ガンダムビルドファイターズ ザ☆チェイサー (大井忠道)
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第0話 降り立った魔進

完全に趣味で書き始めた小説です。

好きなものと好きなものを掛け合わせてみました。

肩の力を抜いてお楽しみください。


 

 

『人間が俺にくれた・・・宝物だ・・・。

 

 俺とお前はダチではないが、持っていてくれ。

 

 燃えてしまうともったいない・・・。』

 

自分を支えてくれる男に「宝物」を渡す。そして彼は体を光らせ、目の前の金色の装甲をまとった敵にしがみついて爆発した。

 

『チェイスゥーッ!!』

 

「彼」が最後に見たのは、自らの名を呼んでくれる「ダチ」の姿であった。

 

 

 

 

そしてはっと目を覚ます。それと同時に体に鋭い痛みが走った。思わず体をうずくませる。なんとか顔だけを持ち上げると、霞んでいた景色がはっきりとしてきた。

 

雨。

 

雨が降っている。そして、自分がいるところは林だろうか。木々が生い茂っていることから、そう判断したのだがその向こうには高層ビル。林ではなく、緑地公園らしい。

 

また彼は、ここである違和感に気付く。痛みだ。前の体でも痛みを感じることはあった。だが今はそれとはまた違う痛みを感じている。

 

その痛みになんとか耐え、歩き出す。がさり、がさりと重い足取りだ。なんとかベンチに着き、座る。

 

雨にずぶ濡れになりながらも今の彼に出来ることは、ベンチに座ることで精いっぱいだ。天を仰ぐが、灰色の空が広がるのみ。

 

 

 

そういえばあの日も、このような雨だった。

 

 

 

体が冷え切っていく中で、彼は昔のことを思い出していた。だが彼の体はどんどん沈み込み、ついには寝そべるように倒れる。

 

徐々に意識は薄れ、まぶたが閉じられていった。

 

 

 

 

軽快な足音が路地に響く。それに追随するように足が水を弾く音もする。その音の主は、やや小柄な男子高校生のものだった。

 

燃えるような赤い髪を持ち、幼さの残る顔つきをした男子高校生は、雨の降る中を駆けていく。悪天候や傘という条件があるのにも関わらずその足取りは非常に軽快だ。

 

街角を過ぎたところで気まぐれを起こし、道を変える。少し先へと走ると、公園が見えてきた。

 

そこで男子高校生は、ふと公園に目を移した。公園の中には人がいない。そりゃそうか、と顔を戻そうとしたときにある違和感を覚えた。

 

ベンチに誰かが寝ている。

 

この土砂降りの中寝ているのだ。心配になり、ベンチの下へと向かう。寝ていたのは、紫の服をまとった青年であった。年齢は20歳代だろうか。

 

「お兄さん、お兄さん!風邪ひきますよ!」

 

肩をゆするが一向に起きない。仕方なく強くゆすってみるものの、それでも起きない。声を大きくしても、起きない。

 

さすがにここまで来ると少し心配になってくる。呼吸をしているかどうか確認する。

呼吸はやや荒い。

 

熱を測る。体温は冷え切っている。脈を測る。こちらは正常のようだ。

 

だが、このままにしてもおけない。しかも今日という日に限ってスマホを家に忘れてしまい、救急への通報もできない。

 

仕方ない、と男子高校生は青年を担いだ。どこからその力が出ているのかと疑うほどである。

 

ただし体のサイズ差はいかんともし難く、その面では運ぶのに苦労しているようだ。

 

小柄な男子に青年が支えられるという特異な光景が街の中を駆けて行った。




今後は仮面ライダーでできた人物のそっくりさんも出てくる予定です。

不定期更新なのでペースが遅いと思います。


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第1話 目覚めた魔進

時系列はアイランドウォーズ終了後の秋です。


再び目が覚めた。

 

今度は雨も降っておらず、光も差し込んでいる。体も暖かく、実に快適だ。

まぶたをしっかり開くと、白い空と楕円の太陽が飛び込んでくる。

 

否、それはよく見れば天井と電灯であった。天井と電灯がある、ということはここはどこかの部屋だということになる。

 

勢いよく上半身を起こすと、やはりそれはどこかの部屋の中であった。また、自分はベッドに寝かせられていたということも分かる。

 

先ほどまでは雨の降りしきる公園にいた。ベンチに座り、そのまま寝込んでしまったため、もしかしたら誰かが自分を室内へと運んだということになる。

 

自分は痛みに苦しんでいた。それならば、運ばれたとなると病院だろうか。しかし、それには無駄なものが多すぎると考えていた。

 

木でできていると思われる机に、スポーツ選手のポスター。大きな窓と、横には様々なものが入っている棚がある。

 

そもそも自分が寝ていたベッドも木製で、布団も病院にあるようなカッチリとしたものではない。

 

目線を移すと、横の壁に自紫に染め上げられた上着がかけられている。代わりに自分が着ていたのは、まっさらなTシャツであった。

 

着替えまでさせてくれたのか、と関心したところであることに気が付く。公園にいるときに感じていた、鋭い痛みが消えていた。

 

体のあらゆるところを触るが、それでも痛みはやってこない。おおかた引いたのだろう。

再び思考を今いる場所の詮索に巡らせる。

 

部屋の状況から、病院ではないことは確かだ。どうやら個人の家の部屋、それも子供の部屋だろう。

彼自身、誰かの子供部屋に行ったことは無かったが図書館で吸収した知識を引っ張り出してそう結論付けた。

 

ベッドから下り、室内を散策する。勉強机にはたくさんの教科書やノートが並んでいた。それらに書かれている文字から、どうやらこの部屋の主は高校生のようだ。

 

次は棚を見てみる。何やらロボットのフィギュアもあるが、それよりも目を引くのはトロフィーだ。台座には英語で何か書いてある。

 

「優勝・・・ガンプラバトル・・・。チームトライファイターズ・・・。」

 

目につく文字をそう読む。下には三人の名前が彫ってあった。

 

「カミキ・セカイ。コウサカ・ユウマ。ホシノ・フミナ。」

 

このトロフィーがここにあるということは、この中の誰かの部屋だということになる。また、ガンプラバトルというのも興味を誘った。

 

「ガンプラ」というものは、うっすらとしか記憶が無い。確か、アニメのロボットの模型だったか、と記憶を引っ張り出す。

 

模型のバトル、とはどういうことだ?と疑問が膨らんできたところでドアが開き、声がした。

 

「あっ!」

 

どうやら部屋の主が帰ってきてしまったらしい。彼はトロフィーを元の場所に戻し、ベッドへと戻る。寝るのではなく、そのまま座った。

 

「目が覚めたんですか!大丈夫ですか?」

 

しかし部屋の主、赤い髪の少年は怒ることもなくそのまま彼を心配する。

 

「俺は大丈夫だ。それよりも・・・。」

 

ちらっとトロフィーを見た。

 

「俺の今いる状況確認とはいえ、勝手に私物を触ってしまった。これは人間のルールに反する。申し訳ない。」

 

「ああ、そんなの全然いいですよ!それよりも、良かったです!目が覚めて!」

 

少年曰く、やはり公園で自分は倒れ、そこからわざわざ自分の家まで送り届けてくれたという。

 

「病院には送り届けなかったのか?」

 

「病院は少し遠くて。近くの医院も今日の午後は休診でしたので、連れ帰りました。なによりも体の冷えが酷かったので、今暖房をつけてるんです!」

 

見るとなるほど、暖房が唸りをあげて働いている。

 

「すまないな。手間暇を取らせてしまった。」

 

「困った人がいれば助けるのは当然ですよ!」

 

屈託のない笑顔で答える少年。ギアの入った時のあの刑事を思い起こさせた。

刑事。

ハッと彼はある重要なことを思い出し、少年を見る。普通に動けているのを見る限り、重加速は今は起きていない。悪しき野望は打ち砕かれたとみていいだろう。

 

「大丈夫だったのか?」

 

「ん?何のことですか?」

 

「世界規模で起きた重加速だ。お前の生活にも影響を及ぼしたのだろう。だがもうその脅威は去ったようだな。」

 

少年はキョトンとした顔でこちらを見ている。そして、その口から開かれたものは意外なものだった。

 

「ジュウカソクって何すか?」

 

重加速を知らないのだ。ならば今度は一般での通称「どんより」を用いて同じ質問をしてみるも。

 

「どんより?ん~、知らないですねぇ。」

 

「どんより」も知らないとは不思議である。「重加速」は確かに警察全体や特状課で主に使われていたために一般人が知らなくても無理はない。

 

だが目の前の少年は一般社会で通じていた「どんより」すらも知らないという。何か変だ。

 

「どんよりは、いきなり自分の動きが非常に重くなる現象だ。それはロイ・・・怪物が起こすのだが・・・。知らないのか?」

 

「怪物が起こす現象、ですか?そんなのは聞いたことがないですね・・・。」

 

その後、仮面の戦士や怪物についても聞くもこちらもやはりダメであった。特に仮面の戦士については、過去の目撃例やニュースになったことなど具体的例を出したがなんと聞いたことすらないという。

 

「五年前は何があったか分かるか・・・?」

 

これならば誰でも答えられるはずだ。何せ、世界規模の重加速が起こり、大惨事になったのだから。

 

「五年前・・・。俺は師匠と一緒に修行してましたが。」

 

「世界規模でだ。」

 

「世界規模ですか?特に何かあった感じは・・・。」

 

う~ん、と考え込む少年を見て彼もまた考え込む。この様子だと「ない」という返事が返って来るのは明白だ。

ならば、と今度は彼が気になっていることを尋ねてみる。

 

「そういえば気になったのだが・・・。」

 

すっと指を差す。その先には先ほど無断で見てしまったトロフィーがあった。

 

「あのトロフィーに書かれてあるものは何だ?」

 

「トロフィーですか?」

 

少年の顔が明るくなる。ウキウキした様子でトロフィーを取り出した。

 

「へへ、これは俺、いや、俺達が去年のガンプラバトルで優勝した時のものなんですよ!」

 

「ガンプラバトル?」

 

やはり聞きなれない単語だ。トロフィーにも書いてあったが、何なのか。

 

「ええ。知らないですか?ガンプラバトル。」

 

「知らない。」

 

「まあ、俺もやるまでは知らなかったんで人のこと言えないんですが・・・。ガンプラっていうプラモデルを専用の機械にかけるとバトルが楽しめるんです!」

 

「ガンプラ・・・?」

 

「もしかしてガンプラ、見たことがないんですか?」

 

話には聞いたことはあるが実物は見たことが無い。

 

「アニメの『ガンダム」っていうのがあってそこに出てくるモビルスーツっていうロボットのプラモデルなんですよ。」

 

ガンダム。聞いたことはあり、また少しだけではあるが情報も得た。だが具体的なものは吸収していなかったのである。

分かったのは「ガンプラ」が「ガンダムのプラモデル」の略だということだけだ。

 

「すまない。何も分からない。」

 

「いや!いいんですよ!俺も始めるまではガンダムのガの字すら知りませんでしたし!それに・・・。」

 

