シャドーの戦闘員 ハチマン (八橋夏目)
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1話 起

ところどころで話に出ていたシャドー編です。

ようやくあの方も出てきます。


「こ、こは…………?」

 

 目が覚めると俺は知らない天井の下で寝ていた。

 何ならベットまで知らない感触である。見もしないうちから高級なものであることが分かるくらいの肌触り。

 やべぇ、気持ちいい。

 

「よお、ようやく起きたか。カントー10代目チャンピオン」

「ッッ!?」

 

 野太い声での方向を見ると、これまた筋肉ムッキムキの服がパッツンパッツンになってる………おっさん? って程もいっていないと思われる男がいた。

 

「その様子だと自分がどこにいるのかも分かってねぇようだな」

「………誰、だ…………?」

「はっ、このオレさまを知らないとは罪なやつだな! 重罪だ! だが、オレは心が広い! 特別に教えてやろう」

 

 えっ?

 なにこの人。

 超ウザいんだけど。

 

「オレさまの名はダキム! ダキムさまと呼べ!」

 

 うわー。

 自分で『オレさま』とか言う奴、ほんとにいたんだ。

 

「お前は今日からオレさまたちの手足となって働いてもらう」

 

 あっ?

 何言ってんの?

 イミワカンナイ。

 

「………」

「ありがたく思うことだな。本来なら殺されてもおかしくないんだ、お前は。それをオレさまたちが生かして使ってやるっつってんだ! だからありがたく思えっ!」

「………や、まずここどこだよ」

 

 いろいろ言ってくるが、まずは場所の把握とか俺の身辺状況を確認させろよ。

 

「入りますわよ」

 

 答えが返ってくるより早く、部屋に女の人が入ってきた。

 メルヘンみたいな人だな。

 

「ようこそヒキガヤハチマン君………あら? あらあらあら、まあまあまあ! 何この可愛い子! もらった情報と全く違うじゃない!」

 

 ッッ!?

 ヤバい、この人なんか危険な匂いがする!

 本能的に身体が拒否反応を起こしてるぞ。

 なんかまだこのマッチョの方がいいかもしれないと思ってしまうくらいには恐怖を感じる。

 

「………お前の目がどうかしてるのだ、ヴィーナス」

 

 どうしようか、この変なキャラの人たち。

 脳筋バカとおばさ「首を刎ねられたくなければ、その先を考えちゃダメよ?」…………何これめっちゃ恐怖。

 

「ダキム、わたくしにこの子をくださいな」

「あっ? 何抜かしたこと言ってんだ。こいつはこのオレさまが使いっ走りにするんだ! 邪魔をするな!」

「きぃー! なんでそんな上から目線で物を言われなきゃいけないの!? ただの脳筋バカに命令されたくないわ!」

 

 バカ二人が揉め始めたんですけど。

 今ならここから抜け出せたり?

 そう思い至るとそーっとベッドから立ち上がり、足音を立てずに扉の方に向かう。拘束されてなかったのが仇となったな。

 ーーーよしよし、気づいてない。

 自分の影の薄さにほくそ笑んでいると、まだ開けてもいない部屋の扉が勝手に開いた。

 

「えっ?」

 

 突然のことでぽつりと声が漏れ出てしまう。

 そのことに大人二人は気づいていない様子。

 だがもう一人、扉を開けた張本人がこっちを見下ろしていた。

 

「わっはっはっ、お前ら喧嘩してる間になに子供に逃げられようとしてるんだ? そんなことでは降格だぞ」

「「ボルグ!?」」

 

 ボルグとかいう目の前の眼鏡は軽い口取りで冗談とも取れない言葉を紡いでいく。

 また何か新しいのがきたんですけど………。

 

「悪いがこいつの面倒はロッソに見てもらうことになった。お前らはとっとと仕事に戻れ」

「はーい」

「チッ、オレさまの暇つぶしを奪いがやって」

 

 おいこらマッチョ。

 俺をどうする気だったんだ………?

 そしておばさ………お姉さん。目の笑ってない顔で手を振りながら睨まないで。超怖い。

 

「………お前も逃げようだなんて思わないことだな」

「………どういう意味だ」

「お前のリザードンはこっちで預からせてもらってるからな。これじゃ、逃げるにも逃げられないだろ?」

 

 ッッ?!

 かっかっか、笑いながら眼鏡をくいっと掛け直す男をキッと睨みつけた。

 

「………今なんつった」

「だからお前のリザードンは人質になってるのさ。下手なことは考えない方がいいぜ」

「テメェ!」

 

 リザードン!?

 くそ、これじゃそう簡単に逃げ出せねぇ………。リザードンの居場所を突き止めて奪取からの逃亡とかなんて無理ゲーだよ。

 しばらく時間がいるな………。

 

「お前はこれから戦闘員としてその実力を発揮しろ。隠すことはない。お前のことは全て把握している。でなければ、あいつの首が飛ぶと思え」

「俺からリザードンを奪っといてよく言う。ポケモンもなしに実力を発揮しろとか、他に何しろってんだよ」

「わっはっはっ、その鋭い考察力。よもや子供とは思えないな。いいだろう、お前にはポケモンを一体貸し与える。ロッソ」

 

 豪快に笑い飛ばしたかと思えば、リザードンの代わりを用意するとか言い出してきた。代わりをもらったところで実力が出せるはずもないんだがな………。まあ、ある意味その方がいいかもしれない。どんなにヘボなバトルをしたとしてもポケモンが違うから実力を発揮できないって言い訳できるし。それでリザードンに変えてもらえると一番いいんだが………。

 

「はっ、失礼します」

「後の世話は任せたぞ」

「了解しました。来い」

 

 入ってきた謎の赤いスーツの奴に顎で指図された。サングラスみたいな黒い眼鏡………眼鏡なのか? をつけているため顔がはっきりと認識できない。だがここで逆らってもいいことはないので仕方なく従っておく。

 くそっ、何だって俺たちがこんな目に遭わなきゃならねぇんだ。

 リザードン、待ってろよ。何とか抜け出す隙を作り出してみせるからな。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「入って」

 

 ん?

 声が変わった?

 

「……………」

 

 ロッソとかいう赤装束の奴についてきたかと思えば、俺の隔離部屋なのか、そこに入れられた。

 中は一応、白いベッドと机と椅子があるが、あるのはそれだけ。

 窓もないとなるとここは地下………なのか?

 

「ふう………、あんたも災難だったね」

「えっ?」

 

 女………の、声………?

 振り返ってみるとそこには赤い眼鏡のようなものを取った女の子がいた。

 

「お前………」

「あたしはオリモトカオリ。ここじゃロッソって名前で通ってるけどね」

「………しょ、そういうの、俺に見せていいのかよ」

 

 噛んだ………。

 

「別にー、みんな知ってることだし。ただ仕事の時は女よりも男でいる方が嘗められないからそうしてるだけ」

 

 ………男装、してるってことでいいのか?

 その方がしやすい仕事なんて………、まあ見るからにここはいかにもな所だし………。

 

「…………」

「色々聞きたいんでしょ。いいよ、答えてあげる」

「……………きょ、ここは、どこ、なんだ………?」

 

 もうお家帰りたい………。

 帰って布団に包まりたい。

 

「オーレ地方、そしてここはシャドーっていう、まあさっきので分かっただろうけど、そんないいことをしてるような組織じゃない」

 

 シャドー。

 それがこの組織の名前か。

 

「…………」

「ま、なんのために連れてきたのかは知んないけど、囚われ姫の部屋はここってわけ」

 

 囚われ姫ね。

 それだと、最後は誰か助けに来てくれる王子様でもいたりすんのかね。

 

「…………にゃ、何をしているんだ……?」

「ぷっ、あんた噛みすぎ………。ウケるんだけど………」

「いや、ウケねぇよ」

 

 もう、ほんとやだ。

 今になって自分のコミュ障が嫌になってくる。

 

「……名前は?」

「ひ、ヒキガヤハチマン………」

「自分の名前ですら噛むってマジウケる」

「………やめてくれ………」

 

 もう、これ以上、コミュ障の俺をなぶらないでくれ。

 

「あ、先に言っておくけど、あたしバトルは強いから。変な気は起こさない方がいいよ」

 

 急に空気を変えてきやがった。

 なんだよ、そんな脅し文句、俺に聞くとでも………?

 

「………リザードンがいないのにバトルなんてできるかよ」

 

 そもそもバトルなんてリザードンがいないんだし、意味がない。それじゃ、一方的にポケモンの攻撃を受ける拷問にしかならねぇよ。

 

「だよねー、それじゃヒキガヤのポケモンを選びにいこっか。まあ、どうせこっちで決めちゃってるだろうけどねー」

「………選ぶ権利もないよな…………」

 

 でしょうね。分かってましたよ。

 どうせさっきのボルグとかいう奴がすでに選んでることだろう。

 

「よっと」

「………それ、つける意味あんの?」

「オフじゃないからね」

 

 再び赤い眼鏡をかけたロッソーー元よりオリモトカオリは部屋の扉を開いた。

 あ、これただの俺の部屋への案内だったのね。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 俺の隔離部屋の横がオリモトの部屋だとかいう超どうでもいい情報を手に入れて、どこかの研究棟へ赴いた。

 俺、あの部屋に帰れるか心配になってきた。

 なんだよ、ここ。広すぎんだろ。

 

「ここ」

「仕事モードは口調も違うのね………」

 

 自動で開いたドアの中に入るとたくさんのモンスターボールが並んでいた。

 ポケモンをボールに入れて保管………してるのか?

 

「ヒキガヤハチマン………あった。これ………」

 

 ここはいいのか?

 声色戻ってるぞ………?

 

「もう用意されてるのか………」

「あんたがここに来た時点で、あるいは最初から決められてたのかもね」

 

 まあ、確かに。

 可能性としては考えられる。

 

「ねえ、バトル、してみる?」

「はっ? えっ? なんで?」

 

 い、いきなりバトルって…………。

 それにリザードンじゃないから………。

 

「いざ使う時にそのポケモンのこと分かってないとダメじゃん?」

「そ、そうかもしれないが………」

「んじゃ決まりね。ついてきて」

 

 なんなんだ、このグイグイくる感じ………。

 

「ここは………」

 

 言われるがままに奥に繋がる扉を開けるとそこは開けた会場になっていた。

 

「実験用のポケモンの試験場。たぶん、あんたはここでポケモンの育成をすることになると思う」

 

 バトルフィールドしかないが、それでも充分に広い。

 

「………はっ? 悪事用のポケモンを育てろってか」

「だね」

「イカれてやがる」

「あっはっは、ここは最初からイカれてるよ」

 

 そんなイカれたところになんでいるんだよ。

 なんて聞いても野暮って話だよな。

 

「んじゃ、やろっか」

 

 くっ、やるしかないのか………。

 なんで誘拐された場所でポケモンバトルに勤しまなきゃいけないんだよ。

 

「マグマラシ!」

 

 二人ともがフィールドに出て、定位置に着くと、オリモトカオリがポケモンを出してきた。

 マグマラシ。

 戦いの前には背中の炎で威嚇してくる、なんて話もあるやつだが………。

 してこないのな。

 どこかおかしい………のか?

 まあ、誰もがやるとは限らないしな。そういう時もあるさ。

 

「何が出て来るんだか……」

 

 俺も受け取ったボールを開いてポケモンを出した。

 

「えっと、ヘルガー………?」

 

 ダークポケモン、とか言われてたっけな?

 あく・ほのおタイプの四速歩行型のポケモン。奴の遠吠えは地獄の使者かってほど不気味なんだとか。

 進化前のデルビルは見たことあるが、ヘルガーは初めてだな。それをこれから俺が使うことになるのか。

 ……………リザードンと同じほのおタイプだから、なのか? だが、まあいい。こいつを育ててリザードンを奪い返してやる。

 

「いいねー、ヘルガー。あたしも同じほのおタイプ使いとして好きだよ」

「そう………ですか」

「んじゃ、やろっか」

「え、ヘルガーの技とか知らないんだけど………」

 

 早ぇよ。俺まだこいつの技とか知らないんだから、教えてもらうくらいの時間くれよ。

 そんなことを考えているとヘルガーが鬼火で揺らめく文字を浮かばせてきた。

 かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび………だけか。

 意外と少なかった………。

 

「いくよ、マグマラシ。ふんか!」

 

 一発目から大技かよ。

 背中の噴き出し口から炎を捲き上げ、地面に向けて落下してきた。

 

「っ!? ヘルガー、躱せ!」

 

 取り敢えず、あれを受けるのはよくない。何としてでも躱さなくては。

 

「かみつく!」

 

 躱した勢いをそのままにマグマラシに噛み付きに行く。

 

「でんこうせっかで躱して!」

 

 だが素早い身のこなしで躱されてしまった。

 

「そのままかわらわり!」

 

 腕を光らせるマグマラシに背後を取られたヘルガーはしっかりと技を受けてしまう。

 

「………早い、な………。ヘルガー、ほのおのキバ!」

 

 ならば、ともう一度仕掛けてみる。デカい牙に炎を纏わせ突っ込んでいった。

 

「もう一度でんこうせっかで躱して!」

 

 今度も同じように躱してきたので、本命を発動。

 

「ふいうち」

「マグマラシ!?」

 

 攻撃技を誘き出しての身を捻って掬い上げる形で攻撃を成功させた。

 

「オッケー、マグマラシ。もう一度、ふんか!」

 

 投げ飛ばされたマグマラシが起き上がるのを見て、オリモトカオリは仕切り直してきた。

 

「躱して、かみつく!」

 

 ダメージが入っている分、ふんかの威力は弱まっているため、さっきよりも躱しやすい。

 そのまま噛み付くことにも成功した。

 

「うっそ、もう動きにキレが出てきてる………。マグマラシ、でんこうせっか!」

 

 後ろに滑っていくマグマラシが踏みとどまり、加速してきた。

 あっちもギアを上げてきたって感じか。

 

「ほのおのキバ!」

 

 今度はデカい牙を閉じて壁を作り、突進を防ぐ。

 牙にぶつかったマグマラシは勢い余って前宙。

 

「かわらわり!」

 

 だが、その身軽な身体を生かして体勢を整えると、腕を光らせて突っ込んできた。

 物の見事に効果抜群の技を二回も受けてしまった。こりゃ致命的なダメージになってるに違いない。

 吹き飛ばされたヘルガーは威嚇するようにマグマラシを睨みつけている。そしてふらふらと起き上がったヘルガーは雄叫びを始めた。

 

「ルガァァァァアアアアアアアアアッッッ!?!」

 

 地獄の使者を彷彿させるような禍々しい雄叫び。

 

「………ヘルガー………?」

 

 一瞬で目の色が変わった、ように見えた。気のせいか………?

