この幸薄い聖杯少女に祝福を! (影使い)
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1話

私ことイリヤスフィール・フォン・アインツベルン、愛称イリヤには前世の記憶と言う物がある。

前世の私は何処にでもいる普通の日本人だった。だけど、ブラック企業の激務に耐えきれず過労が限界を迎え社内で倒れてしまったのだ。

その後、気が付いたら私はイリヤスフィールとして再びこの世に生を受けたのだが……周りの情報を集めていくと信じがたい事実を知ってしまった。

私が生まれたアインツベルン家は表向きはドイツの古い貴族だが、実際は外界から隔絶された古い魔術師の家系だったんだ。

この時点でヤバめのフラグが乱立しているのだが神様は余程私が嫌いらしい。

更なる爆弾として私や母親であるアイリスフィール・フォン・アインツベルンは全ての始まりである根源に辿り着くための大規模な魔術儀式、聖杯戦争に必要不可欠な魔術礼装である聖杯その物だった。

聖杯戦争で聖杯が完成すると同時に私達母娘は人としての機能を失い、人として死ぬ。そんな定めを産まれながらに持っていたのだ。

 

 

 

 

 

8歳になった頃、とうとう聖杯戦争が始まる前兆が現れてしまった。

そして、私の父親である魔術師殺しの異名を持つ衛宮切嗣が己の願いを成就するために聖杯戦争に挑んだ。

しかし結果はアイリお母様は帰ってこれず、切嗣(お父さん)はアインツベルンを裏切ったとされ追放されてしまった。

 

 

 

 

そして……お母様が死に切嗣(お父さん)が追放されてから10年が経ち、私の死刑宣告に等しい聖杯戦争が始まる前兆が始まった。

反抗する術の無かった私はバーサーカーを召喚するまではアインツベルンに服従するしかなかった。

だが、バーサーカーを召喚しバーサーカーと心を通わせた時に私はアインツベルンに反抗する手立てを獲たのだ。そしてバーサーカーに頼んでアインツベルンを壊滅させたのだ。

その後、聖杯戦争の舞台である冬木市に入って直ぐに切嗣(お父さん)が買った日本家屋に訪ねてみると切嗣がこの地で死んだことを知り、冬木で切嗣(お父さん)が引き取ったと言う義理の弟、士郎と出会ったんだ。

切嗣(お父さん)が教えたのか士郎は未熟ながらも魔術師だった。

それが災いしマスターに選ばれてしまう。

義理とは言えこの世でたった一人しかいない家族である士郎を私は死なせたくなかった。

だから、士郎の成長を妨げない様に注意しながらもセイバー陣営(士郎達)が有利になるように介入して聖杯戦争を終結させた。

しかし、そこから1年と数ヶ月が経ったころ事態は急変し、私にとって最悪の物になってしまった。

聖杯その物()の知り得ない8体目の謎の黄金のサーヴァントが襲撃してきたのだ。

 

 

 

「ふははははは!!理性があった貴様なら兎も角、狂った獣に堕ちた貴様程度がこの(オレ)、英雄王ギルガメッシュに勝てると思うなよ!」

「■■■■■■っ!!!」

 

 

 

 

黄金のサーヴァントの言葉が確かならあのサーヴァントは英雄王ギルガメッシュ。

バビロニアの暴君にして人類史最古の王のはずだ。彼はこの世すべての財を手にしたとされている。それを象徴するかの様に様々な宝具がバーサーカーを襲う。

無論、バーサーカーが迎撃に向かうが相性が最悪な上に私の未熟さのせいで十二の試練(ゴットハンド)の命のストックが少ないバーサーカーが徐々に劣勢になっていく。

 

 

 

 

「バーサーカー……」

 

 

 

 

目の前で繰り広げられる大英雄ヘラクレスと英雄王ギルガメッシュの神話にも匹敵する戦いに私はただ祈ることしか出来なかった。

しかし、私の祈りは通じずバーサーカーは徐々に命のストックを減らしていく。

そして命の残高が残り一つになった途端、バーサーカーは守りを捨てた。ギルガメッシュに道連れだと言わんばかりに捨て身の一撃を放つ。

 

 

 

「ふっ、残念だったな。バーサーカー。貴様程の神性持ちなら天の鎖(エルキドゥ)の拘束力を破る事など出来まいよ」

 

 

 

ギルガメッシュの言葉が正しいのなら天の鎖(エルキドゥ)の名を持つ鎖は神性が高いほど硬度が増し拘束力が強くなる物なのだろう。半神のバーサーカーの天敵とも言える物のはずだ。

一撃が当たる寸前で拘束されたバーサーカーは無数の宝具に身体を貫かれ止めを差されてしまう。

 

 

 

 

「あぁ……バーサーカー……」

 

 

 

私みたいな未熟な魔術師を守ってきてくれたバーサーカーが消えていく。

何とも言えない喪失感と同時に目の前に迫ってきている死への恐怖で私はその場に崩れ落ちてしまう。

 

 

 

「ふんっ、現代の魔術師も芸がないものだな。前回と同じく聖杯に人格を持たせ、あまつさえもマスターにしたてあげるとはな」

「ひっ」

 

 

 

 

思わず悲鳴が漏れてしまう。

目の前に居るのは一度はこの世全てを手にいれた最古の王、ギルガメッシュなのだから。

この英霊には何をしても勝てはしないと言う考えが頭の中に自然に浮かんでしまうのだ。

 

 

 

「ではな、人形。せめてもの情けだ。一瞬で逝かせてやろう」

「がふっ……」

 

 

 

 

グチャッと言う水っぽい音が聞こえると共に胸が突き破られる感触がした。

そして、私の心臓……聖杯を掴み一気に抜き取られる感覚と共に私の意識はそこで途絶えた。

 

 

=========

 

 

気が付くと私は見覚えが全く無い場所に居た。

そして、私の目の前には人の事は言えないが造られた様に整った容姿を持つ少女が椅子に座っていた。

 

 

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンさん。ようこそ、死後の世界に。貴女はつい先程、亡くなってしまいました」

「あっ……そっか……私は……」

 

 

 

全服の信頼を置いていたバーサーカーがあっさりと殺され、ギルガメッシュ(私にとっての死の象徴)が近付いてくる光景。心臓がえぐり抜かれるあの感覚……。

ついさっきの光景、感覚が脳裏を過り膝が震え立てなくなり崩れ落ちる。そして、恐怖で全身が震える。

 

 

 

「あっ……いやっ……」

 

 

 

うずくまり震えているとふと頭を優しく撫でられる感触がした。震える身体を起こすと優しく抱き締められる。

 

 

 

「大丈夫ですよ……。ここには貴女を害する存在は居ません」

 

 

 

まるで母親の様に優しい声色で少女は私に言い聞かせるように語りかけてくれる。

そして、暫くの間この状態で居ると落ち着きを取り戻す。

 

 

 

「えっと……取り乱してしまってスミマセン……」

「いえいえ。貴女の最後が最後ですから恐怖する事は仕方がありません」

「はい……」

「さて、改めて話を始めましょうか。私の名は幸福の女神エリスと申します」

 

 

 

そう自己紹介してきた少女……もとい女神であると言うエリス様。

慈愛と神々しさが相まって目の前にいる少女は女神様だと言うことが本能的に理解できてしまう。

 

 

 

「女神って本当にいるんですね……」

 

 

 

私は直ぐ側にバーサーカー(ヘラクレス)と言う立派な神様が居たのにも関わらずエリス様に思ったことを素直に言っていた。

 

 

 

いや、理屈では神は実在することは知っていたが、バーサーカーは写し身に過ぎなかった。

だからなのか地上か目の前に居ると考えると現実離れしてるなーと思ってしまう。

まぁ、バーサーカーも魔術師の私が見ても充分現実離れした存在だったけど……。

 

 

 

「ふふふ、そうですね。私の他にも何人もの女神や神が存在しますよ。さて、本題に入りましょう。イリヤスフィールさん。

私はあるお方に対する依頼の報酬……願いを叶える為に貴女をこの場に呼びました」

 

 

 

 

その言葉で私は困惑する。何せ、私の周りで目の前に居る本物の女神様とはまるで縁がないのだ。

私の回りにはバーサーカーと言う神代の大英雄以外神聖な存在と関わりなどないのだから……。

私にあったのは血に染まった魔術師の歴史とアインツベルンの呪縛しかなかったはずなのに。

 

 

 

 

「その方は貴女の義理の弟さん……エミヤシロウさんです」

「え……士郎が……?」

「はい……彼はイリヤさんが亡くなった十数年後、世界と契約し守護者となられました。そして現在は守護者として抑止力の一端としてアラヤに酷使されているんです」

「そんな……」

 

 

 

守護者(カウンターガーディアン)

簡単に言えば人類を存命させるための大いなる意識、アラヤが人類が滅びえる大災害や人災の際に関わったもの全てを破壊し殺すことでそこで起こった全てを抹消し、それ以上被害を拡大させない様にする世界のシステム。そして、それを実行するのが守護者(カウンターガーディアン)

何かを成すために世界と契約し、死後を受け渡した者達。

意思さえも奪われ目の前のもの全てを壊し尽くす彼らは世界の掃除屋とも呼ばれている存在である。

 

 

 

「ですが……彼は、エミヤさんはあるチャンスを掴みました。

私達、神は時たまとある世界に若くして亡くなられたあなた方の世界の方を転生させると言う形で送り出しています。

その代価は魔王討伐。

そして、勇者となるべく送られた若者には特典を与え異世界に送り出しています」

「……それと士郎がどう関係しているのですか?」

「それは私達が送り出した若者達と関係しています。

その中の少女がサーヴァント召喚の権利を授かり、異世界に向かいました。

そして召喚されたのは守護者となったエミヤさんだったのです」

「あの唐変木め……」

 

 

 

私は桜や凛と言った士郎に惚れていた少女達に囲まれた姿を思いだし、思わず額に手を当ててしまった。

 

 

 

