魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~ (サニーブライト)
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プロローグ

こんな拙い素人クロスオーバーを読んでくださって
ありがとうございます。
こんな駄文でも楽しんでもらえるとありがたいです。
それでは、もはやサッカーではないと
公認された超次元サッカーと絶望の魔法少女たちの物語をごらんあれ。


――これは幸せを願った少女とそよ風の少年の出会い。

――出会うはずのなかった二人が出会った時、絶望の運命を変える物語が始まる。

 

 

 

 

 

~~ワームホール内~~

 

 

 

ここは時空のトンネル、ワームホール。現在、このワームホールを通っているのは、

 

「う~ん、いつ見ても不思議な空間だな~」

 

松風(まつかぜ)天馬(てんま)率いる雷門イレブンが乗車するイナズマTMキャラバンだった。彼らは未来の敵たちと戦うために時空を超える旅に出ていた。

 

「でも七色に光っていてきれいね」

 

「考えたら僕たち、すごいところ通ってるんだよね」

 

彼の幼馴染でありマネージャーの空野(そらの)(あおい)と、親友である西園(にしぞの)信助(しんすけ)も虹色に輝くワームホールを眺める。

 

「でもカメラに収められないのが残念……」

 

「お前な……」

 

ワームホールは科学力を超えた超空間であるため、カメラで捉えることは出来ない。マネージャーの一人である山菜(やまな)(あかね)は愛用のカメラで撮れないことに残念がり、同じくマネージャーの瀬戸(せと)水鳥(みどり)はそんな彼女に呆れていた。

 

「ワームホールはまだまだ解明されてない部分が多いんだ。アルノ博士もよく研究してるよ」

 

「ワームホールを鑑賞するのもいいが、我々の目的を忘れるなよ」

 

天馬たちより200年後の時代からやって来た少年、フェイ・ルーンとキャラバンを運転するクマ型アンドロイド、クラーク・ワンダバット(通称ワンダバ)も会話に参加する。

 

「もちろん忘れてなんかいないよ。俺たちはサッカーを取り戻す!その為に戦っているんだから!」

 

「こうしていると、俺たちが革命をしていた時を思い出すな」

 

チームのゲームメイカー、神童(しんどう)拓人(たくと)が以前の自分たちの戦いを懐かしむ。彼らはかつて自分たちの時代で支配されていたサッカーを取り戻すために立ち上がり、取り戻したという自信と勇気を得たことによって今こうしてサッカーを守るための新たな戦いに臨んでいるのである。

 

「確かに。あの時も天馬の熱い気持ちが革命という名の“カゼ”を起こしたんだよな」

 

水鳥が腕を組みながら当時のことを誇らしく思い出す。以前の戦いも天馬が一番最初に反旗を翻し、楽しいサッカーを諦めていた仲間たちを奮い立たせた。水鳥がマネージャーになったのも彼の心意気に惚れ込んだからであった。

 

「そうですよ!天馬が“なんとかなるさ!”って言ったらホントに何とかなっちゃったんですから!」

 

「やめてよ信助。俺はただサッカーが好きだっただけで…それに俺だけじゃないよ。みんなが頑張ってくれたおかげだよ」

 

少しばかり照れる天馬。

 

「俺、思うんです。大切なモノを、かけがえのない仲間たちと一緒に守る。そしてみんなで未来を作っていく。そうすればきっとどんなこともなんとかなるんだって!」

 

「おっ!やっぱり天馬はいいこと言うぜよ」

 

「……フッ……」

 

イタリアからの帰国子女、(にしき)竜馬(りょうま)とエースストライカーの剣城(つるぎ)京介(きょうすけ)からも笑みがこぼれる。

 

「そうだね。みんなで力を合わせればどんな困難にも負けないよ!」

 

フェイも同意すると天馬は立ち上がり、仲間たちに向けて拳を構える。

 

「よーし、みんな!これからも頑張るぞ!」

 

「「「おぉーーー!」」」

 

天馬の号令に活気づく雷門イレブン。一同はこれからも続く戦いに備え気持ちを引き締める。

 

 

 

―――しかし、事件は起きた。

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ!

 

 

 

 

「な、何!?」

 

「地震!?」

 

「まさか、ワームホールの中だぞ!」

 

突如、イナズマTMキャラバンが大きく揺れ始めた。異常事態に混乱する雷門。

 

「みんな落ち着いて!どうやら時空(じくう)(しん)が発生したみたいだ」

 

「時空震?」

 

「時空震とは我々がいるこのワームホールになんらかの影響があった時に発生する地震のようなものだ」

 

慣れた様子でフェイとワンダバが説明しながら一同を落ち着かせようとする。そうしているうちにキャラバン内での揺れは徐々に小さくなっていき、やがて静かになる。

 

「……おさまった…」

 

揺れが完全に止まると同時に茜がそう呟いた。

 

「でも、私たちが今いるこのワームホールで何か起きたってことでしょう?大丈夫なの?」

 

葵が不安げにワンダバに尋ねる。

 

「なーに心配するな。影響といっても大抵小さなものばかりだ。それも流れる川に小石を投げ込むぐらいのな」

 

「何だ。それくらいか」

 

「びっくりしたぜよ」

 

ワンダバの説明に全員安堵する。

 

 

――――次のワンダバの言葉を聞くまでは。

 

「ん?………なぁっ!!!こ、これは!?」

 

「ワンダバ!どうしたの!?……あ、あれは!?」

 

ワンダバが突如驚愕の声を上げ、フェイが反射的に前方を見ると、なんとキャラバンの前方に巨大な黒い渦が発生していたのだった。

 

「な、何アレ!」

 

時空(じくう)乱流(らんりゅう)だ!あれに飲み込まれるとどこに飛ばされるかわからないぞ!」

 

「「「えぇ~~~~っ!!!」」」

 

時空乱流。聞くからに危険な存在の発生により、再び恐怖と戦慄が天馬たちを襲う。

 

「時空乱流は時空震が起きたときに時空の小さな穴として発生するものだけど……」

 

「大きすぎるよ!まるでブラックホールだよ!」

 

信助がフェイの説明が信じられないように声を上げる。

 

「大したことないんじゃなかったのかよ!?」

 

「私だって驚いている!あんなに巨大な時空乱流は見たことも聞いたこともないぞ!」

 

水鳥とワンダバも動揺しているうちにキャラバンはどんどん時空乱流の引力に引き寄せられていく。

 

「早く逃げないと!」

 

「いや、あんなに近くに発生していてはもう逃げられん!」

 

「ええぇぇぇっ!」

 

ワンダバが覚悟したかのように言うと、キャラバンは一気にスピードを上げて引き寄せられる。そこから逃れる術はなかった。

 

「「「ウワァァァ(キャアァァァ)!!!」」」

 

そしてキャラバンは螺旋を描く様に時空乱流に吸い込まれたのであった。

 

――――――――――――

 

 

 

 

「………う……う~ん……」

 

天馬はゆっくりと目を開ける。気が付くと、うつ伏せで寝ていた。

 

「……あれ?俺たちは確か、時空乱流に飲み込まれて………」

 

自分たちに起きた事を思い出しながら体を起こす。

 

「………え?」

 

目の前に広がる景色を見た瞬間、思考が停止した。なんと自分の目に映ったのは広大な宇宙空間だった。

 

「う、宇宙!?……はっ!う、うわ~っ!息が~っ!」

 

天馬はあわてて首を手で抑えるが、

 

「………あれ…?……苦しくない?」

 

まともに呼吸できることに拍子抜けしながら立ち上がる。

 

「ここは宇宙じゃないの?まともに立てるし……そうだみんなは!?」

 

天馬はその場で周囲を見渡す。

 

「葵!信助!」

 

天馬は仲間たちの名前を呼ぶが、

 

「剣城!神童先輩!」

 

無情にも自分の声がこだまするだけで、

 

「フェイ!ワンダバ!みんな!」

 

誰一人返事を返すことはなかった。

 

「みんな、どこ行っちゃたんだろ……ここがどこかわからないし………どうすればいいんだろ……」

 

孤立してしまい気落ちする天馬。

 

 

 

―――その時だった。

 

 

 

「ごめんなさい……!」

 

「え…?」

 

「……わたしのせいで……ごめんなさい……!」

 

誰かの声が聞こえてきた。

 

「だ、誰!?」

 

「……本当にごめんなさい……!」

 

それは少女の声だった。

 

「誰!?誰なの!?」

 

困惑しながらも周りを見渡す。しかし周りには自分一人で誰もおらず、少女の姿など無かった。だがその声はとても悲しそうに聞こえた。

 

「あなたたちをこんな目に合わせたのは…わたしのせいなの…」

 

「え?どういうこと?」

 

「あの渦はわたしのせいで起こってしまったの…」

 

「君が!?」

 

「うん…」

 

姿の見えぬ少女は申し訳なさそうに答えた。

 

「あなたたちの姿が羨ましくて、わたしが干渉してしまったから……あなたたちをこの世界に引きずり込んでしまったの……今のわたしの力じゃあなたたちを元の世界に返すことは出来ないの」

 

「そんな…」

 

天馬は一瞬愕然とした表情でうつむく。元の世界に戻ってサッカーを守らなければならないのに仲間たちとはぐれ、帰れない事にショックを受けるがすぐに顔を上げる。

 

「じゃあ、みんなには会えるかな?」

 

「………」

 

天馬の質問に少女は躊躇したらしく少し黙ってしまう。しかしぽつりとつぶやくように言った。

 

「一つだけ……方法があるんだけど…」

 

「ホント!?」

 

「でも、それはあなたたちをさらに危険な事に巻き込んでしまうことになってしまうの…」

 

「それでも!みんなに会えるならどんな困難だって乗り越えてみせるよ!」

 

「どんな困難も乗り越えて見せる…か…わたしたちの側にもあなたみたいな人がいてくれれば良かったのに…」

 

「…?」

 

残念そうに呟く少女。そんな彼女の様子が気になり、

 

「…ねえ、さっきから気になってたけど……」

 

天馬は不意にこう尋ねた。

 

「君は、一人ぼっちなの?」

 

「…え?」

 

呆気にとられて呆けた声を出す少女。

 

「だって、さっき俺たちを羨ましいって言ってたし、こんな所で一人でいて寂しそうだったから…」

 

「うん、わたしにも最高の友達たちがいたの……でもとても苦しいことがあって、わたしは皆の為にこんな所に一人だけになってまでなんとかしようとしたの……でも……

 

 

 

 

……結局無駄になって……わたし、本当の一人ぼっちになっちゃった…」

 

いつの間にか少女は泣きだしていた。

 

「わたしはっ…!みんなの希望になる為に自分を犠牲にしたのに!結局全部失ってしまった!みんな消えてしまった!どうすればよかったの!どうすればみんなもわたしも幸せになれたの!?」

 

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

 

「ハッ……ごめんね、取り乱して…」

 

「ううん。大丈夫。そっか…辛い思いをしたんだね…」

 

天馬は安堵しつつも悲しげな表情で同情する。

 

 

 

「だったらさ……」

 

「……?」

 

「俺に出来ることはないかな?」

 

「…え?」

 

少女は再び呆けた声を出す。少女は驚いた。何故見ず知らずの、しかも姿を見せずこの事態を作り出した自分をこの少年は助けようとするのかと。しかし、彼は姿は見えずとも泣きながら一人で苦しんでいる少女を放っておけなかったのだった。それが松風天馬という少年だった。

 

「だって、ほっとけないよ!何か方法はないの!?」

 

真剣な眼差しで姿の見えない自分を助けようとする天馬に動揺するも少女はためらいがちに答えた。

 

「でも実はわたしも、わたしの友達も助けるチャンスが一度だけあるの…」

 

「ホント!?」

 

「実はこのチャンスはあなたとあなたの仲間たちを再会させる方法でもあるの。でもそれは同時にあなたたちを更に危険な目に合わせてしまうし、元の世界に帰れなくなってしまうかもしれないんだよ?」

 

「大丈夫!危ない目になら何度も遭ってるし、それに君を助ければ皆にも会えるんでしょ!?だったら俺、君を助けるよ!」

 

「……本当…?」

 

「うん!そんなに困ってるなら俺たちがなんとかしてみせるよ!」

 

天馬は笑顔で力強く答えた。

 

「!……本当に…わたしたちを救ってくれるの……?」

 

「救うとかよくわかんないけど、目の前で苦しんでいるならほっとけないし……みんなで力を合わせればどんな事だってきっとなんとかなるさ!」

 

「!!!……巻き込んで本当にごめんなさい……」

 

声は天馬の言葉を聞いて、まずは謝罪の言葉を贈る。

 

「そして…ありがとう…」

 

次に感謝の言葉を。

 

「わたしも少しでもあなたたちの力になれるように………」

 

ピカッ!

 

「!」

 

突如、天馬の前に球体の光が出現する。

 

「これは………?」

 

天馬は思わずその光を受け止めるかのように両手を伸ばす。

 

「わたしの力の一部をあなたたちに託すね………」

 

少女の声がそう言った直後、光は天馬の両手に収まる。光がおさまると、それは面の一つに不思議な魔法陣が描かれたサッカーボールになった。

 

「これは…サッカーボール?…でもこの魔法陣みたいなのは……?」

 

天馬はまじまじとボールを見る。

 

「お願い……わたしたちを救って……あなたのその思いが、わたしたちの……わたしの希望だから……」

 

パァァァァ

 

「!」

 

少女の声が言った直後、ボールから強烈な光が放たれ辺りを包み込む。

 

「うわっ!わ~~~~~っ!」

 

光が自分を包み込んだと思った瞬間、天馬の意識はプツリと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~市立公園・夕方~~

 

「……ん……」

 

気が付くと天馬は再びうつ伏せで寝ていた。

 

「ここは……」

 

天馬は体を起こして立ち上がる。

 

「さっきのは夢だったのかな……」

 

天馬は先ほどの出来事を夢だと思い、ふと足元を見る。

 

天馬「!」

 

そこには先ほどの魔法陣が描かれたボールがあった。

 

「…夢じゃない…!本当だったんだ!……でもここは?」

 

周囲を見渡すと、どうやら市立公園のようで時刻は夕方を指していた。天馬以外の人間はいなかった。

 

「どこかの公園みたいだけど………ん…?」

 

天馬は公園の入り口に近づく。そこには公園を管理していると思われる市の名前が書かれたプレートがあった。

 

()滝原(たきはら)()………って読むのかな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~OPテーマ「コネクト」~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それは決して起こるはずがなかった出会い――

 

 

 

「僕と契約して魔法少女になってよ!」

 

ジリリリリリリリ!

 

「ふ…ふわっ!?」

 

 

 

 

――それは希望を絶望で覆い尽くす物語――

 

 

 

 

 

~~鹿目(かなめ)家・朝~~

 

 

 

 

「……夢オチ……?」

 

 

 

 

 

~~見滝原中学・HR~~

 

 

 

 

暁美(あけみ)ほむらです。よろしくお願いします」

 

「…うそ、あの子…夢で…!」

 

 

 

 

 

――希望を持った少女達を――

 

 

 

 

 

 

~~見滝原中学・廊下~~

 

 

 

「鹿目まどか…あなたは自分の人生は貴いと思う?家族や友達を大切にしてる?」

 

「………え?」

 

 

 

 

――絶望に変える物語――

 

 

 

 

「もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わない事ね。……さもなければ………すべてを失うことになるわ」

 

「………」

 

 

 

――しかしその絶望を――

 

 

 

 

~~見滝原市街中・放課後~~

 

 

 

 

「う~ん、これからどうすればいいんだろ……みんなもいないし…」

 

「…それでね、中沢ったら……」

 

「…そうなんだ…ウェヒヒ…!」

 

 

 

 

――希望に変える少年達の物語――

 

 

 

 

「…でもみんなきっとどこかで無事でいるはずだ!そうさ!信じていればきっと………!」

 

 

 

 

 

――絶望あふれる世界への革命の物語――

 

 

 

「ウェヒヒ!」

 

「なんとかなるさ!」

 

 

 

 

この時、少女と少年はそよ風のようにすれ違った。二人はこの時お互いの存在に気づかなかったが、後に二人は巡り会い、絶望を目にする。

 

 

 

 

 

しかし少女たちの悲劇の運命に少年とその仲間たちは立ち向かっていく。

 

 

 

 

そう。彼女たちの絶望を吹き飛ばすように革命(カゼ)を起こすのであった。

 

 

 




次回予告

天馬
「時空乱流に飲み込まれて不思議なボールと共に飛ばされた先は見滝原という町だった!そこで出会ったのは………うえぇぇぇっ!?魔法少女!?何がどうなってるの!?魔法少女の悲劇の物語に俺たちが新たなる革命(カゼ)を巻き起こす!

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~ 』
   
第1話『魔法とサッカーの出会い!』! 」


こんな駄文でもご感想やアドバイスをくれるとうれしく思います。
なお、この小説ではOP・EDをつけますが、
ハーメルンのルール上歌詞はつけられないので
各自で聞きながらお楽しみください。
感想お待ちしております。




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第1話『魔法とサッカーの出会い!』

お気に入り登録されました。
こんな駄文でも読んでもらえるとうれしいものです。
それではもっと読んでもらえるように続きをどうぞ。



――OPテーマ『コネクト』――



 

 

~~見滝原市街中・夕方~~

 

 

「なんとかなるって言ってみたけど……ここは俺たちの時代なのかな?」

 

天馬は立ち止まって街中を見渡す。天馬は公園を出て街に足を運び、二、三分ほど街中を歩いていた。ちなみに今の天馬の服装はいつもの雷門のジャージ姿で、両手でボールを持っていた。

 

「見滝原なんて街、聞いたことないけど結構発展してるな。稲妻町よりすごい。とりあえずこの街をもっと調べてみよう。もしかしたらみんなにも会えるかもしれないし」

 

そう言いつつ再び歩みだそうとした時だった。

 

(……助けて)

 

「ん?」

 

(……助けて)

 

「え……?」

 

(……助けて…助けて…)

 

誰かに助けを求める声が聞こえた。しかし先ほどの宇宙空間で聞いたものとは別の声だった。

 

「だ、誰!?」

 

天馬は周りを見回すが、自分以外に反応している者はいなかった。

 

「もしかして俺にしか聞こえてない?………でもさっきの声とは違う…?」

 

(……助けて…助けて…!)

 

「いったいどこから………ん…?」

 

天馬は近くに見えたショッピングモールに注目する。

 

「あそこからかな…?」

 

天馬はショッピングモールに向けて走り出した。

 

 

 

 

~~ショッピングモール内~~

 

 

(……助けて…助けて…!)

 

「こっちか!」

 

天馬は頭の中で大きくなりながら響く声に導かれるようにショッピングモールの奥へと進む。

 

(……助けて……まどか(・・・)…!)

 

(まどか……?)

 

 

 

 

 

~~ショッピングモール内・最上階~~

 

 

 

天馬は声を頼りに非常階段を上り、最上階にたどり着く。そこはどうやら改装中らしく、工事中の現場のようだった。

 

「ここから声がしたのかな……」

 

天馬は声の主を確かめるべく歩みだす。

 

 

 

―――その直後。

 

「!?」

 

突如天馬の視界が白煙で覆われる。

 

「な、何だ!?」

 

突然の状況の変化に戸惑う天馬。だんだん白煙が晴れていき、天馬の視界が回復する。そして絶句した。それはまだ白煙が残りつつ、朽ちた樹木が頭をもたげている、まるで悪夢のような空間が天馬の視界に広がった。

 

「な…!ここは……どこ!?」

 

天馬は悪夢のような空間を見回す。

 

「これは一体………うわぁっ!」

 

天馬は背後を見る。なんと自分が入ってきたはずの非常口が消えていた。

 

「出口が…!」

 

天馬は逃げ道を失い戸惑いは増すばかりだった。しかしそれで終わらなかった。

 

「アハハハハハ………」

 

「え………」

 

子供のような嗤い声が響き、

 

じゃらり……じゃらり……。

 

鎖を引きずるかのような音が響く。

 

「………」

 

天馬はおそるおそる振り返る。するとそこには黒い蝶が飛び交い綿飴にカイゼル髭と蝶の羽がついたような生き物が何体も佇んでいた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

天馬は堪らずボールを右腕に抱えたまま空間の奥へ走り出す。

 

「な、何だアレ!!お……お化け!?」

 

天馬は恐怖を抱きつつ必死に走り出す。しかし謎の怪物も天馬を追う。

 

「わわわっ!…く、来るな!」

 

天馬は振り切らんばかりに逃げ足を早める。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「!」

 

誰かの叫び声を聞いた天馬は声が聞こえた方向を見る。そこには今にも怪物に襲われそうな二人の少女がいた。二人共どこかの中学校の制服を着ており、一人は身長が低く、ピンク色の髪を赤いリボンでツインテールに結び、白い何かを抱えていた。もう一人は青いショートカットのボーイッシュな雰囲気の少女で、ピンクの髪の少女に抱きついていた。

 

「…大変だ!……でやぁぁっ!」

 

天馬は思わず持っていたボールを少女たちに襲いかかろうとする怪物に向けて放つ。

 

バシィッ!

 

「……?!?」

 

天馬がシュートしたボールは怪物に命中し、怪物は吹っ飛ぶ。

 

「こ、これは……?」

 

「サッカーボール……?」

 

二人の少女―――鹿目まどかと美樹(みき)さやかの前にボールが転がる。

 

「大丈夫!?」

 

天馬は二人に駆け寄る。

 

「……う、うん……助けてくれてありがとう……」

 

「ま、前!」

 

「!!!」

 

天馬がさやかの指す方向を見ると何体もの怪物がこちらに押し寄せてきた。

 

「ま、また来た!」

 

「くそっ!………こうなったら!はあああぁぁぁぁぁっ!」

 

天馬は化身(けしん)を出そうと力を溜める。しかし、

 

 

シーン………

 

 

「えっ………?」

 

「ちょ、何やってんのよあんた!」

 

天馬の体から化身どころかそのオーラすら出なかった。

 

「(…化身が……出ない……!?)…はっ!」

 

気が付くと怪物たちは三人のすぐそばまで迫っていた。

 

「うわあぁぁぁぁっ!」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁっ!」」

 

三人が絶対絶命の状況に追い込まれたその時。

 

 

 

 

「レガーレ・ヴァスタアリア!」

 

「「「え?」」」

 

地面から無数の黄色いリボンが伸び、怪物たちを拘束した。

 

「リ、リボン!?」

 

「これは……!」

 

三人が呆気にとられていると、

 

「危なかったわね」

 

とても落ち着いた声が異空間に響いた。天馬たちはその声の方に振り向く。

 

「でも、もう大丈夫」

 

そこには黄色の髪を二つのカールに結び、まどかたちと同じ制服を着たスタイル抜群の美少女が立っていた。

 

「キュゥべえを助けてくれたのね。ありがとう、この子は私の大切な友達なの」

 

黄色の少女は不安を包み込むように微笑みながら礼を言う。

 

「わ、わたし……呼ばれたんです。頭の中に直接、この子の声が」

 

(えっ!?)

 

天馬はまどかにも声が聞こえていたことに驚く。

 

(…この子にも声が聞こえていた…?……ということはこの子がまどかって人なのかな…?)

 

「なるほどね」

 

天馬は少女の方に顔を向きなおす。

 

「その制服、あなたたちも見滝原の生徒みたいね。二年生?」

 

「は、はい」

 

(えっ!?お、俺より年上だったの!?)

 

身長が低いまどかを同学年と思い込んでいた天馬はまどかが年上だったことに驚く。

 

「そして、あなたは………」

 

少女は天馬に顔を向ける。

 

「お、俺は………」

 

「そのジャージ……あなた、雷門中?」

 

「は、はい!雷門を知ってるんですか!?」

 

「話は後よ。まずは一仕事片付けちゃうわね。それからゆっくり自己紹介しましょう」

 

そういうと少女は片足でステップを踏みながら光る宝石のようなものを両手に持つ。すると宝石から光があふれ、その光は少女の体にまとわりつくと少女の衣装を変える。

 

「へ、変身した!?」

 

(これって、化身アームド!?…でもこの人から化身は出てない……何がどうなってるの!?)

 

さやかと天馬が驚く中、少女は飛び上がり両手をかざす。すると少女の周りにたくさんのマスケット銃が出現する。

 

「無限の魔弾よ!」

 

少女は力強く叫び、

 

「パロット・ラ・マギカ・エドゥインフィニータ!!!」

 

必殺技らしき言葉を叫ぶと、マスケット銃が一斉に火を吹き怪物たちを一掃した。

 

「「「……す……すごい……」」」

 

天馬たちは自分たちが恐れていた怪物たちをあっさりと全滅させた少女に対し、そう呟くしかできなかった。そして空間は晴れていき、元の工事現場に戻る。

 

「も、戻った!」

 

さやかの声が弾む。しかし、地面に着地した少女の顔はまだ厳しいままだった。

 

「魔女は、逃げたわ」

 

少女が工事現場の奥の暗闇に向けて声をかける。三人が注目するとそこから黒と白の衣装に身を包んだ少女が現れた。

 

「ほ、ほむらちゃん!?」

 

「仕留めたいならすぐ追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる」

 

少女の言葉にほむらと呼ばれた少女の頬がぎゅっと締まる。

 

「私が用があるのは―――」

 

「呑み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの」

 

少女の有無を言わせない言葉にほむらは一度まどかの胸の中にいる白い何かを睨みつける。まどかがそれをぎゅっと抱きしめると、どこか悔しげに視線を少女に戻す。

 

「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 

微笑みながらそう語る少女をほむらは一度冷たく見据え、その瞳に哀しみに似た輝きを

一瞬浮かべる。そして今度は天馬に目線を変えて問う。

 

「……ところで……あなたは………?」

 

「へっ!?お、俺は松風天馬って言いますけど………」

 

急に話しかけられた天馬はとっさに名乗った。するとほむらは

 

「……松風天馬………」

 

目を細めながら天馬の名を口にし、踵を返してそのまま闇の向こうへと消えていった。

 

「一体何がどうなってるんだ…」

 

展開についていけず困惑する天馬。

 

「とりあえずその子を手当てしないとね。床に寝かせてくれる?」

 

「は、はい!」

 

少女に言われるまま、まどかは抱えていたものを床に降ろす。それは血で染まっていたがネコのようでウサギとも思えるような不思議な白い生物だった。

 

「な、何これ!?ネコ!?それともウサギ……!?」

 

天馬は見たこともない生物に目を丸くする。

 

(この子、キュゥべえが……!…じゃあ彼も…)

 

少女はキュゥべえと呼ばれる生物に手を当てながらそう思った。

 

 

 

 

 

~数十秒後~

 

 

 

少女がキュゥべえに手を当てて何かを施すとキュゥべえは息を吹き返すように元気になった。

 

「ありがとう、マミ。助かったよ」

 

「うわあぁっ!ウサギが喋った!?」

 

キュゥべえは少女をマミと呼びながら礼を言い、天馬はいきなり喋り出したことに驚く。

 

「ひょっとして君は僕が見えてるのかい?」

 

「え?う、うん」

 

「それにその恰好は………マミ」

 

「ええ…あなた、松風天馬くんと言ったわね…」

 

「え?は、はい。あの、雷門中を知ってるんですか?」

 

「ええ。サッカーの名門校………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………この世界とは別の……異世界の学校の事をね………」

 

 

「え?……え…」

 

「「「えええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 

天馬、まどか、さやかの三人は一斉に叫んだ。

 

「…い、異世界の学校って……!」

 

「ど、どういうことですか!?」

 

三人の中でもっとも驚いたのはやはり天馬だった。なにしろ今まで時間を超えてきた自分の事を、雷門を知っている人物に別の時間の人間どころか異世界の人間と言われたからだ。

 

「う~ん、どこから話せばいいかしら……」

 

マミは自分の頬に人差し指を当てながら悩む。しかしすぐに指を離しながら言った。

 

「実は今、あなたと同じジャージを着た子を預かっているの」

 

「えっ……それって……」

 

「マミさーん!大丈夫でした!?」

 

天馬が微かな期待を持った直後、工事現場の非常口から一人の少年が現れた。全員がその少年に注目する。

 

「あっ!」

 

「あっ!」

 

天馬と少年は同時に声を上げる。その少年はまどかよりさらに身長が低く、水色のバンダナを頭につけ、とある人気キャラを思わせるような顔立ちで天馬と同じジャージを着ていた。

 

「信助!」

 

「天馬!」

 

天馬の親友であり、雷門のDF兼GKの西園信助だった。二人はお互いの手をとり再会を喜ぶ。

 

「無事だったんだね!」

 

「天馬こそ!」

 

「やっぱり知り合いだったのね」

 

マミは二人の様子を見て安堵する。

 

「良かったね、友達と会えて」

 

「うん!ところで君は……?」

 

「僕の名前はキュゥべえ!さっきはボールで助けてくれてありがとう!」

 

キュゥべえは赤い瞳を輝かせながら言った。

 

「それから君たちも助けてくれてどうもありがとう!」

 

今度はまどかとさやかに向かって礼を言う。

 

「キュゥべえ……?あなたが……私を呼んだの?」

 

まどかが尋ねると、キュゥべえは頷く。

 

「そうだよ。鹿目まどか。それと――美樹さやか」

 

「え……なんで、あたしたちの名前を?」

 

さやかが目を丸くすると、キュゥべえは淡々と、切実な口調で訴えてきた。

 

「僕、君たちにお願いがあって来たんだ」

 

「……お、お願い?」

 

キュゥべえは、うん、と頷くと再び赤い瞳を輝かせながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

「…ま、魔法少女……?」

 

転がる石のように続く急展開に天馬はそう呟くしかなかった。しかし、天馬は知らなかった。この魔法少女というものに自分たちが深く関わる事になる事を………

 

 

 

 

 




次回予告

――EDテーマ『やっぱ青春』(歌:空野葵)――



天馬
「突然現れた魔法少女とキュゥべえ。俺達が異世界の人間ってどういうこと!?そんな中、マミさんの提案でまどかさん達が魔法少女体験ツアーに参加し、俺と信助も参加することに!今、物語は動き出す!

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第2話『魔法少女とマギカボール』!」







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第2話『魔法少女とマギカボール』

魔女退治始まります。

今回はほぼ原作どうりなのでちょっと長いです。
最近文才とか欲しくなる今日この頃。


――OP『天までとどけっ!』――



 

 

~~マミの自宅・夕方~~

 

 

 

「「いっただっきまーす!」」

 

天馬と信助はシフォンケーキとハーブティーを口にしていた。天馬たちを助けた少女は見滝原中学三年生、そしてキュゥべえと契約した魔法少女、(ともえ)マミと名乗り、彼らを自宅に招いておもてなしをしたのであった。ちなみに天馬たちも自己紹介を済ませている。

 

「「おいしい!」」

 

「ホント?じゃあ、あたしもいただきまーす」

 

さやかもフォークを手に取り、ケーキを口に運ぶ。

 

「うん、めっちゃうまっすよ」

 

さやかがマイペースに言う一方、まどかは先ほどの出来事が頭から離れず、ここがまだ夢じゃないかと部屋を見渡す。その様子にマミはクスリと微笑む。

 

「キュゥべえに選ばれた以上、あなたたちにとっても他人事じゃないものね。ある程度の説明は必要かと思って」

 

「うんうん、何でも訊いてくれたまえ」

 

「さやかちゃん、それ逆……」

 

「「あはは……」」

 

天馬と信助は苦笑いし、マミは楽しそうに微笑む。

 

「うふふ…それに松風くんにも説明しないとね」

 

「はい。あっ、俺の事は天馬でいいですよ」

 

「じゃあ天馬くん。あなたも信助くんと同じくキュゥべえが見えてるみたいだから説明するわね」

 

「信助にも見えてるの?」

 

「うん。普通の人には見えないらしいよ」

 

そしてマミは説明した。ソウルジェムのこと、願いを一つだけ叶える代わりにキュゥべえと契約すること、それにより魔法少女になり、魔女と戦う使命を与えられることを。

 

「魔女って何なの?魔法少女とはどう違うの?」

 

さやかが魔女と魔法少女の違いについて尋ねる。

 

「願いを叶えるのが魔法少女だとするなら、魔女は呪いから生まれ出た存在。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望を撒き散らす。しかもその姿は普通の人には見えないからタチが悪い」

 

「理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なの。形の無い悪意となって、人間の心を蝕むの」

 

マミは真剣な顔で口を挟む。

 

「そんなヤバイ奴らがいるのに、どうして誰も気付かないの?」

 

顔をしかめるさやかにキュゥべえはしっぽを丸めながら言った。

 

「魔女は常に結界の奥に隠れ潜んで、決して人前には姿を現さないからね。さっき、君たちが迷い込んだ迷路のような場所がそうだよ」

 

「…っ!」

 

まどかはさっきまで自分たちがいた場所がそんな恐ろしい場所だったと理解し、恐怖する。

 

「結構、危ないところだったのよ。あれに飲み込まれた人間は、普通は生きて帰れないから」

 

「マミさんは、そんな怖いものと戦っているんですか?」

 

まどかは震える声で尋ねる。それに対しマミは

 

「そう。命懸けよ。だから慎重に選んだ方がいい」

 

真顔で頷く。

 

「キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いも叶えるチャンスがある。でもそれは死と隣り合わせなの」

 

「うぅ………」

 

「うわぁ、悩むなぁ………」

 

まどかは身震いし、さやかは髪の毛を指先で掻きむしる。

 

「……魔法少女ってすごいけどやっぱり大変なんだね……命懸けなんて…」

 

「うん。僕もマミさんから聞いた時はそう思ったよ」

 

三人の少女と一匹の話を聞いていた天馬と信助はフォークとケーキを持ちながら話していた。

 

「そうだ。天馬くん、あの時は助けてくれてありがとう。死ぬかと思っちゃったよ」

 

まどかは思い出したように天馬に礼を言う。

 

「いいですよ。それに俺も結局はマミさんに助けられたし……ところでキュゥべえ。俺と信助にも君が見えてるってことは、俺たちにも魔法が使える素質があるってことなの?」

 

「いや、あんたら男でしょ」

 

さやかがツッコむ。

 

「…いや。君たちには魔法少女の素質はないよ。……そもそも僕の姿が見えるのは

素質のある少女だけなんだ。僕も見せようとすれば素質が無い人にも見せられるんだけど、君たちに関してはまるでわからない。本来素質が無ければ見えるはずがないんだ。………たとえ異世界の人間でもね」

 

キュゥべえは淡々と答える。

 

「そうだよ!さっきも聞いたけど天馬たちが異世界人ってどういうこと?」

 

さやかは声を荒げる。

 

「彼らの持つ情報が僕の知らないことだらけなんだ。昨日信助から聞いたんだけどね」

 

「信助、どういうこと?そもそもどうして信助はマミさんと一緒に?」

 

「…うん………あれは昨日の事だったよ…」

 

 

 

 

 

~~前日の夕方・市立公園~~

 

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁっ!!」

 

ドシャッ!

 

その空中に謎の光が出現し、そこから雷門のジャージを着た信助が落下する。

 

「あいたたた………」

 

信助は落下時の衝撃による痛みを味わいながらも起き上がる。

 

「あれ、ここは………?確か、僕たちは時空乱流に飲み込まれて………そうだ、みんなは!?」

 

信助は慌てて回りを見渡す。

 

「天馬!フェイ!みんな!」

 

しかしいくら周りに叫んでも誰かの姿も返事もなかった。

 

「みんないない……それにここはどこだろ…?……ん?」

 

信助が自分の足元を見るとそこには天馬が授かったものと同じボールがあった。

 

「何だろ、このボール……こんなの持ってたっけ…?」

 

信助がボールを手に取り調べる。その直後、異変は起きた。

 

 

ズアァァァァァァァ!

 

 

「!?」

 

信助は天馬たちが捕らえられたものと同じ魔女結界に閉じ込められる。

 

「な、何!?急に景色が……!」

 

そして、理解する間もなく怪物が現れる。

 

「―――!?!」

 

「う、うわあぁぁぁぁぁ!!」

 

信助はすぐさまボールを抱えて逃げ出す。

 

ガッ!

 

「あうっ!」

 

しかし、慌てて走ったせいか躓いて転び、ボールは前方に投げ出される。そして怪物が襲いかかろうとしていた。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!」

 

信助はもう逃げられないと思い、頭を抱えて目を閉じる。

 

「ティロ・ボレー!」

 

誰かの声と何かが爆発した音が響き信助は目を開ける。

 

「……えっ?」

 

すると自分を襲うとした怪物は吹き飛んでいた。そこへ変わった格好をした黄色の少女がマスケット銃を持って現れる。

 

「ボク、大丈夫!?」

 

少女は信助に駆け寄り、手を伸ばす。

 

「は、はい!」

 

信助は少女の手を掴みながら立ち上がる。

 

「あの、あなたは……?」

 

信助は少女に何者か尋ねようとするが、

 

「色々聞きたいことはあるだろうけど、とりあえず……」

 

少女が指をパチンと鳴らすと、信助の周りに無数のリボンが出現する。

 

「リ、リボン!?」

 

それらはまるで信助を守る壁のようになっていた。

 

「その中にいれば安全だから、ちょっと待っててね」

 

少女は信助に微笑むと怪物の方に向き直し、両腕を上げるとたくさんのマスケット銃が出現する。

 

「パロット・ラ・マギカ・エドゥインフィニータ!!!」

 

天馬たちを助けたときと同じ技を繰り出すと怪物は全て消滅し、結界が解ける。

 

「…す、すごい………」

 

「魔女には逃げられたようね。」

 

そう言いながら少女は変身を解く。そして少女は信助を守っていたリボンの壁を解除し

て近づく。

 

「あなた大丈夫だった?」

 

「は、はい。あの、助けてくれてありがとうございました…」

 

困惑しながらも少女に礼を言う信助。すると少女の足元に謎の白い生物が降り立つ。

 

「惜しかったね。マミ」

 

「うわあぁぁっ!ネコが喋った!?」

 

(!?…この子、キュゥべえが………!?)

 

マミは信助が謎の生物、キュゥベえが見えてることに驚く。

 

「ひょっとして君は僕の姿が見えてるのかい?」

 

キュゥべえは表情を変えぬまま信介に確認する。

 

「……み、見えてるって……?」

 

信助の様子にマミは少し考えた後、

 

「……キュゥべえ」

 

「うん。どうやら彼には説明した方が良さそうだ」

 

マミは目線をキュゥべえから信助に直す。

 

「……色々わからない事が多いでしょう。とりあえず、私の家に来てくれない?」

 

「え?………は、はい」

 

信助は戸惑うばかりだったが、自分を助けてくれた恩人をとりあえず信じる事にした。

 

「あの…あなたは……?」

 

「私は巴マミ………魔法少女よ」

 

これが西園信助と巴マミの出会いであった。

 

 

 

 

 

 

「僕、雷門中一年の西園信助って言います!」

 

信助はマミと共に彼女の自宅に移動し、マミが用意したハーブティーとケーキが置かれたテーブルを前に座りながら自己紹介する。

 

「よろしくね。西園君。(中学生だったのね……小学生かと思ったわ…)」

 

マミは信助を小学生だと思い込んでいた。しかし、顔には出さず包み込むような笑顔で挨拶した。そして天馬たちの時のように魔法少女と魔女について説明した。

 

「……魔法少女……まるでマンガやアニメの世界に飛び込んだみたいです」

 

「いきなりで驚いただろうけど、私は悪い魔女をやっつけるのが仕事ってことね」

 

「でも、それってすっごくカッコイイですよ!」

 

信助は目を輝かせる。

 

「ふふっ。ありがとう」

 

「ところで西園信助だったよね。僕は君にとても興味がある」

 

「僕に?」

 

「うん。本来僕の姿は素質のある少女にしか見えないんだ。なのに君には僕の姿が見えている。これは未だ前例のないイレギュラーな事なんだ。それに君が雷門中と名乗った事にも気になる」

 

「どういうこと?(かなり文明が発達した街みたいだから雷門が存在してもおかしくないと思ったんだけど……?)」

 

「僕には仲間たちがいてね。彼らとはテレパシーで繋がっているんだけど、彼らから得た情報によると、

 

 

 

―――雷門中なんて学校はこの世界には存在しないと出たんだ」

 

「…え?えぇぇぇぇぇ!?」

 

信助は驚愕する。

 

「だ、だって雷門はサッカーの名門校なんだよ!フットボールフロンティアやホーリーロードでも優勝したことあるし…」

 

「それはおかしいよ。確かにこの世界にはサッカーというものはあるけど、フットボールフロンティアやホーリーロードなんて聞いたこともない」

 

「そんな…!」

 

ショックを受ける信助。

 

(どういうこと!?………でも雷門が存在してないってことは僕が今着てるジャージも無いって事になるはず…)

 

信助は自分の着ている雷門のジャージを見ながら困惑する。

 

「どうなってるの…?」

 

「ねえ、何か複雑な事情があるみたいだけど、良かったら話してくれる?」

 

困惑する信助を心配したマミは事情を聞くことにした。

 

「………」

 

信助はすこしばかりためらうが、先ほど自分も魔法少女の事など信じられないものを見たので話すことにした。

 

「信じてもらえないかもしれませんけど、実は……」

 

 

 

 

 

「……未来の敵からサッカーを守る為に時を超えていた……ね…」

 

「なかなか興味深い話だね」

 

「信じてくれるんですか?」

 

「私も魔法少女なんてやってるからね」

 

「でもこれでわかったよ。おそらく君はこの宇宙の人間じゃない。君は違う次元からやって来たんだ」

 

「ここは僕にとってパラレルワールドどころか全くの別世界って事?」

 

「そういうことになるね」

 

「……はぁ……これからどうしよう。この世界の事は全くわからないし、皆もいないし……」

 

話を聞いた信助は落胆する。

 

「大丈夫よ。きっとあなたの友達も無事だし元の世界に帰る方法もそのうちわかるわ」

 

「……ありがとうございます」

 

「行くところもないんでしょう?だったらここに住むといいわ」

 

「えっ!?いいんですか!?」

 

「ええ。一人暮らしだし、賑やかのほうが楽しいもの」

 

マミは手を差し伸べる。

 

「よろしくね。西園君」

 

「僕の事は信助でいいですよ。だから僕もマミさんって呼んでもいいですか?」

 

「もちろんよ。信助君」

 

「よろしく!マミさん!」

 

二人は笑顔で握手した。

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

「……というわけなんだ」

 

「……魔法少女の次は異世界人、さらにはタイムトラベルか。しかもサッカーの未来を懸けて」

 

「もう、何があっても不思議じゃないね…」

 

さやかとまどかは立て続けに起きた超常現象を全て受け入れたようだった。

 

「じゃあ、信助は俺みたいに誰かから助けを求められてこのボールを貰ったんじゃないの?」

 

天馬は魔法陣が描かれたボールを膝に置きながら聞く。

 

「うん。時空乱流に飲み込まれた後に意識を失って、気づいたら公園に落下していて、そばにこのボールがあったんだ」

 

信助も自分のボールを両手に持つ。

 

「うーん、このボール……不思議な力を感じるけど、僕にも解明できないよ」

 

キュゥべえは天馬のボールに長い耳を当てながら答える。

 

「やっぱり俺に助けを求めてこれをくれたのはキュゥべえじゃないんだね」

 

その問いにキュゥべえは、うん、と頷く。

 

「こんなものは僕も初めて見たよ。僕でも解明できない物があるなんてね。確かに僕も助けを求めたけど、それはまどかにだけテレパシーを送ったんだ。まどか以外にも届いてたなんてわけがわからないよ」

 

「……じゃあ、あの時俺に助けを求めていたのは誰だったんだろ……?」

 

天馬は顎に手を添えて考える。

 

「ところで、天馬くんたちってどれくらいサッカーできるの?」

 

「未来の敵と戦ってたんだから相当強いんじゃないの?」

 

まどかとさやかが興味深そうに尋ねる。

 

「いえ、まだまだですよ。でも今年のホーリーロード全国大会で優勝したんです!」

 

「全国大会で優勝!?すごい!」

 

「それから、天馬はその時の決勝戦から雷門のキャプテンをしてるんです!」

 

「へえ。天馬って意外とやる男なんだね」

 

「キャプテンかぁ……かっこいいね!」

 

「俺なんてまだまだですよ。それに信助だってキーパーとして頑張ってるじゃないか」

 

「あら、信助くんってキーパーだったの?」

 

まだ信助から聞いて無かったマミが意外だったように尋ねる。

 

「はい!僕は元々DFだったんですけど、先輩の勧めでGKもやってるんです」

 

「フフッ。小さな体に大きなパワーが詰まってるってことね」

 

「えへへ……」

 

少しだけ照れる信助。

 

(……天馬くんと信助くんもすごいんだ…)

 

まどかは二人の武勇伝を聞いて、二人に感心する。しかし、すぐに俯き、彼らと自分の違いを比べてしまい、

 

(それに比べてわたしは……ましてや……)

 

魔法少女なんて無理、と言いたそうな顔をしながら劣等感を感じる。するとマミが言いだす。

 

「ところで、魔法少女の話に戻すけど……鹿目さん、美樹さん。しばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」

 

「「「…え……ええぇ!?」」」

 

「マミさん!?」

 

「魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみればいいわ。その上で、危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうか、じっくり考えてみるべきだと思うの」

 

マミはそう言うとあの優しい微笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

~~翌朝・鹿目家~~

 

 

 

ジリリリリリリ

 

「……はぅ?」

 

まどかが目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。

 

「……また変な夢?」

 

まどかが昨日の事は夢かと思った直後、

 

「おはよう、まどか!」

 

夢ではない事を証明するあの白い生物が挨拶してきた。

 

「……あはは…」

 

 

 

 

~~通学路~~

 

「おっはよー!」

 

まどかはさやかともう一人の親友である志筑(しづき)仁美(ひとみ)に挨拶する。

 

「おはようございます」

 

仁美は笑顔で挨拶する。

 

「おはよう、ま…」

 

「おはよう、さやか!」

 

さやかがまどかに挨拶しようとしたとき、まどかの肩に乗ったキュゥべえが元気よく挨拶する。

 

「う………あ………」

 

「どうかしましたか?さやかさん」

 

仁美は不思議そうな顔をする。まどかの家族もキュゥべえの姿が見えなかったがやはり自分達しか見えてないようだった。

 

「…やっぱソイツ、あたしたちにしか見えないんだ?」

 

「…そうみたい。」

 

二人が小声で話した後、まどかはキュゥべえに教わった通りにテレパシーを送る。

 

(頭で考えるだけで、会話とかができるみたいだよ)

 

「……いッ」

 

さやかは一瞬驚いたが即座に返事をする。

 

(あ、あたしたち、もう既にそんなマジカルな力が?)

 

(いやいや、今はまだ僕が間で中継してるだけ。でも内緒話には便利でしょ?)

 

(な……なんか変な感じ)

 

「あの、お二人とも、さっきからどうしたんです?しきりに目配せしてますけど」

 

「えッ?いや、これはッ、あの、その……」

 

まどかは必死に言い訳を探そうとするが、

 

「ま、まさか二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?昨日はあの後一体何が!?」

 

仁美は既に妄想の世界に入り込んでいた。

 

「仁美ちゃん…あの…」

 

「そんな、いけませんわ、お二方、女の子同士で……」

 

仁美は赤面しながら顔を押さえ、

 

「それは……それは禁断の恋の形ですのよ~~~~!」

 

叫びながらそのまま走り去ってしまった。

 

「バック忘れてるよー!」

 

さやかが叫んだ時には既に彼女の姿は霞んでいた。

 

「……今日の仁美ちゃん、なんだかさやかちゃんみたいだったよ?」

 

「あたし……あんなにひどかったっけ…?」

 

 

 

 

~~一方、市立公園~~

 

 

 

「ええっ!?化身が出せない!?」

 

前日の話の後、天馬も信助同様マミの家に厄介になることになった。そして今朝、マミが学校に行った後、仲間たちを探すために公園に移動した。ちなみに二人とも変わらずジャージ姿である。そして天馬はこの世界に来てから化身を出せないことを話していた。

 

「…そうなんだ。昨日魔女の使い魔を蹴散らそうとして出そうとしたんだけど、化身のオーラすら出なかったんだ」

 

「そういえば、僕も何だか自分の化身の力を感じられないような……じゃあ、ミキシトランスは?」

 

「さっき信助がトイレに行ってるときにやってみたけど、それもダメだったよ」

 

「………やっぱり、この世界に来てしまった影響かな…?」

 

「そうかもしれないね…」

 

不安だらけのこの事態に二人は悩み、黙り込んでしまう。

 

「………」

 

「………」

 

しかし、天馬はボールを見て考えた後。

 

「……よし!やろう!信助!」

 

「へ?やろうって………?」

 

「練習だよ!考えたって始まらない!悩んでるときはボールを蹴ろう!きっとなんとかなるさ!」

 

そう言いながら天馬はジャージを脱ぎ、ユニフォーム姿になる。

 

「………うん!」

 

信助もユニフォーム姿になり、自分のもやもやした感情を吹き飛ばすことにした。

 

「信助!」

 

「…ん?」

 

「俺、早くみんなと合流して、またサッカーがしたいな!」

 

「……うん、僕もだよ!」

 

それから、二人は途中でマミが用意した弁当を食べつつ練習を続けた。そして公園にボールの弾む音と二人の少年の声が響き続け、日は暮れて行った。

 

 

 

 

 

~~夕方~~

 

 

 

「ふ~。そろそろマミさんたちも学校が終わったんじゃないかな」

 

「うん。確か、今日はまどかさんたちを連れて魔女退治するんだったよね」

 

「そうだったね。魔法少女体験ツアーって言って。でも大丈夫かな…?」

 

「やっぱりそうだよね…だからさ、天馬!考えたんだけど………」

 

「あなたたち……」

 

「「!?」」

 

信助が天馬に何か言おうとした直後、いつの間にか二人のそばに一人の少女が無表情で佇んでいた。

 

「………」

 

それは、暁美ほむらだった。

 

「……あなたは確か、ほむらさん?」

 

「この人が?」

 

「うん……」

 

二人は昨日の話の中で、ほむらの話も聞いていた。キュゥべえを襲い、魔法少女の増加を減らそうとしていると。少しばかり警戒する二人。

 

「答えて…あなたは何故、あの時あの場所にいたの?」

 

ほむらは天馬に問う。

 

「へ…?お、俺はあの時、キュゥべえの声が聞こえてあそこに……そしたら魔女の結界に取り込まれて……」

 

(……ッ!?アイツの声が聞こえた!?それに魔女の事も知ってる?)

 

とっさに答えた天馬の言葉にほむらは驚く。

 

「あのっ!僕、西園信助って言います!ほむらさんでしたよね?あなたも魔法少女だって聞きました!どうして同じ魔法少女なのにマミさんと仲良くせずキュゥべえを狙うんです?」

 

「……あなたたちには関係ないことよ。それに彼女たちとも関わるのはやめた方がいいわ」

 

「いやです!異世界の人とはいえ、友達を放っておけないんです!」

 

「し、信助っ!」

 

「あっ!」

 

信助は口を滑らせ、しまった、と言うような顔で口元を手で隠す。

 

「……異世界…?どういうこと…?」

 

しかしすでに遅く、鋭い眼力で二人を睨むほむら。

 

「…あ、その……」

 

「……じ、実は俺たち……」

 

天馬たちはその迫力に負け、自分たちがこの世界に来た経緯を全て話してしまった。話を聞き終えたほむらは、

 

「…そう……」

 

淡と答える。

 

「私の聞きたいことは聞けたわ」

 

「あ、あの…」

 

「元の世界に戻りたかったら、余計なことに首を突っ込まないことね……でないと……大切なものを失うわ…」

 

信助が自分の質問に答えてもらおうとしたが、ほむらは話を聞かずそのまま去ってしまった。

 

「……不思議な人だったね。ほむらさんって……」

 

「………」

 

天馬は何故かほむらが去って行った方向を見ながら黙っていた。

 

「天馬?どうしたの?」

 

「うん……なんだかあの人、

 

 

 

 

―――すごく寂しそうな目をしてたなって…」

 

天馬の言葉に信助もただ黙って同じ方向を見つめる。しかし、すぐにハッとなる。

 

「そうだ天馬!さっき言いかけたんだけど……」

 

 

 

 

 

 

「時を超えていた、ね………まさか私と同じ事をしていた人たちがいたなんてね…」

 

天馬たちのいた公園から少し離れた場所でほむらはただ独り言を呟く。

 

「でも、異世界人とはいえ彼らはただのサッカープレイヤー。害はないけど期待もできないイレギュラーね…。やはりこの時間軸も私が一人で………」

 

ほむらは決意の固い目をしながら呟く。

 

「まどか……あなたは私が必ず守ってみせる…!私一人でも…!」

 

 

 

~~見滝原市街中・駅前~~

 

 

「あっ!マミさんだ!」

 

まどかとさやかは待ち合わせ場所である駅前のファーストフード店にやって来た。この後マミの元で行う、魔法少女体験ツアーの為である。

 

「それじゃとりあえず中に入りましょうか」

 

「はい」

 

「あっ!皆さん!」

 

三人が店内に入ろうとしたそのとき、ジャージ姿でボールを持った天馬と信助がやって来た。

 

「あなたたち…」

 

「僕たちも一緒にいいですか?」

 

 

 

 

 

 

店の中に入った一同はとりあえず、まどかはチーズバーガーセット、天馬はハンバーガーとオレンジジュース、マミはオレンジジュースのみ、さやかはがっつりバリューセット、信助にいたってはオレンジジュースとビッグバーガー5個を注文した。(ちなみに天馬たちはマミから小遣いはもらっていたが元々自分たちの持っていた金はこの世界と同じだった。)天馬以外の注文にマミはクスリと微笑む。

 

「食欲があるのは良いことよ」

 

「てか……あたしより信助、あんたよくそんなに食べられるわね」

 

「はい!僕、おにぎり十個は食べられるんですよ!」

 

「そういえば、元の世界で練習が終わった後もラーメン四杯は食べてたよね」

 

信助の並外れた食欲に一同はその小さな体のどこに入ってるんだろうと不思議に思う。そしてさやかは机の下から布で包まれた細長いものを取り出す。

 

「それ、ずっと持っていたけど何?」

 

まどかが聞くとさやかは口一杯にハンバーガーを頬張りながら無言で中身を見せる。

 

「金属、バット……?」

 

「体育倉庫からガメてきた。何もないよりはマシかと思って」

 

まどかは魔女にバットが効くのかと思いつつその心意気はさすがだと思った。

 

「まあ、そういう覚悟でいてくれるのは助かるわ」

 

マミも同じように思いながらもどこか呆れたように微笑んだ。

 

「で、まどかは?何か持ってきた?」

 

「え?えっと、わたしは………」

 

まどかはさやかの期待に満ちた視線を受けつつ鞄から一冊のノートを取り出す。

 

「……ノート?」

 

そこにはまどかが考えた自分の魔法少女の時の姿や設定が書き込まれていた。

 

「と、とりあえず、衣装だけでも考えておこうかと思って……」

 

まどかがしどろもどろに説明し始めたが、全て話し終わる前から、

 

「…フ…フフッ……うん、意気込みとしては十分ね」

 

笑いの堪えるあまりに流れた涙を拭うマミ。

 

「ゲホッ、ゲホッ……こりゃあ参った。あんたにゃ、負けるわ」

 

咳き込みながら、腹を抱えるさやか。

 

「し、信助……笑っちゃ悪いよ……く、くく…!」

 

「て、天馬こそ……ふ、ふふふっ…!」

 

天馬と信助は必死に笑いを堪えていた。

 

「て、天馬くんたちまで………」

 

まどかは全員に笑われて落ち込みながら小さくなっていた。

 

 

 

「ところで、どうして二人はここに?」

 

ひとしきり落ち着いた後、マミが天馬と信助に尋ねる。すると信助が待っていたかのように返事を返した。

 

「ここでまどかさんたちと待ち合わせるってマミさん言ってたじゃないですか。それで思ったんです!」

 

「俺たちも一緒に連れて行ってください!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

まどかとさやかとマミの三人は驚く。

 

「二人とも、本気?魔女との戦いは命懸けなのよ?」

 

マミは二人に警告する。

 

「わかってます!でも僕たち、お世話になってるマミさんの力になりたいんです!」

 

「それに俺たちも使い魔ぐらいならこのボールを使ってなんとかできますよ!」

 

二人はそれぞれ、ボールをマミに見せながら言った。マミは悩んだが、二人の決心の固い瞳を見せられ、「はぁ…」とため息をついた。

 

「……しょうがないわね」

 

その熱意に負けたように答えた。

 

「やったあ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし、二人とも無茶だけはしないでね。……さて、そろそろ行きましょうか」

 

五人は店を後にした。

 

 

 

 

 

~~廃ビル前~~

 

 

 

「間違いない、ここよ………」

 

昨日出現した、魔女の結界があったショピングモールに足を運んだ一同。しかし既に魔女本体は移動しており、途中でキュゥベえと合流しながらマミのソウルジェムの魔女探査機能を使って魔女を探すうちにこのビルにたどり着いた。マミが頭上を見上げるに合わせて全員が顔を上げる。するとビルの屋上にOL風の格好をした一人の女性が佇んでいた。女性の目から生気は感じられず、風に髪をなびかせる。

 

「ま……マミさん、あれ!」

 

「あ、危ない!」

 

さやかと天馬が叫ぶと同時に女性は空中に足を踏み出す。

 

「き………きゃあぁぁぁ!」

 

まどかは目を背けながら叫んだ瞬間、マミは魔法少女に変身し、信じられないほど高く飛ぶ。まどかが目を開けると魔法のリボンで女性を受け止めていた。そしてマミは気を失っている女性を抱きかかえたまま地表に降り立ち、そっと寝かせる。天馬たちがマミの元に駆けつけるとマミは女性の首もとを指さす。

 

「魔女の口づけ………やっぱりね」

 

そこには魔女に心を蝕まれている証である魔女の口づけという痣があった。

 

「そ、その人は………」

 

まどかは震えた声で尋ねる。

 

「大丈夫。気を失ってるだけ。―――行くわよ!」

 

マミが駆け出すと、天馬たちも慌ててついていく。そしてビルの入り口で魔女の結界を暴きだすマミ。

 

「今日こそ、逃がさないわよ……」

 

マミの強い覚悟を秘めた呟きに天馬と信助も覚悟を決めた顔つきになり、さやかもバットを取り出す。さやかのバットにマミが手を伸ばすと光の輪がマミの腕からバットへ乗り移り、バットは白いステッキに変わる。

 

「気休めだけど、これで身を守る程度の役には立つわ。絶対に私の側を離れないでね。」

 

「「「は、はい!」」」

 

力強く微笑むマミの顔に四人の胸に熱いものがみなぎり、力強く返事をする。

 

「さ、天馬くんたちのそのボールにも………」

 

ピカッ!

 

「「「!?」」」

 

マミが天馬たちの持つボールにも魔法をかけようとした瞬間、二つのボールから強い光が

放たれる。

 

「ボールが光ってる!」

 

「マミさん、どんな魔法をかけたんですか?」

 

「え…?私はまだ何もしてないけど……」

 

「え…?……うわっ!」

 

天馬が声を上げると、二つのボールは二人の手から離れ、空中に浮かぶ。

 

「ボールが宙に浮いてる!」

 

そしてボールに描かれた魔法陣の部分がひときわ輝きを放つと、天馬と信助のジャージが光に包まれ、光が消えると天馬はキャプテンマーク付きの背番号8番、信助は5番の雷門のユニフォームを着ていた。そしてボールから光は消え、二人の前に落下する。

 

「……雷門のユニフォームに変わった!?」

 

「これもマミさんの魔法ですか?」

 

「いいえ、私は何もしてないわ………」

 

マミは不思議に思いながら答えると地面に転がる二つのボールをまじまじと見る。

 

「魔法少女の変身のように恰好を変えるなんて、不思議なボールね……」

 

「それにしてもそれが天馬くんたちのユニフォーム?」

 

まどかは雷門のユニフォームを指さす。

 

「へえ。結構カッコイイじゃん!」

 

「ありがとうございます!」

 

「私の魔法はかけなくても大丈夫かしら?」

 

「はい!なんだかユニフォームに変わってから力がみなぎるんです!」

 

天馬は力強く言った。

 

「そう。みんな、そろそろ行くわよ!」

 

 

 

 

 

~魔女結界~

 

 

 

五人と一匹が踏み込んだ先には昨日と同じ悪夢の空間が広がっていた。迷うことなく突き進むマミについていく天馬たち。そして少し進むと昨日天馬たちを襲った使い魔たちが現れた。

 

「で、出た!」

 

「下がって!」

 

マミは天馬たちを下がらせると、昨日までと同じく、いくつものマスケット銃を生成し使い魔たちを撃ち抜いていく。

 

「……み、みんな!」

 

まどかが後ろを見ると、他の使い魔が押し寄せてきた。

 

「このっ!このっ!」

 

さやかはまどかを自分の後ろに隠し、ステッキで使い魔を叩いて応戦する。しかし追い払うのが精一杯だった。

 

「信助!俺たちもやるぞ!」

 

「うん!」

 

「「はああぁっ!」」

 

天馬と信助は同時にボールを使い魔に向けてシュートを放つ。シュートが決まると使い魔は吹っ飛び、ボンッ!という音を立て、煙になって消滅した。

 

「やった!」

 

「フフッ。二人とも使い魔とはいえ倒してしまうなんてやるじゃない」

 

使い魔に当たったボールはすぐさま二人の元に戻ってくる。

 

「当てたらすぐ戻ってくるみたいだね」

 

「でもこれなら何度蹴っても無くならないよ!よし、もう一発!はああッ!」

 

天馬が使い魔にシュートを放つ。しかし戻ってこようとしたボールはその特性に気づいたのか他の使い魔たちに取られてしまった。

 

「ああっ!取られちゃった!」

 

「だったら取り返します!」

 

天馬は腕を振って身構えると残像を残しながら使い魔に接近し、ジャンプした直後、残像と共に消える。

 

「『ワンダートラップ』!」

 

気が付くと天馬が使い魔からボールをスライディングで取り返していた。

 

「やった!」

 

「な、何アレ!」

 

さやかは天馬が必殺技を繰り出した事に驚く。

 

「僕たちのサッカーにおける必殺技です!」

 

「そんなのがあるんだ…」

 

信助の自慢するような説明にまどかは唖然とする。

 

「天馬くん!前!」

 

「!」

 

マミの叫びに気づいた天馬は前を見る。すると2体の使い魔が待ち構えていた。天馬はすぐさま立ち上がり、ドリブルしながら左手を胸に当てる。そこから鼓動のような電波が現れ、右手を左から右へと大きく振る。

 

「『アグレッシブビート』!」

 

暗転し電波の光が使い魔を通り抜けた直後、天馬は光の道筋に合わせて使い魔を抜いており、そこから一気に走り出すと、軌跡を描いた電波が弦のように弾かれ、弾き飛ばされた使い魔が消滅する。

 

「天馬やるじゃん!」

 

「よーし、僕だって!」

 

信助はボールを高く蹴り上げる。

 

「『ぶっとびジャンプ』!」

 

信助は高く飛び上がるとボールを両足で渾身の力を込めて使い魔が密集している所に放つ。そしてボールが地面に命中すると、多くの使い魔が吹っ飛びながら消滅する。

 

「すごいジャンプ力!」

 

「…てか、ぶっとびジャンプって何よ…」

 

マミが信助のジャンプ力に感心する一方、さやかはその技名に半ば呆れる。すると今度はかなり前の方から大量の使い魔がゾロゾロと列をなすように現れた。

 

「ここは大技かしらね」

 

「いえ、今度は俺のシュートで行きます!」

 

天馬は使い魔に向けてボールを放つ。それはとても使い魔に届く様な距離ではなかったが天馬はボールに向かって加速しながら走っていく。

 

「はあああぁぁっ!」

 

「天馬、速っ!」

 

「いけー!天馬!!」

 

そして天馬がボールに追いつきもう一度蹴るとそのままのスピードでジャンピングボレーシュートを繰り出す。

 

「『真・マッハウィンド』!!!」

 

天馬が放ったシュートは竜巻のように風を纏い、猛スピードで使い魔たちを蹴散らしていった。

 

「…ねえ…あの二人の必殺技って、もうサッカーの域を超えてるよね…」

 

「……うん……」

 

天馬たちの常識外れのサッカーにさやかとまどかは戸惑った。これが超次元サッカーである。

 

「二人とも中々の必殺技ね!」

 

一方でマミは目がキラキラ輝いていた。

 

「みんな!そろそろ結界の一番奥に着くよ!」

 

キュゥベえが呼びかける。どうやら使い魔を蹴散らしていく内に結界の最深部にたどり着いたようだった。

 

 

 

~~魔女の結界・最深部~~

 

 

 

最深部にたどり着いた一行は広い空間の中心を見据える。そこには薔薇をあちこちに着けたヘドロ状の大きな怪物がいた。薔薇園の魔女、ゲルトルートである。

 

「あれが魔女……」

 

「うわっ……グロい……」

 

天馬が魔女を見上げて呟き、さやかは顔を歪めて呟く。

 

「あんなのと………戦うんですか…?」

 

まどかは心配そうに聞くが、マミは笑顔で頷く。そして天馬たちを下がらせると、四人を守るようにリボンの壁を生成する。

 

「一人で大丈夫ですか?」

 

「大丈夫。負けないわ。」

 

マミは信助に笑顔で返すと、一人、魔女の元へと歩み寄る。そして一度立ち止まり、スカートや帽子の中からたくさんのマスケット銃を出し、次々と手に取っては魔女に向けて撃ち続ける。しかし、魔女は素早く動き弾丸を避け、マミを黒い蔓で拘束する。

 

「ッ!」

 

マミも負けじと撃つが弾丸は地面にめりこむばかりだった。

 

「な、何やってんのさ、マミさん!」

 

「天馬、僕たちも……!」

 

さやかが心配のあまり叫び、信助も加勢しようとしたが、

 

「まあ、見てなさい」

 

マミが落ち着いた声で静止させる。

 

「大丈夫。未来の後輩に、あんまり格好悪いとこ見せられないものね!」

 

すると地面にめりこんだ弾丸から金色の糸が伸びていき、魔女全体を拘束する。魔女は抜け出そうとするが、糸を放った弾丸の数が多く抜け出せない。

 

「まさか、この為にわざと外して!?」

 

天馬が叫ぶとマミは胸のリボンを操り、黒い蔓から脱出していた。

 

「惜しかったわね。」

 

ほどいたリボンを翻すと、それはマミの手の中で光になり、そこから巨大な大砲を生成する。そしてマミは技名を叫ぶと同時に放つ。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

大砲から放たれた閃光が魔女を包み込む。魔女は断末魔をあげながら消滅し、周りの景色は元の廃ビルに戻っていく。

 

「か、勝った………の?」

 

「「凄い……」」

 

「やっぱりマミさんは凄いや!」

 

まどか、天馬、さやかの三人は呆然とし、信助が感激する中、マミは着地する。そしてゆっくりと四人に歩み寄り、手に持っていた黒い宝石のようなものを四人に見せる。

 

「これが、グリーフシード。魔女の卵よ」

 

「た、卵………」

 

「運が良ければ、時々魔女が持ち歩いている事があるの」

 

「大丈夫。その状態なら安全だよ。むしろ役に立つ貴重なモノだ」

 

天馬たちがグリーフシードをまじまじと見る中、マミは自分のソウルジェムを見せる。

 

「ホラ、私のソウルジェム、ゆうべよりちょっと色が濁ってるでしょ?」

 

マミの言うとおり、ソウルジェムの色が少しくすんでいた。

 

「でも、グリーフシードを使えば、ほら―――」

 

マミはそう言いながらソウルジェムにグリーフシードを近づけると、二つの石は共鳴するような音を立て、光り輝き、ソウルジェムの黒い濁りがグリーフシードに移っていった。

 

「わあ……」

 

「ね?」

 

マミがにっこりと笑ってかざすとソウルジェムは元の透き通った輝きを取り戻していた。

 

「これで消耗した私の魔力も元通り。前に話した魔女退治の見返りっていうのが、これ」

 

直後、マミはグリーフシードをどこか部屋の隅へと投げる。一同が投げた方向を見ると、見覚えのある少女が受け止めていた。

 

「……あ、あいつ!?」

 

それはまどかたちと同じ見滝原中学の制服を着たほむらだった。

 

「あと一度ぐらいは使えるはずよ。あなたにあげるわ。暁美ほむらさん」

 

マミの言葉にほむらは無言でグリーフシードを見つめる。

 

「それとも、人と分け合うんじゃ不服かしら?まるごと自分のものにしたかった?」

 

ほむらは眉一つ動かさず、そのままマミにグリーフシードを投げ返す。

 

「あなたの獲物よ。あなただけのものにすればいい」

 

「そう……それがあなたの答えね」

 

マミが明確にほむらを味方じゃないと定め、ほむらも辺りを凍てつかせるような視線を返す。直後、天馬の方に視線を向ける。

 

「あなたたち、元の世界に帰りたかったら魔法少女に関わらないほうがいいわよ」

 

ほむらはそれだけ言うと踵を返し、闇に溶けるようにその場を去った。

 

「く~っ、やっぱ感じ悪いやつ!」

 

さやかは憎まれ口を叩く。

 

「ほむらさんはどうしてマミさんと仲良くしないんだろ……同じ魔法少女なのに」

 

天馬の言葉にまどかと信助も哀しげな表情を浮かばせる。

 

「お互いにそう思えれば、ね……」

 

マミも三人と同じどこか哀しげな顔で呟いた。

 

 

 

 

 

~~マミの自宅・夜~~

 

 

 

「「いっただきまーす!」」

 

「ふふ。いっぱい食べてね」

 

あの後魔女の口づけから解放された女性は目を覚まし、後遺症もなかったので無事に帰らせることができた。まどかたちと別れた天馬たちは現在、夕食のパスタを食べていた。

 

「それにしてもやっぱりマミさんって凄いですね!あんなに怖い魔女を倒せるなんて」

 

「そんなに大したことじゃないわ」

 

「それに自殺を図ろうとしたあの女の人を慰めた時も凄かったですよ!まるでお母さんみたいでした!」

 

「その時は俺も感動しちゃいましたよ!料理もおいしいし、(あき)(ねえ)を思い出します」

 

「秋姉?」

 

「親戚のお姉さんです。俺もアパートで一人暮らしをしていて、管理人の秋姉に世話になりながら暮らしていたんです」

 

「そう。いいお姉さんなのね」

 

マミは辺りを包み込むように微笑むと、二人に向き合うようにテーブルの前に座る。

 

「それにしても、あなたたちのそのボール……本当に不思議ね」

 

マミは床に置かれた二つのボールをまじまじと見る。

 

「僕も驚いたよ。まさか使い魔とはいえ倒してしまうなんてね」

 

キュゥべえはいつもと変わらない表情と赤い瞳で感想を述べる。

 

「元々天馬たちの身体能力も高かったけど、このボールが更に二人を強化しているみたいだよ」

 

「そうなの?」

 

天馬は間が抜けたように驚く。

 

「それに、恰好も変えてしまうなんて……まるでソウルジェムみたいね」

 

「でもこれでこれからもマミさんの魔女退治のお手伝いができますよ!」

 

「ありがとう。でも、絶対に無茶だけはしないでね」

 

マミは笑顔で感謝しつつもすぐに真剣な顔で警告する。

 

「それで考えたんだけど、このボール、“マギカボール”って名づけない?」

 

マミは一度ボールをチラ見してから天馬たちに問う。

 

「マギカ…?」

 

「ラテン語で“魔法”のことよ」

 

「魔法……そっか!マミさんたちの魔法の道具がソウルジェムなら僕たちは魔法のボールなんですね!」

 

信助はマギカボールを両手に持つ。

 

「このボールで皆に会えるように願いながらサッカーをしていけば、願いが叶うかもしれないね!」

 

「うん!これからも頑張ろう!天馬!」

 

マギカボールに願いを込め、二人は希望を見出す。これからマミの手伝いをしながら、仲間たちを見つけ出すという誓いを立てたのであった。

 

「ところで、二人の必殺技ってかっこよかったわね」

 

「「へっ?」」

 

マミが突如全く別の話をし始め、二人は拍子抜けした声を出す。

 

「私も自分の必殺技や技名を常に考えているの!」

 

マミの目はまるで同志を見つけたようにキラキラ輝いていた。

 

「マ……マミ、さん…?」

 

二人は自分たちの知らないマミの一面に戸惑う。

 

「だからこれから、お互いに必殺技や技名について語り合わない!?」

 

「「え……ええ~~~っ!?」」

 

二人が困惑するのも気にも留めず、マミは語りだした。

 

「まず、大抵英語で技の名前を考えたりするけど、私は英語以外の言語でも名づけたいと思っているの!その為にイタリア語やラテン語を勉強して……」

 

などと楽しそうに語り続け、それが夜遅くまで続いた。翌日、マミはよく眠れたようにすっきりした顔で目覚めたが、天馬と信助は寝不足で目の下にクマが出来ていたという。

 

 

 

 

 

 




――ED『またあした』(歌:鹿目まどか)――



次回予告

天馬
「マミさんと一緒に戦う術を手にいれた俺達!そういえばマミさんはどうして魔法少女になったんだろう?そして俺達は新たな再会に喜びつつ、最初の絶望に立ち向かう!

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~ 』

第3話『一人ぼっちの少女』! 」






というわけで戦闘描写有りの第二話でした。
イナクロに出てくる要素って本当にもはやサッカーか?
というものが多いですね。
でもそれゆえにクロスオーバーの二次創作が書きやすいと思います。

次回はいよいよ革命の始まりです。


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第3話『一人ぼっちの少女』

マミさんはマミられてしまうのですかという
質問が来ましたが
今回であきらかにします

それではお楽しみください


――OP『打ち砕ーくっ!』――



 

~~見滝原市立総合病院前・夕方~~

 

 

 

「今日も疲れたね、信助」

 

「うん、でもこの調子で特訓すればマミさんの力になれるはずだよ!」

 

まどかとさやかの為の魔法少女体験ツアーから翌日、天馬と信助は昨日と同じ練習を終え、マミの家に帰宅するところであった。現在は病院の前を通りかかっている。

 

「あれ…?」

 

「どうしたの?信助」

 

「あそこにいるのって……さやかさんじゃない?」

 

信助が指さす方向を見ると袋を持ちながら病院に入っていくさやかの姿があった。

 

「ホントだ。さやかさん、どこか体が悪いのかな…?」

 

「ちょっと気になるね。行ってみようよ!」

 

「うん!」

 

二人は駆け足でさやかを追った。

 

 

 

~~見滝原市立総合病院~~

 

 

 

ある病室に一人の少年がいた。彼の名は上条(かみじょう)恭介(きょうすけ)。美樹さやかの幼馴染である。将来を有望視されていた天才バイオリストだったが交通事故に遭い、左手が動かなくなっていた。

 

「……そうなんだ」

 

「ああ。俺も気持ちを落ち着けたいときはピアノを弾くんだ」

 

現在、今日入院してきた自分と同い年の少年と音楽の話で盛り上がっていた。

 

「少し喉が渇いてきたな。水を飲んでくるよ」

 

「うん」

 

少年は病室から出ていく。

 

「恭介!」

 

その数秒後、入れ違えるようにさやかがやって来た。

 

「さやか、今日も来てくれたのかい」

 

「うん。またCD持ってきたよ」

 

さやかは恭介の為にこうしてレアもののCDを見舞い品として持ってきては彼に聞かせていたのだった。

 

「あっ!これ中々手に入らないものじゃないか」

 

恭介はCDのカバーを見て興奮する。

 

「そうなんだ。それ、こないだまどかと一緒に見つけたやつなんだ」

 

「さやかは本当にいいCDを見つける天才だね」

 

「やめてよ。それにお礼ならまどかにも言ってよ」

 

さやかは少し照れる。恭介は早速CDをプレイヤーにかけ、イヤホンをつける。さやかは目を閉じながら聞く恭介を見て微笑む。すると恭介はイヤホンを片方外す。

 

「ほら。さやかも聞いてごらん」

 

恭介は片方のイヤホンをさやかに差し出す。

 

「えっ…!……う、うん…」

 

さやかは顔を赤くしながらイヤホンを受け取る。

 

 

 

 

 

「う~ん、さやかさんどこにいるんだろ……」

 

一方、天馬と信助はさやかを探して病院内をうろついていた。

 

「どこかにいると思うんだけど……ん?」

 

天馬は扉がほんの少し空いていた病室の中を垣間見る。

 

「あっ、さやかさんだ!」

 

「えっ!」

 

信助もこっそり覗くとそこには目を閉じながらCDを聞く恭介と彼とイヤホンを分け合いながら聞くさやかがいた。

 

(うわ~~っ!顔近い!近い!///)

 

イヤホンを分け合いながら聞くので二人の顔がかなり接近している。あまりにも近いために恭介の体温を感じ取ったさやかは顔を赤くしていた。

 

「わぁ……さやかさん、顔真っ赤だよ…」

 

「一緒にいるのは誰かな……」

 

天馬たちも少しだけ顔を赤くしていた。さやかはCDの音楽は聞きつつも、恭介との接近でそれどころではなかった。と、ここでさやかはふと恭介の左手を見る。そこには痛々しい手術跡があった。動かなくなり彼の大好きなバイオリンの音色が聞けなくなったその手を見て、さやかの表情が徐々に赤みが無くなり哀しげなものに変わる。

 

(なんであたしなのかな……なんで恭介じゃなくてあたしなのかな…)

 

「さやかさん……?」

 

天馬たちはさやかの表情が変わった事に疑問を抱く。するとさやかがふと恭介の顔を見る。二人も後を追うように見ると、恭介はさやかに見えないように顔をそらし、その瞳から一粒の涙が流れているのがわかった。

 

(……もしあたしが、恭介の腕を直してって願ったら……)

 

「………」

 

事情も知らない天馬と信助もいたたまれない表情になる。

 

「天馬、信助!?」

 

「「わああぁっ!?」」

 

ドガシャア!

 

「「!?」」

 

突如声を掛けられ、驚いた二人は前のめりに倒れこんで病室の扉が開いてしまい、さやかたちに見つかってしまう。

 

「天馬、信助!?」

 

「さやかさん、あ、あの……」

 

「あんたたち、何してんのよ!?」

 

さやかは顔を赤くしながら問いただす。

 

「あっ…あの俺たち、さやかさんがココに入っていくのを見かけてどうしたのかと思って…」

 

「で、後をつけてきたと?」

 

さやかは仁王立ちで二人を睨み、その声には若干の怒気が込められていた。

 

「ス、スミマセン………」

 

「あははは………」

 

二人は苦笑いしながら謝る事しかできなかった。

 

「全く、やっと会えたと思ったら……」

 

「えっ…その声は…」

 

天馬と信助は倒れこんだまま後ろに振り向く。

 

「「あっ!」」

 

そこに立っていたのは病院のパジャマを着ていたが灰色のウェーブがかかった髪をなびかせる少年、

 

「「神童先輩!」」

 

雷門の前キャプテンであり天才ゲームメイカー、神童拓人だった。

 

 

 

 

 

 

~~病院・外~~

 

 

 

神童と再会した後、信助がマミを連れてくる。そして神童をマミの親戚ということにし本人の体にも異常がなかった為、マミが治療費を支払い、無事に即日退院することができた。現在この場には天馬、信助、神童、まどか、さやか、マミの6人が集まっていた。ちなみに神童も雷門のジャージに着替えている。

 

「改めて名乗るよ。俺は神童拓人。中学2年で、天馬や信助と同じ雷門イレブンだ」

 

「よろしくね。神童くん」

 

「しかし、ここが異世界でしかも魔法少女が存在する世界とはな………」

 

神童はまどかとマミが来る前に天馬たちと移動し、彼らから説明を受けていた。

 

「でもどうして神童先輩がこの病院に?」

 

「俺は時空乱流に飲み込まれた後、気が付いたらこの病院のベッドで寝ていたんだ」

 

神童は語った。病院のベッドの上で目覚めた時、自分を介抱してくれていた看護婦によると、どうやら自分は数時間前に病院の裏側で倒れていたらしく、すぐに運ばれた。検査の結果、幸い体に異常は無く病院側も安堵したという。

 

「この世界での俺の身分を証明するものはなかった。その代わり、このボールがあったんだ」

 

そういうと神童は自分のマギカボールを見せる。

 

「じゃあ、神童先輩も気が付いたらそのボールがあったんですね」

 

「ああ」

 

(やっぱり、直にこのボールを受け取ったのは俺だけみたいだ……)

 

神童も信助と同じようにボールを持っていたために天馬は考え込む。

 

「マミさん、でしたね。退院手続きを取ってくれてありがとうございました」

 

神童はマミに深々と頭を下げる。

 

「いいのよ。天馬くんたちのチームメイトというならいくらでも」

 

マミは謙虚に返す。

 

「ところで、上条くんと仲良かったみたいだけど…」

 

まどかがふと尋ねる。

 

「ああ。目覚めて少し経った後、看護婦さんの付添で飲み物を買おうとしたんだ。その時、ちょうど上条が着けていたイヤホンが外れて外に漏れたクラシックが聞こえてね。彼に話しかけたら、音楽の話で盛り上がったんだ」

 

神童の頭の中で恭介との会話の様子がフラッシュバックする。

 

「でもその後、看護婦さんから事故の事を聞いたんだ。それで彼を励まそうとさっきも音楽の話をしていたんだ。その最中に俺は水を飲もうと席を外した。後は天馬たちも知ってるとおりさ」

 

さやか「………」

 

恭介の事故の話が出てきたため、さやかは再び暗い顔でうつむいてしまう。その様子に天馬やまどかが心配そうにさやかを見る。

 

(さやかちゃん………)

 

そんなまどかたちの様子を察したように、

 

「みんな。気持ちはわかるけど、そんな暗い顔じゃ何も始まらないわよ」

 

マミは真剣な目をしつつもいつもの優しい笑顔で言った。

 

「………そうですよね。今日も体験ツアーよろしくお願いします!」

 

「よろしい」

 

「天馬くんたちもまた付き合うんだよね?」

 

「はい!今日も使い魔を退治して、マミさんのお手伝いをするんです!」

 

「なら俺も一緒に行こう。天馬たちだけでは心配だからな」

 

「神童先輩!」

 

「それじゃマミさん、案内よろしく!」

 

さやかは元気な姿を見せるように歩き出そうとしたとき、

 

「美樹さん」

 

マミに呼び止められる。

 

「私はあなたに魔法少女になる事に強制はしないわ。そしてそんな権利もない」

 

マミはそこで一呼吸置いて言った。

 

「でもこれだけは約束して。なるのなら、叶える願いがあるのなら、よく考えて決して後悔しないようにしなさい。あなたには考える権利があるんだから……」

 

マミの言い方にどこか疑問を持つさやか。しかし胸に刻んだように、

 

「……はい…」

 

静かに返事を返した。

 

「もちろん、鹿目さんもね……」

 

「は、はい!」

 

まどかにも忘れずに忠告した。

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

激しい爆音と共に使い魔が消滅する。それと同時に結界が消滅する。

 

「やったあ!マミさん!」

 

「これが………魔法少女と魔女の戦い……」

 

背番号9番のユニフォームを着た神童は驚きを隠せなかった。マミが魔女の結界を見つけた後、昨日と同じくマギカボールが輝き、天馬と信助はもちろん、神童の格好もユニフォームに変化した。そして今、使い魔を全て蹴散らしたところである。

 

「でも今回の魔女はグリーフシードを落とさなかったね」

 

「今のは魔女から分離した“夢”の使い魔。グリーフシードは持ってないよ」

 

キュゥべえはまどかにそう答える。ちなみにまどかたちは魔女結界を探しているうちにキュゥべえと再会し、神童にもやはりその姿が見えており初めて見たときは驚いていた。

 

「なんか、ここんとこハズレだよねぇ」

 

さやかはバットを肩にかつぐような姿勢で溜息をつく。

 

「使い魔だって放っておけないのよ。成長すれば分裂元と同じ魔女になるんだから」

 

マミは凛とした表情でそう言った。

 

 

 

 

 

~~市立公園・夜~~

 

 

 

夜の公園にキュゥべえと別れた6人の少年少女がいた。夜の静けさの中、神童が口を開く。

 

「それにしても、あんな怪物たちがいるなんて……でも俺たちのサッカーで退治することができる」

 

「ええ。だから本当に驚いたわ。魔法少女でもないのに戦う力を持つ人たちがいるなんて」

 

マミが神童に相槌を交わす。

 

「そういえば……マミさんはどうして魔法少女になったんですか?あんなに大変な戦いをしてまで叶えたい願いが?」

 

「………」

 

天馬の質問にマミは無言で暗い顔をする。

 

「…マミさん?」

 

「私は戦う事なんて考えてなかったの…それどころか願いを考える余裕もなかったの」

 

「え…?」

 

マミの答えに一同は疑問の表情を浮かべる。

 

「……あまりいい話じゃないけど、聞いてくれる?」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「もうすぐ着くわね」

 

「うん、お母さん!久しぶりの外食だから私楽しみ!」

 

「あそこの店はうまいって評判だからな。マミは何にする?」

 

「う~ん、何にしようかしら……」

 

それは笑顔あふれる、どこにでもありふれた家族の様子だった。マミは愛情をたっぷり注いでくれる両親が大好きだった。幸せな家族が外食に向かう笑顔あふれる光景がそこにあった。

 

 

―――しかし、それは突如覆された。

 

 

ギャキキキキッ!

 

「!」

 

次に彼女が目にしたのは反対車線から一台の車が横転してくる光景だった。

 

 

 

 

 

「……う……」

 

マミは気が付くとシートに挟まれて動けなくなっていた。

 

「痛い……痛いよ…」

 

マミは今にも体もろとも心まで潰れそうなほどの痛みに苦しんでいた。

 

「お父さん……お母さん……」

 

マミは両親に助けを求めるが、二人は既に息絶えていた。

 

「痛い……怖いよ……」

 

痛みと死の恐怖がマミの心を支配していく。

 

「死にたくない……誰か助けて…」

 

今にも消えてしまいそうなか細い声で助けを求める。

 

「巴マミだね」

 

そこへ現れたのがあの白い獣だった。

 

「僕と契約すればどんな願いでも叶えてあげるよ」

 

「本当……?」

 

「うん。でも魔法少女として戦ってもらうけどね。と言っても、今の君には叶えてもらう願いは決まってるみたいだけどね」

 

瀕死状態のマミに考える余地はなかった。

 

「死にたくない……私を……助けて……」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

「………」

 

マミの話に誰も口を開こうとしなかった。

 

「あの時キュゥべえが現れなかったら、今の私はいないわ。だからキュゥべえには感謝してるの」

 

マミは目を閉じながら語る。

 

「でも今は少しだけ後悔してるの。あの時、どうしてお父さんとお母さんも助けてって言わなかったんだろうって。あの時の私はとにかく死にたくなかったから…」

 

ここでマミはさやかに視線を向ける。

 

「だから美樹さんに言ったの。考える余地があるのだから時間をかけてよく考えなさいって」

 

マミの言葉にさやかとまどかの心に重みが感じられる。

 

「私みたいに後で後悔して戦いに身を置く事が無い様に、しっかりと決めてほしいの。一人きりで戦いの場に赴く事が無いように…」

 

マミは寂しそうな顔をしながらも強く言った。

 

「マミさんはもう一人ぼっちじゃありません!」

 

「!……信助君」

 

「今は僕たちやまどかさんたちがいるじゃないですか………魔法少女じゃなくともマミさんの側には僕たちがいるじゃないですか!」

 

「!」

 

「そうですよ!俺たちも何時雷門の皆をそろえて元の世界に帰れるかわかりませんけど、それまではマミさんの側にいますよ!」

 

「何があっても仲間を大切にする。それが俺たち雷門なんですから」

 

「あなたたち…!」

 

信助と、彼の言葉に触発された天馬と神童の言葉にマミは目を見開く。

 

「マミさん。わたしたちも側にいます!だからまた一緒にお茶会しましょう!」

 

「まだ魔法少女になるかはわからないけど、マミさんの紅茶とケーキはおいしいからね」

 

「鹿目さん……美樹さん…」

 

まどかとさやかからも励まされ、マミは涙ぐみそうになる。

 

「……ありがとう、みんな…」

 

マミはこぼれそうな涙を拭くと信助はマミの前に立つ。

 

「マミさん。まどかさんたちが魔法少女になるかどうかは別として、僕はマミさんのお手伝いがしたいんです。だってマミさんは僕の大切な友達だから!」

 

「信助君………」

 

信助のその言葉がマミの心に深く響き渡り、その瞳を再び潤す。そして信助は出会いの時のように笑顔で手を伸ばす。

 

「だから……これからもよろしくお願いします!マミさん!」

 

「!」

 

 

 

 

 

(―――マミさん!)

 

 

 

 

 

マミの頭の中である少女の姿が甦る。それはかつて自分を慕っていた赤い魔法少女で、彼女が今の信助と同じように笑顔で手を伸ばす姿だった。

 

「………」

 

「…マミさん?」

 

信助の呼びかけにマミはハッと我に返る。

 

「……何でもないわ。これからもよろしく」

 

マミは笑顔で信助と握手した。信助も同じく笑顔で返した。

 

(そっか……この子が私に向ける笑顔は……あの時の彼女にそっくりなのね)

 

マミは自分に笑顔を向ける信助に赤い魔法少女を重ねていた。

 

「……さてそろそろ帰りましょうか。もう暗いし」

 

「そうですね」

 

「私は少し用事があるから天馬くんたちは先に帰っててくれる?」

 

「わかりました。気を付けて帰ってきてくださいね」

 

「ええ。天馬くんたちもね」

 

マミは公園を去る天馬たちの背中を見送り、一人公園に残る。そして天馬たちの姿が見えなくなった事を確認すると独り言のように呟く。

 

「……さてと、いるんでしょう?出てきたらどうかしら?」

 

不敵な笑みを浮かべながら後ろに振り向く。

 

「―――暁美ほむらさん」

 

「………」

 

そこには無表情のほむらが立っていた。

 

「分かっているの?あなたは無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」

 

「……それは鹿目さんたち?それとも天馬くんたちの事かしら?」

 

「両方よ。彼女たちは魔法少女になっていないし、彼らは異世界人とはいえ一般人とほぼ変わらない」

 

「私も彼らには危険だと言ってるわ。それでも付いていこうとするんだもの。でも彼らは使い魔を倒す力を持っている。それは見てたあなたもわかるでしょう?」

 

「それでもあなたが彼らを巻き込んでいることに変わりはない。それにあなたは鹿目まどかと美樹さやかを魔法少女に誘導している」

 

「あの二人には魔法少女になる資格がある。ただ彼女たちには魔法少女になる事がどういうことなのか分かってほしい。私はその上で魔法少女になるかどうか決めて欲しいだけよ?」

 

「それが迷惑だと言ってるの。特に鹿目まどか。彼女だけは契約させる訳にはいかない」

 

「なるほど……あなたも彼女の素質に気付いたのね…」

 

「私は無駄な争いをしたくないだけよ」

 

「そう……それなら私も同意見だわ。だったら次からはそうなるように努力して。次からは穏便に済まなさそうだから」

 

マミはそう言うとカールした髪をなびかせながら踵を返し、公園を後にした。

 

「………」

 

ほむらは公園を去るマミの後ろ姿を哀しげな目で見つめていた。

 

 

 

 

 

~~翌日・夕方・見滝原市立総合病院~

 

 

「おまたせ」

 

まどかはキュゥべえと共に上条の見舞いに来たさやかを待っていた。

 

「さやかちゃん、上条君には会えたの?」

 

「ううん。今日は都合が悪いんだって。せっかく来たのに失礼しちゃうよね」

 

さやかはふてくされながら呟く。

 

「そういえばさ、今日学校でマミさんに会ってさ。そこで誰かの為に願いを叶えて魔法少女なるのは有りなのって聞いたの」

 

「それってもしかして上条くんの事?」

 

「べ、別に恭介の事じゃ………!」

 

さやかは慌てて顔を真っ赤にして否定するが、まどかの言うとおりなのは明らかだった。

 

「とにかくそう聞いたんだけど、そしたらさ、『あなたはその人の夢を叶えたいの?それともその人の恩人になりたいの?』って言われちゃった。」

 

さやかは参ったように言った。

 

「そう聞かれてあたし何も言い返せなかった。その後『似てるようだけど全然違う』って言われた。恭介を助けてやりたいのにあたしの思いなんてそんなもんだって実感したよ」

 

「さやかちゃん……」

 

まどかはそれ以上の言葉をかけることができなかった。マミの言うことは自分でも理解できるほど的を射ていたからだ。そしてふと横を見るとその方向を凝視する。

 

「どしたの?まどか」

 

「あそこに……何かが…」

 

まどかの視線の先をさやかとキュゥべえも見る。そこは病院の自転車置き場で壁に黒い物が突き刺さっていた。

 

「グリーフシードだ!孵化しかかってる!」

 

まどかの足元にいたキュゥべえが驚いたように叫ぶ。

 

「まずいね。もうすぐにでも結界が出来上がりそうだ。」

 

「そ、そんな」

 

まどかとさやかに不安がよぎる。病院という弱っている人間が多くいる場所に魔女の結界が出来てしまえば多くの人間が犠牲になってしまう。するとさやかが意を決したように言った。

 

「まどか、あんたはマミさんたちを呼んできて!」

 

「さ、さやかちゃんは?」

 

「あたしはこいつを見張ってる」

 

「無茶だよ、さやか。もし、マミが来るまでに結界が出来てしまったら君は閉じ込められてしまうよ」

 

「でも、ここには恭介がいる。ほっとけないもん」

 

さやかはキッと覚悟を込めた目でそう言った。

 

「さやかちゃん……」

 

「……仕方ないね。それなら僕も残るよ。僕がいればマミとテレパシーで連絡できるからね。」

 

動こうとしないさやかにキュゥベえは少し呆れたように言った。

 

「待ってて、二人共!すぐにマミさんたちを連れてくるから!」

 

まどかは駆け足でマミのマンションに向かった。

 

 

 

 

 

~~マミの自宅~~

 

 

 

「マミさぁん!みんなぁ!」

 

マミの部屋の前に着いたまどかはインターフォンを何度も鳴らしながらマミたちを呼ぶ。数秒後、玄関のドアが開き、中からマミが出てきた。

 

「あら、鹿目さん。どうしたの、そんなに慌てて?」

 

「はぁっ、はっ……た、大変なんです!病院に魔女の結界が!」

 

「!」

 

まどかは息を切らしながら状況を伝えた。

 

「美樹さんとキュゥべえが……わかったわ!すぐに案内して!」

 

「は、はい!……ってあれ?あの、天馬君たちはいないんですか?」

 

「……ええ、天馬くんたちは今、仲間を探しに出かけてるの」

 

「そんな…」

 

「残念だけど探して合流する時間はないわ。行きましょう!」

 

「は、はい!」

 

天馬達がいない事にショックを受けていたまどかはマミに条件反射のように返事した。

 

「こうなったら、今回は私一人でやるしかないわね……」

 

マミは真剣な眼差しで呟く。

 

 

 

 

~~見滝原市立総合病院~~

 

 

「こっちです!」

 

マミを連れてきたまどかはグリーフシードがあった場所に向かい、目印にしていた自分のカバンの前にたどり着く。

 

(……キュゥべえ。状況は?)

 

(さやかと一緒に結界に取り込まれてしまったけど今のところは大丈夫だよ。)

 

マミはすぐにテレパシーでキュゥべえに連絡する。どうやらキュゥベえとさやかはまだ無事のようだった。

 

(そう。でも美樹さんが中にいるんだから急いで追いかけるわ)

 

(頼むよ、マミ。まあ、いざとなったらさやかを魔法少女にするって手もあるけど)

 

(それもアリだと思うけど、それは本当にヤバくなったときにするよ。願いもちゃんと決めたいしね)

 

「さやかちゃん…」

 

「鹿目さん、行くわよ!」

 

まどかの心配をかき消すようにマミは叫び、ソウルジェムで結界の入り口を開けてまどかと共に結界の中に入っていった。

 

「………」

 

その様子をうかがっていた一人の少女が二人の消えた場所に降り立ち、マミと同じくソウルジェムを使って結界に入っていった。三人の少女が消えた場所にはまどかのカバンだけが残されていた。

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

まどかたちが結界の中に入るとそこには無数の薬瓶が広がる病院の通路のような空間だった。まどかとマミはさやかたちの安否を気遣い、早足で進む。少し進んだところでマミがなぜか足を止める。まどかが何をしているのだろうと神妙な顔をしているとマミが口を開く。

 

「……穏便に済ませたいと言ったはずなんだけどね…」

 

マミはそう言うと体を後ろに向ける。まどかも後に続くように後ろを向くと、そこには暁美ほむらがいた。

 

「ほむらちゃん?」

 

「今度の魔女は私が倒す。あなた達は手を引いて」

 

ほむらは冷ややかな声色と表情で言った。

 

「そうはいかないわ。美樹さんとキュゥべえが待ってるから」

 

マミも極めて冷徹に言い返す。

 

「その二人の安全も保障するわ」

 

「……信用すると思って?」

 

するとマミは下げていた手を挙げ、ほむらは即座に反応して何かをしようとする。しかしマミの方が早く、その手が光らせるとほむらを大きく長いリボンで拘束する。

 

「馬鹿っ…!こんなことしてる場合じゃ……」

 

ほむらは空中で縛られながらも必死にもがく。

 

「そこでおとなしくしててね。帰りに解放してあげるから」

 

「今度の魔女はこれまでの魔女とは違うっ……!」

 

ほむらは苦しそうにもがきながら叫ぶ。

 

「何を言ってるのかしら、行きましょう、鹿目さん。」

 

まどかはマミとほむらの様子に困惑しながらもマミについて行く。

 

「待ちなさっ……ぐっ!」

 

ほむらは叫ぼうとしたがリボンが更に彼女を締め付けた。

 

 

 

 

 

 

~~一方・病院前~~

 

 

 

「結局、今日もみんなと会えなかったね。」

 

「うん。でもきっとみんなこの世界のどこかにいるよ!」

 

「ああ。それに俺たちは三人共、この世界に来たタイミングが違っていたんだ。まだ来ていないだけかもしれないしな。」

 

病院の前に天馬、信介、神童の三人が来ていた。今日はマミの言うとおり仲間を探していたと同時にマギカボールを肩から下げるために入れる袋などを買っていた。

 

「そのCD、喜んでくれるといいですね。神童先輩」

 

「ああ」

 

三人は袋のついでに買ったクラシックのCDを見舞い品に恭介の見舞いに来たのであった。

 

「もうまどかさんたち来てるかな」

 

「そうかもね」

 

三人が他愛もない会話をしながら病院に入ろうとする

 

―――その時だった。

 

 

 

「「「!?」」」

 

突如、三人のそれぞれの袋に入れていたマギカボールが光り出す。

 

「これは…」

 

天馬が袋からボールを取り出すと自身の体に不思議な感覚が現れる。

 

「この感じは一体…」

 

「俺たちにも感じる…」

 

「ボールが何かを伝えようとしてる……?」

 

信助と神童もボールを取り出すと、自分たちにも同じ現象が起きる。するとボールは何かに反応するように更に強く輝きだし、三人は何かに誘導されるような感覚に陥る。

 

「こっちに何かあるの…?」

 

天馬はボールに導かれるように自転車置き場に向かう。

 

「「天馬!」」

 

二人も追いかけるように天馬の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

「ここに何かがあるのかな…?」

 

ボールに導かれるまま自転車置き場にたどり着いた天馬たち。すると神童が何かを見つける。

 

「二人共、あれを見ろ!」

 

「!」

 

神童が指を指した方向を見るとそこにはまどかのカバンが置いてあった。

 

「まどかさんのカバンだ!」

 

「なんでこんなところに!?」

 

天馬たちが驚いているとマギカボールが再び強く輝く。三人が再び困惑すると、魔女の結界が開き、三人の格好がジャージからそれぞれのユニフォームに変わる。

 

「これって魔女の結界!?」

 

「まさか、この中にまどかさんが!?」

 

「とにかく中に入るぞ、二人共!」

 

天馬と信助が頷くと三人はマギカボールを袋にしまいながら結界に踏み込んだ。

 

 

 

 

~~魔女結界内~~

 

 

 

暗い結界の中を進むまどかとマミは先ほどの出来事から一言も喋らず、ただ無言で歩き続けていた。

 

「……ごめんね」

 

「……え?」

 

まどかが暗い顔でうつむきながら歩いていると不意にマミが謝罪し、まどかは顔を上げる。

 

「時々、余裕がなくなるの」

 

「………」

 

「私、無理してカッコつけてるばかりで、どんなに怖くても、辛くても、誰にも相談できないし、一人で泣いてばかりだったの」

 

その時まどかの目に移ったマミの姿は、普段は自分が憧れた頼りになるカッコいい先輩ではなく、孤独を恐れる感情豊かな、ただの一人の少女に見えた。

 

「……いいものじゃないわよ。魔法少女なんて」

 

直後、小さく「…ごめんなさい」と呟くマミにまどかは首を左右に振って言った。

 

「マミさん。わたし……願い事をわたしなりに考えてみたんですけど……」

 

「……え?」

 

「……もしかしたらマミさんには考えが甘いって言われるかもしれないけど…」

 

そう言いながらもまどかは自分の正直な思いを打ち明けた。

 

「……わたし、昔から才能とか人に自慢できるものが…何もなくて自信が持てなかったんです。だからずっと役立たずのままなのかなって思ってたんです。でもサッカーを守る為に戦っている天馬くんたちや誰かを助けるために魔女と戦うマミさんを見て、わたしにも皆と同じことができるって聞いた時、それが本当嬉しくて…」

 

「………」

 

「願い事を叶えて魔法少女になるって言われても、わたしが魔法少女になったらそれでわたしの願いは叶っちゃうんです……こんなわたしでも誰かの役に立てるって胸を張れたらそれでいいんです………」

 

マミは目を見開く。

 

「……大変だよ?怪我もするし、恋したり遊んだりする暇も無くなっちゃうよ?」

 

「……それでも、わたしは頑張ってるマミさんに憧れてるんです」

 

「……憧れるほどのものじゃないわよ、私――」

 

そう言いながら顔を曇らせるマミにまどかは再び首を振る。

 

「……天馬くんたちも言ったじゃないですか、マミさんはもう一人ぼっちじゃないって」

 

「……!」

 

(――マミさんの側にいます!)

 

(――仲間を大切にする。それが雷門ですから!)

 

(――マミさんは僕の大切な友達だから!)

 

「………」

 

マミの頭の中で何度も彼らやまどかの言葉が響き渡る。やがて震えた声で言った。

 

「まいったなぁ……まだまだ先輩ぶってなきゃいけないのに……やっぱりダメな子だなぁ…私」

 

「マミさん…」

 

「……本当にこれから私と一緒に戦ってくれるの?側にいてくれるの?」

 

「……はい、わたしなんかで良かったら」

 

まどかはもらい泣きをぐっとこらえて言った。マミは両目に溜まった涙を指先で拭いながら照れくさそうに笑顔で言った。

 

「……グスッ……でも一応契約は契約だから願い事は決めないとね」

 

「はい。でもどんな願い事にしようかまだ決めてなくて…」

 

「……だったらこの結界の魔女を倒すまでに決められなかったら、キュゥべえにケーキをお願いしましょう!」

 

「ケ、ケーキ!?」

 

マミの突拍子の提案にまどかは戸惑う。

 

「そう。魔法少女コンビ結成記念のお祝いケーキ。信助くんも『もう食べられないよ~』って言うぐらい大きなケーキをお願いしましょう!」

 

「わ、わたしのお願いがケーキって……」

 

「だったら願い事をちゃんと決める!」

 

マミはそういうとまどかの尻に平手打ちする。

 

「は、はいっ!あいたた……」

 

まどかは尻をさする。直後、何かに反応するようにマミは顔を上げる。

 

「っ!」

 

すると前方から無数の使い魔が現れた。

 

「鹿目さん!下がって!」

 

まどかが言われた通りに後ろに下がると、マミは使い魔に向かって駆け出す。

 

「―――ふっ!」

 

使い魔に一斉に飛びかかるがマミも同時にマスケット銃を取り出し、使い魔たちに放つ。撃ち漏らした使い魔にはリボンで拘束して他の使い魔にぶつけたり、弾切れになった銃で薙ぎ払う。その姿のマミはまるで踊っているようで動きが普段より数段キレが増していた。

 

「………」

 

その戦う姿にまどかはただ見惚れているばかりだった。

 

(……体が軽い…!こんな気持ちで戦うのは初めて!)

 

マミはとても嬉しそうな顔で舞うように銃を振るい、使い魔を捌いていく。

 

 

 

(……もう何も怖くない!)

 

しかし、この時の彼女は気づいていなかった。

 

 

 

(………私、もう一人ぼっちじゃないもの!)

 

その浮かれた気持ちが戦いの場において命取りとなる事を。

 

 

 

 

~~その頃・結界入り口付近~~

 

 

 

「……ここにまどかさんがいるのかな…」

 

一方で天馬たちも結界の中に踏み込んでいた。

 

「とにかく病院に結界が出来てしまっている以上、放っておくわけにもいかない。行こう!」

 

「「はい!」」

 

三人は結界を何とかするために進んでいく。

 

「ん?天馬、あれって…」

 

「え?」

 

少し歩いたところで信助が何かを見つける。信助が指を差す方向を見ると、そこにはマミのリボンで拘束されているほむらの姿があった。

 

「ほむらさん!?」

 

天馬の声に反応したほむらはこちらに振り向き、目を見開いて驚く。

 

「あなたたち、どうやって結界の中に…!」

 

「それより、これってマミさんのリボンですよね!」

 

「……ええ。巴マミに縛られたわ」

 

「やはり、君はマミさんと協力しなかったのか?」

 

神童が神妙な面持ちでほむらに問う。ほむらは厳しい面持ちながらも冷静な声で言った。

 

「そうよ。彼女にはこの結界の魔女は荷が重すぎる。鹿目まどかを連れて外に出てもらいたかったけど、これでは美樹さやかも救えそうにないわ」

 

「!?やっぱりまどかさんがこの中に…!それにさやかさんも…!」

 

「待っててください!今外しますからっ!んぎぎっ!」

 

信助はその小さな体でほむらを縛るリボンを外そうとするが、魔法でできたリボンは外すことができない。

 

「無駄よ。あなたたちでは外すことはできないわ。それよりどうやって中に入ったか知らないけど、今すぐ引き返しなさい」

 

「嫌です!結界を放っておけないし、まどかさんたちがいるならなおさらです!」

 

天馬がほむらの忠告を拒否する。ここで引き下がるほど彼らもお利口では無かった。

 

「あなたたちはただのサッカープレイヤー。何もできることはないわ……あなたたちがこのまま行っても……

 

 

 

 

 

 

 

 

巴マミ同様……死ぬだけよ」

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

ほむらの言葉が天馬たちに衝撃を走らせた。

 

「なん……だって…!?」

 

「マミさんが……死んじゃう!?」

 

信助の頭にあの優しく微笑むマミの笑顔がよぎった。

 

「マミさんっ!」

 

「あっ、信助!!」

 

神童の制止も聞かず信助は結界の奥に向かって走り出す。

 

「ほむらさん!あとで必ず助けに戻りますから待っててください!」

 

そう言って天馬は神童と共に信助を追いかける。

 

「待ちなさい!あなたたち!」

 

ほむらの制止は届かず、三人は結界の奥に消えた。

 

 

 

 

 

~~結界・最深部~~

 

 

「この先ね…」

 

マミはキュゥべえのテレパシーをナビにしてまどかと共に結界の最深部に続く扉を開く。そこにはたくさんのお菓子が散らばる広い空間だった。

 

「あっ!マミさん、まどか、こっちこっち!」

 

声のした方向を見るとそこにはキュゥべえと共に大きなケーキの影に隠れているさやかがいた。

 

「よかった。二人共無事だったんだね」

 

二人が無事でまどかとマミはひとまず安心する。まどか達がさやか達の側まで移動するとキュゥべえが視線を前に向ける。

 

「マミ、出てくるよ!」

 

キュゥべえが叫んだ直後グリーフシードが孵化し、空間の中心に脚の長い椅子にちょこんと座った可愛らしいぬいぐるみが現れた。

 

「………」

 

お菓子の魔女、シャルロッテである。

 

「性質は“執着”―――生前大好きだったお菓子を司る協力な魔女だ。気を付けて!」

 

しかし、マミはキュゥべえの言葉にも怯まなかった。

 

「悪いけど、今日は一気に決めさせてもらうわ!」

 

マミはマスケット銃を逆さに持って長椅子の脚を叩き折り、落ちてきた魔女をバッティングの要領で殴り飛ばし、無数のマスケット銃で乱れ撃ちにする。魔女はなす術もなくただ黙って攻撃を受けていた。

 

「………」

 

魔女はその内動きを鈍らせ地面にぽとりと落下する。

 

「これで終わりよ!」

 

マミは無数のマスケット銃を巨大な大砲に変化させて放つ。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

轟音が結界に響き渡り、銃から伸びたリボンが魔女を絡め取ると急激に締め上げ、やがて魔女は首をかくりと落とした。

 

「やった―――」

 

マミさん、とまどかが続けて言おうとした時だった。

 

 

グニャア

 

 

魔女の口から黒くて長いピエロのような顔が付いた恵方巻きのようなものが出てきた。

 

「―――え?」

 

マミが気が付いた時にはそれは既にマミの目の前にまで間合いを詰めており、巨大な口を開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

~~結界入り口付近~~

 

 

「…!」

 

突如、ほむらを縛っていたリボンが消え、ほむらは地面に着地する。ほむらは自分の手のひらで溶けていくように消えていくリボンを見てある予感を感じる。

 

「まさか……!?」

 

ほむらは駆け足で結界の奥に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

―――私は一人が怖かった。

 

 

 

 

(お父さん、お母さん……ッ!)

 

 

 

 

―――突然一人ぼっちになって怖かった。

 

 

 

 

(僕と契約して魔法少女になってよ!)

 

 

 

 

―――いきなり戦いの場に一人置かれて孤独だった。

 

 

 

 

(あの子最近付き合い悪くなったよね)

 

 

 

 

―――化け物と戦っていることを誰にも相談できず、知られることもなかった。

 

 

 

 

(―――マミさん!)

 

 

 

 

―――一緒に戦う魔法少女がいたときもあった、でも。

 

 

 

 

(さよなら、巴マミ)

 

 

 

 

―――また一人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~結界・最深部~~

 

 

 

(体が……動かない)

 

突然の出来事に対応できず、目の前に魔女が大口を開けて迫っているのに体が硬直して

動けなかった。

 

(動かなきゃ……このままじゃやられる)

 

しかし、動かそうにも体が言うことを聞かなかった。

 

(このまま………死んじゃうの?)

 

マミの中で一つの思いが駆け巡る。

 

(いや…!)

 

 

 

 

マミの中の思い。それは、

 

 

 

 

(……死にたくない……!)

 

ただそれだけだった。

 

 

 

 

(死んだら………一人ぼっち……)

 

 

 

 

マミは孤独を恐れていた。大好きだった両親とある日突然死に別れ、選択の余地なく命懸けの戦いを強いられた。そしてそんなマミの事を誰にも知られず理解もされないことが何より辛かった。精神をすり減らしてゆく生活の中で、正義の魔法少女として振る舞うことだけがマミの精神を支えていた。そうすることで、孤独を少しでも拭いたかったのだ。

 

 

 

(死にたくない……!)

 

 

 

マミの頭の中でまどかとさやか、そして天馬たちの笑顔が思い浮かぶ。マミはもう一人では無くなっていた。それ故に、孤独をより恐れるようになったのだった。

 

 

(……お願い……私を…!

 

 

 

 

一人にしないで…!)

 

 

 

 

魔女が迫り、マミの視界が暗闇に覆われた。マミは再び生きることを望んだ。

 

 

 

 

 

(………誰か……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――助けて…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっとびジャンプーーーッ!!!」

 

 

 

ドゴオォォォォォォォ!!!

 

 

 

「!!!」

 

 

 

マミが強く望んだ直後、強烈な打撃音が結界内に響く。マミはハッと我に返る。そして気が付いたマミの目に映ったもの。

 

 

 

「うおおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

それは西園信助が自身の必殺シュートの要領で魔女の顔面に飛び蹴りをくらわしている光景だった。

 

「―――!?!?!?」

 

魔女は横から不意に飛び蹴りをくらい、マミを食らおうとしていたその口を閉じることなく轟音を立てて地面に叩き付けられた。

 

「………」

 

マミは未だにその場で立ち尽くしていた。

 

「マミさん!大丈夫ですか!?」

 

地面に着地した信助が声を掛ける。

 

「……信……助くん…」

 

マミは力なく呟いた。

 

「信助!」

 

「間に合ったか!」

 

天馬と神童も駆けつけ、マミや信助と合流する。

 

「ハァ…ッ…は…」

 

「信助、大丈夫?」

 

「うん。大丈夫……マギカボールでシュートしてたんじゃ間に合いそうになかったから、直接飛んでちゃった…」

 

信介は息切れ気味の声でそう答えた。

 

「まったく、無茶をするなぁ…」

 

神童は溜息をこぼしながら言う。

 

「―――!?!」

 

「「「!!!」」」

 

もぞっと音がした直後、再びマミたちを食らうために魔女が起き上がろうとしていた。

 

「魔女が起き上がる!」

 

「させるか!」

 

神童は祈るように手を合わせると神童の体が光りだし、両手を左右に広げる。

 

「『オリンポスハーモニー』!」

 

すると神童の背後に光り輝く神殿が現れ魔女はその輝きに魅せられ動きを止める。

 

「―――!?」

 

「今のうちだ!一旦下がるぞ!」

 

「はい!」

 

「…っ!」

 

魔女が光に魅せられているうちに天馬たちはマミを連れてまどかたちが隠れているケーキの影まで後退する。

 

「「マミさん!」」

 

まどかとさやかはマミに駆け寄る。

 

「良かった。まどかさんたちも無事だったんですね!」

 

「うん、なんとか……」

 

無事だ、とさやかが言おうとした直後、

 

 

ドサッ

 

 

「「「!」」」

 

力が抜けたのかマミが膝を着く。

 

「マミさん!大丈……!?」

 

まどかが声を掛けようとしたが…

 

 

 

「……っ!!……っ!」

 

マミは両腕で自分の体を抱き、震えていた。

 

「……い…っ」

 

「……え?」

 

マミが何かを呟いていた事に気づいた一同は耳をすます。

 

「………こわい…!」

 

「「「…!」」」

 

「……死ぬのはっ、怖い…!一人は、怖い…っ!」

 

マミは両目を瞑り、その顔から冷や汗を流し、完全におびえていた。先ほどまで命が危険にさらされ、過去のトラウマから死と直面し、再び一人ぼっちになる恐怖が甦ってしまうのも無理は無かった。

 

「マミさん……」

 

今のマミはもはや魔女と戦える状態ではなかった。

 

「………」

 

天馬・信助・神童は互いの目を合わせ、同時に頷く。そしてそれぞれのマギカボールを取り出し、その場に袋を落とす。それに気づいたまどか、さやか、キュゥべえは天馬たちに視線を向ける。そして天馬たちもそれに合わすようにまどかたちに視線を返す。

 

「まどかさん、さやかさん」

 

「マミさんを頼みます!」

 

「あんたたち……」

 

「て、天馬くんたちは…?」

 

突然マミを託されたまどかたちは心配そうな表情で天馬たちを見る。

 

「俺たちは……」

 

神童が言った直後、三人は魔女の方向に体を向ける。一方で魔女は既に『オリンポスハーモニー』の効果が切れて、信助に叩き付けられた場所からこちらを睨んでいた。天馬はキッと魔女を睨みながら言った。

 

 

 

 

 

「―――あの魔女を倒します!!!」

 

 

 

 

 

 

 




――ED『Magia』――



次回予告

天馬
「マミさんの代わりに魔女と戦うことになった俺達。でも魔女は手強く、俺達の力が通用しない!負けるもんか!絶対まどかさん達は守ってみせる!その時、俺達の中の力が………!

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第4話『化身覚醒!お菓子の魔女シャルロッテ』!」



というわけでマミらせませんでした。
だってそれだと革命にならないんですもの。

タイトルでネタバレになるので連続投稿します。



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第4話『化身覚醒!お菓子の魔女 シャルロッテ』

連続投下します

まだ3話を読んでない方はまずそちらをどうぞ


――OP『打ち砕ーくっ!』――


~~魔女結界~~

 

 

 

「はああぁぁっ!」

 

バシュゥッッ!!

 

「―――ギャッ!」

 

「こっちだ!」

 

魔女は神童の方に振り向く。

 

「ていっ!」

 

「―――グアッ!」

 

神童の方に近づいた魔女は横から信助のシュートを食らう。お菓子の魔女、シャルロッテは長い胴体となんでも噛み砕けるような巨大な牙を持つ。防御技を持たない天馬たちは近くにいるだけで危険にさらされ、噛みつきはもちろん、体当たりでもされたら一たまりもない。それ故、三人で素早く動いて魔女をかく乱しつつシュートを放つというきわめて単純だが確実にダメージを与えられる方法を取ったのだった。しかし時々必殺シュートを交えて放っても魔女は少し怯むだけで倒せるというには程遠かった。その内シャルロッテもイラつき始め、その顔には苛立ちが込められていた。

 

「うわっ!」

 

魔女は信助に向かって突撃するが信助もギリギリでかわす。

 

「動きが速くなってる!二人共、気をつけろ!」

 

 

 

 

 

「………」

 

彼らが戦う中、マミはまどかたちと共にただ隠れて見るしかできなかった。

 

(私は何をしてるの…?)

 

彼らは魔法少女ではなくサッカープレイヤーであり、本来は魔女と戦う力など持っていない。

 

「負けるもんか!」

 

「………」

 

しかし、圧倒的不利でも彼らは一歩も引くことなく魔女に立ち向かっていた。

 

(魔女と戦うのは私の役目なのに………)

 

マミは自分の役割を果たそうと何度も立ち上がろうとする。

 

「……ッ!!」

 

しかしその度に先ほど魔女に食われそうになった光景がよみがえり、足がすくんでしまっていた。

 

(……信助くんが助けてくれなかったら、今頃は……)

 

天馬たち異世界人が助けてくれなかったら、マミは間違いなく死んでいた。助けられたものの、死の縁に立たされた時の恐怖が彼女の体と心を縛り付けていた。

 

「マミさん………」

 

呆然としていたマミはゆっくりとまどかの方に顔を向ける。

 

「ごめんなさいっ!」

 

「……え?」

 

突然謝られ、呆けた声を上げるマミ。

 

「わたし……マミさんとコンビを組むって言ってたのに……マミさんが死にそうになった時、わたし怖くて動けなかったんです…」

 

まどかは申し訳なさそうな表情で言った。

 

「あたしも…頭の中が真っ白になって……天馬たちが来た直後でも死んじゃうって思ったら動けなかったんです……ごめんなさい」

 

さやかもまどかと同じ顔をしながら詫びる。

 

「鹿目さん……美樹さん…」

 

マミは自分に謝る二人に驚いていた。

 

(二人も怖かったはずなのに……私の心配を……いえ、それどころか彼らは……)

 

マミは天馬たちの方を見る。

 

 

 

「―――ギャアッ!」

 

魔女にもダメージが溜まって来たらしく、動きが鈍くなっていた。

 

「今だ!」

 

神童は一度後退しマギカボールを構えるとボールの周りで音符のついた楽譜のようなオーラが飛び回り、ボールは光を纏っていく。

 

「『フォルテシモ』!」

 

神童は天馬と、その先にいる魔女に向けてシュートを放つ。

 

「天馬!シュートチェインだ!」

 

「はい!はあああぁぁっ!」

 

天馬は神童のシュートに合わせて魔女に向かって走りながら神童のシュートにさらにシュートする。

 

「真・マッハウィンド!」

 

バシュウゥゥゥッ!!!

 

「―――グアアアアアア!」

 

シュートチェインで威力が増したシュートは魔女の頬に直撃し、魔女は轟音を立てて地面に倒れた。

 

「………」

 

地面に倒れた魔女は陸に揚げられた魚のように痙攣すると動かなくなった。

 

「……や、やったの?」

 

天馬は呆然としながら動かなくなった魔女を見る。

 

「やったぁ!天…」

 

「…!!!まだだっ!」

 

「「えっ!?」」

 

信助が歓喜しながら天馬に駆け寄ろうとしたが、神童の叫びによってその足を止める。二人が見るとなんと魔女の大きな口から新たな体が現れ、戦う前の無傷な状態を再び天馬たちに見せる。

 

「―――ギャハハハ!」

 

脱皮した魔女はまるであざ笑うかのような笑みを浮かべていた。

 

「そ、そんな……!」

 

状況は最悪だった。魔法少女であるマミは戦闘不能に陥り、何度もシュートしてようやく倒したと思った魔女は脱皮して復活した。しかもこの様子だとまだまだ脱皮はできるだろう。このままでは全滅は免れない。

 

「天馬くん……」

 

「このままじゃ……」

 

 

 

「このままじゃまずいね」

 

キュゥべえが無表情のまま呟く。

 

「彼らの身体能力は目を見張るものがあるけど、あの魔女は脱皮することで回復しているようだ」

 

キュゥベえはただ淡々と魔女の能力を分析する。

 

「あの様子だと彼らに持久戦は不利だ。このままじゃ彼らはやられる」

 

「そんな……!」

 

「でも魔法少女ならあの魔女を倒すことができる……でも、今のマミは戦えない」

 

キュゥベえの言葉に二人はマミの方を見る。今のマミは変わらずおびえており、このまま戦わせても犬死どころか天馬たちの足を引っ張ってしまうだろう。そこからキュゥベえが何を言おうとしているかはまどかとさやかにも予測できた。しかし、もはやこの状況を打破するにはそれしかなかった。

 

「まどか、さやか、僕と契約して魔法少女に……」

 

 

 

 

 

「―――その必要はないわ」

 

 

 

 

「!」

 

いつの間にかマミのリボンから解放されたほむらがまどかたちの側にいた。

 

「ほむらちゃん……」

 

ほむらは天馬たちが戦っている様子を見る。

 

「……教えて。何故彼らが戦っているの…?」

 

「………」

 

まどかは先ほどまでの状況をほむらに説明した。

 

「……そう、命があって助かったわね。巴マミ」

 

「………」

 

マミは変わらず自分の体を抱きしめながら俯いていた。

 

「わかったかしら。あなたのやっていた事がどういうことだったのか」

 

「………」

 

「魔女と戦う力を持たない彼らに戦わせて……あなたそれでも魔法少女なの?」

 

「……!」

 

「あんた!今頃やってきて何をっ!天馬たちが来なかったら、マミさんは今頃……」

 

「やめて、美樹さん」

 

怒りに身を任せるさやかをマミは制す。しかしその言葉からはいつものマミの強気が感じられなかった。

 

「……彼女は私が動きを封じてたから来れなかっただけ……それに彼女のいうとおりだもの」

 

マミはほむらに反論できなかった。天馬たちが来なければ自分は間違いなく死んでいただろう。それどころか魔法少女というものに彼らとまどかたちを関わらせなければ、全員をこんな危険な目に遭わせることもなかっただろう。マミは怯えつつも自分の愚かさを責めた。

 

「マミさん……」

 

(私のせいだ………私が皆を巻き込まなければ……こんなことには……)

 

マミが自分を責める中でも天馬たちは戦い続けていた。

 

(彼らでは魔女に勝てない………私がやらなくちゃ………でも…!)

 

自分が戦わなければならないのは頭では理解できた。しかし、一度命の危険に瀕した時の恐怖が彼女を縛り続けていた。

 

「……っ!」

 

「あなたはここで待ってなさい。彼らも私が……」

 

 

 

ドガアァァァァ!

 

 

「「「うわああぁぁぁ!」」」

 

 

「!!!」

 

大きな打撃音と叫び声が響き、全員が前を向く。魔女は天馬たちに向かって体当たりを仕掛け、天馬たちは何とか躱すも、魔女が地面に激突した際に発生した衝撃波で三人はまどかたちの前まで吹っ飛ぶ。

 

「天馬くん!神童くん!信助くん!」

 

「ぐうぅぅ…!」

 

「ぐっ……!」

 

「うう……」

 

三人は既に満身創痍だった。体のあちこちが傷つき、疲労がたまっているのが目に見えた。

 

「下がりなさい。あなたたちでは魔女に勝てないわ」

 

ほむらは天馬たちを下がらせようと前に出る。

 

「まだですっ!」

 

「!」

 

三人はボロボロの体を起こし、立ち上がる。

 

「あんたたち………!」

 

「天馬くん!もうやめて!このままじゃ天馬くんたちが…!」

 

まどかは目に涙を浮かべながら叫ぶ。

 

「まだ……やれます!」

 

「……ああ、まだ諦めない!」

 

「みんなは……僕たちが守ってみせる!」

 

三人は一歩も引くことなく魔女に向かって立ち尽くしていた。

 

「………」

 

マミには理解できなかった。彼らはなぜ勝てる見込みの無い状況なのに一歩も引く事無く戦いつづけるのか。

 

 

「あなたたち……怖くないの……?」

 

 

「!」

 

マミは恐る恐る震えた声で聞く。

 

「あんなに怖い魔女を相手にして………死んじゃうかもしれないのよ……」

 

「………」

 

「あなたたちは………怖くないの……?」

 

「………」

 

三人はマミの言葉をただ黙って真剣な顔で聞く。そして三人は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――怖いです」

 

「…え?」

 

「ああ……あんなに大きな怪物を相手にして怖くないはずがない…」

 

「今でも、今すぐ逃げ出したいって言うぐらい……体が震えてます……」

 

三人はおびえながらもはっきり言った。彼らもその震えた声から恐怖しているのがわかる。

 

「だったら……どうして、戦うの…?」

 

マミには理解できなかった。自分も殺されかけ、こんなに恐怖しているというのに、どうして彼らは戦うのか。

 

「確かに、あんな怪物を相手にするのは怖い」

 

神童が言った。

 

「死んじゃうかもって思うとどうしても怖いです。でも………」

 

信助が言った。そして、

 

 

 

「本当に怖いのは……大切な仲間が目の前で死んじゃうことなんだ!!!」

 

「!」

 

天馬が強い思いを込めて叫んだ。

 

「俺たちはサッカーを守らなければならない。だから死ぬわけにはいかない…でもっ!」

 

「ここでマミさんたちを見捨てたら、きっとサッカーだって守れない!」

 

「何より……まどかさんたちは……俺たちの、大切な友達だから!!!」

 

「「!!!」」

 

神童、信助、天馬の決意にほむらとマミは目を見開く。

 

「天馬くん……!」

 

「信助……神童…!」

 

天馬たちはサッカープレイヤーであるが、魔女と戦う魔法少女ではない。しかし出会ってまだ日にちが立っていないまどかたちを仲間と呼び、彼女たちを守りたいという思いが恐怖を乗り越えていた。そんな彼らの心の強さにまどかたちは言葉を失う。

 

「仲間を守れない様じゃ何も守れない!だから俺たちは戦う!!!」

 

「マミさんたちもサッカーも絶対に守ってみせる!だから僕たちは負けない!!!」

 

「そうだ!俺たちは、大切なものを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「―――――守りたいんだ!!!」」」

 

 

キイィィィィィィンッ!

 

 

「「「!!!」」」

 

三人が強い思いを込めて叫んだ直後、三人の側に転がっていたマギカボールから今までに無いくらいの強い輝きを放つ。

 

「これは………!」

 

全員が驚く中、ボールの輝きに同調するように天馬たちの体から金色のオーラが出現し、三人をまるで炎のように包み込む。信助においては首から下が光に包まれ、光が消えるとグローブと背番号20番のキーパーユニフォームを身に着けていた。そしてオーラが消えていくと同時にマギカボールの輝きも消えた。

 

「今のは……一体……」

 

一同は今の現象が理解できず、困惑する。

 

「また変わった………ううん、それだけじゃない……」

 

信助はグローブを着けた両手の平を見ながら呟く。

 

「天馬………感じないか……?」

 

神童と天馬も広げた両手を見る。

 

「はい……!…感じる…俺たちの力が!」

 

天馬たちは自分たちの中のある力を感じ取り、意気高揚する。

 

「今なら……いける!」

 

天馬は開いていた両手を閉じて拳を作り、顔を上げる。そして魔女の方にキッと視線を戻すと、魔女に向かってドリブルで突っ込む。

 

「「天馬!」」

 

「うおおおぉぉぉぉぉ!」

 

「何をやっているんだ!君じゃ魔女に勝てない!戻るんだ!」

 

キュゥベえの制止にも応じず、天馬は魔女に向かっていく。そして一方魔女もその長い体を不気味に伸ばし天馬を食らおうと大口を開ける。

 

「―――グアアァァァッ!!!」

 

「危ない!」

 

「ッ!」

 

さやかが無意識に叫び、ほむらが自分の魔法を発動させようとし、

 

「天馬くーーーんっ!!!」

 

まどかが悲痛に叫んだその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はああああぁぁぁぁっ!!!」

 

天馬がドリブルしながら両手を広げて叫ぶと、彼の背中から深い藍色のオーラが出現した。

 

 

 

 

~挿入曲「天までとどけっ!」~

 

 

 

 

「―――『魔神(まじん)ペガサスアーク』!!!」

 

 

 

 

天馬の背中から出現したオーラが広がると翼を形成するかのように形を成していく。藍色のオーラが消えるとそこから背中から真っ白な翼を生やし、強固な肉体とボリュームのある長い赤髪を持ち、頭にペガサスを模した装飾を着けた巨人が雄叫びを上げながら現れる。

 

 

 

 

 

 

 

「天馬!」

 

「こ、これは…!?」

 

天馬から出現した化身に神童と信助は歓喜し、まどかたちは驚愕する。

 

「はああああぁぁぁっ!」

 

天馬がマギカボールを魔女に向かってシュートする。するとそれに合わせるようにペガサスアークも雄叫びを上げながら拳を伸ばす。

 

バキィッ!!!

 

「―――!!?」

 

天馬に向かっていた魔女は天馬のシュートと共にペガサスアークの拳を顔面に受け、ボールの勢いに押されて遥か後方に吹き飛び、轟音を立てて壁に叩き付けられる。そして地面に落下した直後、天馬のボールが戻ってくる。

 

「やったあ!」

 

「化身が……復活した!」

 

 

 

 

「…な、何よ……アレ…!?」

 

「天馬くんの体から……巨人が…!」

 

「何が…起こったの…!?」

 

「彼は…一体…!?」

 

「………」

 

さやか、まどか、マミ、ほむら。四人の少女が突然の出来事に驚きを隠せず困惑する。その中でキュゥベえは赤い瞳を輝かせながら静かに呟く。

 

「……彼の出した、あの力は……」

 

 

 

 

一同がそれぞれの感想を漏らす中、地面に転がる魔女は再び口から新しい体を生み出す。

 

「っ!」

 

そして再びこちらに向かって突撃を仕掛け、天馬は身構える。

 

「―――グアアァッ!」

 

しかし魔女は天馬の上空を通り過ぎる。どうやら天馬の後ろにいるまどかたちを狙っているようで一気にその体を伸ばしていく。

 

「危ない!」

 

「っ!」

 

ほむらは今度こそ自身の魔法を発動させようと身構えた。

 

「今度は僕の番だ!!!」

 

が、信助が小さな両手を構えながら前に出る。

 

「信助くん!」

 

マミが咄嗟に呼びかけた直後、

 

「うおおおおぉぉぉっ!!!」

 

信助が叫びながら力を溜める。するとその背中から天馬と同じ色のオーラが現れ、形を成すと大木のような剛腕を持つ青を強調した剣闘士のような鎧を着けた巨人になる。

 

 

 

「―――『()(せい)(しん)タイタニアス』!!!」

 

 

 

「信助くんも!?」

 

マミが驚くと信助は大きく右腕を引き、タイタニアスもそれに合わせるように腕を引く。

 

 

 

「『マジン・ザ・ハンド』!!!」

 

 

 

魔女の突撃に合わすように腕を掌底のように突き出すとタイタニアスもその剛腕から掌底を繰り出し、魔女の顔面に当てる。

 

「―――!?!?」

 

魔女は掌底をまともに喰らい、まるでダムにせき止められた水のように突撃を止められる。

 

「魔女の攻撃を……止めた!?」

 

ほむらはただの一般人と思っていた少年が魔女の攻撃を防いだ光景に目を疑う。

 

「神童先輩!」

 

信助が叫ぶと神童は了承したように頷く。

 

 

「はああああぁぁぁぁっ!!!」

 

今度は神童が腕を交差させながら叫ぶと、その体から天馬たちと同じ色のオーラを放つ。そしてそれは一本の指揮棒と四本の腕を持つ水色のウェーブがかかった髪の指揮者の巨人に変わる。

 

 

 

「―――『奏者(そうしゃ)マエストロ』!!!」

 

 

 

『奏者マエストロ』はマギカボールに四本の腕をかざすと、ボールはシャボン玉のように水色のオーラに包まれ地面に弾んで波紋を広がす。エネルギーの溜まったそのボールを神童が放つ。

 

 

 

「『ハーモニクス』!」

 

ドゴォォォ!!!

 

「――グアァァ!?」

 

タイタニアスに抑え込まれていた魔女は横から化身シュートを喰らい、そのままボールと共に吹き飛び、轟音と共に壁に叩き付けられた。

 

「「「………」」」

 

先ほどまで苦戦していたはずの魔女を吹き飛ばす天馬たちにまどかたちはただひたすら目を丸くしていた。

 

「……すごい…」

 

「……魔女を……圧倒してる…!」

 

「……天馬くん、あなたたちは一体…!」

 

「………」

 

ほむらもその光景に呆然としていたが、ハッと気が付き真剣な顔つきに戻す。

 

「………巴マミ、あなたは何をしているのかしら…?」

 

マミは反射的にほむらの方を向く。

 

「彼らはあなたたちを守る為に戦っている……魔法少女であるあなたは今何をするべきなの……」

 

「!」

 

その瞬間、マミの頭の中でいろいろな思いが駆け巡る。

 

(……私は何をやっていたの……何を浮かれていたの……何を怯えていたの……?)

 

マミは再び新しい体を出した魔女と戦う天馬たちを見ながら思った。

 

 

 

(私は一人が怖かった……でも一人じゃなくなって、今度は浮かれていた……)

 

恐怖で硬く感じていた体が徐々に柔らかさを取り戻していく。

 

 

 

(でも…そのせいで私はまた死にかけて……彼らや鹿目さんたちを危険にさらした…)

 

マミはまどかたちを見る。まどかたちは心配そうな目で自分を見ていた。

 

 

 

 

(それでも…みんなはこんな私を想ってくれた……守りたいと言ってくれた…)

 

再び天馬たちを見る。魔女は既に新しい体を出し、天馬たちに襲いかかっている。

 

 

 

「まだまだぁ!」

 

(彼らは恐れながらも、必死に戦っている……私たちを守る為に…!)

 

マミの目に勇敢に魔女と戦う天馬たちの姿が焼き付く。

 

 

 

(……そうよ!彼らのあの姿こそ…!)

 

マミの目頭が熱くなっていく。

 

 

 

(私が憧れた……『正義の味方』の姿じゃない!)

 

気づけばマミは胸の奥から熱いものを感じていた。

 

 

 

(なら、私も……戦わなきゃ……守らなきゃ……!)

 

マミは恐怖しながらも自分を奮い立たせる。

 

 

 

(私たちを守ろうとしている彼らを……かけがえのない……仲間を!!!)

 

そしてついにマミは立ち上がった。失いたくない大切なモノを守るために。

 

 

 

「……鹿目さん、美樹さん。ごめんなさい、心配掛けちゃったわね」

 

「「!」」

 

「…でも、もう大丈夫……そこで見てて……」

 

マミはその場にいくつものマスケット銃を作り出し、地面に突き立てる。

 

「……魔法少女としての私を……本当の正義の味方の姿を!!!」

 

「「マミさん!」」

 

マミはついに恐怖を乗り越え、その瞳には強い決意が現れていた。

 

 

 

 

 

 

ドカァ!