 

「やっば、ハイパーモードに入った!? マグマラシ、かえんほうしゃ!」

 

 しかし、気のせいではなかったらしく、オリモトが焦り始めた。

 ヘルガーのこの違和感に心当たりがあるらしい。

 咄嗟にかえんほうしゃを放ち、マグマラシも威嚇するが炎が全く効いていない。

 まさか………、特性がもらいび、だったのか………?

 

「えっ? 効いてない?! ま、マグマラシ、躱してかわらわり!」

 

 見たこともない青黒いオーラに包まれるとヘルガーは突進していき、それをなんとかマグマラシは躱した。そしてすぐに振り返り、光る腕を叩きつけるがバク宙で躱され、逆に攻撃を食らった。

 あれはふいうちだ。

 

「あーもー、仕方ない。マグマラシ、ダークラッシュ!」

 

 えっ?

 マグマラシもヘルガーと同じ技を使ってきた?!

 いや、同じというか同じ青黒いオーラを纏っているというか。元々の技がかえんぐるまっぽい。どういうことだ?

 ヘルガーは様子がおかしくなってから使っていたが、マグマラシは素で使っていたぞ?

 何がどうなっている…………。ここは一体なんなんだ………? 何を企んでいる………。

 ゾゾゾッ背中に寒気が走るのが強く感じられる。鳥肌も立ってるし、震えが止まらない。

 俺は一体…………。

 

「ヒキガヤ!」

「あっ………」

 

 あ、ああ………、今はバトル中だったんだっけな………?

 げっ、いつの間にかヘルガーが戦闘不能になってるし………。

 

「あんた大丈夫? 顔色悪いけど」

「えっ、あ、しゅ、すまん………」

 

 こんな時でも噛むのかよ。

 

「………怪我はないみたい、だね」

「……………」

「もう分かっただろうけど、あれがシャドーの実態。闇のオーラを人工的にポケモンに取り込ませ、より強化された技を使うことができるの。通称、ダークポケモン。ただし、反動で自我を忘れることもある。いわゆる暴走。あたしらはハイパー状態って呼んでるけど」

「……………」

 

 ………人工的に闇のオーラを取り込ませた、か。

 つまり、あれは生体実験のなりの果てってか。いや、成功例といった方がいいのか。

 どっちにしろ、こんなポケモンを作り出してる時点で、この組織は狂っている。

 

「………ごめん、今日はもう部屋でゆっくりしてた方がいいかも」

「あ、ああ………」

 

 早く、早く逃げ出さなければーーー。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 翌日。

 俺はオリモトに言われたように、マジでポケモンたちの育成をさせられることになった。ただし、普通のではなく、ダークポケモンを。これ無理だろ。

 

「こいつらを見て何も思わねぇんだな! やっぱりお前はこちら側の人間だぜ!」

 

 思うところはある。というかそれしかない。ただ驚かないのは昨日の時点でオリモトから説明を受けていたからというだけのこと。

 けど、だからと言って今ここで俺が何か言ったところでどうにかなるわけでもないのだ。何かするにしても期が熟すまで待つしかない。

 

「それじゃ、まずはこいつらとバトルだな。倒れても倒れても叩き潰せ。這い上がる限り叩き潰すんだ」

「………起き上がらない奴はやる気がないってことだろ? そんな奴とバトルできるかよ。俺は強い奴としかバトルする気はない」

 

 ボルグとダキムにそう言ってやるとニヤリと不敵な笑みを浮かべてきた。

 多分、同類だと思われてるんだろうな………。だが、俺はお前らみたいに何も感じないわけではない。思うところがあるからこその従属だ。

 

「ロッソ、引き続きこいつの監視をしていろ」

「はっ」

 

 二人はロッソーーオリモトを残して何処かに消えていった。

 俺は今日もここでバトルをすることになるらしい。

 

「ふぅ………、あの二人がいると疲れるっての」

「…………男装は嫌い、なのか?」

「そりゃ嫌でしょ。面倒だし。えっ、なに? 女装いける派? ウケるんですけど」

「え、い、いやそんなことないじょ」

 

 まだ会話になれないというね。多分異性だからだな。うん、そういうことにしておこう。

 

「さてと、まずはエイパムからだね」

「エイパ」

 

 最初はエイパムか。

 

「エイパム、ヒキガヤをギャフンと言わせておいで」

「エイパ」

 

 トレーナーなしのポケモンを相手するのか。

 てっきりオリモトがトレーナー代わりに命令を出すんだとばかり思ってたぞ。

 

「ヘルガー、取り敢えずあのハイパー状態にならないようにな」

「ルガッ」

 

 オリモトとのバトルの後、ヘルガーからさらに新しくかみくだくとかえんほうしゃを使えるように特訓していたことを聞いた。

 どうやらここに連れてこられる前まで、その二つの技をものにしようとしていたらしい。

 ならば、と俺もヘルガーの技を完成させることにした。

 

「エイ、パッ」

 

 早速エイパムが技を撃ち出してくる。スピードスターか。

 

「おにび」

 

 鬼火で星型のエネルギー弾を打ち消す。

 

「エッパ!」

 

 今度はエイパムが攻め込んできた。

 両手の短い爪………、ということはみだれひっかき辺りか?

 

「ヘルガー、躱してかみつく」

 

 ジグザクに動いてエイパムに揺さぶりをかけたところに、勢いよく尻尾に噛み付いた。

 手よりも器用に扱える尻尾を捉えてしまえばエイパムの動きを封じることができる。

 

「エーイ、パっ!」

 

 だが、存外尻尾というのは器用すぎるようで。

 遠心力を使って振りほどいてきた。

 

「パム!」

 

 振り払うとその尻尾を光らせて突っ込んでくる。

 

「ふいうち」

 

 エイパムの方に向き直り、ヘルガーが突っ込んでいく。

 尻尾が叩きつけられる前に前宙して躱し、着地の力を使って、体当たり。

 だが、エイパムの攻撃は一撃ではなかったようで、背後を突かれながらも尻尾を回してヘルガーの顔を思いっきり殴ってきた。

 

「タブルアタックか………」

 

 エイパムがダブルアタックを覚えているということは進化も近いということか?

 いや、でも覚えた瞬間に進化すると言われているしな………。

 

「………ダークポケモンってのはね、進化できないんだよ。あたしのマグマラシとかもさ、進化できないんだ」

 

 俺の考えを察したのか、オリモトが割り込んできた。

 ふむ………、進化の力を押さえ込んでしまうような力。それがダークオーラというものなのか。あまりにも危険すぎるだろ。ポケモンへの負担も大きいはずだ。その副作用がハイパー状態だってのも、こうして理解してくると納得がいく。

 

「ヘルガー、ほのおのキバ」

 

 不意打ちの体当たりで吹っ飛んで行ったエイパムに、さらに追い討ちをかけるように炎を纏ったデカいキバで噛み付いた。

 

「イパァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 あーあ、来てしまった。

 エイパムがとうとうハイパー状態になってしまった。

 目の色が変わり、狙いをオリモトに変えやがった。バトル中だというのに。

 

「ヘルガー、おにび」

 

 鬼火を飛ばしてエイパムを火傷状態にする。

 

「ほのおのキバ」

 

 痛みで勢いの落ちたところにもう一度噛み付いた。

 ようやく敵をヘルガーへと移し、距離を取ると飛び込んできた。

 

「ダークラッシュか………、躱せ!」

 

 青黒いオーラを纏っての体当たりをあっさりと躱すとエイパムが力尽きた。

 ふぅ………、なんというかダークポケモンを相手にするとスリルがあるな。こっちも同じダークポケモンだからより危険と隣り合わせ。

 だが、どこか……………いや、そんなことあるわけがない。

 

「二度目だから慣れてきた?」

「………慣れじゃない。ただ、早めに倒した方があいつにもいいと思っただけだ。バトルが長引けばそれだけあいつが苦しむことになるからな」

「ひひひっ、だよねっ」

 

 なんでそこで笑うんだよ。

 もう、ここの連中は一体何を考えているのかさっぱり分からん。

 

「エイパムお疲れー。それじゃ次はブーバーだよ」

「………まだやるのか………」

 

 休みなしの連戦かよ。

 

「ブー、バー」

 

 オリモトがエイパムをボールに戻すと、今度はブーバーを出してきた。

 ブーバーか。同じほのおタイプ。だが、こいつもダーク堕ちしてるんだろうな。

 

「ブー、バー!」

 

 げっ、最初からダークの力かよ。

 

「ヘルガー、ほのおのキバで受け止めろ!」

 

 エイパムとは格が違うな。なんというかあれは俺の準備運動の相手だったみたいな感じがする。

 あれ…………?

 もしかして俺が調教されてる?

 

「だいもんじ……。ヘルガー、飛び込め!」

 

 確かヘルガーの特性はもらいびだったはず。それならあの炎を有効活用させてもらおうではないか。

 

「ガーッ」

 

 よしよし、だいもんじの炎を手に入れたぜ。

 今ならあれも上手く使いこなせるかもしれない。

 

「ヘルガー、その炎を取り込め!」

「ルガッ」

 

 炎に食らいつき、飲み込んで体内に取り込む。

 これで体内にエネルギーが充満してることだろう。

 

「思いっきり撃ち出せ! かえんほうしゃ!」

 

 開いたヘルガーの口から勢いよく炎が吐き出された。

 ブーバーの顔面を焼きつくすほどの勢いである。

 それに怒ったブーバーが顔を左右にブンブン振り回すと、両手を振りかぶって突っ込んできた。

 

「おにびで気を散らせ!」

 

 ヘルガーはおにびを吐き出し、ブーバーの視界を奪うように取り囲み、その間に背後に回りこんだ。

 

「かみつく」

 

 よく分からないまま、両腕をクロスに振り下ろしたブーバーの背中に噛み付くと、唸り声を上げてきた。

 そして首を回して睨みつけるようにヘルガーを認識すると、口から青黒いオーラを吐き出してきた。

 えっ? 纏う以外にも技があるのか?

 

「今のはダークレイブ。ダークオーラを吐き出す技。かえんほうしゃみたいなものだよ」

 

 みたいなって………。

 禍々しくて全く並べられないんだけど。

 

「仕方ない、ヘルガー、ダークラッシュ!」

 

 この一撃で倒すしかない。

 渾身の体当たりを懐に入れ、ブーバーを壁に打ち付けた。

 これであっちは戦闘不能になっただろ………。

 

「ルガッ?!」

 

 えっ? これは………反動? こちらにもダメージを受けてしまう技なのか?

 なんて危険な技なんだよ、ダーク技ってのは。

 だから、さっきのエイパムも勝手に自滅したのか。

 やばい、ここにいたら絶対にやばいぞ。早く、早くリザードンを取り返して、ここからでなければ………。

 

「お疲れー、ブーバー、ゆっくり休みなよー」

 

 目を回しているブーバーをボールに戻すとオリモトがこちらに近づいてきた。

 

「どう、慣れた?」

「…………慣れるかよ。無理だろ、こんな危険なもん」

「でも強いでしょ?」

「強くてもリスクが高すぎる………」

「ふーん、つまんないなー」

 

 もう、ほんとにこの組織の人間はどうなってんだ……………。

 ほんと、早くここから出よう。

 

 

 

 

 なんて思っている時期が俺にもありました。

 それから半年。

 俺はどっぷりとシャドーの闇に浸かっていた。

 




本編は二週間くらい休みますけど、その分こっちをやっていきます。


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2話 承

「ヘルガー、かえんほうしゃ!」

「あらあら、まあまあ。ハガネールまで倒されちゃったわ」

「ヴィーナス!? 何あっさり負けていやがる!」

「態とじゃなくってよ。わたくしも全力を出した結果だわ」

「ほう、半年でここまで育て上げたか………」

「………約束通り、リザードンは返してもらうぞ」

 

 シャドーに誘拐され、ダークポケモンを育成するようになってから半年。俺はついにリザードンを賭けたバトルを取り付けることに成功した。

 相手はヴィーナスというおば……お姉さんである。俺を攫ったダキムという脳筋バカと同じ幹部をしているおば………お姉さんが、俺とダキムの争いに入ってきたのだ。

 事の発端は少し前。俺がダキムにリザードンをそろそろ返せと抗議した事から始まった。そこに居合わせたヴィーナス………お姉さんとボルグという幹部のまとめ役が乗っかってきたのだ。何故か俺の味方になって抗議をしてくれたお姉さんとバトルして、勝ったらリザードンを返却という取り決めになり、今しがた彼女とのバトルに勝ったのである。ヘルガー一体で彼女のポケモン四体を相手するのは大変だったわ。リザードンでリーグ戦に乗り込んだ事を思い出すぜ。

 

「はっ、冗談じゃねぇ! 俺は認めねぇぞ!」

「ダキム、約束だ。こいつのリザードンを返してやれ」

「はっ? 何言ってやがる。こいつにリザードンを返したら反撃に出るだけだろうが」

「それも約束しただろう。リザードンを返す代わりに我々の要求を呑むと。それが実行できなければ我々で殺すのみだ」

「ケッ! 勝手にしろ!」

 

 ま、普通はそうなるよな。

 リザードンが俺の元に帰って来れば、俺がここにいる理由はなくなってしまう。だから俺が変な気を起こさないというのを条件にリザードンの返却が約束されたのだ。

 ………今の俺にはどうでもいい話だが。

 もうここを出る気もさらさらなくなってきている。

 自分が育てたポケモンたちがバトルに勝ったという知らせが鳴り止まない現状に俺は満足している。ただ、まあ物足りなさを感じる事といえば、ここに来てから暴れるようなバトルができていないという事だ。今のバトルは大変な分、楽しかった。しかし、まだ足りない。あの、半年前の、リーグ戦の決勝以上に楽しめたバトルがないのだ。

 だから俺はあれ以上のバトルをしたい。今はただそれだけである。

 

「それで、本当にバトル山に行くのか?」

「………ずっと暴れてないからな。育成の方もしばらく休んでも問題ないだろ?」

「まあ、確かにこれまでのお前の仕事ぶりには感心する。よく働いてくれた」

「そろそろ休暇をもらったって文句は言われないはずだが?」

「そうだな、一日二試合をして50日、か。それじゃ温いな。よし、一ヶ月の期限をやろう。その間に頂上までいけなければそれで終わりだ」

「一日四試合しろと?」

「ふっ、最初は楽勝だろうからな」

「………チッ、分かった分かった分かりました。一ヶ月で百人倒してやるよ」

 

 うん、これで言質はとれたな。長期休暇いただきました。

 それにしても一ヶ月でとか無理だろ。どんなところなのかもよく分かってないのに。

 

「おい、クソガキ」

「なんだよ」

「変な気を起こしたら、その時は殺す!」

「………あの、痛いんだけど………」

 

 リザードンのボールを差し出してきたダキムに胸ぐらを掴まれ、首を絞められる。何でよりにもよってこいつがリザードンを連れてるんだよ。最悪だわ。

 

「やーねー、ダキムったら。お姉さんがいるのにそんなことするわけないわよねー」

「…………」

 

 視線を合わすのがなんか怖かった。

 

「返事は?」

「は、はい!」

 

 余計に怖くなった。

 ダキムよりも怖い。

 めっちゃ怖い。

 ちょっとちびったかも。

 

「そ、それじゃ………」

「ああ、何か手に入れたら報告するように」

「何か手に入ればね」

「それから、一人お供をつけるから」

「はっ? それって………」

「うむ、お隣さんだ」

 

 はあ………。

 マジか…………。

 あまりバトルしてる時の俺を見せたくないんだけどなー。しかもお隣さんってロッソーーカオリちゃんのことだろ?