「あははは……。そして、エミヤさんとそのマスターになった少女は幾多の歴戦を経て等々数代前の魔王を打ち倒しました。

その際に特例でエミヤさんの願いを叶える事になったのです。

その願いとは……貴女が幸せになることです。

ちなみにエミヤさんは少女の願いによって受肉し、その世界で再び生を受け、その生涯を彼女の伴侶として過ごしたんです」

「士郎、私のことそこまで思ってくれていたんだ」

「えぇ、彼は貴女の事をたった一人の大切な姉だと言っていましたよ」

 

 

 

エリス様から士郎の話を聞けて私は何とも言えない感情が込み上げてきた。

 

 

 

「さて、ここからが本題になります。

貴女はエミヤシロウさんの願いにより健全な身体を得て、転生してもらいます。

転生先はどこでも良いです。なんなら魔術なんて関係しない貴女のご家族と幸せに暮らせる世界でも構いません」

 

 

 

エリス様の提案は凄く魅力的だった。

脳裏に切嗣(お父さん)とお母様、士郎、セラとリズが一緒に生活している暖かな光景が浮かぶ。

決して手に入れることの無い何気ない生活。私が望んで止まなかった物。

でも、それを選んでしまうと私は絶対に後悔すると思うんだ。だって私の両親は死んでしまった二人だけなんだ

ら。

だったら私は……

 

 

 

「エリス様、私決めました。私は士郎が召喚された世界に行きます。

そこで私なりに幸せを見つけてみたいと思います」

 

 

 

私の言葉にエリス様がビックリしていたが次第に嬉しそうな表情に変わっていく。

 

 

 

「そうですか。ではイリヤスフィールさん。

あなたは私が管理し、エミヤさんが召喚された世界に転生することになります。

その際に、1つだけ特殊な武器や能力を授けます。まぁ、エミヤさんを召喚したような力ですね」

「成る程……では、エリス様。あなたのお勧めの特典をください。下手に選んだ物よりエリス様が選んだ物の方が確実だと思うので……」

「成る程……貴女の願いを受諾します。

では、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンさん。私は貴女にこちらをお勧めしたいと思います」

 

 

 

 

そして、エリス様が私に手渡してきたのは一枚の弓兵が描かれたカードだった。

だが、それはただのカードではなくとてつもなく複雑な魔術理論で構築された魔術礼装だったのだ。

 

 

 

「この複雑な魔術理論は……」

「これはクラスカード。

貴女の居た世界の平行世界で行われたイリヤさんには全く関係の無い聖杯戦争の参加資格だった物……の完全な複製品です。

そして、このカードは……いえ、野暮な真似は止めましょう。貴女ならばそれを使ったならば自ずと理解できるはずです」

「え、それって……」

「ふふふ、内緒ですよ?私が一人の転生者を贔屓にしているなんて?」

「あ、はい」

 

 

 

と、エリス様は素敵な笑みを浮かべながらそう言ってきた。ただし、目は全く笑ってない。

 

 

 

 

「では、イリヤさん!貴女はこれから再び生を受け、異世界に旅立ちます!願わくば貴女の行く末に祝福を!」

 

 

 

 

エリス様のその言葉の直ぐ後に私の足元に魔法陣が現れる。そしては魔法陣から発せられ光に包まれた。

 

 

======

 

 

私が目を開けるとそこはレンガ造りの建物が建ち並び現代的な建造物が一切無い中世のヨーロッパの様な町並みだった。

 

 

 

「ホントに……私は転生したんだ」

 

 

 

しかし、私はふとした違和感を覚えた。

身体のあちこちにガタ来ていて失明寸前だった右目の視界が戻り、常に痺れを訴えていた左足の痺れ、常に体を襲う倦怠感が無くなっていたのだ。私はすかさず近くにあったため池に自身を写し出す。

 

 

 

「うそ……目が本当に戻ってる……」

 

 

 

そこに写し出されたのは、濁りきり機能がほぼ失われた右目と常に血色が悪い青ざめた顔色ではなく瞳に光が戻った健康的な右目と血色の良くなった顔色をしている私だった。

 

 

 

「う、うぅぅ……」

 

 

 

 

私は思わず泣き出してしまう。だって今までずっと誤魔化してきた身体の不調の一切がスッキリと消えてなくなり死の恐怖に怯えなくていいのだから。

そして、暫くの間泣いた私は気分が落ち着いたので何事もなかった様にその場を後にする。

 

 

 

「……私はこの世界で自由に生きる。前の世界や前世の社畜の私の数倍は生きてやる……」

 

 

 

そう決意し、私は行動を開始するするための第一歩を歩みだした。




このイリヤ(偽)の一人称は一律して『私』で通します。原作イリヤとは素の時が『わたし』、マスターとして冷酷さをだして振る舞う時は『私』となっていますがイリヤ(偽)はぶっちゃけ裏表が無い性格をしているためです。


まぁ、それでもアインツベルン家を潰す時にユーブスタクハイト以下老害共をミンチにしても罪悪感が無かった点では魔術師の思考回路になっちゃってますけどね


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2話

アクセル。RPGのゲーム風に言うならば冒険者にとっての始まりの町に当たる町だ。

ここは魔王が君臨する魔王城から最も離れた町で周辺には初心者冒険者でも倒せれる様なレベルの敵しかいない町らしい。

そして、この世界に転生してきた日本人らしき人物達はそのほとんどが冒険者として登録するらしい。

色々と話を聞かせてくれたおじさん冒険者の話では冒険者のトップクラスはこちらの世界の人達からしたら変な名前で黒髪黒眼が多いらしいのでほぼ間違えないのかな。

 

 

 

 

「とりあえず……先達達に習って手っ取り早く地盤を固めるにはやっぱり冒険者になるしかないよね、うん」

 

 

 

 

とりあえず一文無しなこの状況を打破しなくてはならない。

まぁ、元の世界でも魔術師としては小聖杯の機能に頼りきりで半人前だったがそれでも戦闘能力は凛並みには有るつもりだし、どんな内容かは未だ判らないがエリス様から貰ったチートのクラスカードもある。

何とかなる……と思うよ……うん。イリヤは出来る子だもん……。

 

 

 

「あ、おばあちゃん。私、この街に来たばかりだからこの街の冒険者ギルドが何処にあるか解らないんです。できれば教えてほしいんですけど……」

「おやおや、可愛らしい娘さんだね。冒険者ギルドはねこの道を……」

 

 

 

とりあえず、迷わずギルドにたどり着ければ!

だ、大丈夫。

ここ冬木よりも圧倒的に田舎だし迷うことなんて無いんだからねっ!(※このイリヤは重度の方向音痴で冬木で何度も迷子になってます)

 

 

 

 

======

 

 

 

おばあちゃんにギルドまでの行き方通りに道を進んだ結果……私は迷った。(一番最初の曲がり角を曲がった時点で間違っている)

そして何故か、アクセルの正門に出てしまったのだ。既に夕暮れになっているので一刻も早く、ギルドにたどり着き稼がねば寝床を確保することも出来ないのだ。

 

 

 

「自分の不甲斐なさに泣きたい…」

 

 

 

思わず涙目になって地面に四つん這いになってしまった私。こればっかりは前世から引き継いだ欠点で私自身どうしようも無いのだ……。

前世ならスマホのナビアプリでフォロー出来たのだがこの世界は中世レベルの文化しかない。スマホなんて科学の結晶なんて物は無いのだ……。

 

 

 

 

「お、昼間のお嬢ちゃんじゃないか。どうしたんだ、こんなアクセルの外で?」

「おじさん……」

 

 

 

そんな私に声を掛けてくれたのは昼間、この世界の事を聞いた冒険者のおじさんだった。

 

 

 

 

「えっと……ギルドに行くはずが道に迷って……」

「お、おう……。しかし、嬢ちゃん、ギルドに行きたいって冒険者になりたいのか?」

「そうなんですよねー……。私、一文無しで……」

「すまない……なにやら重い事情が有るようだな……ま、まぁ、ギルド位なら俺が連れていってやるよ」

「ほんとに!ありがとう、おじさん!」

 

 

 

という訳でやって来ました、アクセルの冒険者ギルド。

と言うよりね……ここ私がこの世界に来たばかりの頃にいた場所の直ぐ側じゃん。

あはは……とんだ無駄足立ったわけだ。

 

 

 

「ほら、お嬢ちゃん。ここがアクセルのギルドさ。俺は晩飯食ってるから早く冒険者登録してきな」

「色々とありがとうね、おじさん」

 

 

 

私はおじさんに頭を下げて、感謝を言う。そして、受付嬢らしきお姉さんがいる場所に行こうとするとおじさんが呼び止めてきた。

 

 

 

「嬢ちゃん。ほらよ。1000エリスだ。見たところ、お嬢ちゃんは本当に一文無しなんだろ?冒険者登録は金が必要なのさ」

「おじさん……ありがとう……。でもどうして、赤の他人の私にそこまでしてくれるの?」

「あぁ、俺も駆け出しの頃は色んな先達に世話になったからな。

どうしても駆け出しのボウズや嬢ちゃん達を見ると世話を妬きたくなるんだよ。

なぁに嬢ちゃんが一人前の冒険者になったら駆け出しを同じ様に助けてくれるだけでいいさ」

 

 

 

 

そう言いながらおじさんはギルドの中に入っていく。私はおじさんに感謝しながら続いてギルドに入る。

そして、おじさんと別れギルドの受付嬢らしきお姉さんの元に行く。

 

 

 

「こんばんは。今日はどうされましたか?」

「冒険者の登録をお願いします」

「はい、わかりました。では。冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度理解しているとは思いますが、改めて簡単な説明を。

まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター討伐、雑務、力仕事等々を主な仕事にしています

いわば戦う何でも屋ですね。そして、冒険者には各職業というものがございます」

 

 

 

 

成る程。ゲームで言うところの魔法使いや戦士と言った物のようね。

そして、次にお姉さんは普通自動車の免許証位のカードを取り出しカウンターに置きこちらに差し出し、カードのある一覧を指差して説明をしてくれる。

そして、そのカードに書かれた見覚えのない言語を私は何故か読むことができた。恐らくエリス様がサービスしてくれたのだろう。とてもありがたいです。

 

 

 

 

「こちらに、レベルという項目があります。ご存知かと思いますが、この世のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めています。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺す事で、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値、と呼ばれるものです。それらは普通、目で見る事などはできません」

 

 

 

 

 

