女神世界の新生世代 (Feldelt)
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解説、設定等
多分分かるかもしれない女神科高校の回帰生


前作、女神科高校の回帰生を読んでない皆様も、

前作を読んでいただいた皆様もこんにちは。いや、こんばんは?

それともおはようございます?

 

...挨拶はこの辺にして、どうも、作者のフェルデルトです。

今回は私の処女作である女神科高校の回帰生の超ざっくりした

あらすじをここに記そうと思います。

 

では早速第一章。

 

主人公、凍月 影はとある研究所(後述)からイストワール記念学園に

帰ってくる。そして、個性的な友人達に囲まれ様々な問題に

直面し、それを片っ端から解決していく。

しかし、最後の問題、マジェコンヌ学長の異変解決時に

大怪我を負い、左半身がほぼ機械となる。さらにその後失踪する。

 

第二章。

 

原作二巻二章から始まった二章。

急に決まった旧校舎の解体の宣告とそれに反旗を翻した女神陣営の話。

先の戦いでマジェコンヌ学長の代理である学長代行が、謎の会社

マジック·カンパニーと共に悪事を働く。

マジック·カンパニーの刺客、レルーラ·フォン·ドゥシャの魔の手が、

女神陣営を襲う。

 

第三章。

 

影の義理の妹である凍月 明と、女神陣営の妹達が主の話。

中等部でのゴタゴタと影の過去が語られる。

転化の話や人の闇が語られ始めるのはこの章から。

重要キャラ、仙道 茜もこの章から登場。

 

第四章。

 

妹達が主体の話。

二章で狩り損なったマジック·カンパニー残党や、

物語のラスボスの刺客が現れる話。

全体を通してシスターズが成長する。

 

第五章。

 

ラスボス、虚夜時雨が現れる。

虚夜の策略の上で踊らされる影達。

そして最後に訪れる最後の戦い。

 

 

...うん、ざっくばらんとしすぎだね。

 

特に後半はネタバレがいやだからもうかいつまんでたった数行。

うーん、字数が足りないなぁ...

 

では、今作、女神世界の新生世代の主人公達をご紹介。

...それはやっぱりキャラ説でやるべきだよねぇ、うん。

 

うーむ、女神世界の新生世代。

タイトルの由来はそのまま新たな世代が主役だから。

新世代は大抵強化される。ガン○ムとかはそれが顕著だよね。

 

舞台は女神科高校の回帰生から7年後。

4ヵ国に別れたゲイムギョウ界をまたにかけ、

新たなる敵に二人の少年少女が立ち向かう。

お馴染みのメンバーも登場して、Re;Birth1の

世界を駆け巡る。そして主人公、黒と白は

冒険の果てに自らの出生を知ることとなる。

 

...前作読んで頂ければ、大体話の流れは掴めるかと。

 

それでも、だとしても、今回は!

ちゃんとしたハッピーエンドにします。えぇ。

死人が出ようと何だろうと、ハッピーエンドは、最初から約束致します。

 

--む、矛盾?ナ、ナンノコトカナー

 

では、次回はキャラ設定となります。

今作もよろしくお願いいたします。

 




新作の1話は、もう少し先です。
次回はキャラ設定です。

ごゆるりとお待ちください。


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キャラ設定

名前 黒

 

 

【挿絵表示】

 

 

茜が教師をしているイストワール記念学園第三分校にいる少年。

後述の白の双子の兄。

白は天性の能力があるのに対し、黒はなかなか能力が

発現しなかった。だが、茜に師事することで、戦闘のセンスだけは

白に引けを取らないレベルになった。

第一能力は霧散転移。

制御能力は転生鎧装(リバース·アームズ)。茜が影の鎧装装着と

茜の神姫鎧装のデータを元に作った新型装備。

戦う度に弱点を克服していく造りになっている。

武器は片手剣→二刀流の普通の剣(二章途中から)。

補助魔法を得意としていて、単純な攻撃力は低くとも、

ある程度のモンスターは問題なく狩れる。

そのため素質は極めて高い。

 

スキルとして、各種属性二連撃と、無属性五連撃「バーチカルスター」、

エグゼドライヴとして全属性七連撃「レインボーバニッシュ」がある。

 

 

 

名前 白

 

 

【挿絵表示】

 

 

黒の双子の妹。

白は天性の能力として女神化に酷似した能力を持つ。

そのため、第一能力等は持っていない。

そのせいかどうかは不明だが、かなり兄である黒とは

コミュニケーションをとり、連携はロムラムのそれにも及ぶ。

武器は弓で接近された際にはダガーに分離することもできる。

黒とはうって変わって攻撃魔法が得意であり、無属性魔法ならば

白の右に出るものはロムラムくらいのレベル。

 

スキルは各種属性攻撃魔法と、氷·雷属性魔法「クリスタルスパーク」、

炎·風属性魔法「ボルケーノブロー」、無属性魔法「スフィアバレット」、

弓を用いたスキル、「ストレイト·レイ」がある。

また、エグゼドライヴは弓による拡散攻撃、「アルテミスバレッジ」がある。

 

 

審判の悪魔(ジャッジ·バエル)

突如ゲイムギョウ界に現れた人の業と性を背負う者を名乗る人物。

青と黒の道化師の仮面と、赤く光る左目が特徴。

容姿は主に黒のコートで身を包み、あらゆる事態に即座に対応出来るように

腰と胸にホルスターを着けており、音もなく執行対象を排除する。

それはまるで悪魔ではなく死神のよう。

ゲイムギョウ界全域に指名手配されているもことごとく返り討ちにあい、

遂には女神とも互角の戦いを演じれる化け物。

もっともそれは審判の悪魔が本気を出せばの話。

本来の目的的には審判の悪魔も女神も世界の平和を願う者であり、

一概に敵と決めつけて排除は出来ないのが彼女達を悩ませる。

 

ただ、方法は残虐で、無信仰の人間を見つけしだいに抹殺する。

人の業と性を背負うとは、全ての愚を自らに科すということで、

ゲイムギョウ界にいる数少ない犯罪者も全て消されていることから、

この話においての唯一無二の犯罪者が審判の悪魔となる。

 

スキルや能力などは一切不明。

 

主人公一行vs審判の悪魔は一体どうなる...

 

 




と、いうわけで、次から漸く、ゼロ章が始まります。
女神科高校の回帰生と、女神世界の新生世代は
いかにして繋がるのか。

次回、第ゼロ章一話、「episord01」
お楽しみに。


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ゼロ章 終わりと始まりの間
episord01


女神科高校の回帰生とこの作品を繋ぐ話、ゼロ章。
何故審判の悪魔は生まれ、何故守護女神戦争が起きたのか...

領土問題だけではないんです。

では、どうぞ。


審判の悪魔(ジャッジ·バエル)...突如として現れ、

人間の業と性を背負う者として女神達の悩みの種となっていた。

 

各国では審判の悪魔は他国の回し者だとして女神に陳情する

者が多発し、それでもまだ互いが『そんなことはしないだろう』と、

多少女神同士が疑心暗鬼になっていてもまだ友好的であった。

 

しかし、ここで一つ大きな事件が起こった。

 

--『女神候補生封印事件』--

 

その全容、時は一年前にさかのぼる...

 

 

----------

 

 

「ユニちゃん、見つかった?」

「見つけてたら撃ってるわよ、そういうネプギアもそうでしょう?」

「うん、そうだけど...ここ数年でゲイムギョウ界の犯罪者は1人までに

 無くなるなんて尋常じゃないよ。...何人も犠牲になってるのは

 許せないけど...一概に悪い人とは言えない気がして...」

 

審判の悪魔の目指す所も自分達と同じ平和...

一概にそれは悪と言えるだろうか。

 

「はぁ?そんな甘いこと言わないの。お姉ちゃんの様子を見ると、

 そんなこと言ってらんないでしょ...」

 

ユニに一蹴される。それもそうだろう。

 

「うん、そうだねユニちゃん...ここに、お兄ちゃんがいれば...」

「影さんは...そうね、どんなに心強いのかな...」

 

今はいない兄に思いを馳せる。もう見つからないだろうと

諦めてもいる。しかしあの『凍月 影』ならば、やはり生きてると思いたい。

そんなとき、後ろから声が聞こえた。

 

「ネプギアちゃん...!」

「見つけたわ!審判の悪魔!」

 

それは、審判の悪魔の発見通知であった。

 

「ほんと...!?どこっ...!?」

「えっと、あっち...」

「急いで追うわよ...!」

『うん!』

 

ロムの指指した方へ四人の女神候補生が向かう。

そしてそこには、何人かの遺体と、銃を持つ一人の男...

審判の悪魔がまるで待ち構えたかのように佇んでいた。

 

「ようやく見つけたわよ、審判の悪魔...引導を渡してあげるわ。」

「私達四人が相手です、覚悟してください...!」

「悪いことは...」

「もうさせないわよ!」

 

ユニがC.X.M.B(コンバージェンス·エクスマルチブラスター)を、

ネプギアがS.M.P.B.L(セパレート·マルチプルビームランチャー)を、

ロムラムはそれぞれのステッキを構える。

 

そして、審判の悪魔は...

 

『覚悟、か...元よりしていよう...さて、女神候補生が四人とあらば、

 本気でお相手しよう...私の宿命であるからね...』

 

審判の悪魔のコートが鎧に変質する。

それは、制御能力のそれとほぼ同じであるが、彼女達に

それは関係ない。制御能力とは自らの能力の舵なのだ。

カテゴリークイーンと同じなのである。

 

制御能力を使用した悪魔その姿はまさしく悪魔そのもので、

背中には6本の鋭角的な羽、全身が刺々しく黒い。

武器は銃ではなく、漆黒の剣が二本となる。

 

『人が私を悪魔と呼ぶのなら悪魔でよい...

 私は、人の業と性を背負う者...それこそが悪魔の

 核であることを忘れるなよ...?』

 

こうして、候補生vs審判の悪魔の戦いの火蓋が切って落とされた。




いいじゃん、結果先に書いてても。
プロセスの方が重要です。

感想、評価等、お待ちしてます。


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episord02

大変お待たせいたしましたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!(スライディング土下座

痛てて、膝をすりむいた...
それはともかくとしてようやくepisord02です。

では、どうぞ。


ビームと氷塊が弾幕となり漆黒の悪魔を襲う。

そして悪魔は加速と減速を繰り返す事により四方向からの縦横無尽に

繰り出される弾幕を回避し続けていた。

 

「どれだけ正確に狙っても当たらないなんて...!」

「本当に、悪魔みたいな強さです...!」

 

審判の悪魔にいかなる攻撃も通用していない。

それは、候補生達に焦燥を生んだ。

それを悪魔が逃すはずもなく、

 

『ふむ、この程度か...少しは期待していたが...』

 

懐から拳銃を二丁取りだし、ロムとラムに向け放つ。

 

「わわっ...」

「あっぶないわね!」

 

咄嗟に二人は障壁を展開する。

女神化してさえいれば、銃弾を見切ることは出来る。

見切ってさえしまえば防ぐことも出来る。

だが、悪魔の狙いは防がれることにあった。

 

「いけない、ラムちゃん!」

「えっ...!?きゃあ!?」

 

ネプギアが気づいた時には遅く、障壁を展開するために伸ばした腕を

隠れ蓑にし、二発目の銃弾を撃ち込んだのだ。

当然、銃弾は腕を覆うプロセッサユニットに直撃し、傷つけることなく落ちていくも、

衝撃は防ぎきれずにラムは大きくバランスを崩し、武器のステッキと共に地に落ちた。

 

『ふむ、案外対ショック性はないようだな...』

 

「っく、なかなかエグいことしてくれるじゃない...!」

「絶対許さない...!」

「私が行きます!」

 

ユニとロムの弾幕がいっそう高密度になる。

ネプギアはS.M.P.B.L.を分離し二刀モードになる。

 

『ほう、二刀流か、面白い...!』

「お兄ちゃんの見よう見まねでも、私は!」

 

審判の悪魔は黒々とした長剣を顕現し、ネプギアの実体剣を受け止める。

 

「あなたを、倒します...っ!」

 

ネプギアは受け止められていない銃部分の先端からビーム刃を出力し、

それに反応した悪魔は咄嗟に離れ、そこにさらに弾幕が襲いかかる。

 

『ふむ...ようやく出し惜しみ無しで楽しめそうだ...!』

 

悪魔の背中の羽から6本の何かが射出される。

そして、それはユニとロムの武器を正確に射抜いた。

 

「嘘...!?」

「だよね...!?」

 

それぞれの武器を手放し距離を取る二人。

そこに6つの羽が縦横無尽に切り傷を付けにかかる。

 

「ユニちゃん!ロムちゃん!」

『よそ見などしている場合かね?』

 

一瞬のよそ見ですら、悪魔相手では命取りになる。

それを証明するように、見事に銃部分を弾き飛ばされた。

 

「っく、あなたは!どうしてこんなにも人を殺めるんですか!?」

『そうしなければ人は愚を重ね、世界を混沌へと導く...

 いや、既に導かれている...愚は加速する、終焉へ、そして、

 新たなる混迷と破壊と絶望と喪失が訪れる...女神といえど元は人...

 人なれば業と性に苛まされる。大きな動争が今起きているように...

 人の心を力としているのならではだな!』

「お姉ちゃん達が互いに互いを傷付け合い続けると、そう言いたいんですか!?」

『然りぃぃ!』

 

会話の間にも繰り返される切り結びの応酬はより苛烈を増した。

 

『四ヵ国の何処にも属していない土地は二つある...一つはイストワール記念学園...

 そしてもう一つ、このゲイムギョウ界の中心に出来た新しい大陸...便宜上は

 《イオサンド》と呼ばれているものだ。既に開拓者が渡っているが、女神という

 存在が定着出来ない地質のようでな...だからこそ彼女達は決めているであろう。

 妥協することもなく、ただ、0か1かを賭けて!』

「......!?まるで...お姉ちゃん達を知ってるかのような口振りですね...!」

『当然であろう?彼女達を知らぬ者は、産まれた直後の赤子以外は全て、

 私の執行対象だ。私を含めてなぁ!』

「そんな、あなたの理屈っ!」

 

ネプギアの問いに対する答えは悪魔そのものであった。

必死に悪魔の囁きを否定したかった。だが、悪魔は強く、

共に悪魔に挑んだ仲間達は皆、憔悴し、地に落ちていた。

 

切り結びの応酬が止み、6本の刃が帰ってくる。

 

『あの二人には手こずらされたが、まぁいい。概ね予定通りだ。』

「ユニちゃん、ロムちゃん...!」

 

倒された仲間達を見て、ある人物を思い出すと同時に、

ネプギアの中に強い強い怒りが芽生えてきた。

仲間を倒された怒りとそれ以外にも。

 

「私は...」

『うん?』

 

悪魔は滑稽な仮面の裏で怪訝そうな顔をする。

 

「私は...護んなきゃいけないんです。国民の皆さんだけじゃなくて、

 この世界を。だって、そうしないと...」

 

銀の長髪を靡かせ、7本の剣を携えて飛び立っていったきり帰って来ない

一人の少年の背中が、ネプギアに全てを語らせる。

 

「そうしないとあの人が...お兄ちゃんが護ったこの世界を護んなきゃ、

 きっと、きっとお兄ちゃんが帰って来たときでも、笑いあえない...!

 だから...!あなたは絶対にここで倒します。私一人でも、武器が一つでも、

 私には、お兄ちゃんの遺志がある...!だとすれば...私は、負けません!」

 

プロセッサユニットが全力のエネルギーを発散する。

弾き飛ばされたはずの銃部分は再構築され、再び一つのS.M.P.B.L.になった。

その光輝くその姿は女神と言うよりかは、悪魔と対をなす天使のようであった。

 

『そうか...』

 

対する悪魔は数刻の沈黙の後にこう言った。

 

『ならば、いいだろう。その兄とやらの遺志と共に、かかって来い!』

「言われなくてもそうします!これが私の全力全開!《プラネティックディーヴァ》です!」

 

ネプギアの刃が悪魔に届く、その瞬間、悪魔は呟いた。

誰にも聞こえぬ、小さな小さな声で。

 

そしてその直後ネプギアは、全身を強く打ち付けたような痛みと、

焼けるような背中の痛みに襲われ、意識を失うと同時に変身が解けた。

 

『私にこれを使わせたのなら十分だ...女神の妹、ネプギアよ。』

 

悪魔は微動だにしていなかった。

一体何をしたのか、誰もわからない。

 

ただ一つ分かったのは、女神候補生4人は、審判の悪魔に敗北したということだ。

 




何気3人称って難しい(´・ω・`)

次回予告的なもの。

審判の悪魔に敗北した女神候補生。
意識を取り戻した候補生達が目覚めるとそこは...!?

さてなんでしょう。

それでは次回もお楽しみに。
次は遅くなりません!


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episord03

女神候補生4人が審判の悪魔に敗れたことは瞬く間に全世界に知れた。

だが、既に四女神は引き返す事など出来ず、ただただ、守護女神戦争を

続けていくことしか彼女達に出来ることはなかった。

 

その頃、新大陸《イオサンド》某所に四人の女神候補生と、

二人の人物の人影があった。

 

「シェアエナジーのフィルターを作るなんてね...あの子達の命は

 保証されるし外には出ることは出来ない...結界の素材としては

 いいことづくめだね...生成が大変なのを除いては。」

 

『まぁいいだろう...感謝している、光。』

 

その二人とは、審判の悪魔と、その協力者、九形 光(くがた ひかり)である。

 

「で、どうするんだい審判の悪魔...この結界の中に入るのかい?」

『あぁ、光、結界の外側に迷彩は張れるか?』

「余裕だね。ちょちょいのちょいだよ。」

『では頼む...』

 

そう言って審判の悪魔は結界の中に入っていった。

 

「女神を知る悪魔、か...」

 

光はそう呟いてその背中を見ていた。

 

 

----------

 

 

「あれ...私は...確か...審判の悪魔と戦って...それで...痛っ...」

 

全身がまだ痛い。そうだ、悪魔と戦ったとき、私の剣が

届く前に地面に叩きつけられたんだった...

 

見渡すと、生活感のある部屋で、他のみんなも、私含めて

布団に寝かされていました。

 

「誰か...助けに来てくれたのかな...」

 

誰だろう...そう考える前に戸が開きました。

そしてそれは、全く予想だにしない人物だったのです。

 

「お目覚めかな?我が妹達。って、ギアだけか。」

 

そう、完全に予想すら出来ない人物、『凍月 影』お兄ちゃんでした。

 

「う、そ...お兄ちゃん...なの...?」

「嘘だと思うのならそうなんだろうなぁ...」

 

間違いない、飄々としているこの受け答えは間違いない。

もう、21歳になっている、お兄ちゃんがいました。

 

「老けたと思ってるよな、俺もそう思う...しかし...いくらかパワーアップ

 したとはいえ、審判の悪魔に挑むとはね...俺でも死にかけたと言うのに。」

「お兄ちゃんでも...!?」

「驚いてる場合か?まぁ、驚くか...あいつらが戦いなんてしていなければ

 俺もすぐに帰れたはずなのに...」

 

そこで一つ思い出しました。聞かなければいけない事を。

このお兄ちゃんの、失踪の理由を。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。」

「なんだ?ギア。まぁ、概ね俺の失踪の理由だろ?」

「うん。どうして...どうしてすぐに帰ってこなかったの...!?

 あの時に!私や、茜さんや、ブランさんを心配させて、

 どうして...どうしてなの...?」

 

お兄ちゃんは数拍の間を置きました。

 

「しょうがないだろ、この腕を、見せたく無かったんだよ...」

 

お兄ちゃんは左手で右手を触ります。その右手は、だらーんと、

力なく、まるで、ただくっついてるだけのようでした。

 

「変身すれば動くけどな...外側から無理やり動かしているに

 過ぎないんだけどね...」

 

「どうして...どうしてそんなことに...?」

 

聞いちゃいけない事を聞いた気がしました。

 

「天界救世のせいだよ。虚夜を倒すには、これしか無かった。

 それをブラン達には教えたく無かった...」

 

そうだったのか...そうだ、でも、お兄ちゃんが生きているなら...

 

「ネプテューヌに連絡しても無駄だ。そろそろ悪魔は第二段階に

 入る...守護女神戦争を止め、女神その物を消そうとするだろう。」

「そんな...!でもそんな事、どうやって...」

「俺が悪魔なら...1vs3を作るかな。」

 

具体的な作戦だ。けど、それには天界に行く必要がある。

 

「だから天界に行く前に叩くのさ...どうにか止めてやるよ...」

「待ってお兄ちゃん、じゃあ私も...痛っ...」

 

まだ身体が痛む。お兄ちゃんの力になりたいのに...!

 

「絶対安静だ。一本骨が折れてる。なーに、大丈夫さ。」

 

そう言ってお兄ちゃんは部屋を出ました。

 

 

----------

 

 

『待たせたな、光。』

「妹との再開はどうだった、悪魔様。」

『感動的だな、だが無意味だ。始めよう。人の業と性を浄化しに...』

 

審判の悪魔...仮面を着け、腕にギプスを着け、冷ややかな雰囲気を纏うその男は、

誰よりも女神を愛した人間、『凍月 影』であった。

 

『女神達は試されている。滅びか、それとも再生か...

 せめて、落胆させないでくれよ...?』

 

そして悪魔は1年かけて準備した。対女神の様々な仕掛けや物を。

 

--新生世代の物語はようやくここから始まる。

悪魔が張り巡らせた点と線の合間を縫っていくような偶然と共に。

そう、一人の少年が、少女が空から落ちてくるのを見つけたという

運命的な偶然から...




過去編、3話で解説しきっちゃった...?

いいや、では、次章からようやく始まるリバース1の世界の物語!
次回、『第一章 新たなる旅の始まり
    第1話、「少年の見た流れ星」』

感想、評価等、お待ちしてます。


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第一章 新たなる旅の始まり
第1話 少年の見た流れ星


ある日、夜空を眺めていた僕は、一つの流れ星がここから少し離れた

洞窟の近くに落ちていったのを見た。

 

茜さんにそれを言うと、領域把握で何か見つけたらしく、

文字通り飛んでいって、一人の女の人を小脇に抱えて帰ってきた。

 

ーーその人と僕ら兄妹の出会いが、世界を股にかける物語の引き金になることを、

  僕らはまだ、知る由もなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「さてはて、まさかこんなことになるなんてねぇ...ありがとね、黒君。

 君が見つけてなかったら、この子、変質者にひどい目にあいそうな恰好で

 某ねぷ神家の一族のごとく頭から刺さってたから。」

「そ、そうなんですか...」

 

毎回思うけどこの人、仙道 茜さんの感性はホントによくわからない。

いや、僕も僕で7歳児の感性じゃないことはわかってるけど...

