イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ (シャルルヤ·ハプティズム)
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第0話 彼は失って失って。それでも彼は本物を持っていた(前編)。

何の前触れもなく始まります。苦手な方、嫌いな方はここでブラウザバックを推奨します。

※パロキャラは名前と容姿を持ってきたレベルで考えて下さいませ。


·········それは突然だった。

 

「······八幡······母さんの·····小町の·····俺の分ま、で····生き、ろ」

 

八幡「親父······!!?」

 

俺はサーゼクスとセラフォルーと別れて、幼馴染みのクルル(・・・・・・・・)と家に帰ってきた。そこで俺の目に映ったのは、既に息絶えたお袋と小町と、もう助けられない親父。そして、高笑いしている天使だった。

 

「アハハハハハハハハハハハハッ!!!この裏切り者が!!死んで当然!!君達もすぐにこいつらの所へ送ってやろう!!!」

 

お袋に突き立てていた剣を引き抜いて高笑いをする天使。

 

「クルル·······八幡を·····頼、む」

 

親父はそう言って完全に動かなくなる。

 

クルル「·······了解したご主人」

 

八幡「おい······親父!!起きろよ!!」

 

俺が何度親父を揺すっても叩いても、親父は二度と反応することはなかった。

 

八幡「おい、小町·····お袋·····起きろよ·····!!俺を置いてかないでくれよ·····」

 

小町もお袋も目を開ける気配はない。

 

クルル「······お前、何でこんなことした?」

 

「アハハハハッ!!その女は我らの裏切り者!!死んで当然よ!!」

 

何で·····?何でお袋が死ななきゃいけないんだ·····?何で小町や親父が殺されなきゃいけないんだ?

 

クルル「·····お前を見ていると吐き気がする」

 

「だったらどうする?そこのガキの前で死ぬかい?」

 

クルル「違うな。死ぬのはお前だ」

 

クルルは何処からか刀を取り出した。そしてその刀を抜いた。

 

クルル「彼らは私にとっても家族なんだ。だから······死ね」

 

クルルが一種でクソ野郎の天使の懐に入り込み、両腕を斬り裂く。

 

「は?·······がぁぁぁぁぁっ!」

 

天使は両腕を斬り裂かれた激痛から膝から崩れ落ちる。

 

クルル「黙れ」

 

そう言ってクルルは天使の首を刎ねた。

 

クルル「········ごめん八幡。君を一人にしてしまった」

 

俺は限界だった。

 

八幡「あ······ああ·······ああ·····うぁぁぁぁぁっ!」

 

クルル「八幡!」

 

クルルは俺を抱きしめた。

 

クルル「落ち着いて······私がここにいるから」

 

 

 

 

 

 

 

クルル「·······大丈夫?」

 

八幡「······ああ」

 

あの後、俺はクルルの胸の中で泣き続けた。女の子にこんな所を見せるのもどうかと思うが、クルルは何も言わなかった。

 

八幡「·····どうして親父達が殺されなきゃいけないんだ·····?クルルは何か知ってるのか······?」

 

クルル「それは······君の母親が堕天使だったからだよ」

 

クルルが顔を顰めながら答える。

 

八幡「·····そんなことで·····?」

 

クルル「おそらく····奴は過激派の中でも、とりわけ過激な派閥なのだろうね。君のお母様が堕天使なのは知ってるよね?」

八幡「あ、ああ」

 

クルル「君のお母様はただの堕天使じゃない。あの方は堕天使の王・ルシファー様だ」

 

八幡「お袋が······?」

 

それにクルルは頷いた。

 

クルル「彼女は元々熾天使。9つある階級の最上位に位置する天使だった」

 

お袋が熾天使?······確かにお袋は羽根が6枚あったし、小町も6枚あった。俺にもある。

 

八幡「じゃあ·····何で小町と親父は····」

 

クルル「······見せしめだよ」

 

八幡「なっ!!?」

 

クルル「堕天使の代名詞とも言われた彼女を殺すことで、天使達への見せしめにしたのさ。堕天すれば家族諸共こうする、とね」

 

小町も、お袋も、親父も、そんなことで·····

 

クルル「私は八幡と小町の護衛を任されていたんだ。ごめんね。嘘をついていた」

 

クルルは悲しい顔を見せて俯く。········何でそんな顔するんだよ······

 

八幡「そんなことどうだっていい。クルルだって家族だろ。自分は違うみたいに言うなよ」

 

クルル「······!!」

 

俺が今まで守られてきたんなら····

 

八幡「今度は、俺にクルルを守らせてくれよ」

 

次は俺が守らないとな。

 

クルル「っ!!········優しいね。八幡は」

 

八幡「家族なら当たり前だろ」

 

クルル「そうだね······」

その夜、俺達は一晩中泣いた。泣いて、泣いて、泣いた。

 

 

 

 

クルル「·······強くなろう八幡」

 

翌朝、クルルは俺にこう言ってきた。

 

八幡「でも、どうやって?」

 

クルル「私が鍛えるよ。だって、八幡は私を守ってくれるんでしょ?」

 

クルルがそう言って微笑んでくる。

 

八幡「·····よろしくお願いします」

 

それから、俺にはクルルに特訓をつけて貰う日々が始まった。クルルの特訓はきつかったけど、最後の家族と一緒にいれたことは俺にとって文字通りの唯一の安寧だった。

 

 

 

 

 

······けれど。そんな生活は突然終わりを迎えた。

 

 

 

 

 



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第0話 彼は失って失って。それでも彼は本物を持っていた(後編)。

戦争が起きた。最初は天使、堕天使、悪魔の三大勢力による争いだった。だが、それは龍の介入によって変わった。龍の介入によって、三大勢力は大打撃を受けた。天使は神を失い、堕天使は龍に大半を殺された。また、悪魔は四大魔王を全員失った。

 

 

 

八幡「·······チッ」

 

コカビエル「······やるじゃねえか」

 

俺は、悪魔側に参戦。クルルや、サーゼクス、セラフォルーと共に戦闘に参加していた。しかし、単独で奇襲を掛けてきたコカビエルに、俺は他から引き剥がされた。

 

コカビエル「······半端者だから弱いとか聞いてたが·····それは見込み違いだったか」ハァハァ

 

八幡「そりゃどうも」ゼェゼェ

 

実力はほぼ拮抗。両者少なくないダメージを負っている。だが、俺は悪魔の血が混じっている分、コカビエルの光の矢のダメージが他の悪魔よりは少ないとはいえ大きい。そんな時だった。

 

『グオアァァァァァッ!』

 

咆吼が聞こえた方を見ると、赤い龍と白い龍が周りを消し飛ばしながらこっちに向かっていた。

 

八幡・コカビエル「「!!!?」」

 

コカビエル「おいおい·····二天龍がお出ましか」

 

今のが二天龍·····!?

 

コカビエル「ここは·········退散だ!じゃあな坊主。この続きはまたいつかやろうぜ!」

 

そう言ってコカビエルは地面に光の矢を放つ。それによって、砂が舞い上がる。

 

八幡「待て!······チッ」

 

視界が晴れた時にはもうコカビエルはいなかった。コカビエルとの戦闘で手から離れた刀2本を拾う。

 

八幡「ッ!······二天龍は!?」

 

しまった·····二天龍を見失った。さっきの二天龍は誰かと戦っていた。誰が戦っていたんだ?

 

『ガァァァァァッ!!』

 

八幡「······クルル!!?」

 

なんと、二天龍と戦っていたのはクルルだった。

 

八幡「クルル!」

 

クルル「····!?八幡!?ダメだ!来るな!」

 

八幡「······グッ」

 

ダメだ。今手を出せばクルルの邪魔になる。クルルもあまり余裕があるようには見えない。

 

『ふん·······邪魔だ!』

 

クルルと戦っていた筈の赤い龍が、いつの間にか俺に向かって巨大な爪を振り下ろしていた。

 

動けない。圧倒的な死の恐怖。動かないと、俺はあの爪に八つ裂きのされる。そう分かっているのに体が動かない。もう終わり?何であの時一人だけ生きてた?小町も、親父も、お袋も死んだのに。それはクルルに助けられたから。········ごめんクルル。守るって約束したのに·····

 

クルル「八幡!!」

 

八幡「·······え?」

 

クルルが俺を突き飛ばした。俺の代わりにクルルに赤い龍の爪が振り下ろされる。

 

クルル「カッ·······」

 

八幡「クルル·····?」

 

また、クルルに守られたのか······?守るって言って、守られたのか·····?

 

クルル「八幡········逃げ、て」

 

クルルはかろうじて生きている。

 

『我らの邪魔をしたからだ。貴様もすぐに殺してやる』

 

赤い龍が何か言ってきたが、俺の耳には届かなかった。

 

八幡「·······許さない」

 

クルル「ダメ······逃げなさい·····」

 

『そうか。·····ならば貴様から死ぬがよい!』

 

赤い龍が爪でこちらに突きを繰り出してきた。白い龍も同様に攻撃してきた。

 

八幡「黙れ」

 

刀を横に薙いで、2体の龍の腕を切り落とす。

 

『『!!!!?』』

 

 

 

 

クルルを傷つけたお前らを

 

八幡「許さない」

 

クルル「·······八幡?」

 

クルルを殺そうとしたお前らを

 

八幡「許さない」

 

だから

 

八幡「──────っ!」

 

俺はお前らを殺す。

 

『『ガァッ!?』』

 

───────慈愛斬り。

 

『なっ!!?』

 

『まずいっ!!』

 

一振り一振り、確実にこいつらを切り刻んでいく。

 

八幡「─────殺す」

 

 

 

 

八幡が二天龍の腕を切り落とした······!!?私は何とか生きながらえていた。傷はまだ修復中だが、完治は無理だろう。

 

八幡「······許さない」

 

クルル「·······八幡?」

 

様子がおかしい。今の八幡は幽鬼の如く揺らめいている。

 

八幡「許さない」

 

ダメだ·····いくらなんでも止めないと·····

 

八幡「──────っ!」

 

『『ガァッ!?』』

 

八幡が刀を振る度に二天龍は切り刻まれていく。

『まずいっ!?』

 

『なっ!?』

 

八幡「·······殺す」

 

八幡は2本の刀を振る。二天龍はどんどん細かく切り刻まれていく。

 

 

 

 

 

八幡「········ハァハァ」

 

二天龍を切り刻んだ。けれど、こいつらはまだ死んでない。早くしないと。

 

八幡「······これでいいか」

 

近くにあった武具を適当に拾う。これは俺への戒めだ。

 

八幡「·······汝らを我が名の下に······」

 

二天龍の力をほぼ全て奪いきる。こうでもしないと、今の俺には不可能だった。

 

八幡「封印せしめん」

 

そして、二天龍を武具に封印した。

 

 

 

 

 

 

八幡「ハァハァ······大丈夫か、クルル·····」

 

クルルの傷は修復が始まっていた。

 

八幡「よかった······生きてる」

 

クルルは気を失っていた。が、ちゃんと息があった。

 

八幡「······ごめんクルル。俺の所為で····」

 

そこでクルルが目を覚ました。

 

クルル「······いいよ。八幡は私を守ってくれた」

 

そんな······俺があの時逃げれてれば·····

 

クルル「もう、いいんだよ。二天龍は八幡が封印した。私も生きている。それで十分じゃない」

 

八幡「ああ······そうだな。クルル」

 

クルルの手を握りしめる。

 

クルル「······?」

 

八幡「守ってくれてありがとな。今度こそ俺がお前を守るから」

 

最後の家族なんだ。二度とこの手を離すものか。

 

クルル「·······うん!」

 

こいつには笑顔が似合う。俺がお前の、この笑顔を守るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

·······戦争が終わった。大打撃を受けた三大勢力はそれぞれ、天使はミカエルを代役に立て、悪魔は新たな四大魔王を──その中にはサーゼクスとセラフォルーもいた──を立て、和平を結んだ。

 

八幡「······起きたか」

 

クルル「······おはよう八幡」

 

俺達には──完全とはいかないまでも──平和が戻った。

 

八幡「······なんだよ」

 

クルルが俺に抱きついてくる。

 

クルル「いいじゃん」

 

そして、俺達はと言うと···············恋人になった。元々、俺の初恋はクルルだった。親父達が死んで忘れていたが。

 

八幡「ほら、早いとこ朝飯食おうぜ。今日は三大勢力の事後処理の会議に呼ばれてんだから」

 

クルル「む·······つれない」

 

頬を膨らましているところ可愛いです。

 

八幡「しょうがないだろ。龍を封印した武具が消えてたんだから」

 

二天龍を封印した武具がいつの間にか消えていた。回収に戻った頃にはもう無かった。つっても、力のほぼ全てを奪ったから、今すぐどうにかなるってことはないと思うが。

 

クルル「····分かったよ」

 

八幡「······そうか。じゃあ食おうぜ」

 

こいつを守る。それが俺のすべきことだ。

 

 

 

 

 

 




誰かこの設定利用していいからちゃんとしたストーリー書いてくれないか·····

2人のキャラ崩壊については、目を瞑って頂きたいと。


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設定

5/28 クルルの過去を一部変更しました。

8/5 キャラの出典作品名を追加しました。



キャラ

 

 

比企谷八幡

《やはり俺の青春ラブコメはまちがっている》より

 

クルル・ツェペシの夫。悪魔、天使のハーフ。また、サーゼクスとセラフォルーの幼馴染み。

両親の死後、グレモリー家の計らいでクルルと共に一時期グレモリー領に匿われていた。三大勢力が団結した際の最高戦力とされている。最上級悪魔でありながら熾天使である(これは三大勢力が和平を結んだ際の暫定的な結果。八幡に対する特例措置で、八幡の敵対を防ぐためのもの)。『堕天魔』という二つ名がある。

羽は6枚あるが悪魔と天使のハーフなので、3対ある羽根は、左側が悪魔の羽根で、右側が天使の羽根である。ただし、彼の母親が堕天した影響か、天使の羽根の一番下の羽根が黒くなっている。本人は一切気にしていない。そして、羽はまず使わない。

 

政治的にも相当な力を持っているが、表向きにはあまり政治に干渉していない。

 

赤龍帝や白龍皇に選ばれた人間を鍛える(という名目で暴走時に処分する)ことなどを条件に、基本的には自由行動を許されている。因みに、八幡は二天龍の力のほとんどの力を保持しており、選ばれた人間が神滅器を顕現させるとそれに応じた力を一時的に戻し、顕現者が死ぬとまた自分に力を戻す、を繰り返している。又、一部の者からは二天龍を神器として封印したことから、聖書の神の力を持っているのではと言われている。

現在はグレモリー領を抜けて、自身の領を持っている。これは、三竦みの戦争終了後の悪魔の内戦に巻き込まれ、返り討ちにして領土を分捕った結果。これにより、八幡は政府に刃を突き付けるに等しい状況を得た。

 

 

神器

 

???

 

その他武器

 

???

 

???

 

 

 

クルル・ツェペシ

《終わりのセラフ》より

 

八幡の妻であり、八幡の『女王』。

ある事情により八幡の父に拾われる。その際に家に住んでいいからと、八幡と小町の護衛をしてくれと頼まれる。八幡の戦闘技術の大元は彼女から習得したものであり、それ以外にも八幡と共に様々な所を廻った。戦争後は(戦争前から紆余曲折あった結果)八幡と結婚している。

赤龍帝から八幡を庇った際の怪我で大半の力を失った。それは、悪魔の駒の力で多少補われている。

 

本人ですら自覚も記憶もない(・・・・・・・・・・・・・)が、彼女は実は······!?