そこでお姉さんは一旦言葉を区切り、再びカードを示す。

 

 

 

 

「しかしこのカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます。それに応じ、レベルというものも同じく表示されるのです。これが冒険者の強さの目安になり、どれだけの討伐を行ったかもここに記録されます。また、経験値を貯めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗に言うレベルアップと呼ばれていますね。まあ要約すると、このレベルが上がると新スキルを覚えるためのポイント、ステータスの上昇様々な特典が与えられるので、是非頑張ってレベル上げをして下さい」

 

 

 

 

お姉さんの話を聞き、私が思った事はこの世界は正にゲームの様な世界だと言うことだ。前世の私はゲームが大好きで、趣味はネトゲやマンガだった。ゲーマーな前世を持つ私にとってこの世界はまさに夢の様な世界だ。

 

 

 

 

「では、まずはこちらに身長、年齢、身体的特徴等を記入してください」

 

 

 

お姉さんが渡してきた書類に必要事項を書いて行く。年齢18歳、身長133cm、体重34キロ、銀髪に紅眼と事実を記入しお姉さんに渡す。

年齢の18歳を見たお姉さんがえっ?って顔をしていたが私は全て事実しか書いてないのだ。そんな顔されてもね……。

私が合法ロリなのはアインツベルンのジジィ共老害が無茶な調整を繰り返したせいなんだ……。全うに成長していたらアイリお母様位の抜群のスタイルになっているはずだったのに……。

おのれ、アインツベルンの老害共。異世界でさえ私に危害を与えるのか……。

 

 

 

 

 

「は、はい。結構です。こほんっ。それでは、こちらのカードに触れてくださいね。それであなた方のステータスが分かります。その数値に応じてなりたい職業を選んでください。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでくださいね」

 

 

 

 

お姉さんに促されるまま私はカードに手を触れる。

 

 

 

 

「はい、ありがとうございます。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンさんですね……。えっ?!凄い!!筋力、生命力、敏捷性は普通の人並みですが魔力に器用度、知力が普通の人の5倍近い値なんて!!これならアークウィザードやその他の上級魔法職になら何だってなれますよ!!あと……名前とかも貴族ぽいのでもしかして貴族の方だったりしませんか……?」

「いいえ、違います。私は他国のそれも没落した貴族の末裔なだけです。だから、私はただの一般人です。

過去の栄光を忘れられないお祖父様にこんな仰々しい名前を付けられたんですよ……出来ればイリヤと呼んでください……」

 

 

 

やはり私は魔術師なので魔力その他諸々の魔法職に必要なステータスは通常よりも高かった。

あと、予想はしていたがやはり私の名前に突っ込んできた。

この中世の文化レベルしかない世界は恐らく貴族社会のはず。

そして、私は元の世界ではドイツの古い貴族。フルネームで《イリヤスフィール・フォン・アインツベルン》なんて仰々しい名前、貴族しかいないだろうしね。

だからweb小説御用達の設定、没落した元貴族と言う設定と事実をほんの少し使わせてもらった。これならばこんな仰々しい名前を持っている私を誰も怪しまないだろう。

 

 

 

 

事実の部分?過去の栄光を忘れられない祖父の部分だよ。簡単に言えばアインツベルンから失われた第三魔法を求めていたはずが聖杯を取得することに妄信的になったジジイだね。バーサーカーに文字通り八つ裂きにしてもらいましたけどねー。

 

 

 

 

 

「そうですか……。では、イリヤさんとお呼びしますね。それではイリヤさん、あなたは魔法職ならば上級職になれます。私たちは強制しませんが是非とも魔法職に成ってほしいです」

 

 

 

 

その言葉にちょっとドキッとした私がいた。ゲーマーしてた頃は私はレベルを上げて物理で殴るを地で行く近接戦闘職しか使わなかった。だから、ちょっと近接戦闘職も良いかなぁなんて思っていたが、今の私は小聖杯で魔術師なイリヤスフィール。これまでの経験上、私は魔法職になるのが最適なのだ。

 

 

 

「はぁ……我ながらバカね」

「はい?」

「あ、いやいやこっちの話です」

 

 

 

私は最後のアインツベルン。自分でアインツベルンを滅ぼした私だが一応第三魔法を再び手にしたいとは思っている。魔法職についていたらその内第三魔法も取得出来るチャンスが来るかもしれない

そして、お姉さんに手渡された職業の解説付きの一覧表を眺めて、自分に合った職を決めた。

 

 

 

「お姉さん、私はアークウィザードになろうと思います」

「はい!アークウィザードですね!では、アークウィザード……っと。冒険者ギルドにようこそ、イリヤ様!スタッフ一同今後の活躍に期待しています!」

 

 

 

そう、笑顔で送り出され私は晴れて冒険者になったのだった。

 

 

 

「あっ……今日どこで寝ればいいんだろう……」

 

 

 

そこで再びお姉さんの元に戻り、閉店までの間食堂の手伝いをすることで宿代を稼いだのだった……。



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3話

異世界に転生してきた一日が過ぎた。

私は朝早くに起きてギルドに赴き、お姉さんに紹介されたジャイアント・トード討伐の依頼を受ける。

これは三日間のうちに計五体のジャイアント・トードを討伐すれば依頼達成と言う依頼だ。

そして、その報酬は10万エリス。私が泊まっている宿に一週間宿で暮らせる額だ。

そして私は現在、依頼達成のためにアクセルの町から少しばかり離れた草原でジャイアント・トードを探していた。

 

 

 

 

「さてと……トードって言う位だから蛙のモンスターよねー……ってナニアレ?」

 

 

 

 

そんな事を呟いていたら近場の地面が盛り上がり……牛よりも大きい蛙がのっそりと這い出てきた。

 

 

 

「えー……ジャイアント・トードって言うぐらいだから大きい蛙ってのは想像してたけどこれは予想以上ねー……」

 

 

 

そして、ジャイアント・トードは獲物として私をロックオンしたのか、その巨体を普通の蛙の様にジャンプしながら私に向かってくる。

割りと怖いがギルガメッシュに感じた恐怖が凄すぎたのかこの程度じゃ怯むことはない。

 

 

 

「さてと……悪いけど私の生活の為に死んでもらうわね。《ファイヤーボール》!」

 

 

 

ジャイアント・トードに向けて手をかざし、呪文を唱える。すると、手から放たれた炎の塊が勢い良く空を駆け、ジャイアント・トードに当たる。

そして、当たった部分を焦がしながらジャイアント・トードを吹き飛ばす。

 

 

 

「ふーん……この世界のまじゅ……魔法も割りと使えるのね」

 

 

 

昨日のうちに私はこの世界の魔術……いえ魔法ね。

魔術師としては私の世界の魔法と同一視されるみたいであんまり使いたくないのだけど今の私は魔術師兼この世界の魔法使い。

豪に従えと言う言葉に従い魔法と言いましょうか。

昨晩はその魔法の使用に必要なスキル、上級魔法、中級魔法、初級魔法を取り、それでもスキルポイントが残ったので魔力上昇スキルや威力増加スキルなどをとっておいた。

 

 

 

 

そして、ジャイアント・トードの吹き飛ばした際の振動が地面に伝わり寝ていた他の個体が一斉に起きたらしく、10体ものジャイアント・トードが地面から這い出てきた。

 

 

 

 

「魔法の練習には丁度良いかな。さてと……。《インフェルノ》!《カースド・クリスタルプリズン》!!」

 

 

 

 

私が放った左右に放った2つの上級魔法はジャイアント・トードを焼き付くし、そして氷像へと変えた。

流石に上級魔法と呼ばれるほどあって膨大な魔力を持つ私でもかなりの魔力を持っていかれた。

まぁ、魔術回路を開いて生成しておけば一時間もすれば全快するので大した問題ではない。

 

 

 

 

「ふぅ……これで依頼事態は完遂できたけど、エリス様から貰った特典のこの礼装を試してみないと……」

 

 

 

 

私はエリス様に貰ったクラスカードを胸に抱き、魔術回路を開きクラスカードに魔力を流し込む。

すると、クラスカードが膨大な魔力が溢れだしてくる。その溢れた魔力はある模様を私を中心に描く。

 

 

 

「この陣は……」

 

 

 

私を中心に展開されたその模様。

それは私がサーヴァント召喚した際に使用した魔法陣に多少アレンジを加えた物だった。

 

 

 

「―――告げる。」

 

 

 

そして、何故か私は無意識のうちに口が動き始める。

 

 

 

「汝の身は我に!

汝の剣は我が手に!

 

聖杯のよるべに従い

この意この理に従うならば応えよ!

 

誓いを此処に!

 

我は常世総ての善と成る者!

我は常世総ての悪を敷く者――!

 

汝 三大の言霊を纏う七天!

