チートでポケモンのトレーナーらしい (楯樰)
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テンプレらしい

息抜き&稚拙な作品故、お手柔らかにお願いします。



「いやぁ~すまんのぉ~……」

 

「……は?」

 

なんだこの好々爺とした爺さんは。

 

「あ、うん。儂、神様ね。それで早速本題なんじゃがなぁ……転生してもらいたいんじゃ。……殺しちゃったから」

 

「誰を」

 

「君を」

 

自分が神だとか、俺を殺したとか聞き捨てならん事を聞いた気がするが……。

 

「……ワンモアプリーズ」

 

「君を、殺した。だから転生してもらいたい」

 

「……なんで?」

 

訳が分からんな。うん。

 

「気まぐれじゃよー……ま、殺したのにもちゃんとした理由はあるから最後まで聞くこと」

 

「はぁ?」

 

……とりあえず話だけでも聞こうか。判断材料足んないし。

それにこの爺さんの言葉が嘘だとは思いきれない。

まことに遺憾だが、爺さんが神であったり、そんな存在に殺されたっていうのが事実だと認識している俺がいる。

 

「……頭の回転が早くて助かる。次元漂流者って分かるかな?」

 

「えっと……なんとなく。字体から考えるに、異なる次元の漂流者だとかそんなとこですか」

 

「そんなとこじゃな。次元漂流者が生まれる原因として色々あるんじゃが、主に理由として挙げられるのが時空断層に飲み込まれたりするのが主な原因。……で、お主が住んでいた世界は完成世界。要するに非常に安定していて、時空断層は発生しないモノだったんじゃが……」

 

「それが起きてしまった。……それと俺が貴方に殺されたのには関係が有るんですか?」

 

「そうじゃな。まさしくその通り。儂の作った世界でそんな事はあってはならん……儂の後継者に示しがつかんからのう」

 

要するにだ。

 

「俺は貴方の尻拭いで殺されてしまったと。……それで、なんで俺が貴方の前にいるんですか?」

 

「何でとは……何がじゃ?」

 

「貴方、神様なんでしょう? 神なら俺みたいな有象無象のたかが一介の人間如きにわざわざこんな風に己が殺された理由とか話さないでしょ。それこそ気まぐれな神様だとかなら」

 

「ほぉー……確かに。確かに、お前さん如き地球と言う星に住んでいた、たかが知性ある一種族の人間一匹にこんな話はせんじゃろうな~……」

 

ここにきて目の前の神さんの穏やかそうな空気は一変する。

 

「だがな、さっきも言ったが“神の気まぐれ”だ。俺はたまたま本来生まれるはずが無い次元漂流者が珍しく思ったから、こうして処理のついでに戯れているだけだ」

 

声色からプレッシャーがズシズシと感じる。ただただ俺は冷や汗が背を伝う感じがした。

心なしか口調も変わっているような気がする。

 

「……ま、お前さんの思う細かい事は気にするでない。儂は気まぐれでお主を転生させようとしておるのじゃから」

 

「……了解です」

 

「じゃ、転生する世界、転生特典等はこっちで勝手に決めとこう。……要望があるのなら聞くが?」

 

「……容姿は人型でそれなりで。それから努力が苦だと思わないような性格に変えてもらえれば」

 

「なんともまぁ謙虚な事で。ま、世界に合うような特殊能力をやるから楽しみにしておけ。それでは、さらばじゃ」

 

視界が霞んでいく。

 

「おぉ、五歳になったら此処での記憶と前世の記憶が戻るように、それから転生特典だとかは記憶が戻った時説明してやろう……」

 

そんな声を聞いて俺の意識はブラックアウトした。



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五歳らしい

父と母。そして長男である自分。

そんなヤマブキシティの裕福な環境に“僕”は生まれた。

 

五歳になる誕生日の前日。

その日の夜、高熱を出し寝込んでしまった。

 

そして翌日、日曜日。

目が覚めるとかつて神と交わした会話、そして前世の記憶が頭の中にあり、枕元にはメモ書きが。

 

『この世界はポケットモンスターの世界。

特典は

・ポケモンspecialよりトキワの能力、孵す者。

・本当に気に入ったポケモンにつき、努力値の限界の撤廃。

・努力すればで多才になれる能力。

・なつき度の上昇率UP。

・ポケモン捕獲率のUP。

・伝説&幻のポケモンとの遭遇率UP。

・手持ちのポケモンとの声による会話。

 

 

注釈:わからない事があれば本棚にある『ポケモンの全て』という本に書いてあるので参考に。

このメモは読み終えると消える。この内容は上記本に書いてあるため心配ない。

――以上』

 

……正直な所、僕……いや、俺にはトキワの能力とかが全然分からなかったので仕方なく調べる事に。

 

開いた時には中身はノートみたいに白紙で、『は?』 と思っていると文字が浮かび知りたい事が書いてあった。

 

一通り読んで本を閉じる。

なるほど。トキワの能力と言うのはポケモンセンターいらずと言う事。

ただ、慣れていない内は疲れやすいらしい。

孵す者は厳選無しで個体値Maxのポケモンが生まれるのか。

努力すれば多才になれる能力……というのは良く分からなかった。

なんだろう、努力すればノーベル賞とれるだとか、プロ野球選手になれるとか、そういうことだろうか?

幸い、なつき度とか努力値だとかは前世でやり込んでいたから分かる。

わかるっちゃ分かるけど……努力値の限界の撤廃って言うのは……もしかしなくともポケモンの鍛えようによってはステータスMax(999)になるということだろうか。

 

いや、ステータスの限界値自体がこの世界にがあるかどうかも怪しい。

 

もし無いのなら……キャタピーがアルセウスを遥かに超える能力値を持つ可能性が生まれる訳か。こんな能力が研究機関とかに知られたら恐ろしい事になるんじゃなかろうか。――ちょっと寒気がした。

 

……とりあえず起きよう。

 

お母さんが昨日心配していたから早く元気な顔を見せないと。

 

-------------------------

 

おはようと先に起きていた両親に声を掛け食卓に着く。

大丈夫? と聞かれたりしながらも朝食をとる。

余談だが箸の使い方が昨日より上達している事で少し驚かれた。

 

そして両親に遊びに行って来ると言って家を出る。

目指すは公園。ポッポだとかの鳴き声を聞きながらスキップしながら歩いていく。

 

なんだか前世の記憶が戻った事で今まで見ていたものが凄く新鮮に見える。

それから身体の年齢が幼くなったせいか、考え方も少し子供時代に戻った気がする。

 

そうこうしている内に、目的の公園についた。

 

「うわぁ……!」

 

ポケモン同士を戦わせている短パンの少年達。

パンくずと思わしき餌をポッポにあげているお年寄りの夫婦。

そしてベンチに座ってニャースを撫でているお姉さん。

 

現実にポケモンと共に暮らしている様子を目の前にして年甲斐も無く声が出た。

 

公園の中に入ってもっと良く見て回る。

 

虫取り少年がキャタピーをつかまえようとする。

胴着を着た格闘家の人とゴーリキーは一緒に走る。

 

見れば見るほどポケモンと人が共存していた

勿論鬼ごっこをして遊んでいたりする子供達も居る。

 

 

もっとポケモンが見てみたいと思い、近くの茂みに入る。

 

しばらくじっとしていると近くに来たコラッタと目が合う。

――が、すぐに逃げて行ってしまった。

 

……むぅ。流石に野生のポケモンに触るのは難しいか。

 

仕方ないので茂みから出て、ベンチに座る。

 

 

さて、浮かれるのはいいけど……コレからどうしようか。

 

とりあえずポケモンと一緒に旅をしてみたい。

……できるだけ自分の特殊能力は隠しながら。

そのためには10歳……一年後からトレーナーズスクールに通わなきゃいけない。

だけど、トレーナーズスクールで習う事は既に前世で知っている事ばかりだと思う。

でもコレばかりは仕方ない、とあきらめるしかないか。

いや、でもスクールの校長先生に自分の知識を話したらどうだろうか?

 

……案外通わなくてもいいかも?

 

そんな風に一人百面相して、顔を上げると隣に誰か座っていた。

驚きで声を上げるのも忘れるくらいだ。

ニ、三歳ほど年上の女の子だろうか。そんな彼女は、

「うぅ……っぐ……うう……」

……泣いていた。

 

どうしたらいいの? 俺、なんかしたっけ?

 

そんな感じでしばらくの間、泣く女の子の隣で頭を抱えた俺だった。

 




8/1 誤字修正……というか誤用修正。

神さまからのメモの件。
最後、心配要らないと書くつもりが、間違った覚え方してた。
“案ずるべし”って用法違ったのね。
……勉強になりました。


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虐められてるらしい

「……どうしたの?」

 

考えをまとめ、とりあえず彼女の話を聞く事にした。

こんな所で泣くにも理由があるだろうし。

 

「……ひっぐ……ん……私ね、嫌われてるの……」

 

誰に? と口からでそうになったのを抑えて話を聞く。

 

「……みんなに『気味が悪い』って。……『化け物』だって」

 

「……それで?」

なにやら物凄い地雷を踏んだ気がするけど……気のせいだよね?

 

「……人の心が読めたり……聞こえたり。……手で持ったりしてなくても物が浮かんだり。お父さんは『お前は人には出来ない事が出来る』って。……でもこんな力、好きで手に入れたわけじゃないのに……うぅっ」

 

さっきより声を上げて泣く女の子。

オロオロとしているわけにもいかないので背中をさすってあげながら泣き止むのを待つ。

周りを見れば、さっきまで聞こえていた人やポケモン達の声が遠く聞こえる。

 

離れていくのは当たり前か。……うん。

可愛い女の子が泣いてるし。それを俺が慰めてるし。

……近づき難いわな。

 

「…………ありがとう」

「うん? 泣き止んだ?」

顔を上げた女の子は泣いてたので目のまわりが赤くなっている。

正面から見ると……やっぱり可愛らしい顔をしている。

将来美人さんになる事間違い無しって顔だ。

 

「…………恥ずかしい……」

「あれ? 僕、何か言った?」

今度は頬を染めて赤くなる。

……なんか言っただろうか? 俺。

「……私、人の心の声が聞こえるんだよ?」

 

「――あ」

うわ、失敗した。この子人の心の声聞こえるんだった!

可愛いだとか将来美人になるとか何言っちゃってんの俺!?

いや、嘘じゃないけど! 本心からだけど!

でも本人目の前にして言う事じゃないよー!?

 

「もーやめてー! 聞こえてるよ!」

「うがー! 何やってんの俺ェー!」

 

ほんのちょっとの中こんな感じに続いた。

でもすぐにどっちからともなく、二人して笑った。

 

 

無心無心無心。

「自己紹介しよう。君の名前は?」

「……私の名前はナツメ。えっとトレーナーズスクールに通う七歳。……君は?」

まだちょっと笑ってた時の余韻が残っているのかまだ涙の後はあるが、さっきよりかは明るい顔をしている。

そんな無邪気なところも可愛らし……っていかんいかん。また同じ事になる。

無心無心。

「僕……いや、精神年齢高いの分かってるみたいだからいっか。俺の名前はトウカ。五歳……それと超能力が使えます!」

「……嘘だよね?」

 

何に対して嘘と言ったのか分からないけど……どっちもホントのことなんだけどな。

 

「……その超能力が使えるって言うの」

「うーん……一番いいのはポケモンがいれば分かりやすいんだけど……」

「……家にケーシィいるけど、来る?」

俺が言うと女の子……ナツメちゃんは考える人みたくなって、言った。

幾ら元気付けるためとはいえ、なんだか騙してるようで申し訳ない気持ちになる。

超能力と言うか特殊能力だからなぁ……あ。

 

「――特殊能力?」

 

「……聞こえた?」

 

「うん……でも怒ってないよ? 私を元気付けようとしてくれたのはわかったから」

 

そう言って少し残念そうに笑う。

 

「みてみたい。トウカ君の特殊能力……だめかな?」

 

「そっか。……うん、それでもいいなら」

 

ちょっと空気が悪くなりながらも、ナツメちゃんの後に続いて家に向かった。

 

-------------------------

 

ポケモンセンターの近くにナツメちゃんの家はあった。

 

表札には『エスパー親父の家』……と。

 

…………。

 

どうしよう。

凄く入りたくない……というか確かサイコキネシスの技マシンをくれる所じゃなかったけ?

 

「……良く分かったね。お父さんサイコキネシスの技マシンを作った人で、偶にくれたりするんだよ? ……まぁ、基本いいお父さんなんだけど」

 

なんだかナツメちゃん、すっごい苦笑いしてるんだけど。

 

「……あはは。ちょっと待ってて。部屋片付けたら呼びに来るから」

そういってナツメちゃんは家の中に入っていった。

 

 

…………もう考えてもいいか。

さっきまで思考駄々漏れ状態だったからまともに考えられなかった。

やっぱりナツメちゃんって……未来のヤマブキジムのジムリーダーナツメだよな。

結構ポケモンの中でネタにされてたけど。(女幹部みたいだとかSM女王っぽいだとか)

確かにヤマブキシティに住んでるから出会ってもおかしくは無いと思ったけど……幾らなんでもエンカウント早いよ……。

 

どーしよ。

このポケモンの世界……元々ゲームだとかアニメの世界だったなんてことが知れたら……どうなるんだろうか。

 

俺が転生者だと言う事、この世界の事。

知られないためにも、俺も超能力を使えるようになって読まれないようにするべきかな。

それかいっそのこと打ち明けるべき?

でも多分黙っていても、きっと俺の事だ超能力使えないと……ボロが出るに決まってる。

 

長い付き合いになるような気がするし……覚えるべきか、早めに打ち明けるべきか……。

 

「もういいよー……ってどうしたの? そんな難しい顔して」

 

「……ううん。なんでもないよ」

 

こんな思考、打ち切って上がらせて貰おう。

 

「おじゃましまーす」

 

「(何考えてたんだろ? ま、いっか) はいどうぞー」

 

そして俺はナツメちゃん家に招かれた。



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眠いらしい

ナツメちゃんに案内されて彼女の部屋に着いた。

お邪魔します、といって部屋の中に入る。

うーん……女の子らしい部屋だ。

 

それにしても途中、ステテコに腹巻きという格好をした男の人がいた気がするけど……

「……まったくお父さんあんな格好で」

そう言いながらナツメちゃんは苦笑する。

 

……ってまた読まれてたし。

 

「……ゴメンね? あと二年位したら無意識に人の心、読めなくなるようにできると思うから」

 

「いや、気にしてないから。……でもあと二年したら普通に生活できるようになるんだ」

 

「うん……でも、やっぱり迷惑じゃない? 勝手に人の心読むなんて……」

 

……いいんじゃないかな? 別に読めても。

「え?」

 

「だってさ、」

こうして直接相手に話し掛けなくても考えてる事が伝わるって凄いじゃん。

 

「え、あ……うん。……そうかな」

そうそう。だから、さ。そんなに思いつめる事無いと思うよ?

 

「そっか……えへへ、ありがとう」

 

そういって笑うナツメちゃんはやっぱり可愛かった。

泣いてる時よりもやっぱり笑ってる時の方が可愛い。

 

「ッそ、そうだ。け、ケーシィ出さないと。そのために来てくれたんだから……」

ナツメちゃんは顔を赤くしていそいそとモンスターボールを取りに部屋から出て行った。

 

……またやってしまったっぽい。気を付けないといかんな、うん。

 

さて、ナツメちゃんが行ったのでカーペットの上に座り、思考を始める

まずは自分の特殊能力で何ができるか整理しておこう。

 

トキワの能力が、

一つ、ポケモンの一時的なレベルの変動。

二つ、ポケモンの回復。

三つ、ポケモンに意思を伝える&聞き取る。

の、三点。

 

それから後は、なつき度とかポケモンのステータスだとか……自分の手持ちにポケモンがいないと意味が無いので今回は使えない。

 

だから目に見えてわかるのは……トキワの能力の内、意思を伝えるだろうか。

 

そうしよう、と考えていたらナツメちゃんが部屋に戻ってきた。

 

「お待たせ。おいでケーシィ」

ナツメちゃんはモンスターボールのスイッチを押す。

 

▶あ! ナツメ の ケーシィ が 飛び出してきた!

 

「……なに? それ」

「いや、うん。気にしないで。……やってみたかっただけだから」

「ふーん……あ、超能力」

はやくはやく! といった感じでナツメちゃんは急かしてくる。

いや、特殊能力なんだけど……ま、いっか。

 

じゃあ……『ケーシィ、ナツメちゃんの後ろにテレポートしてくれる?』

 

「……え?」

 

俺が念じるとケーシィは目の前から消え、ナツメちゃんの後ろにテレポートした。

ナツメちゃんは後ろを振り向く。後ろにテレポートしたケーシィは、舟を漕ぎながら眠っている。

 

「……ホントだ。今、ケーシィに命令しなかったよね?」

ナツメちゃんはケーシィを抱いて、床に座る。

 

「うん。心の中でお願いしただけ。指示を出す以外にも色々できるけどね」

 

「凄い……それで他には何ができるの?」

膝の上にいるケーシィの頭を撫でつつナツメちゃんは言う。

 

「ポケモンの体力の回復と、ポケモンの考えてる事を受け取る事くらい……かな」

 

「へー……ちょっと羨ましいな、ポケモンの考えてる事が分かるって。私の超能力は人の考えてる事は分かるけど、ポケモンの考えてる事は私、分からないから……」

 

残念そうに俯いてナツメちゃんは言った。

だから、と続けて顔を上げ、俺の目を見てナツメちゃんは言う。

 

「……トウカ君が羨ましい。超能力よりも便利で」

 

真摯に目を合わせて言ってくれるので少し、恥ずかしい。

 

だけど超能力もそれなりに便利だと思うんだけど。テレポート使えたり、自分で空を飛べたりしたら。

 

それにケーシィの考えてる事ならナツメちゃんにも分かると思うけど。

 

ナツメちゃんは驚いた顔をして、いよいよ首が落ちそうになってきたケーシィの方をみて笑う。

「『眠い』ってさ」

「だね」

ナツメちゃんが笑うのにつられて俺も笑い、ナツメちゃんはケーシィをボールに戻した。

 

 

……さて、と。そろそろ帰ろう。

そんな事を考えながら立ち上がる。

 

「…………帰っちゃうの?」

「うん。お昼の時間だし……どうかした?」

「う、ううん。なんでもない……玄関まで送るね」

「あ、うん」

ナツメちゃんも立ち上がり、部屋から出た。

 

 

玄関につき、靴を履いて扉に手をかける。

「それじゃ、帰るから」

「……また会えるかな」

「うん? 会えるんじゃない? 少なくともヤマブキシティにいて会えない事は無いだろうし」

「そう、だよね。なんだかもう当分会えないような気がするけど……気のせい、だよ……ね」

俯きがちに言うナツメちゃんの表情は少し暗かった。

そして超能力が使えるナツメちゃんが言うと、自分でもその通りになりそうな気がしてならなかった。

 

「じゃあ、約束しよう? 『また遊ぶ』って約束」

「うん……」

 

――ゆーびきりげんまん♪

――――うーそついたら♪

 

「……ねえ。ハリセンボンじゃなくて『どっちかの言う事を聞く』じゃ駄目かな」

「そりゃあ……うん。いいよ」

 

――一回いうこときーく♪

 

 

「「――ゆーびきったっ!」」

 

 

「じゃ、バイバイ。――またね」

 

「うん、またね」

 

ナツメちゃんに手を振り、外に出る。

お昼ごはんは何かな、とか、結局自分の事話せてないや、だとかを考えながら帰路についた。

 

 

 

 

 

…………未来予知がこの頃から使えていた彼女の『予言』。

 

まさか俺は約束が当分守れなくなるだなんて、帰路の道中思いもしなかった。



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じいちゃんらしい

適当設定多々有りです。


記憶が戻って半年が過ぎた。

 

半年の間、何をしていたかというと、自主勉強と、超能力が使えるように成る為のスプーン曲げ等に挑戦していた。

自分の目的はポケモントレーナーになって自分のポケモンと旅をする事。

あと、超能力者……主にナツメちゃんに心を読まれないように、自分が超能力で防ごうとするためだ。

 

ちなみにナツメちゃんとは初めて会った時以来会っていない。

あんな約束しておいてという状況だが、まぁ致し方ない事だと今度会った時本人には謝っておこう。

 

今超能力は机に置いたスプーン宙に少しだけ浮くようになり、少しずつだが曲がるようにまで成長した。

そして肝心の心を読まれないようにするための技術は、すこしだけ出来るようになった……と思う。

コレばっかりはどうしても確認しようが無い。

なんせ心が読める人間は、今会う事が出来ないナツメちゃんぐらいしかいないのだから。

……見ず知らずの超能力者にお願いなんてできないし。

 

自主勉強の方は……まぁトレーナーズスクールで飛び級してやろうだとか考えてたりする。

目論見としては飛び級し、いち早くトレーナーになるため。そのためには(前世)嫌いだった勉強も利用してやろうという意図だ。

 

目標はタマムシ大学へ跳び級して入るぞ!

 

と、ある日までは思っていた。

 

 

本来トレーナーズスクールというものは六歳になる年度から入学できる。

それから四年間、一般教養は勿論の事、ポケモンの知識、社会規範、バトルでの心構えと礼節などのトレーナーとしてやっていくために最低限の事を覚えさせられる。

 

一応、元トレーナーだったと言うお父さんに、予備知識のためトレーナーズスクールでの話を聞いたところ、始めの二年間は四則計算と国語力……全国共通語として日本語、その他の国では+それぞれの地域での言語が学ばされる。

 

そして最後の二年間でポケモンの基礎知識や社会規範などをみっちりと教えられるらしい。

 

ただ、トレーナーと認められるためのトレーナーカードは、十歳になれば申請でき、ポケモン協会と言う所から発行されるとのことだ。

 

つまり十歳まではどんな事があろうとトレーナーにはなれないという事。

そもそもスクールと言うものはコミュ力や基本学力を得るために通うもので、強制的……と言うわけでは無いらしい。

ただスクールに行っていないトレーナーは大成することがほとんど無いらしく、周りからの評価も薄くなる。

 

つまり勉強して飛び級できたとしても。

又、スクールに通わぬままだとしても。

 

ようするに、お父さんから聞いた話では最低でも十歳以下の子供は、トレーナーとして旅に出れないという事だった。

 

 

この後のことは良く覚えていないのだが、お父さん曰く俺は大泣きしたらしい。

その様子はと言うと、床で手足をじたばたとさせながら、年相応に駄々をこねていたとの事。

気がついた時にはベッドの上で寝ていて、改めて両親に聞いて大泣きしたことがわかったのだ。

 

また泣きそうになったが、ポケモンを一匹捕まえに行ける事になった。

思わずガッツポーズをした俺は悪くないと思う。

そんな様子を見られて、トレーナーとして旅をすることはできないけど、ポケモンを持つ事はできるから、とお母さんに微笑まれながら頭を撫でられた。

 

ちょっと恥ずかしかった…!

 

そして初めてのポケモン。せっかくだからと言う理由の元、どんなポケモンがいいか聞かれたので「ピカチュウ」と答えたら、苦笑いされてトキワの森に行く事になった。

 

……が、何が狂ったのか、お父さんのポケモンのピジョットでそらをとぶをして着いたのは……オーキド研究所。

 

なぜかと理由を聞けば、父に息子の顔を見せるためだと言われた。

 

あぁ、この研究所で働く研究員なんだな、と思っているとどうやら違うらしく。

研究所内に入るとオーキド・ユキナリと名乗る我がお爺様とご対面。

 

「父さん、コレが家の息子です」

「ほー……こんにちは、トウカのお爺ちゃんじゃよー」

 

つまり俺のお父さんの親父さん(お爺ちゃん)は、オーキド博士だったのだ!

 

-------------------------

 

初めての顔合わせも済み、再びピジョットに乗りトキワの森に着いた。

 

「ずっと固まってたけど、大丈夫か?」

「うん。ちょっと驚いただけ……」

 

ちょっとどころか驚愕ものですー。

 

それにしても自分の苗字がオーキドじゃなかったから思いもしなかった。

 

苗字はオーキドではなかったのはお父さんがお母さんの姓を名乗っているからだろう。

理由に関しては多分、マスメディアとかがプライベートに踏み込んでこないようにするためだと予想。

 

……当事者に聞けば一発なんだろうけど。

 

 

考えながら森の中に入り、ポケモンを探す。

しかし出会うのは、我先にと逃げ出す寸前のむしタイプのポケモンばかり。

 

あのポケモン界のねずみさんは出てきすらしなかった。

 

それでもしばらく森の中を探索し、エンカウントしてバトルにすらならず。歩きっぱなしだったので、少しばかり休憩する事にした。

 

「お父さん、おしっこしてくる」

「……一人で大丈夫か?」

「うん、大丈夫。じゃ、行ってくるね~」

 

切り株の上に腰をかけているお父さんに手を振りながら、踏み均された自然の道路から、茂みに入り尿を足す。

 

「ふぅ……見つかんないなぁ……」

 

やっぱりゲームみたくうまく行かない。

ゲームじゃなくて現実だから当たり前と言えば当たり前だけど。

うーん、まぁゲームみたくポンポンと伝説のポケモンや幻のポケモンが、出てくることがおかしいんだろうけど。

 

土を少し蹴って、立ちションの上に掛け、その場を離れて少し散策する。

 

あー……ホントにどうしよう。

今、手持ちにあるモンスターボールは三個。

ちなみに一個二千円もする。

スーパーボールなんかじゃなく唯のモンスターボールで、だ。

 

どうやらゲームで二百円で買えていたのは、トレーナー価格のようだ。

ちなみにハイパーボールなんかになると一個12000円するらしい。

 

うん、高い。

 

伝説のポケモン捕まえるのに、ハイパーボール50個も使ってたかつての自分が恐ろしい。

 

 

さて、そろそろ現実逃避はやめよう。

 

「……グスン」

 

迷子になっちゃった(涙)

 

 




実際あると恐ろしい設定に。
自分の作品自体息抜き&拙作なので大目に見てくださいまし。

修正:一年間~→半年の間~
   トキワの森のくだりで諸々を変更。


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いとこらしい

なんだか変な感じ。


ずんずんと一人で勝手に森の中を進んでいた俺も悪いよ?

だってトキワの森で迷うことになろうだなんて思わなかったし。

 

……はぁ。

 

取り敢えずどうしよう。

ま、少し頭が痛くなるのを我慢すれば、お父さんのいる方向超能力で判らないことはないし、ちょっと一人で探検してみようか。

 

近くに獣道を見つけたのでそこに行ってみる。まぁ、獣道を通ったからといってポケモンの住処にたどり着くとも限らないし、可能性も低いだろうけど。

でもやってみないと何事も分からないってことは多い。

 

ちょっと進んだ所で横たわれてる黄色い何かを見つけた。

もしやと思い近づいてみると案の定彼奴だった。俺が此処に探しにきていた黄色いネズミ――目の前にいる怪我をして倒れたピカチュウだった。

 

とにかく怪我をしたままなのは見ていても気分が悪いので、初めて使う事になるトキワの能力を使う。

手を彼(彼女?)に翳し、神様のくれた本に書いてあったとおりに癒そうと意識する。すると手が淡い光を帯びて、その光がピカチュウの体に移っていく。

 

確かにコレは疲れる。

イエロー、ワタルっていうこの能力の持ち主は何回も回復できるって話だったから、相当凄い人たちだったのだろう。

 

しばらく体を襲う倦怠感に耐えつつピカチュウの傷を治していると、ピカチュウの息が安定してきた。

もう大丈夫だろうと思い、止めると視界がかすみ眠気に襲われ、そこで意識が途絶えた。

 

目が覚めると少し薄暗く、結構時間が経っていたようだった。

ピカチュウは、と気になり目をやると今丁度起きようとしていた所だった。『ピカァ……』と欠伸をしながら目をこする姿は愛くるしい。なるほどポケモンの中でも人気出るわけだ。

 

つい手をピカチュウの頭の上にやり撫でてしまう。ピカチュウは少し後ずさり警戒したが、すぐ目を細め甘んじて撫でられていた。

 

「……なぁ、ピカチュウ。どうしてあんなに怪我してたんだ?」

「ピカァ……(群れから追い出されて……)」

 

……聞いたつもりは無かったのだけど返事されたようだった。

あ、そういえばポケモンの意思を読んだりするのもトキワの能力のひとつだっけ。

 

「なんで?」

「(わからない……でも電気の溜まった黄色い玉飲み込んだら追い出された)」

「でんきだまか…?」

「……?」

確かピカチュウに持たせると攻撃・特攻が2倍だったはず。それが攻撃面だけ二倍のステータス。……だから仲間と認識されなくなったか、危険分子とされて群れから追い出されたか。どちらにしろ、でんきだまを吐き出せなくなって能力値がおかしい事になったのか。

「もう戻れないのか?」

「(多分)」

「……、一緒に来る? ボールに入って少し狭い思いして貰わないといけないけど」

「(……お願いする)」

同意もとれたのでポケットから小さくしていたボールを取り出してこつりと彼(推定)の頭に当てる。

彼は吸い込まれてボールはゲームのように動かず、そのままカチリといった。

 

「ピカチュウ、ゲットだぜ……なーんて」

 

ちょっとむなしくなった。

それから超能力つかって、頭を痛くしながらお父さんの所へ戻った。

何処行ってたんだ! と怒られたけど、ピカチュウ捕まえたといったら呆れられて、頭撫でられた。

 

面目次第もございません…。

 

 

後でお父さんのピジョットのレベルと特性を訊いたら、『するどいめ』――自分よりレベルの低いポケモンが出てきにくくなる――のLv.60だった。

道理でポケモン一匹出てこない訳ですねー……ちくせう。

 

 

ピカチュウを捕まえたその後、その日はマサラタウンへ戻り、オーキドの爺ちゃんの家に御泊まりする事になった。

その家に住んでる従兄弟になるグリーン、そのお姉さん、ナナミさんと遊んだ。

ナナミさんからはピカチュウの毛づくろいをしてもらい、自分でする時はどうすれば良いかコツを教えて貰ってその日は寝た。

 

翌日。

「楽しかったぜ、また来いよ!」

「またね、トウカくん」

「またねグリーン。ナナミ姉さん」

やんちゃ坊主な同い年のグリーンに、四つ上のこの歳からお姉さん風なナナミさんに手を振って別れを告げ、お父さんの出したピジョットに乗ってマサラタウンを後にする。

 

それにしても努力すれば多才になれる能力の片鱗を見たな。

コツを教えて貰っただけで、ナナミさん並の毛づくろいが出来るようになったんだから色々と喧嘩売ってる。

現にナナミさんはお姉さんのイメージに合わないほど、情けない顔になっていた。隣で笑っていたグリーンには後々、御当人から拳骨を貰っていた。

 

それにしてもナツメちゃん、元気にして居るだろうか?

超能力が少しはちゃんと扱えるようになってないと俺が会いに行けない。2、3年位したら俺も超能力がナツメちゃんくらい使えるようになってると思うけど。

 

……まだ会えないなー。

 

緩やかに飛ぶピジョットの上でそんな他愛も無い事を考えていた。

 

-------------------------

 

自分の部屋でスプーンを目の前にし、曲がれと念じる。

「むむむ…!」

『ご主人、なにやってる?』

 

――くにゃ。

 

見事にスプーンは曲がる。

念動力も最近メキメキと上達してマスターしてきた。心のプロテクト? とでも言うのか判らない読心防御も出来てきた……と思う。

そろそろ超能力もテレポートとかの段階に入るべきだろうか。

流石にまだ意図的な未来予知とかは出来ない。偶に正夢とかデジャヴみたいな現象は起こるけど。

 

『おぉー…!』

ぱちぱち、と小さい手を叩いているのは我が家のでんきねずみ。ちなみにメス。

男勝りなその口調をどうにかしろといっても聞く耳を持たない。まぁ、個性を無理強いしようとは思わないんだけど。それなりに苦労してたみたいだし。

 

……でもモテないぞー。

 

『ふんっ、余計なお世話だ。あんな排他的な連中にモテてもいい事なんて一つも無い…。現状、満足しているし』

 

とかいって無自覚にツンデレているが、初めの頃はよほどショックだったらしく、今でも偶に鬱になってる時がある。

まぁ、こんな鬱な状態俺は嫌いなわけで。

「嬉しい事言ってくれるなぁ~このー」

『や、やめろバカ!』

頭を撫でてやると、照れた様子で手を振りどけようとするが、それも既にふにゃっと口がニヤけてちょっと危ない方に見える。

『誰が危ないだ、誰が! お前のせいだろうがー!』

「うわっ、あぶな! 電気ショック飛ばしてくんな! 死ぬだろうが!」

『一回死ねェエエ!』

ピカチュウは今度は腕に電気を纏い殴りかかってくる。

雷パンチモドキを避けながら、俺は明日――ポケモンスクールの入学式について考えていた。

 

新生五歳の四月。明日、入学します!




超能力万能説。

7/29 設定修正。
   ピカチュウの種族値が二倍~→ピカチュウのステータスが二倍~

情報有り難うございました。


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妬まれるらしい

ピカチュウを捕まえる……というか仲間にして半年。

 

他にも六歳になったとも言うが、今は捨て置く。

 

無事、スクールに入学した俺は現在、トレーナーズスクールの中等部に通っていた。

 

六歳の誕生日。

家に来たお爺ちゃん(オーキド博士)が、俺のしている勉強内容を見て、飛び級するかと提案。

そして、テストとかなんやかんやで中等部に入る事に相成ったのだ。

 

訳が分からん、とはピカチュウの弁。

こ奴、俺の隣で勉強をするという、お前は本当にポケモンか? と問いただしたくなるほど人間臭い。

 

そして何げに俺より頭が良いという。

 

アニメのサトシ君のピカチュウ然り。

原作レッドのピカチュウ然り。

ギエピーの出てくる漫画のピカチュウのツッコミレベル然り。

 

どいつもこいつも、でんきねずみというヤツらは化け物か!?

 

……いや、お願いですから電気ショックは勘弁して下さい。

貴女の普通の奴より出力高いんで。

 

えー、コホン。

 

で、今現在中等部の三年としてやってる訳ですけども。

 

「ねぇねぇ、これってどう解くの?」

「…………両辺とも2で割って、移行したら終わり」

「ありがとぉ~」

 

勉強を教えて貰いに来るのは同じ学年の女子女子女子……。

思春期向かえて一丁前に恋とかしちゃうお年頃の女子達よ。

 

何故あんた達は俺の所に来るんだよ?!

 

いや、確かに同じ学年にちみっこいガキがいたら気になる。

何処ぞの薬味魔法先生の如くちやほやしたくなる気持ちも分からなくも無い。

 

ただ、あんた達来るから同学年の男どもの視線がウザイのなんのって。

おかげで半分くらい苛められかけてるし……。

……友達出来ないし。

ピカチュウからの電気ショック痛いし。

 

……今だってピカチュウ入ってるボールが静電気でヤバイことになってるんだから。

 

最近こいつ静電気すら自在に操るようになってきて、触れた相手100%で麻痺らせるようになってるんだぜ?

お前特性無視しすぎだろう!?

その点、T○PPOってすげーよな。

アイツ最後までチョコたっぷりなんだぜ?

 

……いかん、話がそれた。

でも、こいつなに考えてんだ、とボールの中で考えてるピカチュウの静電気が収まったのでよしとしよう。

 

念力で髪抑えてないと今にも爆発しそうです。

 

「……はぁ。憂鬱だよ、まったく」

『なら、出してくれ。話し相手になってやるから』

「却下。お前出したら女子達がまた寄ってくる」

 

今、やっと女子の波が消えたんだ。

少しゆっくりさせてください。

それに今のお前の話し相手って絶対O☆HA☆NA☆SIするつもりだろう?

 

『何故ばれた……』

「……人間成長するんです。貴女とは違うんです」

『あぁ、確か前の総理大臣がそんな事を言ってたような言って無かったような』

 

ユア、デンジャラスッ!

俺が社会から抹殺されるから止めてっ!

というかテレビ見てたんだ。

 

『世の中の移ろい事には関心持って当たり前のような気がするが?』

 

お前ホント実は中の人とかいるんじゃない?

その人がピッカピッカ言ってる気がするんだけど?

 

『…………』

 

「ちょっ! マジ黙んな、恐いからぁ!」

 

ばっ、と周りの人間が叫んだ俺のほうを向く。

 

「な、なんでもないです……ゴメンなさい」

謝る俺。興味をなくしたかのように元の作業に戻る人達。

あ、プルプル肩が震えてる。アイツ等絶対笑ってんだ。あぁやって陰で俺の悪口言ってんだっ!

『ぷぷっ……』

あ、おいコラ、ピカチュウ!

 

キーンコーンカーンコーンというベルが響いて午後の授業が始まる。

 

――お前、おやつ抜きな。

 

『……ゴメン、やりすぎた』

 

夜まで我慢けってーい。

 

『そんな殺生なぁ~!』

 

-------------------------

 

結局、授業中煩かったピカチュウをなだめるために「トイレ行って来ます」といって授業をサボった。

後でお爺ちゃんとかお父さん怒るだろうなぁ……。

いじめ酷くなるだろうなぁ~。

 

『……ふん、知るか。あんな事言うご主人が悪いんだからな』

「悪かったって。ごめんな、おやつ抜きは言い過ぎた」

よしよし、と頭を撫でながら言ってやる。

『……別に良い。ちょっとの間こうしててくれれば……』

「はいはい……」

なんともまぁツンデレというか。

古式ツンデレと言うべきか。

 

……丁度良いし、このまま毛づくろいしてやるか。

 

『う~ん……やっぱり上手いなぁ、ご主人は』

「……そりゃあ毎日やってますから」

『そうだなー……』

 

ちゅんちゅんと野生のポッポも寄ってくる。

春うらら。今十月だけど久しぶりに日差しの良い日さね。

 

 




女子→ちっちゃい癖に大人びたところが素敵!
男子→仲良くなりたいけどとっつきにくい。おら、誰か話しかけてこいよ!

な感じ。


ちょっぴり誤字修正。
報告有り難うございます。


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飛んでくらしい

何だかんだと問題なく中等部卒業。

 

卒業式はなんとなく感慨深く。

最後の半年間の間でクラスの男子達とも仲良くなれた。

 

『……苛められてたとか、全部ご主人の思い違いだけどな』

 

五月蝿いピカチュウ。

 

……まぁ、それから卒業と同時におじじ様からまたもや飛び級試験の提案。

 

今度は大学。

タマムシの大学。

オーキドのお爺ちゃんの講師するあの大学。

初めの頃は行きたいとか言ってたものの。

さてはて。

 

一体何処に行けと言うのかね!?

 

学科がぁー学科がぁー、とでも言えば良いの?

馬鹿だよ? 死ぬよ?

ピカチュウにも劣るって、自分馬鹿以外に何が残るの?

 

『……そこはかとなく馬鹿にされた気分』

 

煩い。

大体お前の頭が良すぎるのが悪い。

なに? 自分の脳の電気信号操ってんの?

 

『……知りたいか、ん?』

 

いえ、結構。

そんなポケモン達の裏事情知りたくないです。

実は電気ポケモン全員が全員こいつみたいに頭が良いとか聴かされたら死ねる。

人類はピカチュウに侵略されるのだっ。

 

……コホン。

 

とりあえず、まぁ受かったとだけ言っておこう。

 

よかったよ、英語とか無くて。

英語は死ねる。

全国共通語サイコー!

 

『……』

 

えー……先程からピカチュウからの無言の圧力が恐いので、ひとまず。

 

一応決まってるので某大佐の真似事はしない。

 

入学科は携帯獣研究科。

あそこなら無駄知識使えると思うし。

お爺ちゃんいるし。

 

『いや、人類の未だ解明されて無い知識を知ってるご主人はおかしい』

 

まぁ、細かい事は気にしない。

あ、ちなみにピカチュウと俺の内緒だから。

一応研究したって言う体裁は整えてお爺ちゃんに報告するつもり。

 

これからどうなることやら。

そろそろ新しいポケモン手に入れたいとか思う自分でした。

 

『……ぷい』

 

うわ、ツンになった。

 

-------------------------

 

一応、中学生としての春休みも終わり。

新しき春の始まり。

一気に飛ばした高校生活なんてものは無かった。

 

あぁ、無常。

 

『仕方ないだろう? ご主人が飛び級受けたんだから』

「……まぁ、おっしゃる通りで」

 

ボールのピカチュウと一緒にいるお父さんに聞こえないよう話していた。

それというのも、流石に大学の中をうろちょろとする訳にも行かないので、何故か大きな鞄を持って、オーキド博士が来るのをこうして家の前で待っていると言うわけだ。

 

 

身長高かったらこんな事にもならなかったんだろうけど。

 

『……そんなに身長のある子供が居たらビックリするけどな』

 

それもそうだ。

救いは無かった。

とりあえず、何で着替えがいるのかは不明。

……あぁ、泊まりで研究する事もあるからか。

 

「……父さんびっくりしたよ。まさかそこまで息子が頭が良いとは思わなかったから」

「あ、うん……なんかゴメン、お父さん。全然子供らしくなくて」

「いや、いいんだ。それもまたお前だ。お前はお前らしく生きれば良い。……お母さんは泣いていたけどな」

「……うん」

 

やっぱりこの二人の下に生まれてこれてよかった。

生まれてから今年で七歳になるけどこんなに感動したのは初めて……いや、結構あった。

 

「『もうあの子は私の元を離れて行ってしまうのね。トウカぁぁあああ』って」

 

お父さんがお母さんの真似をしながら言う。

うわ、どうしよう。感動返して欲しい。

……ピカチュウ、どうしたら良いと思う?

 

『……それでもご主人の事愛してくれてるようだからいいじゃないか。私なんか親の顔なんて憶えてないのだし』

 

確かに。ピカチュウにこの話を持ち掛けるのは間違っていたみたいだ。

彼女、いや、彼女たちピカチュウの生態は、メスが卵を産んだ後、孵ってから一日で親は別れ、それからはその群れ全体で生まれたピチューを育てるのだという。

なんというか、生産的な生き物だなと初めて聴いた時には思ったけど、親から貰う愛なんかじゃなく、群れ単位で与えられる愛のようだ。だからウチのピカチュウは、群れから追い出された時、もう戻れないものだ、と判断したらしい。

凄まじい生き物だな、と改めて思った。

 

「……おーい」

「お、来た来た。父さーん!」

 

やってきた巨大な黒い影。

見上げて見ればそれは黒いリザードンで、その佇まいは歴戦の戦士。

そして凛々しく、知性のあるその瞳はとても澄んでいた。

 

「これがお爺ちゃんのリザードン……しかも色違い」

「ほう……判るのか。凄いのぉウチの孫は」

「……まったく、何処で勉強してくるのか」

 

うわ、しまった……と口を押さえても、時すでに遅し。

なんかとてつもなく、どうでも良い事で感心された。

 

「まぁ、その知識も研究に生かせるようになる。期待してまっておれ?」

「……は、はい……」

悪戯っ子のように笑う、世界的権威のお爺様。

どうにもこの状態のユキナリ爺ちゃんは苦手である。

 

そう、それはピカチュウの雷パンチならぬ、「でんじはパンチ」の次くらいに。

溜め時間無し、避けたとしても追いかけてくるソレ。

オマケに普通に解けるの待ってたらニ、三時間痺れがとれないんだもん。

絶対あれ俺へのO☆HA☆NA☆SI用だもん。

 

見かねたピカチュウが解いてくれるけど。

 

『……やる?』

やりませんっ!

 

ぐちぐちとトキワの能力使って念話モドキをやる俺とピカチュウを乗せて、黒いリザードンは空を飛んだ。

 

 

リザードンは中々話のわかる奴だった、とだけ言っておこう。

 

 




凄くギャグテイスト。
恋愛要素何処行った?


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四倍らしい

短いような長いような。


ばっさばっさとリザードンに乗って向かった先はタマムシ大学。

何気にヤマブキシティとは距離があるタマムシシティはヤマブキと並ぶ一大都市。

大学のためにデパート等の大型量販店があると行ってもおかしくない。

 

そして今現在。世間を騒がせているロケット団と名乗る悪の組織は。

己の認識では悪の組織(笑)としか思っていなかったが、その活動は幅広く。

ありとあらゆる分野で悪事を働く警察の手にも余る存在だ。

 

そしてその基地が此処タマムシにあるとは誰も思わないし、誰も信じない。

ましてや皆が夢をかけるあのカジノの下、そこに入り口があると言う事も。

 

後数年、いとこのグリーンや少し顔を見た事のあるレッド君に壊滅させられると言う事を知っている身としては、彼等二人で本当になんとか出来るのか少々不安だ。

 

『……おーい、ご主人ー。前見ろー』

「あ? いったッ!!」

「……ちょ、大丈夫かっ!」

「――!」

 

前後不覚。

壁にぶち当たり、顔面をぶつけた。

少々うずくまり、爺ちゃんに心配された。

 

「あ、オーキド博士!」

「『あ』、じゃないわい! お前さん、 早く救急箱持って来い!」

「は、はいぃー!」

 

ぐぬぬ……遺憾であるぞ。まっこと遺憾でござるぅッ!

 

『自業自得だろう、それ……』

 

うるさい。

ピカチュウも酷いじゃないか、注意してくれないだなんて。

 

『いや、私はしたからな? 4,5回くらい。考え事してたご主人が悪いんじゃないか』

 

まじか。

 

『マジだ』

 

「……博士ー持ってきましたー!」

「遅いぞ! 早く持ってこんか!」

「エェー…」

 

どうしよう。顔を上げたら凄いてんぱってるじっちゃんがいた。

 

「あの、爺ちゃん? 大丈夫、もう平気だから……」

「……本当か? 痛い所あったらおじいちゃんに言うんだぞ?」

「…………うん」

 

凄い心配性です、ウチのお爺。

過保護になって無いだろうか?

 

『大方、孫が自分と同じような道に進んでくれてるから嬉しいんだろう』

 

……なるほど。納得した。

さっすがピカチュウ。IQ300は伊達じゃないな。

 

『よせ、照れる……』

 

腰に付けたボールがプルプルと震える。

照れてる照れてる。

 

苦笑いしながら過保護なお爺ちゃんに顔を向ける。

 

「……ほっんとに大丈夫か? 病院行っても……」

 

まだ言ってますよ、このおじい。

白衣一人、ちみっ子一人。

それ以外誰もいない、タマムシ大学の廊下で世界的権威は慌てふためいていた。

 

-------------------------

 

しょうがなく、廊下で連続前方倒立回転跳びやって見せてさっさと大学の中を案内して貰う。

 

『おい、ご主人! あんなのテレビ以外で初めて見たぞ!』

 

え? 連続前方倒立回転跳び?

トレーナーたるもの、あれくらい出来ないと死ぬんだよ?

さっきだって爺ちゃんが「さすが儂の孫じゃのぅ」って言ってたし。

きっとあの老いぼれた身体も昔は地上十メートルから飛び降りてもぴんぴんしてたんだよ、きっと。

 

(※違います。普通のトレーナーはそんな事出来なくてもやっていけます)

 

『……凄いな、トレーナーの世界とは』

凄いよな。でもTOPP○も最後までチョコ「着いたぞ。此処が儂の研究室!」……。

 

目の前の爺ちゃんに着いて入る。

 

『……Don't mind! ご主人っ!』

 

やけに発音の良い英語が聞こえた。

それは慰めているようで……笑っていた。

 

……ちくしょー!

 

「ど、どうしたんじゃ? 急に床なんて叩きだして」

「……世の中の理不尽さに少し」

「…………そうか。それで本題なんじゃが……」

 

なんと言うスルースキル。

きっと今の間でめんどくさいとか思ったに違いない。

……凄く、泣きたいですッ…!

 

『明日があるよ、ご主人』

「……本来、子供が来るような所じゃない……というのが此処じゃ」

 

お前のせいなんですけどね? 判ってますか? そこんとこ。

 

『判ってる判ってる』

 

すばらしく判っていない。

素晴らしい生返事。

……晩飯抜きね。

 

『』

 

ピカチュウの時間が停止する。

さながら「時よ止まれ――ザ・ワールドッッ!」とされたかのよう。

 

「それでこれからオーキド研究所……マサラタウンの方に行って大学の研究を手伝って貰おうと思う」

「……はい?」

 

拝啓、父上、母上。

ピカチュウと話していたらトントン拍子で話が進んでいました。

どうやらとんでもない話になっていたようです。

 

『……ざまぁみろ、ご主人』

 

PS.ピカチュウは明日の朝飯も抜きです。

 

『…………』

 

-------------------------

 

再び時が止まったピカチュウはすぐさま復活。

勝手にボールから出てこようと静電気をバリバリと鳴らし、ボールを帯電させていた。

バチバチじゃない。バリバリダ―!

 

「……そのピカチュウ、強いようじゃな……」

「うん……ちょっと」

 

ちょっとどころか、種族値的に恐ろしいですお爺様。

だってでんきだま持たずに本来の攻撃・特攻二倍の火力。

まだ試した事無いけど二つ目が持てて倍化したら目も当てられない。

 

後で詳しい種族値はあの「ポケモンのすべて」と言う名の神さま印のアカシックレコードから調べるとして。

確かピカチュウ自体の攻撃・特攻は五十前後だったはず。

 

それが四倍だから……ね?

 

……あとは言わない。

 

『ご主人、今度でんきだま取りにいこう?』

 

頭に響く声でわかる。

あ、あざといぞピカチュウッ…!

きっと今、ボールの中で首をかしげながら上目遣いをしているに違いない。

さぞかし女子供を骨抜きにする愛らしさなのだろう……。

 

だがな、分かっているんだ……ピカチュウ。

 

でんきだまをやると真っ先に俺が痛い目を見るとなぁッ!

 

『……ちっ』

 

こら、舌打ちすんな!

 

「……大丈夫か? プルプルと震えているようじゃけど…」

「だ、大丈夫。ちょっと静電気で痺れただけだから」

 

くっそぅ……。

今、猛烈に叫びたい!

 

「……む、そうか。……そろそろお主のピカチュウ、出してやればいいんじゃなかろうか? どうやらずっと中にいてストレス溜まっているようじゃし」

『出せ。ちょっとご主人とO☆HA☆NA☆SIしたい』

「いやだっ! 絶対ヤダ!」

「……いかん。自分のパートナーにストレスを溜め込ませるのはいかんぞ? トレーナーとして最低限そういう事はわかってやらねば」

『だそうだぞ、ご主人? ……いいから私をだせぇー!』

 

つい叫んだらお爺ちゃんから外堀埋められた。

 

出したら死ぬ。

出さなかったら爺に批難される。

 

……積んでる。

 

『年貢の……納め時だな。ご主人?』

 

ニヤニヤと笑うピカチュウ。

……お前絶対Sだよな。

 

さて、いつかは通るべき道。

避けて通れない。

 

 

だからせめて。

「……出すの、外でも良いかな?」

「いいぞ。そのピカチュウも広い所の方が良いだろうしの…」

 

そう言って博士は部屋から出る。

向かうは中庭と言う名の戦場。

絶望への片道切符を手に、俺はお爺ちゃんに着いて行った。

 

 

 




前回よりかは長い。
質は悪い。


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捕まるらしい

誤字修正。
設定の修正。
報告有り難うございます。


「なんじゃコレは…」

 

そんな爺ちゃんの声は至極当たり前だった。

 

 

まず、中庭に着いてすぐ。

俺はピカチュウのモンスターボールを投擲。

遥か遠くでモンスターボールが開かれるのが確認されると共に、文字通りの光の速さで電気を帯びながら突っ込んでくるピカチュウ一匹。

勿論、避けられるはずも無く、まともに喰らう。

でも唯じゃ終わらない。

俺は念力であらかじめ抵抗をつくり、威力を分散させ、ポケモンで言う60程度までに下げた。

本来の威力はあれ多分80ちょい。

まぁ分散させたとは言え、それでも威力はそれなりに高い。

 

そして現在、野に倒れた俺の上にピカチュウがVサインしながら立っているという、光景が生まれた。

当然の結果ではあるが。

 

「……そろそろ、どいてくれ」

『ふふっ……これで晩御飯と朝飯は死守した…!』

 

もう、それで良いです。

私が悪うございました。

 

言うと満足したようで背中からピカチュウは下りる。

 

『判ればいい。……その、なんだ。後で毛づくろい頼めるか?』

 

気まずそうに頼むピカチュウ。

はいはい……敗者は勝者に従いますよ。

ただ、その前にボールとってきて貰えますか、ピカチュウさん。

 

『うん、了解』

 

ピカチュウは素直に野を走り取りに行った。

 

さて、自分もすることをしようか。

 

「……アレは本当にピカチュウか」

 

この驚き固まっているお爺ちゃんに説明をば。

 

 

「なるほど……つまりトウカは、怪我をしたピカチュウを偶々捕まえた、と?」

「はい」

「ふむ……」

警察で調書をとられるかのように、爺ちゃんの研究室で俺は話していた。

ちなみにピカチュウは毛づくろいも終わり、今は膝の上で俺に撫でられている。

ふにゃりと頬を緩ませているのでやはり、気持ち良いらしい。

 

「偶に、怪我をしたピカチュウがポケモンセンターで保護される事があるんじゃ。そして通常の個体よりも電気量が高い。……関係があるようにも思うんじゃがな…」

「……そうですね」

「うむ。……まぁ、今は資料も足りんし研究するまでには至らんか」

 

真実を知っているけど、それは言えない。

まさかでんきだま食べたら強くなるなんて。

まさかそれが原因で群れ全体から苛められるなんて…!

 

『……不可抗力だけどな』

 

そーですね。

 

「……それで、今日はまだマサラのほうには行かないからの。まだ儂の予定が残っておるから……そうじゃな。お小遣いあげるから外に遊びに行っておいで。お金の使い方は……わかっておるじゃろう?」

「うん」

 

うなずいて貰ったのは3000円。

なんとも太っ腹なおじいちゃんである。

 

「……じゃあ遊びに行って来るよ!」

三千円をポケットに押し込め、部屋を飛び出す。

 

「うん、気を付けてな。あ、それから変な人に着いて行かんように……って聞いてないの、あれ」

 

やれやれ、とピカチュウの耳にはオーキド博士の呟きが聞こえた。

 

 

部屋を飛び出して向かうのは……そう、悪の組織の経営するお店。

 

「スロット回しに行くぞー!」

『……捕まるぞ、おい』

 

膝を着いて嘆く年齢六歳の大学生が居たとか居なかったとか。

 

-------------------------

 

己の身長、年齢、その他諸々への絶望から復活した俺は、小遣いの有効な活用法が見当たらず街を出てすぐの草むらに来ていてた。というかほとんど森だけど。

 

現在の手持ちの道具。

それはモンスターボール二つ、それから傷薬一つ。

あと、先程鞄から取り出した例の本。

 

調べた所、ピカチュウのステータスが二倍らしく、種族値自体は変わらないそうだ。

ピカチュウの種族値は攻撃55、特攻50。

ステータスがLv.18でんきだまの倍化かかって攻撃60に特攻56。

更に二倍で120と、112と言う化け物が出来上がる。

 

……いや、そんなポケモン聞いた事無いんですけど。

 

『……さっきから何言ってんだ、ご主人。いや、意味はなんとなく判るが』

「悪い、考え事。……さて、ここにいると良いんだが、と!」

 

第六感が反応してその場から避ける。

立っていた場所には自分の腕サイズの針。

そして聞こえる羽根の音。

 

「……あっぶな。コレ、スピアーか?」

『そうみたいだな。どれ、私が蹴散らそう』

「頼みますよー」

 

ボールをバックスピンで投げてピカチュウを出す。

ボールは手元に戻り、彼女はストレッチをして頬袋に電気を溜めた。

 

「やっぱりいつ見ても規格外。サンダーと同じだけの特攻とか」

『……むぅ、関心しないな。これから私の活躍だと言うのに』

「……はいはい」

 

電気を充電している様子からして、このままだと危険な事を感じたのか、茂みからスピアーが現れる。

 

じゃ、よろしくお願いします。

 

『フフフ……それじゃ、新技のォ…』

 

溜めていた電気を纏い、

 

『…電光石火ッ!』

 

ピカチュウはその場から一瞬にして消える。

消えたと同時に、スピアーは何が起こったかもわからぬまま、地に叩き落とされた。

そしてそのまま目を回して戦闘不能。

 

……いや、それ既にしんそくかと。

 

『む、そうか……だが感覚的にはあと三十発ほど出来そうなんだが』

 

いや、 レックウザですら五回しかしてこないよ!?

 

『ま、これが私の電光石火だ。憶えておくと良い』

 

もーやだ、この子。

 

……あ、スピアー逃げた。

 

『……おい。拙いぞ、ご主人』

「なにが?」

 

『しってるか、ご主人。スピアーからは』

 

ブゥゥゥウウウン……

 

『逃げられない』

 

あ、まずい。

めっちゃ来てる。

 

はっははは……

 

 

……困った事になった。

 

-------------------------

 

逃げていた。

それは赤と黄、そして黒線の入った化け物から。

両手には槍。

その先から滴り落ちるは猛毒。

 

走る。

時には根を越え、崖を越え。

 

走る。

風を裂き、音を割り。

 

その身は一つの砲弾と化していた。

 

 

…………ってこんな中二な語りしてる場合じゃないよぉ!

ピカチュウ、まだか!?

 

『うん……アレを圧縮して……いやいや、電気量を更に込めて…?』

 

まだみたいですねーッ!

