とある神父の布教活動 (ブラジル)
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第一話:聖職者と学園都市


筆者の知能指数が著しく低いので、拙い文章となっております。
それでも『わたしは一向にかまわんッッ』という方は、生暖かい目で読んでください。




『Love&Peace』

 

 

 戦争や暴力が蔓延る御時世に、この言葉を有言実行しようとするのは不可能に近い。

 口では幾らでも言えるものも、いざ行動に移すと『個の力』のみでは到底成し遂げられない。例え『個の力』を集結させようにも、それを上回る醜悪な存在により成し遂げられないのが現実であり、真理である。

 だが、そんな無理難題な壁を一人の神父によって、見事に破壊されつつあった。

 

 

 

~~~

 

 

『学園都市』

 

 

 その名の通り、広大な土地に幾つもの教育機関が設けられており、外界より何十年も先のテクノロジーを誇ると称される最先端科学都市。

 その他にも能力研究を旨とした研究機関や学園都市に住まう人間のフラストレーションを発散させる為の娯楽施設等々──正に、いた競り付く競りだ。

 そんな輝かしい事態を背景に、裏では人間達の欲求と狂喜が暴走し、街の秩序を崩していた。

 能力を持たない存在──スキルアウトの暴走、研究という名目で非人道的な人体実験が蔓延り、現に学園都市内での死傷者や行方不明者等は少なくはない。

 その様な暗い背景を持つ学園都市の前に、1人の男が佇んでいた。

 

 

「ここが…学園都市…」

 

 

 男は漆黒の神父服を身に纏い、金の延べ棒にも負けず劣らずの艶やかな金色の髪を後ろに流し、鼓膜に優しく響く低音ボイスにより落ち着いた雰囲気を醸し出されていた───が。

 

 

「待っていなさい!邪悪なる存在よ!今、私が貴方達に『love&peace』を御見舞いして差し上げます!」

 

 

 突然、大声を出した神父に周囲の人々が不思議そうに眺める。

 

 

「そう!この無法地帯を救うには『Love&Peace』しかない!No,life.No,Love&Peace!!」

 

 

 無法地帯までとはいかないが、確かに学園都市は決して治安の良い所ではなかった。能力を使い犯罪に手を染める者やスキルアウトが街に溢れ返っている。

 善は急げと言わんばかりに、アダムの奇行に怪訝な表情で眺める警備員に近寄る。

 

 

「申し訳ありません、この中に入りたいのですが」

 

「…もしかして宗教関係の方ですか?」

 

「御察しの通り。神父の──」

 

 

 自己紹介をしようと思った矢先、警備員は何を思ったのか神父を小馬鹿にする様に苦笑する。

 

 

「この学園都市は科学が発達した街ですよ。宗教を広めるには適していませんよ?」

 

 

 小馬鹿にされているにも関わらず、神父は柔和な笑みを崩す事なく、警備員の話を静かに聞き入れていた。

 

 

「そもそも、この学園都市は観光地みたいに誰でも気軽に入れる訳ではないんですよ。明確な理由、若しくは学園都市在住の知人がいましたら、身元引き受けという形で迎えに来て頂かないと」

 

「ご心配に及ばずとも、私は決して怪しい者ではありません」

 

「ですから怪しい怪しくないの問題ではなく、規則ですので──」

 

 

 警備員が真っ当な理由を述べ、神父に忠告する。

 だが、当の神父は何を思ったかポケットから何かを取り出し、警備員に『ズィッ』と差し出す。

 

 

『TSU○AYA会員証』

 

 

「沈黙は了解と捉えて宜しいですね?では、これにて失礼をば…」

 

「待ちやがれ」

 

 

 警備員が神父の頭を鷲掴みにする。

 

 

「あたたた…。何がいけないのでしょうか?」

 

「アンタ馬鹿だろ」

 

「何故です?」

 

「いや理解出来るだろ!?常識的に考えて!」

 

 

 警備員の堪忍袋の緒が切れたのか、地団駄を踏み出す。

 

 

「やれやれ、ワガママBoyですねぇ」

 

「何で呆れてんの!?こっちが呆れたいんですけど!」

 

 

 神父はまたも警備員に向けて何かを突き出す。

 

 

「河童捕獲許可書です、しかもゴールド」

 

「知らんがな!というか、河童の捕獲にゴールドなんてあるのか!?」

 

 

 いよいよ埒が明かなくなったのか、警備員は不審者を捕らえる為の警棒に手を伸ばす。

 突如、胸元のトランシーバーからノイズが洩れ始める。

 神父に動かずジッとしている事と釘を刺すと、トランシーバーに向けて話し始める。

 

 

「──はい…はい、それなら目の前に」

 

 

 ノイズ混じりの声により警備員しか聞き取れ無かった為、神父は他に身分を証明出来る物はないかとポケットから色々と取り出す。

 中には『自爆スイッチ』と表記された起爆スイッチ的な物が見えたが、警備員は面倒事は御免だと言わんばかりに目を逸らす。

 

 

「えっ!?で、ですが……」

 

 

 突如、警備員は素っ頓狂な声を挙げるも、次第に落ち着きを取り戻し、トランシーバー越しの声を聞き入れる。

 やがてノイズが止み、自爆スイッチを携えた神父に目を向ける。

 

 

「…どうぞ、お入りください」

 

「おや、よろしいので?」

 

「上から命令ですので。良いですか?くれぐれも可笑しな行動は慎むように!あと、コレは没収です!」

 

 

 神父から自爆スイッチを引ったくると、オモチャを取り上げられた子供の様に泣きそうな顔をしながら、覚束無い足取りで神父はゲートへ歩を進める。

 

 

~~~

 