抑止の輪より来たれ 天秤の守り手―――! 」

 

 

 

私の口が紡ぐのはサーヴァント召喚の呪文。

本来ならば無詠唱でも召喚できるが成功率や魔力の消費を抑えるためには必ず必要なのだ。

 

 

 

夢幻召喚(インストール)!! 」

 

 

 

 

もしかして、これはある特定の英霊を聖杯の補助なしで召喚出来るものかと推測していた。

だが、最後の一小節だけが本来の詠唱とは全く違う物だったし、私も初めて聞く物だった。

その後変化は如実に現れる。私は溢れだした魔力に包まれる。

そして、魔力が実体化していき私の姿はあの赤いアーチャーの格好を私に合うように仕立て直した様な格好になっていた。

まぁ、ヘソだしルックで、足もほぼ生足だと言うことを除いてだが。

 

 

 

そして、変化が終わると一気に私に記憶や感情が流れ込んでくる。

そして、私は直ぐ様この礼装の持つ力を理解した。

 

 

 

 

それはーーー自分自身の霊基を英霊の物に置換し、擬似的にサーヴァント化する。

文や言葉では簡単な事のように見えるが実際はほぼ不可能な技術だ。

 

 

 

 

そして、私はこのクラスカードに対応する英霊の正体に驚愕する。

その英霊は……エリス様に聞いた士郎の成れの果て、英霊エミヤだった。

未来の士郎の記憶、感情が流れ込みどうして士郎が英霊エミヤになったのかを知った私はやるせない気持ちになる。

 

 

 

 

「バカな士郎ね……別に切嗣(お父さん)の理想なんか捨てて幸せになれば良かったのに……。士郎は本当に……バカだよ……」

 

 

 

私はサーヴァント化した状態で泣いてしまった。だって、これじゃあ英霊エミヤになった士郎が余りにも報われない。

そして、しばらく泣き続けて感情に整理がつく。

 

 

 

 

「……ほんとっ、バカよ。

だけどね、私はそんな士郎が居たから今ここに居るのよ。

だからね、私は生きるよ。士郎の分も幸せになってやるんだから……。

英霊の座から見て、精精悔しがりなさい!」

 

 

 

 

と、聞こえるはずも無いのに私は空に向かって叫んでしまった。

 

 

=====

 

 

とある英霊の座。

そこは黄昏の剣の墓標の様に剣が突き刺さる丘に消えることの無い炎が燃え続け、空には巨大な歯車が空回りしている。

そんな空間にただ一人佇む男が居た。

ふと、その男はその表情を弛ませる。それはまるで年の離れた妹を見ている兄の様に。

 

 

「ははは、流石イリヤだ。さてと……仕事か……。オレも頑張らないとイリヤに笑われるな……」

 

 

 

そして男は眩い光に包まれ、無数に存在する平行世界の何処かに召喚されたのだった。

 

 

====

 

 

英霊の座に居る士郎に誓いを立てた私は英霊化を解いてアクセルの町に向かって歩き始める。

いくら私が上級職であるアークウィザードでもお金がないと暮らしていけないのだ。そして、今は大分脱線したが任務完遂したばかり。

つまり、本当に一文無しなのだ。

報告して報酬を貰うまでが仕事だと昨日のおじさんが言っていた。なので、報酬を受け取るべく私はアクセルへ急ぐ。

あとジャイアント・トードの死骸もとい氷像はギルドが回収してくれるらしい。

 

 

 

 

「早く帰ってまたなにか依頼を受注しなければ……っ?この魔力……」

 

 

 

アクセルになるべく急ぎながら戻っていると、近くで膨大な魔力が膨れ上がるのを感じる。

そして、次の瞬間大爆発がこれまた近くで起こった。

 

 

 

「えぇ……。なにあの物騒な魔法は……。威力だけなら宝具レベルじゃない……。気になるし行ってみますか。《夢幻召喚(インストール)》」

 

 

 

私は再び英霊化をする。今回は色々と過程をすっ飛ばせば貰った。

最初の英霊化を行使した時点で魔術理論は理解できた。ならば、あとは私の小聖杯の力で過程をすっ飛ばし、結果を導き出せば良いだけなのだ。

そして英霊化によって強化された身体能力で人の限界を超えた速度で移動し、現場が確認出来る高台に向かう。



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4話

「……ナニアノ状況……?」

 

 

 

思わず、片言になってしまった私は悪くないと思う。

私が高台である丘に着き、アーチャーとしての視力で現場を見る。

私が見たのは、クレーターの近くで茶髪の少年が無数のジャイアント・トードに必死の形相で斬りかかっている場面だった。

冒険者ならば日常茶飯事の光景な筈なのにカオスな空間にしていた要因があった。

なんと、そのうちの二匹のジャイアントトードの口から人の足が出ていたのだ………。恐らく油断していて喰われたのだろう……。

そして、一人を少年が助け出すがもう一人は完全に飲み込まれた。

しかも、そのジャイアントトードは地面に潜ろうとしていたのだ。

 

 

 

「えっと……やっぱり助けた方がいいよね……?」

 

 

 

あれで少年が間に合わず死なれたら私としても目覚めが悪いのだ。

私は黒弓を投影する。そして剣を投影、矢に変換してつがえた。

そして、弓が潜りかけているジャイアントトードの頭を貫く様に狙いを定め、射った。

そして、弓を消し少年達の元に向かう。

 

 

=====

 

 

やあ、俺は佐藤和真。元々は日本に住んでた引きこm……自宅警b……学生だった。

しかし、俺は外出先で余りにも情けない死に方をしてしまったんだ。詳しくは聞かないでくれ……。軽くトラウマなんだ……。

そして、二次創作で良くある女神に出会い転生すると言うテンプレを体験し今に至る。転生する際に特別な力や強力なアイテムを貰えるイベントに突入したがその女神……アクアが余りにも俺をバカにしてきたので俺はあいつを特典として選んだ。

 

 

 

無論、ムシャクシャしてやった。でも凄く後悔してる。

 

 

 

 

その時の俺はこう考えていた。女神なんだから女神ぱわぁーとやらで俺を楽させてくれると………。

だがそんな期待通りにはいかず、この世界に転生して2週間の間は金を資金を稼ぐために土木作業に従事していた。

俺とアクアは労働することの素晴らしさを感じていたが……ふと我に帰り俺は自分が何故この世界に来たのか思い出す。

 

 

 

 

そう、冒険をするためだ。

 

 

 

 

 

俺たちは次の日から行動を開始する。

必要最低限の装備を整え、俺たちはジャイアントトードの討伐依頼を受けたが……俺はアクアが駄女神だと言うことを知った。まぁ、この2周間で薄々は気が付いていたが……

ゲームで言うところの支援職(バッファー)であるにも関わらず前衛である俺には支援魔法を掛けず、ただ見てるだけ。

そして、挙げ句の果てには打撃が聞かないジャイアントトードにゴットブローだの叫びながら殴り掛かり捕食されてしまう。

まぁ、そのお陰で気が逸れたジャイアントトードの頭をカチ割って倒せたわけだが……これではいつか死ぬ。

なのでパーティーメンバーを募集したが……あの駄女神がまたやらかした。

なんと、胡散臭さ100%な募集の張り紙なうえに上級職だけ募集をしたのだ。

それでも、その募集でパーティーメンバーになりたいと言ってきてくれたアークウィザードが一人だけいた。

それが今まで優秀なアークウィザードを幾人も排出してきた紅魔族の少女、めぐみんだ。

俺はめぐみんが優秀なアークウィザードだと期待したさ。

そして、彼女は言っていた。自分の最強魔法を見せてやると。

てやると。

 

 

 

そして、俺たちパーティーは狩場に到着し現在めぐみんが最強魔法とやらを準備している。

あぁ……駄女神(アクア)?あいつなら来て早々に喰われたよ。大丈夫そうだから暫く放置してるけど。

 

 

 

 

「エクスプロージョンっっ!!!!!」

 

 

 

 

そして、彼女が放った魔法……爆裂魔法はジャイアントトードを跡形もなく消し飛ばし、巨大なクレーターを作っていた。めぐみんは電池が切れたようにその場に倒れ込む。

だが、その威力が強すぎて爆発の余波が休眠していた無数のジャイアントトードを起こしてしまったのか無数に地面から現れた。

 

 

 

 

「めぐみん!一旦離れて、距離を取ってから攻撃を……」

 

 

 

めぐみんにそう指示を飛ばす。が、しかし………

 

 

 

 

「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。

……要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません」

「えっ?」

 

 

 

なんとめぐみんの扱ったあの爆裂魔法とやらは1日一発限りらしい。

そして、間が悪い事にめぐみんの直ぐ近くにジャイアントトードが地面から這い出してきた。

 

 

 

 

「あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょ、助け……ひあっ……!」

「お前もかいっ!!」

 

 

 

 

そして、めぐみんも駄女神(アクア)と同様に捕食されてしまった。

昨日のアクアを捕食したカエルと同様にめぐみんが捕食されたジャイアントトードを倒し、めぐみんを救出する。

 

 

 

 

「くそっ!めぐみん大丈夫か!」

「あ、ありがとうございます……それにしても……カエルの中って温いんですね……」

「そんな無駄知識要らんわ……。めぐみんはここでカエルの死体に隠れてろ!俺はアクアを……ってアクアあああああ?!」

 

 

 

 

そして喰われていること事態忘れかけていたが、アクアが喰われたジャイアントトードの方を見てみると今まさに地面に潜ろうとしていた。

 

 

 

「しまった!アクア?!」

 

 

 

俺は急いでアクアを食ったジャイアントトードに近付き、アクアを助け出そうとした。だが、距離が開きすぎて俺の足では間に合いそうになかった。

 

 

 

「くそっ!間に合わね………えっ?」

 

 

 

そんな時ヒュンッと言う音を残し、目の前の空を何かが横切る。

そして、潜ろうとしていたジャイアントトードに着弾し、2mほど吹き飛ばした。

俺はそんな先程の爆裂魔法と同じく現実離れした光景に一瞬思考が止まってしまう。

だが、直ぐにここは異世界なんだから割りと何でもありかと思い直し、直ぐ様アクアの元に向かった。

 

 

 

「アクア!無事か!……よし、無事だな。その格好以外は」

 

 

 

 

アクアは気絶している状態でジャイアントトードの口からはみ出るように吐き出されていた。

まぁ、粘液でドロドロになってる以外は無事なようだ。

そして、俺は死んでいるジャイアントトードを観察して絶句する。なんと矢がジャイアントトードの脳天に深々と刺さっていたのだ。

 

 

 

「え、えぇぇ……。

あのデカいカエルを矢で吹き飛ばすって……それにしても……誰だか知らないけど助けてもらって良かった……。下手したらこいつ死んでたもんな……」

 

 

 

下手に突っ込んでいったとはいえ、この駄女神は死んでいたかもしれない。

そう思うと背筋が凍り付いてしまう。

 

 

 

「うわぁー……触れたくねぇ……げっ……やばっ」

 

 

 

アクアを背負い、めぐみんの元に向かおうとするがなんと俺達の元にジャイアントトードが向かって来ているのに気が付く。

 

 

 

ヤバい。

俺だけなら兎も角、背中で気を失っている駄女神(アクア)のせいで撃退が難しい。

が、その時俺を赤と白銀の影が追い越していく。何処からともなく双剣を取り出しジャイアントトードを一刀両断しあと、空中に無数の剣が現れた。

そして、その剣が一斉に射出されて近くに居たジャイアントトードを吹き飛ばした。

 

=====

 

 

