは顔を真っ赤にし

「あっちを向いてろ!!」

そう言ってワトソンは背を向けた。

 

 ……え?ハニートラップ!?

 

俺は慌てて窓を開け、脱出しようと……

 ザクザク!!

顔の横にククリナイフが2本飛んできた。1本は鍵の部分に刺さって、窓の鍵を壊してるし……。

「に、逃げるな!!ボクの方が逃げ出したい気分なんだ!!」

「だったらやめようぜ!!お互いに利益はないだろ!!」

俺はそう言って銃剣を出し、窓を割ろうとした瞬間、

「こっちを向けムラタ!!撃つぞ!!」

  カチャ!!

銃を構えた音が聞こえた。

 

 

俺は諦めて、銃剣を持ったままワトソンの方向へ向くと……ワトソンはパンツとシャツだけの姿だった。胸はサラシか何かで抑えていたのだろう。さっきよりも膨らんで見える。

「ボクの父は……男子として生きるように厳しくしつけた。だから……自分が女であることを忘れようと思っていた。」

そう言った後、床に置いてあった紙袋にワトソンは手を伸ばした。

「でも……13か14の頃から……恋愛小説や映画を見るたびに、女性の登場人物に感情移入して……やっぱり自分は女だって感じたんだ。」

ワトソンは純白の下着を出し、背を向けてつけ始めた。

「女性らしさに憧れて、女っぽい仕草をしたことがあるが……幼少期のトラウマが(よみがえ)るんだ!……ボクは、まだ怖いんだ。」

ワトソンはそう言った後、深呼吸をし、意を決したようにこっちへ向いた。

「「……。」」

お互い目を合わせて……固まった。

 

 

 

「その……。」

ワトソンが視線を離した。

「ボクは女らしくなりたい。でも……トラウマで出来ない。だから……ショック療法で!!ぼ、僕のトラウマを直す。む、ムラタに……その行為を持って償いをしようと……。」

「て、てやんでぃ!!テメェは自分の体を大切にしやがれ!!」

何をやればいいか理解した俺は思わず叫んだ。

 

 ……完全にハニートラップじゃねぇか!!しかもトラウマを直したいのは本心みたいだから余計にたちが悪い!!

 

「ムラタ……ひょっとしてボクを気遣っているのか?それは……いいんだ。こんなタイミングで言うのは最低だが……ボクは、君なら……君が、いいんだ。」

ワトソンはそう言って俯いた。顔は真っ赤になる。

「こういっちゃなんだが……会って数日で関係を迫られてみろ。どう考えたってハニートラップにしか考えられねぇだろ。……ゆっくり、そのトラウマを直せばいいんじゃないか?」

俺はそう言って壁伝(かべづた)いにゆっくりと進んでいく。

壊れていないもう一つの窓から脱出しようと……

  ドスッ!!

出来なかったよ。無事だった窓がまた一つ鍵が壊れた。

「……確かに一理ある。君は軍の暗部に所属していたから…ハニートラップを警戒する気持ちは分かる。」

ワトソンはそう言って、再び紙袋に手を入れ、ガサガサと中を探し始めた。

「……じゃぁ、ショック療法じゃなく……リハビリにしよう。」

「……は?」

ワトソンは紙袋から武偵高のセーラー服を出した。

「そう、名付けるなら……‘‘女の子訓練’’をする。要は……ロールプレイだ。僕が女の子を演じ、君が対応する。」

そう言ってワトソンはセーラー服を着るため、俺から視線を外した。

 

 ……今だ!!

 

 俺は‘‘影の薄くなる技’’を使い、書置きを置いて、バレないように扉を開けて逃げ出した。

 書置きには

『後日時間がある時に付き合いますので、帰らせてください。』

と書いておいた。

 

 ……チクショウ、最初からこれで逃げればよかった!!

 

 

 

 数日後、リハビリという名の‘‘おままごと’’につき合わせられることになったのだが……ワトソンが‘‘重い女’’だったとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワトソン・ハニートラップ事件から幾日か過ぎ、10月30日の金曜日、東京武偵高の文化祭当日。ここの文化祭は30日・31日が文化祭、11月1日が片付けという日程だそうだ。

 文化祭の目玉の一つ、2年生による変装食堂(リストランテ・マスケ)……これが俺の頭痛の種だ。2年生全員にお題が出され、そのお題を完璧に演じないと蘭豹先生か綴先生・南郷先生によるお仕置きが待っているらしい。

 しかも、俺のシフトは30日の午前、お題は『ボディビルダー』……最悪の場合、ボコボコにされてから文化祭を楽しむことになる。

 俺は憂鬱なまま衣装を着替え、最悪の場合の時のための最終兵器を片手に持ち、閻魔大王(蘭豹)の待つ審査場へ向かった。

 

 

 

 

「こんなボロボロの体のボディビルダーがいるかぁ!!!」

「ま、待ってください蘭豹先生!!アピールはまだです!!」

俺がそう言うと、蘭豹の鉄拳が止まった。やっぱりこの変装はダメだったらしい。

 

 ……そもそも、『ボディビルダー』の変装なんか短時間でできねぇんだよ。

 

「……ほう、そんな自信満々にいうなんて、なんかあるんか?」

 

 ……最終兵器、使うしかないのか。

 

「はっ!!必ずや蘭豹先生が満足すると思います!!」

「……見せてみぃ!!」

「はっ!!」

俺は持ってきた最終兵器(ラジカセ)の電源を入れ、ある音楽を再生した。

  チャン、チャチャ~チャラン♪

ラジカセからは軽快な、今にでも踊りたくなるような音楽が流れる。蘭豹先生はその音楽を聴いた瞬間、目を大きく見開いた。

 

 ……よし、情報は本当のようだな!!

 

俺はその音楽が流れると同時に、黄色のパンツ一丁の姿のまま踊り始めた。蘭豹先生はその踊りを見ると……前のめりで俺を見た。

 

 ……蘭豹、テメェが『マッスルボデーは傷がつかぬ!!』の大ファンなのは知ってるんだよ!!

 

  チャチャンチャンチャン♪『あ~の子~の素敵な大胸筋……♪』

そう、『マッスルボデーは傷がつかぬ!!』のEDテーマ、『ハッスルマッスルブギ』だ!!

「おぉ……おぉおおおお!!!」

蘭豹先生は大興奮。周りの審査待ちの生徒たちはドン引き。

 

 ……俺はまだ、死にたくねぇんだよ!!

 

俺は必死に、笑顔で一曲踊りきった。

 

 

 

「いやぁ~、村田!!最高だったわ!!!流石軍隊上がりや!!」

蘭豹先生はご満悦のようで、俺の背中をビシバシと叩く。

 

 ……うん、上半身裸だからメチャクチャ痛い。

 

「イエ……満足シテモラエテ嬉シイデス。」

 

 ……あぁ、死ぬほど恥ずかしい。

 

俺は早くその場を切り上げたかった。

「そうや!!!村田!!」

「はい。」

「客の前で、それ、踊れ!!!」

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 同時刻、東京武偵高校門前。

「‘‘木曜どうでぃ’’をご覧のみなさんこんばんは~、鈴藤です。我々はですね……今、東京武偵高校に来ています!!」

マスターこと鈴藤は、音野さんの持つビデオカメラの前で笑顔で言った。

「今回の企画はですね……前々回、『試験に出るどうでぃ・日本史編』で大変お世話になった東京武偵高校の生徒の皆様に、お礼と言っては何ですが……美味しい料理を食べてもらおうと思っています。」

  プシュ―、プシュ―

「では、その美味しい料理を作っていただくシェフを紹介しましょう。料理といえばこの方!!‘‘シェフ和泉’’です!!」

「え~皆さんこんにちは、シェフ和泉です。」

鈴藤の紹介の後、シェフ姿に変装した和泉陽司が登場した。

「今日は前回助けてもらった東京武偵高校の皆さんにですね、数々のお料理をお見舞いしていきたいと思っています。」

「おい、うまいものとは言わねぇから放送できるもの作れよ。」

ディレクターである藤崎がカメラの外から大声で言った。その言葉に和泉はムッとし、

「なんですか?あまり余計なことをいうと、あなたからお見舞いしますよ?」

「まぁまぁ……くれぐれも恩をあだで返さないようにお願いします。」

鈴井も仲裁するように言った。

「いやね、彼らのことを‘‘命の恩人’’だって言ってるけどね……僕にとっては‘‘疫病神’’なんだよ!!試験に出るどうでぃ(あの)あと、ぼかぁ東京で初舞台があるから安浦と新幹線で向かったんだ。そうしたら、乗ってた新幹線がジャックされるは僕と安浦の座席には爆弾がセットされるわ……。警察に聞いたら、武偵高生徒(彼ら)に仕掛けたはずが、間違えて俺たちの席にセットしたらしいんだよ!!!銃撃に爆弾に……次は戦車にでも襲われるんじゃないかい!?」

和泉はそういった後、今度は藤崎を指さした。

「で、その新幹線のチケットを取ったのが藤崎(こいつ)なんだよ!!」

「ジャックが起こるなんてわかるわけねぇだろ!!」

「なんだと!!カブトムシ!!うどんの汁替わりに樹液でもかけてなさいよ!!」

「うるせぇスズムシ!!」

和泉と藤村の言い合いがヒートアップする。

  プシュ―、プシュー

「まぁまぁ、そろそろバッテリーが切れちゃうから……では、今回スペシャルゲストがいます!!黄色い憎いやつ、0u(レイウ)ちゃんです!!」

鈴井の紹介と共に、黄色い着ぐるみが颯爽(さっそう)と飛び出してきた。

 『蝦夷テレビのマスコット

  安浦さん0u(レイウ)ちゃん』

登場した着ぐるみは軽快に多種多様なポーズをとった。

「いやぁ~これがどれだけすごいか!!完全にプロの動きですもの!!」

和泉は興奮しながら紹介した。和泉の言葉に反応してか、着ぐるみはさらに大きく・素早くポーズをする。

「「「アッハッハッハ!!!」」」

 

 

 

 『~本日のお品書き~

  ・サラダ:サケのサラダ

  ・本日のパスタ:ひき肉と秋野菜のスパゲッティ

  ・スープ:トムヤンクン風オニオンスープ

  ・デザート:アップルパイ』

和泉は『本日のお品書き』が書かれた紙を出した。

「……おい、本当にこんな種類作れるのかよ!!」

藤崎は大声で言った。

「今回は時間が5時間あるということで、多めに……コースで出していこうと思います。」

そういった後、和泉は意気揚々と料理の説明をした。

 

 

 

「では……我々の恩人、東京武偵高校の生徒の皆さんに会いに行きましょう。」

鈴藤がそう言って締めた。

「そういえば、ちゃんとしたキッチンはあるんだろうね。ぼかぁ~ちゃんとしたキッチンがないと作らないよ?」

和泉は疑問が生じ、聞いてきた。

「大丈夫です!!和泉さんには東京武偵高校恒例、『武偵高料理対決』に出場してもらいます!!そちら、最近多額の寄付があったようで設備は充実しているそうです!!許可もとっています!!」

藤崎さんは相変わらずの大声で説明した。

「よぉぅ~し、お見舞いするぞぉ~。」

和泉は堂々と東京武偵高校の校門をくぐった。それに続き黄色い着ぐるみも校門をくぐろうと……

「あ、安浦君、ちょっと待って。……君には特別な衣装があるから。」

藤崎は着ぐるみに待ったをかけた。

「……はい?」

 

 

 

 

 

 15分後、変装食堂(リストランテ・マスケ)

「……あの、なんでこれ着るんですか?」

安浦はローブ姿でテーブル席に座っていた。

「村田君がなんでも‘‘とある’’コスプレをしなければいけないみたいなので、その応援をしてもらおうと思います。」

藤崎は相変わらずの大声で説明した。

「安浦、何着たんだ?」

和泉は不思議そうに聞く。

「まぁまぁまぁ……それは後のお楽しみということで……。」

「それにしてもかわいい子が多いじゃない。」

鈴藤は嬉しそうにそう言う。

「おい、奥さんにどやされるぞ。」

和泉はジト目で注意すると

「アハハハ……」

鈴藤は笑いながらごまかした。

「そもそも……」

テーブル内で話は弾んでいく……

 

 

 

 

 

 同時刻、変装食堂(リストランテ・マスケ)内・別テーブル

「あの……村田さんに一言伝えなくてよかったのでしょうか……。」

「大丈夫よ、オレンジペコ。これはサプライズです。」

そう言ってダージリンは紅茶を飲む。

「……あら、いい茶葉使ってますわね。」

「あ、そこのシーツ被ってる人、チャーハン大盛を追加で!!……ですわ。」

ローズヒップの注文に、「フケイデアルゾ」といった後、メジェドは厨房へ向かった。

 

 数分後、メジェドは大盛のチャーハンを持ってきた。

「ありがとうございます!!……ですわ!!」

ローズヒップはそういった後、チャーハンを掻き込む。

「あら、意外とパラパラでうまい!!……おいしいでございますわ。」

「今回は恩人のイブキさんに美味しい手作りの料理を食べてもらうと思っているの。だから二人にも来てもらったわ。」

「ですが……本当にここに村田さんはいるんですか?」

オレンジペコは不思議そうに聞く。

「えぇ……アッサムが身を粉にして調べてたのよ?」

「……アッサム様、ご愁傷さまです。」

「……(ガツガツムシャムシャ)」

  チャン、チャチャ~チャラン♪

ちょうどその時、食堂内に軽快な音楽が爆音で流れ始めた。

「「?」」

「……(ガツガツムシャムシャ)」

食堂内の明かりが必要最低限まで消え、その代わり食堂内の舞台にスポットライトが……

  タッタッタッタッタ!!

そして、舞台に黄色いパンツ一丁の青年が小走りで出てきた。

「「……。」」

「?」

  チャチャンチャンチャン♪『あ~の子~の素敵な大胸筋……♪』

なんと!!その黄色いパンツ一丁の青年はその、音楽とともに踊りだした!!!

「「む、村田さん!?(イブキさん!?)」」

「……?おぉ~!!」

「「「「アッハッハッハ!!!」」」」

違うテーブルから爆笑が聞こえる。その爆笑するテーブルにいるローブ姿の男はローブを脱ぎ、同じ黄色のパンツ一丁の姿になった後、舞台へ駆けあがり一緒に踊り始めた。

「……村田さん。何やってるんですか?」

思わずオレンジペコは呟いた。

「「……カッコイイ」」

「ダージリン様!?」

 




 入れ墨は皮膚の回復と関係ないようです。イブキは誤解しています。
 まぁ、その部分の肉をそぎ落とせばヒルダだと入れ墨をなくせそうですが……
 なお、ゴールデンカムイ的な展開はない……はず。


 ‘‘なぜイブキは数日たってもドリアンの傷は治らないか’’
 だってトゲトゲの物体が体にあたって傷がグチャグチャですから、それなら傷は治りづらい。


 この小説のワトソンは『傷跡フェチ』です。
 ダイハード4.0でもありましたよね。
「女は傷に弱いんだ」
正確なセリフは資料が今手元にない(旅行中のため)ですが、ラストでそんなこと言っていたはず……


 みんな大好き『ハッスルマッスルブギ』です!!知らない人は検索検索ぅ!!

 
 次回、とてもカオスなことになる予感!!


  Next Ibuki's HINT!! 「料理対決!!(旨いとは限らない)」
 


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ゲテモノじゃないはず……

 学校が始まりまして……今までよりも過密になりました。それが遅れの原因その一です。


 俺が『ハッスルマッスルブギ』を変装食堂(リストランテ・マスケ)の舞台で踊っていると……安浦さんが同じ格好で一緒に踊り始めた。

「「「おぉおおおおお!!!」」」

蘭豹先生とごく一部の男子生徒は大興奮。

 

 ……今こいつらに銃弾当てても、きっと笑って許すだろうな。

 

そこまでの大興奮。一部生徒は暴動にならないように監視までしている……。

 

 

 ひとしきり踊り終わった後、

「Thank you, Brother.」

安浦さんはそう言ってハイタッチを求めてきた。

「OK, Brother.」

  パン!

俺はそう言ってハイタッチをすると……

「「「「キャーーー!!!!」」」」

大興奮していた一部に加え、女子の一部も一緒に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「冬コミのネタは決まったわね!!」

「まさか村田×安浦なんて……」

「安浦×村田かもしれないわよ!!」

そんなことを話している女子の前に、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な男子生徒10数人が立ちはだかった。

「俺達はBLには全く興味はないが……今のを作品にするのなら協力する。」

「あぁ……まさか、『マッスルボデーは傷がつかぬ!!」の方が出るなんて……」

「筋肉のためなら力を貸すぞ!!」

「あぁ……筋肉のためだ!!なんだってする!!」

  ムキムキムキ!!!

そして、男子生徒は女子たちの前でボディビルのポーズを取った。

「……確かに、私達はあんな筋肉を描いたことはない……リアルさに欠けるわ。」

「しょうがないわね……今回だけよ!!」

  ガシッ!!

女子と男子が堅い握手を交わした。

 

 このことにより、男子ボディビル愛好家達と女子BL愛好家達による謎の共闘がはじまるのだが……蛇足なのでここまでにして置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、大好評(ごく一部)だった『ハッスルマッスルブギ』が終わり、俺は13時まで必死に接客に勤めていた。

 その時、蝦夷テレビの皆さん、ダージリン達に会ったのは驚いた。

「勇者の登場です!!」

「「「アッハッハッハ!!!」」」

「色々言いたいことあるんですが……とりあえずケーキ10個、シュークリーム20個、ぜんざい5杯、まんじゅう20個、コーヒー5杯……本当にこれでいいんですか?」

「大丈夫大丈夫!!全部この魔人が食べるから!!」

「え?何言ってるんですか?」

「「「「「え?」」」」」

しかも全部食べ終わった後、うどんと大福・まんじゅうを注文するディレクターがいたとかなんとか……。

 

 

 

「イブキさん!!」

「村田さん!!」

ダージリンとローズヒップはキラキラした瞳で俺を見ながら言った。

「「とてもかっこよかったです!!!」」

 

 ……マジか。

 

「え……うん……あ、ありがとう。」

「写真撮ってもいいですかでございます!?」

ローズヒップはそう言ってスマホを構えて自撮りをしようとした。

「ローズヒップ、撮ってあげるわ!!」

「ダージリン様!!」

ダージリンはそう言ってローズヒップのスマホを奪うように取った。ローズヒップはその言葉に感激したあと、俺に抱き着いてピースを取った。

「はい、チーズ!!」

  パシャッ!!

 

 ……某ネズミーランドのネッズミーの中の人はこんな気持ちなんだな。

 

ダージリンが数枚写真を撮った後、

「次は私ね!!!」

そう言って俺に抱き着いてきた。

「ダージリン様!!あたしが!!!……わたくしが撮って差し上げるですわ!!」

そう言ってダージリンのスマホをもらい、10枚20枚とっていくローズヒップ……。

 

 

 二人からから解放されると、今度はオレンジペコに掴まった。

「村田さん……何があったんですか?」

「うん……この変装食堂(リストランテ・マスケ)の変装は……」

俺は事の顛末(てんまつ)を伝えると……

「村田さん……ご愁傷様です。……何か食べます?」

俺は……オレンジペコの慈悲の表情と優しさに感無量だった。

「あ、ありがとう……ありがとう……。」

「え……む、村田さん!!ちょ、泣かないで!!」

俺はオレンジペコの手を両手で握り……涙が出てきた。

「「……(ギロッ)!!!」」

「「「「「アッハッハッ!!!」」」」」

「む、村田さん!!ちょ、ちょっと落ち着いてください!!!」

「グスッ!!!」

 

 

 

その後、はやてとウォルケンリッター、高町一家と月村姉妹・アリサちゃんたちにも接客をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……やっと終わった。」

13時過ぎ、俺はやっと解放された。

 普通の生徒はもう少し長いのだが……転校生・中途転入生は勝手がわからないだろうと短めにシフトが組まれるのが伝統だそうで……。

「お疲れ様でーす」

俺はそう言って更衣室へ撤退しようとすると……

「おい、村田ぁ!!」

蘭豹先生に掴まってしまった。

 

 ……また変な事やらされるんじゃねぇだろうな

 

「はい!!」

俺はそう思いながら返事をすると……

「お前、料理できたよなぁ?」

 

 ……厨房でもやらされるのかな?

 

「ある程度の料理はできます!!」

「この後、暇だったよなぁ?」

「はっ!!この後シフトは入ってません!!」

 

 ……家族と一緒に回ろうと思ってたのに。

 

「『料理対決』に欠員が出てなぁ……出るはずの田口と渡辺が病院送りになったんや。」

 

 ……ん?昨日その田口君・渡辺君は蘭豹にしごかれていたよなぁ?

 

「村田、お前、『料理対決』に出ろや!!」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ドドーン!!

「始まりました。『東京武偵高校料理対決』実況は私、中空知美咲と……」

「うむ!!この至高の芸術家にして、最高の料理人たる余が!!実況するぞ!!」

実況席には中空知さんの写真とネロがいた。

「解説者には……現役メイドで『提督』のリサさんです。」

「は、はい!!よろしくお願いします!!」

中空知さんの言葉に、リサは上ずった声で敬礼をした。

 

 ……緊張しているんだろうなぁ。左右逆だし。陸式だし。

 

 

 

 

 

「では今回の選手たちを紹介しましょう。」

「うむ!!まずは一人目!!『小学生なれど腕は一流:八神はやて』だ!!」

ネロの言葉と共にプシュ―と入場門に白煙吹き出し、はやてとその車椅子を押すシグナムが入場した。

「よ、よろしゅうお願いします。」

はやてはそう言っておずおずとお辞儀(じぎ)をした。

「うむ!!はやては余と張り合いができるほど料理が美味であるからな!!余も楽しみだ!!」

「そうですね。はやて様もリサの料理をすぐ覚えてもらえるので……教えるほうも楽しいです。」

ネロとリサははやての料理が楽しみのようだ。

 

 

 

 

「さて、もう一人の一般枠『お嬢様学校は伊達(だて)じゃない:田尻凛』さんです。」

  プシュ―!!

「……ダージリンですわ。」

「ん?余の紙には田尻凛と書かれているが……」

「ダージリンですわ!!」

「「「……ハイ」」」

 

 ……す、すごい威圧。

 

「……ダージリンさんの出身は聖グロリア―ナ女学院という事で、英国風の校風を持つそうです。」

中空知さんがそう言うと……

「イギリスですか……イギリス料理はまずいと有名ですが……おいしい物もあるので期待ですね。」

リサは笑顔のまま……あれ?笑顔が硬い。

 

 

 

 

「次は教師枠『強襲科(アサルト)の頼れる姉御:スカサハ』先生です!!」

  プシュ―!!

「ふむ、たまにはこういうのも悪くないな。」

師匠は長そでのセーターにエプロン、ポニーテール姿で出てきた。

「「「「おぉおおお!!!」」」」

 一部男子による歓声が上がった。うん……確かにあの格好はグッとくる。

「余はスカサハが料理をしたところは見たことがない。どれほどの腕前だ?」

ネロは不思議そうにリサに聞いた。

「リサも……見たことがないので……。」

 

 ……俺は師匠との山籠もりの時に一回だけ食べたことがあるが、栄養重視だったっけ。

 

 

 

 

 

「うむ、次は生徒枠『死なない男・村田維吹』だ!!」

  プシュ―!!

 

 ……俺の番か。この二つ名はやめて欲しい。

 

俺は門をくぐると……おい、音野さんがカメラ構えてるよ。放送できるもの作らないと……。

「よろしくお願いします。」

俺はそう言ってボディビルのポーズを取った。(まだこの役はやらなければならないらしい)

「情報によると……‘‘料理は上手いのですが、時々ゲテモノが入る’’とあるのですが……。」

「う、うむ……。時々……時々ではあるな。しかもゲテモノと気づいてない場合が多くて……な。」

中空知さんの言葉にネロは……テンションをだいぶ落としていった。

「そうなんですか?」

リサは不思議そうに言った。

 

 ……あれ?ゲテモノなんて入れてたっけ?そう言えばリサが来てから料理はしてないな。

 

 

 

 

 

「最後にまさかの特別ゲストが登場です。『北海道のアイドル:シェフ・和泉陽司』さんです。」

  プシュ―!!!!

「いらっしゃいまほ。今回はですね、審査員の皆さんにお見舞いしようと思います!!……打ち抜くぞぉおお!!!」

「「「「「「「うおぉおおお!!!」」」」」」」

和泉さんの言葉に大歓声が上がった。

「え~と……『和泉陽司さんは北海道を代表する超大物お笑い芸人』だそうだ!!」

ネロが自信満々に言った。

「ちょっと待って!!ぼかぁ俳優だ!!タレントだ!!」

 

 ……え?そうなの?

 

 

 

 

 

 

 

「では審査員の紹介です。強襲科(アサルト)よりベオウルフ先生」

「おう!!美味い物を期待してるぜ!!」

ベオウルフはそう言って両手を上げた。

 

 

 

装備科(アムド)の絶対的権威、エジソンだ!!」

「トーマス・アルバ・エジソンである!!!顔のことは気にするな!!!」

エジソンはその顔で咆哮(ほうこう)した。

 

 

 

「生徒からは遠山君と峰さんです。」

「……よろしくお願いします。」

キンジは死んだ魚の目で挨拶をした。

 

 ……あれ?キンジは17時までのシフトだったような。

 

「イエーイ!!みんなの理子りんだよ!!」

「「「「「「理子りーん!!!」」」」」」

理子の挨拶と共に声援が沸き上がった。

 

 

 

「そして特別ゲスト、蝦夷テレビ『木曜どうでぃ』より鈴藤さん、藤崎さん、音野さんである!!」

「いや~……緊張するなぁ~」

「アッハッハッハ!!」

「……。(ビデオカメラを構えながらサムズアップ)」

 

 ……あぁ、やっぱりこの人達は出るのか。

 

 

 

 

 

 

「では特別ゲスト、‘‘シェフ・和泉’’さん。意気込みをお願いします。」

中空知さんの声が聞こえた。

 

 ……中空知さんはどこにいるんだろう?

 

俺は周りを見渡したが……どこにもいそうにない。

「えぇ……本来はですねぇ……」

和泉さんはそう言ってポケットから紙を取り出した。その紙には『本日のお品書き』と書かれていた。

「僕たちを助けてくれた武偵高の皆さんに、ここに書いてある美味しい料理を……って聞いてたんですけどねぇ~。……村田君!!」

「は、はい!?」

なんで俺を呼んだ!?

「何だって君は作る側なんだよぉ!!おかしいじゃない!!」

「いやいやいや!!俺だって急遽(きゅうきょ)代役で出ることになったんですよ!!」

「そもそもだねぇ……」

「さて、それではルールを説明します。」

中空知さんは和泉さんのコメントを無理やり切った。

 

 

「うむ!!今回何を作っても、どれだけ作っても構わぬ!!そこにある食材を使い!!5時間以内に作るように!!」

「そこにない食材も1年生たちが買える範囲であれば大丈夫です。」

ネロが指さした場所には、大量の食材と10人ほどの1年生たちがポーズをとっていた。

「では始めるとしよう!!」

「そうしましょう。」

「「プレイボール!!」」

  ドワ~~~~ン!!

大きな銅鑼(どら)の音が高らかに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

俺は肉が置いてあるところへ向かったのだが……お目当ての物がない。

「お~い、一年生。早速仕事だ。」

「は、はい!!」

すると丸刈りの男の子が走ってやってきた。

「………………を買ってきてくれないか?」

「……え?」

一年坊主の顔は引きつった。

 

 ……そんな変なものか?

 

「もう一回言おうか?………を買ってきてくれ。」

「……マジですか?」

「…そんな変な食材か?」

「いえ……買ってきます。」

そう言って一年坊主は走っていった。

 

 ……とりあえず、パパッと作っちまうか。

 

 俺はキュウリを薄切りにし、トマトを茹で始めた。

 

 

 

 

 

「あら、パイ生地がありませんわ。」

ダージリンが食材置き場でそうつぶやいた。

「……ん?なんだいお嬢ちゃん、パイ生地が欲しいのかい?」

すると(サケ)の解体に悪戦苦闘していた和泉さんが声を上げた。

「え、えぇ……パイ生地が無いと作れない料理でして……。」

すると和泉さんは何処からか、ビニールに入った生地を出した。

「僕の同級生にイタリアンのシェフがいてねぇ……。彼に頼み込んでパイ生地を()ってもらったんだ。」

「「「「「「おぉ~……」」」」」

会場に驚きの声が出る。

「これをお嬢ちゃんに分けてあげよう。」

「あら、ありがとうございます。シェフ。」

ダージリンはにっこりと笑うと……

「いやぁ~、照れちゃうなぁ~……」

 

 ……おい、おっさん。

 

 

 そしてダージリンはパイ生地とニシン、サンマ、数種類の野菜を持って、自分のキッチンへ向かった。

 

 ……あれ?そう言えばパイ生地って練らないような?

 

 

 

「あ、あの……。」

「ん?どうしたのだ?」

解説のリサがおずおずと声を出した。

「パイ生地って練らないような……。」

「ん?そうなのか?」

ネロは不思議そうに聞いた。

「そうですね。パイ生地は折り込み製法を用いて作られるそうです。」

今度は中空知さんの声が会場に響き渡る。

「あぁ、これはですねぇ、彼に直接頼んだ特注品なんですよ!!イタリア風のパイ生地です!!」

和泉さんが堂々と言った。

「え……イタリアでもそんなものは……どちらかと言うとフランス……。」

「君はちゃんとした料理を知っているのかい!?ぼかぁね、大学時代に……」

リサの言葉を無理やり切り、長々とした和泉さんの話が始まったのだが……カットする。

 

 

 

 

 

 

 さて、俺はキュウリを薄切りにし、トマトの湯むきを終え、三杯酢を作り終えた。ちょうどその時、買い物に行って来てくれた一年坊主が戻ってきた。

「ハァハァハァ……買って、来ました。」

「ありがとう。そこで休んでいていいよ。」

俺は袋を持って舞台袖へ行く。

「「「「「???」」」」」

 

  バキ!!バキ!!メリメリ……

 

 

 

「村田さんは袋を持って行った後、何やら音がするのですが……どうしたのでしょうか。」

中空知さんが不思議そうに聞いた。

「……あぁ、最初から出すのだな。」

そう言ってネロは右手で頭を押さえ、倒れるように座った。

「い、イブキ様に何が起こってるんですか!?」

リサは慌てて聞いた。

「大丈夫だ。あとでわかる。……頭痛薬は持っておらぬか?」

「え!?あ、はい……。」

「村田さんが戻ってきました。手には……ウナギ?でしょうか……」

 

 

 

 ……さて、解体が終わった。これは骨が多いからな。

俺はそう言って骨切り包丁を使ってハモのように切っていく。

切り終わった後、串を刺し、ウナギのように焼いていく。焼き終わった後、タレに付け、細かく切る。

そして、小鉢に薄切りキュウリとトマト、焼いた‘‘アレ’‘を盛りつけ、三杯酢をぶっかけた。

「できました!!」

「最初の一品目は村田選手からです!!」

「あぁ……できてしまったか……。」

 

……なんでネロは頭を押さえてるんだ?

 

 

 

 

 

「おぉ~!!これは何ですか!?」

俺が審査員の人達一人一人に小鉢を渡していると、藤崎さん(蝦夷テレビディレクター)が聞いてきた。

「あぁ、ウナギを使わない‘‘うざく’’です!!……最近ウナギは高いですからね。これを使えば安くて美味いですよ!!しかも‘‘うざく’’はパパッとできますからね。」

すると藤崎さんは真顔に戻り……

「……で、何を使ったんですか?」

「まぁ……それは食べてからのお楽しみという事で……。」

 

 

 全員に小鉢が行き渡り、試食が始まった。

「「「「「ほぉ~……」」」」」

「白身魚……と言うか鳥のササミに近い?」

「まぁ……これはこれで……」

「骨は多いけど切ってあるから食えるな。」

この‘‘うざく’’は好評なようだ。

 

 

 

 全員が小鉢を食べ終わった。

「村田さん、ウナギの代わりに使った物を教えてください。」

中空知さんの声が聞こえた。

「はい、これはアオダイショウ。……アオダイショウの‘‘うざく’’です!!」

俺が高らかに宣言した。

  シーン……

 

 ……あ、あれ?

 

「……に、日本ってヘビも食べるんですね。初めて知りました。」

「いえ……食べません。」

リサの言葉を中空知さんが否定した。

「え?……食べないの?」

俺は思わず言った。

「「「「「「「食べねぇよ(ないよ)!!!」」」」」」」

 

 ……おっかしいなぁ?訓練中に獲れるジビエの中で高級の部類だったんだが?

 

 

 

 

 

 その後、散々文句を言われて意気消沈し、渋々キッチンに戻った。

「お主……初心者にヘビはきつかろう?」

師匠が寸胴鍋を煮込みながら言った。

「そうですかねぇ?……ヘビなんて爬虫類(はちゅうるい)の中でも高級品なのに……」

「そうか……どこかで間違えたか……

「なんか言いました?」

「いや……。」

そう言って師匠は大きなため息をついた。

 

 ……なんかおかしい事言ったか?

 

 

 

 

 さて、俺が再び食材選びを始めると……

「あの……グラタン皿は何処かしら?」

ダージリンはキッチンの戸棚を必死に探していた。

「はい!!ここにあります!!」

一年の少女はダージリンに駆け寄り、皿を出した。

「あら、ここにあったの?ありがとう。」

「……!!はい!!」

そしてパイ生地をそのグラタン皿に敷き、具と魚をつめた後……

「あの……私、オーブンを使ったことが無いの。どう使うのかしら?」

いきなり不安な言葉を言った。

 

 ……おい、大丈夫か?

 

 

 その後、ダージリンはオーブンの使い方を教わった後、余熱をせずにパイを焼き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 俺はフグを取り、さばいている時……

  チーン!!

トースターの音が会場に響いた。ダージリンはトースターからトーストを出し、何かを塗った後、皿に違う何かとトーストを盛り……

「できましたわ!!」

堂々と宣言した。

「ダージリンさん、一品目の完成です。」

中空知さんの声が再び響いた。

「うむ……何故かあれも食欲がわかぬ……。」

ネロは再び頭に手を当てた。

 

 

 

 

 

 審査員にそれと紅茶が行き渡り、食すると……

「俺は好きだけよ……癖があるしなぁ……」

「元宗主国の料理か……」

「……人によっては上手いだろうな。」

「帰りたいよぅ……」

「うん……ワカサギの活造り(いけづくり)に比べたら……まだ……。」

「和泉さん以上の物があるなんて……」

審査員たちのハイライトは一人(ベオウルフ)を除き、消えていった。

 

「ゴフッ……だ、ダージリンさん……この料理は……」

中空知さんは何かを吐いた様な音がした後、この料理を聞いた。

「イングリッシュ・ブレックファスト……ベーコンエッグとブラックプディング、マーマイトを塗ったトーストですわ!!……お昼を食べてないと思って手間をかけた料理ではないの……ごめんなさい。」

  シーーーーン……

 

 

 

 

 

 ダージリンの料理にはコメントはそれ以上出なかった。

 ダージリンは小首をかしげ、キッチンへ戻った。

 

「今度は村田さん、ふぐ刺しでしょうか。」

俺がフグを捌いているのを、中空知さんは目ざとく見つけた。

「うむ!!あれは美味いからな!!楽しみである!!」

一食も食べてないネロはヨダレを垂らしながら言った。

俺は盛り終わった後、茶碗にご飯を大量に盛った。

「「「「「「おぉおおお!!!」」」」」

俺はふぐ刺しを一切れポン酢につけ口に放ると……ご飯を掻き込んだ。

「「「「「「……(ゴクッ!!)」」」」」

俺は再び一切れつまみ、ポン酢につけて食べる。

「……あの、村田さん。」

「…なんです?」

中空知さんの質問に、俺はご飯を掻き込みながら答えた。

「そのふぐ刺しは……」

「あぁ……俺の昼飯です。」

「「「「「昼飯!?」」」」」

審査員たちは目をひん剥き、叫んだ。

「え?……いや、俺まだ昼食ってないんで。簡単に済まそうと……」

「それを出しなさいよ!!アオダイショウじゃなくてさぁ!!!」

藤崎さんは泣きながら叫んだ。

「いや……俺は『普通フグ調理師免許』しかないんで。二親等までにしか食べさせられないんで。」

俺はそう言って美味そうにふぐ刺しを平らげた。

 

 ……流石に法律違反は犯したくないしなぁ。

 

審査員たちは血の涙を流しながら、このふぐ刺しを見ていた。何故だろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 俺が‘‘まかない’’のふぐ刺しを食べ終わった後、カラカラカラ……と揚げ物のいい音が聞こえた。

「ふんふんふーん♪」

はやては鼻歌を歌いながら揚げ物をしていた。会場に揚げ物のいい匂いが広がっていく。

 はやては揚げ物をしながら、キャベツの千切りをし、その後鍋に味噌を溶き始めた

  グゥ……

誰かの腹が鳴った。

 はやては揚げ物を新聞紙が敷かれたバットに入れ、入れ終わると漬物を切り出した。

「出来た!!」

はやては堂々と宣言した。

 

 

 審査員の前には、はやて特製の定食が広がっていた。

「お腹空いてると思ぅて、すぐできる物にしたんやけど……品数が少なくなってしまいました。ごめんなさい。」

はやては申し訳なさそうに審査員たちに言う。

「何言ってんだ!!」

「これほど旨そうなものはない!!」

「あんなヘビにゴミを食わされたんだ!!そんなのに比べれば……」

「おい、キンジ。今度はマムシの丸焼き食わせるぞ」

俺は思わず言った。

 

 ……マムシの丸焼きに比べたら‘‘うざく’’はゲテモノじゃねぇだろうが!!

 

 

 

 

「「「「「「いただきます!!」」」」」」

審査員たちはそう言って、ガツガツと定食を食べ始めた。

「うめぇ!!……うめぇ!!!」

「あぁ……やっと美味いものが食べられる……」

「あぁ……これが‘‘おふくろの味’’かぁ……」

「…………(必死に掻き込む)」

「唐揚げがカラッと揚がっていてとてもおいしいですね~。これは‘‘シェフ・和泉’’にはできないですね。」

「これは美味いよ。」

ベオウルフ、エジソン、キンジに理子、鈴藤さん、音野さんに大好評のようだ。

「……グスッ。……うぅ」

藤崎さんに至っては涙を押し殺し、嗚咽(おえつ)が漏れている。

「あ、あの……どうしたんですか?」

鈴藤さんは、泣き出した藤崎さんに声をかけた。

「み、味噌汁が……お袋の味そっくりなんです……」

そう言って藤崎さんはメガネを取り、涙をぬぐった。

「名古屋出身と聞いたんで、藤崎さんのだけ八丁味噌の味噌汁にさせてもろうたんです。」

はやては申し訳なさそうに言った。

 

 ……はやて、出身まで調べて味を変えるなんて。なんて恐ろしい子!!!

 

 俺ははやてに戦慄を覚えた。

「たまには実家…帰ろうかな……」

藤崎さんの(つぶや)きは会場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 




 実は……ヘビは食べたことがありません。味は想像です(一応調べた)。

 料理のコメントは
『ベオウルフ→エジソン→キンジ→理子→鈴藤→藤崎→(音野)』
の順番です。

 マーメイトも食べたことはありません。
 ブラックプディング(ブラッドソーセージ)は食べたことがありますが……普通のソーセージのほうが好きです。自分はそこまで好きにはなりませんでした(幼少期に食べたので、もしかしたら今食べれば好きになる……のか?)

 藤崎さんは名古屋出身なので、八丁味噌……。
 名古屋に行ったことはないのですが(通ったことはあるが)、名古屋は八丁味噌が主流なんですかね?



Next Ibuki's HINT!! 「スープ(?)」



 

 


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おいパイ食わねぇか……

 大変長らくお待たせいたしました。



料理系がここまで大変だとは思わなかった……。
次回どうするかのプロットも難航中だし…‥。
 
 





「もう、はやてちゃんが優勝でいいんじゃない?あいつの料理は食いたきゃねぇよ!!!」

藤崎さんは大声で言った。

「おい!!カブトムシ!!お前からお見舞いするぞ!!」

和泉はその言葉を聞き、指を藤崎さんに指して反論する。

 反論する和泉さんの(サケ)は……ぐちゃぐちゃになっている。

 

 ……あれ、食いものか?

 

「お前そんな物食わす気かよ!!」

「これが料理でしょ!!つべこべ言ってないで黙って待ってなさいよ!!あんたからまずお見舞いしてやるから!!」

藤崎さんと和泉さんの口喧嘩はどんどんヒートアップしていく。

「これどう考えても人が食うもんじゃねぇだろ!?」

「うるせぇな!!最初の見た目はどんな料理だってこんなもんなんだよ!!」

「まぁまぁまぁ!!」

鈴藤さんがやっと間に入った。

「藤崎は味が分からない男ですから!!」

「……出してもいいか?」

師匠は呆れながら言った。

「スカサハ先生、料理が出来上がったようです。」

中空知さんの声が会場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 審査員たちの前にはシチューとマッシュポテト、薄い黄金色の水が配られた。

「アイリッシュシチューとマッシュポテト、蜂蜜酒の水割りだ。生徒の分は蜂蜜を薄めたものだ。」

師匠は‘‘ムフー’’とでも言うように、豊満な胸を張って言った。

「「「「「「いただきます。」」」」」

審査員とネロ、リサはスプーンを取り、シチューを啜った。

「あぁ……うめぇ……。」←ベオウルフ

「おかしいな。目から水が……。」←エジソン

「シチューってこんなに美味いんだ。」←キンジ

「やっと美味しいものが食べれるよぉ……。」←理子

「いやぁ~ここまで美味しいスープは初めてです。」←鈴藤

「これはうまいですなぁ~!!この蜂蜜酒もまた!!(グビグビ……)」←藤崎

「うまいなぁ~……」←音野

審査員たちは大絶賛。藤崎さんに至っては、蜂蜜酒を5~6杯は飲んでいる。

 

 ……こいつぁ負けたくねぇな。

 

 俺の闘志に火が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は(サケ)や他の魚を大量に持ってくると、三枚におろし、あらを大鍋に全て放り入れた。

 その時、チラリと横を見ると……何とか(サケ)を解体(骨とゴミのほうが正しいか?)した和泉さんがいた。

「和泉さん。その(サケ)の骨使いますか?」

「ん、何だい?敵から食材を奪おうってのかい!?」

和泉さんの手には……湯向きされたトマトがあった。

 

 ……あれ?和泉さんは(サケ)の解体にかかりっきりで、湯向きする時間はなかったような。

 

 俺は自分のキッチンを見渡すと……『うざく』の時に使った湯向きトマトがない。

「い、和泉さん!!あんた俺のトマト盗っただろ!!」

「な、なにを言ってんだい!!なんの証拠があって……」

「音野さんが証拠を撮ってんだよ!!」

 

 

  VTR

 村田君が魚を捕りに行っている間に、トマトを盗む和泉陽司の姿が……

 

 

「まぁまぁまぁ!!(サケ)の骨あげるから!!」

「せめて一言言ってくださいよ!!」

 

  ……あのトマト、使うつもりだったのに。

 

 俺は(サケ)の骨を受け取ると、流水でくっついている(うろこ)を落とし、これも大鍋にぶち込んだ。

 

 

 

 その大鍋を煮ている間に、醤油と砂糖を入れた小鍋に火をかけた。そのまま数分、野菜を切って待っていると小鍋が煮立つ。

煮立った小鍋に三枚におろした身の一部を入れてそのまま待つと……魚は美味い具合に煮あがった。

 煮あがった魚を皿に盛り、煮汁に大根おろしを入れ、温まったらその大根おろしを魚の上にかける。

「「できた!!!」」

俺と和泉さんは同時にできたようだ。

 

 

 

 

 

 審査員の目の前には、煮魚と……鮭のほぐし(?)が乗ったサラダが置かれた。

「うむ……イブキのはともかく……これは……。」

ネロの目のハイライトがゆっくりと消えていく……。

「あの……シェフ・和泉?これは一体……。」

中空知さんは思わず聞いた。

「こちら、『(サケ)のサラダ』でございます!!」

和泉さんは堂々と胸を張って言った。

「おい……。」

「なんでしょう?」

「おめぇ、一品にどんぐらい時間かけてんだよ!!」

藤崎さんは怒鳴る。

「僕が料理に時間がかかることぐらいわかってるでしょ!!そもそもこのサケだ!!普通は(さば)かれてあるってのに……なんだい!?丸々一匹(さば)かなきゃいけないってのがおかしいんだよ!!ただでさえ時間がかかるってのに、(さば)くのにも時間がかかるんだから!!」

「え?……そこまで時間かかりませんよ?」

俺は和泉さんの言葉に思わず反応すると……

「君のように特別な訓練は受けてないんだよ!!」

「いやいやいや!!俺は普通ですから!!」

  シーン……

 

 ……え?

 

「俺……普通ですよね。」

「「「「「「……。」」」」」」

「できた!!」

はやても料理が出来上がったようだ。

 

 

 

 

 

 

 審査員の前には『俺の煮卸(におろ)し』、『和泉さんのサラダ』、そしてはやて作『きんぴら&ひじきの煮物、キュウリとワカメの酢の物』が……

「さっきのが重かったので、軽い物をと思うて作りました。」

はやては満面の笑みで言った。

 

 ……うん、可愛い。

 

「うむ……とりあえず食べるぞ……。」

ネロの顔は……暗い。

「……覚悟を決めましょう。どうせ(サケ)られないんですから(ダジャレ)。」

  シーン……

鈴藤さんの言葉に、全員言葉を失った。ダジャレが面白くなかったのか、それとも現実を目の当たりにしたからか……。

「……毒を食らわば皿までだ!!」

そう言ってベオウルフは和泉さんのサラダを一気に口へ流し込んだ。

 

 ……意味は間違えてるけど、ある意味あってるな。

 

 その様子を見ていた他の審査員たちも意を決し、サラダを口に入れる。

「……ここまでのは久しぶりだな。」←ベオウルフ

「栄養は取れるが……オエッ……」←エジソン

「野菜は美味いな……野菜は……」←キンジ

「………生臭い。」←理子

「……(サケ)いらないなぁ。」←鈴藤

「………。」←藤崎

「……。(オエッ)」←音野

審査員たちの顔は青くなっていく。

 

「お、おめぇ!!この(サケ)(うろこ)入ってんじゃねぇか!!」

藤崎さんは(うろこ)を吐き出し、叫んだ。

「素人が(サケ)の解体できるわけないでしょ!!次の料理が待ってるから早く食べなさいよ!!」

和泉さんはそう言った後、食材を取りに行った。

「まぁ……2時間も(サケ)をいじくってれば、ここまで生臭くなるよなぁ……。でも、ワカサギに比べれば……」

鈴藤さんはそう言って遠い目をした。

「……ワースト1位だ、コレ。」

音野さんはぽつりと言った。

「あんたらどんな料理食ってんだよ。」

キンジが思わずそう言うと……

「とりあえず、村田君の料理が高級レストランの料理に思えるかなぁ。」

「そうですなぁ……ゲテモノ使ってても味は美味しいですし。」

鈴藤さんと藤崎さんの言葉に、他の審査員たちは口が塞がらなかった。

 

 

 

「うるさいなぁ!!……お見舞いするぞ!!!」

「アオダイショウはゲテモノじゃねぇだろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「次はイブキのを試食するぞ!!」

ネロはワクワクする気持ちを表に出しながら言った。

「魚のアラの出汁が必要だったので……身の部分で作った『魚の煮卸(におろ)し』です。」

俺の言葉に審査員たちは一瞬固まった。

「い、イブイブ……この魚は、何?」

理子はすがるような目で聞いてきた。

「……?そこにあった魚を‘‘ざっくばらん’’に煮たんだけど……。」

俺のその言葉に審査員全員は安堵した。

 

 ……なんだってそんなことを聞くんだ?

 

 

 

 審査員は『魚の煮卸(におろ)し』を口に入れると……

「しっかり煮てあってうめぇじゃねぇか。」←ベオウルフ

「大根おろしに魚の風味が乗っていて美味い!!」←エジソン

「……あれ?意外にうまい。」←キンジ

「……料理、習おうかな。」←理子

「いやぁ、これは美味しいよ。(あじ)も歯ご(たい)もいいなぁ!!(ダジャレ)」←鈴藤

「……ちゃんと染みていて美味いですなぁ」←藤崎

「……。(無言のサムズアップ)」←音野

審査員たちの評価は良いようだ。

 

 

 

「では続いて、はやてちゃんの料理です。」

中空知さんの声が響く。

「これはこれでうめぇじゃねぇか。」←ベオウルフ

「素材の味がしっかりと出ている!!」←エジソン

「ホッとする味だな。」←キンジ

「ハヤちゃんの料理はおいしいよ!!」←理子

「……懐かしい味だなぁ。僕がまだ小学生だった時……」←鈴藤

「あの……鈴藤さん。大丈夫ですか?」←藤崎

「……。(無言のサムズアップ)」←音野

審査員たちは大好評。鈴藤さんに至っては唯々(ただただ)涙を流し、昔の話をしている。

 

 

「あの、はやてちゃん。君、(毒を)盛ってないよね?」

和泉さんはそう言ってきた。

「何言ってんですか!!」

俺は思わず言ったが……

「和泉さんほどじゃないですけど、愛情はちゃんと盛ってます。」

「「……。」」

 

 ……小学生にしてこの返しか。

 

俺は思わずはやてを撫でた。

「イブキ兄ちゃん!!髪が!!髪がぐちゃぐちゃになるわぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 3人の料理を食べ、審査員たちの気分がよくなった頃……

「さて、私はそろそろデザートのほうを作らせていただきます。」

和泉さんは張り切った声で宣言した。

「今回はですね……シンプルにアップルパイを食べてもらおうと思っております。」

和泉さんの手には‘‘真っ赤なリンゴ’’と‘‘パイ生地(?)’’が握られていた。

「時間が押してるので……今回パイはあまり手の込んだ物は作れないだろうと。」

 

 ……残り2時間とちょっと。確かにパイを焼くとなると余熱とかが必要だ。確かに時間が無いな。

 

「それでですね。今回はリンゴをコレで豪快に包み込もうと。」

和泉さんはそう言い、丸いリンゴをパイ生地(?)で一気に包み始めた。

「「「いやいやいや!!」」」

蝦夷テレビの審査員3人は思わず声を上げた。

「アップルパイってそう言うものですか!?」

藤崎さんは思はず聞いた。

「あれって……ただのリンゴ(アップル)とパイでしょ!?」

鈴藤さんは訂正した。

 

 リンゴはパイ生地(?)に包まれ、白い物体になった。和泉さんはその白い物体をオーブンに投げ入れ……

「……?オーブンの使い方を教えてくれないかい?ぼかぁオーブンは使ったことがないんだ。」

 

 ……俺、審査員じゃなくてよかった。

 

 俺は思わず安堵し、

「……アチッ!!」

……火傷した。

 

 

 

 

 

 

 その後、はやては『肉じゃが』、『茶碗蒸し』、『卵焼き』、『ほうれん草のおひたし』、『ポテトサラダ』などの家庭的な‘‘おふくろの味’’で審査員たちを(うな)らせて言った。

 

 師匠は、アイルランド料理『ギネスシチュー』、『生カキとスモークサーモン』、『シェパーズパイ』、『アイリッシュオムレツ』で審査員たちを攻めていく。

 

 ダージリンは典型的なイギリス料理『ウナギのゼリーよせ』、『油ギトギトのフィッシュアンドチップス』、『黒コゲのスコッチエッグ』で、審査員たちを攻撃(間違いに非ず)していった。

 

 俺は軍や知人から教わった料理『リスとウサギのアイヌ風タルタルステーキ(チタタプ)』、『心臓の丸焼き』、『ルイペ(凍ったアイヌ風刺身)』、『サツマイモのつるの油炒め』を出しながら、大鍋を必死にかき回す。

 

 和泉さんは……何をやっているんだ?野菜切るだけなのに、大量の時間を使っているのだが……。

 

 

 

 

 

 

 時間は瞬く間に過ぎ、残り15分。料理人たちは最後の料理に手をかけ始めていた。

「このパスタの茹で時間は3分ですから、3分後には上げちゃいます。」

和泉さんは細いパスタをグラグラと煮えたぎる鍋にぶち込むと……

「え~、匂いをつけるためにですね…フランベを。今からここでフランベします。」

野菜と肉が入っているフライパンを持ちながら言った。むろん、その野菜と肉は十分に火が通っている。

「「「「「「え?……いやいやいや!!!」」」」」」

審査員たちの制止を振り切り、和泉さんはライターを借りてきた。そして、ブランデーをドバドバと注ぎ、IHなのに無理やりフランベをしようとする。

  カチッ…ボンッ!!!

和泉さんのフライパンからは、2mを超す火柱が立った。

「うわぁ……。」

「燃えますなぁ……アッハッハッハ!!」

蝦夷テレビの3人は落ち着いてみているが……審査員どころか観客も口が塞がらなかった。

「「できた(できましたわ)!!!」」

火柱が上がった時、はやてとダージリンの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 審査員の前には、

・『はやて作:ラザニアとデザートのプリン』

・『ダージリン作:スターゲイジーパイ(黒コゲ)とデザートのスコーン』

この4つが並べられた。

「「「「「「……。」」」」」」

ラザニアとプリン、スコーンは美味しそうなものの……スターゲイジーパイは真っ黒こげ、魚の頭は炭化を通り越し、灰になっている部分すらある。

 

 

 審査員たちはあえてそのスターゲイジーパイを見ない様にしながらラザニアに舌鼓を打った。そして……

「……では、ダージリンさんの料理を試食です。」

「これはイギリスの伝統料理、『スターゲイジーパイ』ですわ!!」

中空知さんの声が……俺は死刑を宣告する声のように聞こえた。

 

 ……本当に、本当に!!審査員じゃなくてよかった。理子、キンジ、お前たちの骨は後でちゃんと拾うぜ!!

 

 俺は心の中で合掌しながら、鍋に隠し味である鷹の爪油・缶詰の桃・福神漬けの汁・ニンニク醤油・コーヒー・ワイン・多種多様なソース類などを入れていく。

 

 

 

 

 

審査員たちは死んだ魚のような目をしながら、『ダージリン特製スターゲイジーパイ』を口に運んだ。

「……食えなくはないな。味を無視すれば。」←ベオウルフ

「……こんな風にできるとは、むしろ才能があるのでは!?」←エジソン

「外は黒コゲ、中は半生(はんなま)……」←キンジ

「……。(一口食べた後、水で流し込む)」←理子

「ワカサギに比べれば、まだ……」←鈴藤

「女子高生の手料理っていう、僕が学生時代に思い描いていた夢をかなえてるんですけどねぇ……。全然嬉しくないんだよなぁ……。」←藤崎

「……。(一口食べた後、こっそり藤崎のさらに移す)」←音野

 

 審査員たちが『ダージリン特製スターゲイジーパイ』を何とか食べ終わった。

デザートの『はやてのプリン』、『ダージリンのスコーン』そして、『スカサハのアイリッシュチーズケーキ(某パイの試食中に完成)』によって何とか審査員たちのハイライトが戻っていった。

 

 

 

「できました!!」

俺はやっと鍋をかき回すのを止めた。

 審査員たちの前には、ご飯の上にスパイスの香りがする茶色い液体がかけられた物と、デザートの(なし)が置かれた。

「本来、海軍カレーは前日から仕込みを始めるんですけど……時間が無いので。魚のあらで出汁を取った『即席海軍カレー』と『(なし)』です!!」

 俺は海軍兵学校の実地訓練時代に偶然教わったカレーを作った。あらで出汁を取り、十数種類の隠し味を入れ、さらにアレンジを加えたカレー……美味くないはずがない。

 

 審査員たちが試食すると大好評。俺の作った料理の中では最高の評価だ。

「そう言えば村田君。」

「なんです、鈴藤さん?」

「この肉団子の肉、何?」

鈴藤さんの言葉で、全員のスプーンが止まった。

「何ってやだなぁ……。まぁ、実はチタタプの残りで作った肉団子なんですが……。」

リス肉とウサギ肉だな。別々に分けてある。

「「「「「「……。」」」」」」

 

 ……あ、あれ?審査員たちのテンションが下がったような気がする。

 

「俺は別に気にしねぇけど……。」←ベオウルフ

「……食材には感謝しなければ。」←エジソン

「美味いのが腹に立つ。」←キンジ

「美味しいんだけど……美味しいんだけど……」←理子

「最初は驚いたけど、美味しいんだよなぁ……。」←鈴藤

「これがマズかったら非難できるんですけどねぇ……。マズくないどころが美味いんだよ、コレ。」←藤崎

「うまいよ、コレ。」←音野

 

 ……みんな、ジビエは食い慣れてないのか?

 

 俺はやっとそのことに気が付いた。

 

 

 

 

「残り5分になったぞ!!」

ネロが宣言すると……和泉さんは慌ててパスタをフライパンにぶち込んだ。

 

 ……あ、あれ?そう言えばパスタを上げた後、5分くらい放置してたような。

 

高さ20センチは超す大量の山盛りパスタを、ソースと混ぜようとするが……

「お前またドームになってんじゃねぇか!!」

藤崎さんは声を荒げて叫ぶ。

「うるさいなぁ!!おめぇのだけ山盛りにするぞ!!」

和泉さんはそう言いながらパスタと混ぜようとするが……混ざる気配がない。

 

 和泉さんは混ぜるのを諦め、パスタを皿に盛り始めた。

「残り3分です。」

中空知さんの声で残り時間が知らされた。

 和泉さん以外の4人は料理が終わっているため待機しているが……和泉さんはメチャクチャ焦っている。

「そう言えば和泉さんのアップルパイは……」

俺は疑問に思って、和泉さんに聞いた。

「あぁ!!!」

和泉さんは大慌てでオーブンを開けた。そこから取り出されたものは……リンゴが3分の1露出し、何かの液体がしみ出て、変なにおいがするアップルパイ(?)だった。

 和泉さんはそのパイを肉切り包丁で力任せに切っていく。

「残り1分だぞ!!」

「そう言えば和泉さん。スープのほうは……」

ネロと鈴藤さんの質問が同時に会場へ響き渡った。

「忘れてた!!!」

和泉さんは急いで食材置き場へ行き、冷凍のエビと玉ねぎ、大量の青唐辛子、レモン汁を持ってきた。

 それらの食材を全てミキサーに放り入れていく。

 

 ……嫌な予感しかしないんだが。

 

俺の額には冷汗がしたたり落ちる。

  ウィイイイイン……ベキベキベキベキ!!!

ミキサーから、出してはいけない音が大音量で出ている。

 俺は審査員たちを見ると……全員顔が青い。

「残り10秒だぞ!!」

ネロの声が、ミキサーの音で消される。

「「5」」

「「4」」

「「3」」

「「2」」

「「1」」

「できたぁ!!」

 ジャーンジャーン!!

料理終了の銅鑼(どら)が響き渡った。

 

 ……トータル5時間の料理か。とても長かったぜ。

 

処刑執行(和泉さんの料理)を待つ審査員たちを視界に収めずにそう思った。

 

 

 

 

 

 

「『ひき肉と秋野菜のスパゲッティ』、『トムヤンクン風オニオンスープ』、『アップルパイ』です。」

審査員たちの前には、皿に盛られた伸びたパスタ、コップに入れられたスープ(スムージー)、異臭のする焼いたリンゴとパイが置かれた。

「あの……」

キンジは手を上げ、発言した。

「これ、スープじゃなくてスムージーじゃないd……」

「スープです。」

「いや……煮込んでn……」

「スープです。」

「……そうですか。」

キンジの手はゆっくりと降りていった。

 

 ……キンジ!!そこで諦めるなよ!!絶対これスープじゃねぇだろ!?

 

 

 

 

 

 審査員たちは『トムヤムクン風オニオンスープ(スムージー)』を避け、『ひき肉と秋野菜のスパゲッティ』、『アップルパイ』を先に食べ始めた。

「不味いんだが……く、食えなくはねぇな。」←ベオウルフ

「……のびたパスタ、異臭がする焼きリンゴとパイ。食べられなくはないが……マズい。」←エジソン

「食えなくはないんだ……食えなくは……」←キンジ

「……もうやだぁ」←理子

「うん……うん……。」←鈴藤

「も、モチャモチャ言ってますけど……。」←藤崎

「……。(顔が真っ青)」←音野

 

 

審査員たちはそれ以上言葉を発さずに、パスタとアップルパイを食べた。

「あの……皆さん?スープが残ってますよ?」

和泉陽司(執行人)の声が会場に響き渡る。

「「「「「「……。」」」」」」

審査員たちは膝に手を置いたまま動こうとしない。

 

 

 数秒か、数十秒か……数分かもしれない。静寂が会場を支配していた。その時、二人の(おとこ)がこの静寂を破った!!

「俺は止まんねぇからよ……だから、止まるんじゃねぇぞ……!!」

「私の屍を超えてゆけ!!!」

  ガッ!!

ベオウルフとエジソンはスープ(スムージー)の入ったグラスを持ち、一気に飲み干し……

  バタン……

椅子ごと背中から倒れた。

 二人の体は薄くなっていき、体からキラキラと光るものが……って霊基が損傷してるじゃねぇか!!

 

 

 

 二人は師匠とニト、そして玉藻(見に来てくれた)によって保健室へ運ばれていった。

「「「「「……。」」」」」

残された5人は……動けずにいた。

「お~い、安浦くぅ~んいるんだろぉ?こっちへおいでぇ~。」

「こんな時だけ呼ばないでくれる?」

簡易0u(レイウ)ちゃんに着替えた安浦さんが舞台袖から出てきた。

「……おい、スープ食わねぇか!?」

和泉さんはそう言ってスープ(スムージー)の入ったグラスを渡した。

「…………。」

安浦さんは悟った様な目をした後、毒杯(グラス)に口をつけた。

 パコッ

変な音がしたと思ったら、安浦さんは3秒ちょっとで飲み干していた。

「コレ……人が食うもんじゃねぇって!?」

安浦さんが倒れなかったため、残った審査員たちに希望が見えようだ。

 

 

 

審査員たちは覚悟を決め、スープ(スムージー)を飲むと……

「う~ん……。(そのまま気絶)」←キンジ

「……。(顔を真っ青にし、トイレへダッシュ)」←理子

「案の定……コクが無く、生臭く、唯々(ただただ)辛い……」←鈴藤

「……ククククッ」←藤崎

「これすごくマズい……。」←音野

審査員たちは死屍累々。ベオウルフとエジソン、キンジは救護科(アンビュラス)行き、理子はトイレに引きこもることになった。

 

 

 

 

 この料理対決、残った審査員(鈴藤、藤崎、音野)3人による厳正な審査(一人100点)の結果、

  1位:八神はやて 300点

  2位:スカサハ  287点

  3位:村田維吹  177点

  4位:ダージリン 123点

  5位:和泉陽司  98点

という点数になり、はやてにはトロフィーと、5万円分の商品券が渡されることになった。

「イブキ兄ちゃん!!勝ったよ!!」

「おめでとう!!はやて!!」

「兄ちゃん!!髪がぐちゃぐちゃになるわぁ~」

俺ははやてを抱きしめ、ワシャワシャと頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 ‘‘木曜どうでぃ’’の歴史において、『トムヤムクン風オニオンスープ(スムージー)』は『ワカサギ懐石』、『エビチリ』、『グレーリング飯』と並び、シェフ・和泉の四大料理となるのだが……閑話休題。

 

 

 

 

 ついでに、キンジは後日エビアレルギーを発症し、生のエビが食べられなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺ははやてを撫でまわした後、そろそろ寒くなってきた(パンツとエプロンのみのため)。なので制服に着替えるため、舞台袖へ向かおうとすると……

「おぅ~い、村田くぅ~ん。どこへ行こうっていうんだぁ~い。」

「イブキさん。まだ(わたくし)の料理が残っていますわ。」

  ガシッ!!

二人が俺の肩を掴んできた。

「え……いや……俺、審査員じゃないし……」

「ぼかぁ、君のために料理を作りに来たようなものなんだよぉ~。主賓が食べないなんておかしいじゃない。」

(わたくし)もイブキさんのお礼に料理を作りに来たの。レディのお願いを断るの?」

二人の手にはパイがあった。

「村田くぅ~ん……」

「イブキさん……」

「「おい、パイ食わねぇか(パイお食べになりません)!?」」

 

 俺は……その後の記憶がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  数週間後、某学園艦にて……

「ねぇノンナ。」

録画していた番組を見ていた‘‘小さい暴君’’が思わず声を上げた。

「どうしました?」

すると、身長が高く、黒髪のロングヘアーでスタイルのいい女性が来た。

「なんで聖グロが出て、北海道の私たちが出てないのよ!!」

‘‘小さい暴君’’はプリプリと怒りながら言った。

「学園艦は青森所属ですが?」

「私たちは網走出身よ!!」

「あの番組に出たいのですか?」

「そ……そんなわけじゃないけど……。」

「出たいのですか?」

「…………で、出たい。」

  シーン……

‘‘小さい暴君’’は(うつむ)きながら言った。

「わかりました。」

 

 12月上旬、‘‘小さい暴君’’のわがままによって、シェフ和泉の‘‘犠牲者’’が増えることになるとは……この時誰も思っていなかったのである。

 

 




 和泉さんの(サケ)は下手に鱗取りをやったため、身などに鱗がくっついちゃっています。

 
 魚の煮つけ……久しぶりに食べたいなぁ。

 
 実は……自分の‘‘おふくろの味’’と言えばラザニアとミートスパゲッティ、チリコンカンです。母親が料理好き(洋食専門、和食はマズい)で、小さい頃の誕生日やクリスマスにはよく作ってくれたのですが……ここ十数年食ってない……。
 書いている時、そんな昔の記憶がよみがえりました。

 
 和泉さんのスープ(スムージー)の元ネタは、H〇Bの『ハ〇タレ〇ックス』より『大食わせ〇手権』の『地獄スープ』です。

 
 「おいパイ食わねぇか」
某化け物ローカル深夜番組の鉄板ネタの一つ。このセリフを検索すれば出てきます。
 

 
  Next Ibuki's HINT!! 「鍋」
 


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お前も食べるんだから……

 前回、『Next Ibuki's HINT!! 「義妹(いもうと)」 』と書きましたが、「鍋」に変更いたしました。誠に申し訳ありません。
 えぇ、そこまでいかなかったんですよ。

 
 プロットの大幅変更と学校の授業や課題のせいで、だいぶ時間が空きました。お待たせして申し訳ありません。


「「「「かんぱ~い!!!」」」」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)、それに鈴藤・藤崎・音野・安浦の蝦夷テレビの4人、黒髪の美女と金髪の美幼女(チビ)、そしてカラフルな髪の色をした5人のアイドル(?)達は、その声と同時にグラスを高々と掲げた。

 

 

 会場はクリスマスの装飾が施された洋館。外は吹雪いているようだが、会場はとても暖かい。

 

  Oh, the weather outside is frightful……

 

ヴォーン・モンローの‘‘Let it snow! Let it snow! Let it snow!’’がBGMで流れ、(すい)な雰囲気を(かも)し出す。

 

「いやぁ~とても華やかですなぁ~」

 

蝦夷テレビの‘‘髭’’はケーキをガツガツ食べながら(つぶや)いた。

 

「女の子なんて出ないからねぇ~」←鈴藤

「いつも出るのはおっさんだけでしょ?今日は華があるじゃない」←安浦

「……(コクコク)。」←音野

 

鈴藤・安浦は美味そうにワインを飲み、音野さんはカレーを飲みながら(間違いに非ず)カメラを回す。

 

「……ったく。何だってこんなところに……。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言ってタバコをふかしているが……頬は緩んでいる。

 

「おっさん、なんだかんだ言っても鼻の下が伸びてるぞ。マリーさんはいいのかよ?」

 

俺はそう言ってラム酒の瓶を飲み干した。

 

 ……銃弾やナイフが全く飛んでこない美少女達が大集合しているんだ。目の保養になる。

 

俺はそう思いながら女の子たちの会話を盗み聞きする。

 

「初めまして!!まんまるお山に(いろどり)を!!丸山彩でーす!!」

 

 髪がピンク色の少女はそう言いながら変なポーズをとった。

 

「の、ノンナ!!」

「はい、カチューシャ。」

 

すると金髪の幼女(チビ)は黒髪の美女に肩車してもらい、そのまま自己紹介をする。

なんとまぁ、微笑ましい彼女たちの交流だろうか。

 

  バタタン!!!

 

「は?」

 

 

その時、洋館の壁は崩れ落ち……吹雪の中に立たされてしまった。俺は周りを見渡すと……みんな口から ‘‘何か’’を垂れ流しながら倒れていた。

 

「やぁ村田くぅ~ん」

「しぇ、シェフ和泉……」

 

俺の目の前に、シェフ和泉が立っていた。彼は‘‘何か’’を盛った皿を手にしている。

 

「パイ食わねぇか?」

「う、うわぁあああ!!!!」

 

そう言ってシェフ和泉は……俺の口に無理やり‘‘何か’’を詰め込み………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イブイブ、イブイブ!!起きて~!!!」

 

理子はそう言って膝の上で寝ている犠牲者(イブキ)を揺さぶる。

 

「いやぁ~よく眠ってますなぁ~……」←藤崎

「パイ二つ食べたくらいで気絶するなんて……根性が足りないんじゃないかい?」←和泉

「いやいや!!パイ食べるのに根性が必要ってのはおかしいよ!?」←鈴藤

「……そろそろ飛行機出るんで先に帰ります。お疲れ様です。」←安浦

「「「「お疲れ~」」」」

 

安浦はそう言って車から降りた瞬間……

 

「うわぁあああ!!!!」

 

 ベキッ!!!

 

「「ッ~~~~~!!!!」」

 

飛び起きたと同時に、額に強い衝撃と激痛が走り……俺は悶絶(もんぜつ)することになった。

 

 

 

 

 

 

 痛みが多少引き、俺は額を押さえながら周りを見ると……そこはハイエースのようなワンボックスカー内だった。

 その車内には蝦夷テレビのメンツ(和泉、安浦、鈴藤、藤崎、音野)が爆笑している。

 

「うぅ~…………」

 

俺の隣には、理子が(うめ)きながらアゴを押さえている。時計を見ると……夜の7時。

 

「……あ、あの。なんでここに?」

 

目の前には『東京国際空港』という文字が書かれた建物がある。

 

「俺は確か……武偵高で料理をして……。その後……そ、その後……」

 

俺は何があったかを思い出そうとすると……激しい頭痛と吐き気がし、冷汗が止まらない。心臓が不規則に鼓動を打ち、息が荒くなる。平衡感覚が失われていき、視界が歪む。

 

「おめぇのせいでトラウマになってるじゃねぇか!!」←藤崎

「……い、いやね。ぼかぁここまでだとは思わなかったよ。」←和泉

「あれね……人間が食べられるものじゃないよ……本当に」←安浦

「い、いや……思い出さなくていいから……」←鈴藤

「大丈夫かい?」←音野

 

 

 

 俺は思い出すのを諦めると、さっきまでの体調不良は一気に消えた。こんな体調は初めてだ。

 

「で、なんでここにいるんですか?」

 

 ……何故、俺と理子は羽田なんかにいるんだ?

 

「実はですねぇ~。これからロケがあるので序盤だけ手伝ってもらえないかなぁと思いまして……」

 

 藤崎さんは和泉さんを車の外に追い出した後、説明を始めた。外では和泉さんがぼやいているが……無視する。

 

「明日、用事があるんで……そこまで長くは付き合えませんよ?」

「あ、イブイブ。それは大丈夫だよ?」

 

理子はそう言って、ガサゴソと車の荷物をあさり……

 

「これを引くだけでいいって。」

 

‘‘はがき(?)’’が大量に入っている透明な箱を出した。

 

「え?」

 

俺は思わず藤崎さんを見た。藤崎さんはコクコクと顔を上下に振っている。

 

 ……え?何のロケなの…これ?

 

 

 

 

 

 

 

「さて、和泉さん。我々の恩人である『武偵高の生徒さん』に料理をお見舞いしたのですが……そっちがメインではございません!!我々は旅に出ます!!」

「僕はもう満足だから帰ってもいいかい?あのヒゲも東京名物の甘味を大量に買い込んでるんだよ?」

「アッハッハッハ!!」

 

鈴藤さんと和泉さん、藤崎さんの掛け合いが始まり、その様子を音野さんが撮っていく(安浦さんはラジオがあるために帰った)。

 

「‘‘木曜どうでぃ’’を長い間続けてますが……我々、何か忘れていることがあるんじゃないかと。」

 

   ダダン!!

  『忘れていること』

 

 ……今、テロップかなんか出ただろうなぁ

 

俺と理子は音野さんの後ろに待機している。……実は他のお客さんにジロジロ見られる。

 

「‘‘木曜どうでぃ’’と言えば旅番組です。」

「もちろんです。」

「もちろんですよぉ~!!」

 

鈴藤さんの言葉に二人は(うなづ)く。

 この時、俺はこの番組が旅番組であることを初めて知った。

 

「旅と言えばやっぱり……美しい風景。美しい風景を楽しみたいわけですよ。」

「……やっとこの番組は、そこに気が付いてくれたんだねぇ。僕は一番最初から言ってましたよ?『なんで乗り物しかのらないんだ』って……。今までがチャンチャラおかしかったわけだよ。唯々(ただただ)乗り物に乗ってね、疲れたタレントを映して、ヒゲが笑うなんて……旅じゃないんだよ。ぼかぁ君たちのk……」

 

和泉さんは今までの愚痴を吐いているいるが……俺は気が付いた。

 俺は車に戻り、透明な箱に入っている‘‘はがき(?)’’を一枚とり、裏返した。そこには……『美しい棚田の中に、よくわからないアートが置かれている写真』があった。隅には『新潟県十日町市 大地の芸術祭』と小さく書かれてある。

 

 ……この写真の場所に行くのか!?

 

中には小笠原諸島の写真もある。たった3日で小笠原に行って帰れるのか!?

 

 

 

「イブイブ……そろそろ行くよ?」

 

理子が俺の肩を叩き、伝えた。

 

「わかった。」

 

まぁ、俺は行かないし……別にいいか。

 

 

 

「今回はですね。お見舞いしてしまった彼らに最初の一枚を引いてもらおうと思います!!」

「いえ~い!!」

「あ、どうも。」

 

鈴藤さんの紹介の元、俺と理子はカメラの前に躍り出た。

 

「こいつの料理、酷かっただろ?」

 

藤崎さんが聞いてくる。

 

「アハハ……イブイブはともかく、キー君はヤバいらしいから……」

「理子はトイレへ何度も往復していt……痛い、痛いから!!」

 

  ベキ!!バキ!!ドスッ!!

理子は本気で俺を殴り続ける。

 

「アッハッハッハ!!」←藤崎

「お、女って怖いなぁ~……」←和泉

「流石にデリカシーはないけど……村田君は尻に轢かれそうだねぇ~」←鈴藤

 

 

 

 

「さて、では気を取り直して二人に引いていただきましょう!!」

「りょ~~かい!!」

「…………はい。」

 

鈴藤さんの言葉に、笑顔いっぱいの理子とボロボロの俺(後で確認したら、顔に青あざができていた)が透明な箱に手を突っ込んだ。

 二人で『絵はがき』を混ぜながら、「あーでもないこーでもない」と選んでいると……

 

「流石に『時計台』は抜いてあるだろ?」

「もちろん入ってます!!」

 

和泉さんの言葉に、藤崎さんは威勢よく返事をした。

 

「それ引いちゃったら……ただ‘‘武偵高の皆さん’’にお見舞いして帰るだけですよ!?」

「我々もね、シェフ和泉の攻撃で満身創痍ですから……。時計台を引いたら…さすがの僕達も企画、辞めちゃいますよ!!」

 

鈴藤さんと藤崎さんはそんな冗談を言いながら笑い合う。

 

「イブイブ、これがいいんじゃない?」

「……紙質もいいし、これにするか。」

「じゃぁ、いくよ~」

「「せーの!!」」

 

  ダン!!

俺達が引いた『絵はがき』は……

 

「「「…………アッハッハ!!!」」」

 

  『雪化粧の札幌時計台』

 

 ……あ、やっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて……一悶着会った後、蝦夷テレビの皆さんは札幌へ帰った(旅立っていった)

 

 

 次の日、俺はフリーなのでみんなと文化祭を楽しもうと思っていたのだが……異常なほどの腹痛が発生。血便まで出たのだが……何とか後夜祭までには回復することができた。

 

 ……おっかしいなぁ?俺は昨日そんな変なのは食べてないはず……はず……

 

 頭痛と吐き気がしたため、それ以上思い出すことは中止する。

 

 

 

 

 さて、武偵高(ここ)では文化祭の打ち上げで‘‘武偵鍋’’という物を囲むのが習慣だそうだ。

 ‘‘武偵鍋’’とは……各自食材を持ち寄り、それをまとめて煮る。要はただの闇鍋。チームの親睦を深めるために毎年、必ずチームごとで行わなければいけないらしい。ここまでだと、楽しそうな鍋大会なのだが……

 

 普通の具材を持ってくるアタリ担当、普通は入れない具材を持ってくるハズレ担当、この二つに分かれて具材を持ち寄るそうだ。ついでに、持ち寄る具材は直前まで秘密にするそうで……

 

 ……うん、馬鹿じゃねぇの?

 

苦しみを共有し、親睦を高めるのは理解できる。軍ではよくある手法だ。しかし……食べ物はマズいだろ、食べ物は……。

 

 

 

 

 

 

 さて、今回のアタリ担当とハズレ担当、そして調味料担当(奇数人の場合のみ有り)だが……

 

アタリ担当

   ・ネロ

   ・牛若

   ・エルキドゥ

 

 

  ハズレ担当

   ・イブキ()

   ・ニトクリス

   ・リサ

 

 

  調味料担当

   ・理子

 

 

  特別ゲスト(一人の打ち上げは寂しいだろう……という事で道連れ(特別参加)

   ・ワトソン

 

この8人で‘‘武偵鍋’’を囲むのだが……我々『COMPOTO』常識人すべてがハズレ担当なのだ。

 正直言って……牛若は万に一の確率で普通の具材を持ってきてくれるかもしれないが、ネロ・エルの二人は一切期待できない。

 それに加え……調味料係が理子なのだ。理子が自重するとは思えないので……道連れ(衛生兵)としてワトソンを連れてきた。ワトソンは嬉しいやら恥ずかしいやらで頬を赤めていたが……うん、ゴメンナサイ。

 

 

 

 

 はやてとウォルケンリッター・玉藻を急いで帰し(犠牲者を減らすため)、体育館へ向かうと……全員集まっており、リサが鍋を軽く炒めていた。

 

 ……え?炒める?鍋だろ?

 

「あ、イブキ様!!」

 

リサは俺に気づいたようで大きく手を振る。すると、彼女の胸も大きく……いや、何でもない。

 

「汁、少なくないか?」

 

土鍋で具材を炒めているのだが……大丈夫か?

 

「あの……理子様がだし汁を少なくするようにと言われました。」

 

 ……え?あの理子が?そんな指令を!?

 

俺は理子を見ると……‘‘ムフー’’豊満な胸を張っていた。

 

「何でも、火を入れた後に煮るとおっしゃっていましたよ?」

 

リサはそう言って水筒を取り出した。その中にはだし汁が入っていた。

 

 

 

「イブイブも来たことだし、そろそろやるよぉ~」

 

理子はそう言って瓶を取り出した。その瓶には……『SPIRYTUS』。……す、スピリタス!?

 

 スピリタスはポーランド原産のウォッカだ。こいつのアルコール度数は96度。世界最高純度の蒸留酒であるため、火気厳禁である。

 

「え~まずはですね、フランベします。(和泉の声を真似る)」

 

理子はそう言ってコンロの火を切り、スピリタスをドバドバ入れ、ライターで火をつけた。

  ボン!!!

巨大な火柱が上がった後、メラメラと火は燃える。他のチームは俺達を見てギョッとしている。

 

「くふふ……!!火は消さないとねぇ~」

 

理子は‘‘生クリームのスプレー’’5本で消火をしようと試みるが……余計に火の勢いが強くなる。

理子は鍋に(ふた)をして消火をした。そして黄色のボトルと小さな小瓶を取り出し……

 

「ここにですね、よくわからないスパイスとレモンを入れます。(和泉の声を真似る)」

 

ドバドバッと‘‘よくわからない文字(インドかタイか?)で書かれたスパイス’’とレモン汁を鍋に投入する。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

我々『COMPOTO』(+1名)は口がふさがらない。

 

「だし汁ちょ~だい!!」

「は、はい!!」

 

理子は水筒を受け取り、だし汁を鍋にぶち込むと……色は茶色と黄色に……これ、人が食えるものなのか?

 

「ぼ、ボク……用事を思い出しちゃったよ!!今日は招待してくれてありがとう!!じゃぁ!!」

「おい待てワトソン!!」

 

俺は帰ろうとしたワトソンの手を掴んだ。

 

「む、ムラタ!!離してくれ!!ボクはまだ死にたくない!!」

「何のためにお前を呼んだと思ってるんだ!!お前は道づr……衛生兵としても呼んだんだぞ!!」

「今『道連れ』と言おうとしただろ!!ボクは帰らせてもらう!!」

「待て待て待て!!!」

 

俺はワトソンの腕を思いっきり引いた。するとワトソンの軽い体は簡単に動き、俺の胸元にストンと収まる。ワトソンと俺の目が合った。

 

「お前がいなきゃ……ダメなんだ(道連れ&衛生兵として)!!!」

「え…………」

 

ワトソンの頬は赤くなり……そして、耳まで赤くなっていった。

 

 ……あれ?ワトソン何か誤解してるんじゃねぇか?

 

 ワトソンは顔が真っ赤のまま、その場にペタンと割座(女の子座り)をした。そのままモゴモゴと独り言を呟いている。

 

「「「「「「…………。」」」」」」

「ッ……!!」

 

俺は殺気を感じ、その方向へ向くと……『COMPOTO』全員からの殺気であった。

 

「…………味が足りないので、もう少し追加します(和泉さんの声真似)」

 

理子はそう言いながら笑顔で(目は笑っていない)レモン汁・スパイス・白ワインをドクドクと加えた後……

 

「く~さ~や~液!!!!」

 

異臭を放つ濁った醤油の様な液体を鍋の中に投入した。鍋からはくさや特有の臭いを放ち、体育館にその匂いが充満していく。

 理子はその匂いをモロに喰らっているはずなのに……顔色一つ変わっていない。

 

「くふふ……!!!そして~シュールストレm……」

「もういい!!もういいから!!」

 

理子は‘‘黄色と赤で塗装された缶詰’’と缶切りを持っていたので、俺は慌てて拘束した。

 

「理子待てって!!これ以上はマズいから!!」

「イブイブ……」

「な、なんだよ……」

「人間はね……意地でもやらなきゃいけないことがあるんだよ!!!」

「こんなことで意地張るなよ!!!」

 

 

 

 

 

 何とか理子を諦めさせた後、リサは塩と胡椒・砂糖を使って何とか味を整え……

 

「すいません……リサには、これが精いっぱいです……」

 

そう言って、器に全員分を平等によそった。俺の器の中には……よくわからない肉(2種類)・丸焦げの御飯・焦げた何かが入っていた。臭いをかぐと……激しい異臭の中にアルコール臭が混ざっている。

 俺は恐る恐る箸をつけ、口に入れると……

 

「……あれ?」

 

 

 ……確かにくさやの激臭とアルコール臭さがあるが、味はそこまでマズくはない。奇跡的に俺達の持ってきた食材がお互いに邪魔し合っていないのだろうか……食べれる料理だ。

 

「リサって凄いんだな……」

 

俺は思わず言った。だってあんな混沌とした(カオスな)料理を塩・胡椒・砂糖だけで食える物にしたなんて……

 

「いえいえ……私はほとんど手を加えてませんよ!?」

 

リサの仕草を見る限り……謙遜ではないようだ。俺は思わず理子を見ると……

 

「イブイブ~褒めてもいいんだよぉ?」

 

 

 ……なんか(しゃく)だな。

 

「そう言えばみんなは何持ってきたんだ?」

 

俺は理子を無視しながら、インスタントのマーボー丼の袋を出した。鍋に入れても辛うじて食べれるだろう(おじやのようになると思って)と思っていたのだが……まさか最初にフランベされるとは誰が思っていただろうか……。

 

「うむ、余はロマーノチーズを持ってきたぞ!!」←ネロ

「私は‘‘ちらがー’’とやらを持ってまいりました!!」←牛若

「ボクはコレ。(エンドウ豆とその他野菜を見せる)」←エル

 

意外なことに、不安な3人(アタリ担当)が(まだ)真っ当な物を持ってきているとは……予想外だ。

 

「私はハト肉を……」←ニト

「リサはマッシュポテトを……」←リサ

 

 

 ……あれ?以外にみんな、まともな物を持ってきているぞ?

 

「え~、みんなつまんな~い」

 

理子がそう言って不貞腐(ふてくさ)れる。

 

 ……こいつがいなければ美味い鍋が食えたのか

 

何故だかわからないが……少し腹が立ってきた。

 

「……え?イブイブ?ど、ドウシタノ?」

「いやぁ~な、食いもので遊ぶ悪い子にはお仕置きが必要だなぁ……と。」

「ちょ……い、イブイブ?今日はお祭りだよ!?少しぐらい羽目(はめ)を外してm……い、イタイイタイ!!!」

 

俺は理子にヘッドロックをかました。

 

「料理対決の料理よりはまともじゃん!!!」

「あっちは悪意がないから怒れねぇんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごった煮(武偵鍋)食べ(処理し)終わった後、ネロのリクエストにより‘‘トマト鍋’’をつつくことになった。

 無論、鍋をつつきながら酒盛りに発展。ほどほどに楽しんだ後、解散となった。

 

 その翌日11月1日、文化祭の片付けのため俺は学校に行ったのだが……片付けは1年生の仕事という事を初めて知った。お役御免(やくごめん)な俺はさっさと退散しようと……

 

「お!?村田ぁ~、ワザワザ手伝いに来るなんて良い先輩やなぁ~!!」

「……え!?い、いや……偶然学校に用があっただけで……」

 

蘭豹に捕まってしまった。俺は何とかやり過ごそうと……

 

「え!?本当ですか!!」

「流石は村田先輩!!」

「ありがとうございます!!」

「村田先輩、一生ついて行きます!!」

「さすが村田先輩!!そこにシビれる!あこがれるゥ!」

「…………お、おう。」

 

出来なかったよ。

 懇願する様な瞳を持つ、大量の1年生たちに‘‘NO’’という事ができず……結果、夕方まで俺もこき使われることになった。

 

 

 

 

 

 俺は片付けでボロボロになった後、学校から寮へ高機動車(くるま)で帰っていた。憎たらしいぐらいに強い夕日の光が運転を阻害してくる。

 

 ……サングラス、壊しちゃったしなぁ。

 

この前、俺が間違えて踏み潰してしまった。思わずため息が出る。

 高機動車(くるま)を駐車場に置き、階段を登る。自分の部屋の前に着いた時……

 

  パパパーパーパーパッパパ……!!!

 

携帯から‘‘艦〇れ’’の『昼戦』が流れ出した。この音となると……神城さんか。

 

「はい、村田です!!」

「村田君!!すぐに武装して1時間以内に目黒地区に来てください!!復唱はいりません!!」

 

電話の主は神城さんだった。神城さんは焦りが3割、興奮が7割という荒ぶった声だった。

 

「は、はい!!!」

「急いできてください!!!」

 

  ツーツーツー……

 

 ……神城さんのあの興奮具合から考えるに……本格的に始めるのか、極東戦役(戦争)を……。しかし、あの焦り度合いはなんだ?どんな無理や無茶な状況でも、どんな予想外・想定外が起こっても笑って過ごしていた化け物が……何に焦る?

 

 俺は急いで部屋に戻ると、戦闘服に着替えながらこの状態を考察する。

 

 ……もしかして、敵による侵攻か!?日本の総人口1億人のうち、首都圏(東京=横浜)で3800万人……。約4割弱がいることになる。それに加え、日本の経済・政治が一極集中している。ここを攻められ、落とされたりしてみろ……日本は死ぬぞ!?

 

 俺は部屋から急いで出て、一気に1階まで飛び降り、車に飛び乗った。エンジンをかけ、サイレンを鳴らす。

 

 ……いや、本格的な侵攻だったらあれ以上焦っているはずだ。となると……

 

 高機動車は一気に加速し、目黒へ向かう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話から30分もしないで目黒地区についた。すでに門の前で第二中隊第一小隊(辻さんたち)が待っていた。

 

「以外に早いじゃねぇか。」

 

鬼塚少佐は腕を組みながら、威圧感を出しながら言う。

 

「少しは背が伸びたんじゃねぇか?イブキ大尉殿?…いや、イブキ武偵?」

「田中さん、揶揄(からか)うのは止めてくださいよ……」

 

田中さんはそう言って俺を揶揄(からか)う。

 

……ッケ、この中で一番背が低いのは俺ですよ。

 

俺はそう思いながらも、久しぶりのこの空気に懐かしさを覚えた。

 

「では……我々希信達は全員そろった。」

 

辻さんの一言によって、隊の空気が一気に締まる。

 

「希信達の前に客が来た……手厚く‘‘おもてなし’’しよう!!!」

「「「「「「ハッ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 俺達はトラックに乗せられ、品川方面へ向かっていた。トラックの中、第一中隊の藤原さんが連絡将校として来ており、今回の件の説明を開始した。

 

「第一中隊の藤原少佐です。今回の敵は『ジーサード・リーグ』、‘‘GⅢ’’をトップとした独立組織で、今はアメリカに飼われています。ですが……今回は独断で動いているようです。‘‘GⅢ’’についての情報ですが……4年前にロスアラモスの被験者を第二中隊(皆さん)が救出した時の生き残りの一人です。今はアメリカの最先端科学を集約した武器を使い、戦うそうです。」

 

 藤原さんはそう言った後、写真付きの書類を渡してきた。書いてあるのは‘‘GⅢ’’やその部下の写真・経歴だ。その書類を見ると……アメリカやロシアの特殊部隊出身がとても多い。

 

「また、近々違う複数の組織が攻勢をかけてくるそうです。その時にはまた皆さんの力を借りることになりますが……よろしくお願いします。」

 

藤原さんがそう言って頭を下げたと同時に……トラックはゆっくりと止まった。目的地に着いたようだ。

 俺は音が出ないようにトラックから降りると……目の前には成金趣味が漂うビルが目の前にあった。近くには見慣れたクラウンが置いてある。

 

「敵はこのビルの七階、屋外劇場にいます。……では、皆さんの武運を祈ります」

 

藤原さんはそう言ってトラックに戻ろうと……

ガシッ!!!

藤原さんの肩に……佐官連中(化け物共)の手が置かれた。

 

「ん?藤原は何でトラックに戻ってるんだ?」←鬼塚

「連絡将校なんですよね?我々の事は詳細に伝えてもらわないと」←神城

「ここまでついてきたのだ。希信達と一緒に行きたかったのだろう?」←辻

「え!?……いやいやいや!!!僕は戦闘服じゃなくて、ただの軍服ですよ!?装備だって刃引きされた軍刀と拳銃だけですし!?」←藤原

 

藤原さんは顔を真っ青にし、佐官連中(化け物共)から逃げようとするが……

 

「第一中隊もある程度訓練してんだろ?()ける()ける」←鬼塚

「なぁ~に、勇気と気合があればどんなことだってやれますよ」←神城

「大和魂さえあれば弾ぐらい避けられる!!希信達の後ろにいればいいのだ!!どうにでもなる!!」←辻

「それで何とかなるのはあなた達だけですって!!僕は戦闘じゃなくて情報収集や工作が専門ですから!!……いや、ほんと足手まといになって野垂れ死ぬだけですから!!む、村田ぁ!!助けてk……」←藤原

 

藤原さんは懇願するように俺を見てくるが……

 

「……無理です。勘弁してください。……今度美味い物ご馳走します。」

 

俺はそう言って藤原さんに合掌。どうか……藤原さんが死にませんように。

 藤原さんは俺の行為(合唱)を確認すると、ヤケになったようで……

 

「だから任務が知らされた後、みんながやけに優しかったのか!!飯を何度もおごってもらったり、遺書を書いとけとか言われたし!!チクショウあいつら!!覚えてろ!!!」

 

藤原さんは……神城さんと鬼塚少佐に肩を組まれ、逃げられそうになかった。

 

 ……藤原さん、あなたの犠牲は忘れません!!

 

俺は……藤原さんの雄姿(ゆうし)に思わず敬礼をした。

 

「僕はまだ死んでないよ!?」

 

藤原さんの声が聞こえたような気がしたが……気のせいに違いない。

 俺はビルに向かって歩きながら刀を()き、38式にゴボウ剣(黒塗りの銃剣)を着剣した。

 




 5人のカラフルな髪の色のアイドルで『まんまるお山に(いろどり)を!!』どこの‘‘バンドリ’’の子達か……
 現在のプロットでは出てくる予定ですが、今そのプロットの書き直しをやっているのでもしかしたら出ないかも……
 『金髪の幼女(チビ)と黒髪の美女』はほぼ確定で出ます。


 さて、蝦夷テレビの4人組は『絵はがき』で何をやろうとしているのでしょうか……。
 あくまでも『四国R-14』の登場人物たちが違うロケをやっていたら……という事ですので。


 『第一中隊』は主に国内担当で、情報や謀略・工作によって問題を処理する部隊です。なので海外担当で武力で問題を処理する『第二中隊』ほどの戦闘能力はありません。
 その任務に善意で(強制に)連れていかれる藤原少佐……彼の運命はいかに!!




 全く関係ない話ですが……最初の頃と今では書き方も文章も全然違うなぁ……。いつか全体の書き直しが必要だなぁ……と。
 とりあえず、この作品が完結したら修正しようと思っています。

 
  

  Next Ibuki's HINT!! 「義妹(いもうと)の帰還」
 


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久しぶりの第二中隊……

な……何とか出来上がった。

 久しぶりのバイトが無い日……夜の10時に寝たら翌日の17時半に起きて、一日が無駄になった様な気がしました。……悲しい。

 




「岩下、お前は狙撃位置で待機。田中、お前は先頭で罠があるかどうか見ろ。メガネ、お前は俺達と一緒に行動しながら好きなようにハックしろ。村田、お前は田中が見つけた敵の排除だ。行け!!」

「「「「ハッ!!!」」」」

 

 鬼塚少佐が命令すると俺達は行動を開始した。

 

「藤原少佐は私たちと一緒です!!」

「希信達に離れないように!!」

「……アハハ」

 

死んだ魚の目をした青年将校が後ろにいるが……無視しよう。

 

「村田ぁ~ぼかぁ許さねぇぞぉ~」

 

 ……俺に何ができるっていうんですか

 

 

 

 

 

 

 

 成金ビルに入ると、人型ロボット(?)に乗った人間・キツネ耳の妖怪(?)・銀髪オッドアイの少女等を無力化しながら俺達は7階の屋外劇場へ向かう。

 

「いやぁ~これはすごいですね。メガネのままインターネットが繋げられて、しかも無線のように通話もできるなんて……。」

 

メガネさんは敵から奪ったメガネ(?)モドキをタブレットにつなげ、中の情報を奪っていく。

 

「この情報があれば……ちょっとスペックは落ちるし、大きさもヘルメットぐらいになりますけど……秋葉原で10万あれば作れるように……!!」

 

メガネさんはタブレットに表示されるアルファベットと数字の暗号を見ながら大興奮。 メガネさんのメガネは(あや)しく光り、口元からヨダレが……

 

「このロボットもアメリカにしてはいい線行ってますね……。あ!!なるほど……こういう考えはなかったな。……これは!!!……おっと、ヨダレが」

「……おい、メガネ、そろそろ……」

「め、メガネさん?お、落ち着いてください……」

 

俺と田中さんは異様なオーラを出すメガネさんに声をかけるが……彼は「ふへへ」と笑いながらタブレットを叩き続ける。

 

「……堀!!」

「ハイッ!!!」

 

辻さんの一喝によってメガネさんは直立不動の体勢を取ったが……手はタブレットを叩き続けている。

 

「……堀。それらは後日希信の責任で好きに使ってもいいが、今は任務中だ。」

「ハッ!!わかりました!!」

 

メガネさんは奪ったメガネとロボットスーツから奪った機械をリュックに詰めた後、タブレットを高速でたたき始めた。

 

「そうですね、せっかくですし……安いバイアグラや出会い系でも教えてあげましょう。……ハハッ!!」

 

メガネさんは笑いながらタブレットを叩く。

 

「「怖ぇ~……」」

 

そのメガネさんの狂気な姿に……俺と田中さんは恐れおののいた。

 

「おめぇら、さっさと行け!!」

「「ハイッ!!!」」

 

鬼塚少佐の一声によって俺達は正気に戻り、罠と敵を排除していく。

 

 

 

 

 

 俺達は7階の屋外劇場の壁に着いた。

 

「田中」

「わかってますよ。」

 

鬼塚少佐のが呼んだだけで田中さんは何をすればすぐわかる。相変わらずの阿吽の呼吸は今も健在のようだ。

 田中さんは壁いっぱいに爆薬をつけた後、聴診器を壁につけ、向こう側の様子を音で判断する。

 

『……中には重傷で横たわっている少女が4人、また4人の男女がにらみ合いを続けています』

 

田中さんはハンドサインで情報を伝える。

 

『田中は準備ができたら爆破、その瞬間希信達が突入する。奴らは殺すな。』←辻さん

『私は援護のほうがいいですね。頑張ってください』←神城さん

『了解!!』←俺

『ハハハ……俺まだ生きてる』←藤原

 

俺達はハンドサインで会話をし、命令を受けるが……藤原さん、あんたよくこんな短時間でハンドサインが分かったな。

 

『一応、情報や諜報が専門だからね……。お願いだから安全に……』

 

  ズドーン!!

 

爆風によって藤原さんが何を言ったのか見えなかった。何を伝えようとしていたのだろうか……。俺はそう思いながら38式を強く握る。

 

「とつげきぃーーーー!!!」

「「「「おぉおおおおお!!!」」」」

 

辻さんを先頭に、俺達は屋外劇場に突入した。

 

 

 

 

屋外劇場には……ぐったりと倒れた理子・アリア・白雪・レキ、呆然としているキンジとワトソン、そしてGⅢと……誰だ?

 

「……チッ!!」

「鬼畜米英がぁあああ!!!!」

「おらぁあああああ!!!!」

 

辻さんと鬼塚少佐はGⅢに突撃していく。田中さんは倒れた4人の手当に向かう。となると……俺はこいつか。

 俺は猫耳フルフェイスヘルメットを被った少女に一気に近づき、銃剣を刺そうとする。

 

「え?………え、ちょっと待っt」

「問答無用!!!」

 バキッ!!

 

敵は青色に発光する150センチほどの刀で、38式の先についている銃剣を切り落とした。

 猫耳ヘルメットから聞き覚えがある声が聞こえるが……気のせいだろう。

 

 ……それよりもあの刀だ。敵は最先端の科学技術が使われた武器を使うらしい。そしてこの切れ味……熱で切り裂いたわけではないようだ。となると……原子レベルでの薄い刃かなんかだろう。ならば……刃の向きには気を付けなければ……

 

 俺はそう考えながら、銃床で敵の刀の柄を殴りつける。すると刀は発光しなくなった。

 そのまま前床(フォアグリップ)(つば)に引っかけ、刀を明後日の方向へ飛ばす。

 

「待って、イブキn……」

 

敵は俺の名前を知っていたようだ。なるほど、向こうもある程度調べていたのか。

 俺は銃口を向け、敵の胸元へ発砲した。すると、敵の腰からふよふよと布のようなものが出てきて、銃弾から身を守った。

 

 ……面倒な!!

 

俺は38式を棍棒(こんぼう)のように叩きつけようとするが……布のようなもので防がれた。俺は38式を捨て、腰の日本刀でを居合の要領で抜刀し、その布を引き裂いた。そのまま返す刀(峰)で敵の頭を殴ると敵は倒れた。その時……

 

  ズドーーーン!!!

 

床に大きな穴が開き、そこからさっき倒した‘‘人型ロボット(?)に乗った人間’’が現れた。

 

火炎放射(フレイム・レディエイション)!!」

 

そう言って‘‘人型ロボット(?)に乗った人間’’は腕の機械から炎を噴射し……

 

「アヒャヒャヒャ!!!」

 

  ピュー―……チュドーン!!!

 

狂ったような笑い声をBGMに巨大なロケット弾が‘‘人型ロボット(?)に乗った人間’’に着弾し、大爆発を起こしてロボットを粉砕した。

 俺は敵を押さえつけた後、ロケット弾の発射元を探すと……直径50センチ弱の筒に次弾(小学生ぐらいの大きさの砲弾)を装填する神城さんがいた。

 

「やっぱり大口径は良いですねぇ!!!噴進砲(ロケット弾)なのは不満ですが、この大威力!!!これが漫画で言う『勃起(ぼっき)』ですか!?」

 

 神城さんは早口で喋りながら次弾を装填し、数百キロはあろう巨大な筒を(かつ)ぐ。担いだその時、粉砕されたロボット(?)からヨロヨロと()い出る人が……

 

「死にぞこないがぁあああ!!くらえぇえええ!!!」

 

  ピュー―……チュドーン!!!

 

 ……な、なんてオーバーキル。

 

俺はロボット(?)の操縦者へ心の中で合掌した。

 ひと段落したため、周りを見渡すと……呆然とするキンジ・引いているワトソン・救護をする田中さん、そして……頭を抱えて縮こまったGⅢをボコボコにしている辻さんと鬼塚少佐(化け物二人)

 

 ……あれ?部外者から見れば俺達が悪人じゃねぇか?

 

俺はそう思いながら猫耳ヘルメットに手錠をかけた。

 

「く、苦しいよ……イブキn……」

 

 

 

 

 

 

 

 ……殺気!?

 

俺は猫耳ヘルメットを押さえつけながら振り向くと……道中で倒した銀髪の少女が何かを持って振りかぶっていた。

 

  ドスッ!!ドスドス!!

 

 銀髪少女が何かを投げようとした瞬間、彼女の体から着弾音が聞こえた。

 

  タンタンターーーン!

 

 遅れて銃声の音が聞こえる。岩下さんの狙撃によるものだろう。弾が貫通してないことからゴム弾等の狙撃であることも分かる。

銀髪の少女は弾の威力のせいで仰向(あおむ)けに倒れていくが、手に持っていたものは辻さんと鬼塚少佐のほうへ投げられてしまった。投げられたものは……手榴弾!?

 手榴弾はGⅢの方向へ飛んでいき……

 

「……クソッ!!面倒な!!」

 

鬼塚少佐はGⅢから離れ、手榴弾を蹴りあげて明後日の方向へ飛ばした。

 その時を待っていたのだろう、GⅢは辻さんから離れ……

 

作戦(ガンビット)をプロセスρ(ロー)に移す!!HSSを使いこなせるようにしてこい!!」

 

そう言い捨て、姿が透明になっていく。

 

 ……光学迷彩か!?まさかそこまでできてるなんて!!

 

 

 

 

GⅢの姿が完全に消えた。

 消えてから数秒立った時、辻さんは目をカッと見開き……

 

「キェエエエエ!!!」

 

叫びながら手に持っていたMG3(機関銃)を全力であらぬ方向へ撃ち始めた。

 

  ベキッ!!ベキベキッ!!

 

すると……弾の着弾音と共に、黒い布を持った青年がいきなり現れた。布の一部は透けていて反対側の景色が見える。

 

 ……GⅢか!?見えないのによく見つけられたな。

 

GⅢは布を捨て、逃走を開始した。辻さんは弾が切れたMG3(機関銃)を捨てると……

 

「田中は倒れている犯人の確保!!残りはこの希信についてこい!!」

「「「「「「ハッ!!」」」」」」

「え?ちょっと待って!?お、鬼塚少佐!?なんで僕の襟首掴むの!?僕は田中曹長と一緒に犯人逮捕がいいんだけど!?僕がいても足手まといだよ!?」

 

命令を下しながら軍刀を抜刀し、GⅢを追い始めた。田中さんを残し、俺達も辻さんに追随してGⅢを追う。

 

「……ッチ!!面倒な奴らだ!!」

 

GⅢはそう言い、ビルから飛び降りた。俺達もGⅢを追うため、次々と7階から飛び降りる。

 

「この希信から逃げられると思うなぁああ!!」←辻さん

「まだ撃ち足りない!!的になってくださいよぉおおお!!」←神城

「待ておらぁあああ!!!」←鬼塚

「出会い系には興味ないんですかねぇ?だったら‘‘くそみそ’’画像でも送りましょうか」←メガネ

「いやぁ~やっぱりこの雰囲気、懐かしいなぁ」←俺

「何飛び降りちゃってんの!?ここ7階だよ!?命綱なしに飛び降りたら死んじゃうから!!待って、手を離しt……あぁああああああ!!!」←藤原

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は夜明けまでGⅢを追ったのだが……結局逃げられてしまった。

 

 

 

 

 

「もうやだ!!ぼかぁ絶対に第二中隊(あなた達)と一緒に任務なんてやりませんから!!」

「お、落ち着いてくださいよ、藤原さん」

「おう村田ぁ~、よくも僕を見捨てたなぁ~!!」

「…………瀬島中佐に無茶ぶりされたら助けてくれます?」

「……うん、ゴメン。……今度なんか奢ってよ?」

「わかってますって」

「「……ハァ」」

 

そこには……上司に逆らえない部下が二人いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 追跡を諦め、一時解散となった。俺は目黒地区に戻って高機動車()を取りに行き、それに乗って10時過ぎにやっと寮に帰ってきた。

 俺は眠い目をこすりながら着替え、布団へ倒れた。そしてノンレム睡眠(完全熟睡)中にジャンヌからの会議への招待(ラブコール)で無理やり起こされ、俺はイヤイヤ会議場所のファミレス・ロキシーのオープンテラスへ向かった。

 

 

 さて、話が変わるが武偵高にも『ハロウィン』があるらしい。本来は10月31日なのだが……その日が文化祭等で潰れた場合には、文化祭片付けの後の初登校日にそれをやるらしい。つまり今日だ。リサに言われるまで知らなかった。

 しかも……ちゃんとやらないと教師陣による制裁もあるそうだ。普段だったら楽しんでいただろうに……今はその祭りが鬱陶(うっとう)しい。

 俺は礼服を引っ張り出し、リサに簡単なメイクをしてもらい、何とか吸血鬼モドキが完成した。

 

 

 俺は吸血鬼(モドキ)のコスプレをしたまま、会場であるファミレス・ロキシーへ向かった。

 ファミレス・ロキシーは緑から紅に変わり始める美しい(かえで)並木の中にある店だ。しかも洒落(しゃれ)たオープンテラスを張りだしていて、そこに出席者たちの姿が見える。

 

 

 

俺は眠気覚ましの紅茶(ティーバック3つ入り)を片手に丸テーブルの席に座った。

 

「全く……軍の代表者は俺のような下っ端じゃなくていいだろ。」

 

俺はぼやきながら渋い紅茶を啜った。

 

「GⅢと直接対峙(たいじ)して無傷だったのは貴様らだけだったからな。他に軍の連絡係は別に来るそうだ。しかし……派手な仮装をしてきたな。」

 

目の下にキラキラの雪印のシール、黒いトンガリ帽に魔女っ娘ステッキを握ったジャンヌが言った。

 

 ……ジャンヌのコスプレ、なんかエロゲでありそうだな。例えば‘‘サノバウィtt……

 

「貴様、それ以上考えるな。」

「いや……何言ってんのジャンヌ?」

「これ以上考えたら……」

 

ジャンヌは懐から‘‘デュランダル’’を出し、刃をちらつかせる。俺はそれ以上考えるのをやめた。

 

「お主ら、ここでじゃれ合うな。それとも……‘‘イチャイチャするな’’と言うのがあっておるかの?」

「「イチャイチャしてねぇ(ない)!!!」」

 

赤いミニスカート風の和服を着たタマモ(尻尾は出ている)が俺達を揶揄(からか)うが、即座に否定した。

 

「…………ムラタ、会議中にイチャイチャするのはよくないと思う。」

「だからイチャイチャしてねぇ!!……ってワトソン?」

「あぁ、ボクだよ。」

 

ジャック・オー・ランタンのカボチャをすっぽりと被った変質者は……ワトソンだったようだ。

 

『イブキさん……ふしだらですよ?』

「……………ハイ」

 

置かれているタブレットからメーヤが女神の微笑み(怖)で言って来た。どうやら俺の援軍はいないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、約束の15時までこのメンバーで雑談をして時間を潰すが……キンジと軍の連絡役が現れる気配がない。

 俺は紅茶のお替りをもらいに行き、帰ってくると……黒いフードを被った変人がテーブルに加わっていた。この背格好から考えるに……キンジだろう。

 

「キンジ~遅いぞ~」

「ん?あぁ……すまん」

 

キンジはそう言って平静を(たも)っているが……若干、右膝を気にしている様に見える。怪我でもしたのだろうか。

 

「さて……あと一人来ていないが師団会議(ディーン・カンフ)を始める。先日、‘‘師団(ディーン)’’のバスカービルg……」

「いやぁ、遅れてすまない。」

 

ジャンヌの言葉を聞き覚えがある声が(さえぎ)った。この声だと……藤原さんだろう。

 

「あ、藤原さんだったんですか……!?」

「「「「!?」」」」

 

そこに居たのは……頬は痩せこけ、大きなクマに充血した目玉をギョロギョロさせ、ヨレヨレの深緑の軍服を着た藤原さん(惨敗兵の幽霊)がいた。

 

「「「「「「……」」」」」

「……ど、どうしたの?」

「「「「「……ぎゃぁああああ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと参ったよ……。あの後、徹夜で報告書やら何やら書き終わったのが11時過ぎ。それでやっと寝れると思ったら瀬島中佐(上司)に捕まって3時間愚痴を聞かされて……。愚痴から解放されたら今度は別部署への報告、そのままファミレス・ロキシー(ここ)へ行けって命令さ……。ちくしょう!!こんなとこ辞めてやる!!」

 

藤原さんはそう言って砂糖たっぷりのドーナツを頬張り、顔をしかめた。そしてコーヒーで砂糖を洗い流す。きっと甘すぎたのだろう。

 

「さて、人がそろったな。師団会議(ディーン・カンフ)を始める。」

 

ジャンヌは藤原さんの愚痴を無視して会議を始めた。

 ジャンヌ曰く、昨日やられたのは‘‘バスカービル’’の女子全員と‘‘COMPOTO’’の理子で、全員奇襲による各個撃破によるものだったらしい。

 

「……いくら寡兵とは言え、許し難いな。不意打ちとは」

 

ジャンヌの言葉に俺と藤原さん以外が(うなず)く。

 

「ん?そうか?だって極東‘‘戦役’’だぞ?宣戦布告はやってるんだ。民間人に被害がない限り奇襲しようが各個撃破しようが問題はないだろ?」

「村田、ここには人種も宗教も環境も違う人間が集まっているんだ。そういう考えもある。」

 

俺が思わず口にした疑問に藤原さんは間髪入れずに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうする?今、GⅢとGⅣ(ジーフォース)は別々に動いている。()るか?」

 

キンジの言葉で……テーブルは静寂に占拠された。みんなの表情は……重い。

 

「仲間をやられた気持ちは分かるがの、(わし)をあまり失望させるでない。……遠山の、策はあるのか?」

「そ、それは……」

 

タマモはメロンソーダを飲んだ後……目つきを変えてキンジに聞いた。

 

「君が遠山君か……」

「え?あ、はい……」

 

藤原さんはさっきまでの疲れ切ったサラリーマンの様な雰囲気をガラリと変えた。その雰囲気は……まるでジョン・エドガー・フーバー(秘密警察の長官)の様で、全てを見通す様な暗い目をしていた。

 

「確かに君たち‘‘バスカービル’’は壊滅的な被害を受けたが……‘‘師団(ディーン)’’としては想定内の被害だ。それに君たちは良い威力偵察をしてくれた。」

「……」

 

藤原さんの言葉に……キンジは睨んだ。しかし藤原さんは歯牙にもかけず、薄く暗い笑顔のまま言葉を紡ぎ続ける。

 

「彼らはまだ‘‘無所属’’だ。彼らと総力戦をしてもいいが……勝てるだろうが被害が大きくなるのは必至。取り込んで味方にした方がいい。」

「バ……バカ言うな!!あんな奴らどうやって取り込むって言うんだ!!」

 

キンジは猛反対するが……藤原さんは笑って話を続ける。

 

「その方法は後で話す。少なくとも‘‘極東戦役’’を続けたいなら彼らと総力戦は避けるべきだ。被害が大きすぎるうえに……彼らに勝ったとしてもスポンサーはアメリカだ。何をされるか分からない。……君たちも分かるだろう?」

 

テーブルの空気はさらに重くなった。藤原さんはコーヒーに口をつけ、再び口を開いた。

 

「戦術はともかく……感情で戦略は変えられない。遠山君、反論したいなら……理屈と利をもって反論しなさい。」

 

藤原さんはそう言ってポケットに手を突っ込み、小さな紙箱とデュポンのライターを取り出した。

 そして、その小さな紙箱から小さな葉巻(シガリロ)を取り出して咥え、キーンと澄んだ音を鳴らしてライターの蓋を開けて火をつけようとし……周りを見て渋々それらをポケットにしまい込んだ。

 

「藤原さん、煙草(タバコ)吸ってたんですね。」

「うん……今日の様な理不尽ばっかりな時に気分転換で時々吸うんだ。任務中に酒は飲めないし……」

 

藤原さんは雰囲気を‘‘疲れ切ったサラリーマン’’に戻し、大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どうやって仲間にするんだ。」

 

キンジは不満そうに呟いた。

 

「それなんだが……」

 

ワトソンは困った様な、不満な様な口を開いた。

 

GⅣ(ジーフォース)……いや、‘‘かなめ’’か。彼女はムラタの‘‘戸籍上の’’妹で、トオヤマの‘‘血縁上の’’妹だ。彼女はトオヤマとムラタに会えたことをとても喜んでいた。」

 

 ……なんか、嫌な予感がする。

 

「……単刀直入に言う。‘‘ロメオ’‘だ。」

「ロ、ロメオっ……!?」

「ろめお……?」

 

  さあさドレスに着替えて……♪

 

ちょうどここで‘‘ロメオ’’が喫茶店で流れていた。

 

「……カラオケパーティーでもするのか?」

「はぁ……」

『ち、違うと思いますよ?』

 

俺の疑問にジャンヌは大きなため息を、メーヤは引きつった笑顔で否定した。

 

「男版のハニートラップだ。それを貴様らにやってもらう。」

「「……はぁ!?」」

「ふざけんな!!義理の妹にハニトラするとかどこの世界の話だよ!?」

「俺に何しろってんだよ!!」

 

ジャンヌの言葉を聞いて、俺とキンジは言葉を荒げて反論した。

 

「‘‘何しろ’’と言うか……ナニをすればよいのじゃ」

「二人とも頑張ってね、応援するよぉ~。いやぁ~今晩は良い肴ができた。」

 

タマモと藤原さんは『会議は終わった』とばかりに席を立つ。

 

「……藤原さん、昨日の事怒ってますよね。」

「いやぁ~そんなことはないよぉ~。……あ、奢る件はチャラでいいからね」

 

藤原さんはそう言って、自分のカップと皿を返しに行った。

 

「さて……私たちも帰るか。」

「……そうだね。二人とも、ボクはアリア達を看護する。」

 

ジャンヌとワトソンもそう言って自分のカップを片付けに行く。

 

『アハハ……私たちの方でも皆様方に支援物資を送るので。イブキさん、ファイトです!!』

 

そのままタブレットはプッツリと切れた。メーヤがアプリを切ったのだろう。

 俺はここで……やっとこの会議は仕組まれたものだという事が分かった。仕組んだ者はやっぱりあの人しかいない。

 

「ふ、藤原さんの裏切者ぉおおおお!!!」

「はっはっは!!会議の前に‘‘根回し’’しておくのは基本だよぉ~村田ぁ~」

 

藤原さんによる大きな笑い声(高らかな勝利宣言)(かえで)並木に響いた。

 

 

 

 

 

 

「あの、お客様?」

「……はい?」

「軍服を着たお客様からプレゼントだと……」

 

店員さんから渡されたのは……ドーナツの詰め合わせだった。その箱にはメモが貼られており……

 

『いやぁ~ごめんね。今度奢るからさ

  by 藤原石町』

 

 ……こういうところがあるから憎めないんだよなぁ。流石は第一中隊だ。

 

 俺は店員さんにお礼を言ってその箱を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は理子達のお見舞いに行こうと思ったのだが……礼服、すごく動きづらい。それにこんな高価な一張羅(いっちょうら)、汚したら一大事だ。

 また、他の生徒たちを見ると……全員が全員妖怪やお化けに仮装しているわけではない(仮装はしているが何でもいいようだ)。

 

 ……適当に軍服でも着て‘‘軍人のコスプレ’’とでも言っておこう。

 

俺はそう思いながら寮に戻り、ドアを開けた。

 

「ただいま。」

「おかえりなさい!!イブキにぃ~~!!!」

「……ふぁ!?」

 

制服にエプロン姿のかなめが俺に抱き着いてきた。

 

 ……なんでもうここにいるんだよ!!いや、家族だけどさ!!

 

 

 

 

 




 神城中佐が何故数百キロはあるロケット弾を持てるか……

「気合と根性があればなんだってできるんです!!!」

……だそうです。有言実行だからさらにたちが悪い。



 ビル7階はおおよそ20m強です。第2中隊ならともかく、なんの訓練も無しに飛び降りるなんて……


 小説『緋弾のアリア』のイラスト担当とエロゲー『サノバウィッチ』の原画担当は同一人物なんですよ。きっとジャンヌが仮装したら……まぁ、目元が若干違いますけど。


 藤原さんが煙草を吸わなかった理由……『年若い子が周りに居たため』ではなく(聞かれたらそう答えるが)、ただ単に灰皿が見当たらなかったから。
 

 イブキは『武力こそ正義』な第2中隊にいたため、諜報等の用語はあまり詳しくありません。






 そろそろオリキャラ紹介を入れたほうがいいかなぁ……と思い始めています。


  Next Ibuki's HINT!! 「作業報奨金」





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頼むから喧嘩はやめてくれ……

遅れまくって誠に申し訳ありません。
言い訳させていただきますと……まぁ、先週は試験が4つあったので書けなくて……。今週は試験が1つだけだから火曜水曜には投稿できるかなと思っていたら

教授A「中間テストの代わりに課題を出します。期限は1週間です」

 ……まだ大丈夫、前々から言ってたし。

教授B「ごめーん。テストの事忘れてた。代わりにレポート出すよ!!自分で考えた日常に役立つオリジナルな機械の設計と図面、それに材料とか考えて計算して、一週間後に提出ね!!」

 ………………は?

このレポートのせいで遅れました。


「か、かなめ……?」

「イブキにぃ~!!昨日は酷いよ!!あんなに激しくするなんて……。腰が抜けそうだったよ?」

「………………」

 

かなめのそんな言葉より……もっとヤバいものが部屋にあった。

 

 ……この大量のごみ袋は何だ?

 

 ごみ袋には理子やアリア達の私物が入っているのだが……それら全てが無残な姿になっている。

 理子の積みゲーは全て割られ、アリアのコーヒーカップは金継(きんつ)ぎに出せないほど粉々、白雪の桐タンスに至っては薪に変わっている。

 

 ……あれぇ?この状況、俺殺されるんじゃないか?

 

「いぶきにぃ?……今のでドキッって来ると思たんだけど」

「……部屋の変わりように驚いて、さっきのセリフが(かす)んでんだよ!!」

 

 白雪のタンスは数百万ぐらい余裕で越えるだろうし、アリアのコーヒーカップもいい値段はするだろう。理子の積みゲーが一番被害金額は少ないと思うが、それでも枚数が枚数だ。数十万はするだろう。

 ずっと昔にイ・ウーから奪った金は三分割した後、俺と理子のが辻さんと神城さんにバレ、99%以上が国庫へ逝った。手元に残った金は弾薬に変身したため……

 

要は、弁償できない

 

 ……俺の私物はどうなってんだ!?

 

 俺は思わず自室へ走った。自室は……変化はないし、侵入された痕跡もない。‘‘酒蔵部屋’’も……大丈夫なようだ。

 

 

「‘‘イブキにぃ’’に‘‘お兄ちゃん’’、‘‘お姉ちゃん達’’のは手を付けてないよ?処分したのは‘‘イブキにぃ’’や‘‘お兄ちゃん’’を(たぶら)かす‘‘メス豚’’共のだけだよ?」

 

俺の背後から……やけに響く声が聞こえた。俺は冷や汗を流しながら後ろをゆっくり振り向くと……かなめが居た。

 かなめの目は……とても、とても冷たかった。

 

 

 

 ダンテ・アリギエーリ作:『La Divina Commedia(神曲)』というイタリアの古典を知っているだろうか?

 主人公(ダンテ)がウェルギリウスと言う案内人と共に地獄・煉獄・天獄を行脚していく話だ。

 その中……地獄の最下層:裏切者の地獄(コキュートス)は『受刑者(?)(裏切者)が首まで氷に漬らされ、涙も凍る寒さに歯を鳴している』そうだ。

 

 

 

 かなめの瞳は……その裏切者の地獄(コキュートス)の様であった。

 ただ物理的に寒気がするだけではない。精神的にも、思考も……何もかもが冷たかった。

 

「ねぇ……イブキにぃ。なんでそんなに怖がってるの?」

 

かなめは首を傾げた。よく見れば……彼女のエプロンには返り血が付いている。右手には真っ赤な血が付いた肉切り包丁が……

 

「あ、‘‘お兄ちゃん’’の事?GⅢ(サード)の命令で‘‘双極兄弟(アルカナム・リュオ)’’のためにイヤイヤやっているだけで……‘‘お兄ちゃん’’には形式的にやっているだけだよ?あたしは‘‘お兄ちゃん’’よりイブキにぃの方が好きだし、HSSになる可能性が高いと思ってて……」

 

俺はかなめの瞳を再び見た。裏切者の地獄(コキュートス)を覗き込んでいるような気分になった。

 

「俺はちょっと着替えるから!!あっちに行っていてくれ!!!」

 

俺はそう言ってかなめを部屋から締め出し、鍵をかけた。

 そして10秒も満たないうちに着替え、ダッシュしてその寮の部屋から出た。

 

 

 

 

 

 俺は駐車場まで飛び降り、高機動車(愛車)に転がり込んでエンジンをかけようとするが……

 

  キュルキュルキュルキュル……

 

「チクショウ!!なんだってこんな時に!!」

 

俺は思わずバックミラーを見た。そこには……裏切者の地獄(コキュートス)の瞳が二つ、夕方の暗い影の中から俺を見ていた。

 目が合った……

 

「動け!!動けってんだよ!!頼むから動いてくれよ!!!」

 

  キュルキュルキュル……ドルン!!!

 

俺はアクセルを全開にし、逃げ去る様に車を走りらせた。

 逃げ去る間も、二つの瞳がずっと俺を見つめていた……様な気がする。

 

「チクショウ!!俺が何やったって言うんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 俺は武偵病院の敷地に高機動車を滑り込ませ、A棟に逃げ込んだ。

 

 ……さ、さすがに、ここまでは来ないだろ。

 

俺は柱にもたれ掛かりながら息を整える。……周りの視線は無視する。

 何とか息を整え終え、受付へ向かった。

 

「こんにちは。峰理子さんの部屋は何処ですか?」

「え~と……A棟(ここ)の3階、303号室ですね。峰理子さんのお見舞いですか?」

「そうです。」

「今さっき、郵便が来まして……峰理子さんに渡してもらえませんか?」

 

そう言って対応してくれた中年のナースさんが渡したのは……理子(あて)の現金書留と手紙だった。

 

 ……おい、一応部外者だぞ?俺に渡していいのかよ。

 

「えっと……俺に渡していいんですか?」

武偵病院(ここ)じゃぁいつも通りですよ。それに武偵高の誰かかは……すぐにわかりますし。」

 

ナースさんはジロリと、俺を観察するように見た。

 

……え?何それ、怖い。

 

「…………ありがとうございました。」

 

俺は諦めた。

理子(あて)の現金書留と手紙を手にし、頭を下げた。

 

「悪いわねぇ、手伝ってもらっちゃって。」

 

笑顔でそう言っていたが……瞳は笑っていなかった。

 

 ……看護師さんって、(たくま)しいんだな。

 

流石……武偵御用達の病院、看護師達も(たくま)しくなければやっていけないのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 俺は階段を登りながら……その現金書留と手紙を観察していた。

 両方とも……ヒルダからだった。俺は現金書留を見ると……

『損害要償額:320円

  北海道網走市××××××網走監獄

  ヒルダ・ドラキュリア』

 

 ……320円しか入ってないのに、なぜ送るんだ?ヒルダには莫大な資産があったはずなのに。

 

そんな疑問が沸き上がった後に……俺はあることをお思い出した。作業褒賞金だ。

 

 

作業褒賞金とは……刑務作業の報奨金であり、労働基本法には触れないものだ。

 ヒルダの場合……まだ入所して一ヵ月。彼女の‘‘月給’‘は700~800円ほどだったはず。現金書留は1通430円なので……月給全部じゃねぇか!!

 

 

「どうしたの?イブイブ?」

「……ッ!?」

 

いつの間にか、俺の隣には……額や腕・太ももに包帯を巻き、騎兵銃(カービン)サイズの散弾銃を皮のベルト(スリリング)で担いでいる理子がいた。

 

 ……全然気が付かなかったぞ!?

 

俺はそこまで集中していたようだ。

 

 ……まぁいいや、さっさとこの封筒を渡そう。

 

俺は二つの封筒を理子におずおずと渡した。

 

「……理子に渡してくれって」

「イブイブ、ありがとね!!」

 

理子は可愛い笑顔で封筒を受け取り……封筒の宛名を見て真顔に戻った。

 理子は冷たい瞳で無言のまま封筒の上部を破り、手紙を出して読み始めた。

 読み終わった後、封筒二つをスカートのポケットへ乱暴に入れた。そのまま……無言が続く。

 

 ……く、空気が悪い。どうしろってんだよ。

 

そこで……俺は理子がコスプレをしていないことに気が付いた。

 こんなイベントの時に、理子がコスプレをしていないとは珍しい。

 

「り、理子がコスプレしないなんて……なんかあったのか?」

「色々やってたら飽きて……な」

 

裏理子になり……呆れるように笑った。

 

「イブキ……場所を変えるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 理子は売店へ行き、イチゴ牛乳とポッ〇ーを買った。そして談話室へ向かい、そこにある席の一つに座った。俺も理子の後について行き、隣に触る。

 

「こいつ……親族がいないんだよ。だからか分かんないけど……アタシに手紙が送られるんだ。」

 

そう言って、理子は皺くちゃにした手紙を机に放り投げた。

 手紙・現金書留の両方とも封が開けられていた。

 

「アタシは返信を一回もしたことがないのに、ほとんど毎週送るんだ……」

 

理子はそう言ってポッキーをガッと掴み、バリボリとむさぼり始めた。そして口の中に沢山残っているポッキーをイチゴ牛乳で流し込む。

 

「ほんと……変な女。一切私物は持たされずに、薄い官品の服のまま11月の網走だ。それなのに……アイツの事はおくびに出さないで、あたしの心配ばかりするんだ。毎週手紙を出して、金まで渡すんだ。」

 

プハッ……と飲み干したイチゴ牛乳のパックを……理子は遠い目で見ていた。

 

「アイツラに……アタシの10年が奪われたのに、今までひどい事されたのに、ヒルダを恨み切れないんだ」

 

理子はそう言いながらイチゴ牛乳の紙パックを握りつぶした。そしてチラリと俺を見た後、握りつぶした紙パックを振りかぶってゴミ箱へ投げた。

 

 ボンッ……

 

紙パックはゴミ箱に当たり、床に落下した。

 

「「……」」

 

理子は席から立ち上がり紙パックをちゃんとゴミ箱に入れた後、何もなかったように席に座った。

 

 

 

 ……なんか言って欲しいんだろうなぁ。しかしまぁ、こんな時に何と言っていいものか。

 

 ヒルダの今までの言動からして……おそらく、彼女は人間を人間として見ていなかったのではないだろうか。俺はヒルダの言動や、‘‘理子を心配した手紙’’とやらを聞いてそう考察した。

 

 

 もしも、自分の犬が人間の言葉をしゃべり始めたら……その犬を犬として扱うことができるだろうか。

 その犬に冷たい固形物の餌(ドッグフード)を与え、その犬の前でA5ランクの肉のステーキを美味(うま)そうに食べることはできるだろうか。

 しゃべる犬を……人間と同じ待遇にさせるだろうか。

 

 

ヒルダにとって、その喋る犬が理子だったのだろう。可愛い愛犬(理子)を心配し、自分の事を気にさせないように痩せ我慢をしているのだろう。

 そして……理子も薄々気づいているはずだ。

 

 ……さて、どうしたものか。

 

「無難ちゃぁ、無難だが……時間はあるんだ。時間をかけて自分で決めるしかねぇだろ?」

 

秘技『問題先送り』!!これによってどんな困難な問題でも一時的に悩まなくてもよくなる!!

 我ながら……最低である。

 

「網走監獄だから逃げ出す恐れもないし……吸血鬼だから人間よりも長く生きる。理子が生きているうちに答えを決められればいいんじゃないか?」

 

実際、理子が受けてきた仕打ちを俺は細かく知らないし……俺が答えを出すのは無粋で場違いだろう。

 

「結局はアタシで考えなきゃいけない……か。」

 

理子は背もたれに寄りかかり、天井を見上げた。

 

「……イブイブは厳しいね」

「俺が答えたところでどうなるってんだよ。それで納得するのか?」

「そうだけど……ね」

 

 辻さんや神城さん・鬼塚少佐なら涙を流しながら話を聞きき、解決しようとあちこち回る(暴走する)んだろうけど……俺はそんなことはできない。

 

 ……我ながら薄情な奴だなぁ

 

俺が自己嫌悪に(おちい)った時……理子は勢いよく立ち上がり、俺の前数センチまで顔を近づけた。

 

「さ、イブイブ!!A病棟303号室にご案内します!!」

「お、おう……」

 

理子はそう言った後、俺の耳元に近寄り……

 

「ありがと」

「……ッ!!」

「さ、行こ!!」

 

理子はそう言って俺の手を取り、強く引っ張り始めた。

 

 ……ケッ。ズルいったらありゃしねぇ。

 

「そんな引っ張るなよ」

 

俺はため息をついた後席を立ち、理子に引かれるままついて行った。

 

……自分が必死に悩んでいるのに、そんな中で他人を思いやるなんて。

 

 リュパン3世の伴侶、つまり理子の母親は多数の男の心を射止めたらしい。確かに、その娘を見ればよく分かる。

 リュパン3世をも虜にした女性……今度、銭形警部に聞いてみようかな。

 

 

 

 

「あ……理子。ポッキーの箱そのままだろ」

「……あ」

「「……」」

 

……シリアスな雰囲気が台無しである。

 

 

 

 

 

 理子の案内の元、303号室に入ると……そこにはケガしたアリア・白雪・レキの他に平賀さんとキンジがいた。

 『女子:男子=4:1』という男子が夢に見るハーレムな状態ではあるが……俺は全く羨ましくなかった。

 コスプレした美少女達(怪我した三人)の手には……バレットM82(対物ライフル)M60機関銃(汎用機関銃)武偵弾(DAL)の箱詰め。そんな少女たちに囲まれたキンジは顔を真っ青にしていた。

 

「あ、村田君!!ちょうどよかったのだ!!頼まれていた弾の製造が終わったのだ!!」

「え?マジで!!」

 

校舎の補修はまだまだあるって聞いてたのに……ありがてぇ!!たった27発分ではあるが……ないよりはあったほうがいい。

 

「平賀さんありがとな。後で取りに行くよ」

「わかったのだ!!」

 

俺はそう言って、流れるようにこの危険な部屋から出ようと……

 

「イブキ、どこ行くんだ?」

「キンジ、テメェ……」

 

キンジは俺の手をガシッと掴み、俺を妨害した。

 そのキンジの顔は『ようこそ、道連れ君』とでも言いたそうな表情をしていた。

 

「……キンジ、帰らせてくれよ。ここは『バスカービル』の部屋だろ?部外者はさっさと退散するからよ」

「何言ってんだ馬鹿野郎。理子もいるんだろ?だったらイブキも当事者だろうが。」

「こんな火薬庫の様な部屋にいられるかってんだよ。キンジ、お前も分かってるだろ?こいつらのオーラが半端ねぇって」

 

理子も含め、かなめにボコされた4人は殺気をムンムンと振りまいている。もしこの世界が漫画やアニメなら、彼女たちの後ろには阿修羅やら白虎やらが描かれているだろう。

 

「こんな火薬庫でファイヤーダンスを踊ってる様な部屋に居られるかよ。触らぬ神に祟りなしだ。」

「そんなの俺だって分かってるんだよ。俺と一緒に道連れにn……」

 

俺とキンジが言い争っている時……

 

「そう言えばイブキ」

「ひゃ、ひゃい!!!」

 

アリアに呼ばれ、俺は思わず声が裏返った。全員の視線が俺に向く。

 俺は思わずキンジを見た。キンジは……『してやったり』と、したり顔をしていた。

 

 ……キンジこの野郎、ワザと口論させて時間を使わせたな!?

 

「……あんたは『ミニチュアボトル』届いた?あたしの『パステル』は届いたけど、キンジの『カクテル』は届いてないらしいの。」

「……『ミニチュアボトル』?」

 

ミニチュアボトルとは、酒が50mlほどの小瓶に詰められたものだ。インテリアとしても使えるが……そんな物は送られていない。

 

「いや?送られてないけど……何それ?」

「バチカンからさっき送られてきたのよ。武偵弾(DAL)よ。キンジの9㎜パラベラム弾(ルガー)は小さいから時間がかかるのは分かるけど……そう言えばイブキの使う弾も小さかったわね。」

 

アリアはそう言って色とりどりに着色された.45ACP弾の武偵弾(DAL)詰め合わせセットを見せてきた。

その武偵弾(DAL)の薬莢にはバチカンの国章の一部である『聖ペテロの鍵』が小さく彫られてある。弾頭には武偵弾(DAL)の種類を示す国際基準のマークが色鮮やかに描かれてある。

 

 ……メーヤの言っていた‘‘支援物資’’って子の事だったのか。流石はバチカン、資金が豊富だな。

 

武偵弾(DAL)は一発数百万、腕のいい職人によっては数千万するらしい。それを十数種類詰め合わして送るなんて……いくらかかるんだ!?

 

「そうだな……俺が使うのは9㎜パラベラム弾(ルガー)十四年式拳銃実包(8㎜南部弾)だしなぁ……。」

「イタリアの銃弾職人(パレティスタ)は腕がいいのだ―。一度留学してみたいのだぁー。」

 

平賀さんはその武偵弾(DAL)を一つ手に取り、様々な角度から観察している。

 

 ……25ミリ機関銃で第1世代主力戦車、下手すれば第2世代主力戦車の正面装甲を貫通できる弾丸を作る平賀さんもすごいと思うけどなぁ。

 

俺はそう思いながら、この部屋に飾られている花瓶に向かった。その花瓶には美しい花々が飾られている。

 俺はその花瓶を手に取り……

 

「俺、花瓶の水換えてくるな。」

「さっき飾ったばかりだから換えなくていいぞ。」

 

 ……クソ、キンジめ。分かってやがった。

 

渋々、花瓶を元に戻した。

 キンジはそれを確認した後、周りを見て溜息を吐いた。

 

「……ていうかお前ら。病院で何やってんだよ。ちゃんと養生しろ。」

 

キンジは呆れたようにそう言うと……

 

「これは強化合宿よ!!やられっぱなしはダメでしょ!!」←アリア

「キンちゃんに一番近い存在は私なの!!!あんな女はダメ、ダメ、絶対!!」←白雪

「武偵は一発撃たれたら、一発撃ち返すものですから」←レキ

「くふふ……。こういう女子会、面白くってさぁ……」←理子

 

 ……なるほど。かなめにこっぴどくやられたから、理子が(あお)り、アリアが音頭を取り、白雪は私怨のために、レキはプロ意識と私怨で参加したというわけか。

 

 この4人は対かなめ戦で固まっているのだが……、‘‘師団(ディーン)’’の総意は『かなめ達(ジーサード・フォース)を取り込む』という事で決定している。

 しかし、この強烈なオーラを放つ4人に『かなめと敵対はしない』という事を言わなければいけないのか。

 

 ……言ったら俺に銃口が向きそうだな。

 

俺は覚悟を決め、口を開こうとしたとき……

 

「「「「ッ!!!」」」」

 

 4人は驚きながら各々(おのおの)の得物の銃口を303号室の入り口に向けた。

 

 ……チクショウ!!なんだってこんな時に来るんだ、‘‘かなめ’’!!

 

そこにはかなめが武偵高の制服を着て立っていた。彼女のコキュートス(絶対零度)の瞳は俺をじっと見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「‘‘イブキにぃ’’と‘‘お兄ちゃん’’、ここにいたんだぁ。あたし、心配して探してたんだよ?」

 

かなめはそう言ってにっこりと微笑むが……瞳は冷たいままだ。

 

「え?……イブイブ、どういうこと?‘‘イブキにぃ’’って……」

 

理子がそう言って俺に詰め寄ってきた。俺はキンジに助けを求めようと……だめだ、キンジはアリアに殴られている。

 

「え?いや……、一応戸籍上の妹d……」

「そう、戸籍上だから血‘‘は’’つながってないんだよ」

 

かなめはそう言って理子を無理やりどかし、俺に抱きついてきた。

 かなめはそのまま俺の首に手をかけ、無理やり俺の頭をかなめの顔まで近寄らせ……

 

「「「「「「!!!」」」」」

 

俺の目の前、数センチにかなめの藍色の瞳がある。俺の口の中に湿った柔らかい物体が入り込み、暴力的に侵略する。

 

「プハッ!!」

 

かなめの口の周りが濡れていて、目は潤んでいる。頬は興奮しているのだろうか、真っ赤だ。

 

 ……き、キスされた!?

 

「あぁ……しゅごい、しゅごいよぉ……!!キスしただけでこんな……やっぱり‘‘お兄ちゃん’’じゃダメ、‘‘イブキにぃ’’じゃないと……」

 

周りからは殺気を含む視線が俺に集中している。

 

「い、イブキ、あんた裏切っt……!!!」

「「「「……ッ!!」」」」

 

アリアが猛抗議をしようとした時、俺は……鬼を見た。その鬼は美しい金髪を逆立て、文字通り‘‘怒髪衝天’’だった。

 彼女の周りには殺気四割、怒気四割、その他二割によるオーラが発生している。もしアニメや漫画なら、彼女の周りには『スーパー○○○人』の様な黄色いオーラが描かれているはずだ。

 理子はゆっくりと、一歩一歩踏みしめる様に俺に近づいた。

 

「ねぇ……イブイブ、何やってるの?」

「は、はっ!!!義理の妹にキスされました!!!」

 

軍の時のクセで……自分に起こった事を敬礼しながら理子に報告してしまった。

 

 ……改めて言葉にすると生々しいったらありゃしねぇ。妹にキスですか。セカンドキッスは恐怖の味……

 

「おいブリッ子、何イブキにぃに近づいてんだよ。」

 

怒髪衝天の理子の肩に……コキュートス(絶対零度)の瞳のかなめが手をかけた。

 

「お前らにも言っておくがな……イブキにぃと今まで、どんだけラブコメをやったか知らないけどな……」

 

かなめは……まるでキンジが怒っている時と同じような口調で言った。

 

 ……環境は一切違えども、ここは血の繋がった兄弟なんだな。

 

俺はそう思いながら現実逃避をしていた。

 

「妹は最強なんだ!!お前らよりも固い、絶対の繋がりなんだ!!」

 

 ……うん、逃げよう。問題先送りだ。

 

俺は‘‘影の薄くなる技’’を使いながら303号室から逃げ出した。

 

 ……チクショウ!!今日はなんて日だよ!!

 

 

 

 

 

 

 

「あ、村田さん。」

「は、はぃいいい!!!」

 

俺に声をかけてきたのは、理子の封筒を渡してきたナースさんだった。

 

「峰理子さんに届けてくれました?」

「は、はい!!もちろんです!!」

「そう、ありがとねぇ~。あと病院は走っちゃだめですよ」

 

ナースさんはそう言った後、書類を抱えながら去っていった。

 

 ……あ、あのナース、‘‘影の薄くなる技’’を使っているのに俺が分かったのか!?

 

武偵高の病院って言うのは……なんて恐ろしいところなのだろうか。

俺は何度も入院しているのに、今日初めてそのことを実感した。

 

 

 




 ‘‘金継ぎ’’とは……陶磁器の割れ・欠け・ヒビ等を漆によって接着し、その部分を金などの金属粉で装飾して仕上げる修理方法の事です。

 ‘‘人間の言葉をしゃべる犬’’の例……分かりづらいですかね?



 来週も1教科試験と課題があるのですが……なるべく急いで投稿します。
(何としても今年中までには12巻までは書きたい。)


    Next Ibuki's HINT!! 「チキンカレー」


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俺の酒が……

 遅れてすいません。
 レポートや課題があったのは事実なんですが……大分難産でした。
 難産の時って……違う話を考えちゃうんですよ。13巻の話どうするか、とか……だから余計に進まない。悪い癖ですね。

 

 誠にすいませんでした


 俺は病院から逃げるように去り、寮の自室に戻った。

 

 ……なんか今日は逃げてばっかりだなぁ。

 

「ただいまぁ……」

 

俺は心身ともに疲れ切った体でドアを乱暴に開けた。

 靴を脱いでそろえ終えた時、リビングからパタパタと足音がした。

 

 ……この足音だとリサだな。

 

我が家の健気(けなげ)なメイドさんの姿を見て癒されようかな。

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

「あ、イブキ様!!おかえりなさいませ!!」

 

そこには、我らが可愛いメイドさんが……

 

 ……え?

 

リサはエプロンをしていた。料理をしていたのだろう。

奥からスパイスのいい香りがするので、今晩の夕飯はカレー系統のものだという事が推察されるのだが……問題が一つあった。

 

 リサのエプロンは血まみれだった。

 

しかも、リサの可愛い顔にまで返り血が付いている。

 

「イブキ様?どうされました?」

 

 ……かなめに理子に、今度はリサか。

 

俺の意識は段々と薄れていき、体に力が入らなくなっていった。

 

「え?イブキ様!?イブキ様――――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、これが‘‘ちきんかれぇ’’か。……うむ、美味である!!かなめよ、よくやった!!」←ネロ

「えぇ、少し老いた鶏のようですがちゃんと処理してありますね。煮込みも完璧です。」←ニト

「……(ガツガツ)」←牛若&エルキドゥ

 

 我らが『COMPOTO』の面々に大好評のチキンカレー。何と、これを作ったのはかなめだったのだ!!

 

()めるのに手間取りましたが……よく頑張りましたね。素晴らしいです!!」←リサ

「えへへ……。リサお姉ちゃんが付きっ切りで教えてくれたから」←かなめ

 

リサがべた褒めし、かなめは顔を真っ赤にして頬を掻いた。

 

 

 

経緯はこうだ。

 リサが懇意にしていた鶏卵農家から卵を産まなくなった鶏4羽をもらってきたらしい。

 この鶏をもらってきて今晩の夕飯を考えている時にかなめが到着。かなめの提案によってチキンカレーに決定。リサはチキンカレーの足りない食材を買いに行き、かなめは鶏を()めることになったのだが……それに手こずり血まみれになったそうだ。(リサが買い物に行った後、()める前に大掃除(破壊活動)をしたと考えられる)

 その後リサの指導の下、かなめは本日使う残りの分の鶏を絞めて解体し、チキンカレーを作ったそうだ。

 チキンカレーが出来上がったのでかなめは俺を探しに行き、その間にリサは残りの鶏を絞めていた時に俺が帰り、気絶したそうだ。

 

 

 

 ……良かった、本当によかった。リサが人を殺したのかと思った。

 

俺はこのくそ美味いチキンカレーを口にしながら、ホッとしていた。

 

「そう言えばイブキ」

「なんでぃ……」

 

キンジはため息を吐きながら言った。

 

「俺に妹がいるっていうの……今まで冗談だろうなぁって思ってたら、本当にいたんだな。」

「おう……俺が今まで嘘を言ったことがあるかぁ~」

「何度もあるな」

「「……」」

 

 

 ……いやぁ、このカレーは美味いなぁ。

 

若鶏と違い、古い鳥は肉が硬く少ないのだが……旨味が段違いだ。その肉を圧力鍋で一気に煮込んだおかげで鶏肉はホロホロと崩れ、鶏の旨味がカレーに染み込んでいる。

 軍艦のカレー(カレーガチ勢)に比べたら一歩劣るが……たった数時間で作ってこの味だ。最高と言ってもいいだろう。

 しかも俺の味覚をピンポイントに攻めてくる。これがマズいはずがない。

 

「‘‘イブキにぃ’’、‘‘お兄ちゃん’’、美味しい?」

 

かなめはニコニコと笑顔で聞いてきた。

 旨い、確かに旨いのだが……素直に認めたくない気持ちも少しある。

 

「旨いけど……少し塩分が多いのか?ご飯が進むから良いけど」←キンジ

「ちょっと煮込みが少ないな。短時間でここまで旨いものを作れたのはすごいけど……海軍(カレーガチ勢)のに比べたら一歩劣るな。」

 

するとかなめの口は‘‘への字’’に曲がった。俺はその表情を見て罪悪感が()いてくる

 その時、リサがかなめの肩にポンッと手を置いた。

 

「かなめ様、次で挽回しましょう!!」

「ッ……!!!うん!!!」

 

かなめはスッと姿勢を正し、リサと熱い握手を交わした。

 

 ……あぁ、美しきかな姉妹愛

 

俺はそう思いながらカレーを頬張り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯の後、もちろん‘‘かなめ帰還の酒宴’’で俺達は大いに盛り上がった。

 その酒宴がお開きになった後、『初めて会った兄妹どうし、積もる話もあるだろう』という事でキンジにかなめを擦り付け、俺はそのまま寝ようと……

 

 プルプルプルプル……

 

 俺の携帯が鳴り始めた。俺は携帯を手に取り、発信者を見ると……蝦夷テレビの藤崎さん!?