 俺がここに来てから何かと気にかけてくれる隣の部屋の同僚。

 最近では遠くにいても手を振ってくるという、あれ? あいつまさか俺のこと…………、いやそんなことがあるわけないって。意外と幅広く仲良いみたいだし、バトルも強いからみんなから慕われている様子だし。

 俺なんかがそんなことを考えるとか恐れ多いよな。身の程をわきまえろって話だわ。

 

「お土産話待ってるわ〜」

 

 怖い怖いお姉さんにたちに見送られ、俺はそのままバトル山というところに向かうことになった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「出てこい、リザードン」

「シャア!」

 

 半年ぶりの我が相棒との再会。

 ボールから出してみたが別段、異状は見受けられない。何もされていないのだな。

 

「ごめんな、長い間待たせて」

「シャア! シャア!」

 

 頬を撫でるとそのまま頬をこすりつけてくる。

 

「それがあんたのポケモンなんだ」

「まあな。ずっとこいつと一緒だったから、こうして無事に再会できて何よりだよ」

 

 ちゃんと食事ももらえていたようで体調も好調らしい。嬉しさに炎を吐く勢いが全く劣っていない。取り繕っている節もないし、大丈夫なのだろう。

 

「それじゃ、いこっか」

「ほんとについてくんの?」

「そうだけど?」

 

 なんで? と逆に目で聞き返してくる。

 今は仕事モードではないらしい。

 

「あんまりバトルしてるところとか見られたくないんだけどなー」

「あっはっはっはっ! 何今更なこと言っての! あたしは最初にあんたとバトルした相手じゃん! 隠さなくてもいいって!」

 

 豪快に笑う彼女はいつも笑顔が絶えない。

 

「あ、いや、そうじゃなくて………。ヘルガーとリザードンとではバトルスタイルが違うから、その………」

「そんな変貌すんの? 逆に見てみたいかもっ………」

「はあ………。スイッチ入らないようにしないと………」

 

 俺のバトルに興味を示した彼女は身を乗り出して目をキラキラさせている。

 そんなところに興味を示さないでほしい………。

 

「んじゃ、地下行くよ」

「地下から行くのか?」

「やっぱり場所知らないんだね」

「そりゃ、そういう場所があるってしか聞いたことないし」

「いいからいいから。あたしについてきて。ちゃんとバトル山まで案内するから」

「んじゃ、任せるわ」

 

 とまあ、彼女ーーオリモトカオリとはこんな調子で少しは打ち解けてきている。ほとんど会話は彼女が進めてくれるが、ここまで他人と会話できたのも久しぶりである。

 それに、なんというかよく見ていると仕草が可愛かったりするのだ。普段は男装して活動しているが、不図した拍子に見せる女の子の姿が余計に可愛く見えてくる。ギャップ萌えってやつかもしれない。

 それくらいには俺はカオリちゃんのことを見ているようだ。

 

「まずは研究所に戻るから」

「だから地下ね」

 

 ここはアンダー。

 パイラタウンというゴロツキが集まる町の地下にある薄暗い町。

 シャドーが関係者が住処にしている秘密基地のような場所。

 そしてこれから向かうのはダークポケモン研究所。シャドーがダークポケモンを生み出す研究所であり、俺もそこで寝泊まりとダークポケモンの育成に励んでいる。

 しかし今日は報告がてら朝から地下鉄でアンダーまで足を運んだわけだが、何故かダキムと出くわし、その際にリザードンの件を付きつけたらバトルになったってわけだ。

 幹部さんたちはみんないい生活をしているようで、俺とは比べものにならんのだろうな。誘拐しておいて待遇悪すぎだろ。もう少しいい場所に寝かせろよ。俺もフカフカのベットで寝たいんだよ。腰が痛いじゃないか。なあ、ボルグさんよ。

 なんて口が裂けても言えない。

 だって、あの人も怖いもん。

 リザードンを取られている状態でそんなことが言えるわけがない。

 だが、これからは違う。これで俺にはデメリットがなくなった。言いたい放題だ。ざまぁみろ、バカ幹部。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「それでは、バトル山マスター、ムゲンサイ対挑戦者のバトルを始めます! まずはルールを確認します。使用ポケモンは六体。技の使用は四つまでとします。交代は自由です。お二人とも、準備はよろしいですか?」

 

 期限の一ヶ月最後の日。

 俺はとうとうバトル山の頂上まで来ていた。

 そして今まさに百人目の強者とバトルするところである。

 

「うむ」

「うす」

 

 あの後アンダーから地下鉄に乗ってダークポケモン研究所に戻り、そこから地上に上がり、バイクを拝借。

 そこからカオリちゃんと二人でバトル山に向かった。

 

「それでは、バトル始め!」

 

 夕日の差し込む中、俺は一人老人を目の前にしている。

 立っているだけで緊張感を走らせる風格に少し驚きを隠せない。それもこれもここ最近カオリちゃんが来ないのが悪い。

 初日から三日くらいは一緒にいてくれたのだが、仕事があるとか言ってアンダーへと帰り、たまに顔を見せてくれるくらいだった。俺も唯一の打ち解けた相手ということで彼女が来るのを励みにバトルをしていた節もあった。だが、最終戦を迎えた今日はまだ顔を見せていない。

 

「伝説のバトルをお見せしましょう。ゆけ、サーナイト」

「出てこい、ヘルガー」

 

 老人ーーバトル山マスター、ムゲンサイが最初に出してきたのはサーナイトか。

 エスパータイプだが、もう一つのタイプが厄介である。

 こちらが不利になりかねない。そっちの技を覚えていないことを祈ろう。

 

「サーナイト、めいそう」

「ヘルガー、かみくだく」

 

 サーナイトが目を瞑り、精神世界へと入り込む。

 ヘルガーはその隙に攻め込み、咬みついた。

 

「ほう、やりますな。サーナイト、10まんボルト!」

 

 ここで10まんボルトか。ということはあっちの技は覚えていない、あるいは使ってこない可能性があるな。

 だったら。

 

「ヘルガー、躱しておにび」

 

 サーナイトから咄嗟に逃げたヘルガーは身体に纏った電撃を飛ばしてくるのを躱しながら、ポウッと火の玉をいくつも作り上げていく。

 それらを飛ばして、サーナイトを撹乱していった。

 

「サイコキネシスで内から弾き飛ばすのだ」

 

 だが、容易く超念力で火の玉が内から爆破し、霧散していく。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 攻撃の手を緩めることなく、攻め込んでいく。

 かえんほうしゃもしっかりと命中し、致命傷とまではいかないが確実にダメージを植え付けている。

 

「サーナイト……、そうか、火傷を負ったか。ならば、シンクロ!」

 

 なるほど。

 サーナイトの特性はシンクロか。

 自分のかかった状態異常を相手にも付与させる特性。だが、そんなものはヘルガーには効かない。

 

「ヘルガー、受け取っとけ」

「ヘルゥ!」

 

 特性の効果から逃げるそぶりも見せず、受け付けた。

 だからと言って火傷にかかることはない。ほのおタイプであるのもあるが、それ以前にこっちの特性はもらいび。炎はこっちにとってはメリットしかない。

 

「かみくだく!」

 

 活力が漲ったヘルガーは勢いよく牙を携え、サーナイトに突っ込んでいく。

 

「みちづれ」

「ッッ?! ヘルガー、噛み付くな!!」

 

 なんて技を覚えさせてるんだよ。それだったら、まだあっちの技の方がよかったわ。躱せばいいだけの話なんだし。

 

「10まんボルト」

 

 みちづれが出たことでサーナイトの技は四つとも出てしまった。これで攻撃技として使えるのは10まんボルトだけ。警戒するのはこれとみちづれだけか。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 電撃を炎で掻き消していく。

 

「めいそう」

「突っ込んでかみくだく!」

 

 10まんボルトの威力をさらに高めるつもりなのだろう。だが、その間は隙だらけになる。そっちが一発の威力を重視するなら、こっちは手数で攻めるのみ。

 

「10まんボルト!」

 

 噛み付いた瞬間に身体に電気を纏い、直接ヘルガーに送り込んできた。

 躱す云々の話ではない。

 

「ヘルガー!」

「ルガッ!」

 

 初めてまともに食らったため、まだヘルガーが力つきることはないようだ。だが、この威力、さすがである。これはもう早めに倒さなくては危険だな。

 

「畳み掛けるぞ! ヘルガー、ダークラッシュ!」

 

 ブルブルして毛並みを揃えたヘルガーが、ダークオーラを纏い、サーナイトに突っ込んでいく。

 直接電撃を受けたため、サーナイトとの距離は近い。飼わせるタイミングではないだろう。

 

「サーナイト!?」

 

 老人がサーナイトを呼びかけるが、返答はない。

 よし!

 

「サーナイト、戦闘不能!」

 

 まずは一勝!

 最初から相性がよくて助かったわ。というか技の方に助けられたな。先に手札を全て出してくれたおかげで、攻撃の先が見えた。

 

「むぅ、お疲れさまでした。次はあなたです。ゆけぃ、ヘラクロス!」

 

 早速弱点を突いてきたか。

 ヘラクロスはむし・かくとうタイプ。

 こちらも弱点をつけるが、基本はかくとうタイプと見た方がいいポケモンなので、どうなるか分からない。

 

「ヘラクロス、じしん!」

 

 一発目から拳を打ち込み、地面を激しく揺らしてくる。ここ山なんだからこんなに揺らして噴火とか大丈夫なのかね。

 

「かえんほうしゃを地面に直角に放て!」

 

 俺の命令を聞いたヘルガーはジャンプして頭から地面に向き、直角に炎を地面に撃ちつけた。火の勢いにより、ヘルガーの身体は上昇。見事、じしんを躱した。

 上出来だ。

 

「メガホーン!」

 

 ヘルガーが上空へ移動したのを見ると、次の命令を出してくる。ヘラクロスは背中の甲を開き羽を出して飛んできた。

 うわっ、あいつ卑怯だわ。ひこうタイプでもないのに飛べるとか。マジかよ。しかも早いし。

 これだからむしタイプは苦手なんだよ。焼けばいいけど。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 くるっと一回転をしてヘラクロスの方に向き直るが、すでにヘラクロスはいなかった。くそっ、マジであの羽うぜぇ。

 

「くっ………、噛み付いて振り落とせ!」

 

 背後から強靭な角で突かれてしまったか。これで二発であるが、今の一撃は痛い。

 ヘルガーは角で突かれながらも尻尾を使ってヘラクロスの身体に巻きつき、遠心力を使って噛み付くと、尻尾を離して思いっきり地面に叩きつけた。

 

「もう一度かえんほうしゃ!」

 

 さっきのお返しとばかりに地面に落ちていくヘラクロスの腹にめがけて炎を吐き出していく。

 

「ヘラクロス、こらえる!」

 

 チッ、またか。

 この老人は搦め手が得意なのか、何かしらのびっくり箱を用意している。

 そう簡単には倒せない相手だな。

 

「ヘラクロスがこらえるってことは、そういうことかよ」

 

 次に来るのは間違いなくきしかいせい。

 

「きしかいせい!」

 

 この状況、躱せるか?

 いや、この状況こそトレーナーの腕の見せ所だよな。

 

「ヘルガー、おにびでヘラクロスの視覚を奪え! それと同時に、自分も纏え!」

 

 まずは着地した力を勢いに上乗せして突っ込んでくるヘラクロスの視界を火の玉で遮っていく。同時にヘルガー自身も周りに火の玉をいくつも作り出し、不均等に並べていく。

 これで、揺れればいいのだが………。

 

「躱せ!」

 

 身を捻ってヘラクロスの体当たりを躱す。

 くそっ、やはり無理があったか。少し掠めてしまった。こういう状況での躱し方も用意しておくべきだな。

 

「おにびを吸収して全力でかえんほうしゃ!」

 

 羽があるためか、向きを変えてもう一度突っ込んでくるヘラクロスにトドメをかけにいく。鬼火を取り込み、もらいびを発動させ、炎の威力を全開にして撃ち放った。

 

「ヘラクロス!?」

 

 躱すにも全力のかえんほうしゃの勢いから逃れることはできなかった。ヘラクロスは羽を燃やされ、地面に叩きつけられたところを丸焦げにされていた。

 

「ヘラクロス、戦闘不能!」

 

 よし、これで二勝!

 このまま三体目を倒したら、リザードンと交代だな。

 

「いいバトルでした。ゆっくり休みなされ」

 

 ヘラクロスをボールに戻し、次のポケモンのボールに手をかける。

 

「ゆけぃ、チルタリス!」

 

 三体目はチルタリスか。

 また厄介なドラゴンタイプが出てきたな。

 ほのおタイプは効果薄いし、噛み付くにもあのもふもふとした毛が邪魔になる。常備コットンガードを纏ってるようなものだ。うわっ、またこいつも面倒な相手だな。

 

「チルタリス、じしん!」

 

 ほんと面倒なポケモンだな!

 こいつもじしん覚えてるのかよ!

 

「ヘルガー、さっきのだ!」

 

 ヘルガー自身も悪態を吐いて、ジャンプしてからのかえんほうしゃで上昇していく。

 

「二度も通用せぬ。チルタリス、つばめがえし!」

 

 読まれてた!?

 いや、誘われてたんだ!