 とある学区のビル。

 そこは窓が無く、人間が踏み入れるのを拒んでいるかの様に佇み、街行く人も近付く事を避けていた。

 そんなビル内に、巨大なビーカーの中で一人の『人間』が逆さまの状態で入っていた。

 学園都市の最高権力者にして学園都市統括理事長──アレイスター・クロウリー。

 中世的な顔付きにより魅惑的且つ懐疑的な雰囲気を纏う『人間』はビーカーの表面に映し出された映像を静かに眺める。

 映像には、先程ゲートで一悶着を起こした神父が意気揚々と学園都市を闊歩している姿が映し出されていた。

 

 

「待っていたよ、君の事を」

 

 

 そう呟き、ゆっくりと口端を釣り上げる。

 

 

「この学園都市で君がどの様な働きをもたらすのか…見物させてもらうよ──アダム・ロクスバーグ」

 

 

 映像内のアダムが足を止め、虚空を眺める。

 だが、視線はアレイスターと重なる。

 その事が不思議に思ったのか、アレイスターは小さく感嘆の声を洩らす。

 

 

『やだ…あたしってば覗かれてる!』

 

 

 唐突にオネェ口調になり、身体をモジモジと捩らせるアダムにアレイスターは真顔になり口を閉じた。

 

 

~~~

 

 

 アダムが去って数分後、警備員は持っている自爆スイッチの処遇を決めかねていた。

 自爆スイッチとは何か?というか、自爆する必要があるのか?

 そんな疑問が湧き上がり、ふと一つの疑問が生まれる。

 

 

『そもそも、本当に自爆するのか?』

 

 

 人類の進化の原点、そして罪を造り出す現象──好奇心。

 今まさに、警備員は自制心と好奇心で思考を廻らせていた。

 

 

「…ちょっと押してみるか」

 

 

 そう言うと、軽い気持ちでスイッチを押す。

  瞬間、目映い閃光が警備員を包まれ、警備員は後悔する。

『あーぁ…こんな間抜けな死に様か』や『来世は自爆スイッチは押さないようにするか』という遅すぎる後悔を思い、静かに死を受け入れる。

 

 

『──え?本当に自爆すると思った?』

 

 

 と、先程聞いた様な声がスイッチから流れ始める。

 

 

『後悔した?それとも腹立った?ねぇ、どんな気持ち?ねぇねぇ、どんな気持ち?自爆する訳ないって思っ───』

 

 

 自爆スイッチを力の限り地面に叩きつけると、見るも無惨に粉々になっていく。

 

 

『次会ったら生きて帰さん』

 

 

 そう誓うと、粉々になった自爆スイッチを何度も踏みつけた。

 

 

 




皆さんに何か辛い事があった時に、この小説を思い出して鼻で笑って貰える様に執筆させて頂きます。


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第二話:聖職者と魔術師

第一話から評価を付けて下さった方、ありがとうございます。
これを糧に、引き続き執筆させて頂きます。




 

 無能力者、上条当麻は絶望していた。

 学生の至福の行事である『夏休み』に入ったにも関わらず、初日から合法ロリ教師からの補修宣告。否、それは百歩譲って許せる。

 上条が許せないのは、今朝起きた不幸のオンパレードだった。

 真夏の必須アイテム、エアコンの故障。それに引き続き、冷蔵庫も故障した弊害なのか水漏れを起こした為、制服や借りていた漫画が水浸しとなってしまった。

 常人なら陰謀か呪いかを疑うレベルだが、上条は違う。24時間365日、際限なく不幸に見舞われる体質の上条にとっては『軽いボディブロー』位である。

 とは言いつつも、それなりにショックは受けたのか目尻に涙を溜めつつ、いそいそと補修に向かう準備を行う。

 そんな中、ベランダに垂れ下がっている"二つ"の物体が視界に入り込む。

 

 

「あれ…?布団なんか干したっけ?」

 

 

 だが、ベットには皺だらけの布団がある。

 再びベランダにある物体に注意を向けると、物体の正体が判明した。

 ───ヒトだ。

 急いで窓を開け、干された布団の如く垂れ下がった人間に近付く。

 一人は純白の修道服を着た小柄な少女。もう一人は、漆黒の神父服を身に纏い、かなりの高身長で──何故か黒焦げだった。

 状況が掴めず、口を開けたまま硬直する上条の気配を察知したのか、二人はゆっくりと俯かせていた顔を上げる。

 

 

「おなか…へった」

 

 

 唐突にシスターの少女はそんな事を呟いたかと思うと、同じ様に垂れ下がった神父服の男──アダムは切ない瞳で上条を見つめる。

 

 

「し、新聞取ってください…1ヶ月で良いんで…」

 

「新聞屋さんなの!?」

 

 

~~~

 

 

 とある学区の裏路地、純白の修道服を着た少女は息を切らしながら走る。

 追っ手を撒く事が出来ず、追い詰められた先がこの裏路地となり、しかも袋小路──完全に追い詰められた。

 少女が息を整える暇も無く、影から人影が忍び寄る。

 

 

「おや、私以外にもこの街に聖職者がいたとは」

 

 

 影から出てきたのは柔和な笑みが印象的なアダム・ロクスバーグだった。そして、何故か頭の上にバナナの皮を乗っけていた。

 自身を追っている人物では無かったが、風貌から判断するに聖職者或いは魔術師の可能性も考えられる。

 見慣れた顔の追っ手では無かったにせよ、少女が警戒を解く事は無かった。

 

 

「あなた…だれ?」

 

「私はアダム・ロクスバーグ。この学園都市に『Love&Peace』の尊さを教える為に馳せ参じました……失礼ながら、貴女は?」

 

 

 少女はアダムが織り成す人畜無害な雰囲気につい警戒が緩んでしまった。

 

 

「イ…インデックス…」

 

「インポッシブル?可愛らしい外見ですのに、何とも手に汗握るお名前ですね」

 

「ちがうんだよ!インデックスなんだよ!」

 

「漫才はそこまでだ」

 

 

 その声にアダムが振り向くと、袋小路から唯一抜けられる道を阻むかの様に青年が立ちはだかる。

 炎の如く紅い髪、アダムよりも高く大木の様な青年は旨そうに煙草を吸うと空中に紫煙を吹き出す。

 インポッシ──インデックスという少女はすぐにアダムの背後に隠れると怯える様に青年を眺める。

 