笑った顔が苦いものに代わる。

 

「今でもあまり分からない部分もあって・・・。」

 

なるほど、ガンダムとは一筋縄でなんとかなるものではなさそうだ、と感じた。

 

「すると、ガンダムも・・・。」

 

「ああ、名前を少し聞いたくらいだ。」

 

「そうですか・・・。」

 

「すまない。それで、そのトロフィーは・・・。」

 

「あっ、で、これなんですけど。そのプラモを使ったバトルをそのまま『ガンプラバトル』って言うんです。大会があって、俺はチームを組んで出ました。様々な敵と出会い、強敵をなんとか打ち破って日本一に輝いたんです!」

 

眩しいほどに目を輝かせて力説する少年。だがこちらにとっては全くピンと来ない。

 

「これはその時にもらったトロフィーなんです。本当はウチの学校の部室にあるんですけど、なんか今工事してるらしくて、ここに仮置きしてるんですよ。」

 

なるほど、と相槌をうつ。しかし「部室」という言葉が出るとなると部活でやっていると考えた方がよさそうだ。

部活や大会ができるほどのものと考えると「ガンプラバトル」とはかなり大きなものらしい。

 

だが、そのようなものを聞いたことが無い。少年にも聞いてみるが、マスコミでも取り上げられるほどのものだという。

自分はそのマスコミをも使って人間社会を勉強してきたが、ガンプラバトルを見たことは無かった。

 

そのことを伝えるも、少年は普通に「ガンプラバトルを知らない」ことを受け入れた。理由はやはり「自分も知らなかった」からだという。だが肝心の重加速などについての事象はサッパリであった。

 

「何か、力になれなくてすみません・・・。」

 

「いや、こっちもすまなかった。助けてもらったのに質問ばかりして困らせてしまった。」

 

「そんなことないですよ!俺は何とも思ってないです!」

 

そうか、と返事をして立ち上がる。ハンガーにかかった自分の上着を羽織った。

 

「あれっ、もしかして・・・。」

 

「帰らなければならないところが・・・。」

 

ここで致命的なことを思い出した。バイクは置いてきてしまい、またお金も一銭も持ち合わせていない。むろんお金をせびるのも論外である。

 

「帰らなければならないところが?」

 

「無い。」

 

「えっ。」

 

時が止まったようであった。しばらくそのまま固まっていた。

 

「無いというのは、金だ。場所は分かっている。」

 

「じゃ、じゃあどこですか?」

 

「台東区久留間だ。」

 

「久留間・・・?」

 

検索をスマホで行いだす少年。やがて画面から顔を上げると、その顔が怪訝な表情に満ちていた。

 

「そんな地名、ないです。」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

ホラ、とスマホを差し出してくる少年。指を台東区内で精いっぱいピンチアウトして移動させても確かに見知った地名は無かった。

 

「ちょっと待ってください。知人に連絡してみます。お名前は?」

 

そう聞かれ、青年は初めて名前を口にした。

 

 

 

 

「チェイスだ。」




この文章を書いている途中、ふと思いました。

ガンダムの世界に仮面ライダーキャラ→これウルトラマンもいたらコンパチヒーローズにならね?→ウルトラマンのキャラも出す予定立ててみるか

そんな感じでバトルが始まればウルトラマンキャラも出すと思います。
それよりもまずはバトルシーンに辿りつかねば。



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第2話 さまよう魔進

なんやかんや色々ありまして、前回の投稿から半年も経ってしまいました。申し訳ございません。
さて、異世界に飛ばされたチェイスはこれからどうするのか。第2話、始まります。


少年が誰かに電話をかけている。

その様子を見ていたチェイスはすることもなく、ただベッドに腰かけていた。

 

「俺の知り合いの人に電話して、送っていただくよう頼みました。ちょっと待っててくださいね。」

 

「そうか。分かった。」

 

そこで、はたとチェイスは気付く。

 

「そういえば、名前を聞いていなかったな。何というのだ。」

 

「俺はカミキ・セカイって言います!」

 

「ならば、セカイ。世話になった。またどこかで会おう。」

 

「はい!また会えるのを楽しみにしてます!チェイスさん!」

 

そこから数分後、車の音が聞こえてきた。恐らくセカイの「知り合い」のものだろう。

 

「もう着いたようですね。」

 

「邪魔をした。失礼する。」

 

「はい!また良ければ、この町へ来てください!その時にはガンプラバトルを教えますよ!」

 

「分かった。その時は頼むぞ。」

 

はい!と元気な返事を受けつつチェイスは部屋から出る。続いてセカイが玄関へと彼を先導した。

玄関から出ると、ジープが目に入る。運転席から降りたのか、運転手の姿もあった。

 

「おお、セカイくん。この青年かね。」

 

「そうです、ラルさん。すいません、こんな時間に…。」

 

「何、構わんよ。今日はバーも休みで暇をもて余していたからね。」

 

ラルさんと呼ばれるこの男性が、セカイの知り合いのようだ。

これから少しの間お世話になるであろう男性にチェイスがあいさつをする。

 

「ラル…さん。」

 

「チェイス君、だったかな、どうしたのかね?」

 

「よろしく頼む。」

 

ああ、と返事したラルさんであったが、チェイスの目を見てあることを思っていた。

 

(この青年…同年代から感じるそれとは違うオーラを感じる…。いくつもの修羅場を潜り抜けてきたような…)

 

「ラルさん?」

 

じっとチェイスを見るのを奇異に感じたセカイが声をかける。

 

「おっ、すまない。いや、いい目をしているな、と思ってな。さ、チェイス君、車に乗りたまえ。」

 

そう促され、チェイスは助手席へ乗り込む。

 

「では、また会おう。セカイくん。」

 

「はい!チェイスさんも気をつけてくださいね!」

 

「ああ。それと…ありがとう。」

 

「いいですよ!ではまた!」

 

その様子を見たラルさんは車を闇夜の街へと走らせていった。

 

 

 

 

「それで、キミはなぜ公園にいたんだね?」

 

道中、話しかけてきたのはラルさんであった。セカイからことの成り行きは聞いていたが、気になるのはやはりチェイスが公園にいた理由である。

 

しかし、この質問にはチェイスも

「分からない。」

と答えるしかなかった。むしろなぜここにいるのか知りたいのはチェイス自身であろう。

 

「だが、公園にいた前の記憶はあるだろう?」

 

ラルさんのその問いかけにもチェイスは少し考える。

セカイが仮面ライダーや重加速等を知らないとなると、ラルさんも知らない可能性がある。

とりあえず意を決し、再び自らの境遇を語った。

 

「…。」

 

ラルさんの顔が固まった。

 

「運転中に余所見をするのは危険だ。」

 

チェイスが足を伸ばし、ブレーキを踏む。いつの間にか赤信号の灯る交差点に差し掛かっていた。

 

「す、すまない。」

 

「やはり無かったようだな、仮面ライダーも。重加速も。」

 

「ああ。そして、君はその前線で戦い、散ったと。」

 

「そうだ。」

 

「・・・逆にガンプラバトルなるものは無かったと。」

 

「そうだ。」

 

「ふーむ…。」

 

ラルさんはそう唸って考え込み、

 

「信号が青だ。」

 

またもやチェイスから注意されたのだった。

 

 

 

 

「信じられないとは思うが、恐らく君は異次元世界から来たのだろう。」

 

深夜のコンビニのイートインコーナーでラルさんがそう告げる。

じっくりと話をしてみたいと考えた彼がコンビニに寄ったのだ。

 

「異世界・・・。」

 

チェイスにとって異世界とは、本で学んだ知識でしかなかった。

現在生きているこの世界とはまた違う別の世界。

そこでは、科学がさらに発達していたり、さらには魔法と呼ばれる超現象があるというのは

知っている。

 

また、チェイスは異世界の存在を完全に否定しているわけではない。

魔進チェイサー・仮面ライダーチェイサーとして戦った年の前年に、

沢芽と呼ばれる街で異世界から植物が侵攻した事件を知っているからだ。

 

「君の世界では、そのような事件があったが、我々は知らない。

 反対に君はこの世界ではメジャーなガンプラバトルを知らない。

 これは、君が次元を超えたことしか説明がつかないのだよ。」

 

一方のチェイスはというと、いつもどおりのポーカーフェイスであった。

ラルさんに買ってもらったミネラルウォーターを飲んでいる。

だがその目は遠くを見ているようであった。動揺しているというよりは、

頭が混乱しているといった感じであろう。

 

「まあ、チェイス君も混乱しているだろうが・・・。」

 

「ラル・・・さん。」

 

「どうしたね?」

 

「なぜ異世界から来たという仮説を立てられる?」

 

チェイスの質問はもっともであろう。普通の人であればチェイスの話すことは

なかなか信じてもらえない。

対してラルさんは「異世界」という仮説を立て、チェイスの話すことを信じている。

 

「私にも異世界から来たらしい知り合いの少年がいてな・・・。」

 

「何・・・?」

 

「その知り合いが言うには、海を体験したことがないらしい。

 また、前に話した時も街が丸いという話を聞いた。それに、自分は王子だと。

 海を体験したことがないことや王子であることは『そういう国』だと判断すればいいが、

 『街が丸い』というのは地球上にはない。」

 

「街が丸いというのは、それは普通ではないのか?」

 

「君が思っている『丸い』というのは、二次元的に丸いという意味なのだろう?」

 

ラルさんが軽食として買ったせんべいを見せる。

 

「しかし、話を詳しく聞くと、君が持っているペットボトルのように

 筒状になったというのだ。こんな街はこの地球上にはない。」

 

筒の街というと、チェイスは一つのことを思い出した。

宇宙についての本を読んでいた際、計画されていたという「スペースコロニー」だ。

宇宙に浮かぶ円筒形の街であるが、もしやその知り合いもコロニーのある世界から

来たというのか。

 

「結局彼はこの世界を去ってしまったが、私はあの少年の言動からして、平行世界から来たのだろうと考えている。君もおおよそ違う世界から来たのだろう。君の知るものはここにはなく、君はこの世界の文化を知らない。それが、君が平行世界から来た証だ。」

 

にわかには信じられないが、こうも言われれば信じるしかない。チェイスはそう感じた。

 

ならば、今のチェイスは気になることはただ1つ。

 

「俺は、どうすればいい。」

 

「ううむ、そうだな。とりあえず今は私の家に来るかね?」

 

「いいのか?」

 

「何、構わんよ。少し部屋は狭いがね。」

 

「…ならば、そうさせて…。」

 

「どうしたね?」

 

「ありがとう。こういうときはこういうのがルールだからな。」

 

「ハッハッハ、堅いな。楽にしてくれたまえ。とりあえずまずは私の家に行くぞ。」

 

再び車へ戻る二人。その頃チェイスはこれからどうするべきか、頭の中で色々考える。

 

