モテない軍師の非日常 (虎武士)
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モテない軍師の黒き国の日常
モテない軍師と黒い王族


主人公の紹介

名前 ロウ

暗夜王国の平民出身の青年軍師。
ガロン王が認める程の知略で白夜王国に奮戦、同じ軍師のマクベスには妬まれている。
気配りが良く殆どの兵からは信頼を寄せられている。
しかし女癖が酷く、告白してもフラれる。
内容によっては女性に恨みを買われる。
主な武器は剣と魔導書、ジャックと言う名の馬(雄)がいる。


 ────暗夜王国。

 

 それは数十年以上昔に開国されし夜の国。

 

 陽の光が一筋も照らされず、満月が代わりにその役割を果たしている。

 

 夜空に輝く満月が美しく見えていて、国民にとっては光と同等である。

 

 そして無限峡谷と呼ばれる場所で、一人の軍師を中心に物語が紡がれようとしていた。

 

 暗夜王国と相対となる光で覆われし国────白夜王国との国境線となる地帯であり、二国は嫌悪している。

 

「はい、終了っと」

 

 灰色の髪の男は持っていた剣を鞘に納め、魔道書を閉じる。

 

 周りには自分が率いる暗夜の兵士、眼前には白夜の兵士の死骸の山────そして僅かな残存兵達。

 

「くそ…!」

 

 倒れている残存兵の中に風変わりな男女がいた、男は緑を基調とした忍び装束、女は露出が多い服装に棍棒を持っていた。

 

「…しっかし骨が折れるよな? 白夜の連中を一網打尽にする為とはいえ、こんな危ねえ場所を確保するんじゃなかったぜ」

 

 男は愚痴るように本音を吐いていき、残存兵達の前で中座りになる。

 

 兵士達はもう何度聞かされてきた事か、深く溜息を吐く。

 

「し…しかしロウ殿。これは王命ですし、こんな事が王の耳に入ってしまったら我々に命がないですよ?」

 

「いーんだよ。あの国王(老害)は意味わからんもんを拝めてるし、マクベス(クソ軍師)は嫌味を言うわセコい手を打ってくるわ、幸い国境付近だし愚痴るくらい好きにさせろっつーの」

 

 男────ロウは不満をぶちまけていき、平然と自分が仕える国王を否定するような発言に兵士達は冷や汗を流す。

 

「さて────」

 

 中座りを解き、ロウは棍棒を持っていた白髪の女性を見下ろした。

 

「お前等を捕虜として暗夜王国へと連行する、下手な真似は止してくれよ?」

 

「巫山戯るな…! 誰が好き好んで暗夜の…敵国の手に」

 

「聞こえなかったか? 下手な真似をするなって、仲間がまた死ぬぞ」

 

 拳を握り女は地面を殴りつける、男はリンカさん…と物悲しそうに小さく呟く。

 

「それにしてもお嬢さん、良い体つきだね」

 

 女────リンカの鍛えた体を見ているロウだが、当の本人にとっては良い気分ではない。

 

「物は相談なんだが────俺と付き合ってくんね?」

 

「……は?」

 

 周りの空気が凍りつき、リンカは思わぬ質問に対して呆けた声を濁した。

 

 兵士達は目も当てられぬ光景を目の当たりにして、目の前の可哀相な頭の軍師に呆れるのだった。

 

 暗夜の若き軍師…平民の出身の家柄でありながら軍の幹部に就任したのは十五歳の頃、冷静かつ巧妙な奇策で白夜の軍勢に次々と勝利を収め、下町からは英雄(ヒーロー)として讃えられている。

 

 だが…そんな彼にも欠点がある────この女癖の悪さだ。

 

 兵士や魔術士…侍女に飽き足らず、下町の者にも軟派している。

 

 子供ならまだしも年頃の女子に既婚者…挙げ句の果てには王族まで、あまりにも守備範囲を広げているのだ。

 

 何故、誰も止めないのか? 

 

 それは簡単な事である。

 

「取り敢えず、お友達から始めて────」

 

「悪いが…そんな事に付き合う気はない」

 

「え゛」

 

「────少なくとも、私はお前みたいな尻軽男に心を預けるなど…断じてあり得ない」

 

「し…尻軽…」

 

 彼が────百戦練磨のごとく、生まれてこの方十年以上フラれているからである。

 

 

 

 

 

 ────暗夜王城…クラーケンシュタイン城。

 

 本国王都“ウィンダム”を中心に迫り上がった壁、そして王都の中心に聳え立つ城こそが暗夜王の治める居城の名だ。

 

「…ロウよ、見事であった」

 

 王城の謁見の間にてロウは玉座に鎮座する年配の男を見上げる。

 

 暗夜王国の国王────ガロンその人である。

 

「…はい、峡谷の白夜の兵士共を捕らえた者達を除き、一掃して参りました」

 

 似合わぬ敬語を口にし、ガロンに向けて頭を垂れる。

 

「相変わらず見事なまでの知略だ…私は思わず感心してしまうくらいだ」

 

「いえ…王からすれば私めの知恵など些細な事。王の足下にも及びません」

 

 心にもない事を言ってくれる。

 

 顔の半分を仮面で覆った法衣の男────マクベスは憎々しい程に舌打ちし、目の前の青年を睨んでいた。

 

 知略では自分の方がこの若僧より勝っている。にも関わらず、王は彼奴などの策を褒めておられる。

 

 何故この小僧なのだ、此奴の甘い策の何処がいいのだ。

 

「そう謙遜するものではない。私はお前の知識を高く買っている、マークス達もそう評価しておった」

 

「有難きお言葉…感謝致します。私めはこれにて────」

 

「待て」

 

 立ち去ろうとしたが、ガロンはロウを呼び止めた。

 

 同時に驚くべき報せを聞く事となる。

 

「明日…北の城塞からカムイが城を訪れる、お前もそれに立ち会うがいい」

 

「カムイ王子が…ですか?」

 

「嗚呼…異形神ハイドラがそう告げていた。今日はもう遅い、早めに寝て明日に備えておくといい」

 

 畏まりました、と言う言葉を最後にロウは謁見の間を出て行った。

 

 

 

 

 

「ったくよー。なーにが異形神だっつーの、唯の石だろーが」

 

 翌日の朝…と言っても夜のように暗いが、ロウは王族達を迎えるべく城門へと急いでいた。

 

「にしても…カムイ王子か」

 

 カムイ────その名を聞くなり、憤怒の表情から一変して笑みを浮かべた。

 

 数年前のとある日────暗夜王国の属する国シュヴァリエ公国から帰国したガロンが、見知らぬ男児を連れてきた。

 

 男児は妙に怯え、この国の人間には酷く敏感になり…時々癇癪を起こす程だった。

 

 誰もがどうしようもないと思った時、彼に救いの手が差し伸べられた────

 