 

「色々と手間取ったが…まぁ、いい。悪いが、その子を引き渡して貰えるかい?」

 

 

 口調や煙草を吸う動作は軽々しいが、目付きは違う。

 スキルアウトの様なチンピラレベルでは成し得ない鋭い眼光にインデックスは完全にアダムに隠れてしまう。

 対して、アダムは険しい表情で青年を見据える。

 

 

「いけませんねぇ。未成年である貴方が喫煙とは」

 

「…!ほぉ、よく分かったね」

 

「貴方の肌質、声色、手の甲の皺から判断しただけです。別段、難しい事ではありません」

 

「大した推理だね、名探偵さん。……それで、引き渡して貰えるかい?」

 

 

 再度、紫煙を吹き出し催促する青年にアダムは出した答えは───。

 

 

「断固拒否します!幼い少女を拐い、あんな事やこんな事…つまりは、不純異性交遊を目論む貴方の魂胆を見逃す訳にはいきませんッ!!」

 

 

『不純異性交遊』という単語を聞き、インデックスは更に縮こまり、小動物の様にガタガタと震えだす。

 先程まで余裕綽々な態度を見せた青年は取り乱してしまい、慌てて否定する。

 

 

「ち、違う!断じて違う!部外者には分からない深い訳があるんだ!」

 

「例えマリアナ海溝の如く深い理由があろうとも!貴方の見え透いたエッチィ行いは阻止してみせます!!」

 

 

 そう言うと両腕を天高く伸ばし、左足曲げて勢い良く上げた。

 俗に言う、『荒ぶる鷹のポーズ』である。

 

 

「さぁ、掛かって来なさい!この構えは絶対防御の構えにして最強の矛を併せ持った究極の構えッ!」

 

 

 と言いつつ、早くもグラグラと身体をふらつかせるアダムに流石の青年も目が点になる。

 

 

「いや…だいぶ隙だらけだと思うが?」

 

「いい…から…!早…く…早くして…バランスが…!」

 

「体幹弱すぎないかい?」

 

 

  『やれやれ…』と小さく呟くと、咥えていた煙草を地面に捨て、何やら詠唱の様なものを唱え上げる。

 すると、青年の右手に小さな火が芽生え、やがて蜃気楼を起こす程の火炎へと生まれ変わった。

 

 

「君には悪いが始末させ──」

 

「先手必勝!目眩ましッ!」

 

 

 すぐさま懐から350mlサイズの空き缶の様な物を地面に転がした。

 余談だが、『道具使うなら構える必要ないだろ!』と青年とインデックスが静かにツッコミを入れていた。

 アダムが放ったのは所謂、閃光手榴弾。青年が閃光により視界が封じられている間、逃走を計ろうと企てていた───ハズだった。

 

 

『Hand Grenade Made inア・ダ・ム♡』

 

 

「「「あっ」」」

 

 

 そして爆発、吹き飛ばされる三名。

 アダムお手製の手榴弾は数倍の爆発力を持っていたせいで、魔術師は勿論の事、アダムとシスターも爆風により遥か彼方へ吹き飛ぶ。

 十数秒の飛行時間だったが、二人の中では途徹もなく長いフライトだと錯覚し、そのままとある一室のベランダの柵に腹から不時着した。

 後にアダムは『火薬の量を盛大に間違えちゃった☆』と語った。

 

 

「…神父様?」

 

「はい?」

 

「おなか…へったね」

 

 

 そう言うと、二人は事切れたかの様に顔を俯かせた。

 