私は英霊化、強化魔術により人間の限界を越えた身体能力を駆使して自動車以上の速度で移動している。

と言うのも、せっかく助けた青髪の女の子と黒髪の少年をジャイアントトードが今まさに捕食しようとしていたからだ。

 

 

 

少年たちを追い越しあと少しで衝突すると言う距離で私は英霊エミヤが愛用していた宝具、夫婦剣干将・莫耶を投影する。

英霊エミヤの経験を憑依経験で再現しジャイアントトードを切り裂く。そして、無数の剣を空中に投影し射出することでジャイアントトードを全て倒した。

 

 

 

「ふぅ……大丈夫?お兄さん?」

「あ、えっと……大丈夫だよ……。助けてくれてありがとう……。さっきの矢も君が?」

「まぁね。でも、ダメじゃない。自分の実力に合ってない依頼を受けたり、実力に伴わない魔じゅ……魔法を仲間に使わせたりしたら。下手したら死ぬよ?」

「返す言葉もありません……」

 

 

 

どうやら少年は思う節が有るらしく素直に私の言葉に反省している様だ。

 

 

 

「まぁ、反省してくれたなら私としては満足かな。取り敢えず、自己紹介だね。私はイリヤ」

「俺はサトウカズマ。よろしくな、イリヤ」

「えぇ、よろしくね。それにしても……サトウカズマねぇ……。ねぇ、お兄さん。あなた日本出身でしょ?」

 

 

 

日本人特有の顔付き、黒髪黒目、そして日本人らしい名前。その三つを持って私は、少年が私と同じ立場の存在だと確信して私は尋ねる。

 

 

 

「ん?なんでそれを……まさか……イリヤも?」

 

 

 

 

彼、佐藤和真は私の問いを肯定する。カズマも確認するように聞いてきたので私も肯定する。

 

 

 

「えぇ。私はドイツ人とのハーフだよ。こんな見た目だから日本人には見えないけど、一応日本国籍は持ってたわ。

ちなみに私の日本人としての名前は衛宮イリヤ。ドイツ人としてはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンだけど出来ればイリヤって呼んで欲しいわね」

「ドイツで名字にフォンって入ってるとなると……もしかしてイリヤは貴族なのか?」

「えぇ。お母様が貴族の出よ。それよりも……私の事は置いといて……カズマが転生者ならなんで特典の武器なり能力なりのチートを使わなかったのかしら?」

 

 

 

その言葉でカズマの動きが止まりバツの悪そうな顔をしていた。

そして、粘液だらけで気絶している青髪の女の子に視線が向いていた。

 

 

 

「こいつです……。俺のチート……この駄女神なんです……」

「えっ?」

「えっと……こいつは俺を担当していた女神だったんだけど……余りの態度にムカついて思わずこいつを特典のチートに選んじまったんだ……。そしたらこの様だよ……」

「ごめんなさい……、カズマも苦労してるのね……。キツかったら声を掛けてね。同郷のよしみで手を貸すから」

「あぁ……、ありがとう……。こんな年下の女の子に慰められるとは……」

 

 

 

カズマのあんまりな境遇に思わず慰める。が、どうやらカズマは私の事を年下に見ているようだ。

カズマの見た目はどうあがいても高校生の域を出ない。恐らくだがタメか年下だろうと私は推測する。

 

 

 

「えっと……カズマ?私は18歳なんだけど……たぶんカズマとは同年代だからね」

「え……?合法ロリ……だと……。しかも、二歳も年上……」

「おい、今何つった?」

 

 

 

どうやら私は同郷の同年代の年下にも合法ロリ呼ばわりされるようです。解せぬ。

 



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5話

カズマ達のパーティーを助けた私は、彼らのアクセルまでの護衛を申し出た。

体力的に限界なカズマ、ジャイアントトードの粘液まみれで満身創痍なカズマ曰く駄女神アクアとMP切れで身動きが一切できない魔法使いの少女。そんな彼等を見ていると無事にアクセルにさえ戻れないかもと不安になったのだ。

そして、私達一行はアクセルに着きギルドに向かっている。

 

 

 

「うっ……うぐっ……ぐすっ……。生臭いよう……生臭いよう…………」

「カエルの体内って、臭いけどいい感じに温かいんですよね……。知りたくもない知識が増えました……」

 

 

 

そんな、粘液でネチョネチョになりながらぐずるアクアとカズマにそんな事をボヤく魔法使いの少女を引き連れる私達は注目の的になっていた。

 

 

 

「まぁ、これからは身の丈に合った依頼から受けていこう……。このままじゃいつか死ぬ」

「そうね。それが懸命よ」

「えー……と言うかそこの子誰よ?まさか、カズマさん……」

 

 

 

と、駄女神アクアが私を指差しカズマにそう問い詰める。その際に粘液が飛び散ったので私は一歩距離をとる。

 

 

 

「違うよ!イリヤは俺達を助けてくれたんだ」

「こんな女の子が?」

「あぁ。アクアには伝わるだろうが、イリヤは俺と同郷だ」

「え?まじ?」

 

 

 

 

流石、転生者を送り出す役割を担っていた女神だけあってアクアはそれだけで私が転生者だと理解したようだ。

私はカズマ以外のメンバーと自己紹介をしていた。

 

 

 

 

「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。元貴族でアークウィザードをやってるわ」

「私は水の女神、アクアよ。さぁ、私を崇め奉り、アクシズ教団に入信しない」

「ごめんなさい。私、特定の宗教を信仰する気は無いので勘弁してください」

「私、女神なのに速攻で断られた?!」

 

 

 

 

と、カズマのチートとして連れてこられた駄女神ことアクアは自己紹介して直ぐに彼女を主神として崇めているアクシズ教団に入信を迫ってきた。それに粘液でネチョネチョになっている今の彼女はどう足掻いても女神には見えない。

カズマからの証言や今の彼女の様子を見るとぶっちゃけアクシズ教団とやらには関わらない方が良いと判断し即お断りした。

それにこの世界で信仰する神なら断然エリス様を信仰するわね、私は。

 

 

 

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一のアークウィザードにして爆裂魔法を操る者!そして、何れは世界一の魔法使いに成る者!」

「えぇっと……その同じアークウィザードとしてよろしくね、めぐみん?」

「おい、私の名前と自己紹介に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 

 

 

とまぁ、反応に困る自己紹介と少女の名前に私は戸惑ってしまう。だが、そんな様子を見てアクアが解説をしてくれた。

 

 

 

 

「めぐみんはね、紅魔族って言う凄腕のアークウィザードを数多く排出してる独特のセンスを持った一族出身なのよ」

「そうなんだ……」

「そう、私はその紅魔族でも随一の天才と呼ばれています」

「じゃあなんで身の丈に合わない魔法使ってぶっ倒れてるのよ……。そんな魔法使わないで別の魔法を使いなさい。そう言うのは奥の手として取っておきなさい」

「そうだな。爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ」

 

 

 

 

と、私の指摘とカズマの言葉にめぐみんは狼狽えながら

ポツリと呟いた。

 

 

 

「使えません………」

「えっ?何が使えないんだ?」

 

 

 

そう、カズマは素で聞き返す。

 

 

 

「…………私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」

「「…………マジか」」

「…………マジです」

 

 

 

と、彼女の答えに私とカズマとめぐみんが静まり返る。

そんな中、私を勧誘した時のテンションが何処かに行ってしまい再びぐずっていたアクアが会話に入ってくる。

 

 

 

 

「爆裂魔法以外使えないってどういう事なの?爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得していない訳がないでしょう?」

 

 

 

 

そう、アクアの言うとおり爆裂魔法を覚えられるレベルのスキルポイントを持っているならば普通は他の魔法も覚えれるはずなのだ。

そして、アクアがカズマにスキルポイントの説明をし終わる。

しかし、アクアの言う宴会芸スキルは何処で使うのだろうか……。

 

 

 

 

「成る程。スキルポイントはスキルを覚える際に必要な物で最初から持っている。そして、才能がない場合や難易度が高いスキルはスキルポイントの消費がデカいってことか」

「えぇ、その通りよ。それに職業によって覚えれるスキルが変わってくるわね。ただし、例外は全てのスキルを覚えれるカズマの冒険者だけってことね」

「成る程……。で、宴会芸スキルは何処で使うんだ?」

「………」

 

 

 

 

ふむ、私がギルドのお姉さんから聞いた説明と変わりがないな。あと、カズマも気になっていたんだ。宴会芸スキルの使いどころ。

 

 

 

 

「成る程な。上級の爆裂魔法を使えるならその他の魔法を使えないわけがないって言いたいのか?で、宴会芸スキルは何処で使うんだ?」

 

 

 

 

カズマが納得しアクアも満足そうだったが、再三に渡る宴会芸スキルに対する突っ込みはノーコメントを貫くアクアだった。

そして、めぐみんがカズマの背中でポツリと呟いた。

 

 

 

「私は爆裂魔法を誰よりも愛するアークウィザード。炸裂魔法等の爆発系統の魔法が好きなのではなく爆裂魔法が好きなのです」

 

 

 

 

私には爆裂魔法と他の爆発系統の魔法の違いが理解できない。カズマも微妙な表情でめぐみんを見ていることから私と同じなのだろう。

だが、アクアだけは真剣な面持ちで聞いていた。

 

 

 

「確かに……他の魔法スキルを覚えるだけで冒険は楽に出来るようになっていくはずです。でも、だめなのです!私は爆裂魔法しか愛せない!爆裂魔法を使うためにアークウィザードになったのだから!」

「素晴らしい!素晴らしいわ!その非効率極まりないながらもロマンを追い求めるその姿に私は感動したわ!」

 

 

 

あー……これは御愁傷様ね、カズマ。残念ながらめぐみんが正式にパーティー加入する流れね……これは。

なんか、巻き込まれそうだから逃げましょうか……。

 

 

 

「じゃ、じゃあ。私は一旦宿に戻るわね」

「あ、おい。俺を見捨てるな!」

「またねー」

 

 

 

カズマの声が聞こえるが私はそれを無視する。だって面倒だもん。そんなカズマを見捨てて私はギルドに向かう。

もう、迷子になったりはしないからね!だって、ギルドの側までカズマ達と来てたし!