 くそっ、さすがは老人。伊達に老人やってないな。

 

「ヘルガー、戦闘不能!」

 

 上昇したところをすでに読んでいたチルタリスに斬られて地面に叩きつけられてしまった。

 呆気なくヘルガーを戦闘不能に追い込まれてしまった。

 ちと、予定が狂ったな。

 だが、まあいい。次はこいつだからな。というかこいつしかいないのだが。

 

「ヘルガー、戻れ。最初から全開でいくぞ、リザードン!」

 

 倒れたヘルガーをボールに戻し、もう一つのボールに手をかける。開閉スイッチを開くと中からは一ヶ月前にようやく手元に戻ってきたリザードンが出てきた。

 

「リザードン、ですか。チルタリス、りゅうのまい!」

「リザードン、こっちもりゅうのまいだ!」

 

 二体の竜が炎と水と電気を三点張りに作り出し、それらを頭上で絡めて竜の木に変えていく。

 

「「ドラゴンクロー!」」

 

 そして出来上がった竜の気を腕に流して竜の爪を作り出すと二体は交錯した。

 だが、まあこちらの方が上手だろう。なんせリザードンには爪を爪で挟む技術があるからな。

 

「デルタフォース・ドラゴン」

 

 土煙の中からズバンッ! という激しい音とともにチルタリスが上空に投げ飛ばされた。それを追うようにリザードンが翔けていく。

 そして、竜の爪で下から掬い上げるように一撃を入れ、投げ飛ばし、瞬時に投げ飛ばした先へ移動し、また爪で斬り裂いた。それらを巨大な三角形を描くように何度も続けてチルタリスの動きを封じ込めると、最後に思いっきり地面に叩きつけた。

 

「ち、チルタリス?!」

 

 老人も驚きの展開らしい。

 審判の人も口をあんぐりと開け放っている。

 

「コール、まだっすか?」

「あ、ああ………ち、チルタリス、戦闘不能………」

 

 さっきとは打って変わって声に張りがなくなっている。

 ちょっとやりすぎたか?

 いやでも、これくらいしておかないとこの老人は危険である。

 

「チルタリス、ご苦労様です。ゆっくり休みなされ」

 

 気を取り直した老人がチルタリスをボールへと戻す。

 リザードンも俺の前へと降り立った。

 

「いやはや、まさかあのような技の使い方をするとは。ヘルガーとはまた別格のようですね」

「はあ………」

「しかし、同じ手を何度も通用するとは思わないことです。ゆけぃ、クロバット!」

 

 四体目はクロバットか。

 空中戦に持ち込もうって魂胆だな。

 

「クロバット、あやしいひかり!」

 

 くわっと体の内から光を発し始める。

 

「リザードン、りゅうのまいで光を掻き消せ!」

 

 新たに竜の気を作り出し、二枚の壁で自身に届く光を遮った。

 同時に竜の気がさらにパワーアップするという、一石二鳥な采配だったな。

 

「ソニックブースト!」

 

 地面を強く蹴り上げ、一瞬でクロバットの正面に移動。

 

「エアカッター!」

「トルネードドラゴンクロー!

 

 四枚の翼を羽ばたかせて空気の刃を作り出していくが、勢いに乗ったリザードンの回転突きには全く効いていない。

 前に突き出した両爪が突き刺さったクロバットは、さらに内側から力を解き放った。

 

「めざめるパワー!」

 

 二種類の内部からの力を解放する技を操るってわけか。

 このクロバットのめざめるパワーのタイプが何なのかは読めないが、とりわけ危険なものでもなさそうだ。

 現にリザードンは回転を速めて、クロバットを突き飛ばしたし。

 

「クロバット!?」

 

 老人が呼びかけるが、クロバットはまだ戦える。あれだけではまだ倒れるはずがない。

 もう一発、叩き込む必要があるだろう。

 

「うむ、ヘドロばくだん!」

 

 地面から復活してきたクロバットが口から紫色のヘドロを吐き出してくる。

 受けると毒をもらう可能性がある厄介な技だな。

 

「ハイヨーヨー!」

 

 ヘドロを避けるために一気に上昇。

 天高く登りつめると今度は急下降を始める。

 

「もう一度ヘドロばくだん!」

「躱せ!」

 

 下から飛んで来る分には躱しやすい。

 ヘドロだろうがそれは変わらない。

 

「トルネードドラゴンクロー!」

 

 難なくヘドロを躱したリザードンは下降する力に回転を加えて、前に突き出した竜の爪を携えてクロバットにダイブしていった。

 

「く、クロバット?!」

 

 今度こそ、クロバットは戦闘不能になっただろう。

 

「よしっ………」

 

 煙が晴れると地面にクレーターを作って伸びているクロバットの姿があった。

 逆にあれで耐えられたら驚きを通り越して賞賛に値する。

 よかった、そこまではあのクロバットも規格外ではないらしい。

 

「く、クロバット、戦闘不能!」

 

 もうね、審判の人が可哀想になってきた。

 ちょっと俺を見る目に恐怖の色が混ざってきている。

 

「クロバット、お疲れ様です。ゆっくり休みなされ」

 

 首を横に振ってクロバットをボールに戻す老人。何か思いついたのだろうか。そしてそれを否定したか………。

 

「君は、一体どういう修行を積んできたのですかね。このじじいと懸け離れた年増もいかぬ少年がよもやこれほどの実力を見せてくるとは………」

「単に強さを求めた結果っすよ」

「それだけとは思えぬ………」

 

 老人が深く考え込んでしまったが、別にこれといって修行をした覚えはない。スクールにいた時には最後に暴れたくらいだし、旅に出てからも変なポケモンマニアや怪しいおじさんに付きまとわれたくらいだし。ああ、おじさんとは何度もバトルしたっけな。他にあるとすれば半年前にリーグ戦にリザードン一体で乗り込んだことくらいか。だから特に修行なんて修行はしてきていない。

 

「次にいきましょうか。ゆけぃ、レアコイル!」

 

 レアコイル、でんき・はがねタイプか。

 焼く? いや、それよりも地面に叩きつけて揺らした方が効果的か。

 

「10まんボルト!」

 

 早速こちらの弱点を突いてきたか。

 だったら、逃げるのみ。

 

「リザードン、ソニックブースト!」

 

 超加速でレアコイルの電撃を躱し、距離を詰める。

 

「でんじは!」

 

 近距離になったかと思うと今度は受けると痺れてしまう波を送ってきた。

 それならば!

 

「りゅうのまいで打ち消せ!」

 

 さっきと同様新たに竜の気を作り出し、三枚の壁ででんじはを防ぐ。

 これで痺れることはなくなった。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 そのままレアコイルの懐に飛び込み、竜の爪で下から突き上げ、背後から頭上に移動して、上から地面にもう片方の爪で叩きつけた。

 あと一発だな。

 今のでレアコイルの特性ががんじょうだったとしても次で終わる。

 

「じしん!」

 

 叩きつけた勢いをそのままに地面向かってに急下降し、空いた右拳を地面に叩きつけ、激しく揺らす。

 レアコイルはじめんタイプの技が一番効果的である。焼くよりもこっちの方が確実性が高い。

 

「………」

「レアコイル、戦闘不能!」

 

 これであと一体。

 最後は何が出てくるのやら………。

 

「レアコイル、ご苦労様でした。早いもので最後の一体になってしまいましたな」

 

 ボールに戻しながら老人はそう語りかけてくる。

 黒いのがいない今、俺の方もすでにリザードン一体となっているため、ようやくイーブンになったところだが、次でリザードンが負けるとも考えづらい。

 もはや俺の勝利は見えてきている。

 

「これが最後のポケモンです。ゆけぃ、ボスゴドラ!」

 

 最後に控えていたのはボスゴドラだった。

 タイプははがね・いわ。

 レアコイルと同じようにじめんタイプの技はよく効く。だが、防御面に関してはボスゴドラの方が圧倒的に優れている。加えて、あの硬い鋼の身体を使った全身攻撃は危険である。タイプの相性なんてあまり意味がない。

 何気にりゅうのまいを何度も使っていたのが功を来したかもしれないな。

 

「がんせきふうじ!」

 

 早速、こちらの弱点を突いてくるか。

 リザードンはいわタイプの技が一番よく効く。それを分かってのこのがんせきふうじ。面倒以外にない。

 

「ドラゴンクローで叩き落とせ!」

 

 身体の周りに岩を纏ったボスゴドラが、その岩を次々と飛ばしてくる。リザードンはそれを竜の爪を伸ばして、弾いたり斬り裂いたりしていった。ただ、岩であるため硬くてなかなかに砕けない。やはりリザードンと言えど岩はさすがに好めないようだ。

 

「ボスゴドラ、すてみタックル!」

 

 岩をまだ弾ききっていないというのに、とうとう硬い鋼の身体が突っ込んできてしまった。

 

「躱せ!」

 

 躱せと命令したものの、躱せるものなのだろうか。どちらかを半端にこなしてはかえって危険になるだけ。だからと言って、あの頑丈な身体を無視できない。

 

「ガァッ!?」

 

 チッ、やはり難しいか。

 もっと俺が的確な判断を下せるようにならないとな。

 

「リザードン、エアキックターン!」

 

 ボスゴドラのタックルを受けて吹っ飛ばされていたリザードンはくるっと反転して空気を蹴った。ボスゴドラの勢いが良かったのか踏ん張る力が力強い。

 

「じしん!」

 

 そのまま態勢を整えたリザードンは拳を地面に叩きつけ、激しく揺らし、次の動きに出ようとしていたボスゴドラを襲った。

 すぐに動き出していたってことは反動を受けていないってことなのか?

 ということはボスゴドラの特性はいしあたまか。これもまた厄介な組み合わせである。

 

「ボスゴドラ、がんせきふうじ!」

 

 バランスを崩して地面に倒れたボスゴドラが自分を守るように岩を纏う。

 

「もう一度、じしん!」

 

 未だボスゴドラが地面に転がっているため、もう一度激しく地面を揺らしていく。

 

「アイアンテールで岩を飛ばすのだ!」

 

 四つん這いのままジャンプしたボスゴドラは鋼の尻尾で纏った岩を一斉に飛ばしてきた。普通に飛ばすよりも勢いがつくと見たのだろう。

 彼の読み通り、勢いはさっきとは比べ物にならない。

 だが、こっちもそう何度も同じ手に食われてたまるかよ。

 

「ソニックブースト!」

 

 岩と岩の隙間を縫うようにリザードンが超高速で加速していく。

 

「アイアンテール!」

 

 岩を飛ばし終えても尻尾はそのままに振りかざしてくる。

 

「ドラゴンクローで受け止めろ!」

 

 振り下ろされた尻尾を竜の気を瞬時に爪に練り上げ、受け止める。

 衝撃で爆風が巻き散った。

 

「弾け!」

 

 両の爪をクロスさせて受け止めた鋼の尻尾を弾き飛ばし、ボスゴドラに大きな隙ができる。

 そこを狙わない理由がない。

 

「フレアーーー」

 

 だが、俺の命令を遂行するのではなく、勝手に違う技を使いやがった。

 はっ?

 あのリザードンが?

 今までこんなことなかったあのリザードンが?

 

「いや、待て………。あれは………?」

 

 出された技を見てようやく理解できた。

 解き放った技はダークラッシュ。

 そう、リザードンはいつの間にかダークオーラに飲まれていたのだ。今の今まで出さなかったがーーー逆に言えばよくここまで抑えていたものだと感心するまであるがーーーリザードンはすでに変えられてしまっていた。

 

「ボスゴドラ、戦闘不能! よって勝者は挑戦者とします!」

 

 バトルの判定も出されていたようだが、ショックのあまり俺に耳には届いてこない。

 

「ボスゴドラ、お疲れさまでした。……………」

 

 嘘だろ………。

 リザードンがダークポケモンだと………?

 ダキムの野郎………!

 殺す! 絶対に殺してやる!

 あいつだけは! あいつだけは!

 

「ふむ………、どうやらダークポケモンが出回っているという噂は本当のようですね。しかし君もリザードンのダーク化は意図しないものだったと見受けられる」

「………じー、さん?」

「これを持って行きなされ。詳しいことはこの紙に書かれておる」

 

 近づいてきた老人が何かを差し出してきた。

 これは………、笛?

 ………ポケモンの笛なら持っている(今もまだあるはずだ)が、あれとはまた違う種類の笛だということはすぐに分かった。

 

「アゲトビレッジの祠へ行くのです。ワシを超えた君ならできるはず」

「なん、で………」

 

 意味が分からない。

 どうしてこの人が俺にこんなことをする………。

 ダークポケモンのことについて少しでも知っているのなら、そんなポケモンを連れているような人間もどういう輩が理解できるだろう?

 なのに、俺に解決の糸口を見せるなんて…………。

 

「自分のポケモンが勝手にダークポケモンにされて悔しいのだろう? だったら他にもそういう人間がいることも今の君なら理解できるはずだ。君が、変えるのだ」

「……………………俺がそのダークポケモンを作る側の人間だったらどうするんですか?」

「それでもだ。バトルを通して君の人となりは少しは理解できた。君がダークポケモンを作る側の人間だとしても君の心まではまだ堕ちていない。今ならまだ間に合う。君ならこれを使いこなせるはずだ」

 

 ッッッ?!

 心は堕ちていない、か。

 ……………分かったよ。そこまで言うならもらってやろうじゃねぇか。

 これを使えばダキムの野郎に復讐することもできるかもしれないしな。

 

「……………分かり、ました………」

「くれぐれも内密にな」

「はい………」

 

 こうして俺はバトル山を制覇し、老人からは笛をもらった。

 

 

 

 結局、最後までカオリちゃんは来なかったな。忙しいのだろう。そういうことにしておこう。

 



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3話 転

「ヘルガー、かえんほうしゃ」

 

 メタグロス相手にまずは炎を打ち出してみるが、さすがはナンバー2のポケモンに選ばれるだけのことはある。サイコキネシスですぐに霧散させやがった。

 

「おにび」

 

 誰も命令を出していないというのに視界を惑わせるためのおにびをメタルクロー斬り裂きやがった。タイプ相性なんてこのメタグロスには通用しないのだろうか。

 

「もう一度、かえんほうしゃ」

 

 斬り裂いている間にもう一度炎を撃ちつけたら今度は入った。

 だが、すぐに四本の腕を伸ばしてサイコパワーで身体を浮かせると回転を始め、炎を弾き飛ばした。そしてそのままヘルガーに焦点を定めたかと思うとはかいこうせんを打ち出してくるという。

 ここまで自主的にバトルを組み立てられるダークポケモンは今までにはいなかった。

 半年以上、ダークポケモンとバトルをしてきた俺が言うのだから間違いない。

 こんなポケモンをナンバー2にって、ボスには一体どんなポケモンが与えられるというのだろうか。今からでも恐ろしくて敵わない。

 

「ダークラッシュ」

 

 そして、俺も半年以上ダークポケモンとバトルをしてきて、ダークポケモンとそいつらが使う技というものを理解してきた。

 どうやらダークラッシュなどのダークオーラを使った技はダークポケモンではない普通のポケモン達にはよく効くらしい。効果抜群のようだ。だが反対に同じダークポケモンに対してだと何も変わらない。効果が薄くならないだけマシといったところか。

 それと、ダーク技を使いまくるとダークオーラに呑まれて我を忘れてしまうこともあるようだ。俺がヘルガーを使った初日に起きた現象もバトル山でのリザードンの勝手な行動もここからきているらしい。

 そういうことを一切教えないで俺にダークポケモンの育成を一任する幹部ってのはどうなんだ?