 鮮明に過ぎる思い出に浸っていると城門前に到着し、門が開かれると幾人もの人間がいた。

 

「出迎え御苦労だったな、ロウ」

 

「いえマークス王子、これが自分の役割ですから」

 

 金髪の男性────暗夜王国の第一王子マークスに向かって頭を垂れる、その後ろからラベンダー色の髪を持つ妖艶な美女が現れる。

 

「カミラ王女…相変わらずお美しいですなぁ」

 

「貴方も褒めるのだけは上手ね、褒めるのだけは」

 

 美女────第一王女カミラの美貌に鼻を伸ばしていると、冷ややかな声が聞こえてきた。

 

「全く…姉さんはロウを煽らないでくれない? 此奴は調子に乗ったら何をするのか検討もつかないからね」

 

「そそそそんなわけないっすよ、レオン王子〜」

 

 法衣を纏った少年────第三王子レオンが蔑むような眼差しを向けていると、ツインテールの少女が駆け寄って来る。

 

「おはよーロウ! 今日も可愛い女の子に声を掛けてるの?」

 

「…すいませんエリーゼ王女…俺ってそんなに軽いですか?」

 

 少女────第二王女エリーゼの無邪気な一言が彼の心を抉った。

 

「軽いな」

 

「軽いわね」

 

「軽過ぎ」

 

「……絶望した、味方が一人もいないこの状況に絶望した」

 

 寂しそうに呟いていると、マークス達の後ろからまた声が聞こえた。

 

「まあまあ兄さん達、それ以上ロウをからかわない方がいいよ」

 

「そうですよ〜、意地悪しちゃ可哀想です!」

 

 騎士甲冑を纏った初老の男、頭に頭巾を被った少女とメイド服の少女、尖った耳が特徴の銀髪の少年。

 

「…カムイ王子、この度は北の城塞からの外出…おめでとう御座います」

 

「出迎えありがとう、早速で悪いけど父上の所に案内してくれるかい?」

 

 少年────第二王子カムイが無邪気な懇願をし、ロウは笑顔で答える。

 

「はい、奥で王がお待ちしております」

 

 言われるがままに道案内していると大広間に出る、ガロンはその場で立っていた。

 

 カムイはガロンに向けて頭を下げ、ガロン本人はそれを聞いて彼を高評価する。

 

 更にカムイは他の兄弟姉妹(きょうだい)と違い、結界で覆われた北の城塞にいなければならない。

 

 カミラとエリーゼは心配そうにしているが、彼は気丈に振る舞って微笑む。

 

「…さてカムイよ。我が国は東方の白夜王国と今も戦争の最中にある」

 

 暗夜王族には古の神…“神祖竜”の血を受け継ぐ一族、王族が戦場に行けば一部隊を壊滅するのは確かに本当だろう。

 

 だが…兵を草刈りと例え、他者を────家族さえも駒のように扱う、そんな認識の此奴が腹立つ。

 

 そんな苛烈に苛んでいると、如何にも怪しいと言わんばかりの剣が、禍々しさと共にカムイの前に顕現する。

 

「これは…?」

 

「魔剣ガングレリ…異界の魔力を秘めた剣よ。その魔剣をお前の腕を以て振るえば、白夜の兵共を殲滅出来ようぞ」

 

 どう考えても怪しさこの上ない、マークスも同じ事を思っているのか顔を顰めている。

 

「さて…それではお前にその魔剣の力を試させてやろう────捕虜共を此処へ」

 

 ガロンの命令で近くにいた兵士が走り出す、暫くすると先日捕らえたリンカを初めとした白夜兵を連れてきた。

 

「良いか…此奴等は先日ロウが率いる部隊が先の戦闘で捕虜にした白夜王国の者共だ、お前の力が見たい」

 

 ガロンは不気味な笑みを浮かべて、こう言い放つ。

 

「その魔剣を以て此奴等を倒してみせい」

 

 無茶な横暴だぜ…ロウはこの光景を見てそう思った。

 

 続

 



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モテない軍師と始まり

 ロウside

 

 カムイ王子の護衛に鎧を着た初老の男────ギュンターの爺さんとメイド服の少女────フェリシアが付き、戦闘を開始した。

 

 二人から戦闘での説明を受けつつカムイ王子は王族に与えられし力────竜脈を発動させる。

 

 竜脈とは竜の血を受け継ぎし者────つまり王族だけが使える力で、戦場では様々な力となるっぽい。

 

 ちなみに今回は体力を回復する為の床を顕現させた、その光景にリンカちゃんを含めた白夜兵が目を見開いた。

 

「炎の部族の力…思い知れ!」

 

 リンカちゃんは助走を付けて跳び、フェリシアに向けて棍棒を振り下ろした。

 

 驚いたフェリシアは転けてしまったが、幸い彼女の奇襲から逃れた。

 

 フェリシアは暗夜王国の氷の部族の村の出身、氷では流石に分が悪いと判断したのか爺さんが彼女の相手を務める事に。

 

 一方カムイ王子は白夜の忍び────確かスズカゼと名乗った其奴と攻防を繰り広げている。

 

 そう言えばさっきカムイ王子の名を聞いて一瞬驚いてたけど、俺の脳内に一つの可能性を考えた。

 

 だがそれは敢えて言わずに心の中に閉まっておく、そして懸命に戦うカムイ王子を心配する声が耳に入ってくる。

 

「カムイ様…大丈夫かしら」

 

 頭巾を被った少女────厩舎係のリリスちゃんである、つーかメイドとかリリスちゃんとか…カムイ王子に天は二物を与え過ぎだろ! 

 

 あのスズカゼってのも俺より顔が整ってイケメンだし、あんな顔だから色んな女の子にモテモテなんだろうな! 

 

 マークス王子もレオン王子にも似たような話がチラホラ聞こえるし、何で俺には女の子が寄り付かないんだよ!! 