 

「はい、もしもsh……」

『あ、村田君ですか!!いやぁ~この前はありがとうございました!!』

 

電話から特徴的なでかい声が聞こえてきて、俺は思わず携帯を耳から離した。

 

『あの時の視聴率がいい具合でして!!また一緒にやってもらおうと思ってます!!』

 

彼の興奮度合いはすさまじく、ただでさえ声は大きいのにさらに声が大きく聞こえる。

 俺は思わず音量を確認したところ……通常通りの音だ。

 次に、スピーカーモードになってないか確認し……なってない。

 

 ……藤崎さん、あんたの声帯はどうなってんだよ。

 

『12月の上旬になると思うんでお願いしますね!!こっちでチケットの方は手配しておくんで!!』

「ちょ、藤崎さん待ってください!!いくら何でも急すg……」

東京武偵高(そちらの方)には申請しておいたので単位は出ると思います!!細かい日程は後日伝えますね!!』

 

 ピッ……プー、プー、プー……

 

 ……まるで嵐のような男だな

 

俺はため息を吐きながら携帯の通話をオフにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ……君も悪い男だねぇ~」←インキ―

「和泉君じゃないんですから、女子高生二人の相手なんて俺達にできる分けないですしねぇ~」←藤崎

 

 蝦夷テレビの会議室で藤崎はそう言い、ため息をついた。

 やっと『和泉シェフの料理対決』と『絵はがきによる旅』の編集が終わり、一息ついていたところで……蝦夷テレビの部長に無理難題を押し付けられのだ。

 

 

 

『あ、藤崎?12月の上旬は暇か?』

『……今のところ予定はないですよ?』

『なんでも副社長の知人の子がお前の番組の大ファンらしくてなぁ……』

『……はぁ?』

『12月の上旬に一緒にロケに行きたいそうだ。』

『え……?』

『女子高生二人、よろしくな。じゃぁがんばれよ~』

『ちょちょちょちょっと待ってくださs……』

 

このことを音野・鈴藤に相談すると……

 

『あの子達も呼んじゃえばいいんじゃない?』←インキ―

『そう言えば‘‘絵はがきによる旅’’の最終夜がクリスマス特番のせいで遅くなるんだったよね?』←カメラ

『『それだ!!』』

 

 

 

 

 

「まぁ、なんとかなるでしょ」

 

鈴藤(インキ―)にそう言って、藤崎は東京武偵高の電話番号を打ち込み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ほんとあの人とは縁があるな」

 

俺はため息を吐いた後、携帯のアラームをセットし、寝ようと……

 

「イ~ブキにぃっ!!?」

「ひゃ、ひゃい!!!」

 

かなめの声で飛び起きた。

 俺は声がした方向を急いでみると……ピンクのパジャマを着たかなめがベットの近くに立っていた。

 

「いぶきにぃ、一緒に寝よ!!」

「て、てやんでぃ馬鹿野郎!!何言ってやがるんだ!!」

「……?でも兄弟は一緒に寝るんじゃないの?」

「何言ってるの!?」

 

かなめは緋色のサングラス(?)をかけており、そこからコードが伸びている。コードの先にはピンセットのようなものがあり、そのピンセットは理子の私物『妹ゴス(マイゴス)』のDVD-ROMを挟み読み込んでいた。

 

「ぶりっ子から奪った妹ゴス(これ)だとそうあるけど……」

「創作物と現実は違うからな!?」

「な~んだ、使えない」

 

かなめはそのDVD-RAMをピンセットから外し、ゴミ箱へ投げた。フリスビーのように飛ぶDVD-RAMは綺麗な軌道を描き、ゴミ箱へ……

 

 ドスッ……カランカラン

 

ゴミ箱のふちに当たり、そのまま床に落ちた。

 

「「…………」」

 

静寂が俺とかなめの間を支配する。

 

「……かなめ、そう言えばなんだって人様の物を勝手に処分したんだ?」

 

俺はその静寂を切り捨て、疑問に思っていた事を口にした。

 

「だってイブキにぃに近づくメス豚共だよ?イブキにぃの近くにあんなメス豚共の臭いがする物を置いておけないよ?」

 

かなめは常識を問われたかのように、不思議そうに答えた。

 

「はぁ……」

 

俺は大きなため息をついた。

 かなめは俺達と1年ほどいたのだが……それまで研究所暮らし、俺達と別れてからはサードのところにいたそうだ。研究所やサードのところでは常識を身に着けることはできないだろう。たった1年で常識を身に付けろって言うのが厳しいか……?

 

「流石に本人不在の時に私物を捨てる様な盗人まがいなことはやめろ。」

「……?」

 

かなめは理解できていないのか首をかしげている。

 

「人の物を盗るのはいけないって分かるだろ?」

「……うん」

「かなめは人の物を盗み、それを壊したんだ。お前の大事なものを同じようにされたら……嫌だろう?」

「……………うん」

 

かなめはやっと己のしでかした事を理解したのか……シュンとした表情のまま俯いた。

 

「あいつらの事が気に入らないってんならそれでもいい。だけど悪いことはするな。かなめだけじゃなくて他の人にも迷惑がかかるからな。」

 

俺はそう言ってかなめの頭を撫でた。するとかなめはしょんぼりした表情から一転、気持ちよさそうに目を細めた。

 

 ……こんな説教してる自分の胸が痛い。

 

俺はその心の痛みをかき消そうと、かなめの頭を力強く撫で続けた。

 

「ふにゃぁ~~~」

「……ハァ」

 

 

 

 

 

 

 

俺はかなめの頭から手を離した。

 

「……あ」

 

かなめは名残惜しそうに俺の手を見るが……俺はあえてそれを無視した。

 

「とにかくだ。悪いことはするな。いいな?」

「う、うん……」

 

かなめはコクリと……何かをひどく恐れるようにうなづいた。

 

 ……何をそんなに恐れてるんだ?まさか嫌われるとか思っているのか?

 

「わかったよ。何が悪いことか勉強して……もう悪いことはしないようにする。」

 

俺はかなめの言葉で頭が痛くなった。

 かなめは……常識を知らないのか。GⅢのところで常識は身につかなかったのかよ。

 

「で、でも!!」

 

その時、かなめは俺の手をとり、意志の強そうな瞳で俺の目を見た。

 

「イブキにぃの女の趣味は悪いよ!!ぶりっ子にチビ、カマトト、ダンマリ……あんな色物ばかり飼ってるなんて!!」

「飼ってないからね!?それにその4人はキンジのほうだからな!?」

「……え?」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はあの4人が男子寮に来た経緯や、キンジにご縁があることを詳細に説明した。

 

「チビにカマトト、ダンマリはともかく……ぶりっ子が危険か」

「あ、あの……かなめさん?」

 

説明した後、かなめがブツブツと独り言をしだした。しかも絶対零度(コキュートス)の、瞳孔が開いた目をしながらの独り言のため……下手なホラーよりも恐ろしい。

 

「……とりあえずぶりっ子は警戒sh……どうしたの?」

「あの……大丈夫ですか?」

「えっと……とにかく、イブキにぃ!!」

「は、はい!!」

 

かなめは俺の目の前に人差し指を立て、プリプリと怒り出した。

 

「イブキにぃは世界一素敵なおにいちゃんなの!!なのにイブキにぃはその自覚がありません!!あんな女達は釣り合いまーせーん!!非・合・理・的!!!

「……はぁ?」

 

俺はそこまで尊敬される人間でないことは自分自身がよくわかっている。そのせいでさらに胸が痛くなる。

 

「とにかく!!あんなのがイブキにぃの彼女とかありえないから!!!だから約束して!!」

「何をd……」

「あたし以外の女子と、触ったり抱きしめたりしないって約束して!!」

「あの……『COMPOTO』は俺以外女ばかりなんだけど……」

 

するとかなめはグイッと自分の顔を近づけた。

 

「‘‘お姉ちゃん達’’は例外だけど……それ以外の女に近づかないって誓って!!!」

 

かなめの絶対零度(コキュートス)の瞳は俺の目を貫くようにジッと見ていた。

 

「いや……それに平賀さんに頼んだ弾薬も貰いに行かないと……」

 

平賀さんに頼んだ200発のうち、まだ100発分の金しか払っていない。なので平賀さんには絶対に会う必要があるのだが……

 

 ……ここでかなめに誓ってみろ、色々と詰むことになるぞ!?

 

すると……かなめはとある酒瓶を取り出し、俺に見せてきた。

 

「イブキにぃ……これな~んだ?」

「か、かなめ……お前ぇ……!!」

 

かなめは俺の秘蔵のラム酒『ハバナクラブ RITUAL』が握られていた。

 

 

『ハバナクラブ RITUAL』とは、キューバで作られているラム酒の銘柄の一つで、キューバとスペインでしか売られていない貴重なラム酒だ。

 俺はこの酒を近所に住む吉田の爺様から貰った時、飛び上がるほど喜び、よっぽどの良いことが無いと飲まないと誓った。

 そんな大変に貴重なものがかなめに握られていた。

 

 

「イブキにぃ……?誓ってくれないと……」

 

かなめはそう言って『ハバナクラブ RITUAL』の酒瓶を思いっきり振り上げた。

 

「誓います、誓いますから!!!それだけは勘弁を……!!!」

 

俺は思わずベッドから飛び起き、土下座をして叫んでしまった。

 

 ……そんな人質(貴重な酒)を取るなんて卑怯だぞ!?

 

チクショウ!!あれを取られて誓わない人間なんていねぇぞ!?

 

「万一イブキにぃとベタベタしている女がいたら、メッタ刺しにして殺してやるから」

「て、てやんでぃ!!軽々しく殺すなんて言うなってんだ、べらんめぇ!!人様に迷惑かけるなってんだ!!」

 

俺がスクッと立ちながらそう言うと……かなめは意外なことに、素直に頷いた。

 

「……い、イブキにぃ」

「何だよ」

 

俺はジト目でかなめを見下ろすと……彼女の頬が真っ赤に染まった。

 

「ヤバい」

 

かなめは絞り出すようにその言葉を発した。

 

「……なにがd」

「かっこいい……かっこいいよイブキにぃ!!その鋭い目が……イイ!!濡れちゃう!!これが二人っきりだと思うと……ダメ、(うず)いちゃう!!!これだけでヒスれそう……!!!!」

 

かなめは自分の頬を両手で押さえながら興奮気味に言った。

 

 ……あれ?

 

かなめの手には酒瓶が……ない。おい、もしかして……

 

「イブキにぃ、好き、好き、大すk……」

 

 

……バリィイイイン!!!

 

 

「「…………」」

 

寝室に(むな)しい破壊音が響き渡った。

 視線を下方に移すと……床に琥珀色の海が広がっていた。その琥珀色の海の中に尖った水晶がキラキラと光を反射している。

 大きく鼻で息を吸った。あぁ……強いアルコール臭にラム酒の甘い香りとバニラの様な香りが鼻いっぱいに広がり、脳味噌がとろけそうな幸福感に包まれる。

 心地よい香りに包まれた俺はしゃがみ、琥珀色の海に指をつけてそれを舐めた。さっき鼻で感じた香りが口いっぱいに広がり、思わず頬が緩む。もう一回琥珀の海に指先を浸すと……

 

「痛っ……」

 

人差し指の腹に……ガラス片が刺さっていた。指先からは緋色の血がスーッと流れ出てくる。

 

「……おい、マジかよ。」

 

指先の痛みで……俺はやっと残酷な結果(悲惨な現実)を直視した。

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメンナサイッ!!ゴメンナサイッ!!ゴメンナサイッ!!」

 

俺が現実に戻った時、かなめが額を床に擦り付け謝っていることに気が付いた。

 長時間謝っていたのだろう。かなめの声は(かす)れ、顔の下には透明な水たまりができている。

 

「かなめ、もういいから」

 

俺は無理やりかなめの顔を上げた。整った顔はグシャグシャ、顔中から(しる)という(しる)が垂れ出ており、俺の手に(したた)ってくる。

 

「そ、そんなつもりなくて……ただパフォーマンスの為で……」

「……なぁ、かなめ」

 

俺が呼びかけると……かなめはビクリと体を緊張させ、一言もしゃべらなくなった。

 

「……人の物を盗っちゃいけないって言ったよな?」

「……ご、ごめんなさい!!お、同じの買って……」

「これなぁ……価格はそこまで高くはないんだ。だけど……キューバとスペインでしか売られていない貴重な物なんだ」

 

その一言で、かなめの顔は真っ青から黄土色に変わった。

 

「形あるものいつか壊れる……俺はなぁ、かなめ?」

 

俺はできる限り、優しい笑顔を作り、かなめと目を合わせた。

 かなめは怯えた顔から(さと)ったような顔に変化した。

 

「そりゃぁ俺だって人間だ。大事にしていた酒を台無しにされたら怒りも湧く。だけどなぁ……まさか叱ってすぐに、人の物盗るってのが許せねぇ。」

 

俺は(あふ)れ出る怒りを無理やり押さえ込み、必死に冷静さを保ちながらしゃべる。

 

「かなめ、人呼んで来い。そうだな……リサがいいな。まずはコレを処分してからだ。」

 

かなめは寝室からすっ飛んで出て行った。

 

 

 

 

 

 かなめの形相(ぎょうそう)を見たのか、この部屋に住んでいる全員が集まってきた。そのおかげで割れた酒瓶はすんなりと片付いた。

 

「な、なぁ……」

「あ?」

 

 割れた酒瓶を片付けた後、俺達はリビングへ移動した。

 そして移動してすぐ、ソファーに座る俺にキンジが声をかけてきた。

 

「たかが酒だろ?それでかなめを殺s……」

「なんだって?」

「い、いや……なんでもないです」

 

キンジはスゴスゴと下がった。

 

 ……流石に殺しはしねぇよ、殺しはよ。

 

流石に酒瓶を片付け終わる頃には怒りも収まっていた。しかし……かなめは常識が欠如してるとは言え、人の物を盗むのはやっぱり許せない。

 言ってダメなら……体で覚えさせるしかない。

 

「かなめ、来い。」

 

かなめは何かを(さと)り、覚悟したような面持ちでやってきた。

 俺の前に来るとかなめは正座し、青色に光る短刀を俺に差し出してきた。

 

 ……あれ?この刀、見覚えがあるぞ?

 

「イブキにぃ……いえ、イブキお兄様。あたし……私のした事、お詫びの言葉もございません。ですが……一思いに、お願いします。」

 

 ……なんか誤解してねぇか?

 

 

 

 

 

 

 

「本当にやるのか?」

 

キンジは心配そうに俺に聞いてきた。

 

「これは(しつけ)だ。……なぁキンジ。嫌なことに、俺は小っちゃいころは親に殴られてばっかりだったよ」

「そうだっけ?」

「そうだ」

 

俺は……もうほとんど覚えていないが、前世(?)の両親を思い出した。

 

 

 

小っちゃい頃は殴られてばっかりだった。しかし、それは虐待とかではなく、子の成長を願っての(しつけ)という事は……今の俺にはよくわかる。

 その前世(?)の両親のおかげで常識や善悪を知り、今世(?)の両親(故)にはあまり殴られずに済んだ。

 

 

 

「キンジ、お前も親やキンイチさんに殴られた覚えはあるだろ?……でもな、かなめは殴ってくれる親はいなかったんだ。居たのは己の欲のために虐待する研究者ぐらいだ。」

 

俺はキンジの目をしっかり(とら)えて言った。

 

「かなめが俺達といた一年間……俺達はかなめを可愛がっていたさ。だけど……そこで俺達はほとんど叱らなかった。そのツケがここで来たんだ。だから……責任は取らなきゃいけねぇんだ」

「わかったよ。」

 

キンジはそう言った後……かなめから目をそらした。他のメンバーはかなめを凝視している。

 

「やるか……」

「ッ……!!!」

 

俺は膝の上で腹ばいになるかなめのパンツとスカートを握り、一気にひん剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシッ!!バシッ!!バシッ!!……

 

「ご、ごめんな…ごめんなs……」

 

俺は……泣いて謝るかなめを見て心を痛めつつ、彼女の尻を叩いた。

 

  ……前世の両親には散々やられたなぁ。

 

 これは……やる方も胸が痛い。『某春日部の嵐を呼ぶ幼稚園児の母』は改めて尊敬する。

 

「あ……あ……アッ!!!」

 

俺は手に魔力強化などをかけず、素手でかなめの尻を叩いた。そのせいでかなめの尻と俺の手は互いに腫れていく。

 

「かなめ……もう人の物は盗むな!」

「アッ…‥アッ……」

 

 ……なんか、俺の太ももが濡れている感触がするんだけど。

 

バシッ!!バシッ!!バシッ!!……

 

「アッ……も、もう盗らn、アヒィ……!!!」

 

 俺は無心のまま……ひたすらかなめの尻を叩き続けた。

 

 

 

 

 

「イブキにぃ、ゴメンナサイ……」

「……もう人の物盗るんじゃなぇぞ。」

「……うん」

 

俺はかなめを背負い、ベッドへ運んでいた。どうも尻を叩きすぎて腰が抜けたらしい。

 

「イブキにぃ……」

「……なんだ?」

「……ちゃんと弁償するから……嫌わないで」

 

背中からかなめが怯えているのが伝わってくる。

 

「あんなことぐらいで嫌いになるかってんだ。」

「……うん。……同じの、買ってくるから」

「期待しないで待ってる」

 

アメリカに飼われている組織が、キューバの物を簡単に手に入れられるはずがない。複数個、少なくても1つは他国を介さないと手に入らないはずだ。

 

 ……あぁ、飲みたかったなぁ。

 

今は亡き酒の味を思いつつ……ベッドにかなめを置いた。

 

「イブキにぃに立てなくなるほど激しくされて、ベッドまで運んでもらえるなんて……」

 

かなめはそう言って真っ赤にした顔を頬で抑え、イヤンイヤンと顔を横に振る。その仕草が(しゃく)(さわ)る。

 

「てやんでぇ、べらんめぇ……反省してねぇのか?」

「ごめんなさーい!!」

 

かなめは不利を(さと)ったのか、頭まで布団をかぶった。

 

 ……やっぱり、妹には勝てねぇわ。はやてに同じことされても嫌えないだろうしなぁ。

 

「……ハァ、おやすみ」

「おやすみ~!!」

 

俺は寝室のドアをゆっくり閉めた。

 

 

 

 

 

 

 俺はその後、酒蔵部屋から『ハバナクラブ3年』(ラム酒)を持ってリビングに来た。

 かなめの前では格好つけたが……『ハバナクラブ RITUAL』を台無しにされたのは大分(だいぶ)ショックだった。

 飲んで今日の事は忘れよう……違う銘柄ではあるが、ハバナクラブでも飲んで気持ちよくなろうと思っていた。

 

「……ったく、今日はなんて日だ」

 

朝までGⅢを追いかけ、午後はファミレスでハニトラをすることになり、夜に大事な酒が台無し……か。

 

「……ハァ」

 

俺は大きな溜息をつきながらグラスに酒を注ごうと……

 

「イブキ様、飲み過ぎは体に毒ですよ」

 

リサが俺の酒瓶を取った。リサの顔は……プリプリと怒り、頬を膨らましていた。

 

「今日ぐらいは深酒したいんだ。許してよ」

 

するとリサは俺のグラスを奪い、酒を注いで一気に飲み干した。

 

「私も付き合いますから、あまり飲まないでくださいね」

「……あぁ!!」

 

ラジオからは‘‘さだまさし’’の『関白宣言』が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなめ様を呼ぶのは良いんです。ですが、人が増えれば御飯の計算が狂うんですよ!?」

「ハイ……スイマセン……」

 

リサはそう言うと再び酒をグラスに注ぎ、一気に飲み干した。

 

「ほかにも!!ズボンに薬莢を入れっぱなしにしないでください!!洗濯機が壊れます!!」

「……ゴメンナサイ」

 

リサは自分の握っている酒瓶を見た。酒は瓶の4分の1ほど残っている。それを確認したリサは酒瓶に口をつけ、一本空けてしまった。

 

「俺、ほとんど飲んでないんだけd……」

「イブキ様!!ちゃんと聞いているんですか!?」

「……聞イテイマス」

 

部屋には、‘‘さだまさし’’の『関白失脚』が寂しげに響いていた。

 

 

  

 

 




 海軍のカレーが美味しいのは……みんなも知ってるよね(美味かったです)。
 自衛隊のカレーのレシピがホームページに上がっているので、興味ある方は検索を!!


 

 ‘‘絵はがきによる旅’’の最終夜を押しのけた’’クリスマス企画’’とは!?
 そして‘‘女子高生二人’’とは誰なのか!!こうご期待!!

「ノンナ、カチューシャの出番はまだなの?」←金髪幼女

「12月はまだ先ですよ」←黒髪美女

胸が痛いです。



 キューバ旅行の時に『ハバナクラブ RITUAL』を買ってきました!!値段は5~8CUC(1CUC≒1米ドル)だと思います。
 ……味?恐れ多くてまだ空けてません。何かめでたいことがあったら開けようと思っています。
 もし自分のを割られたら?……多分許さないと思います。


 子供の教育に叩く・殴るは必要か否か……。
 自分は、『虐待はいけないが、ある程度は必要』だと思っています(あくまでも自分の意見です)。
 だって幼子に理屈言っても理解できないでしょ?(あくまでも、自分はそうだった)なので言ってダメなら体でわからせ、理屈は大きくなってから考えろ……が家の教育でした。
 あくまでも自分の意見です。



  Next Ibuki's HINT!! 「来訪者の予言」



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金は天下の回りもの……

お待たせしました。

 これが平成30年最後の投稿になると思います。(バイトの中……2日でもう一話かけるとは思えないし)

 この投稿スピードだと……クリスマス特別編は2019年の1~2月中、正月特別編は3月~4月ごろに投稿となります。
 あれ?……クリスマスと正月ってなんだ?(哲学的疑問)

 来年もよろしくお願いします。よいお年を!!


 リビングで寝ていた俺とリサは、かなめに『妹目覚まし(おたまでフライパンを叩く)』によって……頭痛を覚えながら起きた。

 

「うぅ~……頭が痛いです」

「リサ、とりあえず水とアスピリンな」

 

俺はリサに水の入ったコップとアスピリンの錠剤を渡した。

 

 ……新幹線でアスピリンのボトルを落とした後、代わりを薬局に行って探したっけ。アメリカほど安くないし量もないけど……それでも重宝している。

 

「あ、ありがとうございます」

 

リサは顔を真っ青にしながら、薬を飲んだ。リサは飲み干したコップをキッチンに戻そうとし……固まった。

 

「ん?……どうした?」

 

リサの視線の先をたどると……壁時計があった。時刻は7時28分。

 

「あ……」

 

何時も朝食は7時20分ぐらいに食べ始める。そしてこの時間……朝食を作る時間が無い。

 

「……キャァアアアア!!!」

 

リサの悲鳴が部屋に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の目の前にはトーストとベーコンエッグ、サラダ、オレンジジュースが色鮮やかに広がっていた。

トーストは全粒粉を使用してある食パンを使い、ベーコンはカリカリ一歩前という絶妙な焼き加減……うん、俺の好みにベストマッチ。

 

「リサお姉ちゃんがぐっすり寝たから、代わりに作ったんだ」

 

エプロン姿のかなめはそう言いながら、全員分の料理をテーブルに置き、椅子に座った。

 

「かなめ様すみません。リサが飲みすぎたばっかりに……」

「……俺も止められなかったから同罪か。すいません」

 

 ……でも、昨日あの迫力。普通は止められねぇよ

 

俺はそう思いながら座った。テーブルにはリサの悲鳴で起きてきた面々が眠たそうに座っている。

 

「……いただきます」

 

俺はそう言ってパンに(かじ)りついた

 

 

 

 

 

 

「ほぉ?貴様……」

 

ネロはとてもご立腹のようだった。

 

「……なんでしょう?」

 

ニトもファラオオーラ全開でネロと張り合う。

 

「目玉焼きにはケチャップであろう!!」←ネロ

「ソースに決まっています!!」←ニト

 

俺はその喧嘩(じゃれ合い)をボケ~っと見ながら、目玉焼きに醤油をかけた。

 

 ……今度クレ〇ジーソルトも試してみようかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前の授業中、ノートだけは取っておいた俺は急いで荷物をまとめた後着替え、学校から出ようとしていた。

 

「イブキ何やってんだよ、軍服なんて着て……。一緒に学食行かねぇか?」

 

俺は校舎を出ようとした所で武藤に捕まってしまった。

 

「武藤悪いが……これから用事があってな。」

「なんだよ、単位はそろってるそうじゃねぇか。連れねぇなぁ……」

「平賀さんへの代金がまだ作れなくてな……」

 

俺の言葉に納得したのか、武藤は‘‘なるほど’’と頷いた。

 

「お前って値切らないし、色も付けるからなぁ……平賀さんや貴希がお前から仕事貰うとホクホク顔してるぞ。」

「下手に値切って技術者から恨まれたくないしなぁ。……まぁ、その代わり仕様と納期を守らなかったら文句言うけど。」

 

 ……当たり前だ。わざわざ言い値で買うんだ。正当な理由がなければ、仕様以上の物で納期を守ってくれなければ困る。

 

俺のその言葉に武藤は顔が青くなった。

 

「……そうだった。お前の(高機動車)の改造……相当手こずったしな……。ま、頑張って来いよ」

 

ずっと前に俺の(高機動車)の改造を武藤に依頼し、追試のせいで納期が守れなかったため……数日間作業場(ピット)に監禁したのを思い出したのだろう。あの時は『全額返すから帰してくれ!!』って言ってたっけか。

 

 ……まぁ、高めの料金に加えて結構色を付けたが。

 

「あぁ、行ってくる」

 

俺は革靴を履き、校舎を出た。久しぶりに来た軍服は……この時期にはまだ暑かった。

 

 

 

 

 

 

「あの……ここにイブキにぃを呼んでくれませんか?私かなめって言います。」

「‘‘イブキにぃ’’……?村田君の事かな?」

「あ、はいっ!!そうです!!」

 

イブキが急いでクラスから出て行ったあと、かなめが弁当を持ってここに来た。

 

「おい……あれって(うわさ)の……」

「あれが……確か遠山の妹で、村田が育てたっていう……」

「何あの子、めっちゃ可愛い!!」

「村田……あんな顔して‘‘光源氏計画’’なんてしてやがったのか……」

「あいつ……あんな顔してそんなことを……うん、あり得るな。」

 

クラス内でのイブキの評価が大暴落・ストップ安にまで落ちている中、キンジはため息を吐きながらかなめの下へ向かった。

 

「あ、お兄ちゃん!!イブキにぃ知らない?」

 

かなめのその言葉に周りも色めきだつ。

 

「おい、マジで遠山の妹だってよ」

「ッケ……勝ち組かよ……」

「というか……村田って……ロリコン?」

「……あり得るな」

 

 イブキの株価が大恐慌を起こしているが……それを無視して、キンジはかなめに答えた。

 

「あいつ、用があるって言ってどっか出かけたぞ?」

「え!?ホント!?」

 

そう言った後、かなめは勢いよく鼻で息を吸った。まるで何かの(かお)りを感じるかの様に……

 

「いぶきにぃは……こっちかな?」

 

そう言ってそのまま……臭いを辿(たど)ってどこかへ行ってしまった。

 

 ……(にお)いでたどるってどんだけだよ。

 

キンジは自分が標的にならないことに安堵していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は港区アクア・エデンに来ていた。

 

 

 アクア・エデンとは、日本でカジノや風俗が許される数少ない場所の一つで……吸血鬼などの‘‘人外’’のための人口島でもある。

 そのため、その人工島には身分証が無いとは入れなく、入るための交通手段が鉄道だけだ。まるで監獄島(アルカトラズ)の様ではあるが……人と人外の‘‘住み分け’’ができている国内でも希少な場所の一つだ。

 なお、なぜか管轄は国内担当(第一中隊)ではなく、海外担当(第二中隊)(うち)である。

 

 

さて、俺がここに来た主な理由は金のためである。平賀さんに頼んだ25ミリ機銃の弾(費用を抑えた方)100発(90万円)の資金が用意できない。

 金がないならどうするか……90万の依頼など簡単に受けられないため、カジノで稼ぐしかない

 有難い事に、書類上では第二中隊所属であるために比較的簡単にアクア・エデンに入ることができる。

 ついでに……第二中隊の面々が金に困り始めたら『敵の観察及びその他観察力の向上訓練』と称して、アクア・エデンのカジノで荒稼ぎしている。

 

 

 

 ……まぁ、それだけじゃないけどな。

 

ここで知り合った人達の挨拶周りや情報収集も一応は兼ねてはいる。

 

 ……藤原さんが『近々違う複数の組織が攻勢をかけてくる』と言っていた。もし俺が敵なら……東京に近く、問題を起こしやすいアクア・エデンをまずは狙う。

 

俺はそう思いながら周りを見る。アクア・エデンは夜の街であるため、お昼時の今は人が少ないのだが……それでも、ちょっとした町に比べたら断然人は多い。

 

 ……まぁ、まずは飯だ。

 

 俺は空腹を訴える胃を押さえながら……目当ての店に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はアクア・エデンの一角にあるカフェバー『アレクサンドリア』の扉を開け、中に入った。

 

 カランカラン……

 

扉を開け、中に入ったが……前回のように大房さんによる接客が無かった。周りを見渡してみたところ……誰もいない。

 

 ……まぁ、大房さんはいないか。

 

 

 

アクア・エデンは夜の街であるので……ここの住人の生活サイクルが昼夜逆転している。ここの住人からしてみれば……普通の人の昼12時が夜12時に当たるのだ。

 

 

 

 しかし……それを考慮したとしても、誰もいないのはおかしい。

 俺はいったん外に出て扉を再び確認すると……そこには‘‘OPEN’’という看板が下げられている。

 

 ……あれ?

 

俺は立ち往生していると、店の奥から物音が聞こえた。音が聞こえて十秒もしないうちに、店の奥から赤みがかった茶髪で細目の色っぽいお姉さんが来た。

 彼女は『アレクサンドリア』のマスター・淡路萌香(あわじもえか)。他にも色々兼業しているのだが……今は割愛。

 

「イブキ君、久しぶりね。まだ開店前なんだけど……」

「え?すでに‘‘OPEN’’になってましたよ?」

「間違えちゃったのかしら?……まぁ良いわ。そろそろ開店時間だし。」

 

淡路さんは首をかしげながら、カウンターに水の入ったコップを置いた。

 

「すいません、開店前に……。BLTサンド4人前と紅茶をお願いします。」

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、俺の目の前にはうまそうなサンドイッチが山になっていた。昼はまだ食べていないので……腹がペコペコだ。

 

俺がBLTサンドにかぶりついて数分、すでに山は消え去り、サンドイッチは残り一つになっていた。

 

「相変わらず食べるのが早いのね」

「まぁ、仕事柄そうなんで……。ところで、アクア・エデン(ここ)で変な事や噂とかありませんでした?」

「……イブキ君、ここは一応カフェバーなんだけど?」

 

淡路さんは肩をすくめ、(あき)れながら答えた。

 ここのマスター・淡路さんはアクア・エデンで知らないことがない、情報のプロでもある。

 

「いつもここに来たらそう言うわね。……まぁいいわ。ここ最近だと……新興の麻薬組織が潰れたぐらいね。」

 

 ……その麻薬組織は潰されたのだから、脅威ではないはず。

 

「あと、最近は中国系や多国籍の人達が何かコソコソしているみたいね。」

「……そうですか。」

 

 藤原さんが言っていた事と関係ないといいが……

 

「そう言えばイブキ君、極東戦役(FEW)の方はどう?」

 

俺はその言葉で思考を止め……思わず拳銃に手が伸びた。

 

藍幇(ランパン)のココ姉妹を倒したら気に入られて……今度は『ジーサード・リーグ』に行った妹のかなめちゃんに言い寄られて……あら、話しすぎちゃったかしら?」

「えぇ、全く……」

 

俺は警戒しながら……拳銃にそえた手を戻す。彼女の表情は変わっていないが……殺気はない。

 俺はため息を吐きながら残りのサンドイッチを一気に食べ、紅茶を流し込んだ。

 

「お詫びに一つ、重要なことをお姉さんが教えてあげる。」

「……。」

 

俺は淡路さんの目を見た。彼女の顔は微笑んでいるが……彼女の細目は笑っていない。

 

「イブキ君の相棒が近々来るそうよ?……お願いだから来る間はアクア・エデン(ここ)に来ないでね?私はまだアクア・エデン(ここ)を沈めたくないわ。」

 

 ……何を言っているんだ?

 

俺は淡路さんの顔をジッと見た。……彼女の目は真剣だ。

 

「流石にアクア・エデン(ここ)を沈めるなんてことできませんよ。……ごちそう様でした。お会計はここに置いておくんで。」

 

俺は勘定を済ませ、店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は『アレクサンドリア』から『ピラミディオン』のカジノへ向けて歩いている途中……淡路さんの言葉の意味を考えていた。

 

 ……俺の相棒だって?しかも近々来る?

 

今までの中で、‘‘海外在住で一緒に戦った人間’’を思い出してみた。

 

 

 最初に思いついたのは……初めて一緒に戦い、その後重大事件に一緒に巻き込まれるあの疫病神。ニューヨーク市警の‘‘ジョニー・マクレー(おっさん)’’だ。

 確かに、ジョニー・マクレー(おっさん)が東京なんかに来てみろ……何が起こっても不思議ではない。

 だが……俺がジョニー・マクレー(おっさん)を疫病神と思っているのに対し、ジョニー・マクレー(おっさん)も俺を疫病神だと思っている。

 ジョニー・マクレー(おっさん)(この)んで日本に来るとは思えない。

 

 

 次に……俺・理子と一緒にイ・ウーのボストーク号へ潜入した‘‘ハンナ・ウルリーケ・ルーデル’’を思い出した。

 彼女は魔女連隊(レギメント・ヘクセ)魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)に所属していた凄腕パイロットだ。

 俺達と一緒にボストーク号へ潜入した後、日本と司法取引をし、本国へ帰ったと聞いている。彼女の性格からしてひょっこり日本へ来そうではあるが、アクア・エデンを沈めるほどの戦力ではないはず……ないよね、ないといいな……うん。

 

 

 ロサンゼルスでの中国総領事の娘(スー・ヤン)誘拐事件では、ロス市警の‘‘カーターさん’’・香港警察の‘‘リー警部’’と一緒に戦ったが……あの二人組と俺・ジョニー・マクレー(おっさん)のタッグによる2チームが協力して戦ったような感じだ。淡路さんが彼らを相棒とは言わないはず。

 

 ……ハンナだったら面倒事は起きるとは思うが、流石に命のやり取りにまで発展することはないか。心配して損したぜ。

 

 俺は薄暗い思考から脱却し、晴々(はればれ)した気持ちで『ピラミディオン』に入った。

 

 

 

 

 

 十数日後、俺の予想を大きく裏切り、最悪な事件に巻き込まれることになるとは……この時、俺は想像もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺は『ピラミディオン』のカジノのルーレットで大勝した。平賀さんへの代金を差し引いても十分に遊べる量だ。

 

 ……さて、今日は色々遊べるな。

 

俺はその余ったチップの一つを(もてあそ)んでいると……

 

「だぁあああ!!!これでどうだぁ!!!」

「あ、両さん悪いね。また僕の勝ち。」

「うわぁああああ!!!」

 

聞きなれた声がカジノで響き渡った。俺はその声の方向へ向かうと……そこにはOTLの状態で号泣する両川さんとホクホク顔でチップを取っていく山本さんがいた。

 

「今月のワシの給料が……」

「フワァ~……。カンキチは弱いから勝負しなきゃいいのに。」

「う、うるせぇ!!男が負けっぱなしでいられるか!!」

 

ディーラーの銀髪少女・エリナがアクビ交じりに言った言葉がグサリと刺さったのだろう。両川さんは顔を真っ赤にして反論した。

 この様子から考えるに……両川さんはまた給料をスッたのだろう。まぁ、いつもの事でもある。

 

「山本!!もう一回勝負だ!!」

「……でも両さん、素寒貧(すかんぴん)の状態で何をかけるってんだい?両さんの制服や拳銃、警棒なんていらないよ?それに……僕の貸したお金、そろそろ返してよ。」

「うっ……」

 

両川さんはその言葉でつまり、助けを求めるように周りを見回し始め……

 

 ……ヤバい、目が合った。

 

「おい、村田ぁ!!ちょっとでいい、10万……いや3万でいい、金を貸してくれ!!」

 

この場の全員が俺に目をやった。

 

「いや……両川さん、前貸した100万そろそろ返してくださいよ。その100万がないせいで今日稼ぎに来たんですから」

「ちゃ、ちゃんと返す、返すから……3万、いや!!2万でいい、貸してくれ!!」

 

両川さんはそう言って俺の足にすがり付いた。両川さんが大声で言うため……この様子を見に客が来るわ来るわ……。

 

「……はぁ。」

 

俺は両川さんに5万円分のチップを握らせた。この5万、ドブに捨てたと思おう。

 

「さっすが村田だぜ!!さぁ、山本もう一丁勝負だ!!!」

 

両川さんはそう言って席に着き、テーブルにそのチップをバーンと置いた。

 

「俺も入らせてもらっていいですか?」

 

エリナに山本さん……強敵ぞろいだ。絶対に気分よく遊べるはずだ。

 

「もちろんだ、村田君!!……5月の例の件以来だっけ?君の腕が(にぶ)ってない事を祈るよ」

 

山本さんは快くテーブルに入れてくれ……

 

「イブキー!!全然来なかったから寂しかったんだよ!!」

 

エリナは頬を膨らましていた。

 

「アメリカで人質救出した時ケガしたって聞いたから……心配だったんだよ!!」

「いや、一応メールで『大丈夫です』って送ったけど……」

「メールだけじゃなくて……直接顔を出して欲しかったよ!!」

「まぁまぁ落ち着いて……」

 

山本さんがエリナをなだめ、渋々エリナはディーラーをやり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「何する?……さっきまでポーカーやってたけど……」

 

エリナはご機嫌斜めな態度をとりながら聞いてきた。

 

「そりゃ、ポーk……」←両川さん

「ブラックジャックで行こうか」←山本さん

「ブラックジャックがいいな」←俺

 

見事に意見が分かれたようだ。

 

「さっきまでポーカーやってたんだ、ポーカーでいいじゃねぇか」

「いや、村田君とやるならブラックジャックじゃないと……」

「俺も山本さん相手じゃブラックジャックじゃないといい勝負ができませんよ……あっ!」

 

俺は思わず山本さんの顔を見た。山本さんも俺の顔を見てにやりと笑う。意見が一致したようだ。

 

「「そう言えば両川さん(両さん)、お金返してk……」」

「そうだな!!ブラックジャックだよな!!ポーカー飽きちゃったしな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、4人でブラックジャックを1時間ほど楽しんだ。結果は……

 

 

 俺:ギリギリ黒字、トントン

 山本さん:ボロ勝ち。8万ちょっとの黒字

 両川さん:大負け。9万の赤字(途中で足りなくなったため、強制(善意)で俺と山本さんが貸した)

 

 

 さて、もう一勝負行こうとした所……山本さんに向かって(こん)色のスーツを着た不機嫌そうな人が近づいてきた。歩き方は……軍や警察で訓練されたような歩き方をしている。

 その不機嫌そうな(こん)スーツは山本さんの隣に立った。

 

「長かn……大しょ……山本さん、また抜け出したんですか。ハァ……仕事してください。」

「宇垣君……もう一勝負、もう一勝負だけだから……」

「長かn……大しょ……山本さんがいないと会議が進まないので……行きますよ。」

 

不機嫌(こん)スーツは一切表情を変えずに山本さんの襟首を掴み、そのまま引きずり始めた。

 

「ちょ、ちょっと待って!!せめてチップは回収させt……」

「黒島と三和が回収するので……。長かn……大しょ……山本さん、駄々こねないでください…‥行きますよ。」

「行く、行くから!!せめて立たせてぇえええ!!!!」

 

山本さんは鉄仮面不機嫌(こん)スーツによって引きずられていった。(山本さんが見えなくなった後、二人のサングラス紺スーツがチップを回収していった。)

 

 

 

 

 

 

このまま解散かなぁ……と思いながら周りを見ると……両川さんがいない!?

 俺は急いで探すと……イソイソとカジノを出る両川さんがいた。

 

 ……あのどさくさに紛れて逃げる気だな。すでに大分距離はあるし、人ゴミを分けなきゃいけない。これは追いつけねぇな。

 

 俺はため息を吐きながら席を立った。もう3時半、金の用意ができたし……帰って平賀さんに代金を払おう。

 

「イブキ―」

「ん?」

 

エリナは寂しげな表情のまま、イタズラを思いついた時の様なワクワクした声で俺を呼び止めた。

 

「イブキがケガしたって聞いて……ミウもアズサもリオもニコラも……みんな心配してたんだよ?」

「お、おう……」

 

エリナがそのチグハグな表情と声のまま……俺に近づいてくる。

 

「だから……寮に来て顔を出すぐらいしてもいいと思うんだよ?」

 

エリナはグッと俺の襟元を掴み、至近距離で言ってきた。

 

 

 

 俺が武偵高に出向する前、テロリスト狩りの任務でアクア・エデン潜入のためにアクア・エデンの学校(人外も可)に転入したことがある。その時エリナ達と同じ寮で2~3週間一緒に過ごしたのだが……今は部外者だ。流石に寮の出入りはマズいだろう。

 (その時、俺は‘‘吸血鬼’’として入寮し、寮の全員に‘‘人間’’とバレた経緯がある)

 

 

 

「い、いや……流石に急に行くのはマズいだろ。もう部外者だぞ?」

「イブキの部屋は残ってるし……リオも時々間違ってイブキの分、作るんだよ?」

 

 

 

 リオとは稲叢莉音(いなむらりお)、『高校生活一学期編 若頭はないだろ・・・』に登場。本日は会わなかったが、カフェバー『アレクサンドリア』で働いている。

 そして、矢来美羽(やらいみう)布良梓(めらあずさ)、そしてエリナ、ニコラたちが住む寮の家事を一人でこなす健気な女の子だ。なお、巨乳。

 

 

 

 ……でも、なんだって俺の分作るんだよ。寮を出てもう一年は経ってるぞ?

 

「いや……流石に急に行ったら迷惑だろ……」

「……コナイノ?」

 

俺が答えた瞬間、エリナの瞳はハイライトが消えた。俺は背筋が凍るような……恐ろしい雰囲気を感じる。

 

「い、いや……流石に迷惑だし………いいかなって……」

「イブキ―……迷惑ト思ッテナイヨ?ダカラ……来テ?」

「……は、はっ!!」

 

俺は思わずエリナに敬礼した。おかしい、エリナはこんな子じゃなかったような気がする。

 

「ダー、じゃぁエリナも仕事終わりだし……着替えてくるから、待っててね?」

「りょ、了解!!」

 

そして、エリナ満面の笑みを浮かばせ、その後『STAFF ONLY』 と書かれた扉をあけ、向こう側へ行ってしまった。

 

 

 

 

 

俺はエリナの姿を敬礼しながら見送った後、姿勢を崩した。

 

「やっぱりあれか?あまり会ってなかったからk……ッ!?」

 

俺は……一瞬殺気を感じ、感じた方向を見たが……そこには誰もいなかった。

 

 ……まさか、監視されていたりしてな。

 

俺はその考えを明後日の方向に投げ捨て、ため息を吐きながら歩き始めた。警戒のしすぎだろう……そうに決まってる。

 

 ……『ピラミディオン』のロビーで待っていよう。後、リサに帰るのが遅くなるって伝えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい……」

「このスロット……なんか潰されてるぞ!?」

「しかも……なんか人が無理やり握りつぶしたような感じが……」

「ば、馬鹿野郎!!人間がスロット(これ)を潰せる訳ないだろ!?」

 

 ……ん?なんか後ろが騒がしいが……どうしたんだろう?

 

 

 

 

 




 目玉焼きに何をかけるか……ネロはローマ(イタリア)なのでケチャップ、ニトクリスはなんとなくソースになりました。
 自分ですか?キッコーマンのしょうゆ派です(減塩や出汁入り・真空パックではない普通の醤油派)。時々わさび醤油・ショウガ醤油です。


 久しぶりにゆずソフト様の『DRACU-RIOT!』の登場人物、淡路さん・エリナ等が登場!!
 これらを伏線に……できるといいなぁ。


 そして……両川勘吉と山本さんの登場。山本さんを連れ戻す宇垣(鉄仮面)は誰なのか……。まぁ、『太平洋戦争 宇垣』と調べればわかると思います。
 


 Next Ibuki's HINT!! 「リハビリ」




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いつ撮ったんだよ……

明けましておめでとうございます。
皆さんは年末年始をどう迎えましたか?自分はバイト三昧でした(疲れすぎて、帰ったらすぐ寝るような生活だった)。

 本当は6日までに投稿するはずだったんですが……年末年始バイト疲れで遅くなりました。ここにお詫び申し上げます。




俺はエリナと一緒にアクア・エデンの寮へ行くと……寮のみんなは驚きつつも喜び、歓待してくれた。

 そこで夕食(生活サイクルが逆なため、メニューは朝食)をいただいた後、俺は家路についた。

 

 

 

 

 さて、カジノでボロ勝ちした翌日の放課後、『一緒に映画を見たい』と駄々をこねるかなめを何とか説得し……俺は110万の入った封筒をポケットに忍ばせながら平賀さんの作業室へ向かった。

 本来は25㎜機関銃の弾薬100発分・90万円ではあるが……残りの20万は忙しい中で作ってくれたお礼だ。

 

 コンコン

 

「あ、開いてるのだ~!!」

 

俺は平賀さんの声を聴いた後、扉を開けた。そこには……大きな箱に頭から突っ込み、足をジタバタさせている平賀さんがいた。平賀さんは汚れたツナギを着ていた。……なんだかんだ言っても技術屋なんだなぁと思う。

 

俺は平賀さんを引っ張り出し、万札がびっしり入っている封筒を渡した。

 

「平賀さん悪いね。教務課(マスターズ)からの依頼もあった中、作ってもらって。」

「イブキ君はお得意様で、納期に厳しいから頑張ったのだ。」

「いや……流石に教務課(マスターズ)からの依頼だったら俺も納得するぞ!?」

 

平賀さんは注文していた最後の27発を俺に納品した後、笑顔で封筒から万札を出して紙幣カウンターにセットした。

 

「……まぁいいや。そう言えば平賀さん」

「何なのだ?」

「確か銃検をやってるって言ってたよね。」

 

俺がそう言った瞬間、平賀さんの目はギラリと光った。

 

「そうなのだ!!あややは今月から銃検の代理申請サービスを始めたのだ!!」

 

 

 銃器検査登録制度(略して銃検)とは……公安委員会が発行する登録証だ。民間人はこの登録証がなければ銃器を所持することができない。俺は軍人なので銃検を登録しなくてもいいのだが(その代わり軍への申請が必要)、武偵高に出向中のために登録することになった。

 武偵法9条で‘‘殺人禁止’’と定められているため、それを守れない武器は銃検で登録ができない。なので前回は辻さんに協力してもらい、俺の25ミリ機関銃を登録してもらった経緯がある。

 

 

「平賀さん……対戦車ロケット弾や無反動砲の申請とかできる?」

 

アメリカ旅行の時、牛若から没収したパンツァーファウストを使った。その時、あの汎用性能に何度も助けられたことがあった(一発で多数の目標を爆破できる利点がいい。それは25ミリ機銃には不可能だ)。

 今後、極東戦役(FEW)においてこれを使わないなんてありえない。

なので所持のため、軍への申請はすぐ通るのだが……銃検がすんなり通るとは思えない。そこで平賀さんに相談したわけだ。

 

「大丈夫ですのだ!!不可能なことは無い(Nothing is Impossible)!!どの武器かわかればすぐ申請するのだ!!」

「いやぁ、そいつぁ有難い」

 

さて、今度時間を見つけて辻さんと相談すr……辻さんは極東戦役(FEW)の工作のために海外にいるんだっけか。神城さんと今度相談するか。

 

「あれ?村田君、20万ほど多いのだ。」

「あぁ、急いで作ってくれたお礼だ。遠慮なくもらってくれ。」

「いつもご贔屓にしてくれてありがとうございますなのだ!!」

 

平賀さんはそう言って嬉しそうに頭を下げた。

 

「じゃぁ、詳細が分かったら連絡するよ。ありがとね。」

 

俺はそう言って平賀さんの作業室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 ……平賀さんの作業室の掛け軸が『交流を消せ!!今こそ直流の時代!!』ってなってたんだが……どこで手に入れてんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、俺は神城さんと相談し……その武器を平賀さんに伝え……平賀さんはドン引きしていた。

 

 

 

 

 

 

 

平賀さんに代金を渡した後、俺はしょうがなく映画館に向かった。映画館でかなめと待ち合わせ……ということにさせられたからな

 

 

 

 

 道中、『ふえぇ……』と涙目で道に迷う水色の髪の女子高生の道案内をしたせいもあり、待ち合わせ時間ギリギリについた。

 

「イブキにぃ~!!遅~い!!」

 

かなめはそう言って俺に抱き着き……

 

「……他の女のにおいがするんだけど」

 

抑揚のない声で問いかけてきた。

 

「いや……平賀さんに料金を払いに行くって言ったろ?まぁ、あと道に迷ってた人がいたから案内をしたぐらいk……」

「イブキにぃ……他の女のためにアタシとの時間ヲ潰シタノ?」

「だって……スマホ片手に顔真っ青、涙目状態でオロオロしてたら案内してやるだろ。」

 

俺がそう言うと、かなめは抱き着いたまま顔を上げ、頬をプク~と膨らました。

 

「イブキにぃ!!そういうところがダメなの!!だから他の女が寄ってくるの!!」

「はぁ……?ほら、さっさと映画のチケット買うぞ」

 

俺はかなめを無視しながら歩き始めると……かなめはムキになったのか、俺に引っ付いたまま引きずられ始めた。

 ……正直、邪魔だ。

 

「かなめ、どいてくれ。」

「む~……じゃぁイブキにぃ、誓って!!」

「何をだよ。」

「お姉ちゃんたち以外の女に近寄らないで!!」

「……なぁかなめ、人口の半分は女性なんだぞ?俺に引きこもれっていうのか?」

 

俺がそう言うと……かなめは‘‘その発想はなかった’’とばかりに驚いた表情に変化した。

 

「じゃぁ!!アタシが一生イブキにぃを世話するから!!部屋に引きこもって!!」

「……べらんめぇ、監禁じゃねぇか。……俺が選ぶぞ?」

 

俺はかなめを適当にあしらいながら、映画チケットの販売機でチケットを買おうと操作し……

 

 ……あれ?なんか胸騒ぎがする。

 

俺は思わず操作の手を止めた。この映画館で放映される、俺好みの映画は……

 

Die Hards(ダイ・ハーズ)

American Made(バリー・〇―ル/米国をはめた男)

『超○速!参勤交代』

 

 ……下二つはアメリカ行った時の飛行機で見たから内容が分かるが(面白かった)、『Die Hards(ダイ・ハーズ)』ってなんだ?

 

 あらすじを見てみると……『超高層ビルが占拠された!! ‘‘妻に会いに来た男’’と‘‘両親に連れられてきた少年’’のツイてない二人がテロリストに立ち向かう!!』と書かれている。

 

 ……おっかしいなぁ?7歳のクリスマスの時に似たような事を体験しているような気がするんだけど。

 

 俺は冷汗が止まらなくなった。

 

「ねぇ~イブキにぃ、私こっちがいい」

「あ、あぁ。」

 

俺は思考を放棄し、かなめが選んだ『我が妹よ ~禁じられた恋~』という映画のチケットを買うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

『地上40階!!そこは戦場になった!!』

(白人の男と黄色人種の少年が必死にテロリスト達と戦うシーン)

『今年のアクション映画の最高傑作!!』

Die Hards(ダイ・ハーズ)

 

「イブキにぃ、面白そうな映画だね。今度一緒に見に行こうよ!」

「え……あ、うん。あぁ……」

 

俺は映画が始まる前の宣伝で冷汗をかいていた。

 

 ……そう言えば第二中隊にいた頃、訓練でヘトヘトになった時に英語の書類にサインさせられたような気がする。まさか……

 

 

 

 

 

 

 同日、ニューヨークにて……

 

「ったく、なんだぁ?映画のチケットなんて……」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は停職中(犯人逮捕の時、被害が大きすぎたため)で暇なので、映画会社から送られてきたそのチケットを使って映画を見ようとしていた。

 

「……この前の懸賞が当たったのか?この俺がかぁ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は首をかしげながら、映画館の椅子に座った。送られてきた映画のチケットは……『Die Hards(ダイ・ハーズ)

 

 

  ~ジョニー・マクレー(おっさん)、映画鑑賞中~

 

 

「これって……坊主との話じゃねぇか……!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は数年前、始末書に紛れてあった書類にサインしたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

「イブキにぃ、面白かったね!!」

「……あれが、か?」

 

 かなめと一緒に見た『我が妹よ ~禁じられた恋~』は……見ていられないほど重かった。

 内容は……‘‘生き別れの実の妹と知らずに恋に落ち、葛藤(かっとう)する’’という、ありきたりな内容だった。しかし……エグいぐらいに濡れ場を強調したり……主人公が途中血の繋がってない義妹をレイプし、そのままズルズルと肉体関係に(おちい)ったり……最後には『School〇ays』 の様な‘‘nice boat.’’オチ。

 

 ……映画くらい頭空っぽにして楽しめる方がいいじゃねぇか。ド派手なアクションとかコメディとかさ。

 

 

 

 こんな映画見るぐらいなら……まだ『Die Hards(ダイ・ハーズ)』を見たほうがよかった……などと思いつつ、かなめを見た。

 かなめは楽しそうに

 

「あのシーンのあそこだけがCGだ」

「○○と同じ~手法を取り入れていたから、ああいう風になった」

 

などと、まるでキンジが言いそうな事をしゃべる。

 

 ……環境は違えど、かなめとキンジは血のつながった兄弟なんだなぁ。

 

 

 

 

 

「そう言えばイブキにぃ……はい!!」

「……何これ?」

 

かなめは急に自分の武偵高指定カバンから、紙袋を出して俺に渡してきた。紙袋にはご丁寧なことに、緋色で『LOVE』と手書きで書かれている。

 

「あ、ありがとな。かなめ……手、どうした?」

 

俺は……絆創膏が何枚も巻かれたかなめの手から紙袋をもらった。

 

「え!?……プレゼント作ってるときに針で刺しちゃって……」

「そっか……え?」

 

俺は紙袋から中の物を出すと……‘‘ぬいぐるみ’’が出てきた。

 ぬいぐるみは……白の軍帽、第二種軍装に身を包まれていたのだが、あちこちに赤黒い血がこびりついている。

 

 ……え?俺を模したぬいぐるみ!?

 

「か、かなめ……俺、いつもこんなボロボロだったっけ?」

 

確かに何度も死にかけたけどさ……と思いながらぬいぐるみ(ボロボロの俺モドキ)を引っ張り出すと、さらにかなめを模したぬいぐるみが出てきた。二つのぬいぐるみの手は、赤い糸でグルグル巻きにされている。

 

「イブキにぃはいつも……いつもボロボロになって、あたし達を心配させる。だから……イブキにぃをあたしが守る。今のあたしじゃイブキにぃほど強くないけど、HSSになれば……」

「HSS?」

 

某旅行会社の聞き間違えではない。‘‘HSS’’……‘‘High School Student’’、いや絶対違う。

 

「それはともかく!!!イブキにぃとの約束、あたしはちゃんと守ってるから!!……イブキにぃもちゃんト約束、守ッテネ?」

「約束……?」

「お姉ちゃん以外の女に近づかないって約束!!」

「いや……だからそれは無理だって言ってるd……」

「ねぇ、イブキにぃ……あたし、今日は確かめたかったの」

 

かなめの声は急に冷たくなった。

 

「あたしが……イブキにぃに愛されてるかどうか。イブキにぃは予定があったのに、一緒に映画を見てくれた。」

「……まぁ、支払いだけだったし」

 

……支払いの後は予定がなかったしな。

 

「そして、映画館で……イブキにぃは手を繋いでくれた。あたし、嬉しかったんだよ?」

 

あの映画見てるとき、そんなことやってたのか。感情を殺してみてたから……全然気づかなかったぞ?

 

「あの時間が……永遠に続けばいいなって思ってた。永遠にイブキにぃはあたしを見てくれて、あたしはイブキにぃを永遠に愛する。Eternally(ずっと)……Eternally(ずっと)……Eternally(永遠に)……

 

かなめは愛おしそうに……俺が持つ‘‘血まみれの人形’’と‘‘茶髪の人形’’を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

映画館を出て、総合ショッピングセンターから出ようとしていた時、

 

「ふえぇ……出口どこぉ……」

 

顔を真っ青にしながらキョロキョロしている、水色の髪の少女にまた出会った。

 

 ……映画を見る前に道案内した子だよな、あれ。また迷ってるのかよ。

 

「……あの、また迷ってるんですか?」

「ふえぇっ!?……む、村田さん!?」

 

ビクッっと彼女は肩を震わせた後クルッとこっちへ向き、安堵の表情を浮かべた。

 

彼女の名前は‘‘松原花音’’。ここの喫茶店に行こうとして迷っていたところを俺が案内した。

 

「で、出口が分からなくて……」

「俺も出ますし……一緒に来ますか?」

「ふえぇっ!?……いいんですか?」

「いや……別に構わn……」

 

俺は……急に殺気を感じたため後ろを向くと……

 

「…………」

 

かなめは瞳孔が開いた眼で俺達を見ていた。

 

「か、彼女さんと一緒だったんですね……。お、お邪魔しましt……」

「いえ、妹です。」

「い、イブキにぃ!!酷いよ!!」

 

 多少かなめは不機嫌だったのだが、俺は松原さんをちゃんとショッピングセンターの出口まで送り届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 かなめと映画館へ行った数日後、俺は英語の授業をボケーッと受けていた。

 

「『We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.』。田口、これを訳せ。」

「……分かりません」

「これは‘‘アメリカ独立宣言書’’の有名な一文だぞ。……じゃぁ、『all men are created equal』この文章を訳してみろ」

「えぇっと……」

 

 ……一昨日、テレビで『ナショ○ル・トレジャー』をやってたから、その影響だろ。

 

俺はアクビを噛み殺しながら黒板の文字を書き写した後、カバンから書類を出した。メガネさんからの報告書だ。機密文書でもないので、暇な時間(和訳するだけの授業)で読んでしまおうと思っていた。

 

  コツッ……

 

読もうとした文書の上に、丸めた紙屑が飛んできた。

 

 ……なんだよ、コレ。しかもこの紙、水に溶ける特殊な紙だぞ。

 

俺はその紙屑を開くと、中には文章が書かれてあった。

 

『3の正体が割れた。情報共有をするから17時に美術準備室に来てくれ。

  P.S. ついでにリハビリをやらないか

    L.Watson』

 

俺は銃剣を取り出し、刀身を鏡替わりにして後ろを確認すると……ワトソンは顔を真っ赤にしていた。

 

 ……リハビリ、やりたくねぇなぁ。

 

思わず大きなため息が出た。

 

 

 

「村田ぁ……銃剣(それ)の手入れは俺の授業の時は止めてくれ」

「……あ、すいません。」

「ついでだ村田。次の文章を訳してみろ」

「はい。」

 

 ……次の文章、メチャクチャ長いんだけど?カンマで八つの文に分けられてんだけど!?

 

「……『あれらの権利を確保するために、政府は人々の間で始まります。統治者の同意によって……』」

 

 ……チクショウ、感覚的には分かるんだけど、和訳が面倒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、適当に射撃訓練と素振りをやった後、美術準備室へ向かい……

 

「ムラタ……なんで君はボクのメールをよく無視するだろう」

 

ワトソンに衣装が入っている紙袋で殴られた。

 

「ムラタは‘‘リハビリ’’の文字があると絶対に来ないからな」

 

 ワトソンが頬を真っ赤にして言っている通り、確かに俺は‘‘リハビリ’’の誘いのメールを無視している。だけど、あんなのをやるぐらいなら、無視して信頼を失うほうがまだいい。

 

 

 

 ‘‘リハビリ’’とは……‘‘女性としてのふるまい’’にトラウマを持つワトソンへの社会復帰訓練だ。

 そのために……ワトソンが彼女役・俺が彼氏役で‘‘おままごと’’をするのだ。

 ここまでなら別に問題が無い。しかし……ワトソンは細部までこだわり、しかも重いのだ。

分かり易く言うと……『クレ○ンしんちゃん』の‘‘リアルおままごと’’の様な事を、ワトソンと二人っきりでやる。

 

 

 

「だってさぁ……ストーリーが重いんだよ。この前なんて『貴族の娘と平民の男の逃避行』だぞ。あんなのやってられっかよ」

「そ、それは……」

 

ワトソンはボソボソと何かを言いながら俯いた。

 

「まぁいいや……。手紙にあった『3』ってサードのことだろ?何か分かったのか?」

「……そうだ。だから……後でちゃんと‘‘リハビリ’’に付き合うんだぞ?ボクはずっと楽しみにしていたんだから」

 

俺に釘を刺したワトソンは、かばんの中から紙束を出した。

 

「リバティー・メイソンの『非翼賛者名簿(アンアンダプターズ・リスト)』……『勧誘したがメンバーにならなかった人間の名簿』にジーサードの名前があった。米国(ステイツ)では有名人らしいね」

 

俺はワトソンから書類を受け取り、目を通すと……某‘‘米国初の黒人大統領’’を護衛するジーサードの写真があった。

 

 ……流石はアメリカの紐付き組織ってところか。

 

 他のページにも目を通してみるが……藤原さんやメガネさんの報告と一緒か、それ以下の情報しかない。

 

 ……共闘しているとはいえ、別組織の人間にわざわざ情報を与える必要もない……か

 

「あいつは元々アメリカの武偵だったんだ。それもSランk……」

「確かRランクだったよな。それは知ってる。」

 

 

 

 

 

 ところで……武偵の『Sランクは特殊部隊一個中隊を相手にでき、Rランクであるなら小さな国一つを落とすことができる』と評されているが……その評価は過大評価であると俺は思っている。

  

 歩兵1個中隊は約150~200名ほどで、3~4小隊が合わさってできている。そして、俺が所属している特殊部隊:‘‘HS部隊第二中隊第一小隊’’は慢性的に人数不足であるが……それでも7人はいる。あの部隊三つ分を‘‘白馬の王子様モード’’のキンジやアリア、レキが一人で相手できるなんて……全く考えられない(まぁ、殺害前提(軍人)捕縛前提(武偵)という違いはあるが)。

 それよりもさらに強いRランク?辻さんと鬼塚さんがボコボコにしてたぞ?

 

 

 

 

 ……まぁ、過大評価も問題だが、過小評価も問題だ。油断しないようにしよう。

 

 俺はそう考えながら、‘‘四次元倉庫’’にワトソンから貰った書類を投げ入れた。帰ったら()しておかないと。

 

「ワトソン、情報ありがとな。じゃぁ、またあしt……」

「ムラタ、どこへ行こうというんだい?」

 

俺はそのまま部屋を出ようとしたが……ワトソンが俺の腕を握り、制止させた。

 

「い、いや……ちょっとトイレに……」

「じゃぁ、僕も一緒に行こう。‘‘男’’っていう事になってるから問題ないだろう?」

「……分かったよ。」

 

俺は諦めてワトソンの‘‘リハビリ’’に付き合うことにした。

 

 

 

 

 

「今日のプレイだが……前回は不評だったからな。今回は部活動もので……女子マネージャーと選手という設定はどうかな。シナリオにセリフは全部このノートに書いてきたんだ。」

 

そう言って俺にノートを渡した後、後ろを向きシュルッと制服を脱ぎ始めた。俺は慌ててワトソンに背を向ける。

 

「ムラタは何部がいい?ボクはベタに乗馬部がいいと思うんだけど」

「乗馬部がある高校なんてめったにねぇよ!!」

 

 ……確か陸軍士官学校に乗馬部だか乗馬同好会があるって聞いたことはあるが……俺、海軍だぞ。しかも飛び級でほとんど学校行ってねぇし。

 

「無難に野球部とかどうだ?」

「野球?……‘‘Baseball’’の事だっけ?確か‘‘Criket(クリケット)’’の親戚の様な物だったよね?」

 

 ……そうだった。イギリスだとメジャーな競技じゃないんだっけ。

 

「……いいや、乗馬部で」

 

 ……近所に住む秋山の爺さん(酒好きの方)が気分よく騎兵について語ってた事があったから……分からなくはない。

 

「……着替えはまだなのか?」

「shit!!……スカーフを外したらブラのホックが外れた!!」

「……お、おう」

 

 

 

 

 数分後、俺の前にはセーラー服を着た美少女がいた。

 

「……じ、ジロジロ見るな。い、いや!!見てくれ!!」

 

ワトソンは顔を真っ赤にしながら……潤んだ目で俺を見てきた。

 

「そんな趣味があったのか?」

「ち、違う!!……君はボクが好きなんだからね。それに僕は女子だ。このような視線も戸惑ってはいけない……」

「……何言ってんだ?」

「シナリオ上そうなってるんだ!!ムラタはちゃんとノートを見たのかい!?」

「ゴメン、見てねぇや」

 

俺はワトソンから貰ったノートを開け、該当ページを見つけたのだが……

 

 ……ナニコレ、設定だけで3ページを真っ黒に埋め尽くしてるし。

 

俺は早々にノートを読むのを諦めた。

 

「じゃ、じゃぁ……始めるぞ」

 

ワトソンは緊張した面持ちで1歩2歩と俺に近づいてきた。俺の靴とワトソンの靴がぶつかると……ワトソンはクルッと半周した後、俺に寄りかかってきた。

 

 ……クソッ。ボーイッシュな子が女子らしく振舞うってだけで、そのギャップが高得点なのに……それに加え、こいつから良い香りがする。香水でもつけてるのか?

 

「む、ムラタくん。……今日も馬たちは元気だね」

「そ、そうだな……大砲をいつもより早く運んでいるし、他の部員もいつも以上に射撃練習を頑張ってるな。」

「え?」

「……え?」

 

 ……あれ、何か間違えたか?

 

「……ムラタ、乗馬部って設定だよね?」

「あぁ……そうだけど?」

「なんで乗馬部に大砲や銃があるんだい?」

 

 ……秋山の爺ちゃん(酒好きの方)曰く『大事なのは大砲や機関銃を運び、それによって敵をズタズタにする事だ。それでやっと突撃ができる』って言ってたんだけど。

 

「……?あぁ、そうだよな。大砲はおかしいよな」

「……何を勘違いしたんだい?」

「いや……近所に騎兵出身の爺様がいてな。よく話をしてくれたんだ。……そうだよな。今だと儀礼用だけだから剣だけだよな」

「いや、普通の乗馬部に剣はないだろう!?」

 

 ……なるほど、そりゃそうか。普通の高校で軍事訓練なんてしないよな。

 

「や、やぁワトソン。今日は部員がいつも以上に弓の引きが良いな」

 

 ……やるとしたら流鏑馬(やぶさめ)だよな。伝統は大事だ。

 

「………………そ、そうだね」

 

ワトソンは呆れたような表情で言った。

 

「……あれ?何か違うか?」

「いや……それでいこう……。……あ、あと、この姿の時は『エッレ』って呼んでよ」

 

 ‘‘L.Watson’’の名前:‘‘L’’を『エル』と呼ぶと、我が家のエルキドゥ(エル)と被るため、イタリア語読みの『エッレ』と呼ぶことを前に決めたのだ。

 

「……あぁ、『エッレ』」

 

すると、ワトソン(エッレ)は満面の笑みを俺に向けてきた。

 

「今日はボク……行けそうな気がする。頑張るよ」

「……お、おう。頑張れよ」

 

 ……べらんめぇ、可愛いじゃねぇか

 

「よ、よし……覚悟は決めたぞ……!!」

「な、なんのだy……!?」

 

ワトソンは一気に俺の首に手を回し、俺の顔を力任せに寄せた。そのまま流れるようにベタッと……湿ったものが俺の頬に引っ付いた感触がした。その時、同時に一部固いものが当たり、そのせいで俺の頬が軽く切れた。

 

「……え?」

あぁ……甘い……。む、ムラタ!!成功だ!!ボクは今……心がフワッと、すごく幸せな気分だ!!も、もっとしよう!!」

 

ワトソン(エッレ)はそう言って俺を押し倒した。

 

「ま、待てワトソン……いや、ワトソン(エッレ)!!落ち着け!!」

「好きだ!!好き……大好きだ!!……し、シナリオに書いてあるかr……」

 

ワトソンはゲリラ豪雨もビックリなくらい顔にキッスを降らしてくる。ちょうどその時……

 

 コツッ……

 

扉の外から何かを落としたような音が響き渡った。

 

「「ッ……!!」」

 

ワトソンは飛び起き、急いで着替えようと……

 

「ワトソンまだ着替えるな!!」

「で、でも……」

「いいから!!」

 

 俺はそう言って着替えをやめさせ。ドアに近づき、ゆっくり開けた。

 

 ……もしこの場を見られても、最悪『ワトソンは文化祭でやった女装に目覚めた』と言い訳できる。

 

 扉の外には誰もいない。さっきの音は何かがひとりでに落ちた音か何かだろう

 

 ……ん?あれはなんだ?

 

ドアの前にある窓のサッシに小指の爪ほどのカメラが置いてあった。俺はそれを拾い、足元に転がして潰した。

 

 ……監視カメラか何かか?なんだってここに?

 

俺はため息を吐いた後、扉を閉めた。

 

「……カメラがあった。破壊したが……人が来るかもしれない。着替えてさっさと退散しよう。」

「……あ、あぁ」

 

俺はワトソンに背を向けた後、ハンカチを水で濡らし、ベトベトの顔をぬぐった。

 

 ……やっぱり‘‘リハビリ’’なんてやって、いいことがねぇや

 

 

 

 

 

 

 

 

「イブキにぃ……アクア・エデンの件だけでもアウトなのに、エル・ワトソン……アイツは女だったんだね。」

「アタシは約束を守ってるのに……なんでイブキにぃは……。やっぱり、アタシがイブキにぃを保護しなきゃ」

「イブキにぃを、泥棒猫達カラ守ラナキャ……」

 

 

 

 

 

 




 アクア・エデンの寮には『DRACU-RIOT!』のキャラクター(主人公[男]以外)の全員がいます。計5人。


Die Hards(ダイ・ハーズ)=民間人編 『ダイ・〇ード!!』
Die Hards2(ダイ・ハーズ2)=民間人編『ダイ・〇ード2!!』
Die Hards3(ダイ・ハーズ3)=高校生活夏休み編『ラッシュ〇ワー』
 これらが映画化されます。それ以降はネタバレになるので、ここでは書きません。
 Die Hards4(ダイ・ハーズ4)は何処が舞台になるのでしょうか……


American Made(バリー・〇―ル/米国をはめた男)』これは面白かったです。結構おすすめ。
『超○速!参勤交代』これはこれで面白かった。自分は好き。
 なお、飛行機の中では日本ではまだ上映されていない映画も見れるときがあります。


『我が妹よ ~禁じられた恋~』は空想上の映画です。参考にしたものは特にありません。


 『BanG Dream!』の‘‘松原花音’’が登場。この子の登場は、本編の間接的な伏線……よりも自分が書きたい小話(閑話)への伏線です。


 『‘‘馬術部’’=馬術の部』、『乗馬部=何それ?』と考えているので変な方向へイブキは考えています。
 
 

 Next Ibuki's HINT!! 「HSS」


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‘‘HSS’’ってなんだよ……

 何とかもう一つストックができたので、来週も同じ時間に投稿できると思います。
 これで…‥試験に集中できる……はず。


 来週の土日はセンター試験、受験生の皆さん、頑張ってください!!(英語は鉛筆転がしで答案を決めた作者)




 俺はワトソンとの‘‘リハビリ’’を終え、心身共に疲れた状態で寮の扉を開けた。

 

「ただいまぁ……」

 

 ……今日も奥からスパイスの香りが漂ってくる。またカレーか。

 

ここ数日間、俺達の夕飯はずっとカレーだ。

 確かに、かなめのカレーは日々進歩していて、昨日なんか海軍カレー(ガチ勢のカレー)にあと一歩まで迫っていた。

 

 ……でもなぁ、それでも毎日は飽きるんだよ。

 

俺はため息をつきながらリビングへ入ると……かなめが一人、キッチンでカレーを作ってた。

 

「あ、イブキにぃ!!おかえりなさい!!」

「おう、ただいま」

 

俺はそのままソファーへ直行し、深々と座った。

 

 ……やっぱり‘‘リハビリ’’は精神的に来る。

 

俺はボケーっと天井を見ていると……正面のソファーにかなめが座り、ジッと俺を見てきた。

 

「……どうした?」

「イブキにぃ、おしゃべりしよ!!可愛い妹とのおしゃべりタイムだよ!!」

「……自分で‘‘可愛い妹’’ですか」

 

そういうのは理子で腹がいっぱいなのだが。

 

「この前……イブキにぃの部屋覗いたんだけど、エッチな本とか持ってないの?全然見つからないんだけど。」

「な、なに言ってやがんだ!!」

「あ、軍関係のは触れてないよ?」

「あぁ、ならよかった……ってなるか!!!」

 

ついでに、今時は紙媒体よりも電子である。なにを言いたいのかというと……とある物は、メガネさん特製の秘密フォルダの中に入っている。メガネさん曰く『自分で作って何ですが……コレをどうやって破るのか見てみたいです』だそうで。

 

 

 

「とにかく!!イブキにぃはエッチな本とか持ってないの?」

「も、持ってましぇん!!」

 

 

 ……嘘はついていません。嘘は……

 

「そんなのおかしいよ!!・・・・・・それにイブキにぃ、目が泳いでる!!」

「そ、それは・・・・・・あ、あれだ!!最近視力が落ちてきたから、遠近体操やって視力回復しようとしてるんだよ!!」

 

かなめジトーっと俺を見てくる。

 

「・・・・・・手が震えてるよ?」

「こ、これは・・・・・・疲れのせいで筋肉が痙攣してるんだ!!いやぁ~今日は疲れたなぁあああ!!!」

 

かなめは諦めたのか、ひとつため息をついた。な、何とかごまかせたのか?

 

「まぁいいや・・・・・・ところでイブキにぃの好みって何?見たところ・・・・・・女の好みに統一性がないから・・・・・・」

「・・・・・・はぁ!?」

 

 ・・・・・・落ち着け、俺。さっきから爆弾発言ばっかりで処理し切れなかったが・・・・・・ここは落ち着いて、ゆっくり対処するんだ。

 

「・・・・・・そんなのどうだっていいだろ?」

「イブキにぃがどういう事で興奮するか把握しておきたい。それでイブキにぃ好みの妹になりたいんだよぅ……」

 

ロスアラモスでかなめを保護して半年間、俺達とかなめは同じ家に住んでいた。だが……その時、かなめは確かに俺にべったりくっついてきていたが……今は、どこか焦っているような気がする。

 俺はかなめと目をしっかり見据えて言った。

 

「何だってそんなことするんだ?」

「……‘‘双極兄弟(アルカナム・デュオ)’’。理論上存在するとされる最強の兄妹。兄妹が相互にHSSににできる関係になれば……地上最強の相棒(パートナー)になる。……だけど、私は‘‘お兄ちゃん’’より‘‘イブキにぃ’’の方がHSSになりやすそうだし、あたしもその方がいいから……イブキにぃを相棒(パートナー)に選んだ。」

 

かなめは俺から目を離さずに……ゆっくりと説明する。

 

「だから……厳密に言うと‘‘双極兄弟(アルカナム・デュオ)’’にはならないけど……‘‘辻希信(SSS級危険人物)の切り札’‘で‘‘FBI・USA(米国陸軍)に泥を塗った少年’’、‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’と呼ばれるイブキにぃと、HSSによって最強になるあたしが組めば……どんな相手にも負けない!!もう……イブキにぃが‘‘あんな男’’と一緒に戦って死にそうになるなんてことも無くなるの!!!」

 

最後は叫ぶようにかなめは説明した。

 

 ……なんとなくだが理解した。毎回……俺は‘‘三途の川でコサックダンスしている’’ような事をしてるから、かなめは心配だったのだろう。だから……その『HSS』になって、俺の負担を軽くさせようと……。

 

 そこで一つ疑問が生まれた。これはとても重要な話だ。

 

「なぁ、かなめ。一つ聞いていいか?」

「……うん」

「『HSS』って……なに?」

「え?」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)とは!!性的興奮をすると中枢神経が劇的に活発化し、戦闘能力が向上する状態である!!この能力は遠山家だけに伝わる能力である!!

 

 ……うん、初めて知った。キンジがエロ本やら何やらを見ると、『白馬の王子様モード』になると強くなるのはそのせいだったのか。

 

『性的興奮』とあることから……『子孫繁栄の本能の異常体質』と仮説を立てれば、キンジが『白馬の王子様モード』の時に性格が変わるってのも説明がつく。

 

「なるほど、遠山家ってのはそんな体質があったのか。」

「うん……」

 

 ……しっかしまぁ、そんなチート能力があったなんて。俺の一族なんて、何の能力もないってのに。

 

強いて言うなら‘‘ツイてない’’事と‘‘負けん気’’ぐらいか……と思いながら、かなめの説明を聞く。

 

「HSSは戦闘では強者になる代わりに……恋愛では弱者になるから。HSSになると性格が変わるなんて……こんな体質は普通理解なんてされないし、己でも嫌悪する……。で、でも……」

 

かなめは俺に近づき手を取り、顔をギリギリまで近づけ、すがるような目で俺を見てきた。

 

「でも……イブキにぃならきっと受け入れてくれると思って……。あたしを最初に受け入れてくれて……こんなワガママ言っても、こんなに迷惑かけてるのに許してくれて……だから、だからあたしは!!!」

 

 ……迷惑かけてる自覚はあったのか。

 

「……ちょっと考える時間をくれないか。一辺整理したい。」

「分かったよ。……急でごめんね。」

 

かなめはそう言って俺から離れ……

 

「……ところでイブキにぃ。あたしとの‘‘約束’’破ってない?」

「……え?」

 

……‘‘約束’’?確か『家族以外の女に近寄らない』だったっけ?

 

「いや、だから……無理だって言ってるだr……ッ!?」

 

  ガキッ!!

 

かなめは焦点が定まらない目のまま、包丁で切りかかってきた。俺は慌てて‘‘四次元倉庫’’から銃剣を取り出し、その斬撃を何とか逸らす。

 

「な、何しやがる!!」

「ねぇ、イブキにぃ?何回約束破ったの?正直に言えば……破った数だけ刺すだけで許すけど。でも隠したら……隠した分の10倍刺s……」

 

  プルルルル……

 

俺とかなめの間に……携帯電話の着信音とバイブ音が響く。

 

「「……」」

「電話……出てもいいか?」

「うん……」

 

かなめもさすがに興が冷めたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はい……もしもし……」

「イブキさん、ごきげんよう。‘‘木箱’’を送ってくださり感謝していますわ。」

「あ、あぁ……代金は貰ってるしな……」

 

 ……なんでこんな時にダージリンから電話が来るんだよ!!

 

 田尻凛(ダージリン)とは……『閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5』で知り合った聖グロリア―ナ女学院の次期戦車道隊長である。

 俺は彼女から金をもらい……聖グロリア―ナ女学院の学園艦へ『木箱(‘‘スナック菓子やカップ麺の入った箱’’という暗号)』を密輸(仕送り)している。

 

 ……そのお礼の電話は嬉しいが……なんでこのタイミングで電話してくるんだよ!!

 

「そのお礼と言っては何ですが……再来週、学園艦が横浜に寄港するの。その時お茶会でもどうかしら?」

「え、えぇ!?そ、そいつぁ嬉しいけど、断r……」

「では楽しみに待ってますわ。詳細な日程はまた後日。」

 

  ツー……ツー……ツー……

 

俺は……背筋が凍った。後ろには……般若がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……イブキにぃ?今の電話、女の人からだよね?なんですぐに約束を破るの?」

「いや!!だからそもそも約束してねぇだr……!!」

 

  ギィイイン!!

 

 かなめが握っている包丁は、白雪の私物の包丁で……どこかの有名な刀工が作った物らしい。そのせいで、包丁は見事なくらい『折れず、曲がらず、よく切れる』を体現しており、刃こぼれはほとんどない。

 

 ……そのせいで命の危機なんだけどな!!

 

 刃こぼれする銃剣を持ちながら……俺はかなめを睨む。

 

「あたしは約束を守ってるんだよ?なのにイブキにぃは約束を守らないなんて非合理的だよ?」

「だからって!!かなめの言っていることは無理なんだよ!!」

「どうして……ッ!!」

 

  ギィイイン!!

 

「……ドウシテ、分カッテクレナイノ!!!」

 

  ベキッ!!ザシュッ!!

 

「ッ……!!」

 

 とうとう銃剣は折れてしまい、包丁は俺の右腕を切り裂いた。

 

 ……表面を切り裂いただけだ。そこまで重症じゃない。

 

 かなめは包丁に付いた血を指で拭い、それを美味そうに舐めた。

 

「ねぇ……イブキにぃ。あたし、全部見てたんだよ?アクア・エデンの4人、エル・ワトソンに……今の女。エル・ワトソンって、女だったんだねぇ……。非合理的ィ!」

「……」

 

 ……かなめが俺をつけていた?いや……監視カメラなどで俺を監視していたのだろう。美術準備室の前で見つけた監視カメラは……かなめが設置したに違いない。

 

俺は新しい銃剣を左手に持ち、右手を背中でかなめから隠した。

 

 ……今のままはマズい。とりあえず逃げないと。

 

 俺は隠した右手を皿にし、そこへ滴り落ちる血をためる。

 

「イブキにぃの手足を壊して……部屋に閉じ込めて……。うん、そうだね。それが合理的だね。あたしがイブキにぃの全てをお世話して……」

 

かなめは両手で真っ赤になった頬を押さえながら興奮気味にしゃべり、その後包丁を構えた。

 

「イブキにぃ……ごめんね。でも……約束を破ったイブキにぃがいけないんだよ?」

 

かなめは再度俺を切りつけてきた。

 

 ガキッ!!ベチャッ……

 

俺はかなめの包丁を銃剣で受け止め、それと同時に右手の血をかなめの目に向かって放った。

 

「うぁああああ!!!」

 

俺はかなめの視界を奪い、‘‘影の薄くなる技’’を使って部屋から脱出した。

 

 ……チクショウ!!俺達から別れた後何があったんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はかなめから逃げ、第二中隊の隊舎に駆け込んだ。

 

「なるほど、そっちも色々と大変なんですね」

「すいません……いきなり来て、しかも手当てまでしてもらって」

 

駆け込んできた俺を見て第二中隊の面々は驚いたが……温かく受け入れてくれた。神城さんにいたっては、第二中隊参謀長かつ中隊長代理で忙しいのに……わざわざ手当てまでしてもらった。

 

「なるほど……その‘‘HSS’’というのは、『生殖本能の異常体質』であると仮説ができますね」

「やっぱり神城さんもそう思いますか?」

「まぁ……性的興奮でなくても‘‘何かしらの興奮’’によって能力や士気が向上するって例は身近にありますし。第二中隊(うち)の辻大佐とか………あ、これオフレコでお願いしますよ。」

「わかってますって」

 

 ……ほかにも、大砲や大型ロケット砲に‘‘興奮’’し、頭のキレが良くなる参謀長(神城さん)とかいるしな。

 

「村田君の友人であるキンジ君がそのせいで‘‘キザな性格’’になると言うのは理解できますが……かなめさんは本当に強くなるんでしょうか?……あ、処置終わりましたよ」

 

神城さんは包帯を巻いた俺の腕をポンとたたき、包帯やガーゼなどを戻し始めた。

 

「イテテ、ありがとうございます。……で、それってどういうことですか?」

 

‘‘HSS’’によって思考力、視力、聴力などが劇的に向上するらしい。それなのに強くならない?どういうことだ?

 

「あくまで仮説なんですが……結局は『生殖本能』が強いだけじゃないでしょうか?キンジ君が‘‘キザな性格’’になるのも、『オスがメスを囲もう』とする本能の表れだと思うんです」

「……ライオンの群れのように『自分の子孫を多く残そうとメスを囲む』ってことですか?」

 

 

ライオンの群れ(プライドと言う)には5~6頭のメスにオスが1頭だそうだ。

 ついでに、そのプライドを奪おうと他のオスが狙っており、奪われたオスは放浪するか死しかないそうで……閑話休題

 

 

「例えとして合ってるかどうか微妙ですが……そういうことです。‘‘HSS’’という本能によって、自分の(メス)を守るために(オス)は好戦的になりますが……(メス)は果たして好戦的になるでしょうか?」

 

 神城さんは救急セットを片付け、自慢のちょび髭をなでながら言った。

 

「私は動物に詳しくはないですが……オスがメスを奪い合うのは知っていますが、メスがオスを奪い合う動物を知りません」

「思考能力やその他が劇的に上がるが……性格が変わり、そのせいで戦闘以外にその能力が使われる可能性がある……」

「そういうことです」

 

 ……なるほど。かなめが‘‘HSS’’に目覚めても、強くなる可能性は低い……という事か。

 

「‘‘HSS’’については分かったんですが……義妹(かなめ)との関係修復はどうすれば……」

「そんなの簡単ですよ」

「……え?」

 

 俺がぼやいた瞬間、神城さんの雰囲気ががらりと変わった。

 

「突撃あるのみ!!!殴り込んで落とせばいいんです!!」

「……はい?」

「壁ドンでもキスでもやり!!かなめさんを興奮させればいいんですよ!!」

「い、いや……!!何言ってるんd……」

「殴り込み、しおらしくなればそれでよし!!もし肉食になったら誘惑に耐えて逃げればいいんです!!」

「……あ、あの」

「当たって砕けろ!!Go for broke!!!」

「イヤイヤイヤ!!砕けちゃだめでしょ!?」

 

 ……でも、確かにありだ。(オス)は‘‘(メス)を守る性格’’になるのなら……(メス)は‘‘(オス)が守りたくなるような性格’’になるはず。そんな(メス)が肉食系なわけがない。

 

 その仮説が正しければ……かなめが興奮すれば、大人しく引くだろう。ただし、男を誘惑する様な性格(意識・無意識問わず)になるという危険性はあるが……。

 

「……まぁいいや、すいません相談に乗ってもらって」

「頑張ってくださいよぉおおお!!!」

 

 ……暑い

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば神城さん。こう……使い捨てができて、威力の高いロケット砲や無反動砲とかありませんか?」

 

俺が話を変えた瞬間……神城さんの目がギラリと光ったような気がする。

 

「ほう…………。村田君もやっと大砲の魅力が分かる様になりましたか!!」

「いえ……そう言うわけじゃなくて……」

「では来てください!!」

 

神城さんは俺の腕を取り、走り始めた。

 

 ……美少女ならともかく、おっさんが手を引くなんて

 

「何を!?まだ私は30代ですよ!?」

「……10代の俺にしたら十分おっさんですよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 第二武器庫についた。ここは最新・運用中の武器庫ではなく、旧式の武器や第二中隊第一小隊の隊員が個人で使う武器が保管されている倉庫だ。

 

「いやぁ~さすがは村田君!!いえ、村田大尉!!大砲……しかも巨砲のロマンが分かるなんて!!」

「いや、そういう意味じゃないんですけど……」

 

神城さんは鼻歌を歌いながら扉を開け、ズンズンと倉庫内を歩いて行った。

 

「やっぱり初心者にはこれでしょう!!『8.8cm FlaK 18』です!!!」

 

俺と神城さんの前には……一つの高射砲が堂々と置いてあった。

 

「……冗談ですよね」

「……騙されませんでしたか」

 

 

 

 

 

「これが無難じゃないですか?」

 

神城さんが見せてきたのは……3mほどのミサイルを見せてきた。

 

「……なんですこれ?」

「超高速で飛翔する、炸薬ではなく運動エネルギーで戦車を破壊するミサイル『LOSAT』です!!!」

 

 『LOSAT』とは……簡単に言うと『戦車の砲弾をミサイルで超音速で飛ばしたら、砲身とか必要無いじゃん!!』を体現したミサイル(Made in USA)。無論、個人運用の兵器ではない。

 

「……こう、小型で汎用性の高い奴がいいんですが」

 

俺の言葉に……神城さんの口はへの字に曲がった。

 

 

 

 

 

「……これがいいんじゃないですか?」

「ちょっと大きいですね」

 

神城さんがぶっきらぼうに言って説明したのは……パンツァーファウストを二回り大きくしたようなものだった。

 

「デイビー・クロケットです」

「で、デイビー・クロケット!?なんでここにあるんですか!?」

 

 

‘‘M388 デイビー・クロケット’’とは……戦術核兵器だ。無論『made in USA』

 

 

「ロスアラモスの時に鹵獲してそのままですね」

「さっさと廃棄しましょうよ!!!こんな物騒なもの!!」

「……どうやって廃棄するんですか?日本には核兵器がないことになっているんですよ?」

「…………なんで鹵獲したんですか?」

 

 

 

 

「冗談はさておき……無難なのはこれでしょう」

 

そう言って出したのは……パンツァーファウスト、パンツァーファウスト3、そしてバカ

でかいロケット砲の計3種類だった。

 

「この二つは知っていると思うので説明は省きますが……これは四式20センチ噴進砲です。」

 

 神城さんはバカでかいロケット砲を指さしながら答えた。

 

「……どう考えても250キロは越えますよね」

「227.6キロです。25ミリ機関銃を担いでいるならこれくらい簡単でしょう?」

「……それ以前に博物館行きの武器ですよ?弾薬費もかかるだろうし……」

「それは大丈夫です!!今私が独断でやっている計画がありまして、20センチ砲弾の大量生産が始まってます!!それにですね……」

 

その後……神城さんの説得によってパンツァーファウストと20センチ噴進砲を所持させられることになった。

 

 

 

 

 

 

「あと少し……この実験が成功すれば、晴れて『技術実験艦』として戦艦が建造できるように……」

 

村田大尉を隊舎へ送った後……私は自室へ向かい、そこにある戦艦の図面と試製大型艦砲の図面を見ながら言った。

 

 

 

 

 

 

 俺は用意された部屋のベッドメイクを済ましたあと、携帯を取り出し、平賀さんに電話をかけた。

 

「あ、平賀さん?パンツァーファウストと四式20センチ噴進砲を銃検に通してほしいんだけど」

「…………村田君、さすがにそれは無いのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は隊舎から学校へコソコソ向かった。

 そして、上履きに履き替えるために自分の下駄箱をを開けると……ハートのシールが貼られた手紙が入ってあった。

 

 ……これは、まさかのラブレターか!?

 

俺は慌ててその手紙を上着のポケットにねじ込んだ。

 

 ……ラブレターなんて、生まれて初めてもらったぞ!?

 

俺は軽いステップで教室へ向かった

 

 

 

 

 

「おう!!おはよう!!」

「……」

 

クラスメイト全員が‘‘変質者を見るような目’’で俺を見てきた。

 

 ……え?俺なんかした?

 

俺は大人しく席に着くと……武藤と不知火がやって来た。

 

「なんだなんだ?そんなにテンション高いなんて珍しいな」

「村田君、何かあったのかい?」

 

俺は手をちょいちょいと動かし、二人を近づけた。

 

「まぁ……二人とも見てくれ。こいつが下駄箱に入ってたんだ」

 

俺はあの手紙を机の上に置いた。

 

「ラブレターなんて初めてもらったぜ」

「い、イブキテメェ!!お前だけは俺と仲間だと思ってたのに!!!」

「村田君、おめでとう」

 

武藤の歪んだ顔が……いやはやここまで心地がいいとは……。これが‘‘愉悦’’という物か……。

 

「残念だったな武藤、俺はお前より先に大人の階段を登るわ」

「く、くそぉおおおお!!」

 

俺はそんな武藤を尻目に封筒を開けると…‥和紙に近い手触りの便せんが出てきた。太い字で、しかも‘‘裏抜け’’してしまっている

 

 ……さて、生まれて初めてのラブレター。なんて書いてあるんだ?

 

俺はワクワクしながら便せんを開くと……

 

『村田維吹殿

 本日昼休ミ、体育館裏ニテ待ツ。武装シテ来ルベシ』

 

 達筆な文字で……大きく書かれてあった。

 

「……」←俺

「ゴフッ……お、‘‘大人の階段’’ね……。ククッ」←武藤

「ッーーー!!!(必死に口を押える)」←不知火

 

「「アッハッハッハ!!!」」←武藤&不知火

「べらんめぇ、てめぇら!!表に出やがれ!!!」

 

それでも二人の笑いが止まらなかったので……とりあえず二人に拳を一発ずつ入れておいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……お前ら何があったんだ?」←キンジ

「「うぅ……ククッ……」」←苦悶の表情を浮かべつつも、目は笑っている二人

「…………」←机に肘をつけ、頭を抱えるイブキ

 

 

 




 遠近体操とは……近くの物を5~10秒、次に遠くのものを5~10秒見るというのを繰り返し、視力を上げるという物。確かに、自分は1ヵ月やって0.1は上がりました(個人差があります)


 かなめが言った『あんな男』とは誰でしょうか……。

「……あ?」←酒と映画で停職を楽しむニューヨーク市警の刑事

もうそろそろ出番なので、アップを始めてくれると嬉しいんですが……

「うるっせぇな。こっちは停職を楽しんでいるんだ。邪魔すんな!!」



 血で、目くらましをする技は、『ゴールデンカムイ』での『犬童VS土方』をモデルにしています。『ゴールデンカムイ 3期』待ってますよ!!


 ‘‘30代はおっさん’’……これは、最終章への布石(そこまで書けるといいなぁ)にでき……るかな?何年後になるんだろ。

 
 日本には核兵器はありません……。いいね?


 ‘‘裏抜け’’とは……紙の裏までインクが染みてしまう事。ついでに‘‘裏移り’’という事も……(小中高は‘‘裏移り’’でした)。



Next Ibuki's HINT!! 「Queen」


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くさいセリフは似合わない……

(テスト実施の日にちを間違えたせいで)一夜漬けをし……結果、寝坊したせいで一教科落としました……。
 皆さん、テストの日にちは間違えないように……




 さて、運命の昼休み……俺は覚悟を決めて体育館裏に向かった。

 

 ……さて、誰が待ってるんだ?

 

俺は刀の柄を強く握り、気合を入れた。その時、道中にある学食から……空腹を誘う、旨そうな香りが漂ってきた。

 

  グゥ~~~……

 

 ……腹が減ったな。

 

 昨日は夜分遅くに第二中隊の隊舎に行ったため、俺の朝食は用意されていなかった。

 みんなは自分たちの分を少しずつ出し合い、俺の分を捻出しようとしていたが……流石にそれは気分が悪い。俺は断り……近くのチェーン店で朝食を食べた。

 

 ……久しぶりに朝○ック食ったが、やっぱり足りなかったなぁ

 

俺は……下駄箱に入っていた手紙を再度読んだ。

 

 ……細かな時間を指定してないし、飯食う時間はあるよな。

 

宮本武蔵も巌流島の戦いでワザと遅刻したらしいし(諸説あり)、これも戦術だ、戦術。それに‘‘腹が減っては戦ができぬ’’って言うし、兵站で一番大事なのは食料だ。

 

 ……今日のメニューはなんだろうなぁ~

 

俺は学食へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

「……遅いなぁ」←金髪少女

 

 

 

 

学食で腹いっぱい食べ、時間を見ると……昼休み終了まで残り30分。

 

 ……飯を食ってすぐ動いたら腹を痛めるな。ここは少し休んでから行くか。

 

俺は温かいお茶を買い、ティータイムを優雅に過ごす。

 

 

 

 

「……お腹すいた(体育座り)」←金髪巨乳少女

 

 

 

 

昼休み終了まで残り10分。俺はイヤイヤ体育館裏へ向かった。

 

 ……さて、そろそろ真面目にやるか

 

俺はため息をついた後、感覚を研ぎ澄ませていく。

 

 ……半径50m以内には4人。全員殺意無し。

 

俺は警戒しながら歩んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はそのまま体育館裏へ向かうと……かなめ(?)がいた。

 

 ……こいつ、かなめにしては胸が大きい。しかも、今のこの状態でも大きいのに……サラシか何かで胸を無理やり抑えているのが分かる。

 

「イブキにぃ……来てくれたんだ。」

「………理子、何やってんだ?」

 

俺はかなめ(モドキ)の正体がすぐに分かった。理子は変装の才能があるが……その豊満なものに、その声色ですぐわかる。

 

「イブキにぃ、何を言ってr……」

「バレバレだぞ?……毎回言ってるが、理子が貧乳に化けるのは無理があr……」

「セクハラだよ!!!!」

 

かなめ(偽物)はそう言った後……慌てて口を押えた。

 

 ……やっぱり理子か。

 

俺は警戒を解いた。周りには理子の気配意外にはないし……手紙を出した理由も予想できる。

 何か俺に直接会って話したいことでもあったのだろう。何故‘‘果たし状’’したのかは分からな……揶揄(からか)ったな、こいつ。

 

「理子、こんな手紙を送るなんて珍しいじゃねぇか。直接言ってくれればいいのに。」

「……かなめの件でな」

 

 ……裏理子か。裏理子で来るときは……だいたい面倒なことが起こる。

 

理子はかつらとフェイスマスクを破り捨て、素顔をさらけ出した。

 

「……理子なら調べればすぐわかるだろ?かなめは‘‘師団(ディーン)’’の会議によって敵対しないことが決まった」

「……それは分かってる。だが……あたしはどうなる?」

 

 ……?

 

「何のことだ?」

「‘‘COMPOTO’’の事だ。……あの中で、あたし‘‘だけ’’が部外者だ。そこにかなめが加われば……部外者のあたしはどうなる?」

「どうもこうもないだろ?……理子はいつも道理に、‘‘COMPOTO’’の副隊長だろ?」

 

 すると……理子は一気に近づき、軍用ナイフを一気に抜刀した。

 

  ギィイイン!!!

 

 俺は銃剣を抜き、峰でそのナイフを防ぐ。

 

「……違う!!かなめが来れば……あたしはどうなる!!部外者のあたしが居なくても回る!!」

「……」

「あたしはもう……一人になりたくない!!」

 

  ギィイイン!!

 

俺は……理子の半生を思い出した。彼女の両親が死に……一人になったところをブラドによる虐待を受けたのだ。彼女にとっては……孤独がトラウマに違いない。

 それに俺は身内には甘いから……『かなめのわがままも許し、理子を排斥する』と思っているのか?

 

「……お前が居なければ!!一人を、孤独を耐えられたのに!!お前が居なければ!!こんな思いをせずに済んだ!!」

「てやんでぇ!!べらんめぇ!!」

 

ギィイイン!!バキッ!!

 

俺は理子のナイフを弾き飛ばし、その勢いのまま理子を掴み、投げ飛ばした。

 

 ……流石に身内には甘くても、仲間を捨てるなんてクズに成り下がることはしねぇぞ!?

 

「誰がてめぇの様ないい女を捨てるって言うんだ!!」

「でも、お前は……!!」

 

理子は立ち上がり、俺に殴りかかってきた。

 

「あたしはもう一人になりたくない!!一人になるくらいなら……お前を殺し、あたしも死ぬ!!」

「だったら俺が一緒にいてやらぁ!!」

 

俺は理子を再び投げようとし……足がもつれて一緒に転んでしまった。

 

「誰が理子を一人にするかってんだ!!俺が一生一緒にいてやらぁ!!!」

「……!?」

 

地面に倒れた理子に覆いかぶさるような体勢のまま……俺は勢いのまま言い放った。

 

「理子がイヤだって言おうがなんだろうが!!俺がずっといてやる!!後悔すんじゃねぇぞ!!」

「………ッ~~~!!!」

 

 

 

 

理子に覆いかぶさったまま宣言して、長い時間がたった時……理子は顔を真っ赤にし、抵抗しなくなっていることに俺は気が付いた。

 気が付いた後……俺は冷静になり、さっき勢いで言ってしまった事を思い出した。

 

 ……ヤバい、勢いに任せてすごく恥ずかしい事言ったぞ!?

 

思考回路が全く機能していない。それに……もう11月下旬なのに猛暑日並みに暑い。

 

 

『では、‘‘ギムレットには早すぎるが、テキーラにはちょうどいい’’さんのリクエスト、‘‘QUEEEN’’の‘‘I Was Born To Love You’’』

 

『I…Was Born, Tooooo Love You……♪』

 

あぁ……校内ラジオのBGMのせいで余計に恥ずかしい。

 

 ……クソッタレ!!なんだって俺の好きなバンドの曲がこんな時に!?しかも理子はフランス系だぞ!?なんだってイギリスの歌手の曲が!?

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

俺と理子は自然に離れていき、2mほど離れた位置でお互い体育座りをした。

 

「……い、イブイブ、さっきの言葉って……こくはk……」

「……わ、忘れてくれ」

 

実際、なんだかんだで多少性格が歪んでいるが……理子は、自分の意見はちゃんと言い、それでいて気遣いができて優しく、器用で家事も平均以上、それに外見もよし。これほどの好物件はなかなか見つからないだろう。

 

 ……ヤバい、すごく恥ずかしい。

 

余計に意識してしまう。まて、落ち着け……

 

「……まぁ、さっきのは無かったという事で」

 

俺は急いでこの場から逃げようとし……理子に腕を掴まれた。そのまま理子は何処にそんな力があるのか……力任せに俺を引っ張って抱き着き、腹に顔をうずめた。

 

「……イブイブ、あたし……ちゃんと聞いたから。一生離さないって……凄くうれしかった。」

「……いや、だから……さっきは勢いで言ってだな……」

 

言い訳する自分が情けない。何だってあんなこと言ったんだよ!!……確かに本心だけどさ!!

 

「なぁ~んて!!あれぇ~イブイブゥ~、何焦ってるのぉ~?」

 

理子は顔を上げ……面白がるように、からかう様に俺を見てきた。

 

「りこりんが~イブイブのことを~あんな風に思ってるって勘違いしたのぉ~??」

 

  プツン……

 

「……帰る」

「え……?ちょtt……」

「帰る。」

 

俺は脱兎の如く、その場から逃げ出した。

 

 ……自分だって最低ってことは分かってるけど、この場にいたくねぇんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『一生一緒にいる』かぁ……。あの表情から考えるに、きっと……」

 

頬が熱くなっていくのが自覚できる。

 

「あたしは泥棒の娘で……イブイブは高潔な軍人……。でも、やっぱり……」

 

思わず……お母様の形見のロザリオを握りしめた。

 

「それでも……あたしは……」

 

 ……さっきのイブイブの言葉はスマホで録音しておいた。うまく録音しているか確認しないと……

 

 思わず自分の股間を触り、そこでやっと下着を洗濯しなければならないと気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は強襲科(アサルト)棟で、25ミリ機関銃の射撃訓練(八つ当たり)をしたあと、寮へ戻った。

 

 ……神城さんの考察は、理論上合っているのだが……やっぱりやりたくない。

 

『故意にかなめを‘‘性的興奮’’させることにより、彼女の性格を一転させ、己を守る』……どこかのエロゲーでありそうなネタである。

 

「……ただいま」

 

本日はスパイスの香りはしなかった。そして、リビングには電気が付いているから誰かはいるはずだ。

 

 ……ん?廊下が濡れてる?

 

水滴は脱衣所からリビングへ向かって落ちていた。

 

 ……またネロが良く拭かないで風呂を出たのか?

 

俺はため息をついた後、リビングの扉を開けた。

 

 

 

 

 

「ネロ~またちゃんと拭かないで出てきたr……!?」

「…………あ」

「あ……」

 

そこには……バスタオルで頭を拭きながら‘‘ガリ〇リ君’’をかじる、パンツとブラ姿のかなめが居た。

 

「「……」」

 

かなめは目を見開いて驚いた後……クスリと笑い、妖艶な雰囲気を出し始めた。体中の血の温度が一気に上がるような気分になる。

 

「か、かなめ……お前……」

「……イブキにぃ、何を考えても無駄だよ?体と心は別物だよ?」

 

かなめはペタ…ペタ…っとゆっくり俺に近づいてきた。

 

「イブキにぃ……考えなくていいんだよ?ただ……イブキにぃがやりたいように押し倒せb……」

 

かなめはブラのホックを外し、肩の紐も外して……腕だけでブラを押さえる状態になった。俺は……もう我慢できなくなった。

 

 

 

「べらんめぇ!!それは俺のアイスだろうが!!!」

「そっち!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ……うん。理性を保つために、さっきの言葉を放ったが……煽情的なかなめの前でどれだけ耐えられるか……。

 

俺はため息をついた後、覚悟を決めた。

 

「……とりあえず、これ着ろ」

 

俺はそう言って制服の上着を渡した。

 

「う、うん……」

 

かなめがそれを羽織ったのを確認した後、‘‘影が薄くなる技’’を使ってかなめの後ろへ移動した。

 

 ……やるしかない、か

 

 

 

 

俺は‘‘影が薄くなる技’’を解き……‘‘あすなろ抱き’’をした。

 

「ッ~~~!!」

「……どうしたかなめ?そんなに固くなって……。お前がそう願ってたんだろ?」

 

俺はかなめの耳元で……‘‘HSS’’になったキンジが言いそうな言葉を、少ない語彙から引っ張り出していく。

 

 ……いいか、俺は‘‘HSS’’になったキンジだ。

 

俺は身近なモデルを必死に演じていく。

 

「そんなに緊張してたら……何にもできないぞ?」

 

俺はクルッとかなめを半回転させ、そのまま右手で‘‘壁ドン’’をし、左手でかなめのアゴを軽く持ち上げた。

 

「イブキにぃがあたしだけを見てる…‥イブキにぃ、怖い、怖いよ……。あたしが…‥あたしが消えてくような……」

「安心しろ……俺がいる。怖がらなくてもいい……ゆっくり受け入れていけ」

 

俺は左手で唇を触り……そこからうなじ、肩、わきの下、脇腹、腰へゆっくり移動させた。

 

「ッ……」

 

左手が太ももにまで移動したとき、かなめのトロンとした目が急に見開いた。そして、自分の胸の前で組んでいた手を……俺の胸に当てて抵抗してきた。

 

 ……予想はできていたから耐えられるが、何の対策も無かったら……最悪、かなめに溺れていたかもしれねぇ。

 

「だ、ダメ……ダメだよ……イブキにぃ、こんな事したら……」

 

かなめは抵抗していたが……彼女は乾燥した小枝のような抵抗だった。俺がそのまま押し倒そうとしても……簡単にできるほどの抵抗だ。

 

「たとえ義理でも……兄弟でそんなことしたらダメだよ……」

 

かなめの目から涙がハラハラと落ちて行く。

 

「ヒクッ……グスッ……」

 

かなめは崩れ落ち、手の甲で涙をぬぐうが……それでも彼女の慟哭(どうこく)は止まらない。

 

 ……仮説通りの結果になったか。

 

俺はかなめを見下ろした。かなめは……弱弱しく、静かにシクシクと泣いているが……心の慟哭がひどく伝わってくる。

 ……しかし、今のかなめは……贔屓(ひいき)目に見ても、狂おしいほどに可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……『恋愛では弱者』か。言い得て妙だな。

 

 俺はかなめを寝室に放り込んだ後、‘‘酒蔵部屋’’の酒を手にしながら思った。

 

 

 異性の前になると‘‘違う性格’’……いや、‘‘他の人格’’になり、それによって異性に好かれる。

『本来の自分を好きになってくれないかもしれない』、『こんな異常を受け入れる以前に、理解されないかもしれない』……これらの気持ちを抱きながら生きるって言うのは、どれだけ辛い事なのだろう?

 常に異性を疑っていないといけない……ってこともあり得るか。

 

 

 ……それらを代償にし、最高の戦闘力が得られるキンジに対して……かなめは……

 

 『‘‘ハニートラップ’’などのスパイ活動には有益だ』と思う、軍人としての俺に……吐き気がする。

 

 ……今日は飲もう。

 

リサへメールで『夕飯はいらない』と送った後、寝室を覗いた。そこには……触れたら壊れてしまいそうなほど可憐な美少女が、ベッドの上で体育座りをし泣いていた。こんな状況……普通の男性なら絶対に彼女に声をかけるだろう。

 

 ……よくもまぁ、手を出さなかったものだ。

 

俺はそう思った後、酒瓶片手に寮を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで仕事中の僕を無理やり連れてきたのかい?」

 

そう言って、第一中隊所属の藤原石町少佐はため息を吐きながらウィスキーを傾けた。士官クラブのカウンターにカランと氷とグラスがぶつかる音が響いていく。

 

「いいじゃないですか、残ってた仕事は ‘‘来週までに提出の書類にサインする’’だけでしたし」

「……そうだけどさぁ。……それにしても、村田も(第二中隊に)染まってきたねぇ。」

「…………否定できないです。」

 

俺の言葉に……藤原さんは眉をひそめた。

 

「いつもは否定するのに……それに今日だって『奢りますから来てください』って……。そんな言葉初めて聞いたよ?」

「……あれ、そうでしたっけ?」

「そうだよ?いつもは『奢ってくれないんですか?』って揶揄(からか)うじゃないか」

 

確かに……。いつもそう言った後、割り勘にするんだっけか。

 

「……何かあった?」

「えぇ……まぁ……」

 

 

 

 

 俺は事の顛末を藤原さんに話すと……

 

「……簡単な話だ。君は兄なんだろ?どっしり構えて受け入れてやればいい。」

「ですが……」

「村田、それ以上は同情になる。遠山君も彼女もそれは求めてない。」

 

 ……確かに。

 

「……………ハァ。なんかウジウジしてたのがバカバカしくなってきましたよ。」

 

俺はダークラムのロックを一気に飲み干した。多少の罪悪感もあったが……この仕事柄、罪悪感を忘れるのは慣れている。

 

 ……面倒な仕事についたなぁ

 

 思わず大きなため息が出た。こりゃぁ……いい死に方しないな。

 

「村田、ここでウジウジしている時間はないぞ?」

 

 ……全く、この先輩には頭が上がらない。

 

「藤原さん、ありがとうございました!!この酒は貰ってください!!」

 

俺は‘‘酒蔵部屋’’から持ってきた戦利品の(ブラドから貰った)酒と諭吉二人を置き、俺は寮へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「……‘‘俺’’はいい死に方しないだろうな」

 

思わずため息が出た。

 

 

我々は……前大戦の事もあり、アメリカの御威光を無視できない。今回の件……双極兄妹(アルカナム・デュオ)はともかく、かなめ(GⅣ)の‘‘HSS化’’は絶対だった。

 そのために……村田と遠山君をあてがう(人柱にする)事は政治家達によって決まっていた。最悪……彼らはアメリカへ連れ去られても文句は言えない状況ではあったが……遠山君はともかく、村田はその状況を覆した。

 

 ……相変わらず、運がいい奴だ。

 

 上手くいけば軍の力を弱めるための布石の一つにするつもりだったのだろうが、その計画も潰れたようだ。本当に計画を潰すのが得意だな。

 

 

 

さて、さっさと‘‘僕’’に戻ろう。いつまでも罪悪感に縛られてはいけない。

 

  ……そう言えば村田が置いていった酒はなんだろう?

 

  『響 30年』

 

「……ファ!?」

 

 ……年に2000本しか売られない高級品だったはず!?

 

‘‘俺’’は……余計に胸が痛くなった。

 

「早く、‘‘僕’’に戻らないと……」

 

 それでも……貧乏性なのか、‘‘俺’’はその瓶をずっと離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ガチャ……

 

もう0時前、みんなは寝ているようだ。俺は音をたてないようにリビングへ向かうと……目を真っ赤に腫らしたかなめに会った。

 

  グゥ~~~……

 

二人同時に腹の虫が鳴った。かなめも夕飯を食ってないのだろう。

 

「……そばでも食うか?」

「……(コクッ)」」

 

俺は冷蔵庫から‘‘茹で蕎麦’’を取り出し、電気ポットのお湯を鍋に入れて茹で始めた。

 

 

 

 数分後には簡単な‘‘かけそば’’を二つができ、その一つをかなめの前に置いた。

 

  ズルッ……ズズズ……

 

 そばを啜る音だけがリビングに響いている。

 

「イブキにぃは断り切れない性格だと思ってたんだけど……違うんだね」

「……俺はこう見えても、ちゃんと断るときは断るぞ?」

 

でも、だいたい上官命令だから断り切れないけど。

 

「そうなんだ……。実は……イブキにぃが‘‘あすなろ抱き’‘してから記憶が無くて……。」

「‘‘HSS’’ってそうなるんだな。」

「……うん」

 

  ズルズル……ズズッ……

 

「……いきなり、迷惑だったよね。いきなり戻ってきて、イブキの人間関係メチャクチャにして、大事なもの壊されて……」

「……まぁ、強いて言うなら『帰る』の一言は欲しかったな。迎えの一つもできやしねぇ」

 

 俺は‘‘かけそば’’の汁を啜った。安物の麺つゆにしては良いダシを使っている。

 

「あたし……恋愛ってよくわからなかったから、他の女を遠ざけて独り占めしたら愛してもらえるのかなって……」

「…………映画、好きなんだろ?せめてそれで勉強して来いよ」

「……そうだよね」

 

かなめは丼ぶりを持ち上げ、汁をチュルチュルと飲み干した。

 

  ドンッ!!

 

「……あたしってどうすればいいかなぁ」

 

かなめは強めに丼ぶりを置いた。その丼ぶりの中に滴がポタポタと落ちて行く。

 

 ……義兄の仕事でもするか

 

 

 

 

 

俺はため息をついた後、かなめに近づき……頭を乱暴に撫でた。

 

「……え?……あ、え?」

「悪いことしたんなら謝りに行くぞ、明日朝一で。一緒に行ってやるから」

「……え、でも……あたし、イブキにぃにこれ以上迷惑かけらr……」

「バカ言うんじゃねぇよ。家族なんだろ?多少迷惑な方が可愛げがあるってもんだ。」

「…………」

「……」

 

静寂が俺の心に砲撃をかけてくる。

 

「……あ、あのかなめさん?なんか反応してくれない?勢いでくさいセリフ言って恥ずかしいんだけど……」

 

 かなめはスッと顔を上げた。……無表情だった。

 

 ……黒歴史決定、ありがとうございました。なぁキンジ、俺はお前のように‘‘くさいセリフ’’は無理だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『銃剣で腹切れるかなぁ』などと考え出した時、かなめは急に俺に抱き着いた。そのまま……俺の服を濡らし始めた。

 

「……グスッ。イブキにぃ……イ゛ブギに゛ぃ!!!!」

「……」

 

俺は泣きついてきたかなめの頭を撫で始めた。

 

 ……兄らしいことはできてるのかな

 

神棚の鏡が、兄妹を淡く映していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あ、最近忙しくて神棚の掃除してねぇや

 

神棚の鏡は……ホコリのせいで兄妹を淡く映していた。

 

 ……明日、掃除したら高級酒を置いておこう。

 

心なしか……神棚の鏡はキランと光ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 泣き止んだかなめは……目も顔も真っ赤に腫れていた。

 

「ほら、さっさと寝るぞ。明日は早いんだから」

「……うん」

 

かなめは寝室に向けて歩き出し……数歩歩いたらクルッと半回転。俺の方に向いた。

 まだ顔と目は真っ赤だった。

 

「イブキにぃ……あたしのわがままだってわかってるけど、もう一回言わせて?」

「なにをだy……」

 

かなめはダダッと助走し、俺に飛びついてきた。

 

「あたし、イブキにぃの事が好き……」

 

かなめは頬に触れるだけのキスをしてきた。

 

「おぉ~、さすがイブイブ。義理とはいえ妹も攻略したなんて!!」

「「……!!!」」

 

 リビングの扉には……トランクケースを持った理子が、ニヤニヤとそこに立っていた。

 

「‘‘かなめちゃん’’だっけ~、理子の事は‘‘お姉ちゃん’’ってよんでいいからね~!!」

「……なんだよ、ぶりっ子。」

「イブイブと理子は~『一生一緒にいる』って誓い合った仲だから、‘‘かなめちゃん’’は理子の‘‘義妹’’になるのかな~って」

 

俺は慌てて理子を見ると……目が合った。

 

 ……こ、こいつ!?完全に面白がってやがる!?

 

『なんて日だ!!!』って思わず叫びそうになった。今日一日で何個の黒歴史ができた事か……。

 

「さぁ、言ってごらん!!『理子お姉ちゃん』って!!!」

「イブキにぃ……あそこに頭の狂った女がいるから、楽にさせるね!?」

 

  

 

 

 

 

  バァーーーン!!!

 

「三人とも!!うるさいですよ!!!今何時だと思っているのですか!?」

 

 扉を勢い良く開け、寝間着姿のリサが勢いよく入ってきた。

 

「……り、リサお姉ちゃん、こいつが……」

「え、えっと……挨拶しよっかなぁ~って……」

「……え、俺も?」

 

「朝ごはん抜きにしますよ!?」

 

  バー―ン……

 

リサは勢いよく扉を閉め、寝室に向かっていった。

 

「……寝るぞ」

「……はい」

「……うん」

 

 ……ベッドとは言わねぇ。何時になったら布団で寝れるんだろ。

 

俺はため息を吐きながら、寝床(ハンモック)の用意を始めた。

 

 

 

 




 理子の下りは……ちょっと無理があるような気がしないでもないですが、これで行きます。

 
 ギムレット……ジンにライムジュースを3:1でシェイクしたカクテル。
『ギムレットには早すぎる』は説明すると長くなるのですが……簡潔に言うと‘‘別れ’’という意味。(深い意味があるので、調べることをお勧めします)
 テキーラ(正確にはテキーラのショット)……『極東戦役:極東戦  男装バレバレなんだけど……』より、‘‘嫌な過去は忘れろ’’または‘‘和解’’という意味(この小説では)。


 あと2話でG兄弟編が終了。やっと東京編だぜ!!

  Next Ibuki's HINT!! 「BO〇S」 


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高速の神輿は危険……

遅れてすいませんでした。

 言い訳としては……出来が良くない。直せば直すほど悪くなる……という状態でして…‥。

 あと、バイトも……(今までバイト中に書ける環境だったのに…‥)




 翌日の早朝、俺とキンジ・かなめの三人(キンジは無理やりたたき起こした)はアリア・白雪・レキ・ジャンヌの部屋に突撃し、初手から‘‘玄関前で土下座して謝る’’という最終手段をとった。

 その際、白雪とジャンヌは許してくれたものの……アリアは口を‘‘への字’’に曲げて不機嫌そうに、レキは無表情だった。

 

 

 

 さて、その日の放課後。『デートに行きたい』と言って抱き着いてくるかなめを無理やり離し、『もう一人の兄ちゃんも寂しがっているから偶には構ってやれ』とキンジに預け、俺は兵部省のとある会議室へ向かった。

 本日午後2時から日本陸海空軍が極東戦役(FEW)での戦略・戦術を俺たちに伝える重要な会議があるのだ。

 

「今回、進行役を担当させていただきます兵部省直属特殊部隊第一中隊中佐の瀬島龍二郎です。どうぞよろしく。」

 

瀬島中佐がペコリと挨拶をした。

 

「……。(イライラ)」

 

俺の前の席に座っている辻さんは……後ろからでもわかるほど不機嫌だった。

辻さんと瀬島中佐は‘‘犬猿の仲’’、きっと瀬島中佐が進行役なのが気に食わないのだろう。

 

 挨拶をした後、瀬島中佐はこっちのほうを向き……一瞬ドヤ顔をしてきた。すると、辻さんはさらに不機嫌になり、周囲の空気が歪んで見える。

 

 ……嫌な始まり方だな、おい。

 

「「……ハァ」」

 

俺と通路一つ空けて隣にいる藤原さんは……思わず大きなため息が出た。

 

 

 

 

 

 

 まずは現状報告と今後の展開について説明があった。瀬島中佐曰く……

 

・『欧州戦線は‘‘師団(ディーン)’’が‘‘順調に’’負けている』

・『極東戦線は国内の敵対組織を一網打尽したあと、藍幇(ランパン)の上海・香港・マカオ支部を落とし、放置』

・『その後、欧州戦線へ転戦』

・『北米戦線は放置』

 

だそうだ。

 

 ……欧州で何が起こってるんだ?それに一気に三都市落とす?どうやるんだ?

 

「では質問のある方は挙手し、所属と名前を言ってから質問をお願いします」

 

 俺は勢いよく手を上げた。ほかにも複数人が挙手する。

 

「では、空軍の君」

「第521航空隊の江草少佐です。空軍は支援だけでしょうか?」

 

 神城さんよりも若い、優しそうな人が質問した。

 

「343空が本土に戻ってくるまで、空軍は本土防衛を主軸とします。その後、多少は欧州戦線や対藍幇(ランパン)戦に引き抜かれるかもしれませんが、今は断定できません。」

「……了解しました。」

 

江草少佐は不満そうに椅子に再び座った。

 

 

 

 

「……では、第二中隊の君」

「HS部隊第二中隊の村田大尉です。」

 

やっと俺の番が来た。俺は自分の名前を言うと、周りがざわめいた。

 

 ……何か悪い事でもしたか?

 

「質問は二つです。

  ・『欧州戦線が‘‘順調’’に負けている』とはどういうことか

  ・上海・香港・マカオ攻略はどの部隊が行くのか

の以上です」

 

俺がそう言うと……辻さんが勢いよく立ち上がった。

 

「その質問にはこの希信が説明しよう!!!」

「うるさいんだよ辻、でしゃばるな。」

 

瀬島さんは苛立たしそうに言い放った。

 

「なんだと瀬島!!この件の担当はこの希信だ!!希信ほどの適任者がいるのか!?」

「‘‘会議の邪魔だからでしゃばるな’’って言っている!!分からないのか狂人!?」

「「……あぁ!?」」

 

辻さんと瀬島中佐は互いに近づき、胸元を掴みあった。

 

「つ、辻さん!!ここで喧嘩はマズいですから!!俺が……自分が悪かったんで、止めてください!!」

「せ、瀬島中佐!!中佐殿!!落ち着いてください!!」

 

俺と藤原さんは二人を羽交い絞めにするが……それでも暴れる二人を拘束できない。

 

 

 

 

「二人とも静かにしろ」

「「はっ!!」」

 

山口少将がとうとう頭に来たのか……‘‘人殺しの様な目’’で二人を威圧しながら言い放った。そのおかげで、二人は喧嘩を止めて元の場所に戻った。

 

 ……もしFateの世界で山口多門丸少将が召喚されたら‘‘ルーラー’’のクラスだろうな

 

俺はそんな下らない事をつい考えてしまった。

 

「辻、欧州戦線のことを説明しろ」

「ハッ!!」

「た、隊長!!それは……」

 

辻さんの顔は歓喜に、瀬島中佐の顔は驚愕の表情を浮かべた。

 

「まぁまぁ……いいじゃない。担当が話したほうがいいだろうし」

「し、しかし……」

「そのくらいの度量も無いと将官にはなれないぜ?ほら、落ち着けって」

「……」

 

最近HS部隊第一中隊中隊長に任命された鈴木敬次大佐が瀬島中佐をなだめ、何とか説明できる空気になった。

 

「では!!この希信が説明しよう!!今回の‘‘極東戦役においt……」

 

 

 

 

 

 

 辻さんの説明を要約すると、

『将来、交渉の席に置いて主導権を得るために……‘‘日本が欧州戦線に参加し、それによって勝利した’’という実績が欲しいそうだ。そのために辻さんが工作し、矢原さんが援軍として欧州戦線で撤退戦をやっているそうだ。なお、最終防衛ラインは‘‘ダンケルク’’。』

 

 ……‘‘撤退の柔らか’’こと 矢原嘉太郎(兄者さん)(高校生活夏休み編 ラッシュ〇ワー  海外にはこいつがいる・・・で登場)が撤退戦を指揮しているなら安心だ。兄者さんなら2~3年ぐらいは遅滞戦術で耐えられるんじゃないだろうか。

 

 

 

そして、対藍幇(ランパン)戦は……

 

『上海は第二中隊が、香港は‘‘バスカービル’’と村田大尉()で落とすことになっている。マカオは第一中隊の鶴見中尉が工作をし、派閥争いによって破壊する』

 

と瀬島中佐が説明してくれた。これにより……俺の‘‘修学旅行・Ⅱ(キャラバン・ツー)’’は強制的に‘‘香港’’に決まった。

 

 ところで、‘‘修学旅行・Ⅱ(キャラバン・ツー)’’は上海・香港・台北・ソウル・シンガポール・バンコク・シドニーから選んで好きなところを行けるそうで……

 

 ……嘘だろ!?グレートバリアリーフが、オペラハウスが、カンガルー肉のハンバーガーが遠ざかっていく……。

 

「村田大尉、分かったか?」

「…………了解しました」

 

俺は……自分の椅子に倒れこむように座った。

 

 ……あれ?シドニーってグレートバリアリーフないじゃん

 

「では、第一中隊の君」

「はい、HS部隊第一中隊少尉、小野田です。敵対組織の一網打尽の件ですが……」

 

 ……早く終わんねぇかなぁ。

 

俺はあくびを噛み殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8時間半弱による会議(乱闘有り)をやっと終え、俺は肩のコリをほぐしながら会議室を出た。

 

「おいボウズ!!たまには飲みに行かねぇか!?」

「うわっ」

 

会議場を出てすぐ、俺は鬼塚少佐に肩を組まれ、飲みに誘われた。

 

 ……俺の顔にヒゲがジョリジョリ当たって痛いんですが

 

「い、痛い。痛いですから!!……まず連絡するんで待っててください」

 

俺は携帯の電源を入れると……キンジから何度も電話が来ていた事に気が付いた。

 

 ……なんかあったのか?

 

 

 

 

俺はキンジに電話をかけた。

 

「……キンジ、どうかした?」

『イブキやっとつながったか!?白雪とかなめが‘‘ランバージャック’’をやることになったぞ!?』

「……‘‘ランボー’’ジャック?」

 

 ……え、何?理子のやったチャリジャックは知ってるけど、ヒューマンジャックなんて聞いたことがない。それに……‘‘ラ〇ボー’’をヒューマンジャック?

 

「……映画に出れるなんてよかったじゃねぇか。駄作になりそうだけど」

『違う!?あれだ……決闘だ、決闘!!とにかく急いで戻ってこい!!10時半に始まるからな!?』

 

  ツー、ツー、ツー……

 

時計を見ると……10時半まであと6分。兵部省がある新宿から学園島まで6分で行けるわけがない。

 

「……ん?どうしたんだ?」

「……なんか、かなめが決闘やるみたいで」

「「「ほぉ~、あのかなめちゃんが!!」」」

 

辻さん、神城さん、鬼塚少佐が反応した。そう言えばこの三人、かなめのこと知ってたな(‘‘新人軍人編 休日くらい上司から離れたい・・・’’より)。

 

「あの子が星伽と決闘とは!!この希信、興奮する!!」←辻

「これは良い肴になりますね。早く行きましょうよ!!」←神城

「おう、ボウズさっさと行くぞ!!」←鬼塚

「いやいやいや!!!5分でどうやって学園島まで行くんですか!?」←俺

 

すると辻さんは携帯を出し、タクシーを呼ぶと……

 

「総員走れ!!」

「「ハッ!!」」

「いや、どうやったって間に合わn……ちょ、鬼塚さん襟持たないで!!走れます!!走りますから!!」

 

俺は鬼塚さんに襟首を掴まれ、そのまま引きずられていった。

 

 

 

 

 

「村田君、ご愁傷様……」

「ふ、藤原少佐……彼が‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’の村田大尉ですか?」

「そうだぞ、小野田……。彼に近づくと色々と巻き込まれる。気をつけろよ?」

「そう言う割には、少佐は面白がって関わってますよね。」

「まぁね。」

 

 

 

 

 

 

 どんな魔法を使ったのか分からないが……10時27分、学園島に到着した。しかも、かなめと白雪を‘‘バスカービル’’のメンツと理子が囲み、‘‘COMPOTO’’が近くで酒盛りしている目の前にタクシーは止まった。

 

 ……え?何があったの?2分弱……いや、1分ちょっとでどうやってここまで来れるの!?

 

「ジョーンズ殿!!この希信、誠に感謝感激である!!ありがとう!!」

「アリガトゴザマシタ」

 

タクシーの運転手(外人)はそう言って缶コーヒーを開け、チビチビと飲み始めた。チビチビとそれを飲んではいるが……その姿は(さま)になっていて格好いい。

 

 ……何この運転手、渋くてかっこいい。そう言えば、トミー・リー・〇ョーンズに似ているような気が……

 

決闘が始まったので、俺はそんな考えを捨てて、二人の戦いを観察した。

 

 

 

  『この惑星の住人は常に時間に囚われ、急いでいる。急ぐ事などそれほど無いはずだ。』

 

 

 

 

 

 さて、決闘の結果……かなめの長刀は折られ、負けてしまったが……みんなとは和解したようだ。

 和解の祝いとして……相変わらず俺達は酒を飲み交わす(許可証のない人はソフトドリンク)。

 

 ……確かに手に汗を握る決闘、そして感動の和解、確かによかった、よかったんだけど……

 

「うぅ……希信は、今!!猛烈に感動している!!」←辻

「良かったですねぇ、かなめさん……。」←神城

「うぅ……前が見えねぇ……」←鬼塚

 

 ……号泣しながら感動するこの3人が居なければ……断然よかったんだけどな。

 

俺はこの三人を尻目に、グイッと酒を飲み干した。

 

 ……あ、コレ俺の酒じゃね?

 

よく見ると……酒蔵部屋にあった一斗樽がドーンと置かれている。それを確認し……俺はため息をつきながら空を見上げた。居待月(18日ごろの月)が夜空にポツンと浮かんでいた。

 

 

 

  『ただ……この惑星の‘‘仲直り’’は、美しい。』

 

 

 

 

 

 

「あ、イブイブ!!グラスが空いてるよ!!」

「……え?あ、ありがとな」

 

理子はそう言って俺のグラスに酌をしようと……

 

「イブキにぃ!!可愛い妹がお酌してあげるね!!」

 

かなめは理子に体当たりをしたあと、俺のグラスに酒を注いだ。

 

「……へぇ~、カッちゃんはそう言うことするんだ。」

「……あれ?‘‘理子お姉ちゃん’’いたんだ~。ここは家族団らんの場所だよ?さっさと部外者はどいたら?」

「ふ~ん……りこりんはイブイブに告白されて、『一生一緒にいる』 って誓ってくれたから……家族の一員だよ?」

「「……あ?」」

 

 ……あの黒歴史……一生イジられるんだろうな。

 

思わずため息が出た。憎たらしいほど……月は輝き、俺達を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その後のかなめは、毒気が抜けたのか……普通の学生生活をしているようだ。

 我が寮内でも甘えては来るが、以前ほどベタベタすることがなくなった(よく理子と喧嘩しているけど)。

 

「……以上で御座る。」

「いや……ほんとありがとう。風魔さん、助かった。……余りは取っておいて。」

 

 俺は風魔さんにかなめの動向を観察してもらった。かなめはちゃんと学生生活を送っているそうだ。

 俺はホッとしながら、風魔さんに封筒を渡した。封筒の中には依頼の2割増しの金額が中に入っている。

 彼女は封筒を開けて金額を確認し……感激したように目をキラキラさせながら俺を見てきた。

 

「む、村田先輩!!こんなに沢山……!!」

「それと……軍の横流し品なんだけど、古々米の玄米いる?カビが生えてないのは確認したk……」

「ぜひっ!!!」

「お、おう……」

 

その後、風魔さんは封筒を胸元に入れた後、米俵2俵(約120キロ)を担ぎ上げ、スキップをしながら帰っていった。

 

 ……風魔さん、どんだけ飢えてんだよ。

 

俺は思わず涙が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風魔さんからの報告を受けた翌日……俺はため息をついた。

 

「……チクショウ。俺ばっかり狙いやがって」

「ゴフッ……」

 

俺はボヤキながら……本日23人目の相手を無力化した。

 

 

 

 今日は東京武偵高の体育祭だ。さて、ここの体育祭は……第1部と第2部がある。

 

 第1部は東京都教育委員会の監視があるため……我々生徒達は‘‘美しい青春を生きる、爽やかな高校生’’を演じながら、教務課(マスターズ)の指定した競技を行う。ついでに俺は‘‘水球’’だった。

 

 そして第2部……教育委員会の監視が無くなるために、過激な競技が始まることになる。今年は、男子が『実弾サバゲ―』、女子は『水上騎馬戦』だそうで。

 『実弾サバゲ―』とは、文字通り‘‘実弾’’で‘‘サバゲ―’’をやるのだが……ルールは『完全な無力化』だけ。一応……『地面に背中が付いたら負け』とはあるが、全員それを守っていないため、形骸化している。

 

 

 

 ……っけ、キンジはうまく逃げやがって。

 

俺は乾パンの袋を開けながら、ため息をついた。

 キンジは……女子の『水上騎馬戦』に参加する‘‘バスカービル’’の監督役で難を逃れたらしい。全く……羨ましい限りだ。

 

 ……水着の女の子を見れなんてうらやm……いや、サバゲ―から逃げやがって。

 

ここの生徒達は積極的に参加するため……無論、何人もの生徒が俺を狙ってきた。

 

 ……ゆっくり飯を食えたもんじゃない。

 

俺はため息をつきながら乾パンをかじる。本来は体育祭の後に飯だそうだが……‘‘腹が減っては戦ができぬ’’。食える時に食わねぇと……。

 

 ……半径40m内に3人、敵意アリ。

 

俺は袋に入っていた金平糖をかみ砕いた。

 

 

 

 

 

 

 昨日は体育祭があったため、本日は振り替え休日だ。俺は体中から痛みがするが……それを無視して惰眠を(むさぼ)ろうとする。

 さて、昨日の『実弾サバゲ―』で32人抜きした俺は……その後ベオウルフに当たり、ボコボコにされたのだ。そのせいで体中が痛い。

 

 ……チクショウ、体中が痛くて眠れねぇ。

 

俺は諦めてハンモックから降り、服を脱いで自分の体を確認すると……アザという花が咲き乱れていた。

 

 ……こりゃ眠れねぇはずだ。というかこんなにアザ作るなんて久しぶりだな。……鈍ったか?

 

俺はため息をつきながら着替え始めた。

 

 

 

 

 俺はリサ特製の朝食を食べ、お茶で一服していた時……

 

  バァン!!!

 

悪魔が扉を蹴破ってきた。

 

「村田!!いるかぁ!?」

「りょ、両川さん!?」

 

 扉を蹴破った悪魔は……両川勘吉巡査長。彼は俺を見つけるや否や襟をつかみ、引きずる始めた。

 

「ちょうどよかった!!人数が足りてなくて困ってたんだ!!」

「ちょ……ま、待って!!襟は止めて襟は……」

 

俺は……両川さんに拉致られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第5回海上神輿大会!!」

「「「「「「イェー!!!!」」」」」」

 

俺は両川さんに城南島海浜公園に拉致られた後、衣服をはぎ取られ、真っ白な六尺褌一つで神輿の前に立たされた。

 

「…………」

 

 ……和泉さん、『‘‘木曜どうでぃ’’でアメフト部に拉致られた』のを笑ってごめんなさい。『警察官(笑)に拉致られ、褌一丁にさせられる』のも相当恐ろしいです。

 

「今回!!ここ‘‘城南島海浜公園’’から‘‘お台場海浜公園’’までのやk……」

 

城南島海浜公園からお台場海浜公園までの約10キロの海上を、男四人で重さ20キロの御神輿(おみこし)を担いで渡るという競技だそうだ。

 ついでに……1位にはその年の福男という事で賞金1000万円貰えるそうで……

 

「……あの、左近寺さん。なんで俺が呼ばれたんですか?」

 

左近寺さんは葛飾署に勤務する警察官で、筋骨隆々なマッチョな体格の持ち主だ。ついでに、趣味はテレビゲームとフィギュア収集。最近はPCゲームに手をつけたそうで……

 

「本田が風邪で寝込んだ」

「……納得しました」

 

 ……本田さん、ご愁傷様です。できれば今日じゃなくて明日に風邪を引いてほしかった。

 

 俺達の神輿には、両川さん・左近寺さん・ボルボさん・俺の計四人が担ぐ。単純計算して一人当たり約5キロ。‘‘巻き足’’をしたら5キロの重りなんて屁でもないが……それを10キロ先に届けるなんて……流石にキツイ。

 

「では皆さん位置についてください!!!」

 

 ……なんで俺、こんなことやってんだろう?

 

俺は諦め、神輿を担いだ。

 

 

 

 

 

 

 開始から2時間半、トップを独走しているのは『築〇場外市場連合チーム』。しかも前回優勝した強豪チームである。

 第2位はどこかのテレビ局がバックにいる『お祭り男子衆チーム』。黒ぶちメガネの男性が威勢を張って頑張っている。それを撮る船の波が邪魔だ。

 第3位は我が『新葛飾署チーム』。1・2位を必死に追っているが少しずつ離されていく。

 

「クソッ……!!!このままだと離される!!」

 

両川さんは悔しそうに言うが……左近寺さんとボルボさんは肩で息をしていて、スピードが出ない。

 

  ドドドド……

 

 そんな時……小さなボートが近づいてきた。

 

 ……波は体力を奪うんだぞ!?

 

俺は思わず舌打ちをした。

 

「おいボウズ!!奴がやっと現れたぞ!!!」

「……は?」

 

 ……鬼塚少佐!?なんだってここに!?

 

鬼塚少佐はゴムボートの上で腕を組みながら立っていた。

 

「やっとGⅢが出てきた!!そんなことやってないでさっさと準備しろ!!」

「ちょっと待って鬼塚!!」

 

両川さんが反論した。

 

「ただでさえ負けてるってのに、人を抜くだと!?」

「待てって両川、代わりの人員は連れてきた」

 

鬼塚少佐はそう言ってゴムボートの後ろを見て合図をした。俺達も視線をそこへ向けると……

 

「……ヤッホー!!」

 

ゴムボートには鬼塚少佐のほかに、浅黒い肌にアフロのダンディー(笑)なおっさんが居た。

 

「「ジミ!?(ジミさん!?)」」

「軍からの日給に1000万でしょ、やるやる。」

 

 

彼は『ジミさん(又はジミおじさん・ジミなど)』。超有名なギタリスト:‘‘ジミ〇ン’’に似ているためそう言われている。本名は不明。

そして鬼塚少佐の大親友(マブダチ)で、身体能力はバケモノ(辻・鬼塚)以上。両川さん並みだ。

ついでに、ジミさんはよく職が変わる。(職が変わる=ジミる なんて言われたりもする)

 

 

 ジミさんは揺れるゴムボートの上で柔道着を脱ぎ、褌一丁になるとそのまま海に飛び込んだ。そのまま俺の近くまで泳いでくると……

 

「ほら村田!!さっさと変われって!!」

「ゴフッ!!」

 

ジミさんは俺を蹴って無理やりどかし、神輿を担いだ。

 

「ほら両川!!1000万は俺達の物だ!!」

「当たり前だ!!行くぞジミ!!左近寺!!ボルボ!!」

「「「おう!!!」」」

 

すると『新葛飾署チーム』の神輿はスピードをグンと上げ、第2位の『お祭り男子衆チーム』を軽々と抜き去った。

 

「うわぁあああああ!!!」

「うおぉおおおおお!!」

 

 ……あれ?そう言えば『お祭り男子衆チーム』の黒ぶち眼鏡、なんかの番組で見たことある様な……。カット

 

 

 

 

俺はゴムボートに上り、タオルで体を拭き始めた。もう11月の下旬、海の中はともかく……海から上がると途端に寒くなる。

 

「鬼塚少佐、GⅢはどこですか?」

「奴はこの先、‘‘船の科〇館’’近くの海だ。……ほらよ。」

 

鬼塚少佐はそう言って拳ほどの大きさのものを俺に投げてきた。

 

 ……あの神輿の進路上に居るのか。

 

俺はそう考えながらそれを受け取った。手にズシンとくる。

 俺は思わず確認すると……それは超小型の酸素ボンベだった。何故これを渡してきたのか全く理解できない。

 

「……なんです、コレ?」

「見りゃわかるだろ?酸素ボンベだ。それと……これな。」

 

そう言って鬼塚少佐がさらに渡してきたものは……ゴーグルと銃剣。嫌な予感しかしない。

 

「少佐……俺の戦闘服に装備はどこですか?」

「だから…………それだ」

「……は?」

 

 ……おい、ちょっと待て。‘‘名も無きブイ(新人軍人編 私事に部下を巻き込まないで・・・)’’じゃねぇんだぞ?

 

「坊主……俺達は奴らの飛行機に潜入し、奴らの仲間を無力化する。そのために坊主は囮となってGⅢと戦ってもらう。」

「……はい。それでなんでこの装備だけなんですか?」

 

俺はそう言って手に持つ三点セット(酸素ボンベ・ゴーグル・銃剣)を見た。

 

「奴らは水中の警戒は(おこた)ってる。だからだ。」

「いやいやいや!!!だからって褌一つはないd……」

「うるせぇ!!さっさと行け!!!」

 

  バキッ!!!……ポチャッ

 

鬼塚少佐はさっさと行かない俺にイライラしたのか……俺の頬を殴り、海に落とした。

 

 ……クソッ!!この‘‘自走式暴力装置’’め!!

 

俺は痛む頬を無視しながらゴーグルと酸素ボンベ・銃剣を装着し、‘‘船の科〇館’’へ向かって潜水した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キンジは激怒した。必ず、かの邪知暴虐(じゃちぼうぎゃく)のGⅢを除かなければならぬと決意した。キンジには戦略がわからぬ。

キンジは日本の武偵である。(アリア)の銃弾や、その他の女難から逃げて暮して来た。けれども正義に関しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 キンジは『かなめのカレー(睡眠薬入り)』を食べ、戦闘に出遅れてしまった。ワトソンのクラウンで‘‘品川火力〇電所’’に向かいながら、ジャンヌがTV電話によって送られてくる戦場の情報を見ていた。

 アリア・理子・レキを倒したGⅢは不機嫌そうにかなめを見ていた。

 

「サード、殺す必要はない。ば、バスカービルは……師団(ディーン)は敵じゃない」

 

かなめは声を震わせながら……海上に立っているGⅢに意見し、

 

「……フォース、これは命令だ。」

 

  えっさ、ほいさ……

 

GⅢはそれを……威圧しながらかなめの命令を無視した。

 

「でも、サーd……」

「フォース!!!命令を聞けんのか!!!」

 

  えっさ、ほいさ……

 

かなめはスクッと背筋を伸ばし、‘‘回れ右’’をしてジャンヌの方向へ向いた。

 

「あ、あたしは……」

 

かなめの顔は……恐怖の表情で歪む。声と手は震え、息は荒い。

 

「……自分より強い者には、絶対逆らわない……それは、非合理だから……」

 

かなめは震える両手を交差させ、腰の刀に置いた。

 その時だった。海上から高速で‘‘ある物体’’が、威勢よくGⅢに突っ込んできた。

 

 

 

「「「「えっさぁ、ほいさ!!!!」」」」」

「テメェら!!!後ろが追い付いてきたぞ!!!気合を入れろぉ!!!」

「「「おう!!!!」」」

 

  バキッ!!!ヒュ~……ポチャ……

 

GⅢは……神輿に轢かれ、海に落ちた。

 

「「「「……………」」」」

 

 

 

GⅢは重い武装のせいで浮かぶのがやっとのようだった。GⅢは半分(おぼ)れている様な泳ぎをして移動し、目に見えない何かに掴まった。

 

「……海水のせいで壊れた」

 

さっきまでLEDの様な物が光っていた装備は、いまでは何の光も発しない。

 

  ドドドドドドドドドドド!!!

 

GⅢは‘‘どっこいしょ’’と海上にある見えない何かに登った瞬間……

 

バキッ!!!

 

「ボルボ、左近寺、ジミ!!トップに追いつくぞ!!!」

「「「おう!!!!」」」

 

新たな神輿がGⅢを襲った。GⅢは海に落ち……不幸なことに後続の神輿の進路へ落ちてしまったのだろう……。その後も神輿に何度も轢かれ続け、瀕死の状態になってしまった。

 

「……強い、のか?」

 

キンジは……GⅢの強さと今の状態(民間人の神輿でボロボロ)のギャップのせいで、思わずつぶやいた。

 

「君には分からないだろうけど……日本って国は異常だよ。」

「……」

 

ワトソンは遠い目をし、画面越しのかなめは目を背けた。

 

 

 

 

 




 第521航空隊の江草少佐……某‘‘艦爆の神様’’がモデル。今後彼が出てくるかは未定。

 
 「‘‘ルーラー’’……。山口多門丸。……君は寿司が好きか?」
狂戦士(バーサーカー)の辻、瀬島、村田に大ダメージorバフ!!……ネタです。


 HS部隊第一中隊の小野田少尉は……今後出るかどうかは未定です。モデルは…‥某‘‘ルバング島の投降兵’’です。


 もちろん、‘‘神輿を担いで東京湾を泳ぐ’’なんて祭りはありません(……ないよね?)空想上の物です。


 左近寺、ボルボは某‘‘亀有公園前の交番’’の漫画の登場人物がモデル……です。


身体能力表
 両川・ジミ>辻・鬼塚≧神城・キンジ(HSS)>>(越えられない壁)>>アリア・理子・白雪・レキ・ワトソン>キンジ(ノーマル)
イブキですか?両川~辻クラスを行ったり来たりです。


 ‘‘ジミさん’’は『やわらか戦車』のあの人をモデルにしています。
ジミさんが身体能力が以上に強い理由は……(ギャグとはいえ)砲弾の直撃に耐え、首が360度以上周れば……流石にイブキも砲弾の直撃は耐えられません(イブキの場合は回避まで)




  Next Ibuki's HINT!! 「(体を温めるための)火」 


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寒さは恐ろしい……

 熱燗が飲みたい季節ですね。

 こう……火鉢でつまみを炙ったりして、キュッと……。できたらいいなぁ。
 火鉢が欲しいです。(換気とか臭いの関係で無理だとか)


 度重なる神輿のせいで瀕死になったGⅢは、どこからか出てきた‘‘GⅢの仲間たち’’によって救出された。

 その間にキンジが到着し……GⅢとキンジは互いに(にら)み合う構図になった。

 

「……カナ!!何でそこにいる!!」

 

キンジは周りを見て……クレーンの上で座っているカナ(金一)を見つけた。

 

「私は極東戦役(FEW)の一つの可能性を見に来ただけ。それに……私は‘‘無所属’’。自衛はともかく、誰とも戦う義理はないわ」

 

カナはそう言ってキンジから目をそらし……GⅢを見た。いや……『観察を始めた』のほうが正確だろうか。

 

「でもGⅢ。あなたは‘‘バスカービル’’と敵対し、‘‘日本軍’’を挑発した。戦役に参加した者は‘‘死ぬか、敵の配下になる’’。それを見にk……」

「そんなの構わねぇ!!!」

 

GⅢは威勢よく言うが……戦化粧は海水で溶けてドロドロ、自慢の武装は廃棄(東京湾に違法投棄)し、見るに堪えない姿だ。

 

「とうとうこれで‘‘Gの血族’’が(そろ)ったなぁ!!……だが使えねぇ奴は切る。今はキンジとフォースが怪しいところだ。」

 

GⅢはそう言って……海上を歩いてキンジとかなめの方へ来る。GⅢの桁外れの威圧感と溶けた戦化粧が狂気を(かも)し出す。

 

「おい、フォース。何故殺さない!?これは戦争だ!!」

「かなめ!!かなめは利用されているだけだ!!命の恩義だか知らないが……『かなめを‘‘GⅢが’’助けた』のは自分の道具にするだけだろ!?」

 

GⅢとキンジの言葉に……かなめは覚悟を決めた様な、ギロッとした目をし、柄に手を置いた。

 

「……フォース、‘‘かなめ’’と言われていい気になったのかは知らn……」

 

かなめは回れ右をしながら抜刀し、GⅢへ突撃した。

 

「あたしは……あたしは‘‘かなめ’’だぁああああ!!!