 

「かえんほうしゃ」

 

 硬い鋼の身体にダークオーラを纏って体当たりをすると、ちょっとは吹き飛ぶというね。その間に再び炎を打ち込むが、やっぱりそこはメタグロス。ダークポケモンになれば余計に強さが滲み出ており、壁を蹴ってその勢いも合わせて二本の腕を揃えて突っ込んできた。

 コメットパンチだ。

 

「躱してほのおのキバ」

 

 だが、まあそこは単調な突撃技。

 身軽なヘルガーはすぐにしゃがんで躱し、過ぎ去ったメタグロスの背後から巨大な炎の牙で噛み付いた。

 効果抜群であるが、やはり硬いな。

 身体を揺さぶって牙の中から抜け出すと、後ろ向きのままダークオーラを纏って突っ込んできた。

 あの体勢でダークラッシュかよ。

 

「くっ……」

 

 ヘルガーが怯んでいる間に向きを変え、今度は正面からはかいこうせんを撃ち出してきた。

 

「ふいうち!」

 

 命令を聞くやヘルガーはすぐに駆け出し、禍々しい光線を掻い潜ってメタグロスの真下から身体を打ちつけた。

 しかも一発で終わらせず、地面に着地すると今度は背後からメタグロスの頭にバク宙で乗り移り、尻尾で地面に叩きつけやがった。

 何だか最近のヘルガーはバトルスタイルがリザードンっぽくなってきたような気がする。

 

「ほのおのキバ!」

 

 地面に叩きつけたメタグロスに再度ほのおのキバで噛み付いた。

 だがそれを鉄壁を貼ることで防御してくる。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 牙で壁を噛み砕き、至近距離で口から炎を吐き出した。

 それを地面に鋼の拳を叩きつけ、急上昇することで炎の威力を弱めやがった。

 

「ほのおのキバ!」

 

 引き剥がされないように再度噛み付くと急上昇していた身体がふわっと止まり、そのまま地面に向かって落ちていった。

 ようやくメタグロスが戦闘不能になったか。

 何とも攻撃・防御ともにパターンをお持ちのようで。

 

「お疲れさん」

 

 ヘルガーをボールに戻して、メタグロスもボールに戻してやる。そして二体をバトルフィールドの部屋の隣接する小部屋の回復マシンに置きに行った。

 結局。

 バトル山を制覇してから一ヶ月が経ったものの、一向にここから出て行く決心がつかないでいる。というかその機会が中々訪れないのだ。

 ダキムへの仕返し?

 はっ、そんなもんやろうとしたが無意味だったさ。幹部全員が承知の上でやったようで、誰かをこちらに付けるのなんて出来はしなかった。

 最後に言われたのが『半年もここにいてダーク化されていないとも思っていなかっただろうに』だ。ボルグの野郎、こうなることを読んでいて態と俺にリザードンを返したらしい。

 ただ老人からもらった笛は誰にも教えていない。内密に、と言われたしこいつらに言ったらすぐに取り上げられるだろう。これはせめてもの抵抗だ。

 

「早くお前のダークオーラをどうにかしないとな」

 

 リザードンのボールを撫でながら呟く。

 こうしてヘルガーの回復を待っている時間は割と暇である。たまにカオリちゃんがやってきては話し相手になっていた、というか一方的に会話が進んでいくから時間潰しにはなっていたが、こう一人だと暇である。

 もらった笛は肌身離さず、右足に括り付けて長ズボンで隠してあるし、説明書きの記された紙も暗記してすぐに燃やした。さすがにこの情報が漏れると俺にとっても分が悪いことが分かったからだ。

 書いてあった内容もアゲトビレッジという町のある祠ではセレビィを祀っていて、俺がもらった笛を使うことで呼ぶことができるんだとか。これが何を意味するのかは分からないが、恐らくはセレビィの力でダークオーラを消すことができるのだろう。そんな大層な代物を一介の犯罪者である俺に渡すとか、あの老人も焼きが回ったのだろうか。

 

「何にしてもそろそろ踏ん切りをつけないとな」

 

 いくらダキムに仕返しが出来なかったからといって、このままなあなあで終わらせたくもない。早いとこアゲトビレッジに行ってリザードンのダークオーラを消したいが、そうなると俺はここを、シャドーを裏切ることになる。まあ、別にそこはいいのだが、強いポケモンとバトルができなくなるってのはちょっと惜しい。

 それにカオリちゃん……………はさすがにお門違いか。俺なんかがそんな、ねぇ。やっ、でも、あいつ絶対俺のこと好きだと思うわけよ。目が合えば手を振ってくるわ、俺が一人でいれば話しかけてくるわ、なんだかんだ世話を焼いてくれるわ………。うん、絶対、間違いない。

 でもなー………、こここ告白とか、そんなコミュ障の俺ができるわけもないし………。

 

『緊急事態! 緊急事態! 研究所内に侵入者確認! 至急、対応に当たられよ!』

 

 はっ? えっ? なに?

 いきなり何なの?

 侵入者?

 俺が邪なこと考えてたから? 通報されたとか? そんなんじゃなく?

 マジもんの侵入者なのん?

 

『繰り返す! 研究所内に侵入者確認! 各自、侵入者の拘束に当たられよ!』

 

 あ、なんか命令が若干変わった。

 見つけるなりなんなりから、拘束しろって具体的な命令に変えやがった。誰だよ、この声。

 まあ、でもこれマジっぽい。

 

「バカな奴もいたもんだ」

 

 だからと言って俺は動く気ないですけどね。

 だって、関わると絶対面倒そうじゃん。

 やだよ、もう。これ以上面倒ごとを増やしたくない。

 

『どこへ行った!』

『そっちを探せ! こっちは俺が行く!』

 

 おーおー、外はすでに捜索ムードですか。

 慌ただしいことで。

 いいよなー、ここ。

 ほとんど俺の貸切状態だし。

 広い空間に俺一人……………なんかいるな………。

 

「……………」

 

 あ、気付いてないっぽい。

 まあ、フィールドのある部屋の方だし、こんな小部屋には気づいていないか。

 ただ、なんというか…………絶対あいつ素人だわ。

 なんだよ、あの格好。形から入りすぎて余計に怪しさが増してるぞ。侵入するなら職員に紛れるように同じ服装とかさ、普通そっちを選ぶだろうに。

 バカなの、あいつ………。

 

「………あ、なんかこの部屋気づかれたっぽい」

 

 なんとなく関わりたくないので、扉の窓から見えないように身を隠す。

 段々と近寄ってくる足音と、外の騒々しい音だけがフィールドを駆け巡っていく。

 

「ここ、は………?」

 

 うわ、入ってきちゃったよ………。

 

『後はここか!』

『おい、そこはダークポケモンたちがいる危険区だぞ!』

『四の五の行ってられるか!』

 

 げっ、あっちはあっちで俺のテリトリーに入ってきやがった。

 あーもー、面倒くさいなっ!

 

「くそっ」

「きゃっ」

 

 ガチャっと扉を開いた瞬間を狙って、ドアノブに引っ掛けた右腕を掴み、引き寄せた。そのまましゃがみ込み、口を探すのが面倒なので、顔を胸に押し付けて声を出せないようにする。

 左手を伸ばしてそっと扉を閉め、追っかけの方に耳をすませた。

 

『いない、ようだな………』

『おい、早くいこうぜ。ここは何が起きるか分からない』

『そう、だな………』

 

 タタタッと足音が離れて行ったのを確認し、拘束を緩めた。今気づいたけど、ニューラが警戒心全開で爪を研いでるんだけど。

 えっ、ちょ、マジで怖いんですけど。

 やっぱり、助けなきゃよかった。

 

「…………ッ!?」

 

 侵入者は拘束が緩んだのが分かるとすぐに俺から距離を取り、顔を上げてきた。流れで被っていたフードが落ちていく。

 

「えっ………うそ…………」

 

 まじまじと俺の顔を見てきたかと思うと、有り得ないものを見たかのような表情に変わっていく。

 えっ、俺の顔ってそんな珍種なのん? ちょっとどころかかなり傷つくんですけど。侵入者にまで貶される俺の顔、というか恐らく目って一体………。

 

「ヒキガヤ………くん……………」

 

 はっ?

 何故俺の名前を知っている………?

 俺の知り合いか?

 いや、俺の知り合いに女の子なんてカオリちゃんくらい………えっ? 女の子?

 ………女の子だわ………。どっからどう見ても黒長髪の女の子だわ………。

 うん、知らん。誰だよ。

 

「素人がこんなところに潜入ってバカだろ………」

「なっ、そ、そんなのあなたに関係ーーー」

「関係あるだろ。現にこうして助けてやったんだ。あのままお前を突き出してもよかったんだぞ?」

「うっ………」

「で、何が目的だ? 金か? 研究資料か? それとも、ポケモンか?」

「…………研究資料、になるのかしら………」

「ということはダークポケモンについてか。全く、どこからそんな情報を嗅ぎつけてきたんだが」

「そ、それよりあなたこそどうしてこんなところに……………」

「どうして? どうしてだっけ………、あー、誘拐されてきたんだったな。ま、俺のことはどうでもいいだろ。悪いことは言わん。さっさと帰れ。ここは素人がミッション成功させられるような場所じゃない」

「わ、分かってるわよ、それくらいっ。私もそう簡単に情報を見つけ出せるとは思ってないわ。それともあなたを倒せば情報が手に入るのかしら?」

「………出るわけないだろ。だからニューラもペルシアンも引っ込めろ」

 

 ニューラは黒い手刀を出してくるし、ペルシアンは爪を伸ばしている。斬られたくもないし、切り裂かれたくもないんだけど。

 ここにオーダイルがいなくて助かったわ…………オーダイル?

 どうして俺はこの少女とオーダイルを結びつけているのだ?

 何か関係があるとでもいうのか?

 

「そもそも俺もここに来て独学で学んでいっただけの知識しかない。もっと詳しいことが知りたいのなら他をあたることだな」

「そう、倒さなきゃいけない相手にならないだけ良かったってことにしておくわ」

「なら、早くペルシアンたちをボールに戻せよ」

「…………襲ってこないかしら……」

「素人すぎるだろ………」

 

 大丈夫なのか?

 こんなのを送り込んだ奴。

 絶対こいつ捕まるぞ。

 

「………ダークポケモンによる世界の支配………。何としてでも阻止しないと………。それじゃ」

 

 ペルシアンだけボールに戻すとニューラとともに部屋から出て行ってしまった。

 ………ダークポケモンによる世界の支配、か。薄々そんな気はしていたが、まさかそんなスケールのでかい話が目的だったとはな………。

 俺が育ててきたポケモンたちはみんな兵隊扱いになるのだろうか………。

 一応、あいつらもダークオーラに飲まれているとはいえ、心は確かに存在している。一生き物としての自覚はあった。それを兵隊扱いされるというのは………いささか腑に落ちない。

 

「くそったれ」

 

 彼女の目的が何なのかは分からない。

 明確なのはダークポケモンによる世界の支配の阻止というおおまかなことだけ。となると彼女がこうして潜り込んできたのもダークポケモンについて知るためってことか? 実際あいつも研究資料を求めてるみたいだったし。

 研究資料………ね。

 恐らくあそこに行けば何か掴めるかもしれない。俺もずっと気にはなっていた場所。同じ地下3階にあるダークポケモン研究所所長ボルグの部屋。そこ周辺なら何かあるはずだ。

 めぼしいところを割り出すとすぐに俺はヘルガーのボールを掴んで部屋を出た。

 

 

 べ、別にあの侵入者が気になるとか、そんなんじゃないからな!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 何故か俺まで侵入者らしい不審な動きになっているが………。

 誰にも見られないように壁を伝ってボルグの部屋へと向かっている。

 あちらこちらで未だ捜索が行われているようで慌ただしい空気が立ち込んでいる。そのせいで、余計に緊張してきた。

 なんで俺までこんな潜入捜査の気分を味わわないといけないのだろうか。

 まあ、だからと言ってみすみす放っておけるような案件でもない。知ってどうするわけでもないが、なんかこの際全てを知っておきたい気分になった。

 今まではダークポケモンという強いポケモンたちとバトルできればそれでいいという、半ば諦めとも取れる感情を抱いていたが、バトル山に行ってリザードンがされていた仕打ちを知ってしまったあたりから、俺の中では何かが蠢き出した。

 黒い感情であるのは間違いない。自分がこれからどうしようとしてるのか、どうしたいのか、よく分かってないが、それでも何となく今動きたくなったのだからしょうがない。

 

「ある意味、俺もダークオーラに呑まれてたってところかね………」

 

 バトル山で老人とバトルして、現実を知って、多分後悔をしているのだろう。やっと目が覚めた感じでもある。

 ただ、この一ヶ月何もできなかったのはこのシャドーに対しても幾ばくかの思い入れができてしまったからか。深くいえば心残りはカオリちゃんなんだが。

 あの好き好きオーラを失うのが勿体ない気がするのだ。やっぱりこういうのって男から、って思うわけよ。

 …………だから俺が告白とか………、うん、考えただけでなんか気持ち悪い。

 って、なんか話が逸れたがそうじゃなくて。

 詰まるところ、リザードンのダークオーラをどうにかしたいってわけだ。うん、そうだ。そういうことにしておこう。

 んで、今まで怖気づいていたのをこれ機に突撃してみようって考えになったんだ。

 うん、そうだ。

 

「と………」

 

 あっぶね。

 他の団員に見つかるところだった。

 つかさ、今思ったんだが、俺と接点のある奴ってカオリちゃんを除けば幹部三人だけじゃん?