そして、私はジャイアントトードの死体代金含め報酬を受け取りちょっと早めの夕食を摂ることにする。

 

 

 

「ジャイアントトードの唐揚げねぇ……。美味しいのかしら……周りのみんなは美味しそうに食べてるし……すみませんー、ジャイアントトードの唐揚げとコーンスープ、パンをくださーい」

 

 

 

意を決して注文してから20分が過ぎた頃、テーブルに注文した品が届けられる。見た目はどう見ても普通の唐揚げでしかないし、フォークで指してみても感触も普通の鶏肉でしかない。

 

 

 

「普通に美味しそうね……。ま、まぁ、ゲテモノ程美味しいって言うし……。い、いただきます」

 

 

 

私はジャイアントトードの唐揚げを恐る恐る口に運ぶ。すると、鶏肉を少し淡白にしたような味と感触がした。

 

 

 

「なんだ……普通に美味しいじゃない。心配して損したわ」

 

 

 

私は士郎の鶏の唐揚げに敵わないものの意外に美味なカエルの唐揚げを食べながら、辺りの様子を伺うとギルドのカウンター前にカズマが居た。

アクアとめぐみんの二人が居ないが風呂屋にでも放り込まれたのだろう。

そして、カズマはパーティーに参加したいと言っているまさに騎士といった格好の女の子と会話していた。と言ってもカズマは顔を引きつった笑みを浮かべながらだが。カズマの様子を見るにあの騎士の女の子もアクア達と同様、優秀だが何かが決定的に外れているタイプなのだろう。

 

 

 

「あはは、カズマの周りは本当に話題がつきないね。よし、これからも絡んでいこうかな。面白そうだしねー」

 

 

 

 

そう、私は決意して食事に意識を戻すのだった。



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6話

今日も今日とてジャイアントトード狩りに精を出す私は朝イチでアクセルから出て草原に出た。

魔法と弓矢で遠距離から安全にジャイアントトードを駆除していたら、昼過ぎには依頼を終えてアクセルに戻って来れた。

 

 

 

「さてと、今日は何を食べようかなー?……ん?カズマじゃない……。それに知らない子だけど……何してるのかな?」

 

 

 

依頼の報酬と遅めの昼食を取るために私はギルドに向かう。すると、ギルドの近くの裏路地でカズマと白髪の美少女が二人で居た。

 

 

 

「じゃあ、使ってみるからね。いってみよう!『スティール』っ!」

 

 

 

 

私は気になったのでそっと覗いているとカズマに向かって手のひらを向けた白髪の少女が何らかのスキルを発動する。

それと同時に少女の手にはカズマの財布と思わしき物が有ったのだ。

 

 

 

スティール……名前からして窃盗スキルね。何となくだけどカズマにかなり合ったスキルじゃないかしら。

カズマのステータスや性格からして前衛より後方で指揮をしながら補佐をするのが向いてそうだもの。

 

 

 

 

「あ、俺の財布!?」

「おっ、当たりだね。スティールはこんな感じで使うんだよ……これをただで返すのも面白くないなぁ……。そうだ、私と勝負しない?私にスティールで何か1つ奪っていいよ。君の財布の中身よりは私の武器や財布の方が価値が有りそうだからね」

 

 

 

 

その白髪の少女の一言でカズマは少しばかり考える仕草をする。そして、意を決した様な表情をして冒険者カードを操作して窃盗スキルを習得したようだ。

 

 

 

「早速覚えたぞ!その勝負乗った!大事なもの取られても泣くんじゃねーぞ!」

「良いね!君みたいなノリの良い人好きだよ!魔法が掛かったダガーや君の薄っぺらいよりもかなりの額が入った財布なら当たりだよ!外れは拾ったそこら辺の石ころだよ!」

 

 

 

そう言って少女は予め集めていたらしい石ころの山を腕一杯に抱える。

 

 

 

「そんなのアリかよ!きたねえぞ!」

「あははは、これは授業料だよ。どんなスキルでも対抗策が有るんだよ。1つ勉強になったね。じゃあ、行ってみようか!」

 

 

 

成る程ね、私も勉強になったわ。カズマの犠牲は有ったけどね……。今日の夜にでも一品奢ろうかしら。

 

 

 

「やってやる!俺は昔から運だけはいいんだ!『スティール』っ!」

 

 

 

そして、カズマが窃盗スキルを少女に発動した。すると、一見不発の様に見えるがカズマの手には白い布切れが握られていた。

 

 

 

「あ、あれって……御愁傷様……」

 

 

 

私は直ぐにカズマがスティールした物の正体を理解してしまう。そして、顔をしかめてしまう。

そして、カズマがスティールした物を太陽に透かし両手で広げて確認するやいなや歓喜の声をあげた。

 

 

 

 

「当たりも当たり!!大当たりだあああああああ!!!」

「い、いやあああああああああああ!!!パンツ返してええええええ!!!!」

 

 

 

そう、白い布切れは彼女の下着だったのだ。パンツを盗まれた彼女は丈の短いスカートを抑え、涙目になっている。そして、満面の笑みを浮かべながらパンツを振り回わす。

 

 

 

「うわー………ないわー……カズマ、ないわー……」

 

 

 

ドン引きする私の中に有ったカズマに対する申し訳無さは一気に霧散し、変わりに後でシバこうという意志が芽生える。

レディーの下着を盗むなんて言語道断。更に歓喜の声をあげながら下着を振り回すなんてね……。

彼女の仇は私が取ろうと思いながらもその場を後にするのだった。

 

 

 

 

30分後、私はギルドで鉢合わせたアクア、めぐみん達と共にカズマ、盗賊の彼女を待っていた。

乙女のパンツを偶然とは言え盗みあんなことをしていた、カズマの事だ。どうせ、あの娘にゲスい事をしたに違いない。

 

 

「成る程。イリヤはカズマと同じ国出身のアークウィザードの父親と別の国の元貴族令嬢との間に産まれたから黒髪黒目じゃないんですね」

「えぇ、私の容姿はほとんどお母様から受け継いだものなの」

 

 

 

暇だった私達は他愛のない話から私の身の上話になっていた。そこで私はこの世界であり得そうな身の上をでっち上げ話したのだ。真っ赤な嘘だけどある程度の事実は織り混ぜているので、そこまで違和感はない筈だ。

事情を知っているはずのアクアを除き、実際に賢そうなめぐみんや仕草や雰囲気からして恐らく貴族令嬢であろう白髪の彼女の連れなダクネスでさえも納得と言った様子なので上手くいったようだ。

 

 

 

 

 

「イリヤのご両親の話がまるで物語の様で聞き入ってしまったよ。ところで、イリヤ。話を聞くと君はある程度裕福な家庭で育ったようだが……なぜ冒険者になったんだ?」

「冒険者になった理由?」

 

 

 

私は考える振りをしているが実際は、割と焦っていた。私が考えていなかった想定外の振りでそれの答えは用意していなかったからだ。

だが、懐にしまってあるクラスカードの存在を感じると名案が浮かんだのだ。

 

 

 

 

「色々と理由は有るよ。だけど私が冒険者になった一番の理由は勇者エミヤに憧れたからよ」

 

 

 

 

そう、私の義弟ことシロウはこの世界で正義の味方の代名詞である勇者として後生に名を残していたのだ。それこそ語り継がれるレベルで。

エリス様からシロウは転生者の少女のサーヴァントとして召喚され魔王を倒したと聞いた。

それで情報を集めてみると何とシロウは過去に存在した勇者として認識されていたのだ。

 

 

 

 

「勇者エミヤか。歴代の勇者のなかでも合理的かつ確実に魔王を撃破した剣と弓の勇者だな。

彼は他の歴代勇者とは違い目立った部分は確かに少ない。

魔王軍との戦闘だって奇襲、闇討ち、狙撃等従来の正々堂々と正面から戦う勇者の戦い方とは大分違っていたりする。

だが、それは軍の兵士や騎士達が無駄に死なないように必要最低限の戦闘で戦いを終わらせるためのものだ。

それに……彼の剣術は才能こそ無かったが実戦で磨かれた剣術は他を圧倒したとも言われている。

やろうと思えば勇者らしい戦いかたも出来たはずだ。それをしなかったのはやはり無駄な犠牲を出したくなかった……もしくは彼の伴侶たるエンチャンターの少女の身を案じていたからとも言われているがな。

これは流石に今でも真偽は解っていないが……私は事実はどっちらもだと思っているよ」

「それに今、私達が摘まんでいるジャイアントトードの唐揚げだって勇者エミヤの考案した物だと言われています。

彼が居なかったら食文化は今よりも数段下だった筈だと言われていますね」

「そうだな。勇者エミヤは些細な事でも困っている民に救いの手を差し出す正義の味方として、または食文化の発展に貢献したりしている今尚、知名度の高い勇者だ」

 

 

 

そっか……シロウ。あなたはこの世界で本物になれたんだね。

 

 

 

 

私は二人の話を聞き、私達の世界では叶うことの無かったシロウの夢が叶ったことを聞き感極まってしまう。まぁ、料理云々はシロウらしいとしか言いようがないけどね。

 

 

 

 

「それにしても……ダクネスは勇者エミヤに詳しいんだね」

「あぁ、幼い頃から常々父上に立場は違えど勇者エミヤの様になりなさいと言われていてな。

それに……それにっ!人助けをしていて捕らわれの身になりあんな事やこんな事をされるのが女騎士の常識ではないか!拘束され自由を奪われた必死に抵抗する私を余所に無理矢理襲ってくる悪党共……あぁ……良い……」

「え、えぇ……。私が知っている騎士とは全然違うわよ……。」

 

 

 

 

何せ私が知っているのは騎士の中の騎士、騎士王アーサー・ペンドラゴンことアルトリアだ。

清廉潔白、そんな言葉が擬人化したような彼女がそんな目に遭うことは先ず無いだろうし、そんなへまはしない筈だ。

まぁ、今じゃあ受肉してシロウとイチャイチャしてた恋する女の子だったけどね。

全くあの騎士足らんとしていた昔の彼女は何処にいったやら……。

そしてダクネスの様子を見る限り、その展開を望んでいる様だった。彼女は要するにドMと呼ばれる人種の様だ。

全くカズマの周りには面白い人種寄り付くようだね。

 

 

 

 

「おーい。盗賊スキル教えて貰ったぜ」

 

 

 

 

カズマが涙目の白髪の少女と共に私達の元に向かってくる。それを見て私はおもむろに席を立ちカズマの元に歩み寄る。

 

 

 

「お、イリヤもいたのk「乙女の仇!!」がはっ?!」

 

 

 

渾身のストレートがカズマのボディに入り、カズマは崩れ落ちる。勿論、何もして無い状態でだが。強化をして殴っていたらカズマの腹に穴が開くしね。それに金的しなかっただけでも有り難く思いなさい。

 

 

 

「あら、乙女のパンツをスティールで盗み凄く喜んでいた変態のカズマじゃないの」

「な……なんでイリヤがそれを……」

 

 

 

私は踞るカズマをニコニコと笑って見下ろす。

 

 

 

「たまたま、通り掛かって一部を確りと見させてもらったわ。勿論、カズマがこの娘のパンツを振り回した所もね」

「ちょ、おまっ?!間違ってないけど、待ってください」

 

 

 

その言葉でカズマの顔色は一気に青ざめる。この時点でカズマを見る私と同様に女性冒険者の目が冷たいものに変わっていく。

 

 

 

「公の場でパンツ脱がされて、自分のパンツの値段は自分で決めろ何て言われたらねぇ……。

それに君が満足出来ない値段なら家宝にするなんて言われたら嫌でも財布の中身ぜんぶ渡しちゃうよね。お陰で私は金欠だよ!