「フォース、やっぱり使えなかったか……」

 

特攻するかなめを……GⅢは『失望した』とでも言いそうな表情で見た。GⅢはその表情のままゴツゴツした大型拳銃をかなめに向けた。

 

  ブォン!!!

 

「かなめ!!!!」

 

キンジは思わず叫んだ。GⅢの大型拳銃から‘‘光の線’’が伸び、かなめの(のど)を貫いたからだ。

 

「フォース……その短い命、無駄に散らすか」

 

GⅢはその大型拳銃を海に捨て、腰から‘‘光る剣’’投げ……かなめの腹に刺さった。かなめは崩れ落ちるように倒れ……なかった。

 

「……!!!」

 

かなめは目をカッと見開きながら足を踏ん張った。そして姿勢を低くし、刀を構える。

 

「うぉああああああああ!!!!」

「「……!?」」

 

姿勢を低くした状態で再び突撃を始め、GⅢに刀を振るう。

 

  ビュン……

 

「散らしてみろぉおおお!!!」

「ぐ……!?」

 

GⅢは慌ててナイフで応戦しようとしたが間に合わず、かなめに右手を斬られる。

 

「散らしてみろぉおおおおおおお!!!」

 

かなめは再び刀を振るい……GⅢは来ていたマントで刀を巻き込んで何とか防ぐ。

 

  ザバァ……

 

「あたしは不死身(イブキにぃ)の妹だぁあああ!!!

 

かなめは刀を捨て、腰のナイフを抜いてGⅢを刺したが……同時にGⅢの鉄拳を喰らった。

 かなめは何回もバウンドし……キンジのもとに転がった。キンジは慌ててかなめを抱き上げる。

 

「何でこうやったかわかるか!?」

 

GⅢは肩で息をしながら大声で言った。それと同時に、キンジの雰囲気が変わっていく……

 

「オメェがそうなるのを待ってたんだよ!!俺は!!」

「……俺はもう優しくないぞ」

 

キンジはまだ無事だった白雪にかなめを預け、GⅢをギロリと見た。その時…‥

 

  ベキッ!!

 

「……死ねよ、テメェ」

 

やっと……ゴーグル・小型酸素ボンベに褌一丁の変態(イブキ)が現れた。海から上がった変態(イブキ)はその恰好のままGⅢを後ろから殴った。

 

「……え?あれ……イブキ君?」←白雪

「……イブキにぃは……あ、あんな変態じゃな…‥ウッ……(白雪の胸の中で気絶)」←かなめ

「か、かなめちゃん?……かなめちゃん!?」←白雪

「テメェ……よくもかなめを……!!!」←イブキ

「……俺が言うのもなんだけど、とどめ刺したのお前だぞ!?」←GⅢ

 

 

 

 

 

 かなめを白雪が搬送した後……

 

「……来いよ。キンジ、イブキ!!」

 

GⅢは濡れたマントを(ひるがえ)そうと左腕を振り(濡れてるせいで出来なかった)、そのまま歩き出した。

 

 ……あそこまで重症を負っているのに、なぜあんなに隙を作っている?

 

俺は警戒しながらゆっくり歩きだす。東京湾の風が……‘‘西部劇の決闘’’のように強く吹いている。

 

 ……いいか、俺。落ち着け。‘‘身内がやられた’’からって冷静さを失えば自分自身が死ぬんだぞ?冷静沈着……沈着冷静に。

 

 

「……イブキ、行くぞ」

 

アリアと一言二言交わしたキンジが俺のもとへ来た。

 

「わかってらぁ……。久しぶりに二人で大暴れしy……ビエックシ!!

「…………イブキと組むと何処か締まらないんだよなぁ」

「ビエックシ!!……ビエックシ!!!」

 

キンジの溜息とイブキのくしゃみ、それと遠くから響く祭りの掛け声が東京湾に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は寒さを無視し、‘‘四次元倉庫’’から出したタオルで体を拭きながら……キンジと一緒にGⅢを追った。

 

 海上の透明な謎の物体の上……ポツンとマンホール(透明でない)の様な穴が開いており、その周りでGⅢとその仲間達が言い争っていた。

 

 俺達が近づくと……その仲間達はGⅢに敬礼し、陸地へ向かっていった。GⅢはそれを見送った後、

 

「……来いよ」

 

GⅢはそう言って、マンホールの様な穴に入って行った。誘っているのだろうが……行くほかない。

 俺とキンジはその穴に潜った。

 

「飛んで火にいる夏の虫だ!!!突撃ぃいいい!!!」

「「「「だ、誰だ……!!!」」」」

「アハハ!!!40センチ噴進砲は気持ちいいですねぇ!!!」

「もうちょっと骨を見せろぉおお!!!」

「練習にもならねぇな」

「敵狙撃兵もいない狙撃なんて、ただの的ッス」

「もうちょっとサイバー攻撃の対策したらどうですか?(カタカタカタ)」

 

 ……第2中隊の面々が血祭りをしている音を聞きこえてくる。相変わらず血の気が多いな。

 

マンホールの穴に俺が潜り、その後キンジが潜るころ……悲鳴が聞こえなくなった。辻さん達がGⅢの仲間を……1分もたたずに捕縛したのだろう。

 

 ……ほんと、化け物ばかりだな。‘‘グリーンベレー’’やら‘‘ネイビー・シールズ’’に所属していた奴らもいたのに。

 

 俺がそう思った時……乗り物が揺れ、体中に何かの力(慣性力?)がかかる。窓がないから詳細が分からないが、まさか……

 

「飛んでるのか!?」

「……そうみたいだな」

 

キンジはドロッとした目でうなずいた。俺は銃剣で壁に無理やり穴をあけ、外を見ると……すでに高度100mは超えていた。

 

「米軍のおもちゃか……」

「次世代ステルス機の試作機さ。暗号名(コードネーム)は‘‘ガリオン(Galleon)’’。低探知性能じゃ世界一だろうよ。……つっても製造コストのせいで量産は出来ねぇらしいぜ」

 

キンジの言葉にGⅢはスラスラと答えた。

 

 

 

 

「……っと重量オーバーだ。」

 

GⅢは急にドアを蹴破(けやぶ)り、そんなことを言い始めた。

 

「なんだよ、俺たちに降りろっていうのか?」

「たった三人で重量オーバーってどう考えても欠陥機じゃねぇか。世界最初の飛行機(ライト・フライヤー号)じゃねぇんだぞ?」

 

俺たちの言葉を無視し、GⅢは‘‘一抱えはあるビニールの梱包物’’を次々に投げ捨て始めた。その‘‘ビニールの梱包物’’は……『‘‘ベンジャミン・フランクリン’’と‘‘独立記念館’’が印刷されている紙束』が透けて見える。

 

 ……‘‘ベンジャミン・フランクリン’’に‘‘独立記念館’’って、100ドル札じゃねぇか!?なんてもったいない!?

 

日本の一億円(一万円札×1万枚)は約32㎝×38㎝×10㎝……GⅢが投げ捨てている‘‘ビニールの梱包物’’もそのぐらいの大きさがある。

 

 ……という事は、100ドル札が1万枚ってことだから、約100万ドル!?

 

俺は慌てて‘‘四次元倉庫’’を開き、次々と落下する‘‘ビニールの梱包物’’を回収する。

 

「……まだ重いな」

 

‘‘ビニールの梱包物’’を数個投げ捨て終わったGⅢはそんなことを言い、今度は金塊を投げ捨て始めた。

 

 ……なんという事でしょう!?俺の懐が温かいどころか真っ赤に燃え上がって!!!

 

「……イブキ、何やってんだ?」

「いや、あんなにくれるなんて……なぁ」

 

キンジは‘‘GⅢを拝むイブキ’’を白い目で見た。

 

 

 

 

 

 

 

 なお、もちろん辻さんはこのことを知っており、GⅢの贈り物(あぶく銭)は翌日に没収され……残ったのは『‘‘フランクリン’’3人』と『‘‘100兆ジンバブエドル(=約20円)’’5枚』だけだった。

 

 ……なんだってGⅢはジンバブエドルなんて持ってたんだよ。

 

俺は『ハハハッ、ざまぁ!!』という視線を送ってくる‘‘フランクリン’’を、すぐに‘‘諭吉’’に変換した。

 

 

 

 

 

 

 さて、‘‘寄付’’が終わったGⅢに案内され……俺達は機内の美術室を通り、機外に出た(その時、GⅢは‘‘芸術’’で性的興奮するという事を知った)。

 高度は約1000m。約150キロの速さで進む機体は米軍のB2の様な全翼機で、光学迷彩のおかげで翼には‘‘東京の夜景’’が映し出されている。

 

「ここなら広いだろ?」

「いや……これでも狭い。ご退場願おうか、GⅢ。……ところで、お前って意外と優しいんだな」

「なんだとぉ……!!」

 

さて、キンジとGⅢが何やら話しているが……俺には一切頭には入らなかった。

 

 

 

 さて、急に話が変わるが……高度が上がれば上がるほど温度が低くなるというのは知っているだろうか。100m上がると気温は約0.6℃下がると言われる。

 地上の温度は約10℃ほど、それで高度1000mなので……現在の気温は4℃。

 それに時速150キロの物体の上に乗っているので……時速150キロ(約42m/s)の風が当たる。そのため、体感温度は余裕でマイナスを下回る。

 そんな体感温度がマイナスの場所で……褌一丁の人間はどうなるか。

 

 

 

 ……メチャクチャ寒い!!

 

 俺は慌てて‘‘四次元倉庫’’から着れる物を探したのだが……あったのは‘‘制服の上着’’・‘‘軍手’’・‘‘靴下’’・‘‘白のマフラー’’しかない。

 急いでそれらを身に着けるが……それでも寒い。

 

 ……ヤバい!!このままだと凍死する!!!

 

敵と戦って戦死はともかく、戦う前に凍死なんてごめんだ。

 

……何か、何か温かい物が無いと死ぬ!!!そ、そうだ火だ!!

 

俺は‘‘四次元倉庫’’からマッチを出して火をつけようとするが……もちろんつかない。

 

 

 

 寒さは思考力を奪う……。例え、普通に考えれば当たり前な事でも思いつかないこともあり得る。また…‥馬鹿なことをしでかす可能性もある。

 

 

 

 ……そ、そうだ!!発煙筒はあったはず!!

 

‘‘四次元倉庫’’から発煙筒を出し、着火すると……真っ赤な火が体を温めていく。俺は足元を銃剣で穴をあけ、4~5本の発煙筒をぶっ刺して着火した。

 

 ……あぁ、あったけぇ。

 

 俺は‘‘四次元倉庫’’の中になぜかあった‘‘灯油’’やら‘‘サラダ油’’やら‘‘ごま油’’を火に突っ込み、ウォッカを飲んで体を温め始めた。

 

「「……ってお前何やってんだよ!!」」

 

 ウォッカ2本目を開けた時、キンジとGⅢが目をひん剥いて言ってきた。

 

「いや、寒いから火で温まってたんd……」

「これ木材も使ってんだぞ!!燃え移ったらどうすんだ!!!」

「「も、木材!?」」

 

 

 木材はレーダーを反射しにくく、『F-117 ナイトホーク(世界初の実用的なステルス機)にも使われている。

 そのため、この機体にも一部使われていても不思議ではない。

 

 

さて、火は……油を入れた時の数倍の大きさで、飛行機の翼の上で燃えている。きっと火が木材に移ってしまったのだろう。

 

 ……チクショウ!!なんだって木材使うなら不燃処理しねぇんだよ!!

 

  『ふざけんな!!燃料タンクはともかく、翼でキャンプファイヤーを想定して設計はしねぇよ!!』by設計者一同

 

 ヤバい、幻聴が聞こえてきた。だいぶ酔っているようだ。

 

「しょ、消火しないと!!」

 

俺は慌てて持っている瓶の中身(ウォッカ)を火にかけ……

 

  ボン……!!!プツン……

 

さらに火が大きくなった。すると何かが切れた音がし、光学迷彩が機能しなくなった。そのせいで……真っ黒な機体が(あら)わになった。

 

「イブキ!!それウォッカだろ!?」

「……あ、やっべ」

 

俺達は慌てて消火しようとし……GⅢはそれを見て笑った。

 

「いいじゃねぇかこのままで!!‘‘燃え落ちる姿’’……これも芸術じゃねぇか!!」

 

 ……あれ?そう言えばGⅢは‘‘芸術で性的興奮する’’っていってたよな。うわぁ、敵に塩送ってるじゃん

 

俺は消火を諦め、千鳥足でGⅢに向き合った。

 

 ……空きっ腹にウォッカを一気に流し込んだら流石に酔うか。

 

 

 

 

 

 

 

「話を戻すが……お前は勝てないと思ったから仲間を置き去りにし、生活を送れるように金を落とした。」

 

キンジは座った眼をしながら……GⅢに言い放った。

 

「誤解も甚だしいぜ。俺はっ……」

「誰もお前の真意に気づいてないさ。俺以外はな……」

 

GⅢは次第に顔が赤くなっていき、真っ赤な頬を掻き始めた。

 

 ……え?そうだったの!?

 

「ゴメンGⅢ。本当にごめん」

「いや、急にどうしt……」

「あの……GⅢの仲間は多分第二中隊(辻さん達)が血祭にあげていると思う。それはともかく……ほら」

 

俺はそう言って‘‘四次元倉庫’’からGⅢが投げ捨てた金塊を出して見せた。

 

「「……」」

「いや……こんなもの捨てるなんてもったいないから、回収したんだ。うん……そんな真意があって捨てたなんて気が付かなかった」

 

俺はそう言って10mほど先に‘‘四次元倉庫’’の入り口を作って、そこに金塊を投げ入れた。そして今度は手前に入り口を作り、投げ入れた金塊を出して手に持った。

 

「「「………………」」」

 

三人の間に静寂が占拠した。

 

「……‘‘不死の英霊(イモータルスピリット)’’の他に‘‘Plan Crusher(計画潰し)’’と呼ばれるだけあるぜ!!」

 

GⅢはそう言って‘‘H&K USP’’を出した。

 

「時間がねぇ、早く来いよ」

「「……後悔すんなよ!!!」」

 

キンジはナイフと拳銃を抜き、俺は銃剣を握った。

 

 

 

 

 

 

 キンジとGⅢは銃撃戦をしている間、俺は‘‘影の薄くなる技’’を使い接近しようと……

 

「……丸見えなんだよ!!」

 

首を落とそうとした一撃を……GⅢは当たり前のように防いだ。

 

「幽霊のように殺しに来るって噂は嘘のようだな!!!」

 

GⅢは俺の攻撃をナイフで防ぎ、キンジに発砲していく。

 

 ……どういうことだ!?‘‘影の薄くなる技’’が効かない!?

 

確かに……赤外線カメラ等によって‘‘影の薄くなる技’’を無効化することはできる。しかし、GⅢは裸眼……赤外線が見えるなんて情報もない。

 俺はもう一度‘‘影の薄くなる技’’を使い接近してみるが……まるで普通の攻撃のように対応される。

 そこでやっと……原因に気が付いた。酔っているせいで……‘‘影の薄くなる技’’が未完成になり、逆に目立ってしまっている。

 

 ……うわぁ、完全にやらかした。

 

 

 

 

 

 俺が心で頭を抱えた時、キンジとGⅢは弾切れになったのだろう。キンジも俺と一緒に接近戦をするが……どうにも倒せない。

 

「こいつはどうだ!!」

 

GⅢの足元から……やけにでかい鉄の筒が4本出てきた。その筒はケツから炎を吹き出し、明後日の方向へ飛んでいき……大きく旋回してキンジに1本、俺に3本突っ込んできた。

 

 ……嘘だろ!?短距離空対空ミサイル(SR-AAM)、サイドワインダー!?

 

 俺は急いで‘‘四次元倉庫’‘から銃を出そうとするが……間に合いそうもない。

 

 ……クソッ!!銃剣一本でやるっきゃないのか!?

 

 俺は覚悟を決め、銃剣を構えたその時……3本のうち2本が急上昇を始め、爆発四散した。

 

「村田君!!遅いから助けに来ましたよぉおおお!!!」

「希信達が迎えに来たぞぉおお!!!」

「ボウズ!!何やってんだ!!!」

 

なんと、辻さんと神城さん、鬼塚少佐が降ってきた。

 俺達が戦っている‘‘ガリオン(Galleon)’’よりも2000m上空、高度3000mにはC-1輸送機が飛んでいる。きっとあれから空挺(落下傘なし)をやったのだろう。

 ミサイルの爆発の原因は……辻さんと神城さんの手には軍刀が握られており、それでミサイルを叩き切ったようだ。

 

 ……1本ぐらいなら、余裕だ!!

 

俺は銃剣に多少の魔力を乗せ、ミサイルに投げた。銃剣はミサイルに当たり、ミサイルは蛇行し始め……俺から5mほど離れたところで爆発した。ミサイルの破片が俺の体を切り裂いていく。

 

 ……多少破片をもらうがが、問題はねぇ!!!」

 

「「「助けに来たぞぉおおおおお!!!」」」←辻・神城・鬼塚

 

 ……心強い援軍の到着か、これは勝ったな。

 

辻さんと神城さんはスタッと‘‘ガリオン(Galleon)’’の上に立っt……

 

  ベキベキベキ!!

 

立たなかった。辻さんと神城さんは‘‘ガリオン(Galleon)’’の翼に穴をあけ、そのまま海へ落ちて行った。

 

 ………………さて、鬼塚少佐はどうなったんd…

 

 俺は辻さんと神城さんのことをすっぱり忘れ、鬼塚少佐を探し…………ケツを‘‘ガリオン(Galleon)’’の先端にぶち抜かれ、全身紫色の人間っぽい物があった。

 

「………………GⅢ!!よくも辻さん、神城さん、それに鬼塚少佐を!!!!!」

「……自滅だよな、あれ。」

 

 

 

 

キンジも何とかミサイルを何とか攻略したようだ。

 

「時間がねぇからな……『流星(メテオ)』で千切らせてもらうぜ」

 

そう言ってGⅢは体をひねり、両手を突き出す動きを始めた。

 

 ……ヤバい、何か来る!?

 

俺は無理やり体勢を崩し、その拳の射線から逃げようと……。

 

  ズドン!!

 

 ……拳が音速を超えるだと!?

 

GⅢの左手には円錐水蒸気(ベイパーコーン)(マッハ0.8~1.3程度で起こる現象)が見えたと同時に……俺の左わき腹がえぐり取られた。

 

「……ッ!?」

 

 ……クソ!?酔っぱらった状態でどうやって戦う!?酔う……そうだ、‘‘酔拳’’!!

 

 俺はロサンゼルスで会った‘‘香港の刑事:リーさん(高校生活夏休み編 ラッシュ〇ワー)’’を思い出した。後で知ったのだが……彼は中国でも5本指には入る拳法家だそうだ。

 ロサンゼルスで共闘し、事件を解決した後……リーさんに中国語と共に‘‘酔拳’’を軽く教えてもらった。

 

 ……出血量がマズい。クソッ!!イチかバチか‘‘酔拳’’をやってやる!!!

 

俺は朦朧(もうろう)とする意識の中……‘‘四次元倉庫’’から日本酒の一升瓶を出した。

 

 ……‘‘景虎’’って銘柄か。‘‘上杉謙信’’の初名が‘‘長尾景虎’’だったよな。こいつぁ縁起がいいじゃねぇか。どうか‘‘毘沙門天’’のご加護がありますように。

 

俺は瓶に口をつけ、日本酒を胃に流し込む。一口飲むたびに……‘‘思考速度’’は速くなるが、‘‘思考の理論’’がメチャクチャになっていく。

 

 

 

 

 

 

『……呼んだか?』←山口多門丸少将

 

  ……‘‘毘沙門天’’を‘‘多聞天’’と呼ぶことがあるけど、そっちじゃねぇよ!!

 

俺は日本酒を飲みながら、そんな幻覚を見た。

 

 

 

 

 

 一升瓶の半分ほど飲んだ頃……GⅢは俺の雰囲気が変わったのを気が付き、突撃してきた。GⅢは拳を振るうが……その姿がまるでスローモーションのように見える。

 俺は一升瓶をGⅢの目の前で割り、‘‘猫騙し’’をしたあと、眉間に一発拳を入れた。

 

「……おう、GⅢォ~~まるで子供のお遊びだぜぇええ??……ウェへへへ!!」

 

俺はGⅢの拳や蹴りを受け流し、逆に向こうの腹に蹴りを入れて強制的に距離を取らせた。

 

「さぁ~見せてやりやしょ、この‘‘酔拳’’!!飲めば飲むほど怪力にぃ~~!!拝観料はかなめの敵討ちだ!!!……オエッ」

 

 俺は胃からこみ上げた来た物を火の中に吐き、‘‘酔拳’’の人差し指と親指でお猪口を持つ様な独特の構えをした。

 

 ……キンジがいない、落ちたか。

 

 俺は心の中で黙祷(もくとう)する。

 

「コイツッ……!!!」

 

GⅢは足元からトイレットペーパーの芯ほどの大きさの筒を蹴り上げて手で握り、その筒から光の刃(ビームの刃)を出した。そしてそれを持って俺に向かって突撃する。

 

「ゑへへへへ……」

 

俺は千鳥足で体を左右に振ってその刃を躱し、GⅢの手首を殴りその武器を海へ落した。そのまま流れるように高速で7~8発殴った後、股間に蹴りを入れた。

 

「グォオオオ………!!!」

「金的拳……ルール無用のぉ~~戦いには必須でぇえい!!……ゲプッ」

 

GⅢは股間を押さえてしばらく(うずくま)っていた。少し待つと、GⅢは苦悶の表情を浮かべ、股間を押さえて立ち上がった。

 

「来いよぉGⅢ、武器なんて捨ててぇかかってこい。」

 

俺はそう言って‘‘四次元倉庫’’から新しい酒を出し、目の前で飲んだ。もちろん、空いている手の指をクイクイとさせ、挑発するのも忘れない。

 

「……こいよぉGⅢ。怖ぇのか?」

「……へ?」

 

GⅢは一瞬呆けた後、憤怒の表情に変わっていく。

 

「この俺が、完璧な人間兵器(ヒューム・アモ)がテメェを怖がるだと?誰がテメェなんか……テメェなんか恐かねぇ!!」

 

GⅢは腰に巻いてある帯をナイフごと捨てた。

 

「野郎、ぶっ殺してやらぁ!!!」

 

 

 

 

 

 GⅢが再び殴りかかってきた。俺は体の力を抜き、倒れるようにしゃがんでGⅢの拳を避けた。俺はそのまま回転する。2回転目で立ち上がり、回転の勢いをつけてGⅢを蹴った。

 

「千鳥足拳!!!ただの酔っぱらいと見せての回転蹴りぃいい!!!」

 

今度はその場で何度も側転し、逆立ちの時に顔面に蹴りを入れる。

 

「泥酔拳!!目にもとまらぬ高速回転蹴りぃいい!!!」

 

GⅢは顔面を蹴られ、数mほど転がった。

 

 ……やっぱり付け焼刃じゃうまくいかねぇな。

 

GⅢはヨロヨロと再び立ち上がる。この付け焼刃の‘‘酔拳’’、リーさんには初歩しか教わっていないため……確実に仕留められるほどの決定力が無いのだ。

 

 ……これがチンピラ程度なら何とかなったんだが。

 

まともに通用したのは『金的への一撃』ぐらいか。

 

 

 

 

俺の後ろで気配を感じた。この気配……キンジだろう。

 

 ……全く、落っこちたのにどうやってまた戻ってきたんだよ。相変わらず化け物だな、キンジは。

 

「いよぉ~~~キンジくぅ~ん!!遅いじゃねぇか~~。おい!!」

「……酒臭いぞ。何やったんだよ」

 

キンジはボロボロの状態で……白い目で俺を見てきた。

 

「なぁに、お前の『性的興奮』代わりに、俺は飲んだだけさぁ!!」

「知ったのか。……それと臭いから近寄るな」

「そいつぁ~酷ぇじゃねぇかぁ~?キンジくぅ~ん!!」

「…………」

「……分かりました」

 

キンジは本気で言っているようなので、俺は大人しく離れた。

 

 ……そんなに臭いか?

 

俺は自分の腕を鼻に当てて嗅いでみるが……よくわからない。

 

「なぁイブキ……」

「どうした。」

「……あとは俺にやらせてくれ。」

 

俺はキンジの目を見た。キンジは冗談を言っていない。

 確かに、かなめの仇を取りたい。だけれど……酔っている状態の俺だと、GⅢを倒すには時間がかかる。GⅢを倒す前に炎が広がり、‘‘ガリオン(Galleon)’’が爆発するだろう。

 

「分かった。」

 

  パチン

 

俺はキンジとハイタッチをし、下がった。

 

 ……キンジ、見せてもらうぜ!!

 

その時だった。急に横風が吹き、‘‘ガリオン(Galleon)’’が大きく揺れた。

 流石に最新鋭の飛行機とはいえ……翼が炎上し、辻さんと神城さん(第二中隊の化け物)に大穴を開けられたら、体勢の維持は難しいだろう。

 

酔っぱらって千鳥足だった俺は‘‘ガリオン(Galleon)’’から転げ落ち、ジェットエンジンで一瞬焦がされた後、東京湾に落ちた。

 

 ……さ、寒さ対策で酒なんて飲むんじゃなかった!?

 

 今頃後悔しても遅い。‘‘大量出血’’に‘‘酒の一気飲み’’……俺は着水と同時に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、矢常呂先生!!!患者の息と心臓が止まってます!!」

 

 私は救護科(アンビュラス)のとある生徒だ。ちょうど中学生のインターンの子が患者の状態を見てパニックを起こしている。

 確かに、私も最初は驚いたが……今ではもう慣れてしまった。経験則から……どうせ彼は復活する。

 未だに矢常呂先生は疑問を持っているみたいだけど……悟ればストレスをためないで済むのに。

 

「あ、とりあえず傷塞いで、ベッドに放置しとけばいいから。」

「い、いやでも……AEDとか心臓マッサージとか……」

「まぁまぁ、落ち着いて。どうせ明日にはピンピンしてるんだから」

「……はぁ!?」

 

 

インターンの子は……翌日、その患者が褌一丁で走り、中間テストを受けに行く姿を見て卒倒した。

 

 

 

 




 日本銀行では『一億円の模擬券パック』を持てるらしいです。

 『100兆ジンバブエドル』は今使えないらしいですが……逆にプレミアがついているそうで……。

 なぜ、辻さん達が‘‘ガリオン(Galleon)’’を見つけられたか……。流石に機外でキャンプファイヤーなんてすれば、目視でわかる。

 実は米軍が監視衛星でこの戦闘を観察していたが……キャンプファイヤーの炎のせいで観察が不可能になったそうで。

 ラッシュ・〇ワーの‘‘あの中国人刑事’’が教えたなら……未完成とはいえGⅢとタメは張れるはず。

 ‘‘酔拳2’’をモデルに技を使ってます。

 
 酒の一気飲みはやめましょう……。いや、マジで。



 次回は文字数が圧倒的に少ないです(本来は今回と合わせて一話だったが、文字数の関係で分けた)
 もう、仕上がってるので明日には投稿できる……はず。

   Next Ibuki's HINT!! 「護衛対象」 


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テストは絶対受けよう……

遅れてすいませんでした……昨日投降しようと思ったら、寝過ごしました。




 俺は目が覚めると……夜の校庭で寝ていた。

 

 ……え、ここどこ!?

 

慌てて起きあがり周りを見ると……全く見たこともない学校だ。

 

「は……?はい!?」

「うるさいわね、静かにしてて」

 

俺の目の前には、紫色の髪の美少女が対物狙撃銃を握り、何かを狙っていた。

 

「え、いや……お嬢さん、助けてくれたのか」

「えぇ、NPCじゃなさそうだし、保護したわ。」

 

 紫色の髪の美少女は銃を離し、俺の方を向いた。

 

「俺の名前は村田維吹……お嬢さんは?」

「……あたしは仲村ユリ、みんなは親しみを込めて‘‘ゆりっぺ’’って呼んでいるわ」

 

 これが……死んだ世界戦線(SSS)との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、やっぱり俺死んでねぇよ!!!」

 

俺は飛び起きると……そこは見慣れた武偵病院の病室だった。

 

 ……頭が痛い。こりゃ二日酔いだな。

 

 

 

 

 

 

 俺は近くにあったウォーターサーバーの水をがぶ飲みしていると……病室のドアが開いた。

 

「……あ、イブキにぃ!!」

 

扉を開けたのはかなめだった。かなめは包帯がグルグル巻きであったが……ケガを感じさせない軽やかな足取りで俺に抱き着いてきた。

 

 ……いや、良かった。本当に良かった。俺はかなめが死んだのかと……

 

俺は思わずかなめの頭をなで始めた。なぜか目と鼻がすごく熱くなり、視界がゆがむ。

 

 ……かなめの仇を取ろうと思って、結局グダグダになって……情けねぇ兄貴だよなぁ。

 

「あ、そう言えばイブキにぃ!!」

 

かなめは頭を俺の腹にグリグリと押し付けた後、パッと顔を上げていった。

 

「今日、中間テストだったよね。」

 

 ……中間テスト……中間テスト!?

 

「……………‥え゛!?」

 

思い出した。学力的に点数は問題ないのだが……サボったら俺が死ぬ。

 

 

 具体的に言うと……師匠・エジソン・ベオウルフにボコボコにされ、上官の辻・神城・鬼塚(化け物三人衆)による特別訓練、保護者(自称)で近所の爺様(秋山の爺ちゃんと吉田の爺様)から説教。

 

 

俺は……自分の顔が真っ青になっていくのが自覚できる。

 俺は時計を見ると……8時15分。試験開始まで残り15分。そして、武偵病院(ここ)から校舎まで走って10分以上。

 よって、5分以内で医者を探し、退院許可をもぎ取らねばならない。

 

 ……着替える時間もねぇ!!

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から紅槍を取り出し、穂先に着替えを(くく)りつけ、褌一丁で医者を探しに走り出した。

 

「どこだぁ!!!どこだ矢常呂先生ぃいいいいい!!!!」

「あ、イブキにぃ!!あっちにいたよ!!」

「ありがとな!!!」

 

俺は何とか矢常呂先生を探し出し、かなめと一緒に校舎へ走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 道行く外国人からは『wow!! Japanese HIKYAKU!!!』などと言われながら写真を撮られ、クラスメイトからは『変態』と白い目で見られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、中間テストを無事に終え、北海道で‘‘蝦夷テレビ’’のロケに付き合わされた俺は……師匠(スカサハ)に‘‘酔拳’’の修行をつけてもらっていた。(俺は飲んでない)

 

「よ…と…うわぁああ……ゴフッ」

「…………ハァ」

 

俺を簡単にボコボコにした師匠は槍をグルグルっと回し……石突(穂先の逆側の部分)で地面をたたき、大きなため息を吐いた。

 

「基礎がまるでなっとらん。いや……一部が全くできてない。だからこの程度だ」

 

 師匠はそう言って槍を地面に刺し、通徳利(かよいとっくり)に入った‘‘粕取り焼酎’’を出し、飲み始めた。師匠は徳利を両手に持ち……その見た目の年齢には似合わない、可愛い飲み方で酒を飲む。

 

  ドスッ!!!

 

俺の目の前5センチ以内に槍が着弾した。

 

「……どうかしたか?」

「いえ……何でもありません」

 

俺は‘‘酔拳’’の基礎ができていない理由を考え始めた。

 

 ……やっぱり、半日……いや数時間で基礎をすべて習うのは無理があるよなぁ。

 

帰る日の当日、飛行機が出るまでの5時間ほど……リーさんに中国語を習いながら‘‘酔拳’’の基礎を教わったのだが……リーさん曰く『君のはまだ未完成だから』だそうで。

 

 ……我流でやるか、香港まで教わりに行くか、どっちかだな。

 

「そもそもお主、なんだって‘‘酔拳’’なんざ身に着けようとする?」

「……俺、この‘‘極東戦役(FEW)’’でわかったことがあるんです。……俺は今まで、‘‘襲う側’’ばかりで‘‘襲われる側’’は経験がありませんでした。」

「ほぉ……」

 

師匠の紅い眼がギロリと俺を捉える。

 

「‘‘襲われる側’’はいつ襲われるか分かりません。それこそ酒を飲んでいる時でも……。『酒に酔って対処できませんでした』って言うのは理由になりません。だから……酔っぱらってても対処ができる‘‘酔拳’’を身に着けy……」

「……酒を飲まなければよいd」

「酒を飲まないなんてありえません!!!!」

 

師匠の溜息が響き渡る。その時……

 

「おう、村田ぁ~。」

 

蘭豹が不機嫌そうにやってきた。蘭豹は師匠の姿を確認すると、(かかと)をそろえて敬礼した。

 敬礼が終わった後、首を持ち……

 

「お前に依頼や。」

 

引きずり始めた。

 

「え、ちょ、待って!!待ってください!!せめて自分で歩かせてください!!!」

 

 

 

 

 

 

 今日、あたし達は学校見学に来た。何故だかわからないけど……あたし達はなぜか、銃器が手になじむ。だから……‘‘東京武偵高校’’を見学に来た。

 学校見学の時……教師に襟首を掴まれ、引きずられている生徒を見た時……なぜか知り合いの様な、そんな気がした。初めて会った顔なのに……

 

「おい‘‘ゆりっぺ’’。早くいこうぜ!!」

「え、えぇ……」

「なんだよ、今の生徒に見惚れたか!?」

「…………フンッ!!!」

「イテテテテ……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 俺は応接間に放り投げられた。俺はヨロヨロと立ち上がると……そこには、メガネをかけたスーツ姿の女性と、金髪で背の低い美少女がいた。

 

「村田ぁ、この子の護衛せい!!」

「……え?」

 

 ……いや、今極東戦役(FEW)中なんですけど!?軍からの許可は得てるの!?

 

俺は色々と思考を巡らせるが……理解できない。

 

 ……まぁいい。とりあえずは挨拶だ。

 

「えっと……村田維吹です。」

白鷺千聖(しらさぎ ちさと)です。」

 

俺は彼女の『美しい笑顔の裏にある腹黒さ』を見抜き……悟った。

 

 ……こいつ(この人)とは馬が合わねぇな(ないわね)。

 

「「よろしくお願いします」」

 

俺と彼女は……『何かを隠す黒い笑顔』のまま手を握った。

 

 ……全く、軍は何を考えてやがるんだ!?

 

あれ?そう言えば『ノンナさん』と声が似てないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、場所は東京の某所。

 ある一室にて、HS部隊第一中隊の中隊長、鈴木敬次大佐は紫煙と一緒にため息を吐いた。

 

「……全く、東京へ侵攻はまだ千歩譲って許すとしても、Pastel*Palettes(パステルパレット)に危害を加えるなんて……」

 

鈴木敬次大佐は手に持っていたパイプの灰を掻きだした後、あるDVDを出した。

 

「‘‘イヴちゃん’’に危害を加えようとは……!!!」

 

鈴木敬次大佐は、ハッピとハチマキをつけ、DVDを再生した。DVDは……Pastel*Palettes(パステルパレット)のライブ映像を撮影した物だった。

 

「‘‘イヴちゃん’’!!‘‘イヴちゃん’’!!!」

 

 

 

 

「あの……藤原少佐、中隊長の部屋からまたあの音が……」

「小野田、無視しろ。気づかないふりをしておけ……」

「し、しかし……だいぶ音が漏れているんですが……」

「下手に触れば‘‘鶴見’’のように飛ばされるぞ」

「は、はい!!!!」

 

藤原少佐は漏れる音を無視して仕事を始めた小野田少尉を見ながら……ため息をついた。

 

 ……まぁ、‘‘鶴見’’の場合は自由にやりたいからワザと触れて海外に飛ばされたんだろうけど。

 

藤原少佐は……マカオで工作を行っている鶴見中尉を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 マカオにて

 

「チャンくぅうううん!!!これはいい‘‘入れ墨人皮’’じゃないか!!!」←鶴見

「我、頑張ったネ!!!」←チャン

「月島ぁ!!これを‘‘キニ―45’’の前に置いてこい!!」←鶴見

「ハッ!!」←月島

 

 

 

 




 死んだ世界戦線(SSS)……『Angel Beats!』のキャラは今後は出ません(キャパオーバーになる)。

 
 通徳利(かよいとっくり)……一升(1.8L)ぐらい入る徳利。昔は量り売りした酒をこれに詰めて持ち帰っていた。


 『白鷺千聖』と『ノンナ』の声が似ている理由は、中の人が同j……中の人はいません、ハイ。
 彼女を護衛するさせるように仕向けたのは……もちろん鈴木敬次大佐。カッコいい印象が今まであったのに……(笑)


 

 閑話を挟んでから次章へ突入します。
 
 Next Ibuki's HINT!! 「エビ」 


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閑話:クリスマス特別編 上

 遅れに遅れてのクリスマス特別回。
 予定では2月の上旬には上げる予定だったのに……気が付けば3月も間近。遅れの理由としては……インフルの猛威のせいによるバイト疲れです。




 そして毎回書いてますが……今回登場する人物たちは架空の人物です。実際に存在する人物ではありません。
 もう一回言います。今回登場する人物たちは架空の人物です。実際に存在する人物ではありません。


12月10日午前1時過ぎ

 北海道札幌市内の某所にて

 

 

 

「時間は1時15分をとうに過ぎたところで御座います。テレビを見ている皆さまもね、このぐらいの時間かと……」

「そうですね!きっと今ちょうど回っているんじゃ……」

 

俺は眠い眼をこすり、あくびを噛み殺しながら……和泉さんと鈴藤さんの掛け合いを眺めていた。

 

 

 

 なぜ俺がこんな深夜に札幌にいるのかというと……藤崎さんが東京武偵高(うち)任務(ロケ)の依頼をしたからだ(極東戦役:極東編 俺の酒が……より)。ついでに依頼料は‘‘0uちゃんグッズ’’と‘‘交通費(新幹線の自由席)と1000円’’。

 

 ……あれ?一応俺、Sランクの武偵だったよな。

 

 なお、蘭豹&綴先生から『サイン貰ってこい』と脅されているため……拒否権はない。

 

 

 

音野さんが撮るカメラの横にいる藤崎(ヒゲ)を一睨みした後……俺は再びため息をついた。

 

「皆さんもね、‘‘眠たい眠たい’’と思われているかもしれませんが………我々も!!」

「……ククク」

「……全くだ」

「同じ環境に、身を置いて!!!収録やって行こうと思っています」

 

 俺は周りを見ると……‘‘0uちゃん(安浦憲之助(やすけん))’’、‘‘死んだ目をした理子’’、‘‘金髪幼女と黒髪の保護者(?)’’がいる。

 理子もあの藤崎(ヒゲ)から直々に指名されたらしい。‘‘死んだ目’’をしているのは……‘‘シェフ和泉’’の料理にダウンして……まだ1か月とちょっとしかたってない。まだトラウマが治ってないのだろう。

 

 ……安浦さんと理子はともかく、この二人はなんだ?

 

金髪幼女は目をキラキラして二人の掛け合いを見ている。もう一人の黒髪美女(保護者?)は冷たい瞳で見ているが……心なしか、ワクワクしているように見える。

 

 ……というか、何なの黒髪美女!!胸がでかい!!リサを超え……白雪クラス!?あんなスラッとした身長にそれは凶悪すぎd……

 

『イブキにぃ?』『お兄ちゃん?』『『これが‘‘放置プレイ……啊啊(あぁ)!!』』

 

かなめに粉雪、ココ姉妹の幻聴が聞こえ、理子が‘‘死んだ目’’のまま俺を見てきたため、考えることを中断した。

 

 

 

 

 

  『大人の女性が好みなら……私がいるぞ』

 

 ……おい、ハンナ(高校生活一学期編 大量破壊兵器は使っちゃいけない・・・ より)。変な冗談言うんじゃねぇよ。久しぶりの登場だからってはしゃいでんのか?

 

  『私のことをわかっているじゃないか……それならば結婚をsh……』

 

 ……HS部隊(うち)よりも波乱万丈になりそうだから嫌です。

 

おかしい、ハンナの幻聴まで聞こえてきた。疲れているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「テレビをご覧の皆様は……今、12月24日。和泉さん、その日はなんでしょうか?」

「知りたくもないね」

「まぁ……世間一般ではクリスマスイブです」

 

 藤崎さんの笑い声が‘‘蝦夷テレビ’’の社屋に響き渡る。

 

「テレビをご覧の皆さんもこれからパーティーなんかするかもしれません!!我々『木曜どうでぃ』も皆さんと一緒に、パーティーを!!」

「「「「「おぉ!!!」」」」」

「気の合った仲間達と!!『木曜どうでぃ』の全スタッフ、集まってパーティーをしようと思っています!!」

「俺達はこんな時間に呼ばれて、パーティーなんて……別に昼にやってもいいでしょ?」

 

鈴藤さんの言葉に、俺と理子・幼女と保護者(?)が思わず歓声を上げた。

 

 ……そうか!!パーティーか!!パーティーなら銃撃戦になったり、あんなものを食わされ……食わされ……

 

急に気分が悪くなった。俺は思考を停止し、落ち着こうとすると……なぜか気分がよくなる。

 

 ……俺は一体、何があったんだろう。

 

また気持ち悪くなってきたので、無心で二人の様子を見る。

 

 

 

 

 

「パーティーと言えば……豪華な料理!!!

 

鈴藤さんの言葉に、俺はその言葉にうんうんと頷く。

 何故だかわからないが……嫌な予感がするのは何故だろうか。

 

「料理と言えば……思い出すのは君です。和泉さん!!」

「…………そうでした。」

 

 ……え?

 

「今日は打ち抜かれに……お見舞いされにやってきました」

「よし、理子。……帰ろう」

「うん、イブイブ。……あ、依頼料どうする?」

「丸々返す……いや、むしろ色付けて返してやろう。金払ってでも出たくない」

「じゃあタクシー呼ぶね。」

「俺は飛行機か新幹線の予約するわ」

 

鈴藤さんが衝撃の言葉を放った瞬間、俺と理子は急いで帰る準備を始めた。

 

 ……当たり前だ!!見ているだけでもあんなに(ひど)かったのに、食べるなんt……

 

また気持ちが悪くなったので、考えることを止める。俺達は急いで荷物をまとめ、蝦夷テレビの社屋から出ようと……

 

「アッハッハッハ!!!」←藤崎

「大分失礼なこと言ってるけど……二人の気持ち、すっごく分かるんだよね」←和泉

「いやいやいや待って!!待ってって!!!」←鈴藤

 

俺達は鈴藤さんに無理やり連れ戻され、イヤイヤこの企画に参加されることになった。

 

「大丈夫!!大丈夫だから!!もう『シェフ和泉』はあんなひどいの作りませんから!!」

「……なんです?僕の作ったのがマズいと?お見舞いしますよ?」

 

 ……何この人、ヤバいの作る気満々じゃん。

 

「「……帰る」」

「アッハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、もう少し二人の掛け合いが続いた後……

 

「さて今日は……スペシャルなゲストをお呼びしてます。」

「まぁ、もうバレてますけどね」

「まずはこの方……‘‘0uちゃん’’です」

 

鈴藤さんの紹介と共に……0uちゃん(安浦さん)が渋々カメラの前に出ていった。そう言えば……今日すごくテンションが低かったな。

 

「さっきの村田君や峰ちゃんよりもやる気がないのはこいつですよ!!だってこいつ誕生日が今日なんだもの」

 

 ……なんてかわいそうに。

 

俺と理子は思わず同情した。誕生日にあんなもの食わされるなんて……

 

 

 

 

 

「それとですねぇ……さらにビックな方が来ております!!

「そう言えば可愛らしい子が来てるけど……彼女達は一体誰なんだい?」

 

和泉さんも知らなかったらしい。

 

「実はですねぇ、我々のロケに同行したいという物好きな方がいまして……」

 

藤崎さん(ヒゲ)の言葉に、俺と理子は頷いた。

 比叡山で武装ラジコンに追い回され、‘‘シェフ和泉’’のクソマズい飯を食わされ……挙句の果てには、どこへ行くかわからない旅に行かせられる(行先は‘‘絵はがき’’次第)。『サイコロで決める時もある。』と藤崎さんから聞いた。

 

 ……この人達が全国区のテレビに出てみろ、きっと世界で『絵はがきによる旅』をしそうだぞ?いや……『マグネットによる旅』だったりして

 

 俺は……和泉さんが持っている箱から鈴藤さんがマグネットを引いている姿が目に浮かんだ。

 

 

 

「まぁまぁ、こんなおっさんだらけの番組に‘‘綺麗な華’’が来たんですから……。ではご紹介しましょう!!第62回戦車道全国高校生大会優勝、プラウダ高校の隊長と副隊長!!『カチューシャ』さんと『ノンナ』さんです!!」

 

すると、金髪幼女は黒髪美女に肩車してもらい……そのままカメラの前へ出た。金髪幼女は肩車をされながら……薄い胸を張り、自己紹介を始める。

 

 ……え?って言うか高校生!?

 

俺は二人を見た。金髪幼女はむしろ小学生に見えるし……黒髪美女は逆に大学生を飛び越え、大人に見える。

 

 ……なんて凸凹(デコボコ)な二人なんだ!?

 

「このカチューシャが来たからには視聴率が100%を超えるわよ!!!」

「計算上、越えませんよ」

 

 

 

 

 

「さて、和泉君はともかく……ピチピチの女子高生達の対応は、僕達にはとてもとても……」

「そもそも‘‘ピチピチの女子高生’’って言う言葉がもう死語だもの」

「アハハハハハ!!!」

 

カチューシャさんとノンナさんの自己紹介の後、再び二人の掛け合いと笑い声が響き渡る。

 

「彼女達が参加すると聞き……我々は困り果てました。そんな若い子の話に我々はついて行けるのだろうかと……。その時、(ひらめ)いたんです!!我々には‘‘高校生の仲間’’がいたことを!!」

「……そんな三文芝居しないで早く紹介しなさいよ。さっきのでもうバレてるんだからさぁ」

「アハハハハハ!!!」

 

 ……要はこの‘‘凸凹(デコボコ)コンビ’’の相手をしろと。

 

確かに同い年で、俺は‘‘戦車道’’の共通点があるが……完全に他人なんですが。理子に至っては共通点すらない。

 

「では、我々の頼れる助っ人、‘‘村田君’’と‘‘峰ちゃん’’です!!」

「………どうも」

「……イエーイ、りこりんだよ~」

 

俺達はテンションが低いままカメラの前に登場した。

 

「二人とも!!テンション低いですねぇ!!」

「藤崎さん、分かってるでしょ。」

「……あんな料理食べさせられて2ヵ月も経ってないんだよ?」

「「「アッハッハッハ!!!!」」」

 

俺達の言葉に……‘‘蝦夷テレビ’’の面々は爆笑し、‘‘凸凹(デコボコ)コンビ’’は羨ましそうに見てくる。

 

 ……確かに傍目(はため)で見てりゃ面白いだろうけど、実際は地獄だから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではスタジオの方に向かいましょう!!」

「あれですよ?僕はそこらの料理番組であるような、チンケな厨房じゃ作らないよ!!」

「大丈夫です!!あなたにピッタリなのを用意いたしましたんで……行きましょう!!」

 

鈴藤さんのその言葉と共に……俺と理子は、処刑場(セット)に連行され、‘‘凸凹(デコボコ)コンビ’’は夢の舞台(セット)へ向かっていった。

 

 

 

 

「さっきっからねぇ、扉が開いてるから(けむ)いんだよ!!この匂いである程度予想できちゃうんだよねぇ!!」

「俺……最初はまだ‘‘楽しい宴会’’で、スルメやら鮭トバやら(あぶ)るのかなぁ……って思ってたのに」

「イブイブ……それは考えが甘いよ」

「ふぁ~~~」

「眠いのでしたらベッドを用意していますよ。」

「ね、眠くなんてないわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

俺達の目の前には……焚火台(たきびだい)の上で燃え上がる炎を、運動会でよく見かけるあの天幕で囲んでいる場所(ここ、駐車場だよな!?)に連れていかれた。

 

「これが用意された……セットです!!」

「何この貧乏くさくて……クソ寒いセット!!」

 

天幕の中には会議室にありそうな‘‘細くて長い折りたたみの机’’とパイプ椅子が雪の上に直接置いてある。

 

 ……ヤバい、メチャクチャ寒そう。

 

俺は思わずマフラーを首に巻いた。

 

 

 

 

 

「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」

 

俺達は席に付き、ワインの入ったグラス(ノンナさんはぶどうジュース)を掲げて乾杯をした。

 

 ……あれ?きっと一本500円以下の安ワインかと思ったら、まぁまぁいいのを使ってるな。

 

俺は口に入れた時の芳醇な香りでそのことを理解した。

 

 

 

 

 さて、今の状況は鈴藤さんが‘‘トナカイ’’、安浦さんが‘‘簡易0uちゃんマスク’’を被り……俺・理子・ノンナさんは‘‘サンタの赤帽子’’を被っている。

 

「え~、1名足りないですが始めさせてもらいましょう」

 

そう、カチューシャさんがいない。彼女は何処にいるのかというと……焚火の近くでノンナさんの隣、ソリ状の箱型ベッド(まるでベビー〇ッド)の中で毛布にくるまり、夢の世界を楽しんでいる。

 

 ……いやはや、見た目相応で可愛いじゃないの。

 

 この子が‘‘戦車道大会でプラウダ高校を優勝に導いた’’なんて信じられるだろうか。

 

 ……でも、有能な人ほど癖があるからなぁ。

 

有能で癖のある上司達を思い出し、ため息が出た。

 

 

 

 

「では、そろそろシェフに料理をお願いいたしましょう。シェフ!!」←鈴藤

「よっ!!」←俺

「リベンジだよ!!」←理子

「待ってました(目を輝かす)」←ノンナさん

 

鈴藤さんがそう言うと……コックの格好をした和泉さんがゆっくりと向かってきて、一礼をする。

 

「メリークリスマス……」

「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」

「‘‘ピストル和泉’’へようこそ。打ち抜くぞぉおお!!

「……(目をキラキラ輝かせる)」

 

和泉さんのその言葉に……ノンナさんはまるで、少年がスーパーヒーローに出会った時の様な目で和泉さんを見ていた。

 

 ……ノンナさん、結構冷たそうな印象があったんだけど、全然違うんだな

 

俺はワインを飲み切り、ウォッカを飲み始めた。

 このウォッカはプラウダ高校の学園艦の名産品らしく、ノンナさんが手土産として持ってきたものだ。(何故未成年が手に入ったのかはあえて触れない)

 

「えぇ今回、とてもいいエビが手に入ったので……私が腕を振るい、『シェフ和泉風のエビチリ』を作らせてもらおうと思っております」

「「あの(えっと)……」」

 

和泉さんの言葉に……俺と理子は同時に口を開いた。

 

「「食べられるものになるんですか?」」

「……もちろんでございます。失礼な」

 

和泉さんはムッとした表情でそう言った。

 

「「前回のを見たらそうなるんです」」

「アッハッハッハ!!」

「ッ~~~!!!」

 

俺と理子の言葉に……藤崎さんは大爆笑し、ノンナさんは必死になって笑いを押さえていた。

 

 ……あれ?さっきまで、ノンナさん冷たそうな、ずっと無表情だったけど……このギャップがすごく可愛い

 

俺はそう思った瞬間、理子に横腹を殴られたため……無理やり思考を停止させられた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれかい?酒の肴かなんか欲しいかい?」

 

シェフ和泉がエビチリを作り始めて30分、まだエビの処理をしている時にそう言った。

 

「「「「そうだね(ですね)!!!」」」」

「だってもうワインは()っくの()うになくなって、ノンナちゃんの手土産のウォッカも飲み干して、すでに‘‘0uちゃん’’と村田君と峰ちゃんは日本酒でいってるから」

「「「いぇーい!!」」」

 

藤崎さんの言葉に、俺・理子・安浦さんは日本酒の入ったコップで再び乾杯をした。理子や安浦さんの憂鬱そうな表情は何処へ行ったのか……陽気な表情で笑い合う。

 

「あれですねぇ、ノンナさんが飲むなんて意外ですねぇ」

「ノンアルコールウォッカです。」

 

ノンナさんはそう言ってウォッカの瓶(自前)を口に付け、ゴクゴクと水を飲むように飲んでいく。

 

 ……ノンアルコールウォッカって、ただの水じゃね?

 

俺はそう思いながら日本酒を(すす)る。何故かわからないが……ノンナさんはそのノンアルコールウォッカを飲む量と比例して、頬がどんどん赤くなっていく。

 

「‘‘エビの塩焼き’’がいい」

「……馬鹿じゃないのアンタ?」

 

この番組のプロデューサーの要望を、和泉さんはバッサリと切り捨てた。

 

「‘‘エビチリ’’作るって言ってるのに、なんで(エビの)塩焼きなんか作っちゃうの?」

「ッ~~~!!!」

 

和泉さんの言葉にノンナさんは口を押え、顔を真っ赤にして笑いをこらえる。

 

 ……このギャップ、なんて可愛い娘なんd……

 

理子が腹パンしてきたため、思考を中断する。腹パンをした後、理子はふくれっ面のまま日本酒をグイッと飲む。

 

「あのカップルはともかく……このエビチリ用のエビを焼いちゃうのかい?あの焚火(たきび)で?」

「「「「「「イエーーーイ(いいじゃない)!!!」」」」」」

 

シェフ和泉の言葉に俺達は歓声が沸く。

 

 ……当たり前だ。この人に手間がかかる料理をさせてみろ、食えない物質が出来上がるぞ!?

 

その事をノンナさん以外の全員は理解しているため……

 

「このぐらいでいいかい?(5匹を焚火(たきび)の上の網に置く)」←シェフ和泉

「もっと、もっと焼いちゃおう!!」←鈴藤

「足りないって!!」←安浦さん

「俺、エビチリよりも塩焼きのほうが好きなんですよ!!」←俺

「まだ失敗しても軽い塩焼きのほうg……」←理子

 

俺は慌てて理子の口をふさいだ。

 

「あれですよ和泉さん!!塩焼きの様なシンプルな料理のほうが、シェフの‘‘素晴らしい(上手いとは言ってない)’’腕前が存分に発揮されるんですよ!!」

「……そうかい?」

 

俺は理子の口をふさぎながら言った。俺の言葉に……和泉さんはにやける。

 

「悪いね、手かけなくてね」

「「「「「「いやいやいや!!」」」」」」

 

 

 

 

和泉さんはグラスのワインを飲み干した後、焚火(たきび)にエビを15匹ほど載せ始めた。

 

  カチン、シュボ!!、カキン……

 

シェフ和泉が焚火(たきび)にエビを乗せ始めたと同時に、金属音と燃え出した音、そしてタバコの香りが……

 匂いをたどると……安浦さんがタバコを吸っていた。

 

「おい‘‘0u’’!!タバコ吸ってんじゃねぇよ!!イメージ悪くなるだろ!?」

「「「「アッハッハッハ!!」」」

 

藤崎さんが笑いながら突っ込んだ。俺達もその言葉に思わず笑ってしまう。

 

「……お前何してんの?食事前に喫煙して味分かるわけないでしょ!?」

 

和泉さんの言葉に、安浦さんは口をへの字に曲げた。

 

「俺だって別に、やりたくてやってねぇんだよ。人の誕生日、夜中に呼び出しておいてよぉ……

 

安浦さんはそう言った後、タバコを美味そうに吸った。

 

「お前、今『クリスマス0uちゃん』が売れてr……」

「いいからエビ焼け!!エビ焼け!!」

「「「「アッハッハッハ!!」」」」

 

その時、俺は殺気を感じた。慌ててその方向を見ると……ノンナさんだった。

 

「安浦さ……いえ、‘‘0uちゃん’‘。カチューシャの前で喫煙とはどういうことですか?」

「「「「「「……え?」」」」」」

 

ノンナさんはゆっくりと席を立ち、ヤバそうなオーラを放ちながら安浦さんの方へ向かっていく……。

 

「まぁまぁ!!落ち着いて!!」←鈴藤

「アッハッハッハ!!」←藤崎

 

鈴藤さんのとりなしにより……なんとかノンナさんの怒りを鎮めることに成功した。

 

 ……別に吸っても、カチューシャさんまでの間に飛散してほぼ0になると思うんだけどなぁ。

 

ノンナさんに絶対零度の視線で睨まれたため、考えを止めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばノンナさん」

 

俺はノンナさんに話しかけた。

 

 悲しいことに……悲しいことに!!俺と理子は『木曜どうでぃ』の準レギュラーを勝ち取ってしまった。

 そんな俺達の話よりも、今回初登場のノンナさんやカチューシャさん(寝ているが)の話のほうが、視聴者は楽しめるだろう(俺達が話せることと言えば義妹との闘争劇ぐらいだし)。俺はそう思って声をかけた。

 

「‘‘戦車道’’をやっているって聞いたんですけど……ノンナさんはどの車両に乗っているんですか?」

 

 ……うわぁ、なんて無難な話題。

 

「Я на ИС-2(訳:IS-2に乗っています。)」

「「……」」

 

 ……‘‘IS-2に乗っている’’でいいのかな?

 

ノンナさんの流暢な発音に思わず驚いてしまった。

 日本人(網走出身)でロシア語をそんなに流暢に話すなんて……どれほど努力したのだろうか。俺の様な、‘‘ギリギリ会話ができる程度の言葉’’の何倍も努力していることがすぐに分かる。

 

「や すりしゃる しゅと ИС-2 うぞーく。えと ぷらゔだ?(訳:IS-2は狭いと聞いてます。本当ですか?)」

 

俺は日本語訛りがきつすぎるロシア語で何とか返答した。

 

「Да это конечно узко. Вы оскорбляете меня с высоким ростом?(訳:はい、確かに狭いです。私の背の高さで侮辱しているのですか?)」

 

俺の質問に、ノンナさんは絶対零度の視線で睨みながら言った。

 無論、俺はそんなつもりで言ったわけではない。自分がしゃべれる簡単なロシア語でできる質問をしただけだ。

 

 ……ヤバい、完全に誤解している。

 

俺は慌てて席を立ち、頭を下げて謝った。

 

「めにぇじゃーる いぇに いめぇる ゔどぅたく りーし!!(訳:すいません、そんなつもりはありませんでした!!)本当にごめんなさい!!(訳:本当にごめんなさい!!)」

 

 ……ノンナさんは‘‘俺よりも’’背が高い。だから純粋に『狭いIS-2 だと大変じゃないか?』という意味で言ったんだよ!?

 

 すると……ノンナさんの顔は無表情から笑顔にフッと変わった。

 

「冗談です」

 

クールビューティーな彼女から、見惚れるような笑顔を見せる。俺は思わずドキッとした。

 

 ……なんでだろう。これが理子なら頭にくるが、なぜかノンナさんだと許せる。

 

  ベキッ!!!

 

俺がそう思った瞬間、理子の飛び蹴りを喰らい……雪置き場に頭ごと埋まってしまった。

 

「何すんだよ!!」

「……知らない!!」

 

何とか脱出し、文句を言うと……理子はプイッとそっぽを向く。

 

「「「アッハッハッハ!!!」」」

「フフフ……」

 

 ……何が面白いんだよ、チクショウ!!

 

俺は雪を払い、ヤケクソ気味に酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

「エビがいい具合に焼けてきましたよ!!」

 

シェフ和泉はそう言って、焚火(たきび)の上のエビを取り上げ、皿に盛り始めた。

 

「『エビの塩焼き ロサンゼルス風』です!!」

 

カット野菜が盛られた皿に、焼きたてのエビをシェフ和泉は盛って、自信満々に俺達に出してきた。

 

「「「どこがロサンゼルス風……?」」」

 

俺に理子、鈴藤さんが思わず言うと……

 

「なんかこう……アメリカっぽいでしょ?」

「「「「「…………」」」」」

 

余りにも馬鹿っぽい答えに、俺達は言葉が出なかった。

 

 

 

 

 さて、俺達は覚悟を決め、シェフ和泉作『エビの塩焼き ロサンゼルス風』を口にすると……普通の‘‘エビの塩焼き’’だった。

 

「美味い、美味いよ!!」←鈴藤

「……!!(手でOKのサインを出す)」←安浦

「ウソだろ!?あの‘‘シェフ和泉’’の料理だぞ!?」←俺

「……あの時はどうしてあんなのを食べさせられたんだろ?」←理子

「……ほぉ」←ノンナさん

 

とうとう日本酒も少なくなり……俺はラム、理子はテキーラのつまみで‘‘エビの塩焼き’’を食べるが……これがとても美味い。

 きっと材料がいいのだろう。

 

 ……流石は北海道。‘‘シェフ和泉’’の腕を、素材の良さで揉み消すとは。

 

 これを東京で食べるとしたら……築地で直接仕入れるしかない。

 

 ……今度リサを連れて築地へ行こう

 

 

 

 

 

後日、リサの買い物に丸一日つき合わされ、疲労困憊になったイブキがいたとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェフ和泉はエビチリの調理をいったん止め、‘‘鳥の丸焼き’’用の肉を取り出した。

 

「これはまぁ……」

 

何をしでかすか分からないシェフ和泉でも……流石に鶏肉(丸々1匹)はさすがに持て余すようだ。

 

「……あれだね、とりあえずこの中に何か入れたくなるね」

 

シェフ和泉はそう言って、内臓等が入っていた腹の中に手を入れた。

 

「俺の母親(故)はそこに‘‘パンとベーコン、野菜’’をつめてましたね。鳥の肉汁が染み込んで美味かったなぁ」

 

アメリカのジョン・F・ケネディ国際空港(ニューヨーク)で死んだ母親を俺は思い出した。

 母親(故)が張り切って作った‘‘鳥の丸焼き’’……の腹のパンが好きだったなぁ……と思いながら、俺はシェフ和泉が持っている鶏肉を眺める。

 

「普通この中って御飯とか入るでしょ?」

 

シェフ和泉は何か閃いたように言い出した。彼はまな板の上に肉を置き、ポケットをまさぐる。

 

「 『鮭ハラスおにぎり』がいいと思うんだよね」

 

和泉さんはそう言って、ポケットから潰れた‘‘コンビニおにぎり(鮭ハラス)’’を出した。

 『どうでぃ軍団』は爆笑しているが……俺と理子には冷汗が止まらない。

 

「お、おにぎり入れるんですか!?しかも‘‘コンビニおにぎり’’を!?」

「しょうがないでしょう!?ほかにご飯がないんだから……。それに村田君、これ1個300円は下らない高級品だよ!?」

「そう言う問題じゃねぇよ!?」

 

俺はおにぎりについて抗議をするが……シェフ和泉は俺の言葉を無視して、おにぎりの包装をむしり取る。

 

 

 

「え……あの……海苔(のり)も?」

 

 包装をむき終わり、付属の海苔(のり)を巻き始めたシェフ和泉に……理子は恐る恐る聞いた。

 

「当り前でしょう?おにぎり入れるって言うんだから、海苔(のり)が入るに決まってるでしょ?」

「っていう事は、鮭もはいr……」

「当然でしょ?だって『鮭ハラスおにぎり』だもん。」

 

 

 

 

シェフ和泉はおにぎりの海苔(のり)を巻きおえ、今度は……何かのハーブを出した。

 

「こちらローズマリーね。香りづけにいれようかと……」

「「入れるのは良いけど……ちゃんととれよ(とってよ)!?」」

 

俺と理子は……恐怖で怯えながら言った。

 

「何言ってんの!?だってこれ食える物入れるんだから……出さないでしょ?」

 

シェフ和泉(処刑執行人)の言葉に……俺達は絶望した。

 

 ……軍の訓練の時でさえ、もうちょっとはましなものだったぞ!?

 

「いいかい?これがメインだよ!?」

 

 シェフ和泉はそう言って潰れたおにぎりを持った。

 

「『おにぎりの包み焼き ニワトリ風』だよ!!」

 

余りの恐怖に……俺と理子は互いに抱き合った。

 

 

 

 

「では……ニワトリの肉汁が染み込んだおにぎりを食べるんですね?」

「そうだよ、お嬢ちゃん……だから周りは捨てるよ」

 

シェフ和泉はノンナさんと会話をしながら……用意したものを鶏肉の中に詰めていく。

 しかし、俺と理子はそんな事を無視し、互いの装備の確認をする。この任務、互いにフォローしないと……最悪死ぬからだ。

 

「……鎮痛薬と頭痛薬、それに正露丸はある。理子は?」

「あぁ、胃薬と整腸剤は……。クソッ、睡眠薬も持ってくるべきだった!!」

 

 ……なるほど、その手があったか!!

 

睡眠薬を飲んで、酔いつぶれたとすれば……食べずに済む。

 

「和泉君、卵入れたらどうだい?そのままで」

「ウズラの卵しかないけど……これでいいかい?」

「アッハッハッハ!!」

 

あの笑い声が……どうしても悪魔の笑い声に聞こえてくる。

 

 

 

「どうかされましたか?」

「あぁ、睡眠薬を持ってくればよかったって……ノンナさん!?」

「……ッ!!!」

 

俺達の会話に……ノンナさんは自然に入ってきた。

 

 ……おい理子、なんでナイフに手を置いて警戒してんだよ。

 

俺は何とか理子を落ち着かせ、ノンナさんの方へ向いた。

 

「……で、ノンナさん、どうしたよ」

「今回、カチューシャの願いで『木曜どうでぃ』のロケに同行しましたが……流石にあんなものをカチューシャに食べさせるわけにはありません」

「「でも、ノンナさん(ノンノン)も結構楽しんでましたよね(楽しんでたよね)」」

「…………」

 

ノンナさんは明後日の方向へ向いた。超ヘタクソの口笛も(……これは、‘‘カチューシャ’’か?)も吹いている。

 

 

 

「……俺達は『‘‘あの料理’’を食いたくない』。そちらは『カチューシャさんに‘‘あの料理’’を食べさせたくないから、共闘できる』……と考えて話しかけたのか?」

「はい」

「カチュちゃんは寝てるから心配しなくてもいいんじゃない?」

 

理子はぶっきらぼうにそう言い放った後、テキーラのショットを一気に飲み干した。

 

「それだといいのですが……カチューシャは本日、いつもよりも長く昼寝をしています。もしかしたら……そろそろ起きてしまうかもしれません」

「確かに……あんな小っちゃい体で‘‘あんな物’’食ったら、普通に致死量行くな。」

 

カチューシャさんは平賀さんよりも小さな体の持ち主だ。俺達は平気でも……彼女にとってみれば致死量という可能性すらあり得る。

 

「タダとは言いません」

 

ノンナさんはそう言って……『1円』と書かれた小切手を俺達に一枚ずつ渡してきた。

 

「好きなだけ‘‘0’’を書いてもらって構いません。依頼料です」

 

 ……え?何?最初の‘‘1’’は書いたから、後は10円でも100万円にでもしてくれってことか?

 

俺は理子を見ると……理子は肩をすくめていた。流石に、理子もこんな依頼人は初めてなのだろう。

 

「学生一人が払える料金にはならねぇぞ」

「心配してくださらなくても結構です。カチューシャのためなので」

 

俺と理子は思わずため息をついた。

 

 ……依頼を受ければ必然的に‘‘アレ’’を食わされ、断っても‘‘アレ’’を食わされるのか。なんて貧乏くじだ。

 

渋々ノンナさんの依頼を受け、ため息をついた俺達は、嫌な現実を忘れようと……互いに盃をぶつけ、そのまま飲み干した。

 

 

「さぁさぁさぁ……中断していたエビチリの方、再開しますよぉ」

「「「「アッハッハッハ!!!」」」」

 

 

シェフ和泉(処刑執行人)と『どうでぃ軍団(悪魔たち)』の笑い声が……俺と理子の心で、残酷に響き渡った。

 

 

 

 

 




 あくまでも『四国 R-14』のキャラをモチーフにした架空の人物です。実在の人物とは一切関係ありません。



 『マグネットによる旅』……よく土産屋にある‘‘有名な建物や風景のマグネット’’で『絵はがきによる旅』をやる。
 実際、お金があればやってほしい。絶対面白そう。

 
 悲しいことに‘‘準レギュラー’’になってしまった二人。まぁ、『試験に出るどうでぃ』、『料理対決』、『(冒頭だけだけど)絵はがきによる旅』に出てますので。

 
イブキの身長は170センチありません。それに対してノンナは170センチ越えなので……。

 

 Next Ibuki's HINT!! 「エビチリ」 
 


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閑話:クリスマス特別編 下

 ネタ回は面白く書けますね。今まで以上に楽に書けました。

 春休みの間にさっさと書き溜めなきゃいけないのに……今までためっていたビデオやプラモやゲームもやりたい。それに金も欲しいからバイトも……。
 あれ?学校があるときよりも忙しいような……



 キャラ崩壊注意です。


「さぁさぁさぁ……中断していたエビチリの方、再開しますよぉ!!」

「「「「アッハッハッハ!!!」」」」

 

 そう言えば、和泉さんが作り始めて結構時間が経っているような気がする。腕時計を見ると……すでに午前3時を過ぎていた。

 

「シェフ和泉……。すでに3時を過ぎています」

「「「「アッハッハッハ!!!」」」」

 

ノンナさんの言葉に、さすがの『どうでぃ軍団』も笑いを隠せない。

 

「じゃぁちょっと急がないと」

 

シェフ和泉はコップ一杯の日本酒を飲んだ後、ショウガやニンニク、ネギを刻み始めた。

 

「「「「「「おぉ~!!!!」」」」」」

 

和泉さんは……あの料理からは想像できないほど上手に材料を刻み始めた。その光景に俺達は思わず歓声を上げる。

 

 

 

 

 

「じゃぁ、一番!!イブキ、マラカスやります!!」

 

酔っ払い、そして死期を悟った俺に怖い物は全くない。

 俺は第2中隊に所属していた時に覚えた宴会芸(マラカス)を披露する。披露する曲は俺の十八番、映画『マスク』で有名になった『Cuban Pete』だ。

 

「They call me ‘‘Cuban Pete’’!(訳:みんな俺を‘‘キューバン・ピートって呼んでるぜ!!)」

「いいぞぉ!!」

「よっ、村田屋!!」

「「「アッハッハッハ!!!」」」

 

途中、理子にフリ……理子は嬉しそうに、ノリノリで一緒に歌い、踊ってくれた。

 心なしか……理子の気分がよさそうなのは見間違いに違いない。

 

 

 

 

 

 

「では二番、ノンナ……歌います」

 

俺の後はノンナさんがロシアの歌曲『カチューシャ』を、とても流暢なロシア語で歌い上げた。

 途中から俺のマラカスも入れ、歌っていたノンナさんは……とてもノリノリで歌っていたのは印象的だった。

 

 

 

 

 

 さて、俺とノンナさんの熱唱の後……藤崎さんが呟いた。

 

「そう言えば安浦君ってまだバイトしてるの?」

 

その言葉に鈴藤さんが答えた。

 

「安浦君ね、これ早く終わらせて……バイト行こうと思ってるから!!」

「「「「「アッハッハッハ!!」」」」」

「ヤスケンは朝もやってるの?」

 

理子は安浦さんに聞くと……

 

「そらぁ当然だよ」←安浦

「いや……安浦君は、セコイ人間だからね。『自分は今でもバイトしてるんです』って言うのが売りなんだよ」←鈴藤

「違う違う……実際ね、この鈴藤(社長)の下だと食えないだよ!?」←安浦

「「「「アッハッハッハ!!!」」」」

 

俺達は思わず笑ってしまった。

 

「あれですよ、安浦さん。軍なら衣食住は心配ないですよぉ~」

「武偵もアルバイト以上に稼げるよ!!」

「プラウダの学園艦でも衣食住が保証されていますよ」

「俺……役者じゃなくてそっち行こうかな。」

「「「「アッハッハッハ!!!」」」」

 

 

 

 

 

「あれ?安浦さんって役者だったんですか?」

「……和泉とヤスケンって芸人じゃないの?」

 

俺と理子の疑問に……鈴藤(社長)和泉・安浦(社員たち)は黙ってしまった。

 

 

 

 

 

 さて、調理が進み……シェフ和泉がエビを油で炒めようとするのだが、全然炒める時の音がしない。

 

「音が鳴りませんなぁ……」

 

藤崎さんがそう言うが……それもそうだろう。火と言えば焚火(たきび)と、さっき持ってきた卓上コンロの2種類。

 焚火(たきび)は『おにぎりの包み焼 ニワトリ風』で使われているため、卓上コンロによる調理となるのだが……極寒の外の札幌(夜)でエビを炒めるほどの火力はない。

 その結果、エビを油で‘‘茹でる’’という異常事態が発生した。

 

「「……マズそうだなぁ」」

「「「…………」」」

 

 藤崎・鈴藤さんの言葉と、なかなか赤くならない白いエビを見て……俺・理子・ノンナさんの顔は青くなっていく。

 

 

 

 

 シェフ和泉は‘‘白いエビ’’(ちゃんと火が通ってないという意味)をフランベしようとして失敗し(寒すぎてアルコールが蒸発せず)、‘‘白いエビ’’を皿に移した。

そして空いたフライパンを使い、ソースを作り始めた。

 

「パパッと作りますからよく見てて!!まずニンニクとショウガ、これを入れます」

 

シェフ和泉は刻んだニンニクとショウガをフライパンの中に入れると……それらが焦げるいい匂いがする。

 

 ……ここまでは大丈夫だ。ここまでは。

 

俺は不安を拭い去る様にラムを飲み干した。

 

「次にケチャップを入れます。ポイントとしましてはケチャップをあまり多く入れないでください……あ」

 

ケチャップがチューブの4分の3入ったのだが……シェフ和泉は無視して先に進む。

 

「ここで豆板醤を入れます。」

 

豆板醤がビンの半分ぐらいの量がフライパンに落ちて行く。

 俺のグラスを持っている手が震えているように見えるのだが……きっと気のせいに違いない。

 

「紹興酒も入れます。ちょっとだけ入れm……あ」

 

紹興酒がドバドバとフライパンに注がれた。1合以上は入ったはずだ。

 

「そして先ほどエビの頭で出汁を取ったスープを……すっかり濁っていますが、入れます」

 

白濁しただし汁をフライパンに回し入れ、中の物をゆっくりとかき回していく。

 そしてシェフ和泉は出来上がったソースを味見し……「ん~?」という疑問の声を上げながら、いろんな調味料を握り始めた。

 

「……テレビでは面白かったのですが、実際はこんなにひどかったのですね」

「あんた分からないで来たのかよ!?」

「はい。ただ大げさにリアクションしていると思ったのですが……」

 

ノンナさんはクールにそう言っているが……俺はそれを見て確信した。

 

 ……この人、有能そうに見えて何処か抜けている人だ。

 

だって……前回の『料理対決』を見ていたら分かるはずだ。

 10月とはいえ、外で2時間も生のシャケをいじり倒し、野菜と冷凍のエビ(生)でスープ(スムージー)を作る人間だぞ!?

 

 

 

 

 

 

 ノンナさんが問題発言をしても……シェフ和泉の料理の手は止まらない。

 

「……え~と、何を入れましょうか?」

 

ノンナさん以上にヤバい発言をしながら……シェフ和泉は塩、コショウ、レモン汁をどっさり入れ、豆板醤のビンを持った。

 

「いまいちなんで豆板醤を足しまsh……」

 

そう言ってフライパンに豆板醤を入れようとし……ビンの中蓋(なかぶた)が入って行った。

 

「ちょっと待って!!今何か入ったよ!?」

「何入れちゃってんの!?」

 

藤崎さんと鈴藤さんがフタのことを気にしているが……そっちよりも豆板醤の量だ。

 シェフ和泉はフタが入ってしまったことに驚いたのか……一瞬固まってしまった。そのせいで、豆板醤全てがフライパンに入ることになった。

 

「しょ、紹興酒もちょっと足しまsh……うわぁ!!」

 

シェフ和泉はウォッカを一気に飲んで気持ちを落ち着かせた後、紹興酒を入れようとした時に足がもつれて転んでしまった。その時……紹興酒のビン(口は開いている)は見事な放物線を描き、フライパンの中へ入った。

 シェフ和泉は慌てて立ち上がり、紹興酒のビンを救出するが……‘‘時すでに遅し’’。紹興酒のほぼ全てがフライパンの中に入った。

 

「「「アッハッハッハ!!!」」」

 

『どうでぃ軍団』はこういう事に慣れているのか、笑って流している。しかし、俺・理子・ノンナさんの表情はさらに青くなった。

 

「では、ソース(これ)がグラグラッて来たら……最後にエビを入れて完成です。」

 

そう言って10分後、一向にグラグラッと来ないソースに見切りをつけ、火があまり通ってないエビを放り入れて『エビチリ』が完成した。

 

 ……結局何を入れたんだ?

 

『シェフ和泉のエビチリ 

 材料

 ・火がほぼ通ってないエビ

 ・ニンニク、ショウガ

 ・ケチャップ(4分の3)

 ・豆板醤(ビン1本)

 ・豆板醤のビンの中蓋(なかぶた)

 ・紹興酒(720ml)

 ・エビのダシの白濁スープ

 ・塩、コショウ、レモン汁(大量)』

 

 ……思い出さなきゃよかった。

 

俺は頭と胃が痛くなる。この料理、どう考えても……美味くなるはずがない。

 

「理子、胃薬くれないか?」

「イブイブ、その代わり頭痛薬ちょうだい?」

「……私にもください」

「「どーぞどーぞ」」

 

俺・理子・ノンナさんは薬と一緒に……水盃(みずさかずき)を交わし合った。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、中華って音なるじゃん。」

 

藤崎さんが呟いた。すると、シェフ和泉は盛りながら反論を始めた。

 

「だからそれが火力なんだって……。こんなコンロにそんな火力あるわけないでしょ?」

「火が通ってないエビも入ってたけど……本当に食える物なのかい?」

「しょうがないでしょ!?こんなコンロしかないんだから!!……煮込んじゃってたんだもの、グツグツと!!弱火で!!」

 

そして、シェフ和泉は盛りつけられた大皿を持ってきた。

 

「しかしですね、これ絶対美味いよ!!……‘‘エビチリ’’で御座います!!」

「「「「おぉ~!!!!」」」」

 

声色を変え、自慢げにその大皿を出してきた。

 レタスの上に盛られたエビチリは鮮やかな朱色をしており、確かに見た目は美味そうだった。あの‘‘白いエビ’’もソースのせいで赤く見える。

 

……でも、材料から考えるとクソマズそうなんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは実食です」

 

 小皿に分けた後……顔が青いまま箸をつけようとしない俺達を見て、鈴藤さんが笑顔(目は笑ってない)で食べ始めた。

 俺達が固唾(かたず)をのんで見守る中……エビチリを口に入れた鈴藤さんは目を閉じ、ゆっくりと何回も咀嚼してから飲み込んだ。

 

「……コクはなく、うま味もない。ただ、後味が(から)い」

 

鈴藤さんは、ゆっくりと感想を述べた。

 

 ……え?ソースはともかく、あのエビは食えるのか?

 

というか、鈴藤さんは吐き出しもしなければ……顔をしかめることもしていない。そこまで余裕があるのか!?

 

 

 

「いやいや、きっとそんなことないはず……」

「安浦エビ好きだったでしょ?これきっと気に入るから!!」

 

今度は安浦さんがエビチリを頬張ると……

 

「フフフフ……」

 

急に安浦さんが笑い始めた。

 

「お前これ……高血圧で死んじゃうよ!!」

「なんで!?」

 

安浦さんもそんな事を言っているが……ちゃんと飲み込んでいる。

 

 ……マズいが、食えないって程じゃないのか?

 

 

 

 俺は意を決し、エビチリを口にした瞬間……

 

「うごぉおおおおおお!?」

 

まずエビの生臭さが口の中いっぱいに広がり、紹興酒がその生臭さをさらに引き立てている。その次にケチャップの風味がわずかに香った後、以上なほどの酸味と塩気が襲ってくる。最後に豆板醤の辛さが喉と舌の細胞を破壊し始め、胃が飲み込んだ物に対して拒否反応を起こす。

 

 ……マズいどころの話じゃねぇぞ!?

 

俺は思わず席を立ち、雪上で吐いた。

 

「「「アッハッハッハ!!」」」

「吐いちゃったよ!!」

 

『どうでぃ軍団』はそんな俺を見て、(はや)し立てて笑っている。

 

 ……なんでこんな物食って平気なんだよ!!

 

俺は……胃の中の物全部を吐き出した。

 

 

 

 

 

 とりあえずトイレの洗面台で口をゆすぎ、席に戻る途中……顔を真っ青にした理子が入違いざまにトイレへ駆け込んだ。

 

 ……あ、理子も食ったんだな

 

女子トイレからは……女の子が出してはいけないうめき声と、流体が(こぼ)れ落ちる音がするのだが、気にしないようにしよう。

 

 さて、席に戻ると……ノンナさんが無表情で、しかし悲壮感を漂わせながら覚悟を決めて食べようとしていた。

 ノンナさんはエビチリを口に入れた瞬間……白目を向いて痙攣(けいれん)を起こし、ばったりと倒れてしまった。

 

「ちょ、ノンナさん!?ノンナさーん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が作るものはおかしいんだって、やっぱり!!」

 

焚火の近くに簡易ベッドを作り、ノンナさんを寝かした後……藤崎さんがシェフ和泉を非難した。

 

「そうだよねぇ!?マスター?」

「うん、やっぱりおかしい」

 

藤崎さんに同意を求められた鈴藤さんも……同じ感想を言う。

 

「あぁ、分かったこいつの味覚はおかしいんだ」←安浦

「前回は酔ってなくても悲惨だったんですから、少なくても飲みながら作っちゃまずいでしょ」←俺

 

俺と安浦さんも同意した瞬間……俺達に向かってシイタケが飛んできた。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!」

 

とうとうシェフ和泉の堪忍袋が破裂したようだ。藤崎さんや鈴藤さんにもシイタケを投げながら咆哮する。

 

「お前ら作ってみろよ!!なんだ!?この小っちゃいガス台で作ってみろよ!!誰がどうやったってこうなるんだよ!!!」

「でも豆板醤と紹興酒の件はガス台関係ないですよね?」

「お前早く食えよ!!この残ってるやつ全て、お代わりもあるから全部食えよ!!」

 

俺の余計な冷やかしに……シェフ和泉は余計にヒートアップする。しかし……これがまずかった。このシェフ和泉の声で……『眠れる暴君』を起こしてしまったのだ。

 

 

 

 

「ふあぁ~……。あれ、ノンナ?」

 

カチューシャさんは隣で寝て(気絶して)いたノンナさんのほっぺたをツンツンと人差し指で突いて遊んだ後、エビチリを見つけてしまった。

 

「……あぁ!!料理ができてるじゃない!!何でカチューシャを起こさなかったのよ!!」

 

彼女はそう言ってベッドから降り、こっちに向かってきた。

 

 ……この‘‘エビチリ’’を食べる気か!?

 

 

彼女の身長は130㎝以下である。その身長と彼女の細い体から……体重は25㎏ほどしかないと予想できる。

 そして毒物の致死量と体重は比例する(個人差はあるが)。カチューシャさんは俺(約75㎏)の3分の1しかないため……俺が耐えられる量の3分の1ほどしか耐えられない。

 

 

 何を言いたいのかというと……一口で俺がダウンしたのだから、カチューシャさんが耐えられるわけがない。というか最悪死ぬ可能性も……

 

「うおぉおおおお!!!」

「え、村田君……?え?」

 

俺は急いで‘‘エビチリ’’の大皿抱え、一気に口へ流し込んだ。胃が拒否反応を起こし、思考力が麻痺(マヒ)していくのが自覚できる。

 

「アッハッハッハ!!」←藤崎

「死んじゃう、死んじゃうから!!」←鈴藤

「無理しなくていいから!!」←安浦

「ほら、やっぱりハマる人にはハマるんだよ!!」←和泉

「…………ん?」←ノンナ

 

俺が大皿の‘‘エビチリ’’を食べ終わった時、起きたノンナさんと目が合った。

 

 『ノンナさん……俺、やったよ』

 『感謝します。同志ムラタ』

 

目線で彼女と会話し、俺はサムズアップをしながら……ゆっくりと雪上に倒れていく。

 

「か、カチューシャの分が……」

「お嬢ちゃん、お代わりあるから気にしなくていいよぉ?」

「本当!?」

 

 ……え?まだあったの?

 

俺は冷たい雪の上で気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はエキシビジョンマッチにおいて、玉戦車(クーゲルパンツァー)に乗っていた。

 

「クソッ。最初に会った時とは打って変わって雰囲気が全然違うじゃねぇか!!」

 

 ドンッ!!カキン……ドカーン!!

 

俺は‘‘東京での大事件’’の時に出会った少女が乗っている戦車に追い回されていた。キューポラから乗り出す彼女の瞳は鷹のように鋭く、(いにしえ)の名軍師のように深い。

 俺はそんな彼女が乗る戦車から放たれた砲弾(7発目)を刀で弾く。

 

「華さん、何度も外してますがどうかしたんですか?」

「いえ、確実に当たっているはずなのですが……」

 

 

戦車道のルールでは『搭載される予定だった部材を使用した装備品のみ』使用可能というルールがある。

 しかし、玉戦車(クーゲルパンツァー)は謎が多く……出自・武装・利用方法等が一切分かっていない。分かっていることは『満州で鹵獲されたこと』・『装甲が5ミリであること』だけだ。

 

 

 以上より、この玉戦車(クーゲルパンツァー)に何を搭載しても大丈夫なのだ。

 (ただし、一人乗りで戦車も小さいため……搭載できるのは『兵一人で持てるドイツ・日本製の武器』・『通信ケーブル』に限られるが)

 なので刀を使っても問題はない。

 

「ハハハッ!!どうだ当ててみやがれ!!」

 

  カチン!!

 

「沙織さん、機銃を前の戦車に向けて撃ってください」

 

  ダダダダダダダ!!!

 

「え?ちょ、待って!?」

 

この玉戦車(クーゲルパンツァー)は機関銃の弾も抜けるほどの紙装甲なので……

 

「というか生身の人間にも当たるから!!待っt……ゴフ」

 

俺は爆発した戦車から転げ落ち、彼女の戦車に轢かれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあああああ!!」

 

  ガツッ!!

 

俺は悪夢から目覚め、飛び起きた瞬間……額に何か固いものがぶつかった。

 

「「ぐぉおおおお!!」」

「「「「アッハッハッハ!!!」」

 

何とか痛みが引き……俺は周りを見ると、『(あご)を抑えている理子』・『‘‘朱色の何か’’を口から垂れ流しながら、白目をむいて気絶しているノンナさん』がいた。

 天幕のほうでは、カチューシャさんと『どうでぃ軍団』が楽しそうに‘‘ニワトリの丸焼き’’を食べている。

 

 ……ノンナさん、‘‘お代わり’’の分を食べてこんな姿に

 

俺はノンナさんの尊厳を守るため、ハンカチで彼女の口周りを拭いて(まぶた)を閉じさせた。そして自分の上着を彼女にかける。

 

「うぅ……」

「……理子ごめん。大丈夫か?」

 

俺は理子を立たせ、一緒に席に戻った。

 

 

 

 

 

 俺達が席に戻ると……シェフ和泉は待ってましたとばかりに『おにぎりの包み焼 ニワトリ風』を取り分け、それを出す。

 

「「……」」

 

俺と理子は‘‘エビチリ’’のトラウマがあるため……どうしても食べたくはない。

 

 ……というか、ちゃんと焼けよ

 

 鶏肉は表面がカリカリ、中は鮮やかなピンク色をしている。焚火(たきび)なので火の調整が難しいのは分かるが……せめて表面は焦げてもいいから中まで火を通してほしい。

 

「そういえば、あんた達」

 

俺のはす向かいに座っていたカチューシャさんが急に食べるのをやめ、ナイフを理子に向けて訪ねてきた。

 

「「……?」」

 

すると彼女はナイフとフォークを品よく置き、頬を朱に染めた。

 

「その……カチューシャの代わりに‘‘アレ’’を食べてくれたんでしょ?」

「……理子も食ったのか?」

「…………イブイブほどの量じゃないけどね」

 

理子は‘‘アレ’’を思い出したのか……目は朦朧(もうろう)としており、皮膚が黄土色に変わっていく。

 

「その……ありがと

「「おぉ~……」」

「いいよ、カチューシャちゃん!!それで仲良くなれるよ!!頑張って!!」

 

カチューシャさんの言葉に……藤崎さん・安浦さんが歓声を上げ、鈴藤さんはまるで‘‘子を見守る親’’の様に応援する。

 

「「……」」

 

 ……流石にノンナさんがあんな風になったら気付くか

 

俺と理子は目で会話した後、互いにハンカチを手にし……

 

「「口についてるぞ(ついてるよ)」」

 

カチューシャさんの口を拭いた。すると、カチューシャさんは顔を真っ赤にしてカンカンに怒る。

 

「ちょ、何するのよ!!」

「「「アッハッハッハ!!!」」」

 

 ……なるほど、ノンナさんがカチューシャさんを可愛がる理由がよくわかる。

 

その後、俺と理子はカチューシャさんを揶揄(からか)い、彼女の反応を楽しんだ。

 

 

 

 

 理子はカチューシャさんの肉(なぜかそれだけは火が通っている)を切り、フォークで彼女の口元に運ぶ。

 

「カチュちゃん!!‘‘アーン’’!!!」

「だから、‘‘アーン’’はいらないわよ!!」

「クククク……カチュちゃん!!冷めちゃうから早く食べなきゃだめだよ!?ほら、‘‘アーン’’」

「…………アーン

 

カチューシャさんはその肉を食べた後、俺はすかさず彼女の口元を拭く。

 

「汚れてるぞぉ~」

「分かってるわよ!!!」

「「「アッハッハッハ!!!」」」

「ここは会社の駐車場ですよ!?」

 

その時……シェフ和泉が女性を連行してきた。彼女は俺達のやっているパーティーを見てパニックになっている。

 

「何燃やしてるんですか!?」

「彼女はですねぇ~。朝のニュース番組『おはよう 北海道』のニュースキャスター、‘‘石田葵(いしだ あおい)’’です!!」

 

シェフ和泉は彼女を落ち着かせ、『おにぎりの包み焼 ニワトリ風』を食べさせるが……石田さんはむせて、顔が真っ青になる。そして口を押さえ、小刻みに震えている。

 

 ……あの部位はほとんど生のところだ。早朝からあんなもの食べさせられて可哀想に。

 

俺はカチューシャさんの口元を拭きながら、心の中で合掌した。

 

 

 

 

 

「いつまで拭いてるのよ!!痛いじゃない!!」

「あ、ごめん」

「「「アッハッハッハ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 その後、通りかかる『朝のニュース番組のスタッフ達』に料理をふるまい(喰らわせ)……とうとう時刻は午前5時、やっと俺達は地獄から解放される時刻だ。

 

「じゃぁ皆さん、お疲れさまでした。」←俺

「おぉ!!もうそんな時間ですか!?」←藤崎

「あ、もう5時か」←鈴藤

「気をつけて帰りなよ?」←安浦

「また今度も喰らわせるかr……」←シェフ和泉

「……あ?」←理子

 

シェフ和泉の言葉にとうとう理子はキレてしまい……裏理子で対応してしまった。

 

「おまえ!!あんなもの食わせといてそんなk……」

「理子!!落ち着けって!!テレビの前だから!!なぁ!!」

 

両手にナイフを持ってシェフ和泉を襲おうとする理子を羽交い絞めにし、俺は何とか落ち着かせる。

 

 

 

 

「……りこりん・ジョークだよ?……てへっ」

「「「「「「…………」」」」」」

 

理子は何とか落ち着き、ぶりっ子のようにふるまうのだが……殺気丸出しで襲おうとした理子を見ているために全員ドン引きしている。シェフ和泉なんて腰を抜かしたのか……雪上の上で尻もちをついて固まっている。

 

「あぁ~……シェフ和泉の腕は次回期待しましょう。流石に本人も酔っぱらって作ったら悲惨なことになることは理解できただろうし」

「そ、そうですね……」

 

俺の言葉に鈴藤さんが声を上ずらせながら答えた。

 

「いやぁ本日はありがとうございました。…………あ、和泉さん。後で社屋裏に来てください」←俺

「バイバ~イ!!…………ちゃんと社屋裏に来いよ?」←理子

「「「アッハッハッハ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 さて、俺達は痛む胃腸を無視し……地下鉄の駅へ向かおうとすると、何かに服を引っ張られた。その方向を向くと……カチューシャさんが俺達の服を引っ張っていた。

 

「カチュちゃん、どうしたの?」

「……トイレは向こうだぞ?」

「違うわよ!!!」

 

カチューシャさんは怒鳴った後……右手を俺達に出してきた。

 

「……ん!!」

「「…………?」」

 

俺と理子は視線で会話した後……理子はハンカチ、俺は消毒用アルコールを出してカチューシャさんの右手を拭き始めた。

 

「そう、右手が汚れてたn……ってアホか!!」

「おぉ~カチュちゃん!!とうとう乗りツッコミを覚えましたか!!」

「そんなに成長して……俺は嬉しいよ……」

「あんたはあたしの親じゃないでしょうが!!」

 

 ……一々反応するから揶揄(からか)われるのに

 

俺はそう思いながら消毒用アルコールをしまった。すると、カチューシャさんはそっぽを向き、小さな声で呟き始めた。

 

「今日は楽しかったわ。その……ありがと」

「「……こちらこそ」」

 

俺と理子が笑顔でカチューシャさんに握手をすると、近くに小さな乗用車が止まった。その乗用車は今ではなかなか見られない古いタイプの車だが……隅から隅まで丁寧に整備されていることがすぐに分かる。

 その車から金髪美女(スタイル良し)が下りてきて、俺達の方へ向かって来た。

 

「カチューシャ様、お迎えに上がりました」

「あ、クラーラ!!」

「ノンナ様は……眠ってらっしゃるようですね」

「「あぁ~…………」」

 

俺と理子は気絶しているノンナさんを見た。遠目から見れば、安らかに眠っている美女に見えるのだが……近くから見れば、寝顔が恐怖で歪んでいるのがよくわかる。しかも時々(うめ)いているし……。

 

「困りました。まさかノンナ様が寝るなんて……」

 

小さな乗用車には誰も乗っていない。金髪美女一人で来たのだろう。彼女の細腕で気絶して(眠って)いるノンナさんを運べるとは思えない。

 俺はため息をついた後、ノンナさんに近づいて‘‘お姫様抱っこ’’をした。

 

 ……普通だったらこの状況、嬉しいのになぁ。

 

ノンナさんの顔は恐怖で歪んでおり……また‘‘お姫様抱っこ’’の時に口が開いてしまい、そこから泡を吹いている。それに薄目を開いており、そこから見える白目が怖い。

 

「「おぉ~!!」」

「村田君、以外にプレイボーイだね!!」

「青春だね~」

 

 後ろの声を無視して俺はノンナさんをその乗用車の後部座席に乗せた。そして薄目を開いている瞼と口を閉じさせ、口元を拭く。

 そう言えばノンナさんに俺の上着をかけていたのだが……このままでいいか。どうせ軍の横流し品で、タダ同然で貰ったものだし。

 

「ありがとうございます。……えっと」

「村田です。……カチューシャさん、ちゃんと歯磨けよ?」

「カチュちゃん、風邪ひかないようにね?」

「だから!!あんた達は親か!!」

 

カチューシャさんは腕をグルグル回して俺に攻撃しようとするので、俺は彼女の頭に手を置いて腕を届かないようにする。その様子を見ている金髪美女は目を白黒(白碧?)しているが……無視する。

 

「うぅ~……!!!」

「じゃ、カチューシャさん。またいつか。」

 

俺と理子は再び歩き始めると……再び俺のすそを引っ張られた。振り向くと……やっぱりカチューシャさんが裾を引っ張っていた。

 

「あんた!!同い年なんだからカチューシャ‘‘さん’’はないでしょ!!……カチューシャ‘‘様’’と呼びなさい!!」

「……じゃぁな、カチューシャ‘‘ちゃん’’」

「‘‘様’’でしょ!!」

 

俺は未だに裾を引っ張るカチューシャさんを無理やり離した。

 

「来年も優勝したら呼んでやるよ。カチューシャ‘‘ちゃん’’」

「…………後悔しても知らないわよ!!来年もカチューシャが優勝するんだから!!」

「期待してるよ」

 

俺達は歩く速度を早くし……地下鉄の駅へ向かった。

 

 

 

 

 俺が『カチューシャ‘‘様’’』と言うことになったかどうか……『ガールズ&パンツァー』の内容を知っていれば分かると思う。

 

 

 

 

 

 

 

「カチューシャ様?あの人達は……」

「カチューシャの友達よ!!」

「……(ブクブクブク)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、俺と理子は地下鉄の駅のトイレにこもり、その後も札幌駅のトイレに引きこもった。そのせいで『札幌~新函館北斗』行きの特急に乗り遅れたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで問題はなくなったわね。」

 

とある学園艦の一室で、美少女は紅茶を飲みながら呟いた。

 

「問題…‥ですか?」

 

ギブソンタックの髪型をした幼い少女はポットを持ちながら聞いた。

 

「えぇ、わが校はプラウダへ紅茶を売り、そのお金で‘‘彼’’から『木箱』を買っているのは知っているわね。」

「はい、村田さんから送ってもらっているそうですね。」

「でも……このままではイブキさんだけ儲かってしまうわ。わが校の予算も潤沢と言うわけではないの。」

 

そう言った後、美少女は優雅に紅茶を飲んだ。

 だが、今の言葉で幼い少女は理解できなかったようだ。

 

「ですが、それがなぜ村田さんとプラウダを親密にさせることになったのですか?」

「彼はお酒が好きでしょう?『木箱』で得たお金でプラウダからウォッカを買う(正確には寄付)ことで、『プラウダ→グロリア―ナ→イブキさん→プラウダ』というお金のサイクルができるのよ」

 

美少女はそう言うと、再び紅茶を飲んだ。その姿はまるで一つの完成された美しい絵画の様だった。

 

「イピカイエー・マザー〇ァッカー!!動きやがれですの!!」

「ろ、ローズヒップ!?なんて言葉を!?」

「でも……この掛け声が無いとこの子は動かないのですわ」

 

 幼い少女には今の事は理解できなかったようだ。そこで窓の外を見ると……金髪美少女に怒られている紅髪少女がいた。

 

「……ローズヒップさんの口癖は治りませんね」

「多分一生治らないと思うわ」

 

 

 

 

 

 

 実はイブキにとって『木箱』の利益はほとんどなく、そこまで効果が無かったそうで。

 




 何故イブキがマラカスができるかは……次回、分かります。


 『どうでぃ軍団』は『自称:試食のプロ』と言っていますが……その実力が分かるはず。


 あのノンナさんがキャラを崩壊させるほどのマズさ……。どんな料理か分かるはず。


 ‘‘東京での大事件’’は次章になります。今のところ、事件の核心に‘‘大洗の軍神様’’は深くは関わらないことになっています。


 マジで『クーゲルパンツァー』の細かいことは分かっていません。だから何を乗せても文句は言われない!!


 石田葵さんは今後出る予定はありません。


 カチューシャにとって(おそらく)初めての学校外の友達と思っているため、ご本人は実はとても嬉しかったとか。


 『木箱』の件は「極東戦役:極東編 ‘‘HSS’’ってなんだよ…‥」より


  次回は『閑話 極東戦役:極東編』のため 『Next Ibuki's HINT!!』はありません。 


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閑話 極東戦役:極東編

急いで次章を書かないと……


 ヱビスビールのエールが出て狂喜乱舞中の作者です。


1:新人歓迎

 

 これはまだ……イブキがHS部隊第二中隊に入隊し、一年目の新人だった頃の話である

 

 

 

 どこの職場にも‘‘悪しき風習’’という物はあるもので……ここ、HS部隊第二中隊に入隊一年目の人間は忘年会の余興で、一つ芸を披露するのが伝統だそうだ。

 

 ……クソ!!滅んでしまえ、そんな伝統!!

 

俺は思わずため息が出た。もちろん、そんな余興のネタなんて持ってない。

 

 ……‘‘影が薄くなる技’’のネタは使えないしなぁ。

 

‘‘影が薄くなる技’’は同じ部隊の狙撃兵:岩下一等兵曹もできるため……見慣れているだろう。

 

「……どうしたらいいんだ!!!」

 

久々の休みの日、俺は駐屯地のベンチで頭を抱えた。どうせあの鬼上官達だ。面白くなかったら訓練で半殺しにしてくるだろう。‘‘島流しからの遠泳’’か、‘‘冬山に置き去り’’か、‘‘登山道無視の直線行軍’’か、‘‘1対数百の数日間連続鬼ごっこ’’もあったっけ……

 

 ……最悪、裸踊りでもするしか……ない!?

 

 しかし、裸踊りなどしたことがない。

 

「どうした?村田?」

「……あ、ジミさん」

 

今日は清掃員の服装ではなく、ピエロの格好をしていた。また仕事変えたようだ。

 

「悩みがあるんなら聞くよ?」

「実は……」

 

 

 

 

 俺は……忘年会の余興のネタがない事をジミさんに相談すると。

 

「な~んだ、村田。そういう事か」

 

ジミさんはそう言って、一枚のチラシを渡してきた。

 俺はそのチラシをもらい、見てみると……

 

『君にも‘‘余興の芸’’がすぐ身につく!!忘年会前の特別講座』

 

という文字と共に、『ジミさんがマラカスを持ちながら大玉に乗り、額で皿回しをする』写真が載っていた。

 

「……なんです?コレ」

「年末になるとこういうので悩む人が多いんだよ。最近の仕事はこれ。」

 

そう言った後……ジミさんはジーッと俺を見た。

 

「……なんです?」

「……村田!!」

「は、はい!?」

「君には‘‘マラカスの才能’’がある!!マラカスをやらないか!?」

 

 俺はそう言われ、ジミさんに襟首を掴まれ……そのまま引きずられていった。

 

「……え!?ちょっと待って……マラカス!?」

 

 

その後、俺はなんだかんだあって週2回・1回2時間の授業をジミさんにしてもらい……マラカスを覚えていった。(なお月謝30万)

 

 

 

「では、村田少尉!!マラカスをやります!!!」

 

忘年会当日、俺は気合を入れてマラカスを握った。ジミさん曰く『プロは無理でもアマチュアならいいところまで行く』そうだ。

 俺はその言葉で自信をつけ、堂々と……壇上へ上がる。壇上へ上がると、部隊のみんなは‘‘可哀想なものを見る目’’で見てきた。

 

「お、おい……イブキ少尉?まさかお前……ジミに教わったのか?」

「……?そうですけど?」

 

田中さん(田中曹長)の質問に答えると……部隊の全員が大きなため息をついた。

 

「どのぐらい払ったんスか?」

「えっと……30万ほど……」

 

みんな入隊一年目の時……ジミさんに(そそのか)され、高い金を払って微妙な宴会芸を教わったらしい。

 

 ……アレ?言われれば、マラカスに月30万ってぼったくってるだろ。

 

俺は心がブルーのまま……マラカスを振り始めた。意外にもマラカスが好評だった。

 

 

 

 

 この3年後、イブキが武偵高校に出向した年の年末。あるテレビ番組:『紅白歌の祭典』においてジミさんがマラカスだけで出場し、一夜にして名声を勝ち取ることになるのだが……その話はいずれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

2: 果物の王様

 

 

 

 武偵高校男子寮の屋上で、俺・ジャンヌ・キンジ・中空地さん・ワトソン・リサは‘‘あるもの’’を中心に、円形なって座っていた。

 

「なぁジャンヌ。俺は‘‘これ’’を‘‘君のために’’プレゼントしたんだ。それを返品だなんひどいじゃねぇか」

 

ジャンヌは俺の言葉を聞くと、鼻で笑った。

 

「こんな高価なものを一人で独占するのはもったいないと思ってな。貴様もこんなものは食べたことがないだろう?」

 

 ……確かに、食べたことはない。食べようとも思わないが。

 

俺は‘‘それ’’を意識してしまい、思わず臭いを防ぐために鼻をつまんだ。

 そう、俺たちの目の前にあるものは……『果物の王様:ドリアン』だ。

 

 

 ドリアンとは……主に東南アジアで栽培される、栄養豊富な果物だ。その栄養豊富さから、昔の王が精力増強として食しており、そこから‘‘果物の王様’’となった……という説もある。

 

 

 目の前にある‘‘それ’’は……俺とキンジがジャンヌへのお見舞いの品として贈ったものだ。

 しかし、そのドリアンは送ったころよりも臭いがきつくなり、色も緑から褐色に変化し、割れ目も見えている。これらは熟している証拠だ。ジャンヌは見事に追熟に成功したようだ。

 

「呼べるだけ呼んでみたのだが……これしか来ないとは」

「友達少ねぇんだな」

 

 ……クソッ。ジャンヌの友達が多ければ、一人当たりのパイ(ドリアン)がさらに少なくなっt……

 

  ドスッ……!!

 

「ぐおぉ……」

 

ジャンヌの腹パンを受け、俺は腹を抱えながら苦悶の表情を受けべる。

 

「『緊急の話があるから』って聞いて急いできたんだが……帰っていいか?」

「キンジ、お前だけ逃げるなんて卑怯だぞ。」

 

急いで逃げようとするキンジの足首をつかみ、俺は逃げられないようにする。

 

「離せ!!イブキが送った奴だから俺には関係ないだろ!?」

「名義上は‘‘俺とキンジ’’なんだよ!!諦めろ!!」

 

俺がキンジを羽交い絞めにしている間……リサは黙々とドリアンを切り分け、小皿に分配した。

 

「皆さん、お好きなものを取ってください。」

 

リサの言葉に俺とキンジ以外は急いで量の少ない皿を奪い始める。俺とキンジは急いで喧嘩を止めるが……すでに量が多い物しか残ってない。俺達は渋々、量が多い皿を選ぶ。

 

「あ、イブキ様!!リサの分もどうぞ!!」

「え?ちょ、待っt……」

 

リサは自分の皿の半分を俺に分けてきた。俺はリサの顔を見ると、彼女の顔に悪意は一切ない。

 

「ドリアンは栄養豊富なんですよ!!最近お疲れのイブキ様にはもってこいです!!」

「お、おう……」

 

リサは悪意が一切ない、‘‘晴天の避暑地に咲くひまわり’’のような笑顔を俺に見せてきた。俺はその笑顔を見て、少しでも疑ったことへの罪悪感に襲われる。

 

 ……でも有難迷惑(ありがためいわく)なんだよなぁ。

 

俺はクリーム色の果肉を見ながらため息をついた。

 

「うっ……」←ジャンヌ

「ゴフッ……」←ワトソン

「……」←中空知さん

 

ジャンヌとワトソンは今にも死にそうな表情をしながら食べている。それに比べて中空知さんは無言で、しかも心なしか美味そうに食っている。

 

「……お?」

 

俺も意を決し食べてみると……口と鼻に異臭が広がっていくが、舌には癖になるような甘い味が広がっていく。

 

 ……臭いと味のギャップがひどい。

 

この匂いに耐えられた者にしか味わえない、最高の味だ。確かにこれは‘‘果物の王様だ’’。

 

 ……好んで食べようとは思わないが。

 

 何とか自分の分を完食し、貧乏性の俺は今にも死にそうなワトソン(衛生兵)ジャンヌ(騎士様)の分を『もったいない』と食べようと……

 

「……(ジー)」

「あの、中空知さん……食べる?」

「え……あ、むら……むたら君。い、いいの?」

「「……うっ」」

 

ジャンヌとワトソンは自分の皿を俺と中空知さんのそばに置くと、そのまま気を失った。

 

「ちょっと!?ワトソン!?ジャンヌ!?」

 

俺は二人を慌てて救護科(アンビュラス)へ連れていく後ろで……中空知さんが残ったドリアンをむさぼっていたそうだ。

 

 

 

 その後……月に1回、スキップをしながらドリアンを買う中空知さんが見られるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

3: ミニチュアボトル

 

 

 

「すいません、お届け物です」

「はい~」

 

俺は荷物を受け取ると……流暢なラテン語で書かれている。

 

「『Status Civitatis Vaticanae』?……バチカン市国!?」

 

 まさかラテン語を使うことがあるとは……と思いつつ、俺は箱を開けた。すると中には、弾頭がカラフルに塗装された10発ほどのライフル実包が入っていた。隠語が『ミニチュアボトル』だった理由も、ライフル実包特有の‘‘くびれ’’で理解できる。

 

 ……これが‘‘武偵弾’’か。

 

 メーヤが『支援物資を送る』と言っていたのを思い出した。アリアの.45ACP弾、キンジの.50 AE弾はすぐに届いたが……俺の分はなかなか届かなかった。

 

 

 俺は一発持ってその弾を観察してみると……自分が使っている実包と形が全く違う。俺は慌てて38式実包を出してみるがやっぱり形が違う。

 武偵高の教科書を引っ張り出し、その実包を調べると‘‘.303ブリティッシュ弾’’であることが分かった。

 

 ……こんな弾を使う銃なんて使ってねぇよ。

 

俺はパソコンを開き、メールでメーヤに連絡すると……パソコンにテレビ電話の通知が来ている。俺はそのアプリを起動させると……メーヤからだった。

 

 

 

『おはようございます……イブキさん』

 

メーヤは寝起きだったのか、あくびをしながら目をこすっていた。彼女はネグリジェを着ていたため、その豊満な体が……

 

 ……いいか俺?向こうはシスター。下手なことをすれば『HELLSING』のアンデルセンがすっ飛んでくるんだぞ?

 

俺は‘‘鉄の意志’’で男の欲をねじ伏せる。

 

「あぁ、おはよう。あのさ、メーヤ。武偵弾、届いたのはいいんだけど……」

『それは良かったです~』

 

メーヤは眠たそうにしながらも、聖母の様な美しい笑みでうなずく。その仕草(しぐさ)で彼女の豊満なものがたゆんと揺れ……

 

 ……おい、どうした‘‘鉄の意志’’!?

 

俺は急ぎ‘‘鉄の意志(ペラペラに薄い)’’で視線を戻す。

 

「あのさ……弾薬が違うんだけど……」

『……?ちゃんと武偵弾を送ったはずですけど……』

「いや、そうじゃなくて…….303ブリティッシュを俺は使ってな……」

 

  ゴーン……ゴーン……

 

パソコンから荘厳な鐘の音が聞こえる。その瞬間、メーヤはハッと眠たそう目を見開き、ネグリジェに手をかけた。

 

「え!?ちょっと!?」

『あぁ!!礼拝の時間なのでまた後でお願いします!!』

 

  プツン……

 

メーヤは急いで着替えながらテレビ電話を切った。

 

 

 

 

 ……これ、どうしよう。

 

 俺は武偵弾(ミニチュアボトル)に目を向けた。やっぱりその箱には.303ブリティッシュ弾が入っている。

 武偵弾は一発で数十万~数百万はするらしい。それを『もう一回送れ』というのも気後(きおく)れする。

 

 ……この弾を使うのは、『リーエンフィールド』・『ルイス軽機関銃』・『ヴィッカース重機関銃』とか。そう言えば『ウィンチェスター』も使えたっけ?

 

 機関銃は銃剣つけて振り回せないし、38式があるから『リーエンフィールド』も『ウィンチェスター』もいらない。

 

 

 

 結局薬莢を外し、弾頭を投げるか自爆かのどちらかになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

    極東戦役:欧州戦線にて

 

「これでどうやって戦えばいいんですか!!」

 

矢原嘉太郎(兄者さん)臨時少尉(野戦任官で昇進)がリバティーメイソンからの補給品である『リーエンフィールド(骨董品の銃)』を地面に叩きつけた。

 

「いつの時代の戦いだと思ってやがるんですか!?べらんめぇ!!」

 

 まだ『リーエンフィールド』ならいい方で、バチカンから『マスケット銃と黒色火薬』を送られてきたときは10分ほど呆然としてしまった。

 

「少尉、荷物が届きました。」

 

リバティーメイソン所属の少年が小包(こづつみ)を持ってきた。矢原嘉太郎(兄者さん)はさっきまでのいら立ちは何処へ行ったのやら、(作り)笑顔でその小包(こづつみ)を受け取った。

 

「なんです?コレ?」

 

その箱には……弾頭がカラフルに装飾された38式実包が10発ほど入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

4:新巻(あらまき)のお兄さん

 

 

 

とある商店街にて、少女たち5人が話しながら歩いていた。。少女たちは『Afterglow(アフターグロウ)』というガールズバンドを組んでいる。

 

「ねぇねぇ~、‘‘クリスマスカード発売中!!’’だって」

「「「「「あぁ~……」」」」

 

灰色の髪のマイペースな少女が声を上げた。‘‘クリスマスカード’’という言葉を聞き、4人があることを思い出した。

 

「ふふふっ、‘‘クリスマスカード’’と言えば……」

「そう言えば、昔はサンタさんにみんなで手紙を届けに行ってたっけ」

 

茶色気味の黒髪ショートカットの少女とピンク髪の豊満(何処がとは言わない)な少女が声を上げた。

 

「あはは!!そうだったな」

「そう笑っているけど……最初のきっかけは巴だからね?迷子になりかけて……その後、郵便局で強盗にも会って……。ほんと大変だったじゃん」

「え?あれは蘭だろ?」

「あれは巴が……!」

「はいはい、それまで~」

 

赤髪の長身少女と黒髪赤メッシュの少女が喧嘩になりそうだったので、灰色の髪のマイペース少女が止めにかかった。

 

「ふふ、懐かしいね。初めて5人だけでサンタさんにお手紙出しに行って、『新巻(あらまき)のお兄さん』に会った時の事」

「あの年に私達5人、友達になったんだよね」

 

茶髪少女とピンク髪の少女が話題を膨らませていく。

 

「そっか、あの年が色々と初めてだったんだ。」

「そだよ~。蘭とあたし達が出会って、友達になった年……。あたしは昨日の様にはっきり覚えているよ~」

 

黒髪赤メッシュ少女の言葉に、灰色のマイペース少女はあの時を思い出すような遠い眼をして答えた。

 

「クリスマスの日、『新巻(あらまき)のお兄さん』がテレビに映ってたよなぁ。確かテロリストを倒したんだっけ……」

「そうそう!!あの時はすごく驚いたよね!!」

 

赤髪少女の言葉に、ピンク髪の少女は激しく同意した。

 

「今思えば……『新巻(あらまき)のお兄さん』ってあたし達と同じくらいの年なんだよね」

「あの後、『新巻(あらまき)のお兄さん』にお礼を言おうと思っても全然会わなかったんだよね」

 

黒髪メッシュ少女と茶髪少女の会話を尻目に……灰色髪のマイペース少女は『新巻(あらまき)のお兄さん』のことを思い出した。

 

 ……『新巻(あらまき)のお兄さん』って名前じゃないし、そのあと何度かテレビでニュースになってたんだけどねぇ~

 

 

 

 

 

 

 

  約十年前、のちに『Afterglow(アフターグロウ)』を組む少女たちがまだ小学生になっていない頃の話。

  幼女5人はサンタさんへの手紙を書き、郵便局へ手紙を出しに行くことになった。

 

 幼女たちにとって郵便局までの道のりは長く、誘惑がいっぱいある。おもちゃ屋や文具屋の誘惑を我慢して進んできた幼女たちだが……食欲には勝てることができず、パン屋の前で道草を食べ始めた。

 

「わぁ~、パンのにおいがするよ~」

「ほんとだ!!みて、トナカイのパンがあるよ!!」

「何見てるの?あ、そりのパンだ!!」

 

灰色の髪幼女、ピンク髪の幼女、赤髪幼女はクリスマス限定のパンを見てキャッキャッと楽しく話し出す。

 

「みんな、ゆうびんきょくに行かないと……」

 

茶髪の幼女が道草を止めにかかるが……それでも3人の話は止まらない。

 

「モカちゃんはどのパンがいい?」

「モカはね~……」

「……グス、行かなきゃ……サンタさん……」

 

黒髪幼女が泣きだしそうになりながら、呟いた。

 

「らんちゃん、大丈夫?」

「はやくゆうびんきょく、行かなきゃ……しまっちゃう。……そしたら、サンタさんに手紙、渡せない……」

「「「「……」」」」

「う……グス…‥サンタさん来ない……え~ん!!」

 

黒髪幼女が泣き出したのにつられ……幼女たち全員が泣き出した。

 

「「「「ふえ~ん……やだぁ~!!!」」」」

 

幼女たち5人の鳴き声が商店街にこだまする。

 

 

 

 

 

 

 幼女たちが泣き出した時、彼女達より年長な少年が新巻鮭(あらまきじゃけ)を背負い、大きな白いビニール袋を持った少年がパン屋に向かって歩いていた。

 

「……ハァ。普通、小学生に12月下旬のアメ横に一人で買い物行かせるか?どう考えても小学生が持つ量じゃないだろ、コレ。」

 

 少年の持つビニール袋にはエビやコンブ・スルメ……それにオマケで付いてきたズワイガニ1杯が入っている。どう考えても小学生一人が持てる量ではない。

 こんな量を持ちながら、人があふれかえるアメ横での買い物は……想像を絶するものがあっただろう。

 

「と言うか……今時、袋詰めされずに藁縄(わらなわ)一本で吊るされている新巻鮭なんて初めて見たぞ?でも、なぜかそれが一番高かったんだよな……」

 

そんな大きなビニール袋を持ちながら、3キロは優に超える新巻鮭(そのまんま)を背負う少年は異様であった。

 

「……最後は‘‘山吹ベーカリー’’で『ナッツが入ったライ麦パン』か。……近場のパン屋で買ってもいいだろうに」

 

 少年の母親がそこの『ドイツパン』が好きなため、1~2ヵ月に1回は買っている。しかし、クリスマスに旅行を控えているため、荷造り中の母親に代わって少年が買い出しに向かったのだ。

 少年は母親から渡された‘‘メチャクチャヘタクソな地図’’を頼りに歩くと……やっと目当てのパン屋が見えてきた。

 少年は本日放送の『ドリ〇ターズ 再放送スペシャル』が始まるまでに帰宅したいので、必然的に早足になる。

 

「「「「「ふえ~ん!!!」」」」」

 

 少年がパン屋の前に付いた時……5人の幼女達が大泣きしていた。少年は幼女を無視して店内に入ろうと……できなかった。

 流石に幼女達が泣いているのを無視するのは、少年にはまだできなかったのだ。

 

「……お嬢ちゃん達、どうしたんだい?」

 

少年は重い荷物を地面に置いてしゃがみ、幼女達と同じ目線になって訪ねた。すると黒髪の幼女は少年の顔を一瞬見た後、さらに泣き出した。

 

「俺……そんなに怖いのか?」

 

自分の顔を見てさらに泣かれるという事に、少年は地味にショックを受けた。

 

「サンタさんにお手紙とどけなきゃいけないの~!!」

 

するとピンク髪の幼女が泣きながら理由を伝えるが……少年には全く意味が伝わらない。

 少年はため息を一つつき、地面におろしたビニール袋から好物のスルメを取り出した。

 

「ほら、泣き止んで!!スルメ上げるから!!」

 

幼女達は一瞬泣き止み、少年が手にしているスルメ(グロテスクな物)に注目し、再び泣き出した。というか、さっきよりも強く泣き出した。

 

「おにいさ~ん、ゲソちょ~だい?」

「え?あ、うん……」

 

灰色の髪の幼女は泣きださず、ゲソをもらって喜んでかじっていたが。

 

 

 

 

 少年が他の幼女達を必死になだめようとした時……後ろから大きな影が現れた。

 

  ガツッ!!!

 

「イッテェエエ!!!」

「君!!なにイジメてるんだ!!」

 

少年の脳天にゲンコツが落ちた。少年は頭を押さえながら声の方向を見ると……和服の男性がカンカンに怒っていた。

 

「いや、俺はイジメてなんかないですよ!?」

「イジメは良くないというのは知っているだろう!?」

「おにいさ~ん、もっとちょうだ~い」

 

叱る和服男に弁明する少年、泣きわめく幼女達とイカを食べる幼女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすまなかった。てっきり娘を……」

「いえ、いいですよ。誤解も解けましたし……。それに見知らぬ子供を叱るって今時中々いませんよ。親の鏡ですね」

「しかし……」

「スルメ買ってもらってすいませんでした。それで充分です。」

 

何とか誤解を解き、‘‘山吹ベーカリー’’で『ナッツが入ったライ麦パン』を買った少年は乾物屋で『らんちゃんのお父さん』にスルメを買ってもらった。

 

「おいし~」

 

実は灰色の髪の幼女に食べられたスルメの補填も兼ねている。

 

 

 

 仲良し幼女5人組に『新巻鮭を背負った少年』・『らんちゃんのお父さん』は郵便局に向かっていた。

 

「君まで来て……いいのか?」

「まぁ、なんか嫌な予感がしたので……。」

「そうか……。じゃぁ君達、手紙を貸してくれるか?」

「「「「「ハイ!!」」」」」

 

郵便局に付いた時、『らんちゃんのお父さん』は幼女達から手紙を預かった後、郵便局の窓口へ向かった。そして『らんちゃんのお父さん』は窓口で‘‘年賀はがき’’を買っていた。

 

「まぁ、ワザワザ切手買うよりは直接親に渡した方が良いよな」

 

俺はそうつぶやいた後、ソファーに座った。

 

「ちゃんとサンタさんにとどくかなぁ~」

「お父さんならちゃんと届けてくれるもん!」

「えへへ、楽しみだなぁ~」

「おにいさ~ん、もうちょっと~」

「モカちゃん、それ、おいしいの?」

「…………もう2枚目だぞ?」

 

そんな時だった。目出し帽を被った黒服の青年3人が走って郵便局に入ってきた。

 見るからに怪しい黒服の3人組は窓口へドスドスッと向かい、ボストンバッグを置くとそこから拳銃を出した。

 

「「「動くな!!」」」

 

一人は窓口の女性、もう二人は他の客に向けて銃を構えた。

 

「おい、このバッグに詰めれるだけ金を詰めろ。」

「後そこの黒髪の少女。……そうだ、お前だお前。こっちにこい!!」

「お前……流石にあの年齢の子は可哀想だろ。」

 

一人は窓口の女性を脅し、二人は黒髪の幼女(らんちゃん?)を人質にしようとしていた。

 

「わ、私が人質になります!!だから娘は!!」

「いや、おっさんぐらいだと抵抗されたらアウトだもん。それにおっさんに近寄られるぐらいなら幼女の方が良いし」

「……お前、薄々思ってたけどロリ通り越してペドだったんだな。」

「違うからな!?」

 

『らんちゃんのお父さん』の奮闘も空しく、黒髪の幼女(らんちゃん?)が人質になってしまった。

 

 

 

 

「また強盗ですか?……ハァ」

「またってなんだよ……」

「今日2回目なんですよ、強盗」

「え……?」

「午前中に来て、偶々お客さんに警官と軍人がいたから何とかなったんですけど……もうお腹いっぱいなんですよ!!隣町にも郵便局あるでしょ!?そっち行ってくださいよ!!」

「いや、あの……」

「何で配属初日に2回も強盗が来るんですか!?なんかの祟りですか!?結婚できないのもこのせいですか!?」

「いや……はい、すいません」

「「「いいからさっさと金詰めてもらえよ!?」」

 

 

 窓口で漫才をやっているのを尻目に少年は壁にかかっている時計を見た。時刻は午後4時半前。‘‘快速’’に乗れない場合、6時半から始まる『ドリ〇ターズ 再放送スペシャル』に間に合わない可能性が出てきた。

 

 少年は意を決し、冷凍ズワイガニと新巻鮭を持って強盗(漫才師)3人組に死角から近づいていく。

 

 

 

 

「えーん!!え~ん!!!」

「ほら泣かないで!!アメあげるから。……ナオヤ!!早く金詰めてもらえよ!!‘‘カワイ子ちゃん’’が泣いちゃっただろ!?」

「‘‘カワイ子ちゃん’’ってやっぱりお前……」

「いや、分かってるって!!お姉さん……いえ、お姉さま。今回はスイマセンが我慢していただいて、お金を詰めて貰えませんか?」

「えぇ!!そんなチンケな銃なんて怖くはないわ!!2回目だから!!さっきの強盗なんて‘‘ランボー’’みたいな大男がバズーカやらロケット弾やら背負って、戦争で使っていそうなごっつい機関銃を向けてきたのよ!?」

 

 

こんな漫才をやっているため、少年は簡単に近づけた。

 ‘‘仲間を疑いの目で見ている強盗の一人’’が少年に気が付いたと同時に、少年は手に持った冷凍ズワイガニで顔面を殴った。

 

「ぐおぉおお!?……カハッ!?」

 

顔面が血だらけになりながら強盗は倒れた。少年は血だらけの強盗の股間を思いっきり踏み込み、落とした拳銃を拾いながら『らんちゃんを人質にする強盗』に新巻鮭を振るった。

 

  ドスッ!!

 

「ゴフッ」

 

3キロ以上の重りが振るわれれば……子供の力でも大人を昏倒できる。少年は昏倒した『ペドの強盗』の腹に銃口をくっ付け、発砲した。

 

「喰らいやがれ!!」

 

  シュタタタタタタ……

 

「イデデデ……!!!」

 

 強盗が持っていた銃は電動ガンだったようで、銃口からはBB弾が何十発も発射される。少年は電動ガンでは威力不足と考え、もう一度新巻鮭を振るった。すると『ペドの強盗』は大人しくなった。

 

「この野郎!?」

 

窓口で交渉していた最後の強盗が少年に銃を向けた瞬間、窓口の女性が机を飛び越え、強盗に飛び蹴りをした。

 

「ガハッ……ちょ、待って、ギブ、ギブ!!」

「2回も強盗が来てこっちは慣れてるよ!!」

 

窓口の女性は強盗に馬乗りになり、そのまま鋭い拳を浴びせる。

 

  バァン

 

「「「警察だ!!動くな!!」」」

 

 

それと同時に警察が到着し、『冷凍ズワイガニ』と『新巻鮭』の犠牲によって強盗はお縄になった。

 

 

 

 

「君!!強盗と戦うなんて危ないだろう!?」←らんちゃんのお父さん

「坊や!!勇気は認めるけど危なかったのよ!?」←窓口の女性

「よくやったけど、そう言うのは大人に任せなさい」←警官

「……ハイ、スイマセンデシタ。(早く帰りたい)」←少年

 

 なお、1時間の説教の後に少年の両親が現れ、その場で3時間ほど説教されたため……『ドリ〇ターズ 再放送スペシャル』が一切見れなかったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

  その年の日本時間12月25日19時ごろに速報が入った。

 

『ロサンゼルス、ナカジマプラザでテロリストによる人質事件が発生し、たった今、偶然その場に居合わせた警察官と日本人の少年の二人によって事件は解決されました。』

 

「あ、新巻のお兄さんだ。」←黒髪幼女

「ほんとうだ~」←灰色髪の幼女

「…………え?いや……え?」←らんちゃんのお父さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その後も、『アメリカの空港でテロリストと戦った』のもテレビでニュースになってたし、最近だと『アメリカの中国総領事の娘の誘拐事件』を解決したってあったなぁ。

 

 灰色の髪のマイペース少女はそんなことを思いながらニヤリとし、ついでにスルメが食べたくなった。

 

「きっと今はイケメンになってそう!!」

「いや……そうなるかは分からないでしょ」

 

ピンク髪の少女の言葉に、黒髪赤メッシュの少女は突っ込んだ。

 

「でもすごいよね。一人で強盗と戦うなんて!!」

「きっと今は武偵高校に通ってたりしてな!!」

 

茶髪少女と赤髪少女がさらに話を膨らます。そしてこの5人『Afterglow(アフターグロウ)』はさらに話が弾みながら、家への帰り道を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 そのころ、『新巻のお兄さん』は……新幹線のトイレにこもっていた。

 

「ぐぁあああ……」

 

 札幌でシェフ和泉に食わされた‘‘エビチリ’’によって腸が大暴走していたそうだ。

 

 

 

 

5:人命救助の結果

 

 

 『黒森峰、決勝戦で敗北』

 

 黒森峰女学園はあの大会に優勝すれば、10連覇という前代未聞の金字塔を打ち立てることができたはずだった。

 少女はその試合中にフラッグ車を放置して川に落ちた仲間を助けた。『命を落としていたかもしれない仲間の危機を救った』というだけなら美談で終わっただろう。

 

 だが、皮肉にも『その仲間の命』の代償としてフラッグ車は敵に打ち取られ、10連覇を逃してしまった。

 その後、何ヶ月もの間、マスコミ・チームメンバー・OGなどからの批判に耐え続けていたが……少女にはそろそろ限界であった。

 

 

 

 

  『黒森峰、10連覇を逃し決勝戦で敗北』 

 

 

 

 久しぶりの休日、少女はずっと自室に引きこもっていた。この空間だけは……自分を非難しない、安寧で平穏な場所であった。

 しかし、少女は学生だ。いつまでも休むことはできない。学園艦が出港する10分前、少女は乗船用のタラップの列にイヤイヤながら並んだ。 足を一歩づつ踏みしめ、学園艦に近づくと同時に、批判され続けた数ヵ月を思い出す。

 

  『戦犯』・『裏切者』・『黒森峰の面汚し』・『西住流のできない方』

 

違う事を考え、気を紛らわそうとすればするほど……あの数ヵ月が頭の中で再生される。少女は頭が痛くなり、胃がムカムカし始めた。

 

「うぁあああああ!!!」

 

 

少女は叫び、無理やり思考を真っ白にした。少女はハッと周りを見ると……沢山の生徒・学園艦の住民に、絶対零度の視線による集中砲火を喰らっていることに気が付いた。

 

「ちょっとアンタ!!大丈夫!?」

「……え?あ、い、いや……いやぁあああ!!!!」

 

少女は同級生の手を払いのけ、一目散に学園艦から逃げた。あの大きな学園艦(鉄くず)が見えない場所へ……

 

 

 

 

 

 『黒森峰、西住みほ選手が原因で敗北』

 

 

「ウ……オェ……」

 

 少女は鉄道に乗り、学園艦が見えなくなるところへ向かった。途中何度か乗り換えをし、着いた先は……福岡は新門司港、また港である。

 少女は港に泊まっていたフェリーを見て、ターミナルのトイレへ駆け込み、胃の中の物を吐いた。途中でも吐いていた少女は……出るものは胃液ぐらいしかなかった。

 

「うぅ……」

「あんた!!大丈夫!?」

 

 トイレから出てきたボロボロの少女に、ターミナルの係員のおばちゃんが駆け寄ってきた。

 

「……だ、大丈夫です。」

「じゃぁ早く急ぎな!!もうフェリー出ちゃうよ!!」

「え……いや……」

「もう出港なんだから!!ほら、駆け足!!」

 

少女はそのままフェリーに乗せられ、そのまま九州を後にした。

 

 

 

 フェリーの風呂で体を清め、コインランドリーで服をきれいにした少女は近くのソファーで数ヶ月ぶりに安眠で来た。そのせいで徳島を通り越して東京まで行ってしまったのだが。

 

 

 

 無賃乗船で東京に着いてしまった少女はもう、どうでもよくなってしまった。もうどんな罪を犯しても怖くはない。

 戦車道に憑かれ、そして疲れた自分への最期のご褒美だ。東京を回った後、ここで死のうと……。

 

 少女はそう考えると少し楽になった。そして東京(自殺の地)へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 少女は知らない。東京に付いた日に、大規模なテロ事件が起こることなど。そして命の恩人二人と、‘‘自分のもう一つの可能性’’に見えた親友に出会うことなど……。

 

 

 




 1はイブキの数少ない特技『マラカス』習得の理由です。
 ジミさんは『やわらか戦車』の『ジミおじさん』をモデルにしています。


 中空知さんの好物にドリアンが加わったとか。


 矢原嘉太郎少尉は送られた武偵弾でブービートラップを作ったとか。


 『Bang Dream!』の『Afterglow(アフターグロウ)』が登場。この5人組は次章の事件では深くかかわりませんが、ある一人にとっては得難い親友ができるそうで……
 ゲーム内イベント 『追想、いつかのクリスマス』をモデルにしています。

 冷凍ズワイガニの甲羅で殴られたら……子供の力でも血まみれになりそう。花咲ガニじゃないだけマシだと思って下さい。
 
 
 Next Ibuki's HINT!! 「モントゴメリー将軍」 
  


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俺のいちばん長い日 with BanG Dream!
有能な人間は癖がある……


 どうも一週間に一話じゃなくて、十日に一回が楽だなぁ……と思う今日この頃。一応急いで一週間に一話投稿を目指します!!



ヱビスビールのエール……ヤッホーブルーイングの『よなよなエール』には負けるけど、コスパと入手のしやすさは勝ると思っています。

 


 
 


 白鷺千聖(護衛対象)との顔合わせをした翌日、俺は東京のとある商店街にある『羽沢珈琲店』へ向かっていた。

 

 

 

 ところで、俺や藤原さんなどの『飛び級組』は『同期』との関わりがとても薄い(何年も寝食を共にした人と比べたら…‥)。なので『飛び級組』は同じ『飛び級組』と集まる傾向がある。

 その『飛び級組(関東)』の集まりがおおよそ1~2ヵ月に一回あるのだが……もともと数が少ないうえ、奇人変人忙人が多いせいで人がなかなか集まらない。そのため、‘‘藤原さんと俺’’が士官クラブか安居酒屋で飲んで解散という流れがほぼ毎回だった。

 しかし、今回は後輩:笹井純(ささいじゅん)少尉がセッティングをするという事で楽しみだったりする。

 

 

 

 笹井純少尉は空軍戦闘機部隊 343空所属のパイロット。普段は海外や離島で訓練をしているのだが……今回は珍しく東京に戻ってくるそうだ。

 

 

 

 

 

 

 俺はどこか見覚えがある商店街を歩くと、洒落た喫茶店が見えてきた。看板には『羽沢珈琲店』と書かれてある。

 

 ……昼間っから酒が飲める喫茶店なんて珍しいな

 

 酒好きの俺と藤原さんが来るんだ、まさか飲めない店に呼ばないだろう。

 俺はそう思いながら扉を開けると……カランカランと心地よい音と共に、銀髪でスラッとした美少女が近づいてきた。

 

「ヘーイ!!ラッシェーイ!!」

「……あぁ」

 

最近は変わった喫茶店が多いらしい。きっとこの喫茶店もそのような(たぐい)の物なのだろう。

 

「何握りやしょうかー!!」

 

俺はその言葉で『寿司とコラボの喫茶店』という事に気が付いた。

 

 ……笹井も面白い店を調べるじゃないか。

 

 俺は周りを見ると……足を組みながら本を読む、濃紺の背広の軍服を着た貴公子がいた。そいつが笹井純少尉だ。

 

「待ち合わせをしてるんだ。それとコハダを」

「ハイ!!『こはだ』ですね!!」

「ちょ、イヴちゃん!?ここ喫茶店だよ!?」

 

すると、店の奥の方から茶髪の少女が慌てて出てきた。

 

「ん~?違うのですか?」

「ここは寿司とコラボした、『寿司カフェ』とかじゃ……」

「違います!!」

 

 

 

 

 俺は茶髪の少女に説明を受けた後、俺は貴公子の座る席の対面に座った。

 

「……笹井、お前それが理解できるのか?」

「ん?……あぁ、村田先輩。やっと来たんですか?待ちくたびれましたよ。それと……勿論じゃないですか。」

 

俺はため息をつきながら聞いた。すると、その言葉でやっと俺に気が付いたように笹井はふるまう。その仕草一つ一つがまるで二枚目のイケメン男優の様で腹に立つ。

 近くの席に座っていた『ピンク色の豊満な少女』や他の高校生と思われる女性達が笹井を見てキャーキャー言っている。正直ウルサイ。

 

 そんな笹井が読んでいる本は『神の数式 この世の全てを一つの式に』と言う題名だ。普通の人間には理解できそうにない内容で、チラッと見たのだが……本に書いてあった式が完全に意味不明だ。

 

「『神の数式』……‘‘この世全てを一つの数式で表そう’’ってことだろ?」

「そうですよ先輩。」

 

笹井はそう言って顎に手を当て、カッコつけながら言った。しかし……俺はこいつの本性を知っている。

 

「……‘‘ゲージ対称性’’って説明できるか?それが分からなきゃ理解できないと思うんだが」

「…………」

 

笹井は目を泳がせ、口をパクパクとさせた後……ポケットに本をしまった。

 

「ちょっと、先輩!?もうちょっとで女の子から声をかけてもらえそうだったのに!!何するんですか!?」

「……だからやけに女子高生が多いのか。」

 

俺はため息をついた。俺は周りを見ると……目を光らせている女子高生が沢山いる。

 

 

 

 この笹井と言う後輩……部類の女好きなのだ。パイロットになった理由も、飛び級した理由も……『若い戦闘機パイロットってモテそうじゃないですか』と大真面目に語っていた。

 彼の叔父である『とある空軍の幹部』は女癖を止めさせるため、笹井に許嫁(いいなずけ)をつけたそうだが……さらに女癖がひどくなったとか。

 しかし、幸か不幸か……笹井は普段、離島の基地(軍人以外はほぼいない)や海外の基地で缶詰のために問題は起こしてはいないのが救いだ。

 

 

 

 ……‘‘問題は’’起こしていないけど、何回交番や警察署へ笹井を迎えに行ったことか。

 

 しかし、笹井がナンパしている姿は多いのだが……今回の様な受けに回るのは珍しい。

 

「笹井、受けに回るなんて珍しいじゃねぇか。なんかあったのか?」

「……坂井小隊長に『警察に迷惑になったらコロス』と言われまして。だったら向こうから声をかけてくれるなら問題にはならないはず……と思いまして」

 

 俺はその‘‘坂井小隊長’’に心の底から感謝した。普段のこいつなら……きっと手あたり次第にこの店の女性に声をかけ、俺と藤原さんが頭を下げる羽目になっていただろう。

 

 

 

 

 ため息をついた後、俺はメニューに目を通すと……見事に‘‘酒’’がない。

 

 ……そんな馬鹿な?

 

メニューを裏返すと……そこは食べ物やお菓子のメニューだ。他のメニュー表も見てみるが……季節限定のお菓子のメニューしか書かれていない。

 

「おい、笹井……お前……」

「あ、みんな来てたんだ。いやぁ~遅れてごめん。……なんだ、二人とも僕を待って飲まずにいてくれたのかい?悪いなぁ……」

 

ヨレヨレの軍服を着た藤原さんがやってきた。藤原さんは笹井の隣の席にカバンを放り、俺の隣の席に座った。

 

「あの、ご注文はどういたしましょう?」

 

さっき『ラッシェーイ!!』・『何を握りましょう?』と答えた銀髪の店員(?)が俺と藤原さんの前に水の入ったコップを置いた後、注文を聞いてきた。

 

「とりあえず生3つで。村田はともかく笹井も飲むだろ?」

「え……?いや、藤原さん。あの……」

「いやぁ~藤原先輩、ゴチになります!」

「ぼかぁ~奢らないぞ~」

「えっと……‘‘なま 3つ’’ですね?かしこまりました」

 

銀髪の店員は注文を確認した後、店の奥に向かった。

 

「笹井が戻ってくるってことは343空も戻ってきたんだよね?どうだい、久しぶりの本土は」←藤原

「一昨日の夜に帰ってきまして、昨日は新宿で赤松中佐と一緒に新宿でナンパしてたんですよ!!」←笹井

「赤松少佐……中佐に昇進したんだ。と言うか、帰って来て早々ナンパかよ……」←イブキ

 

 俺・藤原さん・笹井は話が盛り上がっていく。

 俺はため息を吐きながら水を一口飲み、メニューを見た。食べ物の方には……つまみに向いている物は一切ない。

 

 ……ギリギリ、テーブルに置いてある塩がつまみに向いているぐらいだよなぁ。

 

「赤松中佐と新宿でナンパしてたら……40くらいのおじさんもナンパしてたんですよ!!その人と意気投合しちゃって……‘‘もっこり’’って言うのを教わっていたら、3人まとめて交番に連れていかれて……」←笹井

「いやぁ~相変わらず空軍はやることが派手だなぁ~」←藤原

「……やっぱり警察にお世話になったんだ」←イブキ

 

笹井の武勇伝に頷いていたら……茶髪のエプロンをかけた少女が近づいてきた。少女は困ったように俺たちを見ている。

 

「あの……お客様?うちではビールを取り扱ってないのですが……」

「え……?そうなの?」

 

藤原さんは不思議そうに尋ねた。

 

「おい笹井、お前もしかして……(酒があるか)ちゃんと確認してないだろ」

「え?……確認しましたよ?女子高生に人気の店だって」

 

俺が笹井に酒の有無を調べたかどうか聞くと……己の欲望に忠実な答えが返ってきた。

 その答えに、俺と藤原さんは大きなため息をついた。笹井(原因)は不思議そうに首をかしげる。

 

 ……そうだよなぁ。あの笹井が酒の有無なんて調べないよなぁ。

 

「そういえばさっき‘‘お好み焼き屋’’があったし、そっちで飲もう。すいません、ご迷惑をお掛けして。」

「いいですねぇ~。久しぶりに‘‘もんじゃ’’でも食べたくなりましたよ。ほら笹井行くぞ。」

 

俺と藤原さんは席を立ち、この店を出ようとしたのだが……笹井はテーブルにしがみ付き、意地でも動かない。

 

「イヤです!!俺は女子高生に声をかけてもらうんだ!!」

「「……」」

 

俺と藤原さんは口が開いたまま……固まってしまった。

 

「今まで離島か基地に缶詰めだったんですよ!!会えるのは野郎か同性愛者か姉御肌かおばさんしかいないんですよ!?」

「「………………ハァ」」

 

俺と藤原さんはため息をつき、席に座った。

 笹井の気持ちはわからないでもない。俺の場合はまだ酒があればなんとか我慢できるだろうが……笹井は大の女好きだ。今までの缶詰生活は相当きつかっただろう。

 

『村田、二次会行くよね?』

『もちろんです!!』

 

 藤原さんとアイコンタクトで二次会が決定された。俺は水を一口飲み、メニューを見ると……

 

「「これだ!!」」

 

『カフェ・ロワイヤル』・『ティー・ロワイヤル』と書かれている場所に指を置いた。藤原さんも気が付いたようだ。

 

 

 

 『カフェ・ロワイヤル』とは……ブランデーをしみこませた角砂糖に火をつけて溶かし、その後コーヒーに入れて飲む方法だ。ナポレオンが愛飲したことでも知られている

 そして、コーヒーを紅茶に変えれば『ティー・ロワイヤル』になる。

 

 

 

 何を言いたいのかというと……この店には(ブランデー)がある!!

 

 

 

 

 

 

「あの……ご注文は……」

 

さっきまで固まっていた茶髪の少女(店員)が口を開いた。

 

「お嬢さん、僕にはブレンドのホットコーヒーをブラックで。ところでお嬢さん、この後時間はありますk……」

「「店員さん!!『カフェ・ロワイヤル(ティー・ロワイヤル)』の火無しってできますか!?」」

「は、はい!!き、聞いてきます!!」

 

茶髪の少女(店員)が奥へすっ飛んでいき、すぐにそこから中年のおじさんが出てきた。

 

「『カフェ・ロワイヤルの火無し』という事は、コーヒーや紅茶にブランデーを垂らすということでよろしいでしょうか?」

「えぇ、お願いします。割合は『モントゴメリー将軍』で……いや、『逆モントゴメリー将軍』でできますか?」

 

俺がそう注文すると……中年の店員は困ったような表情をした。

 

 

 

 

 アーネスト・ヘミングウェイの小説『河を渡って木立の中へ』で、主人公はマティーニを注文する時、『モントゴメリー将軍で』と注文するのだ。

 それは『ジン(イギリス):ベルモット=15:1』という意味で、モントゴメリー将軍は戦力比15:1になるまで攻撃をしなかったことに由来する。

 

 

 

 

 以上より、『逆モントゴメリー将軍』は『紅茶(イギリス):ブランデー=1:15』の割合。カップ一杯の量は120~150mlなので、ブランデーたっぷりのカップに紅茶を5~6滴ほど……。

 ここまですると、もはや紅茶ではない。紅茶の香りがするブランデーだ。

 

「‘‘ヘミングウェイ’’ですか……。値段が3倍ほど上がるのですがよろしいですか?」

「「え?」」

 

言ったのは俺だが、まさかできるとは思わなかった。

 

「じゃぁ、『逆モントゴメリー将軍』のコーヒーと紅茶を一つずつ、それにブラックコーヒーだったよね?」

「……それとミルクと砂糖を持ってきてくれませんか?」

 

藤原さんの言葉に、笹井は遠慮がちに言った。

 実はこの笹井……大の甘党なのだ。ブラックコーヒーなんて珍しいと思っていたら……格好つけただけだったようだ。

 

「『逆モントゴメリー将軍』のコーヒーと紅茶、ブラックコーヒーとミルクと砂糖ですね。少々お待ちください。」

 

中年の店員はそのまま店の奥に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、あんなものを注文できるなんて……」

「流石だね、ここの店主は」

 

藤原さんは店長を褒めながらガサガサとポケットをあさり、‘‘シガリロ’’と‘‘リュポンのライター’’を出した。

 

「先輩たち、相変わらずですね。肝臓は大丈夫なんですか?アル中になりますよ?」

 

笹井は呆れたように、ため息をつきながら俺達を見てきた。

 

「俺が死ぬときは、肝臓が死ぬ時だ」←俺

「辛い任務を笑い話にするために、僕は飲むのさ」←藤原

 

俺と藤原さんはそう言って、目の前の水を飲み干した。あぁ、紅茶風味のブランデー(逆モントゴメリー将軍)が待ち遠しい。

 俺達のそんな姿を見て笹井はため息をついた後、メニューをみた。

 

「あ、お嬢さん。追加で『サンタさんと雪のフワフワケーキ』をお願いします」

 

笹井は茶髪の少女の店員さんを呼び、恥ずかし気にケーキを頼んだ。

 

「あ、はい!『季節のケーキ』ですね?……あと、うちは禁煙なんですが」

「……え?」

 

シガリロを咥え、火をつけようとした藤原さんは渋々ポケットに喫煙セットをしまった。

 

「ここって喫煙席とかは……」

「ないです」

 

茶髪の少女(店員)は笑顔のまま……若干キレていた。俺達三人が……だいぶこの店に迷惑をかけているからだろう。

 

「「……スイマセンデシタ」」

 

俺と藤原さんは思わず謝るが……笹井は気が付いていない様だ。

 

「お嬢さん、この後予定は?近くに美味しいレストランがあr……」

「お客様?(いい笑顔)」

「……何デモアリマセン」

 

やっと笹井も状況を理解したのか、大人しく下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺は『逆モントゴメリー将軍』の紅茶、藤原さんは『逆モントゴメリー将軍』のコーヒー、笹井はブラックコーヒーに砂糖とミルクを大量に足した物を(すす)りながら、互いの情報を交換し合っていた。

 

 藤原さん曰く、『東京への侵攻勢力は複数であるが、なぜかほとんどの組織が一つの共通目標を持っている』ということ。

 笹井曰く『上官達がやけにピリピリしていて、赤松中佐とじゃないとナンパができない』ということ。これは聞かなくてもよかった。

 俺は『‘‘ジーサード・リーグ’’を下した』こと、『上司がウキウキしている』ことを話した。

 

 

「そう言えば、村田の‘‘義妹事件’’はどうなんだい?」

「なんで今その話題を振るんですか!?」

 

確かに藤原さんが気になる気持ちは分かるが……笹井(女好き)の前で話すことはないだろ!?