 

~~~

 

 

 爆発から数分後、一人の女性がビルを飛び交いながら弾丸の如く疾走する。

 女性の胸中でざわめく不確かな不安感、杞憂であってくれと切に願いながら、目的の場所へ辿り着く。

 辺り一面が焦げ、硝煙に似た臭いが女性の鼻腔を刺激する。

 

 

「ステイル…ではないようね。いくら何でも、ここまで目立つ様な真似は──」

 

「か…神裂……」

 

 

 神裂という女性は弾かれた様に振り向き、声の聞こえる方へ顔を向ける。

 そこにいたのは、先程の赤髪で高身長の青年だった。

 

 

「ステイル!一体何が!?」

 

「ふっ…あの…神父……め…」

 

 

 赤髪の青年、ステイルはそう呟くと、一気に身体を脱力させた。

 神裂はステイルを強く抱き締め、必死に呼び掛ける。

 

 

「ステイル!何があったのですか!ステイル!?ステェェェェイィィルッ!!」

 

 

 腹の底から仲間の名を呼び掛ける。

 神裂に出来る事──それは仲間の労を労う為、聖母マリアの如く慈愛を注ぎ込む事のみ。

 しかし、神裂は気付いていなかった。自身の豊満な双丘によりステイルの顔を圧迫している事に。

 

 

(い、息が…!こんな形で殉教したくない…!)

 

 

 必死に神裂の背中を叩き、ギブアップ宣言するも当の神裂は更に強く抱き締めた。

 薄れ行く意識の中、神裂の叫びを子守唄にステイルの意識は呆気なく堕ちて行った。

 

 

 




ステイルは死んでないよ。ホントだよ。


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第三話:聖職者と無能力者


前話での神裂の口調が合ってるかイマイチ自信がない……大丈夫…だよね?



「───という涙無しでは語れない話でして……!」

 

「どこがだよ!単なる神父さんのミスじゃん!」

 

 

 涙を滝の様に流すアダムに対して上条はキレのあるツッコミを入れた。

 インデックスの再三に渡る食事の要求に折れ、朝食ついでに上条は二人から事の顛末を聞いていた。

 

 

「大体、いきなり魔術なんて言われても『あぁ、はい。そうですか』って納得出来る方がどうかしてるよ」

 

「むぅ…あるもん!あるもん!あるもん!あるもん!魔術はあるもん!」

 

「だったら、その魔術を見せてみろって!お前も魔術師なんだろ?」

 

 

 先程まで威勢良く──というより、子供が癇癪を起こした様に騒いでいたインデックスは押し黙り、静かに呟く。

 

 

「魔力がないから…使えない」

 

「ほらな?それ見たことか」

 

「それなら君だって何か出来るの?例えば、炎を出したり念動力とか」

 

「うっ…それを言われると耳が痛い…」

 

 

 というのも、上条自身は炎を生成したり卵を念じて動かす事すら不可能な"無能力者"。魔術を信じられない気持ちは変わらないが、科学的異能を披露出来ない事に歯痒さを感じた。

 唯一、自分が持っているものは、その異能な力を無にする右手──"幻想殺し(イマジンブレイカー)"のみ。

 

 

「それにしても、Ms.インデックスは良い修道服を着ていますね。綿100%なのですか?」

 

「それだけじゃないんだよ。布地や刺繍、この服を構成する有りとあらゆる物が使用者を保護する為に計算されてるの。しかも強度は法王級!」

 

「おぉ!それは素晴らしい!何処で販売されているのですか?ユ○クロ?し○むら?」

 

「い、いや非売品なんだよ…」

 

 

 その時、上条に電流走る。(比喩的表現)

 もし、その修道服が本当に異能であるなら、自身の能力を証明出来るのではないかと。逆に、触れて何も起こらないなら魔術をインチキだと証明出来る。

 早速、上条はインデックスに『修道服を右手で触り、自分の能力を証明する』と提案した。出来るものなら、やってみろと言わんばかりに快く承諾したインデックスと未だに『ねぇ~何処ぉ。もしかしてヤ○オク?Am○zon?』としつこく質問するアダム。

 

 

「じゃあ…触るぞ」

 

 

 何とも淫靡な語感を漂わせながら、上条の右手が修道服に触れる。

 ───が、何も起きない。

 

 

「何も起きねぇ…って事は、やっぱインチキじゃねぇか!」

 

「ふーんだ!君の力こそインチキなんじゃない?何故ならシスターはウソつかないから!はい論破!」

 

「いや、全然論破してないっての!屁理屈通り越して開き直りだろ!」

 

 

 ギャーギャーと騒ぐ二人とは正反対にTVの占いコーナーで静かに一喜一憂するアダム。

 ───そんな中、インデックスの修道服に異変が起きる。

 ハラリ…とインデックスの身体を纏う布が音を立てず床に落ちる。

 一糸纏わぬ姿を晒した事にインデックスが気付いたのは、上条の凍り付いた表情とアダムの『Oh…』という悲し気な呟きだった。

 修道服を台無しにされた事よりも裸体を晒した事の方がインデックスの羞恥心は増大し、躾が不十分な猛犬の如く上条の頭に噛み付いた。

 

 

「ギャャアァァァ!止めてくれぇぇぇ!!」

 

 

 インデックスが上条の頭を齧る傍ら、アダムは手慣れた手つきでせっせと修道服を修繕していた。

 

 

~~~

 

 

 インデックスは修繕された修道服を身に纏い、嬉し気に回転する。年相応にはしゃぐインデックスは確かに可憐であり、人を和ませるオーラを感じさせた。

 だが、修道服の背中には"道産子パワー"と金色の刺繍が施されており、先程のいざこざで辟易していた上条は敢えて見てみぬ振りをした。

 昨日の魔術師の件と修道服を修繕した事により、すっかりアダムに懐いたインデックスは質問を投げ掛ける。

 

 

「そういえばアダムさんはどこの宗派?イギリス清教?それとも……」

 

「いえ、私はどこにも所属しておりませんので。敢えて言うなら"Love&Peace教"ですかね」

 

「あってたまるか!そんな珍妙な宗派!」

 

 

 キレのあるツッコミを入れる上条。早速、ツッコミ要員としての頭角を露にしていた。

 アダムの言葉をただの冗談だと上条は軽く受け流したが、インデックスは違った。

 小刻みに震えだし、その振動でテーブルもガタガタと震える。

 

 

「ア、アダム神父…もう一回聞くんだよ?あ、貴方の宗派は?」

 

「…?基本的にどこにも属していませんが、敢えて言うなら"Love&Peace教"とだけ──」

 

 

 インデックスは脱兎の如く部屋の隅に逃げ、頭を抑えだす。

 まるで、猛禽類に狙われた小動物の様に。

 

 

「ま、ままっまさか…ホッホントに実在するなんて…」

 

「おいおい…一体どうしたんだよ」

 

 

~~~

 

 

 遠い昔、イギリス清教の管轄内には多数の村があった。

 当然、管轄内の村にはイギリス清教は恩恵を与え、村民にはイギリス清教への信仰を義務付けていた。

 正に、持ちつ持たれつの関係である。

 そんな時、一人の神父が村に迷い着いた。

 かなりの長旅だったらしく、不憫に思った村民達は手厚く歓迎した。すると神父はその事に感銘を覚え───、

 

 

『お礼に長旅の話をしたい』

 

 

 と、村民達に自身が体験した長旅の話をした。

 そこからである──歯車が狂い出したのは。

 突如、村民達はイギリス清教への信仰を捨て、謎の神父を師事し始めた。

 当時のイギリス清教の信徒が村民に問いただすと、皆が口を揃えて、こう述べた。

 

 

『我々は世界に友愛と安寧を広げる"Love&Peace教"の信徒となります』

 

 

~~~

 

 

 インデックスの話が終わり、上条はあまりの衝撃に口を大きく開けて言葉を失う。

 アダムは懐かしむ様な表情で虚空を眺めていた。

 

 

「あぁ~、懐かしいですねぇ。長らく村民の方々とお会いしていないので、お元気だと良いんですが…」

 

「ヤ、ヤダなぁ神父さん。まるで、その場にいたみたいな言い方するなんて」

 

「いえいえ。私は実際にその村を訪れ、村民方と交流しましたよ」

 

「…ちなみに、この話は……すっ、数百年前なんだよ…」

 