 

ピロピロピロピロ......ピロピロピロピロ......ヴェヴェーヴェー

 

目覚ましが鳴り響く。6:30を示すこの目覚ましも茜さんの感性に

よるものだ。これで起きないのは一人しかいない。

 

「みんな起きてきたかな?白ちゃん以外。じゃ、黒君、

 白ちゃんをお願いするね、お兄ちゃん。」

 

そう、僕の妹、白だけだ。

 

そうだ、まだここがどこだかも、僕が誰なのかも言ってなかった。

僕は黒。7歳。茶髪で短髪、目は青い。苗字はない。親もいない。

茜さんは僕らの両親を知っているようだけれども、教えてくれたのは

僕たちを守って死んだということだけだ。だから僕は両親のことを知りたい。

 

ここはそんな僕らのような身寄りのない子供たちを守り育ててくれる、

イストワール記念学園の第三分校。本校のすぐ近くにあるんだけどね。

様々な年齢の子がいるけど、ここ、6~9歳までのクラスを担当して

くれているのが茜さん。あかねぇとも呼ばれている。

 

「白ー、朝だよー。」

「はみゅ...お兄ちゃん...せめてあと5時間...」

「長いわ!昼になるだろ!」

「だからだよ~...むー...」

 

この、朝に弱い銀髪長髪で僕と同じ青目の少女が僕の妹、白。

年頃の女の子の性なのかはわかんないけど...毒がとっても多い。

...僕と茜さん以外には。だから初対面の人がいるとこうなる...

 

「だれ、このピンク髪で見るからにおちゃらけてる感じの人は...」

「誰、この見るからにわたしを小馬鹿にしているこの子は...」

 

「おや、起きたようだね白ちゃん。そして久々だね、ねぷちゃん。」

 

え...?今、茜さんは久々って...?

 

「久々...?えーっと、どちら様?どこかで会ったっけ?

 あーでも、夢の中で、会った、ような...」

「え?あ、そう...なるほどね。じゃ、名前は?私は茜。で、この子たちは黒と白。」

 

僕たちも茜さんが紹介してくれた。白の警戒はいまだ解けないけど。

 

「えっと、わたしはネプテューヌ!よろしく、茜!」

 

地面に突き刺さっていたというのになんとまぁ大雑把なんだろう...

 

「ネプチューンさん...」

「あだっ、おおむねその通りではあるんだけど、しかし白ちゃん、だっけ?

 人の名前を3人組の芸能人みたいに言わないでよ!わたしの名前は

 ネプテューヌだよ!」

「失礼、噛んであげました。」

「それって100%わざとだよね!」

「勘で当てました。」

「エスパーなの!?てか当たってないし!」

「燗で割りました。」

「子供なのに燗!?何を割ったの!?」

「お兄ちゃんの腹筋をですよ。」

「あ、ほんとだ...てか、普通に一本取られた...」

 

そう、白とネプテューヌさんのこのやりとりで僕の腹筋は崩壊していた。

 

「はい、そこまで。黒君が酸欠になるから。相変わらずのノリだねぇ...

 だけど、そうか、君がここにいるということは、かなり面倒な方向に

 世界は動いているのかな...」

 

茜さんがぶつぶつと考え始めた。その時。

とある声が聞こえた。

 

『聞こえますか、ネプテューヌさん、黒さん、白さん...』と。

 

ーーそれが、僕らの旅の始まりの合図だった。

 

 

 

 




始まりましたね、ようやく本編が。
次回、「第2話 見知らぬ、ダンジョン」

感想、評価等、お待ちしてます。


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第2話 見知らぬ、ダンジョン

『聞こえますか、ネプテューヌさん、黒さん、白さん...』

 

「何の声...!?」

「え?どっから声が聞こえてるの!?」

「私をハブるんだね...まぁいいけど。」

 

どこからかの声。そして茜さんの返答。

どうにもこの茜さんは謎が多すぎる。嘗て天界救世を戦ったとしか

聞いたことがないけど...

 

『あんまり動揺しないでください。あと、茜さんも、お久しぶりですね。』

 

「おひさー、しかし、ホログラムも作らず声だけだなんて珍しい。

 天界でまたなんかあったの?」

「というか...あなたは一体誰なんですか。人の名前を知っておいて...」

 

事情をある程度予測した茜さんは質問をし、

白は相変わらずの毒を吐く。

 

『はい...自己紹介がまだでしたね、私は、司書イストワールといいます。

 私は今、審判の悪魔によって封印されてしまいました。審判の悪魔の

 正体にアクセスすることすら、今の私にはできません。』

 

「ふーん、強固な封印な訳か...」

「それでそれで?わたしたちはどうすればいいの?」

『ネプテューヌさん...!?貴女、また記憶が...?』

「うん、無いみたい。」

 

この人は記憶喪失をなんだと思ってるんだろうか、楽観視にも

程があるというか...なんだろう、何て言えばいいんだろう...

 

『わかりました、私からお願いしたいことは二つあります。

 一つは審判の悪魔を止める事、そしてもう一つは、

 私の封印を解いて頂くことです。無理にはお願いしませんが、

 お礼として、ネプテューヌさんの記憶を戻すことや、黒さん、

 白さんのご両親のことをお伝えします。』

 

「えっ...じゃあわたしやるー!」

 

二つ返事でネプテューヌさんは協力を申し出た。

そして僕らもまた、そうだった。

 

「...やります。僕はやっぱり、両親のことを知りたい。」

「お兄ちゃん...そうだね、誰だかわからない存在の戯言かも

 しれないけど...あかねぇが知ってるなら...それもいいかな。」

 

『それでは、皆さんお願いします...まずは...南西へ進んで下さい...』

 

それっきり声は全く聞こえなくなった。

 

「あれ、もしもーし、聞こえなくなっちゃったよ...」

 

ネプテューヌさんはがっかりしている。喜怒哀楽がわかりやすい人だなぁ...

そして、茜さんはというと、

 

「来るべき時が来たのかもね...待ってて黒君、ねぷちゃん。」

 

茜さんは奥の部屋に行き、すぐに一本の剣とブレスレット型の

操作デバイスのような物を持ってきた。

 

「ねぷちゃんにはこれ。水晶刀身の剣、映影。そして黒君にはこれ。

 制御能力用戦闘デバイス、転生鎧装。これを渡したからには、

 自分の身は、自分で守るんだよ。」

「はい。」

「あかねぇ、なんで私には無いの。」

「白ちゃんは必要ないよ。だって、強いでしょ?白ちゃん。」

 

茜さんは白の能力を看破している。そういう能力を持っているから。

それは、白に対する信頼なのかどうかはわからないけれども、

白は少なくとも悪くは考えなかった。

 

「...そうだねあかねぇ。」

 

そして僕らは南西に向かった。

茜さんの見送りを背に受けて。

 

そして、南西に進んだ先にあったのはネプテューヌさんが墜落してきた

場所であり、その下にはなんと、存在すら隠されていたかのような

ダンジョンがそこにはあった。

 

 

 




次回、「第3話 変身」

感想、評価等、お待ちしてます。


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第3話 変身

ネプテューヌさんの墜落した場所には、ダンジョンがあった。

何を言っているのかわからないけれども、安心してほしい。僕もわからない。

 

「見事に洞窟というか、ダンジョンというべきでしょうか...

 ネプテューヌさん、重いですね。」

「白ちゃん!?女の子にそれは失礼だよ!?」

「私も女の子ですよ。」

 

白の毒はほんとに容赦ない。

だけど、その毒の照射は奇妙な生物の存在によって途切れた。

 

『ぬらー...』

 

「これは...スライムとイヌの混合種...?何ですかこれ、モンスター...?

 茜さんはそんなの言ってなかったような...」

「それでも倒した方がいいよね?」

「多分そうでしょう...ネプテューヌさん、お手並み拝見です。」

 

白は後ろに下がる。僕もまた白の近くに下がる。

 

「え、えー...まぁいいけど。」

 

ネプテューヌさんは茜さんからもらった剣、映影を構える。

 

『ぬらー』

「でやぁぁ!」

 

ネプテューヌさんの太刀一閃。

スライムのような生物は消滅した。

 

「ふー、結局あれなんだったの?モンスター?」

 

ネプテューヌさんは何も無かったかのように僕たちの所へ。

確かにネプテューヌさんには何も無かった。

問題があったのは僕たちの方だ。

 

「さぁ、多分そうなんじゃないでs「きゃぁぁぁぁっ!?」白っ!?」

「え、ちょ、何事!?」

 

そう、下がっていた白に別の、しかも大型のモンスターが白を捕らえたのだ。

 

「まずい..."あの惨状"の二の舞は御免だ...」

 

脳裏に蘇るのは昔の記憶。白の暴走...

あれをもしやってしまったら、このダンジョンが崩壊してしまう...!

 

「白ちゃんを、離せぇぇ!!」

『ネプテューヌさんの攻撃』

 

ネプテューヌさんは果敢にも映影で斬りかかる。

 

『しかし、効果は無いようです。』

 

僕以外にナレーションをするのは誰だ...

 

『すいません、黒さん、つい。』

「つい。じゃないでしょう!白が!」

「それにあれめっちゃ固いよ!太刀打ち出来ないって!」

 

『落ち着いてください、二人とも。黒さんはともかく、

 ネプテューヌさんは女神化できるはずです...』

 

「女神化...?なにそれおいしいの?」

「ボケてる場合ですか、ええい、出来るならしてください!」

「出来ないって!そもそもわたし記憶喪失だよ!?」

 

そうだった、全く頼りになるのかならないのかよくわからない人だ。

 

『それでは仕方ありません。私が一度だけネプテューヌさんの

 力を引き出します。それで感覚を掴んでください。』

 

「わかった。いつでもいいよ!」

 

『ネプテューヌさん、あなたに、力を...』

 

瞬間、ネプテューヌさんは光に包まれる。

僕のブレスレット、転生鎧装もまた、少しの輝きを見せた。

 

「これが...わたし...?」

 

輝きが無くなると、前には美しい女性が浮いていた。

そう、浮いていたのだ。

 

「凄い...体中から力が溢れてくる...これなら...!」

 

その女性は持っていた太刀を一閃し、一瞬にして白を救出、

そのモンスターもぼろぼろのぼこぼこにした。

 

「ま、ざっとこんなものね。」

 

そしてその女性は僕たちのところへ。

 

「白ちゃん、大丈夫だった?ケガとかない?」

 

その人はちゃんと白を心配している。名前を知っているということは...

もしや、けど、そう考えないとおかしい。

その事を口に出そうとしたら、

 

「...誰ですか、貴女は。」

 

そこには平常運転の白がいた。

 

 




次回、『第4話 悪魔との邂逅』

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第4話 悪魔との邂逅

「白ちゃんそりゃないよー!」

 

ネプテューヌさんは変身を解いて叫ぶ。

天井のある洞窟だからまぁ、響く響く。

挙げ句、エコーがかかっていく自分の声に

『おー』とか言う始末。これは白もげんなりするね。

 

「あなたのテンションには全くついていけませんね。

 頭がおかしいんじゃないですか...というか...

 なんであなたはあの力を制御出来るんですか...」

「え?白ちゃんもあれ使えるの?」

 

そう、白はネプテューヌさんと似たような力を使える。

それを制御しきれずに、暴走したことが、白のトラウマになっている。

 

「怖くて使えないですよ...お兄ちゃんに怪我してほしくないから...」

 

白の弱音、というか本音が出ている。

根は優しいのに毒舌なのも、あの惨状のせい...

 

そんな物思い耽っていると、足音もなくすぐ近くにあからさまに

異質な雰囲気と群青のコートを纏った仮面の男がいた。

 

「おや...計画フェイズ3のプロトタイプの反応が消えたと思えば...

 君がいるとは全く...まことに奇縁だな...ネプテューヌ...」

 

その仮面の男は有名人だ。

このゲイムギョウ界に名を馳せる大罪人、審判の悪魔(ジャッジ·バエル)なのだから。

 

 

「え、誰?もしかしてわたしのお知り合い?」

「審判の悪魔を知らないんですか、まぁ、記憶喪失なら仕方ないにしろ...

 戦って勝てる相手ではないです。女神様でも...ギリギリでしょう。」

 

白はこういう時には冷静だ。しかもとても凍りついたように冷たく静かだ。

 

「記憶がないのかね。まぁいい。むしろ好都合...

 だが...計画を邪魔されては少し虫の居どころが悪くなろう...」

 

悪魔が手を動かすと同時に、ネプテューヌさんは変身していた。

かくいう僕も、茜さんから貰った転生鎧装を装着した。

 

「あなたは一体何をしたいの?答えなさい!」

 

ネプテューヌさんは刀を構えて悪魔に問う。

 

「何者、か...私は人の業と性を浄化する者だよ。そしてそれを阻む

 のであれば、容赦はしないぞ。」

 

悪魔が銃を抜くと同時にネプテューヌさんが突撃した。

 

二発ネプテューヌさんに撃ち、一発は僕の方へ。

当然避けられない。銃弾は僕の鎧の右肩口に当たり、バランスを大きく崩す。

 

「お兄ちゃん!」

「くっ...このっ!」

 

白の叫びでどうにか倒れずには済んだが、右肩がとても痛い。

一方ネプテューヌさんは銃弾を見切り刀で防いでる。

 

「大丈夫?お兄ちゃん...」

「うん...動体視力が追い付かない...」

「当たり前でしょ...!隠れてよ...勝てないよ...」

 

白は震えてる。僕は頷いてネプテューヌさんの戦いを見守る事にした。

 

 

「やはり銃弾は効かぬようだな。では、やはり接近戦といこう...」

 

コートの裏から漆黒の剣を抜刀し、ネプテューヌさんとつばぜり合いになる。

 

「馬鹿にして...!」

 

ネプテューヌさんの蹴りも太刀も届いていない。

そう。悪魔はまるで遊んでいるかのようだった。

 

「ふむ、興ざめだな。」

「何を...きゃぁ!?」

 

悪魔はネプテューヌさんの剣を左手で掴み引き寄せ、

右手で剣を持っていた手を内側にひねったと同時に

左足でネプテューヌさんを蹴飛ばしたのだ。

 

「味気ないな...まぁよかろう、私の邪魔さえしなければ君たちに手を出す

 ことはないのだからな...む。」

 

何を察知したのか、悪魔が首を傾けると、悪魔の左側からアンカーが

飛んできて、その軌道をなぞるように一人の女性がすれ違い様に悪魔に

一撃を入れる。当然悪魔は防いだが、さっきまでの様子はなかった。

 

「やはり来たか、能力者狩り(アビリティハンター)...アイエフ...」

「えぇ、来てあげたわ審判の悪魔。引導を渡してやるわ。」

 

その女性の雰囲気は、どことなく茜さんに似てると、僕は思った。

 




あいちゃん登場!
超強化されてます。
コンパ?そのうち出てきますよ、忘れていなければ...

忘れていなければといえば昇化の設定、覚えてますでしょうか。
詳しくは女神化高校の回帰生へどうぞ。

次回、『第5話 その女、能力者狩りにつき。』


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第5話 その女、能力者狩りにつき。

大変お待たせしましたぁぁ!!!

あいちゃん大活躍の5話です、では、どうぞ。


アンカーガンを縦横無尽に撃ち、立体的な軌道を描きながら

アイエフと呼ばれた女性はその銃についている刃で幾度となく

審判の悪魔を切りつける。そしてそれは全て漆黒の長刀に防がれる。

 

「埒が開かない...けど、無駄に近づいたら...」

『私の間合いに入る...その腕が私に触れる前にな。』

 

悪魔の不敵な笑いと女性の焦燥が遠く僕にも伝わってくる。

だが、一瞬の判断ミスが悪魔を窮地に陥った。

 

「けど、かすりさえしてくれば、こっちのもの!」

『何...?む、これはっ...!』

 

女性の放ったアンカーのワイヤーが一瞬悪魔に触れる。

そしてその瞬間、悪魔の動きが鈍った。

 

「かかったわね審判の悪魔...私の固有、現実真理(リアリティック·フォース)は昇化能力。

 私が直接触れているものに触れても、能力無効化が発生するのよ。

 この場合、このアンカーガンというオブジェクトその物にそれが付帯されてるわ。」

 

『但し封じられているのは10秒だけの"まま"らしいな...

 仕方あるまい、ここは退かせてもらおう。』

 

能力無効化を受けてもなお、余裕綽々の悪魔だけど、それにしては

何か違和感を覚える。..."まま"って...まさか、悪魔はこの人を知っている...?

 

「知ったような口...聞くんじゃないわよ!《天魔流星斬》!」

『ち、だが無意味だ...!』

 

数多の斬撃が悪魔を襲う。

しかし、悪魔はその全てが見えているように回避している。

が、最後の一撃が悪魔のコートを裂いた。

 

「これで無意味ですって...!?」

『ふむ、少し言い過ぎたのは謝罪しよう。では、失礼。』

「逃がすもんですか...!」

 

だが、悪魔は消えた。

なんの前触れもなく、忽然と。

 

後に残ったのは、僕と白とネプテューヌさん、そして

先の女性と発射されたアンカーが刺さった音だった。

 

 

----------

 

 

「逃がしたか...けど、何で私の固有が10秒だと...けど、考えるのは後回しね。

 あんたたち、怪我してない?」

 

「はい...まだちょっと肩が痛いですけど。」

 

数分後、周囲を警戒していた先の女性が僕達に話しかけてきた。

双葉のリボンと茶色の長髪に青いコートと沢山の携帯を装備しているその人は

僕達の状態を確認した後に自己紹介をしてくれた。

 

「私はアイエフ。人呼んでゲイムギョウ界に吹く一陣の風、もとい、

 能力者狩り(アビリティハンター)よ。」

 

二つ名?けど、悪魔もそれを知っていたということは、やはり有名人

なんだろう、きっと。

 

「今時二つ名ですか...かすり傷くらいには痛いですね...」

 

嗚呼、悪魔を退散させた人にも毒を吐くのか、白。

 

「うぐっ、なんかこの子凄い毒舌ね...」

「すいません、白は四六時中こんなんなので...」

 

すかさずフォローに入る。僕の身にもなってよ、白...

 

「うー...何あの強さ...序盤に出てきて良いものじゃないって...」

 

吹っ飛ばされていたネプテューヌさんが戻ってきた。

そして、そのネプテューヌさんを見てアイエフさんは目を見開いた。

 

「ネプ子...!?アンタ何やってんのよ、こんなところで!」

「ほぇ?誰?もしかしてお知り合い?」

 

どうやらネプテューヌさんとアイエフさんは知り合いらしい。

そして、誰と言われたアイエフさんは少したじろいだ。

 

「誰って...アンタまた記憶喪失になったの?」

「うん、そうみたい...」

 

ほんとこの人という人は全くもってよくわからない。

 

そんな思いを抱きながら、僕達は第3分校に戻った。

 

「お帰り、みんな。」

 

茜さんの出迎えは、僕達を安心させてくれた。

 




次回、「第6話 鍵の欠片」

忘れてなんていませんのでご安心を。

あと、ここにあいちゃんのアンカーガンを置いておきます。

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第6話 鍵の欠片

一月経ってしまった...
はい、ようやく6話です。

では、どうぞ。


審判の悪魔との激闘をくぐり抜け、僕達は普通の日常を過ごしていた。

 

けど、僕は悶々としていた。

--悪魔は強い。ネプテューヌさんを軽く圧倒していたし、

  僕の付け焼き刃の力では全く歯が立たないこともわかる。

  だからこそ、あの惨状を産み出して以降力を抑えてしまった白を

  守りたいのに守れないことに気づく。

 

「どーしたの?黒君。」

 

茜さんが僕の顔を覗きこむ。

少し長めの深紅の髪が僕の頬を少しくすぐる。

 

「茜さん...僕、強くなりたい...」

 

少し小さめの声で、僕は茜さんに言った。

茜さんは、こう言った。

 

「そう...その時が来たのかな...これを集める時が...」

 

そう呟きながら、茜さんはポケットから何かを取り出した。

 

「この鍵の欠片を...あぁ、来ちゃったんだ...えー君を継ぐ黒君にも、

 その時が......非情だよね...なんでなのかな...」

 

鍵の欠片と呼ばれたものを見ながら、茜さんはぶつぶつと呟き続けてる。

それは僕には聞こえていない。

 

「えー君、いいかな...君の大事な子達に過酷かもしれない世界を見せても...

 いや、そんなの私に彼らを頼むって、ブランちゃんがそう言ったときからわかってるか。」

 

茜さんの独り言が止まる。

 

「茜、さん...?」

「あぁ、黒君、ごめんごめん。いいよ、強くなりたいのなら、鍛えてあげるよ。徹底的にね。」

 

その茜さんの目には並々ならぬ意志を感じとることができた。

 

 

----------

 

 

「準備はいーかい?黒君。」

 

茜さんは模擬戦用の大剣を構えて言う。

 

「はい...」

 

僕も模擬戦用の一本の短刀を構える。

ルールは簡単、一歩も動かない茜さんにかすり傷でもつけたら

僕の勝ち...いくらなんでもそんな縛りつけなくてもいいのに、とも思うし、

それを聞いた白に至ってはこうだ。

 

「あかねぇが強いのはわかるけど...あかねぇにとってお兄ちゃんはミジンコなの?」

 

と言い出す始末。茜さんはそれを「ミジンコから戦士に育てるの。」と、否定しないまま

なだめたのが恐ろしい。てか、完全に僕は星屑レベルの雑魚なんじゃないか不安になってきた。

 

「じゃ、黒君、おいで。」

「すぅ、はぁ...」

 

まずは呼吸だ。そして一気に...距離を詰める!