 

「うわあぁっ!」

 

信助は魔女の体当たりによる衝撃波で吹き飛ぶ。

 

「いてて………ッ!!」

 

直後、魔女が信助を喰らおうと大口を開けて迫っていた。

 

「グアアァァ!」

 

「「信助!」」

 

 

 

「パロット・ラ・マギカ・エドゥインフィニータ!!!」

 

マスケット銃による弾幕が魔女を怯ませる。

 

「―――ギャアアアア!!」

 

「今のは……!」

 

「ごめんなさい、皆!待たせちゃったわね」

 

一同が声がした方向に振り向くとそこにはいつもの勇ましいマミの姿があった。

 

「マミさん!」

 

マミはリボンの壁を作り出し魔女と自分たちを遮断する。そして倒れている信助に手を伸ばし、立ち上がらせると三人に顔を合わせながら言った。

 

「みんな……私も、みんなを守りたい!…だから、一緒に戦いましょう!」

 

マミの表情はもう恐怖におびえているものではなかった。それは天馬たちと同じ大切なモノを守る為に決意を固めた戦士の表情だった。

 

「「「はいっ!」」」

 

三人はマミに力強く返事を返した。

 

「私も戦うわ」

 

「!ほむらさん…」

 

気が付けばほむらも側にいた。

 

「暁美さん……」

 

ほむらはうん、というように頷く。

 

「あの魔女はもうかなり弱ってる。口の中を攻撃すれば倒せるはずよ。一気に決めましょう」

 

「ええ!」

 

「俺もやります!」

 

「天馬くん……わかったわ!じゃあ、私たち三人で魔女にとどめを刺すから、信助くんと神童くんは鹿目さんたちを守って!」

 

「わかりました!」

 

神童と信助がまどかたちの方へ向かい、マミたちはリボンを消して銃を放って挑発しながら逆方向に走り出す。

 

「―――!?!?!?」

 

見事に挑発に乗った魔女は天馬・ほむら・マミの方に向かう。

 

「行くわよ!」

 

「ええ!」

 

ほむらとマミは高くジャンプする。

 

「はあああぁぁぁっっ!!!」

 

そして天馬も合わせるように力を溜めて飛び上がる。三人の高さが重なった瞬間、魔女は一気に三人共喰らおうと大口を開ける。

 

「グアアアアアァァァ!!!」

 

「今よ!」

 

ほむらの掛け声と共に三人は魔女の口めがけ、

 

 

「喰らいなさい!!!」

 

ほむらがバズーカを放ち、

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!!!」

 

マミが大砲を撃ち、

 

 

 

「『ジャスティスウイング』!!!」

 

天馬がペガサスアークの拳を当てたシュートを放つ。

 

 

 

 

「―――!?!?!?!?!?!?!!?」

 

三人の攻撃は一斉に魔女の口内に飛び込み、魔女は動きを止める。次の瞬間、内側から轟音を立てながら爆散し、跡形もなく消滅する。それと同時に結界も崩れるように消滅し、天馬たちが着地したと同時に景色が元の病院の駐輪場に戻り、天馬たちの化身が再び藍色のオーラとして三人の体内に戻る。そしてその空中からグリーフシードと天馬のボールが地面に落下する。

 

 

 

 

~~病院・駐輪場~~

 

 

「やった…!」

 

天馬は結界が消滅したのを確認するとそう呟いた。

 

「天馬ーーー!」

 

「信助!」

 

天馬が振り向くと信助たちが笑顔で駆け寄っていた。

 

「やったね天馬!僕たち、魔女を倒したんだ!」

 

「うん!マミさんたちを守れたんだ!」

 

天馬と信助はハイタッチをしながら喜ぶ。

 

「マミさん!」

 

まどかたちもマミに駆け寄る。

 

「鹿目さん、美樹さん……」

 

「良かった……マミさんが無事で本当に良かったです…!」

 

「やっぱりマミさんは凄いや!」

 

まどかは少し涙ぐみ、さやかは感激していた。

 

「そんなことないわ……それに二人こそ無事でよかったわ……」

 

「でも、あなたたち…これでわかったでしょう。魔法少女になることがどういうことなのかを」

 

「っ!あんたは…!」

 

「いいの。美樹さん…さっきまでの私は……油断していたの…」

 

ほむらの言い方に鼻がついたのか敵意を見せるさやかをマミが制す。

 

「マミさん?」

 

まどかが呼びかけるとマミは顔を俯かせながら目を閉じて語りだす。

 

「……私はずっと一人ぼっちがいやだったの。突然両親と死に別れて、誰にも知られずに戦い続けることが苦しかったの。それは本当につらかったわ」

 

「マミさん……」

 

「そんな私もかつてある魔法少女を弟子にしていたわ……でもある時をきっかけに彼女は私の元を離れていった。それが私の孤独をさらに強めたの。そんなある日、信助くんたちと鹿目さんたちと出会って、一緒に戦う仲間が出来て、魔法少女の後輩も出来ると浮かれてしまったの……その結果、暁美さんの言うとおり、私は自分だけでなくあなたたちまで危険にさらした……」

 

ここでマミは顔を上げてまどかとさやかを見る。

 

「二人共、今日で体験ツアーは終わりにしましょう」

 

「「え?」」

 

「やっぱりあなたたちをこれ以上危ない目に合わせられないわ。これでいいでしょう?暁美さん」

 

「……わかってくれればいいわ」

 

「で、でも…」

 

「鹿目さん。さっきまでの命懸けの戦いをこれからずっとしていきたい?それまでにあった日常を捨ててでも……命を懸けてでも……」

 

「日常……命……」

 

まどかは日常と言われて自分の日常を思い出す。いつも笑顔で自分を愛してくれる家族。先生やクラスメートとの楽しい学校生活。放課後でのさやかや仁美とのおしゃべり。そんな環境の中で笑っている自分。しかし魔法少女になればそれらが一気に失われ、最悪の場合、先ほどのマミのように命が危険にさらされる。

 

「…ッ!」

 

日常を捨てて戦いに赴く覚悟もないまどかには返す言葉が無かった。

 

「そういうことよ?だから…あなたたちのその日常を守らせて」

 

「………」

 

さやかもまどかと同じことを考えたと同時に以前マミに言われた自分の半端な覚悟を恥じた。

 

「それでも魔法少女になりたいなら、それ相応の願いを叶えなさい…その時は私が鍛えてあげるから……」

 

マミはいつもの頼りがいのある言葉で言うと今度は天馬たちに顔を向ける。

 

「天馬くん、信助くん、神童くん。あなたたちがいなければ私は確実にあの魔女に殺されていたわ。本当にありがとう…」

 

マミは深々と頭を下げる。

 

「いいですよ。俺たちだってマミさんに助けられた身ですし…」

 

天馬たちは両手を左右に振りながら謙虚に返す。しかしマミは首を左右に振った。

 

「ううん。心からお礼を言わせて。さっきのあなたたちの姿は私の理想とするヒーローの姿だった。あなたたちはずっと怖がっていた私を勇気づけてくれた……私の命だけでなく、私の心も救ってくれた…」

 

マミは目を閉じて手を胸を当てる。

 

「あなたたちのその勇気……私にも伝わったわ」

 

マミのその声はとてもやわらかなもので温かみを感じた。天馬たち三人も穏やかな表情を浮かばせる。

 

「マミさん…」

 

マミは目を開けて信助の方を向く。そして信助は昨晩の時のように再び笑顔で手を伸ばした。

 

「これからも……よろしくお願いします!」

 

「ええ!これからもよろしく!」

 

マミも笑顔で再び信助と握手を交わした。

 

「信助……」

 

天馬が呟いた直後、やさしいそよ風が吹きその場に居た全員の髪を揺らした。その風はかつての天馬達の革命が進んだ時に吹いたものに似ていた。まるでこの世界にも革命を起こしたように………。

 

 

 

 

「それにしても驚いたよ」

 

風が止んだ直後、無機質な声が響く。

 

「キュゥべえ」

 

「まさか天馬が魔女を倒すとは思わなかったよ」

 

「何言ってるのさ、俺だけじゃないよ。最後はマミさんやほむらさんが一緒に撃ったから倒せたんじゃないか」

 

「いや、あの魔女はもうかなり弱っていた。弱点を攻撃するなら天馬の攻撃だけで倒せてたよ」

 

「そうなの?」

 

「それより、僕としては他に気になる事がある。

 

 

 

 

 

―――君たちが魔女を倒したあの力………あれはなんだい?」

 

 

 

 

 

「そうだよ!なんか天馬たちの体からブワ~ッて巨人が出たじゃん!」

 

さやかは両手を大きく広げる。

 

「私も気になるわ……あれは、何なの…?」

 

さすがのほむらも気になり、尋ねられた三人は答えた。

 

「あれは、化身です!」

 

「化身?」

 

「化身とは、俺たちの世界では『人の心の強さが気の塊として形になったもの』、そう呼ばれている」

 

「化身が出せる人は化身使いって呼ばれてて、凄いパワーを発揮できるんです!」

 

「化身使い……」

 

「人の心の強さが形に………なるほど、それはまさしく魔法少女が持つ希望の力と同義……だから絶望の象徴である魔女に絶大な効果があったのね…」

 

「おそらくそうだと思います」

 

ほむらとマミの推測に同じ推測をしていた神童が頷く。

 

「やっぱり天馬くんたちって凄いんだね!」

 

「いやぁ…」

 

 

 

グゥ~~~。

 

 

まどかに褒められた直後、天馬と信助の腹が鳴った。

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「ぷっ………」

 

 

「「「あははははっ!」」」

 

 

空気が笑いに包まれた。天馬と信助は少し照れていたが。

 

「なんだかおなかがすいちゃって……」

 

「それじゃ、帰ってみんなでお茶会しましょうか」

 

「やったーー!」

 

信助とさやかは笑顔でバンザイする。

 

「あはは……ほむらちゃんも一緒に……アレ?」

 

二人に苦笑いしていたまどかが辺りを見渡すと、いつの間にかほむらとキュゥべえの姿が消えていた。

 

「ほむらちゃんは?」

 

「そういえばキュゥべえもいないね」

 

「何よあの転校生!せっかくみんな無事だったっていうのにホントムカつく!」

 

「まあまあ彼女もいつか来てくれるわよ」

 

そして一同は病院の入り口に向かって歩き出す。

 

「あっ、そうだ。上条に持ってきたCDがまだだった」

 

「今日は都合が悪いみたいだよ」

 

「でも今なら大丈夫かもしれないじゃない?それに美樹さんも会いたがってるみたいだし」

 

「ま、マミさんっ!?」

 

マミがさやかをからかい、天馬たちは再び笑いに包まれる。

 

 

 

 

「……………」

 

そんな様子を少し離れたビルの屋上からほむらが眺めていた。彼女は化身の話を聞き終えたあたりから姿を消していたのだった。

 

「ただのサッカープレイヤーと思っていたら……とんでもないイレギュラーが現れたわね……」

 

ほむらはただ天馬たちを見続けながら呟く。

 

「しかもまだ仲間がいるなら……アイツと戦う良い戦力になりそうね」

 

ほむらはある目的の為に天馬たちを利用しようと考えていた。

 

「…………」

 

彼らはただの戦力。そう思っているはずなのになぜか彼らの言葉が頭から離れなかった。

 

 

 

(――――まどかさんたちは………俺たちの大切な友達だから!!!)

 

 

 

(私にとって大切なのはまどかだけ……それなのに…)

 

 

 

 

 

(―――仲間を守れない様じゃ何も守れない!!!)

 

(―――マミさんたちもサッカーも絶対に守ってみせる!!!)

 

(―――俺たちは………大切なものを―――――)

 

 

 

 

(―――守りたいんだ!!!)

 

 

 

 

「…ッ!!!」

 

ほむらは辛そうな顔で自分の胸を押さえる。

 

「何?………この、胸の奥から突っかかるような感覚は……」

 

彼らの言葉がほむらに不思議な感覚を与えていた。

 

 

 

 

 

~~某所・夜~~

 

 

 

「あそこでマミが死んでくれれば、まどかやさやかと契約できると思ったんだけどね」

 

キュゥべえはどこまでも変わらない表情で呟く。

 

 

 

 

 

「まあ、いいか。まだいくらでもチャンスはあるし、マミから取れるエネルギーも期待できるからね」

 

キュゥべえは感情を全くこめずに言い放つ。

 

 

 

 

「―――それに思わぬ収穫もあった」

 

夜風がたびたび月を雲で隠してはその影でキュゥべえを包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……化身……か……これからは利用させてもらうよ……『化身使い』……」

 

 

雲が晴れてキュゥべえを照らす月光がその赤い瞳を怪しく輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




――ED『愛情・情熱・熱風』(歌:空野葵)――


次回予告

天馬
「化身が復活して、マミさん達を守り切った俺達!あれ、なんだか上条さんの様子がおかしい……?それと同時にまどかさんが一人魔女の結界に閉じ込められてしまい、大ピンチに!そこに現れたのは…………。

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~~』

第5話『誰がために少女は願う』!」





というわけで連続投稿してみました。
タイトルでネタバレして連続投稿なんてもうそうそう無いでしょうね。
ストックがたまるまで少しの間投稿を休ませてもらいます。

ご感想お待ちしてます 執筆意欲になるので(笑)。



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第5話『誰がために少女は願う』 Aパート

お待たせいたしました。更新再開です。
リアルでも忙しかったり、文章をどうまとめようか考えていたら
こんなにかかってしまいました。
なお、台本形式はやめたほうがいいとご意見をいただきましたので
今回から台本形式をやめてみました。また、どうしても一話丸々書くとどうしても一万字オーバーしてしまうため、今回から読みやすく早く続きを見られるようAパートとBパートに分けてみることにもしましたのでよろしくお願いします。

それでは続きをどうぞ。


――OP『成せば成るのさ七色卵』――



 

 

 

 

 

 

――まどかは暗い魔女の結界の中にいた。

 

 

「やったあ、マミさん!」

 

さやかが嬉しそうに言った瞬間、マミが撃ち抜いた魔女からグニャリと黒くて長い物が一瞬でマミの間合いを詰め、大きな口を開けていた。

 

「え?」

 

マミがそう呟くとそれはマミの頭を捕らえて空中に上げ、グシャリと音を立てながら口を閉ざす。まどかがただ呆然と眺めているとマミが落ちてくる。

 

「い……」

 

そしてその体には首から上が――――消えていた。

 

「い……」

 

そして魔女は地に落ちたマミの体を追いかけるように体を伸ばしていき、その体を喰らっていく。

 

 

 

 

――――いやああああぁぁぁぁぁぁ!

 

 

ガバッ!

 

 

 

 

 

~~早朝・まどかの部屋~~

 

「はぁ……はぁ……」

 

そこは自室のベッドの上だった。上半身を起こしていた自分は汗だくで心臓の鼓動と呼吸を乱していた。まどかの耳にチュンチュンと穏やかな雀の鳴き声が響き、周囲を見渡して状況を確認する。早朝の日差しが彼女を照らす中、まどかは静かに呟いた。

 

「……また、夢……?」

 

 

 

 

~~通学路~~

 

 

 

(あれは夢だよね…なのに何?この感じ……)

 

まどかは通学路を歩きながら夕べの夢の事を思い出していた。夢であるはずなのに妙に現実感があった。

 

(まさか、昨日の事は…)

 

まどかは昨日マミが助かったのは自分の妄想だったのではないかと疑う。

 

「鹿目さん」

 

俯きながら考えていたまどかはハッと振り向く。

 

「あ…」

 

「おはよう、鹿目さん!」

 

そこにはあの優しい笑顔で挨拶するマミの姿があった。

 

「マ、マミさん…!」

 

まどかは震えた声で彼女の名を呼ぶ。

 

「…?…どうしたの…かな…」

 

マミは様子がおかしいまどかに聞こうとした直後、突如まどかに抱き着かれる。

 

「か、鹿目さん?」

 

「ヒック……グスッ…」

 

まどかは泣きながら自分を強く抱きしめ、その涙でマミの制服を濡らしていた。

 

「良かった……やっぱり夢だった…マミさん生きてた……グスッ…」

 

「ど、どうしたの鹿目さん?いきなり…」

 

「おーい!まどかー!マミさ……ってどしたの、まどか?」

 

マミは突然泣きついてきたまどかに驚き、ちょうどやって来たさやかも困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。そんな夢を…」

 

「うん。あまりにもリアルだったから…」

 

数分後、気分が落ち着いたまどかは夕べの夢の事を二人に話していた。

 

「でも私はこの通り生きているから、もう忘れた方がいいわ」

 

「はい。本当に夢で良かったです!」

 

マミが生きている現実を再確認したまどかはようやく吹っ切れ、二人に笑顔を見せる。

 

「でも、天馬くんたちが助けてくれなかったら、現実になってたのよね…」

 

「あいつらのおかげであたしたちも助かったわけですしね。化身なんてものを出した時に驚きましたけど」

 

二人が話す中、まどかは何故か笑顔で空を見上げていた。

 

「ん?どしたの、まどか」

 

「ううん、昨日の天馬くんたち…」

 

 

 

(俺達は……大切なものを……)

 

 

 

(((―――守りたいんだ!!!)))

 

 

 

「…カッコ良かったなって…///」

 

まどかは昨日の天馬たちの勇姿を思い出し、少しだけ頬を赤く染めていた。

 

「お~っ!まどかが男をカッコイイなんてね!もしかしてあいつらの誰かに惚れた?」

 

「ふえっ!?ち、違うよ!そんなんじゃなくって……///」

 

まどかは顔を真っ赤にして否定する。

 

「あっ!あそこに仁美ちゃんが!さやかちゃん、行こ!マミさんも!」

 

「あっ!こらまどか!あたしの嫁になるのだから教えろコノ!」

 

「フフッ、二人共待って!」

 

まどかは誤魔化すために話を打ち切って仁美の方へ走り出す。さやかはイタズラな笑みでまどかを追いかけ、マミも後に続いた。ちなみに仁美にマミの事を紹介し、四人は華やかな笑顔で登校したのであった。

 

 

 

 

~~同時刻・河川敷~~

 

 

 

「それにしても昨日は大変でしたね」

 

「ああ。でもみんな無事で本当に良かった」

 

「それに僕たちの化身も復活しましたし、万々歳ですよ!」

 

あのお菓子の魔女戦で化身が復活し魔女を倒した事で自分たちのサッカーで魔女とも戦えると知った三人は更に磨きをかけようとこの河川敷で特訓に励んでいた。

 

「それにしても本当に驚かされる事ばかりだな、このボールは」

 

神童はマギカボールを手に持ちながら言う。

 

「ええ。ソウルジェムのように魔女の結界を見つけたり、格好を変えたり…」

 

「さらには化身まで復活させるなんてね!」

 

天馬と信助も自分のマギカボールを見つめる。

 

「だが、油断はできない。あの時のようにいつもうまくいくとは限らない。みんなと再会して元の世界に帰る為にも俺たちはもっと強くならなければならない」

 

「そうですね。よし頑張ろう、信助!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

「天馬、行くよ!」

 

「うん!」

 

話を追えて数分後、天馬達はボールのコントロールの精度を上げるためにパスの練習をしていた。

 

「それっ!……あっ!」

 

信助は天馬に向けてパスをしたが足元が狂い、ボールはあらぬ方向へと飛ぶ。

 

「ん?」

 

そしてボールは小さい子供を連れたメガネの男性の側に落ちる。

 

「すいませ~ん!」

 

信助が駆け寄ると男性が連れている子供がボールを持って喜んでいた。

 

「こら、タツヤ。ダメだよ。」

 

「あ~ん」

 

男性は連れていた子供からボールを取り上げて信助に渡す。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

微笑みながらボールを返すその男性はとても温厚で信助も彼から温かい包容力を感じた。

 

「君たち、サッカーやってるのかい?」

 

「はい!」

 

「でも、この時間にこんな所で……学校はどうしたんだい?」

 

「えっ!?あの、その…えと…」

 

「俺たち、この地域に合宿で来てるんです」

 

いつの間にか天馬と共に側に来ていた神童が返答に困っていた信助のフォローに入る。

 

「そうだったのか。てっきり学校をサボっているのかと心配したよ」

 

「「あはは……」」

 

この世界に自分たちの学校が存在しないとは言えないため、天馬や信助は苦笑する。

 

「あなたもサッカーが好きなんですか?」

 

「いや、そういうことじゃないんだけど、娘が最近凄いサッカーが出来る友達が出来たと話していてね。君たちを見て興味を持ったんだ」

 

神童が聞くと男性は信助のボールに一瞬目を向けて話す。

 

「娘さんがいるんですか?」

 

「ああ、まどかって言うんだけどね」

 

「え?まどかって、それじゃあなたはまどかさんの……」

 

まどかの名前が出て天馬は一瞬キョトンとした顔になる。

 

「君たちはまどかを知っているのかい?」

 

「はい!俺、松風天馬と言います。まどかさんとは最近知り合ったんです」

 

「そうか。まどかが最近話していたのは君たちの事だったのか。僕は鹿目(かなめ)知久(ともひさ)。この子はタツヤ」

 

「あい!」

 

男性はまどかの父である知久だった。そしてまどかの弟であるタツヤも元気に挨拶する。

 

「まどかさんの弟なんだ!あ、僕は西園信助です!」

 

「俺は神童拓人と言います」

 

「よろしく。そういえばまどかが今朝怖い夢を見たらしく、少し元気が無かったんだ」

 

「え?大丈夫だったんですか?」

 

「ああ、学校にはちゃんと行ったから。でもやっぱり大丈夫かな…?」

 

まどかを心配する知久を見て、天馬は言った。

 

「大丈夫です!まどかさんは俺たちが元気づけておきますから!」

 

「……そうか、ありがとう。そうしてくれると僕にとっても嬉しいよ」

 

天馬に励まされ知久も明るい表情を取り戻す。

 

「じゃあ僕たちはもう行くよ。サッカーの練習頑張ってね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「タツヤ君もまたね!」

 

「あい!」

 

天馬たちは手を振りながら笑顔で二人を見送った。

 

 

 

 

「タツヤ、彼らが気に入ったのかい?」

 

「あい!」

 

タツヤは無邪気な笑顔を浮かべながら返事する。

 

「うん、僕もだよ。まどかも気に入るわけだ。中々いないよ、あんなに目が透き通った少年たちは……」

 

知久は目を閉じながら静かに語る。

 

「あい!」

 

「ふふ、そうか。タツヤもサッカーやって見たくなったかい?」

 

太陽が照らす見滝原の一角で一組の親子の会話が響いた。

 

 

 

 

 

~~夕方・見滝原総合病院~~

 

 

 

「恭介の奴、喜んでくれるかな?」

 

さやかは今日も恭介を元気づける為にCDを持ってきた。

 

「やっほー!恭介、今日もさやかちゃんが来てやったぞー!」

 

さやかはいつも通りに恭介に挨拶した。しかし恭介はこちらを向かずに俯いていた。

 

「どうしたの恭介、元気ないじゃん」

 

さやかが顔を覗き込んでも恭介は応じなかった。するとさやかは顔を離して手提げ袋からCDを取り出す。

 

「そうだ、今日新しいCD持ってきたんだ。これでも聞いて………」

 

さやかが笑顔でCDを見せようとした直後、

 

「さやかはさぁ」

 

そこから出たのはさやかの予想外の台詞だった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――僕をいじめているのかい?」

 

「………え…?」

 

笑顔が一転し、さやかは呆気にとられてポカンと口を開けたまま呟く。

 

「……さやかはいつもCDを持ってきて、僕に聞かせようとする。僕をいじめているのかい?」

 

「何……言ってるの?」

 

さやかには信じられなかった。CDを持ってくるといつも喜んでくれる恭介が自分を責めていることを。

 

「指が動かない僕へのあてつけなのかい?」

 

そう言う恭介の瞳には憤慨と哀しみが込められていた。

 

「何で…何で指が動かなくなって音楽が出来ない僕にこんなものを聞かせるんだ!」

 

「きょう…すけ…」

 

「もう……意味無いんだよ!聞きたくないんだよ!自分で弾けもしない音楽なんて!」

 

恭介は怒鳴りながら側に置いてあったCDケースに指が動かない左手を叩き付け、割れたケースの破片が恭介の左手とベッドのシーツを鮮血に染める。

 

「ちょ……恭介!」

 

さやかはCDをほっぽり出して恭介に駆け寄る。すると恭介は涙を流しながら言った。

 

「……先生に言われたんだ、もうバイオリンは諦めろって……」

 

「え…!?」

 

「手術をしてリハビリをすれば日常生活は出来るけど、バイオリンの様に繊細な動きはできないって……」

 

「!!!」

 

涙しながら語る恭介の姿にさやかも涙する。さやかはバイオリンを弾くことができずに絶望する恭介の悲痛な姿に耐えられなかった。

 

「もう、無理なんだよ……それこそ、奇跡や魔法でもない限り……」

 

その瞬間、さやかの決意は固まった。

 

「……あるよ」

 

「……?」

 

恭介は涙しながらさやかに顔を向ける。その瞳には何かを決意したような光があった。

 

「奇跡も魔法も、あるんだよ」

 

さやかはそういうとカーテンに隠れてシルエットになっている彼女にしか見えない生物に目を向け、踵を返して病室から出ていき走り去っていった。

 

 

 

 

―――入り口のすぐ側の壁に身を隠していた人物にも気づかずに。

 

 

 

 

「さやか…?」

 

恭介はさやかの行動が理解できず、たださやかが去って行った方向を見つめるだけだった。

 

「……さやか……僕は……」

 

恭介は顔を扉に向けたまま再びうつむいていると突如病室の扉がガラッと開く。恭介は一瞬さやかが帰って来たと思い顔を上げる。

 

 

 

「上条……」

 

「し、神童くん!?」

 

しかし現れたのはこの病院で知り合い音楽の話で親友になった神童拓人だった。神童は病室の扉を閉め、散らばってそのままになっていたCDを集める。

 

「今、人を呼んだ。もうすぐ来るだろう」

 

「!……聞いてたのかい…?」

 

「ああ、さやかさんがこれを君に見せているあたりからな…」

 

神童はさやかが持ってきたCDを見ながら言うとそれらを全て袋にしまって近くの椅子の上に置く。そして恭介が神童の顔を見ると表情が固まる。神童は哀しくも怒っている、そんな二つの感情がないまぜになった表情を恭介に向けていた。

 

「…今のは、さやかさんに失礼だったんじゃないのか?」

 

恭介はハッとなって顔をあげると申し訳なさそうにうつむく。

 

「……わかってるんだ。さやかにこんなことしても何にもならないって……でも、もう音楽が出来ないって思うと……耐えられなかったんだ…」

 

恭介は再び涙を流しながら震えた声で言う。

 

「…諦めるのか?」

 

「諦めたくないに決まっているじゃないか……でも現代医学じゃどうにもならないって言われたんだ…。どうしようもないんだよ……音楽を失ってしまった僕に何の価値も無いんだ…!君にその気持ちがわかるかい……!」

 

恭介はただひたすら嘆き続けていた。そんな恭介を哀れに思いつつも神童は言った。

 

「上条、確かに俺は君の代わりになる事は出来ないし、ましてやその腕を直すことなど出来ない。俺もサッカーが出来なくなると考えたらたまらないだろう」

 

「………」

 

「だが俺はこう思うよ………

 

 

 

今の君は、君が思っているほど不幸ではないと」

 

「………え?」

 

恭介は目に涙を浮かべながら顔を上げる。

 

「…だって音楽を失った君を支えようとしてくれるさやかさんのような人が居るんだから」

 

「!さやか…」

 

「音楽を失った自分は価値が無いといったが、それなら音楽を失った君をさやかさんはどうして支えようとしていた?」

 

「!……そ、それは……」

 

「それは、君が音楽とは関係なく大切な幼馴染だったからじゃないのか?音楽を失ってもなお大切だった君をただ元気づけてやりたかったからじゃないのか?」

 

「!」

 

恭介の頭の中でさやかが今まで自分に見せたいくつもの笑顔が巡る。

 

 

(―――恭介!)

 

 

思い返してみればさやかは幼い頃からいつも自分に接し、その度に自分に向ける笑顔はまるで太陽の様に明るく自分も自然に元気になっていた事を思い出す。ある時のバイオリンのコンクールで落選した時も自分を励まし、コンクールで受賞した時は誰よりも自分の事のように喜んでくれていた。そして今の様に音楽を失った今でも懸命に見舞いに来てくれている。恭介はそんなさやかにいつも支えられていた事に気づく。

 

「俺にも……そんな人がいたよ…」

 

「神童くん……?」

 

神童は声のトーンを下げて目を閉じながら語りだした。

 

「俺が自分の事で悩んで苦しんでいたときに、俺を必死に支えようとしてくれた人がいたんだ……彼女が俺を支えてくれたおかげで俺は前に進めた……あの時の彼女の笑顔は……忘れられない……」

 

「いたって事は…もうその人は……」

 

「…ああ、俺はもう……彼女に会うことは出来ないから……」

 

神童は少し顔を俯かせる。恭介はその神童を見ていたたまれない気持ちになる。

 

「さっき病室を出てったさやかさんが一瞬その時の彼女に見えたよ。彼女は俺に惚れていた……でも俺は大切なものの為に彼女と別れた。だから今、君を支えようとしている人がいるからこそ言える………」

 

神童は閉じていた目を開く。

 

 

 

「―――君は一人じゃない」

 

「!」

 

「さやかさんだけじゃない俺も音楽を失った今の君でも大切な親友と思っている。そして天馬たちやまどかさんも心配している。取り分け一番心配していたのはさやかさんだったがな」

 

「さやかが…」

 

「ああ。一見元気そうに振舞っているが、その裏では誰よりも君の事で悩んでいたんだ。どうして君ではなく自分の腕が動くのかと…」

 

その言葉に恭介は驚愕する。

 

「さやかがそんなことを…」

 

「そうだ、苦しんでいる君を必死に支えようとしてくれる人がいるんだ。だからこそ……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――自分を支えようとしてくれる人を(ないがし)ろにしてはいけない」

 

 

 

「!!!」

 

病室の窓から差し込む夕焼けが二人の少年を照らす。

 

(そうだ、さやかはいつも僕を支えてくれた。僕が落ち込んでいる時もいつもその笑顔で励ましてくれたんだ…)

 

恭介は思った。さやかに対してなんてひどいことをしてしまったのだろうと。

 

 

「…神童君……ありがとう。おかげで目が覚めたよ。さやかに会ったら………ちゃんと、謝ろうと思う」

 

恭介は清々しい笑顔でそう言い、神童も笑顔で頷く。

 

「そして頑張ればきっと………手も治るよね……」

 

「ああ。もちろんだとも」

 

神童は笑顔でそう答えた。

 

「僕、頑張るよ!………一人じゃないから!」

 

前に進む決意を固めた恭介に神童は安堵する。

 

 

 

 

 

(……それにしても、最後にさやかさんが言っていた……)

 

夕焼けと共に入ってきた風で揺れるカーテンを見ながら目を細める。

 

 

 

『―――奇跡も魔法も、あるんだよ』

 

 

 

神童はさやかと恭介の会話を聞いていたが、扉が締まっていたのでさやかが最後に

言っていた時に彼女が見ていたものに気が付かなかった。

 

(それに病室を出てった時のさやかさんのあの目……まさか……)

 

神童のその予感は既に病院の屋上で当たっていた。

 

 

 

 




というわけいろいろ初めての挑戦となった更新でした。
ちなみこの神童と恭介のシーンは前から書きたかったシーンの一つでもあります。
原作では恭介がさやかをどう思っていたのか明らかになりませんでした。
ゲームの番外編ではギャグまじりの結ばれ方でしたのでこんな風に神童に揺さぶってもらいました。
神童は果たしてさやかと恭介の恋の引き立て役になれるのでしょうか?

ご感想お待ちしています。


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第5話『誰がために少女は願う』 Bパート

お待たせしました。再開します。
ああ、文才が欲しくなる……


~~河川敷~~

 

 

 

天馬たちが練習場所の一つにしている河川敷に暁美ほむらがただ一人佇んでいた。静かな風が吹き、夕焼けを背に目を閉じている彼女の髪を芝生と共になびかせる。そこへ足音がほむらの耳にはいる。

 

「来たようね…」

 

ほむらが目を開け、左を見る。

 

「松風天馬……」

 

そこには松風天馬の姿があった。

 

「ほむらさん、用ってなんですか?」

 

彼はほむらに呼ばれてここに来た。先ほど練習を終え神童は上条に見舞いに行き、信助はマミの買い物を手伝いに行き、天馬は一人ランニングをしてる最中にほむらと出くわし、河川敷に来るよう言われたのであった。

 

「松風天馬、あなたたちは何故魔法少女に関わろうとするの?」

 

「え?」

 

「魔法少女の戦いは本当の命懸け。サッカーの試合をするのとはわけが違うのよ。」

 

「………」

 

「巴マミが殺されかけるほど恐ろしい魔女だってこれからも出てくるのよ。昨日の様に必ず勝てるとは限らないわ……なのにどうして私たちの事に関わって来るの?」

 

「…………」

 

何故ほむらが天馬を呼び出したのか。ほむらは天馬達が化身を魔女と戦えることがわかり、利用しようと考えていた。しかし、彼らは化身の力が目覚める前から魔女との戦いに関わろうとしていた。いざ利用しようとしたとき、彼が臆して逃げ出さないか確認したかった為であった。ほむらの質問に天馬は終始黙って聞いていたが真剣な眼差しで口を開く。

 

「約束したんです」

 

「約束……?」

 

「この世界に来る直前、宇宙みたいなとこにいて誰かの声が聞こえたんです。その人の姿は見えませんでしたが、とても悲しんでいたんです………大切な友達を失って一人ぼっちになっていたその人のことが俺は放っておけなかったんです。だから約束したんです。なんとかしてあげるって!そしたらその人は俺にマギカボールをくれてこの世界に送ったんです」

 

「そんな誰かもわからない人と約束をしたの?酔狂(すいきょう)としか思えないわ」

 

「確かにそうかもしれませんけど、でもこの世界に来たからには必ずやるべき事があると思うんです。そしてそれが魔女と戦うことだってわかったんです!」

 

「そうだとしてもあなたたちの目的はもとの世界に帰る事なんでしょう?自分の命を危険に晒す事に恐れを抱かないの?」

 

「……確かに怖くないといえば嘘になります。でも約束は守りたいし事情を知った以上、そこから逃げたくないという気持ちに嘘はつきたくありません」

 

「……そう、あなたたちの覚悟はわかったわ。元の世界に帰るまで死なないように気を付ける事ね」

 

ほむらはそう言うと風で乱れた髪を巻き上げながら踵を返して立ち去る。いや、立ち去ろうとした。

 

「ほむらさん!あなたはどうしてマミさんと仲良くしないんですか?」

 

天馬の突然の質問に足を止めるほむら。

 

「……なぜそんなことを聞くの?」

 

「信助も言ってたじゃないですか、同じ魔法少女なんだから協力すればいいって!昨日だってちゃんと連携が取れてたじゃないですか!」

 

天馬は声を荒げる。そんな天馬と対照的にほむらは天馬に背を向けながら静かに答えた。

 

「私も彼女もずっと戦い続けてきた魔法少女、ある程度行動を共にすれば大体の動きは合わせられるだけよ」

 

「だったら………」

 

「でも、彼女と共に魔女退治をしていくことはできない。彼女の側には危険が多すぎる。それはあなたたちも昨日知ったでしょう」

 

「ぐっ……」

 

マミが油断して魔女に殺されかけたことを突かれ返す言葉を失う天馬。もっともほむらの言葉の意味は戦いの事だけではなかったがそれを天馬が知る由もなかった。

 

「昨日の様に同じ結界に入ったなら共闘するでしょうけど、所詮ただの同じ魔法少女、それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

「だったら、なぜマミさんとまどかさんを結界から帰らせようとしたんですか?」

 

「あの時の魔女は彼女たちには荷が重すぎた。一緒にいればかえって邪魔になっていた。それだけよ」

 

ほむらは冷たくそう言って立ち去ろうとする。

 

「本当に……そう思ってるんですか?」

 

「?」

 

ほむらは再び足を止めた。そして天馬はほむらの言葉の裏を返した。

 

「本当はあの時、マミさんも俺たちも危険な目に合わせたくなくて帰そうとしたんじゃないですか?」

 

ほむらも眉がわずかに動く。

 

「あの時の魔女ってほむらさんが一度戦ったことがある魔女だったんじゃないですか?だからマミさんと相性が悪いと知っていて危険から遠ざけようと……」

 

「……変な勘繰りはやめなさい。私は別にそんなふうに思ってないわ」

 

ほむらはそう言って話を打ち切り、今度こそ立ち去ろうとした。

 

 

 

 

 

 

しかし天馬は言った。

 

「ほむらさん、あなた……自分に嘘をついてませんか?」

 

「!?」

 

ほむらはビクッと動きを止め、動揺を見せる。

 

「……どういう意味かしら?」

 

「だってほむらさん、初めて会った時からとても寂しそうな目をしてたから……」

 

「私が……寂しそう…?」

 

「本当は諦めたくないのに何かを諦めて辛そうにしている………俺にはそんなふうに見えるんです…」

 

「ッ!」

 

天馬の指摘にほむらの体が震えだす。しかし爪が食い込むほど拳を強く握ることでその震えを必死に抑える。

 

「……馬鹿なことを言わないで……それはあなたの思い違いよ……」

 

ほむらは必死に声の震えを押さえながら言うと次の瞬間にその姿を消した。

 

「あっ!……ほむらさん…」

 

天馬はただ悲哀に満ちた表情でほむらが消えた場所を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

河川敷から離れたビルの屋上でほむらは考えていた。

 

(……あの時と同じね………)

 

ほむらは昨日の天馬たちの言葉で胸に何かが突っかかるような感覚があった。そして先ほどの天馬の指摘でその感覚を思い出していた。

 

(彼の言葉は胸に突き刺さる……)

 

「すぅ……はぁ……」

 

天馬の言葉に胸が張り裂けそうになっていたほむらは一度深呼吸して心を落ち着かせる。

 

「……それにしても……約束、か……私も粋狂よね……あの子との約束のためにこんなことをやっているんだから……人の事、言えないわね」

 

ほむらのぽつりとつぶやいた独り言は誰にも届かなかった。

 

 

 

 

 

~~見滝原市路上~~

 

 

 

「ホントにマミさんが無事で良かった」

 

まどかは一人街中を歩きながらマミが生きている現実を噛みしめていた。

 

「でも、ほむらちゃんはどうしてマミさんや天馬くんたちと仲良くしてくれないんだろう…」

 

まどかは考えていた。自分たちがお菓子の魔女の結界で最初に遭遇したあの時に協力し合えば、マミの命を危険に晒すこともなかった。天馬たちから聞いた話によると、後から結界に入った天馬たちにもマミの事を諦めて帰るように促そうとしたらしい。魔女を倒す力が彼らにあると思っていなかったためとも思われるが、まどかには諦めるには早すぎるのではなかったのだろうかとも思った。

 

「ほむらちゃんって…、わたしたちに心を開いてくれないのかな…」

 

まどかがふと悲しげな瞳でふと顔を上げる。そこには人ごみにあふれていた。

 

「あれ、あそこにいるのって…」

 

まどかが人ごみの中に注目するとそこには仁美の後ろ姿があった。

 

「仁美ちゃん?」

 

「あら、まどかさん……」

 

いつもと変わらぬ口調で返事を返す仁美。

 

「こんな所でどうしたの?今日はお稽古無いの?」

 

「それより、もっと素敵な所に行くのですよ」

 

しかし彼女の目は虚ろでまどかは不気味に感じる。

 

「す、素敵な場所って……ッ!」

 

その時、まどかは彼女の首筋に見覚えのある模様がある事に気づく。

 

「…魔女の…口づけ…!」

 

「ふふ、まどかさんも一緒に行きましょうよ…」

 

「ひ、仁美ちゃん!ダメっ!」

 

仁美はまどかの言うことに耳を傾けず、どこかへ行こうとする。まどかは必死に仁美を正気に戻そうと彼女の後を着けた。

 

 

 

~~工場~~

 

 

 

まどかが仁美を追いかけていくと小さな工場にたどり着いた。そこには生気がなく空虚な瞳をした人々がバケツを中心にして集まっていた。そして彼らにも仁美と同じく首筋に魔女の口づけがあった。

 

「まさか……この人たち全員…」

 

魔女にとらわれている、とまどかは恐怖する。

 

「こんな小さな工場一つ切り盛り出来ない様じゃもうダメだ……」

 

「私なんて生きててもいい事なんてないのよ…」

 

魔女の口づけによって操られた人々が絶望的な事をぼやき続ける。その中の一人の男性がバケツに洗剤を入れていた。

 

「あれって…」

 

「ふふ、これから素敵な場所へ旅立つ為の神聖な儀式ですわ」

 

仁美が笑顔で答える。すると別の方向から一人の女性が別の洗剤を手に現れた。

 

「あれって確か……ッ!?」

 

まどかは女性の洗剤の容器の「混ぜるな危険」という文字を見て母の言葉を思い出す。

 

『いいかい、まどか。洗剤ってのは種類によっちゃ混ぜたら危険な毒ガスを出しちまうものもあるんだ。洗剤を選ぶときは気をつけろよ』

 

「仁美ちゃん!止めなきゃ!早く止めないと皆死んじゃう!」

 

「フフフ、何を言ってるんですか、まどかさん。…私たちは肉体という小さい枠を超えた素晴らしき存在に変わるんですのよ。その為に私たちは楽園に旅立つのです。さあ、まどかさんも一緒に行きましょう」

 

仁美はまどかの言うことに全く耳を貸さなかった。

 

「仁美ちゃん、ダメっ!!」

 

「邪魔しないでください!」

 

バキッ

 

「あぐっ…!」

 

まどかは仁美を止めようとしたが腹を殴られる。

 

「ぐ、うぅ…!」

 

まどかは腹を抱えながらうめき声を上げる。

 

「さあ、一緒に行きましょう。私たちの楽園へ」

 

仁美は両手を広げ、女性が洗剤をバケツに入れようとする。しかしまどかも必死に痛みをこらえながら立ち上がる。

 

「ダメ!」

 

そして一気に駆け出し、無我夢中でバケツを掴むと高く放り上げる。バケツは少し高い位置に設置された窓を突き破り、その姿を消した。

 

「はあっ、はあ………間に合った……」

 

まどかは息切れしながら安堵した。

 

「……よくも…」

 

「っ!」

 

視線を感じて後ろを見る。すると仁美も含め魔女に操られた人々が恨みがましい目でまどかを睨んでいた。そのあまりの恐ろしさにまどかの顔が強張る。

 

「……よくも私たちの儀式を邪魔してくれたな……」

 

「悪魔め…」

 

「邪魔者は消すべし…」

 

自分に怨みの念をぶつけてくる向ける人々はまるでホラー映画に出てくるたくさんの怨霊の様だった。

 

「捕まえろ!」

 

中年の男性の叫ぶと人々は火が付いたように一斉にまどかを捕らえようと襲いかかる。

 

「きゃあああっ!」

 

まどかは仁美たちの手を振り払いつつ逃げ出す。必死になって走り続け、近くの部屋に飛び込むと即座に部屋のドアに鍵を掛ける。

 

「はっ…はっ!」

 

しかしドアをこじ開けようとしているのか外から何度もドアを叩く音が響く。まどかは早く移動しようとしたがそこはどうやら物置だったらしく部屋を見渡してもどこにも出口が無かった。

 

「……そんな」

 

まどかはその場で膝を着き、震えながら自分の両肩を抱く。

 

「わたしへの罰なのかな………」

 

こんな状況になったことにまどかは自分を責める。自分には魔法少女としての強い素質があるというのに戦う覚悟も勇気も無く死ぬことを恐れている。ただ自分は見ていることしかできなかった。どんなに怖くても必死に戦おうとしているマミや天馬たちと違い、ただ憧れだけで、誇れるものが欲しいという思いしかなく、命懸けの戦いを甘く見ていた。そんな自分がこうなってしまうのは当然ではないかと思い始める。

 

「怖いよ……」

 

まどかは自分ではどうしようも出来ない事に恐怖する。

 

「怖いよ……どうしたらいいの?どうしたらよかったの?……助けて……マミさん……さやかちゃん……ほむらちゃん……ひっく………ううっ…」

 

そして最後にはとうとう泣き出してしまう。

 

「……助けて、天馬くん…」

 

その時だった。

 

「う~ん…」

 

「!」

 

自分以外誰もいないと思われていた物置で声が聞こえ、まどかは体をビクッと震わす。

 

(わたし以外に誰かが…!?)

 

まどかは涙を拭きながら声がした方向に恐る恐る近づいてみる。そして大きな木箱の裏を覗き込む。

 

「ッ!」

 

そこにはちょうど自分と同い年ぐらいの三人の少女がいた。まどかは魔女に操られていると思いとっさに後ずさる。

 

「…おい、大丈夫か?」

 

「はい…」

 

「ここは…?」

 

先に起き上がった緑のリボンを頭に着けた紅緋のロングヘアのスケバン風の少女が、藍色のボブカットの少女と、タレ目で藤色の髪を三つ編みにしている少女に声を掛ける。

 

「倉庫みてえだな」

 

「私たち、確か時空乱流に飲み込まれて……」

 

「誰かいる……」

 

三つ編みの少女がまどかに気が付き目を向けると、二人の少女も目を向ける。まどかは先ほどの様に襲われると警戒する。

 

「…っ」

 

「おい、アンタ、ここはどこかわかるか?」

 

スケバン風の少女がそう質問をして、まどかはキョトンとした顔をする。

 

「あなたたちはなんともないんですか?」

 

「何の事ですか?」

 

藍色の髪の少女がまともに返事を返す。どうやらこの三人は魔女の口づけを受けていないようでまどかはほっとしたように胸をなでおろす。

 

「良かった……この人たちは普通だ……」

 

「…?どうし………!?」

 

藍色の少女が訳を聞こうとした直後、四人の周りの景色がぐにゃりとゆがむ。

 

「な、何だ!?」

 

「うそ…!まさか!?」

 

 

 

~~~魔女結界~~~

 

 

 

四人は気が付くと自分たちの周りでメリーゴーランドが砂嵐が映し出されているテレビをたくさん乗せている空間にいた。

 

「な、なんだこりゃあ!」

 

「ここは一体…!?」

 

「不思議な空間…」

 

スケバンの少女と藍色の少女が突如辺りが変化したことに動揺するが、三つ編みの少女が興味を持ち何処から出したのかカメラで辺りを撮影し出す。

 

「魔女の結界…!」

 

まどかが切羽詰った表情で呟く。

 

「魔女の結界?」

 

「なんだそりゃ…?」

 

藍色の少女とスケバンの少女は首を傾げる。

 

「きゃあああっ!」

 

突然三つ編みの少女が叫びだす。

 

「どうした!?」

 

三人が三つ編みの少女に顔を向ける。

 

「なんにも映ってない……」

 

三つ編みの少女は涙目で真っ黒なカメラの画面を見せる。魔女結界は特殊な空間の為、カメラには何も映らないのであった。

 

「「………」」

 

「お前、この非常時に………」

 

まどかと藍色の髪の少女は目を点にし、スケバンの少女は溜息を突きながら呆れる。

 

「!?あ、あれは!?」

 

藍色の少女が上を見ながら叫ぶ。一同が見上げるとてっぺんから少女の形をした影が生え、両脇に羽を着けた巨大なパソコンと絵本に描いたような描写をした片羽の不気味な天使が現れた。

 

「パ、パソコンが飛んでる!」

 

藍色の髪の少女が驚いていると魔女と使い魔がケタケタと不気味に笑う。

 

「おいおい、なんかヤバくねえか?」

 

スケバンの少女が一筋の汗を垂らしながら言うと、魔女と使い魔は突如ピタッと動きを止める。

 

「……っ!来る!」

 

まどかが直感した直後、無数の使い魔がまどか達に襲いかかる。

 

「きゃあああ!」

 

まどかの叫びを皮切りに四人は一斉に目をつぶって両腕で庇う。

 

 

 

 

 

―――その時だった。

 

 

 

バシィン!!

 

 

 

「!?」

 

何かが弾かれるような音が響き、四人は顔を上げる。なんと自分たちの周囲に光のバリアが発生しており、四人を使い魔から守っていた。

 

「な、何が起こったの?」

 

「あたしたち、助かったのか?」

 

「……!二人共、私たちの左手…!」

 

三つ編みの少女が言った後二人の少女が自分達の左手を見てみると左手の薬指にそれぞれ藍色の少女は髪と同じ藍色の、スケバンの少女はリボンと同じ緑色の、三つ編みの少女は夕焼けのような茜色の宝石がついた指輪が着いていた。それはバリアと同じぐらいの光を放ち何やらソウルジェムの指輪形態に酷似していた。

 

「これって指輪?」

 

「あたしたちこんな指輪なんて着けてたか?でも、まさかこいつがあたしたちを守って…?」

 

「きれい…」

 

三人の少女達は自分たちの指輪をまじまじと見つめる。

 

(……助かったのは良かったけど、あれってソウルジェム?でもこの人たちは魔法少女の事を知らない…?どうなってるの?)

 

予想外の出来事に魔女に対する恐怖が消えて考え込むまどか。

 

「はあああああぁっ!!」

 

「!」

 

突如上空から誰かの声が聞こえ、まどか達が上を向くと白いマントを着た露出度の高い衣装を着た青い髪の少女が降ってきた。少女はその手に持った剣で使い魔を切り裂きながら自分たちの下まで落下する。

 

「今度は何だ!?」

 

「今のって…まさか!?」

 

スケバンの少女が驚きの声を上げ、まどかには見覚えのあるように目を見開くとその少女は上昇して今度は魔女の上空まで移動する。

 

「これで……終わりだぁ!!!」

 

少女は剣を振りかぶりながら落下する。

 

「スパークエッジ!」

 

少女はそう叫ぶと剣を振りおろし、魔女に縦一閃が入る。少女が魔女の下に着地した時には少女の影とパソコンが真っ二つになって消滅していた。そして結界が崩れその少女はニカッと笑みをまどか達に向けた。

 

「どう、初めてにしてはなかなか上出来だったでしょ?」

 

「さやかちゃん…?」

 

さやか以外の四人はポカンと口を開けて彼女を見ていた。

 

 

 

~~工場~~

 

 

 

夕焼けが差し込み、仁美や多くの人々が横たわる中、まどかはさやかに聞く。

 

「さやかちゃん、どうして…」

 

「う~ん、なんていうか、心境の変化って奴?というか……」

 

さやかはまどかと一緒にいた少女たちの方を見るとまどかも目を向ける。

 

「……さすがにこりゃまずかったかね…」

 

さやかは後頭部を掻きながら苦笑いする。

 

「あ、あの助けてくれてありがとうございました……でも、あなたは?」

 

「なんだその恰好?コスプレか?」

 

「カッコイイ……」

 

三人の少女はそれぞれの感想を漏らす。その直後、魔法少女姿のほむらが慌てている様子で現れた。

 

「ほむらちゃん!」

 

「ま、また変なのが出やがった!」

 

スケバンの少女がまた驚く。

 

「美樹さやか、あなた……!」

 

「あら転校生、遅かったじゃん」

 

ほむらが溜息を突きながら悔しそうに呟く。

 

「……本当に遅かったわ……なんてことなの…」

 

「え?」

 

しかしさやかにはその言葉は届かなかった。

 

「……美樹さやか、魔法少女にならない方がいいって言ったはずでしょう?」

 

「魔法少女…?」

 

ほむらの『魔法少女』という単語に藍色の少女が首を傾げる。

 

「……あたしはしっかり考えて決めたんだよ。だからアンタにとやかく言われる筋合いはないよ」

 

「…全く、あなたは色々と軽率なのよ」

 

「なっ!何よそれ!どういう意味よ!」

 

「私は事実を言ったまでよ。現に一般市民にその姿を見られるなんて……」

 

ほむらは三人の少女たちに目を向ける。

 

「お、おい何者なんだよお前ら!?」

 

「それにさっきの怪物たちは一体……!?」

 

スケバンの少女と藍色の少女が聞こうとする。

 

「鹿目さん、美樹さん!」

 

すると二人の後ろからマミの声が聞こえた。一同が振り向くとマミが天馬、信助、神童と共に走ってきていた。

 

「「あっ!」」

 

天馬と藍色の少女の目が合う。

 

「天馬!」

 

「葵!」

 

天馬と葵と呼ばれた藍色の少女がお互いの顔を見て喜ぶ。

 

「水鳥さん、茜さんも!」

 

「信助!」

 

「神サマ!」

 

信助がスケバンの少女と三つ編みの少女に向かってそう呼ぶと、二人もぱあっと笑顔になる。

 

「三人共無事だったのか!」

 

「お前らこそ!」

 

神童と水鳥の言葉と共に再会を喜ぶ六人。まどか達は天馬たちの様子に目をぱちくりさせていた。

 

 

 

 

数分後、仁美だけや魔女の操られた人々は目を覚ました。魔女の口づけを受けていたため全員何故自分たちがここにいるのかも覚えていなかった。現在天馬たちはマミが呼んだ警察が到着するのを待っていた。集団催眠として事件を片付け、体に異常がないか検査させる為である。

 

「仁美ちゃん、大丈夫?」

 

まどかは心配そうな顔で仁美に聞く。

 

「はい…なんとか…」

 

「体には異常が無かったけど一応検査は受けといてね」

 

マミがそういうと仁美はまだ調子が戻っていないのか少し弱弱しく、はい、と答えた。

 

「ところでこの方たちはもしや…今朝まどかさんたちが話していた…」

 

仁美は天馬たちを見ながら質問する。仁美はまどかたちから天馬たちの事を聞いていた。当然、異世界から来たことや共に魔女と戦っていることを伏せられて。

 

「はい。俺は松風天馬と言います」

 

「僕は西園信助です」

 

「俺は神童拓人」

 

「神童…ああ!あなたが最近上条君と親しくしているという…」

 

「ああ、上条とは音楽の話で親しくなったんだ」

 

「そうですか、それでそちらの方たちが…」

 

仁美は葵たちの方に目を向ける。

 

「初めまして、私は空野葵と言います。天馬たちのマネージャーをしています」

 

「同じく瀬戸水鳥だ」

 

「私、山菜茜」

 

「私は志筑仁美と言います。まどかさん達の同級生です」

 

全員が自己紹介を終えた直後、パトカーと救急車のサイレンの音が近づく。どうやら警察が到着したようだ。

 

「警察が来たみたいだな」

 

「仁美ちゃん、たぶん大丈夫だと思うけど気を付けてね」

 

「はい、みなさんご迷惑をおかけしました」

 

そして仁美と人々は病院で検査を受ける為にその場を後にした。

 

 

 

~~帰宅路~~

 

 

 

「にしてもまさかここが異世界で、しかも魔法少女と魔女が戦ってるなんてなあ」

 

水鳥は両手を頭の後ろで組む。あれから天馬たち一向は先ほどの出来事を整理していた。

 

「時空を超える旅をしていたのに、まさかこんなことになってしまうなんて」

 

葵が呟く。

 

「でも、魔法少女……私もなってみたい!」

 

茜は頭上に花のイメージを撒き散らし目をキラキラ輝かせる。

 

「魔法少女になんてならない方がいいわ。……それより、あなたたちのその指輪が自分たちを守ってくれたのよね」

 

ほむらはマネージャー達の指輪を指さす。

 

「はい。でもこんなのつけた覚えが無くて…」

 

「あたしも…こういうのはあんまり趣味じゃねえんだが…」

 

「私は気に入った。キレイ…」

 

三人はそれぞれ薬指につけたままの指輪を掲げる。

 

「あなたたちの話から察するにそれはどうやらソウルジェムじゃないみたいね。魔力を感じないもの」

 

「もしかしてマギカボールと似たものなのかも」

 

ほむらとマミが分析する。

 

「でも、それだけじゃきっと助かりませんでしたよ。さやかさん、助けてくれてありがとうございました」

 

葵はさやかに頭を下げる。

 

「いいよいいよ、気にしないで。魔女から人々を守るのがあたしたち魔法少女なんだからさ」

 

さやかは笑顔で返した。

 

「それはそれとして私は別の事に驚いたわよ。まさか美樹さんが魔法少女になってるなんて」

 

「あぁ……マミさん、それは…」

 

「……さやかさん。やはり君は……上条の腕を治すことを願って魔法少女になったんだね……」

 

「ッ!」

 

さやかは返答に詰まっているさやかに図星を突いたのは神童だった。一瞬ビクッと体を震わすさやか。

 

「さやかちゃん、上条君の為に…?」

 

まどかが聞くと、さやかは顔を下に向ける。その瞳には強い決意があった。

 

「…うん、アイツの苦しんでいる姿に耐えられなくってさ……でもあたしは心底考えて決めたから……後悔なんてあるわけないよ…」

 

拳をギュッと握りしめるさやか。

 

「…やれやれね」

 

マミは肩を竦める。

 

「美樹さん、なってしまったからには仕方がないわ。その代わり、バリバリ鍛えてあげるから覚悟しておきなさい!」

 

マミは呆れながらも新しく後輩が出来たことにどこか喜んでいるかのように言った。

 

「ハイ!これからお願いします!」

 

さやかは元気にそう返した。

 

 

 

「………」

 

ほむらはさやかを見つめながら一人考えていた。

 

(……美樹さやかが魔法少女になってしまった……これでは彼女がああなってしまうのは時間の問題………今回は私以外のイレギュラーがいるとはいえ、さすがにこればかりは彼らにもどうすることできないでしょうね………)

 

ほむらは諦めているような目で気軽に話し合っている天馬たちを見た。

 

 

 

 

 

 

~~同時刻・展望台~~

 

 

 

「なんだよあれ、あんなの聞いてないけど?」

 

見滝原の誰もいなくなった展望台で赤いポニーテールの少女がたい焼きを片手に変わった形の双眼鏡でさやかたちを見ていた。

 

「ついさっき契約したばかりだからね。知らないのも無理はないさ。にしてもまさか君がやって来るとはね」

 

キュウベェは相変わらずの表情で話す。

 

「風見野には最近魔女が少なくてね。ホントはあんまりこっちに来たくなかったんだけどさ……会いたくない奴もいるしね…」

 

少女はそういうと一口分になったたい焼きを口の中に放ってゴクッと飲み込んだ。

 

「でも、この街には既に魔法少女が三人もいる。特にその中で厄介になりそうなのは……暁美ほむら……彼女はイレギュラーだ」

 

「イレギュラー…?どういうことだよ?」

 

「彼女は確かに魔法少女だけど、僕と契約した覚えがないんだ」

 

「は?お前が忘れてるだけじゃねーの?」

 

「いや、それは無いよ。僕は契約した魔法少女の事を全て記憶してるからね」

 

「ふ~ん。まあ、どうでもいいけど」

 

「それにイレギュラーといえば、他にもいるんだ。化身使いというイレギュラーがね」

 

「化身使い?なんだそりゃ?魔法少女の一種か?」

 

「いや、彼らはサッカープレイヤーだよ」

 

「彼らって事は男か?てか、サッカープレイヤーが化身使いってなんだよ」

 

「彼らは不思議なボールと化身という気の力をつかって魔女と戦うんだ。昨日魔女に殺されかけたマミを助けてその魔女を倒してしまったんだ」

 

「マミを殺そうとした魔女を倒したってことは結構強えって事か……てゆうかそれ本当にサッカープレイヤーか?」

 

「なんにせよ、君がこの街をテリトリーにしたいなら厄介になると思うけど?」

 

「まあいいさ。あたしがやるべき事は……」

 

少女はニカッと八重歯を見せながらにやける。

 

「みんなぶっ潰しちゃえばいいんでしょ?」

 

 

 

 

 

 

~~さらに同時刻・某所~~

 

 

 

パアアァ

 

ボロボロの礼拝堂のような場所で突如光が現れる。

 

「…う……」

 

光が消えるとそこから一人の少年が横たわっていた。ゆっくりと体を起こしながら少年は呟く。

 

「……ここは、どこだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

――ED『かなり純情』(歌:空野葵)――



天馬
「魔法少女になったさやかさん!そこへ新たなる魔法少女が現れてさやかさんと一騎打ちに!!………えっ!?どうしてお前がここに!?それにマミさん、この人と知り合いなんですか!?

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第6話『三つの刃』!」


次回はあの赤い少女と黒い少年の登場です。


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第6話『三つの刃』 Aパート

お待たせしました。

祝!通算UAが2000突破!
閲覧してくれた皆様ありがとうございます。
もっと読んでもらえるよう頑張らなければ……

皆様にはもう予想できてると思いますが今回はあの二人の登場です
それでは続きをどうぞ


――OP『ルミナス』――



 

~~午後・見滝原病院~~

 

 

見滝原病院の一室に上条恭介がいた。彼は左手の平を見ながら高く掲げる。昨夜、突然動かなくなったはずの左手が動くようになり、主治医も奇跡だと驚いていた。恭介自身も困惑していたが以前の様にバイオリンが弾けるようになったことに喜んでいた。

 

「恭介!」

 

恭介が病室の扉の方に振り向くとさやかが入ってきていた。

 

「さやか…」

 

「元気そうだな」

 

「神童くんも!」

 

さやかに続いて神童も病室に入る。

 

「今日は二人一緒に来てくれたのかい?」

 

「ああ、偶然入り口で会ってな」

 

そう言いながら神童は扉を閉める。

 

「それはそうと恭介、体は大丈夫?」

 

「ああ、足は明日から松葉杖で歩いていけば早く治るって先生が言ってたよ。手に関しては……僕も先生も驚いたよ。昨日の夜、突然動くようになったときは。本当に奇跡かと思うくらい……昨日のさやかの言うとおり、奇跡ってあったんだね」

 

「恭介…」

 

「………」

 

さやかが薄ら笑いする中、恭介の腕が突然完治した理由を知っていた神童は複雑な思いで二人を見つめていた。実はさやかに「自分が勝手にやったことだから恭介には言わないでほしい」と口止めされていたため恭介に理由を話すこともできなかった。

 

「さやか………昨日はごめんね。君に八つ当たりしてしまって」

 

「ううん、気にしないで。あたしは恭介が笑顔になればそれでいいから………」

 

さやかが遠慮がちに答える。すると恭介は微笑みながらさやかをジーと見つめる。その視線と笑顔の所為か、さやかは恥ずかしくなり顔を少しずつ赤く染めていく。

 

「さやか」

 

「な、何?///」

 

「いつも支えてくれて……ありがとう」

 

「なっ!ど、どうしたのいきなり!?///」

 

満面の笑顔で突如感謝されたさやかは顔を真っ赤にして動揺する。恭介は笑みを崩さないまま話し出す。

 

「実は昨日あの時、神童くんに話を聞かれてて説教されちゃったんだ。でもなんだかすっきりしてね。思い出したらこう言いたくなっちゃったんだ」

 

「え!?神童、あんた聞いてたの!?」

 

「あ…ああ、偶然聞いてしまってね……」

 

「ふ~ん……聞いてしまって、ねぇ……」

 

神童が少し気まずそうに答えると真っ赤だったはずのさやかの顔色がスーッと冷めた色に変わっていき、不機嫌そうな表情で腕を組む。

 

「盗み聞きなんてあんたもいい度胸してるじゃない」

 

「なっ…!?そ、そんなつもりは……」

 

「何言ってんのよ。それじゃ天馬たちと変わんないでしょ!」

 

「う……」

 

「あはは。さやか、その辺で許してあげなよ」

 

縮こまっていた神童に恭介が笑いながら助け船を出す。

 

「まあいいわ。おかげでいろいろ良くなったみたいだしね。それより恭介、ちょっと外行かない?」

 

「え?でも今日はまだ外出許可は……」

 

「大丈夫だ。俺たちと一緒に来てくれないか?」

 

「え?」

 

 

 

~~屋上~~

 

 

 

「屋上に何が……!?」

 

神童とさやかに車イスで屋上に連れられた恭介。そこには多くの人たちが待っていた。

自分を看てくれた看護婦、病院で知り合った人々、そしてなにより驚いたのは自分が処分するよう頼んどいたはずのバイオリンを持っている恭介の父の姿があったことだった。

 

「これは…!」

 

「恭介…」

 

「父さん!これは一体……それにそのバイオリンは……」

 

「ああ………お前に捨ててくれと頼まれたがどうしても捨てられなくてね………こういう時がくるんじゃないかと思って残していたんだ」

 

「父さん………」

 

恭介は目を見開き、恭介の父は嬉しそうに微笑む。

 

「実はこの事は今朝、さやかちゃんと神童くんが考えてくれたんだ」

 

「え……」

 

「あたしは恭介のバイオリンをもう一度聞きたかったから………」

 

「俺も君がどんな旋律を奏でるのか聞いてみたかったんだ」

 

さやかは照れくさそうに、神童は腕が治った事を祝福するかのような笑顔で答えた。

 

「二人共……!」

 

恭介が目を潤わせていると恭介の父がバイオリンを差し出す。

 

「さあ、もう一度聞かせておくれ、お前のバイオリンを。今日はお前の特別コンサートだ」

 

「………うん!」

 

恭介は笑顔でバイオリンを受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

屋上の人々が待ちわびるように沈黙すると恭介の復活記念のコンサートが始まった。恭介は笑顔で失われた旋律を再び人々に聞かせた。彼は終始目を閉じながら引き続け、まるで自分の舞台に帰って来たんだということを喜んでいるようだった。神童たちは微笑ましいその姿に笑顔を浮かべながら静かに演奏を聴いていた。

 

(恭介……!)

 

その最中、神童はさやかを垣間見る。彼女は自らの手で復活させた演奏者を涙しながら見ていた。

 

(……あたしはまた見たかったんだ。恭介のこんな姿を……。マミさん、あたしの願い、叶ったよ……!後悔なんてあるはずない……あたし今……最高に幸せだよ…!)

 

涙しながらそう思うさやかと演奏する恭介を交互に見る神童は思わず笑みをこぼす。

 

(……さやかさんと上条……本当に幸せそうだな……)

 

神童は昨日の事から恭介と彼を支えてきたさやかが二人そろって幸せそうにしている光景を望んでいた。神童にはこの世界に来る前に自分を愛した少女がいた。だが、サッカーを守る為にその少女の側にいて喜びを共にすることが出来なかった。自分が果たせなかった事を恭介とさやかに果たせることが出来て神童は満足していた。

 

(本当に良かった………これが見たかったんだ……)

 

神童の心は満足感で満ちていた。

 

 

 

 

 

しかし――――――

 

 

 

 

 

(見たかったものが見れた……見れたはずなのに……)

 

 

 

 

 

「……何だ?……この胸騒ぎは……」

 

何故か神童の心に得体のしれない予感が走り、神童は神妙な顔で胸に手を当てた。

 

 

 

 

 

~~~同時刻・展望台~~~

 

 

 

「ふ~ん。なるほどね。あの子はあの坊やの為に願ったってわけか」

 

「ああ。美樹さやかは彼の腕を治すことを引き換えに魔法少女になったんだ」

 

病院から少し離れた展望台から招かれざる観客たちが恭介の復活コンサートを見ていた。それは昨日魔法少女になって魔女を倒したさやかを見ていた赤いポニーテールの少女とキュゥべえだった。少女は軽く舌打ちするとくわえていたチョコ菓子をパキッと折る。

 

「気に入らないね……他人の為に願いを叶える奴なんて……」

 

「どうするんだい?杏子(きょうこ)?」

 

「決まってるだろ?おしおきしてやるのさ。くだらない事に奇跡を使った馬鹿な甘ちゃんをさ」

 

杏子と呼ばれた少女はくわえていたチョコ菓子を全部口に入れて咀嚼するとニッと悪意が込められた笑みを浮かばせる。

 

「でも昨日も言ったけどこの街にはイレギュラーが多い。今演奏を聞いてるあのウェーブの髪の少年がその一人だ」

 

杏子は昨夜も使った双眼鏡で神童を見る。

 

「ふ~ん。あんなヒョロヒョロした奴がね……でもあたしにかかればどうってことは無いね」

 

「その割には昨日は危なかったけどね」

 

「う、うるせぇな!ちょっと油断してただけだ!あの時のあたしはその気になれば自力で倒してたよ!」

 

「でも、油断して魔女にやられそうなったというとマミと一緒になってしまうけど?」

 

「だ~っ!もう、うっせうっせ!マミと一緒に済んじゃねーよ!あいつと一緒にされるとムカつくんだよ!」

 

杏子は顔を真っ赤にしながらムキになってキュゥべえに怒鳴り散らす。

 

「とにかくっ!あたしはマミもあの甘ちゃんもぶっ潰す!!いいか、この事はあいつには絶対言うなよ!あいつの事だ、絶対邪魔しにくるだろうからな」

 

「わかったよ。しかし君も変わっているね。彼らと同じイレギュラーと行動するなんて」

 

「ふん。あいつが勝手に付いてくるんだよ。まあ、そのおかげであたしも楽に……」

 

 

「ここにいたんですか、杏子さん」

 

 

「!?」

 

急に声を掛けられ思わず顔を上げる杏子。

 

「……なんだお前かよ」

 

杏子は溜息をつきながら声の主を見る。そこには長身で目つきが鋭く、尖がった黒髪の少年がいた。

 

「さっき、何か叫んでいたようですが何かあったんですか?」

 

「………なんでもねぇよ。あたしちょっと出てくるからな」

 

杏子はそう言うと少年の横を通り過ぎながら展望台の出口に向かう。

 

「杏子さん、どこへ?」

 

「どこだっていいだろ!」

 

杏子は振り向く事無くぶっきらぼうに言うとそのまま展望台から立ち去った。

 

「彼女は元々孤高の魔法少女だ。君には昨日の事もあって少しだけ気を許しているけど、心を開いてはいないようだね」

 

キュゥべえは杏子が立ち去った出口を見ながら呟いた。

 

「そうか……なら俺も少し外へ出てくるとしよう」

 

少年はそう言うと出口へ足を運ぶ。

 

「それにしてもわからないな」

 

キュゥべえの言葉に少年は足を止める。

 

「初めて会ったばかりの彼女にどうしてそこまでついて行こうとするんだい?」

 

しかし少年はただ淡と、

 

「……お前には関係ないことだ」

 

とだけ答えた。

 

「それに……俺はお前の事を信用してないからな」

 

少年はキュゥべえを横目で鋭く睨むとその場を後にした。

 

「……やれやれ」

 

誰もいなくなった展望台でキュゥべえは一人溜息をついた。

 

 

 

 

~~さらに同時刻・街中~~

 

 

 

「にしても今度は別世界に来るなんてな」

 

「でも、この世界は私たちの時代とあまり変わらないみたいで良かったですよ」

 

葵、水鳥、茜の雷門のマネージャーたちが話し合う。現在彼女たちは天馬たちと二手に別れ、はぐれた仲間たちを探すついでにドリンクボトルなどマネージャー業に必要なものを買い揃えていた。現在は休憩に立ち寄った喫茶店でジュースを飲んでいた。

 

「アレ、あそこにいるの…」

 

葵と水鳥が茜の目線をたどると、まどかとほむらがいた。

 

「まどかさん、ほむらさん!」

 

「葵ちゃんたち!どうしてここに?」

 

「マネージャー業に必要な物を買った帰りに通りかかったんです」

 

「お前らこそ二人きりでどうしたんだ?」

 

水鳥が聞くとまどかは少し遠慮がちに答えた。

 

「わたし、ほむらちゃんとお話ししたくて……」

 

「話って魔法少女の事か?」

 

「それもあるけど、本題はさやかちゃんのことなの」

 

「さやかさんの?」

 

葵たちは何故さやかの話なのか興味を持つ。

 

「あなたたちには関係ない事よ」

 

「んなっ!あんたいきなり……」

 

「水鳥さん、落ち着いて!」

 

ほむらの突然の台詞に怒る水鳥を葵と茜が慌ててなだめる。なんとか怒りを抑えた水鳥はふてくされながらまどかの隣の席にドスンと座る。

 

「あ、あのね、さやかちゃんは思い込みが激しくて意地っ張りで、けっこうすぐに人とケンカしたりしちゃうけど、でもホントはすっごくいい子なの……やさしくて勇気があって、誰かのためと思ったら頑張りすぎちゃって………だからもっとさやかちゃんと仲良くしてほしいの。そうすればきっと魔女との戦いでもマミさんみたいに危ない目に合わないと思うから…」

 

まどかはほむらと水鳥の険悪なムードの中で必死に自分の中のさやかの姿を伝えようとし、さやかを心配するように頼み込む。ほむらとさやかの仲が悪いのはマネージャー達も初めて会った時から感じていた。そしてやさしい性格のまどかが二人の距離を縮めようとしているのがわかった。

 

「彼女は魔法少女としては致命的ね」

 

しかし、ほむらは冷たく言い放つ。

 

「度を超した優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる……そしてどんな献身も見返りなんて返ってこない……それをわきまえてなければ魔法少女は務まらないわ」

 

「上条の為に願いを叶えたさやかが魔法少女失格だって言いたいのか!?」

 

さやかの想いを全否定したほむらに水鳥は声を荒げる。

 

「…正直、彼女には魔法少女になってほしくなかったわ。彼女のような人ほど魔法少女になった後、願った事を後悔するわ」

 

ほむらは悔しげに顔を歪めていた。

 

「どういうことですか?」

 

「魔法少女になるということは一つの希望と引き換えに全てを諦めることだから」

 

「一つの希望と引き換えに全てを諦めること…?」

 

葵が首を傾げながら呟く。

 

「…だから、ほむらちゃんは他の事も、マミさんやさやかちゃんの事も、自分の事も諦めているの?」

 

まどかはほむらの言葉を理解しきれないまま彼女に訊きかえす。

 

「ええ、何を犠牲にしても果たさなければならないことが有るから」

 

「………」

 

その瞬間、葵は天馬から『ほむらは何かを諦めたくないのに諦めている』と聞いた事を思い出す。無表情で語るほむらの瞳の奥から強い思いを感じつつも天馬が言っていたその哀しみの印象が感じ取れるのがわかった。

 

「とにかく、美樹さやかの事に関しては諦める事ね。今のあなたたちが彼女や巴マミに出来ることはないから」

 

「そんな……ほむらちゃん…」

 

「あんた、いい加減に…」

 

冷たく言い放つほむらにまどかはショボンと落ち込み、水鳥は歯を食いしばって今にも殴りかかろうとする。

 

「それは違うと思います」

 

突如そう言ったのは葵だった。殴りかかろうとした水鳥もその拳を押さえて葵の方に顔を向ける。

 

「葵?」

 

「…どういうことかしら」

 

ほむらは目を細めると葵はその場で立ち上がる。

 

「私たちはいつも天馬たち雷門の戦いを見てきました。そしてこの世界でも天馬たちは自分たちのサッカーで戦っているとも聞きました。確かに私たちは雷門の皆と一緒に試合をしたり、マミさんたちと一緒に魔女を倒すこともできません。でも、だからこそ出来ることがあります。魔法少女じゃなくとも……いえ、魔法少女じゃないからこそ出来ることがあるんです」

 

「魔法少女じゃないからこそ出来ること…?」

 

「それは…戦いに疲れた天馬たちやマミさんたちの帰る場所になる事です!」

 

「!」

 

「一緒に戦えない代わりにその分まで一生懸命支えること、身も心も傷だらけになって疲れた皆を温かく迎えてケアすること!それは魔法少女でない私たちやまどかさんしかできない役目なんです!」

 

葵はまっすぐな瞳でほむらを見据えながら言った。

 

「葵ちゃん…」

 

葵の言葉に感激するまどかと笑顔で感心する水鳥と茜。

 

「………」

 

ほむらは数秒だけ葵の話に呆けていたが、次第にいつものクールな表情に戻っていった。

 

「……そう……そういう答えなら安心したわ。……下手に魔女との戦いに首を突っ込まれるよりはマシだから………美樹さやかと巴マミは幸せ者ね……」

 

そう言うとほむらは自分とまどかの分の伝票を持って立ち上がる。

 

「ほむらちゃん!」

 

まどかはレジへ向かおうとして背を向けたほむらを呼び止める。足を止めたほむらにまどかは拒否されないだろうかと不安に思いながら言った。

 

「ほむらちゃんにとっても、わたしが帰る場所になっちゃダメかな……?」

 

「…!」

 

背を向けたままのほむらは一瞬だけ誰にもわからないくらい小さく反応した。

 

「………」

 

しかしまどかに振り向くことも返事を返すこともせず、さっさと喫茶店の出口に向かってしまった。

 

「ほむらちゃん……」

 

まどかは寂しそうにほむらが店を出ていくまで彼女の背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

~~~夕方・路上~~~

 

 

 

「皆集まったわね」

 

夕日が差し掛かる路上でマミが集まった仲間たちの点呼を取る。何故天馬たち全員が集まっていたかというと昨日の様に大勢の人々が魔女に囚われないようにパトロールするためであった。しかしやはりその中にほむらの姿は無かった。

 

「それにしてもさ、まどかや葵たちまで来ることなかったんじゃないの?」

 

さやかが後頭部で両腕を組みながらまどか達を見る。

 

「そうなんですけど、一緒にパトロールすることは出来ると思って……」

 

「わたしも少しでもさやかちゃんの力になりたくて……」

 

「そっか…。実はちょっとだけマミさんみたいにできるかどうか不安だったんだ………でもまどかたちがいてくれれば心強いよ。ありがと」

 

さやかは頬を指先で掻きながら礼を言う。

 

「でも、無茶はしないでね。特に鹿目さん。あなたには空野さんたちの様に自分の身を守ってくれる指輪もないんだから」

 

マミは人差し指を立てながらまどかに注意し、まどかも「はい!」とハッキリ答えた。

 

「ねえ、マミさん。どうせなら二手に分かれてパトロールしません?」

 

「え?どうして?」

 

マミはさやかの提案に怪訝な顔をする。

 

「だってみんなで固まって動いたら目立っちゃうし、そうした方が効率がいいじゃないですか」

 

「確かに二手に分かれた方が効率的だけど私がいなくてホントに大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ!それにあたしもこうして魔法少女になったんだし、一刻も早くマミさんみたいな強くてカッコイイ魔法少女になりたいんです!」

 

「でも……」

 

「マミさん!さやかさんがここまで言ってるんです、やらせてあげましょうよ!それにいざとなったら僕たちがいますし」

 

信助もマミに後押しする。

 

「……わかったわ。でも、決して無茶はしないようにね」

 

「は~い!」

 

さやかと信助に折れるマミ。そして一同は町の西側をマミ、神童、葵、水鳥、茜、東側を天馬、信助、まどか、さやか、キュゥべえの二手に分かれて日没までパトロールすることになった。

 

 

~~~路地裏~~~

 

 

 

「おっ、ココに結界の反応があるね」

 

さやかは手の平に置いたソウルジェムの反応を見る。東側を捜索していた一同は工場地帯の路地裏に来ていた。そこで微かな結界の反応があったのでその正確な場所を探していた。

 

「マギカボールもまるでココだと教えてるみたいです」

 

天馬も淡い光を放つ自分のマギカボールを手に持ちながら路地の階段を下りる。あのお菓子の魔女戦以来、天馬達は自分達で出来る限りマギカボールを検証し、その結果ソウルジェムと同じく結界を探しだし、入り口を開けられることが分かったのである。

 

「みんな、結界が開くよ!」

 

キュゥべえが言うと同時に景色がグニャリとゆがみ、一同は結界に取り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

気が付くとそこはおもちゃ箱の中にいるような空間にいてその頭上からクレヨンが舞い落ち、いつもと同じ不気味な笑い声が響いていた。

 

「どうやらこれは魔女じゃなくて使い魔の結界みたいだね」

 

キュゥべえは相変わらず明るい声で言う。

 

「あ、さやかさん!あそこに使い魔が!」

 

信助が指差すと、そこにはこの結界の使い魔らしきものが複数いた。

 

「それじゃ、さっさと片付けるよ!二人共!」

 

「「はい!」」

 

さやかに天馬と信助が答える。三人はそれぞれソウルジェムとマギカボールを掌にかざすと、さやかは青を強調したスカートの騎士、天馬と信助はジャージ姿からそれぞれ赤いキャプテンマーク付きの背番号8番のユニフォーム、背番号20番のキーパーユニフォームの姿に変わる。

 

「みんな、頑張って!」

 

「任せといて!」

 

必死に応援するまどかの心配をはねのけるように拳をぐっと握ってガッツポーズをみせるさやか。

 

「さやかさん、使い魔が!」

 

さやかが正面に向きなおすと、使い魔が結界の奥の方へ逃げ出そうとしていた。

 

「おっと、逃がさないよ!」

 

するとさやかはマミが大量のマスケット銃を生み出すマネをするかのように空中に大量のサーベルを生み出す。

 

「飛んでけ!」

 

さやかの合図と同時に無数の剣は使い魔の方に切っ先を向けて飛んでいく。使い魔はそれを避けようと逃げ出すが剣は使い魔の逃げ道を追うように地面に突き刺さっていき、徐々に使い魔と刺さった剣の感覚が短くなっていく。

 

「信助、俺たちも!」

 

「うん!」

 

「「はああああぁっ!」」

 

天馬と信助も逃げ出そうとする使い魔に向けてシュートを放つ。そしてさやかの剣のうちの一本と天馬たちのボールが一体の使い魔に向けて水平に飛んでいった。

 

「いっけー!」

 

三人同時に「捕らえた!」と思ったその時だった。

 

 

ガキィン!

 

「「「!?」」」

 

突然使い魔と遮断させるように上空から赤い槍が地面に突き刺さり、剣とボールを弾いたのだった。この不測の事態にキュゥべえ以外の全員が驚く。

 

「おいおい、何やってんのさ」

 

「誰!?」

 

突如声が聞こえてきたか思っていると、マギカボールが天馬達の元に戻り、弾かれたさやかの剣と弾いた赤い槍が消える。剣と槍が消えた場所に赤い服とポニーテールが特徴の少女が降り立った。

 

「あんたさぁ、わかってんの?アレ使い魔だからグリーフシード持ってないよ?」

 

その少女、佐倉(さくら)杏子は新しい槍を肩にかつぎ、馬鹿にするかのような笑みを浮かべながら気安く語りかける。

 

「ま、魔法少女!?」

 

新たな魔法少女の出現に天馬は驚きの声を上げた。

 

「あんたどいてよ!使い魔が逃げちゃうでしょ!」

 

さやかは杏子に抗議するが、

 

「ハッ、何言ってんだか。グリーフシード持ってない使い魔なんて倒しても無駄でしょ?」

 

杏子はちゃんちゃらおかしいと言うような笑みを浮かべる。そうしていく内に結界は晴れていき、景色は元の路地裏に戻る。どうやら使い魔には逃げられたようだ。使い魔に逃げられたことに怒るさやかは悔しそうな顔をしながら叫ぶ。

 

「あんたこそ何言ってんのよ!使い魔でも逃がしたら町の人々が襲われちゃうでしょ!」

 

「そうさ、それでいい」

 

「「「「なっ……!?」」」」

 

「使い魔なんて狙っても魔力の無駄。そのへんの人間四、五人ぐらい食わせれば魔女に成長してグリーフシードができあがる。そいつを倒せば魔力も損せずお得ってわけさ、使い魔を倒すなんて、卵を産む前の鶏の首を絞めるような馬鹿げた事と一緒さ」

 

四人は信じられなかった。マミは正義や町の人々の為に戦い、ほむらは協調性は無いが確かな節度はあった。しかしここまで自分の為だけに魔法を使い、自分が得すれば誰がどうなろうとどうでもいいような魔法少女がいるなど信じられなかったのだ。

 

「そこの青いの、あんた人助けの為とか正義の為とか、そんなおちゃらけた冗談かますためにソイツと契約したってんじゃないよね?」

 

杏子は槍でキュゥべえを指しながら言う。

 

「だったら………」

 

さやかは新しい剣を構え、一気に走り出す。

 

「だったら何だって言うのよ!」

 

「さやかちゃん!」

 

まどかの呼び声も気にせずさやかは杏子に接近して剣を振りかぶる。

 

「はああああっ!」

 

さやかは両腕に渾身の力をこめて剣を振り下ろすが、

 

キィン!

 

「!?」

 

「ハッ、なんだこの程度かよ」

 

金属音が響いたかと思ったら杏子は片腕で持った槍でさやかの攻撃を軽くあしらうように防いでいた。

 

「ぐううぅぅ……!」

 

さやかは更に力を入れて押し込もうとするが、杏子は一歩も後ろに下がらず、さやかの額から一筋の汗が流れる。

 

「遊び半分でやられるとさぁ………ホントムカつくんだよね」

 

杏子はそういうと槍の向きを少し傾けると一気にさやかの剣を振り払う。

 

「うあっ!」

 

「さやかちゃん!」

 

「やめろ!」

 

さやかが剣を振り払われ尻もちをついた直後、後方から天馬が杏子に向けてシュートを放つ。

 

「しゃらくさいんだよ!」

 

しかし杏子は槍を大きく振りかざし、槍はいくつにも分断する。するとそれらを連結するように中に入っていた鎖がムチのようにしなり壁となって天馬のシュートを弾く。

 

「ああっ!」

 

シュートが弾かれたことはもちろん、彼女の槍がただの槍ではなく、多節根になっていることに驚く天馬。それをよそに杏子は槍を元の形に戻しながら再び邪悪な笑みを浮かべる。

 

「そういや、アンタとそこのちっこいのが異世界から来たサッカープレイヤーだっけ?」

 

「!?どうしてそれを…」

 

「ソイツから聞いたのさ」

 

信助が驚いていると杏子は再びキュゥべえを槍で指す。

 

「困るんだよねぇ、人間を使い魔が喰らい、その使い魔をあたしたち魔法少女が喰う。その食物連鎖に勝手に割り込むのはさ。おとなしく球蹴りで遊んでろっての」

 

「なっ…!」

 

サッカーを球蹴り遊びと馬鹿にしながら鼻で笑う杏子に天馬は憤慨する。

 

「君はそれを言うために現れたのかい?佐倉杏子」

 

キュゥべえは変わらない表情で杏子に聞く。

 

「まあね、そいつらもシメてやりたいとこだけどまずはそこの甘ちゃんからお仕置きしてやろうと思ってね」

 

そういうと杏子は腕を振りかざし、赤いひし形を鎖のように連結させたものを何本も出現させるとマミもリボンで作るような壁になってさやかと天馬たちを分断し、消える。

 

「さやかちゃん!…うあっ!」

 

「まどかさん!」

 

まどかが天馬と共に助けに入ろうとするが先ほど消えた赤いひし形の壁が二人を遮る。さやかはよろけながら立ち上がり、新しい剣を出して構える。

 

「上等だよ……あたしはあんたみたいな自分勝手な魔法少女なんて、絶対認めない!!」

 

さやかは再び地面を駆け出す。

 

「はっ、くれてやるよ。先輩のご教示ってヤツをな!」

 

杏子も槍を構えてさやかを迎え撃つ。

 

「はああぁっ!」

 

さやかは横なぎに剣を振るう。

 

「甘いね!」

 

「うあっ!」

 

杏子は槍を斜めに槍を構え、軽くいなしながらさやかの体制を崩して腹に蹴りをいれてまどか達の前まで吹き飛ばす。

 

「さやかちゃん!」

 

まどかは必死にかけ寄ろうとするが杏子が張った結界のせいで近づくこともできなかった。

 

「ゲホッ、ゲホッ………だったらこれでどうだ!」

 

さやかは使い魔に向けたように多くの剣を空中に出現させ、それを一斉に杏子に向けて放つ。

 

「効かないよ!!」

 

杏子は再び多節根の槍を展開し、ムチの様に鎖を広げて投擲された剣を弾き飛ばす。

 

「おらぁっ!」

 

そのまま槍を振り払うと鎖はしなりながらさやかを打ち据える。

 

「あぐっ………!」

 

さやかは見えない壁に叩きつかれ、地面に倒れ伏す。

 

「さやかちゃん!大丈夫!?」

 

「ゲホッ…ゲホッ…くそう…」

 

「はっ……トーシローが。ちったあアタマ冷やせっての」

 

さやかは槍を肩にかつぎながら鼻を鳴らす杏子を睨みながら剣を支え棒にして立ち上がる。

 

「ありゃ、おかしいねぇ……今のは全治3ヶ月ぐらいのダメージを与えたはずなんだけど?」

 

杏子は不思議そうにする。そんな杏子にキュゥべえが答える。

 

「彼女は癒しの祈りで魔法少女になったからね。普通の魔法少女より回復が早いのさ」

 

「ふ~ん、だったら………回復が間に合わないくらいに痛めつけないとね!」

 

杏子は槍を水平に構えながら一気に駆け出し、槍を突きだす。さやかはとっさにもう一本剣を出して両手で×を描くように構えて杏子の突きを受け止める。しかし力の差は歴然でさやかは押し寄せてくる力に耐えながら後ろに後ずさる。

 

「ぐぅぅ……!」

 

「おらおら!どうした!」

 

そんなさやかに杏子は槍を巧みに操り、容赦なく突きと斬りの連撃を繰り返す。さやかは直撃はしていないものの、その表情は苦しそうだった。

 

「くっ……ううっ……!」

 

「さやかちゃん!」

 

(どうすればいいんだ!?このままじゃさやかさんが…)

 

天馬と信助は必殺シュートを放って杏子の結界をぶち破ろうとも考えた。しかし二人の必殺シュートはどちらも距離を必要とする。杏子の結界と自分たちが降りてきた階段とは数メートルにしか離れてない。その為自分たちのシュートの威力を十分に発揮することが出来ないのであった。

 

「キュゥべえ!なんとか二人を止めて!」

 

まどかはキュゥべえにせがむように叫ぶ。

 

「僕では彼女たちを止めることは出来ないよ。そもそも同じ地区に魔法少女が二人以上いればこうなるのは必然なんだよ」

 

「そんな………!」

 

当たり前のように話すキュゥべえと戦っている二人を見てまどかたちは愕然とする。今までの自分たちの見てきた魔法少女の姿は魔女と戦っている姿だけだった。しかし、今は希望を与えるはずだった魔法少女同士が殺し合いをしている姿を見て、失望さえしてしまいそうになる。

 

「魔法少女同士の戦いを止められるのは、同じ魔法少女だけだ」

 

キュゥべえの言葉に三人はハッとした表情でキュゥべえを見る。

 

「そう、まどか。君ならこの状況を打破できる」

 

その言葉にまどかはもはや決まり文句となっている台詞が出ることは予測できた。

 

「この状況をなんとかしたいなら、僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

「で、でも………」

 

まどかは予想していたとはいえ、今の自分が魔法少女になってよいのか迷いが生じる。

 

バシィン!

 

「うあっ!」

 

「!」

 

まどかが迷っている間に杏子の猛攻に耐えていたついにさやかの剣が弾かれ、地面に転がされる。それと同時にさやかは尻もちを着き、杏子は飛び上がりさやかの斜め前上空からさやかを串刺しにせんとばかりに槍を両手に持ちながら切っ先をさやかに向けていた。

 

「終わりだよ!」

 

「「さやかさんっ!」」

 

「……ッ!」

 

天馬と信介が切羽詰りながら叫び、まどかもさやかを助ける為に魔法少女になる決意をする。

 

「キュゥべえ!わたしの願いは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

「―――『デスドロップ』!!!」

 

 

 

 

突如黒いオーラを纏った球体が杏子の結界を突き破り、杏子の隣を通り抜けてさやかと杏子を割るように地面に叩きこまれ、衝撃波が発生する。

 

「うわあっ!」

 

「のわっ!」

 

轟音と共に生じた衝撃波によって二人をそれぞれ後方に吹き飛ばす。さやかは尻もちをつきながら倒れこみ、杏子は一回転しながら空中で体制を立て直し地面に両足を着く。

 

「い、今の技は…!」

 

「さやかちゃん!」

 

天馬と信助は見覚えのある技に驚き、まどかは慌ててさやかの元に駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「うん、何とか……でも一体何が…」

 

さやかは体を起こしながら自分たちがいた場所を見る。そこにはあるものが地面にめりこんでいた。

 

「あ、あれって!」

 

「マギカボール!?」

 

それは天馬たちの物と同じマギカボールだった。そしてそれは地面にめりこんだまま回転すると穴から飛び出し再び杏子の隣を通り過ぎる。杏子を除く全員がボールを目で追うとボールはいつの間にか杏子より数メートル後ろにいた一人の少年の足元に飛んでいき、少年はボールを足で踏みつけながらトラップする。

 

「杏子さん、やめてください。俺のチームメイトもいるので」

 

「…チッ……つけていやがったのか……」

 

杏子はばつが悪そうに舌打ちしながら横目でその少年を見る。

 

「お、お前は!?」

 

天馬は自分たちと同じジャージのチャックを開け、そこから赤いTシャツをのぞかせている黒いトンガリ頭の少年の名を呼ぶ。

 

 

 

「―――剣城!?」

 

 

 

それは雷門のエースストライカー、剣城京介だった。

 

 

 




次回は杏子とマミの再会と剣城と杏子の出会いをお送りします。

ご感想お待ちしております。


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第6話『三つの刃』 Bパート

天馬
「後編を書くのにずいぶんかかったね」

いやぁ。魔女退治してたもんで。


「どんな魔女を倒してたんですか?」

黒蝕龍の魔女とか天廻龍の魔女とか。

さやか
「それただモンハン4やりまくってただけじゃん!」

いやぁ強化された蛇王龍や団長からの挑戦には苦労したなぁ。

杏子
「クエスト完遂じゃねーか!」

いいじゃん。ここのマミにだってピカ〇ュウに似たオトモアイルーがいるじゃん。

信介
「僕は猫じゃありませんよ!」

あと映画見に行ったけど薄々予想はしていたラストだったね。あそこまで予想してなかったけど。
でもほむらのあの衣装はかわいそうな胸がより強調されて……

ほむら
「ネタバレ厳禁」パンッ

バタッ

一同
「………」

ほむら
「どうしたの皆。ネタバレしようとしたケチャワチャを討伐したというのに」

さやか
「アンタ、今撃ったの絶対それだけじゃないでしょ…」


こんなんですが読んでくれる皆様感謝です。




「剣城…!?」

 

雷門のエースストライカー、剣城京介の登場に一同は困惑する。

 

 

 

「天馬くん、もしかしてあの人も天馬くんたちの…?」

 

まどかは天馬たちと同じジャージを着ていたのでもしやと思い、天馬に尋ねる。

 

「はい、剣城京介。俺たち雷門のエースストライカーなんです」

 

「天馬…」

 

ふいに呼ばれ天馬は剣城の方を向く。

 

「すまなかったな。杏子さんがいきなり……」

 

剣城は申し訳なさそうに謝る。

 

「ううん。お前が謝る事じゃないよ。それより無事で良かったよ……でも、どうして…」

 

「どうして天馬たちのエースストライカーがそんな奴と一緒にいるのよ!」

 

さやかが天馬の言葉に続くように叫ぶ。

 

「……やっぱ止めに入りやがったな」

 

天馬たちをよそに杏子がうざそうに呟く。そして振り向きざまに剣城に向けて槍を向ける。

 

「あと少しで仕留められたところを邪魔されるのがうざいんだよなあ」

 

「―――じゃあ、あなたがやったことは何なのかしら」

 

「「「「!?」」」」

 

いつの間にか杏子の背後からほむらが話しかけていた。

 

「ほ、ほむらちゃん!?」

 

「なっ…!?」

 

ほむらの突然の登場に一同は戸惑い、杏子はすぐさま後ろに振り向き彼女に槍を向ける。

 

「あまり事を荒立てない方がいいわよ、佐倉杏子」

 

しかしその時には既に杏子の後頭部に向けて拳銃を突きつけていた。

 

「い、いつの間に………!?」

 

天馬たちはほむらが一瞬で杏子の背後に回ったことに仰天する。

 

(何だ…今のは…!?…魔法少女といえど、今のは瞬間移動といえる速さじゃなかった…!もっと違う、何かの力が…)

 

剣城は驚きつつもほむらの動きがただの瞬間移動でないと分析する。

 

「お前一体……というかなんであたしの名前を……あんたどっかで会ったか?」

 

「さあ、どうかしらね」

 

ほむらはとぼけるように答えた。

 

「天馬!」

 

するとここで天馬たちの後ろから神童たちが走ってきていた。

 

「神童先輩!みんなも!」

 

「みんな無事か!?……って剣城!?無事だったのか!」

 

「神童先輩たちこそ……」

 

「みんな、大丈……」

 

マミが天馬たちに駆け寄ろうとしたその時、

 

「「!」」

 

杏子と目が合った。二人はまるで知り合いにでも会ったかのように一瞬目を見開き、そのままお互いを見つめ合う。

 

「「………」」

 

しかし、その表情はけっして穏やかなものではなかった。

 

「どうしてみんながここに?」

 

「マミさんが天馬たちの方から複数の魔力を感じたの」

 

天馬の質問に葵が答えた。

 

「で、マミがこっちの方で魔力がぶつかってるって言うから駆けつけたんだが、こいつはどういう状況なんだ?」

 

水鳥が杏子の方を向きながら聞く。

 

「ハッ、うざい奴にはうざい奴らがつくもんだね」

 

「コイツが邪魔してきたせいで、使い魔を逃がしちゃったのよ!」

 

さやかは杏子を指さしながら叫ぶ。

 

「なにぃ!?お前、魔法少女だろ!そんなことすりゃどうなるかわかってんのか!?」

 

「二度も同じことを言うのはめんどくさいんだけどさ、あたしたち魔法少女のことに首を突っ込まないんで欲しいんだよねぇ。そこの甘ちゃんと一緒にすっこんでろっての」

 

杏子はうざそうに言う。

 

「…ッ!!お前……ッ!?」

 

さやかが杏子に抗議しようと立ち上がった直後、横からマミの手が阻むように現れる。マミはいつの間にかさやか達の後方から杏子の方へ歩いており、歩きながらさやかを手で制すとそのまま杏子に近づいていく。

 

「………」

 

そして杏子の正面にたどり着くとその場で立ち止まり、二人は向かい合う形となった。

 

「「………」」

 

二人は険しい表情のままお互いを無言で見つめ合う。一同はそんな二人を疑問視しながら注目する。

 

「……?」

 

天馬たちが目をぱちくりさせる中、沈黙をマミが破る。

 

「……久しぶりね……佐倉さん…」

 

「「「えっ…?」」」

 

「ハッ、相変わらず正義の味方の真似をしてるみたいだな」

 

マミの挨拶を鼻で笑いながら返す杏子。

 

「え?え?」

 

「マミさん!この人と知り合いなんですか!?」

 

まどかたちが困惑する中、信助の質問にマミは杏子を見つめながら静かに答えた。

 

「ええ……彼女は佐倉杏子さん……かつて私の弟子だった魔法少女よ」

 

「「「ええっ!?」」」

 

マミ、杏子、ほむら、QB以外の全員が驚く。剣城以外は声を上げて驚き、剣城も声を上げなかったものの、口をぽかんと開けて驚いていた。

 

「それじゃ、前にマミさんが話してた、昔コンビを組んでいた魔法少女って……」

 

「コイツの事!?」

 

天馬はお菓子の魔女と戦った後に自分たちに話した過去を思い出し、さやかは彼の言葉に続くように杏子に指をさす。

 

「あたしのいないうちにずいぶん賑やかになったじゃねぇか。マミ」

 

「佐倉さん……一体何しに来たの?」

 

「風見野には魔女が少なくてねぇ。お前からなわばりを奪っちまおうと考えたんだけど、その前に人の為だなんだ言ってる生意気な新入りをお仕置きしようと思ってね」

 

「……それで美樹さんを襲ったの?」

 

「お前の影響だろ、マミ。普段は年上ぶってるけど結局は一人ぼっちの単なるさびしがり屋。だから同じ魔法少女に馬鹿な教えを仕込もうとする。まあ魔法少女じゃねぇ奴らをこんなに引き込むとは思わなかったが、そういうところは変わってねぇんだな」

 

「…あなたは私と組んでいたころとはずいぶん変わってしまった。でもあなただってかつては私と同じ思いだった。あんなことさえなければ―――」

 

「余計なこと言うんじゃねぇよ、マミ」

 

杏子は目を細めて鋭く睨みながらマミの言葉を遮る。天馬たちは彼女たちの様子を黙って見ていたが今のマミが言いかけたことに気になりだす。

 

「それであなたはこれからどうするのかしら?」

 

それまで銃口を杏子に突きつけていたほむらが口を開き、杏子は横目でほむらを見る。

 

「………」

 

杏子はしばらくほむらを見つめながら考えていたが、やがて溜息をついて呟く。

 

「……やめた。こんなに人数が多いんじゃさすがのあたしも多勢に無勢だ。マミもいるしな」

 

そう言うと杏子は魔法少女姿から私服に戻り、戦意を失くしたと確信したほむらも銃を降ろす。そして踵を返して立ち去ろうとする杏子。

 

「あんた、まだ話は…」

 

「いいの、美樹さん」

 

杏子を止めようとするさやかを制すマミ。そして杏子は一同に背を向けたまま剣城の隣で立ち止まる。

 

「良かったな、仲間と再会できて。何であんたがあたしについてきたか知らないけど、今度あたしのやり方にケチをつけて来たら、あんたでもただじゃおかないからな」

 

杏子は剣城に目も合わせず言うと魔法少女の跳躍力で一気に飛び立ちその場を後にした。

 

「佐倉さん…」

 

「あの子…まるで誰にも心を開いてないみたい」

 

飛び去って行った杏子の後ろ姿を哀しげな眼で見送るマミと杏子の様子を感覚的に察する茜。

 

「皆、ごめんなさいね。彼女、本当はとてもやさしい子なの。あまり悪い子だとは思わないであげて」

 

マミは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「いやいや、マミさんが悪いわけじゃないですよ。にしても何よあいつ!使い魔を逃がすなんてとんでもないやつだよ!」

 

さやかは杏子の態度に改めて憤慨する。

 

「でも、彼女はある意味魔法少女としては正しい思考の持ち主よ」

 

ほむらの言葉に一同は驚きながら注目する。

 

「どういうことです?」

 

天馬が怪訝な表情で聞く。

 

「魔法少女は魔法を使うだけでなく日常生活の中でもソウルジェムを濁らせる。だからグリーフシードは欠かせない。だからグリーフシードを産まない使い魔を倒さない。そんな思考に至る魔法少女がいても不思議ではないわ」

 

「そんな魔法少女が……」

 

「ええ。全ての魔法少女が巴マミのようなわけじゃない。彼女にとっては正義だ人の為だというのは綺麗事なんでしょうね」

 

「ほむらちゃん…」

 

「………」

 

淡々と魔法少女の負の部分を語るほむらに一同は哀しげな顔をする。物悲しい空気の中、マミはその空気を変えようと剣城に顔をむける。

 

「ところで、あなたも雷門の人よね。佐倉さんと知り合いのような口ぶりだったけど…」

 

「そうだよ剣城。どうしてお前が…」

 

天馬も剣城に聞くと剣城は少し目線をそらしながら話始めた。

 

「……あれは昨日のことだった……」

 

 

 

 

 

 

 

~~昨夜・廃教会~~

 

 

 

パアアァ

 

真っ暗な夜の中、一つの光が廃れた協会に現る。光が晴れるとそこには剣城京介がうつぶせで倒れていた。

 

「う……」

 

剣城はゆっくりと目を開ける。まだ意識がはっきりしないうちに首だけを動かし周りを見渡す。

 

「ここは……どこだ…?…俺は一体…」

 

剣城は意識が徐々にはっきりすると同時に立ちあがり、改めて周囲を確認する。そこはあちこちボロボロの建物の中らしく、よく見ると壁や床に焼け跡があった。天井を見ると一部が崩れ落ちており、そこから星空が見えた。

 

「ここは……だいぶ廃れているが…教会か?」

 

剣城は天井近くに設置されたステンドグラスの割れ目から漏れる月光を浴びているボロボロの教壇を目にして呟く。

 

「火事でもあったのか?…ん?」

 

ここで足元にマギカボールが落ちている事に気が付く。

 

「こんなところにボールが……なんだこの模様は…」

 

剣城はこんな廃墟に落ちていることに疑問を抱きつつもボールを両手で拾い上げる。

 

 

 

 

「動くな」

 

「!」

 

 

 

 

ボールを拾い上げた直後、自分の背中には果物ナイフが突きつけられていた。

 

(いつの間に…!)

 

「こんなところで何してるか知らないけど、勝手にここに踏み込んで荒らすのは気に入らないね」

 

横目で後ろを見るとまだ自分とそう変わらない年頃と思われる赤いポニーテールの少女、佐倉杏子がいた。彼女はどうやらここの関係者らしくここに入った自分を侵入者と思っているようで警戒する剣城。

 

「とりあえず金目のものでも貰おうか。そうだな、そのサッカーボールでも置いてきな」

 

「………」

 

剣城はただ黙ってボールを高く上げていき、杏子は「それでいい」というように八重歯をとがらせながら笑う。そして剣城はボールを自分の首の高さまで上げる。

 

 

 

 

 

ここで剣城は両手を放し、ボールをその場に落とす。

 

「?」

 

杏子は不審に思いながら落下するボールを目で追いかける。それが剣城の足元の高さまで到達すると、

 

「ふっ!」

 

剣城はボールを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたボールは前の教壇に当たり、教壇を倒しながら剣城の顔めがけて跳ね返ってくる。剣城は跳ね返ってきたボールが自分の顔面に当たる直前で体をサッと横にそらす。

 

「なっ!?」

 

当然跳ね返ってきたボールは杏子の眼前に迫る。

 

「くっ!」

 

杏子も体を横に反らして躱す。ボールは教会の入り口にある外れかけの扉に当たり、扉を倒しながら高く跳ね返る。そして剣城は杏子の注意が自分から逸れたその瞬間を逃さなかった。

 

バシッ!

 

「あっ!」

 

剣城は右足を軸に半回転し、左足で杏子の手元を蹴り上げナイフを弾き飛ばす。そして高く飛び上がりながらバク転でボールをトラップし、杏子から少し離れた位置に着地して距離を取る。ナイフはヒュンヒュンと回転しながら弧を描きつつ壁際の床に突き刺さる。

 

「くぅぅ…!てめえ…」

 

「これで形勢逆転だな」

 

杏子は蹴られた手をもう片方の手で抑えながら無表情の剣城を睨む。そして教会を見渡し、倒された教壇と入り口の扉を見て顔を歪ます。

 

「てめぇ……よくもこの教会を傷つけやがったな…!」

 

杏子は更に睨みを利かせ、剣城は彼女からただならぬ殺気を感じ取る。

 

「もう許さねえ!」

 

そして杏子は怒りながらソウルジェムの指輪が付いた手をかざし、魔法少女に変身して槍を取り出す。

 

「なっ!あんた…」

 

剣城は杏子の姿が変わったことに驚く。

 

 

 

ズズズ……

 

 

「「!」」

 

するとここで教会が謎の空間に包まれていく。間違いなく魔女結界だった。

 

「な…今度は何だ!?」

 

「ちっ!またここでかよ…!」

 

杏子がこの教会で魔女結界が発生したことに忌々しく思っているうちに二人は結界に捕らえられた。

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

結界にとらわれた二人は結界を見渡すとそこにはあちこちに家具が置いてある空間だった。

 

「ここは一体……?」

 

「!」

 

剣城が驚いていると杏子の前からいくつものタンスのような姿をした使い魔が現れた。

 

「ちっ!使い魔の結界かよ……悪い事はよく重なると言うがなっ!」

 

杏子は槍を構えながら一気に飛び出し、使い魔に接近する。

 

「おらぁ!!」

 

そして槍を薙刀の様に横に振るい使い魔たちを切り裂く。

 

「一体何が………はっ!」

 

杏子と使い魔に気を取られていた剣城は後ろから気配を感じ、振り向くと自分にも複数の使い魔が迫っていた。

 

「くそっ!こっちもか!」

 

剣城は一歩下がって体制を立て直す。

 

「こうなったら化身を……何!?」

 

剣城は体に力を溜め、化身を出そうとするがやはり最初の頃の天馬たち同様出なかった。

 

「くっ!どうすれば……ッ!?」

 

剣城が対抗策を考えていると足元のマギカボールが輝き出し、剣城の格好を背番号10番の雷門のユニフォームに変える。

 

「な!?姿が変わった!?」

 

自分の周りにいた使い魔を倒し終えた杏子は剣城の変身を見て驚く。そして剣城は足元のボールを見つめながら呟く。

 

「俺に戦えと言ってるのか……?」

 

そうこうしているうちに使い魔は剣城のすぐ近くまで迫っていた。

 

「やるしかないようだな…」

 

戦うしかないと判断した剣城は使い魔たちをキッと睨むとボールを片足で器用に持ち上げる。持ち上げた足とボールが平行になる高さまであげると素早く足を戻す。そして急に足から離され空中に放り出されたボールに素早く蹴りを入れるとボールは黒いオーラを纏う。そしてボールの前で手刀を剣のように縦に振るう。

 

「『デスソード』!」

 

するとボールは長剣のように伸びていき使い魔を蹴散らしていく。

 

「な…!」

 

杏子は普通の人間だと思っていた剣城がサッカーボールで使い魔を蹴散らす様をみて驚く。そして剣城は戻ってきたボールをトラップし、別の方向にいる使い魔たちに狙いを定めると剣城はボールに回転を加え、自身も空中で縦一回転しながら後ろ蹴りでボールを高く上げるとボールは再び黒いオーラを纏う。そして自身もボールの高さまで飛び上がる。

 

「『デスドロップ(G3)』!」

 

そのままオーバーヘッドで撃ち落とすとボールは地面に叩きつかれ、命中した使い魔はもちろん周りにいた使い魔も衝撃波で吹き飛び、消滅する。

 

「………」

 

杏子はしばらく唖然としていたがやがてハッと思い出す。

 

(こいつまさか、キュゥべえが言ってた……)

 

杏子は数刻前に聞いていたキュゥべえの話を思い出しながら剣城を見つめる。

 

 

 

その時、杏子の背後から巨大な影が迫っていた。

 

 

 

「はっ!うわあっ!」

 

「!」

 

杏子の声を聞いた剣城が振り向くと巨大な影が掃除機の管のようなものを伸ばして杏子を締め上げていた。

 

「く、くそっ…!あたしとしたことが……使い魔じゃなくて魔女の結界だったのかよ…」

 

杏子が体を締め上げられ苦痛の表情を浮かべているとそのまま高く持ち上げられ、影の中から魔女の本体が現れる。

 

 

 

―――家政婦の魔女。その性質は隠蔽。

 

 

 

それは埃が集まったような体に掃除機の管のような腕を持つ魔女だった。右手の先に取って付きの扉を持ち、左手には何も持たず長い腕で締め上げた杏子を持ち上げていた。

 

「クソッ!離せ…!」

 

杏子は振り払おうと必死にもがくが、魔女の握力は強く外すことが出来なかった。そして魔女は埃の塊でできた体の上部から口を出現させ、大きく開けて牙をむき出しにして杏子を口の中に運び込もうとしていた。

 

(くそ……こんなところで死ぬのかよ…!あたしの人生、やっぱりこんな呆気なかったって事かよ……!)

 

杏子は悔しげな表情を浮かべる。そして魔女は今にも杏子を喰らおうとしていた。

 

(このままでは彼女が……!なんとか助け出さねば!)

 

使い魔を片付けた剣城が杏子を助けたいと強く願った直後、再びマギカボールが光り出す。

 

「!」

 

そしてが金色のオーラが剣城の体を包みこみ、オーラが晴れると剣城は体中から力がみなぎってきていた。

 

「この感じは……いける!はあああぁっ!!!」

 

剣城は力を溜めると剣城の体から化身のオーラが現れる。そしてそれは形を成すと剣と盾を携え、真紅もマントを翻す甲冑の騎士となった。

 

 

 

「―――『剣聖(けんせい)ランスロット』!!!」

 

 

 

『―――!?』

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

突然出現した化身に杏子は驚きの声を上げ、魔女も動きを止める。

 

「フッ!」

 

魔女の動きが止まった瞬間を逃さず、剣城は左手を掲げる。するとランスロットはマントを翻しながら剣を魔女に向けて構え、ボールは金色の膜を持つ黒いオーラを纏いながら上昇し、剣城は左足を軸に横一回転しながらジャンピングボレーシュートを放つ。

 

「―――『ロストエンジェル』!!!」

 

放たれたボールと共にランスロットも剣を伸ばしながら突撃し、その切っ先がボールと一体化しながら魔女に向かって伸びていく。

 

「いけ!ランスロット!!!」

 

剣城の叫びと同時にランスロットの甲冑の目の部分が赤く光り、そのスピードを増す。そしてランスロットが魔女を通り過ぎ魔女に縦一閃が入る。

 

『――――!?!?!?』

 

バシュウ!

 

「うわあっ!」

 

直後魔女はその形を崩し、アイスの様に溶けて消滅する。それと同時に解放された杏子は魔女が変化したグリーフシードと共に地面に落下し、景色は元の教会に戻っていった。

 

 

 

~~廃教会~~

 

 

「あんた……なんであたしを助けた?」

 

静けさを取り戻した教会で杏子は剣城に問いただす。

 

「さあな…あのまま放っておいたら寝覚めが悪くなると思ったからかもな…」

 

剣城はズボンの両ポケットに手を突っ込み、瞳を閉じたままそう答えた。

 

「ところであんたにさっきまでの事を色々聞きたいんだが…」

 

「なるほど、君も彼らと同じ化身使いなのか」

 

「「!?」」

 

自分たちしかいないと思っていた二人の耳に別の声が聞こえる。声が聞こえた方向を見ると、信者用の机の上にキュゥべえが乗っていた。

 

「な、なんだコイツは…」

 

「何!?お前キュゥべえが……!?」

 

「フム。やはり君にも僕の姿が見えるみたいだね」

 

「…どういうことだ。お前は一体…」

 

「君の知りたいことなら僕が話してあげるよ」

 

そしてキュゥべえは剣城に語った。この世界は剣城のいた次元の世界とは別の世界であること、魔法少女と魔女の事、そしてこの世界に天馬たちも来ていることを。

 

「理解できたかい?」

 

「まだ全部とは言い難いが大体な……」

 

剣城はまだ混乱していたが、この世界に来るまで時を超えるなど十分ありえない経験を重ねていたためとりあえず納得した。

 

「とにかく天馬たちもこの世界に来ているんだな」

 

「うん。ここからそう遠くないところに何人か集まっているよ」

 

「そうか……」

 

その話を聞いた剣城はひとまず安心して胸をなでおろす。

 

「お仲間が見つかってよかったな。助けてくれた礼に見逃してやるからさっさと帰りな」

 

いつのまにか私服に戻っていた杏子は懐からチョコ菓子を取り出し口にくわえると二人に背を向けて教会の奥の方に移動する。

 

 

「!」

 

 

その時、剣城は彼女の雰囲気から何かを感じ取った。

 

「………」

 

そして少し考え込むと杏子に向かって言った。

 

「…いや、今はあんたと行動を共にする」

 

「!?」

 

杏子は振り向く。

 

「何…?」

 

「………」

 

杏子は剣城の真意がわからず彼を睨むが剣城はただこちらを見つめているだけだった。

 

(こいつはさっき、化身とかいう力で魔女を一撃で倒しやがった……確かにこいつの力は使える。こいつがいれば魔力をあまり消費せず楽にグリーフシードを集められそうだ)

 

剣城の力を利用しグリーフシード集めをしようと企む杏子。チョコ菓子をくわえたままニカッと笑うと言った。

 

「…いいだろう。ただし魔女退治には必ず一緒に来てもらうがな」

 

「ああ。構わない」

 

剣城は淡と答えた。

 

「あたしは佐倉杏子。あんたは?」

 

「……剣城京介」

 

その後、剣城は杏子が自分より年上だとわかると敬語に改めたという。

 

 

 

 

 

~~現在~~

 

 

「…というわけだ」

 

「剣城…」

 

「天馬、すまないが俺はもう少し杏子さんの側にいる」

 

「えっ!?」

 

剣城の発言に一同は驚く。

 

「あんた、あんな奴と一緒にいるなんて正気!?」

 

さやかは印象が悪かった杏子を批判するように問う。

 

「剣城、お前どうして…」

 

神童の問いに剣城は顔を少し背けながら答えた。

 

「彼女の事が何故かほっとけないんです……彼女からはどこか俺に似た感じがしたんです…」

 

剣城は昨夜感じた杏子の雰囲気を思い出し憂い募らせていた。

 

「………」

 

神童は剣城見つめながら考えていたがやがて剣城の考えを理解したように、

 

「…わかった」

 

静かにそう言った。

 

「ただし、何かあったらすぐに俺たちに知らせるんだ」

 

「ええ。わかっています」

 

そう言って剣城は踵を返し杏子の後を追おうとする。

 

「剣城くん!」

 

ここでマミに呼び止められる。

 

「これを持って行って。」

 

マミが差し出したのは小さながま口財布だった。

 

「これは…」

 

「これにいくらか入ってるわ。とりあえずの額しか入ってないけど彼女、根無し草でしょう?生きる為にやってはいけない事をやってるんじゃないかしら?」

 

「ええ。今朝も万引きを働こうとして俺が支払いました」

 

「やっぱり……剣城くん、彼女はとりあえずあなたを敵として見ていないようだから…今は彼女の事をお願いね…」

 

マミは心配そうに、そして託すように言った。

 

「ええ…任せてください。財布、ありがとうございます」

 

剣城は一礼すると改めて杏子の後を追った。一同はただ黙って剣城の背中を見つめていた。

 

「剣城…」

 

天馬たち雷門は剣城を心配する。

 

「天馬、剣城にも考えがある。今はあいつを信じよう」

 

「神童先輩……そうですね」

 

天馬が剣城が去って行った方向を見つめる一方、まどかはマミに近づいて聞く。

 

「マミさん……さっきのって…」

 

「今はあんな子でも…私の弟子だったから……」

 

今は違えていてもやはり弟子であった杏子を心配するマミであった。

 

 

 

「佐倉さん……」

 

 

 

 

 

 




――ED『瞳の中に君がいる』(歌:空野葵)――


次回予告

天馬
「波乱を呼んだ佐倉杏子。そしてそんな彼女が再びさやかさんに襲いかかろうとしていた。その時、絶望の真実が開かされる!

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第7話『衝撃!ソウルジェムの真実』!」


というわけでかなり遅れてしまい申し訳ありませんでした。
ちょくちょく書いておく癖をつけないと…。

ちなみ今回の魔女は適当に思いついたオリ魔女です。
家政婦は見た!そんな感じです。

こんな駄文ですがこれからも読んでもらえると喜ばしいです。

次回はいよいよ二回目の絶望の始まりです…


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第7話『衝撃!ソウルジェムの真実』

お久しぶりです。そして投稿と共に遅れましたがあけましておめでとうございます。そしてこんな駄文に評価をしてくれる方が現れました。カービィさん、ケチャップの伝道師さん、ありがとうございます。

そして皆様お待たせしました。
なお、今回はいつもより短くまとめられたため、パート分け無しでお送りします。
タイトル通り本格的な絶望の始まりを告げる第7話、どうぞ。


――OP『コネクト』――



 

 

 

~~ゲームセンター~~

 

 

 

「ほっ、はっ、てやっ!どうだ!」

 

佐倉杏子が軽快なステップを踏んでいた。ここは杏子がよく立ち寄るゲームセンターで、今日はハイスコア更新を狙っていた。

 

「佐倉杏子」

 

そこへほむらが現れた。

 

「あ?なんだまたあんたかよ?」

 

杏子は器用にもゲームの音楽に合わせてステップを踏みながら答える。

 

「あなたにこの街を任せたい」

 

「……本気か?」

 

「ええ、本気よ」

 

「どういうつもりだよ?何か裏があるんじゃないのか?」

 

「裏というよりは交換条件としてあなたに協力してほしい事があるの」

 

「協力?」

 

「…もう少ししたら、この街に“ワルプルギスの夜”が来るわ」

 

「!」

 

予想外の台詞に一瞬だけステップが鈍った杏子。

 

「………確かなのか?」

 

「ええ。私の目的はワルプルギスを倒すこと。それにはあなたや巴マミたちの力が必要なの」

 

「マミやあの生意気な新入りと一緒にお手々繋いで倒せって言うのか?」

 

「ええ。それが終わればこの街をあなたの縄張りにしてもいい。巴マミたちには私が話をつけておくわ。それまで巴マミや美樹さやかには手を出さないで」

 

「……いいだろう。あんたが何を考えてるか知らないが悪くない話だね」

 

「協力に感謝するわ。それまでに準備を整えておいて」

 

そう言うとほむらは黒い長髪をなびかせながら踵を返して去って行った。杏子は疑心の目で彼女の背中を見送る。彼女がプレイしていたダンスゲームはハイスコア更新のファンファーレを鳴らしていた。

 

 

 

 

 

杏子との会談を終え、一人出口へ向かうほむら。その途中で足を止める。

 

「それにしても…雷門にも馴れ合いを好まない人が居たのね」

 

独り言のように言ったその言葉は隣で昔ながらの格ゲーをプレイしている剣城に向けられた。

 

「…彼女のことがほおっておけないだけだ」

 

「松風天馬といい、異世界から来たサッカープレイヤーというのは変わった人が多いのね」

 

「確かにあいつの影響かもしれないな。だが、あんたも魔法少女の中では変わっているみたいだがな」

 

「……?」

 

「俺はまだこの世界に来て出会った魔法少女は四人しかいない。だがあんたからは明らかに他の魔法少女たちとは違う雰囲気を漂わせている」

 

「…どういう意味?」

 

「俺はあんたのような人を知っている。その人は大切なものを守る為にそれ以外のものを全てかなぐり捨てて一人戦い続けていた。そしていざという時までその真意を絶対に明かさなかった」

 

剣城の脳内で一瞬だけその人物の後ろ姿が映った。それは10年前、今の自分と同じチームの同じ背番号を着けた自分と兄が憧れた人物だった。その背中はとても広く、心の内に秘められた熱い想いを体現したかのような情熱的な大きな背中だった。

 

「………」

 

「今のあんたはその時のあの人と同じ眼をしている。あんた…何か隠しているんじゃないのか?」

 

数秒間ほむらは黙る。しかし無表情を崩すことはなくただ一言。

 

「……あなたには関係ない話よ」

 

そう言って出口に向かうほむら。剣城は杏子とは違い振り向く事無くゲーム画面に顔を向け続ける。しかし杏子と同じくその視線はほむらの後ろ姿に向いていた。

 

 

 

~~翌日、河川敷~~

 

 

翌日の放課後、天馬たち雷門は魔女との戦いに備えて特訓に励んでいた。マネージャーたちも頑張って彼らを応援したり、ドリンクを用意したりとサポートをしていた。しかしやはりそこに剣城の姿はなかった。

 

「はあっ!」

 

バシッ

 

「ナイスキャッチだ!信助!」

 

「うん……」

 

「どうしたの信助?浮かない顔して」

 

「ねえ天馬。どうして剣城はあんな人と一緒にいるのかな?」

 

信介は剣城がせっかく合流できたのに彼が杏子についてしまった事が気がかりになっていた。

 

「う~ん。まあ、あいつはきっと何か考えがあるんだよ。今は剣城を信じようよ」

 

「…うん。そうだね!」

 

「頑張ってるわね」

 

ここでマミが河川敷の上から声を掛けた。

 

「マミさん!学校は終わったんですか?」

 

「ええ。この後魔女探しをするつもりよ」

 

「私たちも練習が終わったら手伝いに行きますよ」

 

「ありがとう空野さん。でも無茶はしないでね。あなたたちも魔法少女になれたら一緒に戦えたんだろうけど……」

 

「はい。でもキュゥべえによると私たちには魔法少女の素質はないって…」

 

「私、魔法少女になってみたかった……」

 

葵たちはこの世界で天馬たちと合流後、キュゥべえと会った。やはり彼女たちも魔法少女の素質は無かったらしく、彼女たちの指輪の事もわからなかった。茜は魔法少女の事を聞いてから憧れていたらしく、キュゥべえになれないと本人(?)も残念そうに告げられ、ガッカリしていた。

 

「まあ、あたしは別にあんな変なコスプレ着なくて良かったけどな」

 

「へ、変なコスプレ………」(ズーン)

 

「え?あ…わりぃ!悪気があって言ったわけじゃ……」

 

正義の魔法少女としての衣装をコスプレ呼ばわりされて両手と両膝を地面に着けて落ち込むマミと必死に弁明する水鳥。そんな二人に天馬たちも「あはは……」と苦笑いする。

 

「………」

 

しかしそんな中でも神童は一言も喋らず深刻な顔をしていた。

 

「?…どうしたんですか、神童先輩?」

 

「いや、なんでもない…」

 

(病院で感じた胸騒ぎがまだ俺の中で疼いている……)

 

神童は自分の胸騒ぎの原因は佐倉杏子が現れ、最初の内は彼女の所為かと思っていた。しかし彼女が出現してからはその胸騒ぎは収まるどころかより荒波の様に激しくなっていた。

 

(何か、嫌な予感がする…)

 

 

 

~~見滝原総合病院~~

 

 

「やっほー恭介元気!?」

 

いつもと変わらず病室を覗き込みながら元気に挨拶するさやか。

 

「あれ?」

 

しかし病室のベッドの毛布やシーツは綺麗に折りたたまれ恭介の荷物が無くなっていた。文字通り、もぬけのカラになっていた。

 

「これは……」

 

その時、偶然通りかかった看護婦が話しかけてきた。

 

「あら、さやかちゃん。上条君なら今朝退院したわよ」

 

「え?」

 

「足の方も松葉杖があれば歩けるほどに回復したからご両親が迎えに来て帰ったのよ。バイオリンの練習がしたいって張り切っていたわよ」

 

「………」

 

 

 

 

~~上条家前~~

 

 

「恭介……退院したことぐらい知らせてくれても良かったのに…」

 

さやかは上条家の前に来ていた。丁度練習中だったのかバイオリンの音色が響いている。退院した事を知らせなかった恭介にさやかは不満と寂しさを募らせる。

 

「………」

 

中に入って退院を祝うなり知らせなかった不満をぶつけることも出来たがせっかく治った腕で望みが絶たれていたバイオリンの練習に精を出している恭介の邪魔はしたくないという思いもあり、さやかは踏み込むことが出来なかった。

 

「よう」

 

「!」

 

突然後ろから話しかけられ振り向くとそこにはチョコ菓子をくわえた杏子がいた。

 

「お前…ッ!」

 

さやかは警戒を強める。

 

「キュゥべえから聞いたぜ。あんた、ここのボウヤの為に契約したんだってなあ」

 

「…だったらなんだっていうのよ」

 

「たくっ…せっかくの願いをくだらないことに使いやがって……」

 

「くだらない…?あんたみたいな馬鹿に何が…!」

 

「馬鹿はそっちだ馬鹿。元々魔法少女の力は他人の為に使うものじゃねーんだよ。みーんな自分の為に使うためにあるのさ。マミのヤツはそんなことも教えなかったか?まあ、正義の味方ごっこなんてやって死にかけるなら当然か」

 

「…っ!あたしのことはともかく、マミさんを馬鹿にするのは許さない!」

 

マミに憧れ彼女を目標にしているさやかにとって彼女だけでなく、その生き様を侮辱することは我慢できなかった。しかし杏子は全く詫びることなくフッと鼻で笑いながら話を続ける。

 

「まあ、それはそれとして……惚れた男をモノにしたいんならいい方法があるぜ」

 

「?」

 

首を傾げるさやか。杏子は邪な笑みを浮かべながら言った。

 

「あんたの手でもう一度あのボウヤを潰してやればいいのさ。今度は左手だけでなく両手両足もズタボロにしてやるのさ」

 

「!?」

 

杏子のとんでもない提案にさやかは目を見開く。

 

「あんたなしでは生きられないようにしてやるのさ。そしてもう一度あんたが世話をしてやるんだよ。そうすりゃ身も心もみーんなあんたのものだ」

 

「お、お前……ッ!」

 

怒りを露わにして声を震わすさやか。

 

「なんなら代わりにあたしがやってやろうか?同じ魔法少女のよしみでやってやるよ」

 

「ッ!」

 

その一言でさやかは完全にブチ切れる。

 

「…あたしは認めない……あんたみたいな魔法少女なんて、絶対認めない!!」

 

「フッ…そうこなくっちゃな」

 

杏子はその一言を待っていたかのようににやける。

 

「ここじゃ人目に付きやすい。場所を移そうぜ」

 

「………わかった」

 

さやかは拳を強く握り、決して穏やかではない表情のまま黙って杏子の後をついて行く。

 

「………」

 

そんな二人を彼女達からは死角となっている壁に寄りかかりながら見ていた人物がいた。さやかと杏子が共に歩き出したと同時に彼は直ぐにある場所に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

~~一方・河川敷~~

 

 

「よし、今日はこのくらいにして魔女探しに行こう」

 

「はい!神童先輩!」

 

「………」

 

一通り練習を終え、魔女探しに向かおうとする一同。しかし何故かマミだけは浮かない顔をしていた。

 

「…?どうしたんですか、マミさん」

 

葵の呼びかけにハッとなるマミ。しかしすぐに目をそらしてしまう。

 

「……杏子さんの事ですか?」

 

「…!」

 

天馬に図星を突かれ体を震わすマミ。

 

「やっぱり、気になるんですか?」

 

「ええ…」

 

マミは昨日杏子と再会してから彼女の事を心配していた。今は剣城と一緒とはいえ、何か良くない事をやっているのではないかと。そんな不安げな表情を浮かべるマミに信助は尋ねる。

 

「そういえば、マミさんの弟子だったって言ってましたよね」

 

「良かったら話してもらえませんか、その時のことを……」

 

天馬も頼み込む。

 

「……そうね。あなたたちには話しておいた方がいいかもしれないわ」

 

マミは少しだけ躊躇しそうになりつつも話すことにした。

 

「私と佐倉さんが出会ったのは彼女が魔法少女になりたての頃だった……彼女は元々隣町の風見野の子なんだけど、初めて戦った魔女を追いかけてこの見滝原にやって来たの。その時、魔女にやられそうになったところを私が助けたの」

 

「それが切っ掛けでマミさんに弟子入りを……」

 

信助の言葉にマミは頷く。

 

「当時の私はようやく魔女との戦いに慣れてきたところだったんだけど、一緒に戦ってくれる魔法少女がいなくていつも一人ぼっちだった。そんな時に佐倉さんに弟子にしてほしいって言われて戸惑いはあったけど、先輩として頑張んなきゃって気持ちと同時に一緒に戦ってくれる仲間ができて張り切っていたわ」

 

マミは目を閉じると彼女の脳内で当時の思い出がよみがえっていた。

 

「あの頃は本当に楽しかった……佐倉さんは私との特訓でみるみる上達して、うまく連携を取り合って魔女にとらわれた人々を助けたり、彼女のご家族との食事に誘われたり、彼女の技にカッコイイ名前を付けてあげたりと色んな思い出ができたわ」

 

「何か今、違うもん混ざってなかったか?」

 

水鳥のツッコミをよそにマミの話は続く。

 

「嬉しかった。私にもようやく心からわかり合える仲間が出来たんだと。そう…信助くんを皮切りにあなたたちや鹿目さんたちと出会った時の様に」

 

ここでマミは目を開け、信助を見る。信助は怪訝そうな表情でマミを見返す。

 

「信助くん。私の過去を話した時に、手を差し伸べてくれたでしょう。あの時のあなたが当時の佐倉さんに見えたの…」

 

「僕が……杏子さんに?」

 

「ええ。あの時のあなたの笑顔が昔の佐倉さんそっくりに見えたわ。まるで彼女が帰って来たみたいに」

 

マミは憂い募らせるように空を見上げ遠い目をしながら呟く。

 

「…今思えば、あなたとの出会いは佐倉さんとの出会いに似ていた。危ないところを私が助けて、それからは私の側にいてくれた……それは私にとって、とても心が安らぐことだったわ」

 

マミは家族を亡くしてからはずっと誰にも知られず、腹を割って話し合える仲間もいなかった。たった一人で戦い続けていた彼女にとって自分に懐いていつも一緒にいてくれた杏子と信助は共に戦う仲間というだけなく、かわいい妹や弟のような存在になっていた。

 

「話を戻すけど美樹さんの様に彼女も私と一緒に人々を救うために頑張ると張り切っていたの。魔法少女であることにも誇らしく思っていたわ。あの時までは……」

 

「あの時?一体、杏子さんに何があったんですか?」

 

「ええ、それは…」

 

「みんな!」

 

マミが話しだそうとしたとき、ある人物が現れた。

 

 