 

 ────なんて自問自答していると、白夜兵はカムイ王子の持つ魔剣の力に圧倒されて地面に突っ伏していた。

 

 彼等の腕前をカムイ王子が讃えていると、あの国王(老害)が横槍を入れてきた。

 

「カムイ…何をしている。早く止めを刺さぬか」

 

「父上…? この者達は既に戦えません」

 

 それは愚かな行為だと言うのにこの国王(老害)はカムイ王子にそれを強要する。

 

 王子は頑なに拒むが奴は聞き入れようとしない、つーか自分の邪魔する奴は全員殺すって考えだし。

 

 やばいと思った俺は魔導書を開いて、放たれた雷で白夜兵を吹っ飛ばす。

 

「ガロン王様が直接手を下すまでもありません」

 

 その意図に気付いたのか、レオン王子も魔導書────暗夜に伝わる神器・ブリュンヒルデでリンカちゃんとスズカゼを吹っ飛ばす。

 

「父上…不出来な兄に代わりに僕とロウが止めを」

 

「ですから王よ、心をお静め下さい」

 

「…もういい、追って沙汰を下す」

 

 興が冷めたのか、ガロンはその場を去っていった。

 

 その後レオン王子共々カムイ王子に責められたが、レオン王子に言い包められてカムイ王子も気付いた。

 

 マークス王子の指示によってリンカちゃん達を彼の居館へ運ばれる事に、その際カムイ王子に優しさが仇になる…と忠告していた。

 

 取り敢えず先程の攻撃はあの国王(老害)を悟られない為、威力を弱めておいた。

 

 意識が戻ったリンカちゃん達を見送り、リンカちゃんに至ってはカムイ王子に皮肉を言っていた。

 

 そんなツンデレ発言も良かったのでアプローチをかけたんだが、今度はグーで殴られた。

 

 

 

 

 それから暫く日が経過して、カムイ王子はエリーゼ王女を同伴する形で国王(老害)に謝罪しに王室へ向かった。

 

 しかも無限峡谷の白夜領偵察任務と言うありがたくないおまけつきで戻ってきた。

 

 カムイ王子の任務には爺さんやフェリシアも同伴する、王子に対して若干…いやかなりの過保護なカミラ王女は心配そうな表情をしている。

 

 エリーゼ王女とレオン王子が戯れている傍らで暴走しそうな彼女、其処にあのマクベス(下衆軍師)がやってくる。

 

 此奴曰くこの任務はカムイ王子の為の試練で王子に国を治められる素質があるのかどうか試すらしい、他人が手助けをしたとしたらおじゃんになる。

 

 確かにその通りだが、此奴の言葉は全く信用ならねーし胡散くせぇ。

 

 早速カムイ王子は行こうとしたが、国王(老害)がそれを止める。

 

「…この者を連れて行け」

 

 その言葉と共に現れたのは筋肉質なガタイのハゲ男、如何にも悪そうな面構えだ。

 

「この男はガンズと言う…見ての通り王国きっての怪力の持ち主よ」

 

 名前だけなら聞いた事がある。

 

 確か略奪や殺戮を幾度となく繰り返し、最近まで投獄されていたとか。

 

 いやーな予感がしてきた。

 

 

 

 

 カムイ王子達が出発してどれくらい時が経っただろうか、俺は自室で女子達の写真が載っている愛読書を捲っている。

 

 むさい野郎共に囲まれるより、俺は可愛い娘達とハーレム作る方が何倍もいいわい!! 

 

 なんて虚しい事を言いつつ、俺は鼻息を荒くしながら眺めていると────

 

「ローウ!」

 

 この国の末姫が乱暴に扉を開けて現れた。

 

 同時に俺は愛読書を手早く机の引き出しの中に戻して、色紙を羽根ペンで書く姿勢になる。

 

 …我ながら完璧な動作だ。

 

「エリーゼ王女…自分に御用があるのでしたら、ノックをしてもらえたら嬉しいのですがね」

 

「ねぇロウ! カムイおにいちゃん、帰ってきている!?」

 

 幼い王女がそれをはぐらかし、兄王子の事を聞いてきた。

 

「…? いえ、カムイ王子は此方にいらしておりませんが」

 

 もし帰ってきたのならばとっくに噂も流れるし、馬音も聞こえる筈だ。

 

 それなのに馬音どころか鳴き声すら聞こえない…つまり。

 

「えぇ!? それじゃあ…おにいちゃん…」

 

 あー…なんだか面倒な事になったよ。

 

 同時にこの出来事は世界の運命を揺るがす事件の、第一歩に過ぎなかったそうだ。

 

 続

 



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モテない軍師と開戦と醜い修羅場

 ロウside

 

 あの衝撃発言から何日か経過した…俺は前々から練っていた計画を、少しずつ動かす事になる。

 

 愛馬────ジャックを携え、俺は今王城の北方────北の城塞へと走らせている。

 

 やがて城塞前に到着…ジャックを柱に繋げ、扉の前に赴く。

 

 そして軽くノックする…しかし誰も開けようとする気配がない。

 

 妙にいやーな予感を感じつつ、俺は静かに扉を開けた。

 

「こんち────」

 

「カ゛ム゛イ゛さ゛ま゛ああああああああ!!」

 

「ぐぶぅっ!?」

 

 俺は突然出てきた男に抱き付かれ、そのまま押し倒された。

 

「ああカムイ様! このジョーカー、とても死ぬような思いで心配しておりまし────」

 

 この男────ジョーカーは整った顔(俺より美形!)に綺麗な銀髪、執事服を着ている。

 

 そしてカムイ王子と間違えた俺と目が合った瞬間、眉間に皺を寄せながら立ち上がった。

 

「チッ…何だお前かよロウ、紛らわしい事すんじゃねーよ」

 

「其方から抱き付いといて酷くね?」

 

 敬語から急に口が悪くなり、此方に対して悪態をついてきた。

 

 此奴は90%程頭の中はカムイ王子の事でいっぱいだからな。

 

 元々は貴族出身だったらしいけど、左遷されて今はこの城塞でカムイ王子に仕える事になったっぽい。

 

「つーか王子は相変わらず帰って来ねぇんだな」

 

「当たり前だ。フェリシアやジジイは兎も角、何時でもカムイ様がお帰りになられるよう清掃はこなしているんだからな」

 

 そう…あの日以来、カムイ王子は城に戻っていない。

 

 後で聞いた話だが、無限峡谷の砦に白夜の兵士がいた為に一度は撤退しようとしていた。

 

 だがあのクソハゲが兵士を殺したのをきっかけに、戦闘状態になってしまったそうだ。

 

 そして暫くしてマークス王子達が駆けつけて援護に入り、カムイ王子達を先に行かせた。

 

 それから王子達の姿を誰も見ておらず、現在も捜索中らしい。

 

 エリーゼ王女は居館にショックで塞ぎ込み、カミラ王女は溺愛し過ぎている所為か一心不乱に探し続けている。

 

 レオン王子もマークス王子も表情に出さないが、心配してる様子が見受けられる。

 

「それで…一体何の用だ。暇だから来たわけじゃないんだろ」

 

「察しがいいね〜フローラちゃんに渡しておきたいものがあってさ────」

 

「私がどうかされました?」

 

 フェリシアと同じメイド服の少女が城塞の中から現れ、その少女────フローラちゃんに懐から出した封筒を俺は彼女に手渡す。

 

「これ。氷の部族の族長さんに渡してくれ」

 

 フローラちゃんは目を見開いて驚き此方に視線を合わせる、熱い視線を送られると困るなぁ。

 

「何故私に」

 

「知ってるぜ、君とフェリシアが此方で働く理由」

 

 彼女とその双子の妹────フェリシアは氷の部族の族長の娘、此方には奉公────つまり暗夜の為に人質として此方に連れて来られた。

 

