ストライクウィッチーズ~日章の桜翼~ (toryu)
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最初の太平洋

こちらの投稿サイトでは初めてですが、今無きにじふぁんでは投稿をしていました。
色々文が貧しいところもありますが読んでくれると幸いです。


――1943年 太平洋上空

<<敵飛行隊、南へ転進されたし・・敵・・、>>

青空の空向こうに浮く綿飴の様な白い雲と、銀鳥が空を駆け抜ける。

零式艦上戦闘機ニ二型。

 

我々は3機1個小隊でこの空で空戦を終えた所だった。

熟練が集まるラバウルに所属する俺達は以前まで敵無しと言われていたが今はそうでも無い。

なんせ左捻りのパイロットや異常な数の敵機を落としては帰還する兵。

少し影が薄れているがけどね。

<<1番機、隊長機へ。方位磁針が狂っています>>

機内の方位磁針を見て見る。

 

確かに乱れ狂った様に回ったり細かく揺れたりと大雑把に動いていた。

<<前方巨大な積乱雲>>

分厚い雲が目の前に現れ、一瞬にして日差しが途絶えると、轟く雷音が鳴り始め気流が強くなる。

俺は隊長でもない、只の下っ端さん。

一応2番機と呼ばれている。

<<司令部との通信が取れません>>

<<仕方が無い。雲の上を飛んでラバウルを目指す>>

 

隊長機が機首を雲に上げそれに合わせ操縦桿を引いて、雲の中に侵入し白い視界の中をさ迷う。

薄らと濃緑の隊長機が前方、後の3番機が見える。

気流に乗りながら積乱雲を抜け出す。

 

果てまで輝く星のような海洋が広がって小さな島や、大陸のような島が水平線に浮んでいた。

<<ラバウルか>>

隊長は安心した様に言葉を発し、高度を落とすが――

<<海上、敵艦隊!>>

「なっ・・!」

<<何だ!?>>

 

双眼鏡を覗き5隻の敵艦隊の国籍旗を確認する。

赤緑白の十字旗?

何だこれは・・。

<<これはイタリア軍の戦艦です!>>

<<なぜ太平洋に居る!>>

<<じょ、上空黒い物体!隊長回避!>>

 

で、デカイ。

複数の翼を揺らしながらこっちに向かってくる謎の黒い飛行物体・・。

確認と同時に赤い光線を放つと編隊を崩し、回避した隊長機。

<<隊長、二式飛行挺です。確認を取りましょう>>

 

真横を飛行する二式飛行挺に隊長機が最初に旋回をし後に続く。

水底機へ近づき国籍を確認するが・・、

<<日本海軍機ではないだと!?>>

どうなっているんだ!と混乱する隊長だが冷静になるのが早いと言うことで有名なので、こう言った行動は前兆なのだ。

<<イタリア軍艦が飛行物体に砲撃を開始!>>

 

<<こちらは大日本帝国ラバウル海軍航空隊所属の隊だ!現在飛行物体がそちらに接近している。我々に続け、安全地帯へ誘導する>>

隊長が国籍不明の二式飛行挺へ誘導命令を送ると、

<<こちらは扶桑海軍航空隊だ。命令は承認出来ない。あれは敵だ>>

 

日本語・・?

扶桑海軍航空隊?

しかも女の声だ信じられない。

<<扶桑海軍航空隊・・?>>

 

<<ラバウル隊と言っていたな。あの飛行物体は"ネウロイ"と言うものだ>>

<<話す時間は無いが今はあの艦隊を助けなければならない>>

二式飛行挺からは1人の少女が飛び降りた。

足に何かを装備し、20mm旋回機銃も手にあの飛行物体へ白線を出しながら高速へ。

 

<<私達は扶桑皇国海軍のウィッチだ>>



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出会い

<<隊長どうします?>>

<<どうするも何も援護するしかないだろ。俺に続け!>>

<<了解!>>

「了解!」

 

エンジン出力を高め最高速度であの飛行物体へ俺達は攻撃を開始する。

ペンのキャップぐらいのサイズだった物体は次第に大きくなり、鯨の何倍くらいかの想像以上の物だ。

今までに無い戦闘だ・・。

冷や汗が出る。

あの光線が不思議と怖い。

光学照準器と視界が影に包まれ暗くなる。

 

隊長機の攻撃と同時に左手を7.7mm発射機を握り指で引き金に力を込め様とした。

引かれた時、機首の機銃がかんしゃく玉の様に火薬を炸裂させながら7.7mm弾を発射する。

宝石板の黒い六角形は銀色の弾跡だけを残して、後から後へ線を描いた。

右手で操る操縦桿で飛行物体の側面を抜ける。

 

<<隊長! 20mmでも駄目です!>>

<<くそぉ・・!>>

 

「何だ・・?」

空から舞い振るガラスの様な破片が。

上を見上げる。

太陽の光りが刺す空の中、少女が2人に増えていて大型のライフルを手に。

そして次々やって来る。

アメリカ製の機関銃を持った女の子、P51と言う米軍の戦闘機に似たものを足に装着した者まで。

続々とやって来る・・!

 

ロケットランチャー、2丁機関銃、イギリス製のブレン機銃を持った少女達が。

3機1個小隊を編隊飛行したまま、高度を上昇させ飛行物体の真下で様子を見る事になった。

なんせ20mmでも効果が無い物だ。無理も無い。

 

華麗な飛行雲を絵の様に。

弾幕で装甲が削れるのを嫌がっているのか飛行物体は、少女達の攻撃も関わらずその場を避けようとするが――

<<なんだありゃあ!>>

隊長達が見たのは、赤い光線を切り裂く人間・・?じゃない。

 

獣の耳や尻尾を伸ばした女が刀を持ち、光線と物体丸ごとを真っ二つに斬り破いた。

何も無かったかの様に物体は静かに消滅・・・。

<<私達の基地に来い、話したい事や聞きたい事がある>>

 

<>

――不明地 食堂

夕暮れの日差しの中、お城の様な空軍基地が存在していた。

ここはロマーニャと言う国らしい。

物知りの3番機じゃなくて伏せ名の"タケムラ"は俺と隊長にイタリアと教えてくれた。

 

俺達は食堂へ入り縦長のテーブルへ座れたまま、2人の少女と対面をする所だ。

「私は坂本美緒少佐だ。原隊は扶桑皇国海軍24航空戦隊 288航空隊所属だ」

大和撫子らしい乙女だなあ。

右目は眼帯で隠してあり、中はどうなっているかは知らない。

只、負傷したと言う事は絶対だな。

 

「名前はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。よろしくお願いしますね」

お姉さんらしい赤髪の欧米人?の女が口にした。

この混合にさすがに耐えられないのか、隊長は護身拳銃へひっそり手を伸ばしている。

 

「俺達は大日本帝国海軍、ラバウル航空隊から分裂した小隊の隊長だ。階級は中佐」

「よろしく頼む」

「俺は伏せ名でタケムラ。階級は大尉」

「3番機・・。シデン。階級、大尉

本名はあるんだけどあえて晒さない。

敵味方はっきりしてからだ。

 

「話したい事は先に言う。ここの部隊は何だ、お前達は何者だ、そしてここは何処だ」

 

「ほお、随分あると思ったらそれなりに少ないもんだなあ。よし良いぞ、話してやる」

坂本さんと隊長の対話か・・。黙って聴くか。

「ここの部隊は501統合戦闘航空団、通称"ストライクウィッチーズ"だ」

「ウィッチの力、魔力を持った者がここに集められる。と言っても少数だけどな」

「私達はウィッチの能力を持った軍人達だ。今日再編成されたのだ」

ん、今日?

 

「1945年にヴェネチアにネウロイと言うさっきの飛行物体が占領したのだ。そこで我々501戦闘航空団が集結し、ここアドリア海を主力にロマーニャを解放する」

ここの世界では1945年か。

「穴埋め出来ないまま我々達が集まったと言ったほうが早いな。はっはっは」

「美緒ったら・・」

 

「最後にここは何処だと言っていたな」

隊長は小さなポケットに入れていた世界地図の紙をテーブルに広げ、赤いペンを2人の前に差し出す。

「ここは何処の国か分かるか?」

指したのはブーツの形をしたイタリア。

 

「ここは私達で言う世界ではロマーニャ、北へ上がればカールスランとブリタニア、ガリア、北東へスオムス、オラーシャ・・。そして太平洋を乗り越えリベリオン、扶桑だ」

と言いながらカタカナで丁寧に記入していくでは無いか。

ここまで言うと、ここは501戦闘航空団、ストライクウィッチーズ。ウィッチは魔女を意味する。

1945年にヴェネチアが占領され解放するために再結成。

それぞれの国の形は変わらず別世界、現世界でも存在する。

「そうか・・。有難う、坂本少佐」

「そうだ。君達が乗って来た戦闘機は何て言うんだ?」

 

「零式艦上戦闘機ニ二型」

「量産の戦闘機か・・」

「何かお礼をしたい。戻れる道が開けるまでここで戦わせてくれ」

「良いのか?生存率は少なくなるが・・」

「構わない。戦わないだけマシだ」

 



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挨拶と実戦

さて1日も過ぎて今日からお世話になるのが、ここの501戦闘航空団のアドリア海基地。

遺跡を元々改造して基地にしたらしい?

最初は慣れない。

着替えは無い・・。

飛行服を部屋に置いて、至急された海軍の短パンとシャツだけで過ごし、服を買うと言う手もあるがお金も無い。

 

廊下を歩いて外へ出ようとするが、

「まて貴様」

目の前に現れたのは硬く強い女性軍人が現れ立ち塞がれてしまった。

姿勢も良い、乱れた服装でも無い。新兵達の鏡になって貰いたいな。

「どこの者だ」

「あ、ああ。ここにお世話になる大日本帝国海軍の者だ」

「日本と言う国から来た人か。話は聞いているが・・すまない、偉い態度を取ってしまって」

 

「いや良いんだ。こうやって接してくれると有難いんだ」

「格納庫はどこにある?」

「格納庫は私のすぐ後ろだ。もう1人、シャーロット・E・イェーガーと言う者がいる」

「自己紹介してはどうだろうか」

 

シャーロット・E・イェーガー。

まるでアメリカ人っぽい名前で複雑だ。

なんせ欧米人とアジア人混ざりの部隊だから無理も無い。

「有難う」

「私はこれで失礼する」

 

と言いって会話を終わらした。

格納庫へ足を踏み入れる。

3機、翼を降り畳まれた零戦二二型が並べられ2脚の装備品が何時でも出撃?出来る様に配置されてあった。

 

しかしイェガーと言う人は見当たらない。

「気分晴らしに基地全体の風景でも眺めようか・・」

 

<>

 

無線を通じてミーナ中佐に許可をいただいた。

飛行服は何故か機内にあったおかげで助かった。

高度は1000m。

デカイ象と古い建物が敷き詰められ、壁に沿って生え伸びた緑の植物が目だったり、綺麗な花畑があったりと考えられない基地だ。

これも士気を高める為の物か。

 

「ん・・?」

黒ゴマの様な物が風防越しに・・。

双眼鏡を覗いて指の感覚で度を下げたり上げたりピンを合わせると、昨日であった"ネウロイ"がこちらに向けて接近している。

形は大型爆撃機のB25に似ている。

B24似だからそれなりの弱点はあると思う。

 

「敵ネウロイ、南の方角にて確認」

<<こちらも確認したわ。基地に一時帰還してください、すぐにウィッチをそちらへ――>>

「基地帰還命令は却下する」

「敵接近、戦闘状態入る」

 

<<駄目よ!すぐに戻って!>>

そんな声を無視し、高度を一気に上昇させる。

一撃離脱を仕掛け相手の弱点を探る為に。

高度2000・・3000・・、4000・・!

この高度なら!

丁度上手い具合に近づいてきた"ネウロイ"は赤射線を放ち、俺を追っ払おうとする。

そんな攻撃も無駄に等しく、零戦の圧倒的機動で楽々と回避。

 

光学照準器に赤く染まったエンジン部へ機銃を発射!

爆発の揺れで20mmが唸り、着弾と同時に赤く炸裂した弾だが装甲が剥がれただけ、うんともすんとも言わずに飛行を続ける。

丁度到着した2機の零戦。

<<攻撃に集中しろ!>>

隊長の声と共に俺は操縦桿を握り倒し、下部への攻撃を試みようと高度を落とした。

目標より下へ。

操縦桿を引き倒し・・!

 

機首を下部に向け、20mm発射機ボタンを親指で乗せ狙いを定める。

ネウロイの下部中心だ!

押した機関砲発射機と一緒に4発に1発入る赤い曳光弾が、装甲を貫き穴をぽっかりと開けると顔を出した赤い宝石が内部から出現した。

そしてじわじわと復元する。

 

「このっ!」

機首の7.7mm機銃を掃射!

連続撃ちに負け続ける復元を遅くなり、止まることの無い機銃弾は赤い宝石を一気に砕ける。

ネウロイは操り人形の糸が切れたかのように動きが鈍くなった。

 

そして白と銀の混じった破片が辺り一面に散り広がり、雪の様に静かに降り注いだ。

撃破と一緒にウィッチの増援はその姿を目の当たりに静止していた。

<<はっはっはっは! 見事だ! 帝国海軍と言うのはネウロイまでも撃破してしまうのか! これは参った!ハッハッハ!>>

<<す、すごーい・・!>>

 

<<どうだ。俺達だってやれるんだ>>

「手柄は2番機の俺が取りましたけどね」

 



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初戦果

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初戦果を挙げた。

2番機の俺の機体に、黒い六角形を貫く矢の撃墜の印が入れられた。

他にも星の数だけ多いがせいぜい10機落としたばかりだ。

 

と言っているうちにすでに夜だがな。

扶桑と言う国から送られた服も帝国海軍同様。

まあ違和感無いだけマシだ。

 

食後の終わりに広々とした"居間"に案内されたが特に話す事も無く、ロマーニャの夜景を3人で見るだけだった。

と、坂本少佐が本を2冊ほど抱えてテーブルの上に置いたではないか。

「まあ最初は緊張するかもしれないが、これでも読んで覚えてくれ」

それほど分厚くはないけど何だこれ。

手にして適当なところを開くと、金髪の短髪の少女の写真が。

 

ほうほう・・"エーリカ・ハルトマン中尉"

で次のページでは今朝であった髪を束ねた、"ゲルトルート・バルクホルン大尉"

そして、"ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐"か・・。

どれも200以上のエースと書かれていた。

 

次のページ、扶桑の一覧と書いてあるが、"坂本美緒少佐"の事だけしか書いておらず後他は居なかった。

いや、あの茶髪の子が居ただろ・・。名前わかんねえ。

 

それはそれで置いといて、次はブリタイアか。

"リネット・ビショップ曹長"

胸があ・・あっ。

こいつは覚え易いから良いな。

料理もあの子と一緒だったから仲良しさん?