 

背中に負った傷は傷跡として今も尚残っている。傷跡は斜めに三本。右肩の肩甲骨のあたりから脇腹にかけて。

本作では、悪魔であり吸血鬼ではない。作者が気に入って入れたかった。悪魔の羽根は1対。

 

 

 

比企谷小町(故人)

八幡の妹。天使の襲撃にあい、殺害される。小町は母親が堕天した後に生まれたので、3対の羽根の右側が全て黒い。

 

 

ルシフェル(故人)

八幡と小町の母親。前ルシファーは彼女の義理の兄(と勝手にされた)。彼女の功績を彼女が表舞台から消えたことにより一部奪っていた。元熾天使。堕天した理由が駆け落ち。羽根が6枚なのは、大戦前は今とシステムの一部が若干違うため。

 

 

比企谷父(故人)

八幡と小町の父親。人間とのハーフ悪魔。名前が日本名なのは、幼少期を日本人として過ごしたから。クルルを拾い、家においた。グレモリー家とは縁があり、平穏を望んで、一家で領地に住ませて貰っていた。

 

 



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第1話 巻き込まれ体質(意図的)

 

 

 

八幡side

 

 

 

「·······一緒に行かないか、八幡」

 

八幡「·······ハァ。わあったようるせえなイッセー。3回目だぞそれ」

 

俺の前で騒いでいるのは兵藤一誠。1年の時同じクラスで、それからも若干の交流がある。俺はよく知らんが学内でスケベ3本柱と評されているとかいないとか。俺がこの学校に来た最大の理由でもある。こいつらは知らないと思うが、俺はこいつらを悪魔であることは知っている。因みに、俺の眷属のやつと声がよく似ている。てかそっくり。

 

八幡「·····ええっと、木場だっけ?俺も行っていいのか?」

 

木場祐斗。学内でトップクラスのイケメン、らしい。そんなとこには興味ないけど。偶々イッセーと教室を出たタイミングが被ったらしく、こいつが居てイッセーがオカルト研究部に一緒に行こうと言い出して冒頭に戻る。

 

祐斗「·····ん~まあ良いんじゃないかな。入れるな、とは言われてないしね」

 

あのリーアたんリーアたんなドシスコンから頼まれてることでもあるんだが······別に行かなくても何の問題もないが。

 

八幡「まぁいいや。案内してくれ」

 

まぁ、ここでリアス・グレモリーの顔を見といても損はないだろう。

 

祐斗「ありがとう」

 

にしても、よくイッセーと一緒に居て嫌な顔一つしないものだ。

 

 

 

 

 

リアス「········来たわね祐斗、イッセー······あら?そちらの方は?」

 

こいつがリアス・グレモリーか。

 

イッセー「あ、こいつは俺と同じクラスの友達の······」

 

八幡「比企谷八幡です。イッセーに根負けして来ました」

 

リアス「あら。それは私の眷属がとんだ失礼なことを」

 

こいつよりずっと年上だが、俺は今駒王の2年なので、敬語は使うべきか。それより、普通に眷属とか言ったぞ。俺が一般の人間だったらどうするつもりだ。アザゼルは部下に人間の政治や宗教に干渉するなって言ってるくらいなんだぞ。

 

八幡「いえ、別に」

 

と、リアス・グレモリーの隣の黒髪の姫島朱乃が何か耳打ちする。読唇術で······いいや。どうせ大したことでもないだろうし。

 

リアス「そう·······イッセー、ちょっと来なさい」

 

イッセー「は、はい!」

 

あれか。イッセーがシスターと接触したっていう。

 

リアス「比企谷君だったかしら?突然で悪いのだけど、少し席を外してもいいかしら?」

 

八幡「構いませんよ」

 

リアス「ありがとう。イッセー来なさい」

 

リアス・グレモリーとイッセーが部室から出て行った。

 

 

祐斗「······アハハ。ごめんね、今ちょっと立て込んでて」

 

八幡「いや別に構わん。突然来た俺が悪いからな」

 

と、木場の隣に立っていた塔城小猫が話しかけてくる。俺が一方的に知っているのもそれなりにバレるとめんどいから初対面の体を貫く。

 

小猫「·······比企谷先輩でしたか?」

 

八幡「何だ?······えっと」

 

小猫「塔城小猫です。それで、比企谷先輩とは·····何処かでお会いしませんでしたか?」

 

そういや、この街に来てすぐの時に斬ったはぐれの近くに子供が居たような······というか······まあ今は言わないでおこう。あいつのためにも。

 

八幡「会ってないぞ。人違いだろ」

 

小猫「······そうですか。妙なことを聞いてすいません」

 

八幡「気にしなくていい」

 

 

 

朱乃「あら、部長達が戻って来ませんね。失礼ですが、比企谷君。今日の部活はここまでなのですが·····」

 

八幡「分かりました。まあ、入部する気になったらまた来ますよ」

 

朱乃「あらあらそれは楽しみです」

 

八幡「そうですか。じゃあな。木場、塔城」

 

祐斗「うんまたね」

 

 

 

 

 

 

 

俺は今街の外れにある廃屋に来ている。はぐれ悪魔のバイザーがここに潜伏しているから討伐してくれと、教会から依頼が来た。······昼間会ったグレモリーとその眷属達も来るって聞いたんだよなぁ。あのシスコンから。

 

八幡「······もうそこまで来てんな」

 

念のため黒い外套を羽織る。

 

バイサー「··········うふふふふ。来たわねぇ、可愛い人間さん?」

 

何だ雑魚か。いくら天使と悪魔の力を打ち消しあって気配を消してるとはいえ気付けよ。······今思ったけど、グレモリー眷属は『王』含む全員が俺が人間じゃないことに気付いてなかったような······それで大丈夫なのか?

 

八幡「はぐれ悪魔バイサー、お前に教会から討伐依頼が来ている」

 

バイサー「······どうするのかしらぁ?」

 

八幡「決まってんだろ」

 

家から持ってきた刀を抜く。神器とかそういうのでもなんでもない、ただの刃こぼれしまくった刀だ。

 

バイサー「そんなボロっちい刀で何をしようと言うのかしらぁ?」

 

八幡「·········チッ」

 

時間掛けさせやがって。あいつらが来ちまっただろうが。

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

イッセー「部長!何か既に始まってるんですけど!?」

 

流石イッセー。こんな所でも騒げるとは。

 

リアス「·········どちら様かしら?」

 

八幡「·······さぁな」

 

答える必要なし。騒がれたら面倒だ。

 

八幡「·······はぐれ悪魔バイサー。悪いが死ね」

 

バイサーの下までダッシュして跳躍。ボロ刀に魔力を纏わせて横に薙いでバイサーを真っ二つにする。

 

バイサー「ギャァァァァッ!」

 

裕斗「········早い!!」

 

今度は斬りあげで縦に真っ二つにする。

 

バイサー「グギャアッ!」

 

八幡「じゃあな」

 

魔力を塊で放ってバイサーを消し飛ばす。

 

八幡「·······仕事終了っと」

 

······可哀想な奴だったな。悪魔なんかに会わなきゃ人間のままで天寿を全う出来たろうに

 

リアス「待ちなさい!」

 

八幡「それを聞く義理はないと言った」

 

魔法陣を展開してジャンプする。

 

 

はぁ······帰ったら帰ったで山のように仕事あるんだよな······

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

イッセー「行っちゃいましたね·····」

 

先程、はぐれ悪魔のバイサーを圧倒した黒い外套を被った男は、魔法陣でジャンプして消えてしまった。

 

リアス「······何者なのかしら?」

 

祐斗「すぐに会うだろうって言ってましたね」

 

小猫「······その時になれば分かります。多分」

 

多分って小猫ちゃん。

 

朱乃「では、それを待ちましょう。情報収集は怠らないように」

 

朱乃さんのその言葉でこの場は解散になった。

 

 

······あの声、どっかで聞いた気がするんだよなぁ。

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 





書いてて思うことはただ一つ。

「誰だこいつは·······」


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第2話 王の名のもとに

 

八幡side

 

あの一悶着があった翌日の夜。

 

俺はあのはぐれエクソシストや堕天使のいる協会まで来ていた。無論依頼である。それもサーゼクスの。何でも、『リーアたんを陰ながらサポートしてね☆』とのノリ100%の気持ち悪い口調で言って来た。ただ、断る理由を持ち合わせていないので、仕方なしに来た。

 

八幡「······とっとと終わらせて帰るに限る」

 

教会の扉を蹴破る。

 

八幡「·······こいつ昨日のエクソシストか」

 

どうやら、俺が蹴破った扉が直撃したらしく、白髪の神父が完全にのびていた。あれ、こいつ確か······

 

 

 

八幡「これで全部か」

 

とりあえず、武器を全部取り上げて縛っといたから大丈夫だろう。

 

八幡「······下か」

 

俺は祭壇から地下に向かった。

 

 

 

 

 

 

俺が地下に辿り着くと、磔にされているシスター・アーシアと、堕天使レイナーレ、その配下のエクソシスト100人弱だった。

 

レイナーレ「······誰かしら?」

 

八幡「初めましてだな。堕天使レイナーレ」

 

レイナーレ「誰だか知らないけど、残念だったわね。もう儀式は終わるところなの」

 

アーシア「·····一誠さん·····?」

 

八幡「悪いが、イッセーじゃない。だが、あいつの助けたいって思いからここに来たのもまた事実だ」

 

かなりテキトーなこと言ってるが、まぁいいだろ。

 

レイナーレ「ふ~ん。ならやってみてはどう?」

 

八幡「そうか。それは都合がいい」

 

俺は魔法陣から一振りの刀を取り出す。その刀の刀身、は俺の身長より明らかに長い。刀身の幅も、40cm程あるだろう。

 

レイナーレ「そんな見てくれに騙されると思う?」

 

八幡「うん思う」

 

塵外刀(じんがいとう)真打(しんうち)。それが今俺が手にしている刀の名前だ。

 

八幡「·······ま、あんま舐めない方がいいぞ」

 

レイナーレ「随分とまぁ立派な大見得を張って」

 

八幡「そうかい」

 

───塵外刀 変化。型式『揚羽』

 

 

 

そう言うと、塵外刀は大剣から長さは変わらずに刀身が日本刀と同じくらいまで細くなり、かつ黒くなる。型式『揚羽』。その真髄は空中に漂わせた鉄粉を操ること。

 

八幡「·····黒丸(こくがん)

 

俺がそう言うと、空中に漂っていた鉄の鱗粉が集まり、多数の球体を形成する。

 

八幡「行け」

 

黒丸は猛スピードで、集まっていた多数の下級エクソシストに飛んでいく。黒丸はその形状を変化させ、敵を切り刻み、突き刺し、打撃し、本の6、7秒で全滅させた。

 

レイナーレ「······う、嘘よ」

 

まあ、信じられないだろうな。さっきの下級共は、見た感じ100人弱はいた。形成した黒丸が15個だから、1秒につき黒丸が1人殺ったってとこだな。

 

八幡「······まぁこの程度か」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

イッセーside

 

俺は、木場、小猫ちゃんと共に教会まで来た。この中にアーシアが······!!

 

祐斗「······?様子が変だ」

 

イッセー「何が?」

 

小猫「·········さっきまでたくさんあった気配が一瞬で殆ど消えました」

 

たくさんの気配が一気に消えるって何があったんだ·····?

 

祐斗「それに見て。扉が片方だけない。しかも、もう片方には無理矢理こじ開けたような後が残っている」

 

木場の言う通り、扉の片方がなく、もう片方には軋んだような跡がある。

 

祐斗「兎に角、中に入ってみよう」

 

木場のそれで俺達3人は教会の中に入っていった。

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

レイナーレ「有り得ない·····まさか、神器!!?」

 

八幡「惜しいな····これは神滅器(ロンギヌス)だ」

 

ホントはそれを同等ってだけだが。

 

レイナーレ「神滅器·····ですって!!!?」

 

 

塵外刀は、保管されていた場所の近くに残されていた文献によると、千年以上も昔。秦河勝なる人物が、「常世の神」なるものを、それを信仰していた教祖・大宇部多とともに討ち取った時の刀らしい。曰く、「常世の神」の血によって摩訶不思議な力を持つようになったと。神滅器と言ったが、元がただの刀だったため神器という枠からは外れる。つまりハッタリ。

 

 

レイナーレ「クソッ!!····せめてこいつの神器だけでも!!!」

 

八幡「はいはい」

 

レイナーレが飛ぼうとした瞬間、黒丸がレイナーレの両羽根を切り落とした。

 

レイナーレ「グァァァァッ!!?」

 

八幡「消えろ」

 

レイナーレの側まで一瞬で移動し、黒い刀身に変化した塵外刀······塵外黒鱗刀(じんがいこくりんとう)を振り下ろす。

 

レイナーレ「ま、待っ·····」

 

八幡「待たねえよ」

 

レイナーレ「ああ、アザゼル様·····シェムハザ様······」

 

 

レイナーレの体は真っ二つになり、消滅した。

 

 

アーシア「あの、ありがとう·····ございます」

 

八幡「例ならイッセーに言えよ。俺はあいつが助けたいっつうけど動けないから代わりに来ただけだ」

 

実際はもう来てるけど。そう思いながらアーシアが繋がれていた鎖を塵外黒鱗刀で切る。

 

八幡「大丈夫か?」

 

アーシア「はい·····」

 

八幡「そうか。今からイッセーんとこ行くか」

 

アーシア「イッセーさんが·····来てるんですか?」

 

八幡「ああ。悪魔としての立場とか全部無視してな」

 

アーシア「イッセーさん·····」

 

あいつ·····こんな可愛い子いるんだから学校でスケベ根性でいるの辞めろよ······

 

八幡「ちょっと頭隠せ」

 

アーシア「は、はい」

 

シスター・アーシアは言われた通り、頭を隠す。ホント素直だねぇ·······イッセーが惚れるのも分かるな。俺もクルルがいなかったら惚れてたかも。

 

八幡「塵外刀 変化。型式『兜』」

 

俺がそう言うと、黒く細かった刀身が超巨大なカブトムシの角に代わり、轟音と共に天井を突き破った。穴が空いたのを確認してすぐに解除する。

 

八幡「今から飛ぶから。捕まっとけ」

 

アーシア「は、はい」

 

俺は、アーシアを抱えて羽根で飛び上がった。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

『ズドォォォォンッ!』

 

イッセー、祐斗、小猫「「「!!?」」」

 

イッセー「おい、今の何だ!!?」

 

俺達が教会に突入した直後だった。とてつもない轟音があたり一帯に轟いた。

 

朱乃「皆さん!!今すぐ戻って下さい!」

 

魔法陣でジャンプしてきた朱乃さんが言う。

 

イッセー「でもまだアーシアが!!」

 

朱乃「シスターの方は後です!!今、部長が1人で堕天使3人と戦っています!!」

 

部長1人で3人と?アーシアも助けに行きたい!!けど、部長にも死んで欲しくない!!

 

イッセー「······ごめんアーシア。すぐに助けるから」

 

祐斗「いいのかい?」

 

イッセー「ああ。誰も死なせるもんか!!」

 

俺達4人は魔法陣で部長の下にジャンプした。

 

 

 

 

リアスside

 

 

 

「お仲間ナシでいつまでもつかな?」

 

女の堕天使が私に問いかけてくる。先程の轟音を聞いてすぐに、朱乃をイッセー達に迎えに行かせた。

 

リアス「愚問ね。この程度で音を上げるようでは、グレモリー家の名が廃るわ」

 

······私は家を背負って立っているのだ。こんなつまらない所で躓いてなどいられない。

 

イッセー「部長!!」

 

朱乃が迎えに行ったイッセー達が戻って来た。イッセーが助けたいと願うシスターを助けたいとは思うけど、先程の轟音と爆発はこの堕天使達も素で驚いていた。第三勢力の介入か······?

 

 

その時、足音が聞こえた。全く気配を感じなかった。何者?