 

「え!?藤原先輩!?どういうことですか!?」

「『村田の義妹の‘‘かなめちゃん’’と村田の禁断の恋』をやったってところかな」

「全然違うからな!?」

 

しかし、笹井は羨ましそうに俺を見てきた。

 

「いいなぁ!!妹ですか!?しかも義理!?完全にエロゲーじゃないですか!?ヤリ放題じゃないですか!?」

「実際は‘‘血みどろヤンデレ義妹’’だからな!?」

「いいなぁ、僕は一人っ子だし……従兄弟(いとこ)は男ばっかりですし……。いいなぁ~!!!

()われるなら()わって欲しいよ……」

 

俺がため息交じりに『逆モントゴメリー将軍』を飲み干すと同時に、力強く扉が開けられた。そこからお面を被った三人組の人間が拳銃を腰から出しながらズカズカと店内へ入る。

 

「「「動くな!!強盗だ!!」」」

 

俺と藤原さんはその二人を見て大きなため息をつき、笹井は目を輝かせた。

 

「今時あんな‘‘ハイリスク・ローリターン’’な、アホな事をする奴らがいるんですね!!」

 

笹井は小説やドラマのような状況にワクワクしているようだが……俺と藤原さんはむしろ、そのような感性が羨ましいと思った。

 

 ……このようなアホのために俺達は頭を痛めているんだよなぁ。

 

というか……ここらは治安が良かったはずなのだが。

 

「さっさと金を出せ!!」

「ほら!!早くしろ!!」

「動くな!!静かにしろ!!」

 

一人はレジにいた中年の店員に銃を突きつけ、もう二人は客に銃を突きつけている。

 

「村田、笹井」

「「はい」」

 

藤原さんが‘‘暗いドロッとした目’’をして俺たちを呼んだ。休日なのに面倒事が起こって切れているのだろうか。

俺は返事をすると同時に腰の刀に手を置いた。

 

「村田は鎮圧、笹井は客の保護、僕は援護する。合図したらやれ」

「「了解」」

 

 

 

 

 

「お前、お前だ!!」

 

一人の強盗が‘‘黒髪メッシュの少女’’を立たせ、人質にした。

 

「……お前、人質なんて足手まといになるだろ!?」

「いや……この子の鋭い眼がこう……グッときて」

「……Mだったんだお前」

 

強盗三人がしょうもない会話をしている。その時だった。

 

「やれ」

 

藤原さんの声が静かに響いた。俺はその声が聞こえたと同時に、放たれた砲弾が如く強盗へ突撃した。

 

「……ッ!?ヤロウ!!」

 

強盗の一人が気が付き、銃を構えようとしたとき、俺は抜刀した。刀は強盗の拳銃を切り裂き、真っ二つにさせる。

 さらに接近し、切り裂かれた拳銃に驚いている強盗の腹に左拳を叩き込む。拳を入れられた強盗はそのまま倒れていく。

 

「チッ……なんでここに!?」

 

レジで金を要求していた強盗が慌てて銃を構えるが、もう遅い。俺は刀のリーチよりもさらに接近し、『拳銃奪い(リー刑事直伝)』をしながら蹴りを入れた。

 

「あ……ゴメン」

「ッ~~~!?カハッ……」

 

俺よりも身長が高かったせいか、蹴りが強盗(その2)の股間に入った。

 決して、『俺より身長が高いから』と言う妬みで入れたわけではない。『180センチ越えの身長羨ましい』とか思ってない。

 

 

 

「動くな!!動くと撃つぞ!!」

 

残ったのは『黒髪赤メッシュの少女』を人質にしている強盗だけだ。しかし、その強盗は人質の少女に銃を向けていた。その人質の少女は表情が固まって呆然としている。

 

「武器を捨てろ!!早く!!」

 

俺は刀と奪った銃を床に置き、蹴って強盗へ渡す。

 

「よし、そのまま跪k……!?」

 

強盗が武器に視線を向けた時、俺は‘‘影の薄くなる技’’を使って姿をくらます。

 

「よっと」

「え?……は?え?」

 

俺は一気に接近し、‘‘影の薄くなる技’’を解きながら強盗の拳銃を奪う。そのまま強盗を掴み、背負い投げで床に叩きつけた。

 強盗はいきなり俺が消え、急に現れたように見えたのだろう。強盗は目を白黒させながら投げられ、気絶した。

 

 

 

 

「さてと、二人は……」

 

俺は投げた強盗を縛り上げつつ、周りを見渡した。藤原さんは俺が倒した強盗を無力化・捕縛しながら警察に電話をしている。笹井は……

 

「君達、心配しないで。僕がいる限り安心だ。」

「ハイ……!!」

 

ナンパしていた。もはや呆れて何も言えない。

 

「…………あ」

 

ストンと言う音がしたので、その方向を向くと……人質になっていた少女が呆然としながら床に崩れ落ちていた。

 

「……大丈夫?」

「……え?あ……はい」

 

しかし、少女は立ち上がろうとしない。腰を抜かしたのだろうか。

 

 ……まぁ、確かに人質にされたんだ。民間人なら無理もない。

 

俺は‘‘黒髪赤メッシュの腰を抜かした少女’’の持ち上げ、そこらの椅子に座らせた。

 

「蘭!?大丈夫か!?」

「蘭!?怪我無い!?」

「蘭ちゃん!?大丈夫!?」

「おぉ~、あの時と一緒ですなぁ~」

 

すると、‘‘黒髪赤メッシュの腰を抜かした少女’’に友達であろう『三人組+店員一人』が駆け寄ってきた。

 その友人であろう少女たちに囲まれ、そこでやっと自分の置かれた状況に気が付いたのか……人質だった‘‘黒髪赤メッシュの少女’’の目尻に滴が溜まり始める。

 

 ……いいなぁ。普通は人質にされたら心配するよなぁ。

 

軍人達に武偵高の教師・生徒達だったら……逆に『なんで人質になってるんだよ!!』と制裁を喰らっていただろう。

 

 ……やっぱり俺、仕事間違えたかなぁ。

 

‘‘黒髪赤メッシュの少女’’と仲間達、そして笹井のナンパを視界にいれ……俺は思いっきりため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

  バーン!!

 

その後、警察が来て強盗が連行されようとした時、この『羽沢珈琲店』の扉が勢いよく開けられた。

 

「笹井……『警察に迷惑になったらコロス』って言ったよなぁ……!!!」←坂井

「アハハ……ゴメン、ここまで怒ってる坂井隊長は初めてだ」←西澤

「これは無理ですね。笹井さん、諦めてください」←太田

「さ、坂井小隊長に西沢少佐!?太田中尉まで!?」←笹井

 

笹井は急いで逃げようとしたが……殺気を放つ空軍佐官(坂井中佐?)に襟首を掴まれ……そのまま引きずられて店外へ連れていかれた。

 

「ふ、藤原先輩!?村田先輩!!……た、助けてください!!!」

「「笹井……これは無理」」

「う、裏切者ぉおおおお!!!」

 

上官に引きずられる笹井を見送った。

 

 

 

 

 

 

「あんなこと起こしたんだ。村田、この商店街のお好み焼き屋なんてムリだよ?」

「分かってます。‘‘士官クラブ’’でいいですか?」

「たまには違うところがいいなぁ」

 

俺と藤原さんはそんな風に話しながら、スーッと立ち上がった。

 

 ……さて、面倒なことが起こる前に逃げないと。

 

 称賛などいらない。今欲しいのは酒だ。

俺と藤原さんは店員に声を掛けられるがそれを無視し、代金よりも少し多いお金を置いて店を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「笹井、よくも俺の約束を破って警察に迷惑かけたな。」

「ち、違うんです!!あれは……そう、不可抗力!!不可抗力だったんです!!大人しくしていたら強盗が……」

「その間もナンパしてたって聞いたが……まぁいい。確かに強盗は不可抗力だな。」

「そう、そうなんですよ!!だからこの鎖をほどいて下さい!!」

 

笹井は鎖でグルグル巻きにされ、坂井中佐が操縦する輸送機に乗せられていた。

 

「安心しろ。今から南国の島に連れて行ってやる。残りの休暇はそこでゆっくり過ごせ。」

「本当ですか!?」

 

 笹井はビキニのお姉さん、褐色の肌、白い砂浜と水着の美女などを思い浮かべていた。

 しかし、飛行機が到着したのは火山性ガスが噴き上げ、あちこちに鉄の残骸が残っている島だった。

 

「あのここは……」

「硫黄島だ。ここでゆっくり羽を伸ばせ」

 

なお、硫黄島では民間人は基本立ち入り禁止だ。もちろん水着姿の美女などいない。

 

「さ、坂井隊長!!」

「じゃ、休暇を楽しめ」

 

笹井の目の前で……輸送機は飛び立っていった。

 

「ち、チクショウ!!!せめて鎖はほどいてくれよ!!」

 

 

 

 

 しかし、笹井の欲望は底なしだったようだ。

 笹井は『硫黄島~小笠原諸島(父島)』約260キロを泳ぎ切り(サメが徘徊しているため本来は遊泳禁止)、何とか水着(正確にはウエットスーツ)の美女を見ることに成功したとか。

 

「お前……化け物かよ!?八丈島から東京まで270キロを訓練で泳がされたけど、途中の島で休んでるんだぞ!?」

 

 笹井の先輩で、今は武偵高に出向しているHS部隊隊員はその話を聞き、唖然としたらしい。

 

 

 

 

 

 

 




 笹井純少尉は……イブキの1つ年下・2期下の後輩。高1の年齢で空軍士官学校(一般の大学に相当)を卒業した超エリート。(理由は残念だが)
 一応モデルは『笹井 パイロット』で検索すれば出てきますが、もはやモデルの姿形はないですね(笑)。
 実は趣味は『女』の他に、『ベルトのバックル集め』も。


 ゲージ対称性とは……スイマセン、量子物理学はやってないんです。ご自分で調べてください。





 ところで、『村田維吹』の挿絵が欲しいとあり、鉛筆と紙で描こうとしましたが……とても人に見せられるものではありませんでした。即処分しました。
 じゃぁ、モデルはいるし、写真を加工すれば……。ヘタクソながら写真を加工しましたが、肖像権や著作権関係でアウト。(費やした4時間半が無駄に……)

 以上より、とりあえずプロフィールとモデルをここにあげておきます。(いつか登場人物紹介とかやっておかないと……)


名前:村田維吹
所属:日本海軍 兵部省直属特殊作戦部隊(通称HS部隊)第二中隊第一小隊
階級:大尉
身長&体重:170㎝未満 75キロ未満
モデル:舩坂 弘
髪型:スポーツ刈りに近い丸刈り(伸びると軽いモジャモジャに)

 今まで、一部オリキャラにモデルを紹介していますが……顔は‘‘そのモデルの顔’’を想像してください
 


 Next Ibuki's HINT!! 「持ち物検査」 


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形あるもの、いつか壊れる……

久しぶりに難攻しました。遅れたことをお詫び申し上げます。

 もう一話あげてから事件が始まりますので、もうしばらく辛抱を……




 あぁ~、この3月はできるバイトがどんどん辞めていく……。負担が増えるんじゃ~


「チクショウ!!なんだってこんな目に!!」

 

俺は愛車である‘‘高機動車’’で必死に追手から逃ていた。

 

  ズダダダダダ!!

  ガンガンガン……

 

敵が銃を撃ってきているようだが……有難い事に拳銃弾を撃っている様だ。防弾板を貫通する心配はないが、それでも心臓に悪い。

 

「あんたの護衛をしてからヤケに襲撃が多いんだよ!!テメェは疫病神かなんかか!?」

 

 白鷺千聖の護衛を始めてから三日……ナイフで刺されたり、銃で撃たれたり、バンジーの紐が切れたりと、生傷が絶えない。

 

「あら、私を護衛してくれる契約でしょ?どんなことが起こっても守ってもらうわ?」

 

助手席に座る白鷺千聖(護衛対象)()ました声で話すが……目尻には涙が溜まっており、笑顔が引きつっている。

 

「な、なんで銃に撃たれるのぉおおお!?」

「あ、彩さん!?頭を下げてください!!」

「おぉ~……ルンッてしてきた!!」

「イブキさん!!ブシドーで頑張ってください!!」

 

後ろで白鷺千聖(護衛対象)以外の‘‘Pastel*Palettes(通称:パスパレ)’’メンバーが悲鳴を上げているが、あえて無視する。

 俺は車のサイドミラーをちらりと見ると……追手の車の屋根が開き、そこから対戦車ロケットを担いだ人間が……

 

「ウソだろ!?」

 

 ……ここは町中だぞ!?なんてものを出してやがるんだ!?

 

俺は慌ててハンドルを切った。横や後ろから悲鳴が上がるが無視する。

 

  バシュ!!

 

目の前にロケット弾が通り過ぎていった。何とか避けたようだ。

 しかし、急にハンドルを切ったせいだろう……スリップし、車体が回転(ヨーイング)(上下を軸にして回転)し始めた。

 

「「「「キャーーーーー!!!」」」」

「おぉ~!!!」

 

俺は何とか立て直そうとするが……なかなかうまくいかない。俺は車両科(ロジ)ではないため、運転技術は高くないのだ。そのまま俺の高機動車は路肩に止まっていた車にぶつかった。

 そして高機動車は宙へ跳ね上がり、ゴロゴロと10台前後の車の屋根を回転(ローリング)(前後の軸に対して回転)し、転がっていく。

 

「「「うわぁあああ!!」」」

「「キャーーーーー!!!」」

「すごーい!!」

 

 ……なんだってこんな目に。

 

俺はハンドルを握りながら、ここ最近で何があった振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と藤原さんは笹井を笑顔で送り出した後、適当な店で焼き鳥を頬張った。そして、結局最後は士官クラブで飲んで解散となった。

 

「ただいまぁ」

 

寮に帰り、ふとキンジの部屋の扉を見ると違和感を感じた。そうだ、普段なら『キンジ』と書かれた板切れがあったはずだ。

 俺は不思議に思い、ドアをノックするが……返事がない。そこで、俺はキンジの部屋に入ると、そこはもぬけの殻だった。

 

「…………俺には言わなかったか」

 

俺はこの部屋を見てすべてを理解した。キンジは武偵高を辞めたのだ。

 キンジが‘‘特秘任務(シールドクエスト)の準備’’としてコソコソと何かをしていたのは知っていた。だが、まさか退学準備だったとは夢にも思わなかった。

 

 ……キンジが特秘任務(シールドクエスト)の準備をしていた時、俺は酔拳の修行で『蝦夷テレビの招待』を忘れようとしてたからな。それで気が付かなかったか。

 

一応、幼馴染(自称)として一言は欲しかったなぁ……と思いつつ、元キンジの部屋に入った。

 部屋を見渡すと……備え付けの棚に、複数の小さな木箱と紙箱が置いてある。

 なんだ忘れ物か……と思いながらそれを持ちあげると、その箱には付箋が張り付いてあり、『イブキへ 要らないからやる』と書いてあった。

 

「なんだ?この箱?」

 

俺は木箱を開けると……そこには『米軍横流しの9㎜パラベラム弾』が入っていた。この弾はキンジの愛用していた物だったはずだ。

 

 ……本当に武偵を辞めたんだな。

 

俺はこの弾丸を見て、‘‘キンジが辞めた’’ことをストンと実感した。さっきまで頭では理解していたのだが……心のどこかでは納得していなかったようだ。

 キンジは近接戦専門で、近接戦では銃弾を大量に使う。そして予備の弾丸を置いていくという事は、キンジは自衛以外では銃を握らないという意思表示だ。

 

「俺も一応‘‘ワルサーP38’’を持ってるから、この弾は使うな」

 

 ……最近、ワルサーP38 (こいつ)は実戦で使ってないな

 

俺はそう思いながら紙箱の方を開けると……『鉄薬莢の9㎜パラベラム弾』が入っていた。

 

 ……あれ?この前の体育祭の景品として配られた安物弾丸じゃなかったか?

 

俺はここでやっと……‘‘処分が面倒な物’’を渡されたことに気が付いた(銃弾の処分は意外に高い)。

 

「き、キンジ!!テメェ!!!」

 

 

なお、後日射撃訓練で鉄薬莢を使ったら……見事に排莢不良(ジャム)を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は階級章を外した第一種軍装を着て、白鷺千聖(護衛対象)との待ち合わせ場所に向かって高機動車を運転していた。

 

 

 今回の護衛は、白鷺千聖(護衛対象)の学校でも護衛をして欲しいそうだ。そのため、白鷺千聖(護衛対象)が通う‘‘花咲川高校’’へ偽装転校をする必要がある。

 そして、それらの手続きは白鷺千聖(護衛対象)の所属する芸能事務所が手配する契約だった。‘‘花咲川高校’’は最近女子高から共学になったため、比較的楽に転校工作はできたそうだが……制服までは手が回らなかったらしい。

 

 ……まぁ、第一種軍装でバレねぇだろ。

 

‘‘武偵高の制服’’では護衛だとバレやすい。しかし、俺は‘‘武偵高の制服’’以外の学生服を持てない。そこで、俺は第一種軍装を着た。

 以外なことに、第一種軍装に似た学生服の学校は結構ある。そのため、階級章を外せばバレないはずだ。着慣れた服なので戦闘の時に問題にならない……という理由もあるが。

 

 

 

 さて、待ち合わせ場所の小さな公園に車を止めると、すでに白鷺千聖(護衛対象)は待っていた。

 

「あら、遅かったわね」

「予定時刻の10分前には到着しているんですけど」

「護衛対象が到着する前には到着する必要があるんじゃないかしら」

「そんなこと言われても、書面上の待ち合わせは10分前だからなぁ……」

 

俺はため息をついた。白鷺千聖(護衛対象)は扉を開けて助手席に座り、シートベルトをつける。

 

 ……正直に言って、面倒臭い

 

 藤原さんが喫煙をする理由がよくわかる。ここでストレス発散として飲酒なんてもってのほかだが、喫煙なら‘‘まだ’’許される。

 

 ……実家の隣の‘‘吉田の爺様’’に美味い煙草でも教えてもらおうかな。

 

俺はため息をつきながら車を運転し、学校近くのコインパーキング車を止めた。

 

 

 

 

 さて、俺が白鷺千聖(護衛対象)と一緒に校門まで歩くと……今時珍しいことに、持ち物検査をやっていた。

 

「あら、まさか‘‘持ち物検査’’を今日やるなんて……」

「……お前、分かってただろ」

「あら、そんなことはないわよ?」

「その演技でわかるんだよ、べらんめぇ!!」

 

俺は白鷺千聖(護衛対象)の仕草を見て、ワザとこの日から護衛を始めただろうと予想が付いた。

 さて、校門では‘‘青緑色で長髪の少女(風紀委員?)’’が張り切って持ち物検査をやっている。銃や刀は学校の許可を得ているため、大丈夫だと思うのだが……心配だ。

 

 ……いや、念のために‘‘四次元倉庫’’の中に武器弾薬はしまっておこう。ん?そうだ、‘‘四次元倉庫’’か

 

俺はあるイタズラを思いついた。ポケットやカバンに‘‘四次元倉庫’’の出入り口を設けたらどうなるんだろう。あの風紀委員は必死になって最後まであさるのだろうか。

 

「何をニヤニヤしているのかしら?……気持ち悪い

「小さく言ったのも聞こえてるからな。……なに、『持ち物検査で予想外なものが出てきたらどう対応するんだろう』って思ってな」

「人には見せられない物でも持ってきているのかしら?変態ね」

「そんな想像をするお前の方が変態だよ」

 

俺は大きなため息をついた。護衛任務は両手の指で数えられるほどしかやっていないが、ここまで敵意むき出しの護衛対象は初めてだ。

 

 ……俺、何かコイツにやったか?

 

と言うか、顔合わせの時と朝以外にコイツと会ったことがない。なので、理由が見つからない。

 

 ……性格が元々こんなツンケンしているのか?

 

何か理由があるにしろ、素であるにしろ、面倒なことには変わりがない。今日何度目かのため息がこぼれる。

 

 ……そもそも女子が護衛対象なら、女子の武偵が護衛すればよかっただろうに。

 

俺は周りにジロジロ見られながら、持ち物検査の列に並んだ。

 

 

 

 

 

 

 この護衛依頼が来た時、酔った蘭豹と綴が回転式ダーツで生徒を決めたことは……イブキは一生知ることがないだろう。

 

 

 

 

 

 

 さて、並び始めて数分、ジロジロとみられる視線にも慣れ始めた時だった。

 

「あ、千聖ちゃーん!!」

 

‘‘肩にかかるほどの長さのピンク髪の少女’’が白鷺千聖(護衛対象)に声をかけてきた。

 俺は一瞬そのピンク髪の少女を警戒したが……すぐにその警戒を解いた。そのピンク髪の少女は白鷺千聖(護衛対象)が所属するアイドルユニット:‘‘Pastel*Palettes(通称:パスパレ)’’のボーカルだからだ。

 

「あら、彩ちゃん。どうかしたの?」

「千聖ちゃん!!今日転校生が来るんだって!!楽しみだなぁ」

「あら、そうなの?」

 

 ……君の後ろにその‘‘転校生’’がいますよ。

 

俺は周りの男子生徒を見るが……俺のとは全く違う制服を着ている。意外と気づかない物なのだろうか。

 

「あ、彩ちゃん?後ろにいる方がその人なんだけど……」

「え?そうなの!?」

 

ピンク髪の少女が勢いよく振り向いた。ピンク髪の少女は白鷺千聖(護衛対象)と違い、年相応な精神年齢をしていて、目も白鷺千聖(護衛対象)と違って夢に輝いている。

 

 ……このピンク髪の少女の護衛がよかったなぁ。こんな大人の世界を覗いて、黒くなった白鷺千聖(護衛対象)によりは断然……

 

俺がそう思った時、白鷺千聖(護衛対象)は拳を振るってきた。俺はその拳を余裕で避ける。

 

「何か変な事でも考えているのかしら?」

「おい、‘‘思想・良心の自由’’って言葉を知っているか?」

「え?……え?」

 

俺は白鷺千聖(護衛対象)に軽くチョップを入れ、強制的に黙らせた。白鷺千聖(護衛対象)は頭を押さえて涙目になる。

 

「転入生の村田です。よろしく。」

「え!?え、えっと……『まんまるお山に彩を!!丸山彩です!!』」

「お、おう……」

 

ピンク髪の少女は、今や懐かしい‘‘ゲッツ’’の様なポーズを取りながら言った。

 白鷺千聖(護衛対象)の所属する‘‘パスパレ’’に所属しているため、ある程度の情報を調べてある。そのため、ピンク髪の少女‘‘丸山彩’’の仕草もある程度知っているのだが……まさか、本当にこんなポーズをとるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 さて、俺が‘‘丸山彩’’の時調的なポーズ唖然(あぜん)とし、空気が悪くなって互いに手出しができなくなった。そして数分後、やっと持ち物検査の順番が来た。

 

 ……今時持ち物検査って、空港の手荷物検査じゃねぇんだからさ

 

俺はそう思いながら、カバンを風紀委員であろう生徒の前にある机に置いた。

 

「あなたは……今日転入する‘‘村田さん’’ですか?」

「はい、よろしくお願いします。先輩。」

「……あなたとは同学年ですよ?」

 

俺は先輩だと思って頭を下げると……青緑色の長髪少女は微笑みながら答えた。

 

 ……笑顔が美しいが、この子にイタズラを仕掛けるんだよなぁ。

 

俺は少し罪悪感を感じながら、カバンとポケットに‘‘四次元倉庫’’の扉を開けた。

 

 

 

 

「……イワシ?」

「大きなパーティー用サングラス……」

 

俺の目の前には玩具やらゴミやらが山のように積まれており、俺のカバンやポケットを必死であさる生徒や‘‘青緑色の長髪少女’’は顔が引きつっていた。

 

「これは……牛肉?」

「それは景品で貰った豪州産のステーキ用肉だ。そんなところにあったのか……」

「あ、網?」

「あ、訓練の時に拾った漁網だ。使うと思ってしまっといたんだよな」

 

俺のカバンやポケットからはありえない物が多数出てきて、風紀委員たちは驚いている。

 

「……なんであんなものが入っているのよ」

「あんな大きいものが入るんだね」

「ブシドーです!!」

「武士道と関係ないと思うんですが……」

「キラキラドキドキする!!」

「ハァ!?」

 

周りの生徒達も何が出るのかと注目している。

 

「音が鳴るゴムのニワトリ」

「……一時期、儀杖隊の訓練をやろうとしてたから隠したんだけど、ここにあったんだ」

「い、一升瓶!?日本酒!?」

「許可は貰ってますよ」

 

日本酒が出てきた所で予鈴が鳴った。それを聞いた生徒たちは急いで玄関口へ向かっていき、‘‘青緑色の長髪少女(風紀委員)’’は重いため息をついていた。

 

「村田さん、このようなものをどうやって入れるんですか?」

「……いやぁ、最近整理してなくて」

「ぶ、物理的に入らないと思うんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、この花咲川高校への転入は特に変わったことがないので割愛する。強いて言えば、多数の生徒にジロジロ見られたことくらいだ。

 

 午前中は授業を受け、午後からはドラマの打ち合わせがあるらしい。なので俺と白鷺千聖(護衛対象)はその打ち合わせ場所である‘‘とあるビル’’に向かった。

 そのビルのエレベーターに二人で乗り込もうとすると、すでに先客がいたようだ。

 

「おはようございます」

「「おはようございます」」

 

先客は長袖のカラーシャツを腕まくりした、長身の好青年だった。その好青年は重そうな段ボールを持っている。

 

「白鷺さん、珍しいですね。マネージャー以外の人と来るなんて、しかも男性と。」

「えぇ、事務所に脅迫文が届いたので。私の護衛をやってもらっているんです。」

「そうなんですか。」

 

好青年は白鷺千聖(護衛対象)と話しながらちらりと俺を見てきた。俺はその好青年と目が合った時、思わず銃剣を握った。

 

 ……な、何だ!?こいつ!?

 

その好青年の目は、‘‘汚染しきった池のヘドロ’’の様にドロドロとしていた。ここまで狂った目をした人間は片手で数えられるほどしか会ったことがない。

 

 ……しかもこんな‘‘目’’をしたやつらは全員、重要抹殺対象だった。

 

俺が警戒している間も、白鷺千聖(護衛対象)と好青年は談笑を続ける。

 

「護衛さん……ですか、ディレクターの江戸門 健(えどもん けん)です。よろしく」

 

ある程度話した後、江戸門と言う男はその‘‘濁り切った瞳’’を歪ませながら、笑顔で握手を求めてきた。

 

「すいません、勤務中なので答えられません」

 

俺は護衛を理由にして、江戸門の握手を拒否した。

 

 ……こういう奴は何をしでかすか分からない。握手などの肉体的接触だけでどんな人間か分かる奴もいるんだ。

 

「そうですか、職務中に失礼しました。」

 

江戸門は‘‘濁り切った瞳’’をさらに歪ませ、申し訳なさそうな顔をする。俺はその‘‘濁り切った瞳’’を再認識し、鳥肌が立つ。

 

  キーン!!

 

‘‘エレベーターが階に付いた時の鐘の音’’が、俺には神の慈悲に聞こえた。

 

「じゃぁ、頑張ってください」

 

江戸門は笑顔でエレベーターを降りていった。俺は江戸門が視界から消えるまで、銃剣を離すことができなかった。

 

 

 

 

 

 そして無事に打ち合わせが終わり、俺と白鷺千聖(護衛対象)が再びエレベーターに乗り、扉を閉めようとした。

 

「待ってください!!乗ります!!」

 

江戸門が慌ててエレベーターに飛び乗ってきた。そして江戸門はポケットをあさり始めた。

 

「白鷺さん、忘れ物がありましたよ?」

 

そう言って江戸門が出したのは……特大の肥後守だった。流れるように刃を出し、白鷺千聖(護衛対象)へ刺そうと……

 

 ……刃渡り5寸(約15センチ)以上だと!?

 

俺は慌てて江戸門と白鷺千聖(護衛対象)の間に体を滑らせた。

 

  ドスッ!!

 

「チッ!!」

「……ッ!!」

「……え」

 

そして俺の腹に肥後守がめり込んだ。江戸門は不快な表情をする。白鷺千聖(護衛対象)は何が起こっているのか理解できないようだ。

 

 ……防刃チョッキ着てくればよかったなぁ。

 

俺は肥後守を持つ江戸門の右腕を上から握って動けなくした。もちろん、腹からは鮮血が溢れ出ているが、肥後守を抜いたら余計に血が出る。

 

 

 ところで、第一種軍装・第二種軍装は防弾・防刃処理は一切されていない。理由は金がかかるからだそうだ(なんでも防弾防刃にすると値段が3倍ほど上がるらしい)。

 そのため、危険地帯に行くときは中に防弾・防刃チョッキを着たり、外から着たりする。

 

 

「邪魔なんだよ、お前。白鷺さんのそばにいてよぉ。……白鷺さん、今この男から解放してあげますよ」

 

江戸門はそう言って狂おしそうに、その‘‘濁り切った瞳’’で白鷺千聖(護衛対象)を見た。白鷺千聖(護衛対象)は震えながら床に崩れ落ちていった。

 

「さっさとコイツを殺して、白鷺さんを老化から解放しないと……。まず腐りやすい内臓を……」

 

江戸門は‘‘濁り切った瞳’’を歪ませ、左ポケットから再び肥後守を取り出して俺の首に刺そうとしてきた。

 

「ふっざけんな!!この野郎!!」

 

俺は肥後守を叩き落とし、江戸門の喉元に鉄拳をくらわす。

 

「ゴフッ!!」

「……ッ~~!!」

 

 ……この野郎!?腹に刺さっている肥後守をグリグリとさせやがって!!

 

 しかし、江戸門はすぐに意識を回復し、俺の腹に刺さっている肥後守を無理やり抜いた。

 

「……ハハッ!!どうしたんですか武偵さん!!あんたは俺を殺せないでしょう!?でも俺はあんたを殺せるんですよ!?」

 

 ……確かに、実際殺すとなると面倒なことになる。それに、ここで殺して白鷺千聖(護衛対象)がトラウマになったらさらに面倒だ。

 

 こんな密室、跳弾の恐れがあるので拳銃は使えない。俺は懐から銃剣を抜き、肥後守を引き裂いた。江戸門は驚いた様な、楽しんでいそうな顔をする。

 俺はそして、柄頭(つかがしら)で何度も殴ると……

 

  キーン!!

 

鐘の音と共にエレベーターの扉が開いた。

 扉の外には……血まみれの男二人を見て、驚いている人が多数いる

 

「た、助けてください!!この人が襲ってきて!!」

「何言ってんだ、てめぇ!!」

 

江戸門は表情を変え、いかにも自分が襲われている様にふるまった。

 

 

 

 

 

 結局、エレベーター内の監視カメラと白鷺千聖(護衛対象)が携帯で録音していた音声によって江戸門は逮捕された。

 

「みんな!!奴を殺せ!!奴は女神をアガペーで納豆しようt……!!」

 

江戸門は明らかに心神喪失を(よそお)い、喚きながら警察に連行されていった。

 

 ……なんて胸糞わるい

 

 

「あ、あの……ケガをしているので病院へ……」

「仕事があるんで大丈夫です。応急処置と鎮痛剤打ってもらっていいですか?」

 

俺は救急隊員に応急処置と鎮痛剤を撃ってもらい、白鷺千聖(護衛対象)と一緒に次の仕事場へ急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 文字数の都合上、その他の事件を詳しくは書けない。

 

 一日目はその江戸門の事件の後、熱狂的なファンにナイフで切られるという事件が2件起こった。

 二日目は映画のロケに同行した。その時、スタントマンが体調を崩して欠席だったので、なんだかんだで代わりに俺が飛び降りることになった。しかし、その際にバンジーのゴムが切れるという事件が発生した(特に怪我はない)。そのほかに銃撃を受ける事件も発生し、さらにボロボロになった。

 三日目はパスパレの練習だけだったので、今日こそ何もないと思っていた。しかし、パスパレのメンバーを家まで送ろうとしたところ、最初にある通りカーチェイスが発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……後半、雑過ぎだろ!?

 

俺は突っ込みながら、高機動車と一緒に転がっていく。

 

 ギギギ……ドスン!!

 

回転(ローリング)(前後の軸に対して回転)していた我が愛車(高機動車)は奇跡的にタイヤだけで接地して止まった。

 俺はアクセルをベタ踏みし(高機動車はAT(オートマチック))、今度は追いかけてくる車の方へ前進した。

 

「な、なんで敵の方に行くのよ!!」

「お前は‘‘島津の退き口’’って知ってるか!?」

 

隣に座る白鷺千聖(護衛対象)が涙目で反論してきた。

 

「関ケ原の島津は‘‘中央突破して撤退’’なんてしてないわよ!!!」

「誰が‘‘中央突破する’’と言った!?」

 

高機動車が敵の車(ロードスターか?)に正面衝突する寸前、俺はハンドルを思いっきり切り、脇道に突っ込ませた。

 

 

 

 

 

 脇道に入ると、我が愛車(高機動車)の両側面から‘‘ガリガリ削れる音’’が響く。そして………行き止まりの壁にたどり着いた。

 

 ……チクショウ。これ以上は進めねぇ。

 

俺の我が愛車(高機動車)が止まった瞬間、後にはトヨタ・2000GT(日本最高の旧車)が追い付いた。

 

 ……高機動車の意地、見せてやろうじゃねぇか。

 

俺はギアをR(リバース)にし、アクセルを踏み込んだ。すると、高機動車は全速力で後退を始める。

 

「え…………待てって!?2000GTを廃車にする気か!?」

「ウソだろ!?」

 

我が愛車(高機動車)は2000GTを踏み、その上を爆走する。もちろん2000GTは踏み台になるため、ボンネットや屋根が潰れていく。

 

  ベキ!!メキメキ!!

 

「「あぁあああああ!!!」」

 

外から聞こえる悲鳴を無視し、我が愛車(高機動車)は2000GTを乗り越えた。

 

「あ、あいつ!?2000GTの価値をわかってないのか!?」

「と言うか早く逃げろよ!!お前の車もあれと同じになるぞ!?」

「や、ヤバッ!!」

 

 高機動車は爆走し、2000GTの後ろにいたマツダ・RX-7 (もちろんすでに生産終了)を引き潰して悲鳴を上げさせる。

 

 ……なんで戦闘するのにそんな貴重な車で来るんだよ。

 

 車に詳しくない俺でも、 ‘‘潰した2両の車’’は珍しい車だという事は分かる。

 

 

 

 

 

 

 高機動車は脇道から這い出て、大きな道路で再び逃げ出した。

 

  ダダダダ……!!

 

後ろには4台ほどの車が追いかけ、銃撃を食らわせてくる。

 

「……(白目)」

「彩さん!?しっかりしてください!!」

「ルルルンッ!!てしてきた!!」

「これが‘‘ツリノブセ’’ですね!!」

 

後ろが騒いでいるがそれを無視し、俺は‘‘四次元倉庫’’からパンツァーファウストを取り出した。そして適当に撃つと、敵の1台の近くに着弾した。その1台は運転を誤ったのか蛇行運転を始め、近くの2台は巻き込んで爆発する。

 

 ……な、何て運がいい。神棚を磨いたかいがあったな。

 

 

 

 

 

安心したのも(つか)の間、最後の一台が急加速して高機動車の右に横付けしてきた。

 

 ……なるほど一騎打ちしようってか?

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から大型の銃を取り出した。

 高機動車の隣に横付けしたスポーツカー(改造されていて最早わからない)と同時に窓を開け、銃を互いに突きつける。

 

「喰らえこのヤr…………は!?」

 

敵の車の助手席に座っていた男が拳銃を出して威嚇し……そしてこっちを見て驚愕した。

 

 ……当たり前だ。拳銃のような‘‘ちっぽけな銃’’なんて屁でもねェ!!

 

 俺の25ミリ機関銃の銃口が、敵の車に向いていたからである。敵の車は慌てて避けようとしているがもう遅い。

 

「イピカイエー・マザーファッカー!!」

 

  ダンダンダンダンダン!!!

  ボーーーン!!!

 

俺は戸惑いなく引き金を引いた。25ミリ機関銃の掃射を受けた敵の車は大爆発を起こした。

 

「うおぉぁああ!?」

 

爆発の熱風を俺はもろに喰らい、思わず目を閉じた。髪がチリチリと焦げていくのが分かる。

 

「ちょっと!?前、前!!」

「……なんだy、っうわぁああ!?」

 

白鷺千聖(護衛対象)の声に、俺が熱風を受けながら目を開けると……目の前に壁が(せま)っていた。俺は慌ててブレーキとサイドブレーキを使い、ハンドルを切る。

 

 

 この操作が悪かったのだろう、高機動車はいきなりブレーキを踏んで方向転換をしたせいか、再び回転(ローリング)(前後の軸に対して回転)して、ビルの壁に激突した。

 

「お、俺の車がぁああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 この日、とうとう俺の高機動車が廃車になった。

 

 ……おれ、次の日からどうやって移動すればいいんだよ。

 

消防や警察が来た時、俺はボロボロの高機動車を見てそう思った。

 ついでに、シートベルトのおかげでパスパレの皆さんは無傷、俺は軽傷ですんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高機動車が廃車になった翌日の早朝、武偵高の車輛科(ロジ)の倉庫を武藤と一緒に捜索し、倉庫の隅に眠っていた光岡・ビュートを見つけた。

 

  ボンッ!!!ドッドッドッドッ……

 

「お!?動いた動いた!!これなら使ってもいいぞ!!」

「……む、武藤?お前正気か?」

 

 このビュート、当時は藍色でレトロな感じの洒落た車だったのだろう。

 しかし、今の姿はホコリまみれ、多数の弾痕や穴が開いており、あちこち錆びつき凹んでいる。そして運転手側のサイドガラスには弾が貫通したらしい大きな穴とヒビがあり、助手席側のサイドガラスやドアには赤黒い物(インクであることを祈る)が多数こびりついている。

 

 ……あ、ある意味、武偵高らしい車だな。

 

「どうせお前、壊すだろ?」

「………………否定できねぇ」

 

 武藤は『何を当たり前な事を言っているんだ』とでも言いそうな表情で俺に言ってきた。

 俺は反論しようとしたが……実際に昨日は高機動車を廃車にしており、今日も襲われる可能性があるために反論ができなかった。

 

「別にこれなら壊してもいいからよ!!…………これ、乗ると死人が出るって(いわ)くつきなんだよな

「おい武藤!?今なんて言った!?」

 

俺は武藤に掴みかかった。

 

 

 

 

 

 しかし、『すぐに貸せて・壊してもいい車』はこれしかないそうで……。

 

 ……再び軍から貰うなんて無理だしなぁ

 

『高機動車をプレゼントするため、手回しが大変だった』と神城さんがぼやいていたのを思い出した。

 結局、俺はこの‘‘レトロと言うよりは退廃的’’なボロボロのビュートを借りた。

 

 

 

 

 

 

 

  ドッドッドッド……プスン、ドッドッ……

 

 ……ほ、本当にこの車は大丈夫なのか?

 

ボンネットから白煙を上げ、時々エンジンが一瞬止まるビュートを運転しながら、俺は不安になった。

 

 ……せめてラジオでも流すか

 

「え?……は!?つまみが取れた!?」

 

頭が痛くなったのは……二日酔いのせいではないと思う。

 

 




 カーチェイスのシーンは『ダイ・ハード/ラスト・デイ』を参考にしています。

 
 銃弾は火薬があるので処分が大変だそうです。
 ついでに、イブキは普段‘‘14年式拳銃’’を使っていますが、補給の都合上‘‘ワルサーP38’’も持っています。

 
 花咲川は共学になりました。異論はないね?

 白鷺千聖がイブキを嫌っている理由は、後ほど分かります。

 青緑色で長髪の少女は『Roselia』のギターの人です。

 『島津の退き口』……下手に説明するより、調べたほうが早いです。あんな撤退は異常です。


 江戸門はもしかしたら再び登場する……かも

 

   Next Ibuki's HINT!! 「0u(レイウ)ちゃん 」


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まともな会議をしてくれ……

 遅れに遅れたことをお詫び申し上げます。
 遅れた理由ですが……『学校生活が始まったから』と言うのは間接的な理由で、直接的な理由は『前話で‘‘一話あげてから事件が始まる’’と書いた』からです。はい。

 いや、『ギリギリ1話で収まるかな~』って思って書いていたら、余裕で2話分の文字数(正確には2.5話分)にまで膨れ上がってしまって……。

 全く、誰があんなこと書いたんでしょうね!!(自業自得)


 


 さて、俺は車を見てドン引きする白鷺千聖(護衛対象)と、その他‘‘パスパレ’’のメンバーを無理やり乗せ、‘‘参加型演奏用施設(ライブ会場)CiRCLE’’へ向かった。

 

 

 

 

 なんでも、この‘‘CiRCLE’’で5バンド合同ライブをやるらしく、その会議をそこでやるらしい。

 

 ……あれ?こういう仕事って普通マネージャーがやるものじゃないか?

 

俺は疑問に思いつつ、‘‘CiRCLE’’の駐車場に車を停めた。

 

 

 

 

 ボロボロのビュートを駐車場に停め、ボンネットを開けてエンジンの状態を確認した後、一緒に‘‘CiRCLE’’へ入って行った。

 ‘‘CiRCLE’’の中は自分が予想していた小さなライブ会場とは全く違っていた。内装は白を強調させ、ポスターは2枚ほどしか張られていない。日光を淡く反射させる木の床は、隅々までキレイにされている。

 

 ……へぇ、ここまでキレイなライブ会場があるんだ。

 

 確かに、この施設は建設されてから結構立っているだろう。しかし、軍艦の甲板ほどではないが、適当な軍の施設ほどにはキレイにされていて、清潔感が半端ない。

 

 

 会議場はまだ準備が終わっていないらしい。なので暇な‘‘パスパレ’’メンバーは椅子に座り、適当に時間を潰していた。

 俺もポケットから本をだし、時間を潰そうとしたら……

 

「イブキさん!!‘‘ブシドー’’を教えてください!!」

 

‘‘パスパレ’’メンバーの一人、若宮イヴが目を輝かせながら俺に頼んできた。

 

 

 

 

 

 この『若宮イヴ』という少女、ハーフの帰国子女で日本の文化に人一倍の興味があるそうだ。特に‘‘武士道’’にたいして並々ならぬ興味を持っている。

 そして、この少女は‘‘羽沢珈琲店’’でバイトをしており、俺が強盗をボコボコにしたところ間近で見ている。そのせいで……俺のことを『現代に生きる武士』として見ているのだ。

 

 

 

 

 

 ……俺はそんな高潔な人間じゃないんだけどなぁ

 

俺は思わずため息をついた。自分は欲にまみれた俗物なのだ。若宮イヴちゃんの‘‘純粋な目’’を見て、罪悪感が湧き出でる。

 

「俺はそんな立派な人間じゃない。それに強いて言うなら‘‘武士’’と言うか‘‘忍者’’に近いかr……近いのか?」

 

 HS部隊にいた頃は、暗殺・破壊工作がメインだったのだが……陰に‘‘忍んで’’いたとは言えない。むしろ堂々と突撃して、力ずくで落としていた。

 

 ……あれ?やっていることは‘‘忍者’’よりなのに、やり方は‘‘武士’’よりだぞ?

 

そもそも海軍なのに陸戦って……などと、自分の進んだ道が理想と正反対に位置していることを知って、俺は落ち込んだ。

 

「これが‘‘ケンソン’’ですね!!ですがイブキさん、あの時の行為は‘‘ブシドー’’です!!」

 

若宮イヴちゃんの‘‘純粋な瞳’’をみて、余計にあの時の真意を言えなくなった。

 

 ……あの時、喫茶店を黙って去っていったのは、酒を飲みたかったからだ。そんなこと言えるかよ。

 

こんな情けない理由を若宮イヴ(純粋無垢)に伝えることは、俺にはできない。

 

「あ~……こう、すぐに身に付くものでもないし、学がないから単純な言葉で教えられないかr……」

「じゃぁ、剣術を教えてください!!」

「いや、ここでやったら危ないぞ!?」

 

会議場の準備が終わり、開場したときには……俺は若宮イヴちゃんに短刀(銃剣)の使い方を教えるという約束をさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止なのですが。」

「……ん?」

 

 俺はパスパレに当てられた席の後ろの壁にもたれかかると、この前お世話になった‘‘花咲川高校の風紀委員’’がいた。

 

「……スイマセン、お名前は?」

「Roseliaの氷川 紗夜(ひかわ さよ)です。あなたはこの前転校してきた、‘‘村田 維吹’’さんですね?」

「……よく知ってますね」

 

氷川紗夜さんはその翡翠(ひすい)の瞳で俺を見てきた。

 

 ……正直に言っていい物なのだろうか

 

契約に『護衛の件を秘匿せよ』という文章も、暗喩する文章も無かった。しかし、ここで教えると……白鷺千聖(護衛対象)の学生生活に問題が出る恐れもある。

 

 

 

 ……さて、どうしたものか。

 

 マネージャーとか言って誤魔化しても、どうせすぐにボロが出る。氷川紗夜さんの‘‘賢そうな翡翠(ひすい)の瞳’’がそれを逃さないだろう。

 俺は白鷺千聖(護衛対象)をチラリとみると……白鷺千聖(護衛対象)は俺と氷川紗夜さんのやり取りをニヤニヤと見ていた。

 

 

 

 ……うん、別にバラしてもいいか。また持ち物検査やられた時に面倒事にならないだろうし。

 

「……パスパレに脅迫状が届いた。その護衛です。」

 

俺は姿勢を変えないまま、何でもないように、サラッと言った。

 実際は『白鷺千聖へ脅迫状が届いた』のだが……まぁ、彼女の所属するアイドルユニット:Pastel*Palettes(パスパレ)に脅迫状が届いたと言っても間違いではないだろう(実際の文章を見せて貰ってはいないが)。

 俺の言葉に、氷川さんと白鷺千聖(護衛対象)が固まった。

 

「俺が見た限り……氷川さんは聡明なようだ。この事を打ち明けた理由をあなたは理解できるはず」

「そ、そうでしたか……。という事は転校の件も……」

「ご想像にお任せします」

「お、お疲れ様です」

 

氷川さんは頭を押さえながら『Roselia』と書かれた席に座った。

 

 ……あぁ、なんか向こうも苦労しているんだな。

 

さて、俺のことを‘‘黒い笑顔’’で睨む白鷺千聖(お嬢様)に弁明でもするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……ち、千聖ちゃんがむくれている所、初めて見た。」

 

俺は適当な軽口で白鷺千聖(護衛対象)の文句を流した。その結果、いつも(形だけは)笑顔な白鷺千聖(護衛対象)の顔は子供の様に頬を膨らまし、不機嫌さを表現している。

 

 ……しっかし、まぁ……流石は元‘‘子役’’、今は‘‘女優’’。こんな事をしても‘‘見てくれは’’良い。

 

俺がため息を吐くと同時に、会場の扉がバーンと開かれた。そして、‘‘金髪の長髪少女’’や‘‘橙色の短髪少女’’、‘‘宝塚にいそうな少女’’が堂々と入ってきた。

 

 ……あれ?あの水色の髪って……松原さん?

 

『極東戦役:極東編 いつ撮ったんだよ……』で登場した松原さんも申し訳なさそうに、ピンク色のクマと一緒に入ってきた。

 

「へぇ~、最近は着ぐるみもバンドにいるのか。…………って、着ぐるみ!?

「……あ、やっぱりおかしいですよね。これって」

「しゃ、しゃべった!?」

 

 ……え?着ぐるみって喋らないんじゃないの!?というかバンドに‘‘着ぐるみ’’!?

 

俺は思わず蝦夷テレビの0uちゃん(ヤスケン)を思い出した。‘‘簡易0uちゃん’’や酒を飲んだ時以外、基本はしゃべらなかった。というか、そもそもバンドに‘‘着ぐるみ’’ってどういうことだ?

 

 俺が混乱している間に‘‘着ぐるみ(ミッシェルと言うらしい)’’は金髪少女に一言告げた後、部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 ……バンドに‘‘着ぐるみ’’って初めて聞いたぞ?えっと……こういう常識破りの事を‘‘ロック’’って言うのか?

 

『着ぐるみ=ロック(?)』という、新たな常識を知り……俺はうろたえていた。

 そんな時、さっき‘‘ミッシェル(?)と話していた金髪少女’’が不思議そうに俺を見てきた。

 

「あら、あなた初めて見るわね」

「は、はい。つい最近‘‘花咲川’’に転向してきた村田です。い、今の着ぐるみは……・」

 

 この金髪少女の名前は‘‘弦巻こころ’’。彼女は裕福な大富豪一家『弦巻家』の一人娘である。性格は無邪気で自由奔放・天衣無縫・好奇心旺盛で、何をしでかすか分からないそうだ。

 ついでに、『花咲川高校』と検索し、すぐに『弦巻こころ』という名前が出てきた。あだ名は‘‘花咲川の異空間’’。

 

「着ぐるみ?」

「あの熊みたいなものはなんd……」

「‘‘ミッシェル’’って言うのよ!!」

「あぁ……蝦夷テレビの‘‘0uちゃん’’みたいなマスコットの様な物ですか?」

 

俺は適当に流して‘‘花咲川の異空間’‘から脱出しようとした時、俺の‘‘0uちゃん’’と言う言葉に興味持ったのだろう。弦巻こころの瞳はキラキラさせ、俺を見てきた。

 

「‘‘0uちゃん’’って何かしら!?」

「蝦夷テレビの‘‘ミッシェル(?)’’の仲間みたいなものか?‘‘黄色で丸い’’、酒好きなマスコットだ」

「なんて素敵なのかしら!!ミッシェルの‘‘仲間’’がいるなんて!!」

 

 ……ん?なんか間違えてないか?

 

「‘‘0uちゃん’’は他には何ができるのかしら!!」

 

弦巻こころは好奇心旺盛な、キラキラとした純粋な瞳を俺に向けてきた。正直に言って、その瞳は心に刺さるからやめて欲しい。

 

「酒好きで、牛乳の一気飲みとか、(パーティー用の)バズーカ(大砲)撃ったり……ロックが好きみたいだぞ」

「そうなの!?大砲を!?」

 

 俺は早く彼女との会話を終えたいため、‘‘0uちゃん’’と言うよりは、‘‘中の人(ヤスケン)’’の特徴を上げた。

 その様子をジーッと見ていた、会場の扉の離隔に立っている‘‘サングラスとスーツの女性’’達が何か電話を急いでかけている。俺はその姿を見て、嫌な予感がするのだが……気のせいに違いない。

 

 

 

 

 

 

 イブキはまだ知らない。後日、この失言によって‘‘0uちゃん(ヤスケン)’’と俺に災難が降りそそぐことなど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!!今日は集まってくれてありがとう!!」

「以前からお話をさせて頂いていた『CiCLE合同ライブ』ですが、この(たび)皆さんの賛同を得ることが出来ました。なので本日第一回目の打ち合わせをしたいと思います」

 

『Poppin'Party』と書かれた席に座る‘‘猫耳少女’’と‘‘黒髪ショートカット少女’’の発言によって、会議が始まった。

 

 

 

ここ最近、なんでも最近は‘‘ガールズバンド’’と言う、‘‘女子だけのバンド’’が流行っているらしい。

 そこで、ここの地域で有名な‘‘ガールズバンド’’達が集まり、この『ライブハウス CiRCLE』で合同ライブを開催するそうだ。

 もちろん、‘‘ガールズバンド’’であるからには、この部屋にいるのは女子だけなので……

 

 

 

 

 ……全く、肩身が狭いったらありゃしない

 

俺は思わずため息をついた。

 この場にいる『Poppin' Party』・『Afterglow』・『Pastel*Palette』・『Roselia』・『ハロー、ハッピーワールド!』という5バンド全て、女性だけで構成されている。

 

 

 しかも、『Afterglow』というバンドには……2話前の『有能な人間は癖がある……』で人質になっていた‘‘黒髪赤メッシュ少女’’がいる。おそらく、助けた人物が俺であることを分かっているのだろう。その『Afterglow』のメンバー5人は俺をジーッと見ており、時々俺を見ながらヒソヒソと話し合っている。

 

 ……あぁ、早く帰りたい。

 

 帰るとなると、あの武偵高のビュート(ボロボロの車)を運転しなければならない。運転中に一瞬エンジンが止まり、カーエアコンからはカビた風が出て、時々何処からか異音がする車を運転したいだろうか。

 

 ……もう疲れた。

 

俺は再びため息をついた。

 『ため息をつけば幸運が逃げる』と言われるが……もし本当なら、今頃この人生全ての幸運が逃げ出しているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えている俺を置いて、会議は進んでいく。

 

「あぁ~そうだ!!ライブする順番でも決めましょうか!!」

 

『Poppin' Party』の席に座る‘‘ポニーテールの少女’’が慌てて提案した。

 

 

 

「あたし達は自分たちの演奏ができればいいから順番なんて……」←『Afterglow』

 

「最後は私達に決まっているわ」←『Roselia』

 

「すみません、その日は仕事が入ってるので最後にしてもらえると……」←『Pastel*Palette』

 

「ラストにあたし達の歌で、ドーンッてリボンのシャワーを撃ったら、みんな笑顔になれると思うの!!」←『ハロー、ハッピーワールド!』

 

「最後に全員・25人で、‘‘きらきら星’’歌いたい!!」←『Poppin' Party』

 

「……やっぱり、あたし達も最後がいいかな」←『Afterglow』

 

 

 ……こんな個性的な5つのバンドをまとめるって大変だな

 

俺は‘‘我関せず’’とばかりに、‘‘四次元倉庫’’から水筒を出して水を飲んだ。

 

「あの……そこで立っているあなたはどう思いますか?」

 

そんな俺を、『Poppin' Party』の席に座っている‘‘金髪ツインテールの巨乳少女’’は目ざとく見つけて尋ねてきた。

 

「すいません。自分は音楽に(うと)いのでよくわかりません」

 

俺はシレッと答え、再び水を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしよう沙綾ちゃん!!」」

「じゃぁ、タイトル!!タイトル決めましょう!!」

 

『Poppin' Party』の席に座る‘‘ポニーテール少女’’が再び提案するが……順番もまともに決められないのだから、さらに重要なタイトルなど決められるはずがない。

 大いに荒れる会場を尻目に、俺は大きなあくびをした。

 

 ……次の予定はなんだ?

 

俺は懐から予定表を取り出した。

 その予定表によると、次は『Pastel*Palettes(パスパレ)全員 羽田空港で取材』と書いてあった。

 

 

 何でも、地方テレビの番組で‘‘東京観光’’の番組をやっているそうだ。その今回のゲストがPastel*Palettes(パスパレ)らしい。

 『初めてのテレビ撮影、緊張する~!!』と、‘‘ピンク髪のPastel*Palettes(パスパレ)のボーカル:丸山彩’’が嬉しそうに話していたのを思い出した。

 

 ……あの白鷺千聖(護衛対象)も、丸山彩ぐらい純粋だったらよかったn……

 

  ドスッ!!!

 

俺の顔の右、5センチほど離れた場所にボールペンが突き刺さった。俺は思わず前を見ると、白鷺千聖(護衛対象)がギロリと俺を睨んでいた。

 

 ……白鷺千聖(お前)より、丸山彩や若宮イヴの方が純粋なのは事実だr……

 

今度は顔の左、5センチ以内の場所に鉛筆が突き刺さった。ボールペンはともかく、鉛筆は壁に突き刺さるほどの強度を持たないはずなのだが……。

 

 

 

 これ以上面倒事にさせないため、俺は‘‘降参だ’’とばかりに両手を上げた。白鷺千聖(護衛対象)はその結果に満足したのか、見惚れるような美しい笑顔をして混沌とした会議に戻る。

 

 

 

 ……それにしても、この‘‘羽田空港’’。なんか嫌な予感がするんだよな。

 

俺は予定表を見ながらそう思った。

 何故だかわからないが……凄く嫌な予感がする。こう、『ナカジマ・プラザ』や『ジョン・F・ケネディ国際空港』の時の様な嫌な予感がする。

 

 ……まさか、あのジョニー・マクレー(おっさん)が日本に来ないだろう。なら、誰が来る?

 

 とりあえず、一番困るのは‘‘シャーロック’’に‘‘ハンナ・ウルリッヒ・ルーデル’’だが……アイツらが簡単に日本に来れるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に思考を巡らせていた時だった。

 

「みんな……」

香澄(かすみ)……」

 

『Poppin'Party』と書かれた席に座る‘‘猫耳少女’’が大声発し、全員の注目を集めた。

 彼女は大物政治家でも出来ないような重厚なオーラを(まと)っている。

 

 ……なんだ!?こいつ!?

 

俺は思わず身構えた。会議に参加していた他のメンバーたちもその少女に注目する。

 『Poppin'Party』と書かれた席に座る‘‘猫耳少女’’は右手を後頭部、左手を腹に当てた。

 

「わたし……お腹すいたかも」

「じゃぁ、ファミレス行く?」

「いいねぇ~」

 

少女の言葉に反応し、この会議場にいるほぼ全員が席を立ち、会場を出ていこうとした。

 

「‘‘会議は踊る、されど進まず’’……か。普通の高校生はこういう会議が普通なのか?」

 

俺はため息をつきながら呟いた。

 俺は一応‘‘士官の端くれ’’なので、時々会議に出席するのだが……ここまで‘‘ひどい会議’’は一度もなかった。まぁ、出席者の平均年齢が30~50歳という事もあるだろうが。

 

……さて、移動開始まであと20分。それまでに終わるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ファミレスで打ち合わせはもちろん行われず、のんびりとした時間が過ぎた。

 出発時間が迫ったので、俺はPastel*Palettes(パスパレ)のメンバー5人を無理やり‘‘ボロボロのビュート’’に詰め込み、次の場所の‘‘羽田空港’’へ向かった。

(ビュートは5人乗りなので、もちろん定員オーバー)

 

 

 

 

「では‘‘東京ぶらり旅’’!!今回のゲストはアイドルユニット‘‘Pastel*Palettes’’の皆さんです!!」

「「「「「こんにちはー!!」」」」」

 

 俺達は今、羽田空港の国際線到着ロビーにいた。何でも、今回は『日本に戻ってきて最初に寄りたい店』をテーマに取材をするらしい。

 

 俺はこのロケを撮るカメラの後ろにいた。俺はボケーッと到着ロビーへ入ってくる外国人や日本人を見ていた。

 

 ……この嫌な予感、ただの勘違いだといいんだが

 

そう思っていると……‘‘180センチほどの身長を持つ、スキンヘッドの白人の男性’’が到着ロビーに入ってきた。そして……その男と目が合った。

 

「……はぁ!?なんでいるんだよ!?」

 

俺は思わず叫んだ。このロケの関係者全員が俺を見てくるが……そんなことを気に掛けないほどの衝撃が俺を襲ってくる。

 

 

 

 あの‘‘スキンヘッドの白人’’はジョニー・マクレー(おっさん)だ。俺の‘‘相棒’’であり、‘‘疫病神’’でもある。

 ジョニー・マクレー(おっさん)も俺のことを‘‘相棒or疫病神’’と思っているので、俺に会わないように日本へは来ないと思っていた。

 

 

 

 ……なんで、あんな‘‘不幸を呼ぶ男’’がここにいるんだ!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)も俺を見つけたのだろう、苦々しい顔つきになった。

 

 

 

「(英語)ジョニー、どうしたの?……あらイブキ君じゃない!!」

 

隣にいる‘‘ジョニー・マクレー(おっさん)の奥さん:マリーさん’’も俺を見つけ、大きく手を振ってきた。

 

「(英語)イブキ君!!また大きくなったわね!!夏以来かしら!!」

 

マリーさんは駆け寄ってくると、俺を我が子の様に抱きしめた。

 俺は‘‘母親の愛’’に久方ぶりに触れ合ったため、受け入れそうになり……慌てて突き放した。

 

「(英語)何するんですか!?」

「(英語)私にとって、イブキ君は‘‘ヒーロー’’で‘‘息子’’よ?」

 

マリーさんは俺の手を振り払い、再び抱きしめた。正直に言って……恥ずかしいからやめて欲しい。

 

「(英語)マリー、こいつも男だ。そろそろ止めておけ」

「(英語)何?この子は私にとって‘‘ルーシー’’や‘‘ジャック’’の弟よ?」

 

 ……恥ずかしいからそろそろやめて欲しい。

 

俺は必死になってマリーさんの抱擁(ほうよう)から抜け出した。    

 Pastel*Palettes(パスパレ)のメンバー5人が俺を注目しているのがよくわかる。

 

「(英語)なんでジョニー・マクレー(おっさん)が日本にいるんだよ!!」

「(英語)うるっせぇなぁ……。偶然日本行きのチケットが当たったんだよ!!俺も来たくなかったよクソッタレ!!」

「(英語)……………で、どこに泊まるんだ?お願いだから遠くに行ってくれ。」

「(英語)‘‘アクア・エデン’’のホテルだ。」

 

 

 

 アクア・エデンとは……身分証が無いとは入れない、出入りがヤケに厳しい人工島だ。そして、日本でカジノや風俗が許される数少ない場所の一つだ。

 

 

 ……あ、淡路さんが『アクア・エデンを沈めたくない』って言っていた理由ってこれだったのか!!

 

『極東戦役:極東編 金は天下の回りもの……』で、『アレクサンドリア』のマスター:淡路萌香が言っていた言葉を思い出した。その時だった。

 

「なんであんた達が私の近くに来るのよ!!なんで……なんであの人を殺した二人が!!!!

 

白鷺千聖(護衛対象)は俺とジョニー・マクレー(おっさん)を見て、情緒不安定になり、持っている物を俺達に向かって投げつけ始めた。

 

 ……なんだ?どうしたよ!?

 

 俺は急いで白鷺千聖(護衛対象)を拘束し、気絶させた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

空港のロビーには重苦しい空気が充満する。

 

「……白鷺千聖さんは体調がすぐれない様です。」

「……は、はい!!ロケ中止!!中止!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、俺はPastel*Palettes(パスパレ)の4人を家まで送った。今は、ビュートの車内は助手席で寝て(気絶して)いる白鷺千聖(護衛対象)と俺だけだ。

 

 ……恨まれるのは仕事柄覚悟していたが、実際に会うと精神的に来るな。

 

俺はため息をついた。

 

 

 

 俺は白鷺千聖(護衛対象)を気絶させた後、急いで理子に連絡し、彼女のことについて調べて貰った。

 その結果……家族も妹もピンピンに生きているようだ。しかし、彼女が‘‘子役’’を演じる初期から世話になっていたディレクター:斎藤浩二(さいとうこうじ)が死んでいた。

 そのディレクターは‘‘ウィンザー114便’’に搭乗していたそうだ。‘‘ウィンザー114便’’は、『ジョン・F・ケネディ国際空港での事件』で墜落し、乗員乗客約200名は全員死亡した。

 

 

 

 ……その『ジョン・F・ケネディ国際空港での事件』を解決したのは俺とジョニー・マクレー(おっさん)だ。俺達を恨む理由は分からなくもない。

 

俺は大きなため息をついた。

 あの時、テロリストに反抗したのは『空港を管轄するハゲ署長』だ。確かに俺とジョニー・マクレー(おっさん)も反抗したが、‘‘ウィンザー114便’’の墜落は『空港を管轄するハゲ署長』への見せしめだ。

 

 ……責任はあの‘‘ハゲ所長’’に(なす)り付けることはできるが、確かに俺も責任を背負っている。

 

  プスン……プスン……

 

そんな事を考えていた時だった。‘‘ボロボロのビュート’’がボンネットから白煙を吹き出し始めた。俺は慌ててスピードを緩め、ブレーキを停めた。

 俺はボンネットを開けて中を見ると……ウォッシャー液の(くだ)が割れ、そこから漏れ出た液がエンジンによって蒸発していたようだ。

 

 ……全く!!心配させやがって、このボロ車!!

 

俺はそう思いながら横を向くと、そこは霊園だった。ここの霊園には俺の親父・お袋が眠っている。全くなんて巡り合わせだ。

 

 ……俺はあの時、最善を尽くした。結果的には親父とお袋を亡くし、沢山の人達が死んだけど……俺とジョニー・マクレー(おっさん)は最善を尽くしたはずだ!!!

 

「なぁ、そうだろう?……そうじゃないと困るんだよ、チクショウめ」

 

俺は爪を手の平に食い込ませ、ビュートのタイヤを蹴飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  バコッ!!カランカラン……

 

「……」

 

俺がタイヤを蹴ったせいでホイールキャップが外れてしまった。

 

 ……このボロ車!!

 

俺はため息をつきながらホイールキャップを取り付け、運転席に戻りエンジンを掛けようとした。

 

  キュルキュルキュル……

 

「ふざけんな!!動けよボロ車!!いい加減にしろよ!!」

 

  キュルキュルキュル……

 

 

 

 

 10分後

 

「お願いだから、機嫌直して……ゴメン、悪かったって」

 

  キュルキュル……ドゥルン!!ドッドッドッド……

 

 ……俺が謝った瞬間、すぐにエンジンが動いたぞ!?どうなってやがるんだこのボロ車!?

 

俺はこのボロ車が怖くなった。そもそも曰く付きの車だ。どんなことが起こってもおかしくはない。

 

  ドッドッ……プスン、プスン

 

「悪かったから、‘‘ボロ車’’と言ってスイマセンデシタ!!」

 

  ドッドッドッド……

 

さっきまで不調だったエンジンは、いきなり滑らかに動き出した。そして、夕焼けの光を自慢げに反射させ、ビュートは東京を走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 『0uちゃん、弦巻こころに目をつけられる』の回。この後日談を閑話にいれようと思ってます。


 この会議は『ガルパピコ 7話』をモチーフにしています。


 ジョニー・マクレーは『ジョン・マクレーン』をモデル(と言うかほぼそのまま)の人物。
 この男が日本に上陸という事は……


 今回は英語と日本語が入り混じるので、英語の場合は
「(英語)……」
となります。


 白鷺千聖がイブキを嫌いだった理由がこれです。『あの人を見殺しにして置いて、何ちやほやされているのよ!!」と言う怒りはあったはずです。
 それに、当時は白鷺千聖も小さかった(と言っても、小学6年だが)ため、事実を一部誤認しています。


  Next Ibuki's HINT!! 「ボロ車とじゃじゃ馬 」


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高級中華食い放題(手土産付き)……

 次話で事件が始まります。今度は間違いはありません。ここまで長かった。




 学校が始まったので、投稿期間が遅れる……のか?今まではバイト漬けだったから逆に疲れて書けなかったし。







「……ん」

 

快調に動くビュートを運転して15分後、隣で寝て(気絶して)いた白鷺千聖(護衛対象)がやっと起きたようだ。

 

「ここはd……」

「車の中だ。」

 

俺の言葉に、白鷺千聖(護衛対象)はギロリと俺を睨んできた。

 

「お前、あの空港でやった事を覚えているか?」

「……」

 

白鷺千聖(護衛対象)の目は俺を視界から外した。‘‘プロ意識の高い女優’’である彼女には、自分がやらかした重さをよく理解できるはずだ。‘‘自分の我が儘でロケを中止させた’’という事を……

 

「まぁ良い。それよりも……お前の事を調べさせてもらった。斎藤浩二(さいとうこうじ)って言うディレクターにお前は世話になっていたみたいだな。」

「……ッ」

 

白鷺千聖(護衛対象)は再び俺を睨みつけてきた。俺はその視線を無視し、車を運転する。

 

「俺とジョニー・マクレー(おっさん)はあの時、最善を尽くした。それだけは胸を張って言える」

 

  キキーッ!!

 

ビュートにブレーキをかけ、白鷺千聖(護衛対象)の家の前に停めた。ボロすぎるせいか、ブレーキ音がやけに響いた。

 

「俺達が居ても居なくても、‘‘ウィンザー114便’’はテロの手によって墜落させられていただろう。あのハゲ署長、平時はともかく……緊急時に対しては無能だったしな。」

「…………今日は送ってくれてありがとうございます」

 

白鷺千聖(護衛対象)は張り付けた笑顔をしながらシートベルトを外し、ドアを開けた。

 

「ただ、これだけは聞いてくれ。……お前にも‘‘女優のプライド’’がある様に、俺にもプライドってものがある。『ジョン・F・ケネディ国際空港で死んだ両親』の(かたき)だろうと、任務なら死ぬ気で守る。」

「……そう」

 

白鷺千聖(護衛対象)は‘‘貼り付けた笑顔’’で、しかし目は俺を射殺(いころ)さんばかりに俺を見てきた。

 

「俺はこの任務を降りるつもりはない。護衛を変えたければお前が願い出ろ。」

「…………今日はありがとうございました。」

 

  バタン!!!

 

白鷺千聖(護衛対象)はビュートの扉を勢いよく閉め、自宅の門を開けた。

 

 ……これで、明日からはお役御免かな

 

俺は本心を言ったが……彼女には‘‘彼女の(すじ)’’がある。彼女と俺は相いれないだろう。

 俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  バキッ!!……バリン!!

 

白鷺千聖(護衛対象)が勢いよく閉めた時、何かが壊れる音がした。

 俺が慌てて運転席から出て、音がした場所に向かうと……助手席側のドアミラーが落下し、割れていた。

 

「て、テメェ!!この車がボロいのは分かってただろ!?なんで勢いよく閉めたんだよ!!」

「うるさいわね……。あんなぐらいで壊れるなんて普通思わないわよ!!」

 

俺が白鷺千聖(護衛対象)に怒鳴ると、彼女もキレてしまった。

 

「何で物を大事にできねぇんだよ!!見ろよ、鏡が完全に割れてるじゃねぇか!!」

「今の空気で‘‘優しく扉を閉める’’なんてことができるかしら?そもそもこんな‘‘古ぼけた車’’で来るんじゃないわよ!?」

「ば、馬鹿!!お前……そんな事言ったr……」

 

  ボーン!!

 

ボロ車(ビュート)から爆発音が響き、ボンネットから白煙を吹き出した。もちろんアイドリング状態だったエンジンはストップしている。

 

「機嫌損ねちゃっただろ!?何してくれてんの!?」

「な、何を言っているのかしら?」

 

白鷺千聖(護衛対象)は女優としてのプライドなのか、明らかに焦っていて冷汗をかきながらも……美しい笑顔で答えた。

 

「と、とりあえず養生テープかガムテープ持ってきてくれ!!」

「わ、分かったわ!!」

 

俺は急いで運転席に戻り、ボロ車(ビュート)の機嫌を取り始めた。

 

「いや……アイツも苛立ってつい言っちゃたみたいで、ゴメンナサイネ。機嫌戻して……ね」

 

  キュルキュルキュル……

 

エンジンがかかる気配がしない。俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、白鷺がガムテープを持ってくるころまでには、機嫌が戻ったことをお伝えする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、『任務中止のメールか電話』が来ると思っていたのだが……そう言うものは一切なかった。

 

 ……ただ連絡が遅れているだけか?

 

俺は待ち合わせ場所にボロ車(ビュート)を停め、『連絡が来ているかの確認』のために携帯をいじりだした時だった。

 

  コンコン……

 

「ん?」

 

そこには、ひびが入った運転席の窓を叩く白鷺がいた。俺はめんどくさそうに窓を開ける。

 

「なんだ……護衛を変えなかったのか?」

「あなたにもプライドがある様に……私にもプライドはあるのよ?」

 

彼女は‘‘貼り付けられた美しい笑顔’’をしながら、勝手に助手席の扉を開け、席に座った。

 

「今日は学校の後、パスパレのみんなでレッスンなの。今日も(まも)ってくれるかしら?」

「昨日と態度が一切違うから、逆に怖いんですけど……」

「ウフフ……」

 

俺は白鷺の態度の変わりように逆に怖くなり、冷汗をかいた。

 

「……ゴメン、マジで変わっていい?」

「あら、あなたにもプライドがあるんじゃなかったかしら?」

「べらんめぇ!!誰だって急に態度が変われば警戒するわ!!」

 

ボロ車(ビュート)はやけに快調に前進していった。

 

 

 

 

 授業が終わり、俺はアイドル事務所でPastel*Palettes(パスパレ)のレッスンをボケーと見ていた。

 そのレッスンが始まる前、白鷺はPastel*Palettes(パスパレ)のメンバーに頭を下げてた。。

 

「昨日はごめんなさい。せっかくの初テレビだったのに」

「……村田君とあのおじさんに何かあったんでしょ?いいの?」

 

すると、Pastel*Palettes(パスパレ)のメンバーの一人:氷川日菜が聞いてきた。

 

「……えぇ、私の中で決着をつけたから」

「ふーん…………自分よりも不幸な人でも見つけたの?」

「……ッ!?」

 

 ……いやぁ、アイドルって大変だなぁ

 

その時俺は、昨日割れたドアミラーの鏡の補修をしながら適当に聞き流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レッスンも終わり、『今日はまだ襲撃を受けていないなぁ』と思いながらボケ~としていると……

 

「分かんないよぉ~……」

 

Pastel*Palettes(パスパレ)のボーカル:丸山彩が泣きべそを書きながら、プリントの問題を解いていた。

 

 ……出発まで残り10分。どうせ今は暇だから、面倒を見てやるか。

 

「分からない問題でもあるのか?」

「い、イブキ君!!これ分かる!?」

 

 

彼女も同じ‘‘花咲川高校’’に通う同級生だそうだ。最初の頃は互いに丁寧語でしゃべっていたのだが……今はもう面倒なので砕けてしゃべっている。

 

 

 俺は丸山彩からプリントを受け取り、問題を見てみると……そこには斜方投射の簡単な問題があった。

 

「これって……高1どころか、最悪中学でやりそうな問題なんだけど」

「………」

「おい、そっぽ向いてないでこっちを見ろ。」

 

すると、丸山彩は涙目で俺を見てきた。

 

「だって、物理は苦手で……」

「……ッ!?」

 

流石は現役アイドル、涙目での破壊力は俺の想像をはるかに超えていた。

 

 ……白鷺の様な‘‘貼り付けた笑顔’’や‘‘営業スマイルの完成形’’ではできない、素の顔でこの破壊力なんて!?

 

俺はたじろいだ瞬間、後ろから投射物の気配を感じた。俺は振り向き、それをキャッチすると……

 

「……広辞苑!?」

「……いま何を考えていたのかしら?」

 

白鷺が‘‘どす黒い笑顔’’で俺達に近づいてきた。

 

「俺が何を考えてようが勝手だろうが!?それよりもお前、なんて物投げてんだよ!!これで人を殺せるんだぞ!?」

「私もあなたの事は調べさせてもらったわ。このぐらいの攻撃じゃ死なないでしょう?」

「だからってやっていい事と悪いことがあるだろう!?」

 

俺と白鷺の言い合いを聞きつけ、慌てて残りのPastel*Palettes(パスパレ)メンバーがワラワラと出てきた。

 

「どうかしたんですか!?」

「イブキさん!!今のはどうやって取るんですか!?」

 

Pastel*Palettes(パスパレ)メンバーの大和麻弥、若宮イヴが出てきた。

 

 ついでに大和麻弥が2年生、若宮イヴが1年生だそうだ。ため口でしゃっべて欲しいのだが……向こうはこの喋り方が素であるらしい。

 

「みんな~どうしたの?もう時間だよ?」

 

 氷川日菜の言葉に時計を見ると……もう出発時刻であった。白鷺との口喧嘩で相当時間を食っていたらしい。

 

「また今度教えるから……」

「本当!?約束だよ!!」

 

丸山は涙目で俺の手を握ってきた。

 

 ……そこまで切羽詰まってるのかよ。ヤバい、実はこれ面倒事に首突っ込んだか?

 

俺は思わずため息をついた。

 

 

その後、俺はPastel*Palettes(パスパレ)のメンバーをボロ車(ビュート)に詰め込み、家まで送った。

 

 

 

 

 

 

 

 余談であるが……後日、丸山と白鷺(実はこいつも理解していなかった)に『物理の解き方』と『微積分』を強制的に叩き込んだのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はアクビをしながら車を運転していた。

 

「なんだ、襲撃がないなんて護衛して初めてじゃないか?」

 

 そう、本日は奇跡的に襲撃が一切なかったのだ。すでに他のPastel*Palettes(パスパレ)のメンバーは家に送っており、白鷺を送れば今日の護衛は終わりになるのだが……あと5分も経たないで白鷺の家に付く。

 

 ところで、いつもは最低でも一日一回は銃撃やら斬撃やらがあった。なので襲撃のなかった今日は逆に気分が悪い。

 

「そもそも、毎日襲われるのがおかしいわよ」

「……確かにそうだ」

 

俺の(つぶや)きに白鷺が反応した。

 

 

 ……あれ?そもそも毎日襲撃を受けるっておかしくないか?

 

 日々警察の皆さんやHS部隊第一中隊の皆さんが必死に働いている。そのおかげもあり、治安が悪くなったとはいえ、日本は先進国の中で最低ランクの犯罪率を叩きだしているのだ。

 

「やっぱりお前は俺の疫病神だ。」

「あら、調べたら結構問題を引き寄せているそうじゃない。疫病神は果たしてどっちかしら?」

「あれはジョニー・マクレー(おっさん)か上官のせいだ。俺は基本それに巻き込まれただけなんだよ」

 

 キキーッ!!

 

ボロ車(ビュート)は白鷺の家の前に止まった。ボロいせいだろう、相変わらずブレーキの音が大きい。

 俺が周りの気配を探るが……敵意は一切感じない。今日は本当に襲撃がないようだ。

 

「明日こそ護衛が変わるのかな?」

「さぁ?どうかしら」

 

  バタン

 

白鷺は惚れそうな美しい笑顔を向けた後、前日の件を反省したのか……優しくボロ車(ビュート)のドアを閉め、家に入って行った。

 

 ……ハァ、見た目は‘‘絶世の美女’’なんだけどなぁ

 

俺はそう思った時、バチカンのシスター:メーヤを思い出した。

 彼女も見た目の絶世の美女ではあるが、人外や異教(?)の者には一切の容赦がないという二面性を持つ。

 

 ……‘‘綺麗な花には(とげ)がある’’か。よく言ったものだ。

 

俺はため息をつきながらアクセルを踏み、ボロ車(ビュート)を発進させた。

 

 ……何だって、ここ最近はワトソン・ココ・メーヤ・かなめ・白鷺と‘‘地雷持ち’’の女ばかりと会うんだ。

 

俺は頭を振り、無理やり思考を止めさせた。不幸を嘆いたって仕方がない。今後のことを考えよう。

 

 ……そういえば、こいつは借りものだ。今度の車はどうするか。

 

  ドッドッ……プスン、プスン!!

 

いきなりボロ車(ビュート)の調子が悪くなった。

 

 

 

 

 

 

 俺は帰路につき、俺はゆっくりとご機嫌斜めのボロ車(ビュート)を走らせていた。その時、前方で馬に(またが)って走っている人物を目撃した。

 

 ……と、東京に馬!?しかも乗馬!?

 

 確かに、乗馬の場合は道路交通法により『軽車輛(自転車やリヤカー)』に相当し、公道を走ってもよい。しかし……東京で見るのは初めてだ。

 

 ……あれ?この騎手の背中、やけに見覚えがあるぞ!?

 

赤信号のため、その馬の後ろにボロ車(ビュート)を止め、騎手を見て……やっとわかった。

 

 ……この騎手、俺の実家のはす向かいに住んでいる‘‘秋山の爺ちゃん’’だ。

 

 

 

 この『秋山の爺ちゃん』は世界最後の本格的な騎兵戦闘・騎馬突撃である老河口作戦に従軍したそうだ。そして‘‘ソ連侵攻’’の際は、少数の騎兵(文字通り)で大いに暴れまわり、ソ連の侵攻を半月ほど遅れさせたらしい。だが……その話をしていた時は酒を飲んでいたので、それが本当かどうかは分からない。

 

 

 

 とりあえず俺の実家のはす向かいに住み、‘‘自称保護者’’で、俺の頭が上がらない人の一人だ。

 

「‘‘秋山の爺ちゃん’’!?」

「……ん?イブキか!!大きゅうなったなぁ。……その車は何ぞね?違う車持っとったはずぞな。」

 

やはり、その馬に乗っていたのは‘‘秋山の爺ちゃん’’だった。

 

「つい最近、襲われて前の車が廃車になって……この車は借りてんだ。ところで、爺ちゃんが馬に乗っている所なんて初めて見たぞ!?」

「遠山ば近くに住んどったのに、それ知らせなんだ。それっを今知って、そこへ行くぞな。今で言う『サプライズ』じゃ。」

 

‘‘秋山の爺ちゃん’’は80歳越えとは思えない、スラッとした姿勢で答えた。

 

 ……と、遠山ねぇ。なぜか、そんな苗字の幼馴染がいるのだが、きっと気のせいに違いない。

 

 それよりも、問題はこの馬だ。爺ちゃんが馬に乗っている所は初めて見た。

 

「その馬は何処で借りたの?初めて乗馬しているところ見たぞ!?」

「近衛師団から借ったぞな。意外にすんなりと借れるぞ。」

 

 ‘‘秋山の爺ちゃん’’はそう言って、水筒の中の物をグイッと飲んだ。

 

 ……あれ?近衛師団から借りた!?あの近衛師団から!?

 

近衛師団は『極東戦役:極東編 場所を考えろよ……』で分かると思うが……とても狂暴な部隊だ。その部隊が‘‘退役軍人’’とはいえ、すんなり物品を貸すなんて予想できない。

 

 ……そ、そんなことより、‘‘秋山の爺ちゃん’’が今飲んだのは酒か!?

 

 ‘‘秋山の爺ちゃん’’は俺以上の酒好きだ。爺ちゃんの水筒の中身が酒なんて普通にありえる。

 

「‘‘秋山の爺ちゃん’’!?その水筒……!?」

「……ん?(酒の)搾りかすを水で薄めたものが入っとるだけじゃ。アルコールは1%以下じゃけん法律には触れてなか。ほうじゃけん心配するな。」

 

そう言いながらグビグビっと再び水筒に口をつけた。

 

 ……まぁ、法律に触れてないなら別にいいけどさ。

 

 

 

 

 

 そんな時だった。東池袋を通る時、とある塾の前で喧嘩が起こっていた。。その喧嘩をしているのは……キンジ!?

 

「キンジ!?」

「……なんぞな。あの喧嘩しとる奴はイブキの知り合いぞね?」

「あいつは親友だ!!」

 

 俺がそう言った時だった。キンジの(そば)にトヨタのセンチュリー(トヨタの超高級車)が止まり、そこから筋肉質の男6人ほど出てきた。

 

 ……喧嘩で1対1、ギリギリ2対1までは許せるが、5対1はただのリンチだろ

 

「助けるけ?」

「……流石に見捨てられないでしょ」

 

 キキーッ!!

 

俺はため息をつきながら車を停め、ギアをP(パーキング)に入れ、サイドブレーキをかけた。

 

「喧嘩は久しぶりじゃのぉ。腕が鳴るぞな!!」

「……え?爺ちゃんも?」

「当り前ぞな!!」

 

‘‘秋山の爺ちゃん’’は馬から降り、‘‘クリスマスプレゼントを開ける子供’’の様な笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉキンジ。相変わらず厄介なことに巻き込まれてるなぁ」

「い、イブキ!?」

 

キンジは顔がこわばっていたのだが……俺の声を聴いた瞬間、ほんの少しではあるが表情を崩した。流石のキンジも6人の相手はキツイと覚悟していたのだろう。

 

「何じゃぁ小僧ども!!集まらな戦えんのか!?」

 

黒の乗馬靴に藍色の乗馬ズボンとコートを着た‘‘秋山の爺ちゃん’’が鋭い眼光で睨みながら挑発してきた。

 

「うるせぇジジイ!!引っ込んでろ!!」

 

一人が‘‘秋山の爺ちゃん’’に突っかかっているのだが……相手の力量が分からないのか?

 

「おい、イブキ。あの爺さんは……」

 

キンジは‘‘秋山の爺ちゃん’’の実力を理解したのだろう。さっきよりもさらに顔がこわばっている。

 

「‘‘秋山の爺ちゃん’’はヤバいぞ。なんたって‘‘酒が入ってなくても’’この実力なんだ。」

 

この爺さん、酒が入っている時は手加減が無いのだ。この人にもどれだけ絞られたことか……

 

 

 

 

 ‘‘秋山の爺ちゃん’’は胸ポケットからボールペンを3本取り出した。

 

「こりゃ説教じゃのぉ」

 

‘‘秋山の爺ちゃん’’はペンを持って腕を振った。その瞬間、リーダー格のスキンヘッドの肩と太ももにボールペンが深々と刺さっていた。

 

「ぐおぉおおお!!」

 

リーダー格の男は倒れ、泣き叫ぶ。その瞬間に‘‘秋山の爺ちゃん’’は一気に接近し、もう一人を掴み、太ももと腕にペンを刺しながら投げ飛ばした。

 

「ぐあぁああ!!」

 

もう一人もあまりの痛さに叫んでいる。

 

「泣きわめくのは覚悟がなかっただけぞな。」

 

‘‘秋山の爺ちゃん’’は再び胸ポケットからペンを出し、その先端を無傷の男たちに向けた。

 

「おい、小僧ども……。わしの様なジジイ見たら、(戦争の)生き残り思え!!」

 

 

 

 

「じ、ジジイ……!!クソッ!!ぶっ殺す……ぶっ殺してやる!!やれぇ!!」

「「「うおぉおおおお!!!」」」

 

6人中、2人が脱落したため残り4人。その4人全員が俺達を襲おうとした時だった。

 

  ヒヒーン!! ベキッ!!バキ!!

  ドッドッドッ!!! ドスッ!!グシャ!!

 

‘‘爺ちゃんの馬’’と‘‘ボロ車(ビュート)’’がその集団に勢いよく突っ込み、()ね飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 ……うわぁ、あっちは運がねぇな。‘‘爺ちゃんの馬’’に‘‘俺のボロ車(ビュート)’’に()かれるなんて。……え?

 

俺は確かにエンジンを掛けっぱなしにしていたが、ちゃんとギアはP(パーキング)に入れ、サイドブレーキも掛けていた。その状態で車が動くはずがない。

 

「何で動いてるんだよ!!このボロ車!!」

 

  ボーン!!

 

俺が『ボロ車』と言った瞬間、ボロ車(ビュート)は爆発音と共に、ボンネットから白い煙を出して止まった。

 

「……ってヤバ!?」

 

俺は急いで運転席に乗り込み、キーを外した。そしてギアやサイドブレーキを確認すると……見事にD(ドライブ)に入っており、サイドブレーキは外れている。

 

 ……なんで勝手に外れてるんだよ。

 

 俺はため息をつきながらボンネットを開けると……問題があるように見えない。

 そうなると、白煙を上げた理由は一つしかない。俺はいまだに納得できていないが……このボロ車(ビュート)特有の問題だ。

 

 ……機嫌を損ねた!?

 

俺は運転席に戻り、ボロ車(ビュート)へ必死に謝りながらエンジンを掛けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「イブキはがいにすごい‘‘じゃじゃ馬’’持っとるようじゃのぉ。」

 

‘‘秋山の爺ちゃん’’は『よしよし』と馬を撫でながら、『必死に謝りながらキーを回すイブキ』を見て笑っていた。その時だった。

 

「……じ、ジジイ!!」

 

‘‘秋山の爺ちゃん’’の背後で‘‘最初にペンで刺さされた男’’がゆっくりと立ち上がり、腰から拳銃を抜いた。

 

「……何じゃあ。覚悟はできとるのか?」

「死ねぇ!!」

 

‘‘最初にペンで刺された男’’が引金を引こうとした瞬間、キンジがその拳銃を蹴飛ばした。そのまま流れるようにキンジはその男を投げ飛ばし、そして男の首元に持っていた傘の先端を突きつけた。

 

「これ以上大事にさせたいのか?」

「…………」

 

これで一段落……かと思いきや、駅の方角から警笛の音が聞こえる。

 

「こらぁ!!何をやっとるかぁああ!!」

 

警察が必死になって人混みを分けながら走ってくる。

 『馬や車が撥ね飛ばす』ようなことが起こったのだ。通報されて当たり前だ。

 

「おじいさん、キンジ……イキってる鉄砲玉(ガキ)共の‘‘いい薬’’になったわ。ありがとう。」

 

すると、停まっていたトヨタ・センチュリー(黒塗りの高級車)の後部座席から、改造和服を着た美少女が出てきた。

 

(カシラ)なら兵隊を手中に収めなあかんぞな。」

「全く、反論のしようがありません。お詫びに夕食をご馳走します。遠山もどう?……今の遠山は、断らない遠山だよね?」

 

改造和服美女は切れ長の瞳でスッとキンジを見た。

 

「分かっt……」

「いやぁ、僕達も一緒に御馳走になってもよろしいですか?お嬢さん」

 

‘‘改造和服美少女’’の後ろに、カーキ色の軍服を着た二人が急に現れた。‘‘秋山の爺ちゃん’’以外はその2人を警戒する。

 

 

 

 軍人2人は‘‘秋山の爺ちゃん’’に敬礼をした後、再び‘‘改造和服美女’’の方を向いた。

 

「藤原少佐、さすがにこの入り方は警戒されますよ。」

「小野田、いいのいいの。歓迎してもらったら逆に困るんだから。」

「……あ、アンタは」

 

キンジはこの軍人のうち、一人に見覚えがあった。

 

「あぁ、遠山くん。すまないね、旧友と食いに行こうとするのに邪魔しちゃって」

「我々は‘‘鏡高組’’へ警告をしに来ました。できれば、あそこに居る村田大尉も一緒にお話をさせていただきたかったのですが……」

「ごめんね。機嫌直してね。お願いだから……」

 

藤原少佐と一緒に来た小野田少尉は『車に対して謝りながらキーを回すイブキ』をチラッと見た後、それを無視して‘‘改造和服美少女’’に言った。

 

「分かりました。全員招待しますが……この車では全員を乗せられません。おじいさんとお二人はあちらの車で来てもらってもよろしいでしょうか?」

 

‘‘改造和服美少女’’が指を刺した先には……ヘコミや錆だらけのビュートがあった。

 

  キュルキュルキュル……ボン!!ドッドッド!!

 

「よっしゃぁ!!かかった!!」

 

エンジンがかかって大喜びをするイブキもいた。

 

「村田大尉……何やってるんですか……」

「村田……相変わらずだなぁ。」

 

二人はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃぁ。諜報か?」

「はっ!!閣下の想像通りであります。」

 

藤原さんに小野田少尉はボロ車(ビュート)に乗り、‘‘秋山の爺ちゃん’’は馬に乗りながら話していた。

 

「その話し方は止めろ。体がかゆうなるぞな。」

「し、しかし……」

「小野田、閣下が言っているんだ。」

 

そんな風に話していると……会食の会場である、いかにも中華風でケバケバしい看板の店に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 このレストランの名前は『紅寶石(ルビー)』。一見(いちげん)さんお断りの店で、‘‘鏡高組(かがたかぐみ)’’が運営する店だそうだ。藤原さんがそう言った。

 

 ……いやはや、赤ばっかりだな。

 

カーペットに壁・机・シャンデリアすべてが赤く、金の刺繍(ししゅう)がされている。

 

「おい、お前たち。バックにいな。」

 

‘‘改造和服美少女’’は幹部たちにそう言った後、俺達をVIP専用であろう部屋に案内した。

 そこには……数々の豪華な料理や酒が置いてある。

 

「姐さん……この人達は……」

 

幹部の一人が俺達を見た後、‘‘改造和服美少女’’に耳打ちをした。

 

「えぇ、いい男でしょ?」

 

‘‘改造和服美少女’’は何でもないようにそう言うが……幹部たちの顔真っ青だ。

 

 

 

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

俺と‘‘秋山の爺ちゃん’’は席に付くと同時に箸を持ち、美味そうな中華料理をむさぼり始めた。

 

「あの……村田大尉?閣下?」

 

小野田少尉が唖然としながら俺たちを呼ぶ。まぁ、確かにこのような重苦しい空気で、料理をむさぼる奴はいないだろう。しかし……俺と‘‘秋山の爺ちゃん’’には関係ない。

 

「『毒が入ってないか』ぐらいすぐわかりますよ。それに、こんなのめったに食えませんし。ビールはないんですか?……ってそうだ!!俺運転手だった!!」

「毒盛れば、どがいな報復されるか向こうも分かるぞな。酒はどこじゃぁ!!……って飲酒運転になるぞな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と‘‘秋山の爺ちゃん’’が酒を飲めない事に意気消沈している横で、話し合いは進んでいく。

 

「兵部省の藤原石町、少佐です。こちらは副官の小野田です。」

「小野田少尉です。」

 

藤原さんの紹介に、小野田少尉は頭を下げた。

 

「‘‘鏡高組’’組長の鏡高 菊代(かがたか きくよ)です。」

 

藤原さんは軽く周りを見た。

 

「随分と羽振りがよさそうですね」

「えぇ。一発逆転をかけて中国マフィアと共同でマカオのカジノ経営に手を出したら、この結果です。もちろん合法ですよ。」

 

すると藤原さんはポケットからシガリロを出し、口にくわえて火をつけた。フーッと美味そうに煙を吐き出した後、『ドロッとしたヘドロのような目』に変わった。

 

「‘‘外患誘致罪’’」

「「「「「……ッ!?」」」」」

 

藤原さんがポツリと言った言葉に、鏡高菊代や幹部たちが反応した。

 

「『刑法 第八十一条  外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。』これが適用されるのは‘‘外国’’であり、‘‘外国マフィア’’ではない。適用させるとしたら‘‘テロ等準備罪’’か。」

「……それがどうかしたのですか?‘‘鏡高組’’は違法行為を全て御法度(ごはっと)にしているのですが。」

 

鏡高菊代は懐からキセルを出し、紅の唇で(くわ)えた。

 

「さっきの『塾の前の喧嘩』でもそうですが、儲かっているとはいえ……あなたは下の者まで統制がしっかりできていますか?」

「「………」」

 

藤原さんと鏡高菊代は互いににらみ合う。

 

「まぁまぁ……藤原少佐、喧嘩はよしましょうよ。とりあえず、我々はあなたがどこで何をしようとどうでもいいですが、テロを呼び込まれては困ります。ただでさえ東京(ここ)は‘‘お上’’のお膝元。日本の喉元です。」

 

小野田少尉はやんわりとした口調で言った。藤原さんはシガリロに口をつける。

 

「あなた達も‘‘裏の顔’’がある様に、(我々)にも‘‘裏の顔’’がある。合法で無害ならともかく、問題を持ってきたら……。『内部抗争の末、共倒れ』なんて事が起きないことを祈ります。」

 

藤原さんが煙を吐きながらつぶやいた。鏡高菊代は笑顔で対応しているが……目が笑っていない。きっと彼女のハラワタが煮えくり返っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、俺と‘‘秋山の爺ちゃん’’は交渉に参加せず、何をしていたのかと言うと……

 

「……そうだよなぁ。‘‘エビチリ’’ってこういう味だよなぁ。やっぱりシェフ泉の腕がおかしい。」

「この‘‘フカヒレ’’、香港で食ったものよりうまいぞな!?」

 

『酒が飲めない気晴らし』もかねて片っ端から皿を空けていく。そして時々、‘‘鏡高組’’の幹部らしい人たちにお代わりを持ってこさせていた。

 

「何かあったらそこの村田大尉のような人物が‘‘対応’’させてもらうので、そのつもりd……」

 

小野田少尉はそういって俺のほうを示した

 

「すいませーん、サイダーあります!?」

「わしは茶がほしいぞな!!」

「村田大尉、閣下……もう少し、緊張感をですね……」

 

小野田少尉はため息をついた。俺はそんな小野田少尉を見て、不思議そうに答えた。

 

「……え?交渉事なら藤原さんに任せたほうがいいですし。……あぁ、彼女に自己紹介してませんでしたね。村田です。どうぞよろしく」

「わしはただの老いぼれじゃぁ。特に覚えんでもええぞな」

「そ、そうですか。……おい、お客様が飲み物をご所望だ。早くしろ。」

 

鏡高菊代は俺と爺ちゃんの傍若無人さを見て顔を引きつらせつつ、幹部達に命令を下す。幹部の一人が急いで部屋から出て行った。

 

「さ、サイダーとお茶です。」

「ありがとうございます。……あ」

「だんだん。……アッツ!!」

 

  パリン、パリン……べちゃぁ

 

俺はサイダーのコップを手から滑らせてしまい、‘‘秋山の爺ちゃん’’は熱くなったカップから思わず手を離した。

 その結果、サイダーとお茶はテーブルやカーペットにこぼれてしまった。

 

「な、なにやってるんですか!!」

「いやぁ、すいません。手が滑っちゃって……」

「すまんのぉ、猫舌なんじゃ」

 

小野田少尉は苛立ちながら俺と‘‘秋山の爺ちゃん’’を非難してくる。

 

「いえいえ、こちらの不手際です。熱いお茶に塗れたコップを出してしまいすいません。……早く代わりのものを!!」

 

鏡高菊代は笑顔(目は笑っていない)のまま、口だけで謝ってきた。

 

「すいません、こんな高級そうなカーペットを汚してしまって。」

「まっことすまんのう」

 

俺と‘‘秋山の爺ちゃん’’申し訳なさそうに、再び皿に箸をつけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、腹いっぱい『高級中華』をたいらげ、軍人4人組は『紅寶石(ルビー)』から出た。キンジはまだ残り、中学で同級生でもあった鏡高菊代ともう少し話すらしい。

 ‘‘秋山の爺ちゃん’’は馬に乗り、俺・藤原さん・小野田少尉はボロ車(ビュート)に乗って移動していた。

 

「あぁ~!!もう!!二人ともなにやってるんですか!!交渉がめちゃくちゃだ!!」

 

小野田少尉は苛立たしげに大声で叫ぶ。

 

「あんなことすれば舐められるに決まっている!!絶対に面倒なことが起きますよ!!」

「……なんじゃぁ、小僧。理解できんぞね?」

「……ッ!?」

 

‘‘秋山の爺ちゃん’’は少し殺気をこめ、小野田少尉をにらんだ。小野田少尉は八つ当たりをやめ、冷や汗を流し始めた。

 

「はぁ……。閣下、小野田はまだ学校を出たばかりなので勘弁してください。……村田、‘‘あの組’’はヤレるか?」

 

藤原さんは腕を組み、目を閉じながら……ドス黒い声で俺に聞いてきた。

 

「あれは個々の戦力はカス同然ですが……あそこの強みは‘‘兵の数’’でしょう。‘‘第二中隊(うち)’’だと目標撃破は朝飯前ですが、殲滅戦(せんめつせん)だと‘‘撃ちもらし’’が多数出てきます」

「なるほど」

「しかし、中国マフィアの方は不明です。」

 

そう、俺や爺ちゃんがただ腹いっぱい『高級中華』を食べていたわけではない。ワザと幹部たちを動かし、その仕草を観察していたのだ。

 

「あの組織はもう終わりじゃのぉ。しかも、あのお嬢さんはそのことおそらく理解しとるはずぞな。」

「……え?爺ちゃんマジで?てっきり‘‘あんな無能’’達を使っていたから人選能力が無いと思ってた。」

 

 

 

 ‘‘鏡高組’’の幹部を鏡高菊代に紹介してもらったのだが……‘‘センチュリーの運転手兼護衛’’の人物以外の全員が……鏡高菊代を見限(みかぎ)っているように見えた。

 そんな人間を幹部に据えているのだ。いつ謀反を起こされてもおかしくない。

 

 ……しかし、その事を理解している?理解していて、そんな爆弾を抱えているのか?

 

「あそこまでの人数、粛正することはできん。それに『一発逆転』いよった。たいがい、成功して求心力上げようとしたのじゃろう。」

「……失敗したときは?」

「奪われるくらいなら解体ぞな。」

 

 ……なんでもあの鏡高菊代は俺と同い年だそうだ。あの華奢な体で、大きな覚悟をしていたのか。

 

俺は思わずため息をついた。小野田少尉は無表情のまま、俺達の話を聞いている。まさか俺と爺ちゃんがそこまで考えていたとは思わなかったのだろう。

 

「そう言う事だ。小野田、こうやって相手を観察する方法があるんだ。………まぁいい。村田、ちゃんと詰めてくれた?」

「もちろんです。小野田少尉の分もありますよ」

 

俺は運転しながら‘‘四次元倉庫’’を開き、タッパーを4つほど取り出した。その4つを後ろの二人に渡す。

 

「いやぁ、助かる!!今日の夕飯は困らないね!!」

「…………え?何ですこれ?」

 

藤原さんは嬉々としてもらい、小野田少尉は混乱しているようだ。

 

「……何って、さっき中華だよ?」

「ちゃんと詰めときましたよ。……あぁ、タッパーは返さなくてもいいです。」

「な、何やってるんですか!?」

 

小野田少尉は顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「だって、あんなことしてたら料理は食べれないし」

「あの‘‘幹部達’’も‘‘鏡高菊代’’も気が付いてませんよ?それにあんな量を食えるはずないじゃないですか。爺ちゃんと2人で約10人前ですよ?」

「わしもタッパーに詰めたぞな。手土産は完璧じゃのぉ」

「………もうやだ。こんな軍隊」

 

小野田少尉はポツリと呟き、‘‘死んだ魚の目’’をした。

 

 

 

 

 

 

「……いらないなら俺が食べますよ?」

「…………いただきます」

 

小野田少尉はタッパーを持った手を一切離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤原さんと小野田少尉を巣鴨駅で降ろし、‘‘秋山の爺ちゃん’’と一緒に『遠山』の家へ向かうと……

 

「イブキにぃ~!!」

 

かなめが抱き着いてきた。

 

 ……あれぇ?なんで‘‘かなめ’’がここにいるんだ?

 

俺は目が点になる。何故か分からないが、この家にはレキにGⅢ、キンジの祖父祖母がいる。

 

 ……え?‘‘秋山の爺ちゃん’’が言ってた『遠山』って、キンジの祖父?

 

「閣下!?なぜここに!?」

「遠山ぁ!!なんでここに住んどると知らせなんだ!!」

 

キンジの祖父は慌てながら敬礼をしている。レキはボ~っとこの光景を見ているのと対照的に、GⅢは「何でここにダイハードが2人もいるんだ」といいながら頭を抱えている。

 

「ねぇイブキにぃ?‘‘お姉ちゃん達’’でも、‘‘理子(ぶりっ子)’’でもない女の臭いがするんだけど?」

 

 ……もうヤダ。帰りたい。

 

このカオスな状態はキンジが戻るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 




白鷺千聖が護衛を変えなかった理由。
1.『例え嫌いな出演者がいても、問題なく演じる』というプロ根性を刺激されたため。
2.自分以上にイブキの失った者が多すぎたため
3.そもそも、イブキが直接的な原因ではなかったため。


 薄々、気が付いているとは思いますが……このボロ車(ビュート)、悪口を言われると拗ねます。
 ついでに『閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5』で乗り、今はローズヒップの愛車であるクルセイダーは、お上品な言葉を言われると機嫌を損ねます。


‘‘秋山の爺ちゃん’’は、『秋山好古』がモデルです。でも、‘‘秋山の爺ちゃん’’は老河口作戦で大活躍したことにします。
 関東出身の作者なため、この伊予松山弁は似非です。指摘していただける方大歓迎。


 イブキは『戦争』なら何でもありだが、『喧嘩』なら正々堂々とやらなきゃいけないだろう……と思っています。


『わしの様なジジイ見たら、(戦争の)生き残り思え!!』はゴールデンカムイを参考。


 小野田少尉は飛び級こそしていないが、‘‘両手で数えられる範囲の順位’’で陸軍士官学校を卒業し、そのまま‘‘陸軍中野学校’’と‘‘陸軍中野学校二俣分校’’で次席卒業のエリート。ただし、今年から部隊配属なのでまだ新人。


  Next Ibuki's HINT!! 「Simon Says」 


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Die Hard3 in Tokyo  俺の一番長い日の始まり……

 遅れて申し訳ありません。昨日にアップしようと思ったら(昨日でも遅いが)寝落ちしてました。
 ほかの言い訳としましては……『ダイ・ハード3』を日本版に変換するのに時間がかかりました。
 


 所で、皆さんはGWは何処に向かわれますか?自分は……バイトです。



 そして、今回の章では

「(英語)~~~~」

とある文章は英語で喋っております。日本語が分からない外人が今回の章にいるので。


 さて、俺と‘‘秋山の爺ちゃん’’は遠山家の夕飯に招待された。

 

 

 遠山家の夕飯時、俺の席の隣にはもちろんかなめが座っていた。そのかなめの‘‘絶対零度(コキュートス)の瞳’’に見つめられ、俺はずっと『(へび)に睨まれた(かえる)』の様になっていた。

 かなめが俺を睨んでいる理由は……俺が『白鷺千聖』を護衛をしているために、彼女が俺を取ったでも思っているのだろうか?

 

 ……だけどかなめに‘‘護衛の件’’をしゃべってみろ?ただでさえ毎日襲われているのに、かなめにも襲われることになるぞ!?

 

俺は心を鎮めるため、水を飲んだ。喉が渇いていたのか、コップの水はすぐに飲み干してしまった。

 

「ねぇ、イブキにぃ?なんで、他の女の臭いがするの?」

「な、なんだっていいだr……」

「ねぇ、なんで?」

「………………」

「イブキにぃ?」

「…………」

 

かなめは‘‘絶対零度(コキュートス)の瞳’’で俺の顔を覗き込んだ。俺は顔をそらそうとすると、かなめは俺の頭を両手で固定してきた。

 

「なんで教えてくれないの?」

「……教務課(マスターズ)からの依頼で、同年代の女優を護衛することになりました。」

「へぇ~……」

 

今度は俺の左腕を力いっぱい抱きしめてきた。爪が食い込み、地味に痛い。

 

「複数の臭いがするんだけど?」

「その護衛対象がアイドルを兼任しており、そのアイドルユニットの少女達の送り迎えもやっているからだと思われます。」

「近距離にいるみたいだけど……なんで?」

「5人乗りのボロ車(ビュート)に、自分を合わせて6人を無理やり乗せているせいだと思われます。」

 

 ……いやぁ、俺は家族(義妹)には隠し事ができない、純粋な心を持っているらしい。

 

結局‘‘任務内容’’をかなめに話してしまい、俺は思わず現実逃避をしてしまった。

 

「イブキにぃ、あたしも一緒に行ってもいい?」」

「物理的に無理です。屋根にでも載せたら俺が捕まります。」

「………………しょうがないかぁ~」

 

かなめが力いっぱい腕を抱きしめるせいで、とうとう感覚がなくなってきた。

 

「……俺、帰ってもいい?」

「イブキにぃ、今日は泊って?」

 

かなめが俺の左腕に胸を押し当てるが……もう感覚がなくなっているため、何にも感じない。

 

「いや、明日も仕事があるし。」

「お爺ちゃん達を放っておいていいの?」

 

かなめが指を指した先には……一升瓶が5~6本・洋酒の四合瓶4~5本が転がり、気分がよさそうな‘‘秋山の爺ちゃん’’と、絡まれるキンジの祖父がいた。

 

 ……‘‘秋山の爺ちゃん’’今日はいつも以上に飲んでるなぁ。

 

俺はそう思いながら、今だ手をつけていない味噌汁を啜った。

 

「……ん?」

 

 ……味がおかしい。

 

俺はかなめを見ると……かなめの表情は変わってないが、口元が歪んでいた。

 俺は理解した。かなめが何か薬を盛ったという事を……

 

「お、お前!?何盛っt……」

「イブキにぃが悪いんだよ?なんで泊まって行ってくれないの?」

 

俺は意識がかすれていく中……かなめが‘‘絶対零度(コキュートス)の瞳’’で俺を狂おしく(愛おしく)見ている姿がとても印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん?

 

俺は腰の方に何か触感があり、起きてしまった。俺は眠い目をこすりながら、原因を探り……

 

「……あ」

「…………おい、さすがにそれは無いわ」

 

俺のベルトを外し、ズボンを下ろそうとしているかなめと目が合った。かなめは目をそらし、何もなかったように再び俺のズボンを下ろそうと……

 

「何やってるんだよ!?」

 

俺は慌ててズボンを押さえ、かなめを蹴り飛ばした。

 かなめは「あぁん」と残念そうな声を発して壁にぶつかった後、四つん這いで俺の方へ向かう。

 かなめは胸元を緩めているのだろう。四つん這いをしているため、シャツの隙間からブラジャーが見えている。

 

「夜這い……?」

 

かなめは四つん這いのままそう言って、『なんでそんな当たり前な事を聞くんだ?』とばかりに首をかしげる。

 

「うるせぇよ!!どこに薬盛ってまで犯そうとする妹がいるんだよ!?ゲームの世界じゃねぇんだぞ!?」

「でも……義理だし、‘‘兄妹や姉弟の結婚’’は普通だよ?『イザナギ・イザナミ』・『オシリス・イシス』、他には……」

「そう言う問題じゃねぇよ!!」

 

するとかなめの目元に(しずく)が溜まり始めた。

 

「……あたし、今まで誰かと一緒に寝たことなくて。偶々おじいちゃんに挨拶しに来たら、イブキにぃも来て舞い上がっちゃって……。迷惑だった……よね」

「うっ……」

 

かなめは涙目で(すが)るように見てきた後、しょんぼりと部屋を出ようとした。俺はさっきの言葉とこの姿を見て、罪悪感で一杯になる。

 

 ……あながちあり得なくはない話だし、そんな寂しい気持ちも理解できる。それに、かなめはHSSになったら俺を犯すことなどできないはずだ。

 

相変わらず、身内には甘いなぁ……と俺はため息をついた。

 

「……何にもしないなら、一緒に寝るか?」

「……!?うん!!」

 

かなめは『帰ってきた主人に飛びつく忠犬』のように俺に抱き着いてきた。かなめは自分の頭を俺の腹にぐりぐりと押し当てる。

 

「変なことしたらたたき出すからな」

「やっぱり、兄妹は一緒に寝るのは合理的ぃ!!イブキにぃ、大好き!!」

「ハイハイ……」

 

 ……明日も早いから、もう寝ないといけない。久しぶりに‘‘秋山の爺ちゃん’’と一緒に痛飲したかったんだけどなぁ。

 

俺は部屋の電気を消し、布団にもぐった。そしてかなめに背を向ける。

 

「~~~♪」

 

かなめは俺の背中に抱き着き、鼻歌を歌っていた。かなめの感触と熱が背中に伝わってくる。

 

 ……湯たんぽ代わりにはちょうどいいか。

 

「おやすみ」

 

俺はそう言って、目を閉じた。

 12月の日本家屋、さすがに布団だけでは寒いが……かなめ(湯たんぽ)がいればなかなか暖かい。今日はいい夢が見れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝、かなめが部屋から叩き出されている所をキンジは目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 高級中華料理食べ放題から3日後の早朝、俺と白鷺はアクア・エデンにいた。なんでも、このカジノ街で映画の撮影があるらしい。

 

 

 

 アクア・エデンとは……日本でカジノや風俗が許される数少ない場所の一つであり、吸血鬼などの‘‘人外’’のための人工島でもある。そのため、その人工島には身分証が無いとは入れなく、入るための交通手段が鉄道だけだ。

 まるで監獄島(アルカトラズ)の様ではあるが……人と人外の‘‘住み分け’’ができている国内でも希少な場所の一つだ。

 ついでに、アクア・エデンはHS部隊第一中隊(むこう)(国内担当)の管轄ではなく、第二中隊(うち)(海外担当)の管轄である。

 

 

 

 スタッフが急いで道路の一角をセッティングしているのを見ながら、俺はあたりを警戒していた。何故だかわからないが……嫌な予感がするのだ。

 

 ……そもそも、ここで襲われてみろ?どうやったって逃げられないぞ?

 

前述のとおり、この島から脱出するためには鉄道しか手段がない。なので自慢の(皮肉)ボロ車(ビュート)は本土に置いてあり、この人工島(アクア・エデン)にはない。

 

 ……しかも、ここには観光で来日したジョニー・マクレー(おっさん)もいるんだ。何が起こってもおかしくない。

 

 俺は周りを観察した後、ため息をつきながら白鷺千聖を見た。

 今朝も襲撃があり、そのせいで俺はガラス片が頭に当たって出血しているのを見ているのに、彼女はその事をなんとも思わず仕事に(はげ)んでいる。

 

 ……と言うか、Pastel*Palettes(パスパレ)の全員が、血生臭い事に慣れちゃったんだよなぁ。

 

 

 

 彼女達は毎日襲撃されるせいで、銃撃戦など受けても悲鳴をあげることはなくなった。それどころかメンバーの一人:氷川日菜に至っては敵の銃を奪い取り、笑いながらその銃で反撃する始末……。

 

 

 

 

 ……おかしいなぁ。どう考えても護衛の意味をなしていないような気がする。

 

まぁ、あくまでも‘‘白鷺千聖’’の護衛であって、‘‘Pastel*Palettes(パスパレ)の護衛ではないためいい……のか?

 そんなことを考えていた時だった。いきなり俺の勘が警鐘を鳴らした。俺は第六感が告げる警鐘に従い、白鷺を抱きかかえて地面に伏せた。

 

「ちょ!?何やっt……」

 

  ズドーーーーン!!!

 

「ぐぁああああ!?」

 

白鷺千聖がいた車道(ロケのため封鎖中)に面しているビル2つが爆発したのだ。その破片が俺の体に降り注ぎ、刺さっていく。

 

「きゃぁああああ!!!」

「耳元で叫ぶんじゃねぇ!!!」

 

 ……あぁ、なんて最悪な一日だ。

 

これが俺の『一番長い日』が始まる狼煙(のろし)となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!!」

「はいはい、我慢しなさい。男の子でしょ?」

 

俺はアクア・エデンの風紀班本部で治療を受けていた。病院は重傷者で一杯のため、軽傷である俺はここで刺さった破片を麻酔無しで抜いてもらっているのだ。

 

 

 

 さて、風紀班とは警視庁直属の『特区管理事務局』という組織の一部だ。

 この『特区管理事務局』は単純に言うと、『化け物には化け物を』。アクア・エデンなどの‘‘人外’’が集まる場所の治安を守る『‘‘人外’’による組織』(もちろん人間も所属している)だ。

 そして、風紀班の仕事は、簡単に言うと警察の『生活安全課・地域課・刑事課』を混ぜたような仕事をしている。一見仕事量が膨大だと思われがちだが、基本は『警察の補佐』又は『警察ができない捜査』を担当するため、警察よりは仕事が少ない。

 

 

 

 その風紀班と第二中隊(俺達)は何度か一緒に仕事をしているため、互いに顔は知っている。そして、その風紀班に所属し、俺と顔なじみで同い年の矢来 美羽(やらい みう)と言う少女に手当をしてもらっているのだが……。

 

「……なかなか取れないわね」

「ッ~~~~~~!!!」

「……。」

 

その矢来さんがピンセットで力任せに破片を取るせいで、俺は声にならない悲鳴をあげていた。そのエグい光景を見ないように、白鷺はそっぽを向いている。

 ついでに、白鷺は無傷だ。女優である彼女に傷がつかなくてよかった。

 

「やっと取れた。……うわ、大きなネジね」

「もうちょっと優しくできねぇのか!?」

「うるさいわね……私だって初めてなのよ。それにただでさえ寝ようとしたところで呼び出されて!!」

 

  ガシッ……ザクッ!!!

 

「ッ~~~~~!?」

「……。」

 

 

 

 

 

 さて、俺が治療(?)を受けている間にも自体は進行している。俺達の目の前で、風紀班の皆さんは必死になって対応をしていた。

 

「アラン!!警視庁の爆弾処理班と特殊部隊、警察庁と軍にも連絡しろ!!」

「羽切と里島は病院へ行って負傷者を収容!!」

「呉田は特区の建設課に被害を報告させろ!!」

「誰があのホテルを吹き飛ばしたがるんだ?」

「どうせカジノで負けたからじゃない?」

「主任!!警察庁から電話です!!」

 

風紀班の主任:枡形兵馬が電話に出た後、俺を睨んできた。

 

 ……どういうことだ?

 

  ブチッ!!

 

「ぐぉお…………」

「ある程度はこれで取れたわね」

 

 ……や、矢来の奴、覚えてやがr

 

  ベチャ……

 

「後は消毒ね」

「グゥ~~~~~~ッ!!」

「………………大丈夫かしら?」

 

俺は白鷺の気遣いに背筋が凍り、そして痛みで熱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 矢来さんによる‘‘愛のこもった’’治療を受けた後、俺は彼女から包帯を奪い取って自分で巻いた。

 包帯が巻き終わった後、俺は白鷺と分かれて別室に案内された。

 

 ……全く、なんて一日だ。

 

俺はため息をつきながら部屋に入ると……そこにはやさぐれたジョニー・マクレー(おっさん)がいた。

 

「(英語)おっさん!?なんでここに!?」

「(英語)あぁ?……昨日は‘‘SAKE’’を飲んでいい気分で寝てたってのに、こんな早朝に飛び出してよぉ。……坊主、アスピリンはないか?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は無地のTシャツにジーパン姿をしていた。彼は吐き気と頭痛がひどいらしく、まるでボロ雑巾の様だった。

 

「(英語)……ほどほどにしとけよ、おっさん。もう若くねぇんだから。……ほら」

 

俺は‘‘四次元倉庫’’からアスピリン錠を出し、ジョニー・マクレー(おっさん)に一粒渡した。

 

「(英語)もう1つ……いや2つだ」

 

おっさんは頭を押さえ、ダルそうにアスピリンを受け取った。

 

「(英語)おっさん、これの用量は1回1粒だ。」

「(英語)うるさぁい。1粒じゃ足りねぇ痛さなんだよ」

 

俺はため息をつきながら薬剤包装(PTP)から錠剤を取り出そうとすると、部屋の扉が開いた。その扉から、無表情の藤原さんとスーツを着た3人(一人は白人)が入ってきた。

 

「藤原さん……どうかしたんですか?」

「まぁね……まさかここまでだとは思わなかった。」

 

藤原さんとスーツの3人は俺達の対面にあるソファーに座った。

 

「(英語)ジョニー・マクレーさん、藤原石町と申します、どうぞよろしく。」

「(英語)え?……あぁ。」

 

藤原さんはそう言って、ダルそうなおっさんと握手をした。

 

「(英語)その隣が‘‘公安’’の玉串(たまぐし)、‘‘外務省’’の畠山(はたけやま)、‘‘駐日アメリカ合衆国主席大使’’のクラークさんです。」

「「(英語)よろしく」」

「(英語)……あぁ。」

 

‘‘公安’’と‘‘外務省’’の人間はジョニー・マクレー(おっさん)に頭を下げた。

 

「むらたサン、ハジメマシテ。ヨロシクオネガイシマス。」

「え?……あ、はい。よろしくお願いします。」

 

‘‘駐日アメリカ合衆国主席大使’’のクラークさんは笑顔で俺に握手をしてきた。

 

 ……まさか、首席公使と握手することがあるなんて。どんなやばいことが起こったんだよ。

 

 

首席公使とは、大使館でNo.2の階級を持つ人だ。そんな人がこんな場所に来るということは……なにか重要な事件が起こったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)さて、村田は知っていると思うけど……ジョニー・マクレーさん、今朝この島で爆発事件があったことをご存知ですか?」

 

‘‘公安’’の玉串さんが『碇ゲンドウ』の様な『机に肘をつき、手を組む』ポーズをとりながら言った。彼のメガネが蛍光灯の光を反射しているため、結構迫力がある。

 

「(英語)あぁ?誰かがクラッカーでも鳴らしたかと思ったぜ。」

「(英語)俺はそのせいでボロボロだよ」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はタバコを取り出して火をつけ、俺はため息をついた。

 

「(英語)そして、その事件のすぐに警察庁・兵部省・外務省・駐日アメリカ大使館にこのような声明の電話がきた。ジョニーさんには英語に起こした文章を。」

 

‘‘外務省’’の畠山さんがジョニー・マクレー(おっさん)に一枚の紙を渡した後、ボイスレコーダーをテーブルの上に置き、再生のボタンを押した。

 

 

 

 

『‘‘サイモン’’が言ったとさ、俺にそのパイ全て寄越(よこ)せ、出なければ頭をカチ割るぞ?

 アクア・エデンでの爆破は我々の警告だ。今、そのアクア・エデンに‘‘村田維吹’’という日本の軍人と‘‘ジョニー・マクレー’’というアメリカの刑事がいるはずだ。我々は彼らに恨みがあるのでね、彼らとゲームがしたい。

 ゲームの内容は‘‘Simon says’’……日本で言う‘‘命令ゲーム’’だ。今回は‘‘サイモン’’の命令を‘‘村田維吹’’と‘‘ジョニー・マクレー’’に実行してもらう。

 あぁ、もちろん罰ゲームもある。命令に失敗、もしくは従わなかった時、再びこうky……

 

 「(独語)Ein Bär kam heraus!!(く、クマが出た!!)

 「(スペイン語)Duele, Duele!!¡Ay, ay!!(いたい、痛いよぉお!!)

  グォオオ!!グォオオオ!!!

  ダァン!!ダァン!!ダァン!!

 

少し待ってくれ。…………あぁ、もういい。罰ゲームの件だが、再び公共の場で爆発が起こる。1時間後に再び電話をする。それまでにその2人を呼び寄せておけ。では……

 

 「(独語?)くぁwせdrftgyふじこ!?」

 

(独語)Ihr Jungs, okay?(お前たち、大丈夫か!?)

 

  ガチャ、ツー、ツー……』

 

 

 

 

 この部屋の空気がいっきに凍った。

 

 ……と、とりあえずドイツ語にスペイン語が聞こえたな。

 

 ドイツ語、スペイン語に関係があり、俺達を恨んでいる奴らは……『ナカジマ・プラザ』に『ジョン・F・ケネディ空港』で戦ったテロリスト共だろう。他にも、もしかしたらあるかもしれないが……これが最も可能性がある。

 

 そしてもう一つ分かったことがある。

 

「(英語)クマに、襲われたんですね……」

「(英語)冬ごもりしなかったクマは、飢えてるからね……。テロリストが減ってよかったけど、人道的には……」

 

 俺と藤原さんは遠い眼をした。

 俺も、諜報が専門の藤原さんも冬山の恐ろしさをよく知っている。藤原さんはともかく、俺の場合は衣服のみで冬山に置いてきぼりにされた。あの時に出会ったクマなんて……もう、思い出したくもない。

 

「(英語)そう言うわけです。ジョニー・マクレーさん、この事件の捜査に協力してくれませんか?」

 

‘‘公安’’の玉串さんはは‘‘ゲンドウポーズ’’を解き、頭を下げた。

 

「(英語)……俺は休暇を楽しんでいたんだ。何だって他国の事件に首を突っ込まなきゃいけねぇんだ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は顔を歪め、ため息と一緒に紫煙を吐いた。

 

「(英語)マクレー君、どうしても協力してくれないか?……あぁ、忘れていた。これは‘‘ニューヨーク市警(NYPD)’’の命令書だ。」

 

‘‘駐日アメリカ合衆国主席大使’’のクラークさんは困ったように、ある紙を机に置いた。ジョニー・マクレー(おっさん)は面倒臭そうにその紙を読んだ。その後、ジョニー・マクレー(おっさん)はタバコをいっぱいに吸った後、灰皿に吸殻を投げ込んだ。

 

「(英語)……ッケ。どっちにしろヤレってことか。」

「(英語)そう言わないで欲しい。我が合衆国も残党共を追うのに苦労しているんだ。こんな一網打尽の機会などめったにない。報酬は出るし、‘‘断る自由’’はある。」

「(英語)‘‘断る自由’’はあるが、‘‘断ったら’’降格か。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はため息と一緒に紫煙を吐き出し、紙を机の上に放り投げた。

 

「(英語)マクレー君、中央情報局(CIA)国家安全保障局(NSA)国防情報局(DIA)が苦戦していた敵が目の前にいるんだ。もちろん報酬も出る。」

「(英語)どうせ口止め料でしょう?……分かった、分かりましたよ!!やりゃぁ良いんでしょ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が投げやり気味に言い放った時、部屋の扉がバーンと開かれた。中に入ってきたのは……俺に‘‘愛をこめて’’治療してくれた矢来さんだった。

 

「おい君!!ここは立ち入り禁止だぞ!!」

 

外務省の畠山さんが苛立たしそうに声を張り上げた。しかし、矢来さんは一切(おく)することはない。

 

「犯人からの電話です!!内線で繋げられます!!」

「何!?」

「what’s!?」

 

矢来さんの言葉に、‘‘外務省’’の畠山さんと‘‘駐日アメリカ合衆国主席大使’’のクラークさんは声を裏返して驚いた。

 

「落ち着いてください、二人とも。」

「内線をつないでくれるか?」

 

藤原さんと‘‘公安’’の玉串さんは落ち着いて対応した。

 

 ……と言うか、この玉串さんはすごいな。ずっと‘‘ゲンドウポーズ’’のままだぞ?

 

「やっと来たな……、逆探の準備!!」

 

‘‘公安’’の玉串さんはそう言って呟き、メガネを外した。その玉串さんの厳つい顔からメガネを外すと……クリクリの目がそこに合った。

 

「「……ッ!?クククッ~~~!!」」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は笑いを押さえるのに必死だった。

 

 

 

 

 

『やぁ、やっとあの役人どもが君達を説得したようだね。‘‘イブキ君’’、‘‘ジョニー君’’。初めまして、‘‘サイモン’’と呼んでくれたまえ』

 

部屋にある固定電話をスピーカーモードにし、そこから犯人と思われる男の声が発せられた。

 

「(英語)おい、俺は‘‘日本語’’は分からねぇんだぞ。」

「おっさんが日本語を聞き取るなんてできるはずねぇだろ?お前、本当に俺達を知っているのか?」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)が抗議をすると、固定電話からため息が聞こえた。

 

『(英語)‘‘ジョニー君’’、せっかく日本に来ているんだ。少しぐらい勉強をしたらどうだい。』

「(英語)余計なお世話だ。俺はそもそも来たくなかったんだよ」

「(英語)そう言えば……クマに襲われた部下は大丈夫だったのか?」

 

藤原さん以外の3人が何かジェスチャーしているが無視し、俺は雑談に走った。

 

『(英語)あぁ、二人が犠牲になった。あいつは良い奴だっt……‘‘イブキ君’’、そうやって情報を抜き取ろうとするのは止めたまえ。つい興奮して爆弾のボタンを押してしまうかもしれない。』

「(英語)どんだけ短気なんだよ。いやだねぇ~、これがキレ症か?」

「(英語)カルシウム足りてねぇんじゃないか?牛乳もいいが、煮干しもいいぞ?あとちゃんと野菜も食べろよ?」

『(英語)余計なお世話だ』

 

 ……なぜ、二人も犠牲になったのに、‘‘あいつ’’なんだ?もう一人はどうでもいいのか?

 

俺は軽口を言いながら、頭を回転させる。

 

『(英語)ここには‘‘藤原君’’に‘‘玉串君’’、‘‘畠山君’’と‘‘クラーク君’’もいるようだね。やぁ、初めまして。相変わらず玉串君は‘‘ゲンドウポーズ’’をしているようだな。』

「「「「「「……!?」」」」」」

 

その言葉で、この部屋にいる全員が固まった。

 

 ……監視されているのか?

 

俺は冷汗をかき、ジョニー・マクレー(おっさん)は水を飲んだ。

 

 

 

『(英語)さて、ではそろそろゲームを始めようか。

 

‘‘Simon says……村田維吹、ジョニー・マクレーの二人は東京タワーへ行け。着いたら外で待っているように’’

 

あぁ!!もちろん、警察や武偵は10ブロック以上離れているように。』

 

  ガチャ、ツー、ツー……

 

 

 

「逆探はどうだった?」

「ダメです。妨害がされていて分かりませんでした。」

 

‘‘公安’’の玉串さんはその答えを聞き、机を蹴った。

 

「……それにしても、どういうことだ?」

 

藤原さんは苛立たしそうにポケットをまさぐり、シガリロとライターを取り出した。

 

「……藤原さん、どういう意味ですか?」

 

 俺は藤原さんが放った言葉に疑問を持った。藤原さんはシガリロを咥えて吸った後、ため息と一緒に紫煙を吐いた。

 

「‘‘ナカジマ・プラザ’’の時の『東側系テロリストの残党』、‘‘空港’’の時の『南米麻薬組織の残党』、そして中国マフィア藍幇(ランパン)の3つが別々に動いていると思っていたんだ。クソッ、偽情報を掴まされてた!!!」

 

  ダン!!

 

藤原さんは拳を机に叩きつけた。その衝撃で灰皿から吸殻が飛び散る。藤原さんは再びシガリロを咥え、紫煙を吸い込むと同時に落ち着きを取り戻す。

 

「(英語)今回の事件の解決に当たって‘‘不殺云々(うんぬん)’’は言ってられません。二人にはこれを渡します。」

 

藤原さんは‘‘ドロッとした目’’をして雰囲気を変え、隣に座る‘‘公安’’の玉串さんに合図をした。

 

「(英語)本当は部外者に渡したくないんですけどね。……あくまでも、犯人やその一味だけです。民間人を撃ったら……どうなるか分かりますね。」

 

玉串さんが机の上に二枚の‘‘紐付きカード’’を出し、俺とジョニー・マクレー(おっさん)の前に一枚ずつ置いた。

 

「(英語)なんだ、これ?」

 

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は不思議そうにそれを手に取り、不思議そうに観察している。しかし、俺はジョニー・マクレー(おっさん)と違い、冷汗をかいて固まった。

 

 ……殺人許可証(マーダー・ライセンス)だと!?は、初めて見るぞ!?

 

 そのカードには、日本語で『殺人許可証』と書かれていた。

 確かに、俺は第二中隊にいた頃は‘‘暗殺任務’’もあったが……それらの件は国(自国・他国問わず)が揉み消していたため、『殺人許可証』を持つ必要が無かったのだ。

 

 ……殺人許可証(マーダー・ライセンス)を部外者に渡す必要があるほどヤバい事件なのか!?

 

俺は震える手でそのカードの紐を首にかけた。

 

「(英語)マクレーさん、銃はこちらをお使いください。では東京タワーへ向かいましょう。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)の前にベレッタを置き、‘‘公安’’の玉串さんは席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?そう言えば藤原さん。俺、‘‘白鷺千聖’’の護衛任務があるんですけど」

「え?……あぁ、そう言えばそうだった。こっちから連絡入れるし、違約金も払う。彼女は何処へ送ればいいんだい?」

「それじゃ、彼女の事務所にお願いします。本来だったら撮影の後、事務所でレッスンだったので。」

「分かった。こっちで送っておくよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は白鷺がいる部屋にいったん戻った。

 

「あら?会議は終わったのかしr……!?」

 

白鷺は俺を見て軽口を叩こうとし……黙った。彼女は恐怖と驚愕を混ぜ合わせたような表情をしていた。

 

「白鷺、大事件が起きた。悪いが事件が解決するまで護衛を降りさせてもらいたい。事務所へは軍か警察が手配してくれるはずだ。」

 

俺は『此れ幸い』とばかりに口を開き、そして部屋を出ようとした。

 

「ちゃ、ちゃんと!!帰ってくるのよね!?」

 

 ……何心配してやがる。お前は俺のことが嫌いだろうに

 

俺はため息をつき、背を向けながら片手をあげた。

 

「俺は‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’だ。チャチャッと片付けてくらぁ」

 

 ……あぁ、胸が痛い。

 

俺はやっぱりこの‘‘二つ名’’は嫌いだ。鳥肌が立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  さて、『閑話 極東戦役:極東編』において、無銭乗船によって東京まで来てしまった‘‘西住みほ’’は東京を満喫していた。

 彼女は有明の東京港に降りた後、最初に向かったのは‘‘東京タワー’’だった。

 

 ‘‘西住みほ’’は浜松町で電車から降り、東京タワーへの坂を上っていた。そして、東京タワーの特徴的な赤色が見えると、彼女の足は軽くなる。

 

 坂道を登り切り、東京タワーへの入り口が見えてきた。

 

「………………え?」

 

少女は目を疑った。東京タワーの入り口付近には、異常に殺気だった‘‘スキンヘッドの白人’’と‘‘坊主頭の少年’’がいた。

 少女は一瞬戸惑ったが、『東京にはいろんな人がいるんだなぁ』と思い、無視して東京タワーへ入ろうと……

 

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 

少年と目が合った。少女は嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は‘‘アクア・エデン’’から出る電車に乗り、本土に着くとボロ車(ビュート)で浜松町へ向かった。浜松町でボロ車(ビュート)を乗り捨て、走って東京タワーへ向かう。

 

『(英語)村田、マクレーさん、健闘を祈る』

 

耳に付けたインカムからは藤原さんの激励の言葉が発せられた。俺とジョニー・マクレー(おっさん)はその言葉にため息で答えた。

 

「(英語)クソッ、日本に付いてすぐこれか。……なんだぁ、これは?日本に‘‘エッフェル塔’’でも作ったのか?」

「(英語)‘‘東京タワー’’っていうんだ。」

 

俺達は適当に話しながら警戒する。

 

 ……‘‘サイモン’’は何故東京タワーの外へ行くように命じたんだ?

 

周りにはビルが多いから狙撃も監視も楽だろう。殺そうと思えばすぐに殺せるはずだ。

 そんなことを考えていると、丘の方から『黒色の軍服風の制服を着た少女』が歩いてきた。その少女は一般人の歩き方と違い、特殊な訓練を受けた人間の様な歩き方をしていた。

 

 ……敵か?

 

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 

俺は確認のため、少女に話しかけた。少女はビクッと体を震わせた後、普通に挨拶を返してきた。

 

 ……殺気は感じられない。多分普通の女子高生の可能性が高い。しかし今日は平日だ。なんでこんなところに?

 

そんなことを考えていると、目の前にハイエースが止まった。ハイエースのドアが開くと、そこから‘‘いかにも’’そうな男たち8人が出てきた。

 

「へぇ~、このおっさんと坊主頭をやればいいんだな?」

「こんな雑魚をボコせば大金もらえるなんてなぁ。」

「そこにいるお嬢ちゃんも可愛いじゃん。後で、マワしちまおうぜ!!」

 

ガタイ‘‘は’’いいヤンキーの男たちは手にバットや小さなナイフを持ち、下品な笑い声をあげる。

 

 ……歩き方・姿勢・仕草から判断して、どう考えてもただの不良。話から察するに‘‘雇われ’’、しかも気が付いていないのようだ。……クソッ!!そっちの方が面倒臭い!!

 

俺は思わず舌打ちをした。

 不良で、しかも‘‘雇われ’’だとしても……奴らは民間人。‘‘殺人許可証(マーダー・ライセンス)’’を貰ったとは言え、奴らを殺せば面倒になるのは確実だ。

 

「(英語)おっさん、()ったら面倒だって分かるよな?」

「(英語)あぁ。分かってる」

 

俺はおっさんに話しかけると同時に、黒色軍服(?)少女の腰に手をやり、抱き寄せた。

 不良たちが睨んでくるが、そんなの問題ない。

 

「Discretion is the better part of valor!!(訳:逃げるが勝ちってな!!)」

「三十六計逃げるに如かずだぁあ!!」

 

俺は少女を小脇に抱え、おっさんと一緒に回れ右をし、敵に背を向けて逃げ出した。

 

「「「「「……え?」」」」」

 

ヤンキー達はその『華麗な逃げっぷり』に呆然としたが、すぐに我に返って追いかけ始めた。

 

「「「「「待てゴラァアア!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 イブキがかなめの盛った薬を見破れなかったのは……単に油断していたからです。まさか身内が盛るなんて一つも考えていなかったので。


 かなめがHSSになると『弱気』になるため、逆に襲われる心配がない。ただし、『男が守りたくなるような女』、つまりメチャクチャ魅力的になるために‘‘己の自制心が問われる’’ことになる。


『矢来 美羽』はゆずソフト『DRACU-RIOT!』のヒロインの一人。この作品からはエリナや稲叢 莉音が登場しています。


 風紀班の主任『桝形兵馬』、公安の『玉串』、外務省の『畠山』、駐日アメリカ合衆国主席大使の『クラーク』は今後出ることはありません。……多分。


 クマの恐ろしさは……ゴールデンカムイを見て貰えばわかります。ヒグマとツキノワグマと言う違いがあるとは言え、クマがいかに恐ろしいか分かるはずです。




  Next Ibuki's HINT!! 「過酸化アセトン」 


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Die Hard3 in Tokyo  一般人でこの殺気って……

皆さんGWはどうでしたか?自分は……バイトばかりだったので書く時間があまりとれませんでした。
 金は欲しいけど時間も欲しいなぁ……。


 





「(英語)た、タクシー!!」

「タクシー!!!こっちだ!!」

 

俺とおっさんはヤンキー共から走って逃げている時、運よくタクシーを捕まえることができた。

 

「お客さん、行先は……」

「(英語)うるせぇ!!早く出せ!!」

「あぁ~、警視庁に。いや、警察庁まで!!早く!!!」

「は、ハヒ!!」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は運転手に怒鳴りつけた。運転手も緊急事態だと理解したのだろう、一気に加速させた。

 

「……私、なんでこんなことになってるんだろ。そもそも大会でやっちゃって、熊本から東京に無銭乗船して、今度は事件に巻き込まれたんだぁ」

 

俺が小脇に抱えていた少女は『この世に絶望した目』をしてボソボソ独り言を言っている。

 

 ……『命を救ったから感謝しろ』とは言わねぇけど、あの場にいたら最悪『誘拐されて強姦』の可能性もあったんだぞ?

 

俺はそう思いながら後ろを振り向くと……ヤンキー共が乗っていたハイエースが爆走して追って来ている。

 ヤンキーの一人がハイエースから身を乗り出し、短機関銃(サブマシンガン)をタクシーに向けてきた。

 

「(英語)伏せろ!!」

「伏せろ!!!」

 

俺は少女の頭を押さえつけながら伏せた。

 

「ぐぎゅ……」

 

少女から苦しそうな声が聞こえるが、そんなことを気にしている場合じゃない。

 

  ダダダダ……バリン!!バリン!!

 

「な、なんで撃たれるんですか!?……く、くそぉおお!!なんて日だ!!!妻は出て行って!!家出した‘‘息子’’が‘‘娘’’になって戻ってきて!!」

 

 ……タクシーの運転手、今日一日で何があったんだ?

 

俺は思わずタクシーの運転手を見た。中年のタクシーの運転手はギリギリまで姿勢を低くして運転をしているが、その運転はとても滑らかだ。きっとこの運転手はベテランなのだろう。

 

「(英語)クソッ!!だから坊主と一緒にいるのは嫌なんだ!!」

「(英語)こっちだって一緒だよ!!なんだってこんな目に!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はベレッタで敵のハイエースを撃つが、全くダメージを与える様子が見られない。

 

「(英語)防弾になってやがる!!」

「(英語)流石にタイヤは違うだろ!?」

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から38式歩兵銃を取り出し、タイヤを狙って発砲するが……銃弾は無残にも弾かれた。

 

「(英語)グォ!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は後ろへ倒れた。左腕から血がドクドクと出ている。被弾したのだろう。

 

「(英語)おっさん!?俺に任せろ!!」

 

俺は38式をしまい、代わりに25ミリ機関銃を取り出した。

 

  ガチャ!!ガチャッコン!!

 

「(英語)喰らいやがれ!!」

 

  ダンダンダンダンダン!!!

 

俺は何発が被弾しながら25ミリ機関銃を撃ち、ハイエースのタイヤを打ち抜いた。

ハイエースはスリップし始め、ガードレールにぶつかって運動エネルギーを減らし、そして電柱柱にぶつかって止まった。見た感じ、ハイエースの人間以外に犠牲者はいないようだ。

 

 

 

 

 ……クソッ!!普通こういう撃ち合いの時、主人公は無傷だろ!?

 

俺は‘‘四次元倉庫’’に25ミリ機関銃をしまい、弾が貫通した‘‘左の二の腕’’・再び出血した‘‘頭部’’・‘‘右わき腹’’に応急処置をしていく。

 

「……東京(ここ)へ逃げるくらいなら熊本(うち)で引きこもっていた方がよかったなぁ」

「……なんかあったのか?」

 

 少女はずっとぼやいていた。普段だったら俺は無視するのだが……『華の高校生(?)』が‘‘死んだ魚の目’’でブツブツとぼやいていたらさすがに気になる。 

 俺は思わず聞くと、少女はピントの合わない瞳孔が開いた眼で俺を見てきた。その瞳で喋るのはやめて欲しい。

 

「大きな大会で大失敗して、ずっとそれで責められて逃げ出したんですけど……こんなのに巻き込まれるくらいなら熊本にいたほうがよかったって思ったんです。」

「……お前も大変だな」

 

 ……大きな大会で失敗してずっと責められるのか、結構陰湿なところだったんだな

 

俺は処置をしながらそう思った。

 

「(英語)サツのところまで信号無視で突っ走れぇ……」

 

おっさんは痛そうに運転手に命令したが……運転手には英語は通じない様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京タワーの展望台、そこで双眼鏡片手にカーチェイスを眺めていた男がいた。その男は背が低く少し太り気味で、丸メガネをかけ、頭頂部だけ髪がなく、口ひげを生やした初老の人物だった。

 

「おぉ~。うまくやっている。」

 

その初老の男は事件の始まりを見て、片方の口角を上げながら静かに笑った。

 

「劉先生、そろそろお時間です。」

「そうか。」

 

初老の男は青年に声をかけられ、そのまま東京タワーの展望台から降りようとし……歩みを止めた。

 

「そう言えば、この作戦草案を書いたのは君か?名前は……」

司馬 鵬(しば ほう)です。劉先生」

「今回は没にしたが……君の草案は努力の跡がみられる。それがいい」

 

初老の男は片方の口角を持ち上げて微笑みながら言った。司馬 鵬(しば ほう)という青年は無表情で頭を下げる。

 

「努力は良い。鉄砲玉だった俺が、努力に努力を重ね……龍頭閣下に認められ、やっとここまで上り詰めた。人は氏ではない。育ちであり……努力だ。」

「……は」

 

そして、初老の男は片方の口角を持ち上げつつ、‘‘微笑み’’から‘‘しかめっ面’’に顔を変えた。

 

「それを静幻……、龍頭閣下のご意向を無視し、勝手に戦を始めて……!!」

「……」

「……すまない。君は静幻に拾われたのだったな。」

 

初老の男は顔を戻し、司馬 鵬(しば ほう)という青年の肩に手を置いた。

 

「ただこれだけは覚えておけ。『人間に優劣はない。努力するかどうか、したかどうか』だ。」

 

初老の男はそう言って、東京タワーのエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は警察庁の職員に簡易的な処置をしてもらい、『黒色軍服風制服の少女』は調書を取られていた。

 なんでも彼女は熊本の名門校に在籍しており、いじめ(?)が原因で家出をして東京まで流れ着いたらしい。

 

 ……あんな可愛い少女にそんな行動力があったとは思わなかった。

 

俺は数メートル先で調書を取っている少女をまじまじと見た。

 

 

 

 

「(英語)誇大妄想の典型的な例ですな。対象よりも絶対的有利に立ちたいという強い願望を持ち、彼らの全て……行動・意志・感情さえも支配したいと思っている。」

 

手当てを始めて数分後、東京に住む『日本の心理学の権威』の教授が警察庁に到着した。その教授は犯人の今までの行動や言動を分析し、その結果を俺とジョニー・マクレー(おっさん)に説明してくれるのだが……専門用語ばかりで理解できなかった。

 

「(英語)二人の隠れた大ファンってわけだ」

 

藤原さんが揶揄(からか)いながら、俺とジョニー・マクレー(おっさん)にホチキス止めのコピー用紙の束を投げ渡した。

 

「(英語)ファンなら可愛い女の子の方が良いですy……いや、性格に難ありとか勘弁してほしいですね。」

 

俺は思わず『かなめ』・『ワトソン』・『ココ姉妹』を思い出した。そして溜息を吐きながらその紙束を拾い上げて読む。

 

「(英語)花束でも送られるかな?……アスピリンをくれないか?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は渡されたアスピリンと水を飲んだ後、紙束を読み始めた。

 

「(英語)パンジーが好きだと伝えてやりましょう。さて、今回の犯人ですが……」

 

藤原さんは冗談を言った後、『疲れ切ったサラリーマン』のような雰囲気から『ドロッとした気配』に替え、説明を始めようとした。

 

「(英語)安心しなさい、犯人は同性愛者じゃない。残念な事にとても冷酷ですな。」

 

心理学者の教授は『落ち着け』とばかりにジョニー・マクレー(おっさん)と俺の肩に手を置いた。

 

 ……『冷酷なテロリスト』よりまだ『パンジー』の方がよかっt……いや、よくねぇや。

 

 

 

 

 英語のスラングで『pansy(パンジー)』は女みたいな男・女々しい男・男性同性愛者を意味しする。また、男らしくない・勇気がないなどの意味で男性を侮辱するときにも使われるのだ。

 

 

 

 

 以上より、野郎に追われるのは勘弁だ。まだ冷酷なテロリストの方が良い。

 

「(英語)まぁ、どっちだとしても……二人に興味を持っているのは確かです。紹介がまだでしたね。こちらは河井教授で……」

「「(英語)心理学者……でしょう?」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は藤原さんが紹介する前に、相手を言い当てた。

 

「(英語)おぉ!!ご名答!!さて、殺気も話していた通りだ。犯人は誇大妄想で……おそらく分裂的性格の傾向がある。すなわち……」

「(英語)先生、難しい話は結構。俺とどんな関係があるんだ?」

 

心理学者の教授は面白そうに犯人の分析結果を離していた。しかし、専門用語が多すぎたためにジョニー・マクレー(おっさん)は話を止めさせ、単刀直入に聞いた。

 

「(英語)教授、俺も……日本語ならともかく、英語で心理学の専門用語を言われても分からないです。」

 

俺も申し訳なさそうに教授へ行った。

 

「(英語)そうだな……簡単に言うと、理由は分からんが『二人を深く恨んでおり、二人を踏み潰したい』と思っている。」

 

心理学の教授は人差し指をピンと立て、机の周りを歩きながら解説を始めた。

 

「そして、散々君達を(もてあそ)び……最後に二人を殺すだろう。」

 

そして俺達の正面までくると歩くのを止め、心理学の教授は俺達の目を見て真剣に答えた。

 

「(英語)ファンの上にサイコかよ……。‘‘かなめ’’と若干キャラが被るし……」

 

俺は大きな溜息を吐きながらソファーにもたれ掛かり、天井を見ながらぼやいた。

 

「(英語)残念だが……この手合いは本名で名乗ることが多い。誰が復讐しているか知らせたいからだ。だから‘‘サイモン’’も本名か、それに近い何かだろう。」

 

その教授の言葉を聞き、藤原さんの目と口は三日月状に歪んだ。

 

「(英語)‘‘サイモン’’は基本男の名前だそうだ。よかったじゃないか村田、これ以上ヒロインが増えないで。……ところで誰が本命なんだい?最近は‘‘かなめちゃん’’以外にも‘‘エル・ワトs……」

「(英語)黙ってください。藤原さんも色々やっているそうじゃないですか。」

 

俺が睨みながら言い返し、藤原さんは『参った』とばかりに肩をすくめた。

 

「(英語)全く、なんてサイコだ」

「(英語)それも爆弾に詳しいサイコだ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がぼやいたと同時に、HS部隊第二中隊の田中曹長がそう言いながら敬礼して室内に入り、アタッシュケースを重そうに運ぶ。

 

「(英語)これを浅草の‘‘花〇しき’’で見つけた。」

 

田中さんは乱暴にアタッシュケースを机の上に置いた。藤原さんが文句を言うが……田中さんは何でもないようにアタッシュケースを開けた。中に入っていたのは‘‘赤で着色された液体’’と、‘‘透明な液体’’が入った2種類のケースがあった。

 

「(英語)2006年にイギリスで爆破テロの未遂事件があっただろ?英語で言うと……」

「(英語)『ロンドン旅客機爆破テロ未遂事件』だな」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が助け舟を出した。

 

「(英語)そう、『ロンドン旅客機爆破テロ未遂事件』で使われる予定だった『TATP(過酸化アセトン)』を使った爆薬だ。原料はアセトン・過酸化水素水・硫酸を混ぜればすぐ完成。薬局でも売ってるものばかりだ。」

 

田中さんはそう言って‘‘実験用の注射器’’と‘‘ドライバー’’を取り出した。

 

 

 

 

 

数秒後、田中さんはドライバーをいじり、そして注射器で‘‘透明な液体’’を取り出した。

 

「(英語)簡単な構造だ。警察でも有名じゃないか?……片方だけなら何の問題もないただの液体だ。」

 

田中さんは注射器を押し、透明な液体を机の上に1滴ほどだした。そして近場に置いてあった紙束で思いっきり叩いたが……何の反応もなかった。

 

「(英語)だが、混ぜ合わせれば……」

 

田中さんはポケットからゼムクリップを取り出し、端を曲げて針金状に戻した。その針金(?)の先端で‘‘赤い液体’’をほんの少し付着させた後、机の上に出した‘‘透明な液体’’も付着させる。

 

「(英語)危ないぞ」

 

田中さんはそう言って部屋の隅に針金(?)を投げた。

 

  ズドーーーン!!