何とかするのはいいけど、お願い早くして!

だって後ろから…

 

『おどれ! またんかクソガキィ!』

 

『ワシ等の身内ボコボコにしてくれおって! そのケツにブッ刺して落とし前付けさせてくれるわ!』

 

…こんな感じの思念がバンバンとんで来てるゥ!

お前等、何処のやーさんだよ! こえーよ!

 

『よし、これでいける! ……電磁砲ッ!』

 

肩に乗るピカチュウから放たれるのは一本の閃光。

後ろの槍兵はその身を焦がし、追跡を止めた。

 

それと同時に念力でブーストかけていた足を止める。

 

一難は去った。

 

……でもちょっとまて。ピカチュウ、それ電磁砲?

 

『……そうだが?』

 

「それ超電磁砲(レールガン)だよ! お前は何処のビリビリ娘かっ!」

 

『……(あなが)ち間違いじゃないと思うが。後四発はいける』

 

フンス。と自慢げに鼻を鳴らすピカチュウ。

ただ、この周りの焦げ臭いの何とかしてくれ。

火事になったらどうする。

 

『案ずるな。既に消化した……ほら、見ろ』

 

え……消火ってあんた。

……凍ってんじゃん。

 

『簡単な事。電子の振動を止めて熱が発生しないようにしたまでだ。-273℃……絶対零度と言った所だなアブソリュート・ゼロでも可』

 

エターナル・フォース・ブリザード(相手は死ぬ)

……じゃなくて。

お前のタイプってなんだっけ?

 

『電気タイプ』

 

お前今何したよ。

 

『電子の運動を止めることによってその周囲の原子も僅かな振動を止める。これによって熱伝導率は無くなり……』

 

OK把握。

つまり、お前は熱の発生を無理やり電子を止める事で止めた。そういうことか?

 

『概ねその通り。かなり疲れたがあと四回なら出来そうな気がする……テヘ☆』

 

……はぁ。

ねぇ、お前こおりタイプの領分奪ってどうすんのさ。

溶かせ。見つかったら大問題だぞ。

 

『……わかった』

 

ピカチュウは電子を動かし、森は平温の状態に戻された。

ちょっと残念そうなのがよく判らん。

 

それにきっとこいつ、実はやらないだけでほのお技も出来るんだろう。

あれだ、熱風とか電子レンジの要領で。

 

今日はやけについてない。

早く帰ろう……そう思っていたら。

 

二匹。

ガーディとロコンが気絶して、すぐ近くの茂みに倒れていた。

 

『……やったな、ご主人』

 

よし、ラッキー。

 




安定のヒロイン出番無し。

▶ナツメ が アップ を 始めました。


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マジもんらしい

気持ち短い。
質は……悪いと思う。


一瞬にして戦場のような状態になった森の中。

その中に一人と一匹、そして傷つき倒れている二匹がいた。

 

勿論それは俺とピカチュウ、そしてロコンとガーディ。

 

この二匹の内、どちらか一匹に会うため森の中に入ってきた身としては、望んでいた状況である。

 

とにかくもかくにも、傷ついたままで目をさましてくれない事には話しにならない。

傷ついている理由は不明。それでも、そんな彼等の傷ついた身体を癒していく。

そういえばピカチュウもこんな風に癒していたな、とちょっと追想。

 

最近になり、疲労を感じなくなったトキワの能力により、手を光らせ待つ事数分。

粗方目立った傷は無くなり、呼吸も整ってくる。

……後は二匹、このロコンとガーディの目を覚ますのを待つばかりとなった。

 

目を覚ますまでの間、俺はポケットからモンスターボールを二つ取り出し、空中お手玉をする。

これが中々超能力の訓練に良いと知ったのは結構最近。

 

同時に違う事をするので頭の運動には丁度いい。

 

『で、どうするんだ? 確かどっちかを捕まえようとか言ってた気がするが』

 

ピカチュウがなにやら手を動かして、電気発生させながら聞いてくる。

うーん、どうしようか。

最初はボールの消費一つで済ませようと思ってたんだけども。

なーんかこの二匹訳ありみたいだし。

 

『……どっちも捕まえれば良いと思うんだが』

 

何言ってんだよ。

ボール一個2000円するんだ。

ほのおタイプ二匹も要らないんだけど。

 

『それもそれでなんか嫌だぞご主人。……捕まえられる身にもなってみろ』

 

まぁそうだけど…。

でもやっぱり四千円消費するのなんかヤダ。

 

『……ケチくさ』

 

うっさいな。

こちとらまだ七歳にもなってないんだぞ。

小遣いも雀の涙だし。

大体こうやってモンスターボール三つもくれたお父さんが太っ腹なだけだって。

 

『なんだ、それ。……ほら、目、覚ましたぞ』

 

「……うん?」

 

宙でクルクル廻してたモンスターボールを両手に戻して、二匹のほうを見る。

ぽけーっとした表情でこちらを見ていた。

なんとも愛嬌のある顔だ。

 

「おーい」

 

『は!』

『……貴方ですか?』

 

ロコンの方が脈絡も無く聞いてくる。

怪我の事だろうか。

 

「うん、怪我治したのは俺」

 

『『……』』

 

どうしよう。目、見開いて固まったんだけど。

 

「おーい」

 

『……なんで判るんだ?』

『た、偶々だって事も…』

 

「心外な。聞こえてるっての」

 

『『嘘……』』

 

声をそろえて目を丸くする二匹。

こいつら、驚くの大好きか。

 

『ま、初めはそうなるよな。私もそうだった』

『そうなんですか?』

『……ビックリした』

 

なんかピカチュウがフォローしてくれてる。

あぁ、そういえば初めの頃当たり前のように、俺以外に話しかけてなんかショック受けてたな。

……なるほど、一つ謎が解けた気分。

 

まぁ、そんな事は置いといて。

 

「えっと……なんで倒れてたわけ?」

『……』

『その、私達……駆け落ちしまして』

 

とんでもない言葉を聞いた気がする。

 

「なぁ、ピカチュウ。俺耳おかしくなったかな…」

『……安心しろ、私も聞こえた』

 

なんと幻聴ではなかったらしい。

 

『……』

『……』

 

そして目の前には照れる二匹。

あぁ、こいつは……

 

「『な、なんだってー!』」

 

……マジもんらしい。

 

-------------------------

 

「……さて、どうする? 二匹とも捕まえる事は出来るけど……」

 

目の前の二匹に問いかける。

着いてくるか、着いてこないか。

 

どの道ついてこなかったとしても、彼等に居場所はもうない。

彼等の事情とはこんなものだった。

 

 

――ロコンと、ガーディ。

彼等はキュウコン、ウインディそれぞれの集落のトップの娘と息子で、二匹は幼馴染らしい。

いずれ親の後を継いで、トップに立つべき二匹なんだとか。

キュウコンの所は女尊男卑の社会構成で、ウインディの所は逆に男尊女卑。

 

しばしばその社会形態の違いから、群れ同士で小競り合いが起こっており、そんな中この二匹は偶々群れの中から抜け出した時出会い、お互いに興味を持ったらしい。

 

……そしてそんな関係が続いて数年。

 

ついに二匹がトップの座を継ぐ事が決定した。

それはこのままではお互いにいがみ合うような関係になる事を意味しており、今までのようにコッソリあって逢引するような関係には、戻れなくなるということだった。

 

二匹はその前に駆け落ちし、何処か遠くで静かに暮らそうとそれぞれが群れから離れた。

 

……で、そんな上手い話上手く行くはずも無く、駆け落ちする事はそれぞれの群れにばれて、追われる。

そして攻撃を受けながらも、ギリギリで逃げ切った二匹はあそこで倒れていた。

 

 

――と言う事なんだけど。

 

 

お前等、すっごいドラマチックな事になっていないか、と。

そう、まるでロミオとジュリエットのような。

 

何処にこんな現実みたいなドラマがあるんだよッ!

 

……違った。ドラマのような現実だ。

…………うん、まぁそんな些細な事はこの際どうでもいいさ。

 

それよりも、今、この二匹には行く当てもない。

 

再び俺は彼等に問いかける。

 

安全な環境を手に自由を捨てるか。

過酷な生活の中、自由を得るか。

 

『……それじゃ…』

 

帰ってきた返事は――。

 

 




日刊一位……ぇ。

十二時間後、ランキングから消失……うん。

まぁ、一抹の夢だったという事もですが、それもこれも偏に呼んでくださった人達のおかげです。
読んでくださって有難うございます。

感想、これから随時返信していきます。
それでは。

誤字修正
ウェンディ→ウィンディ

よくあr……ない?

誤字修正
ウェンディ✕
ウィンディ✕
ウインディ○

よくあ(ry


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姐さんらしい

『……すんません…』

『いやぁ…面目ない。事情を聞けばあいつが悪いとか。こんなエェ人等やいうのに…』

『あいつにゃ、きっちり落とし前付けさせますんで』

 

「いや、そんなことしなくても……あははは」

 

目の前には黄色と赤。

自然界の危険な色が列を成している。

何故かというと……まぁ、ウチのビリビリ娘がお世話をかけたへの方々への治療。

 

例の(超)電磁砲(レールガン)で翅を焦がしてしまった事へのお詫びとして治したら、皆並んで頭下げてくれた。

 

どうやら、あの初めに攻撃してきたスピアーは成り立てで、スピアーの群れでの決まり事関係無しに、周囲のポケモンやトレーナーを襲っていたらしい。

ちなみに決まり事と言うのは、「やられたらやり返す。自分達からは攻撃しない」だそうだ。

 

……で、いつかは判るだろうと放置していたら今回のことになったと。

 

だからあんた達は何処の893かと。

 

いや実際、本物はもっと違うのかもしれないのだろうけど。

 

……うん、つかれた。

 

「……じゃ、帰りますので。それでは…」

 

『あ、待ってくだせぇ。お兄さんくらいなら街まで送れます! 是非とも送らせて貰いたい!』

 

帰ろうとしたら呼び止められた。

 

優しい。

 

こんなスピアー達は見た事がない。

 

きっと俺を追いかけてまわしていた彼等は別人なのだろう。

追いかけて来た頬に傷のあるスピアーの内一体が、こうして謝ってくれているように思えるけど、気のせいだろう。

 

そんな優しい彼等が街まで送ってくれると言ってくれる。

 

正直、甘美な響きだ。

だが、甘えて連れて行ってもらっても良いのだろうか?

 

『……ご主人。足、限界なのだろう? 素直になれ』

 

…………うん。

 

 

こうして俺と、腰のボール二つに入っている三体。ピカチュウ、それからロコンとガーディはスピアーの背中に俺と乗った。

 

 

彼等の背中に乗せてもらい、待つ事数分。

街が見えてきたので近くの人目のつかない所で降ろして貰う。

 

街中で降ろしてくれようとしていたらしく、非常に危なかった。

 

入ろうものなら街中が第一種警戒態勢になる。

ちょっとした事件だ。

そんな事になったら目も当てられない。

 

「ありがとう、スピアー……さんたち」

 

呼び捨てで良いと言われたけど、そんな事出来んわ。

 

『それでは、ピカチュウの姐さん。トウカの旦那。色々とお世話になりました! ……おい、お前等! 帰るぞ!』

 

そういってスピアーの群れは飛び去って行く。

いやいや、ちょっと待て!

 

「旦那って…!」

俺の声は翅が風を切る音で掻き消える。

瞬く間にスピアーの御一行は空へと消えた。

 

かなり楽になった足で街へと向かう。

 

『ふふ……ピカチュウの姐さん。……悪くないな』

 

なにやら嬉しそうな声が。

マジか。ピカチュウ、それ気に入ったの。

 

『っ……べ、別に?』

 

声裏返ってるし。

全然説得力無いし。

なんかガーディとロコンいちゃついてるし。

 

……ってこら。

 

『す、好きよ……ガーディ』

『僕も、ロコン……』

 

あー…ボール越しで愛ささやきあってる。

あのー。

 

『……聞いてないぞ、コイツ等』

 

苛々としたピカチュウの声。

なにが彼女をそこまで苛立たせるのか。

それは解らない。

 

『…………なぁ、ご主人。やってもいいか?』

 

恐ろしくドスのかかった声で話しかけてくる。

うん、どうぞ。

それで貴女の気が治まるなら。

 

『…………電磁波』

『……(ピクピク)』

『……(ピク)』

 

あぁ、やっぱり恐いよ、ピカチュウ。

 

 

既に太陽は傾き、街は茜色に染まり、オニスズメもお家に帰る。

それから大学に戻った俺は、オーキド博士と一緒にマサラタウンへと飛んだ。

 

-------------------------

 

ロコンとガーディ。

この二名は前者……俺に捕まえられるという事を選んだ。

 

勿論、初めは二匹とも捕まえる気は無かったので俺は二匹に条件を出した。

まぁ、四千円も彼等に使うわけだ。少々許していただいても良いのではなかろうか。

 

で、その二人に科した条件。

 

それは1.勝手に愛をはぐくまない。2.いちゃいちゃしない。……の二点。

 

1は……まぁ、そういうことで。

どういう事と気になる時は、おしべと、めしべとの関係と言ったらわかるだろう。

…………言わせんな恥ずかしい。

 

2については、まぁ俺の勝手なお願いでもあり、ピカチュウからの提案だったりする。

ピカチュウ曰く、「いちゃいちゃしていたら1をしたくなるだろう?」という至極まっとうな理由。

そして前世の記憶があるということを、そこはかとなく察しているピカチュウからの俺へ対する配慮だった。

 

大人の体から子供の身体になり、色々と鬱憤が……まぁ溜まってたり。

……優しいのぉ、ピカチュウや。

飯はまだかいのぉ。

 

……

 

で、俺の我侭というのが……まぁ、こんな子供が純粋に異性と付き合うなんてこともまだなく。

 

同い年と付き合う……俺はロリコン。

また、年上の女性と付き合うなんて事になったら……色々と危ないよー。

いや、流石に二歳上とかくらいなら、ありえん事も無いけど。

 

とにかく、色々と精神面でも身体面でも影響がよろしくないので、そういう運びとなった。

 

二匹には悪いとは思う。

でも、俺が堪えられないので勘弁してくれ。

 

-------------------------

 

マサラタウンへ着いた俺はさっそく研究所の裏手にある、じいちゃんの自宅へ行った。

着いてすぐ、鳴り響くクラッカーの音。

 

「「いらっしゃーい!」」

 

元気の良い、似たような二人の声。

そして目の前の食卓の上には数々の料理。

どうやら、じいちゃんは孫に俺が来る事を伝えてくれたらしい。

 

……優しいなぁ。

 

「いらっしゃい、トウカ君。上のグリーンの部屋に荷物置いてらっしゃい」

「へへ、今日から相部屋になるんだってよ! よろしくな!」

「うん、よろしく!」

 

声をかけてくれる二人に出来るだけ歳相応に挨拶する。

うん、やっぱりこの人達は好きだ。

 

「それじゃあ、早く荷物置いて。ご飯にしよう?」

「よし、俺が大きいの持ってやるぜ!」

 

うん、無理。

なんせ、俺が念力使わないといけないくらいだから。

現在俺は軽々と持っているので、持てると判断したのだろう。

 

「いいよ、かなり重いし」

「……ちぇー…じゃ、こっちこい」

 

グリーンに案内されるまま、俺は彼の部屋へと入って荷物を置く。

……彼のがさつな性格にしては、整った部屋だった。

 

そして歓迎会。

途中から爺ちゃんも参加して、中々盛り上がった。グリーンやナナミさんに爺ちゃんから、俺が現在大学生だと言う事が伝えられ驚かれる。

この爺さん今日から住む事になる、と二人に言ったのだが、理由は話して居なかったようで。

 

少々慌しくも、一日が終わった。

 

 




二歳年上ならおk(意味深
一体誰の事やら。

やっぱり出来が悪い。
どうしたものか。


誤字修正
冒頭部分、スピアーの(くだり)
どうやら意味不な文章になっていたようで。


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閑話・エスパー少女の日常

『また会おう』という願掛けと一緒にした約束。

 

彼と会ったのは、いつも私の泣いていた公園の指定席だった。

優しくて、頭の中は何処か大人っぽい。

でも年下で、笑う顔は子供っぽい。

 

それが彼だった。

何か隠し事をしていたようだったけど、それはいい。

 

ただ、嬉しかった。

ただ、楽しかった。

 

そんな彼とは経った一日会っただけ。

 

ただそれだけ……それでも彼は約束を憶えているのだろうか。

 

今は胸が痛かった。

 

-------------------------

 

朝日がまぶしい。

 

「……またあの夢」

 

とても懐かしくて、暖かい夢。

そして起きたら私は泣いている。

あと寝癖も酷い。

 

「もう、一年になるんだ……」

 

誰に聞かせるわけでもなく、私は言ってみる。

今、流れている涙はあの時の涙じゃない。

 

……でも、前の涙より少し寂しい。

 

「今日も元気だして行こー」

 

いつもの掛け声。

泊まりにきたエリカちゃんからは「変」と一言で切り捨てられた。

……事情を話したら、顔真っ赤にしてたけど。

 

――……あ、だめだ。私も恥ずかしくなってきた。

 

「……うー!」

枕に顔をうずめる。

きっと顔真っ赤だ。

 

……早く戻れ早く戻れ。

 

「――ナツメー! 起きなさーい!」

お母さんの声がする。

あー! でもこのままじゃ行けない!

 

「ちょっとまってーっ!」

 

 

――トウカ君……元気にしているかな?

 

 

-------------------------

 

 

私はタマムシシティにあるトレーナーズスクールの四年生。

最後の年になるこの学年になったばかり。

 

あの彼は此処へ入っていたら、今二年生くらいだろうか。

でも、去年入学式の日に見に行ってみたけど居なかった。

……頭が良かったみたいだから通わなくてもいいんだろう。

 

きっと入っていたら友達も多いんだろうな、と思う。

 

その点私は、エスパー少女(化け物)っていうレッテルが貼られていて、友達が一人しか居ない。

 

優しいエリカちゃん。

 

でもお家がお屋敷みたいで、黒い服着た恐い人とか沢山雇ってる。

初め、私には近寄らないように、と親に言われていたみたいだけど、それを「興味あります!」といって親の反対を突っぱねて私と接してくれている。

どうやら、ご両親も彼女のマイペースと一途な所には逆らえないようで。

渋々ながら、私と友達になる事を許してくれた。

 

「友達になるのも資格がいる」という事を教えてくれた子でもある。

 

トウカ君は友達というか、なんというか。

それ以上に大きい存在で、なにか違う。

お兄ちゃんというのでもないし、弟というのでもない。

 

エリカちゃんへの好きとは違う。

もっとなにか、こう別の……好き。

 

……うん、だめだ。顔真っ赤になってる。

 

「ナツメ? 顔真っ赤ですよ?」

「な、なんでもない! なんでもない!」

 

ホントにー? と顔を傾けるエリカちゃん。

解っててやってるから性質が悪い。

……裏表は無いんだけど。

 

「はぁ……もう、ナツメは今日も相も変わらず、トウカ君トウカ君……って」

「……ひどい」

 

でも自分でも言ってる自覚があるから、反論出来ない。……うん。

 

「はぁ……もう、そんなに落ち込まないで下さい。……さ、時間もそんなに無い事ですし、はやく食べましょう?」

 

……あ、思い出した。

今、昼休憩だった。

 

 

「……この乙女」

「ん? 何か言った?」

 

-------------------------

 

スクールが終わって……今日はまっすぐ帰らず、大学の方からの道を通って帰る。

なんだか今日は良い事が有りそうな気がしたから。

 

「……さ、乗った乗った!」

 

大きい声が聞こえて足を止める。

 

丁度壁の向こう。大学の中で何かやってるらしい。

よくある事だ。

でのこの声は……確か、テレビにも出てた……オーキド博士?

 

なんだか胸がざわつく。

 

何かある。

 

そんな私の第六感が言っている。

バサリ、と何かが羽ばたく音がした。

 

ポケモンだろうか。

そうとしたら、かなり大きい。

 

羽ばたいていたなら空を飛んでいるはず。

そしてソレは空を見上げるといた。

 

黒い竜とでもいうのだろうか。

それが旋回している。

その上に二人。

一人は白髪のお爺さん、多分オーキド博士なのだろう。

 

そしてもう一人は少年が乗っていた。

 

いや、少年とは違う。

もっと小さい……私よりも幼い男の子。

 

――あんまり変わってないんだね。

 

誰かは此処からでは分からない。

でもそんな感情が私の中で巡っていた。

なんだか暖かい……あの夢のように。

なんだか懐かしい……あの時の記憶のように。

 

――もう、ちゃんと超能力使えるようになったよ。

 

何でこんな事を感じているのか、理解出来ない。

でも何故か伝えないといけない、そんな気がしている。

 

――だから…

 

「…会えるかな、トウカ君」

 

 

呟いてみたのは良いものの、少し恥ずかしい。

だって此処は大学だし。……トウカ君が居るわけないのに。

 

……早く帰ろう。

 

私は、いつの間にかちょっと流れ出てた涙を拭いて、通りのバス停へと向かって走った。

 

 

 

 

 

 

なんか、誰か見知った人が居たような……。

 

『どうした、ご主人?』

 

……ううん、なんでもない。

うん、気のせいか。

 




やっちまった。
何でこんなの書いたんだろう。……出来が凄く悪い。
反省はしていない。でも後悔はしている。

……ナツメが出したかったんだ!


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ギアナらしい

マサラタウンで生活し始めて早数日。

 

無口ながらもグリーンと遊ぶ姿が見られるレッド君が居た。

俺はオーキド博士の研究所の窓からその様子を見ている。

 

ぶっちゃけ現実逃避。

 

今やっているのは、永年の課題『ギャラドス』についてなのだが……どう立証したものか。

まさか、コイキングからギャラドスになるなんて事を一般大衆が知るわけも無く。

故にトレーナーでも、極稀にレベルの高いコイキングを釣り上げた「釣り人」しか持っていない。

 

いや、あのロケット団のボスだとか、一部のドラゴン使いなどは知っているとは思うが。

 

うーん。

 

「捕まえてきてもらうかな、ギャラドス」

 

……ピカチュウに。

 

なんせ海だとかで、『すごいつりざお』使ったら入れ食いだもんな、カントー地方って。

レベル15だとか、そんなありえない感じのが。

 

ちなみに研究員が、何言ってんだこの人、みたいな目をしてる。つらい。

 

「……はぁ」

 

現在、ピカチュウはガーディと一緒に森の中で修行している。

ガーディがロコンを守るために、ピカチュウの姐御に頼み込んだらしい。

……で、ロコンはそれをコッソリと見に行っている。

 

あいつら大丈夫かな。

ロケット団とかに連れ浚われたりして無いだろうか。

……いやいや、ピカチュウいるから大丈夫か。

 

そういえばナツメちゃん、元気にしてるだろうか。

……友達、出来てたらいいんだけどな。

…………大丈夫かな。

 

 

あー、駄目だ、身が入らない。

 

しょうがない、休憩しよう。

 

ちょっと高い椅子から跳び降りて、休憩室に向かった。

 

 

途中で研究所のお姉さんに頭撫でられた。

よく分からんが、なんか癒されるらしい。

……勘弁してもらいたい。

 

-------------------------

 

――「ギャラドス」のまとめ。

 

鯉の滝登り。

 

鯉は滝を昇りきると竜になることから、立身出世することの例え。

 

 ――以上。

 

 

「……なんだ、これは?」

怪訝な表情でお爺ちゃんは俺のレポートを見た。

 

そりゃそうなる。

 

こんな所に諺と意味が書いてあるのだから、仕方が無い。

 

「そのままの意味です」

 

でもコレは事実。

鯉(コイキング)は竜(ギャラドス)になる。

こんなことは公に出来ない……故にこの暗喩。

 

「証明するものがない。あったとしても世間は信じん。……よってこの課題については保留じゃの」

「はい」

 

我がグランドファーザーは笑顔で言う。

 

流石、初代カントー地方チャンピオン。

真実は既に知っていたようだ。

 

弱小から兇悪になるなんて誰が信じようか。

否、誰も信じない。

そのためにこのギャラドスについての研究は発表されなかったし、研究されたとしても闇に葬り去られた。

それが「永年の課題」の真実。

 

それを解いてやろうと思ったけど。

……「解明」と言う結果を、社会一般を掲示することは出来ないものの、何故「永年の課題」とされているか、というのは分かった。

触れてはいけない禁忌。一つのタブーであると。

 

うむ、すっきり。

 

「じゃ、そうじゃの。お前さんの研究も一段落したようじゃし……ちょっと待っておれ」

 

がさごぞと、何処にやったかの、とか言いつつお爺ちゃんは引き出しを捜す。

 

何かくれるらしい。

 

「……これじゃ。どうやらピカチュウに持たせると強くなるらしいのじゃが…」

 

取り出したのは静電気を帯びている黄色い玉。

 

「一応、学会で決まった名前が『でんきだま』というんじゃが……ま、百聞は一見に如かず。丁度お前さんもピカチュウを持っておる事じゃし……ちと早い誕生日プレゼントじゃと思ってくれ」

 

今はピカチュウは居ない。

例の如くガーディの特訓だ。

バレたら……四倍だ。

赤い3倍どころの話じゃない。

 

「ありがとう、お爺ちゃん!」

 

……まぁ、貰うけど。

必要な時になったら渡そう。

 

「うむ。……それで、どうじゃ? 次は何を研究する?」

 

「えっと……どうしよう」

 

うーん、カントーのポケモンで調べる事って……もう無いと思うんだけど。

 

いや、あるけどさ。

イーブイの進化系の調査だとか。

化石からポケモンを復元させる技術とか。

 

あとは……ミュウとか? ……いやいや。

ない、それはない。

 

「ミュウを調べるだなんて……無い無い」

 

「……お主、今なんて…」

 

「ミュウ調べる……って…」

 

うん?

 

……あれ?

 

お爺ちゃんが凄い険しい顔してる。

 

「……もしかして…」

「……グレン島のポケモン屋敷にしか資料は残ってないはず……お前さん、ミュウの存在を何処で知ったんじゃ!?」

 

そーか。

そーなるよね。

 

 

……やっちまったぁ…。

 

-------------------------

 

言い訳に困った俺は仕方が無く、それを見せた。

 

「ふむ……俄かには信じられんが、確かに書いてある。お前さんの字じゃないしの」

「……はい。ちなみにこの本返して……くれる?」

「うむ……そうしよう。それ以外にはこの本には書いてなさそうじゃし。……いいか? 絶対誰にも悟られんように」

「はい……」

 

実際バレたら拙い内容とか沢山詰まっているけど。

そこに全国図鑑越える内容書いてあったりするんですけどっ!

 

『こんの、馬鹿ご主人ッ!』

『……無いですよ、ほんと』

『アホ』

 

……はい、面目ないです。

 

 

しばらく、事情聴取をされていた俺の元にはピカチュウが帰ってきており、勿論他二匹もボールの中に納まっている。

ピカチュウは俺に対して説教。

ロコンは割りと普通に呆れてる。

ガーディはただただ罵倒……。

 

『酷いわ、主。うん、マジ酷い』

 

はい、すんませんガーディさん。

つい気が抜けてたんです。

 

『……はぁ。これがオーキド博士じゃなかったら今頃どうなってたと思ってるんです?』

 

……はい。

 

『まったく。私が居ないとすぐコレか。ウチのご主人は』

 

ええ、すみません。

ピカチュウの姐さんが居ないと俺こんなんなんですぅ…。

 

『……ったく』

 

悪態をつきながらも、仕方ない、と溜め息をピカチュウは吐いた。

 

 

「……それでトウカよ。お主、ミュウの事調べないと言っておったが……どうする? 来月、ギアナ奥地へ二度目の調査隊が出るのじゃが…」

「…………どういう意味ですか?」

「やけに、しおらしくなったの…。ま、お主も秘密を知る人間。それにミュウに興味があるようじゃし……どうじゃ? 行ってみんか?」

「……」

 

あー……この爺さんは今なんと?

 

『ギアナか……遠いな』

 

「――ほ、ホントにぃッ!?」

「ぅ……耳が痛くなったぞ…」

 

あーいかんいかん。

驚きで叫んでしまった。

 

ピカチュウも聞いたようだ。

幻聴じゃないのね。

 

あ、あははは……。

 

 

……やだ、国外行きたくない。

 

 



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飲んだらしい

カチコチカチ、と時計の秒針が音を立てている。

時計を見やると午前零時。

子供は寝ないと時間だ。

 

「……後もう少し」

 

自分に言い聞かせて、俺は手元の研究資料を読み漁る。

現段階で解っているポケモンの進化方法。

捕まえた親に対するなつき度合いによって進化する、なつき進化。

ある一定のエネルギーの含まれた石を与える事によって進化する、石進化。

トレーナー。……親が変わる事によりポケモン自信が感じる心的影響で進化する、交換進化と呼ばれるもの。ただ、対象となるポケモンは世間一般には広まっていない。

 

そして最後に、ポケモンの個体事に決まった進化をするレベル進化。

 

ただレベル進化となつき進化の違いは現在あやふやで要研究、と。

 

流石に時間帯で進化出来るポケモンも居るというのは進化条件が分かってないみたいだ。

後は特殊な進化をするバルキー三進化とか。

 

 

ポケモンの卵についてはまだ研究すらされていない。

確か、将来的にお爺ちゃんの今助手やってるウツギ研究員がやるんだっけ?

……というか、あれはこの世界において絶対に調べてはいけないような気がする。

神さま印のあの本でも調べれなかったし。……あ、だからアカシックレコード(笑)なんだ。

 

あと分かっている事は……

 

「ふわぁー……やばい、眠い」

 

うぅ……子供の体はやはり不便。

少し夜更かしするとこれだ。

眠い。とにかく眠い。

調べている内容が興味深いために、今はまだ睡魔に負けてはいない。

 

が、そろそろ寝ないとヤバイかもしんない。

 

寝る子は育つ。

寝ない子止まる。

 

成長期なんだ。

背が伸びなかったらショタっ子研究員というあだ名が付きかねん。

……いや、今もう付いてるけど。

――……研究所のお姉さんには会うたびに頭撫でられるけど!

 

……ぐすん。

 

うん、流石にもう寝よう。

背が伸びなかったら……

 

「……ぐぅ」

 

 

気が付いたら朝だった。何を言ってるのか(ry と言うような事が数日。

かつての失敗……俺がこの世界での研究進度を確認して居なかったがために起きた不幸な事故を反省し、俺はオーキド研究所に置いてある研究資料を読んだ。

いや、ミュウ云々については仕方が無い。……あれは一部を除いて極秘にされてたみたいだし。

 

で、数日間掛けて要所要所をまとめたノートが三冊出来た。

我ながらよくやったと思う。

とりあえずはコレを目安にやっていけば良い。

安心は出来ないけど…。

 

で、此処最近で起こったこと。

 

まず俺のギアナ行きは当分先の話になった。

具体的には一人でもやっていけるという証……つまり、ポケモン協会からトレーナーカードが発行され、旅をし、ジムリーダー八人に勝つ事が最低条件となった。

 

……ピカチュウ一匹で四天王どころか、チャンピオンですら無双出来そうな気がするのはきっと気のせい。

 

それから、ピカチュウ達の所へ黒い服着た怪しい奴らが出たらしい。

攫われそうになったので、例の方法でコールドスリープ状態にして、頭だけ出して埋めてきたとか。

その時のピカチュウは『殺人はするつもりは無い』……と、シタリ顔。

彼女の倫理観では、結果的に死ぬのは殺人じゃないらしい。

 

名も知らぬロケット団の方々、解凍されるまでに死んでない事を祈ります。

 

あ、それから……

 

『さ、ご主人。その手に持っているでんきだまを私に寄越すんだ』

「嫌だっ!」

 

俺の持つでんきだまがバレた。

 

-------------------------

 

かくも現実は非情である。

 

俺は今、それを痛感していた。

 

いつの間にやら俺は地に伏せられ、その上ででんきだまを掲げ、Vサインを何処かへと送るピカチュウの姿。

 

……既視感があるけど、気にしない。

きっとそれは夢なのだから。

 

はぁ、まったくチクショウめ。

またピカチュウが強くなる……ってトレーナからしてみればいいのか?

 

……いや、駄目だ。

俺へのダメージが増えるだけだった…。

 

唯でさえ強いと言うのに、これ以上強くなったら……って、そうだった。

でんきだま持ったら……

 

――ゴクリ。

 

……ん?

 

『ふふふ……あっははははは』

 

ちょっと待って欲しい。

俺の上で高笑いしているピカチュウも今は置いておこう。

 

 

……今、何か飲んだ音がしなかったか?

 

 

『ご主人! 凄いぞ! 力溢れる!』

 

え、ちょっと待って。

今静電気も凄い事になってるんですが。

 

ピカチュウ、もしかしなくとも……

 

『うん? あぁ、飲んだッ!』

 

え、えらく張り切ってらっしゃいますけど……アンタそれはやっちゃアカンでしょうがッ!

アンタ、馬鹿なの? 死ぬの?

それ、本来持ち物だったって事分かってる?

それ飲んだせいでお前群れ追い出されたんだよ?

 

なに素の能力値で本来の四倍とかふざけた事抜かしちゃってんの!?

 

 

 

 

『……ご主人は嫌だったのか? 私が強くなるのが……』

 

……なんでそんな落ち込むのさ。

 

『私は元より群れから追い出された身。それを拾ってくれたのがご主人だ』

 

……うん。

 

『――そのお前のために強くなろうとしたのは…………いけない事なのか?』

 

いや、うん。

それは――ありがとう…。

 

 

……でもそれ、俺が一番被害にあうだろう!?

 

『ちっ……バレたか』

 

やっぱりかお前!

ちょっぴり感動した俺が恨めしいよ!

 

……というかそろそろどいてもらっても構いませんか?

あそこでレッド君が無表情で俺の事見てますんで。

あぁ、純粋無垢な彼の視線が心に刺さる。

 

『ご主人が早く渡さないのが悪いんじゃないか』

 

それでもですー。

まったく……だからお前に渡すの嫌だったんだよ、もう。

俺も研究所戻るから、どいてくれ。

 

『ん、了解。私はあいつ等を最終調整しておく』

 

……最終調整って何? って思ったけどあえて聞かない。

きっと碌でもないから。

 

 

やっぱりポケモンってコワイ!

 

 




レッド君のピカチュウ所持フラグが立ちました。

シロガネ山のレッド君がピカチュウ出してくるのは大体ウチのピカチュウのせい。


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甦ったらしい

ニビシティ、ニビ科学博物館。

カブトプス、プテラ等の全身化石が置いてある此処に俺は来ていた。

……何故か研究所のよく頭を撫でてくるお姉さんに連れられて。

周りから見れば、お母さんと一緒に社会見学に来た子供にも見えなくも無い。

もしやそれを狙ってるんだろうか?

 

さて、今回の目的とはお月見山から発掘され、寄贈されるポケモンの化石をいくつか譲り受けるためだ。

 

俺の知っている化石ポケモンはカブト、オムナイト、プテラ、アノプス、リリーラ etc...といったように知っているのだが、どうにも化石から甦るポケモンが少ない理由がわからない。

ある可能性としては、さっき挙げたポケモンしか再生出来なかった、とかが理由として考えられる。

他には、どれも当時の生態系でかなり上位に位置するポケモンで、彼等しか絶滅する寸前には残ってなかった……とかが考えられるが、それは少し信憑性が足りない。

……是非ともいつか彼等と意思の疎通を図ってみたい、と思うのは俺だけじゃないはず。

 

というか、化石からポケモンを甦らせる技術って……そのうち人体蘇生とか出来るんじゃないだろうか。

…………駄目だな。コレは考えちゃいけないヤツだ。

木の実に与える肥料が何で出来てるだとか。

ポケモンが卵を一体何処から持ってくるのだろうとか。

そういったこの世界のタブーに分類されるレベル。

 

『知りたいか?』

『知りたいんですか、マスター』

 

いえ、ホントに結構。

特に卵云々の話なんかお前等女衆には聞きたくない。

 

俺が個体値厳選してたのって相当ヤバイ事だったって思い知らされたから。

データ上とは言えかつての相棒達にはひどい事してしまった。

……今生の“孵す者”とかいう能力は、厳選なんて七面倒くさい事はせずとも6Vになるらしい。

ちなみにステータスや個体値の測定等もあの例の本で出来る。これ、豆知識。

 

「トウカ君~終わったわよー」

 

……どうやらお姉さんの方は終わったようだ。

噛り付くように見ていた展示ケースから離れて、彼女の待つ入り口の方へ向かう。

 

帰ろう研究所へ。

 

 

 

「……トウカ君、手繋ぐ?」

「嫌です」

 

……この女研究員。早くなんとかしないと。

 

-------------------------

 

ションボリしている研究員(女)を無視しながら、彼女のピジョンに乗って研究所に帰る。

 

……なぁ、ピジョン、お前のご主人何とかした方が良いぞ?

 

『……相済まぬ。後で進言して置く』

 

なんともまぁ古風なピジョンだ事で。

でも彼の言葉は彼女には通じない……結果、無理と。

 

 

そうこうしている内に研究所に着き、化石を持った女研究員とボールに入ったピジョンは屋内へ入っていた。

俺はというと、ピカチュウが『ちょっと見せたい物がある』といったので、森の中へ入る。

 

「……で、どうしたのさピカチュウ」

『いいから着いてきてくれ』

 

聞いても教えてくれず。

ボールから出したピカチュウはそのまま森の中を進んでいく。

 

しばらく歩いていると少し開けた場所に出た。

何処か焦げていたりするのを見ると、どうやら此処で修行しているらしい。

 

『よし着いた。さっそく本題なのだが……ご主人アレどうする?』

 

見えるのは二つの黒。

地面から盛り上がってみえるそれはどうみても、

 

「人じゃん」

『前話したロケット団とか言う奴だ。一応生きている。……警察に突き出すか、それともこのまま放置するか』

 

いやいや。このまま放置は拙い。

ピカチュウは一応生きてると言ったけど……ホントに一応(・・)だけみたいだし。

 

「えっと……とりあえず掘り出して、縛って、警察に通報」

『……』

 

ピカチュウが横でめんどくさそうな顔してる。

なら初めからやるなと思うのだが。

 

本来なら此処で叩き起こして話聞いたりするんだろうけど、生憎とそんな度胸もないもんで。

 

この後警察の方が来て無事引き渡しましたとさ。

 

-------------------------

 

「こんな所にまでロケット団が来ていたとは……」

「恐いわね…」

 

こんな話がしばしば聞こえるここ数日。

俺は警察の方から褒賞金として20万円ほど貰った。

単純計算で一人頭十万円。

 

モンスターボール買えるぜ、ヒャッホイ!

……となっていたんだけど、お爺ちゃんにとられた。

 

いや、正確には個人でこんなに持っていたら危険と言う話で預ける事になった。

理解できるけど納得できない。

でも仕方が無い。

多すぎるお金は危険を呼ぶ。

「必要になったらいいなさい」との事だったんで、一応今手元には一万円ある。

勿論それはモンスターボールを買うため。

一万円でも五個。

まぁトレーナーになれば五十個は買える計算なんだけども、ポケモンとの出会いは一期一会……とまでも言わないがそれに近い。余分に持っていても損は無い。

 

 

さて、長々と長考していたが今日はグレン島に向かう日。

 

グレンタウン……確か金銀時代になると活火山の噴火の影響で街が無くなっていた、という個人的に悲しい思い出があるんだけども、あそこには化石の研究を主にした遺伝子研究所がある。

どうやら化石の復元に成功したようで、一度来てくれないか、とお爺ちゃんのもとに電話がかかってきたそうな。

電話を掛けてきたのはカツラ。

ジムリーダー兼研究者という忙しそうな御人らしい。

……で、俺はそれについて行くと。

まぁ、歴史が一つ進む瞬間なわけだし、見ておいて損は無いと言う事で同行させてもらえる事になった。

 

俺はお爺ちゃんの声を聞いて、船の方へ走って行った。

 

 

船に揺られる事二十分。

予想外に揺れた船にダウンしていたが、それもようやく収まり。

改めてお爺ちゃんに手をつながれやってきたのは巨大な装置のある部屋。

そこで禿g……いやスキンヘッドのおじちゃんが笑って待っていた。

 

「うおおーい! オーキドー! 完成したぞー!」

「うるさい! 電話の時もじゃったが、叫ぶな!」

 

なんともまぁ元気なおっさんだことで。

 

年齢的には四十台後半と言った所か。

スキンヘッドに黒い色付きサングラス。

 

第一印象どうみても堅気の人じゃないこの方がグレンタウンのジムリーダー、カツラさんだ。

 

カツラして無いのにカツラとは之如何に。

もしやあの禿げ上がった頭こそがカツラだったり……はしないと思うけど。

 

「……うん? そっちの坊主は誰だオーキド」

「おぉ、コイツはだな……自己紹介出来るか?」

 

長々と二人が話しこんでいたが、どうやら俺に話しが回ってきたようだ。

 

「うん。……初めましてカツラさん。オーキド博士の孫のトウカです」

「……オーキド、ナナミちゃんとグリーンのふたりではなかったか」

「もう一人の方のだよ。これでも大学入学を終えている」

「ほぅ……ということはコレが噂のオーキド博士の秘蔵っ子。初めましてトウカ君、このジジイの悪友のカツラだ」

 

よろしくお願いします、と握手する。

中々に眼光が鋭い。

貴様、テンション高くて熱い人間装っているように見えて、実はクールでナイスガイだな?

……と、内心勝手な妄想を膨らませたり。

 

『阿呆だな、ご主人』

 

うるさいピカチュウ。

阿呆で何が悪い。

伊達や酔狂でやる分には阿呆でいいんだし。

寧ろこれくらいなほうが人生楽しく生きられるのさぁ~。

 

『……なんか気持ち悪いぞ』

 

うん、自分でも思った。

 

 

さてそんな事よりもだ。

「それで、何処ですか? 復元されたポケモンって言うのは」

「――あぁ、隣の部屋だ。生態調査に掛けている。奴め、中々に凶暴でな」

「……ほう」

 

凶暴……なんだろう? 何復元したんだ?

プテラか? カブトプス?

この地方で見つかるといったらその辺だと思うんだけど。

 

「見せて貰ってもいいですか?」

「うぅん……大丈夫か?」

「大丈夫だ。……仮にも儂の孫じゃぞ?」

「……そうだったな。じゃ、こっちだ」

 

オーキド博士からもOKがでて、着いて行く事に。

なんでアレでOKなのかは分からないが、まぁ二人にしか分からない何かがあるんだろう。

気にしないで置く事にする。

 

 

そしてお爺ちゃんと俺はツルリと反射で光る頭に案内され、それを見た。

 

アーマルドの二本腕に、オムスターの殻と触手とその他見覚えのある部分と見覚えのない部分で構成された、奇妙で巨大なポケモンを。

そして何処ぞのラスボス戦みたいに巨大なポケモンに立ち向かっていく研究員とポケモン達を。

 

「……何だコレ」

「わからん…」

俺が呟いたのはなんら悪くないと思う。

 




いつもより長い。
出来は……微妙?

……感想で結構身に染みる御言葉を頂いた。
これも糧にしてやっていこうと思う。

息抜き&拙作タグ追加した方がいいんだろうか。

以上、作者でした。

誤字修正。
恥ずかしい所で誤字。
泣きたい。
報告有り難うございました。

修正。
グリーンのお姉さん、ナナミちゃんがいませんでした。
……ナナミェ……。
報告ありがとうございます。


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恐かったらしい

今回賛否両論あるかも。




「うおぉおおおお!」

「やれぇえええええ!」

暴れているソレに向かっていく勇者達。

だが、それも目の前の敵には敵わず、振り払われまっすぐ壁に叩きつけられる。

しかし彼等はあきらめない。

何度でも立ちあがり、何でも向かって行った。

 

ある者は膝を付いている。

ある者は地に伏している。

 

それでも彼等の目には宿っていた。

――――やらなければ終わる。

――コレは俺達がやらなければならない。

 

そんな激情と意志が。

 

 

……で。

なんでこの研究員達こんなに熱いんだよ。

 

「やってるな。頑張れよーッ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

あぁ、なるほど。

大体把握した。

つまりすべての元凶は貴様か、

「カツラさん」

「なんだ坊主! ……おっと、飛んで来たぞ! 避けろ!」

 

「へ?」

 

間抜けな声を上げて彼等のほうを見ると、目前に飛んでくる人の影。

頭が反応する前に身体が反応していた。

 

「ぬおぉおおお!」

 

自分の反射的行動で、痛みに悲鳴を上げる。

きっと今、俺の背中はイナバウアーもめじゃない背中の反り具合になっているだろう。

飛んできた研究員はまだ空いていたドアからでて、廊下の壁にぶつかる。

 

ふと思う。

ヘルニアならないと良いな、と。

それにしてもこんな状態でこんな事を考えれるとは。

中々に自分は冷静なようだ。

 

『違うぞご主人。あまりの痛みに現実を見ていないだけだ』

 

あぁそういえば背中の痛みが……って痛い痛い!

急に戻ってきたぁあああ!

 

「だ、大丈夫かトウカッ!」

「いだだだだ……」

 

お爺ちゃんが心配して声を掛けてくれる。

よ、避けられたけど……これなら避けなかったほうが。

……いや、避けなかったらあの研究員と壁でサンドイッチ状態だった。

 

「だ、大丈夫……」

「そ、そうか…。おい、カツラ! お前のとこの研究員になんて指導してんだ!」

「なんだ! 文句あるのか! このオレの全力全開☆熱血方針に!」

「問題ありまくりじゃ、ボケナス!」

「いたっ!」

ペチコーンと乾いた音が部屋に響く。

お爺ちゃんがカツラの頭を叩いていた。

思わず目を丸くしてしまう。

 

……こんな性格だったけ、ウチのお爺様??

 

『あるじー、さっきこの禿げた人が悪友って言ってたし、それなりの仲なんじゃない?』

 

おっと、ガーディはお目覚めだったようで。

船酔い酷かったもんな。

 

『うん。それでロコン起きた?』

 

まだ寝てるよ。

 

『ふーん。じゃ、もう一回寝る』

 

はいはいお休み。

……最近この二匹はよく寝る。成長期だろうか。

 

 

「……ったく。お主は昔っから変わらんな!」

「なんだ!? オレはまだまだ若いぞ!」

「ちっ……忌々しい」

 

オーキド博士は嫌味を込めて言うが、カツラ研究者には軽くあしらわれる。

ピカチュウ先生、本当に今日はお爺ちゃんの口調が荒いです。なんでですか?

 

『私に振るな。……その、苦手なんじゃないか?』

 

おぉ、なるほど。

流石ピカ先生、頼りになる。

私に振るな、とかいいつつ答えてくれる辺りがやっさすぅい~。

 

『知るか馬鹿。……でアレ、なんなんだ?』

 

ちょっと照れてるので、話題を変えたいのだろう。

……これ以上弄ると身の危険を感じるので、真面目に目の前の巨大なポケモンを見る。

 

アーマルドの手とオムスターの触手や殻。

そして背中?に見えるあれは……トリデプスの盾だろうか。

ほかにもラムパルドの頭部とか、アーケオスの羽根だとかに見えない事も無い部分がちらほら。

でもいくつか解らない部位もある。

 

『――! ――ッ!』

 

残念ながら意志の疎通は出来そうも無い。

どうやら研究員と同じく興奮状態らしい。

 

とりあえず研究員には落ち着けと言いながら、鎮静剤を打ち込みたい。

また飛んできて貰ったら敵わん。

 

……ふむ。

古代のポケモンの個性を取り押さえたポケモン。

さて、何かあったか……。

 

考えた限りではいないと思う。

……逆に考えようか。

 

何であんなにポケモンが混ざったような姿なんだ?

いや、なんであんな色んなポケモンが混ざったような姿だ?

…………うん?

 

「ねぇ、お爺ちゃん」

「……どうした、トウカ」

「あのポケモンって何から復元したの?」

「それは「琥珀から復元した!」喋らせろ、バカたれ!」

「いたぁっ!」

 

なんかジャレあってる二人は放って置こう。

とりあえず不定形の、琥珀の中に含まれていた蚊が吸った血からか、何かの細胞片から復元されたらしい。

だから大まかなポケモンの種類は不明。

 

……なら、可能性もなくも無い。

 

『どうした、ご主人。……悪い顔になってるぞ』

 

おそらくアイツ、どのポケモンにでもなれるんだ。

……古代にいたとすると?

 

『……っ……あぁ、なるほど!』

 

まぁ違うならいいさ。所詮憶測の域を出ないんだし。

ただ本当なら……えらい事だ、これ。

 

-------------------------

 

後ろの大人はいつの間にか大人気ない口論を始めちゃってるので、俺はコッソリあの研究員に混じって検証を行う事にする。

ピカチュウ、マジで頼むからアレンジ技とか出さないでね。

 

『了解。私も真面目にする時はするんだぞ?』

 

はいはい。

……と言うわけでピカチュウ、まず電磁波。

 

『……もし本当なら私が酷い目に遭うんだが?』

 

トキワの能力で治して上げますんでお願いします。

電磁波が効くか効かないかで変わるんで。

 

『仕方ない……』

 

ピカチュウはそれだけ言って、幽鬼のようにフラフラと喧騒の中に進んで行く。

が、その動きは時として消えたり現れたりを繰り返す。

 

そんな様子でついにはあのポケモンの下へとたどり着いた。

 

『……一撃必殺』

 

彼女がそのポケモンに触れ、ポケモンは動きを止める。

そして、ズドン、と大砲を打ち鳴らしたかのような音が響き、彼のポケモンは倒れた。

まさに一撃必殺。

周囲の人間は総じて動きを止め、沈黙がその場を支配していた。

 

そしてそんな中ゆったりと歩いてくる一匹。

『やったぞ、ご主人』

俺の前に来て良い笑顔でビシッ、とサムズアップをするピカチュウ。

 

それと同時に俺は周りの研究員達に胴上げをされた。

 

 

……あ、あっるぇ~。

 

-------------------------

 

一悶着終わって、先程の研究所の一室。

あのポケモンと俺がその閉じきった部屋の中にいた。

騒動を収めたという訳で、「捕まえれるようなら捕まえても良いか」と、グレン島研究所の皆さんとオーキド博士に聞いたらお許しが貰えた。

今この場には勿論誰の監視もなく……いや、あるとすれば護身のために出ているピカチュウくらい。

 

ちなみに此度の化石から復元する実験は一応成功。

もう一回化石の復元を行い、そのポケモンの生態調査をする方向で帰結した。

 

 

そして現在俺の目の前にいるコイツ。

姿を変え、怯えて縮こまっているポケモン。

あの時の姿形は混沌とした姿ではあったが、今こそ可愛いらしい姿をしている。

 

話を聞こうとは思うが、どうにも怯えて意志の疎通が出来ない。

「……なぁ」

『――!(ビクッ』

 

……かれこれコレが二十分近く。

そろそろ本題に入りたいんだけども。

 

『いい加減怯えるの止めたらどうだ?』

『……(フリフリ』

 

いやいや、と言わんばかりに首を振る。

……まぁ、ピカチュウについては、電磁波を与えた張本人だから仕方ないけど。

 

『なにか問題でも?』

ある。アレンジ技使うなって言ったのに使うのが悪い。

『……真面目に私はやっただけだ』

真面目に使うバカが何処におるか、バカチン。

『ちぇ……』

なんでいじけるし。

 

 

〈……痛い事しない?〉

「おぉっう!」

『……なんだ、念話出来るのか』

 

ポケモンのほうを見ると、顔を上げてこっちを見ている。

さっきまでとは違い、少し目に好奇が浮かんで見える。

俺のやるポケモンとの会話とは違う感覚に少し驚いた。

やはりと言うべきか、中々に知能は高い様子。

 

うん……所で何で暴れたんだ?

 

〈……恐かった。最後に見た景色と違ったから〉

 

〈…………一杯何かされた〉

 

〈刺されそうになった〉

 

〈……逃げようとしたら捕まえられた〉

 

〈仕方が無いから戦った〉

 

たどたどしくも語ってくれる。

まぁそれも仕方ない。この時代の言葉もまだ覚えたばかりみたいだし。

これは時間が解決してくれるだろう。

 

じゃあまぁ、お約束のように提案しましょうか。

 

「……怖い事されるのもう嫌か?」

〈……うん〉

「なら、俺と一緒に……来る?」

俺はグレンタウンで買ったボールを出して見せる。

本能的な何かが拒否反応を示したのか、体はビクっと震える。

〈…………うん〉

それでも手のひらのボールに触れて、そのまま中に入った。

揺れる事も無く、部屋には一人と一匹。

 

『ゲットだぜ……か?』

……なんか此処まで心の痛む捕獲は後先考えても無い気がする。

『……だな』

 

どうにも釈然としない幻との邂逅だった。

 

 




はい、ヤツです。
「ギアナ行きフラグ建てた癖に」と感じる方が多々いるかと。
……でもありえん話じゃないよね?