 

イッセー「誰だ!!」

 

そいつは黒い外套を羽織っており、顔が見えない。

 

「·····安心しろイッセー。シスター・アーシアは無事だ」

 

そう言ってフードを取った男は先日オカルト研究部に訪ねてきた者だった。

 

 

リアスsideout

 

 

 

 

八幡side

 

 

イッセー「誰だ!!」

 

あ、そうか。顔見えないんだっけ。バイサーの時も顔隠してたからな。

 

八幡「安心しろよ。シスター・アーシアは無事だ」

 

そう言ってフードを取る。その後、シスター・アーシアを近くの木の根の所に下ろし外套を被せる。

 

イッセー「····八幡!!?」

 

祐斗「比企谷君!?」

 

朱乃「まぁ!!」

 

皆驚きすぎ····ってのも無理ないか。姫島先輩は驚いてんのかよう分からん。塔城は表情が変わってないように見えるが、驚いているだろう。

 

「何故シスターがそこにいる!レイナーレはどうした!!」

 

コートを着た堕天使が切羽詰まった様子で聞いてくる。

 

八幡「残念だったな。堕天使レイナーレは真っ二つにぶった斬ってやった」

 

想像以上に弱かったな、あいつ。まぁ上を騙して計画を進めてた、とかそんなところだろうし。たかが知れてる。

 

「下級エクソシストだって100人以上いた筈だ!」

 

残りの堕天使の一人が騒ぐ。

 

八幡「レイナーレのついでに殲滅したぞ。残念だったな」

 

「何だと!!?······チッ、使えない奴らめ!」

 

そう言ってコートの堕天使が突っ込んでくる。てか、その言い方はねぇよ······俺が言えたことじゃないが。

 

八幡「動くな」

 

「!!?」

 

「「??」」

 

空中で突然止まるコートの堕天使。他は疑問を浮かべている。

 

八幡「跪け」

 

「「「!!!?」」」

 

コートの堕天使が地面に落ちる。同様に、後ろにいたゴスロリっぽいコスプレの堕天使と女の堕天使も地面に落ちる。

 

リアス「何なの······?彼は何をしたの·······?」

 

リアス・グレモリーが半分慄きながら口にする。が、それはライザーが来てから言えばいいや。

 

羽根を全部開いて、殺気を全開にする。下級程度ならこれで十分。

 

「ヒッ······まさか····貴方様は····」

 

八幡「喋るな」

 

「っ!」

 

女の堕天使は口を閉じる。あと、俺はグレモリー達まで威圧してるつもりはないんだが何故か黙っている。

 

八幡「なんか言い残すことは?」

 

地面に伏している堕天使3人の上に数千の光の矢を出現させる。

 

「た、助けて下さい!」

 

「神の慈悲を!」

 

俺は立場的に天使ではあるが、神ではない。それ以前に神はもういない。

 

八幡「お前らは怒らせる相手を間違えたんだよ·······だから死ね」

 

数千の光の矢が堕天使3人に降り注ぐ。

 

「た、助け······」

 

八幡「助けねぇよ」

 

 

 

 

 

 

光の矢が降り終わる。もう堕天使3人の姿は欠片も残っていない。完全に消し飛んだな。

 

八幡「········ハァ。仕事終了」

 

······純情なシスターを利用するとはな······まぁ胸糞悪い奴らだった。あの手の連中ってなんでわんさかいるんだろ。

 

アーシア「あの、本当にありがとうございました」

 

八幡「気にすんな。これも仕事の内だ」

あ、そうだ。

 

八幡「お前これからどうすんだ?悪魔を治療したことで教会にはもう戻れない筈だ」

 

アーシア「そ、それは······」

 

八幡「一つ提案がある」

 

アーシア「······?」

 

八幡「お前悪魔にならないか?俺はお前を悪魔に転生させることが出来る。これからもイッセーと一緒にいれるぞ?」

 

アーシア「本当ですか!?」

 

八幡「ああ。お前にとっても悪くない話だと思うが?」

 

アーシア「お願いします!」

 

そこで今までフリーズしていたグレモリー達がやっと再起動する。

 

リアス「待ちなさい! 彼女はシスターよ!?」

 

八幡「だから?」

 

リアス「この際あなたのことは別として·····シスターを悪魔に転生させるなど前例がないわ!」

 

八幡「それがどうした。前例なんてその前にやった奴がいないってだけだろ」

 

リアス「それは、そうだけど·····」

 

よし、OK。

 

八幡「じゃあ決まりだな。手を出せ」

 

アーシアが手を出して来るので『僧侶』の駒を渡す。これはリアス・グレモリーからスっておいたものである。これはサーゼクスの所為でこんなことしているのだ。これくらい見逃してもらう。

 

 

八幡「我が名の下に命ずる。汝、この地において新たな魂を宿し、『僧侶』として生に歓喜せしことを命ずる」

 

アーシアに渡した駒がアーシアの胸の中に入る。これであのシスコンに頼まれた依頼が一つ終わった。

 

アーシア「これで·····私は悪魔になったのですか?」

 

八幡「ああ。これからお前の『王』はそこにいる赤い髪の奴だ」

 

リアス・グレモリーを指差す。

 

アーシア「はい!!これから、よろしくお願い致します!!!」

 

アーシアが丁寧に腰を折って頭を下げた。

 

リアス「ちょっと待って!」

 

八幡「何だよ」

 

何かおかしなところでもあったか?······いや。ないな。

 

リアス「何故彼女は私の眷属なの!普通あなたの眷属ではないの!?」

 

ああ、そこか。そう言われてもねぇ·····

 

八幡「俺もう駒全部使ってるし」

 

本当はまだ駒はあるのだが、リアス・グレモリーを納得させるのにはこれで充分だろ。本当のことを言う必要がないし。

 

アーシア「あの、私ではいけなかったのでしょうか·····」

 

リアス「い、いやそういうわけではないのだけれど」

 

八幡「じゃあ決定だな。イッセー」

 

イッセー「?」

 

八幡「こいつのこと泣かすなよ」

 

イッセー「勿論だぜ!!!」

 

八幡「·····そうか。じゃあな」

 

リアス「待って!あなたには聞きたいことが山ほどあるわ。明日オカルト研究部の部室に来てもらうわ」

 

八幡「別にいいぞ。どうせそんなところだと思ってたし。じゃあ俺帰るわ」

 

 

俺は転移の魔法陣を展開すると、直接自宅まで跳んだ。

 

 

 

 

······あー·····サーゼクスめ、面倒事押し付けやがって。

 




武器説明

塵外刀・真打(《常住戦陣!!ムシブギョー》より)
八幡が滅んだ集落に調査に来た時に発見した大昔の大剣の神滅器(級)。所謂、妖刀といったもの。番外。刀自体の説明は本編で。

型式

『揚羽(あげは)』
空中に鉄粉をばら撒き、それを自由自在の操ることが出来る。刀身もその能力で形成されている。また、その能力で2本目の刀を形成することが出来る。これは黒鱗刀正宗(こくりんとうまさむね)と呼ばれる。

『兜(かぶと)』
刀身が全長100m以上の巨大なカブトムシの角になる(サイズの変更可能)。この状態に特殊な能力はないが、単純な攻撃力は随一。

『蟋蟀(こおろぎ)』
刀身が常に超高速で振動している。また、刀を振ると、高い破壊力のある音を広範囲に放つことが出来る。

『鍬形(くわがた)』(この中でこれのみオリジナル)
刀身が途中で2つに分かれ、2本が鎌のようになる。この型式が刀としての切れ味が一番いい。


これ以降も増える可能性あり。

又、八幡の威圧は覇王色の覇気みたいなものです。



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第3話 入部届

リアスの口調別人になってたんで修正しました。報告していただいた方、ありがとうございました。


 

 

八幡side

 

堕天使4人を消し飛ばした翌日。

 

イッセー「·······よっしゃぁぁ!!行くぞ八幡!」

 

何がよっしゃあなんだよ。あと、うるさい。うざい」

 

イッセー「ひどいっ!!?」

 

八幡「なんだようるせぇな·····」

 

こっちはちゃんと寝れてないんだよ·······昨日クルルに何かされたのは分かってんだけど、帰宅してから暫くの記憶がないんだよな·····

 

イッセー「あ、相変わらずだな······早く行こうぜ」

 

今日はオカルト研究部に出向くことになっている。

······何故出頭するみたいなことになってんだ······?

 

八幡「はいはいうるさいうざい早く行くぞ」

 

シスター・アーシアは先に行ったとか。

 

イッセー「酷いや······」

 

 

 

 

 

 

イッセー「ちわ~す!」

 

八幡「······うす」

 

だるい。帰りたいな······そういや、後1週間足らずで満月じゃん。満月って言えばザトゥージの奴はまだあんなアホなことやってるのか?

 

アーシア「こんにちは、比企谷さん」

 

八幡「ようシスター・アーシア。調子はどうだ?」

 

アーシア「大丈夫です!あの、悪魔にして頂いてありがとうございました」

 

八幡「気にすんな」

 

あのシスコンが「頼むよ~」とかキモい声で言ってたような······声がユウ・カジマに似てるせいで腹立ってきた。

 

リアス「······来たのね比企谷八幡」

 

八幡「······帰っていいか?」

 

正直面倒くさい·····

 

イッセー「いやダメだろ」

 

リアス「却下」

 

八幡「眠い······」

 

クルルに何かされた記憶はないが、その後にあのシスコンがしつこく通信で喋りまくったお陰で、こちとら一睡も出来てない。

 

 

 

 

リアス「······それで、あなたは何者なのかしら?」

 

ド直球で来たな·····

 

八幡「何者って言われてもねぇ······」

 

リアス「では質問を変えるわ。何故羽根が6枚もあるの?」

 

八幡「これか?」

 

羽根を出す。

 

イッセー「どうなってんだよそれ·····」

 

周りは目を見開いている。当然っちゃ当然だが。こんな羽根なのは世界探しても、中々いない。

 

リアス「見たところ·····右側が天使の羽根、左側が悪魔の羽根だけど?」

 

八幡「いや、それであってるよ。俺は一応天使だ」

 

と言っても、本当に一応で、教会に籍を置く際にそれが一番都合が良いと、ミカエルと話して決めただけだが。

 

「「「「「!!?」」」」」

 

リアス「では、何故左側は悪魔の羽根なの?」

 

八幡「まぁ、簡単に言うなら·····堕天使と悪魔のハーフだからな俺」

 

これで説明終了でいいと思う。事実を話すとかなり面倒なんだ。情報漏洩は出来るだけ避けたい。

 

リアス「そう······」

 

こいつはあのシスコンから何も聞かされてないのか·····少しぐらい言っとけよ。てか、俺、冥界じゃかなり悪目立ちしてる方だが、知らんとは意外だ。

 

八幡「羽根が白いのは、多分遺伝子の異常とかだ。検査してないから実際どうかはわからんけど」

 

アーシア「そう言えば、比企谷さんは『悪魔の駒』をお持ちしているとお聞きましたが·····」

 

八幡「持ってるよ。これでも最上級悪魔なんでな」

 

一応は。

 

イッセー「······さっき堕天使って言ったのにどっちなんだよ?」

 

疑問に思ったのか、イッセーが尋ねてくる。

 

イッセー「敵じゃないのか?」

 

八幡「敵だったらこんな所に来るわけないだろ。特例で、そういう措置になったんだよ」

 

敵ですらないし。殺そうと思えばいつでも殺せる。

 

八幡「それに、シスター・アーシアをグレモリー眷属にしたりしないだろ。あの回復能力を見たら分かると思うが」

 

リアス「た、確かに······それより! 何故あなたが私の駒を持っていたの!?」

 

八幡「悪いな。シスター・アーシアをグレモリー眷属にするのは一目見て決定してたからな。この前来た時にスった」

 

ホントごめん。と、実際なんとも思っていない心の中で呟く。サーゼクスのせいなんで許して。

 

リアス「なっ!······なんてことをするのよ!」

 

八幡「しょうがないだろ。あのシスコンがリーアたんリーアたんうるさいんだから」

 

あいつ本当にうるさい。リーアたんリーアたんうるさい。グレイフィアに言え。そしてシバかれろ。

 

リアス「なっ!!?······お兄様······!!」

 

イッセー「なんだよリーアたんって」

 

八幡「こいつの兄、四大魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーがこいつのことをリーアたんっつってんだよ」

 

願っといてなんだが、本当にあいつシスコンすぎてそのうちボコボコにされそうだな。グレイフィアに。

 

八幡「さて、ここまででいいだろ。あ、これ」

 

リアス・グレモリーに紙を渡す。

 

リアス「入部届·····?」

 

俺が渡したのはここの入部届だ。てか、入ってた方が楽には楽なんだよな······これからを考えると。責任をサーゼクスに押し付けられるから。

 

八幡「別に、ここに入っても問題ないだろ?お前の眷属にはならんが」

 

リアス「それは構わないけれど········」

 

八幡「じゃあ俺は今日はやることあるからこれで失礼するわ。じゃあなイッセー」

 

イッセー「あ、おう」

 

オカルト研究部の部室を出て、そのまま俺は学校を後にした。

 

 

 

 

 

 

八幡「·······ここだな」

 

学校を後にした俺が来たのは、街にある廃屋。ここにはぐれ悪魔がいるとの情報が協会から入った。俺には悪魔側と天使側の両方から情報が入ってくるから、悪魔側には持ち得ない情報や天使側には持ち得ない情報なんて物も入って来たりする。

 

八幡「早速来たか」

 

真上からはぐれが襲いかかってくる。そいつにオーバーヘッドキックをカウンターで繰り出して蹴り飛ばす。そして、バイサーの時使ったボロ刀を出す。今度冥界戻った時に刀を新調した方がいいな。

 

八幡「······ハァ。一々手を拱かせやがって」

 

はぐれの首を狩る。存外に呆気なく終わった。今日の奴は、別に同情する必要のない奴だ。私利私欲で主を攻撃してそのまま行方をくらました。

 

こんな輩のせいで、 万が一こちらに被害が出てからでは遅い。先手を打てるならすぐに打つべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

八幡「······何だありゃ」

 

クルル「·······何だか気味が悪いね······あそこにいるのはリアス・グレモリーと赤龍帝君じゃない?」

 

街をクルルと歩いていた時、ふと通りかかった公園見ると、そこには何故か巌流島の佐々木小次郎風の鎧武者とリアス・グレモリーとイッセーがいた。開いた口が塞がる気がしない。

 

「ママー、アレ何ー?」

 

「見ちゃダメよ」

 

立ち止まっていた俺とクルルのすぐ側を母娘が通り過ぎていった。とりあえず、俺達だけがおかしいわけではないことは分かった。と、そこに頭に矢が刺さった中世の騎士の鎧を纏った者が現れた。

 

八幡「·····お、おい、アンタ大丈夫か?」

 

クルル「·······あ、頭に矢が刺さってるよ?」

 

「大丈夫ですよ。お気になさらないで下さい」

 

八幡「そ、そうか」

 

鎧の騎士はそのまま公園に入って行った。

 

 

 

 

八幡「········帰るか」

 

クルル「·········そうね」

 

 

妙な世の中になったな人間の世界も······

 

 



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第4話 新たな眷属(前編)

 

 

 

 

リアス「·····チラシ配りは今週まででいいわ」

 

イッセー「え?」

 

オカルト研究部に入部して数日経ったある日。いつも通りチラシ配りに行こうとしていたイッセーとシスター・アーシアにリアス・グレモリーが言った。

 

八幡「·····良かったじゃねぇか。やっと第1歩踏み切ったな」

 

俺? あいつ終わらせるのホント早いよなぁ。一応使い魔はいるけど、有事の際以外は好きにしてもらってる。

·····俺に懐いてないってわけではないが、明らかにクルルの方が懐かれている。俺のが若干付き合い長いはずなんだけどな······

 

 

リアス「前に言ったでしょ?チラシ配りは修行の一環よ。チラシ配りは本来使い魔の仕事なの」

 

八幡「·······良かったなイッセー。第2歩目だ」

 

リアス「チラシ配りは卒業。貴女達には使い魔を取りに行ってもらうわ」

 

 

 

 

 

 

リアス「これが私の使い魔。イッセーは会ったことあるわね?」

 

リアス・グレモリーは自身の使い魔を出現させる。

 

イッセー「え?」

 

使い魔が人型───羽根あるけど───に化ける。

 

イッセー「あーっ!」

 

大方、チラシ配りの時にでも会ったんだろう。

 

朱乃「私のはこれです」

 

姫島が出したのは、小鬼か?