 

「やぁぁぁ!」

 

真っ直ぐ進み、大きく振りかぶって茜さんに一撃...入れられた。

 

「うがっ...」

 

後ろに吹き飛ばされ、膝をつく。

茜さんは一歩も動いていない。ただ大剣を横に振っただけ...

 

「速さが足りないし隙だらけ。もし、実戦だったら黒君、

 すぐ殺されちゃうよ。...これは鍛えがいあるねぇ。」

 

「うぅ...茜さん強すぎ...」

 

模擬戦用の武器でも痛みはある。

天界救世を戦ってきたということがどういうことか...どうやら僕は分かっていなかった。

 

「今の君は、白ちゃんを守れないよ。だから徹底的に鍛える。

 それこそえー君のように、全力でね...かかってきなさい、黒君。」

 

「はい...!」

 

僕のただ茜さんにボコボコにされるだけの訓練がこれから一週間だけで済むのを、

僕はまだ、知るよしすらなかった。




本当に申し訳ございませんでした...

また次も一月かかるかもです、忙しいです...

次回、「第7話 旅立ち」

感想、評価等、お待ちしてます。


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第7話 旅立ち

一週間経って、というかたった一週間で僕は実戦に耐えうる戦闘能力を、

(あくまで能力であって体力は追い付いていないが)僕は手にいれた。

 

「後は、体力だよ、黒君。」

 

茜さんはホントに強く、結局ほぼ一撃も、ただの一撃も

与えられなかったものだから実際僕は強くなっているかはわからない。

 

「お兄ちゃんは十分凄かったよ...あんな動きは茜さんもびっくりしてたし。」

 

白はそうほめてくれた。

敢えて言うなれば白が僕にでさえもこんなにストレートに褒めることはない。

相当すごいことが目の前で起こっていた。

 

「ちょっと黒君白ちゃん!いい加主人公たるこのわたしを無視しないでくれるかな!?」

「何ですかネプテューヌさん、せっかくお兄ちゃんと二人で仲良くしてたのに

 邪魔しに来たんですか。お兄ちゃんは渡しませんよ。」

 

が、ツンデレ毒舌少女である白はネプテューヌさんが来たことにより、

僕に対するデレモードをやめていつもの毒舌モードに入る。

 

--今回は少しずれてるけど。

 

「お、揃ったね、3人とも。」

 

そんなときに茜さんが来た。手には鍵の欠片と言っていた物がある。

 

「ねーねー茜、わたしたちを集めてどーすんの?」

 

ネプテューヌさんは手を挙げて茜さんに質問をする。

 

「あー、それはね、私はここで忙しいから、いーすんの依頼である

 悪魔を止める事といーすんの解放を君たちに託そうって思ってね。」

 

さらっと重大な事を言う。

しかも、僕たち3人に頼むのにはあまりにも重大過ぎる事を。

 

「あかねぇ、それは無茶だよ...」

「そうですよ、ただでさえ悪魔は各地の女神候補生様を倒したんですよ!?

 ネプテューヌさんも僕も、もしかしたら白も、勝てる筈ないですよ...」

 

茜さんは少し考えこんだ。

「それは確かにそうなんだろうね」とも言った。

 

「けど、さ。黒君。私の目はね、君の力が見れるんだよ。

 少なくとも、10年前よりも私は物事を教えるのは上手くなってるはず。

 そしてそうだとするならば...『彼』よりも君の方が、絶対に強い。」

 

茜さんの過去を僕はほぼ知らないが、

時折出て来る『彼』という人物は一体どういう人なんだろうか。

 

「じゃあ、その『彼』って...誰なんですか、茜さん。

 どんな人で、どれぐらい強かったんですか?」

 

 

「...彼、凍月 影...えー君は、私の大事な友達だったよ。

 7年前、天界救世で世界を造り変えようとした虚夜 時雨を止める為に

 私たち仲間を置いて、勝手にたった一人で戦って、虚夜と刺し違えた、

 私の、大事な友達。えー君には彼女がいるんだけどね。私よりもずっと

 長くえー君のそばにいて、私よりもずっと、えー君を知っている子が。

 あぁ、少し話題がずれちゃったね。どんな人かを一言で表すならクールだよ。

 感情の振れ幅が小さいんだ。普通ならね。怒ると振れ幅は大きくなる。

 そうだね、最後の方はぶれぶれだったかな...えー君...生きてるよね、きっと...」

 

ひとしきりの解説の後、茜さんは哀しげな顔になった。

それだけ、その影という人が好きだったんだろうと思う。

 

「あかねぇ...」

 

流石の白もこれには毒は挟めまい。

そしてネプテューヌさんも静かになっていた。

 

「なんか、ごめんね。けど、えー君はこの世界を護ったの。

 だからねぷちゃん、黒君、白ちゃん、えー君の護った世界を、お願いするね。」

 

「うん、任せて茜!このねぷ子さんが頑張っちゃうよー!」

「ハイテンション過ぎやしませんか...まぁ、いいですけど。

 あかねぇ、私もどこまでできるかわかんないけど、お兄ちゃんを手伝うよ。」

 

茜さんの思いには、僕たちは応えなきゃいけない、そんな気がした。

ネプテューヌさんと白はもう返事した。当然、僕もする。

 

「お願いされました、茜さん。その影っていう人が護った世界、

 女神様の力も借りて、必死に護ります。」

 

「無茶だけはしないでね。いってらっしゃい。」

 

こうして、僕らは旅立った。

 

 

----------

 

 

「奇縁だね、えー君...今度は君の子供達が世界を救う旅なんて...

 寒い世の中になっちゃったよ、折角がんばったのにね。」

 

 

 

 

 




次回、第2章、黒の女神と白銀の翼
第8話「インダストリアル7.1」

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第二章 黒の女神と白銀の翼
第8話 インダストリアル7.1


わたし気づいたんだけどさ、この世界って原作と違って接岸場がないんだよねー。

だから普通に入国管理局があって、パスポートが必要なんだけど...

 

「三人ともパスポートどころか、保護者も無いからほんとどーしようか...」

 

という、かなり出鼻を挫かれた状態になってるんだけど...

 

「もしもし、茜さん?はい、えぇ...学長が?はい...ラステイション教会に...

 わかりました。すいません...はい。」

 

黒君の転生鎧装に茜から通信が入った。

あれ通信機能もあったんだ...って思いながら黒君は入国管理局の受付の人に

その通信の内容と何かを見せていて...あ、なんか渡された。

それをもって黒君はこっちに戻ってくる。

 

「お兄ちゃん、何を言ったの?権力?それとも暴力?」

「そんなことしてないよ白...僕をなんだと思っているのさ...」

 

なーんてことを言いながら黒君は説明してくれた。

途中はよくわかんなかったけど、黒君がざっくりとまとめた

概要も話してくれたんだ。

 

「つまり、全国に顔の広い学長が僕たちの国境移動を自由にしてくれって

 頼んだんだよ。で、今は管理局の人が会議しているわけさ。」

 

「結局権力じゃん...まぁいいけど...」

 

白ちゃんの毒が黒君に注がれるけど、そこは気にせず...

そして気づけば...呼ばれるまでに十数分経っていた。

 

 

----------

 

 

どうにか入国審査を突破した僕たち三人は、重厚なる黒の大地(ラステイション)

国境近くにある工業ブロック、インダストリアル7.1にいる。

 

「凄いなぁ...工場がたくさんある...」

「それよりもお兄ちゃん、とりあえず教会に行かないと。

 あかねぇが言うには一番ここの女神様が性格がまともな方って話だし。」

 

毎度毎度思うけど、やっぱり茜さんって凄い人だよなぁ...

 

っと、そんなことはともあれ、夕方4時に僕たちは教会に着くことが出来た。

 

「ネプテューヌさん、一番大人っぽそうなので最初に門を叩いて下さい。」

「え?なんで?」

 

教会に着くと異様なまでのはりつめた空気を感じた。

白もさっきから毒を挟まずに無言で僕の背中にくっついてる。

 

「なんでって...僕と白はまだ子供ですよ?取り合ってくれるわけないじゃないですか。」

「えー、言葉はわたしより大人なのに?」

「それは事実ですけど...」

「認めるの!?自分で言っちゃう系男子だったの黒君!」

 

あ、この人頼りにならない。

 

「口答えしないで下さい、用事を済ませればあかねぇに教えてもらった

 美味しいプリンがあるお店を紹介しますから。」

「もしもーし、たのもー!」

 

『変わり身早っ!?』

 

この人はちょろいかもしれない。

プリンでこんな派手にやってくれるのだから。

 

が、ネプテューヌさんの言葉は僕よりも子供だから...

 

「ぐすん、子供に取り合ってる余裕はないだってさー。

 酷いよ、わたしはこれでも大人だよ!?」

 

ダメだったようだ。

 

「仕方ないですね...白、プリンのお店に行こうか。」

「そうだねお兄ちゃん。」

 

「そうだった、プリンがわたしを待っている!」

 

...ほんとに大人なのか怪しいなぁ...

と、そんなことを思いながら僕たちは歩き、プリンを人数分買ったら

もう夜の7時になっていた。

 

「お兄ちゃん、もう歩けない...」

「そうだよなぁ...とはいえここ、最初のインダストリアル7.1だよね...

 どーしよ。宿がない...」

 

暗い夜道を歩いてくるような人もいn...いた。

 

「もしもーし、そこの人ー!」

 

ネプテューヌさんが呼び止めたその人が、この章で僕たちを助けてくれる人、

シアンさんであったのだ。

 

「なんだ、お前たち...子連れか?」

 

「違います、ちょっとかくかくしかじかなんですよ...」

 

「なるほどな...うち来るか?」

 

「いいの?じゃあそうさせてもらうよ!」

 

「まぁ、ただというわけにもいかないんだけどな。少し頼み事を受けて貰えるか?」

 

「僕たちでできることなら。」

 

「じゃあ決まりだな。こっちだ。」

 

というわけで、どうにか宿も決まったのだった。

 




次回、第9話「凛黒の刃、顕る」

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第9話 凛黒の刃、顕る。

一晩眠った後、シアンさんが僕たちへの頼み事の内容を話してくれた。

 

一応説明すると、シアンさんはこのインダストリアル7.1にあるパッセという小さな工場の

社長で、依頼内容は交易路に湧いて出たモンスターの殲滅だそうだ。

 

「子供二人含めた三人組にお願いするのは酷かもしれないが頼まれてくれるか?」

 

「よゆーよゆー!あの審判の悪魔ともやりあったわたしたちだよ!」

「やりあった、というよりかは生きて帰ることが出来たという程度です。

 そこのピンク髪の大人になり損ねた子供の戯れ言ですので気にしないで下さい。」

 

相変わらず辛辣な白の毒がネプテューヌさんに突き刺さる。

一気に空気が気まずくなっただろ、白!フォローする僕の身にもなって!

 

「こほん...わかりました。その依頼、承ります。」

「そうか、助かるよ。アヴニールのせいで商売あがったりなのにモンスターまできて

 正直もう限界だったのさ。」

 

アヴニール...聞き慣れない単語だな...とりあえず聞いてみよう。

 

「アヴニール...?それは一体何ですか?」

「ん?あぁ、アヴニールっていうのは実質、このラステイション全ての

 全権代理者といってもいいような大企業だ。売るものの値段は安く、

 種類は安い。それで市場を独占して、遂には国まで獲ったということだ。」

 

「あかねぇ、ここの女神様は、まともな女神じゃなかったの...?」

 

白が疑心暗鬼になっているがシアンさんはそれを否定する。

 

「いいや違う。ブラックハート様はただ、不在期間が長かっただけだ。」

 

茜さんが言っていた、守護女神戦争のせい、か...

だから、とシアンさんは言葉を繋いだ。

 

「工場の仲間の中じゃ、あの審判の悪魔に進言しようって言ってる奴もいる...

 事実、奴は掲示板を作って、そこにある情報を元に粛清をしているって情報も

 ある...悔しいが、アヴニールはそこまでヤバいバケモノみたいな会社なんだ。」

 

「...審判の悪魔に、か...大人というものはほんと、自分に出来ないことを

 他人に任せようとするんだね...悔しいだとか仕方ないとか、後ろ向きな

 言い訳はほんと耳に障る...自力でアヴニールを潰さないとって思わない

 訳だ...お兄ちゃん、別の宿を探そう。諦めて終わりの人には、私達が力

 を貸す価値は無いよ。あかねぇの、話を聞いた後じゃ...」

 

白が毒を越えた爆撃を開始した。

最初に言っておくとここまで白にスイッチが入ると論破するか逃げるしかない。

そして、ほぼ後者が選ばれる。

 

「私だってそうは思ったさ!けど、奴らには勝てる物なんて、何も...!」

 

「あ、そ...それじゃ潰れるよ、この工場。」

 

「っく...子供に何が...ッ!!」

 

『ストーップ!』

 

ヒートアップして場外大乱闘大暴走大暴動の大崩壊が起きる前に僕とネプテューヌさんで

両者の間に入る。ほんと、この子は妹じゃなかったら面倒極まりないよ...

 

「...止める必要があるの?お兄ちゃん。」

「あるね...一つ、宿代と朝食代は依頼の完遂をもってチャラとする。

 二つ、僕たちはアヴニールを知らない。おそらくは悪魔もだ。だから

 まだ悪魔も潰しには来れない。万が一でもデマだったら大変だからだ。

 三つ、だったらここで協力してレッツデリートアヴニール。オーケー?」

 

「...お兄ちゃんが、そう言うなら...」

 

良かった、おさまった...少し拗ねて頬を膨らませている白は可愛いが、

それは後に語るとして...って、僕は一体何を言っているんだ...

 

「とりあえず、黒君!白ちゃん!仕事に行くよ!」

 

このネプテューヌさんの号令で、一触即発に等しそうな状況から

僕とネプテューヌさんは逃げることが出来た。

 

 

----------

 

 

西風の吹く渓谷...それはまさしく山と風と谷があり、近くに腐った海があったとしても

風で守られてそうな、そんな場所だった。

 

「頭来てるから好き放題モンスター蹴散らしていい?」

 

と言った白は有無をも言わせずモンスター達を魔法で蹂躙している。

 

白は攻撃魔法の適性値が高く、魔法国家である夢見る白の大地(ルウィー)

女神候補生様にも匹敵するレベルらしい。(茜さん談。)

僕は補助魔法の適性が高いことを考えると、ルウィーの国民の血が僕たちに

流れてるのは明白なんだろうな...

 

「あーもー!白ちゃん!私にも出番ちょうだーい!」

「嫌です。巻き込まれたいのならどうぞ。自殺願望を止めはしません。」

 

そう言いながらもう、辺りは焦土と開拓の天変地異と言わんばかりの

荒れ模様...そりゃここら辺植物系モンスターが多いから火属性の魔法を

連発するよね...ただ、そう連発していると疲れるのは当然な訳で。

 

「お兄ちゃん、ネプテューヌさん。あとボスっぽい鳥だけなのでサクッと倒してください。

 私は10秒SPチャージと謳っているウイラーinゼリーを食べてるから。」

 

それ、食べるって表現するものなの?という素朴な疑問はさておき、

僕とネプテューヌさんはモンスター鳥と一戦交えることにした。

無論、変身して。

 

当然、特訓に特訓を重ねた僕と、戦闘センスはいいネプテューヌさんにかかれば、

終始圧倒してモンスターを倒すことができた。

感覚を鋭敏にする補助魔法は偉大だ...

 

が、その補助魔法のせいで、僕たちは少しばかり面倒なことに巻き込まれた。

 

何者かが草葉の陰から僕たちを見ている...どうする、泳がせるかそれとも

気づいていることを知らせるか...どっちも危険だな...

 

「そこで私たちをじろじろ見ているのは誰?ストーカーなら消し炭に、アヴニールなら

 素粒子レベルまで分解、それ以外の一般人なら...出てきなさい。」

 

白も気づいていた。が、その挑発で出てきたのはとんでもない人だった。

 

「私に気づくなんてね...貴女、まだ子供なのに鋭い神経してるじゃない。」

 

銀髪、黒色の変身したネプテューヌさんと似たコスチューム...

間違いない、この人は、ネプテューヌさんのことを知っている...

 

「凡人とは違うので。かくいう貴女も審判の悪魔と似ても似つかない強者の風格を持っている。

 オマケにネプテューヌさんと似たような服...もしやこの記憶喪失の知り合いですか?」

 

「白ちゃん...相変わらずの毒舌ね...」

 

「あはは、そうね、確かに知ってるわ。」

 

やっぱりか。

 

「...!?わたしのことを知ってるの!?だったら教ええ、私は誰!?」

「あはははは!ネプテューヌにお願いされるのも悪くないわね...まぁいいわ。

 教えてあげるわ。ただし、条件が一つ。」

 

「条件...?一体それは何?」

 

「簡単な事よ、私に勝負で勝ったら教えてあげるわ。ただし、

 その頃にはあんたは八つ裂きになっている頃でしょうよ!」

 

その女性は凜黒の刃を顕現させて、僕たち(正確にはネプテューヌさん)を襲撃してきた。

たった一瞬の動きでも分かる、この人はとても強い...!

 

「さぁ、かかってきなさい!」

 




次回、第10話「白銀の翼、甦る。」

感想、評価等、お待ちしてます。


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第10話 白銀の翼、甦る。

凜黒の刃が僕を捉える。

感覚を鋭敏にする補助魔法がなければ反応できない速度だったが、

反応さえ出来てしまえば、僕の転生鎧装で出した剣で受けきることはできる。

 

「やるじゃない。私の剣を受けきれるなんてね!」

 

受けきれる...けれども、弾き返すという領域には至らない。

だから、受けるたびに少しずつ後退していく。

 

「わたしもいるわ!」

「あ、そ...!」

 

僕と入れ替わるようにネプテューヌさんが攻撃をかけるも、

しっかりと回避されて、おまけに追撃も受けている。

 

「強い...想像していたけど、想像以上だ...」

「当然でしょ?私はネプテューヌよりも強いのよっ!」

 

刃が突き立てられる。

っく...補助魔法のせいで割と体力が持ってかれてるから、キツイ...

それに、多分この人は速度と手数で押すタイプ...茜さんもそれまでは

教えてくれなかったから...所々に剣がかすりはじめて来た。

 

「お兄ちゃん!」

 

白の援護がようやく入る。女性の足元に魔方陣が展開されている。

 

「ち、魔法は面倒だけどっ...!《バニシングバスター》!」

 

女性の剣先から炎弾が白に向かって放たれる。

 

「対応してきた...っ!?きゃぁっ!?」

「白っ!?っく...こんの...《バーチカルクロス》!」

「甘い!《レイシーズダンス》!」

 

白は避けきれずに炎弾を魔法の障壁でどうにか致命傷は防ぎ、僕は

それを確認する間もなく反撃するも、それすらも防がれ、返り討ちにあう。

 

「黒君、白ちゃん!っく...《クロスコンビネーション》!」

「遅いのよ...《パラライズフェンサー》!」

 

ネプテューヌさんの攻撃すら避け、反撃を入れて、なおかつ状態異常まで

誘発させる。相当どころでは済まない手練れ。

 

「僕にもう少し力が...そうだ、白...!ネプテューヌさん!しばらくそいつを

 引き付けててください!」

 

補助魔法でネプテューヌさんの麻痺を回復させる。

ついでと言わんばかりに防御、攻撃、速度、全てにおいて

補助魔法をネプテューヌさんにかけまくる。

 

「わかったわ。でやぁぁ!」

 

 

----------

 

 

ネプテューヌさんが一進一退で女性を押さえている。

魔法術式の維持は神経を使うから、僕は今は変身を解除して白を探している。

 

「僕も長くは持たない...白...どこだ...」

 

探すこと数十秒。僕は白を見つけた。息もしている。良かった。

 

「白...く...茜さんを呼びたいけど、僕は今はそれどころじゃない...

 術式維持の為にも、行動は必要最小限にしないと...」

 

考える事も邪魔になる。だから、僕は今、何もできない。

 

「あう...お兄ちゃん...」

 

そんなときだった。白が目を覚ましたのは。

 

「白っ...大丈夫か...?うっ...もう、そろそろ限界かもな...」

 

やっぱり3つ同時に補助魔法をかけるのは無茶だったか。

 

「お兄ちゃん...ちょっと今機嫌悪いから...離れてくれるかな...」

「僕には大丈夫とは聞かないんだね...それはともかく、いいよ、白。

 けど、覚悟は出来てるのかい?またあんなことになるかもしれないぞ。」

 

白は数刻考えた後に言った。

 

「お兄ちゃんとネプテューヌさんとあいつでしょ?だったら、例えああなっても、

 私はお兄ちゃん達が私を止めてくれるって信じてる。」

 

「そう、か...じゃあそうなったら起こしてくれ。ちょっと、僕は倒れるから...

 白、後を任せたよ...」

 

「任せて、お兄ちゃん。」

 

そう言った白の体に光が宿り、輝きはじめると同時に、僕は術式維持の限界を迎え、

意識は暗い暗い闇の底へと沈んでいった。

 

 

----------

 

 

「黒君...ありがとう...十分戦えたわ。」

 

わたしは目の前にいる黒の女性と切り結んでいったけど、どうにか

耐えきることは出来た。そして、私の前に広がる地面から光が溢れてくるのが見えた。

 

「何の光ッ...!?」

 

女性が動揺している。今のうちに攻撃を...!

 

「飛び道具...!?」

 

私が攻撃するよりも早く女性は反応して光からの飛び道具を避けたせいで

私の攻撃は空を薙いだだけであった。

 

「っく...誰よ!」

 

「私だよ...さっき受けた分、10倍以上にして返してあげる...」

 

白銀に光る翼を持ったその少女は、間違いなく白ちゃんそのものだった。

 

「ほら、きょとんとしてないで殲滅しますよ。それとも、

 いっしょくたに塵にしてほしいんですか?」

 

ええ、毒々しいことこの上ないわね。




次回、「第11話 凜黒の双刃、迸る。」

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第11話 凜黒の双刃、迸る。

私を怒らせたからには限界まで叩き潰す...