 

轟音が響き渡り、部屋の隅は軽くえぐられていた。俺とジョニー・マクレー(おっさん)は唖然とする。

 

「な、何をするんですか!?」

 

藤原さんが声を裏返して怒鳴ったが……相変わらず田中さんは涼しげな顔をしている。

 

「(英語)今のでわかったでしょう?単純な原料だが、TNT(トリニトロトルエン)よりも断然不安定だ。だからこそ素人には扱えない。」

 

田中さんはそう言ってそのかばんを片付け始めた。

 

「(英語)‘‘トラウズル値’’の……いや、TNT(トリニトロトルエン)の70~80%ほどの威力なのにこの爆発だ。それがこのバックに入っている分全部が爆発すれば……どうなるかわかるはずだ」

 

田中さんはカバンを片付け、机の上にキッチリと置いてため息をついた。

 

「(英語)それに混ぜ合わせる時に熱を発し、さらに爆発しやすくなる。そんな代物を秋葉原で、しかも二束三文で売っている部品で完全に混ざる機械を設計して運用できる奴はほとんどいない。」

「予想通りか……アセトンと過酸化水素水、硫酸が大量に盗まれていないか調べてくれ!!」

 

藤原さんは大声を上げ、隣の部屋の刑事たちに命令した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、藤原さんは俺達に振り返り、さっき投げ渡した書類の説明を始めた。

 

「(英語)書類の1ページ目を見てください。」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)はその書類を見ると……そこには『ガタイがいい男』と『首に傷がある美女』の写真があった。

 

「(英語)男は『マシアス・タルゴ』、女は『カティア・タルゴ』。このハンガリー人の夫婦は以前‘‘南米の麻薬組織’’で働いていましたが組織が壊滅したため、今はフリーのテロリスト、契約で働いています。今雇っているのは『ピーター・クリーク』という組織。特にこの『マシアス・タルゴ』は爆薬物の専門家です」

「(英語)夫婦そろってテロリストかよ」

「(英語)……まぁ、そういう奴も居そうだよな。」

 

俺は‘‘アカ’’を叩くのが趣味の『戦闘狂の女性パイロット』を思い出した。そんな人間もいるんだ、夫婦でテロをやるのは不思議ではない。

 

 ……そう言えば、ハンナは今何をやってるんだろ?

 

いや、多少なりとも‘‘あいつの事’’を思い出したら厄介なことが起こりそうな気がする。目の前の問題に集中しよう。

 

 

 

 

『なんだ、私のことをそんなに思ってくれていたのか?ならばJapan(ヤーパン)に向かうとするか。』

 

 ……さっさとお帰りください。

 

 

 

 

 

 

 俺は思考を戻し、情報を整理し始めた。とりあえず、書類にある二人は『ジョン・F・ケネディ国際空港』で戦った麻薬組織の残党で、爆薬のプロらしい。

 

「(英語)3ページ目を見てください。彼は旧東ドイツの陸軍大佐、特殊部隊の隊長で、今は『ピーター・クリーク』という‘‘アカ’’のテロリスト集団の隊長をしています。彼のいた特殊部隊は『バルジ大作戦』で投入された部隊のようなもので、母国語の様に英語t……」

「(英語)あぁ、映画で見た。」

 

藤原さんの説明をジョニー・マクレー(おっさん)は鬱陶しそうに妨げた。

 

「(英語)とりあえず英語に仏語、そして日本語が堪能です。そして彼の名前は……『サイモン・ピーター・グルーバー』。」

「(英語)……そうか!!」

「(英語)……何のことだ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は‘‘何か重大なことを思い出した’’ような驚愕の表情を浮かべるが……俺は何のことだかわからない。

 

「(英語)『サイモン・ピーター・グルーバー』は二人が初めて協力したLA(ロサンゼルス)の『ナカジマ・プラザ』の事件の首謀者、『ハンス・グルーバー』の兄だ。」

「「!?」」

 

 ……あぁ、思い出した。あんな事、忘れるわけがない。

 

 俺は藤原さんの言葉で……随分と昔の記憶を掘り出した。

 そう、『ハンス・グルーバー』俺が生まれて初めて‘‘人を殺した事件’’でジョニー・マクレー(おっさん)と初めて共闘した事件の首謀者だ。その首謀者『ハンス・グルーバー』の死に際の表情は今でも鮮明に覚えていr……多少記憶が(かす)れているせいで脳内編集をされているかもしれないが、今でも覚えている。

 

 ……なるほど、そいつの兄貴ってわけか。

 

確かに、俺とジョニー・マクレー(おっさん)を恨んでいそうだが……どこか腑に落ちない。

 あくまでも勘ではあるが……この『復讐』という傘で何かを隠そうとしているのではないだろうか。

 

「(英語)二人とも気が付いたようですね。その人物が今、残党共をまとめ上げて……」

「‘‘サイモン’’から電話です!!」

「逆探始めろ!!」

 

 藤原さんが命令を言ったのと同時に、俺とジョニー・マクレー(おっさん)は大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)‘‘サイモン’’か?」

 

電話機をスピーカーモードにし、藤原さんが‘‘苦虫を噛んだ’’ような表情で言った。この部屋には俺・ジョニー・マクレー(おっさん)・藤原さん・心理学の教授・田中さんがいる。

 

『(英語)あの二人は生き延びたようだな。確かに、あのようなヤンキー共にやられるとは思ってもいないが……多少はがっかりする。ところで3匹の鳩は今どうしている?』

「(英語)鳩だと?」

『(英語)僕の飼っていた3羽の鳩、ある日突然飛んでった。……白と黄色のオスと、黄色のメスがどうして逃げたのか、僕にも君にもわかない。』

「(英語)……ジョニー・マクレーさんと村田の事か?」

『(英語)それにもう一人、懐かしいパンツァージャケットを着た少女がいただろう?彼女と話させてくれないか?』

 

藤原さんは田中さんに視線で合図を送った。田中さんは頷き、静かに部屋を出た。

 そして1分もしないうちに、田中さんは『黒色軍服風制服の少女:西住まほ』を抱えて部屋に入ってきた。

 

『やぁ、君には悪いことをしたね。まさか私の計画に巻き込まれるとは……』

「計画がずさんすぎるんじゃないですか?こんな一般人が簡単に巻き込まれる計画を作って恥ずかしくないんですか?バカですか?」

 

西住みほは‘‘死んだ魚の目’’をしながら、無表情で言い切った。

 

 ……うわぁ、完全にグレてる。

 

『い、いや……しかし、今日は平日のはずだ。お嬢さん、学校をサボるのはどうかt……』

「問題をずらさないでください、‘‘参謀気取り’’さん。」

 

  ガチャ……!!!

 

‘‘サイモン’’の電話が切れてしまった。

 俺はヤレヤレと西住みほを見て……背筋が凍った。彼女からは一般人ではあり得ないほどの……‘‘歴戦の古参兵’’並みの殺気を放っていた。

 

 ……こ、こいつ!!一体何者なんだ!?

 

 彼女は『黒森峰女学院』高等部の一年生、で『戦車道の副隊長』を務めていたらしい。

 彼女は‘‘東京タワーでのカーチェイス’’で『大きな大会で大失敗して、ずっとそれで責められいた』と言っていた。一年生でレギュラーどころか副隊長だ、『ずっと責められていた』原因はその事への嫉妬も原因の一つであろう予想できる。しかし……ここまで殺気を出せる人間を、使わないなんてありえないだろう。

 

 

 

 

「西住みほさん、国民の命がかかっている。苛立つ気持ちは分かるが、彼を怒らせないで欲しい。」

「……そうですか、すいませんでした。」

 

‘‘仕事モード’’の藤原さんは『ドロリとした目』で西住みほを捕らえ、警告した。しかし、西住みほは『死んだ魚の目』で藤原さんを睨みつけて反抗する。

 

 ……本当にこいつ、一般人なのかよ!?そこまで‘‘戦車道’’はヤバいのか!?……ヤバいか。

 

俺は依然知り合った‘‘戦車道’’の人間たちを思い出した。

『知波単学園の突撃癖を持つ生徒達』、『聖グロリア―ナの紅茶中毒達(ダージリンとゆかいな仲間達)』、たった2校であるが、癖が強い変人奇人ばかりだった。ならば、『黒森峰女学院の戦車道』もこのようなヤバい奴らがいてもおかしくはない。

 以上の考察より……

 

 ……『黒森峰女学院』って、どんな殺伐とした学校なんだよ!?何、弱肉強食の世紀末な学園艦なの!?

 

イブキは大きな勘違いをした。

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)逆探は?」

「逆探知、敵の妨害で特定できませんでした!!」

「(英語)……妨害されてダメだったようです。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がボソッというと、田中さんが訳して答えた。

 

「再びかけてくれますかね?」

 

俺は伸びをしながら‘‘心理学者の教授’’に尋ねた。

 

「あぁ、来るよ。賭けたっていい」

 

‘‘心理学者の教授’’は笑顔を浮かべ、俺の質問に答えた。

 

  プルルルル……

 

ちょうどその時、再び電話が鳴った。藤原さんがスピーカーモードにして再び出た。

 

「(英語)もしもし、‘‘サイモン’’か?彼女の言葉には責任は持てない。君も分かるだろう?」

『(英語)全く不愉快だ。こんなことは二度とないようにしたまえ。』

 

‘‘サイモン’’は『苛立ちを無理やり抑えた様な声』で再び話し出した。

 

『それで名前は?お嬢さん(フロイライン)?』

「人に名前を尋ねる時は、自分からですよね?」

 

俺と藤原さんは大きなため息をついた。ジョニー・マクレー(おっさん)も日本語は分からないが、西住みほの雰囲気と声色から何を言ったのか察したのだろう……頭を押さえ、ため息をついた。

 

 

『失礼。お嬢さん(フロイライン)には多少叱ってから解放しようと思っていたが……気が変わった。(英語)お嬢さん(フロイライン)にもゲームに参加してもらおう。』

「分かりました。札幌市街の公衆電話です!!」

「中国?香港!?」

「マカオ!?クソッ!!妨害されています!!」

 

‘‘逆探専門’’の人たちが必死になって‘‘サイモン’’を探すが……どうも‘‘サイモン’’の方が上手(うわて)だったようだ。

 

『(英語)さて、電話会社とのお遊びは終わったかな?では、そろそろゲームを再開しよう』

 

‘‘サイモン’’の言葉に、この部屋にいる人間全員(一人を除く)が凍り付いた。

 

 

 

『(英語)‘‘Simon says……村田維吹、ジョニー・マクレー、そしてお嬢さん(フロイライン)の三人は新宿御苑管理事務所近くの公衆電話へ行け。15分後にそこへ電話をかける’’

 

無論、警察・軍・武偵などを近くに寄越すな?電話に出られなければそっちの負け、ドカンだ。ルールは分かったかな?』

 

 

 

「(英語)あぁ、わかったよ!!‘‘子供遊び’’が好きなサイコだってことをな!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が苛立たしそうに大声で発した。

 

 ……二日酔いでまだ頭が痛いんだろうな。

 

俺はなんとなく理解した。

 

「(英語)まぁまぁ、落ち着け……」

「(英語)まぁそうだろ?俺達に‘‘恨み辛み’’があるんだろう?なら何でこんなことをする。

 

俺は思わずため息交じりに‘‘サイモン’’へ抗議する。俺の言葉に続き、ジョニー・マクレー(おっさん)も口が開く。

 

「(英語)全く、何をやった?スリか、万引きか……覗きでもやったか?男なら一対一で勝負しやがれ!!サシの勝負だ!!」

『(英語)まぁまぁ、ジョニー。まぁ落ち着けって……。』

「(英語)無関係な人間巻き込んどいて恥ずかしくねぇのか?軍人崩れ。」

 

俺もジョニー・マクレー(おっさん)に続き、‘‘サイモン’’を挑発する。

 

『(英語)…………‘‘崩れ’’になろうとも、‘‘誇り’’を捨てる気はなかった!!!あの中国人が!!

『……バキッ!!』

 

電話からくぐもった声と共に、何かが壊れたような音がした。俺・ジョニー・マクレー(おっさん)・藤原さんはその『早口でひどいドイツ訛りの小言』を聞き取ることができなかった。

 

『(英語)フー……フー……。とにかく15分後、新宿御苑管理事務所近くの公衆電話だ。ジョニー・マクレー、村田維吹、そしてお嬢さん(フロイライン)を行かせろ。ためらうようなら‘‘花や〇き’’で拾ったカバンを思い出せ』

 

  ガチャ!!ッー、ッー……

 

電話が切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

「(英語)教授、分かったことはありますか?」

 

藤原さんはドロッとした雰囲気のまま、心理学者の教授に質問する。

 

「(英語)確実に分裂症の傾向がある。それにドイツ訛りの言葉をしゃべり、日本人ではないだろう。ただ……二人を確実に殺そうとしているが、他にも目的があるかもしれない。」

 

藤原さんはため息をついた後ポケットからシガリロを出し、口にくわえて火をつけた。その吐いた紫煙が部屋に広がっていく。

 

 ……ん?何時ものシガリロの香りじゃない。上品で重厚な……

 

俺は藤原さんの持つシガリロを見て気が付いた。今持っているシガリロは‘‘いつもの物’’よりも長く、色が濃かった。

 

「(英語)3人とも早く行ってください。時間が無い。」

 

藤原さんはそう言うと、今度は西住みほに顔を向けた。

 

「西住みほさん、犯人からあなたも行けとの命令だ。行ってもらいます。」

 

藤原さんは今まで以上にドロッとした雰囲気を出し、西住みほに命令した。

 

「……な、なんで私が巻き込まれなきゃいけないんですか?」

 

西住みほは一瞬怖気づいたようだが……すぐに我に戻り、藤原さんの目を見て反論した。

 

「君があんなに挑発したからだ。」

 

藤原さんはシガリロを咥えながら、無表情で淡々と言っていく。

 

「あまりこういう手は使いたくないのだが……君の挑発によって捜査を邪魔されたのも事実。適当な建前(たてまえ)で逮捕ができる。実家がそのことを知ったら悲しむだろう?」

 

藤原さんはそう言い切った後、美味そうに葉巻を吸い始めた。西住みほはその言葉を聞き、目をそらした。

 

「時間が無い。急いで行ってください。警察の方がそこまで送ってくれます。」

 

藤原さんがそう言うと、スーツ姿の人が部屋に入ってきた。

 

「急いでください。我々が送ります。」

 

そして、俺・ジョニー・マクレー(おっさん)・西住みほ・藤原さんは黒いセダンに乗せられ、新宿御苑へ向かわされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば藤原さん。浜松町の近くにボロ車(ビュート)を路駐したんですけど……大丈夫ですよね」

「あ~……うん。大丈夫じゃない?多分、きっと……」

 

イブキはまだ知らない。すでに『駐車違反』のステッカーが張られており、結局違反金を払うことになるなど……。

 

 

 




 新たなオリキャラ:劉&司馬鵬の登場です。もちろん、所属は藍幇(ランパン)。劉が藍幇側の責任者。司馬鵬は諸葛静幻に拾われたという設定です。


 過酸化アセトン……結構危険な爆薬&簡単に作れる(安定はしていないが)ので作る人が時々いるそうなのです。しかし、このSSは爆薬を作ることを推奨していません。
 作ってはいけないぞ!!酔っ払いとの約束だ!!(フリではありません。マジで止めてください)


 『西住みほがこんなことを言うはずがない?』……いえ、彼女はパニックに陥っているため、こんな言動をとっています。
 メチャクチャ怖い親にナイショで家出して、無賃乗船(犯罪)して、東京で命の危機に瀕したら……誰だってパニックになるでしょう?


 『黒森峰世紀末説』浮上していますが……ただのイブキの妄想です。




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Die Hard3 in Tokyo  10年越しの再会……

 週一投稿がなかなかうまくいかない今日この頃……。やっぱりバイト先で書けなくなったのがとても大きい。
 次話こそ、次話こそ一週間までに投稿できる……はず。




 それと、このSSはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
 重要なのでもう一度書きます。このSSはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


「……なんでこんな目に。」

「(英語)この嬢ちゃんはなんて言ったんだ?」

「(英語)『なんでこんな目に』だって。まるで俺達と一緒だな。」

 

新宿御苑へ向かう車の中、西住みほは真っ赤になった顔を手で押さえて(うずくま)っていた。

 

「あの時イライラして、頭が真っ白になって……だからあんなことを……」

「あぁ~……」

 

苛立ちとパニックのせいで……警察庁での大惨事を起こしたそうだが、あの時出した殺気は今でも覚えている。少なくても一般人が出せる殺気ではなかった。

 

「(英語)今度は?」

「(英語)パニックになってあんなことやったんだってよ」

「(英語)あんな殺気出しておいてそれはねぇだろ?」

「(英語)……おっさんもやっぱりそう思う?」

 

俺は西住みほが英語をあまり理解できない事をいいことに、適当な事をしゃべりながら……『黒森峰女学院=世紀末』と言う仮説を信じ始めていた。

 

 

 

 

 

 こんな風に雑談をしていると、新宿御苑に付いた。時間は残り7分。俺達は車から降り、歩いて公衆電話へ向かった。

 

「何してるんだろ。無銭乗船で東京まで来て……今度は事件に巻き込まれて……」

「(英語)ツイてないのは俺も同じだ。俺は久しぶりの休暇を楽しんでたんだ。ホテルで飲んで、カジノで遊んで……」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)も日本語は分からないが、西住みほが言った言葉をなんとなく理解したのだろう。(なだ)めつつ、同時にボヤいた。

 

「俺だって……なんで朝っぱらからあんな爆破に巻き込まれなきゃいけねぇんだよ。俺はただ護衛の任務をしていただけで……あれ?」

 

 ……俺、ただの護衛だよな?なんで毎日最低一回は襲撃に会ってたんだろう?

 

考えを止めよう。これ以上考えたら嫌な事を自覚しそうな気がする。

 俺はため息を吐きながら、今回巻き込まれた少女:西住みほを見た。彼女の顔を見て、俺達はまだ自己紹介をしていないことを思い出した。

 

「……そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は村田維吹。海軍所属で今は武偵高に出向中だ。で、こっちはジョニー・マクレー。ニューヨーク市警の警部。ついでに日本語はしゃべれないし、理解もない。」

「に、西住みほです。よろしくお願いします。」

 

西住さんは慌てて頭を下げた。ジョニー・マクレー(おっさん)はその様子を怪訝(けげん)そうに見つめる。

 

「(英語)何やってるんだ?」

「(英語)自己紹介だよ。おっさんの事も紹介しておいた。ツイてないヘボ刑事だって」

「(英語)少なくとも坊主よりはツイてるに決まってらぁ。」

「ま、マクレーさん!!」

 

そんな風に俺とジョニー・マクレー(おっさん)が適当に雑談していると……西住さんが大きな声でジョニー・マクレー(おっさん)の名前を呼んだ。

 

「あ、あいあむ『西住みほ』。ないすとぅみぃちゅー」

「(英語)ジョニー・マクレーだ。よろしく」

 

西住さんは頭を下げ、右手を差し出しながら(つたな)い英語でジョニー・マクレー(おっさん)に自己紹介をした。ジョニー・マクレー(おっさん)は一瞬驚いたようだが、すぐに彼女の手を取り、握手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 指定の時間まで残り三分。俺達は新宿御苑管理事務所近くの公衆電話を見つけた。見つけたのだが……一つ問題が発生した。上品そうなお婆ちゃんが公衆電話を使って長話をしていたのだ。お婆ちゃんを無理やりどかさないと電話に出れないだろう。

 

「すいません、お婆ちゃん。武偵の者ですが……電話がかかってくるんです。代わっていただけませんか?」

「武偵さん……?もう少し待ってもらってもいいかしら?」

「え?……はい、スイマセン」

 

俺はその平穏で優しそうなお婆ちゃんの雰囲気に負けてしまった。

 

  ガチャ!!

 

その時、目のハイライトを消した西住さんが無理やり電話を切った。

 

「あら?電話が……」

「(英語)すいません!!警察の者です!!電話を貸してくれ!!」

「ひぃいいいい!!!」

 

そして、ジョニー・マクレー(おっさん)が大声でしゃべり、無理やり受話器を奪った。その行為に恐怖を感じたのだろう。上品そうなお婆ちゃんは這々(ほうほう)の体で逃げだす。

 

 ……うわぁ、罪悪感で心が痛い。

 

 外人の大男が訳の分からない大声を上げ、受話器を奪い取ったのだ。恐怖を感じない方がおかしいだろう。

 俺は思わずため息を吐いた。

 

  プルルルル……

 

そして幸か不幸か、俺が罪悪感にさいなまれてすぐに電話が鳴り始めた。

 俺はジョニー・マクレー(おっさん)に目で合図し、ジョニー・マクレー(おっさん)が受話器を上げた。

 

『(英語)白豚黒豚は仲がいい。ハツカネズミにドブネズミ、どうして仲が悪いのか?』

「(英語)下らねぇ。どうだっていい。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が‘‘サイモン’’と話を始めたのだが……一つ問題が起こった。

 

「(英語)おっさん!!聞こえない、聞こえないから!!」

「あ、あの……」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)の身長は180センチを超えている。しかし、俺は170センチ未満で、西住さんに至っては160センチを下回っている。

 そんな身長差でおっさんが普通に受話器を取ると……俺達が聞こえない。

 

「(英語)うっせぇなぁ坊主。これだから体も小さいし、心も小さいんだよ。」

「(英語)うるせぇ。さっさと聞かせろって言ってんだよ。」

「あ、あの……マクレーさん、背を低くしてもらっても……」

 

俺はともかく‘‘華の女子高生’’の言葉を聞き(通じてはいないが)ジョニー・マクレー(おっさん)は渋々しゃがんだ。

 俺は公衆電話の音量を最大まで上げた後、西住さんと一緒に受話器へ耳を寄せる。

 

 ……中年の親父、青年、女子高生が一つの受話器に耳を寄せる光景とか、はた目から見たら気持ち悪いよなぁ。

 

俺はそんな事を考えてしまい、思わずため息をついた。

 

 

 

 

『(英語)話し中だったな。どこへかけていた?』

「(英語)豚さんのお家だ!!」

 

‘‘サイモン’’とジョニー・マクレー(おっさん)の会話を聞き、西住さんは困った様な顔をした。

 

「なんて言ったんd……」

「あ~……『電話をかけたけた時、話し中になっていたのは何故だ』だって。」

「あ、ありがとうございます。」

 

俺は‘‘サイモン’’の言葉を意訳して西住さんに伝える。

 

『(英語)真面目に話してほしいものだな。』

「(英語)知るか!!今着いたところなんだ!!」

『(英語)‘‘ババアが電話中だったから追い払ったところだ’’と言えばいいんだ!!!』

「「……!?」」

「えっと……今のは……」

 

 ……‘‘サイモン’’は俺達のことをずっと見ていたのか!?

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は周りを見るが……俺達を監視するような人間はいない。ビルが近くにいくつもあるため、そこから監視しているのだろうか。

 

 ……いや、もしかしてこの監視カメラか?

 

  ダンダンダン!!

 

俺は監視カメラを見つけた。俺は14年式を握り、その監視カメラを破壊した。隣で西住さんがドン引きしているのだが……無視する。

 

「敵が俺達を監視していたんだ。」

「……え!?」

 

‘‘サイモン’’が監視していたことを西住さんに伝えると、彼女は驚き、そして(おび)え始めた。

 

 ……藤原さんとタメ張っていた西住さんは何処に行ったんだよ。

 

俺は思わずため息をついた。

 

『(英語)おいおい村田君。いきなり発砲するなんて酷いじゃないか。』

「(英語)うるせぇ!!覗き魔が!!!!」

 

そして、俺は‘‘サイモン’’へ今までのストレスをぶつけるように言い放った。

 

『(英語)まぁいい、今の時間は9時45分だ。1分後、品川駅の1番線に山手線の列車が入ってくる。その列車に爆弾を仕掛けた。』

 

 ……や、山手線だと!?

 

東京をグルッと一周する有名な路線だ。もちろん利用者は断然多い。その路線の列車に爆弾を仕掛けられてみろ。どれだけ損害が出る!?

 

 

 

 

『(英語)‘‘Simon says……10時9分までに、要はその爆弾を仕掛けた列車が鶯谷(うぐいすだに)駅に到着するまでに、鶯谷(うぐいすだに)駅2番線のホームの公衆電話へ行け。’’

 

もちろん警察の車を使ってはいけないし、列車の運行を止めさせてもいけない。そんなことをすれば電車を爆破する。あぁ、もちろん乗客を避難させてもいけない。では、約25分後にまた会おう。』

 

  ガチャッ!!ッー、ッー……

 

 ……新宿御苑から鶯谷(うぐいすだに)駅まで25分程度で行けだと!?確かにルート検索だと20~30分ぐらいで行けると出るが……実際は渋滞や信号のせいで優に40分を超えるぞ!?

 

「む、村田さん!!なんて言ったんd……」

「今、品川駅から出た山手線に爆弾を仕掛けられた!!鶯谷(うぐいすだに)に着いたら爆発だそうだ!!」

『なんだって!?』

 

俺は西住さんと藤原さん(藤原さんは無線)で事件のことを伝えた。

 

「(英語)おっさん!!とりあえず車だ!!」

「(英語)分かってる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は新宿御苑から走って出て、車道に(おど)り出た。

 

「武偵だ!!止まれ!!!

「(英語)止まれぇええ!!」

 

車道に出た俺達にト〇タ:センチュリーが突っ込んでくる。俺とジョニー・マクレー(おっさん)はその車を、体を張って止めようとし……

 

  バキッ!!

 

「「ゴフッ……」」

 

()ね飛ばされ、そして地面にたたきつけられた。

 

「(英語)ぐおぉおお……嘘だろ?……おい」

「もうヤダ……なんて日だよ……」

 

(かろ)うじて軽傷で済んだ俺とジョニー・マクレー(おっさん)はヨロヨロと立ち上がり、()いたセンチュリーへ近づいていく。

 すると、黒塗りの高級車(センチュリー)からいかにも‘‘ヤ〇ザ’’な男たちが二人出てきた。

 

 ……あれ?そう言えばこの二人、何処かで見たことがあるような?

 

「おい、テメェ!!なに車道に出てくるんだこらぁ!?」

「車が凹んでいるじゃねぇか、ボケェ!!」

 

〇クザ(?)の二人はそう言って怒鳴り散らしながら俺とジョニー・マクレー(おっさん)に近づいてくる。

 

「what!?(訳:何だって!?)」

「武偵だ!!緊急事態だから車を借ります!!」

 

おっさんはヤク〇(?)の言っていることが理解できないらしい。俺はため息をついた後、要件を伝え、車を借りようとヤ〇ザ(?)を退けようとすると……

 

「何してんだゴラァ!!」

「修理はどうするんだ、ゴラァ!!」

 

 ……話にならなねぇ

 

  バキ!!ベキ!!

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は〇クザ(?)二人の無防備な顔を殴った。二人はそのまま崩れ落ちる。

 

「Do you think I understand a ward you’re saying!?(訳:言葉が通じると思うか!?)」

「うるせぇ!!さっさと貸しやがれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)黒塗りの高級車(センチュリー)に急いで近づき、中にいた人たちを無理やり外へ出した。

 

「……ん?あなたは鏡高(かがたか)さん」

「え、えぇ……」

 

黒塗りの高級車(センチュリー)は『俺のいちばん長い日 with BanG Dream!    高級中華食い放題(手土産付き)……』で高級中華をご馳走してもらった鏡高組組長:鏡高菊代さんのものだったらしい。

 

 ……そうか、だからあのヤク○は見覚えがあるなと思ったのか。

 

「とりあえず車借りますんで、さっさと降りてください。いや、降りろ!!

「(英語)警察だ!!緊急事態で車を借りる!!」

「は、はい!!」

 

鏡高さんは切羽詰った俺たちを見て驚き、着物が着崩れるのも気にせずに急いで車から降りた。

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は全員が降りたことを確認し、車を発進させようとし……あわてて止めた。

 

「(英語)何ボーっとしてんだ!!」

「西住さん!!早く乗って!!」

「は、はい!!」

 

西住さんは歩道の柵を乗り越え、走って車に乗り込もうとして……

 

  ビタン!!

 

すっ転び、顔面から地面にぶつかった。

 

「「………」」

 

すると西住さんはユラリと立ち上がり、幽鬼が如く黒塗りの高級車(センチュリー)に乗り込んだ。

 

「(英語)……お、おい。大丈夫か?」

「は、鼻血出てるよ?」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)が後ろを振り向き、西住さんを見た。おれはティッシュを出して渡そうとするが……西住さんは一向に受け取らない。

 

「フフフ……」

 

西住さんは鼻血が(したた)っているのにも関わらず、下を向き、不気味な笑い声を上げている。彼女からは藤原さんとタメを張った時のような『真っ黒いオーラ』が見える。

 

「「(こ、怖ぇ~……)」」

「どうしたんですか?行かないんですか?」

「Yes ma’am!!」

「は、はい!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はアクセルを踏み込み、黒塗りの高級車(センチュリー)を勢いよく発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前ら。さっさと代わりの車を手配しろ。」

 

イブキ達に車を貸し出した(奪われた)後、鏡高菊代が幹部達に高圧的に命令した。その時だった。

 

  バチバチバチ!!

 

「ッーー!?」

「もう我慢ならねぇ。計画とは違うがいいだろ?」

 

ホスト風の姿の幹部がポケットからスタンガンを取り出し、鏡高菊代に電気ショックを与えた。

 

「あぁ、多少計画がずれるがいいでしょう。中国の先生方も分かってくれるはずですし。」

 

東大卒の幹部はシガリロに火をつけ、倒れこんだ鏡高菊代を乱暴に拾い上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「劉先生、こちらです。」

「あぁ、ありがとう。」

 

劉 翔武(りゅう いーう)司馬 鵬(しば ほう)の案内のもと、黒の高級バンに乗り込んだ。

 

「劉先生、本当にこんなのでよかったのですか?」

「セダンだと足元が狭い。老人にはこの車の方がゆったりと出来ていい。」

 

劉 翔武(りゅう いーう)は席を倒し、リラックスした状態になった。そして、‘‘片方の口角を持ち上げる笑み’’を消し、司馬 鵬(しば ほう)へ顔を向けた。

 

「君、まだ案を‘‘没’’にしたのを気にかけてるのか。」

「…!?い、いえ」

 

その言葉で司馬 鵬(しば ほう)劉 翔武(りゅう いーう)を睨んでいた事に気がつき、慌てて視線を外した。

 

 

「まぁいい。君の案は『とても努力し、とても意欲的な案』だった。

 

村田 イブキ(天下無双)を海上に追いやり、その船を撃沈させる。その間に‘‘YAKUZA’’と(こう)・静幻で遠山キンジを潰す。そして、‘‘アレ’’をやる。』

 

そこまでの過程も細かくあり、努力の跡があってとても良かった。だが……それではダメだ。」

 

 

劉 翔武(りゅう いーう)は暗い……とても暗い笑みを浮かべた。もちろん、口角は片方しか持ち上がっていない。

 

村田 イブキ(あいつ)を『天下無双』など……」

「君は‘‘遠山キンジ’’を評価しているようだが……俺は‘‘村田イブキ’’の方が脅威だと思う。……っと、話がそれた。」

 

劉 翔武(りゅう いーう)はそう言って、『わかば(タバコ)』を取り出し口にくわえた。司馬 鵬(しば ほう)は間髪入れず、ジッポでタバコに火をつけた。

 

「フ~……。安いわりにはまぁまぁか。……まず、着眼点はいい。シャーロックがやった『村田イブキを隔離し、その間に目的を遂行する』と言うのは一定の成果があった。それを踏襲するのは良い。」

 

劉 翔武(りゅう いーう)はポケットから缶コーヒーを取り出した。

 

「だが……君のでは警察は動かない。それが理由だ。‘‘アレ’’が成功する可能性がとても低い。村田イブキ・遠山キンジの抹殺はあくまでも副目標だ」

 

劉 翔武(りゅう いーう)はタバコを半分ぐらい吸った後、灰皿にすっていたタバコを捨て、缶コーヒーを開けた。

 

「それに村田イブキの事だ。どうせ生き残るだろう。しかも、予想外なことにジョニー・マクレー(DIE HARD)までいた。」

 

劉 翔武(りゅう いーう)は缶コーヒーを(すす)った。そのとき、劉 翔武(りゅう いーう)の携帯電話が鳴った。

 

「ハイ……なに!?もう鏡高菊代を捕縛しただと!?……あぁ、良い。分かった。」

 

劉 翔武(りゅう いーう)は苛立たし気にメガネを外し、タバコを咥え、マッチを取り出して自分で火をつけた。

 

「……声帯模写が上手いものがいたな。そいつで‘‘鏡高菊代’’の真似をさせろ!!」

 

メガネをかけ、缶コーヒーを飲み干してゴミ箱に投げ捨てた劉 翔武(りゅう いーう)はタバコを思いっきり深く吸った。

 

「クソッ!!だからあの‘‘頭でっかち’’共は!!‘‘勉強ができる’’と‘‘頭が回る’’は違う!!」

 

 司馬 鵬(しば ほう)劉 翔武(りゅう いーう)にバレないようにため息をついたが……劉 翔武(りゅう いーう)にはお見通しだった。

 

 ……よし、司馬 鵬(しば ほう)はまだ『真の目的』に気が付いていないな。

 

劉 翔武(りゅう いーう)は慌てる演技をしながら、心の中で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)で、どうするんだ坊主!!」

「(英語)とりあえず真っすぐ進んでくれ!!……藤原さん!!」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)にそう指示すると、無線のスイッチを入れて藤原さんへ連絡する。

 

『どうした村田。いま道路の規制を始めようと……』

「東京駅でその列車に乗ります!!なので近衛師団に手回しをお願いします!!」

『おい、まさか……』

「千代田区を一気に横断します!!」

『分かった。手回しはするが、携帯で近衛師団の電話番号にかけてくれ。無線でつなげるのは難しい。』

「分かりました!!……ってうわぁあああ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が赤信号を突っ込み、トラックの車列の間をすり抜けた。車の右側がトラックと擦り、ギャリギャリと音がする。

 

「(英語)なんて運転だよおっさん!!」

「(英語)坊主はこれより早く運転できるのか!?」

 

そんな軽口をたたき合いながら、俺は急いで携帯を出して電話をかけた。

 

  プルルルル……ガチャ

 

『はい、近衛しd……』

「HS第二中隊の村田大尉です!!緊急事態なので師団長につなげてもらえませんか!?」

『ご用件は?』

「今起こっているテロについてです!!早く!!」

『では少々お待ちください』

 

 ……あぁ、クソ!!これだからお役所仕事は!!

 

 

 

 

 電話を待っている間、俺の考えた作戦を話そう。

 俺は『俺達は鶯谷(うぐいすだに)よりも前の駅でその列車に乗り、爆弾を捜索しよう』と考えた。

 例え鶯谷(うぐいすだに)駅の公衆電話に間に合ったとしても、爆弾を外さなければいつでも‘‘サイモン’’が爆発させることができる。なので、いち早く爆弾を取り除くことが必要となる。また、鶯谷(うぐいすだに)駅に着く前に爆弾を解除してしまえば向こうは爆発をさせることはできない。

 それに加え、‘‘サイモン’’は『三人で』とは言っていなかった。最悪一人でもいいかもしれない。

 

 しかし、これを実行するに一つ問題が発生する。人が多い千代田区を横断しなければならないのだ。なので時間短縮のために……千代田区の、そして東京の中心で、人混みが最も少ない場所、旧江戸城を横断しようというわけだ。

 

 旧江戸城を横断しないで行くことも確かに可能だが……時間ギリギリになるため、どうも信用できない。

 

 

 

 ……あぁ、クソ!!な、何て畏れ多い。

 

俺は頭を抱え、他の案を出そうと必死に考えるが……これ以上の案が浮かばない。

 

 ……山手線の列車の全長は約200メートル超。それを二人で、しかも人混みの中を短時間で爆弾を探すなんて、大分きついぞ!?

 

 

 

 

『もしもし、聞こえるかね?師団長の林 藤十郎(はやし とうじゅうろう)だ。』

 

保留中のメロディーが消え、意外にも澄んだ声が携帯から聞こえた。

 

「林師団長!!単刀直入に言います!!半蔵門から坂下門までの通行許可をください!!」

『……………許可できない。』

「何でですか!?今日起こったテロの件は知っているでしょう!?」

『だからだ。‘‘禁闕守護(きんけつしゅご)’’のため、何人たりとも入れることはできない。‘‘首都高速都心環状線’’や‘‘代官町通り’’ではダメか?』

「あそこは常に混んでいるでしょう!?あと3分で半蔵門に付くんですよ!?」

 

 あの近衛師団でも、たった数分で‘‘首都高速都心環状線’’や‘‘代官町通り’’を交通整理できるとは思えない。

 

 ……だけど、向こうの気持ちも分かるからなぁ。

 

俺はため息をついた。

 

『しかし、前例が……ちょっと待て。おい、これは本当か!?

 

 電話からくぐもった音がし、俺は聞き取ることができない。10秒弱ほど待った後、林師団長の声が携帯から再び聞こえた。

 

『……上から許可が下りた。車の種類、ナンバーを言え。』

「ト〇タのセンチュリー、ナンバーは……」

 

俺は車検証を探し出し、ナンバーを報告しながらさっきの発言について考えた。

 

 ……『上から許可が下りた』という事は林師団長よりも上の立場の人が決定したのだろう。こんな短時間で、しかも近衛師団が納得する人物……

 

いや、考えを止めよう。『流石は藤原さんだ』、これでいいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

四谷(よつや)を過ぎ、林師団長と電話が切れた時だった。

 

  キキーーーーーッ!!

 

「うわぁあああ!!」

 

  べキッ!!

 

センチュリーがいきなり急ブレーキをかけ、ハンドルを切った。俺はでシートベルトをし忘れていたため、フロントガラスに頭から突っ込むことになった。

 

「ッー!!ッー!!ッ~~~~~~!!!」

 

俺は頭を押さえ、のたうち回った。

 

 ……あ、頭割れるように痛い!!

 

頭を押さえる手から生暖かい液体の感触がする。頭を切ったのだろう。

 

「(英語)な、何すんだよおっさん!!って、あれ?」

 

センチュリーの右横には腰を抜かしたのか、尻もちをついて固まっている‘‘黒髪赤メッシュ少女’’がいた。

 彼女は『Afterglow』というバンドに所属しており、『俺のいちばん長い日 with BanG Dream! 有能な人間は癖がある……』で人質になっていた少女だ。

 

「(英語)あ、危ないだr……!?」

  

  ダァン!!カキン!!

 

 ジョニー・マクレー(おっさん)が窓から乗り出して文句を言った瞬間……車の後方から銃声の音と、車体が何かを弾いた音がした。

 

  ……え、嘘だろ!?もしかして……

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)がゆっくりと後ろを向くと……ハイラックスの荷台に重機関銃を取り付けたテクニカルが数台、猛スピードで向かってくる。

 

「(英語)坊主!!」

「そこの赤メッシュの子、早く乗って!!」

「……え?は?え?」

 

  ダダダダダダダ!!!

 

追手のテクニカルは弾薬を‘‘湯水の如く’’撃ちまくっている。このままでは混乱している‘‘黒髪赤メッシュ少女’’に弾丸が当たってしまうだろう。

 

「西住さん、無理やりでいいから乗せて!!」

「え!?あ、はい!!」

「……!?ッー!?」

 

西住さんは彼女の上着を掴み、グイッと車に乗せた。

 

「(英語)行くぞ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)‘‘黒髪赤メッシュ少女’’ を収容したのを確認すると、センチュリーを急発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)坊主!!真っすぐでいいのか!?」

「(英語)あぁ、真っすぐだ!!真っすぐ行けば日本式の門があるからそこをくぐれ!!!そうすれば先導車か何かあるはずだ!!」

 

俺はそう言ってト〇タ:センチュリーの窓から身を乗り出した。後ろには5台のトヨ〇:ハイラックスが見える。

 

 ……これが本当の‘‘To〇ota War’’ってか!?

 

俺は14年式を一番先頭のハイラックスに向けて発砲し始めた。しかし、確実に命中しているのだが、効いている様子が見えない。

 

 ……クソ!!14年式じゃ威力不足だ!!当たっても当たっても全く効かねぇ!!

 

俺は弾切れの14年式の弾倉を交換する間に、ワルサーP38出して撃ちまくった。しかし、それでもハイラックスは何ともないように追いかけてくる。

 

「(英語)坊主!!何やってんだ!?」

「(英語)ト〇タの堅実な設計を実感してるんだ!!」

 

 ……クソッ!!なんて頑丈さだ!!

 

ワルサーも撃ちきり、再び14年式を発砲し始め……弾倉が空になるギリギリでハイラックスの1台が火を吹き、敵の車列から離れ始めた。

 

 ……拳銃だと効率が悪すぎる!!

 

俺は助手席から、西住さん・涙目の‘‘黒髪赤メッシュ少女’’のいる後部座席に移動した。俺は西住さんともう一人の少女の間に陣取り、そして25ミリ機関銃を取り出した。

 

「二人とも!!伏せて、耳を塞げ!!」

 

西住さんは慣れているのだろうか、自然に耳を塞ぎ、‘‘黒髪赤メッシュ少女’’は慌てて耳を塞いだ。

 

「喰いやがれ!!」

 

  ダァンダァンダァンダァン!!!

 

25ミリ機関銃の弾丸はセンチュリーのリヤガラスをぶち抜き、敵のハイラックスへ向かう。

 25ミリ機関銃は敵のハイラックスを1台ずつ、確実に破壊していくのだが……ハイラックスの設計陣は優秀だったのだろう。下手な軍用車よりも多くの弾丸を撃たないと破壊できない。

 

 ……チクショウ!!面倒な!!

 

銃を持つ手に、思わず力を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしは華道の集会を終え、お父さんと別れて家に帰る途中だった。青信号を渡っていた時、黒い車が突っ込んできたのまでは覚えている。その後……何故か分からないが車に乗せられていた。

 

「……え?誘拐!?」

「ち、違います。……って伏せて!!」

 

茶髪のショートカットの女の子があたしを押し倒した。

 

「え!?ちょっとなn……!?」

 

  ダダダ!!バリンバリン

 

映画でしか聞いたことがない銃声と窓ガラスが割れる音が聞こえ、そして前部座席が穴だらけになっていく。

 

「これに巻き込まれそうになったんです!!」

 

‘‘茶髪のショートカットの女の子’’の言葉にあたしは背筋が凍った。

 

「(英語)坊主!!真っすぐでいいのか!?」

「(英語)あぁ、真っすぐだ!!真っすぐ行けば日本式の門があるからそこをくぐれ!!!そうすれば先導車か何かあるはずだ!!」

 

運転席と助手席でよくわからない会話が聞こえる(英語か……?)。会話が終わると助手席に座っていた人が窓から身を乗り出し、拳銃を撃ち始めた。

 

 ……え?あの人!?

 

あの人はこの前、私を強盗から救ってくれた人だ。彼は頭から血を流し、服を血で汚しながら反撃している。

 

 ……あの会議の時、『パスパレ』側にいたから、『パスパレ』のマネージャーか何かと思ってた。

 

「(英語)坊主!!何やってんだ!?」

「(英語)トヨ〇の堅実な設計を実感してるんだ!!」

 

 すると、運転手の顔がちらっと見えた。スキンヘッドの白人の男だが……不幸そうな、そしてタフそうな顔つきだ。

 

 ……あれ?あの顔って

 

あたしは幼稚園の頃、ニュースで『‘‘新巻のお兄さん’’と一緒に移っていた白人男性』を思い出した。

 

  ズドーン!!

 

何かの爆発音が聞こえたとともに、助手席で拳銃を撃っていた青年が後部座席に無理やり移動した。彼はあたしと‘‘茶髪のショートカットの女の子’’の間に陣取り、どこから出したのか、とても大きな銃を取り出した。

 

「え……?」

 

彼の顔が近くで見えるとともに、幼稚園の頃に『新巻のお兄さん』に助けてもらった記憶がよみがえる。

 

「『喰らいやがれ!!』」

 

記憶の『新巻のお兄さん』と彼が重なった。多少成長と共に顔が変わっているが、根幹は変わっていない。

 

「‘‘新巻のお兄さん’’……?」

 

彼は聞こえていないのか、ただ銃を撃っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと合計4両を破壊し、弾倉を変えながら最後の1両に25ミリ機関銃を向ける。

 

「(英語)あの門で良いのか!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)の怒鳴り声で、もう半蔵門の手前に来ていることを理解した。

 

 ……クソッ!!半蔵門に入る前にはあの車を処理しないと!?だが、間に合うか!?

 

俺は‘‘平賀さん特製:超徹甲弾’’を25ミリ機関銃に装填しようした時だった。

 

  バシュ!!……ドカーン!!!

 

最後の敵車輛がいきなり爆発した。それと同時に……

 

「ヒャッハー!!!」

「皆殺しだぁああ!!!」

「キェエエエエ!!!」

 

制服がキッチリと整えられた歩兵たちがテクニカルの残骸に集まり始めた。

 

 ……こ、近衛師団!?

 

 その時、『極東戦役:極東編 場所考えろよ……』で俺を‘‘事情聴取した中尉’’が敬礼した後、抜刀して突撃する。

 それを見送ると同時に、俺達の乗るセンチュリーは半蔵門を通過した。

 

 ……な、何とかなったか。

 

俺は後部座席に倒れこんだ。肩の荷が下りたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

半蔵門を過ぎ、装輪装甲車で先導してもらっていた時だった。

 

「‘‘新巻のお兄さん’’ですか?」

 

巻き込んでしまった‘‘黒髪赤メッシュの少女’’が俺の上着の(すそ)を引き、尋ねてきた。しかし……『新巻のお兄さん』と言う人間は全く知らない。

 

「いや……俺は‘‘村田’’で‘‘新巻’’ではないんですけど……。あぁ、村田維吹です。巻き込んでしまってすいません。」

 

俺はそう言って頭を下げながら、‘‘新巻’’とつく人物を思い出してみる。

 

 ……‘‘新巻’’か。そう言えば武偵高の食堂のおばちゃんの一人が‘‘新巻’’だったような。

 

「えっと……10年前のクリスマスの前の時、郵便局で強盗があったのを覚えていますか?」

「10年前?」

 

 ……10年前のクリスマスはおっさんと一緒に『ナカジマ・プラザ』でテロと戦ったのを覚えている。それよりも前で、『郵便局で強盗』だと……あ、あれか?

 

 俺は買い出しを頼まれ、その帰りに郵便局で強盗に会ったことを思い出した。

 俺は‘‘黒髪赤メッシュの少女’’の顔をマジマジと見る。俺がズワイガニと‘‘新巻’’鮭で強盗をボコした時、人質になって泣いていた『黒髪ショートカットの女の子』の面影が‘‘黒髪赤メッシュの少女’’には見える。

 

「君の名前は?」

「美竹蘭です。」

「美竹さんは……あの時、人質だったりした?」

「やっぱり……」

 

10年越しに少年と少女が出会った時、何かが起こる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キキー!!

 

「グベッ!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がいきなりハンドルを切ったため、俺はドアに叩きつけられた。顔面からぶつかったため、鼻血が出る。それと同時に、東京駅の特徴的な赤レンガの駅舎が見えてきた。

 

「(英語)あれが東京駅か!?」

「(英語)そうだよ、クソッタレ!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

俺は西住さんからティッシュを受け取り、鼻に詰めた。

 

 

 

 




 西住みほががジョニー・マクレーの英語がほとんど理解できない理由は……スラングが多用され、しかも早口だからです。


 新宿御苑から鶯谷まで車での所要時間は……実際に体験していないため、想像です。

 
 実際には、鶯谷駅2番線のホームには公衆電話はないそうです。

 このSSは特定の企業・個人を全面に押し出したり、貶めたりするつもりは一切ございませんが、規約に引っかからないようにするため、あえて伏せます。


 時々『(英語)~』ではなく『~~(訳:~~)』なのは、その場の雰囲気を感じて欲しいからです。


 旧江戸城という事は……畏れ多くてこれ以上は書けません。


 皆さん、シートベルトはちゃんとしましょう。イブキは特殊な訓練を受けたため死んでませんが、普通の人は死んでいます。




  Next Ibuki's HINT!! 「首都圏の学校」 


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Die Hard3 in Tokyo  爆風は避けられない……

何とか一週間以内に投稿成功。しかし、次話は一週間以内に投稿できるかどうか……努力はします!!








『村田!!ちょうど僕も東京駅に着いた!!』

 

無線から藤原さんの声が聞こえてきた。

 

『鶯谷までは消防車で僕たちが先導する!!目的の車両は4番線の9時59分発の列車だ!!』

「了解です!!」

 

  キキーッ!!

 

車が急停止し、東京駅に着いた。東京駅の目の前には消防車が多数止まっている。‘‘サイモン’’から警察の車は使ってはいけないと言われたため、消防車で先導するのだろう。

 

「(英語)ハハハッ!!『新宿御苑』から『東京駅』まで11分、ダントツの新記録だぜ!!」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)の言葉で時計を見た。今の時間は9時56分。59分発の列車に間に合うはずだ。

 俺はそう思いながらセンチュリーから出ようとした時、鶯谷駅での電話の事を思い出した。

 

 ……あ、爆弾を外す事だけ考えてて、電話の件を忘れてた。

 

 俺は思わず頭を抱え……西住さんが戦車道をやっている事を思い出した。戦車道をやっているなら、車の運転もできるかもしれない。

 

「西住さん、『戦車道やってる』って言ってたよな!?」

「……え!?あ、はい。」

 

俺は怒鳴りつけるように西住さんに聞くと、彼女は慌てだした。

 

「車の運転できる!?」

「えっと、う、運転ですよね。あ、あの……」

「出来るのか!?出来ないのか!?」

「で、できます!!」

 

西住さんは覚悟を決めたのか、キッと俺の目を見ていった。

 

「この車を運転して鶯谷駅の2番ホームにある公衆電話まで向かって電話に出てくれ!!‘‘サイモン’’は『三人で』とは言っていなかったから大丈夫なはずだ!!」

 

俺はそう言って、センチュリーから降り、ドアを閉めた。すると、慌てて西住さんはドアを開けて外に出た。

 

「な、なにをする気ですか!?」

「列車に乗って爆弾を外す!!」

「死ぬ気ですか!?」

「分業だ!!どっちか失敗してもカバーし合える!!とにかく西住さんは鶯谷の公衆電話まで行け!!」

「りょ、両方失敗したら……」

 

西住さんが地面を向いた。きっと、戦車道大会での失敗を思い出したのだろう。

 

「大丈夫だ!!死んでたまるかよ!!いいから西住さんは早く鶯谷へ!!消防車が先導する!!2番線だから!!」

「(英語)坊主!!何やってるんだ!!」

「(英語)あぁ、今行く!!」

「……やっぱり熊本にいたほうがよかったなぁ。」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)と一緒に山手線へ走り出し、西住さんは‘‘座った眼’’をして車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

「「……あ」」

 

西住みほは車を出発させた後、‘‘黒髪赤メッシュの少女’’を見つけた。

 

「え?あの……爆弾って?」

「ア、アハハハ……」

 

西住みほは答えに詰まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は東京駅の改札を飛び越え、エスカレーターを駆け上って4番線のホームへ向かった。

 4番線のホームに足をつけた時、山手線の列車のドアが閉まるところだった。

 

「ウソだろ!?」

「(英語)クソッ!!」

 

ホームの‘‘黄色い線’’を踏んだと同時に列車の扉とホームドアが完全に締まり、発車し始めた。

 

 ……クソッ!!やるしかねぇ!!

 

「うわぁああ!!」

「(英語)最悪だ!!」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)はホームドアを足場にし、何とか最後尾の列車の屋根に飛び乗った。

 

「(英語)おっさん!!さっさと行ってくれ!!」

「(英語)分かってる!!」

 

おっさんは車掌席の窓を蹴破り、無理やり車内に入った。俺も後に続いて車内へ入る。

 

「イッテ!?」

 

車内にはいる時に割れたガラスを引っかけ、左脇腹を切ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アンタら何もんだ!?どうしてここに!?」

「(英語)警察だ!!爆弾を探させてもらう!!」

 

30代はいってない若い車掌はいきなり列車に入ってきた俺達に驚いて腰を抜かした後、ギャンギャンと(わめ)き始めた。

 

「武偵です!!『この列車に爆弾が仕掛けられた』と連絡がありました!!『そして運行を止めると爆発させる』と言っています!!」

「え!?…………は?」

 

若い車掌は床に崩れ落ちたまま、目を白黒させていた。

 

「もう一回言います。この列車に爆弾が仕掛けられたと連絡がありました。そして運行を止めると爆発させると言っています。くれぐれも列車を止めないでください!!」

 

  バン!!バン!!ベキッ!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は車掌席の扉を蹴破り、客のいるほうへ向かう。

 

「(英語)坊主!!早くしろ!!」

「(英語)分かってる!!」

 

俺は急いでジョニー・マクレー(おっさん)を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「Excuse me, excuse me!! (訳:どけ!!どいてください!!)」

「すいません!武偵です!!そのバッグの中身を見せてもらう!!」

 

俺達は焦る心を押さえつつ、爆弾を探していく。

 

『次は上野、上野。お出口は左側です。』

 

 ……クソ!!早すぎる!!

 

俺は時計を見た。時刻は10時5分、ちょうど御徒町駅を過ぎたところだ。

 俺とおっさんはがいるのは一番後ろから数えてまだ三両目。通勤ラッシュの時間は過ぎたとはいえ、それでも乗客が多い。そのため、爆弾探しが遅々として進まなかった。

 

『上野、上野です。お降りの際は……』 

 

列車が止まり、ドアが開いた。乗客が行き交うため、さらに爆弾探しが遅れる。

 

「(英語)残り2分だ!!」

「(英語)クソッ!!人が多すぎる!!」

 

 ……とうとう次が鶯谷(うぐいすだに)だ!!

 

 

 

 

 3両目をほぼ調べ終え、4両目に行こうとした時だった。優先席の横に大きな青のスーツケースが置かれていた。近くには老人が二人だけ。

 

「武偵です!!このスーツケースはあなた達のですか!?」

 

俺はそこに座っていた老人二人に大声で尋ねた。

 

「何だって?」

「もう一回大声で言ってくれないかい?」

 

 ……クソッ!!(らち)が明かねぇ!!

 

俺が老人二人を訪ねている間、ジョニー・マクレー(おっさん)はそのスーツケースを慎重に調べる。

 

「このカバンはあなた達のですか!?」

「何だって?」

「4年前に近所の鈴木さんが持っていたカバンに似てるのぉ」

 

 ……あぁ、面倒な!!

 

俺は老人二人を無視し、ジョニー・マクレー(おっさん)がスーツケースを開けるの見守った。

 中身は……‘‘透明な液体’’と‘‘赤い液体’’が入った大きな筒と、電子機器だった。

 

「(英語)……当たりだ。」

「(英語)時間が無い!!おっさん解除できるか!?」

 

『ドア閉まりまーす。』

 

俺よりもジョニー・マクレー(おっさん)の方が爆弾や爆弾処理についての知識や経験がある。

 俺はジョニー・マクレー(おっさん)が爆弾解除できる事を期待するが……

 

「(英語)こんな短時間でできるわけないだろ!?」

「(英語)……クソッ!!車掌席から投げ捨るぞ!!」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)でスーツケースを持ち上げ、来た道を戻り始める。

 

「じいちゃん!!ばあちゃん!!危ないから今すぐ前の方の車両に移動しろ!!早く!!他のお客さんも早く!!」

 

『次は鶯谷(うぐいすだに)鶯谷(うぐいすだに)です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、戦車道やってるんですけど、その大会で失敗しちゃって……。それもあって九州から家出して東京まで来たら、爆弾テロに巻き込まれちゃって。」

「ば、爆弾テロ!?」

「そうなんです。わたし、その犯人を怒らせちゃって……。そのせいで巻き込まれちゃって」

 

西住みほは『黒髪赤メッシュの少女:美竹蘭』に事の顛末(てんまつ)を説明しながら、車を運転をしていた。西住みほの運転技術は戦車道のおかげか、さっきまで運転していたジョニー・マクレー(おっさん)よりも上手だ。

 

「‘‘西住さん’’でしたっけ?」

「はい。」

「家出するほど……辛かったんですか?」

 

美竹蘭の質問に、西住みほは苦笑いを浮かべた。

 

「わたしのせいで10連覇を逃しちゃったんです。その事をお母さんにも、チームのみんなにも非難されたんですけど……今のように‘‘命の危機’’にあってるわけじゃないから。アハハ……どうしてあんなことを……」

 

そう言った後、西住みほはカラ笑いをした。虚しい笑い声が車内に響き渡る。

 

「友達とかは……」

「仲が良かった子はいたんですけど……友達とかは……。アハハ………」

 

西住みほのカラ笑いが再び車に響き渡る。

 

 ……なんか、あたしに似てる。

 

美竹蘭はそう感じた。

 美竹蘭も、中学の時、幼馴染4人と違うクラスになってしまったことがあった。‘‘クール’’・‘‘ぶっきら棒’’・‘‘言葉足らず’’な彼女の性格もあり、知り合いもいないクラスで孤立してしまったのだ。

 

「あたしも、中学の時……」

 

美竹蘭は思わず、自分の中学の頃の事を話し始めた。

 

 

 話し始めて数分後、美竹蘭は色々と西住みほに暴露していたことに気が付き、思わず口を閉じた。美竹蘭は自分の頬が熱くなるのを感じる。

 

「「あの!!」」

 

西住みほと美竹蘭が同じタイミングで喋り出し、そして口を閉じる。

 

「美竹さんが先に……」

「西住さんが先に言って……」

 

一瞬、静寂が車内を占拠した後、笑い声が響き渡った。

 

「美竹さん」

「西住さん」

「「友達になってください!!」」

 

 

 

 

 

実家(戦車道)と向き合い、そして逃げ出した少女:西住みほ。実家(華道)に反発して逃げ、今は向き合う少女:美竹蘭。この二人の少女が出会った時、今度こそ何かが起こる……?

 

 

 

 

 

その時、目の前の消防車が停車した。鶯谷(うぐいすだに)に着いたようだ。

 

「蘭ちゃん、行ってくるね」

 

西住みほはそう言って車を飛び降り、藤原少佐と合流して改札を飛び越え、走って公衆電話を探し始めた。

 

 

 

 西住みほが鶯谷駅の改札を飛び越え、間違えて3番線のホームに向かおうとした時……

 

「みほ!!2番線はこっち!!」

「蘭ちゃん!?」

 

美竹蘭は西住みほの手を掴みんだ。

 

「あ、あたしも……と、友達だし……」

 

 

美竹蘭は顔を赤くさせて伏せながら……しっかりと西住みほの手を取り、2番線のホームまで案内する。

 

「何をしているんだ!!早く!!」

 

そして、青年将校(藤原少佐)の大きな声が構内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ビーッ!!ビーッ!!

 

「(英語)嘘だろ!?」

「(英語)おっさんどうした!?」

 

スーツケースの電子機器からブザー音を発し始めた。

 

「(英語)爆薬が混ざり始めた!!」

「(英語)嘘だろ!?」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)慌ててスーツケースを覗き込むと……赤と透明の液体が混ざり始めていた。

 

「(英語)なんでもう混ざり始めるんだよ!!」

 

ついさっき上野から出たばっかりだ。上野~鶯谷間の半分も来ていないだろう。

 

「武偵です!!皆さん早く前の方へ移動してください!!爆弾が爆発する!!」

 

 ……あと20m弱で最後尾だ。

 

俺は喉が潰れそうなほどの大声を上げた。

 

 

 

 

 俺達は何とか最後尾の車掌席までついた。きっと今頃、先頭車両は鶯谷駅のホームが見えてくる頃だろう。

 

   ダンダンダン!!

 

俺は14年式を発砲し、窓ガラスをぶち割った。

 

「車掌さん!!早く逃げろ!!爆発するぞ!!」

「う、うるさい!!ここが俺の、俺の仕事場で『お客様の安全を守る』のが職務だ!!は、離れるもんか!!あぁ!!!」

 

若い車掌は足をガタガタと震わせ、涙目になり、声も震えているが……意地でも車掌席から避難しようとしない。

 

「(英語)おらぁ!!」

 

おっさんは壊した窓からスーツケースを投げ捨てた。そしてスーツケースが宙を舞っている時……

 

   チュドーン!!!

 

俺とおっさん、そして若い車掌は爆風で壁に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西住みほと美竹蘭(と藤原石町少佐)はホームを()けずり回り、やっと公衆電話を見つけた。

 

  プルルルル……

 

公衆電話からベルの音が聞こえる。西住みほはこの状態を一度見ているが、美竹蘭は初めて見たために驚いた。

 

  ガチャ……

 

西住みほは深呼吸した後、ゆっくりと受話器を持ち上げた。

 

「もしもし……間に合いましたよ?」

『あぁ、お嬢さん(フロイライン)か。イブキにジョニーは何処だい?』

「……あとから来ます。……運動不足で足がなまっているみたいで」

『そうか、私は彼らとも話したかったのだが……。とても残念だ。さようなら』

 

  ッー、ッー、ッー……

 

電話が切れたと同時に、西住みほは背筋が凍った。その時、列車がホームに滑り込んでくる。

 

「ど、どうだった?」

「美竹さん!!逃げて!!」

 

西住みほは美竹蘭の手を引き、階段の裏側に避難させた。

 

「おい、まさかそれって……」

 

青年将校(藤原少佐)はその様子を見て、そうつぶやいた瞬間……

 

  チュドーン!!!

 

鼓膜が破れそうなほどの大爆発音と共に、列車が急加速する。最後尾の列車がホームに乗り上げ、その莫大(ばくだい)な運動エネルギーを使ってホーム上の物体をなぎ倒していく。

 

「あぁ!!クソッ!!」

 

青年将校(藤原少佐)は二人の少女に覆いかぶさった。青年将校(藤原少佐)に破片が降り注ぐ。

 

  ズドドド……!!ドカーン!!

 

そして、階段にぶつかると列車はその勢いを止め、横倒しになって止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発が収まり……数分、いや数十秒、もしかしたら10秒も経っていないかもしれない。今、この場は爆音も怒号も響き渡らず、静寂がこの場を支配していた。

 

「い、生きてる?」

 

美竹蘭は自分が生きていることに驚きながらゆっくりと立ち上がった。彼女の気に入っていた服がホコリで汚れてしまったが、命には代えられない。どうせ、洗えばどうにでもなる。

 

「アハハ……こんなのに比べたら……」

「イッテェ……」

 

美竹蘭の隣で西住みほは割座(女の子座り)をし、皮肉的にも思える快晴の空を見上げながらぼやいていた。その隣では、ホコリまみれの青年将校(藤原少佐)が横になって(うめ)いていた。

 

「……大丈夫?」

「あ、ありがとう……」

 

美竹蘭は西住みほの手を握って引っ張り、立たせた。その時、西住みほの頭から、爆弾を外すためにこの列車に乗った‘‘二人の男’’を思い出した。

 

「……む、村田さん?マクレーさん?」

 

西住みほの頭には『失敗』という二文字に支配された。

 戦車道で失敗した時、死人は出なかった。しかし、今回の失敗のせいで二人は……

 

 西住みほは吐き気を覚え、崩れ落ちた。美竹蘭は西住みほの背を(さす)りながら声をかけるが、本人には聞こえない。

 そんな時だった。

 

「「「ゴホッ!!カハッ!!」」」

 

  ドン!!バリン!!

 

何かを叩く音、ガラスが割れる音がホームに乗り上げ、横倒しになった列車から聞こえた。

 西住みほはハッとその列車を見上げた。

 

「「「ふっひっひっひ……」」」

 

その横倒しになった列車から、若い車掌・ジョニー・マクレー(おっさん)、そして村田イブキが笑いながら這い出てきた。3人は血まみれ、服もあちこち破け、焦げているが……五体満足のようだ。

 

「村田さん!!マクレーさん!!」

「‘‘新巻のお兄さん’’!!」

 

西住みほと美竹蘭は這い出てきた3人に駆け寄った。

 

 

 

 

「(英語)ふっひっひっひ……なんだぁ?くっくっく……」

「へへへ……‘‘大丈夫だ’’って言っただろ?くっくっく……」

「ははは……生きてる、生きてる!!」

 

俺はガラスの破片でさらに傷ができるのを無視して何とか這い出た。そして血と汗とホコリで汚れたてで二人の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 数分後、俺は『二人の頭を撫でた行為はセクハラではないか?』と思い始め、二人の動向にビクビクしていたのはナイショだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、野次馬を下がらせてくれ!!……構内は怪我人だらけです。幸い死人は出ていませんが、妊婦が破水したのと、心臓発作による重体が1名ずつです。」

 

刑事が俺とジョニー・マクレー(おっさん)、そして藤原さんを手当てしているバンに来て報告してくれた。

 

「(英語)死人はいなかったらしい。重傷者は2名だと。」

 

俺は刑事さんの報告を訳し、ジョニー・マクレー(おっさん)に伝えた。

 

「(英語)全く、死人が出なくてよかった。二人は大丈夫か?……って痛い、痛いから!!もうちょっと優しくやってくれ!!」

 

藤原さんは手当をされながら訊ねた。

 ついでに、藤原さんは爆発が起こった時、西住さんと美竹さんに覆いかぶさって二人を守ったらしい。

 

「(英語)あぁ、耳鳴りがひどい。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は冗談っぽく笑って言った。

 

「(英語)血を流し過ぎて、少しボーっとしますね。」

「い、イブキ様!!動かないでください!!」

「ムラタ!!君は普通死ぬような目に会ってるんだぞ!?」

 

俺も首を回し、笑いながら言うと……手当をしていたリサとワトソンから叱責をもらった。

 

 

 

 俺達のおかげで何とか死者は出なかったものの、大量の負傷者は出た。そのために警察や救急だけでは人が足りず、東京武偵高の救護科(アンビュラス)衛生科(メディカ)、そしてその生徒たちを運ぶ車両科(ロジ)もここにいるのだ。

 ついでに、この事件が起こったと聞かされ、リサとワトソン‘‘だけ’’は慌ててここまで駆けつけてくれたのだ。他のみんなは……『いつもの事だと』笑って流していたらしい。

 

 

 

 

 ……『どうせ大丈夫だ』と信用されて嬉しいやら悲しいやら

 

俺は思わずため息をついた。

 

「(英語)全く、君達と車掌はよく生きてたね、奇跡だy……いぃいいいい!!痛い!!痛いから!!」

「(英語)あぁ、それが問題だ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はメチャクチャ痛がってる藤原さんを無視し、呟くように言った。

 

「(英語)何か問題でもあるのか?」

 

俺は何が問題だか分からなかった。ジョニー・マクレー(おっさん)は、刑事としての長い経験から何かを感じ取ったのだろうか?

 

「(英語)その奇跡ってやつだ。あの時間で普通ここまでやれるか?」

「(英語)無理だ。だからやらせたんじゃ……」

 

俺の言葉に、ジョニー・マクレー(おっさん)はゆっくりと首を横に振った。

 

「(英語)さっき地図を見せてもらったが、あの時間じゃ無理だ。きっと俺達がゲームに勝とうが負けようが、結局爆発していた。」

 

確かに、上野を過ぎてすぐに爆弾は混ざり始めた。『Die Hard3 in Tokyo  一般人でこの殺気って……』で田中さんが証明した通り、混ざり合った爆薬はとても不安定で少しの揺れでも爆発する。そんな危険物を車内に置いたらどうなるかは……少し考えればわかるだろう。

 

「(英語)ここを狙った理由は?」

「(英語)分からんが……必ず何かあるはずだ。……イツツ」

 

おっさんはポケットからグシャグシャのタバコを取り出し、ジッポで火をつけた。

 

「(英語)なるほど、考慮しておきm……待って!!何そのぶっとい注射!!待って!!やめて!!

「「「うるせぇ!!!」」」

「あぁあああああ!!!」

 

藤原さんの抵抗は虚しく、ぶっとい注射を打たれたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤原さんって注射、苦手なんですか?」

「うん……」

「予防接種の時や採血の時はどうしてるんですか?」

「そういう時はあらかじめ知ってるからね。護摩焚いて、精神統一して、自己催眠かけてそれで行くんだ。」

 

 ……マジで苦手なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 手当が終わった後、俺とジョニー・マクレー(おっさん)・藤原さんは違うバンに案内された。そのバンには西住さん・西住さんそして……HS部隊第一中隊(国内担当)隊長:鈴木敬次大佐と副隊長:瀬島龍二郎中佐、その他スーツ姿の男数人がいた。

 

「「……ッ!?」」

 

俺と藤原さんは慌てて敬礼をすると、二人は返礼をしてきた。

 

「村田大尉、藤原、気を張らなくていい。楽にしろ。」

 

瀬島中佐からそう言われ、俺と藤原さんは深く椅子に座った。

 

「そうそう、気張ったって何にもなりゃしないぜ?……そう言えば村田君とちゃんと話すのは初めてだっけ?鈴木敬次、服を見ればわかると思うが陸軍所属さ。」

 

鈴木大佐はヘラヘラと笑いながら俺に手を差し出し、握手を求めてきた。しかし、俺へ向ける鈴木大佐の圧は藤原さん以上だった。

 

「ハッ!!よろしくお願いいたします」

 

 ……ヤバい、下手したら『辻・神城さんクラス』はあるぞ!?

 

俺は冷汗をかきながら鈴木大佐と握手を交わした。

 

「お、お母さんぐらい怖い人、初めて見た。」

 

西住さんがボソリと言った独り言が、俺には聞こえた。

 

 ……おいちょっと待て西住さん!?あんたこういう人に今まで非難されてたの!?

 

のちに西住さんの母親:西住しほさんが黒森峰女学院で戦車道の指南をしていたと知り、『黒森峰女学院=世紀末』と確信するようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  バン!!

 

バンの扉が閉まり、車内は完全に密室になった。

 

「(英語)こんにちは!!鈴木敬次です。ところでこの人物を見たことはあるかい!?」

「この人物を見た事がありますか?」

 

鈴木大佐と瀬島中佐はそう言って‘‘写真が印刷された紙’’を俺とジョニー・マクレー(おっさん)、西住さん・美竹さんに回した。

 

 紙に印刷されていた写真には……諸葛静幻の他に『丸メガネをかけ、口ひげを生やしたハゲ老人』、『老け顔の苦労していそうな青年』がいた。

 

 ……あれ?このメガネハゲ。芸人&映画監督の『ビート板たかし』に似てないか?

 

「(英語)知らんな」

「「知りません」」

 

俺以外の3人は即答した。俺は余計に言いづらくなった。

 

「(英語)諸葛静幻は極東戦役(FEW)宣戦会議(バンディーレ)で。その他は知りません。」

「(英語)あぁ村田君、さすがにそれは分かっているさ。それ以外を聞いているんだぜ?」

 

俺は鈴木大佐の言葉に、首を横に振って答えた。

 

「(英語)この二人、中国マフィア・藍幇(ランパン)の幹部クラスさ。『ハゲメガネ』のほうが‘‘劉 翔武(りゅう いーう)’’、老け顔の方が‘‘司馬 鵬(しば ほう)’’。今回の事件の首謀者だと見ている。ま、ほぼ当たりだろうね。」

「彼らは中国マフィアの幹部で、今回の事件の首謀者と考えられています。」

 

鈴木大佐と瀬島中佐説明を始めた時、車のドアを叩かれ、扉を開けられた。

 

「‘‘サイモン’’から電話です!!」

 

扉を開けた女性刑事(?)の言葉に、車内は騒然となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)俺達の事は伏せてくれよ?」

「私達の事は伏せてくれると嬉しい。」

 

鈴木大佐と瀬島中佐がそう言った後、‘‘サイモン’’からの電話を繋げた。

 

『(英語)やぁ!!まさかあんなことをして、二人が生きているとは思いもよらなかったよ。それに近衛師団も説得して……どんな魔法を使ったんだい?ジョニー君?イブキ君?』

 

‘‘サイモン’’の陽気な言葉が車内に響きわたる。

 

「(英語)信心深い結果だ!!」

「(英語)日頃の行いの結果だ。神様がそれを見てくれたんだろ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と俺はバカバカしそうに‘‘サイモン’’に答えた。

 

『(英語)まぁ良い。バンの中にいるのは誰かな。当ててみよう……軍の鈴木君に瀬島君。警察の丹波君と相川君。外務省やその他に矢部君に満島君かな?』

 

‘‘サイモン’’の言葉に、車内の巻き込まれた俺達四人以外の全員が何らかのポーズを取った

 

「「「「「「……あぁ」」」」」」

 

 ……おい、嘘だろ!?このバンにいる全員を‘‘サイモン’’は監視している!?

 

俺は車内を見渡すが……怪しそうなものは一つもなかった。

 

『(英語)さて、そろそろ役者がそろったな?では、リハーサルは終わりだ。さて、首都圏には小学校・中学校・高校・大学・短大・専門学校など様々あるが……その一つに2トンほどの爆弾を仕掛けた。タイマーで午後3時ジャストに爆発するようにセットしてある。』

「「「「「「……」」」」」」

 

西住さんと美竹さん以外の全員は、驚きのあまり何もしゃべることができなかった。

 

 ……学校にだと!?

 

俺は小学校に通う家族『八神はやて』を思い出した。

 

『(英語)沈黙は‘‘理解の証’’ととるよ?』

「……今、2トンの爆弾と言ったのか?しかも小学校に?」

 

瀬島中佐の緊迫した声が車内に響き渡った。

 瀬島中佐は大の‘‘親バカ’’で、長女が確か小学生だったはずだ。

 

『あぁ、そうだ。余計な口を挟むな。』

 

‘‘サイモン’’は日本語でそう答えた。そのおかげで西住さんと美竹さんはやっと事態の深刻さを理解したようだった。

 西住さんは悟りの境地までいったのか、無表情のままドッシリと椅子に座り、美竹さんは混乱している。

 

 

『(英語)‘‘Simon says……学校から生徒達を避難させようとすれば無線で爆破する。止める手段は一つ、ジョニー君とイブキ君、そしてお嬢さん(フロイライン)に新しい命令を与える。’’』

 

「(英語)おい待て!!西住さんはお前の弟と関係ないだろ!?何故関わらせる!!」

 

俺は声を荒げて反論した。

 

『弟のことまで調べられたとは感心感心。まぁ……私は根に持つタイプでね。彼女にはまだ参加してもらう。……あぁ、もう一人巻き込んだようだが、そっちの方は解放してもいいぞ?私を怒らせてないからね。』

 

‘‘サイモン’’の言葉に西住さんは‘‘虚ろな目’’をしながらカラ笑いをし始め、美竹さんはキョトンとしている。美竹さんは西住さんが‘‘サイモン’’を怒らせるところを想像できないのだろう。

 

 

『(英語)では命令を与えよう。旧芝離宮恩賜庭園の中島に携帯を置いてきた。40分以内に向かえ。余裕で着くはずだ。君達が利口ならそこにある爆弾を探し出し、解除できるだろう。……おっと、忘れるところだった。起爆装置が安物でね。警察や軍で使われる無線の周波数に反応し、誤作動を起こしやすい。なるべくなら無線を使わない事をお勧めするよ?では。』

 

  ッー、ッー、ッー……

 

 電話が切れた。その時、空しい笑い声と共に、ボヤキが聞こえ始めた。

 

「私、またあんなことしなきゃいけないんだ。さっきも死にかけたのに……アハ、アハハ、アハハハハ!!!」

「みほ!?大丈夫!?」

 

美竹さんは西住さんの肩を持って上半身を揺らすが……悲しいことに笑い声がさらに大きくなっていく。

 

「(英語)警察庁長官は?」

 

スーツ姿の一人が尋ねた。英語で話しかけたのは、女子高生二人に話を聞かせないためだろうか。

 

「(英語)ただいま‘‘不倫疑惑’’について記者会見中です。何時来られるか分かりません。」

「「「「「……は?」」」」」」

 

俺は急いでスマホを出し、ニュースを見ると……不倫疑惑についての記者会見をやっていた。

 

 ……‘‘サイモン’’め!!これを狙ってやりやがったのか!?

 

「(英語)昨日、ある雑誌にやられて……スイマセン。」

「(英語)しかも18歳未満だったので余計に問題になりまして……」

 

俺は頭が痛くなってきた。‘‘四次元倉庫’‘からアスピリンを1錠取り出して飲む。

 

「(英語)とりあえず呼べる幹部職員を集めようぜ。」

 

鈴木大佐は重苦しいオーラを放ちつつ、飄々(ひょうひょう)と言う。

 

「(英語)管轄がどうとは言わないだろうな。」

 

瀬島中佐も鈴木大佐に負けないほどのオーラを出し、‘‘脅迫’’と言われてもしょうがないような声色で言い放った。

 

「(英語)私も大学に息子、中学と小学校に娘が通っている。外務省はいくらでも手を貸そう。私が責任を持つ」

 

瀬島中佐の言葉に、スーツ姿のメガネをかけたガリガリの中年男性がどっしりと構えていった。

 

「(英語)警視庁は今すぐ3000ほど出せる。緊急動員で……14時以降までには8000はでる。」

 

スーツ姿の小太りの男は時計を見ながらそう言った。

 今の時刻は11時30分前。8000名を動員するには2時間半以上はかかるのだろう。

 

「(英語)藤原君、(こっち)はどうだって?」

 

鈴木大佐の言葉で俺は藤原さんを見た。藤原さんは今まで携帯で誰かと話をしていたようだ。

 

「(英語)第1師団全て、近衛第2旅団と近衛工兵大隊が動かせます。横須賀・厚木・横田・入間周辺は海軍と空軍が。1時間以内に宇都宮の第14師団が首都圏北部で捜索を始める様です。」

 

藤原さんは‘‘どす黒いオーラ’’を放ちながら報告した。

 

「よし、じゃぁ始めようぜ。あんなクズ野郎に俺達が負けるわけがない。そうだろう?」

 

  パン!!

 

鈴木大佐はそう言って手を叩いた後、俺とジョニー・マクレー(おっさん)、そして西住さんを車外へ追い出した。

 

 

 

 

 

 

「(英語)村田君、西住君へ説明しておいてくれよ?……何かあったら電話だ。交換台を通して話せるはずさ。なるべくなら軍の方が良いな。……頑張れよ?」

「(英語)ハッ!!」

「(英語)あぁ……」

 

鈴木大佐の言葉に俺は敬礼し、ジョニー・マクレー(おっさん)は無言で頷いた。

 

「さぁ行くぞ、西住さん。大丈夫、まだ地獄の一丁目だ。」

「(英語)ったく、なんだってこんな目に会わなきゃなんねぇんだ」

「アハハ……もうヤダ、帰りたい……」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は西住さんの手を引き、鏡高組から奪った(借りた)センチュリーに投げ入れようとした所……美竹さんが駆け寄ってきた。

 

「(英語)なんだぁ?お前はもういらないって言われただろ?」

「美竹さん、どうした?」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)の言葉をかけられた美竹さんは(うつむ)いた後、赤面しながら俺達に向き合った。

 

「みほも、‘‘新巻のお兄さん’’も、おじさんも、死なないで、無事に戻ってきてください……」

 

小さい声ではあったが、俺達の耳にはちゃんと答えた。西住さんもその言葉を聞き、虚ろだった目に光が宿る。

 

「「「あぁ!!」」」

 

俺達はそう言った後、センチュリーに乗り込んで勢いよく旧芝離宮恩賜庭園へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  プルルルル……

 

出発してすぐ、俺の携帯が鳴り始めた。その相手は……藤原さん!?

 

「はい、もしもsh……」

『村田かい?鈴木大佐(HS部隊第一中隊中隊長)から伝言だ。‘‘第一中隊の本気を見せてやる’’だそうだ。』

「……え?」

『‘‘学校の爆弾’’と犯人は心配するな。僕達に任せろ!!』

 

  ッー、ッー、ッー

 

電話が切れた。俺は鈴木大佐の伝言と、藤原さんの言葉が己の心に響き渡った。

 

 ……あぁ、やってやるさ。今までの様に信用できない警察や軍じゃないんだ。

 

俺は‘‘ナカジマ・プラザ’’・‘‘ジョン・F・ケネディ国際空港’’・‘‘ロスの中国総領事’’の事件を思い出した。

 

 ……あの時は地元警察も、軍も信用できなかった。しかし、今回はどうだ?

 

 

「(英語)なんだって!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がハンドルを握りながら聞いてきた。

 

「(英語)『援護は任せろ』だと!!」

 

俺の言葉に、ジョニー・マクレー(おっさん)はにやりと笑った。

 

「(英語)なんだ、いつも以上に頼りがいがあるじゃねぇか!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)も同じことを考えていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イブキ達が車で旧芝離宮恩賜公園へ向かい数分後、鶯谷駅(うぐいすだにえき)にいた警察車両はごく一部を残し、ほとんどが爆弾探しへ向かっていった。

 その警察の様子を近くのビルの屋上から観察していた白人の男性がいた。

 

「‘‘撒き餌’’につられたな。」

 

その白人の男性は双眼鏡を外し、観察を止めた。

 

「始めろ」

 

白人男性はニヤリと笑いながら、作戦開始の合図を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 『戦車動かせるのに、車を動かせないわけがないだろう』と言う考えから、西住みほは車を運転できると言う設定です。


 『ガールズ&パンツァー』の西住みほ、そして『BanG Dream!』:Afterglowの美竹蘭が出会いました。彼女達の出会いで二人はどうなるのか…………は閑話で。


 『ビート板たかし』とは…‥『本名:南野たかし』。誰がモデルかは言うまでもありません。




Next Ibuki's HINT!! 「博物館」 


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Die Hard3 in Tokyo  『ボコ』仲間……

遅れてしまい、申し訳ありません。
 理由としましては……今、中間テスト・中間レポートの時期なので、勉強で投稿が遅れました。次話も一週間以内に投稿は難しいと思われますが、急いで投稿頑張ります。



 今回は場面の移り変わりが激しいですが、ご了承ください

 もちろん、このSSはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


 ほとんどの警官は爆弾の捜索に向かい、鶯谷駅(うぐいすだにえき)に残ったのは数名の警官と刑事一人だけだった。

 

「はぁ、なんてことが……」

 

  ブオォオオオオ!!

 

その居残りの刑事が頭を抱えた時、ディーゼルエンジンの特徴的な音が鶯谷駅に響き渡った。

 

「……え?」

 

刑事がその爆音がする方向を向いた。そこには……大型ダンプ・トラック20台近くが向かってくる。

 

「え?……どういうこと?……って言うか止まれ、おい!!」

 

刑事が必死にダンプの車列を止めようとするもダンプはそれを無視し、‘‘東京国立〇物館’’側へ向かっていく。

 それと同時に1台のセダンが刑事の前に止まり、紺色のスーツを着た白人男性が出てきた。

 

「すいません刑事さん。『ボブ・トンプソン』、J〇の者です。被害状況の調査へやってきました。調べさせてもらっても?」

 

白人男性はそう言って刑事に名刺を渡す。

 

「ずいぶんお早いですね?……ではついてきてください。」

 

刑事は〇Rの仕事の速さに驚きながら、そのスーツ姿の白人男性の案内を始めた。

 

「えぇ、ここは世界の‘‘TOKYO’’。それも山手線ですから。沢山の宝が眠っています。それに……公共交通機関ですからね。うるさい方々が多くて……東京都長もJ〇社長も無視できないんですよ。」

 

 

 

 

 

 

スーツ姿の白人男性とその部下約10名、そして刑事は鶯谷駅を見渡せる橋についた。

 

「うわぁ……これはひどい。」

 

スーツ姿の白人男性はそう言った後、軍用の大型双眼鏡を取り出して駅の状況を観察する。

 

「全く、派手にやったものだ。」

 

スーツ姿の白人男性はそう言ってにやりと笑った。そして観察を終えたのか、刑事の方を向いた。

 

「部下に中の様子を見せてもらえませんか?早急に山手線を復旧させなければなりませんので。」

 

白人男性はビジネススマイルを浮かべながら刑事に頼んだ。

 

「……えぇ、いいですよ?おい、そこの二人、案内させるから一緒に来てくれ。」

 

刑事は少し考えた後、意外にあっさりと許可を出した。

 

「では行きましょう。」

 

刑事一人と警官二人は『やけに体ががっしりしている男たち』に鶯谷駅の案内を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ボブ・トンプソン』と名乗っていた白人男性はサングラスをかけた後、ダンプに乗っていた一人からアタッシュケースをもらい、そのカバンを持ちながら『東京国立博〇館』へ歩いて向かう。

 

「うん、やはり裏門が弱くなっている。」

 

スーツ姿の白人男性はそうつぶやくと同時に、紺色のセダンが横に止まった。その車からガタイのいい、スーツを着た白人男性5人が出てきた。

 

「よし、行くぞ」

 

サングラスをかけたスーツを着た白人男性はそう言って、休館中の『東京国立博物〇』へ向かった。

 

 

 

 

 

 

  ジリリリリ……

 

 『東京国〇博物館』の本館ではあちこちでベルが鳴っていた。鶯谷駅での爆発によって警報装置が破損したのだろう。

 

「こんにちは。手鳥(てどり)さんに『ヴァン・デアフルーク』が来たとお願いします。」

「‘‘ヴァン・デアフルーク’’さんですね?少々お待ちください。」

 

鶯谷駅で刑事に『ボブ・トンプソン』と名乗っていたサングラスをかけた白人男性はそう言って、ロビーの職員に声をかけた。

 

 

 

 

 

 ロビーの職員に声をかけて5分後、ベルが鳴り止んだ。それと同時に小柄な男性が足早にやってきた。

 

「ヴァン・デアフルークさん、列品管理課長の手鳥(てどり)です。お待たせして申し訳ございません。山手線で爆発騒ぎがあったもので……。非常ベルがうるさかったでしょう?」

 

そう言って手鳥はサングラスをかけた白人と握手を交わした。

 

「被害はございませんでしたか?」

「大丈夫です。被害は皆無です。……日本語がお上手ですね。」

 

手鳥はサングラスの白人が母国語の様に日本語をしゃべるのに驚いた。

 

「もう何年も日本にいるので。」

「そうですか!!……寄贈の件でしたよね。」

「えぇ……。祖父が日本の物を集めていましたが、つい先日亡くなりまして……」

 

手鳥とサングラスの白人が話している間に、白人の部下達が動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、酷いもんだ。『霞ケ関』の時と同じぐらいですよ。強いて言うなら死人が出なかっただけマシですが。」

 

鶯谷駅で刑事と警官二人は『ボブ・トンプソン』の部下達に構内の案内をしていた。

 

「ひどい瓦礫(がれき)だ。それにこの水は……」

「水道管も破裂したんです。大丈夫だとは思いますが、2番線と3番線の通電は念のため停止させてます。」

 

刑事と『ボブ・トンプソン』の部下の一人が話している時、他の部下たちは警官の首筋に麻酔銃を撃っていた。

 

  ガタッ!!

 

『ボブ・トンプソン』の部下の一人がミスをしたのだろう。大きな音を立てた。

 刑事はその音で振り向き、警官に麻酔銃を撃っているところを見た。

 

「おい、お前!!」

 

刑事が慌てて拳銃を出そうとした瞬間……

 

  ダンダンダン!!!

 

『ボブ・トンプソン』の部下の一人:太眉の男に拳銃で何発も撃たれ、階段から転げ落ちいった。

 

「おい!!何をしているんだ!!」

「(ポーランド語)仕方ないだろうが!!」

「よせ、日本語で話せ!!それに銃声が聞こえるだろう!?」

 

『細身で筋肉質の男』と『太眉の男』が口論を始めた。

 

「まぁまぁ、こいつは日本語が話せないのさ」

 

仲間の一人が喧嘩の仲裁をした後、警官の制服をはぎ取り始めた。

 

「おい、あいつは誰が連れてきたんだ?」

「タルゴさ。あいつの部下だ。」

 

『ボブ・トンプソン』の部下たちは警官や刑事から制服や手帳をはぎ取り、身に着け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、事務所に戻った白鷺千聖は所属するアイドルユニット『Pastel*Palette』と共に『ライブハウス:CiRCLE』において、『Roselia』と一緒にライブのリハーサルをし、ちょうど終わったところだった。

 

「おねーちゃーん!!」

「ちょっ!?日菜!?」

 

ロビーで氷川日菜(Pastel*Palette、妹)と氷川紗夜(Roselia、姉)の双子の姉妹によるじゃれ合いは例外とし、残りは互いに反省点を指摘し合っていた。

 ‘‘Pastel*Palette(アイドルバンド)’’・‘‘Roselia(本格派バンド)’’と言う違いはあるものの、その視点の違いは互いのためになるはずだった。

 

  カランカラン……

 

「あ、いらっしゃ……!?」

 

その時、白人や黄色人種の男たち10数人が『ライブハウス:CiRCLE』がいきなり押し寄せてきたのだ。

 彼らは訓練されていたのか、10秒もかからないでCiRCLE内にいた全員の首元に麻酔銃を打ち込みんだ。

 男たちはCiRCLE内全員を無力化したのを確認し、『Pastel*Palette』・『Roselia』のメンバーを誘拐した。

 

 

白鷺千聖は気を失う前、イブキの顔を思い出した。

 

「い、イブキ、助k……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ボブ・トンプソン』・『ヴァン・デアフルーク』などと名乗った白人は‘‘東京国立〇物館’’にて、別室へ案内されていた。

 

「あぁ!!すいません。そっちは管理室行きのエレベーターです!!」

「それは失礼。方向音痴なもので……」

「やめてください。さっきの爆破事件で警報装置が壊れてしまい、今は電源を切っている状態なんです。」

「全く、不用心ですなぁ」

 

  プルルルル……

 

その時、『ボブ・トンプソン』・『ヴァン・デアフルーク』などと名乗った白人のポケットから携帯が鳴り始めた。

 

「失礼、電話に出てよろしいですか?」

「あ、はいどうぞ。」

 

手鳥列品管理課長から許可をもらったため、その白人男性はポケットから携帯を取り出し、電話に出た。

 

「(英語)終わったか?」

『(英語)駅の占拠が終わりました。駅から博物館まで誰も入れません。また、‘‘もう一つの方’’も成功したと連絡がありました』

「(英語)よくやった。」

 

  ピッ……

 

『ボブ・トンプソン』・『ヴァン・デアフルーク』などと名乗った白人は電話を切り、携帯をポケットにしまった。

 

「手鳥さん、寄贈の件なのですが……‘‘そちらが’’我々に寄贈してもらう事になりました。」

「……へ?」

 

その言葉と同時に、一緒に来ていた部下が手鳥列品管理課長の首元に麻酔銃を撃った。

 

「30分以内に無力化しろ」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

男はそう言ってサングラスを取った。その顔は……実行犯とされる『サイモン・ピーター・グルーバー』の写真と瓜二つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)、西住さんは車から出て旧芝離宮恩賜公園へ入り、中島へ向かった。

 

「大人1人、高校生2人です。」

「450円になります。」

「……はい」

 

旧芝離宮恩賜公園は入園料がかかるため、‘‘俺’’がお金を払ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

「ここが‘‘旧芝離宮恩賜公園’’!!」

「……有名なのか?」

 

西住さんが今までと打って変わり、目を輝かせて周りを見ていた。

 

「はい!!『ボコ』の68~74話のモデルになってるんです!!」

「……へぇ~。あの『ボコ』か」

 

 ……『ボコ』ねぇ。

 

俺は『閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5 その2』で会った‘‘愛里寿ちゃん’’を思い出した。彼女もまた、『ボコ』のファンだったはずだ。

 

 ……もしかしたら‘‘愛里寿ちゃん’’も旧芝離宮恩賜公園にいるかもな。

 

「……ボコ!?知ってるんですか!?」

 

西住さんは‘‘ボコファン’’を見つけて興奮しているのだろうか?西住さんは食い気味に話し始める。

 

「……え?いや……まぁ。」

「私、ボコが大好きで!!最近上映された『BOKO Hard』もすぐに……」

「え?『BOKO Hard』!?」

「(英語)ん?『Die Hards』?」

 

 ……『BOKO Hard』も『Die Hards』も黒歴史なんだよなぁ。

 

 

 

『BOKO Hard』は、俺が聖グロでテロリストと戦った事件をモデルに‘‘愛里寿ちゃん’’が台本を書いた映画……らしい。しかし、『ボコ』であるために主人公は殴られるだけなのだが。

『Die Hards』は俺が7歳の時、ジョニー・マクレー(おっさん)と一緒にテロを倒した話がモデルになっているアクション映画だ。

 

 

 

 ……やったぁ~、俺沢山の映画のモデルになってる~

 

俺は思わずため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな雑談をしながら中島に着き、石の上に置いてある携帯を見つけた。その数分後、それに電話がかかってきたので、西住さんはスピーカーモードにした。

 

『(英語)ちゃんと着くとは感心だな。』

タン!!タン!!

(英語)次は東〇館と平〇館だ!!急げ!!

 

‘‘サイモン’’の声のほかに……それと共に銃声、や怒鳴り声が小さく聞こえる。向こうで何かしているのだろうか?

 

「(英語)次は何をする!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は怒鳴りながら‘‘サイモンに訊ねた。

 

『(英語)仙人が住み、徐福が着いたとされる地は何処だ?日本の‘‘竹取物語’’にも出ていたはずだ。』

 

  ッー、ッー、ッー……

 

「(英語)おい!?なんだって!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は‘‘サイモン’’に向けて話すが……電話が切れてしまった。

 

「(英語)‘‘仙人’’ってなんだぁ?」

 

おっさんは苛立たし気に携帯をポケットに入れたながら尋ねた。

 

「(英語)‘‘仙人’’はともかく、爆弾があるのはここだよ」

 

俺はそう言い、靴の先で地面(中島)を叩いた。

 

 ……仙人が住み、徐福が目指した地は『蓬莱』、そしてこの旧芝離宮恩賜公園‘‘中島’’には『蓬莱山』を模して造ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

俺は中島を周り、この島の頂上にある石塔の近くに大きめのアタッシュケースを見つけた。俺を追いかけたジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんもその不審なアタッシュケースを見つけたようだ。

 

「あ、あれが爆弾……ですか?」

「多分……」

 

西住さんは不安そうに俺に尋ねてきた。

 

「(英語)坊主、取ってきてくれ」

「(英語)分かっt……いやいやいや!!おっさんの方が爆弾に詳しいだろ!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は『醤油を取ってくれ』と言うような気軽さで言ったため、俺は普通に取りに行こうとしてしまった。

 

「(英語)俺は‘‘開ける’’、坊主は‘‘運ぶ’’。それとも‘‘嬢ちゃん’’に爆弾を運ばせる気か?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は西住さんを見た。西住さんは英語を理解できないせいか、コテンと可愛く首を傾げた。

 俺はため息をついた後、石塔にあるアタッシュケースに向かって歩き出した。

 

「(英語)それでも年上かよ……」

「(英語)年上の年下も関係ねぇ。……それに、持ってくるより開けるほうが危ねぇよ。」

 

 ……まぁ、確かに。って言うか、これはなんだ?

 

アタッシュケースの横には、‘‘小学生が虫などを入れるプラスチックの水槽’’が大小二つ置いてあった。

 

 ……ゴミか?こんなところに捨てるなんて。

 

俺はアタッシュケースを慎重に持ち上げ、ゆっくりと戻ってきた。ジョニー・マクレー(おっさん)はそれを受け取ると赤子を扱うかの様にアタッシュケースを地面に置き、ゆっくりと開ける。

 

「あ、開けて大丈夫なんですか?」

 

西住さんが不安げに、俺のボロボロの上着を引っ張って聞いてきた。しかし……俺は爆弾に詳しくないため、どう答えていいものか。

 

「おっさんがやってるんだから大丈夫だろう。電車の中の爆弾も開けるのはできたし。」

 

俺は適当な事を言って西住さんを安心させるが、その言葉に根拠はない。

 

「「「……」」」

 

俺と西住さんは、ジョニー・マクレー(おっさん)が開けるアタッシュケースを注目する。

 

 

 

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がアタッシュケースを開けると……‘‘赤と透明な筒’’・‘‘大きめの端末’’・‘‘計り’’がケーブルによって繋がっていた。

 そして、‘‘大きめの端末’’に文字が浮き出てくると共に、ブザー音が発せられる。

 

『I am a bomb. you have just armed me. (訳:爆弾が起動しました。)』

 

「な、何やってるんですか!?」

 

西住さんも文字にされた英語は分かったのだろう。西住さんは俺の背に隠れながら、意外に大声で非難した。

 

  プルルルル……!!!

 

その時、ジョニー・マクレー(おっさん)のポケットからベルの音が鳴り響いた。ジョニー・マクレー(おっさん)はさっき拾った携帯を取り出し、スピーカーモードにして通話に出た。

 

『(英語)もう少し手こずると思っていたが、予想以上に早く見つけられたな。上出来だ。』

 

電話の相手はもちろん、‘‘サイモン’’からだった。

 

「(英語)へっ、簡単すぎるぜ!!もっと難しいのを出しな!!」

「(英語)……解いたの俺なんだけど。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は‘‘サイモン’’に軽口をたたき、俺はため息をついた。

 

『(英語)さて、その爆弾には特殊な感知器が付いている。逃げようとすれば爆発するぞ。』

「(英語)……分かってる、逃げやしないよ!!」

「(英語)そんな探知機つけるぐらいなら、‘‘安物の起爆装置’’を使うんじゃねぇよ」

 

今頃、警察に軍、きっと武偵も血眼(ちまなこ)になって‘‘学校に仕掛けられた爆弾’’を探しているだろう。そして無線が使えず、大混乱しているはずだ。

 

 ……どうせ混乱させるために‘‘そんな起爆装置’’を使ったのか、それともブラフを言ったんだろうが。

 

 俺はため息を再びついた時、袖を引っ張られた。俺はその方向を見ると、予想通り西住さんが袖を引っ張っていた。

 

「あ、あの……」

 

 ……あぁ、西住さんは英語が分からないものな。

 

「『あの爆弾から逃げれば爆発する』だそうだ。」

「あ、ありがとうございます!」

「(英語)どうすれば爆弾を止められる!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は俺と西住さんを無視し、‘‘サイモン’’に怒鳴りつけるように尋ねた。

 

『(英語)石塔に水槽が二つあっただろう。5Lと3Lの容量だ。その水槽に4Lの水を入れ、そいつを計りの上に置けば起爆装置は止まる。もちろん量は正確に、ピッタリ入れないと爆発するぞ?生きていれば5分後に電話をかける。では……』

 

  ッー、ッー、ッー……

 

電話が切れた。ジョニー・マクレー(おっさん)が俺に『西住さんに今のを訳せ』と目で言ってくる。

 俺は西住さんに伝える前に、石塔近くに置いてある水槽を取りに行った。

 

 

 

 

 

「西住さん、大きい水槽が5L、小さいほうが3Lだ。それで4Lの水を作り、このアタッシュケースにある計りに置いたら解除だそうだ。」

 

俺は持ってきた水槽を抱えながら西住さんに説明した。

 水槽にはちゃんと油性ペンで線が書かれいる。しかもご丁寧な事に、その線の上には『3L』・『5L』と書かれてある。

 

「前に ‘‘平成〇育委員会’’でやっていたような……」

 

西住さんはそう言った後、(あご)に人差し指をあて、考え始めた。

 

「に、西住さん!!答えは覚えてる!?」

「えっと……あ!!」

 

西住さんは答えを思い出したのか、大きな声を上げた。

 

「あ、あの時、答えの前に消灯になって……スイマセン」

「…………うん、それはショウガナイよね。」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)にそのことを伝え、互いにため息をつき、考え始めた。

 

「(英語)警察は出払って、俺は公園でガキのナゾナゾか」

「(英語)おっさん、愚痴(ぐち)言ってないで考えてくれ!!」

「え、えっと……4Lってことは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ‘‘東〇国立博物館’’では……‘‘サイモン’’達は学芸員全員を気絶・捕縛し、完全に警報が切れている事を確認すると……ガラスを乱暴に破壊し、文化財を効率よくトラックに運び出していた。

 

「(独語)見ろ!!これが国宝の『童子切安綱』・『小烏丸』・『大包平』だ!!これだけでどれほどの価値がある!?アメリカ連邦準備銀行の金塊を盗もうと考えたことがあったが……ここほど警備が薄く、ローリスク・ハイリターンなところはあるか!?」

 

‘‘サイモン’’は興奮しながら、国宝:海磯鏡(‘‘法隆寺献納宝物’’中の2枚一組の鏡)の一枚を部下に投げ渡した。部下は慌てて受け取り、ニヤニヤしながら木箱に詰め、その箱をダンプに乗せていった。

 

「(独語)金はレートが決まってて、しかも買い叩かれる可能性があったが……日本の文化財なら‘‘大金を出しても買う奴’’がいる!!」

 

‘‘サイモン’’は刀剣以外にも、仏像や絵画、金工・陶磁器・染織が運ばれていく様子を見てさらに興奮する。

 

「(独語)大佐、‘‘例の物’’を持ってきました」

 

部下が布に包まれた大きな棒状の物を持ってきた。‘‘サイモン’’は無言でそれを受け取り、布を取ると……見事な日本刀だった。

 ‘‘サイモン’’は日本刀をゆっくりと抜くと……刀身が付いていなかった。そのまま‘‘サイモン’’は手早くそれを分解すると、展示されていた刀身の一本にそれらを装着していった。刀身が置かれていたところにあった説明文には……『三日月宗近』と書かれていた。

 

 

 ところで明日から『東京国立〇物館』では、‘‘刀剣男子が活躍するゲーム’’の人気もあり、『特別展:日本の刀』のために様々な日本刀が展示される予定だった。

 もちろん、国宝・重要文化財級はともかく、御物(皇室の私有物)までもが集められていたのだ。

 

 

「(独語)日本の‘‘コスプレ’’は芸が細かいな。調整もいらず、使いやすい」

 

‘‘サイモン’’は(つか)をもって日本刀を持ち、軽く振るが……目釘(刀身と(つか)を固定するもの)が壊れる様子もなく、実戦に耐えられそうであった。

 ‘‘サイモン’’はその刀を(さや)にしまい、腰に()いた。そして再び陣頭指揮を執り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)分かったぞ!?まず3Lの水を5Lの容器に移す。そして3Lの容器3分の1の水を……」

「(英語)ダメだおっさん!!それじゃぁ正確じゃない!!」

 

おっさんが一番ダメな方法を言ったため、俺は反対した。

そもそもこの容器、‘‘直方体’’ではなく‘‘末広がりの容器’’のために『高さ3分の1=容積3分の1』という理屈が通らない。

 

 ……いいか、3Lの容器はあるんだ。という事は後1Lを何とかして作れば……

 

俺がそんな風に考えている時……

 

「違います!!」

「(英語)なんだ!?お前さんだってわかってないだろ!?早くそれを貸すんだ!!」

「嫌です!!早くそっちのを貸してください!!!」

「(英語)やり直しだ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんは英語・日本語という‘‘異なる言語’’で喧嘩をしていた。

 

 ……ある程度は意思疎通ができていることを喜ぶべきかな。

 

俺はそんなことを考えながら、俺はスマホを出して答えを検索……できなかった。

 俺のスマホの画面は粉々、一部は中の基盤すら見える。そして、電源ボタンを長押ししても画面が真っ黒のままだ。

 

 ……あぁ!!クソどうすれば!?

 

そんな時だった。救世主が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ~!!!」

 

髪をサイドテールにし、『ボコ』のぬいぐるみを抱えた美少女が目を輝かせて旧芝離宮恩賜公園を眺めていた。

 

 ……愛里寿ちゃん!?なんでここに!?

 

サイドテールの少女の名前は島田愛里寿。『閑話:高校生活2学期編』において巻き込まれた少女の一人だ。そして『ボコ』のファン。

 

「……隊長は何でここに来たかったのかしら」

「何でもアニメのモデルになったらしいわよ。」

「目を輝かせている隊長、可愛い~!!」

 

後ろには大学生であろう美女が三人ほどいるのだが……愛里寿ちゃんのお姉さんだろうか。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。重要なのは愛里寿ちゃんの手には『ボコ』のぬいぐるみの他に、『未開封の500mLペットボトル』が握られていたのだ。

 

「(英語)おっさん!!ちょっと行ってくる!!」

「(英語)……!?坊主何を!?」

 

 

 

 

俺は猛ダッシュで愛里寿ちゃんの前まで走った。

 

「……村田お兄ちゃん?」

 

愛里寿ちゃんも俺に気づいたようだ。しかし、何故ここまでボロボロになりながらもダッシュで来たのか理解できなかったのだろう。愛里寿ちゃんは可愛く、コテンと首をかしげて聞いた来た。

 

「ハァ、ハァ、あ、愛里寿ちゃん……いや、武偵の村田です。そのオレンジジュースをください。」

「……え?」

 

愛里寿ちゃんは涙目になった。俺が愛里寿ちゃんを他人のように接しているからだろうか。

 

 ……だけど、そんな事を気にしている時間はねぇ!!

 

俺は急いで財布を取り出し、1000円札を愛里寿ちゃんに握らせ、オレンジジュースを取……れなかった。愛里寿ちゃんは何処からそんな力が出るのか、万力の様にオレンジジュースのペットボトルを握っていた。

 

「ちょっと!!何やってるの!?」

「隊長のジュースを奪おうとするなんて!!」

「羨ましい!!」

 

愛里寿ちゃんの保護者(?)の大学生3人も加勢し、俺を責め立てる。

 

「い、いや……事件解決に必要で……」

 

俺も反論するが、愛里寿ちゃんの保護者(?)の大学生3人は勢いづけ、さらに

責め立てる。

 

「そもそも本当に武偵なの!?」

「武偵高校の制服じゃないわよね!!」

「隊長とどんな関係なの!?」

 

 ……あぁ!!緊急事態だっていうのに!!

 

「うるせぇ!!緊急事態なんだ!!それとも爆死したいのか!?」

「「「……ッ!?」」」

 

俺は殺気を込め、大学生3人に忠告した。彼女達はその殺気を受けて怯えている。

 

「村田お兄ちゃん……また何かあったの?」

 

しかし、愛里寿ちゃんは俺の近くにいたのに平然としていた。

 

 ……嘘だろ!?なんで平気なんだ!?

 

「あぁ、また爆弾事件だ。」

 

俺は平然としている愛里寿ちゃんに驚きつつも答えた。

 

「私も行く。」

 

愛里寿ちゃんはギロリと、闘志と決意と殺気が込められた瞳で俺を見てきた。その目力は、普通の大人でも出せないほどの物だった。

 

 ……嘘だろ!?『暴走した西住さん』ぐらいの圧を出すなんて!?

 

「……危険だ。爆発するかもしれない。」

「……じゃぁ、これは渡さない」

 

俺は力を入れ、ペットボトルを引っ張った。しかし、愛里寿ちゃんの手は離れず、余計に圧を強くする。

 

 ……あぁ、クソッ!!時間がねぇ!!

 

俺は愛里寿ちゃんを小脇に抱え、ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんのいる中島へ走り出した。

 

 

 

 

「……誘拐!?」

「隊長が誘拐された!?」

「待てぇ!!あのロリコン野郎!!」

 

保護者(?)の女子大生3人組が俺を追いかけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)坊主!!どこ行ってたんだ!!誘拐するぐらいなら少しは考えろ!!」

「離れたら爆発するんですよね!?何してるんですか!?……って何誘拐してるんですか!?ロリコンだったんですか!?」

 

俺が中島に戻ると、ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんはカンカンに怒っていた。

 

「俺はロリコンじゃねぇ!!とにかく愛里寿ちゃん、ペットボトル貰うぞ!!」

 

俺は‘‘なぜか頬を膨らます愛里寿ちゃん’’からオレンジジュースのペットボトルを受け取り、銃剣を取り出して液面の部分に傷をつけた。そして開封してジュースを一気飲みした後、そのペットボトルで池の水を()み始めた

 

「(英語)これ一本で0.5Ⅼだ!!」

 

俺はそう言って‘‘5Lの水槽’’にペットボトルで汲んだ水を注いだ。それを見ていたジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんは俺のやっていることを理解したようだ。

 

 

 

 

何をしたのかと言うと……

Q. 5Lと3Lの水槽があります。これを使い4Lの水を計りなさい。

A. 500mLのペットボトル2本分(1L)と3Lの水を()み、合わせれば4L。

 

 ‘‘サイモン’’もまさかこんな荒業でクリアするとは思っていなかっただろう。

 

 

 

 

「これで二本目だ!!」

「(英語)これに3Lの水を足せばいいんだな!?」

 

俺が1Lを注ぎ入れ、ジョニー・マクレー(おっさん)が3Lの水を注いだことにより、無事に4Lの水を完成することができた。西住さんは‘‘残り2分を切った爆弾’’の計りに4Lの水が入った水槽をゆっくりと置く。

 

  ピピピ、ピー

  『DISARMED(解除)

 

「「「「よっしゃー!!!」」」」

 

俺・ジョニー・マクレー(おっさん)・西住さん・愛里寿ちゃんが思い思いにハイタッチをして喜ぶ。

 

  プルルルル……

 

 すると、あの‘‘拾った携帯’’が鳴りだした。

 俺達三人は笑顔が消えため息をつき、事情を知らない愛里寿ちゃんは首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョニー・マクレー(おっさん)はポケットから‘‘拾った携帯’’を取り出し、通話ボタンを押し、スピーカーモードにした。

 

『(英語)おめでとう、しぶとく生きていたな。』

「(英語)あぁ!!やったよ!!だからさっさとどこの学校か言え!!約束だぞ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は苛立たしそうに答えた。

 

『(英語)慌てるな。時間はたっぷりある。あと……2時間と37分も残されている。まだまだ君達の知恵が試せさ。』

「(英語)おい!!テメェ!!今日の俺は二日酔いでメロメロなんだ!!くそぉ!!もう下らねぇ‘‘なぞなぞ’’は十分だ!!爆弾は何処だァ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は堪忍袋の緒が切れたのか、大声で怒鳴り散らした。

 

「(英語)ふ、ふざけるな!!こんなこと時間稼ぎをして何が楽しい!!弟の敵討ちなら他人を巻き込まず正々堂々とぉおおおお!?」

 

俺も‘‘サイモン’’に怒鳴り散らした時、背後から殺気を感じた。俺は慌てて振り向くと……愛里寿ちゃんの保護者(?)の女子大生三人が、闘牛が如く俺に突っ込んできた。

 ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんはその殺気に恐れたのか、愛里寿ちゃんを抱えて俺から急いで離れる。

 

 ……え!?なに!?どういう事!?と言うか二人とも何俺をあっさり見捨ててるんだよ!?

 

 ここで、俺は愛里寿ちゃんを『誘拐に近い形で』連れて行ったことを思い出した。そんなことをすれば……保護者(?)の女子大生三人はどうなるか……。

 

 女子大生三人は俺から3mほどのところで一気に踏み切り、飛んだ。

 

「「「バミューダアタック!!」」」

 

  ゲシッ!!

 

俺は女子大生三人による蹴りによって、全運動エネルギーが腹と胸に伝わる。すでにあちこち怪我をし、血も足りない俺は痛みを感じた時には宙を舞っていた。そして『蹴りによる痛み』と認識したころには池に落ちていた。

 ところで、今日は12月中旬とはいえ、結構冷えた日だった。そんな時に池に落とされれば……

 

「ッ~~~!?」

 

痛みに寒さ、そして窒息が俺を襲ってくる。俺は慌てて上着とズボンを水中で脱ぎ、ボロボロの体を無理やり動かして中島まで向かう。

 何とか中島までたどり着いた俺は陸に上がり、三人に文句を言おうと……

 

ゲシッ!!べキッ!!バキッ!!

 

文句を言う前に三人から袋叩きに会った。

 

「隊長を誘拐して!!」

「このロリコン!!」

「死ねぇ!!!」

 

俺は三人から殴られ、蹴られ続けた。池に落ちた寒さよりも、痛みによる熱さが勝るなど初めての事態だ。

 

 

 

 

『(英語)……何が起こっているんだ?』

 

‘‘サイモン’’は思わず質問した。

 

「(英語)……あぁ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はこんな状況に呆然としたままだった。

 

『ふ、お嬢さん(フロイライン)?そっちでは何が起こっているんだい?』

「……えっと、村田さんが誘拐犯だと思われて、襲われてます。」

 

西住さんはハイライトを消し、淡々と告げた。西住さんが抱いている愛里寿ちゃんからヤバそうなオーラが出ているが……西住さんは無視する。

 

『……と、とりあえず爆弾が置いてあった石塔の中に手紙が入っている。そこに書いてある場所に行け。それと村田君に‘‘それは私によるものではない。ご愁傷様’’と伝えてくれ。』

 

  ッー、ッ―、ッー……

 

電話が途切れた。西住さんはいまだにボコられているイブキを無視し、石塔まで登り手紙を取ってジョニー・マクレー(おっさん)に渡した。

 

「えっと……、『さいもん せっず、ごーひぃあ』」

「(英語)ありがとな……『明治神宮球場のホーム側ダックアウトへ行け?』、なんだってこんな事……」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は英語の手紙を読み上げ、ため息をつきながら西住さんに尋ねた。

 

「あー……あい どんと のう。そーりー」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は、(つたな)いが必死に英語で伝えようとする西住さんに愚痴ることはできなかった。

 

「(英語)それにしても……坊主をどうする?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はポケットから煙草を取り出し、火をつけながら訪ねた。いまだにイブキは女子大生三人にボコボコにされていた。

 

「おい……お前ら……」

 

その時、島田愛里寿(小さな大鬼)がイブキをボコボコにしている女子大生三人に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 




 『俺のいちばん長い日 with BanG Dream!   形あるもの、いつか壊れる……』で登場した『氷川紗夜』が一瞬登場。


 旧芝離宮恩賜公園は‘‘このSS’’では一部の話で『ボコ』のモデルになっています。

 
 まだ西住みほが高校一年生の時なので、島田愛里寿との面識はありません。



  Next Ibuki's HINT!! 「警察手帳」 


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Die Hard3 in Tokyo 『復讐』じゃなくて『盗み』かよ……

 遅れてしまい、申し訳ありません。
 もはや、ほぼ各話の枕詞になりつつありますが……理由としましては中間テスト&レポート。来週まで中間テストがあるので、それさえ終われば……今度は期末テストですね、分かります。
多分次話も一週間以内に投稿できない……よなぁ。


 なお、この小説は『体罰』を肯定した小説ではありません。


「「「すいませんでしたー!!!」」」

「……(ガタガタガタ)」

 

女子大生三人が土下座している目の前で、俺はパンツ一丁のまま毛布に(くる)まって震えていた。

 

 

 別に俺が特殊な性癖に目覚めたわけではない。‘‘冤罪’’でボコしていた女子大生三人が愛里寿ちゃんに叱られ、俺はその間に‘‘四次元倉庫’’から毛布を急いで取り出して暖を取っていたのだ。

 

 

「……真剣に謝ってるの?」

 

女子大生三人の後ろで、愛里寿ちゃんは圧をかける。その圧に比例して、女子大生三人が地面に頭を擦る回数が増えていく。

 

「……い、いや。もう、いいから。だ、誰だって、間違いはあるから。」

 

俺は寒さに震えながら、絞り出すように言った。

 周囲にいる人達の俺を見る目がとても痛い。俺は早くこの場から逃げたかった。

 

「「「ははぁ~!!!」」」

「…………」

 

俺はこの場から去ろうと立ち上がり、急いでこの場から離れようと……できなかった。

 

「……村田お兄ちゃん、行くの?」

 

俺が(くる)まっている毛布を掴み、目を潤ませながら愛里寿ちゃんは聞いてきた。

 

 ……実質毛布(これ)一枚だから、掴まないで欲しいんだけど。

 

「あ、あ……ビエックシ!!!

 

俺は愛里寿ちゃんを安心させるため、少し格好つけて言おうとして……寒さのせいで失敗した。

 

「無事に帰ってきて……ね」

 

愛里寿ちゃんは抱き着いた後、とても小さな声でつぶやいたが……俺にはしっかりと届いた。

 

 ……こんな小学生ほどの子に心配されるなんて、俺はそんなに信用できないか?

 

一瞬そう思ったが、今までの戦闘を思い出した。いつもいつもボロボロになって帰ってくるため、信用できるはずがない。

 

「……あぁ、少なくとも死ぬ気はねぇ。大丈夫、ちゃんと戻ってくるから。」

 

俺は愛里寿ちゃんの頭を軽く撫でた時、愛里寿ちゃんはその手をガシっと掴んだ。

 愛里寿ちゃんはもう片方の手で頭のリボンをほどいた後、そのリボンを俺の手首に()わいた。

 

「……お、御守り!!」

 

愛里寿ちゃんは顔を真っ赤にしながら言った。土下座している女子大生三人が殺気を放っているが……そこまで怖くないので無視する。

 

「……ありがとな。じゃぁ、行ってくる。」

 

俺はそう言って歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)何やってるんだアイツ?裸に毛布で。」

「……あ、アハハハ」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんの言葉で現実に戻った。‘‘裸に毛布の男’’と‘‘ロリ少女’’……‘‘変態’’と‘‘騙されている幼女’’にしか見えないだろう。

  俺はジョニー・マクレー(おっさん)の言葉で……心に大きな傷を負った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、俺は‘‘四次元倉庫’’から着替え(武偵高校の制服)を取り出し、トイレで着替えた。そして、シャツに血が染みるのを無視しながら、俺は二人と合流した。

 

「あぁ~……何やってるんだろ、俺……」

 

 ついさっき俺は黒歴史を作ったため、悶々(もんもん)としながら旧芝離宮恩賜公園を出ようとしていた。

 

「(英語)坊主、戦争映画の主人公にでもなったつもりか?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)揶揄(からか)うネタができたと笑いながら言った。

 ついでに、ジョニー・マクレー(おっさん)の手にはさっき解除したアタッシュケースの爆弾がある。民間人を巻き込ませないため、渋々持ってきたのだ。

 

「(英語)……実際、本当に映画の主人公になってるだろ?」

 

俺はため息をつきながら言った。前話でもある様に、俺とジョニー・マクレー(おっさん)は映画『Die Hards』の主人公のモデルになっている。

 

「(英語)そりゃそうだったな。」

「(英語)いつまでもニヤけてるんじゃねぇよ。いい年こいた親父がよ……」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)が軽口を叩きあっている中、西住さんは……慈愛(?)の目で俺を見ていた。

 

 ……なに、この『同志よ、歓迎します』みたいな瞳は。

 

俺はそこで、西住さんが警察庁で『犯人を(あお)る』と言う黒歴史を作っていたことを思い出した。

 

 ……うわぁ、変な仲間意識持ってやがる。

 

俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、どこから着替えを出したんですか?」

 

西住さんは不思議そうに聞いてきた。

 

「ゴメン、機密なんだ」

 

 ……‘‘四次元倉庫’’なんて言っても理解できないだろうしなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺達三人は旧芝離宮恩賜公園を出て、鏡高組から奪った(借りた)センチュリーに乗り込もうとした時だった。

 

「おい!!待てぇ!!!このクソガキぃいいい!!万引きだァ!!」」

 

俺はその声が聞こえた方向を見ると……学生服を着た中学生三人が俺達の方へ走って逃げてきた。その中学生達の手には……スナック菓子や菓子パンが握られている。

 

「(英語)なんだ?アレ?」

「(英語)万引きだって」

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)ため息をついた後、その万引き中学生二人の襟をつかみ、残った一人に足をかけて転ばせた。西住さんは転んだ中学生に馬乗りになり、背中に腕を回して取り押さえた。

 

 ポキッ……

 

「い、いてぇえええええ!!!!」

 

西住さんが取り押さえている少年が悲鳴をあげた。その少年の腕は……可動範囲外まで引っ張られている。

 

 ……西住さんも大分アグレッシブになったな。

 

俺がそう思った時、襟をつかんでいる少年達が暴れ出した。

 

「おい、離せこの野郎!!!」

「このハゲ!!離せ!!」

 

 バキッ!!べキッ!!

 

『体罰?何それ?』とばかりに、俺とジョニー・マクレー(おっさん)は捕まえた少年を殴った。そのおかげか、さっきまで暴れて逃げようとしていた万引き中学生二人は大人しくなった。

 

「(英語)こんな菓子と引き換えに少年院にぶち込まれたいか?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は落としたスナック菓子を拾い、呆れながら言った。

 

「こんなのを盗んでどうなる?遊び半分で少年院にでも行きたいのか?」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)の言葉を(さと)すように訳して言った。

 

「いや……あの、石川君が『今は警察がいない』って……」

「『今なら盗み放題だ』って……」

 

少年達は俺達の顔を見ず、地面を向いて小さな声で言った(西住さんに取り押さえられている一人を除く)。

 

「その‘‘石川君’’が命令したら何でもするのか?……って、おい!!今『警察がいないから盗み放題』って言ったか!?」

「「……ハイ」」

 

俺はあることが引っかかった。上野には『東京国立博〇館』・『国立科学博物館』・『国立西洋美術館』・『東京都美術館』・『上野動物園』など貴重な物を収める博物館が多い。その上野の一つ隣、爆発が起こった鶯谷も博物館から近いはずだ。今、東京中……いや、首都圏中の警察が爆弾探しをしているため……博物館の物が盗まれやすくなっている。

 俺は慌ててスマホを持ち、鶯谷の駅を調べようとしたが……自分のスマホが壊れて使えない事を思い出した。

 

「おい!!スマホ持っているか!?」

「「え……?」」

「いいから早く!!」

 

俺はスマホを受け取ると、『Goo〇le Map』を開き、『鶯谷駅』を検索した。その結果……『鶯谷駅』は『東京〇立博物館』にとても近いという事が分かった

 

 ……おい、もしかして東京国立博物館の展示物が盗まれるとかねぇよな!?

 

俺は『東京国立〇物館』のホームページを検索すると……明日から『特別展:日本の刀』が開かれるそうだ。その特別展は日本全国から刀が集まり、『天下五剣』・『天下三名槍』などの有名な物だけでなく、御物すら展示されるそうだ。

 

 ……盗む。俺が犯人だったら絶対盗む。

 

俺の勘も『博物館』へ警報を発している。

 

「(英語)おい、坊主……」

「(英語)おっさん、犯人の居場所が分かったかもしれねぇ。おっさんの携帯は繋がるか?」

「(英語)あぁ……。場所は?」

「(英語)……博物館だ。」

 

俺は事の重大さに気が付き、冷汗を流しながら……スマホを少年に返した。

 

 

 

 

 

 

 俺はその‘‘万引き三人組’’を店員に引き渡した後、西住さんにセンチュリーの鍵を渡した。

 

「西住さん。‘‘サイモン’’は今、『東〇国立博物館』で物色している可能性がある!!『東京国立博〇館』は鶯谷駅近くで、しかも明日から全国から集めた日本刀を展示する予定だったらしい。俺なら……絶対それらを盗む。」

 

その言葉を聞き、西住さんは困惑していた。

 

「え……でも、確信はないんですよね!?」

「あぁ、確信はないが……その可能性が高い。すまないけど、神宮球場へは一人で行ってくれ!!何かあったらおっさんへ連絡だ!!何もなかったら俺達も神宮球場へ向かう!!」

 

俺はそう伝えると、浜松町駅に路駐してあるボロ車(ビュート)へ向かって走り出した。旧芝離宮公園から浜松町駅は目と鼻の先、歩いても1~2分かからない。

 

「(英語)残り2時間半だ!!気をつけろよ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は旧芝離宮恩賜公園で拾ったスマホを西住さんに投げ渡し、走って俺を追いかけた。

 

「え……?は?……なんで一般人にこういう重大な事を任せるんですか!?」

 

 ……西住さんは『一般人』じゃなくて、『逸般人』だろ。

 

 俺はボロ車(ビュート)にたどり着き、車のキーを探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はポケットからキーを探し出し、運転席のドアの鍵穴に差し込もうとした時……『駐車違反』のステッカーを発見した。

 

「ウソだろ!?なんで違反になってるんだよ!!緊急事態だぞ!?」

「(英語)坊主!!早くしろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

  ブォオオオオ……!!!

 

俺はボロ車(ビュート)を猛スピードで運転し、『東京国立〇物館』へ向かっていた。しかし……車の量が多く、道も広いとは言えない。そのため、スピードは出ていても移動速度は遅い。

 

 ……あぁ!!イライラする。

 

「(英語)なんだって博物館に行くんだ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言いながら助手席の窓を開けた。そして胸元からタバコを取り出し、火をつけた。

 

「(英語)おっさん、この車は借りものなんだけど!?」

「(英語)ここまでボロいんだ。タバコの臭いだってバレやしねぇよ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はお構いなくタバコの煙を吐いた。煙は開けた窓から逃げていく。

 俺はため息をつきながら、ボロ車(ビュート)の窓全てを全開にした。

 

「(英語)おっさん、鶯谷駅で爆発があっただろ?」

「(英語)午前中の、あの列車の件か?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそう訊ねながら、タバコの灰を外へ捨てた。

 

「(英語)おっさん……。まぁいい。その爆発現場近くには『東京国立〇物館』がある。とりあえず、『日本最大の博物館』と思えばいい。」

「(英語)‘‘スミソニアン’’みたいなものか?」

「(英語)‘‘スミソニアン’’ほどじゃないけどな。そこで、明日から日本全国から集められた『日本刀の特別展』が開かれるらしい。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はため息交じりの紫煙を吐き出した後、携帯灰皿を取り出して吸殻を捨てた。

 

「(英語)……そいつは盗むな。」

「(英語)だろ?……それに日本刀だけじゃない。仏像・壺・茶碗・絵画も貴重なものが沢山あるうぅうう!?」

 

俺は前の車を追い抜くために反対車線に入った瞬間、目の前に‘‘黒のバン’’とギリギリですれ違った。

 

  プルルルル……

 

そんな時、ジョニー・マクレー(おっさん)の携帯が鳴った。

 

「(英語)はい、もしもし!?」

『ま、マクレーさんですか!?ハァ…ハァ……。私です……西住みほです!!神宮球場に着きました!!』

「(英語)なんだ?早いじゃねぇか。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はスピーカーモードにし、俺に聞こえるようにした。

 

 ……ん?やけに早くないか?

 

 俺達と西住さんが分かれてから5分ちょっと。俺達は猛スピードを出し、やっと行程の半分を過ぎたところ。

 

 

 ところで、旧芝離宮恩賜公園から俺達が向かう『東京国立〇物館』までの所要時間は約20分。そして、旧芝離宮恩賜公園から西住さんが今いる神宮球場への所要時間も約20分かかる。要はだいたい同じ距離なのだ。

 それなのに……西住さんはもう明治神宮に着いているという事は……

 

 

 ……え!?どうやったらそんな魔法ができるんだよ!?戦車道やっていれば‘‘走り屋’’並みの運転技術を持てるの!?西住みほは化け物か!?

 

「に、西住さん!?どんだけ飛ばしたんだよ!!ケガしてないか!?」

『……え?特に怪我はありませんよ?』

 

俺は思わず大声で聞いたが……西住さんは不思議そうに答えただけだった。

 

「(英語)なに大声で叫ぶんだよ。余計に頭が痛くなる。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)鬱陶(うっとう)しそうに俺へ文句を言った。

 

「(英語)お、おっさん!!‘‘西住さんの場所’’と‘‘俺達が行く博物館’’の距離はだいたい同じなんだよ!!……しかも俺達はやっと半分を過ぎたくらいだ!!」

「(英語)……!?おい、嬢ちゃん!!大丈夫か!?」

『…?あー……いえす、いっつ おーけー』

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は西住さんの声を聴いた後、頭を押さえた。

 

『と、とにかく!!指定された席に向かったら‘‘トランプのジョーカー’’2枚が置かれていました。両方とも穴が開いていて、‘‘Game Over’’って書かれてます。』

 

 ……‘‘トランプのジョーカー’’?穴が開いていて‘‘Game Over’’が書かれている?どういう意味だ?

 

「分かった!!そっちは危険だから『東京国立〇物館』に向かってくれ!!そこで落ち合おう!!……くれぐれも安全運転で。」

『分かりました!!』

 

 ッー、ッー、ッー……

 

電話が切れた。ジョニー・マクレー(おっさん)はそれを確認すると、スマホを自分の懐にしまった。そしてタバコを咥え、火をつけた。

 

「(英語)で、なんだって?」

「(英語)‘‘トランプのジョーカー’’が二枚置かれてたってよ。両方とも穴が開いていて‘‘Game Over’’って書かれてあったそうだ。意味が分かるか?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はタバコを咥えながら肩をすくめた。ジョニー・マクレー(おっさん)も意味が分からないようだ。

 

「(英語)とにかく先を急ごう。……って坊主、嬢ちゃんに運転負けてんのか?」

「(英語)うるせぇ。西住さん(あっち)は今までこういう事をずっと習って来てるんだよ。」

 

とは言え、西住さんが『東京〇立博物館』に到着する前には着きたい。

 俺はボロ車(ビュート)をさらに加速させた。

 

 

 

 

 

 

「(英語)坊主!!前!!前!!!」

「(英語)うわぁあああああ!!!」

 

 首都高速上野から降りた後、上野公園通りを爆走し『東京国立博物館』の敷地に入ろうとした時、急にトラックの車列が現れた。

 俺は慌ててハンドルを切り……左のドアミラーが吹っ飛んだが、何とかトラックとの衝突を避けることができた。

 

「(英語)坊主!!ちゃんと前を見ろ!!」

「(英語)見てこれなんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ボロ車(ビュート)はトラックの車列にぶつかりそうになりながらも、『東京国立博〇館』の敷地に滑り込んだ。

 俺は時計を確認し……12分で到着したことを知った。

 

 ……何とか無事に到着したな。

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)はヨロヨロと車から降りた。その様子を、ここの警備員たちは遠目から見ているだけだった。

 

 ……おかしい、なぜ俺達に駆け寄らない。

 

 いきなり‘‘不審な車(ビュート)’’が敷地に入り込んだのだ。普通なら警備員たちは‘‘不審な車(ビュート)’’に近寄って確認を取るか、武器を取り警戒するはずだ。

 しかし、ここの警備員たちは呑気に見ているだけ。しかも一人は無線機を使い誰かと話している。

 

 ……絶対におかしい。ここは‘‘国立博物館’’だ。少なくとも‘‘無線の使用は禁止’’という事は伝わっているはず。

 

「(英語)おっさん……」

「(英語)あぁ……限りなく‘‘黒’’に近いぞ……」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は警戒しながら、博物館の本館へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‘‘サイモン’’はトラックに乗っていた。

 さっき『東京国立博〇館』を出ようとした時、ボロ車(ビュート)と衝突しそうになったのだが……有難い事に事故が起こらなかったため、ホッとしていた。

 その時だった。無線に報告が入った。

 

『奴らです……奴らが来ました。』

 

この声は、『東京国〇博物館』で警備員に変装している‘‘ギュンター’’の声だった。

 

「奴とは……?誰のことを言っているんだ?」

 

‘‘ギュンター’’は最近入った隊員であるため、報告が不明瞭だった。そのために‘‘サイモン’’は‘‘ギュンター’’に聞き返した。

 

『マクレーと村田です。さっきぶつかりそうになった古い車に乗っていました。車から降りて本館の方へ来ます。』

 

‘‘サイモン’’は頭が痛くなってきた。

 『最終的に神宮球場で‘‘村田’’とマクレーを狙撃によって殺す』計画だったのだが、来たのは‘‘巻き込んだ少女’’だけだった。‘‘サイモン’’は‘‘巻き込んだ少女’’に手をかけず、神宮球場にいる部隊を引き上げさせたのだった。

 確かに、あの二人ならば狙撃から逃れ、生き延びることも考えていた。しかし、 ‘‘村田’’と‘‘マクレー’’が『東京国立博〇館』に来るなど……完全に想定外だった。

 

「あぁ、全く予定外な事ばかりだ。」

 

‘‘サイモン’’はそう言った後、懐からアスピリン錠を取り出して水と一緒に飲んだ。

 

「(独語)構わん!!殺させろ!!遊びは終わりだ!!!」

「……」

 

運転中の‘‘マシアス・タルゴ’’は苛立たしそうに大声で言い、その妻‘‘カティア・タルゴ’’は無言だった。

 

 

‘‘サイモン’’が雇ったこの‘‘タルゴ夫妻’’は……正直言って面倒だった。

 夫の‘‘マシアス・タルゴ’’はそこらにある物で繊細な爆弾を作れるのだが……性格は真逆で大雑把・浅慮・脳筋だった。その性格のせいで時々‘‘先生’’に考えてもらった計画の邪魔をしてくる。

 妻の‘‘カティア・タルゴ’’は美女で、無口であまり人と関わらないタイプの人間なのだが……血の気は多いのか、ナイフを持って敵へ‘‘イの一番’’で突っ込んでいく。そのおかげで計画にはない殺傷沙汰も多かった。

 

 

「そこで眠ってもらおう。ロビーの‘‘カール’’には俺から連絡しておく。‘‘カール’’以外の部隊は全て撤収だ。引き揚げろ。」

『了解しました。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が本館のエントランスに入ると同時に、警備員達は近くに止めてあった‘‘青のセダン’’に乗って何処かへ行ってしまった。

 

 ……おい、警備員達が警備を放棄して何処かへ行くなんて、絶対に怪しいぞ!?

 

俺は思わず腰の銃剣を握った。

 

「(英語)何か?本日は休館ですが。」

 

俺が銃剣を握ったと同時に、階段を降りていた学芸員(?)に声をかけられた。

 

 ……おかしい。この学芸員はやけに体格が良くて、しかも歩き方が軍人・警官・武偵の様な訓練された人間の歩き方だ。

 

「(英語)ジョニー・マクレー、警察だ。」

「武偵の村田です。」

 

すると学芸員はゆっくりと近寄ってきた。

 

「(英語)その怪我、大丈夫ですか?」

 

学芸員はジョニー・マクレー(おっさん)の格好を見て、笑顔で聞いてきた。

 

「(英語)あぁ……まぁな。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそう答えた。

 ついでに、俺はさっき着替えたために、‘‘服装は’’キレイなままだ。多少シャツや上着に血のシミが出来始めているが。

 

「(英語)ご用件はなんです?マクレー警部補、村田大尉?」

 

 ……俺は‘‘武偵’’と言ったはずだ。それにおっさんも警察としか言っていない。それなのに『俺の軍の階級』・『おっさんの階級』 を当てれるはずがない。

 

俺はさらに警戒する。

 

「(英語)今朝から変わったことはないか?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はごく普通にその学芸員(?)に質問した。

 

「(英語)えぇ、山手線のb……」

「(英語)もちろん『山手線の爆発』以外の事です。そうだな……午後から変わったことはありませんか?」

 

俺はそう言いながら周りを見た。

 よく見ると……床がキラキラと輝いている。きっとガラスの細かい破片が散乱しているのだろう。もちろん、『普段もガラス片が床に散らばっている』ことなどありえない。

 

「(英語)別に?爆破騒ぎから外は警官であふれています。ご心配なら一緒に中を見回りますか?」

 

そう言って学芸員(?)はエレベーターの方へ向かって歩き出した。

 

「(英語)あぁ、ぜひ頼む。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は鋭い目で回りを見ながら言った。

 

「(英語)それは有難い。」

 

俺はそう言いながら、その学芸員(?)を見た。やはり……訓練された人間の歩き方だった。

 

 

 

 

 

 

「(英語)全く、酷い寒さですね。」

「(英語)あぁ、全くだ。」

 

学芸員(?)の言葉に、ジョニー・マクレー(おっさん)は頷いた。

 

「(英語)この後きっと、降るでしょうね。」

 

そして、エレベーターの前に着いた。そこには……他の学芸員が4人にスーツ姿の男が一人いた。

 

「(英語)お仲間です。彼は、えっと……‘‘オットー刑事’’」

 

案内をしてくれた学芸員(?)はスーツの男を紹介した。

 

「「(英語)よろしく」」

「……。」

 

その刑事は無言で俺達と握手をした。しかし、その刑事は……何かおかしかった。

 

 ……なんだ?こいつ?

 

 この刑事、名前も見た目もほぼ外人……しかも、スーツの胸ポケットに警察手帳を引っかけ、バッジを見せびらかすかの様に身に着けていた。まるで『自分は警察だ』と主張したいかのように……。

 俺はその刑事を見て確信した。ここは敵陣だと……

 

「(英語)おっさん……」

「(英語)分かってる。ゴチャゴチャ言うな」

 

  キーン……

 

ちょうどその時、エレベーターが着いたようだ。ドアが開くと学芸員(?)が『先にどうぞ』とばかりにエレベーターを指した。

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)が先にエレベーターに入った後、学芸員達や刑事が入り、俺達二人を囲むようにエレベーターの隅に陣取った。

 

「(英語)運動のため、普段は階段を使っているんですが……こんな寒い日にはつい‘‘リフト’’に乗ってしまいます。」

 

最後に、俺達を案内した学芸員(?)が入り、‘‘二階’’へのボタンを押した。そしてエレベーターのドアがゆっくりと閉まり始める。

 

 

 

 

 

 ……ヤバい!?こいつら自然に俺達を囲みやがった!?

 

改めて観察すると……俺達を囲む学芸員(?)達と刑事は、俺達を優に超える身長の持ち主だった。俺は170㎝未満の身長、ジョニー・マクレー(おっさん)は180㎝強の身長なのだが……それを超える身長となると、180㎝後半以上と算出される。

 

 ……ガタイでも、人数でも負けている。そうなると、奇襲しかねぇ!!

 

「(英語)おい、警察庁長官の名前はなんだっけ?未成年との不倫で今問題になってるんだろ?」

「そう言えば、今年のプロ野球はどこが優勝してるか覚えてます?」

『上へ参ります』

 

エレベーターのドアが完全に閉まると同時に、ジョニー・マクレー(おっさん)は英語、俺は日本語で他愛もない質問を投げかけた。しかし、誰も答えることができなかった。

 

「(英語)なんだ、そんなことも知らねぇのか?今見せてやるよ」

「みんな知らないんですか?なんだ、調べるしかないかぁ」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と俺は手を懐にやった。

 

 ……さぁ、奇襲の始まりだ!!!

 

  ダァンダァンダァンダァン!!ザシュッ!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は上着越しに(学芸員)目がけて発砲し、俺は銃剣を抜き刑事(偽)と学芸員の顔を斬った。

 

「「「「ぐぁあああ!!!」」」」

「ッ~~!!」

 

撃たれたor斬られた(奴ら)は悲鳴をあげ、無事だった学芸員の一人が銃を慌てて握った。

 ついでに、俺はジョニー・マクレー(おっさん)の撃った弾が跳弾し、横っ腹に被弾したのだが……無視する。

 

「(英語)チクショウ!!クソッタレ!!」

「あぁ!!‘‘降る’’ってのは血か!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は暴れる最後の一人に掴みかかった。そして俺は銃剣で ‘‘顔を切り裂いた二人’’の首を落とした後、ジョニー・マクレー(おっさん)と掴みあっている最後の一人の背中に銃剣を刺した。

 俺が背中を刺した時、最後の一人の動きが一瞬止まった。ジョニー・マクレー(おっさん)はそれを見逃さず、敵の頭に銃口をつけて発砲する。

  

  ダァン!!

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は返り血で真っ赤に染まった。

 

  キーン

  『二階です。』

 

俺達は血まみれになりながら、何とかエレベーターを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西住みほはセンチュリーを飛ばし、『神宮球場』から『東京国〇博物館』までを7分ほどで到着した(普通は20分以上かかる)。

 途中トラックの車列にぶつかりそうになりながらも、東京国〇博物館に滑り込んだ。西住みほは車から降りると……博物館がやけに静かな事に気が付いた。

 

 ……もしかして、村田さんとマクレーさんは死んだかも……

 

嫌な考えが脳裏をよぎる。

 西住みほは……目の前にある、見事な帝冠様式の『東京国〇博物館本館』へ走った。

 

 

 

 本館へ入ると、中は静かだった。まるで中には誰もいないような……

 

 ……なんだろう、これ。

 

やけに床がキラキラと光り輝いているために疑問が生じた。西住みほは床に顔を近づけて観察すると……細かなガラス片があたり一面にバラまかれていた。

 

 ……なんでガラス片が……

 

  ダァン!!キーン!!

 

上の階でエレベーターの音が聞こえた。西住みほはその音の元へ走って向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)はぁ、はぁ……なんでこんな目に……」

「(英語)チクショウ!!おっさんがいるといつもこうだ!!」

 

俺達は返り血を浴び、ボロボロの体で何とかエレベーターから這い出てきた。

 すると、ジョニー・マクレー(おっさん)は死んだ敵達の所持品をあさり始めた。何か証拠品や敵につながる物を探しているのだろう。

 

  カツッ…カツッ…カツッ……

 

 ジョニー・マクレー(おっさん)が所持品をあさり始めた時、階段から足音が聞こえた。

 

 ……もしかして、残党か?