ちなみにトウカ君はへんしんは特性までは変わらないと考えてました。
なのであんな意味不な検証を。
それでは。

誤字修正
レオパルド→ラムパルド
ホントよくある。


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バトルらしい

出来悪い。
気が付いたら文字量いつもの二倍だった。
分けるべきかととも考えたがこのままで。

ちょこっと誤字修正。


古代の幻のポケモン――現在見つかっているポケモン全てに姿を変えられるミュウをモンスターボールで捕まえるという荒業を成し遂げた俺は、化石の復元を見ていたカツラさんとお爺ちゃんを、ミュウが暴れていた部屋に呼び寄せた。

事が事なので、せめてこの二人には話しておこうと思ったからだ。

さっきまでのポケモンがミュウだという事を。

恐らく隠していても何時かバレるだろうから。

 

ミュウだと言う事を話すと、二人は腕を組んで唸る。

カツラさんがオーキド博士に目配せして何かを確認した後、唸るように言った。

「……坊主」

「うん? 何ですかカツラさん」

「…………ミュウの事を知っているなら、知っているとは思うが……ミュウツーについての事だ」

「ミュウツー…」

反芻してゾクリとする。

確か……アニメとかではロケット団に作られたとかなんとか。

ついでと言っては何だけど、ゲノセクトはミュウツーに対抗するためにプラズマ団に作られたとかってネットで憶測が飛んでた気がする。

 

他にもゲームの中では、グレンジムにフジ老人と肩を並べて笑っているカツラさんの写真があって、そのフジ老人がミュウツーを作り出したとか。

それにポケモン屋敷の日記や最果ての孤島……それらの文章はフジ老人が書いたとか。

 

そんな思わせぶりな表現が多かったゲームの中だった内容。

 

「そう、ミュウツー。人類最大の禁忌……人工的に作り上げる強く従順なポケモンの開発。……内容詳細は省くが、この地方にいる強い個体に良い所に変化させ、その姿を定着させた姿がヤツだった」

「そして元になったポケモン。……それがそのミュウという種から生まれた実験体μ-Two。ヤツは逃げ出し、今はポケモン協会に管理されているハナダの洞窟奥深くで眠っているという話じゃ」

 

「その開発の援助を行ったのがロケット団……」

 

「……そんな事まで知っておるのか。我が孫ながら何処でそんな知識を拾ってくるのか…」

「あ、いや。なんとなくそんな気がしただけです……」

 

はぁ、と溜め息を吐いている辺りからすると信じられていない。

ついテンション上がって前世での考察を言ってしまったのは失敗だった。

 

〈……気持ち良い、トウカ〉

 

人がシリアスやっている時に膝の上で俺に撫でられてご満悦な様子のミュウ。

コイツが言語を解せる程度には知能が高いという事も既に話した。

 

「……なぁミュウよ」

〈なに?〉

 

ミュウが念話で聞き返す。

お爺ちゃんは何か済まなそうに言いよどんでいた。

 

「……ワシ等人間はお前達の子供に酷い事をしてしまった。今この場にいない奴の代わりに言わせてくれ。済まなかった」

「……俺からも済まなかった」

 

それでも意を決したようにおじいちゃんは頭を下げる。

それにはカツラさんも続いた。

 

〈ねぇ、なんで謝ってるの?〉

 

俺の顔を見上げてミュウは至極不思議そうだ。

まぁ、無理も無い。

倫理観念の諸々が今と昔とでは違うようだし。

ポケモンの世界と人間の世界とじゃ摂理が違うし。

 

目の前の二人の気持ちは分からないでもない。

ただ、少々謝るのは間違いだ。

 

「お爺ちゃん……いや、オーキド博士。貴方はミュウツーの開発に携わっていたんですか?」

「……いや違う。ワシは知っているだけじゃ。カツラは途中で抜けてワシの友人が最後までやっていた」

「カツラさん?」

「俺はミュウがジュニアを産んだ所まで関わっていた。……実質最後まで進めたのはフジの奴だ」

「開発時のミュウは?」

「ワシの友人……フジが何処か人の手の入らない所へ逃がしたと聞いた」

話の途中、気になっていた事も含め聞く。

年長の彼等は苦い顔をしながらも言った。

 

「……なら人間と同じでこのミュウに二人が謝るのはお門違い。やはり開発に携わった人間が、実験の時のミュウに謝らないとダメなんじゃないですか。博士、カツラさん」

「お前さん…」

「……確かにその通りだ。ミュウ、混乱させて悪かったな」

おじいちゃんは目を見開いて驚いて、カツラさんは得心したように言った。

説教をしたみたいだったが、知ってもらいたかった。

 

確かにポケモンと人間は価値観も考え方も違う。

 

でも人間とポケモンは対等な関係じゃないといけない。

対等じゃない関係を築いているのならば、自分勝手なトレーナーや悪用しようとする人間達が出てくる。

逆も然りで人を襲うポケモンも出てこない可能性も無くは無い。

 

だから同じ種のポケモンだとはいえ、謝って勝手に自分が許されたと勘違いするのは、それは人が悪い事をした本人に直接謝らず、別の人に謝って許され、解決したと思うのと一緒だ。

お爺ちゃんの場合は誰かを代弁して謝っていることだし。

それは当人同士で解決しなきゃいけない事だ。

 

……まぁ、勝手な持論ではあるけども。

 

〈うーん?〉

ミュウは何事かよく分かって無いらしい。

その頭を軽く撫でてやると、擽ったそうに目を瞑る。

 

そろそろ本題に入ろうか。

「それで……僕はミュウと一緒にいてもいいですか?」

「……確かにお前さんならわしらのように間違えないじゃろう…」

「間違えませんよ。なんでこいつに悪逆非道な行いができますか」

だがそんなマネ出来る訳が無いだろう……こんなに可愛いのに。

 

この後、ボールにミュウを戻して化石の復元マシンの所へいった。

どうやら今度はオムナイトの化石でやったらしく、ちゃんとオムナイトが復元された。

酷く疲れたが、今日はこれで用事は終わりらしい。

 

「さて坊主。最後にどうだ? 俺とポケモンバトルやってみるか?」

「おぉ、それはいい。やって来い、トウカ!」

「……は?」

 

帰り際に放たれた禿の言葉によって、俺の初ポケモンバトルが決定した。

微妙に疲れてるんで帰りたいです、お爺様。

 

-------------------------

 

あれよあれよと言う間に運ばれた先はグレンジム。

俺は火事場泥棒とか言うトレーナーが出てきた事で記憶に残っている此処。

正直、ゲームをやっていた時は泥棒が何故此処にいるのか訳が分からなかった。

 

まぁ、他愛の無い事は置いといて。

 

グレンジム、バトルフィールド。

目の前には真夏の太陽を想起させる禿げ頭の持ち主、カツラが腕を組んで立っている。

ルールは三対三のシングルバトル。

一応勝てばバッジが貰えるらしい。

ただ、トレーナーカードが発行されてもう一度此処に訪れる必要があると言われたが。

 

「ではこれより、ポケモンバトルを開始する! ……両者前へ!」

 

審判に言われて前へ出る。

ゲームとは違う現実感。

嫌々連れて来られたものの、どうにも自分は興奮しているらしい。

 

「緊張しているのか? 体が震えているぞ!」

「……え?」

 

自分の手を見れば震えていた。

違う。コレは興奮のせいだ。

 

「武者震いです!」

「そうか!なら お互い死力を尽くそうではないか! ……行け、ギャロップ!」

 

出てきたのは白い痩躯に紅い炎の鬣。

なるほど、グレンのジムに相応しい。

 

「なら自分は……行け! ガーディ!」

『了解、主』

 

出てくる炎の子犬。

眠い所を起こして悪いが、俺にとっての初バトル。

それなりに頑張ってもらいたい。

 

「ガーディとは……中々に趣味が良いな、坊主!」

「えぇ、出来れば早く進化させたいですけど」

「……さすが小さいながらも研究者。進化する事を知っているのか…」

「甘く見ないで下さいよー?」

 

そして審判の声によりバトルが始まる。

――じゃあ見せてくれ。ピカチュウとの修行の成果を。

『じゃあやるよ…!』

ガーディの特性は「せいぎのこころ」。つまり夢特性。

しかしそんな事は知らないと言わんばかりに口に溜める炎の塊。

赤から青。青から白。

そして白球となった炎をそのまま飲み込み体を震わす。

 

「……ッ! なんだ、それは!」

 

目の前には青白い炎を纏うガーディの姿。

それはもうカツラさんも驚くわけで。……実際自分も驚いているんだが。

 

『あれは一応「もらいび」の特性を修練で再現した……炎技が1.5倍だぞ?』

 

流石ピカチュウ仕上げ。

せいぎのこころ持ちがもらいびも兼ねるとか。

伊達に電気タイプの三大無効化特性を自力で習得するだけの事はある。

ホントどんな訓練したらこうなるのか。

 

『おい主! 試合中に考え事するな!』

……あ、悪い。

 

さて、どうするか。

 

「……フハハハ! 面白いなピカチュウと言い、坊主のポケモン達は!」

「ま、自分でも驚いているんですが……じゃ、頼むぞガーディ」

『了解! ……火炎車ァ!』

 

ガーディは走り、ギャロップの方へと突っ込んでいく。

そして跳びはね、身体を回転させながらギャロップに攻撃する。

ギャロップはよける事もせず、そのままダメージを受けた。

 

……かのように見えた。

 

「……何時から俺のギャロップが逃げ足だと錯覚していた?」

「ははは。……流石ジムリーダー、もらいびですか」

その証拠に攻撃を受けたギャロップは、ガーディと同じような炎を纏っている。

「あぁ、そうとも。あの時のピカチュウを見た所油断はならんようだからな。……バッジ七個集めた相手用のパーティで行かせて貰う事にした!」

この大人、大人げ無いぞ…。

「さいで。……他の技だガーディ!」

『高速移動……』

ガーディは加速し、一気にギャロップの方へ迫る。

『……からのインファイト!』

その様はまさに弾丸のよう。

ガーディはギャロップの腹に潜り込みラッシュをかける。

「ふみつけだギャロップ!」

「っ! 離れろガーディ!」

『あ、やば…!』

しかし時既に遅し。

ガーディはもろにふみつけを喰らう。

 

『うぐ…!』

『あぁ! ガーディ!』

 

ギャロップが離れるとそこには目をまわしたガーディが。

ロコンがボールの中でカタカタと言っている。

「ガーディ戦闘不能!」

そして審判から判定が下る。

 

はぁ…。

ガーディだけでもいけるかと思ったんだが……まぁ、仕方ない。

 

「戻れガーディ。……ピカチュウ」

ガーディを戻してピカチュウをだす。

 

『少々本気を出してもいいだろうか』

……はい、任せます。

『分かった。でんきだま二個分、一気に行くぞ』

なんだかピカチュウさんご立腹のようだった。

せいでんきがさっきの四倍になる。

最近自分にリミッターを掛けれるようになったらしく、でんきだまの力を制限して引き出せるようになったらしい。

といっても「使ってない」、「一個」、「二個」の違いらしいが。

 

「……真打登場か坊主?」

「まぁ、そんなところです。ピカチュウ……電磁砲」

『了解――レールガン』

ピカチュウは周囲に存在する鉄分を集めて一センチ程度の鉄球を手元に作る。

周囲に反発する磁界を形成し、それを尻尾で打ち出す。

それは音速を超え、ギャロップの身体に直撃した。

そして吹っ飛ぶギャロップ。

火傷の痕は流石炎タイプのポケモンなのか無かったが、ギャロップは泡を噴いていた。

 

「……な、なにが起こった!?」

「何って……ギャロップ倒しました」

「はっ!? ぎゃ、ギャロップ戦闘不能!」

審判が宣言する。

一瞬だった。

自分でもこれほどまでとは思わなかった……けど凄いな。

 

「これは…………油断してられんな! 行け、リザードン!」

ギャロップがボールに消えて、変わりに出てくるのは赤い竜。

これもまたグレンジムには相応しい。

「タイプ相性滅茶苦茶悪いですよ? ……ピカチュウ、」

「……攻撃ばかりされても困るのでな、地震だリザードン!」

「げっ!ピカチュウ! 電磁浮遊!」

『了解ッ!』

合わせるようにピカチュウは地面から浮く。

ちょっと遅れていたら諸にくらっていた

……というかトレーナーも揺れてるんですが。

 

「地震を避けるのか。知らない技を本当によく使うな! お前のピカチュウは!」

「褒めても何も出ないですっ……て凄い、揺れる……っ!」

なんで平気なんだ、あのおっさん。

少しして揺れも収まった。

……それじゃ、いきますか。

「ピカチュウ電光石火!」

バチリと電気が一鳴りし、今度はさっきのレールガンの要領ですっ飛んで行く。

そしてリザードンの身体に体当たり。

カツラの後ろの壁にリザードンは叩き付けられ、そのまま戦闘不能。

 

あれ? 俺の知ってる電光石火と違う。

何か電気纏ってでんきタイプの技みたくなってる……。

 

「坊主、どうなっているお前のピカチュウ! オレのリザードンが一撃だと!」

「いや、俺はなんとも……」

「そうか……そうかッ! 本当に世界は広いッ! そのピカチュウのように強いポケモンには出会った事がない!」

「そうですか。……ならコイツを倒して下さい! 貴方の持つ全力で!」

 

『おいご主人。ご主人はどっちの味方だ』

いいじゃん。

ノリだノリ。

それっぽいこと言いたくなるお年頃なんだって。

『自覚して言ってるのが性質がわるいけどな』

……うっせぃ。

 

「ハッハハ……了解だ、坊主……いやトウカよ! ラストだ、行けキュウコン!」

 

最後のキュウコンが出る。

気温が少し上がったような気がするが…。

 

「タマムシの近くで捕まえたキュウコン! コイツは特別性だぞッ!」

 

『やはりか……奴は恐らくウチのロコンの身内だ。気を付けろ!』

『なっ……お母さん!?』

なんかロコンからヤバイ事聞いたんだけども。……とりあえず今は無視しよう。

「日照りの炎1.5倍か。ま、なる様にしかならんね。ピカチュウ電磁波!」

『了解!』

不規則に電磁波は飛ぶ。

キュウコンはソレを見て避けようとするが当る。

そして相手の動きが緩慢になった。

 

「ちっ……キュウコン、だいもんじ!」

「避けて十万ボルト!」

「くっ…!」

 

キュウコンは若干痺れを見せながらも、だいもんじは繰り出される。

が、それはピカチュウが避けれない速度ではなく、迫るだいもんじをかわして十万ボルトを放つ。

だいもんじを放った姿で硬直しているキュウコンに直撃してそのまま倒れた。

 

そのままキュウコンは地に伏し、起き上がる事は無かった。

 

「……はぁ。俺の負けだな。……中々楽しかったぞ! トウカ!」

 

「キュウコン戦闘不能! 勝者、トウカ!」

そして審判が宣言し、試合が終わる。

 

「ありがとうございました……」

ふぅ……疲れたぁ…。

ホント、色々……と……。

 

「トウカ?!」

 

くらっと来てその場に倒れこむ。

何事か心配するような誰かの声を聞きながら、俺の視界は暗くなっていった。

 

 

 




ガーディは犠牲になったのだェ……。

なんだか適当設定多い今回、何故かバトルいれちゃった。
SEKKYOUもいれちゃうし。
そのせいでいつも二倍、45キロバイトと言う結果に。

初バトルこんな感じになったけど……
改善案があったらよろしくお願いします。
……ちなみにピカチュウは仕様です。

ちょっぴり修正しました


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休みらしい

少々遅れました。
いつもの文量です。

少し加筆修正。


窓から射す日の光で目が覚めた。

 

「知ってる天井……」

 

目を開けてみれば知らない天井……なんて事は無かった。

 

此処は何だかんだと一ヶ月過ごしてるグリーンの部屋。

ただ何時もと少し見え方が違う。……若干天井との距離が近いな。

体を起こすと視線が少し高い。どうやら俺はベットの上で寝ていたようだ。

そして本来このベットで寝ているグリーンの姿は部屋には無かった。

いつもは此処の部屋の主のグリーンがベットで、俺が床に布団を敷いて寝ている。

……アレ? 俺なんでベットで寝てんだ?

「うんん……」

最後の記憶は……確かポケモンバトルやってた。

えっと、禿げ頭? ……あ、カツラさんとやってたんだ。

それから視界が暗くなって……?

「気絶した…?」

いやいや。なんかこう……違ったような。

 

扉が開く音がした。

「……おはよー…って、あれ? 起きてる」

俺が唸っている中、顔を出してきたのはナナミさん。

「あ、ナナミ姉さん。おはよう…」

「うん、お早う。朝ご飯出来てるからね」

「はーい…」

……つい咄嗟に「おはよう」って挨拶したけど、朝か。

時計見たら普通に七時だった。……ホントいつ帰ってきたんだ?

むむむ、わからん。

「はぁ……」

仕方ない、起きよう。

そして俺は、悶々としたままベットから下りて部屋を出た。

 

 

食卓に座っている面々に挨拶して定位置につく。

 

「いただきます。…………お爺ちゃん、ちょっと聞いて良い?」

「……む? なんだ?」

「えっと、昨日ってどうなったの……?」

 

ナナミさんの作った朝食を食べながら、新聞読んでるオーキド博士に昨日の事を聞く。

 

「……疲れていたんじゃろうな。バトルが終わった後、倒れるように寝てしまったわ」

ははは、と笑うオーキド祖父。

自分と二人でしか行ってなかったから多分帰りは背負ってくれたんだろう。

「……ごめんなさい、お爺ちゃん」

「まぁ気にする事はない。まだまだ孫を背負うくらいは出来るぞ?」

「うん……」

 

申し訳ない気持ちになりながらも、少し新聞が気になる。

新聞のトップには『グ レ ン 遺 伝 子 研 究 所 。化 石 の 復 元 に 成 功 !!』とでかでかと書いてある。

横にはオムナイトの写真。ちょっと分かりづらいが、色々と生態を調べた後、セキチクのサファリパークにある特別展示の方へ運ばれるらしい。

どうやらミュウについては初めから復元されなかった事になったらしい。

カツラさんから緘口令がだされたようだ。

 

これで一応、ミュウの姿を誰かに見られたとしても怪しまれる事は無いと思いたい。

 

「うん? これか……まぁそう言う事になった。だがの、例のアイツを知らん人間がいないわけじゃないのだ。学会の何人かも……それからあの組織の幹部どもは大半は恐らく知っておるじゃろうて。じゃからちょっと考え物だの」

「……駄目かぁ。バレたらきっと追いかけ回されるだろうし…」

「そうじゃのぉ…」

「はぁ。……うん? あれ?」

 

腰のピカチュウと話そうと思ったらいない。というかボールが無い!

「お爺ちゃん! ボールは!?」

「あぁ、あそこじゃ。試合でガーディが倒れたままじゃったろ? 回復させておいたぞ」

「そ、そっかぁ……良かった」

ボールが四つ。指さすほうを見て安心した。

そして、そういえば、とガーディがやられた事を思い出す。

ピカチュウが修行を付けたとはいえ、自分が少し彼を過信していた。

いや、彼は実際強い。まがい物とはいえ、もらいびを彼は再現して見せたのだから。

 

一度だけピカチュウに話した覚えのある、偶々見たアニメでの話。

自分の技、もしくは相手の技を吸収して技の威力やステータスを高める技術で、総じて難しいとされていた。

それを行えるようになった彼は確かに才能の塊だ。

 

問題はそれを生かせなかった自分と、状況をちゃんと見極めなかった自分。

電気タイプで炎タイプや氷タイプの技を再現するピカチュウと同列に考えていたのがそもそもの間違いだった。

 

後できっちりアイツ等と反省会をしないといけないな。

 

「……なぁトウカ。お前昨日何処で何やってきたんだ?」

隣に座ってるグリーンが話しかけてきた。

おかげで俺のベット貸す事になったんだからな、と少々お小言を貰う。

「ははは、ごめん……。で、グレン島って分かる?」

「分かるけど。確かじいちゃんの嫌いなカツラがいるって……それがどうかしたか?」

 

思い出すように言うグリーンはそれなりに物覚えが良いと思う。

将来孫の名前を忘れるような我が祖父にはなって貰いたくはないけども。

 

「うん。あそこで化石からポケモンが復元されたんだ。その結果を見せてもらいに行ってた」

「ふーん……凄いのか?」

「凄いも何も……遺伝子が少しでも残ってたらどんな生物でも復元出来るようになるのかもしれないんだ。……だから死んだ人とそっくりな人間を作る事だって可能になる。悪用されれば恐ろしい発明だと俺は思うよ」

 

一応あの施設のあそこまで巨大な機械がないと出来ないって事になって無かったらどうなる事か。

技術が盗まれでもしたら目も当てられない。

 

「クローン技術みたいなものか……確かにちょっと怖いかもな」

「だろ? ……で、その帰りにポケモンバトルしたら疲労がたたって倒れた」

「バッカでー」

「うっせー!」

九歳児らしからぬ話をしている俺とグリーン。

自分で言うのもおかしな話だけども、博士の孫ってだけで頭がよくなりすぎだと思う。

……これがスーパーマサラ人の血のなせる業だろうか。

「……お前さん達ホント九歳児か?」

「お爺ちゃん、最近の子たちはこんな感じらしいよ?」

ナナミさんもお爺ちゃんも人の事言えないと思うけど言わないでおこう。

 

うーん……今日は何しようかな…。

 

「お、そうじゃったそうじゃった。……トウカ、今日一日休暇をやる。というか研究所来たら駄目だ」

「え……」

 

-------------------------

 

倒れるくらい疲れていたようだから今日は研究所の方には来なくて良いと言われた。

久々に小さい子供らしく遊んでこい、という事。

所長兼、家長命令らしく拒否権は無い。

……確かに此処最近研究所に篭りっきり。

じゃあお言葉に甘えて今日は遊ばせてもらうとしよう……そう思っていたら、

「へーこの子が新しい子?」

「うん……」

ナナミさんにボールが増えていた事に気づかれた。

で、ミュウは今ボールから出てきてる。けど俺の後ろに隠れて出てこようとしない。

「ほへー…なんだか可愛い外見してんのな」

そしてグリーンも俺と遊ぶ気だったのか、ミュウを出した時遭遇。

今は隠れているミュウを俺越しに覗きこんでる。

「人見知りするからあんまり強引には……」

 

〈……こわいよぉ〉

「「しゃべった!?」」

あらー…バレたー……。

 

「……うん。こいつ、ミュウは念話が使えるんだ。……ただあんまり言いふらさないように」

「お、おう」

「うん……すごいのね。ミュウっていうの? よろしくね」

 

〈……?〉

ナナミさんに手を出されて、よく分からないと困惑している様子。

「手をだして、こう。わかった?」

〈う、ん。……よろ、しく〉

「うん、ナナミよ。よろしくねミュウちゃん」

 

ミュウは俺の背中から少し顔を出し、ナナミさんと握手する。

恐怖心が多少なりとも薄れたのか、少し笑っているようにも見えなくも無い。

グリーンはというと、そんな二人の様子を羨ましそうに見ていた。

 

「……グリーンはいいの?」

「べ、別にいいし! ほら、さっさと遊ぼうぜ!」

 

うわぁ……ツンデレだぁ。

此処にツンデレがいるー。

 

「もう、グリーンったら」

〈グリーン変だね〉

「……う、うるさい!」

 

うん、頑張れ従兄弟…。

 




遅れた割にはあんまり話は進んでない。
遅れた理由としては忙しくて眠かったため。
お昼寝してたら八時だよ。はっはっは。

反省会はまた次回。


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まだ為れないらしい

途中キンクリ入ります。


グリーンとナナミさんにミュウがバレて暫し。

少し遊び、オーキド姉弟に勉強を教え、昼食も済まして午後二時。

後一時間でおやつの時間であるが人目の付かない森の中、手持ちのポケモンと俺は居た。

バトルでの反省点とその他諸々。

 

そしてその反省点、その他諸々は、……主に俺とガーディだった。

 

『……分かったのなら良いがな。とにかくお前はまずロコンに謝れ』

『え、なんで……』

『お前の無茶な特攻でロコンがあれからどれだけ心配していたか……知っているのか?』

『うっ……で、出来ると思ったんだ!』

『思うのは勝手だ。……ただ状況をちゃんと見極めて、最良の判断をお前はすべきだった! 他にもあっただろう、ほえるを使って相手を入れ替えさせるなりと色々と!』

『うぅ……』

……確かに。

『ふぅ……それからご主人。ご主人は言わずもがな……なんで私を一番初めに出さなかった?』

「いや、ピカチュウさんに頼らなくても勝てるかなぁーと」

『甘い。甘すぎるぞご主人。シュークリームにメープルシロップをかけた上に砂糖を塗したくらい甘い。仮にもジムリーダーが相手だ。舐めすぎじゃないか』

例えが逸脱過ぎる。

きっとむせかえる位甘いんだ。

うぇ……想像したら気持ち悪くなってきた。

「……すみません」

『まったく……。とにかく反省点の整理だ。とりあえずガーディはしばらく修行中止と、ご主人と何が出来るかの確認。そしてご主人はとにかく反省だ。いいな?』

『「……はい」』

有無を言わせぬ態度。

ピカチュウの姐御はやはり怖い。

『それからロコンだが……』

ビクっと言われた本人は身体を震わせて気まずい空気になる。

『……やはりアレは母親か』

小さく頷きロコンは返事をする。

『へ? なんの話してんの姐さん?』

あー、ガーディは知らないのか。

倒れてたし。

「相手の最後の三匹目。出てきたキュウコンがロコンの母親なんだってさ」

『はぁ? はぁあああああ?!』

 

ガーディの悲鳴のようなそんな叫び声が森に木霊す。

この声でミュウが起きなければいいけど。

ちなみにアイツはボールの中で眠ってる。

色々と疲れたらしい。

 

『うるさい、ヤツが起きる。……で、お前が居るって言う事、あの様子からすると知らないんだろう』

『……はい』

喧しいガーディにピカチュウは苛つき、ロコンに聞く。

『……そうだな。とりあえずガーディ、お前当面の目標は何だ?』

『それは……』

今この話が出たという事は、恐らく何かあっての事。

きっとアレだ。

 

『……義母さんに挨拶に行く事です!』

 

『え……』

『はぁ……やっぱりかコイツ。ロコン、お前はどうするんだ?』

ピカチュウは溜め息を吐いて呆れる。

確かに俺も予想通り過ぎて呆れてくる。

ホント一直線だよな、お前。

『え、あ……そんな、急に……言われても…!』

急に宣言された「義母さん! 娘さんを僕に下さい」という例のアレ。

認めて貰えれば親公認と言う事になり、晴れてカップル……否、夫婦(めおと)の関係になれるわけだ。

当人であるロコンの茶の毛並みは赤みを増し、赤茶を越えて朱色になる。

頭を前足で抱えてうずくまる姿は可愛らしい。

隣でガーディが『ロコン萌え! 寧ろ(炎的な意味で)燃え!』とか叫んでるが、リア充爆発しろとか思うのは俺だけだろうか。……ピカチュウもだった。

 

若干青筋浮かんでるように見える。

 

……というかお前等初めて会った時そんな風じゃなかっただろう? 今更その初々しい反応は無いだろうと。……いや、あれか。寧ろ万年カップルとかそんな域か。

よし、爆ぜてよし。

 

やれ、ピカチュウ! 電気ショック!

『爆ぜろリア充!』

 

そして二匹の「状態異常まひ」はしばらく解けなかった。

 

-------------------------

 

大学の4年間をオーキド博士の研究所で過ごす。

本格的に研究が進められてきた古代のポケモンについてや、特定の持ち物を持たせて交換する事によって進化するポケモンの存在。

それからメタモンの変身の性質についての諸々。

……その他多数の前世の知識及び今世での研究をまとめ、それなりにオーキド博士を通して発表して来た俺は、学会での渾名は「博士君」。

ガキンチョの癖に様々な論文を発表している自分に付いたその渾名。

オーキド研究所のお姉さんだけだったのが、一躍他の教授職の人にまで可愛がられる始末。

勿論、そんな小生意気な俺を妬む一部の人間も出てくるわけで、特に若い年代の男性からの嫉妬が恐い。

 

案の定、その渾名が自分の耳に入ってきた時には、ピカチュウから可哀想な目で見られた。

それなりに頑張ったんだ、悲しくなってくる。

だけどピカチュウにそんな目で見られるのは予想以上に心をえぐられる。

 

……と、あっという間に感じた四年間だ。

そう四年間……つまり十歳になった。

正式にポケモントレーナーとなれる歳。

 

……ただ、まだ出発出来そうには無かった。

 

「……なんでこうなった…」

「まぁまぁ、そんな落ち込まなくても……ほら、イーブイの進化系図の研究しましょうよ! なんでも特定の時間でなつき進化が変わる……」

「それよりも所長! マサキさんからお電話入ってました! 『良いもん見せたる!』とかなんとk……」

「また来た……もうコレで何回目かな……またなんか手紙届いてます!」

 

うん、もう勘弁。

タマムシ大学の一室。

いつの間にか本当に博士の称号を貰い、独自の研究機関が作られていた俺は、目の端から涙が零れていた。

『頑張れ、ご主人』

……あぁ、ピカチュウの哀れみが身に染みる。

 

 

あぁ、早くトレーナーになりたい……。

 

 




中々書けなかった。
調子のアップダウンが激しい。
頑張ろう。

加筆修正。
報告有り難う御座いました。


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出て行ったらしい

訳の分からん説明回。
適当設定入りまーす。

※2015/9/8 加筆修正


ある条件のもと、俺ことトウカは大学で研究を続ける事になった。

端的に言うとそれは「もうやだ! お家帰る!」と「11歳になったら旅に出ます。探さないで下さい」というアレ。

要は自宅通いと、11歳でトレーナーにもなると言う確約を取り付けたわけだ。長期単独フィールドワークという名目はつくけど。

 

そのため、別れを惜しむグリーンやナナミさんに少々申し訳ない気持ちになりながらも、あのオーキド家へ来た時と同様、大きな荷物を抱えて黒いリザードンに乗って自宅へと向かった。

 

そして四年ぶりの家族との再会。

玄関で待っていたのはお母さんとお父さん。

 

……そしてお母さんに抱かれた赤ん坊と、お父さんのズボンを握った女の子とのご対面。

アレー、お家間違えたカナー?

 

なんて事は無い。

 

――……連絡してよ!

 

――驚かせたかった!

 

あり得ない。ホントこの親あり得ない。

と繰り返し呪詛のように呟いてミュウに気味悪がられたはご愛嬌だろう。

で、久しぶりに訪れた俺の一人部屋は掃除してくれていたのか、埃は目立たなかった。

 

忘れずに部屋を掃除してくれた両親にありがたいと思いながら、微妙に背後から感じる視線にドギマギ。

妹……と言う事になる三歳の彼女は扉の隙間から顔を覗かせている。

そして、おにいちゃん? と一言困惑した声。

不覚…! と妹の可愛さに悶えてしまったのは兄になったという証か。

……ピカチュウに白い目で見られてる気がした。死にたくなった。

 

あまりの可愛さに自分を抑える事が出来なくなった俺は膝を付いて堪える。

ただし、そんないきなり膝を付いて何か苦しむ兄の様子は妹にとっては一大事で。

慌てて両親を呼びに行こうとした妹が足を滑らせてこけて大泣き。

大丈夫か、と兄貴らしく心配して彼女に駆け寄るも、その泣き声を聞きつけた両親が駆けつけて一悶着。

俺が泣かしたみたいに思われていたのが、泣きやんだ彼女の説明でなんとか誤解は解ける。

 

で、少々どころかかなり俺の中で激動があった一日が終わり翌日。

俺は今、ヤマブキシティのポケセンの近く、記憶を頼りに道を歩いていた。

 

「うーん……この近くだったけ?」

『おい、ご主人。何処に向かってるんだ?』

んー、なんと答えたものか。

強いて言うならば……約束を果たすため?

『なんだ、それは』

「まぁまぁ……お、此処だ此処」

 

表札の上に掛けてある看板。

……エスパーオヤジの家と書かれたプレートを見て、俺はインターフォンを押した。

 

 

「はぁ……」

溜め息を吐き、帰路につく。

俺の目的は果たせなかった。

そう、彼女――ナツメは居なかったのだ。

エスパーなオヤジさん曰く、つい先日旅に出た、と。

その奥様も、ごめんなさいね、と言っていた。

それから連絡があった時には伝えておくと言って貰えた。

 

『……なぁご主人。ナツメとやらは誰なんだ?』

ピカチュウの慰めるような、そんな声が聞こえる。

うーん、なんだろう……一番初めの友達、かな?

少なくともそんな感じ。

『そうか……残念だったな』

うん。

 

……今日はなんだかいいや、何もする気が起きない。

研究室に行くのは止めにしよう。

 

……はぁ…。

 

『……』

 

-------------------------

 

ぶっすぅー、と自分の部屋で不貞寝をしてやり一日を過ごしてしまった、その翌日。

 

大学の研究室にて、現在色々と思案していた。

 

今膝の上で撫でられながら寝ているこのミュウは、変身というのは名ばかりで。あの某奇妙な冒険第二部のラスボスのような事が出来る。

故にあの暴れた姿が当時存在していた彼のポケモン達の長所を取り入れた、あの時代きっての強者の姿をしていたらしい。

現に当時、最強のポケモンとしてコイツが頂点に立っていたそうだ。

なぜそんな記憶があるのかと聞けば、DNAの一つ一つが事鮮明に記憶しているんだとか。

あのラスボスのような事はする気は無いけど、という意味合いの事を言っていた。

そして性格的にはコイツは臆病。

生存のため、あの姿を取っていたらしい。

 

そしてそんなミュウの協力を持って調べたのが、ミュウと同じく姿を変え相手を真似るメタモンとの関係性と相違点。

情報の提供者はご本人達。

つまり過去最強生物のミュウと新たに仲間になったメタモンである。

 

新種ポケモンとして扱われているミュウは全てのポケモンになれ、唯一全ての技を覚えるポケモン。

変身ポケモンのメタモンは変身しか覚えないものの、ミュウと同じくこの世界の創造神たるアルセウスにすらなれる。

 

そして、コレはあの本から知りえたことなのだが、ミュウとメタモンの色違いはとてもよく似た色。

少々似通っているこの二名はどうにも関連性があるように思えて仕方が無い。

 

憶測としては、ミュウからメタモンに為る、もしくはメタモンがミュウになる、と言う荒唐無稽ともとれるのが仮説として己にあった。

 

しかし当人……ミュウはともかく、何も考えてないようなこのメタモンは中々に思考するポケモンであった。

 

誰にも分からぬそのメタモンの頭の中。

目の前のポケモンの姿を真似るその(じつ)

 

それはミュウであり、メタモンであった。

 

訳が分からないとはまさにこの事。

詳しく説明するならば、特定の遺伝子が存在しないメタモンとミュウは同一の存在とも考えらる。

つまりは「メタモン」は繁殖を止めた「ミュウ」とは違い、ありとあらゆる形で受動側。そしてミュウは逆の繁殖をしない唯一生物として、能動型。

同一の存在であって少々違う存在らしいのだ。

 

故にこの推論の結果は、

『メタモンは個の特性とも言える技を喪失し、変身という名の体技能が残り、ありとあらゆるポケモンと繁殖する』

――というのが今回俺が知りえた結果だった。

 

 

……ただ少々問題が。

実験のため、メタモンにミュウの姿となって貰ってしばらく過ごして貰ったら。

 

〈トウカー遊びに行きたいー〉

〈私も……〉

 

ボールの中から一匹、手元に居る一匹から念話が掛かる。

「はぁ……姿消してなら遊び回って良いから。30分後には戻って来いよ?」

〈うん〉

〈分かった〉

ボールから出して、二匹を部屋から出し、机に突っ伏す。

 

……メタモンがミュウに為っちゃった。

 

 




しかしナツメは居なかった!

今回賛否両論ありそうです。
と言うわけでまた次回。


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閑話・エスパー少女の欣快(きんかい)

ナツメちゃんのターン!


「よ、ようやく着いたぁ……」

「よ、良かったぁ……もう死ぬ」

 

目の前の暗闇の中、暖かい光を発している看板を見つけ、ほっと一息する。

 

そう、私とエリカは少ない道のりながら一緒に旅に出ていた。

私たちは今年で13歳になる。

そのため、同期のスクールの子達とは違い、少々遅れた旅。

 

「早く、……宿を取って寝ましょう?」

「……うん」

 

ヤマブキシティの東ゲートから出発し、シオンタウンを通り過ぎ。海の上に掛かる木板の道をずーっと歩いて。

時たま襲い掛かってくるポケモンを追い払い、勝負を仕掛けてくるイチャイチャとしているカップル(イラッとくる)や、鳥使いのお兄さん達を倒して。

集会を開いていた暴走族に気をつけながら、ようやくセキチクシティにたどり着いた時間は既に日の暮れた夜中。

おかげで連戦に連戦を重ねたケーシィだったあの子はユンゲラーに進化。更に進化させる方法を知っていた私は、エリカと一時的にユンゲラーを交換し、ユンゲラーはフーディンに進化。

お父さんから旅の餞別に、と受け取ったバリヤードもかなり育った。

 

此処最近嫌な予感がしていたのが、ぱたりと旅に出た途端に無くなり、少し安心している。

 

「あ、そうだ。お父さんとお母さんに連絡しないと……」

「あ、そうでした。あの父うるさいですから……早くしないと旅を止めさせられる!」

 

エリカは急いで無料電話ボックスの所に向かった。

 

私も夜勤のジョーイさんに今日の宿泊をお願いし、電話を家に掛ける。

 

コールの四回目で繋がった。

 

「もしもし、ナツメです」

『あ、ナツメ! その様子だとセキチクには着いたの?』

「うん。ちょっと遅くなっちゃったけど。お父さんは?」

『うーん……ちょっと、ね? 今日、困った事があって…』

 

お母さんが電話越しで言い淀むのがわかる。

 

『んん……詳しくはお父さんから聞いた方がいいかも。ちょっとその前にお母さんから一言。……良かったわね、ナツメ』

「う、うん……?」

 

よく分からなかった。

優しくお母さんは笑って言った。

なんでこんな事言われたんだろ?

 

電話からお母さんが離れて、お父さんが、うんうんと唸りながら出た。

『ナツメ』

「……お父さん。お母さんが、良かったねって言ってたのってどういう事なの?」

『……ユンゲラーが交換進化で進化する事を教えたよな』

「う、うん……」

 

話の内容は全然脈絡が無い。でも関係する事なのだろう。そう思ってちゃんと耳を傾ける。

『ユンゲラーのような交換進化の中でも……何か特別な道具を持たせてやる事で進化するポケモンが居るって言うのは、いつか一緒に雑誌で見たよな?』

「うん……」

何故かお父さんの声を聞いてドキリとする。

 

『その事を発表したのがまだ十歳にもなって居なかった子供だって言う事も……』

「……うん」

『今日、その子が来た。妙に子供っぽくなく、でも子供らしさの残る子が』

「……」

『なんでも……ナツメ、お前との約束を守りに来たらしくてな。……私も思い返せばあんな子が一度家に来た記憶がある』

 

……。

 

『彼の名前は――トウカ、というそうだ』

 

……しばらく頭の中は真っ白になっていた。

でも、夢じゃないって事に気がついた。

 

『……お前が本来ニ年掛かるはずの超能力が一年で制御出来るようになったのは、遊びに来たあの子のおかげ、とお母さんに言っていたそうだが……』

 

でも、それでも。

彼の事を話すお父さんの話は聞こえてなかった。

 

ただ嬉しくて。

ただ会いたくて。

そんな風に嬉しい気持ちと切ない気持ちで胸は一杯になっていた。

 

「あは……はは、よかった。良かったよぉ……」

 

人目も憚らず、私は受話器を持ったまま床に座りこんで泣いた。

 

-------------------------

 

あの後、周りの状況に気がついた私は、エリカに慰められながら、借りた部屋で俯いていた。

幾ら嬉しかったからって、私……。

「うぅ……はずかし…」

「はいはい。でも良かったじゃないですか。……思い人がちゃ~んと約束覚えてくれてて」

「もうっ!」

エリカに向かって手元にあった枕を投げるが、難なくかわされる

うぅ……顔真っ赤だ。

でも嬉しいのか恥ずかしいのか分かんない。

……どっちもだろうけど!

「エリカ酷い…」

「酷くて結構。私なんてお嬢様ってだけで好きな人なんて簡単に作れないのに……」

「ぅぁ……ご、ごめん。いや、ごめんなさい……」

ついカッとなって言っちゃったけどエリカは、私とは立場が違う。

お嬢様で、もしかすると将来好きな相手と結婚なんて、出来ない可能性の方が大きい。

コレは、私が悪い……。

「ふふふ……傷ついたぁー! ナツメのバーカ! ナツメの乙女ー!」

「なっ…!」

人が悪いかな、って思ってると、こ奴は笑って枕を投げ返してくる。

 

咄嗟の事で避けられず私の顔面にジャストミート。

「……ぃたたた。やったなエリカぁ!」

「キャー!」

今度は私の番、念力で枕二つを変速軌道で足にぶつけてやる。

 

そんな二人の枕投げは、隣の部屋から苦情が来るまで続いた。

そして疲れた私たちは、明日のサファリゾーンがどんなものか期待しながら眠りに着いた。

 

-------------------------

 

――少し、違う夢を見た。

 

再会の夢。

 

私は笑って抱きついている。

 

彼は嬉しそうに笑っていた。

 

寂しさはない。

 

あるのは再会への期待。

 

願わくばこの夢が醒めませんように。

 

願わくばこの夢は現実になりますように。

 

会いたいです――トウカ君。




やばい、泣いていいですか。
こんな内容書いてる俺は鬼なのかと。
書いてる途中でどんだけ泣きたくなってきたか……。
早く会わせたい。
でもまだ会わせられない。
……死にたい。


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行けるらしい

今回ちょっぴり注意。


早朝、起きてすぐ胡坐を組む。

日課である瞑想だ。

頭の中を空っぽにして、意識を内側に。

そして無を考え、無を知り、無に近づけ、無に身を任せる。

 

早速訳の分からない事をしているが、コレでも何かしらの効果がある。

何故なら己が努力は実を結ぶから。

そう、神さまの手によって与えられた特殊な能力によって。

 

-------------------------

 

本来俺には超能力と言うものは備わって居ない。……いや、正確には違う。超能力と言う才能が眠っていた。

それを開花させるために行ったのがスプーン曲げという努力。

本来ならば曲がるはずの無いそれを、三日で拙いながらも可能にした。

0の状態からと考えればこの神さまに与えられた能力と言うのは凄まじいものなのだろう。

なんせ無から有を生み出してるのだから。

だがそんな事は神でも無い限り無理な話。

では本当の所はどうなのかと言われたら、だ。

 

努力すれば実を結ぶ。

 

成功した人間が良く言う言葉だが実際、それを言うのが才能を持った人間。

才能と言っても様々だが、俺については人間が出来る可能性の全てが自分に宿っていると言う事だった。

 

だから俺は創造の中の人間と同じ。

この身は主人公であり脇役である。

俺に出来ない事は人間と言う可能性の限界。

だから作ろうと思えば女性しか乗れない小型ロボット宇宙スーツだとか、不老不死の薬を作る事も出来るというわけだ。

もっと例を挙げるならば、休載期間の長い漫画に出てくる能力『念』。

あれもやろうと思えば出来るし、人間讃歌で有名な波紋、幽波紋、黄金の回転も出来ない事は無い。

 

……こんな事言ってる自分キショイとか思ってるけど、今は気にしない方向で。

 

ともかくだ。

有限ながら無限に近い可能性があるこの身でも出来ない事がいくつか。

それは……

 

「もうお願いします、ホント勘弁して下さい……」

「いやいや、まだ見てもらわんとアカンで! なんせ他地方の可愛いポケモンの雑誌なんてそうそう手に入らんからな!」

 

コイツ、ポケモンマニア……ならぬポケモンオタクのマサキ。

コイツだけは全人類の可能性を持ってしても止めれなかった。

優秀なはずなのに残念っ!

 

……確かに可愛いのは認めよう。

だがそれは、俺が今生と前世含めて十五年くらい前に通り過ぎたのだと言ってやりたい。……ゲーム的な意味で。

 

「ほれ、このグレイシアなんて見てみ? めっちゃ可愛いやろ!?」

「いや、もう……お前マジでぇええええ」

「まぁまぁそんなケチ臭いこと言わんでも! ……これ! コレなんか可愛いと思わんかっ!」

「だからぁあああああ!」

 

そろそろ俺のライフはゼロになりそうだ。

 

-------------------------

 

「ふぅ……いやぁ、スマン。つい興奮してもうた」

「あ、もう、はい……。――気づいてんなら止めろよコンチクショウ…」

「……ん? 何か言うたか?」

「いや、何にも……」

俺を着せ替え人形にしようとする輩(研究室の大馬鹿共、主に女研究員!)から、適当な理由を付けて逃げるのに丁度良かったのがコイツの所である。

コイツが俺を呼び出したのは数日前。

『いいから来い!』

という電話が大学の方に掛かり、研究室のアイツ等が伝言で伝えてくれたわけだ。

 

コレ幸いと、ソレを思い出し向かったのがハナダの郊外。

玄関の扉を開け、するとそこにはゴミの山。

俺の第一声は、お前は掃除をしないのか。

年上だとか関係ない。

ゴミ収集所まで行くのが面倒くさい、とのたまうコイツを駆りだし、ゴミを家の外に出した。

ゴミの処理は、ピカチュウと熱々カップル二人に任せて俺は家の中に。

 

ただしそこからが地獄だった。

 

見せてくれるポケモンの雑誌。

有名なカメラマンが撮ったイーブイだとかの可愛いポケモンの写真。

確かに可愛い。

抱きしめてもふもふしたくなる。

特にあのイーブイの尻尾だとか首のふさふさだとか。

いや、ミュウのあどけないあの表情に比べたら……劣りもしないか。

 

んんっ……言いたい事は、まぁ確かに可愛いポケモンは可愛いという事だ。

 

ただし、その閲覧会が五時間超と続いたら話は別。

 

一時間目ではまだ大丈夫。

二時間目ではコップで水を一杯。

三時面目で既に目は虚ろ。

四時間目、思考の放棄。

そして五時間目では一瞬、人間の知り合いには秘密にしていた超能力使って黙らせようかと、強行手段を講じようとしていた。

……そして、ついにはポケモン預かりシステムの第一人者のソネザキ・マサキを「お前」呼び。

コイツに年長者としての尊敬の念は無い。

 

「……はぁ…。で、何の用なのさマサキ君」

「エライ態度変わったな。……じゃ、本題に入ろうか。コレを運んでもらいたいんや」

「なんで俺なの?」

「いや、おもしろそ……ってやめぇ! 腕振りかぶるな!」

 

ミュウの寝顔を思い出しもちつく。

 

「……で?」

「いや、恐いわ……うん、お兄さんトウカ君が怖い!」

――このヤロウ。

「……わかった。ごめん、もうしないから。だからお願いや、その手をゆっくり降ろしてぇ!?」

 

再び二匹のミュウの寝顔(ry。

 

「ふぅ……で、マサキ君。懇切丁寧、簡単明瞭に説明貰える?」

「顔笑ってるけど目が笑ってない……なんちゅう器用な」

しつこいな、コイツ。

「あ、うー悪い! えー……お前さん、他の地方に行きたくないか?」

「――詳しく」

腰に捻りを加えて、引いていた拳を元に戻す。

「う、うん。こないな化け物プログラムを通信で飛ばすわけにもイカンから、手渡しで渡してきて貰おう思うて。一応行く手段は有んねんけど……でもワシよりお前さんのような、トレーナーとしても将来優秀な奴が行った方がために為るかと思ーてな? それでコレ。……このポケモン預かりシステムの根本であるプログラムを渡して着て貰おうと……どうや?」

「……それは何処と何処を巡る予定?」

「ホウエン、シンオウと行って海外のイッシュ。……何処も、此処カントーでは会えないポケモンばかりやで?」

 

フフン、と鼻を鳴らすマサキは非常に悪い顔。

しかしながら……非常に魅力的な話だ。

ナツメちゃんと再会は出来て無いけど……もうちょっと我慢しよう。

帰ってくる頃には旅は終わってるだろうし。

……行こうか。

 

「よし、研究室の奴らは置いt「あー、スマン。お前さんとこの全員分のチケット取ってしもうた」……嘘」

かぶせるように言ってきたマサキに少し俺は殺意が湧いた。

……チクショウめ。コイツ始めから俺の研究室の奴らもろともつれて行こうという魂胆か。

「はぁ……わかった。何時から?」

「一週間後。ほい、頼むで」

渡してきた大容量メモリースティックを三つ受け取る。

「言わんでも分かると思うけど気を付けて持って行ってな。じゃ、話も終わった事やし……さっきの続きを」

「結構です。それではさようならマサキ君」

「うわ、ちょ、待ちー!」

ポケットに無骨な形をした三つのソレを突っ込んで、マサキの叫び声をBGMにしてさっさと外に出る。

既に夕暮れ。

遊んでいた……というか修行していたピカチュウ、ロコンガーディの三匹と、メタモン姿のミュウ二匹をボールに戻す。

 

そしてハナダの中心街に向かうショートカットを通って人目の着かない所へ行き、最近出来るようになったのテレポートでヤマブキシティの自宅前へと消え去った。




※注・主人公もチートです。

関西の方ごめんなさい。
コガネ弁と言う事で許してください。



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邂逅らしい

お待たせです。


――光陰矢の如し。

 

既にマサキとの会話から六日。……約束の日まで残す所後一日になった。

現在俺は自室にて、持って行く荷物の整理をしている。

念には念をである。

 

……半年間で三地方を巡る、今回の研究遠征と見せかけたポケモン預かりシステムの配達。

そのため、配達という仕事を任されていながらも、旅での最大の楽しみは、まだ直接見た事の無いポケモンに会えるという事。

出来れば何匹か捕まえたいと思う。

 

ただ心残りが一つ。

ナツメちゃんとの約束。

残念な事に彼女の旅は結構掛かるようで。

行く前に顔を合わせたかったのが本当に心残りだった。

 

なんだか、また会おうってだけの約束を五年も覚えているのが恥ずかしいと少々思うが、彼女との約束は守る。

ロリコンと言った変態的な趣味は持ち合わせていないが……あの頃のエスパー少女ナツメは可愛かった。

なんだかあんな小さい子相手にこんな事を思うのはどうにもおかしな話だけど……ちょっとだけ惹かれたのだ。

超能力に悩み周りの評価を気にするも、泣くまで頑張っていた彼女に。

 

慰めるためとはいえ、ナツメちゃんに家に上げてもらい“トキワの能力”を見せて、凄い凄い、と笑ってくれた時の笑顔。

他には、うっかりしていらない事を考えていたのが彼女に伝わった時の彼女の照れた顔とか。

そんな様子が可愛らしいとあの時は感じていた。

 

子供の時の記憶は長期記憶として残るとも聞くが、どうにもそんな感じでは無い。

そう、最近までは大人心の子供心と言う奴かと思っていた所だが……どうにも違うような気がしてきたのだ。

それは彼女に会えなくて気分が沈んだ日から。

あの時から、何か自分の中で違うなと感じた。

精神年齢が身体に引きずられる……とは良く言ったものだが、確かにそうかも知れない。

 

そう考えないと自分の気持ちに説明がつかない。

 

……恥ずかしくなってきたのでこの事を考えるのは止めにしよう。

ミュウ辺りに気取られそうだから。

 

〈呼んだ?〉

 

呼んでないよ。

ミュウ、心読まないで。お願い。

 

〈分かったー〉

 

……ふぅ。

 

思考を止め、作業を続ける。

 

明日から数日船の上。

此処へ帰ってくるのは半年後。

 

幼い……四歳頃の普通の子供だった自分が残した壁の落書きを見てほんの少し。

……ほんの少しだけ寂しくなった。

 

-------------------------

 

翌日。

 

玄関でお母さんと妹に別れを言い、お父さんのピジョットに乗ってクチバの乗船場に来た。

既に行く人間の何人かは来ていてお父さんと研究室のバカ共が顔合わせ。

 

あいつら父さんの前で良い顔しやがって……絶対また着せ替え人形にされる。

現にあそこで頭下げてる女研究員。アイツ二日は同じ服着てるような奴なのになんでそんなに鞄沢山持ってんのさ。

……絶対あの中身俺に着させようと持ってきた服だ。

あーやだやだ。行きたくなくなってきた。

 

でもホウエンやシンオウのポケモンに会いに行きたいので我慢する。

 

「息子の事、よろしくお願いします…」

「いえいえ、そんなこちらこそ。室長のおかげで研究はかどってますから」

 

うまい事言ってるけど。

……絶対「おかげ」の所に何か含みを入れてるだろ。

 

しかし、気にしても仕方が無い。

もうちょっと時間掛かりそうなのでボール買いに行く。

 

 

フレンドリィショップに入ってボールを十個買ってプレミアボール一個オマケで貰う。

ちなみにトレーナーカードは十歳になったので、一応発行して貰えゲームでの価格になっている。

で、おじいちゃんが作ってくれた銀行口座に入るお金を下ろして、現在の所持金は14000円。

今の所手持ちのバックには30個くらいモンスターボールあるので6000円は消費した。

よくよく考えると、お嬢様やジェントルマンと言ったお金持ちの方とバトルする機会なんて、ゲームみたく無いからかなりの出費だ。

 

お小遣いが湯水のように消えていく……。

内心泣きながら、小石サイズののモンスターボールを鞄に流し込んで貰って店を出た。

 

「うぅ……入るんじゃなかった」

「まったく……――はおバカです。気になったから入ってみようだなんて…」

「だってホントにクチバまで繋がってるか気になったんだもん……」

 

ディグダの洞窟から誰か出てきたようだ。

遠目ではどんな人物なのかは良く分からないが、どっちとも女性。

こちらの方に近づいて来る一人は動きやすいハーフパンツ姿。一人は少々動き辛そうなロングスカート姿だ。

ロングスカートの短い女の子には見覚えが無い。

だけどもハーフパンツの長い髪の女の子に少しだけ見覚えがあった。

 

「……いやいや、まさか」

 

だけども有りえないと判断して思考を止める。

 

「……ごめんねエリカ。ニビの博物館行けなくて…」

「まったくです。早くポケセン行ってシャワー浴びに行きましょう」

「……わかった」

 

二人組はこっちに向かって来ている。

どうやら髪の短いほうがエリカというらしく。

二人共服も髪も土で汚れている。

 

エリカと言う方と揉めている髪の長い彼女。……凹む姿はどうにも記憶に残る彼女で。

「……ナツメちゃん?」

「……?」

「……え…」

頬を土で汚し、あまりにも似ていたその彼女にナツメちゃんを重ねてしまい、つい呼んでしまった。

違う違う。

幾ら彼女が旅をしているからって……会うわけがない。

 

「あ、いや……ごめんなさい、人違いだったみた「トウカ君!?」……い…」

さっさと謝って船に戻ろう…………そう思っていた。

 

しかし呼ばれたのは初対面では知らぬはずの我が名前。

兎にも角にも、喜ぶべきは彼女か俺か。

長年の約束は思わぬ形で相成った。

 




不出来な……そんな気が。
もうちょっと感動的な再会にしてあげたかった。
技量不足が恨めしい。
ご不満の場合は脳内補完でお願いします。


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会いたかったらしい

※2015/9/8 年代の変更。1992→1996
      矛盾が起きていた具体的な年齢の変更


「えっと、よろしいですか?」

 

ビクッと身体が反応したのは少し大人びてきたナツメちゃんの隣に居る人からの声。

お上品な空気が漂う彼女はエリカと言うらしいが。

「もしかしなくとも……君がトウカ君でしょうか」

「え、はい…」

「ふーん……なるほど」

おそらくこの彼女は将来タマムシのジムリーダーになるお方。

聞かれて答えたのはいいけど……微妙な空気だ。

「……よし。ナツメ、私は先にポケモンセンターに行くから。ずっと待ってた人と話してきなさい」

「は?」

「ちょ、ちょっとまっ――エリカ!?」

スタリスタリとナツメちゃんから離れながら彼女は言う。

そして彼女はすれ違いざまに俺に言った。

 

「――ナツメはずっと待っていたんですよ。……言わずとも分かってますよね」

最後の底冷えするようなそんな声。

あ、あれ? この人ってこんな方だったっけ…?