 

 場の空気が凍る。

 言葉を失う二人をよそにアダムは何かを察知し、鋭い目付きで外に視線を送る。

 

 

「むっ!今、助けを呼ぶ声が…」

 

 

 そう言うと、ベランダの窓を開けて柵に乗り掛かる。

 

 

「名残惜しいですが、私には使命がありますので…これにて失敬!」

 

「待て待て待て!まだ話は──」

 

「いざ!Flyaway!!」

 

 

 綺麗に十字のポーズを取りながら落下し、慌てて上条はアダムが落ちたであろう落下位置を確認する。

 だが、そこにアダムは居らず少し離れた歩道を爆走中だった。

 木枯しの様に忽然と現れ、疑問だけを残して嵐の様に去って行く。上条はただそれだけで疲労感の許容範囲が上限を突き抜けてしまい、へ垂れ込む様にベランダで胡座をかく。

 そんな上条を露知らず、インデックスは未だに震えていた。

 モヤモヤとした心とは正反対の雲一つ無い青空に顔を向けて、小さく溜め息を溢す。

 

 

「不幸だ…」

 

 





次回は風紀委員との邂逅です、お楽しみに。



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第四話:聖職者と風紀委員


キャラの口調がどうだったのか、よく忘れてしまう。
若年性健忘症かな?



 

 能力者が大多数を占める学園都市。

 勿論の事ながら、その能力を善行に行使する者もいれば、その逆も存在する。悪事に手を染める能力者はスキルアウト以上に厄介であり、それが上位能力者なら尚更である。

 しかし『目には目を、歯に歯を』という言葉の通り、能力者には能力者を対峙させ、治安を維持していた。

 その治安を維持する者──風紀委員(ジャッジメント)はアンチスキルと共に日夜、学園都市の秩序を保っていた。

 その風紀委員の一人であり、第177支部に所属する1人の少女が活気溢れる商店街で周囲を警戒していた。

 

「確かこの辺りですの…」

 

 

 まだ幼さを残しているものの、その瞳には確固たる意志を秘めたツインテールの少女──白井黒子。

 学園都市随一の御嬢様学校『常磐台中学』の学生として身を置き、『超電磁砲(レールガン)の露払い』を自称している。

 

 

「しかし、困った話ですの。よもや、ナンパだけで出動する事になるとは…」

 

 

 常日頃から発生する能力者やスキルアウトの鎮圧に比べ、今回は一般人だけで解決しそうな事案なだけに、黒子は今一つ風紀委員(ジャッジメント)としての務めに打ち込めないでいた。

 『時間の無駄』だと思いながら、辺りを見回していると───。

 

 

「それではご一緒に!せーの…『Love&Peace』!!」

 

 

『Love&Peace!!!』

 

 

 視線の先には、自動販売機の上で拡声器を用いて、布教活動(?)を行っている神父服の謎の男。そして、その男を取り囲む様に密集した幾人ものギャラリー。

 

 

「分からない…微塵も理解出来ませんの…」

 

 

 実は白井より先にアダムが現場に到着し、しつこくナンパをする不良に対し"ダイナミックエントリー"で失神させた後、勢いで布教活動を行っていた。

 白井は困惑しながらも責務を果たす為、自動販売機の上でタップダンスを披露しながら布教活動に勤しむ謎の神父に近寄る。

 

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!即刻そこから下りて、広報活動を中止しなさい!」

 

「Love&Peace~♪Love&Peace~~♪♪」

 

 

 アダムは止めるどころか、サビに入ったかの様に歌に熱が入る。

 痺れを切らした白井は一瞬の内に自動販売機の上に移動する。これぞ白井黒子の能力が成せる技、"空間移動(テレポート)"である。

 尚もを気付かず、サビを歌い終えて、ハミングを始め出したアダムに苛立ちを感じ拡声器を引ったくる。

 

 

風紀委員(ジャッジメント)ですのぉぉッ!!」

 

 

 流石のアダムも動きを止め、怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「そんな近くで怒鳴らないで頂きたい。用があるなら普通に呼んでください」

 

「先程普通に言いましたわ!そしたら無視されましたの!」

 

 

 自身がヒステリックに陥った事に気付くと、小さく咳払いをして平静を取り戻し、軽やかに自動販売機から下りる。

 それに続き、アダムもスタイリッシュに自動販売機から下りると、爽やかに髪を掻き分ける。

 

 

「それで、何かご用で?」

 

「今すぐ、この広報活動を中止してもらいますわ」

 

「うっそぉ~!マジぃ!それマジぃ!?ちょぉ~ウケるんですけどぉ~!」

 

 

 古典的なギャル口調でおどけるアダムに思わず頬を引きつらせる。

 

 

「残念ですが、この学区では無許可の広報活動は禁止されてますの。ですので、即刻止めてもらいます」

 

「何故です!?私はただ布教活動をしただけなのに……!何故!!?」

 

「いや、貴方のやり方がトリッキー過ぎるのでは…?」

 

 

 自動販売機の目の前でウ○コ座りしながら項垂れる大人というシュールな絵面は嫌でも目立ってしまう。

 道行くヒトから嘲笑の的にされつつあった白井は、さっさと現場から離れたい一心でアダムの布教活動を中止させようと尽力する。

 

 

「ほら、広報活動は然るべき許可を得てから行ってくださいまし」

 

「やだやだやぁ~だ~!布教し~た~い~!!」

 

「えぇ~い!暴れるな!」

 

 

 白井はアダムの動きを止めるべく、太腿に装着された鉄矢を抜き取ると、自身の能力で鉄矢をテレポートさせてアダムを自動販売機に打ち付ける。

 

 

「さてと、これで大人しく……って、いない!?」

 

 

 自動販売機には、アダムの神父服だけしか打ち付けられていた。

 

 

「危ないではないですか」

 

 