 

次に、銀髪の"エイラ・イルマタル・ユーティライネン"と"サーニャ・V・リトヴャグ"

 

ガリアと来てメガネっ子"ペリーヌ・クロステルマン"

家元が貴族。

恐らく態度か何かで示せれば分り易い子。

リベリオン、ロマーニャ。

"シャーロット・E・イェーガー"と"フランチェスカ・ルッキーニ"

大人と子供の差が出てるからこれも覚えられるんじゃ・・ないか?

後は知らん!

 

とにかく顔を覚えるだけで精一杯だ!

ぱたんと閉じてテーブルに戻す!

「ハァ・・」

溜息を吐いたのは俺だけで、隊長とタケムラは楽しそうに会話をしていた。

 

<>

風呂場下の所で・・。

風呂に入ろうと思ったけどすでにお客さんが居て、とてもじゃないが入る気はまったくしなかった。

空っぽのドラム缶を洗ってそいつを風呂の代理にすると言う。

 

「んあーどうだ湯加減は?」

極楽そうに隊長は頭にタオルを乗せながら俺達に言う。

「良いですよ。でも古新聞紙や拾ってきた、枝や木で燃やしてますからすぐに冷めますね」

「贅沢は言えないな」

俺を除いた2人の会話。

「明日の朝、射撃訓練でもしませんか? 飛行した時射撃場があったので」

 

「思う存分撃てるなら撃ちたいさ」

隊長は空を見上げながら呟く。

ラバウルに居た頃には無駄に銃は撃てなかった。

多分ここでは撃て無いと確信しているんだろう。

「明日許可を取ってみます」

 

と、プロペラ鳴く。

後を振り向くと大きな武器を手にした少女が飛ぶのが見えた。

夜間哨戒か。

「サーニャ待ってくれヨ~」

今度は棒読みの子が後に。

あ、あれは・・うん。

 



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ジェットストライカー1/2

さて朝も中々暑い。

イタリアは暑いと聞いていたが、まさかラバウルより暑いとは。

熱帯地帯のラバウルはじめじめする感じだが、イタリアの場合はじりじりと皮膚を焼くような感じだ。

外へ出ようと格納庫から話し声が。

 

3人で暑い中へ入ると真っ赤な色で染められた2脚装備が。

それを前に坂本少佐とミーナ中佐が。

「見て見るか。 面白そうだしな」

そうするか・・。

 

格納庫の2人に話しかけた隊長。

この真っ赤な2脚装備を360度眺めて見る俺。

「カールスラントからの試作品ね。 Me262、ジェットストライカーよ」

 

ジェットストライカーと言う名前か。

ジェットと言う文字を外して、この2脚装備の名はストライカーってなるな。

詳しい話は後で聞こう。

「これは・・?」

バルクホルン大尉が現れるとミーナ中佐は「試作のジェットストライカーよ」と答えた。

「速度は950km/hになるわ」

 

950km/h!?

零戦でもせいぜい544km/hなのに・・。

カールスラント、いやドイツ軍はこんな驚異的物を開発していたなんて・・。

「950!?凄いじゃないか!」

その速度に食いついてきたのは少し明るい茶色い髪の毛のシャーロット・E・イェガー大尉。

イェーガーだっけ、イェガー?

 

発音的に変わらないから良いとして。

「ジェットストライカーと言うのか。その速度、生で見たいもんだ」

気になり始めた隊長。

正直な所950と言う速度、俺も見たい。

 

「じゃあ私に乗らしてくれよ!」

た、隊長に言ってもなぁ・・。

「いいや私が履こう」

今度はバルクホルン大尉が。

「ジェットぉ?」

だらーっとしている金髪の短髪の子がエーリカ・ハルトマン中尉。

見た目以上、200機撃墜とは思えない。

「何だよ私が履いても良いだろ~?」

「カールスラント製の機体は私が履くべきだ」

 

履く、履かないで口論が始まった。

指を口論2人組に指差したタケムラは少佐に、

「あの人達は喧嘩するほど仲が良い人? 少佐」

「ん?ああ・・いつもの事だからな」

と、そんな事を話す。

「皆さん、ここに居たんですか?」

「朝ご飯の準備が出来ましたよ」

 

海軍のセーラー服の子が"宮藤芳佳"、同じ身長と言うより少し高く髪を編んだ薄い茶髪の子が"リネット・ビショップ曹長"

2人ともエプロンをしているから炊事班担当か。

「あ、こんにちは!」

宮藤さんと目が合ってしまった。

丁寧に挨拶とお辞儀までしてくれた。

 

リネット曹長も後からしてくれた。

挨拶までしているうちに口論してた2人はストライカーを履いてエンジンを唸らせている。

隊長機のエンジンまで発動させてしまい、整備士が折畳んでいた翼をきっちり元に戻していた。

「止めないんですか?」

「何時もの事だから・・ね」

失笑するミーナ中佐。

 

<>

 

高度3000m。

最高高度、火力、重装備速度。

この競争でどちらが高いか決めつける。

と言っても俺とタケムラは地上待機で観戦。

「うわー・・すっげえ」

双眼鏡を目に、隊長機は7000mで失速。

イェーガー、バルクホルン大尉は白線を描いて天へと上り続ける。

ピント合わせをし倍率を高めると、イェーガー大尉のプロペラ速度が低下し始めた。

それに対してバルクホルン大尉はぐいぐいと上昇する。

バルクホルン大尉のジェットも力尽きたのか速度が低下しそのまま落下。

 

そしてお次は速度と火力の組み合わせ。

バルクホルン大尉には75mm砲と30mm4門。

イェーガー大尉はライフル火器。

 

ルッキーニ少尉が旗を振り下ろした時、イェーガー大尉はスタートダッシュで目標の阻塞気球へ一直線。

後から発進したバルクホルン大尉も同じ様に行く。

 

楽々簡単に越してしまい、阻塞気球は火の玉になった後、風船が破裂する音を鳴らした。

<<あのジェットストライカーってのは良い部分もあるが最悪なところもあるんじゃないか?>>

最悪な所?

 

バルクホルン大尉を双眼鏡で追ってみると綺麗な直線が一気に乱れ、そのまま一気に急降下。

アドリア海へ、小さな潮柱を立たせた。

双眼鏡から目を放す。

「お、落ちた!?」

眼鏡のペリーヌ・クロステルマン中尉が声を発した後、宮藤さんとリネット曹長が海上へと近づく。

 

 



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ジェットストライカー2/2

 

医務室へ皆行ったが俺はあえて行かなかった。

格納庫へ入ると、ストライカーを整備していたイェーガー大尉とルッキーニ少尉が居た。

「お?ああ、今朝の!」

イェーガー大尉が気づき、後からルッキーニ少尉が手を振ってくれた。

適当なところに尻をつけて本題へ。

 

「イェーガー大尉はバルクホルン大尉と仲が良いのかい?」

「仲は微妙だけど同じ仲間だからな~。一応、信頼はしてるよ」

「ねーねー!これ飲んでみるー?」

 

ルッキーニ少尉の小さな両手で差し出してきたのは、瓶の中の茶色い液体。

「これは?」

「リベリオンの炭酸ジュースなんだ。飲んでみなよ」

炭酸と言えばラバウルでサイダーとか飲んだな。

まああれは飲みやすかったから。

瓶を口に運んで、一気に飲んだ時舌と喉、食道が痛い感じにヒリヒリする。

「た、炭酸がきついね・・」

甘くて少し苦い感じがするけど・・。

「ストライカーを整備しているのかい?」

「ははは。ストライカーじゃなくてストライカーユニットさ。 私のはノースリベリオンP51D」

「P51D・・」

 

ふとP51Dと言う言葉に脳裏から銀翼の戦闘機が蘇る。

その時は敵の新型機と認定し襲いかかったもんだが、相手になるほどのものじゃ無い。

なんせ高高度、高機動、高火力、高防弾、高航続・・。

どれも零戦が求めていた物をすべて入れた最高の戦闘機だ。

 

「どうしたぁ?」

「あ、いや・・あっちの世界でもP51Dと言う戦闘機があってな・・」

「へー・・。そう言えば別世界ではネウロイと戦争でも?」

「人間同士さ。 ネウロイなんていない」

「人間同士・・か」

小さく呟いたイェーガー大尉。

なんせ人間と人間の戦いだからな・・。

 

「ねーシャーリー、なに話してるの?」

「んー?ルッキーニには難しいお話さ」

まるでお母さんの様にルッキーニ少尉の頭を優しく撫でる。

「じゃあ俺はここで・・」

「おうまた後でな」

 

<>

お昼になるとまた皮膚を焼く様に暑い日差しが・・。

が、そこで我々の出番がやってきた。

ネウロイがこちらに接近して来ているのだ。

 

一直線に零戦へ乗り、現れる整備士が翼を伸ばす。

エンジンが爆音を唸らせながら、操縦桿を引いて倒し、右へ左へ。

「エルロン、ピッチ問題なし!」

次はフラップレバー。

「フラップ問題なし!」

声を高く確認を終えた整備士。

これで良い!

「よーし!問題無いな!」

「1番、隊長機発進!」

「2番機発進す!」

「3番機、問題なし!」

駆けつけてハルトマン中尉、イェーガー大尉、坂本少佐、ペリーヌ中尉がストライカーユニットを装備する間、俺達小隊は滑走路を蹴るゼロ戦を操り、空へと飛び立つ。

 

隊長機が機首を上げ、上昇する。

操縦桿を引く。

左右上下へ翼を振りバンクする隊長機は速度を落とし、俺の隣へ機体を動かし手を動かす。

 

"敵1体、高速型ネウロイ 高度3000m"

 

敵は1体、高速型のネウロイ高度3000m。

確かにジェットストライカーの様に速いロケットネウロイが突っ込んでくる。

距離を自ら縮める敵に20mm機関砲を発射。

爆発と揺れに、20mm弾は目標に命中したが装甲が剥がれる程度の損傷で、そのまま見えない速さで俺達を追い越した。

<<うおおおおおおお!!>>

<<バルクホルンさん!まだ魔力が!>>

バルクホルン大尉!?

すぐに機体を旋回しネウロイを追うと視界に、75mmカノン砲を手に砲撃を続けるバルクホルン大尉の姿があった。

 

<<あれには追いつけねえなあ・・>>

隊長が言った瞬間にネウロイは撃破、と同時にバルクホルン大尉は以前と同じ様に海へ落下。

<<無茶したなあ・・。当分はあの子達に取られるんじゃないか?>>

 



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ロマーニャに秘密警察

戦いも中々疲れる・・。

朝の日差しが射す、自室ではテーブル上に普段着となってしまったシャツと短パン。

そして護身の南部拳銃と散らばった8mm弾丸。

上半身裸のままはイケナイので、取りあえず着る物は着る。

 

食道へ向かうと、リネット曹長、宮藤さんと・・黒い服の子がリトヴャク中尉に水色が・・ユーティライネン中尉かな? 

それぞれ何か話し合っているけど・・。

「皆でどうしたの?」

「あ、シデンさんは何か欲しいものあります?」

いきなり宮藤さんが唐突に・・。

とそこで、

「ロマーニャで買出しするんですよ。何かありますか?」

リーネさんが買出しの事について話した。

欲しいものか・・。

「あ、ああそうだな・・。お菓子が好きだから、お菓子をな・・」

「お菓子ですね」

メモ帳にメモをしながら書くと、

「ンー?あんた誰ダー?」

「エイラ、人に言う事には敬語を使うものよ」

 

「俺は大日本帝国ラバウル海軍航空隊所属者だ」

「よろしくお願いします」

小さく頭を下げたリトヴャグ中尉。

「よ、よろしくダナ」

不思議ちゃん100%ダナー。

 

「皆おはよう」

ここでミーナ中佐が挨拶する。

ハルトマン中尉にバルクホルン大尉がやって来ると、テーブルで茶を飲んでいた坂本少佐が立ち上がる。

と一緒に飲んでいたのかな?後にクロステルマン中尉が椅子から離れ少佐の背中へとついて行く。

 

「宮藤さん、申し訳無いけど2人は留守番できるかしら?」

「どうしてですか?」

「今日、上層部とその兵士がここに来て合同訓練をするの。貴方達も参加する事に」

「ええー!」

「で、買出しはハルトマン中尉とバルクホルン大尉、シャーリーさん、ルッキーニさんで行ってもらうの」

 

ほうほう合同訓練か・・。

帰りに空中戦の模擬戦とか見られるかな。

「買出し、俺も行きたいんですけど」

どうせなら。

「そうね。せっかくロマーニャに来たんですから、ローマを満喫すると良いわね」

 

<>

と言うわけで買出し。

イェーガー大尉とルッキーニ少尉はリベリオン製の輸送トラックと、何故か隊長とタケムラも行くと言う事でカールスラントのBMW-R71と言うサイドカー着き。

そしてハルトマン中尉とバルクホルン大尉はキューベルワーゲンで移動した。

歩いて街中を探索。

ローマと来たわけだが異様に軍人が多い。

 

本で見た程度だがナチス親衛隊っぽい軍人と現地軍人が居るな。

 

「ルッキーニ、ここで良いのか?」

「ここは大抵な物とか揃ってるよ」

建物に挟まれたレンガのお店。

扉を押して中へ入ると、パンや食品、お酒、衣類にラジオに色々様々。

一般私服の体調が近寄り俺の耳傍で・・、

「あいつら注意しろ・・。現地兵士が見張ってる」

「なあシデン、ちょっと吸わないか?ローマの風でも」

 

「ええ、良いですよ」

外に出ようと隊長はタケムラに瞼信号を送りながら外へ出た。

ついでに店の前で立ち、買い物終わりまでここへ。

煙草に火をつけて口へ加えた隊長は、皮の靴で道路を小さく叩く。

 

"ヒミツケイサツ 4"

秘密警察は4人か・・。

 



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銃撃

「思った以上に早くまとまったぞ~。ああそうだ、ローマの街は見ないの?」

「いや今日はいい。すぐに基地へ帰ろう」

「ん?わかった」

 

イェーガー大尉と隊長の会話ですぐに基地帰還が決まった。

買い込んだ荷物をトラックの中へ入れ込むタケムラとバルクホルン大尉だが、

「やけに現地軍人が多いな・・」

どうも賢いバルクホルン大尉もこの状態に気づいたようだ。

「ねーえ、トゥルーデーお腹空いたから早く帰ろうよ~」

「我慢しろ」

 

まるで姉と妹の差だ。

「急げ・・知らぬうちに憲兵と秘密警察が増えてる」

囁かれるとタケムラも伝わり、BMW-R75へ乗り込む俺と隊長、タケムラ。

サイドカーに俺が乗り2人乗りの形で隊長とタケムラ。

「よし行くぞッ!」

イェーガー大尉の声に、トラックとキューベルワーゲンは動き出す。

揺れる振動で揺れるバイクが走り出す。

目を光らせこっちを見るのは憲兵。

「拳銃は持ってるか?」

「持ってますよ。隊長」

 

部屋に忘れてしまった・・。

「シデン、これ使え」

手に渡されたのは、アメリカ製の45口径拳銃だ。

「ついでに予備弾倉2本、本体合わせて21発だ」

「有難う御座います」

「基地までコイツを放すな」

 

<>

夕焼けになると基地が見えてくる。

勿論、後を追う軍用トラックには現地兵士が居る確率は高い。

大きな車体格納庫へトラックとキューベルワーゲンが入ると、左右から現地兵士数十人が小銃の銃口をこちらに向けながら現れた。

「今だ!」

 

隊長の掛け声と共に、バイクから身を投げ出し柱へうつ伏せになりながらも着地した後、乾いた銃声が響き弾が柱の角を貫いた。

トラックからも兵士が現れる。

拳銃の引き金を倒した時、重い反動が手から腕へと伝わる。

連続して銃を撃つ。

 

殺さない程度だ。

腹から下へは鮮血塗れが散り、兵が倒れる。

「止めなさい!」

この声で一気に銃撃戦が止む。

「これは一体どう言う事?」

影から顔を覗くと、上層部らしき人間とミーナ中佐が。

「この人間モドキがネウロイかどうか確かめたんだ」

 

も、モドキ?