泣かしたり悲しませたりしちゃいけないのは分かってはいるけど……タマムシジムリーダー怖い。

 

ただ話を聞く限り約束はちゃんと覚えてくれていたようで。

「ナツメちゃん」

「ひゃいっ!」

舌噛んでる。

それに顔真っ赤だ。

「んっ…ちょっとしか時間無いけど。……この後時間とれる?」

「う、うん…」

よし、少しあの人達と相談だ。

出港時間を延ばして貰おう。

「じゃ、後でポケモンセンターに行くから。……身体流しておいでよ」

「あ……そうだった……」

先程より凹むナツメちゃん。

髪はバサついて顔は土で汚れてる。

服も所々汚れてるし。

まぁ、誰かの前に出てくるような格好じゃない。

 

「それじゃ、また後で」

「うん……また後で」

終始顔を紅かったナツメちゃんと別れて、俺は乗船場に走って行った。

 

-------------------------

 

船長さんに事情を説明し、なんとか遅らせてもらえる事に。

アイツ等とお父さんには訝しげな表情されたけど。

そしてクチバのポケモンセンター、エントランスのソファーで待つ事20分。

ナツメちゃんちょっぴり遅い。

「ん……」

時計を見ながら待っていると、エレベーターから一人降りて来る。

長い髪をポニーテールにしている女の子。

服装はハーフパンツからスカートに変わってる。

ナツメちゃんだ。

こっちに気づいて気恥ずかしそうに近づいてくる。

「えっと。ごめんね、待たせちゃった…」

「気にして無いよ。それにそれだけ身だしなみに気を使ってくれたって事じゃないの?」

「……うん」

俺は首を振って先程まで考えていた事を否定する。

待っていたのは確かだけど彼女を姿を見てそんな事一気に吹っ飛んだ。

「なら気にしなくても大丈夫だって、ね?」

「……ホント?」

「うん、ホントに」

「よかったぁ…」

さっきまでがクールな印象なら今は年頃の女の子って格好。

よく似合っている上に、表情豊かな彼女はとっても可愛らしい。

「時間もそんなに無いし……外に出て少し話そう?」

「うん、わかった」

そしてカタカタと腰のボールが揺れるのを無視して、ナツメちゃんを連れ立ってポケセンを出た。

 

 

ナツメちゃんに強請られ、今までして来た事を話しているとクチバ郊外の湖に着いた。

話した内容と言えば、ポケモンの復元に付き合った事だとかカツラさんと試合をした事とか。

他にはピカチュウを捕まえた話、ロコンとガーディを捕まえた話といったかなり前の話も。

そして今は湖の縁に座り、話していた。

「……それで俺は大学を卒業して一応トレーナーになれる歳になったんだけど…」

「え、そうなの!?」

「だって今ナツメちゃん13歳くらいでしょ?」

「うん、今年で13。そういえば二歳年下だったねトウカ君」

「忘れて貰っちゃ困るぜお嬢さん」

「ふふふ、似合ってないよー?」

「うん、自分でも思った。……あ、ナツメちゃんの話聞かせて貰っても良い?」

 

話しているうちに段々とナツメちゃんの緊張も解れてきたのか、笑顔が目立つようになった。

そして、そんな彼女が眩しいくらいに可愛いと思ってしまう。

 

彼女が話すのは俺がナツメちゃんと別れてからの話。

まず彼女は一年で超能力を制御出来るようになったらしい。

それから友達を作ろうとしたが、どうにも出来ず。

スクールの3年生からエリカというお嬢様の友達が出来た。

そのエリカさんとお泊り会した話、一緒にお昼ご飯を食べる時の話、と何処か寂しそうに話していた。

 

「それでね、私ちょっと前から旅を始めたんだ。エリカちゃんと一緒に」

「うん」

「それでヤマブキからシオンタウンに行って、そこからセキチクまで行って……」

「……」

「私、ポケモンセンターで、トウカ君が私の家に来たって、聞いて……約束を守りに来たって……」

「そうだよ。覚えてたから…」

段々と声が途切れ途切れになる。

「嬉しくて……覚えててくれたって。私、待ってた、から……」

「うん……会いにいけなくてごめん」

ナツメちゃんは泣いていた。

何故かは心を読まない限り分からないと思う。

でも確かな事は一つだけ分かっていた。

ただ漠然と会いたかった自分と、彼女は違う事。

彼女は本当に自分に会いたかったんだ……。

「私ね、トウカ君とね、一緒に、一緒に学校へ行きたかった」

「うん」

「……だからちゃんと、訓練、したん、だよ? ……トウカ君の事、好き……だから」

「うん…」

「それ、から……友達が出来たんだよ、って一番に、トウカ君に教え、たかった。一緒に勉強もした、かった」

「ごめん……」

ボロボロと嗚咽を鳴らし、ナツメちゃんは泣く。

 

……やはりこの感情は違うようだと改めて思った。

大人目線からみた父性からくるモノでなく。

ただただ彼女の事が好きだと言う事に気がついた。

 

阿保らしい。

一々理由付けて会いに行かなかった事が。

 

殴りたい。

言い訳して誤魔化していた、情けなくてどうしようも無い自分を。

 

だからせめて、今からでも筋を通さなければいけない。

――いや通したい。

「……ナツメちゃん」

「なに?」

ポツリポツリと涙を流す彼女の顔をこちらに向け言う。

「約束したこと覚えてる?」

「会えなかったら、遊べなかったら…言う事を、聞く? ……でもなんで…」

そう、あの指きり。

なんだか矛盾したあの約束。

「うん。だから……今日“会えなかった”し“遊べなかった”」

「え……」

「だから一つ言う事聞いて?」

「う、うん…?」

少し深呼吸。

トウカ11歳、これから男になるのだ。

顔は耳まで真っ赤になってるだろう。

「俺と――」

 

-------------------------

 

「行ってきまーすっ!」

「気を付けろよーっ!」

船の手すりから身を乗り出し、離れていく陸地にいる我が父に手を振る。

「元気で――ッ! 私! 待ってるからぁッ!」

声のする方向は父の隣。

彼女、ナツメにも見えなくなるまで手を振り続ける。

 

 

俺の言った内容は二人の秘密。

彼女がした俺への要求は図らずとも俺と同じで。

ただ一つ。

また約束した。

今度は期限付きで、果たされるのは半年後――1996年の秋。

 

光陰は矢の如く。

過ぎるか否かは俺達次第と言っておこう。

 

 




凄いだろ。この二人、十一歳と十三歳なんだぜ(タッチ風に。

一章とも言うべきカントー地方・幼年期が終わりました。
次回からホウエン編。
図らずもゲームの出た順番(ホウエン→シンオウ→イッシュ)で話を進めていきます。

それでは。


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・遠征調査+開始(カントー~ホウエン)
到着らしい


日差しの射す甲板には数匹いる、キャーキャーと鳴くキャモメの声。

カントーと比べ比較的温暖な気候のホウエン地方。

 

その海域にて現在、一隻船が進んでいた。

言わずもがな、我々一行である。

目的は配達兼遠征調査。

……しかし今はのんびりと各々が休息を取っていた。

ある者は読書。

ある者は手持ちのポケモンと遊んでいたり。

ある者は……どなたのかは知らないが誰かのアルバムを見てニヤニヤと。

最後の奴については詳細を省く。

……鬱になるので。

 

カントー、クチバを出港して早二日。

船長さん曰く、そろそろ陸地が見えてくるとのこと。

早く着いて欲しい。

 

『ご主人』

「どうした? ピカチュウ」

 

カタカタと腰のボールが揺れ、話しかけてくる手持ちの一番古い相棒。

 

『……あのナツメと言うのは、ご主人の……何だ?』

 

何って。……それは大切で大事な――。

 

『……そうか。いや、なんでもないぞ、ご主人!』

 

ピカチュウは無理やり作った元気を出したかのような声を上げ、それから黙り込んだ。

ようやっと口を開いたと思ったらこれか。

彼女は船がクチバを出てからずっと落ち込み、口も碌に開かなかった。

何故かは分からない。いや知らない。

ただ、ロコンがガーディを放ってピカチュウを慰めていた。

おかげでガーディが俺に八つ当たりしてくる。

 

確かに知らないというのは嘘になる。

でもどうしようもない。

こればっかりは知らない振りをするしかないから。

ロコンに頑張って貰おう。

 

……はぁ。

いや原因は全部俺にあるのは分かっている。

分かってはいるんだ……少しミュウで癒させて貰おう。

〈……どうするの、私眠いんだけど〉

〈トウカあそぼー〉

めんどくさがりで臆病なミュウと、甘えたがりで臆病なミュウ。

何で同じ性格なのにこんなにも性格が違うのだろうか。

……意味が分からんけど。

ちなみに始めが元メタモン、後が古代ミュウ。

ますます謎が深まるポケモンの世界である。

 

とりあえず姿をメタモンに変えてボールから外に出す。

うにょーん、となっているメタモン姿のミュウを膝の上に乗せて撫でる。

ひんやりとしてて気持ちいい。

今は悩み事は忘れて少し眠ろう……

「気持ち良いなぁ……」

〈……ねむい〉

〈うー………僕も眠くなってきた…〉

 

ミュウが眠り俺がまどろみながらも、船はゆっくりと、しかし着実に。

……目的地であるカイナシティに向かって進んでいた。

 

-------------------------

 

夕方。日が傾き、周囲を紅く染める頃合に船はカイナへと入った。

研究室の面々は初めて見るポケモンの姿に目を丸くさせており、何処の外国人観光客か、と問いたくなったのは仕方の無い事だろう。

やはりと言うべきか、どうやらポケモンによっては生息域を変える事が殆ど無いためである。

ズバット系統はどうにも幅広く洞窟と言う一点のみが生存条件らしく、かなりの地方で確認されているらしい。

 

逆に図鑑の生息地に不明と出ているものは、どうやら頻繁に生息地を移し変えるようで。

渡り鳥のような性質でも持っているんだろうかと思ったのは、何人か今までに学者の中でもいたらしい。

……しかし、残念ながら規則性が無かったため研究は取り消しになったらしいが。

 

「室長、世界って広いですね……」

「そうだな」

「此処からは室長だけ別行動……でしたっけ?」

「そうだな」

「こっちにはポロックと言うお菓子があるとか」

「そうだな」

「……コンテスト会場もあるとか」

「そうだな」

「室長結婚して下さい!」

「そ……戯けが、アグ○ス呼ぶぞ!」

 

油断も隙もあったもんじゃない。

もーやだこいつら。

誰だ結婚してくれとか言ったの。

お前等アブノーマル過ぎるわ。

 

「――おい、やめろって。室長には想い人がいるんだから」

「――そうだった。ナツメちゃん……だったか?」

「……なんでお前等知ってるの?」

「いや、奴らに聞いて……なぁ?」

「はいアイツらです」

 

指さすほうを見ると四人ほど固まってこちらを見ている。

あ、手振りながら微笑んでる。

こっちも笑顔で手を振り返しとこう。

 

「室長、それが原因って分かってます?」

「うん分かってる」

「……黒い、笑顔が黒いです」

 

アイツ等覚悟しとけ……。

ま、とにかく今は忘れとこう。

 

「とりあえず今からハジツゲタウンに向かい、当初の目的を果たす! それから調査活動及び拠点の確保だ!」

「「「「「りょーかいでーす!」」」」」

あ、一つ忘れてた。

「……その前にひみつのちからの技マシンを買っておこうか」

「えー……」

えー、って言うなよっ!

必要なんだよ、お前らぁっ!

 




某日某所。

「こちらアーボ。室長の後をつけたらラブってた。アーボックどうぞ」
「こちらアーボック。二十メートル地点会話の傍受に成功。どうやら室長は監視対象A・推定12歳を泣かせた様子。判決は?」
「ギルティ」
「ギルティ」
「ノットギルティ。室長が好き? ハッ! 私の方が万倍好きよ!」
「ショタコンお前は帰れ。で、どうする……我々以外にもあの二人を付けている者が一名。一度接触を図るか?」
「しかし室長の困っている顔は確かに可愛いと思うのだが……ちなみに接触するべきと私は考える」
「お前もか。ショタコン帰れ――しかし対象Aが泣いた今接触は危険」
「お前もだろう室長コンプレックス……仮にだが室長が涙を堪えている姿は?」
「萌える」
「抱き占めたくなる」
「お持ち帰りしたくなる」
「お前等最低だな。……ちなみに俺はそっとハンカチを差し出し涙を拭う」
「「「紳士や……紳士がおる……」」」
「その後お持ち帰り」
「「「お前もか…! 変態と言う名の紳士…!」」」


「うまい事やってますね。長く待ったんですから告白なりなんなりして貰わないと……愚痴を聞かされる私の身にもなってください。まったく…………それにしても何人か出歯亀がいるようです――通報しましょうか」


「接触対象αがなにやら通信機のようなものを……て、撤収だ! 奴め俺達の事に気づいてやがった!」
「最後まで聞きたかったなぁ……室長の告白……」
「くっ……仕方ないさ」
「良いから早くしろ! いつ捕まるか分からんぞ!」


「行きましたね……私も退散っと。……頑張れ、頑張れ」

――某日某所。
コッソリとナツメの姿を見守る、お嬢様は静かに立ち去った。

-------------------------

以上、後書き使った裏話。

今回出来が悪かった。
罵るが良いさっ!(ガクブル

ピカチュウはちょっぴり鬱気味。
復活には少し掛かるかな?
それでは。


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新居らしい

懐かしいBGMを頭の中で思い出しながらただ歩く。

場所はハジツゲ。

カイナで確認したけどもコンテスト会場があった。

バトルテントじゃない所を見るとまだバトルフロンティアは出来ていないみたい。

 

桟橋を渡ってマユミさんのお家へ。

お供には二人。

研究室でも比較的ノーマルの奴らを連れてきた。

……ちなみにあの四人はポケセンで留守番である。

 

「しんどい……」

「室長、元気出して! ほら、見えました」

「うん……疲れたぁ…」

主にあの四人組の対応に。

思い出しただけでもSAN値がガリガリ削られる。

……身投げしたくなってきた。

「あい、きゃんふらーいっ!」

「しつちょぉおおおお!」

「ちょ、止めてくださいってぇ!」

「HA☆NA☆SE!」

「ダメですってぇ!」

二人に止められた。

「……もうやだ、お家帰る」

「幼児退行したっ!? 室長、正気に戻ってくださいよぉ!」

「帰るお家遠いですよ。背負いましょうか?」

「……うん」

「いいんだ!? それなら私が背負いますって!」

「……うん」

「いや、私が背負うんです!」

「…………うん」

……もうお前等好きにして。

俺、帰ったらナツメちゃんと結婚するんだ……。

 

 

トウカ十歳。

死亡フラグを建てつつ、やっぱりこいつ等もか、と絶望しかけた曇り空だった。

 

 

研究員二人がギャーギャー言いながら、いつの間にか着いていたマユミさんの家。

「ごめんなさい狭いですね。……どうぞ、粗茶です」

「……有り難う、マユミお姉さん」

「頂きます…」

「何かすみません……家の前で喚いてしまって」

「いえ、お気になさらず」

お盆を持つ彼女は十分美人。

しかし、家の中が散乱している。

家に上げた途端百年の恋も……さめるかさめないかは人それぞれか。

 

現状はマサキのように食事の後が散らかってるというわけではない。

それでも人ひとり通れるか通れないかの瀬戸際までパソコン差し迫り、資料が積み重なっている。

正直、よくこの家に住んでいれるな、と言うくらいだ。

「さっそくでアレなんですけど……」

「あ、そうだった。……はい、アイツからのお届け物です。この中に大本のデータは入っているらしいですよ」

「そうですか……さっそくとりかかりますね。後はデータどおりにカスタマイズするだけなんで二、三日位で出来上がると思います」

「はぁ、さいで」

 

結構彼女は凄いのだろう。

それにマサキと同じで、この人も大概ポケモンのこと好きなんだと思う。

時折資料の間からポケモンのイラストが見えたりしているのを考えると。

……結構上手いな。

 

「……それにしても狭くないんですか?」

研究員の一人が聞く。

聞いちゃダメな質問じゃないか、それ。

「あ、いや…………狭いです。でも家賃、此処しか払えないので」

「それは……要らぬ事を聞きました…」

まったくである。

……それにしても狭い気がする。

何か良い案がないかなぁ。

 

もうちょっとで出てきそうなんだけど。

 

「あ、そうだ室長。そう言えば拠点どうします? ……カイナでひみつのちから買わせてましたけど…」

「あ、うん。何処かに小さなくぼみが…………うん?」

……そうか。

そうだった。

確かこの周辺にはかなりあったはず。

「……どうかしました、室長?」

だから、ミュウに覚えさせて。

それから確か……ピカチュウ、ロコン、ガーディが覚えてた。

なら後はマユミさん次第。

 

「マユミさん、……引越ししませんか?」

「え?」

「こちらでの研究拠点を作るんです。……ただどうしてもずっとこの地方にいるわけじゃないので」

「……な、なるほど……」

「管理もキッチリしてくれるのなら俺達としてもありがたいんですが」

「そ、それで……ちなみに何処になるか聞かせてもらっても?」

「それは――」

 

-------------------------

 

ひみつのちから。

 

ホウエン地方に存在する大きな木、草の中、岩壁に空いた小さなくぼみ等に使う事の出来る技。

使えばそこに秘密基地の入り口を作る事ができ、中を自由に飾る事が出来る。

予想では大きな木は木の上にそれなりの床を作り、草の中にはそのまま草の中に作る。

そして岩壁の小さなくぼみは、場所によるが大抵が壁の中。範囲と奥行きの狭い壁の場所は地中に出来た。

 

此処までがゲームに基づいた予測。

しかし現実はどうなのか。

正解は壁の中に出来た空間は、あなをほるを使って広げられる。

そのため小さな窪み群であるりゅうせいの滝周辺の秘密基地は繋げる事ができて、

 

「すごい。胸が、熱くなるな……」

「ヤバイ、自分の家より広い……」

「いいなぁ……私もここで住みたい」

マユミさんの家を訪れた翌朝。

寝ぼけ眼をこすりながら、研究員全員を遠足感覚でマユミさんの家まで連れてくる。

自分を除き、研究員総勢九人が来た時感嘆の声を漏らした。

 

一夜にして研究拠点兼マユミさんの新居は山一帯に広がった。

ちなみに地盤沈下、地滑りが怖いが、その辺はちゃんと確認して行っているので問題ない。

即ち超巨大秘密基地の完成である。

 

そう、此処に浪漫は相成ったのだ…!

 

研究室の男連中は狂気乱舞。

女子も少なからず嬉々としてお祭り騒ぎである。

秘密基地だから内部が豪邸並みに広くても問題ない。

後は引越し、模様替え、ライフラインくらいだけど……その辺りは此処に残る奴らに任せようか。

 

「ホントに良いの……?」

「俺達も使うんで。居住環境は……」

「いや、それくらいは自分でやります! ……にしても一晩でコレですか。凄いですね、トウカ君のポケモンさん達は」

「当たり前です。なんたってこいつ等なんですから……」

……特にピカチュウ。

一番古くて、一番信頼の出来る、一番のパートナー。

彼女も昨日は頑張ってくれた。

地盤のゆるい所は補強してくれたし。

部屋を繋げるのも彼女がやってくれたし。

マユミさんの借家と此処を繋げる作業もやってくれた。

そして何よりも、こんなダメなトレーナーのなり損ないについてきてくれる。

 

……なぁ、ピカチュウ。

『な、なんだご主人?』

本当にお前には助けられてばっかりだ。

してやれる事も無い。

それ以上に迷惑かけてばかりだ。

『……』

お前の今の状態にも気づいている。

……俺が悪いのも。

『……ごしゅじん』

ごめんな。

情けないこんな俺で。

『――今日の夜、毛づくろい頼めるか?』

あぁ。

幾らでもやってやる。

お前の気が済むまで。

『……うぅ…』

 

「……良いですね。とても」

「はい、俺の誇りですよ」

「フフフ……そうですか。マサキ君が君を来させたのも何だか納得です」

 

ピカチュウが声を押し殺しながら泣くのを頭に入れ、ピカチュウのボールを撫でる。

マユミさんがそんな俺を見て微笑んでいた。

 

 

秘密基地を整えた後。

遅めの昼食を取りにポケモンセンターに向かい、済ませ、借りていた部屋に行ってピカチュウに毛づくろいを施していた。

ピカチュウは少し目の周りが赤い。

マユミさんとの会話から、相当無理をしていたようでしばらくピカチュウ泣いていた。

 

「……そういえば捕まえた日、こうして毛づくろいしたっけ」

『――そうだな。思えばもう五年か……あっという間だった気がする』

「確かにあっという間だった。……なによりお前やガーディ達、ミュウにも出会えて楽しかったし」

『あぁ、充実していた』

「うん」

やけに今日は感傷に浸る。

もう俺が転生して十年。

始めの五年の頃は“俺”とは言えない“僕”だったけど。

それでも色々と楽しかった。

 

……

 

……ただ。

ただ俺には好きな子がいて、慕ってくれるポケモンがいる。

それが複雑だった。

ポケモンの意思が分からないのだったらこんなに頭を悩まさなくても良かったのかもしれない。

トキワの能力と孵す者、そしてありとあらゆる才能を努力で引き出せる力。

どれも無いものからしてみれば羨ましいと思うような神様が与えた異能だろう。

この能力があって厄介なことだと思うのは贅沢な悩みか。

ナツメちゃんが超能力を疎ましく思っていたのも今ならわかる気がする。

 

「侭為らんなぁ……」

『んー……どうしたマスター』

「なんでもない。……さて、そろそろ終わるよ?」

『うん。確かこの後の予定は買出しだったか?』

「おぅ。行った事無い所だけど大丈夫だろ。さて、ピカチュウ。こんなご主人だけど……一緒に行ってくれるか?」

『了解。――何処までもついて行くよご主人』

 

ピカチュウも元気が出たことだし。

あいつ等連れてミナモに行って道具買ってきますか。




ピカチュウさんを元気付けよう回。

ちょっと長めでした。
出来はいつもながらイマイチです。
そしてツッコミどころ満載。
でも山一帯が秘密基地とか……浪漫よね!


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当たったらしい

色々注意。


ミナモシティ。

マスターランクコンテスト会場のある都市。

海に面する都市でビーチは勿論、美術館と博物館、巨大デパートと観光名所が多々あるため、春夏問わず観光客も多い。

 

よくゲームの中ではコンテスト会場に入り浸り、マスターランクをクリアしてやろうと奮闘したものだ。

ちなみにラグラージが美しさの部門で優勝した。

あの時は嬉しさのあまり狂喜したのを覚えている。

他には一日一回、デパートの中で行われるくじ引きだとか。

一等がマスターボールで、よく四等のポイントアップが当たった記憶がある。

 

そんな俺にとっては懐かしい街の一つ。

そのミナモデパートに俺達は来ていた。

 

ぞろぞろと研究員を引き連れて買った家財道具はベット十台、マット(大)十枚、棚ニ個である。

ベット、マットについては各自好きなのを買い、棚については俺のお小遣いから出した。

コレが結構痛かった。

お財布に大打撃である。

 

さて、過去の痛みは忘れて行った一階受付で行われるくじ引き。

気分転換にやったのだが。

 

さて、やけにご機嫌なピカチュウさん。

『どうした、ご主人♪』

.……くじ引きの結果弄ったろ。

『……』

 

俺の手にあるくじと、受付でパソコンに映し出される番号をお姉さんの声。

引いたくじの五桁。

その五桁は本当に偶々(・・)お姉さんの読み上げる数字と一致していた。

 

 

『てへ☆』

テヘじゃないよ!

 

 

電気系統に異常に強いピカチュウのおちゃめを叱りつつ、マルチタスクを使いながら受付で注意事項の書かれた紙に目を通し、サインをする。

マスターボールを扱う際の注意事項、と言うのが薄っぺらいこの紙の題名である。

要所要所を簡潔に挙げるなら、要は「犯罪に使うな」という事だった。

寧ろ犯罪に巻き込まれる気がするのだけど。

……いかん、フラグが立った気がする。

まぁ、そんな些細な事は、今は遥か遠く彼方に投げ捨てよう。

 

契約書のような紙を受付のお姉さんに渡して現品を貰う。

受付のお姉さんから恐る恐る渡された、メノクラゲもしくはドククラゲのような外見のこのボール。

空気抵抗とか投げる時変化球になりそうだとか、そんな邪推はおいといて。

 

初代から一貫して公式チートなこのボール。

トレーナー諸君からは喉から手が出るほど欲しい一品だが、現実に持つとどうにも面倒くさい。

研究室の阿呆どもは、流石室長! と喚くし。……何が流石なのか教えてもらいたい所。

先程の受付のお姉さんはぽーっとした表情で惚けてるし。……ごめんなさいウチのピカチュウが。

ピカチュウは何でか拗ねるし。……なに? プレゼント? ……可愛い奴め。

 

 

そしてその中でも俺のライフをガリガリ削ってくれるこの方々。

 

殺してでも奪い取る、と鬼気迫る表情でやってきた蒼い装束のカルト集団。

――アクア団が俺の後ろで拗ねたピカチュウを前にのびてるんですが、如何したらいいんだろう。

 

-------------------------

 

カルト集団――アクア団。

ゲームにおいて、ルビーでは正義の味方。サファイアでは悪の組織。エメラルドではサファイアと同様、マグマ団と並び悪事を働く集団とされている。

ルビーでは、陸地を増やそうと画策するマグマ団に対し海を守ろうとするのが彼ら。

サファイア、エメラルドでは海を増やそうとしていた。

 

しかしよくよく考えてみれば、共通して彼等は海を主軸に活動する組織。

海を司るカイオーガが彼等の手にあれば、どの立場としてもマグマ団に対し優位性があるわけで。

捕まえるためマスターボールを欲するのも話が通る。

ルビーでマグマ団がマスターボールを持っていたのも同じ理由だと思う。

 

ただ、別にそのマスターボールが俺のじゃなくても良いじゃないか。

挙句、アジトに置きっ放しにして主人公に持ってかれるし。

奪ってみたのは良いものの、藍色の珠で制御するほうが効率が良いとか思ったんだろうか。

 

……はぁ。

 

で、だ。

 

「勘弁して下さい……お望みがあれば聞きますので……」

 

現在、ミナモシティの沿岸の洞窟。

その中にある立派なアジトで俺とアクア団のボス、アオギリはお話していた。

アオギリが謝ると言う形で。

 

頭領(ボス)! こんなガキに頭下げること無い!」

「黙れ! お前はあのピカチュウの恐さが分からないからそんな事言えるんだッ!」

 

幹部の発言に震えながら怒鳴るアオギリ。

ちなみにピカチュウの被害者である。

いや、この人達が襲ってきたから被害者も加害者も無いんだけど。

ちなみに研究室の皆には先に帰ってもらった。

 

「(おい。頭領(ボス)が怯えてんぞ)」

「(あぁ、こんな様子見た事ない)」

「(怯えた頭領可愛いhshs)」

「(なにあの子、可愛い……)」

「(同意。テイクアウト出来るかな)」

 

アオギリの後ろで、扉から覗いているアクア団のメンバーらしき人達がコソコソと話している。

何人かから身の危険を感じさせられるが、気のせいと言う事にしておく。

 

「それで、どうすれば見逃してくれますか」

主にアオギリの視線は手元のピカチュウに向かっている。

牽制の意味も含めて出しているんだけども。

「えっと……そうですね」

……どうしたらいい?

『悪の組織だったか? なら慈善事業に転職しろとでも言えば良いと思う』

いや、うーん……それはソレでなんか違うと思うんだ。

なにしろ海を信仰してるんだし…………うーん。

 

「じゃあ一つ。―――作れますか? というかやれますか?」

「「「……はぁ?!」」」

 

俺の提案は終始黙っていた二人目の幹部さんも度肝を抜いたようで。

少々慌しくなる空気の漂ってきたアクア団だった。

 




アオギリさん好きな人達に謝罪をば。

組織って少なからず変態も集まると思うんだ。
それでは。


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アグレッシブらしい

アクア団のアジトから、テレポートで拠点に帰った。

エスパーポケモン持ってるんだ、と言う事にしているため俺自体がエスパーだと言う事はばれて無い。

……そのエスパーポケモン(ミュウ)もバレたらバレたで大問題になるけども。

 

そしてテレポートで自室と言う事で割り当てて貰った部屋から、休憩室兼リビング的な場所にでると、そこは酒気に満ちていた。

「……お前等何飲んでんの?」

「「「おしゃけ~!」」」

女研究員三名、デロンデロンである。

男どもは全員既にダウン。

一升ビンが10本くらい転がっている。

ついでにだがマユミさん部屋の隅で酔って寝ていた。

 

「しつちょー! しつちょーものみましぇんくぁ~?」

「私とー良いことしにゃい?」

「あはははは!」

 

色々とアウトだ。

 

「呂律が回ってない上に誰が子供に酒勧めてんの!? そしてショタコン! お前も自分の部屋に帰れ! こら! 服を脱ぐな、服を着ろ! お前は水飲んで寝ろ! この笑い上戸め!」

 

しかし、あははは、と笑うだけで話を一つも聞かない。

……仕方ないな。頼むミュウ。

〈えー……催眠術ー〉

〈……催眠術〉

ボールから出した二匹は一人づつ確実に眠らせていく。

その後、タオルケットを全員にかけて一応酒乱騒動は収拾。

 

明日説教しないと、と少し考えて俺は自室に戻って寝た。

 

 

翌朝。

窓から入る光で目が覚めた。

「ん――?」

目を覚まして違和感に気づいたが、納得。

一昨日前に作った拠点であり、その自室だった。

ボールベルトを腰に巻いて部屋から出る。

 

「アルコールくさっ!」

……昨日の惨状のままだったため思わず鼻を押さえた。

ただ、何人か既に起きており、頭を抑えながら部屋の片付けをしている。

二日酔いらしい。

「いてー……室長おはよーございます」

「……おはよーごぜーます」

「ん、お早う。大丈夫じゃなさそーだな」

「はーい……」

転がっている一升ビンを拾い、ちょっと匂う。

……やっぱり苦手だ。

「室長ダメですよ、子供がお酒飲んだら」

「わーってる。……そこに転がってる三人に言ってくれ。泥酔してこいつら俺に酒勧めてきやがった」

近づいてゲシゲシとわき腹を小突いてやる。

ふふふ、苦悶の表情だ。

「うわぁー…………説教ですか?」

「うん、後で説教。……水要る?」

いつの間にか配備されていた水道から、昨日買ったであろうコップに注ぎ渡す。

 

「ありがとー御座います。――こいつ等もお気の毒に」

「あ、お前等もだからね?」

「「「「……え」」」」

 

「朝食とってくるんで後よろしく。行ってきまーす」

「鬼しつちょー!」

 

テレポートで出て行ってやった。

帰る頃には全員起きてるだろ。

 

-------------------------

 

正座しているアイツ等の足を踏んでやりながらする説教も終わり、当初の予定通り拠点周辺のポケモンから皆はデータを取り始める。

これにはマユミさんも手伝ってくれるそうだ。ありがたい。

 

しかし、俺は皆とは別行動。

 

「いやー凄かった。滝といい鍾乳洞といい……さて、カナズミまであっとすっこしー」

今は旅モドキをしながらある所を目指し、変な歌うたいながら歩いていた。

 

「……よっと! にしてもお爺ちゃんも人が悪い。急に言ってくれたら困るって」

〈化石の復元だっけ? 僕が復活した〉

「うん。――ま、今回は技術提供ってだけだけど」

念話で話しかけて来るミュウと会話しながら、段差を飛び降りる。

ちなみに向かう場所はデボンコーポレーション。

シルフと並び、安全性機能性等々保障されている大きな会社である。

その会社にグレン島の化石復元の技術諸々を提供してくれと、学会からオーキド博士を通じてお達しがあった。

 

一応、あの化石の復元というデタラメな技術については大学の四年間で教えて貰ったため、説明は出来る。

 

人使いが荒い話だ。二ヶ月で色々と見て回りたいというのに。

 

ゲームの中では社長さんがポケナビをくれたりと、親切な会社。

ただこの地方のチャンピオンが御曹司なのだからビックリだ。

 

……もしかしたらいるかも。

そんな事を考えながら、カナズミシティへと俺は足を踏み入れた。

 

 

デボンコーポレーション。

今まで見たなかでもこの建物は、優美さにおいて一線を画していた。

例えるなら西洋の城とでも言おうか。

それなりに財力を有している事を如実に示している。

ゲームの中ではかなり主人公に親切な所であった。

……まぁ、アレは社長さんの人柄故かもしれないが。

そしてこの会社の御曹司でホウエンチャンピオン――ダイゴ。

これ以上に無いってくらいダイゴという男は色々と出自にも才能にも恵まれていたようだった。

ただ周囲からの評価は「変わり者」。

ゲームの中でも石のためならば何処までも……というような感じだった気がする。

ただ、人一倍に正義感や義務感を持っていて、知り合いにいるならば好感が持てる人物だろう。

現にエメラルドの主人公は一度と言わず、何度か彼と共闘しているし。

 

さて、なぜこんな前知識の確認をしているか。

 

「カントーで有名な博士君……だったかな?」

「良く知ってますね。……そんな有名じゃないと思ったんですけど。ダイゴさん」

「いやいや。弱冠十歳で博士号を学会から与えられてるんだ。有名じゃないという方が可笑しい話さ」

「……はぁ」

 

目の前にその人がいるからである。

とりあえず王者のオーラがハンパでない。

おうじゃのしるし付けてたらこんな威圧感でポケモンひるむのかな、とか現実逃避したくなる。

……いや、現在進行形でしてた。

 

「それで、どうしてここに来てくれたんだい?」

「ダイゴさま、トウカ君はカントーで成功した化石復元についての技術提供に」

「……それは本当かい?」

「まぁ、実際に初めての復元の際には立ち会いましたし。理論もバッチシ頭の中に入ってます」

「それは中々。伊達に博士と言うわけではないと言う事か」

「そんなとこですかね」

 

化石部門の人に話していた所にやって来て出会った。

彼が流星の滝を採掘していたら化石みたいなんだけど、と此処の部門の人に持ってきて。

ゲームで見た高そうな服じゃなく、作業服に砂埃をつけながら石を見せに来た彼はとてもアグレッシブである。

色々と自分の中で作ってたキャラの崩壊が凄い。

いや、予想していたにはしていたけど。まさか此処までアグレッシブな人だとは思わなかった。

 

「それにしても古代のポケモンか。化石がポケモンになるなんて……あぁ、早く会いたいね」

「そうですね。この地方とカントーでは違うみたいだからちょっと期待です」

知っているけど。

それに、俺の手持ちにまさか甦ったポケモンがいるとは思わないだろうし黙っておこう。

 

 

化石についての用事も終わり、デボンの休憩室で現在お茶を飲んでいた。

やはりと言うべきか石マニアの彼の話は面白かった……何処ぞのポケモン預かりシステム作ったオタクとは違って。

そんなこんなで結構話も弾んで、若干自分の敬語も薄くなってきた頃。

「ふーむ。それじゃあトウカ君はコレから予定は特に?」

「うん。後はちょっとカナズミ見て回ろうかな、って……なんで?」

 

「いや、君とバトルしてみたいな、と思ってね」

 

「……へ?」

――本当に、なんで実力者とばかりポケモンバトルするんだろう、と思う。

いや、実力者とやるのは別にいい。色々と学べるから。

ただなんで五回目でチャンピオンと対決になるのさ。

――……泣いていい?

 




未成年の飲酒は厳禁です。

一応この世界では18歳が成人です。
10歳大人法なんて無かった。

ちなみにダイゴさんのアーノルド(修正:アーマルド)、ユレイドルはまだいません。
作者はラグラージでユレイドルに苦戦した。


アーノルドってww
自分で書いてて気づかない。
シュ○ルツェ○ッ○ーって……手持ちにいたら怖いなぁ……。


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違うらしい

カナズミシティ、公共バトルフィールド。

公園に隣接するそこに俺とダイゴさんはいた。

 

「――さて、ルールはどうする?」

「シングル3v3でお願いします」

「了解。おいでメタング」

 

ダイゴさんはボールからメタングを繰り出す。

彼の最終進化系のメタグロスにはお世話になったものだ。

たしかルビーで最後技PPが切れて悪あがきで倒したなぁ……。

いやいや、今はバトル。古い思い出に浸ってる場合じゃない。

集中集中。

「まぁ、此処は妥当に……」

ロコン辺りか。

……行ける?

『良いですよマスター。ガーディが行ってひんしになるくらいならわたしが出ます』

『あるじぃ、嫁が酷い……』

知らんがな。惚気んな。

 

というか嫁呼び止めろ。

 

『……そんな、嫁だなんて……』

 

ほらぁ、ロコンの奴照れて使い物にならなくなるじゃん。

おーい、ロコーン。

 

『な、なんですかマスター。あ、そうですね! 私行きます!』

 

一応復活したロコンを外に出す。

特性日照りのせいで少し気温が高くなる。

「へー……それが君の。ちょっとロコン顔が赤くないかい?」

「気のせいじゃないですか?」

『……嫁呼びだなんて……恥ずかしい』

訂正。まだ復活しきれて無いみたいだ。

 

「じゃ、始めようか……メタング! 影分身!」

「な……!」

『に、二体になった……』

まさかの初っ端で変化わざ。

それも「当たらなければどうと言う事は無い」でお馴染みの影分身。

ロコンも驚いたようで正気に戻った。

いやはや流石チャンピオン。一筋縄ではいかないな。

現在、メタングの姿は二つ。

ゲームと違い、当たる確率も本来の二分の一になってそうだ。

 

ただ、それも単体(・・)への攻撃であれば、だけど。

――熱風だ、ロコン。

『熱風!』

 

メタングの居た場所を中心に熱い風が起こる。

 

「指示がない!? メタング、高速移動で逃げろ!」

 

影分身は消えるが、本体は高速移動で安全圏へと逃げる。

が、それも一歩及ばず。

範囲から逃げる前に墜落し、戦闘不能になった。

 

うん? んん?

そんなに火力が高かったか、今の。

『マスター? それなりに威力高いんですよ、熱風って』

いや、うん……ダブル用になったら威力落ちるというか……

『え、ピカチュウさんが教えてくれたのがこれなんですけど』

……ピカチュウの仕業か。

 

「……戻れメタング。……それにしても……良く育てられてるし、信頼関係も固い様だ」

「いや、まぁ程ほどに」

「少し本気出さないと負けるかも、ね。――行って来い、ボスゴドラ」

「は?」

思わず声を上げてしまった。

目の前には彼、ダイゴを覆い隠すように立つ怪獣。

「え……」

ロコンとは一回りどころか十回りくらい違うボスゴドラが居た。

 

「驚いたかい? コイツはボスゴドラと言ってね。僕がトウカ君よりも小さい時にココドラ……進化する前に捕まえたお気に入りなんだけどね」

「……はぁ」

「さっきのメタングも僕の好きなポケモンさ。……だからこれからちょっと敵討ちみたくなるから、先に謝っとく……地震だボスゴドラ」

「はぁ?!」

いやいや驚いてる暇ない!

ロコン、何とかして避けて!

 

『え、えぇっ?! そんな無茶ぶり……』

 

返事がある間もなくロコンは揺らされて転び、土ぼこりで身体を汚す。

地震が収まった頃には、既にロコンは目を回し気絶していた。

……ちょっと待ってよ。

ダイゴさん容赦ないな!?

あぁうん。分からないでも無いけども。

 

「えっと……もしかしなくともダイゴさん怒ってます?」

「……ちょっぴりね。まさか進化して無いポケモンにやられるなんて思っても無かったから」

 

あはは……どうしよう。

多分あれだ。自分の見誤りでやつあたりされてる。

理不尽だけど……ちょっと気持ちが分かるからこっちも怒れない。

 

『私が行こうか?』

いや、うん。一番良いのはピカチュウだろう。

でも……ロコンの仇はガーディに頼むか。

 

「……ガーディよろしく」

『よくもロコンをォ!』

 

出して早々威嚇を始めるガーディ。

いや、だからお前“せいぎのこころ”だろうが。

なんで威嚇してんの?

 

『私は知らないからな。これはホントだぞ?』

……あ、そうなんだ。

 

「それがカントーのポケモンか。確か鋼タイプはそっちには居なかったと思うんだけど……なんで炎が弱点って知ってるのかな?」

ガーディの姿を見たダイゴさんが不思議そうに尋ねてくる。

あーどうしたものか。

ゲームやってて知ってました、なんて言えないし。

 

此処は無難に子供名探偵の常套句を使わせて貰おう。

「いや、雑誌で見ただけですよ」

「そうかい? いや、気にしても仕方ないか」

さて、こんな事してる場合じゃない。

早くガーディに指示を出すべきだ。

「……いけ、ガーディ!」

ただちゃんと聞いてくれそうになさそうだし。

うーん……ニトロチャージしつつもらいび発動させて、特殊系炎技で!

 

『了解だ主ィ! ロコンの仇ぃッ!』

 

ガーディは炎を身に纏い、口の中で青白い炎を燃やして走り出す。

さながらその速さは、かつての高速移動並みに早い。

そして地を蹴る力は、以前よりも力強かった。

そんなガーディの接近を堂々たる様子で構えるボスゴドラ。

 

「ボスゴドラ……カウンターでドラゴンクローだ…!」

 

ガーディが当たると思われた瞬間、ボスゴドラは腕に力を溜めて前方でクロスさせる。

炎タイプの赤い炎とは違い、蒼紅の炎がボスゴドラの爪から舞い上がった。

 

『突っ込まずに大文字だァ!』

しかし、ガーディはその一寸先で止まり、ゼロ距離からの大文字。

威力120の約3.34倍。

単純計算でも威力360を優に超える。

 

ボスゴドラは隙だらけの状態でまともにくらい、大の字の青い炎で火傷の痕を残して前に倒れた。

ガーディのレベル、ボスゴドラの特殊防御力の低さも相まってなんとか倒せたようだ。

にしてもステータス低く無いだろうか。……気のせいかな。

 

『うぐぅ……もう限界。ごめん主、もう無理だ。仇はとれたけど……』

ただ本当になんとかしてガーディは倒したらしく、ガーディもその場に伏せた。

 

「……まさか僕のボスゴドラがやられるなんて……」

「謝りませんよ。こっちも仇討ちなんですから」

ダイゴさんはボスゴドラがやられた事に驚愕している。

俺もしてるから仕方ないけど。

指示出したのは俺だけど、もらいび発動と他の技の発動を同時にするのは少し無理があったみたいだ。

それを無理やり成功させるのは才能とロコンへの愛ゆえだな。

 

「戻れボスゴドラ。……それにしてもこんなに強いトレーナーは久しぶりだ」

「戻れガーディ。……そうですかね?」

 

なんだかダイゴさんの怒りも一周して沈静化したようだ。

 

「いや、確かに君は強い。謙遜するのはいいけど余りしすぎると失礼になるぞ?」

「まぁ、素直に受け取っときます。……にしてもギャラリーが増えてきましたね」

見渡せば人が結構集まってきている。

 

「あぁホントだ。……ちょっとやり辛いな」

「確かに……」

なんか辛いな、これ。

見世物にされてる気分だ。

 

「はー……なんだかちょっと気分が乗らないな……どうする、続ける?」

「ちょっと辛いですけど……やると言うならやりますよ?」

「ははは……でも次、さっきのより強い子が来るんだろう?」

「まぁ――……バグが少々」

ホントにステータス狂ってる子が一人。

『誰がバグだ! 私は私だぞご主人!』

はいはい、分かっております。

『生返事! 絶対分かって無い!』

 

よし、ピカチュウは無視。

ダイゴさんと話が進まん。

まだカタカタ言ってるけど気にしない!

 

「……で、どうします? 丁度引き分けてますし次回に持ち越しと言うのは」

「なるほど、それも一つか。……正直な所今のままだと勝てる気がしないんだよ」

「え……」

 

チャンピオンが……?

いや、ちょっと待て待て。

 

「……もしかしてダイゴさんってチャンピオンじゃないんですか?」

「え? そんな訳無いじゃないか! ……というかどうしたらそんな話が飛躍するんだ!?」

「あ、聞かなかった事にして下さい……」

「えー……」

 

チャンピオンじゃなかったのか。

うわぁ…………俺、勘違いしてた。

なにさ、負けるって思いながらやってたのに……。

 

「トウカ君って結構あれだよね。自分勝手と言うか、奔放というか」

「あ、あはは…………初めて言われました」

「へぇ、そうなんだ……」

 

なんかグサッときた。

ちょっと自覚してるから尚痛い。

 

「……とりあえず今日はお開きにしよう。……皆さん終わりです! またの機会に!」

ダイゴさんが観客皆に見えるように手を振って人を散らす。

 

「終わりか……凄かったな、あの少年」

「あぁ、あのダイゴ君と対等にやりあえるだなんて……」

「こりゃあ、あのツツジちゃんよりも強いかもしれん」

「あのポケモン何処で捕まえたのかしらね…………ゲットしたら私もダイゴ君に勝てるかも!」

「――……」

「……」

 

色々と話しながら皆去って行く。

ちょっと恥ずかしいな、噂されるのって。

博士君って噂されるのとはちょっと違う恥ずかしさだ。

 

ギャラリーが消えて少しした後。

「ふぅー……楽しかったよ。今度するときは決着付けようじゃないか、トウカ君」

ダイゴさんが近づいて来て手をす。

「あー、はい。……今度は白黒つけましょう。ダイゴさん」

手を握り、握り返され、未来のチャンピオンとのバトルはお流れとなった。

 




今回もツッコミどころ満載、第二回バトル回。
ダイゴさんの口調が変わったり、色々。

無理やりな気が……いや、現実故に根性論が通じると言う事にして下さい。

作者は持ち前の貧乏性が発揮して、全シリーズ共通してPP回復系が勿体無くて使えない。
あるある……え、ない?

P.S.
ダイゴさん手持ち、
メタングLv42
ボスゴドラLv44
エアームドLv43(出番無し)
でした。

エメラルド共闘基準です。
ただ技については一部変えてます。



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くれるらしい

ダイゴさんとの勝負も終え、俺はデボン本社に戻っていた。

なんでもダイゴさんが俺に何かくれるんだとか。

ありがたいけど、ちょっと気が引けてしまう。

 

「いいんですか?」

「構わないよ。敗者が勝者に賞金を与えるのは当たり前の事だからね」

「いやいや。勝つも負けるもないじゃないですか。引き分けだったんだし」

「じゃあ僕からのプレゼントだと思ってくれ。……あった。これこれ」

ガサゴソとダイゴさんが引き出しから出したのは炎の灯った赤い石。

「炎の石…?」

にしては大きい。

丁度一回りくらい。

それに炎が二つあるように見える。

「……そう、炎の石。実はこれ二つなんだ」

そういってダイゴさんは石をずらす。

見事に真ん中で二つに割れてる。

 

「元々一つの石だったんだよ。ちょっと採掘の時に落として割れてしまって。本来なら使いものにならないんだけど……綺麗に割れたからとっておいたんだ。そしたらどうやらまた使えるようになってたみたいで。……売りに出すのは勿体無いし、かといって僕が使う事も無い。だから君に上げようと思って」

「え、でもコレクションの一つなんじゃ……」

 

石マニアの彼が渡してくれるなんて何があったんだ?

 

「あぁ、確かに炎の石に戻る前まではコレクションだったけど。……僕、用途のある石は売りに出す主義なんだよ」

「そうなんですか…」

 

ビックリだ。

そんな事実があったなんて。

 

「ただどうにも、この石は何処かで別々に売るのは勿体無いと思って。……だってこの石、まるで恋人のようじゃないか」

「恋人……」

「そう。合わせると一つ。だけどこの(ひと)とぴったり合うのはこの(ひと)だけ。……なんだか運命の相手みたいな感じでね」

「……そうですね、確かにそんな気がします」

 

腰のボール二つが揺れている。

照れてるな、こいつ等。

 

にしてもロマンチストな人だ。

すげーよ。恥ずかしげも無くこんな事言えるなんて。

きっとこういう所が女の人にも凄くモテるんだ。

流石は未来のチャンピオン、伊達じゃない。

 

「……で、トウカ君なら有効活用してくれると思って。はい」

「あ、はい。でもホントに……?」

「いいんだよ。所有者の僕が言ってるんだから。……君の二匹の炎タイプのポケモン。どうやらそういう関係のようだし」

 

初対面なのにバレてるし。

ボールがさっき以上に揺れてる。

……イラッと来るイラッと。

 

「……貰っておきます。使うかどうかは本人達に聞きますけど」

「うん、そうしてくれ。じゃあ僕の用事はコレで終わりだ。……他にトウカ君は何かあるかい?」

 

今日はもう特に何もないから帰ればいいけど…………あ、そうだ。

 

「ちょっと聞きたい事が。――って何処で会えますかね?」

「あー、この時期は……うーん……」

ダイゴさんは壁の地図に近づき、場所を示す。

「多分此処。でもどうしてこんな事を?」

「いや、ちょっと好きになっちゃいまして。捕まえたいなって思ったんですけど」

「なるほど。あんまり知られて無いしね、彼等の生息地……あ、それなら卵を上げた方が早い」

うんうん、と得心した様子で頷くダイゴさん。

「うん、僕の家に行こう。なに、トクサネだからエアームドで飛べばすぐさ」

「え」

 

-------------------------

 

エアームドは飛んだ。

空気を裂いて、俺とダイゴさんを乗せて。

速さはいくつだったんだろう。

200㎞/hは出てた気がする。

スポーツカー並みに飛ぶ速度が速いとなると振り落とされても不思議じゃない。

空を飛ぶでトレーナーが乗る時は空気避けみたいなモノでも張っているんだろうか?

実に不思議だ。

それにしても種族値と図鑑の説明が矛盾しているような気がする。

ホント不思議だ。

 

道すがら一人暮らしをして居る理由を聞いた。

親のすねを齧るにも遠ければそんな事は出来ない、とオヤジさんに言われたらしくトクサネに小さい家を一つ買ってもらったのだとか。

いや、家を一つプレゼントっていうのも凄い話だけど。

……で、一人暮らしを始めてそこそこ年数が経った今は、カナズミを中心に石の収集家(ストーン・ゲッター)としてやっているらしい。

他には、カナズミのポケモンスクールでバトルの指導をしているんだとか。

 

そんな話を聞いているとトクサネの彼の自宅へ。

一人暮らしには大きかった、と感想を述べておく。

 

そして卵を受け取り、頭が地面にくっ付くくらい礼を言って、テレポートで帰った。

ホントに彼には頭が上がらない。

今度シンオウの方で進化の石が見つけて送ってあげよう。

帰る頃にはすでに日も西に傾いていた。

 

-------------------------

 

翌日。

拠点の研究室。

後ろで研究員がいそいそと動いている中で、お爺ちゃんに昨日の出来事を報告しつつ、トキワの能力を使いながら卵を暖めていた。

ゲームでは歩いたら孵っていたが実際はどうなのやらといった所だ。

にしても卵とは……ある意味ラッキーだった。

孵す者の能力が確かめれるわけだし。

なんせカントーじゃ卵に縁が無かったからなぁ……

「……あ、そうだ」

「む? どうしたトウカ」

「えっと、確かこの地方ってオダマキ博士がいたよね?」

「おー、そうだの。トレーナーとしてもやっていけるような活動力の持ち主と聞いておるぞ」

「挨拶行ったほうがいいかな?」

「まぁの。好きにするといいんじゃないかの? 知り合いになっていて損は無いじゃろうし」

コネとカネは多い方が得じゃしの、と笑うお爺。

確かにそうだけど、駄洒落としたら寒い。

「……あははは」

だけど適当に笑っておかないと拗ねるので適当に笑う。

難儀なもんだ。

「ははは……じゃ、伝える事も伝えたし切るよ?」

「おぉ、元気でな! じゃあの~」

「またねー」

プープーと電話が切れたのを確認して受話器を置いた。

 

卵をボールに戻し、それから一日拠点に篭った。

成果は、ハブネークの毒の種類。

やることもなく、仕方が無いのでその日は寝た。

 




出来が凄く悪い。
どんな風に書いてたっけ。

それでは。


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ょぅι゛っょぃらしい。

チートが増えるよ!
やったね、たえ(ry


トスントスンと走る。

大きく威風堂々たる姿で見るものを虜にするようなオーラがにじみ出ている。

ウインディ――今朝炎の石によって、ロコンと共にガーディから進化した「でんせつポケモン」だ。

そしてその上に一人。

「ふわぁああああ」

俺ことトウカは大きく欠伸して彼に乗っていた。

 

『主、俺が走ってるのにソレは無いんじゃないかな?』

「ぅんー……だって揺りかごみたいに揺れて、暖かいお前が悪い」

ウインディは「ハァ」と溜め息をつき、話しながらも走る事は止めない。

『それは酷い。……そんな事言うなら降ろす』

「うん、降りる」

『降りるのっ!?』

 

思わず前のめりに倒れそうになったウインディの姿に「でんせつポケモン」の風格は無かった。

いや、急に言って悪いとは思ってるけど、元々そろそろ降りるつもりだったし。

 

「ごめんウインディ。ちょっと此処に用事があったんだって」

『うー……わかったよ。早くボールに戻して、周りからの視線が辛いよ』

「りょうかいりょうかい、戻れウインディっと」

ボールを開いてウインディを戻す。

確かにこいつの言うとおり集まる視線が凄い。

「ま、気にしない気にしない。さーて、会いに行こうか」

ガーディのボールを戻して意気込む。

そして俺はトウカシティ付近、コトキタウン方面の草むらを前にして気合を入れた。

 

-------------------------

 

ホウエン地方におけるゲーム序盤。

この時、主人公である自分の父親を訪ね、病弱設定の男の子がラルトスをゲットするイベント。

始めだした頃は、その彼がチャンピオンロードの最終部分まで来るとは誰も思わなかっただろうと思う。

 

で、その彼――ミツル君が一番初めに捕まえたポケモンである、件のラルトス。

このポケモンは人の感情を読み取るポケモンで、アカシックコード(笑)によれば、前向きな人の前に現れるそうだ。

 

そのため、前向きに身体が弱い事と戦おうとしていたミツル君の目の前に出てきたのだ、とゲームの内容を振り返りながら感慨深くなるのはとりあえず分割思考に任せるとして。

 

何故今そんな回想をめぐらせているかと言うと、要は捕まえたいからで。

しかし、図鑑によれば()のラルトスは敵意があると出てこない。

そのため、

「……で、出て……こな……い」

『立て、立つんだトウカぁ!』

――と言うわけで三角座りで真っ白に燃え尽きていた。

捕獲要員で出てきているピカチュウも割りとガチで心配するくらい出てこないのだ。

 

……あぁ……確かピカチュウを捕まえに行った時もこんな感じだった気がする。

それにしても……おかしいな。……さっきまで昼だった気がするんだけど。

……もう夕方だぁ。

笑えば……いいかな……。

 

「あは、あははははは……」

『マスターが狂った』

『ごしゅじーんっ!』

〈おーい、トウカー、正気に戻れー〉

〈……戻れー〉

手持ちズが慰めてくれるが、ホントにどうしようか。

はぁ……オダマキ博士の所に訪問しようと思ってたのに。

 

「――強硬手段でいこうかな」

 

具体的にはピカチュウに捕まえてきて貰うとか。

後は……

「あ、そうか。そうすれば良かった。――出来る? 二匹とも」

〈うーん……いいよ。早く帰りたいし〉

〈私も……いい加減疲れた〉

二匹に意思を伝えて了承をとる。

ごめんよ、二匹とも。

後でポロックあげるから。

〈甘いやつで!〉

〈私も甘いので〉

〈私はすっぱいの!〉

うぐぅ……モモンの実無いけど、ナナシの実はあったか。……了解ですお三方。

……お三方?

顔を上げて周りを見る。

すると隣に、幼児ほどの大きさの――通常色とは違うラルトスがそこに居た。

 

……どういう事なの?

 

-------------------------

 

「……えっと、え?」

〈私はずっと着いて来てたよ!〉

「は、はぁ…………でもなんで今まで?」

具体的には何故今まで見つけられなかったのか、だ。

〈面白そうだったから!〉

「いや、面白そうだったからって貴女……」

 

彼女曰く、探し始めて二十分も経たない間にずっとついて来ていたらしい。

何故、と俺達が思うのも無理は無い。

だって全然反応が無かったんだもん。

現に電磁波索敵してたピカチュウも『いない』って言ってたし。

 

「……いやいや。面白そうだったからじゃなくて……気づかなかった理由を教えてくれ、ラルトス」

〈んー……これかな?〉

そう呟きラルトスの姿は消えた。

消えた。

え。

「おい、ピカチュウ ! どうなってんだコレ!」

『わ、わからん……私のレーダーからも消えた!』

ピカチュウさんも判らない。

下手すると俺よりも頭のいいピカチュウが。

 

これもうダメじゃね?

 

〈驚いた?〉

姿を現すラルトス。

どうにもこのままだと迷宮入りである。

唯一考えられる可能性としては…………超能力か?

 

〈多分そう。……気づいたら出来るようになってたんだよ!〉

 

「はぁ……他になんか出来るの?」

 

〈後は火を起こしたり氷作ったり。あ、それとこんなことも出来るよ!〉

……そう念話で話してくるラルトスに変化は無い。

 

「何か変わった?」

〈えっと……向きが変わったと思う。触ったら判ると思うけど……〉

 

『向き……? もしかするとベクトルの変換!?』

は? いやいや。

ピカチュウさん、それは幾らなんでも……。

そんなまさか、と彼女の頭に手を置こうとすると、反発して一定の距離から頭に下ろせない。

 

……

 

「なぁ、可笑しいよな。なんでさ、こうも俺の回りには規格外のポケモンが集まるかな?」

『……それって私も含まれてますか、マスター』

『俺も含まれてる?』

いやお前達は違う意味で訳が分かんないよ。

なにさ、お前等夫婦って。

種族違うよね? 確かに子供というか卵は出来るよ?

でもそんな、ね?

 

……よし、とりあえずウチの二匹については後にしよう。

 

今はとにかく捕獲だ。

「ラルトス、ちょっとまだまだ聞きたい事があるけど……一緒に来るかい?」

〈お菓子くれるなら!〉

 

お菓子に釣られた幼女……元へ、ラルトスはアクセラレーター(強)でした。

 

ラルトスを捕まえたボールをしまいながら、ちょっと遠い目をしてナツメちゃんを思ったのは些細な事だ。

 

拝啓、ナツメちゃん。

俺の寿命はもう長く無いかもしれません。

具体的には俺の寿命がストレスでマッハ(泣)

 

 




お気楽系チート幼女の参入。
そして地味に色違い。
ぅゎょぅι゛っょぃょ。

幼女誘拐の罪悪感は心労で±0に。
にしても本家のアクセラレーターより強いような。

あと、しばらく更新が停滞するかも。
とか言いつつ更新する未来の自分は……見えない。
それでは。


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赤面らしい

※ 2015/9/8 RSE主人公の年齢四歳から同い年に変更
  2015/9/9  〃   の名前をサファイアへ変更


卵の入ったボールをバックに仕舞い、ラルトスを連れて訪れたのはオダマキ研究所。

ウインディに乗ってすっ飛んできたとはいえ、もうすでに日も傾いていた。

「ごめんなさいこんな時間に……」

「いやいや気にしないでくれトウカ君。いやー、こっちに来ているとは聞いたけど、まさか来てくれるだなんて思って無かったから」

粗茶だけど、と言ってお茶をくれるオダマキ博士には頭が上がらない。

 

彼、オダマキ博士はオーキド博士らとは違い、フィールドワーク中心に研究を進めている。

そのため図鑑の内容が、より自然界に近い内容になっていたりする。

それもこれも彼の活動力の賜物と言うべきか。

 

「あ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど……何の用事でこの地方に来たんだい?」

「あー、一応建前上は研究遠征と言う事にはなってます」

「……なるほど。つまり他に用事があったと」

「…………えぇ。まぁちょっと話し辛いんですけど……ご内密にしていただけるな「聞こう」プッ…!」

お茶を飲んで一息入れながら言う。

ただ、あまりに即答過ぎたので吹き出しかけた。

……ふ、不意打ちはあかんぜよ。

「……失礼。まぁ、どうでもいい事ではあるんですけど……マサキの奴にちょいと頼まれまして」

「えっと、マサキと言ったら……ポケモン預かりシステムの第一人者の彼か。この地方でも此処二三日で使えるようになって巷を騒がしているね……ただその従来のシステムとは少し違うらしいし、製作者についての情報開示も行われて無いとか」

「はい。それを作った人に届け物をしに来たのが本来の目的です。なんせ運んだモノがモノでしたから」

「……まぁ何なのかは聞かないでおこうかな」

「有難うございます」

俺はお茶を飲みほしてソファーから立ち上がる。

「……じゃあ顔見せるだけでしたし、俺はコレで失礼します。これ以上居座ってご迷惑かけるわけにも行かないし」

「あーそうか。……もう七時過ぎか」

はい、と言ってこの研究所から退散するため、俺は出口に向かう。

ただ、

「ああ! そうだ! トウカ君。もう遅いし、君さえよければ家に泊まるかい? というか泊まりなさい」

「…………は!? け、結構です!」

 

 

もはや俺に否定する権利は無いと言わんばかりに宿泊を勧めてくるオダマキ博士。

なぜそんなに勧めてくるのかと聞けば、どうやら娘のサファイアちゃんが研究者志望らしく、若くして博士になった俺に話をして貰いたいんだとか。

仕方が無いので、夕食をご同伴させて貰い、少しだけ娘さんのサファイアちゃん(同い年)に話をして帰らせて貰った。

 

娘さんお元気ですね

……元気が良すぎて疲れたです……です。

 

 

何時もの如くテレポートに自室へ帰り、食堂に出る。

「ただいまぁ……」

「あら、おかえりなさいトウカ君」

「うん、ただいまマユミさん。……疲れたんで寝ますお休みなさい」

「はやい?!」

踵を返し、部屋に戻った。

夜食を食べながらパソコンでカチカチやっていたマユミさんから変な音がしたが、気にしない事にした。

彼女もきっと疲れていたのだろう。

最近協会からポケモンセンター等の各所に支給されたパソコンの管理があるとか言ってたし。

 

その日は疲れていたのかぐっすりと寝れた。

 

翌日。

起きて食堂に出たら男連中がパソコンを前にブレイカーの落ちているマユミさん見ながらニヤニヤしていた。

勿論ピカチュウと一緒に制裁を加えたのは言うまでも無きことだ。

ただ毛布を掛けた時、ちょっと覗いたパソコンの画面に描きかけの、ポケモンの可愛らしい絵があってほっこりしたのは誰にも言うまい。

 

-------------------------

 

マユミさんが起きて、パソコンの画面に気づき赤面したのを見てニヤニヤしていた男連中にローキック。

そして朝食を皆でとった後、俺は自室にて手持ちのポケモンを出していた。

ミュウの二匹については、手持ちの他の奴らに変身しようと試みている。

「で、ラルトス……具体的には何が出来るんだ?」

出会って早々、色々とやらかしてくれた彼女。

思わずさん付けしたくなるのを抑えて、出会って直ぐには聞けなかった事を聞いた。

〈向きを変えるのと凍らしたり燃やしたり。あ、あと黒い渦作れるよ!〉

といって腕を前に掲げて黒い渦が……ってひ、引き寄せられそうになるっ!