 あの国王(老害)はその気になれば部族の人間を皆殺しに出来る、それを出来るだけ避ける為…族長宛ての手紙を送る事にした。

 

「…ありがとうございます」

 

「惚れるなよ」

 

「有り得ませんから」

 

 悪戯っぽく笑みを浮かべる彼女の顔を見て思わずニヤける、其処で何を思ったのかジョーカーが言葉を紡いだ。

 

「俺もついていくぞ」

 

「はっ!?」

 

 畜生…言うと思ったよ。

 

「もしもの事がある…証人として俺がフローラに同行し、反乱を止めさせるよう族長を説得する。タイミングはお前に任せる」

 

 元々そのつもりだ。

 

「そして、カムイ様がお帰りになられるまで…この国に戻るつもりはない」

 

 どうやら不満を抱えてるのは俺だけじゃねーか、そして相変わらずのカムイ王子への心酔っぷりなのな。

 

 

 

 

 

 あの二人を見送り、俺は眉間に皺を寄せながら下町を歩いている。

 

 決して羨ましくねーぞ、言い合う二人を見てジェラシーなんて感じねーぞ。

 

 …すいません、本当は羨ましがってまーす。

 

 だって端から見てもカップルにしか思えねーもん! 

 

 それを見せつけられて俺はリア充爆発しろ! って思ったよ。

 

 そんな叫びを心の底に仕舞い込み、俺は次の任務に備えてある程度の買物をしている。

 

 剣に魔道書、それから傷藥。

 

 買物を済ませて城に行こうとした時、一人の兵士が此方に向かって走ってきた。

 

「ぐ…軍師殿! 軍師ロウ殿!」

 

「君は…確か第十五騎馬部隊の」

 

 現れた兵士は女の子で、短い黄緑色の髪に真紅のルビーの瞳を持っている。

 

 急いで走ってきた所為か、その場で鎮座して呼吸を整えると彼女は俺に向かって敬礼した。

 

「はっ…! 部隊長のミーナであります…国王陛下直々の勅命をお伝えする為、参上致しました!」

 

 そうそう、ミーナちゃん…軍の中でも唯一の女隊長だったっけ。

 

 ってか…あの国王(老害)の言葉って時点で既に嫌な予感しかしねぇ…。

 

「んで…王の勅命って────」

 

「はい…明朝、無限峡谷を越えて────白夜王国へ侵攻すると」

 

 はい、嫌な予感的中〜。

 

「王子達もそれに参加する事となり、軍師殿には戦場での指揮を執るようにと承っております」

 

 ミーナちゃんは浮かない顔で語り、俺にそう伝えてくれた。

 

「ミーナちゃん…個人の意見としてどう思っている?」

 

「個人的には…王のお考えは常軌を逸しております。まるで何かに身を委ね、白夜を…そして暗夜(この国)…両国の滅亡を望まれてらっしゃるかのように」

 

 そうだよな、あのおっさんはあの御方────シェンメイ王妃が亡くなってからおかしくなった。

 

 それ以前は自ら戦場に赴くようなはっちゃけた性格だったらしいが、今の様子を見ても全然想像がつかん。

 

 ま…それは考えねぇ方がいいか。

 

「お言葉は以上です。では自分はこれで失礼します」

 

 ミーナちゃんは去っていった、俺もさっさと寝ようかね。

 

 

 

 

「全軍、出撃!」

 

 明朝、マークス王子の号令の下…俺達は白夜王国に向けて出発した。

 

 無限峡谷を越えて進軍していき、気付けば陽が傾き始めていた。

 

 夜のない茜色の空…暗夜の人間ならば、誰しもが憧れる光景だった。

 

 ────世の中が戦争じゃなかったらな。

 

「ロウ」

 

 黄昏れてる俺にマークス王子が声を掛けてくる、何で美女じゃなくてむさい野郎なんだよ…空気読めよ。

 

「今更聞く事だが…王命に従わぬのだな」

 

「勿論っす」

 

 そう…俺は最初っから命令なんて聞く気はない、昔から堅苦しいのには若干抵抗がある上、俺の性格には似合わん。

 

 それをマークス王子達は堅くなる必要はないと促し、公私を分けて口調を変えている。

 

 なんて話をしていると崖に差し掛かる、下には微風が吹く草原に大勢の白夜王国の兵士達が。

 

 侍と天馬武者と言った兵種を中心にして、和を重んじる白夜王国。

 

 その中心に赤い鎧を身に付けた一人の侍が立ってた。

 

『────突撃!』

 

 マークス王子と赤い侍の号令の下、両軍は戦闘を開始した。

 

「我こそは白夜王国第一王子、リョウマ! 暗夜軍の将よ、一騎打ちを所望する!」

 

 侍────リョウマ王子の言葉に呼応するかのように、マークス王子は鞘から黒い剣を手にする。

 

 暗夜の王族に代々伝わる神器の一つ、暗黒剣ジークフリートだ。

 

「暗夜王国第一王子マークス…その一騎打ち、受けよう。我が剣の露として消えるがいい…!!」

 

 馬を走らせてマークス王子は斜面を下り、リョウマ王子も刀を持って走り出す。

 

 両国の第一王子が正に向かい合って激突し、剣戟の音が戦場に響き渡る。

 

「暗夜の王子よ! 何故この白夜に攻め入った…!? これまでの卑劣な策も貴様の差し金か!」

 

 言い返したいが、間違いじゃないので否定出来ない。

 

「敵に語る言葉は持たぬ…降伏し支配を受け入れよ」

 

 あくまで父親(老害)を信じるのか、マークス王子は止まろうとしない。

 

「さもなくば────死ぬがいい!」

 

 王子単騎で何とかなるかも知れないが、一人じゃちょっと分が悪いな。

 

 俺達は河沿いを沿って合流を目指すが、橋が壊れて困難な状況になっている。

 

 普通の人間ならば断念してしまうだろう…そう、普通の人間(・・・・・)ならば。

 

「…姉さん、竜脈を?」

 

「ええ、私に任せて」

 

 飛竜に跨ったカミラ王女が竜脈を発動させると、一瞬の内に河が干上がっていった。

 

 これで合流しやすくなった、そんな事を考えていると向こうから声が聞こえてきた。

 

「────気を抜くなカムイ、彼等は危険だぞ」

 

「…へ?」

 

 聞き捨てならない名前が出てきたので、俺や王子達は呆気に取られた。

 

 声の主────赤髪の天馬武者の女性に導かれる形でカムイ王子…そして弓を持つ少年と祓串を持つ少女、純白のドレスを着た少女が現れる…って。

 

「シェンメイ王妃…!?」

 

 いや…似ているが違う、そもそも王妃は既に故人だ。

 