「彼らはネウロイじゃありません」

「何なら彼らが"ネウロイ"を倒した証拠を見せて欲しい。無いなら人モドキだがな」

見られていたのか。

でも腕が鳴るな。

 

「ネウロイを倒すにはネウロイのコアを使った兵器、それとウィッチに限られている」

「アンタがそう思うんならそう思ってりゃあいい。次の任務、上層部の皆さん連れて観戦に来るといいな」

 

腕に傷を負った隊長が上層部の人間に強い口調で言い放った。

 



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マルタ作戦前

「っけ・・あの腐った上層部とやら奴はまともじゃないぞ」

夕食のテーブルに並べられる扶桑料理と言う、日本食の肉じゃがを箸で食う隊長さん。

腕の治療は宮藤さんが治療してくれたようで・・、で何故かアフリカの星とか言う人がここに派遣された・・らしい。

 

マルタ島作戦は作戦室で内容を教えてらった。

マルタ島を占拠するネウロイは球型、地上に張り付いており潜水艦からウィッチを出撃すると言うことも可能だが、危険製は高いと言う事だ。

爆装零戦で外部に穴を空けて中から3機は侵入する。

 

コアを壊さない限りは3機対、ネウロイの戦いになる。

ウィッチはどうするかと言うとマルタ島の反対側にも占拠するネウロイを撃破すると言う。

危険率も同じの為、態々アフリカからやってきたと言う星はこの為である。

 

「これがミーナが言っていた零戦隊の3人か!会えて嬉しいよ」

扉から現れたのは腰まである、黄色で長い髪の女の人。

黒いジャケットに特になんとも無い白いスカート。

 

まあ隊長とお話しするんだろう・・。

黙って箸を動かし、飯を口に入れ込む。

ラバウル隊の時だったかな。

こういう飯はせいぜい1ヶ月に1回とかで酷い時は4ヶ月先と言うくらいもあった。

今のうちに味わって腹に流し込むか。

 

「ご馳走様でした」

その場から立ち上がり、"星"の隣へ歩くと・・、

「おっと待ってくれ」

 

白い手が俺の手首を掴んだ。

「君がネウロイを撃破した者かな?」

「ああそうだ」

「ハルトマンと一緒に模擬戦をしたい」

「生憎だがすまない。今から扶桑の連合艦隊へ行かなければならない」

「そうか。また今度出来るか?」

「ストライカーユニットと戦闘機だ。勝負になら無いと思うが・・」

最後の言葉を捨て俺は赤い射線が差し込む廊下へゆっくり歩く。

 

<>

<<こちらに入電す・・・。扶桑連合艦隊はこの先・・・・>>

真夜中の飛行と共に3機1個小隊の編成で、扶桑の連合艦隊へ向かおうとしていた。

増槽を装備し、翼の先が点滅する光りを頼りに。

機内は真っ暗だ。

そして・・、

<<見えてきたな。扶桑の連合艦隊だ。高度を落とせ>>

味方と示す光りを発する艦隊の数は張るか凄まじい数。

 

空母艦の甲板の灯が一列に発光。

<<着艦許可が出た>>

隊長機からまず着艦。

脚を出し、フラップを落としたその機体は甲板の一番奥へと急停止した。

エレベーターが作動し隊長機の翼は折畳まれる。

 

2番機の俺が着艦を試みる。

エンジン出力を落とし、甲板真っ直ぐ機体を整える。

握る操縦桿を細かく動かしながら脚部のハンドルを回す。

 

着艦位置が正常と言う旗が揚がるとタイヤが鳴き、前へ押し出される反動が伝わった。

「着艦成功っと」

キャノピーを開いて外へ出る。

切ったエンジンに、人力で動かされる零戦はエレベーターへと入れ込まれる。

3番機のタケムラも着艦成功。

 

後は・・・艦長さんへの挨拶だけだな。



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マルタ作戦後

――空母 天城

艦橋下で杉田艦長と挨拶、握手をそれぞれ交わすと海の水平線からは太陽が上り始めた。

何時間のフライトだったかなあ・・。

なんせ武器を変えるのに態々ここに。

 

まだ寝ても居ないがまあ大丈夫だ。

「対ネウロイ用とまでは行かないが、通常の250kg爆弾と500kg爆弾があるが」

「構わないです。それぞれ主翼2つ装備していただけると有難いです。我々は今でも準備しなければなりませんので」

隊長と杉田艦長の会話だが爆弾のお話をしている。

 

このマルタ作戦にも扶桑海軍も参戦したいと言うのだが、これは決まった事で参加は不可。

同じ扶桑人がやったなら、我々も出来ると言う発想かららしい。

ウィッチ隊も午前の内に合流するらしいが・・。

 

<>

<<攻撃目標まで接近中よ。1分ほどで到着するわ>>

<<零戦隊の観戦に来ている上層部も居るな。武運祈る>>

すぐ隣で飛行するミーナ中佐と坂本少佐は告げた後に、元の編隊へと小さく戻っていく。

 

島の周りを取り囲む様にロマーニャ艦隊と扶桑艦隊が波を分けながら移動をする。

地上を占拠する、玉の様な地上型ネウロイは目視で確認。

隊長機が翼を左右にバンクする。

重い爆弾は両翼250kg2つ。

本当なら60kgとかが一番良いんだけど、無理矢理装備。

痛いくらいに速度が出ない。

 

<<目標上空!各機降下開始!>>

隊長の声と共に操縦桿を捌き、翼の動きが手先に伝わる。

<<爆弾投下!>>

光学照準機に入るとだんだんと大きくなり、カンの良い所で爆弾を投下した。

一瞬重かった機体が、天使の様に軽くなった。

 

桿を引いて高度を上げる。

半宙返りになりながらも爆弾は轟音とネウロイの装甲を撒き散らし、大きな穴を開けた。

素早く機体を旋回させ、復元途中のネウロイ内部へ侵入しようとしていた。

 

<<一番早いお前が行け!俺達は間に合わん!>>

「了解です!」

じわじわと装甲を復元させる、その小さな隙間ギリギリの所で機体の侵入に成功したが、

「うわ・・」

 

数え切れないほど四角形の子機がうじゃうじゃ居たからだ。

コアを守る様に防衛体制に入った子機のネウロイに、裂薬が混じった20mm機関砲をぶっ放した。

ネウロイのコア以外に、考えるほかは無いと思い一直線へ。

赤い炸薬が撒き散らされると広い範囲で子機が消滅する。

 

<<敵は40機のうち、10機消滅したわ。残り30機>>

見えない所で敵の数が分るのか!

ますますやる気が起きる。

 

ハエの様に群がる子機は1個塊になり光線を次々と俺に向けて攻撃する。

360度、視界が周り、エルロンロールで回避しつつ7.7mm機銃を掃射した。

撃破は出来ないものの、弾くだけの効果は出ていた。

 

崩れた防衛の形に隙が出来た所に、ずば抜けた機動で子機の間へ間へと潜り抜けコアへとたどり着く。

「一撃必中・・!」

7.7mm発射機を引いた。

弾には余裕がありそのまま射撃を続け近づき20mm弾を数発ばかり撃ち放つ。

赤いコアは爆発もせずに、赤と言う色の原型を無くしたまま小さな粉雪の破片が散らばった。

 

子機も同様だ。

塞がれていた出口はぽっかりと。

 

これにて任務は完了・・!

「どうだ!見たか!?」

「ラバウル海軍の手にしちゃえばこんなのはお手のもんだ!」

 



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夜間と負傷

これで2度目の戦果を挙げた。

機体にまたコアを貫く矢のマークが入れられた。

 

おまけに扶桑から"零式艦上戦闘機五二型"3機が届けられては、夜間哨戒用の"月光"1機まで。

俺達の仕事はまだまだある。

なんせ、ここで寝泊り出来て、3食の飯だ。

これで休むなんてまず無いだろう。

 

実質殆ど寝ていないため疲労も来ているが何のこれしき。

勿論、ミーナ中佐にも許可を得たが「無理はしない様に」と言うのがおまけとしてついてきた。

「夜間は任せてくださいな」

「んじゃ2番席の上向き機銃は俺がやるか」

 

1番席の操縦はタケムラ、2番席の機銃手は俺。

夜間哨戒のウィッチはエイラ大尉とリトヴァグ中尉。

すでに出撃しており俺達はレーダー網を潜るネウロイを警戒する役目になる。

あえて言えば後衛を支持するみたいな感じだな。

 

<>

準備を終えて出撃した時、時間は時間はすでに22時になっていた。

ここ最近、ネウロイも不定期に来ると言う事で油断は出来ない。

そう言えば"アフリカの星"はまだ戻っていなかったんだっけ。

まあ良いか・・。

 

機内はレーダーの弱い発光で照らされる。

気象の変化で今夜は分厚い雲が水平線までに広がっていて、奇襲おかしくない最悪の状態。

<<レーダー、何か確認できますか?>>

「いや特に無い」

<<了解です。飛行続行。高度2000へ落とします>>

いや特に無いと言ったがレーダーに映る、点が自機の方に急接近する。

 

<<タケムラさん・・!そちらにネウロイが!>>

<<なんだ――>>

その時、雲を貫いてきたのは赤い光線。

前の操縦席は轟音を撒き散らすとキャノピーが粉々に、跡形も無い。

<<ああ!!わあああああ!>>

「どうした!?おい!」

 

なんてこった・・!

機内は血まみれ、レーダーの画面にも血が付着して、タケムラの右肩はあるかないかで判断が出来ずに

悲鳴を喚いている!

<<肩、肩がああ!!右肩をやられましたああああ!誰か、誰かあああ!>>

クソ!指揮官のミーナ中佐に!

 

「負傷者だ!誰か援軍を求む誰か!」

通信の乱れで送信さえ出来ないじゃないか!

2番席には機銃を撃つあれも無い・・いやあったぞ!

 

右手に零戦と同じ発射機が!

「タケムラ!操縦出来るか!?」

<<左で何とか!>>

「鎮痛剤は無いのか!?」

<<上官に貰ったヒロポンなら!>>

あのクソヤク中め・・!

「やってねえだろうな!?」

<<やる筈ないですよ!>>

 

「敵は恐らく上だ!高度を上げてくれ!」

<<了解・・っ!>>

<<敵ネウロイはもう1機・・。エイラと私で撃破します>>

「分った!」

 

畜生何て日だ・・!

<<雲の中、突入します・・!>>

いやこのままで大丈夫だ。

中型のネウロイの黒い影が雲越しに見えているからだ。

30°の上向き20mm機関砲3挺。

こいつなら装甲だって・・!

「速度を上げてくれ」

 

キャノピーに取り付けられた照準機をネウロイより手前に、予知撃ちをする。

大分間合いが開いたところで、

「よしこの速度を維持させてくれ」

<<わかりました・・>>

発射機に力をこめ、倒した瞬間に強い振動と、耳の傍で雷が鳴ったような砲声が響き渡る。

曳光弾が雲の中へ消えるだけで、ネウロイにどのような損傷を与えたか分らない。

 

「うわっ!?」

いきなり機体が不安定に!

「どうしたタケムラ、おい!聞こえてるか!?」

<<・・・・>>

座席で魂が抜けた様にぐったり・・。

まさか大量出血による意識が飛んだのか!

「1番席の操縦士、意識不明の重傷だ!誰か応答してくれ!」

「誰か頼む! 誰か!」

 

<<げ・・!そ・・ちらに!援軍を送っています!>>

繋がったか!?

いやまだ乱れもあるが微かに声がする!

 

<<ひ、引き返します・・!>>

「タケムラ!大丈夫か!?」

<<少し飛んだだけです・・!>>

機体が安定になる。

離脱しようと機体は大きな旋回で基地を目指そうとするが、問題はタケムラの体力と意識だ・・。

着陸できるまでの体力さえあればな・・。

 

2つのエンジンはフルパワーでこの戦域を離脱しようとする。

小さな基地が視界に入ると、機内にあったカールスラント製の"カ式信号銃"を手に、空高く銃を突き出した。

 

ボンと野太い音で信号弾が白い光りを放射しながら基地に伝える。

「信号弾を撃った!負傷1名!」

滑走路が見えてくる!