 

~~~陸橋~~~

 

 

「ここなら邪魔は入らねえ。さっさとケリつけようじゃねえか」

 

杏子は変身し、さやかに槍を向ける。

 

「………」

 

さやかも自分のソウルジェムを取り出そうとポケットに手を突っ込む。そこへ思わぬ乱入者。

 

「さやかちゃん!」

 

「まどか!?なんでここに!?」

 

「キュゥべえが教えてくれたの!さやかちゃん、やっぱりダメだよ!魔法少女同士で決闘だなんて!」

 

キュゥべえを肩に乗せながら必死に止めようとするまどか。それに対して杏子はチッと舌打ちする。

 

「またウザい仲間が現れやがったか」

 

「じゃあ、あなたの仲間はどうなのかしら」

 

杏子の後ろから突然ほむらが現れた。一同は驚きつつもまどかだけはわずかに希望を持った。

 

「ほむらちゃん!?」

 

彼女ならこの争いを止めてくれると…。

 

「佐倉杏子、彼女には手を出さないでと言ったはずよ」

 

「あんたのやり方じゃ手緩すぎるんだよ。どの道向こうはやる気みたいだぜ」

 

杏子がさやかを見つめるとさやかも杏子に向けてキッと視線を尖らせる。まどかはほむらでも止められないことに望みを絶たれる。

 

「やめなさい!美樹さん、佐倉さん!」

 

しかし、突然聞き覚えのある声がした。さやかとまどかが振り向くとマミや雷門一同がやってきていた。

 

「み、みんな!」

 

「っ!」

 

杏子はキッとほむらを睨む。

 

「私じゃないわ」

 

「何?」

 

すると雷門一同の後ろから一人の人物が前に出る。

 

「……杏子さん」

 

それは当然のごとく剣城京介だった。

 

「お前が呼んだのか…」

 

杏子は鋭く剣城を睨む。

 

「……言ったよな、今度邪魔したらただじゃすまさないってな」

 

「確かにそう言われました。でも、俺はそれに従うつもりもありませんし、こんな事を見過ごすつもりもありません」

 

「てめぇ…」

 

「佐倉さん、私も彼と同意見よ」

 

マミも剣城の隣に立つ。

 

「魔法少女同士が戦うなんて私としても好ましくないわ。今すぐにやめなさい」

 

「そうですよ!さやかさん、こんなことして意味なんてないじゃないですか!」

 

天馬もさやかを止めようとする。

 

「意味ならあるね。魔法少女としてどっちが馬鹿か決めるという意味が。わかったら余計な口出しするんじゃねーよ」

 

「なっ…!」

 

杏子はさやかの代わりに侮蔑と嘲笑を交えながら答える。

 

「天馬、悪いけど今のだけはこいつの言うとおりだよ……」

 

「さやかさん!?」

 

「…みんなは手を出さないで、こいつとはあたしが決着をつける…!」

 

「そうこなくっちゃな………そうだ、こいつを食い終わるまであんたに攻撃するのを待ってやるよ」

 

杏子はチョコ菓子を取り出して、口にくわえて余裕を見せる。

 

「舐めんじゃ、ないわよ………」

 

挑発に乗せられ、顔を紅潮させたさやかはソウルジェムを掲げ、変身しようとする。

 

(―――さやかちゃん)

 

気が付くとまどかの体は勝手に動いていた。彼女たちの決闘を止める為に暴挙に出た。

 

「さやかちゃん、ゴメン!」

 

まどかは一瞬の隙をついてさやかのソウルジェムを奪い、橋の下に投げ捨てる。ジェムは橋の下を通っていたトラックの荷台の上に落ちる。

 

「!まずい…!」

 

その直後、ほむらは一瞬で姿を消す。

 

「まどか!あんたなんてこと……」

 

さやかが怒鳴ろうとした直後、彼女は突然糸の切れた人形のように倒れこんだ。

 

「さやかちゃん!?」

 

「美樹さん!?」

 

一同は臨戦態勢を解きつつ慌ててさやかに駆け寄る。一同が倒れたさやかの顔を見ると、その瞳から光は消えており、生気が感じられなかった。

 

「さやかさん、どうし……っ!?」

 

最も近くに駆け寄った葵はさやかとは対照的に信じられない事が起きたように目を見開く。

 

「どうしたの!?葵!」

 

「さやかさん……息してない……」

 

「えっ…!?」

 

葵の衝撃の発言に一同は絶句する。

 

「今のは不味かったよ、まどか。よりにもよって友達を放り投げるなんてどうかしてるよ」

 

「え…?」

 

一人だけ口を開いたキュゥべえの言葉が理解できず、呆けた声を出すまどか。

 

「と、友達を放り投げる……!?」

 

天馬も困惑しながらオウム返しをする。そして杏子がさやかの顔を覗き込み様子をうかがう。そしてさやかの状態を理解すると目を見開く。

 

「どういうことだ、オイ……こいつ、死んでるじゃねーか!?」

 

杏子はその衝撃をぶちまけるようにキュゥべえに怒鳴った。

 

「……さやかちゃん、ねぇ、さやかちゃん……起きて、ねぇ」

 

「さやかさん…!」

 

まどかは何度もさやかを揺さぶり、神童も肩を叩くがさやかの瞳に生気は戻らず、その首もまるで壊れた人形のようにまどかの揺さぶりにそってただ揺れ動くだけで、一同はこの異常事態に動揺するばかりだった。―――ただ一人を除いて。

 

「君たち魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい100メートル圏内が限度だからね」

 

のどかに言うキュゥべえに一同は注目する。全員のその目は驚愕に満ち溢れていた。

 

「100メートル…?何を、言ってるの……キュゥべえ?」

 

衝撃を受けている全員の疑問をマミが声を震わせながら恐る恐る聞く。

 

「普段は当然肌身離さず持ち歩いんているんだから、こういう事故は滅多にある事じゃないんだけど…」

 

「そういう事を聞いているんじゃない!さやかさんに何が起きたと聞いているんだ!」

 

神童が場違いなキュゥべえの返答に怒鳴りつける。

 

「キュゥべえ!お願いだから助けてよ!さやかちゃんを死なせないで!」

 

まどかはただそう泣き叫ぶばかりだった。しかしキュゥべえはいつもと変わらず淡々と言った。

 

「まどか、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻なんだって。さやかはさっき、君が投げ捨てちゃったじゃないか」

 

キュゥべえの言葉に一同は更に衝撃を受け、まどかに至っては呆然としながらその場に座り込む。

 

「どういうことだよキュゥべえ!さっきから身体をコントロールとか、さやかさんが抜け殻とか何の事を言ってるの!?」

 

天馬の叫びにもキュゥべえは変わらず闇夜に赤い瞳を輝かせながら答えた。

 

「ただの人間と同じ、壊れやすい身体のままで魔女と戦ってくれなんて…僕にはとてもお願いできないよ。さやかたち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは外付けのハードウェアでしかないんだ」

 

「外付けのハードウェア、だと………」

 

剣城も動揺を露わにしつつ呟く。

 

「彼女たちの本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できる、コンパクトで安全な姿が与えられるんだ」

 

「た、魂って………!」

 

信助の言葉を皮切りに、キュゥべえの説明に一同は一瞬で先ほどの出来事と今の状況をキュゥべえの説明と照らし合わせ、恐ろしい答えを頭に浮かばせる。

 

「魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね―――」

 

キュゥべえはその恐ろしい答えを冷たく言い放つ。

 

「彼女たちの魂を抜き取ってソウルジェムに変える事なのさ」

 

その言葉に一同は凍りつく。

 

「魂を…抜き取る、だって……!?」

 

天馬と共に雷門一同もまどかも杏子もマミも、全員が目を開いてその瞳を震わしていた。

 

「そうすることで魔法少女は常人が命を落とすような大けがを負っても、ソウルジェムが無事なら何度でも身体を直せるということさ」

 

ここで杏子がキュゥべえの小さな頭を潰れると思うほど強く掴みあげ、自分の頭の上の高さまで掲げる。その表情は怒りに満ち溢れていた。

 

「ふざけんじゃねえ!それじゃあたしたちゾンビにされたようなもんじゃねぇか!!」

 

「魔女との戦いにおいてそう簡単に死なないようにしたまでだよ。こういうのを君たちの言葉ではむしろ感謝すべきだというのかな」

 

「悪魔との契約みたいな事されて何が感謝だ!」

 

水鳥も全く詫びる様子の無いキュゥべえの身体をしぼり切れると思うほど強く握りしめて怒鳴りつける。

 

「…君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると決まって同じ反応をする。訳がわからないよ。どうして人間はそんなに魂の在り処にこだわるんだい?それに君たち雷門は魔法少女ではないのにどうして自分たちには関係ない事に怒るんだい?」

 

杏子たちの怒りが理解できないキュゥべえの微笑みが一同には悪魔の邪悪な笑みに見えた。

 

「ひどいよ……こんなの、あんまりだよ……」

 

まどかは消えてしまいそうなくらいか細い声で呟く。彼女はさやかの命であるソウルジェムを高速道路に投げ捨てたことを詫びるようにさやかを髪に顔をうずめてただ泣きじゃくるばかりだった。

 

「…さやかちゃあん……ごめんなさい……ご、ごめ……」

 

「まどかさん……」

 

一同がまどかに同情するように悲しい顔をしたその時だった。

 

「はあっ、はあっ…」

 

ほむらが突如息を切らせ、その白い肌を若干火照らせながら現れた。

 

「ほ、ほむらちゃん!?」

 

ほむらの再登場にまどかも泣くのも忘れて涙目で顔を向ける。

 

「こ、これを彼女の手に……」

 

その手にはさやかの青いソウルジェムが握られていた。しかしその輝きはかなり弱くなっており、彼女が手を広げるとまどかは慌てて手に取り、さやかの手に握らせる。

 

「………ん…」

 

数秒後、ソウルジェムが輝きを取り戻しさやかの身体がピクッと動きだしたと思うと、やがてその肌に生気が宿り、彼女の閉ざされていた目が開いた。

 

「さやかちゃん!」

 

「まどか…?」

 

「良かった……良かったよう……」

 

まどかは再び泣きじゃくりながらさやかを強く抱きしめる。

 

「まどか…?どうしたの?そんなに泣きまくって…?」

 

さやかの一命が取り留められたことに一同はとりあえず安堵しつつ溜め息をつく。

 

「みんなもどうしたの?てか、あたし一体どうなっていたの?」

 

「「「ッ!」」」

 

さやかの疑問が彼らを残酷な現実へと引き戻した。

 

「一体……何があったっていうの……?」

 

さやかのその疑問に即座に答えられる人物は誰一人いなかった。

 

「クッ…!」

 

そんな中、神童だけは身体を強く震わす。神童は病院で虫の知らせを感じていたのにもかかわらずその正体に気づけなかったことを悔やんでいた。

 

「くそっ、あの時の嫌な予感は……これだったのか…!」

 

神童は血がにじみそうなくらい強く拳を握っていた…。

 

 

 

 

 




――ED『Magia』――

次回予告

天馬
「魔法少女のとんでもない秘密を知った俺達!落ち込んでいく魔法少女達に俺達が出来ることは……。

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第8話『悲劇の人魚姫』!」




というわけで絶望に触れた7話でした。
果たしてこの魔法少女の真実に天馬たちはどう向き合うのか。

感想お待ちしております。


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第8話『悲劇の人魚姫』 Aパート

お久しぶりです。
気が付けば通算UA5000突破しており皆様に感謝です。

昨日から各地で異常なほどの大雪でしたが皆様どうでしたか?

さて今回はソウルジェムの秘密を知った一同がどうなるのか
どうぞお楽しみください。


――OP『コネクト』――



 

 

~~早朝・公園~~

 

 

 

「はっ、はっ…」

 

スズメ達が鳴く見滝原の朝。松風天馬は一人、早朝ランニングをしていた。マミの家から少し遠くなった思えるほど走った辺りで遠くの方で昨夜さやかと杏子が決闘しそうになった鉄橋が目に入る。

 

「………」

 

天馬は足を止め、鉄橋を見つめる。体が温まったことで額から一筋の汗が流れ、顔色も少し熱を持って自分を照らす朝焼けの様に赤くなっていた。しかし表情はその晴れ晴れとした朝焼けとは裏腹に雲がかかったように暗いものだった。

 

 

 

 

 

 

~~昨夜・鉄橋~~

 

 

 

 

「騙したのね…」

 

ソウルジェムの秘密を知ったさやかがキュゥべえに詰め寄る。ソウルジェムが魔法少女の魂だということが判明しマミとまどかはスカートの端を掴み、杏子は歯を強く食いしばり、ほむらは目を閉じて無表情で、雷門一同は彼女たちを心配すると同時にキュゥべえに失望の眼差しを向ける。

 

「僕は魔法少女になってくれときちんとお願いしたはずだよ。事実、その対価として君たちの願いを叶えてあげたじゃないか」

 

「なんでそんな大事なことを言わなかったのよ!」

 

「訊かれなかったからさ。知らないままでも別に不都合は無いからね」

 

「不都合は無い、だと…!?体から魂を切り離されて、良いはずがないだろう!」

 

神童は怒りに悲しみを混ぜて怒鳴りつける。

 

「その質問は矛盾してるね。そもそも君たち人間は、魂の存在なんて自覚してないんだろう?」

 

キュゥべえは天馬たちの頭から胸元にかけて視線を向ける。

 

「君たち人間は頭や胸の中に魂があると言われているけど、そこには神経や体の循環機能の中枢しかなく、人間たちの間でも信憑性は低い。そのくせその部分が損傷すると精神と共にすぐに命を失う。僕は魔女との戦いでその部分が傷ついても精神力ですぐ直せるように魂を安全な形で保護できるようにしたまでだよ」

 

「大きなお世話よ…!そんな余計なこと、頼んだ覚えはないわよ!」

 

さやかは唇を噛んで反論する。

 

「そうだよキュゥべえ!今すぐさやかさんたちの魂を元に戻してよ!」

 

「それは出来ないよ、信助。一度ソウルジェムとして切り離した魂は僕でも元に戻すことは出来ない。魔法少女との契約でもしない限りね」

 

「そんな……」

 

「それに君たちは戦いというものを甘く見すぎてるよ」

 

するとキュゥべえはさやかの足元に置かれた彼女のソウルジェムを軽く踏みつける。

 

「うぐっ…!」

 

「さやかちゃん!?」

 

さやかは突如苦しみだし、その場で倒れて腹を押さえていた。

 

「ぐ、あぁ…!!」

 

「さやかさん!?どうしたんです!?」

 

天馬たちが慌てて駆け寄る。

 

「これがお腹を槍で貫かれた痛みだよ、さやか」

 

そう言うとキュゥべえはさやかのソウルジェムから手を放す。

 

「はあ…はあ…」

 

それと同時にさやかも肩で息をしながらゆっくりと起き上がる。

 

「どうだい、これが本来の痛みだよ。さやか」

 

当然であるかのように冷静に話すキュゥべえ。

 

「君が何故佐倉杏子との戦いで彼女の槍を何度も受けていたはずなのに生き延びることが出来たと思う?それはソウルジェムによって君の痛覚がある程度遮断されていたからだよ。これもソウルジェムとして魂が肉体から分離していたからできた芸当だよ」

 

「何が芸当だ!人の魂を弄びやがって!この野郎…!」

 

「やめてください!」

 

「水鳥ちゃん落ち着いて!」

 

キュゥべえに殴りかかろうとする水鳥を葵と茜が押さえる。

 

「離せ!この野郎をボッコボコにしねぇと気がすまねぇ!」

 

「落ち着いてください!今キュゥべえを痛めつけてもなんにもなりませんよ!」

 

「………チッ!」

 

葵の言葉で水鳥は舌打ちしながら上げた拳を降ろす。

 

「まあ、慣れてくれば痛覚を完全に遮断することも出来るけど、動きが鈍るからあまりお勧めはしないね」

 

何事もなかったかのようにただ淡々と話し続けるキュゥべえ。

 

「何でよ…?どうしてあたしたちをこんな目に…?」

 

さやかはキュゥべえを睨みながら顔を歪ます。

 

「どうして―――?」

 

キュゥべえはいつもの調子で答えた。

 

「戦いの運命を受け入れてまで叶えたい願いがあったんだろう?それは明らかに叶ったじゃないか」

 

その後、重苦しい空気にまま自然とバラバラに解散していった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「キュゥべえ……友達だと思ってたのに……」

 

天馬は哀しげに空虚な空を見上げる。昨夜マミの家に帰ってからもマミは葵たちが作った夕飯にも手をつけず部屋に引きこもり、今日もいつも起きてくる時間になっても出てこなかった。誰よりも長く自分の側にいた存在に裏切られた心の傷は天馬たちの想像以上に深かったようだ。

 

「やっぱりマミさん、ショックだろうな……まどかさんやさやかさんたち……大丈夫かな…」

 

 

 

 

 

~~同時刻・さやかの家~~

 

 

 

「これが…あたしの本体…」

 

夕べの事で一睡もできなかったさやか。今はベッドの上で布団にくるまり、その中で淡く輝く青いソウルジェムを見つめていた。

 

「こんな体にされて………あたし、恭介にどんな顔で会えばいいの…」

 

さやかもまたマミ同様、一人で塞ぎこんでいた。

 

(いつまでもウジウジしてんじゃねーよ、ボンクラ)

 

「!」

 

突如頭の中に声が響き、さやかはベッドから飛び上がる。そしておもむろに窓のカーテンを開けると、外の通りで紙袋に入ったリンゴの一つをかじっていた杏子がいた。

 

(ちょっと話がある。ついてきな)

 

「………」

 

 

 

 

~~廃教会~~

 

 

 

さやかが連れてこられたのは杏子と剣城が出会った教会だった。橙色の朝焼けが壊れた壁や割れたステンドグラスの隙間からこぼれ出ていた。二人が外れた扉から教会の中心まで入ると杏子は持っていた紙袋からリンゴを取り出す。

 

「食うかい?」

 

それをさやかに手渡す。しかしさやかは受け取りはしたものの口に運ばず、

 

「…いらない」

 

そう言って投げ捨てる。その直後、杏子は紙袋を置いてさやかの胸倉を両手でつかみあげる。

 

「ぐっ…!」

 

「食い物を粗末にすんじゃねぇ…!殺すぞ…!」

 

杏子は睨みを利かせながらただならぬ殺気を放つ。やがてさやかが苦しそうにしているのを見るとその両手を放して解放する。

 

「ゲホッ、ゲホ…」

 

杏子は両膝を地面に着けながら咳き込むさやかをよそに投げ捨てられたリンゴを拾って階段上のボロボロの教壇まで足を運ぶ。すると杏子は語りだした。

 

「ここは―――あたしの親父の教会だった」

 

「え…?」

 

「あたしの親父はこの教会の神父をしていた。馬鹿みたいに正直すぎて優しすぎる人でさ。新聞の記事を見るたびにどうして世の中は良くならないのかっていつも涙を流していたよ。真剣に考えすぎて、ある日時代を救うには新しい信仰が必要だって言いだしたんだよ。だけどさ、それがいきすぎて教義に無い事まで説教するようになったんだ。それが原因で本部から破門され、信者も寄り付かなくなった。」

 

杏子はここで一息入れ、憂い募らせるように俯く。

 

「当然さ、傍から見たらただの胡散臭い新興宗教だもの。当たり前の事を言ってても、世間からしたら鼻つまみ者さ。あたしたち家族は信者たちからの少ないお布施でなんとか生活できていた。それが途絶えてあたし達は食うモノにも困っていた。あたしは悔しかった。父さんは何も間違ったことを言ってないのに誰も聞き入れてくれないのが。だからあたしはキュゥべえに願ったんだよ。『みんなが父さんの話を聞いてくれますように』って」

 

「!」

 

その瞬間さやかは理解した。彼女も自分と同じ『誰かのために願いを叶えた』魔法少女だと。しかし、話の中の杏子と今の杏子の人物像が明らかに違っていた為、もう少し耳を傾けることにした。

 

「願った翌朝、父さんの説法を聞かせて欲しいと数多くの人たちがウソのように集まった。父さんもやっと自分の思いが通じたって大喜びしたよ。そのおかげでお布施が増えて生活も楽になった。そしてあたしは晴れて魔法少女の仲間入りさ。いくら父さんが説教しても、人々を脅かす魔女はいなくならないからな。あたしは意気込んでいたよ。父さんとあたしで表と裏から人々を救うんだって」

 

「じゃあ、マミさんと出会ったのも…」

 

「ああ、ちょうどその頃だ。正義の魔法少女としてやっていたマミと一緒に魔女退治を始めたのは。二人で魔女や使い魔から人々を守るって張り切っていたんだ」

 

寂しそうに語る杏子の姿を見て、さやかはその当時の杏子とマミが楽しそうに笑いあう姿を想像する。想像の中の二人は本当に信頼し合っているように幸せそうな笑顔だった。そんなイメージを浮かばせることができたのは今の自分が当時の杏子と同じ状態であったからかもしれないとも思った。しかし、今の寂しそうな杏子の姿がさやかを今の現実に戻す。

 

「だが、今にしてみれば浮かれていただけだったけどな」

 

「……え?」

 

「ある日、親父にカラクリがばれた。ここで魔女が現れたんだよ」

 

「…!」

 

「魔女を退治していたところを見られたんだ。あたしは隠してても仕方ないと思って全部打ち明けた。親父ならわかってくれると信じてな」

 

「………」

 

「だが…親父はブチ切れたよ。信者たちは心から親父の話を聞きたがっていたんじゃなく、あたしの魔法で聞いていただけだったことに絶望しあたしを悪魔と契約を交わした、人を惑わす魔女だって罵った。笑えるよな、こっちは毎晩本物の魔女と戦っていたって言うのに。まあ、今となってはキュゥべえは悪魔みてぇなもんだったけどな。それから親父は説法することもやめて酒浸りになっちまった。その果てには教会に火を放って一家心中さ。あたしを残してね」

 

「………」

 

杏子の話を聞き終えたさやかはなんとも言えない気持ちになっていた。自分が嫌っていた魔法少女にそんな悲しい過去があったなど想像もしていなかったのだった。

 

「あたしの祈りが、家族を壊しちまったんだ。この教会の様に。」

 

さやかは改めて教会を見渡す。今にして思えば、あちこちの焼け跡や壁のひび割れは杏子の凄惨な痛々しい過去の傷痕だった。ひととおり見渡すとさやかは何気なく聞く。

 

「……家族が死んだ後、マミさんに相談しなかったの?同じ家族を亡くしてたマミさんに…」

 

「…はあ?何言ってんだよ!家族を亡くしたつっても、事故で失うのと、自分のせいで死なせるんじゃ全然違うだろが!」

 

杏子は逆鱗に触れられたように怒鳴りつけ、さやかはビクッと体を震わせて黙ってしまう。

 

「………」

 

しかし直ぐに杏子も自分を落ち着かせるように深呼吸をする。

 

「……わりぃ。取り乱した…マミも同じことを言いやがったから…」

 

「ううん…あたしも余計な事を言ったから…」

 

二人が落ち着きを取り戻した頃、杏子は後ろを向いて紙袋から新しいリンゴを取り出す。

 

「そう…あたしのせいで親父が絶望し、家族もみんな死んじまった。他人の都合を知りもせず、勝手な願い事をしたせいで、結局、誰もが不幸になった」

 

杏子は物悲しそうにリンゴを見つめる。

 

「その時、心に強く誓ったんだよ。もう二度と、他人の為に魔法を使ったりしない。この力は自分の為に使い切る、って。奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」

 

杏子は皮肉るように笑う。

 

「だからあたしはこんな体にされたってわかったところでそれはもう大したことじゃないんだ。くだらないことに大事な願いを使った自業自得の人生だと思ってるからさ」

 

「自業自得の人生……」

 

「そ、だからあんたも魔法少女になったからには開き直って好き勝手やればいいのさ。自業自得の人生を」

 

「………」

 

杏子の言葉に少しだけ考え込むさやか。しかし彼女には一つだけわからないことがあった。

 

「自分の事だけ考えているあんたが、どうしてあたしにそんな話を?」

 

「あんたはあたしと同じ間違いから始まった。これ以上後悔する生き方をするべきじゃない。対価としては高すぎるモンを支払っちまってるんだ。これからは釣銭を取り戻すことを考えなよ。」

 

「あんたみたいに…?」

 

「そうさ、あたしはもうわきまえてるけど、あたしは今も間違え続けてる。見てられないんだよ…そいつが」

 

さやかはようやくわかった。彼女がここに連れてきたのは魔法少女としての始まりが同じだった自分を励ますためだった。あんなに悪ぶっていたのも、過去に負った心の溝を埋めるための行動だった。彼女も本当は誰かの事を放っておけない深い優しさを持つ少女だったのだ。

 

「あんたの事、誤解してた。それはゴメン、謝るよ」

 

さやかの謝罪に杏子は一瞬自分の考えを理解してくれたのかと思った。

 

「でもね、あたしは人のために祈ったことを後悔してない。その気持ちを嘘にしないために後悔しないって決めたの。これからも…」

 

さやかはまっすぐな瞳でそう宣言した。

 

「なんであんたは…」

 

「あたしは高すぎるモノを支払ったと思ってない。この力は使い方次第でいくらでも素晴らしい物にできるはずだから。マミさんみたいに大勢の人を救えるようにね」

 

「…!」

 

さやかの固い意志に杏子は顔を歪ませ、その赤い髪を教会の隙間から吹いた風がなびかせる。

 

「それからさあ、あんた。そのリンゴはどうやって手に入れたの?お金はどうしたの?」

 

「こ、これは盗んだものじゃねえよ!あいつが買ってくれたもんだ!」

 

杏子は一度手に持ったリンゴを見てから反論した。

 

「あいつって剣城のこと?知ってた?そのお金、マミさんが剣城に渡してくれた分も入ってるんだよ」

 

「!?」

 

「その様子だと知らなかったみたいだね。やっぱり昔の弟子は放っておけないみたい。あたしはそんな優しくて素敵なマミさんみたいになるって決めてるから」

 

「…!~~っ!」

 

さやかはそう言うと出口に向かって歩き出し、杏子はさやかの頑固さに唇を噛む。

 

「バカヤロウ!あたしたちは魔法少女なんだぞ!他に同類なんていないんだぞ!」

 

自分の思いが伝わらず、激情にまかせて咎めるように叫ぶ杏子。

 

「あたしはあたしのやり方で戦い続ける。それが気に食わないって言うならまた殺しにきても構わない。あたしは負けないし、恨んだりもしない」

 

「~っ!」

 

さやかは振り返る事もなく教会を出ていってしまった。杏子は悔しそうに手に持ったリンゴを強く握りしめる。しかし食べ物を粗末にしない彼女はそれを地面に叩き付けることもなく、さやかの姿が見えなくなるまでやけ食いするようにリンゴを貪った。

 

 

 

 

 

「………」

 

仲違いしたまま別れた二人は教会の外側の壁に寄りかかって話を聞いていた剣城の存在に気付くことはなかった。

 

(彼女の決意は固そうに見える…だがあれは意地を張って一人で突っ走ってるだけだ。もしあの決意が揺らぐようなことがあれば……)

 

剣城は脆く崩れやすいさやかの意志の本質を見抜き、危惧する。

 

(それにしても……あのとき感じた雰囲気から何かあると思っていたが…)

 

剣城は悔しそうにリンゴをかじる杏子を一度見てから視線を空に向ける。

 

(やはり、彼女は……俺と―――)

 

剣城は目を細めながら静かな空を見上げる。その瞳は何かを憂いているようだった。

 

 

 

 

~~朝・見滝原中学~~

 

 

(ソウルジェムの秘密が知られてしまった……これでは美樹さやかがこれまでの様になってしまうのは時間の問題ね……今回はあのイレギュラー達のおかげで生き延びた巴マミもこの現実に耐えられるかどうか……)

 

見滝原中学の廊下で一人何かを考えていたほむら。

 

「ほむらちゃん……」

 

ふと後ろに振り返ると見知った人物が立っていた。

 

 

「まどか……」

 

 

 

 

 

~~放課後・河川敷~~

 

 

 

「いくよ!信助!」

 

「うん!」

 

雷門一同は今日も河川敷で練習していた。

 

「………」

 

私服のマミが河川敷の端に設置されたベンチに座りながら練習を見ていた。彼女は昨日のショックが抜けず今日は学校を休み、引き籠っていた。今は葵たちに誘われて午後から天馬たちの練習を見ていたのだった。

 

「マミさん……やっぱり元気ありませんね…」

 

「気晴らしになるかと思って連れ出したんだが、あんまり効果は無かったか………」

 

葵はマミを心配し、水鳥は失敗したかと頭を掻く。

 

「神童先輩、いきますよ!それっ!」

 

パスッ

 

「あっ」

 

神童が天馬からのパスをトラップミスする。神童も朝から調子が悪く、このような基本的なミスが目立っていた。

 

「神サマもいつもの調子じゃない………」

 

茜が心配している中、トラップし損ねたボールはマミの足元に転がる。

 

「すいませ~ん」

 

「はい」

 

「ありがとうございます」

 

ボールを信助に手渡すマミ。しかしその表情にはいつもの柔らかな微笑みは無かった。

 

「「………」」

 

ソウルジェムの事で深く落ち込むマミに信助も顔を曇らせる。

 

「あの、マミさん………」

 

「信助くん、心配してくれる気持ちは嬉しいわ。でも…今の私はこんなに小さなものなの」

 

指輪形態のソウルジェムに触れるマミ。

 

「信助くん…私ね。自分の命を救ってくれたキュゥべえに心から感謝していたの。でも、あの子がしてくれたのは私をこんな人間まがいの身体にしただけだった…」

 

マミの脳裏に事故の記憶が蘇る。あの時は願い事を考える余裕もなく、自分の命を助ける事しか頭になかった。しかし、どんな願いを叶えようと待っていた結果は変わらなかった。

 

「私、わからなくなったの……あの時自分だけが助かって良かったのか…あの時お父さんたちと一緒に死んでいれば良かったかなって。そうすれば、たった一人で戦い続けることも、こんな裏切られる悲しみを味わう事も無かったかもしれないって」

 

「マ、マミさん…」

 

「こんな………人間じゃなくなって、私が生きたいって願ったのは何だったのかしら……それともこれは私が自分一人だけ助かった罰なのかも…」

 

「そんな……っ!」

 

マミの手に雫が落ちる。信助が顔を上げるとマミの目からそれまで堪えていた涙があふれて出ていた。

 

「私が魔法少女になった事に…意味なんて無かったのかな……今の私が生きている事に意味なんてないのかもしれない……ううっ…うっ…」

 

マミは震える声で嘆いていた。その様子にマネージャーたちも悲しげな表情を浮かべ、信助と神童も顔を俯かせていた。

 

「………」

 

しかし天馬だけは何かを決したように拳を強く握る。

 

 

 

 

「マミさん……」

 

いつの間にか河川敷の上の道路に来ていたまどかもマミに同情していた。

 

 

 

 

「あるじゃないですか、意味なら」

 

「…?」

 

マミは目に涙を溜めて顔を上げる。信助も後ろを振り向くと天馬がこちらに歩み寄っていた。

 

「天馬くん…?」

 

「確かに魂がソウルジェムにされるなんて俺でもショックですよ。でも俺はマミさんが魔法少女になった事が……生きる事を願ったことが全て間違いだなんて思いません」

 

「ど、どうして…?」

 

「だってマミさんが魔法少女だったからこそ俺たちはこうして出会えたんですよ!」

 

「…!」

 

「ただ出会えただけじゃない!魔法少女だったマミさんが俺やまどかさんたちを助けてくれたから、信助たちともまた会えたし、俺たちはこうして友達になれたんじゃないですか!」

 

「!!!」

 

そう、天馬があのショッピングモールでまどかやさやかと共に魔女の結界に取り込まれた時、天馬は化身を出すことが出来ず、マギカボールの使い方も知らなかった。もしあの時マミが助けていなければ三人は命を落としていただろう。

 

「友達…」

 

「俺は何もわからない世界に来て戸惑ったけど、この世界に来て良かったと思ってます!だってマミさんたちと出会えて友達になれたんだから!それでも魔法少女になったことが全部間違いだと言うなら、マミさんは俺たちやまどかさんたちと出会った事を後悔しているんですか?」

 

「!そ、それは…」

 

天馬の質問にマミは否定することは出来なかった。彼らと出会い、共に戦う仲間が出来たことに確かに喜んでいた自分がいたから。

 

「俺たちだけじゃない!これまでマミさんが魔法少女になって魔女を退治してたからこそ、多くの人たちの命が助かったんですよ!それはこれからも変わらないじゃないですか!」

 

「!」

 

「それにマミさんは自分が人間じゃないって言いますけど、本当に人間じゃないなら俺たちと同じ、泣いたり笑いあう事だって出来ないはずですよ!それだって魂がソウルジェムでも俺たちと変わりなかったじゃないですか!」

 

「「!!!」」

 

天馬の言葉に目を見開くマミとまどか。

 

「魂がソウルジェムでも、変わらない………」

 

「そうですよ!そんな風に悩んだり苦しんだりすることも感情がある人間の証です!あなただけじゃない、ほむらさんもさやかさんも杏子さんも、魔法少女はみんな俺たちと同じ、生きてる人間だって誰がなんと言おうと何度だってそう言います!」

 

天馬はありったけの自分の正直な気持ちをぶちまけた。

 

「天馬…」

 

マミに同情して悲しげな顔をしていた神童たちも仲間を元気づけようとするいつもの天馬の姿に徐々に表情に明るさを取り戻していった。

 

「天馬くん…」

 

「そうですよマミさん!」

 

マミが信助に顔を向けると信助が突然マミのソウルジェムが付いた彼女の手を両手でぎゅっと強く握った。

 

「し、信助くん!?」

 

「だってマミさんの手、こんなに暖かいじゃないですか!」

 

「!」

 

「こんなに暖かくて、僕たちにいつもおいしいご飯やお菓子を作ってくれるマミさんが……いつも僕たちにやさしく微笑んでくれるマミさんが人間じゃないなんて………そんなの僕は絶対認めない!!!」

 

信助は自分の思いの丈を出し切るように精一杯叫ぶ。

 

「信助くん………」

 

「俺も信助と同じです」

 

「天馬くん…」

 

「マミさんがどんなだろうと、マミさんはマミさんです!正義の魔法少女で、まどかさんたちの先輩で、俺たちと同じ人間で、俺たちの仲間であるマミさんです!」

 

「…!」

 

天馬が言い切ると同時に神童や葵たちも微笑みながらマミの側に集まる。自分たちも天馬と同意見だと証明するために集まったようだった。

 

「天馬の言うとおりですよ、マミさん!」

 

「そういうこった!だから元気出しな!あんたがどんなだろうが、あたしたちは仲間だろ!」

 

「み、みんな………!」

 

天馬たちの、いつも自分が彼らに見せているような柔らかな微笑みに包まれるマミ。するとマミは顔を俯かせる。

 

「やっぱり…ダメだなぁ……私…」

 

マミは大粒の涙を流しながら震える声で呟いた。

 

「先輩として、年長者としてしっかりしなきゃいけないのに……皆に支えられてばかり……でも…」

 

マミは顔を上げて一同に顔を見せる。しかしマミが見せたその顔は、

 

「ありがとう……みんな…!」

 

嬉し涙の笑顔だった。もうその顔は絶望に染まってはいなかった。立ち直ったマミに天馬たちも自然と笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

「良かった………マミさん…」

 

一部始終を見ていたまどかも天馬たちの笑顔がうつったように安心しきった笑顔をする。

 

「あれ?まどかじゃねぇか!そんなとこで何やってんだ?早くこっち来いよ!」

 

「あっ、うん。今行くね!」

 

自分に気づいた水鳥に誘われ、河川敷を下りていくまどか。

 

(さっきの天馬くん……カッコ良かったな……天馬くんが雷門のキャプテンになった理由がわかった気がする…)

 

そんなことを思いながら天馬に視線を向けるまどか。

 

(天馬くんって、やっぱりすごいな…///)

 

まどかは頬を少し赤く染めながら河川敷に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(天馬、やはりお前にキャプテンの座を託して正解だった)

 

まどかが笑顔でマミと話し出す中、神童は自分の判断が正しかったことを再確認する。

 

(お前の言葉が、いつも皆を元気づける……そのおかげで俺たちは強くなれたんだ。他ならぬお前と一緒に…)

 

マミやまどかと楽しそうに話し合う天馬を見てそう思った神童。

 

(お前なら、どんな絶望だって乗り越えられると信じてる………だが…)

 

ここで神童は何故か顔を曇らせる。

 

 

 

 

 

(さやかさんの事を思うと………胸がざわつく…)

 

神童は再びあの虫の知らせを感じていた。そのざわつきは今までで一番強く感じ、その顔から一筋の汗が流れる。

 

 

 

(何だ…!?……この重苦しく渦巻いてる感覚は…!?今までに無いくらい、嫌な予感は…!………!?)

 

その時、無意識で現れたのか神童の脳裏にあるイメージが浮かぶ。それはさやかがこちらに後ろ姿を向けながら歩いていると、彼女の前から闇が広がるように現れ、彼女を飲み込むイメージだった。あまりにも深く激しいビジョンと心のよどみに神童は緊迫する。

 

(……まるでさやかさんが深い闇に飲み込まれるような……そんな気がする…)

 

神童の心の内に広がる危険信号は笑いあう仲間たちの中にいても強く響き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私たち、お買いものに行ってきますね」

 

「ええ。よろしくお願いするわ」

 

数分後、葵たちマネージャーはマミの代わりに夕飯の買い出しに行くことを買って出たのだった。

 

「マミさん、元気になって良かったです!」

 

信助はマミに笑いかける。

 

「ええ。心配をかけたわね」

 

「えへへ」

 

マミはいつもの頼りがいのあるマミに戻っていた。

 

「じゃあ神童くん。例の特訓、始めるわよ」

 

「はい!」

 

葵達が夕飯の買い出しに出かけたのは元気を取り戻したマミがこれからの戦いに向けて神童にある特別レッスンをするためであった。

 

「あの…マミさん」

 

始めようとしたときにまどかが話しかける。

 

「ん?何かしら?」

 

「さっきの杏子ちゃんの話……」

 

「………」

 

あの後、元気を取り戻したマミは天馬たちに聞かれこの前の杏子の過去の話の続きを聞かせた。杏子の哀しく暗い過去に一同も悲しげな顔を浮かばせる。

 

「あの人も、そんな辛い過去があったんですね…」

 

信助も杏子はただ自分勝手な魔法少女という認識を改め、反省する。

 

「ええ。でも、あなたたちなら彼女も変えられると思うの…」

 

「はい。それに今は剣城が側についています。あいつと一緒なら大丈夫だと思います。剣城が杏子さんの側についた理由も今ならわかります。……なんとなく感じ取ったんでしょうね……」

 

「…?どういうこと?天馬くん?」

 

「ええ、それは…」

 

 

 

「こんなところで特訓か?」

 

「「!」」

 

 

 

~~そのころ・街中~~

 

 

 

 

「さっきの天馬くん、カッコ良かった」

 

「ああ!さすがはキャプテンってとこだな!」

 

「天馬って普段は頼りないところありますけど、どんどんキャプテンとして成長してますよね」

 

「あいつの言葉はいつも心に響くからな」

 

「早くさやかさんにもこの事を伝えてあげたいですね……ん?」

 

葵がふと横を見るといつもまどか達が利用しているファーストフード店に入っていくさやかと仁美の姿があった。

 

「さやかちゃんと、仁美ちゃん……」

 

「噂をすればって奴か……でもあいつら二人だけか?なんか仁美の方は真剣な顔してるぞ?」

 

「……ちょっと行ってみませんか?」

 

 

 

 

~~店内~~

 

 

 

「仁美さんたち、一体何を…」

 

葵はとりあえず近づいて声を掛けようとする。

 

「待て。なんか様子が変だぞ」

 

水鳥が腕を伸ばして葵を制す。そして三人はさやかたちの声が聞こえてなおかつ二人から見えない位置に当たる座席に座って聞き耳を立てる。

 

 

 

「……話って何?」

 

仁美と向き合う形で座席に座っているさやかがそう聞くと、仁美はアイスティーを一口飲んでからまっすぐにさやかを見据えて言った。

 

「恋の相談ですわ」

 

仁美のその言葉にさやかも葵たちも息を飲む。

 

「実は私、さやかさんたちに秘密にしてたことがあるんです」

 

そして仁美は一度息を吸ってから一言で言いきった。

 

 

 

「ずっと前から―――私、上条くんのことをお慕いしていましたの」

 

 

 

その時、一瞬だけさやかたちの思考が制止した。

 

「………へ、へぇ~…そうだったんだ……仁美が恭介をねぇ………」

 

さやかはあくまで平静を装うとしていたが明らかに動揺していた。その一方で仁美は緊張気味で聞いてくる。

 

「さやかさんは、上条くんとは幼馴染でしたわね」

 

「あ………うん、そう――まあ、腐れ縁ていうか、なんていうか」

 

「本当に、それだけ?」

 

「………」

 

「私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって」

 

仁美はまっすぐにさやかを見つめる。

 

「あなたはどうですか?さやかさん、あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」

 

「仁美………」

 

仁美のまっすぐな眼にさやかは言葉を詰まらす。しかし、仁美はさやかに対しハッキリと宣言した。

 

「私、明日の放課後、上条くんに告白します」

 

「「「!!」」」

 

「丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは、後悔なさらないように決めてください。上条くんに―――気持ちを伝えるべきかどうか」

 

仁美はそう言うと飲み干した自分のアイスティーの紙コップを持って立ち上がり、それをダストボックスに入れて店を出ていった。葵たちは仁美に見つからないように顔を伏せて仁美が出ていくのを確認するとさやかを見る。

 

「………」

 

一人残されたさやかはまだ先ほどまでの出来事を受け止められずに呆然としていた。仁美のその宣言は今のさやかが聞くにはあまりにもタイミングが悪すぎた。完全に遅れを取ってしまった葵たちは悔やむと同時に今の出来事が神の悪戯(いたずら)か、悪魔の仕業に思えた。

 




………ああ、雪かきやだなぁ…。

感想お待ちしております。


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第8話『悲劇の人魚姫』 Bパート

お待たせしました。更新再開します。

今回の後半は思ったより長くなってしまい、時間がかかってしまいました。
申し訳ありません。

絶望の序曲の後半、どうぞ。


~~河川敷~~

 

 

「佐倉さん…」

 

「……よう」

 

河川敷に姿を現したのは剣城を連れた杏子だった。

 

「…どうしてここに?」

 

「別に…こいつを連れて魔女探ししていただけだよ」

 

仏頂面で剣城を親指で指す杏子。

 

「それならわざわざこっちに来なくてもよかったと思うけど?」

 

「あ、えと、その…」

 

マミに指摘された杏子は言葉を詰まらす。

 

「………なんとなくだ」

 

「…?もしかしてマミさんを心配して来てくれたんじゃ…」

 

「なっ!///」

 

まどかに不意を突かれた杏子は一気に顔が真っ赤になった。

 

「そういえば、真っ直ぐこっちに来てましたし、『マミの奴はどうしてんだろうな』と呟いてたような…」

 

「ふふっ、やっぱりね」

 

「そ、そんなんじゃねーよ!オメーも余計なこと言ってんじゃねーよ!///」

 

剣城とマミに図星を突かれ、まるで駄々をこねる子供のように両手を上下に振りながら怒鳴り散らす杏子。そんな杏子の姿にマミは懐かしむように優しく微笑む。

 

「ふふ、安心したわ。やっぱりあなたのその優しさは変わってなかった。そんな風に誰かを思いやれる心は失くしてなかったのね」

 

「ふん!どいつもこいつもバカばっかで嫌でも目に入るからだよ」

 

「それって見ていたら放っておけないって事?」

 

「う、うるせぇな!相変わらずムカつくんだよあんたは!///」

 

杏子は顔を真っ赤にしたまま必死にマミへの心配を誤魔化そうとするがまどか達には必死に照れ隠しする彼女の姿がかわいく見えてしまう。一方で杏子はいつもの調子を取り戻そうと深呼吸をして大きく息を吐くと腰に両手を当ててマミに向きなおす。

 

「つーかマミ。あんた、ソウルジェムの事を知って落ち込んでるかと思ったがずいぶん余裕じゃねーか」

 

「……ええ。私一人だったらきっと今でも落ち込んでいたでしょうね。でも…」

 

マミは一度まばたきしてから天馬たちに顔を向ける。

 

「今は、一人じゃないから……私を人間だと言ってくれる仲間がいるから…もう大丈夫よ」

 

マミは天馬たちに片目でウインクすると天馬たちもマミの感謝の表しに嬉しくなった。

 

「へっ………あたしもそんな風にあいつを説得出来りゃ良かったのによ…」

 

「あいつ…?もしかして美樹さんの事?」

 

「ああ。あの馬鹿、人が魔法少女としての生き方を指南してやろうとしたのによ…」

 

「佐倉さん、あなたやっぱり魔法少女の始まりが自分と同じだったから…彼女の事を…」

 

「さあな………始まりも何もキュゥべえと契約した時点であたしたちは皆同じだろ。ソウルジェムの事はさすがのあたしも驚いたけどな…」

 

「………その事なんだけど…」

 

ここでまどかがためらいがちに口を開いた。

 

「まどかさん?」

 

天馬たちが注目する中でまどかは意を決して話した。

 

「ほむらちゃん、魔法少女の本体がソウルジェムだって事を知ってたみたいなの…」

 

「え?」

 

「暁美さんが?」

 

「うん…」

 

 

 

 

 

~~数時間前・見滝原中学~~

 

 

 

「ほむらちゃんは知ってたの……?ソウルジェムの事…」

 

「ええ……」

 

「…」

 

ほむらはただ冷たい瞳をまどかに向けながら淡と返す。

 

「どうして教えてくれなかったの?」

 

まどかはソウルジェムの事実を知っていながら自分達に黙っていた事を哀しくも酷いと思った。しかし、ほむらは無表情を崩さぬまま聞き返す。

 

「話したところであなたたちは信じたの?」

 

「…ッ!」

 

ほむらの切り返しにまどかは言葉を詰まらす。魂を取り出され人間まがいの身体にされるなど、昨夜の出来事でもなければ信じる者はそうはいない。そしてマミやさやかがこんな現実を受け止められるかどうか、まどかにもわからなかった。

 

「……キュゥべえはどうしてこんな酷い事をするの?」

 

「あいつは、酷いとさえ思っていない」

 

ほむらは感情を全く窺わせないように答える。

 

「あいつは人間の価値観が通じない生き物だから。何もかも奇跡を叶えた正当な対価だと言い張るだけなのよ」

 

「そんな……さやかちゃんは、ただ上条君の腕を治したかっただけなんだよ!なのにあんな体にされて…」

 

「奇跡だということに変わりはないわ。上条恭介の腕はね、本来は現代医学でも治せることは不可能なはずだったのよ。美樹さやかは自らの魂と引き換えに奇跡を起こしてその不可能を可能にした。本来奇跡というのは人の命でさえ贖えるものじゃないのよ。それを持ち歩いて売ってるのがあいつ」

 

「………」

 

その時まどかは昨夜のあの白い悪魔の怪しく光る赤い目を思い出して足元が無くなった感覚に襲われた。

 

「じゃあ……さやかちゃんは、もう元の生活には戻れないの?」

 

「前にも言ったはずよ。美樹さやかの事は諦めてって」

 

ほむらはその黒髪をなびかせながらまどかに背を向ける。ほむらがそう言いつつもまどかは諦めきれなかった。ただ純粋に想い人の為に願った親友の事を諦めることなど彼女にはできなかった。

 

「さやかちゃんは魔女に襲われたわたしや仁美ちゃんを助けてくれたんだよ。魔法少女になったさやかちゃんがあの時助けてくれなかったらわたし達は今ここにいなかった。だったら今度はわたしがさやかちゃんの為に…」

 

まどかは自分達を救ってくれたさやかの為に力になろうと必死になる。

 

「感謝と責任を混合しては、ダメよ」

 

しかし、その想いを真っ向から否定するように冷たく言い放つほむら。

 

「あなたには彼女を救う手立てなんてない。引け目を感じたくないからって、借りを返そうだなんて出過ぎた考えは捨てなさい」

 

「そんな……」

 

「誰も彼女の問題を解決することはできないわ。あなたも巴マミも、ましてや、あのイレギュラー達にもね」

 

「どうして…」

 

「…?」

 

「どうしてほむらちゃんは、いつも冷たいの?」

 

「………」

 

まどかはほむらの言葉を頭では理解しつつも彼女の冷酷ともいれる態度を哀しく思い、そう言ってしまった。

 

「………そうね。それはきっと……」

 

ほむらは少し黙ると哀しそうな瞳をしながら自分の中指のソウルジェムに触れる。

 

「―――もう人間じゃないから、かもしれないわね」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「ほむらさんがそんなことを………」

 

「うん…」

 

まどかの話を聞いて神童は顎に手をそえて考える。

 

「…確かに彼女のその考えと俺たちに真実を話さなかった判断は正しいかもしれない……だが…」

 

「何なんでしょう……このやりきれない気持ちは…」

 

葵はほむらの考えは理解できたがすべては納得できず、表情を曇らす。

 

「……でも俺、どうしてもほむらさんが心から冷たい人だと思えないんです」

 

「?どういうことだ、天馬」

 

「ええ、実は…」

 

まどかの話を聞いた天馬は以前この河川敷でほむらと二人きりで話した時のことを語り出す。その時の彼女もただ冷たく淡々と答えたが、最後の『自分に嘘をついている』という指摘にだけは動揺していた。

 

「その時のほむらさん、なんだか苦しそうでした…。たった一人で悩んでいるのに誰にも打ち明けられなくて……その時のほむらさんはまどかさんたちと同じ普通の女の子に見えたんです」

 

「ほむらちゃんが……」

 

「あいつもなんだかんだいってキュゥべえの被害者の一人だからな。まあ、あいつが何を願ったかは知らないがな」

 

「きっと彼女もソウルジェムの事で相当苦しんだんでしょうね…」

 

杏子に同意するように自分のソウルジェムを掲げるマミ。

 

「あれ?マミさん、ソウルジェムが少し濁ってますよ」

 

信助がソウルジェムを注視して気が付く。

 

「あら本当だわ。おかしいわね……さっき確認した時は確かに濁ってなかったのに」

 

「その後に魔法を使ったからじゃねーの?」

 

杏子は後頭部で両手の指を組みながら聞く。

 

「いいえ。その後魔法は一度も使ってないはずよ。とにかく浄化した方がいいわね」

 

あらかじめ用意していたグリーフシードでソウルジェムを浄化するマミ。

 

「………」

 

剣城は浄化されていくソウルジェムとその穢れを吸収するグリーフシードを何故かじっと見つめていた。その瞳は何かを推測しているようだった。

 

「それにしてもキュゥべえの野郎ムカつくったらありゃしねえ!あたしたちを舐めやがって!」

 

杏子は拳を自分の手のひらに打ち付ける。

 

「……キュゥべえにとって俺達は友達じゃなかったのかな…」

 

「天馬…」

 

気落ちする天馬を心配する信助。

 

「俺、前にキュゥべえとこんなことを話したことがあるんだ…」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「はっ、はっ」

 

「やあ、天馬」

 

「あっ、キュゥべえ!」

 

数日前、天馬が公園の中を走っているときに電灯の上からキュゥべえが話しかけてきた。

 

「ランニングかい?」

 

「うん、日課にしてるからね。キュゥべえこそこんな所で何してるの?」

 

「僕はどこかでグリーフシードが孵って魔女が現れていないか見回ってるんだ」

 

「そっか。いざ魔女が現れて街の人たちが襲われたら大変だからね。魔女が現れそうだったらすぐ俺たちに知らせて。マミさんたちが学校に行ってる間は俺たちが何とかするから」

 

「ありがとう、天馬。すごく頼もしくて、テレビでやっているヒーローみたいだよ」

 

「えへへ……そういえばキュゥべえ。今思ったんだけど、どうしてキュゥべえはあの怪物たちの事を魔女って呼ぶの?」

 

「…ああ。あれらは、そう呼ぶのが一番ふさわしいからさ」

 

「…?」

 

「それはともかく、魔女を放っておくことはできないのは確かだよ。危険な魔女を退治するのが魔法少女の仕事だ。でも君たちが戦ってくれればマミたちも助かるだろうし、僕としてもありがたいよ」

 

「うん!俺、もっと特訓して俺たちのサッカーが魔女退治に活かせるよう頑張るからキュゥべえも期待してて!」

 

「ああ、頼りにしてるよ」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「俺、キュゥべえの事を友達だと思ってたのに………」

 

今となってはその時のキュゥべえの親しげな姿は嘘だったのかと先ほどまでのマミと同じようにへこむ天馬。

 

「天馬。お前が落ち込む気持ちはわかるがアイツは魔法少女と契約をする際、どうなるのかちゃんと全て話さなかった。俺たちや魔法少女たちを騙していたことに変わりは無い」

 

「剣城……」

 

前からキュゥべえを信用していなかった剣城は今の現状を冷静に受け入れ天馬に対処する。

 

「これからはアイツの事は信用しない方がいい。それからまどかさん。わかっていると思いますがどんなことがあっても絶対に魔法少女の契約をしないでください。キュゥべえは前からあなたを魔法少女にしたがっていた……そこに何か狙いがあるのかもしれません…」

 

「わたしが魔法少女になることがキュゥべえの狙い…?」

 

「どういうこと?剣城」

 

「もしかしたらキュゥべえはまだ俺たちに隠していることが有るのかもしれない…。それが何かわからない以上、皆も絶対にアイツに気を許してはならない」

 

「「「………」」」

 

剣城の意見は天馬やマミにとってはあまり同意しかねないものだったがキュゥべえが明らかに騙していたこともあり、とりあえず他のメンバーと同様、肝に銘ずることにした。

 

(そうだ………アイツは、一体どうゆう(・・・・)つもりなんだ…?)

 

一同に宣言した剣城は表情を変えないまま誰にもわからないように小さく俯きながら胸の中でそう呟いていた。

 

 

 

 

 

~~~夜・さやかの家の前~~~

 

 

 

「………」

 

さやかは魔女退治と街のパトロールをするために自宅のマンションのロビーを出て外に出た。

 

「さやかちゃん」

 

「…!まどか…」

 

そこでは彼女の一番の親友が三人のマネージャー達と共に待っていた。

 

「どうしてここに…」

 

「ついていってもいいかな…」

 

「…!」

 

「わたし、さやかちゃんの側にいてあげたいの。何の役にも立たないけど、さやかちゃんがほっとけないから…」

 

「まどか…」

 

「さやかさん」

 

まどかに気を取られていたさやかは不意に名前を呼んだ葵に顔を向ける。

 

「あんたたちも…?」

 

「はい。私たちにとっても、さやかさんは大切なお友達ですから」

 

「な~に、いざとなったらあんたたちが指輪の力でまどかを守るからよ」

 

水鳥はニカッと頼りがいのある笑顔でそう言った。

 

「…みんな、なんでそんなに優しいのかな……あたし、もう死んじゃってるのに…」

 

さやかは自虐するように呟く。

 

「そんな……さやかさんは死んでなんかいません!天馬が言ってましたよ!魔法少女は私たちと同じ、感情を持った生きてる人間だって、私たちだってそう思ってます!さやかさんだって間違いなく人間ですし、マミさんと同じ正義の魔法少女じゃないですか!」

 

葵は天馬の言葉を借りながら必死にさやかを説得しようとする。

 

「人間で正義の魔法少女、か……そう言ってくれるのは嬉しいけど……今のあたしにそんな事を言ってもらう資格なんてないんだよ…」

 

「え?」

 

「…今日、仁美に言われたの―――恭介が好きだって」

 

「「!」」

 

沈んだ目をしたさやかの言葉に衝撃が走り、言葉を失うまどか。一方でその現場を目撃していた葵たちはその時の口をポカンと開けて人形のように固まったさやかの姿を思い出す。

 

「それで明日……恭介に告白するって言われたの……今日一日だけあたしに時間をあげるって言われたけど……告白なんて、できるわけないよ…」

 

「な、なんで…」

 

「いくら皆があたしを人間だって言っても…あたしはソウルジェムを失くしたらおしまいなんだよ?こんな小さな指輪を失くしたらただの死体になっちゃうんだよ…」

 

「さ、さやかさん……」

 

「あたしが死んでることに変わりはないんだよ…そんなあたしが人間だって呼ばれる資格なんてないんだよ………」

 

暗い夜の中でさやかのソウルジェムに一滴の涙が落ちた。さやかは恐れていたのだ。恭介に自分の身体が普通の人間とは違っていることを知られたら、恭介が受け入れてくれるのかと。拒絶されるかもしれない。化け物と呼ばれるかもしれない。仲間達に受け入れられて立ち直ったマミとは違い、想い人に拒絶される恐怖がさやかの心を押しつぶしていた。

 

「あたし、仁美に宣言された時……後悔しそうになっちゃった」

 

さやかは今にも消えそうな声で呟いた。

 

「あの時仁美を助けなければって……ほんの一瞬だけ、思っちゃった……こんなあたし、正義の味方失格だよ………マミさんみたいになれるわけがない……」

 

さやかは体を震わせながら嗚咽交じりで嘆いていた。憧れの先輩のようになれない自分が、後悔しない決意がこんなにも脆かった自分が情けなくて仕方が無かった。その時のさやかは普段の元気で能天気な彼女ではなく、少しのショックで壊れてしまいそうな繊細なガラス細工のようだった。そんなさやかにまどかは自然と手が伸び、そのまま抱きしめていた。口下手なまどかは天馬のようにうまい言葉など掛けられなかったが、彼女の哀しみを少しでも和らぐようにとその背中をさすっていた。

 

「仁美に恭介を取られちゃうよ……」

 

「さやかちゃん……」

 

「あたし……なんにも出来ない……だってあたし、死んでるんだもん……ゾンビだもん……こんな体で抱きしめてなんて言えない……キスしてなんて言えないよぉ……」

 

さやかはまどかを抱きしめながら大粒の涙を流す。まどかはそのあまりにも惨めなさやかをただその哀しみを受け止めるように共に泣き続けていた。

 

「さやかさん……まどかさん………」

 

葵たちも二人のその痛々しい姿に胸が張り裂けそうだった。悲劇としか言いようがないこの現状に葵たちは哀しむと同時にどうにもできない自分たちが悔しくて仕方が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

―――その時、彼女たちの指輪が淡い光を放ち、ある事を起こしていた。しかしこの時は誰もその事に気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

~~工事現場~~

 

 

 

「珍しいわね。あなたが魔女を譲るなんて」

 

作業員が居なくなった夜の工事現場でほむらがそう言った。それは地面にできた魔女の結界の入り口を建設中の高台から見下ろしていた杏子に向けられていた。

 

「先に結界を見つけたのはあいつだ。だからこの結界のグリーフシードはあいつのもんだ。今回は使い魔じゃなく魔女の結界だから無駄な戦いじゃないしな」

 

そう言う杏子と同じように魔女の結界を見るほむら。そこからさやかの魔力が感じ取れた。どうやらさやか、まどか、マネージャーたちの五人が先にこの魔女結界を見つけ、杏子は彼女たちに手出しする事無くアイスキャンディーをくわえながら結界の入り口を通して彼女たちを見守っていたようだった。

 

「あなたがそんな理由でグリーフシードを譲るなんてね………ところで剣城京介の姿が見えないけど?」

 

「あいつなら念の為にって、中に入って行ったよ。一緒についている奴らを護衛するつもりらしいぜ?使い魔しか倒さないって言ったから別にいいやと思ってな」

 

杏子は以前自分が言っていた食物連鎖に他の者が割り込んでくることが気に入らなかった。剣城が魔女ではなく使い魔だけ狙うと言ったのはそんな彼女の気持ちを察してからだった。

 

「中に入らないから変だと思ってたらそういう事だったのね」

 

「!」

 

ここで二人の横からマミと天馬たちが到着した。

 

「巴マミ……」

 

ほむらはここにマミが現れるとは思ってなかったらしく彼女の登場に顔には出さなかったが驚いていた。

 

「佐倉さん、あなたやっぱり美樹さんの事も気にかけてくれてたのね」

 

「そ、そういう事じゃ…」

 

「フフフ、いいのよ。わかってるから」

 

「な、何がだよ!?///」

 

杏子をからかうマミの姿を見たほむらはポカンと口を開けていた。

 

「巴マミ、あなた…もう大丈夫なの?」

 

「あら、あなたも私を心配してくれるなんてね」

 

「っ!…それは…」

 

思いもよらぬマミの切り返しに動揺するほむら。

 

「大丈夫、ソウルジェムの事ならもう気にしてないわ。だって変わらないもの。私のやるべき事も、私自身の事も」

 

そう言って満面の笑みを見せるマミ。それは間違いなく普段まどか達に見せている頼りがいのある笑顔だった。

 

(巴マミがここまで立ち直ってるなんて………)

 

ほむらはマミがソウルジェムの真実を知ったのにいつもと同じく平然としている事に内心驚いていた。自分の知る巴マミはソウルジェムの秘密を知って立ち直れるような人物ではなかった。精神面が脆い彼女ならその真実を知ってしばらく塞ぎこんでいるだろうと思っていた。しかし、今自分の目の前にいる元気なマミの姿を目の当たりにし、ほむらは思い当たるようにマミの後ろを見る。

 

(まさか……また彼らが彼女を救ったというの……?)

 

ほむらは信じられないように天馬たちを見つめていた。彼女にここまで影響を与えた雷門の不思議な力にほむらは戸惑いを感じずにはいられなかった。

 

「マミさん、行きましょう!さやかさんや剣城の手助けに行かなきゃ!」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「まあ、待て。今回はお前らも手出しすんなよ。今回はお前らのお仲間もついてるしな」

 

中に入ろうとした天馬とマミを止めようする杏子。

 

―――しかしここで結界の入り口がグニャリと歪み、放っていた入り口の光が強くなった。

 

「……と思ったが前言撤回だ。あの馬鹿……てこずりやがって」

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「はああっ!」

 

その頃、結界の中ではさやかたちが苦戦していた。影の魔女、エルザマリア。彼女の結界の中は辺り一面がモノトーンな灰色の空間で結界内にいる自らも含めた全員の姿を影の様に真っ黒に塗りつぶしていた。それはまるで絵本にあるような影絵の世界をイメージしているようだった。

 

「デスソード!」

 

ヘビのような使い魔たちをさやかが長剣で切り伏せ、剣城がシュートで吹き飛ばす。しかし、予想もしない場所から次々と新たな使い魔が飛び出し、二人は影絵に塗りつぶされながらも苦悶の表情を浮かべる。

 

「頑張って……さやかちゃん…」

 

「剣城くん……」

 

そんな中でもまどかと葵たちはやはりバリアの中で二人を必死に応援することしかできなかった。

 

「くそっ!」

 

二人はまどかたちの前まで下がる。しかしこのままではキリがないと思ったのかさやかは奥にいる魔女の本体に向かって一気に駆け出す。すると多くの使い魔や魔女の本体から伸びた枝が飛び出し、さやかを包み込んだ。その直後、さやかは大きく剣を振り、使い魔や枝を吹き飛ばして再び魔女に接近する。しかしそれと同時に繰り出した攻撃が魔女に届く直前にさやかは魔女の無数の枝の影に飲みこまれた。

 

「ああっ!」

 

「さやかちゃん、危ない……!」

 

まどかたちが思わず叫んだ直後。

 

「たくっ………見てらんねえっつーの」

 

新たな一つの影が現れた。それは長いポニーテールを振りかざす杏子だった。彼女がその髪より長い槍をくるりと回転するとものの見事にさやかを包んでいた影を吹き飛ばした。

 

「杏子さん!」

 

「剣城!無事か!?」

 

「鹿目さん、美樹さん!」

 

そこへまどかたちの後ろから天馬たちとマミがやって来た。

 

「みんな!マミさんも…」

 

「俺たちは大丈夫だ。だが、彼女が……」

 

剣城が目線をさやかに向けると同時に天馬たちもさやかを見る。さやかの体には無数の傷が出来ており、そこからの大量の血が流れていた。

 

「さ、さやかさん!」

 

「待ってて美樹さん!今、手当てするから!」

 

神童が走り出したと同時に一同は駆け出し、マミも自身の魔法で治療するために走り出す。

 

「いいからもう、すっこんでなよ。手本をみせてやるからさ……」

 

そうさやかをかばうように魔女へ一歩踏み出した杏子に、

 

「邪魔しないでよ……」

 

さやかはゆらり、と立ち上がる。

 

「おい、お前――」

 

「一人で……やれるわ」

 

低い声で呟くと、さやかはふらつきながら剣を構え直し、魔女に向かって一気に駆け出す。

 

「さやかさん!」

 

神童の制止も聞かず、さやかは魔女に向かって突進する。すると再び魔女と使い魔の影が襲いかかり、さやかはそれらを剣で切り刻む。しかし、それと同時に影の攻撃によってのけぞったさやかの身体も傷ついていった。

 

「ああっ!」

 

「さやかちゃん!?」

 

まどかが思わず叫び、天馬たちも驚愕するが、さやかはすぐに踏みとどまって立ち止まる事もなく駆け出す。そして影が襲いかかるたびに自分の身体から血を噴き出させながら影を蹴散らしていった。だが、それは肉を斬らせて骨を絶つ、と呼ぶにはあまりにも無茶で無謀な戦い方だった。そもそも今のさやかは常人であれば立ち上がれないほどの傷を負っているはずなのになぜこんな無茶なやり方が出来るのか。

 

 

 

―――するとそこに、くすくすと誰かの笑い声が響く。

 

 

 

「はは……ホントだぁ………」

 

それはさやかの声だった。それは今まで聞いたことのない声色で、楽しそうに笑っているようだった。

 

「あはは……その気になれば痛みなんて………完全に消せちゃうんだぁ……」

 

「「「!?」」」

 

その寒気がしそうなさやかの声色が一同をぞっとさせる。それはまるでさやかとは思えず、一同は目を見開く。その見開いた目で見たさやかの姿はいつもの面影を残しておらず、魔女の放った枝によって体のあちこちを貫かれて血まみれになっており、その顔はまるで貼り付けたように乾いた笑顔だった。そんなさやかの凄惨な姿が恐ろしく感じた葵、茜は思わず手で口を押さえ、天馬たちもただ呆然として動くことが出来なかった。

 

「おい、お前…!?」

 

「まさか美樹さん、痛覚を消して……!?」

 

杏子とマミが息を呑んだ直後、さやかはゆらりと動きだして魔女に近づいていく。魔女はまるで怯えるように枝を伸ばしていくが、さやかもそれらを避けることもなく剣を振りかざし、血を噴き出しながら使い魔や枝を切り刻んでいった。そして使い魔が途絶え、さやかが魔女の前に立つと剣を振り上げる。魔女は命乞いするようにを枝を上げるが、

 

「―――っああ!!!」

 

ためらいなく魔女に向けて長剣を振り下ろした。

 

 

 

―――それからはまるで虐殺のようだった。魔女は必死に抵抗しようと枝を伸ばすが、さやかは上から何度も魔女を切り付け、その度に傷ついた身体から血が噴き出していた。そして徐々に魔女も抵抗する力が失われていき、その周囲に生やしていた影の枝が枯れていくように地面に垂れ下がっていった。

 

「あは……あははっ!あはははははっ………!」

 

「さ、さやかさん…!?」

 

しかしそれでもさやかはやめなかった。無邪気に楽しむように、ただ狂った笑い声を上げながら魔女を切り刻むばかりだった。そんなさやかの姿を見守りたいと言っていたまどかも思わず目を背けてしまう。

 

「………」

 

一同は未だに呆然としていたが、天馬だけは違っていた。

 

「さやかさん………」

 

天馬も最初は今のさやかの姿が怖いと思った。しかし、それを見続けているうちにその気持ちは徐々に薄れていった。それは決して今のさやかの姿に慣れたわけではない。

 

「はは!…あははっ…!」

 

「………」

 

今の天馬のさやかに対する思いは憐憫だった。天馬には今のさやかがただかわいそうで、彼女自身も魔女に八つ当たりするようにヤケになって悲しんでいるように見えたのだ。

 

「もう、やめて……」

 

一方でまどかはそんなさやかの惨めで哀れな姿は見ていられなかった。まどかはさやかの姿から背けるように目を閉じ、その耳にはいつまでも狂気に満ちたさやかの笑い声と魔女を切り続ける音だけが響いていた。

 

「あはは!あははははっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシッ

 

 

 

 

 

「……?」

 

何かを掴む音と同時に周りが静かになる。まどかがおそるおそる目を開けると、

 

 

 

 

 

「…もう、やめるんだ……さやかさん…!」

 

神童が悲痛な顔をしながら魔女をさらに切りつけようと剣を振り上げたさやかの腕を掴んでいた。

 

 

 

 

「しん、どう…」

 

「もう魔女は死んでる……これ以上切りつける必要は無いんだ…!」

 

神童は悲しむように声を震わせていた。そうしているうちに魔女の結界は崩れ元の工事現場に戻り、魔女はグリーフシードに変わっていた。神童はさやかが魔女の血がついた剣を消すのと同時に掴んでいた手を放す。そして完全に結界が消えると一歩後ろに下がった。

 

 

 

~~工事現場~~

 

 

 

「やり方さえわかっちゃえば簡単なもんだね……これなら負ける気がしないわ」

 

空に今にも降ってきそうな雨雲が佇む夜の工事現場でさやかはソウルジェムに魔力を込めると体のあちこちにできた傷が次々と塞がっていき、流れていた血も止まっていく。

 

「あげるよ。それが目当てなんでしょ」

 

さやかは足元のグリーフシードを拾い上げると杏子に向けて放り投げる。

 

「おい……」

 

「アンタに借りは作らないから。これでチャラ。いいわね。帰るよ、まどか」

 

そう言って杏子とマミの間を通り抜けてまどかと共に帰ろうとするさやか。

 

「待ちなさい、美樹さん」

 

突然の呼び止めに反射的に足を止めるさやか。その声の主はマミだった。

 

「美樹さん……さっきのムチャな戦い方は何?……あれじゃ、自分の身体を壊してしまうわよ……」

 

マミは厳しい顔つきで心配するように注意する。

 

「あたしはマミさんみたいにうまく戦えませんから……」

 

さやかはそう言いながら変身を解いて制服姿に戻る。

 

「う…」

 

その直後に倒れこみまどかに寄りかかる。

 

「さやかちゃん…!」

 

「ゴメン……ちょっと疲れちゃった」

 

まどかに支えられながら疲れ切った声で呟くさやか。

 

「明らかに魔力の使い過ぎだわ。あんな戦い方、とても認められないわ」

 

疲れ果てたさやかの様子に冷静に分析しつつ咎めるマミ。

 

「あたし、才能無いから……ああでもしないと戦えませんよ。痛覚を消せば痛くないし…」

 

「そういう問題じゃありませんよ!さっきまであんなにいっぱい血が出てたんですよ!」

 

信助がマミが言いたいことはそうじゃないと言うように叫ぶ。

 

「平気だよ。さっきも見ていたでしょ。傷ついたって魔力を使えばこの通り直せるんだから」

 

「ダメです!見てられませんよ!あんなに傷ついて…」

 

「―――自分たちが傷つくのも怖いのにそう言う?」

 

「え…」

 

さやかの突然冷えた声色でそう言い返してきた。

 

「あんたたちは魔女の攻撃をまともに受けただけで大抵死んじゃうじゃない。そうならないためにあたしがあんな戦い方をしてるんじゃない…」

 

さやかはまどかにもたれかかっていた身体を起こして言い放つ。

 

「な、何を言ってるんですか、さやかさん………」

 

「じゃあ、自分たちがあんな大ケガしても平気って少しでも言えるの?」

 

「っ!」

 

「今のあたしはね、こんな小さな石ころなの。魔女を殺す―――ただそれだけの為に死体を動かして生きてるふりをしてる石ころなのよ?」

 

さやかは振り返って自分のソウルジェムを出す掌に出現させる。

 

「それだけしか価値の無いあたしがどんな戦い方しようと勝手でしょ……その気になれば痛みも消せるし、大ケガしたって自分で直せるんだから、それすらできないあんたたちが口出ししないでよ!」

 

さやかがそう叫んだ直後、暗雲が轟音と共に光りだす。その直後にポツポツと雨が降り出し、瞬く間に土砂降りの雨となって一同の身体を濡らしていった。

 

「さ、さやかさん……」

 

一同には信じられなかった。いつも一緒にいる、あの明るくて元気なさやかが仲間に向かって罵声を浴びせてる事が。そこにいたのはまるでさやかのようでさやかではない別人のように思えた。

 

「さ、さやかちゃん……信助くんはさやかちゃんを心配して言ってくれてるんだよ……」

 

そんな中でまどかはさやかに必死で弁明する。

 

「それに、さやかちゃんが痛くないなんてウソだよ………見てるだけで痛いよ。感じないからって、そんなのダメだよ……あんなさやかちゃん、見てられないよ……いつか本当に壊れちゃうよ…」

 

まどかはさやかの態度がヒドイと思いつつも涙声で自分の気持ちを打ち明けた。

 

「まどか、あんたまで同じこと言うわけ?」

 

さやかは首だけをまどかに向けながらその場に降り注ぐ冷たい雨のように冷淡に言った。

 

「わたしはただ、さやかちゃんのことを想って……」

 

「だったらあんたが戦ってよ!」

 

さやかが突然まどかの方に体を戻して叫んだ。

 

「キュゥべえが言ってたじゃん。あんた、誰より才能あるんでしょ?あたしみたいに苦労しないで簡単に魔女をやっつけられるんでしょ!?」

 

「!」

 

『――君が魔法少女になれば君はマミよりずっと強くなれるよ』

 

まどかの頭の中で、いつかキュゥべえが自分に言った言葉が甦る。しかし、いつも何をするにも遅くてなんの取り柄もない自分がそうなれるとはまどかには信じられなかった。

 

「あたしの事を想うって言うなら、まずあたしと同じ立場になって見なさいよ!無理でしょ?当然だよね!ただの同情で人間やめられるわけないもんね!」

 

言葉を失うまどかにさやかは容赦なく叫び続ける。

 

「なんでもできるくせに何もしないあんたの代わりにあたしがこんな目に遭ってるの。あたしがあんたたちの代わりにこんな思いをしてるの。それを棚に上げて、知ったようなこと言わないでよ!」

 

さやかの叫びに合わせるように再び稲光が音を上げて空にほとばしる。

 

「さ、さやかちゃん……」

 

「さやか!お前、ダチに向かってなんてこと言いやがんだ!」

 

まどかを責めるさやかを水鳥が咎める。

 

「うるさいわね!同じ立場になれない上に自分たちの身を守る事しかできないくせに、戦ってるあたしに説教しないでよ!」

 

「美樹さん!いくらなんでも言い過ぎよ!」

 

「ッ!」

 

先輩であるマミにも咎められ、今度はさやかが言葉を失う。

 

「~~ッ!あたしに構わないでください!」

 

耐えきれなくなってその場から逃げ出すさやか。

 

「あっ、美樹さん!待って!」

 

マミは呼び止めようと叫ぶがさやかは止まらない。

 

「さやかさん!!」

 

すると今度は神童が叫び、さやかはその場で足を止める。そして神童はそのウェーブの髪を雨で濡らしながらもまっすぐな瞳で言った。

 

 

 

「君は―――上条に告白するべきだ」

 

「……何、言ってんのよ……」

 

突如自分が抱え込んでいる苦しみの原点を指摘されたさやかは神童に背を向けたまま体と声を震わせる。その声は今にも泣きそうな声だった。

 

「君が苦しんでいる理由は分かっている。そして仁美さんの事も……」

 

「!」

 

実は喫茶店のあの出来事の後、葵達は神童と合流し、仁美が恭介に告白することを話したのだった。

 

「君のその気持ちの整理がつかない限り、これからの魔女退治においても影響が出るし、なにより君自身にとっても良くない」

 

「何が、言いたいのよ…」

 

「自分の気持ちに素直になるんだ!」

 

「素直に…」

 

「そうだ!自分の気持ちに素直になって行動すれば、きっとうまくいくはずだ!」

 

「何、バカなこと言ってんのよ…!それで人間に戻れるって言うの?今のあたしの現状を変えられるって言うの!?」

 

「君は人間だ!」

 

「!」

 

「君は間違いなく人間だ!それに上条だって、君の事をゾンビだなんて言わない!俺の知っている上条はそういう男だ!」

 

「……神童先輩…」

 

「……素直に告白なんて出来るわけ無いでしょ……こんな石ころになっちゃったあたしが……」

 

さやかは弱々しくもあくまで今の自分の現状を盾にして神童の言葉から逃げる。

 

「……俺たちの世界のサッカーはかつて、ある組織に支配されていた…」

 

「…?」

 

「…試合の勝敗すら管理され、自分たちの自由で素直なサッカーが出来なかった。逆らった学校は潰される……俺もその事に怯え、納得できない現状に嘆くばかりでどうすることも出来なかったんだ。でも、天馬と出会ってわかったんだ。俺はやっぱり自由なサッカーが好きなんだと……そしてその想いに素直に従って皆と共に戦った結果、俺たちの望む本当のサッカーを取り戻したんだ」

 

「それとこれと何の関係があるっていうの?」

 

「その時の想いから俺はわかったことがある……何かわかるかい…?」

 

「わかったこと…?」

 

「―――自分がどんな状況の中にいても、その中で何を考え、どう行動するかは自分次第、と言う事だ」

 

「!」

 

「君の魂がソウルジェムに変えられても、君の上条に対する強い想いは変わらない。だからそんな風に苦しんでるんじゃないのか?」

 

「それは…!」

 

さやかは神童に対して先ほどまでのような強い口調の反論が出来なかった。神童の指摘は間違いなく今の自分の心を突いていたのだから。

 

「自分の現状がどうであれ、君が上条に想いを告げてはいけない理由なんて一つも無いんだ!自分の気持ちから逃げる事無く素直に受け入れて現状に立ち向かうんだ!」

 

「…ッ!」

 

さやか自身も神童の言うことは頭では理解できた。しかし、意地っ張りで素直になれない彼女はどうしても神童の言葉を真っ向から受け止められず、歯を食いしばりながら体を震わせる。

 

「君の上条に対する想いはそんなものなのか?ずっと尽くしてきた男に対する想いは今の自分と相手の違いに負けてしまうほどのものだったのか!?たとえ告白に失敗したとしても、それで諦められるものなのか!?誰かを愛する想いはそんなに弱くないし、ウソもつけないはずだ!好きだという自分の気持ちに素直になればきっと……」

 

「うるさい!うるさい!もうあたしの事はほっといてよっ!!!」

 

神童の言葉に耐えきれなくなったさやかは振り払うように首を何度も左右に振ると魔力で脚力を強化してその場から逃げだすように一気に走りだした。

 

「さやかちゃん!」

 

「さやかさん!」

 

神童は引き止めようと反射的に腕を伸ばすが、その手は彼女に届かず空気に触れるだけであった。

 

 

 

 

「馬鹿……!あたし何やってんのよ…!まどかを傷つけて……仲間を振り払って………あたし、もうどうしようもないよ…!救いようがないよ…!」

 

さやかは肺が破裂しそうなくらいに走り続けながら、涙を流して素直になれない自分を責め続けていた。そして自身のソウルジェムをジワリと濁らしていった。

 

 

 

 

「さやかさん……」

 

さやかの姿が遠のくと神童はその手をぶら下げ、くっ、と顔を俯かせて歯を食いしばる。その背中には哀愁が漂っていた。

 

「すまない、まどかさん……俺が余計なことを言ったばかりに…さやかさんを止められなかった」

 

「ううん。神童くんは悪くないよ。神童くんの気持ちはわたしもわかるから……」

 

まどかは自分たちに背を向けながらさやかの背中を押そうとした神童の気持ちを理解できた。しかし、そのさやかが神童に答えることが出来ず、神童とまどかの彼女への心配は募るばかりだった。

 

「あれじゃさやかの奴……上条に好きだって事も、自分が腕を治したってことも言えそうにねえぞ」

 

先ほどのさやかの態度から水鳥はまだ少しイラつきが残りつつも推測した。そんな水鳥の言葉に茜は思わず悲しげな瞳でこう呟いた。

 

「さやかちゃん……まるで人魚姫…」

 

「人魚姫?」

 

天馬が茜の呟きに反応する。

 

「…人魚姫って、確か海で溺れた王子様を助けて、その王子様に会うために自分の声と引き換えに人間の足を手に入れたけど、そのせいで自分が助けたと伝えることも出来ずに王子様は隣の国のお姫様と結婚して人魚姫は泡になって消えてしまうお話ですよね…」

 

葵が人魚姫の物語を簡潔に語る。この状況においてはさやかが人魚姫、恭介が王子、そして仁美が隣の国の姫君を表しているようだった。

 

「さやかちゃんが人魚姫……そんなの、悲しすぎるよ……さやかちゃんが可哀そうすぎるよ…」

 

物語の登場人物に重ねたまどかは、そのあまりにも的確すぎる配役に涙を流す。

 

 

 

「………そんなこと、俺は許さない」

 

 

 

「神童先輩………」

 

天馬が神童を見ると拳を強く握りしめ、俯いたまま険しい表情をしていた。尋常じゃない神童の様子が気になったマミが口を開く。

 

「ねえ、神童くん。美樹さんを気に掛ける気持ちはわかるけど、あなたどうしてそこまで彼女の事を…?」

 

「………」

 

その問いにはこの場にいる全員が思っていた。ソウルジェムの秘密が判明、いや、さやかが魔法少女になってから、神童は彼女の事を特に恭介に関する事には影から見守るように心配していた。ソウルジェムが魔法少女の魂だと判明してからはずっと彼女の事を気にかけていた。仲間とはいえまだ会って間もないさやかの事を何故そこまで気にかけるのか。神童は一度深呼吸をして肩の力を抜くと顔を俯かせ呟いた。

 

 

 

「俺は……さやかさんには幸せになってもらいたいんです………幼いころから上条に尽くし、彼の為に文字通り魂まで捧げた、さやかさんには…」

 

その瞬間、葵はハッと神童の真意に気づく。

 

「もしかして神童先輩………さやかさんをお(かつ)さんに重ねて…!?」

 

「………」

 

神童のその無言が答えだった。

 

 

 

お勝。

それはまだ天馬たちが元の世界で時空最強イレブン探しをしていたころ、戦国時代で神童が出会った豆腐屋の娘であった。彼女は神童に一目惚れし、彼の為に手作りの弁当を作ったり、特訓する姿を見守ってくれた。

そして神童が別の時代から来た人間である事と彼のサッカーに対する思いを知り、引き留めることも出来ないと分かると、せめてこの時代にいるまではと毎晩夕食の鍋を振るった。化身アームドやミキシマックスを習得できずに苦悩する神童を一生懸命に支えたのだった。そして苦労の末、神童がその二つを習得し、別れる際に彼を呼び出した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「もう、会えないんですね………」

 

「俺は、この時代の人間じゃないから…」

 

「はい。…想いが、決して届かぬことも…わかっていました」

 

「!………ごめん…」

 

神童は一瞬不意を突かれたようにお勝を見てから目をそらして謝る。

 

「受け取ってください」

 

お勝は風呂敷に入った弁当箱を手渡し、神童はその弁当箱を両手でしっかりと受け取った。

 

「…じゃあ、行きます」

 

そして神童は彼女に背を向けて立ち去ろうとした。

 

「私も…!」

 

「!!」

 

それは彼女にとって永遠の別れになるとわかっていたから出た言葉かもしれない。しかし、その先の言葉を言って叶ったとしても迷惑でしかないとわかっていた彼女は続く言葉をグッと堪え、

 

「………何でもありません」

 

静かにそう言った。その気持ちを察した神童は振り返ってこう言った。

 

「…お勝さん。俺、取り返してみせるよ。失ってはならない…大切な物を…」

 

「…はい!」

 

お勝は涙をこらえて答えた。そして別れた後、神童はTMキャラバンの中で弁当を開ける。その中には弁当箱いっぱいに収まるほどの大きな豆腐だけが入っていた。それはまるで彼女の神童に対する大きくて優しい愛を表しているようだった。生きる時代が違う。ただそれだけで決して結ばれることが無い事がわかっていながら、彼女は一生懸命に彼を愛したのだ。その豆腐にあふれんばかりの想いを込めて……。

 

 

『真っ白なお豆腐を食べると、心も真っ白になって元気が出るんです』

 

 

「……!…う……くっ…!…」

 

お勝の最後まで尽くすその献身的な想いに神童は涙を流す。

 

 

 

「…お勝さん…!」

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

「……俺が強くなれたのは彼女の支えがあったからなんだ。だからあの時も……」

 

 

 

 

『奇跡も魔法も、あるんだよ』

 

それはさやかが恭介の為に魔法少女になる決心をした時の事。病室の側で身を潜めていた神童がキュゥべえと契約するために病室を飛び出した彼女の横顔を見た瞬間。

 

 

フッ

 

 

「!……お勝さん…!?」

 

 

 

 

 

 

 

それからだった。神童が恭介とさやかをかつての自分とお勝に重ね、さやかの恋を応援しようと決めたのは。別の時代の人間の自分に尽くしたお勝とは違い、同じ世界の同じ時代に生きる男の為に尽くす彼女を支えることで自分がお勝に叶えてやることが出来なかった願いをさやかに叶えさせてやりたかったのだ。想い人と結ばれ、一緒になるという願いを………。

 

 

「さやかさん………」

 

 

暗くて冷たい雨の夜の中、神童のその悲しげな呟きは土砂降りの雨の音にかき消されたのであった…。

 

 

 

 




――ED『かなり純情』(歌:空野葵)――

次回予告

天馬
「一人暴走し続けるさやかさん……その運命の果てに待つものは…!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第9話『絶望のさやか!魔女の正体』!」





というわけでさやかはバーサヤカー状態のままにしました。現代っ子は何かあるとすぐ折れると言われますが、さやかはそれを見事に体現してますね。(笑えることではない)
そして神童が何故さやかにこだわるのか明らかにしました。もてる男にはやっかいものが付きものですよね。

次回からはいよいよこの物語の見せどころの展開が始まります……

感想お待ちしております。


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第9話『絶望のさやか!魔女の正体!』 Aパート

アニメイナズマ終わっちゃったなぁ……。
その代わり、祝!まどマギ『新編』販売&イナズマベストイレブン映画化決定!

それはさておきこんな拙い駄文に新たな評価者を着けてくれる方が現れました。桔梗 紫蘭さん、ありがとうございます。

さて皆様お待たせしました。アニメイナズマは終わってしまいましたけど、こちらはここからが天馬達の本格的なストーリーが始まります。

お楽しみいただけたら幸いです。では投下。


――OP『ルミナス』――



 

 

 

 

~~翌朝・見滝原中学~~

 

 

 

「………」

 

さやかが逃げ出してから翌日、教室の自分の席でまどかは暗い顔をして落ち込んでいた。

 

「さやかちゃん……」

 

今日も通学路でさやかを待ったが遅刻寸前の時間になっても現れず仕方なく登校したものの、結局学校にも来なかった。担任の早乙女和子からは病気で欠席と聞かされた。

 

 

 

『だったらあんたが戦ってよ!』

 

「………」

 

まどかは昨日さやかに言われたことを思い出していた。確かに魔法少女になってさやかと同じになればさやかを変えられるかもしれない。

 

 

 

『あたしの事を想うって言うなら、まずあたしと同じ立場になって見なさいよ!無理でしょ?当然だよね!ただの同情で人間やめられるわけないもんね!』

 

 

 

しかしさやかに言われた通り魔法少女になる事は出来なかった。天馬たちは『魔法少女は人間』だと言っていたが、それでもあんな命懸けの危険な戦いをする度胸も、戦いの運命を受け入れるほどの願いも彼女には無かった。さやかの為に願って魔法少女になることも考えたがどうしても自分の身の安全を優先してしまい、その想いをためらわせていた。

 

 

 

『今のあなたが彼女に出来ることは何もないから』

 

 

 

ほむらの言葉が頭に響く。共に戦おうとすることが出来ず、さやかの為にしてやれることが何もない臆病で無力な自分をまどかは責めた。そんな自分が恥ずかしくてどうしようも無かったのだった。しかしそれでもさやかの問題を解決する術を思いつく事は出来なかった。

 

 

 

「どうすればいいのかな……わたし…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

一方で恭介も自分の席に着きながら頬杖をついて一人考え込んでいた。

 

(さやか……来ていないのか……珍しいな……そういえば神童君も会いに来ないな……二人共、一体どうしたんだろう…)

 

いつも自分の見舞いに来てくれたさやかが登校せず、最近知り合った神童も会いに来ない事に違和感を覚える恭介。

 

「………」

 

 

 

 

『苦しんでいる君を必死に支えようとしてくれる人がいるんだ』

 

 

 

 

「僕を支えようとしてくれる人、か………」

 

恭介は神童が自分に言った言葉を思い出すと同時に何故かさやかの顔が浮かんだ。それは彼女がいつも自分に気にかけて何度も見舞いに来てくれたからかもしれない。しかし恭介の胸中にはそれだけでは収まらない妙な違和感があった。

 

 

 

『恭介!』

 

『大丈夫?恭介!』

 

『恭介!今日もCD持ってきたよ!』

 

 

 

その違和感がよぎるたびに彼女が自分に見せた色んな顔が自分の頭の中に浮かぶ。笑顔のさやか。自分を心配するさやか。自分を励まそうとするさやか。どれもこれも自分の脳裏に焼き付いて離れることができなかった。しかし恭介はただの幼馴染でしかないさやかのことが何故こんなにも気になるのか理解できなかった。

 

「さやか……」

 

 

 

「上条くん」

 

 

 

不意に呼ばれ、ハッと顔を上げる恭介。そこには仁美が真剣な顔で立っていた。

 

「志筑さん…?」

 

「今日の放課後―――お話があります」

 

 

 

 

~~放課後・さやかの家~~

 

 

 

「さやかちゃん、大丈夫かな………」

 

学校が終わった直後、まどかはさやかの見舞いに彼女の家にやって来た。

 

「あら、まどかちゃん……」

 

インターホンを押して数秒待つとさやかの母が出てきた。しかしその顔色は血の気がなく、目にも隈が出来ていて活気が失われており、まどかは一瞬驚いてしまう。

 

「あ…あの、今日、さやかちゃんが病気で学校を休んでるって聞いてお見舞いに来たんですけど……」

 

戸惑いながらも用件を伝えるまどか。

 

「…まどかちゃん、それが……」

 

しかし、この時のまどかは

 

「―――――」

 

「……えっ!?」

 

想像すらしていなかった話を聞かされたのであった。

 

 

 

 

 

 

~~河川敷~~

 

 

 

その頃、河川敷ではいつも通り天馬たちが練習をしていた。マミが学校を終えて到着してからは神童にこれからの戦いに向けてのある特訓の続きを行い、天馬たちはシュートとキーパーの特訓をしていた。ただ違っていたのは、

 

 

 

「はあっ!」

 

「てい!」

 

剣城も天馬と共に信助にシュートを放ち、その様子を杏子がチョコ棒を加えながらマネージャーたちと共に眺めていた事だった。

 

「にしても、今日もやって来るとはな。それもマミが来る前から」

 

「けっ、なんとなくここにたどり着いちまったんだよ。ここに来ればアイツも来ると思ってな…」

 

「やっぱりさやかが気になるみてえだな」

 

「うっせえ!///」

 

さやかを心配してやって来た杏子を水鳥がにやけながらからかう。ぶっきらぼうな雰囲気を持つその二人の姿は傍から見たら悪友にも見えるほどだった。

 

「でもそのおかげで剣城くんもこうして練習に参加してますし、いいじゃないですか」

 

「……まあ、元々ここがあいつの居場所だからな……」

 

 

 

「いくぞ!」

 

「来い!」

 

一方で練習中の剣城は河川敷に設置されたゴールを守る信助に向けてシュートを放っていた。

 

「でやっ!」

 

「ふんっ!」

 

信助はその小さい体で剣城の放ったシュートに素早く飛びついて両手で力強くキャッチする。

 

「よし、もう一発お願い!」

 

「ああ!」

 

信助は剣城に勢いを込めてボールを投げ返す。その気合いに答えるように剣城も力強く返事を返した。

 

「………」

 

杏子はシュート練習に精を出す剣城の姿をただじっと見つめていた。自分が知っている普段の彼はクールで寡黙であまり感情を見せていなかったこともあり、どこかほむらに似ているイメージがあった。しかし信助の守るゴールに向けて力強くシュートを放つ姿を見て彼のサッカーに対する熱い情熱が静かに燃えているのが感じられた。

 

「……フッ」

 

杏子にはそんな生き生きとしている剣城の姿が微笑ましく見えてしまい、思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「ん?どうした?」

 

「なっ、何でもねえよ!///」

 

杏子はとっさに視線をそらして誤魔化した。

 

「それにしてもさやかさん、大丈夫ですかね……」

 

ここで葵がさやかの事を気に掛ける。

 

「さあな…あの馬鹿、どこまでも一人で突っ走りやがって……」

 

「でも、あいつの事を気にかけてるのはやっぱりあんただけじゃないみたいだぜ」

 

水鳥は両腕を組みながら視線を天馬たちより少し横に移した。

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

水鳥の視線の先で神童はマミの指導の元、自分の特技を生かしたある特訓をしていた。今はマミのリボンを何かに見立てているようだった。

 

ヒュン!ガシッ

 

「く!」

 

手を動かし続けながら走っていた神童だったが、地面から伸びたマミのリボンに足をからめ捕られてしまう。

 

「ダメね。神童くん、やっぱり集中できてないみたいね」

 

マミは変身を解くと同時に一般人には見られないようにするための結界とリボンを消し、神童に歩み寄る。

 

「すみません、マミさん」

 

「ううん、いいの。私も気持ちはわかるから……」

 

「さやかさん……」

 

やはり神童もさやかの事が気がかりで特訓に集中出来ていないようだった。

 

「神童くん、やっぱり美樹さんが心配なのね…」

 

「はい……さやかさんは、ただ愛する上条の為に魔法少女になっただけなのにあんな目にあって……それを考えたらどうしても気になってしまうんです。彼女の為に俺に出来ることは無いのかと……」

 

神童は暗い表情をしながらさやかの事を憂いていた。そんな神童を見かねたマミは一度溜息をつく。

 

「……神童くん、聞いてくれる?」

 

「……?」

 

怪訝な顔をする神童にマミは何かを思い出すように目を閉じる。

 

「私はあなたたちと出会うまで、ずっと一人で悩んでいた。本当は戦いそのものが怖くて……その戦う理由も失いかけていた………でもあなたたちは私の命を救い、一人で泣いていた私の涙を拭いてくれた……その時わかったの………」

 

ここでマミは目を開けて優しく微笑む。

 

「私は一人じゃないって」

 

「!」

 

マミの言った言葉。それは以前、一人で悩み苦しんでいたこの世界の親友に向けて神童が言った言葉だった。自分がわかっていたはずのものを失いかけていたことに気づき、神童の心に天馬に言われて吹かれたそよ風のような感覚が甦る。

 

「今の私は一人じゃない。私の悩みを聞いてくれる人たちがいるんだって。だから今度は私が皆の悩みを聞いてあげようって決めたの」

 

その時のマミの姿はいつもの頼りがいのある先輩の姿だったが、その雰囲気は明らかに以前とは違っていた。そこには母親の持つ母性のような器の大きさが感じられた。

 

「神童くん、美樹さんは私の後輩であると同時に大切な友達なの。そしてあなたも私にとって大切な友達…だからこれはあなただけの問題じゃない。一人で抱え込んじゃダメよ?」

 

「マミさん……」

 

神童にとってマミのその一つ一つの言葉はまるで天馬が話しているような温かみを感じられた。

 

「だって私たちは『仲間』、でしょう?」

 

「!」

 

マミの『仲間』という言葉が神童の心に響き渡る。彼女もまた天馬に勇気を与えられ、心のもやを払われた者。それゆえに仲間を心から支え合う思いが生まれた。そして神童も同じく天馬の影響を受けた者として彼女の言葉が響き渡ったのであった。

 

「……そう、ですね…」

 

神童はやさしく微笑んだ。まだ何も解決したわけではないが、その微笑みは何か吹っ切れたように柔らかな物だった。

 

「その言葉、忘れるところでした。ありがとうございます、マミさん」

 

「いいのよ。これはあなたたち雷門が教えてくれた事だもの。さあ、再開しましょ。練習が終わったら一緒に美樹さんを迎えに行きましょう」

 

「はい!」

 

元気を取り戻した神童が練習を再開しようとしたその時、

 

「皆!」

 

まどかが慌てた様子でやってきた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

よほど慌てていたのか、まどかは天馬たちの前にたどり着くと両膝に手を置いて息切れする。

 

「まどかさん?どうしたんです?そんなに慌てて……」

 

天馬がまどかを心配すると彼女は一度息を吸って呼吸を整えながらまだ火照って赤くなった顔のまま緊迫した表情で叫ぶ。

 

「た、大変なの…!さやかちゃんが……

 

 

 

 

 

 

さやかちゃんが家に帰ってないの!」

 

「何だって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~街中~~

 

 

「今日、学校にさやかちゃんが来なかったから、放課後お見舞いに行ってみたの……そしたらさやかちゃん、昨日の夜から帰ってないって……」

 

まどかの話を聞きながら一同はさやかを探すために街の中を駆け巡っていた。

 

「それってあの魔女退治の後からそのまま帰ってないってことじゃないですか!」

 

「くそっ…!やはりあの時引き留めておくべきだったか!」

 

神童はさやかを放っておくべきではなかったとを後悔し、歯を食いしばる。

 

「みんな、ここからは分かれて探そう!」

 

「「「ああ(ええ)(うん)!」」」

 

天馬の提案で一同は効率良く捜索するために散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~某所~~

 

 

「うああああぁッ!!!」

 

見滝原の一角にできた結界の中でさやかはただひたすら使い魔を倒しまくっていた。

 

「はあ……はあ……」

 

彼女は昨夜からずっと魔女や使い魔の結界を探してはそれらを駆逐していた。しかし影の魔女との戦いの時同様、魔女にダメージを与える事と引き換えに自分の身体を傷つけ、その度に魔力で体を修復するという無茶極まりない戦法を続けていた。今の自分には魔女退治をする事しかない。そうでなければ魔法少女になったことが何の意味も無いと認めたくなくて必死だった。自分の弱さを受け入れられず、親友と仲間の手を振り払った自分の不甲斐なさを振り払うように使い魔を蹴散らしていたのだった。

 

「はっ……はあ……」

 

しかし彼女はグリーフシードを手にしても自分のソウルジェムを浄化せず、その青い輝きを彼女の負の念と魔力消費によって黒く濁らしていくばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~工場地帯~~

 

 

「はあ、はあ…」

 

杏子は剣城と共にさやかと初めて出会った場所でもある工場地帯を捜索していた。

 

「美樹さやかを探しているのね」

 

「「!」」

 

走っていた二人の前に突如ほむらが現れ、二人は足を止める。

 

「あんた……」

 

「私も探すわ。彼女を見つけたら、直ぐに彼女のソウルジェムにグリーフシードを使いなさい」

 

「どういう意味だ?」

 

「彼女はソウルジェムに穢れを溜めこみすぎている。早く浄化しないと取り返しのつかない事になるわ。急ぎなさい」

 

「なんだかよくわかんねーが、言われなくても急ぐよ!行くぞ!」

 

「はい!」

 

杏子はほむらの様子に不信を抱きつつも剣城と共にさやかを見つけるために再び走り出した。

 

「………」

 

ほむらは走り去っていく二人の背中を見つめながら呟く。

 

「私……何故、あんな事を…」

 

ほむらは何故自分が二人にそう言ったのかわからなかった。彼女にとってさやかはどうでもいい存在のはずだった。自分のある目的のために彼女がどうなろうと構わなかった。その目的の為なら彼女を殺すこともいとわないはずだった。なのに今はさやかを手遅れになる前に助けようとしている。

 

「あの子以外、誰が死んでも構わなかったはずなのに………」

 

ほむらは今までとは違ってきている自分に戸惑いを覚え、苦しそうな表情で空気を含むように片手で作った拳を胸に当てながら顔を俯かせる。

 

『―――仲間を守れない様じゃ何も守れない!』

 

『―――俺達は大切なものを守りたいんだ!』

 

「…っ!」

 

ほむらの頭の中で彼らの言葉が何度も甦る。

 

「あなたたちのせいなの…?雷門……」

 

 

『―――ほむらさん…あなた、自分に嘘をついてませんか?』

 

 

「松風天馬……」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~市立公園~~

 

 

「志筑さん、話って何?」

 

「………」

 

夕暮れの光が差し掛かる公園の中をまだ年端もいかない一組の男女が並んで歩いていた。少年は松葉杖を携え、少女は常に真剣な眼差しで少年を見つめていた。そして少女は公園のベンチに差し掛かった所で少年と向き合う。

 

「上条くん……」

 

 

 

 

 

「………」

 

少女が少年と向き合った直後、青い髪の人魚姫はひっそりとやって来た。少年と少女はベンチに腰掛けながら笑顔で語り合っていた。少し離れた物陰から見ていた人魚姫にその会話の内容は聞こえなかったがその仲睦まじい二人の姿は人魚姫の目にも恋人同士に見えてしまうほどだった。

 

「………」

 

そして人魚姫は二人に気づかれないよう、その場から逃げるように走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~夜・住宅街~~

 

 

「さやかちゃん……どこ…?」

 

夕日が沈み、夜の闇に包まれた住宅街の中をまどかは一人さやかを探し続けていた。

 

「君も、僕の事を恨んでいるのかな」

 

そこに暗くなった住宅街を照らす電灯の上から話しかける者がいた。

 

「……キュゥべえ」

 

まどかがその声に顔を上げるとあの白い悪魔がいた。キュゥべえはそこから飛び降りてまどかの肩に降り立つ。しかし、まどかはその赤い瞳と目を合わそうともせず、ただ棒立ちしているだけだった。

 

「……あなたを恨んだら、さやかちゃんを元に戻してくれる?」

 

キュゥべえを肩に乗せたまま、まどかはそう尋ね返す。

 

「無理だね。それは僕の力の及ぶことじゃない」

 

キュゥべえはあっさり答える。

 

「―――美樹さやかの事は諦めた方がいい。彼女はすでに穢れを溜めこみすぎた」

 

「そんな…!」

 

キュゥべえの非常な宣告にまどかは思わずキュゥべえの方を向いて涙ぐみそうになる。

 

「まどかさん?」

 

そこに再び声がする。まどかが涙目でハッと正面を向くとそこに一人の少年が立っていた。

 

「天馬くん……」

 

 

 

 

 

~~同時刻・河川敷~~

 

 

「いたか!?」

 

「いえ…」

 

「こっちにもいなかったわ」

 

一方、河川敷では天馬とまどか以外の全員が現状報告のために合流していた。しかし、やはり誰もさやかを見つけることは出来なかった。

 

「美樹さんの魔力を追ってみたんだけど……彼女、魔力の反応を消しているみたいで見つけられなかったわ」

 

「くそっ……どこまで馬鹿野郎なんだあいつは…」

 

一人で突っ走るさやかに杏子は悔しそうに呟く。

 

「さやかさん……」

 

「………」

 

さやかを心配する神童の隣で剣城は一人俯いて考え込んでいた。

 

「…?どうかしたか、剣城」

 

「……いえ」

 

 

 

 

 

(……そもそも、この魔法少女というシステム……何かがおかしい……)

 

この世界に来てからの出来事を追憶しながら考えを張り巡らす剣城。剣城は以前から魔法少女という『システム』を作り出すキュゥべえを信用していなかった。あの可愛らしい姿でありながら、魂を抜き取り、それを黙っていたという非人道的な行いから自分の勘は正しかったと確信する剣城。その確信からキュゥべえの生み出した『魔法少女』というものについて疑問を抱いていた。

 

 

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ!』

 

(あいつは普通の少女を魔法少女に変えることを『契約』と言っていた………契約とは、俺が兄さんの手術費のためにフィフスセクターのシードになったように……お互いに相手の利益を生み出すために行うもの……)

 

 

 

『願いを叶える代わりに魔女を倒すという使命が課せられるんだ』

 

(確かに人々を脅かす魔女は放っておけない……だが魔女を倒すことが、あいつにとってどんなメリットがあるというんだ…?)

 

 

 

『僕の役目はね―――君たちの魂を引き抜いてソウルジェムに変える事なんだ』

 

(それに魔女との戦いが命懸けとはいえ、どうして魂をソウルジェムに変える必要がある?あいつがさやかさんに対して言っていた機能が付くというなら、その機能だけを魔法少女に付加してやればいいはずだ)

 

 

 

『訊かれなかったからさ。知らないままでも別に不都合は無いからね』

 

(そして何故魂を引き抜くことを黙っていた?あいつはこれまで何人もの魔法少女と契約してきたはず………黙っていれば後に知られて俺たちのような反応をするのはわかっていたはずだ。なのにどうしてそれを改善しない…?初めから説明したら契約する少女がいなくなってしまうからか?だが、それではまるでとにかく魔法少女を生み出したいと言ってるようなものだ)

 

 

 

『あれ?マミさん、ソウルジェムが少し濁ってますよ』

 

『あら本当だわ。おかしいわね………さっき確認した時は確かに濁ってなかったのに』

 

(昨日、彼女のソウルジェムが魔力を使っていないのに濁っていた……天馬たちの話からするとまるで絶望に反応して濁ったみたいじゃないか………)

 

 

 

『早く浄化しないと取り返しのつかない事になるわ』

 

(そういえばソウルジェムの穢れを浄化しなければどうなるんだ…?普通に考えれば、ソウルジェムが機能しなくなり、その魔法少女は死んでしまうと考えていいだろう……だが、それはソウルジェムの秘密を知った者ならば誰だって考えられること……わざわざ言葉を濁すほどの事なのか?)

 

 

 

『願いを叶えるのが魔法少女だとするなら、魔女は呪いから生まれ出た存在なんだ』

 

(魔女についても不可解な点が多い…。そもそも魔女は一体どこから来る?呪いから生まれたといっても、そこには必ず発生源……魔女が生まれる確かな要因があるはずだ)

 

 

 

 

『これがグリーフシード。魔女の卵よ』

 

(それに何故魔法少女のソウルジェムを魔女の落とすグリーフシードで浄化できる?相対する二つのものが何故共鳴反応を起こすんだ?………まるで同じ物のように………

 

 

 

同じ物のように?………ッ!?)

 

 

 

 

ここで剣城はある恐ろしい推測が浮かび目を見開く。しかしそれは剣城にとっても決してあってはならない、決して真実であってほしくない残酷なものであった。そう思いつつも剣城は真実にたどり着くため、自分の頭の中で魔法少女と魔女に関係する事をフル回転させる。

 

 

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ!』

 

契約することにおけるキュゥべえのメリット。

 

 

 

『願いを叶えるのが魔法少女だとするなら、魔女は呪いから生まれ出た存在なんだ』

 

絶望の象徴である魔女。それを退治する希望の象徴である魔法少女。

 

 

 

『これがグリーフシード。魔女の卵よ』

 

『おかしいわね………さっき確認した時は確かに濁ってなかったのに』

 

『早く浄化しないと取り返しのつかない事になるわ』

 

絶望することによって穢れていく魔法少女のソウルジェム。

その穢れを浄化できる魔女のグリーフシード。

穢れが溜まり切ったソウルジェムの果て。

 

 

 

相反するのに共鳴する二つのもの。

 

 

 

希望と絶望。

 

 

 

「―――!!!」

 

そして最後に浮かぶのは、天馬が語ったキュゥべえとの会話。

 

 

 

 

 

『―――キュゥべえはどうしてあの怪物たちの事を魔女って呼ぶの?』

 

『―――あれらは、そう呼ぶのが一番ふさわしいからさ』

 

 

 

 

その瞬間、剣城の中の疑問が全て一本の糸に繋がってしまった。

 

「ま、まさか…!?いや、そんなバカな!?」

 

「剣城?どうしたんだ?」

 

「皆!一刻も早くさやかさんを見つけるぞ!!」

 

「え?」

 

「それは当然だが……どうしたんだ?急にそんなに慌てて……」

 

神童が怪訝な顔で問うと剣城は一度顔を伏せて話す。

 

「……今はまだ憶測にすぎない、だから詳しい事は話せません。だが………

 

 

 

 

 

俺のこの憶測が正しければ……最悪な事が起きるかもしれない!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

剣城が顔を上げて緊迫した表情で言った言葉に一同は驚きの声を上げる。

 

「とにかく、急いでさやかさんを見つけるんです!」

 

「わかった!」

 

一同はその場で解散し、再びさやかを探しに散って行った。

 

「おい!最悪な事ってなんだよ!まさかさやかが死ぬって言うんじゃないだろうな!?」

 

再び剣城と共に探し出した杏子は走りながら剣城に問う。

 

「いえ……おそらく、それだけではすまないでしょう…!」

 

「何!?」

 

(くそ……間に合ってくれ…!)

 

 

 




というわけでさやかが暴走し、剣城が魔法少女の最悪の秘密にたどり着きました。
ここからまどマギでは絶対に避けて通れない問題への戦いが始まるんですよね。

実はBパートも完成に近づいており、明日には完成できそうですのでお楽しみを。

感想お待ちしております。ああ、ホントに文才欲しい…。


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第9話『絶望のさやか!魔女の正体!』 Bパート

出来上がりましたので後半投下します。

少年よ、これが絶望だ…。




 

~~住宅街~~

 

 

「まどかさん、大丈夫ですか?」

 

「うん……大丈夫……ありがとう…」

 

あの後天馬はまどかとキュゥべえを連れて少し移動し路上のベンチにまどかを座らせる。キュゥべえは既にまどかの肩から降りており、今はまどかの隣で座っていた。

 

「………」

 

しかしまどかは今もなお元気を失くしたままだった。

 

「ねえキュゥべえ。前に言ってたよね、わたしが凄い魔法少女になれるって」

 

まどかは顔だけをキュゥべえの方に向けて問う。

 

「ああ、凄いなんて言葉じゃ収まらない。君が魔法少女になればおそらくこの世界で最強の存在になれるよ」

 

「もし、わたしが契約していたらさやかちゃんは魔法少女にならずに済んだかな…?」

 

「彼女は自分自身の願いを叶えたんだ。まどかには関係ないよ。でも、君ならさやかの十倍以上の働きが出来ただろうね」

 

「……どうしてわたしなんかが?」

 

「それは僕にもわからない。はっきりいって君の魔法少女としての素質は、理論的にはありえない規模なんだ。誰かに説明してもらいたいのは僕だって同じさ」

 

「理論的にはありえない…?」

 

天馬はキュウベえのその言い方が気になる。

 

「でも、君が力を解放すれば奇跡を起こせるどころかこの宇宙の法則だって捻じ曲げられる。だが、何故君一人がそれほどの素質を持っているのか……その理由は今でもわからないよ」

 

「まどか、君は望むなら万能の神にだってなれるかもしれないよ」

 

「こんなわたしが……」

 

まどかは顔を正面に戻し、視線を地面に落とす。

 

「天馬くん……」

 

「なんですか?」

 

まどかの正面に立っていた天馬が答える。

 

「前にね……ほむらちゃんとお話しした事があるの。さやかちゃんと仲良くしてほしいって。でもほむらちゃんは誰もさやかちゃんにしてやれることは何もないって言ったの……」

 

「そんな…」

 

ほむらの切り捨てるような台詞に天馬も悲しくなる。

 

「でもそんな時に葵ちゃんが言ってくれたの……わたしや葵ちゃんたちは戦い疲れた皆の帰ってくる場所になれるって……」

 

「帰ってくる場所……」

 

「それを聞いた時は嬉しかったよ。何の取り柄もなかったわたしでも誰かのために役に立てるって。必死に戦ってる皆の為に役に立てるんだって喜んでたの……」

 

まどかは一瞬誇らしいように胸に手を置いて微笑むがすぐにその手をおろし、笑顔を消してしまう。

 

「でも昨日、戦ってるさやかちゃんが…怖くなっちゃった……」

 

まどかは弱々しい声で呟く。

 

「さやかちゃんを支えるって決めたのに……さやかちゃんから目を背けちゃった……さやかちゃんに同じ立場になってよって言われた時、わたし何も言えなかった……」

 

まどか両膝の上で手をぎゅっと握り、震わせていた。

 

「天馬くん、わたしサイテーだよ……」

 

「まどかさん…?」

 

「わたし、さやかちゃんの友達のはずなのに……さやかちゃんのために何にも出来ない……葵ちゃんみたいに誰かの帰る場所にもなることも出来ない……さやかちゃんや天馬くんみたいに戦おうともしない……魔法少女になろうとしても、ソウルジェムの事を考えたらどうしてもためらっちゃうの……自分の魂がソウルジェムにされると思うとどうしても怖くなっちゃうの……」

 

まどかは震える声で泣きながら頭を抱える。誰かのために何も出来ず、出来ることがあっても自分のかわいさ故に勇気を出して行動することが出来ない自分が情けなくてどうしようも無かったのだ。

 

「こんなわたし、サイテーだよね……」

 

まどかは天馬に自分を責めて欲しいと言わんばかりに涙を落とす。

 

 

 

 

 

「サイテーなんかじゃないですよ」

 

「え?」

 

天馬の意外な答えにまどかは顔を上げる。

 

「だってソウルジェムの事を考えたら、俺だってきっと悩んじゃいますよ」

 

「でも、さやかちゃんは自分と同じ立場になってって……」

 

そうじゃなければさやかは納得しないと言うように呟くまどか。

 

「確かに友達の為に出来ることをしないのは良くないですよ。でも自分の事だけを考えようとせず、自分と友達を天秤にかけて悩む事は悪い事じゃありませんよ」

 

「でもさやかちゃんは…」

 

「それに、あの時さやかさんが言ったのは本心じゃないと思いますよ」

 

「え?」

 

天馬の言葉に再び呆けた声を出すまどか。

 

「……実は俺もあの時、まどかさんと同じようにさやかさんが少しだけ怖くなったんです…」

 

天馬は自分も同類だと申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「でも、それは一瞬だけでした」

 

しかしすぐに掻いていた手を降ろして真剣な眼差しでまどかを見据える。

 

「その後のさやかさんはずっと一人で苦しんでるようで、とても可哀そうに見えたんです。だからその後まどかさんに言ったのは『苦しんでいるから助けて!』と思って出てしまった言葉だと思うんです。俺はまだ少ししか一緒に過ごしてませんけど、さやかさんは親友であるまどかさんに同じ苦しみを味わってほしくない。そんな友達思いの人のはずですよ!」

 

「!」

 

天馬はさやかを信じぬくように断言する。思えばさやかは昔から自分が困っているときはいつも手を差し伸べて助けてくれた。目の前で困っている友達を放っておくことは出来ない、まどかの知る本当のさやかもそんな優しい少女のはずだった。

 

「でもわたし……さやかちゃんの為に何にも出来ないし、あってもそれを実行する勇気もないんだよ?」

 

まどかはその恩を返すことが出来ない事が申し訳なさそうになる。

 

「でもまどかさんはそんなさやかさんの為に何かしたくて悩んでるんでしょう?」

 

天馬はまどかにそう訊きかえす。

 

「悩んじゃうなら別の方法を考えればいい!大事なのは力になりたいっていう気持ちですよ!」

 

「力になりたい、気持ち……」

 

その時まどかは思い返していた。今の自分はさやかの為に魔法少女になる事をためらっている。それは魂をソウルジェムに変えられる事と戦いに対する恐怖心から来ていた。しかし、それでもさやかの事を放っておくことができず、どうすればいいのか必死に考えていたのだ。

 

「だけど、ほむらちゃんは同情なんかで行動しちゃいけないって言ってたんだよ?それにさやかちゃんがその気持ちを受け入れてくれるかどうか……」

 

「確かに俺のさやかさんへの思いには同情も入ってます。それは認めざるを得ません。それでも!さやかさんを放っておくことなんて俺には出来ない!俺には魔法少女の素質なんてないからさやかさんみたいに魂をソウルジェムにすることは出来ないけど、俺はさやかさんの為に出来る事をしたいんです!たとえ拒否されても、大切な仲間の力になりたいんです!」

 

「…!」

 

天馬の宣言にまどかの心に稲妻のような衝撃が走る。天馬の言うとおり、彼は魔法少女になる事など出来ない。しかしそれでもさやかの為に出来る限りの事をしたいという思いを真っ直ぐに貫いている。仲間を助けたいという彼の信念にまどかは自分を恥じた。友達と自分を天秤にかけて悩む前に、助けたいという強い意志から始めなければならなかったと…。そこから答えを導き出さねばならなかったと…。

 

「まどかさん、あなたがさやかさんの為に自分を犠牲にしたくないのは仕方ないですよ。だから俺は今すぐ魔法少女になれ、なんて強制はしません。それを最後に決めるのはまどかさん自身ですから……」

 

「天馬くん……」

 

「まどかさんがどんな選択をしようと、それがさやかさんの為だったら俺は責めたりしません!その時は俺が支えてあげますよ。だってさやかさんの力になりたいのは俺も同じですから!」

 

「!」

 

天馬の言葉に体中の血が足元から抜けていく心地がするまどか。まるで体重が無くなったような感覚が彼女の心までも軽くしていった。

 

「天馬くんは本当に優しいよね……一つ一つの言葉に強い意志が込められてて……勇気にあふれていて……聞いてたら悩んでなんかいられないよ…」

 

まどかは目を閉じ、安心しきったような穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

 

「まどかさん……」

 

「ありがとう、天馬くん……おかげで、決心がついたよ」

 

ここでまどかはキュゥべえに向きなおす。

 

「ねえ、キュゥべえ。キュゥべえが出来ない事でも、私になら出来るかな?」

 

「というと?」

 

「私があなたと契約すれば―――さやかちゃんを元に戻せるかな?」

 

「その程度、造作もないだろうね」

 

キュゥべえはそう断言する。

 

「だけどその願いは―――君にとって、魂を差し出すに値するものかい?」

 

「うん。さやかちゃんの為なら……」

 

まどかは天馬から与えられた勇気を胸にキュゥべえに告げる。

 

「わたし、魔法少女に―――」

 

そう言いかけた直後、何かが破裂するような音と同時にキュゥべえの頭が欠けた。

 

「「え……?」」

 

二人は何が起こったのか理解する間もなく、次の瞬間にはキュゥべえの全身が穴だらけになって白い、何かの残骸に成り果てていた。全身を吹き飛ばされたキュゥべえだったものがまどかの隣でぽてんと落ちた。

 

「あなたは―――」

 

キュゥべえに気を取られていた天馬とまどかは突如聞こえてきた声に振り向く。

 

「どうして、あなたは―――」

 

そこには魔法少女服のほむらがこちらに向けて月明かりにその白い肌を照らしながら拳銃をこちらに向けていた。そして怒りを表すように持っていた銃を投げ捨てる。カラカラと地面を転がる拳銃の音でようやく二人はほむらがその銃でキュゥべえを撃ち抜いたと理解する。

 

「ほ、ほむらさん!?」

 

「……ひ、ひどいよ…何も殺さなくても…」

 

天馬がほむらの行動に驚き、まどかがそう言いかけるとまどかはほむらに詰め寄り、叫んだ。

 

「……どうして?なんであなたは、いつだって、そうやって自分を犠牲にして……自分は何の役にも立たないって言って……勝手に自分を粗末にしないで!あなたを大事に思う人の事を考えてよ!」

 

「え?」

 

「いい加減にしてよ!あなたを失えば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気が付かないの?あなたを守ろうとしてた人はどうなるの!?」

 

真剣な顔でそう叫ぶほむらはまどか達の知る彼女とはかけ離れていた。その時まどかはほむらが自分のクラスに転校し、夕方に天馬と出会った日の朝、彼女が自分に必死に自分に呼びかけていた夢を思い出す。そしてその後、転校してきたほむらが『今とは違う自分になろうとしないで』と自分に言っていたことを思い出す。そして今のほむらの眼はその時と同じ眼をしていた。その事を思い出すと、まどかの口から自然と言葉が出ていた。

 

「ほむらちゃん…?わたしとほむらちゃんは―――前にどこかで会ったことがあるの?」

 

「それは……」

 

その瞬間、ほむらの瞳に哀しみが広がり、彼女はその場で崩れる。

 

「ほ、ほむらさん!?どうしたんです!?」

 

天馬が慌てて駆け寄りながら声を掛けると、ほむらは地面に両膝をつけて肩を震わせる。

 

「うっ…うう…」

 

「ほ、ほむらちゃん?」

 

彼女は顔に両手を当てて涙を流していた。いつも凛としていて、完璧で、全く感情を露わにしない彼女が泣いていたのだ。その姿はとても弱々しく、二人にはその姿がマミやさやかが自分達に見せた年相応のか弱い少女の姿に見えた。するとほむらは肩を震わせながら涙声で呟く。

 

「松風天馬……これ以上、まどかに近づかないで…!」

 

「ほむらさん…!?」

 

「あなたのその言葉が……あなたのその優しすぎる思いが……この子を魔法少女に(いざな)ってしまう……これ以上、まどかを惑わさないで…!」

 

泣きながら天馬に対して言ったほむらの言葉は怒って警告しているのではなく、まるで心から懇願しているように弱気なものだった。一方で魔法少女になる術を失ったまどかは一刻も早くさやかを見つけたいという衝動に駆られていた。

 

「ごめん、ほむらちゃん……わたし……行かなきゃ」

 

「待って、美樹さやかはもう…」

 

「ごめんね」

 

「待ってっ、まどか!」

 

「まどかさん!」

 

まどかは二人の制止も聞かず、さやかを探して走り出してしまった。

 

「まどかさん……ッ!」

 

天馬もすぐに後を追おうと駆け出す。

 

「松風天馬……あなたはどこまで愚かなの…」

 

走り出そうとした直後、ほむらの声が天馬は立ち止まらせる。

 

「あなたの言葉が……まどかを魔法少女に誘導させてしまう……それがわからないの…?」

 

哀しみに暮れながら恨みがましい声で天馬に語るほむら。

 

「………」

 

そんなほむらとは対照的に、天馬は背を向けて立ち止まったまま宣言した。

 

「ほむらさん……俺は、例えどんなことが起こっても、誰一人見捨てませんよ」

 

そのゆるぎない決意をはっきりと告げられ、ほむらは思わず涙を止めて顔を上げる。天馬の目は決意に満ち溢れていて、月光がその瞳を映えさせていた。

 

「まどかさんも、さやかさんも……そしてあなたの事も」

 

そう言って天馬はまどかの後を追った。

 

「………」

 

ほむらは涙を拭いてゆっくりと立ち上がる。そしてまどかを追う天馬の後ろ姿を見据える。

 

「あなたの言葉は優しすぎる……この私ですら揺るがしてしまうほど……ましてや、まどかなんて…」

 

天馬の影響を受け、彼女を魔法少女に後押しかねないと彼の心の強さを危険視するほむら。

 

 

 

 

「―――随分と彼に苦戦しているようだね」

 

 

 

 

そこに話しかける誰かの声。その瞬間、ほむらの心は一気に冷めていき、いつものクールな雰囲気の彼女に戻っていった。

 

「……それは、あなたも同じじゃないの?」

 

いつもの淡々とした声で現れた声に返すほむら。

 

「まあね。彼の言葉はマミの時のように僕達の邪魔になるけど、彼だって万能じゃない」

 

ほむらが振り返ると、その声の主がベンチの上にいた。それは先ほど自分が撃ち抜いたはずのキュゥべえだった。しかし、彼の側には確かにほむらが粉々にしたキュゥべえの残骸があり、もう一匹のキュゥべえはその残骸を処理するように貪っていた。

 

「彼の影響が及ばないところで、僕達の目的の一つが果たされようとしている。それに何より、彼の言葉が同時にまどかを魔法少女に導くものになるからね」

 

新たに現れたキュゥべえはほむらが撃ち抜いた残骸を食い尽くすと、きゅっぷい、と独特の音を出して喉を鳴らす。

 

「させないわ」

 

月明かりに照らされる中、ほむらは長い黒髪を巻き上げて宣言する。

 

「あなたの思い通りになんかさせない……キュゥべえ、いえ―――

 

 

 

 

 

 

 

インキュベーター」

 

 

 

ほむらが見据えたその赤い瞳は月明かりに照らされて怪しく輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~駅・ホーム~~

 

 

 

「やっと見つけた………」

 

誰もいなくなった暗い駅のホームでベンチにただ一人で座っているさやかを杏子が見つける。

 

「あんたさぁ、いつまで強情張ってるわけ?」

 

「……ごめんね。手間取らせちゃって」

 

「なんだよ、らしくないじゃんかよ」

 

杏子はさやかの隣にドカッと座るとポテトチップの封を開け、そこから数枚のチップを取り出して頬張る。

 

「もう何もかも……どうでもよくなっちゃったからね」

 

「……?」

 

なにやら様子が今までと違うさやかに杏子は顔を覗き込もうとする。しかし彼女は座ったまま顔を下に向けており、その表情はうかがえなかった。そのかわり、座っている彼女の足の上に置かれている掌が目に入る。それは片方の手で覆われており、その中にある何かを包み込んでいるようだった。

 

「結局あたしは何のために願いを叶えて……何のために戦ってたのか……もうわけわかんなくなっちゃった…」

 

ここでさやかは中の物を杏子に見せるように覆っていた片方の手を上げる。

 

「何を…?―――ッ!?」

 

杏子は思わず目を疑った。彼女の掌の中にあったのはソウルジェムだった。しかしその色はほぼ完全にドス黒く染まっており、その綺麗な青い輝きは失われていた。

 

「……やっとわかったよ……いつだったかあんた言ってたよね……希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって……」

 

さやかのその声は何かに憑かれたように空っぽで夜の静けさに溶け込んでしまいそうだった。

 

「あんた、まさか…!」

 

「……今ならそれ、よくわかるよ……誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない……あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね……」

 

「しっかりしろよ、さやか!」

 

杏子はさやかを立ち直らせようと必死に叫び返す。

 

「確かにあたしは何人か救いもしたけどさ……だけどその分、心には妬みや恨みが溜まっていって……その結果、一番大事な友達さえ傷つけて、背中を押そうとした仲間からも逃げて、憧れの先輩みたいにもなれなくて……どうしようもなくなっちゃった……」

 

「さやか……」

 

ここで彼女は顔を上げる。さやかがその悲しみと後悔に満ちた空虚な泣き顔を杏子に見せた直後、

 

 

 

 

 

「あたしって………ほんと、バカ」

 

 

 

 

 

一粒の涙が黒く濁ったソウルジェムに落ちた。

 

 

 

そして次の瞬間、彼女のソウルジェムは砕け散り、その中からグリーフシードが現れ、闇色の稲光を走らせる。

 

「ぐあっ!!」

 

すると辺りに突風を発生させ、杏子をいとも簡単に吹き飛ばす。一方で魂が失われたさやかの身体がタイルで出来た駅のホームの床に落ちるとグリーフシードからは突風を放ち続けながら雷雲のような暗いもやが発生し、辺りを包み込んでいった。杏子は駅に設置された手すりに必死に掴まりつつ、結界に飲み込まれながら悲痛な叫びを上げた。

 

「さやかあああああああッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!―――杏子さん!?」

 

杏子と少し離れた場所でさやかを捜索していた剣城は杏子の叫びを聞いてすぐさまその方向に走り出した。

 

 

 

「!!!」

 

そしてさやかと杏子がいた駅の入り口に到着するとそこには大量の黒いエネルギーを発しながら広がっていく結界があった。

 

「これは!?……くそ!遅かったか…!」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

見滝原ではありふれたどこかの高いビルの屋上で一匹の白い獣が膨張していく結界を眺めていた。

 

「―――この星では、成長途中の女性の事を少女って呼ぶんだろう?だったら―――」

 

そして白い獣は何事でもないようにのんびりした口調で誰に向けたということもなく言い放った。

 

 

 

「やがて魔女になる君たちの事は―――魔法少女と呼ぶべきだよね」

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「なんだよ、これ……」

 

突如出現し、広がっていく暗い魔女結界の中で杏子は困惑する。

 

「―!さやか!」

 

そんな中で突風に跳ね上げられ空中から落下しているさやかを見つけ、急いで魔法少女に変身すると彼女を抱きかかえる。そして気づく。腕をぶらんと垂らして目を閉じている彼女の身体が冷たくなっている事に。

 

「!」

 

そして目の前に胸元に見滝原中学のリボンを着け、下半身が人魚のような魚の尾で、片手に剣を掲げる甲冑の騎士が現れた。

 

「なんなんだテメー!さやかに一体何をしやがった!」

 

杏子はその魔女に叫ぶが魔女は全く応じようとしない。

 

「下がって」

 

その直後、突如聞こえてきた声と共に一個の手榴弾が魔女の目の前で爆発し、魔女を怯ませる。杏子もその爆発に怯み、爆発で生じた煙が消えると、自分の正面にほむらと剣城が立っていた。

 

「お前ら…!」

 

「杏子さん、無事ですか!?」

 

「ああ、あたしは……でも、さやかが…」

 

剣城が杏子に抱えられているさやかを見る。彼女の肌は青白くなってぐったりとしており、生気が感じられなかった。

 

「くそっ……もっと早く気づいていれば…」

 

「え?」

 

「二人共、ここはいったん引くわよ。掴まって」

 

ほむらが突如二人に両手を伸ばす。

 

「何を…?」

 

「いいから早く!」

 

ほむらが腕を伸ばして剣城と杏子の手を掴むと、彼女の左腕に付けられた盾のようなものが回り出す。すると自分たち以外の全てのものが凍りついたように全てが静止した。目の前の人魚のような魔女も全く動く気配が無くなり、二人は驚く。

 

「これは……」

 

「私から決して離れないで。でないとあなた達の時も止まってしまう」

 

「時が止まる……?まさか、時間停止の魔法か!?」

 

「そうか…!あの時も…」

 

剣城は自分が仲裁したさやかと杏子の決闘の時にほむらが突然現れ、一瞬で杏子の背後に回ったことを思い出す。そう、彼女はあの時もこの魔法で移動したのだった。

 

「行くわよ」

 

剣城と、さやかを抱えた杏子はほむらに掴まったまま魔女から逃げるように逆走する。

 

「おい、一体何が起こったんだ!あの魔女は一体……」

 

「あれは『かつて美樹さやかだったモノ』。あなたも見届けたのでしょう」

 

「…くっ!」

 

杏子は何が起こったのかほむらに聞くまでも無く理解しており、言葉を詰まらす。

 

「逃げるのか?」

 

「嫌なら戦う事ね。その荷物を置いて」

 

「…ッ!」

 

ほむらの言葉がより今起きた現実を認識させ、杏子は再び悔しげな表情を浮かべる。その時の杏子は目をそらしていたので気が付かなかったが、

 

「……間に合わなかった…」

 

「…!くっ!」

 

ほむらも無意識の内に悔しげに呟いていた、それを聞き逃さなかった剣城はほむらのその様子に違和感を抱きつつも苦い顔で唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~線路~~

 

 

 

「マミさん、本当にこっちから魔女の結界が!?」

 

「ええ!もしかしたら美樹さんがいるかも……」

 

普通なら誰も立ち入れない線路を掛ける一つの一団があった。まどかはさやかを探すため走り出し、天馬もその後を追った後、運よくマミたちと合流し今は突如出現した結界の気配を感じ取り、全員で線路上を走っていた。その先にさやかがいると信じて。

 

「誰かいます!」

 

信助の掛け声と共に一同が線路の先を見るとさやかの身体を両腕で抱きかかえた杏子がほむらと剣城を引き連れて此方に歩み寄っていた。

 

「さやかちゃん!」

 

「杏子さん!」

 

「剣城!ほむらさん!」

 

まどか、葵、天馬を初めとした一同が駆け寄る。一同の声にハッと気が付いた杏子はばつの悪そうな表情を浮かべて目をそらす。それは共に現れた剣城も同じだった。

 

「さやかさん……―――っ!?」

 

神童は杏子に抱えられているさやかを見て驚愕する。彼女は目を閉じていたがその肌は生気が感じられないほど白く、唇には青みがかかっており、重力に逆らうこと無くだらりと垂らした腕と髪が彼女の状態を物語っていた。

 

「死んでる、のか……!?」

 

「!?ほむらちゃん、さやかちゃんのソウルジェムは!?」

 

まどかがほむらは詰め寄る。しかしほむらは隠しててもばれることだと思い、その場で何が起こったかを包み隠さず話すことにした。

 

「彼女のソウルジェムはグリーフシードに変化した後、魔女を生んで―――消滅したわ」

 

「「「!?」」」

 

「……嘘、だよね…」

 

「事実よ」

 

嘘だと信じたかったまどかはほむらに問い直すが、その答えは変わらなかった。

 

「ちょっと待って!美樹さんのソウルジェムがグリーフシードになって魔女が生まれたって……」

 

「それって、さやかさんが魔女になった…!?」

 

マミと天馬は信じられないように驚愕する。

 

「やはり、そうだったのか…!」

 

「剣城…!?」

 

悔しげな表情で下を向いて拳を作る剣城。

 

「あなたはたどり着いていたようね。魔法少女の最後の秘密に」

 

「ああ……俺たちや魔法少女たちが戦ってきた全ての魔女は………」

 

ほむらの問いに剣城は歯を強く食いしばり、拳を強く握る。そして口に出すのも忌々しく思いつつその残酷な真実を打ち明けた。

 

 

 

 

「全て………魔法少女のなれの果て!!!」

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

剣城のその告白は全員の心に衝撃を走らせた。

 

「その通りよ」

 

そんな中でもほむらは表情を一切崩さず話を続ける。

 

「ソウルジェムに穢れが溜まり、その限界を超えた時、ソウルジェムはグリーフシードに変わり、私たちは魔女に生まれ変わる。……それがソウルジェムの最後の秘密。魔法少女となってしまった者の逃れられない運命」

 

「なん、だって…!?」

 

天馬は信じられなかった。自分と信助が最初の魔女退治の手伝いの時に戦った薔薇園の魔女。マミを殺そうとしたお菓子の魔女。まどかたちを閉じ込め、さやかに倒されたハコの魔女。杏子の教会に出現した家政婦の魔女。昨日戦ったばかりの影の魔女。魔女と独立して結界を作り、自分たちが倒してきた使い魔を生み出した魔女たち。

 

「あの怪物たちが全部……元は魔法少女……人間だった!?」

 

「ふざけんじゃねぇ!」

 

「そんな……そんな酷い話があってたまるものか!」

 

水鳥と神童がソウルジェムの真実を受け入れられず怒鳴りつける。

 

「嘘…嘘だよね…」

 

まどかもほむらの話が信じられず、泣き顔で杏子に尋ねるが、彼女は唇を噛みしめたまま何も答えようとしなかった。

 

「そんな……どうして?さやかちゃん、魔女から人を守りたいって、正義の味方になりたいって、そう思って魔法少女になったんだよ?なのに……」

 

「その祈りに見合うだけの呪いを背負い込んだまでの事。あの子は誰かを救った分だけ、これからは誰かを祟りながら生きていく」

 

「やめろ」

 

杏子は突如さやかの身体をまどかに預け、ほむらの襟首を掴み上げながら詰め寄る。

 

「てめぇは……何様のつもりだ?事情通ですって自慢したいのか?なんでそう得意げに喋ってられるんだ?こいつはさやかの……」

 

「今度こそ、理解できたわね」

 

杏子の話をよそにほむらは冷たい口調でまどかに告げた。

 

「あなたが憧れていたものの正体がどういうものなのか」

 

「…!」

 

「まどかさんっ……!」

 

その瞬間、まどかは膝から崩れ落ち、地面に落ちそうになったさやかの身体を神童が抱える。

 

「あんた、もっと言い方ってもんがあんだろうが!」

 

「やめてください!水鳥さん!」

 

「落ち着いて!」

 

杏子と同じく耐えきれなくなり、ほむらに食って掛かろうした水鳥を葵と茜が抑える。

 

「てめぇ、それでも人間か!?」

 

「もちろん違うわ―――そして、あなたも、ね」

 

ほむらは激昂する杏子の手を軽く払ってそう言った。

 

「そんな……さやかちゃん…さやかちゃん…!」

 

まどかはさやかの魔女化が受け入れられず、両膝を着いたままさやかの亡骸に向けて涙を流す。

 

「さやかさん…!」

 

その時、眠ったように死んでいるさやかの顔に涙が落ちる。それは自分と同じように両膝を着いて彼女を抱きかかえる神童のものだった。神童は歯を食いしばり、彼の眼からは最後に彼女と別れた時に降っていた、あの夜の大雨のような大量の涙があふれ出ていた。

 

「さやかさん……君は上条の……彼の為を想って願ったのに……こんな……こんな目にっ!俺は……俺はっ…!」

 

神童はさやかを救えず、彼女を死なせてしまった事を悔やんで地面を殴りつける。

 

「神童くん……」

 

「神サマ……」

 

茜も涙を浮かべながら神童に同情する。

 

「何で……何でさやかさんが魔女にならなくちゃいけないんだ!」

 

「天馬……」

 

「さやかさんは……大切な人の為に願って……希望を持って頑張ろうとしてたのに!こんなの……絶対おかしいよ!」

 

さやかは意地っ張りで一人で突っ走ってしまうこともあるが、目の前で困っている者を放っておけない優しい少女のはずだった。想い人に心から尽くそうとすることが出来る、希望あふれる一人の恋する少女のはずだった。そんなさやかが絶望して魔女になってしまった事に天馬は納得できなかった。

 

「天馬……」

 

そんな天馬の心情を察した信助も共に悲しげな涙を流す。

 

 

 

「ソウルジェムが………」

 

「……?」

 

突如マミが喋り出し、それに気づいた信助が振り向くと、彼女は下を向いて体を震わせていた。

 

「マミさん?」

 

「ソウルジェムが魔女を生むなら……」

 

「ッ!…まずいッ!」

 

ほむらは危険を察知し、盾を出して時間を止めようとする。

 

 

 

「みんな……」

 

 

 

 

 

 

パアアアァ!