 そう言えば王妃には娘がいると聞いた事がある、だが娘は何者かの手によって白夜に連れ去られたと言う。

 

「まさか、アクア王女…!」

 

 それでやっと確信を得た。

 

「無事だったかカムイ…! よく生きていてくれた」

 

「マークス兄さん! 何故こんな戦争を!?」

 

「さあ行くぞ。お前も戦いに加われカムイ、お前がいてくれれば戦争は直ぐに決する。無駄な犠牲を出さずに白夜王国を征服出来るだろう」

 

 カムイ王子の言葉に応えず、マークス王子は剣を構える。

 

「気を付けろカムイ、この男は暗夜王国の王子だ」

 

 やっぱりカムイ王子は白夜の王族だったか…通りで暗夜(此方)白夜(彼方)が手を取り合う、なんて言い出すわけだ。

 

「ああカムイ…生きていたのね、良かった…!」

 

「悪運強いね、カムイ兄さん」

 

「良かったよ〜! カムイおにいちゃん!」

 

 他の王族の方々から歓喜の声が上がる、特にエリーゼ王女なんか塞ぎ込んじまってたからなぁ〜。

 

 そんな思い出に浸っていると、向こうから批判の声が上がった。

 

「何を言う、弟を攫った暗夜の者め…! カムイは私の弟だ!」

 

 …あれ? 

 

「いいえ…カムイは私の弟、誰にも渡しはしないわ」

 

 あの…なんか主旨変わってんすけど。

 

 つーか唯の弟を取り合うお姉さん達だ、個人的に羨ましい! 

 

「騙されるなカムイ! お前は俺達の大切な家族だ!」

 

 此方も酷え言い争いじゃん、目が腐る。

 

「戻って来い、カムイ! また兄弟姉妹(きょうだい)一緒に暮らそう!!」

 

 ちょ…いい加減。

 

『カムイ!!』

 

 聞けやぁぁぁあああ!? 

 

 このバカ王族達はどれだけ言っても勝手に話を進めやがるし! 頭ン中花畑か!? 

 

 もう無理矢理黙らせようと思ったが、カムイ王子の言葉に耳を傾けるのだった。

 

 続

 



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モテない軍師と決断

 ロウside

 

「────僕には、裏切る事なんか出来ない」

 

 カムイ王子の呟きが響き渡る。

 

 暗夜王国はあのおっさんの所為で国政が厳しいが、マークス王子達王族やフェリシアを始めとする従者達が支えてくれる。

 

 俺? 唯興味を持ったから観察してただけ。

 

 リョウマ王子がそれに対して反発するが、カムイ王子は白夜に刃を向ける気はないと語る。

 

 何方も裏切れないと語る王子の答え、そりゃ一つしかないわな。

 

「すまない…リョウマ兄さん、マークス兄さん。二人共剣を置いてくれ! きっと和平の道はある!! 話し合いで解決する方法を────」

 

 それで解決するなら苦労はしねぇっすよ、カムイ王子。

 

「もういい…カムイ、お前の考えは分かった。兄である私が断ち切ってやろう、お前の迷いを」

 

「させるものか…! カムイは俺達の大事な家族だ! お前達などに絶対に渡さん!!」

 

 やっぱこうなるのか。

 

「面白い…両国の第一王子同士、此処で決着を付けようではないか」

 

「掛かって来い! お前に勝利して、カムイも国も守ってみせる!!」

 

 また衝突しやがった、って言うかリョウマ王子も頭に血が上りやすいんだな。

 

 如何言う経緯かは知らんけど、カムイ王子は今日まで白夜にいた事。

 

 白夜の女王の結界で守られた此処に来られた時点で、既に女王は命を落とした事。

 

 詳しい事情を知るには、こうするしかねぇ。

 

「全軍に告ぐ────白夜の兵達を鎮圧しろぉ!!」

 

 血気盛んな叫びと共に白夜軍と戦闘を開始した暗夜軍、そして俺はカムイ王子の下へ────

 

 

 

 

 

 カムイside

 

 僕の目の前で得物の競合いを繰り広げる二人の兄さん、そして彼等に付き従う兵士達は互いに命懸けの死闘を演じている。

 

 どれだけ叫んでも兄さん達は戦いを止めようとしない…何か手はないのかと思った時、白夜で出会った少女────アクアが話しかけてきた。

 

「ねぇ…私達の近くにいる部隊に攻撃を仕掛けてはどうかしら…?」

 

 アクア曰く部隊長を討てば戦いを止められるかも知れないと言う、確かにそれしかないと思うけど大丈夫かな…? 

 

 そんな不安も抱えていると足音が聞こえてきた。

 

 まさか敵が来た!? と思って振り返ると、見知った顔が此方に向けて走ってきた。

 

「────カムイ様! 御無事で良かったです〜!」

 

「フェリシア!?」

 

 無限峡谷で逸れてしまった彼女が汗だくで駆け付けた、彼女はずっと僕の行方を追っていたそうだ。

 

 そしてフェリシアは戦場の殺気に気付き、僕が経緯を説明すると彼女の表情が青褪める。

 

「両軍!? カムイ様、何て無茶を…!」

 

 こんな無謀としか思えない状況に気が遠くなった彼女だったけど、首を左右に振って真剣な表情になる。

 

「でもでも、分かりました! カムイ様の敵は私の敵…このフェリシア、きっとお役に立って見せます!」

 

 そう決意した彼女を加えた僕達は、すぐさま戦闘に介入しようと平原を駆け出す。

 

「────待って、誰かが此方に向かってくるわ」

 

 そう言うアクアに合わせて僕達は足を止める、そして目を凝らすと黒い法衣を纏った見知った顔が剣を手に此方に向かってくる。

 

「ロウ!」

 

 気が付けば僕は黄金色に輝く剣、夜刀神を鞘から抜いていた。

 

 

 

 

 

 ロウside

 

 王子達とは違い、俺は竜脈の影響を受けてねぇ河を橋で渡っていった。

 

 カムイ王子の姿を肉眼で捉え、腰に携えていた剣を抜いた。

 

 視界の端になんか見た事あるアホメイドがいるが、それもお構いなしに駆け出す。

 

 カムイ王子はアクア王女に促されて剣を抜く、あの不気味な剣ではなく────黄金色に輝く神秘的な剣で斬りかかる。

 

 あんな啖呵を切ったんだ…その覚悟、見せてもらう。

 

「止めてくれロウ! こんな事、間違ってると思わないのか!?」

 

 俺の剣を黄金色の剣で受け止める。

 

「…んな事…あんたに言われずとも理解してるっすよ…」

 

 だからこそ────

 

「両国の戦争を止める覚悟があるんなら────それを示してみせろぉ!!」

 

 甘ったれた綺麗事だったらその程度、もし本物なら────

 

 ファイアーの魔導書を手にし、掌から紅蓮の炎を放つ。

 

 瞬く間に炎に包まれた王子に踵を返し、両軍の様子を俺は見つめる。

 

 何時の間にか移動していたアクア王女とフェリシアが両軍を攻撃しており、呆れつつも止めようとした────

 

「…!」

 

 後ろから異様な気配を感知し…素早く振り返った、其処には炎の中から四足歩行の獣がいた。

 

「は…!?」

 

 異形の存在の顕現に目をぱちくりしてしまい、獣は大きく嘶く。

 

 まさか…カムイ王子か!? 