夜はまだ、長い。




恐らくビルドファイターズ系の小説でオッサンと青年の二人暮らしを書いてるのは珍しいと思いますが、展開的にはこれがいいと信じて突き進んでおります。


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第3話 触れる魔進

いよいよガンプラバトルに触れるチェイス。まずはガンプラについて簡単に知るようで。


「さぁ、入ってくれたまえ。少し散らかってはいるがね。」

 

ラルさんの家へと招かれたチェイス。プライベートルームへと入ったチェイスは中の様子に目を見張った。

 

部屋の壁に沿うように棚が並べられ、そこには所狭しとフィギュアが並べられている。これもガンプラなのだろうか。

 

チェイスは棚に近づき、ある一段を見る。セカイの部屋で見たものとは違ったタイプのものがサイズも大小様々に並んでいる。

 

「セカイのものとは違うな。」

 

「セカイ君の部屋にあったものはいわゆるガンダムタイプと呼ばれるものだな。」

 

「ガンダムタイプ?」

 

ラルさんが本棚から雑誌を取りだし、誌面を見せる。

 

「RX-78-2…。」

 

「これはセカイくんのもつものの元祖とも言える機体。ガンダムだ。俗にはファーストとも呼ぶ者もいる。」

 

「ファースト…。」

 

「セカイくんのものは後継機というよりは、派生型と言った方が君には分かりやすいかな。」

 

このファーストというガンダムはいわば自分、そしてその他のロイミュードがセカイのもの、チェイスは頭の中でそう片付けていた。

 

「ならば、この棚にあるものは…。」

 

「それはガンダムの対となる存在のものだ。ガンダムからしてみれば敵だな。」

 

「敵…。」

 

見るとなるほど、その多くが1つ目でガンダムのようにヒロイックなものは無い。

 

「まあガンダムという作品は兵器がこのロボ…あぁ、モビルスーツというのだがね、これを使った戦争もののアニメだからね。人気があるのは、主人公格であるガンダムだが、アニメを見る側からはこのようなカウンターキャラにも人気が出るのだよ。」

 

アニメとはいえ、敵にも人気が出る。忌み嫌われていたロイミュードであった自分から見ると、チェイスはそれが少し羨ましく見えた。

 

「この中で、チェイス君の心に触れるものはあるかな?」

 

「心に触れるもの…。」

 

チェイスはあるガンプラを指差した。

 

「俺と同じ紫色をしている。」

 

「プロポーションは大きく違うがね。ドムという機体だ。だがこんな姿でもホバーにより、機動力は目を見張るものがあるのだよ。」

 

「ホバーということは、浮くのか。」

 

「浮くのだ。」

 

チェイスはドムをじっと見た。

 

「これもラル…さんが作ったのか。」

 

「そう。この棚にあるもの全て、私の作品だ。」

 

「全部…。」

 

ざっと数えて百以上は確実にあるガンプラ。その全てをこの男は一人で作った。その事実にチェイスはただただ圧倒されるばかりだ。

 

「今も作っているがね。こちらはオリジナルのカスタムなのだが…。」

 

「オリジナル?」

 

「自分で考えて、いろんな部品を持たせたり作ったりして元のガンプラの姿を変えるのだよ。」

 

「改造、ということか。」

 

「そうだね。これもそうだ。」

 

ラルさんは今度は青いドムを見せる。

 

「これは先程のドムを改造したものだ。名はドムR35。世界に1つしかない、私だけのドムだよ。」

 

違うのは色だけではない。武装もトゲのついたシールドを両手に持っている。

 

「武器も考えたのか。」

 

「そうだ。我ながら自信作だよ。」

 

チェイスはラルさんの顔を見る。その顔は喜びに満ちた笑顔だ。

 

これこそが、チェイスが守りたかったもの。溢れる人々の笑顔。人々の個性が光り、輝きを世界。

 

この世界は、ロイミュードその他のような人類の天敵はいない。ガンプラによってみんなが楽しく生きていけている。

 

この世界でならば、自分も人間を理解できるだろう。

そして、この世界にも「ダチ」が…(剛や霧子などがいなさそうが残念だが)

 

そう思ったチェイスは早速ラルさんに頼みこんだ。

 

「俺も、ガンプラに触れてみてもいいか。」

 

「ほう、興味が出てきたか?」

 

「ああ。だが、詳しくは知らない。明日、どこかへ行きたいのだがどこへ行けばいいだろうか。」

 

ふーむ、と考え込むラルさん。すると、ある考えが閃いた。

 

「ならば、明日学校へ行ってはどうかね。」

 

「学校?」

 

ガンプラバトルは部活でも行われている。

セカイから学んだことをチェイスは思い出していた。

 

「こう見えても私は高校のガンプラバトル部のコーチでね。ついでに行ってみるかね?」

 

「いいのか?」

 

「いいとも。ならば、明日行くかね?また乗せてあげよう。」

 

「分かった、またよろしく頼む。」

 

うむ、とラルさんが快く快諾する。その日は夜もふけてきたため、二人は寝ることにしたのであった。

 

 

 

翌日、チェイスが連れてこられたのは聖鳳学園という高校であった。

 

ラルさんに連れられ、学園内へと進む。ラルさんはともかく、全身紫の青年がいるのは実に目立つようで、特に女子生徒が反応している。

 

ヒソヒソして話すその内容は、「誰あのイケメン!?」とか「カッコいいー!」などとおおよそ黄色いものであった。

 

校舎内へと入っていき、数多くある教室の一室の前に立った。

 

「本当はしっかりした部室があるんだがね、今は工事をしててここの教室を一時借りしているのだよ。」

 

そのラルさんの言葉にチェイスがデジャヴを覚える。聞き覚えのある言葉をつい最近…どころか昨日聞いた。

 

「まさか。」

 

「さ、入るぞ。」

 

ドアが開けられる。その中にいた人物にチェイスは目を見張った。




目を見張ったって言ったって実際問題1人しかいないワケでして。
さてさて、次回はついに…?


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第4話 見る魔進

エタってましたが久しぶりに更新することにしました。
2,3年ぶりの更新とか旅に出てたのかって感じですね。
本当だったら戦うところまで行きたかったのですが今回は
バトル部との出会いまでになります。


ラルさんの後に続いてチェイスも部室に入る。中では、3人の生徒がガンプラをいじっていた。

 

1人はポニーテールの少女、もう1人は青い髪の眼鏡をかけた少年、そしてもう1人は見知った顔。

 

「セカイ。」

 

「あっ!チェイスさん!チェイスさんじゃないですか!」

 

セカイがチェイスの元へと駆け寄る。

 

「どうしたんですか?家へ帰ったんじゃあ…。」

 

「ああ、実は…。」

 

「家賃滞納で追い出されてしまってな。」

 

ラルさんが発言をかぶせてくる。チェイスは驚いたが、言葉を続けた。

 

「聞けばこの青年、海外へ流浪の旅に出たのはいいが、旅に夢中になって家賃滞納、帰ったら追い出されたとのことだ。うかつだな。」

 

「そんなことが…。ちなみに海外はどんな所行ったんですか?」

 

嘘はよくないが、真実を言っても3人が混乱する可能性が高い。嘘も方便、ということでチェイスもその嘘に乗ることにした。

 

「…パタゴニア、ダカール、北極圏だ。」

 

旅行先のチョイスが渋かった。

 

「おおっ!チェイスさんも世界を旅していたんですね!」

 

同じく世界を回っていたセカイが目を輝かせる。

 

「セカイもか。」

 

「はい!あぁでも、師匠と旅してまして…。」

 

盛り上がる2人を尻目に、ユウマがラルさんに尋ねる。

 

「あの2人、何の関係があるんですか…?」

 

「うむ、チェイスというらしいのだが、あの青年は。公園で倒れていたところをセカイ君が助けたとのことだ。」

 

そんなことが・・・と、ユウマは会話がそれなりに弾んでいる二人をみやる。活発なセカイとおとなしい性格であろうチェイスだが、会話に支障は無いようだ。

そんな二人に、ポニーテールの少女が近づく。

 

「こんにちは!チェイスさん・・・で、いいですか?」

 

チェイスはそちらの方に向き直る。この部屋に唯一いた少女だ。

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「私、このガンプラバトル部で部長をしています、ホシノ・フミナといいます!よろしくお願いします!」

 

よろしく、とチェイスが返す。ただしまだ「ガンプラバトル」という言葉には慣れない。

そこへセカイが偶然にも助け舟を出した。

 

「フミナ先輩、チェイスさんもガンプラバトルについてあまり知らないらしくて・・・。」

 

「そうなんですか?」

 

「ラルさんに少しは教えてもらったが・・・。」

 

「そのものは見たことないですか?」

 

こくり、と頷くチェイス。

 

(セカイくんといい、世界中旅してる人はガンプラバトルを知らないのかな)

という少し失礼なことを心の片隅に留めたフミナが言葉を紡ぐ。

 

「では!一回バトルを見ていきませんか!?百聞は一見に如かず!すごいですよ!」

 

かなりグイグイくる少女だ。もしかしたら霧子以上のバイタリティがあるかもしれない。

それはともかく、特に断る理由もないチェイスはあっさりと了承した。

確かに一度見ておいたほうがこの世界を知る上で大きなアソバンテージにもなるからだ。

 

答えを聞いたフミナが嬉々としてバトルをするための場所へ移動する準備をし始める。

どうやらこことは違う所にあるらしい。

組み立てていたプラモデルを片付け、学生カバンを持つとついてくるよう指示された。

 

ガンプラバトルをする場所へ向かう途中、セカイがチェイスに話しかけた。

自分たちの部活は本当は違う場所だが、そこが今工事中であり、現在は

仮の場所を借りているため、バトルができないとのことだ。

 

そうこうしていると連れてこられたのは模型部であった。

すると今度はユウマが躍り出る。元模型部員の彼が許可を取りに行ったのだ。

許可は滞りなく下り、みんなで一斉に部室に入る。

 

部室内では、模型部員が黙々とプラモデルを作っている最中であった。

部員は通りすがるラルさんに次々と挨拶をしていく。結構な有名人のようだ。

 

部室の隅にそれはあった。六角形をした、かなりの大きさの機械だ。

その機械は4つ並んでおり、その長さだけでも部室の幅に迫るほどである。

 

「これがガンプラバトルをするための機械です!もともと私たちの部室に

あったものなんですけど、今はここに置かせてもらってるんですけどね。」

 

チェイスはそれをしげしげと眺めた。確かに自分が元いた世界では見たことのない

機械だ。これでガンプラと呼ばれるプラモデルを動かせるというのか。

 

その間にフミナがカバンから何やら取り出す。白と黄色に彩られたガンプラだ。

ラルさんの部屋にあったものとは違い、直線的なラインで、顔もバイザーが

付いている、という差がある。

 

「これは私のガンプラ、パワードジムカーディガンです!」

 

「あれ先輩、いつものウイニングはどうしたんですか?」

 

「昨日からちょっとお手入れしてて。予備として持ってきてたんだけど、

久々だなぁ、これも。」

 

そう言いつつフミナはパワードジムをバトルマシンに置く。一方のユウマが

マシンをセットすると、英語でアナウンスが流れた。

 