 一応、あいつらと同じシャドーの制服を着てるけどよ、こんな怪しい動きをしてる団員がいたら、ただの変装と思われてもおかしくないんじゃないだろうか。しかも目が合えば絶対勘違いされる。

 うわ、何これ、俺って何着ててもダメじゃん。

 

「あっ………」

「……………」

 

 ふと後ろに気配を感じたので振り返ってみると。

 フードを被った見たことのある服装の奴がいた。しかもこちらを見ている。何ならこれ俺の後をついてきている気がする。

 

「……………なんだよ、俺も素人だよ」

「そのようね」

 

 くそっ、まさか侵入者につけ回されていたとは…………。

 どこに行ったのかと思えばまさかの俺の後をついてきてたとか…………。

 えっ? なに? これって俺が踊らされていたってことなのん?

 

「泣いていい?」

「気持ち悪いから却下よ」

「はい、すんません」

 

 恥ずかしいやら悲しいやら、いろんな負の感情に苛まれ泣きたくなってきたが、即答で却下された。

 余計泣きたい気分。

 

『おい、そっちはどうだ!』

『ダメだ! くそっ、どこに隠れやがった!』

 

 げっ、行く手を阻まれた。

 もう、行く手が二つしかないじゃん。

 

「あー、もう。来い」

 

 少女の手を掴むと通路の奥へと突き進む。

 確かこっちの奥だったはず………。

 ばったり会うとかやめてくれよ?

 ボルグさん、いませんように。

 

「ね、ねえ」

「今は喋るな」

 

 声を出せば気づかれるかもしれない。そうでなくても足音が出てるんだから、気づかれる確率が高い。

 

「げっ」

 

 奥の部屋のランプが消えやがった。

 というかついてたのかよ。

 てことはいるじゃん。つか出てくるじゃん。

 

「お、おおっおおおっ!?」

 

 とか焦っていたら急に後ろ手に引く重みがなくなった。

 俺の体は前のめりになり、倒れ込もうとする。

 プシューと自動ドアが開き、中からボルグが出てきた。

 

「何してんだ?」

「えっ、あ、や、その、いきなり出てくる合図が出るから! き、緊急事態だっていうし、何があったのかと聞きに来たんだが」

 

 ボルグに変なものを見るような目で見下ろされながら、何とか持ち堪える。

 

「はあ………はあ………、取り敢えずメタグロスの調整は終わったからその報告も兼ねてきたんだが…………」

 

 平静を保ちつつ、あの少女がどこへ行ったのか目配せて探す。が、いない。

 

「そうか、だったらお前も手伝え。どうやら賊が入ったようだ。何か盗まれても敵わん。嫌とは言わせんぞ」

「へいへい………」

 

 それだけ言ってコツコツと歩いて行ってしまった。

 あいつは探さないのか?

 いや、実はあれで探しているとか?

 うーん、幹部様は偉いから働かないのかもしれないな。ほら、ダキムとか絶対こういうのしたがらないし。

 

「………行った、ようね………」

「お前………」

 

 壁の中からひょいと顔を覗かせる少女。

 一体、どういうカラクリ壁の中にいるんだ?

 

「ねえ、こっちに来て」

「あ、ああ………」

 

 言われて顔を覗かせている壁まで行くと今度は俺の方が腕を引っ張られ、中に引きずり込まれた。

 

「ここ、は………」

「壁に筋があると思って止まって欲しかったのに、あなたときたら勝手に進んで行ったしまうものだから………。どうやら隠し部屋のようよ。これのおかげで私は見つからなかったわ」

 

 そういうことか。

 話しかけてきたのも、急に手から重みがなくなったのも、探してもどこにもいなかったってのも。

 なんてこった。こんな隠し部屋があったとは。

 ボルグの部屋の横に隠し部屋。ますます怪しいじゃねぇか。

 

「取り敢えず、明りが欲しいな。ヘルガー、おにび」

 

 さすがにリザードンじゃでかいので、ヘルガーを出して鬼火で明りを灯させる。

 すると棚にはびっしりと資料が並べられていた。

 二人して顔を見合わせると、両端から順に項目を確認していく。

 ほとんどはダークポケモンについて。

 

「………まさか、こんな隠し部屋に資料が隠されているなんて」

「だな………」

「あなたも知らなかったのね」

「この辺は来たくないから。極力こないようにしてたんだよ」

 

 まあ、それが仇だったのかもしれないが。もっと普段からボルグの部屋に来ていれば、この隠し部屋のことにも気がつけたかもしれない。

 

「これ………」

 

 一冊のファイルに手をかける。

 項目はエンテイ。

 確か、俺がここに連れてこられた時にはすでにダキムの野郎が連れていた。

 …………やはり、ダーク堕ちしてたか。

 というか、シャドーの目的の一つがエンテイ・スイクン・ライコウのダーク化のようだ。そして、そのダーク化した伝説のポケモンの適応者がダキムとヴィーナス。

 ん?

 なぜここにボルグの名前はないのだ?

 二人の名前があってあいつの名前がないのはちょっとおかしくないか?

 

「…………スイクンはあるがライコウはない………?」

 

 エンテイのファイルがあった隣にはスイクンのファイルがあった。だが、その周辺にライコウのファイルだけない。上も下も確認していくがライコウだけがない。

 

「ライコウはまだ、ってことなのかもしれないわね」

「………なるほど。ということはまだ計画の途中であって最悪の事態になっているわけではない?」

「………最悪の事態なんてダーク化してる時点で最悪の事態だわ」

「まあ、そうだが」

 

 …………でも、伝説のポケモンはあくまでも幹部達に行き渡っている。そして俺はさっきまでナンバー2のポケモンとなるメタグロスの相手をしていた。つまり、幹部達よりも上であるはずのナンバー2には伝説のポケモンが行き渡らない? ってことなのか?

 

「わけがわかんねぇ」

 

 一体全体、シャドーは何をしたいんだ?

 世界の支配とか、普通ボスとか上に行くほど伝説のポケモンを使うのではないのか?

 それとも他の伝説のポケモンに目をつけているとか?

 確かにその可能性は拭い去れないが、そうなるとエンテイたちの繋がりで言えばホウオウとか、そこら辺になるぞ?

 さすがに無理だろ。

 ホウオウだぞ?

 

「…………ッ」

 

 セレ、ビィ………?

 おい、待て。

 まさかセレビィをダーク化させようってのか?!

 えっ? 『ダークオーラの除去を確認。仮にリライブと呼ぶことにする。どうやらセレビィにはダークオーラを取り除く力があるようだ。すぐにダークポケモンの天敵となり得るセレビィを排除されたし』

 ………………。

 待てよ?

 俺、これ知ってるぞ?

 え、ちょ、これって本当だった、のか?

 いまいち信憑性に欠けていたから考えあぐねていたが…………。

 年寄りの話はちゃんと受け入れるべきだな。恐れ入りました。

 

「ふっ」

「どうかしたのかしら?」

「いや、何でもない。ただ思い出して見れば見るほど俺は知らず知らずのうちに毒されていたようだ」

 

 そもそもダキムがエンテイを連れていることを忘れていたし、そのせいで他の幹部達が他の二匹を連れている可能性も見えていなかった。そして気づけば次から次へと現実が見えてくる。

 俺がバトル山に行くと言い出した時に、ヴィーナスはあえてスイクンを使わなかった。ここにファイルがあるということはすでに捕獲されてダーク堕ちしているだろうし、そうなると見えてくるのは俺とバトルした時は本気ではなかったということだ。タイプの相性から見てもスイクンを出せば俺は負けていただろう。

 俺はヴィーナスにも踊らされていたというのか。ボルグといいヴィーナスといい俺で遊びやがって。

 結局、俺は幹部三人からいいようにこき使われていたにすぎない。

 

「ーーーおい」

「何かしら?」

「お前、もう帰れ」

「へっ?」

「安全に外まで連れてってやるからもう帰れ」

「ちょ、何を急に」

「いいから来い」

 

 いきなりトーンを下げて低い声でこんなことを言われれば誰だって驚くよな。

 でも、もう時間だ。

 こんなところに俺と同年代の奴がいるのはよろしくない。カオリちゃんとか元からいる奴はともかくこいつは外部の人間だ。

 何もされていないうちにここから出るのが先決だろう。

 俺はヘルガーをボールに戻すと隠し扉に手をかけた。

 

「………誰も、いないな」

 

 再び通路に出ると追っかけはいなくなっていた。足音一つしない。

 俺はそれを確認すると彼女の手を強引に掴み、ぐいぐいと引っ張っていく。

 なんか「ちょ、っと、ねえ」とか、俺を止めようとしてくるが、それを聞き入れず、今度は離れないようにしっかり掴み直して無言突き進んだ。

 エレベーターを使うと出くわす確率が高いので面倒だが階段で昇っていき、地下1階にに着くとバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。どうやら段々上昇していったらしい。

 

「隠れろ」

「ふがっ」

 

 階段の物陰に引き寄せ、騒がれないように口を塞いだ。

 

『くそっ、本当にどこへ隠れやがった!』

『もう、いなくなってたりとか………』

『ああもう、くそっ! これじゃボルグ様にどんな仕打ちをされるか!』

 

 …………なんだ、あいつらそんなにあの人が恐ろしいのか。

 というかボルグ様って………。

 心酔しすぎだろ。

 

「んぐ」

「あ、わり………」

 

 どうやら鼻まで押さえちゃってたようだ。

 なんかマジでごめんなさい。

 

「…………なんか抱きしめられてるみたいね」

「言うな」

 

 なんでそういうことを言っちゃえるわけ?

 こっ恥ずかしいからやめろよ。

 

「それで? 隠れてるついでに聞くけど、どうしていきなり私を追い出そうとするのかしら?」

「…………」

 

 口元を塞いでいた手を腹回りに持って行ってたら、急に手を添えられた。

 

 

「まさか、これ以上の犠牲者を出したくないとか、そういうことなのかしら?」

「っ!?」

 

 バレてる………。

 

「…………素人が長居するところじゃないだろ」

「あなたも素人なのでしょう?」

 

 ああ言えばこう言う女だな。

 

「だが、俺はここの人間だ。怪しまれることはない。少なくともお前よりは安全だ」

「そんなの………だったら、あなたも一緒に」

「ダメだ」

「なんでーーー」

 

 即答で拒否するとギュッと添えた手に力を超えてくる。

 これって言わないといけないパターン?

 マジで?

 新手のイジメなのん?

 

「………あ、う、あ………その、すす好きな奴がいるからだ」

「へっ?」

 

 すっとぼけた声が漏れ出る。

 そんな予想だにしてなかったことなのか?

 まあ、俺のこと知ってるみたいだし、そんな奴が聞いたら驚くか。

 

「こ、ここに来てずっと世話になってた奴だ。だから俺はいけない」

「そんな………」

「ほら、いくぞ」

 

 もう顔が赤くなるのが自分でも分かるため、早々に話を切り、地上へと向かった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 無事、地上に出たのはいいけど。

 そういえば俺はここから出たことがないから、この先どうすればいいのか全く分かんねぇや。

 にしても久しぶりに外に出たが周りに何もねぇな。

 そんなところに来れたんだし、何か脚でもあるんだろうな。

 

「ほら、帰れ」

「え、あ、う………」

 

 何か言いたそうにしているが、さっきの話ならもう終わりだ。

 今更蒸し返したくもない。恥ずかしいだからな。

 

「ギャロップ…………」

 

 彼女はボールからギャロップを出すと渋々といった感じに跨った。

 ニューラも背中に乗せ、俺のことを見据えてくる。

 

「なんだよ………」

「ヒキガヤくんのバカ………」

 

 最後にそれだけを言い残して、行ってしまった。

 

「お前、正気か…………?」

「ッッ?!」

 

 ボル、グ……………。

 いつからいやがった!?

 

「正気だが、なにか?」

 

 平静を装いつつ、振り返る。

 

「侵入者を捕まえる以前に、逃すとはいい度胸だな」

「はっ、あんたらの命令に従う謂れはないんでね」

「そうか、少しはショックで大人しくしてくれるものだと思っていたのだがな」

「生憎、今の俺はショックよりも怒りの方がでかいんでね」

「ゴルバット」

「やるのか? 俺はバトル山を制覇した実力者だぞ?」

「舐めるなよ、小僧。さいみんじゅつ!」

「ヘルガー、かえんほうしゃ!」

 

 なっ?!

 狙いは俺、かよ…………。

 まあ、そうだよな。

 くそっ、これだから素人は。

 ……………だが、まあ、あいつまで巻き込まれなかっただけでも良しとしとくか。

 あーあ、またここから出られなくなるのか…………。

 だけど、リザードンをもう一度こいつらに、取られたくは、ない、な………………。

 

 

 

 俺の影が揺らぎ、リザードンを奪われる感触を感じながら俺は意識を乗っ取られた。




恐らく次回でシャドー編完結です。


ようやくハチマンの基盤が出来上がるって感じですね。


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4話 結

 またしても。

 リザードンは取り上げられてしまっていた。

 なんでヘルガーだけは置いておくのか分からないが、シャドーへの忠誠の証みたいなものなのだろうか。ダークポケモンを持っている限り、俺は碌でもないトレーナーとしか認識されないからな。

 いやー、それにしてもフられたなー……………フられた、な…………。

 俺、フられたんだよな…………。

 リザードンがいなくなっていて自暴自棄になっているところにカオリちゃんが来て、なんか流れで告っちまったけど…………。

 

『ごめん、誤解させるような態度だったみたいだね。あたしは別にヒキガヤをそういう目で見たことないし、あんたと付き合うとかそういうのは考えたことない』

 

 だとさ…………。

 は、ははっ…………笑える。

 誤解されるような態度………つまりは俺の勘違いだったわけだ。手を振っていたのも、話しかけてくれるのも別に俺が特別だからってわけじゃなかった。

 俺も俺だ。

 今にして思い返せば、分かることだろうに。あいつは元々ああいう奴だったって。いつからか、そんな勘違いを抱いちまったが最後、意識し始め、それを好意と勘違いしてしまった。

 …………始まる前からそもそもが恋じゃなかったんだよ。

 

「…………童貞勘違い野郎がっ」

 

 ベットに転がりながら自分への苛立ちに強く拳を握りしめてしまう。

 痛い。

 爪が肉に刺さって痛い。

 だからこれは悪い夢でもない、まぎれもなく現実だ。

 現実で俺はバカなことをしでかしてしまったのだ。

 

「死にたい………」

「ライ………」

 

 もう、何にもやる気が出ない。明日からどうしようか。

 なんかもう、ここから出ることとかもどうでもよくなってきている。

 

「……………………」

「……………………」

 

 …………。

 

「お前、何でいんの?」

「………」

 

 チラッと視線を動かすと、ベッドの横に黒いポケモンがいた。

 名前は確か………あれ? なんだったっけ?