「脚、出したか!?」

<<・・・は・・・い>>

やばいぞ・・。

 

機体は上向きに滑走路へ着陸すると同時に、強い反動が伝わった。

エンジン出力も弱まり、プロペラの回転数が落ちる。

格納庫ギリギリまで機体は停止。

<<も、もう・・限界です>>

「すぐに負傷者を運び出せ、急げ!」

 

駆けつけた整備兵が主翼へ立つと負傷したタケムラを2人係りで運び出す。

俺はすぐに2番席から離れ、整備兵と混じっていた隊長に状況報告。

 

「敵の不意打ちによりタケムラが重傷。大量出血で意識不明です」

「敵ネウロイは中型で高速。索敵による油断が原因です」

 

「相手は電子機器をいかれさせる物だった。これは仕方が無い・・。だが今はタケムラのことだ」

怒りもせず残念な顔で俺に言った。

 

 



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扶桑へ行き

※投稿数が多いのは仕様です


「この負傷だと治療は厳しいです・・」

「手術でも駄目なのか!?」

「基地には医務室程度しか・・」

 

「・・クソったれ!ならばどうするんだ!?」

「ガリアはまだ復興途中、ブリタニアは遠い。カールスラントでさえ医療が発展しているがネウロイに占領されている・・」

「リベリオンもネウロイと戦っている。決して安全では無い」

 

「ならば扶桑は駄目なのか!?」

「移動にも時間がかかりすぎる・・。医療はカールスラントまでとは達しないが」

「もう何でも良い!扶桑だ、扶桑にタケムラを送ってくれ!」

「ならば宮藤を乗せて移動しながらの治療はどうだろう」

「それだと魔力が・・」

「ですけど一刻も早くタケムラさんを・・」

 

「私行きます!」

「美香ちゃん!」

「だがな宮藤・・」

「トルゥーデは口出さないで、時間が無いんだよ?」

「少し落ち着く。もう時間は無い。何でも良い、手配してくれないか」

「ならばこうしよう。私はアフリカへ帰るつもりだが、この人達と沢山話したい事があってね」

「輸送機で扶桑に向かえば良い」

「これしか無いな・・。私も行こう」

 

 

 

日が出てくる言う時に俺は医務室の廊下でじっと床を見ていただけだった。

リトヴャク中尉、エイラ大尉を除いたウィッチで隊長は話し合っている。

あの時、よくしっかりと周りを警戒するべきだった。

扉が開くと宮藤さんとリネット曹長、そして隊長、坂本少佐、クロステルマン中尉にアフリカの星が出てくる。

少佐は俺に気づき、

「自分を責めても何も起こらないぞ」

と言われた。

「シデン、済まないが今すぐ扶桑へ行くぞ」

「分りました・・」

 

<>

 

――JU52 機内

まだ飛びだったばかりで力も出ない。

これ以降は長距離飛行の為、増槽か経由で向かうらしい。

 

「シデンさん、これ食べてください」

「ん?有難う」

かごに入れられた沢山のサンドイッチ。

野菜や肉が挟まった西洋料理と聞くが・・。

手にして齧る。

パンの味と水々しい野菜に肉が旨味を増してくれる。

朝食って無いから少し元気が出てくる。

「沢山食べてください」

 

正面に座っていたアフリカの星が口を開き、

「シデンと言う名か。私はカールスランと空軍所属、第27戦闘航空団第3中隊の中隊。第31統合戦闘飛行隊所属のハンナ・ユスティーナ・マルセイユだ」

「君の事は疲れ果ててる隊長さんから聞いたよ」

 

俺に自己紹介をしてくれた。

「そうか・・」

そんな気にならず変な呟きで返してしまった。

 

「君達が居たラバウル隊と言うのはどう言うところだ?」

 

「あえて言うなら海軍の本拠点だ。南太平洋に位置した所」

「リバウ島と言う所なのか。あそこにはエースウィッチが多い所だったな」

ラバウル島はこの世界ではリバウ島って言うのか・・。

 

「エースが多い分、死者も多い。去年では4人ばかりが未帰還になった」

「そうか・・すまない。こんな話を持ち込んで」

「いや大丈夫だ。いつもの事だからな」

 

「アフリカの星と聞いて、本国から色々とありそうなイメージがある」

「ははは。実は本当さ。 私のファンも沢山いてね、毎日の様に手紙が来るんだ」

「あ、でもサインはお断りさ」

 

「アフリカか・・」

「どうかしたか?」

「アフリカなら燃料、水もすべて血に等しいくらい大事なものじゃないかって」

「うんうん、基地の様に風呂も満足に出来ないんだ。羨ましいよ」

 

「バルクホルン大尉とハルトマン中尉とは一緒じゃないのか?」

「あの堅物バルクホルンはね~・・。まあハルトマンと一緒には居たな」

 

「互角に戦えるのはあのハルトマンだけさ」

「勝ち負けにこだわるより、勝たないと駄目なのさ」

 

勝たないと駄目なのか。

俺は敵は人間と認識し、脱出のチャンスを与えてきた。

これも勝ちに入るべきか・・?

いや相手を追い込んで行動不能にさせたほうが勝ちなんだ。

って何深く考えてたんだ・・。

 

「アフリカの兵士でもネウロイを撃破した事は?」

「ああ。もちろんあるさ」

「地上でも撃破できるんだったら、海上でも撃破出来たはずなんだがな」

「私達と違って武器と仲の問題さ」

「海軍は駄目駄目と言う事か・・」

 

マルセイユから目を逸らす。

逸らした先には呼吸器のマスクと心拍数を確認する機械が置かれた通路に、座席横で仰向けになるタケムラを見る。

生々しく包帯が血で染み込まれていた。

 

「彼が心配か?シデン」

少佐が口にした。

心配に決まってるだろ・・。

「少佐の様に、右目を負傷したラバウルの上官がいる」

「ほう?詳しく聞かせてくれないか?」

「坂井三郎と言う名前で数々の空戦を潜り抜いたエースさ」

「彼は"左捻りこみ"と言う技を披露したり、敵陣に連続宙返りと遊び心もあった人だ」

 

「アメリカ軍の艦載爆撃機の旋回機銃で右目をやられながらも、ラバウルの地へ戻った人でもある」

「私に似ているな。はっはっは!」

 

 



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マルセイユ

――扶桑皇国 横須賀 病院

緊急手術になる事態にまでの時間を作ってしまった・・。

俺は只呆然と、病室の椅子で天井を見上げてボーッとしていた。

それぞれ皆は疲れて寝てしまっている。

 

「マルセイユ大尉・・」

「どうした?シデン」

「俺は・・守れなかった」

「いきなりどうしたんだ?」

 

「いやむしろ、ここの世界に来てから守ると言うものはどう言う物になって・・」

「そうかぁ・・私が守る物と言ったらアフリカの地やカールスランとや色々さ」

「"守る"か・・。もし自分に弾丸が飛んできたら、シデンならどうする?」

「どうするって・・避けるに決まってるさ」

 

「命を守るために避ける?その流れ弾で味方に当たったら?」

「そう言う事はあまりよくわからないんだ。戦ううちにきっと見つかるさ」

「・・すまない、訳の分からない質問をして」

 

「なーに。ネウロイを2回撃破したエースなんだろう?しっかりしなくちゃ」

「ああ、有難う」

 

<>

ん・・?

ああそうだ・・。何で寝てたんだろう。

瞼を開いた時、レンガの屋根に窓から光りが差し込む。

そして扶桑に居る筈のないミーナ中佐が!

「何で、中佐が・・」

 

「彼方、相当疲労が溜まってたのよ・・。戦力的問題があったからすぐにこちらに来てもらったの」

「そんな・・!タケムラは!」

「タケムラさんの事は任せて。完治までには時間がかかるけど次の補給と同時に、付き添いの土方さんと一緒に帰って来るわ」

「良かった・・」

不思議と体が軽くなる。

「皆は?」

「疲れて寝てるわ。ネウロイはまだ来ないから大丈夫だろうけど・・」

「これを見てくれる?」

 

小さな透明の袋には大きな弾丸が1発。

キャノピーガラスの破片も1個

陸軍が使う、軽機関銃に使う弾か?

海軍では中口径と大口径が主なんだが・・。

 

「この弾は?」

「恐らく夜間哨戒に出ていたエイラさんのMG42が流れ弾で・・」

「彼女にはこの事を伝えないでくれ」

「ええ分ったわ」

 

「中佐、もうここに来て何日経った?」

「そうね・・まだ数十日程度よ」

「そうか・・」

「どうしたの?」

 

「いや、ただラバウルの仲間と会いたいと思って・・」

「そう・・。でも仕方ないわ」

「・・・好きな人は?」

「好きな人は・・もう死んでしまったの」

「すまない。いきなりこんな事を」

「ううん、良いのよ」

 

「ラバウル戦はこんな風に、仲良く飯食ったり訓練出来たりは出来なかった」

「どんなに強くても相手は物量で襲いかかる。必ず、戦闘があれば1人、2人死んでもおかしくなかった」

「私達と同じね・・。扶桑海軍でもこれ以上の消耗戦は続けられないって最終行動に出ているの」

 

最終行動?

「なんだ、その最終行動って言うのは」

「まだ彼方には教えられないの・・」

「俺達の戦場では良くあることだけど、適用しない武器には敵の武器を使うと言うのがある・・」

「!」

 

中佐が驚いた表情を作ると俺は何か言ったか?の様に首を傾げた。

 



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作戦行動 前

水平線から上る太陽が顔を出す。

基地近くの海岸で、軍刀を握り訓練をしていたからだ。

 

「こんな朝早く訓練とはしっかりしているな」

「少佐ですか」

後ろを振り向くと、腰の軍刀に腕を組んだ坂本少佐が立っていた。

「昨日、ミーナ中佐から聞かれたが最終行動と言うのは?」

「最終行動か・・。お前が長く睡眠をしていた時、上層部から"ネウロイのコアを使った戦艦大和"で親の玉を撃破すると言うものだ」

「簡単に言えば"敵の武器を敵に向ける"一緒か」

 

「まあそんな所だ。私の魔力もそう長く無い」

「え?」

魔力は無限大と言う想像があったが実はそうでも無いのか・・。

「ウィッチの寿命と言えば20近くまで来ると、無くなる、あるいは衰弱するんだ」

「少女から成人までの寿命・・」

「魔力が無くなれば只の人間さ」

「でも私はまだウィッチだ!ウィッチに不可能は無い!」

 

・・・。

会議室へ全員呼ばれ、例の最終作戦の内容を言うらしいが・・。

黒板に進路地図、ロマーニャの地図に加え赤丸の親玉が示されている。

「では作戦内容の説明をします」

「占領されているベネチア。ネウロイの巣を持てる戦力で一気にカタをつける」

「周辺の護衛艦隊の中央部、大和を護衛しつつネウロイ化まで維持させる」

「そして、零戦隊には対ネウロイ用対空ロケット弾と"対ネウロイ250kg爆弾"、"対ネウロイ20mm機関砲"があるわ」

 

「作戦決行まで時間があります。それぞれ武器の整備、体調管理等をそれぞれ自由に行ってください」

 

「も失敗したら?」

バルクホルン大尉は強い口調で言葉を吐いた。

「もし失敗した場合、ロマーニャ全土をネウロイに明け渡し、501航空団も解散することになります」

「ロマーニャを受け渡す!?501が解散だと!?ふざけるな!」

か、解散!?

アホな上層部も居るもんだな・・!

表には出さない怒りはぐっと堪えろ・・!堪えるんだ!

「私達だって・・!私達だって納得して帰ってきたんじゃないのよ!」

 

周囲が泣いたり、騒がしくなる。

特にロマーニャ出身のルッキーニ少尉は、イェーガー大尉に抱き着いて思いっきり泣いていた。

どうにかならないか・・。

 

<>

 

説明後の状態は極めて居づらい。

食道で腹ごしらえをしようと来たのだが、宮藤さんとリネット曹長だけだ。

テーブルに拳銃を置いて、弾倉内の弾丸を確認する。

確認し終えたらホルスターへ戻して何も無かったかのように膝の上に手を添える。

 

「お饅頭どうぞ」

リネット曹長がお皿を置く。

白い饅頭が5つ。

 

「悲しいですよね・・。501がまた解散するなんて」

また?

以前にも解散はあったのか!?

「また?すまない、聞かせてくれ」

「前ブリタニアに居た頃、ネウロイのコアを使った殲滅兵器を知っちゃってその時に・・」

「その殲滅兵器はどうなった!?」

 

「暴走して、私達が止めたんです」

「俺達は無力か・・あ」

 

荒々しい行動に閃いた俺は椅子から達はなれ、走って廊下へ出た。

視界に入る仲間等気にせず、ミーナ中佐が居る部屋へと・・!

 

何なら・・!

強引にでも止めてしまえば良い!

中佐を人質に取ると言う俺は幼稚な考えを持っただけの事でここを走っている。

階段を駆け上がり、角を曲がる。

「はあ、はあ!」

恐らく・・ここだ!

 

殴り込む様に扉を強引に開けた。

仲にミーナ中佐とバルクホルン大尉に、坂本少佐とハルトマン中尉が。

 

「どうした、そんなに慌てて」

坂本少佐が俺に言った事を無視し、

「動くな!」

と拳銃を引き抜いた。

軍法会議は勿論覚悟している。

 

銃口をミーナ中佐へ向ける。

 

「今すぐ、今すぐ!最終の作戦行動をするネウロイ化大和を止めさせろ!」

 

パンッ。

 

ハルトマン中尉が正面に居るのに、見えないところで銃を発砲した。

俺の南部拳銃に直撃し、痺れる手に怯んでしまい拳銃を手放しまう。

床に落ちたと同時にバルクホルン大尉が拳銃を蹴り離す。

「ニッシッシ・・あらかじめこういう事は分ってたんだよ。でも、私の拳銃弾は1発しか入ってなかったからねー」

「まったく・・。だがシデン大尉、もし銃を撃っていれば軍会議へ出すところだったがな」

「独断行動派控えめにな」

 

バルクホルン大尉にも言われては今後、何をやれば良いのか分からなくなる。

元々俺達は何の為に戦ってきたんだろうか。

「でもお前の気持ちは分かる。少し、頭を冷やすと良い」

「す、すまない・・。唐突に訳の分からん事を・・」

 

 



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作戦行動 中

アホな事をやった俺は一体何がしたかったんだ・・!