 

「「「!?」」」

 

その時、突如マミの頭上に人ひとりを包み込めるくらいの大きさを持つまばゆい光が出現した。

 

 

 

 

「え?」

 

「な、何!?」

 

一同が泣くのもやめて困惑する中、事件は起こった。

 

 

 

 

 

「のわあああああ!!」

 

「――!?きゃあああああ!!」

 

その光から一人の男がマギカボールと共に降ってきた。一同はとっさに手で顔を覆い、目をつぶった直後、どしーん!と大きな音がその場で響き渡る。そして再びその場を見た雷門一同は目を丸くして驚いていた。

 

「あいたたた……ここはどこじゃ?」

 

落ちてきた男は腰をさすりながら起き上がる。現れたのは天馬達と同じ雷門のジャージを着ていて剣城よりも身長が高く、侍のちょんまげを彷彿させる黒い一本おさげをしている褐色の肌の男。

 

「に……錦先輩!?」

 

その名はチーム雷門の2年MF、錦竜馬だった。

 

 

 




――ED『Magia』――


次回予告

天馬
「さやかさんが魔女になったことにショックを受ける俺達!そこに錦先輩が現れた!?そして俺達はさやかさんを助ける事を決意する!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第10話『それぞれの決意』!」




はい。

というわけでさやかが魔女になってしまいました。

ここから原作では鬱展開まっしぐらですが、イナズマGOで鬱から最も遠い男を登場させました。天馬達の魔法少女の運命との戦いはここからが本番です。その前に次回はさやかを救うためにあちこちに別れた一同が話し合います。

ご感想お待ちしております。


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第10話『それぞれの決意』 Aパート

祝!通算UA8000突破!
こんな駄文を読んでくださり、評価も与えてくださった皆様にいつも感謝です。

さて今回はさやかを助けるためにあちこちに別れて話し合います。

それではどうぞ。


――OP『ルミナス』――


 

 

~~深夜・線路~~

 

 

 

「に、錦先輩!?」

 

さやかが絶望して魔女になってしまったことに嘆いていた一同。そんな彼らの前に、空中に浮かぶ光が突然現れ、そこから雷門のメンバーの一人である錦竜馬が落ちてきた。

 

「おお、天馬!みんな!無事じゃったか!」

 

空中から放り出された錦も土佐弁を喋りながら彼らとの再会を喜ぶ。

 

「つうか錦……早くどいたほうがいいぞ…」

 

「へ?」

 

水鳥に苦い顔で注意された錦は自分の下を見てみる。ここで思い出そう。彼は空中に出現した光から現れた。そしてその光はマミの頭上に現れた。つまり、今どうなっているかというと……

 

 

 

「きゅぅ……」

 

マミが空中から放り出された錦の下敷きになっているのであった。

 

 

 

「ぬおおぉ!?なんて事じゃあ!これは一体何があったんじゃあ!?」

 

「オメーが下敷きにしたんだろが!」

 

「ぬおお!すまんきに!あんた大丈夫か!?」

 

水鳥にツッコまれながら錦は慌ててマミの上から降りて呼びかける。しかしマミはうつ伏せで倒れており、目をくるくる回して気絶していた。

 

「彼女は気を失っているだけだから大丈夫よ。いえ、むしろ助かったわ……」

 

ほむらは今までにない新たなイレギュラーの登場に困惑しながらもいつもの調子で錦に呼びかけた。

 

「そ、そうなんか?ちゅか、おまん誰じゃ?ここは一体どこなんじゃ?」

 

辺りを見渡す錦。そんな彼の姿が一同に現状を再確認させる。

 

「……?どうしたんじゃ、おまんら?そんな暗い顔で」

 

錦は突然天馬たちの表情が変わったことに首を傾げる。

 

「……錦先輩、信じてもらえないかもしれませんけど、実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…ぬぬ……」

 

天馬からこの世界と今の自分たちの事を聞いた錦は両手で拳を作り、体を震わせていた。

 

「錦先輩……」

 

一同は錦のその姿にさやかの悲劇を聞いて自分たちと同じように悲しんでいるように見えた。そう思った一同はそれぞれ涙を流したり、歯を食いしばったりと再びさやかの死を悲しんでいた。

 

「ぬおーーーーーーっ!!!ワシャア、そのキュゥべえっちゅうんが許さんきにーーーー!!!」

 

「「「!?」」」

 

しかし、その予想とは裏腹に錦は顔を上げてキュゥべえに対する怒りを込めて叫んだ。

 

「か弱い娘たちをたぶらかし、その心を弄んで死なせるとは………人の魂を……心を何だと思うとるんじゃ!」

 

自身の拳に目を戻した錦はキュゥべえの非道なやり方に鼻息を荒くする。

 

「錦先輩……」

 

怒りに燃える錦に天馬たちは感慨深くなり、まどか、ほむら、杏子の三人は今まで出会ったことの無いこのハイテンションの男に唖然としていた。

 

「よっしゃ!ワシャ決めたぞ!」

 

「え?決めたって……?」

 

「決まっとろう!そのさやかっちゅう娘を助けるんじゃ!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

錦の突然の宣言にほむら以外の全員が驚く。

 

「不可能よ。魔女化した魔法少女を元に戻す方法なんてないのよ」

 

ほむらは冷静さを保ちつつ錦に反論する。

 

「んなもん、やってみなきゃわからんじゃろうが!」

 

しかし錦はあっけらかんと返す。

 

「無理よ……絶対出来るわけないわ…」

 

「なんじゃ、やる前から諦めてどうするんじゃ!?」

 

ムリだと言い張るほむらに錦も強気で言いかえす。

 

「……出来るわけ、ないのよ…」

 

「…?」

 

ほむらは体を震わせて顔をそらす。その姿は何故かとても辛そうだった。

 

「………」

 

一方で天馬たち雷門も全員が落ち込んで俯いてしまっていた。

 

「なんじゃおまんら!まさかおまんらまで無理だと言うつもりか!?」

 

その様子に気づいた錦は仁王立ちで天馬達に叱咤する。

 

「そうじゃありませんけど、でも……」

 

天馬は力なく返す。彼らは不安だったのだ。確かにさやかを助けたい思いはある。しかし自分たちにそれができるかどうか、失敗したら二度と立ち直れないんじゃないかと挫けそうになっていた。

 

「か~っ!何を沈んどるんじゃき!」

 

そんな仲間たちの姿に錦は呆れかえる。

 

「こんな所でビビってどうするんじゃ!そんなんで……

 

 

 

 

―――円堂(えんどう)監督を助け出せると思うとるんか!?」

 

 

 

「「「!!!」」」

 

錦のその言葉が雷門全員の心を叩いた。

 

 

 

「円堂監督………!」

 

『円堂監督』。その言葉が天馬の心に響き渡った。

 

 

 

 

 

円堂(まもる)

それは11年前、廃部になっていた雷門中サッカー部を復活させ、翌年の中学サッカー全国大会『フットボールフロンティア』で雷門を、そして世界大会『フットボールフロンティアインターナショナル(通称FFI)』で日本代表チーム『イナズマジャパン』をキャプテンとして優勝に導いた伝説の雷門イレブンである。それから10年、天馬率いる雷門中サッカー部の監督に就任したが、未来の敵から天馬たちを庇い、今は『クロノ・ストーン』という石にされて捕まっているのである。

 

「円堂監督……」

 

円堂は雷門に入ったばかりの自分にサッカーの楽しさや大事さ、色んなことを教え、支配されていたサッカーを取り戻すための革命の立役者にもなってくれた。天馬を初めとする雷門のメンバーなら誰でも尊敬する人物であった。その時、天馬は考えた。円堂ならこんな時どうするのかと。円堂は自分たちにいくつもの名言を与えてくれた。天馬はその心に響く名言の一つを思い出していた。

 

 

 

『諦めない奴だけに掴めるものがある!』

 

 

 

「諦めない奴だけに掴めるもの……!」

 

天馬は静かに目を閉じ、これまでの事を思い出す。ホーリーロードでの戦いの時、点差を着けられても何故最後は逆転勝利を収めることが出来たのか。何故見事優勝し、本当のサッカーを取り戻せたか。そしてこの世界においてもマミが殺されそうになって自分たちの命も危険にさらされた時、何故全員で生き延びることが出来たのか。それらにはある共通点があった。

 

「諦めない……心!」

 

決して諦めない心。それがあったからこそ今の自分たちがいる。それは天馬の、そして雷門の信念でもあった。天馬は顔を上げて自分のジャージの上からユニフォームのイナズマを象ったシンボルマークの部分をぎゅっと握る。

 

「そうだ……円堂監督なら、こんな所で諦めない!」

 

「天馬…!」

 

「こんな所で諦めたら、サッカーだって守れないし………ここでさやかさんを見捨てたら、きっと円堂監督だって助けられない!」

 

天馬は再び強い思いをたぎらせ、決意の瞳を露わにする。

 

「錦先輩!俺、やります!さやかさんを助けます!」

 

「天馬君……!」

 

「無理よ、松風天馬……いくらあなたでも…」

 

まどかは拳を握って気持ちを高ぶらせる天馬に希望を持つが、ほむらは変わらずそっぽを向いて諦め気味な顔をする。

 

「ほむらさん!俺、言いましたよね!さやかさんを絶対見捨てないって!あの言葉、嘘じゃありませんし、俺自身も嘘にしたくないんです!」

 

「!」

 

天馬のゆるぎない決意にハッと顔を上げるほむら。

 

「俺もだ、天馬!俺も……さやかさんを助けたい!」

 

「神童先輩!」

 

「俺も気持ちは同じだ」

 

「僕だって!」

 

「剣城、信助!」

 

天馬の決意に触発され、神童を初めとして次々と立ち上がる仲間たち。

 

「みんな…!」

 

「そうこなっくちゃな!」

 

「うん…!」

 

マネージャーたちも同じように気合を入れた。

 

「よっしゃ!これこそ雷門じゃな!みんな良い顔に戻ったきに!」

 

「―――面白れぇじゃねえか」

 

「お?」

 

錦がいつもの雷門の雰囲気に戻ったことに喜んでいると杏子が呟く。

 

「さやかを助けてぇのはあたしも同じだ。付き合ってやるよ」

 

杏子はチョコ菓子を口にくわえながらにやける。

 

「杏子さん…!」

 

「へっ………どうやらあんたたちと一緒にいるうちに、そのバカが伝染っちまったみてーだ……」

 

杏子は目を閉じて天馬たちの姿に感慨深くなるように八重歯を突きだして微笑む。

 

「まどかさんは?」

 

天馬がまどかにさやかの救出に参加するか問う。

 

「わたし……一緒に戦う事もできなくて、戦う勇気もなくて、何も役にも立てないかもしれない……でも」

 

まどかは不安げな表情を浮かべながらも、

 

「さやかちゃんを助けたい…!さやかちゃんと……仲直りしたい…!」

 

さやかを助けたいという意志をはっきり伝える。その姿に天馬たちは安堵の表情を浮かべる。

 

「ほむらさんは?」

 

「……あなたたちの事よ。どうせ止めたって聞かないでしょう?まどかが行くと言うなら私も行くわ」

 

天馬の問いにほむらは半ば呆れるように答えた。

 

「あとはマミさんですけど……」

 

しかし、肝心のマミは錦の側で気絶していた。

 

「あちゃ~、これじゃ聞けないきに」

 

「ってオメーのせいだろが!」

 

頭を掻きながら再び水鳥にツッコまれる錦。

 

「ま、何はともあれ、ひとまず決まりじゃ!この錦竜馬が参上したからには大船に乗った気でいるぜよ!ガッハッハッハッハ!」

 

そう言って錦は腰に両手を当てて自信満々に笑い出す。

 

「全く……また一段と変な奴が現れたもんだぜ……豪快っつーか、前向きなバカっつーか……」

 

杏子は誰もが気落ちするこの状況下で何故そんなバカ笑いが出来るのかと呆れる様に溜息をついた。

 

「とにかくみんな。一度帰って休んだ方がいい」

 

ここで神童が気持ちを切り替えるように提案する。

 

「そうだな。さやかの身体はあたしが預かっておく」

 

杏子は神童に預けていたさやかの身体を再び抱き上げる。

 

「杏子さん。俺も手伝います」

 

「わかった」

 

剣城が名乗り出ると杏子も了承したように頷く。

 

「その前に佐倉杏子。グリーフシードを3つくらい渡してくれるかしら?」

 

「はあ!?なんでだよ!?」

 

「巴マミは目覚めたら魔女化の真実に再びショックを受けるはず。ここで彼女まで魔女化されたらたまらないでしょう?ホントは私が出したいところだけど、あいにく今はグリーフシードが手元に無いのよ」

 

「ちっ!わかったよ」

 

杏子は片手でさやかの身体を支えながら器用に片手でポケットからグリーフシードを取り出し、しぶしぶほむらに手渡す。

 

「西園信助」

 

そしてほむらは杏子から受け取った三個のグリーフシードをそのまま信助に手渡す。

 

「いざ彼女が絶望しそうな時にはこれで彼女のソウルジェムを浄化しなさい」

 

「分かりました!杏子さんもありがとうございます!」

 

「ああ」

 

マミを心配していた信助は責任をもって預かると言うように力強く答え、提供した杏子にも忘れずに感謝の言葉を贈る。

 

「錦。お前の所為で気絶しちまったんだから、マミはお前が責任もって運べよ」

 

「わかってるぜよ。よっと!」

 

錦は水鳥に言われるまでも無いように気絶してるマミを背負う。

 

「さやかちゃん……」

 

そんな中でまどかは決意したものの、やはりさやかを助けられるか不安らしく、杏子に抱えられている魂の抜けたさやかを哀しげな目で見つめていた。

 

「………」

 

天馬はそんなまどかを見兼ねて放っておけなくなる。

 

「神童先輩。まどかさんを家まで送ってもいいですか?心配なんです……」

 

「……わかった。気を付けて帰ってくるんだぞ」

 

「はい!」

 

さやかの長い捜索を終え、今度は彼女を救う準備のために一同はようやく帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

~~帰宅路~~

 

 

 

「にしても、まさかおまんらがこんな大変な事に関わっとるとはのう」

 

人々がいなくなった帰宅路で錦がマミを背負いながら神童、信助、葵、水鳥、茜と共にマミの家に向かっていた。

 

「錦先輩。さっきはありがとうございました」

 

信助が錦に先ほどの喝に礼を言う。

 

「な~に、気にする必要はないぜよ。立ち直れたのはおまんら自身の意志じゃ」

 

錦は鼻を高くすることも無く返す。

 

「さやかさん…!」

 

一方で神童はさやかを助けるという確固たる決意をその瞳に込めていた。

 

「神童、随分気合いが入っとるのう。おまん、そのさやかに惚れとるんか?」

 

「そんなんじゃない……ただ、想い人の為に尽くそうとした彼女に幸せになってもらいたいだけなんだ……」

 

「ほほう。さては戦国時代の豆腐屋の娘の事を思い出してたんじゃな?」

 

「に、錦!」

 

お勝の事を突かれた神童は、茶化されるのを拒むように声を上げる。

 

「で、錦。さやかを助けるって言ってたけど、どうやって元に戻すつもりだ?なんか作戦でもあんのか?」

 

水鳥は腕を組みながら怪訝な表情で錦に尋ねる。

 

「んなもん、無いぜよ!」

 

きっぱりと言ったその答えに錦以外の全員が思わずこけそうになった。

 

「って、考えなしであんなこと言ったのかよ!?」

 

「錦先輩らしいですけど……」

 

葵は思わず苦笑いを浮かべる。

 

「じゃが、それでもやるしかなかろう?そのさやかも、このマミっちゅう人も今のおまんらにとっては大事な仲間なんじゃろ?」

 

錦は自分が背負っているマミに視線を向けながら信助たちに確認させる。

 

「確かにその通りですけど……」

 

「なら、何も悩む必要もないじゃき!さっき決意した時のおまんらの顔はワシがホーリーロードの最中に帰って来た時と同じだったぜよ!大事なものを守る為に戦うっちゅう侍のような顔にな!」

 

「錦……」

 

神童は思い出していた。まだ自分たちのサッカーが支配されていた頃、自分たちは皆どこか気抜けしていた顔でサッカーをやっていた。しかし、天馬が入部して革命を起こしてからは覚悟を決めた良い表情になったと留学から帰ってきた錦にそう言われたのだった。

 

「師匠が言っとったぜよ!雷門は悩んだり苦しんどる仲間に手を伸ばして共に助け合って、強くなって、勝利を掴んでいくとな!そんな円堂監督や師匠たちの時代から続く雷門(らいもん)(だましい)を引き継いだはずじゃろ!」

 

「雷門魂……」

 

「今回の戦いはワシらの力とその雷門魂を持ってさやかを助けることがキュゥべえに対する勝利じゃ!この世界に来るまでやっとった時空最強イレブン探しの時もそうじゃ、ワシらがどこへ行こうと、常に熱い心と魂を持って全力でぶつかるだけ!そうじゃろう?」

 

「!」

 

ニカッと一同に笑みを見せる錦に神童たちは自分達の信念を再確認する。仲間が苦しんでる時にこそ、彼らの信念はより強固となり、希望を掴んでいく。それはただ苦しんでいる仲間を助け合うだけでなく大きな敵に立ち向かう力にもなる事を彼らはこれまでのいくつもの戦いから何度も実感していたのであった。

 

「そうですよね……僕たちが熱い気持ちをさやかさんにぶつければ、きっと届きますよね!マミさんも、どんなに落ち込んでたって僕たちが元気づけて見せます!」

 

信助は吹っ切れたようにその小さな拳をぎゅっと握りしめた。

 

「よっしゃ!その意気じゃ、信助!」

 

錦は決意を固めた信助に喜ぶように微笑んだ。

 

「神サマは……」

 

「心配ないみたいだぜ。見ろよあの顔」

 

一方で茜が神童を気に掛け、それに水鳥が答えると、二人は神童の顔を見る。

 

「さやかさん…!」

 

神童もまた一切の迷いが無いような真剣な表情で改めて決意を固めていた。

 

(さやかさん……君は必ず助けてみせる…!俺は君を見捨てたりしない……!君を上条の元に連れて行くまでは……)

 

「神サマ…!」

 

「良い顔つきになったぜ。まさに戦う男の顔って奴だな」

 

「これが……雷門ですよね!」

 

葵もにこやかな表情でそう言った。

 

「よっしゃみんな!必ずさやかを助けてキュゥべえをギャフンと言わせるぜよ!」

 

「「「おーーー!」」」

 

こうして雷門は錦のおかげで自分たちの理念を再確認し、さやかを必ず助けると自分たちの雷門魂に誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてものう……」

 

「なんだ?」

 

「このマミっちゅう人は乳がでかいのう。おぶっとると乳が背中に当たって……」

 

「って何考えてんだこのドスケベ!///」

 

「あいだっ!」

 

最後の最後で場違いな発言をした錦は水鳥から拳骨をもらう。そんな夫婦漫才のようなものを見せられた神童たちは顔を赤くしつつ頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

~~その頃~~

 

 

 

「天馬くん、ごめんね。わたしの為に……」

 

「いいんですよ。これは俺の勝手ですから」

 

一方で天馬は一人落ち込んでいたまどかを心配し、彼女を家まで送り届ける為に同行していた。深夜に共にならんで歩く二人の中学生の姿は傍から見たら危ない事に巻き込まれているか非行に走っているように見られそうだが、まどかを気に掛ける天馬の姿はそんなことを感じさせず、むしろ頼もしささえ感じさせるものがあった。

 

「ほむらちゃん、魔女の事も知ってたんだよね……」

 

「そうみたいですね。でもそれもソウルジェムの時と同じ理由で黙っていたと思うんです……」

 

「うん……きっと、わたしもそうだと思うの」

 

ソウルジェムの最後の秘密。普通に考えればそれを知っていながら話そうとしなかったのは好ましくない事だが、二度目なだけあって二人も彼女が話そうとしなかったのは十分に理解できていたのであった。

 

「そういえば、住宅街で会った時のほむらさん……なんだかいつもと様子が違ってましたよね……」

 

天馬が思い返すように話し出す。普段自分達に見せているほむらの姿は感情を読ませず、ただ淡とクールに言い放つ常に冷静な少女だった。しかし住宅街での彼女はまどかを心から心配しているように嘆き苦しみ、涙まで流していた。そんな彼女が見せた弱い部分が今でもなお二人の脳裏に焼き付いていた。

 

「その時のほむらちゃん、なんだか夢に出てきたときにみたいに必死だったの…」

 

「夢?」

 

「うん……」

 

天馬が言葉を繰り返すとまどかは眼を閉じて思い出すように語り出す。

 

「荒れ果てたこの見滝原で、ほむらちゃんは大きな何かと戦っていて、そんな中でわたしはただ見ているだけで何もできなかったの。そんな中でキュゥべえがわたしに声をかけて、わたしならこの状況を変えられるって言ったの」

 

まどかがそこまで語ったところで耳を貸していた天馬はもしやと思いその先の言葉を予想する。

 

「ほむらちゃんはそれを必死に止めようとしていたの……そしてキュゥべえがわたしにこう言ったところで目が覚めたの………僕と契約して魔法少女になってよって」

 

続く言葉の予想が当たり、眉を細める天馬。話を聞く限りその夢を見たまどかの前にほむらやキュゥべえが現れた事に天馬もさすがに出来すぎていると思えた。

 

「なんだか……ただの夢とは思えませんね…」

 

「そしてその夢は見たのは、ほむらちゃんがわたしのクラスに転入して、夕方に天馬くんと出会った日の朝だったの」

 

「ほむらさんと、俺が…?」

 

天馬は驚くように自分に指差す。

 

「うん……天馬くんと出会ったあのショッピングモールで使い魔に襲われて、夢と同じ魔法少女の姿のほむらちゃんが現れたときはとても偶然とは思えなかったの」

 

「だとしたら、ほむらさんがまどかさんのクラスに転入したのも何か理由があるかもしれませんね…」

 

魔女を生み出そうとしたキュゥべえ。その仕組みを知っていながら黙っていたほむら。キュゥべえが隠していた秘密は既に解き明かされたが、ほむらはまだ自分たちに全てを語ってはいない。人を疑うことが乏しい二人だが、まだ自分たちに何かを隠していることに不安感を抱き、二人は黙り込んでしまう。

 

「………」

 

そんな重い空気に耐えきれなくなったまどかは空気を変えるために話を変えることにした。

 

「ねえ、天馬くん……さっきの『円堂監督』ってもしかして…」

 

「…はい。俺たち雷門の監督です」

 

それから天馬は歩きながらまどかに自分たちの世界では『円堂守伝説』と呼ばれている円堂の数々の偉業を語った。フットボールフロンティアの事、エイリア学園と呼ばれる集団との戦い、FFIの事、それらの中でサッカーを通じてライバルたちと競い合ってわかり合い、暗躍していた悪党とも戦い、仲間と共に苦難を乗り越えて成長し、希望と栄光を掴んでいったのだと。

 

「……すごい人だったんだね。円堂監督って……」

 

まどかは天馬たちが尊敬する監督の偉大さを知り、驚くと同時に感心していた。

 

「はい!円堂監督は俺たち雷門の憧れの人なんです!」

 

「憧れの人……か、」

 

天馬も彼に対する憧れと尊敬から、円堂の事を自分の事を自慢するように語っていた。自分がすごいと思った天馬がここまで語るほどの人物がどんな人物なのかとまどかも少しだけ会ってみたくなった。

 

「でも、その円堂監督って人は今……」

 

「はい…今は姿を変えられて囚われているんです。俺たちがこの世界に来る前にやっていた戦いは、サッカーを守るためだけでなく、円堂監督を取り戻すための戦いでもあるんです」

 

天馬はぎゅっと拳を握りしめる。

 

「俺、思うんです。円堂監督なら、きっとこんな所で諦めないって!円堂監督なら、さやかさんを絶対見捨てず、何がなんでも助けようとするって。それにきっと、ここでさやかさんを助けられないなら、きっと円堂監督だって助けられない。だから決めたんです!さやかさんは絶対俺たちが助けるって!何よりさやかさんは俺たちの仲間だから!」

 

「天馬くん……」

 

天馬のその決意にまどかは思わず言葉をこぼす。まどかは最初、天馬の事を自分と同じただの中学生だと思っていた。しかし魔女と勇敢に戦い、落ち込んでいる仲間を元気づける彼の強さとやさしさに触れ、いつの間にかまどかにとって天馬は心から信頼できる存在になっていたのだった。

 

「あれ?まどか!?」

 

そこへ声をかける人物がいた。二人は反射的にその声の方に向く。振り向いた先にいたのは薄い紫色のショートヘアのキャリアウーマン。

 

「マ、ママ…!」

 

それはまどかの母、鹿目(かなめ)詢子(じゅんこ)だった。

 

「まどかさんの、お母さん…?」

 

「ママ、今帰り?」

 

まどかはこんな時間に出歩いてるところを母に見られてしまい、動揺しながら誤魔化すように尋ねる。

 

「ああ。今日は残業だったんでね。それよりまどか、あんたこそこんな時間で何をしてんだ!」

 

「あう……ごめんなさい…」

 

誤魔化し切れず叱られてしまったまどかは縮こまる。

 

「あ、あの……」

 

「ん?あんたは?」

 

「あっ、俺、松風天馬といいます!」

 

「天馬……ああ!あんたがまどかや知久が言っていた天馬くんか!」

 

詢子は思い出したように天馬を指さす。

 

「はい。今はまどかさんを家まで送り届けていたとこなんです」

 

「そっか。あたしは鹿目詢子。見てのとおり、まどかの母親。わざわざすまないね。うちの娘を…」

 

「いえ、これは俺が自分でやっていることですから」

 

天馬は遠慮がちに答えた。

 

「全く…まどか、あんたって子はこんな時間まで人様に迷惑をかけて…」

 

「うう……」

 

詢子に責められ、ますます返す言葉を失うまどか。

 

「あ、あの…まどかさんは……」

 

弁明しようとする天馬に詢子は鼻で溜息を着きながら微笑む。

 

「言わなくてもわかってるよ。どうせさやかちゃんを探してたんだろ」

 

「!……ママ、どうしてそれを?」

 

「会社にいるときに知久が連絡をくれたんだよ。さやかちゃんのママから電話で聞いた後、まどかがカバンを家に置いて飛び出したってね」

 

詢子はここで両手を腰に当てて真剣な顔でまどかと向き合う。

 

「けど、まどか。さやかちゃんを心配する気持ちはわかるけど、あんたまで危ない目にあったらどうすんだ」

 

「……ごめんなさい」

 

詢子は心配交じりの目でキッと睨みつけるとまどかは申し訳なさそうに謝った。すると詢子は両手を腰から放した。

 

「ッ!」

 

詢子は娘に体罰をするような人物ではない。しかし今回はおしおきされると思い、まどかは無意識に体をビクッ、と震わせながら眼をつぶる。

 

スッ

 

「!」

 

しかしそれは杞憂に終わった。

 

「ムチャするんじゃないよ………あんたはあたしのたった一人の娘なんだから……」

 

詢子は地面に両膝を着け、心配交じりの声色でまどかを優しく抱きしめていたからだった。

 

「ママ……」

 

母の深い愛情に包まれたまどかは体中の力が抜けて詢子と同じくその場で膝を着いた。友達を大事に想う少女。その少女を心配する母親。

 

「………」

 

誰かを大事に思いつつも、不安に押しつぶされそうな母娘の姿を見て、天馬は拳を強く握りしめた。

 

「まどかさん!」

 

天馬の呼びかけにまどかと詢子はハッ、と我に返って天馬に振り向く。

 

「さやかさんの事は……俺たちがなんとかします!……絶対、なんとかしてみせます!!!」

 

「「!」」

 

天馬は自分の手のひらを胸に当て、彼女たちの不安を吹き飛ばすようにためらいなく叫んだ。その時に天馬の眼は強い決意と想いで満ち溢れており、まるで宝石のように輝いていた。そんな彼の姿に二人の母娘は唖然として言葉を失う。

 

「天馬くん……」

 

天馬はまどかに『今の誓いは必ず守る』と言うようにうん、と笑顔で頷く。

 

「それじゃ、まどかさん、おばさん!おやすみなさい!」

 

そう言うと天馬は二人に一礼をして踵を返して走り去っていった。

 

「天馬くん……」

 

まどかが先ほどの衝撃を残しつつ天馬を見送る。

 

「なるほどねぇ……」

 

そんな中、詢子は緊張が和らいだように微笑む。

 

「あんたや知久が気に入るわけだ……あたしもあの子が気に入ったよ」

 

詢子は大きくため息をつくと安心しきったようにそう呟いた。

 

「ママ?」

 

「なんとかする、か……まどかとそう変わらない歳だってのに、なんでかな……あたしゃ、あの子の事を信じてもいいって思っちまったよ」

 

「……どうして?」

 

まどかは、詢子が初めて会ったばかりの天馬の事を何故そこまで買うのかと気になる。すると詢子は一度眼を伏せてフッ、と笑うと走り去っていく天馬の後ろ姿を見据えて答えた。

 

 

 

「良い()をしていたからさ」

 

 




というわけで前半でした。

後半はほむらの独白を描き、剣城と杏子の絆を深める予定です。
こんな拙い物語でも楽しめたら幸いです。

感想お待ちしております。


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第10話『それぞれの決意』 Bパート

後半おまたせしました。

剣城と杏子の部分を掘り下げたくって書いてたらやたら長くなって他の部分は短めになりました。

こんな拙い物語でも楽しめたら幸いです。
それではどうぞ


 

 

~~某ホテルの一室~~

 

 

 

「そうやって魔力を消費してまで死体の鮮度を保ってどうするんだい?」

 

見滝原のビジネスホテルの一室のベッドでさやかの遺体が寝かされていた。人払いの魔法を使ってここまで運んだ杏子は魂の無いさやかの身体が腐敗しないように自身のソウルジェムの光を当て、一種のエンバーミングを施していた。

 

「こいつのソウルジェムを取り戻す方法は?」

 

「僕の知る限り前例はないね」

 

いつもの調子で答えるキュゥべえ。

 

「でも君たち魔法少女は条理をも覆す存在だ。何が起きても不思議じゃない」

 

「…そいつはお前にもわからない事があるってことか?」

 

「あのイレギュラーたちの事とかね。でも今回の事はさすがの僕でも助言はできないよ」

 

 

「―――少なくとも、貴様からそんな話が聞けるとは思えないがな」

 

 

二人が声の方に顔を向けると剣城が腕を組んで壁に寄りかかりながらこちらを見ていた。

 

「君は何故杏子についてきたんだい?君がさやかの死体に出来る事なんてないと思うけど?」

 

「……お前に言われる筋合いは無い」

 

無表情で答える剣城に対し、ふー、と溜息をつくキュゥべえ。

 

「全く、意味の無い事だとわかっているのにやろうとするなんて、人間の感情は理解に苦しむよ」

 

「――失せろ」

 

薄暗い部屋の中でドスの利いた冷淡な声が響く。

 

 

 

「今の俺は、非常に機嫌が悪い…!」

 

 

 

剣城は激しい怒りを込めた禍々しい眼つきでキュゥべえを睨みつけ、ただならぬ殺気を放つ。そのあまりの迫力に怖気を感じた杏子もゴクリと息を呑んだ。

 

「やれやれ。今の僕は邪魔者のようだね」

 

キュゥべえは仕方ないように踵を返すと部屋の一部の暗闇に紛れてどこかへ消えていった。

 

「……すまねえな」

 

「いえ…」

 

キュゥべえの気配が消えたのを確認すると剣城は側にあったイスを持ち出し、杏子の隣に置いて座る。そしてそのまま杏子によってエンバーミングを続けられているさやかの身体を黙って見つめていた。

 

「………」

 

二人はしばらく一言も喋らず、さやかの身体を見続けていた。

 

「………お前にだけは、話しておくよ」

 

「?」

 

突如口を開いた杏子に怪訝な表情で振り向く剣城。杏子は休憩がてら一旦エンバーミングを止めてソウルジェムの光を消して自分のポケットにしまって語り出した。

 

「あたしはな、誰かの為に願いを叶えたこいつがほっとけなかったんだ。誰かのために頑張ろうとしていたこいつがほっとけなかった……自分の想いを貫いてもらいたかった……魔女なんかに負けて欲しくなかったんだよ……」

 

杏子は憂いるようにさやかを見つめる。

 

「こいつは、あたしにとっちゃ最後の希望だったんだ……」

 

「……それは、彼女の魔法少女としての始まりが、自分と同じだったからですか?」

 

剣城の指摘に思わず振り向く杏子。自分の過去は剣城にはまだ話してないはずなのに何故知っているのかと驚いていた。

 

「実は、教会でのあなたたちの会話を聞いてたんです」

 

「……そうだったのかよ」

 

杏子は納得したようにさやかに視線を戻す。

 

「あなたが大切な家族の為にやったことが、結果的にその家族も自分も傷つけることになってしまった」

 

「ケッ、わかった風なこと言ってんじゃねーよ」

 

杏子はそっぽを向いて悪態を吐く。しかし、次に彼の口から出たのは意外な言葉だった。

 

 

 

「わかります。俺も―――あなたと同じですから」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

~~回想~~

 

 

 

―――俺には、兄さんがいるんです。俺たち兄弟はサッカーが大好きで、幼いころからいつも一緒にボールを蹴り合っていました。

 

ところが……6年前。

 

 

 

 

 

『いくよ、兄さん!それっ!』

 

あるところに仲睦まじい兄弟がいた。剣城優一(ゆういち)12歳。剣城京介7歳。それは二人で仲良く公園でサッカーをしていた時だった。

 

ポスッ

 

『あ!ボールが木に引っかかっちゃった!取って来るよ、兄さん!』

 

『おい、京介!危ないぞ!』

 

『へーきへーき!』

 

弟はその小さな体にも関わらず、木をどんどん上っていき、ボールの間近までたどり着いた。

 

『う~ん……あと少し……』

 

ベキッ

 

『!』

 

弟がボールを取ろうと手を伸ばした直後、もう片方の手でつかんでいた枝が折れてしまい、支えを失った弟はボールと共に落下した。

 

『うわあぁぁ!』

 

『京介!』

 

兄があわてて駆け寄り、地面に激突する前に身を挺して受け止めた。

 

 

 

ドサッ ビキィ!

 

『!!!』

 

 

 

『う……う~ん…』

 

『ぐうぅ…!』

 

『…!?兄さん、どうしたの!?兄さん!!』

 

 

 

 

 

 

『残念ながら……優一君の足は……』

 

『そんな……先生、なんとかならないんですか!?先生ぇーーー!!!』

 

 

 

―――俺のせいで……兄さんの足は動かなくなりました。俺が…兄さんのサッカーを奪ったんです。

 

 

~~~~~~

 

 

 

「そんなことが……でもそれとあたしの事と何の関係があるんだよ?」

 

「……話はここからです」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

―――海外の最新医療を用いた手術を受ければ、兄さんの足を再び動かせることがわかりました…。でも、その手術費は莫大で、とても一般家庭が一生かけても用意できる額じゃありませんでした。そんなある日……。

 

 

 

『剣城京介くんだね』

 

『あなたは…?』

 

『フィフスセクターと言えばわかるだろう。我々は君の才能を高く評価している…』

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「『フィフスセクター』?」

 

「サッカー管理組織『フィフスセクター』。彼らはサッカー界の秩序を守る為、勝利を平等に分けあうと言って少年たちに八百長試合を強いらせ、逆らった学校は潰していく巨大組織でした。そして彼らは各地の学校がフィフスセクターに逆らっていないかをチェックする監視者の役割を持つ選手を各学校に送りこんでいました。その監視者は『シード』と呼ばれ、俺もその一人でした……」

 

「…なんでそんな奴らの元に就いたんだよ?」

 

「……フィフスセクターの理想とするサッカー界を創る手伝いをすれば、兄さんの手術費をもらう。そういう『契約』をしていたんです」

 

「!!」

 

剣城の『契約』という言葉に強く反応する杏子。彼も自分やさやかと同じ、形は違えど大切な誰かのために『契約』した者だった。サッカーを汚す組織に就いてまで兄の足を治そうとした彼の思いは自分の父や恭介の為に戦う運命を受け入れた自分たちと同じぐらい強いものだったと感じていた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

―――俺は兄さんの手術費の為、フィフスセクターのどんな理不尽な訓練も耐え、雷門にシードとして入学しました。最初こそは天馬や円堂監督が本当のサッカーを掲げても、フィフスセクターの命令を遂行しようとしました。ところが、ホーリーロードの試合の最中……。

 

 

 

 

『くらえっ!』

 

『!』

 

『っ!?』

 

相手チームのシードがフィフスセクターに刃向う天馬の足を潰そうとしたのをとっさに剣城が阻んだ。

 

『おい……俺たちシードの仕事は雷門を負けさせることだ。やりすぎじゃないのか?』

 

『へっ、気に入らねえんだよ。あんな奴、一生サッカー出来なくなっちまえばいいんだよ』

 

『!!!』

 

そのシードの一言がサッカーが出来ない兄の事を重ねた剣城を激昂させた。

 

『貴様……本気で言ってるのか!?』

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「俺は相手の選手生命を奪うことすら厭わないシードのやり方に激昂し、自ら点を入れて勝敗指示に逆らい、雷門を勝たせました。その後、当然のようにフィフスセクターから咎められ、次は負けさせるよう指示されました。しかし、その時は既に俺の中に迷いが生まれていました。このまま兄さんの足のためとはいえ、フィフスセクターに従うことが本当に正しいのかと。その迷いの所為で、俺は次の試合に足を運ぶこともできませんでした。天馬達が十人で試合に臨んでいる中、病院にフィフスセクターの男が現れ、こう言われたんです。『もし雷門が勝つような事があれば兄さんの手術費は無かったことにしてもらう』と…」

 

「それって、脅迫じゃねぇか…」

 

「ええ……それが俺をより焦らせ、迷いをさらに募らせました」

 

「………」

 

「でも、その時の会話を……兄さんに聞かれてしまっていたんです」

 

「!!!」

 

「兄さんは動かなくなった自分の足を見せながら俺に言いました……『この足を元に戻してくれと一度でも頼んだのか』と……」

 

そこまで話したところで杏子は自分の教会に現れた魔女を退治していたところを父に見られた時の事を思い出す。杏子もまた父の為に願って魔法少女になったものの、その事を父には黙っていた。それ故に何も知らなかった父も真実を聞いて優一の様にショックを受けていた。

 

「兄さんは俺がフィフスセクターの一員になっていた事に嘆き悲しみました。そしてそのまま、俺は兄さんに泣かれながら病室を追い出されました……」

 

剣城のその語りに杏子はさらに思い出す。彼女は『父の願いを人々に聞いてほしい』という願いで契約した。しかし、それは人々が魔法の力で聞いていただけで誰も心から聞きたかったわけではなかった。そして杏子の父もただ自分の話を人々に理解してもらいたかっただけで、人々を操ってまで語りたかったわけでは無かった。それ故に杏子を悪魔と契約した魔女だと罵った。優一もまた剣城を悪い組織に入れてまで足を治したかったわけでは無かったのだ。杏子は剣城がここまで自分と同じだった事に驚きつつも、決していいものとは思えない親近感がわいていた。

 

「……それから、どうなったんだ?」

 

「……兄さんにフィフスセクターとの契約を拒否された俺はフィフスセクターと決別するために後半からの試合に臨みました。でも最初はまだ心のどこかで迷いがあり試合に集中できませんでした。でも、天馬の言葉で目が覚めたんです」

 

 

『どうしたんだ剣城!それがお前の全力なのか!?そんなんじゃ、サッカーが泣いてるよ!』

 

 

「その時俺はわかったんです。俺が兄さんに出来る最大の償いは昔に失われた俺と兄さんのサッカーをすることだと。そしてそれを貫いた結果、試合は逆転勝利を収め、その事に安堵した兄さんとも仲直りすることが出来ました」

 

「……そうか」

 

杏子は話の中で優一がショックで自殺したのではないかと内心ハラハラしていたが、最後まで自分と同じではなかったことに胸をなでおろす。

 

「あなたに比べたら、俺の方がずっとマシだということはわかっています。でも、俺が勝手にやった事が……兄さんを泣かせた事に変わりはありません」

 

 

 

『お前は俺たち兄弟のサッカーを裏切ったんだ!!!』

 

 

 

「あの時の兄さんの涙は、今でも忘れられない…」

 

剣城は哀しげな眼で兄に言われたことを思い出す。

 

「じゃあ…あんたがあたしについてきたのは…」

 

「その頃の俺に似ていたんです……教会で初めて会った時のあなたの雰囲気が……もっともそれはさやかさんとの会話を聞いて確信に変わりましたが」

 

剣城は顔を上げて再びさやかを見つめる。

 

「さやかさんは、想い人の腕を治すことを望んで魔法少女になった。思えば俺はさやかさんも昔の自分に重ねていたのかもしれません……」

 

さやかは腕が動かなくなってバイオリンが弾けなくなった恭介の腕を治すことを望んで『契約』したが今の自分を受け入れられず絶望した。

杏子は父の話を人々に聞いてもらう事を望んで『契約』したがそれを知られたことが原因で父を悲しませ、家族を死なせてしまった。

そして剣城は自分のせいでサッカーが出来なくなってしまった兄の足を治す事を望んで『契約』したが、その代償として自分たちのサッカーを裏切った事を知られて兄を悲しませてしまった。

理由も経緯も違う三人だが『契約』が元で傷ついてしまったという共通点を持っていた。

 

「あんたはあたしとさやかを足して2で割ったってとこか……ところであんたの兄貴って、今どうしてんだ?」

 

「ホーリーロードの決勝直前に匿名の支援金が届き、無事に手術を受ける事が出来た後、今は必死にリハビリしています」

 

「そうか…」

 

杏子は優一の現状が良いと知ると、憑き物が落ちたように大きくため息をついて視線をさやかに戻す。

 

「だが、あたしたちは他人の為に願った結果、ただ自分を傷つけただけだった。父さんも必死に人々を救うと言って訴えかけたけど誰も理解されなかったように、自分以外の誰かの幸せの為に動いたのは結局間違いだったって事だよな……」

 

杏子は諦めたような憂いる瞳で自分以外の為に行動した自分達を自虐する。

 

「それは違います」

 

「!」

 

剣城の思わぬ否定に杏子は驚いて彼に目を向ける。

 

「確かに……あなたの願いによって、あなたのお父さんを死なせてしまった」

 

「……そうだよ。だから、なんだってんだ…?」

 

杏子は言われたくないと拒むようなしかめっ面で剣城から顔を背ける。

 

「でも……あなたのお父さんはこの世界の人々を救いたかった。そしてあなたはそんなお父さんの力になりたかった。そうでしょう?」

 

「……!」

 

杏子は思い出す。自分の父は新聞の事件の記事を見ただけで涙を流すような優しすぎる人だった。そしてこの世界の悲劇を何とかするために新しい説法を唱えた。しかし、それは当然のごとく人々に理解されなかったが、自分にはそれが耐えられなかった。

 

「あなたたちはただ人々やお父さんを救いたかった。その方法は良い結果を出しませんでしたが、あなたたちのその時の想いは絶対に間違ってなんかいないんです!」

 

「……あたしと、父さんの想いが…間違ってない…?」

 

「そうです!俺は兄さんの為にシードになりましたが、兄さんの気持ちを考えなかった……でも、兄さんは言ったんです…」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『兄さん……その、まだ怒っているか……?俺がやった事を……』

 

『………』

 

剣城の問いに優一は数秒間黙る。

 

『ああ。確かにお前のやった事は許さない』

 

優一は真剣な顔つきでそう答えた。

 

『に、兄さん……』

 

『でも、わかっているんだ。お前が俺の為にやった事だったんだと。それだけは受け入れられる。俺がそうさせてしまったからな』

 

優一はにこやかな笑顔でそう言った。

 

『兄さん…!』

 

『京介。お前が俺の為に何かをしたいというなら、俺たちのサッカーを貫いてくれ。そうすれば……俺はお前と同じ夢を見られる……』

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「あなたのお父さんは人々を救おうとして説法を唱えたが、理解されなかった。そしてあなたはお父さんを助けたくてキュゥべえに願ったが、お父さんから魔女と罵られた。でも、あなたたちの誰かに対するその想いは間違いなく本物です!」

 

「あたしたちの想いが、本物……」

 

「人は強い想いから行動する。それがどんな結果であれ、すべてはそこから始まるんです!兄さんの為に動き、その方法を間違えてしまった俺だからこそわかる!あなたのお父さんの想いも、あなたのお父さんに対する想いも、決して間違ってなんかいない!俺たちはただ、やり方を間違えてしまっただけなんです!」

 

「!」

 

杏子と父も確かに誰かを助けたかったという心があった。それだけは彼女にも否定できなかった。自分たちはとにかく父や人々を救うことに必死だったが、新しい説法を唱えなくとも、キュゥべえに願わなくとも、探せば他に方法があったかもしれない。だが鬼気迫る状況の中ではそれを考える余裕すら彼女達には無かった。

 

「けど、あたしたちの事はもう終わってんだぞ……今更何を…」

 

今となっては悔やんでももう変えられないという後悔が杏子の心を襲う。

 

「……まだ終わってなんかいません。これからそれを変えに行くんじゃないですか」

 

「え?」

 

「魔女になったさやかさんを救うんです。彼女はまだ上条さんにも告白していない。彼女の願いの結果はまだ出てない。まだ間に合うんです!彼女の願いを、俺たちのような結果にしたくないんでしょう?」

 

「!」

 

「間違っていたなら正せばいい!正すことが出来ないならば、二度と同じ間違いを繰り返さないようにすればいい!それは俺たちにしかできない事なんです!誰かの為に願ったが、そのやり方を間違えた俺たちにしか……」

 

「やり方を間違えた、あたしたちにしか…」

 

「間違いを犯した過去を変えることは出来ない。でも、これからの未来は変えられる!さやかさんだけでなく、俺も、そしてあなたも!これからの未来を変えて、過去の過ちが無駄ではなかったことを証明するんです!」

 

「!!!」

 

杏子は過去に囚われ、当ても無く好き勝手に生きようとして迷走していた。だが、剣城は彼女よりマシとはいえ、自身の過ちから目を背けず、全てを受け入れて真っ直ぐ前に進もうとしていた。自分のような間違いをしていながら、それすら力に変えて胸を張ろうとしていた。それは教会で話した時のさやかとはまた違う確固たる強さがあった。そして彼は自分に手を伸ばし、自身が歩もうとしている道に一緒に連れて行こうとする思いやりもあった。

 

「たくっ……お前って本当にモノ好きだよな……こんなあたしの為にここまで必死になって……」

 

そんな剣城に杏子は眼を閉じてフッ、と小さく笑う。

 

「杏子さん……」

 

そしてそのまま剣城に顔を向け、「でも…」と言葉を続けながら微笑んでこう言った。

 

「ありがとな……剣城」

 

「…!杏子さん…」

 

この時彼女は初めて剣城の名を呼んだ。杏子の態度の変化に驚きつつもようやく自分に心を開いた杏子に剣城も笑みをこぼした。

 

「杏子さん……必ず取り戻しましょう、さやかさんを」

 

「ああ……よろしく頼むぜ」

 

薄暗い深夜の一室で次元を超えた絆がより強くなった瞬間だった。

 

 

 

 

~~ほむら宅~~

 

 

 

「ここまでは今までと同じパターンね…」

 

ほむらは魔法でいくつもの額縁が浮かぶ白い空間に加工した自宅の部屋で一人今の状況を整理していた。

 

「巴マミが生存しており、佐倉杏子とは一応の協力を得た。しかし……美樹さやかが魔女化した……ただ今までと大きく違う点は……」

 

ほむらの頭である一団が思い浮かぶ。

 

「チーム雷門。彼らは何故現れたのかしら……」

 

天馬と二人きりでの会話を思い出す。彼はある人物からマギカボールを与えられ、この世界にやって来たと言っていた。しかし、それがどこの誰かも知らずに助けると約束していた。彼をはじめとした雷門の面々は皆そのように誰かの為に迷うことなく助けようとしていた。

 

「馬鹿ね……彼らは魔女と戦えるほどとはいえ、一人一人の力は弱いわ……でも彼らは決して一人で戦わず、常に誰かと共に戦ってる。それではいざ一人になった時に命取りになるし、何より仲間を失った時は立ち直れないわ」

 

雷門のやり方は危なっかしく、一度崩れたら二度と戦えなくなると危惧するほむら。

 

「……なのに、彼らのやり方を心から否定できない……」

 

そう思いつつ唇を噛むほむら。頭では愚かだと考えていても、その小さな胸の奥では何か引っ掛かりのようなものがあり、どんなに振り払おうとしてもその掛かりが外れることは無かった。

 

「どうして…?こんな気持ちになったことは今まで無かったはず…」

 

現に彼らはその思いにより巴マミの命を救い、その後、天馬の言葉によってその心も救った。彼らの強い心の光はほむらにも眩しすぎるほどであった。

 

「でも、今回はさすがに彼らでも美樹さやかは救えないわ。魔女化した魔法少女を戻す術は無いのだから」

 

雷門はこれまで自分達の心に強い影響を与えてきた。しかし、彼らはサッカープレイヤーであって魔法少女では無い。魔法どころかマギカボールが無ければただの人間と同じになってしまう。そんな彼らに魔女を魔法少女に戻す術があるとはほむらにも到底考えられなかった。

 

「いざとなれば、私が彼女を倒す」

 

ほむらにはいざという時まで明かさないある目的があった。その目的の為に、天馬たち異世界人を利用することも考え、自分の魔法少女としての願いの為に非情になることも厭わないと心に決めていた。その為には他人を利用しても、心から頼ったりはしないという悲しい覚悟があった。それ故、最悪の場合はさやかを他の魔女と同様倒すことによって見殺しにすることも画策していた。その覚悟をいつもの冷たい眼差しに込めていた。

 

「なのに……そう決めたはずなのに……今は胸が苦しい……」

 

覚悟を何度自分の心に確認しようとも、その心の奥底まで響かず、決意の眼差しを震わせていた。もう誰にも頼らない。その悲しい覚悟が彼女の中で揺るぎかけていた。

 

『ほむらさん……俺は、例えどんなことが起こっても、誰も見捨てたりなんかしませんよ。まどかさんも、さやかさんも……そして今泣いている、あなたも』

 

「松風天馬…」

 

天馬の言葉が甦る度にほむらの心を締め付けるのであった。

 

 

 

 

 

~~翌朝・路地裏~~

 

 

 

「遅いな……あいつら…」

 

暗い路地裏で杏子がぼやく。彼女はさやかを助けるために魔法少女特有のテレパシーを使い、登校中のまどかとほむらに雑居ビルが立ち並ぶこの暗い路地裏に召集を掛けたのだった。

 

「何か、あったのかもしれないね」

 

まどかも心配そうに相槌を打つ。杏子に召集を掛けられたのは仁美との登校中の時で、さやかの事を心配していた仁美に不審に思われながら自分も休むと言ってこの場にやって来たのであった。到着してみると、召集を掛けた杏子と剣城、そして魔法少女の衣装を着たほむらが待っていた。今はマミの家にいる天馬たちを待っていたところであった。

 

「剣城京介を迎えに行かせたけど、もう二十分以上経つわね」

 

「テレパシーにはあの天馬って奴が答えたからマミたちにも伝わってる筈だ。ここはマミん家からそんなに離れてないってのに……」

 

そう言いながら持っていた袋から串団子を取り出して頬張る杏子。

 

「ねえ、杏子ちゃん。ホントにわたしがさやかちゃんを取り戻せる鍵になるの?」

 

まどかは少しためらいがちに待っている間に杏子が自分に話した作戦を聞きなおす。

 

「ああ、さやかはまだ魔女化して間もない。もしかしたらまだ人間だったころの心が残ってるかもしれねえ。だから一番の親友だったあんたと、あんたと同じぐらいさやかの事を気にかけていた神童の言葉なら届くかもしれねえ。そこに賭ける」

 

杏子は食べきった串団子を投げ捨てるとにやりと笑う。

 

「もしかしたらさやかの魔女を真っ二つにしたら、グリーフシードの代わりにさやかのソウルジェムがぽろっと落ちてきたりとかさ……そういうもんじゃん?愛と勇気が勝つストーリーってのは」

 

まどかも思わず、うんと、笑ってしまうと杏子はどこか遠くを見つめていた。

 

「あたしも……考えてみたら、そういうのに憧れて魔法少女になったんだよね。すっかり忘れていたけど、さやかと剣城はそれを思い出させてくれたんだ」

 

杏子はどこか気恥ずかしそうに言った。

 

「さやかと剣城は全くというわけではないけどあたしと同じだったんだ。さやかは魔法少女になったばかりのあたしで、剣城はあたしの願いが間違ってないって言った。初心を思い出したって奴かな……なんだか心が晴れてきたんだ……」

 

杏子は周りにビルが立ち並ぶ空を見上げる。まどかはマミから聞いた彼女の過去を思い出していた。彼女も父と共に人々を表と裏から救うんだと張り切っていたが例の悲劇があり、その時にあった想いを失っていた。

しかし、剣城の言葉でその想いを取り戻しつつあると感じ、雷門の不思議な力に思わず笑みをこぼした。

 

(マミさん。杏子ちゃんにも、雷門のみんなの強さが伝わりましたよ…)

 

今はここにいないマミに向けてまどかは心の中で静かに語った。

 

「まどかさん!」

 

三人が声に気づくと天馬が剣城や神童と共に慌てた様子で走ってきていた。彼らがまどかたちの前に到着するとよっぽど慌てて走って来たのか三人は顔を下に向けてその息を乱していた。

 

「天馬くん!」

 

「あれ?お前らだけか?マミや他の連中はどうしたんだよ?」

 

人数が足りない事を不審に思う杏子。天馬は息を整えつつ切羽詰ったような表情で答えた。

 

「それが、大変なんです!マミさんが……マミさんがいなくなってしまったんです!」

 

「!?」

 

「ま、マミさんが!?」

 

「どういうことだよ!?」

 

天馬たちは驚く三人の少女達に語った。今朝の杏子からのテレパシーの後、マミがテレパシーに応じなかった事を不審に思った天馬がマミの様子を見に部屋に向かった。ところがマミはベッドから消えており、皆と一緒に家の中を探してもどこにもいなかった。彼女が行方不明になったとわかると、信助が真っ先に家を飛び出してマミを探しに行ってしまった。それから天馬たちは各地に別れて探しに出かけた。その中で剣城が合流できたのは天馬や神童だけだった。あまり時間もかけられなかったので仕方なく二人だけを連れて戻って来たのだと言う。

 

「チッ!マミの奴……」

 

「彼らも結界を探す術は持っているわ。とりあえず、このメンバーだけで行きましょう」

 

一同は全員が揃わない事を不服に思いながらも彼らが合流することを祈ってさやかの結界に向かうことにした。

 

 

 

~~工事現場~~

 

 

 

「間違いねえ……ここだ」

 

杏子のソウルジェムが悲しげな淡い光を放つ。そこは最後にさやかと共闘した場所とは別の封鎖された工事現場だった。一晩経っていた所為か、さやかの結界はここに移動したようだった。杏子は強引に工事現場の入り口をこじ開け、奥の一画にある壁で結界の入り口を見つけた。

 

「昨日と同じ魔力を感じる。間違いなくさやかはこの結界の中にいる」

 

杏子はソウルジェムをポケットにしまいながら一同にそう告げる。その中で神童はあの夜の工事現場でさやかを止められなかった事を思い出し、悲しげな顔をする。

 

「さやかさん…」

 

「ところであんた、本当にいいんだね。ここで待っていてもいいんだよ」

 

杏子がまどかに結界の中に入るか最終確認をする。おずおずとしながらも頷いた。

 

「うん……わたし、ただ皆の後ろについてくることしかできないかもしれない……でもわたしは、さやかちゃんを助けたい…!だからお願い……連れてって」

 

そういうと杏子はクスリと笑って、

 

「へっ……結局どいつもこいつも変わった奴らってことか…」

 

呆れ気味の声で自らの姿を真紅の魔法少女の衣装に変え、天馬たちと共に結界の中に踏み込んだ。

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「ここは……」

 

六人が結界に入るとそこは古びた赤茶色のレンガで覆われた世界で、そのレンガには同じポスターがびっしりと張られていた。

 

「これが、さやかちゃんの結界なの?」

 

「俺たちが最初に見た空間と違うようですが……」

 

剣城は昨夜に閉じ込められた結界とは違うことに違和感を覚える。

 

「いや、どうやら間違いないようだ。見ろ」

 

神童がレンガに張られた無数のポスターに注目する。天馬もその内の一枚を見ると見知った人物がスポットライトを浴びながらバイオリンを弾いていた。

 

「これってまさか、上条さん?」

 

「ああ……これはおそらく、さやかさんの上条への想い……いや、彼女の願いが絶望に変わってしまった事を表しているんだろう」

 

神童の分析で一同はさやかが絶望して魔女になった事を改めて実感する。またそう分析した神童自身も物悲しい眼でポスターを見つめていた。

 

「さやかちゃん……」

 

「……どうやら話してる余裕は無いみたいね」

 

「え?」

 

まどかがポスターに気を取られているとほむらが何かの気配を察知し、警戒を強める。

 

「来るわ」

 

ほむらがそう言った直後、周りの景色がものすごいスピードで走り出す。

 

「これは……!」

 

「気づかれたか!走れ!」

 

杏子の叫びと共に走り出すと、動く景色と共に迫ってくる木製の扉が自分達にぶつかる前に次々と開いていき、最後の扉が開くと視界が光に包まれた。

 

 

 

~~魔女結界・最奥~~

 

 

 

一同の視界が戻るとそこは天まで届くほどの真っ赤な客席に覆われたコンサートホールだった。しかし、客席には誰も座っておらず、中心の広いスペースにはいくつもの楽器を用いた使い魔の楽団が悲しげなオーケストラを奏でていた。

 

「あいつが本体だ」

 

杏子が眼で指す先を見ると、例の甲冑を着けた巨大な人魚の魔女がいた。彼女は巨大な剣を指揮棒のように振りかざしており、その姿は楽団の指揮者の様にも見えた。しかしその動きはどこか壊れており、それが上条に対するさやかの想いなのだとまどかは感じていた。

 

「まどか」

 

杏子の呼びかけで我に返ったまどかは一度杏子を見てから頷く。そして体を震わせながら精一杯の勇気を振り絞って呼びかける。

 

「さ、さやかちゃん……わかる?わたしだよ……まどかだよ!」

 

「さやかさん!俺達の声が聞こえるか!?」

 

まどかと神童の声に魔女はこちらに振り返った。しかし、二人の必死な呼びかけにも応じずに無感情に剣を振りかざす。

 

「!車輪が飛んでくるわ!気を付けて!」

 

ほむらがそう叫んだ直後、さやかの魔女は背後から大きな木製の車輪を出し、天馬たちに向かって放った。

 

「き、きゃあああ!」

 

「まどかさん!」

 

即座に天馬がマギカボールを出してユニフォーム姿になり、シュートを放って車輪を弾き飛ばす。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「う、うん。ありがとう…」

 

「天馬!」

 

神童の掛け声で二人が視線を戻すと魔女の周りにたくさんの車輪が出現していた。

 

「こいつは厄介になりそうだぜ……テメーら!力の出し惜しみはすんなよ!」

 

そう言うと杏子は赤い槍を出し、神童と剣城もユニフォーム姿に変身する。

 

「行くぞ、二人共!化身だ!」

 

「「はい!」」

 

天馬と剣城に神童の呼びかけると体に力を溜め、一気に解き放つ。

 

「『奏者マエストロ』!!!」

 

「『剣聖ランスロット』!!!」

 

「『魔神ペガサスアーク』!!!」

 

仲間を取り戻すために、魔法少女とはまた異種ともいえる心の力を解放する天馬たち。

 

「……すごい」

 

雷門の中心的メンバー三人の化身が並ぶその光景はまどかたちにとっても壮観この上ないものだった。

 

「さやかさん…!あなたは必ず……助けて見せる!」

 

天馬の決意の言葉と共に魔法少女の絶望との戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 




――ED『Magia』――


次回予告

天馬
「メンバーが全員揃わないまま、さやかさんの魔女との戦いが始まった!絶望の狂想曲に俺達は踊らされる!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第11話『死闘!人魚の魔女オクタヴィア』!」



というわけで第10話でした。

ところでまどマギファンの皆様は知っての通り、マミ、さやか、杏子の三人は本編では壮絶で悲しい死を迎えてしまいます。それ故、一部で彼女達は退場組などと呼ばれています(ちなみに作者は『死の三色信号(デッド・シグナル)』と呼んでいる)。しかし、皆様の中にはお気づきの方もいると思いますが、この物語ではそんな彼女達をそれぞれ雷門のメンバーに支えてもらっています。一人ぼっちで寂しがり屋のマミにはいつもそばにいてくれる弟(キュゥべえに変わる新たなマスコット)として信助を、恋する乙女のさやかにはその想い人の親友、そして自分に対する想いによって支えられた事がある応援役として神童を、過去の過ちの所為で自分を傷つけた杏子には同じ痛みを持つ者として剣城をぶつけてみました。こんな妄想炸裂な文章でも付き合ってもらえるとありがたいです。

感想お待ちしております。




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第11話『死闘!人魚の魔女オクタヴィア』

連載1周年!

そしてお待たせしました。オリジナル部分を考えている間にお気に入り登録してくれる方が増えたり、評価を下さった方がいたりとこんな鈍足投稿作品を気に入ってくれてる人たちがいてくれて感謝です。



このところあちこちで梅雨入りして大雨が続きますね。そんな中で作者はティーパックの紅茶なりドリップコーヒー飲んだりしています。(さっさと続き書きやがれ)

さて今回からさやかを取り戻すための戦いが始まります。
ほとんど原作どおりかもしれませんがお楽しみいただけたら幸いです。ではどうぞ




―――OP『打ち砕ーくっ!』―――


 

~~魔女結界~~

 

 

 

「ロストエンジェル!」

 

剣城が自分たちに向かって飛んでくるいくつもの車輪をシュートで弾き返す。

 

「くっ!数が多すぎる!」

 

普通のシュートでは車輪一つ弾くのがやっとだが、化身シュートでは貫くように数多くの車輪を弾き壊すことが出来た。しかしその分体力の消費が激しい為、そう何発も撃てるものではない。

 

「さやかちゃん!聞こえてるんでしょ!正気に戻って!」

 

まどかもさやかの魔女に必死に呼びかけるが魔女は剣を振るって容赦なく生み出した車輪を飛ばし続ける。

 

「させるか!」

 

まどかに当たる直前で杏子が彼女を庇うように前に出ると両手を組んで壁のような結界を張って防ぐ。

 

「あ、ありがとう」

 

「礼はいらねえ。それより呼び続けろ!」

 

「う、うん!」

 

「でやっ!」

 

一方で天馬が車輪にシュートを放ち、弾き飛ばす。

 

ゴロロロ!

 

「!!!」

 

すると横から別の車輪が天馬に向かって転がってくる。

 

「危ない!」

 

すんでのところで神童がシュートを放ち、車輪を破壊する。

 

「あ、危なかった……ありがとうございます、神童先輩」

 

「気にするな……」

 

神童はさやかの魔女に体を向ける。

 

「さやかさん!本当は聞こえているんじゃないのか!俺の声も、まどかさんの声も!君は本当にこれでいいのか!?今の君のその姿は、君がなりたかったものじゃないはずだ!本当の自分を取り戻してくれ、さやかさん!」

 

神童は魔女の中に本当のさやかの心があると信じ、使い魔の奏でる悲しいオーケストラにも負けないほどの音量で叫び続ける。しかし魔女はそれに答える事無く、剣を振り下ろすたびに車輪を次々と生み出しては彼らに向かって放ち続ける。

 

「ふっ!」

 

ほむらがバズーカを放ち、自分に向かってくる複数の車輪を吹き飛ばす。バズーカを放った反動で少し後ろに下がった直後、別の方向から吹き飛ばした数を上回る数に車輪が飛んでくる。

 

カチッ

 

ほむらは迫ってくる車輪に怯むことなく腕に付けた盾を鳴らすと、次の瞬間には車輪から離れたところに移動し、それと同時に時間停止中の移動と同時に仕掛けておいた手榴弾で迫っていた車輪を爆破する。

 

(おかしい、美樹さやかの魔女はここまでの強さではなかったはず!)

 

ほむらは魔女の繰り出す車輪の数とそれを生み出すスピードの異常さに違和感を覚える。

 

「くそっ!キリがない!」

 

「このままじゃ……」

 

そんなほむらの考えも知らず、天馬たちは終わりのない連続攻撃を前に窮地に立たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

~~一方・その頃~~

 

 

 

「いたか!?」

 

「いや、いなかったぜよ!」

 

「マミさんも信助も、一体どこに…」

 

河川敷に集まった葵、水鳥、茜、錦の四人は未だに姿を消したマミと彼女を探しに出かけた信助を探し続けていた。しかし、見滝原の土地勘が無い為、二人が行きそうな場所が思い当たらず捜索は難航していた。

 

「くそ……こうしている間にもまどかたちはさやかを助けようと頑張ってるはずなのによ……」

 

水鳥は今すぐにでもさやかの救出に向かいたいのに、マミ達が見つからない事が歯痒いように歯を強く食いしばる。

 

「そういや天馬と神童は?」

 

「そういえば、さっきから姿が見えないぜよ」

 

「私、さっき神サマたちが剣城くんと一緒に走って行ったところ見た」

 

「え?本当ですか?茜さん」

 

「うん。もしかしたらさやかちゃんを助けに行ったのかも…」

 

「とりあえず、今はそっちは任せるしかねーな。一刻も早く二人を見つけてあたしたちも合流しねーと…」

 

水鳥が遠くを見つめながらそう言うと葵は何故か不安げな顔を浮かべる。

 

「…?どうしたの、葵ちゃん?」

 

「私たち、本当にさやかさんを助けられるんでしょうか…」

 

「む?いきなり何を言うぜよ!」

 

「私たちや天馬たちの力を信じてないわけじゃありません。でも、絶望に飲み込まれたさやかさんを助けるには一体どうすればいいのかと思って……」

 

「う~ん。確かにな……具体的な方法はあたしたちも思いつかねーし…」

 

「何を言うか!ワシらが出来ることをやればいいんじゃ!」

 

「だからそのやり方が決まってないって話だろーが!」

 

「うっ……」

 

さやかを助ける具体的な手を考えていない錦は水鳥に反論できずに言葉を詰まらす。

 

「もし、私たちの力だけでさやかさんを助けられなかったら……」

 

葵の言葉とさやかを救う手だてが思いつかない事に四人はさやかを助けられなかった時の事を考えてしまう。この魔法少女の絶望の末路との戦いはこの世界に来るまでのサッカーを守るための戦いの時同様、絶対に負けられない戦いであった。さやかを救出できなかったら、それは二度と取り返しのつかない‘敗北’であり、もしそうなれば自分たちは二度と立ち直れない可能性もあった。そんな危険性のある戦いに勝てるかと四人の心に不安が募る。

 

「何か、方法は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、葵たちの指輪が淡い光を放つ。

 

「っ!?…何だ!?」

 

「指輪が……」

 

葵たちの指輪はそれぞれ青、緑、赤色の光を放っていると茜が持ち歩いているカメラが光の三原色を表すように白い光を放つ。四人が驚いていると四つの光はやがて小さくなっていき、ついには収まるとカメラは元のピンクの色、指輪はそれぞれ元の静かな輝きの色に戻った。

 

「今のは一体…それにどうして茜さんのカメラが?」

 

「わかんない……私のカメラ、どうしちゃったの?」

 

葵の呟きと共に光を放ったカメラに異常が無いか茜が調べる。と、ここで不審な点を見つけた。

 

「あれ、カメラに何か録画されてる……」

 

「そういや、あんたのカメラって動画も撮る事ができるんだっけ?」

 

「うん、でも何が……っ!?」

 

カメラに録画されていた動画を見て茜は信じられないように目を見開く。

 

「どうした?」

 

「皆、これ!」

 

茜は慌てながらその動画を葵達に見せる。

 

「なっ!?こ、こいつは…!」

 

三人もそれを見て驚愕する。それは自分たちが予想だにしていなかったものであった。

 

「どうして、この時の事が!?」

 

「わかんない。あの時確かに電源は切ってたはずたのに……」

 

撮っていたはずが無いある出来事が撮られていたことにカメラの持ち主である茜自身もわけがわからず困惑する。

 

「…!」

 

葵は何かを決意したようにキッと顔つきを変える。

 

「……茜さん!このカメラ、借ります!」

 

葵は半ば強引に茜からカメラを取り上げ、別の方向に走り出した。

 

「え…葵ちゃん!?」

 

「おい、どこに行くんだよ!?」

 

「これが、さやかさんを助ける最大のカギになるかもしれないんです!」

 

「え?」

 

「私たちは、私たちにしかできない事をやるんです!天馬たちを“勝利”に導くために!」

 

こちらに顔を向けながら断言する葵は顔を正面に戻して走り去っていた。そんな彼女に三人は少しの間呆然と立ち尽くしていたがすぐさま彼女の後を追った。その先にさやかの救出成功という‘勝利’を信じて。

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「はあっ、はあっ……」

 

天馬たちが魔女と戦い始めてからもう数時間も経過していた。しかし、まどかや神童が呼び続けてもさやかが答えることは無く、全員の体力が失われていくばかりだった。

 

「さやかちゃ……げほっ…」

 

何度も叫び続けていたまどかも声が枯れ気味になって度々むせる様になっていた。

 

「佐倉杏子、あなた魔力は……」

 

「まだ魔女化するほどじゃねえが……さすがにキツくなって来たぜ…」

 

魔力を消費し続け、ほむらと杏子は苦しげな顔をする。

 

「くそ……俺たちの化身も限界に近い……」

 

「あと何回出せるかどうか……」

 

剣城と神童も大幅に体力を奪う化身を使い続け、息を荒くする。

 

「でも、諦めるわけにはいきません!俺たちの声がさやかさんに届くまでは!」

 

天馬は強気に言うが、彼の限界も近くなって顔から大量の汗を流していた。しかし、それでも彼らに立ちふさがるのは説得に集中するあまりほとんどダメージを受けてない魔女とその魔女が生み出す大量の車輪だった。

 

「天馬、剣城!こうなったら一気に蹴散らすぞ!」

 

「「はい!」」

 

神童の掛け声に天馬と剣城は相槌を打つ。

 

「奏者マエストロ!!!」

 

「剣聖ランスロット!!!」

 

「魔神ペガサスアーク!!!」

 

わずかに残った力を使って三人は化身を出現させる。そして神童が指揮をするかのように手を上げる。

 

「―――化身よ、一つになれ!!!」

 

神童のその合図と共に三体の化身を光に包まれ、それが一つになると眩しい光を放つ。その光にまどか達が一度目をつぶる。

 

「あ、あれはっ!?」

 

再び目を開けてその光を見たまどかの声を共にほむらと杏子もまどかの見る先を見ると驚愕する。そこには大きな翼を持った鳥をイメージした装飾を頭に着けた黄金色に輝く化身が現れていた。

 

 

 

「「「『()(てい)グリフォン』!!!」」」

 

 

 

天馬たちは身構えながら新たに出現させた化身の名を口にする。

 

「化身が……合体した!?」

 

ほむらたちは驚きと共に合体した化身の姿と放つ光に神々しさを覚え、思わずため息をつく。そして天馬が自身のマギカボールを高く蹴り上げる。

 

「「「うおおおおおっっ!!!」」」

 

そして三人が力を溜めると『グリフォン』は両手の握り拳を横に構え、左手の拳から鞘(さや)を抜くように右手の拳を横に引くとそこから炎の大剣を生み出し、両手で振り上げてからボールに向けて振り下ろすと同時に天馬、剣城、神童の三人もシュートを放つ。

 

「「「『ソード・オブ・ファイア』!!!」」」

 

「イグニッション!!!」

 

三人は同時にボールにシュートを放った直後に天馬が叫ぶと、ボールは巨大な炎を纏いながら流星の様に地上に向けて飛んでいき、それが車輪の集団の中心部に着弾すると大爆発を起こして車輪を一掃させた。

 

「すげぇ……なんて威力だ…」

 

杏子は合体化身のすさまじさに唖然とする。

 

「くっ!」

 

一方で天馬たちは合体化身を解除して化身を自分たちの身体に戻すと、膝を着く。化身を合体させて強烈な必殺技を放ったせいで体力を大幅に消費したようだった。

 

「まどかさん!」

 

杏子やほむらと同じようにグリフォンの凄さに呆然としていたまどかは天馬の呼びかけに気づき、ぐっと心を整え、勇気を言葉に込めてさやかの魔女に訴える。

 

「……さやかちゃん!もうやめて!こんな事、さやかちゃんだって嫌だったはずだよ!」

 

「そうだ!さやかさん、君はまどかさんを、大切な親友を傷つけたりなんかしたくないはずだ!」

 

神童も膝を着きながらも必死に呼びかける。

 

「俺は……いや、俺たちは知っている!いつも明るくて、正義感が強くて、自分以外の誰かを大切に想う事が出来る、本当の君の姿を!だから、君は自分の絶望と呪いを俺たちに振りまくなんて望んでないはずだ!思い出すんだ!魔法少女になった時の自分の気持ちを!」

 

「さやかちゃん!マミさんみたいな魔法少女になりたいんでしょ!正義の味方になりたいんでしょ!……ねえお願い!元のさやかちゃんに戻って!わたしの大好きだったさやかちゃんに戻って!」

 

その瞬間、魔女の周りで奏でていた使い魔たちの演奏が止まった。音が止んで辺りが静まり返った直後、魔女は上半身をねじれさせ、腕を奇妙な方向に曲げていた。それはもがき苦しんでいるようにも見えた。

 

「……!まさか…!?」

 

「さやかさん!?聞こえたんですか!?」

 

ほむらと天馬が一瞬魔女にまどか達の声が届いたと思った直後、まどかと神童はチャンスだと思い一気に呼びかける。

 

「さやかちゃん、さやかちゃん、ごめんね。友達なのに……さやかちゃんが苦しんでいる時に何もできなくて……でも、これからはわたしが支えてあげるから。さやかちゃんを絶対一人ぼっちにしないから!」

 

「そうだ!まどかさんだけじゃない!俺たちもいる!俺も、まどかさんも君を決して見捨てたりなんかしない!だから正気に戻るんだ!さやかさん!」

 

二人が必死に呼びかけると、魔女は一瞬動きを止めた。

 

「さやかちゃん?」

 

まどかが淡い期待を持って魔女に叫び返す。

 

 

その直後、自分たちに向かって何かが伸びてきた。

 

「え……」

 

ガキィン!!

 

二人が気が付くと、その伸びてきたものを杏子が槍で受け止めていた。それはねじ曲げながらギリギリまで伸ばした魔女の腕だった。

 

「聞き分けがねえにも程があるぜ!さやか!」

 

杏子は叫ぶと同時に渾身の力で魔女の剣を押し返す。後ろに押された魔女は一瞬よろめく。

 

「あ、ありが……っ!?」

 

神童が礼を言おうとしたその時、ぽたぽたと赤黒い液体が地面に垂れていた。

 

「……っ」

 

それは魔女の攻撃を防御したはずの杏子の肩から垂れていたものだった。どうやら魔女の一撃を完全に防ぎ切れたわけではなかったようだった。

 

「杏子ちゃん!血が……」

 

その時、魔女は攻撃を阻まれたことに怒るように剣を振り下ろすと先ほどとは比較にならないほどの数の車輪を生み出し、自分達に放ってくる。

 

「まどかさん!はあっ!」

 

天馬はシュートを放ってその軌道を変える。

 

「くっ…!」

 

「天馬くん!」

 

苦しげな顔で膝を着く天馬。合体化身の後で体力を大幅に消費した状態では破壊するのはやはり困難であった。それでも容赦なく車輪が暴風の様に一同に襲いかかる。

 

「くそっ!」

 

「くっ!」

 

杏子はまどかと天馬たちを庇うように車輪を捌いていくが、暴風を超えた車輪の嵐に徐々に押されて行く。

 

「(くっ……!これ以上はもう時間を止められない!なんなの!?この今までにない美樹さやかの魔女の強さは!)」

 

ほむらも時間停止と重火器でサポートするが、長時間による時間停止は魔力の消費が激しく、持っていたグリーフシードも戦いの中で魔女が生まれる限界ギリギリまで使用してしまった為、時間を止めるのに割く魔力は無かった。

 

「がっ!」

 

「ぐっ!」

 

そしてついに杏子とほむらに車輪が命中してしまう。

 

「杏子さん!ほむらさん!……はっ!」

 

力を振り絞って何とかシュートを放っていた天馬たちの前から車輪が転がってくる。

 

「くそっ!」

 

バシィ!

 

「!」

 

三人はそれぞれのマギカボールを車輪に向けて放つが、勢いを殺し切れなかった。

 

「うああっ!」

 

「ぐああ!」

 

「ぐうう!」

 

シュートで勢いは落ちていたものの、三人は車輪に吹っ飛ばされてしまい、地面に転がされる。そこに追い打ちをかけるように数多くの車輪が彼らに向かってくる。

 

「天馬くん!神童くん!剣城くん!」

 

まどかが叫ぶと同時に彼らを守るように杏子が立ちふさがるが、全てを捌き切れずいくつかの車輪が彼女の腕や足に命中し、その度に彼女の身体から血を流させていた。

 

「きょ、杏子さん……」

 

「こんなもん、屁でもねえよ……まどか、あんたもあたしを心配するより、呼び続けろ……」

 

地の底から響くような低い声で杏子はまどかに囁くと車輪が当たらないようにまどかたちの前に魔法の壁を作り出しながら魔女に向かって歩み寄る。

 

「さ、さやかちゃん!もうやめて!わたしたちに気づいて!」

 

まどかは喉を枯らしていくのも構わず必死にさやかの魔女に叫び続ける。しかしそれに対して逆に怒るように、否定するように車輪の嵐はよりいっそう激しさを増して杏子の体を打ちつかせる。

 

「杏子!」

 

「あはは、いつぞやのお返しかい…?……そういやあたしたち……最初は殺し合う仲だったよな…?」

 

ほむらがその痛々しい姿に(たま)らず彼女の名前を叫んだ直後、杏子は身体を血で赤黒く染め上げながら思わずゾッとするような笑みを浮かべる。

 

「なあ、さやか……お前怒ってんだろ…?何もかも、許せないんだろ…?」

 

杏子はその身と槍で車輪を受けとめながら、荒れ狂う魔女に向かって優しく語りかけていた。

 

「わかるよ……だからさ、好きなだけ暴れなよ。付き合ってやるからさ……それで気が済んだら、目ェ覚ましなよ……な?」

 

さやかの怒りと悲しみをただ黙って受け止めるかのように語りかける杏子。しかしついに彼女は飛んできた車輪に吹き飛ばされ、まどかたちの前に張っていた壁も消滅してしまう。

 

「杏子さん!」

 

「杏子ちゃん!」

 

まどかは急いで杏子に駆け寄るが、そこにぬうっと魔女の腕がまどかに向かって伸びてくる。

 

「まどかさん!」

 

「まどか!」

 

天馬がとっさにシュートを放って魔女の腕を弾くと同時に慌てて駆け寄ったほむらが飛び込みながらまどかを抱きしめると自分が下になるように体の向きを変えて地面に滑り込む。

 

「さやか!あんた……信じてるって言ってたじゃないか!この力は、人を救うことができるって!いくらでも素晴らしい物に出来るって……言ってたじゃねぇかよ!」

 

杏子は槍を構えながら魔女に向かって突撃する。彼女の槍が魔女の胸に突き刺さる。

 

ザシュ!

 

「!!!」

 

それと同時に杏子の腹を魔女が横なぎに切りつけた。

 

「杏子さんッ!」

 

杏子の腹から鮮血がほとばしり、剣城が叫ぶ中で地に落ちていく杏子は静かに呟いた。

 

「……お前は、あたしがなりたかったあたしなんだぞ……」

 

さやかに向けて渇望していた想いを告げると、

 

「頼むよ、神様……こんな人生だったんだ……せめて一度ぐらい、幸せな夢を見させてよ……」

 

泣いているかのような声で静かに神に祈る。そのまま羽をもがれた天使のように落下していく。

 

「ぐっ!!」

 

地面に激突する寸前で剣城が先ほどほむらがまどかにやったように杏子を受け止める。

 

「杏子さん!しっかり!」

 

剣城は杏子の身体を落とさないように起き上がると片膝を着いて彼女の頭と体を抱える。

 

「バカヤロウ……そんな受け止め方して……兄貴みたいになったらどうするんだよ…」

 

「そんなこと言ってる場合じゃありません!血が……」

 

「早く止血しないと……」

 

天馬たちが駆け寄る中、その荒い息づかいとボロボロの身体から既にこの場にいる全員の体力が限界を超えてしまっていることに気づく杏子。このまま戦い続けては、全滅は間違いなく免れなかったことを悟ってしまう。

 

「………」

 

その事を悟った杏子は何故かフッと笑った。

 

「その必要はねえよ」

 

「杏子、さん…?」

 

全員の注目を浴びる中、杏子はゆっくりと立ち上がり静かに前に歩み出す。

 

 

 

 

 

「わりぃな…」

 

「え?」

 

天馬たちが怪訝な表情で杏子を見ていると、彼女は突如立ち止まってこちらに振り向く。

 

「ふっ!」

 

次の瞬間、彼女は自分と天馬たちの間に魔法の壁を生み出し、分断させる。

 

「!?杏子ちゃん!?」

 

まどかが驚いていると杏子は再び背中を向けて呟いた。

 

「……行け」

 

「え?」

 

「杏子さん?」

 

杏子のこの行動と言葉の意味に全員が理解できず、困惑する。そして彼女が次に言い放ったのは衝撃の言葉だった。

 

「あたしの残りの魔力を全部使って、この魔女を倒す」

 

「「「!?」」」

 

「な、何言ってるの杏子ちゃん!?そんなことしたら……」

 

まどかが驚きの声を上げるが、杏子は安心させるように答えた。

 

「心配すんな、あたしまで魔女化する気はないよ。……ただ、さやかの側にいてやるだけさ……」

 

「「「!?」」」

 

その言葉に天馬たちは察してしまう。これから彼女が何をしようとしているのかを。

 

「杏子さん、まさか…!?」

 

「君はさやかさんと心中するつもりか!?」

 

剣城と神童が信じられないように問うと、杏子はにやけながら横目を彼らに向ける。

 

「……あんたらは元の世界で待ってる奴らがいるんだろ?だったらこんな所で死ぬべきじゃない………でも、今のさやかは一人ぼっちなんだ……誰の言葉も届かないような深海に沈んじまったみたいに……あたしはさやかを孤独のままにしておくことはできないよ…」

 

そう言うと杏子は今までに無いくらいの巨大な槍を作り出し、その先端に乗り込むと槍は魔女に合わせるような高さまで上がっていき、その切っ先を魔女に向ける。そして髪をポニーテールに結んでいたリボンをほどいて天に向かって投げると、深海の中を照らすかのような煌めく綺麗な真紅の長髪をなびかせる。

 

「天馬、ほむら。まどかを頼む。これからはさやかの代わりに支えてやってくれ」

 

「杏子さん…!」

 

「杏子……!」

 

「まどか、神童。わりぃな……お前らの望む結末に出来なくて……」

 

「そんな……」

 

「杏子さん……」

 

杏子は穏やかな表情のまま、天馬とほむらにはさやかの代行を、まどかと神童には謝罪の言葉を贈った。それは一同には諦めた証のような遺言に聞こえてしまった。

 

 

 

「剣城……」

 

「!」

 

そして最後は一番自分を気にかけてくれた相棒に告げる。

 

「昨日、あたしの想いが間違ってないって言ってくれた時…………嬉しかった」

 

杏子の脳裏に剣城と出会ってからの事が甦る。教会で出会った時の事。万引きしようとした自分を止めてその商品を買ってくれた事、自分が気まぐれでお菓子を分けた時の事、自らの過去を明かして自分を励ましてくれた時の事。そんな剣城との思い出が杏子の頭の中で走馬灯のように駆けめぐっていた。彼女にとってそれは家族と共に失った『誰かとの大切な時間』になっていたのだった。

 

「短い間だったが、あんたと過ごした日々は―――――悪くなかった」

 

「杏子さん…!」

 

「でも、ゴメン。あたしはやっぱりさやかがほっとけないや……」

 

まっすぐに魔女を見据える杏子。

 

「ただひとつだけ守りたいモノを、最後まで守り通せればいい……ハハ、なんでかなぁ。あたしだって今までずっとそうしてきたはずだったのに……」

 

杏子は自嘲するように、それでいて思い出したように静かに微笑む。

 

「……行きな。こいつは、あたしが引き受ける」

 

そう言うと杏子は祈るかのように両手を組む。

 

「心配するなよ、さやか……あんただけ置き去りにしやしないって……」

 

そして杏子は天使が微笑むかのような優しい笑みを浮かべて目を閉じる。

 

「いいよ、さやか。一緒にいてやるよ。一人ぼっちは寂しいもんな…」

 

「「「!!!」」」

 

杏子は穏やかな笑みを浮かべたまま、魔力を全て解放してさやかと心中するために自らの胸元に付けたソウルジェムに手を伸ばす。

 

「杏子さん……!」

 

「杏子ちゃん!!」

 

「杏子さーーーんっ!!!」

 

剣城とまどかと天馬の叫びが響き渡り、彼らの心に絶望が襲いかかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さやかっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その時、一人の叫び声が響いた。その声に杏子も動きを止め、後ろに振り返る。

 

「えっ!」

 

天馬たちも後に続くように振り返ると、ここにいるはずの無い人物がそこにいた。

 

「なっ…!」

 

その人物の登場に神童は言葉を失い、杏子と天馬も目を見開いていた。

 

「お前は…!」

 

「ど……どうしてあなたが!?」

 

 

 




――ED『and, I'm home』(歌:佐倉杏子&美樹さやか)――


次回予告

天馬
「絶体絶命の俺達の前に思いもよらぬ人物が!その追い風が俺達のさらなる力を呼び覚まし、今、人魚姫の運命を変える!!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第12話『人魚姫の涙!』」




というわけで絶望との本番、前半戦でした。
最後に出てきたのは誰か、わかりますよね?

ここからは原作のルートから外れた戦いです。
次回、少年達の革命という名の反撃が始まります。

感想お待ちしております。





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第12話『人魚姫の涙!』 Aパート

祝!通算UA10000突破!

こんな駄文をこんなにもたくさん読んでもらえて感謝感激です!

そしてお待たせしました!
一番の見せどころだと思ったので文章考えていたらこんなにかかってしまいました。申し訳ないです。

天馬達の革命は人魚姫を救えるか?ご都合主義かもしれませんが楽しんでいただけたら幸いです

ではどうぞ。



――OP『天までとどけっ!』――


 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「君は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上条、くん……?」

 

 

 

 

杏子がさやかと心中しようとしたその時、一人の少年が現れる。それはさやかの幼馴染であり彼女の願いの原点、上条恭介だった。恭介は昨日まで使っていた松葉杖を持っておらず、息を乱していた。その様子を見る限り彼は松葉杖も持たずにここまで走って来たようであった。

 

「神童くん……鹿目さん……」

 

一同は驚いていた。魔女の結界に一般人が取り込まれる場合、人間が偶然迷い込んで困惑か恐怖する事がほとんどである。しかし、彼は目の前の魔女の事を確かに『さやか』と呼んだ。それはつまり、この結界がさやかのものだとわかっており、自らの意志でここまでやって来たという事を表していた。

 

「どうしてここに……」

 

「上条くん!」

 

天馬が驚愕していると恭介の後ろから見滝原の制服を着た緑色の髪の少女が現れる。

 

「ひ、仁美ちゃん!?」

 

「まどかさん…」

 

走って来たのはさやかの親友であり恋敵の志筑仁美だった。恭介に続いて思いもよらぬタイミングで現れた親友の姿にまどかは戸惑う。

 

「あなたたち、どうやって……」

 

「おーい、待つぜよ!」

 

ほむらも驚きと共に困惑していると、今度は錦がマネージャーたちと共に走ってきていた。

 

「錦先輩!葵たちも!」

 

「あなたたちが連れてきたのね…」

 

「全く、結界の入り口を開けたらいきなり走り出しおって……」

 

「とても昨日まで松葉杖ついていた奴とは思えねーよ」

 

「ゴメン、一刻も早くさやかを助けたくて……」

 

水鳥はまだ完治していないはずの足で自分達より早く結界の最深部にたどり着いた恭介の脚力に驚嘆すると恭介は一人で勝手に突っ走った事を申し訳なさそうに謝罪した。

 

「上条くん」

 

仁美の呼びかけに気が付いた恭介はすぐさま彼女と共に真剣な眼差しで前を見る。その視線の先には魔女化したさやかの姿があり二人はその魔女に驚くことも恐怖することも無く、ただ物悲しく、それでいて緊迫した表情で魔女を見つめていた。

 

「あれが、さやかなのか…」

 

「さやかさん…!」

 

「上条…!?まさか、君たちは……」

 

「ああ……全て知ってしまったんだ。魔法少女の事も、君たちの正体も、そして………さやかが魔女になってしまったことも……」

 

恭介は包み隠すことも無く神童に話す。

 

「お前ら……」

 

巨大な槍の先端に乗っていた杏子が恭介たちに気を取られていたその時、目の前の魔女が剣を大きく振り上げていた。

 

「っ!危ない杏子さん!」

 

「え!?」

 

剣城が叫んだ直後、魔女は槍ごと杏子を叩き切ろうとするかのように大剣を振り下ろす。

 

「ッ!」

 

間一髪剣城の呼びかけに気づいた杏子が反射的に後ろに下がると大剣は先ほどまで杏子が佇んでいた槍の先端に当たり槍を大きく揺らす。

 

「うわぁ!」

 

杏子は打ちつかれた槍から空中に投げ出され、自分と仲間達を分断していた赤い壁が槍と共に消滅する。

 

「杏子さん!」

 

空中に投げ出された杏子を地上で剣城がお姫様抱っこをするような構えで受け止める。受け止めた衝撃で尻もちを着きそうになるのも耐えきり、そのままの体勢で両膝を着いて杏子の足を地面に着かせる。

 

「お前……またそんな受け止め方しやがって……」

 

再び身体に負担を掛ける受け止め方をした剣城に杏子は弱々しく声色で呆れる。

 

「あなたに比べたら大したことじゃありませんよ……杏子さんこそ、なんてムチャな事を…」

 

「たくよ……さやかを一人にしたくねえだけなのに…とんだ邪魔が入りやがったぜ……」

 

杏子は思い通りにならない展開を皮肉に思いながら参るように笑みを浮かべた。

 

「上条!」

 

杏子の無事を目視した水鳥の呼びかけに恭介は相槌代わりにコクンと頷いて一度目を閉じる。そして呼吸を整えて一気に目を開けると自分よりはるかに巨大なさやかの魔女を見上げた。

 

「さやか……聞こえるかい?僕の声が」

 

「――!」

 

魔女はその声に反応したように動きを止める。

 

「僕は聞いたんだ……君の事を……君が何を願って魔法少女になったのかも。君は、戦いの運命を受け入れてまで僕の腕を治してくれたんだね…」

 

優しく語りかける恭介にさやかの魔女は手に持った剣を地に着けて動こうとしなかった。その姿はまるで彼の言葉に耳を傾けているようだった。

 

「なのに……僕はその事も知らず、ただ腕が治った事を喜んでいるだけだった。君の事をほっといてしまった……代償として、君がこんなにも苦しんでいたというのに…」

 

恭介は申し訳なさそうに頭を下に向ける。何も知らなかったとはいえ、自分がいつも苦しんでいるときはいつも支えてくれていたさやかを放置してしまい、それが原因で彼女を苦しませてしまった事を詫びるかのように。

 

「思えば君はいつも僕の側にいてくれたよね……僕が喜んでいるときも、泣いているときも、一緒に笑って、悲しんでくれたよね。まるで自分の事のように」

 

恭介は目を閉じて思い出す。

 

(――恭介!)

 

その瞼の裏にはさやかの明るい笑顔が浮かんでいた。

 

「君はずっと僕の側に居続けてくれた……でも、だからこそ気づけなかったんだ。君の僕への想いも、僕の君に対する想いも……君が側にいることが当たり前になっていて、君が僕の側に近すぎて気づけなかった。………でも気づいたんだ」

 

ここで恭介は顔を上げて魔女を見据える。

 

 

 

「僕はさやかが好きだということを」

 

 

 

恭介は真剣な表情で想いを打ち明けた。

 

「上条…」

 

神童が恭介の告白に思わず声を漏らす。

 

「そして、その事に気づかせてくれたのは神童くん……そして空野さんなんだ」

 

「葵が……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~回想~~

 

 

 

 

―――僕は昨日の放課後、志筑さんに呼ばれたんだ。大事な話があると言って。そこで驚くことがあった。

 

 

 

「私、上条くんが好きです」

 

―――志筑さんに告白された。まさか志筑さんに告白されるとは思ってなかったからその時は現実だとは思えなかったよ。

 

「私と……恋人として付き合ってもらえませんか…?」

 

―――でも同時に、何故か神童くんの言葉が頭をよぎったんだ。

 

『自分を支えようとしてくれる人を蔑ろにしてはいけない』

 

―――その言葉が浮かんだと同時に、ある一人の女の子の顔が浮かんだんだ。それはいつも僕のそばにいてくれていた女の子だった。いつも僕に明るい笑顔を見せてくれる彼女だった。

でも……その時の彼女の顔は、何故かとても悲しそうに泣いていて……拒んでしまったらすぐに消えてしまいそうなくらい、儚かった。その時の志筑さんの気持ちは嬉しかったけど、泣いている彼女の顔が頭から離れることが出来ず、告白を真正面から受け止める事が出来なかった。その時思ったんだ。こんな中途半端な気持ちで志筑さんに返事を返していいのかと。結局その日は返事を待たせることになって、その後はたわいもない雑談で終わった。

 

 

 

 

~~数時間前・公園~~

 

 

 

 

 

「上条くん、昨日の返事をお聞かせください。」

 

―――告白から翌日、最近続いている事件の対策による午前だけの授業を終えた僕は公園で志筑さんに待たせていた告白の返事を求められた。でも情けない事に僕は彼女にどう返事を返せばいいかとまだ悩んでいたんだ。半端な気持ちで志筑さんの告白を受け入れても志筑さんに失礼だし、頭に浮かんだ彼女も裏切ってしまうかもしれない。かといって告白を拒否したら志筑さんを傷つけてしまい、これまでの関係が変わってしまうかもしれない。どうすれば最善なのか分からず、僕は松葉杖の傍ら、ベンチに座ったまま固まっていたんだ。

 

「上条くん……」

 

「志筑さん、僕は…」

 

 

 

「上条恭介さんですね?」

 

 

 

―――その時、突如呼ばれた僕が顔を上げて横を見ると、一人の女の子がいた。それは一瞬頭に浮かんだ彼女かと思ったけどそこにいたのは彼女よりも背が小さく、彼女と同じ青い髪のショートカットの女の子だった。

 

「あなたは……空野さん?」

 

「君は……」

 

「こんにちは、仁美さん。そして初めまして上条さん。空野葵と言います。神童先輩の所属するチームのマネージャーをしています」

 

葵は一礼をしながら自己紹介をする。

 

「神童くんの?」

 

「上条さん、あなたにお訊きしたいことがあります」

 

葵は真剣な表情で恭介に尋ねる。

 

「訊きたい、こと?」

 

葵は恭介と仁美に注目されながら、少し溜めるように一度唇を締めてから恭介に尋ねる。

 

「あなたは……さやかさんが好きですか!?」

 

「!」

 

「さやかさんを……一番大切な女の子として、自分を支えてくれる女の子として、さやかさんの事が好きですか!?」

 

「!!!」

 

―――その時の空野さんの言葉に僕の頭に思いきり殴られたような感覚が走った。それはウジウジしていた僕の心をハンマーで打ちつかせて殻を壊したかのような衝撃で、一気に心が晴れ晴れとしたんだ。同時に自分の本当の想いに気づいたんだ。僕が誰を愛しているのかを……。そして決めたんだ。先の事が怖くて逃げていた自分を捨て、どんな事になろうとも今の自分の気持ちから逃げずに前に進み、その想いを貫き通そうと……だから……

 

 

 

「志筑さん、ゴメン……」

 

「!」

 

―――志筑さんが傷つくのを承知で打ち明けた。

 

「空野さん……君の言うとおりだ。ずっと迷っていたけど、今はっきりさせる……」

 

 

 

―――そして僕は一度溜めてから志筑さんに告げた。

 

 

 

「僕が……僕が好きなのは、さやかなんだ!」

 

 

 

―――僕のさやかに対するあふれる想いは抑えることが出来なかった。

 

「いつも僕を……どんな時でも僕を支えてくれたさやかの事が好きなんだ!」

 

―――僕はここで立ち上がって志筑さんと真正面から向き合った。

 

「だからゴメン志筑さん。君の告白は受けられない」

 

恭介は申し訳なさそうに大きく頭を下げる。一方で仁美は何故か一切動揺せず、頭を下げる彼の姿を数秒間黙って見続けた後、静かに目を閉じた。

 

「―――わかっていましたわ」

 

「………え?」

 

落ち着いた様子で語る仁美に恭介は反射的に顔を上げる。

 

「わかっていました。上条君くんがさやかさんを選ぶことを。だって昨日の私の告白の後、あなたはさやかさんの事ばかり話していたんですもの」

 

「え!?そ、そうだったかい!?」

 

「やっぱり無意識でしたのね。もっとも、返事を待たされた時から予感はしていました。でも、告白された相手に別の女の子の話をするなんて、上条くんは意外とデリカシーありませんのね」

 

「うっ……」

 

告白を断られた腹いせのように酷評され、返す言葉も失う恭介。その様子に安心しきったのか見守っていた葵も後ろでクスクスと笑っていた。

 

「でもいいんです。この想いをあなたに打ち明けられただけで私は満足です。どんな結果になろうとも私たちの関係が悪化するわけでもありませんし」

 

「…!」

 

その言葉を聞いた恭介は自分の心配は杞憂だったと気づく。自分は告白の返事をした後、自分と仁美そしてさやかとの関係が今までと変わってしまうのではないかと恐れていた。しかし、そんなことはない。関係が自分がどちらと愛しようと、受け入れなかった方はこれまでどおり友人でいられる事に心から安堵した。

 

「志筑さん!」

 

だからこそ、それをはっきりさせるために彼は言った。

 

「これからも…よろしく頼むよ!……良い‘友達’として……」

 

「……ええ、もちろんですわ…」

 

仁美もその言葉を待っていたかのように優しくそう返した。

 

「でも、その様子だと……さやかさんは告白できなかったようですね?」

 

「え?」

 

「ふふふ。何でもありません。これからわかる事ですから」

 

恭介には仁美の言葉がよく聞こえなかったが、仁美はイタズラな笑みを浮かべて誤魔化した。

 

「さあ、上条くん。先生はさやかさんは今日も風邪で休んでると言っていました。さやかさんの家に行きましょう。あなたのその想いが冷めないうちに」

 

「ああ!」

 

恭介がさやかを愛しており、仁美との関係も悪化することも無いとわかり、葵は安心しきったように笑顔を浮かべる。そして即座に気持ちを切り替えるように真剣な顔つきに変えて恭介を見た。

 

「上条さん、あなたの気持ちはよくわかりました。それなら……お願いがあります!」

 

「お願い…?」

 

「さやかさんを助けてください!」

 

「「!?」」

 

 

 

 

それからの話は恭介と仁美には衝撃的だった。魔法少女と魔女の事、さやかの願いの事、ソウルジェムの事、葵や神童たちが異世界人である事、そして何よりショックだったのは………さやかが魔女になってしまった事だった。

 

「そ、そんな……さやかが僕の為に……その果てには魔女になってしまったなんて……」

 

「信じてくれるんですね」

 

「当たり前だよ。この流れでそんな嘘をついているとは思えない。何より、この動いている腕がその証拠だからね」

 

恭介は動かなくなったはずの左手を見て、動くようになった日のさやかの言葉を思い出していた。

 

『奇跡も魔法も、あるんだよ』

 

(君が、僕の腕を治してくれたんだね……)

 

「葵!」

 

その時、水鳥達が葵の後ろから急ぎ走りで現れた。

 

「瀬戸さんたち…」

 

「仁美!?……葵、まさか全部話しちまったのか!?」

 

「はい。必要なことだと思ったので」

 

「君たちも異世界から来たのかい?」

 

「まあ、そんなところだ…」

 

「事情がわかったのなら一緒にワシらと来るぜよ!」

 

「ああそのつもりだよ。でも、本当に僕にさやかを助けることが…?」

 

「大丈夫です!上条さんの言葉ならきっとさやかさんに届きます!上条さんなら……必ずさやかさんを助けられると信じてます!」

 

「空野さん……君は、どうしてそこまで僕がさやかを救えると信じられるんだい?」

 

さやかを助ける決意は固めたものの、恭介は不安だった。自分はまどかと同じ魔法少女でもサッカープレイヤーでもないただの一般人。戦う力を持たない自分が魔女になったさやかを救えるとは到底信じられなかった。

 

「これを見てください」

 

その疑念と不安を取り払うため、茜から借りたカメラの画面を見せる葵。恭介と仁美に怪訝な表情で見られながら一通り操作を終えるとある映像が映し出された。

 

 

 

 

『…今日、仁美に言われたの―――恭介が好きだって』

 

「これは…!」

 

それはなんと影の魔女と戦う直前、さやかがまどかや葵達に自分の現状を嘆いていた時の映像だった。何故録画した覚えのないこの動画がカメラにあったかはわからないが、万が一恭介が自分の話を信じなかった時の保険になり、彼がさやかを助けに向かわせるための切り札となると考えた葵は茜からこのカメラを借り恭介に見せようと考えていたのだった。

 

『それで明日……恭介に告白するって言われたの……今日一日だけあたしに時間をあげるって言われたけど……告白なんて、できるわけないよ…』

 

(さやか……!)

 

『いくら皆があたしを人間だって言っても…あたしはソウルジェムを失くしたらおしまいなんだよ?こんな小さな指輪を失くしたらただの死体になっちゃうんだよ…』

 

(そんな事ない!君は…君は間違いなく人間だ、さやか!)

 

その場にいたら間違いなく言っていたであろう自分の本心を映像の彼女に心で伝える恭介。しかし、映像にいくら語ってもその想いは届くはずが無く、何故この時側にいてやれなかったのだと歯を食いしばって悔やむ。

 

「上条くん…」

 

仁美はそんな恭介と苦しんでいる映像のさやかに胸を痛めていた。

 

(私があんな事を言わなければ…)

 

『あたし、仁美に宣言された時……後悔しそうになっちゃった』

 

「え?」

 

しかし休むことなく更なる真実による後悔が彼女を襲う。

 

『あの時仁美を助けなければって……ほんの一瞬だけ、思っちゃった……こんなあたし、正義の味方失格だよ………』

 

(私を……?まさか…!?)

 

ここで仁美は自分に起きたある出来事の真実に気づいてしまう。そして映像はまどかに泣きついているさやかの姿を映し出す。恭介と仁美は視線で穴が開くのでないかというほど映像をじっと見続ける。

 

『仁美に恭介を取られちゃうよ………』

 

「さやかさん…!」

 

「さやか…!」

 

『あたし……なんにも出来ない……だってあたし、死んでるんだもん……ゾンビだもん……こんな体で抱きしめてなんて言えない……キスしてなんて言えないよぉ……』

 

二人が泣き続けるさやかとまどかに驚愕している内に映像は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「さやかが……こんなことを…」

 

動画を見終わり、自分たちの想い人と親友がこれほど苦しんでいた現実に二人は呆然とする。そして数秒後、その現実をようやく受け入れられた恭介がそう呟いた。

 

「わかりましたね、上条さん。あなたとさやかさんは想い合ってるんです!さやかさんを助けられる一番の可能性を持ってるのはあなたなんです!」

 

「僕が、さやかを…」

 

恭介は心の中で改めて自問自答する。確かに自分はただの人間だ。だが、それが魂をささげてまで自分の腕を治した想い人を助けることをためらう理由になるのかと。

 

(さやか……!)

 

大事なのは何が出来るかじゃない。何をしたいのかだと。先ほど関係の悪化に対する恐れを振り払ったように自分の思うがままに進むべきではないかと思った。そう考えた恭介の心は決まった。

 

「…わかった。さやかは自分を犠牲にしてまで僕を救ってくれた。だから今度は僕がさやかを救う番だ!」

 

「上条さん!」

 

「連れてってくれ!僕をさやかの元に!」

 

「よっしゃ!任せるぜよ!ワシのマギカボールがあれば見つけられるぜよ!」

 

「ぐずぐずしてらんねぇ!行くぞ!」

 

さやかを助けるために意気揚揚と士気を高める恭介。

 

「さあ、志筑さん!君も一緒に……」

 

「私は……行けません…」

 

「え?」

 

「仁美さん!?」

 

仁美は今にも泣きそうな震える声で言った。

 

「だって……さやかさんを魔女にしたのは、私ですよね……」

 

「「「!?」」」

 

仁美のとんでもない宣言に五人は驚愕する。

 

「な、何を言ってるんだ!?志筑さん!」

 

「だってそうじゃありませんか!あの映像でさやかさんが言ってたでしょう!私に上条君を取られてしまうと…」

 

「そんな…仁美さんの所為じゃありませんよ!仁美さんがさやかさんに宣言したのは、たまたまタイミングが悪かっただけで…」

 

「それだけじゃありません……あの工場で私が集団催眠にかかったのは魔女の仕業で……それを助けてくれたのはさやかさんですよね…?」

 

「そ、それは……」

 

「やはり…さやかさんは魔女に囚われた私を助けてくれたのに…私はその恩を仇で返してしまった……」

 

仁美は俯いてその目から大粒の涙を流していた。

 

「さやかさんは上条くんに告白できなくて、あんなにも思いつめていたのに……私はなんてことを……自分が情けなさすぎて仕方ありません…!」

 

仁美は自分を責めながら考えていた。もし自分が魔法少女だったら間違いなく魔女になっていたのではないかと。大切な親友を魔女に変えた自分がこんなにも絶望しているというのに、親友と同じ魔女にならず、のうのうと生きている。そんな自分が害虫にも劣ると心の中で自虐していた。

 

「私がさやかさんを追いつめて絶望させてしまった……私がさやかさんを魔女にしたも同然です!!」

 

自責の念に飲まれた仁美は顔を両手で覆い、その場で膝から泣き崩れる。

 

「ごめんなさい……さやかさん…!ごめん…な、さ……う、うう…」

 

偶然が重なり、言葉にならないほどの悲劇を生み出してしまった事に仁美はただひたすら懺悔するように泣き続ける。そんな彼女を一同はただ悲しげな顔で見ているだけだった。彼らはどんな言葉を掛ければ自分を責め続ける彼女を慰められるか分からなかったのだった。

 

「………」

 

ただ一人、しかめっ面で仁美を見ている者を除いて。

 

「そう……ですわ」

 

仁美は突如泣きやみ、ハッと顔を上げて呟いた。

 

「志筑さん?」

 

「…そうですわ……キュゥべえ、そのキュゥべえというのはどこにいるのですか?」

 

「「「!?」」」

 

泣きやんだ仁美の言葉に一同はまさかと思った直後、

 

「私が魔法少女になればいいんです!」

 

予想していた言葉が彼女の口から発せられる。そこから立ち上がった仁美は神からのお告げで希望を見出したようにパアッと笑顔になる。

 

「私がさやかさんを元に戻すように願えば……さやかさんを助けられます!」

 

しかしその笑顔はどこか壊れた笑顔で、見出した目的を果たそうと狂いがちになっていた。そして仁美はそのまま自分の贖罪になるとさらなる絶望という名の希望を口にする。

 

「そしてその代わりにわたしが魔法少女になって……魔女になるまで戦い続ければ…」

 

 

 

パァン!

 

 

 

乾いた音が公園に響いた。仁美は声を上げる間もなく公園に敷き詰められたタイルに倒れこむ。

 

「……っ!」

 

彼女に平手打ちをしたのは水鳥だった。仁美は叩かれて赤くなった頬を押さえながら水鳥を見上げる。彼女の苛立った表情でこちらを見降ろしていた。

 

「せ、瀬戸さん…?」

 

「馬鹿な事言ってんじゃねえ!」

 

水鳥は咎めるように怒鳴りつける。

 

「で、でもこうでもしないとさやかさんは…」

 

仁美は必死に弁明しようとする。しかし水鳥の迫力に負けてその声に力は無かった。

 

「今、まどかとあたしたちの仲間がさやかを助けようと必死に頑張ってんだ!あいつらの想いを無視する気かよ!」

 

訴えかける水鳥に仁美は圧倒されて顔を背けてしまう。

 

「で、でも…万が一元に戻せなかったら……」

 

「ウチの男共をなめんじゃねぇ」

 

水鳥の低い声に仁美は顔を上げる。その時見た水鳥の目は仲間たちへの信頼に満ちており、その確固たる目に黙り込んでしまう。

 

「それに……さやかが助かっても、代わりにあんたが魔女になるなんて、あたしたちは誰も望んじゃいねえんだよ!それこそさやかもだ!」

 

「!」

 

「あんたの知ってるさやかは、自分が助かるのと引き換えにあんたに自分と同じ運命を背負わせて喜ぶような奴だったのかよ!」

 

「そ、それは…」

 

「違うだろ!あたしたちはまだわずかな時間しか過ごしちゃいねえが、あいつはそんな奴じゃねえ!他人の幸せを素直に考えられる良い奴だってことは分かんだよ!そんなさやかに、魔法少女になる事で償えるわけがねえだろが!」

 

すると今度は仁美の胸倉を掴み上げる。

 

「本当にすまねえと思ってんなら……さやかの事を今でも親友(ダチ)だと思ってんなら!あたしたちで元に戻したさやかに面と向かって謝りやがれ!」

 

水鳥がそう叫んだ直後、周りの音が静止する。それに合わすように水鳥に圧倒されていた仁美の心は静けさを取り戻していった。

 

「………」

 

「さやかちゃんは上条くんが喜ぶとわかってて、魔法少女になった」

 

沈黙の中、突如喋り出したのは茜だった。仁美と水鳥に注目していた一同が見るといつもののほほんとした顔ではなく真剣な表情の彼女がそこにいた。

 

「でも友達が悲しむのがわかっててやろうとするなんて…そんなの友達じゃない」

 

「茜さん……」

 

仁美は茜の言葉に呆然としていたが冷静になった思考でその言葉の意味を先ほどの水鳥の言葉を交えて自分の中でまとめ上げる。そしてその答えを導き出したのか先ほどの狂った笑顔とは違い、フッとすっきりしたような笑みを浮かべる。その様子に気が付いた水鳥はそって手を離した。

 

「そう、ですわね……私ったら何をやっていたのでしょうか」

 

「志筑さん…?」

 

「皆さんの言うとおりです。ようやくわかりました。私がさやかさんの為に出来る事を…」

 

仁美はすっきりした顔で一同と目を合わす。

 

「それは、皆さんと一緒にさやかさんを助ける事です!」

 

「仁美さん!」

 

ぱあっと笑顔になった葵に仁美はコクンと頷いた。

 

「行きましょう!さやかさんを助けに!」

 

「ああ!行こう!…ってわあ!」

 

「おっと!」

 

仁美の事で自分の足の事を忘れていた恭介は松葉杖も無しに走り出そうとし転びそうになるところを錦が受け止める。

 

「大丈夫ぜよ!?」

 

「あ、ああ…はは、自分の足の事忘れてたよ。でも急がないと…」

 

「倒れそうになったらワシが支える!だから安心して行くぜよ!」

 

「ありがとう、錦くん」

 

恭介は錦に助けられながら急ぎ足で歩きだした。大切な想い人を助けるために。そんな彼らを少女たちは微笑ましく見ていた。

 

「皆さん、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

仁美は葵達と改めて向き合って詫びをする。

 

「いいんですよ。私こそ仁美さんに話すべきではなかったのに……」

 

葵は内心しまったと思っていた。さやかを助ける事に躍起になるあまり、真実を知った仁美が絶望することを失念していた。恭介に助けを求めにいったつもりがたまたまそこに仁美が居合わせたせいで彼女にも真実を知られ、彼女を落ち込ませたことに少なからず罪悪感を感じていた。

 

「いいえ。あなたは何も悪くありません。むしろあなたがそうしてくれなかったら、私は一生何も知らずにのうのうと生きていたはずでしたから」

 

「仁美さん……」

 

「瀬戸さん、山菜さん、先ほどのお説教、効きましたわ。危うくさやかさんをもう一度傷つけるところでした。ありがとうございます。こんな私の為に迷惑をかけてしまって…」

 

水鳥と茜にも申し訳なさそうに頭を下げる。他人である自分にここまで説教してくれたことに自分が恥ずかしく思いつつも彼女達に感謝していたのだった。しかしそんな仁美の思いと感謝とは裏腹に水鳥は少し笑いながら言った。

 

「へっ、何をかしこまってんだよ」

 

「え?」

 

「私たち、もう友達」

 

「これから一緒に頑張りましょう!仁美さん!」

 

茜と葵も続くように微笑んだ。

 

「!……そうですね。急ぎましょう!水鳥さん、茜さん、葵さん!」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「そんな事が…」

 

「だからさやか!僕は君を助けるためにここに来た!思い出してくれ、さやか!」

 

恭介の言葉に反応したのか、魔女はもがき苦しんでいた。

 

「さやか!」

 

「―――!!!」

 

しかし、魔女はそれを拒絶するかのように剣を振りかざし車輪を放つ。

 

「危ないぜよ!」

 

錦がマギカボールを踏みつけるとそれに呼応するかのようにボールが光り出す。すると錦の格好が雷門のジャージから背番号14番のユニフォームに変化する。

 

「ムンッ!」

 

錦が身体を左から前に捻り、右足を後ろに下げて身構えると、紅葉が舞い散りボールが跳ね上がる。そして錦が右足を後ろに大きく振り上げると足先から刀の形をした黄色のオーラが伸びていく。

 

「『伝来(でんらい)宝刀(ほうとう)』!」

 

そのままボールを蹴るとボールはオーラを纏って猛スピードで地面を裂きながら伸びていき、車輪を弾き飛ばした。

 

「そんな…上条くんの言葉でもさやかちゃんには届かないの?」

 

まどかはさやかに恭介の声が届かず、希望を失ったように涙を流す。

 

「畜生……こんなことなら、やっぱりあたしが道連れにした方が良かったのかもな……」

 

「杏子さん…!」

 

「………」

 

諦めかけているまどかと杏子の姿を見たほむらは考えた。

 

(もしかしたらとは思ったけど……やはり彼らや上条恭介でも彼女を救うことは出来なかった……今回も、彼女は私の手で…)

 

さやかを元に戻す可能性を失い、ここで全滅するくらいなら彼女を倒すべきではないかと。それはさやかの命を見捨てる事を意味していた。

 

「まだです!」

 

「!」

 

しかしそんなほむらの思惑に感づいたように天馬が声を上げる。

 

「さっき上条さんが呼びかけた時、さやかさんは反応してくれた!俺たちの声だって、きっと届くはずです!」

 

「天馬くん…」

 

「松風天馬……あなた…」

 

「諦めない…!さやかさんに俺たちの声が届くまで、何度でも呼び続ける!さやかさんの絶望を……俺たちが吹き飛ばすんだ!」

 

さやかを助けるまで絶対に諦めない。そんな思いを全開にして彼は立ち尽くしていた。

 

 

 

 




という訳で原作では絶対関わる事のない二人を巻き込みました。
実際仁美は真実を知ったらこんな風に自分を責めるんじゃないですかね。
正に偶然を装った悪魔の仕業と言ったところでしょうか、
悪魔といってもどっかのド貧乳じゃなくて…

バン!

ぐふっ(パタ…)

なお、今回長丁場になる事が予想されます。Cパートまで書くほど長くなると思います。

感想お待ちしております。お楽しみはこれからだ!(誰のマネだ)

やっぱ小説って難しいな…


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第12話『人魚姫の涙!』 Bパート

お待たせしましたBパート。
今回は今までで一番の胸アツ展開を目指してみました。
イナズマらしさを再現できたか不安が有りますが楽しんでいただけたら幸いです。

ではどうぞ。


 

「天馬くん……」

 

まどかをはじめとする見滝原組は絶対に諦めないと宣言する天馬に唖然としていた。

 

「松風天馬……わかっているの?上条恭介の声も彼女には届かなかった。なのに…どうしてあなたは諦めないの?このままじゃあなたもあなたの仲間達も、元の世界に変える事無く死んでしまうのよ?」

 

ほむらには理解できなかった。恭介の言葉でもさやかは自我を取り戻さず、もはや彼女を元に戻す手段は失われている。何を根拠に彼は戦いを続けるのか。

 

 

 

 

「ほむらさん……俺がほむらさんに言った事、覚えてますか?」

 

「!」

 

 

 

 

『例えどんなことが起こっても、誰一人見捨てませんよ』

 

 

 

 

 

「まどかさんとも約束しました」

 

「!」

 

 

『さやかさんの事は……俺たちがなんとかします!……絶対、なんとかしてみせます!』

 

 

「悔しかったんです。俺、さやかさんが一番苦しんでいた時、何にも出来なかった」

 

拳を強く握る天馬。彼は思い出していた。魔法少女の残酷な真実を知らされ、やり場のない悲しみで自分を傷つける、あの夜の惨めなさやかの姿を。彼もまだ一人の少年であり、たった一人だけで全てを救うことは出来ない。その事を身を持って実感をしていたのだった。

 

「そのままさやかさんは絶望に落ちて、魔女になった……その時、俺は思いました。俺はなんて無力なんだと……錦先輩が現れなかったらそのまま落ち込んでいたままだったかもしれません」

 

天馬は顔に影を作り、その視線を下に落とす。

 

「でも思い出したんです。俺たちが……ホーリーロードで本当のサッカーを……俺たちの希望を取り戻せた理由を…」

 

「希望を取り戻せた、理由…?」

 

「それは……俺たちが絶対に諦めなかったからです!」

 

「!」

 

天馬は握っていた拳を更に強く握りしめながら顔を上げ、ほむらは天馬の言葉に目を見開く。

 

「円堂監督が言ってました!諦めない奴だけに掴めるものがあると!どんなピンチでも、どんな絶望が襲いかかっても、諦めなかったから俺達は今こうして立っているんです!気持ちで負けたら……諦めたらそこで終わりなんです!」

 

「…!諦めたら、そこで終わり……」

 

心に響いた天馬の言葉をまどかが繰り返す。

 

「俺は諦めたくない!さやかさんには生きて知ってもらいたいんです!絶望を超えた先には必ず希望があるって事を!このままさやかさんを絶望のまま死なせたくないんです!仲間は誰も死なせない!代わりなんて一人もいない!ここにいるみんなは、そしてさやかさんは俺の大切な仲間なんです!」

 

「仲間…」

 

今度はほむらが繰り返した。

 

「俺は大切な仲間を絶対に守り抜きたい!仲間一人守れずに元の世界に帰っても意味なんて無い!ここでさやかさんを見捨てたら、俺は絶対後悔します!だから俺は最後の最後まで諦めない!後悔したくないから!」

 

「「「!!!」」」

 

この絶体絶命の中でも決して諦めようとしない天馬の姿に一同の心が震えた。

 

「………天馬くんっ…!」

 

何が何でもさやかを助け出すと断言する天馬の決意の姿にまどかは大粒の涙を流す。

 

 

 

 

 

「お前……」

 

「天馬の言うとおりです」

 

杏子が天馬に注目している中で彼女を抱える剣城が語りかけるような声でそう言った。

 

「杏子さん…さやかさんを一人にしたくないのは痛い程よくわかります……でもここであなたまで死ぬことなんて……俺たちは望んでいません!」

 

剣城は一度顔を下げて同情するように呟いた直後、火が付いたように顔を上げてそう叫んだ。

 

「剣城…」

 

「ここであなたまで失ってしまったら、俺たちはきっと立ち直れない!だから、諦めてさやかさんと共に死のうなんて考えないで下さい!」

 

「!」

 

刹那、杏子は父親が母や妹と共に一家心中した時の事を思い出す。大切な人が亡くなり、残された者がどれだけ悲しみに打ちひしがれるかは杏子が一番よく知っていた。そして今の自分とさやかには自分達をこんなにも大切に想ってくれる存在がいる。杏子は邪魔されたことを不愉快に思いつつもさやかと共に死のうとして彼らに同じ苦しみを与えそうになった自分を少しだけ恥じた。

 

「俺も諦めません……俺は知っています!絶望の中にいても決して諦めなかった人を!」

 

剣城の頭にある人物がよぎる。それは一度たりとも再びサッカーをするのは無理だと口にせず、いつか弟と同じフィールドに立つために治る見込みの無い足のリハビリを必死に続けた一人の兄だった。剣城はそんな兄を心から尊敬していたのであった。

 

「ここであなたたちを見捨てたら………俺はその人に顔向けが出来ない!」

 

ここで剣城は杏子を抱きかけたままさやかの魔女を見据える。

 

「俺は諦めない!俺と同じ、“誰かの為の願い”から始まった二人を……こんな所で終わらせはしない!」

 

剣城のその決意は自身の瞳を煌めかせていた。それは刃が放つような鋭く真っ直ぐな光で、その瞳に宿った彼の固い決意に杏子は圧倒され言葉を失う。

 

「絶対に助けてみせる!さやかさんの命も、杏子さんの命も……俺が必ず守ってみせる!!!」

 

「つる…ぎ…!」

 

その瞳に熱い想いを込めた剣城の姿が杏子の目に焼き付き、その胸がトクンと高鳴った。

 

 

 

 

 

「さやか…」

 

「上条」

 

一方で恭介が振り向くと神童が自分の肩に手を置き、視線を自分の目から魔女に移しながら言った。

 

「取り返すぞ………失ってはならない、大切なものを!」

 

「……ああ!」

 

恭介も再び魔女を見て相槌を打った。

 

 

 

 

「ワシも負けんぜよ!」

 

「あたしもだ!」

 

「うん!」

 

「絶対にさやかさんを助けましょう!」

 

錦、水鳥、茜、葵も同じ気持ちだった。

 

「私も諦めません!」

 

「志筑仁美…」

 

「何も出来ないかもしれませんけど……それでもさやかさんを助けたい!さやかさんとこれからも親友であり続けるために!」

 

「あたしも…だ…!」

 

「杏子さん…!」

 

杏子は魔力で自らの傷を癒し、剣城に支えられながら何とか立ち上がる。

 

「あんたたちの言葉で目が覚めた……やっぱこういうのはハッピーエンドじゃなきゃ納得できねえよな!」

 

杏子は八重歯を見せながら笑みを見せる。

 

「佐倉杏子…!」

 

「さやかちゃん……」

 

「!まどか……」

 

「わたし……わたしたちの言葉が届かなかったら、きっとさやかちゃんを助けられないって思ってた。でも…」

 

まどかは流れていた涙を拭いて顔を上げる。

 

「天馬くんのおかげでわかったの!本当に助けられなくなるのは、さやかちゃんを諦めた時だけ!わたしはこれからも、さやかちゃんと一緒にいたい!希望に満ち溢れたさやかちゃんの顔が見たい!だからわたしも、天馬くんと同じ……絶対に諦めない!」

 

「!!!」

 

まどかの決意の叫びにほむらは突風を受けたような感覚に陥る。そして周りを見てみると天馬を初めとした全員が真っ直ぐな瞳で魔女になったさやかを見つめていた。目の前の絶望のその先に、必ず希望はあると信じて。

 

(誰も諦めてない……まどかまでも…!彼の諦めない思いが……全員を鼓舞したというの……!?)

 

ほむらは彼らの心を動かした少年を信じられないような目で見る。

 

(これが、松風天馬…!ハッ!)

 

その時、ほむらの心に雷のような衝撃が走った。

 

(そうか……やっとわかったわ……何故、私が彼の言葉に胸が苦しくなっていたのか……)

 

ほむらは目を閉じて胸に手を当てる。そして憑き物が落ちたかのように心が穏やかになっていくのを感じていた。

 

「さやか!僕はいつも僕を支えてくれた君が好きだった!そしてこれからは僕も君を支えていく!戻ってきてくれ!さやか!」

 

「さやか!あたしはホントはあんたと友達になりたかった!昔のあたしそのものだったあんたと友達になりたかったんだ!最初は殺し合う仲だったけど、これからは友達として一緒に過ごしたい!だから帰ってこい!さやか!」

 

「さやかさん、本当にごめんなさい!あなたを魔女にする要因を作ってしまって…許してもらおうなんておこがましくして出来ませんけど……私はただ、あなたに謝りたい!本当のあなたに謝りたいのです!だから帰ってきてください!さやかさん!」

 

「君にはこんなにも大切に想ってくれる人たちがいる!絶望に堕ちる必要なんてないんだ!」

 

「さやかちゃん!わたしたちがさやかちゃんの帰ってくる場所になるから!お願い、目を覚ましてさやかちゃん!本当の自分を思い出して!いつもわたしたちに笑顔を向けていたさやかちゃんに!」

 

「ウウウウウウウゥゥ!!!」

 

恭介、杏子、仁美、神童、まどかの呼びかけに魔女は剣を落として頭を抱えてもがき苦しんでいた。一人一人の言葉が彼女を穿つように。その様子に天馬はとっさに地面にボールを置いて後ろに下がる。

 

「「「さやか!!!」」」

 

「「さやかちゃん!」」

 

「「「さやかさん!」」」

 

「さやかさーーーーん!!!」

 

全員の想いを乗せて天馬はボールを魔女に向けて放つ。それはシュートではなくパスを送るようなスピードで綺麗な弧を描き、リボンがついた魔女の胸に当たって弾んだ。

 

 

 

 

 

―――その直後、全てのマギカボールと指輪が光り出す。それと同時にボールが当たった魔女の胸から薄く輝く光の波紋が現れ、水面に触れたように魔女の全身に広がっていった。

 

 

 

「こ、この光は…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、少年たちの能力の一つに、ある一つの力が付加された。それは魔法少女が生まれるときに彼女達に与えられる奇跡の力に近い物だった。しかし、これは魔法少女の様に後に絶望に変わる力ではない。彼女達を救おうとする少年たちの想いの力と魔法のボールと指輪の力が合わさって初めて生まれる、少年たちが生み出した奇跡の力。ここから始まるのは少女達の絶望の物語ではなく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの絶望を吹き飛ばす、少年たちの革命の物語である。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

―――ここは、どこ?あたしは一体……。

 

 

 

誰もいない。音も無い。光も無い。そんな深海のような暗い空間に尾びれのついた一人の人魚姫がいた。彼女は体を丸め、さかさまに泡を立てながら沈んでいた。ただ一人、孤独のままで。

 

 

 

―――ああ……あたし死んじゃったんだ。一人で馬鹿やって……皆を傷つけて……。

 

 

 

人魚姫は一人で思いつめ、仲間達に八つ当たりをして悲しませたことを悔やんでいた。自分が魔法少女になったことの全てを悔やんでいた。自分の全てを後悔と自責の念で染め上げた彼女はもう何も変わらないと涙を流す。その涙は後に消えていく泡と共に上昇しては見えなくなった。

 

 

 

 

―――このまま……あたしも消えちゃうんだ…。

 

 

 

人魚姫は物語のようにいずれは自らも泡のように消え、見えなくなった涙のように誰にも認識されなくなると思っていた。

 

 

 

 

―――あたしはもう、皆のところには帰れない……このまま一人…暗い中で一人ぼっちなんだ……。

 

 

人魚姫はただ悲しげに消滅するのを待ちながら瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

(さやか!)

 

「!」

 

 

 

その時、哀しみに暮れた人魚姫の耳に一人の声が聞こえた。それは想いが届かないと思っていた王子の声だった。

 

―――きょう、すけ……。

 

 

(さやかさん!)

 

(さやかちゃん!)

 

(さやか!)

 

 

―――!

 

 

王子の声を皮切りに自分を呼ぶ仲間たちの声が次々と聞こえてくる。

 

 

 

―――みんな……!

 

 

 

仲間たちの声を認識した人魚姫の前に一つの光が現れる。その光から二つの手が自分に向けてスッと差し伸べてきた。人魚姫は引き寄せられるように手を伸ばすとその二つの手は自分の手首を握って一気に引っ張り上げる。

 

「―――!!!」

 

水面から飛び出す水音と共に光の中に引き上げられると服装は自分が着なれた制服に、尾びれは人間の両足に変わっており、その綺麗な両足で光に包まれた世界に着地する。そして前を見ると桃色の髪の少女と風になびかれたような髪型の少年が笑顔で自分の手を握っていた。二人が握っていた手を放し、人魚姫に見せるように前を開けるとそこには人魚姫の想い人である王子が待っていた。彼の右側には自分の事を気にかけてくれた指揮者の少年と親友である緑髪の少女が。左側には自分と同じ願いから始まった赤髪の少女と黒い尖がった髪の少年が。そして後ろには彼らと共に自分の為に動いてくれたそれぞれ髪の色が違う四人の少女と一本お下げの少年がいた。彼らは満面の笑みで人魚姫を待っていた。彼女を受け入れるように。彼女を迎えに来たように。そんな彼らの温かい笑顔に呆然としていた人魚姫の顔に一筋の涙が伝った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「こ、この光は……!?」

 

マギカボールと指輪の強い光に一同は驚く。その光は強すぎるわけでは無く、今までで一番綺麗だと言えるほどの美しい輝きを見せていたからだった。

 

 

 

―――そして光がおさまると同時に彼らの想いが生んだ奇跡が起こった。

 

 

 

 

 

 

(みんな……!)

 

 

 

 

 

 

「!―――この声は!」

 

「さやかちゃん?さやかちゃんなの!?」

 

「こんな、ことが…!」

 

ほむらが魔女から聞こえてくるさやかの声に驚愕する。

 

(みんなの声……聞こえたよ…!みんながあたしに呼びかけてくれたから…!あたしの事を諦めなかったから…)

 

さやかは魔女となっている今の姿とは真逆に希望に満ちた声で自分たちに語りかける。

 

 

 

ドクン!

 

(ぐううっ!)

 

さやかの身体に衝撃が走り、跳ね上がるようにその巨体を震わす。

 

「さやかちゃん!どうしたの!?」

 

(あたしの中の魔女が……暴れ出してる!)

 

「何だって!?さやか、堪えるんだ!」

 

(恭介……ぐっ!抑えるのも、もう限界みたい……みんなと話せるのも、これが最後…かもしれない……)

 

「弱気な事を言わないでくれ!こうして魔女になった君とも話が出来たんだ!きっと元にも戻れるはずだ!」

 

(神童……ぐううっっ!!も、もうダメ…!意識が遠のいていく…)

 

さやかは魔女の本能に再び体を支配されかけており、地面に落ちた剣を再び拾い上げる。

 

「そんな…さやかちゃん!」

 

まどかがやっとつかんだ希望が失われるように涙を流す。

 

「さやかさん!」

 

そうはさせまいと言うように天馬が大きな声で呼びかける。

 

「俺は……俺達は決して、あなたの事を絶対に見捨てません!」

 

(天馬…!)

 

すると天馬は呼吸を一度整え、もがいているさやかと向き合う。

 

「さやかさん……今の内に、あなたに訊きたいことが有ります」

 

(な、なに…?)

 

「……あなたの……今のあなたの願いは、なんですか…?」

 

(……!)

 

天馬の言葉にさやかは一瞬だけ動きを止める。そして今度は意地を張る事も、自らを追いつめようとすることも無く、素直な気持ちを打ち明けた。

 

(……あたしは……恭介や、まどか、仁美……ううん、みんなと……みんなと一緒に生きたい!ぐううっ!!)

 

「さやか!」

 

(お願い……あたしを……

 

 

 

 

 

 

―――あたしを助けて!!!)

 

 

 

その言葉を最後に、さやかは剣をこちらに向けて振り下ろす。

 

「うわっ!」

 

天馬たちは後ろに下がって剣を躱すも、さやかは魔女に再び支配されたようで魔女は激昂するように雄叫びを上げる。

 

「さやかさん!」

 

「そんな……せっかく僕たちの声が届いたのに…」

 

神童が叫び、恭介は再び自分たちに襲いかかるさやかに絶望的な顔をする。

 

「いや、ワシらの声は届いたんじゃ!後はやる事は決まっとろうが!」

 

「錦…」

 

「ここまで来たらやるしかないじゃろ!さやか、必ずおまんを助けて見せるぜよ!」

 

パアアア!!

 

錦が高らかにそう叫んだ直後、錦のマギカボールが強い光を放った。

 

「あ、あの光は!」

 

見覚えのある光に天馬は驚きの声を上げる。

 

「ぬおお!力が湧いてくるぜよ!ドォリヤアアアアアア!!!」

 

錦が叫びながら四股を踏むように大きく足を前に出すと背中から藍色のオーラが出現する。オーラの上部から鎧武者の顔のような輪郭が形作られると刃物で切り裂くような音と共にオーラに切り目が走る。

 

 

 

「『戦国(せんごく)武神(ぶしん)ムサシ』!!!」

 

 

 

切り目から藍色のオーラが払われると両手に刀を持った鎧武者が出現した。

 

「これが化身か…!」

 

葵達から化身の話を聞いていた恭介が驚嘆する。

 

「オオオオォォォッ!!!」

 

化身の出現に反応したのか、魔女は生成した車輪の内のいくつかを打ち放つ。

 

「ムンッ!」

 

錦は紅葉が再び舞い散る中でボール共に飛び上がる。

 

「ヌン!ハッ!」

 

そのまま空中で右足で横、縦の順に刀を振るうようにボールに蹴りを放つ。同時に背後でボールにパワーを溜めるかのように『ムサシ』が両手の刀でボールに向けるように一回づつ振るうとボールは赤いオーラを纏って上昇する。

 

「『武神(ぶしん)連斬(れんざん)』!!!」

 

最後は落下してきたボールに『ムサシ』がボールを中心に×を描くような交差切りを放ち、それと同時に錦がシュートを放つ。パワーを溜められたボールは飛来した車輪を全て粉々に粉砕する。

 

「オオオオオオォォォ!」

 

攻撃を防がれたことを怒っているようで、その怒りをぶつけるかのように錦に剣を振り下ろす。

 

「やらせんぜよ!」

 

錦が身構えると『ムサシ』が両手の刀を交差させ、ガキィンという金属音を響かせながら魔女の大剣を受け止める。

 

「ぬぐぐぐぐ!」

 

魔女をそのまま押し切ろうと剣に力を込め、負けずと錦も必死に魔女の圧力に耐えながら押し返そうとする。それはまさに魔女との力と力の押し合いという根比べだった。

 

「錦先輩!」

 

「踏ん張れ!錦!」

 

「ぬおおおおおぉ!!」

 

天馬と水鳥に応援されながら錦は気合いの雄叫びと共に剣を押し上げようとする。

 

「オオオオオォォ!」

 

しかし魔女は再び剣を振り上げて『ムサシ』の刀に打ち突かせるとついに弾き飛ばす。

 

「ぬわあっ!」

 

直撃はしなかったものの錦は『ムサシ』が打ちつかされた事によって吹っ飛び、背中で地面を滑る。

 

「錦先輩!」

 

「オオオオオォォォ!!!」

 

天馬が錦に呼びかけたと同時に魔女は剣を振りかざして今まで最大の数の車輪を生み出す。

 

「どうやら今まで一番ヤバそうだな……」

 

「元に戻す方法もつかめてない……どうすれば……」

 

「さやかちゃん……!」

 

杏子とほむらとまどかの顔から焦りの表情が出る。恭介や仁美、マネージャー達からも不安な表情を浮かべる。

 

「―――それでも諦めません!」

 

「天馬くん!」

 

「錦先輩の言うとおり、俺たちの声は確かにさやかさんに届いたんです!そしてさやかさんも俺たちに助けを求めてる!だったら助けるしかありません!みんなでさやかさんを助けて、この戦いの“勝利”を掴みとるんです!」

 

天馬は両手で拳を作りながら一同に呼びかける。

 

「そうだ!一瞬でもさやかさんを正気に戻せたんだ!ここで諦めるわけにはいかない!」

 

「このチャンスを逃してはいけません!」

 

わずかでも掴んだ可能性を最大限に生かそうとチームを鼓舞する姿に神童と剣城も叫ぶ。

 

「諦めない!!さやかさんは俺たちが―――」

 

 

 

 

 

 

 

「「「―――絶対に助けるんだ!!!」」」

 

 

 

 

 

三人がそう叫んだ直後、三人のマギカボールが再び光り出す。

 

「「「!」」」

 

そして三人の身体を金色のオーラが包み込み、やがてボールの光と共に消えていった。

 

「今の光はあの時と同じ…!」

 

一同が驚く中、まどかはマミがお菓子の魔女に殺されそうになり、その時天馬たちが化身を復活させた時の事を思い出す。

 

「この感じは…!行ける!」

 

意気高揚する天馬は再び身構えて遠くに下がった魔女を見据える。

 

「あの時もこんな風に自分の力が甦ってマミさんを助けられたんだ!俺たちは絶望なんかに負けない!」

 

「「「天馬(君)!」」」

 

「はあああああぁぁ!!!」

 

天馬は力を溜めて化身のオーラを出現させ、形を成していく。

 

「魔神ペガサスアーク!!!」

 

そしてそれは再び大きな白い翼を持った巨人に姿を変える。

 

「絶対なんとかなる!いや………何とかするんだ!」

 

天馬はそう叫ぶと両腕を交差させて再び力を溜め、さらなる力を解き放つ。

 

「魔神ペガサスアーク、

 

 

 

 

 

 

 

 

――――“アームド”!!!」

 

 

 

 

 

 

~~挿入曲『感動共有!』~~

 

 

 

 

 

 

天馬が交差させた両腕を大きく開いて叫ぶとペガサスアークは再び金色の膜の藍色のオーラに変わりながら大きく上昇する。オーラが最高点に到達すると花火のように複数に弾けて分裂し、天馬の身体をまとわりつくように包んでいく。そして包み込んだオーラが弾けると、腕には強靭なガントレット、背中には大きな翼の装飾、額にはペガサスを模した額当て、そして胸の部分にイナズマのマークが付いた輝白のアーマーが天馬の身体に装着されていた。それらを身にまとった天馬の姿は彼の化身である『魔神ペガサスアーク』を彷彿させるものがあった。

 

 

 

 

「て、天馬くんが…!」

 

「魔法少女みてえに…!?」

 

「変身した!?」

 

まどか、杏子、ほむらの順に驚きの声が上がり、恭介と仁美は呆然と驚く。

 

「やったあ!天馬、化身アームドを取り戻したのね!」

 

「化身、アームド…!?」

 

歓喜の声を上げる葵にほむらが驚愕に満ちた声で問う。

 

「化身を鎧のように纏い、化身を外に出している時よりも飛躍的にパワーアップする力なんです!」

 

「化身を鎧に…!?すごい……天馬くん…!」

 

葵に説明にまどかは感激していた。彼女から見た天馬の輝かしい鎧から発する光はさやかを飲み込んだ闇をかき消す希望の光に見えた。

 

「剣城!俺たちもやるぞ!」

 

「はい!」

 

天馬がマギカボールの光と共に化身アームドを取り戻したことにより、同じく自分のマギカボールが光った自分達にも出来ると確信した神童と剣城も力を溜めて化身の力を解き放つ。

 

「奏者マエストロ!」

 

「剣聖ランスロット!」

 

 

 

「「―――――“アームド”!!!」」

 

 

 

二人が叫ぶと天馬と同じように化身が藍色のオーラに変わって弾けると二人の姿を変えていく。神童は背中に孔雀の羽のような装飾が付いた紫色の指揮者のような姿に。剣城は背中に赤いマントを着けた騎士のような姿に変わった。

 

「剣城たちも化身を纏いやがった!」

 

「オオオオオォォ!」

 

「!」

 

魔女は化身アームドの放つ光が忌々しく思ったのか多数の車輪の一部を放ってくる。

 

「でやあああぁぁ!」

 

天馬がとっさに迎え撃つようにボールを転がってくる車輪に放つ。天馬がその時放ったのは地面に置いたボールをただ蹴るという普通のシュートだった。にも関わらず、放ったシュートは豪速球で飛んでいき、突風で吹き飛ばしたかのように車輪を全て破壊した。

 

「すげえ…!ただのシュートでなんてパワーだ!」

 

「化身を出していた時の力をはるかに凌駕してるわ…!」

 

杏子やほむらをはじめとした見滝原組は化身アームドで放つシュートのすさまじさに驚く。

 

「オオオオォォ!!」

 

すると魔女は悲鳴に似た叫びと同時に新たな車輪を生み出しながら後ろに下がる。その悲鳴に天馬たちが気づいた時には魔女は遥か後方に下がっており、その前衛には辺り一面を埋め尽くさんとばかりの数の車輪が張り巡らされていた。

 

「くっ!これじゃいくらシュートが強力でもここまで多くては……」

 

「さやかを元に戻す方法も浮かばねえし……」

 

剣城と杏子は苦虫を噛んだように歯を食いしばる。

 

「いや、方法はあります!」

 

「天馬!?」

 

「さっき、俺たちが全員で呼びかけた時に、みんなの想いを乗せたマギカボールでパスを送ったらさやかさんの意識が戻ったんです!だから今度はパスではなくシュートを当てれば…!」

 

「さやかを助けられるってのか!?」

 

「確証はありませんが、今はそれが一番可能性があると思うんです!」

 

「でも、どうするの?私の時間停止はもう限界。その上彼女はあの車輪の波の向こう。熟練の魔法少女だって、この中を突破するのは至難の業よ?」

 

その作戦に同意しかねないとほむらが天馬に問う。いくらマギカボールで一度に大量の車輪を破壊出来ても、体力と魔力がギリギリの彼らでは次々と襲いかかる車輪の波を切り開くのは困難であった。

 

「ならば……俺がみんなをさやかさんの元へ導く!」

 

そう言ったのは神童だった。

 

「そんな事、出来んのか!?あの車輪の中を!?」

 

「…!もしかして神童先輩、あれをやるつもりですか!?」

 

「ああ。長い時間戦っていたおかげで、車輪やさやかさんの魔女の動きのパターンは大分把握できた。今こそマミさんとの特訓の成果を見せる時だ!」

 

そう言った直後、戻ってきたボールを天馬がトラップする。それを確認した神童は全員と目を合わせる。

 

「俺、天馬、剣城、ほむらさん、杏子さんの五人で攻める。錦、お前は万が一の時の為に残りのみんなを護衛しながら後ろに下がってくれ!」

 

「わかったぜよ!」

 

錦が答えるとまどかたちと共に後ろに下がり、いつ車輪が飛んできてもいいようにボールを構え、葵達は展開した指輪のバリアの中で全員の安全を確保する。一方で神童は四人を前に並ばせる。

 

「行くぞ!今こそ俺たちのサッカーと魔法少女の力を合わせる時だ!」

 

「「「おお!(ええ!)」」」

 

残りの四人が神童の号令に答えると神童は両手を交差させながら指を三本立てる。すると神童の両腕に光のリボンがまとわりつく。

 

「これが……さやかさんにたどり着くための俺たちの光だ!」

 

天才ゲームメーカー神童拓人がベテランの魔法少女のマミとの特訓で編み出したもの、それは―――

 

 

 

「『神のタクト』!」

 

 

 

神童のゲームメイク、『神のタクト』の魔女戦闘への応用だった。

 

「これは…!」

 

「光の道…!?」

 

神童が指揮棒を振るように腕を振りかざすと光のリボンが車輪の波に向かってあちこちに伸びていき、光の道を作り出していた。ほむらと杏子はまるで自分達の道しるべを描いているかようなその光景に驚いていた。

 

「その光に沿って進むんだ!」

 

「わかったわ!」

 

神童の指示に従い、全員は走り出した。それと同時に神童もドリブルしながら走り出す。

 

「!」

 

ほむらが目の前に伸びていく光に沿って進んでいると目の前にいくつかの車輪が立ちはだかる。

 

「天馬!」

 

「はい!でやあぁっ!!」

 

天馬が光に沿って右斜め前方にシュートを放つとそのまま一直線に車輪を蹴散らし、ほむらの前にいた車輪も全て粉砕した。

 

「進むんだ!」

 

「ええ!」

 

神童の指示と天馬のシュートによって開けた道を進むほむら。

 

「でやあっ!」

 

一方で杏子も車輪を破壊しながら突き進む。

 

「杏子さん!」

 

神童が杏子の斜め前から向かって落下しようとする車輪に向けて光を伸ばす。

 

「おらあ!」

 

車輪に気づいた杏子が神童のタクトの光に従って飛び上がり、空中に漂っていた車輪を薙ぎ払う。その後華麗に着地し、杏子は一瞬どこから進もうか迷ったが、

 

「こっちだ!」

 

「おう!」

 

神童が予見していたようにすぐさまタクトで導く。

 

「剣城!」

 

「はい!」

 

今度は光に沿って神童と剣城が正面と右からそれぞれシュートを放つ。二つのマギカボールが車輪を破壊しながら軌道を交差しかけたその時、マギカボールに更なる変化が起きた。

 

「「!?」」

 

二つのマギカボールが重なるように一つになり、淡い光を放ち続けていた。

 

「マギカボールが一つに…!?」

 

「剣城!」

 

「っ!でやっ!」

 

剣城が気を取られているうちに新たな車輪が転がってくる。神童の声に気づいた剣城はすぐに合体したマギカボールに接近し、弾き飛ばすつもりの加減でシュートする。するとシュートは車輪をいとも簡単に粉々した。

 

「!弾き飛ばすぐらいのはずだったのに…」

 

「どうやらマギカボールは複数のボールを合体させるとさらに威力を増すようだ。天馬!」

 

「はい!」

 

神童も剣城と共に驚きつつも冷静に分析し、天馬が合体したボールに向けて自分のボールを送り、マギカボールは更に合体して三個分のパワーを持った。

 

「ここからはパスとシュートを繰り返しながらいくぞ!」

 

「「はい!」」

 

マギカボールが一個になったため、神童は神のタクトを試合で行う本来の形に近いやり方で行うことにした。

 

「剣城!サイドを押さえろ!」

 

「はい!」

 

神童は光のタクトを送りながら左前の剣城にパスを送る。

 

「天馬、杏子さん!攻め上がるんだ!」

 

「「はい(おう)!」」

 

杏子と天馬が右から縦並びで攻め上がる。

 

「ほむらさん!」

 

神童がほむらの前に立ちふさがる車輪に向けてタクトを伸ばすとほむらはすかさずバズーカで車輪を破壊する。

 

「剣城!」

 

「でやあぁ!」

 

ほむらが爆破したスペースから切り崩すように剣城が車輪の波を横倒しする形で貫く。

 

「天馬!ダイレクトで撃て!」

 

「はあっ!」

 

剣城のシュートはそのまま天馬にパスするように伸びていき、天馬はそのままダイレクトで目の前の車輪の塊に放って吹き飛ばす。

 

「杏子さん!そのまま進むんだ!」

 

「ああ!」

 

そこから杏子が攻め上がる。

 

「新たな車輪が来る!ほむらさん!」

 

「ええ!」

 

神童は魔女の動きだけで次の攻撃を予測し、タクトの光が伸ばしたポイントに向けてほむらがその場所にバズーカを向ける。次の瞬間、新たな車輪が生まれると同時にほむらがバズーカを放ち、車輪を爆破する。

 

(目の前の車輪の波だけじゃなく魔女の動きも見えてた……なんて広い視野の持ち主なの!)

 

それからはまどかたちにとっては驚きと感激の舞台だった。たった五人で巨大な波と思えるほどのおびただしい数の車輪をまるで五人の方がはるかに巨大な波のように破壊しながら前に進んでいる。そしてそれを実現させているのは明らかに神童のゲームメイクだった。彼の指揮棒を振りかざして舞うような動きで指示を出すゲームメイクが絶望に打ち勝つ希望の舞台を作り出していた。まるですぐれた指揮者が演奏者の力を最大限に引き出し、最高のオーケストラを奏でるように全員の動きを見事にコントロールしていた。

 

「すごい……これが神童くんのゲームメイク!」

 

恭介は神童の卓越したゲームメイクに感激する。

 

「神サマ!」

 

「さすが神童ぜよ!」

 

「………」

 

バリアの中で恭介が何かをうかがう目つきで魔女を見つめていた。一方で魔女が生み出す車輪の数は数えるほどしかなくなっていた。

 

「オオオオオォッ!!」

 

魔女は車輪が少なくなったことに魔女は焦りを覚えたのか叫びだす。

 

「今だ、天馬!」

 

その隙を逃さず神童が天馬に向けてパスを送る。

 

「はい!でやああ!」

 

天馬が魔女に向けてボレーシュートを放つ。

 

「オオオオォォ!!」

 

しかし魔女はすぐさま剣を振ってボールを弾き飛ばしてしまう。

 

「ああ!」

 

「ボールが!」

 

水鳥と葵が声を上げる。

 

「そんな…!」

 

まどかもチャンスが無駄に終わったことに絶望的な顔をする。

 

「まだだっ!」

 

「「「!」」」

 

しかし弾かれたボールに食らいつこうと走っている者がいた。それは雷門でも魔法少女でもなく。

 

「上条!」

 

上条恭介だった。彼はいつのまにかバリアから抜け出し、仲間に頼るだけでなく自分の力で大切な想い人を助けるためにまだおぼつかない足で必死に走りボールに追いついたのだった。そして片足を踏ん張って魔女、いやさやかに目を向ける。

 

「僕だって……さやかを助けたいんだ!僕の想いをさやかに届けてくれ!」

 

恭介は必死に足に力を込め、ボールを天馬と剣城の頭上へと蹴り上げる。

 

「上条さんが作ってくれたこのチャンス、絶対に逃さない!剣城!」

 

剣城はコクンと相槌を躱すように頷くと、天馬と共に体を捻らせ、竜巻の様に回転しながら炎を纏って跳ね上がる。

 

「あれは、天馬くんと剣城くんの連携技!?」

 

まどかが天馬と剣城が放とうとしている技に注目する。

 

「「はあああああっ!!!」」

 

天馬と剣城はそのまま上昇し、その軌道が交差する。それはかつて二人が憧れた炎のストライカーの必殺シュートを二人技にしたもので、この技で彼らは自分たちのサッカーを取り戻したのだった。

 

「皆の想いがこもったこのシュート!絶対に届かせる!」

 

「兄さん!俺に彼女たちを救う力を!」

 

「さやかさんを蝕む闇を!」

 

「絶望を!」

 

「「吹き飛ばせえぇ!!!」」

 

ボールと自分たちの高さが最高点に達したところで、二人は全員の想いを乗せたツインシュートを放つ。失われた自分たちの希望を取り戻すために。

 

 

 

 

 

「「『ファイアトルネード(ダブル)(ドライブ)』!!!」」

 

 

 

 

 

二人の放ったシュートは炎を纏った竜巻となり、軌道がずれることも無く魔女の脳天に命中した。

 

「アアアアアァァァ……」

 

魔女が叫び声を上げていく内にその姿が波を打ちながら薄らいでいき、結界も消えて元の工事現場に戻っていった。

 

「やった!」

 

「ど、どうなったの!?」

 

一同が結果を待っていると、マギカボールは元の三個のボールに分裂する。そして三個のボールが落ちた先を見るとあるものがあった。

 

「あ、あれは………」

 

そこにあったのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も変哲もない一個のグリーフシードだった。

 

 

 

 

「そ、そんな……!?」

 

「さやか…!」

 

「さやかちゃん……ウソでしょ…!?」

 

「こんなのアリかよ…!?」

 

さやかを救うために頑張ったのは何だったのかと、こんなことがあっていいのかと一同の心に絶望が押し寄せると天馬たちの化身アームドが解け、鎧が金色のオーラに戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、奇跡は起きた。

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

天馬たち三人の化身のオーラがそのまま消える事無くさやかのグリーフシードに向かって伸びていき、グリーフシードをくるむように包み込む。やがてグリーフシード全体が包まれると、その中から青い光がこぼれ出す。化身のオーラがシャボン玉のように弾けるとそこには一切の穢れの無い青いソウルジェムがあった。

 

「さやかちゃんのソウルジェム…!」

 

「化身のオーラが、グリーフシードをソウルジェムに戻した…!?」

 

ほむらが信じられないように呟くとまどかが恭介と共に慌ててさやかのソウルジェムを両手で持ち、大事そうに胸に抱え込む。

 

「さやかちゃん…!」

 

「さやか…!」

 

まどかと恭介は涙を流す。取り戻した希望の光を彼女たちはその手で確かに取り戻したのだった。

 

「よし、急いでさやかの身体の元に行くぞ!」

 

杏子の導きの元、一同はさやかの身体の元に急ぐのであった。

 

 

 




というわけで愛と勇気が勝ちました。

少しご都合主義だったでしょうか?
後にこの物語特有の用語集を作りたいと思っております。

Cパートはエンディングを描くつもりです。果たして人魚姫は最後にどんな涙を流すのか。

感想お待ちしております。

文章力と語彙が欲しくなる暑い夏……。


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第12話『人魚姫の涙!』 Cパート

Cパートは早く出来上がりました。

今回はキャラの色んな感情が今まで以上に書けて楽しく思えました。

愛と勇気が勝った死闘のティロ・フィナーレ、どうぞ。


~~ホテル・夕方~~

 

 

あらかじめ人が立ち入らないように魔法をかけておいたホテルの一室に魂の無いさやかの身体があった。さやかの身体は杏子の手によって防腐処理が施されており、腐敗は無かった。天馬たちは杏子の人払いの魔法で誰にも気づかれず侵入し、さやかの身体が安置されているベッドに集まっていた。

 

「これを持たせればいいんだよね」

 

まどかがさやかのソウルジェムを手に持ちながらほむらに尋ねる。

 

「肉体の方は大丈夫みたいだけど、私も前例がないから何とも言えないわ」

 

「大丈夫ですよ!こうしてさやかさんのソウルジェムを取り戻したんです!きっとうまくいきます!」

 

「天馬くん……うん!そうだよね!」

 

まどかは天馬の言葉を信じるように答える。

 

「上条くん」

 

まどかはソウルジェムを恭介に差し出す。それはまどかが恭介の手で持たせてほしいという意志表示だった。それをくみ取った恭介は少し驚いたが、黙って頷くとさやかのソウルジェムを受け取る。

 

「さやか…」

 

そして恭介は彼女のソウルジェムをぐっとさやかの両手に握らせ、自分も彼女の手を祈るように握る。

 

 

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 

 

 

 

さやかの身体がピクッと反応したかと思った直後、彼女はゆっくりとその瞼を開いたのだった。

 

「「さやか(ちゃん)(さん)!」」

 

「みんな……あたし…」

 

まだ意識がはっきりしないまま起き上がるさやか。

 

「さやかっ!!」

 

恭介はたまらず起き上がったばかりのさやかを抱きしめる。

 

「え?うええええっ!!ちょっ、恭介!?///」

 

いきなり抱きしめられたさやかは一気に目が覚めて顔が真っ赤になる。

 

「さやか、さやか!本当に……本当に良かった…!」

 

恭介は目に涙を浮かべながらさやかをぎゅっと抱きしめていた。

 

「きょ、恭介!わ、わかったから!わかったからちょっと離して……///」

 

「さやかちゃん、さやかちゃあん…!生き返って……グスッ」

 

「さやかさん……本当によかったですわ…!うう…!」

 

まどかと仁美も涙で顔がくしゃくしゃになっていた。

 

「まどか…仁美…」

 

「たくっ、面倒掛けさせやがって」

 

杏子もぶっきらぼうながらも安心したように憎まれ口を叩く。

 

「杏子…」

 

「さやかさん」

 

今度は神童が呼びかける。それに合わすように恭介もさやかから離れて二人の様子を見守る。

 

「どこか身体に異常は無いかい?」

 

「あ、ううん。何とも…」

 

「そうか…」

 

神童はまどかの隣で安心しきったように微笑みかける。二人の並んだ顔を見た瞬間、さやかは最後に会った土砂降りの雨の中で自分に手を差し伸べた二人に暴言を吐いてしまった事を思い出し、申し訳なさそうに顔を俯かせてしまう。

 

「まどか、神童……あたし…」

 

「わかっているさ」

 

その事を予期していたかのように神童が穏やかな声色で続く言葉を制止させる。さやかがハッと顔を上げると神童は気にしなくていい、と言うように頷き、まどかも優しく微笑みかけていた。

 

「二人共……」

 

「さやかさん!」

 

「仁美……」

 

「さやかさん、本当にごめんなさい!あなたは告白が出来る状態じゃなかったのに、私が上条くんに告白すると言ってあなたを追いつめてしまった……あなたを魔女にしてしまって本当にごめんなさい!」

 

仁美は謝りながらさやかに頭を下げる。

 

「そ、そんな!仁美のせいじゃないよ!こうして元に戻ったし、魔女になっちゃったのはあたしが意気地なしだったから…」

 

さやかは両手の平を左右に振って弁明する。

 

「さやかさん、でも…」

 

「もう……みんな何でそこまであたしに構うのかなぁ…」

 

「何だテメェ、せっかく助けてやったのに嬉しくねえって言うのかよ」

 

さやかの物言いに杏子はムッとなって詰め寄る。

 

「そうじゃないけど……皆、ここまで迷惑を掛けたあたしを命懸けで助けようとして……あたしにはそんな価値も資格も無いっていうのに…」

 

さやかは一人で悩みを抱え込み、仲間の手を振り払った自分には助けてもらう価値など無いと自分を卑下する。

 

「水臭い事言わないでください!」

 

しかし、そんな彼女の卑下を否定するのはやはり天馬だった。

 

「天馬…」

 

「俺たち、仲間じゃないですか!仲間を助けるのは当然の事ですよ!」

 

「でも、あたしはみんなにここまで迷惑を掛けちゃったし…」

 

「それだって当然の事なんですよ」

 

「え?」

 

「いいですか、さやかさん。俺だってキャプテンとして皆を支えなきゃいけないって思うから、誰かに迷惑を掛けたくないって気持ちは俺にもわかるんです。でも誰かに迷惑を掛けない人なんて絶対いないんです!それにたとえ迷惑を掛け合っても、それを補い合い、助け合うのが仲間じゃないですか!」

 

「仲間…!」

 

「俺がキャプテンとして悩んでいた時、みんなが支えてくれたから今の俺があるんです!俺たち雷門の“今”は、そうやって支え合ってきたからこそあるんです!」

 

「支え合ってきたからこそ、“今”がある……」

 

「だからこそ、仲間を助けることに価値とか資格なんて必要ありませんよ!」

 

「…!」

 

その瞬間、さやかは心がスッと軽くなるのを感じていた。その時彼女はわずかだが助けられた今もなお、自分は素直になっていなかったと心の内で反省する。しかしその事を理解し、ようやく自分の心に着けていた枷を外したのであった。

 

「天馬くんの言うとおりだよ、さやか」

 

そう言ったのは恭介だった。

 

「人は、誰かの支えなしじゃ生きていけないんだよ。僕が事故に遭ってから君が欠かさず見舞いに来てくれたことが僕にとって大きな支えになったように」

 

「恭介…!」

 

「さやかちゃん、わたしはもうさやかちゃんみたいに魔法少女になる事は出来ないけど、それでも出来る限りの事をしたい!さやかちゃんの友達として!」

 

「私もですわ!私も魔法少女の事を知ったからにはこれからはさやかさんを支えていきたいんです!さやかさんの友人でいたいから!」

 

「まどか、仁美…!」

 

「迷惑を掛けんのがイヤってんならこれ以上そんなこと言うんじゃねェよ。その代わり、受けた借りは必ず返す。それが筋ってもんだ」

 

「杏子…!」

 

「さやかさん、もうわかっただろう?君を支えようとしてくれる人たちがこんなにいることが」

 

「神童…!」

 

さやかが周りを見渡すと錦やマネージャー達も微笑んだり頷いたりしていた。魔女になった自分に呼びかけた時に見たビジョンの彼らのように。

 

「みんな…!」

 

「さやか」

 

恭介は再びさやかを抱きしめる。それは先ほどとは違い、この場の面々が自分に対する想いを体現したかのように優しく包み込むような抱擁だった。そんな抱擁の様に恭介は穏やかな表情で告げた。

 

「これからは僕も君を支えていくよ。ただし……幼馴染としてではなく、君を愛する男として…」

 

「きょう、すけ…」

 

「さやか、改めて言うよ」

 

恭介はさやかの両肩を持って少し離れてから彼女と向き合う。そして微笑みながら言葉を続ける。

 

「さやか、僕は君が好きだ。返事を…返してくれるかい…?」

 

「恭介…」

 

ベッドに涙が落ちる。それは恋が叶わず泡になって消える悲劇の人魚姫の涙ではなく、真実を知った王子が仲間と共に救い出した人魚姫の涙だった。

 

「あたしも………恭介が好き!ずっと前から恭介の事が好きだったの!」

 

人魚姫は意地を張る事も無く、泣きながら自分の素直な気持ちを打ち明けた。

 

「さやか……」

 

「あたし……本当にバカだった……!あたしの事を想ってくれる人たちが、こんなにたくさんいたのに…!」

 

さやかは大粒の涙を流し、体を震わせていた。自分を支えてくれる仲間たちや想い人の存在が嬉しくも蔑ろにしてしまった事がたまらなかったのだった。

 

「みんな……ゴ、ゴメ……あ…」

 

言葉が詰まりそうになりながらもとりあえず謝ろうとしたさやかを恭介が再び優しく抱きしめる。

 

「さやか。謝るのは気持ちが落ち着いてからでいいよ。それまでは泣いてていいから…」

 

「きょう…すけぇ…!」

 

「僕が、君の涙を受け止めてあげるから…」

 

「う、うあああっ……うあああああぁんっ!」

 

さやかはただひたすら恭介の胸の中で赤子の様に泣きついていた。

 

 

 

 

 

「良かったですね……さやかさん…」

 

「めでたしめでたしってヤツだな」

 

「人魚姫は泡になって消える前に、真実を知った王子様の愛で呪いが解けて結ばれた」

 

「おっ、なかなかいい事言うじゃねーか」

 

「えへへ…」

 

マネージャーたちが人魚姫のハッピーエンドに嬉しそうに語り合い、天馬たちはそんな彼女たちと抱きしめ合っているさやかと恭介を見て笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~夕方・公園~~~

 

 

 

さやかの心が落ち着いた頃、一同は一旦公園に移動した。そしてさやかは全員と真剣な表情で向き合っていた。

 

「みんな……迷惑かけて本当にゴメン!」

 

さやかは地面に着くかと思うくらい大きく頭を下げた。

 

「もういいよ、さやかちゃん」

 

「そうだよ。君が生き返ってくれて、それだけで十分さ」

 

「でも恭介……ホントにあたしなんかでいいの?あたし…ゾンビなんだよ?」

 

さやかは俯いたまま不安げに恭介に問う。さやか自身も受け入れたとはいえど、自分の身体はもう普通の人間とは違っている事に変わりはない。そんな自分が恋人でいいのかと未だに気にしていたのだった。

 

「さやか」

 

そんなさやかに恭介は優しく名を呼ぶ。不意に名前を呼ばれたさやかが顔を上げた直後。

 

 

 

 

 

 

チュッ

 

「!!!」

 

恭介はさやかの両頬に手を添え、彼女と唇を重ねた。

 

「「んなっ!?///」」

 

「「「うえええっ!?///」」」

 

水鳥、杏子、天馬、まどか、葵は顔を真っ赤にして驚き、神童、剣城、ほむらは口をぽかんと開けて呆然とし、仁美は「まあ…」と口元を押さえ、茜は「良い物を見た!」と言うような良い笑顔になり、錦に至っては「ほほう…」と顎に手を添えてにやけていた。恭介の口づけは数秒間続き、唇が離れると硬直していたさやかは首から頭にかけて顔が真っ赤になり、頭の上からボンと煙が出る。

 

「きょ、きょきょ恭介!い、いきなりみんにゃの前で、にゃ、にゃにを!?///」

 

突然キスされたさやかは顔を真っ赤にしたまま呂律が回らなくなるが、恭介はニコニコとした笑顔で言った。

 

「これでもう……君は自分をゾンビだなんて言えなくなったね」

 

「!」

 

それは、さやかは人間だと言い切る恭介の誓いであり魔法だった。誰かの心を絶望から救い出せる、魔法少女でなくとも、人間ならば誰でも使う事が出来る“愛”という名の魔法だった。やがてさやかは赤面したまま俯いて顔を背ける。

 

「恭介の、ばか……///」

 

「うん」

 

魔法をかけられたさやかは恥ずかしそうにボソボソと小さく呟き、恭介は笑顔のまま返した。

 

「おまん、なかなかの色男ぜよ!」

 

「えへへ……」

 

錦がにやけ面で駆け寄り、照れる恭介を肘でつついた。焦燥しきった顔から熱が抜けてきた頃、さやかは笑顔で全員と向き合う。

 

「天馬、剣城……あんたたちがあたしを元に戻してくれたんだよね。本当にありがとう…」

 

「いいんですよ。俺たちだけの力じゃありませんし」

 

天馬は遠慮がちに両手を振って返事を返す。

 

「いや、君たち雷門には本当に感謝しなければならない」

 

「え?」

 

そう言ったのは恭介だった。

 

「神童くん、君の言葉が無ければ僕はさやかへの想いに気づくことは無かった」

 

「上条…」

 

「そして空野さん、君が魔法少女の事を教えてくれなければ僕は永遠にさやかを失っていた。本当にありがとう…」

 

「神サマと葵ちゃんは、恋のキューピッド!」

 

「キューピッドだなんて……///」

 

茜にキューピッドと呼ばれて葵は思わず後頭部に手を触れて照れる。

 

「そうだよ!天馬くんたちがいたから、さやかちゃんを助けられたんだよ!それに、天馬くんたちはわたしに教えてくれた!魔法少女じゃなくても出来ることはあるって!天馬くんたちは、希望を取り戻しただけじゃなく、わたしたちに希望を教えてくれたんだよ!」

 

まどかも興奮気味な声で語る。魔法少女でない自分にも出来る事があるということがわかり、それを証明させてくれた雷門に心から感謝していたのだった。

 

「まどかさん……」

 

「私もですわ」

 

「仁美さん」

 

「あなたたちがいなければ、私は一生後悔していました。さやかさんを助けられたのは皆さんのおかげです」

 

仁美は心からの感謝を込めて頭を下げる。

 

「いや、俺たちだけの力じゃない。君たちも力を合わせてくれたから、さやかさんを正気に戻すことが出来たんじゃないか」

 

「神童くん……でも」

 

「それに俺たちだって錦がいなかったら立ち上がれなかった」

 

「何を言っとるんじゃ!立ち上がれたのはおまんら自身の力じゃ。それにワシらがくるまでおまんらが持ちこたえてくれたから上条たちを連れてくる時間が作れたんじゃなか!まどかや杏子たちだってそれまで頑張っとったわけじゃしのう」

 

「そうですよ!この中の誰か一人でも欠けていたら、さやかさんを助けられなかったんです!これは俺たち全員が掴んだ“勝利”ですよ!」

 

天馬が両手で拳を作りながら断言する。この場にそろっている者たちは全員が戦う力を持っているわけでは無い。しかし、天馬たち雷門や杏子たち魔法少女が戦うと同時にまどかが呼びかけることで時間を稼ぎ、マネージャー達が恭介や仁美を呼び寄せ、さやかを助けるために集った全員の想いがマギカボールから新たな力を引出し、さやかのソウルジェムを取り戻した。さやかを想う一人一人がそれぞれの役割を果たし、魔法少女の絶望への”勝利”を実感していたのだった。

 

「天馬…」

 

「杏子」

 

天馬に感心していた杏子がさやかに振り向く。

 

「あんたもあたしの為に頑張ってくれたんだよね、ありがとう…」

 

「な……べ、別にあたしは成り行きで……///」

 

杏子は目をそらして照れ隠しをする。

 

「ほぉ~成り行き?あんた成り行きであたしと心中しようとしてくれたんだ~?」

 

「な!お、お前、覚えてたのかよ!?///」

 

実はさやかは魔女になっている間の出来事も記憶していたらしく、目覚めた途端その時の事が脳裏に甦っていたのだった。

 

「『いいよ、さやか。一緒にいてやるよ。一人ぼっちは寂しいもんな…』」

 

「だ~~っ!よりによって一番恥ずかしい台詞を言うんじゃねぇ!///」

 

ドヤ顔で杏子の台詞を繰り返すさやかに杏子は顔を真っ赤にして両手をブンブン振りながら喚き散らす。

 

「杏子さん」

 

突如剣城に呼ばれ、杏子は体をビクンと動きを止めてから振り向くと剣城はあるものを差し出す。

 

「!お前…」

 

それは杏子が髪を束ねるときに使っていた黒いリボンだった。

 

「結界が消える前に見つけたんです」

 

「あ、ありがとな…」

 

杏子は剣城からリボンを受け取ると再び長い真紅の髪をポニーテールに束ねる。

 

「もう二度と……あんなムチャはしないでください。俺たちは誰にも死んでほしくないんです」

 

「お、おう……///」

 

心配そうに懇願する剣城に戸惑いながら返事を返す杏子。すると剣城は一度落ち着かせるように溜息を着くと安らかな笑みを浮かべて言った。

 

「杏子さんが無事で、良かった…」

 

「ッ!///」

 

 

 

(―――俺が必ず守ってみせる!!!)

 

 

 

剣城の自分に向ける笑顔を見た瞬間、杏子は自分を守るように抱えていた彼の姿が脳裏に甦る。そしてその胸が再びドキドキと高鳴っていた。

 

「あ、や……その……ッ///」

 

「…?どうしたんですか、杏子さん。顔が赤いですよ?」

 

「……な、なんでもねえよ!さっき怒鳴った時の熱が抜けてねえだけだ!///」

 

杏子はぶっきらぼうに腕を組みながら後ろを向くことで誤魔化した。

 

「おやおや?」

 

「あら…」

 

二人のその様子にさやかは面白そうににやけ、仁美は口元を押さえていた。二人の恋する少女としての勘が何かを告げていたが二人はそれを自分達の中にしまうことにした。

 

「さやか」

 

そんな中で恭介が再びさやかに呼びかける。

 

「君はこれからも僕たちやこの街を守ってくれるんだろう?」

 

「恭介……うん!あっ…」

 

さやかが笑顔で返事を返すと、恭介はさやかを再び抱きしめる。

 

「だったら僕は……君を絶望から守ってみせる。もう二度と君を魔女になんかさせない。僕が君の心を守るよ……これからもずっと……」

 

「きょ、恭介…!///」

 

「お~っ!プロポーズぜよ!!」

 

顔の横で囁かれたさやかは顔が真っ赤になり、錦がそれを盛り上げる。すると恭介は顔を離してさやかと再び向き合う。

 

「さやか、実は僕は今、曲を考えているんだ」

 

「曲…?」

 

「うん。僕をずっと支えてくれた、君の曲をね」

 

「―――!あたしの、曲…!」

 

「うん、最高の曲にしようと思っているんだ。完成には時間が掛かるけど、出来たら必ず君に聞かせたいんだ。………それまで、待っててくれるかい?」

 

恭介の最高の愛情表現にさやかは胸の奥からあふれてくるものが押さえきれず、それを表すように大粒の涙を流す。彼の愛を拒む理由はもはや彼女には無かった。

 

「うん…!あたし、待ってるから…!」

 

涙するさやかに恭介は笑みを浮かべると今度は神童に視線を向ける。

 

「神童くん。その曲にぜひ君のピアノを取り入れたいんだ。僕とさやかを結び付けてくれた君への感謝と、友情の証として…」

 

「ああ。もちろん協力させてもらうよ」

 

神童も二人の祝福を惜しまなかった。神童はこの先、もう二度とさやかが絶望することは無いだろうと確信していた。彼もようやく心からの望みが叶ったのだ。大切な男の為に尽くした少女が報われる姿を見るという望みが…。

 

「みんな……あたしね、今すっごく幸せ。恭介と結ばれて…まどかや仁美とも友達のままでいられて…杏子ともわかり合って…あたしを助けてくれる仲間たちがいて………あたしには、あたしを大切だと思ってくれている人たちがこんなにもたくさんいるんだよ」

 

さやかは自分の喜びを表すように両腕を大きく広げる。そして片手を胸に当てながら一同に自分の想いを告げた。

 

「今度こそ、本当の意味で言える…!あたし今、最高に幸せだよ!」

 

さやかは嬉し涙を流しながら満面の笑顔を浮かべた。仲間達も嬉しそうに笑顔で返した。そんな中で神童はふと夕焼け空を見上げて呟いた。

 

 

 

「これで良かったんですよね………お勝さん」

 

 

 

神童はそよ風に髪をなびかせながらかつて自分を愛した少女の事を想いつつ優しく微笑んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(今でも夢を見ているようだわ……まさか魔女化した美樹さやかを元に戻してしまうなんて…)

 

ほむらは改めて目の前の現実を直視して目をぱちくりさせていた。彼女の知る限り、魔女化した魔法少女を元に戻す術などなかった。しかし、異世界からやって来た少年たちによってその固定観念が覆されたのだった。

 

(彼らが…彼らこそが……私の長い旅を終わらせる道しるべだというの…?)

 

ほむらはどんな苦難が襲いかかっても最後は必ず希望を掴みとる雷門の不思議な力に驚きを隠せなかった。

 

「ほむらさん」

 

呆然としているほむらを我に返す声。それはいつの間にかほむらの前に立っていた神童のものだった。彼は先ほどまでの安心しきった顔とは違い真剣な表情でほむらに話しかけていた。

 

「神童拓人…!」

 

「ほむらさん……君は、ただの魔法少女じゃないね」

 

「「「!?」」」

 

神童の宣言にほむらは驚き、天馬達の注目を集める。

 

「な、何を…!?」

 

「マミさんを殺そうとした魔女と戦った時、君はあの魔女とマミさんの相性が悪い事を知っていた。その時は俺も、以前ほむらさんが戦ったことがあるからだと思っていた」

 

「!」

 

神童の推理に天馬は思い出す。以前河川敷でほむらと話した時、自分もそうではないかと聞いたが彼女ははっきりそうだとは返さなかった。

 

「だが、君は誰も見たことが無いはずのさやかさんの魔女の攻撃パターンを知っていた」

 

「っ!!」

 

神童の指摘にほむらはビクンと体を震わす。

 

「そういえば、あの時……」

 

 

 

(―――車輪が飛んでくるわ!気を付けて!)

 

 

 

剣城も思い出していた。最初にさやかの魔女と遭遇したのは自分と杏子とほむらの三人だけだった。しかしその時はほむらの時間停止のおかげでさやかの魔女特有の攻撃を見ることは無かった。そしてその後ほむらが魔女と再び遭遇出来たのは天馬、神童、まどかを加えて戦い始めた時だけだった。だが、その時彼女は魔女の攻撃が繰り出される前に車輪が放たれると警告していた。生まれたばかりの魔女の攻撃など誰も知らないはずなのに彼女は何故知っていたのか。

 

「君は、一体何者なんだ?」

 

「…っ!」

 

神童に問い詰められたほむらはヘビに睨まれたカエルの様に固まってしまう。

 

(ここで誤魔化したり逃げ出したりしても、きっと結果は変わらない……でも、魔女化という絶望を乗り切った彼らになら、話しておくべきかもしれない……)

 

ほむらは状況と先の事を整理しつつ考えを張り巡らせる。

 

「ほむらちゃん……」

 

まどかの不安げな様子を横目で見ながらさらに思案する。

 

(まどかがいるのはよろしくない……私の話は彼女には聞かせるわけにはいかない……でも、もう時間停止で逃げられるほどの魔力は残っていない……逃げ出せないならいっそのこと……)

 

ほむらは覚悟を決めて自分に関する真実を話す決意を固めていた。

 

「私は………」

 

 

「―――見つけたわ」

 

 

その時、誰かの声が公園に響く。ほむらは思わず語りをやめ、一同が声の方に振り向くとそこには見滝原の制服を着たマミがいた。

 

「マ、マミさん?」

 

「そう…美樹さん…元に戻れたのね…」

 

しかし彼女は顔を下に向けており、表情はうかがえない。

 

「あの方は……巴さん?」

 

「彼女も魔法少女なのかい?」

 

「う、うん…」

 

さやかはマミの発する異様な雰囲気に戸惑いつつも仁美と恭介に答える。

 

「そう……志筑さんに上条くん、だったわね……あなたたちも知ってしまったのね、魔法少女の事を……」

 

マミは俯いたまま冷ややかな声でそう呟いた。普段の穏やかな雰囲気とは明らかに違う彼女の姿に一同は違和感を覚える。ほむらはその様子に嫌な予感を感じていた。

 

「なら……あなたたちも同類よ…!」

 

「え…?」

 

「!!!」

 

マミがそう告げた直後、ほむらは嫌な予感がよぎったとソウルジェムを出すが変身する直前にマミのリボンが全員の足元から伸びていき、天馬達はがんじがらめに拘束されてしまった。

 

「マミさん!?これは一体!?」

 

マミの行動が理解できず天馬が問い叫ぶ。一同は体に巻きついて両手を塞いでいるリボンを外そうとジタバタするが外れることは無かった。

 

「もうあなたたちも知っているでしょう…?魔法少女が魔女になる事を…」

 

「でも、それならこうしてさやかさんを元に戻せたじゃないですか!」

 

「ええ……でも、魔法少女じゃなくなったわけじゃないんでしょう?」

 

「!」

 

マミの指摘に天馬は黙りこむ。確かにさやかを魔女から戻せた。だが、あくまで魂はソウルジェムのままで魔法少女としての運命から逃れられたわけでは無いのである。

 

「さっきキュゥべえに会ってこう言われたわ……たとえ魔女から元に戻れたとしても、再び魔女になる運命からは逃れられないと…」

 

「チッ、あの野郎!」

 

杏子が舌打ちする。

 

「あなたたちは魔女を魔法少女に戻す力もあるみたいだけど、あなたたちは異世界の人間……いずれはこの世界からいなくなり、魔女から元に戻る手段も失われる……どのみち魔法少女はみんな魔女になると言うなら…!」

 

ここでマミは魔法少女に変身する。そしてマスケット銃を生成するとその銃口を天馬達に向ける。

 

「みんな…死ぬしかないじゃないっ!私も…あなたたちもっ!」

 

「「「!?」」」

 

顔を上げたマミは虚ろな目で何もかも信じられなくなったような絶望的な顔で叫びだす。一方で天馬達は自分たちを殺そうとしている彼女の姿こそ信じられず、驚愕する。

 

「くっ!恐れていたことが…!」

 

ほむらはマミが暴走することを予感していたのに止められなかったことに苦虫を噛んだように歯を食いしばる。

 

「何バカな事言ってんだ!早くコイツを外しやがれ!」

 

「そうですよマミさん!だいたい、なんであたしを元に戻してくれた天馬たちや恭介たちまで!?」

 

杏子とさやかは縛られながらも必死に抗議する。しかしマミは全く聞き入れようとせずこう答えた。

 

「ソウルジェムの秘密を知る者を生かしておくわけにはいかないわ……あなたたちが生きていれば、その事がいずれ他の魔法少女にも知れ渡り、数多くの魔法少女が絶望して魔女になってしまう……それに彼らは魔女を魔法少女に戻せても普通の少女には戻せない。一時しのぎの希望に過ぎず、結局魔法少女を魔女にしてしまうわ…」

 

マミはまるで魔女に操られた人々のようにゆらりと体を揺らす。

 

「だからみんなで死にましょう……まやかしの希望を与えられるより、いっそみんなで死んだ方がいいの…」

 

彼女は虚ろな目から涙を流しながら銃を向けていた。

 

「やめてください、マミさん!」

 

「安心して鹿目さん。ただの一般人であるあなたは一番最後に殺してあげるわ……」

 

必死に止めようとするまどかにマミは乾いた笑みで言葉を返す。

 

「まずは……魔法少女である、あなたたちからよ…」

 

「巴マミ…!」

 

銃口を向けられ、顔を歪ませるほむら。

 

「知ってた?私のリボンって、触れたものの情報がある程度分かるようになってるの。ソウルジェムがどこにあるのか、とかね…」

 

「「「!!!」」」

 

狂った笑みを浮かべながら語るマミに全員、特にほむら、さやか、杏子の三人が戦慄を覚える。そしてマミはゆっくりとマスケット銃を構えて三人に標準を合わせる。

 

「大丈夫……みんな殺した後、私も後を追うから……」

 

乾いた声でそう言った直後、マミはマスケット銃から三発の魔力弾が放たれた。その標準はサイコメトリーの能力を持つリボンによって彼女たちのソウルジェムを確実にとらえていた。

 

(逃げられない!ここまで来て…!!)

 

自分たちを葬ろうと迫ってくる魔力弾にほむらは思わず目をつむる。

 

 

 

 

 

 

バシュンバシュンバシュン!

 

 

 

「!」

 

魔力弾が撃ち抜くと思った直後、何かを受け止めた音が響き、ほむらは目を開ける。そして彼女は仲間たちと共に驚く。そこには青い鎧を着けた剛腕の巨人が掌を突きだしてマミの放った魔力弾を受け止めていたのだった。

 

「はあっ、はあっ……」

 

マミはその光景に動揺することも無く冷ややかな声で問いかける。

 

「……どうして、邪魔をするのかしら…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……信助くん」

 

 

 

彼女のその問いは『護星神タイタニアス』と同じように掌底を繰り出していたユニフォーム姿の信助に向けられていた。

 

「間に合った…!」

 

「信助!」

 

彼は慌てて魔力弾と天馬たちに割って入ったらしく息を乱しており、彼の側には袋からこぼれ出ていたマギカボールがあった。信助は出してるだけで体力を消耗する化身を一度オーラに戻して自分の身体に戻す。

 

「マミさん!こんな事したって何になるんです!?こんなの、誰も救われないじゃないですか!」

 

「これから先、魔女になる時を怯えながら生きていくより、いっそ楽にしてあげようとしただけよ」

 

マミは邪魔されたことが忌々しいようにどこまでも冷淡な声で語る。

 

「だからって、今みんなで死んでどうなるっていうんです!?何も解決しないじゃないですか!!」

 

「あなたたちも、自分たちで彼女たちにまやかしの希望を与えるよりマシなはずよ」

 

「まやかしなんかじゃない!僕たちはマミさんたちを絶対魔女になんかさせない!」

 

「そんなことを言っても、いずれ魔女になる現実は変わらないわ」

 

お互い一歩も引こうとしない信助とマミ。お互いの気持ちはどちらも強く、言葉や理屈では決して動かない事を二人は確信していた。

 

「みんなは絶対殺させない!そんなこと僕が絶対させない!マミさん、たとえ相手があなたでも!」

 

「信助くん…」

 

信助の確固たる決意にマミは目を細める。

 

「どうしてもみんなを殺すと言うなら………それは僕を倒してからだっ!」

 

「信助!?」

 

「あなた何を馬鹿な事を!?」

 

信助のとんでもない宣言に天馬とほむらは驚きの声を上げる。

 

「そう……どうしても邪魔をするというなら………望み通り、あなたから死なせてあげるわ!」

 

マミは敵意の眼差しでマスケット銃を信助に向ける。一方で信助は腰を下ろしてマミと真っ向から向き合う。

 

「僕は死なない!みんなも死なせない!マミさんも死なせない!!みんなは僕が守ってみせる…!

 

 

 

 

―――勝負だ!マミさんっ!!!」

 

 

 

サッカーにおいて、ゴールを守る最後の砦と呼ばれるキーパーを務める西園信助の、仲間たちの命というゴールを守るための戦いが始まった。

 

 

 




――ED『and I'm home』(歌:佐倉杏子&美樹さやか)――


次回予告

天馬
「みんなの力を合わせてさやかさんを助け出した!と思ったら、今度はマミさんが!俺達はマミさんの魔法で動けない!頼んだよ信助!マミさんを止められるのは信助しかいないんだ!!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第13話『凶気を受け止めろ!マミVS信助!』」




というわけでどうでしたでしょうか。


絶望の一日はまだまだ終わりません。はたしてオトモはハンターに勝てるのか。ピカチュウがんばるでちゅう(おい)。

ご感想お待ちしております。


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第13話『凶気を受け止めろ!マミVS信助!』

お待たせしました。今回も結構難産でした。
中々文章がまとまらなかったです。やっぱり、パッと文章が出てきたり語彙がもっと増やせたらなと思いました。

なお、今回はどこでパート分け出来ればいいか分からなかったので(おい!)分けませんでした。こんなダメ作者ですいません。

さて、小さな守護神は暴走するお姉さんを止められるでしょうか。
それではどうぞ。


―――OP『コネクト』―――


 

 