という訳でダンジョンに潜るパーティーが臨時で盗賊を雇いたいみたいだから行ってくるね!」

 

 

 

と、この彼女の言葉で周囲の女性冒険者からの視線は絶対零度レベルに冷え込んでしまう。

 

 

 

「おい、待てよ。お願いだから待ってください。アクアとめぐみん、それに物欲しそうな目で見つめてくるダクネスを除いた女性冒険者達の視線がすごい冷たい物になってるから」

「あはは、これぐらいの復讐はさせてよね!じゃあ、いって来るよ!」

 

 

 

そう言って彼女は奥でこちらを伺っていたパーティーに合流した。

余りにも直ぐ様に行ってしまった為に私は彼女に声を掛ける事が出来ずに見送る形になってしまう。

そんな彼女に対して私は心の中で激しく突っ込みを入れていた。

 

 

 

それにしても……何をしているのですかっ!……エリス様!!

 

 

 

 

神秘に敏感な魔術師でさえ神性を帯びた存在と常に居ないと気が付かないレベルで隠蔽していたが彼女は非常に濃い神性、しかもエリス様と同質の物を発していたのだ。

それこそ私でさえ、近くに寄らないと感じられないレベルの隠蔽だ。

さらに髪型が違い、頬に傷が有ったが彼女はエリス様と瓜二つの容姿をしていたのだから間違えないだろう。

 

 

 

「あれダクネスさんは一緒に行かないのか?」

「あぁ。クリスはダンジョンでも必修な盗賊、しかも優秀だ。

だから引く手数多なんだよ。それに比べ私は聖騎士(クルセイダー)だ。私みたいな前衛職は幾らでも居るしな」

 

 

 

 

ふむ……エリス様があの姿で此方に来ている際はクリスと言うのか……。今度、あったら釜かけてみましょうか。

それにしてもあれね。MMORPG系の常識がそのまま生かされる世界よね、ここ。

 

 

 

 

「それで話は変わりますが、カズマはどんなスキルを覚えてきたのですか?」

 

 

 

私が考え事で周囲の状況を確認していなかった間に話題が変わっていたのかめぐみんがカズマが覚えてきたスキルに興味を示した。

 

 

 

「ふふん。まぁ、見てろよ。『スティール』!」

 

 

 

そして、カズマは得意気に覚えたての盗賊スキル、スティールをめぐみんに発動した。すると、カズマの手に黒い布が合った。そう、パンツだった。

 

 

 

「あの……レベルが上がって変態にジョブチェンジしたのですか。……スースーするのでパンツ返してください……」

「あ、あれぇ……ランダムで物を奪うはずなのにおかしいなぁ……なぁ、イリヤ」

「絶対いや」

「だよな」

 

 

 

何とこの男、めぐみんにパンツを返したあと実験台に私にスティールしてもいいかと聞いて来たのだ。

直ぐ側に頬を高揚させて物欲しそうにしているドMクルセイダーを置いといて。

 

 

 

「やはり私の目に狂いは無かった!こんな幼い少女からパンツを剥ぎ取るその鬼畜具合!是非とも私をパーティーに加えてくれ!」

 

 

 

 

そして、ダクネスは目を爛々と輝かせながらカズマにそう申し出る。

 

 

 

「いらない」

 

 

 

 

だが、カズマはビックリするぐらい真面目な顔でダクネスの申し出を断る。

 

 

 

「んんっ……?!……っ」

 

 

 

そんなカズマの扱いに琴線に触れたのかなんか快感を感じているダクネス(ドMクルセイダー)

なんかもう既に混沌していた。そして、これ以上厄介者を増やさんとカズマは身の丈に合わない魔王討伐が目的だと言い、パーティーに入らない方がいいと忠告する。しかしめぐみん(爆裂狂)ダクネス(ドMクルセイダー)は……

 

 

 

「昔から魔王に捕まりエロい事をされるのは女騎士と相場が決まっている!やはり是非ともパーティーに入れてくれ!」

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法使い(アークウィザード)にして最強の魔法、爆裂魔法を操りし者!最強を名乗る魔王を倒し、我が爆裂魔法こそ最強だと証明して見せましょう!」

 

 

 

 

と、まぁ凄く乗り気でいた。あと、ダクネス。あなたは世界は違うけど騎士王たるアルトリアが居たら助走を着けて殴られるわよ。

カズマは凄くげんなりしている。まぁ、気持ちも解ら無いでもないんだけどね。こればっかりはカズマとアクアの問題だ。私がでしゃばるつもりはないよ。

 

 

 

 

「ねぇ……カズマ、カズマ……私ね、カズマの話を聞いてたら腰が引けてきたの……。何か手っ取り早く魔王を倒す方法ないかしら……」

 

 

 

 

アクア……あなたが一番の当事者でしょうに……。あなたが一番やる気出さないといけないのよ……やっぱり堕女神ね……この子……。

 

 

 

 

カズマも何とも言えない表情をしているから多分私と同じような事を考えているに違いない……。

 

 

 

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!繰り返します!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!』

 

 

 

その時、緊急クエストを知らせる一斉放送がアクセル中に鳴り響いた。




ども、前回の投稿で好評価を頂いた事やお気に入りの総数が800を超え、日刊ランキング50圏内にランクインして恐々としていた影使いです。
あと今回はこの世界での勇者エミヤの認識も書いてみました。エミヤを召喚した少女の話題はまたの機会にでも書いてみたいと思います。



投稿が遅れた理由は色々とありますが……ぐだぐだ本能寺周回していたりPSO2のバトルアリーナに入り浸っていたのが主な原因です……。更新速度が減速気味ですが時間の合間を見付けてはチマチマと執筆していくので温かく見守ってください。




PS.今年の型月のエイプリルフール企画、FGOGOのアプデでロマンが手を振っていたのを見てから、竹箒日記の一言を読んで泣きかけた影使いでした。
あと、グラブルは良い意味でカオスでしたね。いいぞ、もっとやれ両運営。


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7話

『緊急クエスト!緊急クエスト!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!繰り返します!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!』

 

 

 

 

その一斉放送がアクセルに鳴り響くと共に酒と共に世間話や冒険談で盛り上がっていた冒険者達が目の色を変えて装備の準備を始めた。

 

 

 

 

「ねぇ、緊急クエストって何?みんな内容を理解していそうなんだけど……」

「だな。まさか、モンスターが襲撃してきたのか?」

「ん……恐らくキャベツの収穫だろう。ちょうど収穫の時期だしな」

「「は?」」

 

 

 

嬉々とした様子で私達の疑問に答えてくれたダクネスの言葉にカズマと共に唖然としてしまう。

 

 

 

「キャベツ?キャベツって……。まさかキャベツってモンスターの名前かなんかなのか?」

「そ、そうよ……。私達の知るキャベツとはきっと別の何かななのよね」

 

 

 

呆然としながらそんな感想を告げる私達、異世界組に対してめぐみんとダクネスから可愛そうな人を見る目で見られてしまう。

なんか、悔しい。

 

 

「キャベツはキャベツですよ。ほら、緑色の丸い奴で

す」

「キャベツは食べるとシャキシャキとした美味しい野菜のことだ」

「「そんなこと解ってるわ(よ)!!」」

「じゃあ、あれか!緊急クエストって騒いでるのは俺たちは農家の皆様の手伝いでもするのか、このギルドの冒険者は……」

 

 

 

 

と、カズマが私の言いたいことを全て代弁してくれたのでカズマの横でうんうんと頷き同意する。

 

 

 

「あー……カズマとイリヤは知らないでしょうけど……」

 

 

 

アクアが私達になんだか申し訳なさそうな雰囲気を醸しながら何かを言いかけるがそれを遮るように職員が大声で俺達冒険者に向かって大声で説明を始めた。

 

 

 

「冒険者の皆さん、突然の呼び出しすみません!もう既に皆さん気がついていると思いでしょうが、キャベツの収穫時期がやって来ました!

特に今年のキャベツは特に出来が良いので1玉につき1万エリスで引き取らせてもらいます!住民の方々は既に避難を完了し終えています。くれぐれもキャベツに逆襲され負傷をされないように各人が最大限の注意をしてください!

捕獲したキャベツはギルドにて引き取られていただきます!なお、額が額なので支払いは後日とさせていただきます!」

 

 

 

 

あの職員……今なんて言ったのっ!?1玉、1万エリス?!