 

小猫「シロです」

 

塔城はいつの間にか真っ白な猫を抱いていた。

 

祐斗「僕のは「ああー。お前のはいいや」·····つれないなぁ」

 

笑って許す木場。こいつ心広すぎだろ。俺だったら一発殴ってるかも。こういう時のイッセーはとんでもなくムカつく時がある。

 

リアス「使い魔は、悪魔にとって基本的な物よ。主人の手伝いから情報伝達。追跡に使うこともあるわ」

 

アーシア「あのぉ·······その使い魔さんはどうやって手に入れれば······」

 

リアス「それはね·····」

 

リアス・グレモリーが言いかけたところで、部室のドアがノックされた。

 

朱乃「どうぞ」

 

八幡「······うぇ」

 

ああめんどくさい。

 

 

部室を訪ねてきたのは、生徒会だった。てか多くね? いつの間に人増えたん? というわけで、気配を限界まで消して、隅っこに移動する。イッセーはシスター・アーシアに生徒会の説明をしている。

 

生徒会長、支取蒼那。正体は現四大魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタンの妹でシトリー家の時期当主のソーナ・シトリー。

 

リアス「······それで、どうしてここに?」

 

ソーナ「お互いに下僕が増えたことだし、改めて御挨拶を、とね」

 

ソーナが微笑みながらグレモリーに言う。

 

イッセー「下僕?······あ、お前、最近生徒会に書記として入った2-Cの····」

 

ソーナ「匙 元士郎。『兵士』よ」

 

イッセー気付かなかったのか·····まぁ、仕方ないか····

 

リアス「『兵士』の兵藤一誠。『僧侶』のアーシア・アルジェントよ」

 

イッセー「へ~、お前も『兵士』か!それも同学年なんてな!」

 

匙「······俺としては、変態3人組と同じなんてな!」

 

イッセー「なっ!!」

 

匙「やるのか? 俺は駒4つ使用の『兵士』だぞ?」

 

それ言ったらイッセーは倍だろ·····いくら『王』に差があるとはいえ。

 

ソーナ「お辞めなさい匙。それに、兵藤君は駒を8つ使用しているわ」

 

匙「8つ!? って、全部じゃないですか。それもこんな冴えない奴が·····?」

 

イッセー「うっせぇ!」

 

イッセーは匙からは冴えない奴と思われている、と。

 

匙「それと······何で人間がいるんだ!」

 

うわぁ·····矛先がこっちに向いたよ。目敏く見つけやがった。

 

ソーナ「匙、やめなさい。ごめんね八幡君」

 

八幡「気にしてないぞソーナ」

 

匙「お前!会長に何て口を!」

 

こいつソーナにぞっこんかよ·····

 

八幡「何だお前めんどくさいな······ハァ」

 

ソーナ「やめなさい匙。彼は気配を消してはいるけれど、最上級悪魔よ」

 

匙「最上級悪魔!!?」

 

ソーナ眷属は全員目を見開いている。なんでバラしちゃうんだよ······気配消した意味が·····

 

八幡「そういうこった。辞めとけ下級悪魔君」

 

匙「何だと!?」

 

八幡「やるか?」

 

殺気を少しだけちらつかせる。

 

匙「っ!!?······チッ」

 

ふぅん······ま、所詮こんなもんか。まだ悪魔とか天使とかの気配は消したまま。ちょこっと殺気出しただけだ。匙一人に当てた筈なのに、グレモリー眷属もソーナ眷属も震えてる。

 

八幡「別に気にすんな。グレモリー眷属は誰一人として俺が人間じゃないことに気付かなかったからな」

 

まぁここにいて分かるのはソーナだけがギリ分かるとかのレベルだと思うが。

 

八幡「で、ここに来たのは使い魔云々だろ?お互いとも」

 

我ながら雑な話題転換だと思う。

 

ソーナ「え?あなたも?」

 

リアス「ええ。先程ね」

 

ソーナ「でも困ったわね······彼は月に一度しか引き受けてくれないし·····」

 

ザトゥージィ······お前真面目にやれよ······誰が商売の場所提供してると思ってんだ。

 

リアス「だったら、ここはお互いに実力勝負でどう?勝った方が彼に依頼することが出来る」

 

何で勝負しようとしてんのこいつ······

 

ソーナ「まさか·····レーティングゲーム?」

 

リアス「そんなまさか。まず許可して貰えないわ」

 

俺許可出せるけど黙っておこう。ソーナも言わないだろうし。

 

ソーナ「そうね。今の貴女は大事な体だから」

 

今の言葉凄い誤解を招きそうだな。

 

リアス「っ!!·······そうね、高校生らしくスポーツで勝負しましょう!」

 

 

 

そんなこんなで始まったスポーツ対決。リアス・グレモリーと姫島が生徒会と協議した結果、テニスのダブルスで対決することになったのだが······

 

小猫「·····結局のところ、いつまで経っても勝負が付きませんでした」

 

今、塔城が持っているテニスのラケットはガットがボロボロになっている。アホなのかあいつらは·····魔力使い始めたせいでテニスコートに結界張る羽目になっただろうが。監督不行届とか言われて議題に上がりませんように。

 

イッセー「·····それで、団体戦に?」

 

リアス「種目はドッチボールに決まったわ。勝負は明日の夜、体育館で」

 

生徒会と再び協議に行っていた2人が帰って来た。明日は予め結果を張っておこう。

 

今日はそれで解散となった。

 

 

 

 

夜。

 

八幡「······疲れた」

 

クルル「お疲れ様八幡」

 

家に帰ってきた俺はソファーに倒れ込んだ。そして、今はクルルの膝枕に与っているところである。

 

クルル「······明日、私も行っていい?」

 

八幡「まぁいいけど。ソーナはお前を知ってるし」

 

クルル「なら決まりね」

 

八幡「でも俺達は見るだけだからな」

 

クルル「えー、それじゃつまんないじゃない」

 

そう言われてもな·····

 

八幡「俺達が出て行ったら瞬殺しちゃうだろ」

 

特に匙とか、匙とか、匙とか。全部匙でした。生徒会側に回ればイッセーが標的になるだけだし。こいつそういうの嬉々としてやるからな······

 

クルル「ま、それならしょうがないか」

 

八幡「悪いな。あんま構ってやれなくて」

 

クルル「子供扱いすんのやめなさい」

 

八幡「······態とやってんのかと思ってたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の夜。

 

八幡「······おいイッセー。アホなこと考えてないで試合に集中しろ···って遅かったな」

 

小猫「ふんっ」

 

イッセー「ぎゃぁぁぁっ!!!」

 

目の前でイッセーが塔城に背中を押されてストレッチしていたが、思いっ切り押されて背中からここまで聞こえるくらいでかい音がした。こいつ体固っ。

 

朱乃「そう言えば·····何故ツェペシさんがいるのですか?」

 

クルル「それは私が八幡の『女王』だからよ。朱乃」

 

クルルがそう言うと。

 

「「「「はぁぁぁあっ!!?」」」」

 

騒ぐな騒ぐな。言ってなかっただけでそんな驚くか?

 

朱乃「全く気付きませんでしたわ」

 

クルル「私も気配を消してるからね。出す必要がないもの」

 

一つ言っておくと、クルルは駒王学園の3年生である。姫島はクラスメイトなんだとか。

 

八幡「あ、俺もクルルも試合には出ねぇからな」

 

イッセー「何でだよ!!というか、マジの朱乃さんみたいな『女王』なのか!! クソッ·····こんな可愛いロリッ娘が·····!!」

 

八幡「先に言っとくが······クルルに手を出したら分かってるよな」

 

殺気をチラつかせてイッセーを威圧。こんなことしなくても、兵藤一誠程度ならクルルは寝てても返り討ちに出来るだろうが、一応。

 

イッセー「わ、分かりました!!!」

 

八幡「ふーん······ならいい。それと、試合に出ない理由だが、単純に力の差がありすぎるってだけだ」

 

イッセー「······そうですか」

 

 

 

 

 

 

オカルト研究部チームはイッセーとシスター・アーシアが徹夜して作ったらしいハチマキを巻いて、試合が始まった。始まったんだが·····

 

アーシア「·····ドッチボールって、こんなに怖いスポーツだったんですね!」

 

イッセー「最早なんの勝負だか分かんねぇよぉ!!」

 

俺とクルルで結界張り直しといてよかった。でないと体育館ボロボロになってるからな。

 

匙「会長!まずは兵藤を狙いましょう!」

 

匙の言葉を受けたソーナがシトリー流なんとかって魔球を放った。あの玉なんで追尾機能あるんだよ。避けきれないイッセーの股間にボールが直撃。おい、クルル。そんなに笑ってやるな。しかも他が弔い合戦とか言い出した。

 

 

 

 

その後、塔城が匙の股間にボールを直撃させ、ソーナが一人になったところで時間切れ。オカルト研究部の勝ちになった。

リアス「······では約束通り、使い魔はこちらが優先させてもらうわ」

 

ソーナ「ええ。悔しいけど結構楽しめましたし。でも、こんなお遊びではなくレーティングゲームだったら私は負けません」

 

リアス「私だって、幼馴染みの貴女に負けるつもりはないわ。まぁ、随分先のことになりそうだけど」

ソーナ「そうですね。ではお疲れ様でした。八幡君とクルルちゃんもまた。それでは失礼します」

 

八幡「ああ」

 

クルル「またねソーナ」

 

そう言って生徒会は去っていった。

 

 

イッセー「うん·····レーティング、ゲーム······?」

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

イッセー「······ここは?」

 

八幡「使い魔を手に入れられる森だ」

 

オカルト研究部はさっきまで祝勝会を開いていたらしい。俺とクルルは一旦家に帰った。そして、今合流した。

 

祐斗「僕達もここで使い魔を手に入れたんだよ」

 

小猫「······はい」

 

アーシア「······なんだか、薄気味悪い森です·····」

 

イッセー「ああ。何か出て来そうだ」

 

「ゲットだぜぃ!!」

 

イッセー「うわぁ、出たぁ!!」

 

アーシア「ひっ!!!」

 

八幡「······何やってんだザトゥージ······」

 

ザトゥージ「よう!俺は使い魔マスターのザトゥージ!俺にかかればどんな使い魔も即日ゲットだぜぃ!」

 

そう言って両手でアルファベットのGの字を作るザトゥージ。

 

クルル「あらザトゥージ。久しぶりね」

 

ザトゥージ「おおっ!! 八幡の旦那! 久しぶりだぜぃっ!!」

 

八幡「相変わらずだなお前は······」

 

あの格好は恥ずかしくないのか。てか、ポケモンの主人公と丸かぶりしてるような······いや、これ以上は言ってはいけない。

 

朱乃「彼は使い魔マスターといって、使い魔に関してはプロフェッショナルですのよ」

 

イッセー「へ~」

 

ザトゥージ「そんで、どんな使い魔がお望みだ!? 強いのか!? 速いのか!? それとも毒持ちか!?」

 

イッセー「そうっすねぇ、可愛いのとかいないっすかねぇ。女の子系で!」

 

お前、こんな所でも相変わらずか。

 

ザトゥージ「チッチッチッ。これだから使い魔素人は困るんだぜぃ。使い魔ってのは強くて有能な奴を捕まえてナンボだぜぃ!すなわち、個体の能力が高くて、かつ自身と相性のいいやつでないと······」

 

早くもイッセーに呆れかけているザドゥージが話し出す。

 

アーシア「あの、私も可愛い使い魔が欲しいです······」

 

ザトゥージ「分かったよん」

 

おいお前、さっきまでの態度はどこへやら········

 

アーシア「ありがとうございます!」

 

イッセー「お前なぁ······」

 

 

 

 

 

 

俺達がまず向かったのは湖。ザトゥージ曰く、ここに水の精霊ウンディーネがいるらしい。イッセーは美人を想像していたが、ウンディーネって多分あれだよな。

 

イッセー「おぉ!来たァァ!」

 

八幡「·······やっぱりな」

 

クルル「予想通りだねー」

 

ウンディーネ「······だァァァッ!!!」

 

雄叫びを上げながらガチムチボディでレスリングをするウンディーネが2人。

 

 

······何故精霊がパワー型なのか。気にしても詮無いことだが。

 

イッセー「なぁっ!?」

 

ザトゥージ「あれが水の精霊ウンディーネだぜぃ!」

 

イッセー「う、嘘だ·····」

 

イッセーが何か水浴びに来た格闘家とか言ってる。なんて傍目で見てたら、何か俺のところまできて突然跪いた。

 

 

八幡「·······俺の使い魔になりたいのか?」

 

疑問に思いながら尋ねてみると、ウンディーネは首を縦に振る。

 

イッセー「お、おい八幡マジかよお前······」

 

その一方で、イッセーはこの世の終わりが来たみたいな表情で俺を見ていた。流石に失礼だぞオイ。

 

八幡「一応確認するが、使い魔ってのは何体いてもいいんだよな?」

 

ザトゥージ「もちろん構わないぜぃ!」

 

八幡「よし。ウンディーネ、俺の使い魔になれ」

 

俺がそう言うと、ウンディーネが光だし、ウンディーネの容姿が変わる。

 

ウンディーネ「·······」

 

光が収まると、ウンディーネはもう一度跪いて、頭を下げた。

 

クルル「可愛いじゃない」

 

クルルには僅かに劣るがそれでも充分可愛い女の子の姿になった。背は俺の腰くらいまで縮んで、服は白を基調としたワンピースに変わった。なるほど。人の心で判断するようなやつか。俺の心が綺麗かって言われたら確実に違うが。

 

イッセー「なぁぁぁぁっ!!?」

 

八幡「契約成立だな」

 

頭を撫でつつ、ウンディーネの足元に緑の魔法陣を出す。

 

八幡「我が名において命ずる。汝、使い魔としての契約に応じよ」

 

ウンディーネに魔法陣が吸い込まれる。これで契約成立だな。

 

八幡「よろしく。ウンディーネ」

 

クルル「この子に名前を付けない?」

 

名前、名前か······まぁこういう場合は分かりやすい方がいいのか?

 

八幡「そうだな······じゃあウンディーネだから·····ディネってところか?」

 

クルル「安直ね」

 

そう言うとウンディーネ······いや、ディネは嬉しそうに飛び跳ねる。可愛い。

 

イッセー「·····ウウッ。何でだよ·····八幡ばっかり」

 

自業自得だろ·····

 

小猫「自業自得」

 

ザトゥージ「よし。なら次に向かうぜぃ!」

 

 

 

ザドゥージの一声で、俺達は次のポイントに向かった。

 

 



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第5話 新たな眷属(後編)

 

 

 

アーシア「······ウンディーネの·····ディネさんはとても清い目をしていますね」

 

ディネは俺の腕に抱きついている。可愛いやつめ。

 

イッセー「にしても·····八幡はよくあんなんを使い魔にしようと思うよな」

 

八幡「は?こいつを見てそれを言うとかお前の目は節穴か?」

 

普段からセクハラ発言連発してて、実際はこれか?

 

イッセー「ちっがぁぁぁう!!」

 

突然どうしたこいつは。うるせぇな。

 

八幡「何だよ」

 

イッセー「あの最初の姿だよ!女性型とか思えないだろ!」

 

それがなんだよ·····

 

八幡「こいつから使い魔になりたいと歩み寄って来たんだ。拒む理由がないだろ。こいつの可愛さを見抜けなかったお前のミスだな」

 

イッセー「うわぁぁぁぁっ!」

 

八幡「うるさい」

 

本当に······さっきからどうしたんだこいつは····

 

ザトゥージ「待て」

 

八幡「どうした?」

 

ザトゥージ「あれを見ろ」

 

アーシア「わぁ····可愛いです」

 

ザトゥージが指差した先にいたのは小型の青いドラゴンだった。あれは······

 

八幡「蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)か?」

 

ザトゥージ「流石だな旦那!そう、あれは蒼雷龍の子供だぜぃ!青い雷撃を使うドラゴンだぜぃ!」

 

祐斗「相当上位クラスのようですね」

 

実際、蒼雷龍は(ドラゴン)の中ではそれなりに上位種だったはずだ。

 

ザトゥージ「ゲットするなら今しかないぜぃ。成熟したらゲット出来ないからな」

 

我が強い(プライド高い)ドラゴン達は、余程のことがなければ使い魔になんて出来ない。上位種なら尚更。

 

朱乃「イッセー君は赤龍帝の力もあるようですし····あのドラゴンとは相性がいいんではないでしょうか」

 

イッセー「よし、スプライトドラゴン。君に決め「ああっ!!」アーシアっ!!?」

 

突然悲鳴を上げたシスター・アーシアを見ると、スライムがくっついていた。スライムはシスター・アーシアの服を溶かし始めた。趣味悪いスライムだな·······

 

八幡「痛い痛い痛い痛い」

 

クルル「······この変態が」

 

クルルに脇腹、ディネに手の甲を抓られている。てか、お前に言われたくないんだけどクルルさん。

 

八幡「悪かったって······」

 

俺何もしてないけど。

 

クルル「八幡はあの元シスターの女の子の裸が見たかったのか、と思ったわ」

 

八幡「いやそういうわけじゃ·····」

 

クルル「ふぅん·····?」

 

朱乃「あらぁ!!」

 

上を見ると、スライムがどんどん降ってくる。

 

八幡「チッ······」

 

俺達3人の真上に魔力を凝縮させてスライムにも耐えられる傘を作る。リアス・グレモリー達には悪いが、この傘はこれ以上広げられるほど俺には魔力はない。いや、あるにはあるがその量を放出すると、周りに影響が出る。

 

祐斗「スライムか!·····うわっ!?」

 

木場の顔にスライムがへばりつく。あれ目に細菌とか入りそうだな····とか思ってたらいつの間にかザトゥージの顔にもスライムがへばりついていた。

 

八幡「おいザトゥージ。このスライムは何だ?」

 

ザトゥージ「このスライムは女性の衣服を溶かす以外には特に害はないぜぃ」

 

八幡「それは問題でしかないだろ」

 

特にじゃねぇよ。それだけでも十分すぎるくらい大問題だろ。

 

イッセー「女性の服を溶かすスライム······ハッ!!部長!俺、このスライムを使い魔にします!」

 

八幡「は?」

 

クルル「へぇ?」

 

お願いクルルさん抑えて·····殺気が漏れ出してるから。

 

朱乃「あらあらぁ!」

 

イッセー「ッヒョー!!やはり俺はこのスライムと!」

 

リアス「あのねイッセー······使い魔というのは悪魔にとって重要なものなのなのよ。もっと真剣に考えて······」

 

グレモリーがイッセーを説得しようとするが、イッセーは聞く耳持たず。

 