そして機械から光が溢れ出す。そこそこに輝いており、部員の邪魔をしないよう、

ラルさんが仕切りのカーテンを閉めた。

 

フミナが立つところに光球が2つ、ぼうっと現れる。それに1つずつ、手が置かれると同時に

光のコンソールが次々と点灯しだした。

さらに、その前には無機質なバトル台から砂と岩が混在する、砂漠のような風景が

あっという間に出来上がった。

 

その光景にただチェイスは目を見張ることしかできない。そうこうしているうちに、

パワードジムのバイザーに光が灯る。

 

「さぁて、久々に行くわよ!」

 

フミナが光球を前に倒すと、パワードジムが射出され、砂の大地へと降り立つ。

大きな地響きを立ててガンプラが大地を闊歩しているのだ。

 

そのすぐあとに、ホバーによる走行へと移行する。

その眼前には、ラルさんの部屋でも見たガンプラがパワードジムへと向かっていた。

その数、実に30近く。再び英語によるアナウンスが流れる。

目の前のガンプラを全て撃破すればいいとのことだ。ラルさんとユウマが感嘆の声を上げる。

 

「ほほう、これは・・・ガンダムUCで見られたトリントン基地防衛戦だな。」

 

「そうですね。スペックなども、アニメどおりのものをできる限り忠実に再現されてるようで、

プレイヤーからはいい腕試しになる、という評判ですよ。このステージは。」

 

「ううむ・・・。」

 

「どうしました?」

 

「本来は無双するためのものではないが・・・。まあ、バトルもまた自由ではある。」

 

アハハ・・・、とユウマが苦笑いを浮かべていると、パワードジムが早速仕掛ける。

目の前の1機を手持ちのマシンガンであっさり撃破すると、そのまま背中の

ライフルを展開し、続けざまに4機を撃墜する。

 

相手からの集中攻撃は背中からのアームで繋がれたシールドでいなし、

その隙をついて1機、また1機とその数を減らしていく。

チェイスはその戦いぶりに舌を巻いていた。いわゆるゲームとは言え、

フィールド内で行われているのは本格的ともいえる戦闘だ。

 

ガンプラをもう一つの自分自身として使い、撃つ。

地上の敵も、空から来る敵も関係なく易々と撃破していく。

戦いぶりに関しては、仮面ライダーと同じといっても過言ではない。

 

「これで最後っ!」

 

肩から展開したレーザービームを持ち、向かってきた最後の1機の胴へ一閃。

真っ二つになった敵機が大爆発すると同時にバトルが終了する。

 

「こんな感じですね。これは一人だけで遊ぶミッションモードですけど、

対人戦もありますよ。まぁ、対人戦がメインかもしれませんけど。」

 

冗談めかしてフミナは言う。チェイスはフミナが立っていたところに自分も立った。

すでにフィールドは無機質なものに戻っている。とても派手なバトルが繰り広げられていた

場所とは思えない。

 

「チェイスさんもやってみますか?」

 

フミナがそう提案してくるので、当然乗った。今ガンプラを作るのは時間が

かかりすぎるので、模型部から借りることにした。

 

部長の許可をもらい、模型部員の作品を見る。作品といっても、塗装がふんだんに

施されたものではなく、スミ入れとトップコートを吹いた基礎的な仕上がりを行った

ものだ。

 

ずらりと並べられたガンプラ達。チェイスは素早く、そして慎重に吟味を行う。

そして、ある一つのガンプラに目をつけた。

 

「これだ。」

 

指が差されたガンプラは漆黒のガンダムであった。

 

「ガンダムMk-Ⅱですか・・・。」

 

ユウマが慎重に取り出しつつ簡単に説明し出す。

 

「確かに、ガンプラバトル初心者の中では扱いやすいですね。そもそもの機体自体も

癖が無いですし。いいところに目をつけましたね!」

 

「黒?紫?のガンダムですか!チェイスさんにぴったりですね!」

 

セカイも言った通り、カラーリングに関してはチェイスとぴったりマッチしていた。

早速マシンへ持っていき、バトルの準備を始める。

ユウマもマシンの設定を始めたが、設定し始めて少し経った頃だ。

 

「あっ。」

という、本人にしては少々マヌケな声が出た。

 

「どうしたんだユウマ?」

 

「何かあったの?」

 

セカイとフミナが心配そうに覗き込む。少し青ざめた顔のユウマが振り向いた。

 

「・・・うっかりミッションの難易度を難しいのにしてしまいました。」




ということで次回でいよいよチェイスがガンプラバトルをします。
難しいのにしたのなら、簡単なのにすればいいじゃないか、という意見が
聞こえてきそうですが。そこはそれ、チェイスですから。


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第5話 戦う魔進 その1

ということでついに戦闘です。
チェイスが選んだMk-Ⅱが大量の量産機を相手に大立ち回りを演じます。

あと、この話自体は随分前に書いてたのですが、8割がた書いたところで
消えるという大惨事により心が折れてしまい、再作成へのモチベーション
を高めていたため遅れることとなりました。


難易度を高いものにしてしまった、というユウマの言葉に動じない2人。

特に扱いが慣れてるフミナはミッションが始まったらすぐにポーズして、

やり直せばいいのではないか、と提案した。

ユウマもそのことを思い出し、作業に取り掛かろうとする。

 

しかしそれを制した男がいた。チェイスだ。

 

「このままでいい。」

 

と言って憚らないのである。ガンプラバトル部の3人がどれだけ難しいか

言ってもチェイスは無理に設定を変える必要はない、というのである。

 

今のチェイスには、ガンプラバトルを自分で体験する、という確固たる

意志があった。そのため、勝とうが負けようが今はどうでもよかったのである。

 

「まあまあ、とりあえずやらせてみてはいかがかな?」

 

と、ラルさんが助け舟を出した。そこまで言うならチェイスの好きにさせたい、

という思いだった。また、ラルさんは彼の眼や過去より、操作方法さえ

覚えればエースプレイヤーになれるのではないだろうかという予想も

立てていたのだ。

 

かくしてミッションがスタートされる。内容は「機動戦士ガンダムOO」より、

タクラマカン砂漠の三国合同演習に、ガンダムマイスターの一員として

武力介入する、というものであった。

 

このステージでは、本家マイスターもスローネの助けがなければ

そのままやられそうなほどの物量が敵になる。

CPUとしてソレスタルビーイングのガンダムもいるが、内容を反映して

ヴァーチェ&エクシア、キュリオス&デュナメスのどちらかのペアとしか

組んで戦えない。

 

こちらも実質的には一騎当千のミッションであり、その難易度はフミナが

デモプレイでバトルしたトリントン基地防衛戦よりも遥かに高い。

初心者が自惚れてプレイすればCPUガンダムよりも先にやられてしまうほどだ。

 

ミッションがスタートしてすぐには敵は襲ってこないため、まずはフミナより

操作方法がレクチャーされる。

歩行、走行、ブーストのふかし方、武器の扱いを簡単に受け、それらを

軽く試すとすぐにミッションが開始された。

 

「大丈夫でしょうか・・・。」

 

ユウマが心配そうな声をあげる。しかしラルさんはチェイスを見据えて

こう言った。

 

「何、チェイスくんはやってくれると信じてる。」

 

「ええ・・・。本当ですか・・・?」

 

「ああ、あの眼は、エースパイロットの風格が漂っている・・・!」

 

チェイスを信じているのはラルさんだけではなかった。

 

「まあまあユウマ、俺もなぜかは分からないけど、やってくれる気がするんだ。

 なんか強そうだしな!」

 

「セカイまで・・・。」

 

仕方なくユウマはみんなと一緒に見ることにする。横にいるフミナは

今のところ何も言っていないが、表情としてはやや複雑なものだ。

 

そんなみんなの色々な思いをよそに、チェイスはMk-Ⅱを進ませる。

協力するCPUはエクシアとヴァーチェだ。

 

「アニメでは苦しい防戦だったけど、チェイスさんはどんな風に戦ってくれるかな?」

 

フミナの表情が少しワクワクしたようなものになる。その間にMk-Ⅱはエクシア&ヴァーチェと合流し、

 

そのまま通り過ぎた。

 

「アレッ、チェイスさん!あの2機は?通り過ぎちゃいましたけど・・・。」

 

セカイが心配そうな声を上げる。一人でも厳しいのに、協力者がいなければ

さらに難易度が上がるのは明白だ。しかしチェイスは何一つ表情を変えない。

 

「危なくなったら戻る。」

 

とのことだ。見据える視線の先には、ティエレンの大部隊が迫ってきている。

射程距離内に捉えた瞬間、ビームライフルを抜き、輝く閃光を放った。

 

瞬く間の三連撃により、数機がまとめて爆散する。Mk-Ⅱのビームライフルには

連射機能は無い。逆襲のシャアにおけるアムロのような芸当をやってのけたのだ。

 

その間に今度はビームの威力を最大にして極太のビームを放つと、それを180度回す。さながら巨大なビームサーベルだ。

 

「今度はギロチンバースト・・・!?」

 

ユウマが驚きの声を上げる。ビームの威力を最大限にする機能はあるが、

なぎ払えるほどの時間は限られている。

使うのにもたつけば180度も回すことは不可能だ。戦闘能力はもとより、

こんな大胆な作戦を即決できることにユウマは震えた。

 

その間にビームライフルのカートリッジを交換し、今度はビームサーベルで

斬りかかる。近距離戦ではその戦いぶりは鬼神とも呼べるべきものだった。

 

状況としてはほぼ囲まれてしまっているものの、的確に敵機を次々と

両断していく。恐るべきはそのスピードだ。ブーストを効果的に、緩急を

つけて使いこなしつつ手に持ったビームサーベルを切りつける。

 

コンピューター制御の鈍重なティエレンはそのスピードについていけず、

四肢がバラバラに刻まれていく。状況的にはこちらが囲まれているのだが、

三次元的な機動を活かしつつライフル、サーベルを適宜使い分けて

次々と残骸を増やしていった。

 

そうして気づけば周りに敵はおらず、かつてティエレンだった残骸の中で

ガンダムMk-Ⅱが静かに佇んでいる。

 

「すげえーっ!!」

 

セカイが驚きの声を上げる。うるさい、とユウマがたしなめるがセカイの

興奮は止まらない。

 

「だってよユウマ!あんなに囲まれて、あっという間に倒しちまうんだぜ!すごいだろ!師匠みたいだ!」

 

セカイは純粋にチェイスの戦いぶりを喜んでいるが、ユウマは逆の感情であった。

一騎当千は自分には少々難しいが、できる人はそれなりにいる。例えば

敬愛するメイジン・カワグチは一騎当千を軽々と行う。また、

ガンプラバトル開発の第一人者、ヤジマ・ニルスも新しいシステムを開発した

折に一騎当千を行う。

 

その様子を見せてもらったが、やはりそれは「ガンプラバトル」としての

ものであり、魅せるようなバトルが特徴的だ。

だが、目の前で繰り広げられたバトルは「ガンプラバトル」というよりは、

まさに「一対多の戦い」を行ったように感じられた。

 