例え、このダンジョンを崩壊させようとも。

 

「人が変わったところで!」

 

女性が私に突撃してくる。

普通なら全く見えない速度だけど、変身した私なら私ならゆっくりにも見える。

 

「変わらないとは思うな...!」

 

私は弓を顕現して、相手の剣を逸らし、相手が背を向けた瞬間に矢を放つ。

 

「そこっ...!」

 

矢は確実に相手に当たり、また、ネプテューヌさんが追撃にかかる。

 

説明し忘れたけど、変身した私は今のネプテューヌさんや相手の黒の女性のような

白に銀のラインが入ったコスチュームを纏って、空も飛ぶことが出来るようになる。

髪の色も白から銀に変わって、身体の全ての機能が強化される。

魔法も例外ではない。けど、一つ心の持ち方を誤ると暴走してしまう...

 

だとしても、あんな無茶したお兄ちゃんを見たからには、

ずっと使うのが怖かったこの力を、使わずにはいられなくなった。

怒ってもいたけど、なんでだろう、変身したら落ち着いた。

 

今なら、暴走なんて気にせずに戦える...!

 

「私に当てるとはね!」

「動きが、見えるのよ!」

 

「わたしも忘れないでほしいわね!」

 

私の矢とネプテューヌさんの剣で、徐々に徐々に、こっちが優勢になりつつある。

 

「っく...あの力...まるで私達と同じじゃない...

 まさか、イオサンドの女神が下界に顕現したというの...!?」

 

「戯言を言う時間はない!」

 

よくわかんない事を言ってるからにはまだ余裕があると言うこと。

完膚なきままに叩き潰さないと...!

 

「凄い、これが、白ちゃんの力...?」

 

ネプテューヌさんは感心しているがそんな時間は非常に無駄だ、無駄以外の

何者でもない。相手が私と似たような力の持ち主なら、体力は自動回復するはず。

 

「無駄口叩く前に手を動かす...!戦闘の基本...!」

 

本当に、この人頼りない...!

 

「それは、貴女もよ...!」

 

背後に回られていた。普通なら諦めるが、私と、この弓ならば話は別。

 

「あ、そ...!」

 

弓を中心から左右に分け、短剣として使うようにし、その短剣を

交差させることで剣を防ぐ。

 

「っく...弓使いが剣士の真似事なんて...!」

「ほら、無駄口を叩く前に...」

 

「手を動かしなさい!」

「な、きゃぁ!」

 

私が受けている間にネプテューヌさんが横槍を入れる。

頼りになるのかならないのか、本当に分かんない人...

 

「っく...やってくれるじゃない...」

 

しかし相手もしぶとい。まだ完全には倒しきれていないか。

 

「だったら、私も奥の手よ。ちょっと容赦なくなるけど、

 私をもっと本気にさせたのは誇っていいわ!だからこれで、

 大人しくやられなさい!プロセッサユニット、セットアップ!

 識別コード、《スターバースト·アクセル》!」

 

瞬間、相手の装備が更新されていく。より速度が出るような装備、

左手にはシャープな剣の追加...目立った変更点はそれだけだけど、

間違いなく今まで通りには行かないことがわかる。

 

「さぁ、第二ラウンドよ?」




次回、「第12話 決着の果てに」

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第12話 決着の果てに

二刀流、高速機動...ただそれだけだが、確実にこちらの戦況が悪くなっている。

 

「っく...動きは見えるけど...」

「体が追い付かないわね...来る...!」

 

ネプテューヌさんの合図で私達は散開するも、女性は確実に私を狙う。

 

「援護さえなければネプテューヌは余裕なのよ!」

「しつこい...!けど、ゼロ距離ならば!」

「甘い!」

 

ゼロ距離の矢を避けられた。

背中に手痛い反撃も受ける。

 

そしてその矢は岩影でバテているお兄ちゃんの近くの岩に当たって爆発する。

 

「あ...お兄ちゃん!」

「白ちゃん、下!」

 

ネプテューヌさんの声で第二波をどうにか防ぐ。

 

「うぐっ...速い上に二刀流なんて...!」

「私だって大人げないとは思うけど、食らいなさい!」

 

弾き飛ばされて、相手の会心の間合いに入らされる。

 

「白ちゃん!」

「邪魔よ!」

 

ネプテューヌさんの妨害は受け流され、私への加速は止められない。

 

--やられる...!

 

「させるかよ...!」

 

女性の剣が私に届く前に、さっきの爆発の痕が少し残ってるお兄ちゃんが

女性の剣を受けていた。

 

『なっ...』

 

その場にいる全員が驚いた。

その硬直を見逃す私じゃない。

 

「そこっ...!」

 

正確に女性の左手を狙い、剣を落とす。

 

「もう一撃!」

 

ネプテューヌさんの追撃も入る。

 

「っく...3vs1になるなんて...けどね!」

「白!ネプテューヌさん!」

 

お兄ちゃんが私たちに合図を送る。何の合図かは分からないけど...

視界が開けてる。きっと、お兄ちゃんの補助魔法。

 

「これなら、いくら速くても...!」

 

動きが見える。見えてしまえば、当たる。

 

「そこだ...《ストレイト·レイ》...!」

 

私の矢が女性を貫く、とまではいかなかった。

どうやら間一髪でかすり傷程度に留めたようだ。

 

「甘いのよ...!」

「あ、そ。けど、同じこと。」

 

無理に避ければ体勢を崩し、私への突撃の軌道が逸れる。

そして、その先には。

 

「かかったわね、《クロスコンビネーション》!」

「蛇足だろうと!《バーチカルクロス》!」

 

お兄ちゃんとネプテューヌさん。

二者の斬撃が入れば到底動けまい。

 

「きゃあぁぁ!?」

 

黒の女性が墜落していく。落下点にさらにダメ出しの一射をぶつけてっと...

 

「わお...白、さらにだめ押しですか...」

「無いよりかはいいでしょ、お兄ちゃん。」

 

「それよりも、あの人わたしの手がかりなんだから...」

 

あぁ、そうだった。出来るだけの警戒をしてから墜落先に向かわないと。

 

「っく...認めない...認めないわ!」

 

この期に及んで往生際の悪い...

 

「確かにこちらが多勢に無勢なのは認めるわ。けど、約束は約束よ。」

「--!こんなの...!勝ったのうちに入らないわよ!」

 

女性が予備動作なしに飛び立った。

 

「んなっ...一瞬で射程距離外に逃げられた...あう...」

 

疲労で変身が解ける。っく、こんなときに...

 

「お兄ちゃん!ネプテューヌさん!」

「悪い白、十秒待って...」

「もうだめ疲れた~」

 

二人もダメときた。ここまで追い詰めたのに...

 

「じゃあ、走って、お兄ちゃん!」

「あと五秒!ウイラー食ってるから!」

 

お兄ちゃんならあとで追い付けるかな...

 

「じゃあ、いくよ、ネプテューヌさん!ここで頑張ったらまたプリンの店

 行ってもいいですからね!プリンのために死ぬくらい努力してください!」

「ほ、本末転倒だよ~」

 

そして、陸路を三人で走って追いかけた先には...

という結果に行き着く前に空を見ていたせいか何か、いや、誰かに当たった。

 

「捕まえたー!」

「の、のわ~!?」

 

私がぶつかって後ろに行くと同時にネプテューヌさんがその人を捕まえる。

 

「ぜぇ、はぁ、捕まえた?」

「はぁ、はぁ...うん...」

 

その捕まえた人は、黒髪ツインテの人...つまり人違い...?

 

「ダリナンダアンダイッタイ!」

「それ、女の子が言った事じゃないでしょ!はっ...!」

 

的確な突っ込み。これは...

 

「こほん...で、貴女は誰で、ここで何をしてるんですか。」

 

お兄ちゃんが質問する。しかし、この人、よく見たら傷だらけ...

 

「え、えーっと、あれー、私って誰だっけー。」

 

「ま、まさかわたしと同じ、記憶喪失!?」

 

...頭が痛い。まさか、二人目の記憶喪失なんて...

 

「白、仕方がないから追いかけるのは諦めて、シアンさんのところへ戻ろう。」

「そうだねお兄ちゃん...」

 

これが、私たちとノワールさんとの出会い。

 

あぁ、もう、記憶喪失って、厄介というよりかは...都合のいい言い訳に聞こえてきた。

 




次回、「第13話 二人の黒」

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第13話 二人の黒

忙しすぎて遅れすぎました。これ年度末までに終わるかな...


三人で行ったシアンさんの依頼は達成したけど、何故か四人で帰ることになった。

 

「あ、あー、交易路のモンスター共を倒してくれたのは嬉しいんだが...

 どうして一人増えているんだ?」

「その点はさっぱり分かりません。ただ、ダンジョンで傷だらけで記憶喪失。

 パーティに入れざるを得ないのは事実...私は記憶喪失は嘘のような...

 そんな気がしますね。」

 

白の鋭い目が女性を射抜く。そういえばこの人の名前は...聞くか。

 

「では、一つ聞きたいのですが...まずは自己紹介ですね。僕の名前は黒と言います。

 こっちは妹の白。このネプテューヌさんの記憶と、僕達の両親のことを知るため

 に旅をしています。で、貴女のお名前は、覚えていますか?」

「え、えぇ、覚えてるわ。私の名前はノワールよ。それにしても...子供なのにとても

 礼儀正しいのね。そこのネプテューヌと大違いよ。」

 

「比較対象を間違えていますね。貴女の目は節穴ですか。お兄ちゃんをこんな

 ちゃらんぽらんと比べるのはお兄ちゃんへの侮蔑と受けとりますよ。」

 

怖い怖い、白さん怖いよ!

 

「うぅ、黒、貴方の妹の私への風当たりキツくない?」

「気のせいです。もっとひどいときはこの程度ではすみません。」

「そ、そうなの...」

 

「というか白ちゃん、さらっとわたしディスったね!?ほんとにさらっと!」

「ネプテューヌさんならバレないと思ったのですが...存外鋭いんですね。

 ちょっとだけ見直しました。具体的には1フレームくらい。」

「それってもう一瞬じゃん!」

 

今日も白の毒は回るのが速いこと...

 

「やっぱり気になる。さっきも聞いたが、なんで四人になってるんだ?」

「かくかくしかじかです。」

「そういうことか...わかった。じゃあまぁ飯でも食っていけよ。話したいこともあるし。」

「ご相伴に預からせて頂きます。」

「...なぁ、黒。お前ほんとに7歳か?」

 

年齢に突っ込みが来た...そうだよね、こんな敬語使う7歳児はいない。

 

「7歳ですね...僕たちは少し生い立ちが特殊ですから。」

「そ、そうか...」

 

シアンさんはそう言って食堂の奥に向かっていった。

 

「そうだ、貴方たちはなんで旅してるの?とは聞いたわね。

 ごめんなさい、あんまり聞いてなかったからもう一度言ってくれるかしら。」

 

ノワールさんから質問が来る。

 

「えっとねー、世界に四人いる不死身の生命体を倒すためー、って感じ?」

「はぁ、それは捉え方によっては女神様を倒すということですよ。愚かですね。」

「貴女に聞いた私が愚かだったわ...ごめんなさい。黒君、答えてくれるかしら?」

 

二人が容赦なくネプテューヌさんのボケにトゲを刺す。

 

「は、はぁ...僕達は各大陸にある鍵の欠片と呼ばれる物と、僕と白の両親のことを

 知るために旅をしています。記憶がない貴女に聞くのもあれですが、その...

 僕の両親を知ってたりしませんか?僕たちを護るために二人とも死んだって、聞きましたけど...」

 

小考の後、ノワールさんが口を開いた。

 

「...残念だけど知らないわ。そんなに記憶が残ってないから...」

「それもそうですね...」

 

そんな会話が終わるのと、シアンさんが料理と共に戻って来たのは同じタイミングだった。

 

----------

 

「さて、話したいことって言うのは全国技術博覧会のことなんだ。」

「えっと、トウキョウゲェムショウみたいなやつ?」

「そんな感じだ。今ラステイションはアヴニールに支配されている。

 その状況を打開するには、女神様の力、ブラックハート様のお力が必須なんだ。

 だから、博覧会に作品を出そうと思うんだが、その武器のテスターを頼みたいんだ。」

「...つまり、博覧会には女神様が来るということですか...そんな保証はないのに。」

 

白が一つ指摘を入れる。この子もほんとに7歳か怪しい。

 

「だが、女神様を止められる者もいない。」

「審判の悪魔がいますよ。女神様には手を出さないようですが。」

 

険悪な雰囲気が流れはじめてきたなぁ...

 

「じゃあ、その博覧会に出してどうしたいの?優勝したいの?」

 

ネプテューヌさんの雰囲気ブレイク、助かった...?

 

「いいや違う、重要なのは女神様のほうで...え、な、なぁ、ノワールとか言ったよな、

 もしかして、ブラックハート様だったりする、のか...?」

 

別の問題発生。ありのまま今起こったことを...あ、これネプテューヌさんの台詞じゃね?

 

「な、何言ってるのよシアン!これはその、コスプレよ!事情は言えないけど

 女神様のコスプレをしてるのよ、事情は言えないけど!」

「...大方、アブニールの目を欺いて本物の女神様を動きやすくするため、でしょう。」

「そ、そうよ!」

「...あからさまな狼狽ですが...まぁいいでしょう。今後はどうします?

 まだ鍵の欠片も見つかってないですし...」

 

白が現実に引き戻した。

 

「クエストも...なんか情報が集まりやすいのはないよねー。」

「...じゃあ、アヴニールのクエストを受けるのは...?」

 

『え?』

 

ノワールさんのトンデモ提案に、ネプテューヌさんと白の冷ややかな声が響いた。

 

「いや...アヴニールの情報を奪うのであればそれもありかも...」

 

僕は悪くないと思うんだけどな...この案。

 

「なるほど...それならいいな。作った武器も活躍の機会がありそうだし。」

「アヴニールを潰すのなら、仕方ないからやります...けど、言い出しっぺの貴女もですよ?」

「えぇ、もちろんそうするわ。」

 

こうして、僕たちの次の行動が決まったのだった。




次回、第14話「悪魔の計略」

最初に言っておきます、次回は悪魔サイドのお話です。

感想、評価等、お待ちしてます。


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第14話 悪魔の計略

うげぇ...どうにか時間が作れた...

大遅刻の14話です、どうぞ。


イオサンドのほぼ中央にある小屋、そこには審判の悪魔とその仲間、九形光が住んでいる。

 

「ねぇ、悪魔君。どうやらラステイションに反女神の動きありだよ。アヴニールという

 会社らしい。ふーん。珍しく、というか6‚7年経ってようやく初めてこんな組織的な

 反女神の動きに乗り出してきたわけか...」

 

そこでは世界中から集まる反女神の人間や組織の情報を精査、検証し、

確実に、間違いなく対象を粛清するための会議をしている。

 

「組織的行動、か...反女神派ではないように取り繕うのが上手いのかもな...

 とするならば、潜入が一番よいだろう。まだ、粛清には早いな。」

「思いの外冷静だねぇ。けど、誰が潜入するんだい?まさか君が行くわけないだろう?」

「当然だ。私には顔に傷があってな。すぐ素性がばれてしまうのだよ。そこで、君だ。」

 

悪魔は仮面の下で笑みを浮かべながらそう言う。

 

「まさか、私にアヴニールに入社しろと?」

「そこまでは言わんよ。君にはアヴニールが依頼しているというクエストをこなして欲しい。

 さすればそのうち内情を理解し、内側から瓦解させることも出来よう。」

「ふーん。毒をもって毒を制すってわけか...じゃあ早速行かせてもらうよ。」

「あぁ、頼んだぞ、光。」

 

 

----------

 

 

「頼まれたけど、ね。悪魔君。私は私のやり方で戦わせてもらうし、君の仲間になったのは

 私が世界を統べるため...ちょうどいい。アヴニールには私の傀儡になってもらおうかな。」

 

光は自らの得物、零零式·霞裂鎌(ぜろぜろしき·かすみさきのかま)を持ってラステイションに向かう。

その真意は悪魔すらも気づかず、悪魔よりも冷酷であった。

 

 

----------

 

 

一人でいるとき、それは審判の悪魔が悪魔ではなく一人の人間として生きているときである。

しかし、そうも言ってられないのが現実というものだった。

 

「...俺は...間違ったな...」

 

虚夜時雨の理想、それは世界の再編だった。世界を再編し、感情に左右されない

統一化された平和な世界を作ろうとした。

 

その危険な思想と俺自身の考えが一部であれど同じであり、また、

望む物も平和という点では同じ。方法が違うだけ。

俺は、世界まるごとではなく、一部の反女神派の人間を排除して、俺だけが

大罪人として世に名が広まり、俺に対して恐怖を抱き、女神を信仰させる。

その力で俺を倒してもらうはずだった。が、時間がかかりすぎた。

 

「ちと、面倒になっちまったよ...」

 

仮面を外し、結んでいた髪をほどく。

 

「早くしてくれ...俺が俺でなくなる前に、止めてくれ...そして、許されなくても...

 もう一度、もう一度だけ...」

 

--ブランを、抱き締めたいな...

 

 




次回、「第15話 アヴニール」

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第15話 アヴニール

テスト前日に遅れを取り戻すスタイル。

はい、今日は16話まで書きます!

では、どうぞ。


「えー、大変不本意ではありますがー、アヴニールのクエストを受けに

 ねぷねぷ一行はやってきましたー。」

「えぇ、そうですね。不本意以外の何者でも無いです。」

 

白とネプテューヌさんのテンションは最悪だ。

それにノワールさんは遅れるって言うしもう一人クエストを受けたっぽい人いるし...

僕一人じゃもたないね、これ。

 

「お待たせ~、ちょっと準備に手間取っちゃって...」

「あぁ、ノワールさん。...その眼鏡はどうしたんです?」

「え?これ?ちょっと事情があって。」

「視力でも落としたんですか?あ、依頼主が来ましたよ。」

 

こっちにやってくる二人の男。

見ただけでわかる。こいつらがアヴニールの首魁...

 

「あなたたちが今回弊社の依頼を受けてくださった5人組ですね。

 私はガナッシュと申します。こちらは、弊社代表のサンジュ。」

「......」

 

この威圧感...明らかに別格...戦闘する人間でもないのに...

 

「代表自ら、か。それほどの依頼と見させてもらうよ。」

 

この場にいた僕たち四人以外の人、ブロンドの長髪で片目が隠れている

灰色の目をした人は言った。

 

「まぁ、大方その感じです。ここは弊社の新プラント建設予定地なのですが、

 着工前に少々厄介なモンスターが住み着いてしまいまして...」

 

「なるほど...そんな感じですか。」

「それくらいならとっとと終わりそうだね、お兄ちゃん。」

 

「...我々はこの周辺を視察する予定があるので、くれぐれもミスして、

 私と社長が視察しているところに逃がさないようにしてください。」

「殲滅さえ出来れば手段は問わん。」

「では、お願いしますよ。」

 

 

----------

 

 

「...腹立つ。あの眼鏡、とてもムカつく。」

 

白は変身して雑魚に対して圧倒的な力を見せつけている。

 

「白...!気持ちはわかるけどせめて、僕たちが巻き添えしないようにしてよ!」

「白ちゃんに乗じてえぇ!」

 

ネプテューヌさんも暴れ始めた。これはほんとすごいなぁ...

 

「あぁもう!私もイライラしてんのよ!ボスはどこよ!」

「ノワールさんまで...あぁ...なんだかなぁ...」

 

僕一人冷静、というかげんなりしていたけど、そういえば今日はもう一人

いるんだった。あの金髪の人はどこいったんだ...?

 

「君たちー。ボスが来たよー。」

 

そう思っていたらいた。武器は鎌。見ただけで禍々しさが伝わってくるような、

そんなデザインだった。

 

「やっとですか...任せます。私は戦闘痕らしくちょっと地面を抉って嫌がらせするので。」

「じゃ、私もやるー。」

「あんたたち目的忘れてるんじゃないでしょうね!?」

 

だめだこりゃ。なんかこの二人、妙に相性がいい...

 

「少年。ちょいと手を借りていいかい?」

 

不意に金髪の人が僕に声をかける。

僕はこの人の名前を知らない。

 

「え?えぇ。...そう言えば、貴女は...?」

「自己紹介?いらないよ。その内また会うし。来るよ!」

「っ...!」

 

自己紹介をすることなく僕たちはモンスターと戦うことになった。

ノワールさんは...あぁ、ちゃっかりあっちで暴れてる。

どうせ更地にされるっていうのに...

 

「少年!3秒だけそいつの動きを止めて!」

「それくらいなら!」

 

四足歩行ですばしっこい獣型モンスターでも、正面から奴の爪と正対すると

3秒くらい止めることなど造作もない。

 

「よくやった少年!霞裂·天狼破断!」

「んなっ...!?」

 

この人は、一撃で、大型モンスターを撃破して、さらに地面に深い傷を残していた。

 

「...やっぱりか...まだ調整が済んでないんだよな...」

 

鎌をしまって僕の方に来る。この人は一体、何者なんだ...

 

「少年、協力感謝するよ。じゃ、また会おう。」

 

そう言って何処と無く去っていった。

 

「...とりあえず...殲滅完了...」

 

このあと、暴れ足りない3人をどうにかなだめて帰った事は言うまでもない。

 

 

----------

 

 

「あれが、凍月黒、か。まだ泳がせておこう。それよりも、アヴニール...

 見立て通り利用価値の塊かな...」

 

光は野望に満ちた笑みを見せていた。




次回、「第16話 アヴニール その2」

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第16話 アヴニール その2

はい、そろそろ2章が終わります。
やっとや、やっと進める...


白とネプテューヌさんが暴れる可能性があるものの、

僕たちは今日もアヴニールのクエストを受けることにした。

 

先のクエストではこっそりシアンさんの武器のテストをしていたけど、

昨日シアンさんに返したら目を輝かせて開発し始めちゃって...

今、シアンさんから改造された剣を渡された。

 

「朝まで作ってたんですか?シアンさん。」

「あぁ、お前らのフィードバックを聞くと、興奮しちゃってな。」

 

この人はホントに純粋な加工屋なんだな...