 

俺はため息をつきながら銃剣をしまい、代わりに14年式拳銃を取り出した。

 

「おっさん、行ってくる。」

「……あぁ。気をつけろよ?」

「分かってらぁ……」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は敵の所持品の確認で忙しい。それに、俺は敵の所持品から情報を得るなんてことはできない。そのため、俺が残った敵の対処に行くのは必然だろう。

 

 ……軍じゃなくて警察に入るべきだったかな。

 

俺は足音を消し、そう思いながら音がする方へ移動した。

 

 

 

 

 

  カツッ…カツッ…カツッ……

 

敵が至近距離に来た時……俺は14年式拳銃を構えて、敵の前に出た。

 

「動くな!!両手を上げろ!!」

「え!?……待って!!待ってください!!」

 

 靴音の主は西住さんだったらしい。西住さんは慌てて両手を上げ、無抵抗の意思を俺に伝える。

 俺は西住さんだと確認すると、14年式の銃口を天井へ向けた。

 

「……お、驚かすなよ。」

 

俺は14年式をしまいながら……ホッと胸をなでおろした。

 

「……って村田さん!?その血は!?」

 

すると、西住さんは俺が血まみれな事に気が付いたらしい。彼女は慌てて俺に近寄ってきてその部分に触れようと……

 

「大丈夫、ただの返り血だ。……手が汚れるぞ」

 

俺は西住さんの手を払いのけ、ハンカチを取り出して血をぬぐう。

 

「な、何があったんですか!?」

「あっちにおっさんがいる。その場を見ればわかるさ。」

 

俺はそう言ってジョニー・マクレー(おっさん)を指さした。西住さんがその方向へ走って向かうのを確認すると、俺は近くのベンチに倒れこんだ。

 

 ……あぁ~、血が足りねぇ。

 

俺はボーっとする頭を押さえた。

 今はアドレナリンやら脳内麻薬やらで痛覚がマヒしているが……あちこち被弾し、多数の打撲を受け、血を流し過ぎた体はもう限界だ。

 

「え!?これ……し、死んでる!?」

「(英語)あぁ、そうだ。……おい、嬢ちゃん。これはなんだ?」

「……『入港証』?」

「(英語)なんだって?……まぁ良い。目的は復讐じゃない、盗みだ。さっきのトラック達に乗せたんだろう。追いかけるぞ!!」

「わ、分かりました!!」

 

奥でジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんの話が聞こえてくる。

 

 ……はぁ、あのトラックの車列を追いかける必要があるな。こんなところで寝てる場合じゃない。

 

俺は重い腕で自分の頬を二回叩き、強制的に意識を覚醒させる。

 

 ……これじゃ足りないな。

 

俺は‘‘四次元倉庫’’からラム酒を取り出し、それを傷口にぶっかけた。

 

「ぐ……ウァ……」

 

痛みで脳が刺激され、さらに意識がはっきりする。

 

 ……あぁ、クソッ!!今日はなんて日だ。

 

俺はため息を吐きながら立ち上がった。

 

「(英語)坊主、さっさと行くぞ」

「(英語)あぁ、分かってるよ。」

 

重い体を動かし、ボロ車(ビュート)へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「劉先生、‘‘サイモン’’が例の物と人を確保したそうです。」

「よし……腹ごしらえもすんだ。そろそろ調布へ向かうか。」

 

劉翔武御一行は東京のラーメン屋にいた。

 そのラーメン店は狭くて汚いのだが、知る人ぞ知る有名店だ。そのラーメン店に劉翔武と司馬鵬、そしてサングラスに黒スーツ数人がラーメンを啜っている光景は……完全にコントだった。

 

「あの……劉先生?こんなところでラーメンを食べててもいいのですか?」

 

司馬鵬はそう言いながらも……美味そうにラーメンを啜る。

 東京は……敵の懐の中。警察・軍・武偵が慌てて爆弾探しをしているが、それでも襲撃の危険性はある。

 

「日本では‘‘腹が減っては戦が出来ぬ’’と言うらしい。何をやるにもまずは‘‘腹ごしらえ’’だ。せっかく日本に来たのだ。日式拉麺(日本のラーメン)でも食っていこうじゃないか。」

 

劉翔武はそう言った後、美味そうにラーメンのスープを飲み干した。そして『食った食った』とばかりにティッシュで口元を拭き、爪楊枝を咥えた。

 

「司馬鵬、お前は鏡高組本部へ行け。諸葛静幻が心配だろう?」

「……しかし。」

 

 そして、劉翔武は雰囲気を変えて司馬鵬へ言い放った。

 

 

 司馬鵬は『諸葛静幻に拾われた過去』があった。そのため、司馬鵬は遠山キンジと戦う諸葛静幻のもとに向かいたかったのだが……『劉翔武の護衛』が今回の任務であったため、向かう事が出来なかったのだ。

 

 

 

「いい、調布飛行場まで襲撃があるとは思えん。それに諸葛の方へ向かいたいだろう?……ただし、飛行機が出るまでには戻れ。」

「……分かりました。」

 

司馬鵬はラーメンのスープ一滴も残さず完食すると、走って店を出ていった。

 劉翔武は『若いっていいなぁ』と思いながらその背中を見送った後、財布を探し始めが……見つからない。

 

「お、おい。お前たち財布は知らないか?」

「財布なら司馬鵬様が管理しているはずですが……。」

 

サングラス黒スーツの一人が『何を言っているんだ』とばかりに不思議そうに答えた。

 

「……お、お前たちの中で財布を持っている者は?」

 

その言葉に……全員が首を横に振った。劉翔武は冷汗をかき始めた。

 

「し、司馬鵬を呼び戻せ!!早く!!」

 

 

 

 

 1時間後、財布を返しに来た司馬鵬が戻るまで‘‘劉翔武御一行’’は店で皿洗いをやっていた。

 そのせいで軍に‘‘劉翔武’’の居場所がバレてしまったのだが……それを ‘‘劉翔武御一行’’はまだ知らない。

 

 

 

 

 




 愛里寿ちゃんとは『閑話:高校生活2学期編 BOKO HARD 2.5』でイブキと一緒にテロリストと戦って(?)います。

 西住みほ……今日一日で何度も修羅場をくぐったため、結構アグレッシブになっています。そのせいで『ガールズ&パンツァー』に結構響いてくるのですが……その事は閑話で。


 スピードと移動速度の違い……簡単に言うとA→Bまで行くとき、時速100キロ以上で移動しても、蛇行運転や遠回りをすれば到着までの時間は遅くなります。
  スピード=時速100キロ以上
  移動速度=A→Bまでの時間
 厳密には違いますが、こういう考えと思って下さい。


スミソニアン博物館は……ヤバいです。マジヤバい。
 国立航空宇宙博物館本館、国立アメリカ歴史博物館、国立アメリカ・インディアン博物館、国立自然史博物館に行った事がありますが……あれは日本じゃ無理です。膨大な敷地・膨大な物品・膨大な資金が無いとあんなもの建てられません。しかも入館料はタダ……(ただし、危険物持ち込みのチェックはある)。
 一回は行ってみてください。人生観が変わります。


 ジョーカー……切り札であり、番狂わせのカード。それが二枚ダメになる……。要はジョニー・マクレーと村田イブキの事です。



 Next Ibuki's HINT!! 「勝鬨橋」 




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Die Hard3 in Tokyo 変態刑事……

 遅れて申し訳ありません。
 主な理由は中間テスト・中間レポート・法事のせいです。とりあえず中間テストやレポートは終わったので、次話こそ週一投稿できる……といいなぁ。





  

 

「(英語)エレベータにいた全員、これを持ってやがった。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は神妙そうな顔つきで『何かのカード』を渡してきた。

 

「(英語)……『東京港の入港証』?」

 

 それは『東京港の入港証』だった。

 俺はこのカードを観察してみるが、これが本物か偽物かわからなかった。しかし、これによって‘‘サイモン’’は東京港へ向かうことが予想できる。ということは……

 

「(英語)『東京港』?……港か!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)も気が付いたようだ。おそらく、‘‘サイモン’’は大量の奪った物品を船で持ち出すつもりなのだろう。

 

「よし、西住さん!!『東京港』行きながらあのトラックを探すぞ!!シートベルトはしっかりな!!」

 

俺はそう言ってボロ車(ビュート)のアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

「あの……ここで脱落っていうことはできませんか?」

「気持ちは分かるけど……西住さんもマークされてるはずだぞ?まだ一緒にいたほうが安全だ。」

「ですよね。アハ、アハハハ……」

 

ボロ車(ビュート)では、ハイライトが消えた西住さんの虚しい笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「乗っても地獄、降りても地獄かぁ……」

「西住さん!!さっさと立ち直ってシートベルトつけろ!!あぶねぇぞ!!」

 

『鏡高組から奪った(借りた)センチュリー』でのカーチェイスの時、俺はシートベルトをつけなかったおかげで多数の怪我を負ったのだ。

 西住さんも同じ目に会って欲しくないため忠告し、俺もシートベルトをつけようした。

 

  プチッ!!

 

その時、布が裂ける様な音がした。シートベルトの金具に伝わる‘‘巻き戻るバネの力’’を一切感じない。

 俺は恐る恐るシートベルトを見ると……運転席側のシートベルトが千切(ちぎ)れていた。

 

  カチン!!

 

「このボロ車ぁあああ!!!」

 

  プスン!プスン!!

 

俺が苛立たし気に叫んだと同時に、ボロ車(ビュート)のエンジンの調子が悪くなった。

 

 ……ヤバい!!機嫌が悪くなった!?

 

 

このボロ車(ビュート)は……何故だかわからないのだが、悪口を言うと機嫌を損ねてどこか調子が悪くなるのだ。そして謝り続けると‘‘なぜか’’機嫌が直る

 

 

 ……こんな時にエンジントラブルとかシャレにならないぞ!?

 

俺は片手でハンドルを(さす)りながら謝り始めた。

 

「ごめんね~。ほら……言葉の綾で、いきなりシートベルトが切れたから……いや、本当にごめね。機嫌直してねぇ……」

「アハハ……私、生きて帰れたら東京タワー限定『タワー・オブ・ボコ』を買うんだぁ……」

 

車内では『必死に謝る少年の声』と『空笑いをする少女の声』が響く。

 

「(英語)……お前ら、何してるんだ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はタバコに火をつけ、ため息と紫煙交じりにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‘‘サイモン’’は『村田とマクレーを殺した』という報告を待っていた。しかし、いくら時間がたっても連絡が来ない。無線からはノイズ音ばかりが聞こえる。

 

「‘‘カール’’、どうした?まだ殺れないのか?」

 

‘‘サイモン’’が無線機越しに尋ねた。その時だった。

 

『(英語)残念!!‘‘カール’’はくたばった!!もう一度繰り返す、‘‘カール’’はくたばった!!‘‘カール’’のお友達もだ!!』

 

ジョニー・マクレーの大声が無線から放たれた。タルゴ夫妻はキッと無線機の方へ視線を向けた。

 

「(英語)……ジョニー、我々は今とても重要で崇高な目的のために動いている。博物館にはまだまだ展示物があっただろう?我々が盗んだという事にするから……それで手を打たないか?」

『(英語)俺の条件を言ってやる!!隠れている岩の下から這い出してきな!!踏み潰してやるぜ!!』

『あれだ!!あのトラックだ!!』

 

ジョニー・マクレーの声と共に、村田イブキの声が聞こえた。

 奴らは自分たちのトラックに追いついたらしい。サイドミラーを確認すると、奥の方にボロボロの車が見える。

 ‘‘カール’’を待つためにゆっくりと進み、途中パーキングエリアで休憩を取ったのが(あだ)となったようだ。

 

  バン!!

 

‘‘サイモン’’は思いっきりドアを殴り、苛立つ心を押しつぶして無理やり平静を保つ。

 ‘‘サイモン’’は思い出した。『軍服風の制服を着た少女の‘‘あの(あお)り’’よりはマシじゃないか』と……

 

「やってくれるじゃないか……!!」

 

‘‘サイモン’’はそう言って無線を切った。

 

 

 

 

「だから早く殺せと言ったんだ!!」

「……。」

 

夫:マシアス・タルゴが怒鳴り散らし、妻:カティア・タルゴは目をつむった。

‘‘サイモン’’は頭が痛くなってきた。マシアス・タルゴの怒鳴り声が頭に響く。

 

「ご忠告ありがとう。」

 

‘‘サイモン’’はそう言うと胸元からアスピリンを取り出し、水と一緒に飲んだ。

 ジョニー・マクレーと村田イブキが‘‘カール達’’から逃れ、自分達を補足するとは予想もしていなかった。

 

「大丈夫だ。今度こそ奴は死ぬ。……必ずな。」

 

‘‘サイモン’’はそう言って己を落ち着かせ、無線機を持った。

 

「‘‘ニルス’’、奴らが来た。ここで必ず殺せ……いいな?」

『えぇ、分かってます。安心してください。』

 

無線機からは‘‘ニルス’’からの頼もしい声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はボロ車(ビュート)に謝り続け、何とかエンジンの調子が戻った。そこで俺はシートベルトをしない代わりに戦闘用ヘルメットを被り、首都高を爆走していた。

 

「(英語)坊主!!本当にこっちでいいのか!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言って拳銃を取り出した。そして弾倉を取り出し、残弾を確認している。

 

「(英語)遠回りしていなければこっちで行くはずだ!!最悪、東京港で待ち伏せすればいい!!……それよりもおっさん!!軍でも警察でもいいから連絡してくれ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は拳銃を急いでしまい、携帯を出した。

 

「(英語)番号は!?」

「(英語)えぇっと……」

 

俺は自分のスマホで電話番号を調べようとし……壊れて電源が入らない事を思い出した。

 

 ……あぁ、クソ!!特別回線の番号を教わればよかった!!

 

無線が使えない今、‘‘110番(警察通信司令部)’’や‘‘兵部省の電話受付’’は普段の業務に加えて『警察や軍の情報』を一手に引き受けているのだ。電話回線は混線しているに違いない。

 

 ……俺が個人の番号を覚えているのは……第二中隊の面々と、第一中隊の藤原さんぐらいか?

 

第二中隊は田中曹長以外の全員が上海にいるから不可。となると、藤原さん一択だ。

 

「(英語)坊主!!早くしろ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が急かしてくる。俺は藤原さんの電話番号を伝え始めた。

 

「(英語)……あぁ!!『090……』」

「(英語)『090……』」

 

 

 

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がスマホに電話番号を打ち込み、相手の応答を待っていた。

 

『‘‘カール’’どうした?まだ殺れないのか?』

 

その時、『東京国立〇物館』で敵から奪った無線から‘‘サイモン’’の声が聞こえてきた。

 

「(英語)坊主、持ってろ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言って運転中の俺に携帯を投げ渡した。

 

「(英語)え!?おい何やって!!」

 

俺はハンドルから手を離し、その携帯を受け取った。そのせいでボロ車(ビュート)がグラグラと蛇行する。

 俺は慌てて右手をハンドルに戻し、左手で携帯を耳に当てて反応を待つ。

 

 ……蛇行のせいでボロ車(ビュート)が大きく揺れたけど、西住さんは大丈夫か?

 

俺はバックミラーで後部座席にいる西住さんを確認した。

 

「アハハ……お家帰る……」

 

西住さんは…………姿勢よく座り、ボヤいているため大丈夫そうだ。きっと、大丈夫なはずだ。目のハイライトが消え、時々カラ笑いの声が聞こえるが……大丈夫に違いない。

 

 ……まぁ、死んでないからいいか。なんだかんだ言っても西住さんは強いし。

 

俺はそう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

「(英語)残念!!‘‘カール’’はくたばった!!もう一度繰り返す、‘‘カール’’はくたばった!!‘‘カール’’のお友達もだ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が無線機越しに‘‘サイモン’’へ挑発する。その間、俺はおっさんの携帯を耳に当て、藤原さんが電話に出るのを待つ。

 

 ……クソッ!!忙しいのは分かる。知らない電話番号だから出るのに躊躇(ちゅうちょ)するのも分かる。だけど早く出てくれ!!

 

俺は八つ当たり気味に携帯をさらに強く握りしめ、ボロ車(ビュート)のアクセルをさらに踏み込み、無理やり苛立ちを押さえつける。

 

「(英語)俺の条件を言ってやる!!隠れている岩の下から這い出してきな!!踏み潰してやるぜ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がそう言った時だった。奥の方にダンプやトラックの車列が見えた。

 

 ……あれだ!!『東京国〇博物館』で衝突しそうになったトラック車列だ!!

 

「あれだ!!あのトラックだ!!」

 

俺は思わず声を上げた。ジョニー・マクレー(おっさん)は『どれどれ』とばかりに前方を覗き込む。

 

『やってくれるじゃないか……!!』

 

‘‘サイモン’’の言葉が無線機から発せられたが、俺達には届かなかった。そんな物より目の前のトラックだ。

 

 

 

ボロ車(ビュート)はゆっくりと、しかし確実にトラック10数台の車列に近づいていく。

 

「(英語)もっとスピードは出ないのか!?アクセルを踏み込め!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はイライラしながらダッシュボードをバンバンと叩く。

 

「(英語)こいつはパイクカーだ!!スポーツカーやアメ車の様なバカ馬力じゃねぇからスピードには縁がないんだ!!……それよりもダッシュボードを叩くな!!壊れるだろ!!」

 

俺がそう言った時、やっと携帯が繋がった。

 

『もしもし?藤原ですg……』

「藤原さんですか!!俺です!!村田です!!」

『え……?村田!?君いつの間に機種変更したんだ!?』

 

 携帯からは藤原さんの声と共にサイレンの音や喧騒が聞こえる。きっと藤原さんも爆弾探しに駆り出されているのだろう。

 

「してません!!おっさん……ジョニー・マクレーの携帯からかけてるんです!!それよりも、‘‘サイモン’’の狙いは復讐じゃありません!!強盗です!!」

『…………なんだって?』

 

携帯越しでも、藤原さんの『ドロッとしたオーラ』が伝わってくる。

 

「『東京国立〇物館』の展示品がごっそり盗られました!!翌日から開催される『特別展』の日本刀もです!!敵は今『展示品を詰め込んだトラックやダンプ』で首都高上野線を南下中!!今‘‘本町’’を過ぎました!!倒した敵の所持品から東京港へ向かっていると推測されます!!」

『……酒で酔ってないな?』

 

藤原さんの重い声から圧を感じる。流石に藤原さんもこんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話を信じられなかったのだろう。

 

「朝から一滴も飲んでません!!……こんな大事件、飲みながらやると思います!?」

『悪かった。ところで学校の件について分かったこt……』

 

いきなり通話が途切れた。いくら耳を澄ましても藤原さんの声が聞こえない。

 俺はその携帯を確認すると……画面が真っ暗だった。ボタンや画面を押しても何の反応もない。

 

 ……電池切れ!?こんな時に!?

 

「(英語)チクショウ!!」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)に携帯を投げ返した。

 

「(英語)何するんだ坊主!!」

「(英語)電池切れだ!!充電しとけよおっさん!!」

 

俺はそこで『旧芝離宮恩賜公園で拾った携帯』を思い出した。‘‘サイモン’’にバレるかもしれないが……今は連絡が優先だ。今、その携帯は西住さんが持っているはず……。

 

「西住さん!!携帯貸してくれ!!」

 

俺はそう言って運転をしながら左手を西住さんに向け、携帯を受け取ろうとするが……何の反応がない。

 俺は後ろを振り向いた。そこには……今だ呆然自失のまま、空笑いをする西住さんがいた。

 

「西住さん!!目を覚ませ!!」

「アハハ…………え!あ、あれ?」

 

俺は西住さんの胸元を両手で握り、大きく()すった。そこでやっと西住さんは目が覚めたようだ。

 

「(英語)いきなりハンドルを離すんじゃねぇ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が文句を言っているが……無視する。

 

「西住さん!!携帯を出せ!!早く!!」

「……え?は、はい!!」

 

 

 

 

 

 西住さんは慌てながら、上着のポケットから『拾った携帯』を取り出し俺に渡した。

 俺はそれを受け取るとジョニー・マクレー(おっさん)から運転を引き継ぎ、ハンドルを握りながら電話番号を打ち込む。

 

  プルル……

 

『はい、藤原d……』

「藤原さんですか!?さっきの携帯の電池が切れたので、違う携帯で通話しています!!『学校の爆弾』については何もわかりません!!それと首都高の閉鎖とヘリの応援をください!!」

 

俺は電話に出た藤原さんに早口で情報を伝えた。

 

『……上に掛け合ってみるができるか分からない。『爆弾探し』のせいで人手が足りないんだ。』

 

  バキッ!!ガン!!べキ!!

 

藤原さんがそう言った時だった。俺はいきなり頭をバットで殴られたような強い衝撃が走り、ボロ車(ビュート)のフロントガラス にヒビが入った

 

 ……な、何だ!?

 

俺は慌てて被っていた戦闘ヘルメットを脱いで確認すると……銃弾をはじいた跡があった。

 

 ……う、運がいいな。

 

基本、戦闘ヘルメットはライフルなどの銃弾は防ぐことはできない。しかし、今回はたまたま銃弾の角度がよかったのだろう。奇跡的にはじくことができたようだ。

 

 ……って、撃たれたってことは敵か!?

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)・西住さんは慌てて後ろを向いた。後ろには……少なくても十数台はある軍用装輪装甲車。その軍用装輪装甲車を追い抜き、俺達に銃撃を加えるスポーツカーも多数いる。

 

「こういう時は一般車両でのカーチェイスだろ!?なんで装輪装甲車(ガチの奴)を持ってきてんだよ!?」

「(英語)う、嘘だろ!?なんだって装甲車が90マイル(=時速約145キロ)以上出してんだ!?」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は思わず叫んだ。

 

『む、村田!?何があった!?』

「て、敵の追手が来ました!!30台以上はいます!!装輪装甲車が約半数!!応援をください!!」

 

俺は大声で恐怖心を押さえつけながら報告する。

 

『分かった!!できる限りのことはするが、期待はするな!!』

 

  ッー、ッー、ッー……

 

藤原さんが‘‘悲しい現実’’を叩きつけた後、電話が切れた。

 今、警察・軍・武偵は『爆弾探し』で手一杯なはずだ。それに加えて『首都高の封鎖』・『敵トラックの追跡』・『敵戦闘車両への攻撃』……できたとしても準備に時間がかかるだろう。それに藤原さんが『期待するな』という事は、できる可能性が‘‘本当に’’少ないのだろう。

 

 ……クソッ!!まさか軍が使えないなんて!!

 

最も信頼できる軍が使えないとは……思いもしなかった。他に助けてくれそうなのは……

 

 ……いるじゃないか!!俺は今までどこの学校に通っていた!?

 

俺は急いで電話番号を打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

『はい、もしもし。』

「中空知さんか!?俺だ、村田だ!!」

 

俺は中空知さんに電話をかけた。

 今、武偵高の生徒も爆弾探しに追われているだろう。きっと俺達『COMPOTO』の面々に、『バスカービル』の面々、武藤・不知火・ジャンヌ・ワトソン達も探しているはずだ。しかし、軍や警察の様に‘‘面子がかかっている’’わけではないため、比較的自由な人員が多いはずだ。

 だからと言っても、俺はみんな一人一人に電話をし、フリーかどうか聞いている時間はない。そこで俺は通信科(コネクト)の中空知さんに用件を伝え、動かせる人員を送ってもらおうと考えた。

 

『首都高上野線で何か?』

 

中空知さんの清涼な声がスッと耳に伝わる。

 中空知さんは得意の音響分析によって俺の居場所を特定したのだろう。彼女のその能力であれば、今の危機的状況は理解できるはずだ。

 俺は中空知さんに現状を伝え、応援を要請した。

 

 

 

 

  ダンダンダン!!ドカーン!!

 

「(英語)まず1台目!!」

 

助手席ではジョニー・マクレー(おっさん)が身を乗り出して拳銃を発砲し、敵車輛の一台が爆発した。

 

『分かりました。今からですと時間がかかりますが、よろしいですか?』

 

携帯から俺が最も待ち焦がれていた言葉が、中空知さんの美声によって伝えられた。俺はその言葉を聞き、喜ぶ気持ちを押さえることができなかった。

 

「ありがとう中空知さん!!愛してるぜ!!」

『ゴホッ!!ゲホッ……!!そ、それtt……』

 

  ピッ!

 

俺はハイテンションのまま携帯の通話を切った。その時、敵のトラックの車列が他の高速に乗り換えている所を発見した。

 

「おい!!マジかよ!!」

 

俺が電話している間に他のレーンに移動していたのだろう。今からそのトラックの車列を追うとなると、逆走以外の手段がない。

 

 ……まて、落ち着け。あの道は『東京港』へ遠回りなはずだ。

 

 俺はバックミラーを覗いた。後ろには、まだ装輪装甲車とスポーツカーが俺達のボロ車(ビュート)を狩ろうと追いかけてくる。

 

 ……クソッ!!敵が多すぎる!!このままじゃジリ貧、狩られるのも時間の問題だ!!何とかできないか!?

 

 

 

 

「む、村田さん!!」

 

俺がどうやって時間稼ぎをするか悩んでいる時だった。西住さんは俺の肩を叩いてきた。

 

「どうした!?」

「わ、私に使える武器を貸してください!!」

「………え?」

 

俺は思わず後ろを振り向き、西住さんを見た。西住さんは何かを決意したような、真剣な目をしており、重いが崇高なオーラを出していた。

 

 ……ほんと、何なの!?西住さんは!?

 

『重苦しいオーラ』を出すような人間は沢山見てきたが、『重苦しい中に崇高で、どこか気高いオーラ』を出す人間は初めて見た。

 

 ……まぁいい、とにかく使えそうなものはあるか?

 

俺は‘‘四次元倉庫’’をあさりだした。そして、以前テロリストから奪ったMG42機関銃とその弾を見つけた。第二次世界大戦中にドイツが使った機関銃だ。戦車道をやっている西住さんなら使えるかもしれない。

 

「これ使える?」

 

俺はその銃と弾を西住さんに渡した。

 西住さんは戦車道で鍛えていたせいか、約12キロ弱はある機関銃を軽々と受け取った。そして熟練兵の如く、流れるようにそして迷わずに弾を装填し、安全装置を外した。

 発射準備完了の銃を座席の背もたれに置き、西住さんは座った眼をして発砲を始めた。

 

 …………戦車道ってヤベェ

 

俺は思わず(おのの)いた。

 

 

 

 

 

 

 

「(英語)ロケット弾だ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がそう叫んだ時、敵の装甲車の一台からロケット弾が発射された。俺は慌ててハンドルを操作し、ロケット弾を避けた。

 

  チュドーン!!

 

ボロ車(ビュート)の真横にロケット弾は着弾した。爆発による破片がボロ車(ビュート)を襲う。

 

 ……軍も武偵も連絡した。後は警察か。警察で知り合いは……両川さん!?

 

  ガタン!!

 

その時、高速道路のつなぎ目を踏み、ボロ車(ビュート)が揺れた。

 

 ……つなぎ目!!そうだ!!『勝鬨橋』!!

 

 数年前、両川さんから『小さいころ‘‘勝鬨橋’’に侵入して勝手に開いた』と言う話を聞いたことがある。もし、両川さんが今でも『勝鬨橋』を開く方法を憶えていれば、何とかなるかもしれない。

 俺は両川さんの携帯番号に急いで電話をかけた。

 

 ……よし、繋がってくれよ?両川さんの携帯を止められてませんように。

 

 

 

 

俺の祈りが通じたのか、すぐに両川さんが電話に出た。

 

『ハイ、もしm……』

「両川さん!!村田です!!いきなりで悪いんですが今、爆弾魔の仲間に追われています!!敵を撒くために‘‘勝鬨橋’’を開いてほしいんですが、できますか!?」

『はぁ!?村田ぁ?何言ってんだ!?』

 

携帯から両川さんの呆れた声が聞こえた。

 

「敵数十台に追われてるんです!!敵を撒くために‘‘勝鬨橋’’を開いてください!!あと5分ぐらいで‘‘勝鬨橋’’に着きます!!……両さん、助けてください!!」

『…………本田!!急いでわしを‘‘勝鬨橋’’まで送れ!!村田、車は!!』

「傷だらけのビュートです!!」

『分かった!!死ぬんじゃねぇぞ!!』

 

  ッー、ッー、ッー……

 

……これで布石はすべて打った。あとは俺達が生き延びるだけだ!!

 

俺はハンドルを握る手に力を入れた。

 

 

 

 

 

 

「(英語)クソ!!いくら倒しても湧いてきやがる!!ありゃゾンビか何かか!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はボヤキながら拳銃を撃つ。するとジョニー・マクレー(おっさん)の拳銃は銃弾が出なくなっていた。ジョニー・マクレー(おっさん)は替えの弾倉を探すが……見つからなかった。

 

「(英語)弾切れだ、クソ!!」

「(英語)俺のを貸そうか!?」

 

俺が訊ねると、ジョニー・マクレー(おっさん)は西住さんの横にあるアタッシュケースを見ていた。

 

「(英語)いや、あれを使う。……嬢ちゃん!!横のアタッシュケースをくれ!!」

「これですか!?」

 

西住さんは射撃をいったん止め、アタッシュケースをジョニー・マクレー(おっさん)に渡した。

 

 

 あのアタッシュケースは……‘‘旧芝離宮恩賜公園’’に仕掛けられていた爆弾だ。『置きっぱなしは危険だろう』と言う理由でとりあえず持ってきたのだ。

 

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそのアタッシュケースを開き、中をいじり始めた。

 

  ピッ!!ピー、ピー、ピー!!

 

 すると、アタッシュケースから嫌なアラーム音が聞こえてくる。ジョニー・マクレー(おっさん)はそのアタッシュケースを閉めると、助手席から身を乗り出した。

 

「(英語)坊主!!嬢ちゃん!!頭を下げろ!!……返品だ!!」

 

 ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言ってアタッシュケースを首都高に投げ捨てた。敵の車両はそのアタッシュケースに気づかず、猛スピードで俺達を追いかけてくる。

 

 ……おい、まさか爆発させる気か!?

 

俺と西住さんは慌てて頭を低くした。その瞬間……

 

  チュドーン!!!

 

 爆発による爆音と熱風がボロ車(ビュート)を襲い……一瞬ボロ車(ビュート)の後部が宙に浮き、ドアガラスにヒビが入った。

 俺はバックミラーを覗いた。そこには……数台のスポーツカーと装輪装甲車が宙高く空に舞っていた。

 

 ……どんだけ威力があるんだよ!!あの爆弾!!と言うかさっきまであれ乗せてたんだよな!?

 

 その時、目の前に『首都高 銀座出口』が見えてきた。もう『勝鬨橋』までは目と鼻の先だ。

 

 

 

 

 

 

 

「本田!!ここだ!!」

「了解だ!!両川の旦那!!」

 

   キキー!!

 

‘‘勝鬨橋’’の旧運転室の前に白バイが急停止した。白バイには任侠の様な男と眉毛つながりの男が乗っていた。任侠男は本田隼人、眉毛つながりは両川勘吉と言う警察官だ。

 

「せ、せんぱ~い。勝手にこんなところにきていいんですか~?」

「いいんだよ!!『爆弾探し』なんか中川にでもまかしとけ!!」

 

両川は旧運転室への扉を見つけた。開けようとした所……扉に鍵がかかっているようだ。

 両川はその扉を蹴破ろうとした。その時……

 

「お巡りさん、何しとるんじゃ」

「あぁ!?爺ちゃん、悪いが今は時間が無いんだ!!後にしてくれ!!」

「わしゃ~昔ここで働いておってな。知っとるか?この橋は昔開いたんじゃ。それをしていてのぉ~」

「「何だって!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の乗るボロ車(ビュート)は首都高から降り、都道304号線・晴海通りに滑り込んだ。その後ろには、奴らが『ゾンビかゴキ〇リが如く』大多数で追ってくる。

 

 ……クソ!!なんて数だ!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんの努力により、少なくとも20台以上は撃破している。しかし、敵の数が変わっていないように見える。

 

  ウゥ~~~~!!!

 

「っておい!?嘘だろ!?」

 

俺は前を見て驚いた。俺達の進行方向に‘‘戦車砲を搭載した装輪装甲車’’が4両も陣取っていたのだ。

 

 ……先回りされた!?

 

  ウゥ~~~~!!!

 

 ご丁寧にも、その‘‘戦車砲を乗せた装輪装甲車’’は4両ともボロ車(ビュート)に砲口を向けている。

 

 ……クソ!!ここまでか!?

 

  ウゥ~~~~!!!

  ドカーン!!

 

空からサイレン音と共に黒い物体が‘‘戦車砲を乗せた装輪装甲車’’へ落ちてきた。そして、その黒い物体が地面にぶつかった瞬間、敵4両が爆発したのだ。

 

 ……いや、正確には『爆発に込まれた』か?

 

俺は思わず上を見た。そこには第二次世界大戦の遺産:‘‘Ju 87スツーカ’’1機が超低空飛行をしていた。

 

 ……な、なんであんな骨董品が東京の空を飛んでいるんだよ!?

 

おそらく、その‘‘スツーカ’’が急降下爆撃をし、敵の装輪装甲車を撃破したのだろう。

 

 ……とにかく、助けてくれたのは有難い!!

 

 

 

 

 

 ‘‘スツーカ’’がボロ車(ビュート)の後方にいる敵車輛に機銃掃射を始めた。‘‘スツーカ’’のパイロットは凄腕なのか、一回の掃射で4~5両撃破している。しかし、数が多すぎるせいで敵の勢いは殺しきれていない。

 

  ブォオオオオ!!!

 

その時、敵のスポーツカー1両が猛スピードでボロ車(ビュート)の左側に横付けしてきた。その敵のスポーツカーの屋根には『忍者のコスプレをしたポニーテールの少女』が乗っていて、ボロ車(ビュート)の屋根に乗り移った。

 

「(英語)クソ!!こいつ!!」

「な、なんて運動神経!?」

 

『忍者コスプレ少女』がボロ車(ビュート)に乗り移った時、横道からハイエースが猛スピードで飛び出した。そして、そのハイエースは横づけしていたスポーツカーの真横に体当たりを敢行(かんこう)した。

 

 「む、武藤!?牛若!?」

 

 俺はしっかりと見た。そのハイエースの運転席には‘‘獰猛な笑顔’’を浮かべた武藤がいたことを。そして、ぶつかる瞬間にハイエースの扉を開き、ボロ車(ビュート)に牛若が飛び乗ったことを。

 

 

 

 

 

 

「はぁあああ!!!」

「あ、あと少しで殺せるところなのに!!」

 

  ガキィイイイン!!!

 

ボロ車(ビュート)の上では牛若と『忍者コスプレ少女』が切りあっているらしく、刃が交わる音が聞こえる。

 

「(英語)ロケット弾来るぞ!!」

「ロケット弾きます!!」

「くそぉおおおお!!」

 

‘‘スツーカ’’の掃射から逃れた敵車輛の一部からロケット弾が数発放たれようとした瞬間、その車両が爆発した。

 

「「「え?」」」

「「「困っているようだな!!マクレー刑事・村田少年・西住少女!!兵部省の要請により、我々が来たからにはもう安心だ!!!」」」

 

 チャチャチャチャチャーチャー♪

 

いきなり俺達を呼ぶ声が聞こえた後、へんなBGMが流れ始めた。

 そして道横の歩道が割れ、そこから大量の水が噴き出るとともに小型の潜水艦が出てきた。

 

「おちゃめなヤシの木カットは伊達じゃない。海を愛し、正義を守る。誰が呼んだかポセイドン。タンスに入れるは‘‘タンスにゴン’’。特殊刑事課三羽烏の一人、『ドルフィン刑事(デカ)』!!ただいま見参!!!」

「「「…………」」」

 

その小型潜水艦から、『(ふんどし)とセーラー服の襟しか着ていない、パイプを咥えた太った変質者』が出てきた。その褌には『水上警察隊』と書かれており、警察章も描かれているのだが……まさか警察関係者ではないはず……

 

「……」

「(英語)坊主、あれはなんだ?」

 

西住さんは『太った変質者』を見て戦意喪失したのか……射撃を止め、目のハイライトが消えていた。ジョニー・マクレー(おっさん)は頭が痛いのだろうか……眉間を押さえ、俯きながら俺に聞いてきた。

 

「(英語)知るかよ、あんな変質sh……いや、待てよ?」

 

 

 俺が武偵高に出向する前、『警視庁には‘‘特殊刑事課’’という超エリート変態集団がいる』という噂で聞いたことがある。その時は『そんな集団いるわけないだろ』と部隊のみんなで笑っていたのだが……。もしかしてこいつが……

 

 

 俺は冷汗をかき始めた。その『太った変質者』が何か言っているが、全く頭に入らない。

 するとあちこちのマンホールからイルカが飛び出てきた。そのイルカが手榴弾を『ショーのボール』の様に敵車輛へ投げつけ、撃破していく。

 

 

 

 

 

  ブロロロ!!!

 

今度は上空でエンジン音が聞こえてきた。俺は上空を見ると『双発レシプロ機の翼に乗ったセーラー服を着た変態親父二人』がいた。

 

「華麗な変身、伊達じゃない。月のエナジー背中に浴びて、正義のスティック闇を裂く。空の事件なら任せてもらおう!!特殊刑事課三羽烏の一人、月光デk……」

 

  ズドドドド……

 

『セーラーコスプレ親父二人』が乗っている双発レシプロ機を‘‘スツーカ’’が攻撃した。

 

 ……よっしゃ!!ナイス‘‘スツーカ’’!!

 

 俺達三人は全員でガッツポーズをしていた。

 ‘‘スツーカ’’の攻撃によって双発レシプロ機は火を吹いた。双発レシプロ機はそのまま敵の追手のど真ん中に墜落し、敵数両を巻き込んで爆発炎上した。

 

「おいコラァ!!口上の最中に攻撃するとはマナー違反だぞ!!」

「自分、名乗ってすらいないし……」

 

後ろで何か聞こえるが……気のせいだ。気のせいに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 両川と本田、そして爺さんは『勝鬨橋』の運転室にいた。

 

「おい爺さん!!本当に覚えてるのか!?」

 

 この三人は『勝鬨橋』を動かすのに手を焼いていた。最後に動いてから50年以上経っており、しかも電気は通っておらず、可動部はロックされている。

 そこで三人は電気を通し、ロックを外すところから始まった。そして後は電源を入れるだけなのだが……この爺さん、その入れ方を忘れてしまっていたのだ。

 

「何だったかのぉ……あ!!」

 

爺さんは急いでツマミをひねった。すると計器の針が動き始め、モーターの音が聞こえ始めた。

 

「爺さん!!急いでくれ!!」

 

築地方面からボロボロのビュートが『勝鬨橋』目がけ、猛スピードで走ってくる。

 

「まぁ慌てなさんな。……開け!!勝鬨橋!!!」

 

爺さんはそう言って、レバーを時計回りに回した。

 

 

 

 

 

 

『勝鬨橋』まであと400mを切った。しかし、『勝鬨橋』は開く気配がしない。

 

 ……クソッ!!『勝鬨橋』は失敗か!!

 

 その時、勝鬨橋の前に『海パン一丁の筋肉男』が仁王立ちをしているのに気が付いた。

 

「「「……」」」

 

とても嫌な予感がする。

 

「股間のもっこり伊達じゃない。陸に事件が起こった時、海パン一つですべて解決!!特殊刑事課三羽烏最後の一人、『海パン刑事(デカ)』只今参上!!とおぅ!!」

 

『海パン男』は唯一着ている海パンを脱ぎ捨てて全裸になり、俺達目がけて走り出した。

 

「っておい!!来るな、来るなぁーーー!!!」

「(英語)クソ!!コイツ!!」

「……東京、コワイ」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)、西住さんは『全裸の男』目がけて発砲するが、当たる気配がしない。

 『全裸男』はボロ車(ビュート)にぶつかる瞬間、走り幅跳びの様に地面を蹴って宙を舞った。

 

「ゴールデンクラッシュ!!!」

 

『全裸男』は大声でそう言った後、ボロ車(ビュート)を飛び越えた。

 

 ……なんで飛び越えたんだ?あ、まさか……

 

「「ギャァアアアアアア!!!」」

 

ボロ車(ビュート)の上から女性の悲鳴が聞こえた。その後、『海パン男』・『忍者コスプレ少女』・牛若が地面へ落ちる様子を、俺はバックミラーでしっかり見ていた。

 

 

 

 

  ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 俺は心の中で牛若と『忍者コスプレ少女』に合掌したとき、轟音と共に目の前の道路が上がり始めた。『勝鬨橋』が開き始めたのだ。

 

「しっかり捕まってろよ!!」

 

  キィイイイイン!!!

 

俺はアクセルをいっぱいに踏んだ。ボロ車(ビュート)のエンジンからは『悲鳴のような高回転音』が大音量で聞こえてくる。

 

「(英語)クソッ!!坊主がいるといつもこれだ!!」

「え!?村田さん!!なんか橋が上がってるんですけど、何する気なんですか!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は顔をこわばらせながらアシストグリップ(車の天井に着いている手すり)をしっかりと握った。西住さんはヒステリー気味に大声で俺に訊ねながら急いでシートベルトをつけた。

 

「行け!!お前の意地を見せてみやがれ!!」

 

速度計の針が千切れ飛んだ。それと同時にボロ車(ビュート)は橋を登りあがり、空を飛んだ。

 

「「「うわぁああああああ!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 




 パイクカーとは……要は『見た目重視の車』。大体既存の車を改造して造ることが多い。そんな車はスピードとは縁がありませんよね(一部例外を除く)。


 戦車道では第二次大戦中の戦車を使うという事は……MG42機関銃も使えるよね!!という事です。


 勝鬨橋は可動橋で、1970年まで開閉していたそうです。


 久しぶりに‘‘スツーカ’’の登場です。という事は……

 こち亀の特殊刑事課が登場です。

 イブキの通ったルートは
 首都高1号上野線『上野』で乗り、今度は『江戸橋ジャンクション』都心環状線C1に乗り換え(ここでトラックと離れた)、『銀座』で降りる。そして都道304号線・晴海通りをまっすぐ行けば勝鬨橋。となってます。


Next Ibuki's HINT!! 「ヘルメット」 


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Die Hard3 in Tokyo 不死身は死なない……

遅れて申し訳ありません。
 理由としましては……期末レポートの作成、試験前に出された膨大な課題の数々……それに文字数の多さと校正。

 基本1話当たり8000~10000字を目安にし、1日最低1000文字以上としているのですが……最近13000文字程度にまで膨れ上がる始末。おかしい、どうしてここまで膨れ上がる?


 前もって書いておきますが、この小説は人種差別を助長する物ではありません。


「「「うわぁああああああ!!!!」」」

 

  ガシャン!!ベキベキベキ!!  

 

空を飛んで数秒後、ボロ車(ビュート)は地面にぶつかり、数十メートル転がってやっと止まった。タイヤ四つがちゃんと地面に接地して止まったため、エンジンが死んでいなければこのまま走り出せるはずだ。

 

「グォオオ……」

 

俺は運転席側のシートベルトは千切れて使用不能だったため、車の衝撃がもろに体へ直撃したのだ。そのせいで体は新たな打撲を作り、閉じていた傷が開いてしまったのだが……頭はヘルメットのおかげで何とか守れたようだ。

 

 ……へ、ヘルメットしてなかったら死んでたな。

 

 

 

「(英語)嬢ちゃん、生きてるかぁ?」

「二人のせいで死ななくなりました……」

 

西住さんはこんな皮肉を言えるので、きっとピンピンしているのだろう。

 ジョニー・マクレー(おっさん)は元々心配していない。どんなことが起こってもジョニー・マクレー(おっさん)なら生き残るだろう。

 

「(英語)なんだよ、おっさん。俺の心配はないのか?」

「(英語)坊主がこれぐらいで死ぬはずねぇだろ?」

「(英語)嫌な信頼だなぁ」

 

俺はヨロヨロとボロ車(ビュート)を出て、後ろの『勝鬨橋』を見た。『勝鬨橋』は可動部が直角に持ち上がっており、墨田川には沢山の車が浮かんでいた。

 

 ……『勝鬨橋』が開いているなんて、初めて見たな。

 

何十年も動かなかった巨大な機械が、たった今動いたのだ。感動しないはずがない。

 

 ……だけど、感動している暇はないよな。

 

俺達は急いで『東京港』へ向かわなければならない。俺はため息をついた後、上空で旋回する‘‘スツーカ’’と『勝鬨橋運転室』に敬礼した。

 ‘‘スツーカ’’は俺の敬礼を確認したのか、翼を振っていた。俺はそれを確認すると、ボロ車(ビュート)に乗り込んでエンジンを掛けた。

 

  キュルキュル……ボン!!ドッドッドッ……

 

このボロ車(ビュート)、見た目の割には頑丈なようで、エンジンは生きていたようだ。

 俺はギアを操作した後、(いた)わる様にゆっくりとアクセルを踏んだ。

 

「追手はもういないはずだ!!『東京港』まで突っ走るぞ!!」

 

ボロ車(ビュート)は快調にスピードを上げていった。

 

 

 

 

 

 

 『勝鬨橋』から飛ばし、東京臨海新交通臨海線『ゆりかもめ』青海駅近くに来た時だった。

 

「(英語)坊主!!あそこだ!!」

 

俺はボロ車(ビュート)を止め、ジョニー・マクレー(おっさん)の指さす方向を見た。そこには、‘‘お台場ライナー埠頭’’に俺達が追っていたトラックが多数置いてあった。しかし、そこにいたコンテナ船はすでに(もやい)を外し、出航を始めていた。今から‘‘お台場ライナー埠頭’’に向かっても手遅れだろう。

 

「(英語)今からあそこに行っても間に合わねぇぞ!!クソッタレ!!」

 

俺は大声で言う事で苛立(いらだ)ちを押さえた。

 

 ……あの動き出した船に乗り込む方法はあるか?

 

俺は周りを見渡し、使えそうなものを探す。

 

 ……近くには橋がないから飛び降りによる侵入は無理。上空に飛んでいるヘリを使うには新木場まで行かないと使えないから不可。となると……

 

「あ、あれはどうですか!?」

 

西住さんが指さした先には……目の前、青海駅付近の桟橋に停泊していた屋形船があった。

 

「あれは観光用だ。追いつけるか分からないぞ!?」

 

屋形船は観光用で速度はそこまで出ない。それに対し貨物船やコンテナ船はおおよそ24ノット程度(時速44キロ程度)……果たして追いつけるのか?

 

「(英語)出航直後でしかも湾内だ!!スピードは出ない!!坊主は海軍の端くれなら分かってるだろ!?」

「(英語)うるせぇ!!海軍兵学校の実地訓練以来、船には縁がないんだよ!!」

 

 ……あれ?俺って一応、海軍所属なんだよな?なんで陸戦ばかり……

 

これ以上考えると大事な物が失われそうな気がしため、俺は思考を切り替えた。

 

「と、とにかくあの桟橋に向かうぞ!!」

 

桟橋までは目と鼻の先だ。

俺はボロ車(ビュート)を歩道に乗り上げさせ、柵を蹴破って桟橋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京のとある小学校にて……

 

「少佐殿!!」

 

藤原石町少佐は『爆弾探し』をしながら、後輩:村田大尉からの情報を上層部に報告し、彼への支援まで取り付けるというハードな仕事量をこなしていた。

 さて、十数校目の『爆弾探し』を初めて3分後、兵の一人が藤原少佐を呼んだ。

 

「どうした?」

「少佐殿、スイマセンが確認をお願いします!!」

「分かった。案内を頼む。」

 

藤原少佐は兵の後ろをついて走って行った。

 

 

 

「これを見てください!!今朝届けられたそうです。10時半だったか?」

 

兵は用務員に聞くと、用務員は首を縦に振った。そこに合ったのは、大きな業務用冷蔵庫だった。

 兵は業務用冷蔵庫の後ろに回り、電源用コードを見せた。

 

「このようにコンセントに繋がっていません。」

 

コードは切られており、銅線が丸見えだった。

 

「それで?」

「正面を見てください。」

 

藤原石町少佐は冷蔵庫の正面に立った。冷蔵庫はコンセントが繋がっていないのにも関わらず電源ランプがついており、温度表示もされていた。

 

「…………急いで爆弾処理班に連絡しろ。今すぐだ。」

 

藤原石町少佐は淡々と指示を始めた。

 

 イブキや藤原石町少佐はまだ知らない。この小学校にはイブキが保護した車椅子の少女:八神はやてが通学していることを……

 

 

 

 

 

 

 ボロ車(ビュート)が桟橋の手前に着くと、俺達三人は急いで降りて屋形船へ走った。

 桟橋には船頭だろうか、数人がタバコをふかしながら談笑していた。

 

「……?おい、あんた達、まだ時間は早いz……」

「「「武偵だ!!(警察だ!!)屋形船を出せ!!」」」

 

俺達三人は持っている銃をその船頭たちに向けながら要求を言った。

 

「「「「……おい!!ちょっと!!」」」」

「「「早くしろ!!(してください!!)」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‘‘サイモン’’は『東京港』へ着くと、自ら船への詰め込みの指揮に当たった。

 10分後には詰め込みは終わり、中国企業が港湾運営権を持つスリランカ・ハンバントタ港への長い航海が始まった。

 

「マシアス、私達は囮として調布へ向かう。後は頼んだぞ。」

「あぁ、任せておけ。」

 

‘‘サイモン’’はタルゴ夫妻の夫:マシアス・タルゴの肩を叩きながら言うと、なんとも心強い返事が返ってきた。

 

「……全く、この子達も可哀想なものだ。あんな‘‘やくざ者’’達たちの投資家に目を付けられるなんて。確か……‘‘Pastel*Palettes’’だったか?」

 

 艦橋にはライブハウスから誘拐した10人のうち‘‘Pastel*Palettes’’の5人、そして高鏡組組長:高鏡菊代の計6人の少女が縄で縛られていた。彼女達は猿轡(さるぐつわ)をかまされ、睡眠薬で眠らされている。

 ‘‘サイモン’’は同情するように彼女たちを見た。

 

「……輸送機の方にもお嬢さん達がいるだろ?……俺達は‘‘Chon〇y’’の手先になった覚えはないがな!!」

 

  バン!!

 

マシアス・タルゴは思い切り艦橋の壁を蹴った。鋼鉄の壁にヘコミの痕がついた。

 

「マシアス、彼女達は我々が躍進するための必要な犠牲だ。今までにも沢山の犠牲者が出ただろ?」

「ッ……!!」

 

‘‘サイモン’’の冷酷な言葉に、マシアス・タルゴは反論することができなかった。

 

「とにかく、‘‘後は’’頼んだぞ」

 

‘‘サイモン’’はそう言い放った後、艦橋を出ていった。

 

 

 

「部下を退去させろ。左舷のランチ(大型船に搭載される小型船)で待て」

 

‘‘サイモン’’の後ろをタルゴ夫妻の妻:カティア・タルゴ(タルゴ夫妻・妻)はさりげなくついて行った。

 

 

 

 ‘‘サイモン’’は左舷へ向かいながらニヤリと笑った。

 囮は自分達ではなく、この船なのだ。今回『東京国立〇物館』から奪った美術品は百点以上だが、一つ一つが小さくて軽いため、総重量は3トンにも満たなく、容積もそれほど多くはない。そこで、調布飛行場に停めてある輸送機による輸送も可能なのだ。

 

 ‘‘サイモン’’は左舷の小型船に乗り込み、部下達はその船を海面まで降ろしていた時、背中に誰かが抱き着いてきた。‘‘サイモン’’は首をひねると、そこにはカティア・タルゴ(タルゴ夫妻・妻)がいた。‘‘サイモン’’は体を後ろへ回し、彼女の口へキスをする。

 ‘‘サイモン’’とカティア・タルゴ(タルゴ夫妻・妻)は……男女の関係を持っていたのだ。

 

 

 船が海上に浮かぶと二人はキスを止めた。それと同時に部下達が小型船へ乗り込んでくる。

 

 ……あとは調布飛行場へ行き、輸送機に乗るだけだ。ムラタやマクレーなどの不安要素はあったが、私にかかればどうという事はない。

 

 タルゴと残る部下を除いた全員が小型船に乗った事を確認すると、ダンプが止まってある‘‘お台場ライナー埠頭’’へ向けて小型船は動き始めた。

 

 ……こんなところに観光用の船がある。‘‘屋形船’’だったか?こんなところも観光するのか?日本は不思議な国だな。

 

マシアス・タルゴ(タルゴ夫妻・夫)が残るコンテナ船へ、ゆっくりと‘‘屋形船’’が近づいていくのを‘‘サイモン’’は確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若い船頭が屋形船を操船し、俺達はコンテナ船を追っていた。

 

「なるほど、犯人が船で逃走ですか~。大変ですね~」

 

その若い船頭は(きも)が据わっているのか、ニコニコ笑顔に‘‘のほほん’’とした口調で舵を取っていた。

 

「……今から爆弾魔のテロリストの船に近づくんですよ?怖くないんですか?」

 

西住さんは屋形船に置いてあったオレンジジュースを拝借し、それを飲みながら一息ついていた。

 

「実感がないんですよねぇ~。先週なんか年末年始の番組のロケだそうで、この船にカヌーが荷物を運びに来たり、去年なんか綱渡りでしたっけ?それなんで、今回のも『またテレビ局の番組かな~』なんて半分思っちゃってますね~。」

 

『確かウルトラマンがどうとか……』と、若い船頭は気の抜けるような口調で答えた。

 

 ……まさか‘‘平和ボケ’’にも利点があったなんてなぁ。……ていうか、『屋形船を追うカヌー』ってどんな番組だよ!!

 

「(英語)坊主、そろそろだぞ。」

「(英語)分かってるよ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)の言葉を聞き、俺は船頭に突っ込むタイミングを失った。

 俺はため息を吐いた後、敵のコンテナ船を見あげた。水面から甲板までの距離は10m以上ありそうだ。

 俺はベルトのバックルに仕込まれてあるワイヤーを取り出し、折り畳み式の鉤爪(かぎつめ)を展開した。そして頭上で回転させて勢いをつけ、コンテナ船に向かって投げた。

 

  カン!!

 

鉤爪(かぎつめ)は一発でコンテナ船の手すりに引っかかった。

 

「へぇ~、上手いもんですね~」

 

若い船頭の声で気が抜けそうになる。しかし、俺は何とか耐えてこの‘‘船の舷側(鉄の絶壁)’’をワイヤー1本で登り始めた。

 

 

 

 俺は甲板まで登ると周囲を確認し、敵の有無を調べた。敵は周りにはいないようだ。

 そこ俺は‘‘四次元倉庫’’から縄梯子(なわばしご)を出して手すりに(くく)り付け、屋形船へ向かって投げ渡した。ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんは3分も経たずにその縄梯子(なわばしご)を登った。

 

「あ、あの……これの弾ってまだありますか?」

 

西住さんは背中に背負ったMG42(重量12キロ弱)を指さして言った。

 

 ……よくそんな物を背負いながら縄梯子を登れたな。戦車道ってヤベェ……

 

俺はそう思いながら‘‘四次元倉庫’’をあさって探してみるが……MG42用の弾薬が見つからない。

 

 ……と言うか船内での室内戦に汎用機関銃はいらないだろ。

 

室内戦で有用な短機関銃(サブマシンガン)を‘‘四次元倉庫’’から探すが、どうも見つからない。

 

「弾がもうない。その銃は捨ててコレを使ってくれ。」

 

俺は予備の44式騎兵銃と弾薬盒(だんやくごう)(弾薬を詰めた携帯用の箱)を西住さんに渡した。西住さんは44式騎兵銃を渡された後、顔をしかめた。

 

「あ、あの……どうやって撃つんですか?」

「ん?……戦車道じゃ教えないのか?」

「戦車道は『戦車の使い方』を教わっても、『ライフルの使い方』は教わりません!!」

 

西住さんは俺を睨みながら反論した。戦車道では車載機関銃(MG42)の使い方は知っていても、小銃の使い方は知らないらしい。

 

「(英語)嬢ちゃん、見てろ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は西住さんに渡した44式騎兵銃と弾を取り上げた。

 

「(英語)ボルトを引いて弾を込める。そしてボルトを戻して引金を引くだけだ。」

 

  ガチャッ!!ガチャコン!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は見せつけるように弾を込めてボルトを戻した後、西住さんに銃を返した。

 

「これだけですか?」

「(英語)あぁ、そうだ。自分を撃つなよ。……おい、坊主。こんな骨董品しかないのか?ジジイでもこんな銃は使わねぇぞ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は俺が貸したワルサーP38に弾を込めながらため息交じりに行った。

 

「(英語)うるせぇ。44式騎兵銃(あの銃)は予備だし、ワルサーP38(その銃)は在庫処分品だ。」

 

俺はそう言った後、38式歩兵銃を取り出して銃剣を装着した。ジョニー・マクレー(おっさん)は俺の取り出した銃を見て(あき)れた様な表情をする。

 

 ……おっさんは分かってないなぁ。弾幕は張れないないが……着剣すれば槍のように扱えるこの長さ、反動の軽さに命中率の良さを兼ね備えた銃はこいつぐらいなのに。

 

 俺は‘‘四次元倉庫’’から日本刀を出して腰に挿した後、自分の汗と血が染み込んだ38式を一撫でし、痛む体を動かして船内へ潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タルゴ様、ちょっと見てもらいたいものがあるんです!!」

 

 部下の一人が艦橋に飛びこんできた。彼はの任務は船倉の戦利品(コンテナ)警備だったはずだ。

 

「今は忙しい、後にしろ。」

 

この東京湾を出るまでは一切気が抜けない。そのため部下の進言を却下し、艦橋の計器類と地図を確認する。

 

「とても大事なことです!!」

「後にしr……」

「今すぐに!!」

 

部下はマシアス・タルゴの腕を取って大声を発した。そして艦橋に居る人員の位置を確認した後、マシアス・タルゴにしか聞こえないように耳打ちをした。

 

「宝物がプラゴミに化けたんです……」

「……!?」

 

部下が持っていたのは……‘‘朽ち果てたペットボトルのゴミ’’だった。

 

 

 マシアス・タルゴはその部下と一緒に船倉へ向かい、『東京国立〇物館』の宝物が入っているコンテナを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達三人は船内に潜り込んだ。船内はコンテナばかりで巨大な迷路のようであった。

 俺は耳を澄まし、敵の気配を探しながら着剣した38式を持って先頭を歩く。

 

  ブー……ブー……

 

船の中ほどに来た時、とても小さなブザー音が聞こえてきた。

 

「…………」

 

俺はハンドサインを出し、後ろの二人を止めた。敵の足音や気配を感じないため……ただ何かの機械が鳴っているのだろう。罠かもしれないが……もっと嫌な予感がする。

 

「(英語)音の方へ行くぞ」

「(英語)……分かった。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が先頭に立った。

 

「(英語)ここからは俺の仕事だ。」

 

そう言って音の方へ歩き出した。

 

 

 

 

 音の原因はすぐに見つかった。そこには……5トンは軽く超えそうな‘‘あの液体爆薬’’が使われた爆弾が置かれてあった。その爆弾はコンテナに囲まれおり、見えなくしていたようだ。

 

「え?……これって!?」

「(英語)……おっさん、何とか解除できないのか?」

 

爆弾のタイマーは残り15分を切った。

 

「(英語)こんな精密機械を止められると思うか?触れたとたんに爆発だってあり得るんだぞ!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は冷汗をかきながら言った。

 

「(英語)高速の時、爆弾いじって爆発させたじゃねぇか」

「(英語)‘‘止めるのは’’難しいが、‘‘爆発させる’’のは簡単なんだ!!……それにこれだけでかいと細工もしやすい。」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)ため息をつきながら、その高さ3mほどある爆弾を見上げた。

 

 

 過酸化アセトン5トンはTNT換算で3.5~4トン。という事は……計算上、戦艦大和の九一式徹甲弾103~108発分の炸薬、155mm榴弾砲(FH70)のM107榴弾530~606発分の炸薬となる。そんな量が一斉に爆発でもしたら……コンテナ船どころか戦艦や原子力空母ですら簡単に轟沈するだろう。

 

 

 ……こんな爆弾があるという事は、この船には『博物館の収蔵品』はないだろう。きっとこれは囮だ。だけど、収蔵品はどこに消えたんだ?

 

 関東の陸海空輸送ルートのうち、これで海の線はなくなった。となると残りは陸と空。日本は島国だから陸のルートだと海外へは渡れない。空だと空港は限られているし、今は超厳戒態勢のはず。いったいどうやって?

 いや、それもそうだが……この船が東京湾を塞ぐ形で沈んでみろ。その経済損失は果てしないことになるぞ!?

 

 ……急いでこの爆弾の解除方法を聞きださないと。

 

 俺は念のため、『旧芝離宮恩賜公園で拾ったスマホ』のアラームを起動させ、爆発1分前にアラームが鳴る様にセットした。

 

 

 

 

 

 俺達は爆弾から離れた。そして敵がいるであろう艦橋へ向かうため、再びコンテナの迷路を警戒しながら移動していた時だった。

 

  カツン……

 

左側から俺達ではない足跡が聞こえた。

 

  カチャカチャカチャ!!

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)、そして西住さんは左へ抜ける通路(?)へ銃を向けると……白人の男がいた。

 

「(ハンガリー語)Ne lőj!!」

 

  タァンタァンタァン!!ザク!!

 

白人の男が何か言っていたが、ジョニー・マクレー(おっさん)は問答無用で拳銃を撃ちこみ、俺は銃剣を刺した。西住さんは発砲しなかったが、俺達がやった事に‘‘眉一つ’’動かさなかった。

 

「(英語)なんて言った?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がその男が動かなくなったことを確認した後、ポツリと言った。

 

「(英語)『動くな!!』とでも言おうとしたんj……!?」

 

俺は適当に答えた瞬間、上から敵の気配を感じた。俺は慌てて防御態勢を取った瞬間、強烈な力を受けた。その力は防御態勢を力づくでカチ割り、顔面にぶつかったと同時に俺は宙に浮き、コンテナに激突した。

 

「ゴフッ!!」

「(英語)『撃つな』と言ったんだ……!!」

 

……クソッ!!なんて馬鹿力だ!!力だけなら鬼塚少佐以上、ベオウルフ並みはあるぞ!?

 

鼻から生暖かい液体が垂れてい行くのが分かる。

 俺は38式を杖代わりにヨロヨロと立ち上がると、そこには2m以上の大男がジョニー・マクレー(おっさん)の足を掴み、コンテナへ投げ飛ばしていた。

 

「(英語)この世で一番嫌いなのを知っているか?警察と武偵だ!!」

 

  ドスッ!!

 

 大男が倒れたジョニー・マクレー(おっさん)の腹を蹴飛ばす。

 

「ヤロォオオオ!!」

 

俺は力を振り絞って38式を握り、大男の背中に銃剣を刺し、そのまま引金を引いた。しかし、その大男は多少痛がった程度で倒れもしなかった。

 

 ……この野郎!!不死身か何かか!!

 

俺は銃剣を抜くと大男は俺の方へゆっくりと振り向く。そこで、銃床で大男の顎を殴りその場で一回転、そして股間に銃剣を刺した。

 

「ゴフッ!!」

 

俺はボルトを引いて弾を装填し、銃剣を抜いて大男の胸を撃った。

 

  タァン!!タァン!!

 

俺が大男に向けて再び発砲したと同時に、俺の横っ腹を弾丸が貫いた。

 

 ……は!?どういうことだ?

 

大男がゆっくりと倒れると、西住さんが涙目で銃を握っているのが見えた。その銃の銃口からは硝煙が上がっている。

 きっと西住さんが俺を助けようと発砲し、その弾がコンテナによる跳弾で俺に当たったのだろう。

 

 ……うわぁ、運がねぇ。

 

 俺が今着ている『武偵高校の制服』は防弾防刃使用になっているが、流石に西住さんが持っている44式騎兵銃の様なライフル銃の弾は防ぐことはできない。

 

「全く……。助けてくれるのは良いけど、外すんじゃねぇよ。」

 

西住さんに『この大男を殺した』という誤解と罪悪感を持たせないようにするため、痛む傷を無視しながら、俺は『おちゃらけて』いった。

 

「え!?今のは……」

「弾がそっち側に抜けているだろう。俺の弾だ。」

 

俺がそう言うと、西住さんは強張(こわば)らせていた顔を、ふにゃっとした顔に戻した。

 

「(英語)おっさん、さっさと起きろ。艦橋へ急いで向かうぞ」

 

西住さんが表情を元に戻したのを確認すると、俺はジョニー・マクレー(おっさん)の手を取り、無理やり立たせた。

 

「(英語)俺への心配はなしかぁ?」

「(英語)そこまで血だらけになっても、おっさんなら心配ないだろ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)の顔とシャツは鮮血と(ほこり)で赤黒く染まっていた。

 

「(英語)ハッ!!日本じゃ『水も滴る良い男』って言うんだろ?坊主は『血も滴る良い男』だな。」

「(英語)おっさんみたいな‘‘いい男’’になっただろ?」

 

 ……まだ俺は軽口が叩ける。だから……まだ大丈夫だ。

 

俺は血が足りず、ボーッとする頭を気力だけで働かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシアス・タルゴが艦橋から去って10数分後、白鷺千聖は目を覚ました。

 

 ……ここはどこ?

 

白鷺千聖はボヤッとした思考のまま周りを見渡した。自分のいる大きな部屋は鉄の壁に囲まれており、沢山の計器類がある。おそらく、船の艦橋であろうか?

 その部屋に屈強な男20人弱がおり、一部は計器類とにらめっこをしている。

 

 ……私は『ライブハウス:CiRCLE』で『Roselia』と一緒にリハーサルをして、その後……

 

 白鷺千聖はそこで自分が誘拐されたこと、そして自分が縛られていることに気が付いた。自分の置かれた環境に気が付き、恐怖心が胸の奥からあふれ出した。

 

「「ッ~~~~!!!」」

 

白鷺千聖と‘‘着物を着た少女’’は同時に叫んだが、猿轡のせいでまともな声が出せなかった。しかし、まだ寝ている‘‘Pastel*Palettes’’のメンバーはこの叫び声(?)で起きたようだ。

 

「(英語)ん?起きちまったか」

「(英語)麻酔は大目にしたんだが……本国の安物だからな」

 

黄色人種と白人の話が聞こえるが……何をしゃべっているのか理解できない。

 

「(中国語)()ってもいいか?傷が有無は問われたいないはずだ。ムラムラする。」

「(英語)こいつはなんて言ったんだ?」

「(英語)『()らせろ』だと。」

「(英語)……責任はそっちで取れ。俺達はあんたらに雇われただけだ。これだから‘‘Cho〇ky’’は……

 

白人の一人が汚らわしい物を見るような目で黄色人種の男を見た後、そっぽを向いた。

 

「(中国語)()ってもいいってよ。」

「(中国語)分かってる。俺、この金髪の子が好みなんだよな。」

「(中国語)あ!!クソッ!!次俺だからな!!」

「(中国語)中国の先生方、組長の方は俺が()ってもいいですか?今までの鬱憤がありましてね」

「(中国語)いいぞ~」

 

男たちがギロリと白鷺千聖やその他のメンバーたちを見た。白鷺千聖は何をしゃべっていたのか理解できなかったが、『自分が何かをされる』という事は薄々感づいていた。

 

 ……え?も、もしかして……

 

子役として名声を築き、今はその美貌で女優としての道を歩む白鷺千聖は感づいた。今まで自分には縁がなかったが、噂では耳にする『あれ』……。いや、それ以上にひどい物、『強姦』だと……。

 

「ッ~~~!!!」

「(中国語)いいねぇ~。俺はそうやって泣き叫ぶ方が好みだ。」

 

 黄色人種の男は舌なめずりをしながら、白鷺千聖の着ている服をナイフで切り刻み、肌を露出させる。

 

「(英語)いいなぁ~俺も混ざr……」

「(英語)フーベルト!!何を言ってやがる!!」

「(英語)タルゴ隊長は今いませんし、今ならこいつらがやったことにできる。いいでしょう?なぁ、お前ら……」

「(英語)……クソッ!!勝手にしろ!!」

 

後方で白人同士がの言い合いをしているが、白鷺千聖の耳には届かない。

 男はある程度服を切り刻んで白鷺千聖の肌を大幅に露出させた後、汚物をさらけ出した。

 

 ……い、いや!!助けて!!助けてイブk……

 

  バン!!ダァン!!タァンタァン!!

 

この部屋の扉が蹴破られると同時に、発砲音が響き渡った。全員がその音の方向を見ると……そこには血まみれの中年男性と青年、そして少女がいた。

 

 ……い、イブキ!?

 

白鷺千聖には、血まみれの青年が『白馬の騎士』に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は血が足りないせいで時々意識がなくなりかけるが、気合と根性で何とか艦橋まで走り抜けた。

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は扉を蹴破り、目の前にいた男を問答無用で射殺し、38式のボルトを操作しながら艦橋へ入ると……‘‘Pastel*Palettes’’の5人と高鏡組組長:高鏡菊代が強姦される寸前だった。

 

「ハハハ……」

 

俺は何故か口角が上がり、笑い始めた。

 

 ……こういう様な事は、軍の時は沢山あっても、武偵高校に出向してからは無かったっけ。それに、軍の時は辻さん・神城さん・鬼塚少佐が俺以上に怒り心頭だったから、逆に冷静を保てたが……今回は無理そうだなぁ

 

俺は『白鷺千聖を犯そうとしていた男』の頭をぶち抜いた後、その38式を『高鏡菊代を犯そうとしていた男』に投げ刺した。

 そして左手でホルスターから14年式拳銃を抜き、右手で腰の日本刀を抜刀した。

 

「あぁ……皆殺しだ!!一人もここから逃がすな!!」

 

俺は‘‘Pastel*Palettes’’のメンバーに群がる奴らに接近して切り捨てた後、残っていた奴らに銃撃を食らわせる。

 ジョニー・マクレー(おっさん)は銃弾を敵にくらわした後、弾切れになった‘‘俺の’’ワルサーP38 を投げ捨て、一人に格闘戦を仕掛ける。

 西住さんは敵から奪ったナイフを使い、‘‘Pastel*Palettes’’や高鏡菊代を縛る縄を切り、彼女たちを解放させた。

 

 

 

 

 

「(英語)ま、待ってくれ!!私はやってない……!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が格闘戦によって一人を倒した。そして最後に残った白人の男は両手を上げ、降伏の意思を示した。俺は投げた38式を回収し、ボルトを操作しながらその男に突きつける。

 

「(英語)おい、‘‘サイモン’’のくそ野郎は何処へ行った?ついでに『博物館の収蔵物』は何処だ?そして船の爆弾の解除コードを教えろ!」

「(英語)‘‘サイモン’’様は別の場所へ向かった。私はその場所は分からない!!それに宝物はこの船にあるはずだ!!‘‘サイモン’’様が荷詰めの指揮に当たったはずだ!!爆弾!?何のことだ!?」

 

銃剣の切先(きっさき)が両手を上げる男の首に触れた。

 

「(英語)……本当か?」

「(英語)ほ、本当だ!!」

 

この男は嘘をついていない様だった。だが……爆弾も知っていないという事は、コイツは組織の末端にいたやつなのだろう。

 

 ……‘‘サイモン’’自らやったってことは、いくらでも偽装はできる。という事は、こいつは重要な情報を全く持ち合わせいない、ただ強姦を黙認した男なんだな。

 

「(英語)あぁ…‥残念だ。全く残念だ。」

 

  バキッ!!

 

 俺は38式の引金を引きそうになるが、それを我慢した。その代わり、銃床で男の顔を殴りつけた。

 

 ……強姦を‘‘見て見ぬ振り’’した野郎も、殺してやりたい。だが、この事件の犯人全員を殺すとなると、その後の対応が……藤原さん達の後始末が面倒になる。

 

「(英語)坊主……気が晴れたか?」

「(英語)……あぁ」

「(英語)おいおい、キャラがブレてるぞ」

 

俺が殴った後、ジョニー・マクレー(おっさん)が場を(なご)ませるように冗談を言いながら男を縄で縛った。

 

 

 

 

 ……とりあえず、艦橋の制圧完了。爆弾は‘‘解除コード’’が分からないため放置。あと、なんでここに‘‘Pastel*Palettes’’の5人と高鏡菊代が?

 

俺は彼女達の方へ向いた。‘‘Pastel*Palettes’’の白鷺千聖を除いた4人は大丈夫だったようだ。しかし、白鷺千聖は服を引きちぎられ、ほぼ裸同然の姿のまま呆然としていた。

 

 ……いつまでもこんな状態はマズいな。

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から何か羽織れる物を探すが……ちょうどいい物が見つからない。

 

 ……血だらけで悪いが、これでも着てくれ。

 

俺は‘‘武偵高校の制服’’の上着を脱ぎながら、白鷺千聖の前に立った。白鷺千聖はビクッ震えた後、己を守る様に自分の体を抱きしめる。

 

「助けが遅れて悪かった。護衛なのにな。」

 

俺はしゃがんで彼女に上着をかけた後、頭を一撫でした。白鷺千聖は(うつむ)いているため、表情が分からないが……この嗚咽は彼女の物だろう。

 白鷺千聖を安心させるため、彼女を抱きしめたほうがいいのだろうが……そんな時間はなさそうだ。

 俺はスッと立ち上がると、『旧芝離宮恩賜公園で拾ったスマホ』のアラーム画面を見た。

 

 ……残り5分弱。という事は6分弱で爆弾が爆発する。爆発するにせよ、東京湾を塞ぐようにこの船を沈めたら経済損失が半端ない。どうすればいい?

 

 

 

 

 

 

 俺が頭を抱えていたその時、肩を叩かれた。俺は振り向くと、そこには着物の‘‘乱れ’’を直す高鏡菊代がいた。

 

「まさかアンタが来るは思いませんでした。村田大尉殿?」

 

‘‘乱れ’’を直し、帯を締め直した高鏡菊代は床に転がっている肉塊から銃を剥ぎ取り、弾を装填する。

 

「キンジじゃなくて悪かったな。……なれない敬語は止めろ」

「そう?」

 

高鏡菊代は敵の戦闘用ナイフの刃の鋭さを確認し、帯に差し込んだ。

 

「……犯されかけたのにタフだな。」

「伊達にヤクザの組長はやってないわ」

 

高鏡菊代は剥ぎ取った短機関銃(サブマシンガン)のボルトと安全装置を自然に操作する。

 

「ヤクザも短機関銃(サブマシンガン)を扱うのか?禁酒法時代のマフィアか何かか?」

「……武偵中学に通っていたから。」

 

高鏡菊代がそう言った時、目の前には『武偵高校の浮島』と『空き地島』が見えてきた。

 

「そうだ!!武偵高校だ!!空き地島だ!!」

 

俺は『空き地島にこのコンテナ船を突っ込ませる』ということを思いついた。空き地島の周囲には埠頭(ふとう)はなく、民間人はほとんどいないため、船が爆発しても被害は余りでないはずだ。

 ただ一つ問題があるとすれば、こんなバカでかい船を操船できる人間がいるかどうか……

 

「(英語)おっさん!!この船、操船できるか!?」

「(英語)何言ってやがる坊主!!出来るわけないだろ!?」

「(英語)クソッ!!俺がやるしかねぇか……!!」

 

俺は艦橋を走り、操舵輪(ステアリングホイール)の前に立った。

 海軍兵学校の時、実地訓練で操船方法を教わったことがあるが……その時使ったのは舵が効きやすい‘‘小型練習船’’。しかし、今から扱うのは‘‘超大型コンテナ船’’。勝手が全く違うが、果たしてうまく扱えるかどうか……。

 

「面舵いっぱーい!!」

 

俺は操舵輪(ステアリングホイール)を思いっきり回した。

 

「あ、アンタ何やってんの!?岸にぶつかるでしょ!!」

 

高鏡菊代が俺を突き飛ばし、操舵輪(ステアリングホイール)を元に戻そうとする。俺は慌てて高鏡菊代を投げ飛ばし、操舵輪(ステアリングホイール)や機関出力を確認した。

 

「おいバカ止めろ!!この船は爆弾が乗っかっtt……!!」

「(英語)タルゴ様、万歳!!」

 

投降してジョニー・マクレー(おっさん)が捕縛した男が、なぜか縄を解いて拳銃とナイフ持って立っていた。きっと持っているナイフで縄を切ったのだろう。

 その拳銃の銃口の先には、投げ飛ばした高鏡菊代と白鷺千聖が……

 

 ……クソッ!!あの男を無力化する時間がねぇ!!

 

俺は駆け出し、高鏡菊代と白鷺千聖に覆いかぶさった。

 

  ダァンダァンダァン!!

 

俺の頭に強い衝撃が伝わった瞬間、‘‘強制シャットダウン’’の様に全ての感覚・思考回路がプツンと切れた。

 

 

 

 

 

 

  ダァンダァンダァン!!

 

「(英語)くたばれジャガイモ野郎!!」

 

イブキが撃たれた後、ジョニー・マクレーはその男を射殺した。

 射殺してから10数秒後、イブキは一向に立ち上がろうとしない。

 

「ドサクサに紛れて何処触れてるの!!」

「アイドルに何してるのよ!!」

 

高鏡菊代と白鷺千聖はイブキの顔を押しのけようとするが……イブキは一切動こうとしない。

 重いイブキから二人は何とか脱出した。しかし、イブキはうつ伏せのまま身動き一つ取らない。

 そんな状況を不思議に思ったのか、他の‘‘Pastel*Palettes’’メンバーや西住みほが動かないイブキのもとに集まりだし……

 

「「「「「「……!!」」」」」」

 

全員が驚いた。イブキの被っていたヘルメットの後頭部には穴が開いており、頭から血がドクドクと流れて池を作っている。

 

「い、イヤ……」

 

白鷺千聖は血で汚れるのを一切気にせず、イブキを急いで仰向けにした。イブキは目をかっぴらいたまま、動かない。

 高鏡菊代がイブキの首に手を置いた。

 

「……脈がない。」

「何で、なんで私と仲良くなると死んじゃうの!!‘‘浩二’’も!!イブキも!!」

 

白鷺千聖の慟哭がコンテナ船に響き渡った。

 

 

 

 

 

    完

 

 

 

 

 ‘‘関東の酒飲’’の次回作、『密着!!冬木税務署24時 ~魔術師(脱税者)達を見つけ出せ~(仮)』をよろしくお願いいたしm……

 

「俺は生きてるぞ!!!!」

 

 ……という事なので、『少年士官と緋弾のアリア』はまだまだ続きます。

 




 藤原少佐のせいで前話の『変態刑事3人衆』が呼ばれたと……彼らの出番はまだあります。

 『Chon〇y』は英語圏で使われる中国人の蔑称。もちろん差別用語のため、みなさんは絶対に真似をしないでください


 マシアス・タルゴは武偵もいるハードな世界でテロをしていたため、原作以上に強くなっています。

 『浩二』とは……斎藤浩二、白鷺千聖が子役デビューの前から世話になっていたディレクター。ジョン・F・ケネディ国際空港の事件の際、ウィンザー114便に乗っており死亡。


 もちろん『少年士官と緋弾のアリア』はまだまだ続きますので安心してください!!
 ん?……『冬木税務署24時』?え、えぇ……いつか書きますよ、いつかは……(そんなこと言って『ドリフ(リアル)×Fate』も『Fate×二瓶鉄造』も下書き数行書いて放置状態ですが)。他の作者さん!!このアイディア使ってSS書いてもらって構いませんよ!!


  Next Ibuki's HINT!! 「イルカとヤシの木カット」 


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Die Hard3 in Tokyo 『おねーちゃん』を探しますか……

遅れて申し訳ありません。
 
基本は来週から2週間試験やレポートが始まるのですが……
 『そう言えば試験期間中に学会あるんだった。1週間早くテストからよろしくね~』
という急にいう教授がいたせいで、ストックを作る時間がありませんでした。


 次話も確実に遅れると思います。誠にすいません。









 

 

俺は目を覚ますと、小舟の上にいた。その小舟は黄河やナイル川・アマゾン川の様な巨大な川を渡っているようだ。

 

「お?やっと起きたかい?いやぁ~さすがに話し相手がいないのは寂しくってねぇ~」

 

小舟には癖のある赤髪をツインテールにし、半袖の着物(?)を着た少女が船首に座り、こちらを見ていた。

 

「‘‘幻想郷’’の方だと人魂になるんだけど、こっちは違うみたいだね。いやぁ~これだと話がいがあるってもんよ。……あ、悪い悪い。あたいの名前を言ってなかったね。あたいは小野塚小町って言うんだ」

「……村田維吹です。」

 

 

 

 

 この自称死神がペラペラと良くしゃべる。

 なんでも最近、『両川勘吉』という眉毛つながりの男が‘‘この世界の’’地獄へ落されたそうだ。その男は地獄で反省すると思いきや、閻魔大王の政権を奪うべく反乱を起こして成功させ、地獄の独裁者となったらしい。そのまま天国に戦争をふっかけ、地獄も天国もボロボロになったそうだ。ついでに、その『両川勘吉』は生き返って常世(とこよ)を満喫しているらしい。

 

「と言うわけで、人手が足りないから違う世界の死神であるあたいがここで手伝ってるってわけ。全く、これじゃぁサボれないったらありゃしないさ。」

「……へ、へぇ。そうですか。」

 

 ……その『両川勘吉』って『両川さん』の事じゃないよなぁ。

 

俺はあの『眉毛つながりの破天荒警官』を思い出した。正直に言って、あの人なら『

地獄でクーデター』ぐらい普通に想像できる。

 

 ……って言うかここ三途の川!?俺死んだの!?あんなので!!……いや、この話を聞く限り、生き返ることは可能だ。『両川さん』にできたんだ、俺だってできるはずだ!!

 

俺はさりげなく自分の持ち物を確認した。俺の所持物は、着ている白の浴衣(?)に帯だけのようだ。

 

「小野塚さん、船が向かう方向が‘‘あの世’’ですか?」

「小町でいいさ。そうそう、それで合ってる。ついでに逆方向が‘‘賽の河原’’d……!?」

 

俺は油断していた小野塚さんに一気に近づき、着物(?)を掴んで川へ投げ飛ばした。

 

「悪いが小野塚さん!!俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!!じゃぁな!!」

 

俺は舵を取って進路を変えようとし……自動でこの船が動いていることに気が付いた。どうやっても進路を変えられそうにない。そこで俺は白の浴衣(?)を脱ぎ捨てて川に飛びこみ、‘‘賽の河原’’へ向けて必死に泳ぐ。

 さて、この‘‘三途の川(?)’’では海水やプールの様な浮力をほとんど感じない。まるで重しを背負わされて泳がされている様だった。

 

 ……だけど俺には関係ねぇ!!軍で『荷物を持ったまま遠泳』の訓練は伊達にやってないぜ!!

 

 

 俺は必死に泳ぎ、やっと岸に着いた。周りに居る獄卒(地獄にいる鬼)達や衣服を剥ぎ取っている爺婆(ジジババ)がギョッと俺を見てくる。

 俺は硬直している獄卒の一人に近づき、持っていた金棒を奪って殴り倒した。

 

「俺は生きてる!!俺は生きてるぞぉおお!!」

 

俺はそう叫び、手あたり次第に獄卒達をその金棒で殴り倒していく。

 

「おい!!ちょっと待て!!今は両川のせいで混乱が起きているんだ!!だから反乱は止めt……!!」

「うるせぇ!!」

 

  バキ!!

 

俺は両手を上げて許しを請う鬼も殴り倒す。

 

 ……鬼は法律も‘‘ジュネーブ条約’’も適用外だ!!例え‘‘鬼畜’’と言われようとも俺は生き返るぞ!!

 

「お前ら未練はないか!!俺はある!!……生き返りたくば武器を取れ!!戦え!!ここがあの世なら死ぬことはない!!」

 

 俺はそう叫びんだ後、獄卒共の親玉であろう3m近いの大鬼に接近し、鬼の股間を金棒で殴りあげた。

 

「……!?」

 

大鬼は股間を押さえて白目をむき、泡を吹いて倒れる。

 

「お前ら!!生き返りたくばついてこい!!」

「「「「おぉおおお!!!」」」」

 

 血の気のない、三角頭巾(頭に付ける三角の布)を被った数百人の者達が倒した獄卒から武器を奪い、また転がっている石を拾って残った獄卒共を襲い始めた。

 親玉が倒されたせいか、残った獄卒は逃げ出し始めるが、三角頭巾を被った者たちは執拗に追う。その様子は波のように伝わり、最終的には数万人もの亡者たちが獄卒を追い立て始めた。

 

 

 そして、獄卒共を全員倒した後、数万もの反乱軍は巨大な門を見つけるとこじ開け、その門をくぐっていく。

 

「俺は生きてるぞ!!」

 

俺も奪った金棒を担いでその門をくぐる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、心臓マッサージを!!」

「無駄よ。頭をぶち抜かれたのよ……」

 

‘‘Pastel*Palettes’’:大和麻弥の言葉に、高鏡菊代は非情な現実を叩きつけた。そして、高鏡菊代は脈を計るためイブキの首に置いた手を放し、かっぴらいたまま目を閉じさせた。

 

「い、イブキさん……ブシドーを貫いたんですね」

「イブキ君……」

 

‘‘Pastel*Palettes’’:若宮イヴと丸山彩が目に涙を浮かべる。

 

「(英語)…………。(坊主がこんな簡単に死ぬか?)」

「お願い!!目を覚まして!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は『瀕死の状態から生還するイブキ』を何度か見ているために冷静だった。それに対し、白鷺千聖は女優・アイドルという事を忘れ、悲嘆で顔を歪ませ涙をこぼした。

 その時だった。

 

「ねぇ!!起きt……」

「俺は生きてるぞ!!」

 

  ベキ!!

 

村田維吹(死んだと思っていた男)がいきなり飛び起き、白鷺千聖の顔面に頭がぶつかった。そして鈍い打撃音が艦橋に響く。

 

「「ッ~~~~~~!!!」」

 

村田維吹は額を押さえながら転がり周り、白鷺千聖は鼻を押さえて悶絶している。

 

「やっぱり村田さんは生きてましたか。さ、早く爆弾を止めないと。」

「(英語)嬢ちゃん……だいぶ変わったな……」

「今日一日で色々巻き込まれましたから、嫌でも性格や考えが変わりますよ。……それよりも爆弾です。早くしないと私達も死んじゃいますよ?」

 

西住みほが無表情で淡々と言う姿を見て、ジョニー・マクレー(おっさん)はドン引きしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『爆弾を見つけた』との情報により、田中曹長が駆け付け、その冷蔵庫を確認した。

 

第一中隊(お前ら)……こうなると分かっていたから、俺だけ待機させたんですか?ねぇ……少佐‘‘殿’’?」

 

田中曹長は鍵穴を‘‘特殊な道具’’を使って観察しながら言った。

 彼はHS部隊第二中隊第一小隊(辻とゆかいな仲間達)所属の工兵だが、彼だけは上海には行けずに、本土で待機だった。

 

「さぁ?最初から分かっていたら不発弾処理隊をここに集めてますよ」

 

藤原岩市少佐は涼しげな顔をしながら答えた。

 

「……そうですかい。全く、‘‘上海ガニ’’、食いたかったなぁ……。まぁ良い、罠は見えない……開けるぞ。」

 

田中曹長はゆっくりと業務用冷蔵庫を開けた。

 

  ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……

 

 冷蔵庫を開けると……そこには‘‘赤と白の筒に入った大量の爆薬’’と‘‘某リンゴ会社の大きめの端末’’がコードで繋がっていた。その端末には『Enter the ABORT CODE(訳:解除コードを入力せよ)』という文字と、カウントダウンの時間が表示されていた。誰がどう見ても、これは‘‘サイモン’’の仕掛けた爆弾だろう。

 周りで見ていた軍・警察・消防の人たちは生唾を飲み込んだ。

 

「……ビンゴ。少佐殿、他の学校の捜索は止めてもいいと思います。」

「ダメだ。‘‘サイモン’’は個数を言っていない。無駄に終わるとしても捜索は続行する。……田中曹長、解除はできるか?」

 

藤原少佐は田中曹長の具申を一蹴した後、冷静に尋ねた。

 

「誰に聞いてるんですか?当たり前ですよ…………って言いたいところですが、こんな工芸品の様な爆弾、どんな罠があるか分かりません。…………だけど、この作り手に、テロリストに負けたくはねぇ」

 

田中曹長は口角を上げ、威嚇するように笑った。藤原岩市少佐をその表情を見た後、ため息をついた。

 

「相変わらず第二中隊(そっち)は血の気が多いな。………生徒達を体育館かどこかに全員集めろ。‘‘サイモン’’は避難を禁止したが、生徒たちを集めることは禁止していない。」

 

 藤原岩市少佐は部下に指示を出しながら、上層部へ連絡をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女優の顔に何するのよ!!」

 

白鷺千聖は白い肌を真っ赤にし、そして鼻血にまみれた顔で俺を問い詰めるように怒り散らす。この姿をマスコミが報道したら、きっと彼女の女優生命は断たれていただろう。

 

「知るかよ!!俺が何したって言うんだ!?ただ起きただけだろ!?」

「死んだかと思って心配したのよ!?」

「お前、俺を‘‘蛇蝎の如く’’嫌ってただろ!?冗談は止めてくれ!!」

 

俺と白鷺千聖は互いに血にまみれた顔を互いに突きつけて批判し合っている。

 

「……なんで脈が無かったのに生きてるの?頭をぶち抜かれて即死のはずよ?」

「ヘルメットが貫通しただけで、脳には傷がないんじゃない?」

 

高鏡菊代がため息交じりで呟いた言葉に、‘‘Pastel*Palettes’’:氷川日菜はさも当然の様に答えた。

 

 ……ん?俺って頭を撃たれたのか?

 

白鷺千聖がヒステリー気味に怒るのを無視しながら、俺は戦闘用ヘルメットを脱いだ。それには、中心から右側の位置に弾が貫通した跡が残っていた。

 俺は自分の頭皮に触れ、傷の有無を確認すると……側面に知らない傷があった。

 

 ……そう言えば、イギリス軍の兵士が‘‘某’’原理主義組織との戦争でヘルメットをぶち抜かれたのだが、無事に生きていたってニュースがあったな。

 

 俺もきっと、それと同じことが起こったのだろう。何とも運がいい。普通なら死んでいたはずだ。

 俺はホッと胸をなでおろした、その時だった。

 

  ズーーーン!!!

 

 鈍く、とても低い轟音が響き渡ると同時に、船が大きく揺れた。その揺れはとても大きく、例えどんなに訓練されていても立っていられないほどの巨大なものだった。

 

「「「「「キャァ―!!!」」」」」

 

……ま、まさか爆弾が爆発したのか!?いや待て、爆弾が爆発していたら俺達が知覚する前に海の藻屑となっているはず。

 

俺はパイプに掴まり、揺れが収まった後立ち上がった。

 艦橋の窓ガラスからは、空き地島のコンクリートの地面しか見えない。

 

 ……船が空き地島に座礁したんだ。だから大きな揺れが起きたのか!!後は俺達が脱出すれば被害はほぼ0になる!!

 

  ブー、ブー、ブー……

 

そんな時だった。俺のポケットに入れてある『旧芝離宮恩賜公園で拾ったスマホ』がアラーム音を鳴らし始めた。そのスマホは爆弾の爆発1分前になるようにセットしたから……

 

 ……爆弾まで残り1分!?解除どころか、この船から避難するのだってきついぞ!?

 

「む、村田さん!!そのアラームって!!」

「爆発1分前だ!!」

 

 俺は西住さんの問いに、悲しい現実を伝えた。

 コンテナ船は全長300m以上、乾舷(上甲板から水面まで高さ)は10mを超える。そのため、艦首から空き地島へ逃げる時間も、搭載艇(ランチ)を下ろして海に逃げる時間もない!!

 

「(英語)とにかく逃げるぞ!!」

「急げ!!爆発するぞ!!艦尾だ!!艦尾へ逃げろ!!早く!!」

「皆さん!!こっちです!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と俺、西住さんの剣幕で事態の緊急性を理解したのだろう。‘‘Pastel*Palettes’’の全メンバーと高鏡菊代は顔を真っ青にし、西住さんの後を走り始めた。

 

 

 

 

 アラームが鳴り、40秒ほどたったところか……高鏡菊代はともかく、‘‘Pastel*Palettes’’のメンバーは走るのが遅かった。特に白鷺千聖と丸山彩はダントツで遅い。そのせいで、まだ艦尾につかなかった。

 

「(英語)もうだめだ!!ここから降りるぞ!!」

「ここで降ります!!皆さん着いてきてください!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)の言葉を訳した後、西住さんは舷側の手すりに足をかけ、10m下の海へ飛び込んだ。

 

「あ!!これはルンって来る!!」

「ぶ、ブシドー!!」

「何でこんな目に会うんですか!?」

 

‘‘Pastel*Palettes’’:氷川日菜・若宮イヴ・大和麻弥も後に続いて海へ飛び込むが……白鷺千聖・丸山彩・高鏡菊代は一向に飛び込もうとしない。

 

「何やってんだよ!!」

「(英語)何してるんだ!!早く飛び込め!!」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は3人を急かすが……一向に飛び込まない。

 

「こんな高さ無理よ!!」

「む、ムリだよぉ~(泣)」

「カタギが全員避難しないと……巻き込んだ原因はアタシだし……」

 

白鷺千聖は逆切れ気味に、丸山彩は目に涙を浮かべ、高鏡菊代は気まずそうに答えた。

 

 ……気持ちは分かるけど!!もう10秒もないんだよ!!

 

「失礼いたします、お嬢様方ってか!?」

「(英語)こんな時だから大目に見てくれよ!?」

 

俺は近くにいた白鷺千聖と高鏡菊代を(かつ)ぎ上げ、ジョニー・マクレー(おっさん)は丸山彩を抱え上げた。

 そして、俺達はお嬢さんたちを抱えたまま船から飛び降りた瞬間……

 

  チュドーーーン!!

 

爆発による熱風、そして破片を喰らった後、海へ着水した。

 俺は全身傷だらけで海へ潜ったため、体中に激痛が走り、脳がショートしそうだった。

 

 ……せ、せめてこいつらだけでも……

 

 その時、イルカが俺達に近づき、空き地島へ運びだした。俺はそのことに安心したのか、また気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、‘‘爆弾いじり’’がこんなに面白いなんてなぁ。歩兵から工兵に転向してよかったって思うぜ。」

 

田中曹長は呟きながら、電子回路と爆薬を把握していく。彼がこの爆弾を調べれば調べるほど……この爆弾の繊細さ、複雑さをより実感する。

 

「残り5分か……時間が無いな。」

 

  パチン……

 

田中曹長は爆弾に繋がっているコードを一つ切り離した。

 

「『No guts, no glory(訳:勇気無くして栄光無し)』か。よく言ったもんだ」

 

  パチン……パチン……

 

慎重に、そして大胆にコードを一気に切っていく。残ったのは白・赤・黒の3色だった。

 

「全校生徒が校外へ脱出する時間は予想で3分以上……だっけか」

 

爆弾が爆発するまであと4分を切った。しかし、残り3本のコードのうち、どれを切れば爆弾が止まるか見当もつかない。

 

「そう言えば、ここにイブキの妹がいるんだっけか?」

 

正確には八神はやて(保護した少女)なのだが、田中曹長は藤原岩市少佐から貰った情報を思い出した。そして、上司であり後輩で、今は武偵高へ出向中のイブキが脳裏を(よぎ)る。

 

 ……今度、酒の一杯でも(おご)ってもらうぞ。

 

 田中曹長はそう思いながら、黒のコードを切った。

 

「ッ……!!」

 

  ピーーー!!

 

一瞬彼は身構えたが……爆弾が爆発する気配がない。爆弾についていた‘‘大きめの端末’’のタイマーは止まり、液体を混ぜ合わせるポンプが動く気配もしない。

 

「……は、ハハハ、ハハハッ!!!どうだテロリスト共!!解除成功!!爆弾解除成功!!」

 

田中曹長は大声でインカムに伝えた後、床に寝っ転がった。そして水筒を取り出し、浴びるように水を飲む。

 その時だった。まるでシロップの様な甘ったるい香りが部屋に充満していることに気が付いた。田中曹長は不思議に思い、ゆっくりと体を起こした。香りは爆弾から漂っているようだ。

 

「……?」

 

液体爆薬が入っている筒から、赤色の液体が少し漏れていた。田中曹長はその液体を指ですくって舐めた。

 

「……!!」

 

田中曹長その液体を舐めた後、慌てて他の筒の液体を取り出して舐め……そして理解した。

 

「クソッ!!クソッタレ!!!」

『どうした、田中曹長』

「少佐殿!!筒の中身はシロップです!!俺達は()められた!!」

 

『液体爆薬が入っていると考えていた筒』には甘いシュガーシロップがたっぷりと充填されていたのだ。彼は、‘‘爆弾魔(テロリスト)’’との勝負に勝っても(戦術的勝利)、爆弾ではないという事に気が付かなかった(戦略的敗北)のだ。

 

「チクショウ!!チクショウが!!この野郎!!」

 

田中曹長は上司達(ストッパー)がいないために怒りに囚われ、シロップの入った筒を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、『Die Hard3 in Tokyo 『復讐』じゃなくて『盗み』かよ……』において、劉翔武たち御一行はラーメン屋で1時間ほどタイムロスをしてしまった。

 

「……全く、俺は作戦外(アドリブ)は上手くないからな。何故かこうなる。」

 

今は高級バンに乗り込み、急いで調布飛行場へ向かっていた。

 劉翔武は苦々しくタバコを咥え、ジッポで火をつけようとするが……中々火が付かない。ジッポの油が切れているようだ。

 

「……。すまないがシガーライターを取ってくれ。……あぁ、それだ。」

 

  ジュッ……

 

劉翔武は真っ赤になった電熱線にタバコをくっ付けた。その時、劉翔武が乗る高級バンに爆風と閃光が襲った。

 

 

 

 

 劉翔武はいきなりの爆発に驚きながらも、その優秀な頭脳で状況を整理する。

 

 ……車に爆弾が?いや、それなら確実に即死のはず。となると地雷!?こんな都市部に!?

 

劉翔武は何とか高級バンから這い出た。爆発の影響で片方の耳が聞こえなくなっており、手足も怪我のせいで満足に動かせない。

 這い出た劉翔武は違和感を覚えた。ここは東京の都市部。それなのに車一台、人ひとりもいないのだ。

 

「(中国語)70過ぎの老人とはいえ、流石は劉翔武。地雷程度じゃ爆殺できないか。」

「(中国語)貴様……日本陸軍‘‘西機関’‘機関長、鈴木敬次!!」

 

いや、一人いた。パイプを咥える陸軍将校が劉翔武を見下ろしていた。

 

「(中国語)‘‘(もと)’’だぜ?今はHS部隊第一中隊だ。」

 

 ……『HS部隊第一中隊』か。日本軍暗部の国内担当だな。という事は、村田維吹(天下無双)は諸葛静幻の方へ行ったか。これは嬉しい誤算だ。

 

劉翔武はそう思いながら傷ついた体に鞭を打ち、何とか立ち上がる。その様子を鈴木敬次大佐は冷たい眼で見ながらパイプをふかす。

 

「(中国語)日本(うち)で色々とやりやがって。……必要な情報は全て得ている。だから死んでくれないかい?劉翔武、お前さんのような優秀な奴を生かして返すわけにはいかないんでね。」

 

鈴木敬次大佐はそう言った後、パイプを咥えながらスラリと軍刀を抜いた。

 

「(中国語)何を言う……小童が……!!」

 

劉翔武は今までの戦闘で培った体術の構えを取った。気を体中に充満させ、殺気をこの鈴木敬次大佐(陸軍将校)にぶつける。

 

 ……村田維吹(天下無双)を諸葛静幻へぶつけるのは不可能と思っていたが……。静幻、やっと貴様の策の上を行ってやったぞ?

 

そして劉翔武は地面をしっかり踏みしめ、鈴木敬次大佐(陸軍将校)に一気に近づいた。

 

  ズドドドーン!!

 

 

 

 

 劉翔武は鈴木敬次大佐(陸軍将校)に近づいた瞬間、目の前が爆発した。そして気が付いた時には地面に横たわっていた。彼は手足の感覚がなかった。

 

「(中国語)忘れているかもしれないが、俺はゲリラ戦の専門だぜ?(弱者)お前(強者)に正々堂々と戦うわけないだろう?……やれ。」

 

鈴木敬次大佐は軍刀を鞘に戻し、劉翔武に背を向けながら無線で命令を下した。

 

 ……『因果応報』か。……まぁいい、最後には静幻に勝てたのだ。これで奴の影響力は地に落ちる。……龍頭閣下、獄卒共を掃除しております。

 

  ダダダダダーン!!

 

複数の銃声が響き渡った。

 

 

 

 鈴木敬次大佐は後ろを振り返らず、襟を開けながら自分の車へ歩き出した。

 

「あの劉翔武でも『指向性対人地雷4基による面攻撃』、そして『対物狙撃銃を装備する5人の一斉狙撃』は耐えきれるわけないよなぁ~。……でも、第二中隊(辻達)にあれだけやっても勝てる気がしないってのはどういうことだい。」

 

 鈴木敬次大佐はため息をついた。

 

「まぁいい。最低限の‘‘落とし前’’はつけさせてもらったぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は目を覚ますと……目の前には‘‘ヤシの木カット’’で半裸の太った変質者(♂)がいた。

 

「オロロロロr……」

 

俺はその変質者(♂)を見ると、その見た目の気持ち悪さから吐き気に襲われ、胃の中の物を全て吐き出す(朝から何も食べていないため、出たのは胃液ぐらいだが)。

 

「む、村田少年!!大丈夫か!?」

 

 その変質者はそんな俺を心配したのか、シャツの襟をつかみ、顔を近づけて揺さぶってきた。

 

 ……心配してくれるのは有難いが離れてくれ。余計に吐き気g……

 

 

 

 

 

 俺は瀕死になりながらその変質者に尋問され、やっと解放できた。

 なんでも、あの変質者(♂)(海野土佐ェ門)は警視(上から5番目の階級、警察官全体の2.5%ほど)で、彼の調教したイルカによって俺達は‘‘空き地島’’へ運ばれたらしい。

 

 ……助けてくれたのは有難いが、見た目を何とかしてくれよ。何だよ、‘‘ふんどし一丁’’に‘‘セーラー服の襟とスカーフ’’、それに加えて‘‘頭に小さなヤシの木’’って。

 

俺は精神的にも、肉体的にも疲労困憊で、ヨロヨロと階段に腰を掛けた。

 近くではジョニー・マクレー(おっさん)に西住さんは手当を受けていた。‘‘Pastel*Palettes’’のメンバーに高鏡菊代は怪我を負っていない様だ。彼女達はバスタオルか何かを羽織り、時々尋問か何かをされている。

 

 ……よかった。女性陣は特に大きな怪我はないようだな。

 

 

 

 座って数分後、やっと俺に救急隊員が来て、手当をしてもらっている時だった。

 

「貸したビュート(あれ)、さらにボロくしやがって……俺の言ったとおりだったろ。」

 

後ろからよく知っている声が聞こえてきた。俺はゆっくり振り向くと、そこには左手を三角巾で吊り、頭に包帯を巻いた武藤がいた。

 

「武藤、『勝鬨橋』ではありがとな。」

 

武藤は勝鬨橋でのカーチェイスの時、乗っていたハイエースで敵車輛の1台に体当たりをして俺達を助けてくれたのだ。

 

「今度飯でも奢れよ?おかげであのハイエースは廃車だ。提出用の書類は面倒なんだぜ?」

 

武藤はそう言って、怪我をしていない右手で何かを俺に投げ渡してきた。俺はそれを受け取ると……ボロ車(ビュート)のキーだった。

 

ビュート(あれ)でここまで来たんだ。桟橋近くに止めるんじゃねぇよ。船頭さん、困ってたぞ?」

 

武藤がそう言って指を刺した。その指の方向には……見た目は廃車寸前のボロ車(ビュート)が止まっていた。

 

「いや、ほんと悪い。寿司でいいか?」

「それなら白雪さんの手料理でm……」

「お、おねーちゃん!?どこ!?おねーちゃん!!」

 

いきなり大声が上がった。俺と武藤はその声が発せられた方へ向くと、‘‘Pastel*Palettes’’:氷川日菜が顔をぐしゃぐしゃにしながら誰かを探している。

 

「 なんで‘‘Pastel*Palettes’’の氷川日菜ちゃんが!?って‘‘Pastel*Palettes’’全メンバーいるし……。おいお前!!もしかして‘‘護衛任務’’で学校に来てなかった理由っt……」

「いや、あくまでも護衛は‘‘Pastel*Palettes’’の白鷺千聖だぞ!!」

 

俺は毛布にくるまり、ベンチに座って尋問を受けている白鷺千聖を見た。彼女は毛布の他に俺の上着ぐらいしか身に着けていないため……今の姿がとても煽情的に見えた。

 

  ガッ!!

 

「むしろ‘‘千聖ちゃん’’の方が好みだよぉおおお!!」

 

武藤は無傷の右腕で俺を掴み、悔し涙を流す。力いっぱい俺を掴むため、鎮痛剤を打っていても体中から悲鳴をあげる。

 

「何で俺の任務じゃないんだよぉおお!!」

「それだからだろ!!いい加減離せ!!」

 

俺は武藤の怪我した左腕を殴った。武藤は左腕を抱えて(うずくま)り、苦悶の声を上げる。

 

 ……武藤ならこのぐらいやっても平気だろ。そんな事より氷川日菜だ。

 

 

 

 

俺は武藤を尻目に、氷川日菜へ近づいて声をかけた。

 

「どうした?そんな泣いt……」

「イブキ君!!おねーちゃん!!おねーちゃんは何処!?」

 

氷川日菜は俺に(すが)り付き、『おねーちゃんを保護したと言って欲しい』という目で俺に尋ねる。

 

「いや、その『おねーちゃん』を俺は知らn……」

「‘‘紗夜ちゃん’’の事よ。……この前、学校の風紀委員にイタズラしたでしょ。あの時の髪の長い子よ。」

 

氷川日菜に張り付かれていた時、白鷺千聖が毛布にくるまったままで俺に近づいてきた。毛布からチラッと見える、白鷺千聖のシミ一つない太ももが何とも(なま)めかしい。

 

 ……なるほど、『瀕死の状態だと生殖本能が活発になる』って言うのは本当だったのか。

 

『白馬の王子様モード……HSSのキンジじゃねぇんだから』と思いながら俺ため息をつき、思考を元に戻した。

 俺は『俺のいちばん長い日 with BanG Dream!  形あるもの、いつか壊れる……』にて、風紀委員で青緑色の長髪少女にイタズラを仕掛けた事を思い出した。確かに、彼女と顔立ちが非常に似ている。双子か何かだろうか。

 

「あぁ、あの時の美人さんか。」

「…………えぇ、その子よ。その紗夜ちゃんが所属する‘‘Roselia’’と言うバンドと一緒にリハーサルをしていたら誘拐されたのよ。」

 

 なぜか白鷺千聖は俺をギロリと睨みながら説明した。俺は『そう言えば白鷺千聖(コイツ)は俺の事嫌ってたっけ』と思いながら、考察を立てていく。

 

 ……基本的に見張りの関係上、人質は1カ所に収容される。その人質の収容場所である艦橋には『紗夜ちゃん』たちはいなかった。また、敵の動きからして……俺達が船に侵入してきた事は想定外だったようだ。その事から、敵は人質が奪われることを前提に、分散して収容などしてはいないはず。となると……彼女達は船以外のどこかに連れ去られたのか?

 

 しかし、船にいないとなると……完全に行先は不明だ。俺には全く見当もつかない。

 

「……クソッ!!これだけの情報だと流石に分からn……」

「計画通りだと、20分もしないうちに鏡高組本部(うち)で‘‘中国の先生達’’とキンジが戦う計画になってる。今回その計画を立てたのはその‘‘中国の先生達’’……あいつらなら知っているはずよ。」

 

高鏡菊代は乱れた改造着物を整えながら、今回の騒動の発端を説明した。

 

 ……しかしまぁ、着物が着崩れた姿という物は何ともグッとくるものだ。

 

今日の俺はどうかしているらしい。……まぁ、ここまで体力的・肉体的(主に出血量)・精神的に疲労した事件・訓練はなかった。そんなところに見目麗しい女性達がいるのだ。多少おかしくなってもショウガナイのでは……いや、ダメだろ。

 

 

 

 

「イブキ君!!あたしはなんだってするから……おねーちゃんを……おねーちゃんを助けて!!」

 

氷川日菜ちゃんのその懇願に俺はため息をついた。

 警察は爆弾爆発の時刻が過ぎたとはいえ、念のための爆弾探しと後処理に追われているだろう。そんな彼らに人探しに人材を裂くことはできないはずだ。となると……俺が動くしかない。

 

 ……全く、俺はあくまでも‘‘白鷺千聖’’の護衛だ。それ以上でもそれ以下でもない。『氷川日菜の姉を探しだす』と言うのは営業外だ。だけど、見捨てるわけにはいかないよなぁ。

 

「(英語)どうした坊主。行かないのか。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はボロボロで、本当ならこのまま病院のベッドで寝たいのだろうに……あえて俺を挑発するように言った。

 

「村田さん……行かないんですか?」

 

西住さんは俺の肩に手をかけて言った。西住さんは巻き込まれただけだ。ここで警察やらなんやらに保護されれば、無事に実家に帰れるだろうに……全く、なんてお人好しだ。

 

「……今度ラーメンでも(おご)ってもらうぞ。」

「……………うん!!!」

 

俺はそう言った後、ボロ車(ビュート)に乗り込もうとした。その時、誰かが俺に抱き着いてきた。

 

「もう私を心配させないで……行かないd……」

 

背中から、白鷺千聖の声と感触が伝わる。

 彼女は俺を嫌っていたはずだ。しかし、メンバーの氷川日菜のため、白鷺千聖は体を張って俺へアピールしているのだろうか。

 

「俺は少なくても、あと百は生きるつもりだ。そんな簡単に死んでたまるかってんだ。」

 

 

 

俺は白鷺千聖の頭を一撫でした後、ボロ車(ビュート)の運転席に乗り込もうとした所……その席には武藤が座っていた。

 

「お前だけ格好つける気か?……後で‘‘Pastel*Palettes’’のメンバー全員に紹介してもらうぞ。」

「……はぁ。相変わらずだな。」

 

俺は武藤にボロ車(ビュート)の鍵を渡すと、反対側へ向かって助手席に乗ろうとした。しかし、そこには高鏡菊代が座っていた。

 

「……」

「あたしが道を教えるんだから、助手席は当たり前でしょ?」

 

高鏡菊代はフフンと整った顔で勝気な笑顔を見せる。

 

……つい十数分前には犯されかけたってのに、(きも)が太すぎだろ。流石、この歳でヤ〇ザの組長をやっているだけあるな。

 

俺はため息をついた後、後部席のドアを開け、ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんを詰めさせて席に座った。

 

「……なんでまぁ、こんなにお人好しな奴らばっかなんだよ」

「(英語)おい、早く出せ。」

 

俺がぼやくのと同時に、ジョニー・マクレー(おっさん)は新しいタバコを開けて一本取り出し、火をつけながら武藤に命令した。

 

  キュルキュルキュル……

 

「しっかり捕まってろよ!!」

 

武藤はそう言って、ボロ車(ビュート)の鍵を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  キュルキュルキュル、キュルキュルキュル……

 

武藤がキーを回して10数秒、ボロ車(ビュート)のエンジンは一向にかからない。

 

「クソッ!!この車はボロいからなぁ……」

 

武藤は思わずNGワードを口にした。

 

「おい、武藤!!何言ってやがr……」

「そ、その言葉はダメです!!」

 

  ボーン!!

 

俺と西住さんが止めようとしたが……その前にボロ車(ビュート)はご機嫌斜めになったようだ。

 

「武藤!!この車に『ボロい』とか言ったら機嫌悪くなるんだよ!!謝れ!!……ごめんね。コイツはまるでわかってないから、機嫌戻してねぇ~」

「何やってるんですか!!この車に暴言を言ったら調子が悪くなるんですよ!?……スイマセン……調子を戻してくださいね。」

「……え?は?………………ご、ごめんね~?」

 

俺と西住さんの必死の剣幕で、冗談を言っていないと武藤は理解したのだろう。武藤は謝りながらキーを回し、エンジンを掛けようとする。

 

「……何やってんの?コレ?」

「(英語)マオリの‘‘ハカ’’だ」

 

高鏡菊代の呆れた言葉に……ジョニー・マクレー(おっさん)は紫煙交じりの溜息を吐きながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 こち亀では両さんが地獄でクーデターを起こした話があるので、それを参考にしました。
 両川勘吉のせいで‘‘地獄’’と‘‘天獄’’がガタガタになり、他の世界から人材を借りて復興を頑張っている中……イブキのせいで唯一無傷だった‘‘賽の河原’’で反乱が起きるという…‥。
 余談ですが、この日は死亡と判断された人達が一斉に息を吹き返したとかなんとか……


『俺は生きてるぞ!!』……要は自己暗示をかけるために連呼しています。


 頭に銃弾を受けても生きている人はいるそうです。ですが、今回イブキは数㎜のところを弾丸が通ったという設定です。
 実際、弾丸がヘルメットを貫通したが無傷だった兵士はいるそうです。


『マオリの‘‘ハカ’’』……要は出陣前に行う踊り・儀式の事。
 もはや、我らがボロ車に謝りながらエンジンを掛けることは『出陣前に行う儀式』だ……という皮肉です。



  Next Ibuki's HINT!! 「海パン」 


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Die Hard3 in Tokyo  高鏡組壊滅……

 遅れて申し訳ございません……何とか書き上げました。試験中でストックを作れなかった&帰省のコンボを受けてまともに書けませんでした。

 次話も遅れそうな気がしますが……何とか早急に投稿できるように頑張ります。




 炎天下の中、洗車ってきついんですよ?昼頃に来て、洗車&車内清掃(メチャクチャ汚い)を2時間でやれとか……それが毎日3台。もうヤダ……


 遠山キンジは東池袋高校でできた友人を高鏡組に人質に取られ、その友人を奪還すべく高鏡組本部へ単身殴り込んだ。

 そのキンジを尾行していたGⅢとかなめに合流してその友人達を助け出し、3人は本部の大きな庭で鏡高組の幹部たちと相対(あいたい)した。

 

「やっと連れましたか。遠山キンジ君ですね?あなたも鏡高菊代(姐さん)と一緒に香港のマフィアに売られることになっていますので……大人しく投稿してもらえませんか?もちろん、キンジ君以外の二人も」

 

東大卒の幹部がメガネの位置を直しながら言うと……30~40人組員達がキンジ達を取り囲み、自動小銃(アサルトライフル)の銃口を向けた。

 

「そーゆー事だからキーンジくぅーん、結構いい金になるんだよ?香港でヨロシクやってよ。奴隷の鏡高菊代(姐さん)と仲良くさぁ~?」

 

ホスト風の幹部は汚らしくピアスが付いた舌で口元をなめ、大型のリボルバーをちらつかせる。

 キンジは冷汗をかき始めた。今は丸腰の状態であり、しかもHSS(ヒステリア・モード)でもない。敵は素人ばかりとは言え大量にいる。GⅢやかなめが居ても、無傷では済まないだろう。

 

 

 

「あなたが遠山キンジさんですか。なるほど……HSSになる前でも、一般兵以上の働きをしてくれそうですね。諸葛先生」

 

 その時、鏡高組の家屋の屋根から声が聞こえた。キンジは ‘‘HSS’’という言葉にギョッとしながらその方向を向いた。

 屋根の上には諸葛静幻・曹操(ココ)(メガネをかけているため末っ子か?)、そして‘‘老け顔の男’’と‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’がいた。

 

「再会を心よりお(よろこ)び申し上げます。遠山キンジさん、ジーサードさん」

 

諸葛静幻は張り付けた笑顔でそう言いながらお辞儀をした。

 

 ……クソッどうすればいい?

 

 曹操(ココ)(メガネ)や諸葛正弦はともかく……初見の二人、‘‘老け顔の男’’・‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’はHSSでなくても強者という事が分かった。

 ‘‘老け顔の男’’は厳しい訓練によって研ぎ澄まされた軍人の様な気配を感じ、‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’はブラドの様なバケモノの気配を感じる。

 

「へっ……その‘‘ガキ’’と‘‘老け顔’’が藍幇(ランパン)の代表か。極東戦役(FEW)の」

 

GⅢは威嚇の様な鋭い眼で二人を睨む。ジーサードも注目すべきはこの二人だという事に気が付いたらしい。

 本来、裏で行われている国際的な抗争である極東戦役(FEW)は大きな被害を出さないようにするため、互いに何人かの代表だけで戦うのがルールだ(なお、藍幇はそのルールを破り、東京でテロを起こしているが)。

 

 

 

 

「えぇ……。そうなのd……」

「バカキンジィイイイイ!!」

 

小さい声ながらもよく響くアニメ声が静幻の声をかき消した。

 

 ……アリア!!

 

 キンジは声が聞こえてきた方向を見ると、アリアが平賀さんによって作り直した『ホバー・スカート』と言う飛翔ユニットで飛んできたのを確認した。アリアにキンジ、GⅢ、かなめの4人ならば、何とかこの場を乗り越えることができそうだ。

 

「やはり来ましたか……。(ほう)?」

「すでに準備してあります。」

 

諸葛静幻に‘‘(ほう)’’と呼ばれた‘‘老け顔の男’’はまだ空の上に居るアリアに『筒』を向けた。

 

 ……す、携帯式地対空ミサイル(スティンガー)!?

 

 ‘‘老け顔の男’’が持っていたものは、『FIM-92 スティンガー』だった。それは低空を飛行するヘリコプター・対地攻撃機はもちろん、低空飛行中の戦闘機・輸送機・巡航ミサイルなどにも対応できるよう設計されている。そんなものが(平賀さんには悪いが)ちっぽけな飛翔ユニット『ホバー・スカート』に当たったら、アリアは……

 

「アリア!!避けろ!!!」

 

  バシュッ……

 

キンジは自分でも驚くぐらいの大声を上げた。それと同時に‘‘老け顔の男’’が引き金を引き、筒から火炎が噴き出る。

 『ホバー・スカート』はレーダーを感知したのか、フレアを発射するが……ミサイルはアリアに向かって一直線に飛んでいく。

 

  チュドーーーン!!

 

 

 

 

「アリアーーーー!!!」

 

『ホバー・スカート』は大爆発を起こし、破片が宙を舞う。アリアの生存は絶望的に思えた。

 

「馬鹿キンジ!!会いたかったわよ!!」

 

しかし、それでもアリアの声が聞こえる。キンジは声が聞こえた方向を向くと……ピンク色の何かが空から落ちてくる。あれは……アリアだ!!

 アリアはキンジへ向かって落ちてきた。キンジはそれを受け止めようとし……

 

  ドシュッ!!

 

「へブッ!!」

 

失敗した。その結果、キンジはアリアのスカートの中に頭を突っ込む形で地面に倒れた。

 

「……って馬鹿キンジ!!何してんのよ!!変態!!死ね!!か、風穴!!風穴流星群!!!」

「…………アリア?久しぶりの君とのダンスも楽しいけど、今はちょっと部外者が多いかな。」

 

アリアは地団駄を踏むようにキンジを蹴ろうとするが、HSSになったキンジはスルスルと避けて立ち上がり、アリアの手を取ってキスをした。

 

「ッ~~~~!!」

 

アリアはまるで赤鬼の様にその白い肌が真っ赤になる。キンジはその真っ赤なお姫様(アリア)を見てキザっぽく笑った。

 

「……流石に俺も兄貴ほどキザにならねぇよ。」

「うわぁ……やっぱり‘‘イブキにぃ’’方がいいや……」

 

遠山家次男(キンジ)の行いに三男(GⅢ)長女(かなめ)がドン引きしているのだが……キンジは無視する。

 

「……ん?」

 

HSSになったキンジは高鏡組の屋敷の柱に違和感を覚えた。よく凝らしてみてみると……柱に何かが埋められ、隠蔽された形跡がある。その事を意識して周りを見ると、そんな形跡が至る所に、家屋だけではなく壁や(へい)にすらある。

 

……良く隠蔽されているが、隠蔽部分が若干明るい。ごく最近にやったものだ。しかし、あの中には何が埋まっている?

 

「投降はしてくれない様ですね。お前ら、やれ」

 

東大卒の高鏡組幹部が命令を下し、チンピラの兵士たちは引金を引いた。

 

  チュドーーーン!!

 

その瞬間、爆音が響き渡った。高鏡組本部は爆炎と爆風、そして破片が飛び交い、家屋や(へい)が瓦礫に変わった。

 

 

 

 

 

 

 HS部隊第一中隊の藤原少佐とその部下数名、そして第二中隊の田中曹長は高鏡組本部が良く観察できるビルの一角に陣取り、爆破の様子を観測していた。

 

「爆破確認……昨日の夜、短時間の突貫工事で細工した割には、うまく行ったな。なぁ、少佐殿?」

「本当に助かりました。ありがとう、田中曹長。」

 

 昨日、第二中隊の田中曹長はテレビ電話で‘‘苦々しい顔をした’’第二中隊中隊長:辻大佐から命令を受け、藤原少佐の指示のもとに高鏡組本部へ密かに爆弾を仕掛けたのだった。

 

「……でもなんであんなことを?テロを日本にいれた諜報人だからって、幹部達(その証拠)ごと爆破ですか?」

「僕だって鈴木大佐と瀬島中佐からの命令に従っただけですよ?田中曹長だって辻大佐の命令を受けて、その裏にある物は理解していないでしょう?それと一緒ですよ」

 

 藤原少佐はそう言って双眼鏡をしまいながら立ち上がり、今時珍しい電鍵(モールス信号を打電する時に使うあれ)を組み立て始めた。

 

「佐官でそれはマズいでしょうに。」

「勘弁してくださいよ。あんな謀略に能力を振りまくった上司について行くのでやっとなんですから。」

 

藤原少佐は電鍵を操作し、『高鏡組(タカ) 爆破(フンカ)』と3回打ち込んだ。

 

 ……こんな重大な事、下士官兵どころか尉官にだって言えない。

 

藤原少佐は操作を終えた電鍵をしまっている時、頭痛を覚えた。この事件の重大性を思い出したからだ。

 

 

 

 

 今回の『東京でのテロ』はテロリスト(‘‘サイモンとその仲間)と藍幇(ランパン)・高鏡組だけではなく、政治家・官僚・警察・軍部の一部も関与していた証拠が数日前に見つかったのだ。そのため、2日前に軍部はすでに憲兵隊・近衛師団を使って関与した軍人を一掃していた。

 そして、今後国内で主導権を得るため、その‘‘証拠’’を改竄(かいざん)し(軍部は関与していないと改竄(かいざん))、政治家・官僚・警察を脅す(一部は‘‘見せしめ’’のため暴露するが)という事を考えていた。(その改竄(かいざん)がバレないようにするため、高鏡組本部を爆破)

 警察庁長官はすでに‘‘不倫疑惑&強制わいせつ罪’’で記者会見を開いており(『Die Hard3 in Tokyo  爆風は避けられない……』より)、それに加えて一部の警察官がテロに関与していたと暴露されれば……警察の威信は一気に低下する。

 よって相対的に軍の信用・権力に上がり、日本が極東戦役(FEW)やその後の抗争でも優位に立てると考えていた。

 

 

 

 そんな重要な事を藤原少佐は軽々と話すことはできなかった。藤原少佐はため息をついた後、シガリロを取り出して火をつけた。

 

「……少佐殿、もう少し腹芸を学んだ方がいいと思いますよ。」

「忠告ありがとうございます。もっと精進しなくちゃなぁ」

 

田中曹長は藤原少佐の表情・態度で何か悟ったのだろう。ヤレヤレと肩をすくみながら忠告し、荷物をまとめる。

 

 ……『東京〇立博物館の宝物』は任せたぞ、村田。

 

藤原少佐はそう思いながら紫煙を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は元(?)高鏡組組長:高鏡菊代の案内により、武藤が運転するボロ車(ビュート)で高鏡組本部へ向かっていた。

 

「おい武藤!!もっと飛ばせ!!車輛科(ロジ)だろ!?俺が運転するよりもだいぶ遅いぞ!!」

 

俺は運転席を2~3回蹴り、運転手の武藤を急かす。

 

「(英語)おい!!ババアの運転の方がまだ早いぞ!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)も苛立たし気に、タバコをふかしながら運転席を足で小突く。

 

「うるせぇなぁ!!!重い大人が二人も増えてるんだぞ!!スピードが出ないなんて当たり前だろ!?」

 

武藤は怒鳴りながら110~120キロのスピードしか出ないボロ車(ビュート)のハンドルをさらに強く握る。

 

 ……それを考慮したとしても、だいぶ遅いんだよなぁ。

 

勝鬨橋を飛んだ時は速度計の針が千切れるぐらいの速度が出たのに、今は110~120キロ程度しか出ないのはおかしい。おそらく、前話で武藤が悪口を言ったせいでボロ車(ビュート)がまだ少し拗ねているのだろう。

 

「何?アタシが重いって事?」

 

  チャキッ……

 

助手席に座る高鏡菊代はテロリストから奪った短機関銃(サブマシンガン)の銃口を武藤の側頭部に向け、殺気を込めて言った。

 

「ち、違います!!俺が、俺が人よりも重いせいです!!スイマセン!!」

 

武藤は隣から殺気をもろに受けるせいで涙目になりながら謝る。

 

 ……流石は元ヤクザ組長。その美貌で睨むことにより、ただでさえ恐ろしい殺気が何倍にも大きく感じる。……辻・神城・鬼塚(バケモノ上司三人組)ほどじゃないけど。

 

「無駄口叩かないでサッサと目的地まで移動してください。本当に車両科(ロジ)何ですか?」

「す、スイマセン!!!!」

 

後部座席にいる西住さんにも怒られ、武藤は必死になって車を運転する。

 バックミラーに武藤の顔がチラリと見えたのだが、彼の目から溢れ出る汗は見間違い……だと思いたい。

 

「やったな武藤!!ある意味女の子にモテモテだぜ!!」

「俺は‘‘白雪さん’’や‘‘千聖ちゃん’’のような‘‘お(しと)やかな子’’がいいんだよぉおお!!」

 

 ……二人とも『腹黒』だってことは教えなくていいか。

 

俺の軽口に反応し、車内に武藤の慟哭(どうこく)が響き渡る。

 

「アタシは‘‘お(しと)やか’’じゃないって?(チャキッ)」

「『口じゃなくて手を動かせ』って言ってるんですよ?(ゲシッ)」

 

 ……ゴメン、武藤。今回ばかりは振った俺が悪い。

 

俺は心の中で武藤に謝った時、前方で巨大な爆炎が上がり、轟音がビリビリと車に伝わった。

 

 

 

「おい!!あの方向って!!」

 

俺は思わず叫んだ。あの爆炎が起こった方向には……俺達が今向かっている『高鏡組本部』があるのだ。

 

「もしかして中国の先生方とキンジが……おい!!もっと飛ばせ!!」

 

高鏡菊代は武藤(運転手)の頬に短機関銃(サブマシンガン)の銃口をグリグリさせ、焦る心を無理やり押さえつけている様だった。

 

「分かってるから銃を向けないでくれ!!……お願いだから、機嫌を直してくれ。スピードをもっと上げてくれよ……

 

武藤の謝罪が届いたのか、ボロ車(ビュート)はゆっくりと加速を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫かい?お姫様?」

 

爆発による破片が降り止んだことを確認し、キンジは胸の中にいるアリアに話しかけた。

 

「……ッ!!……ッ!!ッ~~~!!」

 

キンジに抱きしめれていたアリアの肌は‘‘赤鬼の如く’’真っ赤になっていた。そして言葉にならない声を上げながら、力が入っていない(こぶし)でキンジを叩く。

 キンジはそんなアリアを見て苦笑した後、彼女を抱えながら立ち上がった。

 

「……何が起こった?」

「うわぁ……先端科学兵器(ノイエ・エンジェ)が壊れるぐらいの爆発って……」

 

  ブォオオオオオン!!!

 

GⅢとかなめは先端科学兵器(ノイエ・エンジェ)である『天女(てんにょ)の羽衣』の様な布で爆風や破片を防いだようだが……その布がボロボロになっている。

 

「先生!?大丈夫ですか!?諸葛先生!!」

「う……あ……。ほ、(ほう)、私の事はいい。それよりも早く(遠山キンジ)を……早く……」

「しかし!!」

 

  ブォオオオオオン!!!

 

藍幇(ランパン)の諸葛静幻は瓦礫(がれき)の下敷きになっていた。その瓦礫(がれき)司馬鵬(老け顔)は必死になってどかし、助け出そうとしていた。

 

(ほう)!!大局を見失うな!!」

 

諸葛静幻はその体と風格に似合わない大声を出した。司馬鵬(しばほう)は苦々しい顔をした後、諸葛静幻に背を向けてモーゼルM712を取り出した。

 

「…………分かりました。(こう)、準備しろ。」

「……(シイ)

 

司馬鵬(老け顔)の言葉に、(こう)と呼ばれた‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’は頷いた。そして(こう)の頭に金色の粒子が集まって周りだし、‘‘天使の輪’’の様な物を形成していく。

 

藍幇(ランパン)秘蔵の必殺技がやっとお目見えか!!」

 

GⅢは不敵な笑顔を浮かべながら‘‘ビームサーベル’’の様な物を抜刀し、(こう)へ一気に近づいた。

 

「待て!!サード!!」

 

キンジはとても嫌な予感がし、叫んだ。(こう)の‘‘天使の輪’’は高速回転し、目が赤く光る。

 

  ブォオオオオオン!!!ベキャ!!!

 

その時、100キロ以上出ている一台のボロ車(ビュート)がいきなり飛び出てきて、空中で(こう)司馬鵬(しばほう)・GⅢにぶつかった。

 

「「「ガハッ……!!」」」

「「くらえぇえええ!!」」

 

  ダダダダ!!!

 

 そのボロ車(ビュート)からイブキと高鏡菊代は上半身を出し、ギャグマンガの様に宙へ吹っ飛ぶ3人へ銃弾をばらまく。

 

「……は?」

 

キンジはまるでコントの様なバカバカしい光景に唖然とした。

 

「……何やってるのよ、アイツ。」

「さっすがイブキにぃ!!かっこいい~!!」

 

 アリアは呆れて、かなめはイブキへ称賛を送る。

 

 ……コイツ、だいぶイブキに毒されてるな。

 

キンジは思わずため息をついた。

 

 

 

 キンジが呆然としている間にも、事態はさらに急変する。

 ボロ車(ビュート)は3人を()き、そしてスピードを保ったまま『瓦礫で下敷きになっている諸葛静幻』向かって突進した。

 

「……これが、これが天命ですか。」

 

 さっきまで必死に瓦礫をどかそうとしていた諸葛静幻だが、死期を悟ったのだろう。今は穏やかな顔をしたまま固まっている。

 

  ブォオオオオオン!!!

 

ボロ車(ビュート)は諸葛静幻をあっさりと()いた。ボロ車(ビュート)の運転席には、涙を浮かべながら運転をする武藤が見えた。

 

  キキッーーー!!!

 

敵味方問わず攻撃したボロ車(ビュート)がやっと止まり、武藤・イブキ・高鏡菊代、そして‘‘スキンヘッドの大男の白人’’と‘‘茶髪ボブカットの軍服風学生服を着た少女’’がその車から降りてきた。

 

 ……ッ!?

 

その時、キンジの横で並々ならぬ殺気を感じた。キンジは思わず殺気のもとに振り向いた。

 

「へぇ~……イブキにぃ、また女作ったんだぁ。義妹(いもうと)がいるのに。へぇ~……」

 

どうも、かなめが嫉妬に駆られて殺気を漏らしていたらしい。

 

 ……イブキも苦労しているんだな。

 

キンジはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武藤の運転するボロ車(ビュート)が敵(味方もいたような気がするが)を轢き、やっと止まった。

 

「おい!!お前の言う通り轢いちまったけど大丈夫なのか!?俺あと(運転免許の点数が)1点しか残ってないんだぞ!?」

「安心しろ武藤!!轢いたのは敵だし、敷地内だ!!せいぜい殺人罪くらいだから(運転免許の)点数には関係ねぇ!!」

「いや!!!それはそれでマズいだろ!?武偵法で殺人禁止だから!!」

 

 武藤はギャンギャン叫んでいるのを無視し、俺はボロ車(ビュート)から出た。

 

 ……もし死人が出ていれば俺が運転していたことにするさ。一応この事件限定で殺人許可証(マーダーライセンス)は持っているからな。

 

だが、今の武藤の反応が面白いため、そのことはあえて伝えない。

 

 

 

 さて、ボロ車(ビュート)から降りると……さっき轢いた、‘‘司馬鵬(老け顔)’’と‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’がヨロヨロと立ち上がり、武器を構えていた。

 

「貴様が……村田イブキ!!お前が不死の英霊(イモータルスピリット)か。」

 

‘‘司馬鵬(老け顔)’’はそう大声を上げながら、まるで親の仇の様に俺を睨んできた。

 

「あぁ、そうだ。……お前が司馬鵬(しばほう)か。写真でも見たが、そうとう老けてやがるな。」

「余計なお世話だ。……お前は曹操(ココ)姉妹を(たぶ)らかせ、そして藍幇(ランパン)の今後の進退に関わる。(こう)(遠山キンジ)よりも不死の英霊(村田イブキ)を狙え。」

 

司馬鵬(老け顔)はそう言って、今時珍しいモーゼルC96系の拳銃を取り出し、‘‘馬賊撃ち’’の様に、横に向けて構えた。その横で‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’の頭に金冠が出来始める。

 

「いや……曹操(ココ)の件、俺は悪くないと思うんだが……」

 

 曹操(ココ)四姉妹のうち、二人が変態(ドM)になって俺に懐いたのだが……その件で俺は関係ないはずだ(詳細は‘‘高校生活2学期編’’参照)。

 

 ……まぁ良い。ここには東京国立〇物館の宝物は無いはずだ。なら……こいつらを早急に倒して、場所を白状させるだけだ。

 

 俺は38式歩兵銃を取り出し、銃剣をつけたと同時に……声が聞こえた。

 

「はっはっはっはっは!!あーはっはっは!!君達!!この私が来たからにはもう安心だ!!

「誰だ!!」

 

 司馬鵬(しばほう)(こう)が向いた先には……コートを着た変態がいた。

 

「股間のもっこり伊達じゃない。陸に事件が起こった時、海パン一つですべて解決!!特殊刑事課三羽烏最後の一人、『海パン刑事(デカ)』再び参上!!」

 

‘‘海パン刑事(デカ)’’は口上を述べた後、コート脱いで投げ捨てた。もちろん‘‘海パン刑事(デカ)’’が下に着ていたのは海パンだけだ(作中では現在12月)。

 

 ……なんでまた登場するんだよ!!!

 

俺は頭痛を覚え、アスピリンの錠剤を取り出し、それを飲んだ。

 

「嘘でしょ!?検挙率100%の‘‘海パン刑事(デカ)’’!?」←アリア

「‘‘特殊刑事課’’の噂は聞いていたけど……本当にあったなんて!?」←高鏡菊代

「クソッ!!特殊刑事課は想定外だ!!これは逃げるしかない……」←司馬鵬(しばほう)

 

敵味方問わず‘‘海パン刑事(デカ)’’の登場にドン引きしていたのだが…‥上記の三人は‘‘海パン刑事(変態)’’の実力を知っているため、その男を警戒する。

 

 

 

 

 

「……想定以上の戦力だ。(こう)、撤退だ。」

「……(シイ)

 

司馬鵬(しばほう)は撤退の命令を出し、ポケットから煙幕弾を取り出したが……その命令はすでに遅かった。

 

  ダァン!!

 

「グッ……!?」

 

 ‘‘海パン刑事(変態)’’の‘‘早撃ち’’によって煙幕弾が司馬鵬(しばほう)の手から離れた後、俺達の目の前で海パン(ほぼ唯一の衣服)を脱いだ。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 海パンを脱ぎ終わり、フルチンになった海パン刑事(変態)は、急いで逃げだす司馬鵬(しばほう)と‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’に向かって走り出した。

 

「ゴールデンクラッシュ!!」

「「ぎゃぁあああああ!!!」」

 

そして海パン刑事(変態)は走り高跳びの要領で宙に飛び、股間から司馬鵬(しばほう)と‘‘名古屋武偵高校の制服を着た少女’’に突撃した。

 

 ……これはR18 にはならないはず。地上波のアニメでもこのシーンはあったし、ハーメルンさんも許してくれる……よな?

 

醜い逮捕現場に、俺は思わず顔をそむけた。

 

 

 

 

 海パン刑事(変態)は二人を簡単に倒した後、瓦礫に挟まって動けない諸葛静幻(瀕死)へゆっくりと歩いていく。

 

「待ちなさい!!いや、待って!!や、やめろぉおおおおお!!!……ぎゃぁあああ!!!」

 

海パン刑事(変態)はあまりの恐怖にキャラ崩壊した諸葛静幻の顔面に突撃し、無力化した。

 

「「「「「「……」」」」」」

「オェッ!!オロロロロ……」

 

海パン刑事(変態)が検挙率100%の理由』を知って俺達がドン引きしている中……キンジは顔を真っ青にして吐いていた。

 

 ……ん?どうかしたのか?

 

顔色が‘‘真っ青’’から‘‘真っ白’’に変化しても気持ち悪そうに吐いているキンジを観察してみると……さっきまで‘‘HSS’’だったキンジはすでにその状態が解け、いつもの『ノーマルキンジ(?)』の状態で吐いている。

 

 

 そう言えば、HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)は思考力・判断力・反射神経・視力・聴力などが通常の30倍にまで向上するそうだ(この前調べた)。という事は海パン刑事(変態)による逮捕の瞬間(大惨事)も、単純計算で一般人の30倍も詳しく・細かく認識されるというで……

 

 

「ゴホッ!!オェッ!!」

「キンジ!!大丈夫!?」

 

 弱り切ったキンジの背をアリアが(さす)る。このままではキンジは戦力にならないだろう。

 俺は思わずキンジに合掌した。

 

 

 

 

 

 

 キンジに合掌した後、俺はジョニー・マクレー(おっさん)・西住さんと合流し、一緒に司馬鵬(しばほう)(こう)を縛り上げ、所持品のチェックをしていた。

 

「(英語)……偽造パスポートに国際運転免許証(IDP)・スマホ、それに現金と弾薬だけだ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)司馬鵬(しばほう)のポケットから取り出した物を地面に放っていった。

 

「こっちなんて所持品一つもありませんよ」

 

西住さんは(こう)の衣服のポケットを裏っ返した後、ため息をついていた。

 

「……しょうがない。無理にでも聞き出すしかないか。」

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から水の入ったペットボトルを取り出した。すると、ジョニー・マクレー(おっさん)司馬鵬(しばほう)の鼻をつまみ、口を開けさせた。俺はその司馬鵬(しばほう)の口に向かって水を注ぎ入れた。

 

「……グゴゴゴ!!ゴホッ!!ゲホッ!!」

 

司馬鵬(しばほう)は気道を塞がれたため、咳き込みながら強制的に起こされた。

 俺はそれを確認すると、14年式拳銃を抜いて司馬鵬(しばほう)の額に突きつける。

 

「おい、単刀直入に聞く。司馬鵬(老け顔)、博物館から盗んだ物は何処にやった。」

「ゲホッ、ゴホッ!!…………言うと思うか?」

 

 ……こいつは面倒だ。

 

司馬鵬(しばほう)は覚悟を決めた、キリっとした顔つきをしていた。こういう奴は並みの拷問(尋問)では口を割らないことが多い。

 一応、えげつない(ちょっと強めの)拷問(尋問)方法もあると言えばあるのだが……ジョニー・マクレー(おっさん)はともかく、武偵や民間人の前でやるのは色々と問題がある。

 

 ……でも、今は手段を選んでいる場合じゃないか。

 

 俺は司馬鵬(しばほう)の膝に狙いを定め、引き金を引こうとし……

 

「……村田さん。少し待って居てください。」

 

西住さんに止められた。

 

 

 

 西住さんは海パン刑事(変態)のところへ行って少し話をした後、諸葛静幻を担いだ海パン刑事(変態)(ともな)って戻ってきた。

 

「西住少女、ここでいいか?」

「えぇ、ここに置いてください」

 

海パン刑事(変態)は西住さんの指示のもと、司馬鵬(しばほう)の目の前に気絶している諸葛静幻を投げ捨てた。

 

司馬鵬(しばほう)さん、私が3つ数えるうちに『博物館の展示品』をどこに輸送しているのか教えてください。」

 

西住さんは司馬鵬(しばほう)にそう言うと、俺が貸した44式騎兵銃の銃口を諸葛静幻に向けた。

 

「い~ち」

 

  タァン!!

 

「「「「「ちょっと待って!!!2と3は!?」」」」」

 

西住さんは‘‘1’’を数え終わる前に諸葛静幻へ発砲した。弾は静幻の顔の右横5センチぐらいのところに着弾する。

 その行いに司馬鵬(しばほう)を含めた俺達全員が思わず突っ込んだ。

 

「今は時間が無いんです。条件が刻一刻と変わるのは当たり前ですよね?……それにこんな言葉を知っていますか?『1発だけなら誤射かもしれない』って」

 

西住さんは素朴で可愛い、今日一番の笑顔を浮かべて言った。(しかし、その可愛い笑顔は泥と血で汚れていたが)

 

「「「「「………」」」」」

 

俺達がドン引きしている間に、西住さんは44式騎兵銃の遊底(ボルト)を操作して再装填(リロード)を済ませる。

 

「に~い」

 

  タァン!!

 

弾はさらに諸葛静幻から近いところに着弾した。西住さんは再び遊底(ボルト)を操作し、今度は諸葛静幻の額に銃口を向けた。

 

「さ~……」

「調布だ!!調布飛行場!!そこにある輸送機から南沙諸島の‘‘ファイアリー・クロス礁’’の飛行場へ行った後、(中国)本土へ向かう!!」

「……ッチ」

 

司馬鵬(しばほう)が自白すると、西住さんはその笑顔のまま銃を下ろした。その時に聞こえた舌打ちは聞き間違いに違いない……はず。

 

「‘‘調布飛行場’’で間違いないですね?」

 

西住さんはその笑顔を保ったまましゃがみ、司馬鵬(しばほう)に顔を近づけて尋ねた。

 

「そうだ!!だから先生を!!諸葛先生を解放しr……」

「いえ、もちろん拘束させてもらいます。司馬鵬(しばほう)さん?もし嘘をついていたら……全員『ゴールデンクラッシュ』を再び喰らうと思っておいてください。」

「「「……(何この子、怖い……)」」」

 

西住さんはその笑顔で忠告し、俺・ジョニー・マクレー(おっさん)・武藤はこの可憐な少女の恐ろしさに思わず震えた。『綺麗な花には棘がある』とはよく言ったものだ。

 

「に、西住少女?すでに逮捕した物に『ゴールデンクラッシュ』はd……」

「嘘だったらやってくださいね?」

「は、はい!!!」

 

海パン刑事(変態)は反対しようとしたが……西住さんの笑顔(一睨み)で一蹴された。

 

 

 

 

 

「な、なぁイブキ……。あの子って民間人だよな。‘‘武偵’’とか‘‘軍人’’とか‘‘警察’’とかじゃないよな?」

「安心しろ武藤、西住さんは‘‘戦車道’’を(たしな)んでいる‘‘普通の民間人’’だ。」

「‘‘戦車道’’って……知波単学園の子達も一癖あったけどよ……」(高校生活夏休み編 ガールズ&パンツァー 畑違いなんですけど…… より)

「(英語)知らねぇのか二人とも……女ってのは怖いんだぜ?」

 

俺達がその光景を見て思わず話し込んでいた時、西住さんがいきなり首をグルっと回して俺達を見てきた。

 

「3人とも何をしているんですか?早く『調布飛行場』へ行きますよ?……武藤さん?」

「は、はい!!」

「早くエンジンを掛けてください。時間はありませんよ?」

 

  ニタァ~

 

西住さんは可憐な笑顔で、しかし目は一切笑わずに言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 武藤は目から汗を流しながら脱兎の如くボロ車(ビュート)に飛びつき、焦りながら運転席の扉を開けてエンジンを掛ける。その時だった。

 

「ねぇイブキにぃ?あの女たちは何?」

「……!?」

 

俺の後ろでかなめの声が聞こえた。俺は後ろゆっくり振り向くと……そこにはかなめ(悪魔)が立っていた。

 

「ねぇイブキにぃ?……イブキにぃが白鷺千聖の所属する‘‘アイドルユニット’’の護衛をしていたのは知っているけど、この二人は何?」

 

 かなめが言っているのは‘‘高鏡菊代’’と‘‘西住みほ’’の事だろう。

 ついでに、高鏡菊代はかなめ(ヤンデレ)西住みほ(軍神)の気に当てられたのか……腰を抜かしてしゃがみ込み、水溜まりを作っていた。

 

「村田さん?何をしているんですか?早く‘‘調布飛行場’’へ向かいますよ?」

「おい、お前……なに‘‘イブキにぃ’’に命令してるんだよ」

 

 ……あれ?ジョニー・マクレー(おっさん)はどこ行った?

 

俺は二人を無視し、ジョニー・マクレー(おっさん)を探すと……ジョニー・マクレー(おっさん)は俺を見捨て、ボロ車(ビュート)の助手席に乗り込むところだった。

 

 ……ジョニー・マクレー(おっさん)!!俺を見捨てたな!?

 

「と、とにかく!!かなめ、説明は車内でだ!!急いで‘‘調布飛行場’’へ向かうぞ!!」

 

俺は急いでこの場を離れ、ボロ車(ビュート)の後部座席に乗り込んだ。すると、西住さんとかなめは俺を挟むように、後部座席の左右から乗り込んだ。

 

「急いで‘‘調布飛行場’’へ行くぞ!!……ざまぁ!!

「おいこの野郎!!」

 

俺は武藤の肩を掴んで揺さぶるが……武藤は笑いながらアクセルを踏んだ。

 

「イブキにぃ?……コイツ、誰?」

「村田さん……この子は?」

 

俺は思わず頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ウァ~~~~~ッ!!!」

 

GⅢはイブキと高鏡菊代に無差別銃撃を受けた後、痛みに悶えながら転がっていたのだが……誰にも気づかれることがなかった。

 

 




 流石に戦闘ヘリ・攻撃機・低空飛行の戦闘機相手の携帯対空ミサイルに『ホバー・スカート』が耐えられないと思われます。しかし、アリアは被弾する瞬間に『ホバー・スカート』から脱出したため、ほぼ無傷で生還しています。


 Next Ibuki's HINT!! 「月光」 



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Die Hard3 in Tokyo 切れ味抜群すぎ……

遅れた事、誠に申し訳ございません。
 理由としましては……
  ・体力不足が7割(バイトから帰るとパソコンに座る体力・気力がない)
  ・一時的な環境の変化が1.5割(旅行先でベロ酔いしていたため)
  ・時間の減少が1.5割(久々に‘‘艦これ’’をプレイしてのめりこむ)

 完全に自業自得です。はい、スイマセン……


 


ボロ車(ビュート)の後部座席で、(西住さん)(かなめ)は俺を挟んで(にら)み合っていた。

 

「「……。(ニヤニヤ)」」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と武藤はその睨み合いを『他人の不幸は蜜の味』とでも言いそうな眼で見る。

 

 ……ジョニー・マクレー(おっさん)に武藤め。後でぶん殴ってやる。

 

俺は肩身の狭い思いをしながら拳を強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 ついでに……西住みほは冷酷で非情に、かなめは今にも襲い掛かる猛獣の様に睨んでいて……

 

「……。(うわぁああ!!もう一杯一杯だったから人に銃を向けて撃って、いろんな人に沢山の迷惑かけて……!!しかもこの子から睨まれてる!!)」←西住みほ

「……。(こいつ誰?イブキにぃの相棒(となり)で戦って……相棒(となり)はあたし!!)」←かなめ

 

 などと考えていた。もちろん、イブキは二人がこんな事を考えながら睨んでいるとは一切感づいていない。

 

 

 

  

 

 

 (西住さん)(かなめ)が睨み合って10数分、武藤の運転するボロ車(ビュート)は中央道を爆走して調布で降りた。そして、近道のために飛行場に隣接する多数のグラウンドや公園の敷地を横切る。

 

「イブキ!!本当に突っ切っていいのか!?」

 

 武藤はその運転とは真逆な、焦りが混じった大声で俺に聞いてきた。

 武藤は車のスピードを極力落とさぬようにするため、極力ハンドルを切らず、木や障害物をぶつかるギリギリのところで避けていく。

 

「緊急事態だからいいんだよ!!昼には千代田区の旧江戸城も通り抜けさせてもらったから!!」

「ん?……っておい!!旧江戸城っt……」

 

武藤は驚いて俺に振り向いた。

 

 ところで、時速60㎞は秒速16.7mほど。このボロ車(ビュート)は時速60㎞を大幅に超えているスピードを出している。なので、数秒でも運転手が後ろを振り向いている間にボロ車(ビュート)は何十mもの距離を移動していることになる。なので……

 

「「「前!!前見ろ!!」」」

「……ッ!?うぉおおお!?」

 

 俺達の目の前にサッカー場の柵が迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

  バコーーーン!!