~~~夕方・公園~~~

 

 

 

 

何故こうなってしまったのかと天馬達は顔を歪める。さきほどまで、さやかの救出に成功した自分達は希望に包まれていたはずだった。ところが、朝から姿をくらませていたマミが突然現れ天馬達を拘束して共に心中しようと銃を向けた。二度目の絶体絶命のピンチにマミを探していた信助が助けに入る。だが、それでも全く考えを変えようとしないマミに信助は決闘を申し込む。あまりにも無謀ともいえる信助に一同はただ見ていることしか出来なかった。

 

「マミさん」

 

信助が突如ポケットから何かを取り出しマミに向けて投げる。マミが無表情でそれを受け止めて確認すると、怪訝な目で信助を睨む。

 

「……なんのつもりかしら?」

 

マミが受け止めたもの、それは信助が杏子から分けてもらった三つのグリーフシードの内の一つだった。何故、敵に塩を送るような真似をしたのか天馬達とマミには理解できなかった。

 

「マミさんは魔女化の事で絶望してソウルジェムに穢れが溜まってるはずです」

 

「確かに……それなら遠慮なく使わせてもらうわ。もし皆を殺す前に私が魔女化してしまったら、何人か逃がしてしまうかもしれないから」

 

マミはそう言うと、髪飾りとなっているソウルジェムに当てて穢れを浄化する。

 

「私と対等な立場で戦い合いたいと言うの?それとも私の望みを叶える手伝いでもしてくれるの?」

 

マミは今までとは想像つかないほど冷酷な声で信助に問う。

 

「どちらでもありません。ただ、マミさんに魔女になってほしくない。それだけです」

 

「………」

 

信助が真剣な表情で答えると気に入らないようにわずかに眉を動かす。やがて彼女のソウルジェムが元の黄色の輝きを取り戻すとマミはグリーフシードを横に投げ捨てる。

 

「マミさん、戦う前に天馬達に被害が及ばないようにしてください。皆を殺すのは、僕を倒してからでも遅くないでしょう?」

 

「そうね……あなたのその度胸とグリーフシードに免じて、特別に作ってあげるわ………あなたの処刑場を」

 

マミは片手を上に上げると地面から黄色いリボンが伸びていき、自分達と天馬達を遮断する。天馬達が驚いているとリボンは信助とマミの周りを囲い、まるで非合法の地下闘技場にあるような広いドーム状の檻へと姿を変えた。

 

「この中なら外に影響を及ぼさないし、人払いの魔法もかけているから、無関係の人間が来ることも無いわ。さあ……始めましょうか!」

 

マミは改めて殺意の目を信助に放ちながら複数のマスケット銃をスカートから地面に着きたてる。信助も体を身構え、臨戦態勢に入る。

 

「信助……」

 

天馬は不安になりながら信助を見守ることしか出来なかった。

 

「ティーロ!」

 

マミはマスケット銃を構えて魔力弾を放つ。

 

「っ!」

 

信助は右に飛び込みながら転がる事で躱す。

 

「ティロ・ドッピエッタ!」

 

すかさずマミも魔力弾を二発撃ち放つ。一方で信介も着弾する前に左に避ける。

 

「ティロ・ボレー!」

 

今度は四発放つがそれもジャンプすることによって回避する。

 

「すばしっこいわね。それなら……レガーレ・ヴァスタリア!」

 

「!」

 

地面に着地した信助の足元からリボンが現れる。信助はギリギリでそれに気が付き、前転して逃れる。

 

「そこ!」

 

その瞬間を逃さず、体勢を崩した信助に撃ちこむ。しかしそれに気づいた信助は四肢を地面を押し、その反動で後ろに飛んで躱す。小さな身体の信助だからこそできる芸当だった。

 

「いい反応ね。その小さな体のおかげかしら?」

 

「反応が速くなきゃ、キーパーは務まりませんよ!」

 

「そんなキーパーが避けてばっかでいいのかしらね」

 

「……っ!」

 

皮肉るマミの冷酷な姿に信助は顔を歪める。

 

「パロット・ラ・マギカ・エドゥインフィニータ!」

 

マミは大量のマスケット銃を空中に展開し一斉射撃する。

 

「うおおおぉぉっ!」

 

信助も力を溜めて化身を繰り出す。

 

「護星神タイタニアス!でやあっ!」

 

信助は試合でシュートを止めるように両手の平を突きだし、タイタニアスも同じように掌で壁を作って弾幕を防ぐ。

 

「ぐうう……!」

 

魔力弾はかなりの数で徐々に後ろに押されていく信助。しかし足に力を込めて踏みとどまり、なんとか防ぎきる。

 

「ふう…」

 

信助は一息吐いては化身を自身の身体に戻す。本来、化身というのは出してるだけで体力を奪い、消耗すれば出すことが出来なくなる。マミもマスケット銃を放つことが出来るが魔力の限界という制限がある。しかし一度に複数の銃を生成しそこから同時攻撃や連続攻撃が放つことが出来る。一方で化身は発動や必殺技などのアクションを起こす時に体に力を溜める必要が有り、直ぐに次の動作に移れないという弱点が有る為、どうしても機動力では劣ってしまう。したがって信助は化身は連続攻撃や大技を放つ時しか使わないという策を取ったのだった。

 

「なるほど……何の策も無しに私に挑んだという訳じゃないのね…」

 

「当然です……相手がマミさん、あなたですからね…」

 

信助の行動から自分の攻撃に合わせて化身を使い分ける策を見抜いたマミに対し、信助は呼吸を整えながら返事を返す。

 

「なら……化身を出す間もなく撃ち続けるだけよ!」

 

マミは両腕を広げ、マスケット銃を自分の周囲に展開し、ガトリングガンのように少しずつ回転させては正面に回った銃で発砲する。それに対し信助は即座に壁際を走り出し、マミも接近されないよう自ら移動しながら信助を狙う。魔力弾は信助が走った跡を追いかけるように放たれ、二人はドームの縁を一周するまで追いかけっこを続ける。

 

「そこよ!」

 

マミはそこから信助の走るスピードを計算し、一周したところで信助が走りこむところに向けて魔力弾を放つ。

 

「!危ないっ!」

 

それに気づいた信助は急ブレーキをかけてバク転で躱す。

 

「っ!!」

 

マミはイラついたように周囲に展開していた銃を全て正面に向けて撃ち続ける。信助はそれを右に左に躱し、時にはバックステップやジャンプで避け続ける。

 

「ちょこまかと……それなら!」

 

魔力弾を信介の周囲の地面に撃ちこむ。するとそこから土煙が昇り、辺りを包み込む。

 

「目くらまし!?」

 

「そこ!」

 

マミは土煙の外からその中心に向けて信助を狙撃する。マミの影に気が付いた信助は即座にそこから離れる。

 

「くっ!この中にいたんじゃ狙い撃ちされるだけだ!」

 

信助は土煙の中からの脱出を試み、一気に駆け出した。

 

ピシッ!

 

「!?」

 

数歩進んだところで突如左足が動かなくなる。とっさに後ろを向くと地面から伸びたリボンが信助の左足首に巻き付いていた。

 

「しまった!」

 

土煙は目くらましではなく着弾した弾丸から伸ばしたリボンを隠すためのカモフラージュだった。マミのリボンは弾丸から出すことも出来る。この戦術はまどか達の魔法少女体験コースでも披露したはずなのにその事を忘れていた信助は不覚を取ったと悔やむ。そこから必死に抜けだそうと左足を引くが、そうしているうちに右足も拘束されてしまう。

 

「チェックメイトよ」

 

マミの冷徹な声に真正面を見ると土煙が払われる。

 

「!!!」

 

信助に戦慄が走った。信助の目の前でいくつものマスケット銃がマミの冷たい視線と共に銃口をこちらに向けていた。

 

「(まずい!!)ご、護星神…!」

 

「パロット・ラ・マギカ・エドゥインフィニータ!!」

 

信助に化身を出す間も与えず横殴りの雨のような弾幕が無慈悲に降り注ぐ。

 

「うわああああぁぁっ!!!」

 

「信助ーーっ!!」

 

土煙と信助の叫び声が辺りを包み込むと同時に天馬の悲痛な叫びがドームに響く。やがて土煙が晴れていき、信助がいた辺りを凝視する。

 

「―――!」

 

そこには信助がうつぶせで倒れていた。信助は体中がボロボロになっており、まるで捨てられた人形の様で動く気配が無かった。

 

「そ、そんな…!?」

 

「信助…信助っ!?ねえ、起きてよ!信助ぇ!!」

 

まどかは倒れている信助を見てショックを受ける。一方で天馬も必死に呼びかけるが、空虚にも信助は指一本動かさなかった。その状況から全員の頭によぎってしまう。信助の死という最悪の事態を。

 

「終わったわね……これで邪魔者はいなくなったわ。次は……あなた達よ」

 

「っ!」

 

マミは殺意と共に片手で銃を天馬達に向ける。

 

 

 

 

「まだ……だ……」

 

 

 

 

「!」

 

死んだと思われた信助の声にマミは思わず振り向く。すると信助はふらつきながらゆっくりと立ち上がり、両足で地面を踏みしめる。

 

「信助!」

 

「まだ立ち上がれるとはね……それもマギカボールがあなたの身体を強化してるおかげかしら」

 

「はあ……はあ…」

 

「私相手に良くここまで戦ったとほめておきたいけど、これ以上苦しめるのは私にとっても快くないわ……とどめを刺してあげる」

 

再び瀕死の信助に銃を向ける冷徹なマミ。

 

「………」

 

信助は何故かそこから全く動こうとせず、ただマミに鋭い視線を向けていた。

 

「でもその前に一つだけ聞いてもいいかしら?信助君、あなた……どうしてマギカボールを使わないの?」

 

マミは怪訝な目で信助の側でぽつんと落ちているマギカボールを見る。それは一同も同じ疑問だった。雷門は全員この世界ではマギカボールを使って戦っていた。それは信助も例外ではなく、攻撃を防ぐだけでなく自らもシュートを放って戦っていた。なのに何故今回は一度もマギカボールを使おうとしないのか。

 

「………ボールは、友達を傷つけるものじゃない……今のマミさんに、マギカボールをぶつけても意味なんて無い…」

 

「そんな事で私に勝てると思ってるの?このままじゃ死ぬわよ?」

 

「死ぬはずがありませんよ………手加減してるマミさんの攻撃なんかで…」

 

「!?手加減、ですって…?」

 

信助の言葉にマミはわずかに動揺した。

 

「そうですよ…マミさんこそ、どうしてティロ・フィナーレを撃たなかったんですか?」

 

「!」

 

「本気で僕を殺そうとしてたなら……僕の動きを封じた時、マミさんなら確実に仕留める為に最大の技であるティロ・フィナーレを撃つはずです。なのに、放ったのはパロット・ラ・マギカ・エドゥインフィニータ。しかも、放つ銃の数がいつもより少なかった…」

 

「そういえば……」

 

誰よりもマミを知る杏子も気づく。一瞬の事だったので信助が言うまで気づかなかったが、実は先ほどマミが放ったマスケット銃の数はいつもの半分くらいしかなかったのだった。

 

「そもそも本当に皆を殺そうと思っているなら、僕の要望を受け入れるなんてしないはずなんです。なのにあなたは僕からの決闘を受けるという明らかに回りくどい事を承諾した。加えて僕を殺さないように手加減した事……」

 

殺すにはこれ以上無い位の絶好のチャンスだったというのに、マミは何故それを躊躇したのか。信助はその心の内を見抜いたかのように語りかけた。

 

「マミさん、本当はこんな事したくないんじゃないですか…?」

 

「!」

 

「僕にはわかる……今のマミさんは、考える間もなく一人だけ魔法少女になって生き延びたけど、いずれ自分が魔女になってしまう事が怖いんです」

 

マミの持つ銃がその心の内を表すように震え始める。

 

「それだけじゃない……友達だと思っていたキュゥべえにまで裏切られて、今まで人々を守る為に倒してきた魔女の正体を知って、それまでマミさんを支えてきたものが全部ウソだった事が悲しくて、その苦しみから逃れたかったんです!」

 

真意を突かれるたびにマミの手の震えが激しくなる。

 

「辛かったんですよね……苦しかったんですよね……そんな苦しみから逃れるためにだからこんな手段に出てしまったんですよね……現実を受け止めたくなかったから!魔女になりたくなかったから!誰かに自分の苦しみを受け止めてほしかったから!」

 

「―――っ!!」

 

マミの震えが身体全体に広がる。当の本人は辛そうに歯を食いしばって顔を伏せる。

 

 

「マミさん……」

 

まどかが動揺するマミの姿を見て思わず名を呼ぶ。やがてマミは一気に顔を上げる。

 

 

 

 

「―――そうよ!私は魔女になんかなりたくない!皆を殺したくなんかない!でも、私や佐倉さん達が街の人々や皆を殺す魔女になってしまうことが怖いの!私や一緒に戦った魔法少女が最期には魔女になって殺し合わなければならない日が来るのが怖いの!」

 

信助に本心を突かれたマミは遂に気持ちが爆発してその場で叫びだす。

 

「でも、魔法少女になった以上、その運命から逃れられない…!魔法少女になって、正義の味方になったつもりが、結局は自分を破滅させることだった!誰かのために頑張っても、孤独な自分を何度も奮い立たせても!誰かが側に居ても!最期には全て魔女化に……絶望に飲み込まれるだけだった!」

 

「!」

 

マミの慟哭にさやかは身を震わす。さやかにとって今のマミは魔女化する前の絶望していた自分そのものだった。希望を失って自暴自棄になっていた自分と重なるマミの姿にさやかは改めて自分の愚かさを思い知る。

 

「認めたくなかった……認めてしまったら、きっと耐えきれない……自分一人だけ助かって、魔法少女になってまで生き延びた事が、最期には全部消えて…何の意味も無くなるなんて…!色んな気持ちがごちゃ混ぜになって、わけがわからなくなって……もう、こうするしか方法が思いつかなかった…!」

 

そこまで叫ぶとマミは再び顔を下に向け、ポタポタと涙を地面に落とす。それは彼女の中に渦巻く悲しみと苦しみが混ざり合ってあふれた彼女の心を表しているようだった。

 

「………」

 

そんな彼女の姿に一同は哀しげな表情を浮かべる。そんな中で信助が言った。

 

「マミさん、一人で抱え込まないでください。前に天馬が言ったじゃないですか。マミさんが魔法少女になったからこそ、僕たちは出会えて友達になれたって!」

 

「それが何…?…その事だって、いずれ魔女化に……」

 

「飲み込まれると言うなら……僕達が絶対マミさん達を魔女になんかさせない!」

 

「無理よ!逃れられない運命なのよ!絶望の運命を背負わず、いずれこの世界から去るあなたに何がわかるのよ!!」

 

マミは激情に任せて信助の思いを否定するように首を振る。

 

「―――わかります!!」

 

「!?」

 

「マミさんは自分だけじゃなく、他の皆が魔女になる事が嫌なんですよね!それは僕達にとっても同じなんです!!」

 

「…!」

 

自分の行動の裏を突かれたマミは目を見開く。

 

「僕達の仲間があんな怪物になって死んじゃうなんて……そんなの僕だって嫌です!!マミさん達が魔女化することは僕達にとっても絶望なんです!!」

 

「信助…!」

 

自分達の心を代弁する信助の姿に天馬の心が震える。

 

「だからこれは魔法少女だけの問題じゃない!事情を知ってしまった僕達も見過ごす事なんて出来ないんです!だから僕達も、マミさん達の魔女化に……絶望なんかに負けたくない!」

 

信助は再び両手の平をマミに向けてキッと面構えを整える。

 

「だからマミさんを魔女にさせないために、僕がその絶望を受け止める!マミさんが希望を取り戻すまで!」

 

「信助!?」

 

「あなた、最初からそのつもりで!?」

 

天馬とほむらが信助の言葉に驚く。そう、信助は最初からマミを攻撃するつもりなどなかった。彼は苦しんでいる彼女の気持ちを吐き出させ、その小さな体でそれを全て受け止める覚悟だったのだ。

 

「そんな言葉、所詮は口だけよ!何を言おうと結局は魔女化で全て無に還るだけ!そんな口をもう二度と叩けないように、終わりにしてあげる!!」

 

マミは感情のまま、今までで最大の魔力を込め、大砲を作り出す。それは今まで見たことが無い位巨大な大砲で、彼女の中に渦巻く絶望を体現したかのようであった。

 

「まずい!あんな大きさで放ったら、わたし達もただじゃすまないわ!」

 

「「「ええ!?」」」

 

ほむらは大砲の大きさから被害の規模を計算し、このままでは信助どころかリボンで拘束されている自分達も吹き飛ぶ危険性があると導きだす。その答えの宣言に一同は驚きの声を上げる。

 

「―――止めてみせる!」

 

しかし、それでも信助は地面を片足で強く踏みこんだ。自身の覚悟を表すように。決して逃げないと言うように。

 

「キーパーである僕の役目……それはゴールを……いや、皆の希望を守る事なんだ!どんな絶望が相手でも、守り抜いてみせるんだっ!!」

 

 

 

 

―――キィィィィンッ!!

 

 

 

 

その時、信助の側で転がるマギカボールが強い光が放つ。

 

「この光はまさか!?」

 

その光に天馬はある予感がよぎり声を上げる。

 

「本当に何とかできると言うなら!これを止めて見なさい!!

 

 

 

―――ティロ・フィナーレッ!!!」

 

マミは叫ぶと同時に目の前に立ちふさがるもの全てを消し去らんと信助に向けて大砲を放つ。

 

「信助!」

 

今までで最大の魔力弾が信助に真っ直ぐに襲いかかろうとしていた。

 

「うおおおおおぉぉ!!」

 

しかし、信助は怯むことなく体に力を込める。

 

「護星神タイタニアス!」

 

自身の心の強さと覚悟の証を現出するように化身を出現させる。

 

「絶対止めてみせる!マミさんの苦しみは僕が受け止める!

 

 

 

 

―――アームドッ!!!」

 

 

 

信助は両手を合わせて気合いを入れてから飛び上がると、タイタニアスがオーラに変わり、弾けるように分裂する。

 

「うおああああっ!!!」

 

弾けたオーラは渦巻くように信助の身体を包みこむ。するとオーラはタイタニアスを彷彿させるような青い鎧に変化し、小さなゴールキーパーを屈強な戦士の姿に変える。

 

「なっ…!?そ、その姿は!?」

 

「化身アームド!」

 

信助の化身アームドにマミとほむらが驚く間にティロ・フィナーレの弾丸は信助の目前まで迫っていた。

 

「でやああぁぁっ!」

 

地面に着地した信助は両手を突出し、自分の何倍もの大きさを持つ魔力弾を轟音を立てながら両手の平で受け止める。

 

「ぐ、うううぅぅ!!」

 

巨大な魔力弾の圧力に押されそうになる。

 

「「「信助(くん)!!!」」」

 

マミとほむら以外の全員の声が重なる。

 

「(負けない!絶望から皆を……守ってみせるッ!!)

 

 

 

―――うおおおおおおぉぉぉっ!!」

 

信助は渾身の力を込めて踏ん張り続ける。巨大な魔力弾は徐々にその勢いが弱まり、やがて信助に押し負けた事を示すようにバン!と風船のように弾けて消滅した。

 

「そ、そんな…!?」

 

「ティロ・フィナーレを……」

 

「受け止めやがった…!」

 

マミの大砲がそれまでの勢いと共に消え、マミと共にさやかと杏子が目を見開く。

 

「マミさん!」

 

一同が驚愕してる間に信助がそのままマミに向かって走り出す。

 

「こ、来ないで!ティロ・ドッピエッタ!」

 

呆然としている中で気づいたマミが二発の魔力弾を放つ。二つの魔力弾は螺旋を描くように飛んでいき、二つ合わせるとドリルのような軌道を描いていた。しかし信助は勢いを止めずに走り続け、魔力弾と衝突する直前に飛びあがり、右手の拳を引く。

 

「『ぶっとびパンチ』!!」

 

そのまま拳を突出し、パンチングで弾丸を二つ共捕らえると、魔力弾は天空に軌道を変え、リボンのドームを突き破って空の彼方に消えた。

 

「!!」

 

防がれた事にマミが驚くと信助は一度地面に着地してから再びマミに向けて大きくジャンプする。

 

「マミさーーーんっ!!」

 

信助はマミの両肩を掴んでそのままの勢いで地面に押し倒す。そしてすぐさまポケットからグリーフシードを取り出しマミのソウルジェムを浄化する。マミのソウルジェムが輝きを取り戻すとグリーフシードを投げ捨てて再びマミの両肩を掴む。

 

「マミさん、もうやめましょう!マミさんだって、本当はこんな事したくないんでしょう!?」

 

「…!」

 

信助は必死に訴え掛ける。マミは自分の最大の技が破られたことがショックで体の力が抜けてしまい、信助の迫力に負けて起き上がる事が出来なかった。

 

「魔女になる可能性があるから自分も皆も殺すなんて、そんな命を粗末にするやり方なんてマミさんが一番嫌なはずです!」

 

「!!」

 

信助に言われた瞬間、マミは事故で両親を失い、自分は願いで命を救った事を思い出す。本来一度失った命は二度と戻ってこない。それ故に誰かが死ぬことで心を病んでしまう者がいるように、命を失う事は言葉にならないほどの悲しみをいくつも生みだしてしまうこともある。その事はマミ自身が一番忌み嫌っていたはずであった。

 

「………私だって、私だって魔女になんかなりたくない!!皆を殺したくなんかない!ずっとキュゥべえしかそばにいなかった私にとって……皆がいる時の時間は、かけがえのない大切なものになってた…これからも皆と楽しく生きたい!!でもそれだって絶望の運命に飲み込まれるのよ…!」

 

しかし頭でどんなに理解しようとも、自分達の末路が絶望でしかない事実がマミの心を縛り付け、信助の言葉を否定してしまう。それまで自分を支えてきたものが全て崩れ落ちてしまった彼女の心はゴールに向かう凶悪なシュートのように闇に飲み込まれるばかりだった。

 

 

 

 

 

「―――だからって……逃げるんですか?」

 

 

 

 

 

「え?」

 

「いずれ絶望に飲み込まれるからって、その絶望の運命と戦おうともせずに皆で死のうなんて……そんなの諦めて逃げてるのと同じですよ!」

 

「!?」

 

信助の思いもよらぬ発言にマミの心が静止する。

 

「絶望の運命と、戦う…?」

 

「そうです!さやかさんを魔法少女に戻せたなら、きっと魔法少女を普通の人間に戻す方法だってあるはずです!それを探す事こそ、マミさんの望みを叶える事じゃないですか!いずれ絶望に飲み込まれると言うなら、その絶望と戦うんです!それがマミさんが本当にやるべき事じゃないんですか!?」

 

「!」

 

信助の言葉が再びマミの心に突き刺さる。魔法少女を普通の少女に戻す方法は未だに見つかってない。だがさやかを魔女から魔法少女に戻せた以上、人間に戻れる方法がないとは言い切れなくなった。その方法を探すことは決して無駄では無いのではないかとマミも考える。

 

「でも……魔女になる前に人間に戻る方法なんて、見つけられるかどうか……」

 

しかし精神面が弱いマミはその方法を見つけるまで魔女化に耐える自信を持つことが出来なかった。

 

「―――確かに無理でしょうね、マミさん一人なら。だから僕達がいるんですよ」

 

「……え?」

 

信助は先ほどまでと違い、優しげで落ち着いた声色で語り出す。

 

「僕は皆と一緒に時空最強イレブンを集める旅をしていた時、ある人に出会ったんです。その人はこの街の人々を魔女から守っていたマミさんのように、苦しんでいる多くの人達を手遅れになる前に救おうとした素晴らしい人でした。でも同時に僕達は恐ろしく強い敵と遭遇したんです。僕の力が全く通用しなくて、怖くなって諦めそうになりました。でもその時、その人が僕に言ったんです。民が笑顔に暮らせる国を造りたい。それを成し遂げるのは自分一人では無理だけど、仲間がいるから頑張れる!どんなピンチでも、仲間と共に守りたいものがあるから決して諦めないと!」

 

「守りたいもの…!」

 

「水が無ければ生きられない魚の様に、人々の笑顔が無ければ自分は自分じゃなくなるとその人に言われた時、僕は思い出したんです。僕達はサッカーを……守りたいものがあるから皆で頑張っているんだと!僕達がこれまでどんな困難に出くわしても、その度に皆で力を合わせて切り抜けてきた!だからこの世界でも、魔女に殺されそうになったマミさん達を守れたし、天馬達もさやかさんを元に戻せた!」

 

「――!」

 

信助の言葉でマミは思い出す。自分があのお菓子の魔女に殺されそうになったとき、彼らは苦戦しながらも決して諦めず、決して臆せず魔女に立ち向かった。その結果自分の命と心を救い、自分は誰かを守るための勇気を学んだはずだった。

 

「困難に立ち向かう事をやめてしまったら大切なものが消えちゃうんです!サッカーやマミさん達を失ったら、僕は僕じゃなくなっちゃうんです!そんなの嫌です!だから僕は何が何でも諦めないんです!」

 

いつの間にか信助の心にも熱が入り、自分の心中をマミにぶちまけていた。

 

「僕達だって、もっとマミさん達と一緒にお茶会したり、一緒にご飯を食べたり、一緒に笑い合いたい!絶望がそれを押しつぶそうとするなら、僕はその絶望を乗り越えて見せる!決して一人ではなく、皆と一緒に!マミさん、あなたにはソウルジェムを失っても取り戻してくれる人が居る!絶望の運命に一緒に立ち向かえる仲間が居る!どんなに苦しんでも、必死に支えようとしてくれる人達が居る!前にも言いましたけど改めて言います………あなたは一人じゃない!!」

 

「一人じゃ、ない…」

 

「今なら見えるはずです。あなたに何かあったら悲しむ人達の姿が」

 

信助は真剣な眼差しのまま顔を左に向け、マミも続くように顔を向けるとそこには数多くの仲間たちがこちらを心配そうな目で見ていた。

 

「マミさん……」

 

まどかが小さく呟く。彼らは自分が縛り付け、殺そうとしたにも関わらずまるで本当の家族のように心配してくれていた。その優しくも不安げな眼差しがマミの心に深く浸透していった。

 

「みんな……」

 

「わかりますよね、マミさんはもう一人じゃない。あなたを大切だと想ってる人たちがこんなにいるんです。マミさんが願いで助けたその命は、もうあなただけの命じゃない。僕達にとっても大切な命なんです。そしてそれは僕達一人一人の命にも当てはまる事。だからマミさんも僕達も簡単に死んじゃいけない。マミさんは幸せに生きなきゃならないんです。死んでしまったご両親の分まで…」

 

「お父さんと、お母さんの分まで…」

 

マミは考える余地が無かったとはいえ、両親の命を救わず自分の命だけを助けてしまった事を悔やんでいた。だが今となっては別の魔法少女の願いでもない限り蘇らせることは出来ない。ならば今こうして生きている自分は何かを成し遂げなければならない。だからこそマミは街の人々を守る正義の魔法少女として振る舞っていたのだった。

 

「僕達にとってマミさんは本当に大切な友達なんです。人間とか魔法少女とか、そんなの関係ない。大切な友達であるマミさんを魔女にしたくない、死なせたくないと思うのはそんなにいけない事なんですか?」

 

「それは……」

 

信助の言葉にマミは反論できなかった。マミにとっても信助たちは孤独だった自分に安らぎを与えてくれる確かな存在だったのだから。

 

「僕たちはマミさん達を魔女にしたくない。マミさんも自分やほむらさん達を魔女にしたくない。皆でもっと楽しい日々を送りたい!僕たちの思いは同じなんです!だから一緒に探しましょう!絶対魔女にならない方法を!魔法少女が普通の女の子に戻れる方法を!僕たちで力を合わせて、絶望の運命と戦うんです!大切な人たちと、“生きる”時間を守る為に!」

 

「……!!」

 

信助の言葉にマミの心と瞳が震える。

 

「マミさんが挫けて立てなくなったら、その時は僕たちが手を伸ばして立たせてあげます。そして一緒に運命と戦ってあげます。僕等が力を合わせればどんな絶望だって乗り越えられるんです。僕たちは絶望なんかに負けません!絶望に打ち勝つその時まで!だから、一緒に頑張りましょう……僕達はマミさんを一人で悲しませたりしませんから……」

 

信助はニッコリと笑顔でそう言った。

 

「………」

 

自分を覆いかぶさるように見下ろす信助にマミは心の内を吐き出すようにゆっくりと息を吐き出す。そして自分の両肩を掴む信助に向けてゆらりと両手を伸ばした。

 

「「「――!」」」

 

一同に戦慄が走った。今の信助とマミの距離はほぼゼロ。この距離ならばどんな方法だろうと確実に信助を殺すことが出来る。今のこの状態ならば、魔法少女の握力で信助の首を絞めて絞殺することも可能だった。

 

「信助!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ ギュッ

 

 

 

「「「!」」」

 

しかし一同の戦慄は杞憂に終わった。

 

「……ひっく……ぐすっ…」

 

「!」

 

マミの手は信助の背中にまわり、抱えるように彼を抱き寄せたからだった。

 

「ごめん、な…さい…」

 

マミは泣いていた。信助を大事そうに抱えながら謝罪の言葉をこぼしていた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい!」

 

「うん。マミさんは……ただ自分の苦しみを誰かに受け止めてほしかったんですよね……自分を止めて欲しかったんですよね…」

 

「……うん…!」

 

信助の優しげな問いかけにマミは泣きながら答えた。マミの流すその涙は、氷が溶けた後の水のように絶望によって凍り付いていた彼女の心が仲間達との絆によって本来の温かさを取り戻して流れた希望の雫だった。

 

「ごめんなさい、ごめん…なさい……ありがとう…信助君……」

 

「マミさん…」

 

信助は安心しきったように安らかに目を閉じた。それと同時にマミの変身と信助の化身アームドが解け、天馬達を拘束していたリボンも消滅し、解放された一同は安堵しながら優しく抱きしめあう二人を見守っていた。

 

「信助……カッコ良かったよ…」

 

「あ~あ。マミの奴、あんなに大泣きしやがって」

 

「まるで、本当の姉弟みたいですね…」

 

安心しきった天馬、杏子、葵がそれぞれ感想をこぼした。

 

「う……」

 

その時、ダメージが効いてきたのか信助が小さく唸り声を上げながらマミにもたれかかる。

 

「……信助君?信助君っ!?」

 

「っ!?―――信助っ!!」

 

一同は慌てて駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……うーん…」

 

「信助君!気が付いたのね!」

 

瞼を開けるとそこにはパアッと笑顔になったマミの顔があった。後頭部の柔らかい感触から自分は公園のベンチでマミに膝枕されていることが分かった。

 

「僕は、一体…」

 

「マミさんを止めた後、気絶しちゃったんだよ。マミさんとさやかさんが魔法で怪我を治してくれたけど、目を覚まさなくて心配したよ」

 

安堵した天馬が説明する。

 

「そうだったんだ……でもみんな無事で良かった…」

 

「それは俺達の台詞だよ。マミさんと信助の方こそどうなるかと思ったんだから」

 

「うん。でも、もう大丈夫だよ!」

 

そう言うと、信助はゆっくりと頭を起こしてベンチから足をぶら下げる。そして隣に座っているマミと顔を合わせると、

 

「えへへ」

 

「フフフ」

 

二人は仲のいい姉弟のようにお互い笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、本当にごめんなさい!私、どうかしてたわ…」

 

それから数分後、マミはさやかと全く同じように皆に頭を大きく下げていた。

 

「いいんですよ、マミさん。元々、マミさんがああなっちゃったのは勝手に絶望したあたしが魔女になっちゃったせいですし……」

 

「全くだぜ、カッコつけたがりの魔法少女ってのは、なんでめんどくせー奴ばっかなんだろな」

 

「なっ!?なんだとー!」

 

「あー!二人共ケンカはダメですよ!」

 

「「「あははは!」」」

 

弁明するさやかと呆れる杏子がケンカし、それを止めようとする信助に一同は愉快に笑い出した。マミもこうして全員で笑いあえることに心から喜び、安らぎを感じていた。

 

「さやかちゃんもマミさん達も……本当に無事で、よかっ……た…」

 

「!?まどかさん!」

 

まどかが安心しきった声で言った直後、突然後ろに倒れこむ。天馬が反射的に動き出した直後、ほむらが両腕で受け止める。そしてすぐに顔を覗き込むと、

 

「すう……すう…」

 

まどかは安らかな寝息を立てていた。

 

「………眠ってるわ。きっと気疲れしたのね」

 

「よかった…まどかさんまでどうかしたのかってびっくりしちゃいましたよ」

 

「ま、気持ちはわかるけどな」

 

「ずっとさやかさん達の事を心配してましたからね」

 

天馬が溜息を着きながら胸を撫で下ろし、水鳥と葵が言葉をつなげる。

 

「ありがとう、鹿目さん……私たちの為に……美樹さん、私たちもまだまだね」

 

「そうっすね……これからはまどかを安心させられる魔法少女にならなきゃ…」

 

自分達を気にかけてくれたまどかに感謝しながらも、自分達の弱さと愚行を改めて反省するマミとさやかであった。

 

「そういえば僕がマミさんを見つけたのはみんながさやかさんを助け出した後でしたけど、マミさんはそれまで一体どこに行ってたんですか?」

 

信助が尋ねるとマミは暗い顔をしながら目を閉じた。

 

「私はね……朝起きてすぐ…お父さんとお母さんのお墓に行ってたの…」

 

「マミさんの、両親の…」

 

「ええ…最期にお父さんたちに謝っておきたいと思ったの…せっかく生き残ったのに、何も意味も無かったことにしてごめんなさいって…」

 

マミはその時の事を思い出すようにポツポツと語る。事故から唯一生き残った自分が自ら命を絶とうとしたことはマミにとっても両親を裏切る行為だとわかっていた。それ故に無意識の内に両親の墓前に謝罪に出向いてしまったのだった。

 

「それからは色んな事を思い出しながら町をふらついていたわ。キュゥべえと共に過ごした事、佐倉さんと一緒に魔女退治をしていた時の事、あなた達と出会ってからの事、でもそれらは全て無に還ると思っていたけど……」

 

マミは目を開けて全員と目を合わせる。

 

「無に還るかどうかは私のこれからの生き方次第だってよくわかったわ。ううん、絶対に無に還しちゃいけないの」

 

マミは一同を安心させるようにいつもの優しげな笑顔を見せた。

 

「そうですか……じゃあ今度、マミさんのご両親のお墓参りに行ってもいいですか?今のマミさんは一人じゃないって伝えたいんです」

 

「あ、それは良いね!」

 

「どうせなら皆で行くぜよ!」

 

信助が遠慮がちに尋ねると、天馬や錦も賛同する。

 

「ええ、私も紹介したいの。お父さんとお母さんに……私の大切な友達を!」

 

マミも笑顔で了承した。たくさんの仲間たちの笑顔に囲まれながらマミは彼らを見渡す。

 

(私の役目……それは、私を支えてくれるこの子たちを守る事………一方的じゃなく、お互い支え合いながら生きていく。……お父さん、お母さん。私、生きるわ。だって私には……守りたい大切な人たちがこんなにもたくさんいるんだもの…)

 

マミは決意を新たに、自分が誇れるような生き方をすると亡き両親に固く誓ったのであった。

 

「とにかく、みんな無事だったんだ。終わり良ければ全て……」

 

 

 

「―――やれやれ、あのままマミが魔女になってくれれば良かったけどね」

 

 

 

「「「!?」」」

 

一件落着したと思った神童が言葉を続けようとした直後、突如聞こえてきた声に振り向くとそこにはマミのジェムの浄化に使ったグリーフシードを背中から体内に入れて処分するあの白い悪魔がいた。

 

「キュ、キュゥべえ!?」

 

「おっ、コイツがキュゥべえか!こんな無害そうな格好でよくもやってくれたのう!」

 

他の雷門のメンバー同様キュゥべえの姿が見えている錦は怒声を上げるが、天馬は困惑していた。自分の記憶が間違っていなければキュゥべえは昨晩、自分の目の前でほむらに射殺されたはずだった。

 

「あ、あれ?目の錯覚かな……何か白いものがぼやけて見えるような……」

 

「わ、私もですわ……これは一体」

 

恭介と仁美がキュゥべえのいる方に向けて目をこする。

 

「恭介、仁美!?まさか……」

 

「これは予想外だ。どうやら僕の姿がぼやけて見えるみたいだね。魔法少女と魔女に関わっただけならこうはならない。おそらくそれらと僕を認識し関わりを持った異世界人と深く触れ合った事で僕の姿が認識できるようになってきたんだろう。せっかくだから見えるようにしてあげるよ」

 

キュゥべえが身体に力を込め、魔法少女を誕生させる時のものに似た光を放つと恭介と仁美の目にはっきりとキュゥべえの姿が見え始めた。

 

「――!こ、これは…!?」

 

「これが、キュゥべえ…!」

 

恭介と仁美は全ての元凶であるキュゥべえの姿をはっきりと視認し目を丸くする。

 

「ふむ、志筑仁美。今の影響で君の因果律が高くなったようだ」

 

「…え?」

 

「因果律?」

 

仁美は突然キュゥべえに関心を持たれ、天馬達は『因果律』という言葉に疑問を持つ。

 

「でもまだ魔法少女になれるほどではないみたいだね。僕としては新たな魔法少女を誕生させたかったのに残念だよ」

 

「っ!?」

 

「てめえ!この期に及んでまだそんなことを!」

 

「仁美を魔法少女になんか絶対させないよ!」

 

自分を魔法少女にしようとしたキュゥべえの言動に困惑する仁美を庇うように杏子とさやかが前に出る。

 

「でもどうして!?君はほむらさんに銃で撃たれて死んだはずじゃ…」

 

「何だって!?確かなのか!?」

 

「は、はい…」

 

神童が驚きながら天馬に確認する。

 

「じゃあ…今、目の前にいるコイツは…」

 

剣城が自分達の目の前に立って動いているキュゥべえを目で指す。死んだはずの者がどうして目の前にいるのか天馬達には皆目見当つかなかった。

 

「西園信助。まだグリーフシードが残ってたはず。私と佐倉杏子のジェムを浄化してくれる?」

 

「何?」

 

「え?あ、はい」

 

ほむらから頼まれ、信助はポケットから最後のグリーフシードを取り出して杏子とほむらのジェムの穢れを全て取り除く。これでこの場に居る全ての魔法少女のジェムは浄化されたことになる。

 

「そのグリーフシードはもう限界みたいだね。僕が処分してあげるから投げてよ」

 

「………」

 

信助はしかめっ面をしながら黙ってキュゥべえにグリーフシードを放るとグリーフシードはキュゥべえの背中に飲み込まれていった。

 

「キュップイ」

 

「ご苦労様キュゥべえ。ついでにこれもどうぞ」

 

まどかを片手で支えているほむらが無表情でそう言うとチャカ、ともう片方の手で拳銃をキュゥべえに向ける。

 

「「「え…?」」」

 

次の瞬間、ほむらはキュゥべえの身体に銃弾を数発撃ちこんだ。背中だけでなく体のあちこちに銃弾を撃ち込まれたキュゥべえはその場で倒れこみ、そのまま動かなくなってしまった。

 

「ほ、ほむらさん!?」

 

「暁美さん!?な、なんで…!?」

 

天馬達はほむらの唐突な凶行に度肝を抜かれ、マミも全ての元凶とはいえ、ずっと自分と一緒だったキュゥべえをいきなり射殺したことに戸惑う。

 

「いえ、よく見てて」

 

「え?」

 

 

 

「―――やれやれ、代わりはいくらでもいるんだけどむやみに潰されるのは良くないな」

 

 

 

「「「!?」」」

 

天馬達が横に振り向くとそこには無傷のキュゥべえがいた。しかし、前には確かにほむらが射殺したキュゥべえの亡骸があった。

 

「なっ…!?キュゥべえが、二匹…!?」

 

天馬は目の前の死骸のキュゥべえとこちらに歩み寄るもう一匹のキュゥべえを交互に見やる。

 

「君たち人間はどうして意味も無い事をやりたがるのかな」

 

キュゥべえはもう一匹のキュゥべえの死骸にたどり着くと何事も無かったようにその死骸を貪り始めた。

 

「げっ!?コイツ共食いしてやがる!」

 

「全然かわいくない…」

 

水鳥と茜は自分と同じ姿をした生物を喰らっているキュゥべえの姿に嫌悪感を露わにする。その奇怪な光景に他の面々もドン引きしていた。

 

「こいつらは一つの意識を共有している生命体。一体殺してもすぐに同じ意識を持った個体が現れる。変わりはいくらでもいるってことよ」

 

「ゴキブリみてーな奴だったのか……色は白いけど、厄介さは同格って事かよ」

 

「酷い言われようだなあ。僕達は無駄に残ってしまう肉体を効率よく処分しているだけだよ」

 

ほむらだけは顔色一つ変えずに説明を続け、杏子がぼやく間にキュゥべえは死骸を食べ終わり、キュップイと独特のゲップを済ます。

 

「それにしても、まさか美樹さやかを魔法少女に戻すとはね。さすがに僕も予想外だったよ。君たち異世界人にはホント驚かされる事ばかりだね」

 

「アンタ、よくもヌケヌケと…」

 

全ての元凶を作ったにも関わらず、まるでショーを観た観客のような口ぶりで語るキュゥべえにさやかは唇を尖らす。

 

「でも僕としては嬉しい方だね。君達にはますます期待してしまうよ」

 

「…?」

 

キュゥべえの言葉の意味が理解できず、天馬は仲間たちと共に疑問を抱く。

 

「キュゥべえ」

 

そんな中でマミが一歩前に出る。

 

「あなたは、私と出会った時からずっと一緒だった。この中の誰よりも」

 

マミは真剣な視線でキュゥべえを見つめる。キュゥべえも目をそらさずマミを見つめ、他の面々は全員二人に注目していた。

 

「一人ぼっちになってしまった私にとって、あなたの存在は大きかった。あなたは……確かに私の支えになってくれていた。皆と出会うまで」

 

マミは冷静に語りながら、目を閉じる。その瞼の裏ではそれまでキュゥべえと過ごした様々な出来事が甦っていた。

 

「いずれ魔女になる運命を背負わせたとはいえ、あなたは結果的に私の命を救ってくれた……そのおかげでここにいる皆とも友達になれた。だからその事だけは感謝してるわ。でも…」

 

ここでマミは沈んでいく夕日を背にしながら目を開けて告げた。

 

 

 

「―――キュゥべえ、今すぐ私の前から消えて」

 

 

 

ザアッと公園に吹く風が無表情のマミの髪を揺らした。

 

「あなたが私達を利用していたとわかった以上、あなたとこれまでどおりの関係ではいられないわ」

 

それはマミのけじめであった。今、目の前にいるのは絶望の運命を自分達に課せた元凶であるがマミにとっては長年の相棒でもある存在。しかし今の仲間達と共に運命を乗り越えるために、わずかに残っていた友好心を断ち切り決別するためにはっきりと宣言したのであった。

 

「……やれやれ、君からそう言われる日が来るとはね。仕方ない、とりあえずここは言われた通り引くことにするよ」

 

キュゥべえはその場から踵を返して立ち去った。

 

「………」

 

終始その様子を見守っていた一同は悲しげな空気に包まれていた。

 

「……マミさん…」

 

「いいの……今の私には、みんながいるもの…」

 

マミは天馬の質問のを理解したようにやさしくも悲しげな顔で振り返りながら言葉を返すのであった。

 

 

 

 

 

(まさか、巴マミの暴走すら止めてしまうなんてね………)

 

一方でまどかを抱きかかえるほむらは改めて雷門の心の強さに感心していた。

 

(キュゥべえじゃないけど、あなた達は何もかも予想外の出来事を私にもたらしてしまった、でも……

 

 

 

 

これで―――確信したわ)

 

ほむらは何かを決意したように表情を締め直す。

 

「とりあえず、今日のところはみんな帰りましょう。まどかもこのままにしておくわけにはいかないわ」

 

「そうですね」

 

「あっ、ヤバッ……あたし、帰ったら絶対怒られるわ…」

 

ほぼ二日間行方をくらましていたさやかは帰った時の両親の反応を予想して顔を青ざめる。

 

「大丈夫。僕も一緒に謝ってあげるから」

 

「俺も付き合おう」

 

「私もです」

 

「三人共…ありがとう…」

 

恭介がさやかを慰め、神童と仁美も一緒に謝罪することにした。三人から救いの手を差し伸べられたさやかはまるで仏に助けられたようにホッとする。

 

 

 

「そしてみんな……明日の放課後、私の家に来て」

 

「「「!」」」

 

ほむらの言葉に全員が反応する。

 

「ほむらさん…」

 

神童の呼びかけにほむらはその意味を理解するように頷く。

 

「魔法少女の真実を受け入れ、乗り越えたあなた達にはもう隠す必要は無い……明日、私の家に来て………

 

 

 

そこで…私の知ってる事を、全て話すわ…」

 

「………」

 

真剣な表情で招集を掛けるほむら。そんな彼女の思いを顔つきと共に気を引き締めることで受け止める天馬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか天馬達がこんな事に巻き込まれてるなんてね…」

 

ほむらが召集を掛けているその時、物陰から二人の人物がその様子を見ていた。どうやら彼らはマミの暴走が収まってからの全ての出来事を見ていたようである。

 

「別の世界に迷い込んだとわかった時はヒヤヒヤしたが、彼らも無事でとりあえずは安心だ」

 

二人組の片方が天馬たちを見つめる。しかし、彼は普通なら言葉を発したら誰もが驚くような姿をしていた。

 

「でも、さすがにこれ以上の事は天馬達だけじゃ荷が重いよ。話の規模が大きすぎる」

 

一方でまだ天馬と変わらない歳の少年が年相応とは思えないような目つきでもう一人に告げる。

 

「どうする?」

 

「もちろんついて行くさ。どっちにしろ、このまま黙って見ているわけにはいかないよ」

 

少年は再び天馬たちを見ながら何かを決意したように呟いた。

 

「君の思い通りにはさせないよ……インキュベーター……」

 

 

 




――ED『やっぱ青春』――






~~おまけ~~



さやか
「ところでさ。信助ってかなり身長小さいよね」

信助
「え?それがどうかしたんですか?」

さやか
「さっきさ、マミさんが信助を思いっきり抱き締めてたじゃない。でも、マミさんのナイスバディを考えたらさ…」

先ほどの状況を思い出してみよう。先ほどまでマミは信助を抱き締めていた。信助の顔が自分の顔の隣に来るぐらいに。さきほどさやかが言ったように信助の身長は小学生と思われるほど低い。その上でマミは信助を抱き締めていた。それはつまり、信助の体の前面のほぼ全域が、マミの、豊満な胸に―――

「「………」」



((ボンッ!!///))




次回予告

天馬
「長かった絶望の一日を終えた俺達はほむらさんの家に招かれる。そこで衝撃の真実が次々と明らかに!!」

次回!

『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第14話『魔法少女 暁美ほむら』!」


というわけで小さなゴールキーパーが勝ちました。
ちょっとご都合主義でしたかね。

さて次回はいよいよほむらがカミングアウトします。
真実の扉を開く天馬達が行きつく先とは……。

ご感想お待ちしております。


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第14話『魔法少女 暁美ほむら』 Aパート

祝!通算UA15000突破&お気に入り数50達成!

この1~2か月で変動しながらもこんなにお気に入り登録してくださった方々がいて嬉しい限りです!これからももっともっと登録や感想を下さる方々が増えるような話を書けたらと思います!

所でこのところ台風が良く出てきて嫌になりますね。皆さんは大丈夫でしょうか?



今回はついにここまで来た!とモチベーションに任せたらキリのいいところまで掛けました。

ついにほむらがキュゥべえの事について語ります。明らかになった真実に天馬達は何を思うか?
楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ。



―――OP『おはよう!シャイニング・デイ』―――



~~夕方・公園~~

 

 

 

「じゃあ、とりあえず今日はこれで解散しましょう」

 

長い一日を終えた天馬たちはほむらから翌日の放課後、自宅にて大事な話があると告げられる。今日のところは全員疲れ切っているため、とりあえず解散することにしたのだった。

 

「まどかは私が家まで送り届けるわ」

 

まどかを背中におぶるほむら。

 

「ほむらさん、俺も一緒に行きますよ」

 

その様子を見兼ねた天馬が手伝おうと名乗り出る。

 

「……わかったわ」

 

「佐倉さん」

 

「なんだ?マミ」

 

一方でマミは杏子に笑顔で話しかけていた。

 

「佐倉さん、今日からはウチで一緒に暮らしましょ」

 

「は!?いきなり何言ってんだよ!?」

 

マミの同居宣言に面喰らう杏子。

 

「決めたのよ。これからは私も皆を支えていくって。これ以上佐倉さんをホームレスにさせるわけにはいかないわ」

 

「い、いいよそんなの!あたしはこのままでも…」

 

「ダーメ!もう決めたんだから。それに佐倉さんだっていつもちゃんとしたご飯や寝床が欲しいでしょう?」

 

「う……」

 

マミの衣食住の誘いに心が揺れる杏子。

 

「……わかったよ…」

 

「ホント!?良かった!」

 

しかし誘惑に負け、やがて諦めたように了承する杏子。

 

「剣城君もいらっしゃい」

 

「ええ、お世話になります」

 

「ありがとう。佐倉さんもこれくらい素直になってくれればかわいいのにね」

 

「うるさい!///」

 

マミにからかわれ、顔を赤くする杏子。しかし、これから居候する身でありその誘惑に負けた故にそれ以上強く言い返すことは出来なかった。

 

「上条君、さやかさんを連れて先に行っててもらえます?」

 

「え?志筑さん?」

 

「仁美、どうかしたの?」

 

さやかが怪訝な表情で尋ねる。

 

「いいえ、大した用事ではありません。すぐに追いかけますから先に行っててもらえます?」

 

「わかった。じゃあさやか、神童君。行こうか」

 

「ああ」

 

「二人共、ホントにゴメン……仁美もありがとう。また後でね」

 

「ええ。必ず行きますのでご安心を」

 

「………」

 

さやか達に笑顔を向ける仁美をそんな彼女を水鳥だけがただ黙って見つめていた。

 

「………わりい。あたしもちょっと寄ってくとこ出来たわ。先に帰っててくれ」

 

「そうですか?じゃあ、先に帰ってますね」

 

「ああ」

 

「気を付けて帰って来るのよ、瀬戸さん。さ、佐倉さんも一緒に」

 

「お、おう」

 

「では、みなさん。また明日」

 

仁美はさやか達の姿が見えなくなるまで手を振り、その後ろで水鳥は仁美を背中を見続けながら仲間達を見送っていた。

 

「どうして……残ったんですか?」

 

自分たち以外誰もいなくなったことを確認した仁美はさやか達が去った方向に顔を向けたままそう尋ねる。

 

「決まってんだろ。たくっ…無理しやがって」

 

「!」

 

水鳥は頭を掻きながら何かを察しているように答えた。そして仁美も何となくだが気づいていた。彼女が何故自分と共に公園に残ったのかを。

 

「……私はさやかさんが生き返って本当によかったと思っています」

 

仁美は水鳥に顔を背けたまま語り出す。

 

「さやかさんを助け出したことは……後悔していません。だってそうじゃなかったら私は一生後悔していましたから。さやかさんは私の大切なお友達……私のせいで一度は魔女にしてしまったものの、皆さんが私に贖罪(しょくざい)のチャンスをくださったおかげで、その友情も守れました。さやかさんもずっと好きだった上条君とも結ばれて、私も幸せですわ」

 

仁美は満足げな笑みを浮かべながら、その笑顔を公園に差し込む夕暮れで照らしだす。

 

「上条君の事はきっぱり諦めます。そうするしかありませんから。でも…」

 

ここで仁美は突如振り返り、水鳥の胸に顔をうずめる。

 

「少しだけ、いいですか…?」

 

水鳥は少しだけ不意を突かれたが、仁美が涙声で訊くと、

 

「……ああ」

 

水鳥は目を閉じて優しく微笑みながら静かにそう答えた。水鳥は既に彼女の行動とその理由を理解していたのであった。

 

「気が済んだら…すぐにさやか達を追いかけろよ」

 

「………ひっく……ぐすっ…」

 

仁美は水鳥の胸に顔を押し付けながら泣き出した。さやかの命が助かり、恭介と結ばれたことは確かに仁美も望んでいた事だった。しかしそれは同時に仁美が失恋したという事でもあった。これからも二人と友好的な関係続けるため、新しい一歩を踏み出すために、仁美は自分の中にある失恋の悲しみを涙と共に吐き出したかったのだった。その事を感づいていた水鳥は穏やかな笑顔のまま、自分の胸に顔をうずめて泣く仁美の頭と背中に手を回す。その両手の掌で彼女を慰めるように。

 

「私、負けてしまいました…」

 

「…ああ」

 

「……これが失恋の痛み、というモノなのですね…」

 

「そうだな」

 

水鳥は目を閉じたまま、ただ一言ずつ答えていった。しかし、仁美にとってはそれだけで十分だった。自分の痛みを受け入れてくれる事が何より嬉しかったからだ。

 

「ひっく……うっ、う……うう…」

 

「おう泣け泣け。誰にも言わねーからよ。このあたしがどーんと受け止めてやらあ」

 

夕焼けで赤く染まる公園で、水鳥は仁美の気が済むまで泣き続ける彼女の頭を優しく撫でていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは色んな事があった。さやかが帰宅した直後、両親からこっぴどく怒られ、後から合流した仁美が恭介と神童と一緒にさやかの為に謝ったり、ほむらと天馬に送られながら帰宅したまどかが目を覚ました直後に学校をサボってさやかを助けに行った事が詢子にばれて叱られ、ほむらと天馬が弁護したり、翌日の朝にさやかと恭介が手をつないで登校したらクラスのみんなに驚かれたり、冷やかされた(ちなみにさやかが恭介を好きだという話は当人以外はクラスの中で密かに有名だったようでさやかは顔を真っ赤にして驚いていた)。なお、その時さやかと恭介は担任の女性教諭(34歳・独身)から何故か黒いオーラを放たれながら睨まれていたとか。

 

 

 

 

 

―――そして、放課後。

 

 

 

 

 

 

~~夕方・ほむら宅前~~

 

 

 

「ここが、ほむらさんの家…」

 

天馬がくすんだ薄茶色の古いマンションの前で呟く。あらかじめ住所を教えてもらっていた天馬は雷門の仲間や魔法少女達、そして恭介や仁美と共にここまで足を運んだのだった。しかし、何故かその中でまどかの姿だけが無かった。そんな事を気にすることも無く、一同はエレベーターを使って四階まで上がり、『暁美』と掛かれた表札の部屋にたどり着く。天馬は一度全員と目を合わせてから表札の下のチャイムを鳴らす。

 

「ほむらさん、天馬です。皆と一緒に来ました」

 

天馬が呼びかけると入り口のドアの向こうから足音が聞こえてくる。やがてドアがガチャ、と開くと制服姿のほむらが出てきた。

 

「待っていたわ。さあ、中に入って」

 

「………」

 

 

 

~~ほむらの部屋~~

 

 

 

真剣な表情で出迎えてくれたほむらに招き入れられた天馬達は、まず中に入って全員が驚いた。そこは明らかに色んな家具が置いてあるマンションの一室ではなく、広い宇宙ステーションのような真っ白い空間だった。唯一家具と言えるものは小さな丸いスタンドテーブルとそれを中心に二列に置かれているの曲線型の白いソファだった。そしてどういう原理なのか、宙にはいくつものパネルが浮かんでおり、そこにはたくさんの数値や街の地図、そして異様に大きく不気味な姿をした魔女の姿が映し出されていた。

 

「これは…」

 

「おそらくこれは、魔法の力で作り出した空間。そうよね」

 

天馬に続くように尋ねたマミに対し、ほむらはただ一言「ええ」と、返すと奥のテーブルの前に立って集まったメンバーを確認する。

 

「約束通り、まどかは連れてこなかったようね」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

~~回想~~

 

 

 

天馬はほむらの言葉で思い出す。それは昨日、気疲れで眠ってしまったまどかをほむらが背負いながら共に家まで送り返している最中の時だった。

 

「松風天馬、あなたにお願いがあるわ…」

 

「お願い?」

 

「明日の話に……まどかは連れてこないで」

 

「え!?な、何でですか!?まどかさんが一番聞きたがっているはずなのに!」

 

「私の話は、この子にだけは聞かせるわけにはいかないの…!」

 

「でも!」

 

お願い(・・・)…!」

 

「!」

 

お願い(・・・)だから……まどかにだけは聞かせたくないの…!だから、絶対まどかを連れてこないで…!」

 

「………」

 

ほむらは弱々しい声で心から懇願するように頼み込む。その姿はキュゥべえを目の前で一度射殺した後に自分とまどかに見せた時と同じ姿だった。理由はわからないが、その時と同じく必死に頼み込むほむらに天馬は了承するしかなかった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

そして現在。パネルを背後にほむらがテーブルに前に立ち、彼女から見て左側のソファの前列にマミたち魔法少女。後列には一般人である恭介と仁美。そして右側の前列には雷門のメンバーとその後ろの列に葵たち三人のマネージャーが座っていた。

 

「さて、どこから話せばいいかしら…」

 

「じゃあ、まず一つ。キュゥべえは一体何者なんだ?何故普通の女の子を魔法少女に変えるんだ?」

 

神童が待っていたかのように話を切り出す。

 

「そういえば僕達、キュゥべえの事を何も知らないんですよね……」

 

「ええ。考えてみれば私もこの前まではただ魔法少女を生み出してサポートするだけだと思ってたわ。ずっと一緒にいたのにキュゥべえの事を何一つわかっていなかったなんて…」

 

信助とマミが神童の疑問を補足する。マミはこの中の誰よりも親しいはずなのにその存在自体に疑問を持たなかったことを不覚に思う。

 

「キュゥべえ………いいえ、あいつらはそんなかわいらしい名前なんかじゃない。……あいつらの本当の名前は、『インキュベーター』よ」

 

「インキュ……ベーター?」

 

天馬がオウム返しをする。

 

「“孵卵器(ふらんき)”という意味があるわ」

 

孵卵器(ふらんき)って……確か、鳥とかの卵を人工的に孵化させる、あの?」

 

「そうよ、上条恭介」

 

「でもどういう意味なんですか?キュゥべえが卵を孵化って…」

 

葵が怪訝な表情で尋ねる。

 

「そうね……まずはそこから話すべきなんでしょうけど、その為に先に話しておかねばならないことがあるわ」

 

ほむらは一度目を閉じて呼吸を整えると改めて全員と目を合わせる。

 

「あなた達は、『エントロピー』という言葉を知っているかしら?」

 

(えん)トロフィー?何じゃ、十円玉とかを重ねてトロフィーでも作るんか?」

 

「エントロピーだ。聞いたことが有る。確か、焚き火で得られる熱エネルギーは、焚き火に使う薪の元となる木を育てる労力と釣り合わない、という熱力学の法則の事だろう?」

 

神童が錦のボケに呆れながら解説する。

 

「そう、エネルギーは常に形を変えるごとにロスが生じてしまう。エネルギーを消費する量は、そのエネルギーを生み出す量を上回ってしまい、常に目減りしていく一方という事よ」

 

「………ゴメン、話が難しすぎてわかんなくなってきた」

 

「あたしも……頭が爆発しそうだ」

 

「ワシもぜよ…」

 

「「「う~ん……」」」

 

さやかや杏子、錦が理解できずに頭を悩ましていた。天馬や信助なども同じように苦い顔をしながら首を傾げていた。彼らには難しすぎたようである。

 

「………例えるなら、車の燃料などで常に使われている石油は、大量に使うのは簡単だが、その分の石油を見つけ出して掘り出すのは大変。結果、石油は少なくなり、いずれ無くなってしまう、ということだ」

 

「おお」

 

「なるほどな」

 

「さすが神サマ!」

 

神童は自分達中学生が現代社会で学ぶエネルギー問題で例えて理解させる。

 

「それと同じように、この宇宙全体のエネルギーも目減りしていくというのがキュゥべえ達の話なのよ」

 

「待て待て待て。急に話がでかくなったぞ。宇宙って何のことだよ?」

 

水鳥が手を左右に仰ぎながら話を止める。

 

「簡単に言えば、キュゥべえは熱エネルギーの法則に縛られないエネルギーを求めてこの地球にやって来た、ということよ」

 

「この地球にやって来た…?じゃあ、キュゥべえは宇宙人って事ですか!?」

 

天馬が仰天しながらほむらに問う。

 

「私たちから見ればそういうことになるわ。彼らはこの宇宙を形成するエネルギーが枯渇し、消滅することを恐れ、知的生命体の感情をエネルギーに変換するテクノロジーを発明した。そして私たち一人一人の人間の魂が生み出す感情エネルギーは、その人間が誕生し成長するまでに要したエネルギーを凌駕し、エントロピーを覆すほどのものだとわかり、奴らはそこに目を付けたのよ」

 

ここでほむらは自分のソウルジェムを取り出して掌に乗せる。

 

「とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期……いわば私たちぐらいの少女の、希望と絶望の相転移らしいの。希望を叶える代わりに私たちの魂をこの卵の形をしたソウルジェムに変え、絶望に堕ちて燃え尽き、グリーフシードに変わる瞬間に発生する膨大な感情エネルギーを回収する………それがあいつらの、宇宙の寿命を延ばすという目的であり役目なのよ」

 

ほむらの話を聞き終えた一同は唖然としていた。しかし全員がすぐに頭の中で話をまとめた。考えてみれば魔法少女になる為の道具が何故、ソウルジェム(魂の宝石)と呼ぶのかも、何故、卵の形をしているのかも、何故、奴らが“孵卵器”と呼ぶのかも全てつじつまが合う。

 

「つまり、キュゥべえは普通の女の子の魂をソウルジェムというエネルギーの卵に変え…」

 

「そのエネルギーを、魔法少女の絶望の証である魔女と共に孵化させて回収する…」

 

「だから………“孵卵器(インキュベーター)”!!!」

 

仁美、葵、剣城が緊迫した表情で話を要約する。

 

「何よそれ!結局は全てあいつらが元凶ってことじゃない!」

 

一度魔女になったさやかが怒りを露わにして叫ぶ。

 

「ふざけたマネを…!」

 

「キュゥべえにとって、私たちはただの消耗品でしかなかったと言うの…?」

 

「私たちが憧れた魔法少女の正体に、そんな事情があったなんて…」

 

杏子、マミ、茜もそれぞれの思いを漏らしていた。そう、茜の言うとおりキュゥべえ達がもたらす魔法少女システムは彼女達が思い描くようなファンタジーな要素など何一つ無かったのだ。全ては宇宙の存続という大義のために自分達が犠牲にされるという誰かにとって都合のいいシステムでしかなかったのだった。

 

「許せない…」

 

「天馬?」

 

天馬は爪が食い込むほど手を握り、その握り拳を震わせていた。

 

「希望を信じて生まれた魔法少女が、絶望で終わって死んじゃうなんて………そんなの、どんな理由があろうと許されるはずが無いよ!!」

 

天馬は火が付いたように顔を上げて叫びだす。

 

「でも、あいつらにそんな理屈は通用しない。何故ならインキュベーターには感情が無いのだから」

 

「感情が無い?」

 

「そう、彼らは感情をエネルギーに変えるテクノロジーを生み出した。しかし、あいにく自分達には感情を持ち合わせてはいなかった。だから感情を持つ知的生命体を探しだし、その白羽の矢が当たったのが地球人だったということよ」

 

天馬たちは思い出す。これまで自分達がどんな事になろうとも、キュゥべえ自身がどんな目に合おうとも決して自分達のように慌てたり、悲しんだりと感情を露わにすることはなかった。ソウルジェムの真実を知られても慌てなかったあの声色も、さやかが魔女になっても悲しまなかったあの人形のような表情も、全ては感情が無いせいだとわかると自分達の感情が伝わらず悔しく思えるぐらいだった。

 

「気に入らねえな……要は、あたし達はあいつらの為のエネルギーに変えられて、そのエネルギーの残りカスの後片付けをさせられてたって事じゃねえか…」

 

「やりきれませんね…」

 

杏子と剣城が険しい表情で悔しそうに歯噛みする。

 

「これがキュゥべえ、インキュベーターの正体よ。そして彼らの生み出したこのシステムが、この星にとんでもない弊害(へいがい)を生み出す事となった。あれを見て」

 

ほむらが顔を上空のパネルに目を向ける。全員がその目線を追うと、あるパネルが目に入る。そこには白い肌といくつもの巨大な歯車で出来ている下半身を青いドレスで包み込み、逆さのまま宙に浮かぶ魔女の絵が映し出されたパネルがあった。

 

「ほむらさん、あそこに映し出されている魔女は…?」

 

天馬が何気なく訊く。ほむらは顔を強張らせて答えた。

 

「あれは……“ワルプルギスの夜”よ」

 

「!?ワルプルギスの夜、ですって!?」

 

「マミさん、知ってるんですか?」

 

信助がただならぬ様子で声を上げるマミに尋ねる。マミは一筋の汗を流しながら唇を引き結ぶ。

 

「ええ……魔法少女たちの間で有名な……超弩級(ちょうどきゅう)の大型の魔女……私たち魔法少女にとって最悪の敵と呼ばれているわ」

 

「さ、最悪の敵…!?それって史上最強の魔女ってことですか!?」

 

「そう。でもその存在を正確に知る者はいない、何故なら戦った魔法少女は皆死んでしまったからだと聞くわ。一人二人の魔法少女でどうにか出来る相手じゃないの……」

 

「その通りよ、巴マミ」

 

信助達に語っていたマミはほむらに向きなおす。

 

「こいつはあなた達が今まで見てきた魔女とは次元が違う。ただ一度現れただけで何千人もの犠牲が出てしまうわ」

 

「な、何千人も!?」

 

「どういうことですか!?」

 

葵と天馬が驚愕しながら問い直す。

 

「普通の魔女は…皆、自分の結界に隠れて身を守るというのはもう知っているでしょう?でも、こいつはそんな必要なんて無い。ただ一度具現しただけでその周囲が吹き飛び、多大なる被害をもたらすわ。もっとも、魔女であることに変わりはないから普通の人には見えないし、被害も竜巻とか、地震とか、そういった大災害と誤解されるだけだけど」

 

「…?」

 

神童は何故そこまで詳しく知っているのだろうと首を傾げ、同時に何かを思い出すように辛そうな表情を浮かべるほむらの様子が気になる。

 

「そしてもう少ししたら……このワルプルギスの夜が、この街にやって来るわ」

 

「「「!?」」」

 

「な、なんだって!?」

 

「ワルプルギスが、この街に…」

 

ほむらのその一言は全員の心に戦慄を走らせる。つい先ほど話したばかりの超弩級の魔女が近づいていると聞き、モノトーンな白い空間が一気に緊張感に支配される。

 

「そういえば……前にそんな話をしてたような…」

 

「杏子、あんた知ってたの!?」

 

「ああ。そいつを倒すために協力してくれって頼まれてたんだ。さやかの事ですっかり忘れてたぜ」

 

「上を見て」

 

ほむらに呼び止められ、さやかと杏子は空中に浮かぶパネルに目を戻す。そこには見滝原の地図が描かれており、街の中心部にあたる場所に×印が付いており、そこを中心にその周囲が円を描くように赤く塗りつぶされていた。そしてその範囲はまどか達の通う見滝原中学や放課後に利用するショッピングモール、そして彼女達の家も全て含まれていた。

 

「ワルプルギスは見滝原に上陸した後、この場所まで移動してこの範囲を全て消し去る。出来ればここに来るまでに倒しておきたいの」

 

「でも、ほむらさん。あなたはどうしてそんなことまでわかるんです?」

 

「キュゥべえの事といい、君は一体…」

 

天馬と神童がおそるおそる訊くと、ほむらは視線を彼らに戻して訊きかえした。

 

「チーム雷門。あなた達はこの世界に来るまで、時空を超える旅をしていたわよね」

 

「え?そうですけど……何で、その話を急に…?」

 

ワルプルギスの話から一転、自分達の時空最強イレブン集めの話題を出された天馬たちは混乱する。何故ほむらはこんな時にそんな話を持ち出したのか。その衝撃的な理由をほむらはついに告白する。

 

「私も、ある意味ではあなた達と同じ事をしていた…」

 

「え?」

 

「私は、未来から来たの……」

 

「「「!?」」」

 

ほむらの爆弾発言に天馬達の心に再び衝撃が走る。

 

「み、未来!?」

 

「どういうこと!?暁美さん!」

 

慌てふためく天馬達。そんな彼らとは裏腹に極めて冷静なほむらは再び口を開く。

 

「そうね……やはりここまで来たら、話さなければならないわ………ワルプルギスの夜、それは私の魔法少女としての原点であり、私が何度も戦い続けてきた相手……」

 

「ほむらさんの、魔法少女としての原点…!?」

 

「いやそれよりワルプルギスと…、何度も戦った…!?」

 

天馬と剣城が言葉を繰り返しながら驚愕する。それは一同も同じく、二人と同じようにほむらの話に耳を傾けていた。そして心の整理を終えたほむらは真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。

 

「話すわ……私の真の目的、そして……

 

 

 

―――私の旅路(過去)を」

 

 

 




というわけで前半でした。
タイトルの意味でもあるほむら自身の過去は次回語らせてもらいます。

明かされるほむらの魔法少女としての始まり、その胸中とは……そして語り終えた時に思わぬ来客が……。

ご感想お待ちしております。





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第14話『魔法少女 暁美ほむら』 Bパート

天馬
「どうしてまたこんなに遅れたの?」

さやか
「どーせ去年みたいに狩りに出てたんでしょ?」

それもあるけど、ちょっと深刻な問題が……

杏子
「なんだ?」

使ってるマイパソコンの一部がおかしくなった……


「えーっ!?大丈夫なんですか!?」

まあ、気になるとこが多いけど投稿できないということはない。今回は家に元からあったパソコンで投稿してるんだ……。でも、みんなで使ってるパソコンだから使う時間が限られてるんだよね。自分のパソコンのことで相談できるところが見つかったから時間ができたら持って行くよ。

ほむら
「ただでさえ投稿遅いのにさらに読者を心配させるとは愚かね」

ぐはっ…


というわけで自分のマイパソが少しおかしくなったので投稿がさらに遅くなると思います。でも、投稿を楽しみにしているみなさんの為に何とかしたいと思います。

御心配をおかけしてすみません。今回はできてあった部分をキリのいいところまでお送りします。ではどうぞ。


 

 

「ほむらさんの、過去…」

 

これまで天馬達と共闘することはあれど、友好的な関係を築こうとせず、その本心を決して明かそうとしなかった暁美ほむら。その彼女がついに自分の事を語ると聞き、天馬達は彼女の事を知りたいという関心と彼女と和解したいという衝動に駆られ、耳を傾けていた。

 

「まず……私はこの時間軸で生きてきた人間じゃない。元々は別の時間軸を生きていたの」

 

「どういうことですか?」

 

「私は魔法少女になってから、同じ一ヶ月を何度も繰り返しているの。私が見滝原中学に転入する前日から、ワルプルギスと戦うまで」

 

「同じ一ヶ月を繰り返している…?それはもしや、君の時間を止める能力と何か関係が…?」

 

神童がほむらの能力を思い出して問い直す。

 

「ええ。時間を止め、決められた時間に遡ることが出来る能力。それこそが……まどかの運命を変えるために、私が得た能力(ちから)……」

 

「まどかさんの運命を変える?」

 

「そう…私が魔法少女になったのも、私が同じ一か月を繰り返したのも…すべてはまどかの為だった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~回想~~

 

 

 

―――私は生まれつき心臓の血管が細く、急激な運動をしたり、緊張したりすると胸がどうしようもなく苦しくなってしまい、治療の為にあちこちの病院と学校を転々としていた。そのせいで極度の人見知りになり、友達すらできなかった。

 

『ねえ、あの子、全然勉強できないし、体育も準備運動だけで貧血ってやばくない?』

 

『でも、入院生活だったんだから仕方ないんじゃないの?』

 

―――私の周りの人達が当たり前に出来る事を、私だけが出来なくて取り残されてしまったような感覚に陥っていた。そんな私に手を差し伸べてくれたのは……、

 

 

 

『わたし、鹿目まどか。まどかって呼んで』

 

 

 

クラスの保健係をしていたまどかだった。彼女は転校してきたばかりで質問攻めにあって困っていた私を助けてくれた。

 

 

『だから、わたしもほむらちゃんって呼んでもいいかな?』

 

 

彼女は何のためらうことなく私を名前で呼んでくれた。それだけでなく、彼女は私にとってコンプレックスになっていたその“ほむら”という変わった名前を褒めてくれた。

 

 

 

『わたしは素敵だと思うな。だって、なんか燃え上がれ~って感じでカッコいいんだもん!』

 

『………名前負け、してます…』

 

『そんなの勿体ないよ。せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ』

 

 

 

―――だけど、人間そう簡単に変わることは出来ない。何にも出来なくて、人に迷惑ばかりかけている私がカッコよくなれるわけが無いと涙を流した。

 

『だったらいっそ死んじゃったほうがいいよね』

 

そんな私は魔女の絶好な獲物だった。魔女の口づけを喰らった私は結界に引きずり込まれ、魔女に食われそうになった。

 

『い、いやあぁぁ!』

 

バシュンッ!

 

『!?』

 

『もう大丈夫だよ、ほむらちゃん』

 

そこに現れたのが巴マミと、ピンク色の服を着た魔法少女のまどかだった。

 

『か、鹿目さん…?』

 

『彼女達は魔法少女』

 

そこに、あの白い生物が現れた。

 

『魔女を狩る者たちさ』

 

それから二人は、魔女に向けて光の弾丸と矢を撃ち続け、魔女を倒した。

 

『いきなり、秘密がばれちゃったね。クラスのみんなには内緒だよ?』

 

その時から私は魔法少女の事に関わるようになった。

 

 

 

『鹿目さん、魔女は心の弱い人を狙うんでしょう?だったら、私なんか…』

 

『大丈夫だよ、ほむらちゃん。マミさんがいるし、わたしもいる。心だって少しずつ強くなっていくよ』

 

『でも、あなたは平気なんですか?怖くないんですか?』

 

『……なんてえらそうな事言ってるけど、わたしも怖がりだったんだよ。人よりずっと弱虫だったんだと思う。けれど今は魔女をやっつければそれだけ大勢の人を助けることが出来て……それが、怖さより嬉しいの。わたしなんかが人の役に立てていることが嬉しいんだ』

 

そんな彼女が…弱虫だった私には眩しすぎて………そんな彼女に憧れている自分がいた。

 

 

 

 

―――そして、見滝原の街をワルプルギスが襲った…。巴マミは戦いの中で死んでしまい、戦えるのはまどかだけになってしまった。

 

『……じゃあ、行ってくるね』

 

『そんな、巴さん、死んじゃったのに…』

 

『だからだよ。もうワルプルギスの夜を止められるのは、わたししかいないんだから』

 

『無理よ!一人だけであんなのに勝てっこない!鹿目さんまで死んじゃうよ!』

 

『それでも、わたしは魔法少女だから。みんなのこと守らなきゃいけないから』

 

『でも…!』

 

『ほむらちゃん、今しか言えないから……言っておくね』

 

『…?』

 

『わたし、あなたと友達になれて嬉しかった』

 

『!』

 

『あなたが魔女に襲われた時、間に合って……今でもそれが自慢なの。だから魔法少女になって本当に良かったって、そう思うんだ』

 

『鹿目さん…!』

 

『さよなら、ほむらちゃん。元気でね』

 

そう言ってまどかはソウルジェムを輝かせ、ワルプルギスに向けて飛び立っていった。

 

『……いや……嫌ぁ!行かないで!鹿目さぁん!!』

 

私は自らの命を犠牲にするまどかに向けて、ただ泣き叫ぶことしか出来なかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひっく……ううっ…』

 

―――その後ワルプルギスが去り、雨が降る中で私は眠るように目を閉じているまどかの亡骸を前に再び泣き叫んでいた。

 

「鹿目さん…!どうして……死んじゃうってわかってたのに……私なんかを助けるよりも……あなたに生きててほしかったのに……」

 

私を救ってくれたまどかがどうして死ななければならないのか、彼女を犠牲にしてまで生き残った自分に価値があるのか、私にはわからなかった。私は自分を責めた。こんな弱虫で無力な自分が生き残っても意味なんて無い。こんな自分よりまどかが生きててくれた方が良かった。まどかを助けられない今の自分なんていらないと思えるぐらい、私は自分を責め続けた。

 

 

 

『その言葉は本当かい?』

 

そんな私に、あの白い生物が狙いをつけた。

 

『暁美ほむら。君は、その祈りの為に、魂を賭けられるかい?戦いのさだめを受け入れてまで叶えたい願いがあるなら、僕が力になってあげられるよ』

 

今となってはそれは悪魔との契約だったけど、その時の私は悪魔に頼ってでもまどかを助けたかった。自分を変えたかった。

 

『あなたと契約すれば、どんな願いも叶えられるの?』

 

『もちろんさ、どうやら君にはその資格がありそうだしね。教えてごらん。君はどんな祈りでソウルジェムを輝かせるんだい?』

 

私は涙を拭って迷うことなく願いを告げた。

 

 

 

 

『鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私ではなく、彼女を守れる私になりたい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「これが…私の魔法少女としての始まりよ」

 

「じゃあ、あなたはまどかさんの為に……」

 

「そう、まどかは私にとってかけがえのない存在だった。そして魔法少女になった私はすぐさま時間遡行を行い、巴マミの指導を受けながら自分の戦い方を身に着けていった」

 

ほむらは当時の事を思い出すように目を閉じた。

 

「あの頃は本当に楽しかった……時間停止を利用した戦い方を習得するには苦労したけど、まどかと一緒に魔法少女として頑張っていた時が楽しくて仕方なかった。この力があればまどかや巴マミを救えると……自分が人の役に立てる存在になれると思えたわ。前の時間軸のまどかの気持ちがわかった気がした」

 

 

 

―――『やったね、ほむらちゃん!』

 

 

 

魔法少女のまどかの笑顔がほむらの瞼の裏に甦っていた。まどかの笑顔はほむらにとって時に癒され、時にくじけそうな時の励みになっていたのだった。

 

「ほむらさん…」

 

「その後三人がかりで見滝原に襲来したワルプルギスと戦い、残念ながら巴マミはまたも戦死してしまったけど、まどかだけはなんとか守る事が出来た」

 

「あ…結局マミさんだけは死んじゃったんだ…」

 

「さやかさん、シッ!」

 

「あ…」

 

「………(ズ~ン)」

 

失言したさやかに向けて仁美が人差し指を立てる一方でマミが沈んでいた。

 

「ところがその直後、まどかは突然苦しみだし魔女になってしまった…」

 

「「「ッ!」」」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『すごく、疲れたね…』

 

『………』

 

『………鹿目さん?』

 

『ううぅ……あぐうぅぅぅ!』

 

―――まどかは突如苦しそうに胸を押さえてのたうちまわっていた。

 

『鹿目さん!?どうし……!?ソ、ソウルジェムが真っ黒に…な、なんで…!?』

 

『あ……ああああぁぁぁぁッ………』

 

その直後、まどかのソウルジェムはひび割れ、中からワルプルギスを凌駕するほどの禍々しさと力を持った魔女が誕生し、まどかは息絶えた。私は何かを間違えたと思い、夢中で時間遡行を行った。その時、あの白い生物の赤い目が禍々しく輝いていたのを見た。

 

 

『………みんな、騙されてる……伝えなきゃ……伝えなきゃ!』

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「その時初めて、魔法少女が魔女になるって知ったんだな…」

 

杏子が低い声でほむらに訊く。

 

「ええ…私たち魔法少女は皆キュゥべえに騙されているとようやく気が付き、皆を助けるために再び時を遡ったわ。それが私の長い旅と言う名の地獄とも知らずに…」

 

「でも、再び時間を戻したあなたはまどかさん達に伝えたんですよね?」

 

今度は葵がほむらの話にわずかでも救いがあると信じて尋ねた。

 

「ええ、でも誰も信じてくれなかった……当然よ。私にとって馴染みのある人たちでも、その時間軸の彼女たちにとって私は突然現れたただの転校生でしかない。その時は私自身も、まだ魔法少女のシステムの全てを理解してなかったのだからうまく説明できるはずが無かった……いきなりキュゥべえに騙されていると言っても信じてくれるはずが無かった…」

 

「ほむらちゃん、かわいそう…」

 

茜が悲しげな顔でほむらに同情する。

 

「暁美さん……なんだかごめんなさい…あなたの話を私が信じなかったばかりに…」

 

話を聞いて罪悪感を感じたマミが申し訳なさそうに謝罪する。

 

「いいえ。それは今のあなたには関係ない。謝る必要なんてないわ」

 

「ありがとう……そう言ってくれると気持ちが楽になれるわ……それで、その後は…?」

 

「その後、何故かその時間軸では既に魔法少女になってた美樹さやかと隣町からやってきていた佐倉杏子とも共闘する事になり、剣や槍を使った近接攻撃を得意としていた彼女達とも連携を取れるようにするためにに新たな戦い方を模索した。でもそれを習得出来たのは美樹さやかが魔女になる前日だった」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『……さ、さやかちゃん!しっかりして!』

 

『テメェ一体何なんだ!?さやかに何をしやがったッ!?』

 

『グオオオォォォッ』

 

―――どんなにまどか達が叫んでも、彼女が答えることは無かった。

 

『………ごめん、美樹さん…』

 

元に戻す方法も無かったために私は彼女を倒すしかなかった…。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

「そして巴マミが、魔法少女の真実を美樹さやかの魔女化という最悪の形で知った為に、昨日のように心中を図って私を拘束し、佐倉杏子のソウルジェムを打ち砕いたわ」

 

 

 

『―――みんな死ぬしかないじゃない!!』

 

 

 

「あたし達……ほむらが体験した出来事を繰り返すところだったんですね…」

 

「ええ…」

 

さやかとマミは改めて自分達の行いと心の弱さを恥じていた。昨日の自分達のもう一つの結末とも言えるほむらの体験を繰り返すことなど今の彼女達にとっても御免こうむるのであった。

 

「そして私を拘束した巴マミを、彼女のソウルジェムをまどかが打ち砕くことで止めたわ」

 

「鹿目さんが…!?」

 

「ええ。その時はまどかも泣き崩れたわ。私を助ける為だったとはいえ、結果的に自分も同士討ちをすることになってしまったのだから。その後、私はまどかを支えつつ二人でワルプルギスと戦った。なんとか撃退出来たけど、私もまどかもソウルジェムが限界だった…」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『わたしたちも………もう、おしまいだね……』

 

『鹿目さん……グリーフシードは…?』

 

―――私の質問にまどかは静かに首を横に振った。

 

『そっか…』

 

『ねえ、鹿目さん……このまま二人で怪物になって、こんな世界、何もかもめちゃくちゃにしちゃおうか……』

 

私はあまりにも辛すぎる事の多かった人生と世界に絶望し、まどかと共に魔女になろうと思った。冷たすぎる世界の中で唯一の陽だまりだったまどかと共に死ねるなら本望だった。

 

『嫌なことも、悲しい事も、全部無かった事にしちゃえるぐらい、壊して、壊して、壊しまくってさ……それはそれでいいと思わない?』

 

全てを投げ出して、まどかと共に魔女になれるなら、私はためらうことは無かった。あなたと一緒なら、たとえ魔女でも……。

 

―――こつん。

 

『え?』

 

気が付くと、まどかがあの春色の微笑みを浮かべながら私の手のひらのソウルジェムにグリーフシードを重ね、その穢れを浄化していた。

 

『さっきのは嘘。一個だけ取っておいたんだ』

 

『そんな……なんで、私に…』

 

『わたしにはできなくて、ほむらちゃんにできること、お願いしたいから……』

 

『お、お願い…?』

 

『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね?こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって、言ったよね……』

 

『う、うん……』

 

『だとしたら、お願いがあるの……』

 

まどかは自らのソウルジェムから黒い瘴気と共にその瞳から涙を溢れ出させながら言った。

 

『キュゥべえに騙される前、バカなわたしを……助けてあげて……くれないかな…?』

 

『!』

 

その言葉は私の心に深く突き刺さり、涙があふれた。私は声にならない声で承諾し、まどかの手を握りしめた。

 

『……約束するわ!絶対にあなたを救ってみせる!何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる!』

 

『……良かった』

 

まどかが微笑んだ直後、苦悶の表情を浮かべた。彼女のソウルジェムもいよいよ限界が近かった。

 

『……もう一つ、頼んでいい?』

 

『……うん』

 

私はその時のまどかが何を頼むのか、既に悟っていた。

 

『わたし、魔女にはなりたくない……』

 

そう言ってまどかは震える声で黒ずんでひび割れているソウルジェムを差し出した。

 

『嫌なことも、悲しい事もあったけど、守りたいものだってたくさん、この世界にはあったから……』

 

『まど、か……』

 

『えへへ……ほむらちゃん、やっとわたしを名前で呼んでくれたね……嬉しい、な……』

 

そのまどかの最期の微笑みも、もう涙で目が霞んで見えなくなっていたけど、彼女のその想いに答えるために私は立ち上がり、魔法少女に変身した。

 

 

 

『うう…!うああぁぁぁッ……!』

 

 

 

そしてまどかのソウルジェムに拳銃を向け、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も……未来を信じない……誰も、未来を受け止められない……だったら、私は

 

 

 

 

―――もう誰にも頼らない。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「それからはまどかだけを救うためだけに動いていた。キュゥべえがまどかを魔法少女にしようとする時は必ず阻止し、彼女が契約する要因を全て潰していった。まどかを救うためなら誰にも理解されなくとも、他の誰を犠牲にしようとも構わなかった。でも…何度繰り返してもワルプルギスを倒せず、その度にまどかは魔法少女になり、多大なる魔力を制御しきれず魔女になってしまった……ワルプルギスをはるかに凌駕するほどの魔女に」

 

「「「………」」」

 

話しを聞き終えた天馬たちは重苦しい表情を浮かべていた。彼女の戦いはあまりにも壮絶すぎており、全く救いのない話を聞かされて平静でいられるほど彼らも出来た人間では無かった。

 

「ほむらさん……あなたはずっと一人でそんなことを……」

 

天馬は思った。大切な誰かを救えなかった絶望を何度も味わい、それでもたった一人で戦い続けることなど自分には出来るだろうか。否、これまでどんな絶望が押し寄せようとも乗り越えて戦い続けることが出来たのは皆が、仲間たちがいたからだった。しかし、ほむらは同じ絶望を何度も味わいながらもたった一人で戦い続けてきた。まどかを救うために想像を絶する絶望に耐え続けてきたほむらは心から凄いと天馬は思った。

 

「ほむらさん。君が何故魔法少女の真実やさやかさんの魔女の事を知っていたかはわかった。だが、君とまどかさんの二人でワルプルギスに敵わなかったのなら、マミさん達と改めて共闘しようとは思わなかったのか?」

 

神童がほむらの話で心が重くなりながらも尋ねた。

 

「もちろん、まどかを助けると約束した後も巴マミ達を戦力として共闘させようとしたわ。でも、それはあまり頼りに出来なかった。何故なら、彼女達はほとんどの時間軸でワルプルギスと戦う前に死んでしまったのだから」

 

「「「なっ!?」」」

 

ほむらのマミ達の死亡宣言に全員が驚愕した。

 

「そのほとんどの理由が魔女に殺されたり、美樹さやかが魔女になった事を切っ掛けに巴マミが心中を図った事だったわ」

 

「ちょ、ちょっと、何そのあたしのせいで皆死んじゃったみたいな言い方!ちょっと傷つくんだけど!」

 

「実際あなたが魔法少女になった場合、ほとんどの確率で魔女になってたわ。主に上条恭介の事で」

 

グサッ!

 

ほむらの言葉の槍がさやかの心を貫いた。自分の精神の脆弱さをもろに突かれた瞬間だった。

 

「うう…」

 

「さ、さやか…今は違うじゃないか。こうして僕は君のそばにいるんだし…」

 

「そ、そうですわ、さやかさん!今こうして上条君と結ばれているのですから…」

 

どんよりと気落ちするさやかを恭介と仁美があわてふためきながら必死に慰めていた。

 

「お前ら……どんだけメンタル弱いんだよ…」

 

「さ、佐倉さん…」

 

杏子が呆れ顔でさやかとマミを睨む。実際に同じことを繰り返そうとしてしまっただけにマミも反論できなかった。

 

「巴マミが既に死亡して美樹さやかが魔女になった場合、大抵の時間軸で佐倉杏子が昨日のようなセリフを吐いて心中したわ」

 

「ブッ!///」

 

杏子は赤面しながら吹きだした。昨日の戦いで自分がやった事は実は過去の時間軸で何度もやった事であり、その回数と恥ずかしさは既に蒸し返すというレベルを超えていたのだった。

 

「アンタだって結構バカな事をやってんじゃないww」

 

「うるせえ!そもそもそりゃお前のせいだろが!///」

 

にやけるさやかに杏子はトマトのように顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「話を戻すけど、そんな風にあなたたち三人の内誰かが死亡することがほとんどで全員と共闘できるなんてごく稀だった……戦力不足の時はもちろん、四人で挑んでも結局ワルプルギスは倒せず、その度にまどかは魔法少女に……魔女になってしまった…」

 

「ほむらさん……」

 

「その度に私は時間遡行を行い、同じ時間を繰り返した……でも結局まどかどころか戦力の為の魔法少女達も死なせてばかりだった…」

 

ほむらは目を閉じ、これまでの時間軸で起きた出来事を思い出しては憂い募らせる。そんな彼女の姿に場の空気が一気に暗くなり、天馬達も表情を曇らせていた。

 

 

 

 

 

「そんな中、この時間軸で―――」

 

ほむらはゆっくりと目を開け、一度まばたきをしながら右を見る。さやか、マミ、杏子、恭介、仁美の5人はその視線を追うように左を見る。

 

「あなた達が、現れた」

 

「……俺達が?」

 

彼女達の視線は異世界からの訪問者である天馬達に向けられていた。

 

「これまでの時間遡行の中であなた達は一度たりとも現れなかった。でも私はあなた達のようなイレギュラーな存在を信用していなかった。何故なら、まどかが別のイレギュラーに殺された時間軸があったから」

 

「なっ…!?」

 

「まどかさんが!?」

 

「私は最初、あなた達の事をただのサッカープレイヤーとしか認識していなかった。でもあなた達は不思議なボールと指輪、そして何より化身という力を使って魔女と互角以上の戦いを見せた。ワルプルギスと戦うための戦力にしようとまで考えるほどに」

 

「「「!」」」

 

「アンタ、天馬達まで利用しようと……」

 

ほむらの考えにさやかが憤慨する。

 

「でもあなた達は私の手には余るほど大きすぎて、眩しすぎた……何故ならあなた達は、私が失ったものを持っていたから…」

 

「失ったもの?」

 

「それは―――『諦めない心』よ」

 

「「「!!!」」」

 

ほむらの言葉に全員が反応した。

 

「私はこれまで、まどかが魔法少女にならずに生き延びればいいと思い、他の魔法少女の事をただの戦力としか考えず、死んでしまおうと魔女になろうと対して気に留めようとしなかった。でも、あなた達はどんなピンチになろうとも、どんな絶望が襲いかかろうとも決して諦めず……また、誰一人見捨てようとせず希望を掴みとり、魔法少女達の運命を変えていった……松風天馬、あなたを中心に」

 

そう言うとほむらは体を天馬の方に向ける。

 

「あなたは以前私にこう言ったわね……私が自分に嘘をついていると、諦めたくないのに諦めていると」

 

「は、はい…」

 

「全てあなたの言うとおりだったわ……」

 

「え?」

 

「私はこれまでまどかだけを救おうと思っていたけど、本心ではきっと他の魔法少女達も救いたかった……でも、誰も魔法少女の真実を受け止められない事から彼女達を諦め、救おうとする気持ちを心の奥に閉じ込めていた……まどかは、自分一人だけが助かっても喜ぶはずが無いのに……今にして思えば、まどかが私に頼んだことも、きっとそういう意味だったのよね…」

 

 

(―――仲間を守れない様じゃ何も守れない!)

 

 

天馬がお菓子の魔女戦の時に言っていた言葉を思い出し、その意味を理解しては自己嫌悪して暗い顔をするほむら。

 

「そしてあなた達はこれまで私が出来なかった事を次々と成し遂げてしまった。巴マミの心と命を救い、魔女化した美樹さやかを元に戻し、それによる佐倉杏子の心中も阻止した……その結果、三人の魔法少女達が現時点においても全員生存しており、事情を知った上条恭介と志筑仁美も協力してくれている。今までの時間軸でここまでの布陣になったことは一度も無かった……」

 

ほむらが語る自分達の現状はマミたちもその身に染みていた。彼女達はただ命を救われただけでなくそれぞれ大切なことを学んだ。マミは自分自身の本当のあり方を、さやかは意地を張らずに誰かに助けを求める素直さを、杏子は信念の再起を、恭介は自分を支えてくれる存在の大切さを、仁美は本当の友情のあり方を学び、魔法少女の残酷な真実も乗り越えることも出来た。そんな五人の心を成長をさせたのは間違いなくチーム雷門であり、彼女達もその事に心から感謝していたのであった。

 

「私は、あなた達に謝らなければならないわ」

 

「「「え?」」」

 

ほむらのいきなりの謝罪宣言に全員が首を傾げる。

 

「魔法少女達はもちろん、全く無関係のあなた達を魔女と戦える力が有ると言う理由だけでワルプルギスと戦う戦力にしようと利用することまで考えていた。でもようやくわかった……いえ、思い出したと言うべきでしょうね……どんな理由があろうと、他の人たちのことを蔑ろにしてはいけない。誰かを利用し、自分だけ満足すればいいなんて考えで運命に勝てるわけが無かった……」

 

そしてほむらは体の向きを正して全員と向き合うと、

 

「皆……本当に、ごめんなさい……」

 

「「「……!」」」

 

心から詫びるように深々と頭を下げたのだった。これまでとは別人と思えるほど弱々しいほむらの姿に一同は困惑し、言葉が詰まってしまう。

 

「………」

 

そんな中で天馬がスッと立ち上がった。

 

「……辛かった、ですよね…」

 

「!」

 

予想外の言葉にほむらは思わず顔を上げる。

 

「何度も大切な人を失って……その辛さを誰にも理解されなくても、たった一人で戦い続けるしかなかったんですから……俺だったらきっと、耐え切れなくてどうかしちゃいますよ。でも、やり方はどうあれ、大切な友達の為にそこまで戦い続けるなんて、ほむらさんは凄いですよ」

 

「………」

 

優しげに慰めるような天馬の一つ一つの言葉がほむらの心に染みわたる。

 

「それに、そんなほむらさんが俺達の諦めない心をわかってくれて……俺は嬉しいですよ!」

 

「……!」

 

ほむらは天馬の予想外の言葉に唖然とし、その心はまるで羽が生えたように軽くなった。自分達を利用しようとしていたというのに、怒るどころか自分の気持ちを理解し、凄いと言ってくれた。ここまで優しく強い心を持った人間と出会ったことが無かったほむらは逆に凄いと驚いていた。

 

「松風天馬……」

 

 

 

「―――こんな所で作戦会議かい?」

 

「!?」

 

その時、ほむらから見て正面、天馬達から背後からあの無機質な声が響いた。

 

「キュゥべえ!?」

 

「お邪魔させてもらうよ」

 

天馬が振り向くと、招かれざる客がこちらに向かって可愛らしく歩み寄っていた。

 

 

 




というわけでBパートでした。

ホントはBパートで終わらすつもりでしたがパソコンの事と文章が長すぎてまたしてもCパートまで描くことになりました。

正直、これまでマイパソがおかしくなったことは無かった故に結構焦ってます。
でも続きを待ってくださる皆様の為に何とかしようと思っています。自分もこの小説書くの好きなんで。

もし完全復活したら一気に話を進めたいと思います。更新を気長にお待ちしてくださるとありがたいです。

ご感想お待ちしております。


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第14話『魔法少女 暁美ほむら』 Cパート

皆様、長らくお待たせしました。そして遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。

最終投稿から2か月、パソコンの問題は良い先のことを考えたり、修理費を踏まえても結局新しいのを買ったほうが良いと判断し、腹を掻っ捌き、血の涙を流す思いで新しいPCを購入しました。(年末の安売りを狙ったけどやっぱり切腹だった)

仕事が忙しかったり、新しいパソコンの使い方に慣れるのに時間かかったり、年末年始に風邪ひいたり、文章が浮かばなかったり、ポケモンやモンハンにはまったりしました。(後半ろくな理由じゃない)

でもようやく新しいパソコンに慣れていき、最新話も完成しました。

新しいパソコン、新しい年を迎え、ネオニューサニーブライトとして帰ってきました!

杏子
「長ぇし、ダセぇよ」

じゃ、これからもサニーブライトで。

投稿やっぱり遅いけど、『イナ☆マギ』再開します!







「てめえ……どっから出てきやがった。お呼びじゃねーんだよ」

 

突然現れたキュゥべえを威圧するように睨む杏子。天馬たちも先ほどまでの晴れ晴れとした雰囲気を捨てて警戒心を強める。そんな警戒心を全く気にして無い様にキュゥベえは小さなスタンドテーブルに飛び乗る。

 

「せっかく来たというのに随分なご挨拶だね。まどかも君たちも、みんな僕に対してずいぶん邪険になったみたいだね」

 

「まどかさん?」

 

「ああ、ここに来る前に会ってきたんだ」

 

「「「!?」」」

 

その言葉に一同に最悪の予感がよぎる。特にほむらは自分の過去を聞かせたくないばかりに連れてこさせなかった事が裏目に出てしまったと後悔する。

 

「ああ、安心しなよ。君たちが思っているようなことにはなってない。ただ、僕たちの事を彼女に教えてあげただけさ」

 

「そう……良かった…」

 

まどかが契約していなかった事に「ほっ…」と胸を撫で下ろすほむら。

 

「だが、貴様が何の意図もなく俺たちやまどかさんの前に現れるわけがない。一体何の用だ」

 

眉を細めてキュゥべえを睨み付ける剣城。

 

「そう敵意をむき出しにしないでくれないかな。僕はただ君たちに色々と伝えたいことがあって来たんだ」

 

「伝えたいことだと?」

 

「まず一つ。もう君たちは僕たちインキュベーターの事情を知ったんだろう?それなら補足として伝えとくべきだと思ってね」

 

「補足?おまんらがか弱い娘たちを食いもんにしとる胸糞悪い話に弁明でもするつもりか?」

 

錦が腕を組みながら顔を強張らせる。するとキュゥべえは大げさに溜息を着きながら言った。

 

「胸糞悪い?君たちは自分たちが家畜を食べることに対してもそう言うのかい?」

 

「何?」

 

「君たちは考えたことが有るかい?彼らがどういうプロセスで食卓に並ぶのかを」

 

その直後、天馬達の頭の中にあるビジョンが流れ込んでくる。それは古いプレハブ小屋の中で、そこにはたくさんの牛や豚、鶏たちが狭いケージに押し込まれており、自分達の運命を悟っているかのような空虚な目をしながらただ機械で運ばれてくるエサを食べ続けていた。

 

「あ…ああ…」

 

そこから彼らがどうなるのか、中学生である天馬たちでも理解できていた。

 

「やめてっ!」

 

その先を見ることを拒んだ葵が思わず叫び、それと同時にビジョンは途絶え、視界がほむらの部屋に戻る。

 

「その反応は理不尽だ。この光景が残酷だと言うなら君たちには本質が全く理解できていない。彼らは人間の糧になる事を前提に生存競争から保護され、淘汰される事無く繁殖している。牛も豚も鶏も、他の野生動物に比べれば種としての繁殖ぶりは圧倒的だ。君たちはみな理想的な共生関係にあるじゃあないか」

 

「同じだって言いたいのか?」

 

「むしろ僕らは人類が家畜を扱うよりもずっと君達に対して譲歩しているよ、杏子。曲がりなりにも知的生命体と認めた上で交渉しているんだしね」

 

「ふざけんな!ソウルジェムや魔女の真実を隠しておいて何が交渉だ!」

 

「馬鹿にしとるとしか思えんぜよ!」

 

水鳥と錦が怒声を上げるとキュゥベえは再び溜め息をついた。

 

「やれやれ、ここまで言っても理解してもらえないみたいだね。だったら君たちにも見せてあげるよ。僕たちインキュベーターと、この星の歴史をね」

 

その直後、天馬たちの頭の中に再びあるビジョンが流れ込んできた。それは天馬たちも歴史の教科書で見たことがあるような色んな時代の光景だった。しかし、その中で天馬たちの知る歴史とは違う部分があった。それは原始時代から始まったその光景の傍らに、正確にはあらゆる時代の少女たちのそばにいつもあの白い生物がいたことだった。

 

「僕たちインキュベーターはね、有史以前からこの星の文明に干渉してきた。数えきれないほどの大勢の少女たちがインキュベーターと契約し、希望を叶え、絶望にその身を委ねて。祈りから始まり、呪いで終わる。これまで数多の魔法少女たちが繰り返してきたサイクルだ。中には歴史に新たな転機をもたらし、社会を新しいステージに進ませた子もいた」

 

キュゥベえの声がナレーションを務めているかのように映像は次々と流れていった。その中には戦争の歴史的勝利や文明の発展など、魔法少女たちのよって持たされた幸せな場面も多数あった。だがそれをもたらした誰もが人々に魔女と恐れられ、拷問にかけられて殺されたりと見るも無残な最期を迎えていた。それは天馬たちにとってもキュゥベえの説明のおかげでテレビの歴史番組を見ているかのような感覚に陥っていなければ最後まで映像を見続けることが出来ないほどのものだった。

 

「………魔法少女たちは皆、君たちを信じていたんだよね………なのに―――君たちはそれを裏切ったの?」

 

「彼女たちを裏切ったのは僕たちではなく、―――むしろ、彼女たち自身の祈りだよ」

 

信助の問いにキュゥベえが言葉を紡いだ直後、映像に移る魔法少女たちの持つソウルジェムは次々とドス黒く染まっては砕けて魔女を誕生させていった。

 

「どんな希望も、条理にそぐわないものである限り、必ず何らかの歪みを生み出すことなる。やがてそこから災厄が生じるのは当然の摂理だ。そんな当たり前の結末を裏切りだというのなら、そもそも願い事なんてすること自体が間違いなのさ」

 

そう言うと、説明の終わりを告げるように全員の視界が一度闇に覆われ、直後に真っ白なほむらの部屋に戻る。

 

「………この映像、まどかにも見せたの?」

 

思わず尋ねるさやか。

 

「うん。まどかもこの歴史と摂理に関してはひどいと言っていた。でも、僕は愚かとは言わないよ。彼女たちの犠牲によってこの星の歴史が紡がれてきたこともまた事実だしね」

 

まるで自分には関係ないただの傍観者のような口ぶりで語り続けるキュゥベえ。

 

「そうやって過去に流された涙を礎にして、今の君たちの暮らしは成り立っているんだよ。それを正しく認識するなら、どうして今更、たかだか数人の運命を特別視できるんだい?」

 

「「「……っ!」」」

 

その瞬間、その場にいる全員がキュゥベえをキッと睨む。その流された涙の重みも知らずにひょうひょうと語り続ける生物を許せる者など、ここにはいなかった。

 

「やっぱり………あなたは間違いなく、私たち人類の敵のようね…」

 

ほむらが改めてインキュベーターがどのような存在であるか再認識し、眉を細める。

 

「それにしても暁美ほむら、君は時間遡行者だったんだね」

 

「………」

 

ほむらの言葉を受け流すように彼女に顔を向けるキュゥベえ。

 

「君は過去の可能性を切り替えることで数多の平行世界を横断し、この一ケ月間を繰り返した。すべては鹿目まどかのために」

 

「………それがどうしたというの?」

 

「なるほどね、それなら―――何故鹿目まどかが魔法少女として異常なほどの資質を持っているのか、ようやく分かった気がするよ」

 

「「「!?」」」

 

キュゥベえの衝撃の発言に全員が目を見開いて驚く。

 

「ど、どういうことキュゥベえ!?まどかさんの素質と、ほむらさんの時間遡行に何の関係があるの!?」

 

「天馬、魔法少女としての潜在能力はね、背負い込んだ因果の量で決まるんだ。一国の女王や救世主ならともかく、ごく平凡な人生だけを与えられたまどかに、どうしてあんな莫大な因果の糸が集中してしまったのか不可解だった。だが………ねえほむら。ひょっとしてまどかは君が同じ時間を繰り返すごとに、強力な魔法少女になっていったんじゃないのかい?」

 

「………」

 

ほむらは動揺しながらもこれまでの平行世界でのまどかを思い出す。自分を助けてくれた魔法少女のまどかはそれほど強い魔法少女ではなかった。だが、自分が時間遡行を繰り返し、その回数が重なってきたころにはワルプルギスを一撃で葬り、最後にはそれすら超える魔女になるほどの魔法少女になっていた。

 

「………やっぱりね。原因は君にあったんだ。正しくは君の魔法の副作用、というべきかな」

 

「………どういう、ことよ?」

 

ほむらは声を震わせながら恐る恐る尋ねる。

 

「君が時間を巻き戻していた理由はただ一つ。鹿目まどかの安否だ。同じ理由と目的で何度も時間を(さかのぼ)るうちに、君は幾つもの平行世界を螺旋(らせん)状に束ねてしまったんだろう。鹿目まどかを中心としてね。その結果、決して絡まるはずがなかった平行世界の因果線がすべて今のまどかに連結されてしまったとしたら………彼女の、あの途方もない魔力係数にも納得がいく。君が繰り返してきた時間、その中で循環した因果のすべてが、巡り巡って鹿目まどかに繋がってしまったんだ。あらゆる出来事の元凶として、ね」

 

「………!!」

 

「そ、そんな……それじゃまさか…」

 

そこから推測される結果が信じられず、神童は思わず声を漏らす。そして体を震わすほむらに向けてキュゥベえはとどめを刺すように告げた。

 

「お手柄だよ、暁美ほむら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――君がまどかを最強の魔女に育ててくれたんだ」

 

 

 

次の瞬間、ほむらは体中の力が抜けてしまったようにその場にへたり込んでしまった。

 

「ほむらさん!」

 

思わず慌てて駆け寄る天馬たち。ほむらは両手の平を床に着けて愕然(がくぜん)としていた。まどかを魔法少女に関わらせないように頑張っていたつもりが、逆に逃れられなくさせてしまっていたことに耐えきれなかったのだった。

 

「そんな………私が何度も繰り返したせいでまどかが…まどかが………私は、一体何のために………」

 

「ほむらさん、しっかりしてください!」

 

葵が必死に呼びかけるが、自責の念に飲まれたほむらは応じることが出来なかった。

 

「くっ…なんて皮肉な話だ…!」

 

どうしようもなく残酷な真実に剣城は悔しそうに歯を食いしばる。ほむらが頑張ってきたことが結局はインキュベーターにとって都合の良い展開にしかならなかったことに快くはなかった。

 

「……ほむらちゃんが繰り返した平行世界の数だけ、まどかちゃんが強くなっちゃった」

 

茜も暗い顔で呟く。

 

「平行世界の数だけ強くなる、か…」

 

「あれ?ねえ、天馬。僕たちも前にどこかで似たような話を聞かなかった?」

 

神童が眉を細めて繰り返した直後、信助が何かを思い出したように天馬に尋ねる。

 

「うん……確かに。俺にも同じことが起きていたような……あれは確か…」

 

 

 

 

 

 

 

「―――パラレルワールドの共鳴現象」

 

 

 

 

 

 

 

「そう、それだよ!………あっ!」

 

天馬が思わず相槌を打つように声の方に指差すと声を上げる。それに気が付くように全員が天馬の指す部屋の入口の方を向き、ほむらも思わず頭を上げる。全員の視線の先にいたのは、鳥の翼のようなエメラルドグリーンの髪型でオレンジを基調とした近未来的な服を着る少年。

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気そうだね、天馬!」

 

「フェイ!」

 

天馬たちの世界の未来人、フェイ・ルーンがそこにいた。

 

 

 

 

 




――ED『HAJIKE-YO!!』(歌:空野葵)――


次回予告

天馬
「驚きの連続の中、ついにフェイが帰って来た!そして俺達はこの世界で新たなる決意を胸にする!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第15話『新たなる革命(カゼ)!』」





お待たせしたのに、ほぼ原作どおりでごめんなさい。
でも次回はフェイや天馬たちがキュゥベえに反論します。異議ありッ!って感じで。
そしてほむらたちはAパートで、読者の皆様には15話の終わりごろにサプライズが………

いつ発表になるかわかりませんが(コラ)、気長にお待ちください。


感想お待ちしております。



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第15話『新たなる革命(カゼ)!』 Aパート

祝!通算UA20000突破!
こんな駄文なのにお気に入り登録もいつの間にか増えていて感謝感激です!