 

「さて、行ってきますとしますか、白。」

「腹立つけどね。」

 

白もまた平常運転だった。

 

 

----------

 

 

「これはこれは皆さん、連日ありがとうございます。

 早速ですが、依頼の説明に移らせていただきます。」

「うん、いーよー。」

 

町外れの古びたようには見えない倉庫、それが今回の依頼の場所。

なんだろう、少しだけ嫌な予感がする。

 

「今回の依頼はこの倉庫の中にある資材の回収です。

 この倉庫は、見た目よりも古くなってしまいまして、

 既に撤収した倉庫なのですが、一部資材を回収し忘れまして。」

「その資材を回収すればいいのね。」

「はい、その資材というのはたった1グラムでゲーム機を1万年動かせるという

 常軌を逸したエネルギーを秘めた鉱石、わが社ではラステライトと呼んでいる

 ものがありまして。」

「は?そんなもの、あるわけないじゃないですか。」

 

白よ、それは確かにそうだが、それは言ってはいけない。

 

「そう思うのも無理はありません。このラステイションでしか採取できない上

 わが社がそれを独占しています。その上、その存在も公にはしていません。」

「なるほど...納得しました。」

「ねーねー、じゃあちょっとだけなら貰ってもいい?」

 

ネプテューヌさんのトンデモ提案。公にされてないって聞いてなかったのこの人。

 

「構いませんよ。ラステライトの存在を隠匿していただけるのならば。」

『え、えぇー...』

 

僕とノワールさんは揃ってげんなりする。

ともあれ、クエスト開始といこうか。

 

廃棄されただけあってやはりモンスターは多い。これは少し骨が折れそうだ。

しかし、それとは別の、それでいてかなり深刻な問題が起きた。

 

--ギィ...バタン!!

 

「んなっ...」

「ちょっとガナッシュ!何で閉まったのよ!?」

 

「いやぁ、手違いで閉まっちゃいました...と言うわけではなく、あなたたちには

 ここでモンスターの餌食になってもらいます。」

「騙し討ち...あぁ、イライラする。」

 

白が変身する。

 

「開けなさい、ガナッシュ。どうせ会話しているということはドアの近くにいるということ。

 私の矢なら、そんなドアなんて簡単に貫いて、あなたを殺す事もできる。開けなさい。」

「では、やってみたらどうでしょう。」

「は...?」

「ここには対あなたたち用の特殊な結界が張ってあります。無駄ですよ。」

「となると...ラステライト云々も嘘...ガナッシュ!貴方の目的は何!?」

 

ノワールさんが叫ぶ。その目には、怒りがこもってる。

 

「あなたたちがあのパッセとかいう工場の回し者だということは分かっています。

 ちょっと探りを入れれば一発でしたよ。わが社の邪魔は誰にもさせない。

 ここで朽ち果てるといいでしょう。」

「俗物め...!」

 

白がドアに向けて矢を放つ。が、その矢は霧散する。

 

「白、奴の言ったことは本当のようだ。今は...」

「...わかった。...お兄ちゃん...私に、好き放題暴れさせて。」

「白、それは私のセリフよ。あんな企業、私が直々に修正してやるわ。」

「じゃー、まずは脱出だね!」

 

瞬間、僕たち四人は各々の武器を持つ。

久しぶりに、僕も腹の虫の居どころが悪くなってきた...

あぁ、こうなってくると我慢しない方がいいって茜さんが言ってたな...

 

「んじゃぁ、"俺"から行かせてもらいますよ!」

 

この気持ち...まさしく、怒り...!

 

阿修羅すら凌駕し得る四人の、無双が工場内で始まったのだった。

 

 

----------

 

 

「せいぜい泳ぐといいよ、少年。ガナッシュ君。私の技術提供、無駄にしないでよ?」

 

件の工場の屋根から声がかかる。

 

「えぇ、あのような技術の無償提供はまさに神の御業というものです。

 無駄にはしませんよ。九形さん。」

「ふふ、美しく壊してよね。その為に名付けたのでしょう?殺人者の名を冠する、キラーの名を。」

「そこまで物騒ではないですが、結果としてはそうなるでしょう。」

「ククク、あーあ、始まるねぇ、私の野望が...」

 

光の髪に隠れていた目、右目が見える。その目は灰色ではなく、紅く光っていた。

 

「たーのしみー。ねぇ、そうでしょう?」

 

その問いかけに、答える者はいなかった。

 

 




次回、第17話 脱出

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第17話 脱出

俺たち4人はただひたすら広い倉庫の中に蔓延るモンスター相手に

無双ゲー並みの吹き飛ばしっぷりを見せながら進んでいた。

が、スタミナが切れつつある。

 

「倒しても倒してもキリがない...武器を研ぐ時間くらいよこしなさいよ!」

「でも砥石もってなーい。ていうか、ノワールがボケるなんて珍しいね!」

「そこは...魚を渡してあげるんです!」

「ねぷっ!?白ちゃんまで!?」

「疲れてるんです...!」

 

ご覧の通り、あの白ですらボケ始めた。

 

「アクセルレインとか使えたら...」

「あれって実体矢じゃなきゃダメな奴じゃない!」

「ハチミツちょうだーい!あともう疲れた~、倒しまくって、やくめでしょ!」

『まさかの地雷(ですか)!?』

 

あの3人がここまで疲弊するほどの量。

絶対、何かからくりがあるはずなんだ...

 

「ぐ...かくいう俺も...あんまりスタミナ無いんだよなぁ...うらぁ!」

 

シアンさんの剣と俺自身の剣と二刀流で無双する。

黒、二刀流って言ったらあいつが出てくるだろうけど、残念ながら俺は

そんなに運動神経、というか反射神経はよくない。

 

「お兄ちゃん!そっち微妙に多い!」

「んじゃぁ、退くか...」

 

4人が束になる。減らないなぁ...

ん?減らない...?そうか...

 

「どこかでモンスターが作られている...」

『え?』

「いや、確証は無いんですけど...俺はそう思います。」

「そう...あれ?"俺"?黒君、一人称変わった?」

「お兄ちゃんは怒るとこうなるんです。」

 

そう。なんでかは知らない。ついでに言うと、怒ると僕自身の力も

少し強化されてそうな気がする。

 

「そうなのね...白、貴女、その矢を拡散させることは出来る?」

「余裕ですね。と、いつもなら言いますが...今はちょっと厳しいですね。

 なんせ体力がもうそろそろリミットなんで。」

 

白がそう言うのと俺の転生鎧装が光り始めたのは同時だった。

あ、鎧自体は光ってない。俺の変身するデバイスの方。

これは半分、てか確実に機械だから能力と言えるのか、という素朴な疑問を

常に持ってる俺でも、今この瞬間でやってくれるのはありがたかった。

 

何でかって?

 

それはこの転生鎧装がこういう風に光る時は、転生鎧装が進化する時だからさ。

さぁ、今回はどんな進化がやって来る...

 

「やってくれ、白。今すぐに。」

「お兄ちゃん!?何か策があるの?」

「当然。だからやってくれ。」

 

進化...この力を解放する!

 

「ネプテューヌさんも変身しておいてください。ノワールさんは白を抱えてくれますか?」

「そこまで言うなら...刮目せよー!」

「やぁ!白!今よ!」

「一気に行きますよ...《アルテミスバレッジ》!」

 

白の拡散矢が俺の前方をクリアにする。

その隙に俺は鎧から黒い羽を顕しながら突撃する。

 

「いっけぇぇ!!」

 

モンスターを羽で吹き飛ばしながら一気に奥まで突き進む。

 

「せぇぇい!」

「やぁ!」

 

ネプテューヌさんとノワールさんも追随する。

ちゃんと白は抱えられてるな...

そう思った俺は目の前にドアらしい物を見つける。

 

「行けるはず...《バーチカルクロス》!」

 

瞬間、ドアを破壊してなんとか俺たちはどうにか脱出した。

モンスターの大群は倉庫から出れないらしく、開かれたドアの前で

立ち往生していた。ざまぁみろ。

 

『ふぃー...』

 

全員長い息をついてぐったりする。

イライラも少しは落ち着いた...

 

「ひどい目に遭いましたね...」

「うん、そうだねお兄ちゃん...ガナッシュ...絶対許さない。」

「白、それは私のセリフよ。けど、こんなことするくらいならまだ何か

 目的があるはずよ、私たちをあの程度のモンスターで倒せる筈がないもの。」

「うーん、7コスト以下の呪文を墓地から唱えるとか?」

「目的分からないじゃないですか!あとそれ最近一枚制限入りました!」

「おおう、やっぱ黒君のツッコミは安定するね!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ...それよりまずシアンの

 ところに帰ってどうするか考えないと......まずいわ、シアンが危ない。」

 

ノワールさんが気づく。僕も気づいた。まさか...そうだとするなら...

 

「悪魔案件じゃないですか...完全に!」

「もう許さないわよガナッシュ...いいえ、アヴニール!あいつら絶対...

 絶対...ぶっ潰してやるわ!黒!あと頼むわよ!」

「えぇ!?ちょ、ノワールさん!?」

 

颯爽と駆け出したノワールさんにはもう僕の声は届かないだろうな...

いやそれよりも...この二人...白はスタミナ切れでネプテューヌさんは...

 

「(´·ω·`)」

「そんな顔されても困りますよ!?あと顔文字ネタは7章辺りのはずです!」

「そして黒君、君の次のセリフは!」

『こんな状況でよくふざけていられますね!』

「...ハッ」

 

上手いくらいに乗せられた...

この人人身掌握は上手だなぁ...

 

「それよりなんでシアンが危ないの?」

 

どうやら、それ以外はからっきしらしい。

 

 

----------

 

 

「...ほう、醜悪だな。」

 

ラステイション工業地域、インダストリアル7.1が一台のマシンによって

荒らされている様を審判の悪魔は仲間である光からの通信で見ていた。

 

『どうするよ、悪魔。まさかここまでなんて私も思ってなかったし。』

「すぐ向かう...だが、恐らく黒の女神もそこに現れるだろう。光、君は

 製作元であるアヴニールの社員を探せ。排除しろ。」

『了解。』

 

通信を切られた悪魔はゆらゆらと立ち上がり、後頭部をかきながら

仮面の下の素顔を怒り一色していた。

 

「あぁ、全く...人というものはつくづく愚かだ...私を含め...

 愚か以外の何者でもない...!」

 

拳を机に叩きつけ、呼吸を整える。

 

「ゆくか...最高規模の、粛清としよう...」

 

審判の悪魔は飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、「第18話 共闘、悪魔と女神」

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第18話 共闘、悪魔と女神

一台のマシンが街をめちゃくちゃにしている。

通常の人間なら、こんなマシンを壊そうとは思いにくい。

何故なら、対抗手段を持ち合わせていないからだ。

 

なら、対抗手段を持つ彼女は、いや違うな。

対抗しなければならない彼女は、必ず壊そうとする。

そして必ず壊すだろう。

 

「見せてもらおうか黒の女神...君のその怒りを...」

 

審判の悪魔は、上空に佇んでいた。

 

 

----------

 

 

時は少し遡る。

黒達から離れ、一人インダストリアル7.1に向かったノワールは、

一台のマシンが街を蹂躙している様を目の当たりにした。

破壊衝動が沸き起こってくるが、その前にやることがある。

シアンや周辺住民の安否確認と避難誘導だ。

 

「許さないわよアヴニール...シアン!返事してシアン!」

「この声...ノワールか!ここは危ない!今すぐ逃げろ!」

「それはこっちのセリフよ!」

「私はこの工場を護んないといけないんだ。何も出来なくても、

 ここにいなければいけない!だからお前は逃げろ!」

「聞けないわね。はぁ、誰もかれも好き勝手言うわね...」

 

だが、ノワールはシアンの意思を尊重し、一人マシンへと向かった。

 

「待ってなさいシアン。壊してくるわ。」

 

 

----------

 

 

「ふはは、いいぞ、もっと壊すんだキラーマシン!」

 

荒廃化したインダストリアル7.1に不釣り合いなスーツ姿の眼鏡男。

見つけた、アヴニールのガナッシュね。

 

「そこまでよガナッシュ...今すぐそいつを止めなさい!」

「おや、誰かと思えば...どうやらあのモンスターの牢獄から

 無事脱出できたようですね。」

「当然よ。あの程度で私たちを仕留めようだなんて、随分お花畑な頭ね。」

「なに、足止めだけでも十分ですよ。」

 

こんなことだろうと思ったわ...私の国をここまでメチャクチャにした挙げ句、

この私の前で偉そうにふんぞり返っている。全く腹立つわ。

ここまで何も出来なかった、私自身にね!

 

「はぁ...じゃあとっとと壊させてもらうわよ。」

「何を言い出すかと思えば...今やラステイションの実権は私たちが握っているというのに、

 このキラーマシンを壊す?お花畑なのはそちらではないのですか?今この国には貴女を

 信仰している人間なんてほとんどいないのですよ?」

「えぇそうね。そうでしょうよ。だから何なのよ。」

 

私の中で何かが吹っ切れた。

今までのこいつらの仕打ちには確かに酷い目にあわされた。

けど、皮肉なものね。審判の悪魔なんてものがいなかったら、今頃転化してたわ。

 

「何...?」

「私は、私自身の意思でここにいる。私を信仰してくれている皆のために!」

「何を言い出すかと思えば...さっきも言ったでしょう。

 貴女を信仰している人間など居やしないと。」

「確かにね。けど、それはあなたの中の話よ、ガナッシュ。

 私は最近教会に戻ってきたばっかりよ。加えて軽く軟禁状態。

 それでも私は仕事をしていたけど、一つ気になった事を調べていたわ。」

「ほう、調べもの、ですか。」

 

それは一国の長には残酷過ぎて、けどこの状況に利用できる私の希望。

 

「えぇ。過去7年間に審判の悪魔に殺された人々の死亡届の枚数よ。

 ネプテューヌに会うまでの時点で、99822人。それでも、

 ラステイション全体の人口の数パーセントに過ぎないわ。

 それがどういう訳か、わかるわね。」

 

ガナッシュの顔に狼狽が見える。ふ、私を誰だと思っているのかしら。

 

「な、まさか...」

「そのまさかよ。私を信仰している人々は、悪魔に殺される事はない。

 つまり、私を信仰している人は、この国にはまだたくさんいるのよ!アクセス!」

 

変身して周囲を見渡す。被害はまだ狭い。そして上空に人影。

 

「ふーん、自分は高見の見物か...降りてきなさい悪魔!あなたにとっても

 こいつは邪魔でしょう?許せないでしょ?だったら、あなたにも悪い話

 じゃないと思うわ。こいつらをここまで放置した責任、取ってもらうわよ!」

 

私は空の人影に向けて豪語する。人影はすぐに反応した。

真っ直ぐ私のところへ降りてくる。

仮面を着けた、蒼コートの男。

 

「ほう、私をも味方につけるその胆力、実に策士と言えよう。

 ふむ、ならばその誘いに乗り、今宵、共闘しようではないか。」

「はっ、勘違いしないでよね。こいつを壊したら、次はあなたよ。」

「肝に銘じておこう。行くぞ。黒の女神よ。」

 

女神と悪魔、相反する2つの存在の共闘が始まる。

 




次回、第19話 「女神の在り方」

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第19話 女神の在り方

悪魔は左、私は右からキラーマシンに攻撃をしかける。

が、キラーマシンはその両方の動きを読んでいたかのように防いだ。

 

「ほう...これは...」

 

左から接近した悪魔にはクローで応戦、こっちにはテイルブレードで応戦。

ったく...随分面倒ね、これは...

 

「だったらこれはどう!?」

 

テイルブレードを踏み台にしてキラーマシンの頭部らしきところに

一撃入れようとする。

 

「ふん、無駄ですよ。」

 

キラーマシンは頭部にバルカンがあり、それを照射して私を近づけなくさせた。

 

「面倒...!」

「ではこれはどうかな?」

 

悪魔は拳銃を放つ。

が、その数瞬前にはテイルブレードが防御姿勢に入っていた。

 

「...やはりか...」

「ちょっと!いくらなんでも普通の拳銃じゃマシンは壊せないわよ!」

「それはもちろんその通りだ。だが、私はこれで確信を得た。

 こいつは先読みに特化している。回避や防御に長けているのだ。」

「んなっ...」

「流石は審判の悪魔、早々に気付きましたか...」

「...消えろ外道。」

 

悪魔はガナッシュを一瞥するや否や銃弾を三発撃ち込む。

だがそれもキラーマシンによって防がれる。

 

「...仕方あるまい。こいつを使うこととしよう。」

 

悪魔の背中から羽根らしきユニットが現れると同時にキラーマシンは

悪魔に攻撃をした。その隙を逃す私ではないけど...

 

「ぐぅ...近づけないじゃない...」

 

その隙を埋めるような弾幕。それにその弾幕が街焼くことにつながった

瞬間を見た私は、目を見開いて、止まった。

そして、逆にその隙を突かれる。

 

「ノワールさん!」

「んなっ...きゃぁ!」

 

黒の声で何とか防御は出来たけど...あれ?黒?

 

「全くもう...やっぱりあの時の人はあなただったんですね。ネプテューヌさん

 だけですよ、それで騙せていたのは。最も、確証がなかっただけですが。」

「うぅ...仕方ないでしょ!?いきなり私がさっきの人ですって言えないじゃない!」

「それもそうですね...」

 

ほんとにこの子は何歳なのかしら...年齢がよくわかんないわ。

けど、この言い回し、どことなく影に似てるわね。

 

「呆けてる場合じゃないですよ。あれを壊すんでしょう?

 まさか僕たちが悪魔と共闘することになるとは思いませんでしたが。」

「む...その声はいつぞやの少年か...」

 

悪魔は全方位からちまちまとキラーマシンに攻撃している。

 

「今回は邪魔しないよ、悪魔...けど、いつかお前を倒す。それが、

 茜さんからの依頼だからね。絶対に、倒す。」

「茜...仙道、茜か...」

 

悪魔の反応は少し不可解だったけれど、そんなの考える間もなくキラーマシンが

私と黒に攻撃してくる。

 

「じゃあノワールさん。悪魔が派手にやってくれてるので、ここは白に任せて

 よさそうですね。気づかれずに魔法陣を展開できてそうですし。」

「そう...ネプテューヌは?」

「白の特大範囲魔法には少し手間が必要で、敵がマシンですから雷の属性の魔法を

 ねじ込みます。雷属性の使い手はネプテューヌさんくらいなので、

 今ネプテューヌさんには白の魔法の魔力を引き出す...えっと、人柱になってもらってます。」

「随分エグいことするのね。」

「本人はプリン10個で即答でした。」

「軽いわね!?」

 

さすがネプテューヌね...

戦闘中なのに緊張がほぐれたわ...

 

「さてじゃあノワールさん。とっととぶっ壊しにいきましょう。」

「えぇ!」

 

 

----------

 

 

「...マシンには魔力は感知出来ない、か...賢いな、少年。」

 

となると私の出番は終わりだろう。後は彼女達に任せられる。だが、

こちらの任務だけは任せられるのは一人だけだ。

 

「私が直接裁けないのは誠に遺憾だが...しょうがない。光!」

『はいな。』

「アヴニールのガナッシュを処刑せよ。確実に殺せ。」

『あいあいさー。』

 

奴は戦闘中に逃げた。こちらの注意はキラーマシンにしか注がれてはいないからな。

しかし...魔力が渦巻いてきた。これ以上いると黒切羽の制御出来んかもな。

 

「あわよくば私をも、か...少年!君の名を聞かせてもらおうか。

 私は審判の悪魔。ゲイムギョウ界の人の業と性を浄化する者だ。」

「...僕は黒。魔法の準備をしているのは妹の白。いずれ、お前を倒す者だ。」

「では黒君。こいつを破壊したまえ。何、殲滅の下準備位はしよう。」

 

黒切羽をキラーマシンに同時に突き刺す。

いくら先が読めようと、回避先や防御ポイントなどがなければ無用の長物だ。

だが奴は頭部のバルカンをあろうことか街全体にばらまこうとした。

 

「させないわよ!」

 

黒の女神がそれを察知し、二刀流で頭部に三撃いれた。

 

「やれ!白!」

 

黒の掛け声と共に、キラーマシンの足元に巨大な魔法陣が展開される。

 

「これは...二元属性魔法(デュアル·エレメンツ·スペル)...」

 

範囲から出つつ、魔法が放たれる様を見届ける。

氷による冷凍と結晶を走る雷によってキラーマシンはショート、爆発する。

それだけで十分だった。

 

「撤収するとしよう。」

 

 

----------

 

 

戦闘が終わり、僕とノワールさんは変身を解いた。

 

「終わりましたね。」

「えぇ。...なんか全部白に持ってかれた気もするけど。」

「おーい!黒ー、ノワールー!」

「お兄ちゃーん、ノワールさーん、終わったー?」

 

「終わったぞー。白ー、よくやったー!」

「へぇ、白とネプテューヌはシアンの所にいたのね。」

「えぇまぁ。それよりノワールさん。」

「どうしたのよ黒。」

 

ノワールさんに改まって質問してみる。

 

「ネプテューヌさんの正体、なんですか。」

「...貴方、それ半分というか答えわかってるわね?」

「わかります?じゃあ僕からネプテューヌさんに伝えますね。」

「あ、そう...なんかペース狂うわね...」

 

頬をかくノワールさんは子供目に見ても可愛いって思った。

...僕自身、僕が何歳か分かんなくなってきたなぁ...

 

「けど、そうしてもらうと助かるわ。私はここからラステイションの復興を

 しなければならないもの。この国の、女神なんだから。」

「...そうですか。わかりました。」

「何々、なんの話?プリンの話?」

「この状況でもプリンですか...まぁ、よしとしましょう...」

 

白とネプテューヌさんが合流した。じゃあそろそろ行かないとな。

 

「ノワールさん。鍵の欠片を見つけたら、僕たちに教えてください。

 それと、もう一回探しに来るかもなので、その時はお願いします。」

「そうね、わかったわ。」

 

僕はノワールさんに一礼して一旦第3分校に戻る事にした。

次の目的地を決めるためにも、拠点が欲しいからね。

 

「じゃーね、ノワールー!」

「はいはい。...またね。」

 

 

----------

 

 

「まさかキラーマシンが破壊されるなんて...けどあの技術があれば...」

「どこに行く気だい、ガナッシュ。」

「光さん...ひぃ...!?」

「ふふ、貴方、本来ならここで死ぬのだけれど気が変わったわ。

 貴方、私の傀儡となりなさいな。しからば、殺さないであげてもいいよ...」

「ひ、ひぃぃぃ!?」

 

「クク、存外悪魔もチョロそうね。」

 

 

 




次回、第20話 リーンボックス

第3章入りまーす。

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第三章 緑の女神と悪魔の片割れ
第20話 リーンボックス


第3分校に戻ってきた僕らを待っていたのは当然ながら茜さんなのだが、

直感的に僕は、いつもと様子が違う気がした。

 

「あかねぇ、ただいま。」

「...あぁ、おかえり白ちゃん、みんな。」

 

やっぱり少し様子がおかしい。

茜さんが僕らにわかるほどに様子がおかしいことはめったにない。

というか初めてだ...聞いてみるか...