 

「泣くなルッキーニ。お前らしくないぞ?」

花畑の近く、海岸でイェーガー大尉がルッキーニ中尉を慰めている。

こんな事態にまで発展したんだ・・。

俺達がまだ知らないときに。

「うぇ・・だって・・・」

 

俺は、何も出来ないのか。

せめてウィッチ並みの力を持って親玉を撃破したい。

足を踏み入れた先には、花畑が広がっていた。

考えている内に入ってしまったのだろう。

 

「あら・・彼方は」

水遣りをしていたクロステルマン中尉が花畑から出てくると、思わず反射的に頭を下げてしまった。

貴族様には頭を下げると言うのは常識だ、いや人へ頭を下げるのは普通だ。

「確か輸送機に居た・・」

「シデンと申します」

「シデンさんでしたか」

 

「綺麗なお花ですね」

ああなんで・・。

何で、散った花弁を見つめてんだ・・。

なんでラバウルの事を思いだしてしまったんだ。

消耗戦を続けるばかりか、孤立化する可能性まで出てくる結果も出ていたのに・・。

 

「こうやって、毎日花を見たり、世話できるのは私達ウィッチのおかげですわ」

「孤児も喜んでますし」

「孤児?」

「実は、ガリア復興支援として私も参加しているのです。祖国の復興を願って・・」

 

「まだこの隊との会話なんてロクにやっていない。せめて出来る時間さえあればな。通知はいつ来てもおかしくない、今日来ても・・」

ガリア復興に最終行動か・・。

どちらも苦しい、せめて最終行動さえ終えてしまえば復興も楽になる筈だ。

 

<>

――格納庫

最終行動に備え、自らの2番機に対ネウロイ用250kg爆弾を搭載する作業に移る。

しかし250kgじゃ話しにならない。

相手は親玉だ。

海軍の800kg並み、いや潜水艦に搭載される魚雷並みの爆薬が欲しい。

 

台の上には真っ赤な塗装で塗られた対ネウロイ用250kg爆弾。

整備士と共同でやるが、さすがに火薬が少ない俺は、

「対ネウロイの爆薬をもっと増やせないか?」

と言ったところ、

「高価な物なので増やすのは難しいです」

整備士は隊長機の整備をしながら答えた。

んあー・・。

そう言えば三号爆弾ってのがあったな。

「三号爆弾は?」

「2発ありますけど」

親玉なら護衛も数多いだろう・・。さて、どれを付けるか。

あえて対ネウロイ用にしよう。

 

この250kg爆弾はどう使うべきか。

もしもの体当たりに使えばな・・。

「250を搭載してくれ」

「ですが、使い道は・・。三号がよろしいかと」

「250で良いさ」

 

「は、はあ・・」

これで良いんだよ。

これで。

 



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作戦行動 後

時間が過ぎ経つともう何日ここに居たか、生活したか忘れてしまい只作戦通知が来るまで待ち望んで居ただけだった。

夜の広い格納庫外、薄暗い灯の光りを浴びながら外で待機される新型の"零戦五二型"を眺めていた。

(多分こいつで出陣するんだろう・・)

そんな思いを胸に抑えながら、自分に言い聞かせた。

 

時間は深夜か・・。

前まではウィッチ隊と一緒にネウロイを撃破したばかりなんだけどなあ。

坂本少佐の動きも素人の俺には分らんけど、多少鈍っていたか・・?

 

殆どの奴らは寝ているが、こうやって地中海の月を眺めるのも悪くない。

「・・シデンなの?」

「ミーナ中佐、どうしてここに?」

 

格納庫の入り口に中佐が俺の事に気づいた。

思わず近づきながら、

「問題でも?」

と言葉にする。

「美緒よ・・」

「坂本少佐が?」

 

「あの人はもう、魔力も無い・・。まだ飛ぶ続きなのか心配で」

内部からプロペラのエンジン音が、夜景に響く。

ストライカーユニットを履いた坂本少佐が近づくと、突然現れた中佐に交わす事も出来ずに。

大きくバランスを崩し滑走路へ突っ込んだ。

 

ストライカーユニットは大きく深い傷とオイルが漏れ、少佐自身も擦り傷や衝突の傷が露になっていた。

ここは2人にさせておこう。

俺が居ても邪魔だ。

黙ってその場を離れようとすると、影から2人を覗く宮藤さんが心配そうに見ていた。

 

<>

「ただいまより第501統合戦闘航空団は、この地よりネウロイを一掃するため"オペレーションマルス"に参加します」

「我々の任務は連合国艦隊、大和の護衛です」

 

脳裏に蘇る中佐の声。

任務は戦艦大和の護衛だ。

ミッドウェー海戦以来か。

 

――ロマーニャ北部 ベネチアネウロイ防衛圏内

凄まじいく厚い黒雲に身を隠した、大きな親玉が視界に入る。

 

無理して扶桑からここへ帰って来たタケムラも状況を知って、少し顔を難しそうにしていたが今はそれ所ではない。

彼の肩は完治していない。無理してでもやるつもりだろう。

日独伊英、じゃないな扶桑、カールスラント、ロマーニャ、ブリタニア、大和を旗艦とした艦隊が防衛圏内へ侵入する。

中央に戦艦大和と空母艦天城が随伴する。

 

両側、数十隻の駆逐艦、巡洋艦、戦艦。

 

<<戦艦大和・・。ネウロイ化まで3分>>

<<駆逐艦、1隻大破>>

タケムラの状況報告の声と共に、高価なオクタン燃料を飲み続ける零戦五二型はニニ型とまったく違う速度を出していた。

250kgの搭載にも関わらず速度形の針は600km/s前後をさしていた。

 

<<全艦、対空戦闘!>>

轟く砲声が鳴り響くとき、杉田艦長の命令でウィッチ隊がそれぞれパートナーと共に散らばると護衛のネウロイが数百機以上出現。

大和目掛けて光線を発射する円盤のネウロイに、宮藤さんが青い魔法陣を展開させ攻撃を弾き返す。

 

せめて負担を減らそうと宮藤さんを襲う子機のネウロイに7.7mm機銃を射撃。

まとめて子機諸共砕け散る。

<<2番機、3番機、ついて来い!>>

射撃を中止し3機1個小隊の編隊で、目の前に現れた隊長機の主翼から対ネウロイ用ロケット弾が勢い良く発射され、白煙が空に線を描く。

 

<<こちら3番機、エンジン不調、オイル漏れを起しました。戦線から離脱します>>

<<了解。良くぞ戦ってくれた>>

タケムラの3番機は濃緑色の翼を光らせながら旋回する。

そして、青い海に浮ぶ天城の方へと機体を向けた。

 

周囲がネウロイの破片で包まれる。

これが対ネウロイ用の威力か・・!

<<短い空戦だったが、命令が来た。ネウロイ化が始まった>>

「おお・・」

 

俺が目にしたネウロイ化の大和。

それは六角形模様を晒し、全体が漆黒に包まれていて、戦艦の重りを構わず空へ浮上していたのだ。

赤い目の様に鋭く発光する艦橋。

ハリネズミの様な弾幕で敵を一切近寄せずに親玉の方へと飛行していた。

 

<<俺は天城へ着艦する>>

ネウロイの黒雲と、親玉が残るその空、降下して消えた隊長機。

俺はもう少し眺めてみようとエンジンをフルに近づいて見る。

空中で大和の対空弾が炸裂する。

 

「・・動きが止まった?」

本来の目的は零距離で主砲発射と言う話しだがすぐには発射できないものだろう・・。

なんせ46cmだからそれなりの装填はかかる。

危険な所まで目視で確認すると、大和が一方的にネウロイにやられている!

「どう言う事だ!?話が違う!」

<<魔道ダイナモ起動しないだと!?>>

 

「おのれ・・!俺が大和の変わりに親玉のコアを破壊する!援護しろ!」

<<私が魔道ダイナモを再起動させる!>>

「少佐!駄目だ、魔力はもう無い筈じゃないのか!?」

<<ウィッチに不可能は無い!>>

「畜生!借りがあるんだ!俺にやらせろ!」

 

 

速度650km/s..!

頼むぞ零戦!

お前と俺が死ねば解放出来るんだ!

もし出来なくてもその穴を埋める奴が現れるさ・・!

「行くぞ!」

 



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ラストオペレーション

俺は夜間哨戒に出る前に、サーニャ・リトヴァグ中尉とこんな話をした。

ネウロイ親玉から謎の電波と声が来るという事。

「シデンさんはラバウルから来たと言ってましたよね・・?」

「ああ・・」

「今現在、ラバウルでは彼方の捜索活動が始まっています。それと遥か遠くでは銃声と爆音・・」

頭から八木アンテナ模様の魔法?を発動させたリトヴァグ中尉の話はまだ続く。

「ここの世界では何日も日が経っていますが、あちらの世界では行方不明から1時間経っています」

「ヴェネチアのネウロイの巣に紛れた雲から異世界からの周波数が・・」

もしかしたら・・?

 

「ネウロイの巣撃破後の数日後、異世界へ戻る積乱雲は出来ると思います」

「どうしてそんな事が分るんだ?」

「私の固有魔法は・・、遥か彼方の世界でも電波をキャッチする魔法なの」

「簡単に例えるとすべての無線や電波を聞き取るのが出来るんです。幾ら遠くても・・」

 

 

つまりネウロイの親玉ごとぶっ壊せば、隊長とタケムラはラバウルの地へ帰れるんだと確信した時、操縦桿を思いきって振った。

子機が襲来してくる時、後ろに張り付くネウロイの光線を回避するが――

「ぐっ!」

主翼諸共引き裂かれ、あとほんの少しで体当たりできたというのに操縦不能になってしまった・・。

<<脱出だ!早く!>>

「でえい!」

閉ざされたキャノピーを壊したとき、投身をした。

鼓膜が引き裂かれる爆発の音と熱風を背にして、黒い洋上へ真っ先に落とされようとしていた。

しかし肝心の落下傘は装備していない。

 

誰か来ようにもここは防衛圏としてかなり危険空域だ。

これる筈も無い。

と俺はそう思った時、誰かに支えられる感じがした。

「大丈夫ですか!?」

「み、宮藤さん」

新たなストライカーユニットを履き、大型機銃を背中にした宮藤さんだ。

軽々俺を持ち上げる。

これも魔法なのか。

 

「いくら何でも一緒に戦うと言って無理だけはしないでくださいね」

「すまないな・・。逆に迷惑かけただろう」

「いえいえ迷惑なんて。天城まで送りますね」

 

<>

 

――空母 天城

甲板から見守るウィッチ隊と水兵達。

 

今後のバックアップは坂本少佐が受け入れた。

何も無ければ良いんだが・・。

胸のポケットから写真1枚を取る。

白黒の写真には零戦に搭乗した時の俺の顔が映っていた。

笑ってカメラに向かって手を挙げた時。

それが最初の戦いだった。

 

ひらりと舞い上がる桜の花びらは、踊りながら青空へと消えて行く。

轟いた砲声がどこからか。

「おっ!大和が撃った!」

隊長の叫びが回りに伝わり、水兵達は大喜び。

強力な46cm砲をプラスに対ネウロイ用と言う脅威なる威力のおかげで、親玉は雪崩の様に崩れ落ち、大きな水柱が聳え立つ。

黒雲もゆっくりと去りうっすら白い雲が顔を出した。

 

「ネウロイの反応・・!」

化けの皮を剥がした親玉。

目にするのは、大和の数百倍以上あるネウロイのコアだった。

「いかん!坂本少佐が戻っていない!」

「すぐに戦闘機を出せ、早く!」

「急げ、早くしろ!」

 

慌しくなる甲板。

戦闘機を失った俺には出撃する手出しも無いと思ったが、

「俺の役目はもうこれで十分果たした。俺の戦闘機、乗るか?」

「乗らせてください・・!隊長!」

「その意気だ!」

 

力強く肩を叩かれた。

とっても痛いが不思議と嬉しさが伝わった。

即準備されていた五二型の操縦席に乗り込み、点検無しに滑走路を疾走し、零戦は甲板を蹴り空へと飛び立つ。

<<宮藤機、発進するぞ!>>

 

なっ・・。

宮藤さんもか。

<<共に少佐を助けましょう!>>

「勿論さ。援護する!」

 

ハンドルを素早く回し、着陸脚を引き込む。

「我、1番機。サクラサクラ、花散るサクラ」

 



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ラストミッション

サクラサクラ。

隊の意味としては"死覚悟"と言う合言葉だ。

 

光線を交わしながら子機のネウロイに様々な銃弾を浴びせつつ、宮藤さんを有利な立場へ作り上げていく。

だが戦艦から発射された砲弾は、ネウロイの魔法陣によって受け止められた。

この大空に集結したウィッチ隊と共に戦おうとする。

 

今度の子機は俺より大型タイプ。

20mm機関砲で精一杯と言うところだ。

手の感覚で握る操縦桿、主翼、尾翼を指先で感じ取り、零戦を操る。

後ろに張り付くと素早く桿を引き小回りを利かした宙返りを持ち込み、射程内へネウロイ自らが入った時20mm機関砲発射機を押した。

ニニ型より反動、連射速度が高まった20mm弾でネウロイを1機撃破と同時に、目の前でバルクホルン大尉にやられた子機。

 

今度は宮藤さんに攻撃するネウロイへまた20mm機関砲を放つが、さっきの反動が機内には伝わらず。

主翼を確認すると20mm機関砲のカバーが外れ、損傷をしていた。それも左右に。

強度の弱さは俺には分っていた。

ラバウルに配備されたときにも20mm機関砲の故障は度々あった。

 

だが信頼性のある7.7mmなら・・!

どれもこれも撃墜数を稼いでいるのは7.7mmが主だ。

20mmは強力だが、弾数と命中率はこの小口径。

「むう・・」

 

宮藤さんに攻撃するネウロイに一掃を加えるが撃破ならずの装甲が剥がれる程度。

だが、相手を反動で弾き飛ばすと言う効果は地味ながらもある。

巨大なコアを目の前に宮藤さんは、坂本少佐を正面に会うものの無線から聞き取れる声からは「諦めろ」と言う声が流れた。

その声を潰すかの様、「ウィッチに不可能は無いんです!」と甲高い声で叫ぶ。

 

んっ?

目に射す光がネウロイ化とした大和の艦首から。

あれは・・坂本少佐の刀だ。

なぜあんな所に。

 

刀に気づいた宮藤さんは大和の艦首へ向かい、ゆっくりと上空で静止。

俺は見守る様に大和の周りを周回。

<<シデン後ろだ!>>

「なっ!」

 

後ろを取られた。子機は光線をこちらへ放とうとした時、死を確信した。

赤い光りを目に――

「!」

一瞬空いた時間に子機は粉々に粉砕された。

恐らく誰かがやったんだ。

蒼青のプロペラをフルに回転させ刀を引き抜き、刃が魔法の波で覆われる。

持ち手で構えた宮藤さんはコアの頂点へ疾風のごとくに空を走り、構えの体勢で刀の大きく振りかぶり、

 

<<烈風斬!!>>

刀とは思えない程、刃は大きくなり凄まじい破壊力とその斬れ味で超大型のコアを滑らかに斬り裂いた。

「うおお!?」

目の前が真っ白に見えないくらいの発光が放たれる!