 

 ボロ車(ビュート)はサッカー場の柵を蹴破り、たくさんの少年たちが練習をしているグラウンドに突っ込んだ。

 

「む、武藤!!スピード落とせ!!()き殺す気か!?」

 

呆然と突っ立っていたり、逃げようとする少年達を間一髪で避けていく。

 

「そんな時間ないんだろ!?車両科(ロジ)の腕を見せてやるぜ!!」

「(英語)こいつは坊主より(運転の)腕があるから心配すんな」

「(英語)それは知っているけど!!そう言う問題じゃねぇ!!」

 

武藤はさらにアクセルを踏み込み、ハンドルとサイドブレーキを駆使し、極力スピードを落とさないように運転する。車体は左右に激しく揺れ、左右に居る西住さんやかなめの体が当たるのだが……武藤の運転のせいで感触を意識する余裕は全くない。

 

「「おぉ~……」」

 

そんな二人は武藤の運転技術の高さを、まるで『衝撃映像』か何かを見ているかのような感嘆の声を上げていた。

 

 ……ふ、二人とも胆が太すぎだろ!?

 

  バゴン!!ベキッ!!

 

俺が西住さんとかなめが落ち着いている事に驚く中、ボロ車(ビュート)はボールの(かご)を撥ね飛ばし、再び柵に突っ込んでサッカー場から脱出した。

 

 ……よかった、マジでよかった。誰も()かなくて

 

俺は安堵の溜息が出た。

 

 

 

 

 

「っへ!!これが車両科(ロジ)だ!!見たか、二人とも?」

 

武藤は後部座席にいる女性陣(二人)に振り向いた。もちろん、運転手が後ろを振り向くという事は、運転がおざなりになるという事で……

 

「「「「前、前見ろ!!」」」」

 

今度は少年野球の試合中である野球場にボロ車(ビュート)は突っ込んだ。

 

  バキッ!!バコン!!

 

ボロ車(ビュート)柵を破壊して野球場に侵入し、ついでに飛んできた打球を跳ね返し、場外へ飛ばしてホームランにさせた。

 

「武藤何やってんだよ!!車両科(ロジ)のAランクじゃないのか?」

「こうなるからSじゃなくてAなんだよ!!」

 

 ……せ、せめて無関係な一般市民に殺人許可証(マーダーライセンス)を使うような事を起こさないでくれよ!?

 

俺は武藤の運転技術を信じて祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 俺の祈りが通じたのか、武藤は巧みな運転技術で野球場を難なく通過し、ボロ車(ビュート)は『調布飛行場』の敷地に躍り出た。

 飛行場の反対側には……日本軍(うち)でも米軍でも、ましてや欧州軍(NATO軍)・ロシア軍でも見たことがない、プロペラがついた軍用大型輸送機が誘導路から滑走路へ移動している所だった。

 

 ……C-130(ハーキュリーズ)に近い機影から察するに、中国のY-9か?そう言えば空軍の後輩(笹井)に敵機識別表を見せてもらった時、これと同じのが載っていたような気がする。

 

 機種の特定はともかく、『調布飛行場』は一般的に小型の民間機が離発着する場所だ。緊急事態でも、こんな軍用大型輸送機が着陸するなんて普通ありえない。となれば……この軍用大型輸送機はテロリストの物である可能性が高い。

 

 

 

 その軍用大型輸送機のコクピットから人の顔がチラリと見えた。その顔は……

 

「「「……!!サイモン!!」」」

 

 『サイモン』……本名:サイモン・ピーター・グルーバーは今回のテロ事件の実行犯、そのリーダーだ。

 『Die Hard3 in Tokyo  一般人でこの殺気って……』において、俺・ジョニー・マクレー(おっさん)・西住さんは資料の写真で見ていため、『サイモン』の顔とすぐに気が付いた。ついでに、サイモンはドヤ顔で俺達を見下しているように見えた。

 

 

 

「武藤!!あの輸送機だ!!あの輸送機にテロリストがいる!!急げ!!」

 

 俺は運転席を揺らしながら、移動中の軍用大型輸送機を指さした。

 

「な、なに言ってんだ!!2キロは離れてるんだぞ!?追いつくころには滑走を始める!!どうやってあれを止めるんだよ!?」

 

車両科(ロジ)である武藤は滑走を始めた大型機を止める無謀さを誰よりもよく知っているはずだ。しかし、武藤は反論しながらもボロ車(ビュート)を加速させ、大型輸送機に接近する。

 

「止めるのは無理だって俺でもわかる!!だったら、あれに飛び乗って敵を殲滅(せんめつ)するまでだ!!」

「何言ってんだよお前!?滑走中の飛行機に飛び乗る!?無理に決まってんだろ!?」

 

武藤は俺の言葉が冗談にでも聞こえたのだろうか。

 

「(英語)前に坊主と飛行機に飛び乗るってのはやったことがある。まぁ、その時はヘリだったけどよ」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はなだめるように言いながら、タバコに火をつけ、拳銃の残弾を確認した。

 

「いや、俺英語分かんねぇから!!というかこの‘‘おっさん’’だれ!?シレッと車に乗ったから気にしてなかったけどよ!!こいつ、日本の武偵でも刑事でも軍人でもないよなぁ!?」

「お前分からないで運転してたのかよ!?というか、おっさんはともかく西住さんの事を疑問に思えよ!!おっさんはニューヨーク市警だけど、西住さんは民間人だぞ!?」

「何でニューヨーク市警がいるんだよ!?……と、とにかく!!しっかり捕まってろよ!?」

 

武藤はドリフトの要領で車体を180度回転させ、誘導路から滑走路についた軍用大型輸送機に横付けした。

 

「イブキ!!行くんだろ!!」

「あぁ、ありがとよ!!」

 

 ……負傷した武藤がここまでお膳立てしてくれたんだ。絶対に成功させなきゃな

 

俺はベルトのバックルからワイヤーを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 サイモン達は‘‘スポンサーからの依頼の品(高校生のガールズバンド:Roselia)’’と‘‘東京国立博物館の宝物’’を、藍幇(ランパン)から支給されたY-9 輸送機に詰め込み、離陸を始めようとしていた。

 

『Request taxi.(訳:滑走路までの経路をお願いします)』

『Runwey……』

 

 サイモンは計画通りに進んでホッとしながら管制塔の指示を聞いている時、飛行場の反対側からボロボロの車がこの輸送機に接近してくるのを確認した。

 そのボロボロの車は『東京国立〇物館』や高速道路で見た、村田とマクレー(ジョーカー二人)が乗っていた車だ。

 

「……はははっ!!」

 

サイモンは思わず笑い声が出た。

 この機体はすでに離陸体勢を整え始めている。そんな飛行機を、あんなちっぽけな小自動車が止められるだろうか。管制官が止めようとするかもしれないが、その時は指示を無視すればいいだけだ。

 

「さ、サイモン様、向こうから車が来ますが……」

 

操縦手の部下から指示を仰がれた。

 

「無視しろ。管制官が止めようとしても無視して飛び立て。」

「わ、分かりました。」

 

サイモンはコクピットから、そのちっぽけな車の中で焦る村田とジョニー・マクレー、西住みほを見つけ、思わず口角がさらに上がった。

 

 

 

 

 

 

 武藤のおかげでボロ車(ビュート)は滑走路の軍用大型輸送機に横付けした。それと同時に軍用大型輸送機は加速し始める。武藤も間髪入れずにボロ車(ビュート)のアクセルを踏み込み、並走させた。

 

「すぐに追いつけなくなるからな!!」

「分かってる!!」

 

 俺はベルトのバックルからワイヤーを取り出した後、かなめと席を交換してもらい、後部座席のドアを勢いよく開けた。力強く開けたせいか、ドアは車から外れて滑走路に転がり落ちた。

 

 ……まぁ良い、むしろ邪魔なものが無くなってフックを引っかけやすくなった

 

俺はフックが付いたワイヤーを回して投げた。フックは主翼と高揚力装置(後縁フラップ)の間に引っかかる。俺はそのワイヤーを伝って主翼へ登り、そして主翼から滑り落ちる様に大型輸送機の側面扉に飛びついた。

 ジョニー・マクレー(おっさん)ボロ車(助手席)から輸送機の脚に飛び乗り、そこから登って側面扉の前方にある手すりにしがみ付いた。

 

「(英語)ジョン・F・ケネディ国際空港以来だな!!おっさん!!」

「(英語)その時の方が楽だった!!なんだって‘‘007(ジェームズ・ボンド)’’や‘‘イーサン・ハント(M:I(ミッション:インポッシブル)の主人公)’’の真似をしなきゃなんねぇんだ!?」

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は『民間人編 ダイ・〇ード2』でヘリから敵テロリストの乗った飛行機に飛び乗ったことがあった。しかし、今回はその時以上に難易度の高いことをやっている。

 

「「……うぉ!?」」

 

大型輸送機が加速度を上げ、強烈な慣性力が俺達を襲った。俺は慌てて銃剣を2本取り出し、それを側面扉に刺して大型輸送機から落ちないようにする。

 その時、俺の背中に何かが捕まった。その重さと増えた空気抵抗が俺をさらに襲う。

 

「グオォ!?な、何だ!?」

 

新たな重さと抵抗のせいで握っていた銃剣が曲がった。

 俺は思わず後ろを振り向いた。そこには、西住さんが俺の背中に張り付いていた。

 

「な、なんで西住さんが来るんだよ!?死ぬ気か!?」

「ここまで来たんですから最後までついて行きます!!それに二人とも前線で戦って後方がいないじゃないですか!!」

 

 ……まぁ確かに、俺とおっさんが戦闘し、その間に西住さんが後方で人質解放とか多かった。だけれど、西住さんがここまで危険なことはしなくてもいいと思うのだが。

 

 大型輸送機は時速150キロを超え、並走するボロ車(ビュート)が息切れを起こし始めていた。この状況で西住さんをボロ車(ビュート)に戻すのはあまりにも危険すぎる。

 

「なんでイブキにぃの背中に……」

 

光学迷彩(透明化)が出来なくなった先端化学兵器(ノイエ・エンジェ)の『天女(てんにょ)の布(仮)』で大型輸送機に掴まるかなめから絶対零度(コキュートス)の視線が俺に浴びせられる。

 

「「「「うわぁああ!?」」」」

 

いきなり慣性力のベクトル(向きと力)が変わった。大型輸送機が離陸したのだ。

 地球の重力に慣性力、そして風の抵抗が俺達を襲う。俺の握る銃剣がさらに曲がった。

 

「に、西住さん、手を離すんじゃねぇぞ!?」

「は、はい!!」

 

西住さんが俺の体を強く抱きしめるせいで傷が開き、悪化しているのが良く分かる。

 そんな中、ジョニー・マクレー(おっさん)は目の前にあったハッチを開き、中にあるボタンを押した。

 

  ウィィイイイイン!!

 

 しかし、俺達の目の前にある側面扉は開かず、逆に輸送機の後部扉(大型の荷物が行き交う扉)が開き始めた。

 

「(英語)おっさん!!そっちじゃねぇ!!」

「(英語)漢字を理解できるわけねぇだろ!?」

 

 ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言った後、風と重力と慣性力にさらされながら再びボタンを押した。

 すると後部扉が閉まりだし、逆に俺達の目の前にある側面扉が開いた。

 高速で移動する車の窓を開けると、風が車内に勢いよく入る。俺達はその風の様に大型輸送機の機内に吸い込まれ、壁に叩きつけられた。

 

「「「「……!!」」」」」

 

壁に叩きつけられた俺の隣に猿轡(さるぐつわ)と縄をかけられた青緑色の長髪少女:氷川紗夜が涙目で唸っていた。近くには同年代の少女達が4人、同じように猿轡(さるぐつわ)と縄をかけられている。

 

 ……やっぱり‘‘サイモン’’に誘拐されてたか。

 

  カチャカチャ!!

 

その時、見張りであろう敵二人が慌てて俺達に銃を構えようとした。

 俺は咄嗟(とっさ)に握っていた銃剣を敵の一人に投げつけた。

 

  シュッ!!ダァンダァン!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が放った弾丸と、俺が投げた銃剣がその部下達に刺さった。刺さったそいつはバタッと倒れ、血を流したまま動かなくなった。

 

「ハァハァ……助けに来たぜ。安心しろ」

「(英語)‘‘騎兵隊の到着’’ってな……!!」

 

 

 

 

 

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は傷だらけの体を気力で動かし、立ち上がった。

 

 ……博物館の物もやっぱりここにあったか。

 

『氷川紗夜とその他四人の少女のバンド』:Roseliaの後ろ、俺達が叩きつけられた壁は……パレットに乗せられた多数の木製の箱だった。俺達が叩きつけられたせいで一部の木箱が割れ、中にある鏡や勾玉、陶器磁器に書物や日本刀が顔をのぞかせていた。

 

「かなめと西住さんで彼女達の‘‘解放及び護衛’’だ。俺とジョニー・マクレー(おっさん)で残りをやる」

「(英語)嬢ちゃん達はここで待ってろ。」

俺は血を流し過ぎたせいで眩暈(めまい)がし、しかも意識を失いかけた。俺は何とか気合でそれに耐え、‘‘四次元倉庫’’から刀と38式歩兵銃・新しい銃剣を取り出した。刀は腰に()し、38式に銃剣を着剣させる。

 

「村田さん、マクレーさん!!そんな体で……死ぬ気ですか!?」

「イブキにぃ!!そのおっさんよりもあたしの方g……」

「バンドやってるんだってよ。これ以上トラウマが出来たらこの()達が演奏できなくなるだろ?……それに同性だから融通が利く。かなめは護衛、西住さんはバックアップだ。この()達を弾の当たらない場所へ案内してやってくれ。」

 

 俺は人質の少女達(Roseliaのメンバー)をチラリと見た。彼女達は巻き込まれた事件の恐ろしさに気が付いていないのか、キョトンとしていた

 多少治安が悪くなったとはいえ、それでも日本では拉致・誘拐は珍しい。それがいきなり身に降りかかったのだ。きっと今はキョトンとしているが、次第に彼女達は怯え始めるだろう。そんな時に必要なのは西住さんやかなめであって、『(辻・神城・鬼塚(バケモノ上司達)のせいで)拉致・誘拐に慣れた俺』や『いつも何かに巻き込まれるジョニー・マクレー(おっさん)』ではないはずだ。

 

 ……あれ?おかしいな。事件に巻き込まれる可能性が圧倒的に低いであろう軍艦に乗りたくて海軍に入ったのに、なんで拉致・誘拐に慣れたんだろ?……カット

 

 これ以上考えると色々と自分の黒歴史を掘り返すことになりそうだ。俺は頭を()いて思考を止めた。

 

 

 

 

「(英語)話は済んだか、坊主?……おいおい、タバコは体に悪いんだぞ?」

「(英語)あぁ……ってタバコ切らしたのかよ。吸いすぎだろ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は倒した敵の装備とタバコを奪い取り、代わりに愛飲しているマルボロの空箱を捨てていた。

 死んだ敵の周囲には‘‘開けて間もない酒瓶’’や‘‘封が切られていない酒瓶’’が多数転がっていた。祝勝として敵が飲もうとしていたのだろうか。

 

「(英語)……だからいつまでたっても坊主なんだよ」

「(英語)ハイハイ……子供に臭いって言われても知らねぇぞ」

 

 ……タバコの味は今のところ分からないしな。

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は軽口を叩き合いながら輸送機のコックピットへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

  ダダダダダ!!

 

「「ッ!!」」

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は貨物室とコックピットを仕切る扉を開けてコックピットの様子を覗いた瞬間、敵が発砲を始めてきた。ついでに、中にはサイモンと『カティア・タルゴ』の二人だけだった。

 俺達は慌てて頭を下げ、扉を閉めた。敵は短機関銃(サブマシンガン)を使っているおかげで弾は扉や壁を貫通しない。

 

「(英語)おっさん!!なんか案あるか!?」

 

敵はコックピットの中だ。下手に撃ち合えば操縦系統が傷つき、輸送機が墜落する可能性もある。

 

「(英語)そっちに無線機か何かあるk……ッ!?」

「……ッ!?」

 

  ベキッ!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が何か言った瞬間、俺達と敵を(へだ)てる扉が切られた。そして敵側(コックピット)から俺達の方(貨物室)へ誰かが侵入してくる。そいつは……

 

「「サイモン……!!」」

 

俺は38式を突き出し、サイモンに銃剣を刺そうとした。するとサイモンは手に持った刀を振るった。

 

  パキッ!!

 

「ウソだろ!?」

 

サイモンの刀は包丁で大根を輪切りにするかの様に、俺の38式を3分割した。そのままサイモンは返す刀で俺を切ろうとしてる。

 

「うおぉおお!!」

 

俺は銃床だけになった38式を捨て、横に転がって斬撃を(かわ)して腰の刀を握った。輸送機の鉄の固い床が傷を刺激し、体に激痛が走る。

 

 ……クソッ!!なんだって38式があんな簡単に切り裂けるんだよ!!

 

俺はしゃがんだ体勢からバネを放つようにサイモンに接近し、抜刀した。サイモンは俺の放った刃の軌跡に合わすように、その刀を置く。

 

  ギィイイン!!!べキッ!!

 

俺の刀とサイモンの刀がぶつかって火花が上がり、俺の刀が折れた。

 

 ……嘘だろ!?スカサハ(師匠)から貰った紅刀だぞ!?こんな簡単に壊れるのか!?

 

 カランカラン……

 

切られた(あか)い刀身が地面に落ちた。俺はあまりの驚きに一瞬固まってしまった。サイモンはその隙を見逃さずに刀を振るう。

 

  ザシュッ……!!

 

「グアァッ!?」

 

俺は咄嗟に利き腕の右手をかばい、左腕を切られた。一応避ける動作もしたため、傷はそこまで深くはないが……己の左腕はもう戦力外だろう。

 俺は再び鉄の床を転がる様にしてサイモンと距離を取った。

 

  ドン……!!

 

「ゴフッ!!ハァ、ハァ……」

 

俺は最初にぶつかった木箱の近くまで転がったらしい。俺の目の前には、割れ目から鏡や勾玉、陶器磁器に書物や日本刀が顔をのぞかせていた。……というか、その日本刀のせいで顔に新たな傷ができた。

 

「いやはや、『天下五剣』といっても所詮(しょせん)‘‘飾られた宝剣’’程度の物かと思っていたが……この『三日月宗近』は中々の切れ味だな。」

 

俺は寝返りを打つようにサイモンの方へ向いた。サイモンは手に持つ刀を振り、付着した血や油を落とす。

 

 ……ジョニー・マクレー(おっさん)は何をしているんだ?

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は『カティア・タルゴ』の猛攻にさらされていた。『カティア・タルゴ』は素人でもわかるような‘‘小太刀の名刀’’を振るい、ジョニー・マクレー(おっさん)が持つ銃を切り裂いていた。

 

 ……ん?名刀?

 

 俺はサイモンが持つ刀を見た。その刀は……今の時代では絶対に作れないであろう製作者の圧倒的な技術力と込められた思い、そして歴史の重みによるオーラを放っていた。

 そしてサイモンは『……この‘‘三日月宗近’’は中々の切れ味だな。』と言っていた。という事は……

 

「サイモン、お前……その刀……!!」

 

なんで俺はサイモンの持つ刀を注目しなかったのだろう。柄がつけられているが……この刀は東京国立〇物館で飾られていたものだ。

 

 ……‘‘三日月宗近’’は『天下五剣』の一つ。『東京国立〇物館』に所蔵されている重要な太刀の一つだったはず。それをサイモンが使っているのか?

 

「流石に分かるか。これはあの博物館にあった刀の一つで『天下五剣』の一つ、『三日月宗近』だ。……それに私は武士や侍に興味を持っていてね。剣道と剣術を習っていてた時もある。」

 

 サイモンはそう言いながら、その‘‘三日月宗近’’を上段に持って構え、ジリジリと近づいてくる。

 

 ……クソッ!!何か、何か使えるものはないか?

 

俺は周りを見た。近くには蒸留酒が入った酒瓶が多数散らばっており、近くには俺の顔を切った日本刀が木箱からコンニチハしている。窓から見える景色から、すでに高度6000m以上の場所にいることが分かる。

 

「祖国の名刀に切られるのだ。光栄だな、村田君?」

 

サイモンがそう言った時、機内の空気の流れがいきなり変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「ウワァ……アァ……ウゥ……」

 

あちこち切られたジョニー・マクレー(おっさん)は『カティア・タルゴ』に蹴られ、輸送機側面の壁に叩きつけられた。『カティア・タルゴ』は白兵戦の名手らしく、白兵戦が苦手であり、しかもボロボロジョニー・マクレー(おっさん)はとても不利な状況だった。

 

「…………」

 

『カティア・タルゴ』は‘‘小太刀の名刀’’を逆手に握り、ジョニー・マクレー(おっさん)にゆっくり近づいてくる。その時、ジョニー・マクレー(おっさん)は自分の横に‘‘あるボタン’’があるのを確認した。

 

「スカイダイビングはお嫌い……!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は『カティア・タルゴ』のタイミングを見計らってそのボタンを押した。すると機体前方の側面扉が一気に開いた。

 与圧していた貨物室の空気が一気に機外へ噴き出される。

 

「……『カティア』ッ!!」

 

サイモンが思わず後ろを向いたがもう遅い。前方の側面扉から『カティア・タルゴ』は機外へ射出された

 

「……ッ!?……ァ!!……ッ!!」

 

  メキキキキキッ!!

 

そしてプロペラによるものだろう。鈍い、何かと衝突した音が聞こえた。

 彼女は俺達が入ってきた主翼後方の扉ではなく、前方扉だ。前方扉のすぐ後方にはプロペラがある。そのため、今の異音は……

 

 ……まぁ良い、これで一瞬の隙ができた。

 

  ダンダンダンダン!!!

 

俺は腰の14年式を抜き、サイモンに連射した。サイモンは慌てて機内の鉄骨に隠れた。

 俺は弾切れになった14年式を捨て、木箱から飛び出ていた日本刀の(なかご)(柄に被われる刃のない部分)を握りって取り出し、痛む左腕で床に転がっていた酒瓶を拾い上げた。

 

 ……『ロンリコ 151』、このラムなら大丈夫なはずだ。

 

「うぉおおおおお!!!」

 

俺は‘‘酒瓶’’と‘‘木箱から引き抜いた刀’’を持ち、隠れるサイモンに近づいた。

 

「イブキにぃ!!」

「イブキさん、援護します。」

 

 ダダダ!!ダン!!ダン!!

 

有難い事にかなめと西住さんが援護射撃をし、サイモンは鉄骨の陰から動くことはできない。

 

「兄弟共々くたばりやがれ!!」

 

俺は左手に持つ『ロンリコ 151』の酒瓶を足元に落とし、それをサイモンに向けて蹴り飛ばした。

 

「……ッ!!」

 

サイモンは『三日月宗近』でその酒瓶を切った。すると中身の酒がこぼれ、サイモンの全身に降りかかる。

 そして、俺は右手に持った‘‘木箱から引き抜いた刀’’でサイモンを切りかかった。

 

  ギィイイ!!

 

 流石は‘‘木箱の中に合った(博物館にあった宝物)’’。俺の握るこの日本刀は『三日月宗近』に耐えられたようだ。

 ところで、日本刀とは……要は鉄の塊だ。その二つが勢いよくぶつかれば火花が散る。その火花の一部はサイモンへ飛び……今さっき全身に浴びた『ロンリコ 151(高濃度アルコール)』に着火した。

 

  ボン!!!!

 

「グァアアアア!!!」

 

サイモンは衣服についたアルコールに火が付き、一瞬のうちに全身が燃え上がって ‘‘火だるま’’になった。『三日月宗近』を投げ捨て、サイモンはその熱さに悶え苦しむ。

 

 ……『ロンリコ 151』は151USプルーフ(=75.5%)という、超高濃度のラム酒だ。高濃度の酒とは言え、約25%は不純物であるから引火するかどうか心配だったが、成功したようだな。

 

俺は燃えるサイモンを前方の側面扉へ蹴り飛ばし、ジョニー・マクレー(おっさん)は腰の拳銃を取り出して発砲し、とどめを刺した。

 

「「(英語)弟にもよろしく……!!」」

 

 ドン!!ダンダン!!

 

 サイモンの弟はロサンゼルスの『ナカジマ・プラザ』で、俺とジョニー・マクレー(おっさん)により転落死している。

 サイモンも弟と同じように外へ落ちて行った。この軍用大型輸送機は高度6500mを超えている。(俺の様な)特殊な訓練を受けていない限り、このような高度から落下すれば、海上・陸上どちらでも命はない。仮にその特殊な訓練を受けていても、ジョニー・マクレー(おっさん)の放った銃弾で確実に死ぬ。

 

 ……貨物室はこれで完全に占拠した。コックピットにはサイモンとカティア・タルゴ以外は見えなかった。その二人は今、ミンチか落下傘なしのスカイダイビング中だ。

 

「(英語)へへッ……!!ヒヒヒ……!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は思わず口角を上げ、笑いながら床に倒れこんだ。

 

「クククッ……!!」

 

俺も安堵のせいか床に崩れるように倒れこむと、思わず笑いが込み上げてきた。

 

「「ハハハッ!!アーッハッハッハ!!」」

 

 ……血を流し過ぎた。それに全身は傷だらけ。おまけに左腕は戦闘不可能。他にも色々とやっていそうだな。

 

俺達は立ち上がる元気もない。しかし、笑い転げるだけの力は残っていたようだ。

 

 

 

 

 

「イブキにぃ!!大丈夫!?」

「マクレーさん!!しっかりしてください!!」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)にかなめと西住さんが駆け寄り、抱き上げた。二人は俺達の怪我を見て顔が真っ青になり、急いで応急処置しようとする。

 

「かなめ……俺の事はいい。それよりもこの飛行機を操縦できるか?」

「(英語)嬢ちゃん、そんなことよりも輸送機(こいつ)だ。何とかしてくれぇ……」

 

この大型輸送機は今でこそ自動操縦で安全に飛行しているが、コックピットには誰もいないのだ。軍用機とは言え、このような大型機は少しでもバランスを崩せばたちまち墜落してしまう。

 それに、この輸送機は日本の領海領空から全力で抜け出そうとしている。そのため、誰かがコックピットに乗り込み、輸送機の進路を変えなければならない。

 

「「……ッ!!」

 

かなめと西住さんはそのことを理解したのだろう。苦虫を嚙み潰した様な、そしてどこか辛そうな表情をした。二人はスクっと立ち上がり、コクピットへ走って向かった。

 

  ドスッ!!

 

 ……か、かなめ。コクピットへ向かってくれたのは嬉しいけど、抱えていた俺をそのまま床に落とさないでもらえるかなぁ。

 

俺は後頭部を勢いよく床に叩きつけられ、打撲による鈍い痛みに襲われた。

 

「(英語)あんな子に抱き着かれてよかったじゃねぇか」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は痛みに悶えながら、俺を揶揄(からか)う。

 

「(英語)…………うるせぇ、そもそも‘‘かなめ’’は義妹だ。おっさんも知ってるだろ?ノーカンだ。……それにおっさんは西住さんに抱き着かれたじゃねぇか。」

「(英語)娘と同い年の子に抱き着かれてもなぁ」

「(英語)……マリーさん(おっさんの奥さん)にも言いつけてやる。」

 

俺がそう言うとジョニー・マクレー(おっさん)はビクッと震えた後、固まった。

 

「(英語)お、おい!!坊主!!それだけh……!!」

 

 

 

 

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が慌ててそう言った時、木箱の後ろからちょこっと顔を出し、機内の様子探る少女たちがいた。

 

 ……この子たちが攫われた子達、『Roselia』というバンドを組んでいるんだったな。

 

「敵はもう居ねぇ。俺達が全員倒したぞ」

 

俺は彼女達を安心させようとヨロヨロと立ち上がった。

 

 ……クソッ。もう立つだけで眩暈(めまい)がしてくる。

 

俺は思わず木箱に手をつき、己の体を支えた。『Roselia』のメンバーである少女達がビクッとする。

 

 ……こんな(血まみれの男)が対応したら、普通の女の子はびっくりするよな。

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から手ぬぐいを取り出し、顔を拭くが……半乾きの血糊が伸ばされる感触がする。

 

「あ、あの……『村田さん』?なんで……」

 

‘‘ガールズバンド:Roselia’’の中で唯一面識がある氷川紗夜さんが怯えながら俺に尋ねてきた。

 

 ……そう言えば、氷川紗夜さんは‘‘Pastel*Palettes(パスパレ)’’の氷川日菜の双子の姉だっけ?確かに似ているな。

 

「あぁ~……俺は一応‘‘武偵’’だ。……緊急で氷川紗夜さん(オタク)の妹さんの依頼を受けてな。……全く、俺は‘‘Pastel*Palettes(パスパレ)’’の白鷺千聖の護衛だったのに」

 

俺は自己紹介も兼ねてそう言った時、今は懐かしい‘‘セーラームーン’’の変身BGMの様な物が聞こえ始めた。。

 

……おい、もしかして

 

俺は嫌な予感がした。すでに『海と陸の特殊刑事課』が登場したのだ。今度は『空の特殊刑事課』が登場してもおかしくはない。

 

「ムーンライトパワー!!」

 

俺はその場違いで呑気な声が聞こえると、機内の窓に飛びついた。

 

「おえぇえええ!!」

 

そして、俺は吐き気を覚えた。

 そこから見えるものは……この輸送機と並走する、太平洋戦争中に海軍が開発した双発夜間戦闘機‘‘月光’’。その翼で着替えをしている筋肉ムキムキで青髭の‘‘()っさん(誤字に非ず)’’だった。

 

 ……おい、ちょっと待て!!時速350キロ以上出ている戦闘機の翼の上で‘‘着替え’’なんて普通出来ないだろ!?

 

背中を(さす)られる感触が伝わるが……そんなものどうだっていい。それよりもこの異常な出来事を自分の脳内でそう処理するかが問題だ。

 

 

 

 

 

 

 ……なんだってこんな人達が。

 

 俺は諦めに近い悟りを開き、この現実を受け入れた。

 

「華麗な変身伊達じゃない!!月のエナジー背中に浴びて、正義のスティック闇を裂く!!空の事件なら任せて貰おう!!月よりの使者、月光刑事!!ただいま参上!!」

「同じく美茄子刑事(ビーナスデカ)もよろしく!!……説明しよう!!月光刑事は『女スパイ』に変身する事で、とてつもない力を発揮できるようになるのだ!」」

 

俺達が乗る‘‘大型輸送機の機体後部’’のカーゴドアが開き、戦闘機:月光から二人の刑事(変態)が飛び移った。

 一人は筋骨隆々な体にセーラー服の変態、そしてもう一人は有名な女スパイ:マタ・ハリの格好(しかもFGOの方ではなく、リアルの方)をしたムキムキの変態だ。正直に言って近づきたくない。

 

  スタッ!!

 

「警察庁と警視庁からの命令で‘‘誘拐された少女達’’と‘‘博物館から盗まれた収蔵品’’を回収にやってきた!!」

「さぁ君達。もう安全だ。一緒に来るがいい!!」

 

そう言って二人の刑事(変態)が一歩前へ動くと、‘‘ガールズバンド:Roselia’’のメンバー全5人が恐れをなしたのか、全員が俺に抱き着いて後ろに隠れた。確かに、ごく普通の一般人はこの刑事(変態)に拒否反応が出るのはショウガナイ。

 

「だ、誰ですか!!警察を呼びますよ!!」

 

‘‘ガールズバンド:Roselia’’のメンバーの一人、氷川紗夜さんが声を震わせながら俺の後ろで言った。

 

「「我々がその警察だが?」」

 

二人の刑事(変態)が不思議そうに首を傾げ、さらに一歩近づく。

 

「「「「「ひぃいいいい!!」」」」」

 

‘‘ガールズバンド:Roselia’’は俺の背中に抱き着くように隠れる。

 

「ぶ、‘‘武偵’’何でしょ!?あの変態も倒してよ!!」

 

茶髪のギャルっぽい少女が(すが)る様に言う。

 

「いや……あれでも一応‘‘敏腕刑事’’らしいから。この輸送機にいるより確実に安全d……」

「「「「「いや!!!」」」」」

 

少女達は声をそろえて拒否をする。

 

 ……あぁ~、面倒なことになったぞ。クソッ

 

俺はボーっとする頭を無理やり働かせた。

 

 

 

 

「村田少年、ではそこの少女達を保護させてもらうぞ。」

「さぁ君達、もう安全だ。」

 

俺の目の前に、二人の刑事(変態)筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な体がそびえ立っていた。‘‘ガールズバンド:Roselia’’のメンバーは俺に抱き着く力が強くなり、閉じかけていた傷がさらに開く。

 

「あぁ~……一応‘‘軍’’が保護したという形なので、上官の指示が無いと引き渡すことができないんですよ。」

 

俺は背中の彼女達を守る(?)ために……苦し紛れの、言い訳にすらならない屁理屈を言った。

 

「……分かった。ではこの‘‘博物館から盗まれた収蔵品’’は回収させてもらおう」

「すいません、お願いします。」

 

月光刑事(デカ)は少女達を見て察したのだろう。‘‘東京国〇博物館の収蔵物’’が入った木箱の穴を塞ぎ、ワイヤーや縄でその大量の木箱を縛っていく。

 

「村田君、大丈夫か?応急処置でm……」

「大丈夫です。ありがとうございます、美茄子刑事(ビーナスデカ)。……俺よりもおっさんの方を。」

 

 ……正直に言って、あまり近づいて欲しくない。

 

変装していない方の美茄子刑事(ビーナスデカ)はボロボロの俺を心配してきた。俺はその美茄子刑事(ビーナスデカ)をおっさんへ受け流す。

 

「(英語)……俺はいらねぇ。…………坊主、コックピットに行ってくる。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)美茄子刑事(この変態)と関わり合いたくないのだろうか?スクっと立ち上がると、フラフラしながらも足早にコックピットの方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、3分もしないうちに月光刑事は木箱の穴を塞ぎ、縛り終えた。すると二人の刑事(変態)はワイヤーを伝い、『‘‘東京国〇博物館の収蔵物’’が入った木箱』と一緒にこの大型軍用輸送機に並走する‘‘双発夜間戦闘機:月光’’へ戻っていった。

 

 ……いや、ちょっと待て!!人が‘‘飛行中の航空機から別の航空機へ’’移動する曲芸はあるけど、(収蔵物が入った)合計数トンの多数の木箱と共に移動とか普通無理だろ!!

 

俺のツッコミとは裏腹に、流石は‘‘敏腕刑事’’と言うべきか、‘‘ベテランパイロット’’と言うべきか……多数の木箱はその双発戦闘機の下に収まった。そして、その‘‘双発戦闘機’’は(きびす)を返し、うっすらと見える本土へ帰って行った。

 

 

 

 

 

 俺はその様子を見送ると、ヨロヨロと機体の壁に寄りかかり、倒れるように座った。

 ‘‘ガールズバンド:Roselia’’の少女達が俺に急いで近寄り、心配そうな顔で何かを言いながら俺の体を揺らしてくる。

 

 ……全く、死んじゃねぇよ。

 

「Oh, the weather outside is frightful……」

 

その時、Vaughn Monroe(ヴォーン・モンロー)の‘‘Let it snow! Let it snow! Let it snow!’’が流れ始めた。設定をいじり、機内放送でラジオでも流せるようにしたのだろうか?

 

 ……今は12月の中旬。世間ではクリスマスの陽気であふれている。数あるクリスマスソングの中でもコイツとは、ラジオ局(?)の選曲はいいな

 

俺は目を閉じた。軍用機のせいか、騒音がひどい。しかし、そんな環境が自分には似合っていると思った。

 

 ……後は西住さんとかなめがこの輸送機を操縦して帰れば終わりだ。

 

機体はゆっくりと傾き、旋回を始めた。俺は思わず口ずさむ。

 

「Let it snow! Let it snow! Let it snow!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映画や小説・漫画ならば、これで‘‘無事に事件が解決’’したという事になり、エンディングだろう。しかし、この輸送機には『村田イブキ』・『ジョニー・マクレー』という‘‘常に不幸を呼ぶ二人組’’がいるのだ。悲しいことにまだまだ‘‘ツイてない’’事が起こるのは確定事項である。

 要は何を言いたいのかと言うと……これで終わるはずがない。現実は常に非情である。

 

 

 

  キーン!!!

 

「「「「「「うわぁああ!?」」」」」」

 

機体が大きく揺れ、さっきまで感じていた‘‘旋回による慣性力’’と逆方向の力が体にかかり、俺達は機内を転げまわった。

 そのせいで ‘‘ガールズバンド:Roselia’’の少女達と‘‘組んずほぐれず’’の状態になった。

 

 ……いったい何が起こったんだ!?

 

俺は自分に覆いかぶさる誰かの上半身を無理やりどかし、何とか立ち上がった。

 

「む、村田さぁああん!!」

 

すると、西住さんが何かを持ってコックピットから飛び出てきた。

 

 ……おいちょっと待て!!西住さんの持ってる物って

 

西住さんはあの‘‘重苦しいオーラ’’を(はっ)していなかった。しかし、そんな事はどうだっていい。

 それよりも西住さんが手に持っている物は……

 

「そ、操縦桿(そうじゅうかん)が折れちゃいましたぁ!!!」

「何でそれが折れるんだよぉ!!!」

 

 ……くそぉ!!サイモンの‘‘置き土産’’か!?

 

俺は頭を抱えた。

 

 

 




 法定速度60㎞出すと、秒速16.7mほどです。そのため、わき見運転はダメだぞ!!(自分結構多いので、ハイ)


 このSSでは、『武藤剛気は本来Sランククラスの腕を持っているが、女に弱いためAランク』という事になっています。西住さんとかなめに格好つけたかったんですよ。


 『NATO』は本来『北大西洋条約機構』であり、『NATO軍』=『欧州軍』ではありません。しかし、今回は分かり易いように、あえて『欧州軍』に『NATO軍』とルビを振ります。
(要は、‘‘輸送機は米・露・欧州製ではない’’という事)


 ‘‘輸送機へ入り込むシーン’’は『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』の輸送機へ飛び乗るシーンを参考にしています。


 地上付近では与圧がされていないためにイブキ達は機内に吸い込まれ、逆に与圧されていたために『カティア・タルゴ』は機外へ吸いだされています。

 リアル:マタ・ハリ……写真を見て貰えば一発なのですが、簡単に言うと『金銀財宝で装飾された小さなブラ&腰に薄い布を巻いただけ』と言う姿です。


 実は『カティア・タルゴ』が握っていた小太刀は飛行中の月光刑事によって回収されています。流石は敏腕刑事ですねぇ……


 Next Ibuki's HINT!! 「343空」 


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Die Hard3 in Tokyo 後輩は自重しない……

遅れて申し訳ございません。(定期)

 家に帰り、『少しだけ寝よう』と思って仮眠したら翌日になっていたことが多々ありまして……

 次話は早く投稿できるように頑張ります。



 俺はあちこち傷つき、大量出血のせいでぶっ倒れる寸前だった。しかし、西住さんが折れた操縦桿を持ってきたせいで俺の意識は覚醒し、急いでコクピットに向かった。

 

「おい!!操縦桿が折れるってどういうことだよ!!」

 

俺は扉を蹴破り、コックピットに乗り込んだ。その際に衝撃が響き、激痛が体を突き抜けたのだが……俺は何とか耐えた。

 さて、コックピットの操縦席では……ジョニー・マクレー(おっさん)が足元に潜りこみ、何か作業をしている。そして副操縦席ではかなめがアワアワと慌てていた。

 

「い、イブキにぃ!!」

 

かなめは俺の存在に気が付くと、俺に飛びついた。

 

  ガシッ!!

 

「……ッ~~~~!!」

「あ、あのね!!操縦桿を握ったらポキッて折れちゃって!!」

 

かなめが強く抱き着くために傷口が広がり、体中から悲鳴の合唱が聞こえてくる。

 

「分かった!!わかったから!!」

 

俺はかなめを無理やり引きはがした。

 

 

 

 なんでも、副操縦席の操縦桿は最初から消し飛んでいたそうだ。そこで、かなめが操縦席に座って自動操縦(オートパイロット)を切り、操縦桿を握ったところ、ポッキリ折れてしまったらしい。

 そのため、西住さんは壊れた操縦桿を持って俺を呼びに向かい、かなめは慌てて自動操縦(オートパイロット)に戻したようだ。

 

 俺はその事を聞くと、思わずため息が出た。そして、コックピットを見渡した。

 

 ……な、何てひどい。

 

コックピットはあちこちに、弾丸の痕が多数残っていた。

 前話で、サイモン達は‘‘コックピットで’’大量の弾丸を放った。その時に弾が跳弾し、今のような状態を作ったのだろう。大量の弾丸を密室(コックピット)で放てば、操縦系統へ流れ弾が被弾する可能性も高くなる。

 

 ……それらが操縦桿に直撃。それを知らずにかなめが引っ張って、ポッキリ折れたと。

 

 

 

 操縦桿は操縦系統の中でも特に重要な部分であり、基本的に補助翼(主翼にある動く部分)と昇降舵(水平尾翼の動く部分)に直結している。しかし、方向舵(垂直尾翼の動く部分)には繋がっていない。

 なので方向舵(垂直尾翼の動く部分)と繋がっているラダーペダル(フットバー)さえ生きていれば、何とか旋回は可能‘‘では’’ある。(実際は機体が‘‘横滑り’’を起こすため、方向舵だけの旋回は困難を極める)

 

 

 

 ……ラダーペダル(フットバー)だけで旋回か。小型機なら‘‘一応’’可能だって教わったが……こんな大型機で出来るのか?

 

そんな時、操縦席の足元に潜り込んでいたジョニー・マクレー(おっさん)がモゾモゾと出てきて、何かを投げ捨てた。

 

「(英語)クソ!!コイツもいかれてやがった!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が投げだしたものは……銃弾か何かでボロボロになっているが、どう考えても『足を使って動かす道具』という事はすぐにわかる。

 

「(英語)おっさん……もしかして……」

 

俺は嫌な予感がした。噴き出た冷汗が傷口にしみて痛い。

 

「(英語)……ラダーペダルだ。」

「(英語)ウソだろ!?スロットルレバー(車で言う‘‘アクセル’’。エンジンに繋がっている)しか使えないのかよ!!」

 

俺は天を仰ぎ見た。見えたのは……被弾痕が生々しい鉄の天井だけだった。

 すると……俺の袖をクイクイッと引っ張られ、俺は下を向いた。引っ張っていたのは、とても気まずそうにしていた西住さんだった。

 

「あの……パラシュートがなk……」

「イブキにぃ、この輸送機……落下傘は一つもないみたい。」

 

西住さんが何かを伝えようとした時、かなめが無理やり割って俺に言った。

 

 ……かなめ、そこまでして己を主張したいのか?……と言うか、今なんて言いやがった!?

 

俺一人ならば落下傘なしでも大丈夫だ。しかし、ジョニー・マクレー(おっさん)に西住さん・かなめ(……かなめは先端化学兵器(ノイエ・エンジェ)で何とかなりそうな気がするが)、そしてのRoseliaのメンバー(人質だった彼女達)は落下傘無しの空挺などできるはずがない。

 そのために……たった今、この大型輸送機は『空中の監獄』となった。俺達は処刑(燃料切れ)までに、早くこの輸送機(監獄)から脱出しなければならない。

 

「(英語)……おっさん、なんか案はあるか!?」

 

俺は自分をシャキッとさせるため、ジョニー・マクレー(おっさん)に怒鳴るように尋ねた。

 

 ……いや、実際どうすればいい!?‘‘スロットルレバー’’だけでどうやって日本に戻るなんてほぼ不可能だ!?それに、操縦士と副操縦席の席に射出座席があるかもしれないが……脱出できるのは二人だけだぞ!?

 

「(英語)だからさっさと無線機を貸せ……!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はかなめからヘッドセットを奪うと、操縦桿もラダーペダル(フットバー)もない操縦席に座った。

 

「(英語)ハリウッドの『●ir Force One』でハ〇ソン・〇ォードはどうやって脱出した!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言いながら大量のスイッチをいじりだした。

 

 ……『エアフォースワン』?米国大統領が搭乗した機体のコールサインで、映画の題名でもある。確か映画の奴では……あぁ!!

 

 

 

 『エアフォースワン』では、大統領専用機(エアフォースワン)と並走する輸送機にワイヤーをかけ、そのワイヤーを伝って脱出していたはずだ。

 

 

 

 という事は……ジョニー・マクレー(おっさん)は無線機で援軍(他の航空機)を呼ぼうとしているのだろう。

 

「(英語)……って、おっさん。無線機のスイッチは分かるのか?」

「(英語)大抵、スイッチはどんな奴も同じような場所にあるだろ?」

 

そう言ってジョニー・マクレー(おっさん)はスイッチに触れた。

 

 ウゥ~!!!ウゥ~!!!

 

いきなり機内に警報が響き渡り、ジョニー・マクレー(おっさん)は慌ててそのスイッチを元に戻した。

 

「「「「…………」」」」

 

俺達の間に不穏な空気が立ち込めた。

 

「(英語)この中で……中国語、読める人いる?」

 

俺は思わず全員に聞いた。

 ジョニー・マクレー(おっさん)は中国語など分かるはずがない。俺はせいぜい日常会話が理解できるレベルのため、こんな専門用語ばっかりの文字は分からない。

 

 ……もしかしたら、西住さんかかなめなら分かるか?

 

俺はそんな淡い期待を一瞬持ったが……二人は気まずそうに顔をそらした。

 

 ……だよなぁ。

 

俺は思わずため息をついた。

 もう、どうすればいいんだ…‥これ?

 

 

 

 

 

 

  バーン!!

 

 さて、俺達の間に重苦しい空気が居座っていた時、コックピットの扉が勢いよく開けられた。そして、その扉からRoselia全メンバー(元人質達)が入ってきた。

 

「村田さん!!今のサイレン音はなんですか!?」

 

この中で唯一の顔見知りである氷川紗夜さんが俺に詰め寄り、厳しい口調で……しかし、目には涙を浮かべながら聞いてきた。おそらく、彼女はこの非常事態に動揺しつつも、何とか己を保っているのだろう。

 

 ……しかし、どうする?彼女達に本当のことを伝えるか?

 

俺は返答に困った。

 『いやぁ~、操縦桿にラダーペダル(フットバー)が折れちゃって操縦不可能になっちゃった。ついでに、落下傘は一切ないし、無線のスイッチも分かんない。テヘッ!』なんて事を彼女達に伝えるべきだろうか。

 

 ……正直に言って、民間人と一緒の任務はあまり受けたことがないから……どうすればいいか分かんねぇ。

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)に目をやると……『勝手にしろ』と目でいい、あちこちのスイッチをいじり始めた。

 今度は西住さんと目を合わs……ダメだ、天井を向いて、何かをブツブツ呟いている。

 かなめに目をやr……こいつもダメだ。かなめは『グルル……』とRoselia全メンバー(元人質達)を威嚇している。

 

「はぁ……」

 

 ……もういいや、全部話しちまえ。‘‘後は野となれ山となれ’’だ。

 

思わずため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は猫を撫でる様にかなめを撫で回し、何とか彼女の怒りを(しず)めた。その間、俺は彼女達に全てのことを話す。

 

「「「「「……!!!」」」」」

 

Roselia全メンバー(彼女達)は伝えた事に衝撃を受けたのか、固まっていた。

 

「あ……!!あこ、そう言えばボンド持ってた!!」

「あ、あこちゃん!?なんでボンド!?」

 

Roseliaのメンバーの一人、紫の髪をツインテールにした年下の少女がポケットから、‘‘某有名な木工用ボンド’’を取り出した。

 

 ……いや、それ木工用だし。そもそも固まっても強度の問題があるのだが。

 

とはいえ……万が一、億が一、兆が一で操縦桿が直るかもしれないため、一応そのボンドを借りて操縦桿に塗った。結果は……

 

  ボロッ……

 

やはりと言うべきか……操縦桿はその重さに耐えきれず、ボンドを塗ってすぐにボロっと床に転がる。

 

 ……だよなぁ。

 

俺は思わずため息をついた。そしてRoseliaのメンバーの少女達は絶望の表情を浮かべる。

 

「ね、ねぇ!!私達って助かるんだよね!?」

 

茶髪のギャル風な少女が(すが)りついてきた。

 

「あぁ~……助かる……と思う。うん、助かるから安心しろ。」

「ちょっと待って!!今の間は何!?」

 

そのギャル少女が俺の上着をしっかり握り、揺すりながら俺を問いただす。そんな時だった。

 

「(英語)なんだ?こいつは?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)がそう言いながらレーダーの表示画面を指さした。

 俺達がその画面をのぞき込むと、機体の2時方向から6機ほどの航空機が高速で接近している事が分かった。

 

「(英語)……日本空軍(うち)か米軍の戦闘機部隊か?」

 

 

 

 (おおよ)そではあるが、調布飛行場を出て2~3時間は経過したはずだ。この軍用輸送機は時速550~600キロほどで航行しているため……1100~1800キロしか移動していない。

俺は頭の中から海図や航空図を取り出し、おおよその位置を測定した結果……東シナ海の 沖縄近くを飛んでいることが分かる。となれば、日本の領空ではなくても、防空識別圏にはいるはずだ。

 そうなると……沖縄に展開中の日本空軍や在日米軍の可能性が大きい……

 

 

 

 

俺はその考察の元、呟いた。その時だった。

 

『人和剑安全吗?』

 

中国語がいきなり機内に流れた。しかも、流暢で早口な中国語のために聞き取ることができない。

 

 ……なんだって機内に中国語が?

 

俺は嫌な予感がした。

 

「(英語)やっと無線のスイッチを見つけたぜ!!……こちらはジョニー・マクレー刑事、人質確保。しかし操縦不能。救援を求む!!高度は27000ft(フィート)、方位218度を時速360mile(マイル)で航行中!!」

 

やっとジョニー・マクレー(おっさん)が無線のスイッチを見つけたらしく、ヘッドセットのマイクに向かって状況を報告する。

 

你在说什么(何を言っている)同样(もう一度言う)、 人和剑安全吗?(人と刀は無事なりや?)

 

もう一度、その流暢で早口の中国語が機内に流れた。俺は意識して聞いたため、何を言ったのか分かった。

 

 ……おいちょっと待て。そもそも、なんで6機の航空機は2時方向(中国側)から来たんだ?哨戒だとしても、6機編成での哨戒なんて聞いたことがない。ってことは……

 

 

 

 

 

 

 

  ウゥ~!!ウゥ~!!ウゥ~!!

 

いきなりサイレン音が機内に流れ出し、操縦席の画面には『自动跟踪(ロックオン)』と表示された。

 

 ……クソ!!読めなくても、なんて書かれたか分かるぞ!?

 

「(英語)おい!!何か発射したぞ!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が叫んだ。レーダーの表示画面には1基につき2発、計12発の物体がこの機体に高速で接近していることが分かる。

 

「(英語)ロックオンされたんだ!!」

 

俺はサイモンを倒した‘‘あの’’日本刀を取り出し、天井に穴をあけた。そして座席を踏み台の代わりにし、その穴からヒョコッと上半身を出す。

 

「(英語)チクショウ!!なんだってこんな目に!!」

「ちょ、お前!!フレアはこっち!!」

 

操縦席でジョニー・マクレー(おっさん)とかなめの声が聞こえた後、機体後方からフレア(気休めの花火)が射出された。

 俺は25ミリ機関銃を‘‘四次元倉庫’’から取り出し、ミサイルが来る方向に向けた。

 

「12本のうち3本がレーダーから消えました!!9本が来ます!!」

 

西住さんがレーダーの状況を俺に報告する。

 

「了解!!Roseliaのみんな(お嬢さん方)に揺れるから気をつけろよ!!」

 

俺はその9本のミサイルを視認した。ミサイルの速さは……マッハ3ほどのようだ。

 

 ……クソッ!!本当に撃ち落とせるのか!?

 

 

25ミリ機関銃の弾倉は15発しか入らない。単純計算で、約1.5発の弾丸でミサイル1本を破壊しなければならない。

 しかも‘‘マッハ3=秒速約1000m’’、25ミリ機関銃の最大射程は8000mで有効射程は3500m。なので、最大射程では8秒以内、有効射程からでは3.5秒で撃ち落とさなければならない。

 

 

 ……大丈夫だ。俺ならできる………はず。

 

そんなことを考えていれば、ミサイルが最大射程圏内(8キロ圏内)に入った。その時、ミサイル9本のうち4本が進路を変え、フレアの方へ突っ込んで行く。

 

 ……5本、5本ならいける!!

 

ミサイルが有効射程圏内(3キロ圏内)に入る直前から、俺は発砲を開始した。

 

  ダンダンダンダン!!!チュドーン!!

 

 俺は一本ずつ、確実にミサイルを破壊していく。

 1本目はエンジン部分をやったのか、落下していく。2本目は索敵装置が破損したのか、急に進路を変更して爆散。3本目は4本目を巻き込んで爆発。

 

 ……残りはあの1本だけだ!!

 

しかし、その最後に残ったミサイルは中々しぶとい様で……数発ほど弾を当てているが、それでも止まらずにこの輸送機へ突っ込んでくる。

 

 ……クソッ!!他のミサイルは(もろ)かったのに、なんでこいつだけ頑丈なんだよ!!

 

 その最後の一本との距離が800mを切った。時間的にも、25ミリ機関銃が撃てる弾数はあと1発。その一発で確実に破壊しなければならない。

 

 ……クソッ!!あのミサイルは‘‘サイモンの怨念’’でも()いているのか!?

 

俺は血が足りないせいで、幻覚が見えるのだろうか。25ミリ機関銃の照準器越しに見える最後のミサイルに、‘‘サイモンの怨念’’が見えた。

 

‘‘『死ネェエエエエ!!!!』’’

 

 ……誰が死んでやるかってんだ

 

「イピカイエー・〇ザーファッカー!!」

 

  ダァン!!

 

発射された弾丸は‘‘サイモンの怨念’’を引き裂き、ミサイルの弾頭に着弾した。着弾した弾丸はミサイルの弾頭を貫き、中で爆発した。

 

  チュドーーーン!!!

 

 

 

 

 

 

 何とかミサイルを撃破できたが、そのミサイルの爆発に伴う爆風と破片が俺を襲ってくる。

 

「グアァアア!!」

 

破片が俺の上半身や顔を引き裂く。爆風が肌を焼き、耳を一時的に使えなくする。

 

「む、村田さん!!大丈夫ですか!?……って血が!!」

 

西住さんが何か言っているが……聞こえないため、何を言っているのか分からない。

 

 ……それよりも、次は戦闘機が来るぞ?

 

俺は25ミリ機関銃の弾倉を交換した。目の前には、マッハ2程度で近づいてくる戦闘機6機が視認できる。

 

 ……ミサイルでも手こずったのに、今度は戦闘機か。

 

 

 ミサイルは戦闘機よりも断然速いが、動きは直線的である。そのため、速度さえ気を付ければミサイルは比較的落としやすい。

 しかし、戦闘機は人が操縦しているために回避行動を取り、死角から攻撃することができる。また、‘‘戦闘’’機であるため、ちょっとやそっとの被弾ではビクともしない。なので戦闘機を落とす難易度は高いのだ。

 

 

 ……とにかく、何とかしないと。

 

俺は顔の血を腕で拭き、機関銃を構えた。照準器から見える豆粒ほどの戦闘機がだんだんと大きくなっていく。

 

  ウゥ~!!ウゥ~!!

 

「(英語)左、内側のエンジンが炎上!?お前、そのスイッチを……違う!!そっちのボタンじゃない!!逆!!」

「(英語)だったら嬢ちゃん、テメェがこっちの席に座るか!?……それにこっちでいいんだよ!!外を見てみろ!!」

 

耳が回復してくると、ジョニー・マクレー(おっさん)とかなめの怒鳴り声が聞こえた。二人は機内で言い争いをしているらしい。

 

「後方、7時方向から新たに2機が接近中です!!」

 

西住さんが叫ぶように俺へ伝えた。

 前方から6機、後方から2機。どうやら敵に囲まれたようだ。

 

 ……チクショウ!!ここで死んでたまるか!!

 

  ダンダンダンダン!!!

 

俺は25ミリ機関銃の最大射程距離(8キロ圏内)から発砲を始めた。前方6機の戦闘機は編隊を崩し、回避運動を取りながら接近してくる。

 

  ダンダン!!!カチン!!

 

 元々弾倉の装弾数が少ないため、25ミリ機関銃を連射すれば数秒も立たない内に弾切れを起こす。俺は急いで25ミリ機関銃の弾倉を交換するが、その間にも戦闘機はさらに近づいてくる。

 

「後方2機、ミサイル発射!!4発が来ます!!」

 

  ダダダダダダダ!!

 

弾倉を交換し、照準器を覗き込むと……そこには照準器からはみ出るほどまでに接近した戦闘機がいた。その戦闘機は発砲を始め、弾が俺のそばに着弾する。

 

  ダンダンダンダン!!!ペキッ!!

 

俺は慌てて反撃を始めた。

 すると、俺の放った弾丸の一発がその戦闘機のキャノピー(コックピットのガラスの部分)を貫き、中で‘‘真っ赤な花’’を咲かせた。

 ‘‘真っ赤な花’’を咲かせた戦闘機は明後日の方向へ飛んでいく。俺はその戦闘機を尻目に、他の獲物(戦闘機)を照準器の中に入れた時だった。

 

  シューーーチュドーーーン!!!

 

照準器に映った敵戦闘機にミサイルが命中し、翼が折れて錐揉み状態になって暗い海へ落ちて行った。

 

 ……は?どういうことだ?どこからミサイルが?

 

俺は照準器から目を離した。その時、‘‘日の丸’’が描かれたF-15が 俺の目の前を横切った。そのF-15は俺達を襲っていた戦闘機をバタバタと、まるで訓練用の的を落とすかのように撃破していく。

 そんな圧倒的で一方的な空戦を繰り広げている時、俺はF-15の垂直尾翼に『343』という文字か描かれているのを発見した。

 

 ……343空!?やっと味方が助けに来てくれたのか!!

 

 

 

 343空……『第343空軍特別飛行隊(通称:343空)』は選りすぐりのエースパイロットを集めた、正真正銘の‘‘空軍最強の戦闘機部隊’’だ。

 同じように、エースパイロットを集めた『空軍飛行教導隊(通称:教導隊)』がいる。その『教導隊』は‘‘指導力’’などの能力も求められるのだが……『343空』は違い、ただひたすら技術を磨き、‘‘最強であること’’を求められる部隊なのだ。

 ついでに、『有能な人間は癖がある……』で登場したイブキの後輩:笹井純少尉はこの部隊に所属している。

 

 

 

 味方が来て俺がホッとしている間にも、F-15は敵を落としていった。

 そして最後の1機を落とした後、2機のF-15は俺達が乗る大型輸送機に並走し始める。その時、2機のうちの1機のパイロットの顔が見えた。あの顔は……

 

 ……さ、笹井!!あいつ、来てくれたのか!!……もうちょっと早く来て欲しかったけど、それは我儘(わがまま)か?

 

 俺は安堵のため息をついた後、ヨロヨロと機内へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が機内へ戻ると、Roselia(彼女達)が俺を見て悲鳴をあげた。

 

 ……なんだ?俺がなんかやったか?

 

「血が……大丈夫なの?」

 

Roseliaの一人、銀髪長髪の少女が俺に近づき、俺の(ひたい)に手をやった。彼女のスラッとした綺麗な手が血でべったりと汚れる。

 俺はハンカチを取り出し、顔を(ぬぐ)うと……白いハンカチは赤に染められた。どうも、頭を切って血がドバドバ流れていたらしい。

 

 ……あぁ~、傷を認識したら激痛が……

 

俺がハンカチで頭を押さえ、出血を押さえようとした時、機内に無線が流れ始めた。

 

『先輩、まだ生きてます?……まぁ、先輩の事ですから無事だと思いますが。』

 

この声色、生意気な言葉遣い……これは間違いなく、後輩の笹井だ。

 俺は並走するF-15を窓越しに見た。そのF-15のパイロットの一人がこちらに手を振っている。その仕草にしても、やはり笹井に違いない。

俺は副操縦席に掛けてあったヘッドセットを頭に付け、通信を始めた。

 

「まだ生きてるぞ。……なんだ笹井、助けに来てくれたのか?」

『藤原先輩が色々と駆けずり回ったみたいですよ?おかげで343空(うち)に命令が来て……、赤松中佐と一緒に抜け出して、新宿の‘‘冴羽の兄さん’’も加えて一緒にナンパの予定がオジャンですよ!!』

「そいつぁよかった。流石は藤原さんだ」

 

 笹井 純(この馬鹿野郎)は女好きであり、しかもよく警察に厄介になっている問題児でもある。時々、俺や藤原さんが笹井 純(この馬鹿野郎)を迎えに行くことがあるほどだ。

 

『…………そんなこといいです。それよりも早く旋回してください。このままだと国境越えますよ?』

 

 笹井は自分の予定が狂ったことを思い出し、不機嫌になったのだろう。明らかに声のトーンが低くなった。

 

『……ほぉ?笹井、外出届が出てないがどういうことだ?それにお前は2週間の外出禁止だったはずだが?』

『ハハハッ……な、何言ってるんですか坂井隊長。この場を和ませるジョークに決まってるじゃないですかぁ』

 

 ドスの効いた低い声(笹井の上官らしい)が聞こえた後、その言葉を笹井は飄々(ひょうひょう)と受け流す。

 

 ……いや、若干笹井の声が震えている。あの野郎、マジでやる気だったのか?

 

いや、そんな事はどうでもいい。それよりも、この輸送機の状態を知らせないといけない。

 

「あの、笹井への追及は後でやってもらっていいですか。……笹井、旋回したいのは山々(やまやま)なんだが、この機体の操縦桿とラダーペダル(フットバー)が折れて旋回できない。」

『『……………は?』』

 

パイロットの二人が絶句した。流石に優秀なパイロットでも『操縦桿とラダーペダル(フットバー)が使えない』何てことは前代未聞なのだろう。

 

『……や、やだなぁ先輩。こんな時に冗談とk……』

「冗談じゃない。事実だ。現実に起こっているんだ。しかもこの機体には9人いて、脱出用のパラシュートはない。……なぁ笹井、こんな状況でどうすればいい?一応お前もパイロット端くれなら、どうすればいいか分かるだろう?」

『先輩!!あんた‘‘パイロットにはできないことはない’’とか思ってません!?普通そんな状態になったらパイロットは脱出ですよ!?』

 

藁にも(すが)る思いで笹井に聞いたが……やはり笹井も知らないらしい。

 

 ……ほんと、どうしようかなぁ。俺が全員を抱えて飛び降りるか?

 

 東京スカイツリーが伐採(破壊)された時、俺は理子・ワトソン・リサを抱えて飛び降りたことがあった。

 

 ……おっさんとかなめは多分大丈夫だから除外して……6人を抱えて飛び降りるなんてできるかなぁ

 

俺は最悪の場合を想定し、この輸送機からの脱出方法を考え出した。その時だった。

 

『……本当にダメな時の方法があると言えばありますけど……』

 

流石は343空(最強パイロット集団)に所属する笹井だ。この状況から何とか出来る方法を知っているようだ。

 

「それは何だ、笹井!!早く教えろ!!」

『……先輩。本当に、本当に!!最期の時の方法ですからね?…………………酒はあります?なるべくなら度数が高いのを』

 

「………?あぁ、今持ってくる。」

 

 

 

 結構昔の話であるが、与圧に防寒もない機体だと、冬季では泡盛や焼酎が常備されていたらしい(飲んで体を温めないと冗談抜きで凍死の可能性があるため)。そのため、当時の事を笹井が聞き、その事を思い出したのかもしれない。

 

 

 ……確か、俺達がこの機体に侵入したとき、Roselia(人質)を見張っていた敵は酒盛りをやっていたらしく、近くに酒瓶が転がっていたはずだ。だから酒はすぐに手に入るはずだ。

 

俺はヨロヨロと壁に手をつきながら、その酒瓶を回収するために歩き始める。

 

  グラッ!!

 

歩き始めてすぐ、乱気流にでもぶつかったのだろう。機体が大きく揺れ、俺は冷たい鉄の床に叩きつけられた。

 

「村田さん!?」

「……だ、大丈夫ですか!?」

 

すると、西住さんとRoseliaの一人(長髪黒髪巨乳少女)(血まみれの男)に駆け寄ってきた。そして西住さんは俺を膝枕し、Roseliaの一人(長髪黒髪巨乳少女)は己のハンカチで俺の血を拭う。

 

「村田さん!!そこで休んでいてください!!お酒は私が取ってきます!!」

「あ、あたしも!!」

 

そしてRoseliaの氷川紗夜さんと‘‘茶髪のギャル風少女’’が貨物室へ飛び出ていった。

 

 

 

 

 

「村田さん!!何でそこまで無茶をするんですか!?死んじゃいますよ!?」

 

西住さんは目に涙を浮かばせながら、俺に説教をするかの様に言う。そして、Roseliaの一人(長髪黒髪巨乳少女)もコクコクと頷く。

 ところで、Roseliaの一人(長髪黒髪巨乳少女)が頷くと、その‘‘とても大きな物’’が大きく揺れる。

 

 ……しかし、それに比べて西住さんは……

 

悲しいかな、‘‘胸のせいで天井が見えない’’なんて事は一切ない。『よく見れば胸による曲線があるかなぁ~』程度であr……

 

「フン!!」

 

  ベキッ!!

 

「……!?」

「ゴフッ!!」

 

いきなり西住さんが‘‘汚らわしい物を見るような目’’になり、俺の顔面を思いっきり殴った。せっかくRoseliaの一人(長髪黒髪巨乳少女)に顔を拭いてもらったのに、新たな傷ができて血が流れる。

 

「な、何しやがる!!」

「いいですか!!日本人の平均はB~Cなんです!!これが普通、むしろ大きいくらい!!」

「何の話だよ!!」

「……!?……???」

 

理由は分からないが、急に西住さんは怒りだし、そのことに対しRoseliaの一人(長髪黒髪巨乳少女)が慌てだす。

 西住さんが再び拳を振り上げたため、俺はボロボロの体を振り絞り、急いで西住さんの膝枕から脱出した。

 

「「持ってきました!!(持ってきたよ!!)」」

 

それと同時に『酒回収班』が戻ってきた。俺は彼女達から酒を受け取ると、ヘッドセットを拾い上げ、逃げ出すように操縦席近くへ向かった。

 

 

 

 

 

「笹井、酒を持ってきたぞ!!これは……テキーラか?これでも大丈夫か!?」

 

今、気が付いたのだが……氷川紗夜さんと‘‘茶髪のギャル風少女’’が持ってきたのは ‘‘南米にありそうな石造の顔’’と『OL●ECA』と書かれたラベルが付いたゴールドテキーラだったようだ。

 

『大丈夫大丈夫。むしろテキーラが適役かもしれません。…………じゃぁ先輩、ググっとやってください、一気に!!』

「いや、流石にそんな事をすれば酔うぞ?」

『一気に!!』

「………分かった。」

 

俺はテキーラの封を切ると、俺は瓶に口をつけて飲み始めた。

 

 ……ヤバい!!いつもよりも酔いが回るぞ!?

 

 それもそのはず、俺は今日一日何も食べていない。せいぜい少量の水を口にした程度だ。そんな『お腹ペコペコ・喉カラカラ』の状態でテキーラ(40度)を飲んだら……一気に酔いが回る。

 

「ゴフッ!!ゴホッ!!カハッ……。さ、笹井ぃ~これでいいかぁ~……オエッ

 

輸送機の振動が頭に響き、さらに気持ち悪くなる。三半規管がメチャクチャになり、立っている事が(つら)い。

 

クククク……せ、先輩……』

「……なんだよ。」

 

俺は、笹井が笑いを必死に隠そうとしている事がすぐに分かったが……俺は(ひど)い酔いのせいで、笹井が何を(たくら)んでいるのか一切分からない。

 

『……後は(こいつ)で忘れてください(笑)』

「おい、笹井(この野郎)……表に出やがれ……!!!」

 

これが酔いのせいか、怒りなのか判断できないが、俺は頭に血が上った。

 

『あれぇ~先輩?俺達パイロットに飲酒が許されるなんてありえないじゃないですかぁ~』

 

 そもそも、 ‘‘与圧に防寒もない機体……’’など第二次世界大戦前(しかも風防無し)の事であり、現在では飲酒運転(飲酒操縦?)など言語道断である。

 

 ……クソッ!!何でそのことに気づかなかった。ただ笹井が揶揄っていただけじゃねぇか。それにこれだけ引っ張って、こんなオチなんて……

 

俺は‘‘その事に気づかなかった己’’にも、‘‘揶揄(からか)った笹井’’にも苛立つ。

 

『それに俺はF-15……しかも単座に乗っているんですよ?表に出れるわけないじゃないですか~』

 

  プチン!!

 

「そうか。じゃぁテメェの機体に乗り移ってやる」

『……へ?』

 

俺は怒りで酔いが覚めたようで、スタスタと歩いてコクピットを出ると、機体前方の側面扉を蹴破った。

 そして‘‘四次元倉庫’’から(かぎ)づめが付いたロープ(made by 平賀)を取り出し、笹井(クソ後輩)の乗るF-15へ投げて引っかけ、そのロープを引いて輸送機から飛び移れる距離まで近づける。

 

『何やってるんですか先輩!!落ちる、落ちるから!!それを離してください!!』 

「何言ってんだだ笹井ぃ~?テメェをボコすために乗り移るって言っただろぉ!!!」

 

俺は力任せにロープを引っ張り、F-15との距離を10m弱まで近づかせる。

 

『嘘ぉ!!出力上げても離れないんですけど!?……先輩待って!!落ちる、落ちるから!!……先輩、俺が悪かったです!!だから離して!!100億円弱の機体をこんな事で損失させないで!!』

「あぁ?!?」

 

俺はさらに力を入れ、F-15を手繰り寄せる。

 F-15はアフターバーナーでも点火したのか、機体の尻からガスバーナーの様な火を吹き出している。

 

「イブキにぃ!!落ち着いて!!その怒りをアタシの体にぶつけてもいいから!!と言うかむしろ強引に……」←かなめ

「村田さん!!そんな事よりも脱出方法ですから!!」←西住みほ

「村田さん!!落ち着いてください!!」←氷川紗夜

「気持ちは分かるけど、あたし達は大丈夫だから……ね。」←茶髪ギャル少女

 

 彼女達が俺を羽交い絞めにするせいで、上手く力をロープに伝達できなくなった。このままでは彼女達と一緒に機外に出てしまう(空中で宙ぶらりん)ため、俺は舌打ちをしながらロープを離した。

 

『あ、危ねぇ……もう少しで翼が折れるところだった。……いつも思うんですが、先輩って本当に人間ですか?』

「あぁ!?」

『…………スンマセン』

 

笹井がやっと大人しくなり、俺はため息をついた。

 もめたところで、‘‘俺達がこの機体からの脱出方法がない’’という条件は変わることがないのだ。

 

 ……そんな現状を忘れさせるために、ワザと笹井は揶揄(からか)ったのか?……いや、ないな。

 

俺はため息をついた。

 

 

 

 

俺はトボトボとコクピットに戻った。そして投げ捨てたテキーラを拾い、一口飲んだ。

 

 ……クソッ!!本当に飲んで現実から逃げるしかないのか?

 

アルコールが喉を焼き、腹で熱を持つ。ボーっとする頭をアルコールで無理やり覚醒させ、全員が助かる方法を探すが、いくら考えても出てこない。

 

 ……あれか?F-15の翼に掴まれば全員助かるかなぁ~

 

そんな危ないことを考えついた時だった。

 

『村田大尉、そんなに悲観的にならなくていい。東京武偵高校(おたくの学校)の航空機が救助に来るそうだ。時間は……あと5分ぐらいだな。』 

「……はぁ?」

 

笹井ではないほう(確か……坂井中佐だったか?)から衝撃の事実が伝えられた。

 

「何でそれを先に伝えないんですか!?」

『速度的に追いつくかどうかが微妙だった。……それに笹井が「その事は言うな、その方が面白い」と言われてな。すまん』

 

坂井中佐が高圧的に伝えるが……そんなことなどどうでもいい。この笹井(クソ後輩)に制裁を加えるべきだろうか。

 

「……おい」

『いやいやいや!!確かに言いましたけど、先輩のためを思っていったんですよ!?不確かな情報を伝えて下手に希望を持った後に‘‘やっぱり無理でした’’なんてことになったら嫌でしょう!?』

「…………チッ」

 

 ……確かに、笹井の言う事に一理はある。一理はあるが……釈然としない。

 

俺は気を紛らわせるため、テキーラを煽った。しかし、テキーラは俺の怒りを消火することができず、むしろ増幅させる。

 

 

 

 

 

 そんな時、俺の服をチョイチョイと引っ張られた。俺はその引っ張られた方向に振り向くと……そこにはRoseliaのメンバー5人がいた。

 

「あこ達、助かるの?」

 

そのRoseliaのメンバーのうち、最も幼い紫の髪の少女(ボンドを渡してきた子)が目に涙を浮かべながら聞いてきた。おそらく、彼女は中学生だろうか。

 

「あぁ、大丈夫。今度は確実に助かるよ。…………まぁ、さっきまでも助かる可能性があったけどな。」

 

俺は重い空気に耐え切れず、茶化しながらその幼い少女の頭を撫でた。その少女はストンと地面に割座(女の子座り)をした。目に涙を浮かべ、嗚咽を必死に抑えながら俺の足に抱き着く。

 

 ……俺達の様な‘‘軍や武偵・警察の特殊な訓練’’を受けていない、ごく一般な中学生が‘‘死’’を、しかも『数時間後には死ぬ(かもしれない)』と言う運命に向き合っていたのだ。それに耐えていた彼女の緊張が今、切れてしまったのかもしれない。だから………………かなめ、(にら)むな、座席を噛むな、ナイフを研ぐな。西住さん、‘‘汚らわしい物を見るような目’’で俺を見るな。おっさんは『またか』みたいな表情で溜息をつくな、二人を止めろ。

 

俺はため息をついた。

 無情にも、こんな少女を足から引き離すことなど俺にはできない。泣き止むまでは放置しかないだろう。

 

「……あこ、離れなって。お兄さんも困ってるからさ。」

「リサ姉ぇ……」

 

Roseliaの茶髪ギャル少女が‘‘俺の足にしがみ付いた少女’’の背を擦り、やっと俺の足は解放された。

 しかし、残念なことに……その彼女の声は俺のヘッドセットのマイクに伝わってしまった。マイクに伝わった音は電子信号に変換され、外部に発信される。そのため……

 

『……え!?先輩!!今の声は!?なんか女子高生の声が聞こえたんですけど!!』

 

この笹井(バカ後輩)にも伝わることになる。

 笹井はまるで俺を脅すかのように、威圧しながら聞き出す。その威圧は……辻・神城・鬼塚(化物三人組)クラスであったため、俺は思わず情報を口に出してしまった。

 

「……知らなかったのか?人質にされたのは『女子高生と女子中学生』だ。それと別に、女子高生二人(西住さんとかなめ)がこの機体に潜入して救出に来たんだ。」

 

俺は情報を口にした後、手に持っていたテキーラを一口飲んだ。

 

 ……はぁ、なんで言っちまったんだ。

 

『先輩!!何でそのことを先に言わないんですか!?……ゴホン!!こんにちは、お嬢さん方。僕は笹井純、空軍戦闘機部隊・F-15のパイロットです。お嬢さん方を助けに来ました。(キラーン)』

 

笹井は‘‘乙女ゲー’’で出てきそうなイケメン風な声を出し、F-15のコクピットから女子受けがよさそうな笑顔をこちらに向けた。

 もしここにいる女性陣が笹井(このバカ)に初対面なら、きっと惚れないにせよ、多少はときめいたはずだ。しかし、笹井(このバカ)の蛮行を今まで見ていたため……

 

「「「「「「「……………」」」」」」」」

 

女性陣は‘‘汚らわしいものを見るような目’’で笹井の乗るF-15を睨んだ。俺は思わず背筋が凍り、漏らすところだった。

 

 ……やっぱり、女って怖ぇ~

 

『あれ?返事が聞こえないな。……もしも~し、聞こえます?』

 

 ……笹井、お前はきっと大物になるよ。調子に乗るから口にはしないだろうけど。

 

俺は現実を忘れるため、テキーラを一口飲んだ。

 

「(英語)坊主、その酒を分けてくれ。」

「(英語)ほら、いくらでも飲んでくれ。」

 

俺はテキーラの瓶をジョニー・マクレー(おっさん)に投げ渡した。そして俺とジョニー・マクレー(おっさん)は酒で現実(女の恐ろしさ)を忘れようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢さん方、もう僕が来たからには大丈夫です。安心してください(キラーン)」

「「「「「「「……………」」」」」」」」

 

 ……笹井、もうやめろよ……

 

 

 

 

 




 航空機の横滑りとは、機首の方向とは違う方向へ進むことです。
 簡単に言うと、車でドリフトをすると、運転手から見ると車が横に滑っているように見えますよね。そんな状態です(分かりづらい……かな?)


 マクレーがスイッチをいじりまくった結果、無線の受信は機内放送に乗って全員が聞こえる状態になっています。


 新宿にいる‘‘冴羽の兄さん’’……どこの『シ〇ィーハンター』何でしょうか……。
 悲しいことに、この小説では‘‘冴羽の兄さん’’は年を取り、中年になっているとか……(イケてるダンディなオジサンに変化)。


 西住みほはCカップほどだそうで……



  Next Ibuki's HINT!! 「人工呼吸」


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Die Hard3 in Tokyo 西住さん、誤解です……

遅れて申し訳ございません。本来は1話で構成しようと思っていたのですが、文字数の関係で半分に分けます。
 やっと書き終わった……。これで閑話を書いたら香港編に突入。長かったなぁ。






『こちら東京武偵高校所属YS-11。左方から接近する。…………イブキ、何とかやったようだな。』

 

‘‘笹井のナンパ’’が無限に続くと思われた時、武藤の声が機内放送に流れた。俺は左側の窓を覗くと……そこには側面に大きく『東京武偵高校』と描かれた、今や珍しいYS-11が飛んでいた。

 

 ……よくもまぁ、こんな古い航空機を保存してるなんて。

 

俺は救出に来てくれた安堵よりも、そっちの方を感心した。

 

「あぁ、何とかな。……よくそんなオンボロを飛ばせるな。」

『おう、車輛科(ロジ)の秘蔵っ子だからな。前に飛ばしたのは3年前らしいぜ?』

 

武藤は『どうだ』とばかりに、自慢げに言うのだが……俺達は不安要素にしかならない。

 3年も飛んでいない飛行機を平然と飛ばしているのは……車輛科(ロジ)の整備のおかげか、それとも武藤の技量によるものだろうか?

 

 ……まぁいい。製造されて60年は経っている機体でも、救援に来てくれたことには変わりない。

 

『あの後、調布から急いで戻って追っかけたんだ。……約束守れよ?』

「白雪の手料理だっけ?……頼んでみるけど期待はするなよ?」

 

俺は『Die Hard3 in Tokyo 『おねーちゃん』を探しますか……』において、武藤が白雪の手料理を望んでいたことを思い出した。

 

『やっぱり持つべきものは友だな!!……今ワトソンがそっちへ移動する。速度、高度、角度をそのままにしろよ?』

「了解。操縦系が全部いかれて、今は自動操縦だ。下手に操縦席のスイッチは触らねぇよ。」

 

武藤が弾んだ声でそう言うと、YS-11から一人空中に飛び出してきた。その人物はワイヤーで宙ぶらりんになりながらも、ゆっくりと俺らの機体に近づいてくる。あれは……武藤の言う通り、ワトソンのようだ。

 

Roseliaの皆さん(お嬢さん方)、テロリストの輸送機にご搭乗ありがとうございました。脱出するまでは気を抜かず、搭乗員の指示に従ってください……ってな。」

「「「「「…………」」」」」

 

俺は安心させるため、軽口を言ったが……いまいち受けが良くなかった。

 

「(英語)なんだ、日本じゃこういうのはウケないのか?」

 

 ……おっさん、傷に塩を塗り込むんじゃねぇよ

 

俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

『‘‘白雪ちゃん’’って女性ですよね?武偵高の生徒も、先輩も知ってるって事は……女子高生ですか!?いいなぁ~、俺も‘‘白雪ちゃん’’の手料理食べたいなぁ~!!!!そう言えば俺、敵機を4機も撃墜したんですよねぇ~!!!!』

「……笹井、いい加減にしろ。」

「…………スイマセン」

 

とはいえ、笹井のおかげで助かったのは事実である。

 後日、‘‘外出止め&自室にて謹慎’’を喰らっていたのにも関わらず、脱走しようとしていた笹井を見つけてボコボコにした後、俺は『白雪特製弁当』を渡してやった。

 

 

 

 

 

 

 俺はコックピットを出ると、すでにワトソンが乗り移っていた。彼女はワイヤーのフックをこの機体に固定させていた。

 

「……ん?なんでワトソンが救出作戦に?」

 

俺は不思議に思った。

 ワトソンは優秀な万能型の武偵だ。彼女はテロリストが仕掛けた爆弾の捜索で忙しいと思っていたのだ(何個仕掛けられたか分からないため、首都圏全ての学校を捜索しなければならない)。

 

「空挺訓練や空中機外作業の訓練を受けたことがある武偵はボクだけらしい。……それにムラタがピンチだって聞いたから。

「……?そうか、とりあえずこっちだ。」

 

ただでさえ、エンジン音にプロペラ音、それに風の轟音によって大声でしゃべらないと意思疎通ができない。そんな場所でワトソンが小声で何か言ったようだが、俺は一切聞こえなかった。

 

 ……まぁいい。それよりもRoseliaの皆さん(お嬢さん方)の救出が最優先だ

 

俺は後ろで不機嫌になったワトソンの手を取り、コックピットへ案内した。

 

 

 

 

 

 

「…………ムラタ、コックピットで撃ち合いでもしたのかい?君は考えなしに戦うことがあるのは知っていたけど、コックピットで戦えば操縦不能になることくらい考えられなk……」

「これをやったのは俺じゃないから!!敵のテロリストが連射した結果、なっただけだから!!」

 

ワトソンはコックピットの悲惨な現状(多数の弾痕や破壊された機器)を見て一瞬茫然した後、俺をジト目で見てきた。

 俺は慌てて反論と弁明をするが……ワトソンは信用していないのか、その批判的な視線を止めない。

 

「それに酒臭いよ?」

「飲まなきゃやってられない事情があったんだよ。」

 

俺はため息をつき、笹井を睨んだ。笹井は『いいなぁ~』と指をくわえながらこっちを見てくる。

 

「…………分かった。それ以上は聞かない。……さ、皆さん。一人ずつこの機体から脱出します。僕の指示に従ってください。……武藤、救出を開始する。移動をしてくれ。」

『了解。移動するぜ。』

 

ワトソンは俺の苦労を察したのか……追及を止め、Roseliaの皆さん(お嬢さん方)の救出の準備を始めた。

 

 ……これでやっと肩の荷が下りたな。

 

俺がそう思った時、視線を感じた。俺はその視線を感じる方を向くと……Roseliaの5人(お嬢さん方)が不安そうに俺を見ていた。

 おそらく……ワトソンを信用してよいのか、そして(特殊刑事課の様な)‘‘変態’’ではないのか、と言う不安があるのだろう。

 

Roseliaの皆さん(お嬢さん方)、安心しろ。ワトソン(あいつ)は世界を股に掛ける優秀な武偵だ。それに月光刑事(デカ)の様な変態では…………」

 

その時、俺は『ワトソンは男装の麗人であり、 ‘‘女性としてのふるまい’’にトラウマを持つため、リハビリ(オママゴト)をやっている』という事を思い出した。

 

 ……確かに一般女性とはかけ離れているが、‘‘特殊刑事課’’の様な変態ではない……はず。うん、普段の言動からはそのような傾向はない……はず。

 

「変態では…………ない。うん、変態じゃないから安心しろ」

 

俺は少々考えた後、言葉を発した。

 

「ちょっと待って!!今の間は何!?」←茶髪ギャル

「あこ、あんな様な人は嫌だよ!?」←紫髪の少女

「村田さん、何とかなりませんか!?」←氷川紗夜

「「……!?……!?」」←黒髪巨乳少女&銀髪少女

 

それが悪かったのだろう。逆に彼女達の不安を煽ってしまったようだ。

 

「ムラタ!?君はボクを何だと思っているんだい!?」

 

ワトソンが顔を真っ赤にしながら俺の胸元を握って揺らしてくる。

 

「いいから!!時間が無いから早く脱出しろ!!」

 

俺はワトソンを引きはがし、Roseliaの5人(お嬢さん方)と一緒にをコックピットから追い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれ、先輩?あの‘‘ワトソン’’って子って……女の子ですよね?』

「違う!!ボクは……男だ!!」

 

笹井の戯言(ざれごと)に釣られ、ワトソンは思わず反応してしまった。

 

『この声や体形から考えて……やっぱり女性ですよね!?……ゴホン!!こんばんは、お嬢さん。これが終わった後、一緒に食事でもいかがでsh……』

「笹井、救出の邪魔だ。静かにしろ。……そう言えば、‘‘冬季の特別サバイバル訓練’’に空きがあるらしいg……」

 

『冬季の特別サバイバル訓練』とは……(着ている)衣服一着のみ持ち込み可の条件で、1~2週間ほど単独で山籠(やまご)もりするという訓練だ(時々追手アリ)。

 追手のみならず、野生の動物(主に熊)からの襲撃もあるため、とても厳しい訓練となる。

 

『ボクガ悪カッタデス。スイマセン。』

 

笹井はすぐに謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、笹井の妄言を一蹴した後、この機体からの脱出が始まった。

 ワトソンとRoseliaの5人(お嬢さん方)のうちの一人がスカイダイビングのタンデム(二人一組)の様になった後、ワイヤーを伝ってYS-11に移動するという事を繰り返す。

 

 紫髪の少女(宇田川あこ)黒髪巨乳少女(白金燐子)銀髪少女(湊友希那)茶髪ギャル(今井リサ)という順番で移動が進み、最後に氷川紗夜が移動する順番になった。

 

「村田さん、助けてもらってなんてお礼をすればよいのか……」

「気にするな。氷川日菜(妹さん)の依頼だから。」

 

俺がそう言うと、氷川紗夜さんが引きつった笑顔を浮かべた。

 

 ……ん?どうかしたのか?そう言えば氷川紗夜(姉)・氷川日菜(妹)の二人は双子なのだが、学校が違う。今の表情から……氷川紗夜は氷川日菜(妹)苦手なのか?

 

氷川紗夜(姉)・氷川日菜(妹)の間に何か複雑な姉妹関係が見えた。

 

「今度相談に乗りますよ。氷川日菜(妹さん)との関係に悩んでるんでしょ?……じゃ、ワトソン。よろしく」

「え!?い、いえ!!そう言うわけでは……!!」

「…………。」

 

ワトソンはムスッとむくれながら氷川紗夜を抱え、YS-11へ移動をしようとした。その時だった。

 

  ウゥ~!!ウゥ~!!ウゥ~!!

 

サイレン音が機内で鳴り響いた。

 

 ……この音って!?聞き覚えがあるぞ!?

 

この音は前話で敵戦闘機にロックオンされた時になったサイレン音と同じ音だ。

 俺は嫌な予感がし、急いでコックピットに走った。

 

 

 

 

 

「(英語)おっさん!?」

「(英語)クソッタレ!!またロックオンだ!!」

「「え!?……え!?」」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は怒鳴るように答え、西住さんとかなめは慌てていた。

 操縦席の画面には『自动跟踪(ロックオン)』の文字が表示されていた。俺はレーダーの画面を見ると……ミサイルしか表示していない。敵戦闘機は近くにはいないようだ。

 

 ……クソッ!!どこから発射されたんだ!?

 

俺はコックピットを出るとワトソン達とは逆側、右側面扉から上半身を出して周囲を確認した。

 

 ……いた!!あいつか!!

 

2時の方向に1隻の小さな漁船から煙を吹き、俺達がまだ乗るこの機体へ真っすぐに飛んでくる小型ミサイルが見えた。そしてそのミサイルはすでに目と鼻の先にいる。

 

 ……チクショウ!!迎撃も回避もできない!!

 

  チュドーン!!!

 

「……ぐぁあああ!!」

 

小型ミサイルは右翼・内側エンジンに命中した。その破片が俺に降りかかり、体を切り裂いていく。俺は必死になってその痛みに耐えた。

 

 ベキベキベキ!!

 

ミサイルとエンジンの爆発により翼に亀裂が走り、そこに風圧が加わり、片翼がゆっくりともげる。それと同時に機体のバランスがゆっくりと崩れていく。

 

『……ッ!!ヤロウ!!よくも先輩を!!』

『待て!!待て笹井!!』

 

笹井が操縦するF-15が小型漁船へ急降下し、バルカン砲が火を吹いた。

 

 ……この機体は武藤が操縦するYS-11とワイヤーで繋がってるんだ。このままだとYS-11も道連れになっちまう!!

 

「二人とも!!早く出ろ!!!」

 

俺はワトソンと氷川紗夜へ怒鳴るように言うが、二人は動こうとしない。

「ムラタ!!君はどうするんだ!!」

「村田さん!!もしかして死ぬ気ですか!?」

「大丈夫だから早く!!」

 

俺は二人を蹴飛ばすようにして機外へ脱出させた。その2~3秒後、俺達の乗るこの大型輸送機は錐揉(きりも)み状態になって地球へダイブを始め、ワイヤーの固定具が吹っ飛んだ。

 

 ……機体の高度は約7000mほどだったはず。空気抵抗のない自由落下だと……地面まで35秒くらいか?実際は空気抵抗が加わり、もっと長い時間がかかるはずだ。その間に何とかしないと!!

 

俺は無重力状態になった機内を何とか移動し、コックピットへ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「アハハ……そう言えば、『東京で自殺しよう』って考えてたんだっけ……。ある意味(かな)ったかなぁ……」

「(英語)嬢ちゃん!!ブツブツボヤいてないで、さっさと探せ!!」

少なくても、あたしとイブキにぃ‘‘だけは’’助かるようにしないと…………あ、イブキにぃ!!」

 

 疑似宇宙空間(無重力状態の機内)を移動し、扉をくぐると……コックピット(そこ)は混沌だった。

 西住さんは虚空を眺めて笑いながら現実逃避をし、ジョニー・マクレー(おっさん)は必死に脱出装置を探し、かなめは何かを(たくら)んでいた。

 

 ……か、関わりたくねぇ。

 

俺はため息をつき、思考と感情を強制的にリセットさせた。

 

 ……残っているのは俺を合わせて四人。脱出用のパラシュートはないらしいが、脱出装置がないというのはおかしい。

 

俺は抱き着いてくるかなめを引きはがし、西住さんの頭をはたいて現実逃避を止めさせた後、何か脱出用の装置がないか探し始めた。

 

 ……搭乗員用の脱出装置はなくても、少なくても操縦員用の脱出装置は装備されているはずだ。

 

 その時、座席横にレバーを発見した。レバーには『弹射(射出)』と書かれている。きっと射出座席を発射させるためのレバーのはずだ。

 

「(英語)おっさん!!多分、座席横にあるレバーだ!!それが射出座席のスイッチだ!!……西住さん!!ボケッとしてないで座席に座ってくれ!!」

「こんな状態で席に座れませんよ!?」

「口答えするなら行動してくれ!!」

 

俺はジョニー・マクレー(おっさん)に脱出装置(?)を伝えた後、目の前に漂っていた西住さんを捕まえ、シートベルトで座席に縛り付けた。

 

「(英語)こいつかぁ!?……おい、嬢ちゃん!!いや、お前!!坊主の妹の方だ!!早く席に座ってベルトを閉めろ!!」

「何でお前に命令されなきゃいけないんだ!!アタシを縛り付けていいのはイブキにぃだけだ!!」

「(英語)テメェは死にたいのか!?さっさとしろぉ!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は文句を言うかなめに一喝し、そのまま座席に座らせてシートベルトをかけさせた。

 

 ……ま、間に合うか!?

 

俺は外を見た。すでに高度は3000mを切っていた。

 

「(英語)坊主!!座らせたか!?」

「(英語)準備万端だ!!いつでもできるぞ!!」

 

俺とおっさんは二人を縛り付けた座席の背にしがみ付いた。

 ところで、俺達が乗る大型輸送機は現在進行中で空中分解が進んでいる。

 

  パリン!!べキッ!!

 

たった今、コックピットのガラスが割れ、壁の一部がはがれた。

 

「(英語)射出座席なんて何時以来だ?……あぁ神様、お助けを……

「(英語)ジョン・F・ケネディ国際空港以来じゃねぇか?………行くぞ!!」

 

俺達は同時に座席横のレバーを引いた。

 

  バシュ!!

 

コックピットの天井が外れ、座席下にあるロケットブースターに火が付いた。

 

「「「「うわぁぁああああ!!!」」」」

 

俺達は強烈なGを受けながら、夜空に吹き飛ばされた。

 

  チュドーン!!

 

そして俺達が脱出し、パラシュートが開いたと同時に輸送機の残骸が大爆発を起こした。

 

「(英語)くそぉ!!日本になんてもう来てやるか!!」

「(英語)こっちから願い下げだ!!それにアメリカ(そっち)の方が危険だろうが!?」

「…………少なくても、東京にはもう来たくないなぁ。」

「やっぱりこのおっさんは危険……イブキにぃはやっぱり閉じ込めていた方が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西住さんの射出座席に俺がへばりつき、かなめの方にはジョニー・マクレー(おっさん)がへばりついていた。

 もちろん、射出座席は人間一人分で設計されているため、俺やジョニー・マクレー(おっさん)がしがみ付いていると重量オーバーとなる。なのでパラシュートは比較的早い速さで落下し、俺達は海面に叩きつけられた。

 

 ……クソォ!!叩きつけられた痛みなんて屁でもねぇが、海水が傷にしみる!!

 

俺はあまりの痛さに気絶しそうになったが何とか耐え、海面に向かって泳ぎ始めた。

 

「プハッ!!」

 

俺は海面に出て新鮮な空気を肺に入れ込んだ後、周りを見た。海面には二つの小型ゴムボートが浮かんでいた。おそらく、このゴムボートは射出座席についていたものだろう。

 

「おっさん!?かなめ!?西住さん!?」

「(英語)坊主……生きてるか~?」

「イブキにぃ!!よかった!!生きてた!!」

 

俺は叫ぶように言った。するとジョニー・マクレー(おっさん)とかなめの返事が聞こえたが、西住さんの声だけは聞こえない。

 

「(英語)おっさん!!西住さんは!?」

「(英語)嬢ちゃんは坊主と一緒に落ちたじゃねぇか!!知らねぇぞ!?」

 

俺は立ち泳ぎをしていたかなめとジョニー・マクレー(おっさん)に近づいたが……やはり西住さんは見えない。

 

 ……おい、嘘だろ!?

 

すでに日は落ち、‘‘真っ暗な海’’と‘‘星々がきらめく夜空’’がほとんどを占めている。‘‘燃え盛る機体の残骸’’が唯一の光源だ。

 こんな状態で一度はぐれたら……よほどの豪運がない限り、生存の確率は一気に狭まる。

 

 ……いや、俺と西住さんは同じ場所に落ちたんだ。だけど声や返事が聞こえないってことは、そもそも海中から這い上がっていないのか?

 

 俺は海面に浮いていた小型のゴムボートへ這い上がると、それに備え付けられていたサバイバルセットから懐中電灯を見つけた。

 

 ……よかった、懐中電灯(こいつ)は防水になってる。

 

「イブキにぃ…………ナンデ他ノ女ノ心配ヲシテイルノ?」

 

俺はヤバそうなオーラを出すかなめを無視し、懐中電灯を咥えて暗い海へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……海水が目にも傷にも染みる。クソッ!!西住さん、どこにいるんだ!?

 

俺は海水が目にも傷にも染みる中、暗い海の中で懐中電灯を振り回し、西住さんを必死に探していた。

 

 ……く、苦しくなってきた。いったん海面に……!?

 

その時、ゆっくりと海底に沈んでいく西住さんが見えた。

 

 ……いた!!気絶しているのか!?

 

俺は急いで西住さんの元へ泳いだ。西住さんの腕を掴んで一気に引き寄せたが、彼女の反応はない。

 

 ……とにかく、海面に戻らないと!!息が持たない!!

 

全力疾走中の時以上に心臓がバクバクと鳴る。意識が少しずつ薄れていく。

 俺は西住さんを抱え、真っ暗な海の中を泳いだ。

 

 

 

 

 

 

「プハッ!!ハッー!!ハッー!!!」

 

 着衣泳をしたことはあるだろうか?一度水を吸った衣服は重くなり、裸(正確には水着のみ)の時に比べて泳ぐのがとても困難になる。

 俺は息継ぎをした後、武偵高の上着を脱ぎ捨てた。そして多少身軽になった体を必死に動かし、西住さんを小型ゴムボートへ運び上げた。

 

「(英語)坊主!!嬢ちゃんは生きてるか!?」

「イブキにぃ……ナンデあたしジャナクテ、そいつナノ?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)とかなめは別のゴムボートに乗っていた。ジョニー・マクレー(おっさん)は心配そうに聞いてくる。

 俺は気絶している西住さんの気道を確保したが……腹が動いていない。

 

「おい、嘘だろ!?」

 

 西住さんは息をしていなかった。俺は西住さんの首に手を添え、脈を計るが……心臓の鼓動を感じない。

 

 ……クソッ!!息を吹き返してくれ!!

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から銃剣を取り出し、西住さんが着ている上半身の衣服を全て切り裂き、開いた。そして上半身が裸になった西住さんの胸に手を当て、心臓マッサージを開始した。

 

「1、2、3、4……!!」

 

心臓マッサージ30回・人工呼吸2回が1セット。それを何回も繰り返し、明らかに蘇生したと判断できるまで続ける必要がある。しかも、心臓マッサージは肋骨を()る勢いでやらなくてはならない。

 

「18、19、20、21、……!!」

 

 しかし、ここは海に浮かぶゴムボート。押せば少し沈む柔らかい床に西住さんは寝かせられ、しかも海の波による揺れまである。心臓マッサージをやるにはとても難しい環境だ。

 

 ……でも、やらないよりはマシだ!!民間人なのに散々巻き込ませておいて、西住さんだけ死なす訳にはいかねぇ!!!

 

「27、28、29、30!!!」

「いいなぁ~。あたしも気絶すればイブキにぃにあんな事を……」

「(英語)なら俺がやってやろうか?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)とかなめが何かしゃべっているらしいが無視をする。

 30回の心臓マッサージを終え、人工呼吸を始めた時、西住さんの目がうっすらと開いた。

 

 ……よかった!!何とか息を吹き返sh……!!!

 

俺が口を離そうとした瞬間、西住さんはカッと目を見開いた。そして鳩尾(みぞおち)に強烈な衝撃を感じたと同時に、アッパーカット気味に(あご)へ鋭い鉄拳が刺さり、俺は空中を飛んだ。

 

 ……は?……え?……は?

 

空中を飛んでいる時、顔を真っ赤にしながら鋭い目つきで俺を睨む西住さんと目が合った。

 きっと……彼女は何か大きな、とても大きな誤解をしているに違いない。

 

  バシャン!!

 

 ……俺が何をしたって言うんだよ。今日丸一日、爆破やら銃撃やらで散々ボロボロになって最後はこの仕打ちかよ。俺はただ、西住さんを助けようとしただけなのにさぁ。

 

俺は暗い海の中へ再び強制ダイブをさせられ、意識を手放した。

 

「おいお前何やってんだよ!!イブキにぃ恩を仇で返しやがって!!」←かなめ

「……え!?あぁ!!!む、村田さん!!ごめんなさい!!」←みほ

「(英語)おい、坊主が動いてないぞ!?」←マクレー

 

 

 

 

 

 

 『Die Hard3 in Tokyo』 END

 

 

 エンディングテーマ:『ジョニーが凱旋するとき』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笹井は西住みほの衣服が切り裂かれたのを確認した時、目を皿のようにして彼女の裸を観察しようとしたのだが、運悪く窓枠の死角に彼女が入ってしまった。慌ててF-15の姿勢を変えた時にはイブキの体で西住みほの体は隠れていた。

 笹井はF-15を旋回させ、(のぞ)きを試みるが……どうもイブキが邪魔だ。

 そして西住みほがイブキを殴り、破れた衣服で上半身を隠すまで、笹井は彼女の裸を拝むことは一切できなかった。

 

……いいなぁ~先輩。あんなに女の子に縁があって。やっぱり軍隊の様な閉鎖的な男社会よりも、一般の学校の方が…………。坂井隊長!!俺も村田先輩の様に武偵高校に一時転入とかできませんか!?将来的に考えて民間とのツテは重要だと思いますし、知見を広げるためにも必要だと思うんです!!」

 

笹井は己の欲望のため、嘘八百な理由をつけて上官の坂井へ願い出た。

 

「お前、声を小さくしても聞こえているんだぞ?そんな不純な理由で出来る分けないだろうが。…………まぁ、できなくもないが。」

「本当ですか!?」

 

坂井の言葉に笹井は食い気味に反応した。

 

「村田大尉は見た目に反し、とても優秀な人間だ。それほどの優秀な人間と判断されれば可能性は無いわけではない。343空(うち)だと……とりあえず模擬戦で‘‘太田’’を3分以内に落とし、俺か‘‘西沢’’から10分逃げ切れば一考に値するか?」

 

 空軍の超腕利きが集まる343空。

 その中でも‘‘二つ名持ち’’である坂井隊長(サムライ)西沢少佐(魔王)から逃げきる事。そして‘‘二つ名持ち’’ではないが、坂井・西沢(このバケモノ二人)と同じ小隊に所属する太田中尉を落とすのは困難を極めるだろう(坂井・西沢・太田・笹井で一つの小隊)。

 

「模擬戦で太田中尉を落として、坂井隊長か西沢少佐から逃げきればいいんですね!!言質取りましたよ!!」

「……一考であって、確定ではないんだが。」

 

 後日、笹井は模擬戦で良いところまで行ったのだが、最終的にボコボコにされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁああああ!!!ふざけるな!!ふざけるなッ!!馬鹿野郎!!あぁあああ!!!」←笹井

 

汚い慟哭(どうこく)を尻目に、笹井の上官達は話し合っていた。

 

「たった一年でここまで成長するなんて。努力はしてますし、いいんじゃないですか?」←太田中尉

「確かに、能力に努力・伸びしろを考えたら外部への出向はありだと思うんだけど……」←西沢少佐

「日頃の行いがなぁ……」←坂井

「「「ハァ……」」」

 

 

 

 

『Die Hard3 in Tokyo』 END?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 YS-11は戦後初めて日本が作った旅客機で、日本では旅客機用途での運用は終了していて、自衛隊の極一部ではまだ現役だとか。


 笹井の一人称について。普段は『俺』ですが、ナンパなどでは『僕』になります。


 射出座席には操縦士が無事に生き延びられるように、ゴムボートや懐中電灯。多少の食料や水が備え付けられているそうです。

 

  Next Ibuki's HINT!! 「0uちゃん」


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Die Hard3 in Tokyo キグルミの中は暑い……

これでやっとDie Hard3 in Tokyo が終わった。長かったなぁ。




 実は夏の前にこの章を終わらす予定だったのですが……もうすでに秋の終わり。なんでこんなにずれたんだろ。おかしいなぁ?


 テロ事件が解決した翌日、俺は治療を受けた後、‘‘負傷’’と‘‘各種省庁への書類提出及び関係者への謝罪’’ため『白鷺千聖の護衛任務』を降りようとしたのだが……

 

「あら、プロ意識が足りないのかしら?」←白鷺千聖

「そのぐらいの傷、すぐ治るやないか!!……あぁ!?」←蘭豹

 

 依頼人(白鷺千聖)仲介者(蘭豹)のとても熱い希望により、喜んで(渋々)任務を続行することになった。

 

 

 

 とはいえ、 ‘‘各種省庁への書類提出及び関係者への謝罪’’をサボるわけにはいかない。そのため、俺は二日ほど休みをもらい、再び東京を駆け回ることになった。

 その二日間はまさに地獄そのものだった。‘‘書類提出と謝罪’’や『東京国立〇物館に‘‘三日月宗近’’を返還』・『宮内省に‘‘サイモンを切った刀’’の返還』などまだ楽な方で、『西住さんを殺そうとしていたかなめの説得』・『‘‘娘が犯された’’と勘違いをした西住母にティーガーで追われる』・『‘‘西住流に取られた’’と言いながらセンチュリオンで俺を追う千代さん』など……

 

 ……これも全て‘‘サイモン’’と藍幇(ランパン)が事件を起こしたせいだ!!クソッタレ!!

 

 俺はこの三人を何とか説得し、『暴走した三人のせいで迷惑をかけた関係各所への謝罪』などの仕事が増えることになったのは言うまでもない。

 

 

 

 ついでに、俺は一部の仕事をジョニー・マクレー(おっさん)に投げつけようと思ったのだが、ジョニー・マクレー(おっさん)とその妻:マリーさんはすでに日本から出た後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日間の休暇(地獄)が終わって数日後、俺は‘‘ライブハウス CiRCLE’’いた。

 『同章 まともな会議をしてくれ……』を覚えているだろうか。その時に議題に上がっていた『CiRCLE合同ライブ』が今、ここで始まるのだ。

 『CiRCLE合同ライブ』はガールズバンドによる合同ライブであり……護衛とは言え、男の俺が楽屋に入るわけにはいかない。そのため、俺は客席でそのライブを鑑賞させてもらうことにした。

 ついでに、この‘‘合同ライブ’’が終われば、俺はやっと『白鷺千聖の護衛』から解放されることになる。

 

 ……この護衛もやっと終わるのか。長かったなぁ……襲われたり、車が廃車になったりして。そう言えば次の車、どうしよう。

 

俺はため息をついた。

 今だに俺はボロ車(ビュート)をまだ借りて使っているのだが、いつまでも借りておくわけにもいかない。

 

「いやぁ、やっぱり熱いなぁ」

「藤崎君ね、もうちょっと向こう行ってくれないかい?この状態じゃ撮れないでしょ?ただでさえ君はデブなんだから……」

「あぁ!?」

「だって僕の場所の半分以上を君が取ってるでしょ!!それに音野君ももうちょっと向こう行けるだろ?」

「しょうがないでしょ、機材があるんだからさぁ」

「機材機材うるさいんだよ」

「機材なんか外に置いとけばいいよ、こんなの」

「盗られたらどうすんだよ」

「落ち着いてくださいって。こんなにうるさくしたら彼にバレちゃいますから。」

「うるさいなぁ、なんでお前‘‘簡易0u(レイウ)ちゃん’’つけてんだよ。さっきからそれが当たって鬱陶(うっとう)しいんだよ」

「ほら、始まるから静かにしなさいって」

 

 なぜか、ステージ側の客席で‘‘聞き覚えがある声’’が聞こえたのだが……気のせいだろう。

 

 ……まさか‘‘蝦夷テレビの皆さん’’がここに来るわけないか。

 

  バッ!!バッ!!バッ!!

 

いきなり照明が付き、ステージに立っていた少女達を映し出した。

 

「こんにちは!!私達……」

「「「「「‘‘Poppin'Party’’です!!」」」」」

 

 ライブが始まったようだ。

 

 

 

 

 

 

「村田さん!!始まりましたよ!!」

「え?……あれ?なんで西住さんがいるの?お母さんと熊本帰ったんじゃ……」

「‘‘蘭ちゃん’’がライブをやるって言ってたから……お母さんに頼んでもう少しだけ東京にいさせてもらってたんです。」

 

 ……『蘭ちゃん』って、事件の日に新宿御苑から東京駅へ向かうときに拾った黒髪赤メッシュの子だったよな。そうか、その子も出るのか。

 

「ライブって初めてで……ワクワクしますね!!」

 

西住さんは誰がどう見ても浮かれているのが分かる。彼女はポケットから未開封のペンライトを出し、袋を破ってそれを振り始めた。

 

「……そ、そうか。」

 

俺は‘‘彼女の母親に追い掛け回された’’ことを思い出して鳥肌が立った。

 

 ……‘‘母は強し’’とは良く言ったものだぜ

 

 俺はあの時のトラウマ(西住母に追われた事)を忘れるため、集中してその演奏を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブが始まって数分後、俺は彼女たちの演奏に聞き入ってしまった。『高校生の演奏』という事であまり期待していなかったのだが……いやはや、彼女達の演奏は見る人・聞く人達を魅了する。

 

 ……これが高校生だと?下手なプロのバンドなんかよりも上手だぞ!?

 

一番手、『Poppin'Party』はガールズバンドらしいポップで明るい曲が流れ、観客全員と一体になって盛り上がる。

 二番手、『Afterglow』は美竹蘭(蘭ちゃん)が所属するバンドで、ロック調で格好いい曲を、彼女の低い声が歌うことによりさらに格好良くなる。

 三番手、我らが‘‘白鷺千聖’’が所属する『Pastel*Palettes』だ。流石はアイドルバンド、アイドルらしいポップでキュート(死語か?)な曲を披露する。

 

 ……白鷺千聖(あいつ)、見てくれは良いからなぁ。普段もあんなにお(しと)やかだったらどれだけ楽だったか……。

 

 そんなことを考えた瞬間、ステージから鋭い視線を感じたため俺は思考をやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて……四番手、‘‘サイモン’’に人質にされた『Roselia』の演奏の前に休憩があった。

 俺はその時間に用を足し、トイレから出ると……‘‘アメフトの防具で身を固めた集団’’にいきなり囲まれた。

 

 ……え?何!?どういう事!?殺気は感じないが……というかここはライブハウスの中だぞ!?なんでアメフト!?……ってこいつら、東京武偵高(うち)のアメフト部じゃねぇか!?

 

俺は今現在、起こっている事が全く理解できない。

 

「者ども!!出会え!!出会え!!」

 

聞き覚えのある声が聞こえると、屈強な男達(防具で固めた男達)10数人が俺に襲い掛かる。

 

「なんだ、なんだよオイ!?」

 

ここはライブハウスの中。ライブの観客たちが遠巻きにアメフト部(不審者)を見ている。なので俺がここで下手に抵抗すればその観客たちにも被害が及ぶため……せいぜい口ぐらいでしか抵抗ができなかった。

 

「クソッ!!離せ、離せぇええ!!……おい、田口テメェ、今蹴っただr……ゴフッ!!だれだ、今俺を殴ったやつ!!……って‘‘天の鎖’’!?なんでエルが!?……理子、何ニヤニヤしながらスタンガン持って……アァーーーッ!!!」

 

俺は‘‘アメフト部+@’’によって楽屋裏まで連れて行かれると衣服脱がされ、代わりに何かを着させられた。

 

 

 

「どうだい、和泉君?仕掛ける方になった気分は」

「あれだね。いざやってみるとここまで面白いものはないね。今まで君たちはこんなことを僕にやっていたのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

「村田さん遅いなぁ……もう始まっちゃうのに」

 

西住みほはイブキのことを心配していたが……Roseliaのライブが始まると、そんな些細な事は頭から消えていた。

 

 

 

 

 

 

 あの‘‘Roselia’’はガールズバンドの中で最も有名なバンドの一つらしい。

 俺はアメフト部に楽屋へ連れられて‘‘ある物’’を着させられた後、そんな‘‘Roselia’’のライブを舞台袖で拝聴させてもらっていた。もし、‘‘Roselia’’の熱狂的なファンならば大金を積んででもこの場所で拝聴したいだろう。しかし、俺はそんなありがたみを一切感じなかった。

 

「あら、面白いものを着ているわね。どうしたのかしら?」

「………。」

 

俺は白鷺千聖のイジリにも耐え、最後のバンドが搭乗するのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハッピー!!ラッキー!!スマイル!!イェーイ!!!」

 

五番手、最後のバンドは‘‘弦巻こころ’’が牽引するバンド、『ハロー、ハッピーワールド!』の登場だ。

 

「今日は‘‘0uちゃん’’も呼んでいるの!!‘‘0uちゃ~ん’’!!」

 

 ……行かなきゃだめだよなぁ。

 

俺は『蝦夷テレビのマスコット:0uちゃん』の着ぐるみを着てステージへ向かった。

 

「「「「「アッハッハッハ!!!」」」」」

 

‘‘0uちゃん’’が登場すると、観客席の一番前に陣取っていた‘‘蝦夷テレビの皆さん’’が大爆笑する。

 

 ところで、『同章 まともな会議をしてくれ……』を覚えているだろうか?その時、俺は弦巻こころに‘‘0uちゃん’’の存在を教えてしまった。そのせいで彼女は『蝦夷テレビのマスコット:0uちゃん』に興味を持ち、‘‘弦巻財閥’’の力を駆使して‘‘0uちゃん’’をこの場に呼び寄せたらしい。

 

 

 

 

 テロが起きる数日前、札幌にて……

 

「‘‘0uちゃん’’着ながら演奏なんて無理だよ……」

 

‘‘弦巻財閥’’から蝦夷テレビに仕事が入り、そして『木曜どうでぃ』のスタッフへ通達が来て、‘‘0uちゃん’’役(笑)である安浦憲之助(ヤスケン)が必死に練習をするのだが……彼は部類の不器用。着ぐるみを着て演奏なんて器用なことはできない。

 

「こうもうちょっとシャっとできないかい?適当なバイトでもできる様な事で仕事を貰ったんだぞ?君には意地って物は無いのかい?」

「……んなこと言っても『着ぐるみ着て演奏』なんてムリだろ」

 

安浦憲之助(ヤスケン)と和泉が口論を始めた。

 

「……ん?和泉、今なんて言った?」

「だから『こんな高校生のバイトでもできる様な事』で仕事貰ったんだから、もっとしっかりy……」

 

‘‘木曜どうでぃ’’のディレクター:藤崎は和泉の言葉であることを思いついた。

 

「ちょっと待て?……俺達は‘‘0uちゃん’’のおかげで全員東京へ招待されて、しかも大量のギャラも貰えたわけだ。」

「そうだよ?だから安浦憲之助(ヤスケン)が不器用ながら必死に演奏の練習を……」

「『高校生のバイトでもできる様な事』なら……数千円で適当な高校生を雇って、そいつに‘‘0uちゃん’’させて俺達は高みの見物でもすればいいんじゃないか?」

 

藤崎の言葉に鈴藤が食い付いた。

 

「あ……それ面白いかも、僕達は何もしなくていい(わけ)でしょ?」

「ちょっと待ってマスター!?あくまでも僕達が仕事を受けたわけだ。それなのにその辺の高校生になんか……それにそんな都合のいい高校生なんているかい?」

「いるじゃない、東京に。彼がさ……」

「いや!!彼がいてもだ!!僕らにはテレビマンとしてのプライドってものg……」

 

和泉が反論するが……楽な方法を考えついた『木曜どうでぃ』班の行動は素早い。

 すぐに東京武偵高校に任務の依頼を出し、蘭豹と綴が酔っぱらいながら承諾の印を押し……そして周りに回って俺に行きついたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そこのオッサンども、後で覚えてろよ?」

「「「「「アッハッハッハ!!!」」」」」

 

俺は‘‘0uちゃん’’の着ぐるみを着て‘‘蝦夷テレビの皆さん’’を脅すが……俺の怒りは彼らの‘‘爆笑の火’’に油を注ぐだけだった。

 

「……いくわよ!!『笑顔のオーケストラ』!!」

 

 ……え?ちょっと待って!?俺は何をやればいいんだ!?

 

弦巻こころの一言で演奏が始まったのだが……俺は何をすればいいのか一切教えられていない。

 結局、俺は黒服(?)の人からマラカスを貰って振ったり、バズーカを渡されてそれを撃ったり(紙吹雪とか出るアレ)、小っちゃい大砲を使って空砲を撃ったりした。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……お前がイブイブの護衛対象か。」

「あなたがイブキの同じチームなのね?」

 

『合同ライブ』が無事終わり、打ち上げが『ライブハウス CiRCLE』の楽屋で始まり、俺も参加させてもらったのだが……そこで峰理子(金髪ロリ巨乳)白鷺千聖(金髪美少女の女優)が出会い、互いに威嚇(いかく)し合っている。

 

 ……‘‘君子危うきに近寄らず’’、‘‘触らぬ神に祟りなし’’。とりあえずあの二人から離れよう。

 

俺は置いてあったパンの中から適当に一つ取り、部屋の隅でそれを食べる。

 

 ……あ、美味い。

 

「あっはっはっは!!!村田君、ごめんね。ライブは楽しかったかい!?」

 

意外と美味いパンを味わっていると……藤崎さん(諸悪の根源)が笑いながら近寄ってきた。

 

「……えぇ。おかげで冬なのに汗ダラダラになりましたよ。」

 

俺は親の仇の様に藤崎さんを睨むが、彼は‘‘何処吹く風’’と一切気にしない。

 

「そう言えば村田君、来年の春と夏は暇かい?面白い企画を思いついてですね……」

 

藤崎さんはそのヒゲ面を俺に近づけ、メガネを曇らせながら話し出す。

 

 ……今度また『木曜どうでぃ』に出てみろ?‘‘料理対決’’や‘‘クリスマス’’の様に死ぬかもしれないぞ!?

 

俺は身代わりを探すため、頭が高速で回転する。

 その時、俺の視界の隅に……いつの間に仲良くなったのだろうか、理子と談笑する白鷺千聖が見えた。そして俺は『同章 まともな会議をしてくれ……』で白鷺千聖がテレビのロケをお蔵入りにさせた事を思い出した。

 

 ……そうだ!!そう言えば白鷺は前にテレビのロケをお蔵入りにしている。ならば俺が『Pastel*Palettes』に新しいテレビの仕事を紹介しよう。

 

 

「藤崎さん。俺の代わりに『Pastel*Palettes』が出たら面白いと思いません?」

「その話、詳しく聞かせて貰ってもよろしいですかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所からの許可も下り、『Pastel*Palettes』は来年の春に『木曜どうでぃ』のゲストとして登場した。彼女達は『どうでぃ班』と一緒になって荒れ地を開墾して野菜を植え、食器を作り、和泉と料理の腕を競い合うという‘‘日本一長い料理番組’’を撮ることになるのだが……その過酷さを彼女達はまだ知らない。

 

 

「では試食に特別ゲストが来ております。村田君です!!」

「ッ~~!!ッ~~~~!!!」←鎖で椅子に縛られ、猿ぐつわを履かされたイブキ

 

 

 

 

 




 ライブ順は『ガルパピコ』を参考にしています。


バンドリメンバーともう少し絡ませたかったのですが……自分の文才ではこれが限度でした。文才が欲しい……。



「イブイブごめんね。理子りんまだ死にたくないんだ」

理子も試食役として呼ばれたのだが……イブキを犠牲にしていち早く逃げたとか。


 次話は『閑話:俺のいちばん長い日 with BanG Dream!』のため、『Next Ibuki's HINT!!』はありません。 



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閑話 俺のいちばん長い日 with BanG Dream!

 遅れて申し訳ございませんでした。
 言い訳をさせてもらいますと……競技会に参加して全身筋肉痛になったり、補講代わりのレポートが山積みになったり……それにネタの整合性のチェックに艦これの冬イベなどで時間が潰れました。

 ……それに今回の話、出来上がって20000字弱、校正して18000字。‘‘一日千字以上書く''こと目標にしているため……単純計算して二十日はかかる。『書いても書いても終わらないなぁ』と思っていたら、そりゃぁ中々できないはずですわ。

 それに最近一話当たりの文字数がインフレしていたため、次章からは一話当たりの文字数を減らす努力をします。


1:無駄知識の泉

 

 『CiRCLE合同ライブ』の数日前の事、『休日、友達と一緒に‘‘クラゲの特別展示をやる水族館’’と‘‘その近くにできた喫茶店’’へ遊びに行きたいから、護衛のお前も来いよ?(意訳)』とのお達し(メール)が届いた。そのため、俺は白鷺千聖を‘‘休日に’’渋々迎えに行くことになった。

 

 ……確かに契約の範囲内だけど、メンドクサイ。

 

俺はため息をついた。

 確かにあの事件の後、最近は襲撃など一切なかった。だが、それでも何かあって彼女に傷一つ付いたら俺の責任になるため……あまり外出してほしくないのが本音だ。(テロの時は(軍部)が俺を徴用したため、その時の違約金などは(軍部)が負担したそうだ)

 

 ……それに休日出勤だし。どうか面倒な事は置きませんように

 

俺はボロ車(ビュート)で白鷺家へ向かうと、白鷺千聖(護衛対象)は家の前でちょこんと待っていた。

 

 ……本当、外見は綺麗だから困るよなぁ。

 

俺は再びため息をついた。

 

 

 

 

「何だって休日に出勤させるんだよ。それに何かあったら困るから、外出は最低限にして欲しいって言ったよな?」

 

俺は助手席に乗った白鷺千聖(護衛対象)にボヤいた。

 

「あら?プライベートの外出時も契約範囲でしょう?」

 

彼女は黒いオーラを放ちながら‘‘見惚れるような笑顔’’で俺を脅して(説得して)きた。

 

「お前、今まで何回襲われたと思ってんだよ。」

「でも最近は何もないことだし、それにあなたが守ってくれるのでしょう?」

 

白鷺に何を言っても駄目なようだ。俺はため息をつき、ギアを入れた。

 

「ヘイヘイ…………。で、俺は何処へ行けばいいんだ。」

「そこを左に曲がって頂戴。」

「……了解」

 

ボロ車(ビュート)はガタガタ揺れながら、ゆっくり進み始めた。

 

 

 

 

 

「……なんで車変えないのよ」

「……『お前はすぐに壊すからこれしか貸せない』って言われたんだよ。」

「……ごめんなさい」

 

 

 

 

 

「ここで止めてちょうだい。」

「ハイハイ」

 

  キキッーー!!ピキッ……

 

住宅街の一角にボロ車(ビュート)が停車した。すると白鷺千聖は助手席から降り、目の前の家へ向かった。

 

「ち、千聖ちゃん?……こ、この車なの?」

「だ、大丈夫。見た目はこうだけど、腕利きの武偵だから……」

「ふえぇ……」

 

すると数分もしないうちに白鷺千聖は‘‘青髪ロングの少女’’を連れて後部座席に乗り込んだ。

 

 ……この青髪の少女。どこかで会ったような気が……あ。

 

「‘‘松原さん?’’」

「ふえぇっ!?……む、村田さん!?」

 

 ……この特徴的な口癖に慌てよう、やっぱり松原さんだったか。

 

白鷺千聖の友人、松原花音は『極東戦役:極東編 いつ撮ったんだよ……』でかなめと一緒に行った‘‘映画館のある総合ショッピングセンター’’で道案内をしたことがある。

 

「あら、花音のことを知っていたの?」

 

白鷺千聖は大きい眼をさらに見開き、俺を凝視した。

 

「以前、道案内をしてな。……改めて、武偵の村田です。よろしく。」

「ふえぇ!?……ま、松原 花音(まつばら かのん)です。」

 

 ……松原さんは白鷺ほど面倒な子ではない。いや、よかった。

 

俺は松原さんに握手をすると、なぜか白鷺千聖は少し不機嫌になった。

 

 

 

 

 1時間もしないうちに目当てのビルに到着した。駐車場にボロ車(ビュート)を停め、俺達はそのビルの中にある水族館へ向かった。

 

「クラゲの特別展、楽しみだなぁ。……付き合ってくれてごめんね。千聖ちゃん、村田君」

「いいのよ。あの事件のせいでスケジュールに空きができたから。」

「だからと言っても外出は控えてくれ……でも水族館か。何年ぶりだろう」

 

俺達はチケット売り場への列を並びながら雑談にふけっていた。

 

「村田君、水族館はあまり来ないの?」

 

松原さんは俺の目を見ながらコテンと首を傾げた。彼女の水色の髪がサラッと揺れる。

 

「小学生以来行ってないな。……築地や豊洲なら月1回くらいで行くけど。」

 

時々、俺はリサに連れられて築地や豊洲などで荷物持ちをさせられるのだ。そのおかげか、多少食材の目利きができるようになった。

 

「……それは水族館じゃないでしょう。」

 

白鷺は(あき)れるようにため息をついた。

 

「私、ここにはよく来てるから……色々教えてあげるね。村田君。」

 

松原さんは花の様な鮮やかな笑みを俺に向けた。俺はその笑顔を向けられ、一瞬ドキッとした。

 松原さんは一つ一つの動作があざとい……が、白鷺の様に‘‘裏がある行動’’ではなく、彼女は無自覚でやっているようだ。

 

「あぁ、よろしくな。」

 

 ……白鷺よりも松原さんの護衛をやりたかったなぁ。彼女には‘‘(いや)し’’がある。

 

 

 

「高校生、3枚お願いします。」

 

やっと順番になり、俺は3人分のチケットを買った。

 

「あ、村田君。お金払うよ?」

 

松原さんは慌てて己のカバンをまさぐる。

 

「いいって。ここで割り勘だと支払いが面倒だ。」

 

俺達の後ろには多数の人達が並んでいる。迅速に支払いをするために誰かが一括で払った方がいいだろう。

 それに女二人に男一人。しかも他人の目がある中で割り勘は……キツイものがある。

 

「なに花音には格好つけるのよ。」

「ふえぇ……でも、悪いよぅ」

 

白鷺が軽蔑するような目で、松原さんは申し訳なさそうに俺を見た。

 

「…………ほら、さっさと行こうぜ」

 

俺は誤魔化すため二人の手を取り、足早に水族館へ向かった。……久しぶりの水族館に少しワクワクしているという理由も無いわけではないが。

 

「え!?ちょっと!!」

「ふえぇ!?」

 

 

 

 

 

「すみません、大人5人で」

 

 ……ん?そう言えば俺達の後ろに並んでいた人達、格好が‘‘魚屋の店主’’のような恰好をしていたが……なんでだろう。

 

 

 

 

 

 さて、入館して最初に見えるのはイワシの大群がいる水槽だった。

 

「村田君、これがマイワシだよ。」

「へぇ~……脂がのって美味そうだな。」

 

飼われているせいか……イワシ一匹一が大きく、ふっくらと脂がのっている。しかもピンピン生きているため、とても新鮮なのは確実だ。生でも焼いても美味いのはすぐわかる。

 

「ここは水族館なのよ。そんな事言っちゃ……」

 

白鷺がそう言った時だった。

 

「イワシですよ。イワシ。」

「美味そうですね」

「ふっくらしてますね」

「生で食べたり、酢で(しめ)たり……」

「焼いてもいいですよね……いくらぐらいですかね」

 

ゴム長靴に前掛(エプロン)を身に(まと)う、まさに典型的な‘‘魚屋の親父’’の様な格好をした男達5人が俺達の横でイワシの水槽を観察し始めた。

 

「そうですね~、大小込々で1本250円くらいですかね。」

「でも、こんなに新鮮で脂がのってるからもう少し高くても……あ。」

 

俺はその‘‘魚屋の集団?’’の話に思わず反応してしまった。‘‘魚屋(?)の5人’’の視線が俺に集中する。

 

「……ん?あんた、リサちゃんとよく一緒に来る兄ちゃんじゃないか?」

「……え?」

 

その5人のうちの1人、皺枯(しわか)れた声でメガネの中年男性が俺に声をかけてきた。

 

 ……あれ?この親父、確か築地か豊洲で見たような。

 

どこの店かは覚えていないが、リサがこの親父と何度か値段交渉をしていたのを思い出した。

 

「リサちゃんって、‘‘あの’’リサちゃんですか?」

「交渉上手でよく泣かされるって……」

「だけど美人で巨乳だから憎めないって……」

「あぁ、そう言えばリサちゃんの荷物持ちしていた……」

 

どうも、うちのメイド(リサ)様は市場(その界隈)で色々と有名らしい。

 

 

 

 

「えぇ、あの時はどうも……」

 

俺はとりあえず無難に挨拶をして離れようと……

 

「兄ちゃんがいるってことはリサちゃんはいるのかい?」

 

その‘‘皺枯(しわか)れ声の親父’’が周りをキョロキョロしながら俺に尋ねてくる。

 

「スイマセン、今日は仕事できているので……」

「リサちゃんいないかぁ~……もうちょっと高いかい?」

 

‘‘皺枯(しわか)れメガネの親父’’は残念そうにした後、イワシを指さして言った。

 

「300円くらいですかね?……いや、これだと高いですよね」

 

個人的には、これほど良いイワシは300円出してもいいと思うが……イワシは大衆魚。300円は高すぎるかもしれない。

 

「兄ちゃん、それはちょっと高いですよ。」

「じゃぁ間を取って280円だな。」

 

‘‘魚屋(?)の5人’’は協議の結果、『イワシ1匹280円』と決定した。手板(魚屋で値段が書かれている木の板)にその値段を書くと水槽に張り付けた。

 

「花音、行きましょう。」

「……ふえぇ」

 

白鷺と松原さんは‘‘魚屋(?)の親父達と青年の怪しい集団’’から逃げるように次の水槽へ向かう。

 

 ……なんでここ(水族館)に魚屋の親父がいるか分からないが、一応今は護衛中だ。白鷺や松原さんから離れないようにしないと。

 

「じゃぁスイマセン、俺はここで……」

 

俺は一言伝え、白鷺たちを追う様に足早に離れようと……

 

「「まぁまぁ……」」

「兄ちゃんもある程度分かるんだから……」

「そうですよ。それにリサちゃんのことも教えてくださいよ。」

「家じゃどんな感じなんですか?」

 

押しの強い親父たちに囲まれ、俺は脱出することが出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 さて、次の水槽は多種多様な魚がいる大型の水槽だった。

 

「わぁ……沢山魚がいるわね。」

「あ……千聖ちゃん、あれ、エイだよ!!」

「あら……可愛いわね」

 

そんな風に魚を観察する白鷺と松原さんの横で……

 

「エイはヒレが貴重なんだよなぁ……」

「エイヒレって酒の肴でありますよね?」

「兄ちゃん、それにフランス料理でムニエルにするんですよ。……これだと一万円ぐらいですかね」

「「「そのぐらいじゃないですか?」」」

 

俺と‘‘魚屋(?)の5人’’が食べ方や値段を協議し、値段を書いた手板を水槽に張り付ける。

 

 

 

「見て花音!!これは何かしら!!」

「えっと……イヌザメみたいだね。」

 

白鷺と松原さんが一見食べなさそうな魚の観察を始めるが……

 

「イヌザメはフカヒレだな。」

「そう言えばすり身とか蒲鉾とかの材料にもなるんですよね」

「兄ちゃん、よく知ってますね。最近はヘルシーだとかで需要が上がってるんですよね」

「水揚げも減ってるし……このぐらいですかね」

 

白鷺と松原さんの目の前に値段が書かれた手板を張った。

 

「「…………」」

 

そのせいか……白鷺と松原さんの顔が引きつる。

 

 ……あれ?松原さんはともかく、あの白鷺の引きつった顔に……

 

俺はいつの間にか、白鷺のその表情で‘‘愉悦’’を感じ始めていた。

 

 

 

「あ、あれがヨスジフエダイよね!!」

「そ、そうだね!!」

 

白鷺と松原さんが‘‘黄色と赤の鮮やかな魚’’を見るが……

 

「あれね、魚自体に脂があまり乗ってないんだよね」

「でも、淡白な白身で美味いんですよね。」

「よ、良く知ってますね兄ちゃん。そう、フライとかにすると美味しいから、意外といい値段するんですよ。」

 

俺達がすぐにその魚の解説(食べ方、値段)をするため……

 

「……」

「ふ、ふぇえ~……」

 

白鷺の顔が歪み、俺が愉悦を感じるという循環が発生していた。

 

 

 

 

「バイカルアザラシ、可愛いわね。(まさかこれは食べないでしょう)」

「そ、そうだね、千聖ちゃん!!」

 

白鷺達は絶対に食べないであろう生き物がいる水槽へ向かうが……

 

「バイカルアザラシってロシアでは毛皮や肉のための狩猟を許可しているらしいですよ。一回食ったことがあるんですが……」

「どんな味だった、兄ちゃん?」

 

 ……ふっ。残念だったな、白鷺。

 

「……」

「……ふぇえ~」

 

白鷺が俺を睨むように見てくるが……その視線がいかに心地よいことか。

 

 

 

 

「わぁ~!!大きなクラゲ!!」

「こ、こんな大きなクラゲもいるのね」

 

特設展のクラゲでも……

 

「最近は大量に網にかかって邪魔だから、むしろ厄介者なんだよね」

「あれ?……でも中華とかベトナム料理とかで沢山使われてますし、最近では刺身とかアイスクリームにいれるって聞いたんですけど。」

「兄ちゃん、需要以上に獲れちゃうから面倒なんですよ。それに加工費がバカにならないんです。」

 

白鷺と松原さんの横でクラゲ(食用)の話をし、手板を張り付ける。

 

「クラゲってこれを食べてたの!?」

「ふぇ!?クラゲって食べれたの!?」

 

 ……なんだ、歪んだ表情が出ないのかよ。

 

二人は『クラゲが食べられる』という驚きの方が勝ったようだ。

 

 

 

 

 

 

 さて、やっと‘‘魚屋の親父たち’’と分かれ、俺達は‘‘最近できた喫茶店’’へと入った。

 俺は車の運転があるため……『カフェ・ロワイヤル』などの‘‘酒入りコーヒー・紅茶’’を泣く泣く断念し、普通の紅茶を頼んで(すす)っていた。

 

「久しぶりに花音と遊びに出たのに、何してくれるのよ……!!」

 

白鷺はテーブルの下で俺の足を蹴ってくるが……‘‘水族館での苦痛な表情’’の見物料と考えれば安いものだ。

 

「アハハ……。でも、色々と知ることができたし、よかったんじゃないかな、千聖ちゃん。」

 

松原さんは苦笑いをしながらも助け船を出してくれた。

 

「…………でも、護衛の仕事はしていたのかしら?私達から離れて……」

「い、いや。ちゃんとやってたぞ!!」

 

俺はあの‘‘魚屋(?)の5人’’と話をしながらも二人を監視し、何かあったらすぐに動けるようにはしていたが……仕事(護衛)をサボっていたと言われてもおかしくはない状況であったのは事実だ。

 

 俺は睨んでくる白鷺から顔をそむけると、視線の先に‘‘メダカが入った水槽’’があった。

 

「……そう言えば、メダカは‘‘佃煮’’が有名だよな」

「「!?」」

 

俺は多少‘‘魚屋の親父たち’’の影響を受けたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 数か月後、とある深夜番組において……

 

「投稿者さんの質問は……こういうことになります。『水族館の魚に魚屋さんが値段をつけると●●●円になる』。……いくらになると思います?」

「水族館によってはマグロが沢山いるところもあれば、全くいないところもありますから……分からん。」

 

‘‘サングラスをかけた男’’は見当がつかなかったようだ。

 

「じゃぁ見ていただきましょうか、こちらが確認のVTRです」

 

そのVTRに‘‘魚屋+少年’’が映っていたそうだ。

 

 

 

 

2:東〇Walker

 

 東京、羽田空港第二ターミナルの外に、男四人の怪しい集団がいた。

 

「皆さん、おはようございます。我々は今、東京は羽田に来ております。ただいま朝の9時を回ったところです。」

 

 その怪しい集団のうちの一人、鈴藤と言う男がカメラに向かって説明をした。

 

「昨日拉致(まが)いの事を村田君にやったせいで、報復が怖いから急に場所を移動するって……なら何であんなことをするんだい?」

「アッハッハッハ!!」

 

そして和泉のボヤキ、藤崎がカメラの外で大声を出して笑う。

 

「まぁ、あの後彼は許してくれましたし、東京武偵高校(彼の学校)にも許可をいただいておりましたから……。まぁ、そんなことはさておき!!今回、和泉君は珍しく企画の内容を知っております。」

「そうなんです!!企画を聞かされてますけど……一考に内容が見えてないんで、やけにドキドキしております!!」

 

和泉は顔を強張らせながらカメラに向かって言った。

 

「まぁ、そこまで勘繰らなくても大丈夫です。今回は楽しもうと、旅を満喫しようと、そういう企画ですから。」

「そうは聞いております。だけどね、君達はそんな事を言って何回僕を騙してきたんだい?」

 

鈴藤が和泉の緊張を(ほぐ)そうと、おどけて言うが……和泉はさらに警戒をした。

 

「とりあえず、最近は色々と御呼ばれされてよく来ますが……実は我々、東京をあまり知りません。」

 

鈴藤は規格の説明を始めた。

 

「そりゃそうだよ、行ったところって言ったら空港かバスターミナルか、あと武偵高校ぐらいだもの」

 

和泉は疑いの目で鈴藤を見ながら相槌を打つ。

 

「ですので東京を満喫したいと、存分に楽しもうじゃないかと、そう言う企画で御座います。……で、いつも和泉君はいつも何処へ行くか知らないでしょ?サイコロの出たところとか、海外もどこへ行くか知らされない……なので、和泉君が()きたい所に行こうと。和泉さんが全部行き先を決めてください!!」

 

鈴藤はそう言って‘‘東〇Walker’’と‘‘A1サイズの東京の地図’’を和泉に見せびらかす様に取り出した。

 和泉はこの番組において『行先を自分で決める』など初めての事であったため、目を白黒させている。

 

「疑ってるようだけど、君が全部決めるんだからね?」

 

ディレクター:藤崎がいまだに疑っている和泉を説得するかのように言った。後ろではカメラを構えた音野が首を縦に振って(うなづ)く。

 

「まだ迷っているなら、この‘‘東〇Walker’’で調べて貰ってもいいですから。」

 

鈴藤はそう言って手に持っていた‘‘東〇Walker’’を和泉に押し付ける。

 

「いや、疑ってはいましたけども、一応考えてきたので……」

「じゃぁ、さっそくその場所をこの地図に(しる)していきましょう!!何かあれば、この‘‘東〇Walker’’がありますから!!」

 

和泉は鈴藤や藤崎の言葉に‘‘嘘は’’無いという事を理解した。

 

「そうだねぇ~。僕が行きたいのは……」

 

そして鈴藤と藤崎に(おだ)てられるまま、和泉は持ち前の話術を駆使しながら五つほど候補を()げ、‘‘A1サイズの東京の地図’’にシールを貼っていった。

 

 

 

 

 

「まぁ、こんな所かな?」

 

和泉はドヤ顔をしながら全ての行き先を言い終えた。

 

「だいたい……行程70キロほどになりますかな?」

「じゃぁ行きましょう。東京を‘‘たっぷり’’満喫しましょう。」

 

ディレクター:藤崎と鈴藤の言葉で、空気が変わった事を和泉は気が付いた。

 

「この雑誌にもある通り、‘‘歩く人(Walker)’’でね。」

 

和泉は感づいた。今、自分の決めた場所を全てWalk(歩いて)行く企画だという事を……

 

「ハハハッ……た、タクシー!!!」

 

和泉の助けを求める声が羽田に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「村田さんスイマセン、送ってもらっちゃって」

「気にしないでいいぞ。……悪かったね、色々と巻き込んじゃって……」

「えぇ、全く。」

 

今日、羽田発・熊本行きの便で西住さんが帰るため、俺は彼女をビュート(ボロ車)に乗せ、羽田空港へ来ていた。

 

「そう言えば西住さん、なんか色々と悩みがあったみたいだけど……大丈夫かい?なんか大会でやらかしたって聞いたけど……」

 

俺はそう言いながらターミナルの前に車を停めた。

 俺はバックミラーで西住さんを確認すると、彼女は爽やかな笑みを浮かべていた。

 

「なんか私……下らない事で、ちっぽけな事で悩んでたんだなぁって実感しました。村田さんとマクレーさんに巻き込まれましたけど、あの時の様に‘‘生か死か’’っていう訳ではなかったですし。」

「…………いえ、ハイ。スイマセン。」

 

俺は謝らずにはいられなかった。

 

「あっ!!村田さんを非難しているつもりは……多少はありますけど、」

「あるのかよ。」

「それはありますよ。……でも、冷静に考えられるようになりました。それに、心配してくれる友達がいるってわかりました。」

 

 ピコン!!

 

西住みほは自分のスマホを見た。スマホの通知には西住まほ・逸見エリカ・赤星小梅、そして東京で友達になった美竹蘭からもメッセージが来ている。

 

「じゃぁ村田さん、送ってくれてありがとうございました。」

「あぁ、気をつけろよ。また東京に来たら歓迎するぜ」

「あ、大丈夫です。村田さんに会ったらまた巻き込まれそうなんで。」

「おい!?」

 

西住さんは笑顔を浮かべながらそう言い放って車から降り、ターミナルへ向かって行った。

 

「……行くか。」

 

俺はその姿を見送り、そして車を発進させた。

 

 

 

 

 帰り道、俺は思わずため息をついた。

 

 ……今回の出費は痛いなぁ。

 

今回の事件で、自分の高機動車(愛車)がお釈迦になったのを筆頭に、日本刀・38式歩兵銃・多数の銃剣にスマホが犠牲となった。

 

 ……銃剣は安物だし、軍の倉庫に38式の予備は大量にある。車もビュート(ボロ車)をタダ同然で借りているからいいが……問題は日本刀だ。

 

 市場で出回っている日本刀のほとんどが安物の(なまく)らだ。俺が欲しい『蛮用に耐えられて、切れ味抜群』な日本刀となると……安くても数百万は下らないだろう。(そもそも、そんな業物(わざもの)は出回る数がほとんどない)

 

 ……最悪、安物を‘‘使い捨て’’で使用するか?

 

再びため息をついた時、道路わきの歩道に良く見知った男四人組を見つけた。

 

 ……そういえば『和泉が決めた場所を‘‘歩いて’’行く企画』って藤崎さんが言ってたっけ。

 

俺がそのことを思い出したと同時に、和泉さんは車道に向かって手を上げ、タクシーを呼び始めた。

 

 ……昨日の事もあるし、少しくらい揶揄(からか)ってもバチは当たらないだろ

 

俺はビュート(ボロ車)を4人組の近く、カメラに映る様に停めた。

 

 

 

 

 

どうでぃ班の前に一台の車が止まった。

 

「おいおいおい!?何タクシー呼んじゃってんだよ!?」

「うるさい!!『東京をすべて歩く』だぁ!?馬鹿じゃないの!?江戸時代じゃないんだ!!」

 

藤崎と和泉は声を荒げて口論を始めた。

 

「……あれ?これ、タクシーじゃないような……」

 

鈴藤は目の前に止まったレトロ……と言うよりは退廃的な車を見て疑問に思った。

 

  ギィイイイイ!!

 

その退廃的な車の窓が開き、よく見知った人物が顔を出した。

 

「「「「村田君!?」」」」

「和泉さん、徒歩での移動頑張ってください。俺は車で帰りますんで。じゃっ!!」

 

村田はドヤ顔で言って窓を閉め、車でその場を去っていった。

 

「……ま、待てこの野郎!!」

 

和泉は顔を真っ赤にしてその車ををかけるがもう遅い。

 

「「「アッハッハッハ!!!」」」

 

 

 

さぁ、どうでぃ班は東京約70キロを徒歩で縦断できるのか!?

 

 

 

 

 

 

3:私の妹がこんなに怖いわけがない

 

家出(?)をした西住みほは東京で散々な体験をした後、飛行機で熊本に戻ることになった。

 

 ……村田さんの前で見栄(みえ)張ったけど、やっぱり気まずいなぁ。

 

 西住みほは‘‘東京でのテロ事件’’に巻き込まれたせいで‘‘人並み以上’’の度胸を備えるようになったが……それでも、散々迷惑と心配をかけた実家に帰るのは気まずかった。

 

 ……また東京に行こうかなぁ。でも、どうせまた何かの事件に巻き込まれそうだし……

 

西住みほはため息をつきながら到着ロビーへ向かうと……

 

「みほ!!みほ!!」

 

自分の名前が呼ばれたと同時に……誰かに抱き着かれたようだ。そのせいで口と鼻がふさがれたため、みほは必死になって抜け出そうとする。

 

「良かった……。よかった……!!無事だったんだな!!」

「……!?」

 

みほは顔だけ何とか抜け出すと……目と鼻を真っ赤にし、涙と鼻水を流す(まほ)がいた。

 西住みほにとって‘‘(まほ)が涙を流す姿’’は数年ぶり……中学・高校では全く見なかった(まほ)醜態(しゅうたい)だった。

 

「いきなり居なくなって……!!見つかったと思ったら遠い所にいて!!しかもそこで事件が起こきて!!どれだけ心配したと思っているんだ、みほ!!」

 

(まほ)のその言葉を聞き、みほは抵抗する気力が失せた。何故だろう……(まほ)が苦しいぐらいに力いっぱい抱きしめ、涙と鼻水を(みほ)の服に垂らす事に嫌悪感を抱くことができなかった。むしろ、それが心地よい。

 

「ゴメンね、お姉ちゃん……」

「すまない……本当にすまない……」

 

(まほ)懺悔(ざんげ)をするかのように……みほに謝り続けていた。

 

 

 

 

 まほはひとしきり泣いた後、やっとみほを解放した。まほはいつも通りの凛とした顔つきに戻っていたが、目と鼻は真っ赤に腫れている。

 

「全く……いいご身分ね、平日に東京観光なんて」

「そう言うエリカさんが一番心配してましたよね」

「な、なに言ってるのよ!!」

 

まほ以外にも逸見エリカや赤星小梅も来ていたらしい。

 

「心配させてごめんね……ん?」

 

みほは二人に違和感を覚えた。

 ‘‘家出(?)する前の西住みほ’’では全く気付かなかったであろう、とても小さな違和感……。

 東京で幾度も‘‘生きるか死ぬか’’という環境に置かれために身につけた観察力と第六感がエリカと小梅に反応した。

 

 ……二人とも、体の一部をかばっている?