 まあ、とにかく俺のポケモンではない、ただの野生のポケモンではあるのだが、とある契約を結んだことで力を貸してくれるのだ。

 なのだが、今の今までシャドーに連れてこられてからというものこいつの気配を感じ取れなかった。

 

「目を合わせろよ………。今までどこ行ってたんだか………」

 

 元々野生のポケモンだし、どこか行ったんだとばかり思ってたのだが、何故か俺のところに帰ってきたみたいだ。

 夢を食いにでもほっつき歩いていたのだろうな。

 

「夢、か…………」

 

 まさか俺のこの忘れたい現実を夢にして食ってやろうと思って帰ってきたとかなのかね。そんなことを受信できるポケモンってなんなんだよ。

 色々と怖いわ。

 

「ライ………」

「ッ?! これ………は、ははっ。そういうことかよ」

 

 コトッと差し出してきたのはリザードンのモンスターボール。

 ボルグに奪われたものだとばかり思っていたが、どうやらこの黒いのが先に取ってたらしい。

 よかった…………。

 あ、でもそれじゃなんでもっと早く……………。

 

『コクハク、ココロノコリ』

「うるさいわ!」

 

 チッ、まさかこいつにまで踊らされるとは………。

 確かにもうここにいる理由はなくなった。というかここにいるのが辛いまである。だからと言ってここから脱出する気力もないんだが……………。

 

「………そういや影に潜れたよな………」

 

 旅をしていた時は基本的に俺の影の中に居たはず。

 つまり、こいつは影の中に入るコトができる能力を持っているということなんだから、俺も一緒に影の中に入れるんじゃないだろうか。そして、そのまま外に出てしまえば万事休す。

 

『シカエシ』

 

 ああ、そうだな。

 リザードンをダーク化された仕返しをしてないな。

 でも俺にはいい方法が思いつかない。

 

「せめて、エンテイ辺りを奪えればいいんだけど………」

 

 ダキムが連れているダーク化したエンテイ。俺がここに来る原因にもなった伝説のポケモン。奴辺りを奪えれば、ダキムに、シャドーにとって痛手になるはずだ。仕返しとしては充分。

 それで気持ちが晴れるかといえば、難しいところではあるが。

 幾らかの憂さ晴らしにはなるだろう。

 

「何か…………、あいつからエンテイを奪う何かがあれば…………」

 

 何かあるはずだ。

 人のポケモンを奪うことのできるものが。

 俺はそれを以前、どこかで目にしている。実際には使ったことがない。必要なかったから。役割としても俺は裏方。表に出ることもないから必要がない。確か、そんな感覚を抱いたはずだ。

 何か、何かあったはずだ………。

 思い出せ。

 思い出すんだ。

 こうなってしまった以上、俺はここにいる理由がない。

 だからと言って仕返しをしないで出るのは俺の気持ちが晴れない。

 告白とか、ドン底とか、違う………。そういうのじゃない。そこは今はどうでもいい。

 もっとこう機械的な………。

 オリモト…………、いや、普段のあいつはつけていない。

 ………つけていない?

 ああ、そうだ。身に付けるものだったはずだ。

 こう、ポケモンを捕まえるのだから、当然ボールを投げるから…………腕だ!

 腕、腕、腕……………ッッ!?

 

「あっ、た………」

 

 見つけた。

 だが、どこにある?

 俺は結局持っていない。

 今更オリモトのところにもいけない。

 だからといって他の手がかりもない。

 考えろ、思い出せ。

 

「…………………影………」

 

 今からこいつの影を使ってこの研究所内を探索するか………?

 やったことはない。だが、初めてこいつと出会った時に影の中に連れて行かれたような気もする。

 だからできないことではない、はず。

 

「な、なあ………、スナッチマシンってのを探したいんだが…………。影の中から探せるか?」

「ライ………」

 

 そう言うとブワンと黒い穴を作り出した。

 これに、入ればいいのか………?

 

「いけるのか。だったら頼むぜ」

 

 可能であることが分かれば、ためらう必要もない。

 せいっと黒い穴に身を落とす。

 

「暗………」

 

 当然、中は真っ暗である。

 

「おっ………」

 

 するとポウッとおにびが灯され、揺らめく炎に外の映像が映された。

 何それ、そんなことまでできるのかよ。

 

「まずは一部屋一部屋探していくか」

 

 手っ取り早いのは隣のオリモトの部屋であるが。

 いなかったらないだろうし、いたらいたで大問題だ。それ以前に、今は彼女を目にしたくない。結構フられたショックがでかくて、心が苦しいまである。

 なんだこれ。

 

「………いっそ、ボルグの部屋……いや、あの隠し部屋の方がいいか」

 

 行き先を教えると俺の知ってる道順でボルグの部屋の隣の隠し部屋まで向かってくれた。この間、他の団員や研究員が彷徨いていたが、一切バレることがなかった。

 すごいな、この影。

 

「よっと、…………そうだ、ここも暗いんだった」

 

 忘れていたが、この隠し部屋も電気がない。

 どうやって明かりを用意しているのかは知らないが、明かりがないということは誰もいないという証でもある。

 くまなく探してやろうじゃん。

 

「お、すまんね」

 

 黒いのがまたしてもおにびで明かりを用意してくれる。

 

「そういや、ダークポケモンのファイルがあったな」

 

 思い出しついでに、棚に並べられたダークポケモンのファイルからエンテイとスイクンのを抜き取った。

 

「……………特に昨日と違いはない、か……」

 

 まあ、この一日で書き換えられるデータが出てくるとも思えないしな。

 

「あ、ライコウ…………やっぱりライコウだけは行方知らずなのか」

 

 伝説の三体の内ファイルのなかったライコウについても少しだけ書かれていた。二つのファイルで違いはないが、やはりライコウはまだ見つかっていないらしい。

 となると、恐るべき相手はダキムとヴィーナスか。ボルグは手の内が分かった。人となりも相成って危険ではあるが、単純な力では二人の方だな。

 でも俺はそのうちの一人からポケモンを奪おうとしてるんだから、バカだとしか思えない。

 

「ははっ、バカ、か…………」

 

 去り際に言われたセリフ。

 まさに今の俺はあの少女の言葉通りの大バカ野郎である。

 

「…………俺を知ってる奴が今の俺を見たらどういうかね」

 

 特にコマチとか。

 ああ、そういやコマチとずっと会ってないんだよな………。

 コマチ………。

 ごめんな、こんなお兄ちゃんで。遅くなっちまったが、今から帰るからな。

 

「ライ………」

「なんだ……ッ?!」

 

 これ………。

 無性にコマチに会いたくなっていると肩を叩かれた。

 振り返るとぐいっとグレーの機械を差し出してくる。

 これだ。俺が探し求めていたのは。後はボールの方だが、すでに一つだけ機械の腕に付けられていた。試作品、だろうか。

 まあ、何だっていいさ。使えるのならそれでいい。

 俺は黒いのからスナッチマシンを受け取ると服を脱いで左腕に装着していく。

 左利きではないからボールを上手く投げられるか心配だが、そこは機械が補正してくれることを祈ろう。

 装着した感触をグーパーを繰り返して確認し、問題なさそうなのでスイッチも入れてみた。ちゃんと起動したし、こちらも問題なさそうだ。

 

「さて、一発暴れるとしますか」

 

 もう、これで準備はできた。

 決意も固まった。

 心残りは無くなった。

 俺は、家に帰る!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 まずはダキムを探さないとな。

 この研究所にいるのか、それともアンダーの方にいるのか。あるいはそのとちらでもない場所に行っているのか。

 普通に歩いている方が声もかけられやすい………、この際だ。取られたままのリュックとかも全部返してもらおう。

 となるとダキムの部屋に行った方がいいな。

 今度は影に潜らず、ダキムの部屋に行くことにした。堂々と。

 

「暇だなー」

「平和な証拠さ」

 

 なんて会話が聞こえてきた。

 堂々と歩いていれば普通にすれ違っても怪しまれない。

 というか気にも止められなかった。

 シャドーの制服さえ着ていれば、他人はどうでもいいのだろう。

 実質俺がそうだったからな。

 

「と、ここか………」

 

 ボルグと同じく、ダキムの部屋も必要以外では来たことがない。

 何が楽しくてこんな幹部さまの部屋に来なきゃならんのだよ、といつも来るたびに嘆いていたのも懐かしいくらいだ。

 

「すー…………はー………。なあ、黒いの。バトルになったらハッタリを効かせるためにも俺自身が戦う。手助け頼むわ。代価はいつもので」

 

 そう呟くと、すっと俺の体が黒いオーラに包まれた。

 お願いだからいてくれよ。

 二度手間とか面倒でしかないからな。

 しなくてもいいことをやろうとしてるんだし、一度で終わらせてしまいたい。

 深く深呼吸して態とらしく扉をノックする。

 

『おう、入れ!』

 

 いた。

 これで終わりにすることができる。

 怖いけど、これもけじめをつけるためだ。

 

「よお」

 

 自動で開いたので中に入った。

 中にはソファーで机に脚を組んで寛いでいる筋肉バカがいた。

 

「お前か」

「なあ、突然だが俺のリュック返してくれねぇか?」

「はっ?! リュック?! あー、んなのもあったな」

「どこだ」

「返すとでも思ってんのか?!」

「返す気がないなら奪い返すまでだ」

「ほう、このオレさまとやろうってのか?! ああっ!」

 

 ちょっと挑発ですぐに乗ってくる単純バカ。

 ただまあ、凶相が怖いので大声を出されるだけで、内心震え上がってるのが現状である。俺も昔と何も変わっちゃいないんだな。

 

「ああ、そこか」

 

 ごちゃっとした一角に見覚えのあるリュックを見つけた。懐かしい、俺のだ。

 

「バクーダ、かえんほうしゃ!」

 

 はっ、自分の部屋で暴れ出すとは。さすが脳筋野郎。

 

「ふんっ」

 

 だが、俺にほのおタイプをぶつけるとかバカだろ。

 俺が長年使ってきたのはリザードンだぞ?

 しかもここに来てからもヘルガーを使っていたんだ。専門タイプを言えば、俺はほのおタイプなんだよ。

 右腕で炎を横に切るような動きをすると、黒いオーラがそれを切った。

 

「なっ?! ………今のは、まさか…………」

「ダークオーラ、ってか。なわけねぇだろ!」

「チッ!」

 

 今度は上から叩きつけるように腕を振るった。

 すると黒いオーラが刃となり、ダキムに襲いかかる。

 これはおそらくあくのはどうだな。波導の形を変えて、攻撃してるようだ。

 

「変な力を手にしやがって! 出てこい、エンテイ!」

 

 きた。

 ようやくきたぜ。

 八ヶ月ぶりじゃねぇか。なあ、エンテイ。

 

「エンテイ、だいもんじ! バクーダ、かえんほうしゃ!」

 

 バカの二つ覚えが。

 さっき、炎が効かなかったのを理解できなかったのかよ。

 

「ふんっ!」

 

 だいもんじには大の字型の黒いオーラをぶつけ、バクーダには右腕を振り下ろしてでいた黒い刃を叩き込んだ。

 衝撃でバクーダは壁にクレーターを作ってめり込んだ。気絶したな。

 

「くっ」

「あんたがバカでよかったよ。バカは扱いが単純で助かる」

 

 大の字の炎を消すと、左手でボールを投げた。

 勢いはなかったものの、しっかりとエンテイの顔に当たり、開閉スイッチが開いて吸い込まれていった。ぶつかった反動で、意外にも俺の手元に戻ってくるというね。

 …………なんかね、俺初めてかもしれない。ボール投げてポケモン捕まえたの。

 リザードンはあんなの試されたみたいなもんだし、最初から俺にゲットされる気満々だったしな。

 ちょっと、感動。

 

「スナッチ、だと………」

「じゃあな。あんたにはもう用はない。二度と顔を見ることもないだろうな」

 

 ドキドキとハラハラと、なんか告白したことなんか頭の中から消え去るくらい、楽しくなってきている俺がいる。

 や、だって、こんな悔しがるダキムの顔なんて初めて見たからな。

 リザードンのことも許す気はないが、ちょっとはスッキリした。

 

「出てこい、エンテイ」

 

 スナッチに成功したボールからエンテイを出す。

 しっかりとダキムを敵だと認識しているようだ。

 それを確認できると俺はリュックを拾い上げてエンテイの背中に乗った。このまま地上まで一気に登るためだ。

 

「くそっ! くそっ!! お前ら、全員で叩き潰せ!!」

 

 手持ちの全てを開け放って、攻撃してきた。

 

「お返しだ。エンテイ、だいもんじ」

 

 ダキムの命令とは大きさも質も異なる大の字型の炎を作り上げ、壁にした。

 その間に部屋を出て地上へと向かう。

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生!』

 

 館内コールに繋げやがったか。

 だが、今の俺は負ける気がしない。

 

「エンテイ、そのまま突っ走れ」

 

 出会い頭に団員たちが驚いて腰を抜かしているが、そんなことに目を向ける気もない。

 エレベーターだといちいち止まるので階段を駆け上がっていく。

 

「お待ちなさいな」

「待てと言われて待つ奴がいるかよ」

 

 地下二階に上がるとヴーナスが待ち構えていた。

 何でこの人はこう俺の行く場所が分かってるんだろうか。対応早くない?

 

「エンテイ………、ダキムから奪ったのね。きぃ、全く使えない筋肉バカね。いいわ、スイクン!」

 

 なんてタイミングのいい。

 リュックも戻ったことだし、中のボールを使ってスイクンも奪ってやる。

 

「ふんっ!」

 

 右手を振るい、黒い刃を飛ばす。

 その間に左手でリュックの中を探り、ボールを掴み上げる。まだあったことにちょっと驚き。あと、ちゃんと笛の方もあったわ。俺これで笛を二つ持つことになるんだけど。

 基本的に使わないのに。

 

「スイクン、ハイドロポンプ!」

 

 まあ、打ち消されるわな。

 

「な、なんなの、今の黒いの!」

「そらよ!」

 

 黒い衝撃波に驚いている間に、スイクンにもボールを投げつけた。

 開閉スイッチが開き、スイクンを吸い込んでいく。またしてもボールは手元に帰ってきた。もしかして、勝手に帰ってくる仕様なの? 捕まえたことないからさっぱりなんですが。

 

「へっ?! ちょ、あなた!?」

「あんたらがやってることをやったまでだ。こいつらを返してもらうぜ」

 

 フワンフワンボールが揺れているが、気にせず突き進む。

 突風で髪がなびいて崩れたことにきぃきぃ怒っているが、知るか。

 うるさいんだよ、おばさん。

 

「エンテイ、だいもんじ」

 

 他の団員たちも邪魔なので道を阻もうとする者は焼き払っていく。

 そうして、無事に地上までたどり着いた。

 結局ボルグはいなかったな。

 階段を上ってくる音が聞こえてくるので、研究所から離れることにする。

 どこに向かうでもなく、というかどの方向に何があるのかもよく分からないので、取り敢えずまっすぐ進んでいるとバラバラとヘリコプターと音が聞こえてきた。

 

「うわっ………」

 

 なんか色んな意味でうわってなった。

 見上げると『R』の入ったヘリコプターが。そのせいで砂が巻き上がり目に入ってしまったのだ。

 えっ? なに? マジで?