 

『どうしたんですか、茜さん。』

「でしょ?黒君。」

 

読まれてた...さっすが茜さん...

いやはや、やっぱり僕では届かないのかな...

 

「実際あったんだよねー、面倒事。ちょっち

リーンボックスに行かなきゃなんなくて。」

「リーンボックス、ですか...」

「いや行くのはいいんだけどね、そして安全なんだけど、

身の危険を感じるんだよ...」

「やだなぁ茜ー安全なのに危険っておかしいじゃん!どうしちゃったの?」

「うーん、説明しにくいからなぁ...一緒に行けばわかると思うよ。」

 

ということは...次の目的地はリーンボックスになるのか。

 

「ともあれ、今は帰ってきたんだし、ゆっくり休みなよ。

明日1日だけしかないんだけどね。」

 

というわけで、今日明日はゆっくりできそうだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

翌日、いつものように白を起こし、茜さんのいる部屋に向かうはずだったのだが、

 

「まさか、白と茜さんがこんなにべったりくっついて、

その上ここまでぐっすり寝てるなんて...」

 

これは起こしちゃいけない気がした。

 

「茜ー、白ちゃーん、朝だよー!」

「ネプテューヌさん!?あなたも基本朝起きない

ですよね!?それと起こしちゃ不味いですって!」

 

白の逆鱗に触れるのは確定として、茜さんがどんな

反応するか...正直怖かった。

実際に茜さんがもぞもぞと動いて、のそりのそりと

起き上がったとき、白をそうした時のように酷い目に

逢わされるのだろうと覚悟していたんだけど...

 

「ふみゅぅ...起こさないでって言っといたのに...」

瞬間、どんな目に逢わされるのかを想像して身構えた。

けど、次に茜さんが紡ぐ言葉は、到底予想できなかった。

 

()()()だって、朝起きないくせに...」

「え...?」

 

茜さんは、僕を見てそう言った。

寝ぼけ眼でも、しっかりとした声で。

 

「茜、寝ぼけてるの?」

「ねぷちゃん...んー...」

 

伸びとあくびをして目に涙を浮かべている茜さんだったが、

"えー君"と、英雄凍月影の名を出した時、その目は寝ぼけ眼ではなく

ただの一人の女の子としての目だった。

そんな感傷を抱く7歳児なんて、僕くらいだろうね。

 

「ふぁぁぁ...おはよ、お兄ちゃん...」

「っと、おはよ、白。」

「みゅ...あれ?黒君だった?あはは、ごめんね。」

 

そんな感傷を抱いた時、白が起きてこの話は流れた。

もしかしたら、僕と英雄凍月影は似ているのかもしれない。

流石にそんなことは聞けないから、胸の奥にしまって1日しかない

寸暇を楽しむことにした。久々にクラスメイトにも会えるからね。

 

 

----------

 

 

「次は、リーンボックスか...」

 

イオサンド某所で二人組が会話をしている。

片方は仮面の男、審判の悪魔。

もう片方はその仲間の九形光。

この二人の会話なぞ、物騒極まりないのが世の常だろう。

 

「あの少年の一行もきっとそうするだろうね。ことごとく被るなぁ...」

「まぁよいだろう光。邪魔するならば叩くのみだ。私は先に向かっている。」

「...それはいいけど...リーンボックスでその姿は目立つよ。なんせ温暖だし。」

「...コートは無理か...むぅ、いささか困ったな。」

「いいよ、私が行くよ。君はあの妹達の様子でも見るといい。しばらく会って

 ないのだろう?なんせここは土壌にアンチクリスタルが散らばっているからね。」

「開拓者のデータの解析結果か...通りで女神が定着しないわけだ。

 ...確かに私は彼女達に会うことにするよ。」

 

そこで二人は別れた。

 

----------

 

 

1日の特訓と荷造りの後、僕たちは茜さんと共にリーンボックスに着いた。

 

「さ、行こうか。」

『おー!』

 

 




次回、「第21話 緑の女神と紅白少女」

感想、評価等、お待ちしてます。


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第21話 緑の女神と紅白少女

最初に言っておきます、サブタイ詐欺です。
では、どうぞ。


「とうちゃーく。」

 

茜さんと共にリーンボックスの教会に着いたのは少し西に日が

傾いてきた時間帯だった。

 

「ここがリーンボックスの教会...ラステイションの時のように

 追い返される心配は無いよね、あかねぇ。」

「どうだろね。どのみち私も面会時間じゃないと用が果たせないし...

 けどあっちは事情が事情でしょ?じゃあ大丈夫だよ。」

「よーし、じゃーいこー!」

 

白の懸念はもっともだけれど、流石にここまでアヴニールの手は

伸びて来るはずはない。似たような組織はこの国にもありそうだけど...

 

「おや、来客ですかな。」

 

現れたのは教会職員のお爺さんだった。

茜さんが手続きをしている。教会の中身は間取りは全く違えど

ラステイションのそれと同じ...もっとも中身をしげしげと見る前に

追い返される羽目にあったけど。

 

「素晴らしく運がないな。今日の面会時間は過ぎておるのだ。

 また明日、足を運んでくだされ。」

「なるほどわかりました。一応、仙道 茜が来たとグリーンハート様に

 お伝え頂けると嬉しいです。では、また明日。」

 

茜さんはそう言って話を止めた。だめだったようだ。

 

「うーん、また明日だってさ。とりあえず宿を取ろうか。」

「えー、折角来たのにー?」

「ルールじゃ仕方ないでしょネプちゃん、ほら、行くよ。」

 

僕達は茜さんに連れられて教会の外に出る。

まぁ、ラステイションに比べれば早めに終わるかもしれないな。

そんなことを思っていたせいか、向こうから来た人とすれ違う時に

少しぶつかってしまった。

 

「あ、すいません...」

「いえ、こっちこそすいません。」

 

穏便に済んだ。割れ物とか持ってたらどうしようかと思ったよ。

 

「黒くーん!行くよー!」

「わかりましたー!」

 

ネプテューヌさんが大声で僕を呼んでいた。

うん、恥ずかしいからとりあえず合流しよう。

 

 

----------

 

 

「慣れない口調をするものじゃないなぁ、ともあれ、こっちは

 こっちの目的ってね。」

 

悪魔はぬるくないのに肝心なところを失敗する。

それでは世界は救えまい。というか、背後から刺されることを

全く想定していない。自殺願望でもあるのだろうか。

私の経歴を調べあげて尚、協力してほしいと頼む...

あれではまるでお人好しだ。ゲイムギョウ界に名だたる罪人とは思えない。

だからこそ、私が動かなければ世界は動かない。

まぁ、動くと言っても滅びへ、なんだけど。

 

「失礼します。」

「立て続けに来客ですかな。して、いかなる要件ですかな。」

「私は、審判の悪魔の動向を探るジャーナリスト、瀬木 光です。

 今回はこちらに情報収集、及び提供をしに来ました。」

 

しまった、名字は偽装したが名前をつい口走ってしまった。

...まぁいいか、困ったら殺せばいい。教会職員だから完全に悪魔とは

無関係として扱われるだろう。

 

「ジャーナリストとな。」

「警戒するのはごもっともですが、しかし、今回の私の目的は

 収集もしたいところですが第一は提供です。悪魔信仰、

 という言葉をご存知でしょうか。」

「悪魔信仰...まぁ、噂程度なら聞いておりますわい。」

 

よしかかった。駒を手に入れた甲斐があった。

あの少年達に悪魔を邪魔されるのは私も邪魔されるということ。

だから、ここで仕留めないとね。

 

「はい、悪魔信仰とは4女神を表面上は信仰していながら、

 その実態は悪魔に殺されたくない無信仰主義者が産み出したもの。

 悪魔は自身の力が4女神に対抗できない事は知っている。

 だからこそ、悪魔信仰者の中身を知っていても悪魔は手を出せず、

 女神様は女神様で分厚い表面に騙され悪魔信仰者に手を出せないのです。」

「ほう...だが、それだけでは少し情報が足りんのではないか?」

「えぇ。これだけでは無益でも有害でもない輩としか言えません。

 ...悪魔信仰者の一部は、化け物、モンスターを生み出すのです。」

「なんと!?確かにモンスターは天界救世以降に突如現れ始めたが...

 それは悪魔の仕業ではないのか!?」

 

厳密にはその通り。当時に人の業と性を具現化させたのがモンスターであり、

それを生み出すディスクは悪魔、というか私が作った。

思念の具現化は天界救世の黒幕、虚夜 時雨の研究データを元に、ディスクは

私の固有、《具象結界(ザインフィールド)》によるもの。

だが、そんな情報は私と悪魔しか知らない。

ここから、嘘八百劇場を始めるんだなぁ...♪

 

「えぇ、悪魔を信奉する人間の思念がモンスターになったのです。

 ゼニスと似たようなものとお考え下さい。最も、そちらと比べては

 パワーは非常に弱々しいものですが。そして、モンスターは全国にいる。

 この意味、もうわかりますよね?」

「まさか...その様な輩がこのリーンボックスにもおると...?」

「ご明察です。先のピンク髪の少女もそうです。彼女もまた、

 悪魔信仰者の一人...双子の兄妹とその保護者代わりの少女を

 騙しているのです。いずれ悪魔信仰者とするために。」

「なんじゃと...信じられんな...」

「証拠はあります。こちらのビデオがそうです。ラステイション在住の

 サラリーマンの証言です。彼の経歴をご覧ください、彼は会社に尽力し、

 若くして重役となった人間です。嘘はつけない経歴でしょう。」

「むぅ、確かにこの経歴、嘘はつけん。」

 

経歴自体が嘘なんだけどね♪

まぁ、この札を切ってあの少年達を止めるとしよう。

 

『私は見ました...あの少女...あのピンクの、ネプテューヌとかいう

 少女が...町中を破壊しつくさんとしている様を...見たんですよ、

 私は!でも誰も信じないのです...あぁ、思い出しただけでおぞましい...』

 

「...ふむ...じゃがわしはどうもまだ信じられん、この目で見るまではな。」

 

存外しぶといな...だけどまだ札はある。

邪魔者の邪魔をするのも仲間の仕事...いつまで仲間の皮をかぶって

いるのかという、自問自答はさておくとして、ね。

 

「では証拠ができ次第お知らせします。では。」

 

さぁ、私もそろそろ野望を果たすとするかな...!

 

 




次回、第22話「罠と毒」

感想、評価等、お待ちしてます。


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第22話 罠と毒

教会から離れ、リーンボックス観光に出ようとした矢先に少し面倒な

ことに巻き込まれた。いや、もはや世界そのものが面倒になっていた。

 

「へぇ、モンスターで馬車が出せない、か...」

「どーする?茜。」

「どーするもこーするも...まぁ黒君白ちゃんのために狩りにいくよー。」

「あかねぇ、ここでも訓練なんだ...」

「事態はひっぱくしてるんだよー。あ、えー君ぽいこと言っちゃった。

えっとね、急がなきゃいけないのさ。」

 

モンスター狩りか...シアンさんの剣との二刀流に慣れちゃったから

今の一本の剣をうまく使える自信がない。うん、武器屋に行きたいな。

 

「茜さん、その前に...武器屋に寄ってくれませんか?」

「いーよー。」

 

武器屋、7歳児が行くようなところじゃないか。

けど、僕らは行ってそこで剣を品定めしていた。

 

「お客さん、あんた達一体何者なんだい?子連れで武器屋に寄るなんざ、

ただ者のやることじゃねぇですざ。」

「私の子じゃないんだけどね。この子達は、生まれつき悪魔と戦う宿命なのさ。」

「それは...いくらなんでも酷じゃねぇですかい?」

「そだね...私も背負ってる。結局、変わらなかったんだよね、

師匠が世界を変えようとしても、それをえー君が護ろうとしても、

それを悪魔が壊そうとしてもね。」

「は、はぁ...」

 

茜さんと店長らしき人物が会話しているが、僕にはそれが聞こえない。

片手で扱える軽めの剣...これかな...

 

「水晶刀身の刀...凄い使いやすい...」

「決まったみたいだね。...そうか、やっぱり君はそれを選ぶか。」

「茜さん?」

「こっちの話。じゃ、買って行くよ。」

「はい。」

 

二刀流に武器を新調して、僕たちはモンスター狩りに向かった。

向かった先は交易路っぽい道。腕が鳴るね。

 

「ざっと見ても150...やっだねぇ、ほんと。」

「あかねぇは見てるだけのくせに...」

「白ちゃんそれ言う?まぁね。私が出ちゃうと簡単に100は減るよ?

伊達に天界救世を戦ってきたわけじゃないんだし。」

「茜...恐ろしい子!」

 

ネプテューヌさんも実はそうなんだよなぁ...とは言えなかった。

そういえばノワールさんにネプテューヌさんの正体を教えてもらった

(正確には気づいた)けど、まだ教えてなかった...

 

「まぁいいや。行きます!」

 

モンスター狩りの始まり始まりってね。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

一通り狩り終えた。いやはや、結構動けたんじゃないかな。

あれほどいたモンスターも今はまばらになっている。

人の通りに近かったから結構いいことしたんじゃないかな。

 

「あのー、今いいですか?」

「はい?って、貴女は確か教会ですれ違った人...」

 

フードと眼鏡といういかにも怪しい風貌だったからか、

僕たちは無意識に構えていた。

 

「あぅ、そう構えないでください、私は審判の悪魔を追う

ジャーナリスト、瀬木 光です。」

「ふーん、ジャーナリストかぁ...じゃあ聞きたい事は山ほどありそうだね。

けど...残念かな。もうそろそろ暗くなってきたし、私達は宿に行かないと。」

「そうですか。では、お近づきの記しにこれを。つまらないものですが。」

「おー!なんかいろいろ入ってる!」

「ネプテューヌさん、早速ですか...まぁ、ありがとうございます。」

「では、またどこかで。」

 

悪い人ではなかった。というのが第二印象になったけど、

印象というものは覆されるものであって、決して固定なんてされない。

ネプテューヌさんがもらった紙袋、その中にはモンスターを生み出す装置があった。

そんなものを僕たちは見たことはなくても経験したことはある。

 

「アヴニールの倉庫のときと同じか...!」

「とりあえず、出てきたのを片すとするよ!」

 

茜さんが装置を破壊してからの行動は早かった。

わき出たモンスターはとるに足らないものだけど、僕は思う。

 

「罠だね...白、さっきの人はどこ?」

「見えないね...逃げたんだと思うよ。」

「...とりあえず教会行くよ。これは報告しないとだから。」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「なんと、そのようなものが存在するとは...」

 

教会についてからの茜さんの行動も早かった。

早々に職員のお爺さんに事実を告げて、対応を練らせるとことか...

本当に思うよ、何者なんだろう、茜さん...

 

「ふむ...それでは対策を練りましょう。あぁ、茜さんと言いましたかな、

貴女には少し別件がありますので少しお待ちください。」

「なるほどわかりました。ねぷちゃん、黒君達をお願い。」

「あ、私トイレ...」

 

白が離れていく。迷わないかなぁ、まぁ大丈夫か。

そして僕とネプテューヌさんは教会を出た。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

あかねぇとあのお爺さんが会話してるなか、私はトイレから出て

お兄ちゃんと合流しようと思ったんだけど...困ったことにさっき

あかねぇがいたところすらわからなくなってしまった。

そう、迷ってしまったのだ。

 

「あうぅ...どこだろここ...いや教会だけど...うーん...」

 

更に困ったことに人がいない。というか、

 

「お兄ちゃん...怖いよ...」

 

私はお兄ちゃんがいないと人見知りがひどくなるのだ。

お兄ちゃんが私を毒舌と言うけれど、きっとそれは違う。

人見知りでおびえているのの裏返しが正しい。

 

「うぅ...怖いよ...」

 

とはいえここから出ないといけない。

しかたないけど私は近くにあった扉を開けて、中に入った。

 

「だ、誰かいます、か...?」

 

いつでも変身できるように身構えてはいる。

けど、それは必要なかった。

 

「およ...女の子の、声...?」

 

奥にいたのは綺麗な女の人だったからだ。

 

 

----------

 

 

私は教会職員のお爺ちゃんに呼び止められて話を聞くと、こう言うことだった。

モンスターを生み出すのは悪魔信仰者。ねぷちゃんもそれだから抹殺してほしいと

毒薬を渡された。うーん、だったら自分でやりなよ。

 

「これを握らせた意図はわかった...きっと自分でやんないのは国民を心配させない

 ため...じゃあ敢えて聞くけど、私がこれをここで捨てたら?」

「その時は軍隊をもってしても、排除するだけじゃ。いかに天界救世を戦い抜いた

 猛者といえど、勝ち目はありませんぞ。《深紅の閃光》殿。」

 

私の二つ名...そう呼ばれるのは何年振りだろうか。

けど、そんなのを知っているのはそうそういない。

 

「調べたね...じゃあ受け取っておくよ。けど...天界救世の英雄、凍月 影を知らないから

 そんなこと言えるんだよ。えー君がここにいたら、二人で軍なんか潰せたのに。」

 

「いかに英雄と言えども、死人の強さなど恐るるに足りんわい。」

 

正直、カチンと来た。けど、ここで怒ったら向こうの思うつぼ。

私はふーんとだけ言い残して、外に出たのだった。




次回、第23話「白とベール」

はい、ベールイベントです。
感想、評価等、お待ちしてます。


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第23話 白とベール

あかねぇが教会から出る少し前の時間に、私は一人の女の人の部屋に

入っていた。全身で警戒していたのは余計な心配だったかもしれない。

 

「おや、誰かと思えば可愛い女の子じゃあありませんの...」

 

見たところ寝起き...起こしちゃったかな...

 

「あう...おこしちゃいました...?」

「いいえ、大丈夫ですわ。ちょっとイベントの合間に仮眠を取ってただけですもの。」

「は、はぁ...」

 

あかねぇとはまたちょっと違うけどつかみどころがないというか、

かなりおっとりとして見えた。あれ?でもここ教会だよね...

...まさか。

 

「そういえば、貴女のお名前はなんと言いますの?わたくしはベールと申しますわ。」

「え、えっと、私は白、です...」

 

警戒がほどかれていく。なんというか、まるでここでは安心していいよと

言われている...いや、私の全神経がそう感じている。

こんなに安心できるのは、お兄ちゃんか、あかねぇが側にいるときだけなのに...

 

「白、ですか...お兄さんがおりますの?」

「なんでわかるんですか...」

 

お兄ちゃんよりすごい観察力だと最初は思った。

けど、それは違った。

 

「まぁ、もしやゲームが得意なのでは?」

「したことないです。」

「そうですわよね...え?ゲームをしたことが、無い...ですの...?」

 

少し記憶をたどってみる。うん、ない。

 

「無いです。それよりも、ちょっと教会の中で迷っちゃって...」

「まさか、そんな子がいるなんて...」

「あのー、聞いてます?」

 

ゲームをしたことがない宣言はそこまで衝撃的だったのだろうか。

見渡してみればいくつかゲームの箱があった。

 

「白ちゃん!」

「はいっ!?」

 

いきなりすごい剣幕で私に顔を近づけて来た。

私はただただ驚いて返事するしかなかったんだけど...

なんだろう、私迷ったこと言ったよね?

 

「わたくしと、一緒にゲームをしませんか?」

「気持ちは嬉しいですけどお兄ちゃんとあかねぇを待たせてるんです...!

外への行き方を教えてください!」

「あかねぇ...?もしや茜ちゃんのことですの?確か数時間前来ていたと

イヴォワールが言っておりましたわね...茜ちゃんの教え子でしたの?」

「え?あ、はい...あかねぇを知ってるんですか?」

 

あかねぇの知り合い...てことはまさか...!

 

「えぇ、知ってますわよ。」

「...ベールさん、もしかして、貴女はここの女神様ですか...?」

「そうですわ。」

 

一瞬くらっとした。あかねぇの知り合いは女神様全員ということは

あかねぇ本人から聞いていたけど、まさか事実だなんて...

 

「正体がばれてしまっては仕方ありませんわ...」

「...!?」

「身構えないでくださいまし...ちゃんと茜ちゃんのところまで

送って差し上げますわ。かわりに、ちょっと伝言を伝えて欲しいんですの。」

「伝言...?」

「えぇ、明日の夜にパーティーを開きますの。...何人で来ましたの?」

「えっと、4人です。」

「では招待状を4枚と...このメモを茜ちゃんにお願いしますわ。」

「あ、はい。」

 

受けとるものを受け取って、私は送られてどうにか教会の外に出ることができた。

 

「白ちゃん、随分遅かったね。」

「ごめんなさいあかねぇ...ちょっと迷っちゃって...」

「とーっても心配したよ...でも無事ならおっけーだね!」

「白、それは?」

 

お兄ちゃんの問いかけに答えて、私は招待状とメモをあかねぇに渡す。

あかねぇはそれを見て少し困ったような顔をしたと思ったら、

すぐににこにこ笑い始めた。

 

「あーいかわらずだなー、ほんと、この国の女神様は。」

 

そのあかねぇの発言に、お兄ちゃんとネプテューヌさんが驚いたのは

言うまでもないことだった。

あかねぇって、ほんとに凄い人なんだな...

 

 

 




次回、第24話「ネプテューヌ、死す!」
デュエルスタンバイ!

じゃなくて感想、評価等、お待ちしてます。
次回もまた結構先になりそうです...


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第24話 ネプテューヌ、死す!

遅くなりました...
こっからペース上がります!本当です!
では、どうぞ!