イッセー「考えました!やっぱりこのスライムは俺の使い魔になるために生まれてきたんですよ!!!」

 

イッセーの叫びを聞いてて流石に沸点まできたのか。

 

リアス「この······!!」

 

リアス・グレモリーが魔法で自分にくっついていたスライムを消した。

 

イッセー「のぉぉぉぉっ!!」

 

イッセーが悲しみの叫びが聞こえるが·····

 

朱乃「あらあら」

リアス・グレモリーに続いて自力で抜け出した姫島が雷撃でスライムを消し飛ばす。

 

イッセー「ぬぁぁぁぁっ!!!」

 

小猫「ふん」

 

祐斗「はあっ!」

 

更に、木場と塔城も自力で振り払う。

 

八幡「······何でこんなことに」

 

かく言う俺は、クルルとディネの2人に両脇腹を抓られながら光の矢を降り注いでスライムを消し飛ばす。

 

イッセー「ハッ!!······クッ」

 

イッセーはまだ抜け出せていなかったシスター・アーシアに抱きつく。

 

リアス「どきなさいイッセー」

 

イッセー「いやです!このスライムと俺が出会ったのは運命なんです!他人なんかじゃないんです!」

 

何言ってんだ······運命ってんなら赤龍帝に選ばれた方がよっぽど運命だろ。変な星の下に生まれてんなこいつ。

 

イッセー「おおスラ太郎!我が相棒よ!」

 

祐斗「もう名前まで·······」

 

クルル「ネーミングセンスの無さ」

 

ザトゥージ「森の厄介者をここまで欲しがるなんて····世界ってやつは広いぜ」

 

 

厄介者なのかよ······特に害がないのか厄介者なのかはっきりしろ。

 

リアス「普段はいい子なのよ·····でも、欲望に忠実すぎるから····」

 

イッセー「ちょっ部長!そんな可哀想な子を見る目で見ないで下さい!こいつを使って、俺は雄々しく羽ばたき───」

 

そこに、今まで空気だったスプライトドラゴンの雷撃がイッセーに直撃する。その余波でスライムは燃え尽きる。

 

リアス「スプライトドラゴンの雷撃?」

 

蒼雷龍「くぅ」

 

イッセー「なっ!?スラ太郎!てんめぎゃぁぁぁっ!!!」

 

再び雷撃を食らうイッセー。馬鹿だな。

 

アーシア「·····え?」

 

ザトゥージ「そいつは敵と認識したやつしか攻撃しないんだぜぃ。少年とスライムが金髪の女の子を襲ったと思ったんだぜぃ」

 

祐斗「と、いうことは·····」

 

ザトゥージ「決まりだな。美少女、使い魔ゲットだぜぃ!」

 

 

 

 

 

アーシア「········あ、アーシア・アルジェントの名において命ず。····汝、使い魔として契約に応じよ」

 

緑の魔法陣が消える。

 

朱乃「はい、これで終了。よく出来ましたアーシアちゃん」

 

蒼雷龍「く〜う!」

 

蒼雷龍がシスター・アーシアに飛びつく。

 

アーシア「く、擽ったいですラッセイ君」

 

イッセー「ラッセイ君?」

 

その蒼雷龍の名前か?

 

アーシア「はい。雷撃を放ちますし、一誠さんからもお名前を頂きました」

 

シスター・アーシアは本当にイッセーのことが好きだな····

 

イッセー「そっか·····よろしくなラッセイ」

 

イッセーが手を伸ばすと、またラッセイに雷撃を放たれる。

 

イッセー「あばばばばば」

 

クルル「懲りないねえ君は」

 

八幡「全くだな」

 

ザトゥージ「あ、言い忘れてたけど、ドラゴンの雄は他の生物の雄が大っ嫌いなんだぜぃ」

 

ザトゥージィ······それ言い忘れることじゃねぇよ·····

 

リアス「やんちゃね。ラッセイは」

 

イッセー「ウウッ·····どうして死んだ!我が友スラ太郎よ!あの力を、あの素晴らしい力を是非とも我が手に!」

 

まだ言ってんのか·······

 

小猫「······スケベ死すべし」

 

 

 

 

 

リアス「蒼雷龍は心の清い人物にしか心を開かないそうよ。普通は悪魔には下らない筈なんだけど······」

 

朱乃「アーシアちゃんがシスターをしていたことが影響しているのかもしれませんね」

 

ラッセイはシスター・アーシアに抱かれている。

 

イッセー「ラッセイてめぇ!アーシアに何しやがる!」

 

八幡「何やってんだよイッセー」

 

俺の足元には雷撃を食らったイッセーが転がっている。あ、ディネはもう魔法陣の中に戻しました。電撃の余波食らうかもしれんし。

 

クルル「中々に面白い子ねぇ。ラッセイは」

 

アーシア「オイタはいけませんよラッセイ君。それでは、おやすみなさい」

 

シスター・アーシアが魔法陣を展開すると、ラッセイは魔法陣の中に消えた。

 

イッセー「そういや、八幡の使い魔って他にいんの?」

 

八幡「いるけど、今は寝てる」

 

あいつ寝すぎだと思う。まぁ、使い魔として使ってるかって言うと、それよりは普通に家族として接してるが······今思えば、使い魔の契約結ぶ必要そもそもなかった気がするなアイツの場合。

 

イッセー「······くっそ〜俺もいつか皆の度肝を抜くような使い魔をゲットしてやる!」

 

祐斗「うん。楽しみにしているよ」

 

八幡「まあ頑張ってくれ」

 

クルル「八幡、私達ももう帰ろうか」

 

八幡「そうだな」

 

祐斗「じゃあ今日はここまでだね。お疲れ様でした」

 

イッセー「お疲れ様でしたー」

 

八幡「······お疲れ様」

 

クルル「じゃあまたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルル「·····八幡はディネのことをどう思う?」

 

帰り道、ふとクルルがそんなことを聞いてきた。

 

八幡「そうだな·····まあ3人で手を繋いだ時はちょっと懐かしかった」

 

クルル「懐かしい?」

 

クルルがわかってるクセに聞き返してくる。

 

八幡「······分かってるクセによく言う。7、8年くらい前は毎日のようにやってたなぁってな。あれが昨日みたいに思えるよ」

 

クルル「······そうね」

 

 

 

 

 



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第6話 拭えぬ過去

本当は今回でライザーを出す予定だった。




 

 

 

·······またこの夢だ。

 

『グアァァァァッ!』

 

忘れもしない、あの日の夢だ。

 

「······え?」

 

「八幡······逃げて······」

 

絶対に忘れることのない、忘れることを許されない、守ると言いながら守れなかったあの日の夢だ。

 

「······許さねぇ」

 

過去の俺が二天龍の腕を切り落とす。

 

『グガァァッ!!!?』

 

「······許さねぇ」

 

過去の俺が二天龍を切り刻んでいく。そして、切り刻んだ二天龍から力を奪い、武具に封印した──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「───はっ!!?」

 

またこの夢か······赤龍帝と白龍皇が目覚める度に、俺が奪った力に反応してあの日の夢を見る。

 

八幡「はぁ····はぁ····はぁ····はぁ····」

 

そろそろイッセーに教えるべきか······?

 

八幡「·······ごめんな。巻き込んでばっかりで」

 

俺の隣で、一矢纏わぬ姿で眠っているクルルの頭をそっと撫でる。

 

クルル「······いいよ。その度に八幡が守ってくれるから」

 

クルルが目を閉じたまま言う。どうやら起こしてしまったらしい。

 

八幡「······起こしちまったか」

 

クルル「最近よく魘されていたからそんなことだろうと思ってたわ」

 

八幡「······悪いな」

 

でも、こいつを守るためにも二天龍を制御するためにもまだこの力を手放すわけにはいかない。こんな自己満足で·······それなのに·····

 

八幡「ごめんな。こっちは貰ってばっかりで」

 

クルル「違うわ。与えてくれたものを返しているだけ」

 

八幡「······そうか」

 

クルルを優しく抱きしめる。

 

クルル「·······そうよ」

 

クルルが抱きしめ返してくる。

 

暖かい何かに包まれる感覚を覚えながら、俺達はまた深いまどろみの中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシア「······大丈夫ですか?イッセーさん」

 

イッセー「あ、ああらいひょうふれふ」

 

何て言ったんだ?

 

小猫「自業自得です」

 

放課後。クルルと合流してから一足遅れて来た部室では、何故か、ボコボコにされた状態をシスター・アーシアに治療されているイッセーがいた。

 

八幡「······お前·····何したんだ?」

 

小猫「······女子更衣室のロッカーに隠れて覗いてました」

 

八幡「最低じゃねぇか」

 

こいつは······どうしようもねぇな······今なら豚箱にぶち込んでも文句ない。

 

クルル「うわぁ·····幻滅よ·····呆れない貴女達を尊敬するわよ」

 

リアス「しょうがない子ね。イッセーは」

 

それだけなのか······こいつらは貞操観念がどこかおかしいんじゃないんだろうか。

 

 

イッセー「いやぁ······友人に誘われてつい」

 

クルル「誘われた? 誘ったんじゃなくて?」

 

イッセー「違いますよ!! ······二つ返事でノったのは俺ですけど」

 

イッセーがそういうと、シスター・アーシアが涙目になって言う。

 

アーシア「······一誠さんは裸を見たいんですか····?だったら!!」

 

イッセー「わーわー!!!違う違うそういうことじゃなくて!!」

 

服を捲ろうとしたところを、イッセーが慌てて諌める。

 

リアス「そうよイッセー。見たいのならいつでも見せてあげるのに」

 

イッセー「部長!!?」

 

こいつらは平常運転だな······頭痛くなってきた。

 

八幡「何かどうでもよくなってきた······」

 

クルル「はぁ、あほらし」

 

 

 




今思う。今回の話必要なのかそうでないのか自分でもよく分からなくなってきた。



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第7話 レーティングゲーム①

 

 

祐斗「·······部長のお悩みね·····多分グレモリー家のことじゃないかな?」

 

放課後。クルルと合流して、イッセー、塔城、木場と部室に向かっている時だった。何やら、イッセーはリアス・グレモリーに夜這いされ、現れたグレイフィアがその場を収めたらしい。

 

イッセー「朱乃さんなら何か知ってるかな」

 

祐斗「朱乃さんは部長の懐刀だからおそらく───っ!!?」

 

懐刀だったのか。まぁ『女王』ってのは基本どこもそうか。俺とかサーゼクスは女王は俺の嫁!!ってな具合だが。クルルはほぼ戦わせないし。いや弱いからではないが。

 

イッセー・小猫「「·····?」」

 

突如警戒心を高めた木場に、理由が分からない兵藤と塔城は首を傾げる。

 

祐斗「······ここに来て初めて気付くなんて·····」

 

八幡「なんだ今気付いたのか」

 

この距離でやっとか······これじゃあ、他所の眷属には勝てないな······

 

クルル「随分遅かったのね」

 

祐斗「君達は初めから気付いていたのかい······?」

 

八幡「気付いてたっつうか······俺はこの街のどこかで魔力が動いたら全部分かるし」

 

俺の索敵能力ならこの街の端から端くらい余裕余裕。

 

クルル「まぁ、私も八幡ほどじゃないけど索敵範囲にはそれなりに自信があるわね」

 

 

 

 

 

 

イッセー「·····ちわーす」

 

八幡「うす」

 

部室には、リアス・グレモリーと姫島、それに銀髪でメイド服の女───グレイフィアがいた。

 

グレイフィア・ルキフグス。『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』ことサーゼクスの『女王(クイーン)』にして嫁。普段はグレモリー家のメイドだが、私生活だと主従の逆転が起こる。サーゼクスはもっと自重しろ。

 

 

イッセー「グレイフィアさん!!?」

 

八幡「よぉグレイフィア」

 

クルル「グレイフィア、久しぶり」

 

グレイフィア「お久しぶりでございます。八幡様、クルル様」

 

グレイフィアは、俺達を見ると恭しく頭を下げた。

 

イッセー「あれ?知り合い?」

 

知り合いというか、サーゼクスは幼馴染みなだけに、結構付き合いは長い方か。

 

八幡「ああ」

 

グレイフィア「お嬢様。私からお伝え致しますか?」

 

リアス「いいえ結構よ。実はね······」

 

リアス・グレモリーが口を開いた時だった。魔法陣が突然展開した。魔法陣から炎と共に、リアス・グレモリーの婚約者であるライザー・フェニックスが現れる。

 

ライザー「····ふぅ。人間界は久しぶりだ······会いに来たぜ。愛しのリアス」

 

イッセー「誰だ!!?」

 

八幡「········フェニックス家の三男、ライザー・フェニックス。グレモリー家次期当主の婿様だ」

 

イッセー「グレモリー家の次期当主の婿って······まさか!!?」

 

グレイフィア「リアスお嬢様の御婚約者様でございます」

 

ライザー「紹介にあずかり光栄だ。八幡殿、クルル殿、お久しぶりです」

 

八幡「ああ」

 

クルル「そうね」

 

イッセー「え······こ、婚約ぅぅぅぅ!!!?」

 

いや落ち着け。貴族なら普通に考えてこんなんいくらでもあるわ。

 

 

 

 

 

ライザー「······いやぁリアスの『女王』が淹れてくれた紅茶は美味しいなぁ」

 

リアス・グレモリーとライザーが俺と対面になるようにソファーに座っている。

 

朱乃「痛み入りますわ」

 

イッセー「·····こんないけ好かない奴が部長の婚約者!?」

 

八幡「おいやめろイッセー」

 

リアス・グレモリーの太股を舐め回すように触るライザー。流石に我慢の限界がきたのか、リアス・グレモリーはライザーの手を払い除けて立ち上がる。

 

リアス「·····いい加減にして頂戴ライザー。以前にも言ったように、私はあなたと結婚する気はないわ」

 

ライザー「だがリアス。君のお家事情はそんな我が儘が通用するほど余裕はないと思うんだが?」

 

実際はミリキャスもいるからそこまで切羽詰まってはいないんだが······先走りすぎなんだよ、あの人は。

 

リアス「いえ、家を潰すつもりはないわ。婿は迎え入れる。でも、私は私がいいと思った人と結婚する」

 

純血の悪魔は既に2000年前の2/5近くまで数を減らしており、一人でも多く存続させるのが急務となっている。減った原因の半分ぐらいは俺だが、まぁこの話は今はいいだろう。

 

ライザー「だがなリアス。先の戦争で激減した純血悪魔を絶やさないということは悪魔全体の問題でもあるんだ」

 

話は平行線をなぞるだけ。一旦切らないと話が纏まらなそうだ。

 

八幡「······両者そこまでだ。これじゃいつまで経っても話が平行線だろうが」

 

ライザー「しかしですね八幡殿」

 

八幡「お前の言いたいことは予想がつく。お前がフェニックス家の名前を背負ってるってこともな。なら······何故俺達やグレイフィアがいると思う?」

 

俺がいることの理由に得心がいったのか、ライザーは一人頷く。

 

ライザー「······なるほど。最初からその腹積もりで」

 

グレイフィアがリアス・グレモリーを見据えて言う。

 

グレイフィア「······旦那様はこうなることを予想していました。話が決裂した場合の最終手段を、旦那様より仰せつかっております」

 

リアス「最終手段?どういうことかしら?」

 

クルル「それは、貴女が話を拒んだ場合はライザーとのレーティングゲームで決着を付けろ、ってことよ」

 

クルルがグレイフィアに続ける。若干、被せられたことへの反感の視線がクルルに向けられていた。

 

イッセー「·····レーティングゲーム?」

 

八幡「上級悪魔以上の悪魔が、自分の下僕を戦わせる一種のチェスに似たゲームだ。まぁ、本来ならリアス・グレモリーはまだ土俵に上がってすらいないがな。今回は非公式ってことで例外」

 

例外とは言うものの、この手の話はわりかし多く、土俵に上がれてすらいない子供が例外扱いで挑むこともある。悪魔の貴族内ならば、そこまで珍しい話でもない。

 

ライザー「しかしですね······俺はレーティングゲームに何度も出場していて勝利した経験もありますが、リアスはまだ出場資格すらありませんよ?」

 

そう言うと、リアス・グレモリーの方を見ながらライザーが指を鳴らす。再び魔法陣が展開して、そこからライザーの眷属15人が現れた。

 

ライザー「こちらは15人で、駒は全て揃っています。対して、リアスの駒はここにいるので全員でしょう?」

 

まぁ遺憾ながら本当はもう一人いるんだが、そいつは今なぁ······自分勝手にも程があると思うが、会いたくなってきた。もう3年か······

 

イッセー「美女が······美少女ばかりが15人だと!!!?」

 