 

「ハチマーーーーーーーーーーーーーン!」

 

 あれ?

 この声、違うぞ?

 あ、いやでも知ってる声ではあるが。

 歳の割には野太い声。

 俺の記憶にある時点ですでに野太い声だった奴。

 太ったメガネの変なコートを羽織った…………。

 

「ザイ、モク……ザ…………?」

 

 そう、ヘリから飛び出してきたのはザイモクザヨシテル。スクールの同級生だった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「お前………」

 

 いきなりスカイダイビングしたかと思うと、ボールからレアコイルを出して、着地した。

 

「ハチマン!」

「いや、なにやってんの?」

「それはこっちのセリフである! ニュースでバトル山とやらを攻略した者が久しぶりに現れたとかってやってると思ってたらお主が映っているではないか!」

 

 久しぶりだが、やはりウザい。

 

「うん、まあ、それ俺だし」

「なんですと?! いや、やはりといった方がいいのか。まあよい。無事なのだな」

 

 懐かしい、このウザい感。

 

「まあ、こうして脱走してるくらいだし?」

「脱走?! ………そうか、よかった。間に合ったのだな」

「で、お前は何してんの? 俺の記憶が正しければ、あのヘリ、ロケット団のだよな?」

 

 ヘリというかサカキのバトルフィールドも兼ね備えた戦闘飛空挺。

 ヘリコプターと揶揄するのはバレたら怒られそうだしこれくらいにしておこう。

 

「うむ! なんか捕まった!」

「バカなの? というかおい! サカキ!」

「いいから、さっさと乗れ!」

 

 いつの間にか飛空挺の中から身を乗り出して俺たちを見下げているサカキの姿があった。

 なんでロケット団のボスがこんなところにいるんだよ。

 

「はあ…………意味分かんね」

 

 仕方がないので、エンテイに宙を走らせ、ザイモクザ共々飛空挺まで駆け上がった。

 

「マジでどうなってんの?」

 

 飛空挺に乗り込むとエンテイをボールに戻して、サカキに尋ねた。

 

「………オレはロケット団のボス、サカキだぞ? 我々より力を持つ組織を目の敵にしていても普通だろ」

「なるほど。ダークポケモンを知ってしまったってわけか」

「お主、此奴と面識があるのか?」

 

 普通にサカキと会話をしていたら、ザイモクザが驚いた顔で聞いてくる。

 

「ま、浅くはない間柄だな」

「そうだな。こいつを鍛えてやったこともあるくらいだ」

 

 うん、まあ、そうですね。

 おかげで一段とリザードンは強くなりましたとも。

 

「それで、ハチマン。お前はシャドーにいたようだが、ダークポケモンについては?」

「簡単に話すとでも?」

「ふっ、まあいい。これからまだやることがあるのだろう?」

「お気遣いどーも。アゲトビレジってところに向かってくれ」

 

 そう言うとサカキは目的地をセットした。

 

「何をする気だ?」

「俺も何が起こるのは知らん。終わってからしか説明すらできない」

「……………」

「で、こいつを捕まえた理由は?」

「外でパソコンをいじりながらお前の名を叫んでいたからな。お前の名前は変わった名だ。他がいるとは思えん」

「まあ、ハチマンなんて名前の奴、そうそういないわな」

「……………わ、我としたことが………」

 

 別に何か脅されたとかじゃないらしい。

 情報の共有でも図ろうとしたのだろう。それほどまでには俺を探していたということか。目的は違うだろうが。

 

「それで、まだ言ってるのか? 俺をロケット団に引き込もうなんて」

「当然。お前のその高い実力を買っているんだ」

「………ったく、どうしてこうも俺は悪事を働く組織に狙われねぇといけないんだ」

「強い者が故の結末だ」

「嬉しくねぇよ。平和に過ごさせろよ」

「………着いたようだ」

「早ぇな」

「我がロケット団の研究力を持ってすれば容易いことだ」

 

 なんかあっという間に着いたようだが、……………ここ、空の上なんだよな?

 どうやって降りるのん?

 

「昇れたんだから降りられるだろ」

「マジか………。やっぱ常識の通用する奴じゃねぇ」

 

 なんでさも当然のように言うかね。

 そして、なんでお前はそんな準備がいいんだよ、ザイモクザ。

 

「はあ…………、なんかすまん。またよろしく。見返りは着いたらな」

 

 ボールからエンテイを出して、先に労っておく。

 途中で暴走されても困るからな。

 怒り狂うとかやめてね?

 

「んじゃ、いくぞザイモクザ」

「あいあいさー」

 

 …………というかね?

 どうしてザイモクザは平然とサカキについてきてたりしてたんだろうか?

 普通身の危険を感じるくね?

 バカなの?

 

「…………これからお主は何をするのだ?」

 

 スカイダイビングさながら地上に向けて降りているとザイモクザが訪ねてきた。

 

「ダーク化を解く」

「なぬ? 解けるのか?」

「知らん。ただバトル山の頂上でアゲトビレッジの祠に行けと言われた。そこはセレビィを祀るところであり、何か手がかりがあるのかもしれん」

「エンテイもダーク化しているのか?」

「ああ、だが俺の第一の目的はリザードンだ。あいつもやられた」

「………そうか。お主も大変だったのだな」

「ある意味、洗脳に近いものだったな。今にして思えば、色んな偶然が重なってではあるが、俺も一種のダーク化していた」

「………なんかかっこいい」

「おまっ! そこは思っても口にするなよ! そんないいもんでもないからな!」

 

 ほんとね。黒歴史しか作ってないからね。

 最初から最後まで。本当に。

 

「あそこだな」

 

 滝やら巨木やらが立ち並ぶ町の一角の、木の根元のようなところに洞穴があるのが見えた。

 エンテイにそのまま走らせ、洞穴の中に潜り込む。ザイモクザもレアコイルに乗ってついてきた。

 真っ暗というわけではなく先には灯りがあった。すぐに緑に覆われた石台のあるところへと出る。

 

「ここが…………」

「そうらしいな」

 

 確かに力を感じる場所ではある。

 だが、何もこんなところに来なければできないものなのだろうか。

 

「お前はここで待っててくれ」

「うむ」

 

 ザイモクザを洞穴の出口において、一人石台へと向かう。

 リザードンとヘルガー、それにスイクンもボールから出し、エンテイから降りた。

 リュックからはバトル山の頂上でもらった笛を取り出し、何度も指を当てて練習したメロディを奏でていく。

 すると石が光りだし、一瞬白い光に包まれたかと思うと、頭上にはセレビィがいた。

 初めて本物を目にする。当たり前か。相手は幻と言われる存在だ。

 

「セレ、ビィ…………頼む。こいつらのダークを何とかしてくれ」

「ビィ」

 

 リザードンもヘルガーも、エンテイもスイクンもまじまじとセレビィの行動を見つめている。

 

「ひでぶ!」

 

 ッッ?!

 ザイモクザ?

 

「ッッ?! サカキ………」

 

 変な声がしたので振り返ると。

 サカキと、倒れ伏すザイモクザの姿があった。その奥にはリングマの鋭い爪を首にあてがわれた少女の姿もある。

 あいつ………。

 

「豪華なメンバーだな」

「おい、何している」

「ふん、これほどいい交渉材料はないだろう?」

 

 やはりサカキはサカキだったか。

 奴の言う通り俺を助けたのはロケット団に引き込むため。だが、それだけでは足りないと分かっているサカキはまさかの人質を取ってきたか。しかもなんでいるんだよ、お前が。

 

「ヒキガヤ、くん…………」

 

 名前は知らない。

 だが、俺は彼女のことを知っている。

 ド素人の侵入者の少女。

 帰ったんじゃなかったのかよ。

 

「こいつのことを知らないわけでもあるまい。ずっとつけられていたんだからな」

「……………チッ、何が目的だ」

 

 聞いたところで分かってはいる。

 

「ハチマン。俺の部下になれ」

「嫌だと言ったら?」

「この少女をお前の目の前で殺すまでだ」

「くっ………」

 

 この男ならやり兼ねん。

 

「オー、ダイル!」

「スピアー、ダブルニードル」

 

 少女が決死の覚悟で叫ぶとオーダイルが勝手に出てきたが、いつの間にかボールから出されていたスピアーによって倒されてしまった。

 一撃かよ。つか、オーダイル…………。

 

「何を企んでいる」

「今、ロケット団はオレがいない状態で活動している。幹部だったアポロを筆頭に活動している。だが、その活動はオレの意思に反するものだ」

「はっ? どういうことだ?」

「簡単に言うぞ、ハチマン。ロケット団を潰せ」

 

 おいおい、何を言ってやがる。

 ロケット団のボスがロケット団を潰せだと?

 俺に言うとか、そういうのを抜きにしても、この男は何を言ってるんだ?

 

「だ、ダメよ! ヒキガヤくん! こんな戯言に乗っちゃうぷっ!?」

 

 あーあ、勝手に騒ぐからリングマに口抑えられてんじゃん。

 ほんとド素人すぎるだろ。

 

「………つまり、今あるロケット団はあんたの作るロケット団ではない。だから俺に潰せと? そして潰れたら自分が再度ロケット団を作り上げる。そういうことか?」

「ああ、理解が早いのは変わりないようだ」

「それさえ呑めばそいつを離すんだな?」

「当然だ。こいつに用はない。使えるからこうして使ってるだけだ」

「いつにも増して汚いことをするな」

「シャアッ」

 

 お、リザードンが戻ってきたか。ということはセレビィがやってくれたのか?

 振り返るとエンテイもスイクンからも何も感じなくなっていた。

 成功したみたいだな。

 

「……………いいだろう。ただし、エンテイ、スイクン! お前らはライコウを探せ! シャドーから身を隠すんだ! ヘルガー、お前もエンテイたちについていけ!」

「………何の真似だ?」

 

 オレが命令を出すと三体は祠を駆け上がり、どこかへと行ってしまった。セレビィも役割を終えると時空の狭間へと姿を消した。

 

「やるのは俺とリザードンだけだ」

「ふっ、まあいい。交渉成立だ。ジョウトに帰ったら、早速動いてもらうぞ」

 

 リングマに合図を送ると少女を俺の方へと突き飛ばしてくる。

 

「ヒキガヤくん!」

「いいだろう」

 

 バランスを崩しながらやってくる少女を受け止めながら、俺も了承した。

 

「………なんで、なんで………」

「いや、何では俺の方だからな? 何でまだいるわけ?」

「だって、あなたを置いてなんて…………助けられたお礼も言えてないし……………」

「はあ…………、ったくド素人が」

 

 声が震えているため、そっと頭を撫でてくるとそれ以上は何も言ってこなくなった。

 あれ? なんかいつの間にかお兄ちゃんスキル働いてね?

 まさかこいつ、妹属性でも備わっているのか?

 まさか、な…………。

 

「結局、俺は裏社会から抜け出せないのか………」

 

 伸びているザイモクザをリザードンに回収させ、俺はサカキの後を追った。

 

 

 

 そして、この交渉こそが俺の通り名である忠犬ハチ公を定着させる原因でもあった。




取り敢えず、シャドー編は完結です。
次回から本編に戻ります。


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行間

〜手持ちポケモン紹介〜

 

 

ヒキガヤハチマン 持ち物:スナッチマシン 時の笛 etc………

・リザードン(ダーク→リライブ完了) ♂ 

 特性:もうか

 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、カウンター、じしん、フレアドライブ

 ダーク技:ダークラッシュ

 

離脱

・ヘルガー(ダーク→リライブ完了) ♂

 特性:もらいび

 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく

 ダーク技:ダークラッシュ

 

・エンテイ(ダーク→リライブ完了)

 

・スイクン(ダーク→リライブ完了)

 

野生

・ダークライ

 覚えてる技:ダークホール、おにび、ゆめくい、あくのはどう、かげぶんしん

 

育てたポケモン

・エイパム ♀

 覚えてる技:スピードスター、みだれひっかき、ダブルアタック

 ダーク技:ダークラッシュ

 

・ブーバー ♂

 覚えてる技:だいもんじ、クロスチョップ

 ダーク技:ダークラッシュ、ダークレイブ

 

・メタグロス

 覚えてる技:サイコキネシス、メタルクロー、はかいこうせん、コメットパンチ、てっぺき

 ダーク技:ダークラッシュ

 

 

オリモトカオリ/ロッソ

・マグマラシ(ダーク) ♂

 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま

 ダーク技:ダークラッシュ

 

 

ド素人侵入者

・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん

 

・ペルシアン ♂

 覚えてる技:きりさく

 

・ギャロップ ♀

 

・ニューラ ♂

 覚えてる技:つじぎり

 

 

ザイモクザヨシテル

・ポリゴン

 特性:トレース

 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい

 

・レアコイル

 

 

サカキ

・スピアー ♂

 特性:むしのしらせ

 覚えてる技:ダブルニードル

 

・リングマ ♂

 

 

シャドー

ダキム

・エンテイ(ダーク)

 覚えてる技:だいもんじ、ふみつけ

 ダーク技:ダークラッシュ

 

・バクーダ ♂

 覚えてる技:かえんほうしゃ

 

 

ヴィーナス

・スイクン(ダーク)

 覚えてる技:ハイドロポンプ

 

・ハガネール ♂

 

 

ボルグ

・ゴルバット ♂

 覚えてる技:さいみんじゅつ

 

 

バトル山

ムゲンサイ

・サーナイト ♂

 特性:シンクロ

 覚えてる技:サイコキネシス、10まんボルト、めいそう、みちづれ

 

・ヘラクロス ♂

 覚えてる技:じしん、メガホーン、きしかいせい、こらえる

 

・チルタリス ♀

 覚えてる技:じしん、つばめがえし、ドラゴンクロー、りゅうのまい

 

・クロバット ♀

 覚えてる技:エアカッター、めざめるパワー、ヘドロばくだん、あやしいひかり

 

・レアコイル

 特性:がんじょう

 覚えてる技:10まんボルト、でんじは

 

・ボスゴドラ ♂

 特性:いしあたま

 覚えてる技:がんせきふうじ、すてみタックル、アイアンテール



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