かつてレナート兄弟は「ガンプラバトルは戦争」と言っており、バトルスタイルも

それに見合うような泥臭いものだった。

ブービートラップを仕掛けたり、使用武器を次々と取り替えたりして、

まさに「戦争をする軍隊の部隊」という印象だった。

 

だが、このチェイスという人のバトルはそんなものではない。初心者のはず

なのだが、スタイルはレナート兄弟の言っていた「戦争」を思い起こさせる。

兄弟と違うのは、受ける印象だ。

 

容赦なく、ティエレンを撃って切り倒す。確実に仕留めるように。その戦い方は

まるで、軍隊というよりは。

 

「傭兵か、暗殺者みたいな・・・。」

 

真顔でフウ、と息をつく紫色の男性にそんな感想を抱かざるを得ない。本当に

ただのガンプラバトルをやったことない一般人なのか?と、ユウマが思った瞬間、

バトルマシンにアラートが鳴り響く。

 

チェイスが瞬間的にブーストを吹かした直後、Mk-Ⅱがいた地点が大爆発を起こした。見れば地平線に、一列に並んだMSが砲撃を行っている。

 

チェイスは降り注ぐ砲弾の中をかいくぐりつつ、砲撃MS部隊へと近づいていく。

もちろん、一度のヒットもない。

あっという間にたどり着き、再び攻撃を開始する。頭部が長大なキャノン砲に

なっているティエレン-ティエレン長距離射撃型という-に肉迫した。

 

そこからあとは先ほどと同じ通り。むしろ先ほどよりも鈍重になっているため

、簡単に倒されていった。

再び静寂が場を支配する。気づけば見学しているガンプラバトル部とラルさんの

周りには、模型部員が山を作ってチェイスの戦いぶりを見学していた。

彼らもまた、その様に感嘆の声を漏らしている。

 

するとふいにチェイスが左の空に顔を向けた。カメラをズームインさせると、

空に無数の小さな点が群がっている。

これこそ、このステージ最後のバトル相手、ユニオン・AEU連合の空戦MS大部隊だ。

リアルド・フラッグ・オーバーフラッグ・ヘリオン・イナクトが群れを成して

チェイス操るMk-Ⅱを倒さんと飛来していた。

 

まだ距離があると判断したチェイスは、驚きの行動に出た。まず、残骸と化した

ティエレン長距離射撃型のキャノンの銃身を拾い上げる。

先端にビームサーベルで線状の傷をつけると、そこにこれまた拾ったカーボン

ブレイドを取り付けた。

かつて仮面ライダーとして戦ったときの武器、シンゴウアックスを模したかの

ような、ロングアックスである。ユウマとラルさんが驚愕の声を上げた。

 

「武器を作った!?」

 

「洋画でよく見るシチュエーションを見られるとは・・・。」

 

そしてチェイスは、即席の斧を手に、大きくジャンプした。空戦MS部隊は

すでにチェイスがいた地点の上空近くにまで達している。

ブーストがオーバーヒートする少し前に、そばを飛んでいたリアルドに着地した。

斧を構え直すと再びジャンプする。

足場にしていたリアルドはキック力により中破し、砂漠へと煙を上げて落ちていった。

 

ジャンプの最中に素早く斧を振るい、フラッグとイナクトを1機ずつぶった斬る。

次はフラッグの上に着地した。

そこに、MS形態となったオーバーフラッグがプラズマソードを抜き放って迫る。

もちろんこれにチェイスが応戦した。

プラズマソードをシールドで受け止めると、すぐにシールド内の小型ミサイルを

打ち込んだ。

 

機動性のためにラインが細く、装甲の比較的薄いオーバーフラッグはそれだけで

致命的なダメージを負ってしまう。

さらにシールドでボディを殴りつけ、その体を地上へと叩き落とした。そしてまた、フラッグを蹴り落としつつ次の

ターゲットへと飛翔する。そうしてあっという間に空戦MSの数を減らしていった。

 

「まるで源義経の八艘飛びだ・・・。」

 

ラルさんのこの言葉がチェイスの今の戦いぶりを物語っている。

それから数分後、最後の1機を切り裂いたMk-Ⅱが空から砂漠へと降り立つ。

さすがに向こうの攻撃により、シールドは

壊れてしまっていたが、本体にはすすや焦げといった汚れはあるものの破損は

見受けられない。

 

その瞬間、「MISSION COMPLETE!」というメッセージが表示される。

圧倒的なスコアでチェイスが勝利を収めたのだ。本来の主役のCBのガンダムを

差し置いて。

 

光とともにステージが消え、ただのガンプラとなったMk-Ⅱがマシンの真ん中で

立ち尽くしている。破損レベルは

最低のものに設定していたため、シールドはジョイントから上下に分かれている

だけだ。

 

「すごいじゃないですかチェイスさん!あの量の敵をこんな短時間で倒す

なんて!」

 

「・・・ああ。だがこれは、コンピューター制御なのだろう。実際に人と

対戦した場合は分からない。」

 

「でも、チェイスさんなら行けますって!」

 

セカイとチェイスが和気藹々と話している間、その様子を見ていたラルさんは

思った。

これが仮面ライダーの力なのか、と。

 

そしてその横のユウマは別のことを思っていた。

本当にあの人は何者なのだろうか、と。

 

そんなユウマが彼の正体に気づくのは、かなり後になるのだが。それはまた、

別の話。




ということで、スローネいらずの活躍をしてしまったチェイス。
しかしガンプラバトルの醍醐味は対人戦!ということで、次の話では対人戦を
書いていこうと思います。


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第6話 戦う魔進 その2

さて、前回CPU戦を行ったチェイス。
いよいよ対人戦・・・と行きたいところですがここで初めて仮面ライダーより、
あのゲストキャラを出していこうと思います。
さらには普通の対人戦がまさかの大波乱!
第6話、お楽しみください!


チェイスが初めてのガンプラバトルを終える。それまでギャラリーに徹していた部員が散り散りになっていく中、マシンを片付けたバトル部の面々は帰ることにした。

その前にカマキリのような模型部部長が大きなガンプラを持って対戦の申し込みをしてきたが、フミナとユウマがやんわりと断る一幕もあったが。

今までに見たことのない大きさのガンプラに少し驚いたチェイスであったが、今はとりあえずセカイ達に付いていくことにした。

 

「でも驚きましたよ。セカイくんと一緒ですね!初心者ながらに凄いポテンシャルを秘めているんですから!」

 

先頭を歩くフミナがチェイスを褒めちぎる。しかしチェイスはいつもどおりのクールな顔で「そうか。」と答えただけだ。

ユウマがボソリと(秘めすぎてて怖いですけどね)と呟く。

 

「何か言った?」

 

「ああ、いえ、何も・・・。」

 

フミナに聞かれたかと焦ったユウマがなんとか取り繕う。次はラルさんがチェイスに話しかけた。

 

「チェイスくんはこれからどうするね?住むところが無さそうなのだが・・・。」

 

そうであった。建前上は「追い出された」チェイスだったが、どのみち今、住む場所はない。顔のいいホームレスと化しているのだ。

お金も職もいため、アパートを借りることもできない。非常に困った事態に陥ったが、そこに助け舟が出された。

 

「じゃあ、俺の家に来ますか!?」

 

セカイだ。キラキラしたような顔で提案をしている。その言葉に隣のユウマが驚いた表情をするが、チェイスは気にせずに聞き返した。

 

「いいのか?」

 

「はい!ウチは2人で住むのにはちょっと広いし、それに空き部屋もあるんですよ!姉ちゃんもきっと分かってくれます!」

 

隣のユウマはコロコロと複雑な表情になっているが、それはともかくこの提案は

チェイスにとってはありがたい話だ。

話に乗ることにする。どうやらセカイはもう一人、姉とあの家に住んでいるらしい。助けられた時には会わなかったが。

 

だが、その「姉」の了承も得ないとどうしようもない。彼ら内で話し合い、まずはセカイの家に行って了承をもらうことにし、

万が一ダメだった場合はラルさんの家にお世話になることになった。

 

下校中、チェイスはガンプラバトル部についての話を聞いた。結成のこと、ガンプラのこと、そして全国大会まで上り詰めて

優勝したこと、さらに南の島での少し不思議な体験・・・。

どれもチェイスにとっては新鮮な話だった。表情はいつもどおり変わらないが、興味はそそられた。

 

話していくうちに、最初にフミナが、次にユウマが帰宅のために離脱していく。残った三人は三人で、身の上話をしてセカイの家に着くまでの時間を潰したのであった。

 

 

 

 

「お、ちょうど姉ちゃんがいるな!姉ちゃんただいまー!」

 

玄関にある革靴を見たセカイが上がる。ラルさんとチェイスも続き、家の奥へと入った。セカイと「姉ちゃん」が会話しているのが聞こえてくる。

 

「あらセカイ、お帰り。今日はちょっと早かったわね。」

 

「今はあんまり部活ないからなぁ。それよりも姉ちゃん、ちょっと話があるんだけど・・・。」

 

「何?・・・あら。」

 

ドアに佇む2人をセカイの姉が見つけた。

 

「ラルさんと・・・そちらの方は?」

 

「チェイスさん!俺が昨日助けた人なんだ!」

 

まあ、とセカイの姉が声を上げる。不審がる顔ではない。前夜チェイスがこの家を出てから入れ違いにセカイの姉が帰宅。その際にセカイがあらましを話したのだ。

 

「昨日はウチのセカイから話を聞きまして・・・。ああ、私、セカイの姉のカミキ・ミライと言います。」

 

「チェイスだ。セカイにはずいぶん世話になった。礼を言おう。」

 

「いえいえそんな・・・。ところで、ラルさんも一緒にどうしたんですか?」

 

「ああ、実はだね・・・。」

 

「それは俺が話します。ラルさん。」

 

いつになく真剣な表情のセカイに通され、和室に通される。和室の隅には仏壇があり、そこには写真があった。

セカイと一緒に写った夫婦がいる。しかし、セカイが先ほど言っていた『2人』ということ、そしてこの仏壇。

 

考えられることはただ一つだが、こういうことは迂闊に言わない方がいい。そう判断したチェイスは写真から目を外した。

そして大きな机の片方に、ミライが座る。反対側には残り3人。話を切り出したのはセカイだ。

 

「実は姉ちゃん、チェイスさんをしばらくここに泊まらせて欲しいんだ。」

 

「セカイ・・・。」

 

ミライはすぐには何も言わない。セカイが言葉を続ける。

 

「今、チェイスさんは住む家がないらしいんだ。そんなチェイスさんを放っておいてはおけない。それに・・・。」

 

「それに?」

 

「ちょっと賑やかになるかなって・・・。」

 

少し照れくさい表情のセカイが頬をかく。ミライは表情が変わらない。

 

「あっ、でも、チェイスさんを泊めたい気持ちに変わりは無い!助けたいんだ!チェイスさんを!」

 

「私からも頼むよ。」

 

さらにラルさんが助ける。

 