あ、こいつの夢はハーレム王だっけ。アホか。

 

イッセー「なんて奴だ······なんて男なんだぁ!!!」

 

そう嘆き? ながらイッセーは泣き崩れる。マジかこいつ。

 

ライザー「お、おい、リアス······この下僕君俺を見て号泣し始めたぞ?」

 

イッセーは、それを見たライザーにまでがちドン引きされる。

 

八幡「イッセーうるさい」

 

クルル「うるさいわ」

 

全く········

 

リアス「その子の夢はハーレムなのよ······」

 

「キモッ」

 

「キモイですわ」

 

クルル「呆れた······いったいどの口がそんなことを」

 

まぁ言ってること間違ってないからな。少なくとも、女性の前で言うことではない。

 

ライザー「ふぅん······ユーベルーナ」

 

そんなイッセーをつまらない目で見ていたライザー。

 

ユーベルーナ「はいライザー様」

 

ライザーは突然『女王』を呼んだ········まぁ何するかは想像つくな。

 

ライザー「ん·······」

 

やっぱり。ライザーはユーベルーナという眷属と熱いキスをし始める。そして、キスしたまま眷属の胸を揉み始めた。それを見てリアス・グレモリーは思いっきり顔を顰める。

 

イッセー「なっ!? ······何してんだ!!」

 

ライザー「お前如きでは一生こんなこと出来ないだろう?下級悪魔君?」

 

イッセー「そんなんだと、部長と結婚してからも他の女の子とイチャイチャするんだろ!!? この種まき焼き鳥野郎!!」

 

こいつは馬鹿か······しかも、ライザーの琴線に触れちゃったし。まぁ、フェニックスに焼き鳥はねぇよな······まぁ間違っちゃいないが。

 

ライザー「貴様······自分の立場を弁えてものを言っているのか?」

 

イッセーの一言により、ライザーのさっきまでのチャラチャラした表情は消えさり、侮辱した相手を睨んでいる。

 

イッセー「······うっせぇ!! 俺は部長の下僕だ!! それ以外でもそれ以下でもねぇ!!!」

 

リアス「······!!」

 

おい、イッセーの奴赤龍帝の篭手を顕現しやがった。ハァ······止めるか。

 

イッセー「ゲームなんざ関係ねぇ!今この場で全員倒してやる!!」

 

八幡「やめろイッセー」

 

イッセー「辞めねぇ!!!」

 

八幡「なら、黙れイッセー」

 

俺の中の赤龍帝の力の応用でイッセーの赤龍帝の篭手を強制的に解除する。こういう時だけは便利だが、この力ほんとに捨てたい。

 

イッセー「なっ!!!!?」

 

八幡「暫く寝て、ろっ」

 

素早くイッセーの後ろに移動する。それにイッセーが気づく前に首に手刀を叩き込む。

 

イッセー「がっ······」

 

気絶して倒れるイッセーの左手首を掴む。木場に預けとけばいいか。

 

リアス「イッセー!!!」

 

八幡「······この馬鹿が······悪いなライザー」

 

気を失ったイッセーをリアス・グレモリーに預ける。

 

ライザー「いえ。この場をおさめていただき感謝します」

 

八幡「·····そうか」

 

ライザー「はぁ······最凶最悪と謳われた『赤龍帝の籠手』の使い手がこんなつまらん男だとはな」

 

ライザーは気絶するイッセーを見て呟く。その顔には、侮蔑しか映っていなかった。

 

リアス「!! ······分かったわライザー。レーティングゲームで決着を付けましょう」

 

グレイフィア「承知致しました。お嬢様」

 

八幡「悪いがライザー······今回は俺はこちら側だ。サーゼクスからの依頼でな」

 

ライザー「魔王の命令とあらば、仕方のないことでしょう」

 

ライザーの予想の内だったのか、これには特に驚かれなかった。

 

リアス「ライザー───あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

おい、挑発すんな。出来もしないくせに。

 

ライザー「それくらいのハンデは必要でしょう。ではなリアス。楽しみにしている。次はゲームで会おう」

 

ライザーは魔法陣を出現させ、眷属と共にその場から消えた。

 

 

······やだやた。これだから貴族の内輪揉めは嫌いなんだ。たかだか婚姻一つでこんなに揉めやがって。ハプスブルクかよ全く。

 



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第8話 レーティングゲーム②

 

 

 

 

八幡「······試合は10日後。それでいいんだな?グレイフィア」

 

ライザーが去った後、今までとは一転して部室には重々しい雰囲気が漂っていた。

 

グレイフィア「······はい。お嬢様とライザー様。経験や戦力の差から鑑みてそれくらいは妥当かと」

 

10日ねぇ······正直、他所で勝手にやってて欲しいが、引き受けた以上はしょうがない。

 

リアス「悔しいけど·····認めざるを得ないわね。修行期間として、ありがたく頂戴するわ」

 

そこで、気絶していた兵藤が目を覚ました。

 

イッセー「······はっ!!!」

 

八幡「起きたか」

 

イッセー「あれ·····『赤龍帝の籠手』を使って焼き鳥を倒そうとして······それからが思い出せない」

 

八幡「······お前が神器を出したから俺が気絶させた」

 

俺はトラブルの神様にでも目を付けられてるのか······心当たりめっちゃあるんですけど。

 

イッセー「何で!!?」

 

八幡「お前はリアス・グレモリーの眷属だ。不用意な行動はリアス・グレモリーの品位を貶めると思え」

 

イッセー「グッ······それも、そうか······」

 

馬鹿だが、全く頭が回ってねぇ、ってわけでもなさそうだな。

 

八幡「······帰るぞクルル。グレイフィア、細かいことは決まり次第連絡してくれ」

 

グレイフィア「かしこまりました」

 

クルル「ええ······じゃあね、また明日(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

八幡「·······おら足動かせイッセー。こんなんでへばってんじゃねぇよ」

 

イッセー「······そうは言ってもよ、八幡·····」

 

俺達は山道を登っていた。この先には、グレモリー家所有の別荘がある。俺は昔サーゼクスと来たことがある。山の中腹あたりから見えた景色は、一昔前とはまるで違って、この辺の開発が進行した事実を突きつけてくる。

 

 

今日より10日間。何故か山籠りすることになっている。別に山籠りする必要はないんだが。

まぁグレモリーが決めたことだから渋々付き合うしかないのだが······

 

八幡「ほれ、塔城を見ろ」

 

塔城は、自分の体よりも遥かに大きいバックパックを背負っている。何が入ってるんだろうか······え?クルルの分の荷物? 当然俺のバックパックに入ってる。何を当たり前なことを。

 

クルル「······ほら、もうちょっと気張りなさい赤龍帝君」

 

イッセー「そうは······言っても·····」

 

八幡「先行くぞ」

 

クルル「まぁ頑張って」

 

イッセー「何で疲れてないの······」

 

人外はこの程度で疲れたりせんわ。

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後。ようやく到着。

 

イッセー「はぁ······はぁ······やっと着いた·····?」

 

兵藤はグロッキーになってましたが、それ以外は息が上がってすらいない。シスター・アーシアが思ったより体力あった。

 

八幡「おらイッセーとっとと着替えろ。すぐに特訓すんだぞ?」

 

イッセー「え?すぐ?」

 

八幡「時間がただでさえねぇんだよ。ボサッとすんな」

 

イッセー「······お、鬼か····」

 

 

 

 

 

 

 

八幡「·····じゃあこれから修行な」

 

着替えてから、中庭に集合して一言。

 

八幡「この10日間は俺が鍛えるからな」

 

リアス「初耳なのだけれど·····」

 

八幡「言ってないからな」

 

そも、レーティングゲームするのは最初から決定してたからな。

······あの酔っ払いどもめ。あとでシバいてやる。

 

祐斗「でも、何をするんだい?」

 

八幡「簡単だよ。クルル以外のここにいる奴全員で俺を殺しにこい」

 

「「「「「は?」」」」」

 

俺が言うと、一同が揃って素頓狂な声を上げる。

 

八幡「俺はお前らの戦い方よく知らんからな。明日からは俺と眷属でちゃんとした修行をするから」

 

バイサーはこいつらにやらせれば良かったと今更に思うわ。

 

イッセー「でもよ八幡。アーシアを抜いても1対5だぜ?流石にお前が不利だろ」

 

八幡「安心しろ。伊達に最上級悪魔やってない。お前ら全員を倒すのなんか赤子の手を捻るより簡単だ」

 

初心者に負けるような甘っちょろい鍛え方はしてないからな。

 

リアス「言ってくれるわね」

 

八幡「それとも······」

 

バイサーを斬ったボロ刀を出す。

 

祐斗「随分刃こぼれが酷いね」

 

そりゃ、長年手入れ怠ってたらいつの間にかこんなんになってたからな······後で研がなきゃなこの刀。それなりの業物だったはず。

 

八幡「問題ない。あと、天使の力を使うことはないから安心してくれ。クルルとシスター・アーシアはこいつらの治療を頼む」

 

クルル「はいはい」

 

アーシア「わ、分かりました」

 

八幡「じゃあ俺は今から15秒間は、自分からは攻撃しない」

 

小猫「······舐めすぎです」

 

眉間に僅かに皺を寄せた塔城が反論してくるが、無視する。

 

イッセー「小猫ちゃんの言う通りだ!」

 

実力が分かってないなら、ほんの少しだけチラつかせて分からせる······と。昔もやったなぁ······

 

八幡「それはやって見てからにしろ。始め」

 

 

そう言った瞬間、塔城と、『赤龍帝の籠手』を顕現したイッセーが殴り掛かってくる。先に殴ってきた塔城のパンチを受け止め、そのまま拳を掴んで塔城をイッセーの方に放り投げる。

 

イッセー「うわっ!?」

 

次に木場が魔剣を創造して斬りかかってくるのを、魔力を纏わせた刀で受け止める。

 

祐斗「······やるね」

 

木場と鍔迫り合いをしていると、リアス・グレモリーが魔力を、姫島は雷撃を放って来たので、刀を左手で持ったまま右手から魔力を放出し相殺する。

 

八幡「········15秒だ」

 

鍔迫り合いをしていた木場の腹を蹴り飛ばす。木場はそのまま数十m彼方まで飛んでいった。

 

リアス「祐斗!」

 

八幡「余所見すんな」

 

もう一度魔力を放ち、リアス・グレモリーと姫島を吹き飛ばす。

小猫「えい」

戻って来た塔城が右ストレートを放ってくる。それを利用して背負い投げ。塔城は投げの威力に怯んだようだが、すぐに距離を取る。

 

イッセー「うおぉぉぉっ!!」

 

赤龍帝の篭手で身体強化をしていたらしい兵藤がこれまたパンチを放ってくる。それを片手で受け止める。

 

イッセー「なぁっ!!?」

 

クルルに治療され戻って来た木場が再び斬りかかってくる。それをまた刀で受け止める。

 

祐斗「強いね······」

 

八幡「舐めんな」

 

兵藤を蹴り飛ばし、木場の魔剣をかち上げる。木場の手から離れた魔剣をジャンプしてキャッチし、木場の肩に剣の腹で落下の衝撃を乗せた殴打を繰り出す。

······骨は砕けてはいない筈。

 

木場「ぐあっ!!」

 

八幡「おら頑張れ。ライザー倒すんだろ?」

 

小猫「······えい」

 

今度は突くような蹴りを放ってきた塔城の足首を掴み魔法を放ってきた姫島にぶん投げる。

 

小猫「うあ······」

 

朱乃「!!」

 

塔城は、投げられるそのままに姫島の雷撃をもろに食らった。木場と塔城は一時的に戦線離脱か?

 

八幡「シスター・アーシア。治療してやれ」

 

アーシア「·······は、はい!」

 

八幡「どうしたお前ら。まだ大したことは何もしてないぞ?」

 

イッセー「うぐっ······」

 

八幡「·······一旦中断だな」

 

この辺で一旦中断するか。ちゃんと治療せんといかんし、やりたいことあるし。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

八幡が突然中断した。余裕な表情だったから、あの攻防がキツかったってわけではないと思う。いや、1対5をあの余裕な表情でやってるのは凄いんだけど。

 

八幡「·······全員、治療は終わったな」

 

アーシア「はい」

 

クルル「終わったよ」

 

驚いたのは、クルルさんがかなり凄い回復の魔法を持っていたことだ。『女王』の駒の特性を最大限活かしているということなのだろうか?

 

八幡「·······イッセー、『赤龍帝の籠手』を出せ」

 

イッセー「?おお、分かった」

 

何でかは分からないけど、言われたので『赤龍帝の籠手』を出す。

 

イッセー「出したぞ」

 

八幡「よし······」

 

八幡が左手を突き出した。その途端八幡の左手が光出した。

 

八幡「·······『赤龍帝の籠手』」

 

光が止むと、 八幡の左手には俺の神器と同じ籠手がはめられていた。

 

イッセー「······え?」

 

あれ?俺の神器はその中でも神や魔王さえも一時的に上回ることが出来ると言われる神滅具(ロンギヌス)の一つ、『赤龍帝の籠手』で·······一つしか存在しないんじゃ······

 

「「「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!?!!???」」」」」」

 

何で八幡が同じ物を持ってるんだ!!? それに答えるかのように八幡が口を開いた。

 

八幡「まぁ、『赤龍帝の籠手』っつっても俺のはイッセーのより性能の高いレプリカってとこだよ」

 

レプリカ!!? そっちの方が凄いよ!! というかオリジナルより性能高いレプリカとはいったい·····

 

リアス「待って!レプリカ!!?どういうこと!!?」

 

八幡「お前、昔の戦争についてどれくらい知ってる?」

 

リアス「え?·······天使、堕天使、悪魔の三大勢力の争いは特に勝者が現れないままそれぞれが大打撃を受けて、そのまま終わったってことくらい······」

 

八幡「さて、ここで問題だ。三大勢力に大打撃を与えたのは誰だ?」

 

リアス「確か·····お兄様が二天龍だと·····まさか!!?」

 

どういうことだ?理解が追いつかなくなってきた。

 

八幡「ま、二天龍の片方はイッセーの籠手に封印されてるってことだ」

 

この篭手の中に·····龍が!!?······そう言えば、少し前に夢に赤い龍が·······

 

八幡「イッセーは夢で何か見ただろ?」

 

イッセー「何で知ってんだ?」

 

八幡「決まってる。二天龍の力を奪って封印したのが俺だからだ」

 

さっきのを遥かに越す超特大級の爆弾が投下された。

 

「「「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!!??」」」」」」

 

八幡「うるせぇなお前ら····鼓膜破れるかと思ったわ」

 

イッセー「いやいや、普通驚くだろ!!?」

 

俺の神器の中に眠ってる龍を八幡が封印した!!? あ、頭が追い付かないんですけど······

 

八幡「······まぁいい。それより、俺がお前が起きていることに気付かないとでも思ったか?」

 

今度は突然何を言い出すんだ?そう皆が疑問に思っていると

 

『······ふん、貴様がいけ好かないだけだ』

 

「「「「!!!?」」」」

 

俺の籠手から突然声が響いた。この声·······俺が夢で聞いた声だ。だからこいつは"相棒”なんて言ったのか······

 

八幡「よう赤龍帝。力を殆ど持たない気分はどうだ?」

 

『最悪だ。貴様のせいでな』

 

フン、と鼻を鳴らしてドラゴンは言う。

 

イッセー「こいつが······龍·······」

 

『よう。こちらで会うのは初めてだな相棒』

 

八幡「·······赤龍帝。2度とクルルを傷付けないこと、イッセーに従属することを誓え。これは命令だ。逆らうようであれば今すぐにお前という存在を消す。毎度言っていることだがな」

 

八幡が言うことは、俺の為を思ってでもあるんだろうけど、2度とクルルを傷付けない、ってのはどういうことなんだろう······

 

『チッ······いいだろう。もとよりお前は拒否権を与えていない』

 

八幡「それでいい。俺はお前を永遠に許さないしお前は永遠に俺に逆らえないんだからな」

 

『ふん·······』

 

リアス「ちょっと·····どういうこと!!?」

 

『簡単な話だグレモリーの娘。こいつは暴れまくった龍を封印する際に、ほぼ全ての力を奪ったのさ。だからこいつはこの籠手のコピーを使えるんだ』

 

イッセー「マジで!!?」

 

というか、こいつがコピーって言ったってことは性能的には全く同じなのか。

 

八幡「そうだ。そこのクソトカゲが持っている力は元来の0.1%くらいだ」

 

イッセー「0.1%!!? それでこんな強いのか!!?」

 

八幡「それが三大勢力に大打撃を与えた所以だ」

訂正。八幡の篭手の方が全然強かった。

 

八幡「イッセー、今から赤龍帝の篭手に少しだけ力を戻す」

 

ごくり。これでほんの少しでも力が戻ったらどうなるんだ······?