「す、ストップ! ストップしてラルトス!」

〈うん〉

する彼女の手元から消える黒い渦。

な、なんだったんだ今の……。

『……ブラックホールだ』

うそん。

いや、確かサーナイトは命かけて作れるとかなんとか図鑑で見た気がするけど。

それにしてもおかしい。

笑えない。

トレーナーの命に関わる。

「……今の絶対使っちゃダメだからね。それとベクトル操作も!」

〈はーい……凍らしたり燃やしたりするのは?〉

「それは…………いいよ」

ピカチュウもしてるし。

『失礼な。私はブラックホールまでは作らないぞ?』

うるさい。お前の場合は脳内電流操って色々とやらかしそうだから怖いんだよ。

『……しない。そんなモラルに反することは……』

「お前のモラルがどんな物なのかは聞かないでおいてやる」

『……ご主人が酷い』

 

泣きが入ったピカチュウは放置で。

ミュウ達。今構ったらダメよ。

 

 

で、本題だ。

俺が鞄から出したのは卵の入っていたボール。

トキワの能力を使っていると孵った卵。

理由は不明ながら、何らかの理由があるかもだけど……保留で。

「……出て来い」

ボールを投げ、そこから出てきた宙に浮くブルーのボディに一つ目。

そいつの個体値を見れば、見事6Vで。

 

卵から生まれたのは、宙に浮く青い腕――――名はダンバルである。

 

 

――ちょっとリアルで見て恐怖したのは内緒。




他人に見られたら恥ずかしい状態で寝落ちする事ってあると思うんだ。

さて、昨日言った言葉も意味無く今日も今日とて投稿。
一体自分は何をやっているんだ、と小一時間鏡の前に三角座りで問い詰めたくなる。
鏡の中の俺|<ホント何やってんだ?

感想返しちょっとづつしていきます。
遅れたらごめんなさい。
……ではでは。


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温泉らしい

ポロリが(ry

※2015/9/8 アスナの年齢をナツメと同い年に変更


一ヶ月。

ホウエンに来て経った日数と、狭い家からマユミさんが引っ越した日数だ。

また拠点が出来た日数とも言うが、それはおいておくとする。

 

さて、そんな長い期間を共にした我々携帯獣特別研究室一行とマユミさんはフエンタウンの温泉へと来ていた。

慰安旅行、とでもべきか。

ちょっとした思い出作りでもある。

実はマユミさんの実家がフエンタウンにある、というのは本人談。

それを聞いて生き生きとし始めた男どもには「この変態どもめ」と罵っておいた。

喜んでたかどうかは主に俺の心を守るために思い出さないようにしている。

 

か、身体が震えてきやがったぜ……!

 

――さて、どうして慰安旅行だなんて洒落た事になったか。……その経緯は引きこもり(研究員)を外に連れて出ようとしたら、である。

そして人数を集めて数十分。

誰が言いはじめたか、温泉行きたいな、と女性陣からの声。

それから研究室の面々で連鎖し始めた温泉コール。

挙句には実家のあるらしいマユミさんまで行きたいと言い出したので、来る事になったのだ。

 

「……そこはかとなくする硫黄のにほひ!」

「このゆで卵の白身の部分のようなかほり!」

「「温泉キター!!」」

「「「「「「「キター!!」」」」」」」

マユミさんが別行動になると騒ぎ出す面々。

「こら、喚くな。お口にチャックしろ。迷惑だろうがっ…!」

まったくこの阿呆どもめ。

テンション高いんだよ。

住民の方も変な目で見てるじゃん。

 

――……でも温泉かぁ……楽しみだなぁ。

 

「――とか言いつつも室長も顔ニヤケてます!」

「そこも可愛い! 結婚して!」

「重婚は可能ですかァ?!」

「「「YES!!YES!!YES!!」」」

「くぉらぁああ! ショタコンどもー!! そんなことしてるとポケセン部屋取らないからな!」

「「「ごめんなさーい!!」」」

一部変態も含めて、ホントにハイテンションだった。

 

 

お土産の漢方薬を買い、ポケセンへ直行。

此処フエンタウンは観光地にもなっているため、ポケセンの雰囲気が旅館のようだった。

それからさっさと部屋を借りて、温泉へ直行。

脱衣所で怪しい視線を感じたので、目潰ししておいた。

唸っているがすぐ復活するだろうなぁ、変態だし、とあきらめて掛け湯して湯の中に。

 

「生き返る~……」

ホントに疲れが落ちてく感じがする。

はぁ…・・・。

 

「おやおや、子供も疲れてるんじゃのぉ……まるでオッサンみたいじゃ」

「最近の子は精神的にも弱いと言う話じゃしのぉ……まったく、軟弱者になったものじゃ」

 

……耳に痛い。

温泉のおじいちゃん達はホントに饒舌だ。

 

「あぁ、でもほら。あの最年少で博士になった子だったか。……あの子はよくやるもんじゃ」

「おーそうじゃのぉ……なつき具合で進化するポケモンが居る事を発表したんじゃったか。ウチのゴルバットのチュウちゃんの羽根が四枚になった時は驚いたが……なつき進化だったらしいからなぁ」

「……そういやそんな事も言っておったなぁ、お前さん。にしても凄いことじゃ……」

 

「……ぅ」

なんだかさっきより打って変わっての赤面ものだ。

凄い褒められようだし

温泉入って間もないのに顔真っ赤になってる気がする。

 

しばらく羞恥心を募らせながら、浸かっていると、お爺様方の大きな声のお話は雑談に。

ふう、と息をついて湯から上がると、板一枚向こうの女湯を覗こうとする馬鹿どもの姿が。

知り合いだと思われたく無いな、と考えながら頭と身体を洗った。

 

 

-------------------------

 

 

「あ、トウカ君。温泉どうだった?」

「誰?」

温泉から出て、遭遇したのはマユミさんと赤毛の女の子。

湯から上がったらしく浴衣姿だ。

ただ、ポケセンで支給される浴衣じゃない所を見ると、マイ浴衣のよう。

この姿をあの変態さん達(男)が見たら鼻息を荒くさせるのが目に浮かぶのでちょっと可哀想になった。

「強く……生きてください」

「は、はい……?」

応援したが訳が分からぬ様子。

頑張れマユミさん、強く生きろ!

「で、……ところでそっちは?」

「……分かんないけど、まぁいいです。こっちの子はアスナって言う子で親戚の子です」

「どうも」

「……ども」

 

警戒されている。

まぁ、ちょっと危険な年頃か。

……アイツ等には会わせられない。

それと多分この子、フエンタウンの未来の新米ジムリーダーだ。

多分同い年ぐらいだろうか。……いや、ナツメちゃんぐらいの年齢かもしれない。

 

そんな事を思っていると、マユミさんはいつの間にか此処から離れていた。

ちょっと空気が重いの何とかしたい……。

 

「……全力で変態からは逃げた方が良い」

「は、はぁ……? ところで君は、トウカ……だっけ?」

「うん。ちょっと波乱万丈な人生送ってる。よろしく」

「あ、うん。アスナね、よろしく。…………ねぇ、お姉ちゃんとどんな関係?」

 

耳元でアスナが聞いてくる。

マセてるなぁ、と思いながらちょっと思考をめぐらす。

下手に一緒に住んでるだなんて言えないし。

 

「…………大家と住人?」

「大家? 住人? ……トウカが住人?」

「逆。俺が大家で」

「お姉ちゃんが住人…? 訳わかんなくなってきた」

 

赤毛娘は混乱している。

まぁ当たり前か。

普通は逆だもんな。

 

「……何二人で話してるの?」

「あ、マユミさん。ちょっと世間話です」

帰ってきたマユミさんは後ろでに何か隠してる様子。

とりあえず誤魔化そう。

ちょっと話してた内容が内容だし。

「ふーん、そうですか。……はい、アスナ。どうぞ、トウカ君」

「あ、サイコソーダだ。ありがとうお姉ちゃん」

「すみません、頂きます……」

ちょっと申し訳なく思いながら、ビー玉を落とす。

良く冷えていたため、そんなに泡は立たなかった。

「どう致しまして二人とも。……じゃアスナ、卓球やる?」

「いいよ~……絶対今日こそ勝つから!」

 

サイダーは良く冷えていて、美味しかった。

温泉卓球で勝ったのはマユミさん。

アスナは善戦していたが、一歩及ばずと言う所だった。

というかマユミさんが異常なまでに強かった。

 

 

アスナの後ろで試合を見ていた男研究員一名が眼球に多大なるダメージを負った事は無かった事にされた。

ちなみに変態だったので俺が内心、いい気味だ、と思ったのは言うまでも無い。

ただ、マユミさんのドライブショットこえー。

 




マユミさんのだと思った? 残念! トウカ君のでしたー!

……うぜぇ。

なんだか最近マユミさんがヒロインしてる件。
頑張れナツメ。


ちょっとアンケート。
このままナツメ一筋が良いか、サブでヒロインが増えても良いかで聞きます。
ちなみに増える事になれば、誰が増えるかはまだわかんないです。

ま、最終的に嫁に選ばれるのは我等がメインヒロインナツメですけど。
ジュジュベ可愛いよジュジュベ。

お手数ながら感想欄(活動報告)の方へお願いします。
集計は8/26日00:00です。
それでは。

―追記―
感想欄は駄目だと言う事に気づいたため、お手数ながら活動報告の方へお願いします。
感想欄に書いてくださった方のものは加算しますのでご安心を。

……更新停滞するって言ったのに、何やってんだ俺。


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来ちゃったらしい

ちょっと出来が悪い。
何時ものこと故、許して下され。


わいわい、がやがやと過ごした慰安旅行も終わり。

そして残りの一ヶ月、各々の満足がいくように研究調査は再開された。

 

一ヶ月間の成果で言えば、拠点周辺のポケモンについてと、流星の滝のポケモンについて。

流石にソルロックやルナトーンについての発生元は判らなかったが、弱点や個体技能についてはそこそこに判り、我々研究員の探求欲はひとまず満たされた。

だが、流星の滝奥地。滝の上に生息するポケモンについてはレベルが総じて高く、残念ながら研究員のポケモンのレベルが低いがために、捕まえる事は出来なかった。そのために生息するポケモンは現在不明なままだ。

そのため個人的に捕まえたかったポケモン。あそこの奥地の最奥に生息するタツベイは、研究員の「危険です!」という声によって断念させられ、研究室の端っこでズーンとなっていたのは一昨日の事。

そして「ドラゴンポケモン捕まえたかったのに」と、落ち込む俺を慰めてくれたのは一つ目のダンバル。

生まれたばかりで言葉は使わなかったが、トキワの能力は意思の疎通のため、「元気出して」的な思念は伝わってきた。ちょっぴり和んだ。

 

さて、俺達研究室の一員でない同居人であるマユミさんについても一つ。

 

彼女は一ヶ月間で預かりシステムの調整も終了したらしく、偶に行き詰った研究員に間食を用意してくれるようになった。

おかげで男たちからでなく、女性陣からも『良いお嫁さんになるよ』認定を頂いていた。

 

……本人は、出会いが無いんですけど、と男性陣のいない所で愚痴っていたが。

 

実はこっそり聞いていた変態さん達(男)の変態性が、その日からなりを潜め出したのは圧倒的余談だ。

そしてマユミさんがボソッと「これで少しはマシになった?」と俺に囁いていた事も素晴らしく余談である。

 

それから現在に移る。

 

照れ照れとしている女の子一人。

ベットで寝ている俺の上に落ちてきて、腹の上に跨っている。

 

「えっと……久しぶり、トウカ君……」

 

……恥ずかしいながらも俺の好きな人。

エスパー少女ことナツメがそこに居た。

 

――どういうことなの。

 

-------------------------

 

思考が色々とフリーズしているのを一旦動かし、お腹の上から退けてもらう。

ベットの上で不安定ながらも、顔を合わせて座る。

 

正直な所、跨られたままは辛かった。

彼女の体重だとかそんな話じゃなくて、その――男性独特の生理現象で。

 

いつの間にかこの身に備わっていた精神統一と心頭滅却スキルを使い、意識しないようにしながら話を聞く。

「……どうやってやって来たの?」

大体どういった方法かは分かる。

でも俄かには信じ難いのだ。

「トウカ君のこと考えながらテレポートしたの。その、ダメ……だったかな?」

まさか本当に出来るとは。

距離的には相当な距離があると思うんだけども。

エスパーのエキスパートはやはり違うと言ったところか。

「いや、うん…………ダメじゃないよ」

ダメって言おうとしたけど無理だった。

自覚し始めてから思ってたけど凄く可愛い。

上目づかいで聞いてくる所なんか悶え殺す気じゃないだろうか。

いかん、滅却滅却。

約束(・・)はどうなったの?」

「うん。旅は終わったよ。でも……」

言いよどむナツメちゃん。

あぁ、守れてないのか。

「……わかった。約束の半年経ってないし、守れなかった事には怒りたいけど」

「うぅ……」

なんて言ってるけどそんな権利俺に無いし。むしろ、

「――会えて嬉しいし、寧ろこっちが謝らないといけないくらい。待たせてごめん。それからありがとう、来てくれて」

ちょっと下を向いて落ち込んだ様子だったナツメちゃんは、顔を上げて明るくさせる。

「――うん! 会いたかった!」

笑った彼女は、小さくも可愛らしいナツメの花のようだった。

 

 

「室長ー、入りますよー」

「あ」

「うん?」

 

「あ……失礼しましたー」

 

――用事があり俺の部屋を訪れた研究員は、何も見なかったと呟き、部屋を出て行く。

室長が女の子連れこんでる! と叫び声が聞こえたのはその数秒後のことだった。

 

-------------------------

 

じっと見つめる視線が10。

全て俺に向かっており、背後にいるナツメちゃんはちょっと顔を出しながら様子を伺っていた。

「……室長。その可愛らしい子は?」

一人が場を包む沈黙を破り言う。

「何故部屋から二人で出てきたのですか?」

「というかその子って室長の想い人じゃないですか。何で居るんですか」

「え、そうなのトウカ君!?」

一人目が質問したのを皮切りに、各々が思っていたであろう事を口に出す。

なんでこいつら怖いくらい敬語使ってんの…?

マユミさんも前二人の言葉に驚き、声を上げている。

「……ベットの上で二人して座っていたと言う話ですがどういう事ですか」

「なんだか甘甘な空間を作っていたという事は……」

「卒業…だと…!」

「あァァァんまりだァァアァ!」

馬鹿どもが騒ぎ出す。

いつもなら笑って返してやるとこだが、駄目だ。

「もう、お前らうるさいわ! そ、卒業もして無いし! そもそも連れ込んでも無いし! 大体お前等研究はどうしたよ!?」

「「「「「「「「「そんな事今はどうでもいい!」」」」」」」」」

「おまえら仕事しろよぉ……」

なんだか涙が出てきそう。

でもナツメちゃんにかっこ悪い所は見せられない。

涙を堪える。

堪えたい。

「……トウカ君、涙」

堪えたかったぁ……。

 

目の端から流れ出る塩水は、研究員の言葉を聞いて顔を真っ赤にさせているナツメちゃんによって拭き取られた。

 

その後2時間に渡って、そんな事はしていないと話し、誤解は解けた。

しかしながら、茶化されるのは間違い無しな上に変態の魔の手からナツメちゃんを守らねばならぬのか、と思い至り、神経が磨り減る音が聞こえている。

 

昼食時。

何でこんな事になったのかな、と考えながらナツメちゃんが笑いながら自称紳士達と話すのをみて、自分が情けなくなった。

 




そろそろナツメに出番をあげたかった。
後数話くらいイチャイチャして貰います。

アンケートについては、多数決というわけでもないので、色々と意見が反映された結果になりますかね。
……色々思案中。
それでは。


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デートらしい

ひじょーに短い。
展開も少ない。

さて皆さん。

――コーヒーの貯蔵は充分か。



今朝方、ナツメちゃん来訪という信じ難いハプニングも収まり。

昼食時のため、ナツメちゃんと共にとった食事も終わり。

 

食休みに興じていた俺に、空気を読んだのか、はたまた後をつけて来るつもりなのかは知らないが、マユミさん含め全員に「出かけてきてください(要約、デート行ってこい)」と拠点から送り出された。

初めは流石年長者……と感心しかけたが、あからさまに怪しい笑顔とキラキラと、むしろ邪気しかありません、といった無邪気な目を見たため、敬意を払うのは即座にやめた。

大人十人。

全員に、某青狸のような生暖かい目で見られるのは、流石に堪え切れなかった為さっさとナツメちゃんの手を握り、ハジツゲタウンの方にテレポートした。

 

 

……で、現在。

ナツメちゃん(13才)と手を繋いだトウカ君(11才)という、周りから見ればさぞかし微笑ましいだろう光景が、ハジツゲの閑散とした広い道に(えい)じられていた。

老齢の夫婦が、「おじいさん、昔はあんな風でしたねぇ」「そうだなぁ……」と、話しているのが余計に己が羞恥心をちりちりと燃やして。

そのために繋いだ手を離したいのだが、離せない。

 

「そ、その……ナツメちゃん、手……」

「……せっかくトウカ君と初めて手を繋いだのに……」

 

あふん。

ははは……離せなくなったよ。

離して堪るかと。

ぎゅっと再度、彼女の手を離さぬよう握り締める。

若干ナツメちゃんの歩くペースが上がった。

 

「あ、そうだ。トウカ君、聞きたい事があるんだけど」

「うん」

「何時の間に超能力使えるようになったの?」

「え」

 

思わず足を止める。

やばい、と思い冷や汗が流れてきた。

 

「分かるよ。ポケモンの超能力とは違う感じがしたし」

 

ひ、冷や汗が止まらない!

ポーカーフェイスは出来てるけど……顔から汗が滴ってる。

ナツメちゃんは「それに」と続ける。

 

「トウカ君の心が読めなくなってるから……」

「……あー」

 

そういやそうだったか。

六歳の頃に心読まれないようにプロテクト張ったの忘れかけてた。

 

「……いつから使えるようになったの?」

「ナツメちゃんと遊んだ三日後。……使えたら便利だなって思ったから。それに、ほら。ナツメちゃんとお揃いだし」

「……うん」

 

そう言って再びナツメちゃんは少し早いペースで歩き出した。

それから追及は無かったが、自然と先を行くナツメちゃんの顔は見えなくなる。

顔は見えないが、長い髪の間から見えた彼女の耳は真っ赤だった。

 

笑って怒られ、可愛いなと頬を緩ませていたので一発コツリと殴られた。……可愛い。

 

-------------------------

 

ぷくー、と膨れていたナツメちゃんを宥めるために買ったガラスのビーズで作ってあるブレスレット。

ハジツゲの名物で、火山灰から作ったらしいガラスは綺麗な色合いだ。

現在はナツメちゃんの手首に巻かれていて、喜んで貰えた。

 

それからは偶々やっていたコンテスト会場でポケモンの演技を見たり。

あとは散歩にきていた紳士のポチエナと戯れたりした。

 

そして日も傾き、夕焼けが眩しい時間帯。

ナツメちゃんの「トウカ君が行った場所に行ってみたい」の一声でカイナ、ミナモ。

トクサネに行ってカナズミへテレポートで跳び、ウインディに乗り自分の名前と同名であるトウカシティから、ミシロタウンにコトキを抜けて相乗りした。

……元気一杯サファイアちゃんには遭遇しなかったので良かった。

 

そして最後ハジツゲへと帰ってきたが……ただ拠点に帰るのも味気なく、流星の滝に行って火照った身体を涼ませて帰った。

鍾乳洞を見て喜んで貰えたようだったけど、湿気によりナツメちゃんの着ていた薄手の服が透けそうになっていたのには目を瞑った。

見てないよ。

膨らみかけて最近つけ始めたであろう胸当てとか見てないよ。

……薄紫。

 

 

さて、色々とあったデートも終わり。

服も乾いて俺と一緒に、皆の待つ拠点に帰ったナツメちゃん。

そのナツメちゃんはカントーへの遠距離電話を使い、何処かに電話を掛けに行った。

 

「……で、お前等何か言い残す事は?」

「な、何の事言ってんですかシツチョー」

「私達は何もしてませんよ?」

――戯けが。

「証拠は上がってるんだ。――ハジツゲの滝の上」

「「「「――!!」」」」

「さぁてぇ~……――誰から逝こうか?」

「「「「すんませんした!!」」」」

 

おバカ達は三回転土下座。

……まったく。

 

と、馬鹿な事やってるとナツメちゃんが電話のあるところから帰ってくる。

「――トウカ君、今日泊まってもいいって。あ、お父さんにも了解とったよ!」

「ん~……」

どうやって了解とったのかな。

それから空き部屋あったっけ? 無かったよね。

――どうしろと。

 




きっと読み返して作者の羞恥心がボドボドになるような、そんな今回。
ちなみにエスパーバレした時に、回答を間違っていればナツメヤンデレルートに入ってました。

さて、2話ほど前にしたアンケートの集計した結果ですが、
『主人公モテるけどナツメ一筋』になりました。
要はあんまり変わらない。
……アンケートやる意味あったんだろうか。
とにかくまずは感謝の意を。
ご協力有り難う御座いました。


とりあえずPi○vでナツメニウムを補給しつつやってきます。
以上、メタモンネタ(R-○8)を非常に書きたい作者でした。


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純粋らしい

甘い。
いやホントに甘いのか?
今回もナツメちゃん無双。



その日やってきたナツメちゃんが、まさかのお泊まり。

当初、「部屋無いのに何処に泊まるの? まさか俺と一緒に?」と、十歳のマセガキ(自分)が慌てていた所、私の所で寝ましょうね、とマユミさんの発言のおかげで己の熱きリビドーは発散される事は無かった。

 

こんな歳からそんな事は駄目だ。

……駄目だ!

大事な事なので二回言いました。

 

さて、昨日訪れた様々な難を逃れ。

開放的で閉鎖的な脳内映像()を己のベットで満喫していた早朝。

なにか温かい湯たんぽのような、それでいて何か心落ち着く匂いの何かを抱いていた。

時々情欲を駆るよな「ん……」と音声の出る湯たんぽだ。

 

こんな多機能な等身大抱き枕な湯たんぽ。

何なのか確かめる事は俺には無理だった。

 

目が開けられないのだ。

きっとコレは本能が分かっているのだろう。

コレが、名状しがたき湯たんぽのようなモノが何なのか。

目を開ければどんな未来が待っているのか。

 

仕方が無いので、そのうちトウカは考える事を止め……再び寝た。

 

 

早朝の出来事など綺麗さっぱり忘れた俺は何時ものように朝起きて食堂に出る。

 

「おはよう、トウカ君」

「おはようございますマユミさん」

 

先に起きていたマユミさんに挨拶し、冷蔵庫から水を取り出す。

天然由来の湧き水でうまい水だ。

 

「あぁ、そういえばナツメちゃ「マユミさん!」……なに、トウカ君」

 

一番今触れられたくない話題だ。

忘れた? すまんな。アレは嘘だ。

バッチリ覚えているとも。

スタイルの良い腰つきと、柔らかい身体。

抱きしめた時に感じた控えめな胸の柔らかさ。

そしてなによりもナツメちゃんの匂い。

 

あれ?

……うわぁ……これじゃまるでアイツ等みたいじゃないか……。

 

「ナツメちゃんトウカ君の部屋にいなかった?」

「……」

 

ヤバイ。トリップしてたら聞かれた。

いや、朝起きたら居なかったけど。

それよりもマユミさん目が怖い。

 

「しらないですよ?」

「嘘つく時目が一ミリくらい泳ぐの知ってました?」

「……スミマセンした」

 

朝起きたら真っ赤な顔してナツメちゃん、横で寝てました。

リアルで「あぁ、ナツメなら俺の隣で寝てるぜ」をやろうとは思わなかったんだもん。

いや、何も致してないよ? マジで。

服も乱れて無かったし。そんな形跡も無かったし。

 

そんな意味合いの事をマユミさんに話す。

 

「はぁ……やっぱりトウカ君の所行ってましたか。夜偶々起きたら居なくなってましたから」

「……はぁ」

「その歳で博士になってるくらいだから、そういう知識もあるんでしょうけど……実践しなかった事は許しましょう」

「……あい」

 

それでは朝ご飯にしますから起こしてきてください、とマユミさんに言われ、ナツメちゃんを起こしに行く事に。

……ソレ一番の苦行では? と問う事は出来なかった。

 

-------------------------

 

起きて、と声をかける。

ううん、と言いながらナツメちゃんは身体を起こした。

 

「おはよう、ナツメちゃん」

「おはよ……う」

 

顔が朱に染まっていく。

抱き枕にされてた事思い出したのか。

 

「あ、あ、えっと……」

「何時の間に潜り込んできたのよ、ナツメちゃんや」

「あぅっ……そ、その……夜トウカ君が寝静まってから……というか、気づいたらトウカ君のベットの中に……」

「テレポート?」

「……うん。……多分?」

 

寝起きのせいかもしくは恥ずかしいのか分からないが、現在のナツメちゃんはしおらしい。

可愛いなぁ……と思う俺は末期寸前だろう。

ナツメちゃん愛したい症候群の。

それのLv.4辺り。

 

「えっと……トウカ君。私に……その、何かした?」

「何かって?」

「その……うぅ。…………えっちな事」

「」

 

いやいやいや。

待てよ。

なんだ? 彼女の定義するエッチな事ってなんだ?

アレかフレンチなキスはエッチな事に入るのか? して無いけどさ。

エッチってそもそもなんだ? Hか? Hならなんでもエッチなのか?

いやしかしHだけじゃなくAでもBでもエッチなものはエッチだと思うんだ。

いや、Iでもエッチだと思う。

 

あれ、なに考えてたっけ?

 

……それよりも可愛い!

毛布で口まで隠すのがいじらしい!

……あぁ、萌え殺す気なのか、この寝起きのお姫様は。

 

「可愛いなぁ……」

「えぇ!? 可愛いって……!」

「……あ、いやなんでもないよ! えっと……ナツメちゃんの言う「えっち」ってなに!?」

「あ、いや。えっと……えっちな事が何か?」

「う、うん!」

思わず口が滑った。

話題転換として言っておきながら、それを聞くのはどうかと自分でも思う。

「(可愛いって言われた……)うーん……ちゅー……とか?」

 

よかった。彼女が純粋で。

穢れた大人の思考だから余計な事まで詮索しちまたぜ。

 

「よかったぁ……うん、して無いよ。それ以上も」

「そっか……うん? それ以上って何?」

「……ナンデモナイヨ」

 

い、要らん事言うてもうたぁ!

 

「――何かしたの?」

「してないよ!」

 

全力で否定したら、少し残念そうにした彼女は見なかった事にした。

……最近の女の子は理解し難いな!

 

-------------------------

 

起きてきた研究員達に、またも一緒に部屋から出てくる所を見られる、というデジャヴ感溢れる結果になったのは忘れて、朝食も終わらして昼食前。

今日は一日俺は手持ち達の世話に励む事に決めた。

……連日で研究をサボるのはどうかと思うが。

 

ナツメちゃんは現在、マユミさんに借りた服に着替えるため、俺の隣を離れている。

それはいいのだが、朝の一件からナツメちゃん、どうにもくっ付いて来すぎだ。

そりゃ嬉しいけどさ。

色々と抑えきれなくなりそうになるから辛い。

 

そして手持ちズ。

拠点内部から外に向かって作ったバトルステージ兼ベランダで、ボールの外に出ていた。

元メタモンのミュウは姿を消して研究資料を読みに行って、ウインディとキュウコンは二匹寄り添って眠ってる。

ただ、ナツメちゃんが来て毛づくろいが出来なかったために、拗ねているのが若干三名。

『ご主人のばか! ばーか、ばーか! アンポンタンめ!』

〈う~……〉

〈……〉

 

順にピカチュウと古代のミュウ、ラルトスである。

あぁもう、ごめんってば。

ちなみに拗ねたラルトスが一番怖い。

ブラックホールで塵芥にされないかが正直不安だ。

 

〈……〉

 

……俺も人外に近づかなきゃいけないのだろうか。

いやいや、早まったら駄目だな。

そんな事で人間止めるのはどうかしてた。

とりあえず黄色ポロックあげよう。

 

「おいでラルトス。ごめん、すっぱいの上げるから許して」

〈……♪ ありがと!〉

 

容易いな、なんて考えてないから。

伝わったりしたら「圧縮圧縮ゥ空気を圧縮ゥ」だ。

そんな事はご免被りたいのだ。

 

 

それからピカチュウは膝の上に置いて、毛づくろい。

ふにゃぁ、と頬を緩ませて気持ちよさそうだった。

加えてミュウは俺の頭の上で日向ぼっこをしていた。

 

『……』

 

……いや、うん。

「ダンバルごめん。俺は一人しかいないから待ってて」

 

『……(うるうる)』

 

一つ目が揺れている。

罪悪感ヤバイ……と思いつつ、ピカチュウを撫でる手は止められなかった。

 

ダンバルの世話をしてやっていると、ナツメちゃんがダボダボのシャツとスカート姿で現れた。

何故そんなマニア心くすぐる姿で居るかは理解できなかったが、とりあえず。

 

……グッジョブ、マユミさん!

 

 

 




ポケモン小説らしくないなぁ……と、ふと思った。
ナツメちゃんが可愛いければ問題ないか。

なんだか感想にて、「ヤンデレルートについて詳しく」と意見が二名ほど来ていた。
ヤンデレってある意味最大の愛情表現だと思う。
愛し過ぎるが故に殺しちゃったり傷つけちゃったり。
……そんなナツメちゃんも可愛いと思う俺は末期だろう。

それでは。
以上、ヤンデレるくらいナツメに愛されてみたい作者でした。


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変わったらしい

拠点にエスパーが一人増えてから五日。

何故かまだ居る「トウカ君どうしよう。帰れない」とやけに嬉しそうに言ってきたナツメちゃんに苦笑いして三日目。

もしくは、ポケセンでお金を引き落としてミナモでナツメちゃんの服を買い行って二日目。

 

その昼自室にて一つの変化があった。

 

「デンデン、デンデン、デンデン、デンーデー♪」

『何やってんだご主人』

「うん? 進化BGM」

『ご主人が偶に……じゃないか。私はご主人が分からない』

失礼な。

進化の時のBGMを知らないと申すかこのピカチュウは。

いや、ちょっと黙っとこう。

驚かしたらダメだった。

 

発光する身体。

しばらく黙って見ていると目の前の青いフォルムは姿を変え、宙に浮く二本腕の持ち主となった。

 

『おとーさん! しんかした!』

 

〈おめでとー!〉

〈おめでとう〉

 

じぃ、と見つめていたミュウの二匹がそれぞれ祝福。

 

「おめでとう、ダンバル。……いや、もうメタングか。あと25レベル上がったら最終形態だな。頑張れ!」

『うん!』

一ツ目は二ツ目に。

身体が出来て腕が二本に。

角が生え、まだ口は無いが表情が出来た。

そして今までとは違う身体に慣れるため、舌足らずな現メタングは腕を振り回して遊んでいる。口が無いのに舌足らずとはコレ如何にだが。

 

――ダンバルはレベル20を向かえメタングへと進化したのだ。

 

一応、進化するという状況はキュウコン、ウインディの時に見てるのだが今回とは若干違った。

炎の石を与えたら、毛が生え尻尾が生えと、目に見えて進化していく感じであった。

 

まぁどちらも共通して言えるのはデ○モンのような進化では無かった事か。

……あくまでポケモンだった。

 

キャイキャイと遊ぶメタングの姿を見て、少し寂寥を覚えた。

いずれ子供も大人になっていくのか。

 

「……あぁ、感慨深い」

 

 

『さて、馬鹿なご主人は放っておいて。メタング、修行再開と行こうか』

『うん。ねーさんおねがい!』

 

スルー。

――……お父さん悲しいッ!

 

-------------------------

 

メタングの一件から数時間後。

一つの目的を果たすため、手持ちのポケモンをナツメちゃんに見せた。

勿論ミュウやメタング等々と見た事の無いポケモンに驚かれたが、それよりも。

 

「へぇ……トウカ君、ラルトスちゃんのことお菓子で釣って捕まえたんだ」

〈うん! でもポロック美味しいんだよ!〉

「へーそうなのー」

「……」

 

拝啓お爺様。

辛いです。

ナツメちゃんの冷めた視線ががが……。

 

「まさかそんな風にして捕まえてるとは思わなかった」

「いや、別に疚しい気持ちがあったわけじゃ「やましい気持ちってなぁに?」……ごめんなさいホント勘弁して下さい」

 

ラルトスを抱き上げ、頭を撫でながらナツメちゃんが言う。

元々ラルトスはナツメちゃんに、と思って捕まえたのだ。

まさかテレポートでやってくるとは思わなかったし、いきなり来て、それからの五日間も忙しくて渡せなかった。

ただ、いまこうしてラルトスを渡したが少々不安が。

ラルトスの系統はトレーナーには危害を加えないと図鑑には書いてあったが、あの異常な力は人の命を簡単に刈り取れるものだ。

今、前世の知識を信じるしかないのが痛い所だ。

 

「はぁ……あの研究員の人たちの事言えないね。トウカ君ってば」

「……あい」

 

で、今の現状はナツメちゃんに懐いているラルトスと、新しくラルトスの親に移ったナツメちゃん。

前者はいつもの様に元気そうにしているが、後者は俺に呆れてる。

 

そして俺はというと正座で反省なう、だ。

 

原因はラルトスを捕まえた時の事をナツメちゃんが聞いたせいだけども。

いや、うん。自分でも捕まえてからアレは無いな、と思ったけどさ。

 

「……ナツメちゃんのためと思って頑張ったのに。……六時間くらい」

「六時間!? いやでもいけない事は……」

「多分それくらい歩きっぱなしで……なぁ、ピカチュウ?」

『いや、七時間くらいな気もしたが……』

 

……マジか。そんなに探してたっけか。

 

「ううん。……ピカチュウ曰く七時間くらい探してた」

「七時間も!? えっと、うん。頑張ったんだ……」

「頑張った結果がコレだよぉ!!」

 

思わず叫んだ。

足痛いもん。

もう正座勘弁して。

 

「わぁっ?! ごめんトウカ君! 正座止めていいから!」

「うぅ……」

 

足痺れたぁ……。

 

「ごめんね。私のためにラルトスを捕まえるの頑張ってくれたなんて知らなかったから……」

「うん、頑張った俺」

 

だって燃え尽きるまで頑張ったんだもの。

真面目にこいつ出てこなかったら再起不能になってた。

リアル瀕死状態だった。

 

「えっと……よしよし」

「うん?」

 

頭を撫でられたと思ったらナツメちゃんだった。

なんだろう……こう、ポってしそう。

 

……はっ!?

もしやコレが噂に聞く、撫でポ…!

 

「……なんだか嫌な感じ。トウカ君、変な事考えてる?」

「いや、全然?」

 

咄嗟の事だったけれどポーカーフェイスは出来ている。

危ない。

でも手が止まる。

くぅ……気持ち良かったのに。

 

「……ま、いいか。えっと、トウカ君」

「うん?」

呼ばれて見上げると、ちょっと前かがみになっているナツメちゃん。

「――ありがとね!」

「……うん」

うわぁ……。

笑顔が眩しいよナツメちゃん。

 

 

「トウカ君。こっち来たの初めてなのに……どうやってラルトスちゃんの住んでる所わかったの?」

「……聞かんといて下さい」

 

冷や汗が気持ち悪かった。




一番のチートが離脱。
今後はナツメちゃんの元で猛威を振るいます。

そしてメタグロスへ(ドラクエⅢ風に。
ピカチュウ先生の高速レベリング。
二、三日もあれば20レベなんぞすぐに到達。
そこからが厳しいようですが。

なんだかヤンデレルートのIFが見たいという方が何人かちらほら。
至極単純な理由でルート入っちゃうんですけども。
頑張って書いてみます。


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・遠征調査(ホウエン~シンオウ)
同衾らしい


急展開。
今回からR-15タグ入れて行きます。


段々と「温かい」から「暑い」に変わってきた日頃。

麦わら帽子を被ったナツメちゃんと手を繋いでカイナシティを歩いていた。

 

後ろには数人の研究員の姿があるが、いつもと少々様子が違った。

こんな様子を研究員に見られれば、水を得た魚のように茶化されることが必須だと思っていた。

 

……が、何故か彼等は、なにやら老衰した風でこちらを見ている。

現に、いつもならばカメラのフラッシュ音が連続でしている所、こっちむいて~と態々声をかけてき、まるで旅行に行った時の母親と父親のような様子だった。

 

そう、簡単に言うといつもの奴らの異常性が鳴りを潜めていた。

 

個人的にはずっとこうしていて貰いたいものだが、きっと恐らく無理だろうと予測する。

……だって暑さで頭をヤられているだけだろうから。

 

擬似的な賢者モードというか、なんというか。

それを証拠に目が虚ろだ。

きっとあの様子だからカメラで撮った写真もぼけている。

正気に戻った所で……あ、いや狂気に戻った所で嘆くのが目に見える。

 

「トウカくーん?」

「……あ、うん。どうしたのナツメちゃん?」

「ボーっとしてたよ。考え事?」

「あー、うん。ちょっとね。何か用でもあった?」

「ううん。何でもないけど……暑いからちょっと喉渇いたな、って今思った」

「そっか。自販機でなにか飲み物買おうか」

「うん!」

 

嬉しそうに笑う彼女は少し汗ばんでいる。

今日は気温も高ければ湿度も高いジメッとした日だ。

そんな暑い中手を繋いで歩けば、互いの体温で手は濡れる。汗で。

ちょっとその姿に劣情を抱いてしまう汚い大人の自分が嫌だと思う反面、こんな環境でも手を繋いでくれている事が嬉しいのは、惚れた弱みと言うかなんと言うか。

……支離滅裂だな、自分。

俺も頭ヤられてるのかもしれない。

 

「トウカ君何飲むの?」

「サイコソーダかなぁ……ナツメちゃんは?」

「じゃあ私もサイコソーダかなぁ……全部飲めないから半分貰ってもいい?」

「……うん」

 

俺バカだなぁ、と思いながら、こちらを見て来るナツメちゃんに微笑み、自販機へと二人で向かった。

 

カイナシティに我々の船が入って二ヶ月。

丁度ホウエンを出る日。

昼前に行ったナツメちゃんとのデートだった。

 

……ナツメちゃんに残りのサイコソーダを渡して、関節キスじゃん、とドギマギしたのは本人には内緒だ。

 

-------------------------

 

船着場でマユミさんと別れの言葉を交わし、拠点の管理を改めてお願いして船に乗った。

ただ、まずは船長さんと相談。

ナツメちゃんと言う若干名が増えたためだ。

しかし船長さんからの返事は難しいようであった。

本人がテレポートが使えれば良いんだけどねー。

 

「やっぱり帰れないのナツメちゃん?」

「ごめん。帰れないみたい……」

 

そう謝るナツメちゃんはまじりっけなしに、やはり帰れないみたいだ。

思いあたる理由を聞いてみると照れながら、「トウカ君とまだ一緒に居たいから……かな?」との返答が。

ついつい思わず抱き締めたくなったが、抑えた。

 

「いやいや。気にする事は無いぞ。いやしかし……むう……乗せてやりたいんだがなぁ」

「……船長さん、なんでダメなんでしょう?」

「スマン……空いている部屋が無いんだ」

 

あー、それで難色を。

……どうしたものか。

 

「――お、そうだ。子供なら一人部屋に一人増えて「わぁああああ!」……何で駄目なんだ」

「いや、だって……その……」

「トウカ君?」

 

……解決案はあるのだ。

ナツメちゃんと同室になるという、生殺しのような案が。

いや、他にも俺が他の研究員のところと一緒に寝れば問題はなくなる……が、そうなったら今度は俺の身が危ない。

既に奴らは正気という名の狂気に戻ってやがるから。

 

「あーなるほど。……お嬢ちゃん。「ダメェエエエエ!」うるさい! コイツの部屋に入るかい?」

「え」

「ぅあ……そりゃないよぉ。嬉しいけどさ。嬉しいけど……」

「えっとそれは、船長さん。……トウカ君と同室…?」

「おう!」

「えっと……あの……はい、お願いします……」

 

駄目だ。終わった。

俺の理性、持つんだろうか…?

 

 

――というわけでやってきた、俺に宛がわれた部屋。

元々一人部屋だったため子供の俺にとっては広いが、今は凄く狭く感じる。

なんだこれ。

「えっと……不束者ですがよろしくお願いします……だっけ?」

「止めてぇー! 何処で覚えてきたの!? なんでベットの上で三つ指立ててるのナツメちゃん!」

「エリカが、えっと……好きな男の人と寝る時はしなさいって……」

 

あの怖い名門お嬢様の仕業か!?

ヤる事ヤって責任取れと言う事か!

確かに随分待たせたみたいだけどさぁ……でもそんなこと十三歳の子供に教えんなよ!

 

「トウカ君……男の子だよね?」

「なんで聞くかな。……ついてるよ。ナツメちゃんのお父さんと同じように」

「え、あ、うん……なら言わないと……」

「違うの! 使いどころが!」

「そんな怒らなくても……」

 

あう。

ナツメちゃん泣きそうになってる。

はぁ……怒鳴りすぎた。

 

「ナツメちゃんに怒ってるわけじゃないんだよ。……ただそんな事教えてた人に怒ってるんだから」

「うぅ……エリカに…? ぐすっ……三つ指立てて言うのってどういう意味なの?」

「え゛……あぁいや、それは……ナツメちゃんのお母さんに聞いて」

「……お母さんも私にするように電話で言ってた」

「お母さーん!?」

 

……やだ。なんだか外堀埋められてるような……。

いや、でも一回会っただけだよな? エリカ……さんと言いあのお母さんと言い。

なんで親+友人公認になってるんだ。

 

「はぁ……なんか一周して落ち着いた。そんな事してないで寝よう、ナツメちゃんも」

「え……その、……うん」

 

二人ともベットの隅に寄って少し離れて寝た。

眠ってる最中、抱きしめられた気がしたのは、きっと夢の中での出来事だった。

 

 




タイトル詐欺じゃないよ。
だって一緒に寝てるし(笑)

ぐいぐいと押してきてるナツメちゃん。
色々と危うかったり。

というわけでホウエンが終了。
ちょっと寄り道してシンオウです。


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信じられなかったらしい

ホウエン地方。

ゲームではハジツゲの下にあった、流星の洞窟付近。

そこから余りはなれた土地には行かなかったが、それなりに良き遠征であった。

いや、ゲームのマップ上では反対の位置にあるトクサネには、ダイゴさんのエアームドに乗せてもらい飛んだが。

 

まぁ、それなりに充実した生活のなかでも一つ心残りが。

 

伝説のポケモンに一体でもいいから会いたかったな、という高望み。

いや、会う可能性を考えれば一匹しか考えられないのだが。

オゾンという空を飛んでいるだろう超古代ポケモン。

黒という色違いや圧倒的な火力をもって、かなりの小学生たちにカッコいいと思わせたであろう、翠色の龍レックウザ。

――その姿を見ることが出来なかったのが心残りであった。

 

 

……というのを船の上、空の柱が見える手すりの位置にて現在思っていた。

そして俺の隣には当然の様にナツメちゃんが居る。

一緒にいるだけで照れていた彼女もいまや、俺の隣が定位置。

……嬉しいのだが、昨日の夜の一件もあってほんの少し欲求不満です。

あぁ、赤面の可愛いナツメちゃんが恋しい。

 

「はぁ……それにしても高いなぁ……空の柱」

「……知ってるの、アレ」

「まぁ……うん。知ってるっちゃ知ってる。あそこに龍が住んでるとか」

「ドラゴンタイプのポケモンかな?」

「多分ね。会いたいなぁ……」

 

ホントに。神さま補正で会えないだろうか。

なんせ古代からの生き証人だし。

いや、人間の俗世の事なんぞ知らん、なんて言われそうだけど。

 

「ははは。やっぱりトウカ君も男の子だね」

「……まぁ、それなりにね。ドラゴンポケモンはロマンだと思うよ」

「そっかぁ……」

 

ホントに。

タツベイとか捕まえたかった。……タツベイとか!

 

「わっ……!」

「うぉ!?」

 

そんな事を思っていると、強い風が吹いた。

突風によりナツメちゃんのスカートがひらひらと。

 

「……見た?」

「……ミテナイヨ」

 

自分でも思う。急すぎてバレバレの反応だと。

 

「……うぅ…………トウカ君のえっち」

 

……グハッ!

俺の自制心にダイレクトアタック!

もうやめて、自制心のライフはゼロよ!

 

『ハァ……いやらしいご主人だ。それよりもさっきの見たか?』

 

パンツ? あぁ、しr『アホ! 誰もパンツの色は聞いてない!』

 

「……ごめんなさい、俺が馬鹿でした」

「別にそんな……いい、よ……トウカ君になら、見せても……」

『はぁ……まったく、空の柱の方を見てみろ黒い龍だ』

「はぁ?! マジで!?」

「う、うん…………ってあれ?」

 

ピカチュウのボールに集中していたのを移し、空の柱の方を見る。

ホントだ。……飛んでってる。

 

「生のレックウザ色違い……」

「れっくうざ? ……えっとトウカ君。さっきの私の話、聞いてた?」

「あ、ごめん……ピカチュウと話してた。龍が居たって言われたから。ナツメちゃん、なんて言ったの?」

 

黒か……胸が躍るな。

ホントに捕まえたくなってきたけど……ただそんな事よりも今ナツメちゃんがそれよりも真っ赤な顔していた。

 

「な、ナツメちゃん?」

「……うぅ……トウカ君のばか! もう知らないッ!」

言うなりナツメちゃんは走ってこの場から去る。

「……嫌われた……?」

『……なんかゴメン、ご主人』

 

黒いレックウザよりも今は目の前が真っ暗になりそうだった。

 

-------------------------

 

落ち込みながら部屋に帰ると、ナツメちゃんは自室に帰っていて、ゴメンと謝ってきた。

何を言ったのかは結局、ナツメちゃんの「忘れて」という言葉で分からなくなったが、顔が真っ赤になっていたため、聞かれたら恥ずかしいのだろうと思い追及はしなかった。

何はともあれ、怒ってないし嫌ってもないよ、と言って貰えたので俺の中では既に完結していた。

 

そして夕食の時間が終わり、既に夜。

電気を消してベットに潜りいざ寝ようと、ベットの隅の方へ逃げようとしたらナツメちゃんが手を握ってきた。

無理やり離して寝る訳にもいかず、握ってきたナツメちゃんに顔を向ける。

 

「……トウカ君。ちょっといいかな」

「うん。なに?」

「えっとね……トウカ君は私が心を読めるの知ってるよね」

「……うん」

 

なんせ読まれないようにするために超能力を身に付けたんだし。

……でも急にどうしたんだろうか。

 

「トウカ君は……トウカ君はどうして私に心を読めなくしたの?」

「えっと……答えたほうが良い?」

「…………うん。教えて欲しい」

「……そっか」

 

なんか重い話になってきた。

当たり障りの無い事は言えない。……なんだか本能的な何かが訴えてきてる。

この機会にホントのこと、話した方がいいのかもしれない。

 

「……じゃあちょっと話そうか。信じてくれなくてもいいけど……つまんないし、途中で寝ても良いよ?」

「うん」

 

うーむ……何から話そうか。

……よし、単刀直入にバラすか。

 

「生まれる前の記憶がある」

「……つまり?」

「前世、とでも言うのかなぁ……きっとそんな感じ。死んで生まれて……今こうしてナツメちゃんの前にいる俺は、昔大人だった」

「じゃあトウカ君の中身は私より大人なんだ」

「……まぁそういうことになる」

 

今じゃ体に引きずられてどうにも落ち着きがなくなってきてるけど。

……いや、前からだったかな?

 

「……そうなんだ。トウカ君が大人びてる理由がわかった」

「うん。でもそれがナツメちゃんに心読まれて困ることじゃないんだ。前の世界で……今の世界の詳しい事を知る事が出来たんだ」

「……どういう事?」

「まぁこの先の未来だとか。……でもきっと知っても面白く無いだろうから言わない。未来予知できるならナツメちゃんには意味無いけどね」

「あはは……ちょっと出来るくらいだよ?」

「……出来るんだ」

「あ」

 

暗闇に目がなれて、気まずそうな顔してるのが分かる。

 

「……ゴメン忘れてほしいな」

「うん……何も聞かなかった。……で、詳しい事って言うのがポケモンの進化だとかのエトセトラや伝説のポケモンについてなんだけど」

「伝説のポケモン……?」

「昼に話した緑色の龍だとか、この世界を作ったと言われるようなポケモン達の事。伝説上の存在になってるポケモンだとかの居場所だったりを知っているんだ……何処かは言わないからね?」

 

この世界の創造神たるアルセウスが見たいなんて言われたらどう反応したらいいかわかんない。

 

「トウカ君のケチ。……でも誰にも言いたくないのは分かったよ」

「お心遣いありがとう。……ただ、詳しい事って言うのは、生きたポケモンの一匹たりともいない前の世界。その世界にあったゲームを通じて知ったんだ」

「……ポケモンが居ない世界」

「うん。それで……ナツメちゃんはそのゲームの中に出てきた」

「……私が?」

「どんな姿で、どんな格好で出てきたかは言わないけど……ちゃんと服は着てたから安心して」

 

裸では出てきてないし。

……ただ、個人的には初めて出てきたあの格好も良いと思う。

金銀のリメイクで大幅に変わったけど。

 

「…………ホントに?」

「ホントに。……でもまぁ、俺の知ってる色んな事を知られるわけにはいかなかったから……だから心を読めなくしたんだ」

「そっか……じゃあ実は私じゃない他に好きな女の子が居るとかじゃないだね?」

「…………うん? なんでそんな事」

「だって……男の人がする隠し事ってそんな事だって、テレビで言ってたから」

「……テレビェ……」

 

最近始まった昼ドラの影響だろうか。

あんまり良い影響とは言えないな。

 

「じゃぁ……ホントのホントに私じゃない誰か別に……」

「……うん。絶対違う」

「そっかぁ……よかったぁ……」

 

安心したのかぎゅっと握ってた手の力が抜ける。

 

「だからゴメン。心が読めなくて信じられないかもしれないけど……信じて欲しい。俺がナツメちゃんの事が好きなのはホントの事だから……」

「ううん。……私の方こそゴメンね。秘密にしてきた事無理にでも聞いちゃって……」

「うん……」

 

握っていた手を離し、布団の中でナツメちゃんが寄ってきた。

 

「……ぎゅってしてもいい?」

「え、あ……う、うん……」

 

恥ずかしい。自分でもなんで“うん”って言ってんだかわかんない。

……おい、ナツメちゃん積極的過ぎやしないか?

心臓がバクバクいってる。

 

「――ありがとう、トウカ君……」

「……」

 

良く分からない事に感謝された。

……お腹に回された腕に心落ち着けて、安心したようなナツメちゃんの寝息を子守唄に自分も寝た。

凡俗に塗れた自分では珍しい事に(よこしま)な気持ちは湧かず。……不思議と安堵感だけがこの身を包んでいた。

 




今回も懲りずにナツメ主体になってる。
アニメ同様レックウザの脇役ぶりが凄まじい。
ナツメのターンはもちっとだけ続くんじゃよ。

次回でヤンデレルートを挿みます。
過度な期待はしないで下さい。超拙作です。


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夢……らしい

タイトル通り。
超拙作注意!


ハジツゲタウン。

ハジツゲの広い道。

道すがら一組の若い男女が話していた。

 

「うーん……少し前からかな」

 

ナツメが聞いた、超能力が何時から使えたか。

――記憶が正しければ、自分と初めて会ったとき。あの時はまだ使えていなかった筈。

トウカ君は確かに特殊な能力をあの頃から持っていた。しかし自分と同じ『超』能力では無かったと、トウカ君自身が言っていた。

いや、確かあの時トウカ君は超能力の方が便利だと言っていた。

なら超能力が使えるか試して、そして偶々その才能が開花したんだ。

 

そう思考したが、しかし一つ分からない事ナツメにはあった。

 

「……なんで私に心が読めなくしたの?」

(トウカ君は私に好きって言ってくれたのに)

 

あの時“会えない事”にしたために要求された“約束”の変わりに教えてくれた、ナツメの吐露に対するトウカの気持ち。

それは長く切なかった六年近くの時間を甘く溶かすような答え。

トウカの考える事は何でも知りたい。共有したい。分かち合いたかった。

それなのに、とナツメは疑問に思う。

 

「ほら、うん……俺にも色々とあってね」

「……そっか」

 

トウカは照れながら手を繋いだ方とは逆の手で頬を掻く。

――ナツメの知らない彼の心の内。実際は思わず思ってしまう彼女への好意の感情を隠すため。そして自身の知る知識を無闇矢鱈に、いくら好き好んでいるナツメには聞かせれないから、という酷く利己的で個人的な悩み故に読めなくした理由は話せなかった。

 

 

しかし、そんな意思は伝わらない。

 

 

心を読み、その人を信じられるか信じられないかで決めていたナツメには疑念しか生まない。

 

 

…………なんで隠す必要があるの?

…………私に知られたらまずい事なの?

…………知られたらまずい事ってナニ?