 アダムは白井の背後からニュッと言う効果音を鳴らしながら、頭を出した。

 白井は驚愕した。勿論、あの鉄矢の拘束から一瞬の内に抜け出した事もあるのだが──白井にとってショックだったのは他の事だった。

 

 

「貴方その格好は何ですの!?」

 

 

 アダムはブーメランパンツとネクタイだけを着用した露出が激し過ぎる格好で仁王立ちし、不思議そうに小首を傾げていた。

 色々と言いたい事はあったが、白井はすぐに察知した。

 ───この人、変態だ。

 

 

「貴方、変態ですの!?」

 

「失敬な。服を脱げば裸体を晒すのは至極当然……あ、パジャマ着たままだった」

 

「パジャマ!?ネクタイしたらパジャマになるんですの!!?」

 

 

 アダム曰く『ネクタイを閉めたら頭がボゥッ…として、眠りやすくなるんですよ』と説明しており、それを聞いた者はかなりの確率で『永遠の眠りにつくのでは?』とツッコミを入れている。

 

 

「…抵抗するようなら容赦しませんの」

 

「いえいえ、その様な気は微塵もありません。ただ…」

 

「ただ?」

 

 

 次第に、アダムの顔が真剣な顔付きになっていく。

 

 

「これも平和を望むが故の行動です。行き過ぎた言動だとお思いですが…どうか御容赦ください」

 

 

 先程の言動からは感じられぬ強固で譲る事のない意志を持った雰囲気に白井は沈黙する。

 経緯はどうあれ、アダムも自身と同様に悪を裁き、弱者を救う人間であると風紀委員(ジャッジメント)としての勘が知らせている──露出癖という残念な癖を除いての話だが。

 緊張感で無意識に止めていた呼吸を再開し、アダムに語り掛ける。

 

 

「…分かりましたの、今回は目を瞑りましょう。ですが、今後は適切な処置をした後に広報活動をなさるように」

 

「感謝します。Ms.…」

 

「白井、白井黒子ですの」

 

「Ms.白井、感謝します」

 

 

 一件落着に見えるが、美少女に引き締まった身体を晒しながら(こうべ)を垂れる男性の絵面を『新手の調教かな?』と思い込んだ歩行者達が二人を囲い込んでいた。

 

 

「それでは、今後は気を付ける様に。あと、服は着た方がよろしいかと」

 

「えぇ…人のパジャマにケチ付けるなんて人として…」

 

「変態に人の道理を説かれたくないですの!」

 

 

 変態におちょくられる風紀委員(ジャッジメント)、そんな光景を見ていた一般人は生暖かい眼で白井を応援していた。

 

 

~~~

 

 

「やっぱり心配ですわね……」

 

 

 アダムと別れ、第177支部の帰路へつく途中の白井はまだ安心出来ずにいた。誠実であり変態という性質(タチ)の悪すぎるアダムが大人しく言う事を聞くのか自信が湧かず、時折アダムを追跡しようかと思考を巡らせていた。

 その矢先、白井の携帯が鳴り出す。

 

 

「はい、もしもし」

 

『あ、白井さん。パトロールご苦労様です』

 

 

 電話越しから聞こえてきたのは、まるで飴玉を転がす様な甘ったるい声色をした少女だった。

 

 

「初春?どうしたんですの?」

 

 

 声の主は、白井の同僚兼パートナーを務める初春飾利だった。彼女はレベル1の低能力者だが、ハッキング技術は中学生とは思えぬ程の卓越した技量を持っており、主にそのハッキングを用いて白井のバックアップに回っている。

 

 

『実はまたトラブルが……』

 

 

 ハァ…と思わず溜め息が漏れ、天を仰ぐ。

 せっかく変態の処理を終えたかと思えば、追加の出動要請。いくら義憤に燃えている白井でも、身体が疲れを感じていると溜め息が出るのも無理はない。

 

 

『あの…大丈夫ですか?』

 

 

「えぇ…平気ですの。それで、内容は?」

 

 

 出来れば、能力者やスキルアウトの鎮圧に赴いてアダムによって蓄積されたストレスを発散させたいと、風紀委員らしからぬ考えが芽生え、その考えを掃き飛ばす様に頭を振るう。

 

 

『実は…神父様が清掃ロボをロデオのように乗りこなしながら、布教活動をしているらしくて…』

 

 

 沈黙する白井。それを不思議に思ったのか、電話越しの初春は何度も白井の名を呼び掛けるも、白井はただ身体が震わせているだけ。

 

 

「全っ然反省してないですのぉ!!!」

 

 

 この後、白井はアダムの首根っこを掴みながら風紀委員(ジャッジメント)本部へと連行した。

 

 

 





次回は、ツンデレの人です。


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第五話:聖職者と第三位


自分の中では一ヶ月に一話は投稿しようという意思を簡単に挫けちゃいました。
筆者は意思が弱い、はっきりわかんだね。




 風紀委員第177支部にて、黒子は苛立ちを隠さない表情を浮かべていた。その諸悪の根元である変質者(アダム)は湯呑み注がれた緑茶を作法良く喉に流し込み、舌鼓を打っていた。

 

 

「ん~…この"緑茶"と言うものは良いものですねぇ。紅茶やコーヒーには感じない安らぎを感じます」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 

 『和むな!』と口には出さず、花冠を頭に乗せた少女に目で訴え掛けるも、花冠の少女とアダムは和やかな雰囲気を醸し出していた。

 ちなみに、この花冠の少女こそが初春飾利なのだが、アダムの物腰柔らかい態度のせいで変質者に見えずにいた初春はうっかり茶菓子を出してしまい、今に至る。

 

 

「そして、この"お煎餅"…実に旨い!しかも歯が鍛えられる!」

 

「いい加減にするんですのぉー!!」

 

 

 白井は『ウガーッ!!』と吠える様に、獣の如く怒り出す。

 

 

「まぁまぁ、そう怒らず。ほら、眉間に小皺が…!」

 

「えっ!うそッ!?」

 

「嘘ですけど?」

 

「チクショー!!」

 

 

 アダムはそれを見て愉快そうに『HAHAHA』と笑い、初春は苦笑を浮かべていた。

 連行されたにも関わらず、茶を飲んで和むだけで無く、おちょくった態度を取る黒子はついつい腹の底からシャウトしてしまう。

 髪をグシャグシャと掻き乱す黒子とそれを必死で止めようとする初春を見て、ようやく話す気になったのか小さく咳払いをする。

 

 

「それで…何故、私を連行したのでしょうか?」

 

 

 そう言うと、某特務機関の総司令がよく取るポーズで訊ねる。

 

 

「…この際、その上から目線な態度は放っておきますの。あなた、先ほどの忠告を全然聞いてませんの?」

 

「聞いておりましたとも。確か『パソコンキーボードは便座の五倍も汚く、ゴキブリも避けて通るレベル』…でしたね?」

 

「全然違う!というか聞きたくなかった、そんな嫌な雑学ッ!!」

 

「あの~…良ろしければ、何で清掃ロボの上に乗ってしまったか教えてくれませんか?」

 

 

 これ以上、埒が明かないと悟った初春は出来るだけ丁寧にアダムに尋ねる。

 アダムは先程のポーズを保ちながら、神妙な面持ちで顔を伏せる。

 

 

「話せば長くなります。あれは20年前…いや、数十分前の出来事でした」

 

「いちいち小ネタ挿まないと気が済まないんですの!?」

 

 