 

みほはズンズンとエリカの前まで歩くと、彼女のジャケットとシャツの(すそ)を掴んで一気に持ち上げた。

 

「……ッ!?ちょ!?あんた何すんの!?」

 

エリカの腹部が露出し、彼女のヘソと白い肌……そして、痛々しい青や赤の(あざ)が多数確認できた。

 

「……!?」

 

その様子を見ていた隊長(まほ)はエリカのその姿を見て息をのんだ。(あざ)を見て、何があったのか理解したのだろう。

 一方、みほは握っていた(すそ)を離すと、エリカは顔を真っ赤にしながら慌てて衣服の乱れを正す。

 

「くぁwせdrftgyふじこ!!!」

 

エリカがギャンギャンと(わめ)いているが……みほの耳には全く届かない。

 

 ……初心者なら、戦車の急停止・急発進で体をぶつけて怪我をする事はある。だけど、エリカさんがそんな事をやるはずがない。なら……

 

みほは膨れ上がる感情を押し殺し、何とか平静を保つ。そして‘‘回レ右’’の要領で小梅の方へ向いた。

 

「ヒィッ!?」

 

素人目でもわかるほど‘‘禍々しいオーラ’’を放つ、無表情のみほがグッグッと近づいてくるため、小梅は思わず悲鳴をあげた。

 みほは(おび)える小梅の手を取ると、彼女の腕をまくった。

 

「……」

「……!?」

 

みほは無表情の顔がさらに固まった。まほは顔が真っ青になる。何故なら……小梅の腕にも、痛々しい(あざ)が多数刻まれていたからだ。

 

 ……この(あざ)も普通じゃない。やっぱり、二人とも……

 

‘‘いじめ’’……この三文字がみほの脳裏をよぎった。つい最近まで、みほも引退した3年や2年生の一部にいじめられていたが……エリカや小梅まで受けているのは知らなかった。

 

 ……優勝を逃した原因の私はともかく、この二人まで被害が及ぶなんて……

 

みほは怒りよりも、『二人にまで被害が及び、その事を気づかなかった』自分の情けなさで一杯だった。

 

 ……へぇ~。私ならまだしも、二人にまで手ヲ出シタンダァ……。

 

今までのみほなら泣き寝入りをしていただろう。しかし、東京で散々‘‘死にかけた’’せいで彼女の度胸は強化され、危機感や恐怖心は限りなく鈍化されている。

 今の西住みほにとって‘‘銃や爆弾を持ったテロリスト’’や‘‘変態刑事’’に比べれば……上級生など何の脅威も感じない。

 

「……ククク、フフフフフ、アハハハハ!!」

「「「……ッ!?」」」

 

小梅の手を持ったまま急に笑い始めたみほに、迎えに来た三人は恐怖を覚えた。

 

「……み、みほ?」

 

(エリカ・小梅に目で(せか)かされた)まほは意を決し、みほに声をかけた。するとみほはグルンッと首を回し、ハイライトのない濁った瞳でまほを見る。

 

「お姉ちゃん?」

「……な、なんだ?」

「最近、散々『いじめはダメだ』って叫ばれてるけど……それでも‘‘人をいじめる’’ってことは、それだけの覚悟を持ってやってるんだよね?」

「……。」

 

まほは……みほの変わりように驚き、動くことができなかった。

 

 

 

 

 年明け早々、熊本のとある高校での‘‘いじめの動画’’がSNSにアップされ、大問題となった。

 その事件と連動しているかどうか不明だが……とある‘‘戦車道の強豪校’’に所属する生徒のうち、‘‘卒業間近の3年生の大部分’’・‘‘2年生の一部’’・‘‘とある1年の生徒’’が強制的(自主的)に転校することになったそうだ。

 

 

 

 

 

 東京でテロがあった翌年の春、とある少女は荷物を預けた後、熊本空港のロビーで連絡を取っていた。

 

「あ、蘭ちゃん?……うん、前にも言ったけど、そっちの方の学校に行くことになったんだ。まぁ、そう言っても茨城だけど。……今日には東京に着くから。……うん、演奏、楽しみにしてるね。じゃぁ…‥」

 

とある少女はそう告げた後、スマホの通話を切った。

 

「村田さんとマクレーさんは……また何かに巻き込まれそうだしいいや。お酒は送ってあるし。」

 

 そろそろ搭乗時間である。その少女はボーディングパスを握りしめ、羽田行きの飛行機に乗り込んだ。

 

 

 

 

4:一方そのころの第二中隊

 

赚钱!! 所以不要杀人!!(金は出す!!だから命だけは!!)

 

  タァン!!……バタッ

 

上海藍幇(ランパン)の本部にて、部屋に残っていた最後の一人が倒れた。

 

「クリア」「クリア」

 

神城中佐と鬼塚少佐の声が静かに響いた。

 

「我が国の宝物(ほうもつ)を盗むどころか、国民の誘拐まで(くわだ)てておいて命乞いか。例え天が許してもこの希信が許さん……!!!」

 

辻大佐は汚物を見るような目でギロリと見た後、硝煙けぶる拳銃をしまった。

 

 ……ヤバい、マジでヤバいですよ!?

 

辻大佐が率いるHS部隊第二中隊、その第一小隊に所属する堀上等兵(メガネ)(昇進済み)は冷汗をかきながらパソコンを叩き、上海藍幇(ランパン)の資金を片っ端から奪っている最中だった。

 

 

 

 HS部隊第二中隊は‘‘東京爆弾テロ事件’’及び‘‘刀剣窃盗未遂及び未成年誘拐未成年事件’’の報復として、上海藍幇(ランパン)の壊滅に乗り出していた。

 その結果、上海藍幇(ランパン)は殲滅。その日、本部にいた人間は全て動かぬ肉塊となっていた。

 

 

 

 ……確かに兵部省からは『上海藍幇(ランパン)の壊滅(再編成が不可能になるほどの被害。およそ5割の損耗)』という命令が来ていますが、『殲滅(皆殺し)』なんて聞いてないですよ!?

 

堀上等兵(メガネ)は『周囲の警戒』と言ってこの場を離れた狙撃手:岩下兵長を恨んだ。

 

 ……クソッ!!ストッパー役の村田大尉や田中曹長がいないから、上官達の暴走を止められない!!

 

極東戦役(FEW)という‘‘戦争’’であり、しかも敵が最初に‘‘ルール破り’’をしてきたとはいえ ‘‘殲滅(皆殺し)’’を行えば……戦後、面倒なことになるのは明らかだ。

 

 

 

 

「あ、あの……」

 

堀上等兵(メガネ)は意を決し、暴走する上官達に進言することにした。

 

「……民間人がいた可能性もありますし、殲滅(皆殺し)は……」

 

上官三人の視線が堀上等兵(メガネ)に集中する。

 

「何言ってんだメガネ?‘‘やられたらやり返す’’。当たり前のことだろうが」

 

鬼塚少佐は常識を問われたかのような、キョトンとした顔で言った。

 

「民間人とはいっても、ここにいるのは藍幇(ランパン)の構成員や関係者です。こいつらがやった‘‘無差別テロ’’ではないですし……そもそも藍幇(ランパン)犯罪組織(マフィア)です。ジュネーブ条約に値しません。」

 

神城中佐は鋭い目をしながらニコニコと笑顔を浮かべ、(なだ)めるように言った。

 

「日本国民に害を与え、我が国の宝を奪い、それに加え婦女子を誘拐し‘‘慰め物’’にしようとしていた奴らだ!!兵部省の命令なんぞ生ぬるい!!中国の文化と歴史を尊重し、‘‘三族皆殺し’’・‘‘九族皆殺し’’にすべきなのだ!!」

 

辻大佐は顔を真っ赤にして充血した目をひん剥き、メガネを湯気で曇らせ、唾を飛ばしながら……まるで狂信者が演説をする様に、声高に言い放った。

 堀上等兵(メガネ)はそんな‘‘ヤバい上官達’’の雰囲気に負け、現実から逃げるようにパソコンをさらに強く・早く叩き始めた。

 

「堀上等兵、責任は我々が取るんですから……君は己の職務に(つと)めてください。あ、‘‘電子系の証拠の隠滅’’も頼みますよ?」

 

神城中佐は人を殺せそうな鋭い視線をしながら、声色は優し気に言った。

 

 ……村田大尉は無理でも、せめて田中曹長!!早く戻ってきてください!!

 

 

 

 

 その日、上海藍幇(ランパン)は人的に、資金的に、物理的に消滅した。

 

 

 

 

 

5:年上の戦妹(アミカ)

 

 護衛任務が終わり、俺はやっと普段通りの生活を送り始めたのだが、俺は初日でグロッキーになった。

 

 ……やっぱり通学ラッシュはキツイなぁ

 

普段は車に全員を乗せての通学だった。しかし、高機動車(俺の愛車)が廃車になり、ビュート(ボロ車)では全員を乗せることができないため、渋々‘‘バス通学’’になった。

 

 ……こんなのを毎日とか流石にキツイ。だからと言ってビュート(ボロ車)だと誰かを置いて行かなきゃならないし……

 

俺は自分の机に倒れ込んだ。

 

「おいイブキ、そんなに顔を青くしてどうしたんだ?」

 

そんな俺が気になったのだろう。‘‘あのテロ事件’’の時に『海パン刑事(デカ)のイチモツをヒステリアモードで‘‘じっくり’’見てしまった』せいか、少しやつれたキンジが心配してきた。

 

「……いやな、前の車が廃車になったからバス通学になったんだが……通学ラッシュの‘‘洗礼’’を受けて……」

「日本のラッシュは酷いらしいね。大丈夫かい?」

 

俺は机の上でダラ~と体の力を抜きながら言った。するとワトソン(エッレ)(男装)が来て、俺の背を(さす)った。

 

「あれ?イブキって自転車を持ってたよな。」

 

 ……あぁ、そう言えばそんなのもあったな。

 

「自転車は数ヶ月前にニトに貸したら‘‘近代アート’’になって戻ってきたよ。強襲科(アサルト)棟の前に置いといたらこうなってたんだと。」

 

 

 

 修学旅行Ⅰ(キャラバン・ワン)の帰り・新幹線で曹操(ココ)姉妹と戦った数日後、‘‘考古学の教授による冒険譚’’の映画を見た影響か……ニトが珍しく『射撃訓練をしたい』と言い出し、自転車に乗って強襲科(アサルト)棟へ向かった。そして数時間後、強襲科(アサルト)棟の前に止めていた自転車は‘‘見事なオブジェ’’に変化していたそうだ。

 なお、後日俺は教務課(マスターズ)の許可を得た後、犯人達(一年達)超長距離遠泳(島流しの刑)に処したのだが……閑話休題

 

 

 

「どうせ新しく買いなおしてもすぐに壊れる(壊される)と思うと……なぁ?」

「まぁな……」

 

キンジは俺の前の席に座り、背もたれを抱き着くように座った。

 

「でも必要なら買うしかないんじゃないかい?」

「だよなぁ……」

 

ワトソンが現実を突きつけてきた。

 

 

 

 

 

 そんな風に話していると……

 

「あれ?村田君、遠山君、そんなに疲れたような顔をしてどうしたんだい?」

 

不知火はそう言いながら自分の席にカバンを置くと、俺達の席に近づいてきた。

 

 ……そう言えば不知火もバス通学、しかも俺よりも遅いバスなのに……

 

不知火の制服はアイロンをたった今かけたかの様にパリッとしていた。その制服に清涼感漂うイケメン顔……こいつがモテないはずがない。

 俺は思わずため息をついた。

 

「あぁ……久しぶりのバス通学でやられてな……」←イブキ

「不知火も任務で離れてたから……バスは久しぶりじゃないか?」←キンジ

「その代わり山手線に乗ってたからね、ここの比じゃなかったよ……。そう言えば二人は……」←不知火

「へぇ~村田、君はアイドルの護衛を……へぇ~!!」←ワトソン

 

俺達三人は会話が弾んでいった。

 

 

 

 

 談笑を続けているとホームルーム数分前になっていた。その時、廊下からドタドタドタっと大きな足音が聞こえてきた。

 

  バーン!!

 

教室の扉が勢いよく開き、武藤が顔を真っ赤にして教室に入ってきた。

 

「おい!!お前ら聞いたか!?一年に転校生が来るらしいぞ!?しかもボン・キュッ・ボンの‘‘パツキン美女’’らしい!!」

 

武藤は大声に出し、息を荒げながら俺達が集う席へ直行した。

 

「なんだぁ~、武藤は‘‘パツキン美女’’より‘‘黒髪美女’’の方が好みじゃないのか?」

 

俺は机に上半身を投げながら、ボケーッとしながら言った。

 

「そんなのどうだっていいだろ!!それよりもこの時期に‘‘パツキン美女’’だぜ!?気にならないか!?」

「だけどなぁ……‘‘この時期’’に転校だぜ?絶対何かしらの問題を持ってるに決まってる」

 

俺はウダぁ~と起き上がりながら言った。

 

 

 

 武偵高校でも、転校生は基本的に4月~5月上旬・9月・1月にやってくることが多い。

 要は学期や長期休暇の節目に来るのだが……その時期を外して転校してくる生徒は何かしらの面倒事を抱えていることが多いのだ。例としては、ジャンヌ(6月上旬)・ワトソン(10月上旬)など……

 

 

 

「この時期に転校か……」

「僕の方も情報が来てない……」

 

キンジとワトソンは顔をしかめながら言った。おそらく‘‘極東戦役(FEW)の関係者’’かどうか疑っているのだろう。

 

「でも、情報はあっても困ることはないんじゃないかな。武藤君、どういう子が来るのか教えてよ。」

 

不知火は苦笑しながら……しかし、鋭い目つきで武藤に尋ねる。

 

「何でもドイツからの転校生だそうで、飛行機がメインの車輛科(ロジ)らしい。それから……」

 

武藤は俺達だけに聞こえるように小声で、しかも早口で教えてくる。

 

 ……あれ?この人物、なんか知ってるような気が……

 

俺はその武藤の情報を聞けば聞くほど冷汗が噴き出てきた。気分が悪いのは……ラッシュの影響だけではないと思う。

 

 

 

  ガラガラガラ……

 

「ホームルームを始めるので席に付いてくださーい」

「……じゃぁ、ホームルーム終わってからな!!」

 

高天原先生が教室に入ってきたため、武藤は話すのを止めて自分の席に戻っていった。同じようにキンジや不知火・ワトソンも自分の席へ戻っていく。

 

 ……ま、まぁ、流石にハンナ・ウルリーケ・ルーデル(あの戦闘狂)ではないはずだ。そもそもハンナは俺よりも年上のはず……武偵高の1年に来るはずないか。

 

俺は頭を振り、‘‘転校生’’のことを忘れようとした。

 

 

 

 

「皆さん、‘‘修学旅行・Ⅱ(キャラバン・ツー)’’が近いので準備を忘れないでくださいね。毎年、飛行機のチケットを忘れる生徒が多いので注意してください。」

 

高天原先生は注意事項が書かれた紙を読み上げていた。。

 

 ……そうだ、チケットやホテルの手配は学校側では一切やってくれないんだった。チーム全員分のをリサに頼んでおくか?

 

俺はそんなことを考えながら頬杖をついて窓の外を見た。

 

  ブロロロr……

 

外ではプロペラ機が低空で大きく旋回していた。

 

 ……あ、あれ?あの機体って……

 

俺は暖房が多少効いた教室にいるのに寒気がする。

 

  ブロロロ……

 

プロペラ機は旋回を終えた後、ゆっくりと近づいてくる。そのおかげで……その特徴的な固定脚、液冷エンジン特有の鋭いカウル(エンジンカバー)、逆ガル翼などが良く観察できる。

 それらの特徴から……あの飛行機はJu87(スツーカ)としか考えられない。

 

「お、おい!?あれはなんだ!?」

「せ、戦闘機!?」

「Ju87 G-2……いやG-1 だな。‘‘操縦性が悪い’’って有名なのによく乗りこなせてる」

 

他の生徒達も気が付いたようで、高天原先生の注意を無視して窓にへばりつく。

 

 

 

  ブロロロ……!!

 

翼に鉄十字を描いたJu87(スツーカ)は校舎前の道路に見事な着陸を決めた。

 しばらくするとJu87(スツーカ)を操っていたパイロットが風防から這い出て地面に降り立ち、飛行帽を脱いだ。癖のない長い金髪(こぼ)れ落ちる。

 そして鼻の上には横一文字の傷痕があるのだが……その傷すらも芸術に思える、凛々しく美しい顔が(あらわ)になった。

 

 間違いない……アイツはハンナ・ウルリーケ・ルーデル。『高校生活一学期編 大量破壊兵器は使っちゃいけない・・・』で登場した魔女連隊(レギメント・ヘクセ)魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)所属の、‘‘アカ’’を叩くのが趣味の『戦闘狂の女性パイロット』だ。

 

 ……いや、なんでこいつが!?いや待て……こいつが転校生と決まったわけではない

 

俺はハンナと目があったような気がした。するとハンナはニヤリと笑った後、俺達のいる校舎へ走り出した。

 

「皆さん?席に付いてください」

「「「「「「……!?」」」」」」

 

散々注意しても生徒達が席に戻らないせいか……高天原先生は笑顔のまま、ねっとりとした殺気を周囲に放ち始めた。

 席を立っていた生徒達は慌てて席に戻る。その事を確認した高天原先生は殺気を放つのを止め、笑顔で注意事項を伝える。

 

 ……何かすごく嫌な予感がする。

 

しかし、俺はハンナの事で頭がいっぱいだった。

 

 

 

 

「ではホームルームは終わりです。」

 

 ドタドタドタ……!!!

 

高天原先生はそう言って教室を出ると……入れ替わる様にハンナが入ってきた。

 ハンナは教壇に上がって教卓に手をつき、そして猛獣の様な瞳をギラギラと光らせて教室を見回す。

 

「君は……魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)のハンナ・ウルリーケ・ルーデル!!」

 

ワトソンはいきなり現れたハンナを警戒し、いつでも銃を抜ける体勢を作った。

 

「お前はリバティー・メイソンの小僧か。……上層部は散々お前に煮え湯を飲まされたそうだな。」

 

するとハンナは得物を見つけたとばかりに目を輝かせ、猛獣が獲物に近づくようにゆっくりと、確実にワトソンへ近づいていく。

 

 ……あ、上手く行けば逃げられるか?

 

俺は‘‘影の薄くなる技’’を使い、教室を出ようとするのだが……

 

「私はワトソン(お前)なんぞに興味はない、退け……イブキ!!どこへ行こうというのだ!?」

 

 ハンナはいきなり進行方向を変え、チーターの様に急加速して俺へタックルを決めて押し倒した。

 

「な、なんで俺が分かtt……」

(まばた)きすらせずにイブキを見ていたからな。存在感を薄くしようが無駄だ!!」

 

ハンナはとても嬉しそうな獰猛(どうもう)な笑顔を浮かべるとスクっと立ち上がり、俺の襟首を掴んだ。猛獣が狩った獲物を引きずって移動するが如く、ハンナはそのまま歩き始めた。

 

「ハハハッ!!久しぶりに会えてうれしいぞ!?任務はすでに受領してある!!さぁ、出撃だ!!」

「いや、今から授業なんですけど!?ていうかなんでここにいるんだよ!?年齢的に大学生だろ!!」

 

俺は必死に抵抗するが……どこからそんな馬鹿力が出ているのだろうか、全く抜け出せそうにない。

 その様子を見ていた生徒たちは‘‘触らぬ神に祟りなし’’と俺とハンナを無視し、授業の準備を始めた。

 

ドイツ(向こう)の高校には通っていたのだが魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)での活動が楽しくてな!!出席日数が足りずに中退してしまった!!だがそのおかげでイブキと同じ学校へ通うことができる。学年は違うが、なんと幸せな事か……。あぁ、学力の方は問題ない。 魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)で学んでいたからな!!」

「お。お前、魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)は……魔女連隊(レギメント・ヘクセ)はどうしたんだよ!!」

 

ハンナは俺を引きずったまま、スキップでもしそうなくらい速足で校舎を出た。

 

魔女連隊空軍(ルフトヴァッフェ)は辞めたぞ?なぜか追手が来るせいで日本へ行くのが遅れたが……まぁいい、行くぞ!!」

「へぶっ!?」

 

ハンナはJu87(スツーカ)の前までくると俺を後部座席に投げ込み、そして当の本人は操縦席に入り込んだ。

 俺が慌てて体勢を立て直し、脱出しようとしたときには……Ju87(スツーカ)はすでに地から離れていた。

 

「イブキ?逃げたらどうなるか……分かるな?」

 

ハンナは上半身をひねり、操縦席から俺を嬉しそうに見ていた。彼女の手には拳銃(ルガー)が握られており、銃口を俺に向けている。

 

「……はい。」

 

俺は抵抗する気が失せた。

 

「ハハハッ!!さぁ、任務はたんまりある!!戦闘(デート)を楽しもう!!」

 

 

 

 

 俺はハンナと数日間一緒に任務をする羽目になったのだが……あまりの激務のせいで記憶に無い。その記憶がない時にハンナは戦妹(アミカ)の申請をしていたそうで……いつの間にか俺の戦妹(アミカ)はハンナとなった。

 

 

 

 

 イブキが拘束された翌日の事……

 

「おいお前!!イブキにぃを独占してんだよ!!」

「お前がイブキの義妹か。私は将来の義姉(あね)だ。気軽に‘‘ハンナ義姉ちゃん(おねぇちゃん)’’と呼んでもいいぞ?」

「は?何言ってんだよお前……死にてぇのか?」

 

かなめは義兄(イブキ)を取り返すべく実力行使に出たのだが……子猫(かなめ)猛獣(ハンナ)に勝てるはずがない。

 ハンナは小動物と(たわむ)れるかの様にかなめの相手した後、猫を摘まみ上げるように義妹(仮)(かなめ)の襟首を掴んで引きずり始めた。

 

「ハハハッ!!義理とは言え姉妹だ!!仲良くしようじゃないか!!とりあえず互いを知るために……出撃だな!!さぁ、行くぞ!!」

「ふ、ふざけるな!!イブキにぃを返せ!!離せぇえええ!!」

 

かなめは手足をジタバタさせて抵抗するのだが……ハンナはその行動を『もっと構って欲しい』と言う意味でとらえていた。

 

 

 ハンナは必死に抵抗する(ワクワクしている)かなめと一緒にJu87(スツーカ)の前まで来ると、後部座席に座っている‘‘(なか)ば廃人化’’したイブキを引きずり下ろした。そして、ハンナはその空いた後部座席にかなめを投げ入れ、操縦席に飛び乗り、Ju87(スツーカ)を離陸させた。

 

「いやぁぁああああ!!助けて、イブキにぃ!!」 

「ハハハッ!!とりあえず東京にいるテロ組織や準テロ組織の壊滅に行くぞ!!」

 

 

 

その後、卒業に必要な単位をたった数日で取得したハンナと廃人と化した義兄妹(イブキとかなめ)がいたとか……

 

 

 

 




 無駄知識の泉……トリ〇ア、好きだったんですけどね。また再放送しないかな?

 クラゲって食べたことないんですよね。どんな味なんでしょうか。(バイカルアザラシも食べたことがありません)


  Next Ibuki's HINT!! 「Tea Time」 


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極東戦役:香港編
酒は飲んでも飲まれるな……


 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 遅れて申し訳ございませんでした。えぇ、年末はバイト漬け、最近は試験対策がありまして……。(年始は毎日酔いすぎて逆に書けなかった事は秘密だ)





「イブキさん、またテロと戦ったと聞きましたが……無事でよかったですわ。」

「全くだ、何度死にかけた事か……あぁ、紅茶が美味い。」

 

俺は聖グロリア―ナ女学院の学園艦にあるクラブハウスで紅茶を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 数日前、俺はハンナに拉致され、休み無しで出撃させられた。

 そして今日の朝、やっと俺はハンナから脱走する(解放される)と今度は蘭豹に拉致され、とある役人に会うことになった。

 その役人は俺に小言を言いながら感状を渡した後、(うやうや)しく‘‘一振(ひとふり)の刀’’を机の上に出した。そして少しだけその刀を抜き、刀身を見えるようにおいた。俺はその刀を見て思わず息をのんだ。

 金茶色の(さや)()はおそらく最近作られた物であろう。しかし、『質実剛健』という文字を体現しているかの様に……あくまでも実用性を重視しつつも、うっすらと見事な装飾がされている。

 それよりもすごいのはこの刀身だ。前章でサイモンが使用した『三日月宗近』に引けを取らない、重々しいオーラを放っている。

 その役人曰く、

 

「あるお方が‘‘今回の事件を解決した事’’を感謝している。謝礼と言ってはなんだが、この刀を貸し出す。お前が死んだら返せよ?(意訳)」

 

俺は面倒事に巻き込まれそう(当然の事をしただけ)なので、刀の方は辞退させてもらおうとしたのだが……その役人はニコニコ笑いながら‘‘兵部省からの命令書(辞退するなよ?)’’を突きつけてきた。そのため俺は渋々(恐縮しながら)その刀をいただく事となった。

 

 俺はその役人が帰るのを見送った(校門に塩をまいた)後、聖グロの田尻凛(ダージリン)から‘‘お茶会の誘い’’の電話を貰った。そこで俺は交友を深め(現実から逃げ)ようと ‘‘横浜港に入港中の聖グロリア―ナ女学院学園艦’’へ飛び、今があるという訳だ。

 

 

 

 なお、この部屋にいるのは俺を含め4人。『閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5』で関係ができたダージリン・オレンジペコ・ローズヒップだ。

 ついでに、俺をヘリで連れてきてくれた武藤は……校庭で戦車道の操縦手達の指導をしている(鼻の下が伸びているのはご愛敬(あいきょう))。

 

 

 

「良かったらお代わりもありますよ。」

「あ。じゃぁ貰おうかな。……やっぱり茶葉が違うからなぁ」

 

俺は紅茶を飲み干すと、橙辺夕子(オレンジペコ)は俺のカップに新たな紅茶を注いだ。

 武偵高の寮でもリサの入れた紅茶を時々飲むが、ここまで上質な茶葉を使っていないため……軍配は聖グロに上がる。例えるなら、リサの紅茶は『そこらの材料でうまい料理を作る大衆食堂』、聖グロの紅茶は『材料からこだわる超高級レストラン』だろうか。

 

「あ!!次は私が!!わたくしが注ぐわ!!……注ぎますわ!!」

「ろ、ローズヒップさん?お茶の入れた事はまだ……」

「アッサム様に説明は受けましたので大丈夫よ!!……大丈夫ですわ!!」

 

矢場蘭(ローズヒップ)は元気いっぱいな小学生の様に勢いよく手を上げて主張し、オレンジペコは困ったような顔をした。

 

「こんな格言を知ってる?『始めさえすれば、もう8割は成功したのと同じだ』」

「アメリカの映画監督、ウディ・アレンですね」

 

すると、ダージリンはティーカップを持ちながらすまし顔でそう言った。

 

「何でも‘‘最初の一歩’’が大切なの。イブキさん、いいかしら。」

 

ダージリンは笑顔で俺に尋ねてきた。ローズヒップは不安そうに俺を見てくる。

 

 ……まぁ紅茶をクソマズく()れたり、‘‘木曜どうでぃ’’の和泉の料理の様な毒物にはならないだろう

 

「あぁ、これを飲み干したらぜひ()れてもらおうか」

 

俺はそう言ってカップを持ち上げると、ローズヒップはバラが咲いた様な大きな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

「そう言えばイブキさん。本当は数日ほど早く招待する予定だったの。でも港が混乱していて……なんでも、東京港の航路近くに貨物船が沈没したらしいわ。」

「へ、へぇ~……そ、そうなんだ。」

 

ダージリンは申し訳なさそうに言い、俺はその事実を知って動揺した。

 

 ……その沈んだ船って、たぶん俺が‘‘空き地島’’に乗り上げさせた船の事だよな。まぁ、いくら航路から外しても狭い東京湾じゃ船の往来の邪魔になる。なるほど、役人達が俺のことを恨めしそうに見る理由が分かった。

 

「い、いや。もう少し早かったら参加できなかったから……沈んだ船とその操舵手に感謝しないとな。」

「そう、それならよかったわ。」

 

俺は誤魔化すようにケーキスタンドのサンドイッチを取り、それを一口で平らげた。そして品は無いが、紅茶を一気に胃の中に流し込む。

 

 ……あぁ、紅茶が美味い。気分も落ち着く。今度いい茶葉を買ってリサに()れてもらおうかな。

 

俺は飲み干したカップをソーサーに置くと、ローズヒップは俺のカップとソーサーを奪い取った。そして嬉々として紅茶を入れる準備を始める。

 

「ローズヒップ?イブキさんはお酒を入れた紅茶がお好きだそうよ。」

「マジですの!?ただいま準備いたしますわ!!」

 

ローズヒップは蹴破る様にクラブハウスのドアを開け、バタバタバタっと廊下を走っていった。

 

 

 

 

 ダージリンはそれを確認すると、オレンジペコに目で合図をした。するとオレンジペコは頷き、部屋の片隅に置いてあったカートを押してきた。

 

「ローズヒップのを待っている間、これでもどうかしら?」

 

そのカートには見事な切子細工が(ほどこ)された(ビン)とグラスがそれぞれ5~6個ほど置いてある。そして、その(ビン)には琥珀色や無色透明の液体が入っていた。

 

「聖グロ特製のウィスキーにジン、ラムです。こちらがノンアルコール、こちらが通常の物です。」

「へぇ~……は!?」

 

オレンジペコの説明を聞いていた俺は驚いた。

 

 ……ノンアルコールはともかく(プラウダのノンアルコールウォッカ等があるため)、普通の‘‘アルコール入り’’って……二人とも未成年、どうやって手に入れたんだ!?

 

俺はダージリンの方へ振り向くと、‘‘悪戯(イタズラ)が成功して喜ぶ少女’’様にクスクスと笑う彼女がいた。

 

「紅茶にブランデーやウィスキーを入れるのを知っていて?聖グロ(ここ)では比較的容易に手に入りますの。まぁ、紅茶に入れる時はアルコールを飛ばすのだけれど……。驚いた顔が見れてよかったわ。」

「本当は最後に出すつもりだったんですけどね。」

 

ダージリンの説明に、オレンジペコが補足を加えた。

 

 ……ん?じゃぁ何で出すのを速めたんだ?……あぁ

 

 

 

 おそらくだが……『俺を酔わしてローズヒップの入れたお茶の味を誤魔化そう』という魂胆だろう。

 ‘‘ローズヒップ初めての紅茶’’、しかもあの性格となれば……さっきまでの極上の紅茶に比べたら雲泥の差の物が出来上がるに違いない。なのでその味を誤魔化すため……ついでに‘‘その粗相’’を()に流せと……

 

 

 

 などと下らない事を考えた後、俺は「それじゃ遠慮なく」と琥珀色のビンを掴んでグラスに注いだ。そしてグラスを持ち上げて臭いをかぐと……スコッチの様な芳醇(ほうじゅん)なピート香(煙の様な香り)を感じる。どうやら、この瓶はウィスキーのようだ。

 香りを堪能した後、このウィスキーを少量口に入れると……口の中でほのかな甘みがじんわりと広がってくる。

 

 ……これ、絶対まぁまぁな値段する奴だぞ!?

 

「ダージリン、これtt……」

「お気に召したようでよかったですわ」

 

ダージリンが食い気味に言い、俺の言葉を(ふさ)いだ。

 

 ……値段や入手方法は聞くなってことか?

 

「……でも、これだけの物を用意してくれてありがとう。」

「良かったらもう一本あるの。持って行ってくださいな」

 

  バタバタバタ……バーン!!!

 

「お待たせいたしましたですわ!!!」

 

ダージリンが笑顔で答えたと同時に、酒瓶を抱えたローズヒップが勢いよく部屋に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 さて、俺達はローズヒップが紅茶を入れる姿を観察しているのだが……どうも怖い。

 普通、最初にカップとポットに湯を注ぎ、それらを温めるのだが……ローズヒップはグラグラと湯が沸いた大鍋にカップとポット、それにソーサーまでも乱暴にぶち込んだ。

 

「な、何やってるんですかローズヒップさん!?」

「この方がすぐに温められて、いいと思ったのございますですが……」

「……取っ手まで熱くなって持てなくなりますよ」

「なるほど……流石オレンジペコさん」

 

そんなローズヒップとオレンジペコのコントの様な掛け合いをダージリンは笑いながら見ているのだが……俺は心配でたまらなかった。

 

 ……だ、大丈夫。たかが紅茶だ。死んだり病気になったりしないはず……

 

 

 

 

 紆余曲折がありながらも何とかカップやポットを温めた後、ローズヒップは俺のカップに酒(色から考えてブランデーかラム)を注ぎ始めた。その時だった。

 

  ドタドタドタ!!バーン!!

 

「ダージリン!!‘‘紅茶の園’’に殿方を入れたというのは本当ですか!!」

「あら、アッサム」

「……!?(ビクッ!!)」

 

長い金髪の少女が扉を蹴破るかのようにして部屋に入ってきた。そしてダージリンを見つけると一気に近寄り、詰問しはじめた。

 オレンジペコと俺はドン引きしながらそれを見ていると……

 

「あわわわわ……」

 

ローズヒップの慌てた声が聞こえた。俺はダージリンと金髪少女から目を離し、ローズヒップの方へ振り向いた。そこには、酒をカップに目一杯……どころか完全に(あふ)れるほど注ぎ、慌てるローズヒップがいた。

 ローズヒップは二三回深呼吸して何とか落ち着くと、新しいカップを4つ取り出した。そしてそれらのカップにさっき注いだ酒を分配していく。

 

「もったいないですわ」

 

 ……ちょっと待て!!ソーサーに(こぼ)れた分まで入れるなって!!もったいないって気持ちはわかるけど!!

 

そしてポットに大量の茶葉とお湯ぶち込んでシェイクし(軽く振り)、真っ黒になった紅茶をカップに注ぎ始めた。

 

 ……と、とりあえず死人病人が出る紅茶じゃないな。

 

 

 

 

「そもそも誰を呼んだのですか!!」

「村田イブキさんよ。アッサムも知っているでしょう。そこにいるわ」

「……ん?」

 

俺は名前を呼ばれたのかと思い、ダージリンたちの方を振り向くと……その‘‘金髪ロングの少女’’と目が合った。

 

「「……」」

 

すると‘‘金髪ロング少女’’は目が合ったまま固まってしまった。固まっている間、彼女の顔が真っ赤になっていく。

 

「あ……どうも」

「……ご、ごきげんよう。アッサムと申します。村田さんの事はかねがね……」

 

俺はこの状態に耐え切れず、思わず声をかけた。するとその‘‘金髪ロング少女’’は絞り出したような声で挨拶をし、顔を赤から青に変わる。

 アッサム(?)と言う少女は再びダージリンに詰め寄った。

 

「……何故私に一言も無しに呼んだのですか!!とんだ赤っ恥をかいたじゃないですか!!」

「黒森峰への情報収集から帰ったばかりでしょう?疲れているかと思ってあえて言わなかったのだけれど……」

「だからと言って……!!!」

 

再びアッサム(?)が詰問を始め、ダージリンが受け流す。そんな時だった。

 

「できましたですわ!!ダージリン様、アッサム様、オレンジペコさんもお飲みになってくださいですわ!!」

 

紅茶を入れたカップを乗せたお盆をローズヒップはテーブルへ叩きつけるように置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……で、一旦全員席に付いてその紅茶を飲んだわけだけど……

 

 ローズヒップの入れた紅茶の味は特段悪くはなく、むしろ‘‘大量の酒に濃い紅茶’’がマッチして意外と美味かった。美味かったのだが……

 

「~~~♪」

「あ゛の゛時、心配じだん゛でずよ゛ぉ~~!!」

「グォ~……グァ~……(イビキ)」

「ウヒャヒャヒャヒャ!!」

 

ここの淑女たちにはアルコールはまだ早かったようで……ローズヒップの紅茶を飲んで十数分後、‘‘優雅なお茶会’’から‘‘乱痴気騒ぎの酒宴’’に変わってしまった。

 ダージリンは俺の膝の上に座って鼻歌を歌いながら貧乏ゆすりをし、俺の分のローズヒップ特製紅茶を(すす)っている(自分のはすでに飲み干した)。

 オレンジペコは俺の背中に抱き着き、顔から色々な液を流して俺の服を汚していく。

 アッサムさんはテーブルに足を置き、大笑いしながら瓶に入った酒をラッパ飲みしている。

 なお、この阿鼻叫喚の状態を作った張本人(ローズヒップ)は……床で爆睡していた。

 

 ……ローズヒップ!!テメェ何を入れたんだよ!!

 

 ローズヒップが入れた酒は色から考えてブランデーやラムの一種。それらは普通、度数が40%ほどであるため……たった一杯(しかも紅茶割り)でこれほど酔うなんてありえない。

 

「アハハヒャヒャヒャ!!もうない~」

 

切子細工のビンに入った酒をすべて飲み干したアッサムさんはヨロヨロと立ち上がり、ローズヒップが持ってきた酒瓶を取ってグビグビとラッパ飲みを始めた。

 その酒瓶には『LEMON HART 151』というラベルが張ってあった。

 

 ……って151プルーフ(度数75.5%)!?何持ってきたんだよ!?

 

なるほど、確かにそんな物を飲ませたら一発でここまで酔うはずだ。

 で、そんな酒をグビグビ飲んだアッサムさんはいきなり椅子に倒れこむように座った。俺は急性アルコール中毒を心配したが……アッサムさんは再び笑い始め、またその酒を(あお)っていく。

 

「……む~!!」

 

  ドスッ!!べキッ!!

 

俺が心配してアッサムさんを見ていると……俺の膝上でちょこんと座っているダージリンが唸った。それと同時に彼女は足を振って俺の(すね)を蹴り上げ、顔面にヘッドバットをぶち込んだ。

 ダージリンは小さな子の様にすっぽり入るという事はなく……彼女の頭頂部は俺の鼻の上ぐらいの高さにある。その状態でヘッドバッドをしたら……

 

「ぐぉ……!!」

 

俺は鼻に殴られたかのような衝撃が来た。また、蹴りも(すね)……と言うよりは‘‘弁慶の泣き所’’に刺さる。

 

「アハハハッ!!ゴホッ……ゴフッ!!」

 

そして俺が苦悶の表情で耐えている姿を見て咳き込むほど爆笑するアッサムさん……

 

「も゛う゛無茶ばじな゛い゛でぐだざい゛!!」

 

そんな事はお構いなしに、泣きついてくるオレンジペコ……

 

「……」

 

完全に夢の世界の住人になったローズヒップ……

 悲しいことに、この部屋にはこの状況を変えてくれる人物はいない。

 

 

 

 

 ……な、何とかして脱出しないと……

 

「だ、ダージリン?そろそろキツイからどいてk……」

「ヤッ!!」

 

ダージリンは小さな子供の様に強く拒否した。そして俺の腕を取って‘‘あすなろ抱き’’の様な位置に置き、鼻歌を歌い出した。

 

「そろそろ(しび)れてきたからd……」

「ヤッ!!」

 

  ドスッ!!べキッ!!

 

「ッ~~~!!!」

 

鼻と‘‘弁慶の泣き所’’にクリーンヒット。俺の鼻から血が出てきた。

 おそらく、傍目(はため)から見れば『鼻血を垂らす変態』と『そいつの膝に座る顔が赤い美少女』……。速攻で俺は逮捕されるだろう。

 

 すると、俺の顔を見て真っ青になったオレンジペコはやっと背から離れ……酒(ジン?)の入った切子細工の瓶を持ってきた。

 

「怪我ばも゛う゛じな゛い゛で下ざい゛!!」

「ゴフッ!?ゴボッ!?」

 

そして、その瓶を俺の鼻に押し当て、‘‘ボトルの水で傷口を洗う’’が如くドバドバと酒を流し始める。本来ならジュニパーベリーとその他の香りが複雑に絡み合うのを感じるのだろうが……直接鼻に流し込まれるせいで‘‘痛み’’と‘‘アルコール臭’’しか感じない。

 

「アッハッハッハ!!私のも飲め~!!!」

 

アッサムさんはフラフラと立ち上がり、手に持っていた酒瓶(LEMON HART 151)を俺の口にねじ込んだ。

 

 ……待て!!流石に鼻と口からの酒攻めは耐えらr……

 

俺は……そこからの記憶がない。

 

 

 

 

 

 その20分後……

 

「手持ちの小銃に刀が‘‘豆腐を切るが如く’’真っ二つにされ、絶体絶命の大ピンチ!!そこで俺は近くに落ちていた高濃度のラムを‘‘サイモン’’に浴びせ、木箱から飛び出ていた名刀を持ってサイモンと鍔迫り合いとなった!!刀と刀がぶつかり合い、火花が舞う!!その火花が着火剤となり……サイモンを火達磨にさせたんだ!!」←イブキ

「わぁ~!!!」←ダージリン

「危な゛い゛事ばや゛め゛で下ざい゛!!」←オレンジペコ

「アハハハハ!!もっと飲めぇ~~!!なんか熱くなってきた……」←アッサム

「……(ぐおぉ~……)」←ローズヒップ

 

 

 

 その後、衣服がはだけた少女達と一緒にいびきを()く男が発見され、危うく警察沙汰になるところだったとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はヨロヨロとヘリから降り、やっと東京武偵高・車輛科(ロジ)棟近くの滑走路兼ヘリポートに足をつけた。

 

「あぁ……クソッ。頭が痛いし気持ち悪い……。武藤、もっと揺らさずに操縦できないのか?」

「一切揺れない乗り物はねぇよ。結構快適に飛んだはずだぜ?」

 

俺は武藤の言葉を聞き流しながらアスピリン錠剤を口に投げ入れ、ペットボトルの水を飲み干した。そして俺は近くのゴミ箱へ空のペットボトルを投げ……外した。

 

「「……」」

 

俺は無言でそのペットボトルを拾いに行った。

 

「でもあそこまで酔うなんて珍しいな。それにすごく酒臭いし……。何があったんだ?」

 

武藤は近くの後輩に水を持ってこさせ、その紙コップを俺に渡してきた。俺はそれを受け取り、一息で飲み干した。

 

「鼻と口から消毒薬クラスの酒を流し込まれたんだよ。」

「……いや、本当に何があったんだよ!?あのお嬢さんたちが!?そんなことを!?」

「武藤、近くで騒ぐなって……頭に響く……」

 

  ブロロロ……

 

俺は車輛科(ロジ)棟の壁に手をつき、ため息をついた。そして空を見上げると……ゆっくりと着陸態勢に移るJu87(スツーカ)がいた。

 俺は一気に‘‘酔い’’や‘‘頭痛’’・‘‘吐き気’’が収まり、‘‘悪寒’’が体中を駆け巡った。

 

 ……と、とにかく隠れないと!!

 

俺は‘‘影が薄くなる技’’を使い、近くにあったツツジの花壇の陰に隠れた。

 

「キンジは『女が嫌いだ』とか言ってモテるし、イブキも女の子の知り合いが多いし……。どうやって女の子と知り合えるんだy……あれ?」

 

武藤はいきなり俺が消えたように感じたのだろう。アイツはあたりを見回して俺を探していた。

 

 

 

  ブロロロ……!!!

 

隠れて一分もしないうちにJu87(スツーカ)は見事な着陸を決めた。俺はそのツツジの花壇から息をひそめてJu87(スツーカ)を観察する。

 停止したJu87(スツーカ)から金髪美女(ハンナ)が飛び出ると、車輛科(ロジ)装備科(アムド)の生徒達が彼女にワラワラと集まって行った。

 

「すまないが急いで給油と弾薬の補充を頼む!!10分後には次の任務につかなければならない!!」

 

彼女はそう伝えると、周りを見渡した。まるで何かを探している様に……

 

  キッ!!

 

急にハンナは俺が隠れている花壇を睨みつけた。心なしか、花壇越しに覗いている俺と目が合ったような気がする。

 

「ッ……!?」

 

 ……嘘だろ!?またバレたのか!?

 

そしてハンナはカツカツと靴を鳴らしながら花壇に近づいてくる。俺は息を(ひそ)め、神様仏様玉藻様に祈ることしかできない。

 

  ドクッ!!ドクッ!!ドクッ!!

 

冬の寒空の下、俺は滝のような汗を流す。心臓の鼓動がやけに強く聞こえ、間隔が短くなっていく。

 

「ハンナさーん!!スイマセンがここを見てもらっていいですか!?」

 

ハンナが花壇まで2mを切った時、Ju87(スツーカ)の整備をやっていた後輩がハンナを呼んだ。

 

「分かった!!今行く!!おかしい、イブキの気配に(にお)いを感じた気がするのだが……

 

ハンナは(きびす)を返し、頭をかしげながらJu87(スツーカ)の方へ向かって行った。

 

「ここ、機関砲の撃針なんですが……」

「フム……替えは無いのか?」

「全く同じのはありませんよ。代用品で良いなら探してきますが……」

 

 ……な、何とかバレずに済んだ。

 

俺は崩れ落ちるように地面に寝転がり、胸をなでおろした。汗をかいたせいか……急に空気が寒く感じる。俺はゆっくり息を吐き、心臓を落ち着かせ、東京の冷たい空気を肺にいれた。そして憎たらしいくらいに綺麗な青空が目に入った。

 

 

 

 

 

 ……あれ?そう言えば後部座席には誰がいるんだ?

 

俺は落ち着いたら疑問を持った。そこで再びツツジの花壇越しにJu87(スツーカ)を見ると……後部座席には‘‘かなめ’’が座っていた。

 

「……ウッ!?」

 

俺はかなめの表情を見て思わず声を出してしまった。

 かなめは後部座席に座ったまま、俺がいる方向を虚ろな表情で見ていた。その表情が‘‘無表情’’や‘‘真顔’’と言うよりは……まるで‘‘埴輪(ハニワ)’’の様な表情をしていた。表情のない顔に目と口を丸く描き、そこを黒く塗りつぶした様な……そんな顔をしていた。

 

 ……へ、下手なホラー映画よりも怖いぞ!?

 

その時、かなめの口が動いた。声は聞こえないが、口の動きから察するに……『HELP』。

 

 ……み、見てられねぇ。

 

しかし、Ju87(スツーカ)の近くにはハンナがいる。‘‘影が薄くなる技’’を見破った事があるハンナからバレずにかなめを救う事は難しいだろう。

 

 ……スマン、かなめ。

 

俺はかなめを見捨て、この場から逃走しようとした時だった。

 

「スイマセン!!機関砲の弾薬でちょっと……」

「分かった!!今向かう!!」

 

今度は違う後輩にハンナは呼ばれた。そして二言三言話した後、ハンナはJu87(スツーカ)から離れて装備科(アムド)棟へ向かって行った。

 

 ……よし!!これなら……

 

俺は‘‘影の薄くなる技’’を使いつつ、バレないようにJu87(スツーカ)に近づいた。そして後部座席を恐る恐る(のぞ)くと……

 

「Help……Help……Help me……」

 

かなめによく似た‘‘埴輪(ハニワ)’’が……違った、‘‘埴輪(ハニワ)’’によく似たかなめが虚空を見ながらボソボソと助けを求めていた。

 

 ……ここまで来たら見捨てられないよなぁ

 

俺はハンカチを出してかなめの口を塞ぎ、そのまま後部座席から引きずり下ろした。

 

「Help……Help……Help……」

 

そしてかなめを担ぎ上げ、俺は‘‘機材を運ぶそこらの生徒’’の様にしながらツツジの花壇の(かげ)まで移動し……今度はかなめを背負い、脱兎の如く逃げ始めた。

 

「……ん?イブキ?」

 

ハンナの声が聞こえたような気がした。俺はさらに走るスピードを上げ、この場から逃げ去った。

 

 

 

 

 

 

 ……ここなら、もう大丈夫だろ。

 

俺は滑走路から離れた強襲科(アサルト)棟の隅に腰を下ろした。いつも以上に息が切れて鼓動が激しいのはハンナに対しての緊張であって、体が鈍っているせいではないと信じたい。

 

「……ん?あれ?ここは?」

 

やっと背中のかなめ(ハニワ)は人間に戻り始めたようだ。

 

「あれ……?あたし、アイツに喧嘩売って……無理やり飛行機に乗せられて……そして……」

 

見なくても分かる。かなめの目と口が丸くなっていき、白い肌が土色になっているのだろう。

 

「ほら、ハンナはいないから。もう、大丈夫だ。」

 

俺は子供をあやす様に背中のかなめを揺らすと、かなめは段々と落ち着いていった。

 

「……い、イブキにぃ?助けてくれたの?」

「あぁ。だからもう、大丈夫だ。」

「……ッ!!イブキにぃ……イブキにぃ!!」

 

かなめは俺の背に強く抱き着いて泣き始めた。背中のシャツが彼女の涙やら何やらで湿りはじめ、俺は多少既視感(デジャヴ)を感じると共に……罪悪感に襲われた。

 

 ……ついちょっと前、俺はかなめを見捨てようとしたんだよなぁ。

 

I love you!!(イブキにぃ、大好き!!)I’m in love with you!!(イブキにぃに恋してるの!!)No one matters but you.(イブキにぃ以外の人間なんてどうでもいい。)Be mine, forever!!(ずっとあたしの物になって!!)

 

かなめが俺の背中に頭を擦りつけながら何か言っているのだが……それがさらに罪悪感を掻き立てていく。

 そんな時だった。

 

  サクッ……

 

俺の頬に、紙で切った様な痛みを感じた。俺は目だけを動かし、恐る恐るその原因を探ると……俺の頬に刃を立てた幅広の軍用サバイバルナイフが見えた。

 

「ねぇ、イブキにぃ?」

 

俺の背中から……くぐもった声が聞こえた。その声は小さいのだが……俺の頭に大きく響き渡る。

 

「他の女の臭いがする……。しかも、今まで無い匂い……。ねぇ、イブキにぃ……誰?」

 

 ……助けない方が良かったかなぁ

 

ナイフが頬から首に移動した。首の薄皮が切れ、痛みはないが……血が流れていくが分かる。

 俺はため息をついた後、かなめへの言い訳を考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 聖グロでは紅茶にお酒を入れる時があるため、比較的容易にお酒が手に入る……という事にします。
 醸造の件は、アンツィオでワイン(ぶどうジュース)作って、プラウダでウォッカ作ってるんだから……聖グロもウィスキーやジンぐらい作ってそうだと。


 酔うと……
 ダージリン→幼児退行
 アッサム→笑い上戸の絡み酒
 オレンジペコ→泣き上戸
 ローズヒップ→すぐ寝る
なお、ローズヒップ以外は全員酔っても記憶は忘れない様で……



 Next Ibuki's HINT!! 「事前会議」 


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この刀ってなんだよ……

皆様、遅くなって誠に、誠に申し訳ありませんでした。

 期末試験やって、レポートやって……一部授業で『レポートのつもりだったけど、やっぱテストにするわ(テスト1週間前)』とか言われたり……。
 そんなのに終われていたらスランプに陥りました。


 あれですね、調子がいい時は余裕で数千字は書けるのですが……調子が悪いと数日でやっと数百文字……

 次は早く投稿……できるといいなぁ……。


 かなめとの交渉の末、『今度一緒に東京を観光(デート)する』という事を条件に……俺はやっとかなめから解放された。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜……

 

 俺は何処だか分からないが……草木が一本も生えていない荒野にいた。そして、俺を囲むようにして人民服・‘‘清朝時代の満州民族の衣服’’・‘‘漢服(漢民族の伝統的な衣服)’’を着たゾンビ(キョンシー)(?)達、そして麒麟(きりん)等の様々な妖怪が地平線の彼方(かなた)までいる。

 

 ……またこの夢か。そろそろ飽きてくるんだが。

 

ここ数日、俺は『多数の妖怪達が自分を襲いに来る、やけにリアルな夢』を見ていた。

 俺はため息をつきながら手榴弾をバケモノ達に投げつけた後、着剣した38式と紅槍を取り出して構えた。そして手榴弾の爆発音と共にバケモノ達が一斉に襲い掛かってきた。

 俺は槍を振るい、銃弾を放ちながらバケモノ達から近づかれない様にする。

 

 

 

 体感としては30分ぐらいであろうか。38式どころか25ミリ機銃に拳銃の銃弾も尽きてしまった。

 

 ……あぁ!!クソッ!!面倒な……!!夢なら早く()めてくれ!!

 

いつもであれば、戦闘が始まって10分ほど経過した後、誰かしらが援軍として加わるのだが(長槍を持った足軽・戦前の憲兵・上官達(辻とゆかいな仲間達))……今日に限っては全く来る気がしない。

 

 ……今日はとうとう俺一人か、クソッ!!

 

銃剣は全て折れ、紅槍の穂先は血油で切れ味が落ちているため……38式と紅槍を棍棒の様に使う。

 そんな時だった。いきなり俺の横に着物姿の白髪の老人がいきなり現れた。

 

「新たな主人よ、私は刀の**です。ですが(さび)(ほこり)(さや)から抜けないのです。この妖共(あやかしども)をどうにかしたいのであれば、私の(さび)を取tt……ゴフッ!?」

「……あ。」

 

38式や紅槍などの重量物は急に動きを止めることができない。そのため、いきなり現れた老人の顔面に38式の銃床が、腹部には紅槍の()が当たり……本塁打王の打球が(ごと)く、老人は何処かへ飛んで行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……どんな混沌(カオス)な夢だよ。」

 

打球(老人)を見送ったところで俺は夢から()めた。

 

 ……あのジジイ、刀云々(うんぬん)って言ってたっけ?

 

俺はあまり信心深い人間ではないのだが……なんとなく、先日(前話)で役人から貰った日本刀を抜いてみた。

 そしてよく観察すると……その刀身の一部にうっすらと錆が浮いていた。

 

 ……このぐらいの錆ならボロ切れで(ぬぐ)えば落ちるな。でも、まさか本当だなんて……ってヤベェ!?

 

何処かにぶつけたのか、この刀の(つば)がぐにゃりと曲がっていた。この刀の(さや)()(つば)は新造ではあるが……それでも最高級品であることはすぐにわかる。そのため……修理代も高くつくに決まっている。

 

 ……って言うか、昨日こんな風に曲がってなかったよなぁ!?……はぁ、直さなきゃマズいよなぁ。

 

俺は曲がった(つば)の修理代を考え……早朝から頭が痛くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼休み、俺は平賀さんに(つば)の修理を依頼し、修理費と‘‘直るまでの代替用の(つば)’’の代金に頭を痛めた。

 そして放課後、俺は我がチーム『COMPOTO』を選択教科棟の美術準備室に招集をかけた。‘‘修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)’’の事で話があるからだ。

 最初は寮の部屋で話そうと思っていたのだが……アリアや白雪に聞いて欲しくない話(軍機に当たる部分)が多少含まれる。そのため、人目につかない美術準備室(ここ)で話すことになったのだ。

 ……ワトソン(エッレ)との『おままごと(リハビリ)』でこの部屋をよく使うため、‘‘勝手を知っているから’’と言う理由もあるが。

 

「……時間は過ぎているんだけどなぁ」

 

俺は安物のマグカップに、ワトソンが運び込んだそこそこ良いティーバッグを入れた。そして湯を注いで十数秒待った後、ズズズ……とお茶を啜った時、勢いよく扉が開いた。

 

「久々の登場である!!」←ネロ

「そうです!!同じチームであるのに何故出番がほとんど無いのですか!!」←ニト

「主殿、ちゃんとした出番をください!!」←牛若

「まだ牛若は前章で出たからいいじゃないか。僕なんていつ以来の登場だい?」←エルキドゥ(エル)

「……イブキ様、リサもお願いいたします」←リサ

「比較的に出てるけど……前章だと出番がなかったからプンプンガオーだぞ!!」←理子

「前章は出たとはいえ……僕の出番が少ないのはどういうことだい?」←ワトソン

「何言ってんだ、お前ら。」←俺

 

扉が開かれたと同時に体操服姿(午後にスポーツテストがあったからか?)の『COMPOTO』女性陣(と言うか俺以外の全員)+@が『出番』やら『前章』やら訳のわからない事を言いながら入ってきた。いったい何のことを言っているのだろうか。

 

  ‘‘こ、この章では出番を作りますので……はい’’

 

俺は脳に直接、聞き覚えのない声が聞こえたのだが……きっと疲れているせいで幻聴でも聞いたのだろう。

 

 

 

「と言うか、なんだって全員体操服なんだよ。」

 

俺はため息をつきながら尋ねた。

 

「どこか問題でも?」

 

髪を後ろで一纏(ひとまと)めにしたニトは不思議そうに己の衣服を確認した。

 砂漠で生きる人は……強い直射日光をもろに浴び、夜は冷えこむため、長袖の‘‘身を隠す服’’を着るそうだ。しかし‘‘元ファラオ’’という理由のせいか、ニトの普段着は水着……と言っても過言ではないほどの薄着である。そのせいか、この衣装に疑問は無いらしい。

 

「主殿。女子更衣室が破壊されていたのでそのまま来たのです!!」

 

牛若は元気よくそう言った。

 その言葉から察するに……おそらくロケット砲か無反動砲・迫撃砲・軽砲の誤射や流れ弾が運悪く女子更衣室に直撃したのだろう。軍ですら滅多に起きない事も武偵高では日常茶飯事なのだ。

 

「『重要な会議』と聞いて余は急いだのだぞ!!」

「久々の出番だから……道具は必要な場になければいけないから。」

 

ネロはふくれっ面をしながら言い、エルキドゥ(エル)は笑顔で……いや、張り付けた笑顔のままイジケながら言った。

 

「『重要な会議』って……そんな固い言葉が出てきてみんな驚いたんだ。だからみんな着替えもせずに慌ててきたんだよ。」

 

ワトソン(エッレ)はため息をつきながら言った。

 男装しているとはいえ、化粧をしているのだろうか……ワトソン(エッレ)(ほう)(くちびる)が普段よりも紅い。それに加え、Tシャツにハーフパンツという姿でもあるせいか、ワトソン(エッレ)は倒錯的な色っぽさを身に着けていた。

 

 ……やったねワトソン(エッレ)!!おままごと(リハビリ)の成果が出てきてるよ!!……はぁ。

 

 

 話が変わるが、現在この部屋にいる女性陣の服装は……牛若・エルキドゥ(エル)ワトソン(エッレ)がTシャツにハーフパンツ。そしてネロ・ニト・リサ・理子がブルマ姿でいる。

 

 ……ちゃんとした体操用のブルマなんてまだ売ってたのか。

 

俺は‘‘需要と供給の関係’’に感心した後、今回呼び出した理由を口にした。

 

「『重要な会議』って言うのは修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)の事だが……」

「新大陸に行くのであろう?楽しみだな!!」

「まさか後世で新たな大陸が見つかるとは思いませんでしたが……楽しみですね。」

 

ネロとニトが反応した。その他英霊組も(うなづ)いている。

 生前、発見すらされていなかった新大陸(オーストラリア)に行けるのだ。冒険心やらなんやらがくすぐられるのだろう。

 

「そのことで、‘‘オーストラリア’’に行く予定だったんだけど……軍の上層部の意向で俺は‘‘香港’’に行くことになったんだ。」

「「「「「「……」」」」」」

 

彼女達の笑顔がピシッと固まった。この棟の建付けが悪いのか、背筋が凍るほどの冷たい隙間風が俺に当たる。

 

「い、一応俺抜きでオーストラリアへ行くことは可能だけど……」

「何で香港へ行くんだい?」

 

エルキドゥ(エル)は張り付けた笑顔のまま、瞳孔が開き切った目で俺を見ながら言った。その目を見ると、かなめを思い出すのは何故だろうか。

 

「ええっと……それは……」

 

俺は軍機に当たる部分を除きながら、頭の中で説明文を組み立てる。その時だった。

 

「軍機に当たる部分が多いからムラタは言いづらいと思う。だからボクが説明するよ」

 

 

 

 

 ワトソンがそう言いながら美術準備室に置いてあるホワイトボード(ワトソンの私物)を引っ張り出してきた。そしてワトソンはそのホワイトボードを使いながら‘‘極東戦役(FEW)の事’’・‘‘先日のテロ事件と藍幇(ランパン)との関係性’’・‘‘それに対しての日本軍の行動’’を事細(ことこま)かく説明した。

 

 ……あれ?‘‘部外秘(軽度の軍機)’’ならまだしも、なんで‘‘軍機・軍極秘(重度の軍機)’’までワトソンが知っているんだ?

 

  『こっちも防諜はしているけど、天下のイギリス相手は厳しいよ』

 

HS部隊第一中隊の藤原少佐(藤原さん)の声が聞こえたような気がしたのだが……疲れて幻聴でも聞こえたのだろう。

 俺は‘‘己の疲れ’’と‘‘日本の防諜の低さとイギリスの情報収集能力’’にため息をついた。

 

「……というわけでムラタは香港に行くことになったんだ。」

「なんだって軍機にあたる部分を知っているのかは置いとくとして……そういう事です。楽しみにしているところ、スイマセンでした!!」

 

俺はそう言ってみんなに頭を下げた。みんなの視線が俺の頭部に刺さる。

 

 

 

 

俺が頭を下げて数分経った。

 

「……ハァ」

 

誰かがため息をついた。

 

(おもて)を上げよ」

 

ネロの言葉に俺は首を横に振り、頭を下げ続けた。するとネロは歩いて近寄り、俺の頭を力強く掴み、無理やり頭を上げさせた。

 

「理由があるのであろう。ならば余達もその‘‘香港’’とやらに行こうではないか!!東端に後漢(大国)があったのは知っていたが……ウム!!楽しみである!!」

 

ネロは薔薇の様な華やかな笑みを俺に突きつけるようにして言った。

 

新大陸(オーストラリア)に行けないのは残念ですが、新大陸(アメリカ)は夏に行ったのでいいでしょう。……ですが大陸の東端ですか。この国も異国情緒があって面白いですが、その‘‘香港’’はどうなっているのでしょう?」

 

ニトは笑みを浮かべながら、ウキウキと言う。

 ニトは紀元前23~22世紀に生きたファラオ。彼女にとって、この世の何もかもが新鮮に映っているのだろう。

 

「現代の唐土(もろこし)ですか!!楽しみです!!」

 

牛若は両手をバタバタと振り、その興奮を表現する。

 

「……(ニコッ)」

「リサは常にイブキ様について行きます。」

 

エルキドゥ(エル)はいつも通りの瞳で笑みを浮かべ、リサも微笑みながら言う。

 

「理子、栗子月餅(ロッチーユッベン)食べるー!!」

 

理子はそう言って俺に勢い良く抱き着こうとしてきた。俺は条件反射で理子を掴んで投げ飛ばす。

 

  ドスッ!!

 

「ちょっとイブイブ!?なんで投げるの!?」

「あ……いや、つい」

 

理子は(ほお)を膨らませて抗議する。俺は久々のこの‘‘暖かい空気’’に顔が(ゆる)んだ。

 

 

 

 

 

 

「では!!遠征(きゃらばん)で‘‘藍幇(ランパン)’’とやらを潰してしまおうぞ!!」

「武具の方も準備しなければなりませんね。」

「主殿の障害は取り除きませんと……」

「……(ニコニコ)」

「ホテルの手配はお任せください!!」

「ふっふっふ……藍幇(ランパン)についてはこの理子りんに尋ねなさ~い!!」

 

さて、何処から持ってきたのか……理子がホワイトボードにA3サイズ(420×594㎜)の香港全域図を張った。そして『COMPOTO』の面々はその地図と‘‘にらめっこ’’をしながらヤバい方向へ話が進んでいく。。

 

 ……そう言えば、みんな血の気が多いんだっけ。

 

俺はその話題を止めようとした時、誰かが袖を引っ張った。

 俺は引っ張られた方向を向くと……ワトソンがいた。

 

「ムラタ、ボクは‘‘Garrison’’として東京に残ろう。修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)の時期はジャンヌもシンガポールだ。あぁ、単位は心配しなくていい。留学生には見学する都市の一つに『東京』もあるんだ。」

 

‘‘Garrison’’……直訳で‘‘守備隊・駐屯軍’’。要は、ワトソンは留守役として日本に残るつもりらしい。

 

 ……それは有難い。助かるな。

 

留守役(Garrison)は楽なように見えるが、実は一番大変な仕事だ。味方本隊が出ているため、陣地は敵の工作を受けやすくなる。最悪、敵が攻めてくる可能性もあるため、留守役(Garrison)は任された陣地を単独で死守しなければならない。

 軍としての留守役(Garrison)は藤原さんが所属するHS部隊第一中隊、個人としての留守役(Garrison)は玉藻にヴォルケンリッター(最近出番なし)がいるのだが……武偵としての留守役(Garrison)はいなかった。そのために心配していたのだが……ワトソンが立候補してくれたため、心配はなくなった。

 

「助かる。帰ってきたらなんか(おご)るぞ。」

 

俺は留守役(Garrison)を買って出てくれたワトソンに思わず礼を言った。

 

「じゃぁ、帰国後に六本木・秋葉原・浅草を二人で一緒に回ろう。楽しみにしているよ」

 

ワトソンはそう言ってウィンクをした。俺はその姿に一瞬ドキッとした。

 

 ……転装生(チェンジ)だから女だってバレちゃいけないってのに。化粧もしてウィンクとか何やってんだよ。変な色気まで身に着けやがって。

 

軽い頭痛がするのだが……二日酔いのせいではないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 会議終了後、香港への荷造りの為に一端解散した。そこで、俺は久々に家に戻ることにした。

 

「イブキ兄ちゃん、香港行くん?えぇなぁ~」

 

荷造りを粗方(あらかた)終え、居間で予備の38式歩兵銃と日本刀の簡易整備をしていた。すると、海鳴市で保護した‘‘八神はやて’’ちゃんが車椅子で近寄ってきた。

 

「ただの修学旅行だったらよかったんだけどなぁ……。これでも喰らえ!!」

「うわわ!?」

 

俺は整備の手を止め、手を(ぬぐ)うとはやてちゃんと肩を組むようにして抱き寄せ、もう片方の手で彼女の頭を乱暴に撫でまわした。

 はやては軽く叫び声を上げ、‘‘イヤイヤ’’と離れようとしている。だが、その笑顔から察するに、彼女もこのスキンシップを楽しんでいるのであろう。

 

「やめてー、髪がボサボサになるー」

「ふっふっふ!!寝起きよりも以上にボサボサにしてやろう。ついでに頭皮マッサージも追加だ!!」

「きゃぁ~~!!」

 

俺は修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)の不安をかき消すように、はやての頭をガシガシといじくる。

 

 ……藍幇(ランパン)、諸葛静幻らは‘‘香港藍幇(ランパン)’’だっけか?その‘‘香港藍幇(ランパン)’’は『俺やキンジ達が香港へ遠征する』という情報は得ているはずだ。そして‘‘東京でボロ負けした奴ら’’はこの防衛線(香港戦)では絶対に勝つ必要がある。

 

俺ははやての頭をグリグリと撫でまわしながら思わずため息が出た。

 

 ……可能性は低いが、勝利のためにルールを無視する可能性が十分にあるな。‘‘市民を巻き込んだ市街地戦’’、‘‘雑兵を総動員させる戦闘’’……東京での事を考えたら、そのぐらいの事はしてきそうだしなぁ。

 

 

 

 

  バタバタバタ、ドターン!!

 

すると、いきなり居間の扉がふっ飛んだ。俺はあまりの事に固まってしまう。

 

「主はやて!!大丈夫ですか!?

「はやて!?どうしたんだ!?」

 

扉があった場所からシグナムとヴィータが出てきた。そして彼女達は武器をどこからか取り出し、それらを振りかぶって俺へ一気に接近する。

 

「ちょ!!待て!!待てって!!」

 

俺ははやてを離して彼女の前に立ち、38式の銃身(分解中)と、置いておいた日本刀で攻撃を受けた。

 

  サクッ!!ギャイン!!……ドスッ!!

 

「ってあれ?イブキじゃねぇか?」

「手荒い歓迎ありがとよ……ハァ」

 

ヴィータは攻撃してやっと気が付いたようだ。俺は思わずため息が出た。

 38式の銃身は彼女のハンマーを受け止めたせいでひん曲がってしまった。この38式も廃棄決定だ。

 

 ……もう予備は無いから第二中隊の武器庫から貰ってくるしかないなぁ。ってあれ?シグナムの反応がない。

 

俺は恐る恐るシグナムの方を見ると、彼女はメカメカしい剣(?)を振り下ろしたまま固まっていた。

 よく見ると……彼女の持っている剣の形がどこかおかしい。まるで‘‘元々あった剣を断ち切った’’様な形をして……

 

 ……そ、そう言えば、銃身を持った左手はすごい衝撃だったけど……日本刀を握った右手は何の衝撃も無かったぞ?ま、まさか……

 

今、俺が握っている日本刀は先日(前話)で役人から貰った業物(わざもの)だ。 多少(さび)が浮いていたのでふき取ったのだが……この日本刀は俺の様な素人でも‘‘すごい業物’’と言うのはよく分かる。そんな日本刀の切れ味はもちろん良いに決まっている。

 俺は恐る恐る下を向くと……床にはシグナムの剣の破片(?)が刺さっていた。

 

「わ、私のレヴァンティンが……」

 

シグナムは手に持っていた剣(破損品)を落とし……膝をついてorzの体勢になった。

 

 ……う、嘘だろ!?この日本刀、シグナムの剣を簡単に切り裂いたのか!?

 

シグナムとヴィータが武器を下ろしたため、俺は警戒を解いて日本刀をまじまじと見た。

 この日本刀、前章でサイモンが使用した‘‘三日月宗近’’に引けを取らないほどの重圧を感じる。

 

 ……こ、この日本刀は一体何なんだよ!?

 

俺は思わず冷汗をかいた。

 

「ほぉ、見事な切れ味であるな!!」←ネロ

「現代でもあれほどの剣が……」←ニト

「おぉ~!!すごい切れ味!!」←理子

「……(ニコニコ)」←エルキドゥ(エル)

「どこか似たような物を見た事があるような……」←牛若

「イブキ兄ちゃん?刀かえたん?」←はやて

 

『COMPOTO』の面々はこの日本刀の切れ味に思わず感嘆の声を上げていた。

 

 ……おい!?なんだって理子まで(うち)にいるんだよ!?あとはやて、刃傷沙汰が目の前で起きても動じないなんて……兄ちゃん、君の成長がうれしいよ(泣)

 

俺はため息をつきながら日本刀を鞘に戻し、orz状態のシグナムに声をかけようと膝を折った。

 

 

 

 その時だった。キッチンから濃厚な殺気が流れ出てきた。居間にいた全員が氷のように固まった。

 

  ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!

 

二人分の小さな足音がやけに響き渡る。二つの濃厚な殺気の発生源が徐々に近づいてくるのを音と肌で感じる。

 

「シグナムさぁん?この扉は一体どういうことですかぁ?」

「帰りに買い物を頼んだのですが……どうしたのですか?」

 

玉藻(良妻賢母(魔王))リサ(温厚メイド(怒))が割烹着orエプロン姿のまま、良い笑顔で尋ねてきた。

 俺はシグナムから離れ、鬼になった二人から目をそらすと……黄色い液体が漏れ出しているレジ袋を見つけた。おそらく中身は……割れた生卵。もったいないが、あの卵達は捨てるしかないだろう。

 扉を破壊し、食材を無駄にする……主婦達(あの二人)はそれら行為を絶対許さないであろう。

 

「……(白目)」

 

己の武器(メカメカしい剣)が壊れて傷心中に、二人(鬼達)(にら)まれ……シグナムは白目を向いて固まってしまった。

 

 ……俺は複数の武器を使って戦うから、武器が破損してもそこまで響かないけど……シグナムは替えの武器がないからなぁ。それにあの二人(鬼達)に睨まれて普通でいられる方がおかしいよ。

 

そんなシグナムに対し、ヴィータはまだ離す余裕があったようで……

 

「は、はやての悲鳴が聞こえたから、い、急いで……そしたらイブキがはやてをいじめてて……」

「……は?」

 

ヴィータの発言を聞いて、俺は固まり、冷汗がドバッと出た。

 

 ……確かにはやては『やめて~』とは言ってたけど、あれはスキンシップの範囲内だろ!?

 

俺は後ろにいるはやてに弁護してもらおうと振り向き……いない!?

 俺ははやてを探すと……彼女はネロやニト・理子達が(くつろ)いでいるソファーへ車椅子を猛ダッシュさせていた。そしてそのソファー(安全圏)に到着すると車椅子を180度回転させて俺の方を向き、拝み手をしながら申し訳なさそうな顔をした。

 

 ……は、はやて!?見捨てる気かy……

 

「マスター?」

「イブキ様?」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

二人(鬼達)が俺をギロリと見てきた。俺は思わず両手を上げ、降伏の意を示す。

 

「「今の話……本当ですか?」」

 

二人の眼光が……俺を貫いてくる。俺はさらに冷汗が噴き出る。

 

「い、いえ!?確かにはやてとじゃれ合っていましたが、決してイジメてなど……なぁ!?」

 

俺はソファーで(くつろ)いでいる傍観者達に援護射撃を頼もうと振り向いた。しかし、そこにいる全員が顔を俺から背ける。

 

 ……おい!?みんな‘‘触らぬ神に祟りなし’’ってか!?

 

鏡が無いのに、自分の顔が真っ青になっていくのが自覚できる。

 そして、今にも襲い掛かりそうな妖狐と人食い()が睨みつけてくる様な幻覚が見えt……っていうか、まんまその通りだ。

 

「嘘はついていないようですねぇ」

「リサは信じていました」

 

二人は殺気を収め、慈愛の笑みを浮かべ……

 

「「マスター(イブキ様)とシグナムさんは御飯抜きです」」

 

俺とシグナムに裁きを下した。

 

 

 

 

 

「え?いや……原因はシグナムとヴィータだろ!?」

「誤解の原因を作ったのはマスターですし?それにヴィータさんは司法取引(正直に話)してくれたので。えぇ、ここ最近ほとんど出番がないからっていう事ではございませんよ?」

 

俺の言葉に、玉藻は笑顔でサムズダウン(BADの手)をした。

 

 ……う、うわぁ。怒ってらっしゃる。

 

俺は反論を止め、判決を受け入れた。

 その日の夕飯、真っ白に燃え尽きたシグナムと俺の前には水の入ったコップが一つ置かれただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反省の色を示していたせいか……‘‘いただきます’’をしてから五分後、主婦二人(玉藻とリサ)が許し、俺とシグナムに夕食を出してもらえた。

 その後、酒盛りも始まり……やっと今、お開きとなったのだ。

 

「あぁ……こりゃ早く寝ないと……」

 

俺は千鳥足で部屋まで戻り、壊れた38式と日本刀をそこらに立てかけた。そして布団に倒れこみ、目を閉じる。

 酔いで三半規管がうまく働いていないらしく……布団が‘‘揺り籠(ゆりかご)’’の様に動いているような気がした。

 ‘‘揺り籠(ゆりかご)’’に()られて数分後、俺は夢の住民となった。

 

 

 

 

 

 

 俺は輸送機の中にいた。窓を見ると……青い地球が見える。

 

 ……あ、夢だ。明晰夢(めいせきむ)だっけか?最近はよく見るなぁ。

 

俺はため息を吐くと……後ろに気配を感じた。俺はゆっくりと振り向くと、着物を着た(あざ)だらけの老人が木箱に座っていた。

 

「私の(さび)を取ってくれたようですね。約束通り(あやかし)共を退治して見せましょう。」

 

老人がそう言った瞬間に床が無くなり、俺は輸送機から落ちて行く。

 

「とはいえ……私にやった仕打ち、忘れませんよ?」

 

落ちて行く俺を、老人はにんまりと笑顔で見送っていく。

 俺は地球へ向かって落ちて行き、大気との摩擦で体が燃え始め……

 

 

 

 

 

 

 

  ピピピピピ!!

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺は目覚まし時計の音で飛び起きた。心臓がドクドクと強く鼓動し、息が荒い。

 たしか、怖い夢を見たような気がするのだが……どうも覚えていない。

 

 ……まぁいいや。とりあえず目覚ましを止め……

 

俺は目をこすりながら、アラームを止めようと目覚ましに触れた時だった。

 

  かたっ!!サクサク!!

 

立てかけていた日本刀が倒れ、刀身が鞘から抜けて……俺の指から数ミリ離れたところに刃が落ちた。

刃は目覚まし時計と……近くにあった金属製の小さな麒麟(きりん)の置物を真っ二つにした。まるで、包丁が豆腐を切る様に……

 

「……?ッ……!?ッ~~~~ッ??」

 

一気に眠気が冷めた。

 俺はゆっくりと目覚まし時計から手を離し、ある程度離れると顔へ指を近づけた。

 

 ……だ、大丈夫だよな?け、怪我は……

 

指に欠損や傷は全くない。だが、さっきの出来事が衝撃的すぎて……手の震えが止まらない。

 

 ……こ、この刀、いったい何なんだよ。シグナムの剣(?)に目覚まし時計・‘‘麒麟(きりん)の置物’’を簡単に切るなんて……って、え?‘‘麒麟(きりん)の置物’’?

 

俺は日本刀をしまった後、目覚まし時計と一緒に切られた‘‘麒麟(きりん)の置物’’を手に取った。

 ‘‘麒麟(きりん)の置物’’は某ビールメーカーのビールに描かれているような神々しさが無く、禍々(まがまが)しい見た目をしている。素材は金メッキが(ほどこ)された鉄(?)で、中央には白色のセラミック(?)が入っていた。

 

 ……え?この置物、全然記憶にないぞ?

 

俺は気味が悪くなった。

 ちょうどこの日は‘‘燃えないゴミの日’’だった。そこで、この置物(ゴミ)を入れたビニール袋を集積所へ力いっぱい投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 この日以降、俺は『妖怪に襲われる夢』を見なくなった。

 

 

 

 

 

 




 ワトソンとのリハビリが何回かあったせいで、もはや美術準備室を私物化しています。

 やっぱりイギリスの諜報能力はバカにできないと……

 


インフルにコロナ、皆さん気を付けてください。自分は飲食の前に手洗いうがい、家に帰れば手洗いうがい、人と接触したら手洗いうがいを徹底しています。

  Next Ibuki's HINT!! 「オーバーブッキング」 


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遠すぎた香港……

遅れた事、深くお詫び申し上げます。

 言い訳をさせていただきますと……留年をかけた成績発表を前に手が付かなくなったり、就活×コロナのせいで右往左往していたり……。
 もう疲れた。なんだよ、エントリーシートって。

 



 安眠ができるようになって数日後、俺達『COMPOTO』は羽田空港にいた。

 俺達はカウンターで荷物を預けてボーディング・パス(飛行機の切符)を受け取り、武装職従事者専用の出国ゲートを抜け……ある一室へ向かっていた。

 免税店に目もくれず(夏のアメリカ旅行で見たから)その一室へ着き、入り口にあるカウンターで簡単な手続きを済ますと……俺の目の前には桃源郷が広がっていた。

 

 ……ここが、かの有名な航空会社ラウンジ!!

 

 航空会社ラウンジ……カードラウンジや有料ラウンジとは違い、『プレミアムメンバー』や『ファーストクラス・ビジネスクラス利用者』等しか利用できない特別なラウンジだ。

 広々とした空間に、ソフトドリンク・アルコール類、軽食、シャワールーム全てが無料という、素晴らしいサービスを兼ね備えた場所だ。

 

 ……一度、一度でいいから来てみたかったんだよ!!

 

HS部隊の時、移動で時々民間機を使う事もあった。そしてファーストクラス・ビジネスクラスしか空いていないという時は、‘‘軍の予算’’でその席に乗せてもらっていた。

 だが、俺の上官:辻希信大佐は(‘‘軍の予算’’であるため)ラウンジ利用の許可は一切出すことはなかった。なので俺は一度もラウンジを利用したことがなかった。

 

 

 余談ではあるが、俺はHS部隊第二中隊第一小隊(辻さん以外)全員巻き込み、ラウンジ利用を画策した事があるのだが……勿論(もちろん)辻さんにバレ、半殺しにされたのは言うまでもない。

 

 

 

 そんな下らない昔話はともかく……桃源郷(ラウンジ)についた我々『COMPOTO』は席取りを終えると、各々(おのおの)飲み物食べ物を取りに行ったり、シャワーを浴びに行ったりした。

 

ふぁはは、(まさか、)へんいん(全員)ふぃふぃへすふぁふぁへ~(ビジネスなんてねぇ~)

 

 理子は無料のケーキやサンドイッチ・ビスケット・クッキーをハムスターの様に口に詰め込みながら言う。

 そしてドリンクバーでミックスジュースを作るが如く、置いてあった酒を適当に混ぜて作った即席カクテルで口の中の物を流し込んだ(悔しいことに、一口貰ったらうまかった)。

 

「はい!!リサ、頑張りました!!……イブキ様、頼んでいた‘‘かき揚そば’’と‘‘きつねうどん’’です。」

「流石リサだな。よくもまぁ、こんな割安でビジネスクラスを……。お、ありがとう。」

 

俺はウィスキーや日本各地の日本酒や焼酎を飲み、稲荷ずしやおにぎりを頬張(ほおば)っていたのだが……その手を止め、そばやうどんを啜り始める。

 

 ……数日間は日本食が食えないからな。‘‘食いだめ’’しておかないと。

 

 

 

 

 普通、武偵でも軍人でも敵地へ赴く数時間前に酒を飲むのは厳禁なのだが(判断力が落ちる云々(うんぬん))……‘‘縁起担ぎ・景気づけ’’と言う名目で、俺は普通に酒を飲んでいた(‘‘無料’’と言う言葉のせいもあるだろうが)。

 羽田~香港間のフライトは4時間20分。待ち時間に不具合等の時間を合わせても……今か6~7時間後には香港市内にいるだろう。そんなに時間があれば……今散々飲んでいても、市内に着く前には酔いは醒めている。

 

 

「……(ガツガツ)」

 

俺の斜向(はすむ)かいに座る牛若は勢いよくおにぎりや稲荷ずしを食べていた。おそらく、俺と同じような事を考えて食いだめしているのだろう。

 

「……(ニコニコ)」

 

エルキドゥ(エル)はオレンジジュース片手にニコニコと静かに座っていた。

 そして、この場にいないネロとニトはシャワーを浴びに行っている。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、みんなの席は何処?」

 

 大量のサンドイッチやお菓子を食べてもまだ足りないのか、理子はそう言いながら再び山盛りの大皿と謎カクテルを持ってきた。

 

 ……そう言えば席の確認はしてなかったな。

 

俺はポケットに手を突っ込み、ボーディング・パスを探し始める。どこかのポケットに入れたのは覚えているのだが……ラウンジの事で頭がいっぱいだったせいか、なかなか見つからない。

 

「理子りんは10E~!」

「10Gなので…‥理子殿と隣ですね!」

「「いぇ~い!!」」

 

理子と牛若は楽しそうにハイタッチをした。二人のノリが‘‘酔っぱらいのノリ’’に見えるのは気のせいだろう。

 

「僕は……11Dだね。」

「リサは11Fですので……エル様、隣ですね!!」

 

エルキドゥ(エル)とリサも隣らしい。

 ビジネスクラスの席の並びは1・2・1となっているため、順当に考えれば俺・ネロ・ニトが一人席の可能性が高い。

 俺はやっとボーディング・パスを見つけ出した。それに書かれた席順を確認すると……

 

 ……‘‘GTE’’?おい、これってもしかして……

 

俺のボーディング・パスには座席番号が書かれてなかった。その代わりに『GTE』とだけ書かれている。俺は嫌な予感がした。

 残っていたおにぎりとそばつゆを不安と一緒に飲み込もうとするが、不安だけはやはり残る。

 

 ……おい、噂で聞いたことがあるが……『オーバーブッキング』かよ!?

 

 

 

 

 さて、『オーバーブッキング』を知っているだろうか。

 元々、航空会社は乗り遅れや直前のキャンセルなどの‘‘予約したが乗らなかった客’’の数を予想し、座席数よりも多くの客を募集している。そのため、 ‘‘予約したが乗らなかった客’’が予想よりも少なかった場合、全員を旅客機に乗らせることはできない。この状態を『オーバーブッキング』と言うのだ。

 ただ、『フレックストラベラー制度』などがあるため‘‘旅客機に乗れない’’という確率はとても低く……1万人当たりの‘‘乗れなかった乗客’’の割合はJALで0.04人、ANAで0.24人だそうだ(国土交通省 平成31年4~6月のデータより)。

 そして、オーバーブッキングに会いやすい人は『予約時に座席を指定しない』・『チェックインが遅い』・『荷物を預けない』・『マイレージの上級会員でない客』・『運賃が高くない客』と言われているのだが……

 

 ……いやいやいや!?‘‘座席指定’’は分からないけど、俺は‘‘早くチェックインして’’・ ‘‘荷物を預けて’’・‘‘ビジネスクラス’’だぞ!?

 

そして、チケットに書いてある『GTE』とは……『オーバーブッキングで‘‘搭乗ゲート(GTE)’’で調節するからそこで待ってろや(意訳)』と言う意味だ。

 

 

 

 

「うむ!!いい湯であった!!ただ、テルマエが無かったのは残念ではあるがな!!」

「無料のシャワー室と聞いていたのでそこまで期待していなかったのですが……アメニティも(そろ)っていて中々ですね。」

 

 俺が予想外の事態で固まっていた時、シャワー組(ネロとニト)が湿った髪に火照った体で、‘‘冷えたビール(又は冷えたワイン)’’片手に戻ってきた。そして俺達のいるテーブルの前まで来ると二人は片手を腰につけ、もう片方の手で‘‘冷えたビール(又は冷えたワイン)’’を一気に飲み干す。

 

 ……うん、二人とも日本に馴染(なじ)んできたなぁ

 

俺はボーディング・パスから目を離し、軽く現実逃避を始めた。

 

「ちょうど今席に付いて話していました。ネロ様とニト様の席は何処ですか?」

 

リサが尋ねると、ネロとリサはボーディング・パスを探し始めた。

 

「余は11Aだな。」

「私は11Hですね」

 

 ……マジか、『GTE』は俺だけか。

 

俺は頭が痛くなってきた。

 

「さっきから静かだけれど……大丈夫かい?」

 

俺がいきなりしゃべらなくなったからエルキドゥ(エル)は不思議に思ったのだろう。

 俺は持っていたボーディング・パスをテーブルへ軽く放り投げた。そのボーディング・パスは滑る様に動き、テーブルの中央で止まった。

 

「もしかしたら……俺、香港行けないかも。」

 

「「「「「「……は?」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅客機の席を手配したリサは土下座せんばかりの勢いで俺に謝ってくる。だが、こればかりは運でしかない。

 また、『フレックストラベラー制度』(オーバーブッキングになった時、自主的に他の便へ変えてくれた客には現金やその他サービスが受けられるという制度)があるため、オーバーブッキングになっても乗れないという事はほとんどない。そのため、乗れない確率は1万人に1人以下と言う確率なのだ。まさか俺がその一人になる事はないだろう。

 そのため俺はリサを許し、そのまま搭乗時刻ギリギリまでラウンジで飲み食いを続けていた。

 

 

 

 

 

 

『先日の夜、在香港アメリカ総領事館で爆発事故が発生しました。このことを受け、アメリカでは……』

 

俺は視線を移すと……テレビでニュースを報じていた。ちょうど行先が同じ‘‘香港’’での事件、気にならないはずがない。

 

 ……まさか藍幇(ランパン)が?……いや、まさか極東戦役(FEW)中にアメリカと事を構えるなんてことはしないはずだ。きっと他の勢力がやったに違いない。俺には関係ないはずだ。

 

俺はそう思いながら日本酒を飲み干し、お代わりを貰いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウンジをたっぷり堪能(たんのう)した後、そろそろ時間なので搭乗ゲートへ向かう事にした。

 搭乗ゲートへ着くと、すでに‘‘ダイヤモンドステータス’’または‘‘ファーストクラス’’の搭乗が始まっていた。

 アリアはファーストクラスを取っていたのだろう。アリアは小さい体を揺らして優雅(笑)にボーディング・ブリッジ(空港と飛行機を繋げる橋)を渡っている所だった。

 

 ……アリアがいるってことはキンジもいるのか?

 

搭乗口近くのベンチを探すと……いる。キンジが白雪と一緒に座っていた。近くにはレキもいる。

 

 ……どうせだ、冷やかしと(白雪への)応援でもしてやるか。

 

 

 

 

 俺はキンジの席へ(おもむ)き、声をかけようとした時だった。

 

「お!?イブキにキンジ!!お前らも一緒の飛行k……って酒臭ッ!!

 

背後から武藤がドカドカと近づいてきた。そして俺と肩を組もうとし……相当酒臭かったのか、俺を突き飛ばした。

 

「おう、当たり前だろう?さっきまでタダ飯タダ酒を堪能してきたんだからよ。」

 

しかし、俺は酒が入っているせいか心に余裕がある。俺は突き飛ばしてきた武藤を許し、陽気に答えた。

 

「……お前、浮かれすぎだろ。香港は敵地なんだぞ。」

 

そんな俺を見て、キンジは(あき)れてため息をついた。

 

「大丈夫だって、香港に着くころには酔いはさめてるからよぉ……」

 

 ……それに、最悪の場合は数時間後の別の便だけどな。

 

 俺はそんなことを考えながらため息をついた。

 

 

 

 そんなやり取りをしている間に‘‘ビジネスクラス’’または‘‘その他優待客’’の搭乗が始まった。

 俺もビジネスクラスのボーディング・パスを持っているとは言え……『GTE』。もちろん搭乗はできない。

 

「イブキ様、本当に申し訳ございません。リサの責任です。よろしければチケットの交換を……」

「リサ、気にしなくていい。それに、リサは戦闘能力が無いんだから単独で香港へ行って襲われたら抵抗できないだろう?……まだ俺は乗れないと決まったわけではないから。ただ念のため、手配してくれたホテルの名前と住所を後で送ってくれないか?」

 

俺はそう言ってリサの頭を撫でた。リサは頭を下げ、静かに涙を流した。

 

 ……リサ、そこまで気にしなくていいから。重い、重いし周りの目が……なぁ!?

 

白雪は何故か感銘を受けたのかハンカチで目尻を押さえていた。逆にキンジは呆れ、武藤は俺を睨んでくる。また、その他の客も俺を見てくるため……中々つらい。

 俺の祈りが通じたのか……リサは名残惜しそうに俺から離れると己のスカートをつまんで持ち上げつつ頭を下げ、上品で見事な‘‘カーテシー’’をした。そして飛行機に乗り込んで行った。

 

 ……周りの目がつらい。

 

最早俺はため息も出なかった。

 

「では先に乗っているぞ!!」←ネロ

「乗れなかった場合は連絡してくださいね?」←ニト

「……(ムスッ)」←牛若

「ほら、行くよ。(牛若を引っ張って連れて行く)」←エルキドゥ(エル)

 

ネロとニトは『何とかなるだろう』と思っているのか、すんなりと行った。それと対照的に『主と一緒に行く』と地面に根を張ったように動かない忠犬:牛若は、エルキドゥ(エル)に首根っこを掴まれて飛行機へ運ばれていった。

 そして白雪・レキもビジネスクラスだったらしく、キンジを置いて先に搭乗していく。

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

残ったのは……いつもの野郎共に不知火(清涼剤(?))を抜いた、むさ苦しい男3人だけだった。(武藤率いる『キャリアGA』はまだ乗ってないが)。

 

「とりあえず……おい、イブキ。何お前あんな巨乳美少女メイド泣かしてるんだよ。」

「武藤の言葉はともかく、流石に女を泣かすのはどうかと思うぞ。」

 

武藤は察していたが……キンジまで敵に回るとは予想外だった。

 

「泣いたのはともかく……これが原因だよ」

 

俺は自分のボーディング・パスを二人に見せた。

 

「っけ!!ビジネスクラスなんて金を持ってるなぁ~……あぁ」

「なんだよ。お前までビジネスクラスか。乗らなくていいのか?」

 

武藤はパスを見て察したようだが……キンジはまだ気が付かないようだ。

 

「『COMPOTO(うち)』は補給や手配等の後方支援はリサが担当なんだ。で、このパスには座席が書いてないだろ?」

「……言われればそうだな。」

「オーバーブッキングで俺だけ乗れない可能性が出てきたんだ。リサはメイド業や後方支援に人一倍のプライドがあるから……それで責任を感じていたんだ。で、俺が許したら……あぁなったって訳だ。」

 

 ……でも涙を流すほど感動することではないと思うんだけどなぁ。

 

俺はため息をつき、武藤とキンジは俺から視線をそらした。

 

「それとさっき聞いたんだが……この便、エコノミーはともかくビジネスもファーストも今のところ空席は無いんだと。」

 

さっき搭乗ゲートにいるCAさんに聞いたのだが……今のところ、『フレックストラベラー制度』で移動してくれる客はいないそうだ。そのため、直前のキャンセルが無いと俺は乗れないそうで。

 

「イブキ、悪かった。やっぱり親友を疑うってのは良くないよな!!」

「ごめん。」

 

武藤とキンジは素直に謝ってきた。とりあえず俺は武藤を一発殴っておいた。

 

 

 

 

 

 

 それから時間が経ち、そろそろ搭乗締め切りの時刻が迫っていた。もちろんキンジや武藤はすでに搭乗を済ませており……搭乗ゲートにいるのはCAさん達と俺だけだった。そのCAさん曰く『オーバーブッキングで‘‘空席待ち’’は俺一人』だそうで。

 

「あの……空席、あります?」

 

俺はCAさんに尋ねた。

 

「申し訳ございません。今、エコノミークラスが4席ほど空いております。そちらでよければ……」

 

CAさんが申し訳なさそうにそう伝えた時だった。

 

「おい藤崎くぅ~ん!!君が羽田(ここ)で饅頭とか買ったせいでもう搭乗ギリギリだよ!?」←和泉

「はぁ!?そもそも和泉(鈴虫)が寝坊したから遅くなったんだろ!?」←藤崎

「まぁまぁまぁ……」←鈴藤

「……(ビデオを撮っている)」←音野

 

見覚えのある蝦夷テレビの4人が大声でこの搭乗口へやってきた。

 

「ん?村田君?奇遇だねぇ」←和泉

「もう時間だから早く乗ったほうがいいですよぉ!!」←藤崎

「そうだよ?早く乗りなって」←鈴藤

「……(ビデオを撮りつつ、手で乗ることを()かす)」←音野

 

4人は手早く搭乗手続きを済ませ、急いでボーディング・ブリッジを渡っていった。

 彼らが出していたのはエコノミーのパスだった。そのため……

 

「……あの、CAさん?さっき『エコノミーが四席空いてる』って言ってましたよね?もしかして……」

「……お客様、申し訳ございません。別の便に変更なさって貰ってもよろしいでしょうか?」

 

空いていたエコノミーの4人席、それは……あの蝦夷テレビは四人組の席だったようだ。

 

 ……香港って、近い様でメチャクチャ遠い所なんだな

 

俺はため息を吐くのと同時に、ボーディング・ブリッジが飛行機から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、次の ‘‘羽田空港→香港行き’’の便は00:55発だそうだ。現在時刻は午前9時過ぎなので15時間後……もはや明日である。

 ほかの航空会社からも‘‘羽田空港→香港行き’’の便はあるのだが、航空連合(アライアンス)が違うために乗れないそうだ。

 

 ……流石に15時間後は無いだろ

 

そこで提案されたのは『 ‘‘成田空港→香港行き’’』か『 ‘‘羽田空港→伊丹空港行き’’に乗り、別会社で‘‘関西国際空港→香港行き’’』の二つ。

 後者の方は2時間ほど到着が早いため(とは言っても現地時間20時半ごろ到着)、俺は急遽伊丹空港(大阪)へ行く事となった。

 

 ……とはいってもなぁ。元々の便に乗れていれば、現地時間の13時頃には香港に着いてたんだよなぁ。

 

俺はため息をつきつつ……国際線ターミナルから羽田第2ターミナルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香港にて

 

「えぇ、その‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’が乗る便は全部買い占め、オーバーブッキングを起こさせなさい。また、彼は他の便で来ようとするはずです。十分注意しなさい」

 

諸葛静幻は‘‘這う這うの(てい)’’で何とか日本を脱出した後、急いで香港の防衛策を練っていた。

 そして‘‘(エネイブル)(キンジ)’’はともかく、‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)(イブキ)’’への妨害を始めていた。

 なお、‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)(イブキ)’’への‘‘麒麟の置物(超強力な呪術)’’や‘‘オーバーブッキング’’も全ては諸葛静幻が裏で手を回したことだった。

 

「あの、諸葛先生?なぜ‘‘(エネイブル)’’より‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’を警戒するんですか?東京では‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’を瀕死にまで追い詰めることができました。全力を出せば……きっと奴の首を取れるはずです。ですが‘‘(エネイブル)’’を、『バスカービル』を倒せる確証は……」

 

司馬鵬(老け顔)は右手で書類にサインを、左手でキーボードを叩きながら尋ねた。

 今、香港藍幇(ランパン)上層部はいつもの数倍以上多忙だった。上海藍幇(ランパン)が壊滅したことにより、上海の仕事の一部が香港藍幇(ランパン)に降りかかってきたのだ。

 『バスカービル』やイブキへの対策をしつつ、通常業務が倍増したため……香港藍幇(ランパン)上層部はすでに疲労していた。

 

「‘‘手負いの獣’’ほど恐ろしい物はありません。例え‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’を瀕死に追い詰めたとしても……彼は周りを巻き込んで戦い続けるでしょう。そして多大な被害を振り撒く……」

「そうですが……大量の雑兵に曹操(ココ)姉妹に自分がいれば、奴の首は取れるはz……」

(ほう)、大局を見失うな。彼らを倒すことが目的ではない。‘‘香港藍幇(ランパン)’’を……いえ、『香港を守り、そして戦後も‘‘藍幇(ランパン)’’の影響力を維持させ、増大させる事』が我々の使命ですよ?」

 

 諸葛静幻は東京での戦闘に加え、香港での激務のせいでやつれていたが……眼光は今まで以上に鋭くなっていた。

 

「‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’は周りに()く被害が尋常ではありません。自国の首都ですら‘‘あんな事’’になったのですよ?そんな彼が香港(ここ)で遠慮しながら戦うと思いますか?」

 

静幻は口調では諭すように、しかし目は『このぐらいも分からないのか』と言う呆れた目をしていた。

 ただ、彼を弁護すると……いつもの司馬鵬(しばほう)であればこの様な事はすぐに悟っていたはずだ。しかし今の彼はこなすべき仕事が多すぎて疲労困憊であり、頭の回転は非常に悪かった。

 

「日本の被害を考えれば……一地区くらいは焼け野原になりますね。まだ『バスカービル』との戦いの方が……」

 

司馬鵬(老け顔)は疲労によってさらにしわが増え、肌年齢が上がった顔を真っ青にしながら言った。

 ついでに、もしここにイブキがいれば……『いやワザとじゃないから!!と言うかテメェら藍幇(ランパン)やサイモンが来たからだろ!?と言うか、一人で一地区を焼け野原にできるほどの戦闘力は持ってねぇ!!』などと全力で否定しているだろう。

 

「一地区ぐらいで済めばいいのですがね」

 

諸葛はボソッとそう言った後、仕事を片付けながら二人でため息をついた。

 

 

 

 

 なお、香港国際空港では……

 

「イブキ先生(シエンション)、来なかたネ。」

不用担心(心配するな)、きっと乗り遅れネ。次は……JALの14時15分。イブキ先生(シエンション)、一緒に待つネ。」

「……是的(うん)

 

しょんぼりしたココ(三女:猛妹(メイメイ))をココ(長女:狙姉(ジュジュ))が慰めていた。一見、美しい姉妹愛を感じられる光景であるが……

 

「放置プレイだと思うと……なかなかヨ!!」

「……原来是这样(なるほど)!!」

 

そして二人の頬は徐々に赤く染まっていく。

 そんな二人から離れた場所で……ココ(次女炮娘(パオニャン)・四女機嬢(ジーニャン))が冷めた目で見ていた。

 

「姉ちゃん達、イブキのせいでおかしくなた。炮娘(パオニャン)?どうしたら治るカ?」

機嬢(ジーニャン)、‘‘女大十八变(女は18回も大きく変わり)越变越好看(変わるたびに美しくなる)’’ヨ。」

 

機嬢(ジーニャン)の言葉に……炮娘(パオニャン)(さと)った目で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺は羽田第二ターミナルへ向かい、大阪・伊丹空港へ向かう事になった。

 その際、エコノミー席しか空いてなかったため、中央三席の真ん中に座ることになったのだが……

 

「……って、そんな事があったのよぉ!!」

「やっだぁ~!!」

 

俺を挟むように座った‘‘オネエ’’二人が意気投合し……そのまま俺を挟みながら楽しく会話をし始めたのだ。

 

「あ、あの……俺、席交換しますか?」

「あらぁ~。でも悪いからいいわよぉ」

「そうよぉ~?坊や、気持ちだけ貰っておくわぁ」

 

 ……いや、気まずいから席を移動したいんだけど

 

そんな俺の願いは通じる事はなく、俺を挟みながら(彼女)(?)達は話が弾んでいった。

 

 

 

「ねぇ坊や、このマニキュア、どう思うかしらぁ~?」

「この色、なかなかいいと思わなぁ~い?」

 

 ……いや、マニキュアなんて分からねぇし。早く伊丹に着かねぇかな……

 

 

 

 

 

 さて、伊丹空港へ着くと俺はバスに乗り、関西国際空港へ向かった。

 関西国際空港へ着くとカウンターで手続きをし、休む間もなく旅客機へ乗り込むこととなった。

 

 ……だ、だけど今回はビジネスクラスでよかった。

 

 ドタバタとした疲れからか…‥俺は豪華な機内食を平らげ、ビールを飲み干すと夢の中の住人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 香港国際空港は1998年に開港された比較的に新しい空港で、現地では‘‘赤鱲角國際機場(チェクラップコク国際空港)’’と呼ばれているそうだ。

 なんでも『2015年の年間乗降者数は約6,800万人でドバイ国際空港、ロンドンのヒースロー国際空港に次ぐ世界第3位、貨物取扱量においては世界第1位(Wikipediaより引用)』だそうで。

 俺は襟を緩めてコートを脱ぎ、ハンカチで汗を拭きながら香港国際空港へ足をつけた。

 

 ……(あたた)かい。いや、少し暑苦しいくらいか

 

 到着時刻は20時半前、予定時刻より少し早く到着したようだ。もちろん、香港の空は真っ黒に染まっている。

 

「本来なら昼過ぎには到着だったんだけどなぁ。」

 

俺は思わずため息が出た。

 

 

 

 

 入国審査を済ませ(入国管理官のおばちゃんがギョッとした目で俺を見てきたが……何故だ?)、手荷物を受け取り、俺は‘‘到着ロビー’’へ着いた。

 

 ……流石に来てないよな?

 

俺は『到着が夜遅くになるため、迎えは不要』と『COMPOTO』全員に伝えてある。そうは言ってもリサや牛若あたりが迎えに来ているかもしれないので、‘‘到着ロビー’’を軽く見回してみると……

 

 ……こ、ココ!?それも四人そろって!?

 

‘‘到着ロビー’’の入り口をちょうど見張れるベンチに、ココ姉妹4人が仲良く寝息を立てながらぐっすりと寝ていた。一部ではヨダレが垂れていたり、鼻提灯(ちょうちん)を作るほど爆睡している。

 何故空港にココ達がいるのか分からないが……寝ているのは不幸中の幸いだ。俺はそそくさとその場を離れようと……

 

  プルルルル……

 

その時、ココ姉妹の誰かのポケットから携帯のアラームが鳴った。

 

 ……マズい!!ココが起きる!!

 

俺は慌ててそこらにあった柱に隠れ、ココをの様子をうかがう。

 

「んみゅ……吵闹(うるさい)……」

 

すると同時に、ココ姉妹のうちの一人が寝ぼけながらも携帯のアラームを止めた。そして、再び横になって惰眠を(むさぼ)る。

 

 ……なんでここに奴ら(ココ姉妹)がいるのか分からないけど……とにかくここから離れるぞ!?

 

そう思って足早にこの場から離れようと……そこで、周りが俺を注目していることに気が付いた。俺は自分自身を見ると……普段通りの東京武偵高校の制服だ。おそらく、この服が珍しいのだろう。

 

 ……念のために着替えておくか。

 

 

 

 

 俺はトイレに駆け込み、個室に入ると念のために持ってきていた‘‘黒のスーツ’’に着替えた。

 

 ……これならあまり目立たないはずだ。‘‘ビジネスで来た日本人’’に見えればいいが。

 

それにネロやニトの事だ。待ち合わせ場所はそこらのファミレス(香港にファミレスはあるのか?)の様な場所ではなく……格式のある場所、おそらくドレスコードのある場所にしているはずだ。そのような場所に学生服は……(日本だと)一応良いのだが、あまり良い顔はされない。しかもここは香港だ、学生服では拒否される可能性がある。

 それに学生服は空港(ここ)ですら目立っている。市内ではさらに目立つはずだ。香港は敵地であり……敵地ではあまり目立ちたくはない。

 

 ……とはいえ、これは安物のスーツだからな。ドレスコードの場だと逆に目立つかも

 

俺はため息をつきながらネクタイを締めて背広を着た後、顔を隠すため黒のソフト帽を被った。

 そして門番(ココ姉妹)からバレないようにこっそりと空港を出ると急いでタクシーに飛び乗り、香港市内へ向かった。

 

 

 

「もしもし……リサ、今着いたから。どこに向かえばいい?……わかった。ICCのOzoneって言うバーだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 香港藍幇(ランパン)はさらに荒れていた。

 

「‘‘不死の英霊(イモータルスピリット)’’が入国した?その情報は本当ですか!?……そうですか。彼の後を追いなさい。最悪の場合は戦闘を許可します。また、彼の情報を全体に流しなさい。」

 

日本に潜入した偵察員がイブキを見失った事。それに加えて空港を何度も変え、最終的に関西から海外の航空会社で来たため……ネット上の監視員もイブキの事を見逃していたのだ。その他にも様々な要因が加わり、イブキを香港へ入れてしまった。

 当初の予定とは違ったが……この事態は想定済みなのだろう。諸葛静幻はそれらの報告を聞いても(あせ)らず、部下に命令を下していく。しかし、静幻は激務を重ねているせいか、顔色は少しずつ悪くなっている。

 

「……クソッ!!ココ、何をしているんだ!!」

 

司馬鵬(老け顔)は空港にいる曹操(ココ)達へ何度も電話をかけるが……なかなかでないため、苛立(いらだ)ちを(つの)っていく。

 

『………(もしもし)?……什么(何か用)?』

 

やっと祈りが通じたのか……明らかに寝起きであろう、不機嫌なココの声が聞こえてきた。そんな声を聴き、司馬鵬(老け顔)苛立(いらだ)ちを倍増させる。。

 

「何じゃないだろうが!!イブキ()が来た!!早く追え!!そこまで遠くに入っていないはずだ!!戦闘許可も出たt……」

『姉ちゃん!!快点起来(早く起きろ)!!我睡过头了(寝過ごした)!!

 

  ブチッ!!ッー、ッー……

 

司馬鵬はため息をつきながら、投げるようにスマホを机の上に置いた。彼はココとの会話のせいで疲れが一気に噴き出たようで……さらに老け込んでいた。

 

 

 

 

 再び司馬鵬はため息をつき、冷めきったお茶を一飲みした。

 

「‘‘バスカービル’’は工作を始め……‘‘(遠山キンジ)’’は香港島の何処かに潜伏中。 ‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’は結局香港に入国。先日の『在香港アメリカ領事館での爆破事件』で香港警察と米国シークレットサービスが(うごめ)く。」

 

司馬鵬は頭を整理するため、今起こっている重要な事実を口にした。

 先日の夜に起きた『在香港アメリカ領事館での爆破事件』……それは極東戦役(FEW)の時期を狙い、下剋上を(たくら)んでいる香港の別組織がやった事という事がすでに分かっている。

 だが、そのせいで藍幇(ランパン)は圧倒的に不利な状態だ。下手な行動を打てば香港藍幇(ランパン)は……いや、藍幇(ランパン)は崩壊する可能性もある。

 

「……ん?」

 

司馬鵬は‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’の経歴が書かれた紙を再び見た。

 彼は今年の夏にアメリカでとある事件(高校生活夏休み編 ラッシュ〇ワー)を解決している。その時はロス市警の一人とDIE HARD(ジョニー・マクレー)、そして香港警察の‘‘リー警部’’と一緒だった。

 

「……リー警部?」

 

司馬鵬は香港警察の資料を探し出した。

 『在香港アメリカ領事館での爆破事件』で捜査に当たる香港警察の刑事は……‘‘リー警部’’。同一人物だった。

 その‘‘リー警部’’は香港(の裏社会)では有名な刑事ではあるが……香港警察には他にも優秀な刑事は沢山いる。それにその‘‘リー警部’’は最近長期の有給を取っているのだが、何故か働き詰めらしい。……どこか違和感を覚える。

 

「……先生、諸葛先生?『在香港アメリカ領事館での爆破事件』ですが、このリー警部は……」

 

そう言いながら司馬鵬は諸葛静幻に目をやり……固まった。諸葛静幻は悪魔が如く、邪悪な笑みを浮かべていたからだ。

 

「鵬?……我々の使命は『香港を守り、藍幇(ランパン)の影響力を維持・増大させること』ですよ?」

 

やせ細った諸葛静幻は……目をギラギラと光らせ、微笑んだ。

 

「‘‘(遠山キンジ)’’・‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’、それに‘‘リー警部’’。今後、東アジアで重要な人物となります。ならば、彼らと伝手があったほうがいいでしょう?」

 

そんな諸葛静幻を見て……司馬鵬は鳥肌が立った。

 証拠は一切ないし、おそらく残ってもいないだろう……しかし、司馬鵬の勘は(ささや)いていた。『この全ての状況を作ったのは諸葛静幻である』……と。

 司馬鵬は鳥肌が立った。

 

 

 

 

「……諸葛先生。自分も戦闘に出たほうがいいですよね。準備します。」

 

司馬鵬は前線での戦闘指揮を執るため、‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’や‘‘(遠山キンジ)’’の情報を得るため、……そしてココ達の面倒を諸葛静幻に押し付けるために席を立った。

 

「そうですね。ココ達が暴走しないように監視をお願いします。」

「……………え゛?」

「ココ達の暴走を止められるのはあなただけですよ?」

 

しかし、諸葛静幻にはバレバレだったようだ。

 

 

 

 




 航空会社ラウンジは一回だけ利用したことがあります。正直に言って……丸一日そこにいても不満はないくらいの快適さでした。ただ、アルコールが無料のため、『飲みすぎて飛行機酔いする可能性』があるのが欠点ですねw


 オーバーブッキングには出会ったことはありません。


 ANAとJALはアライアンスが違うため、オーバーブッキングが起こっても乗り換えはできない……はず。たぶん



 次は早く投稿できるといいなぁ…‥


  Next Ibuki's HINT!! 「リーさんとカーターさん」


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寒中水泳……

 もう…‥エントリーシートとかヤダ……。
 それにエントリーシートも今回の話も、投稿しようと思ったらデータが吹き飛んだし……やだぁ…‥


  うがい・手洗いは大切に。それが一番の予防だそうです。皆さんもちゃんとやりましょうね


 この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません


 俺は黒のスーツに黒のソフト帽という姿でタクシーに乗り込み、リサに電話をかけた。すると3コール以内にリサは出た。彼女曰く『‘‘COMPOTO’’はアリアと環球貿易広場(ICC)にある●zoneと言うバーで待っている』だそうだ。

 俺はタクシーの運転手に『環球貿易広場(ICC)へ行くように』と伝えると窓に寄りかかり、外の景色を眺めていた。

 

 ……‘‘100万ドルの夜景’’ね。本物はどれほど綺麗なんだろうな。

 

中華人民共和国香港特別行政区……通称:香港と言う地域は香港島・九龍半島・新界及び周囲にある数百の島々で構成されている。香港の総面積は東京23区の2倍ぐらいだそうだ。

 そして、香港国際空港から香港島や九龍半島までも多数の島々があり、その往来は島々に架けられた橋での移動が一般的だそうだ。そのため俺が乗るタクシーは、島々の夜景を横目に橋を渡っていく。人の営みを感じる‘‘街の灯’’が、俺の目の前で流れていく……その景色はとても幻想的であった。

 多少は海外という事でフィルターが作用しているのだろう。俺は現地の聞き取れないラジオをBGMに、その夜景に見とれていた。そんな時、ポケットに入れていたスマホが鳴った。

 

 ……普通ここでスマホが鳴るか?空気読めよ。

 

俺はため息をつきながらスマホを取り出すと……アリアからの電話だった。俺は再びため息をつくと、渋々電話に出た。

 

「はい、もしもsh……」

『イブキ!?キンジを見なかった!?』

「ッ~~……」

 

電話に出た瞬間、アリアの大声が俺の耳を襲った。俺は思わずスマホを耳元から離す。

 アリアの声が聞こえなくなった後、俺は耳にスマホを押し付けた。

 

「キンジ?何のことだ?」

『キンジと連絡が付かなくて……どこにいるか分からないの!!空港にはいなかった!?』

「いや、見なかったけど……」

 

俺はアリアの言葉から、キンジの置かれた状況を考察する。

 そう言えばキンジ、『海外は初めて』だと言っていた。アリア曰く『連絡が付かなくて、何処にいるか分からない』。という事は……

 

 ……‘‘携帯をなくした’’・‘‘電源が切れた’’かしたせいで迷子かになったか?いや、そうなっても金があればタクシーを拾って戻ってこれるはずだし…‥こりゃ財布も失くしたな。

 

携帯が何らかの理由で使用不能になり、財布も落としたとなると……戦闘か、スられたかの二択だろう。相変わらずキンジは不幸な男のようだ(自分のことを棚に上げている)。

 

 ……俺は何度か海外に行っているし、キンジは初めてという違いはあるが『人の振り見て我が振り直せ』。念のため警戒はしておくか。

 

俺は海外用のマジックテープ財布に(ひも)をつけ、その紐を背広に(くく)り付けた。そして財布を内ポケットにしまう。

 次に(ひも)付きの小さな収納袋にパスポートなどの重要書類を入れた後、(ひも)を首にかけ、袋をワイシャツの中にいれる。

 

 ……よし、これなら大丈夫だ。

 

「こっちも一応探しておくが……期待するなよ?」

『キンジは香港島の‘‘湾仔(ワンチャイ)’’で降りたのは分かってるわ!!情報があったら早く連絡すること!!』

 

  ブチッ!!……ッー、ッー、ッー……

 

アリアはそう言った後、電話を切った。どうもアリアはだいぶキンジを心配しているようだ。

 

 

 

俺はスマホをスーツのもう片方の内ポケットにいれ、ボタンを留めて蓋をした。

 

「しかしなぁ。香港島の‘‘湾仔(ワンチャイ)’’かぁ」

 

俺はため息をつきながらリュックからガイドブックを取り出し、巻頭の地図を広げた。

 その地図を見る限り……‘‘香港国際空港→ICC’’までのルートは香港島を通らないようだ。

 

 ……キンジを探すよりも合流が先だな。それにキンジの事だ、何とかなるだろう。

 

俺はガイドブックをしまい、再び聞き取れないラジオをBGMに夜景を見る。その時だった。

 

 ピー……『●●●●!!』

 

ラジオを()き消すかのようにタクシー無線が大音量で流れた。

 

『●●●、●●●●●。●●●●●!!』

 

そのタクシー無線のおかげで、またもこの雰囲気が台無しだ。俺は思わずため息をついた。

 

 ……ったく、何を話してんだよ。

 

俺は耳をすませて会話を聞いてみると……

 

『(広東語)イブキ……した。似た人物……情報……渡せ!!』

「(広東語)はいはい……っと。」

 

 広東語はあまり得意ではないが……一つ一つの単語を何とか聞き取った。その情報から考えるに、もう藍幇(ランパン)は俺の情報をある程度掴んでいるようだ。俺は冷汗が流れるのを感じる。

 一方、タクシーの運転手は運転しながらも、面倒臭そうに助手席の小物入れ(グローブボックス)からクリアファイルを取り出した。そしてそこに入っている写真を見て運転手はギョッとした。写真は……『バスカービル』全員と、俺の顔写真であった。

 

 ……この運転手、藍幇(ランパン)の一員かよ!?

 

俺は腰の14年式に手を伸ばす。そしてこの運転手を無力化しようと……する気持ちを何とか抑えた。

極東戦役(FEW)の決まりでは『際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁ずる』とある。要は『雑兵を戦闘に使ってはいけない』という事だ。

 この運転手は‘‘雑兵又はそれ以下’’である可能性が高い。そのため、俺がこの運転手を倒してしまったら後々に問題となるかもしれない。

 

 ……戦えないとなると、この場をうまく切り抜けるしか無いな。

 

その時、運転手が恐る恐るバックミラーで俺を見てきた。彼と目が合う……。

 俺はその鏡にいる運転手に向かって満面の笑みを浮かべ、ピースサインをした。願わくは、ただの観光客に見えることを……

 

「(広東語)……運んでいる客……イブキ……似ている……!!」

『(広東語)今何処にいる!?』

「(広東語)……8号幹線、大嶼島(ランタオとう)に……あと数キロで……大橋です!!」

 

タクシー運転手は俺が広東語を分からないと思ったのだろう。大声でゆっくりと、比較的聞き取りやすく無線のマイクに答えた。

 悲しいことに、俺の笑顔とピースサインではこの場を誤魔化す事ができなかったようだ。

 

 

 

 

 ……クソッ!!どうやってこの場を切り抜ける!?もちろん‘‘雑兵との戦闘禁止’’で!!

 

俺は必死に頭を回すが……100キロ以上のスピードが出ているタクシーで、運転手と戦闘をせずにこの場を切り抜ける方法は思いつかない。

 

 ……最悪、この道は海岸線を通っているし……このまま海へ飛び下りるか!?

 

  カッチ、カッチ……キキッー!!

 

そんな事を考えていると、巨大な橋が見えてきた。その時タクシーが路肩に入り、急ブレーキをかけた。シートベルトが締め付けられ、呼吸がうまくできなくなる。

 

 ……クソ!!もう行動に移すのかよ!!

 

そしてタクシーが完全停止をすると、運転手は中央の小物入れ(センターコンソール)から拳銃を取り出し、俺へ向いた。

 

Freeze(動くな)!!」

 

  ダンダンダン!!

 

そして運転手はリボルバー式の小型拳銃を発砲した。

 おそらくこの運転手は非戦闘員なのだろう。幸運なことに拳銃の狙いはブレブレ。放った弾丸は俺に害を与える事は無く窓ガラスをぶち破り、外へ飛び出ていった。

 

 ……しめた!!これなら正当防衛だ!!

 

雑兵との戦闘は懸念事項ではあるが、‘‘正当防衛’’……つまり‘‘向こうから手を出してきた’’ならば話が違う(過剰防衛というリスクはあるが)。

 俺は運転手の持つ拳銃を掴み、窓に向けた。

 

  ダンダンダン!!カチッ!!カチッ!!カチッ!!

 

「……ッ!!」

 

運転手は拳銃が掴まれているのにもかかわらず発砲を続け、弾切れを起こした。俺は運転手の真っ青な顔に一発拳をくらわす。

運転手はのけ反った後、上着の中から小型のナイフを取り出して振るってきた。

 

呀啊啊(やぁああ)!!」

 

俺は左手で、その運転手のナイフを持つ手を横に叩いて軌道をそらす。

 

  ザクッ!!

 

そのナイフが俺の太ももから数センチ離れた場所に突き刺さる。俺は右手でそのナイフを持つ手を押さえ、膝蹴りを放った。

 まともに膝蹴りを喰らった運転手はフロントガラスに激突して気絶し、動かなくなった。

 

 ……い、いきなりか。香港に着いてすぐにこんな事が起こるなんて。こりゃキンジも戦闘に巻き込まれて連絡手段がなくなったんだな。

 

俺はそう思いながらタクシーから出て運転席の扉を開け、気絶した運転手を高速道路(?)の柵の外に安置した。

 

 

 

 

 なお同時刻、キンジは携帯と財布をスられ、香港島・北角(ノースポイント)を当てもなくさまよっていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  タタタタタ……!!!

 

 俺は気絶したタクシーの運転手を柵の外に安置し(捨て)、運転席に乗り込もうとした時だった。後方から機関銃の発砲音が聞こえると同時に俺の周囲に弾丸が着弾し、アスファルトが削れていく。

 

 ……銃撃!?もう俺がここにいるのがバレたのか!?

 

 俺は慌ててタクシーの運転席に乗り込み、バックミラーで後方を確認すると……高速で接近する装輪装甲戦闘車が機銃をこちらに向けて発砲していた。その装輪装甲車から機嬢(ジーニャン)(四女、メガネをかけているココ)は上半身を乗り出し、俺が乗るタクシーを睨みながら指示を出している。

 

 ……クソッ!!もうココが追ってきやがった!!

 

俺はタクシーを急発進させた。それと同時にタクシーが停車していた場所に何かが着弾し、軽い爆発が起きる。装輪装甲車は機関銃だけでなく、機関砲も撃ってきたようだ。

 

 ……お、おい!?民間人も巻き込む気か!?

 

俺はタクシー蛇行させ、射線を避けながら一目散に前方へ逃げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ココ達は慌てて空港を飛び出し、情報の通り8号幹線に乗ると……イブキを発見した。しかし、彼は今タクシーに乗って逃走を始めている。

 

機嬢(ジーニャン)、何で機関砲撃ったネ!!イブキ先生(シエンション)が死ぬヨ!!」

「ね、姉ちゃん!!でも92式装輪装甲車(WZ-551A)は100公里(キロ)でないネ!!逃がさないために撃つしかないヨ!!」

 

イブキが逃走している時、装甲戦闘車に乗り込むココ姉妹達のうちの三女:猛娘(メイメイ)と四女:機嬢(ジーニャン)は口喧嘩をしていた。

 喧嘩の原因は『装甲戦闘車の機関砲(主砲)の発砲』。

 猛娘(メイメイ)の言い分としては……戦闘許可が出たと言っても、あくまでも命令は『イブキの追跡。できれば身柄確保』。いくら‘‘不死身’’と言われるイブキでも機関砲の砲弾に当たれば死んでしまうだろう。さすがに機関砲(主砲)は威力過多である。

 とはいえ、主砲を発砲した機娘(ジーニャン)の考えにも一理ある。彼女達が乗っている装輪装甲車の最高時速は90キロ弱、無理をしても100キロは越えない。そんな低速車輛でイブキを追うには……イブキの移動手段(タクシー)を即座に破壊するのが手っ取り早い。そのため威力不足の機関銃ではなく、機関砲を使用したのだ(‘‘機関砲ぐらいでイブキは死なない’’とも思っているが)

 

『……おい、ココ。聞こえてるか?今九龍から8号幹線に乗ってそちらへ向かっている。順調にいけばイブキ()を挟み撃ちにできる。……それとお前ら、幹線に大穴空けたらしいな。』

 

二人が口喧嘩から喧嘩に発展しようとした瞬間、司馬鵬(老け顔)から通信が入った。司馬鵬(老け顔)は怒りを押さえつけるように声を震わせながら言っている。

 

『今はすごく忙しいのに仕事増やすなよ。隠蔽するのはココ姉妹(お前達)じゃなくて俺なんだぞ?』

「それが(お前)の仕事ヨ!!愚痴に付き合っている暇はないネ!!」

 

機娘(ジーニャン)はすぐに口喧嘩をやめ、司馬鵬(老け顔)へ挑発するように言った。

 

「さすが機娘(ジーニャン)!!」

「よく言ったネ!!」

「もっと言うネ!!」

 

他のココ姉妹(姉たち)は啖呵を切った機娘(ジーニャン)を褒めたたえる。

 

 

 司馬鵬(老け顔)とココ姉妹の仲は比較的に良い。両方は同期であり年が近く、互いにその実力を認め合っている。

 だが司馬鵬(老け顔)はホワイトカラーで事務労働がメインであり、ココ姉妹はブルーカラーで現場作業がメインである。そのため、仕事上では二人(?)はぶつかることが多いのだ。

 

 

 そんな事もあり、司馬鵬(老け顔)機娘(ジーニャン)は挑発し、他のココ姉妹(姉たち)は騒ぎ立てたのだが……最近急激に増えた仕事によるストレスで余裕がない司馬鵬(老け顔)はその言葉を聞き、頭にきた。

 

『確かに隠蔽工作は俺の仕事だが…… ‘‘幹線道路に大穴を開けろ’’なんて命令は出してない。道路の補修費、ココ姉妹(お前ら)に請求するからな……!!』

 

ココ姉妹達は慌てて弁明をするがもう遅い。司馬鵬(老け顔)はそう言い放つとすぐに通信を切ったからだ。

 ココ姉妹達も弁明が無駄だと分かり、装輪装甲車の車内がお通夜の様に静かになった。

 

 

 

 

「姉ちゃん、タイヤを狙撃できないカ?」

 

ココ姉妹の次女:炮娘(パオニャン)が空気を破り、ポツリと言った。

 

「イブキ先生(シエンション)に手を上げるのは……」

「姉ちゃん!!手を上げたなら、お仕置きをされるはずね!!」

「……機娘(ジーニャン)、そこを退くヨロシ。没有子弹了(弾の残りが無い)、しっかり狙うヨ」

 

長女:狙姉(ジュジュ)は一瞬断ったが……四女:機娘(ジーニャン)の言葉を聞いて雰囲気が変わった。もう一人の変態(三女:猛娘(メイメイ))が不服を(とな)えているが、全員無視している。

 

「「……ハァ」」

 

次女:炮娘(パオニャン)と四女:機娘(ジーニャン)は……ある意味ブレない変態二人(長女:狙姉(ジュジュ)と三女:猛娘(メイメイ))に思わずため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ココ達の装輪装甲車に追われつつ、俺が運転するタクシーは橋を越えて青衣島(チンイとう)に上陸した。この島には沢山のコンテナ船や油槽船(タンカー)埠頭(ふとう)に泊まっており、沢山のコンテナや石油貯蔵タンクが置かれている。

 

『300メートル先、右折です』

「了解だよチクショウ!!」

 

なんとか起動させたスマホのナビによる案内の元、俺はココ達に追われながら環球貿易広場(ICC)へ向かっていた。

 しかし、このままではジリ貧であるのは確実だ。俺が今通っている8号幹線は高架橋にあり、基本的に一方通行である。そのために長い間この道を通っていれば、他の藍幇(ランパン)戦闘員が先回りをするだろう。

 

 ……クソッ!!九龍半島や香港島の地理はある程度頭に叩き込んでおいたが……青衣島(ここ)や8号幹線周辺の細かい地理は分からねぇぞ!?

 

『5キロ以上道なりです』

「分かってるよクソッタレ!!」

 

なので俺はナビに従って移動するほかなかった。

 

 ……ただ、向こうは何故か機関砲を撃ってこない事と、少しずつではあるが距離を離しているのが救いだな。

 

 そしてこの青衣島(チンイとう)を抜け、橋を一つ渡れば九龍半島。

 九龍半島であれば、ある程度の道路を覚えているためココ達から逃げきることができるかもしれない。また、環球貿易広場(ICC)も九龍半島にあるため、『COMPOTO』や『バスカービル』からの援護を受けられる可能性が高い。

 

  ダダダダダダダダダ……パリン!!べキッ!!

 

その時装甲車からの機銃が当たり、タクシーのフロントガラスにひびが入り、ドアミラーが吹っ飛んだ。

 

 ……クソッ!!とにかく九龍半島だ!!そこにつけば何とかなるはずだ!!

 

俺の目の前に九龍半島への巨大な橋が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその巨大な橋:昂船洲大橋(ストーンカッターズ橋)を通っていた。周囲は大量のコンテナとガントリークレーンが並んでいる。ここらも巨大な埠頭(ふとう)らしい。

 

 ……と、とりあえずここまでくれば大丈夫なはずぅううう!!!

 

俺は慌てた。目の前に新たな装甲車が数両、道を塞いでいたからだ。装甲車の近くには対戦車ロケットを構えた歩兵(?)も数人いる。

 

『あ~、テステス』

 

前方の装甲車の一つに、拡声器につなげたマイクを持った司馬鵬(老け顔)が立っていた。

 

『村田維吹大尉、今あなたは包囲されています。また、諸葛静幻先生があなたと話がしたいと(おっしゃ)られています。武装を解除し、投降してください。』

 

司馬鵬(老け顔)流暢(りゅうちょう)な日本語で俺に投降を呼び掛けてきた。もちろん、俺は投降に応じる気は全くない。

 とは言え、前方は数量の装甲車に対戦車ロケット・司馬鵬(老け顔)、後方は装輪装甲車1両とココ姉妹。まさに‘‘前門の虎後門の狼’’の状態だ。

 

 ……前方の『司馬鵬(老け顔)と仲間達』よりは後方の『ココ姉妹』の方がこの包囲を抜ける確率は高いはずだ。

 

そこで、俺はタクシーを180度旋回させ、ココ達の方へ向かおうとした。その時……

 

 

  タァン……バァン!!ギャリギャリギャリ……!!

 

発砲音が聞こえ、タイヤの破裂音も聞こえた。俺は慌ててハンドルを操作するが、車を制御できない。

 

 ……一発!?という事は狙撃か!?

 

前方の司馬鵬(老け顔)側で発砲炎を見ていないから……おそらく後方のココ、それも狙撃専門の長女:狙姉(ジュジュ)がやったのだろう。または、近くに潜んでいた狙撃兵と言う可能性もあるが……

 

 ……や、ヤバい!!このままだと……

 

  バキッ!!

 

「うわぁあああああ!?」

 

俺から制御を離れたタクシーは柵に激突して乗り越え、そのまま海面へ‘‘高飛び込み’’を決めた。もしこの時、‘‘高飛び込み’’の採点者がいれば最低点一歩手前の点数をつけただろう。

 

 

 

 

 

『……クソッ。ココ、何しやがる!!このまま後方へ進めば捕まえられたはずなのに!!』

 

何か司馬鵬(老け顔)が叫んでいるが……それを聞き取る間もなく海面へ激突し、衝撃が体に伝わる。

 その後、車のフロントガラス(前方の窓)リアガラス(後方の窓)が銃撃によって割れているため、車内へ海水が大量に溢れ出てきた。

 

 ……ヤバい!!このままだとこの車から脱出できないぞ!?

 

 俺は急いでシートベルトを外した後、ドアを開けようとするが……水圧のせいでドアを開けることができない。

 

 ……お、落ち着け!!水圧のせいでドアが開かないだけだ!!外と車内の水面が一致すれば普通に開ける事ができるはずだ!!

 

 俺は一回深呼吸し、己を落ち着かせる。

 車内の推移はさらに上昇し、すでに水面は顎上(あごうえ)まで迫っていた。

 

 ……水没すれば圧力差は0になってドアが簡単に開けられるはずだ。だから落ち着け……

 

 海水の流量が多いせいで、顎上(あごうえ)だった水面はすぐに天井下10センチ以下にまで上昇する。俺は車内に残るわずかな空気をなるべく多く肺にいれ、潜水してドアを開く。

 そして橋の上から照らされるライトから逃れつつ、潜水のままこの場を離れようと……

 

 ……おっと、帽子帽子。

 

黒のソフト帽が俺から離れ、フヨフヨと何処へ行くところだった。俺はそのソフト帽を捕まえて被り、潜ってこの場から逃げていった。

 

 ……スーツケースとリュックは持っていけないな。だが、貴重品は身に着けていたから何とかなるk……あれ?俺のスマホって海水は大丈夫なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「プハッ!!ゼー……ゼー……」

 

俺はやっと海面に這い出た。近くには小型のコンテナ船があり、橋の方からは死角になる場所だ。

 俺はそのコンテナ船から、昂船洲大橋(ストーンカッターズ橋)の方を覗き見ると……多数のサーチライトを海面に照らしている。おそらく俺を探しているのだろう。

 

 ……とりあえず環球貿易広場(ICC)へ向かおう。確か……あっちのはず。

 

俺は(かろ)うじて見える北極星と月を頼りに、環球貿易広場(ICC)へ泳ぎ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イブキが昂船洲大橋(ストーンカッターズ橋)から落ちる数十分前、環球貿易広場(ICC)のバー:O●oneの個室で待機していた『COMPOTO』とアリアのもとに、船上パーティーの招待状が届いていた。

 その招待状の送り主は‘‘Ricky Tan(リッキー・タン)’’と書かれていた。

 

Ricky Tan(リッキー・タン)は元刑事。今は最近力をつけてきた香港の新興マフィアのボスよ」

 

Ozo●eと言うバーは『地上から490m高い場所にあるバー』という事もあり、『100万ドルの夜景』と同様かそれ以上に内装も洒落(しゃれ)た作りとなっている。そんな中でアリアは‘‘ももまん’’を齧りながら説明した。

 

「香港のマフィアですか。藍幇(ランパン)とはどういう関係ですか?」

 

ビキニに限りなく近い白のロングドレスを着たニトは中国のビールを傾けながら尋ねた。

 

「あんまり良くはないかなぁ。でも今は藍幇(ランパン)極東戦役(FEW)に、Ricky Tan(リッキー・タン)澳門(マカオ)に進出途中、だからお互いに牽制し合って冷戦中だよ」

 

深紅のチャイナドレスを着た理子はそう言った後、カクテル:チャイナブルーの入ったロンググラスに口をつけた。

 

「‘‘(ランパン)’’の敵……という事ですか」

「ですが……リサ達が関わりを持って良いのでしょうか。」

 

西陣織の様な見事な着物を着た牛若の言葉に、バーでも違和感がない改造エプロンドレスを着たリサが疑問を口にした。

 『敵の敵は味方』という言葉はある。だが、武偵や軍人の集まりである『COMPOTO』や『バスカービル』がRicky Tan(マフィアのボス)と関係を持てば、後々悪影響が出る可能性がある。その事をリサは心配していた。

 

「えぇ、極東戦役(FEW)に参戦している『バスカービル(あたし達)』が行ったら問題になるわ。でも……参戦していない『COMPOTO(あんた達)』ならまだ何とかなる」

 

ももまんの欠片(かけら)を口元につけつつ、アリアはさらに言う。

 

Ricky Tan(リッキー・タン)の‘‘裏の顔’’はマフィアのボスだけど、‘‘表の顔’’は投資家よ。おそらく、船上パーティーには一般人も来ているわ。その一般人として接触すれば……」

「もうよい……余達が行こう。」

 

スカート前部が透けている特徴的なドレスを着たネロがアリアの言葉を遮った。

 

「……不遜(ふそん)にも余達を招待‘‘した’’のだ。そのRicky Tan(リッキー・タン)とやらの顔を見てやろう。……それに行ったほうが良いと余の勘も告げているのでな。」

「……いいんじゃないかな。」

 

ネロの言葉に、大正浪漫を感じる女袴を着たエルキドゥ(エル)は呼応した。

 ニトや牛若も首を縦に振り、その様子を見たリサはため息をついて覚悟を決めた。

 

「イブキが来たら伝えろ。……それと、疑いをかけられたときは(かば)えよ?」

 

理子は‘‘裏理子’’となり、アリアへ釘を刺した。『COMPOTO』が『バスカービル』の走狗(手先)とならないように……。

 

「それは誓うわ。ホームズ家として。」

 

アリアは無い……薄い胸を張って宣言した。

 

 

 

 

 

「ぷー、クスクス。口元にももまんつけて言われてもなぁ~!!」

「……」

 

アリアは無言で己の口元に手を当て……次第に顔を真っ赤にする。

 結果的にもアリアの手先になるのは嫌だったのだろう。理子は高笑いをして溜飲を下げ、●zoneを去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『COMPOTO』がO●oneを出たのと同時刻、香港警察のリー警部(高校生活夏休み編 ラッシュ〇ワー で登場)はRicky Tan(リッキー・タン)が船上パーティーを行う船の近くに到着した。

 彼は『在香港アメリカ総領事館での爆発事故』を捜査しており、Ricky Tan(リッキー・タン)が怪しいと(にら)んでいた。そしてその捜査の最中、偶然香港へ観光に来ていたアメリカ人の友人:カーターが爆殺されてしまった(と思っている)のだ。

 父を殺し、カーターをも殺したRicky Tan(リッキー・タン)への復讐心は膨れ上がる。しかし、リー警部はその復讐心を抑え込み、密かにその船に忍び込んだ。

 

 

 

 まだリー警部は知らない。カーターは爆殺されてなく、無傷であるという事を。そして独自にRicky Tan(リッキー・タン)を追い、カーターもこの船に潜入しているという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昂船洲大橋(ストーンカッターズ橋)から俺は3~4キロほど海で着衣泳をしていた。

 湾内という事もあり海流の影響はなく、穏やかな波であった。そのため俺は予想以上に体力の消費は無く、1時間も経たずに環球貿易広場(ICC)が目の前に迫っていた。

 

 ……あと少しだな。ちゃっちゃと泳ぐか。

 

俺は小休止を終え、そう思いながら再び泳ぎ始める。

 その時、数百メートル先に派手な電飾が(ほどこ)された豪華なクルーザーが横断していた。

 

「(広東語)お、おい!!あそこで誰か溺れてるぞ!?」

「(広東語)ほ、本当だ!!おい、急いでボートを出せ!!早く助けるんだ!!」

 

そのクルーザーから何か聞こえるが……特に気にしなくてもいいだろう。

 

 

 

 俺はそのクルーザーを無視して泳いでいると……小さなボートが近寄ってきた。

 

「(広東語)お~い!!大丈夫かぁ~!!」

「(広東語)今助けるぞ~!!」

 

ボートに乗っている男二人は俺に向かって手を振り、声を上げる。

 俺は藍幇(ランパン)の手先だと思い、身構えた。……が、彼らは本当に心配している様で、その表情や声に演技を全く感じられない。

 

 ……泳ぐよりはボートの方が楽だしな。襲ってきたらボートを奪うなり、再び泳ぐなりすればいいか。

 

俺の目の前にボートはが来た。彼らは早口の広東語で大声を上げながら俺をボートへ引き上げた。

 俺は特に抵抗せず、彼らの早口の言葉を聞き取ると……本当に心配しているだけらしい。

 

「(広東語)ありがとう。酔って、落ちた。」

 

俺は(つたな)い広東語で感謝を伝えつつ、適当な嘘をついて素性がバレないようにする。すると助けてくれた男二人はため息をついた後、『(意訳)心配かけるなよ』などいって俺の背中を叩いてきた。

 そして俺を乗せたボートは絢爛豪華(けんらんごうか)なクルーザーに向かって移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 そのクルーザーのクレーンで俺らが乗るボートが吊り上げられた。そしてこのボートを収容する。

 

「(広東語)おい!!大丈夫か!?」

「(広東語)酔って落ちたんだってよ!!」

「(広東語)……ったく、心配かけさせるなよな。いまタオル持ってくるからよ!!」

「(広東語)タオルもそうだけど着替えだ!!このままだと風邪をひく!!」

「(広東語)俺達に支給してもらったスーツの予備があるはずだ!!今持ってくる!!」

「(広東語)ほら、お湯だ。温まるぞ!!」

 

彼らは船員だろうか?俺の周りで黒スーツの男達が集まり、何かしゃべっているが……あまりの早口で一部の単語を聞き取るので精いっぱいだ。

 

……とりあえず、『藍幇(ランパン)の手下で俺を捕まえに来た』ってわけじゃないだろうな。

 

そして男達はお湯の入ったコップ、そしてタオルや着替えを渡し、一室に俺を叩きこんだ。

 彼らの言葉から察するに、『風になる前に着替えろ』という事だろう。

 

 

 

 

 俺は濡れた衣服を脱ぎ、貰った衣服に着替える。

 

 ……この服、俺が来ていた服より高価だぞ!?

 

そう思いながら袖に腕を通す。そして濡れたソフト帽を振って水気を落とし、顔を隠すために再び被る。

 

 ……帽子に海水はダメだろうし、また新しく買うしかないかなぁ。気に入ってたんだが。

 

俺はため息をつきながら……最後に財布や重要書類の入った袋を身に着け、この部屋をでた。鍵はかけていないようで、すんなりと扉は開く。

 

「(広東語)もう心配かけるんじゃねぇぞ。その服はやるから。貴重品は忘れるなよ?」

 

見張り(?)役だったのだろうか。扉の近くでは男一人が立っていた。

 その男が俺に向かって早口で喋ってくる。俺は何とかその男がしゃべっている単語を聞き取り……

 

 ……とりあえず、金を払う心配はいらないようだな。

 

善意のみで彼らは助けたらしい。俺はお礼を言おうとした時……急に背後から殺気を感じた。俺はしゃがみ、でんぐり返しの要領でその場から一時的に離れる。

 そして振り返ると……蹴りを放つリー警部がいた。

 

 ……ちょっと待て!!何でここにリーさんが!?

 

俺はブリッジをしてその蹴りを避け、そのまま逆立ちをする様に蹴りを放ち、追撃を打ち落とす。

 俺はチラッと視線をやると……見張っていた(?)男は浮き輪で拘束され、気絶しているようだ。

 

 ……とにかく、なんだか分からないがこの誤解を解かないと…‥

 

「(英語)リーさん!!俺、俺です!!ムラタです!!」

 

俺はリーさんのカンフー特有の拳や蹴りを何とかさばきながら、攻撃を止める様に説得をする。

 

 

 

 

「(英語)え?……なんで君がここに?」

 

やっとリーさんは気が付いたようだが……急に拳や蹴りは止まれない。

 俺は足を(すく)われ、体勢を崩したところに拳が飛んできた。その拳のエネルギーを受け、俺は床に叩きつけられた。

 

「(英語)ゴフッ……。それは俺のセリフですよ。……香港(ここ)で強制海水浴してたら助けて貰ったんです。」

 

俺は息を整えながら伝えると……リーさんは呆れた表情をした。

 

「(英語)今の時期に海水浴って……と、とにかく」

 

リーさんは俺から目を離し、浮き輪で拘束されて気絶している男を叩き起こした。

 

「(広東語)リッキー・タンは何処にいる!!!」

 

そしてリーさんは鬼気迫る顔でそう言い、浮き輪ごとその男を揺らす。

 

 ……え?『リッキー・タン』?だれ、そいつ?

 

俺はその雰囲気にのまれ、固まってしまった。

 

 

 

 

 

  カツカツ……カツカツ……

 

「(広東語)奴が相棒(カーター)を殺したんだ……どこにいる!!」

「(広東語)し、知らねぇよ……」

 

リーさんはその男を何度も壁に叩きつけ、尋問するが……男はボロボロになってもしゃべるつもりはないらしい。

 

  ……え?ちょっと待って!?カーターってあのカーターさん!?殺されたの!?

 

俺が驚いていると……近くから気配を感じた。俺はその方向へ向くと……

 

「(英語)おい、リー!!何してるんだ!?……って‘‘ムラタ(スシ坊)’’!!なんでここに!?」

「リー警部!?イブキ様!?なぜここにいらっしゃるのですか!?」

環球貿易広場(ICC)へ向かうと聞いていましたが……アリアから聞いてこちらに来たのですか?」

 

近くの階段からカーターさん、リサ・ニトがこの甲板へ降りてきたようだ。3人は俺やリーさんの存在を確認し、目を見開いている。

 

 ……カーターさんは中国風の衣服、リサは改造エプロンドレス、ニトはビキニに近い白のドレスか。へぇ~、似合ってるじゃないの。

 

俺は衝撃的な情報量のあまりの多さに、軽く現実逃避をし始める。

 

「(英語)カーター!!殺されたんじゃなかったのか!?」

 

リーさんは浮き輪ごと男を叩きつけながら、英語で叫ぶようにカーターさんへ言った。

 

「(英語)死んだ!?誰が死んだんだ!?」←カーター

「(英語)(きみ)だ!!」←リー

「(英語)きみ?……‘‘キミ’’ってやつが死んだのか!?」←カーター

「(英語)違う!!……あぁ~!!頼むから話を複雑にしないでくれよ!!」←リー

「(英語) それはこっちのセリフだ!!どいつもこいつもよくわからない事言って……!?」←カーター

 

 

 

 

 

リーさんとカーターさんが軽口を叩き合っている時……黒スーツを着た男達十数人が来て俺達を囲んでいた。一部には俺を救助したり、衣服やタオルを渡してくれた人たちもいる。

 そして俺は、彼らから多少なりとも殺気を感じた。

 

 ……こ、この場、抜けられるか?

 

俺は冷汗をかいていた。

 この場には俺にリーさん・カーターさん、そしてリサとニトがいる。俺とリーさんは近接戦闘系、カーターさんも一応近接戦闘はできる。しかし、リサとニト……特にリサは後方支援特化であるため、近接戦闘は期待できない。確実に二人は足を引っ張るだろう。

 リサ・ニト(二人)を守りつつ、こんな狭い船上の廊下での戦闘は……とてもじゃないが難しい。

 

 ……クソッ!!覚悟を決めるしかないか!?助けてもらった恩を(あだ)で返す事になるが……ショウガナイ

 

俺は右手をスーツの中ポケット近くに置き、‘‘四次元倉庫’’を開いて日本刀を握る。いつでも抜刀できるように……

 

「(英語)ボスがお呼びだ!!ついてこい!!」

 

俺達を囲んでいた男の一人が一歩前出るとそう言い放った。

 どうやらここで俺達を始末するつもりはないらしい。

 

 ……ボス?リーさんが言っていた『リッキー・タン』の事か?だとすれば……俺には関係ないはず。なら……俺とリサとニトだけでもこの場から逃げよう

 

藍幇(ランパン)と事を構えている中、その他組織を構っている余裕はない。

 俺は逃げるため、リーさん・カーターさんを‘‘捨て駒’’とすることにした。

 

「(英語)助けていただきありがとうございました。本来はお礼を言いたいところなのですが、急用がある御様子。ここらで失礼させていただきます。お嬢さん方、こんなところにいちゃいかんよ。」

 

俺はあたかも‘‘この場に関係ない観光客’’として振る舞う。そしてリサとニトの手を取って指で『逃げるぞ』とモールスで伝え、この包囲を突破しようと……

 

  カチャカチャカチャ!!

 

包囲していた男達全員は腰から銃を抜き、俺に突きつけてきた。どうやら‘‘ボス’’とやらは俺にも会いたいようだ。

 

 ……クソッ。俺一人ならともかく、リサとニトを守りながらはキツイぞ?

 

俺・リサ・ニトは突破を諦め、両手を上げて反抗の意が無い事を示す。

 濡れた帽子から水滴が流れ出たのだろうか、俺の頭から生温(なまあたた)かい水滴が(したた)り落ちる。

 

「(英語)もちろん『COMPOTO』のお前も、そこの女達もだ。」

 

俺達を包囲する黒スーツの男の一人がそう言った。

 俺とニトはため息をつきながら、リサは怯えながら包囲の中央へ戻る。リーさん・カーターさんの視線が鋭く突き刺さり、痛い。

 

 ……ココ達と司馬鵬(しばほう)から逃げて、今度は‘‘リッキー・タン(?)’’に捕まるか。俺、まだ香港に着いて3時間も経ってないんだけどなぁ。

 

俺は思わずため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「(英語)おいおい!!自分だけ逃げようってか!?薄情な奴だな!!」←カーター

「(英語)確かに君は無関係だが……日本人は‘‘義理と人情’’を大切にするんだろう!?」←リー

「(英語)こっちはこっちで藍幇(獲物)がいるんです!!他の組織に構っている余裕はありませんよ!!それに二人なら何とかなるでしょ!?」←イブキ

「とにかく、この場を何とかしなければなりませんね」←ニト

「リサ達はどうなってしまうのでしょうか……」←リサ

 

「(英語)話してないでさっさとついて来いよ!!」←黒スーツの男

 

 

 




 環球貿易広場(ICC)は……要はでっかいビルです。
 日本では『世界貿易センタービル』、アメリカでは『ワールド・トレード・センター』の香港版です。

 海外ではスリは多いです。皆さんも注意しましょう。
 特に日本人は金持ち&警戒していないと思われているそうで、絶好のカモだそうです。


 英霊組の衣装は……
 ネロ……赤セイバーの初期
 ニト(ニトクリス)……水着Verの第3段階に薄い布を羽織った姿
 牛若(牛若丸)……英霊正装Ver
 

 ラッシュアワー2要素が含みます。まぁ、メインは藍幇戦ですが。



 Next Ibuki's HINT!! 「ホテルの客室」


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