さてお待たせしました。
フェイの登場に真実の語り合いはどんな波乱を呼ぶのか。
今回はキュゥベえのゲスコットぶりが大炸裂します。

さて、アトランティスウォールとフェンスオブガイア、それに絶対障壁の準備をしなきゃ。

よし、では続きをどうぞ。




―OP『天までとどけっ!』―




~~ほむらの部屋~~

 

 

 

「フェイ!無事だったんだね!」

 

フェイの登場に感激の声を上げる天馬。ほむらに呼ばれ、彼女の過去や最強の魔女、ワルプルギス。さらには当然現れたキュゥベえによって明かされたこの世界の歴史、まどかの素質の秘密など、とんでもない真実が次々と明らかになる中で彼が姿を現すなど予想だにしておらず、声を上げずにはいられなかった。

 

「あなたは………」

 

「暁美ほむらさんだね。初めまして、僕はフェイ・ルーン。天馬たちの世界の200年後の未来から来たんだ」

 

「み、未来人!?」

 

「私と同じ、時間遡行者…!?」

 

「まあ、そんなところだね」

 

さやかとほむらが目を丸くして驚くがフェイ自身は大したこと無いように軽く答える。

 

「フェイはいつこの世界に?」

 

「昨日の夕方だよ。天馬たちを見つけたのは信助が頑張ってた時だったけどね」

 

「見てたの!?」

 

「ほとんど終わりごろだったけどね。でも信助なら何とかしてくれると信じてたし、もう少しこの世界のことをじっくり調べる時間が欲しかったから隠れて様子を見てたんだ、ゴメン」

 

少しばかり申し訳なさそうに謝るフェイ。しかし、天馬たちも信助を信じていたからこそ見守っていたということを理解し、怒る気にはならなかった。

 

「フェイくん、だったね。さっき言っていたのは何のことなんだい?天馬くんに起きたという……その…」

 

「パラレルワールドの共鳴現象。歴史の分岐点、インタラプトに干渉することによって、複数のパラレルワールドが生み出されることがあるんだ。ギターの弦を(はじ)くと弦が何本にも見えるようにね。その際、例えば生み出されたパラレルワールドの数だけそれぞれの世界で天馬が存在することになり、その天馬たちで共鳴し合い、その力を高め合うんだ」

 

うろ覚えながら尋ねる恭介に説明するフェイ。

 

「俺も今でこそ自在に化身アームドが出来ますけど、最初の頃は俺たちの世界での歴史改変による共鳴現象を利用して化身アームドを発動させていたんです」

 

「え?じゃあ一度起きたらそのまま続くものじゃないのかい?」

 

「そう、パラレルワールドの共鳴現象はあくまで一時的なもの。歴史が修正されて一つの歴史に戻る場合、弾いた弦のブレが無くなりいずれ一本の弦に戻るように、他のパラレルワールドは消滅し、共鳴現象は失われるんだ」

 

「じゃあ、今のまどかにも同じことが起きてるってことか?」

 

杏子はまどかの力も一時的なものだと信じて期待する。

 

「いや、それは違う」

 

「え?」

 

「まどかさんの場合、やはりほむらさんが見滝原中学に転校する前、つまりインタラプトに戻ることによって、それまでいたパラレルワールドのまどかさんの因果がほむらさんと共に持ち出されることになり、その度にまどかさんに力が集まっていったんだ。魔法少女としての力ではなく、その元である因果そのものが転移しているわけだから、例えそれを生み出したパラレルワールドが消滅したとしてもまどかさんにまとわりつく因果は消えない。彼の言うとおりにね」

 

と、フェイは説明を終えると同時にスタンドテーブルの上のキュゥベえを見る。

 

「またもやイレギュラーな存在が現れたね。ほむら以外の、それも異世界の時間遡行者とは。やっぱり君たち雷門は興味が尽きないよ」

 

「褒めてるつもりなのかい?」

 

返事を返しながらフェイはキュゥベえの前に立つ。口調は軽いがフェイのキュゥベえに対する目は決して友好的ではなかった。

 

「初めましてだというのにいきなり嫌われてるみたいだね」

 

「少なくとも君たちのことを知って仲良くなる人はそうはいないと思うよ、インキュベーター」

 

「なるほど………既に僕たちのことは調査済みということか」

 

初対面にも関わらずペラペラと語り合うフェイとキュゥベえ。しかし二人とも無表情で、天馬たちには二人の間に張り詰めた緊張感が漂っているように感じられた。

 

「君たちはこの次元の宇宙を存続させようとしているんだってね?この星の人たちを利用して」

 

「利用なんて言い方はよしてほしいな。言ったはずだよ?僕たちは魔法少女たちと交渉してその希望を叶えてあげたんだ。それが必ず絶望に代わるのだって当然の摂理じゃないか」

 

「でも君たちは、それを自分たちの目的のために利用し、彼女たちをその摂理どおりになるように契約させているのもまた事実だよ」

 

変わらず自分たちに非は無い様に語るキュゥベえの主張にフェイはその穴を突くように反論する。

 

「僕たちはあくまでこの宇宙の寿命を伸ばそうとしているに過ぎない。君は天馬たちより200年も先の未来からやって来たんだよね?だったらもしも、天馬たちの時代でエネルギーを増やさなければ、自分たちの時代で宇宙の寿命が尽きてしまうとわかった時、君は過去の時代で僕たちと同じようにエネルギーを増やそうとしないのかい?」

 

「………確かに、世界を存続させるためにどうにかしようとする君たちの考えは理解できるよ。もしそうなったら、過去に遡ってでも宇宙を存続させるかもしれないね」

 

「フェ、フェイ!?」

 

「でも―――君たちのやり方は好きじゃない」

 

「「「!」」」

 

「天馬が言っていたようにどんな理由があれど、人間の希望と絶望を自分たちの都合で利用する権利なんて誰にも無いからね」

 

そう言うとフェイは首だけ後ろに振り向き、天馬たちに片目でウインクする。それがフェイの意思表示であると理解した天馬たちもホッ、と安堵の息をついた。

 

「でも、この星の歴史を築き上げたのも僕たちと魔法少女たちだ。もし僕たちがやって来なかったら、この星の人類は今も裸でほら穴で暮らしていたと思うよ」

 

「それは違うよ。だって、君たちと魔法少女たちだけで歴史を創ったわけじゃないから」

 

「どういう意味だい?」

 

「じゃあ聞くけど、この星の歴史に名を残している少女たちは皆魔法少女だったのかい?ジャンヌダルクとか」

 

「ああ、彼女も高い資質を持っていてね。フランスの戦争に勝利をもたらしたよ」

 

キュゥベえがそう返した直後、フェイはにやけた。その言葉を待っていたかのように。

 

「………やっぱりね。引っかかってくれると思ったよ」

 

「なんだって?」

 

「どういう意味ですか?フェイくん」

 

仁美が尋ねる。

 

「実は僕たちは時空最強イレブン探しの間にジャンヌダルクに会ったことがあるんだ」

 

「ジャンヌダルクと会った!?」

 

「じゃあ、そのジャンヌダルクも魔法少女だったのか!?」

 

マミと杏子が驚く。

 

「いえ、俺たちが会ったジャンヌダルクは魔法少女じゃなかったんです」

 

「「え?」」

 

天馬の返答に二人は呆けた声を出す。

 

「でもそれは君たちの世界の話じゃないのかい?」

 

キュゥベえは自分たちの作り上げた歴史とは関係ないという意味を込めて指摘する。

 

「確かにその通りだけど、僕が調べた結果、実はこの世界と僕たちの世界はほとんど同じ歴史を歩んでいることが分かったんだ」

 

「この世界と俺たちの世界が同じ歴史を…?」

 

「………それが、どうしたというんだい?」

 

天馬が驚嘆する一方、キュゥベえはフェイの意図が読めずに困惑する。彼は一体何が言いたいのかと。

 

「僕たちの世界のジャンヌダルクは魔法少女じゃなかった。他の歴史を調べても、そこに名を遺した魔法少女たちは、僕たちの世界では魔法少女ではなかった………だけど問題はそこじゃない。問題なのは、インキュベーターがやって来たこの世界と、そうでない僕たちの世界が何故同じ歴史を辿っているのかということ………意味がわかるかい、キュゥベえ」

 

「………」

 

「つまり人類は元々、インキュベーターなんていなくても自分たちで文明を発展させることが出来たってことさ。確かに魔法少女の力はすごいけど結局は僕たちと同じ、一生のうちにできることが限られている一人の人間。彼女たちだけでなく、彼女たちの影響を受けた周りの人々のおかげで歴史は動き続けた。実際、歴史を動かした魔法少女たちには必ず大勢の人たちが関わってたんじゃない?」

 

フェイの指摘は間違っていなかった。インキュベーターは有史以前からこの星に干渉しており、それまで出会った素質の高い魔法少女たちには必ず他の魔法少女や多くの人々がついてきていた。否定できないフェイの異見にキュゥベえは黙り込む。

 

「確かに歴史というのは、常に一人の人間の思想によって変わっていくもの。魔法少女がインキュベーターと契約して願いを叶えるのは、その良い例だろうね。だけど、それも歴史が変わるただの切っ掛けの一つに過ぎない。インキュベーターがいなかったら人類は今もほら穴で暮らしていたなんて単なる思い上がりだよ」

 

フェイはそう言いながら呆れ顔で両手の平で天秤を作った直後、

 

「君は人間を甘く見すぎてるよ」

 

射抜くような視線をキュゥベえに向けた。

 

「………」

 

そんなフェイに対し、キュゥべえに黙り込んだままだった。

 

(まさかここまでキュゥベえに反論できる人がいるなんて………)

 

一方でほむらもインキュベーターにここまで異見できるフェイ・ルーンという少年に唖然としつつもどこか心強く感じられた。

 

「―――その通りだ」

 

「ん?」

 

その時、この場にいる誰のものでもない声が聞こえだす。

 

「私も人間ではないが、人間の底力を私は知っているぞ!」

 

その声の聞こえる方向を頼りに一同は再び部屋の入口を見る。

 

「フェイたちを通じて、困難を乗り越えていく姿を何度も見てきたのだからな!」

 

その声の主を見たほむらたち見滝原勢は全員目を見開いて絶句した。なぜなら腕を組みながら高らかに自負していたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

―――胸の部分にメーターが付いた水色のクマのぬいぐるみだったからだ。

 

 

 

 

 

「ワンダバ!」

 

「「「わあああっ!?」」」

 

「「「キャアアッ!?」」」

 

いきなり現れ、流暢に言葉を話す奇怪なクマに驚く見滝原勢。

 

「な、何だコイツ!?使い魔!?」

 

「クマのぬいぐるみが喋ってる!」

 

「誰が使い魔だ!クマだ!!ぬいぐるみだ!!!」

 

杏子と恭介に嫌いな呼び方をされ、両腕を振りながら怒るクマは一度コホンとわざとらしく咳をして自身を落ち着かせる。

 

「私はチーム雷門の名監督、クラーク・ワンダバット様だ!」

 

クマ、いやクラーク・ワンダバット、通称ワンダバは自慢するようにふんぞり返りながらそう名乗った。

 

「ええ~っ!?こんなのが天馬たちの監督ぅ~!?」

 

「どう見てもただのクマじゃねえか!」

 

「こんなのとは何だ、こんなのとは!それにクマではないと言っとろうが!」

 

さやかと杏子は信じられないようにワンダバを指さし、頼りなく見られたワンダバは再び怒り出す。

 

「フム。君はアンドロイド、いわばロボットじゃないのかい?」

 

キュゥベえが先ほどまでの雰囲気をかき消すように問う。

 

「その通りだ」

 

「まさか人間のように感情を持ったロボットなんてね。人間の技術はここまで進歩するものなのかい?」

 

「人間は感情があることによって考え、常に進歩し続けているからな。しかも魔法少女の力とは一切関係ない。これが人類の本来の力というわけだ。その結晶がこの私。古来よりウサギのような成りで感情を持とうとしなかった貴様とは違うのだよ」

 

ワンダバはもう一度腕を組みながら「ふふん」、と自慢するように言った。

 

「確かに先ほどの話を僕は否定できないよ。だけど人工的に作り出したものに感情を与えるなんて、やっぱり人間の考え方は理解できないね」

 

「なぬ!」

 

「感情があると、合理的な判断が出来なくなるからね」

 

「何だとー!クマよりウサギの方がマシだとでも言いたいのか!?」

 

「あ。コイツ今、自分でクマって言ったぞ」

 

キュゥベえに詰め寄りながらも墓穴を掘ったワンダバに杏子がツッコむ。

 

「人間の力、か………それについて昨日は驚いたよ。まさか君たちにあんな力があったなんてね。正直、杏子たち魔法少女だけじゃさやかを元に戻す望みなんてなかったからね」

 

「な、なんだと!?」

 

「無駄な犠牲になるなら止めていたけど、さやかの魔女化によって他の魔法少女を魔女化させるなり、まどかに契約を誘発させられたりと僕たちにとって有益なことになりそうだったから止めなかったのさ。そうならなくて残念だよ」

 

「…っ!アンタはっ…!!」

 

「てめえ、ふざけんのも大概にしやがれ!!」

 

さやかと水鳥が一同の思いを代弁するように激昂する。

 

「ふざけてなどいないさ。これでも僕は君たち雷門には感謝してるんだよ?」

 

「感謝、だと…?貴様が俺たちに一体何を感謝するというんだ?」

 

「さやかを魔女から魔法少女に戻してくれたことさ」

 

「「「!?」」」

 

思いもよらぬ発言に天馬たちは困惑する。感情が無いはずのインキュベーターが感謝するというだけでも似つかわしく無いというのにその理由がさやかの救出だという意味がわからなかった。

 

「もしまた魔法少女のうちの誰かが魔女になったら、なんとしてでも元に戻してほしいんだ」

 

「ど、どういう事?君は魔法少女を魔女にすることが目的なんじゃ……」

 

「そういうことか……」

 

「剣城?」

 

天馬が尋ねようとしたとき、剣城が苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

 

「思い出せ。魔法少女のソウルジェムから魔女が生まれる時、何が起こる?」

 

「確か、膨大な感情エネルギーを発する………ま、まさか!?」

 

「そう、コイツらの目的は魔法少女が魔女になるときに発するエネルギー。一人の魔法少女が魔女になった場合、その魔法少女から採れるエネルギーはそこで終わり………だが、逆にその魔女を魔法少女に戻せれば……」

 

「…!!再び魔女になった時、新たなエネルギーを得られる…!」

 

その結論に達した神童が目を見開き、ほむらたちも信じられないように驚く。

 

「そう。僕たちが一つの個体からエネルギーを回収するプロセスは魔法少女が魔女に変わる時のみという一方通行だ。だが、君たちは一度エネルギーを出し終えた魔女を魔法少女に戻し、プロセスにサイクルをもたらせてくれた。これなら無理に魔法少女を増やす必要もなくなり、より効率よくエネルギーを回収できる」

 

「キュゥべえ、あなたは…!」

 

「貴様どこまでも…!」

 

まるで新しいおもちゃを見つけたように生き生きと語るキュゥベえに不快と怒りを露わにするマミと剣城。

 

「君たち異世界人には本当に感謝しなきゃね。エネルギーを採取する新たな方法を二つももたらしてくれたんだから」

 

「二つ………だって?」

 

「一つは先ほど説明した通り、もう一つは僕たちのテクノロジーとは別の方法………だけど一つ目の方法にも大きく関わっている。そしてそれは既に君たちがお菓子の魔女との戦いで証明してくれたよ」

 

「お菓子の魔女…?」

 

ほむらは必死に思い出す。あの時、天馬たちが一体いつエネルギーをキュゥベえにもたらしたのだろうか。あのお菓子の魔女戦で天馬たちがやった事といえば、これまで自分が救うことが出来なかったマミを救ったことしか思い浮かばない。魔女に食われそうになったマミを助け、戦意を無くした彼女の代わりに必殺技を駆使し闘い、その後………。

 

「!?」

 

そこで気が付く。あった、魔女を魔法少女に戻し、キュゥベえの求めるエネルギーにもなりうるものの存在が。

 

 

 

 

 

 

「まさか―――“化身”の力!?」

 

「え!?」

 

「その通りだ。暁美ほむら」

 

正解と言いたげに名指しするキュゥベえ。

 

「君たちが化身を出す度に、ソウルジェムがグリーフシードに変わる際に発するものに酷似したエネルギーを出しているんだ。それも並みの魔法少女二、三人分に相当する量をね」

 

「!!」

 

ほむらは以前天馬達が語った化身の話を思い出す。化身とは、人の心の強さが気の塊として具現化したものだと。そもそもインキュベーターたちの生み出したテクノロジーとは感情をエネルギーに変えるもの。とりわけもっともエネルギーが取れるのは希望から絶望への相転移なだけであって、それ以外の感情からエネルギーを回収できないわけではない。絶望とは全くの逆であれど、多大なる感情エネルギーの塊である化身からエネルギーを回収することは不可能ではなかった。

 

「俺たちの化身が………」

 

「君たちの持つ化身の力は、魔法少女のエネルギーのリサイクルを可能にし、エネルギーそのものを代用することも出来る。君たちにとっても素晴らしい話だと思うよ。どうだい、僕たちインキュベーターと手を組む気はないかい?」

 

「なっ…!」

 

キュゥベえの思わぬ提案に驚く天馬たち。

 

「君たちはこの世界に化身を持ち込み、エネルギー回収に新たな道を照らしだした。その立役者となったのは間違いなく君だよ、天馬」

 

「俺が…?」

 

「僕が君たちの中で最も注目しているのは君だ。この世界で最初に化身を出現させただけでなく、君を中心としてさやかを魔法少女に戻すという奇跡を生んだ」

 

「………」

 

「君は魔女を魔法少女に戻すことを望むのだろう?君が中心となって僕たちに協力してくれれば、君たちがいなくとも魔女を魔法少女に戻せる術が見つかるかもしれない。いずれ魔法少女も僕たちも満足できる結果をもたらすことが出来るはずだ」

 

「………」

 

天馬はこわばった表情のまま返そうとしない。ただひたすら黙り続ける天馬に仲間たちの不安が募る。

 

「天馬………」

 

「僕たちに協力してくれるよね、天馬」

 

そんなことは露知らず、全く不安が無さそうに同意を求めるキュゥベえ。その声色はあの悪魔との契約とも呼べる魔法少女の契約を彷彿させた。

 

 

 

 

 

 




というわけで、話し合いに更なる不穏を起こしました。

化身とエネルギー、そしてインキュベーターのテクノロジーの関係はそれぞれの特性を考えれば、理論上不可能ではないと思い、こういう設定にしました。

次回は、キュゥベえのゲスっぷりが最大級になります。


ご感想お待ちしております。


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第15話『新たなる革命(カゼ)!』 Bパート

Bパートお待たせしました。

今回は予告通りQBのゲスっぷりが最大級になります。
そんなQBに天馬が立ち向かいます。

天馬という主人公を上手く表現できたか不安ですが、お楽しみいただけたら幸いです。では投下。


「僕たちには君が必要なんだ、天馬」

 

「………」

 

「……天馬」

 

葵が不安げに天馬の名を呼ぶ。しかし天馬はただジッとキュゥベえを見続けたまま返事を返さず、膠着(こうちゃく)状態が続いていた。そのせいか周りの仲間たちまでも緊張感で顔をこわばらせていた。

 

「僕たちと共にこの宇宙を救うんだ」

 

「………」

 

「さあ」

 

催促するかのようにキュゥベえが呼びかける。そして、

 

 

 

 

 

「………断るよ」

 

 

 

 

天馬はただ一言だけそう答えた。

 

「………」

 

「天馬…」

 

葵が微笑みながら安堵の息を吐き、仲間たちも天馬の期待通りの答えに「ほっ…」と胸を撫で下ろす。その一方でキュゥベえは顔には出さないが意外だったように少しだけ黙り込んだ。

 

「………何故だい、天馬?僕たちが手を取り合えば、僕たちの問題も、君たちの問題も解決するんだよ?」

 

「キュゥベえ、君たちが宇宙のためにこんなことをしていることはわかったよ。確かに俺たちの力が魔法少女を元に戻せるなら、これほど嬉しいことは無いよ」

 

天馬は少しだけ誇らしそうに語る。

 

「―――だけど、やっぱり俺は君たちのやってることを認めることは出来ない」

 

しかし直ぐに切り替えるようにキュゥベえを見据えてそう宣言した。

 

「………僕たちの事情を知り、それを解決する術を持ちながら手を貸さないというのかい?」

 

「だったら、答えて。宇宙のために魔法少女になってくれっていうなら、何で契約する前にソウルジェムや魔女の正体を最初から説明しなかったの?」

 

「前にも言ったじゃないか、聞かれなかったからだと…」

 

「違う」

 

キュゥベえの返事を途中で遮るように否定する天馬。その瞳は何かを確信していた。

 

「本当は最初からその事を話したら、契約する女の子がいなくなるからじゃないの?」

 

「………」

 

「過去にそうしたら契約を拒まれたことがあるから、説明しないようにしたんじゃないの?」

 

「それは少し違うね。僕たちが契約した少女たちの中には魔女の正体を知っても契約した子もいたよ」

 

「だけど、すべての魔法少女がそうだったわけじゃなかった。そのほとんどが真実を知らない子ばかりだったんじゃないの?」

 

「僕たちはただ彼女たちの願いを叶えただけだよ。さっきも言ったけど、奇跡を起こす、希望を叶えるということに代償はつきものなんだ」

 

あくまで自分たちには非がないと言葉巧みに語り続けるキュゥベえ。

 

「だけど君たちはこの星の人たちの弱みに付け込み、自分たちの都合のために利用した」

 

しかし天馬も全くひるむことなく反論を続ける。

 

「すべての魔法少女たちの魂と身体を望まない形に変えて、過酷で孤独な戦いを強いらせた……その挙句に、一度でも絶望に負けたら立ち直ることも出来ずに死んでしまう宿命を背負わせた………マミさんは一人ぼっちになって、さやかさんは自分の存在に失望して、杏子さんは家族を亡くして、ほむらさんは出口もわからない時間の迷路に閉じ込められた!魔法少女たちはみんな………希望の未来を失って悲しんでた!!」

 

「松風天馬…」

 

ほむらたちのことをまるで自分のことのように熱く、嘆くように語る天馬に魔法少女たちは驚嘆していた。

 

「それだけじゃない。魔法少女のソウルジェムに穢れが溜まりきって砕けることでエネルギーを回収できるというなら………死ぬだけじゃなく、何で魔女が生まれるようにしたの?」

 

その質問に仲間たちも「そういえば…」と気が付く。インキュベーターのテクノロジーでは魔女からエネルギーを回収する術はない。彼らの目的を考えれば、グリーフシードに変化したソウルジェムから魔女を生み出すことは何のメリットも無いはずである。

 

「それは僕たちの意思じゃない。魔法少女の魔女化は僕たちのシステムの副作用だ」

 

「自分たちが生み出した副作用というなら、どうして改善せずにそのままにしたの?」

 

「必要なかったからに決まってるじゃないか。僕たちのエネルギー採取において問題は無かったから…」

 

「違う」

 

再び否定する天馬。

 

「問題が無かったんじゃない。その方が自分たちにとって都合が良かったからじゃないの?」

 

「どういう意味だい?」

 

「魔女を生み出す問題をそのままにしたのは、願いを叶える代わりに人々を脅かす存在を倒すっていう名目で魔法を使わせて一刻も早くソウルジェムを濁らすためだったんじゃない?魔法少女が絶望しなかった時の保険として!だから『魔女を倒すことが魔法少女の使命』だって言った。そうでしょ?」

 

天馬の指摘に仲間たちもハッと気がつく。どんなに強力な兵器でも、戦う必要が無ければ持っていても意味は無い。悪を倒すことを生業とする正義でも、倒すべき悪がいなければ存在する価値は無い。一つの存在から価値を生み出すためには、その存在がいて初めて成立する他の事象が必要になる。魔法少女の持つソウルジェムは魔力を使わなければ、よほどの事が無い限り急激に穢れていくことは無い。エネルギーを生み出さない魔法少女の存在など許さないインキュベーターはソウルジェムを効率よく濁らすために魔女という存在を利用して魔法を使わせた。それが天馬の指摘であった。

 

「否定するつもりはないよ。ただそうしなければ魔女が人々を襲うことを止められないのもまた事実だ」

 

「だけど、やっぱり人々の命を奪う魔女が生み出したのは君たちだよ。その結果、君たちのエネルギー回収とは何の関係もない人たちが犠牲になって、ワルプルギスっていう普通の魔法少女でも太刀打ちできない魔女まで生み出した!だったら、君たちがこの星の人たちを殺し続けているも同然じゃないか!」

 

「天馬、別の次元から来た君には関係ないだろうけど、この宇宙にどれだけの文明がひしめき合い、どれだけのエネルギーが消耗しているかわかるかい?この星の人類だって、いずれはこの星を離れ、僕たちの仲間入りをするはずだ。その時に枯れ果てた宇宙を引き渡しても困るはずだよね。長い目で見れば、これは彼らにとっても得をする取引の話のはずだよ。それを考えれば増え続けている人類のうちの一部の犠牲も大したことないよ」

 

「貴様!!」

 

キュゥベえの言葉に業を煮やした剣城が怒りの声を上げる。今の台詞は宇宙のエネルギーのために魔女にされたすべての魔法少女と、魔女によって犠牲となった人々に対する侮辱以外の何物でもなかったからだ。

 

「キュゥベえ、やっぱり君は何もわかってないよ」

 

しかし静止させるような天馬の静かな声が剣城を鎮まらせる。その瞳には怒りではなく哀しみが込められていた。

 

「わかってない?何のことだい?」

 

天馬の言葉の意味が理解できず、聞き返すキュゥベえ。一方で天馬はうつむいて表情を見せないまま話を続ける。

 

「どんなに広く整備されたグラウンドでも、そこでサッカーをしてくれる人たちがいなきゃ意味がない」

 

「…?いきなり何の話だい?」

 

「サッカーが悲しむ話だよ」

 

「サッカーが悲しむ…?おかしなことを言うね。サッカーは生物じゃない。足を使うただの球技じゃないか」

 

「よく言われるよ。でも、サッカーは俺にとって、色んな人たちと繋いでくれて、宝物で、友達みたいなものなんだ!そんな風に俺から離れられないものなんだ。サッカーも、ただサッカーをやる場所があるだけじゃなく、俺たちがやることの方がきっと喜ぶはずだよ」

 

「天馬…?」

 

「君は一体何が言いたいんだい?」

 

天馬の意図が分からず、キュゥベえだけでなく仲間たちも困惑していた。そして天馬は顔を上げて真っ直ぐにキュゥベえを見つめる。

 

「キュゥベえ。君たちにとって、この世界の宇宙は離れられない大切なものなんだよね」

 

「ああ、だからこそ遠い未来に滅んでしまうであろうこの宇宙を延命させようとしている。それが何だい?」

 

「だけど………誰かを犠牲にしてまで存続させることが本当に正しいの?」

 

「…?」

 

「君たちにとってこの世界の宇宙は………一体誰のため、何のための宇宙なの?」

 

「誰の、何のためだって…?もちろん、僕たちやこの星の人類も含めたこの宇宙の全ての生物のために…」

 

「だったら、やっぱり君たちのやり方は大間違いだよ」

 

「なんだって?」

 

「例え宇宙だけを延々に残し続けても、その宇宙で生きる人々を失ったら意味があるの?」

 

「生きる人々、だって…?」

 

ここで天馬は真剣な眼差しでほむらに顔を向ける。

 

「ほむらさん、嫌なことを聞きますけど、あなたの時間遡行した時間軸の中で、最後に魔女になったまどかさんはどれぐらいの強さだったか覚えてますか?」

 

「………この地球を飲み込めるぐらいの大きさで、その場に居合わせたインキュベーターは………10日で地球を壊滅させるほどの強さ………だと言ってたわ」

 

「「「なっ…!?」」」

 

苦い顔をしながら語るほむらの答えに戦慄が走る。たった1体の魔女がわずか10日という短い期間で星一つを滅ぼせる。それは明らかにワルプルギスを凌駕しており、魔法少女に戻すどころか戦うこと自体不可能に近かった。しかし天馬は「やっぱり…」と、その答えを予想していたかのように呟き再びキュゥベえに顔を向ける。

 

「ねえ、キュゥベえ。もしこの世界でそうなったら君たちはどうするの?」

 

「その時にはもうまどかからこの星でのノルマに達する量のエネルギーを採取しているだろうね。そしたら僕たちは別の星に向かうことになると思うよ」

 

「なんじゃと!?」

 

「なんて無責任な!」

 

声を張り上げる錦と神童。星の存続にも関わる問題を自分たちがもたらしておきながら丸投げして去るなど、どう考えても無責任極まりない行為に一同は再び驚くと同時に憤慨する。

 

「そんなことを繰り返すつもりなら、やっぱり宇宙が生き延びる意味なんてないよ」

 

しかしそれでも天馬は哀しみまじりの声色で言葉を紡ぐ。

 

「君はこの宇宙を否定するつもりなのかい?」

 

「キュゥベえ、君はさっき言ったよね。枯れ果てた宇宙を引き渡しても人類は困るって。だったら逆に、この宇宙に生きる人たちを犠牲にし続けてまで存在する宇宙って何?そんなの古くなる宝箱を中身の宝を使って直し続けて、最後には何も残らないのと同じじゃないか!そんなの誰も喜ばない!それこそ、この宇宙も!」

 

天馬は訴えかけるように叫びだす。インキュベーターのやり方では、この星に限らず、すべての星の人々が魔法少女の契約と魔女によって滅び、いずれ星そのものが滅んでしまうことも考えられる。空っぽになった宝箱に意味などない。宇宙ではなく、そこに生きている人々こそ宝だというのが天馬の主張だった。

 

「それは君の個人的な価値観に過ぎない。宇宙に感情なんてないよ。人間の感情というものはやはり理解しがたいけど、君はその中でも類を見ないほど異質な人間だよ。たった80年ぐらいしか生きられない一人の人間に何億年もの歳月を経たこの宇宙のことがわかるというのかい?」

 

「確かに俺たち人間はそれぐらいしか生きられないし、ましてや別の世界から来た俺はこの宇宙のことを語る資格なんてないかもしれない!だけど一人一人違う感情を持った限りある命がたくさんあるからこそ、世界は、宇宙は色づいてくるんじゃないか!だからこそ、宇宙がなければ俺たちも君たちも生きられないように、宇宙だって俺たちを必要としているはずなんだ!宇宙は今頑張って生きている多くの人たちがいるから存在する意味があるんだ!どんなにすごいグラウンドでも、そこでサッカーをしてくれる人たちがいなきゃ意味がないように!自分が存在するために誰かを犠牲にし続けるなんて………そんなの、サッカーも宇宙も悲しむよ!!」

 

「君の言うことは今まで見てきた人間たちの中で一番わけがわからないよ。君がどう言おうと、僕たちのやり方でこの宇宙を保ってきたことに変わりは無いよ。それとも僕たちが生み出すテクノロジーや化身以外の方法で宇宙のエネルギーをどうにかできるというのかい?」

 

「確かに今の俺には、他にエネルギーをどうにかできる方法なんてない。でもだからといって、今を精一杯生きている人たちを……どんな理由があろうと君たちが好きにしていいはずがない!生きる人たちと、その心をなんとも思っていない君たちを………認めるわけにはいかない!」

 

確固たる天馬の意思表明は、キュゥベえ以外の全員の心を震わせた。たとえ自分たちだけが良くても、代わりに他の誰かが犠牲になる。そんなことが誰よりも許せないのが松風天馬という少年だった。

 

「松風天馬…」

 

ほむらはそんな彼を再認識する。苦しむ人々を思いやり、自分の信念を真っ直ぐに貫こうとする彼の姿勢に惚れ惚れとしつつも羨ましく思っている自分がいた。

 

「………交渉決裂のようだね。まあ、構わないよ。君たちがこの世界にいる限りいくらでもチャンスはあるし、その間に化身を利用してエネルギーを回収できるからね」

 

「………」

 

「でもいくつか教えておいてあげるよ。どんな希望も条理にそぐわない場合は災厄をもたらすように、君たちがこの世界に来たことの全てがいいことばかりじゃないよ」

 

「なんだって…?」

 

「ほむらが時間遡行を繰り返したせいでまどかが強くなってしまったように、君たちが時空を超えてこの世界にやって来たことでこの世界の魔女たちの因果に変化が生じ、力を増してしまったようなんだ」

 

「「「!!!」」」

 

「じゃあ、美樹さやかの魔女が今まで以上に手ごわかったのは………」

 

「間違いなくその影響だよ。彼らがやって来たばかりの頃はまだそんなに影響は無かったみたいだけど、日にちが経って徐々に明白になってきたみたいだね」

 

なんてことない様に話すキュゥベえとは裏腹に天馬たちはそれぞれ悔しそうに歯を食いしばる。この世界にとって完全な異物である自分たちのせいで魔女が手強くなってしまったことに責任を感じていた。

 

「それともう一つ………ほむら、ワルプルギスが来るのはいつ頃なんだい?」

 

「………2、3週間後ぐらいのはずよ」

 

ほむらも魔女たちの強化という事実に対する衝撃を残しながらも冷静に答える。するとキュゥベえは「ふむ…」と、何かを考え込むようにうつむきながら黙り込む。やがてそれが終わったかのように顔を上げる。

 

「残念ながら………」

 

そして直後に放ったその言葉が、

 

 

 

 

 

 

「ワルプルギスが来るのは―――1か月半後みたいだね」

 

「ッ!?」

 

最大の衝撃となってほむらに襲いかかった。

 

「今、僕たちの母性にテレパシーでコンタクトを取り、ワルプルギスの襲来時期を計算した。その結果、ワルプルギスは1か月半後に見滝原を襲う。おおよその計算だけど、ほぼ間違いないようだよ」

 

「なんで………なんで、そんなに遅く…!?」

 

ほむらはこれまでで一番の動揺を見せ、信じられないように問う。

 

「これも彼らがこの世界に来た影響じゃないかな。ワルプルギス自身も因果が高まった分、この街に来るまでの移動スピードが落ちてしまったんだろう」

 

「な、なんてことなの…!」

 

ほむらは頭を抱えながら前進の力が抜け落ちたように再び膝を着く。

 

「ほむらさん!?どうしたんです!?」

 

「私はいつでも過去に戻れるわけじゃないの……私が転入する前日から、ある時までが時間遡行が出来るタイムリミットなの…」

 

「ある時?………それってまさか!?」

 

「ワルプルギスが見滝原を襲う日ですか!?」

 

恭介と仁美が感づく。

 

「ええ……正確には、ワルプルギスとの戦いの最中になる時間にタイムリミットを迎えてしまうの………もしワルプルギスが来るのが遅くなるというなら、ワルプルギスと戦うことなく時間遡行の能力が失われる……そしたら二度と時間を戻すことが出来なくなる…!」

 

異世界から来たイレギュラーたちによって多くの者たちが救われたこの時間軸はほむらにとってもかつてないほどの最高の世界だった。このままいけば、まどかを魔法少女にすることなくワルプルギスを倒せるかもしれないとも思えていた。しかし、時間遡行のタイムリミットまでワルプルギスが来ないとなれば、この時間軸がまどかを救える最後のチャンスにもなりうる。もしタイムリミットを迎える前に失敗してしまっても、まだやり直すことが出来る。しかしタイムリミットを迎えてしまった後ならその道は閉ざされる。まどかを救えず、二度とやり直すことも出来なくなるという最悪の結末を想像したほむらは顔面蒼白になって震えていた。

 

「暁美さん!」

 

「ほむらさん、しっかり!」

 

マミや葵が再び駆け寄るが、彼女は不安と恐怖に支配されて立ち上がることが出来なかった。

 

「そんな……僕たちがこの世界に来たせいで、ほむらさんを追い詰めることになるなんて…!」

 

信助は夢じゃないかと思いながら呟く。雷門一同は自分たちの存在が魔法少女の蘇生だけでなく彼女たちにとっての災いまでもたらしてしまった事実に唇を噛む。

 

「なんにせよ、より強力になったワルプルギスに君たちは勝てない。その時は魔法少女たちは魔女になり、まどかは魔法少女になるしかないという訳さ」

 

「ああもう!これ以上お前なんかと話しても疲れるだけだ!」

 

苛立ちが限界に達した水鳥は乱暴に片手でキュゥベえのウサギのような耳毛を掴み、ズンズン、と怒りを込めた足音を立てながら出口に向かう。

 

「あっ!水鳥さん、ちょっと待って!」

 

フェイは何故か水鳥を止めようとするが水鳥は既に出入り口の前に到達し、もう片方の手でドアノブを掴んでいた。

 

「さっさとこっから出ていき………っ!?」

 

そのまま怒りに任せて勢いよくドアを開けた直後、水鳥はそのまま凍り付いたように動きを止めた。

 

「アンタっ…!?」

 

「……っ」

 

「やあ」

 

そこにはドアがいきなり開いて驚いたのか、硬直している一人の少女がいた。水鳥はそれまでの苛立ちが一瞬かき消されるほど驚き、キュゥベえは平然と挨拶する。が、少女は気まずそうに黙ったままだった。

 

「……っ!とりあえず、お前は失せろ!」

 

「きゅっぷい!」

 

我に返った水鳥はキュゥベえを蹴り上げ、少女もそれに合わすように避けると、キュゥベえは弧を描きながら高く飛んでいき、やがて星となって見えなくなった。そして水鳥は呆れるようにため息を吐きながら少女に顔を向ける。

 

「………いつまでもそこにいるつもりじゃないだろ?入りな」

 

「………」

 

水鳥が招き入れるように体を横に向けて道を開ける。少女はおどおどしながらも中に入り、水鳥も続くように入りながらドアを閉める。そして天馬たちが少女を見ると水鳥と同じように目を見開く。

 

「ま、まどかさんっ!?」

 

それはこの会議のことすら知らないはずの、鹿目まどかだった。

 

 

 




というわけでBパートでした。

さてさてまどかの登場にほむらはどんな結論にたどり着くのか、この話し合いも次回で締めくくります。

感想お待ちしております。

自分で書いてやっぱり、拙く思うなぁ…。


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第15話『新たなる革命(カゼ)!』 Cパート

なんとか月末までに書きあがりました、Cパート。

前話からずっとみんな同じ場所で喋らせるだけでしたから書き方に苦労しました。(作者の技量の問題だろ)

最後のCパートはこの小説を読んでいる皆様もちゃんと見たかったであろう場面を描きます。

最後まで読み逃しなく!

それではどうぞ!






「まどか…!?何故、あなたが…!?」

 

ほむらは信じられないものを見たように驚く。この会議のことはまどかには秘密にしていたはずなのに。

 

「我々が君たちを見つけた時、彼女は既に君たちの後をつけていたんだ。そしてドアの前で聞き耳を立てていたところを接触し、そのまま待ってもらっていたんだ。ほむらには悪いが、彼女がいては話を聞けないと思ってな」

 

ワンダバがこうなることを予測、というより覚悟していたかのような冷静な声で説明した。

 

「つまり、最初から…!?」

 

「うん……聞いてたの……ワルプルギスのことも、ほむらちゃんのことも…」

 

まどかのその一言が弾かれたようにほむらの瞳を震わす。まどかは懺悔するかのように胸の前で軽く握った手をもう片方の手で包み込むとそのまま歩き出し、ほむらの前に立つ。

 

「まど…か…」

 

「ほむらちゃん、ごめんなさい……わたし、キュゥベえから魔法少女の話を聞いた後、いてもいられなくなって……そしたらみんながほむらちゃんの家に向かっているのを見かけたの……盗み聞きするつもりは無かったんだけど、わたしだけ呼ばれなかったことが気になって………」

 

「いいえ……あなたが謝る必要はないわ……呼ばなかった私が悪いのだから……」

 

ほむらは床に両手と膝を着けたまま、下を向いて長い髪を無造作に垂らす。その姿はまどかに対し、逆に詫びているかのようだった。

 

「ほむらちゃん、どうしてわたしのことをあんなに気にかけてくれてたのかわからなかったけど、全部わたしの為だったんだね………」

 

「……ええ」

 

「でも、そのせいでほむらちゃんは、わたしのために苦しみ続けることになっちゃった……」

 

「…っ!違うわまどか!あなたのせいじゃない!」

 

自責するまどかにほむらは弾けたように顔を上げて叫び出す。

 

「あなたは何も悪くない!こうなったのはすべて私自身のせい…私はあなたを助けたい一心で何度も時間を繰り返した。その過程での苦しみなんて、いわば自業自得……それどころか、そのせいであなたはキュゥベえに狙われやすくなってしまった…!苦しませてしまったのは、むしろ私のほうなのよ…」

 

「ほむらちゃん……」

 

自分を責めないでほしい。そう言ってるように感じ取れたまどかはそれ以上の自責の言葉を吐くことが出来なくなった。その代わり、痛々しい空気が彼女たちの心を締め付け、黙って見守っていた天馬たちも唇を結んだ。それでもまどかは勇気を振り絞って言葉を続ける。

 

「……一つだけ聞かせて……どうしてわたしには話したくなかったの?」

 

「………あなたは優しすぎる……私の事情を知ったら、私の為に魔法少女になってしまうかもしれない……そう考えたら、話すことが出来なかったの……」

 

ほむらは視線を再び床に向けて申し訳なさそうに呟く。まどかは何となくその答えが返ってくることが分かっていたように悲しげな表情を浮かべていた。

 

「怖かった……どんなに順調に進んでる時間軸でも、あなたが魔法少女になってしまったら意味を成さなくなってしまう……特に今回は誰も死なずにここまで来ることが出来た……それが、あなたが魔法少女になることで全て壊れてしまうのが怖かった……あなたが魔法少女になることが怖かったの……」

 

気づけばほむらの両眼からは涙があふれていた。

 

「それだけじゃない……本当に怖いのは、あなたと共に未来を歩める可能性を完全に失うことなの……このままワルプルギスが来るのを待ったら、もう二度と失敗は許されなくなる…!その時すべてを失うのが怖いの…!」

 

ほむらはその胸中の不安と恐怖を涙と共に床にぶちまける。

 

「私、どうすればいいかわからないの……せっかくここまで上手くいってるのに…!ようやく大切なことに気づけたのに!今回失敗したらもう二度とやり直せない……かと言って、今やり直したらあなたの因果が更に溜まってしまう…!やり直しても、やり直さなくても!あなたを不幸にしてしまう!私はただ、まどかをまどかのままでいてほしいだけなのに…!まどかと未来を歩みたいだけなのにっ!どうしてそれが叶えられないの!?どうすればまどかを救えるの!?誰か、誰か教えてよ…!うっ、うう…うぅ…!」

 

「ほむらちゃん…」

 

誰に向けられているのかわからないほむらの慟哭が無機質な部屋に響き渡り、まどかも目元から涙が滲みだす。

 

「ほむらさん…」

 

彼女の惨めな姿と嘆きが天馬の身体を泥や土で固められたような感覚に陥りさせ、掛ける言葉を失わせていた。

 

 

 

「な~~にを悩んどるんじゃ!」

 

 

 

「「え?」」

 

その時、どこからか年老いた老人のような声が聞こえた。天馬たちはその声に聞き覚えがあるのか周りを見渡し、ほむらたちも泣くのを忘れてキョロキョロするが姿は見あたらない。するとフェイの服の袖の中から何かが飛び出し、まどかたちもそれに気づいて目で追う。そしてそれが自分たちの頭上で止まり、その姿を視認すると、そこにはアルファベットの“C”の文字が埋め込まれている六角形の形をしたオレンジ色の石が浮いていた。

 

「お前さんは何もわかっとらんの」

 

「「「わあああっ!?」」」

 

「「「キャアアッ!?」」」

 

石から老人の声が飛び出し、ほむらたちは再び驚きの声を上げる。

 

「こ、これって…ソウルジェム?」

 

「でも飛んで喋るソウルジェムなんて聞いたことないわよ?」

 

「あー違う違う!ワシはソウルジェムじゃないわい!まあ、似たようなものだがな………」

 

老人口調の石は肩を竦めるように斜めに傾く。どうやらそのようにして自分の感情を表しているようだった。そして自身の向きを縦に直し、「ウオッホン!」と調子を整えるようにわざとらしく咳をした。

 

「ワシの名前は円堂大介(えんどうだいすけ)!今はとある事情があってこんな姿だが、れっきとした人間じゃ!」

 

「アレ、円堂って…」

 

「はい、大介さんは円堂守監督のお祖父さんなんです」

 

まどかが聞き覚えのある苗字だと気になり、天馬がすぐさま解説する。

 

「話は全て聞かせてもらった。ほむらといったな」

 

「は、はい」

 

「お前さんは何もわかっとらん。お前さんはようやく本当に大切なことに気づき、それまでの間違いを認めることが出来た。ならばこれからはその間違いを正し、たとえこの先どんな不安があろうと前に進むしかないじゃろ?いずれにせよ、そのワルプルギスとやらを倒さねば、その先の未来を歩めないことに変わりないではないか。今のお前さんは不安で未来への道が見えなくなっとるだけだ」

 

その瞬間、ほむらはハッと自分の成すべきことを思い出す。自分がこれまで時間を繰り返してきたのは、まどかを救い、彼女と共にワルプルギスを超えた未来を歩むためだった。そのために何度失敗しても、誰を犠牲にしても時間を繰り返した。たとえその間に幾つもの涙と命が落とされようとも。

 

「……今まではどんな最悪な結果を迎えようとやり直せばいいと思っていた……それが一番間違っていたけど、そう思っていたおかげで心に余裕を持てた……でも、もうやり直すことが出来なくなるかもしれないと思うと……失敗したときの不安で押しつぶされそうなのよ……」

 

ほむらは再び俯く。大介の説教はほむらも頭では理解していた。しかし絶望の未来に心が負けそうになっているほむらは昨日の無理心中を図ろうとしたマミのように不安を漏らしながら自分の体を抱く。すると、大介は「はぁ~」と、呆れるように息を吐く。

 

「やっぱりわかっておらんのう」

 

「え……?」

 

「やり直すことが出来なくなる?自分の人生がようやく本来の形に戻っただけじゃろ」

 

「本来の、形…?」

 

「よいか?人生というのは本来たった一度しかない。一生悔いが残ることがあっても、取り返しのつかないことを起こしても、やり直すことは出来んのだ。だからこそ人は一度きりしかない人生をわずかな希望を頼りに精一杯生きようとするのだ。その中で数えきれないほどの不安もある。絶対に避けられん問題もある。それらに怯えるのは仕方のないことだ。しかし、だからといってそれに(おく)しては一歩も前には進めん。どうせ避けられんのなら、思い切って前のめるしかないと思わんか?勇気を出して一歩を踏み出せば、そこがお前さんの歩む道になる。希望の未来に続く道にな」

 

大介の意見にほむらはさらに思い出す。マミと杏子は家族を亡くしてしまった。だが彼女たちは自分のように時間を戻して家族が死なないように未来を変えることは出来ない。しかし、だからこそ生き残った彼女たちはそれぞれの思いを抱いて魔法少女として生きている。何度も同じ時間を繰り返して彼女たちを見てきたが、どんな末路を迎えようとも、懸命に生きようとするその姿だけはどの時間軸でも変わらなかった。そして松風天馬はこれまでどんなに絶望的なことが起きても、後悔したくないからと勇気を振り絞って絶望に立ち向かい、希望を掴み取っていった。

 

「だけど私は、何も変えられなかった…」

 

ほむらは三度顔を伏せて、今にも泣きそうな声で言った。

 

「何度やり直しても、何も変えられなかった…!まどかを救えず、最後は再び時間を戻すだけだった…!その度にまどかと生きる時間がずれていく…!まどかと同じ時間を生きられなくなる!何度関係を築いても、やり直したら私を知らない他人に戻ってしまう!誰にも理解されないまま、ただ一人時間の迷路を彷徨い続けている私が……一体どんな道を歩めるって言うのよ!!」

 

ほむらは叫びながら両手の平を床に叩き付けて涙を流す。大介に何と言われようが、自分は何度繰り返しても誰も救えなかった。いつも誰かを犠牲にして失敗し続けていたという経験が大介の言葉を拒ませていた。

 

 

 

 

 

「何を言っとる……周りをよく見ろ……ここにはもう、お前さんのことを知らぬ者など一人もおらんではないか」

 

大介のその言葉にほむらはハッと顔を上げ、ゆっくりと振り返る。そこには自分の話を聞くために集まり、最後まで聞いてくれた仲間たちがいた。天馬も、フェイも、まどかも、いや全員がほむらに微笑んだり、頷いたりしていた。大介の言うとおりだと言うように。

 

「みんな…!」

 

「お前さんが見えなくなっとるのは、未来への道だけではない。その道しるべとなる仲間たちの存在じゃ。確かに不安だらけの道のりをたった一人で歩める者はそうはいない。その途中で挫け、倒れてしまう者ばかりじゃろう。だが、今のお前さんは一人ではない。たとえ何度挫けてしまっても、再び立たせ、背中を押してくれる仲間がいる。誰も救えない自分を変えてくれる者たちがいる。その時点でお前さんは既に彼らと同じ時間を歩んでいるのだぞ」

 

ほむらは思い出す。これだけの人数をこの場に揃えることが出来たのは、異世界から来た雷門のおかげだと。自分たちに大切なことを教え、共に苦難を乗り越えたことによって自分を含めた全員を成長させたからだったと改めて再確認する。

 

「暁美さん…」

 

「巴マミ…」

 

ほむらは立ち上がって体をマミに向ける。

 

「私もつい最近まで一人ぼっちだった。でも私の苦しみを知ろうとしてくれる人たちが現れて、私に安らぎをもたらしてくれた。そのおかげで私は自分を支えてくれるみんなを守りたいと思える自分になれた。まだ最初の一歩ぐらいだろうけど、前より強い自分になれたような気がするの。もうあなたも、そんな風に変わり始めてるのよ」

 

マミは自分の思いを混ぜながら論ずる。自分の心の闇を受け入れたその姿はこの世界で最初に天馬たちを助けた時以上の力強さを感じさせるものがあった。

 

「あたしもだよ!」

 

「美樹さやか…」

 

「ほむら……あたし、もっと強くなりたい!力はマミさんたちみたく、心は天馬たちみたく!もう二度と魔女にならないくらい……ここにいるみんなを守れるくらい強くなりたい!みんなが救ってくれたこの命を、みんなを守るために使いたい!あんたがあたしの大事な親友のまどかを守りたいって言うなら、あたしも全力で協力するよ!」

 

「さやかちゃん…!」

 

さやかは胸に手を当てて宣言し、まどかも明らかに以前より心が成長したさやかが心強く見えた。

 

「そういうこったな」

 

「佐倉杏子…」

 

「あたしもアンタもすっかりこいつらに感化されちまったってわけさ。“朱に交われば赤くなる”ってやつかな?おかげであたしもなんだか昔に戻っちまった気がするよ。ま、悪い気はしないさ。こいつらとこれからもバカ騒ぎするのもね」

 

杏子はそう言うと、いつもと同じ、あの八重歯を出した笑顔をほむらに向けた。

 

「僕もだよ」

 

「上条恭介…」

 

「僕は他のみんなと違って戦うことは出来ないけど、事情を知った立場として出来る限りのことはするよ」

 

「私も……皆さんのお役に立ちたいんです。ですから私が出来ることがあったら何でも言ってください。協力は決して惜しみません!」

 

「志筑仁美…」

 

「僕たちも思いは同じです!」

 

「俺たちも、もう他人事じゃないからな」

 

「なんにせよ、やるしかありませんからね」

 

「大船に乗った気でいるぜよ!」

 

「僕たちが力を合わせれば怖いものなしさ!」

 

「私たちも雷門だけじゃなく、みんなのマネージャーとして頑張ります!」

 

「頼りにしとけよ!」

 

「私、頑張る!」

 

「この大監督、クラーク・ワンダバット様の見せどころだ!」

 

信助、神童、剣城、錦、フェイ、葵、水鳥、茜、ワンダバ。雷門のメンバーも誰もが一切の迷いも不安もなく、屈託のない笑顔で胸を張り、共に絶望を乗り越える決意を露わにしていた。

 

「みんな…!」

 

「ほむらさん」

 

「松風天馬…!」

 

「ほむらさんは自分は何も変えられないって言ってましたよね。でも、みんなほむらさんの話を聞いて、これからの戦いに向けて更に気合が入りました!これはほむらさんのおかげなんですよ!」

 

「私の、おかげ…?」

 

「そう!ほむらさんが自分のことを打ち明けてくれたおかげで俺たちの絆がさらに高まったんです!ほむらさんが俺たちの時空を超えた絆をより強く、より堅いものにしたんです!だからほむらさんも絶対に変われます!誰かを救える強い自分に!俺たちみんなが力を合わせて強くなれば、希望の未来は必ず掴みとれるんです!」

 

「……!」

 

ほむらは天馬の言葉を心の中で何度も噛みしめる。自分たちの苦しみを受け止め、何度も苦難を乗り越えてきた天馬と雷門、そして彼らの影響を受けて強くなったマミたちを見て、ほむらは自分の心が憑き物が落ちたようにスッと軽くなっていく感覚を覚えた。

 

「ほむらちゃん…」

 

「まどか…!」

 

そして最後は自身の願いの原点であるまどかがほむらの前に立つ。

 

「ほむらちゃん……わたしがここに来たのはね、やっぱりほむらちゃんのことをちゃんと知りたかったからなの。それでほむらちゃんのお話を聞いて、言いたいことが出来たんだ」

 

「言いたい、こと?」

 

「そう……」

 

「!」

 

するとまどかは目を閉じながら包み込むようにほむらを抱きしめた。そして微笑みながらほむらの顔の隣でささやく。

 

「わたし、あなたを守りたい。一人ぼっちの寂しさから」

 

「……!」

 

ほむらの目が見開く。

 

「ほむらちゃん一人につらい思いをさせたくない。それはもちろん、わたしを守ってくれたことへの感謝と、時間の迷路に閉じ込めちゃった責任感もあるよ。ほむらちゃんは、わたしに責任と感謝を混同しちゃいけないって言ってたけど、そういうのも全部ひっくるめてほむらちゃんを支えたいの」

 

「まど…か…」

 

「ほむらちゃん。ちょっと前までのわたしだったら、あなたを支えるために魔法少女になってたかもしれない。でも、今は違う。わたしは魔法少女にはならないよ。それは戦うことが怖いからじゃない、そんなこと誰も望んでないってわかってるから。そんなことしなくても、こんなわたしでも出来ることがあるってわかったから」

 

「え……?」

 

「……わたしはこれといって得意なことも無くて、鈍くさくて何にも出来ないって思っていたから、魔法少女になれば誰かを助けられると思っていたの。でも、天馬くんたちが教えてくれたの。大事なのは助けたいって気持ちなんだって。その形は、なにも魔法少女じゃなくてもいいんだって」

 

ここでまどかは一度ほむらから離れ、少しだけ視線を下に移す。

 

「わたし、魔女と勇敢に戦うマミさんたちやすごいサッカーが出来る天馬くんたちが本当にすごい人たちだって思った。わたしなんかよりずっと前を歩いてて、魔法少女にでもならなきゃとても追いつけないんじゃないかって思ってた」

 

「でも…」と、まどかは言葉をつなげると天馬の方に振り向く。

 

「天馬くんは、いつもわたしたちの隣で一緒に歩いていたの。いつも誰かの苦しみと向き合おうとしてくれてたの。だからわたしは天馬くんが誰よりすごいって思えたし、だからこそ雷門のキャプテンになれたんだってわかったの」

 

「まどかさん…」

 

天馬は嬉しそうに微笑み、彼以外の全員がまどかの意見に同意する。苦しむ仲間を勇気づけ、支えようとする天馬の姿勢は雷門全員に影響を与え、彼の影響を受けた信助、神童、剣城がそれぞれ、マミ、さやか、杏子の苦しみと向き合った。その結果、彼女たちはもちろん、それを通じて恭介や仁美、そしてまどかやほむらにまで影響を及ぼし、その心を成長させたのであった。そしてまどかは視線をほむらに戻す。

 

「そしてそれは、魔法少女にならなくても出来ることだってわかったの。誰かの苦しみを受け止めて、その人と一緒に強くなればいいんだって。魔法少女じゃなくても、ほむらちゃんと並んで歩くのはそんなに難しいことかな?」

 

「それ…は…」

 

 

 

(―――やったね!ほむらちゃん!)

 

 

 

まどかの力強い微笑みにほむらは言葉を失う。今のまどかの微笑みはかつて自分を助け、魔法少女になったばかりの自分に向けていた時と同じ、陽だまりのように暖かいものだった。その笑顔に何度も救われていたほむらは足の力が抜けてしまい、その場にへたり込む。まどかは彼女に続くように膝立ちになり、再びほむらを抱きしめて目を閉じる。

 

「ほむらちゃん。あなたがこれまでどんなにつらい思いをしてきたか、わたしはその全部をわかってあげることは出来ない。でも、この世界は違うんだよ?わたしも、マミさんもさやかちゃんも杏子ちゃんも、みんな生きてる。魔法少女とは関わりなかった上条くんや仁美ちゃん、そして天馬くんたちも、みんなほむらちゃんのお話を聞いて、そのつらい気持ちを受け入れて、一緒に戦おうとしてくれてるんだよ?今のほむらちゃんは一人じゃない。もう一人で時間の迷路を彷徨う必要なんて無いんだよ?」

 

「……!」

 

ほむらの両眼から大粒の涙が溢れだす。

 

「だから一人で抱え込まないで、一緒に頑張ろうよ……わたしはほむらちゃんの友達でいたいし、ほむらちゃんと一緒に未来を歩きたいから……」

 

そう言うとまどかはほむらをぎゅっと少しだけ強く抱きしめる。自分の身体と心の熱で彼女を暖めるかのように。

 

「う、あ、あぁ…」

 

まどかの言葉が、ほむらの心の最後の壁を壊した。もうほむらは溢れだす感情を抑えることが出来なかった。

 

「まどか……まどかぁっ!!!」

 

ほむらは津波のように両手を広げてまどかを抱きしめる。まどかは逃げることなく穏やかな表情のまま、慰めるようにほむらの背中を撫でていた。

 

「ほむらちゃん……今まで一人でよく頑張ったね……でも、これからはわたしたちがいるから……わたしたちみんなが、ほむらちゃんを支えるから……」

 

「う、うぅ…!うう…!」

 

ほむらはただひたすら泣き続ける。張り詰めていた心がほどけていくように、恥も外聞も捨てて泣き続けていた。

 

「まどか……みんな……

 

 

 

 

 

 

ありがとう…!」

 

 

ほむらはたまらず、無意識にそう言った。天馬たちは少しだけ驚きつつも、すぐに顔を(ほころ)ばす。まどかに受け入れられ、やっと素直になれたことが嬉しくてたまらなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?ほむらちゃん」

 

数分後、ようやくほむらも泣き止み、いつもの平静さを取り戻していた。

 

「ええ……少し恥ずかしいところを見せちゃったわね」

 

「そんなことないよ。むしろわたしは嬉しかったよ。だって……やっと本当のほむらちゃんが見れたから」

 

まどかはニコッとほむらに笑顔を向けた。ほむらにはその笑顔が自分と本当の友達になれて嬉しいという思いが込められているように感じられた。

 

「まどか…」

 

「しかし、今回の話し合いでも分からないことが残ってしまったな」

 

「え?」

 

突如口を開いたのは神童だった。

 

「このマギカボールと指輪の事さ。ほむらさんの話を聞く限り、関連性は無いみたいだからな」

 

神童は自分のマギカボールが入った袋を見せながら葵たちの指輪に目を向ける。

 

「確かに。じゃあ、あの時俺にこのボールを託したのは一体誰なんだろう…?それにどうして俺にだけ直にこのボールを…?」

 

天馬も自分のボール袋を見つめながら首をかしげる。自分たちにマギカボールを与え、そしておそらく葵たちにも指輪を与えたであろう人物は一体何者なのか。キュゥベえでもほむらでも解明できなかったことに一同の頭を悩ます。

 

「でもこのボールがあったから、僕たちはここまでやれたんだよね」

 

「そうだね。俺たちのサッカーでみんなを助けられたんだ!きっとこれをくれたあの人も…!」

 

喜ぶ、と言いかけたところで天馬は思い出す。あの少女の言葉を。

 

 

 

(わたしたちを救って…!)

 

 

 

「そっか…!そういうことだったんだ!」

 

「天馬?」

 

「俺、ずっと気になってたんです!俺にこのボールを託した人が言ってました!わたしたちを救って欲しいって!あの人は一体誰なのか、誰を救って欲しかったのかわからなかったけど、ここへ来てようやくわかったんです!」

 

天馬はパアッと道が開けたように笑顔になり、袋からボールを取り出して高く掲げる。

 

「あの人が救ってほしかったのは………ほむらさんたち、魔法少女のことだったんだ!!!」

 

「魔法少女を、救う…!?」

 

ほむらが驚きつつも、心のどこかで納得していた。確かに今の彼らの持つ力は魔女と戦い、魔女を魔法少女に戻すという魔法少女のための力。それだけで天馬の結論には説得力があった。

 

「じゃあ、僕たちにマギカボールをくれた人も魔法少女だってこと!?」

 

「そこまではわからないけど……でも信助。俺、決めたよ!」

 

「え?」

 

天馬はマギカボールを胸元まで下げながら信助に顔を向けた。

 

 

 

 

 

「この世界に―――“カゼ”を起こそう!」

 

「天馬!」

 

天馬の“カゼ”という言葉に信助は高揚する。

 

「そうだな!」

 

「やるか!」

 

「ここまで来たらやるしかないよね!」

 

他の雷門のメンバーたちもそれぞれ同意の声を上げた。

 

「カゼ…?」

 

“カゼ”の意味を知らないまどかたちは怪訝な顔をする。すると葵が説明し出す。

 

「以前神童先輩が少し話しましたが、私たちの世界のサッカーはかつてある組織に支配され、誰もが楽しめないサッカーを強いられていました。でも私たちは楽しいサッカーを……本当のサッカーを取り戻すために、天馬を中心として革命を起こしました。それが“カゼ”!みんなの笑顔を取り戻す為に掲げた……革命という名のカゼなんです!」

 

「革命という名の、カゼ……」

 

「なんかカッコイイじゃん!」

 

マミが自分の心に響かせるように呟き、さやかもその言葉の響きに興奮気味になる。

 

「魔法少女を絶望の運命から助け出す!それがこのボールをくれたあの人の願いで、この世界のカゼなんです!」

 

天馬は目標が決まったことを喜ぶかのように再びボールを高く上げる。

 

「おお!なんかテンション上がってきたぜよ!」

 

「で、具体的にはどうすんだ?」

 

杏子のその一言で天馬たちは機械のように一斉に動きを止めた。

 

「え、え~と…」

 

天馬は一筋の汗を流してどもってしまった。

 

「おい……まさか何の策も無しに、『魔法少女を救う』なんてそんな大層なことほざいたのか?」

 

「あ、あははは…」

 

「はぁ……ちょっとでも期待したあたしがバカだったよ…」

 

苦笑いする天馬に杏子は呆れてしまう。

 

「いや、僕たちがこの世界に来た時点でその方向に向かってると考えた方がいい」

 

「フェイ?」

 

「天馬、話から察するに僕たちをこの世界に送り込んだのも、マギカボールと指輪をくれた人ってことだよね」

 

「う、うん」

 

「僕たちはこの世界に送り込まれ、マミさんたち魔法少女や、まどかさんを救うため、最強の魔女ワルプルギスと何度も戦っているほむらさんと出会い、彼女たちの戦いに関わった。これはとても偶然とは思えないよ」

 

「あの人が意図的に俺たちをこの街に送り込んだってこと?」

 

「確かにあなたたちは、私たちの運命を大きく変えたわ。まるであなたたちがそうするためにこの街に現れたかのように…」

 

天馬の推測にほむらも同意する。

 

「そう、そして僕たちがこの世界にイレギュラーな存在として送り込まれたことでこの世界の魔女に影響を与えた。上条さんと仁美さんがキュゥベえを視認できるようになったのはその余波。しかし何よりも影響を受けたのはワルプルギスで、本来よりも大きく遅れることになった。だけど、こう言っちゃほむらさんに悪いけど、逆を言えば僕たちにとってその方が都合がよかったのかもしれない」

 

「どうして?」

 

まどかが尋ねる。

 

「本来ワルプルギスが来るはずだったのは2、3週間後だった。でも僕たち雷門のメンバーは今の時点でもまだ全員揃っていない。いざワルプルギスと戦う本来の時期までに残りのメンバー全員が揃うという保証もない。だからワルプルギスが来るのが遅くなったというのは、それだけワルプルギスと戦う準備期間が延びたということになる」

 

「な、なるほど」

 

「そしてそんな風に最強の魔女とはいえ、ワルプルギスだけがそこまでの影響を受けたことも偶然とは思えないんだ」

 

「何にせよ、俺たちがすべての真実を知り、魔法少女を救うにはワルプルギスを倒した先にある。ということか」

 

「そういうことだね」

 

神童の結論にフェイは相槌を打つ。

 

「でも、みんな本当にいいの?あなたたちの目的は元の世界に帰ることじゃなかったの?」

 

マミが本来の目的を捨ててしまいそうな天馬たちの勢いに不安がる。

 

「もちろん忘れてませんよ。でも俺たちももう無関係じゃありませんし、ほむらさんにも言いましたけど事情を知った以上、助けてあげたい気持ちに嘘はつきたくないんです。そうだよね、みんな!」

 

天馬の呼びかけに雷門の全員が力強く頷いた。

 

「あなたたち…」

 

「それに元の世界に帰る方法もまだわかってませんし、まだ他のみんなも見つかってませんしね」

 

「けどあんたたち、もしメンバーが全員揃ったとしても、みんなまとめてマミさん家に厄介になるつもり?」

 

さやかが雷門の衣食住について尋ねる。

 

「確かに……佐倉さんも招いちゃったし、これ以上増えるとなると家が狭くなってしまうわね…」

 

マミが頬に手を添えて頭を抱える。

 

「だったら、私の財閥の管轄の施設を紹介すれば……」

 

「無理よ。彼らにはこの世界での身分を証明するものが無い。いずれボロが出るわ」

 

「うぅ…」

 

ほむらが仁美の案をバッサリ却下する。

 

「メンバーの内、半分を私の家で過ごすとしても、さすがに一人暮らしの女子中学生の家に複数の男子が寝泊まりしては目立ちすぎるわ。メンバーが更に増えることも考えると尚更だわ」

 

「確かに……実は俺たちも、いつまでもマミさん家に世話になり続けるのも良くないかなって思ってたんですよね」

 

的を射たほむらの考えに天馬は申し訳なさそうに頭の後ろを掻きながら悩む。彼らとてある程度の礼儀はわきまえている。食事はマミの家でも行なうとしても、せめて自分たち男子だけの寝床は確保すべきだと思った。しかし、自分たちはこの世界の住人ではない中学生。そう都合のいい寝床など確保できるとは思えなかった。

 

「それなら大丈夫だよ」

 

「え?」

 

何故かフェイが軽くそう言った。どうやら何か根拠がありそうだった。

 

「みんな、ちょっとついてきてもらえるかな?」

 

 

 

 

 

~~河川敷~~

 

 

 

フェイに連れられ、一同がやって来たのは河川敷だった。日没が近いせいか川の水面が赤く光っている。そしてフェイは車が通る陸橋の下で足を止めた。それに合わせるように天馬が尋ねる。

 

「河川敷に何があるの?」

 

「実は僕とワンダバは昨日ここに飛ばされていたんだけど、僕たちのそばにあったのはマギカボールだけじゃなかったんだ」

 

「というと?」

 

「まあ見てて、みんな驚くと思うから。ワンダバ!準備はいい?」

 

「おう!準備はオーケーだ!」

 

合図を送るフェイにワンダバは相槌を打つと、どこからか真ん中に大きな赤いボタンが着いたリモコンを取り出す。

 

「ワンダバスイッチ、オン!」

 

橋の下の影になってる部分に向けてボタンを押すと、そこから何か大きなものが出現した。

 

「あっ!これって…!」

 

それは多くの人数を乗せられるであろうイナズマのマーク入りの青い流形型のバスだった。

 

TM(ティーエム)キャラバンだ!」

 

「TMキャラバン?」

 

「イナズマタイムマシンキャラバン、通称TMキャラバンだ。私たちが時空を超えるために活用しているタイムマシンだ!」

 

「タイムマシン!?これが!?」

 

「見た目は普通のバスみたいだけど?」

 

さやかとまどかがバスを指さす。

 

「ああ、かつて雷門で作られたイナズマキャラバンバスを参考に私が設計したのだ」

 

ワンダバが自慢するように「えっへん」と威張りながら説明する。

 

「これでいつでも僕たちの世界に帰れるんだね!」

 

まず自分たちの最終目標が解決したことに喜ぶ信助。

 

「いや、残念ながらこの世界に来た影響で一部が故障してしまったらしくてな。今は普通のバスとしてでしか使えんのだ」

 

「ありゃ?」

 

「だが、中で寝泊まりは出来るし、陸地でなら魔女を探して遠くまで行くことも出来るぞ。このキャラバンバスが、我々の前線基地になるのだ!」

 

「おお!なんか本格的じゃん!」

 

ワンダバが士気を高めんと拳を突き上げ、さやかも乗り気で気合を入れる。

 

「みんな」

 

一番後ろにいたほむらが突如呼びかけ、全員が振り向く。ほむらは何かを決意したように真剣な表情をしていた。

 

「みんなのおかげで、私も覚悟を決めたわ。―――もう時間を戻さないと」

 

「!!!」

 

ほむらの鋭い眼光を研ぎ澄ましながらの決意に全員が震える。

 

「本気か…?」

 

「ええ。何にせよ、これ以上まどかの素質を高めるわけにはいかないわ」

 

水鳥の問いに迷うことなく頷くほむら。そしてその真剣な表情を保ったまま目を閉じた。

 

「これが私にとっても最後のチャンスにするわ。何としてもまどかを守りきり、まどかと……みんなと一緒に未来を歩みたい。だから……」

 

ここでほむらは目を開けて仲間たちに視線を向ける。

 

「巴さん…」

 

「!」

 

「さやか…」

 

「!」

 

「杏子…」

 

「!」

 

「仁美、上条くん…」

 

「「!」」

 

ほむらは一人一人視線を合わせながら仲間たちの名を呼んでいく。

 

「剣城、信助、神童くん、錦くん…!葵、水鳥、茜…!フェイ、ワンダバ、大介さん…!」

 

そして最後はもちろん。

 

「まどか、

 

 

―――天馬!」

 

「「!」」

 

「私と一緒に、“カゼ”を起こしてくれる?」

 

胸に手を当てて問う。そして天馬たちはお互いを見合いながら無言で答えを確認し合い、頷く。その答えは既に決まっていた。

 

「もちろん!」

 

「ええ!」

 

「やるしかないね!」

 

「頑張りましょう!」

 

誰もが揺らぐことなく共に戦うと答えてくれた。ほむらはそんな仲間たちを嬉しく思い、「フフ…」と、笑顔を見せた。それは今までの仏頂面の口元が緩むようなものではなく、年相応の可愛らしい笑顔だった。

 

「あ!ほむらちゃん笑った!」

 

「え?」

 

「フフフ。暁美さんも笑うとちゃんと可愛いじゃない」

 

「あ……その…///」

 

不覚をとった、と一気に顔が真っ赤になるほむら。その恥ずかしそうに照れている姿がまどかたちにますます可愛いと思わせた。

 

「ほぉ~。普段は能面みたいな顔したあんたもそんな顔できたんだ~。いいもの見ちゃった!」

 

さやかは顎に手を添えながらまるで新しいおもちゃを得たこどものようないたずらな笑みを浮かべていた。

 

「そ、それよりも!これからワルプルギスと戦うための準備が必要でしょう!どうするべきかわかってるの!?」

 

ほむらは顔をそらし、先ほどの失態を振り切らんと大声で話を切り替えようとする。

 

「だったらやることは決まってます!」

 

「え?」

 

天馬が両手で拳を作りながら断言する。

 

「やることって、まだ見つかってない雷門の人たちを探すこと?でもまだ何の手掛かりも見つかってないんだよ?」

 

まどかが怪訝な顔をしながら天馬に尋ねる。

 

「もちろんそれも大事ですけど、今のままでも、みんながそろっても出来ることがあります!」

 

「それって…」

 

「特訓ですよ!これからの戦いに向けて、みんなで特訓して強くなるんです!」

 

「やっぱりそうなるか」

 

「でもそれが僕たち雷門ですよね!」

 

神童と信助が同意する。そして他の仲間たちも同様に納得していた。

 

「よーし、みんな!ワルプルギスに向けて、頑張るぞ!!!」

 

「「「おぉーーー!!!」」」

 

拳を空に突き上げて叫ぶ天馬に雷門のメンバーは全員拳を突き上げた。まどかたちも彼らのそんな姿を頼もしそうに見守っていた。

 

(戦える…!このチームなら、戦える…!私たちにカゼを起こした彼らとなら……きっとどんな絶望だって跳ね除けられる…!)

 

ほむらも、まどかを守るために捨ててしまったある思いを込めた眼差しを彼らに向けていた。

 

「ほむらちゃん」

 

「!まどか…」

 

まどかが横から顔を出して笑顔を向けた。

 

「これから……頑張ろうね!」

 

「……ええ!」

 

笑顔で語り掛けるまどかにほむらは力強く答えた。そして再び、士気を高める天馬たちに眼差しを向けた。そう―――

 

 

 

 

 

“信頼”という名の眼差しを。

 

 

 

(まどか、あなたを必ず守り抜いて見せるわ……決して一人ではなく……ここにいる最高の仲間たちと共に!)

 

ほむらは希望に満ち溢れた目でまどかを守るという決意を改めて固める。夕日で赤く染まった河川敷でそよ風が吹き、彼女の長い黒髪をなびかせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど………こんなことが起きるのね………」

 

暗い部屋の一室で、豪華な造りの椅子に座りながら一致団結した天馬たちを過去(・・)から見ている少女がいた。白いドレスを身に包み、美しい銀髪を垂らしながら不敵に微笑む。

 

「とりあえず、この時までは様子を見ましょう。でも、もしこの時を迎えてもあの予知が見えるようであれば、その時は私自身の手で彼女を始末しなければならないわ………」

 

少女は今も見える光景の中で笑顔でほむらと並んで立つまどかの姿を捉える。そして椅子から立ち上がり、呟く。

 

 

「――――私の世界を、守るために」

 

 

 




――ED『HAJIKE-YO!!』(歌:空野葵)――





???
「フフフフフ!ようやく……ようやく私の出番が来たわ!この時が来るのをずっと待ってたわ!さあ、次回から私の活躍を読者の皆様にお見せし……」



あ、ごめん。ここまで盛り上げておいて申し訳ないけど次回は君の出番は無いよ?



「………え?」







次回予告

天馬
「ほむらさんとも分かり合え、俺たちは遂に一つになった!迫りくるワルプルギスに向けて、俺たちは特訓を始める!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第16話『見滝原の特訓!』」




というわけで、ようやくほむらも本当の意味で天馬たちの仲間になれたのでした。
あ~長かった。

さてようやく話に一区切りつけられたので、そろそろこれまでのお話のうち4話までの台本形式とかそのほかキャラの初登場時での名前の振り仮名づけなど、直す必要があるなと思ったとこを直しておこうと思います。


ほむら
「また次回の投稿遅れるわね」

うっ…!


さてこのイナ☆マギ、先ほども言った通り一区切りを付けました。ここまではいわば、名づけるなら第1章『まどか☆マギカ』編………




そして次章より新展開!

人気のあのキャラこのキャラたちが続々登場!

まどかの命を狙う謎の白い魔法少女現る!
天馬たちは果たして、まどかを守り抜くことができるのか!?

次章より、『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第2章『おりこ☆マギカ』編スタート!


まだまだ文章下手くそですが、ご感想お待ちしております。



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イナ☆マギ・ギャグ外伝!


天馬
「え~と………何ですか、これ?」

うん、実はこの『イナズ☆マギカ』、略してイナマギ。他の作者さん達の作品を読んで足りないものがあると思ったんだ。

まどか
「足りないもの?」

それは………笑い、いわばギャグだ!!!


「ギャグ?」

そう、イナイレとまどマギは両方共基本真面目な話だからこういうちょっとした笑いも必要だなって思って。

杏子
「いやいやこれから新展開だっていうのに何余裕ぶっこいてんだよ!?」

ぶっこいてません。ネタ考えるのはシリアスだろうとギャグだろうと大変なんだから。文句を言うなら他のウチの子にでもなりな。

さやか
「お母さん!?夕飯の献立にケチ付けられたお母さんみたいな事言ったよこの駄作者!」

真面目すぎる話には時々スパイスを効かせる必要があるんだよ。

マミ
「うまいこと言ったつもりですか!?」



というわけで時々、思いついたものをこうして投稿することにしました。イナイレGOであったギャグ外伝みたいな感じで読んでください。

オリジナルあり、NGあり、キャラ崩壊ありのイナマギギャグ外伝!

クスッと笑えてもらえたら幸いです。ではいつもと違うイナマギワールド、どうぞ。







 

~~カッコつけマミさん~~

 

 

マミ

「年長者だし、皆の前でカッコつけなきゃね!」

 

まどか

「マミさん、魔女が現れました!」

 

マミ

「任せて!はっ!」

 

マミは空高くジャンプする。

 

マミ

「ティロ・フィナーレ!!!」

 

「―――ギャアアア!!!」

 

マミの代名詞ともいえる必殺技を喰らった魔女は消滅し、マミは目をつぶりながら反転で華麗に着地した。

 

マミ

(ふっ、決まったわ……)

 

まどか

「あ、あのマミさん…///」

 

天馬

「う、後ろ……///」

 

マミ

「え?」

 

 

 

 

信助

「ブシャーーーー!」

 

後ろを見ると信助がマミのスカートにマミられてた。

 

マミ

「きゃああああっ!信助君!///」

 

のちに少年は語った。黒いレースの世界を見たと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第1話・NG~~

 

 

天馬

「大変だ!でやあっ!」

 

天馬は怪物たちに向けてシュートを放つ。

 

 

バチコーンッ!

 

 

さやか

「ぶっ!!!」

 

天馬

「あ」

 

まどか

「」

 

使い魔

「」

 

あろうことか、ボールはさやかの顔面に直撃した。

 

 

 

さやか

「………」

 

 

 

ゴゴゴゴゴ……!

 

 

 

天馬

「あ、いや、あの……ご、ごめんなさい、わざとじゃ」

 

さやか

「いっぺん……死ンデミル?」

 

天馬

「え!?どっからサーベルを!?ちょ、ちょっとま……あ…」

 

 

 

 

 

―――ギャアアアアアァァァ!

 

 

 

 

 

 

『魔球闘士イナズ☆マギカ』 完!

 

 

マミ

「ちょ、私の出番は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第2話・NG~~

 

 

天馬

「……ノート?」

 

まどか

「と、とりあえず、衣装だけでも考えておこうかと思って……」

 

「「「………」」

 

マミ

「…フ…フフッ……うん、意気込みとしては十分ね」

 

さやか

「ゲホッ…ゲホッ……こりゃあ参った………あんたにゃ、負けるわ」

 

天馬

「し、信助………笑っちゃ悪いよ……く、くく……!」

 

信助

「て、天馬こそ………ふ、ふふふっ……うっ!!!」

 

天馬

「ど、どうしたの信助?顔色が悪いよ!?」

 

信助

「わ、笑いをこらえてたら、さっき食べたビッグバーガーが、もど……ウッ、オボロロロロロ!」

 

天馬

「ぎゃあああ!信助がリバースしたあぁ!」

 

さやか

「あっ、やば。見てたらがっつりセット食べたあたしもオボロロロロロ!」

 

まどか

「にゃ゛ーー!さやかちゃんのゲロがわたしのノートにオボロロロロ!」

 

マミ

「……すいません、エチケット袋ってあります?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第3話・NG~~

 

 

マミ

「……さてと、いるんでしょう?出てきたらどうかしら?」

 

不敵な笑みを浮かべながら後ろに振り向く。

 

マミ

「暁美ほむらさん」

 

 

 

 

 

 

 

「ママ~あのお姉ちゃん一人で何してるの?」

 

「シッ!指を指しちゃいけません!」

 

振り返った先にいたのは、何の変哲もないただの親子だった。

 

「………」

 

 

 

 

 

マミ

「………グスン」

 

 

 

ほむら

(……出なくて良かったわ……でも、なんかごめんなさい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第4話・NG~~

 

 

天馬

「―――『魔神ペガサスアーク』!!!」

 

 

 

 

天馬の背中から出現したオーラが広がると翼を形成するかのように形を成していく。藍色のオーラが消えるとそこから背中から真っ白な翼を生やし、強固な肉体とボリュームのある長い赤髪を持ち、頭にペガサスを模した装飾を着けた巨人が雄叫びを上げながら現れる。

 

天馬

「はああああぁぁぁっ!」

 

天馬がマギカボールを魔女に向かってシュートする。するとそれに合わせるようにペガサスアークも雄叫びを上げながら拳を伸ばす。

 

 

 

 

 

ドゴォ!

 

 

 

 

と思いきや、腕を真横に伸ばして魔女にラリアットを食らわせた。

 

 

 

まどか

「は…?」

 

さやか

「おーっとここでペガサスアークの見事なラリアットが決まったーーっ!魔女が地面に転がるーっ!」

 

天馬

「はああああっ!!!」

 

さやか

「天馬選手、抱えるようなモーションに入るとー!?」

 

ペガサスアーク

「おおおおおおおぉぉぉ!!!」

 

さやか

「何とペガサスアークも魔女を抱き上げ、そのままジャーマンスープレックスだーっ!!!」

 

ペガサスアーク

「おおおおおおおぉぉぉ!!!」

 

さやか

「ペガサスアーク、攻撃の手を緩めない!魔女のしっぽを掴み!」

 

ペガサスアーク

「おおおおおおおぉぉぉ!!!」

 

魔女

「ギャアアア!」

 

さやか

「そのまま豪快にジャイアントスイングだーっ!」

 

天馬

「いけーっ!ペガサスアーク!」

 

信助

「そこだーっ!やっちゃえーっ!」

 

まどか

「もうこれ完全にサッカーじゃなくなってるよ!ていうか天馬くんたち、あの巨人に任せて座って観戦してるし!あれもう絶対自我が芽生えてるでしょ!」

 

ペガサスアーク

「おおおおおおおぉぉぉ!!!」

 

さやか

「トドメはキ○肉バスターだーっ!!!」

 

キュゥベえ

「わけがわからないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第5話・NG~~

 

 

「これで……終わりだぁ!!!」

 

少女は剣を振りかぶりながら落下する。

 

「スパークエッジ!」

 

少女はそう叫ぶと剣を振りおろし、魔女に縦一閃が入る。少女が魔女の下に着地した時には少女の影とパソコンが真っ二つになって消滅していた。

 

「どう、初めてにしてはなかなか上出来だったでしょ?」

 

まどか

「さやか……ちゃん!?」

 

まどかたちはポカンと口を開けて彼女を見ていた。

 

 

 

 

 

 

―――頭からバケツを被り、身体のあちこちにガラスの破片が突き刺さっている全身ずぶ濡れのさやかを。

 

 

 

 

 

 

まどか

「さ、さやかちゃん……なの?」

 

さやか

「何?まどか、あんた親友の顔を忘れたの?」

 

水鳥

「いやいやバケツで丸々顔被ってるからわかんねーよ!」

 

「洗剤の香り……」

 

さやか

「参ったよー。まどかを助けようとこの工場に来たらいきなり上から洗剤の入ったバケツとガラスが降ってきたんだもん。どこのどいつよ、こんなもん落としたの。もうサイアク!」

 

まどか

「………」

 

口が裂けても真実は言えないまどかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第6話・NG~~

 

 

 

「魔法少女じゃなくとも……いえ、魔法少女じゃないからこそ出来ることがあるんです」

 

ほむら

「魔法少女じゃないからこそ出来ること…?」

 

「それは………

 

 

 

 

 

それは魔女に向けて、デスビームを放つことです!」

 

 

 

 

「「「………は?」」」

 

 

 

 

「魔女を指さして、デスビームで天馬たちをサポートするんです!」

 

まどか

「いやいや何言ってんの葵ちゃん!?わたしたち指先からビームなんて出ないよね!?」

 

「まどかさんだって、ゾンビと戦うオジサンのために、デスビームでアイテムを見つけたりしてます!」

 

まどか

「それ声が同じだけの違う子だよ!ていうかその子もビームなんて出さないし!」

 

「こんな格言があります。『ビームという響きは人の心も貫く』と」

 

まどか

「それ格言じゃなくてどっかのアニメのサブタイだから!葵ちゃんがボケちゃダメ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第7話・NG~~

 

 

 

さやか

「舐めんじゃ、ないわよ………」

 

さやかはソウルジェムを掲げる。

 

まどか

「さやかちゃんゴメン!」

 

まどかはさやかと杏子の決闘を止める為に暴挙に出た。

 

 

 

ブチッ、ブチッ!

 

 

 

剣城

「!?」

 

まどか

「えーい!」

 

 

ブン!グサグサッ!

 

 

さやか・杏子

「」

 

 

まどかは剣城のモミアゲを引きちぎってブン投げると、さやかの後頭部と杏子の額に刺さり二人はその場でブッ倒れた。

 

まどか

「ふー、良かった」

 

マミ

「良くないでしょ!」

 

水鳥

「おい、剣城が倒れこんで死んでるぞ!」

 

信助

「モミアゲ失くしたから!?」

 

神童

「ああ!さやかさんのソウルジェムが倒れた拍子に転がって橋の下に!」

 

天馬

「こんなの絶対おかしいよぉーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~第8話・NG~~

 

 

まどか

「良かった……マミさん…」

 

水鳥

「あれ?まどかじゃねぇか!そんなとこで何やってんだ?早くこっち来いよ!」

 

まどか

「あっ、うん。今行くね!」

 

自分に気づいた水鳥に誘われ、河川敷を下りていくまどか。

 

まどか

(さっきの天馬くん……カッコ良かったな……天馬くんが雷門のキャプテンになった理由がわかった気が…)

 

 

 

ガスッ!

 

 

まどか

「え」

 

その時まどかは地面にけつまずいてそのまま前に高速回転しながら坂を転がり始めた。

 

まどか

「にゃ゛ーーーー!?」

 

天馬

「ま、まどかさん!?」

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロ、ドッポーン!!!

 

 

 

 

 

数秒後。

 

 

 

まどか

「よ、良かった……マ、マミさんが元気になって……ブルブル」

 

マミ

「鹿目さんの元気は無くなりそうなんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~キュゥべえの役目~~

 

 

天馬

「ねえ、キュゥべえの役割って女の子を魔法少女にする以外に何があるの?」

 

キュゥべえ

「そうだね、孵化しそうなグリーフシードを見つけたり、使ったグリーフシードの処理をすることかな?」

 

天馬

「え~それだけじゃ足りないよ!だったらこれを着けて…」

 

天馬は時計のようなものを自分の腕に付けた。

 

キュゥべえ

「どっから出したのそれ!?」

 

天馬

「いくよキュゥべえ!え~い!」

 

キュゥべえ

「え?なんで急にブン投げて(プァー!)ってトラック(ドギャッ!)ギャー!」

 

 

 

十秒後。

 

 

キュゥべえ

「ハア、ハア……ひどいじゃないか天馬!」

 

天馬

「なんだよ~お前なら『ひゃくれつ肉球!』とか言ってトラックをやっつけられると思ったのによ」

 

キュゥべえ

「僕は妖怪じゃないよ!」

 

天馬

「妖怪だろうが。普通の人には見えないし魂抜き取るなんていかにも妖怪だろうが。もしかして信助がやってれば問題なかった?声的に」

 

キュゥべえ

「そういう問題でもないよ!」

 

天馬

「よし、それならこうしよう。キュゥべえ、身構えて!これならできるはずだ!」

 

キュゥべえ

「わ、わかった」

 

キュゥべえが身体に力を入れて身構えると天馬は腕時計を掲げる。

 

 

 

 

 

 

 

天馬

「メガシンカ!」

 

キュゥべえ

「できるか!!!」

 

 

 

 

 





というわけでギャグ外伝第1弾でした。

ネタが本編ほどではないだろうけどNGを中心に書きためておこうと思います。
こんなでも面白いと思ってもらえたら自分もうれしいです。



ご感想お待ちしてます。


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第16話『見滝原の特訓!』 Aパート

ほむら
「おかえりなさい、駄作者。2ヶ月も更新しないからてっきり死んだのかと思ったわよ」

いや、あの…ごめんなさい。色々忙しかったし今回の話の文がなかなか思いつかなかったから。だからそのマグナム下ろしてください。ホントに死んじゃいますから。

マミ
「そうよ暁美さん。あまり作者さんを怯えさせちゃだめよ」

人を正座させたままリボンでグルグル巻きにした人のセリフじゃないですよね。

さやか・杏子
「「なんか言った?」」

すいません。だから左右から首筋にサーベルと槍の切っ先を当てないで。何これ、どっかの海賊王の処刑?

ほむら
「大丈夫よ、たとえあなたが死んでも駄作者王としてギネスブックに載るわ」

載らないよ!というか、んなアホな名前で歴史に名を残したくないよ!




というわけで(どんなわけだ)お待たせしました。

今回は本格的に新展開に入る前に日常的な話を書きたいと思ってオリジナルストーリーに挑戦してみました。そのネタと文章を考えていたらここまでかかってしまいました。申し訳ないです。

というわけで、わたくしサニーブライトによる、まどマギ&イナゴ勢の青春白書、どうぞお楽しみください。

はじまりはじまり。



―OP『情熱で胸アツ!』―


~~マミの部屋・早朝~~

 

 

 

チュンチュン

 

「ん……」

 

6時15分、スズメの鳴き声でマミは目を開けた。まだ頭がぼ~っとしながらもゆっくりと上半身を起こし、周りを見渡す。部屋は窓から入り込んだ陽光がカーテンによって抑えられ、穏やかな明るさを保っていた。マミは「う~ん……」と両腕を上に伸ばして体をほぐすと、ふう、と一息吐いて腕を下ろす。

 

「くか~、くか~」

 

ふと床に目を向けると敷かれた布団の上で静かないびきを立てている杏子がいた。

 

「佐倉さん……そっか、一緒に暮らし始めたのよね」

 

「むにゃむにゃ……」

 

マミは自分が貸したパジャマを着て安心しきったように寝ている杏子を可愛いと思いながらも制服に着替えた。

 

 

 

 

~~リビング~~

 

 

「ふあ~あ……」

 

マミは手を口元に当ててあくびをしながら朝食を作るためにキッチンへ向かう。

 

「あっ、マミさん。おはようございます!」

 

そこへ可愛らしい花柄のエプロンをつけた葵が元気に挨拶してきた。ハキハキした彼女の声が朝の始まりを告げるようだった。

 

「おはよう。あら、あなたたち……」

 

「はい。今、朝ご飯を作ってるところなんです」

 

「寝床を貸してもらってんだ、これぐらいしないとな」

 

「神サマたちもランニングが終わったら来る予定」

 

キッチンを見れば水鳥と茜も同じようにエプロンを着ていた。昨日の夕方、雷門の拠点であるTMキャラバンがフェイ、ワンダバと共に戻り、その後の相談の結果、天馬たち男子はキャラバンの中、葵たち女子はこれまで通りマミの家で寝泊まりし、食事を取るときだけマミの部屋に集まる、という話になったのである。

 

「ふあ~あ……ねみぃ…」

 

そこへ杏子がパジャマ姿のまま起きてくる。彼女もまだ眠気が残っているようでまぶたをこすっていた。

 

「あら、佐倉さんも起きてきたの?」

 

「ああ、何か美味そうな匂いがしてきたんで起きてきちまった」

 

「今、サンドイッチ作ってますから待っててくださいね」

 

「人数が多いからな。もうちょっとかかりそうだからお前も顔洗って着替えて来いよ」

 

「ん……わかった」

 

杏子は「ふあ~あ…」と、再び大きなあくびをしながら洗面所に向かった。

 

「空野さん、私も手伝うわ」

 

「いいですよ、マミさん。これはいつもお世話になってるお礼でもあるんですから。座って待っててください」

 

「期待してろよ。とびっきり美味いのを作ってやるからよ」

 

「水鳥ちゃんが切ったトマト、汁がすごい飛び散ってる」

 

「え?あ、いや、これはちょっと力入れすぎて失敗しただけで食えねえことは……」

 

「フフフ……」

 

マミは言われた通り、リビングの真ん中に置かれた三角形のローテーブルのそばに座る。そしてふとローテーブルに密着させたもう一つのテーブルに目をやる。それは天馬たちがやってきてから用意したものだった。広くなったテーブルからそのまま視線をずらし、キッチンで朝食を作る葵たちを見る。

 

(そういえば……こうして誰かにご飯を作ってもらうなんて久しぶりね……)

 

朝食の支度をする葵たちの姿に、今は亡き母の後ろ姿を思い出す。マミは両親を亡くした後、当然のごとく自炊を始めた。最初は失敗もあったが、以前より母から教わっていたこともあってすぐに慣れることが出来た。それ以来、日常的に誰かのために料理を作ることなど結婚するまで無いと思っていた。故に、雷門の面々に料理を振る舞うことも、ましてや誰かに朝食を作ってもらうことなど想像すらしていなかった。

 

「ただいまー!」

 

そんな風に感慨深くなっているうちにランニングを終えた天馬たちが帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

「「「いただきまーす!」」」

 

手洗いなどを済ませ、テーブルを囲むように全員が座る。そして全員で号令を行うと目の前の大皿に並べられた大量のサンドイッチに手を伸ばす。朝の活力にふさわしいその味わいに誰もが笑顔になる。

 

「あー!杏子さん、それ僕のサンドイッチですよ!」

 

「いーじゃねーかちょっとぐらい!」

 

「もう、まだいっぱいあるんだから二人ともケンカしないの!」

 

信助と杏子がギャーギャーとサンドイッチを取り合い、マミがなだめる。よく食べる二人に世話を焼くマミの顔は呆れながらも何処か笑っているようだった。

 

「マミさん、なんだか楽しそうですね」

 

「弟と妹が出来た気分だろうからな。まっ、これでもうあんな無理心中なんて図ろうとはしないだろ」

 

葵と水鳥も本当の姉弟のようなマミたちの姿にほのぼのする。

 

「うおっ!なんじゃこのトマト、グシャグシャじゃなか!まるで水鳥の怒った顔みたいぜよ」

 

「んだとコラ!!!」

 

水鳥と錦の夫婦漫才で天馬たちは再び笑いだす。ちなみにその時の眉間にしわを寄せて怒鳴った水鳥の顔は本当に少し潰れたトマトみたいで怖かったと錦は後に語ったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~通学路~~

 

 

朝食を終えた一同は談笑しながら通学路を歩いていた。マミは学校、雷門と杏子は特訓を行うために河川敷と、目的地は違うが道は途中まで同じなのでそれまで一緒に歩くことにしたのだった。

 

「みんなおはよう!」

 

前を見るとほむら、仁美と共に待っていたまどかが手を振って挨拶していた。

 

「まどかさん、おはようございます!」

 

「おはよう、天馬くん!」

 

「おはよう」

 

「おはようございます。今日は皆さんお揃いですのね」

 

「はい。途中まで一緒に行こうと思いまして」

 

「まどかさん、さやかさんと上条はまだなのかい?」

 

神童が周りを見渡しながらまどかに尋ねる。

 

「うん、さやかちゃん達ならきっと…」

 

「「おはよう!」」

 

後ろから男女の挨拶が響き、振り返る神童。そこには笑顔で手を繋ぐさやかと恭介がいた。

 

「おっ、ウワサをすれば」

 

水鳥が思わず呟いた。

 

「おはよう。上条、さやかさん」

 

「おはよう、神童くん」

 

「おーおー、今朝はみんなお揃いじゃん。仲良しこよしって奴?」

 

「さやかちゃんと上条くんだって負けてないよ」

 

「あ、やっぱそう思う?」

 

「朝っぱらから見せつけてくれるぜよ!」

 

「や~ん、さやかちゃん照れちゃう~!」

 

「あはは……」

 

嬉しそうに片手を頬に当ててにやけるさやかと冷やかされて少し恥ずかしがる恭介。そんな二人を見て神童は思わずフッと微笑む。

 

(上条……取り戻したその手を、もう二度と離すんじゃないぞ……)

 

幸せそうに手をつなぐ仲睦(なかむつ)まじい二人に心の中でエールを送った。

 

 

 

ズズズ………

 

 

「「「!」」」

 

その時、全員の視界が暗い何かに覆われる。

 

「こ、これは!?」

 

「魔女の結界!?」

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

気が付いた時には周囲は赤い竹林に覆われており、地面から切り株にタヌキの尻尾をつけたような使い魔が現れる。

 

「葵!上条さん達を!」

 

「うん!」

 

天馬が呼びかけると同時に葵はすぐさま水鳥たちと共にバリアを張って恭介、仁美、ワンダバの安全を確保する。

 

「いくぞみんな!」

 

「「「おう!」」」

 

天馬の号令と共に仲間たちはそれぞれユニフォームと魔法少女の姿になり、使い魔に向かって一斉に駆け出す。

 

「アグレッシブビート改!」

 

天馬がドリブル技で先制攻撃を仕掛け、使い魔たちを蹴散らす。

 

「伝来宝刀!」

 

「デスドロップ(G3)!」

 

それに続いて仲間たちもそれぞれの必殺技で使い魔たちを次々と薙ぎ払う。

 

「相変わらずすごい威力だね!マミさん、あたし達も負けてられませんよ!」

 

「ええ、まず私が道を開くわ!美樹さん、走り出す準備を!」

 

「はい!」

 

さやかが身構えた直後、マミはマスケット銃を取り出し、前方の使い魔に狙いを定める。

 

「ティロ・ボレー!」

 

そして使い魔に向けて四発の弾丸を放つ。すると予想外のことが起きた。

 

「え!?」

 

なんとマミが放った弾丸は使い魔をいとも簡単に貫通し、消滅させた。それだけでなくその先に佇んでいた使い魔まで倒してしまった。

 

「威力が……前より上がってる?」

 

「はあああぁっ!」

 

マミが驚いているうちに開けた道をさやかが駆けだす。しかしここでも驚く出来事が起きた。

 

「なっ…さやかの奴、あんなに速かったか!?」

 

杏子が声を上げる。確かにさやかは4人の中でも最速の魔法少女であるが、その時のさやかはいつもより数段速かった。

 

(何これ!?足が軽い!まるで羽が生えたみたい!)

 

さやかも自身の加速力に高揚する。

 

「おりゃあ!」

 

そしてそのままの勢いに乗って一気に使い魔に接近しては切り裂いていく。

 

「今度はあたしの番だ!おらぁ!」

 

後ろから杏子がさやかを飛び越え、片手で槍を握る。そして薙ぎ払うように大きく振ると柄の中に仕込まれていた鎖が鞭のように広がり、周囲から集まってくる使い魔を弾き飛ばす。

 

「杏子、上!」

 

さやかが叫んだ直後、頭上から多数の使い魔が降ってくる。

 

「上からも来んのかよ!おらぁ!」

 

着地した杏子はウザそうに見上げると一度槍を引いて再び槍を突き上げる。すると槍の先端は鎖を利用してリーチを伸ばし、使い魔を貫いていく。

 

「そらっ!おりゃ!うらぁっ!」

 

連続で槍を突き出し、降ってくる使い魔たちを次々と貫く杏子。その正確さに自身も驚愕する。

 

(何だ…!?身体の調子が良い…!槍を手足のように使える…!)

 

その時、奥の方から巨大な影が現れる。全員が思わずその巨影を見ると、そこには巨大なタケノコのようなものにラフレシアの花のような形の口がついた怪物がいた。

 

「あれが魔女の本体ね。行くわよ!」

 

マミの掛け声と共に全員が魔女に向かって一斉に駆け出す。

 

「―――!」

 

魔女もそれに反応したのか、周囲の地面から土だらけの木の根のようなものを出し、天馬たちに襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

天馬たちは素早く反応し、後ろに下がることで躱す。よく見れば、根は本体を守るかのように周囲を張り巡らせていた。

 

「これじゃ近づけない!」

 

「この!」

 

マミは左側に回って銃を放ち、天馬たちも反対側に回ってシュートを撃つが、根が魔女を覆うように集まって壁となり攻撃を弾いてしまう。

 

「くそっ、両側から攻めてもダメか」

 

天馬が唇を噛む。

 

「だったら私が隙を作るわ」

 

ほむらは魔女が根を地面に戻して姿を見せた時を見計らって盾のバックルを回し時間を止める。そして自分一人だけが動ける世界で高くジャンプし、魔女の周囲にお手製の爆弾をばら撒く。そしてここでも今までとは違うある変化があった。

 

(……妙ね、あまり魔力の消費を感じられない…?)

 

ほむらの時間停止は魔力があれば意外と長く続けられる。それ故に発動中はジリジリと魔力を消費する感覚があるのだが今回はそれが無く、むしろ未だに底が知れないぐらいの魔力量を感じていた。ほむらは何故このような魔力の増加が起きたのか疑問が残るが、今は戦闘中であることに集中する。そして地面に降り立ち魔女から離れるとバックルを再び動かす。次の瞬間、魔女は爆発に飲み込まれた。

 

「―――!」

 

煙が晴れると、魔女は体のあちこちを黒く焦がしており、相当効いたようでその場でフラついていた。

 

「今よ!」

 

「任せて!」

 

ほむらの合図と共に、背番号11番を着るフェイが周囲をアクロバティックに飛び回り、ボールも同じように弾んで最後には高く飛び上がる。そして空が大きな満月が映える夜空に変わり、フェイもボールを追いかけるようにジャンプする。

 

「『バウンサーラビット』!!!」

 

満月をバックにそのままオーバーヘッドでボールを地面に叩き付けると、ボールはエネルギーを纏い、まるでウサギのように地面を弾みながら魔女に向かっていく。

 

「―――!」

 

爆発と爆音で動きを鈍らされた魔女は不規則に飛び回るボールを捉えることが出来ずその身にくらってしまい、先ほどよりも大きく身体を揺らしていた。

 

「やるのう、フェイ!ワシも負けられんぜよ!」

 

するとここで錦のマギカボールが光りだし、黄金の光が錦を包む。

 

「ぬおおおぉぉっ!これならいけるぜよ!ドオリャァァァ!!!」

 

錦は気迫の入った声と共に足を大きく前に踏み下ろし、その背中から化身を出現させる。

 

「戦国武神ムサシ―――アームド!」

 

そして拳を作った両腕を左右に大きく広げるとムサシは金色のオーラとなり、錦の体を包み込む。すると錦は戦国時代の鎧武者のような格好になり、その丁髷のような一本おさげも相まって、本物の侍のようにも見えた。

 

「やったぜ、錦!」

 

水鳥が歓喜した直後、錦は「ヌンッ!」とシュート体制に入りボールを弾ませる。

 

「伝来宝刀!」

 

「―――!!!」

 

そして地面を切り裂くような刀のオーラを纏ったシュートを放つと魔女は真っ二つになって消滅し、グリーフシードに変わる。

 

「やったぜよ!」

 

錦は自分がとどめを刺したことにガッツポーズをする。

 

「錦、喜ぶより試すことがあるだろ」

 

「おっとそうじゃった。ヌンッ!」

 

錦は身体に力を込めると鎧となっていた化身のオーラが元に戻り、さやかを救った時のようにグリーフシードを包み込む。しかし包み込んだオーラが弾けても、そのグリーフシードはソウルジェムに戻らなかった。

 

「ダメか……」

 

全員が落胆の表情を浮かべているうちに主を失った結界も消え、同時に全員の服装も元に戻った。

 

 

 

 

 

 

~~通学路~~

 

 

 

「やっぱり僕たちの力でも、全てのグリーフシードをソウルジェムに戻せるわけじゃないんだね」

 

「うん……」

 

昨夜、天馬たちはほむらたちからグリーフシードを何個か借り、化身の力でソウルジェムに戻せないか試してみた。しかし、その中で戻せたグリーフシードは皆無だった。どうやらさやかのように一日ならまだしもグリーフシードに変わって時間が経ちすぎてしまったソウルジェムは戻せないようだった。

 

「俺たちの力で、魔女になった魔法少女もみんな元に戻せると思ったのに……」

 

天馬は大きくため息をつく。今自分たちが倒した魔女も、もう少し早かったら魔法少女に戻せたかもしれない。そんな無力感と悔しさが自身の胸中に立ち込めていた。

 

「顔を上げなさい、天馬」

 

声に反応すると、ほむらがこちらを見つめていた。

 

「ほむらさん…」

 

「今のあなたの気持ちは痛いほどわかるわ。私も何度も経験したことだから」

 

ほむらはこれまでの時間軸で、魔女になったさやかを何度も倒してしまったことを思い出す。魔法少女には魔女を元に戻す手段など無い。だからこそ魔女化してしまった魔法少女はどんなに心苦しくとも倒すしかなかった。それが仲間だった魔法少女ならばなおさらだった。

 

「でもこれが本来の魔女との戦いの形なの。一度魔女になったら元には戻せない。だからこそ魔女の正体を知ってしまったら、これまでと全く同じ気持ちで魔女を退治する事なんて出来なくなるわ。それでも私たちは魔女を倒さなければならない。それはあなたもわかってるはずよ」

 

「………」

 

ほむらの言うことは天馬も理解していた。たとえ魔女が元は人間であっても人々を襲う以上、野放しには出来ない。さらに言うなら魔法少女たちも倒した魔女が落とすグリーフシードがなければ同じように魔女になってしまう。だから魔法少女たちは魔女との戦いをやめるわけにはいかないのである。

 

「あなたたちは私たちと違って魔女を魔法少女に戻す力を持っている」

 

「ええ……でもこの力でも、全ての魔女を元に戻すことは出来ない……」

 

だから辛いんだ、と言葉を紡ぐように再びグリーフシードを見つめる天馬。そのくすんだ瞳は魔女に対する憐みと、救えなかった悔しさが入り混じっているようだった。

 

「だからって、ここであなたが悔しがって落ち込むのは大間違いよ」

 

「え…?」

 

弾けたように顔を上げる天馬。他の雷門の面々も驚いた顔でほむらに注目する。

 

「確かにその力でも全ての魔女を救うことは出来ない。でもいずれ倒される運命しかなかった魔女たちの内のわずかでも救うことが出来る。それだけでも私たちや魔女たちにとってはありがたいことなのよ。確かに魔女を魔法少女に戻せる力を持っているなら、ぜひ戻してもらいたいわ。でもだからって、戻せなかった時の責任まであなたたちが背負う必要なんて無いし、悔やむ必要だって無いわ。戻すのは、あくまで出来ればの話だから」

 

「ほむらさん…」

 

「そーそー。そんな風に落ち込まれたら、そのわずかに入ってるあたしはどうなんだって話だよ」

 

さやかがしかめっ面で両手を頭の後ろで組みながら会話に参加する。

 

「あたしは運が良かっただけって言われたらおしまいだけど、助けてくれたあんたたちにはホントに感謝してるんだよ?あんたたちは倒した魔女を戻せるかやってみた。それでも元に戻せなかったら仕方ないよ。それでも、あんたたちが今の自分たちに出来ることを全力で取り組もうとしたことに変わりは無いんだからさ。戻れなかった子たちだって、自分たちを助けようとしてくれたあんたたちを恨んだりしないよ」

 

そう言うと、さやかはニカッと笑顔を見せた。

 

「さやかさん…」

 

「そうよ。それに魔女になった子たちだって、いつまでも絶望を振りまいて人々を襲い続けるなんてきっと望んでないわ」

 

今度はマミが口を出す。

 

「もしかしたら魔女になった子たちも、自分たちを倒してもらうことを望んでるかもしれないわ。そしてそれが出来るのは私たちしかいないのよ。そんな私たちがいつまでも暗い顔をしてたら、倒した魔法少女たちもきっと安らかに眠れないわ」

 

「マミさん…」

 

「わかったかしら、天馬」

 

再びほむらが喋り出す。

 

「あなたたちは、その魔法少女をも上回る希望の力で魔女たちに対して最善を尽くしているわ。そしてその力を徐々に大きくし、こんな悲劇をいずれ終わらせるために戦っている。悲しんでる場合じゃないでしょう?」

 

「!!!」

 

背中を押すようなほむらの言葉に天馬はハッとなり、一度視線を落として自分の成すべきことを再確認する。魔法少女たちを破滅の運命から救い出す。それを成し遂げるのは極めて困難な道のりである。しかし困難な道のりに近道など無い。かつて本当のサッカーを取り戻す為、ホーリーロードを一戦ずつ勝ち上がって革命を進めたように今の自分たちや現状に嘆かず、今出来ることをやりながら少しずつ前に進むしかない。そう思った天馬は自然と口元を緩み、顔を上げた。

 

「そう、ですよね……こんなところで挫けてる場合じゃないですよね」

 

「元気出たみたいだな」

 

杏子が腕を組みながら微笑む。

 

「はい!こんな悲しいこと、いつまでもあっちゃいけないんだ!みんな、やるぞ!」

 

「「「おおーーーっ!」」」

 

活気を取り戻した天馬に合わせるように雷門全員が拳を突き上げた。

 

「ふふふ、良かった……天馬くんが元気になって。それに元気づけたのがほむらちゃんだから余計に嬉しいな」

 

「どういう意味?まどか」

 

「だって今までは天馬くん達が私たちを励ましてたから……そのおかげでほむらちゃんも前より心を開いてくれて、私たちは今団結してるんだって思えるんだ」

 

「まどか……」

 

「確かに、あんたが天馬を励ますなんてな。少し性格丸くなったんじゃねぇか?」

 

水鳥が腰に手を当ててそう言った。

 

「というかこれがクーデレって奴ですな!あんたもあたしの嫁にしてあげよっか?」

 

「断固お断りするわ」

 

「まどか……ほむらがクールどころかゴミを見るような目で即答したんだけど」

 

「さやかちゃん…」

 

そんなやり取りで仲間たちは声を揃えて笑い出す。浮気まがいの発言をされた恭介は若干苦笑いだったが。

 

「それにしてもマミさん達、なんかいつもよりすごくなかったですか?」

 

信助が先ほどまでの戦いを振り返って尋ねた。

 

「ええ……なんだかいつもより力が増しているような気がするの」

 

「あれ?あんだけすごい力を出したのに、ソウルジェムがそんなに濁ってない?」

 

「あたしもだ」

 

さやかと杏子がそれぞれ自分のソウルジェムを取り出して確認する。大量の魔力を使うような戦い方だったはずなのに彼女たちのジェムはそれぞれの綺麗な色を保っていた。

 

「私のジェムも……こんなこと初めてだわ。暁美さん、何か心当たりない?」

 

「いいえ。私も時間停止を発動している間の魔力消耗を感じなかったわ。これは一体……」

 

「おそらくそれは大介さんのおかげだろうね」

 

そう言ったのはフェイだった。

 

「大介さんの…?どういうこと?」

 

「大介さんの今の状態、クロノ・ストーンには魂の力を増幅する効果があるんだ。それによって自らの魂を魔力の源としている魔法少女の力を底上げしたんだよ」

 

「つまり大介さんのおかげで、私たち魔法少女がパワーアップしてるってこと?」

 

「でも、それじゃ元は魔法少女だった魔女にも影響与えんじゃねぇのか?」

 

「心配はいらん」

 

マミと杏子が推測した直後、フェイのオレンジの袖からクロノ・ストーン状態の大介が飛び出す。

 

「そのあたりはワシ自身の力でコントロール出来ておる。魔女をパワーアップなどしたらマズいに決まっとるからな」

 

「コントロールって、そんなこと出来るんですか?」

 

恭介が尋ねる。

 

「そもそも大介さんがこの姿でも自由に行動できるのも大介さん自身の強い精神力のおかげなんだ。そしてその凄まじい精神力を生かし、サッカーで数々の偉業を成し遂げた大介さんは歴史に名を遺し、僕とワンダバの時代では“マスターD”って呼ばれてるんだ」

 

「歴史に名前が載るなんて……大介さんって凄い人なんですね!」

 

「なに、ワシ自身は大したことではない。全てはサッカーのおかげだ。ほっほっ!」

 

まどかが感激と尊敬のまなざしで大介を褒めると、大介は六角形の石になっている身体を上に向けながら笑いだす。しかし、すぐに俯かせるように身体を斜め下に傾けた。

 

「だが、ワシは正直サッカーをこんな命がけの戦いのために使うなど許せん」

 

「大介さん…」

 

低い声で語る大介に天馬たちは黙り込む。大介がサッカーを心から愛していることはフェイが語った経歴から誰もが理解していた。サッカーで魔女と戦うことを誓った天馬たちだが、大介の気持ちは同じサッカープレイヤーとしてわからなくはなかった。

 

「しかし、色々な思いと経験を得て成長し、未来を作っていく若い娘たちがたった一つの願いを叶えただけでその道を閉ざされ、最期には人を襲う化け物になってしまう。そんな現実を知りながら放っておいたら、ワシは自分をもっと許せなくなるだろう。ワシらのサッカーで少しでも多くの少女たちの未来を守れるのなら、ワシは協力を惜しまん」

 

「「「…!」」」

 

大介のその言葉に全員が反応する。

 

「大人の立場として、出来る限りお前たちをサポートする。だからお前たちも決してその決意を曲げてはならんぞ」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

全員が力強く返事をした。

 

「大介さん。これからは私たちにもご指導鞭撻(べんたつ)よろしくお願いします」

 

マミが魔法少女を代表し、貫禄のある賢者のような大介に敬意を表して一礼をする。

 

「おう、困ったことがあるならいつでも相談に来い!ところでお前さん達、学校はいいのか?」

 

 

 

「「「………」」」

 

大介の最後の一言に全員が沈黙。そして、4秒後。

 

 

 

「忘れてたーーっ!!!」

 

「い、今何時!?」

 

「大変!あと五分しかありませんわ!」

 

登校中であったことをすっかり忘れていたまどか達。なんてこったと慌てふためくが、平等に課せられる始業のベルのカウントダウンは止まらない。

 

「こうなったらほむら!あんたの魔法で一気に行くよ!」

 

「わ、わかったわ!みんな、私に掴まって!」

 

さやかの奇策でほむらは再び魔法少女に変身し、まどか達はロボットアニメの合体のように一斉にほむらの肩や腕に掴まる。しかし、その姿は合体したロボットというより、たくさんの実を付けたブドウのようだった。傍から見たらかなりの不格好だったが今は外面を気にしてる場合でもなかった。

 

「じゃあみんな!また後でね!」

 

「は、はい……」

 

まどかが早口で挨拶した次の瞬間、彼女たちの姿は消えていた。

 

「いってらっしゃい……」

 

その後、止まった時間の世界でほむらに掴まりながら全力疾走したまどか達は教室に到着したころにはヘトヘトになってしまい、まどかとさやかに至っては疲れて授業中に居眠りしてしまい、担任教諭に怒られたのであった。

 

 

 

 




今回はここまで。

次回からイナイレの定番、特訓シーンに入ります。
お楽しみいただけたら幸いです。

ご感想お待ちしております。


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第16話『見滝原の特訓!』 Bパート

えー、皆さま。大変長らく……

「どりゃあああああああ!!!」

ぐああああ!百裂クリティカルヒット!

ほむら
「今度こそ死にたいようね……駄作者」

いや、マジでごめんなさい。

ほむら
「ごめんなさいじゃないわ……前回は2か月も待たせた上に、今度はその倍?おかげでまどかの誕生日もハロウィンも過ぎちゃったじゃないの……」

あ、いや、そのスンマセンした……新しい仕事を始めたり、ネタは出来上がってもどんな文章にするかで結構頭悩ませてました。いや、この間にまどかが妖怪ウォッチを手に入れるとは。


「それは別の人です。ごまかさないでください」

さやか
「全く、あんたの技量が知れるわね」

おっしゃるとおりです……いっそこう言ってください。「いつもお前は遅いんだよ!」と!

天馬
「円堂監督の友情の名ゼリフを投稿遅れに使わないでください」

て、天馬まで……





というわけで、仕事を変えたり、ネタや文章が思いつかなかったりとで投稿遅れ自己最高記録を叩き出してしまいました。待っていた皆さま、すみませんでした。

しかし待たせていたにも関わらず、閲覧数は3万を突破し、新たにお気に入り登録も増え、新たに高評価を下さる方も現れました。

こんな駄文でも応援してくれる皆様がいるおかげでどんなに遅れても続けることが出来ます。本当に感謝です。

さて、遅れてしまった分、今回は今までよりもコミカルに描いております。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イナマギ、コミカルと青春の特訓シーン。それではどうぞ。





~~放課後・河川敷~~

 

 

「いくよー信助!」

 

「うん!」

 

まどか達と別れた後、天馬たちはいつも通り河川敷で練習をしていた。団結後初の魔女戦闘の合同特訓が今日から始まる。今はその事を楽しみにしながらシュート特訓を行っていた。

 

「元気だなーあいつら。いつもあんな疲れる特訓やってんのか?」

 

「はい。サッカーにおいても基本は大事ですし、魔女との戦いでは更に重要になりますからね」

 

雷門が休憩所代わりにしているベンチに腰掛ける杏子に葵が答える。先ほどまで彼らが行った特訓はまとめて言うならただ一つ。走り込みや腕立て伏せなどの基礎トレーニングだった。以前雷門のコーチを務めた人物から言われたことであるが、サッカーにおいて必殺技は欠かせない。だが時には通じない場面もあり、そんな時に基礎体力が重要になるという。ましてや自分たちがやるのは命がけの魔女戦闘。どんな魔女がどんな特性を持っているか予測も出来ない状況下では必殺技に頼りきる戦法だけでは乗り切れないこともある。よってマミたちが来るまで大介の指導の元、彼女たちとの特訓に支障を起こさない程度の基礎トレーニングを行ったのである。

 

「にしても、その間あたしにまでマネージャーの仕事やらせることないだろ。かったるいし、めんどいんだよね」

 

「その割には練習してるあいつらのことを気にしながら黙ってやってたけどな」

 

「うるせー」

 

「みんなお待たせ!」

 

声に振り向くと、まどか、ほむら、マミ、さやかの四人が制服姿のまま河川敷の坂を降りてきていた。天馬たちも練習を一時中断してベンチに集まる。

 

「おかえりなさい。あれ?上条さんと仁美さんは?」

 

天馬が周りをキョロキョロしながら尋ねる。

 

「仁美は茶道のお稽古。恭介はバイオリンのレッスンだって」

 

「そうですか。まどかさん達は学校からそのまま?」

 

「うん。わたしもさやかちゃんも、みんなの特訓のお手伝いするってママ達に言ってあるから。もちろんサッカーの特訓って名目でね」

 

「まあ、魔女退治の特訓なんて言ったら認めてくれるわけがないからな」

 

割って入った声に振り向くと、ワンダバが陸橋の下のTMキャラバンの中から顔を出していた。天馬たちが基礎トレをしている間、ワンダバはキャラバンの修理を可能な限り行っていたのだった。

 

「ワンダバ、キャラバンの修理は進んでるの?」

 

「少しずつだがな……だが時空移動機能や浮遊機能の損傷が激しく、修理にはまだ何日もかかる。それに今までと違ってこの世界は我々のいた世界とは次元そのものが違う。我々が使っていたタイムルートとは全く繋がりが無い世界なのだ。修理出来たとしても、元の世界に無事に帰れるどうかはまだ何とも言えん状態だ」

 

「そっか…」

 

「だが私は諦めるつもりはない。必ず元の世界に帰るつもりだ。お前たちと共にこの世界での革命を成功させて、な……」

 

こっちの方は任せておけ、と言って安心させるかのように微笑むワンダバ。天馬たちはもちろん、彼のコミカルな姿しか知らなかったまどか達もその姿にどこか頼り甲斐があるように感じられた。

 

「ワンダバ……うん、そうだよね!ワンダバもそろそろこっちへおいでよ!みんなで特訓始めるからさ」

 

「ああ、そのつもりだ!よーし、皆の衆!この大監督クラーク・ワンダバット様のもと、熱血特訓を始めようではないか!」

 

ワンダバは、よっ、とキャラバンから降り、ワンダバスイッチでキャラバンを隠してから天馬たちの方に駆け出す。

 

「行くぞーっ!燃やせ、ハート!倒せ、ワルプルギス!だが、勢いづいてケガしないように気を付けダバァ!!!」

 

威勢よく叫びながら走るワンダバだったが、途中で石にけつまずいて勢いよく転んでしまう。そのブザマな姿に全員唖然とするが、ワンダバは何事もなかったかのように素早く立ち上がり、コホン、とわざとらしく咳をする。

 

「今見たとおり、油断は禁物だ!」

 

「コケてから言うと説得力が違うわね」

 

「「「あはは……」」」

 

ほむらが呆れ気味に言うが、天馬たちは苦笑いするしかなかった。

 

「ワルプルギスもそうだけど、実はみんなに言っておきたいことがあるの……」

 

と、ここで何故かさやかが深刻そうな顔で告げた。仲間たちは心配そうに耳を傾ける。

 

「言っておきたいこと?」

 

「うん。あたしにとって本当に大事なことなの……」

 

「本当に重要な話なら俺たちはどんなことでも受け入れるよ。さやかさん」

 

「本当?じゃあ、話すね……実は…」

 

「実は…?」

 

緊迫した表情で語るさやかと言葉を繰り返す神童。そのただならぬ雰囲気に全員がゴクリと息を飲む。緊張感が漂う中、さやかは両手を上げる。そして―――

 

 

 

「恭介とデートに行くんだ~!」

 

両頬に手を添えて言った直後、全員がその場でずっこけた。

 

「今度の休みに恭介と映画観に行くんだ~!しかも内容が音楽家の恋物語なんだって~!恭介の奴、絶対狙ってるよね~!もうさやかちゃん幸せ全開ですよ、えへへへへ~~!」

 

さやかは自分が今、幸せの真っ只中にいることを主張するようにイヤイヤと身体を左右に振っては一人でハシャギまくっていた。

 

「たくっ…こんな時にどんな話かと思ったら……」

 

「さやかちゃん、上条くんと恋人同士になってから、授業中よく上条君と目配せしてて、休み時間とかでも上条くんの話題が出るといつもこうなっちゃうの……」

 

「学校が終わって彼に誘われてから、ここに来るまでずっとニヤけていたわ。うんざりするぐらい」

 

水鳥が頭を押さえながらため息をつくと、まどかとほむらが困り果てたようにさやかの浮かれっぷりを補足した。

 

「あたしの曲づくりの参考にするって言ってたんだけど、その後こう言ったの!『何より君と二人きりの時間を過ごしたい』って!やだも~、恭介ったらカッコつけちゃって~!さやかちゃん照れちゃうじゃないの~~!!!」

 

「おい……少しばかりさやかがウゼェと思ったのはあたしだけか?水鳥」

 

「気にすんな杏子、あたしもだ」

 

「もしこの先死ぬとしたら色ボケによる油断ね。友達が出来たことに浮かれた誰かさんみたいに」

 

「ちょ、暁美さん!?」

 

「やれやれ……神童くん、特訓する時間がもったいないから、そろそろさやかさんを甘すぎる夢から覚まさせてくれないかな?君の言葉ならきっと彼女も聞き入れてくれるはずだよ」

 

「ああ、わかった」

 

両手を広げて肩を竦めるフェイに頼まれ、神童は説得を試みる。

 

「さやかさん」

 

「ん、何?」

 

「君が上条と結ばれて、俺も本当に良かったと思っている。だが、いつまでも浮かれていては戦いの時に命取りになる。上条だって、君に何かあったりしたらたまらないはずだ」

 

「神童……」

 

「上条を心配させないように、君ももっと強くなる必要があるんじゃないか?この街を襲うワルプルギスを倒し、君たちの幸せな未来を守るために、今は特訓に集中しよう」

 

「………」

 

神童の言葉にさやかは両手を下ろし、徐々に心を落ち着かせて真剣な顔つきに戻していく。そして改めて神童と顔を合わす。

 

「そうだよね……うん、あたし頑張る!この街の人たちと恭介を守るために特訓だー!」

 

「その意気だ、さやかさん!」

 

さやかは気を引き締め直すように拳を突き上げる。天馬たちもさやかを現実に戻したその手腕に感心する。

 

「そして強くなったあたしを恭介に見せていっぱい褒めてもらうんだ!そんで恭介とキスして、誰もいない二人っきりの場所に行ってその後………いや~ん、今の時間帯じゃ聞かせらんない展開になるじゃないの~!恭介のえっち~!」

 

と思った直後、さやかは更に深みを増した妄想の世界に入り込んでしまった。

 

「……すまない。失敗したようだ」

 

苦い顔で謝る神童に天馬たちはため息をつきながら首をカクンと下げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……落ち着いたか?」

 

「うん、ゴメン……ちょっと長く妄想に浸りすぎた」

 

「ちょっとじゃねえだろ。よくもまあ13分もイチャつく妄想できるよな……」

 

「あははは……」

 

杏子はジト目で睨まれたさやかは笑ってごまかす。

 

「さてと美樹さんも元に戻ったことだし、そろそろ始めましょう」

 

マミが気持ちを入れ替えるように仕切りだす。

 

「よーし!では監督であるこのワタシが特訓の指揮を……」

 

「特訓の内容は事前に大介さんと打ち合わせてあるわ」

 

「あう……」

 

またもや監督業が出来ず、撃沈するワンダバ。

 

「さあ、みんな!準備はいい?チーム雷門と魔法少女による合同特訓開始よ!」

 

「「「おーーーっ!」」」

 

「お~……」

 

ワンダバの落胆をよそにようやく特訓が開始された。

 

 

 

 

 

 

~~挿入曲『情熱で胸アツ!』~~

 

 

 

 

 

「さあ、みんな!この的を狙ってシュートして!」

 

「はい!でやぁ!」

 

マミがリボンで的を作り、空中に浮かばせる。天馬、神童、信助がその的を狙ってシュートを放つ。その内、天馬と神童は命中したが信助は外してしまう。

 

「あー外した!」

 

「惜しかったね。でもちょっとの失敗くらい……」

 

「いや、これじゃダメだ」

 

「え?」

 

「もしあれが魔女や使い魔だったら確実にやられていた。もっと命中精度を上げなければ」

 

「あっ、そうか!そうですよね…」

 

神童の説明に信助はシュンと落ち込む。

 

「大丈夫。落ち着いて狙えば信助くんも当てられるわよ。それに気負い過ぎると体が強張って動きが鈍くなってしまうわ。神童くんも、これはあくまで特訓なんだから、あまり気を入れすぎないようにね」

 

「マミさん……」

 

「そうですね……ありがとうございます」

 

マミのフォローによって、信助は気を取り直し、神童も肩の力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

「そりゃ!どうした!」

 

「くっ!」

 

一方で近接攻撃がメインとなるさやかと杏子は互いに打ち込みの練習をしていた。二人が最初に出会った時は本気でやり合う殺伐としたものであったが、今は互いを鍛え上げるため、ケガしない程度の力で打ち合っていた。剣と槍先がぶつかり合いによって火花を散らし続けること数回。やはり手加減しているとはいえ、歴戦の杏子の槍使いに押され気味になってきたさやかがいったん後ろに下がって距離を取る。杏子も息を整えながら槍を肩に担ぐ。

 

「そういやあんた。これからはマミからも戦い方を学ぶんだよな」

 

「そういうことになるけど、それが何?」

 

「あたしもかつてはマミから戦い方を学んだ。つまりあたしたちは兄弟弟子ってことになるわけだ。先輩としてビシビシ鍛えてやるから覚悟しろよ。(いもうと)弟子(でし)

 

「いっそあんたも打ち負かせるぐらいになるよ。(あね)弟子(でし)

 

「言ってくれるじゃねぇか」

 

お互い不敵に微笑むと同時に再び地面を駆け出した。

 

バシュウ!

 

「「!」」

 

が、直後。二人は咄嗟に後ろに飛び退く。そして二人の刃が再び重なるはずだった場所をマギカボールが通過した。

 

「実戦では、敵は目の前にしかいないとは限りませんよ」

 

横を向くと、剣城が蹴り足を上げたまま不敵な笑みを浮かべていた。剣城は思わぬ不意打ちの時の対応力を高めるため、こうして時折何の前振りもなくシュートを放っているのである。

 

「もう一コ、思い出したよ。あたしたちが初めて三人揃った時も、こんな風に止められたっけな」

 

「それがまさか、こうして一緒に特訓することになるなんてね。人生、何が起こるかわかんないね」

 

「……フッ」

 

今となっては懐かしい思い出のように語り合う杏子たち。同じ願いから始まった三人はようやく分かり合い、今はその願いの先にある未来を共に掴むと誓ったであった。

 

「さあ、まだまだ行きますよ」

 

「うん!隙あればジャンジャン撃ってきて!」

 

「時々撃ち返してやるからな!」

 

 

 

 

 

 

「どりゃあ!」

 

「っ!」

 

マミのリボンで作ったドームの中で錦がほむらにシュートを放つ。ここでは敵の攻撃と接近を防ぐ特訓が行われていた。一回ごとに役をローテーションし、今はほむらが攻撃を受ける番だった。ほむらは身体を反らしてシュートを躱すが、後ろから地面から生やしたリボンが伸びてくる。このリボンはマミがトラップ用に仕掛けたもので、近づいた者を捉えるように出来ている。ほむらは即座に盾から取り出した拳銃でリボンを弾き飛ばす。そこへすかさず横から錦が再びシュートを撃ち込み、それと同時に新たにリボンが前後から伸びてくる。ほむらはその場から飛び上がり、離れたところに着地しては左から来るリボンを撃ち払う。

錦は戻ってきたボールを三度撃とうとトラップする。が、ほむらはその一瞬の隙を逃さず、空砲に変えた銃を向ける。それに気づいた錦は降参するかのように両手を上げて動きを止める。これによって今回の攻撃はしのぎ切った、と思われた直後。

 

「………まだまだね」

 

「うん」

 

ほむらが銃口を錦に向けたまま振り向くと、フェイが自分のもう片方の腕を掴んでいた。もし掴んでいたのが魔女や使い魔だったら即座にやられていたかもしれない。フェイが手を放すと、ほむらは「ふう…」と小さく息を吐いて銃を盾にしまう。

 

「しかし……ワシらはともかく、おまんには時間停止の魔法があるじゃろ。こんな特訓でええんか?」

 

錦が腰に手を当てながら歩み寄る。

 

「私の魔法は不意打ちには有効だけど、私に直接触れている者の時間も止まらないの。だから掴まれたり、動きを封じられたら命取りになるわ。それ故に、回避術も必要になるのよ」

 

「ある意味、僕たちと五分五分というわけだね」

 

「ええ、だからこそあなたたちもこの特訓が必要だとわかってるでしょう?」

 

「うん、ただサッカーのテクニックだけじゃ魔女とはまとも戦えないからね」

 

「分かってるならいいわ。さあ、次はまた錦くんの番よ」

 

「げっ!防ぎきれなかったら、またあのゴム弾を食らわにゃならんのか!?」

 

「魔法で威力は抑えてあるわ。それに、防ぎ切ればいいのよ。実際、魔女や使い魔から食らった時はあれぐらいじゃすまないわよ?」

 

「ぬうう……」

 

少しだけ意地悪そうに語るほむら。ほむらは敵役に回った時、攻撃手段としてゴム弾を放っていた。練習用に威力をかなり抑えてあるが、それでも当たったらかなり痛いものである。当然、錦も自分の番が回るたびにゴム弾を受け、特に尻に十発以上も食らっていた。それからは思い出す度に尻をさすっていたのである。

 

「……これ以上食らったらケツがボールみたいになるぜよ……もう食らいたくないぜよ……はぁ……」

 

顔を青ざめながらため息をつく錦にフェイとほむらはクスリと笑った。

 

 

 

 

 

「葵ちゃん、配分ってこれくらいかな?」

 

「ええ、合ってますよ。まどかさん」

 

そして休憩用のベンチではまどかが葵たちのマネージャー業を手伝っていた。今は特訓しているメンバーたちのドリンクを作っているところである。

 

「葵ちゃんたちも大変だよね。こんなにたくさんのものを用意しなきゃならないんだから」

 

まどかはドリンクボトルに粉末ドリンクを入れると、ベンチの傍に置かれたアイスボックスを見る。その中には疲労回復に効くレモンのハチミツ漬けや怪我したときに使うコールドスプレーなど、天馬たちの特訓の為に用意された数多くの道具が入っていた。

 

「ええ。でも、苦じゃありませんよ。天馬やみんながしっかり戦えるようにしたいと思ってますから」

 

「そっか……だから、ほむらちゃんにもあんなこと言えたんだよね」

 

「あんなこと?……ああ、あの時の!」

 

 

 

『―――戦いに疲れた天馬たちやマミさん達の帰る場所になる事です!』

 

 

 

葵は、さやかが魔法少女になった後、彼女を見捨てようとしていたほむらに啖呵(たんか)を切った。葵は自分が戦えない代わりにいつも天馬たちの為に出来る限りのことをしてきた。先日の戦いにおいても、自ら動いたことによって恭介のさやかへの好意を自覚させ、魔女になったさやかの意識を取り戻すキッカケを作った。その行動力はみんなを支えると決めたまどかにとっても、良きお手本にもなっていた。

 

「確かに。あんときの葵のセリフは、あたしたちもスカッとしたぜ」

 

「葵ちゃん、カッコ良かった」

 

水鳥も目を閉じて思い出しては心地よく頷き、茜も自前のカメラを持ちながら微笑む。

 

「そんな……あの時はただ、何も出来ないなんて言われて、黙っていられなくなっただけですよ」

 

「それでも、堂々とあんなこと言えるなんてやっぱりすごいよ。わたしもあんな風になれたらいいな……」

 

「大丈夫ですよ!その時のまどかさんだって、ほむらさんに言ったじゃないですか!」

 

「え?……あ!」

 

 

 

『―――ほむらちゃんにとっても、わたしが帰る場所になっちゃダメかな……?』

 

 

 

「その気持ちさえあれば、まどかさんだって絶対なれますよ。大事なのは力になりたいって気持ちですから」

 

「あ!それ、前に天馬くんも言ってたよ!」

 

「ふふ。やっぱり天馬も言ってたんですね。それじゃあ、その言葉通りになるように一緒に頑張りましょう、まどかさん!」

 

「うん!」

 

お互いを励ますように微笑み合う葵とまどか。水鳥はそんな二人の姿にニヤリと口元を緩め、茜も二人の笑顔にカメラを向ける。そしてシャッターを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、天馬。タオル」

 

「ありがとう、葵」

 

合同特訓を始めて数十分後、休憩時間に入った天馬たちはベンチに集まっていた。天馬は葵から受け取ったタオルで汗を拭き、そのまま首に掛ける。

 

「はい、天馬くん」

 

「ありがとうございます」

 

今度はまどかが差し出したドリンクボトルを受け取る天馬。彼を気遣うように渡すまどかのマネージャー姿は、彼女の優しげな雰囲気も相まって中々サマになっていた。

 

「おっ、両手に花だね~天馬!」

 

「え?何のことですか、さやかさん?」

 

「やれやれ……そういうところはまだまだなんだから……」

 

「?」

 

「「……///」」

 

さやかの突然の揶揄(やゆ)に顔を赤くする葵とまどか。しかし、当の本人である天馬はその意味を理解できず、首を傾げていた。

 

「んが~~。……ぷはぁ!こうして大勢で特訓してると、サッカー部の皆との特訓を思い出します」

 

水分補給をする信助が懐かしむように語りだす。

 

「あんたたちは、こうやって特訓して強くなっていったわけか」

 

揶揄を終えたさやかが信助に語り掛ける。

 

「はい!その特訓の中で、新しい必殺技のヒントが生まれたりするんですよ!」

 

「へぇ~、あの“ぶっとびジャンプ”っていう変な名前の技とか?」

 

「へ、変って何ですか!?さやかさん!」

 

「べっつに~。ただ、技の名前のセンスならあたしの方があると思ってね。“スパークエッジ!”ってさ。まあ、マミさんには負けるけど」

 

「確かにそうじゃの。イタリア語で技名をつけるとは考えたのう。“ティロ・フィナーレ”っちゅうんは確か、最後の射撃、という意味じゃろ?」

 

「「「……え?」」」

 

錦の口からイタリア語、しかもその訳。まどか達は一瞬、聞き間違いかと思い、呆けた声を出す。一方でマミも最初は眼をぱちくりさせていたが、すぐさま問い直す。

 

「わかるの?じゃあ、“パロット・ラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ”は?」

 

「無限の魔弾、じゃろ?」

 

「“ボンバルダメント”は?」

 

「砲撃!」

 

「“テ・ポメリアーノ”!」

 

「午後の紅茶、じゃ!」

 

「……ほ、ほむらちゃん……なんだろ、あれ……」

 

「ごめんなさい、まどか。私も分からないわ……」

 

マミのイタリア語の訳をすぐさま返す錦に、目が点になるまどか達。

 

「ね、ねえちょっと天馬。錦のやつ、何であんなにイタリア語わかんのよ?」

 

「あれ、言ってませんでしたっけ?錦先輩、イタリアに留学してたことがあるんですよ」

 

「え!?あんなサムライ感バリバリなのに!?」

 

「そうなんですよね。でも、人は見かけによらないと言いますから」

 

「限度があるでしょ……」

 

意外過ぎる錦の経歴に言葉が出なくなってしまったさやか達であった。

 

「それはそうと、合同特訓は正解でしたね。これなら、これからの俺たちに必要なことが見えてきそうな気がします」

 

一方、神童がマミに合同特訓の成果を語る。

 

「私もそう思うわ。でもキュゥベえの話が本当なら、これから現れる魔女はどんどん強くなってくるわ。これを計算に入れたらワルプルギスはどれくらいの強さになるか……」

 

現在の状況を冷静に分析するマミ。今日から始めた合同特訓は大まかに分けて二つの目的がある。一つは雷門と魔法少女の連携の強化。もう一つは、そこから魔女戦闘における自分たちの課題を明確にするためであった。彼らが行うのは、あくまで命がけの戦い。一度の油断や失敗が命取りになる。故に、ただ共に特訓するだけでなく、そこから見出した課題を克服し、その成果を実践でどう生かせるかが重要になってくる。闇雲に互いを鍛えるだけでは、これから更に激しくなる戦いを勝ち抜くことは出来ないのである。

 

「ワルプルギスを倒すために、もっと特訓して強くならなきゃ……でも、一体どんな特訓をすれば……」

 

天馬自身もそのことは自覚していた。ボトルを見つめながら更なる成長の決意を固めつつも、その具体的な方向性がハッキリせず、頭を悩ます。するとマミが天馬に近づき、こんな提案を持ち出す。

 

「ねえ天馬くん。前から考えてたんだけど、私と一緒に必殺技を作ってみない?」

 

「え?俺とマミさんで、ですか?」

 

「ええ。あなたたちのサッカーと私たちの魔法を組み合わせれば、戦略の幅が広がると思うの!」

 

「サッカーと魔法の組み合わせ、か……確かに盲点でしたね」

 

「でも、それって面白そうじゃん!」

 

顎に手を添えて納得する神童と未だかつてない試みに興奮するさやか。

 

「その為には、もっと私たちと雷門の連携を上手く取れるようにしなきゃね。何か、ないかしら……?」

 

「連携……う~ん…」

 

天馬は顎に手を添えて考える。しかし首をかしげても中々考えが浮かばない。

 

「ん?」

 

その時、ふと地面にたたずむボールが目に入ると、「あっ!」と何かをひらめいた。

 

「だったら………マミさん達もサッカーやってみませんか?」

 

「え?」

 

「一緒にサッカーをすれば、上手く動きが合わせられるようになると思うんです!」

 

「なんじゃそりゃ。でも天馬らしい自論だね」

 

どこか無理やりな気がしつつも、納得するさやか。

 

「うん。確かにいいかもしれないわ!やりましょう!」

 

「マミさん、なんか妙にやる気ですね?」

 

「もちろんよ。信助くんも言ってたでしょ?サッカーの特訓から新しい必殺技のヒントが生まれるって!それに、みんなと一緒にサッカーやるなんて楽しいじゃない!」

 

「最近太ったからだろ」

 

「ギクッ!さ、佐倉さん……何でそれを?」

 

「昨日、風呂上りに体重計乗ってショック受けてんの見てたからな。確か、そん時の体重は……」

 

「キャーーー!みんなの前で言わないで!」

 

「……とりあえず、今の話は聞かなかったことにします…」

 

マミの体重問題を置いておくことにする天馬たちだった。

 

「あの……わたしも一緒にやってみてもいいかな…?」

 

「まどかさんも?」

 

「わたしも、みんなと一緒にやってみたくなって……」

 

まどかは少し控えめ気味にながらも天馬たちに頼み込む。

 

「もちろんいいですよ!みんなでやった方が楽しいですから!」

 

「ホント!?ありがとう!」

 

「でも、まどかさんミニスカですよね?」

 

「あっ…///」

 

葵に自らの服装を指摘されて赤くなるまどか。

 

「というか、魔法少女の格好って、基本的にみんなミニスカだよね……」

 

さやかもよくよく考える。自分たちは変身を解いても、杏子を除けば全員ミニスカート。サッカーは基本的に足を大きく振り上げるスポーツ。ミニスカートでそんなことをすればどうなるか誰でも想像できるだろう。もちろんその結果を想像した天馬たちも顔を反らして赤くなる。

 

「確かにまずいな。このままサッカーをやったら、パン、ツー、まる、みえ、だからな」

 

「ギャグ、古っ!」

 

いつの間に出てきていた大介がギャグをかまして水鳥が即座にツッコむ。まどか達も同じ年頃の男子中学生に乙女の秘密の花園を見せるには抵抗があった。

 

「そういうことならお任せあれ。ワ~ンダバスイッチ、オン!」

 

すると突然、ワンダバが例のリモコンを取り出し、まどか達5人に向けてボタンを押す。

 

「「「?」」」

 

何事かと思った直後、まどか達の首から下が虹色の光に包まれる。そして光が消えて、自分たちの姿を改めて確認すると、

 

「おぉ~!これって!」

 

「わあ…!」

 

服が左胸にイナズマのマークが入った黄色いユニフォームと青い半ズボンになり、靴はサッカー用のスパイクに変わっていた。そう、これはいつも天馬たちが着ている、背番号が入ったあの服。

 

「雷門のユニフォームだ!」

 

まどかとマミは天馬たちと同じ姿の自分をまじまじと見て、さやかは見せびらかすようにその場で回り、ほむらと杏子は初めてのユニフォームに少しばかり戸惑っていた。ちなみに背番号はまどかが35、ほむらが36、マミが37、さやかが38、杏子が39番だった。

 

「これでサッカーをしても問題ないだろう」

 

「うん!ありがとうワンダバさん!」

 

笑顔でお礼を言うまどか。すると天馬と葵がまどかに近づく。

 

「着心地はどうですか、まどかさん」

 

「うん、動きやすくてすごく良いよ!でも二人とも……わたし似合うかな?」

 

「う~ん。似合うというより、新鮮って感じがします!」

 

「私も。まどかさん達がユニフォームを着るって、思ってませんでしたから」

 

「そっか。でもこれで天馬くん達と一緒にサッカー出来るね!」

 

「はい!俺の一番の特技のドリブルを教えてあげます!」

 

「ありがとう、天馬くん!」

 

笑顔で約束する天馬とまどか。

 

「それにしても、マミさん……」

 

「ん?」

 

そんな中、マミをジト目で見つめるさやか。その視線はある一点に集中していた。

 

「ユニフォームだと余計目立ちますなぁ」

 

「な!?ちょ、ちょっと美樹さん!どこ見てるの!///」

 

とっさにその発育が進んだ胸を両手で隠すマミ。二人のやり取りにまどかは思わず苦笑いし出す。

 

「あはは……マミさんはスタイルいいからね。ね、ほむらちゃん?」

 

「何、食べたらあんなに大きくなるのかしら……」

 

「え?」

 

「な、何でもないわ!」

 

「よーし!それじゃみんなでサッカーやるぞー!」

 

「「「おぉーーーーっ!!!」」」

 

天馬の号令で仲間たちは再び拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、まどかさん!やってみてください!」

 

「う、うん!」

 

サッカーを始めて数分後、まどかとほむらは天馬とフェイからドリブルを教わっていた。そして今はまどかが三人に見守られながら教わったドリブルを披露しようとしていた。

 

「ボールを、小刻みに蹴りながら走る……」

 

天馬から教わったコツを繰り返すように口にしながらボールを蹴り出す。初挑戦だけあって遅いスピードながらもしっかりと小刻みにボールを蹴っていた。

 

「やった!」

 

これならいけるんじゃないかと少しだけスピードを上げる。

 

「あ、あれ!?」

 

「ま、まどかさん!」

 

が、そのせいでボールを蹴るリズムが乱れてしまい、蹴る位置もずれて違う方向に転がり始めた。

 

「わわっ!?ちょ、ちょっと待って!」

 

右往左往するボールを慌てて追いかけながらドリブルを続けようとするまどか。

 

ギュム!