~~~

 

 

 時は幕末。

 黒船の来航により───。

 

 

「遡りすぎですのぉ!!」

 

「いえ、私の生い立ちを漫画にしますと"ゴ〇ゴ13"を超える程の長編となるので。これぐらい過去に戻らなくては」

 

「何で清掃ロボに乗ったのか聞いてますの!ぶっちゃけ、貴方の生い立ちなんて死ぬ程興味ありませんの!!」

 

 

 『やれやれ、せっかちですねぇ…』と悪びれる様子も無く呟くアダムは素直に数時間前の出来事を話し始める。

 

 

~~~

 

 

 数十分前、アダムは黒子と別れた後、当ても無くただ気の向くままに歩を進めていた。

 黒子が別れ際に言った『TPOを弁えて』という言葉を胸に、次なる布教に意欲を高めていたが、気持ちとは裏腹に身体は不調を訴え始める。おもむろに靴と靴下を脱ぐと靴擦れを起こしていた事に気付く。

 というのも、不眠不休で遥か辺境の地から学園都市まで徒歩でやって来た訳で、怪我を負う──というか靴擦れ程度で済んだ事自体が奇跡だった。

 

 

「おやおや、私のMr.アキレウスが悲鳴を挙げていましか。いやはや、参りましたねぇ」

 

 

 布教には全身全霊を以て取り組むアダムではあるが、久方ぶりの休憩を挟むのも悪くないと考え、何か手頃なベンチはないかと周囲を見渡す。

 

 

『ガーガーピー』

 

 

 すると、今にも壊れそうなポンコツな音を奏でた清掃ロボがアダムの前を横切る。

 忙しなく清掃活動に勤しむ清掃ロボにアダムは瞳を輝かせながら興味深く眺める。

 

 

「おお!よもや"全自動腰掛け機"を生きてる間に拝めるとは!流石は学園都市と言ったところでしょうか…」

 

 

 『じゃ、遠慮なく』と呟くと、清掃ロボの上にチョコンと座り込む。

 

 

『…!ガァーピィィピィィィィ!!』

 

「お、おぉッ!?」

 

 

 突如、耳をつんざく様な機械音を鳴らし、アダムを振り落とさんと右往左往する。その突然の出来事に流石のアダムも驚いていたが―――。

 

 

「Yaaaaa!Fooooooooo!!」

 

「スゲェあの神父!清掃ロボを乗りこなしてるぞ!?」

 

 

 最終的にテンガロンハットを被りながら、清掃ロボをロデオの如くノリノリで乗りこなしていた。

 

 

~~~

 

 

「―という訳です。続きはWebで」

 

「…一つ質問よろしくて?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「貴方、本当に神父なんですの!?」

 

「失敬な。私は"神父汁"100%の純然たる神父ですよ」

 

「神父汁って何!?そんな果汁100%みたいに言われても!」

 

 

 律儀にツッコミを入れる黒子に対して律儀に神父汁について説明するアダムの板挟みに初春はアタフタと二人を見守るしか出来ないでいた。そんな中、アダムはおもむろに握り拳を作り強く握り締めると、手の間から真っ黒なドロドロとした液体が滴り落ちる。

 その光景を唖然とした表情で眺める二人に対し、何故か得意気に鼻を擦るアダム。

 余談だが、神父汁は重油に近い成分らしい。

 

 

「と、ところで…神父様は何で学園都市で布教しようと思ったんですか?」

 

「そうですの。科学が発展しているこの学園都市で宗教を広めるなんて」

 

「ふふふ……甘いですよ、お二方」

 

 

 アダムの目が文字通り『キラン』と怪しげに光る。

 

 

「私は単に宗教を広めるだけに来た訳ではありません」

 

 

 意味有り気に言葉を濁すアダムに白井はゆっくり鉄矢に手を伸ばし、警戒し始める。

 テロ・洗脳──この第177支部を土台に学園都市の征服を目論んでいるのではと、職業病とも思える考えが脳裏を過る。

 

 

「私は…」

 

「わ、私は…?」

 

 

 アダムは急に立ち上がり、両腕を大きく広げ顔を上に向ける。

 

 

「私の目的は"Love&Peace"!世界を慈愛に満ちた素晴らしき世界にする為ここに来たのです!!」

 

「…はい?」

 

「へぇ~!凄いですね!」

 

 

 羨望の眼差しを向ける初春と拍子抜けしたのか白けた表情を見せる白井。

 

 

「今!世界は戦争や暴力による愚かな行為で多くの尊い命が失われています!!」

 

「まぁ、確かに…」

 