 

 

――ナツメの心には墨色の水が流れてきたようだった。

 

-------------------------

 

俯いているナツメを元気付けようと、トウカは今いるハジツゲを巡って、一つのガラス細工を購入した。

 

「……はい、これ」

「……? なに、これ」

「開けてみてよ。ナツメちゃん」

 

渡された小さな袋。

旅行の帰りに、友達にお土産を渡すために貰うような小さい袋だった。

 

「……これ」

「付けてみて。多分サイズは合ってると思うけど……」

 

袋の中見は細かい装飾の施されたガラスの指輪。

自然と落ち込んでいた表情には笑みがこぼれていた。

 

「えっと…………トウカ君、付けてくれる?」

「え……う、うん」

 

躊躇いながらも頷き、袋の中から取り出した指輪をトウカはナツメの指に通した。……右手の薬指に。

 

「……なんで?」

「いや、だって左手の薬指にしてたら要らぬ誤解受けるでしょ? それにナツメちゃんのお父さんやお母さんに何言われるか分かったもんじゃないし」

 

恥ずかしげにトウカは言う。

彼なりに頑張ったつもりなのだろう。

一概に神さまから貰った能力のお陰で有るが、目で見ただけで彼女の指のサイズにあった指輪を買ってこれるわけが無い。

 

「……そうだね」

 

しかしナツメは落胆した。

……なんで左手の薬指に付けてくれないの。私の事が好きなんじゃないの、と。

(ならこんな形だけの物よりもアナタの本当の心が知りたい)

右手の薬指にあるソレを見ながら、ナツメは思った。

 

――ねぇ、トウカ君。アナタはホントは私の事を――。

 

 

それからというもの、ナツメの気分は優れず。

目に見えて元気の無い表情のナツメに戸惑うトウカは、彼女を連れて拠点へと戻った。

ナツメは現在リビングとも言える食堂から離れ落ち込んでおり、トウカはというと年長者のマユミに相談していた。

 

「凄く落ち込んでるんですけど……どうしたら良いですか」

「うーん……まぁ理由が分からないんじゃ私もアドバイスのしようがないし……」

「そうですよねぇ…………何か悪い事したかなぁ」

「何かしたの? 何もして無いんだったら……何か勘違いがあるのかも知れないし、ちゃんと話してみれば?」

「はぁ。……ありがとうございました、マユミさん」

「えぇ。どう致しまして」

 

ナツメに影響され暗くなっていたトウカも少し余裕が出てきたのか、笑顔で礼を言う。

……端から見て、楽しそうに会話している様子は、二人の声を聞こえ覗いていたナツメに、誤解を与えるには十分だった。

 

――……あぁ、その女の人が。トウカ君の本当に好――。

 

ナツメの目の前は真っ黒になった。

 

-------------------------

 

トウカに別れを告げ、家に帰ったとトウカが思っていたナツメは、どこかへ消えた。

ナツメの家族からは捜索願いが警察のジュンサーの元に。

トウカの両親は、トウカが『ナツメちゃんが旅から帰ってきたら此処へ電話して貰えますか』という意図を持って教えていた電話番号に掛かってきた、自宅の電話によってナツメの両親から娘が居なくなった事を告げられ。

 

そして両親から遠距離電話を通じてトウカへと知らされた。

 

ナツメが居なくなった事を聞いたトウカは焦燥に駆られる。

――なんでナツメちゃんが居なくなった? もしかして帰る時に座標を間違えた? 土の中? 壁の中? どうして居なくなっちゃったんだよ。俺が悪い事したから? なんで、どうして……――と。

 

そして最悪の可能性ばかりが彼の頭の中を巡り始めた。

 

もしかして年々減らないポケモンを使った犯罪に巻き込まれてるんじゃないか。

既に何処かへ売り飛ばされているんじゃないか。

または、殺されて臓器売買に使われたんじゃ……。

 

もしくは超能力を研究する外道の科学者に捕まったんじゃないか、と様々な光景が浮かんで、そうして『もしかして』の可能性に恐怖していた。

 

――それが、一人止まらぬ最悪の光景を想像してガタガタとベットの上で過ごしていた、半年間の研究遠征から帰りさらに三年後の秋だった。

トウカの手持ちのポケモン達も皆、彼を心配したが悪い想像を止められないものは止められない。

遠征から帰ってからの三年間。

何時だったか知らされたホウエン地方の預かりボックスの管理者が突然の失踪を遂げたこともあってか、健康状態、精神状態全てが悪くなって行き、大学へ通う事も侭ならなくなり彼は部屋へと引き篭もるようになっていた。

 

……そしてその内、見舞いにくる研究員も足が途絶え、トウカ自身がナツメが死んだと思うようになり無気力になっていた翌年の春。

いつものように目が醒め、鳴らない目覚まし時計を見て時間を確認しようとした。

が、いつもの位置に時計は無い。

キョロキョロと確認してみるが、辺りにはない。

何処へ行ったのだろうか、とベットから起き上がりトウカはベットの下に行ったのだろうと覗いた。

 

……かなり埃が積もっている。二年前から掃除して居なかったので当たり前と言えば当たり前か、とひとりごちて再び目を凝らす。

しかし見えない。ベットの下は暗かった。

 

電気もつけず窓のカーテンも閉めたままだったので、ベットの下は途方も無い暗闇に見え、様子が分からなかった。

彼は仕方なく立ち上がり、電気をつけ確認しようと再度(かが)む。

 

しかし、ベットの下から出てきた手に手を掴まれて叶わない。

懐かしいテレポートの感覚でトウカは部屋から姿を消した。

 

-------------------------

 

トウカは再び目を覚ました。

洞窟のようだった。

何故か首しか動かない体に疑問に思いながら、何処だろう、と首を回し周りを見る。

髪の長い長身の女性が椅子に座って何か書いている。

 

「だれ……?」

「あ、起きたんだね。おはよう」

 

トウカの声に気づき、椅子から立ち上がり近づいてくる。

丁度それ以上トウカの頭が上がらず、顔が分からない位置に長身の女性の顔はあった。

 

「久しぶりだね、トウカ君。……いや、私はずっと見てたから久しぶりって程じゃないけど」

「ずっとみてた……?」

「うん三年間」

 

その声はトウカにとって懐かしいものだった。でも彼は思い出せずにいた。

彼の知り合いの女性と言えば、母に研究員の何名か。それからマユミにミズキ、ショウロだったが誰しもトウカ君と呼ぶ人間は居なかった。

……女の子であればナツメが当てはまるが彼女は死んでいる。有り得ない、と纏まらぬ思考で判断を下す。

 

「ふーん……ミズキにショウロ、ね。はぁ……それにしても酷いなぁ。私、殺されちゃってたんだ」

「……え?」

 

トウカは自分の考えを読まれていた。

自分以上に強い超能力者でないと心は読まれないはず。なのにどうして、とトウカは混乱する。

 

「はぁ……私は三年間、いや違う。十年の間片時もトウカ君のこと忘れなかったんだけどなぁ……酷いよ。 ……でもトウカ君の疑問に答えると、あなたと別れてから三年間で私の超能力は成長したし、トウカ君は全然使って無かったみたいだから衰えてた。だから私はアナタの心が読めているの」

「ちょうのうりょくしゃ……」

 

体力も何も無い。

止まらぬ思考を無理やりにもやめ、頭の回転も遅くなったトウカには分からなかった。

この人が誰なのか。三年前からみられていた事。自分に殺されていた。

と、前の彼ならばこの人物、この女性の予想がついたが混乱のせいもあるのか、それもわからなくなっていた。

 

「……だれ、なんだ?」

「もう、仕方ないんだから」

 

彼女はしゃがみ、トウカと目を合わせる。

 

「え……ああ、あぁ、あ」

「改めて久しぶり、大好きなトウカくん。私の顔は覚えてるよね?」

「な、なつ……なつめちゃ、ん……」

 

生きていた。彼女が生きていた。良かった、とトウカは涙を流して彼女の名前を呼びながら喜ぶ。

手も足も胴体も。体の動き全てを封じるために、頭以外をテレポートによって壁に埋められていたトウカは泣き始め、しばらくナツメに頭を撫でられていた。

 

……トウカは気づかない。

ナツメの優しさを感じさせる笑みの裏に狂気がある事に。

自分が逃げられぬようにと壁に埋められていたという異常性に。

首にかけられたかつてナツメが使っていた超能力を抑圧する道具があった事にも。

唯一つ。ナツメしか見えていない虚ろな彼は何一つ気づかなかった。

 

 

 

 

――そうして二人は堕落していく。

世界への出口は塞がれていた。

あるとすれば甘美な口付けと愛するヒトへの甘い囁き。

 

狂愛に満ちた女は何よりも愛している人に。

偏愛に堕ちた男は何よりも愛する人に。

 

何もかもを置き去りに、二人の世界は廻る廻る。

 

女の左手の薬指には古いガラスの指輪が。

男の左手の薬指には二度と外れぬガラスの指輪が。

 

そこには二人の幸福しかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――うぅっ! ゆ、め? ……はぁ、はぁ……」

「うぅん……どうしたの、とーかくん」

「……あぁ、ごめんナツメちゃん。起こしちゃった……なんだか嫌な夢を見た」

「そっかぁ……おやすみぃ」

「うん……おやすみ」

 

悪い夢。

現実のような虚実。

――でもあれも一つの幸せの形であったのだろう。

考えつつもトウカは彼女の手を握ってガラスの指輪が無いのを確認し、その良くない考えを振り払う。

 

 

眠る二人の指には何もない。

あるとすれば、小指の視えない赤い糸。

カントーへ向かう、夜の船の出来事だった。

 

 




色々とやっちゃった感が凄まじいヤンデレ夢話でした。
実は一番自殺し掛ける程心病んでたのは主人公っていう罠。
ヤンデレちゃった二人のした事はご想像にお任せします。

ちなみに、マユミさんの行方も三年間どうやってナツメちゃんが過ごしてたかも全部テレポート。
……テレポート万能説ェ……。

夢ゆえに御都合要素たっぷりでした。


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我慢出来るらしい

おかしい部分があるかもです。


朝。

窓から覗く水平線の遥か遠くに七島が見えた。

この事から既にカントー圏に入っている事が分かる。

……つまりナツメちゃんとも後少しでお別れなのだ。

 

一ヶ月。

長いようで短かった……なんてお約束な感想はさておき。

ナツメちゃんと別れてから、再会までの期間と一緒に居た時間だ。

本当はナツメちゃんと再会し、次に会う時は半年後と決めていた。

それがまさか一ヶ月で会う事になるとは思わなかったけど、彼女の心の内を聞けばその気持ちは分からなくも無かった。

それに加え一ヶ月で一緒の布団で寝るような関係にまで発展する事になろうとは思わなかったけども。

まったく……純粋なくせに無意識に押しが強いんだから、ナツメちゃんは。

 

純粋故に過剰なまでに一緒に居たがるナツメちゃんは、見た目は子供頭脳は大人の自分には少々辛かった。

同じ布団で寝てたなんて、彼女の親にバレたら何を言われるか……別に疚しい事なんてしてませんけども。

 

それはそうと、この世界に来て初めて打ち明けた秘密。

打ち明けた相手が、記憶が戻って会ったナツメちゃんであるのは運命だったのかは分からない。

超能力が使えると言っても未来予知は習得していないし。

 

まぁ、その超能力も秘密がバレないようにするために身に付けたわけだが、結局今では便利能力としての価値しか残らなくなった。

……それでも“お揃い”ということで、ナツメちゃんが喜んでいるので無駄にはならなかったのが幸いと言った所か。

 

「……くぅ……」

 

秘密を知る(くだん)の眠り姫はベットの上で未だ気持ちよさそうに寝ている。

寝顔も可愛い。何時間でも眺めてたいと思うのは惚気か。

……しかし残念な事にそろそろ起こさないといけない。

 

「ナツメちゃーん。起きてー」

「……ぅん……ん」

「起きないと悪戯するよー」

「……ちゅーしてくれたらおきる」

 

そう言って再び寝返りをうつ。

顔真っ赤だし無理して言わなくても良いのに。

 

「はぁ……おでこに肉って書こっかな?」

「っ! 起きるから止めてっ!」

「それでよろしい。……まだちゃんと付き合っても無いのにちゅーなんてしません」

「……はぁい」

 

交わした約束故に、実はまだ正式に付き合って無かったりする俺とナツメちゃんだった。

 

 

朝食を済まして数時間後。

現在はナツメちゃんの持つ荷物をまとめていた。

カントーのクチバでナツメちゃんは降りて、そのままお別れだ。

 

「トウカ君。……あの話を聞いてから聞きたかった事があるんだけど、いいかな?」

「いいよ。……何が聞きたいの?」

「私の事、前世だったけ? そっちで知った時から……私の事は好きだった?」

「ううん。違う」

「…………そっか」

 

正直に言うと、ゲームのなかではシンオウ地方チャンピオンのシロナさんとかジョウト地方の四天王のカリンさんが好きだった。

ストーリーの上で描かれている性格を含めて。

 

ただ、一つ言えるのは。

 

「でも所詮作り物の世界での話。現実とは違った。……ちょっとイメージと違ったけどナツメちゃんはちゃんと今此処に居て、超能力の使える俺の好きな女の子だ」

「……うん」

「だから……何て言ったらいいんだろ? ……とにかく今俺はナツメちゃんの事が、うん。……大好き」

「……私も。トウカ君のこと好き……」

「……」

「……」

 

無言が辛い。

おまけに顔があつい。

 

「えっと……準備しよっか」

「う、うん……そう、だね」

 

ちょっと気まずい空気の中、止まっていた手を動かした。

 

-------------------------

 

クチバの港でナツメちゃんと共に船を降りる。

ナツメちゃんの現在持つ、ミナモで買ったキャリーバッグを船から降ろすのを手伝うためだ。

係りの女の人に理由は話したら微笑まれて了承された。恥ずかしかった。

空は朝とは違い雲で澱んでいる。子供ながらの感性からか空が泣きそうだと思った。……馬鹿らしい。

 

およそ二ヶ月ぶりのカントーの地。

売り地になっていた土地が買われた様子が分かった。

まぁ些細な変化は良くある。

 

「じゃあ……ありがとう、此処で良いよ」

「うん、了解」

 

船着場の送迎場所では、一度だけ見た顔ぶれが見えた。

 

「……あれ、ナツメちゃんのお父さんとお母さんじゃない?」

 

ナツメちゃんはホウエンに一ヶ月滞在する事が決まってから電話で、船で帰ると伝えた、と言っていたので迎えに来たのだろう。

 

「……え……あ、ホントだ。……来なくても良いって言ったのに」

 

親の気持ちであれば、娘が元気であるかいち早く確認したいに決まっている。

だから俺に「ごめんね」と謝るのはちょっと違う気がしますぜ、ナツメさんや。

 

ナツメちゃんが少々気まずい顔をしているが、俺はお辞儀をして挨拶をする。

気まずい顔をしている本人は隣で手を小さく振っていた。

 

「……それじゃナツメちゃん。元気でね」

「うん……」

 

正直に言ってしまえば、ナツメちゃんの親御さんに顔を合わせるのが辛い。

ナツメちゃんの隣に、男の子の域を出ないとはいえ、娘の隣に異性が居るのは良い気持ちじゃないだろうし。

……娘に寝る時に三つ指立たせるよう、躾けた母親は居なかった事にしよう。

 

「待って!」

「うん? どうしたの」

「……待ってるから、トウカ君の事……」

 

……神妙な顔して何を言うかと思えば。

 

「そう言って一ヶ月後に会いに来た人は誰でしょーか?」

「……むぅ……だって会いたかったんだもん」

「可愛く言っても駄目。……今度は来ちゃ駄目だからね? カントーに寄らずにそのまま海外に行くんだから」

「うん……でも…!」

「でもはなし。ナツメちゃんが約束果たすのにも一ヶ月間の猶予が無くなったんだから来ちゃ駄目。約束ホントに守れないよ?」

 

そもそも半年ですら無理難題ではある約束の内容だ。

シンオウに来て、帰れないなんて事になったらそのままイッシュ行き。

カントーにはしばらく戻らない。

それこそ本当にナツメちゃんは約束は果たせなくなる。……約束が守れ無かった時の事を考えると俺は嫌だ。

 

それが分かったのか、分かって無いのか自分には分からない。

ナツメちゃんは渋々といった様子で俯きながら頷いた。

 

「……分かった。トウカ君がハグしてくれたら。絶対会いに行かないって約束する」

「…………はい?」

 

……ただし条件付きのようで。

 

俺の耳がおかしいのか? この子いま何て言ったの。

ハグしろと? この状況で? 見ず知らずの人やナツメちゃんの親御さん見てるのに?

 

「いや……」

「……絶対行かないから」

 

……そっか。

それで……ちゃんと守ってくれるのなら……。

 

「……うぅ、恥ずかしい。……本当に守ってよ?」

「――うん!」

 

自分で言ってても恥ずかしいのか、手を広げるナツメちゃんも顔は少し赤い。

そんな彼女に近づいて俺は抱きしめた。

11歳となったこの身。

ナツメちゃんは女の子で成長の早く、既に150cmくらい身長がある。

……そして身長差は、頭一個分自分の方が小さく。

 

「……うぅ……」

「もうっ! 声出さないでっ……くすぐったいよ……」

 

ちょうど顔が発達途中の胸に埋まる位置だったりする。

――あぁ、悟りの境地に達せそう。

 

……抱きしめられたままで、しばらく羞恥プレイに堪えることになった。

あらあらまあまあ、と周りから声が聞こえる三十秒間程を堪えて、ハグしていた体をナツメちゃんから離す。

そして笑顔で手を振るナツメちゃんに、手を振り返して船内に戻った。

 

 

「……後でそのビデオとカメラは打っ壊すからな」

『『許してくださいぃいい!』』

 

変態(研究員)達は揃って(こうべ)を垂れた。

 

 




「ナツメ。あれは……」
「……トウカ君。私の好きな人」
「……(ギリッ)」
「ちょっとお父さん。認めたんじゃなかったの?」
「しかしだなぁ……」
「駄目って言ったら……お父さんの事嫌いになるから」
「ナツメぇ……お父さんは、お父さんは……」
「はいはい。分かったから……そうは言ってもまだ先の事でしょうが」
「? お母さん、先の事って?」
「……ナツメは気にしなくてもいいの。……それよりも何処まで行ったか帰ってお話して頂戴ね」
「……話さないと駄目?」
「駄目よ」
「ナツメぇ……」
「「お父さんうるさい!」」

-------------------------

後書き使った二回目のオマケ。
家の中でのヒエラルキーは、やはり母が頂点。
何処の家も変わらないかと思います。

予想以上にヤンデレルートが怖いと言われた。
ホラーって程では無いと思ったんだけど。
……あんなナツメも可愛いと思う作者はおかしいでしょうか?
純粋な子ほどヤンデレになった時が怖い。でもそんな愛情を受けてみたい。

さて、狂ってる作者は置いといて。
それではまた次回。


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淑女らしい

拙い。


 

日差しがあるが涼しい風が吹く。

 

そんなお日柄が続く海上の船の中。

 

その一室ではお亡くなりになった一眼レフのカメラに嘆く者が居る。

他の一室ではゴミと化したビデオカメラを前に目を瞑り、黙祷を奉げる者も居た。

またある一室では…………いや、もう何も言うまい。

 

そんな状態にした原因たる四人の一人である自分が言うのは彼等に失礼だ。

 

私は淑女。

 

かつては彼等同様、()わった()度をとる人間の一人だった。

 

もしくは、尊敬すべき彼――僅か六歳にして大学へ入学し数々の功績を叩き挙げた若すぎる天才、トウカ室長。その彼を尊敬するが故に、愛してしまった愚かな人間たちだ。

 

私達はショタコン、と世間に呼ばれる人種であったと自覚している。

 

だが、それもこれも彼が悪い。

 

その悪い事とは実際の所、彼が明確な悪意を持って行った事では無い。

彼と初めて会った時。その時、彼の小さい身なりに同年代を相手にしているかのような印象を受けた。

それ程までに彼は私達に大人を感じさせたのだ。

 

今こそ彼も態度を崩して我々研究員の頭を(はた)いたりしているが、今思えば恐ろしくもあるその雰囲気。

本来であればポケモンスクールに通っている年齢のはずなのに……。

 

子供であり大人。

 

そんな歪な所に私たちは惚れたのだ、と今ならば思う。

 

 

さて、ショタコンなどと言う危ない思考を持っていた、淑女四人の一人たる私が何故そんな事を思う訳だが。

 

まぁ一概に失恋したから。

正気に戻ったとも言う。

 

詳細は省くが、彼にはガールフレンドが出来たのだ。

女の私たちから見てもその彼女は可愛らしかった。

その上、室長に会いたい一心でカントーからホウエンまでやってくるのだ。

それもまたいじらしく思う。

 

研究員の中には惚れた、と言う大馬鹿者が居たのだが室長により制裁が下されていた。

しかし、それに悦を浸り、そいつはまた室長へと乗り換えたのが室長にとっての災難か。

……かく言う私たちも人の事が言えないので、これ以上は省く。

 

 

そんな室長が大事に思っている彼女――エスパーであるらしいナツメちゃんから、かつての私達であれば室長を奪う事もできた。

しかし、それは室長の笑顔を見て止めた。

色々とおかしい彼のポケモンの世話をしている時以外は笑わない……私達に笑顔など向けない彼が笑うのだ。……彼女と居ると。

いや、私達に笑みを向けるとどうなるか分かっているからだろうが、彼女と居る室長は本当に嬉しそうであった。

それを子供に戻るというのだろうか。大人っぽい子供の彼が自分を出せているようにも思えた。

 

そう、私達の完敗である。

 

故に私は、この尊敬を。愛を。室長の平穏のために使おう。

あぁ室長、どうかお幸せに……。

 

あぁ、最後に――

 

 

――……室長hshs! prpr!!

 

-------------------------

 

過ごしやすい天候の本日。

トウカこと俺は彼奴等めが持つカメラやビデオの破壊工作のため、彼等の部屋に訪れた。

しかし、目的の物は既に壊された様子で。

一人が「アイツらめ……」と呟いていたのを考えると、大体誰の仕業かは予想はついた。

 

恐らく、まともなようで実はまともでは無かった女研究員達が壊したのだろう。

 

出来れば本当にまともであって欲しかった所だ。

 

……そんな訳で誤魔化されそうだった女研究員たちのブツを壊し終わってしばらく。

現在は船のデッキの上、船に休憩のためとまるキャモメを観察しつつ、今頃絶望に染まる女研究員の表情を想像。

そして他の理由でもってダウナーになっていた。

 

さて、憂鬱になってる理由だが……純粋に寂しくなった。ナツメちゃんに会いたい。

詰まる所、ナツメちゃんを想起させるあの部屋に篭って居られなくなったのだ。

そのため外に出ているわけだけども。

隣にナツメちゃんが居ない。

こんな風に思うって事は俺は彼女に心の底から惚れているのだろう。

 

「ふっ……居なくなってその大切さに気づく、か……」

『何言ってんですかマスター。ナツメさんは家に帰っただけでしょうに。……それとカッコつけても誰も見てませんよ』

 

キュウコンの言う通りだ。

それにしても痛いセリフを言ったな、自分。

誰かに聞かれてたら悶死するレベルだった。

見られてなくて良かった。

 

……寂しい。

 

『はぁ……。ウインディと私の境遇程じゃ無いでしょう? 信じて待ってあげるのも男の務めです』

『……俺も?』

『ウインディは迎えに来てくれたら嬉しい……かな?』

『わかったよ……キュウコン』

『ウインディ……!』

 

ナツメちゃんと再会してこいつ等にイチャつきを許したのが間違いだったか。

傷心気味の俺の前でイチャつきやがって……!

 

〈トウカーご飯ー〉

〈……私もお腹減った〉

『父さん……僕も』

 

あぁ、そうだった。

こいつらの朝食がまだだった。

 

……ところで気を紛らわすためにも一つ。

メタングは最近になって言葉が使えはじめた。

念話はまだのようだがその内だろう。

現在、例の本で確認した所40Lv近くになっていたため進化ももうじきだ。

 

流石、ピカチュウ先生によるレベリングはハンパ無い。

 

『思いつめるのは良いが私達の世話をしないのは良く無いぞ、ご主人。……ピカチュウ先生言うな』

 

「……うん、色々ごめん。……元気出す」

 

はぁ……部屋に帰ろう。

ナツメちゃんの残り香のするあの部屋に。

 

……うぅ……寂しいよぉ……。

 

うみねこ(キャモメ)はキャーと鳴いた。

 

 




変態は結局変態。

それでは、お粗末さまでした。
次回からシンオウ。


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眠っているらしい

ギンギラギン――ではなく。

キラキラと日の光が射すキッサキシティ。

 

「涼しいなぁ…………涼しいと汗を掻いた室長が見れない」

「ですねー…………同意」

 

ありきたりな感想を言いながら、最後のほうでぼそぼそと言ってるが聞こえてる。

声隠せよ、と言いたいのだが……言ったらまたメンドクサイので止めておく。

 

さて、馬鹿どもは置いといて。

 

なぜ態々一番遠い港へ船を着けるのかさっぱりだが、とにかく我々はシンオウへとやってきた。

尚、「別にミオシティでも良かっただろうに……」と呟いたら、この後ファイトエリアの方に行く、と船長さんが教えてくれた。納得である。

 

そして――……シンオウ地方よ。私は帰ってきたッ!

 

『はぁ……敢えて私は何も言わないからな』

 

薄々感づいて居ただろうが、確実になった今。

精神年齢は既にオッサンレベルの俺に最近ピカチュウは冷たい。

精神年齢高いのにガキっぽいせいらしいが…………それもこれも身体に精神が引きずられてるせいだ。

 

『はいはい。だがやっぱり……大人気が無いな』

 

子供だもん。

ちょっと年増な子供だもん。

 

『……ロリコンめ』

 

――ごめんなさいッ!

 

って、いやいやいや。

というかナツメちゃんはロリじゃないし。

俺から見たらお姉さんだし。

 

『ナツメちゃんより大人になるね、って言ってたの何処のご主人だったか。……まったく』

 

……そーですね。

 

ミオに向かう船へ乗る前。

俺はピカチュウと話しをしながら、伝説の一つ――大陸を引っ張ったと言うレジギガスの眠るキッサキ神殿へ研究員を引きつれて向かっていた。

 

-------------------------

 

キッサキ神殿への道中にて、同年代と思われるスズナという少女に案内される事になった。

半袖姿の元気な子だ。

あの元気のよさはオダマキ博士の娘さんにも匹敵するような気がする。

ちなみに、なんで案内を、と聞いたらキッサキ神殿の管理者……キッサキジムのジムリーダーらしい。

 

「す、すごい……」

「それなりにね!」

 

……顔には出してないけども、ちょっぴり冷や汗だ。

不法侵入しかけてたわけだから……。

 

で、神殿内。

初夏のこの時期だと言うのに、神殿内部は凍えるように寒い。

研究員は入り口の方で寒いと言ってついてこなくなった。

いくら変態とは言え、無理をさせるのも忍び無い。

体調崩して貰ったら後に差し支える。

 

というわけで現在二人きりなわけだが……微妙に気まずい。

彼女も少々歩調が早い。

 

こっから先の氷の床で滑らなきゃいいけどさ。

 

「……あたし何考えてんの……」

「……」

 

それも何かお悩みの様子で。

なんだろうと知らないけども。

俺に関わる事で無ければ良いんだ。

 

……わー! ナツメちゃーん! 気まずいよー!

 

「……うん、気のせいだよ。気のせい」

「……」

 

やばい、この空間が辛い。

 

「……ふう。そろそろつくけど、ここから先の床は滑るから注意してね!」

「了解ですガイドさん」

「……別にスズナと呼んでくれてもいいからね!」

「了解ですスズナさん」

「…………フツウに呼んじゃうんだ」

 

知らんがな。

 

 

予想以上に滑る床に苦戦しつつも着いた最深部。

階段を降りた瞬間、そこには巨大な姿があった。

 

「驚いてないの、室長さんは?」

「…………まぁ」

 

実は結構ビックリしてる。

テンションも上昇中。

 

「近くに行ってみて。迫力すごいから!」

「案内してくれないんですか?」

「はっはっは!」

 

誤魔化しやがりましたこの人。

実はこの人レジギガスが恐かったり?

…………ま、なんでもいいや。

 

さて、疲れてきた事だし……メタング。

〈なに? とーさん〉

乗せて。

〈うん。いいよ〉

 

エスパーらしく念話で会話をすます。

ミュウ二匹に教わっていたのだが、ようやく出来るようになったらしい。

我が子のようなメタングの成長を喜ぶべきか悲しむべきか。

うぅん? なんか前にも考えた気がする。

……うん、気のせい気のせい。

 

メタングをボールから出して、その上に乗る。

スズナさんの驚いた声が聞こえるが知らんぷり。

 

「おぉ……サーフィンみたい」

 

やった事無いけども。

色々と募る感想があるがメタングに乗って飛んで行く。

 

雄々しく(そび)え立つ姿は得も言えぬ迫力だ。

……それでも目の前に降り立ち、触ってトキワの能力を使う。

 

『…………』

 

反応なし。

 

『…………Zzz』

 

眠っている。

……コイツ、寝てやがる!

叩き起こしたいけど……まぁいい。

体に書かれてる文によればやっぱりレジ三体を連れてこなきゃいけないみたいだし。

 

 

ちょっと気落ちして、スズナさんに連れられその場を後にした。

帰りはスズナさんがメタングに乗り、俺がメタングに引っ張られながら凍った床を安全に進んだ。

 

-------------------------

 

神殿入り口前に座りこんでいた研究員を連れてミオシティ行きの船に乗る。

スズナさんが「また来てねー」と手を振りながら見送りをしてくれた。

……今度来る時はレジ三体連れてこよう、とちょっと決意をば。

 

そして、これからの予定はミオに行き、そこからマサゴに住んでるらしい、おじいちゃんの大学時代の先輩……ナナカマド博士に挨拶して、ヨスガのミズキさんにデータを持って行く。

後は拠点を構えて……という予定なのだけれども。

 

「……なんでかなぁ……」

〈――貴様は何者だ!?〉

 

……船が波に乗り上げて、俺がデッキから吹き飛ばされ。

近くに見えた島にテレポートしたら誰も居ない島で。

周りを見渡して見えた島に、更にテレポートしたら今度は黒い何かに会った。

……いや「何か」って言っても何なのかは分かっている。

 

「――ホントなんでダークライ……お前のいる新月島なんだよ……」

〈だからキサマはァアアアアア――!〉

 

どうでも良いけど気の短い奴は嫌われると思うんだ。

 

……波導弾が撃ちたい。

 

 




レジギガスのあの特性が恨めしかった。
アレさえなければ……!
……スキルスワップ覚えて欲しいと思ったのは俺だけじゃないはず。

シロナ様に浮気しそう。
Pi○ivでナツメに定評のある作者さんの作品見に行こう。
ナツメちゃん可愛いよナツメちゃん!

返信が遅れてます。
ごめんなさい。
ちゃんと見てはいますので暫くお待ちください。


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馴染みらしい

目の前の黒い方。

新月島を縄張りとしているらしく、追い出すために眠らせ悪夢を見せようとしてきたのだが上手く行かず。

精神攻撃をレジスト出来るようになってた俺に、目の前の方はお怒りになっているというわけなのだが…。

 

「……ちょっと静かにさせて、ピカチュウ」

『? ……了解』

〈な、なんだ! 黄色いねずm……!〉

 

いやぁ、怖い。

ホントにピカチュウ怖い。

悪夢見させてくるより怖いわー。

 

めだかボッ○スの都城○土だもんな。

それに加えて、とある第五位とか……洒落なんないです。

……まぁ良識があるぶん控えてくれてはいるけども。

 

「さて、黒い方。此処はあなたしか居ませんか?」

〈……(ブンブン)〉

 

親切なことに黒い方は勢いよく返事をしてくれる。

いやー優しいわー。

勿論結果は予想通りイエス。

 

「じゃあ次は、鉄が沢山とれる島ってどっち?」

〈……(フイ)〉

 

プルプル震えながらも腕で指さしてくれた。

それにしても全身震わせて寒そうだ。

自分が寒いにも関わらず親切にしてくれるなんて、ホント優しいなー……。

 

〈……〉

 

真っ黒な身体が青ざめているように見える。

 

……。

 

「……ピカチュウ解いてあげて」

『はぁ……《戻れ》』

〈アァ……こ、怖い……〉

 

黒いお方。

ダークライさんはピカチュウに恐怖したみたいだ。

……無理も無いかもしれないが。

 

「……いやうん、ごめん。ダークライ」

〈うぅ……怖いよぉ……〉

 

ダークライはヘナリと力無く地面に座りこむ。

 

『それにしても……なんたって急に苛々し始めたんだ、ご主人』

 

いや、ね?

ダークライには苦渋を飲まされてまして。

 

……くそぅ。今思い出しただけでも腹が立つ。

アイツ、ダークライで何度も完封しやがって……。

あともう少しだったってのに…!

 

『訳が分からん……が、とにかく誠心誠意キチンと謝るべきだと思うぞ』

「……うん」

 

〈こわいよぉ……クレセリアぁ……〉

 

新月島の開けた空間。

ダークライは泣いていた。

 

-------------------------

 

ダークライ。

その存在は第四世代初期……ダイヤモンドとパールの時から確認されていた。

本編中でこそ登場はしなかったものの、今回向かっていたミオにて悪夢にうなされている少年が居た。

その子を救うために満月島……先ほど居た場所で三日月の羽根を手に入れに行くイベントで、それらしき存在は確認されている。

ダイヤモンド・パールでは通常手に入らないものとなっていたが、ある方法を使えば出会う事が出来るため捕まえれた。

 

その方法は――いや、これ以上はよそう。

 

あの場所もあの方法も。

……悲しい事件だった。

 

さて。

先ほどの三日月の羽根の持ち主、クレセリア。

彼女、は元来ダークライに対なすものとしてポケモン関連のゲームでは描かれている事が多かった。

 

それなのに。

 

〈ひっく……くれせりあぁ……〉

〈泣かないの! まったく。何時になったら……〉

 

急にやってきたと思ったらなんでダークライと幼馴染的なやり取り交わしてんだよ。

あれか。ポケモンって皆こんななのか。

ウチの炎二匹みたいに。

 

『ハァ……』

 

ピカチュウも頭を押さえて溜め息ついてる。

 

……いや、なんで俺の方見てもう二回目の溜め息つくかな?

明らかに俺にも呆れてる感じなんですが!

 

――あ、まさか。

ピカチュウお前俺がこの二匹、捕まえようとしてるだろうなぁ、とか考えてるだろ。

 

『……当たり前だろう?』

 

いやいや。

俺もそこまで外道じゃ無いって言うか……ねぇ?

 

『……今までの行動を振り返ってから言ってくれ。なぁご主人』

 

グフゥ……反論できねーですたい。

いやぁ、うん。ダンバルだけだもんなぁ……まともに手に入れたのって。

あぁいや、元メタモンもか。

 

思えば碌にポケモンバトルもして無いし。

してるとすれば手持ち達での大乱闘くらい。

……思考が反れた。

 

「……そのなんだ。ダークライ」

〈ひっぐ……?〉

「怖い思いをさせてしまって済まなかった。……完全に八つ当たりだった」

〈? それはどういった……〉

「いや、うん。……ダークライに似た奴に色々と恨みつらみがあってな」

 

頭を下げて謝る。

クレセリアには似た奴と言ったが、ダークライ自体に恨みが……。

いや、よそう。言っても争い(バトル)しか生まない。

 

〈……そうですか……もう! アンタもくよくよしてないの!〉

 

ダークライをクレセリアはど突く。

落ち着いた様子のダークライは恥ずかしげにしていた。

 

〈……わかったよ……許してやる〉

〈ん? まだなんかあるでしょう?〉

〈こちらこそゴメンなさいっ!〉

 

なんか尻に敷かれている。

強く生きろよ、と言いたくなったがそんな事言える立場じゃ無いのでやめとく。

 

…………夫婦って、大体奥さんの尻に敷かれてる所が長く続くって聞くよ、うん。

 

 

夫婦漫才を繰り広げる二名に別れを告げ、メタングに乗る。

 

――そういえばダークライって性別なかったよな、と思い出すも気のせいとする。

 

目指すは、島自体が大きな鉄山であった島。

岩と鋼ポケモンのアイランド……こうてつ島へと宙に浮いた。

 

-------------------------

 

こうてつ島に向かう途中、メタングのスタミナ切れという思わぬ事態が起こった。

幸いにもピカチュウ、ミュウのおかげで海上で墜落ということにはならなかったが、少々心臓に悪かった。

それと言うのも、何処かの電気ねずみさんがミュウがバリアーを張り、メタングへの搭乗者が固定されている事を良いことにレールガンの要領で進んだからだ。

 

バリアーによる保護によるため摩擦抵抗が無く、あるとしても空気抵抗のみであるために、ほぼ初速のまま。

Gは幸いにも掛からなかったが、それでも恐かった。

 

だってピストルの弾より速いんだぜ、あれ。

銃弾は、空気抵抗摩擦抵抗etc...と色々と初速より遅くなるが、ピカチュウによるレールガン改はそんな事知ったこっちゃ無い。

……思わぬ所で音の世界を体験したよ、うん。

ちなみにブレーキは普通に掛かった。

 

 

まぁそんな滅多と無い体験をしてやってきた此処、こうてつ島。

 

そのままミオに行けば良かったのだろうが、目立つのは避けたいため、こうてつ島から船に乗せてもらう事にしたからだ。

船着場に行って、次の便で乗せて貰うようにしたのは良いものの、少々手持ち無沙汰に。

 

……ちなみに、お前さんみたいなガキを連れてきたかなぁ、と船乗りのおにいさんに言われたが、誤魔化したのでよしとする。

 

さて。

それはそうと、こうてつ島にはある人物がいる。

ポケモンのゲームの中で多々ある逸話の内の一つ。

 

ポケモントレーナー――ゲン。

 

ある人物と同一人物では無いか、と向こう(前世)で実しやかに語られていた彼が。

リオルの卵をくれるその彼が――……相棒らしきルカリオと共に、今目の前でバトルをしていた。

 




タイトル詐欺にあらず。
幼馴染とは本人達は言ってない。
馴染み深い仲であるのは確か。

馴染みと言えば安心院さんを思い出した。
ナツメちゃん可愛いよナツメちゃんっ!(自己暗示

…………でも彼女は可愛い。


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美人らしい

ポケモントレーナー、ゲン。

かつて自分がみた映画の登場人物で、映画を通して初めて伝説以外での主役ポケモンとしてその姿をなしたルカリオの主人たるアーロン。

ゲームで初めてポケモントレーナーたる、彼のその姿を見た時は「あのアーロンでは無いか」と勘ぐらせ、思考の渦に陥れてくれた。

 

なんせ被っている帽子、服の色……と、等々共通点が多すぎる。

年齢も不明な事も、やはり勘ぐらせる。

 

 

その人が今、ルカリオと共にバトルを目の前でやっていた。

相手はハガネール。

今は既に相手は気絶しており、何処かしびれている様子。

何かしら近寄って、殴った様子では無いにしろ触れて力を込めていたようなので、あれは発勁だろう。

 

……やっぱり、ルカリオはカッコいいな。

 

「んー……やっぱり誰か見てるな。……出てきなよ」

「え…?」

 

思考に耽っていたにせよ、自分は死角に居る。

なんだけど…………なんで分かったんだろう。

しかしまぁバレているのなら隠れる必要も無い。

疑問に思いつつも彼の前に姿を見せる。

 

「ほー……てっきり大人のような気がしたんだが」

「……こんにちわ」

「そうだね、こんにちわ。……きみ、名前は?」

「トウカです。あなたは?」

「ゲン、と呼んでくれ。……なんだか君から感じる波導は成熟したそれのように思うんだが……」

 

……はどう、ね。

やっぱり本人なのかな。

 

「気のせいでは? えっと“はどう”ってなんですか?」

 

少しとぼけた振りをして、聞けるようなら聞いてみよう。

……ちょっと使ってみたいっていうのがホントの所だけど。

 

「…………まぁそういうことに事にしておこう。どうやら赤の他人の僕が気軽に触れて良いようなことでも無いみたいだし」

「それも波導で分かっちゃうんですか?」

「ははは、まぁそうかな。……にしても君は知って居るだろう? 波導が何なのかを」

「いやぁ……“みずのはどう”とかポケモンの技くらいですかね?」

 

こ憎たらしい小僧だと自分でも理解しているのだけど。

……にしても俺、初対面の人にこの対応は無いんじゃなかろうか。

 

「ぶっ……ハッハッハ…! 面白いな、君!……!」

「……はぁ……ま、いいです。今に分かった事じゃ無いですから。というか考えてる事勝手に読まないで下さい」

 

初対面の人に考え読まれて笑われる自分……ないわー…。

 

「ふぅ……わかったよ。悪い人間じゃなさそうだし、君になら教えても構わないかな」

「波導を?」

「あぁ。……でもトウカ君。分かっているとは思うが使い方には十分留意してくれ」

「……はい。やはり呼ぶのはゲンの方がいいんですか?」

「さて、なんのことやら……」

 

……とぼけてはぐらかされた。

気になってたのになぁ……。

 

「ははは! ……まぁ、君の考えている通りだと思ってくれて構わないよ。じゃ、触りだけ教えておこう」

「……よろしくお願いします」

 

そうして船が来るまでの短い間。

俺とゲンさんは師弟の間柄になった。

 

-------------------------

 

――さて、波導使いとしての教えを請い、それから一時間後。

現在の俺は船の上。

ゲンさん指導を思い返しつつ横になっていた。

 

教えて貰った波導の二通りある方法の内、一つを教えてもらって。

それは、神様転生の特典なのかは分からないが、馬鹿みたいに自分の中にあるらしい波導の源である『気』を直接使う技術。

「努力」に重ね、熟練した彼の指導あってなのか、ものの五分程でコツが掴めて習得。

 

この方法はポケモンの『はどう系の技』に通じているらしく、波導弾が出来るとゲンさんに説明され、実際に見せてもらった。

……アレは感無量でござった……。

自分でも出来無い事は無い。

しかし、おそらく後三日くらい頑張らないと出来そうに無いので精進せねば。

 

そして聞いた、思わず目を丸くさせてしまったもう一つの方法。

口頭で説明を受けたが、俺にとっては驚愕の事実ばかりだった。

 

それは、ある特殊な呼吸法で空気中の『気』を練り上げ、波導を体に流して使う方法。

この方法は基本的に『気』の量が多い俺や師匠であるゲンさんには必要の無い方法で、今回教わらなかった。

その概要とは、身体能力や治癒力の向上。

挙句には細胞の活性化により、体を若く保てるという恐ろしい技術だ。

ただ、才能ある人間でも習得にはかなりの時間が必要になる、と一応その技法を収めているゲンさんから聞いた話だ。

 

……。

 

……はぁ。

いや、なんとなく似てるな、とは考えてはいたけども。

教わらなかったがどう考えても例のアレ(・・)

やりたかったけど時間も無い事だし遠慮した。

 

 

〈……で、なにやってんの?〉

「…………この世界ってなんなんだろうな、と」

〈?? ……まぁ、とりあえず船降りたら?〉

「……うん」

 

ミュウに言われて船を降りる。

降りてすぐ、右手には巨大な建物……ミオジムがあり、さらに向こうにそれなりに大きい建物が見える。

確か……図書館だったけ。

割とシビアな内容の本が多い図書館だった気がする。

 

……と、泣いて研究員胴上げされて喜ばれる最中、場違いな事を考えていた。

どさくさに紛れて、ちょっと自粛しないといけない所を(まさぐ)ってきた変態には鉄槌を落とした。ご愛嬌である。

 

てめぇら、今度は波導混ぜてやっかんな!

 

-------------------------

 

船から落ちた時、割と真摯に「心配した」と言われて恥ずかしくなった一件も終わり。

研究員共々、空を飛んで目指したのは南東。

お爺ちゃんの大学時代の先輩、ナナカマド博士の研究所へ歩を向けた。

 

「なぁ、離して」

「「無理です」」

「……くれないのね」

 

と、過保護に手を引かれながらだ。

……良いじゃないか、帰ってきたんだからさ。

 

「……ん? 誰かいますね」

「あ、ホントだ……後姿は美人」

 

隣の二人がナナカマド研究所前に居る、後ろ姿からして恐らく女性に気づく。

帽子をしていてよくわからないが、(うなじ)の部分で判断するに、多分金髪の人。

……例の、比較的まともな二人に引き連れられている、リトルグレイのような自分は、ある人を思い浮かべていた。

 

振り返った彼女はこちらに気づいたのか、近寄ってくる。

顔は、変装用なのかぐるぐる眼鏡をしていて良く分からない。ただ端正な顔立ちだという事は分かる。

 

「えっと……」

「こんにちわ。……君が噂の博士君で間違いないかな?」

「……はい。アナタは?」

「えっと、ナナカマド博士に『来なかったら迎えに行くように』って頼まれたの。……でもちゃんと来てくれたから良かったぁ」

 

……?

 

「なぁ、お前たち……俺が船から落ちた事ナナカマド博士に言ったのか?」

「えぇ連絡しました」

「……自力で帰ってきた事は?」

「……すみません」

言って無いのね……まぁいいけど。

 

「……えっと態々有り難う御座いました……名前を伺っても?」

「そんな畏まらなくても……ま、いっか」

 

彼女は眼鏡と帽子を取り、中に仕舞っていた髪を降ろす。

 

「……私はシロナ。ポケモンに伝わる神話を調べている物好きなトレーナーよ。よろしく、博士君?」

「――――」

「……室長、急に固まってどうしたんですか」

 

――いや、シンオウチャンピオンを前にして固まるなと言う方が無理だろ……。

 

 




主人公強化回。
例のアレは……ジョジョと言ったら分かるだろう?
共通点は多いと思うのです。

皆さんご期待の彼女が登場。
デレるか否かは作者のみぞ知る。


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使い手らしい

その出会いは劇的で。

彼女のビッグネームを知る人間にとっては、心臓に非常に悪く。

また、とてもではないが驚きだけで済ませれるようなものではなかった。

なんせ相手は、かつて苦戦し、見惚れたその人。

ゲームと言う媒体を通して知る彼女の姿は余りにも魅力的過ぎた。

――……それがこの世界の親(ゲー○フリーク)の戦略だなんて無粋な事は考えない。

 

ともかくだ。

その人が今、目の前で笑っているッ! そう! 俺に向かってッッ!

 

『ヤバイ』

 

頭の中はその一言で多い尽くされていた。

 

ゲームで知る彼女より美人で。

何よりも直接感じられなかった優しい雰囲気が感じられる。

『波導使い』になったせいなのかは分からないが、この人から出るそれはダイレクトに伝わってくる。

 

正直言うと浮k……うわぁー!

なつめちゃーんっっ! たーすーけーてーッ!

 

「――し……う! ……ちょう! ――室長!」

「……あ、ああ!」

「どうしたんですか、急に固まって……らしくないですよ」

「うん。ご、ごめん……ちょっと待ってくれ」

 

目を瞑って深呼吸。

……よし落ち着いた。

目を開いてちゃんと挨拶を……。

 

「大丈夫?」

「わぁああああ!」

 

び、びびった!

目の前に、目の前に!

 

「わ、私何か悪い事でもしたかしら……」

「い、いや全然! 俺が悪いんで、はい!」

「――室長?」

 

研究員の訝しげな声が。

もう一人が顔を耳元にまで近づけて耳打ちしてくる。

 

「……室長まさか」

「言うな、絶対に。言ったらお前を殺さないといけなくなるから。ちょっと使えるようになった波導弾をお前にぶち込まないと行けなくなるから」

「何処で覚えてきたんですか、それ」

「聞くな。俺はまだ、変態とは言えお前達を殺したくは……ない」

「――はい」

 

聞いてきた研究員に耳内で返す。

さぞ変な事をしていると思われているだろう。

 

「ゴメンなさい、シロナさん。ちょっとビックリしただけで……」

「そ、そう……良かったぁ。私がなにかアナタに悪い事でもしたのかと」

「――グハァッ!」

「「し、しつちょぉぉおおおお!」」

 

残念、ここでトウカの旅は終わってしまった!

 

 

……目がさめたらそこは見知らぬ天井だった。

 

……。

 

…………あれ、なんで寝てたんだ?

それから体を動かそうとして誰かに手を握られている感触があるんだけども。

 

「あ、起きたのね。よかったぁ……もう目を覚まさないのかと思った」

「え、ちょ……えぇ?」

恐ろしいまでのヒロイン、とゲームで言われたシロナさんがそこに居た。

 

「えっと……なんで手を握って?」

「? 心配だったからだけど……」

 

なんだこのヒロインは……。

やめて、俺にはナツメちゃんって言う最愛の人が!

 

 

 

 

……いや、ちょっと待て。

 

「あ、あの……手どけて貰えますか?」

「……うん?」

「いや、今握ってる俺の左手じゃなくてですね……その下腹部にある手を!」

「……」

 

彼女の左手は現在俺の下腹部の上。

あれれぇ? おかしいなぁ? ……ちょっとアイツ等と同じ匂いがし始めたぞ!?

 

「シロナさん。いくつか質問に答えてください」

「う、うん……何かな?」

「あんた、変態か?」

 

暫く間が空き。

 

「――……たとえ変態だとしても、変態と言う名のしゅ「もういいです。警察呼びま」わー! まってぇ!」

 

手で口を塞がれベッドの上に押し倒されるような形になる。

そのふくよかな胸が身体に当たっているが……しかし彼女は変態だ。

そう、変態だ。

美人強度でならば割りとレベルの高いウチの研究員を凌駕するが、しかし変態だ。

 

変態は許してはならぬ。森羅万象が覆ろうともそれは決して。

変態は一人見付けると三十人は居ると思え、とは誰の言葉であったか。

 

ナツメちゃん、良かったよ。

俺は君を裏切らなくて済みそうだ。

 

 

……落ち着いたシロナさんから聞いた弁明は、つい魔が差してやった、と。

ショタコンめ、と罵ってやったら頬を染めていた。……チクショウめ。

 

それから。

 

「うむう! 良く来てくれた。トウカ君」

「……はい」

「……」

「……」

「……ウチの教え子がスマン」

「いえ、別に。膝の上に乗ってたらそれでいいそうなので。お互い、苦労してますね」

「……そうだな」

 

存外、ナナカマド博士も変態には苦労しているようだ。

 

「先生。酷くはありませんか、それ」

 

変態が頭上で何か言う。

知るかそんなもん。……なんで変態の癖にこんな良いもの持ってるんだろうか。

頭の上がやわっこい。

 

「「ポっとでのヒロインの癖に!」」

 

ウチの研究員達が荒れている。

ポっとでのヒロインとか……いや、変態(シロナさん)はヒロインじゃねーだろうが。

 

「ふふふ……♪」

 

まぁ、嬉しそうなのでよしとしよう。

ナナカマド博士がこの場に居る俺以外に退出を求めた。

 

 

「はぁ……あんなヤツじゃなかったんだが……許してやってくれ。それで、……今回の目的はオーキドから聞いた」

「大丈夫です。シロナさんについては……十分理解がありますので。目的に関しては説明は要らないと思いますが……どうしたんですか?」

「うむう。……せっかくだ。終わった後、シロナと一緒にポケモン神話の研究をしてみてはくれぬか? ……色々と知識には明るいらしい、とオーキドから聞いたものでな」

「……別に構いませんが。…………何かありますね?」

「はて、なんの事か分かりませんな、トウカ博士殿。別に行き遅れになろうとしている我が子のような奴をくっつけようだなんてしてませんが?」

「……俺、誕生日来ましたけど11歳ですよ?」

「……気にしては駄目なことだな」

「気にして下さい」

 

-------------------------

 

――さてはて、実の所である彼女の心の内は。

この度出会った二人目の波導使い(・・・・)

俺の嫌う変態を演じる、兄弟子にあたるシロナさんは。

出会った当初、俺が心の内で叫んだ好きな人の名前が聞こえて。

一目惚れをしたらしい彼女は羞恥を隠し、変態の仮面を被りその心の内を隠した。

 

残念ながら既にシロナさんを超え、師匠に半分程追いついている自分には隠せていなかったが。

 

少し。

すこしだけ。

その健気さに胸を打たれたのは内緒だ。

 

……それでも諦めない、と決意してるのがどんな行動を起こすのか不安です。

 




あの耳飾ってルカリオに似ている→技も波導系が多い→つまりそう言う事か!

色々とシロナファンに怒られそうな内容でしたが、どうしようか。
正ヒロインにするか?
……いや、自分に嘘は…!

つーわけで葛藤中。

次回は閑話です。


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閑話:駄目な私の日記帳

 

:6月4日

 

私はシンオウ地方の神話を研究する変わり者。……そして恥ずかしながらシンオウリーグ現チャンピオン。

私は別にポケモンが好きなだけなのに……何故に。

研究の方が忙しくてリーグの方はお休み中。

……決してオーバの視線がいやらしいから嫌だとか、チャンピオンがいやだからって理由で逃げ出してるわけでは無い。これ本当。

うん、駄々捏ねてるわけじゃないのよ?

これ以上は墓穴を掘りそうなので書かないでおこう。

 

今日はナナカマド博士に呼び出された。

恩師であり私に考古学者としての道を勧めてくれた人。

あぁ、ポケモン図鑑を持たせて旅にだしてくれた人でもある。

 

その先生が言うには『こちらに向かっている少年を迎えに行ってくれ』との事。

どうやらキッサキからミオに行く途中の船から落ちたらしくて、それの捜索に私を駆りだそうとしたみたい。

……でも、私にリオルを渡してくれた波導使いのゲン師匠から、『新しく弟子を雇った。まだ年端の行かない少年』と波導で伝わってきたからきっと大丈夫と判断して待つ事にした。

 

 

その子と会ったのは師匠から聞いて二時間くらいしたあと。

研究員二人に手を引かれてやってきた。

 

彼等の方を向いていない私は、彼から私以上の『気』を感じた。

それなりに才能がある、と言われた私でも師匠には遠く及ばない。

だから私は師匠から教えて貰った通称『波紋呼吸法』も利用して使っているわけだけど。

……彼からは師匠に匹敵するほど感じた。

あぁ、これが天才なのか、と思ったくらい。

どうやら既に扱えているような節が見えるし。

コレは波導のスペシャリストのルカリオにも匹敵するんじゃ無いか、と思った。

現にゲン師匠に貰った波導を感知する髪飾りが震えていたし。

 

……現にゲン……うん。

 

それで、その彼の顔が気になって振り向いて見れば、本当に子供の男の子。

笑えばきっと花が綻んだように笑う顔が目に浮かぶ。

 

でも疲れた顔をしていた。

 

まぁ、それも当たり前か。

なんせ海に落ちるような事になって鋼鉄島まで行ったんだろうし。

……なんだか彼の顔を見てたらキュンと来てしまった。

なんで、と考えて顔が火照る前に挨拶をして誤魔化す。

あー、絶対この子気づいてるなぁ、と思いながらポーカーフェイスに勤めた。

 

途中、巧妙に隠しているだろう彼の感情が流れ込んできてビックリしたけど。

ナツメちゃん。

好きな人居るんだねぇ、と感心する自分とちょっと切なくなる自分が居た。

 

なんだかビクビクしてて可愛い。

ちょっと演技を交えつつ心配してみた。

……なんだか血を吐いたみたいにして倒れた。

どうしよう。私、そんな悪い事したかな。

演技なんてして心配したからいけなかったんだ、と二度と人を心配する時は演技なんてしない事を決めた。

 

-------------------------

 

ナナカマド博士の研究所。その休憩室。

日記を書き、考え事をしつつトウカ君が心配で手を握っていた。

 

こんな風に誰かを心配して手を握ってるなんてちょっと考え付かない。

 

……なんだろう、これ。

なんだろう、この気持ちは。

 

安心して、なんだか胸が暖かくなって。

でもこの子に好きな人が居るって思ったら切なくなって。

 

恋……というのだっけ?

でも、こんな年端も行かない子に抱くようなもの?

 

違う、と頭を振ってありえない感情を振り払う。

 

寝息を立てて眠るトウカ君。

波導使いとしては、兄弟子だなんて名乗れ無いような才能の差。

研究者としてもおそらく先生には及ばないまでも、既に大成している。

……これで恐らくはトレーナーとしても上……かもしれない。

 

普通なら既に私は嫉妬してる。

彼の非凡な才能に。

 

でも……なんだろう。

凄く、頼りになるって思うのは。

安心して彼に甘えられそう……って…!

 

頭を掻き毟りそうになったのを、溜め息をついて荒れてきた心を落ち着かせる。

 

「……なにやってんだか」

 

誰に聞かせるわけでもなく呟いた。

「――っ!?」

トウカ君の身体がびくりと緊張する。

 

吃驚してどんな夢を見ているのだろう、と抵抗力の弱い寝ている今。彼の夢を覗いたのが間違いだった。

 

迫る変態の大群。

鳥肌がたち、彼の夢を見る事を止めた。

 

「ああ! ……窓に! 窓に!」

「ひぃっ!?」

 

うわ言に言う彼の悲鳴。

恐らく変態が窓に張り付いてて。

……あ、オーバを想像する私は悪い人だ。

 

私には手を握る事しか出来ない。

手を握って目が醒めるまでその手を握った。

 

 

深夜。

彼が目を覚ました。

悪夢の事など覚えて居ない様子。

……こっちは悲鳴で恐ろしい想像が頭にこびりついてて寝れて無いんだけども。

 

おはよう、と声をかけたら機械のように彼の頭がこちらを向く。

「えっと……なんで手を握って?」

「? 心配だったからだけど?」

 

いやいや。……誰でも心配する。あんな声上げてたら。

 

「あ、あの……手どけて貰えますか?」

「……うん?」

「いや、今握ってる俺の左手じゃなくてですね……その下腹部にあるその手を!」

「……」

 

顔を赤くして言う彼に言われて下腹部を見る。

確かに手を置いて……!

 

は、はわわわわわ!!

ど、どうしよう! も、もちろん彼も男の子な訳で! 起きたらそれはそれは……!

 

「シロナさん。いくつか質問に答えてください」

「う、うん……何かな?」

回らない頭で返事する。

「あんた、変態か?」

 

へ、変態扱い!?

い、いや。た、確かにそう思われても仕方無いけど!

 

その時天啓が降りた。

 

回らない頭で思い出すのは父の言葉。

それは私がフカマルにおもちゃをとられた時だった。

お父さんに言われた言葉。

 

『お父さん! フカマルが私のおもちゃをとって返さないの!』

『そうか。……なら逆に考えるんだ「あげちゃってもいいさ」と』

 

お父さんの姿が目に浮かんだ。

 

「――……たとえ変態だとしても、変態と言う名のしゅ「もういいです。警察呼びま」わー! まってぇ!」

 

思わず彼の口を塞ごうとして押し倒した形になった。

 

あぁ、この子の事が好きだと。

それから何処か、吹っ切れて認める事が出来るようになってた。

 

-------------------------

 

(日記の続き)

 

私は今日好きな人が出来た。

それは弟弟子で。

博士号を持ってて。

多分きっと、私よりもポケモンへの愛情が深い子。

 

……でもその彼には好きな子が居るみたいで。

 

見しらぬ彼女さん。

私、結構我侭だから。

彼を取られないよう頑張ってね。

 

:追記

彼が仕事を終わらせれば一緒に神話の研究をする事が決まった。

誰にも分からないように喜んだのは秘密。

 

……ちょっと罵倒されて気持ち良くなってた私なんて居なかった。

 




ナツメちゃんかと思った?
残念! シロナさんでしたぁ!

なんだかヒロインよりヒロインしてる。
シンオウのチャンプは化け物か…!

ナツメ愛が枯渇し掛かってます。
誰か絵を描いてくれても良いのよ(チラッ


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ダメダメらしい

「聞いてな! マサキのヤツ、ウチになんて言うたと思う!?」

「……なんていったんですか?」

「『わい、ポケモンしか愛せんねん……』やて! あんのアホタレ! 預かりシステムが全国ネットで繋がったら、今度は融合マシンなんてモンに手ェだすって!」

「はぁ……」

 

ヨスガシティ。

閑静な都市街で人とポケモンの交流が深い街。

ダンサーでコーディネーターと、自由気ままな人がジムリーダーであるこの街。

ポケモンセンターの隣。そこにミズキ――シンオウのポケモン預かりシステムを管理する予定の人物が住んでいる。

 

そこへお邪魔させてもらっているわけだが……何故か愚痴を聞かされる嵌めに。

マサキのヤツ、マサキのヤツと言っているので、……まぁこの人も恋する乙女なのだろう。

あのポケオタなのはどうかと思うが。

 

「……♪」

「……にしても、ご機嫌ですね」

「そう?」

 

鼻歌を奏でながら俺を抱き座るシロナさん、いや変態。

この後シロナさん宅へ行く予定なので、彼女がついて来ていた。

……ちなみに研究員はナナカマド博士の所でお世話して貰う事になっている。

変態達と暫く離れれると思ったらこの始末だ。

 

にしてもシロナさん、遠慮が無い。

 

……お願いだから膝の上に俺を乗っけるのはやめて欲しい。

 

ナツメちゃーんッ!