 

八幡「但し気を付けろよイッセー。いくら赤龍帝が俺に逆らえないとはいえ、お前自身が力に呑まれたら終わりだからな。自分を強くもて。自分を見失えばそこで終わりだ」

 

イッセー「······分かった」

 

力に呑まれる、か。

 

イッセー「要は、俺が俺でいれはいいんだろ?簡単じゃねぇか!!」

 

八幡「そうか·····歴代の赤龍帝には力に呑まれかけた奴もけっこういる。覚えとけよ」

 

イッセー「おおよ! それに、今は部長の婚約を何とかするのが先だ!」

 

俺のことで部長に余計な心配事を増やすわけにはいかない。ただでさえ迷惑を掛けているのだ。これ以上心配させられない。

 

八幡「なら、力を戻す。·····そうだな、0.5%くらいだな。それ以上はお前の体がもたないだろうからな。イッセー左手を出せ」

 

言われた通り左手を出す。八幡が俺の左手に自分の手を翳す。

 

八幡「······汝に主への従属のもと、力を与えん」

 

そう言うと、俺の左手が僅かに光った。

 

八幡「·····これで終了。おいトカゲ。イッセーに逆らうなよ」

 

『ふん·····相棒に力を貸せど、相棒から奪ったりはしない。したところで得するわけでもないからな』

 

それが言えるなら、戦争に介入したのは何でだ········

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 



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第9話 レーティングゲーム③

 

イッセーside

 

あの後、八幡から戻された赤龍帝の力も使って、オカルト研究部は八幡を攻撃し続けた。だが········

 

八幡「·······今日はもう日が暮れ始めたからここまでにするか」

八幡には総攻撃を続けても、擦り傷一つ与えることは出来なかった。対してこちらは、俺や木場や小猫ちゃんが攻撃しに接近する度に、ある時はあんなに刃がこぼれた刀で吹っ飛ばされ、ある時はカウンターで吹き飛ばされて、味方の攻撃まで食らう。

部長や朱乃さんは、魔法で攻撃するも相殺され、2人の苦手な近距離に持ち込まれ攻撃を食らう。その度にクルルさんやアーシアが治療する。とにかくその繰り返しだった。

 

祐斗「·······ここまで差がある、とは思わな、かった」

 

小猫「······格が、違う」

 

八幡「そりゃそうだ。伊達に最上級悪魔やってねぇよ」

 

いや、そうは言っても息一つ乱れてないのは流石に·····

 

リアス「これが二天龍を封印した男·······」

 

八幡「言っとくが、(トカゲ)の力も使ってないからな」

 

マジかよ·····

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

修行2日目。今日から俺の眷属の何人かを呼んでそいつらと修行を付けることになっている。俺はイッセーを見ないといけないからな。赤龍帝の力を一番上手く特訓出来るの俺だし。

 

イッセー「·····昨日はあんな風にやったけど、今日はどうするんだ?」

 

イッセーが聞いてくる。ま、問題はない。

 

八幡「安心しろ。ちゃんとした講師を呼んである」

 

そう言って自分の後ろに魔法陣を出現させる。魔法陣からは3人の俺の眷属が出てくる。

一人目は背中に1本、左腰に2本の刀を差した和装の男。

2人目は、金髪でクルルと同じくらいの身長の少年。

3人目は、これまたクルルと同じくらいの身長で銀髪をツインテールにまとめた少女。

 

勝永「毛利勝永、悪魔です。駒は『兵士』です。以後お見知り置きを」

 

メリオダス「メリオダス、同じく悪魔だ。駒は『戦車』。宜しく!」

 

メリオダスは厳密には俺の眷属ではないが、頼んだら二つ返事で受けてくれた。

 

桃花「四条桃花、同じく悪魔。駒は『僧侶』です」

 

尚、3人とも本当は悪魔ではないが、言う必要がないので黙っておく。

 

八幡「······お前らは、今日からこいつらに修行を付けてもらう」

 

俺がそう言うと、イッセーが、

 

イッセー「ロリッ娘だ······ロリッ娘がいる······」

 

と、桃花を見ながら言ってきた。それを見た塔城に即刻殴られていたが。大丈夫かこいつ。

 

小猫「······変態」

 

桃花「······八幡、僕はこれから9日間が心配なのですが?」

 

お前はイッセーくらい寝てても簡単にボコせるだろうが。

 

八幡「······特別手当出しとくから、頼む」

 

メリオダス「また変なことやってんなー八幡は」

 

勝永「まぁ、主のやることを止めたりはしませんよ。我ら眷属は」

 

八幡「いや忙しいところ来てくれて助かった。ありがとな」

 

駒王に来てからは、眷属達に冥界しか出来ない仕事のほとんどを任せっきりだった身としては申し訳ない。

 

桃花「さっき勝永が言ったように僕の主は八幡ですので」

 

メリオダス「まぁそうだよな。それで?向こうの紹介は?」

 

八幡「ああそうだな。頼むわ」

 

リアス・グレモリー達にも自己紹介を促す。

 

リアス「失礼しました。彼らの主であるリアス・グレモリーよ。爵位は公爵。よろしく頼むわ」

 

 

朱乃「姫島朱乃ですわ。駒は『女王』です。今後ともよろしくお願いします」

 

 

祐斗「木場祐斗です。駒は『騎士』です。よろしくお願いします」

 

 

小猫「······塔城小猫。『戦車』です。よろしくお願いします」

 

 

イッセー「ゲホッ······痛っ。兵藤一誠です。『兵士』よろしくお願いします」

 

まだ塔城にやられたの痛がってんのか。

 

アーシア「ア、アーシア・アルジェントです。『僧侶』です。よろしくお願い致します」

 

 

 

メリオダス「ほう。何やら可愛いのが」

 

桃花「あなたはまたそんなことを言っているんですか?」

 

 

八幡「········勝永は木場を頼む。絶対に建物に傷付けんなよ。後、ちゃんと加減しろよ」

 

勝永「承知しました」

 

こいつは平気で斬撃飛ばして山とか真っ二つにするからな。俺も教えて貰って出来るようにはなったが。

 

祐斗「よろしくお願いします」

 

八幡「メリオダスは塔城だ。加減はそっちに任せる」

 

メリオダス「よしきた」

 

小猫「·······お願いします」

 

何か不安もあるが········まぁ流石に大丈夫だろう。こいつは昔騎士団の団長をしてたし。加減は分かるよね?大丈夫だよね?

 

八幡「桃花はリアス・グレモリーと姫島先輩を頼む。お前も建物には傷を付けないでくれよ。頼むから」

 

桃花「······僕をなんだと思ってるんですか?」

 

悪かったって。そのジト目やめて。こいつの神器も割と平気で斬撃を飛ばすからな······

 

リアス「よろしく」

 

朱乃「よろしくお願いしますわ」

 

八幡「イッセーは俺とマンツーマンな」

 

イッセー「マジか······」

 

八幡「シスター・アーシアは、クルルについて他の所を回ってひたすら治療」

 

クルル「分かったわ」

 

アーシア「は、はい。精一杯やります」

 

八幡「よし、それじゃ始め」

 

そう言った瞬間だった。

 

祐斗「!!?」

 

リアス「なっ!!?」

 

勝永は背中の刀を抜いて、横に振った。木場が屈んでくれて助かった。向こうの山が真っ二つになったからな。

一方の桃花も、神器である巨大なコンパスから黒い斬撃を2人の間に飛ばして向こうの山の一部を抉った。·······こいつら······加減してるし、いくら誰もいない山だからってなぁ······

 

イッセー「何だありゃ······」

 

小猫「······は?」

 

イッセーと塔城は開いた口が塞がらないようだ。

 

メリオダス「お~お〜。早速やってんなぁ」

 

頼むからお前は加減をしてくれよ······多分大丈夫だろうけどさ。

 

勝永「主が「始め」 と言った瞬間から始まりです。今のはいい判断でした」

 

祐斗「それは、どうも······」

 

冷や汗を垂らしながら、木場は作った魔剣を構える。

 

桃花「ダメですよ。もう始まってるんですから」ニ

 

頼むからその嗜虐的な微笑みを引っ込めてくれよ。リアス・グレモリーと姫島先輩が思いっきりビビってるだろ········

 

リアス「まさかこれほどとは······」

 

朱乃「·······想像を遥かに上回っていましたわ」

 

八幡「おらイッセー。俺達もやるぞ。お前が戦闘力は一番高くもあり、最低でもあるんだから」

 

イッセー「······よっし。やってやる!!」

 

イッセーが赤龍帝の篭手を出す。そうして殴り掛かってくる。さて、俺もやりますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルル「······ふい~」

 

八幡「お疲れ様」

 

クルル「八幡もね」

 

俺達は2人部屋である。今日の分の修行を終えて、俺達は今部屋の風呂に入っている。2人で。

 

八幡「·······シスター・アーシアはどうだった?」

 

クルル「そうね······魔力量もかなり多いし、高位の使い魔もいるから····自衛くらいは教えられるかも」

 

八幡「そうか」

 

チラッと横を見ると、こいつの背中の大きな傷後が目に入る。やっぱり、あの時赤龍帝だけでもちゃんと消しとけば良かったのかな·······

 

クルル「八幡」

 

八幡「ん?」

 

クルル「八幡がそんなことを思う必要はないわよ。思ってくれるのは嬉しいけどね」

 

そう言って、はにかむクルル。ただ、ほんの僅かではあるが顔が暗い。

 

八幡「クルル」

 

クルル「ん?」

 

何の気なしに向いてきたであろうクルルの唇を奪う。

 

 

八幡「······お前を絶対に助ける。だから、そんな顔しないでくれ。お前にはそんな顔似合わない」

 

 

なんからしくないこと言ってんな、俺は。でも、クルルの顔が明るくなったからよしとしよう。

 

クルル「······貴女が助けてくれるのを····いつまでも待ってるからね」

 

 

 






八幡の眷属とパロキャラの出典を入れときます。キャラ崩壊は大目に見てね。パロキャラの作品のタグも一応入れておきます。

『王』
比企谷八幡(俺ガイル)


『女王』
クルル・ツェペシ(終わりのセラフ)


『僧侶』
四条桃花(魔法戦争)
※作者はこの人の身長を知らないので、クルルと同じくらいとしてます。

???


『騎士』
???

???


『戦車』
メリオダス(七つの大罪)
※駒2つ消費


『兵士』
毛利勝永(常住戦陣!! ムシブギョー(全てが史実通りではないのでご注意を))
※駒2つ消費

???

???

???

???




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第10話 レーティングゲーム④

 

 

八幡「······ようイッセー。調子はどうだ?」

 

イッセー「八幡か!ああ!! バッチリだぜ!!」

 

レーティングゲーム当日。俺はクルルとメリオダスと観戦に来ていた。勝永と桃花はもう冥界のうちの領に帰っており、また仕事をして貰っている。

 

メリオダス「よ、小猫。10日間俺が鍛えたんだ。やれるな?」

 

小猫「······はい。メリオダスさん」

 

こちらも準備は整っているようだ。

 

祐斗「勝永さんと桃花さんが来れなかったのは残念だけど·········勝たないとね」

 

朱乃「そうですわね」

 

リアス「······試合が始まるわ。行きましょう!!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

ゲームフィールドへ転送する魔法陣がオカ研の足下に展開させる。

 

 

 

そして、リアス・グレモリー達はフィールドに転送された。

 

 

 

 

グレイフィア「······八幡様。サーゼクス様から······いえ、グレモリー卿とフェニックス卿から伝言を預かっております」

 

伝言?あの酔っ払いどもの伝言なんて嫌な予感しかしないが······

 

八幡「何だって?」

 

グレイフィア「はい。────────とのことです」

 

うん······は?

 

メリオダス「アハハハハハッ!! おい八幡!! サーゼクスに嵌められてんじゃねぇか!!」

 

八幡「うるさいぞメリオダス」

 

クルル「······はぁ」

 

俺もクルルも、これには溜息を堪ええない。

八幡「······はぁ。分かった。そうだ、サーゼクスの奴がな、この10日間毎日煩いくらい俺に連絡取ってきてリーアたんリーアたんしつこく煩かったけど、グレイフィアはグの字も出なかったぞ」

 

グレイフィア「······なるほど。旦那様には覚悟しておいていただきましょう」

 

ざまぁみろ。

 

メリオダス「八幡も相変わらずだな······」

 

 

 

 

 

 

 

八幡「······よおソーナ。俺達もここで見させてもらう」

 

グレイフィアと別れて次に来たのはソーナ達の所だ。観戦するならここが一番いい。

 

ソーナ「八幡君とクルルちゃんに、メリオダスさんまで!!?」

 

メリオダス「よ、ソーナ。久しぶり」

 

ソーナ「お、お久しぶりです」

 

ソーナは慌てて頭を下げる。それよりほら、お前の所の『女王』が呆けてるぞ。

 

ソーナ「椿姫、こちらはクルルちゃん、八幡君の『女王』です。こちらの方はメリオダスさん。八幡君の『戦車』です」

 

椿姫「大変失礼致しました!! ソーナ様の『女王』の新羅椿姫と申します!」

 

クルル「『女王』のクルル・ツェペシ。よろしく」

 

メリオダス「『戦車』のメリオダスだ。よろしくな」

 

八幡「俺達もここで見てていいか?」

 

ソーナ「ええ。それは構わないわ」

 

許可も貰えたし、ここで3人で見るとしよう。

 

ソーナ「八幡君、リアス達は勝てるでしょうか」

 

ソーナが聞いてくる。まぁ、幼馴染みが気になるのは当然といえば当然か。

 

八幡「どうだろうな·······」

 

モニターにはトラップを張り終えて、待機しているそれぞれの眷属が映っている。

 

八幡「今日までの10日間、俺や俺の眷属でやるだけやったが······正直何とも言えないな」

 

ソーナ「そうですか·······」

 

全員10日前とは見違えるように強くなったとは思うが、ライザーだってそんな簡単に負けたりしないだろう。流石に。何しろ、時間が足りなすぎた。

 

八幡「イッセーが禁手化(バランス・ブレイク)出来れば話は変わるがな」

 

ソーナ「『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』ですか······確かに、あれがあれば勝機を見出すことも可能だと思いますが······」

 

八幡「いくら悪魔だからって、あいつは元々人間のヒヨッコだからな」

 

あの神器は、強化する素体がダメならなんの意味もない。

 

ソーナ「そうですか······」

 

モニターには洋服崩壊(ドレスブレイク) と叫びながらライザーの眷属の服を消し飛ばしたイッセーが映っていた。そんなところに行き着いたのか·······鍛えるんじゃなかったかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「がはっ········」

 

モニターにはイッセーが屋根から転げ落ちるさまが映っていた。

 

八幡「終わったな······」

 

ライザーの『女王』に、木場、塔城、を倒されシスター・アーシアを無力化された。その上、イッセーは赤龍帝の篭手の連続使用でもう体が限界だ。ライザーの妹のレイヴェルが戦わないとはいえ、ライザーとその『女王』を相手取るのはリアス・グレモリーには無理だ。

 

 

イッセー「俺······戦います。まだ······戦えます······俺、勝つって······」

 

イッセーがライザーに嬲られている。流石に見ていて気分が悪い。レーティングゲームがそういうものだと分かってはいるが。

 

リアス「辞めなさいイッセー!!」

 

イッセー「俺······部長が笑ってくれるなら·····」

 

リアス「······っ!!」

 

 

八幡「·····あいつ、イッセーを殺す気だな」

 

あの炎の量。ライザーの目の色。確実にイッセーを屠るつもりだった。

 

 

リアス「辞めてライザー!!私の負けよ······降参(リザイン)します」

 

ライザー「チェック───メイトだ」

 

イッセー「なっ······部長······そん、な·····」

 

イッセーはそのまま意識を失った。

 

グレイフィア『リアス様の降参を確認。このゲームはライザー・フェニックス様の勝利です』

 

無機質とも取れる声が響き渡った。

 

ソーナ「······3人ともどこへ?」

 

八幡「······やることが出来た」

 

俺達はソーナ達のいる部屋を後にする。

 

 

 

 

リアス「イッセー······ごめんなさい。あなたはよくやったわ」

 

俺達が部室に行った頃、気を失っているイッセーがシスター・アーシアに治療されていた。力を使いすぎた。2、3日目が覚めないだろう。

 

ライザー「······そういうことだリアス。大人しく俺と結婚するんだな」

 

リアス「っ······」

 

イッセー以外は既に目覚めており、部室に戻ってきていた。

 

八幡「······残念だがライザー。それはまだお預けだ」

 