時は流れて翌日の夕方、僕達四人は再びリーンボックスの教会前にいた。

茜さんはなんか黒い袋を持っている。茜さんに中身を聞いたら、どうやら

ここの女神様に頼まれたものらしい。具体的には教えてくれなかった。

 

「まぁ、行こうか。」

 

少し茜さんの表情は重めだった。

何かを警戒しているように、神経を張りつめさせていた。

 

「これはこれは、よく来ましたな。」

「女神様直々の招待です、来ないわけにはいかないですよ。」

 

茜さんと職員のお爺さんが会話している中、僕達の前には料理が出された。

ご丁寧に「黒様」と書かれた札が料理の上に乗ってたり...僕ら結構丁重に扱われてないかな?ちょっと、かゆい...

 

「わー、おいしそうだね黒君!いっただっきまーす!」

「ネプテューヌさん、あかねぇを待ってからにしましょうよ...」

 

白が呆れて物も言えないみたいな表情をしているけど、

僕はその直後の茜さんの叫びと目の前で起きた出来事に絶句した。

 

「しまった、ねぷちゃん食べちゃだめ!」

「やだなー、いくら私でも流石に人の分は取らないって...うっ!?」

 

ネプテューヌさんが倒れたのだ。どうして?睡眠薬?いや違う、

ネプテューヌさんはいきなり倒れた。つまり...睡眠薬じゃない...?

だったら...だったら...

 

「それが答えなんだね、イヴォワールさん。」

「当然ですじゃ。悪魔信仰者は絶版にせねばなるまい。」

「残念だよ、美味しそうな料理だっただけに!」

 

茜さんは変身したけど、僕と白はそれに続けなかった。

目の前で起きた出来事を飲み込めず、ただただ恐れてた。

考えることも動くこともできず、何もできずに突っ立っていた。

そして僕は、首筋に強い電流を感じて、倒れたようだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「まさか、料理に混入させてくるとはね...」

 

警戒はしていたけど防ぎようもない方法を取ってくるとは思ってもみなかった。けど、服毒させるにはやはり食材に混入させるのが効率的なのは明白だった。それなのに、私はその可能性をあの料理を見てしばらくたっても思いつきさえしなかった。私の領域把握は視界内にあるものの情報を理解することができる能力。けど、必要な情報は私が意識しないと抽出できないし、情報量は対象を見てる時間に比例してくる。だから、毒の発見に気づいたのはねぷちゃんが倒れた後。完全に私のミスだ。黒君も白ちゃんもきっとあの光景はトラウマになってしまうだろう。嫌われるかもしれない。そしたらどうなるだろうか。旅は続けられるのだろうか。えー君の守った世界を、私が守ることはできなくなるのかもしれない。だったら...私はこれからどう生きていけばいいんだろう。えー君がいたから、私は今戦えている。戦う...何とだろうか。悪魔だろうか。違う、だって今えー君はここにいない。まだ帰って来ていない。だったら私は...今えー君がそばにいない私は...戦えているのだろうか。答えは出ないけど、きっと戦えてない。だって結果がこれだ。張りつめて警戒していたというのにこのざまだ。これでは笑われる。えー君に会う前の私の方が強かったのではないだろうか、とも思う。いっそ会わなかった方が......

 

「違う...」

 

えー君と会わなかったら、それはそのまま世界再編が起こることになる。どの道酷い世界じゃないか。だったら、えー君を知っている今の自分の方がいい。えー君を愛している自分のままでいい。絶対に届かないと知っていても、やっぱり断ち切れないのはもはや依存ともとれそうだけど、そばにいない状態を7年耐えていたら依存ではないと思う。けど、病気かな。いや、でもやっぱり依存だ。私の行動は、えー君ありきだ。この子達、黒君と白ちゃんと私の関係は教師と教え子だけではない。親友の、大事な友達の子供という関係だってある。本当は教えたい。君達はあの英雄の遺伝子を継いでいるんだよ。と。けど、それはブランちゃんが伝えるべきことだ。ブランちゃんの子だとわかったら、きっとえー君は迫害される。当然、それはその子供たちにも影響する。だから隠しているのだ。それを、理解できる年齢になるまでは。今伝えたらきっと二人とも怒る。真実を隠していたのだから当然だ。でも、知らない方がいい真実だってある。多分これはその分類に入るんじゃないかな。

 

「...辛いよ、えー君...」

 

きっとえー君なら、弱音なんて珍しいな。なんて言うだろうけど、私にとっては珍しくも何ともない。だってこっちが素の私。《深紅の閃光》とは程遠い、ただの女の子。

 

「もう嫌だよ、紅奈も、明も、えー君も、ねぷちゃんも...4人も私の知ってる人がいなくなっちゃうと、辛いよ...私は...一人で...どうすればいいの...?」

 

答える者は誰もいない。当然だ。ここは教会の地下の独房。私が見る限りでは、この檻は変身してもぶち破ることはできそうになかった。だから脱出は諦めてる。それ以外の方法なんて考える余裕なんてない。だって、どうすべきなのか、私はわからないのだから。けど、何か無いかとポケットの中を調べる。結果、ねぷちゃんに盛ったと思われる毒の瓶しか見つかんなかった。こんなの...自分で飲むしか用途が無いじゃん...

 

「...いけない、どうしてそんなこと考えたんだろ...」

 

冷静になってよ仙道茜。ここで毒を飲んだとしても死ねるわけではないし、死んだとしたらそれでえー君に会えるとも限らない。それに、そもそもえー君は死んだと決まったわけじゃない...そう、決まったわけではないのだ。だが、そんなことは誰も信じなどしない。えー君が生きてる事なんて、希望的観測だ。一番えー君が嫌った事じゃないか。だったら、現実に目を向けて、辛い世界に生きるか。それも嫌だ。えー君のいない世界はもう私には想像できない。結局、私に残された選択肢は、この毒を一杯ひっかけることくらいだった。

 

「は、はは...まさか、二回目は自殺か...けど、もういいよね...いい加減、会いたいよ...ごめんね黒君白ちゃん、私は、もう、限界かな...」

 

蓋を開ける。無臭だった。瓶を持つ手が震える。当然だ。死ぬのは怖い。

けど、ここでやめても何も変わらない。変わらないのだ。そう信じ込んでないと、これは飲めない。だけど...

 

「何をしていますの、茜ちゃん。」

 

私は、独房の外から聞こえたこの声を聞いた時、ある種の救いを得たのだった。

毒の瓶は床に落ち、割れて床を毒が濡らした。黒君白ちゃんにはかかってない。

そのことを確認したとき、私は私になった。

 

「ベール...私、私は...!」

 

泣いた。もう、何年かぶりに泣いた。支離滅裂な言葉で、子供のように泣きじゃくりながらベールにことのあらましを説明して、ひと通り話したあと、また泣き喚いた。よく黒君も白ちゃんも起きなかったな、とも思ったけど、けど...この瞬間に、私は少し、楽になれた。

 

「そうでしたの...大変でしたわね...さぁ、わたくしの部屋へどうぞ。」

 

だって、私の抱えた辛さを共有してくれる人がいたのだから。

 

 

 




次回、第25話「解毒のために」

感想、評価等、お待ちしてます。


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第25話 解毒のために

「知らない天井だ...」

 

つい最近もこんな事を誰かが言ってた気がする。

誰だっけなぁ、考えてもしょうがないとも思う。

あれか。シンクロニシティとかいう現象か。

 

「起きたね、黒君...おはよう。」

「茜さん...ここは...?」

 

身体を起して周りを見回すと、ゲームの箱、箱、フィギュア、そして茜さん。部屋の主と言える人と、白がいない。白が、いない...?

 

「白は...?茜さん、白はどこですか!?」

「白ちゃんはね、ベールと一緒にいるよ。大丈夫。」

 

茜さんが大丈夫と言ったから大丈夫なのだろうが、僕のたった一人の家族が近くにいないと、こう、なんとも言えない焦りというか、不安が僕を支配する。実際、僕の記憶の中では白はいつも僕のそばにいる。人見知りで毒舌っぽい言動をするけど、根は優しい女の子...そしてかわいい妹だ。

 

「安心して、いいんですよね...」

 

茜さんは黙って頷いた。気絶する前のことを思い出してみると、確か...ネプテューヌさんが毒を盛られて、倒れて...

 

「そうだ...茜さん、ネプテューヌさんは...ネプテューヌさんは無事なんですか!?生きてるんですか!?」

「...大丈夫、とは言えないかな。少しづつ毒が回っていっているから、解毒剤は必須だね...ごめんね、気づけなくって...」

 

僕の質問に茜さんは答えたが、いつもの茜さんの明るさがない。しかも全くと言っていいほどに。

どうしたんですかと聞こうかと思ったけど、聞いちゃいけない気がする。そう思えるほどに、茜さんは見るからに参っていた。

 

「あら、目覚めまして?」

 

そんな時だった。部屋の主と思われる女性が、部屋のさらに奥のほうから出てきたのは。

 

「...あなたが、ベールさんですか?」

 

白の姿が見えない。くそ、なんでこんなに焦っているんだ。それもこれも白がそばにいないからだ。こんなことは今まで1度もない...だからどうすればいいかわかんないんだ...頭では理解してるよ...

 

「ご安心くださいまし。妹の白ちゃんは無事ですわ。」

「...っ...そうですか...」

 

読まれた。いや、無理もない話だ。見るからに僕は焦っている。むしろわからない方がおかしい。

 

「あぁ、そうだベール...頼まれてたものだよ。」

「あら、茜ちゃん。さすが仕事が早いですわ...」

 

茜さんは話題を変えるためなのか今思い出したのかはわからないけど、ここに来る前に持っていた黒い袋をベールさんに渡した。結局あれなんだったんだろうか...

 

「さて...ネプちゃんは毒をもられたわけなんだけど...解毒剤の材料は既にベールが目星をつけているんだ。...で、ものは相談なんだけど、黒君。その材料を白ちゃんとベールと3人で取ってきてくれないかな。」

 

茜さんが話し始めるが、少し変だ。

 

「...茜さんは...どうするんですか?」

「...私は...今ちょっと戦えなくてね...足でまといになっちゃうし。それに、ネプちゃんをみてないといけないでしょ?」

 

茜さんが戦えない...一体何があったのだろうか。

けど、それよりは解毒剤の準備が優先だと思う。

 

「...わかりました...ベールさん、それで、その場所がどこですか?」

 

いない。あれ?どこいった?

 

「お兄ちゃあぁぁぁん!!」

 

奥から叫びが聞こえる。白だ。

一体何事と思って振り返ってみると...

 

「へ...白...?」

「あうぅ、うん...ちょっと、恥ずかしいよ...」

 

そう言って僕の背中に白が隠れる。

僕はバッチリ見たよ。ドレスを着飾った白の姿を。

 

「白ちゃん待ってくださいまし!まだ髪飾りをつけておりませんの!」

「私は着せ替え人形じゃないです...!大人なんだからもっとちゃんとしてください!」

「がーん!?」

 

で、この会話だよ。疎外感というか、なんと言うか...

でも僕はこう叫んでいた。

 

「...人命がかかってるんですよ!遊ばないでください!ましてや...僕の...俺の妹で...!」

 

気付かぬうちに僕は怒ってたらしい。が、茜さんに制止される。

 

「そこまでだよ二人とも。私の見立てだと、ネプちゃんは持って20時間。調合や材料集め、効くまでの時間を考慮してももう時間はないよ...白ちゃんは着替えてベールと黒君は外で待機。自己紹介とかは道中でね。頼んだよ。」

 

その言葉にその場にいた誰も、逆らえなかった。

 

 

と、いうわけで僕と白とベールさんは、解毒剤の材料探しに出かけるのだった。




次回、第26話「またか、また悪魔か。」

感想、評価等、お待ちしております。


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第26話 またか。また悪魔か。

大変お待たせ致しました...
これよりまた女神世界の新生世代は歩み始めます。


では、どうぞ!


ネプテューヌさんが盛られた毒に対する解毒剤を作るために、僕と白とベールさんはリーンボックスのとあるダンジョンに来ていた。

 

「とは言ったものの...ベールさん、なんでこうも白にべったりなんですか...」

「動きにくいです...」

 

ダンジョンに入った辺りから、なんて生易しいものではなく、教会を出てからずっとこの調子だ。白は僕の妹だっていうのに...

 

「いいじゃありませんの。それにこんなにかわいい女の子を手放しでダンジョンに連れて行くのは、わたくしとしては見過ごせないものですわ。」

「かわいいは認めますけど、白は僕より強いんですよ?僕が手放しでも無事なんですから白を離しても大丈夫です。」

「嫌ですわ!断固拒否でございます!」

「えぇー...」

 

この人、もしや某ワザリングハイツさんとかアークなんとかさんとひょっとして同じような人...?

違うよね、違うよね。頼むから違うと言ってくれ...これじゃあ女神様のイメージが総崩れだよ...

まぁ、ネプテューヌさんがあれで女神様だとノワールさんが気づかせてくれたし...女神様って、実は変というか、不思議な人が多いのかな...

 

「あ、あった。解毒薬になる草。」

 

なんて、僕が物思いにふけっているときに白がどうやら見つけたらしい。よし、これならすぐに帰れそうだ...

 

「お兄ちゃんそれフラグ...モンスターがたくさんいる上に、多分、悪魔っぽいシルエットの人影がある。ほら。」

「悪魔って...審判の悪魔のことですの?あの人影が?」

 

白の指さす方向を見ると確かにモンスターと人影がある。ちょっと遠いけど確かに、あの人影は悪魔の物だ。2、3かい戦ってるからわかる。

 

「ええ...ベールさん、悪魔を見たことがないんですか?」

「いえ、ありますわ。でも...わたくしはあの方を知っている気がするのです。あの方を...」

「夢の中で会った、ようなという感覚ならわからなくもないですよ...さぁベールさん離してください。とっとと解毒剤作って、よく食べるピンク髪を起こしますよ。」

 

白の毒舌が少し戻ってきた。でもね、白。それだとどこかでキャンプしてる人に思われちゃうよ...

 

「じゃあ、まず僕が先に行きます!」

 

変身して悪魔の所へ、単身僕は向かった。

 

 

───────

 

 

「運命というものの巡り合わせは、つくづく私と君たち引き合せるようだ...今日は緑の女神と共に、か...」

 

「今日はあんたに用はない...そこの解毒剤の素材が欲しいだけだ。」

「なるほど...私もこれが欲しくてね...では鍵の欠片とこの解毒剤のもと...どちらを選ぶ?」

「ふっざけんな...そんなの選べるわけないだろ!」

 

抜刀して悪魔に突撃する。悪魔はいつもの黒い剣で受ける。

 

「ほう...ところで君は彼女の正体を知っているのか...?」

「ネプテューヌさんは...プラネテューヌの女神だっ!」

 

剣を振り抜いて悪魔を退かせる。

ようやく白とベールさんが追いついた。

 

「...知っているか...彼女を失うのは私とて本望ではない...では今回はこちらから手を引こう。決戦はルウィーでつけようではないか。最後の粛清の地はあそこでなければ意味が無いのでな...無論、鍵の欠片はこちらの手にあるがな...」

 

斬りかかった次の瞬間には悪魔は消えていた。瞬間移動にも程がある...

 

「っ...いつも逃げ足は早い...」

「戦わずして勝てたし...いいことだとは思うよ...でも、次はルウィー...」

「しかも最後と言っておりましたわね...気になりますわ。でも、まずは解毒剤の調合が先ですわ。」

 

ベールさんはどこから出したかわからない本をめくって解毒剤の調合レシピを見つけて、「では調合しますわよ。」って言って次の瞬間には解毒剤ができてた。

 

「どゆこと...?」

「白ちゃん、これは調合コマンドといって、材料さえあれば1フレームで調合できちゃうものですわ。」

「...MHかい...!」

「だってこれぐらいしか出番がありませんもの...全て作者って方の仕業ですわ...」

「コメントしづらいですよベールさん...」

 

ツッコミが追いつかない...久々とはいえやっぱりギャグっぽいことは疲れるなぁ...

 

 

───────

 

 

今回のオチというか、落とし所。

無事にネプテューヌさんの命は救われた。

解毒剤を飲ませるためにプリンを作る事になるとは予想外だったけど、ね。

それに茜さんも少しは元気になった。けど、しばらくは第三分校に戻って休養を取るらしい。

 

「そっか。鍵の欠片は悪魔が持ってっちゃったのか...手遅れになっちゃったね...じゃあ、ベール。黒君と白ちゃんとネプちゃんをお願いね。次はルウィーか...ブランちゃんによろしく言っといて。」

 

「任されましたわ茜ちゃん。」

 

 

───────

 

 

「この頃の彼らは...悪魔を含めて誰も知らなかったんだよね...結末がどうなるのか。...ふふふ。姉さん...あなたの悲願は7年越しに叶えられそうだよ...」

 




次回、第27話「白くない雪国」

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第四章 モノクロの光と影
第27話 白くない雪国


ルウィー。

そこは雪国であり、魔法国家。そして、あの英雄『凍月影』が生まれた場所だ。

 

「それにしても、なんか寒いですね。」

「えぇ、ルウィーの耐寒フィールドは軒並み居住地区に回していますもの。」

「まだ着いてないから、関係ない話です...」

 

まぁそうだ。寒い。ルウィーという国に着いてないから関係ない。

 

「白?もしやちょっと不機嫌?」

「いや、寒いだけ。」

「そりゃそうだよねー。寒いよねー。黒君暖かくしてよー!」

「カイロあるでしょネプテューヌさん!」

 

全くもう、ネプテューヌさんはほんとに奔放だ...

 

「でも、これで悪魔と決着がつけられる...僕たちが積み上げてきたものはきっと無駄じゃない、ですよね。」

「参入したてのわたくしが言うのも変ですが...確かにそうですわ。」

「悪魔が殺し続ける限り、平和は来ない...」

 

そんなことを話しながらルウィーに向かう。なんだろう、こういう類いの会話、飽きるほど聞いた気がする...

 

「グアァァァァオ!!!」

 

轟く鳴き声。一瞬で僕達は臨戦態勢になる。

 

「咆哮!?」

「ねぷっ!?火球が飛んできた!?」

 

全員変身して火球を避ける。雪国なのに火球って...こんなところにドラゴンなんて住んでたっけ...っていうかドラゴンは氷と相性良くなかったよね。

 

「お兄ちゃん、火球が雪溶かして辺り真っ白...」

「問題ないわ。ベール!先行してヌシを叩くわよ!」

「言われなくてもそういたしますわ!」

 

ネプテューヌさんとベールさんが火球が飛んできた先に飛んでいく。

僕と白は上から火球の飛んできた場所を捉えることにした。

 

「ドラゴンだね...あの形状から見て、エンシェントドラゴンだと思う。」

「よく知ってるね白...調べたの?」

「あかねぇに写真送った。」

「いつの間に...っていうか茜さん仕事速くない!?トンデモ速度だよね!?」

「お兄ちゃんそんなこと言ってる場合じゃないって...あ。倒された。」

「ふぇ...?」

 

見ると確かにエンシェントドラゴンが消滅していった。女神様ってほんと強すぎる...茜さん曰く女神様には妹もいて、女神候補生というらしいんだけど、女神様同士が戦っていた頃に四人で悪魔と戦ったらしい。そして悪魔に敗れた。思えば悪魔はネプテューヌさんを圧倒してたんだよなぁ...僕と戦っているときは絶対手を抜いている。しかし...悪魔はいったい何がしたいんだ...まぁいい。とりあえず合流だ。

 

「ふぃー...いきなり襲ってきたときはどうしようかと思ったよー。」

「火球を避けながら戦っていましたので寒さをそんなに感じなくなったのはいいことなのでしょうけど...」

「それ、絶対反動で寒くなりますよね...」

「うん、とっても寒い!カイロもう一個ちょうだい!」

「えぇー...」

 

戦ってるときは強くてかっこいいネプテューヌさん。

 

「さぁ白ちゃん。わたくしのそばに。」

「えぇー...」

 

同じく、戦ってるときは凛々しいのに普段はなんだかなぁと思うベールさん。

ノワールさんもノワールさんでまたキャラクター濃かったし...きっとこれから会うルウィーの女神様も今まで見てきた三人(しかもそのうち二人はこの場にいる)に全く引けを取らないんだろうなぁ...

 

「見えてきたよお兄ちゃん。ルウィーの街だよ。」

 

 

───────

 

 

「さて...白の女神よ。私の7年に及ぶ粛清もようやく終わる...今日はその挨拶に来た。もっとも、私に、いや違うな。誰にも会う気のない...これも語弊か。凍月影以外に会う気のない君に話しても無駄だろう...だがここで敢えて私は宣誓させてもらおうか。」

 

「この国における最後の粛清を終えたのちに、白の女神にのみ私の真名を明かすと。もっとも、それまでに私が生きていればの話ではあるがな。では失礼する。従者よ、言伝は頼んだ。」

 

 

───────

 

 

「悪魔はルウィーでの粛清に大忙し...ねぇガナッシュ君、出来た?私の最新の武器と悪魔をも狩る、新しいキラーマシン...まぁ出来てなかったら君を使い捨てるだけだからね...ふふふ。始まるよ。終わりの始まりがね。」

 

 

 

 

 

 




次回、「第28話 終わりが始まった」

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第28話 終わりが始まった

ルウィーの市街、というか居住地区に着いた。

 

「ふぃー...寒かったー...ネプ子さん復活!」

「いや、それでも肌寒いですよ...」

 

ルウィーの対モンスター障壁兼耐寒フィールドはあくまでも耐寒なのであって暖房ではない。肌寒いのは当然と言えば当然だ。

 

「で...どうするのお兄ちゃん。」

「僕に聞かれても...ベールさんはどう思います?」

「わたくしは...やはり教会に向かうべきだと思いますわ。ただ...」

「ただ?どったのベール、早く言ってよー。」

 

言葉を濁したベールさんはネプテューヌさんの催促を受けてもなお数十秒黙っていた。そのあと、どこか諦めの表情っぽいものを浮かべて言った。

 

「ただ、この国の女神...ブランはきっと、わたくし達に会うつもりは無いですわ。」

「え...?」

 

でも急襲とか毒盛るとかよりかはいいんじゃないかと一瞬思ったけど、対悪魔や鍵の欠片の捜索の協力が得られないのは痛い。

 

「どうしてわかるの、ベールさん。」

「...ブランには、影さんという彼氏さんがおりましたの。しかし、7年前の天界救世の時に影さんは消息を絶ったのですわ。今でも影さんは生死不明ですが、世間は影さんは死んだものとして、過去の英雄としてまつりあげた...そして生きていると信じている彼女はその世論に耐えられず、国を治めはすれど世に姿を見せなくなったのです。」

 

...僕達が産まれた直後の話だ。茜さんからちょっとだけ聞いたことがある。

 

「でも...ベールさん、かつて女神様達は守護女神戦争をしていたんですよね...?」

「えぇ...発端は些細な口喧嘩というべきものでしたわ...」

 

守護女神戦争の発端は口喧嘩...?それがどうして世界を巻き込んだ戦いに...?