 

「ええなぁ……シロナさん。好きな人がそこにおって……うーん、まぁガキンチョとはいっても中々イケメンやし」

「ま、まぁ……」

 

照れたような声が上からする。

チクショウ、俺は近くにいないってのに!

 

「……ショタコンの変態め」

「っ!」

「おおう。……辛口なのが玉に瑕みたいやけど」

 

顔色は分からないが、彼女の体温がちょっと上がってる。

恥ずかしいのか興奮してるのか。

変態の考える事は分からないからまぁいいけど。

 

「はぁ……あんた等のイチャイチャしてるのみてたらイラッと」

「イチャイチャしてない!」

「……」

 

訂正したら体の拘束弱まった。

華奢なくせにあの方法が使えるから力が強いのでつらかった。

隙を見て腕の中から逃げる。

……目に見えて落ち込んでる……。

 

「そ、そうか……まぁ態々有りがとう。今から忙しくなるから、はよ帰りぃ」

「はぁ……はい。じゃ、ミズキさんも頑張って下さい」

「おう!」

 

そう言ってパソコンに向かうミズキさんを見て、家を出る。

凹んでる変態なシロナさんは暫く元に戻らなかった。

 

 

復活したシロナさんと共に、俺はメタングに。シロナさんはガブリアスに乗ってヨスガシティを後にした。

 

-------------------------

 

メタングに乗ってシロナさん宅へ向かっていると、シロナさんが乗るガブリアスの挑発に『その喧嘩買った!』と、ピカチュウとミュウの二匹が激昂し、再度俺の乗るメタングがレールガンの弾丸にされた今は昔。

 

 

家に入るのを頑なに渋るシロナさんと俺の前には一つの扉があった。

……噂に聞く、片付いていないシロナさん家の玄関扉だ。

着いてから「あ、まずい」みたいな顔をしていたので恐らく酷い状態なのだろう。

 

本人は玄関に張り付いて動こうとしない。

 

「どいて下さいシロナさん。入れないです」

「だからちょっと待ってて頂戴! ……ちょっと片付けてくるから!」

 

こんな風にである。

……こちとら一大事だと言うのに。

 

「いや、その……催してるんですが」

「あ……いや、でも駄目よ! えっとその…………ちなみに?」

「恥ずかしながら時間の掛かるほう」

「くぅ……でもその顔は絶対嘘ついてるでしょ! 棒読みだし!」

「いや、やばくて無表情で棒読みになってるだけです……くっ」

「わ、わざとらしい…!」

 

……まぁ、実際その通り嘘なわけだけど。

 

「あー! もーれーるー」

「わ、わ、わ! えっと、分かったから! いっぷ「三十秒」!? 三十秒で片付けてくるから!」

バタン、と軽快な音を立てて家の中に入ったシロナさん。

急いでこけたのか、中から悲鳴が聞こえたりした。……大丈夫か?

 

暫く、というか三十秒を軽く過ぎてもバタバタと慌しい音がしてた。

まぁ、三十秒って言って了承してくれたからさっさと入ってしまおう。

お邪魔します、と声を上げて中に入る。

 

また誰かがこけた音がした。

 

そして靴を脱ぎ、上がろうとした所で見つける。

 

……なんだ、コレ。

 

摘みあげるのは黒い布地のもの。

端にはヒラヒラと……。

 

……。

 

思い当たるソレは、ホウエンの拠点に住んでいた時は洗濯物担当だったため、割と見慣れてはいる。

 

見なかった事にした。

 

『……ご主人』

『……マスター』

 

な、なんですか。

 

『……一回死んではどうだ?』

『いや、寧ろもう死んでください』

 

一つがバチッと静電気を帯び、もう一つが熱を帯びる。

「あぁ今日は奴らを出した時が大変だ」と冷や汗だらだらと流しながら、綺麗に畳んで廊下の隅に置いた。

 

シロナさんにトイレの場所を聞いてちょっと篭った。

あ、足の震えがとまらねえ…!

 

-------------------------

 

紙紙紙紙紙紙紙紙。

 

部屋中にレポート用紙、資料が散乱しており、足の踏み場が無い。

元凶たる人物は気まずそうに何処か他所を視線をずらしている。

 

いや、マサキの家ほどじゃなかったけど……

 

「……汚い」

「うっ……」

 

書斎と思わしきその部屋は整理整頓が出来ているとはお世辞にも言えなかった。

 

「……どうすんですか、これ」

「いやほら、私は現地に行くタイプというか……ねー」

「おい、こっち見ろ」

「……っ!」

 

頬を染めるな。

 

「……はぁ。考えまとめるのに紙を使うのは分かる。……でもさ、これはあんまりじゃ御座いませんか?」

「お、おっしゃるとおりで……。だから今日はテンガン山に」

「行く? アホかアンタはっ! ……今日は片付けと資料のまとめ。一歩も外に出しませんからね!」

「……うわぁーん!」

 

そこから二時間。

 

「――ッッ!?」

「あー。ピカチュウ、でんじは! 早急に!」

 

一面の植物繊維の海を整理していたら黒き這い寄る混沌が出てきたり。

 

「あぁ! そ、それ!」

「……洗い場に持って行けよ…!」

 

紙をどけたら出てきた、三角形だとか胸当てだとかを投げつけて。

 

色々と精神に来るのを堪え、終わった二時間後。

見えなかった床は見えるようになった。

……部屋の一角を除いて。

 

「どんだけシロナさんは溜めてらっしゃるんでしょうか…!?」

「ひぃ! いらい! いらい!」

 

頬を引っ張り、鬱憤をぶつける。

床から、書斎にある机までの高さがある紙で出来た塔が五つ。

 

「はぁ……」

「うー……痛かったぁ」

 

これからすることになる、途方も無い資料整理の地獄を思い溜め息が出た。

……ナツメちゃんに会いたい。

 




シロナさんマジダメナさん(色々な意味で

感想欄でのシロナさんの人気に嫉妬。
な、ナツメちゃんだって可愛いんだぞ!ばーかばーか!
……ふぅ。失礼しました。

ポケモン要素が一つも無いのがこの小説。
そろそろ注意書きをあらすじに書かないといけないようだ。
ただし、ハーレムタグは意地でも付け無い。


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創造主らしい

遅れました。


大掃除から一日通して完了させた資料整理。

一通りレポート用紙に目を通した後、まとめてみればおよそ一冊本が出来るくらいだった。

紙の海から出てきた洗濯物等や、色々と家事を片付けていたシロナさん曰く、その様子に神速を見た……とかなんとか。

 

四年の間、論文を書いたりしていた俺に死角は無かった。

そこそこ『努力』していたせいだと思うけど。

 

『流石って言ったら良いかしら』

『キメ顔で何言ってるんですか、変態(シロナ)さん』

『……なんか嫌な呼ばれ方された気がする』

『気のせい』

 

そんな雑談を交わしつつ日は暮れた。

 

俺はと言うと、まだシロナさん宅にいた。

動いてお腹が空いて食事をご馳走になって。

汗をかいたからお風呂を借りて。

 

まぁ、それはまだ良いとしよう。

 

ただし、もう遅いという事で泊まる……コレは駄目だ。

そう、ポケモンセンターに行きたかった俺は泊まる事になっていた。

 

「ベッドが一つしか無いように見えるんですが」

「……き、気のせいじゃない?」

「布団もないですよね」

「…………そう、ね」

「ショタコンの変態。恥じを知れ」

「はうっ!」

 

まったくもってけしからんチャンピオンだ。

年端も行かないこんな少年を(かどわ)かそうとするなんて。

 

「はぁ……。毛布貸してくれます? リビングのソファーで寝ますんで」

「……はい」

 

明日、ちゃんと「お話し」をしないといけないみたいだ。

流石に淑女と言うだけあって、シロナさんは夜中に這いよって来なかった。

 

 

翌日。

屋外で何時もの瞑想に、波導の修行を加えた内容をちょこちょことやる。

ゲンさんお墨付きだけあって、やってみたら本当に波導弾が撃てるようになっていた。

撃った波導弾はポケモンの技同様、狙った所に必ず当てれるようで中々便利だ。操気弾のようななかんじだ。

 

「おはよう。……やっぱり師匠が認めるだけあって凄いのね」

 

作った波導弾を宙に浮かせてフラフラと動かしているとシロナさんが声をかけてきた。

寝起きらしく、まだ髪が乱れている。

その彼女の姿を確認して波導弾を霧散させた。

 

「お早うございます。……シロナさんは呼吸法でしたっけ?」

「そう。だからトウカ君が羨ましいのよねぇ……」

「……シロナさん」

「ん、なに?」

「お願いですから年端の行かない少年を誑かすのはやめて下さい。昨日の同衾を狙ったような事含め……わかってます?」

「……ごめんなさい」

 

割と素直だ。別人じゃ無いよな?

 

「女の人なんですからもうちょっと自分を大切にしなさい。いいですか?」

「……はい」

「美人だって事、分かってるんだか分かってないんだか……」

「び、美人……」

 

シロナさんは頬を染めてモジモジと……あーやっちった。

 

「えっと、シロナさん?」

「トウカ君が美人て……きゃーっ!」

「言葉の綾でしたね、抱きついてくんな! この変態!」

「あふんっ!」

 

腹に衝撃を受けたようにして、シロナさんは俺を抱え込んだまま膝から崩れる。

必然的に押し倒されるようになって。

 

「……どけろー!」

「はっ…! わわわ!」

 

お前はどこのハーレム系主人公だ、と切実にシロナさんに言いたかった。

……俺は違うからな。

 

-------------------------

 

「いやぁ……あははは……」

 

シロナさんの呆然とした姿に俺は曖昧に笑った。

 

一騒動あった後の朝食。そしてその後。

シロナさんの本来の研究形態であるフィールドワークとして、シンオウの象徴であるテンガン山に足を運んでいた。

俺としてはシロナさんの研究の『先』を知っているわけで、どうしても申し訳ない気持ちだ。

ただすこーしだけ自重を忘れてしまって、シンオウの伝説の居る場所に行ったら……どうなるか。

 

『ご主人。自重をしろ、自重を』

 

ホントその通りですピカチュウ様。

いや、でも貴女も原因の一つなんですが……

 

『さて、そんな事は知らんな』

〈ひゅー♪〉

 

……さいですか。

下手人の二名が白を切ったので後で「話す」として。

今現在立っているのは『やりのはしら』という場所。

シンオウの伝説が一堂に会するその場所はやはり何かしらあるようで。

……というかあった。

 

『「人の子らよ。何故に此処へ来た……」』

 

シロナさんにも分かる言葉で。

『特性』で無いプレッシャーを携えて天上天下唯我独尊の如く、やりのはしら上空から降りてきたポケモン。

シロナさんが失禁してないか心配である。

 

「……ディアルガでもない、パルキアでも……ギラティナじゃないし。……このポケモンは?」

 

……当人は俯きボソボソと考察中。

流石のシンオウチャンピオン。

マイペースぶりに呆れを通り越して驚きを覚える。

……俺は膝が笑ってるぜ。

 

『「どうしたのだ、答えぬのか」』

 

グルグルと頭を回している俺や、違う意味で頭を回転させているシロナさんを気にも留めずな様子で話しかけてくるポケモン……なのか分からない『アルセウス』。

 

……ちくしょう、どうしてこうなった。

 

-------------------------

 

『「……つまりそなた等は世界の始まりについて調べている、とな」』

「そうです。アナタがこの世界を作った『始まりのポケモン』ということはディアルガとパルキア。裏から平衡を守るギラティナはアナタが生み出したのですか?」

 

創造主たるアルセウスが降りてきたのは正規の方法以外でやりのはしらに俺達が来たため、気になったからだとか。

神話に残る偉業を知る身としては正直身体が持ちそうになかった。

 

『「そうなるだろうな。その『始まりのポケモン』というのが(わたし)ならばそうなのだろう」』

「そうですか……少しお話聞かせて貰っても良いですか」

「『……まあよいか。まず(わたし)はある三匹を生み出すために――』」

 

現在アルセウスが膝を折って座り、その前に正座してシロナさんと俺が座る。

 

>>シロナさん、アルセウスと座談なう。

 

吃驚だよ! 仰天だよっ!

シロナさん! 貴女の胆の座り具合にはホトホト驚かされるわッ!

 

「……は、ははは」

『「どうしたトウカ。そなたには色々聞きたい事があるのだが……狂乱して貰っては困るぞ」』

 

そう言ってアルセウスがニヤリと笑った気がした。

転生した事とか分かってるんだろうなぁ……。

 

『分かっている』

「……返事しないで下さい」

「急にどうしたの?」

 

絶対ニヤニヤ笑ってるよ、この創造者。

波導弾喰らわせてやろうか、このノーマルタイプ。

 

『おおこわいこわい』

 

……やだ、この創造主様なんだかノリが軽い。

あの三竜もこんなんだろうか。

……なんだかやだな。

一応敬意を持って接してたのに。

 

『流石の(わたし)も傷つくわー』

 

こいつ…!

 

「と、トウカ君!? なんで波導弾出してるの!?」

「HA☆NA☆SE! あのノーマルタイプに灸を据えてやるんじゃー!」

「なんでタイプ知ってるのよ! というかデカイでかい!」

「うがー!」

『「どうしたのだ、トウカよ。(わたし)喧嘩(バトル)するのか」』

 

ちくしょうアルセウスめ!

こいよアルセウス! プレートなんか捨てて掛かってこい!




※CV:三○さん
我と書いて私と読む。

……お久しぶりで、約一ヶ月ぶりです。
一ヶ月何をしていたかは聞かんといてください。……申し訳御座いませぬ。
これから休みに書き溜めをしていこうと思っておりますが、どうにも多忙な時期でして。
やはり遅くなるやも……。
あらかじめ謝罪をしておきます。

それでは。


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決着らしい

風邪が若干治りました。


『そう怒るな。……なんだ。強いな』

 

アルセウス(笑)との死闘は苛烈を極めた。

飛んでくる裁きの礫をかわし、合間を縫って放たれるハイパーボイス。

床、柱とひび割れが生じて、一様にして荘厳な姿であった『やりのはしら』は見るも無残な状態になった。

 

まぁ幸いな事に、飛んでくる礫はピカチュウの電光石火より遅いので避けれたし。

ハイパーボイスも相殺できたので、命からがらという結果にはならなかった。

……化け物染みているとは思ったけど。

 

『やりのはしら』がボロボロになってたのは俺達のせいなんじゃ……。

……いや、よそう。

考えたら胃が痛くなりそうだ。

 

『「ピカチュウが(わたし)に善戦する日が来るとは思わなかったぞ……」』

『創造主さまにそんな事を言って貰えるなんてな』

 

……そう、今回のMVPはピカさんである。

断じて俺では無い。等身大の波導弾をぶっ放したけど俺では無い。

波導弾じゃなくて波動砲になってたけど俺じゃ無いんだ。

 

超電磁砲が火花をあげ、凍土と焦土で建造物が劣化する。

極めつけに技の相殺合戦。

ウチのピカチュウは色々とおかしかった。

 

ただこのピカチュウでも、もしこの、なんちゃって創造神様にプレートが揃っていれば為す術も無く蹂躙劇が繰り広げられていただろう。

 

プレートはアルセウスと同時期に生まれたレジギガスの為れの果て。

ノーマル以外の各タイプのレジギガスだったプレートは、この世界の各地に散らばってこの世界を支えている。

そのプレートが全色ありさえすれば『全属性(タイプ)で不思議な守り状態(かたやぶり等の特性無効)』らしいのだ。

 

チートだなんてめじゃない。

汚い、流石創造神汚い。

 

「お、終わったの……」

「あ、シロナさん。怪我とかして無いですか?」

「……う、うん。というかトウカ君は無事なのね」

「側転が出来ればどうと言う事は無かったです」

 

ガブリアスに守られながらシロナさんが柱の後ろから出てくる。

いやぁ、側転からの後方倒立回転跳びが出来なかったら死んでたね。出来るようになってて良かった。

……シロナさん、そんなお化けを見たような顔をして見ないで欲しい。

 

「と、とにかくピカチュウ戻って。さて、アルセウス」

『さんを付けろよデコ助ヤロウ』

「……さん。俺達帰りますので」

「えぇっ!? もうちょっとお話し聞きたかったのに!」

『……』

 

おおう、シロナさんや。

さん付けを強要するアルセウスですら吃驚したって風に見てる事に気づかないんですか。

アルセウスと一緒に苦笑いをして、アルセウスはある物を創造した。

 

『「シロナ。少々(わたし)は疲れた。話が聞きたいというならばこれを渡す。お前と(わたし)を繋げてくれるだろう」』

 

そして虚空から生み出されたように出てきたのは――……携帯電話。

前世で俗に言うガラケー……ガラパゴスケータイだった。

 

それは駄目だ。

 

『なんでや』

 

駄目だっつーの。

 

『「仕方がない。……これで良いだろう。ほら、トウカの方も」』

「これは……?」

『「天界の笛という。望めば消え失せ、望めば現れる。丁度此処の入り口で吹けば(わたし)の居る『始まりの間』にも来れるだろう」』

「……有り難く受け取らせて貰います」

 

受け取って頭を深くシロナさんは下げた。

……そんな事する必要ないのに。

まぁでも此処は素直に受け取っとこう……シロナさんに怒られそうだ。

 

「ありがとぉーござぁいまぁす」

『嫌みったらしく聞こえるのは(わたし)の気のせいか、あん?』

「ソンナコトハナイヨ?」

「……急にどうしたの?」

「……。独り言です」

「そうなの」

 

つい口に出しちゃったよ。

絶対あの顔はニヤニヤ笑ってる。ちくしょう。

 

「じゃ、俺達は帰りますので。そーぞーしん様お元気で」

『「さらばだ。トウカ、シロナ」』

「失礼します」

 

嫌味を込めて別れの言葉を吐くとドヤ顔で返してきた。

創造神ウゼェ、と思いながら手持ちからメタングとピカチュウを出す。

ガブリアスにシロナさんは乗り、メタングに俺は乗る。

 

慣習になったレールガンで、やりのはしらからシロナさん家に帰った。

 

……音速の世界にハマったのは段々俺が人外になっているからだろうか。

考える事を止めて、シロナさん家の前に降りた。

 

「トウカ君。腰が抜けちゃって立てなくなっちゃった……起こしてくれない?」

「ハァ……貴女って人は。……はい」

「ごめんね……」

 

家に着いたらお尻をついて倒れる現シンオウチャンピオン。

気合いで腰が抜けるのを堪えていたらしい。

……満足そうな顔をしてるので、シロナさんにとっては今日の出来事は良かったのだろう。

 

 

後になって気づいたが、シロナさんのガブリアスがボールに入ってなかった。

玄関の前で三角座りで黄昏ていたのが記憶に新しい。

 

-------------------------

 

色々とシロナさんの手伝いをして。

そんなこんなでアルセウスとの邂逅から早くも二日。

濃密な二日間だった。

 

シンオウに住む人間なら誰しもがその存在を知る、ディアルガとパルキア。

そして、その影の薄さ故に歴史の中に埋没してしまったギラティナ。

 

その三匹に対を成す形で存在する『湖の三匹』。

 

 

――神話を研究するシロナさんにとって、二日前に知り得たそれら伝説についてはとても重大な事で。

彼女にとって15歳から三年間に及ぶ研究の到達点だった。

 

あとはその研究の結果を証明するだけ。

 

残念ながら、名も語られぬ創造主に直接『世界創造のあらましを聞いた』なんて事をその筋の方々が認める訳が無いのだ。

 

そう。あの時、残念な事に記憶媒体を持ってきていなかった。

……いや、カメラはあったけども、シロナさんにとってアルセウスは敬意を払う相手。

初対面で「写真撮っても良いですか」なんて聞けるわけも無く。

そして恐らく、あの時の精神状態では聞けなかっただろう。

結構ガクブルだったらしい。

 

……気にしなければ良かったのに、なんて言えるわけ無い……言いたいけど。

 

まぁそのために、何かしら残っているはずの文摘が無い限り、二日前の事を公に発表出来ないわけだ。

……まぁ、神話研究なんて分野の学問は殆どが想像の域を出ない学問だが。

 

ともかくまだまだシロナさんの研究は続く。

シロナの研究はコレからだ!

 

――(完)

 

 

……と個人的には続けたかったけど、どうにもそういう訳にも行かず。

 

一応、シロナさんの手伝いも一段落して、俺は彼女と別れるつもりだった。

その為、久方ぶりに研究員どもを引き取りにナナカマド研究所に行けば、

 

「どうぞどうぞ。ご一緒に…………正直ウザいですが」

「本当に遺憾ながらですが……同士であれば我々は我慢出来ます」

「「「……ただこの六日間、室長に何したか表で話そうか?」」」

 

何かしら博士に納得させられた研究員の姿が。

割と力の強い彼等にドナドナされるシロナさんを見ながら、溜め息を。

 

「はかせぇ……」

「……ナニモシトランゾ」

「博士ェ…!」

 

……これからチャンピオンが俺の下で働くってどういう事ですか。

 

チャンピオン仕事しろ。

 

なんだか貞操に危機を感じるシンオウの今日この頃だった。

 

 





―― 祝 ・ 五 十 話 ! ――

……と、51話目で言ってみる。
記念に何か書こうかなと考えてます。
何か良いネタあるかな、と自問自答中。

ではではコレにて。


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憑いてるらしい

遅れました。


 

ハクタイの森、ハクタイ側入り口付近に存在する一つの屋敷。

その屋敷がシンオウ地方を代表するホラースポットなのは第四世代をプレイした事のある人であれば知っていると思う。

初出であるダイヤモンド・パールで全国図鑑入手後、友人に「もりのようかんで新ポケでるぞ(ドヤ」と教えられ、行ってみたのは良いものの気づいちゃいけないものに気づいてしまったのは……今はよき思い出だ。

 

――初代第四世代第五世代と、このポケモンワールドには幽霊が存在することが明らかになっている。

なんせ主人公以外にも認識されているのだ……コレを気のせいで済ませるのはいただけない。

 

特に初代。

「お兄ちゃんの肩に白い手が見えるのは私の気のせいだよね」

……あの幼女、トラウマである。

 

さて、俺がこんな回想をしているのには訳がある。

ぶっちゃければ現実逃避である。

 

では、何故?

 

……居るのだ、目の前に。

 

『……』

「――」

『……クスクス。お兄ちゃんだぁれ?』

「――ッッ!!」

 

森の洋館の二階。

正面入って一番右の部屋。

絶賛金縛り状態の俺の目の前。

エターナルロリータ(幽霊)が其処に居た。

 

きっと変態は幽霊相手でも興奮するだろうな、と思う動けぬ俺は相当『研究員+α(シロナ)』に毒されているのかもしない。

 

何故この世界の幼女は皆して俺に恐怖を与えてくれるのだろう。

シオンタウンのあの子然り、ナツメちゃんの手持ちになったあのラルトス然り。

そしてこの幽霊然り。

 

 

もう、……(ようじょこわいお)……。

 

-------------------------

 

そも、俺が森の洋館に来たのは理由がある。

シンオウにおける研究拠点の確保だ。

……交通の利便を考えたならきっと森の洋館は不適切だったろう。

野生のポケモンは住みついているし都心部からは離れているし。……おまけに曰くつきであるし。

 

だがしかしシンオウの都心部は幾ら土地が沢山あったとして、借りるにしても買うにしてもとにかく高い。

おまけにトバリシティやヨスガ、コトブキといった場所では土地を借りる・買う行為は目立つため、某ステキファッションの方々から研究成果を「殺してでも奪い取る」と襲撃されかねない。

ギンガ爆弾なんてとんでも兵器を使うような輩だ。……何をしてくるかわかったもんじゃない。

 

そこで此処だ。

ギンガ団ビルなんて物が近くに見えるが、逆転の発想。

ジョースター卿だ。

つまり灯台下暗し、と言う奴だ。

 

……まぁジョースター卿云々はともかく。

不動産屋に行けばコレ幸い。

ポケモンが住みついている事、また諸々の曰くのため安く買えたのだ。

 

ちなみに必要経費としてタマムシ大学に申請しているので、俺の懐は痛まなかった。

……たかが飛び級してきた俺如きの大学での発言力は低いから、少々コネを使わして貰ったけども。

具体的にはお爺様と、シンオウチャンピオンをくっ付けてこようとする博士様だ。

 

さておき、おかげで拠点は安くすんだ。

大学からお金が出ているとは言え、もしかしたらホウエンで「ひみつのちから」の技マシンを10枚以上買うより安い値段で。

 

『ドドドド――! ……って痛い痛い!』

「……」

 

ただ、俺の考えている事を『魂』を見て読めるらしい、ジョ○ョ立ちする地縛霊の幼女が大きな痛手だった。

……とりあえずなんかウザイので波導を使ってアイアンクローをしているのだけど。

 

『――でも感じちゃう!』

「……お前、知り合いに神様居るから成仏させて貰う? 貰っちゃう?」

 

気持ちが悪い反応をするクソババアだ。

 

『幼女に何てこと言うのよー!!』

「だまれ妖女。この外見詐欺の悪女かつ鬼畜外道め」

『びにゃー!!』

 

例えば。

コイツは60年以上もこの土地に居て。

例えば。

此処に建った屋敷に住んでいた一家に仕えていた執事を狂わせ一家全員毒殺させ。

例えば。

死んで正気に戻り、自己嫌悪に陥っていたその執事ですら懐柔して地縛霊に仕立て上げて。

例えば。

一緒になって此処に来る人間に、毒消しとか身代わりの技マシンだとか意味ありげなものを見せて恐がらせる。

 

「そんなお前は幼女じゃない。……この妖女め。成仏させてやる」

『ちょっ! イタイから! やめて、何かでちゃう!』

 

アッーーーー! という甲高い声が屋敷の中に響いたとかなんとか。

正直波導で触れられると分かってから恐くなくなったのは内緒。

 

『やーい、主のびびりー』

 

黙れウインディ。俺よりビビってたお前が言うな。

 

-------------------------

 

「ほへー……トウカ君、ここ本当に森の洋館?」

「そうですよ。ささ、入って入って」

 

玄関前で、光が当たり以前の印象を大きく変えた森の洋館に驚きの声を上げるシロナさんに受け答えをして中に入った。

 

掃除と片付けに一週間。

先住居者(・・・・)に手伝って貰って早く終わったが、ようやくシンオウでの研究活動を始められる。

 

「此処が拠点……だと…?!」

「流石です室長!」

「パネェ。前もだったけど室長パネェ」

 

掃除の行き届いた玄関ホールを見て研究員達が戦慄するのを見つつ、一息。

まさか此処までやってくれるとは思わなかったので、彼等に後で何と言うべきか。

とりあえずポフィンとポロック振舞ってやろう。

 

『シツチョー愛してるぅ! 結婚してぇ!』

「ナツメちゃんが居なくて変態が直ったら……あぁ、後諸々の現行法が変わったら考えてやる」

『無理ですねー! チクショウ!』

 

というか何故お前ら即答するのか……少しは直す努力しろよ。

お前ら見てくれだけはそこそこに良いんだから。

溜め息ついて、変態淑女代表になったとか言うシロナさんを見る。

スキンシップの激しいあの変態さんはあの阿呆共に交ざっておらず、虚空を眺めたまま固まっていた。

 

「えっと……トウカ君。あの……もしかしなくても居るよね?」

「えぇ、居ますよ? ……誰の事かは分かんないですけど」

 

居る、というのはアイツ等の事だろうか。

まぁとりあえずゴーストタイプのポケモンは居るな。

 

「それって……」

 

ポン、とシロナさんの目の前で音がして二人が現れる。

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! どうも後生怪異(ごしょうかい)に預かりました! 幼女冥土(メイド)のヨミで――いぎゃー!」

 

とりあえず幼女でメイド服着てる奴の頭にアイアンクローをかます。

指先からジュウ、と何か煙が出た。

 

「黙れ幼女。往生しちまえ。――どうもミツバさん。このクソババア昇天させても構いませんよね?」

「えぇ、勿論結構。……悪戯が過ぎますので丁度良いでしょう」

「あ、こら! ミツバ助けて――」

 

ぐい、と更に力を込めてアイアンクローしたまま持ち上げる。

暫く、ぎゃーとか、変な扉開いちゃうーとか喚いていたが、ちーんって音が鳴りそうな感じで気を失った。

ミツバさんに気絶した妖女を渡し、シロナさん方へ向き直れば、顔色を喜色に変えて……え?

 

「本物!? ほ、ホントに本物の幽霊! ……ようやく見れた!」

「は?」

「はい?」

 

気絶した気持ちの悪い幼女を抱きしめるシロナさんの姿が……え、ドユコト?

 

「――ん? んん!? ちょ、やめ! 止めてよお姉さん! と、溶ける! 溶けちゃうからっ!!」

 

目を覚ました幼女(妖女)のヨミはジュウジュウと体から煙を出す。

シロナさん波導使ってるのか。

……このままだとマジで成仏してしまうな、アレ。

 

「ぎにゃぁああああ! ――ガフッ」

「あ、落ちた」

 

元地縛霊のヨミがまたも気絶して、それに気づいたシロナさんは大慌て。

研究員もようやっとこちらの事に気づいたのか、女研究員三人が「おじ様キター!」と叫び、一同にして屋敷が騒がしくなった。

 

……男性陣が気絶する幼女メイドに気づいてまた騒がしくなったのは言うまでも無い。

 

 




どんな書き方していたかを忘れてたので遅く……。
HSDDモノとか書いてちょっとづつ思い出してました。

……イベント特番をやりたいけれど、多分間に合わないし、色々勉強しなきゃなのでまだまだ更新不定期が続くと思います。
しがないこんな二次創作の更新を待って下さってる方、相済まぬ。まだまだ更新出来んのじゃよ。

これから感想を返して行きます。
ではではこれにて失礼。


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怒れるらしい

森の洋館の一画。

 

「……で、どういうことなの?」

「……憑いてた幽霊に立ち退きをお願いするのは酷と言うか、難しいだろうと思ったので。創造神様に色々とお願いしてここで雇う事にしました」

「創造神様? あ、アルセっ――!?」

「ストップ。まぁ、そんなとこですね」

「もう! トウカ君ってばお茶目ね……!」

「とか言いつつ抱きついてくんな変態(シロナ)

「……っぅ!」

 

罵倒されて喜び始めたら末期だろう、と思う今日この頃。

ナツメちゃん、貴女は今どこで何をしているでしょうか。

貞操がピンチです。

貞操帯をつけないといけないかもしれません。

 

……どこかで売ってませんかね?

 

-------------------------

 

――シロナさんと密談を終わらせ、研究員達を落ち着かせて。

別室にミツバさんが寝かせた、ヨミとか言う外見幼女が目を覚ました後、そわそわとする研究員の前に二人を連れて紹介をした。

 

「こっちが執事のミツバさん。こっちがメイドのヨミ。……色々と世話をしてくれることになってます」

「どうも、ミツバです」

「ヨミです。おにいちゃん、おねえちゃ――いっつーぁ!」

 

あざとい笑みを作り上目遣いをする元地縛霊に拳骨を一発。

この幼女、いや妖女は精神年齢で言えば俺よりも遥かに歳をくっている。

つまりロリババアだ。

ただのロリババアだったなら『大きいお友達』を誘惑してても見なかったことにはするけれども、元地縛霊ヨミのしでかしてきた悪行の数々を知る身としては看過できない。

あらかじめ事情を話したシロナさんもなんとも言えない、って表情してるし。

……というか、頼むから変態を誘うような事すんな。

唯でさえ変態なのが自制出来なくなったらどうすんのさ。

 

「げ、ホントに?」

「……頼むから止めろ」

 

魂を見て思考を読める元地縛霊は勝手に読んだらしくこちらに顔を向けてたずねてくる。

いやもうホント切実に止めてほしい。

アイツら結婚出来なかったら如何すんのさ。

一応纏めてる立場としては心配なわけでさ……お前責任取れよ?

 

「……だけどそれで一生みじめに生きていく姿も」

「……」

「…………あ、や、分かったから。その振り上げた拳をゆっくり、ね?」

 

舌なめずりするように黒い笑みを浮かべる魔女に手を振り上げて睨む。

ゆっくり振り降ろすんだっけ?

ではお望みどおりに。

 

「っつぁあー! 痛いよ、ばかぁ! ――うぅ……」

「……はぁ……」

 

力と波導を込めてアームハンマーを碌でもない幼女に落とした。

正直、昇天させたほうが良かったのかもしれない、と後悔している。

……いや、この世界じゃ黄泉送りか。

まぁどっちでも構わんのだけども。

 

「室長が幼女に手を出したぞ!?」

「室長!?」

「室長が怒った!?」

 

あ、まず。

 

「でもそんなの関係ない!」

「ペロペロしたいお」

「室長結婚しよ」

「えぇい! 抜けがけは許さんぞヨミ! ――室長に殴られるのは、この私だッ!」

 

……っていやいやいや!

 

「お前らも変態するの大概にしろよッ!」

『無理です!』

 

と、一層と煩くなり、比較的精神年齢が高いだろうと思われるシロナさんとミツバさんは苦笑する。

そこへ『喧しいぞコラァ!』と先住居者の方々……つまりゲンガーにロトム率いるゴーストタイプのポケモンが現在居る食堂に飛び出してきて大喧騒となった。

 

あらかじめ話しておいたシロナさんはともかく、野生のポケモンと同居することになったのが研究員らに発覚し煩いのが更に煩くなったのは、もうどうしようもなく。

……シンオウでの拠点を得た一日目はこうしてやかましく過ぎていった。

 

-------------------------

 

俺と研究員の内何人かを引き連れて、ハクタイシティに用事を済ませに来たシロナさんを待つ。

彼女が像に備え付けられているプレートに書かれた文章を読み説いている間、近くにそびえ建つギンガ団ビルを眺めながめていると、研究員の内一人……自称淑女が「あ、そういえば」と話しかけてきた。

 

「私前々から思ってたんですけど……室長って実はロリコンなんじゃないかと」

「……これから俺はお前を怒るけど一応聞かせてもらおう。何がどうして何故そう思った?」

「いやだって私たちはともかくあの雌狐……じゃなかった。シロナに抱きつかれてもドギマギしないじゃないですか。それに加えて二歳年上とは言えあのナツメちゃん」

 

あっはっはー。

 

「誰か私の事雌狐って言った……?」

「言って無いですよー」

 

文章を見ていたシロナさんが頭を上げてきょろきょろとしながら聞いてくるので否定しておく。

 

「とりあえず、もういい。お前は何か勘違いしてるだろうが俺はまだ11歳だ」

「でも11歳にもなったら一応子作り出来るらしいですよ?」

「――怒るよ?」

「だって早い子供は精通もそのくらいから……」

「……今日からお前だけ飲酒禁止な」

「そんなぁ!?」

 

がっくりとうな垂れる女研究員。

阿保なことばっかり言ってるからそうなるんだ。

 

『でもご主人がロリコンなのは事実だろ? 精神的な意味で』

 

ピカチュウも飯抜きにされたい?

 

『よし、後で私とちょっとお話しだな。なぁご主人』

 

いいぜ? 波導が使えるようになったんだ。もう何もこわかねぇ!

久しぶりにピカチュウとのガチバトルに腕を鳴らす。

……っとその前にやって置くべき事があった。

 

『なんだ、それ?』

 

ちょっとしたごみ掃除。

 

……考えを読んだようでピカチュウの悪い笑顔が頭に浮かぶ。

自重はするように、と注意して俺はシロナさんに声をかける。

 

「シーローナーさーん! ギンガ団壊滅しにいーこーぉ!」

「ぶぅうううう!」

 

丁度調査の終わったらしい、優雅に紅茶を飲んでいたシロナさんが吹いた。

……なんか、ごめんなさい。

でもなんか貴女狙ってやってるような気がするので直接は謝りません。

 

 

「というわけでギンガ団ビルに潜入です」

「何がというわけ、なの? 服も染みが付いちゃったし……汚されちゃった」

「頬を赤らめるなよ変態。あとでピカチュウに電気分解的染み抜きしてもらいますので我慢してください。……やっぱり強襲にビクビクしながら研究するのは性に合いませんのでどうせならここから追い出してやろうかと。壊滅だなんて物騒なこと言いましたけど、やっぱり平和的解決で」

 

きゃ、とか言いながら片足上げてる "しろなさんじゅうはっさい" はいったいどうしたと言うのだろうか。

……すまんピカチュウ、染み抜きよろしく。暴れていいから。

 

『仕方ないな……任せろ』

 

ボールからでているピカチュウはこくり、とシロナさんのほうを頷く。

……代わりにギンガ団がどうなるかわかったもんじゃないけど。

 

「……やっぱり会話してるよね?」

『「……別に?」』

 

やだなーそんわけないじゃないですかー(棒)

 

「……おほん。それじゃ作戦はこうです。ピカチュウの電磁波で光学迷彩状態にしてもらい、研究資材の奪取。および破壊。……不定期に襲っていたらいずれこのビルから立ち退くでしょう」

「いったい何処が平和的なのかちょっとお姉さんにはわからない」

「わかんなくて結構です。自分の家の片付けが出来ない人に文句言われたくありません」

「……うぅ」

 

涙目になっているのがちょっと可愛いだなんて思ってない。絶対にだ。

そうとも! これは変態、これは変態! これは変態っ!

 

『ご主人……辛いな……』

「えぇい! 同情するなピカチュウ! ……むなしくなって来た。ナツメちゃんに会いたい」

『私も辛いんだが……って、ご主人。……声に出てるぞ』

 

……まずい。

 

「え、ナツメちゃんってだ、誰なの!?」

「……知ってるのにわざわざ驚かなくて……なんで涙目!?」

 

ウインディが『なかしたー』だとかいって茶化してくるので館にいるキュウコンに後で言ってやろう。

泣きついてきてもしらないかんな!

 

「ごめん、目にほこりが入ったみたい……まったく悪の組織は駄目ね。掃除すら出来ないだなんて……ちょっと滅ぼしてくる」

「……」

 

とりあえず監視カメラを通じて監視室の機能をピカチュウに停止してもらう。

 

「……掃除が出来ないって貴女が言える事じゃないと思うんだが……」

 

なんて本人に突っ込みは出来なかった。

べ、別にシロナさんの背後に怒れるボーマンダを幻視したとかじゃないんだからね!

……ちょっぴり罪悪感を感じるのは気のせいだということにしよう。

 

とりあえずもう一つの目的の達成のため、電子機器の破壊(多分跡形もなく破壊されるだろうから奪取は無理)をシロナさん達に任せて、俺は物陰に隠された扉を見つける。

 

『鍵開けなど……私にかかればどうと言うことはない』

 

……ピカチュウさん、貴女ピッキングも出来たんですね凄いです。

鍵の掛かっていない扉を開き中へと入った。




シロナさん修羅モード。
睨んだだけで敵は吹き飛ぶ……みたいな。

というわけで遅れあそばせました。ごめんなさい。
また次回。早く書けるといいな。
ではでは。

ギンガ団ビルにあるのは鍵の掛かった扉でした。
エレベーターなんてなかったんや……。


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謝罪らしい

急展開。


暗い部屋の中。

入ってまず目に付くのは五つのオレンジ色の塗装が施された電化製品だった。

 

しかし、とりあえず物色。

盗まれたらしい古ぼけた日記を一冊、ここのトップである冥王星さんの研究レポートが一つ。

あと『あかいくさり』に関する資料が二、三あったのでゲット。

やってることが犯罪者より犯罪者らしいけど、そこは「目には目を、歯には歯を」の精神で罪悪感とかは吹っ切れた。

 

「よし、貰うもん貰ったし帰ろう」

『……あ、ちょっとまてご主人』

「……なにさ」

『……いい事思いついた』

 

わっるいー顔したピカチュウの姐さん。

ぴょんぴょんと備え付けられてたパソコンのところまで走って行った。

……一体何をすると言うのか。

 

『なに、簡単な事。ちょっと政府だとかギンガ団本部とかに態と足がつくようハッキングして、色々と情報を盗ませてもらうだけさ』

「……だからお前ホントに違う人中に入ってるだろう?」

『イ○テル入ってる』

「インストールしたの!? マジで!?」

『んなわけないじゃないか。馬鹿だなぁ、ご主人』

 

……あぁ、びっくりした。

だよねー。

流石に生物の域を超えてるっての。

 

『……よし、完了。二、三十分したらばれる。あの女を連れて撤退するぞ』

「了解。モーターも手に入ったし、万事オッケーか」

 

 

――ドガン、と目の前に天井が落ちてきた。

 

「ほんっとにありえないってシロナさん!」

「ひゃっ! ご、ごめん!」

 

さて、ガブリアスと共に落ちてきたシロナさんはもうすでに機嫌は治ったようで。

……というか、何階から落ちてきたのよ。

吹き抜けになってるんですが。

 

「……機材壊すだけで良かったのに」

「ごめんね。やりすぎちゃった……てへ」

「可愛くしてもやっていい事と悪い事があるでしょうが。子供か、あんたは」

「……まだ十八歳だもん」

 

もん、って。もん、て……。

 

「あぁ、もう! ……さっさと退散しないとまずいんでっ! 後で説教ですからねシロナさんっ!」

『……ご主人、なんだかオカンみたいになってるぞ』

「うるさい、ピカチュウ!」

「……やっぱりトウカ君はポケモンと」

 

ぎゃーぎゃーと言いながら、ギンガ団ビルから飛び出た。

 

……三十分後、ジュンサーさんらが調査しているのが見え、ギンガ団の冥王星さんがお縄に掛かっていたのが見られた。

 

 

そうして翌日。

表向き有限会社であるギンガ団の社長が頭を下げている姿が朝刊のトップを飾る。

 

『我が社における重役の一人、プルートという者が社内における地位を利用し利己的な研究を行っていた。研究中に政府のシステムにハッキング。そして何らかの事故を起こし、団員を危険にさらしたということ。社員親族の方々には申し訳ない事をしてしまった。何者かに襲撃されたという見方も無い事も無いが、証拠が出ない以上、やはり前々から怪しい言動のあったプルートの犯行で間違いない。今後は健全で安全に宇宙エネルギーの開発に力を注ぎたい』

 

と未だ年若い社長、アカギは述べている。

 

-------------------------

 

館で振り分けた部屋の一室。

つまりシロナさんの部屋。

 

「まぁ、俺にも責任があるにはありますから……そこまで言いませんけど」

「……はい」

「誤魔化したくてであの惨事はない。……秘密裏に片付けようと思っていたのに」

「ごめんね……」

「……はぁ」

 

帰ってきて早々、シロナさんを正座させて説教をした。

……あの場にいた何人かはわかっているだろうが、やはりやりすぎた。

パトカーが4、5台止まってたもの。おっかねぇ。

……いや、パトカーはピカチュウのせいだった。

 

「まぁ、終わったことだし特にねちねちとは言いませんが。……もうちょっと加減をしてくださいね」

「……はい」

「さ、ご飯にしましょう。お腹減りましたから……」

「……うん」

 

なんでもう、こんなにしおらしいかな。

 

『いやいや。ご主人のせいだろう?』

 

いや、そう……だけどさ。

 

『……慰めて上げたらどうですか? 流石になんだか可愛そうですよマスター…』

 

ウインディの件をチクってなんか色々と叱ってきたらしいキュウコンにも言われた。

……仕方ない、のかな?

 

「えっと……ごめんなさいシロナさん。……全部俺のせいですよね」

「え……」

「迂闊に傷つけるような事をもらした俺のせいです。……きっと出会うのが彼女よりも早ければ、シロナさんに応えることができてました。でももう彼女と約束してますから……」

「……うん、知ってる」

「……はい。だから」

 

……ぽんぽんと座っているシロナさんの頭を撫でる。

きっと不誠実なのだろう。俺はどうしようもなく、自分勝手だ。

 

「……これで、許してください。貴女の事は好きです。人としても女性としてもそれなりに。でももっとナツメちゃんの事は好きなんです」

 

……さ、これで変態さんも元気出してくれただろう。お腹も減ったし早く――。

 

「――トウカ君。でもね、私も我慢出来ないの……だって初めてだから。……うん。じゃあトウカ君は私に応えなくてもいい。だからせめて……私は貴方の事、好きでいてもいい?」

 

……酷いなぁ……なんだってそれ今言うのだろう。

折角もう話を切り上げてしまおうと……でも、本気なのだろうか。

 

「本気ですか?」

「うん」

「……俺は貴女に応えて上げれませんよ?」

「うん、知ってる」

「ナツメちゃんの事が好きです」

「……知ってる」

「きっと……こんな俺を好きでいても不幸になるだけです」

「それは私次第。不幸って思うか、幸せって思うかの違いよ」

「そんなの……誰も救われません」

「そうね」

 

……。

本気か、この人。

 

『……ご主人』

 

あぁ、うん。わかってる。

この人、絶対に折れない。あきらめてくれない。

……そんなの絶対良くないのに。

 

『……私は――もう、何も言えないからな。自分で決めろ……』

 

……ああ。

 

「……はぁ。大体俺はそんな器用な人間じゃない……例え並列思考が出来たとしても、例えアスリートとして研究者として、トレーナーとして大成しているとしても……俺には好きな人を二人ももつなんて器用な事は出来ない」

「だから私が勝手に好きで」

「――でもシロナさんの事は好きだった……自分の心にも誤魔化してきたけど…! 俺も、シロナさんの事知ってたから……なんで態と嫌われようとしてるのに、俺の気を引くようなことするんだっ! ……矛盾してるの見ててこっちが悲しくなるんだよ…ッ! だからせめて嫌いになってくれるように、俺は冷たくしてたってのに……っ……なんで好きだって言うんだよ……出来るだけ話題に出さないよう気をつけて……」

 

空気が重い。

辛い……どうしたら良いんだよ。

畜生、言わなきゃ良かった…っ!

 

「へ……あ、の」

「……ははは。あーあ言っちゃった。なんてナツメちゃんに謝ろうかな……」

 

どうしようか。あぁもうこの際二人まとめて責任取っちゃおうか。甲斐性はあるか自信ないけど――っ!?

 

「……ごめんね、トウカ君! 私、私――っ!」

 

シロナさんは抱きしめてきた。

泣いて、抱きしめていた。

 

「……なんで泣いてるんですか。……泣かないでくださいシロナさん。やったじゃないですか。両想いだったんですよ」

「私が馬鹿だったっ…! ごめんなさい! ……もう貴方よりもずっと大人なのに…っ! 子供みたいに我侭ばっかり言って……っ!」

「……もう。酷くないですか? そんな事言われたら……何も言えなくなってしまうじゃないですか」

「許して……駄目な私を許して……」

「誰も怒ってませんよ。……顔、上げてください。せっかく好きだって答えて上げたんですよ? そんな泣かれたら、悪い事したみたいじゃないですか。むしろ俺が謝るべきで」

「……そうかもだけど…っ! トウカ君、泣いてるんだものっ!」

「へ……あ、ホントだ。……なんでだろ?」

 

ナツメちゃんと約束守れなかったからかな。

会ったときが怖いな。……愛想つかされるんだろうか。

……嫌だなぁ……。

 

……あぁ、そうか。

こんな気持ちだったのか。

……ピカチュウ、ごめんな。

 

『……気にするなご主人。所詮、私とご主人は怪物と人だからな。……私はお前のそばにいれるだけで満足さ』

 

……ごめん。お前は強いよ、本当に。

 

 

それからシロナさんも俺も一緒になって泣いた。

何が正しいのかわからないまま、泣いた。

 

でも、わかる事が一つある。

 

俺は、約束一つ守れない悪い人間だったみたいだ。

……ごめん、ナツメちゃん。

 

△▼△▼△▼△

 

「……あ、ナツメ。そういえばずっと前から聞きたかったんですが……」

「ん? なに、エリカ」

「あの子、トウカくん? 野暮だとはわかっていますけど……どうなったか教えてください」

「えっと……言わなきゃ駄目?」

「駄目」

「えぇ~……じゃ、じゃあ……うん。えっとね、出て行くとき約束したんだ。『半年後にまた会うまで、お互いにずっと好きだって想い続ける』って。それでそれぞれ『目標を持って、それを達成しておく』って。そうしたら晴れて恋人になろう、って約束」

「……それで、ナツメはどのような目標を?」

「私の場合は超能力者が迫害されないエスパータイプのジムを作ってそのジムリーダーになること。……トウカ君は……無事に私のところへ帰ってくることって言ってて。……なんか恥ずかしいな」

「……ちっ」

「なんで舌打ちしたの!?」

「だってどう考えたってナツメのほうが難題じゃないですか。……でももうすぐ達成するというのだから……恋する乙女は強しということですね。それにしてもなんだってそんなナツメにばっかり無理させるような事言って……」

「……べ、別にそんなこと……」

「(はぁ……照れてるナツメ可愛いなーお持ち帰りしたいなーその胸の脂肪ちょっと分けて欲しいなー)」

「め、目が怖いよエリカ」

 

――拝啓トウカ君。お元気ですか?

 

私は貴方がなんだかとっても遠くに感じます。

つい最近まで、私の近くにいた貴方が離れていくような……気のせいですよね。

 

……あと、最近胸がまたおっきくなってきました。

そのせいかエリカの視線が怖いです。

 

――私、がんばってます。

早く帰ってきてください。

ずっと待ってます。




ミュウ's「最近空気な気がする」
最近四本足になった弾丸担当「同意」

シロナのタグは入れない。絶対に。
ではではまた次回。


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人間だったらしい

ヒント:『好きだった』『両想いだった』
主人公はちゃんと言ってますよ?


「……好きですっていったけど、でもそれはそれ。別にシロナさんと恋仲になろうだなんて思ってませんよ? 恋人を作るとしたら――……俺にとってはやっぱりナツメちゃんなんで」

「あうぅ……」

 

ひとしきり泣いて思考が纏まったおかげか、冷静になれた。

やっぱりナツメちゃんへの想いは変わらない。

 

確かにシロナさんは好きだ。

だけどナツメちゃんには及ばない。

それでいいじゃない……責任をとるだとかとらないだとか関係ない。

 

誰かに好意を持つことは自由なのだから。

 

……よし、理論武装完了。

抱きついてきているシロナさんを引き剥がす。

――にしても言いたい事言えて少しすっきりした。

 

『悪い奴だな、ご主人』

 

うるさい。

 

「……さ、ご飯食べに降りましょう。在らぬ疑いをかけられても面倒ですから」

「うぅ……! トウカ君ってホントに酷い人…!」

「何とでもどうぞ。嫌われることは覚悟してますんで。むしろ嫌ってくれたほうが楽で良いです。俺も嫌いになれますんで」

「……でもそんなところも」

「あーあー! 聞ーこーえーなーいーっ!」

 

シロナさんから逃げるように、俺は扉から飛び出て食堂に向かった。

 

 

「……絶対に諦めてあげないんだからね、トウカ君」

 

シロナさんのそんな言葉が聞こえた気がして、ぶるりと肩が震えた。

 

 

「……私の事悪女だ妖女だっていってるけどさ、あんた私よりよっぽど非道いわよ」

「……もっとこう、慰めてくれてもいいんじゃなかろうかメイドさん」

「そんなことするわけ無いじゃないの……お皿下げるわよ」

「……おう」

 

ふわふわと浮いて幽霊幼女が台所にいるミツバさんのところまでお皿を運んでいく。

早速新しい体にも環境にも慣れたようだった。

あ、そういや渡すものがあったんだけど……アイツ何処行ったんだ?

 

『ご主人、アイツならテレビの中だろ?』

『いえ、なんだか最近は研究員に悪戯して可愛がられてるらしいですよ? アイツら怖いって助けを求められました』

 

悪戯しようとして逆につかまったのか。可哀相に。

……というか、あいつら凄いな。下手したら死んでしまう電気量だってのに。……変態は恐い。

 

『ひっぅ……変態こわいよぉ……』

「あ、いた」

 

ふらふらと左右に揺れながらやってきたのはプラズマポケモン――名前をロトム。

それなりに長い間この屋敷に憑いているらしい彼は満身創痍の様子で、俺の目の前に来て早々前のめりに倒れた。

 

『なんで僕の体触っても平気なんだよぉ……あいつらぁ』

「まぁ、うん。なんかごめんな」

『……そういって僕を抱えるお前もだよッ!』

「よしよし……辛かったなぁ」

『無視なの!? ぐぅ……不覚にも気持ちいいのが許せない……っ!』

 

ピカチュウの電撃に慣れてる俺としてはロトム程度の電気ぐらいじゃ屁でもない。……ピカチュウのせいだ。

 

『私のせいにするな。……というかお前! 新参者の癖にご主人のひざの上にっ!』

〈そうだぞー! うらやまけしからん!〉

〈……う、うらやまけしからん〉

〈うらやまけしからーん〉

 

なんでか珍しく寡黙なミュウも含めてエスパー三匹が口々に言う。

……ミュウの二匹はまぁいいか。

ただ、最近進化したメタグロスよ……お前が乗ったら俺は圧死する。

体重を考えなさい体重を。

 

〈姉さん兄さん……父さんが冷たい……〉

〈元気をだして!〉

〈……なんで私が兄さんなのか甚だ疑問なんだけど〉

〈はぁ……大きくなったせいかなぁ……〉

 

相変わらずエスパーの三匹は仲がよろしいようで。

おぉ、そうだった。

 

「ほい、ロトム。取り返してきてやったぞ」

『あ……』

「お前の日記に……こっちはどれだかわかんないけどモーターな」

『……えっと、ありがとう?』

「何で疑問系なんだよ……」

 

持ってきてた鞄の中から取り出したのは、ギンガ団ビルを襲撃して手に入れた五つのモーターと古ぼけた日記帳。

……モーターの内一つは大切に持っていたらしいロトムのモノで、日記もまたロトムが持っていたもの。

いや、正確には――ロトムが生前から少しの間書いてた日記。

彼が友人と出会った頃からの事が綴られているのだ。

 

『いや、だって――もうあんまり覚えて無かったから』

「……そっか」

『でも、……うん。ありがとう』

「じゃ、約束通り……俺たちに協力してくれよ?」

『うぐぅ……まさか本当に取り返してくれるとは思って無かったのに……しまったぁ…!』

 

そう――このロトムは元々人間だったらしい。

トモダチになったロトムに誤って殺され、ロトムの特殊な電気を帯びた彼はそのままロトムになってしまった。

そしてその友達らしいロトムが急にいなくなってから、ずっとこの洋館にくる人たちをあの二人と驚かせて遊んでいたのだそうだ。

 

……その友達のロトムとの思い出の品を大切に持って。

 

でもあの素敵ファッションの方々何人かを引き連れてやってきたプルートが……偶々ロトムが落としたモーターと日記帳を拾って持って帰ったらしい。

それであのギンガ団ビルで研究をして何者かに襲撃されたという経緯だった。

 

それにしてもその何者かって……一体誰なんだ…!

 

『ご主人だろ』

 

……野暮ったい事言うなよピカチュウ。

 

ロトムの精神疲労を 『トキワの能力』で取ってやっていると目元の紅いシロナさんが降りてきた。

……まともに顔を見れず、気まずくなったのは言うまでも無い。

やっぱり辛いよー! ……ヘルプミー! ナツメちゃーん!

 

あとちょっと肉食獣のような目になってるのが恐いよー…!