 

「へ?わわわわわ!」

 

そうしているうちにボールを踏んでしまい、そのまま玉乗りに失敗したようにベシャアと前に倒れ込んでしまった。

 

「あちゃ~」

 

「ま、まどか!」

 

「まどかさん!」

 

フェイはとっさに片手で顔を覆い、ほむらと天馬は慌ててまどかに駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「う、うん。なんとか……」

 

地面が芝生だったおかげでケガも無く、まどかはゆっくりと起き上がる。

 

「天馬くん達は当たり前のようにやってたけど、実際はこんなに難しかったんだね…」

 

天馬たちの技術を実感し、芝生にへたり込んで落ちこむまどか。

 

「俺だって最初はボールがあちこち行きましたよ。でも練習し続けたおかげで上手くなったんです。それにまどかさん、初めてやったにしては上手くできたと思いますよ!」

 

「そ、そうかな?」

 

「はい。まどかさんだってもっと練習すればきっと上手くなりますよ!絶対なんとかなります!」

 

「……何とかなる、か……」

 

天馬の励ましがまどかの心に染みわたり、落ち込んで重くなった心を軽くしていく。まどかは水の底から浮かびあがるようにゆっくりと立ち上がり、天馬と向き合う。

 

「なんだか不思議だね。天馬くんにそう言われると、ホントになんとかなっちゃうような気がするよ」

 

もう大丈夫。そう告げるかのようにまどかは可愛らしい笑顔を見せた。

 

「そうですか?ありがとうございます!」

 

「それじゃ次はほむらさんの番だよ。その後、練習の続きをやろう」

 

二人を見守っていたフェイが仕切りだす。

 

「ええ。やってみるわ」

 

「ちなみにやらないと思うけど、時間停止でコマ送りみたいにして上手く見せるというのは無しだよ」

 

「…………………ええ、わかってるわ」

 

(……考えてたみたいだね)

 

ちなみに結果はまどかが先に失敗例を見せてくれたおかげで、ボールを集中して真っ直ぐ蹴り続けることに成功し、同じ徹を踏まずに済んだ。

 

 

 

 

 

「さあ、マミさん!どっからでも撃ってきてください!」

 

一方こちらでは剣城がマミとさやかにシュートを教えていた。そして今はマミがシュートを放とうとしており、ゴール前で信助が待ち構えていた。

 

「いくわよ信助くん!」

 

なんだかFWになったような気分になり、高揚するマミ。

 

「それじゃ、雷門の皆にならって……ティロ・フィナーレ!」

 

その高まった気持ちを開放するように、そのしなやかな足で地面に置いたボールを思い切り蹴り飛ばす。放たれたシュートはゴール前の信助に向かって真っ直ぐ飛んでいく。

 

「ふん!」

 

信助は身体に力を込めてボールを両手で捉える。その勢いに少しだけ後ろに押されたが、しっかりとボールをキャッチすることが出来た。

 

「いいシュートですよ、マミさん!」

 

「ホント?ありがとう!」

 

「なるほど、ああやってカロリーを消……」

 

「もう!そのハナシは忘れて美樹さん!」

 

顔を真っ赤にして腕を振り下ろしながら怒鳴るマミ。

 

「じゃ、今度はあたしがやるね」

 

マミの怒りをよそにさやかはボールを地面に置いて距離を取る。それに合わせるようにマミもふてくされながらシュートコースを開けた。

 

「いくよ!あたしのスーパーシュートをぶちこんでやるよ!」

 

「そう簡単にはいきませんよ!」

 

自信満々なさやかに信助も再び気合を入れて身構える。

 

「くらえ!必殺、さやかちゃんデストロイヤー!!!」

 

さやかは走り込みながら渾身の力を込めてシュートを放った。

 

ガンッ!

 

「へ?……ぶべらっ!」

 

シュートはゴールバーに当たって跳ね返り、見事さやかの顔面にぶちこまれたのだった。

 

「さ、さやかさん!?」

 

「美樹さん、大丈夫!?」

 

顔面にボールがめり込んだまま仰向けに倒れたさやかに慌てて駆け寄る信助とマミ。そんな姿に剣城はやれやれ、と肩を竦めるしかなかった。

 

 

 

 

 

「よっ……ほっ……とっ…」

 

杏子は頭と両足を使ってボールを弾ませ続けていた。彼女は神童と錦からリフティングとボールキープを学んでいた。基礎を一通り教わった後、見事なリフティングを披露していた。

 

「杏子さん、中々筋がいいね。初めてとは思えないよ」

 

「ま、あたしは不規則な動きをするエモノ使ってるからな。少し慣れればこれぐらい出来るさ」

 

頭にボールを乗せてバランスを取る杏子は返事を返しながらボールを足元に転げ落とす。

 

「そうか?それじゃ……」

 

「!」

 

その瞬間、錦がボールをかっさらい、見せつけるようにリフティングする。

 

「30秒以内に奪い返してみるぜよ」

 

「へッ、上等……だっ!」

 

杏子は即座にボールを奪い返そうと飛び掛かる。だが錦も即座に反転して躱す。

 

「おりゃあ!」

 

「ほっ!」

 

「まだまだぁ!」

 

「よっ!」

 

それから何度も奪い返そうとするが、錦も上手く躱し、時間だけが過ぎていった。

 

「このままじゃラチが開かねえ。これでどうだ!」

 

杏子は錦が自分を躱して横を向いた直後、即座にスライディングを仕掛ける。

 

「おっと!」

 

錦はボールと共にジャンプして躱す。その時、少しばかり体勢を崩してしまった。

 

「チャンス!」

 

杏子は錦の下をくぐった直後、持ち前の反射神経で芝生を両手で押して素早く立ち上がり、反転する。

 

「もらった!」

 

空中で体勢を崩したら躱せまいと一気に駆け出す。

 

「ふっ!」

 

しかし、錦も即座に身体をひねらせ、片足で着地する。そしてもう一方の足の裏でボールを蹴り上げ、その着地点に向かって走り出した。

 

「なにっ!?」

 

杏子が驚いて足を止めると、錦は地面を弾んだボールを踏みつけた。

 

「30秒じゃ」

 

「おいおい……今の動き、ありかよ?」

 

「こう見えても、キープ力には自信があるぜよ。神童!」

 

錦からパスを受け取った神童は両足と両膝を使って小刻みにリフティングする。そして一度ボールを高く蹴り上げると、背中で柔らかに受け止める。そして身体を跳ね上げて空中に放ると今度は胸元でトラップし、瞬時に再び跳ね上げる。するとその場で素早くターンしてからボールを再び背中で受け止め、首周り伝いに転がして足元に落とし、再びリフティングを始める。

 

「……………」

 

最初に背中で受け止めてからの動きがあまりにもなめらかすぎて、杏子も思わず見とれてしまった。

 

「……やっぱサッカーに関しては勝てねぇな、お前らには」

 

まいるように杏子はため息をついた。

 

 

 

 

それからまどか達はパスやブロックの練習もしたり、信助のようにキーパーをやってみたり、天馬たちと共に古タイヤを付けたロープを腰に巻いてランニング(大介の紹介)など、サッカーの色んな特訓を経験した。ちなみに最後のランニングに関して、まどか達はあまりタイヤを引っ張れなかったが、杏子がいたずらにマミの耳元で何かをささやくと、マミは泣き叫びながら古タイヤを引きずって全力疾走したそうな。

 

 

 

 

 

「今日の特訓はここまで!」

 

「おつかれさまー!」

 

「お腹空いたー!」

 

「さあ、飯じゃ飯じゃ!」

 

日の入りと同時に初日の合同特訓は終わった。一同はそれぞれぼやいたり、葵たちからドリンクを貰ったりと、特訓を終えた解放感を噛みしめていた。その一角で、まどかは芝生にへたり込みながら息を乱していた。

 

「ふう……天馬くん達っていつもこんな特訓してたんだね」

 

隣で立ち上がったまま水分補給をする天馬に疲れた声で語り掛ける。

 

「どうでした、まどかさん?サッカーの特訓は」

 

「はは……今朝走ったのも合わせてヘトヘトになっちゃった。でも、楽しかったよ。天馬くんたちと特訓して」

 

「俺もです。でも、そのおかげで、深く考え過ぎてたってことに気づけました!」

 

「え?」

 

天馬は笑顔でまどかにそう言うと、真剣な顔に変えて一番星が輝く夜空を見上げた。

 

「俺、これからも命がけの戦いをするために、今までとは違う特訓をしなきゃならないって思ってたんです。サッカーじゃやったことないくらいの特訓を。でも、忘れてました。俺たちの戦いの基本は、やっぱりサッカーなんです。俺たちはそこから魔女戦闘に生かすしか、強くなる方法が無いんです」

 

「天馬くん……」

 

「だから、みんなでこうしてサッカーをやれて良かったです。やっぱりサッカーはみんなで楽しむものですから。こんな風に、“楽しい”って気持ちから始めれば、絶対強くなれると思いますから!」

 

曇り一つ無い笑顔を再びまどかに向ける天馬。その時の笑顔がまどかもまぶしく見え、自然と口元が緩み、

 

「“楽しい”気持ちから始める、か……ふふ、天馬くんらしいね!」

 

クスリ、と笑顔がこぼれた。すると隣から「ふぅ…」と、小さな吐息が聞こえ、まどかは反対側に顔を向ける。

 

「ほむらちゃん、大丈夫?」

 

「ええ……心配ないわ。少し疲れただけ…」

 

そこではほむらが汗だくになりながら大の字で芝生に寝そべっていた。

 

「私ね……生まれつき心臓が悪くて、運動が出来なかったの。魔法少女になって、それが出来るようになったけど……まどかを救うために闘い続けていたから、まともにスポーツを楽しむなんて考えたこともなかったの……」

 

ほむらはもう一度ため息をつき、呼吸を整えてからこう言った。

 

「スポーツで掻く汗って、こんなにも清々しいものだったのね……」

 

「ほむらちゃん……」

 

心に染みわたるようなほむらの微笑みと言葉が、高まった自分たちの絆を実感させる。そのことを祝福するかのように河川敷に再び風が吹いた。

 

 

 

 




というわけで初日に特訓シーンは終わりました。
ネタは出来上がってもそこまで展開を考えるのはやっぱ難しかったです。

次回でこの16話も終わりたいと思います。

ご感想お待ちしております。



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第16話『見滝原の特訓!』 Cパート



皆様、本当に大変長らくお待たせいたしました。
大まかな展開は出来ていたものの、細かい部分が中々決められず、その間にまどマギとイナイレシリーズ両方の新展開も公開され、1年弱という史上最長記録を更新してしまいました。

その間もずっと待ってくれていた皆さまにマジで感謝!です。

今回は今まで一番悩んでいた故、読む人によってはちょっとばかしブッ飛んだ展開かもしれません。しかし、今回の話で出てくる要素はこれからの話で使えるようにするために書きました。受け入れてくれたらうれしいです。

長ったらしい前置きはここまで。それではどうぞ。





 

 

 

~~翌日・河川敷~~

 

 

 

「それじゃあ天馬くん。あなた達の変身を見せてもらえるかしら」

 

「はい、化身アームドですね。行きますよ!魔神ペガサスアーク、アームド!」

 

天馬はマミの前で化身アームドを発動し、輝白の鎧を纏う。この日は昨日までとほぼ同じ内容の特訓を軽めに行い、更なる戦術を編み出すために天馬たちの能力を再検証していた。今は復活した化身アームドの力を改めてまどか達に披露しているところであった。

 

「おお~。やっぱり何度見てもあたしたちの変身と似てるとこがあるね、マミさん」

 

「………………」

 

「………マミさん?」

 

「やっぱり……」

 

「……え?」

 

「やっぱりカッコイイわ!!!」

 

「は、はい…?」

 

「やっぱり変身は呪文を叫んでやらないとね!“アームド”!ああ、なんて良い響きなの!カッコよく決めながら変身するなんて、もう最高!」

 

目を輝かせて興奮するマミ。どうやら化身アームドに感極まってしまったようで、両手を広げて踊るように回りだす。そのあまりの姿に天馬たちは唖然となり、彼女の背後に綺麗な花畑が見えてしまった。

 

「あ、あの……マミさん?」

 

「………ハッ!ご、ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったわ」

 

「ちょっとじゃないだろ、ちょっとじゃ」

 

呆れるように片手で頭を押さえる杏子。

 

「でも巴さんのお気持ちは分かりますわ!この輝かしき鎧を纏ってさやかさんを助けた時の天馬くん達のお姿は、まさしく騎士(ナイト)のようでしたわ!」

 

「な、ナイトって……」

 

両頬に手を添えて恍惚の表情を浮かばせる仁美。今日は彼女も習い事が無かったので特訓の手伝いに来たのであった。

 

「やれやれ……それじゃあ天馬、思いっきり撃ってきて!」

 

そう言いながらさやかは変身し、剣を構えて天馬の前に立つ。

 

「いきなりシュートを受けるなんて大丈夫ですか?」

 

「へーきへーき!あたしだって少しは剣の扱い方も上手くなったから!」

 

「分かりました。ケガしないようにしてくださいね!」

 

「来いっ!」

 

「行きます!はあっ!」

 

天馬はボールを空中に放り投げ、ボレーシュートを放つ。

 

「はあああぁっ!」

 

さやかは渾身の力を込めてバッティングの要領で剣を振った。

 

「ぐっ…!」

 

剣は見事シュートを捉え、そのまま打ち返そうとする。

 

「ぐぐ……ぐ……うああっ!!!」

 

しかしシュートの勢いを殺しきれず、剣は弾き飛ばされて地面に倒れこんでしまった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

天馬は慌てて化身アームドを解いてさやかに駆け寄る。

 

「うん、なんとか…」

 

「立てるかしら?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

さやかは一足先に駆け寄ったマミの手を借りながら立ち上がる。

 

「やっぱり凄まじい威力ね。魔法少女の力でも返しきれないなんて」

 

 

 

「やってるな」

 

 

 

全員が振り向くと神童が恭介と共に歩み寄っていた。今日は恭介のレッスンも休みだったので、神童は彼と共に作曲活動をしてから合流することになっていた。

 

「神童先輩、上条さん。曲作りは進んだんですか?」

 

「ああ。まだ完成には遠いけど、神童くんが良いメロディーを考えてくれるから、いい曲になりそうだよ」

 

「いや。上条がさやかさんを大切に想っているから、いい曲が浮かび上がるだけさ」

 

「愛されとるのう」

 

「も~恭介ったら~!」

 

錦がにやけ面で冷やかすと、さやかはまたもや身体をくねらせて恍惚の笑みを浮かばせる。その度に一部のメンバーから「はぁ……」と、ため息をつかれる始末であった。

 

「さて。そろそろ次の検証をしましょうか」

 

「次はどうします?ほむらさん」

 

「そうね……昨日からの特訓で個人の能力は大体わかってきたわ。だから今度は連携して戦う術を考えたいわ」

 

「連携……それって、さやかちゃんを助けた時の天馬くんと剣城くんのシュートみたいな?」

 

「少し違うわ。そういった必殺技を上手く決められるような作戦。つまり戦術が必要なのよ」

 

「なるほどね……」

 

ほむらの案に納得するマミ。

 

「ねえ天馬くん。あなたたちのサッカーの戦術で魔女戦闘に使えそうなものはないかしら?」

 

「戦術……といったらやっぱり必殺タクティクスですかね」

 

「必殺タクティクス?」

 

「必殺タクティクスとは、俺たちの世界のサッカーのフォーメーション戦術の事です。神童先輩の神のタクトもこれに当てはまるんですよ」

 

「そうだったの。なら、他にも無いかしら?例えば、たくさんの使い魔を一気に蹴散らせるとか……」

 

「それなら『アルティメットサンダー』が有効だと思います!」

 

「アルティメットサンダー?」

 

「それについては俺から説明しよう」

 

神童が前に立ち、葵たちが用意したフォーメーションボードを使って説明しだす。

 

「アルティメットサンダーはまず、キッカーとなる選手がバックパスを送って後方に走る。その間に両端の四人のパス役がダイレクトパスで稲妻の軌道を描きながらバックパスを繰り返す。ダイレクトパスによってボールにエネルギーが蓄積し、最後の四人目が送ったパスを最後列まで下がったキッカーが敵陣に打ち込む。そして敵陣に叩きこまれたボールは蓄積したエネルギーを衝撃波として開放し、その周囲の敵を吹き飛ばす。これがアルティメットサンダーだ」

 

「敵の守りが崩れたところにシュートを決める。というわけね」

 

「確かに!それなら魔女との戦いにも使えるよ!」

 

マグネットを使った説明により、まどか達もその動きが理解できたようだった。

 

「エネルギーを溜まったボールは凄まじく、並外れたキック力を持ってないと蹴り飛ばす前に自分が弾き飛ばされてしまうんだ。まあ、剣城がキッカーを務めるから、その点はもう克服しているが、もう一つ問題がある」

 

「問題?」

 

「今いるメンバーでパス役を務めていたのは俺だけなんだ。だから、やるなら今いるメンバーでパス役をやらなければならない。さらに、このタクティクスは敵を吹き飛ばした後、シュートを決めることが前提だ。だが残った使い魔や魔女が邪魔する可能性がある。シュートを決める役が一人だけというのは不安があるんだ」

 

「でも今いる雷門のメンバーは6人しかいませんよ。その内5人がタクティクスをやるとしたら、シュート役はやっぱり一人になっちゃいます」

 

「その通りだ。他のみんながいればまだ使えそうだったんだが……」

 

メンバー不足に残念がる神童。もっと仲間が揃っていれば、そこから更なる戦術を組み込めたのではないかと歯痒くなっていた。

 

「それなら私がパス役に加わるわ」

 

「マミさんが?」

 

「ええ。私も実際に必殺タクティクスをやれば、もっと連携が上手くなると思うの。それに一度みんなで力を合わせて技を決めるってやってみたかったし」

 

「それはありがたいんですけど、マミさんはその……スカートが……///」

 

天馬は昨日の特訓前に問題となった例の花園の件を思い出し、またもや顔を赤くしてしまう。

 

「大丈夫。こんなこともあろうかとワンダバさんからこれをもらったから」

 

と言いながらマミは赤いボタンがついたリモコンを見せる。

 

「リモコン?なんだかワンダバが使ってるものに似てますね」

 

「ええ。これがあれば、スイッチ一つで服をユニフォームに変えられるの!」

 

「「「えええええぇぇ!?」」」

 

「あと、あたしたちも持ってるよ」

 

振り返ると、さやか、杏子、ほむらもリモコンを掲げており、「実はわたしも…」とまどかもおずおずと気恥ずかしそうにリモコンを見せていた。

 

「い、いつの間に……」

 

「夕べ練習を終わった後にもらったの」

 

「ちなみに、もう一度押せば元の服装に戻るように設定してある。すごいだろう、えっへん!」

 

と、自慢げに腕を組むワンダバに抜け目がないと思った天馬たちであった。

 

「さすがだな……だがこれで余裕を持ってメンバーを選抜できる」

 

「で、誰がやるのさ?」

 

さやかの問いに神童は顎に手を添えて考える。

 

「まずキッカーは剣城に確定だ。パス役は俺の他に三人必要になる。そしてこの技は大抵魔女の周囲の使い魔たちに放つ。当然そこから魔女に追撃することになるだろう」

 

「ということは接近戦タイプのあたしと杏子はパス役に回らずに魔女に切り込んだ方がいいよね」

 

「ああ。そして防御役である信助も当然加わらない方がいいだろう。パスを繰り返している間、魔女が何もしてこないとは限らないからな」

 

「その時は任せてください!」

 

「となるとパス役にマミさんが入るとして残りは天馬、フェイ、錦、ほむらさんの四人になる」

 

「使い魔を蹴散らした後にシュートをすることも考えたら、暁美さん以外の内二人はシュート役に入った方がいいんじゃないかな」

 

「その通りだな、上条」

「それなら、僕と天馬にシュート役をやらせてくれないかな?僕たちには二人で放つシュート技があるし」

 

フェイも手を上げて意見を出す。

 

「わかった。パス役に回れるか、錦」

 

「任せるぜよ!ホントはワシが最後に決めたかったが、役割の方が大事じゃからのう」

 

「よし、このチームでのメンバーは決まった。キッカーは今まで通り剣城。エネルギーを溜めるパス役は俺と、マミさん、錦、ほむらさんだ」

 

「時間が惜しいわ。すぐに練習を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マミさん!」

 

「ハイッ!……あっ!」

 

神童たち5人が練習を始めて数分後。マミとほむらは上手くパスをつなげられず苦戦していた。今もマミがほむらにボールを回せず地面にバウンドさせてしまっていた。

 

「ごめんなさい。中々狙いが定まらなくて……」

 

「気にせず続けましょう。剣城、もう一度だ!」

 

「はい!」

 

5人は再びポジションに付き、剣城が神童にボールを渡して走り出すところからリスタートする。

 

「マミさん!」

 

「暁美さん!」

 

「錦くん!……あっ!」

 

「…っ!」

 

ほむらの出したパスはタイミングが早く、後方まで走り込む剣城に当たってしまう。

 

「ごめんなさい」

 

「いえ。これくらい大丈夫です」

 

「やっぱり、ダイレクトパスって難しいわね。見た目は豪快だけど出来るまでが大変なのがよくわかったわ」

 

マミが頬に手を添えて悩める。

 

「しかもこれはパスのリズムを合わせなければならない。やはり初心者であるマミさん達には難しいでしょうね」

 

神童が相槌を打つ。

 

「それでもこのメンバーでやるしかないわ。この先の戦いを勝ち抜くためにも」

 

「そうじゃ!もう一度やるぜよ!」

 

ほむらと錦も気合を入れ直す。そしてまた剣城がパスを繰り出すところから始まった。

 

「マミさん!」

 

「暁美さん!」

 

「錦くん!」

 

マミとほむらは上手く錦までつなげられ、一瞬喜ぶ。

 

バシッ

 

「……っ!剣城!」

 

錦のパスは走る剣城に向けて真っ直ぐに伸びていく。

 

「アルティメット……サンダー!」

 

エネルギーが溜まり、オレンジ色の光を纏ったボールを剣城が振り向き様に前方に放つ。

 

「やった!」

 

成功した、とガッツポーズをとる天馬。

 

バシュン!

 

「「「!?」」」

 

しかし地面に撃ち込まれたボールは衝撃波を出さず、弾んでしまった。

 

「失敗した……」

 

「どうして?タイミングもコントロールも良かったはずなのに…」

 

やっと出来たと思ったとほむらとマミは原因が分からず混乱する。

 

「おそらく、それが原因じゃの」

 

そう言ったのは錦だった。

 

「パスを受けた時に気づいたんじゃが、ボールを上手くつなげることに意識しすぎてパワーが込められておらん。そうじゃろ、剣城」

 

「ええ、いわばエネルギーが足りない……これでは衝撃波を出すことが出来ません」

 

「そう……でも、力を込めるとコントロールが難しくなるわ」

 

「それでもやりましょう、巴さん」

 

「暁美さん…」

 

「このぐらいで諦めるようじゃあ、これから更に激しくなる戦いを勝ち抜くは出来ないわ。それに私は成功するまで繰り返すなんて、時間遡行のおかげで慣れてしまったわ」

 

「ほむらちゃん……」

 

「よし、続けるぞ!」

 

「「「おーっ!」」」

 

 

 

 

 

 

それから数時間。

 

 

 

 

「はあっ!」

 

彼らは続けた。

 

「もっと集中だ!」

 

 

 

 

 

何度失敗しても。

 

 

 

「はい!」

 

何度繰り返しても。

 

「コントロールが甘いぜよ!」

 

 

 

出来るまで続けた。

 

 

 

「まだまだ……!」

 

全ては、仲間と共に未来を切り開くために。

 

 

 

「……がんばって。ほむらちゃん、マミさん……」

 

 

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

「なんとか……出来るようになってきたわね…」

 

ほむらは大きく息を吐きながら額の汗を腕で拭った。マミとほむらは猛特訓の末、パワー、コントロール、タイミング。全てを兼ね備えたパスを出せるようになったのだった。

 

「正直驚いたよ。まさかこんなに早く出来るようになるなんて」

 

パスを習得したほむらとマミを称える神童。魔法少女になると運動神経も良くなるが、それを踏まえてもこの短時間でモノにしたのは二人の強い想いの成果だと神童は思った。

 

「やりましたね、お二人とも!見事に完成しましたわ!」

 

仁美も大いに喜ぶ。

 

「……いいえ、まだ完成じゃないわ」

 

「え?」

 

「そうでしょ、神童くん」

 

「ああ。実戦だと使い魔が何匹もいる。どんなタクティクスでも、敵味方が混雑している中でも撃てるようにならなきゃ完成とは言えないんだ」

 

「なるほど……確かにそうですわね…」

 

「ここからは練習相手が必要ね。これだけの人数じゃ使い魔を相手にする練習にはならないわ」

 

周りを見わたすマミ。実戦形式の特訓をするには敵味方に分かれて行うのが定番だが、今いる仲間たちだけでは明らかに人数不足だった。

 

「それなら僕に任せて!」

 

フェイが得意げに指を鳴らすと、突然フェイの背後から9人の選手が出現した。彼らはフェイと同じエメラルドグリーンの髪をしており、角刈り頭のキーパーは灰色、他の選手は赤色のユニフォームを着用していた。

 

「ええぇ!?きゅ、急に人が…!」

 

突然の出現にまどか達はハトが豆鉄砲を食らったような顔で驚く。

 

「アハハ。驚かせてゴメン。彼らは“デュプリ”といって化身の一種なんだ。試合においては人数が足りない時の代行選手にもなるんだ」

 

「つまり、フェイくんの分身ってこと?」

 

「そうだね。僕が彼らをコントロールしなきゃいけないから負担が掛かるけど、特訓の相手にはおあつらえ向きでしょ?」

 

「もう、なんでもアリなんだね……」

 

「それじゃ始めよっか」

 

 

 

 

 

 

 

「今よ!」

 

「甘いね!」

 

「くっ!」

 

デュプリ達を相手に本格的な練習を始めた天馬たち。しかしアルティメットサンダーの体制に入ろうとするとすぐにマークに付かれてしまい、中々決められずにいた。

 

「それならこれでどう!?」

 

「!」

 

マミは自分をマークしているデュプリをリボンで縛り上げて突破する。これは試合ではなく魔女戦闘を想定している為、天馬たちも有効としている手である。一方でほむらも時間停止を使ってマークを外し、すぐさまアルティメットサンダーを行うためにリモコンでユニフォーム姿になる。

 

「くっ!」

 

「ぬぅ……!」

 

しかし神童と錦がマークを突破出来ずにタイミングが合わなくなる。

 

「ふう……少し休憩しようか」

 

フェイがため息をつきながら再び指を鳴らしてデュプリを消す。それと同時に天馬たちも力を抜いて身体を休める。

 

「フェイ、大丈夫?デュプリを9人もコントロールしているから疲れるよね」

 

「うん。でもこれぐらいなんてことないよ天馬。これからの戦いの為だもの」

 

「じゃがマークが付いたら今度はワシらが足を引っ張ってしまうのう、神童」

 

「ああ。使い魔が常に俺たちの前に立ちはだかっているわけではないだろうが、いざという時に突破出来ないとダメだ。もっとスピードを上げないとな……」

 

「でもそれさえクリア出来ればもう完成じゃん!どうしても突破出来ない時はあたしたちが使い魔を蹴散らして道を開いてあげるからさ。あんまり思いつめないでよ」

 

「……ありがとう、さやかさん。よし、それじゃ休憩後は……」

 

 

 

ズズ……。

 

「「「!」」」

 

全員即座に反応するが、次の瞬間にはまたもや結界に捕らわれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「また捕らわれたか!」

 

「恭介!まどかと仁美を連れて葵たちの元に!」

 

「ああ!」

 

「出たぜ!」

 

杏子が叫ぶと周囲に手足がツタで出来た木の柵のような使い魔が現れ、奥の方に両腕が遮断機で、体のあちこちから赤い三角コーンを生やした風車小屋のような魔女が現れる。

 

「あれがこの結界の魔女か。いくぞ、みんな!」

 

「おお!」

 

神童の号令で全員が一斉に駆け出す。

 

「神のタクト!」

 

神童はすぐさまタクトを伸ばし、自身も攻め込みながら指揮にあたる。

 

「さやかさん、杏子さん!正面突破!」

 

「「おお!」」

 

さやかと杏子の二人掛かりで目の前の使い魔たちを薙ぎ払う。

 

「「剣城、マミさん!追撃だ!」」

 

「「はい!」」

 

剣城がシュート、マミが射撃でさらに使い魔を蹴散らしていく。

 

「天馬!」

 

神童が自分のボールを蹴り上げ、天馬のボールと合体させる。

 

「アグレッシブビート改!」

 

すかさず天馬も必殺技で使い魔を突破する。

 

「よし!このままいけば……」

 

魔女に辿り着ける、と思っていた神童の背後から突然使い魔が現れ、身体を横に向けて手裏剣のように回転しながら神童に迫っていた。神童も気配で気づいて後ろを向くが、その時には既に数メートルまで迫っていた。

 

「神童先輩!」

 

天馬はとっさに振り向いてシュートを放ち、使い魔を倒して神童を助ける。

 

「よし!」

 

「天馬、後ろだ!」

 

神童の呼びかけで後ろを見ると今度は別の使い魔が自分に突っ込んできていた。

 

「しまっ…!」

 

躱せない、と思った直後。突然天馬の姿が消え、使い魔は素通りする。

 

「!?」

 

神童は驚きつつも、すぐさま天馬が放ったボールで使い魔を倒す。

 

「天馬は……」

 

「危ないところだったわね」

 

「ほむらさん!」

 

横を見ると天馬の腕を掴むほむらがいた。

 

「助かりました!ありがとうございます」

 

「油断しないで。使い魔はどこから現れてもおかしくないんだから」

 

「天馬!」

 

神童が分離させたボールの片方を天馬に送り返す。

 

「すまない、俺を助けたせいで……」

 

「大丈夫です!それより魔女に向かってください!」

 

「わかった!」

 

神童は道が開けたところから魔女に向かって走り出す。

 

「神童くん!いくわよ!」

 

「はい!」

 

横からマミも合流し、二人は魔女に向けてマスケット銃とボールを構える。

 

「ティロ・ボレー!」

 

「フォルテシモ!」

 

二つの魔力弾と音譜をまとったシュートが魔女に向かって伸びていく。すると突然、使い魔たちが魔女の前で壁のように並び、自ら盾となって魔女を守った。

 

「なに!?」

 

二人の攻撃で壁の一部が崩れるが、すぐに他の使い魔が集まって補修する。そしてその補充をするように新たな使い魔が多数現る。

 

「どうやら今度の魔女は使い魔たちで守りを固めるタイプみたいね」

 

「ケッ、魔女のくせに厄介なマネを……あんなもん並大抵の攻撃じゃ届かねえぞ」

 

マミと杏子が眉を細めながら冷静に分析する。そうしているうちに新たに使い魔が増え、天馬たちは態勢を立て直すために一か所に集まる。

 

「今回の魔女を倒すには、あの防御を一撃で壊して追撃するしかなさそうだね。となれば……」

 

フェイと無言で神童と目を合わせると、神童もその意図を察して頷いた。

 

「ああ……今こそ、アルティメットサンダーを使う時だ!まずは使い魔の数を減らしていくぞ!」

 

「「「おお!」」」

 

そして神童は再び両腕を振りかざし、光のタクトを纏わせる。

 

「剣城、マミさん!両サイドだ!」

 

「デスドロップ(G3)!」

 

「パロット・ラ・マギカ・エドゥインフィニータ!」

 

神童が両側にタクトを伸ばすと剣城が左、マミが右側の使い魔を蹴散らす。

 

「錦!」

 

そして今度は魔女に向けてタクトを放つ。

 

「伝来宝刀!」

 

すかさず錦が必殺シュートを放つ。シュート自体は使い魔の壁に阻まれるが、そこまでにいた使い魔たちの波を割って道を作る。

 

「杏子さん!さやかさん!」

 

「「おりゃあ!」」

 

そこから杏子とさやかが残った使い魔を倒して更に道を広くしていく。

 

「天馬、フェイ!今のうちに行け!」

 

「「はい(うん)!」」

 

神童の指示でシュート役の二人が魔女に向けて走り出す。

 

「みんな、準備はいいか!?」

 

「「「はい(おう)!」」」

 

神童たち5人は使い魔が消えて広く空いた場所へ一斉に走り出す。それを追いかけるように他の使い魔が迫ってくる。

 

「着いたわ、早く!」

 

「急いで!」

 

時間停止を使ったほむらが一瞬でポジションに着き、追ってくる使い魔を拳銃で蹴散らす。次に到着したマミも加わり、剣城もポジションに着くことが出来た。

 

「神童先輩、錦先輩!」

 

剣城が呼びかけるが、二人は目の前に現れた使い魔に阻まれていた。

 

「チィ!」

 

「くそっ!ジャマ!」

 

杏子とさやかが援護に向かおうとするが、更なる使い魔が行く手を阻む。

 

「今がアルティメットサンダーを放てるチャンスなんだ!ここでしくじるわけにはいかない!」

 

神童は意を決すると、リフティングでボールを高く上げ、瞬時に左へ移動する。

 

「『プレストターン』!」

 

使い魔が目で追うように右を見た直後、神童は逆方向に現れる。それに気づいた使い魔がそちらに向くと神童は突風を起こしながらボールと共に走り抜き、生じた土煙によって使い魔の目がくらまされる。

 

「ワシもいくぜよ!」

 

一方で錦も一気に走りだし、ボールと共にジャンプする。

 

「『アクロバットキープ』!」

 

そのまま空中でボールを両足で挟み込み、一度離した後、片足で捉えながらアクロバティックに一回転して使い魔を躱す。そして地面を大きく踏み込むと一気に駆け出して抜き去る。

 

「「剣城!」」

 

使い魔を突破した二人は自分のマギカボールを剣城のボールに向けて放ち合体させる。それと同時にほむらとマミはリモコンでユニフォーム姿になる。

 

「いくぞ!アルティメットサンダーだ!」

 

「「「はい(おう)!」」」

 

神童の号令と同時に剣城が神童にボールを送って走り出す。

 

「マミさん!」

 

「暁美さん!」

 

「錦くん!」

 

「剣城!」

 

神童から始まったパスは一部の狂いもなく繋がっていく。全員のパワーと想いが込められたボールは閃光を纏い、稲妻の軌道を描きながら飛んでいく。

 

 

 

「アルティメット……サンダー!!!」

 

 

 

軌道の終着点に辿り着いた剣城が振り向きざまにボールに蹴り込む。

 

「くらえ!」

 

渾身の力を込めて放たれた閃光のボールが魔女の目前に着弾する。すると広範囲にわたって衝撃波が発生し、魔女を守っていた使い魔たちをすべて吹き飛ばした。

 

「すごい……これがアルティメットサンダー!」

 

まどかがアルティメットサンダーの凄まじさに驚嘆する。その衝撃波の余波を浴びた魔女も怯んでいた。

 

「いくよ、天馬!」

 

「おう!」

 

フェイと天馬はその隙を逃さず、自分たちのボールを送られてきたボールと合体させると、ボールと共に自由自在に飛び回り、最後は巨大な満月を背後に高く飛び上がる。

 

「「『エクストリームラビット』!!!」」

 

天馬が逆さまに飛ぶフェイの手を取り、そのまま振り下ろしてボールに蹴り込ませるとボールはエメラルドグリーンのオーラに包まれながら3つに分裂する。そしてそれぞれが不規則に大地を飛び回り、最後は一つになって魔女に命中する。シュートを食らった魔女は風車の羽が壊れ、生やしていた三角コーンも何本か飛び散り、動きが鈍る。

 

「やったぁ!」

 

天馬は喜びながら戻ってきたボールをトラップしようと身構える。

 

「天馬くん、危ない!」

 

「え?うわっ!」

 

魔法少女の姿に戻ったマミの呼びかけに気づいた天馬が上を見ると、魔女から飛ばされた数本の三角コーンが降ってきていた。天馬は間一髪で避けるが、トラップし損ねたボールはこちらに走ってきたマミの方に弾んでいく。その間にも正面から新たな使い魔たちが天馬に向かっていた。

 

「くっ!」

 

マミは慌てて何発か放ったが、数発しか当たらない。その代わり一発だけボールに当たり、天馬の方に押し戻される。

 

「はあっ!」

 

天馬はとっさに戻ってきたボールに蹴り込むと、マミに撃たれて勢いづいていたせいか一気に加速して使い魔たちをボウリングのストライクのように蹴散らす。

 

「やった…………!マミさん!」

 

「ええ!天馬くん!」

 

二人は顔を合わせ、何かを閃いたように笑顔になる。

 

「天馬!こっちに……っ!」

 

ここまで戻ってきていた神童が天馬からパスを貰おうとしていたら正面から三角コーンがミサイルのように飛んでくる。抵抗した魔女の攻撃だった。しかし数も多く、ボールも無いため、躱すことも出来なかった。

 

「神童先輩!」

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

寸前で化身を出した信助がタイタニアスの掌底でコーンを受けとめる。

 

「今のうちです!」

 

「すまない!」

 

コーンが途切れたのを見て走り出した神童に天馬はすかさずパスを送る。そして神童の後ろから剣城も追いついてくる。

 

「剣城、俺たちで決めるぞ!」

 

「はい!」

 

神童と剣城がボールと共に飛び上がり、ボールを交互に蹴り合いながら上昇するとボールは青い光と黒いイナズマを纏いながらエネルギーを溜めていく。

 

「「『ジョーカーレインズ』!!!」」

 

二人は更に高く飛び上がり、雷雲を背後に二人掛かりでボールを踏み落とす。

 

「―――!?!?!?」

 

強烈な電撃のシュートが受けた魔女は形を失い、やがて結界と共に崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

~~河川敷・夕方~~

 

 

 

 

結界が消えると、時刻は日没寸前だった。戦い終えた魔法少女たちは変身を解き、天馬たちもその場で安堵の息をついた。

 

「ふう。ぶっつけ本番だったけど、なんとか上手く出来たぜよ」

 

額の汗を腕で拭う錦。

 

「みんな、お疲れ様です!どうでしたマミさん?必殺タクティクスをやってみて!」

 

「ええ、とっても気持ち良かったわ!みんなと連携技が出来て!」

 

満足気に葵に答えるマミ。コンビネーションで連携することはあれど、協力して一つの技を決めることは無かった故にタクティクスの成功は彼女に充実感と一体感をもたらしたのだった。

 

「これなら十分魔女との戦いに使えるわ。それに……天馬くん!」

 

「はい!俺とマミさんの連携技の形が見えましたし、文句なしですよ!」

 

「ホント!?だったらどんな必殺技になるか今から楽しみだよ!わたし、応援するから頑張って完成させてね!」

 

「ありがとうございます、まどかさん!絶対完成させましょうね、マミさん!」

 

「ええ。でも……これからの戦いに向けて、もう一つ重要なことが見えたわ」

 

「え?」

 

「巴さんも気づいたみたいね。今のこのチームの問題に」

 

先ほどまでとは打って変わって真剣な表情で答えるマミ。天馬が言葉の意味を理解する間も無く、ほむらが即座に相槌を打った。

 

「どういうことですか?」

 

「確かに天馬たちのシュートやタクティクスは強力で、攻撃面に関してはほぼ問題は無いと言っていいわ。だけど、シュートを撃った直後や他のマギカボールと合体させている間は全くの無防備になってしまうのよ」

 

「あ!」

 

そう言われた天馬も思い出す。今の戦い、確かにボールが自分たちの手元に無い時は大抵使い魔にやられそうになり、その度に他の仲間に助けてもらっていたことを。

 

「もちろん、その間は私たちも出来る限りフォローするつもりだけど、それだけじゃ限界があるわ。信助くんはキーパーだから防御に徹することも出来るけど、基本的には魔女の攻撃を化身で受け止めることになる。でも、使い魔相手に化身は向かない。そうでしょう、信助くん?」

 

「……確かに魔女相手ならともかく、今回みたいに数多くの使い魔で囲まれたりしたら、化身じゃ防ぎきれないかもしれません……」

 

顔をこわばらせる信助。天馬たちの化身は強力であるが機動力は低く、加えて消耗が激しい。故に躱し切れない時や、強大な敵と戦う時の切り札として使うことが主な使い方になる。魔女を倒さぬ限り、無限にあふれてくる使い魔相手にいちいち使うには効率が悪すぎるのである。

 

「今の私たちに必要なのは基本的な攻撃を瞬時に防御することが出来る仲間。サッカーでいうDF(ディフェンダー)が必要なのよ」

 

「DFか…」

 

「でも雷門にだって、すごいDFがいるんでしょ?」

 

「ああ、みんなとても頼りになる仲間たちだ。試合においてもDFのみんなが守りを固めているから、俺たちも安心して攻撃に専念できた」

 

神童はさやかに答えながら思い出す。自身の小学校からの親友をはじめ、強力なディフェンス技を持った彼らなら、使い魔や魔女の攻撃も防いでくれると信じて疑わなかった。

 

「この町に来て何日か経つけど、手掛かりは全然見つからない……」

 

「私たちがそれぞれ違う場所に飛ばされたことを考えると、見滝原以外の町に飛ばされている可能性もありますよね」

 

茜と葵が仲間たちの心配をしながら現時点での状況を整理する。

 

「となれば、捜索範囲をちょっとばかし広げてみるのもアリかもな」

 

そう言いだしたのは杏子だった。

 

「マミ。あたし、明日はちょっと風見野に戻ってみるよ。あっちにもそろそろ魔女が出てきてるかもしれないからな」

 

「わかったわ。気を付けて行ってきてね。あと剣城くん。悪いんだけど、佐倉さんについて行ってくれるかしら?また何かやらかすといけないから」

 

「ええ。わかりました」

 

「んだよ、あたしは保護者がいなきゃダメだって言いてえのか?」

 

「それもあるけど、久しぶりに二人きりにしてあげたいと思ってね」

 

「な、なんだよそりゃ!どういう意味だ!///」

 

「佐倉さんも女の子らしくさせたいってことよ」

 

「よ、余計なお世話……じゃねぇ!い、意味がわかんねぇよ!///」

 

「わかってるくせに~。杏子の、照・れ・屋・さん!」

 

「さやかまでうっせーっ!///」

 

耳まで真っ赤にした顔で怒鳴り散らす杏子。そんな杏子とマミたちの言葉に剣城は「?」と、首を傾げているだけだった。

 

「ふふ。なんだか楽しいね。あんな命がけの戦いの後なのに」

 

「みんなで力を合わせてやり遂げたからですよ。これもサッカーの醍醐味の一つなんです!」

 

杏子たちのやり取りを見ていたまどかが微笑みながら天馬と語り合う。さっきまでの緊迫した雰囲気がまるで夢のようだとまどかは思えた。

 

「わたし達が初めて魔女に捕らわれた後も、こんな風にみんなでおしゃべりしたよね」

 

「そういえばそうでしたっけ。あの時はマミさんにケーキをごちそうしてもらったり、みんなでハンバーガー食べたりとかもしましたよね」

 

「うん。それからは魔法少女の事とかで大変だったから、今こうしてることはすごく幸せなことだって思えるんだ。ずっとこんな時間が続けばいいなって……」

 

まどかは少しだけ遠い目をしながら空を見上げる。

 

「でも、そう思うとちょっとだけ不安になっちゃうんだ……こうして幸せな時間を過ごすほど、後で誰かが死んじゃったりしたらって考えたら、怖くなっちゃうの…」

 

「まどかさん…」

 

天馬もその気持ちは理解していた。ここまで合流した全員が無事に生きているだけに、誰か一人でも死ぬようなことがあれば、全ての希望が潰えてしまう。常にそんな危険と隣り合わせであることは自覚していた。しかし、それでも天馬は言った。

 

「……確かに俺も、少しだけそれが怖くなります。でも、そんなことにならないように俺たちは今こうして特訓してるんじゃないですか」

 

「!」

 

思わず振り向くまどか。

 

「不安があるなら強くなればいいんです。みんなで特訓して、そんな不安すら消し飛ぶくらい強くなればいいんです!革命を成し遂げて、全ての魔法少女が幸せな毎日を送れるようになるまで!」

 

「天馬くん…」

 

まどかは天馬の真っ直ぐな瞳に惹かれる。彼は決して揺るがない覚悟で魔法少女たちの為に強くなろうしていた。そのためらいの無い決意で困難に立ち向かおうとしていたのであった。

 

「大丈夫ですよ!みんなで力を合わせれば、きっとなんとかなります!」

 

そして今も、彼はまどかの不安をも吹き飛ばそうとしている。天馬の強い気持ちが、まどかの心にも風が吹き抜けるように伝わる。まどかも肩の力を抜き、その想いに応えるように満面の笑顔を見せた。

 

「うん……そうだよね!」

 

「はい!なんとか、なります!」

 

「なんとか、なるよね!」

 

二人は再び空を見上げる。そして暗い夜空の中でキラキラと輝く一番星を見つめた。自分たちの想いがいつかあの星に届くようにと。そんな二人にエールを送るかのように、河川敷にそよ風が優しく吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの時の彼らは知る由もなかった。

 

 

 

 

杏子と剣城が再び訪れた風見野の地で、新たな出会いと再会。

 

 

 

 

そして―――――

 

 

 

 

 

新たな敵の宣戦布告が待ち構えていることを。

 

 

 

 

 





―ED『みんなのために』(歌:空野葵)―




次回予告

天馬
「魔女を退治していた杏子さんは幼い少女に出会う。物語は新たな展開へ!

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第17話『動き出した白い少女』!」



というわけで初めてのオリジナルでした。
まさか1話出来上がるまで1年半もかかって、しかも文字数が全話中最長になるとは思ってもいませんでした。

さて今回はイナイレGOの要素を色々と盛り込んでみました。これでこの先、他の必殺タクティクスも使えそうです。(完全なつじつま合わせ)

マミさんが化身アームドに対する反応は結構前から考えてました。彼女ならこんな反応すると思って、思い切りやっちゃいました。


そして遂におりこ☆マギカ編が本格的にスタートします。
次話から新たなキャラ達もどんどん出しちゃいます。

ご感想お待ちしております。







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第17話『動き出した白い少女』 Aパート



チャ~ララ~ラ~ラ~


さやか
「皆様、新年明けましておめでとうございます!ワンダバフル☆ニュースのお時間です!キャスターの美樹さやかです!」

神童
「神童拓人です。では、新年初のニュースです。
ついに、このイナマギのお気に入り登録人数が100人を突破し、通算UAも4万を超えました。このことに作者のサニーブライト氏は『投稿が遅くなりがちなのに、読み続けてくれた読者の皆様のおかげです。心からありがたく思います』と、感謝のコメントを述べ、『今回から本格的に第2部の物語が始動するので、もっと皆様が楽しめたらうれしいです』とも述べているとの模様です」

さやか
「では、バラエティです。現在、食戟(しょくげき)プロリーグ10連覇中のタレント料理人、スライス秋山(あきやま)が」

ピラッ

神童
「失礼。ここで臨時ニュースです。
本日、風見野市の路上で男女の惨殺死体が発見されました。遺体はまるで何かに食い殺されたかのように酷いもので、警察は猟奇殺人事件と扱いましたが、不明な点が多く、遺体の身元判明にいたる遺留品も損壊しているため、捜査は難航している模様です」

さやか
「では、バラエティです。現在、食戟プロリーグ10連覇中のタレント料理人、スライス秋山が」

ピラッ

神童
「失礼。ここで再び臨時ニュースです。
先ほどのニュースの続報です。遺体発見時より数時間前の目撃証言で被害者の男女と一緒にいた、娘と思われる小学生の少女が行方不明となっていることが分かりました。警察は少女が今回の事件に何らかの形で巻き込まれたと見ており、一刻も早い遺体の身元判明と少女の発見に力を入れていると同時に、学生たちに対する早急な帰宅要請を呼びかけているとのことです。
…………まことに申し訳ありませんが、我々にも要請がかかったようなので、本日のワンダバフル☆ニュース、ここで失礼します」

さやか
「あっ!でも、スライス秋山が!」

神童
「さやかさん。今回の俺たちの出番はここまでだ。行こう」





―OP『感動共有!』―






 

 

~~某日・某所~~

 

 

 

 

「ああ、なんということでしょう」

 

何処かの暗い一室に一人の少女が嘆いていた。

 

「ここまで来ても、あの未来は……変わらなかった」

 

少女は豪華な造りの椅子に座ったまま上を向く。そこには暗闇の天井しかなく、彼女が視たモノを暗示しているかのようであった。

 

「やはり、運命は変えられないようね……私が最初に視た、あの時から決まっていたことだった……」

 

 

 

 

 

 

 

~~回想~~

 

 

―――さあ。君の魔法(チカラ)を試してごらん。

 

 

 

少女が思い出すのは、あの白い妖精と契約した時の事。自身の魂の結晶を輝かせると、少女は純白のショールが付いた帽子と純白のドレスを身に纏い、美しい銀髪のポニーテールがほどけて広がる。そして言われるがまま、願いから生まれた魔法を発動すると彼女の目にある光景が映し出された。

 

 

 

 

 

 

「ここは…見滝原なの!?」

 

少女の目に映し出されたのは赤く染まった空に包まれる、崩壊した見滝原だった。たくさんの建物がガレキとなって次々と空に飲み込まれていき、それはまるでこの世の終わりのような地獄の光景だった。

 

「街が崩れていく……なんて力なの」

 

恐れおののきながらゆっくりと上空に目を向ける。そこには青いドレスを身に纏い、頭を下に向け、逆さまのまま浮いている巨大な怪物がいた。

 

「あれが魔女…?それにあれは…」

 

そこからさらに見下ろすと、そこには何人もの魔法少女とサッカーボールを携える少年たちの姿があった。誰もが決して臆さず、射抜くような視線で魔女を見据えていた。

 

(彼らはあれに立ち向かおうとしている…?彼らはこの世界を救う救世主だというの…?)

 

「これが私の運命だというのならば、なんとしても止めてみせるわ…」

 

少女は彼らと協力し、無邪気な声で笑いながら街を破壊する魔女と戦う決意を固めた。

 

 

 

―――その時だった。

 

 

 

「!!!」

 

突如、桜色の光が視界を覆う。そして光が晴れると、少女は絶句した。

 

「あ……あぁ…!」

 

少女は恐怖する。先ほどの魔女は消え、代わりに現れたのは更なる災厄。それは、この惑星をまるごと飲み干せるかと思うほど巨大な魔女だった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい?顔が真っ青だよ」

 

ここで映像は途切れる。少女は白い生物に答える余裕もなく全身からドッ、と大量の冷や汗を噴出させた。

 

「ハアッ…!ハアッ…!」

 

恐怖のあまり息が乱れる。先ほどの映像は夢から覚めたように見えなくなったが、脳裏に焼きついたその光景を忘れることは出来なかった。

 

「大丈夫かい?」

 

「え、ええ。大丈夫よ……」

 

少女は心を落ちつかせてゆっくりと考える。確かに最後に現れた魔女はとてつもない力を秘めていたが、彼らが敗北する姿は無かった。初めて使った魔法が本当に正しいものなのかと見定める必要があると判断した。

 

(もう少し、彼らの未来を視る必要がある……それまでは、あの未来は仮定としておきましょう……)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「でもあの未来が見えなくなる日はなかった……そして、もう一つの未来も見え始めた」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

少女が見えたもう一つの未来。それは服のあちこちが破れ、身体中から血を流して横たわっている魔法少女と少年たち。しかしその中でただ一人、左腕に赤いバンドを着けた少年が満身創痍となりながらも立ち続けていた。

 

 

 

「―――――!」

 

少年は白い球を蹴りながら魔女に向かっていく。しかし、それをあざ笑うかのように魔女から無慈悲な光が放たれ、少年は倒れた仲間たちと共に飲み込まれる。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「ある未来を期限として彼らの力を測ることにしたけど、結局あの予知が消える日は来なかった。あの予知こそ……希望の最後の一欠片を砕く、絶望の未来」

 

少女は下を向きながら手で顔を覆う。少女の彼らに対する希望は既に失われていたのだった。

 

「あの未来は誰にも止められない。運命の歯車を止めることは、彼らにも出来ない………

 

 

 

 

 

ならば、私が止めましょう」

 

 

 

少女は突然顔を上げ、吹っ切れたように鋭い光をその眼に宿らせる。

 

「もう黙っているわけにはいかない。私が視えた未来の一つ。それを利用しましょう。彼らに対する宣戦布告として……ね」

 

そう言うと少女はスッと、椅子から立ち上がる。

 

「キュゥべえ、いるかしら?」

 

少女は誰もいない正面を向かって呼びかける。

 

「……呼んだかい?」

 

すると、まるで潜んでいたようにあの白い生物が部屋の隅の暗闇から現れた。

 

「ええ。実はあなたにとって良いものが視えたの」

 

「それは興味深いね。それで、良いものというのは?」

 

「どうやら風見野にとてもいい魔法少女の素質を持っている子がいるみたいよ」

 

「へえ、それは楽しみだね」

 

「ええ。近いうちに会いにいくといいわ。そうすれば………

 

 

 

あなたの望んだモノが手に入るわ」

 

まるで何かを確信しているかのように少女は―――()(くに)()()()は不敵に微笑んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~風見野市・路上~~

 

 

 

「ふぅ……いっちょ上がり」

 

魔女を倒し終えた杏子がグリーフシードを手に取り、魔法少女服から普段着に戻る。風見野に到着した直後、杏子はさっそく魔女の気配を察知し、剣城と共に倒したのであった。

 

「あんまり大したことなかったな。それともあたしたちが強くなったのか?」

 

「そうかもしれませんね。ですがあれは……」

 

剣城が横目で見るのは、魔女に喰われ、肉塊と化した男女の惨殺死体だった。死体の損壊はひどく、手足は千切れ、骨や臓物が露出していた。さすがの剣城もそれを直視することは出来ず目を逸らしていた。

 

「……仕方ねぇだろ。あたし達が着いた時にはもうああなってたんだから」

 

「俺たちがもっと早く着いていれば……」

 

「過ぎたことをウダウダ言ってもしょうがねぇさ。それよりも………おいガキ」

 

「………」

 

杏子の視線の先に緑色の髪をゴムで両端を束ねた幼い少女がいた。彼女の両親なのか、男女の肉塊と血の海の前で膝を抱えて座り込み、泣くことも無く、ただ黙って死体を見続けていた。

 

「災難だったね。でも、現実なんてこんなものさ。震えたって泣いたって死んだ両親は帰ってこないよ。生き残った幸運に感謝するんだね」

 

「………」

 

少女は返事を返さない。まるで人形のように無表情で目の前の死体を眺めているだけだった。

 

「杏子さん。この子はどうしましょう?」

 

「どうもこうも、あたし達が連れて行くわけにはいかねーだろ。そのうち他の誰かが見つけて保護するさ」

 

そう言って杏子は踵を返して立ち去ろうとする。剣城も少女の事が気になるが、仕方がないように杏子についていこうとする。

 

「………」

 

が、少し歩いたところで杏子は足を止める。やはり気になるのか、杏子はちらりと後ろに振り返る。少女は未だに呆然としており、動く気配すら感じられなかった。その幼い少女を見ていると、杏子はどうしてもある少女のことを思い出してしまう。

 

 

 

(おねえちゃん)

 

 

 

「………」

 

背丈や年が近いからか、杏子は目の前の少女にその少女の面影を重ねていた。やがて杏子は「チッ…」と、軽く舌打ちすると少女の方に歩き出す。

 

「杏子さん…?」

 

剣城の呼びかけにも応じず、杏子は少女の背後に立つ。そしてポケットからロリポップキャンディーを取り出すと、少女の頭上に突き出す。それに気づいた少女も杏子を見上げる。少女にじっと見られながら杏子はぶっきらぼうに言った。

 

「……食うかよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぐはぐ、もぐもぐ、むぎゅむぎゅ…」

 

「いいか。それ食ったらどっか行けよ」

 

あの後、杏子と剣城は少女を連れて近くの公園に移動していた。少女は二人と共にベンチに座りながら近くのコンビニで買ってもらった肉まんを夢中で頬張っていた。

 

「むぐ…!」

 

すると、突然少女の動きが止まる。どうやら肉まんを喉に詰まらせたらしく、苦しそうに胸を何度も叩きだす。

 

「ああもう、急いでがっつくからだ」

 

杏子が呆れながら一緒に買った缶ジュースを差し出す。少女はそれを受け取ると一気に飲み干す。

 

「お前がっつきすぎだろ。ちゃんと飯食ってんのかよ」

 

「ふへ……」

 

喉のつっかえが取れた少女は涙目で安堵の息を吐く。そして再びジュースを口にしようとしたその時。

 

 

 

 

 

―――なんで。

 

 

 

 

 

少女は目を見開く。それは確かに幻聴だった。しかし先ほどの出来事を思い出す度に、少女の頭の中でその声は響きわたる。

 

 

 

 

 

―――なんでお前だけ生き残った!?

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「わぁー変なお花が咲いてるー」

 

少女の目の前に不思議な紫色の空間が広がる。花が咲いた太い根っこのようなものがあちこちが伸びており、それまで一緒にいたはずの両親の姿がなくなっていた。

 

「ママとパパはどこだろ…?」

 

少女はキョロキョロと周りを見わたしながら両親を探し出す。すると後ろから何かがうごめくような音が聞こえる。

 

「ママ?…」

 

少女はとっさに後ろに振り向く。そしてそこにあったのは。

 

「ひ、ひぎぃぃ…!た、助け……」

 

魔女に身体を食われ、血まみれでもがき苦しんでいる母親の姿で、少女は悲鳴を上げて飛び退いた。

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

剣城の呼びかけで少女はハッと気が付く。目をぱちくりさせながら周りを見わたすと剣城が心配そうに自分を見ており、杏子は正面を向いたまま目を閉じていた。現実を再確認した少女は安堵するように再び大きく息を吐いた。

 

「お前の両親を殺したのは、魔女っていう化け物さ」

 

杏子の言葉を聞いて、少女は杏子に顔を向ける。杏子は正面を向いたまま話を続ける。

 

「まじょ…?」

 

「ああ。そんであたしはその魔女と戦う魔法少女ってやつさ。マンガやアニメみたいな話だろ?でも、そういうもんみたいに希望に満ち溢れているわけじゃないし、何もかも上手くいくわけじゃない。居なくなった家族だって返ってきやしないのさ」

 

「………」

 

寂しげに語る杏子を黙って見つめる少女。その一方で剣城も杏子から少女に視線を移す。杏子の家族はもうこの世にはいない。この子も杏子と同じ身になってしまったと、少なからず哀れに思っていたのだった。

 

「お前も両親を亡くしちまったんだ。これからはお前も、この先どう生きるか考え……」

 

「……ゆま」

 

と、少女は突然杏子の言葉を遮る。二人はキョトンとした顔で少女を見る。

 

「あん?」

 

「おまえじゃなくて、ゆま」

 

どうやら呼ばれ方が気にくわなかったらしく、少女―――ゆまは膨れっ面で名乗った。大人しかった少女が急に生意気になり、杏子もイラッときて仏頂面になる。そんな杏子の苛立ちに気にすることもなく、ゆまはベンチから降りて尋ねた。

 

「ねえ、おねえちゃん。ゆまも魔法少女になれるかな?」

 

「はあ?何言ってんだ」

 

「ゆまも魔法少女になって、おねえちゃん達みたいに魔女と戦いたい!」

 

「バカなこと言ってんじゃねぇよ…!お前、あたしの話聞いてなかったのか?んなことよりこの先どう生きるか考えろって…」

 

「うん。だからゆまも魔法少女になっておねえちゃん達と一緒に戦うの!」

 

「簡単に決めるな」

 

「え…」

 

剣城も口を挟みだす。

 

「魔女との戦いはお前が思っているほど甘いものじゃない。痛いだけじゃ済まなくなる事だってあるんだぞ」

 

剣城は厳しい目つきで忠告する。剣城もこんな幼い少女に戦わせることは好まなかった。もっとも、その忠告の意味は魔法少女の大変さだけではなかったが。

 

「そんなの平気!ゆま、何だってするもん!」

 

「甘ったれんな」

 

ゆまの必死の懇願を即座に否定する杏子。

 

「文字通り命懸けなんだよ。同じ命を掛けんなら、まともに生きることに掛けるんだな」

 

杏子はウザったそうに言ってベンチから立ち上がり、ゆまの横を通り過ぎて立ち去ろうとする。

 

「ひっく…」

 

「?」

 

が、突然聞こえてきた声に立ち止まる。後ろに振り向くと剣城がギョッとした顔で驚いていた。何事かと杏子が引き返すと、ゆまはこちらに振り向く。そしてその顔を見て同じようにギョッと驚く。

 

「えぐ……えぐ……ううぅ…!」

 

ゆまは目に大量の涙を浮かべ、今にも大泣きしそうだった。

 

「お、おい……」

 

「だって……だって……そんなこと言われたって……ゆま、どうすれば……えぐ……ぐっす……うう…」

 

罪悪感がこみ上げるような顔で泣かれ、困り果てる杏子。このまま泣かれ続けたら、誰かが気づいて更に面倒な事になってしまうかもしれない。それどころかキュゥべえまで招き、勢いに任せて契約してしまうかもしれない。どちらにしろ、このまま放っておくことは出来そうになかった。

 

「あーもう!泣くな泣くな!たくっ、仕方ねぇな。マミにダメ元で頼むしかねぇか…」

 

杏子は呆れかえるように大きなため息をつきながら手で頭を押さえる。

 

「おねえちゃん…?」

 

「……いいか、あたしはおねえちゃんじゃない。佐倉杏子だ」

 

「キョーコ?」

 

「ああ。後であたし達が世話になってる奴の家に行くからな。それまで魔法少女になろうとか考えるなよ」

 

「うん!わかったよ、キョーコ!」

 

 

 

ぐうぅ~~~。

 

 

 

「「「………」」」

 

それは、ゆまの腹からなった音だった。

 

「はあ。どうやら肉まん1個じゃ足りなかったみてえだな」

 

「また何か買ってきます」

 

「ああ、すまねぇ。頼む」

 

杏子に頼まれ、剣城は再びコンビニに向かった。それを見送ると杏子は再びベンチに座った。

 

「とりあえずゆま。あたし達と一緒に来るんなら、あたし達の事を知っとかなきゃならねぇ。あいつが戻ってくるまで、ある程度話すからしっかり聞くんだぞ」

 

「う、うん」

 

「まず、さっきも言ったが魔法少女って奴は楽なもんじゃねぇ。んなもんになっちまったせいであたしは宿無しになったんだからな」

 

杏子は思い出すように目を閉じて語りだす。家族を失って剣城と出会うまで杏子は生きるために人に自慢できることではないこともやった。今でこそ、まともに暮らしているだけにその時の大変さをゆまにも味わせたくはないという思いから話し出したのだった。

 

「そんなあたしに宿をくれたのは昔の知り合いでな。色々とお節介な奴だが、あたしはそれなりに感謝はしてんだ」

 

「あ、チョウチョだ!」

 

と、突如漂ってきたチョウチョに興味が移り、ゆまは追いかけ始めてしまった。

 

「一応あたし達に飯や寝床までくれた奴だからな。世話になるなら、あんまり迷惑かけんじゃ……」

 

と、杏子が横に振り向くと、そこには既に誰もいなかった。

 

「……ゆま?」

 

杏子はベンチから降りて辺りを見渡す。

 

「ゆま?おーい、ゆま!?」

 

大きな声で呼びかけるが返事は無い。どうやら自分が思っているより遠くへ行ってしまったようだった。

 

「くそ!どこ行きやがったんだ……全く、ホント世話のかかるガキだぜ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って~!」

 

必死にチョウチョを追いかけるゆま。そうしている内にチョウチョは茂みに紛れて隠れてしまった。

 

「あっ、見えなくなっちゃった………アレ?」

 

ようやく立ち止まったゆまは周りを見渡す。が、人の姿はなく、ささやかな風の音だけが聞こえていた。

 

「キョーコ?……アレ?ここ、どこだろ?」

 

呼びかけても返事は無い。見渡しても誰もいない。

 

「キョーコ?キョーコ!」

 

大声で呼んでも、杏子どころか人っ子一人見当たらなかった。

 

「ひっく……どこ~!キョーコ!?」

 

孤独に耐えきれなくなり、泣き出してしまうゆま。それでも彼女を助けてくれる者は現れない。

 

「キョーコ~!ゆまを……一人にしないで…!ヒック、ヒック…」

 

号泣しながらゆまは必死に杏子に助けを求める。しかし、ただひたすら沈黙だけがゆまを包み込んでいた。

 

 

 

―――すると突然、近くの茂みから光がこぼれだす。

 

 

 

「な、なんだろ?キョーコかな?」

 

ゆまは涙を拭いて光った場所に近づいてみる。ガサガサと茂みを掻き分け、葉っぱがくすぐったいと思いながら進んでいくと開けた場所にたどり着く。

 

「う、う~ん……ここは…?」

 

そこには青いジャージを着て、ピンクの髪を2本おさげにした少女が座り込んでいた。少女は鮮やかな青緑の瞳と整った顔立ちをしており、美少女といってもおかしくないほどであった。

 

「キョーコ、じゃない…」

 

ゆまは人に会えてわずかに喜ぶが、杏子ではなかった為に再び涙ぐみそうになる。すると少女もゆまの存在に気づく。

 

「子供…?」

 

そして目を合わせるとゆまの目が赤くなっていることに気が付いた。

 

「おい、どうしたんだ?泣いてるのか?」

 

少女は心配そうにゆまに話しかける。ゆまは杏子と会えなくて張り裂けそうな思いを必死に抑え、涙声になりながら尋ねる。

 

「おねえちゃん……キョーコ知らない?」

 

「おね…」

 

少女は何故かショックを受けて苦い顔で口ごもる。その様子が不思議だと思ったゆまも涙を引っ込めて首を傾げる。そのままじっと見つめていると「はぁ…」と、少女はため息をつきながら立ち上がった。

 

「あのな……俺は男だ」

 

「えー?どう見てもおねえちゃんだよ?」

 

「くっ!」

 

ゆまが出会ったのは少女ではなく女顔の少年だった。彼は中性的な顔立ちと髪型のせいでよく女に間違えられるが、さすがに幼い少女に間違えられるのはこたえるのであった。が、すぐに仕切り直すようにゆまと向き直す。

 

「それよりも、お前どうしたんだ?迷子か?」

 

「ムッ!おまえじゃなくて、ゆまだよ!」

 

「そうか……じゃあ、ゆま。ここはどこだかわかるか?」

 

「ん~、わかんない…」

 

「やっぱり迷子か……キョーコってのは、ゆまの姉さんか?」

 

「ううん。でもおねえちゃんみたいにゆまをみてくれるの!」

 

「そうか…」

 

少年は考える。今の自分に置かれた状況を把握するにはここから動くしかない。しかし目の前の迷子を見捨てるのも気が引く。今の自分にある選択肢はゆまが探している人物を探しながらこの周辺を調べるしかなかった。

 

「仕方ないな……それじゃ、俺が一緒にそのキョーコって人を探してやるよ」

 

「ホント!?ありがとうおねえちゃん!」

 

「だから俺は男だって言ってるだろ!」

 

「だっておねえちゃんの顔見てると、どうしても呼んじゃうんだもん」

 

無垢な顔で言い切るゆまに少年は首をカクンと落とす。このままでは杏子を見つけるまでずっと女呼ばわりされそうであった。

 

「はぁ……しょうがないな……俺はおねえちゃんじゃない。俺の名前は、(きり)()蘭丸(らんまる)だ」

 

「ランマル?」

 

「ああ。覚えたなら、おねえちゃんって呼ぶなよ」

 

「うん、ランマル!」

 

「やれやれ、仲間を探す前に迷子の親探しか……とにかく行こうか」

 

「あ、ランマル!ボール忘れているよ」

 

「え?」

 

霧野がゆまの指差す方を見ると、そこにはマギカボールが落ちていた。

 

「いや、これは俺のじゃないが……それに妙な魔法陣が描かれているな」

 

「ゆまがランマルを見つけた時にはそばに落ちてたよ?」

 

「そうなのか……まあ、とりあえず貰っておくか……にしても、みんなは無事だろうか……神童…」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~風見野市・街中~~

 

 

 

霧野はゆまを連れて大通りに出る。杏子を見つけるには人通りが多い場所から探すべきだと判断したからだった。予想通り街は人でごった返しており油断すればはぐれてしまいそうだが、それだけ杏子と再会出来る可能性は高かった。

 

「この通りなら何か情報を掴めるかもしれないな。はぐれるなよ、ゆま」

 

「………」

 

「ゆま?」

 

「キョーコ……ちゃんと会えるかな…?」

 

「ゆま……」

 

不安になるゆまに霧野も心配すると同時に共感する。自分が今どこにいるのかさえ分からない中で探し人を見つけるのは至難の業にもなり得る。霧野はせめてもの気休めぐらいになるようなものは無いかと周りを見出す。

 

「ん?あれは……」

 

ふと路上の先を見つめると、どこかの店のエプロンを付けた女性がキャンディを配っていた。

 

「ただいまキャンペーン中につき、小学生以下のお子様にキャンディをプレゼントしております!」

 

「ゆま、もらってきたらどうだ?甘いものを食べると元気が出るぞ」

 

「うん、貰ってくる!」

 

ゆまは店員に駆け寄り、霧野も見守るようについていく。そしてゆまが近づくと気づいた店員がスッとキャンディを差し出す。

 

「はい。お嬢ちゃんどうぞ」

 

「ありがとうおねえさん!」

 

「良かったな、ゆま」

 

「せっかくなのであなたもどうぞ!」

 

「え?俺もですか?」

 

「ええ。小さな妹さんの面倒を見てるのが偉いと思って」

 

「い、いや……妹では…」

 

「ぜひ妹さんと一緒に食べてください、お姉さん!」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「またおねえちゃんって呼ばれちゃったね」

 

「ああ……俺はそんなに女に見えるか?まあ……もう慣れちゃったけどな」

 

慣れてしまったというより諦めたように肩を竦める霧野。現在二人は休憩がてら近くの建物の壁に寄りかかりながら、杏子を探していた。

 

「杏子いないね……」

 

「取り合えずキャンディを舐めて、いったん仕切り直そう」

 

二人は包み紙をはがしてキャンディを出す。どうやら貰ったのはミルクキャンディだったらしく乳白色をしていた。ゆまは嬉しそうな顔で杏子のマネをするかのように口の中に放った。

 

「うん!美味しいねランマル!」

 

「ああ…」

 

何度も口の中で転がして堪能するゆまと対照的に、霧野は目を閉じてキャンディの優しい甘みをじっくりと味わっていた。

 

「どうしたの?キャンディ、美味しくなかった?」

 

「いや。キャンディを舐めてると思い出すんだ。俺が強くなれた時の事をな……」

 

「ランマルが強く…?」

 

「機会があったら話してやるよ。舐めきったら行こうか」

 

そう言うと霧野は遠い目で空を見上げる。それはここにはいない誰かの事を想っているようで、なんとなく感じ取ったゆまも杏子の事を思い出す。

 

(ランマルが強く……ゆまも強くなって、キョーコの役に立てるかな…?)

 

 

 

 

 

 

数分後、二人はマギカボールを入れるための手提げ袋を購入し、人波が押し寄せる歩道を歩いていた。この道を抜けた先にある歩道橋で街中を見下ろすのが二人の狙いだった。

 

「やっぱりすごいな、この人波は。ゆま、大丈夫か?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

二人は人にぶつかってはぐれないように手を繋ぎながら歩いていた。

 

「もう少しの辛抱だ。手を離すなよ」

 

「うん……あっ!」

 

というところでゆまは足をつまずかせ、その一瞬のうちに手を離してしまった。

 

「しまっ…!」

 

「ランマル!」

 

霧野はすぐさま離した手を掴もうとしたが、人波に流されてしまう。一方でゆまも何とか踏みとどまり、人波に飲まれないようにすぐに壁際に寄る。しかし、振り向いた時には既に霧野の姿は見えなくなっていた。

 

「ど、どこ行ったのランマル…!」

 

急いで周りを見わたすが、霧野はどこからも現れない。

 

「ゆまを、一人にしないで…」

 

また一人になってしまい、ゆまは再び涙ぐんでしまう。

 

「ふえ~ん、どこ行ったの~?キョーコ!ランマル~!」

 

「―――ゆま!」

 

泣きべそをかくゆまが声に振り向くとそこには杏子がいた。

 

「あ、キョーコ!やっと会えた!」

 

嬉しさのあまりすがるように杏子に駆け寄るゆま。それに合わすように杏子もゆまの目線に合わせてしゃがみ込むと、ゆまは杏子の胸に顔を押し付けて泣きだした。

 

「ふえ~ん……」

 

「心配掛けやがって……大丈夫だったか?」

 

「うん。ランマルと一緒だったから大丈夫だよ」

 

「ランマル…?とにかく離れるぞ。この人ごみに飲み込まれたら厄介だ」

 

「あ……う、うん」

 

杏子に引っ張られ、人ごみに消えた霧野を心配しながらもその場から離れるしかなかった。

 

「ランマル、大丈夫かな……お礼、言いたかったな…」

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはっ!やっと出られた……」

 

その数十秒後、霧野もなんとか脱出に成功し、すぐにゆまとはぐれた場所まで戻る。しかし既にゆまは杏子と共にその場を離れていた。

 

「ゆま、一体どこに行ったんだ……?」

 

その後、霧野は通りを捜しまわったが、結局ゆま達を見つけることは出来なかった。

 

 

 

しかしその後、思わぬ形でゆまと再会することになるのであった。

 

 

 

 

 




というわけで皆様お久しぶりですと同時に遅れましたが新年あけましておめでとうございます。
冒頭のニュースのコメントで述べた通り、お気に入り登録数や通算UAに関してはホントに感謝しております。もっともっと増やせるように頑張っていけたらと思いました。(何年たっても文才伸びないのが心許ないけど)

今回は織莉子を含めた、新たなキャラ三人を出しました。ここから雷門が織莉子からの襲撃にどう立ち向かっていくのか楽しみにしていてください。

ご感想お待ちしております。


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第17話『動き出した白い少女』 Bパート

またまた大変長らくお待たせいたしました。

仕事が忙しかったり文が思いつかなかったり誘惑があったり(コラ!)で待たせてしまい申し訳ありませんでした。

さて、ここまで時間が掛かっている間にイナイレやまどマギで色々と変化がありましたね。新作が両方とも延期が続き(この小説ほどじゃない)、イナイレ最新作は来年公開、マギアレコードはリリースされました。

マギレコの方は作者は使ってる機種が古くてやれてませんので今は動画サイトで見てます。そろそろ機種変しようかな……。

出てくる魔法少女は皆かわいいし、ストーリーも面白いし、織莉子たち外伝組も実装されて声も獲得するという、おりマギ編を書いている自分にとっても嬉しいことばかりでした。これからは織莉子たちのセリフも脳内でアテレコしてもらえるとより楽しんでもらえるかと思います。

にしても、マギレコのおかげで魔法少女の年齢層が跳ね上がってきましたね。そういえば他の外伝においては社会人の魔法少女もいましたね……。


大学生や社会人の魔法少女………。


ここで、またまた音名野寺 丞(おとなのじ じょう)兄貴の力で復活したアニメの主人公のマネ!


え、何?お前ら、その歳で魔法少女なんて名乗ってんの?イタイタイタイタイ痛いよ~お母さん!ここに頭、大ケガした人達がいるよ~!


「アブソリュート・レイン!」

「桜火!」


ギャアアアアアア!


こんなんですが、これからもよろしくお願いします。





~~風見野市・魔女結界~~

 

 

 

 

「ゆま、危ないから下がってろよ」

 

「うん、気を付けてね」

 

杏子はゆまと再会した後、剣城とも合流できた。が、その直後に魔女の結界に捕らわれてしまい、臨戦態勢に入っているところであった。

 

「にしても小っせえ魔女だな」

 

杏子が目の前を見つめる。その先にいるのは黒い球体の頭を白い布で覆った、ゆまと同じぐらいの背丈のした小人のような魔女だった。

 

「油断は出来ません。来ますよ!」

 

剣城がそう言うと、魔女は袖から似つかわしくないほど大きな拳を突き出す。そして拳を開き、白い歯をむき出しにした口のような使い魔たちを放つ。

 

「おらぁ!」

 

それに対し剣城がシュートを放って使い魔を一気に蹴散らし、そこから杏子が突き進む。

 

「そらよっとぉ!」

 

そのまま槍を振り下ろし、魔女が伸ばした2本の腕を切断する。一方で魔女も小さな体を生かし、ジャンプで軽やかに杏子の追撃を躱そうとする。

 

「逃がすか!」

 

そこへすかさず剣城が再びシュートを放ち、魔女の真横を掠めて逃げ道を塞ぐ。

 

「そこだ!」

 

突然の不意打ちに硬直した瞬間を逃さず、杏子が槍で魔女を上半身と下半身に両断する。

 

「すごい…」

 

物陰から見ていたゆまは二人の戦闘力とコンビネーションに驚くばかりだった。

 

(ゆまも、あんな風になれたら…)

 

そんなことを考えていると上半身だけになった魔女の頭から3本の刃が飛び出し、ゆまに飛び掛かる。ゆまは突然の急襲に反応できず、動くことすら出来なかった。

 

「え…?」

 

直後、魔女は杏子が投げた槍に貫かれ、呆然と固まっていたゆまの顔に魔女の血が降りかかる。

 

「大丈夫か?ゆま」

 

「う、うん」

 

杏子は魔女が絶命したことを確認するとゆまに駆け寄る。顔に付いた血は少量だったが、悪影響を及ぼす可能性もあるので、直ぐに剣城から借りたハンカチで顔を拭う。そして額に着いた血も拭おうと前髪をめくると、二人の動きが止まった。

 

「!」

 

「これは…!」

 

そこにはタバコの火を押し付けたような痛々しい火傷の痕が幾つもあり、明らかに魔女によるものではなかった。気になりはしたが、血を拭うことを最優先とした杏子はせっせと額の血を拭き取る。一通り拭き終わると、杏子は剣城にハンカチを返し、何かを察して尋ねた。

 

「……親、か?」

 

ゆまはハッと顔を上げる。そしてすぐに下を向き、怯えるように震えだした。

 

「話したくねぇなら言わなくていいけどよ」

 

そう言うと杏子は変身を解きながら横を向く。幼い少女の口から嫌な話を語らせるのは、杏子としても快くなかったからだった。

 

「……ゆま、本当はパパもママも好きじゃなかった」

 

語りだしたゆまに杏子と剣城は注目する。

 

「パパとママはけんかばっかり。パパはいつも帰ってこないし、ママは……ゆまにいじわるするの。パパが帰ってこないって……パパがおそとに遊びに行っちゃうのは、ゆまが可愛くないせいだって。ゆまに………すごくいじわるするの」

 

怯えているような空虚な目で語るゆま。脳裏には何度も自分を蹴り、額に火のついたタバコを押し付ける、歪んだ顔の母親の姿が浮かんでいた。

 

「虐待、か…」

 

「世知辛いねぇ……でもまあ、親に裏切られる気持ちなら分からなくもないよ。あたしも似たようなもんだからな……」

 

そう言われたゆまは思わず顔を上げる。杏子は遠い目をしていたが、先ほど出会った霧野とは違い、憂いるような悲しいものだった。杏子は自分の気持ちが伝わらず、自分を残して一家心中してしまった父親の事を思い出していた。そのことに同情するように剣城も暗い目で地面を見た。三人が憂い募らせているうちに結界は消滅し、周りの景色は普通の公園に戻っていった。

 

 

 

 

 

~~風見野市・市立公園~~

 

 

 

「………」

 

景色が戻っても三人は一言も喋らず、沈黙は続いた。そんな中、ゆまは奮い立たせるようにスカートの裾を掴む。

 

「ゆまは…」

 

「「!」」

 

「ゆまは……強くなりたいっ!」

 

ゆまは切実の思いを込めてそう叫ぶと必死の形相で問い詰める。

 

「ねぇ!キョーコ達はなんで魔女と戦ってるの!?」

 

「それしかやることがないからだよ」

 

「キョーコが強いのは魔法少女だから?」

 

 

 

(―――お前なんか何も出来ないんだ!)

 

 

 

ゆまは考えていた。なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか。愛されるべき親からひどい仕打ちを受け、必要とされなかったのはなぜか。そして、そんな親たちを殺した魔女を倒した杏子と出会って思った。

 

(ゆまがいじめられるのは、ゆまが弱いから…?)

 

母親が自分を痛め続けたのは自分が何の役にも立てないからだと。今はこうして杏子の傍についているが、役立たずで弱いままじゃ、いつか杏子も自分を捨ててしまうかもしれない、そんな恐怖がゆまの心を縛り付けていた。

 

「ねぇ教えて!どうすれば魔法少女になれるの!?魔法少女になればキョーコみたいに強くなれるの!?」

 

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ……魔法少女なんてろくなもんじゃねぇんだ」

 

「魔法少女って他にもいるの!?魔法少女ってみんなキョーコみたいに強いの!?」

 

「だから……」

 

 

 

「いるよ」

 

 

 

そこへ話に割り込んでくる者がいた。それは、白いネコのようなあの生物。

 

「この世界にはたくさんの魔法少女がいるんだ。そしてゆま。織莉子の言う通り、君もその素質があるみたいだ」

 

それは言うまでもなく、杏子を魔法少女に変えたキュゥべえであった。

 

「わあ!ぬいぐるみがおしゃべりしてる!」

 

「ぬいぐるみじゃないよ。僕はキュゥべえ。よろしくね、ゆま」

 

ゆまは突如現れた喋る不思議な生き物にはしゃぎだし、無邪気にぎゅっと抱きしめたのだった。

 

(なんでコイツがここに…?それに、“織莉子”?)

 

一方で杏子は何の前振りもなく現れたキュゥべえに疑問を持ったが、同時に初めて聞く名前にも気になりだす。

 

「貴様……見かけなくなったと思っていたが、よくも俺たちの前に姿を現せたな」

 

剣城がいまいましそうな目でキュゥべえを睨みつける。

 

「相変わらず君は僕に対して厳しいね。でも今回用があるのは彼女さ」

 

そう言うとキュゥべえはゆまに顔を向ける。

 

「さっきも言ったけど、君も魔法少女になれるよ」

 

「ほんと!?ゆまもキョーコみたいになれるの!?」

 

キュゥべえの言葉にゆまも杏子の力になれると期待を膨らませる。

 

「本当だよ。それに魔法少女になれば―――」

 

「それ以上ガキに余計な事吹き込むんじゃねぇよ」

 

ここで杏子がキュゥべえの耳を掴んでゆまから引き離す。

 

「やれやれ、やっぱり君たちの前じゃ新しい魔法少女を生み出すのは難しいみたいだね」

 

そう言いながら、キュゥべえは杏子から放り投げられる形で解放され、地面に着地する。

 

「でも、君たちはワルプルギスと戦おうとしている。一緒に戦う魔法少女は多い方が合理的じゃないのかい?」

 

「誘導させるような言い方はやめろ。魂胆が見え見えなんだよ。それに戦う仲間ならもう間に合ってる。だろ?剣城」

 

「ええ。ゆまの話によると、彼女が出会ったのは間違いなく霧野先輩です。DFの霧野先輩が戻ってくれば、俺たちの守りに関する問題も少しは改善できるはずです」

 

「というわけだ。お前はお呼びじゃねーんだよ、失せな」

 

杏子はシッシッ、と手を振って追い払おうとする。

 

「以前よりも更に嫌われてるみたいだね。僕にゆまの事を教えてくれた織莉子とは大違いだよ」

 

(また“織莉子”……誰なんだそいつは?)

 

「やれやれ、仕方ないなぁ。今は引いてあげるよ。その雷門の新しいメンバーも化身使いなら僕にとっても良いからね。もっとも、雷門の仲間が一人増えただけじゃワルプルギスには敵わないだろう。不安なら、まどかやその子に……」

 

「それ以上言うなら今度は俺が蹴り飛ばす」

 

剣城が一歩前に出てキュゥべえの話を遮る。するとキュゥべえも水鳥に蹴られたのが応えたのか「はいはい…」と仕方ない様に話を打ち切って去っていった。

 

「相変わらず虫唾が走る野郎だ」

 

杏子がふて腐れていると、ゆまが困惑しながら杏子の服の裾を掴む。

 

「ね、ねえキョーコ…」

 

「ゆま、今見たモンの事は忘れろ」

 

「!……つ、剣城おにいちゃん……」

 

「何を言おうとしてるかは大体予想が付く。だが、それは俺も認めるわけにはいかない」

 

「そんな…」

 

「ゆま」

 

杏子はショックを受けているゆまの頭に手を置き、冷淡な声で言った。

 

「魔法少女になろうとするな」

 

「………」

 

そう言われると、ゆまも黙り込んでしまい、それ以上の話を続けることは出来なかった。

 

「さ、日が暮れねえ内にゆまが出会った雷門の仲間を探しに行くぞ」

 

「ええ」

 

杏子と剣城が霧野を捜しに向かうと、ゆまも遅れないように二人の後に続いて歩き出した。

 

(なんでだろう?キュゥべえはゆまも魔法少女になれるって、言ったのに。なんでキョーコも剣城おにいちゃんもダメって言うんだろう?)

 

そんなことを考えながら、二人の背中を見上げるゆま。自分が魔法少女になることを何故そこまで拒むのか、ゆまには理解できなかった。

 

 

 

『戦う仲間なら間に合ってる』

 

『霧野先輩が戻ってくれば』

 

 

 

(ゆまよりランマルの方が強いから?)

 

頭をよぎったのは二人が先ほど口にしていた言葉。二人は霧野を当てにしている。そこから更に思い出すのは霧野の言葉。

 

 

 

『思い出すんだ。俺が強くなれた時の事をな……』

 

 

 

(ランマルは強くなれた。だから二人はランマルの方がいいの?だったら何で、ゆまは魔法少女になって強くなろうとしちゃダメなの?)

 

強くなれない。強くなければ捨てられる。そんな無力感と恐怖が再びゆまの心に襲い掛かり、自分を痛めつける母の記憶を甦らせる。

 

 

 

『お前なんか何も出来ないんだ、バカガキ!

 

―――役立たず!!!』

 

 

 

(やっぱりキョーコも……ゆまの事を役立たずって思ってるのかな…?)

 

心の一部を削られたような喪失感に陥るゆま。再び見上げた二人の背中はとても遠くに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

~~同時刻・某所~~

 

 

 

「ここまでは予定通り……彼らの望みに傷をつける未来に進んでるわ。さて、私も動きましょうか。後押しをするために」

 

誰もいないどこかの路地裏で織莉子は黄昏時に近づいていく空を見上げながら一人語っていた。

 

「ああ、深い。人の思いはなんて深いのかしら。それが神や悪魔を、そして全てを生み出すのだわ」

 

「それは素晴らしいことだね」

 

織莉子は不敵な微笑みを崩さないまま振り向くとキュゥべえが佇んでいた。

 

「あら、キュゥべえ。どう?彼女は魔法少女に出来た?」

 

「いや、止める者たちがいたからね。君の言う通り中々の素質だったのに」

 

「そう。だったら今度は私も協力してあげるわ」

 

「それはありがたいね。それにしても“人の思いは全てを生み出す”か。確かにその通りだね。本当に素晴らしいよ。それが魔法少女を生み出し、傍にいる彼らの力を引き出すものなのだからね」

 

「ええ、だからキュゥべえ。あなたも感謝しなければならないわ。

 

 

 

―――あなたの望んだものが手に入るのだから」

 

織莉子は、微笑みをより一層深めてそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~市立公園・夕方~~

 

 

 

「見つからねぇな……このまま日が暮れそうだぜ」

 

「早く見つけないと、今度は別の町へ行ってしまうかもしれませんね……」

 

霧野を捜索し始めてから数十分後、3人は公園を中心に周囲を探し回ったが未だに見つけられずにいた。徐々に沈んでいく夕日が杏子と剣城の焦りを加速させる。

 

「ゆま、お前の話が正しけりゃそう遠くへは行ってねぇはずだ。どっか心当たりねぇか?」

 

「ううん。さっきランマルと一緒にいたところは全部行ったから……」

 

「手掛かり無しか……霧野先輩、一体どこに…」

 

「………」

 

(ゆま、やっぱり役に立ってない……二人ともランマルを必死に探してるのに。やっぱり二人とも、ゆまの事……)

 

遠くを見つめる二人の背中を見つめ、歯痒くなるゆま。二人は何の力も持たない自分の面倒を見てくれる。それなのに自分はその恩を返すことも出来ない。何も出来ない自分はやっぱり役立たずなのかと自分の力の無さを痛感していた。

 

「「!」」

 

その時、杏子と剣城は覚えのあるおぞましい気配を感じた。

 

「ちっ!魔女か……時間掛けられねぇてのによ」

 

「とにかく早く退治しに行きましょう。また誰かが犠牲になるかもしれません」

 

「仕方ねえな。ゆま、お前はここで待ってろ。絶対動くんじゃないぞ」

 

「う、うん」

 

「行きましょう、杏子さん」

 

ゆまをその場で待機させ、二人は魔女の元へ向かったのだった。

 

「キョーコ……」

 

 

 

 

~~魔女結界・最奥~~

 

 

 

「あいつがこの結界の主か」

 

結界を見つけた剣城と杏子は途中で使い魔に襲われながらも退け、結界の最奥にたどり着く。そこは空中から何本もの巻物が長く開かれている空間で、奥にはドクロ頭で和服を着た一本足の魔女と、腹巻きを付けたナマコのような使い魔たちがいた。

 

「おりゃあ!」

 

手始めに杏子が接近して使い魔たちを一掃して飛び上がる。

 

「ふっ!」

 

そこへすかさず剣城が魔女にシュートを放つが、魔女をジャンプして躱す。そこへ杏子が上から槍を叩き込むが、再びジャンプで躱されてしまう。

 

「くっ、すばしっこいな」

 

杏子が歯嚙みしながら突撃するが魔女は三度飛び跳ねる。

 

 

ペロン

 

 

「ひゃあ!」

 

杏子が素っ頓狂な声を上げる。魔女がすれ違いざまにドクロから伸ばした舌で杏子の背中を舐めたからだった。

 

「こ、この!///」

 

「ふぎぃ!」

 

杏子は顔を赤くしながら振り向き様に槍を振るう。槍はドクロの頭に当たって魔女を地面に叩き付ける。

 

「杏子さん!」

 

杏子が地面に着地すると剣城が心配そうに駆け寄ってくる。

 

「大丈夫だ。それより……」

 

「?」

 

何事か、と思っていると杏子は後ろに振り向き、

 

「い、今の事は皆には絶対言うなよ……///」

 

恥ずかしそうに思いきり睨みつけてきた。剣城は気まずそうに「は、はい…」と返事を返した。そうしている内に魔女は再びゆったりと起き上がる。

 

(なんでだ…?)

 

気持ちを切り替えた杏子は魔女を見つめる。ふざけた行動をする魔女だが、杏子の歴戦の魔法少女としての勘が何かを告げる。

 

(嫌な予感がする…!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

~~市立公園・夕方~~

 

 

 

「暗くなってきたな、ゆまは無事だろうか……」

 

剣城と杏子が魔女と戦い始めたころ、霧野は公園の結界近くにやって来ていた。

 

「このままじゃゆまを見つけるどころか野宿だな。とにかく、一刻も早く見つけ……っ!?」

 

これからの行動を考えていると、ボールを入れた袋が突然光り出す。

 

「な、何だ!?」

 

霧野は袋から光るボールを取り出すと、自身の身体も光り出し、格好がジャージから背番号3番のユニフォームに変わる。

 

「ユニフォームに変わった……っ!」

 

するといつの間にか目の前に魔女の結界の入口が現れていた。

 

「入ってこい……てことか?」

 

誘われるがままに霧野は結界の中に入っていった。

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「ここは一体……」

 

不気味な魔女結界に足を踏み入れてしまった霧野。不思議な空間を見渡している内に、背後にあった入口が消滅する。

 

「出口が…!誰かの罠だったのか……っ!?」

 

その時、何かの気配を感じ、前を見ると使い魔たちが現れていた。

 

「怪物…!?うわっ!」

 

ゆっくりと驚いている暇も無く、使い魔は飛び跳ねて襲い掛かってくる。霧野はギリギリで躱して危機を脱する。

 

「くそっ!こんなところで死んでたまるか!」

 

霧野は普段はあまり撃たないシュートを放って襲ってきた使い魔を倒す。しかし、ボールが戻ってくるときには地面から新たな使い魔が次々と現れる。

 

「くっ!キリが無い……はあっ!」

 

再びシュートを放つが、使い魔に当たって跳ね返ったボールが使い魔の一体に取られてしまう。

 

「ボールが……!どちらにせよ、ここにいたら危険だな。ボールを返してもらうついでに通させてもらう!」

 

相手にしてられないと判断した霧野はボールを持った使い魔に向かって走り出す。

 

「『ザ・ミスト』!!!」

 

霧野は右手を左から振りかざすと背後から白い霧が発生する。どこからともなく現れた霧に使い魔たちは混乱し、その隙に霧野が霧の中から現れ、使い魔からボールを取り返し、そのままドリブルで突破する。

 

「俺の技がこんな形で役に立つとはな……それにしても出口はどこだ?」

 

ドリブルを続けながら出口を探しまわる。しかし何処を見渡しても不気味な光景が広がっているだけだった。

 

「でやっ!」

 

「この!」

 

「!」

 

霧野は咄嗟に立ち止まる。遠くの方で誰かの声と大きな衝撃音が聞こえていた。

 

「俺以外にも誰かいるのか?……行ってみよう!」

 

 

 

 

 

 

~~市立公園~~

 

 

 

「キョーコ、大丈夫かな…?」

 

そのころ、ゆまは一人沈んでいく夕日を見ながら杏子たちの帰りを待っていた。

 

「キョーコ……」

 

 

 

『お前はここで待ってろ。絶対動くんじゃないぞ』

 

 

 

杏子の身を案ずると同時に先ほどの言葉を思い出す。自分だけ置いてきぼりにされたのは、やはり自分が足手まといだから。魔法少女になることも許されないのも、なったとしても役に立たないからだと思い始めた。捨てられたくない。その為に強くなりたい。強くなりたいのになれない。結局いつか捨てられてしまう。そんな悪循環がゆまの頭の中でグルグルと駆け回っていた。

 

「キョーコは、ゆまのこと……」

 

 

 

「―――何の力も持たない者は何も出来ない。ましてや何もしようとしない者にはね」

 

 

 

「え?」

 

いつの間にか白いドレスを身に纏った少女が背後からゆまの肩に手を置いていた。

 

「だ、だれ?」

 

「私は織莉子。あなたに伝えに来たの。佐倉杏子に死神が迫っていることを」

 

「しに、がみ…?」

 

織莉子のささやくような言葉にゆまの動きが止まる。死という単語が聞こえた瞬間、凄惨な姿で死んでいった母の姿が頭をよぎった。そこから連想されるのは当然。

 

「キョーコ……しんじゃう……の…?」

 

信じられないように震える声で訊き直すと織莉子はニコリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

~~魔女結界・最奥~~

 

 

 

「そこだ!」

 

杏子の槍が魔女のドクロの額に突き刺さる。魔女は血を吹き出すと同時にグリーフシードが排出して動かなくなる。

 

「終わりましたね」

 

「ああ、案外大したことなかったな。やっぱり気のせいだったか……」

 

「え?」

 

「いや、何でもねぇ」

 

杏子は空ぶかしに終わった心配を捨て去るようにグリーフシードを拾うと、無造作に何度も空中に放りだす。

 

「とにかく邪魔は消えたんだ。早くゆまんとこ戻って……」

 

そう言って剣城に向き直した直後、パンッ、というクラッカーのような破裂音が響く。手元を見ると、グリーフシードは割れた電球のように粉々になっており、そこから「はずれ」と書かれた紙がヒラヒラと舞っていた。二人があっけに取られていると地鳴りが起こる。そして地面から障子のようなものが結界を彩るように次々と現れる。

 

「結界が変化してる……割れたのは外っ側だけってことか」

 

杏子が冷静に分析していると、魔女は胴体をドクロから突き出し、そこから更に蛇のように長い胴体を持った二つの顔を伸ばしていく。さらにその横で使い魔たちが、昨日戦った使い魔のように一ヶ所に集まり、壁を作り出していた。

 

「ここからが本番、みたいですね……」

 

剣城が警戒しながら呟くと、二人の背後からツボのような使い魔が現れ、その口から更に小さい使い魔を吐き出していく。

 

「くっ!チマチマとウザい奴だな!」

 

杏子は振り向き様に槍を払って使い魔を蹴散らすと、剣城も魔女に向かってシュートする。

 

「―――尾っ穂、捕っ。欄、乱、蘭」

 

しかし、魔女は不気味な声を上げながら飛び跳ねてシュートを躱す。そしてそのまま二つの顔を伸ばして襲い掛かってくる。

 

「くっ!」

 

「ちぃ!」

 

二人は噛みついてくる二つの顔を右へ左へと飛び回って躱していく。一方で魔女の本体が着地すると、使い魔の壁が反対側に回り込み、二人は挟み撃ちにされてしまう。

 

「クソッ!囲まれたか!」

 

杏子と剣城はとっさに背後を取られないように背中を合わせる。これは昨日まで行っていた特訓の中で身に着けたもので、敵に囲まれたときに有効な戦術の一つであった。

 

「あの使い魔たち……昨日戦った奴らと特性が似てますが、どうやら魔女を守ることなく攻撃してくるようですね……」

 

「ああ。うかつに魔女を狙うとマズそうだ。あの壁もきっと一部を壊してもすぐ直るだろうな……さて、ここからどうするか……」

 

 

 

「―――『ディープミスト』!!!」

 

 

 

二人が視線だけを動かして次の手を模索していると突然深い霧が現れ、魔女と使い魔を包み込んでかく乱させる。

 

「な、何だ!?」

 

「この技は…!」

 

「剣城!」

 

二人が声に気づくと、霧野が駆け寄ってきていた。

 

「霧野先輩!」

 

「無事だったのか!ここは一体…」

 

「話は後だ!戦えるなら手伝え!」

 

「え?何を……」

 

「とにかく、手伝ってください!ここから出るために!」

 

 

 

 

~~市立公園~~

 

 

 

「はあっ……はあっ……」

 

霧野が剣城たちと合流したころ、ゆまは必死に杏子を捜していた。まだ幼く発達してない身体で走り続け、肺が破けそうでも、足が棒のようになっても捜し続けていたのだった。

 

「キョーコ!どこにいるのキョーコ!」

 

周りを見渡しながら何度も呼びかけるが、姿も無ければ返事も無い。返ってくるのは無慈悲な静寂だけで、その度に織莉子の言葉が頭の中でこだまする。

 

 

『―――死神が……』

 

 

「キョーコ……しんじゃやだ……やだよぉ……キョーコ!」

 

涙がこぼれそうになりながらも、杏子はまだ生きていると信じ、息を切らせながら再び走り出す。

 

「あっ!」

 

が、途中で勢い余って地面に蹴つまづき、倒れ込むように転んでしまう。

 

「う、うう……痛い、痛いよぉ…」

 

擦りむいた膝から血が滲みだし、痛みで涙を浮かべる。しかし、こうしている間にも杏子が死んでしまうかもしれない。死んでほしくない。その想いだけで必死に両手を着いて起き上がろうとする。必死に身体を起こそうとするがが、捜し疲れてそれ以上の力が入らず、足の痛みも相まって立つことが出来なかった。

 

「早く、早く見つけないと…!どこにいるの…?キョーコ…!」

 

ゆまの目から涙が伝う。杏子は死にそうになっていた自分を助けてくれたのに、自分は助けるどころか立ち上がる事も出来ない。そんな無力な自分に対する嫌悪感と杏子を失う恐怖心が募るばかりであった。

 

 

 

「杏子がどうかしたのかい?」

 

 

 

そんな時にあの白い生物が街灯の上から話しかけてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

~~魔女結界・最奥~~

 

 

 

「ようやく終わりが見えたな。たくっ、面倒な時にてこずらせやがって」

 

杏子がふて腐れる。霧野が加わってから戦況は一気に逆転した。霧野の必殺技が魔女と使い魔の目くらましとなってスキを作り、剣城と杏子の怒涛の攻めで使い魔を全滅させ、魔女もボロボロになっていた。

 

「魏ヒ、魏ィィ……」

 

「まあいいや。こうして目的も果たせたし、一気に決めるぞ」

 

「はい」

 

「あ、ああ…」

 

前に出る杏子は二人と視線を合わせ、剣城と霧野はそれぞれ相槌を打つ。

 

「ギィィ……」

 

すると魔女は突然長い顔の一つを地面に向け、口から大量の血を吐き出した。

 

「血…?」

 

魔女の血に目を奪われていると、魔女は飛び跳ねて杏子たちの反対側に着地する。

 

「悪あがきに目くらましの猿真似か?往生際が悪いんだよ!」

 

杏子はトドメを刺そうと振り返り、槍を構えて走り出す。そして剣城と霧野の間を通り抜け、全員の視線が魔女に向いた直後。

 

ズアッ!

 

魔女が吐いていた血が突然ゼリー状になって背後から襲い掛かってきた。

 

「何っ!?」

 

「くっ!ディープ……」

 

三人は同時に気づき、霧野が必殺技で防御しようとしたが、魔女の血は急速なスピードで剣城と霧野に迫る。

 

(間に合わな…!)

 

「あぶねえッ!」

 

杏子は咄嗟に、両手で扉を開くように二人を左右に突き飛ばす。そして(まばた)きする間もなく、魔女の血は杏子の四肢に纏わりつく。

 

「くっ、離しやが……」

 

杏子は血を振り払おうとしたが、魔女の血は杏子の手足を拘束したまま焼けるような音を立てて光り出す。

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

―――バツン!!!

 

 

 

 

 

破裂すると同時に杏子の四肢を切断したのだった。

 

「―――ッ!!!」

 

「なっ!?」

 

「杏子さんっ!!!」

 

杏子はあまりの激痛に声なき声を上げ、倒れ込んだ霧野と剣城は目を見開く。

 

(……ああ、しまったな。あたしとしたことが、らしくねぇことを……少し前までこんなんじゃなかったんだけどな)

 

剣城たちはそれぞれ立ち上がり、必死の形相で杏子を助けようと駆け出すが、魔女は既に杏子の目前まで迫っており、シュートを撃ったとしても到底間に合わなかった。

 

(マズイな。これ、死ぬじゃん……こんなガラでもねぇ事しちまったのは、もっと前のあたしのことを思い出されちまったせいかな……)

 

現実は一瞬のはずなのに、自分だけは時が遅くなったようにゆっくりと倒れていく。杏子はそんな不思議な感覚に陥っていた。

 

(これで見るのは2度目かな……色んなことを思い出されちまう)

 

杏子の頭にさやかと心中しようとした時のような走馬灯が駆け巡る。さやかを助け出してからの生活は、それまでの杏子には考えられなかった事ばかりだった。仲間たちと共に食事して、特訓して、ケンカもするけど笑い合える。そんな人の温かさを味わい、自分も幼い少女の面倒を見るようになった。そんな思い出も四肢と共に奪われ、力なく倒れていく中、杏子は視線だけを動かす。視界に入ったのは必死に叫びながら走って来る剣城の姿。

 

(剣城……わりぃな。あたしのために色々してくれたのに)

 

出会ってからずっと自分を支えてくれた剣城。最期の言葉も、芽生えていた想いも告げることなく死んでしまう事を心から詫びた。

 

(霧野、だったな……ゆまの面倒を見てくれて、ありがとな)

 

反対側から走って来る霧野に視線を移し、感謝の意を込める。そして視線を前に戻すと目の前には残った自分の身体を食らおうと長い胴体の口を大きく開ける魔女がいた。

 

(さやか……)

 

ふと頭の中にさやかの顔が浮かぶ。自分が叶わなかった願いを叶え、自分の分まで幸せになってほしいと無意識に考えたからかもしれない。そこまで思考が至った瞬間、マミや他の仲間たちの笑顔まで思い出してしまう。

 

(みんな……ゴメン)

 

もう助からない。そんな諦めの心だけが杏子の中にあった。

 

(どうやらあたしはここま―――)

 

 

 

 

 

「―――だめっ!!!」

 

 

 

 

 

次の瞬間、魔女の口が閉じた。しかし、その口は何も捉えておらず、杏子の姿もいつの間にか無くなっていた。どこへ行った、と魔女は周囲を見渡す。すると、どこからともなく深い霧が現れ魔女の周囲を包み込んでいく。

 

「ギィ!」

 

魔女は必死に払おうとするが、今度は背後から伸びてきた鎖に巻き付かれ、一本釣りのように上空へ引き上げられると、一気に霧の中に引きずり込まれる。霧を抜けた先では杏子が待ち構えていた。鎖は彼女の槍の中に仕込まれていたもので、杏子は五体満足で鎖を引っ張っていた。

 

「でやあぁぁっ!」

 

そして化身アームドを纏った剣城がシュートを放ち、引き寄せられていたことによって何倍もの衝撃を受けた魔女は粉々に粉砕されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~市立公園・夜~~

 

 

 

魔女が倒されたのと同時に結界も崩壊し、空中に放りだされたグリーフシードを杏子が回収する。そして着地したと同時に服を普段着に戻す。

 

「杏子さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ……何が起きたか知らないけど命拾いしたみたいだな」

 

杏子は改めて自身の肉体を確認する。確かに自分は魔女に四肢を奪われ、絶体絶命のピンチのはずだった。しかし魔女に喰われる直前、何事も無かったかのように四肢が再生し、魔女を倒すことが出来た。剣城はもちろん、初めて会ったばかりの霧野も明らかにそんな能力は持っていない。あの現象は一体何だったのか。

 

「杏子さん、どうして……」

 

「だから何が起きたかあたしにも……」

 

「違います。俺が言っているのはどうしてあんな危険なことをしたかです」

 

「!」

 

杏子は思い出す。かつてさやかの為、仲間たちの為に犠牲になろうとしたこと。そしてその時剣城に言われた事も。今の彼はその時と同じ目をしていた。

 

「言ったはずです……誰にも死んでほしくないと」

 

「い、いいじゃねぇか。こうして無事だったんだから。そのおかげでお前も……」

 

「はい。助けてもらったことには感謝してます。でも、だからって代わりに杏子さんが死んでは…!」

 

「わ、わかったわかった!あたしももうあんなムチャしねぇから、それ以上言うな!」

 

杏子は強引に話を終わらせる。考えてみれば自分が一刻も早くトドメを刺そうと急いだせいで魔女の罠にかかってしまった。そんな自分を心底心配してくれる剣城の視線がたまらなかった。

 

「杏子さん…」

 

理解してくれたことに安堵した剣城は大きくため息をつく。そんな剣城に杏子も少しだけ照れて顔を逸らした。

 

「剣城…」

 

そこへ話を切り替えるように霧野が話しかけてくる。事情はわからないが、大事な話だと察して待っていたようだった。

 

「今の怪物は何だったんだ?それに彼女は確かに…!」

 

未知の出来事の連続に冷や汗を掻く霧野。一方で気持ちが落ち着いた杏子はポケットから取り出した棒状のスナック菓子を頬張る。

 

「……あたしもわかんないんだよね。回復できるダメージじゃなかったってのに。勝利の女神でも現れたってのか?」

 

 

 

 

「そうだよ」

 

 

 

 

ふと聞こえてきた声に振り向くと、杏子は目を見開き、絶句した。

 

「やったね!キョーコ!」

 

信じられないものを見たように驚愕する杏子。無邪気な笑顔で呼びかけたのは待機していたはずのゆまだった。しかし格好はいつもの緑のワンピースではなく、頭にネコ耳の白い帽子を被り、胸元に鈴、腰に大きなリボンを付け、肩を露出した緑と白のドレスを着ており、その下にドロワーズを履いていた。そのファンタジーを思わせる姿は紛れもなく、魔法少女であった。

 

「お、お前……ゆまか!?」

 

「あ、ランマル!見てみて!ゆまも魔法少女になったんだよ!」

 

「まほう…しょうじょ?」

 

「……なんてことだ…」

 

霧野は何の事か分からず戸惑い、剣城は恐れていた自体に嘆きだす。そんな二人の様子を気にせず、ゆまは嬉しそうにトテトテと杏子の元に駆け寄った。

 

「キュゥべえの言ったとおりだ!ゆまだって戦えるよ!治癒魔法って言うんだって!これからキョーコがケガしても、ゆまが治してあげるからね!えっへん!」

 

誇らしげに胸を張るゆま。もう自分は役立たずなんかじゃない。杏子の危機を救うことだって出来る。これならきっと杏子も褒めてくれる。そう信じて疑わなかった。

 

 

 

パンッ

 

 

 

直後、ゆまの頬に杏子の無言の平手が飛んできた。

 

「え…?」

 

「お、おい!いきなり何を…!」

 

突然の平手にゆまの変身が解け、咎めようとした霧野の肩を剣城が掴んで静止させる。そして杏子は冷え切った声色で尋ねた。

 

「……ゆま、何で魔法少女になった?」

 

「え……だ、だって…」

 

「だってじゃねぇ!」

 

予想外の反応に動揺しながらも反論しようとしたゆまだったが、火が付いたように怒鳴る杏子に両肩をガッ、と掴まれ、口をつぐんでしまう。

 

「言っただろうが!魔法少女になんかなるなって!!!」

 

大きな声で怒鳴りつける杏子。自分は魔法少女になってしまったから家族を失ってしまった。たった一つの願い事と引き換えにたくさんの大切なものを失い、最終的には魔女になってしまう。そんな残酷な運命をゆまに背負わせたくはなかったのだった。

 

「だ……だって…」

 

杏子の気迫に押され、怯えるように顔を歪ませるゆま。杏子を助けたい。杏子に褒められたい。そのために魔法少女になったのに杏子は怒っている。激昂して威圧するような彼女の目を見て、ゆまは思い出してしまう。

 

『―――お前なんか何も出来ないんだ、バカガキ!役立たず!』

 

自分を虐待する母の言葉。そしてもう一つ。

 

 

 

~~~~

 

 

『キョーコ……死ん…じゃ、うの?』

 

織莉子の宣告を受け、信じられないように身体を震わすゆま。

 

『そう。彼女は魔女と戦って、死ぬ運命』

 

穏やかに、それでいて淡と告げている織莉子の言葉が嘘ではないと感じ取ったゆま。さすがここまで聞かされたゆまも黙っていられなくなる。

 

『おねえちゃん教えて!キョーコのいるところ!』

 

切羽詰まったように尋ねる。ゆまの心は今すぐ杏子の元に駆け付け、このことを伝えたい気持ちでいっぱいだった。

 

『聞いたところでどうなるのかしら?』

 

『!』

 

『あなたに運命の輪が回せるのかしら?』

 

それをあざ笑うかのように聞き返す織莉子。自分でもわかっていた。今の自分には何の力もない。結界に一人入ったところで、伝える前に使い魔か魔女にやられるのがオチ。魔法少女になるのが最善策だが、杏子の言いつけも守りたい。そんな板挟みの中、必死にやれることを考える。そして出した答えが、

 

『キョ、キョーコを、助けて…!』

 

目の前の少女に、泣きながら頼み込むことしかなかった。その答えに織莉子はフッと微笑むと、ゆまの耳元までかがみこんだ。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

「言った…!言った…!織莉子が、言ったよ…!」

 

「“織莉子”…!?」

 

 

 

 

 

 

『どうやらあなたには輪を回すだけの強い想いも力も無いようね』

 

 

 

 

 

 

「言った!言ったよ!」

 

 

 

 

 

 

『何も出来ない』

 

 

 

 

 

 

「ゆった!ゆったよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――可愛いだけの“役立たず”さん』

 

 

 

 

 

 

 

「ゆった…!ゆったよ…!うわあああああああああんっ!!!」

 

織莉子の冷酷な言葉が頭の中で何度も響きわたる。ゆまは身体を振るって杏子の手を払うと、頭を抱えて叫び出した。

 

「お、おい!」

 

「どうしたんだ、ゆま!?」

 

杏子と霧野が慌てて呼びかけるが、錯乱したゆまの耳には届かない。

 

「ゆま……はっ!役立たず……ない!役立たず、じゃ、ないっ!」

 

母親に虐められていた日々がゆまの頭の中を駆け巡る。どんなに酷い目に合わされても、我慢していればいつかは愛してくれると、誰かが助けてくれると信じていた。しかしそんな時は何時になっても訪れず、役立たずだと罵られるばかりだった。何も悪いことはしてないのに、年相応に愛を求めているだけなのに、ただただ傷つけられるだけ。そんな自分を愛してくれない両親も、助けてくれない他人も、誰からも愛されない自分も大嫌いだった。

 

「キョーコの役に立つ!みんなの役に立つ!わがまま言わない!好き嫌いもしない!」

 

そんな時に杏子と出会い、拠り所を失った自分の面倒を見てくれた。剣城も自分を気にかけ、霧野は二人とはぐれてしまった自分を助け、もう一度会わせてくれた。それらはゆまがずっと欲しくてたまらなかった人の温もりだった。

 

「痛いのも我慢する!みんながケガしたらゆまが治す!」

 

それを失うくらいなら、せめて手に入れた力で必要とされるだけでもよかった。捨てられる恐怖、自己嫌悪、求愛。色んな感情がぐちゃぐちゃになったゆまは今にも暴れ出しそうな自分を抑えつけるように肩を抱く。杏子たちはそんなゆまを呆然としながら見つめることしか出来なかった。

 

「だから……だから……」

 

そしてゆまは涙を拭くことも忘れ、みっともない顔を晒すこともいとわず、追いすがるように顔を上げると、

 

 

 

「ゆまを、ひとりにしないで……」

 

 

 

消えてしまいそうな声で杏子を見上げながら泣きすがると、わめきすぎて疲れたのか、その場で膝から崩れ落ちたのだった。

 

「ふぐっ……ひっく、えぐ……ひっく……」

 

「………」

 

 

膝を着きながら泣き続けるゆまを見て、杏子は思い出していた。かつて自分は父親の為に願いを叶え、魔法少女になった。しかし結果、家族は自分を残して死んでしまい、その願いは永遠に叶わなくなってしまった。杏子は魔女になってもおかしくないほどの絶望の中で、自分を置いていった父たちに涙ながら願った。

 

 

 

『ひとりにしないで』

 

 

 

それ以来、杏子は他人の為に願いを叶えるのは愚かなことだと思っていた。今でこそさやかの件で気持ちの整理は出来ているが、勝手な思いやりで家族を死なせてしまった自分の為に魔法少女になって欲しくはなかったのだった。

 

「バカヤロウ……あたしなんかの為に魔法少女になりやがって……本当に、バカだよ……」

 

「キョーコ…?」

 

その時、ゆまは杏子の目元に雫が溜まっており、それがキラリと光ったことに気づいた。

 

「キョーコ、泣いてるの?」

 

泣き止んだゆまが立ち上がりながら尋ねると、杏子はゆまの頭に手を置いて言った。

 

「ばーか、泣いてなんかいないよ…」

 

杏子の小さな返事も溶け込みそうな夜の静寂の中、二人を慰めるかのように月の光だけが優しく降り注いでいた。

 

「……剣城、一体何が起こっているんだ…?」

 

「……とにかく、俺たちと一緒に来てください。事情は行きながら話します」

 

霧野は状況を飲み込めなかったが、杏子たちの心境を察し、「…わかった」と、素直に受け入れたのだった。

 

(織莉子……)

 

杏子はスッと顔を上げる。そして鋭い目つきで夜空を見上げると、

 

(この落とし前は、必ずつけてやる…!)

 

ゆまをけしかけた織莉子に復讐を誓い、拳を強く握ったのだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「どうやら受け取ったようね、宣戦布告を。これで破滅の未来を防ぐピースが一つ埋まったわ」

 

誰もいない静かな部屋で静かに微笑む織莉子。彼女は望み通りに事が運んだことを祝うかのように紅茶をたしなんでいた。祝杯の香りを優雅に味わっていると、フッ、と笑みを深めた。

 

「さて、そろそろね」

 

そして何かのタイミングを測っていたかのようにティーカップをソーサーに置く。すると、ガチャ、と玄関のドアを開く音が鳴り、二人分の足跡が近づいてくる。そして織莉子のいる部屋のドアが開いた。

 

「織莉子さん、ただいま戻りました!」

 

「ただいまッス」

 

入ってきたのは、髪の一部が葉っぱのような形にまとまった青紫の髪の少年と、浅葱(あさぎ)色のセミロングヘアーで黄土色の猫目が特徴の少年だった。

 

「おかえりなさい。あら、あの子は?」

 

「家に着いたとたん玄関で爆睡しちゃいました」

 

「あらあら……仕方ない子ね。後でベッドまで運ばなきゃ」

 

「織莉子さんの為に張り切りすぎたみたいっすねー。という訳でこれが今日の成果っす」

 

そう言って猫目の少年がグリーフシードを手渡す。

 

「ありがとう。ごめんなさいね、あなた達に任せちゃって」

 

「いえいえ!居候の身ですからこれくらい…」

 

「二人が来てから魔女との戦いもずいぶん楽になったわ。あの子の近距離の攻撃にあなた達の守りとシュートが加わって、バランスが整っているおかげね」

 

「いやあ、織莉子さんの能力のおかげでもありますよ。初めて戦う魔女がどんな攻撃をしてくるか予知してくれるから、うまく戦えてるんですから」

 

「てか、そろそろ夕飯にしましょうよ。俺、もう腹ペコで…」

 

「ふふ、そうね。それじゃ、あの子を運んだら、お夕飯の支度をしましょう。

 

 

 

 

 

―――(ひかる)、マサキ」

 

 

 

そう言って織莉子は雷門の1年FW影山(かげやま)輝と、同じく1年DF狩屋(かりや)マサキに笑顔を向けたのだった。

 

 

 




―ED『明日のフィールド』(歌:神童拓人&霧野蘭丸)―




次回予告
「新たな波乱の中に潜む織莉子の影。これからの戦いに向けてそれぞれの休日を過ごす中、マミさんと信助に新たな魔法少女が襲い掛かる!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第18話『漆黒の愛』!」




というわけで公式により声が追加された魔法少女たちの物語に新たな雷門メンバーを追加しました。

織莉子たちが暗躍する中で彼らがどう動くのかも楽しみにしてください。

ご感想お待ちしております。


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第18話『漆黒の愛』 Aパート

『拝啓、読者の皆様。イナイレ新作にも間に合わず、またもや何ヶ月も遅れてしまった事をお詫び申し上げます。つきましては今回は代理の者たちがこの前書きを担当いたします事を何卒宜しくお願い致します』


「……で、俺達がこうして呼ばれたってことですかね?」

「作者さんもいい機会だと思ったのもあるけど、待たせちゃった読者の皆さんに合わせる顔もなかったんじゃないかな。こんな手紙を私達に預けちゃうくらいだし」

「とりあえず、俺達で再スタートのエンジンをかけましょうか」

「そうだね……というわけで」



~BGM『てっぺんまでダッシュ!』~


明日人
「皆さん初めまして!『イナズマイレブン~アレスの天秤~』主人公の稲森(いなもり)()()()です!」

いろは
「『マギアレコード~魔法少女まどか☆マギカ外伝~』主人公の(たまき)いろはです!この小説も閲覧数が5万を超えたと思ったらまさか私達が呼ばれるなんて!」

明日人
「作者さんは待たせてしまったほうの気持ちが大きいみたいですけどね……」

いろは
「あはは……それはそうと明日人君!遅ればせながらアニメスタートおめでとう!熱血モノ好きな桑水(くみ)せいかちゃんも毎週楽しみに見てるんだって!次は秋に発売予定のゲームだね!」

明日人
「それを言うならいろはさん達だって祝うことばかりじゃないですか!マギレコ1周年に舞台化にコミカライズ化!そしていろはさん!お誕生日おめでとうございます!」

いろは
「ありがとう!みかづき荘の皆やももこさん達から祝ってもらった時のことは今でも嬉しかったなぁ……!」

明日人
「良かったですね!ところで、作者さんは何でまた遅れたんでしょう?」

いろは
「うん……色々あるけど、いつも通りオリジナル部分の文が浮かばなかったってのが一番で、3ヶ月ぐらい前に作者さんがついに機種変してマギレコ始めたのも原因なんだよね……」

明日人
「あぁ、作者さんも自身でプレイしてからハマったらしいんですよね。無課金勢で頑張ってるけど、まだ星4の魔法少女はみたまさんの紹介チケットを含めても4人しかいないみたいですね。彼女たちの魔力開放もしてませんし」

いろは
「しかも公式が1周年記念で少ない有償マギアストーンで色々サービスするって言うから悩んでるみたい。『おのれ運営め!』って叫んでいたなぁ……」

明日人
「この小説もそれぐらい賑やかなことを出来る余裕があればいいんですけどね……」

いろは
「というわけでイナ☆マギ、そろそろ再開いたします!もしかしたら私達もこの前書きで再び出てくるかもしれないので、出番の為によろしくお願いします!」




―OP『情熱で胸アツ!』―



~~美国邸・朝~~

 

 

 

「んっんー!今日もいい天気だな~」

 

美国邸の庭園で影山輝は背伸びをする。綺麗な青空とそよ風、そして庭に咲き乱れるバラが爽やかな朝を彩っているかのようだった。

 

「ええ。外でのブレイクタイムには最高の朝ね」

 

後ろに振り返ると、盆にティーセットとホットケーキを乗せて運ぶ織莉子がいた。

 

「織莉子さん」

 

「ホットケーキを焼いたわ。冷めない内に食べてね」

 

「はい!いただきます!」

 

輝はすぐさまホットケーキと紅茶が置かれたテーブルのイスに座る。するとすぐに焼きたてのケーキと紅茶の芳醇な香りが漂い、輝は目を閉じて香りを楽しむとゆっくりと空を見上げた。

 

「こんないい天気なら、今頃皆と一緒にサッカーやってたはずですよね」

 

「この世界に来て一週間、全然手がかりが見つからないんだよね~。ホント皆どこにいるんだろ。というかキリカさん、いつも思うんすけどシロップかけすぎじゃないすか?」

 

隣の席に座りながら考える狩屋の視線の先では、黄土色の目で黒いショートカットの少女がウキウキとした顔でホットケーキに大量のメイプルシロップをかけていた。

 

「私のエネルギー原の一つなんだ。こうしないと織莉子の為に働く力が出ないんだよ」

 

「いつか虫歯になりますよ」

 

ケーキがシロップまみれになってもなお、ドバドバと注ぎ続けるキリカの甘党ぶりに呆れる狩屋。そんな二人のやり取りに織莉子は「フフフ」と楽しそうに微笑み、輝は「あはは…」と苦笑いをしていた。

 

「それで織莉子さん。予知で出たっていう最悪の魔女が現れるのはいつなんですか?」

 

話を切り替えるように輝が織莉子に訊く。すると織莉子は先ほどまで笑顔とは別人のような真剣な顔つきになり、冷静な声色で答えた。

 

「そうね、確実なのは1ケ月半。もしくはそれまでに生まれてしまう可能性があるわ」

 

「ええ!?じゃあ、こうしている間にもその魔女が出てくるかもって事っすか!?」

 

「そう。事は一刻を争う自体よ。何としても、あの魔女が誕生するのを阻止しなければならないわ。何としてでも……」

 

織莉子はその瞳にただならぬ決意を宿し、空を見上げた。まるで遥か未来を見据えているかのように。

 

 

 

 

 

 

~~同時刻・マミの自宅~~

 

 

 

「にしても、まさか皆がこんなことに巻き込まれていたとはな……」

 

昨夜の騒動の後、剣城達は霧野とゆまを連れて帰宅した。霧野の帰還に天馬達が喜んだのはもちろんだったが、それ以上にゆまの事情に驚いた。それから一夜明けてまどか達を呼び出す。訳あってほむら、仁美、恭介、ワンダバの四人はいないが、それ以外のメンバーには二人の紹介を済ませたところである。

 

「ま、ここまで知った以上、俺も見過ごす訳にはいかないな。俺も世話になるわけだし、協力するよ」

 

「ありがとうございます!」

 

霧野の迷いなき参戦に天馬も喜ぶ。すると杏子が両手を後頭部で組みながら尋ねた。

 

「そういやアンタ、昨日は霧みたいのを出して魔女の動きを封じていたけど、あれがアンタの得意技なのかい?」

 

「ああ、俺はDFだからな。皆が攻撃に専念できるように敵の動きを封じておくのが俺の役目なんだ」

 

「ふ~ん、なるほどね。でもちょうど良かったじゃねぇか。守ることに長けた奴が戻ってきたんだからよ。少しは戦力を補強出来たってことじゃねぇか」

 

「佐倉さん、そんな言い方したら失礼よ」

 

「むぅ…」

 

「だが俺達も守りが手薄なことに悩んでいたのは確かだ。俺もお前が戻って来てくれて心強いよ」

 

「神童…」

 

親友である神童からの厚い信頼に嬉しく思う霧野。

 

「………」

 

一方でさやかはまじまじと霧野を見つめていた。視線を感じたのか霧野もさやかに顔を向ける。

 

「霧野って言ったっけ?気になったんだけどさ……」

 

「なんだ?」

 

「アンタ……ホントに男?」

 

「なっ!?」

 

「あー、そいつはあたしもちょっと思ったな」

 

「ゆまも最初おねえちゃんかと思った」

 

「お、おい!」

 

予想外の質問と杏子とゆまの賛同にショックを受ける霧野。するとさやかが新しいおもちゃを得た子供のようなイタズラな笑みを浮かべた。

 

「さて、ここに魔法少女の自分の姿を思い描いたまどかのノートがあります」

 

「キャー!何でさやかちゃんが持ってるの!?///」

 

「さて皆さん。このページに描かれた魔法少女としてのまどかの格好を彼に当てはめてみましょう」

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

その場で全員が想像した。霧野がピンクのフリフリの魔法少女服を着てキメポーズ。

 

 

 

 

 

 

『魔法少女らんまる☆マギカ!』(キュピーン!)

 

 

 

 

 

 

「「「ブフゥ!!!」」」

 

「!?」

 

「ダ、ダメ……似合いすぎwww」

 

「全っ然違和感無いぜよwww」

 

「おい、お前ら!」

 

信助や錦をはじめ、笑い出す仲間達に怒り出す霧野。本人からしてみたら溜まったものじゃない。

 

「神童!お前も失礼だと思うよな!」

 

「あ、ああ……俺もそう……」

 

思う、と言おうとした神童だったが、さやかが霧野の隣でニタァと笑いながら例のページを見せつける。

 

「ブッ……フ、フフッwww」

 

瞬間、堪えていた笑いが一気に押し寄せ、顔を背けてしまう。

 

「し、神童まで…!な、なあ剣城!お前は違うよな!」

 

親友にまで裏切られ、唯一笑っていなかった剣城に救いを求める。

 

「ええ、俺も失礼だと思います。ちょっと喉が渇いたので飲み物を持ってきます」

 

そう言って剣城は立ち上がり、冷蔵庫の方へ歩き出す。彼は微笑みはするものの、人前で声を上げて笑う事は自分の知る限り一度も無い。期待通りの冷静沈着な返答に霧野はホッと胸を撫で下ろした。

 

「魔法少女らんまる☆マギカ」

 

と、さやかがボソッと呟くと、

 

「………ふっ、くっくっくっ……」

 

剣城はその場で背中を向けたまま肩を震わせた。どうやら、ただのやせ我慢に過ぎなかったようである。

 

「「「アーハッハッハ……ハッハッハッ…!」」」

 

「笑うなー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー笑った笑った」

 

「何で俺がこんな目に……この世界に来てからこんなのばっかだ……」

 

朝っぱらから散々な扱いを受け、ブツブツとふて腐れる霧野。その横では黒歴史ノートを公開されたまどかが顔を両手で覆いながら「あうう……」と嘆いていた。

 

「でも、二人ともピンクのツインテールだからどっちが着てもよく似合うと思う」

 

「フォローになってないよ、茜ちゃん……」

 

「それにしても、こんな幼い子が魔法少女になってしまうなんてね」

 

マミが話を切り替えると全員がゆまに注目する。当の本人はその意図が分からず、「?」と見つめ返していた。

 

「やっぱりマミさんの家でその子の面倒を?」

 

「ええ、とりあえずそうするしかないと思うの。魔法少女になってしまった以上、普通の生活には戻れないし、戦いも私達以上に苦労するのは目に見えてる。施設とかに預けるよりも今は私達で保護した方がいいわ。佐倉さんの頼みでもあるしね」

 

「オイ!余計な事を…!」

 

「ほう?杏子がマミさんに?」

 

杏子が咎めようとしが、その前にさやかが再びイタズラな笑みをしながら尋ねる。

 

「ええ。夕べ、佐倉さんが私に土下座までして頼み込んだのよ。びっくりしちゃったわ」

 

「バ、バカ!///」

 

「へ~。あの杏子がねぇ……」

 

「言うなって、言っただろがマミ!オメーもニヤニヤしてんじゃねぇ!つーかお前ら全員その目やめろ!///」

 

いつの間にか周囲から温かく見守るような優しい目で見つめており、杏子は顔が真っ赤になるほど怒鳴り散らしたのだった。

 

「いや~ゆまちゃんは幸せだねぇ。こんな素敵なおねえちゃんが出来て」

 

「うん!キョーコ、ホントのおねえちゃんみたいに優しいの!」

 

「だってさ。良かったね~!“キョーコおねえちゃん”!」

 

「その明らかに悪意のある呼び方やめろ!別にあたしはこいつのことを妹みたいだなんて…」

 

「ふえっ!?」

 

杏子がそう言った直後、ゆまはショックを受けたようにぐずりだした。

 

「お、おい…」

 

「キョーコ、やっぱりゆまがキライなの……?ゆまのこといらないの…?」

 

拒絶されたと思ったゆまはヒックヒック、と目に涙を浮かべていた。

 

「杏子…」

 

「佐倉さん…」

 

振り返るとあちこちから「それはダメでしょう」と言うような白い目を向けられていた。その痛々しい視線に耐え切れなくなった杏子は慌ててゆまに呼びかけた。

 

「な、泣くなって!あたしはそんなこと思ってねぇよ!」

 

「ホント?」

 

「ああ。だから大声で泣こうとすんな。わかったか」

 

「……うん!わかった!」

 

ここでようやくゆまは泣くのをやめ、可愛らしい笑顔を見せたのだった。

 

「やれやれ……それよりも、もう一つ気になることがあんだろ」

 

「ゆまちゃんをけしかけた、例の“織莉子”って人の事?」

 

「ああ。そいつも間違いなく魔法少女なんだろうが、魔法少女なんつー厄介なことにコイツを巻き込んだのは許せねぇ」

 

「ゆま、昨日も訊いたが、他に特徴は無かったか?」

 

霧野がゆまに確認する。

 

「ん~。やっぱりお嫁さんみたいに真っ白だったことしか…」

 

「そうか…」

 

「“白い魔法少女”……一体何者なんだ…?」

 

謎の魔法少女“織莉子”に頭を悩ます天馬達。敵になるかもしれない新たな存在に不安をよぎらせていた

 

「……考えることはありますけど、とりあえずその話は後にしませんか?今日は折角の休みなんですから」

 

「そうそう。あたしなんて今日は恭介との初デートなんだから!もう楽しみで仕方ないもん!えへへへ~~!」

 

葵とさやかが話を切り替える。今日は度重なる戦いと練習による疲労のため、今日一日全員休みを取る事になっていた。

 

「確か、上条とは待ち合わせで会う予定になっていたんだったね」

 

「そうそう!初デートってのは雰囲気から入るのが大事だからさ!この日の為に恭介と二人でプラン立てたんだから~!」

 

デレデレと嬉しそうに身体をくねらせるさやか。その様子にやはり一部から「はぁ…」とため息をついていた。

 

「フフフ。さやかちゃん、楽しんできてね。そろそろわたし達とお買い物に行くことになってる仁美ちゃんも……」

 

「遅れて申し訳ありません!」

 

噂をすれば、とオシャレをした仁美が慌てて飛び込んできた。

 

「仁美ちゃんおはよう!」

 

「おはようございます。すみません、準備に手間取ってしまって…」

 

「気にすんなよ、まだ時間はあるんだからよ」

 

仁美は申し訳なさそうにするも、水鳥は笑って許してくれた。

 

「はい、ありがとうございます。あら、そちらのお二人は…」

 

「紹介するわ志筑さん。今日からここに一緒に住むことになった魔法少女の…」

 

千歳(ちとせ)ゆまだよ!よろしくね、おねえちゃん!」

 

「あら、可愛らしい。私は志筑仁美です。よろしくお願いいたします」

 

笑顔で挨拶するゆまに仁美も微笑ましく返事を返す。それに続くように神童が紹介する。

 

「そしてこっちが俺の友人でDFの…」

 

「霧野だ。よろしく」

 

「よろしくお願いいたしますわ。それにしても、女の子の選手とは珍しいですね」

 

「………ハァ」

 

「あら、どうしました?」

 

「仁美さん、とりあえず後で説明しますね…」

 

気まずそうに話す葵に「?」と首を傾げる仁美。そして辺りを見渡して気が付く。

 

「ところで、ほむらさんとワンダバさんがいませんが?」

 

「ああ、二人は今朝早くに出かけていったよ」

 

「そういや、あたし達も聞いてなかったけど一体どこに行ってんの?あの二人の組み合わせなんて珍しいけど」

 

と、さやかが尋ねるとフェイが説明し出す。

 

「二人はほむらさんの武器を調達しに行ったよ」

 

「武器って……やっぱ、重火器の…?」

 

「うん。まず、ほむらさんが拳銃とか持ってそうな危ない組織の事務所を調べるんだ」

 

「へ?」

 

「そしてワンダバがTMキャラバンでほむらさんと一緒にその事務所の近くまで行く」

 

「んん?」

 

「事務所から見えないギリギリまでキャラバンを近づけたら行動開始。ワンダバがキャラバンのドアを開いて、ほむらさんが時間を止めて事務所に乗り込むんだ」

 

「は?」

 

さやか、まどか、杏子の順に声が上がる。しかし、フェイの説明は続く。

 

「事務所の中を物色して、盾の中に武器を詰め込む」

 

「ちょっとフェイ君。ストップしてくれる?」

 

マミが止めようとするが、フェイの口は止まらない。

 

「もちろん時間を止めているから誰も気づかない。そしてキャラバンに戻り、時間を動かして騒ぎが大きくなる前にキャラバンを走らせて帰還する」

 

「「「………」」」

 

「ね、完璧な作戦でしょ?」

 

「いや作戦っていうか、それ完璧な窃盗犯の手口だよね!?魔法とタイムマシンをなんてことに使ってんのよ!?」

 

「TMキャラバンが逃走用の車に…」

 

さやかが反射的にツッコみ、信助もキャラバンの悪用に嘆いていた。

 

「ちょっと前に別のところで調達してから上手くいってるんだよね。ほむらさんも『一人でやってた時よりずっとやりやすい。今度はもっと過激な武器を持ってそうなところに付き合ってもらおうかしら』って感謝してたよ」

 

「完全に味占めちゃってんじゃん!こんな“混ぜるな危険”の構図聞いたことないんだけど!?」

 

「このチーム……頼もしすぎるけど、なんだか戦いとは別の方向で危ない気がするわ…」

 

「なんか、ゴメンなさい……」

 

「まあいいじゃない。“()(しゃ)聖典(せいてん)”だって僕の時代のサッカー博物館から盗んできたものだし」

 

「覇者の聖典?」

 

まどか達は聞きなれない単語に反応する。

 

「ああ、そう言えばちゃんと話してませんでしたよね。俺たちが様々な時代を巡っていた理由」

 

「覇者の聖典。それは僕たちの時代の伝説の書物。伝説のサッカープレイヤー“マスターD”が書いたもので、そこには最強のサッカーチームを作る術が記されており、悪用を避けるためにマスターD自身が特殊な暗号で書き残した。その解読に何人もの科学者が挑んだけど、結局誰一人解読することは出来なかったんだ」

 

と、フェイが解説をする。

 

「なるほど……ってアレ?確かそのマスターDって大介さんの事だよね?」

 

「はい、大介さんが思い描いた時空最強イレブンが記されたノートなんです。そのノートに記されたプレイヤーに当てはまる人達の力を分け与えてもらって、俺達自身が最強のイレブンになろうと考えたんです」

 

「天馬君達が?それに分け与えてもらうってどうやって?」

 

「その為の方法もちゃんとあって、力も手に入れたんですけど、あいにく化身と同じでこの世界に来た時に封じられたみたいなんです」

 

「時空最強っていうぐらいなんだから、やっぱ凄い力なんだろね」

 

「ああ。ワンダバが復活させる方法がわかったらしく、頑張っているんだ。それさえどうにか出来れば間違いなくこれからの戦いにも役に立つはずだ」

 

神童の返事にまどか達も胸を膨らませる。必殺技や化身にタクティクス。これまで天馬達のサッカーを用いた戦術に何度も驚かされただけに期待も高まっていた。

 

「しかし、わからんのー」

 

そこへ大介がフェイの袖から姿を現す。

 

「何がですか?」

 

大介の首を傾げるような口調にマミが訊き返す。

 

「何でワシが書いたノートの内容が暗号になっとるんかのう」

 

「え?でも大介さんが書いたんですよね?」

 

「ああ。だが、ノートはあくまで守に遺した遺言だ。遺言を暗号にする訳が無いのにどうしてそんなことになってるのだろうか……」

 

「う~ん」と、大介が考えていると何故か天馬達が「あはは…」と、気まずそうに苦笑いをする。まどかは大介に聞こえないよう、天馬にこっそりと尋ねてみた。

 

(ねえ、天馬くん。もしかして何か知ってるの?)

 

(実は秋姉から聞いたんですけど……大介さんって、字が物凄く汚かったんです…)

 

(え?じゃあ、ただ汚すぎて誰も読めなかっただけってこと!?200年間も!?)

 

(はい……多分その所為で徐々に話がねじ曲がったんだと思います…)

 

(確かにそりゃ伝説だな…)

 

あまりにもしょうもない真相に話を聞いていた杏子も呆れかえるしかなかった。

 

「皆さん、そろそろお時間じゃありません?」

 

「あ、そうですね。じゃあ、今日は練習も休んでそれぞれゆっくり休日を楽しみましょう!」

 

「「「おー!」」」

 

仁美と葵の呼びかけに天馬達はそれぞれ共に予定を組んだグループに分かれて外に出始める。

 

「とにかく皆、織莉子って奴を見つけたらすぐに知らせろよ」

 

そう言って杏子は剣城、ゆまと共に外へ出た。

 

「織莉子…?」

 

「仁美さん、行きますよー!」

 

「あ、はい!」

 

立ち止まって考えていたところを葵に呼ばれ、慌てて返事を返す仁美。そして口元に手を当てながら呟いた。

 

「“織莉子”……どこかで…」

 

 

 




というわけでこの数ヶ月の間にイナイレ、まどマギ両方で大きな出来事が起こっている間、完全に出遅れてしまい、申し訳ありません。

閲覧数5万を超えた事は遅れても繰り返し読み続けくださった皆様のおかげです。

このサニーブライトも両方の作品をこれからも応援し続けたら良いなと思います。

ご感想お待ちしております。


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第18話『漆黒の愛』 Bパート

狩屋
「ようやく投稿か~これまた長かったね」


「始めと終わりは考えてたけど、その間の話で相当悩んでいたみたいだよ」

狩屋
「あとマギレコだろ。色んなイベントやってる間に織莉子さんまでドッペル出せるようになっちゃったよ。でも織莉子さん達、未だに自分達の魔法少女ストーリーしか出番が無いんだよね~」


「か、狩屋君!後ろ!」

狩屋
「後ろ?あれ、織莉子さん何でドッペル出して…」


ーーードゴォォォォォン





ふう。今回は狩屋にやられ役を任せてよかった。


というわけで皆さん、これまたお久しぶりです!
今回も待たせてしまってすみません。

では早々に本編に……



「ちょっと待った!」


ム!その声は明日人!一緒にいるのはいろはか!


明日人
「作者さん!その前に作者さんにも、やらかしてしまったことに関してお仕置きを受けてもらいますよ!」

いろは
「明日人君、どういうこと?作者さんが最新話を投稿するって聞いた途端ここまでわたしを連れてきて……それにやらかしたって?」

明日人
「それは前回の投稿にあります。その時マギレコでは何がありました?」

いろは
「え?あったことっていえば、今、復刻しているわたしたちのサマーイベント?」

明日人
「はい。奇しくも、そのイベントが復刻しているときに話すことになりましたが、作者さんはあることを見逃していました」

いろは
「もしかしてわたしの誕生日?でも、作者さんはちゃんと祝って……」

明日人
「そのことについて問題ありません。作者さんはもうわかってるんじゃないですか?」

な、なんのことだろうか?

明日人
「とぼけてもムダです!いろはさんの誕生日を俺を通じて祝った時、あなたはまだ知らなかったでしょう………




『イナズマイレブン』の名主人公、円堂守さんの誕生日もいろはさんと同じ、8月22日だったことを!」




いろは
「えええええぇぇぇぇっ!?そうだったの!?」

明日人
「はい。というのも実は初代『イナズマイレブン』の発売日とマギレコのリリース日が同じ8月22日なんです」

いろは
「そうなの!?」

明日人
「そして去年1月に行われた『イナズマイレブン大復活祭』で配布されたライセンスカードで円堂さん、そして今復刻中の、去年の夏に行われたマギレコのサマーバケーションでいろはさんの誕生日がそれぞれの記念日に決まったんです。作者さんは大復活祭に行けなかったから知らなかったんですよね」

いろは
「同じ年にわたしたちの誕生日が決まったってこと!?イナイレは11年前に始まって、マギレコだって2年前に何度もリリースを延期して日にちが決まったんだよ!?」

明日人
「そう、この小説にとってはまさに奇跡としか言いようがありません。なのに作者さんは円堂さんを祝えませんでした。なのでいろはさん!」

いろは
「うん!わたしも作者さんにお仕置きです!」


くっ!だが自分にも責任はある!甘んじて受けよう!ジャイアントいろはか?暗黒いろはか?

いろは
「ストラーダ・フトゥーロ!」


ただのマギアか!それならば耐え抜いてみせ……。


明日人
「はあああああぁぁ!」


アレ?なんで明日人が『シャイニングバード』の体勢に?しかもオーバーヘッドした明日人のボールにストラーダ・フトゥーロの光が集まって!?


明日人・いろは
「『グローリア・バード』!!!」


オーバーライドォォォォォォォ!!!






安名メル
「ちなみに8月22日生まれの人は『誰も思いつかないような豊かな発想力とパワフルな実行力を持っている人』、
『真面目で爽やかな印象を与える一方で普段の様子からは想像もできないような情熱を秘めている』カリスマタイプだそうです!前半は円堂さん、後半はいろはさんにぴったりですね!」



はい、前座はここまで。

投稿がまたも遅れただけでなく、前回、イナイレとまどマギのクロスオーバーを書いてる者として失態をさらし、申し訳ございませんでした。今年こそ二人共祝ってあげたいと思います。


こんなんでも読み続けてもらえると本当にありがたいです。

それではどうぞ。











~~街中~~

 

 

 

「ごめんなさいね信助君。買い物に付き合わせちゃって」

 

「いいえ。いつもお世話になってますから、これくらいお安い御用ですよ」

 

買い物袋を頭の上に乗せ、落ちないように両手で支えながら歩く信助。この日の休日、マミは買い出しに出ており、信助もその手伝いをしていた。

 

「一緒にご飯を食べる人数も増えてきたから、余分に買っておかなきゃならないしね」

 

「すいません。僕達の為に…」

 

「いいのよ。お金はワンダバさんが支援してくれてるし。まあ、さっきの話を聞いたら、どこで稼いでるのか聞くのが怖いけどね……」

 

「ははは……」

 

苦笑する二人。アンドロイドがどうやって稼いでいたのか気になるが、世の中には知らない方が良いこともあったりするので二人は深く考えないようにした。

 

「まあ、それはそれとして……新しく来た霧野君はどんなDFなの?」

 

「霧野先輩ですか?そうですね……いつも冷静に状況を把握して、他のみんなが安心して攻撃できるよう立ち回ってチームを支える人ですね。神童先輩もチームメイトであり親友として深く信頼してます」

 

「そういえばさっきの神童君もそんな感じだったわね。私も佐倉さんとコンビを組んでいた時の事を思い出したわ」

 

「昔のマミさん達を?」

 

「ええ。佐倉さんも私をマミさんって呼んで、私も先輩として、相棒として彼女を信頼してたわ。一度は仲違いしてしまったけど、帰ってきた佐倉さんはやっぱり昔のままだった。目の前で困っている人をほっておけない。小さい子の面倒も見てくれる優しい子だったわ」

 

「ゆまちゃんの事ですか?」

 

「ええ。あんな幼い子が魔法少女になってしまったのは驚いたし、私だってほっとけないわ。でも、佐倉さんがゆまちゃんを気に掛けた一番の理由はきっと妹さんと重ねてしまったからでしょうね」

 

「ゆまちゃんと杏子さんの妹さんって似てるんですか?」

 

「私は会ったことがあるけど、外見は似てないわ。でも佐倉さんに甘える様子はよく似ていたわね」

 

「その子がいつか魔女になる運命を背負ってしまった……これからは僕達もゆまちゃんを支えていかなければなりませんね」

 

「ええ。魔法少女としても、人生の先輩としてもね」

 

話しながら気を引き締める二人。このままではいつか自分は魔女になる。そんな呪われた宿命をゆまはまだ知らない。そんな残酷な真実を幼き少女に告げるのは酷だと天馬達が判断したからだ。それ故に自分達がゆまを守らねばと全員が決意を固めていた。自分達より幼く弱い者が現れたことによって、自分達がしっかりしなければならないという責任感が芽生えていたのであった。

 

「新しい魔法少女といえば、佐倉さんの言っていた織莉子という人が気になるわ…」

 

「もしかしたら、これまで何度も時間をやり直したほむらさんなら何か知ってるかもしれませんね」

 

「そうね。その可能性はあるわ。早く帰って来な……」

 

 

 

「うわあぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

「ん?」

 

「何かしら?」

 

横を見るとそばの花壇の向こう側で黒いショートカットの髪の少女が慌てふためいていた。

 

「ない!ないよ!ないよぅ!うわあああああっ!!!」

 

どうやら失くし物をしたが見つからないようで、まるでこの世の終わりを迎えたかのような顔で喚き散らしていた。

 

「どうしよう!ないよ!ないっよー!もうダメだ、生きてられない!さよなら私!」

 

「だ、大丈夫かしら、彼女……」

 

「……ん?」

 

マミが心配する一方、信助は足元に何かが落ちていることに気がつく。拾ってみると、それはウサギのぬいぐるみが付いたストラップだった。

 

「マミさん。もしかしてこれ……」

 

「ええ、そうかもしれないわね。ちょっと訊いてみましょうか」

 

マミは信助からストラップを受け取り、少女に近づいてみる。

 

「あの……もしかして探し物はこれかしら?」

 

マミの呼びかけに少女はぐるんと振り返る。そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さでマミからストラップをかっさらった。

 

「ウワあぁ!会いたかった!もう離さないよー!」

 

少女はストラップを大事そうに抱えながらへたり込んで泣きわめく。ストラップを失くしただけでここまで大袈裟に騒ぐ少女に二人は困惑するばかりだった。

 

「な、なんだかヘンな子ね……」

 

「とりあえず、見つかって良かったですね。それじゃ僕達はこれで……」

 

「待ってほしい」

 

少女は座り込んだまま、マミの服を掴んで呼び止めた。

 

「キミ達のおかげで愛は死なずに済んだよ。私は(くれ)キリカ。恩人達にお礼をしたい」

 

「え?あ、愛?」

 

「恩人って…」

 

これまた重すぎる表現についていけず、二人はますます混乱する。

 

「そんな、そこまでしてもらう程の事じゃありませんよ」

 

「そうはいかないよ、おチビの恩人!」

 

「お、おチビって……」

 

「ダメ!?恩人達はお礼を拒否するの?」

 

キリカは涙目で叫ぶと、すんすんと寂しそうな動物のようにぐずりだした。変わってはいるが、感情豊かで素直な少女にマミは「くすっ」と可笑しく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恩人達はほんとーにそれでいいの?」

 

「ええ。奢ってもらって本当によかったのかしら?」

 

「むしろ足りない!私の愛がこんな薄いお菓子と同じだと思われたくないよ」

 

マミと信助はキリカと共に移動し、クレープを奢ってもらった。キリカは不満そうに顔を膨らませるが、マミは満足しており、信助も美味しそうにクレープを頬張っていた。

 

「愛、ね。それ、誰かからのプレゼントなのかしら?」

 

マミはキリカの腰から下げているストラップを見ながら尋ねた。

 

「え?あ、うん。そうだよ」

 

「大事な人なのかしら?」

 

「うん。私にとって彼女はとっても大事なんだ。いや、大事なんて言葉じゃ足りなさすぎる。だから私は彼女に尽くすんだ」

 

「尽くす?」

 

「そう」

 

キリカは少し歩幅を広げて前に出るとピタッと立ち止まる。それに合わせてマミも立ち止まり、信助も最後の一口を食べ終えて足を止める。

 

「恩人達はわかるかい?愛するということは尽くすってことなんだよ。逆を言えば尽くせなくなったらそれは愛じゃなくなってしまうんだ」

 

「呉さん?」

 

背中を向けたまま語るキリカに不穏を感じるマミと信助。肩に力が入り、わずかに緊張感が漂っていた。

 

「だから私は彼女への愛の為に尽くし続ける。だって……」

 

ここでキリカはくるりと振り返り、空虚な目で告げた。

 

 

 

「愛は、無限に有限なんだよ」

 

 

 

直後、地面から真っ黒な泥のようなものが広がり、辺り一帯を包み込んだ。

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

黒く覆われた景色が明るくなると、無数の巨大な毛糸玉と、そこから伸びた糸があちこちに張り巡らされた空間に変わっていた。

 

「結界…!」

 

「へ?これって…」

 

「信助君、とりあえず彼女を!」

 

「はい!キリカさん、こっちです!」

 

「う、うん」

 

マミは二人を近くの毛糸玉の影まで下がらせる。すると上空から魔女がマミの前に降り立つ。それはネコの顔が二つ組み合わさったような頭部に、太い一本爪を生やした8本の腕を持つ魔女だった。

 

「うわぁ、これまた不気味な……マミさん、気をつけてください!」

 

「ええ、すぐ終わらせるわ!」

 

マミは変身するとマスケット銃で魔女を撃つ。魔女はすぐさま躱し、マミに接近しながら腕を振り下ろしてくる。

 

「この!」

 

マミも連続で突きを躱しつつ弾丸を撃ち込む。魔女も負けじと弾丸を躱しては攻撃を繰り返す

 

「はっ!やっ!」

 

「―――!」

 

そのまま互いにヒット&アウェイの戦法が続いた。すると魔女は痺れを切らしたのか、天井にまで飛び上がると毛糸玉の一つを蹴り落とす。

 

「こんなもの!」

 

マミは即座に撃ち砕く。しかし、それを目くらましにするように割れ目の影から魔女が飛び出した。

 

「くっ!」

 

マミはギリギリのところで銃を盾にして追撃を防ぐ。やはり今回の魔女も一筋縄ではいかないようだ。

 

「このままじゃ……周りに使い魔はいない……キリカさん、ちょっとだけ離れます!小さい怪物がいたらすぐに逃げてください!」

 

「うん」

 

キリカの相槌を確認すると信助はマミの元へ駆け出した。

 

「………」

 

直後、キリカがニヤリと微笑んだことに信助は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

「く、ううう!」

 

魔女は4本の右腕でマミに突き立てる。マミは銃で受け止めながら堪えるが徐々に押されていき、押し切られるのは時間の問題だった。そして魔女は更に追い打ちをかけようともう片方の腕を振り上げる。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

そこへ横から信助が化身技を繰り出して魔女を突き飛ばす。空中に吹き飛ばされた魔女は身動きが取れなかった。

 

「今です、マミさん!」

 

「ええ!ティロ・フィナーレ!!!」

 

信助が作った隙を逃さず、マミは大砲を撃って魔女を飲み込む。そしてグリーフシードに変わるとマミはすかさずリボンを伸ばして回収する。

 

「助かったわ。ありがとう信助君」

 

「へへ、当然の事ですよ」

 

「呉さんは大丈夫なの?」

 

「あっ、そうでした!」

 

信助はすぐさま毛糸玉の裏を確認する。

 

「もう大丈夫ですよ、キリカさ……アレ?」

 

「どうしたの?」

 

「キリカさんがいません!さっきまでここにいたのに!」

 

「え!?まさか使い魔に…!」

 

「だったら、結界が消える前に見つけないと……アレ?」

 

キョロキョロと周りを見わたす信助。だが、その様子はキリカの安否ではなく周りを気にしているかのようだった。

 

「今度はどうしたの?」

 

「マミさん、おかしくありません?魔女を倒したのに結界が消えない」

 

「確かに……いつもならとっくに元の世界に戻ってるはずだけど……」

 

 

 

「さすが恩人達だね。見事なもんだよ」

 

 

 

見上げると、ヒラヒラの白地が付いた黒を基調とした服と眼帯を付けたキリカが上空の毛糸玉から見下ろしていた。

 

「呉さん!?その格好は…!」

 

「中々のコンビネーションだったね。少しばかり手こずっていたから割り込もうかと思ったよ。早くグリーフシードに変えて織莉子に届けたかったからね」

 

「織莉子だって!?」

 

「呉さん、あなた織莉子を知ってるの!?」

 

「ああ。彼女は私にとって尽くすべき、愛すべき人なんだ。そんな間女の残骸ひとつじゃ足りないくらいにね」

 

両手を広げて何のためらいもなく言い切るキリカ。織莉子に対する彼女の想いは本物のようだ。

 

「でも織莉子の為にグリーフシードは欠かせないんだよね。というわけでくれないかな、それ」

 

手のひらを出して催促するとマミは目を細めながら尋ねる。

 

「……その代わり、あなたは織莉子の情報をくれるのかしら?」

 

「まさか!そんなことしたら、織莉子への裏切り以外の何物でもないじゃないか!」

 

「話にならないわね。でも私達もここであなたを逃がす訳にはいかない」

 

「じゃあ、どうする?」

 

「決まってるわ……信助君、下がってて」

 

「え?でも……」

 

「魔法少女同士の争いに巻き込みたくないの。大丈夫、無茶はしないわ」

 

「………」

 

少しばかり納得はしていなかったが、マミの気持ちを汲んだ信助は大人しく後ろに下がった。

 

「お互い、欲しいものは力尽くで手に入れるしかないようだね」

 

「ええ。もう二度と魔女以外に銃は向けたくなかったけど、こうなった以上はやむを得ないわ」

 

マミは何丁もの銃を地面に突き立て、臨戦態勢に入る。

 

「それじゃ、始めようか」

 

マミは銃を手に取り、キリカは服の両袖から鋭い3本の爪を出す。未だ残り続ける結界を緊張感が支配し、二人を見守る信助は一筋の汗を流す。それが地面に落ちると、二人は同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

~~同時刻・美国邸~~

 

 

 

「お父様……」

 

書斎の壁を見上げる織莉子。そこには大きな家族写真が飾られており、自分と共に笑顔で並ぶ父の姿があった。

 

「まもなく世界は私とキリカで救われます……見ていて下さい、お父様の夢が叶う瞬間を……」

 

織莉子は目を閉じながら静かに呟くと、父と共に過ごした日々が甦る。今は思い出の中にしかいなくなった父に向けて想いを馳せていた。

 

「織莉子さーん。頼まれてたもの買ってきましたよ」

 

部屋の外から狩屋の声が聞こえる。織莉子はゆっくりと顔を下ろしながら目を開き、返事を返す。

 

「ありがとう、マサキ。すぐ行くからキッチンに持って行ってくれる?」

 

「はーい」

 

狩屋の足音が遠ざかっていくと、織莉子は再び憂いた目で父の写真を見上げる。

 

(マサキ、輝……私が救世を成し遂げた時、あなた達は私を許さないでしょうね……それでも、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

~~美国邸・キッチン~~

 

 

 

「お買い物ご苦労様、マサキ」

 

「ま、居候の身ですからこれぐらいはね。でも織莉子さん、頼まれたものの中にケーキの材料ありましたけど、また作るんすか?」

 

「もちろんよ。キリカが帰って来た時の為にね。今度こそホットケーキ以外のお菓子もうまく作ってみせるわ!」

 

「どうせまた失敗するんじゃ…」

 

「ん?」

 

「あ、いえ」

 

ジト目で睨まれ、顔を逸らして黙る狩屋。余計な一言を言ってしまう癖は織莉子の元でも相変わらずだった。一方で織莉子は亡き母から教わっていたため、大体の料理は作れるが、お菓子作りだけは教わっていなかったようで苦手であった。今朝のホットケーキも最近になってようやく出来るようになったばかりだった。

 

「確かに二人が来てから4回は失敗はしたけど、コツは掴んできたはずよ。絶対上手く焼いてみせるんだから!」

 

両手を握って張り切る織莉子。するとそこへ輝がやって来る。

 

「織莉子さん。外の掃除(・・・・)終わりました」

 

「ご苦労様、輝。ごめんなさいね、あんなもの(・・・・・)の掃除をやらせてしまって……」

 

「いいんですよ。僕が自分でやるって言ったんですから。それに織莉子さんは何も悪くないじゃないですか」

 

「そうそう。ここへ来てまだ短いですけど、織莉子さんは悪い人じゃないって傍にいればわかるんすよね。この前キリカさんが持ってきた初めてのTVゲームも楽しんでましたし」

 

「二人共…」

 

「まあ、興奮しすぎてコントローラーのコード引き抜いたことも気づかずに負けそうになって(パニクッ)たのは笑えましたけど」

 

「マサキ!!!」

 

顔を真っ赤にした織莉子に怒鳴られた狩屋は「ヤベッ」と、スタコラサッサと逃げ出した。輝はそんな二人のやり取りを見て苦笑いをするばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「ふう。こりゃしばらく戻らない方がいいかな。織莉子さんも怒ると水鳥さんみたいだな」

 

慌てて廊下に逃げた狩屋はため息をつく。ほとぼりが冷めるまで織莉子には近づかない方が良いと判断したようだ。

 

「にしても、怒ると言ったら昨日のキリカさん、一体どうしちゃったんだろ」

 

 

 

 

 

 

~~前日~~

 

 

 

「ふう、スッキリした」

 

ガチャ

 

「ん?」

 

用を済ませた狩屋が廊下に出ると、別の方向からドアを開ける音が聞こえた。見ると、キリカが書斎から出てきていた。

 

「キリカさん?確か、あの部屋は入っちゃダメって……キリカさ……ッ!?」

 

咎めようとした狩屋は動きを止める。キリカの目がまるで縄張りを荒らされた獣のように怒りと敵意に満ちていたからだった。とても話しかけられる雰囲気ではなく、咄嗟に物陰に隠れた狩屋はそのまま外に出ていくまで黙って見ていた。

 

 

 