「本当は、赤の他人である私がこんなことを言うのも何だがね。セカイくんがこんなに真剣になって人助けとしたいと

言っているのだ。何かあったら私も手伝う。だから、セカイくんの頼みを聞いて欲しい。」

 

チェイスは気づいた。こんな自分のために、セカイとラルさんは必死になって頼んでくれている。その思いに気づき、

ミライをまっすぐ見据えた。当のミライがチェイスに話しかける。

 

「チェイスさん・・・でしたか。あなたは、セカイと一緒にいたいですか?」

 

「・・・俺は。」

 

セカイを見る。セカイもまた、チェイスをまっすぐ見ていた。

 

「俺は、ここに来て何も知らない。しかし、この世界のことをセカイが何でも教えてくれるというのなら、俺はここに、

いたいと思う。いや、いたい。俺は、セカイと一緒に、ここにいたい。」

 

しばしの沈黙が流れる。遠くの街の喧騒が小さく聞こえてくるだけだ。

 

時間にして1分弱。ミライが口を開いた。

 

「ようこそ。カミキ家へ!」

 

「えっ。」

 

「何。」

 

「おおっ。」

 

3人がやや間の抜けた声を上げた。あっさりと許しが出たのだから、無理もない。

 

「だって、セカイからチェイスさんのこと聞かされた時に私もちょっと心配してました。公園で倒れてるなんて・・・。

それに、家が無いってなったらセカイじゃなくても助けたいと思うのは、当然でしょう?」

 

この弟にして、この姉あり。セカイほど強くないにしろ、ミライも同じようなことを思っていたのは、嬉しい誤算であった。

やった!とセカイが小さくガッツポーズをし、チェイスを見た。

 

「すまない。ありがとう。できることであれば、何でもするから、困ったことがあれば言ってくれ。ここに居候する以上、

この家に貢献できるようにはしよう。」

 

その言葉に、ミライが何か考え込む。何か仕事をあてがうつもりだろうか。すると、ポケットからスマホを取り出し、チェイスに向かって構えた。

ぱちり、と小気味良いシャッター音が鳴り響く。チェイスの写真を撮ったのだ。そのまま今度はずいっと迫り、バストアップの撮影に取り掛かる。

 

「ね、姉ちゃん・・・?」

 

セカイが怪訝な顔で尋ねるも、意にも介せずミライはチェイスを色んな角度から撮影していく。その光景にラルさんはあることを思いつくも、それを言わないでいた。

ミライは恐らくサプライズで仕事をチェイスにプレゼントするのであろう。

 

「これでよし、と。じゃあ、今日からよろしくお願いしますね。」

 

「ああ、よろしく頼む。」

 

二人ががっちりと硬い握手を交わす。これで一件落着、見事チェイスはカミキ家の一員になることができた。

横ではセカイが狂喜乱舞している。

 

「俺からも!これからよろしくお願いします!チェイスさん!」

 

「ああ。よろしく、セカイ。」

 

実に微笑ましい光景を見つつ今度はラルさんが話しかけた。

 

「良かったな、チェイスくん。」

 

「ああ。今まで世話になったな。ありがとう。」

 

「いやいや、対したことはしてないよ。だがまた、ガンプラについて聞きたいことがあったら気軽に聞いてたまえ。」

 

「ならば、明日なのだが、もっと色々ガンプラを見ていきたい。付き合えるだろうか。もちろん、セカイも付いてきてくれ。」

 

快くその頼みに二人が了承する。明日は土曜日であるためセカイも付いていくことができるのだ。

しばらくしてラルさんが帰り、家の中には新しい家族が増えたカミキ家が残った。

 

「では、今日からよろしくお願いしますね。チェイスさん。」

 

ミライがにっこりと微笑んだ。

 

「あぁ。だが、お世話になってもらう身だ。何かしらの礼はしよう。」

 

「そんな、いいんですよ。」

 

「だが、恩返しをするのは人間のルールではないのか。」

 

「んー・・・、それじゃあ・・・。」

 

少しイタズラな微笑みをミライが浮かべた。

 

 

 

 

 

「やはり、チェイスくんはミライくんに読者モデルに誘われたというわけか。」

 

翌日。晴れた昼下がりの道をチェイス、ラルさん、セカイの3人が歩いていた。向かうところは模型屋。

その道中、チェイスはあの後のことを話していた。

 

「やはりって、ラルさんは知っていたんですか?」

 

「途中でミライくんがチェイスくんの写真を撮っていただろう。あの子のことを考えたら、自分たちの世界に引き込むつもりだったのだろうと思ってな。」

 

そう、チェイスがミライから持ちかけられたのはミライがやっている読者モデルの世界への誘いだった。

 

「凄いモデル映えしそうな顔だもん。きっと仕事がすごい舞い込むと思うの。」

 

とは、ミライの弁。そして今日はちょうどミライに仕事があるため、事務所についでに話を持ち込むという。

 

「確かにチェイスさん、すっごいカッコイイですもんね。オマケに強い!」

 

セカイがそう褒めてくるのだが、見てくれを気にしないチェイスにはサッパリだ。

だが、カミキ姉弟に恩を返せるのなら、モデルの仕事だろうがなんでもやるつもりである。

 

「それよりもラルさん、模型屋というのはもうすぐなのか?」

 

別に話を逸らしたつもりはないが、本来の目的である話題に変えた。

 

「うむ、もうすぐだな。おお、アレだ。」

 

近づいてみると看板にデカデカと掲げられた「イオリ模型」の文字。一軒家を改造したような店舗だ。

 

「ここか。」

 

「うむ、私の行きつけの模型屋だ。」

 

3人が中に入ると、その小さな店舗に反して客が結構いた。その中を明るくて大きな声が出迎える。

 

「いらっしゃいませー!あら、ラルさん!」

 

奥から現れたのはふくよかなプロポーションをした青い髪の女性だ。

 

「リ、リンコさん~!」

 

その瞬間、ラルさんの顔が緩んだものになる。

 

「今日はお友達を連れてきたんですか?」

 

「ええ、そうなんですよ。いや~、相変わらず繁盛してますな!」

 

その変貌ぶりをセカイがチェイスに説明した。

 

「ラルさん、ここのリンコさんていう店長さんに弱いんですよね。」

 

「なるほど。ラルさんは店長のことを好いているのか。」

 

「でも、リンコさんは結婚してるんですよね。」

 

「他人と結婚している人に好意を抱いているのか。それはルールに反するのではないか?」

 

うう~ん、と難しい顔をするセカイ。朴念仁の彼にはこういった話題は勉強やガンダムの世界と同じく難しいものであった。

 

「それで、今日はこの2人を連れてきたんですよリンコさん。」

 

へ~、とリンコがセカイとチェイスに近づいた。

 

「セカイくんもいつもありがとうね。ウチの息子も含めてイオリ家でのイチオシファイターよ!」

 

「はい!ありがとうございます!いつかあのガンプラを作ったセイさんにも会ってみたいんですよね!」

 

「ホント、会わせたいけどあの子ここにいることが少なくなっちゃったから・・・。で、あなたが期待の新星、チェイスくんね。」

 

「ああ、そうだ。よろしく頼む。店長。」

 

店長という慣れない呼び方にリンコがやや困惑した。

 

「店長・・・まぁ、店長ではあるけどね。みんなは私のことを名前で呼ぶからあなたも名前で呼んでいいのよ。」

 

「ならば、リンコ。これからここにお世話になると思う。よろしく頼むぞ。」

 

いきなりの呼び捨てである。旦那にも呼ばれたことがほとんど無いのに。

 

「え、えぇ。こちらこそよろしくね。まぁ、ゆっくりしていって。」

 

そう言われ、チェイスは店内を見回ることにした。そこにラルさんが声をかける。

 

「キミは、とても胆力があるな。」

 

「何のことだ。」

 

「いきなりとは・・・。私にはまだそのような勇気はない。」

 

「だから何のことだ。」

 

そう言われてもラルさんはチェイスの肩をポンポンと叩くばかりだ。

 

「それよりもチェイスくん、ここに並べられたのがガンプラだ。どうかな。」

 

実に壮観だ。ガンプラの箱が棚にギッシリと詰め込まれている光景はチェイスが初めて見るものだ。

 

「これなら、俺専用のものが見つけられそうだ。」

 

「うむ。時間はたっぷりあるから見つけてみたまえ。分からないことがあれば聞いてみてもいいぞ。」

 

分かった、と言って別れる。セカイはチェイスに付いていくことにした。

 

「ここにあるのは、完成品か。」

 

「そうみたいですね。」

 

商品より先に覗き込んだのは巨大なガラスの中のガンプラだ。白いガンプラが所狭しと並んでいる。

 

「セカイは、分かるか。」

 

「あんまり、分かんないですね・・・。」

 

「俺もだ。だが、これはラルさんから教わった。」

 

指を差したのはお馴染みファーストだ。

 

「あ、それなら俺も知ってますよ。最初のガンダムらしいですね。」

 

「あぁ。しかし、ガンダムといっても実に様々なものがあるな。」

 

白いガンプラ、歴代の主人公ガンプラ一つとってもチェイスには新鮮である。やせ細った様なガリガリのものもあれば、

明らかにパワーが高そうな骨太のもの、他よりも身長が低いものと様々だ。

チェイスはその一つ一つをしっかりと吟味していく。

 

「チェイスさん、なんかいいのありますか?」

 

セカイにそう言われるが、チェイスはしばらく黙り込む。やがて口を開いた。

 

「どれも分からないから、一度使って試してみたいものだな。」

 

「リンコさん呼んできましょうか?ここにあるの試せるらしいですよ!」

 

しばらくしてリンコがやってくる。チェイスがリクエストしたのはZZガンダムであった。昨日のMk-Ⅱとは明らかに違うものを使ってみたくなったのだ。

バトルマシンへと持っていくと偶然いたラルさんがチェイスの持ったZZを見て驚きの声を上げる。

 

「ほぉ、汎用性が高いガンダムの次はピーキーなものを選んだのだな。」

 

「使ってみるだけだ。まだこれに決まったわけではない。」

 

「そうか。ならば、あそこに入ってみてはいかがかな。」

 

見れば子供も大人も入り混じった5人程度による乱戦が繰り広げられている。

 

「これは割り込みアリのバトルだ。いわゆるバトルロワイヤルという形式だな。」

 

そう言われ、レンタル用のGPベースを持って参戦しようとした、その時であった。

バトルスペースの扉が突如開かれ、謎の男女2人組が入ってくる。

 

「ハイハーイ、あたしらも混ぜてぇー!」

 

「全員蹴散らしちゃうよぉー。」

 

目尻にほんの少しの化粧を施し、浴衣を着た謎の男女はマシンに巨大なガンプラを置いた。

 

「あれは、アルヴァトーレ!つまり、あの2人は・・・。」

 

ラルさんが驚くのも無理はない。元とは違い、真っ赤なカラーリングに身を包んだアルヴァトーレが戦域となる宇宙へと飛び立つ。

セカイがラルさんに聞いた。

 