 

 暗夜は闇竜…白夜は光竜の血が王族に流れている、だが王子のはどう見ても何方にも当て嵌まらない。

 

 そう思考を巡らせていた途端、視界が茜色の空で覆われた。

 

 下には平原、目線の先にはカムイ王子…同時に悟った。

 

「やっべ…」

 

 草原に横たわる俺の横に剣を突き刺し、獣から戻ったカムイ王子は俺を見下ろす。

 

 なんつーか…顔つきが強くなったように見える、白夜にいて何かを見出したんだろうな。

 

 そんな目で見られたら…心が折れちまう。

 

「カムイ王子」

 

 もう心は決まった、国の皆には悪いが────

 

「あんたの理想…俺も付き合いますぜ」

 

「…分かった」

 

 王子の目線を追うとやるべき事をやったのか、アクア王女とフェリシアが走って来る。

 

 後ろからは両国の兵士達が────

 

「カムイ! 此処は逃げるべきよ、残念だけどリョウマ達は話を聞いてくれる状態じゃないわ」

 

「仕方ない…ロウ、行くよ!」

 

 そう言うとカムイ王子は立ち上がり、俺の片足を掴む…っては!? 

 

 ちょ…待った王子! せめて立つ時間ぐらい、ぎゃああああああ!!?? 

 

 強く引き摺られながら、俺は阿鼻叫喚の叫びを上げるのだった。

 

 

 

 

 

 戦場から離れて数刻が経ち、俺達には一時の休息が許された。

 

 だが暗夜と白夜、何方かを選ばなければ双方から命を狙われる立場となる。

 

 …だが、カムイ王子はもう選んだ。

 

 全てを失ってでも選んだ第三の道、その決意を固めた王子にアクア王女は折れた。

 

「…そうね、そうなのかも」

 

 アクア王女も母であるシェンメイ王妃を思い出したのか、彼女も決意を固める。

 

「ん?」

 

 そんな二人の会話を聞いていたら、水晶玉を抱えた一匹の獣がやってきた。

 

 心なしか、其奴の頭の頭巾に何処か見覚えがあるんだけど。

 

「リリス…? どうかしたのか?」

 

 しかも聞き捨てならない名前が出てきた、これがあのリリスちゃん? 

 

「うん…実はそうなんだ」

 

「…カムイ王子。何か拾い食いでもしました? こんな獣がリリスちゃんの筈が」

 

「えっと…話せば長くなるんだけど」

 

 すると目の前の地面が光りだす。

 

「はわ!? この光はなんですか〜!?」

 

「これも話せば長くなるんだけど」

 

 話せば長くなるってどんだけだよ、光は忽ち広がり俺達四人を包み込む。

 

 やがて光は収まり、目の前には奇妙な家と景色が広がっていた。

 

「……は?」

 

 俺もフェリシアもその光景に呆気に取られていると、リリスちゃんが説明してくれた。

 

 此処は時空を司る星竜の加護を受けた世界、通称星界と呼ばれている。

 

 彼女はその竜である、人間じゃないと知った俺はがっかりしたけど。

 

 星界は自由に使える事もあり、俺達は身体を休める事にした。

 

 しかし…リリスちゃんが人間じゃないって、折角のお近付きのチャンスが〜。

 

 なんて口に出して呟いたら、女性陣からゴミを見るような視線を突き刺された。

 

 続

 

 



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モテない軍師と崖下の世界

一年半ぶりの投稿です。


 ロウside

 

 星界と呼ばれる異界で、カムイ王子は俺に自分の知る限りの教えてくれた。

 

 あの日マークス王子達のお陰で王城に戻ろうとした時、吊り橋でガンズが待ち構えていた。

 

 ガンズは騎馬に乗るギュンターの爺さんを吊り橋から叩き落とし、爺さんは谷底に消えていった。

 

 それに激怒した王子は魔剣を振るい、ガンズを退けた…だからあのハゲはボロボロだったんだな。

 

 その魔剣に翻弄されて谷から落ちたのだが、リリスちゃんの力で星界に転移したお陰で事なきを得た。

 

 …までは良かったんだが元の場所に戻ったら気絶させられて、目を覚ましたら捕虜だったあの娘────リンカちゃんがいた。

 

 何だそりゃあ! じゃあ何か? 一人で美女と一つ屋根の下で一夜を過ごしたってのか!? 

 

 ふざけんなコラ! どんだけ美味しい思いしてんだよ、この純粋王子は!! 

 

 …と、話を戻すか。

 

 そんな王子の下に同じく捕虜だった忍び────スズカゼが現れて奴の案内の下、向かった先は白夜王国のシラサギ城。

 

 其処でリョウマ王子と白夜王国の女王、ミコト様と邂逅を果たした。

 

 彼女はカムイ王子を息子として受け入れようとするが、其処に白夜の王族姉妹たるヒノカ王女とサクラ王女が襲撃を受けたと言う報を受ける。

 

 リョウマ王子はカムイ王子に見極めるように諭し、襲撃された村々へと向かい暗夜の軍勢を退けたと言う。

 

 …あの老害、若しくはマクベスのヤローだな、嗾しかけたの。

 

 んで王女達と出会い、城に戻り王子はミコト女王の先程の問いに答えた。

 

 答えは覚えてない…つまりNOだった。

 

 まあ無理もないわな、突然見知らぬ人から親子だって言われたら。

 

 黄昏れる王子はアクア王女に出会い、どうするべきなのかを問われた。

 

 そして今朝、カムイ王子はミコト女王達に白夜王国の街並みを案内される。

 

 …弟君であるタクミ王子からはアクア王女共々煙たがれていたけれど。

 

 王子は兎も角、王女は既に誰もが受け入れているとタクミ王子を諭す。

 

 この調子なら問題なく蟠りも中和されていく、そう思われた時だった。

 

 カムイ王子の持つ剣…ガロン(老害)から譲り受けたあの不気味な魔剣だったっけ? が突然王子の下から離れ、何者かの手に渡った。

 

 其奴は魔剣を地面に突き刺すと白夜の国民を巻き込んで爆破、魔剣は破片となって辺りに飛散した。

 

 勿論カムイ王子も例外ではない。突然の事態に戸惑いを隠せぬ中、破片が襲い掛かった。

 

 もう駄目だと思った時…ミコト女王が彼を庇い、彼女は致命傷を負った。

 

 彼女は王子の腕の中で息絶え、その際彼女を母と呼んだのはそれが最後だった。

 

 そしてカムイ王子は異形の竜へと姿を変え、襲ってきた敵兵をリョウマ王子等と討ち取ったと言う。

 

 アクア王女曰くその敵兵は暗夜王国の兵士ではなかったそうだ、何だそれ? まさかそれもガロン(老害)が? 