 

 

「漸く全てが腑に落ちた...感謝するぞ緑の女神...同時に失望もした。神となって人としての業を洗い流したかと思ったが...過大評価であったようだ...神すら業と性に縛られているとは...」

 

 

 

音もなく、悪魔が正面に現れていた。

真っ黒な刃をした剣から落ちる水滴が足元の雪を赤く染めている。

 

「審判の悪魔...!?」

「いかにも...粛清は済んだ。いずれ黒の女神をも呼び寄せ、この地で最後の争乱を鎮めさせ私は消える。女神四人で世界を敵に回した悪魔を敵に回すのだ。ふふ...」

「どうしてそんなことを僕達に話す...」

「挨拶だよ黒君。さて...私がこれを言う立場ではないがやはり君たちが適任であろう...」

「適任...?いったいどーいうことさ!」

「なに、粛清の前に教会に挨拶をしたのだがこの書簡を渡しそびれてしまってな...もっとも受け取ってもらえる可能性は私が行ったところでないのだが...しかし私を裁くにはやはり女神四人が必要であろう。これが白の女神の手に渡れば君たちは私を裁くことができる。さぁ、渡してくれるかな?」

 

...僕達は顔を見合わせた。そのあと悪魔の持つ封筒に書いてある差出人を見て...僕達は目を疑った。

 

「驚くのも無理は無かろう...これは私が見つけた、英雄凍月影の手記なのだからな...」

 

 

───────

 

 

「キラーマシンツヴァイ、零壱式·霞刻鎌...確認したよ。良い出来だねガナッシュ君。」

「えぇ、わが社の技術の粋を集めて作った最高傑作です。それで...契約のほうは...」

「覚えているよ。君達は私の武器を作り私が君たちに権力を与える...」

「悪魔がルウィーにいる今こそ、ノワール様を倒す絶好の機会ではないでしょうか。」

「ふふふ。そうだね...君たちはほんと、その程度か。」

 

 

一人の少女が鎌を振るう。

さっきまで会話していた男の息はもうない。

 

 

「覚えているとは言ったけど...するなんて一言も言ってないのに。残念だねー。」

 

 

 




次回、第29話「真実」

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第29話 真実

「悪魔のこの封筒...本当にあの凍月影が書いたものなのでしょうか...」

 

僕は悪魔からこの国の女神様であるブランさん、だったかな...に渡してほしいと頼まれた封筒を持っている。うーん、本物じゃない可能性があるのがなんともいえないんだよなぁ...

 

「じゃあ、あかねぇに写真送ってみるね......すぐ行くだってさ。」

『仕事早っ!?』

 

ネプテューヌさんとハモる形になったけど、ほんと茜さんの仕事は早い。早すぎる。

 

「茜ちゃんが来るということは...これは本物ですわね。では届けにいきませんと。」

「そうですね...さて教会は...こっちですね。」

 

街の中心の大きな建物...教会に向かって僕らは歩み始めた。その先で、真実を知るとは知らず。

 

 

───────

 

 

ルウィーの教会に着いた。

まず悪魔に渡された封筒を従者と思われる人に渡して、しばらく待つことになった。

 

「...ここがルウィーの教会...静かですね...」

「静か過ぎてつまんなーい...黒君なんか面白いこと言って〜!」

「無茶言わないでくださいよ...」

「ですが、それを言う必要はなさそうですわ。」

 

ベールさんがそう言うと、教会の奥の方から僕と同じ茶髪で、白と同じ色の目をした、僕らよりひと回りだけ大きい女の人が出てきた。その手にはさっき渡した封筒がある。

 

「久しぶりですわね、ブラン。」

「...そうねベール...ネプテューヌも。それに...黒、白。元気なようで何よりだわ...」

 

耳を疑った。この人は僕達を知っている...?でも、僕達は知らない...どういうことだ...?

 

「貴方の思考の深さは影譲りね黒が内面とするのなら、...白、貴女は表面が男女の違いはあれど影そっくりね...」

 

頭を殴られたような衝撃が駆け巡る。

 

「...それ...どういう...」

「まさか...」

 

とんでもない予想が浮かんできた。

そしてそれは後ろからの声で肯定される。

 

「そーだよ二人とも。君達の考えてることはきっと正しい。話してあげなよブランちゃん。」

「そうね茜...その様子だとベールは気づいていたんでしょうね...黒と白は私と影の子よ。」

 

頭が真っ白になった。僕が...英雄凍月影の息子...?ってことはこの人が、ルウィーの女神のブランさん...つまり、僕達は女神様と英雄の子供...

 

「ちょ、ちょっと何言ってるか分からない...えっと、つまりどゆことー?」

 

ネプテューヌさんが困惑している。でも、僕と白は頭が真っ白になっていた。言葉を発することもできずに。よくわからくなっている。

 

「真実というものは残酷だよ。」

 

茜さんの声だけが、響いていた。

 

 




次回、第30話「事実は小説より奇なり」

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第30話 事実は小説より奇なり

「真実というものは残酷だよ。」

 

私は黒君と白ちゃんにそう言った。

──同時に、私と、ブランちゃんにも。

 

白ちゃんから送られてきた写真にあった封筒...そこに書いてあった文字と筆跡は間違いなくえー君のだ。私が間違えるはずがない。それに、悪魔から渡されたというのも変だ。思えばこの7年、私は悪魔を視界に入れたことがない。まるで悪魔が私を避けているかのように。それはきっと、悪魔は私の固有能力を知っているから。そして、私の知る限り、私の固有を知っていてなおかつ今所在が掴めないのは一人だけ...

 

そう、えー君ただ一人だけなのだ。

 

考えたくもないけれど、えー君が悪魔だと...そう考えると、悪魔一人で女神候補生全員を倒したなんて馬鹿げた事実も急に説得力が跳ね上がる。

 

「知ってたん、ですか...」

 

黒君が振り返って私の方を見る。

その目はまるでえー君のような鋭さが少し宿っていた。えー君がそんな目をするのは決まって苛立ってるときとか、怒っているときとか、よくない感情を持っているとき。親子だなぁ...

 

「知らなかった、は嘘になるね。」

「...あかねぇ...なんで言ってくれなかったの...?」

「そうだね...教えたかったよ。でも、あんまり早く教えちゃうと、きっと君たちは危ない目に遭っていたと思うから、かな...ううん、違う。きっと私は認めたくなかったのかな...この子達はえー君の子供だけど、私の子供じゃないって...」

 

「茜...」

 

本心、かな。ほんとはえー君が最初からずっとブランちゃんだけにしか振り向いてくれないって知っていたけど...それでも私はえー君が好きで好きで、だからブランちゃんがちょっとだけ邪魔に思ってた。えー君を独り占めしたかった。

 

「わかってるよブランちゃん...けどね...」

 

声が震える。

今までずっと誰にも言えなかった本当の気持ちを言おうとしている。けど、それは言ってしまったら...多分えー君と戦わないといけない。

 

「けどね...正直に言うとね......何回も何回も、数えきれないくらいブランちゃんのこと嫌いになって、いなくなっちゃえばえー君は私のものになるのに、って思ってた。でも、それじゃきっとえー君は笑ってくれないんだよね...」

 

1拍置く。誰も何も言わない。

 

「帰ってくるって約束を未だに守ってない上に買い物に行くって約束は10年放置しているような男なんてひどいよね...それなのに、私はまだずっと、えー君が好き。これだけは、ブランちゃんでも譲れない。」

 

まっすぐにブランちゃんを見据える。

なにか言いたげにしていたけど...教会の扉が開いた事でそれは緊張感のあるものになった。

 

「話は聞かせてもらった。仙道茜。」

 

どうやら悪魔だったようだ。つくづくタイミングがいい。だから私は振り返ることをせず、悪魔に言い放つ。

 

「聞いてたんだねえー君...でも、私を殺せる?」

 

悪魔は止まる。

周りのみんなは驚愕に目を見開く。(ネプちゃん以外だけどね。)

 

「私を...殺せる...?終わらせてくれる...?」

 

振り返って悪魔に詰め寄る。仮面で表情は見えないけれど、明らかに動揺している。

仮面に手を伸ばしたけれど、それは振り払われた。

 

「...最期の粛清も済んだ。あとは君たちが私を裁く番だ。では市街で待つ...」

 

「言うだけ言っていなくなったけど、どーする?」

「裁くわ。いくら影でも、7年待たせた罪は重いわ。当然、その間に奪った命の重さも秤に乗せる...」

「女神として、戦わせていただきますわ。」

 

 

───────

 

 

「ラステの鍵も手に入れたよ。そっちは見つかった?鍵の欠片。」

「いいや...だがじきにすぐに見つかる。」

「じゃ、合流目指すよ。」

 

そんな気はあっても、悪魔、私はこれでようやく、時雨お姉様の思想を私のものに出来る。消してあげる。私の手でね。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、第31話「裁き(前編)」

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第31話 裁き(前編)

「やはり、気づいてしまうよな、茜なら...」

 

悪魔──いや、英雄凍月影は自らが1番愛する国の上空でこの7年で初めて正体を看破されたことにある種の納得をしていた。

 

「ルウィーの鍵の欠片はまだ見つかんないけど...全くイストワールめ。面倒なことをさせてくれる。今となってはすぐに解放するのに...」

 

そもそも俺は虚夜の世界再編の思想を俺の望む形にアレンジしただけだ。女神という概念が生まれたこと、それはある種の再編ではあるが、何故か彼女達は争い始めた。俺はそれが許せなかった。原因は何か考えた。そして俺の導き出した見解は、女神を信仰しない人間がもたらすノイズが彼女達を争わせた、という点に落ち着いた。

 

だから俺は、審判の悪魔(ジャッジ・バエル)を名乗って全世界を、女神すら、妹や最愛の人まで敵に回してこの7年を過ごしていた。

 

だけど、一人では限界があった。

だから俺は仲間となり得る人物を探した。

結果、九形 光という存在に行き着いた。

 

結界系固有能力保持者。

光はこの固有能力を持っていたために悪魔に勧誘されたのであった。そして光も、審判の悪魔という存在に興味があったがために悪魔はその力を得てイストワールを封印し、イオサンドに女神候補生達を半幽閉状態にしたのであった。

 

「さて、回想シーンは終わりだ。そろそろ来るのであろう、私を裁かんとする者達よ。」

 

俺は教会の正門から50mの地点に着地する。

正門から出てきたのはノワールを除く女神三人と茜、そして黒と白。

 

俺はこの2人が何者なのか知らない。いや、大体はわかっている。だからいつも、邪魔されてもトドメをさせない。でも、今日くらいはもう本気で行こうか。でないとそれは彼女達に失礼だ。

 

「では裁きを始めよう。審判の時だ...!」

 

変身し、右腕を無理やり動かせるようにして黒剣を二刀流で持ち、背中の黒切羽を6基展開する。

 

対する彼女達も、各々変身して各々の武器を持った。もう、一触即発といったところだろう。

 

「行くぞ...!」

 

そして俺が仕掛けたことにより、戦闘が始まった。

 

 

───────

 

 

悪魔──いや、父さんが攻撃してくる。

正直、何度も戦った相手だからある程度動きはわかる。でも、それが父親となると話は別だ。あんまり動けない。それは白も、母さんもそうだった。今、父さんと戦ってるのはネプテューヌさんとベールさんと茜さんだ。

 

「何もかも納得できない...どうしてこうなっちゃったの...お母さん...」

 

白の一言に帰ってくる返答はない。

どうしてこうなったのか。

多分、この状況に一番納得してないのは母さんだと思う。ずっと会いたかった父さんが、自分の、世界の敵になっていたんだから。

 

茜さんが一旦戦線を離脱してくる。

 

「市街地だから本気出せないよ...えー君もそうだろうけどこれじゃこっちの分が悪いことは確かだね...雪山に誘導するから先そっち行ってて。」

 

それだけ言って、茜さんはまた戦線に戻っていった。ネプテューヌさんとベールさんを同時に相手しているというのに互角あるいはそれ以上で立ち回っている父さんは、世界の敵という言葉があまりにも似合っているように感じた。

 

「勝手ね...」

 

母さんはそれだけ言って変身して、雪山の方に向かっていった。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。私達、どうすればいいのかな...どうしたらいいのかな...」

「...わからないよ...だから、僕は僕の好きなようにするよ。白もだろう?」

「......うん...」

 

僕達も変身して、雪山に向かった。

 

 

───────

 

 

「仙道茜の作戦は至って合理的だねー。だから先回りさせてもらったよ白の女神さん。キラーツヴァイ、殲滅の時間だよ。」

 

雪山には、キラーマシンがいた。

僕達の作戦や動きが読まれているかのようだった。それ以上に、それを従えてる女の人は、悪魔よりも、悪魔の雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 




次回、第32話「裁き(中編)」

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第32話 裁き(中編)

キラーツヴァイと呼ばれた機械が僕達三人を相手取る。それだけならまだなんとかなっている。白の電撃魔法と僕の加速魔法、そして単騎でとても強い母さん...正直言って身構えていた僕達が馬鹿らしく思えてきた。

 

「やっぱりかー。50%で不利という見立ては正しかったわけだ。じゃあ80まで上げよう...」

 

途端に敵の動きが鋭くなった。なるほど小手調べってわけだったのか...

 

「馬鹿にして...!」

 

白がさっきから傍観しかしていないこの敵を連れてきた女性に魔法を打ち込む。

 

「ん、意外とまだ余裕あるんだね...」

 

が、それはバリアのようなもので防がれる。

 

「まぁいいか。君たちはツヴァイにやられるんだし。別に私が手を下さなくても、ね。」

「何を...!」

 

僕が肉薄する。女性は動かない。

──もらった...!

 

「はぁ...ツヴァイ、テールブレード。」

 

その一言で僕の背筋に寒気が走った。

母さんと白を相手取っていたキラーツヴァイの尾と思しき部分のブレードが真っ先に僕に向かってくる。今から回避行動を取っても避けられない。

 

「お兄ちゃん!」

 

白の悲痛な声が響く。

──あぁ、こんな簡単に終わるんだな...

 

目を瞑ってそれを受け入れる準備をしてしまう。そう、僕はここで終わるんだ...

でも、終わりなんてしなかった。

 

「全く...危なっかしいわね...冷静かと思ったら、やっぱり父親譲りの無茶体質なんだから...」

 

その声の主は僕に迫り来る金属の塊を切り落とし、僕を少し安全な場所まで移動させてくれた。

 

「ノワールさん...?」

「そうよ。他に誰だと思うのよ。」

 

この受け答えは間違いなくノワールさんだ。

 

「ですよね...でも、どうしてここに...!?」

 

次の瞬間には、別の方向から雪が跳ね上がった。

 

「ふふふ...やはり急造の3vs1では連携に穴があるな...だが、ここまで私を誘導できたのは賞賛に値しよう、女神達よ。」

 

跳ね上がった方向の地面を見ると、そこにはネプテューヌさんとベールさんがいて、空中で茜さんが父さんに攻撃を仕掛けていた。

 

「私は女神じゃないけどね...!これで決めるよえー君!準備してよね!」

「来るか茜...なれば来い...!」

 

「《緋十文字・紅桜》!」

 

茜さんの深い二回の斬撃が父さんを捉えた。確実な攻撃だった。けど、黒剣を破壊しただけに過ぎなかった。

 

「めちゃくちゃね...黒、細かいことは後にして。とりあえずまずはキラーマシンを潰すわよ!」

「あ、はい!」

「そうは行かないなぁ...」

 

僕とノワールさんの前に立ちはだかる女性。鎌を携え、キラーマシンを従えている。それだけでなく、僕の全感覚が告げている。この人は危険だと。

 

「数も質も揃えられるのは本意ではないよ...それに君たちが加勢するまでもなくキラーツヴァイはやられるさ。だから...私が出るんだよ。」

 

鎌を構え、僕達に向かってくる。

 

「下がりなさい黒!冗談抜きで、天界救世の時に感じた悪意と同じ物を感じる...!」

「え...!?」

 

半ば強引にノワールさんは僕を離脱させ、二刀流をもって鎌の女性と鍔迫り合いをしている。

 

あのノワールさんをしてそう思わせるのはとても怖いと思った。それほどの悪意。

 

「ククク...愉しませてよ、姉さんに勝ったその実力をもってねぇ!」

 

 

──裁きはまだ、終わりそうにない。

 

 

 

 

 

 

 




次回、第33話「裁き(後編)」

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第33話 裁き(後編)

16日投稿できなかったのはテストのせいです。お許しを。


「ほう...光...君はあの虚夜時雨の妹であったか...全く奇縁だ...さぞかし憎いであろうな...」

「そうだね悪魔...君が姉さんを倒したと聞いた時は驚いたよ...君もだよ仙道茜...姉さんの弟子というその事実...私の敵としては十分すぎるねぇ!だから邪魔しないでよ、黒の女神さん!」

「ぐっ...何これ...!?私が力負けなんて...!」

 

何がどうなっているかわからない。これが僕と白の見解だ。ただでさえトンデモスペックが三人いるんだ、無理もない。女神様相手に力押しが使えたり、一歩も退かずに共闘できたり、挙句二人の女神様相手に単騎で圧倒するような人間がいる戦場だ。僕たち子供ではどうすることもできそうにない。

 

「黒!白!ボサっとしてんじゃねぇ!まだキラーマシンは動いてるぞ!」

『...!』

 

それだけで意識は戦闘中のそれに戻る。

そうだ。敵は三体、こっちは7人。二倍以上の戦力差じゃないか。

 

「とはいえ...!この出力は...!」

「からくりがあるよね...!」

 

そう、確かに戦力差はある。だけどその戦力差をもってしてもなお押し切れない。

 

「どうしてこう、化け物揃いかな...!」

「いいねぇその余裕の無くなっている表情...茜ちゃん...私はあんたが大っ嫌いだよ!」

「ぐぅ...!」

 

茜さんが光さん(だったよね)に吹き飛ばされる。援護に行きたいけどキラーツヴァイが邪魔をする。そして、光さんが大技を放つ準備をする。

 

「茜ちゃん!」

「茜!」

「よそ見など...まだ余裕のようだな...!」

 

ネプテューヌさんとベールさんも父さんに圧倒されて茜さんを助けにいけない。

 

「させないわよ!」

「行かせるものかよ!」

 

ノワールさんと母さんがどうにか間に割って入ったけれども、

 

「だから、邪魔しないでっての!」

『んなっ...!?』

 

強行突破されてまっすぐ茜さんのところへ向かわれてしまう。もう茜さん本人の力でしかなんとかできないはずだった。

 

「だからね茜ちゃん...君が一番見たくないものを見せてあげるよ...」

 

鎌を一振りして、雪山に紅い液体がこぼれる。

 

「がふっ...やはりか光...」

「そうだよ悪魔...あは、いいねその引きつった顔...絶望に彩られていくその顔...いいよね...自分の大切な人が目の前で傷つけられる様なんて...見たくもないもの見せられて私は満足だよ...!」

 

そう、光さんは茜さんではなく、その後ろにいた悪魔の胴を切り裂いたのであった。

 

「えー君...?」

「嘘だろ...おい影!しっかりしろ!」

「父さん!?」

「どうして...!?」

 

反応は多種多様ではあったけど、共通して言えることはこうだ。

 

全員に隙ができた。そしてその隙を突かないキラーマシンなど存在しない。

 

「しまった...!」

 

キラーツヴァイのテールブレードが僕を打つ。間一髪で防げて良かった...

 

「ふふふ、落し物だよ少年。これは私がもらって行くよ。キラーツヴァイ、煙幕。」

「落し物...って、鍵の欠片!?...返せ!それは...!」

「イストワールの封印を解除するアイテム。これでようやく姉さんの世界再編を成就できる...じゃあね皆...作り変えられた世界で私を倒しに来てよ...」

 

『待ちなさい!』

 

キラーツヴァイの煙幕のせいでもうどこにいるのかわからない。だけど、僕にはある種の確信が何故か頭を支配していた。

 

「世界再編...」

 

それは、とっても嫌なものだと。

 

 

───────

 

 

女神による審判の悪魔の裁きは終わった。

同日、世界の終わりと新しい世界の始まりを齎す一筋の光の柱がイオサンドから放たれた。

 

 

それは流星のごとくと言うべきか。

願いを叶える一筋の光。

 

 

やがて光は全てを包み飲み込み、そこに一つの結果を連れてきた。

 

 

『さぁ、始めようか世界再編...6年も候補生達のシェアエナジーに干渉し続けたんだからね...凍月影...絶望をあなたに。』

 

 

 

そして世界は、新しい枠組みを装着することになった。だがそれはまた、少し後に綴られるであろう。言えることはただひとつ。

 

その枠に、凍月影なんて存在は存在しなくなった。

 

いずれ新しい世界で新しい物語が綴られる。

 

 

───────

 

 

「結局審判の悪魔を名乗ったのは必要悪の具現化だったんだねー、人間なんて性悪の上に成り立ってるんだから。その性悪よりもさらに大きな悪意で世をコントロールする。面白かったよ。けど...やっぱり一番面白いのは...人間の自堕落による理由ない悪意でどんどん全てが崩れ去っていくさまだよね...」

 

光の手には今までの世界には無かったものがある。その名はマジェコン。

 

「ようこそ、私の世界。」

 

 

果たして親を求めた幼子の戦いに意味はあったのか、審判の悪魔の悪行に意味はあったのか。その答えなど、誰も知らない。

 

誰も知らないまま、そっとこの物語は終幕を迎えたのだ。前触れもなく、唐突に。

 

 

 

 

 




なんか打ち切りじみてないかこれ。

いや、続き書きますよ。

タイトル未定なのでアレですがだんだん多忙になっていくため次回作はちょっと先の方です。

それでは、ここまでお付き合いありがとうございました!


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