「心当たりあるんですか?」

 

「ああ、あの2人は男性の方がヒメ、女性の方がドージというのだが、いわゆる道場破りのようなものだ。いきなり飛び入り的に参加してはバトルの参加者を蹴散らして帰っていくという、いわゆる迷惑プレイヤーなのだ。いかんせん野良試合にしか来ず、神出鬼没的に現れるからお店側も対策のしようがないのだが、まさかここにも現れるとは・・・。」

 

それを聞いたセカイが止めようとするが、カミキバーニングを家に置いてきたことを思い出す。同様にラルさんもバトルをする気は

無かったため、ガンプラを持ってきていなかった。仕方なくチェイスに指示を飛ばす。

 

「チェイスくん!あの2人はルールを踏みにじる厄介な2人だ!なんとか止めることはできるか!」

 

ルールを踏みにじる、という言葉に反応したチェイスはZZの説明書に目を通し、GPベースを置いた。

 

「分かった。なんとか止めて見せよう。」

 

「頼んだぞ!私とセカイくんは出られないから助けにもいけなくてすまない!」

 

ZZの目が光る。素組みにスミ入れを入れただけの代物を使うため、分離合体ができないZZはMS状態のまま宇宙へと飛び出した。

その瞬間、チェイスは操縦に違和感を覚える。それもそのはず、無重力で戦うことはチェイスにとっては初めてだった。

仮面ライダーの時にも体験したことは無いので、初めての体験である。

 

だがこれに手をこまねいている時ではない。AMBACを利用して態勢をなんとか立て直すと、アルヴァトーレに向かって真っ直ぐに頭から突っ込んでいった。

その勢いのまま、背中のビームキャノンを発砲する。ビームはアルヴァトーレの左上面に当たると思われたが、オレンジのバリアがアルヴァトーレを包み込み、ビームを弾いた。

 

「バリアか。だが。」

 

少し驚いたチェイスであったが慌てずに大型ビームサーベルを抜き放ち、斬りかかる。だが今度は巨体がぐるりと回り、ZZを弾き飛ばした。

そのまま吹っ飛ばされ、小惑星に衝突すると思われたがチェイスが急制動をかけた事で逆に小惑星に降り立つことができた。

ふと見ると今までの参加者のガンプラはあっけなくやられ、そのほとんどが宇宙を漂う残骸と化してしまっている。

 

チェイスは憤りを感じ、再び機体をアルヴァトーレへと向けた。向こうはキャノンを発射するが、それはあっさりと回避する。

いけると感じたとき、向こうの背後から何やら細長いものが発射された。

チェイスはそれが分からず、とりあえずさらに近づこうとするが、その細長いものからビームが放たれた。慌てて回避しようとするも、内一つが足の甲を焼く。

 

アルヴァトーレのGNファング。これもチェイスにとっては初めての武器だった。そもそも遠隔武器を持った相手はあまり相手に

したことが無い。そのような状況で逆に本体をやられなかったのはチェイスの技術の賜物である。

だがGNファングはZZに執拗な攻撃を仕掛けてくる。さらに追い打ちのGNキャノン。これではZZは近づくことさえできない。

あまりの執拗さにチェイスは切り札を使うことにした。

 

「設定上は連射はできないらしいが・・・一発くらいなら大丈夫だろう。」

 

トリガーを引くと、額の砲口からビームの奔流が放たれた。ハイメガキャノン。ZZの持つ必殺武器といっても差し支えない兵装だ。

まずは放たれた瞬間に2機が飲み込まれ、爆散する。

さらに機体ごとビームをぐるりと回し、自分を囲んでいたファングを全て消し炭にした。それと引き換えに砲口は使用不能になってしまったが。

 

ようやくファングの地獄から抜け出したZZは再びアルヴァトーレへと向かう。またも相手のキャノンによる砲撃をかわし、今度は下側から迫った。だがこの下側というのが良くなかった。

 

前方にある膨らみが変形し、ハサミとなってZZを襲う。チェイスは急いで操縦桿を上に持っていくが向こうの方が早く、両足をガッチリとホールドされてしまった。

 

「よくやったけど、残念だったねェ~。」

 

「ここで終わりだよォ~。」

 

ヒメとドージの煽りがチェイスに聞こえてくる。なんとか操縦桿を動かそうとするも、相手のハサミの力が強く、一向に抜け出せそうにない。

さらにダメ押しなのか、追加のファングが現れ、ZZを取り囲む。

 

「さァ、逝けェェェェ!!!!」

 

ヒメが叫び、ファングとキャノンのトリガーを押し込もうとした瞬間、二条の光線が遠くから浴びせかけられた。

それにより、ファングとキャノンを繋ぐチューブが切られてしまう。

そして凄まじい速さで何かがZZの横を通過した直後、ハサミのアームが破壊されてしまった。ZZがその場から急いで脱出する。

 

「何者ォ!?」

 

ヒメがカメラを反対方向に向けると、ステージ内の太陽を背に、柄の長い剣を持った深緑のメタリックに輝くMSが佇んでいる。

そのMSのパイロットと思われる人物の声が響き渡った。

 

 

 

「バケモノ退治の、鬼だよ。」




物語の切りどころを見失って結構なボリュームになってしまった件。

ホビーアニメでマナー違反プレイヤーは定番ですが、今回は仮面ライダー響鬼より、
姫と童子を出してみました。テンション的にはドロタボウの時のものに近いです。
それにしてもドージと鬼が関わるとビルドファイターズよりもビルドダイバーズって
感じですね。

そして現れた助っ人。メタリック深緑に柄の長い剣といえば・・・?



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第7話 買う魔進

マナー違反のアルヴァトーレと戦うチェイスの前に現れた謎のガンプラ!

それを扱う人物の正体が明らかに!

さらにチェイスがついにガンプラを買ってもらう!?果たして何を買ってもらうのか!

あまりにもあんまりなサブタイの7話、始まります!


「鬼、だと。」

 

チェイスはあっけに取られていた。突如現れ、自分を救ってくれた謎のガンプラ。その間にも謎のガンプラはアルヴァトーレへ立ち向かっていった。

その戦いぶりは凄まじいものがある。持っている剣と思しき武器で向こうのハサミと激しいつばぜり合いを演じているのだ。

これにはさすがのチェイスも舌を巻くしかない。そんな時、チェイスに通信が入った。謎のガンプラの持ち主からだ。

 

「よぉ、素組みのZZのパイロット。ぼさっとしてないでお前も手伝ってくれ。」

 

「あぁ、すまない。」

 

画面の向こうのバリトンボイスで我に返ったチェイスはすぐにアルヴァトーレへ向かう。今度はバリア、GNフィールドの発生を

させないために何もせずに向かった。

 

「ドージ!太っちょが来てるよ!」

 

「分かってるって!」

 

ドージがコマンドボタンを押すと、今度は上面からもハサミが持ち上がり、ZZに襲いかかる。この改造アルヴァトーレ、否、彼らはこれをカニバトーレと呼んでいるのだが、原典のものの上面にさらに1対のハサミを装備しているのだ。

襲いかかったハサミは今度は上半身を挟み込む。

 

「今度こそ終わりだよ、太っちょ!」

 

ヒメとドージが勝利を確信した瞬間であった。

 

「よそ見をっ、するなぁ!!」

 

謎のガンプラが剣をその土手っ腹に突き刺した。さらにそれだけではなく、蹴りを剣に入れ、さらに深く突き刺す。

その手応えに謎のガンプラファイターはニヤリと笑みを浮かべ、チェイスに指示を飛ばした。

 

「ビームを撃ち込め!」

 

「しかし、バリアが!」

 

「いいから撃てぇ!」

 

無理やり上半身を前に倒し、キャノンを向ける。その先にあるのは、カニバトーレの心臓部であるGNドライヴ。

そこに慎重に狙いを定め、一気に発射した。ドライヴが大爆発を起こす。さらにもう続けて二、三発。ビームは真っ直ぐに、的確に

GNドライヴを破壊していった。

 

ヒメとドージが慌てたのか、ハサミの力が緩まる。またもZZは脱出に成功した。大爆発とともにカニバトーレが崩壊していく。

そこに謎のガンプラが近づいた。下半身と腕後ろのドッズキャノンからクランシェ・カスタムの改造機と分かるがその改造が特徴的である。

 

全身深緑のメタリックをし、胸にはエネルギーラインなのか、銅色が線状に光っていた。顔全体を覆う無機質なバイザーにもその銅色が隈取の如く輝いている。

手には刀身が真っ赤に塗られた剣が握られていた。その謎のガンプラから通信が入る。

 

「よくやったじゃねえか。こういうことはコイツじゃできなかったからな。助かった。」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。助けがなければやられていた。」

 

「ああ、いいってことよ。それよりも・・・。」

 

その時、アラートが鳴り響き、ビームが二人の間を走る。すんでのところで二人はそれを避けた。

カニバトーレが起こした大爆発、の煙からMSが躍り出る。赤いアルヴァアロン、否、カニバアロンだ。

 

「おのれおのれおのれぇっ!!」

 

「よくもカニバトーレをっ!」

 

二丁のGNビームライフルを乱射しながらこちらに向かってくる。それをZZも改造クランシェもヒョイヒョイと避ける。

逆にカニバアロンとすれ違う刹那にZZはビームサーベルで、改造クランシェは剣でGNビームライフルをぶった切った。

乱心したヒメとドージは機体を反転させ、GNビームサーベルを抜き放ち、またも突貫する。

改造クランシェファイターがチェイスに再び指示を出した。

 

「俺がアイツを倒す。お前、手伝ってくれるか?」

 

「了解した。何をすればいい。」

 

「アイツを抑えてくれ。」

 

そう言われるやいなや、ZZは襲いかかるビームサーベルの斬撃を腕のシールドウイングで防ぐ。寸分の隙も与えずに巨大な脚でカニバアロンの胴体を思いっきり蹴り上げた。そして言われた通りにあっという間に相手の背後に周り、その力を以て腕を押さえつけ、チェイスが叫ぶ。

 

「今だ!やれ!」

 

改造クランシェが剣を胴体部に突き刺す。すると左手首に装着されていたかなり小さい盾のようなものを剣の刀身に取り付けた。

刀身が左右へ翼のように変形展開する。

 

「ZZ!離れろ!音撃斬、雷電激震!!」

 

そして剣の柄に張られていた弦を弾く。驚くべきことに、エレキギターの音が出たのだ。

そしてその音は単純だが何度も、何度も長く続く。その光景にチェイスは今日一番の驚きを得た。

時間にして30秒経ったか。カニバアロンが一瞬膨らむと、オレンジの光を撒き散らし、爆散した。それと同時にバトルが終わる。

バトルロワイヤルモードは激戦の最中にラルさんが設定を変え、カニバトーレが敗北すると終了するように設定していたのだ。

 

光の粒子がマシンから消える。あとには参加者のバラバラになったガンプラ、ボロボロになったカニバアロン、そして誇らしく立つ謎のガンプラとZZが残されていた。

すぐにチェイスはヒメとドージのところへ走る。それを見た二人はこれはまずいと逃げようとするが。

 