 

 

 

 

「……はっ!? トウカ君に助けを求められた気がする……」

「はいはい。惚気は結構ですからねー」

「ちょっとエリカ酷い! ホントなんだってばー!」

 

-------------------------

 

さて、早いものでシンオウに来て一ヶ月が経った。

 

その間日常面では、割とまともに仲間になったロトムがピカチュウの指導を受けて、ウチの炎二匹同様、恐ろしいレベルアップを見せていたり、ピカチュウが余っていた四つのモーターで作った新しいモーターが恐ろしい特性を持っていたり。

後はメタグロスが6Vらしく相応に強くなってきていたりと微笑ましい成長を見せていた。

……でも一番普通なはずなのに周りに埋もれてしまって地味に感じてしまうのは如何なものか。

 

とりあえずピカチュウは自重しろと。

 

それから研究面での事。

一つがイーブイの新しい進化系統(リーフィア)の発見。

……大きな発見なのか、それとも多大な進化の可能性を秘めているイーブイとしてはそこまででもないのか疑問だが、遠征の大義名分は一応果たしたと言えるだろう。

 

それから二つ目。

多分これが一番の発見だと思われる――ゴーストタイプについて、だ。

 

先住居者のポケモン達、あと幽霊の二人にも協力を仰いだ結果わかった事なのだが――幽霊はポケモンでいうゴーストタイプに分類されるらしい。

 

いや、正確には幽霊の中にゴーストタイプが含まれると言ったほうが正しい。

 

……幽霊に『格闘タイプ』に分類される「波導」が効き、何故ゴーストタイプのポケモンに効かないのかは『魂』がむき出しか否かにあった。

――魂……つまり波導でいう『内気』を生み出すの存在になるのだが、これが『気』によって保護されれば効かなくなり、保護されていなければ格闘タイプが効くようになる事がわかった。

つまり幽霊の二人はポケモンの技、「みやぶる」及び「かぎわける」を使われたゴーストタイプの状態なのだそうだ。

だから格闘タイプのはずの波導が効いている、ということだった。

 

ともかく魂の保護が行われていない状態は危険、ということで「気」を扱えるようにするためにシロナさんの下、波導の基本を学んでいる。

しかしうまくいかず現状打開策を思考中だ。

なんでも内気の量が少ないんだとか。

 

勿論魂云々の話は口の堅そうなシロナさん、幽霊のメイドと執事の二人にしか知らせてはいない。

……だが、ちょっと世界的に大問題になりそうな発見であることは間違いない。

 

で、一つ問題なのがゴーストタイプのポケモンと幽霊の違い。

どう区別するべきかと問われたら、まずそれは魂の保護が出来るか否かになる。

 

つまり「内気」が多いか少ないかの違いなわけだ。

 

それから、

『内気が少なすぎればそのまま黄泉の世界に行ってしまうが、内気がそれなりに多く強い未練があれば幽霊になる。そして内気が途方も無く多く、未練があり、なんらかの外的要因があればゴーストタイプのポケモンになるんじゃないか』

……というのが自分の仮説。

 

例えば元人間のロトム。

彼の場合はロトムを驚かせてしまった事を後悔(、、)していた。

そしてロトムの電気を浴びて死んでポケモンになった。

 

――つまりロトムになったわけだ。

 

了承をとって試しに波導で攻撃したが勿論効かない。

しかし彼に波導の基礎を教えてみたが……「気」は操れなかった。

幽霊の二人ですら多少操れるはずなのに、だ。

 

逆に考えれば、

 

『ポケモンになり、ゴーストタイプという特性が付いたために気が練れないのではないか』

 

……ということ。

 

それなら納得も出来るのだが……何せ人からポケモンになったという事自体がまず無い。

……つまり検証の仕様がないのでお蔵入りになった。

 

 

「……と、結果が残せなきゃ意味無いんだけど」

「……そうよね。私も何度証拠が無いから認められないと言われてきたことか」

「!? 何で俺を抱いてるんですか!? つーか何時の間にぃっ!?」

「トウカ君がレポート書き始めてからだけど?」

「は、ははっ……なんか、もう……いいです」

「……♪」

 

あとそれから……最近シロナさんのスキンシップが激しい。

それから自重という言葉を忘れてきてるようなんですが……マジで勘弁して。

やっぱり俺も女の人って少なからず意識してるから辛いんだよっ!

 

うぅ! ナツメちゃんに会いたい…っ!

 

「……シロナさんの変態めっ。こんな子供の何処がいいと言うんだ…!」

「……全部?」

「このショタコン! 恥じを知れ!」

「……別にいいじゃないのショタコンでも……トウカ君だけなんだしぃ~」

 

あぁ、もう! この人吹っ切れやがった!

うわぁあああん! 頭が柔らかいものに当たって気持ちいいって思う自分が嫌だぁ…!

 

 




※ハーレムタグは入れない。これはハーレムではないから。

▶主人公のご卒業がアップを始めたようです。

とりあえず、不安に思ってしまった方ごめんなさい。
今後の課題は如何にシロナさんの魔の手から逃れることができるかです。

というわけで次回から「シンオウ地方後編」。
ようやくカントーへ戻れる折り返し地点になりました。

尚、ゴーストタイプ+ロトム云々の話は完全に捏造設定で盛ってますので色々と矛盾点があるかと。
その程度許してやんよ、というような寛容な心でお願いします……。

それとロトムについての日記は何処かにまとめサイトがあったと思いますので詳しくはそちらで。
詳しく書けずごめんなさい。

ではではまた次回。



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夜逃げらしい

ずんずんと森の中、歩を進める。

木の枝を踏みしめて音が鳴った。

 

――今ハクタイの森を抜け、ハクタイシティへと向かっていた。

 

「……はぁ。やっと抜け出せた。息が詰まる」

『なぁ、ご主人。……ホントにいいのか?』

「いや、だって仕方ないじゃん……身の危険を感じてきたんだから」

『……まぁわかるが』

 

はぁ、と一つため息。

本来ならこんなことはしたくないんだけど……仕方ないし。

――一ヶ月後に戻るとメモ書き自室に残し、俺は森の洋館から出た。

 

 

シンオウに来て一ヶ月。

そう、シロナさんと出会って一ヶ月経った。

様々な事があったが一様に言えるのは……シロナさんとの関係が厄介なものになって来た、ということだ。

確かに色々と自重はしてくれているのだろう……それはわかる。

彼女の好意もはっきりとしているし、少なからずシロナさんの事も好ましく思う。

スキンシップは激しいがそれ以上の事はしてこない。

 

だけど、だからと言って俺が、自分自身が耐えられそうになかった。

いや、正確には「堪えられそうにない」。

 

俺も男だ。

まだ幼い餓鬼だけど……それでも自意識がはっきりした五歳から約六年の間、それなりに溜まっているのだ。

何がとは言わないけど、それはもう色々と。

 

正直自分の胆力といか我慢強さには自分自身呆れるくらいだ。

……ナツメちゃんと一緒に寝たときは正直危なかったけども。

それが成熟した肢体のシロナさんに抱きつかれたら……精神が擦り切れる音がするのだ。

ブチブチと繊維一本一本が少しずつ切れていく音が。

 

これで一緒に寝ようものならきっと(たが)が外れるだろう。

間違いない。

 

それに、だ。

 

「……最近のシロナさん、恐いくらい目がギラついてるんだ……第六感が逃げろって言ってるんだ……」

『……あぁ』

「こわいよぉ……喰われるよぉ……」

『わかったから……ご主人落ち着け、な? 周りからピカチュウに話しかけてる可哀相な男の子って見られてるから』

「……うん」

 

……確かに衆人観衆の前で泣きを入れるのはまずい。

ボールから出してるピカチュウに感謝だ。

 

とにかく俺のためシロナさんのため……何よりもカントーで頑張って待ってくれてるナツメちゃんのためにも俺は抑えなければいけなかった。

……だから夜逃げに近い、まだ朝方のこの時間に洋館をこっそり抜け出してハクタイシティへ向かっているのだ。

いや、最終目的地はもっと別の場所だけども。

なんだってこんな事になったかなぁ……・。

 

『……元気出してください、ナツメさん一筋なマスターのことも私にはわかりますから』

 

……ありがとう、キュウコン。

 

よし! ちょっと元気でた。

さ、落ち込んでる場合じゃない……早く目的の物を貰いに行かねば。

 

 

「すみませーん! 探検セット貰いたいんですけどー!」

 

-------------------------

 

朝。

昨日まとめていた続きのレポートをファイルに仕舞う。

……あ、そういえば。

 

「室長見ました?」

「いや見てない……まだ寝てるのかな?」

「……は!? もしかして……」

 

二人に聞けば、雌狐に喰われてるんじゃ、と一人が言った。

嫌な予感がして急いで室長の部屋に向かう。

 

……向かって、あの変態の皮を被った雌狐が部屋の中で泣いているのをみた。

手にメモと一通の手紙を持って。

 

「はぁ……はぁ……室長は、どうした」

「……トウカ君は出て行ったみたい……理由はこれに。……あとコレ、貴方たちへの指示みたい……」

「っ……! 見せてっ!」

 

女研究員が渡された手紙をひったくるようにして読む。

 

「メモには『探さないでください』って。で、手紙には『一ヵ月後に戻る。それまで各々が研究を進めておくこと。……それから探したりなんかするんじゃ無いぞ! 有事の際はシロナさんを頼れ』……って。それから『単独行動をする理由は俺の理性を守るため。一ヵ月後に各々研究したレポートの提出な。出来なかったら……』で終わってる……」

「なんだ、それ? とりあえず言われた通りにやったほうがいいんだろうけど――理性を守るためって……」

 

ちょっと理解出来なかった。

 

「……はぁ……ちょっとベタベタしすぎちゃったかな」

 

なるほど把握。

つまりあのナツメちゃんへ不誠実になるから室長逃げたのか。

 

「「「……お前のせいかぁああ!」」」

 

そして思わず他二人とはもった。

 

「わぁああん! ごめんなさーい!! 謝るから帰ってきてぇ!」

 

……でもマジ泣きしてるのを見たらなんだか怒る気が失せたので、泣き伏せているのを尻目に朝食を取りに降りる。

メイドで大人びてるヨミちゃんは知ってたらしくて鼻で笑ってた。

――背伸び幼女可愛いhshs。

 

 

 

 

『前略シロナさん。……貴方のスキンシップは俺の忍耐をガリガリ削ります。つい襲ってしまいそうなくらい限界が近いので俺は出て行くことにしました。それから最近貴女からの視線が恐いです。食べられるんじゃ無いかと思ってしまうくらいです。……お互いにそれでは良く無いと思います。……次会うときは一ヶ月後。それまでに反省してください。それでは。――PS.追いかけてくんな』

 

「ごめんねトウカくーんっ!」

 

-------------------------

 

――さて、この貰ったばかりの探検セット。

 

ゲームだった頃の記憶では、良い意味でも悪い意味でも非常にお世話になった覚えがある。

 

……四天王の部屋、なぞの場所、探検セット、ダークライとシェイミ。

思い出すだけでも忌まわしい。

しかし同時に教訓にもなった……正規の方法で入手できるまで待て、と言うことだ。

 

よし、追想終わり。

 

先ほどハクタイシティにて、まだおっさんという若さの男の人から探検セットを貰った。

何故貰ったのかと聞かれたら……まぁ、それはアレだ。

一ヶ月くらい引き篭もろうかと。

地下通路でピッケルとハンマー振り回そうかと。

 

いや、本来はいけないんだ。

遠征調査の名目でシンオウに来てるんだから。

仕事の放棄はやっちゃいけない。

 

でもこうでもしないとあの人から逃げられない気がするんだもの。

……多分修羅と化してるシロナさんから。

探すな、とは書き残したけど絶対あの人は探すから。

 

『大変だな、ご主人』

 

あぁ、大変だ。

 

……さて、問題は何処から地下に入るかだ。

確か記憶に残ってる地下通路のマップは大体6つに分かれてたはず。

どの位置から入るかによってそれぞれ入れる場所が変わってくる。

 

一番捜索される可能性が低いのは満月・新月島辺りから入れる場所だろう。

あんな何もない酔狂なところに行く人間は少ない。

 

まぁ、逆に考えて一番広い場所の何処かに陣取ってもいいだろう。

木を隠すなら森の中という言葉通り、ゲームと違ってこの世界には沢山人が居るだろうし。

幾らシロナさんが波導に関して熟達してると言ってもゲン師匠並みには索敵出来ないだろうし。

 

前者の人目を避けるか、後者の敢えて人の中に紛れるか……悩みどころだ。

 

前者だと、珠だとかとグッズを交換してくれる登山家風のおっさん達はあのマップには少なかったはず。

ただ、出土品と珠に換えてくれるおっさんは居たはずだ。

逆に後者だとグッズを交換してくれるおっさんは多く、出土品を換金ならぬ換珠してくれる人は少ない、というよりも居なかったはず。

 

……どうしたものだろうか。

 

それか、敢えてもう地下には潜らず、どこか地上でひっそりと一ヶ月間過ごすというのも有りだ。

 

――もしくはこのまま此処で過ごすというのも。

 

『急に来たと思ったら……トウカ。匿って、とはどういうことなのだ、まったく』

「いや、スマンて。……ちょっとシロナさんに追われてんだ。見つかったら色々と奪われる未来が見えるんだよ……」

『……はぁ。なんとなくわかっていたが罪作りな奴だ』

 

俺だって好きでこんな事になってんじゃないんだよぉ…!

 

――現在俺は菓子折りを持って匿って貰っていた。

創造神(笑)さんの所で――いってッ!

 

礫が飛んできた……いたい……。

 

 




HSDDの方も書きたいけど手が伸びない……。
あと諸々の事情で書きづらい。

よって更新速度も今以上に落ちます。ごめんなさい。

それではまた次回。


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人間らしい

お久しぶりです。
久しぶり故、とんでもない拙作となっております。
それでもよろしければお進みください。


「結局ここに残ることにしました」

『帰れ』

 

創造神のくせにけち臭い。

いいじゃん、この "始まりの間" って結構広いんだし。

……ちょっと床が透けてるのが怖いけど、別に落ちるというわけじゃないんだし。

 

と、まぁ無理なこと言ってるのは承知している。

だからと言ったらなんだけど……、

 

『……はぁ。なんだ、一体?』

「ちょっと時空と裏側の王様に会いに行く方法……教えてくださいお願いします」

 

がばっ、と腰から九十度曲げて頭を下げる。

アルセウスからの何言ってんだこいつ、という視線が辛かった。

 

-------------------------

 

『……その、聞きたいんだが……なんだって急にご主人はあんなこと言ったんだ?』

 

いや、ね?

ただ来るかもしれない追手から逃げるのも癪じゃないか。

だからまぁ、あの三神に会いに行こうかと思った次第で。

 

それに別世界に逃げれば確実に見つかることはないかな、と。

 

『なるほど。……つまり一石二鳥の行動ということですか』

 

キュウコンの概ね言う通り。

で、頭どうかしてんじゃないのかと言うアルセウスに、発想に至るまで経緯を話せば、基本的にノリの良いあの方は行き方……というか手段を教えてくれた。

 

まぁ、行けるには行けるけどやっぱりただの人間には向こうに行けたとしても活動はできなくなる、ということなので。

 

ちょっとした時間と空間、歪みを操れるようになりましたー(棒)

 

といっても時間が操れるのは体感時間を遅くしたり早くしたり。

空間は別に、ちょっとした結界はったり空間を固定したり、座標抜きでテレポートが使えるようになったり。

歪みは……まぁゴーストタイプの技が自分でも出来るようになったというか重力が操れるようになった…?

 

「……って、いやいや。人外にしろ、って言った覚えはないんですが、アルセウスさん」

≪超能力の発展形だと思えば別に人外でも何でもない超能力者、そうだろう?≫

「……まぁ、そうかもだけど」

≪お前は人外じゃねぇっ!!≫

 

と、天界の笛という名の通信ツールからの声曰くまだ俺は人外じゃないみたいです。

人外なめんな、だそうです。……糸目のポケモンブリーダーが頭の中に浮かんできたぞ。

 

 

「……さて、待たせた。お話という名のポケモンバトルをしようじゃないかディアルガ」

『作戦会議は終わったようだな。さぁ、存分やろうじゃないか。弱くなられているとはいえ主と引き分けたトウカよ…!』

 

――グォォォオオオ…!

 

「時の狭間」という世の理から外れた場所。

時の流れは変わることは無いという、不変の証である金剛。

そのダイヤモンドのように不変の存在である時の神が咆哮を上げる。

 

足場のないこの場所で、ふよふよと浮きながら俺は懐のボールに手を伸ばした。

 

 

――時の狭間の主、ディアルガが勝負を仕掛けてきた!

 

-------------------------

 

ピカチュウが閃光と化して宙を飛ぶ。

飛んでディアルガまで近づけば、熱と冷却を同時に行い体の構成素子を劣化分解させる技を使ってダメージを与える。

ディアルガはその受けた傷を時間を巻き戻し修復し、 本来次の行動までにタイムラグがある技、時の咆哮という名の高威力の衝撃を時間を早めて連続して放つ。

ピカチュウに至っては時間が経つごとに「ひらいしん」で特攻が上がり「電気エンジン」で素早さが上がり、さらに「ちくでん」で体力を回復していくのだからたまったものではない。

 

その他、ポケモンの技とは思えない攻撃が飛び交い、傷つけ合い、回復していた。

 

……ポケモンバトルがポケモンバトルしてない件について当事者であるピカチュウさん、どう思いますか?

 

『……反省はしてる。けど後悔はしてないッ!』

 

いや、トレーナーの言うこと聞けよ! ポケモンバトルだろうがっ!

これじゃただの異能バトルだっての!

 

……まったく、アルセウスの時もそうだったけどさ。

トキワの能力使ってPP的な体力を回復させても……トレーナーの言うこと聞かないなら野生のポケモン同士のバトルじゃないか。

……いや、まぁ今更な気がするけども。

 

『……スマン……』

 

……はぁ。

ま、本当に今更だしもう言わないよ。

さて、ディアルガさん。

 

『ん? どうした?』

「……絶対にお前は捕まえないし、連れてもいかない。まぁ、その……着いてきたい気持ちはわかるけどな?」

 

ぶわっ、とディアルガが泣いたように見えるのは気のせいだろうと思いたい。

というか、泣いてくれるなよ時の神様。

 

『……まぁ、仮にご主人が許しても私が許さないからな!』

『うぅ……っ!』

 

……滅茶苦茶いい笑顔してますけど、ピカチュウさん。

 

『ん? なんだ、ご主人?』

「いや、酷いなって思って」

『……だって私悪くないし』

 

……ディアルガに姐さんって呼ばれるのってどうなのよ、あんた。

 

『だから私は悪くないって言ってるだろご主人っ!』

「いや、十分悪いからな!」

 

ぶっすぅーと頬を膨らませて拗ねだした(放電し始めた)のでそろそろお暇することにしよう、そうしよう。

 

「……それじゃ、えっとディアルガ。また今度会えたら会おう」

『……あぁ』

 

哀愁漂う姿を最後に見て、俺はパルキアのいる『亜空間』へと跳んだ。

 

-------------------------

 

「……それでパルキアとディアルガ、ギラティナとおはなし(物理)をしてきたけど」

『だからといって我のところに戻って来ずともいいではないか? なぁ、おい?』

「……俺、ナツメちゃんに会いたいんだ」

『聞けよ! そして帰れっ! それに会いに行きたければ行けばいいではないか!』

 

やりのはしら、上空。

『始まりの間』にてポケモンたち全員出して俺はアルセウスと駄弁っていた。

誰にも見つからない、ということで久々にミュウ’sも元の姿で外に出している。

 

……や、だって会いたいからって会いにいったら負けかなと俺は思うの。

ナツメちゃんはナツメちゃんで頑張ってるんだし。

目指していることへの意識を逸らすのは宜しくない。

 

「まぁ、今日あたりで出ようとは思ってる。この地方、色々と見て回りたいし」

『……そうなのか』

 

アルセウスに泊めてもらって早数日。

数えて大体三日か五日くらいかと思っていたのだが……実際にはもう既に半月以上経っているとのことだった。

色々と此処「始まりの間」は時間の流れが違うというのが原因だそうだ。

まぁ、恒久を生きる存在からしてみれば世界の時の流れは遅すぎるのだろう。

 

「それじゃ行くよ。ありがとな、アルセウス」

『あぁ。……アリーデヴェルチ(さよならだ)』

 

相も変わらずネタいアルセウスに苦笑しつつ、俺はアルセウスに強化されたテレポートを使う。

――向かう場所は未だに活動を続ける活火山。

 

 

ハードマウンテンの麓に跳んだ。

 

 




着々と人外に成っていく主人公。
相も変わらずバトルの描写は薄い本作。

ネタいアルセウス。
ピカチュウに勝てないディアルガ。
スルーされたパルキア。
そしてシャドーダイブでもしたかのように存在感の薄いギラティナ。

こんな拙作ですが、お読みいただきありがとうございます。
この場をお借りして述べさせていただきますが、恐らく遠征終了まではバトルは過去形でのみお送りいたします。(一応、申し訳程度に幾度かはまともにポケモンバトルすると思いますが。

バトルはトレーナーとして旅立ってからと決めていますので、バトルを所望している皆様には申し訳ない限りです。

他のポケモン小説のように濃密なバトルシーンをご希望の方には物足りないと思いますが、何卒ご容赦ください。

それでは。


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群れてるらしい

やっちゃった感満載です。



ハードマウンテンに跳んで、地熱で暑い洞窟の中を進んできたのはいいものの……。

 

「居ない?」

『ねぇ今どんな気持ち? 意気揚々と来てみたのはいいけど会えないってどんな気持ち?』

 

あの伝説っぽく、専用技があるのに他の伝説ポケモンと比べて普通なヒードランは居なかった。

……それよりもさっきからN(ねぇ今)D(どんな)K(気持ち)するロトムうぜぇ。

ウインディからかぎわけるを教わって波導弾撃ってやろうか。

 

『ひっ! それだけはご勘弁をぉぉ!!』

「……まったく」

 

顔面から四肢が生えた膝丈程のロボットに入ったロトムが怯える。

 

 

……愛嬌ある姿をしている元人間の彼が入っているロボットは……ガ○メンだ。

 

ギガドリルブレイクでお馴染みドリルが体中から突き出したり、ドリルで貫いた敵ガ○メンの制御を奪ったり、気合で異空間転移出来る様になったり、最終的には銀河を投げたり出来るサイズになる浪漫溢れるロボットだ。

 

制作期間は三日。

主な製作者は俺とピカチュウ、そして素材提供者のアルセウスである。

 

ロボットの体内の関節部には五つのロトモーターを搭載。

また、内四つのモーターによって、それぞれ『ほのお』『みず』『くさ』『こおり』の四タイプの技の威力が1.5倍程度まで上がるようになっており、スピンフォルム含むの五つの専用技がロボットの性能上使えるようになっている。

 

また、ロトモーターから発想を得て、ピカチュウが電気玉について自己分析をして分かったことを参考に作ったコンデンサ等の専用電子部品を使っているため、ロトムだけでは足りない電力を回路で賄い、結果として全体的な能力値の底上げとなった。

 

……別に俺がロボットにしたわけではなく、ロトムが『乗り移るならロボットが良い』と言い出したからであり、決して俺が望んでロボットにしたわけではない。

まぁ、どうせならという理由でガン○ンにしたのは俺だけど。

 

暇つぶしに覚えた機械工学を発揮する機会があってよかった。

 

このフォルムのタイプは『でんき』『はがね』。

特性の浮遊も健在で、弱点は実質『ほのお』と『格闘』のみで、半減するタイプも多い。

加えてピカ姐さんの調教が入ったので電磁波で砂鉄を操り、ドリルを生み出すことが出来るようになり、そのドリルを電子機器に突っ込むことで、ダイレクトにハッキングが出来る。

 

 

『そんなことが出来る様に機構を付けたご主人が悪い。私は悪くない!(キリッ』

浪漫が滾ってやった。反省はしてる。ただ、後悔はしてない!(キリッ

 

……自分は悪くないとかいうピカチュウもノリノリで教えてた気がするんですがねー?

 

『……誰も悪くないという事で』

『無責任な! 大体僕はブリキのロボットで――』

 

そうだな。

ロトムがなんか言ってるけど何もなかったし、誰も悪くない。

 

ちなみにガ○メンにはハッキングして手に入れた情報をコピーして保存できるよう、パソコンで使えるUSBポートと記憶領域も備えてある。

 

『だから僕の扱いがぞんざ――』

 

なんというかロトムがちょっとした便利ツールになっている気がしないでもないが、まぁ、気のせいだろう。

……さて。

 

「にしてもヒードランの奴どこにいるんだろうか。まさか、上から来るぞ、気を付けろ! ――なんてことはないだろうし」

 

当たり前のように上を見てもいない。火山の置石があるこの部屋にいると思ったんだけども。

 

「まぁ、でも石を退かすのはまずい」

 

この火山噴火するらしいし。

……うん? 石の下か?

 

「……。……おおう、視覚的ダメージデカい……」

 

置石の下にはマグマだまりがあり、中で百体は下らない量のヒードランが空洞壁面を這っていた。

それはまるで……いや、よそう。

こんなこと言っても誰も救われない。

 

『無視しやがって。……やーい、ゴキブロスー!』

「あ、馬鹿! ロトムお前……っ!」

 

反響したロトムの声が下の連中に届いたようで、ぎろりと何匹かがこちらを向く。

……ひぃっ!!

 

「――帰るぞ!」

 

手早くロトムをボールに戻して、ハードマウンテンの入り口に跳んだ。

 

-------------------------

 

ハードマウンテンから少し降りたところ。

わらわらとダンバルが大量発生していたので、一匹ナツメちゃんへのお土産にと思い、捕まえることにしたのだけども。

 

「……あれ、ダンバルって伝説のポケモン並に捕獲率低かったような……」

『主、一体全体何言ってんのさ』

『ご主人はいつものやつだ、気にするな』

『はーい』

 

それにしてもなんでただのモンスターボールで捕まえれたし。

……捕獲率UPとか神様が付けてくれたらしいけど、もしかして伝説も捕獲率が同じくらいまで上がってる?

 

「あーなんか、こうメタモンの時はどうとでも出来たけど……捕まえれるか捕まえれないかの駆け引きがないのは、なぁ」

『こんなところで膝ついたら怪我しますよ。礫が多いんですから』

「……あ、ほんとだ。膝切っちゃった。……地味に痛いな」

 

どうせなら早く言ってほしかった。

忠告されたときにはもう時すでに遅しだし。

時すでに……時か。

 

「……お、おぉ……俺って相当人外してるのね……」

〈へー時間戻したんだ〉

 

逆再生のように、傷口がふさがっていく。

正直見ててちょっと気持ち悪い。

 

あーミュウたちだったらこれ、俺よりうまく出来そうな気がするけどな。

司ってる三神見てるはずだし。

 

〈いや、私たちはいわば全ポケモンの予備みたいなものだから、神様たちが死なない限り神様やトウカ程時間操ったりできない。ここの神話にある混沌とでもいうのかな、それが僕たちだから〉

〈……。そういうことー〉

 

……こんなところで衝撃の事実。

ミュウが全てのポケモンの始祖とされるのもあながち間違っていないというわけだ。

巨大な渦。混沌から指向性を持ち、強力な力を持ったのが初めに生まれたとされる各タイプのレジギガスたちとアルセウス。

もしミュウ以外のすべてのポケモンが死に絶えたとき、若しくは一匹しかいないようなポケモンが死んだときには……

 

〈その種族の起源、または代役としてそのポケモンに成らなきゃいけない〉

 

なるほどなー。

過酷な宿命だ。

……で、古代生まれのミュウ。

お前実はよくわかってないだろ。

 

〈……うん、ばれた?〉

 

アホの子可愛い。

むしろそのままの君で居て。

読書馬鹿のミュウみたいにはならないで。

 

〈……失礼な〉

〈アホだなんて酷い!〉

ごめんなー。

でもお前たち、ピカチュウと一緒で何かと規格外なんだもの。

例えるなら究極生命体前の油断無き○ーズ様と頭の弱いカー○様的な。

……っていってもわかんないか。

〈うん、意味わかんない。……ねぇ、ずっと此処にいるつもり…?〉

〈つまんなーい!〉

 

はいはい、わかりましたよ。

 

「……そうだな、次は……」

 

意思を司る神の眠る場所。

――リッシ湖へ跳んだ。

 

 

「……なんで傅いてんの」

〈……。――あの、え? ディアルガ様じゃ……え、でも雰囲気が〉

 

リッシ湖についたと思ったら青い意思の神様が湖から飛び出してきて、俺の前で傅いていた。

 

な、何を――(ry




憑依合体って素敵な響きだと思うの(乱心)

ロトムはいじられ体質。
悪戯してた罰があたったんだね、しょうがないね。

一応ロトムについて追記。

ロトム - ロボットロトム(ロボロトムでも可)
でんき・はがね
特性:ふゆう
・見た目は天○突破グレ○ラガ○からシモ○の乗るガ○メン
・種族値はゲーム表記の上から順番に130/130/132/140/132/6の構成。電化製品にとりつくことにより、種族地が上がったり下がったりすることからこんなことに。ちなみに超古代の陸海と同じ合計670。見事に600族の厨ポケ。
・素早さが低いのは他のバランスの良い高ステータスに対する仕様と、実際に足をついて走ったときの速さが最高時速6キロ程度のため。ただし、ピカチュウから超電磁砲方式による移動法を教わったので素早さの高低は有って無きがごとし。
・ギガドリルブレイクは男の浪漫。
・圧倒的低い素早さの差から撃つタイプ一致のジャイロは浪漫。

個体値レベル等の独立したステは、機会があれば他の手持ちと一緒に設定集出して載せます。
……色々と手持ちがバグるのは主人公とピカチュウのせい。
このバグっているピカチュウも、元をただせばポケモンと意思疎通が出来た主人公のせいなため、やっぱり主人公のせい

まともなの、メタグロスしかいないんじゃなかろうか。


あとがきをロトムに持ってかれた伝説(笑)で、図鑑の記述からゴ○ブロス扱いされるヒードランさんはやっぱり不憫。


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ハッキングらしい

「……ふーん。なるほどね。ディアルガと同じ気配を感じたから飛び出てきたってわけね」

 

〈――人間のくせに生意気な! ディアルガ様を呼び捨てとは! 様をつけろよデコ助野郎ッ!〉

 

「…………口が悪いな、お前。ディアルガの巫女とか巫子的な存在だろうに」

 

〈ボクに君を敬う義務なんてないから。当たり前じゃないか〉

 

「……開き直りやがったコイツ」

 

アルセウスに聞いた話によると、このアグノム含む三湖は色に対応するように三竜の使いとして生み出したらしい。

 

『……なぁ、ご主人。こいつ殺――間違えた。ブチ殺していいか?』

ピカチュウさん。

言い直した意味有りましたか、それ。

というか殺すのは駄目。というかなんでそんなに短気なわけさ。

 

『…………だってご主人の事馬鹿にしてるし』

 

代わりに怒ってくれるのは嬉しいけど。

短気は損気ですことよ。

 

初対面相手にこんなに辛辣に当たってくる向こうも問題だけど。

 

〈それよりも、なんでお前から、お隠れになったディアルガ様とパルキア様、それからギラティナ様の気配がするのさ〉

 

うーん。あー、なんていうのかな。

 

「お前の生みの親に三体の能力を限定的にとはいえ植え付けられたから、かな」

 

〈はぁ?〉

 

〈……つまりトウカはお前たちと同じような存在になったわけ。わかったかド低能〉

 

「ちょっと違う気がするけど、まぁ、アルセウスとは知り合い以上友達未満の関係で、別の頼み事をしたらなんか時間空間、反物質を少しだけ操れるようになったわけさ」

 

というかミュウの奴も口が悪いなぁ、おい!

……いや、念話だけど。

うーん、慕われてるってことなのかな。

 

喜べばいいのか、それとも諌めればいいのか……悩みどころだ。

 

〈じゃ、じゃあ貴方は(しゅ)のご友人……〉

 

「あ、別に畏まらなくてもいいから」

 

〈……畏まるわけねーだろバーカ!〉

 

何という態度の変わり様。

 

「もう、一周回ってもう許しちゃおうかなって思うよね」

 

 

この後、滅茶苦茶電撃浴びせた。

 

-------------------------

 

ピカチュウからの出力押さえられた「でんげきは」を食らって黒こげになったアグノム。

一応トキワの能力で回復させて湖の底の洞窟に返しておいたけど、大丈夫だよな。

 

『大丈夫だ、問題ない』

 

やめてロトム。それフラグだから。

 

「で。なんの御用ですか、アカギさん」

 

「いや、近くにかの有名な、最年少博士殿がいらっしゃると部下の方から電話がありましてね。それで我が社に一度お招きしようかと。いやぁ、色々と研究をなさっているようで」

 

ソファーに座らされた俺の目の前には、ギンガ団のボス、アカギが座っていた。

日用品を買いにトバリの百貨店に寄ったところでボスの彼、直々に声を掛けられたのだ。

是非お話が聞きたい、わが社に来てお茶でも一つ飲んで行かれては、と野望に満ちた目つきで頼まれたのだから無理やり断るわけにもいかない。

 

……はぁ。

頼む、ロトムにピカチュウ。

 

『任せとけ』

 

『僕は何もしないんですけどねー』

 

手持ちの二匹に頼み事を一つ。

……少々保険を掛けさせてもらおう。

 

「ええっと……ギンガ団は宇宙エネルギーを研究していらっしゃると耳にしますが、ポケットモンスターの研究を主にする僕からはお話できるようなことは何もございませんよ?」

 

「えぇ、それはわかっておりますとも。……いえ、ね。実は私は個人的な趣味としてシンオウ地方に伝わる神話についても研究しているのですよ。ポケモンの研究をなさっているというので、個人的にお話が聞きたいと思いましてね」

 

……いや、銀河エネルギー云々は全て爆弾造るためだろうが、と言いたくなったが抑えた。

ゲームでは明言されていなかったが、一体どれほどのポケモンが死んだと思うんだ。

現実になって尚のこと、ポケモンもまた生きていると思い知らされたからこそ思う。

 

「……本当に何もないですよ。僕としても此方に来て神話の存在を知りディアルガ、パルキアの二体について調べたりもしてみましたが、……これがさっぱり。知れたのはディアルガが時間、パルキアが空間を司っているということぐらいでしょうか。ああ、一度シンオウ地方チャンピオンのシロナさんにお話を聞いてみるといいでしょう。きっといいお話が聞けると思いますので」

 

「……」

 

ジッと、視線を逸らさずこちらを見つめてくるギンガ団のボス。

大の男がそんな顔で子供を嚇すなと言いたい。

出されたお茶を口に含み、貰いたくもない熱い視線から逃げる。

 

「ごちそうさまでした、と。あの、そろそろ帰らせてもらっても? これでも忙しいんですが」

 

「あ、あぁ……」

 

「どうしたんですか? そんな有りえないものを見たなんて顔をして。……あぁ、成るほど。象でも30分は眠る即効性の睡眠薬が効いてないことに驚いているんですね?」

 

「……そのようなことはありませんが……」

 

確かにコップは空っぽで、薬入りのお茶は存在しない。

口に手を突っ込んで、飲んだお茶の入った袋を取り出した。

 

「まぁ、飲んでないから当たり前なんですけれども。……これは持って帰って解析させてもらいますね。あ、あと会話は録音させてもらってますので」

 

「……」

 

「……あーあ。幾ら神話に残るポケモンの力を手に入れたいからといって、睡眠薬を飲ませて眠った俺を監禁。そして組織内で研究させよういうのは、あまり誉められたものでは無いでしょーに」

 

「戯言をいうのは止めていただきたいですな! ……そんな事実は何処にもない!」

 

ポケットに入れたレコーダーの録音を切った。

 

「心が読めるっていったら分かってもらえますか? ま、でも自分の命に関わってくるので詳しくは言えませんが。じゃ、知られたら不味い社内情報も盗ませて貰いましたし、俺は退散させてもらいますよ。置き土産に一つ忠告。――余り悪さをしていると首がとんじゃいますよ?」

 

ポケットから出したレコーダーを握り、首を掻っ切る真似をする。

ピカチュウに頼んで、盗んだ情報はロトムの体に仕組んだ大容量メモリデバイスに全部入ってる。

これで無闇矢鱈に俺への詮索、ギンガ爆弾なんていうド派手な活動はしないだろう。

 

青ざめる顔と彼のボールから飛び出してきたドンカラスを眺め、テレポートで次の目的地に跳ぶ。

 

 

……あ。

 

「……あそこの素敵ファッション、写真に収めるの忘れてた」

『ご主人。それ、悪の組織の頭を手玉にとって言うセリフではないだろ』

 

シンジ湖の畔で俺は膝をつく。

アグノムと同じように飛び出てきたポケモンはポカンとした表情を晒していた。

 

-------------------------

 

〈アグノムから話は聞いたけれど。……ごめんなさい〉

 

「やぁ、まぁ仕返しもしたし……むしろ謝らないかなと。一応、負わせた怪我は治しておいたんですけど……元気でしたか?」

 

〈はい、元気にしてました。――生意気なガキめ、今度会ったらマジコロばす……とかなんとか〉

 

まーそういう反応だよな。

 

「まぁ、元気にしているならいいです。……ちょっと聞きたいんですけど、記憶消したり感情を失ったりってのはお三方出来るんですかね?」

 

〈……えぇ。ですが、危害を加えるようなことさえなければしませんし。それにその力を持ってるのならやっても無駄ですし。……というかそれはどこで知りました?〉

 

「ミオシティの図書館に乗ってました。うへぇ怖ぇな、とか思いながら尋ねてみたんですけど。……まぁ、それなら良かった」

 

〈……あの頃は私も若かったんです〉

 

若気の至りというやつらしい。

しょんぼりとした姿は中々可愛らしい。

過去、「エムリットは俺の嫁」とか言う方々をネットで見かけたが、成るほどと思ってしまう。

 

『ごーしゅーじーん?』

 

……別に可愛いなって思う事に罪はないだろうが。

 

『胸を当てて考えてみろ。……それが行き過ぎて今の状況なんじゃないのか?』

 

シロナさんね。……うん。そうだった。

 

「それじゃ、あとのユクシーさんに会って帰ります。突然で訪ねてきてしまって申し訳ない」

 

〈気にしないでください……良い暇つぶしになりましたから。良かったらまたいらしてください〉

 

頷き、返事をして今度はキッサキシティの近くにある湖へ跳んだ。

 




首がとんじゃいますよ(ゲス顔)

毎日更新できていた頃の自分が羨ましい。


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吹っ切れたらしい

お久しぶりです。

前回から一年と一日。……マジか。
マジですみませんでした。



幽鬼のようにゆらりとした足取りで。

かつ、それなりのスピードで迫ってくる、首の角度がシャフ度だとかイナバウワーとかそんなちゃちなもんじゃないくらいに斜めになった異形なモノから絶賛逃走中ではあるけれど……。

……ねぇ、ピカチュウ……ちょっといいかな。

 

『どうした、ご主人……と言いたいところだが、何が言いたいか大体わかるから言わなくても良いぞ。全部自業自得だ』

「トウカくぅぅうううんンンン……?」

 

デスヨネー!

 

捕まったら色々な意味で喰われるビジョンしか見えない件について。

これは死んだかもしれん。

 

――堪え切れない涙を目じりから流しながら、俺はキッサキシティ近くの雪道を駆け抜けていた。

 

 

-------------------------

 

 

ユクシーと打ち解け、談笑していた。……そして現れた金髪の美女。

言わんともしれた変態さんこと、シロナさんである。

一体何が彼女をあんな風にさせたのかは知らないが、

 

『いや、ご主人のせいだからな?』

 

……だ、誰がシロナさんを狂乱させたのかは俺にはわからねーが、「尋常ではない」という一言に尽きた。

約一ヶ月程してからの再会ではあったが……まぁ、体感時間で言えばそれほど経ってないが、そこまで喜ぶことか、と。

別に高々、一ヶ月音沙汰がないってだけじゃないか、と。

 

『……ははあ。つまりマスターは想い人が突如として消え、音信不通に』

 

うぐっ……。

 

『一応、知られていない事ですが、一時的に別の世界に行っていたとして心配にならないと? しかも一応、マスターはまだ青年にもなってない11歳ほどの少年であるというのに?』

 

僕が悪かったです! さーせんしたキュウコンさん!

……まぁ、森の洋館からの出奔から始まった今回の一人旅は、問題を未解決のまま先送りにした結果、さらに悪化してしまった……その良い例だろう。

 

「何時までそうやってるの、トウカ君。早く降りてこないとイッシュ行の船がもう出てしまうわ」

「じゃあ早く本業に戻ってください。リーグ本部から要請掛かったんでしょうに」

「でもその前にトウカ君とちゅっちゅしたいじゃない!」

「喧しいわ! というか直接的すぎる!」

「じゃあ××××で良いわ! ○○○シたい!」

「もっと駄目だろうがぁああ……!」

 

嗚呼……。

 

――今、シロナさんとの関係云々はさておき。

現在、自分はそれなりに背の高い木の上に避難している。

ユクシーに被害が向かないよう、テレポートして此処まで来た。しかし、それにしてもエスパーであることがバレないよう、テレポートを繰り返しながら逃げるのも中々骨が折れた。

というのも、何処かの創造神あたりのおかげで時間やら空間やら、反物質やらが扱えるようになったのだが……。

既知外の能力だけでなく、どうやら超能力全般が強化されたのか、テレポートにしろ空間把握にしろ制御が難しくなったのである。

 

……正直疲れた。

シロナさんの壊れ具合にも疲れた。

いや、主にそっちで疲れた。

 

「…………いいわ」

「……何がです?」

 

何が良いのか。何をしかけてくるというのか。

 

「――貴方を殺して私も死ぬ!」

「やめろ、バカたれ!」

 

咄嗟に波導弾を作り出し、シロナさんの額にごっつんこ。……しかし、額が赤くなって涙目になっただけだった。

アイエエエ!? キゼツシナイ! ナンデ!?

 

「いたたた……流石に、これは駄目だったわね。私は選択を早まった。ただそれだけの事……」

「当たり前だろうが! ファッ○ン痴女め!!」

「それはつまり……ヤるということでいいの?! そんな、初めてがこんな雪山の木の下でなんて……! キャっ!!」

「ちげぇよ!?」

『流石に畜生の私でも引くわ……』

 

ピカチュウさんもびっくりである。

なんか良い手はないの? ピカチュウさん。

 

『無いな。……と言いたいところだが、ご主人がこんなところで凍死されては困る。いいか、私の後に続けて言うんだぞ?』

 

「あーあー残念だなー! 初対面の時の大人なお姉さんのシロナさんが好きだったのになぁああ!!」

 

ぴくぴくっと反応を示す変態さん。

 

「ショタコンやら痴女なとこやら、色々治ったら付き合ってあげてもいいとおもったのになぁあああああ!!!!」

 

段々とプルプルし始めた。

 

「本当にざんねんだわああ!! おれがポケモンにしか――」

 

おいこら、ピカチュウ。何言わせようとしちゃってんの?

『チッ……』

まぁいいや。

 

一応心の中で「ナツメちゃんの事嫌いになったらという前提だけど」と付け加えておく。

これで本当に大丈夫なの……もう、変態は消えるの?

 

『ぐっと!』

 

やった、勝った! 第三部完!

動かなくなったシロナさんの様子を伺いつつ、注意しながら木から降りた。

 

 

「……私、リーグに行くわ。トウカ君がああ言ってくれたのだもの。自分に正直になり過ぎていたのかもしれない。我が儘なだけ。そんなのでは、貴方は振り向いてくれない。貞淑な妻を目指すのよ、シロナ」

「お、おう……」

 

いや、付き合っても良いと言っただけで、妻になれとは言ってないんですが……。

吹っ切れたような顔をして、美人強度が元に戻った様子のシロナさんに余計な事を言って、自分に正直な方に戻られても困る。

後々困りそうな気がする、と思うがその時はその時で頑張ろう。

 

「それじゃあね、トウカ君。貴方と過ごす一秒一秒が楽しかった。……それじゃ、また会える日まで」

 

そう言ってシロナさんはガブリアスを出して、その上に乗った。

 

「さよなら、シロナさん。お元気で」

 

一応、最後くらいは締めておこう。

空を飛んで去っていくガブリアスの姿を見送って、キッサキシティに戻る。

 

シロナさんがちゃんと仕事に戻ったことを、変態達に伝えておかないといけないなと思いつつ、この地での事に俺は思いをはせるのだった。

 

『――――end』

 

終わらすなよ、ピカチュウさんや。

 

 

-------------------------

 

 

汽笛が鳴り響き、船が出てから。

もう、シンオウの土地はゴマぐらいのサイズにしか見えない。

高々二ヵ月が長かったような短かったような、そんな気分になる。

『どちらでもあるんじゃないですか? マスターには時間の概念がないでしょう?』

「まぁね。……一体、何になれと言うのかな」

 

誰にも聞かせてもいなし、誰に言うでもない。

神の暇つぶし。

……いや、違うか。管理者様の身勝手で、こうして二度目の人生を送っているのだ。

あのおじいさんから、目的とかいろいろ持たされてそうではあるけど……いや、考えすぎかもしれない。

本当に、あの言葉の通り。

認知するのも面倒で、大義名分と誤魔化しの為に、ただただ、神様転生的なことを俺はさせられているんじゃないかな。

こうして血も通っているし、考えたりもできる。

今ここにこうして自分は生きているのだ。

 

「色々人並み外れたことが出来ても、生きてるってことなんだろうな……」

『なぁ、ご主人急にどうしたんだ? 爺くさく黄昏て』

『ほっときましょう。そういうお年頃なのでしょうから』

「……まぁ、運がいいってだけなのかもしれない、か」

 

というかお前ら聞こえてんだからな? 随分と失礼なこと考えてくれやがってからに。

遠く、イッシュへの旅路を思う。

その間にも船は前へ前へと進んでいた。

 

 




月並みではありますが……。
すみません! 許してください! 明日も更新しますから!

次回、時間軸ぶっ飛びます。てへぺろ!

……イッシュの話書くのしんどくなったんよ。
いつか気が向いたら書きます。

――追記――

と思ったらやっぱり書く模様。
一部の方にはネタバレしたかもしれませんが、………アレはまた別の世界線ということにしたのであんまり関係ないです(作者の御都合)


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・遠征調査(イッシュ) 
まだないらしい


9/7に遅れた……。


船から降りて、ヒウンシティの港で体を伸ばす。

目の前に見えるのは、飛ぶ雲が先に掛かっていそうな摩天楼。

いや、雲にかかりそうっていうのは比喩が過ぎたか。

……イッシュにつくまでの間は本当にしんどかった。

 

シロナさんのことで色々と、あれでよかったのか不安で仕方が無かった。

大丈夫かなぁ……。

次会うときが少し怖い。

『ご主人が悪いんだ。……まったく』

……すみません。

 

唐突に、後ろから嫌な気配を感じてハリウッドダイブで緊急回避。

そして空中で前転、着地。

 

満点だろ。

 

「いたたた……」

「無防備だと思ったのに……」

「ちっ……」

 

ちょっと気になって振り返ってみれば、お尻を突き上げて地面とキスをしている研究員が三名。

こいつらという奴は……!

 

「だから止めろって何回言えばわかるの?」

「ムリです!」「止めれません!」

 

「「「だって室長の事、愛してるから――!」」」

「……お前らナツメちゃんのこと忘れたとか言わないよね? 一応、友達以上恋人未満の関係なのだけど? 俺の意思は無視するの? お前らそれ愛してるって言えるの?」

「「「でも」」」

 

でもじゃないよ。

馬鹿なの? 死ぬの?

なんで全員が全員毒されてんのさ。

カントー出るまで全員が変態ってわけじゃなかったけど。

 

……いまや全員だよ。

なに、内なる何かを刺激でもされたってのか。ふざけんな。

 

「はぁ……ま、もういい。お前たちに常識は期待してないから。さて、イッシュでの研究はあまり持ち帰っても役には立たないからな。各々自由研究後、レポートを書いて提出。ふざけた内容だと採点は厳しめにするから」

『了解でーす』

 

自由研究と言ってもちょっとした散策みたいなものだし。

レポートという名の生活日誌みたいなものになるのは目に見えているが。

 

……はぁ。

お家帰りたい。

 

『帰ればいいじゃないか。ご主人の能力で帰れるんだろう?』

まあね。

でも一応、こんななりでも責任ある立場に居るしさ。

無事こいつらを送り届けないといけないの。わかるでしょ?

 

『やはりそういうものか?』

そういうもんです。

 

「さて、俺はちょっくら届け物してくるから。……あーそうだ。シッポウシティに博物館あるんだがそこまで一緒に行く?」

 

俺のそんな発言に、ツンデレただ、愛してるだ、大好きですだ。

そんなこと言ってきてもドキドキなんてしないし、素っ気なくあしらえるのに、何故俺はシロナさん相手に出来なかったのか。

 

『あの女の心の内を覗いたからだろう? 心底嫌いになればよかったものを……』

そうなんだよなー。

……相手の考えを読めて不利益がある良い例なんだろうけど。

変態が変態してるけど、こいつらの半分以上は悪ノリしてるってわかるから良い。

ま、どうしようもない奴とかは……もう、どうしようもないけど。

精神年齢おっさんの俺は彼らの将来が心配です。というか中身おっさんにこうなるって問題あり過ぎじゃないかな。

 

……泣きたい。

 

ともかく、余り考えを読まないようにしよう。

そう自戒して、ゲートの先にあるスカイアローブリッジを目指した。

 

 

 

トキワの森並みに暗くて深いヤグルマの森。

アスファルトで塗装された道から少しでも外れれば、何かしら道具がないと下手をすれば本当に遭難しそうだ。

遭難しそうだからって、手を繋がせてくださいとかなんとか言って、手をつなぎに来た若干名にリトルグレイされてるから遭難はまずないけど。

 

あ、連れ込まれたら分からん。……全力で逃げよう。

 

『懐かしいな。……忌々しくもあるが』

そういえばトキワの森でピカチュウと会ったんだよな。

色々と規格外なことをやらかすから、忘れかけてた。

ちょっと電気玉飲み込んで強くなってただけの普通のピカチュウだったのに。

 

……なんだってこんなピカチュウになったの?

 

『おい、ご主人? ことの返答次第では電撃を浴びせかねんぞ?』

だって事実じゃん。

『ほっほーう……? ――あとで話しような、ご主人♪』

ポケモン式のお話ですね。わかります。

……ちょっとどっちが上かはっきりさせといた方が良いかもしれんね。

 

『その話、僕も交ぜさせてもらおうか! ピカチュウと僕、どっちが上かの決着を……!』

 

いや、この前決まってたでしょ?

『私の圧勝だったのだけど。……ま、リベンジというなら受けたつが?』

 

『ううううっ……』

〈泣くなって。別に問題はないんだしさ。勝てないのわかってるんだし〉

ロトムを慰めるメタグロスに涙。大きくなったね、君。

〈おねーちゃんも嬉しい!〉

すっかり女の子みたくなってしまった古代ミュウ。

こんな相方で良いんですか?

〈……いいんじゃない?〉

あららー。

 

まー性別がミュウだし良いのか。

 

 

「あ、そういや」

 

思い出した。シッポウシティの博物館はアカン。

 

かつて自分にとってゲームだった頃。

ゲーム開始から、恐らく二時間、いや一時間もかからないかもしれない。驚異的なスピードで物語のメインのポケモンに拝める場所だった。

 

しかし、もう既に入館してしまっているわけで。

 

「どうされたんですか、室長?」

「あ、いや……なんでもない」

 

なかったわけで。

入って左手側一番奥の陳列コーナーには何もなかったわけで。

 

……あると思ってただけに、なんだか拍子抜け。

ダークストーンとか、ライトストーンとか伝説的なポケモンが眠ってるような石は展示されてなかった。

目立つ展示物と言えば、カイリューと思わしきポケモンの巨大な全身骨格ぐらいなもので、そのほかは特にない。

 

「……じゃ俺は先に所用を済ませてくるから。この奥、図書館あるらしいし待つんなら適当に」

「はい。了解です」

 

埃を徹底的に除去したような鼻につく博物館独特の匂いから、草木のにおいのする屋外に出て、大きく息を吸って吐いた。

 

それじゃ、よろしくウインディ。

『えー……メタグロスと姐さんとミュウでビューンって行けばいいじゃん』

だってそこまで距離ないし。

『あーまた好奇の視線がー……』

仕方ないじゃん。

お前カントー以外じゃ珍しい上にデカいんだから。

 

『というか、メタグロスに乗ってる方が目立つぞ?』

〈ボクも目立つから嫌なんだけど……〉

『あーもーしかたないなー』

 

文句の多い奴には制裁を。

滅茶苦茶背中でもふもふした。

 

 

やはりウインディというポケモンは目立つようで、道すがらあった幼稚園の子供たちにキラキラと光る眼で見られた。

わぁ、と群がってくる子たちに悪い気がしなかったのかウインディも為すがままになっていた。

 

ちょっと子供たちと戯れた後、そのポケモン預けてみんか、というお爺さんのお誘いというお願いを丁重にお断りし、記憶にあるタウンマップの斜め下に下降。

 

目的地であるサンヨウシティの入り口付近には、綺麗に剪定され整えられた植木が。

ちょっとした芸術の域だなぁと観賞する。

 

そして例のポケモンオタク……阿呆のマサキに教えられた住所に来てみたもの、ノックしてもチャイムを押しても誰一人として出てこず。返事もなく。

時間帯もお昼時というには遅いし、アポイント無しとはいえ、誰も居ないということは無い筈と思っていたんだけど……。

 

……はぁ。

出直そうか。

先にアララギ博士の研究所のあるカノコタウンに行こう。

 

意に応じてウインディは約417km/hの速さで、燃え盛るような(たてがみ)(なび)かせ駆けだす。

 

……この上で寝れる俺って、やっぱりマサラ人なのかもしれん。

 

 




明日、もう一話更新します。
それまでにもう一話書く(宣誓)

感想、評価共に有難う御座います。
………おまたせしました。


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めでたいらしい

カノコタウン。始まりの町の一つ。

BWの主人公たちが住む小さな町だ。

 

そこにある、まだ真新しさが目立つポケモン研究所。

まだまだ白衣が着こなせておらず、少々ぎこちなさがある博士の下に来ていた。

 

「へーなるほどね……。そう、ショウロちゃんなら家族と一緒にサザナミタウンに二泊三日で遊びに行くとか言ってたわねー」

「はぁ、なるほど。……ならやっぱり居なかったのか」

「そうね、私が預かれればいいんだけど……」

「いえ、それには及びません。やはり、直接渡した方が良いモノですし」

「よねぇー……」

 

ハーイ! と元気よく出迎えてくれた彼女はアララギ博士。

歳若く、この職に腰を据えて研究を始めた彼女は現在22歳。

大学へ入学、卒業後すぐに個人研究所を立ち上げた彼女はポケモン博士の中でもかなり若い。

いつもお世話になっているアカシックレコード(笑)によると、ゲームでは最年少に位置するらしい。

 

「マコモ……あ、私と同級生でショウロちゃんの姉なのだけどね? ……で、そのマコモに一つ連絡入れておくわ」

「ありがとうございます」

 

……残念ながら、自分というイレギュラーが出てきてしまったせいで、その肩書は無くなってしまったけど。

 

まあ、学会あたりから評価されて博士を名乗れるようになっている以上、原作知識を引用して大学に研究室を持っている俺と比べては少々失礼だ。

自分と比べて遥かに才能や頭の良さ、知識への造詣が深いのは事実である。

 

『あまり謙遜が過ぎても、駄目だぞ。子どもだと舐められないように、実力を知らしめるため他の数倍の努力をしているじゃないか』

とは言ってもですね? かなりズルしている罪の意識はあるんですよね、これが。

 

だって、主人公たちが図鑑を完成させることを頼まれて、完成させて。

後に主人公である彼らが図鑑の完成に手を貸したということで、誰かの書いた著書に乗るのは間違いないのだし。

 

まぁ、分布だとか姿だとかっていう「みつけたポケモン」で表示できる情報を図鑑に登録するのはポケモン博士なのだけどさ。

説明文は各地の伝承や逸話、資料から自動収集、登録されるんだけど。

これも元を辿れば誰かが図鑑のデータベースに登録したからできるわけで。

 

……色々と申し訳がないなーと、ズルしてるから思うわけですよ。

 

『それは、微妙に違うんじゃないか? いつか誰かがやることであるし、それまでは誰もそのことを知らない。私は別に良いと思うがな。ご主人が自分の成果としても』

 

ポケモンとしてはそういう考え方も出来るか。

でも人間社会では色々と不都合が出てくるものなんだな、これが。

『そういうものか……』

ピカチュウが歯切れが悪そうに納得するのを感じながらアララギ博士が電話を終えるのを待った。

 

研究所の窓から主人公らしき男女の二人と、ベルとチェレンが遊んでいるのが見えた。………ブラックなのかホワイトなのかよくわからんなぁ。

 

罪悪感を感じつつも帰って来て一日たった、今から四日後に訪ねる約束を取り付け、研究所を退散する。

 

「お忙しい中お邪魔しました」

「いえ、良い息抜きになったわ。いつでも訪ねてきてね。……色々と苦労話で盛り上がろうじゃないの」

「ええ、まぁ、次の時にでも」

 

やっぱり女性と言うことで、自分と同じく風当たりが強かったのだろうなと同情。

一礼してからウインディに飛び乗る。

 

『次は何処に行く、主』

 

ウインディに言われ思案して、取り敢えず橋を渡って対岸に行くことだけ決めた。

 

-------------------------

 

ウインディに乗ったまま、チャンピオンロードまでやってきた。

普段ポンコツなところにしか目につかないが、こと走る事においては流石である。

毎日ナナミさん直伝の毛づくろいをしてるからモフモフだし。

 

『っさあ、主! 着いたろ! なあ、もう着いたろ! 休ませて……っ!』

 

……体力ないのが玉に瑕か。速さはぴか一なんだけどなぁ……。いや、それにしても今日は息が切れるのが早すぎだ。

 

『417km/hの壁を越えようと……はぁ、はぁ』

このお馬鹿。でも頑張ってくれたしご褒美やるか。

 

「ありがとなウインディ。今日の夕食はマシマシで頼んでやろう」

『いや、少なくていい。ぎぼぢわるい』

 

盛大にむせて辛そうである……ほんと馬鹿。

 

『いや、メタグロスと私とで電磁砲すれば速くて負担少なかったと思うんだがな』

〈もう一人でも障壁も張れるよ〉

いや、それは怖いと言うかあまりやりたくなかったというか。

 

『ええー』

〈ええー〉

ぐぬぬ……。

 

「よーし、気を取り直してモノズ捕まえに行こう!」

 

『ええー』

〈ええー〉

二体とも悪乗りしやがって。……まったく。

 

 

 

ビリビリと痺れて動かなくなった体に向けてモンスターボールを当てる。

三回揺れてもボールから出てくることなく、そのポケモンは捕まった。

「モノズ、ゲットだぜ!」

祝、初のドラゴンタイプ!

 

『拉致にしか見えませんよ』

……キュウコンが人の気にしていることを言っちゃってくれるが、これもまたポケモントレーナーの業なんだ。分かってほしい。

 




今日中に次を書けそうにないですが、一応更新。
次が何時になるかを考えると恐怖しかないね()


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