 

 敵を倒したにも関わらず母を目の前で失った影響か、カムイ王子は暴れ続ける。

 

 しかしアクア王女が歌で彼の心を静め、竜から元に戻った彼は失った記憶を取り戻したそうだ。

 

 それはシュヴァリエ公国にてガロン(老害)の汚い手段によって父王────スメラギ殿を目の前で殺された上、奴に暗夜王国に連れて行かれたと言う内容。

 

 ちょ…それ第三者から見たら誘拐じゃん! あの老害、其処までするか!? 

 

 それには驚くどころか呆れるしかない。

 

 詫びて済む話じゃない、怒り心頭に言葉を発したタクミ王子はカムイ王子を責め立てた。

 

 まぁ当然か。大好きだった母親が突然殺された上、折角出来た兄王子がその原因を作った。

 

 何がなんだか分からなくなった彼を白夜の軍師やリョウマ王子が諌める、すると城下町の像が光を放ち、やがて光は黄金の刀へと姿を変えた。

 

 この世に救いを齎す刀、夜刀神(やとのかみ)。それが王子の持つ刀の名前か。

 

 竜の力は竜石と呼ばれる神秘な石に封じ込めた後、暗夜軍────つまり俺達が行軍してくると言う報を聞き、そして今に至るまでがこれまでの経緯だそうだ。

 

「…そりゃあ大変な事態になっとったんすね」

 

「ええ、信じられないかも知れないけれど」

 

「でも本当なんだ…ガロン王はずっと僕を利用していて、しかもその所為で母上は」

 

 今すぐ信用するのは難しいと思うけど、とカムイ王子は言うが、俺はの答えはもう決まってる。

 

「信じますぜ」

 

「ええ〜!?」

 

 俺からのまさかの即答にフェリシアが吃驚する、そんなに驚くことかよ? 

 

「マークス王子から一本取ったってのもあるし、今回の王命にも腑に落ちない所がありました。それにあんな奴よりもあんたに着いていく方が、ずっと命を預けるのに相応しいですぜ?」

 

 俺の言葉にカムイ王子達が感動していた、後もう一押しだ。

 

「それに一緒にいれば可愛い娘に出会えるし、モテモテでウハウハな生活が待っているかも知れないし」

 

「…不純な動機ね」

 

 …あり? アクア王女の目線が一気に冷たくなった、その上カムイ王子の耳を塞いだフェリシアが俺をゴミを見るような目で見てるし。

 

 何でこうなるわけ? 

 

 その後異界で大体の荷作りと武器の手入れを整え、俺達は元の世界へと戻る。

 

 白夜も暗夜も敵に回した今…何処に向かおうと模索していると、アクア王女がある提案を提出した。

 

「それなら一緒に来て、誰にも見つからない場所があるの」

 

 彼女曰く生前のシェンメイ王妃から聞かされた話で、この世界の真実の姿と深い絶望だそうだ。

 

 胡座をかいていても仕方ないので、俺達四人はその場所へと赴くことにした。

 

 

 

 案内されて半日くらいが経ち、昼下がりの空の下で辿り着いた先は────両国の国境とも言える無限渓谷、あのハゲがギュンターの爺さんを叩き落とした場所だ。

 

 …おいおいおい、まさかと思うんすけどアクア王女? こっから落ちて心中しろって言うんじゃないっすよね? 

 

「まさか…此処が隠れ処だって言うのか?」

 

「ええ、そうよ。この谷に飛び込むの」

 

 はい、予感的中ーーー!! 

 

 フェリシアも洒落にならないとばかり顔色を蒼褪め、慌てて待ったをかける。

 

 彼女曰く落ちても死ぬことはないそうだが、これ死ぬって! 冗談抜きで死ぬわ! いやほんとマジで!! 

 

「…分かった、飛び込むよ」

 

 ………What? 

 

 あれ〜? 聞き違いかな? 今王子の口からOKが出たような? 

 

 フェリシアも必死になって止めようとする辺り、どうやらマジみたいだ。

 

 と言うか信じているとか先に待っているとか言ってるし、行く気満々だよこの二人。

 

 もうあの人らにとっちゃ決定事項なんだな、もう腹は括ったわ。

 

 フェリシアも覚悟を決めたのか同じように吊り橋に足を運ぶ、一時的な静寂が続き、気が付けばアクア王女が橋から飛び降りていた。

 

 同じようにカムイ王子、俺とフェリシアも飛び降りて暗い崖下に落ちていく。

 

 怖い怖い怖い怖いマジ怖い! 軽い気持ちで行ったけどどうしようもなく怖え! これが死ぬ瞬間の浮遊感なのか、そうなのか!? 

 

 そんな事を考えていたら光が見えてきた、崖下の先に光が見えるってことはあの世が見えてきたってわけ? 

 

 しかし次の瞬間には、俺の中の世界を否定するような光景が広がってきた。

 

 …………何これ? 

 

 何で崖下の先に空があるの? 何で岩や大地が浮いてんの? 何で草木や緑があんの? 何で湖が上下逆になってんの? 

 

 色々な意味でおかしいんだけど、あれ? 俺の頭がおかしいの? それともこの世界の方がおかしいの? 

 

 そんな事を考えていたら草原が視界を覆い尽くし、俺の意識は暗闇に包まれた。

 

 続く

 



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モテない軍師と仲間集め
モテない軍師と世界の真実


 ロウ side

 

「────はぎょ!?」

 

 突然頭に冷たい感触と激痛が走り、目を覚まして勢いよく飛び起きた。

 

 頭には暗器が刺さっており、それを持つ犯人を知ってる為か整った顔がピクピクと引き攣る。

 

「こんのアホメイド……寝起きの挨拶にしちゃあ物騒なことしてくれるなぁ?」

 

「し、仕方ないじゃないですか〜! ちゃんと到着したのにロウさん、頭から落ちて全然起きないですし、敏腕メイドとして叩き起こしたんですよ〜!」

 

 うん。幾ら荒療治とはいえ、武器はねーだろ、武器は。殺す気か!? 

 

 いやそれは兎も角、着いたって……。辺りを見渡してみると凄え光景が広がっていた。

 

 落ちている時に見た浮いてる陸地や建造物、岩とかは全く慣れねえ……更には今いる地面も妙に荒れている。

 

 こんな世界が峡谷の底にあったのは分かった、そして此処は何処なわけ? 