「逃げられねえぞ。」

 

出口にコートを着て、サングラスをかけたワイルドな男性が立ちふさがっていた。

 

「MSだけのバトルロワイヤルに巨大MAで来るとは、いい度胸してんじゃねぇか。」

 

声からして謎のガンプラの持ち主だろう。チェイスも二人の後ろを塞ぎ、追い討ちをかける。

 

「ルールを守らない者に、ガンプラバトルをする資格は無い。」

 

声が低すぎる圧の強い男二人に挟まれたヒメとドージは、立ちすくむことしかできなかった。

 

 

 

 

その後、ガンプラバトル公式審査員と呼ばれる人が偶然通りかかったことにより、二人をそちらに預けることになった。といっても、別に警察のように何かしら罰を与えられることがないため口頭注意などで済まされるらしいが。

 

ともかく今日はバトルが一旦お開きになる。ダメージ設定は低いため、参加していた人たちのガンプラは壊れているものが少ない。

チェイスも自分が使っていたZZを拾い上げた。それと同時にワイルドなファイターが話しかけてくる。

 

「悪かったな、囮に使うようなマネをして。」

 

「俺はそんなことは気にしていない。だからお前も気にするな。」

 

「フッ、そうか。しかしいい動きだったな。」

 

ファイターが自分のガンプラを拾い上げる。よく見るとそれは、クランシェカスタムを改造したものであった。

 

「特にあのカニバアロンの背後に回り込む時のマニューバ、なかなかできるモンじゃないぞ。初心者じゃないな。始めてどれぐらいだ?」

 

「これが2回目だ。対人戦は初めてだ。」

 

「・・・冗談だろう。」

 

「いや、その青年の言ってることは本当だよ。ザンキくん。」

 

ラルさんがワイルドなファイター、ザンキに話しかけた。

 

「ラルさん、それは本当か?」

 

「あぁ、彼は紛れも無い超初心者だよ。ファイター歴は赤ん坊といってもいい。」

 

「赤ん坊じゃないだろ。どう見たって結構な中堅の動きだ。」

 

これも仮面ライダーと呼ばれる戦士の戦闘能力が反映されているのか。一瞬頭の中でラルさんは思う。

 

「稀にいるだろう、ザンキくん。初心者ながらもすごい能力を発揮するのが。」

 

そう言われてザンキはラルさんの横のセカイを見ると、「あぁ・・・。」と少々納得したような声を漏らした。

 

「しかしザンキくんがいてくれて助かったよ。だがここには最初からいなかったな?」

 

「買い出しに出てたんだ。そしたらなんか店が騒がしいから、偶然持ってたコイツでな。」

 

改造クランシェカスタムを見せる。

 

「ううむ、相も変わらず出来がいいな。そのクランシェは。」

 

「いいだろ、クランシェ・斬カスタム。元のクランシェカスタム要素はドッズキャノンと下半身くらいにしかならなくなったが。」

 

チェイスはクランシェ・斬カスタムを見る。無機質なラインに有機的な要素を落とし込んだそれは、不思議と溶け込んでいるように思えた。こういう物を、自分でも作れるのだろうか。

ザンキがガンプラを懐から出したタッパーのようなケースに入れる。

 

「しかしまぁ、よくやったぜ。名前はなんていうんだ?ZZ使い。」

 

「チェイスだ。俺だけのガンプラを探している途中で、これは一時的に使ったに過ぎない。」

 

「ほぉーう、なるほどな。俺はザイツハラ・ザオウマル。名前が長いからな、プレイヤーネームは『ザンキ』ってんだ。ラルさんとは結構な付き合いだからな。これからもしばしば会うだろう。ま、よろしく。」

 

そう言われ、チェイスはザンキとがっちり握手を交わした。じゃ、とザンキが三人に別れを告げて帰る。

 

「どうするね、チェイスくん?何かガンプラを買うかね?特別だ、私が出そう。」

 

ラルさんがチェイスに声をかけた。そう、突発的にガンプラバトルをしてしまったが今日の本来の目的はチェイスのガンプラを購入しに来たのである。店内に戻り、リンコにZZとGPベースを返すと、チェイスは言った。

 

「ならば、速度が自慢の物が欲しい。サイズは今日使ったものと一緒だ。」

 

ふうむ、とラルさんが考え、棚へと向かう。その後、何箱かをチェイスの前に持ってきた。

 

「とりあえず、私が考える速度自慢のガンプラだ。全部買ってもいいのだぞ?」

 

「それは大丈夫だ。ここから選ぶ。」

 

というわけで、閉店ギリギリまでラルさんの解説を聞きながら慎重に選ぶという作業が続いた。

やっとのことで選び、帰り道を急ぐ。

 

「ありがとう、ラルさん。塗料も買ってもらうとは。」

 

「何、このぐらいならお安い御用さ。しかし、黒と紫、銀とはなかなかに面白い組み合わせだな。」

 

ああ、と返すチェイス。彼なりのこだわりだ。

 

「しかしセカイくんも済まなかったね。長々と居座らせて。」

 

「いえいえ、これはチェイスさんのためでもありますし、それにラルさんの話も興味深かったです!」

 

屈託のない笑顔でセカイが答える。ちなみにセカイも自分のガンプラを磨き上げるための部品や道具などを買ってもらった。

その後、途中でラルさんと分かれる。今度はチェイスとセカイ、二人の会話が繰り広げられた。

内容としてはやはりセカイから見た今日のチェイスの戦いぶりである。

 

「やっぱりチェイスさんはすごいですよね。ザンキさんの指示にも上手く対応して。それに、あの図体にもかかわらず機敏な動作!見たことないですよ!」

 

「ガンプラは機体各部にたくさんのスラスターがある。それらを効果的に使えばセカイにも使えるはずだ。・・・部活で優勝しているならばできるのではないのか?」

 

「いやぁ、俺のガンプラとチェイスさんが使ったガンプラと、やっぱり違いますし、それに俺のは、一点突破!な感じなので!」

 

なるほど、セカイの戦い方は自身に近い者だとハートのようなものか。少し違うかもしれないが、チェイスは心の中でそう思った。

 

「そういえばさっき、姉ちゃんから連絡がありまして。是非とも事務所の社長さんが、一緒に来て欲しいらしいですよ。」

 

「モデルの件か。分かった。そうだ、セカイ。俺と一緒にこれを作るか。」

 

「嬉しいんですが、ちょっと宿題があるので・・・。でも、休憩中に見てもいいですよね?」

 

なるほど、確かにセカイは学生だ。いくらガンプラファイターといえども、本分は勉強が大事。一抹の寂しさを覚えるがこれも仕方が

ない。

 

「分かった。いいだろう。」

 

「やった!ありがとうございます!あ、あと、勉強でわからないところがあれば、教えてもらってもいいですか?」

 

「あぁ。だが、なるべく自分の力で解いた方がいい。」

 

「それはもちろん!」

 

わいのわいの騒ぐ二人。夕闇がそんな二人を優しく包んでいた。

 

 

 

 

ミライ、チェイス、セカイの三人で夕食を食べ終え、後片付けが済むといよいよガンプラを作る作業に入る。チェイスは箱を開け、中身を確認した。袋に包まれたいくつものランナー、説明書に不備がないことを確認する。

 

そしてランナーを出すと、それらに色をラッカーで吹き付けていく。塗料が乾くのを待つ間にチェイスはミライから明日のことについて話を聞いていた。

 

「ウチの社長さんも、写真を見た瞬間に『イイ!』って言ってて。早速明日、事務所の方に出向いて話がしたいって言ってたんです。一緒に来てもらえませんか?」

 

もちろんそのような頼みを断るチェイスではない。首が縦に振るわれた。

 

「ありがとうございます!チェイスさん、モデル映えする顔だなーって思って、もしかしたらいっぱい仕事来るんじゃないかなって思いまして。勝手なことをして申し訳ありません。」

 

「大丈夫だ。こういうことは、俺のためにもなる。色々体験したほうが、俺は、いいと思っている。」

 

「ふふっ。かなり真面目ですね。チェイスさんって。」

 

「よく言われた。」

 

湯船に水が流れ込む音が遠く小さく聞こえる。セカイも真面目に宿題をしているようだ。

 

「これから、改めてよろしくお願いしますね。やっぱり、賑やかな方がいいですから。ウチは。」

 

「あぁ。」

 

賑やか、というにはやや程遠い簡潔すぎる返事が飛ぶ。だがミライには、なぜだかその返事すらも安心できる、ような気がした。

 

「もうそろそろお風呂が沸く頃だと思いますが、チェイスさんは最後でいいですか?」

 

「しばらくガンプラ作りに励む。最後でいい。」

 

「分かりました。では、お先に入りますね。」

 

二人は分かれる。チェイスはそのまま塗料の乾いたランナーに手をつけ、ガンプラを作り始める。パチリ、パチリとニッパーの刃が

入る小気味良い音がリズムよく鳴った。

 

その後両手両脚を作ったところで風呂に入り、ミライの許可を取ってついでに風呂の掃除も行う。その長い間、縁側に置かれた空き箱の中に放置されていたガンプラは、工業製品かと見紛うほどのものであった。

 

 

 

 

チェイスが風呂に入っている頃、少し休憩を取ったセカイが作りかけのガンプラの箱を見る。

 

「ユウマが使ってたものとおんなじ名前してるガンプラかぁ。」

 

箱には燦然と「RX-78 GP01Fb ガンダム試作1号機 フルバーニアン」の文字が躍っていた。




というわけで、まずは自分の中で見てくれ中身共に男らしい、ザンキさんを出してみました。もしかしたら同じ役者であるガルルのテイストも混ざっちゃってるかもしれませんが・・・。

チェイスとミライが喋ってる間、恐らくなぜかラルさんはケツの痒みが止まらなかったんじゃないかと思います(笑)

そしてついに自分だけの初めてのガンプラはGP-01、フルバーニアン!もちろん、ここから様々な改造を施していく予定です!完全体になってからのバトルデビューは先ですが・・・。

オリジナルガンプラ解説
<カニバトーレ>
ヒメとドージが操るアルヴァトーレの改造ガンプラ。
機体上面にさらにハサミ一対が追加され、赤くなった以外は、意外と手堅い改造が施されている。
名前は「アルヴァトーレ」+「カニ」+「カニバリズム」を合わせたもの。まるで人を喰うが如くガンプラを倒していくことから命名された。
だが別にガンプラを喰うようなことはしてない。

<クランシェ・斬カスタム>
ザンキが使うクランシェ・カスタムを改造したガンプラ。
主に上半身に特殊な模様が施されているが、プラフスキー粒子を効率よくエネルギーに変換できるための流動ラインになっている。
武器はドッズライフルの代わりに装備する剣、烈雷。小型シールド「雷轟」を刀身にセットすればギター形態に変形。敵に突き刺し、それを「弾く」ことでエネルギーを内部に流し、そこから爆発させる「音撃斬・雷電撃震」という必殺技が使える。


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