思わずその光りを背にするように操縦桿を倒してしまう。

 

アレだけ居たネウロイの子機は自然と消滅。

そして空へと舞い落ちる小さなコアの破片。

<<ネウロイの反応、完全に消滅しました>>

小さなリトヴャク中尉の声。

 

あの2人はどこだ・・。

<<シデン、お前の横だ、横!2人が落ちてるぞ!>>

よ、横!?

左右確認すると、あ!

 

魔力を失ったのか宮藤さんはぐったりと。

ストライカーユニットは自然と外され、手にした刀は洋上へと輝きながら落下して行く。

もう俺達の任務はこれで終わりだ・・。

後はウィッチ隊だけにしてやろう・・。

 

「任務完了。2番機、直接基地へ帰還する」

11人全員はその2人の所へとすれ違い様に飛んで行く。

何だかなあ・・。

胸に針が刺さって痛いよ。

<<シデンさん・・>>

中佐の声だ。

しかもすぐ隣に。

<<見送ってあげないの?>>

「・・・すまない。今は見たくない」

<<そう・・>>

 

編隊を組もうと代用の零戦で編成された。

俺達の戦いは続くだろう。

 



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離れのラバウル海軍航空隊

――地中海上空

夕焼けの光りがキャノピーの窓から射し込む。

もう今日で解散した501は態々ウィッチ隊の編成で俺達の見送り。

<<もうすぐ積乱雲です>>

本当だな。

あの時見た積乱雲とそっくりだ。

 

海上からも戦艦大和、天城、そしてカールスランと、扶桑やロマーニャ、ブリタニアの艦船が下で航海していた。

「短き時間だった。誘導有難う、リトヴャグ中尉。そして中佐。共に戦わせてくれて有難う」

「そしてさようなら・・!」

この言葉を発した時周りは、白い雲に覆われる。

<<・・・ッ!>>

<<ま・・!た・・ッ!会お・・う!>>

"また会おう"

ノイズに紛れた少佐の声とその無線越しにはウィッチ隊の叫び。

俺はただ、真っ直ぐ見る白い視界を眺めながら頬を濡らす涙を流していた。

本当に少ない時間と短い帰還だったよ・・!

 

<>

 

<<まもなく、雲を抜けます>>

タケムラの声と一緒に3機1個小隊は、夕焼けの海上へと飛び出した。

噴火山・・!

ラバウルだ、ラバウル!

滑走路が近づいてくる!

また仲間と会える・・。また・・。

ウィッチ隊たちは今どうしてるんだろうか・・。

そんな思いを抱きながら、滑走路に着陸する祭の反動もお荷物にエンジン出力とフラップをダウンさせた。

 

今までのキャノピーは重く感じる。

ゆっくり開けたら周りを見渡す。

「うわああ帰って来た!」

「どこ行ってきたんだ!?心配したんだぞ!」

 

初めての様に見える仲間が俺を出迎えてくれた。

 

――元気で居てくださいね

 

「はっ!」

今どこから声しなかったか!?

サーニャ・・リトヴャグ中尉・・。

無線じゃない、恐らく彼女は心にも声を配達してくれる・・。

「どうしたぁ?」

「司令部の人間がカンカンだ。早く行けよ!」

 

「あ、ああ・・」

リトヴァク中尉、俺は元気でやってまいります。

御国の為にも・・、そしてウィッチのために。

また会えると心で願っている。

 

――スオムス空軍基地

「フフ・・」

「ンー、ドウシタンダー?」

「シデンさん、元気そうなの」

「ソウカー・・。あの人とあんまり喋った事ないしナー」

「また会えると良いね・・エイラ」

「ソウダナ。また14人で空を飛びたいナ」

「お、桜の翼ダ。またどこかで会えるんじゃないカ?」

「桜の翼?」

「見て見るカ」

 

「わー・・。兵隊さんが3人」

「まるで零戦隊の奴らと一緒ダナ。それに後ろには女神ダ」

「幸運が訪れるのね?」

「ああきっと来るサ」

「芳佳ちゃん達は今なにしてるかな・・」

「宮藤~?ヨット。お、良いの引いたゾ・・」

―― Fin




これにて終わりです
もう1作品出すつもりでいます

読んでいただき有難う御座いました


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欧州参戦ス 我零戦隊
再び参戦


2作品はあえてこちらで上げます




――1945年

ラバウル撤退後、南東諸島の島々の資源地は米軍により占領、奪還されもはや反撃の手段もなくなり、本格的反撃を受けつつあった。

ドイツ軍からの輸入戦闘機を真似して作られた三式戦闘機の飛燕、五式戦闘機など陸軍は中々良い物を開発していた。

 

なのに俺達はこの零戦だけで戦わなければならない。

改良は進んでるものの失敗ばかりだ。

だがそんな事は言ってられない。

 

ここ最近、数を増やしながら海軍航空隊基地と民間施設を叩くB29とP51Dが来襲している。

当たるはずのない高射砲の隊にとっても無駄弾は撃ちたくないんだろう。

 

零戦隊と呼ばれていた俺達は太平洋に出て敵機の索敵と哨戒を続けていた。

視界に入る蒼青の空だ。

 

<<はっは、でけえ雲だ。前見たあの雲と一緒だ。またあの時の様に入ってみるか?>>

「隊長、そう簡単には行きませんよ」

<<まあ試しだ。試し。どうせマスタングと戦っても陸軍がやってくれるわ>>

まあ間違ってない・・。

 

機体を上昇しながら滑らす隊長機に続いて、フットバーを蹴って雲の方へと機首を向ける。

続いて3番機も同様。

<<よし無線切れ。落とされた様に見せかけろ>>

無線の電源をオフに。

後に隊長が、

<<うわ!マスタングの襲撃だ!太平洋中部に似てグラマン随伴!>>

<<至急増援頼む!うわあああ!>>

 

と言うお芝居に笑いを堪える。

勿論敵機なんていない。

 

<<ようし雲に入るぞ>>

周辺が白くなり、太陽の日差しは途絶えた。

このまま一直線。

気流と雷やらで機体が多少揺れるも、そんな事は気にせずひたすら前を見ていた。

この間、すでに30経過。

突然狂い始めた方位磁針は、急にピタリと止まり普段と変わらない動きをする。

 

雲を抜け出す。

一面に広がる大陸と、水上の上には都市が。

そうだ・・。

俺達は戻ってきた。

この世界に。

 

<<さて・・ここに来るのも1年ぶりか。501基地はどうなっているんだろうか>>

ここ辺りは・・俺達が入った所と一緒だな。

「それより、燃料が少なくなってきています。どこか着陸出来る所を探しましょう」

<<そうだな・・。無理があるかもしれないがあそこの水上都市の空軍基地に着陸しよう>>

<<ロマーニャ空軍基地に着艦許可を願ったほうがよろしいかもしれません>>

 

<>

 

取りあえず、ロマーニャのヴェネチアまで来て飛行場へ着陸したのは良い。だが問題は今後どうするかだ。

連絡無しに来たにも関わらずお金は無いし、泊まり込み出来るところも無い。

一応燃料だけ補給して、ロマーニャの空軍基地を飛びだったけど・・。

隊長は隊長でガリア経由で行くって言ってるけど。

 

燃料計は半分以下まで切っている。

大丈夫だろうか・・。

<<行くぞ~日の丸~、日本の艦だー。海の男の艦隊勤務、月月火水木金金>>

<<どーんとぶつかる怒濤の唱に~。揺れる杉の音、今宵の夢は~>>

 

フライト時間にも暇があるので、隊長とタケムラは月月火水木金金と言う歌を歌いながらガリアを目指していた。

俺は無線の周波数を変えリトヴァグ中尉に通信をしようとする。

 

「頼む・・出てくれよ・・・」

雑音が混じって合わないぞこれ。

ダイヤルを一つ一つ慎重に行くも繋がらない。

そういえば言ってたな、どんな無線でも聞き取れるって。

 

「リトヴァグ中尉、応答してくれ俺だ!」

<<・・!シデンさん・・?>>

やったぞ!

「久しぶり、いや1年ぶりだな。リトヴァグ中尉」

<<お久しぶりです。でもどうして・・?>>

「同じ雲に入ったらまた別れを告げたところに来てしまったんだ」

<<そうですか<<ンー?サーニャどうしター?>>

 

ユーティライネン大尉の声だ。

相変わらずの棒読みはいつ聞いても不思議ちゃんだ。

<<ミーナ中佐とバルクホルン大尉、ハルトマン中尉が居る基地なら・・>>

「教えてくれ!」

<<ベルギカ王国・・サントロン空軍基地に所属しています。およそ799.147kmです>>

今乗っている零戦五二丙型は落下増槽で2,560km、通常なら1,920km。

大丈夫だろう。

 

「分った有難う。誘導は出来るか?」

<<すみませんそこまでは・・>>

仕方が無いな。

「場所さえ分れば良い。有難う」

<<お役に立てなくて申し訳ありません・・>>

「気にするな。じゃあ、またどこか」

<<また会えると良いですね>>



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再開

 

別れたネウロイが現れるわでもう最悪だ。

しかも天候は夜。

分厚い雲の中を潜りながら、外へ出ようも今まで以上に強すぎた。

ひたすら目的地のサントロン基地へ目指そうとするが、場所さえも分らない。

おまけに変形型だった。

 

まあどこかの夜間ウィッチが倒したのだろう・・。

 

色々あったにもかかわらず、プロペラのエンジンの音が唸るだけの夜空が広がる空へ出ると、ウィッチが1人。

恐らく国籍確認なのかこっちをじっと見ている。

白銀の髪にメガネ、黒のナチス親衛隊の軍服に近い。

変わったストライカーユニットに機関銃。

 

手を動かし始める。

"誘導スル 続ケ"

の手信号をこちらに送った。

隊長機も翼を揺らし、承認を得た。

 

 

――ベルギカ王国 サントロン空軍基地

夜間の空軍基地とは言え、これまたデカイ高射砲塔が・・。

明るい格納庫へ入るとガラッガラ。

せいぜいストライカーユニットがあるだけだ。

奥の壁には欧州の地図と火薬と弾薬の木箱が少なからず。

 

「ミーナ中佐、扶桑から来たパイロット達が会いたいと・・」

銀髪の少女は中佐に伝える。

隊長は自ら中佐の方へ行き、握手を交わす。

 

「やあ1年ぶりだミーナ中佐」

「貴方達こそ大丈夫だった?」

「なーに大丈夫だ。当分帰りたくないがな、ハハハ!」

「サーニャさんの知らせで部屋を用意したの。今日は休んでって」

「急ながら申し訳ないな。突然」

「いいのよ。戦力が増えるだけマシだから」

 

今日は泊まれるな・・嬉しい。

B29の襲来が増えるばかりだったあの時間、寝る暇も無く疲れが増していたんだ。

アホ軍部と上官から至急された夜間戦闘用、特攻用の"ヒロポン"。

 

俺は使わずに上官の前に叩きつけたっけな・・。

それに、影で使う奴がいればぶん殴って目を覚めさせようと必死だった。

 

ハァ・・疲れてんだなあ。

さっさと寝たい。

 

 

<>

部屋内はテーブルとベッドに服を吊けるハンガーやクローゼットなどがある。

ミーナ中佐が「もしもの為に短機関銃があるから使って」と言われながらも、テーブルの上の短機関銃を手にして触って見る。

ドイツ製、じゃなくてカールスラント製、"MP40"と刻まれてあった。

思い感じに見えたがそれなりに重くない感じがする。

体がそう言ってるんだからそうなんだろう。

弾倉の隣に不思議な形をした拳銃。

なんだこれ・・?やけに胴体がでぶっちょなんだが。

 

まあ俺は寝たいんだ。

短機関銃を元の所へ戻し、飛行服も椅子の上にかけてシャツだけになる。

そのままベッドに倒れ仰向けに。

静かに瞼を閉ざし眠りにつく。

 



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ガリアへ

夜が明けた。

だが当分ここに居るのも悪いしなあ・・。

タケムラと隊長も同じ事言ってたし、1泊でも十分だったろう。

 

ベルギカ王国の空を眺めながら上空を飛行している。

増槽燃料も装備されより長距離の飛行が可能になった。

 

バルクホルン大尉のお手製のサンドイッチを口に頬張りながら朝食を得ながら、無線の隊長の歌声を耳にする。

んー日本では中々食えないぞこれ。

せいぜい、海軍の水兵達の一部じゃないかー?

 

あそこは英圏に影響されてるから敵の国なんて平気で使ってるし食ってるからな。

と言っても物資に悩みを抱える上に下士官の飯は麦飯ぐらいだろう。

<<改めて進路確認です。ベルギカ王国を出ましたら、ガリア西部へ飛行します>>

<<南下して、ロマーニャで補給する予定です>>

 

航路担当のタケムラは大抵正確だ。

だけど今後どうするかがまた同じない様になるな。

<<隊長、ガリア空軍からスクランブルです>>

 

おいおい・・スピットMk5とハリケーン混合だ・・。

<<誘導に従いましょう>>

<<んじゃ従うか・・>>

 

スクランブルと来た所で最高のチャンス。

誘導に従う濃緑の先頭の五二丙型、隊長機は6機に囲まれるスクランブル機の後に続こうとした。

それに2番機の俺も同様、3番機のタケムラも一緒に背中を視界に隊長を追おうとする。

まあ・・フランス空軍は輸入機が多かったって話を聞いたな。

特に英軍からのお古と言う。

 

しかし見るからして新米だな。

何しろ編隊が崩れてるどころかバラバラだ。

これじゃあ、もしもの時に敵機を逃すぞ。

 

言ってもしょうがないか・・。

 

今現在広がっている森林に花畑。

ここは金持ちの敷地上空なのか?

 

双眼鏡で屋敷を覗いて見ると、滑走路並みにデカイ芝の庭が広がっていた。

お・・?

花畑でクロステルマン中尉がいるんだが・・。

挨拶ぐらい良いだろ。

「隊長、高度落とします」

<<おう。すぐ戻れよ>>

 

どうも隊長も分っていたようだ。

 

風に乗り、機体を自由自在に操りながら囲まれるスクランブルの穴から抜け出し、遊び心が働いた。

90度の角度で花畑目掛けて急降下。

 

これに驚いて逃げる人々達。

重い舵を一気に引き、水平へと保とうとする。

 

キャノピーを開き、空へ舞い上がる無数の花びらに混じるクロステルマン中尉はこちらに向け大きく手を振ってきた。

それと同じ様にリネット曹長も。

<<彼らは敵ではありません。すぐに所属の場所に戻ってください>>

 

貴族効果なのかスクランブル機は何も無かったかのように、散り去って行く。

隊長とクロステルマン中尉の無線やり取りが始まるとタケムラ機は翼横に出て、手信号を送る。

"南西ニ転進シ海ニ出ロ。後ニ着ク"

 

南西に転進すれば何かあるのか?