 

 

 

 

その時、ギルド内外から冒険者達の歓声が沸き上がる。すし詰め状態のギルドを人を掻き分けるように出てみると、アクセルの町にはみずみずしい新鮮なキャベツがいくつも浮いていた。

 

 

 

「なぁにこれ?」

 

 

 

訳のわからない光景にカズマと共に呆然としているとアクアがいつの間にか私達の隣に居て厳かに

 

 

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ……。味が濃縮されて収穫時期を迎えると食べられてなるものかっ!と言った感じに。そして、彼らは人知れぬ秘境まで飛んで生きひっそりと息を引き取るとされているわ。だったら、その前に私たちが美味しく頂こうって訳ね」

 

 

 

と説明をしてきた。それを聞いたカズマは

 

 

 

「俺……お家帰っていいかな……。それよりも日本に帰りたい……」

 

 

 

 

とカズマが呆然と呟く。その横を多くの冒険者達が駆けて通りすぎていく。

私はいち早く状況を飲み込み、カズマを放置して他の冒険者と共に街にくり出した。

 

 

 

 

 

その後、アクセルの町の中に飛んでいたキャベツ達は金の亡者と化した冒険者によって狩り尽くされた。

聞けばこれが第一波目のキャベツの襲来らしいので次の第2派目の本格的な襲来を一網打尽にするためにアクセルの町の外に冒険者達と共に出向き、かなりの額を稼いだのだ。

 

 

 

 

私の手持ちでキャベツを捕獲するのに相性が良いのが一工程(シングルアクション)の魔術であるガンドとこの世界の氷結系の魔法だった。

私としては、まだ扱いに慣れていない魔法よりも使い慣れた魔術、ガンドの方が使いやすいので今回はこちらを使用した。ガンドで撃ち落とし、アイリ母様の魔術である針金を使用し使役する魔術を応用し、網を作り捕獲する。そんな方法で収穫をしていったのだ。

まぁ、途中からになって数が多くなって凍結魔法で動きを奪う方向に変えたけどね。

 

 

 

そうそう、収穫していた際に確認できたのだがやはりカズマ達は彼ららしい方法で収穫をしていたのだ。

カズマはクリスもといエリス様から教わり習得した盗賊スキルを駆使し、暗殺者(アサシン)戦法でキャベツを乱獲し、めぐみんは嬉々として爆裂魔法でキャベツを爆裂し捕獲?していた。

そして……極めつけはダクネスだ。彼女は自らの体を囮にしてキャベツからの攻撃を一身に受けていた。

鎧が壊れようが服が裂けようが関係なしにキャベツ達の攻撃をとても恍惚とした表情で受け入れていた……。

そして、そんなダクネスに群がるキャベツを暗殺者(アサシン)ばりにカズマが背後をとり捕獲していったのだ。

アクア?アクアはそこら辺中を網を持ってキャベツを追っかけ回してたわ。余りにも普通すぎてそれしか言えないわね。

 

 

 

 

キャベツ狩りが終わった後は、キャベツをギルドに納品して夕食を食べてから宿に戻り一日が終わった。

私がギルドに行く時間をずらしたせいもありカズマ達とは合流できなかった。

あと、ギルドの食堂のお勧めはキャベツの野菜炒めだった。一玉1万エリスで買われているだけあって非常に美味しかった。

 

====

 

 

私が捕獲したキャベツの集計が終わり何と400万エリスもの大金が私に入金される事となったのだ。

 

 

 

 

「さてさて、装備どうしようかしらね。これまでの実験で魔術回路が最上級と言っても過言じゃないレベルで魔法の補正が入るのは解ったけど……流石にアークウィザードぽい格好してないとボロが出そうなのよねぇ」

 

 

 

現にめぐみんにあれほどの魔法を杖がない状態で扱うのは異常だと指摘されたしね……。

魔術回路を開けない時や英霊化している時以外のことを考えると短杖ぐらいは持っておいて良いと思うのだ。

 

 

 

ウキウキとした気持ちで目的の店まで移動していると私にしては珍しく何事もなく到着できた。

 

 

 

「……ギルドの職員が商品の質はアクセルでは随一って言ってたウィズ魔道具店は此処ね……」

 

 

 

 

この店を紹介してくれたギルドの男性職員いわく元凄腕の美人アークウィザードが経営しているらしいのだ。

美人店長って所は置いといて、ギルドの職員が言うのだ。間違ってはいないのだろう。

 

 

 

 

「さて、魔法の媒体で良いものないか」

 

 

 

 

今の私は英霊化している状態だ。理由としてはシロウの扱うたった1つのだけの大禁呪である魔術から零れ落ちた解析の力を使えるためだ。

私も驚いたわよ。まさか流れ込んできた情報でシロウが魔術の最奥に手が届いていたなんて。

だけど、逆に納得もできた。

本来の投影魔術とは魔力で失われた物を形だけでも再現し、儀式等に用いるそんな魔術だ。

そして、それは既に世界に存在しないものとして世界からの修正を受け直ぐに消失してしまうのだ。

しかしシロウの投影品は劣化しない。それどころか宝具までも投影してしまう規格外のものだ。

だが、あの大禁呪から零れ落ちた物ならば説明がつく。

 

 

 

 

「まぁ……逆に魔術使いのシロウには都合の良い魔術よね。そのせいで英霊に至ったシロウは封印指定受けてたみたいだけども……」

 

 

 

 

そんな事を呟きながら私は店に入る。店の中は掃除が行き届いており美人店長さんとやらの几帳面さが出ていた。

そして、陳列物を覗いていると何やら物騒な物や発想や技術は素晴らしいのだが……明らかに設計段階で重大なミスがある物が多く陳列されていた。

 

 

 

……一応、製作者の名誉のために弁解しておくが商品の出来栄えは素晴らしく、相当の技術を用いて製作されている。

だが、なんと言うか……問題点を解決していないのだ……。

だが、そんな廃産の中にも稀少な魔道具だと思われる物も有るので店長の目利きは確かだ。

だけども……それに駆け出しの冒険者しかいないアクセルで高級品を扱うのは中々に厳しいものがあると思うんだよね……。

 

 

 

 

「ま、まぁ……その用途では廃産でも別の使い方をすれば凄いアイテムかもしれないし……」

 

 

 

 

ちょっと残念で高額な商品の山を前に私はちょっと困惑しながら店内を回っていく。

 

 

 

「ようこそウィズ魔道具店に。本日はどのような物をお探しに?」

「あぁ、貴女が店主さんね。今日はアークウィザードの魔法でも耐えれる発動媒体を探しに来たの。予算はだいたい100万エリスを考えてるわ」

 

 

 

 

そして、カウンターから姿が見える位置まで移動したら店主さんが私に声を掛けてきた。その店主さんは確かに美人だった。

栗色の長髪と同性の私でさえも羨む大きな胸。そして柔和な印象を持ち、穏和な表情を浮かべている20代前半の美女だ。

ただ……彼女には濃厚な負の気配が漂っていた。まるで……そう、元の世界の死徒のような……。

 

 

 

 

「そうですか……ならこのマナタイトはどうですか?これであれば、封じ込まれた高濃度の魔力でアークウィザードの魔法でも充分に強化してくれると思いますよ」

「へぇ……確かに凄まじい魔力ね。ならそれをくださいな」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

私は即決で代金を支払いマナタイトを受け取る。そして、店主さんの手が私の手に触れたことによりそれが確信に変わった。

即座に聖剣を何振りか投影して空中に留まらせながら剣先を店主さんに向ける。

 

 

 

「あと……貴女が何者か教えてくれないかしら?人外の気配を持つ店主さん?」

 

 

 

私はニッコリ笑いながらそう言ってみる。これだけでも充分に心理的に来るものはあるのだ。

 

 

 

「何時から私が普通の人ではないと気が付いていたのですか……?」

「うーん……最初は間違えかなって思ったけど支払いした時に手が触れたでしょ?その時かな」

「そうですか……あの……差し出がましいこととは思いますけど……どうか見逃してください……私にはまだ消えるわけにはいかないのです」

「うん?私はそんなつもりないけどなー……。私は貴女がそこまで至った方法とか知りたいだけだし。もちろん抵抗するなら徹底的に抗戦するよ?」

 

 

 

店主さんはその言葉にびっくりした表情になる。まぁ、死を覚悟してたのに相手が殺意がなく脅しのためだけだったなんて驚くよね。

そして、私は店主さんに戦意はないと判断し剣を消す。

 

 

 

「えっと……そのありがとうございます。私みたいなリッチーを見逃してもらって……。あ、私はウィズと申します……。元アークウィザードでリッチーやってます」

「ふぅん……。リッチーねぇ……。確か優秀な魔法使いが生を捨てて至るアンデットの王だったかしら。私はイリヤスフィール。イリヤで構わないわ」

 

 

 

 

ギルドのモンスターのガイドラインではそう記されていた気がする。そんな曖昧な情報をウィズは肯定した。

 

 

 

「えぇ……。とある禁呪を使うことでリッチーに成ることができるんです。あの……イリヤさんもリッチーになりたいのですか……?」

「いいえ。でも、私が追い求める物に少しでも近付けるなら何でも利用するまでよ。人様に迷惑の掛からないようにね」

 

 

 

人様に迷惑を掛けないのは私が魔術を学んだ時に自分に課した誓約だ。まぁ、魔術師としてが甘い考えかもしれないが私は人を辞めるつもりはない。冷酷な魔術師なんて真っ平後免だ。

 

 

 

「そうですか……。あ、あの……私が教えても良いのですが……教えてくれた友人に許可を貰えるまで待っていただけませんか?この禁呪は既に失われたものです。無闇に拡散させるは私としても……」

「良いわよ。でも意外ね。ウィズ、貴女達リッチーは人間の敵でしょ?でも、人を心配するなんてね」

「そうですね……。私は確かに人では無いですが……心は人のままのつもりですから……」

 

 

 

ウィズは苦笑しながら私にそう告げる。

 

 

 

「そう……なら私からはなにもしないわ。少なくとも私の目の前にはちょっと変わった体質持ちの美人店長さんしかいないものね。

じゃあ、目的の物も手にいれたし、思わぬ収穫もできたし帰るわね」

「あ、はい。あ、あのこれからもウィズ魔道具店をご贔屓にお願いします!」

 

 

 

そして、私はウィズ魔道具店をあとにして武器屋に直行するのだった。




最後、駆け足過ぎましたかね?まぁ、ともあれキャベツ襲来とウィズとの邂逅は終了です。
アニメ版基準ではなく小説基準でやってるのでアニメにはあったキャベツとの死闘はダイジェスト版にしました。


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