~~~~

 

 

 

(どうしてあんなに怖い顔を……キリカさん、書斎で何見たんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

 

「フッ!」

 

「くっ!」

 

ジャンプから繰り出された斬撃を避けるマミ。直後、キリカは空振りして地面に突き立てられた爪を軸にカポエラーのように蹴りを繰り出す。

 

「ぐっ!」

 

マミは腕を交差させて防御し、後ずさりしながらもなんとか踏みとどまる。キリカの攻撃はとても素早く、こうした鉤爪と蹴りによる怒涛の攻めに押されがちだった。

 

「速い…!」

 

「マミさん!」

 

「大丈夫よ、これぐらい…」

 

「やるね。これだけの攻撃を防ぐなんて。恩人は中々のベテランのようだ」

 

「それはどうも。これぐらい出来なきゃ後輩達に示しがつかないもの」

 

マミはふてぶてしく笑いながら腕を組み、先ほどの連続攻撃をなんてことないように余裕を見せつける。

 

(……まずいわね)

 

しかし、内心は焦っていた。マミの攻撃は火力と手数はあるが、敵を狙い、撃つという手順がある。どんなに速く動いても僅かなタイムラグの間にキリカは持ち前のスピードで射程圏内を離れ、接近戦に持ち込まれてしまう。動きを封じようにも、リボンによる拘束魔法では鉤爪で切り裂かれてしまうのは明白。ハッキリ言って戦い方の相性が悪すぎるのである。

 

(どうすれば……)

 

何か策は無いのかと頭を張り巡らせる。すると後ろにいた信助が心配そうに声を掛ける。

 

「マミさん、どこかケガでもしてるんですか?動きがいつもより鈍いですけど…」

 

「確かに少しは受けたけど、これぐらい……」

 

「違います!あの人と戦い始めた時からですよ!さっきの魔女にやられたんですか?」

 

「え?」

 

マミはおかしいと思った。先ほどの魔女との戦いでケガなどしていない。今の戦いでも自分はいつもと同じ動きのつもりだった。

 

(どういうこと?私の動きが信助君には遅く見えていた?これって……!)

 

マミは周りの結界を見渡す。そして即座にこの矛盾の答えを見い出すことが出来た。

 

「(そういうことね…!)ありがとう、信助君」

 

「え?」

 

「これがあなたの魔法なんでしょ?呉さん」

 

「どういうことかな?」

 

「私はあなたの事をとても素早い魔法少女だと思っていた。でも実際はその逆……私の方が遅くさせられていた」

 

「遅く?」

 

「そう。私はいつも通りの動きだったのに、信助君からは遅く見えていた。あなたは自分以外を遅くする魔法の使い手。違う?」

 

「………」

 

「この結界が未だに消えないのもあなたの仕業ね。魔女が倒されてもしばらくは消えないように陣を張った。さしずめ、信助君が私を助けるために離れた時かしら?」

 

「………」

 

マミの推理に無言を続けるキリカ。しかし、やがて「フッ」と、笑った。

 

「見事だよ。まさかこの短時間でそこまで推理できるなんてね。恩人は頭が良いよ」

 

キリカの魔法を完全に把握し、舌を巻かせたマミの心に若干の余裕が生まれる。マミほどの熟練の魔法少女ならば、敵の特性を知るだけでも体制を立て直すことが出来る。そのきっかけを作ってくれた信助という仲間の存在に心から感謝していた。

 

「でも…」

 

「「…!」」

 

一人言葉を続けるキリカに二人は警戒を強める。これ以上の何かがあるのかと。

 

「飽きた」

 

「「………へ?」」

 

あまりにも予想外すぎる言葉に二人は思わず呆けた声を出す。

 

「こう何度も避けられたら飽きてしまうよ。私にはどうせ勝てないんだからさ。待たせてる織莉子の為にもそろそろグリーフシードくれないかな」

 

再び手招きするキリカ。ただ飽きっぽいのか自信の現れなのか、見ていた信助も戸惑っていた。一方マミは余裕が生まれたせいか呆れかえるようにため息をついた。

 

「おかしなことを言うわね?決着も着いてないのに途中で飽きて駄々をこねるなんて、まるで子供ね。信助君の方がよっぽど大人だわ」

 

「子供…?」

 

マミの言葉にピクッと反応するキリカ。すると動きを止め、糸が切れた人形のように腕をダランと垂らす。急に大人しくなったキリカにマミ達は不審に思う。

 

 

 

「誰が…」

 

「ん?」

 

「誰が…!」

 

「え?」

 

 

 

「だだっ、だっ、誰がっ!こ、ここっ、子供だアァァァァッ!!!」

 

 

 

「「!!!」」

 

キリカはまるで噴火した火山のように憤慨すると、両手の爪を大きく振り上げながら飛びかかる。マミはすぐさま身体を反らして躱す。

 

「―――鈍いよッ!!!」

 

キリカは返す刃で開くように切りつけ、ついにマミの身体に傷が付く。

 

「あぐっ…!」

 

腕と肩に赤い線が走り、痛みに耐えながらも銃を構える。

 

「遅いよ!」

 

「!」

 

キリカは後ろに回り込み交差切りを放つ。マミは間一髪銃で防ぐが、キリカは絶え間なく斬撃を繰り出す。

 

「どうしたんだい恩人!さっきまでの余裕が無くなってるよ!」

 

「ぐ……ううう!」

 

雪崩のような猛攻にマミは銃を構えるどころか盾にするので精一杯だった。そして斬撃も銃では範囲が狭すぎるため完全には防ぎきれず、徐々に体に傷が増えていった。

 

「しぶといね!それならこれでどうだ!」

 

「ぐっ!?」

 

キリカは力を込めた斬撃でマミを押し出すと右腕を大きく引く。そして腕の爪の先に幾つもの爪が連なるように出現する。

 

「ヴァンパイアファング!」

 

腕を突き出すと、連結された爪はまるで鞭のように伸びていく。

 

「キャアアアッ!」

 

マミはキリカが腕を引いた瞬間に身体を反らしていたおかげで直撃は避けられたものの、銃は破壊され、肩を切り裂かれる。

 

「ぐ、うううっ…!」

 

マミは地面に倒れ、血があふれ出る肩を抑えながら治癒魔法をかける。

 

「終わりだよっ!」

 

キリカはその隙を逃さず一気にトドメを刺そうと駆け出す。当初はグリーフシードを奪うだけのはずだったが、怒りのあまり一線すら超えようとしていた。

 

「!」

 

するとキリカの背後からボールが猛スピードで飛んでくる。感づいたキリカは振り向きながら爪の形状を戻し、その甲で弾き返す。弾いた方向を見るとボールをキャッチした信助が睨みつけていた。

 

「信助君!」

 

「もう見てられません!これ以上マミさんを傷つけさせません!」

 

「中々勇ましいね、おチビの恩人!でも邪魔するなら……」

 

ヒュン

 

「「!」」

 

「君から刻んであげるよ」

 

キリカは一瞬で信助の背後に周り、鉤爪を振り上げる。

 

「なっ…!」

 

「信助君っ!!!」

 

非情なる鉤爪が振り下ろされると、土煙と大きな金属音が広がり、辺りを包み込む。

 

「……ふぅん。恩人は助けも逃げ足も速いね」

 

土煙が晴れると爪の先には二人共いなくなっていた。土煙に紛れてその場を離れたようだ。

 

「だけど……そう遠くへは逃げられない」

 

そう言いながら細めで地面を見つめるキリカ。そこにはマミの血が残されていた。

 

 

 




というわけで相変わらず拙い文章でした。

勢いと文章の閃きがある時は即書くべきだと思いました。

ご感想お待ちしております。






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第18話『漆黒の愛』 Cパート

間に合った!

というわけで皆様、さっそく宣言通りやらせてもらいます。




円堂!いろは!




誕生日おめでとう!!!



いろは
「ありがとうございます!」

円堂
「いやー今年もダメかと思ったぜ」

明日人
「なんとか誕生日に投稿間に合いましたね!」



ここ最近悲しい出来事が多くなってるから祝い事もやらないとね。
マギレコ2周年にイナイレ11周年。それから……





まさか不動とアリナが結婚するとは……





不動
「いや、してねーよ!」


あれ、不動が日本に帰ったのって、アリナと駆け落……


不動
「なわけねーだろが!足の治療の為だ!」


鬼道から祝辞が届いてるぞ。えーと『孤高の問題児、不動へ』」


不動
「違うつってんだろ!しかも反逆児だっての!」

明日人
「違いますよ作者さん。結婚したのは小僧丸で……」

小僧丸
「俺でもねーよ!」

明日人
「あれ、小僧丸が痩せたのってアリナさんを口説き落と……」

小僧丸
「んな事するために山籠もりしたわけじゃねーよ!いつまで中の人ネタで引っ張ってんだ!早く始めろ!」




円堂
「いやーやっぱ誕生日は楽しいことがいっぱいだなー!」

いろは
「もう少しマジメにやれるといいんですけどね……皆さん、これからもマギカシリーズとイナイレシリーズ、そして本小説の応援よろしくお願いします!それでは本編です!」






「はあ、はあ……」

 

キリカから離れた二人は毛糸玉の影に隠れていた。マミの足には大きな切り傷があり、血があふれ出ていた。

 

「マミさん、ごめんなさい……僕のせいで…」

 

「大丈夫。これぐらいならすぐ治せるわ」

 

そう言って余裕を見せながら足を治すマミ。しかし、額には汗が滲み出ており、大ケガに治癒魔法を連続で使ったことによって魔力と体力の消費が激しくなっていた。

 

「それにしても、あの魔法は思ったより厄介ね。結界の崩壊が遅いから脱出出来ないし、真正面から向かっても太刀打ちできない」

 

「それなら結界が無くなるまでこのまま隠れてるのはどうです?無くなったところを一気に……」

 

「いえ、結界の崩壊がいつになるか分からない以上、得策ではないわ。それに、結界が無くなれば人目につくから流石に彼女も逃げるでしょう。そうなったら織莉子の情報を掴むチャンスが無くなってしまうわ」

 

「そ、そっか…」

 

提案を却下された信助はしゅん、と落ち込む。

 

「すいません、マミさん……今の僕、足手まといですよね…」

 

「そんなことないわ」

 

「だって、出しゃばったばかりに助けるどころかケガをさせちゃいますし……」

 

「でも、そうしなければ私が危なかったし、信助君のおかげで呉さんの魔法がわかったのよ」

 

「だけど、結局ただ見てるだけなんです!それじゃあ……」

 

自分はただの役立たず。そう続けようとした信助にマミはあっけらかんと言った。

 

「それもキーパーの役割の一つでしょ?」

 

「……え?」

 

思わぬ返答に固まる信助。するとマミは一息吐いて語りだした。

 

「神童君が言ってたの」

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

「………」

 

それはアルティメットサンダーを成功させた直後の事。神童は黙々と何かを手帳に書き込んでいた。その様子がふと目に入ったマミは話しかけることにした。

 

「神童君」

 

「マミさん…」

 

「その手帳は?」

 

「この世界での戦いの記録です。戦略を組み立てるのに必要ですから」

 

「そう。もし良かったら見せてもらってもいいかしら?」

 

「ええ。どうぞ」

 

マミは神童の手帳を手に取り、パラパラとめくる。そこには雷門イレブンの個々のデータ、魔法少女達の魔法と戦術。それらを融合させた幾つもの戦略。そして実戦に用いた後の改善点などが事細かに記されていた。

 

「すごい。私達の動きまで細かく書いてある。私も魔女との戦い方をノートに纏めたことはあるけど、こんな人数の動きをここまで書き留めたことは無いわ。サッカーの試合でもコレを?」

 

「はい。魔女との戦いでも役に立つと思って今まで書き続けていたんです」

 

「なるほど。神のタクトを私達にまで応用できたのは、神童君の努力の賜物だったわけね」

 

チーム一人一人の動きを把握する観察眼と、緻密な計算で戦略を組み立てる神童に舌を巻くマミ。

 

「いえ、マミさんの協力のおかげでさやかさんの時も活用できたんです。それに戦略を纏めても実践では通用しなかった場合もあります」

 

「そうね。いつどんな魔女と戦うか分からないし、戦況は常に変化し続けるから、その場に合わせて臨機応変に対応する必要があるわ。神童君でもフォロー出来ない部分は私達で補い合わないとね」

 

「ええ。特に今のこのチームにおいては、信助が主にその役割を担っています」

 

「その通りね。今の信助君は魔女の攻撃すら防げる守りの要。サッカーにおける“守護神”ね」

 

「フフッ」と、頼もしそうに語るマミ。

 

「それもありますが、その為に必要な“見る力”も、信助は磨き続けていますから」

 

「“見る力”?」

 

マミは怪訝そうな顔をすると、神童は説明する。

 

「サッカーにおいて、キーパーが守護神と呼ばれるのは、ただゴールを守っているだけじゃない。ゴールの位置からフィールド全体を見渡し、俺達の視点からではわからない綻びを見つけ、仲間に伝えて補うことが出来るからなんです。俺のようなゲームメイカーが攻撃の司令塔なら、キーパーは守りの司令塔……信助も少しずつですが、その司令塔としての役割が出来るようになっています。来年からは信助が正GKになります。それを考えると今から楽しみです。きっと信助を後継者に選んだあの人も……」

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「神童先輩……」

 

「私はこれまで何度もあなた達に助けられてるわ。病院に現れた魔女との戦いの時も、ソウルジェムや魔女の秘密を知った時も。そして今も!あなたのおかげで私はこうして生き長らえているわ」

 

迷いなく言い切ると、マミは膝立ちになって信助の両肩を掴む。

 

「自信を持って!あなたは立派な雷門の……いえ、私達の守護神よ!」

 

「マミさん…」

 

ゲームメイカーである神童。危険な魔女と戦い続けてきたベテランのマミ。まだまだ未熟だと思っていた自分が、その二人に信頼されている。そう思うと信助は心がスッと軽くなった。そして吹っ切れたように顔を引き締め、拳を握った。

 

「ありがとうございます!絶対キリカさんに勝ちましょう!」

 

「ええ!」

 

気合を入れ直した信助にマミも力強く返した。もう不利な状況に飲み込まれることは無いと確信したからだ。

 

「さて。さっきの話の続きだけど、あんな魔法じゃケガしてなくても鈍くなってしまうわね。どうすれば……」

 

「サッカーの試合だったら、ある程度予測して対応できますけど……」

 

「そうね。特に信助君みたいなキーパーは相手が常に真正面にいるから、背後を意識することなんてほとんど無いものね………ん?」

 

 

 

 

 

(鈍く……)

 

マミは次々と思い出す。自分の動きを遅くして連続攻撃を仕掛けるキリカ。

 

 

 

 

(背後……)

 

信助がシュートで乱入した時の光景。

 

 

 

 

(意識……)

 

信助の背後に回って襲い掛かろうとしたキリカ。

 

 

 

 

「!」

 

その時、マミは閃いた。

 

「………信助君」

 

「?」

 

マミは信助に見つめられながら不敵な笑みを浮かべて告げた。

 

「一発逆転、仕掛けるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~美国邸~~

 

 

 

チーン

 

「焼けたみたいね。輝、お皿を出してくれる?」

 

「はーい」

 

織莉子は機嫌を直した後、ケーキ作りに挑戦していた。焼き上がったケーキをオーブンから出すと、香ばしい香りがキッチンに広がる。

 

「えーと、焼き上がったら型から出して……それからどうしたんだったかしら?」

 

織莉子は今度こそ成功させようという一心でブツブツと手順を呟く。しかし、それが仇となり、無意識に生地のふくらみを確かめようと素手で焼きたてのケーキを触ってしまう。

 

「あっつぃ!」

 

火傷しそうな熱さで我に返った織莉子は直ぐに両手に息を吹きかけて冷ます。

 

「大丈夫ですか!?」

 

ケーキ用の皿を用意していた輝がすぐさま声を掛ける。

 

「ええ……でも、お菓子作りはやっぱり難しいわ」

 

「まずケーキの外側を型に沿って切って外してから粗熱を取るんじゃないですか?」

 

「そうだった!急いでたから忘れてたわ。よく覚えてたわね、マサキ」

 

「まあ、4回も失敗してるとこ見てたら、自分で調べたくもなりますよ……」

 

「何ですって?」

 

「あ、いえ。でもそんな慌ててやらなくてもいいんじゃないですか?」

 

「でもまたあの子ったら、お腹空いた!って駆け込んでくるに違いないから…」

 

「確かに」

 

「てゆうか、あの人は帰ってきたら必ず甘いもの食べてますからね」

 

今にも飛び込んでくるキリカの姿を想像する輝と狩屋。一方で織莉子は焼きたてのケーキを見つめながら一日千秋の思いで呟いた。

 

「早く帰ってこないかな…」

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「見つけた」

 

キリカは空中の毛糸玉を伝っているうちに物陰に隠れているマミと信助を発見する。二人はまだ気づいてなかった。

 

「かくれんぼでもしてるのかな?よし、刻もう!」

 

そう言うと、キリカは狙いすまして鉤爪を突き出し、二人に飛び込んでいく。しかし、キリカは違和感を覚えた。

 

(動かない?)

 

不審に思いながらも逃げられないように速度低下の魔法を発動する。そして爪が二人を捉えた―――と思った瞬間、マミ達の身体が無数の細いリボンとなってばらけた。

 

「!?」

 

キリカが見つけたのはマミのリボンで作ったニセモノ、すなわち罠だった。リボンはキリカを捕らえるように広がっていく。

 

「こんなもの!」

 

キリカは爪を増やして一気に切り払う。その時、キリカの背後の結界にヒビが入った。

 

「フーッ…」

 

獣のような息を吐くと、前方からマミと信助が現れる。今度の二人は先ほどのニセモノとは違い、鋭い眼差しでこちらを見ていた。

 

「今度は本物のようだね……舐めたマネしてくれるじゃないかっ!」

 

キリカは再び二人めがけて駆け出す。それを迎え撃つように信助が前に出ると、背中から化身のオーラを放出する。

 

「!」

 

キリカはとっさに足を止めて後ろに下がる。一方で信助は既に護星神タイタニアスを出して身構えていた。

 

「どうしたの?いきなり後ろに引いて。信助君の化身に驚いたのかしら?」

 

「………」

 

勢いを落としたキリカにわざとらしく挑発するマミ。しかしキリカが引いたのは信助が化身を出したからではない。

 

 

 

―――その後ろにいたマミが笑っていたからだ。

 

 

 

獲物を狙う目で駆け出した刹那、何かを狙っているかのようにマミは笑っていた。キリカを後退させたのはそんな野生の勘のようなものが働いたからだった。

 

「いくぞ、アームド!」

 

タイタニアスが信助を包み込み、鎧へと変化する。

 

「へぇ……おチビの恩人は随分とカッコよくなったじゃないか」

 

「僕の化身はキーパー型だけど、アームドすれば他の能力も上がりますよ!」

 

「それだけじゃないわ!」

 

信助を見下ろしていた視線を上げると、マミが大きな大砲を作り上げていた。

 

「でっかいね……」

 

「あなたの確かに“速い”けど、攻撃は“軽い”わ。だから……あなたが私達を殺す十手を打つ前に、私達の一手であなたを倒す!」

 

「ふーん……くっ。くっくっく、くくっ」

 

マミの宣言にキリカは滑稽に思ったのか、面白そうに笑いだす。

 

「大した大口だね。それなら………やれ。やってみてくれよ!」

 

キリカが甲高い声で叫ぶと彼女の両手の鉤爪が5本になる。

 

「爪が…!」

 

「ご期待に添えまして、手数を増やしたよ。これで十手で一手だ。さあ、散ね」

 

笑顔から一転。無表情に変えたキリカが両手を構えると背後の結界に再びヒビが入る。直後、キリカは二人を切り裂かんと一気に走り出す。そして、その瞬間を待っていたようにマミは信助に呼びかけた。

 

「信助君!」

 

「はい!」

 

 

 

((チャンスは一度!))

 

 

 

「くらえ!」

 

信助がキリカに向けてシュートを放つ。アームドしているおかげでスピードも段違いに上がっていた。

 

(速度低下!)

 

キリカは自身の魔法でシュートの弾速を下げ、高くジャンプすることで躱す。

 

「スキあり!」

 

その瞬間を狙っていたマミが間髪入れず大砲を放つ。

 

「無駄だってば!」

 

しかし、速度低下を持続させていたキリカはマミの弾丸すら躱す。そして即座に爪を連結させ、両手に鉤爪の鞭を作り出す。それはまるで死神の大鎌を彷彿させた。

 

「残念。両方とも外れだね。それじゃ、ばいばい!」

 

キリカは笑顔で両手を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

~~数分前・美国邸~~

 

 

 

 

ガシャン!

 

「「!?」」

 

何かが割れる音がキッチンに響く。狩屋と輝がとっさに振り向くと、織莉子が尻もちを着きながら床に落ちて粉々になったカップを呆然とした顔で見つめていた。

 

「………」

 

「織莉子さん!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

二人が呼びかけても織莉子は反応しない。その直後、織莉子は何かに怯えるように震えだし、両手で頭を抱えた。

 

「あ、ああっ…!」

 

「織莉子、さん…?」

 

「キリカ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

 

 

 

 

何が起きた。その一言だけがキリカの心を覆いつくした。自分は二人の攻撃を躱し、トドメを刺すはずだった。ところが背後から強烈な破裂音が弾け、他の感覚を全て忘れさせる程の激痛が背中を襲った。キリカはまるで撃ち落とされた鳥のように地面に倒れ、天を仰ぐ背中の衣服は破れ、火傷で赤くただれていた。

 

「背後、から…?なん…で…」

 

息も絶え絶えながら呟くと、マミは言った。

 

「挑発に乗って攻撃を上乗せしたわね。速度低下を削って」

 

「な、に…?」

 

「信助君があなたに背後からシュートを撃った時、私は見たわ。あなたがボールを弾き返す直前、爪の形状を戻した瞬間、それまで剛速球だったボールが急激に失速した。それで気づいたわ。あなたの魔法は、魔力を攻撃に集中すると他の方向に対する効果が薄れるようね。あなたが爪を強化した時、あなたの背面の魔女結界だけ崩壊が進んでいたもの」

 

マミが淡々と解説すると、信助のボールが返って来る。信助は両手でしっかりとキャッチすると、キリカの背後を見据える。彼女の魔法が解けたのか、結界全体が崩れ始めていた。

 

「私はまんまと嵌められたのか…!だが、恩人達の攻撃は両方とも通り抜けたはず!何故、背後から攻撃がっ?」

 

弾丸は反転しないし、信助のボールもたった今戻ってきた。ならば自分を襲った爆発はなんだったのか、キリカには理解出来なかった。

 

「攻撃なんてしてないわ。私が撃ったのは炸裂弾よ」

 

そんな疑問をかき消すようにマミは再び説明し出した。

 

「本来、敵前で爆ぜるよう魔力を調整した弾だけど、あなたは前面のみに速度低下魔法をかけていたから破裂しないまま通過した後、魔法のかかっていない背面で即座に破裂した。つまり、あなたの魔法が命取りになったのよ」

 

「おチビの恩人の攻撃はオトリ……いや、あのニセモノの時から伏線を張ってたって事か……恩人はすごいね……」

 

「私だけの力じゃない。今の炸裂弾だって、信助君達のおかげで生み出したものよ」

 

マミは思い出す。自身も参加した必殺タクティクス、アルティメットサンダーを。エネルギーを溜め、最後は敵前で衝撃波を放った場面を見て、このような炸裂弾を思いついたのであった。

 

「私の仲間が窮地を救い、あなたを倒すための手段を授けてくれた。あなたが織莉子の為に動いているように、私も自分を救ってくれた人達を守る為に戦っている!一緒に過ごして、特訓して、時には対立することもあったけど、互いに本音をぶつけ合って、信頼し合って、強くなっていった!それはあなたの一方的な想いだけでは計り知れないものよ!」

 

孤独だった自分を支え、殺そうとしたにも関わらず救ってくれた仲間達。彼らと過ごした時間がマミの心身に確かな成長を促し、揺るぎない信念を与えたのだった。そしてマミは本来の目的の為に銃を突きつける。

 

「あなたの負けよ、呉キリカ。後で手当てしてあげるから、こちらの質問に答え…」

 

「―――嫌だね」

 

キリカは先んじて拒絶した。マミの流れを断ち切るかのように言葉を遮ったのだった。

 

「計りしれない…?くくく。馬鹿言わないでくれよ。言っただろ、愛は無限に有限だって……そもそも私の愛は誰かに計れるものじゃないのさ……」

 

キリカは不気味な笑みを浮かべると両手足に力を入れて立ち上がろうとする。

 

「もうやめてください!勝負は着きました!僕達だってこれ以上は……」

 

「勝負?フフフ、そんなの関係ないさ」

 

信助の情けなどお構いなしにキリカはゆらりと立ち上がった。

 

「負けようがボロボロになろうが関係ない!私の全てを守れるのなら、死すら大いに結構だ!質問は受け付けない。私に対する要求を完璧に拒否する!……っ!」

 

狂ったような目でマミを睨むキリカだったが、直ぐに片膝を着く。しかしこれではたとえ拷問したって口を割らないとマミも判断した。

 

「そう、残念ね。これ以上手荒なマネはしたくなかったけど、連れて行くしかないわ」

 

「マミさん…」

 

「大丈夫。手荒と言ってもこれ以上の深手を負わせるつもりはないわ。捕まえておけば、織莉子をおびき寄せるくらいは出来るはずだから」

 

そう言いながらキリカに歩み寄るマミ。

 

 

―――その時、幾つもの水晶玉がマミに向けて飛来した。

 

 

 

「きゃあああっ!」

 

それらはマミの目前で着弾し、土煙が立ちこもる。マミは驚きと着弾による衝撃で尻をついた。

 

「大丈夫ですかマミさん!?」

 

「ええ……けど何が…」

 

 

 

「『ハンターズネット』!」

 

 

 

「なっ!?」

 

すると今度は目の前に巨大なピンク色の網が現れ、マミ達とキリカを分断する。

 

「この技は…!」

 

信助が驚いていると、土煙の中から二つの影が現れる。それは自身のチームメイトである狩屋マサキと影山輝だった。

 

「狩屋!?輝!?」

 

「織莉子さん!今のうちにキリカさんを!」

 

「ええ」

 

「!」

 

織莉子。その名を聞いて、信助とマミは狩屋が呼びかける先を見る。するとそこには白い衣装で身を包んだ銀髪の少女がいた。彼女の傍には、ぐったりとしたキリカが小さな水晶玉に囲まれながら宙に浮いていた。

 

 

 

『やっぱりお嫁さんみたいに真っ白だったことしか…』

 

 

 

「白い……魔法、少女…!」

 

「じゃあ、あの人が…!」

 

ゆまの証言と特徴が一致し、狩屋も彼女の名を呼んだ。二人は目の前の人物が探していた“織莉子”だと確信する。

 

「私の事、ご存知のようですね」

 

織莉子は一度目を閉じて微笑みながら確認する。そして目をゆっくりと開けたその瞬間、

 

 

 

―――威圧。

 

 

 

魔眼とも呼べるような眼でマミ達を捉えていた。それはマミ達だけに向けられたもので、狩屋達は平然としていたが、あまりの覇気にマミ達は一歩も動くことが出来なかった。

 

「あなた方とはいずれまた会うことになるでしょう。そしてその時、あなた方は自分達の愚かさに気づくでしょう。その時まで、ご機嫌よう……」

 

織莉子はそれだけ言うと、キリカを連れて踵を返し、歩いて行った。狩屋達は一度互いを見合うと、信助に向けて申し訳なさそうな顔で告げた。

 

「信助君…」

 

「ゴメン!」

 

二人はそこから逃げ出すように織莉子の後を追った。織莉子に追いつくと、4人は吹き消されたロウソクの火のように消えた。そしてマミと信助の変身が解けると結界は完全に崩壊した。

 

 

 

~~街中・路地裏~~

 

 

 

結界自体が移動していたせいか、出てきた場所は通りから路地裏に変わっていた。その直後、マミは顔からドッと汗を流し、その場で膝を着いた。

 

「マミさん!大丈夫ですか!?」

 

信助が後ろに倒れそうなマミの背中を支える。信助は狩屋達の介入による困惑に意識が寄っていたおかげで、織莉子の覇気を少しだけ受け流せたのだった。

 

「何てプレッシャーなの……あれが、白い魔法少女……織莉子…」

 

織莉子のただならぬオーラに意気消沈するマミ。一方で信助はマミを心配しつつ前を見た。

 

「狩屋、輝……どうして…?」

 

仲間であるはずの二人が自分達を襲った敵を助けた事実を受け入れられず、彼らが消えた虚空をただひたすら見つめ続けていた。

 

 

 

 




―ED『夏がやって来る』(歌:空野葵)―


次回予告
「姿を現した織莉子と、忠実なる下僕のキリカ。そして二人に寄り添う狩屋と輝に困惑する俺達。それぞれの想いは……

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第19話『交錯する想い』!」






というわけで二人の誕生日ギリギリの投稿でした。


こんなイベント開催中に滑り込む作品を変わらず読み続け、お気に入り登録や評価を下さる読者の皆様、本当にありがとうございます!


次はまどかの誕生日までに書けたらいいな。


ご感想お待ちしております。




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第19話『交錯する想い』 Aパート

いろは
「皆さんこんにちわ!遂に放送されたTVアニメ”マギアレコード”見てますか?ゲームとは少しだけ違った私達の活躍、楽しんでもらえてますか?私はもちろん、作者さんや明日人君も楽しんでみてます!ね?」



………。(ズーン)


明日人
「………(ズーン)」



いろは
「あ、あれ?二人共、どうしたんですか?いつも投稿遅れがちの作者さんはともかく明日人君まで!」


ほむらにめっちゃどやされた………『どれだけ遅筆なのよあなたは。まどかが誕生日迎えたどころか、遂にプリキュアデビューしちゃったじゃない』って。
2周年のPUガチャで一回天井すり抜けしても完凸させて精神フル強化もしてエースとして活躍させてやってるのにさ………。


いろは
「何の話ですか!」

明日人
「遂にゲームが発売する前に俺達のアニメ終わっちゃいましたよ………何がいけなかったんでしょう……俺が主人公だったのがいけなかったんですかね……?」

いろは
「明日人君が超ネガティブ!”太陽に選ばれたサッカー小僧”とは思えないほど暗くなってるよ!」

明日人
「太陽……か。奥入(おくいり)マギレコ(そっち)衣美里(えみり)さんと組ませて日輪刀でも持たせときゃ良かったですかね……?俺達とマギレコ、両方合わせたら中の人は意外と揃……」

いろは
「よそはよそ!うちはうち!」





はい。というわけで続きを待ってた皆様、またまた遅れまして申し訳ありません。
相変わらず仕事が忙しかったり、文章が浮かばなかったり、入院したりもしましたがようやく戻ってきました。
こんなでもお気に入り登録し続けてくれた皆様には感謝感激雨あられです。


それではどうぞ。



―OP『初心をKEEP ON!』―




~~マミの自宅・夕方~

 

 

 

「狩屋達が…」

 

マミと信助が織莉子達と遭遇したその夜、二人は天馬達に事の一部始終を話した。狩屋と輝が無事だったことに安堵したが、同時に織莉子に味方していた事に衝撃を受けていた。

 

「まさか、あたし達の初デートの裏でそんなことが起きてたなんて……」

 

「うん。僕もさやかから話を聞いてはいたけど、正直まだついていけてないよ……」

 

あまりの急展開に困惑するさやかと恭介。デートを終えた後、マミから連絡を受けた二人はそのままやって来たのだった。

 

「だが、かつて剣城が俺達と再会しても杏子さんに付いていたように、あの二人にもきっと何か訳があるんだろう。今は無事を確認できただけで十分だ」

 

神童は冷静に状況を推測しつつ、周りを落ち着かせるように自身の意見を上げる。

 

「信じてるんだね。彼らの事を」

 

「ああ」

 

たとえ敵陣にいたとしても絶対に信じる。そんな雷門の信頼関係に恭介は感心していた。そして霧野が本題に切り出す。

 

「狩屋達に事情があるとして、問題は織莉子達だ。ゆまを魔法少女にしたと思ったら、今度は信助達を襲ったんだ。次は何をしでかすか予想がつかない」

 

「そのためには情報が足りないわ。呉キリカはともかく、織莉子については姿を見せただけで未だに分からないことだらけ。何か手掛かりを掴まないと……」

 

マミが危惧の念を込めながら言葉を繋ぐ。再び襲ってくるであろう敵について何も知らないのはあまりにも不安だった。

 

「その二人なら私が知ってるわ」

 

リビングのドアが開くと同時に声が聞こえる。全員が振り向くと武器の調達から帰ってきたほむらが立っていた。

 

「ほむらちゃん!」

 

「美国織莉子と呉キリカ……まさか、あの二人がこの時間軸にもいたなんて…!」

 

まどかが安堵しながら名前を呼ぶ一方、ほむらは忌々しそうに眉間にしわを寄せた。

 

「美国織莉子……思い出しましたわ!」

 

ハッとなった仁美はスマホを取り出して操作する。やがて目的のデータを見つけると信助とマミに見せた。

 

「お二人が出会ったのは、この方ではありませんか?」

 

天馬達も見ようと、全員が集まる。差し出された仁美のスマホに映し出されているのは、舞台の上で何かの賞を受賞している織莉子の写真だった。

 

「!……信助君!」

 

「はい!この人です!間違いありません!」

 

「ゆま、どうだ?」

 

「うん!織莉子だ!」

 

杏子がゆまに確認を取り、仁美も確信を得る。

 

「やっぱり、この方でしたのね…」

 

まじまじと織莉子の写真を見つめる仁美にさやかは尋ねる。

 

「仁美、もしかして何か知ってんの?」

 

「はい。この方は美国織莉子さん。白羽(しらは)女学院(じょがくいん)の3年生ですわ」

 

「白羽女学院って、あのお嬢様学校の?」

 

「ええ。彼女の父は見滝原の市議会議員、美国久臣(ひさおみ)。私もお父様を通じてお会いしたことがあります。そしてその娘である織莉子さんは、とても気品に溢れて人望も厚く、成績優秀で生徒会長も務めていた方でした」

 

「ほへ~……正に完璧超人じゃん……でも“でした”って?」

 

「少し前、美国議員は経費改ざんなどの汚職疑惑を掛けられ、自宅で首を吊って自殺してしまったのです」

 

「「「自殺!?」」」

 

「疑惑の真相は明らかになっていませんが、それまで慕っていた人達も皆、手の平を返して彼女を責め立て、美国議員が亡くなっても世間の批判が絶えなかったそうです。聞いた話によると学校でも居場所は無くなり、生徒会長も解任されたとか…」

 

「親の因果が子に報う、というわけか……」

 

織莉子の境遇を諺に例える神童。天馬達も敵とはいえ、幸せだった少女が不幸のどん底に突き落とされた事に少なからず同情していた。

 

「ほむらさん、この方をご存知だったのですか?」

 

「ええ。私にとっては忘れたくとも忘れられない女よ……」

 

そう語るほむらの顔は怒りと敵意で満ちており、拳を強く握りしめていた。ただならぬ様子に天馬は思わず訊く。

 

「どういうことですか?」

 

「天馬。私が繰り返してきた時間遡行の中で、まどかがイレギュラーに殺された時があった。この話、覚えてる?」

 

「はい……って、まさか!?」

 

「この女よ。その時まどかを殺したのは…!」

 

瞬間、全員が織莉子の写真を見た。中でも一番動揺していたのは当人であるまどかだ。

 

「この人が、わたしを…?」

 

写真で見る限り、嬉しそうに受賞し、自分が見ても惚れ惚れしそうなほどの美人が自分の命を奪った。あまりにも対極すぎる印象に、まどかも現実味が湧かなかった。

 

「なるほどな…」

 

そこへ、別の者の声がする。全員が再びリビングの入口を見ると、腕を組んだワンダバが立っていた。

 

「ワンダバ…」

 

「その織莉子とやらがこうして動いているならば、この世界でもまどかの命を狙っている可能性があるということか」

 

真剣な表情で推測するワンダバ。そんな彼を見て、ゆまは「わあ!」と、目をキラキラ輝かせると、すぐさま駆け寄って抱き付いた。

 

「すごい!今度はクマさんがおしゃべりしてる!」

 

「誰がクマだ!」

 

抱きしめられたワンダバは腕を振って抵抗する。キュゥべえの時と同様、動いて喋る動物の出現がゆまの子供心をくすぐったのだった。ジタバタするワンダバに変わってほむらがコホンと咳をして話を戻す。

 

「ワンダバの言う通り、織莉子がまどかを殺そうしている可能性は十分にあるわ。その子……千歳ゆまが織莉子にそそのかされて魔法少女になったというならなおさらだわ。まどかの存在が既にキュゥべえに知られている以上、そんなことは起こらないと思っていたけど……」

 

「どういうことだ?それじゃまるでキュゥべえがまどかの事を知らなかったら、ゆまが魔法少女になってたみたいな言い方じゃねえか」

 

ほむらの言い回しが気になった杏子が疑問をぶつける。するとほむらはためらいもなく答えた。

 

「その通りよ」

 

「「「!?」」」

 

「私が以前出会った美国織莉子もキュゥべえにその子を紹介し、まどかの事を気づかせないようにしていた。だから私はその子の事を知ってたの。あの時の事は今でもハッキリと覚えてる……最初から最後までイレギュラーだらけだった、あの時間軸を……」

 

当時の事を思い出して遠い目をするほむら。そしてフェイが頼み込む。

 

「ほむらさん。その時の事について詳しく話してくれないか?織莉子の事を含めて」

 

「ええ、もちろんよ」

 

そう言うとほむらは皆の前に立つ。そして一度全員と目を合わせてから語り出した。

 

「まず、その時間軸での私は常にまどかの傍に寄りそうという策を取ったわ。キュゥべえが近づいて契約させないように。しかし、その時間軸では何故かキュゥべえがまどかの前に現れなかった。その代わり、まどかが魔女の結界に捕らわれ、危うく殺されるところだったわ」

 

「まさか、それは織莉子の仕業だったのか?」

 

杏子が訊く。

 

「その時は分からなかったけど、今にして思えばその可能性はあったわ。その後、巴さんから次々と魔法少女達が殺されていると聞いたの」

 

「「「!?」」」

 

天馬達は一斉に驚く。魔法少女の連続殺人事件と聞いて、さすがに平静ではいられなかった。

 

「殺された魔法少女の一人が犯人は黒い魔法少女と言い残していたらしく、こんな見た目である私も他の魔法少女に疑われて襲われたわ。まあ、時間停止を使って難なく逃げられたけど」

 

「黒い魔法少女?それって…」

 

信助の予想にほむらは話を繋げるように答える。

 

「そう。その実行犯が呉キリカ。そしてその裏にいたのが織莉子なのよ。そうやって騒ぎを起こした理由は……」

 

「キュゥべえにまどかさんの存在を気づかせない為の陽動、か……」

 

剣城が答えを述べる。するとさやかが声を上げた。

 

「そんな…!まどかだけでも許せないのに、目くらましの為に他の子達まで殺したって事!?」

 

「そう。彼女達はキュゥべえを引き付ける為の生贄にされたのよ」

 

「その子達だって全然関係なかったんでしょ!?いくら何でもひどすぎだよ!」

 

憤慨したさやかは立ち上がる。天馬達に救われた事によって、より強くなった正義感が織莉子達の非道な行いを許せなかった。

 

「美樹さん、落ち着いて。気持ちはわかるけど、今の話は過去の時間軸の話。もう過ぎてしまった事よ。続きを聞きましょう」

 

「………」

 

見かねたマミの言葉でさやかは頭を冷やす。そして再びほむらを見ると、表情はいつもの冷静さを保っていたが、その瞳には犠牲になった魔法少女達に対する憐れみが宿っていた。

 

「……すみません。ゴメン、ほむら」

 

二人に謝りながら座るさやか。それを見計らったようにほむらも説明を再開する。

 

「その後、私は織莉子達と直接対決をした。結局、織莉子達と会ったのはそれが最初で最後だったけど、それまで織莉子は隙あればまどかを殺そうとしていたはずよ。私が常にまどかを見張っていたから、手出し出来なかったんでしょうね」

 

過去の出来事を振り返って分析するほむら。そこで天馬が訊く。

 

「ほむらさん。そもそも、その織莉子って人はどうしてそこまでしてまどかさんの命を狙ってたんですか?」

 

「その理由を話す前に……ワンダバ、悪いけど千歳ゆまを連れて外で待っててくれるかしら?」

 

「む?……わかった。ゆま、行くか」

 

「うん!一緒に遊ぼ!クマさん!」

 

「誰がクマじゃ」

 

何かを察したワンダバはゆまと手を繋いで部屋から出て行った。その様子を見届けたまどかは視線をほむらに戻して尋ねた。

 

「ほむらちゃん、どうして?」

 

「ここからはあの子に聞かせるべきではないと思うから」

 

「…?」

 

ほむらの言い方に全員が疑問を持ったが、ワンダバと同じように察し、黙って聞くことにした。

 

「まず最初に言っておくけど、織莉子の力はおそらく予知よ」

 

「予知?未来が見えるって事か?」

 

霧野が訊く。

 

「そう。それによって彼女はまどかが最悪の魔女になり、世界を滅ぼす未来が見えた。だから……」

 

「まさか、まどかさんが魔女になる前に殺そうと…!?」

 

葵がその先の言葉を察する。

 

「そういうことになるわ」

 

「ひどい……まどかさんは何も悪くないじゃないですか!その時間軸のまどかさんだって、魔法少女にすらなってなかったんでしょう!?」

 

「でも、まどかがどうだろうと織莉子には関係なかったのよ。目的を果たす為なら手段を選ばなかった」

 

「織莉子達は他にも何かやったってのか?」

 

水鳥が訊く。

 

「ええ。二人はまどかを確実に殺す為に学校に魔女結界を作り出し、多くの生徒や教師達が使い魔に食い殺されたわ」

 

「「「ええ!?」」」

 

天馬達は再び驚愕し、声を上げる。魔法少女とはいえ、中学生がまどか一人を殺す為にそこまでするとは信じられなかった。

 

「私はまどかに使い魔が寄ってこないように魔法を掛け、織莉子の元へ向かったわ。そこでキュウべぇに招集された巴さん、杏子、千歳ゆまと合流した。そして呉キリカは魔法少女のままでは勝てないと判断し、私達の目の前で魔女となった」

 

「そんな…!」

 

「彼女は織莉子の為に自ら死を選んだ。織莉子に対する狂気じみた想いで魔女になってもなお彼女に尽くしたのよ」

 

「………」

 

ほむらの淡々とした説明にマミは対峙した時のキリカの姿を思い出す。確かにあれほどの忠義心なら、そこまでしてもおかしくない。そう思うと頬に冷や汗が流れた。

 

「そして四人掛かりで決戦が始まったけど、ハッキリ言って劣勢だった。爆弾や近距離の攻撃は予知魔法で先読みして潰し、遠距離の攻撃も魔女化した呉キリカの速度低下魔法と組み合わせて躱していたわ」

 

「組み合わせて躱す?」

 

神童が訊く。

 

「私の魔法は私と接触しているもの以外の時が止まる。でも止まったものにかかっていたスピード自体が変わるわけじゃないから、再び時が動き出した時、時間を止める前と同じ速さで動くのよ。例えるなら電池切れで止まった時計の針が、新しい電池を入れたら再び同じスピードで動きだすってとこかしら」

 

「なるほど。じゃあ時間を止めても、スピード自体が遅かったら結局躱されるってことか」

 

「話は少し逸れたけど、私達の攻撃は躱され、魔女化の真実で動揺した巴さん達が互いに足を引っ張り合い、徐々に追い詰められていった。しかし、それを千歳ゆまが皆を奮い立たせ、連携することによって形勢が逆転した。呉キリカの魔女は崩壊し、織莉子も魔女化寸前まで陥った。しかし、それでも織莉子は戦いを止めず、最後は私が彼女のジェムを撃って終わらせたわ」

 

「結局……織莉子も死んでしまったんですね……」

 

悲しげに語る天馬。大勢の命を奪ったことは許せないが、哀れな最期を迎えた織莉子の事を少しだけ憐れんでいた。

 

「でも、織莉子は最後の力を振り絞り、崩れた呉キリカの魔女の一部を投げ放った。それは傍にいたキュゥべえを貫き、その直後に織莉子は絶命した。私は魔女化を受け入れた巴さん達なら共に戦えると思い、自分の事を打ち明けようとしたわ。でも、それは叶わなかった……」

 

「どうして?」

 

「織莉子の最後の一撃は、その先で避難していたまどかを狙っていたものだったのよ。まどかはその一撃で胸を貫かれ、即死してしまった……」

 

「そして君はまた時間を遡った、というわけか。まさかそんな大惨事だったなんて……」

 

フェイが最後を締めくくった。

 

「「「………」」」

 

話を聞き終え、全員が重苦しい顔をする。ほむらが語ったのは繰り返してきた時間軸の一つであり、結末はわかっていた。しかし、やはり救いの無い話は何度聞いても慣れなかったのだった。

 

「その時間軸は、それまでとはあまりにもイレギュラーが多い世界だったわ。でもだからこそ、今度こそまどかを救える可能性があると思えた。だけど結局、そんな希望もあっけなく崩れ去った……」

 

ほむらは憂いた瞳で(てのひら)を見つめる。イレギュラーだらけの世界で掴んだ希望は、開いた指の隙間からこぼれた砂のように消えてしまった。期待が大きかっただけに、他人に対する不信感を強める要因となってしまったのだった。

 

「美国織莉子に呉キリカ……なんて奴らじゃ……たった一人を殺す為に何人も巻き添えにするとは……!」

 

錦が怒りを込めて拳を握る。

 

「問題はこれからどうするかだよ。この世界でも織莉子達が同じ事をしようとしているなら厄介だ」

 

「でも、ほむらさんが体験した出来事がまた起きるとは……」

 

フェイの発言に天馬が異見する。自分達の前で大量虐殺など起きて欲しくない。そんな願望が彼の心にあった。しかし、それを承知の上でほむらは言った。

 

「いいえ。あなた達の存在という違いはあれど、千歳ゆまが織莉子に唆されて魔法少女になり、巴さんが呉キリカに襲われた。どちらも以前の時間軸で起きた事よ。だからきっと、この世界の織莉子もまどかを狙ってくる。他人を犠牲にしても、ね……」

 

「そんな……!」

 

ショックを受ける天馬。合致する事象が一つだけなら偶然で済ませられる。しかし、二つ以上合致すればもはや偶然ではない。それがほむらの総計だった。

 

「もしも、前みたいに学校に結界が現れたら、何十人もの人達が襲われる……そうなったら私達全員でも守り切れない。確実に犠牲者は出るわ」

 

「じょ、冗談じゃないわよ!何とかならないの!?」

 

さやかが必死に訴える。自分達の学校が殺人現場にされるなどたまったものではない。

 

「まず、織莉子の動きを把握する必要がある。だが、今は影山達が付いている上に呉キリカも負傷している。今すぐ行動は起こさないだろう」

 

神童がさやかを鎮まらせるように状況を整理する。敵の動きが見えない時でも冷静な判断が出来る彼の存在は、このチームには欠かせなかった。

 

「でも、時間の問題よ。呉キリカが動けるようになれば、直ぐにでも次の行動に移すでしょうね」

 

そして同じようにほむらも冷静に言葉を繋げる。彼女は何度も繰り返した時間遡行によって、全てが望み通りにいくとは限らない厳しさを味わい続けた。今回の織莉子達の出現においても、事が穏便に運ぶとは思わない。都合の良い願望などせず、地に足を付けて考えていた。

 

「でも、狩屋達がいるんですよ!あの二人なら……」

 

止めてくれる。信助はそう信じて疑わなかった。

 

「確かにあなた達の仲間なら止めるかもね。でも、もし本当に織莉子がまどかを狙っているなら、彼らには隠している可能性があるわ。それに知ったとしても、簡単に止められるとは思えない。最悪の場合は……」

 

「……!」

 

ほむらがそこまで言いかけた時、想像した天馬達の顔がこわばった。

 

「!……ごめんなさい。最後の考えない方がいいわね。忘れて」

 

ほむらはとっさに口をつぐむ。その先の言葉はあくまで可能性であり、なにより失言だと思ったからだ。

 

「とにかく、織莉子は私達に宣戦布告してきた。暁美さんの推測通りなら、何のしないわけにはいかないわ。でも、いつ仕掛けてくるかがわからない上に、場所によっては何十人もの人達を守るとなると、しっかり対策を練る必要があるわ」

 

「「「う~ん……」」」

 

マミの発言に全員が一斉に考え込む。先手必勝でこちらから仕掛けるとしても、狩屋達を人質に捕られる可能性がある。かといってただ迎え撃つだけでは、まどかの護衛を手薄にする為に無関係な人々が巻き込まれてしまうかもしれない。どうしたって誰かが危険にさらされる。手段を選ぶ必要が無い織莉子の方が確実に有利になってしまうのだった。

 

「だ~~っ!いい方法が思いつかん!」

 

たまらず錦が頭を抱えて喚きだす。

 

「どうしたらいいの?」

 

「ほむらちゃん?」

 

ほむらの呟きにまどかが注目する。

 

「放っておいたら、また犠牲者が出てしまう……!まどかも、他の人達も……織莉子に殺される……!どうすれば……!」

 

切羽詰まった顔で悩むほむら。まどかと一緒にいたいだけなのに、彼女と幸せに生きたいだけなのに、それを嘲笑うかのように邪魔が入る。ようやく大切なことが分かったのに、まどか達とも分かり合えたのに、運命は変えられないのか。

 

「ほむら」

 

そんな中で杏子に呼びかけられ、顔を上げる。そして杏子は言った。

 

「アンタ………

 

 

 

 

 

やっぱり変わったな」

 

 

 

「……え?」

 

予想外の言葉に、ほむらは呆けた声を出す。

 

「今まではまどかを守る為だけだったってのに、無関係な奴らの事まで気にするようになったんだからな」

 

「!……そ、それは他の人を犠牲にして生き延びても、まどかは喜ばないと……」

 

「さっき、ゆまを外に出させたのだって魔女化の話を聞かせたくなかったからじゃないのか?」

 

「あ、あれは、この世界の彼女も受け入れるとは限らないと思ったからよ。絶望して魔女化したら大変でしょう?」

 

冷静な口調でもっともらしく答えるほむら。しかし、目は逸らしており、いつもより早口だった。

 

「でもそれって結局、ゆまちゃんの事を想ってしてくれたって事よね」

 

「う……」

 

苦しい言い訳だったようで、マミには通じなかった。そこで気づいてしまう。仲間達が全員、優しい目で自分を見守っていたことを。その視線から逃げるようにまどかを見るが、それに合わせるかのようにまどかも「フフッ」と、笑みを深めた。

 

「うう……」

 

その満面の笑顔にたじろいでしまう。完全に逃げ場を失い、ほむらは顔を真っ赤にして俯いた。

 

「照れてるほむらちゃん……可愛い」

 

「~~~~~!!!」

 

茜が追い打ちをかけると、赤くなった顔を見られないように真下を向いた。そのまま沈黙が続き、やがて顔から熱が抜けると、ほむらは観念したように大きく息を吐いた。

 

「……今まではまどかを救うことが精一杯で、他の人達の事まで構ってる余裕なんて無かった。でも……今は無駄な犠牲を出したくない。戦力とかの問題じゃなくて、誰も死なせたくない。そう思ってしまうの……」

 

「ほむらさん……」

 

心情を吐露するほむらに天馬は河川敷での二人きりの会合を思い出す。あの時のほむらはまどか以外に関しては無頓着で、自分達の事もただの戦力としか見ていないような口ぶりだったが、心の底では皆も助けたいと思っていた。その事を天馬に見抜かれていたが、叶えられるわけがないと認めようとしなかった。しかし、今は押し殺していた優しさが隠せないくらいに溢れて出ており、会合の時と比べたらまるで別人のような変わりように天馬も嬉しく思えた。するとまどかが笑顔でほむらに呼びかけた。

 

「ほむらちゃん」

 

「まどか……」

 

「恥ずかしがらなくたっていいよ。だって今のほむらちゃん、すっごく素敵だもん」

 

「え?」

 

「ほむらちゃん、前よりずっと優しくなったよ。わたしだけじゃなく、みんなも守ろうとして頑張ってる。見た目はクールなのに、心は温かくて………ううん、ほむらちゃんの名前みたいに燃え上がってて、すっごくカッコいいよ!」

 

「―――!」

 

 

 

 

 

『―――わたしは素敵だと思うな。だって、なんか燃え上がれ~って感じでカッコいいんだもん!』

 

『―――………名前負け、してます…』

 

『―――そんなの勿体ないよ。せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ』

 

 

 

 

 

「………」

 

まどかの言葉に呆然とするほむら。まどかと初めて出会った時、彼女はそれまでずっと足枷だった自分の名前を褒めてくれただけでなく、踏み台にすればいいと諭してくれた。だけど、そう言われた時から何度時間を繰り返しても、誰も救えなかった。そんな自分がいつの間に本人から言われるほど変わったのか実感が無くて驚いていた。

 

「ほむらちゃん、すっごくカッコよくなって頼もしいよ。これも天馬君達のおかげかな?ほむらちゃんは今度こそわたしを守ってくれるって、信じられるんだ」

 

「―――!!!」

 

 

 

 

 

―――鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなく、彼女を守れる私になりたい。

 

 

 

 

 

「………」

 

自身の願いを思い出したほむらは無意識に天馬を見る。無言でじーっと見つめられた天馬は「?」と、首を傾げる。

 

「ほむらちゃん?」

 

「……!ご、ごめんなさい。何でもないわ」

 

まどかの呼びかけにハッと気が付いたほむらはまどかに向き直す。そして視線だけを天馬に向けた。

 

(……まさかね)

 

「とにかくまどかさんが狙われている可能性がある以上、常に誰かがまどかさんを見ている必要があるね」

 

フェイが話を戻しながら案を出す。そしてそれに名乗り出たのは当然ほむらだった。

 

「それは私がやるわ。織莉子はきっと、私がまどかを守ろうとしていることは分かってる。簡単に手は出さないはずよ。でも守ってるだけじゃダメ。こちらからも攻めなければ、まどかに安息の時は訪れないわ」

 

「攻めるって、どうやって?」

 

さやかが訊く。

 

「まず、織莉子達が私達の行動を予知できるなら、その隙をついて動き出さないよう、こちらも常に織莉子をマークし続けるのがいいでしょうね」

 

膠着(こうちゃく)状態に持ち込むわけか……だが、織莉子の家を見つけたところでどうやって監視する?予知で知られていたら、どんなやり方だろうと潰されるぞ?」

 

「狩屋達に頼もうとしても、織莉子はそれすら阻止してくるだろう。二人に近づくことも出来ないだろうな」

 

霧野と神童が意見を出す。こちらの動きが分かる相手を長い時間監視し続けるのは容易ではない。方法すらままならない策に誰もが諦めかけていた。

 

 

 

「そういうことなら僕に任せてくれないかな」

 

 

 

そこへ別の声が割り込む。天馬が見ると、キュゥべえがちょこんと座っていた。

 

「キュゥべぇ?」

 

「ここはひとまず、僕達と協力し合うというのはどうかな」

 

 

 

 

 




はい。というわけで展開は決まっていたものの、そこまでどうやって繋ぐか考えて、合間を縫って書いてたらこんなに時間がかかってしまいました。改めてオリジナル部分って難しい……。



ご感想お待ちしております。


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第19話『交錯する想い』 Bパート

明日人
「皆さん、お久しぶりです。前回は俺らしくないネガティブ発言すみませんでした。更に今年は俺だけじゃなく、色んな悲しい出来事が続いている年ですね……」

いろは(白顔)
「………」

明日人
「いろはさんもアニメ第1期のラストであんなことになって、ここでもアニメ版のドッペル白顔です……」

いろは
「………」

明日人
「作者さんもあの時ああしとけば良かったとか考えることも多くなってます……」

いろは
「………」

明日人
「でも、いつまでも落ち込んではいられません……ほむらさんみたいに時は止まらないし戻りません!いつか明るい未来を掴めることを信じて、踏ん張ってゆっくりでも前に進むしかありませんから!俺達の偉大なる物語(グレートロード)はまだまだこれからです!」

いろは
「……!」

明日人
「だから今は少しでも喜ばしいことを祝いましょう!いろはさん……




マギレコ3周年、そして誕生日おめでとうございます!!!」


いろは
「ありがとう……明日人くん…!明日人くんもイナイレ12周年、そして円堂さん誕生日おめでとうございます!(白面ポロッ)」


明日人
「作者さんも文が思いつかなくて更新滞りがちですが、イナイレもマギレコも大好きだから書き続けています!俺達も逆境に負けません!イナイレグレートロードと」

いろは
「マギレコアニメ第2期が来るまで!」


二人
「どうぞこれからもよろしくお願いします!」




はい、なんとか両方の記念日に間に合いました。
待たせていた皆さま、申し訳ございませんでした。


こんな駄文でも楽しんでいただけたら幸いです。ではどうぞ




「協力……だと?」

 

剣城が疑わしそうにキュゥべえを睨みつける。これまで散々自分達を利用しておいて、今更協力を申し出るのはいまいち信用ならなかった。

 

「話は聞かせてもらったよ。まどかが魔法少女になる前に殺されるなんて僕達にとっても大きな損害だ。織莉子の方は僕が見張っておくよ」

 

「あなたが…?」

 

ほむらが怪訝な顔で訊きなおす。

 

「僕達は一つの意識を共有しているのは知ってるだろう?それを利用して、織莉子を見張る役と、君達への連絡役を常に配置しておくよ。例え織莉子に潰されたとしても、またすぐに別の個体を付けられる。代わりはいくらでもいるからね」

 

なんてことないように語るキュゥべえ。しかし恐怖心が無く、しかもすぐに替えが利くというキュゥべえならではの作戦だった。敵と見ている相手の策に乗るのは癪に障るが、そんな事を気にしている場合でもなかった。

 

「……わかったわ。ただし、織莉子の問題が解決するまで、まどかとは絶対契約しない。これだけは譲れないわ」

 

「仕方ないね。まどかと契約出来るチャンスを失うくらいなら少しぐらい待ってあげるよ。その代わり君たちもしっかりとまどかを守ってくれよ」

 

「もちろんだよ。でも、その為に織莉子の予知魔法について詳しく教えて欲しい。対抗策を練りたいんだ」

 

フェイが相槌を打つと共に尋ねる。

 

「そうだね。言えることがあるとするなら、織莉子は常に未来を予知してるわけじゃないと思うよ」

 

「というと?」

 

「彼女の予知もあくまで魔法だから使うたびに魔力を消費する。今でこそコントロール出来てるけど、契約したばかりの頃の彼女は予知魔法が勝手に発動し、よくソウルジェムを濁していたよ」

 

「じゃあ、常にこちらがどう動くか見えてるわけじゃないって事か」

 

「だからと言って安心は出来ない。織莉子は頭がいいからね。僅かな予知から何か策を考えられるはずだ。まどかも、万が一の事を考えて僕と……」

 

「話は終わりよ。さっさと見張りに行ってきなさい」

 

続く言葉を遮るようにキュゥべえの首根っこを掴んで窓の外へ投げ捨てるほむら。彼女の前で契約を誘う発言は許されなかった。

 

「これで織莉子達との戦いに集中出来るわ。後は他の人達を巻き込んだ時なんだけど……」

 

「キュゥべえが見張ってるから、事前に避難させることは出来るでしょうけど、問題は方法よね。確か、前の時間軸では学校に現れたのよね、暁美さん」

 

「ええ。呉キリカが生み出した魔女結界に閉じ込められ、目の前で人が使い魔に食われたせいで皆パニックになってしまったわ」

 

「ん?ちょっと待て。さっき結界が出来た後にキリカって奴が魔女になったって言ってなかったか?順番が逆じゃねーか」

 

「それに結界は普通の人には見えないし、捕らわれた人は魔女の口づけで意識が無いんじゃ…?」

 

杏子と天馬が指摘する。

 

「あの時の結界は呉キリカ自身が魔女になる寸前から生み出していたものだったの。織莉子に対する異常な執着心によるものだったのかは分からないけど、普通とは違う生まれ方をしたせいで本来の結界とは違うものになっていたのかもしれない。先生や生徒達が意識を持ったまま次々と使い魔に食い殺され、あちこちから断末魔が響きわたる、正に地獄絵図だったわ」

 

低い声で語るほむらの言葉に全員が思わず想像する。が、そんなおぞましい事がこの世界でも起きてたまるかと、首を左右に振って頭に浮かびかけたイメージを振り払う。

 

「とにかく、そんな犠牲を出さないことが最優先だ。何か無いか……」

 

神童の言葉を皮切りに天馬たちは「う~ん…」と、目を閉じながら再び考え込む。が、やはり良い案は思いつかない。結界が生み出される前に避難を完了させなければならないが、学校ほど多くの人間がいるところから避難させるとなるとどうしても時間がかかる。織莉子の姿を確認してからでは間に合わない可能性もあり、どうすればいいかと悩んでいた。

 

「話は終わったか…?」

 

天馬が声に反応して後ろを見る。するとそこには満面の笑顔のゆまに手を繋がれながらヘロヘロになっているワンダバがいた。

 

「ワンダバ、おかえり。ていうかどうしたの?」

 

「一緒に公園でクマさんと遊んでたの!」

 

ワンダバとは逆に元気いっぱいのゆまが答える。すると、ワンダバが彼女の手を離れ、フラフラと歩き始める。

 

「普通のぬいぐるみの振りをするために動かないようにしてたのだが、そのせいでゆまに散々振り回されてな……幼女とはいえ、魔法少女の力は侮れんな……」

 

ワンダバは千鳥足で説明すると、「あぁ……」と、力尽きて倒れ込んだ。天馬たちは苦笑いしながら心の中で「お疲れ様……」と、ねぎらう。その脳裏にはゆまに手を掴まれて振り回されている彼の姿が浮かんでいた。

 

 

 

「仕方ないやんね。クマさんがひとりでに動いたらみんなびっくりするやんね」

 

 

 

「まあ確かに。ていうか、まどか。そのやんねって何?」

 

「え……わたしは何も言ってないけど?」

 

「へ?」

 

「こっちこっち。こっちやんね」

 

声に誘われたさやかは部屋の入口を見る。つられて天馬たちも視線を向けると、ゆまの後ろから一人の人物が現れる。

 

「あっ!」

 

天馬が驚きの声を上げる。そこにいたのはボリュームのある栗色のロングヘアで雷門のジャージを着た少女。

 

「チーッス!キャプテン、みんな、無事だったやんね!」

 

黄名子(きなこ)!」

 

元気に挨拶する、雷門の1年DF菜花(なのばな)黄名子がそこにいた。

 

「天馬くん、もしかしてあの子も……」

 

まどかは彼女の格好を見て尋ねる。

 

「はい。黄名子も俺たちの仲間です。でも、どうしてここに?」

 

「私とゆまが帰ろうとした時、空中に現れた光から落ちてきたのだ……」

 

「黄名子おねえちゃん、ゆま達と一緒に帰ってきたの!」

 

「事情はワンダバから聞いたやんね!見滝原の皆さんチーッス!ウチ、菜花黄名子です!よろしく!」

 

初対面のまどか達に対してもフレンドリーに挨拶する黄名子。

 

「う~ん……」

 

一方でさやかはそんな彼女を見つめながら顎に手を添えて唸っていた。

 

「どうしたのさやかちゃん?」

 

「やっぱこの子の声ってさ、なんかまどかに似てない?」

 

「え?そ、そうかな?」

 

「そ~ですか~?」

 

「あ、ほら!それでさっき聞き違えたぐらいだし!」

 

間違いないと言わんばかりに二人を指さすさやか。その時、グゥ~と音が鳴る。発生源は黄名子の腹だった。

 

「はぁ……お腹すいたやんね」

 

「あ、ピーチパイがあるからどうぞ」

 

マミは会議の為に用意していたピーチパイを切り分けると、フォークを添えて黄名子に差し出した。

 

「わあ、美味しそうやんね!いただきまーす!」

 

黄名子は嬉しそうに駆け寄って受け取ると、フォークで一部を切り取ってから「あーむ!」と大口を開けて頬張る。

 

「ん~!美味しいやんね!」

 

頬に手を添えて喜ぶ黄名子。その無邪気な子供のような笑顔にマミも嬉しくなる。

 

「ふふふ。口に合って良かったわ」

 

「マミおねえちゃん、ゆまも食べたい!」

 

「あらあら仕方ないわね。でも夕飯が近いから、食べ過ぎちゃダメよ」

 

「「は~い!」」

 

「って、こんなことやってる場合じゃねーだろ!」

 

ここで杏子がツッコミを入れる。先ほどまでの緊張感が一気に流されてしまいそうだったからだ。

 

「えー!?ウチには死活問題やんね!」

 

「そーだよキョーコ!シカツモンダイだよ!」

 

「オメーらなぁ……」

 

曇りなき瞳で断言する二人に呆れる杏子。そんな彼女たちを見て、天馬たちはクスクスと笑っていた。

 

「あっはっは!何よこの超ノンキなやり取り。でもおかげで肩の力が抜けたわ」

 

「黄名子ちゃんかぁ……なんだかカワイイ!」

 

黄名子の天真爛漫ぶりにさやかとまどかの緊張もほぐれる。彼女の可愛らしいしぐさが一気に親しみやすさを感じさせたのだった。

 

「まあ、このマイペースの所為でヒヤヒヤさせられた事もあったがな。その度に大騒ぎになったぜ」

 

呆れながらもかつての時空を超えた冒険を懐かしむように呟く水鳥。するとフェイが声を上げた。

 

「マイペースで大騒ぎ?……あ!」

 

「どうしたの、フェイ?」

 

「閃いたよ!他の人達を避難させる方法!」

 

「ホント!?」

 

天馬が期待の眼差しでフェイを見つめる。

 

「うん。こんな方法はどうかな?」

 

フェイは皆を一ヶ所に集め、織莉子に視られても知られないようにひそひそと作戦を伝えた。すると皆は一斉に「ええ!?」と声を上げた。

 

「そんなのホントに上手くいくの!?」

 

「うん。見張りをしているキュゥべえのタイミングに合わせれば織莉子に何もさせないまま避難させられるはずだよ」

 

「た、確かにそうだけど……」

 

「四の五の言ってる場合じゃないわ。それで行きましょう。ここにいる全員の力で織莉子を止めるのよ」

 

ほむらもフェイの作戦に賛同する。

 

「そうと決まったら、天馬くん。後で新しい必殺技の特訓よ!」

 

「はい!」

 

決戦に備え、意気込むマミと天馬。するとほむらが「みんな」と、仲間たちに呼びかける。

 

「改めて確認するわ。今度の相手は魔女ではなく、確かな意思を持った魔法少女。一歩間違えれば確実に死ぬわ。覚悟はいい?」

 

ほむらは鋭い目で仲間たちと目を合わせる。それに対し、天馬たちはほぼ同時に全員が「うん!」と力強く頷いた。腹をくくった仲間たちの覚悟に、ほむらも頼もしく思えた。

 

「それじゃ、誓いを立てましょう!」

 

「誓い?」

 

天馬は一歩前に出ると、力強く手を伸ばす。

 

「さあ、ほむらさん」

 

「え……ちょっと、恥ずかしいわ。古臭いし……」

 

「何言ってんのさ。こういうのはノリが大事なの!」

 

そう言いながら、さやかは自らの手を天馬の手の上に重ねた。

 

「その通りです!」

 

続いて信助が重ねる。

 

「一致団結、やりましょう!」

 

マミも手を置く。

 

「ゆまもー!」

 

ゆまも元気いっぱいに声を上げて重ねた。

 

「ほら!キョーコ、ランマル!」

 

「しょーがねえな……」

 

「ま、俺も同感だけどな」

 

杏子と霧野も手を重ねる。やがてつられるように仲間たちは次々と手を重ねていき、最後はほむらだけになった。

 

「さあ、ほむらちゃん」

 

「………」

 

一番上に手を乗せたまどかが笑顔で催促すると、ほむらは仕方ないような、気恥ずかしそうな顔でおずおずと手を重ねた。そして天馬が改めて意思を確認するように全員と目を合わせる。見渡した仲間達は皆、きらびやかな光を瞳に宿していた。

 

「じゃあ……」

 

天馬が号令をかける。そして、重ねた手の山はグッと押された。

 

 

 

 

~~美国邸~~

 

 

 

「ちょっとマズいよ狩屋くん。勝手に入っちゃダメだって…」

 

一方で輝と狩屋は今は亡き織莉子の父、久臣の書斎を訪れていた。

 

「織莉子さんがキリカさんの傷の具合を診るから部屋を出てって言われたからって……」

 

「さっきまでの様子なら織莉子さんは今の俺たちの姿を予知してないからバレないよ。それよりも、キリカさんがあの時怒ってた訳がここにあるはずなんだよ。影山くんは気にならない?」

 

「まあ、確かにそうだけど……」

 

「にしてもこの部屋、難しい本ばっかだなー。六法全書まである」

 

「そういえば織莉子さんのお父さん、昔、弁護士だったって言ってたね」

 

「弁護士から議員。どっちも人の為に働く仕事だったってのに、ワイロ疑惑掛けられて自殺か……織莉子さんも大変だよな」

 

主を失った机を見つめながら頭の後ろで手を組む狩屋。そしてふと天井を見上げる。

 

 

 

(ゴメンな、マサキ。父さんのせいで……)

 

 

 

「嫌なこと思い出した……っと、うわ!」

 

上の空のまま椅子に座ろうとした狩屋だったが、無意識で勢いが強すぎたらしく椅子ごと床に横転してしまう。

 

「か、狩屋くん大丈夫!?頭打ってない!?」

 

「う、うん。なんとか」

 

狩屋は机に掴まって立ち上がろうとしたが、間違って引き出しの取っ手を引っ張ってしまう。

 

「ん?」

 

すると引き出しの中の一冊の手帳が目に入った。

 

「なんだこれ?」

 

手に取って裏を見ると『H.MIKUNI』と書かれていた。

 

「これって織莉子さんのお父さんのかな?」

 

狩谷はなんとなく手帳を開いてパラパラと読み始める。

 

「ちょっと狩屋くん、勝手に中身見ちゃ……」

 

「……ん!?」

 

輝が止めようとした直後、ページをめくる狩屋の手が止まる。そしてまじまじとした目で止めたページを読んでいた。

 

「ど、どうしたの?急に顔色を変えて…」

 

「もしかしたら、キリカさんはこれを読んで……でもこんなの織莉子さんには……」

 

「?」

 

狩屋は無言でページを開いたまま輝に手帳を渡す。輝は怪訝な顔で受けとって中身を見る。

 

「これは…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~一方・織莉子の部屋~~

 

 

 

「キリカ……」

 

ベッドでうつ伏せに眠るキリカと、ベッドサイドに置かれた彼女のジェムを思い詰めた顔で見つめる織莉子。魔法少女の肉体はソウルジェムが無事なら大抵の傷を治すことが出来る。しかし、連れ帰ったキリカの背中の傷は何分たっても治らなかった。最初はジェムの穢れが溜まっているせいかと思い、グリーフシードで浄化しようとした。しかし、その時気づいてしまった。彼女のジェムに亀裂が入っていることに。

 

「ソウルジェムは魔法少女の魂……それが壊れたら……」

 

未だかつてない状況に怯える織莉子。亀裂が入ったジェムを治した前例など無い。狩屋たちですら不可能だ。予知で見た天馬たちの化身は魔女を生んだグリーフシードをジェムに戻す力はあれど、ひび割れたジェムを治したことは無い。ましてや彼らは敵。治せる保証も無い相手に頼み込むことなど出来なかった。このままキリカが魔女化せず完全にジェムが砕け散ったらどうなってしまうのかと不安に怯えていた。

 

「いや、いやよ……誰か、助けて……お父様……!」

 

手の打ちようがなく、織莉子は頭を抱えて震えあがる。

 

「織莉子…!」

 

「キリカ…!?」

 

目を覚ましたかと思い、ベッドに駆け寄る織莉子。

 

「織莉子……行っちゃダメだよ……」

 

しかし、それはうわ言だったようで何か夢を見ているようだった。

 

「キリカ……私はここにいるわ…!だからあなたも私を……」

 

置いていかないで、と言おうとした時だった。

 

「その部屋はダメだよ……」

 

「え?」

 

「見ちゃダメだよ……本がいっぱいの引き出しは……」

 

うなされるようにぼやくキリカ。キリカの言葉に織莉子には思い当たる節があった。

 

「本がいっぱい…?まさか……」

 

その時、何かが割れる音が家中に響いた。

 

 

 

 

 

~~書斎~~

 

 

 

ガシャン!

 

「「!!!」」

 

ハッとなった輝は咄嗟に手帳を引き出しに戻し、狩屋と共に部屋を出る。そして音が鳴ったと思われる部屋に着くと窓ガラスが割られており、床には乱暴な字で『死ね』と書かれた紙に包まれた石が転がっていた。

 

「たくっ、またかよ。こんな時に…」

 

狩屋が呆れた様子でため息をつく。

 

「懲りずにやる人がまだいるのね」

 

「織莉子さん……ええ。ホントに酷いですよ。人として恥ずかしいと思います。そうだキリカさんの具合はどうです?」

 

「………」

 

輝が尋ねるが織莉子は黙り込んだまま返事を返さない。

 

「織莉子さん?」

 

「……大丈夫よ。心配するほどじゃないわ」

 

「そうですか、良かった。とりあえずまた片づけておきますね」

 

「ええ、二人には感謝しかないわ。何の関係もないのに、こうした嫌がらせの後始末をしてくれるなんて」

 

「気にしないでください。お世話になってる身ですし、ほっとけませんよ。織莉子さんはキリカさんの看病を続けてください」

 

「ええ、そうさせてもらうわ」

 

そう言うと織莉子は踵を返して部屋を後にする。織莉子の姿が見えなくなると二人はひそひそと話し出した。

 

「とりあえず書斎に入ったことはバレなくて良かったね、影山くん」

 

「もう、とにかくあそこにはもう入っちゃダメだよ。あの手帳の事がバレるかもしれないし」

 

「分かってるって……」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

急ぎ足で廊下を歩く織莉子。その足はキリカの元へ向かってはいなかった。

 

 

 

(―――見ちゃダメだよ……本がいっぱいの引き出しは……)

 

 

 

(書斎に勝手に入ってたなんて……でも見ちゃダメってどういうこと?まさか私の知らないお父様の遺品?)

 

書斎に入るとすぐさま父の机の前に立ち、視線を下に向ける。引き出しは僅かに開いていた。

 

 

 

 




というわけで黄名子を出しました。
両方の作品のファンの皆様、お待たせいたしました。
黄名子はこのおり☆マギ編の別のタイミングで出そうと考えていたのですが
こうした方がより自然かなと思い、出すことにしました。

というわけで



質問;

ほむらはまどかと黄名子の声を聞き間違えたりしないんですか?



ほむら
「ふっ、甘く見ないで頂戴。私がまどかの声を間違える訳ないじゃない」


「ほむらちゃーん」


ほむら
「何かしらまどか?」

黄名子
「まどかさんかと思った?
残念!黄名子ちゃんでした!やんね!」

ほむら
「………」


ご感想お待ちしています。


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第19話『交錯する想い』 Cパート

シスターももこ。自分は前回の投稿からの空白期間がまどかの誕生日を過ぎるどころか約1年という最高記録をだしてしまいました。このような愚かな羊をどう思いますか?

シスターももこ
「この一年間、このご時世であなたも色々ありましたね。しかし、それでも読んでくださる読者の皆様のおかげで何とか書き上げたのでしょう?昨年からの遅れはこれから取り戻せばよいのです」

シスターももこ…!ああ、なんて慈悲深い……

シスターももこ
「そして私も……昨年やり損ねた事をやらせてもらいます」

え?どうしてシスターの衣装に手を掛けて……



バサァ!



~~どこかの教会~~




リンゴーン、リンゴーン



タキシード優一
「京介!実は俺はももこさんと結婚していたんだ!これからは彼女の事を義姉(ねえ)さんと呼ぶんだぞ!」

ウェディングももこ
「かえで、レナ!お先ゴメンな!結婚のチャンス逃してたまるか!」

かえで
「ももこちゃーーーんっ!?」

レナ
「ももこーーーっ!?」

剣城
「兄さーーーんっ!?」

ハンカチを噛む早乙女和子
「………(ギリギリギリギリ!)」






エッジオブユニヴァース!ハッ、夢か……というわけで皆様、空白期間最高記録を更新してしまい、申し訳ありません。

明日人
「作者さんもこの一年で色々変わったりして大変でしたからね」

ああ。明日人も大変だな。イナイレ新作の発売日変更とかあって、でも自分は変わらず応援してるからな。

明日人
「ありがとうございます。そして言うべきことがありますよね」


その通り。というわけで


イナGO&まど☆マギ10周年&まど☆マギ劇場版新作おめでとう!
マギレコアニメ第二期放送おめでとう!そして第三期決定おめでとう!
マギレコ4周年&イナイレ13周年おめでとう!


明日人
「そしていろはさん、円堂さん!誕生日おめでとうございます!」

いろは
「ありがとう明日人君!」

円堂
「これからもよろしくな!」



てなわけで、投稿遅れがちな駄文を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はかなり難産でした。代わりにちょっと趣向を凝らしてみたかと思います。
楽しんでもらえたら幸いです。

では、どうぞ。




 

~~夕方・???~~

 

 

 

「どうして、こんなことになったのかしら……」

 

ほむらは困惑していた。彼女は現在、湯気が立ち上る浴室で椅子に座っていた。すると、浴室のドアが開いた。

 

「お待たせ、ほむらちゃん!」

 

そこから顔を出したのはツインテールに纏めている髪をほどいたまどかだった。ここはまどかの家の浴室であり、二人はこれから一緒に風呂に入るところであった。

 

(え~と確か、会議が終わった後……)

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「ほむらちゃん、今夜はウチに泊まろうよ」

 

「え?」

 

「わたしの事を守ってくれるならこうした方がいいでしょ?」

 

「え……で、でも……ご家族に迷惑をかけてしまうわ」

 

「そんな事気にしなくていいよ。ほむらちゃん一人暮らしだから、きっとママ達も説得できるよ」

 

こうしてまどかの勢いに押され、ほむらは鹿目家にお邪魔することになったのだった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

 

「ふふふ」

 

「………」

 

そして現在、まどかはニコニコしながらほむらの髪を洗っていた。そんなまどかとは対照的にほむらは顔を真っ赤にして固まっていた。何故一緒に入ってるのかというと、帰ってみたが主夫である父と弟はまだ買い物から戻っていないようで誰もいなかった。そこで先に風呂に入るという話になったのだが、何故かまどかは一緒に入ることを提案したのだった。突然の提案にほむらは慌てふためきながら断ろうとしたが、”織莉子に狙われているから”という理由で押し切られてしまったのだった。

 

「いつも思ってたけど、ほむらちゃん髪キレイだよね。何か特別なお手入れでもしてるの?」

 

「と、特にしていないわ……」

 

「ホント?それでこんなにツヤツヤなの!?いいなぁ~、わたしなんてすぐ寝癖ついちゃうから羨ましいよ」

 

「そ、そう……」

 

ほむらはこれまでまどかを救う為、何度も時間遡行を行った。その度にまどかとの関係も変えていた。まどかが魔法少女だった時のように親密になったり、時には全く関わらないようにしていた。が、ここまでのスキンシップをするような関係になるなど今まであっただろうか。

 

「それじゃ、今度は身体洗ってあげるね」

 

「えっ!?な、何でそこまで……」

 

「今日の事、さやかちゃんに話したら、お風呂でここまでするのが基本だって言われたの」

 

「さやか、覚えてなさいよ……」

 

脳裏にニヤニヤしたさやかの顔が浮かびながら顔を歪ませるほむら。一方、まどかはボディタオルを泡立てていたが、ふと、ほむらの背中に触れてみた。

 

ピトッ

 

「ひゃっ!」

 

「わあ!ほむらちゃん髪だけじゃなくて肌もキレイだよね!すごく柔らくてスベスベだよ!」

 

「う、ううう……」

 

結局ほむらは終始顔を赤くしたまま、まどかに身体を洗われた。ほむらにとっては死ぬほど恥ずかしかったが、まどかは肌に触れる度に声を上げるほむらがとても可愛かったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~夜・美国邸~~

 

 

 

「織莉子さん、大丈夫かな……」

 

「分からない……キリカさんが来てくれなきゃどうなってたか……」

 

不安げな顔をしながら荒れ果てた書斎を見渡す輝と狩屋。嫌がらせの後始末からしばらくして、輝と狩屋は書斎の片付けをしていた。高価な家具は倒れ、本棚から落ちた本や割れたツボの欠片がいくつも散乱していた。しかし、これは全て嫌がらせでやられた後ではない。織莉子自身がやったことだった。

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「うあああああっ!」

 

 

 

ガシャーン!

 

 

 

「「「!」」」

 

織莉子の獣のような叫びと共に大きな音が響くと二人は書斎に駆け込んだ。そこにはなんと、怒り狂ったように飾られていたツボを次々と床に叩きつける織莉子がいた。ツボの欠片で切ったのか織莉子の手は既に血まみれだった。

 

「織莉子さん!?」

 

「ちょ、何してるんすか!?」

 

「うあああああっ!!!」

 

二人は必死に織莉子を止めようするが、家具まで倒し始めて中々近づけない。

 

「織莉子!」

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

「飛び起きたキリカさんが飛び込んで抑えてくれなきゃどうなってたか……」

 

「でもそのせいでキリカさんはまた気絶しちゃったんだよな……」

 

自分達が情けなく思う狩屋達。二人掛かりでも織莉子を止めることが出来ず、負傷しているキリカに無理させた事が申し訳なくて仕方なかった。

 

「狩屋くん……織莉子さんが暴れた理由って……」

 

「やっぱり、あれだよな……」

 

二人は書斎の机を見る。そこには完全に開かれた引き出しから露わになった久臣の手帳があった。隠したかった秘密を守れなかった事実が二人を更に落ち込ませる。

 

「織莉子さん……」

 

二人はただひたすら無力感に打ちひしがれるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

~~寝室~~

 

 

 

「キリカ……」

 

織莉子はベッドで死んだように眠るキリカを見つめていた。彼女のおかげで冷静さを取り戻した織莉子はキリカを再びベッドで寝かした後、自身の魔力で手を治した。そしてその掌には今、黒く濁り、ヒビが入ったキリカのソウルジェムが乗せられていた。このままジェムが砕け、彼女は峠を迎えてしまうのか。織莉子はそう思うと、胸が苦しくなりそうだった。

 

「う……」

 

「キリカ…!」

 

その時、キリカが目を覚ます。織莉子は傍に置いた台にジェムを置いて駆け寄った。

 

「織莉子……」

 

キリカはゆっくりと目線を織莉子に向ける。織莉子は安心しながらも焦っているように見えた。

 

「何だか、身体が重いや……」

 

「起きたばかりだからでしょうね……ずいぶん深く眠ってたから……」

 

「ううん……織莉子もわかってるんだろう?」

 

「!」

 

台の上に置かれたジェムを見るキリカ。身体が重いのは寝起きのせいだけでは無いことを彼女は既に理解していた。そして視線を天井に戻して尋ねる。

 

「織莉子、見たんだよね。アレを」

 

「……ええ」

 

キリカの問いに織莉子は静かに答える。

 

「荒れ狂ったのも仕方ない。でも、自分を見失わないでほしい。君には、私が尽くすと誓った君であってほしい。私もそれに相応しい私になるよ」

 

「それって……」

 

「私は、もうすぐジェムが砕ける」

 

「!」

 

「だけど、ただ砕けて死ぬんじゃない。織莉子に相応しい姿になる……最期まで織莉子の為に動くよ……」

 

キリカは虚空を見つめたままそう告げた。彼女が何をしようとしているのか、何になろうとしてるのか、織莉子は理解してしまった。

 

「そんな……そんなの私には、重すぎるわ……」

 

「重くていいんだよ。重くなけりゃダメだ。君が君でなくなりそうになったら、私の事を想って欲しい。君がどこかに行ってしまわないよう、私が君の枷になるよ」

 

「キリカ……」

 

「だから、私の告白を聞いてほしい」

 

「え…?」

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

キリカは語った。自分にはかつて、幼いころに親友がいた。しかし、その親友に裏切られた事で、傷つくことを恐れる内向的な性格になってしまった。自信を持てず、何にも興味を持てないフリをして、自分に無いものを持っている者たちをただ黙って妬むようになってしまった。そうして不登校気味になり、いじけている時だった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

チャリンチャリン。

 

「あーあ。何やってんだよ。とっととしろよなー」

 

「後ろ、つかえているので早くお願いします」

 

「………」

 

買い物をしている時、レジで財布の中身をぶちまけてしまった。キリカが文句を言われながら黙って小銭を拾っていると、

 

スッ。

 

「!」

 

「これで全部かしら」

 

「う、うん」

 

たまたまその場に居合わせた織莉子が拾うのを手伝ってくれた。その時、キリカは何故か織莉子に惹かれるものを感じた。

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

―――あの子だ……。

 

 

 

それからキリカは街で織莉子を探すようになった。そして、彼女を見つけると偶然を装って接触しようとする。

 

 

 

―――私の事、覚えてますか……?

 

 

 

そう言おうと彼女の背中に向けて手を伸ばそうとした。しかし、その手は伸ばしきる前に止まってしまう。

 

 

 

―――どうせ……私の事なんか、覚えてるわけない。

 

 

 

そんな言葉が頭によぎると、キリカは手を引っ込めた。遠ざかっていく彼女の背中は正に自分の手の届かない世界のように感じられた。

 

 

 

―――私の事を気に掛けてくれる人なんて、いない。

 

 

 

結局、拒絶されることが怖くて話しかけることすら出来なかったのだった。変わりたくとも変われない。キリカはそんな臆病な自分が大嫌いだった。

 

 

 

―――変わりたい……違う自分に変わりたい。

 

 

 

彼女はそう願って、キュゥべえと契約したのだった。

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「ごめんよ。織莉子が知ってる私は、魔法で作ったニセモノだったんだ。本当の私は嫌われるのが怖くて、友達も恋愛も何にも出来ない、向き合えない、ただのいじけた子供だったんだ」

 

「………」

 

織莉子はキリカの告白をただ黙って聞いていた。

 

「……ウソに付き合わせてゴメンね……ありがとう」

 

キリカは屈託無い笑顔で謝罪し、感謝した。すると、織莉子は俯きながら言った。

 

「許さない……」

 

「織莉子?」

 

「許さない……絶対に許さないわ!」

 

織莉子は声を荒げていく。

 

「あなたには私を欺いた罪に報いる義務があるわ!だから!」

 

織莉子はキリカのジェムを両手で包み込むように持つ。

 

「例え……どんな姿になり果てようとも、最期まで私の為に尽くし、護りなさい。でなければ、絶対に許さないわ……!」

 

織莉子は目に涙を溜めながらそう命令した。全てを打ち明け、それでもなお自分に尽くすと誓ったキリカの覚悟を受け入れたのだった。だからこそ、お互いが離れないよう、互いに枷を付け合うことにしたのだった。その姿にキリカは安心したように微笑む。

 

「わかった……約束するよ」

 

キリカがそう言うと、織莉子も微笑み、静かに涙を流した。

 

 

 

「「………」」

 

そんな二人の話を輝と狩屋は廊下の壁にもたれかかりながら黙って聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~鹿目家・まどかの部屋~~

 

 

 

「こうして二人で寝るとちょっと狭いね」

 

「だから私は布団を敷いて寝ると言ったのに……」

 

「そんなの悪いよ。一緒に寝た方が安全でしょ?」

 

「ま、まどか……」

 

夕食を終えた後、ほむらはまどかの部屋で寝ることになった。が、まどかが今度はベッドで一緒に寝ようと言いだしたのだった。先ほどと同じ理由で押し切られ、二人は並んで寝ることになった。すぐ隣で横になっているまどかから安らかな笑顔を向けられ、ほむらは再び顔を赤くする。先ほどの風呂の時といい、もし、人が羞恥心で死ねるのならきっと自分は今すぐ死ねると思えた。

 

「ねえ、まどか。聞いてもいいかしら…?」

 

「ん?なに?」

 

「どうして私を家に誘ったの?」

 

「………」

 

ほむらは聞きたかった。いくら織莉子に狙われているとはいえ、突然家に招いたり、ここまで積極的なスキンシップを取るのは普段のまどかから想像も出来ないくらいだった。

 

「もしかしたらって思ったんだ」

 

「え?」

 

「わたしが死んじゃったりしたら、こういう事とかも出来なくなっちゃうんじゃないかって」

 

「!」

 

ほむらに衝撃が走る。

 

「まどか、あなた…!」

 

「わたしね、ホントはすごく怖いよ。死んじゃったらパパやママにタツヤ。ほむらちゃんやさやかちゃん達、天馬くん達とも二度と会えなくなるし、絶対みんなを悲しませちゃうから」

 

「………」

 

まどかの声色は不安げに聞こえた。やり方は極端であったが心の奥底では恐怖心を堪えるのに必死だったのだ。

 

「ゴメンね。こんな事言っちゃって」

 

「ううん。私も、今でも怖いわ。こうして分かり合えたあなたが死ぬことが……あなたがくれた温もりを失うことが」

 

それは慰めではなくほむらの本心だった。天馬達の助力でようやくまどかと心から繋がったのに、その繋がりが同じ相手に再び断ち切られてしまうかもしれない。もう過去には戻らないと誓ったばかりなのに、その決意を揺るがすような壁が立ちふさがる現実に心が折れそうだった。

 

「それなら、こうしよっか」

 

「え?」

 

そう言うとまどかはほむらの手を包み込むように優しく握った。

 

「ま、まどか!?」

 

「これなら怖くないよ。ほむらちゃんと繋がってるって、思えるから」

 

自身の手を握るまどかの手はとても温かった。それはまるで不安で塗りつぶされる心を照らす陽だまりのようだった。そのせいか、ほむらも無意識のうちにまどかの手を握り返していた。自分もまどかの不安を包み込むかのように。

 

「でも正直、いつまであなたを織莉子から守れるのか分からないわ。彼女をどうにかしない限り、あなたに平穏は訪れないわ」

 

ほむらは少しだけ目線を下にずらしながらそう漏らす。以前の戦いのように始末すれば手っ取り早いだろうが、そんな事はきっとまどかや天馬達は望まない。ならばどうすれば良いかと頭を悩ませていると、まどかが口を開いた。

 

「その事なんだけど……」

 

ほむらはまどかに視線を戻す。すると、まどかは再び微笑みながら言った。

 

「天馬くんなら、その織莉子さんとも分かり合えるんじゃないかな……」

 

「なっ……織莉子と!?」

 

あまりにも予想外の言葉にほむらは声を荒げる。

 

「だってあの天馬くんだよ?天馬くんは誰も犠牲にしようとしない、優しい男の子。きっとそうしちゃうよ。だからわたし、天馬くんならいつか本当に全ての魔法少女を救ってくれるんじゃないかって思うんだ」

 

「………」

 

そう語るまどかの目は天馬への信頼に満ちていた。ほむらには想像できなかった。以前の時間軸で執念の果てにまどかを殺した織莉子と和解できるとは到底思えなかった。しかし、ほむらは思い出す。

 

 

 

―――ほむらさん……俺は、例えどんなことが起こっても誰も見捨てたりなんかしませんよ。

 

 

 

さやかが魔女化した事件で自身が初めて涙を見せた時、天馬はそう宣言した。そしてその後、天馬は決して諦めることなく戦い抜き、誰一人死なせなかった。その結果、自分はこうしてまどかと分かり合い、数多くの仲間が出来た。自分にとっては奇跡とも言えるこの時間軸は、まどかさえ無事なら、誰が犠牲になろうと構わなかった自分だけではとても辿り着けなかった世界だった。他者への期待を捨て去った自分に人を信じる心を取り戻させ、繋がりを与えてくれた松風天馬。そんなイレギュラーの彼を同じイレギュラーである織莉子にぶつけたらどうなるか正直分からなかった。しかし、だからこそ彼に賭けてみたいと、ほむらも思い始めていた。

 

「わたしは信じるよ。守り抜いてくれるって信じてるから。天馬くんの事も、ほむらちゃんの事も……」

 

「まどか……」

 

「ふああ……そろそろ眠たくなっちゃった。電気、消しちゃうね……」

 

「ええ……」

 

「おやすみ、ほむらちゃん」

 

「おやすみ、まどか」

 

電気を消すと、二人は互いの顔を見合わせたまま目を閉じた。そして身体をベッドに預けたまま、安らかな夢の世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

~~河川敷~~

 

 

 

バシュゥン!

 

 

 

「出来た…!出来ましたよ、マミさん!」

 

「ええ!タイミングもバッチリ!これなら実戦でも使えそうね!」

 

天馬とマミが粉々になったリボンの的を見て喜ぶ。会議の後、二人は河川敷に人払いの魔法を掛け、魔法とサッカーを組み合わせた新たな連携技を開発していた。途中、マミの家での夕食を挟みながら特訓を続け、ようやく完成したのだった。

 

「熱中してたら遅くなっちゃいましたね」

 

「ええ。今夜はここまでにして、明日また調整をしましょう。早く寝ないとお肌にも悪いわ」

 

「はい」

 

マミは変身と人払いの魔法を解き、特訓用に用意したドリンクやタオルをバッグにしまって片付けを始める。一方で天馬は顔を引き締めながら夜空を見上げた。

 

「守り抜いてみせる……まどかさんを……そして、魔法少女達の未来を…!」

 

煌めく星々を見据えながらそう誓った。誰かの為、未来の為、それぞれの想いは重なり合いながら夜は更けていく。十色の想いは静かな眠りの暗闇に溶け、夜明けの光で再び色づいていく。戦いの始まりを、告げるように。

 

 

 




―ED『放課後ケミストリー』(歌:狩屋マサキ&影山輝)―


次回予告
「キュゥベぇと協定を結んだ俺達。そして織莉子はまどかさん達の学校を襲撃し、戦いの火蓋が切って落とされる!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第20話『激震!見滝原中学攻防戦!』」






はい、長い長い19話をやっと終えることが出来ました。
今回は織莉子とキリカの部分で相当悩みました。
自分はおりマギ本編と新約の両方読んでまして、その両方をうまく繋ぎ合わせようとして苦労しました。それでも書くしかありませんが。

こんなんでも応援してくれると嬉しいです。

ご感想お待ちしております。






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第20話『激震!見滝原中学攻防戦!』 Aパート

お待たせいたしました。読者の皆様。
なんとか続きを書き上げることが出来ました。


そして放送されましたね。アニレコファイナル。
実に衝撃的な内容でしたね。


この小説を見てくださっている皆様の中にも未だに
ショックが抜けてない方もいると思います。
作者もアプリ版のストーリーを見返したりしました。


アニレコはどういうものだったかというと


たぶんこんな感じだったと思います。(某、白髪天パ侍の教師のノリで)
(ネタバレされたくない方は本編まで一気に飛ばすことを勧めます)









いろは
「誰も知らない、私たちの記録……」






三穂野(みほの)せいら
「はいカットォ!これにてアニメ版マギレコ、クランクアップです!お疲れさまでした!」

「「「お疲れさまでした!」」」

いろは
「うう……うい~!」

うい
「お姉ちゃん~!辛かったよ~!」

いろは
「わたしもだよ!うい達が死ぬなんてシナリオ、ホントは嫌だったんだから!」

灯花
「うわ~ん!わたくしも辛かったよ~!」

万年桜のウワサ
「|………|」

ねむ
「どうしたんだい、桜子」

万年桜のウワサ
「|うい達が死ぬなんて許せない。考えた人を同じ目に……|」

ねむ
「君らしいけど流石にそれはダメだよ」

かえで
「ももこちゃ~ん!かもれトライアングルは不滅なんだから~!」

レナ
「そうよ!バッドなのはタイミングだけにしなさいよ!」

ももこ
「わかったわかった!だからもう泣き止めって!顔がくちゃくちゃだぞ」

結菜
「そうよぉ。あの展開は私達にとっても無いわぁ」

いろは
「紅晴さん!それに第2部の皆も!」

すなお
「あれではいろはさんもういちゃん達も可哀そうです!」

いろは
「すなおちゃん……ありがとう……グスッ」

静香
「そして何より許せないのは、あんな展開じゃ……」




「「「私達の出番が無いじゃない!!!」」」




いろは
「そっち!?」

静香
「当たり前でしょう?浄化システムが無かったら、私たち神浜に来る理由が無いじゃない」

結菜
「恨みの矛先はどこへ向ければいいのかしらぁ…」

ひめな
「私チャン、サーシャに誘われてなかったはずだし……」

ラビ
「そもそも観測する理由どころかキュゥべえから神浜市の存在すら聞かされなかったかもしれない」

タルト
「私も許せません!」

いろは
「タルトさんまで!」

タルト
「ういさんがいなかったら、他のイベントストーリーもほとんど成立しません!私の時も、皇帝ペンギン2号の一人(うい)さんがいなければ、皇帝ペンギン1号(イザボー)を倒せなかったかもしれません!」

うい
「ルビの元が長すぎるよ!というか誰が皇帝ペンギン!?」



※解説

イナイレシリーズには空飛ぶペンギンの演出が入る、”ペンギン技シリーズ”がある。以下出てきた技の説明。



皇帝ペンギン2号

初代イナイレから登場している最初のペンギン技。3人シュート技。
アニメ全シリーズにおいても最も使われ、最も使用者のバリエーションが多いペンギン技である。



皇帝ペンギン1号

初登場はイナイレ2。1人シュート技。
強力だが肉体に掛かる負担がすさまじく、使うと全身の筋肉に激痛が走るというとんでもない技。
なお、この技を改良し、多少の威力と引き換えに、3人掛かりで放つことで肉体への負担を分散させた技が”2号”である。



キュゥべえに成り替わろうとしたうい達とイザボーに例えてみました。



かりん
「そうなの~!アリナ先輩もありえないの~!」

アリナ
「シット!うるさいんですケド、フールガール……」

かりん
「結局セリフも顔出しも無しで先輩の遺作を受け取るなんてありえないの!しかも着払いだったし!先輩が生きてなかったらこの待望のペアユニットも無かったことになるの!」ヘンシン

アリナ
「ワッツ!?またハロウィンの時の姿にチェンジされたんだケド!?」

かりん
「先輩にお仕置きなの!」

アリナ
「もうキャンディの下敷きは勘弁……」

かりん
「お好みソースアタックなのー!」バシャーン

アリナ
「ブバッ!ホワイ、オコノミソース…?」

かりん
「関西弁のギャルのお姉さんに渡されたの!”ダーリンと結婚したイカレ女を絵の具の代わりのソースまみれにしい!”って!」

アリナ
「アリナ、ケッコンしてないんですけど!?アリナと似た声の誰かダヨネ!?」

杏子(ドッペルVer)
「食いもん粗末にしてんじゃねぇ!」

かりん
「へぶっ!」

やちよ
「あら佐倉さん。その姿は……」

杏子
「ああ。作者がこの姿で出てくれってよ。一時期ドッペルを化身みたいに使えたらって話題があったが、まさか公式で出るとはな……ちなみにイナイレ風に呼ぶなら”ドッペルアームド”ってところか、だってさ」

やちよ
「半年以上空いた期間にやったイベントの事をここぞとばかりに持ってくるわね」

黒江
「アプリ版での私はこれからどうなっちゃうのかな……」

大丈夫だよ。これからきっと『恋の呼吸、壱の型』とか言って活躍するから。

黒江
「私、恋人と別れた魔法少女なんだけど」



明日人
「皆さん!アニレコなどの余韻に浸ってるところですが、挨拶させてください!お疲れ様でした!」

いろは
「明日人君!」

明日人
「アニレコの世界は公式いわく、アプリ版の世界の一部を例の女神さまが円環内にコピーし、足りない部分を他の事象で補完した世界とのことでしたが、いうならば、『円堂守伝説』のフットボールフロンティア編から分岐したアレス・オリオン(俺達の世界線)みたいなものだったのかもしれません」

いろは
「そうだね……でも、アプリ版でも実際あり得た展開だったかもしれないんだよね……第2部はハッピーエンドになるのかな…?」

明日人
「確かに不安ですが、俺達のやるべきことはまだまだ終わってませんよ!俺達の『グレートロード』や『まどマギSCENE0』があるんですから!」

いろは
「そうだね……立ち止まってはいられないよね!みんな、これからも頑張ろう!」



「「「おぉーーーっ!」」」



「立ち直って何よりね。でも、みんなその前に大事なイベントがあることを忘れてないかしら?」

いろは
「あ、あなた達は!?」

明日人
「現在、この小説でメインを張っている魔法少女、美国織莉子さんと呉キリカさん!」

織莉子
「そう、公式によると!ずっと魔法少女ストーリーしか出番がなかった私達のイベントが今年ついに行われるのよ!」

キリカ
「限定魔法少女は『織莉子・キリカ ブライダルVer』で決まりだ!」

織莉子
「というわけでそろそろ本編を始めましょう。それではみなさまごきげんよう」










みふゆ
「あの……みなさん私の事忘れてません…?やっちゃんまで……親友として嘆かわしいです……ぐすん」









―OP『情熱で胸アツ!』―


~~美国邸・朝~~

 

 

 

「行きましょう、キリカ」

 

「うん」

 

織莉子とキリカが誓いを立てた翌朝、制服を着た二人は玄関から出ようとしていた。普通の女学生なら何の不思議もない光景だが、そう呼ぶには相応しくないほどの悲壮感が漂っていた。

 

「どこ行くんすか」

 

二人を呼び止める声、それは二人の後ろで輝と共に立つ狩屋のものだった。二人は(いぶか)しげな顔で織莉子たちを見つめていた。

 

「キリカさん、そんな身体でどこに行くつもりですか。俺達だってわかってるんですよ。まともに動いていい身体じゃないって事」

 

「……それで?」

 

「行かせませんよ。ここで二人を行かせたら、二度とこの家に帰ってこない。そんな気がするんです」

 

不安げに語る狩屋と輝。しかし織莉子は振り向くこともなく淡と返した。

 

「その予感なら、きっと間違ってないわ。私達はこれから最悪の魔女の誕生を阻止しに行くから」

 

「「っ!」」

 

「もはや一刻の猶予もない。世界を救う為に決死の覚悟で向かうのは当然でしょう?」

 

「だったらなんで俺達に黙って行こうとするんですか?」

 

そう言いながら目を細める狩屋。しかし、二人は答えようとしない。

 

「それにキリカさん。どうして信助くん達と争ったんですか?」

 

今度は輝が問いかける。

 

「最悪の魔女との戦いの為にグリーフシードが必要なのはわかります。でも、それで争う必要なんてあったんですか!?最悪の魔女と戦うなら、雷門のみんなと力を合わせるべきですよ!」

 

訴えかけるように声を上げる輝。しかしキリカは返事を返さず、代わりに織莉子が答える。

 

「逆よ。それどころか、彼らが最悪の魔女を誕生させてしまう要因にもなりえるわ」

 

「なっ!どういう意味ですか!雷門が最悪の魔女を誕生させる…!?」

 

「答えるつもりはないわ。その代わり、教えてあげる。私が予知で見たもの……それは最悪の魔女によって、あなた達雷門が全員死ぬという未来よ」

 

「「!?」」

 

衝撃的な告白に二人は一瞬耳を疑う。

 

「最初は魔法少女でもないのに魔女と戦える力を持つあなた達に望みを託したわ。でも、それから何度予知しても、あの破滅の未来が変わることは無かった。それどころかあなた達があの魔女を誕生させてしまう事も時折あったわ」

 

「ぼ、僕達が…!?」

 

「そんな話、信じられるかよ!?」

 

「信じるも信じないも、私が視た予知に最悪の魔女を倒した後の未来なんて一度として映ったことは無い。それだけは絶対に揺るがないことよ」

 

「仮にその予知が本当だとして、どうして今なんですか?最悪の魔女が現れるのはまだ先じゃなかったんですか?」

 

矛盾していると言わんばかりに問い詰める狩屋。

 

「言ったでしょう、もはや一刻の猶予もないと。あなた達でもあの魔女を倒せないとわかった以上、この世界を守る為には、あの魔女を生まれないようにするしかないのよ。今すぐに」

 

そう語る織莉子の声は穏やかであるが、声色から決して揺るがぬ決意が感じ取れた。二人は圧倒され、何も言えなくなりそうだった。しかし、二人はどうしても織莉子達を止めたかった。そして輝は肩を強張らせ、拳を強く握りながら、止める理由を喉から必死にひねり出した。

 

「猶予が無くなったのは……本当に僕達に対する期待だけなんですか?」

 

「何が言いたいのかしら」

 

「キリカさん……最悪の魔女と戦う前に、死んじゃうんでしょう…?」

 

「…!」

 

輝の指摘に織莉子はピクンと肩を震わせる。

 

「ただ死ぬんじゃない、どんな姿になり果ててもってどういう意味ですか!?キリカさん、一体何をするつもりですか!?」

 

「……聞いてたんだね、昨日の事」

 

キリカは仕方ないというように小さく溜息を吐いた。

 

「二人とも、知ってること全部話してください。俺達に隠し事したまま置いていくつもりなら、絶対行かせませんよ」

 

「まずはキリカさんの命を助ける方法を考えましょう!最悪の魔女はそれから……」

 

 

 

ズム。

 

 

 

「「え…」」

 

二人の腹に突如、重い感覚がのしかかる。下を見ると自分達の腹に織莉子の水晶がボディーブローのようにめり込んでいた。

 

「あ…?」

 

「お、織莉……」

 

水晶が煙のように消えると、二人は前のめりに倒れる。

 

「心配してくれてありがとう、二人共」

 

いつの間にか変身していた織莉子が振り向く。倒れる二人を見下ろすその目は、いつも二人に向けているものと同じ、見守るように穏やかなものだった。

 

「大丈夫よ。手加減してるからケガはないわ。その代わり、事が終わるまで眠っててちょうだい」

 

「織莉子、さ……」

 

「今までご苦労様。あなた達のおかげで、十分な量のグリーフシードが手に入れられたわ。殺さないのはせめてもの礼よ」

 

「ぐ……」

 

二人は必死に立ち上がろうとするが、腹に叩き込まれた痛みのせいで意識が朦朧としていた。

 

「今になって、あなた達と出会った時の事を思い出すわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~回想・美国邸~~

 

 

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

それはキリカが魔法少女となり、織莉子と知り合えた直後。キリカは美国邸の庭に置かれたテーブルで鼻歌を歌っていた。それはまるで何かを心待ちにしているようだった。

 

「楽しそうね、キリカ」

 

そう呼びかけられると、キリカはパアッと笑顔になって振り返る。そこにはお盆にティーセットを乗せた織莉子が歩み寄っていた。

 

「そりゃ君とのお茶会だよ。こんなにも素敵なパーティーは他に無いよ」

 

「そう言ってくれると嬉しいわ」

 

織莉子はお茶会の準備をしながら返事を返す。目の前でソーサーやカップが並べられていく様子にキリカの期待が高まっていく。しかし、準備が終わると怪訝な顔で尋ねた。

 

「アレ?織莉子、何でカップが4つもあるんだい?」

 

キリカの言うとおり、目の前のテーブルにはティーセットが何故か4人分用意されていた。自分達二人しかいないのに、椅子まで用意されているのは何故なのか。

 

「そろそろお客様が来るからよ」

 

「え?」

 

キリカが呆けた声を出すと、織莉子の視線の先に光が現れる。

 

「「うわあああっ!」」

 

そこから輝と狩屋がボールと共に落下してきた。

 

「いたた……アレ、ここは?」

 

「何だい何だい君達は!?私と織莉子の聖域(サンクチュアリ)に土足に踏み込んでくるなんて、どこの()(おとこ)達だい!?」

 

「ええっ!?」

 

「い、いや、俺達にも何が何だか……」

 

突然飛ばされてきたというのにいきなり食って掛かれて困惑する二人。

 

「落ち着いてキリカ。彼らだってまだ状況がわかってないんだから」

 

そう言うと織莉子は狩屋達の前に立ち、優しく微笑む。

 

「「………」」

 

傍から見たら美人といえる織莉子の笑顔に、思わず二人の顔も赤くなった。

 

「とりあえず、お茶にしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ…!この紅茶、凄く美味しいです!」

 

「ふふ。口に合って良かったわ」

 

織莉子は三人を座らせ、紅茶を淹れていた。紅茶の豊かな香りが輝と狩屋の心を落ち着かせる。

 

「僕は影山輝っていいます」

 

「俺、狩屋マサキです」

 

「私は美国織莉子よ。この子は呉キリカ」

 

「………」

 

織莉子が視線を向けるが、キリカは仏頂面で黙ったまま紅茶に角砂糖を3個入れていた。

 

「あの……なんかいきなり嫌われてるんですけど」

 

狩屋が困惑の顔で織莉子に呼びかける。

 

「キリカ、失礼でしょう。ちゃんと挨拶しなきゃダメよ」

 

「だって彼らは私と織莉子の聖域(サンクチュアリ)に侵入してきたんだよ。邪険にもしたくなるさ」

 

「そう言われたって、俺達も不可抗力ですよ。てか聖域(サンクチュアリ)って……」

 

「まあ、確かにそう言いたくなるような素敵なお庭ですよね」

 

そう言いながら周りを見渡す輝。色とりどりのバラが咲き乱れており、まるでおとぎ話に出てくる花園のようだった。

 

「そうだろう、そうだろう。織莉子の庭はこの世で一番キレイな庭さ。確か、あれがドロレスで、あっちがストロベリーカップ。あれがコーデリアだったか……」

 

「へえ。キリカさんって、バラに詳しいんですね!」

 

「私も初めて知ったわ。そんなに好きならもっとたくさん植えましょうか?」

 

意外だったように織莉子が尋ねる。すると何故かキリカはキョトンとした顔で固まった。

 

「へ?え?」

 

「あら、どうしたの?」

 

「あれ?織莉子が好きなんじゃないの、バラ」

 

「お父様が好きだったのよ」

 

「へぇ……それじゃあ、この情報は記憶から削除しておくよ」

 

「「……は?」」

 

素っ頓狂なキリカの発言に今度は輝と狩屋が固まった。

 

「せっかく覚えたのにもったいないわ」

 

「いやいや、もったいないのは私の頭の容量だよ。私は君以外の情報なんていらないのさ」

 

「「………」」

 

狩屋達は思った。―――この人、やっぱり変な人だ。

 

「キリカ。それではあなたは無知な子供になってしまうわよ?」

 

「むう……そうやって君はいつも私を子供扱いするんだ。たった121日と3時間年上なだけでさ!」

 

「よく覚えてるな……」

 

呆れを通り越して感心する狩屋。一方でキリカは「じゃあさ!」と、言葉を続ける。

 

「”君のお父様が好きなものならもっと知りたい”と私はこう答えるべきだったの?」

 

「それは困るわ。私はお父様を尊敬してるのに、あなたがお父様に興味を持ったら、お父様に嫉妬してしまうかもしれないわ」

 

「なんだい、矛盾してるなあ。織莉子の方がワガママな子供なんじゃないの?」

 

キリカが意地悪に言うと織莉子はキッと睨みつけてきた。予想外の反応にキリカは「うっ!?」と、蛇に睨まれた蛙のように怯むと慌てて許しを請う。

 

「え、ええ~!ヤダヤダ怒らないでよ!君に嫌われたら私は腐り果ててしまうよ!」

 

「け、ケンカはダメですよ!落ち着いて……」

 

輝もなだめようと思わず立ち上がった直後、

 

「みんな、そのまま動かないで」

 

織莉子は睨みつけた方向を向いたまま呟く。すると彼らのすぐ傍に巨大な剣のようなものが突き刺さった。

 

「な、なんだあ!?」

 

狩屋が驚いていると、剣が刺さった部分から魔女の結界が広がっていった。

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「な、何だコレ!?」

 

「どこですか、ここ!?」

 

周りの景色が変わり、何が起こったのかわからない狩屋と輝は混乱するばかりだった。

 

「ああ!前から思ってたんだよね。この家にあるといいなって」

 

キリカが呑気に言うと、4人の目の前に巨大な鎧型の魔女が現れた。

 

「よ、鎧……?」

 

「ブルジョアは鎧を置くのがしきたりなんでしょ?」

 

「初耳だわ…」

 

キリカの間違った知識に苦笑いする織莉子。そうしている間に魔女は腕を振り下ろしてくる。

 

「「う、うわあああっ!!!」」

 

狩屋と輝が思わず叫ぶ。しかし、振り下ろした腕は彼らに当たることなく、テーブルの真上でピタっと止まる。変身したキリカが魔女の目の前で飛び上がったからだ。

 

「と、飛んだ!?」

 

「てか、服が変わって…」

 

キリカの跳躍と変身を見て驚く輝と狩屋。そんな二人とは対照的に、織莉子は席に座ったまま角砂糖の皿をもって尋ねた。

 

「キリカ、紅茶に砂糖は何個入れる?」

 

「3個!あとジャムも3杯!」

 

「まるでシロップを飲んでるみたいね」

 

魔女の切っ先を前にしても、織莉子は座ったまま全く動じない。そのあまりにも異様な光景に輝と狩屋はただ唖然とするしかなかった。

 

「もう!そーやってまた子供扱いして!織莉子なんか……織莉子なんか……」

 

「嫌い?」

 

 

 

「―――だいっ好き!」

 

 

 

キリカは歓喜の声で叫ぶと両手の爪で魔女の体を交差切りにする。そしてそのまま魔女の頭に乗ると、魔女はダルマ落としのように崩れ落ち、キリカの乗った頭だけが地面に残った。

 

「私と織莉子の邪魔をするなんてとんだ間女だよ。ま、大したことなかったけどね!」

 

フン、と崩壊した魔女の頭の上で鼻を鳴らすキリカ。

 

「お見事だわ、キリカ。ただ……」

 

「ん?」

 

「「あわわわ……」」

 

「紅茶が台無しになってしまったけど……」

 

織莉子はやれやれと溜め息をつき、輝と狩屋は腰を抜かしていた。魔女が倒されたことによって、真上で止まっていた腕がテーブルに落下し、ティーポットもろともメチャクチャになっていた。

 

「うわあああーーーーーーーーっ!!!」

 

その惨状にキリカの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「くか~……むにゃむにゃ……」

 

「もう……世話の焼ける子だわ」

 

「散々泣きわめいた挙句、疲れて寝ちゃうなんてマジで子供みたいな人っすね……」

 

織莉子に膝枕されながらイビキを掻いて眠るキリカに呆れる織莉子と狩屋。

 

「それより、なんだったんですか、今のは……」

 

輝が織莉子に問いかける。突然の出来事の連続で未だに頭が付いていけてなかった。狩屋も全く同じように視線を向けると、織莉子は「フフ…」と不敵な笑みを浮かべた。

 

「それも踏まえて、お話ししないとね」

 

それから狩屋達はいろんな話を聞かされた。魔法少女や魔女の事、織莉子達や予知魔法の事、予知によって見えた最悪の魔女の事も。二人は織莉子の家に居候することになり、雷門の皆を探しつつ魔女退治を手伝うことになった。来るべき最悪の魔女との戦いに備えて。

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

「私の目的の為に利用しようとしたのは本当よ。でも、いつの間にか弟達が出来たような気分になってた」

 

目を閉じてそれまでの日々を思い出す織莉子。父が亡くなってからは罵声と絶望にまみれた、孤独の日々でしかなかった。しかし、キュゥべえに願って魔法少女になり、最愛のパートナーであるキリカと出会えた。そして輝や狩屋とも出会い、3人と共に魔女を倒したり、一緒にゲームで遊んだり、お茶会も何度もした。モノトーンだった自分の世界は再び色づき始めたのだった。

 

「楽しかったわ。キリカやあなた達と過ごす日々は。だけどそれも、もうおしまい。所詮、最悪の魔女が誕生するまでの泡沫(うたかた)の夢に過ぎなかったのよ。私はその時計の針を進めただけ」

 

織莉子自身、この日々がずっと続けばいいと思ったことはあった。しかし、傷つく事で生まれた自身の願い、視えてしまった破滅の未来、そしてキリカの覚悟から目を背けることは出来なかった。

 

「私達はもう立ち止まれない。大丈夫、目覚めた時には全て終わってるから」

 

「く、くそ……」

 

「ダ、ダメです……織莉子、さ……」

 

悔しげな呟きを最後に、二人は気を失う。それを確認した織莉子は踵を返す。

 

「行くわよ、キリカ」

 

「うん」

 

織莉子達は倒れている二人に目もくれず、外へ出る。そして静かにドアを閉じた。

 

 

 




はい、というわけ皆様お久しぶりです。


アニレコはすごかったですね。作者もちょっと泣きましたが
公式ツイートと時間の経過であのように結論づけました。


この小説もハッピーエンドを目指しているつもりなので
少しでもアニレコでショックを受けた皆様の傷が癒せたらと思います。



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