 

 その疑問はアクア王女の口から答えが返ってくる。

 

 此処は透魔王国…白夜と暗夜の争いの元凶だと言う、詳しい話は安全な場所でと言う彼女の提案で、人気のない空洞で語られることに。

 

 この国はハイドラと言う男が総ている、それって確かガロン(老害)が崇拝している神様じゃなかったっけ? 

 

 それはさておき…ハイドラは突然平和だったこの国に現れ、先代の国王を抹殺した。更にはこの国の民の精神を支配する怪しい術を持っており、民を殺し合わせてこの国を滅亡に追いやった。

 

 だが…それはほんの序の口に過ぎない、奴の目的は世界の破壊…白夜も暗夜も…そしてこの国も例外ではない。

 

 奴は白夜と暗夜の戦争を裏から操り、互いに争わせている。しかもガロン(老害)の命令も其処から来ている。

 

 つまり…何か? 俺ら暗夜の民はそんな訳の分かんねーバケモンにいいように利用されてたってことか? ふざけやがって、ガロン(老害)も其奴の操り人形ってわけか。

 

 これは王子達に報告することだろうか、カムイ王子も似たような事を考えていたが、アクア王女に拒否られる…何で? 

 

「…透魔王国の事は外の世界では誰にも伝えられないの、誰かに伝えれば呪いによって全身が水の泡になって消えてしまうわ」

 

 マジ? 遠回しに言えば口封じかよ、どんな風に伝えてもアウトってか。

 

 しかもシェンメイ王妃もその呪いによって消えたとか…って、ちょっと待った。

 

「アクア王女ってこの国の人だったんっすか!?」

 

「あ…!」

 

「ええ…私はこの国、透魔王国の王女なの」

 

 つまりさっき話に出てきた先代の透魔王は彼女の父親…彼女達は国を追われて外の世界にやって来た、これでやっと王妃の死の真相もはっきりしたな。

 

 長年に渡って自分の気持ちを押し殺して口に出さなかった彼女に対して、俺は何とも言えない心境になる。どれだけ話したくても話せねえ、正直言って辛えな。俺だったら発狂するかも。

 

「と言うわけで王女、泣きたくなったらいつでも俺の胸に飛び込んで────」

 

「…!? 魔物の気配がするわ、かなりの数に囲まれたみたい」

 

 スルーっすか、さり気なく。

 

 まあ兎に角が敵が来たってんなら返り討ちにするだけ、俺達はすぐさま己の武器を手にして戦闘態勢に入った。

 

 とは言うものの四方八方に闇が広がっている、正解はあるんだろうが間違いだったら何が分からん。

 

「東側から行ってみよう」

 

 カムイ王子の提案に乗って先に進んでみた、すると道が出来て敵もわんさか増えてきた。敵から宝箱の鍵や武器を奪い取っていき、順調に進んでいく…暫く進んでいくと馬に乗った一騎の老騎士が現れた。

 

「カムイ様! それにロウも!」

 

「爺さん!?」

 

「ギュンター!?」

 

 谷底に落ちた筈のギュンターの爺さんだった。そっかこの国と外は繋がってっから、爺さんが此処に来ていてもおかしくないか。

 

 一先ず安心したが話は後、今は魔物共を懲らしめるのが最優先だ。

 

 爺さんの持つ槍が敵の大将格である怪物を貫き、怪物の身体は霧が晴れたように霧散した。

 

 俺達は爺さんにこの国の事を説明し、爺さんに関してもあのハゲにやられたにも関わらず軽傷だった。

 

 俺はどうしてもそれに違和感を感じたが、爺さんはカムイ王子に身の上話をする…あのハゲに襲われた理由についてだ。

 

 嘗て戦場にて多くの武勲を立てた爺さんはガロン(老害)との謁見を許され、竜の血を受け賜ると言う絶好のチャンスを与えられた。

 

 本来なら一介の騎士としては喉から手が出る程欲するものだが、本人はそれよりも家族との生活を選んだ。

 

 流石にガロン(老害)も怒り狂ったと言う話もあったと言う、でも確か爺さんの故郷は────

 

 それを口走ろうとした瞬間嫌な悪寒を覚え、それを助長するかのように三つの影が現れる。

 

「…去りなさい。…此処は貴方達のいるべき場所ではありません」

 

 その内の一人────女性らしい身体をした影は魔道士と名乗り、御付きの部下────透魔兵を嗾ける。

 

 お美しい魔道士を口説きたいがそれ所じゃねーから、一先ず元の世界に戻る事にした。


 

 どうにか全力疾走で走り切り、気が付けば無限峡谷────即ち元の世界に俺達は戻って来られた。

 

 先程の魔道士の忠告はある意味正解だったと思う、がむしゃらに挑んだら一瞬であの世行きだったな。

 

 でもあの魔道士、何処かで聞いた覚えがあるんだよなぁ…そんな事を考えていたらアクア王女が呟いた。

 

 白夜が暗夜に、暗夜が白夜に。その時、扉は閉じられる。

 

 そんな言い伝え…書物の中の一文に書かれていたのを覚えている。

 

 確か数十年に一度、二国の空の色が入れ替わる現象だったか。

 

 白夜が夜に覆われ、暗夜が光に照らされるとかなんとか。爺さん曰く、それは数ヶ月もしない内に起こるらしい。

 

 無限峡谷の扉は数十年ごとに開閉を繰り返している、次にその時が起きれば透魔王国への道が閉じられる…。

 

 ちょっと待て! 流石に其処まで我慢出来ねーぞ!? 下手して失敗したら扉を開けるまで、ずっと俺ら爺さんと婆さんだぞ! 

 

 と言うか一生モテない未来しかないとか…死んでもごめんだわ! 

 

「…なら、それまで両国の皆に協力を求めればいい」

 

 ……おいおい、突然何言い出すんだ? このピュアな王子様は。

 

 向こうの事は話せねえし、先ず軽く門前払いじゃね? 

 

 でも何方かを味方にして見出せなかった、両国を救う道…その為に味方を増やす。

 

 端から聞いてみれば馬鹿らしい空想だ、だがもしそう言う可能性を考えてしまうと…静かに笑い声を上げちまう。

 

「…ハハハハハ、本当に参ったぜ王子…否、カムイ! あんたは何処まで人を垂らし込めば気が済むんだろな」

 

 もう腹は括った、俺も両国が敵に回ろうとあんたを死ぬまで守り抜く。

 

 爺さんやフェリシアも俺と同じ事を考えていたのか、その提案に乗る事にした。

 

 そして俺達は白夜王国に向かい、仲間集めの旅が今始まった。

 

 目指せ打倒ハイドラ、目指せモテ期! 

 

 ……そう叫んでたら、爺さんから深い溜息が漏れた。

 

 その可哀想な奴…的な眼差しやめい! 

 

 続



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