まあ言われたとおりにやれば良いか・・。

 

<>

――地中海

さて言われた通りに来たのも良いが、俺だけになった。

 

一面広がる地中海にヴェネチア、ロマーニャや欧州の大陸が水平線に浮ぶのはっきり判る。

真っ赤に染まる夕焼けだが戦友達が流した血の色とそっくりだ・・。

だが燃料はもう持ち答えられない。

増槽分使った分に残りは機体燃料。

 

「!」

一瞬ばかり殺気を感じた。

酸素マスクを口周辺に着用し周りを見渡す。

野郎・・出て来い・・・。

この火力上げした零戦に来い・・!

 

「この!ロマーニャからいなくなったはずじゃないのか!?」

大型ネウロイが1機、俺の後部に食いついていた。

無線で隊長を呼ぼうにも雑音混じりで繋がる気配もない。

ならば俺が相手にしてやる。

 



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燃料ゼロ

思った以上に速度と動きのあるネウロイで、戦う価値はある。

とは言え只の卵みたいな形だ。

身体が引っ張られながら操縦桿に操られる機体を動かし、ネウロイを旋回戦へと持ち込む。

後ろにつけば攻撃も出来まい。

 

「なッ!?」

変形型!?

矢の先の様な形になったネウロイは空高く上昇をし、そのまま一気に急降下しながら一撃離脱に近い光線攻撃を仕掛けてきた。

素早くフラップレバーを落として速度を少しばかり低下させる。

目の前が真っ赤になる、光線と一緒にネウロイは海面スレスレになりながら水平を維持。

 

そこを狙った俺は機首を落とし光学照準器をネウロイ手前に定め、撃つという意志を耐え切れない13mm機銃はハシャグ子供の様に銃火を唸らした。

4発に1発入る曳光弾は漆黒の装甲を撃ち削った所を肉眼で確認した。

弾跡を残し、回避をしようとするネウロイに強力な20mm弾を撃つ。

炸裂した20mm弾は次々にネウロイを撃ち抜き装甲を削り取る。

 

そして赤く光る石が見える。

「コアだ」

13mm、20mm機銃を一斉射撃を加えつつ速度に乗りながら一撃で決めようとした。

エンジンが甲高く鳴き始めた頃にはコアは撃ち砕けた。

息を失う様に静まったネウロイはそのまま消滅。

 

「はー何とかやった」

無線の調子も戻ってきている。

微かな隊長の声。

<<2番機、聞こえるか!?>>

「こちら2番機!」

<<突然通信不能になった。大丈夫か!?>>

「ネウロイと交戦したばかりでした。怪我はありません」

<<そうか。よかった・・。未だにネウロイが出現する。注意してくれ>>

<<それと今の進路を南進すれば扶桑艦隊と合流出来る。そこで補給を行ってくれ>>

 

ん?補給だけに艦隊に行くのか?

さすがにそれは無駄じゃないか・・?

「隊長、一旦ロマーニャに転進できますか?」

<<まあ良いが。俺達2機は扶桑艦隊へ合流する>>

「了解。ロマーニャの方へ転進を開始」

 

<>

さて夕暮れと来て青と赤が混じる夜になってきた。

所々燃料も持たないし、さっさとヴェネチアで補給をしたかった。

まあなんでそこまで拘るかと言うとイェーガー大尉とルッキーニ少尉がいると聞いたからだ。

なんせ親子見たいだから簡単に見つかるだろう。

 

「はあ・・腹減った、燃料補給したい」

無駄に使ったよなあ・・。

リベリオン製のオクタン燃料を楽しんだだけって感じがする。

建物の灯を照らしたヴェネチア市街が大きくなるが、燃料計はすでに0を示していた。

「あっ」

 

あ、あああああああ!?

しかもここは海上!

高度はまだ十分ある、大丈夫だ!

降下速度を利用して上昇するの繰り返しでやればきっと多分、着陸出来るところがある!

冷静に、冷静にだ。

機体だけは捨てるわけには行かないぞ・・。

 

まずどこかに信号銃があったはずだ。

座席下を手探りで・・あったぞ、やや銃身が大きい陸軍のだ。

キャノピーを引き下げて信号弾を夜景の空向けてボンッと言う銃声と一緒に、信号弾は撃たれる。

 

発光を照らすがこれは照明弾だ。

弾間違えたか・・?

「もうこれ駄目だ」

零戦の力で何とか港の広場へ着陸を試みようとする。

プロペラの回転が弱まり、着陸脚を出した。

 

そしてキュッとタイヤが擦れる音を鳴いた時には零戦は停止をした。

「はあ・・着陸したのは良いけど回収どうするんだろうな・・」

民衆がゼロ戦の周りを囲む中、プロペラは建物の数メートル手前。

今後の計画を立てなければいけなくなったぞ。

 



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不運と脱出

「あははは!相変わらず堅物は変わらないんだなー」

と言うイェーガー大尉の笑い声と一緒に輸送トラックは揺れる揺れる。

昨日の夜、信号弾に気づいたルッキーニ少尉のおかげでトラックに乗せてもらえたし高価なオクタン燃料も入れて貰った。

大尉お得意の改造もお目目にかかり、故障し易い20mm機関砲を修理やエンジン等色々やってもらった。

 

零戦はどこにあるかと言うと無理矢理の牽引で引いている。

重たい機体を楽々走行するのも彼女の改造のおかげかもしれない。

 

「なあ知ってるか?バルクホルンってな妹が大好きな奴でさ~。クリスって名前なんだけど目が覚めると、私物禁止のストライカーユニットで行こうとしてたんだ」

あの堅い軍人にもこういった面もあるんだな。

「ところでシデンは今後どうするんだ?」

「あっ・・まあネウロイを全滅させるまでは当分居るよ」

 

助手席中央、ルッキーニ少尉は猫の様に背中を丸めて昼寝。

ヴェネチアが解放されてからこうやって平和な日々を過ごしているんだろう。

 

「変形型ネウロイが居たんだ。知ってるか?」

地中海で出会ったネウロイの話を持ち出した俺は様々な事を話す。

「最初は卵の様な形をした。俺が攻撃を加えると、円状な物になるんだ。速度、機動は以前より強力だと確信したよ」

「私も見たな。それ」

「まったく、どっから来たんだが・・」

 

呆れた顔をしたまま、イェーガー大尉が乗る輸送トラックは停止。

目的地に着いたようだな。

彼女は504航空団と共同の為これ以上お邪魔する訳にも行かないからな。

 

トラックから降りて脚をだしたまま牽引終わりの零戦へ近づいて、フックやそれぞれの物を外す。

イェーガー大尉と一緒に思い翼を垂直へ伸ばし、広々とした草原に濃緑は輝く。

「どうせなんだからさ、これ持っていきなよ」

荷台から持ってきたのはリベリオン製の短機関銃。

それも陸軍がアメリカ軍から鹵獲した短機関銃と一緒の形。

 

「リベリオンのトミーガン。ここ周辺じゃあネウロイも多く出るし、墜落した時の護衛武器にもね」

「今いる所はガリアだからさ。ひょっとしたらペリーヌ達に会えるんじゃないか?」

"また"会おう事になるな。

どっちにしろ隊長機と逸れた2番機だから会えるのは嬉しいな。

 

「ああ。短い時間だったな」

「じゃあ私は行くよ!グッドラック!」

ここで別れたとき、俺は操縦席へ座りこむ。

トミーガンを席下の収納個へ込んで、あいた手でエンジンコックを回した。

1度揺れた機内だが、エンジンとプロペラは快調に稼働した。

それに比べ野太い感じな音で、飛べば今まで以上の速度が出ると俺は思い感じる。

 

「うおお・・。なんだ?今まで植物油を使っていたのに・・」

離陸まで時間がかかる国産エンジンとはまるで別、限界を超えたエネルギーで零戦は草原の大地を蹴った。

 

<>

隊長と合流したいが・・。

恐らくクロステルマン中尉の屋敷に居るはずなんだが。

 

ギャアアアア!

 

むっ!?

「!」

飛行して数時間程度と言うよりガリアの空をさ迷っていた時、ネウロイのビームは森林の不明地から放たれ主翼を引き千切った。

荒ぶる視界に、水平器は狂い始めた。

そして轟音をたたせながら森林の奥へと機体は突っ込み、身体に加わる強い衝撃で内臓が口から出そうになった。

何て日だ・・。

 

しかしイェーガー大尉の言う通りにここ周辺にはネウロイがまだ居た。

割れたキャノピーを開いて、2つの短機関銃を両手に持ち構えながら外へと出る。

もしもの信号銃とルッキーニ少尉から貰ったカゴのパンを肩掛けにし移動を始めた。

「痛みは無いな。さっさとここから抜け出そう」

 



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服部との出会い

扱い慣れないトミーガンを手にこの森林を脱出しようとするがネウロイ相手にはそう行くはずも無かった。

木陰を転々と移りながら追撃してくる子機に、乱射しながら動きを止める程度だ。

砂と土が散るが必死に脚を動かし逃げようとする。

時に後ろを振り向き、乾く銃声と一緒に揺れる照準を安定させずひたすら指で引き金を倒す。

 

「うわっ!?」

間近に光線を直撃した反動で誤って転んでしまった。

それでも身体を操りひたすら銃を撃ちまくる。

後転、1回転。

ガリアの地を死に物狂いで出口を求めようとする。

「野郎!」

あまりにもしつこいぞ!

面白がって追撃する子機にトミーガンを向け、引き金を引いたが弾は出ない。

弾切れが発生したのだ。

 

片手で持ったMP40で撃とうとするも弾詰りが起こる。

何て事だ・・。

 

何とか密林を利用して敵を混乱させたが・・。

疲れた・・うん。

食糧は底を着きひたすら歩き回っては・・。

と思ったら出口に出る、おまけにトラック?に搭乗員が居る。

これで戻れるなと思ったら・・。

「み、宮藤さん?」

その隣は・・坂本少佐?違うな何かと堅いぞ。

「シデンさん!どうしたんですか!?」

「いやまあ色々事情と言う物があって・・」

 

荷台に顔を向けるとリネット曹長とクロステルマン中尉が乗っていた。

色々訳を話して荷台に乗せてもらう。

トラックは緑の地を走る。

 

<>

 

どうでも良いが隊長と会えない限りは宮藤さんと付添いの服部静香と共に移動、あるいはお手伝いをする事になる。

今現在はクロステルマン中尉のお屋敷で過ごす事になるが、ガリアの復興はまだまだらしい。

バルコニーで山々を眺めるのは良いが戦闘機まで失うとさすがに戦力も落ちる。

取りあえずガリア空軍の事を知っている、クロステルマン中尉に聞けば1機ぐらいは手配出来るだろうか・・。

とは言え、ガリアもフランスと一緒で戦闘機も貴重なものだろう。

 

「では気を付けてくださいね・・」

「はいわかりました・・」

 

宮藤さんとクロステルマン中尉の会話をしたから聞く。

「あーそう言えば留学でどっか行くんだっけな・・」

宮藤さんは留学で、その付き添いが誘導?あるいは護衛もするんだろうか。

俺も行きたい。

 

バルコニーから飛び降り、ジープの後部座席に着地する。

「俺も行かせてくれ」

の一言で宮藤さんは笑みを作り「はい」と答えた。

 

服部さんがエンジン稼働と同時に、リネット曹長、クロステルマン中尉、また会話をせずに手を振る姿だけが小さくなる。

何やってたんだろうなあ俺。

チラッと服部さんの背中を見ると堅い空気が伝わり、何だか話し難い。

それも同じに宮藤さんも服部さんを見ては山を見るの繰り返しだ。

 



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バルクホルンの裏顔1

「服部静香軍曹」

宮藤さんからひっそり教わった階級で、地図を見る服部軍曹を呼ぶ。

「はい、なんでしょうか。シデン大尉」

うむ堅いな。

「坂本少佐は今どうしている?唐突申し訳無いが」

「しょ、少佐のお知りあいですか!?」

突然気を変えた服部軍曹は余計ビシッとなり身体を意味無く固め始めた。

 

「さ、坂本少佐は士官学校の教官として活躍しております!」

「そんなに硬くなるな。気楽になれって」

上官になる気分は最高だな。

とは言えきつ過ぎもよくないから程ほどに。

少佐は一応教官として活躍してたか。

せめて顔合わせだけでもしたかったけど残念だ。

 

「ねえお昼食べないの?」

サンドイッチを食べる宮藤さんに服部軍曹は「少尉はお先に食べてください」とやけに強い口調で答えた。

それにしょんぼりするのは宮藤さんだけだ。

俺も2、3個食べたから多少の空腹は来ないだろう。

 

爆走し、急停車すると村人らしき人が車から出てきた。

「軍人さん!無線化してくれないかい!?」

「どうしましたか?」

ここで服部軍曹が対応に入ると何でも「村で崖崩れが起きて、怪我人が多い」との事だ。

すぐさまジープは急発進。

 

<>

――村 崖崩れの現場

「うわ・・こいつはひでえ」

目にしたのは家と土に石が広く混じる崖崩れの現場。

山の地は何故かくっきりと跡が残っている。

それにこの有様だ。

治療は1時間どころかでは済まされぞ・・。

 

 

――3人称 その頃ベルギカ王国 サントロン基地では。

山々、緑自然豊かな森林に取り囲まれたこの空軍基地には立派な高射砲塔とドイツ軍製の12cm砲が各は一場所に設置されていた。

そしてその隣の格納庫では、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、ミーナ中佐、ハイデマリー少佐、1番機の隊長と3番機の隊長が存在していた。

「んぐぐぐ・・!」

MP40の弾倉に弾を1発、1発込めるハルトマン中尉は指に力を入れるも、9mm弾は入る気配は無い。

力と力の中点がずれたのか弾は大きく飛ぶと同時に、ハルトマン中尉の頭にこつんと当たり落ちる。

 

「痛た!」

甲高い声を上げた時に、

「もう手が痺れる、メンドクサイ!やだやだやだ!」

と中尉とは思えない子供っぷりに、装填機で弾を込めるバルクホルン大尉は成長しないハルトマン中尉に近づき、短機関銃の弾倉を奪い取る。

「こんな物はこうやって・・・!」

少女とは思えない力で親指の押し込みだけで9mm弾が弾倉に装填された。

 

その光景を遠く見るのは、零戦五二丙型を整備する隊長がスパナを持って汗を拭っていた。

厳つい顔には黒い油が付着していた。

「なあシデンはどこにいるか予想で分るか?」

心配そうに外を見た隊長。

雑巾で機関砲の汚れを吹き取っていたタケムラは、

「恐らくガリアでしょうか。ライン河を挟む所にいると思うんですけど」

 

拭き終わりにバケツに入った水に雑巾を入れれながら話すタケムラ。

(取りあえずカンも鋭いからな・・信用しよう)

心声を発しながらプロペラを布で磨く。

 

「あれれ~?ここって宮藤が留学で通る所じゃ~ん」

地図に指を指したハルトマン中尉は大声で叫んだ。

"宮藤"と言うキーワードにバルクホルン大尉の脳裏では宮藤芳佳が、"お姉ちゃん"と呼んでいる想像をし始める。

借りもあった事に、木箱からパンツァーファウスト2丁、そして機関銃のベルト弾薬、2丁のMG42を手に、ストライカーユニットを装着。

「え、ええ?」

彼ら、隊長とタケムラがこの優秀なバルクホルンの裏顔を見てしまったときには口はぽっかり開く。

 



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バルクホルンの裏顔2

――視点 2番機 シデン

「ぬあー」

治療も終わったし止めた貰って、崖崩れがあった麓の村を眺めながら山道を走行する。

あっけない堅物軍人の会話にも付いていけず聞くだけとなった。

宮藤さんは次の夜にヘルヴェティアに着く予定だ。

 

「はい・・」

「そしたら静香ちゃんは帰っちゃうの?」

「目的地に送り届けるのが任務ですから・・」

また短い事に・・。

彼女、宮藤さんにとっては寂しくなる様なものだろう。

・・武器が無い時どうすれば良いか。

 

ゴォォ・・。

む、轟音?