「その他にも!麻薬・人身売買・テロリズム・強姦・誘拐・人体実験・略奪……淘汰されるべき物を人間自ら産み出してしまい、犠牲となるのも人間ッ!その中で赤ん坊の時で死んでしまう子、両親を亡くし愛を知らず生きていく子供達が大勢います!!」

 

 

 涙と鼻水を濁流の様に流すアダム。

 それに感化されたのか、初春は涙ぐみ、白井は己の浅はかさを呪う。

 今までの言動は捨て置き、アダムの心情と涙には嘘や狂言は見られない。風紀委員としてではなく、一人の人間として判断出来る。

 

 

「そんな理不尽な事が許されて良いのか!?否!絶対に許されないッ!!」

 

 

 アダムは力強く机を『バンッ』と叩く──己の意志と決意の強さを表現するかの様に。

 

 

「だからこそ私は布教し続ける!そう"Love&Peace"を!!」

 

 

 話が終わった頃には、初春は涙をハンカチで拭いながら時折、『ヒクッ…』と声を鳴らして身体を震わせる。白井も瞳に溜まる涙を指で拭った。

 

 

「うぅ…とても心に染みました……」

 

「少し…見直しましたの…」

 

「ちょっと、一体どういう状況よ?」

 

 

 3人が声のする方へ向くと、茶髪の少女が怪しい物を見る様な目でアダム達を眺めていた。

 

 

~~~

 

 

 御坂美琴は混乱していた。今日は暇だったので後輩の黒子達の様子でも見ようと思い、第177支部に訪れたのは良いが、視界に映り込んだのは顔を涙と鼻水で汚した神父服の男と共に涙を流す知り合い達。

 傍から見れば、神父の説法に感銘を受けている様にしか見えずにいた。

 

 

「…お──」

 

「まずっ…!」

 

 

 すると、白井が目をハートの形にして美琴に向かって跳躍する。

 

 

「お姉様ぁぁぁぁぁ!!!」

 

「寄るなッ!」

 

「あばばばばばぁ!!」

 

 

 咄嗟に美琴は電撃を繰り出し、白井をギャグ漫画でよく見られる黒焦げの状態に仕上げた。

 ピクリとも動かない白井に対してアダムが呟く。

 

 

「Your Died.」

 

「まだ死んでませんの!」

 

 

 驚異的なスピードで白井は回復し、体に着いていた黒炭も綺麗に取れていた。

 

 

「それより…誰よこの人?」

 

「申し遅れました、私は愛と平和の伝道師こと、アダム・ロクスバーグと申します。以後、お見知り置きを…」

 

 

 先程の涙は嘘かの様に、アダムは恭しくお辞儀する。

 だが、美琴の反応はイマイチ薄いものだった。理由は、アダムが自己紹介で話した"愛と平和の伝道師"という言葉。

 大方、街にうろつく変質者を黒子当たりが連行して来たのだろうと推測した。

 治安維持だけでなく、変質者の相手もしたければならない───改めて風紀委員の多忙さを実感した。

 

 

「如何でしょう?私と共に"Love&Peace"の真理を貴女が成人式に出席するまで話し合いましょう!!」

 

「あー…結構よ。そういうの苦手だから」

 

 

 アダムの言動が胡散臭いせいか、宗教勧誘を拒否する様に軽く受け流す。こういうタイプはこの手に限ると算段し、美琴はこれで解放されるものと思っていたのだが───。

 

 

「分かりますよ、誰だって最初は恥ずかしい。ですが!それでは前には進めない!!」

 

 

 それでも懲りず、尚も布教を行おうとするアダムに流石の美琴も表情を曇らせた。

 

 

「さぁご一緒に!せーの…"Love&Peace"!!」

 

「やらないわよ!!」

 

 

 美琴が声を荒げながら拒否する。

 

 

「何を遠慮しているのですか?そう謙虚になるから、胸も謙虚になるのですよ」

 

 

『プッツン☆』

 

 

 怒りの沸点は容易く達した。

 

 

「胸は…胸は関係ないだろがぁ!!」

 

「いやぁん、危ない」

 

 

 美琴が電撃を放つが、アダムはオカマ口調で上体を大きく後ろに反らすだけで電撃を避ける。

 自身の地雷を踏み抜くだけでなく、腹立だしい動作で電撃を避けた事に美琴の怒りは増大した。

 

 

「誰か男の人呼んでぇ!」

 

「ピカデ○ー梅田!?」

 

 

 微妙に古いネタにツッコミを入れる初春はさておき、明らかに人をおちょくった態度を見せるアダムを今にでも息の根を止めんばかりに紫電を迸らせる。

 

 

「もう我慢出来ない!アンタ、私に付いて来なさい!決闘よ、決闘ッ!!」

 

「お姉様!?どうか、お気を確かに!この方の言動は目に余るものはありますが、外部からの一般人と──」

 

「良いでしょ。貴女の申し出、慎んでお受けします……ですが!私が勝った暁には"Love&Peace教"に入信し、その教えを骨の髄まで洗脳──ゲフンゲフン…説かせて頂きますッ!!」

 

 

 何やら物騒な単語が聞こえたが、詮索すると引き返せなくなる様な気がした3人は敢えて聞こえないフリをした。

 

 

「なら、外で戦うわよ。付いて来なさい」

 

「HAHAHA!これで信徒が増えると思うと、笑いが止まりませんな!HAHAHAHAHAHA!!」

 

 

 

 鼻息を荒くする美琴、笑い過ぎてむせるアダム、そんな珍妙な二人に慌てて着いてく行く白井と初春は支部を後にした。

 

 

~~~

 

 

 アダムという名の"歩く理不尽"が去った第177支部は静まり返り、唯一聞こえる音は時計の秒針のみとなった。

 その中で、一人の少女──固法美偉は神妙な面持ちでソファーに座り込んでいた。

 

 

「…仕事しろよ……」

 

 

 頭を抱え、柄にも無く落ち込む姿を晒け出す固法を励ます同僚は誰もいなかった。

 

 

 



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