ジープは急停止し、俺はその音の方角に目を付ける。

大きな土煙に宮藤さんは驚きの声を上げたが、問題はそれじゃない。

影からうっすらと赤の光りに黒の装甲。

塔型、地中式のネウロイが村に出現したのだ!

 

ん!?地中!?

そうかあの崖崩れはあいつが移動していたときに起きたものか!

服部軍曹は無線で連絡を取ろうにも通信不能、バストーニュ基地に避難する様に命じた軍曹に、宮藤さんは引き返すように命じた。

どれも危険と言う判断に、軍曹自身が時間を稼ぎ、その間に宮藤さんが村人を避難させると言う物だ。

「時間が無いぞ!」

「は、はい!」

俺の命令に、ジープは山道を下り始める。

武器も手にしていない時、あるいは弾切れの武器を持っていた時。

只のお荷物に過ぎない場合があるが、俺にはちゃんと武器を見つけていた。

 

服部軍曹の護身拳銃だ。

「軍曹、その拳銃を俺に貸せ。弾倉全部!」

「分りました!」の一言で素早く護身拳銃を抜きだし、ポケットの予備弾倉3つを俺の後部座席に置いた。

全面銀色の拳銃。

 

九四式拳銃と刻まれており、暴発拳銃と呼ばれている。

よくもまあ、下士官に至急したもんだ・・。

余り物なら良いとして、こいつには独特な要素があり、側面を強く押すと暴発することだ。

生産的にはコストも低いので一応無いよりかはマシ拳銃となっている。

 

攻撃を受けつつ、山道から村へ入った時ジープは急停車。

すぐさま降りて民間人の救助活動を行おうとしていた。

 

 

――3人称 ベルギカ王国 サントロン基地

(まさかあのバルクホルン大尉が、妹好きと言うのには驚いた)

と、心で発した隊長。

少し前にハルトマン中尉とバルクホルン大尉はカールスラントとガリアを挟む、ライン川上空の戦闘を終えたばかりだ。

妹愛に対する事に彼ら2人には失望したのだろう。

 

ある個室で、テーブル上の地図を囲む様にネウロイの事を話すミーナ中佐。

その時、扉が強く開けられたときリネット曹長、クロステルマン中尉が宮藤と連絡が取れない事を言った。

「何だって!?」

これに強く動揺したバルクホルン大尉に隊長とタケムラはすぐに廊下へと駆け出した。

 

格納庫に配置された零戦五二丙型は何時でも出撃できる体勢をとっており、彼ら2人はそれぞれの機に乗り込んだ。

後に来るバルクホルン大尉、ハルトマン中尉等の6人達は、ストライカーユニットに脚を入れ込み武器を手にする。

爆音を唸らせ、発進する2機の零戦は天に向けて基地の滑走路を蹴った。

 

「くそ、無線が通じないぞ」

手で無線機を調整するも、ノイズ混じりが発生している。

それどころか機体諸共墜落させた2番機の零戦はガリアの森林地に放棄それていたからだ。

ハイデマリー少佐の固有魔法では敵の数、居場所、あらゆる事を彼女はすでに知っている。

特にバルクホルン大尉の宮藤芳佳に対する心配性は人一倍高い。

 

 

<>

――視点 シデン

「服部軍曹!」

「静香ちゃん!」

下士官の戦闘はまだ早すぎたか・・。

同じ様に俺達パイロットは腕前になるまで5年必要だ。

だがそんな事を思っている場合じゃない。

彼女はネウロイの光線でストライカーユニットを損傷させ、このまま地面に強打してしまったのだ。

塔型のネウロイは目にする限り遅い速度で防空壕の方へ向かっていた。

 

「村から遠ざけないと・・!」

「拳銃だと火力が無いぞ」

20mmの旋回型機関銃と動いているジープ・・。

 

それに目をつけた俺と宮藤さん。

「こいつで撃退する他はないぞ・・」

「同じ事を考えてました。でも時間がありません」

すぐに俺は服部軍曹の20mm旋回型機関銃を持ち上げるとズッシリと重い。

まるで川原の大きな石を持ち上げた感じだ。

肩で担ぎ、走ってジープへと乗り込む。

「シデンさん、機銃お願いします」

「任せろ。航空機銃担当は何度かやったからな」

 



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大型ネウロイ撃滅戦

「こっちだ!」

扱った小銃よりも重たく、肩を叩きだすような強い反動と共に機関銃の引き金を、指の関節で倒し続ける。

黄色い曳光弾が弾かれこちらに気づいた塔型のネウロイは、地を剥がしながらとじわじわ近づく。

それを誘導する様に瞬く間、ジープは動き出す。

 

ネウロイのビームに土煙は立ちながら追撃を加えた。

牽引車諸共破壊されると宙に一瞬浮びながら、背中を座席に強打した。

痛い。

いや、むしろ軽いほうだ・・。

そのまま石橋を通過。

ネウロイは諦めたのだろうか。

コアを防御しそのまま地中へと埋まりながらこの、視界から消えていった。

それと同時にジープも止まった。

「はあ・・やったな・宮藤さん」

「その武器・・私に貸してください」

言われるまま、助手席の方へ。

これで少しは体が楽になる名な・。

その時、木や芝生に居た鳥達が一斉に鳴き始め空へと羽ばたく。

後ろを振り向いたとき、塔型のネウロイが聳え立っていた。

 

「・・!」

宮藤さんが操るジープは急発進し、ネウロイ目掛けて体当たりしようとしていた。

まさに体当たり攻撃。

勿論自分も無駄時にするわけにも行かない。

宮藤さんは重たい機関銃を持ちながら脱出。

それと一緒に、拳銃を手に身を投げ出し、柔道の受け身を利用し体の衝撃を減らす。

 

熱風が皮膚を熱した。

「うおおおお!」

機関銃をぶっ放しネウロイの攻撃する宮藤さんは鬼の様に急変した様子だった。

そして大きなコアが破れたとき、一緒にネウロイのビームまでも宮藤さんの身に襲いかかり、数十メートル先まで吹き飛ばされた。

 

「宮藤さん!」

走って駆けつけるも、仰向けの宮藤さんの腹部は赤く染められ、簡単な治療が出来る状態ではない・・!

「宮藤少尉!」

「服部軍曹か!彼女は重傷だ!」

「そ、そんな!」

 

「通信は出来ないか!?」

「ノイズが酷くて・・あっ!」

なんて数だ・・。

黒く埋め尽くす空には子機のネウロイが大群として集まっていて、その中には母機の大型ネウロイまでが出現していた。

そうか・・!

「服部軍曹!こいつらよりもっと高く飛べないか!?」

「もしかしたら無線が・・!繋がるんですか!?」

「ああ分ってるじゃないか!」

頼むぞ服部軍曹・・。

援軍の要請は君に懸かっているんだ。

俺は彼女の身を守るのに精一杯なんだ。

ネウロイの妨害範囲を振り切れば無線が届くはずなんだ!

 

■(視点切り替えはこの様な形で変えます)

――ガリア ライン川周辺

誰にも知られず、ひっそりとある巨大な戦艦と共に扶桑海軍の元ウィッチがカタパルトに乗せられた、零観機に搭乗していた。

巨大戦艦は左右に浮き輪を搭載。

白い水兵達が対空戦闘に備える為に、25mm3連装の対空機銃には弾倉が装填され、高角砲は天へ向けられていた。

そして巨大な砲を持つ、46cm砲はすでに砲弾の装填が完了していた。

 

森林を上に飛行をするのは、ウィッチが11名、零戦隊2機、負傷している宮藤芳佳に向かう。

ハイデマリー少佐は微かな声を聞き取ったのか眉を寄せる。

「何か聞こえます・・」

そう発すると、インカムの奥からは、

<<宮藤少尉を・・助けて!・・>>

とノイズ混じりの服部静香の声が。

これに全員は急行する。

 

大和の後部、カタパルトからは零観機が発進される。

「宮藤ー!」

彼女の声と共に。

 

――視点 シデン

 

プロペラのエンジン!?

首を上げたとき、緑の翼を連ねた機体と人型物体・・まさか!

「隊長!」

ウィッチ隊と零戦だ!

「隊長!俺です、俺です!」

思いっきり手を振る俺に、隊長は微笑んだ顔で手を振った!

嬉しくて涙が出そうだけど今は流す時間じゃないんだな。

「お、おお・・」

 

蒼の光りを地上から放射する魔法陣。

それに大きい・・。

半径5mを楽々超えている。

まさか、宮藤さん。

「ああやっぱり。解散してもウィッチに」

犬の様な耳と尻尾。

が、子機のネウロイがすでに取り囲んでいて、光線は何時でも撃てる状態だった。

拳銃の引き金を引こうとしても遅い気がしたが森林の奥深く、凄まじい砲声が響き渡った。

 

砲声が轟きその数秒後。

ネウロイは一瞬にして砕け散る。

「シデン!後ろ、後ろだ!」

後ろ・・?

隊長の声に後ろを向くと、カールスラント製の戦闘機1機がプロペラを回し止っていた。

それを送り届けたかのように去っていくカールスラントのパイロットは、お迎えの部隊の車両へ乗っていく。

 

「どうだ!俺のお土産は!そいつはカールスラント空軍のウォッケウルフだ!」

ウォッケウルフ・・?

メッサーシュミットと言う陸軍の飛燕は聞いた事がある・・。

こいつは・・。

まあ良い、どれだけ高性能か俺が乗ってやろう!

 



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最期の零戦隊

零戦隊、再編成。

<<攻撃目標!前方の超大型ネウロイ!>>

さあミーナ中佐の声と一緒に、ウィッチ隊は空を賭け出す!

先頭、ミーナ中佐と編隊をそろへながらシールドを展開。

 

各ウィッチは身体を捻りながらそのまま、降下する。

それと同じ、操縦桿を倒しながら機体を下へ持って行く。

人数分が多いため下部、上部と攻撃が可能。

パートナーごとに攻撃が開始された。

 

赤い光線が真正面に来る時、ウォッケウルフの機体は大きく360度と零戦同様な機動力を発動しながら攻撃を交わす。

どんなに上昇しようがエンジンはフルパワーに鳴き続ける。

2機の零戦と共に、大型ネウロイの側面を機銃で攻撃。

同じ様に機銃発射機を手に・・ん?

「ああ・・」

操縦桿に発射機が装備されていた。

親指で赤いボタンを押す。

すると、強い振動と一緒に20mm弾が主翼と合計で2挺から撃ち出された。

引き金を引くと13mm機銃が機首から弾が発射される。

 

一掃しつつ、ネウロイの脇を抜き出した。

後ろを向いたその時、ライン川から46cm砲を撃ち放つ戦艦大和の砲雲が見える。

その砲弾は超大型ネウロイを傾けさせるほどの威力で、周囲には剥がれた装甲が砕け散った白い煙が沸き出る。

「ネウロイのコアだ!」

紅に染められたその宝石。

ウィッチ隊とミーナ中佐を先頭とする横一列編隊で再度編成。

<<このまま行きます!>>

宮藤さんが前に出ると一斉に魔法陣のシールドを展開させ、そのまま突っ込む。

<<総員、宮藤さんに火力を集中!>>

彼女らもシールドを広げ、手にする銃を休まず、銃口から吹き出る火が連続して吐き出される。

ネウロイの子機も守備隊系に入り光線を一斉に射出しだした。

弾かれる光線と逆に、ネウロイのコア一直線。

 

彼女、ウィッチ隊はネウロイの母機丸々貫き撃破した。

息の根を失った時、ゆっくり母機は落下していく。

・・終わった?

<<各機、俺の後ろに来い。祖国の空へ戻るぞ>>

「え、でも・・」

<<まだやる事があるんだ・・な?また来れば良いさ>>

・・ああそうだ。

隊長の言う通りかも知れないな。

別れを告げたいが、知られないまま俺達はライン川の上を飛行する。

「有難う、さようなら」

 

<>

 

彼女らが地中型のネウロイを破壊後、バルクホルン大尉がガリアの緑の地を見渡し零戦隊を探していた。

バルクホルン大尉意外は勝利と喜びで零戦隊のことを忘れていた。

「思いだそうにも思い出せない・・彼らはどこへ・・?」

 

<>

――太平洋 中部

「・・・」

広き黒い太平洋の上空、3機の零戦の中2番機のシデンだけ薄らと涙を流した。

「く・・うっ・・」

(なんで泣いているんだ・・。どこかで少女と戦い、喜ぼうと思った・・)

零戦隊のシデン以外に誰も泣いていないが、そのうちは思いだそうにも思い出せない思い出があった。

だがそれも脳の奥深くに。

 

<<現在後部に敵11機。グラマン、マスタング>>

1番機の隊長は機に告げ、機体を操ろうとした時。

彼ら3機は桜の花びらとなり海洋へ散って行く。

 




終わりです
有難う御座いました


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