ライザー「·········は?」

 

八幡「グレモリー卿とフェニックス卿の伝言だ。結婚したいのならば、比企谷八幡に一矢報いてみよ。だ、そうだ」

 

あの酔っ払い共は最初から俺に戦わせるつもりだった。ホントマジ巫山戯んな。あとでサーゼクスをシバく。

 

というか、ライザーじゃあ俺に攻撃出来っこないことぐらい分かるだろあのオッサン共······

 

グレイフィア「私が内々に預かったおいた言伝でございます。これより、ライザー様には八幡様とレーティングゲームをしていただきます」

 

ライザー「冗談じゃない······」

 

それは俺が言いてぇよ。

 

八幡「ハンデぐらい付けてやるよ。そっちはフェニックスの涙の使用は無制限。更にこっちは3人だけだ。まぁいいゲームとしちゃこんなもんだろ」

 

ライザー「······いくらなんでも、流石に舐めすぎではありませんか? 八幡殿」

 

八幡「そうかい。ならとっとと準備しろ」

 

その後、何も言わずにライザーは部室から出て行った。

 

クルル「それにしても、引き受けるあたり八幡らしいねぇ」

 

メリオダス「全くだな。その気になればいくらでも断れたのに」

 

八幡「······サーゼクスの頼みを無下に出来ねえしな」

 

なんだかんだ言っても、恩があるのは事実だ。それに、グレモリー家には返しきれない恩もある。

 

祐斗「······なら、何で部長とライザーが戦うことに?」

 

木場も疑問に思うのは仕方ないな。だってただの出来レースなのにやる必要もなかったとか。

 

八幡「······あの酔っ払い共曰く、ただ単に2人がどう考えているか見たいから、だとよ。こっちに飛び火させんな」

 

どうしようかなあの酔っ払い共は。酒の勢いでライザーとリアス・グレモリーの婚約を決めるとか有り得んだろ」

 

「「「「·······は?」」」」

 

何だよ間抜けた声を出して。

 

メリオダス「声出てたぞ。どうしようかな、ってあたりから」

 

八幡「そうか」

 

まぁ、いいか。今知るか後で知るかだし。

 

グレイフィア「······そ、それは本当ですか!?」

 

一番早く再起動したグレイフィアは鬼気迫る勢いで聞いてきた。

 

八幡「知らなかったのか?」

グレイフィア「知ってると思っていらしたんですか?」

 

こいつは知っててやってるのかと思ってた。以外だな。

 

八幡「ああ」

 

クルル「グレモリー卿とフェニックス卿はよく一緒にお酒飲んでるわよ?」

 

メリオダス「あいつらほんっとに酒に弱いよな。それでいつも嫁さんに叱られてるし」

 

メリオダスの言う通りだ。自重しろよ。だからこんな事態になんだよ。何回嫁さんにシバかれてんだよ。

八幡「·······そろそろ時間だ。グレイフィア、今回の試合の禁手事項は?」

 

グレイフィア「はい。龍の力と天使の力は使用禁止。また、使用可能は『塵外刀・真打』を威力10%まで。型式は『揚羽』、『蟋蟀』のみ使用可能。とのことです」

 

充分すぎるだろ······フェニックス卿は俺に、ライザーの心をへし折れとでも言ってんのか······

 

祐斗「待ってくれ。威力10%って、それでいいのかい!?」

 

八幡「ああ。まぁライザー相手ならそれくらいが限界だろ」

 

実際、10%もいらないが、まぁ使えるなら使う。

 

クルル「ダメよ木場。普通にやったらやりすぎるもの」

 

クルルが欠伸を堪えながら言う。あ、もう時間か。

 

八幡「クルル、メリオダス、行くぞ」

 

クルル「えぇ」

 

メリオダス「オーケー。と言っても八幡が全部やるんだろうけどな」

 

と、俺達の足元が光り転移の魔法陣が光ると、そのまま俺達は光に包まれた。

 

 

 

 

 

転送終了から数分。フィールドはさっきと同じ駒王学園のレプリカ。クルルとメリオダスはオカルト研究部の部室に。俺は旧校舎の屋根の上に突っ立っている。

 

八幡「メリオダス、クルルとお茶でもしててくれ」

 

メリオダス「分かった」

 

クルル「ありがとう八幡」

クルルとメリオダスとの通信を切る。

 

八幡「塵外刀・真打」

 

魔法陣から神滅器である『塵外刀・真打』を取り出す。

 

八幡「塵外刀 変化。型式『蟋蟀』」

 

塵外刀の刀身の峰がギザギザになり、超高速で振動を始めた。

 

そして、それを振りかぶり───

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

祐斗side

 

 

 

僕達はグレイフィア様が審判を務める部屋に同席してモニターを観ている。

 

祐斗「······たった3人で大丈夫なんですか?」

 

しかし、比企谷君以外は部室から動く気配がない。実質『王』が1人で動いているのだ。レーティングゲームにおいては異質だ。いや、将棋やチェスでも開始早々王が駒を取りに行ったりしない。

 

 

グレイフィア「······問題ないでしょう」

 

小猫「······いくらなんでも、1対15は無理です」

 

グレイフィア「それは見てれば分かることでしょう」

 

グレイフィアさんがそう言ってモニターを覗く。続いて僕らも覗く。そこには、比企谷君が大刀を取り出している所だった。『塵外刀・真打』というらしい。

 

八幡「······型式『蟋蟀』」

 

比企谷君がそう言うと、刀身が変化する。峰がギザギザしている。僕の魔剣創造(ソードバース)みたいなものなのだろうか。

 

八幡「······ふっ」

 

比企谷君がその大刀を横に一振りした時だった。

 

『ギャリィィィンッ!!!!』

 

振った瞬間に()()()()()、ライザー達がいる新校舎の殆どが吹き飛んだ。

 

リアス「なっ!!?」

 

グレイフィア『ライザー様の『女王』1名、『戦車』2名、『騎士』2名、『僧侶』2名、『兵士』8名、リタイア』

 

開いた口が塞がらない。アレを一振りしただけでライザーの眷属全員を倒したのだ。最大の20%というのは嘘なんだろうか?

 

グレイフィア「あれはまだ最大の1割未満でございます」

 

朱乃「冗談······でしょうか?」

 

グレイフィア「事実です。八幡様が全力で振らなくとも街一つくらいは簡単に吹き飛ばせるでしょうね」

 

威力の桁がおかしいだろう。そう思った僕は間違ってないと思う。

 

 

八幡「型式『揚羽』」

 

ほぼ全壊した校舎を見ていた比企谷君がそう言うと、今度は刀身が細く、黒くなった。あと、彼の周りに黒い何かが浮いているように見える。

 

ライザー「······ごほっ。何だ今のは······」

 

校舎の瓦礫からライザーが出て来る。

 

ライザー「······っ!!」

 

比企谷君がライザーに斬りかかった。速い。そのスピードは『騎士』である僕が全く見えなかった。ライザーは腕を斬られるが、即座に腕が元に戻る。

 

 

祐斗「やっぱり······不死の能力·····」

 

 

いくら比企谷君でも、無理ではないか。そう思った時だった。

 

八幡「······黒丸(こくがん)

 

比企谷君の周りに浮いていた黒い何かが集まって、幾つかの黒い球体が出来た。

 

八幡「行け」

 

そう言った瞬間、高速で黒い球体──黒丸というらしい──がライザーに向かって飛んでいく。黒丸は、形を変えてライザーを斬ったり、そのままぶつかってダメージを与えていた。黒丸というものはそれなりの質量を持っているようだ。

 

八幡「·······来いよライザー。一矢報いるぐらいやってみろ。でないと結婚が認められないらしいぞ」

 

ライザー「クッ·····このぉ!!」

 

ライザーが火を吹くが、黒丸は全て避け、比企谷君自身も飛んで避けた。

 

ライザー「何だ!?」

 

八幡「動きがとにかく分かりやすいんだよお前は」

 

それはきっと比企谷君が誘導しているのもあるからだろう。

 

ライザー「グッ········はぁ·····はぁ」

 

比企谷君の息は全く上がっていないのに、ライザーの息はどんどん上がっていく。

 

八幡「悪いな」

 

比企谷君がライザーに魔法を放つ。直撃し、ライザーの体が青白く輝き出す。

 

グレイフィア『ライザー様、リタイア。このゲームの勝者は八幡様です』

 

グレイフィアさんの声が響いた。

 

 

 

祐斗sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

レーティングゲームから1夜明けた翌日。

 

八幡「······ふぁ〜」

 

クルル「昨日は大活躍だったわね、八幡」

 

レーティングゲームの翌日。学校に登校する途中。

 

八幡「んな大したことしてねぇよ。レーティングゲーム直後のライザーを挑発しただけだ」

 

本当にそれだけ。ライザーが挑発に乗らなかったら、最悪、 俺と戦わずに事が運ぶ可能性もあったことを否定出来ない。別段、俺の不利益になるわけじゃないが。

 

八幡「·······夏に冥界に帰った時に、サーゼクス(バカ)グレモリー卿とフェニックス卿(酔っ払いども)はシバくか」

 

クルル「またそれ?どんだけ恨みを溜め込んでるの?」

八幡「·······クルルへの愛と同じくらいかね」

 

クルル「あっそう······」

 

やばい調子に乗りすぎた。

 

八幡「いだだだだだ!!」

 

脇腹を物凄い力で抓ってくる。ホントどこにそんな力があるんだ。脇腹千切れるかと思った。

 

クルル「·······私への愛はその程度?」

 

あ〜·····ホントに俺が嬉しがるポイントがよく分かってるな。最っ高に可愛いです。

 

八幡「悪かった。お前が一番だよ」

 

クルル「ならいいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「どうした───」

 

「新たに、そちらに────が潜伏しているとの情報が入りました」

 

八幡「分かった。そっちからは誰か調査に来るのか?」

 

「ええ。聖剣使いを2人、調査のためにそちらに送りました。必要とあらば連携をお願いします」

 

八幡「了解した。俺のことは言ったのか?」

 

「いえ。あなたがその町にいるとなると割りと問題な気がしたので」

 

八幡「うるせえ。それは言うな··········まぁ分かった。多分オカルト研究部に接触してくるだろうしな」

 

「そうですか。では────コカビエルの件、頼みましたよ」

 

八幡「分かった─────ミカエル」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話 復讐心


今回からエクスカリバー編。




 

 

祐斗「·······これは聖剣だよ」

オカルト研究部は旧校舎が大掃除のため、イッセーの自宅に集まって定例会議をしていた。その際、イッセーの母が持って来たイッセーのアルバムの内の写真の1枚を見て、木場がそう呟いた。

 

イッセー「·······聖剣?」

 

八幡「······聖剣、ね。それ、俺にも見せてくれ」

 

クルルはこの場にいない。尚、女性陣はイッセーのアルバムに夢中である。

 

八幡「······なるほどな。確かに聖剣だ」

 

写真には確かに聖剣が写っていた。何故? いや、待て。この聖剣はまさか······

 

祐斗「何か知っているのかい?」

 

八幡「いやそういうわけじゃないが、形式上教会にも属している身としては偶に聖剣は目にするからな」

 

まぁ、本当はとびっきりの聖剣を一振り持ってるがな。天界側でそれ知ってるのはミカエルだけだが。

 

祐斗「······なるほどね。この事は忘れてほしい」

 

イッセー「あ、ああ」

 

······しかし、この写真に映っている聖剣は、教会が派遣した聖剣使いの内の1人じゃないか?確か、ミカエルから送られてきた情報によれば······紫藤イリナか。あぁ嫌だ嫌だ。なんでコイツなのかね。

 

イッセーは男っつってたが女だよな。まあこの服装から見間違えることも有り得るが······普通どっかで気付くだろ。

 

そこで、リアス・グレモリーが手を叩いて言う。

 

リアス「······さぁ、今日の所はここまでにしましょう」

 

 

······お前らアルバム見て終わったろ·······

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

夜。

 

イッセー「······しっかし、変わった人だったな·····」

 

さっき俺を召喚した人は随分変わった人だった。

30代ぐらいの男性で、ともすれば木場よりイケメンかもしれないくらいの人だった。

その人のお願いが······酒の相手してくれっていうのは流石に無理だとしても······喚んだ詫びだなんて言って、こんな高そうな絵貰っちゃっていいのかな·······疎い俺でも分かるぐらい有名な絵なんだけど。

 

イッセー「···てか、部長が突然呼び出すって何があったんだろう」

 

ま、それは会って聞けばいいか。

 

 

 

 

 

リアス「ごめんなさいイッセー。突然呼び出してしまって」

 

部長に呼び出されやって来たのは廃工場。

 

 

いつものオカ研メンバーが集合しており、アーシアもいる。ただ、八幡とクルルさんはいなかった。

 

イッセー「あ、いえ。それより、八幡とクルルさんはどうしたんですか?」

 

あの2人も部長の眷属でないとは言え、オカルト研究部の部員だけど·······

 

リアス「それが······連絡が付かなかったの」

 

イッセー「どうしてでしょうか」

 

あの2人だけあって何かに巻き込まれても大丈夫だとは思うけど·······

 

リアス「まぁ今はいるだけでやるしかないわ」

 

やる?

 

イッセー「やるって何をですか?」

 

朱乃「はぐれ悪魔の討伐依頼ですわ。それも今晩中にと」

 

リアス「それだけ危険と見なされているということよ」

 

なるほど。はぐれ悪魔と一言で言っても危険度によってランクみたいなのがあるのか。

 

リアス「建物の中では分が悪いわ。アーシアは後方待機。私と朱乃はここで待ち構えるわ。接近戦の出来る小猫、祐斗、イッセーで敵をおびき出してちょうだい」

 

イッセー「はい!!」

 

八幡とクルルさんはどうしていないのかとか木場の様子がさっきからずっとおかしいとか色々気になるけど、とりあえず今はここに集中だ!!

 

リアス「······祐斗?」

 

祐斗「·······あ、はい。分かりました」

 

やっぱり何かおかしいけど······今それを気にしても何にもならないしな。

 

イッセー「じゃあ行くか。小猫ちゃん、木場」

 

そう言って3人で走り出した所だった。

 

『ズドォォォン!!!』

 

イッセー「何だ!?」

 

轟音が響き、突然廃工場の天井が爆発した。

 

「········!? 悪いが坊主。お前の相手もここまでだ」

 

八幡「待てやコカビエル!!」

 

イッセー「八幡!?」

 

爆発して空いたのであろう天井の穴から、塵外刀って言うらしい(木場が言ってた)刀を持った八幡と、八幡と戦っている堕天使が飛び出てきた。八幡にコカビエルと言われていた堕天使は廃工場の天井に光の矢を放ち煙に乗じて逃げてしまったようだ。

 

八幡「········チッ」

 

「グギャァァァッ!!」

 

今度ははぐれ悪魔と思しき堕天使が天井の穴から飛び出て来た。

八幡「邪魔」

 

八幡は軽く刀を振るってはぐれ悪魔を真っ二つにし、魔法を放って消滅させた。いや、何でそんな簡単に真っ二つに出来るの? 確かに八幡の眷属に刀を振っただけで山を真っ二つにした人はいたけどさ······

 

イッセー「八幡!! 何やってんだよ!!」

 

八幡は、廃工場の天井に腰を下ろし何やらやっていた。ここからでは陰になって何してるか分からない。

 

八幡「あぁ?······ああ、イッセーか」

 

今の「あぁ?」には殺気が込められてたような·······

 

八幡「何でもねぇよ」

 

こっちに下りてきてそう言う八幡。いや、そんなわけないだろ。

 

イッセー「いや、それが通じるわけないだろ」

 

八幡「チッ········」

 

今舌打ちしたよ······? まさか、聞かれるのすらまずいことをやってるのか?

 

八幡「今のは堕天使コカビエル。お前らが依頼を受けたはぐれを何故か呼び寄せてた。ほれ、お前らもとっとと帰れ。俺は帰る」

 

堕天使······!! て、あれ? コカビエルって確か······

 

イッセー「あ、おい!!」

 

八幡は有無を言わさず魔法陣でジャンプして消えてしまった。

 

イッセー「何だよあいつ·······」

 

と、木場が俯いたまま木場が唐突に歩き出した。

 

祐斗「·······すいません。体調が悪いので、先に失礼します」

 

一瞬だけ立ち止まってそう言って、木場も帰ってしまった。

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

リアス「······それで、何の用かしら?」

 

この日、オカルト研究部に聖剣使いの2人が訪ねてきた。紫藤イリナとゼノヴィア・クァルタ。持っているのは『破壊』の聖剣と『擬態』の聖剣らしい。

だが、この場で俺に何も言ってこないということはミカエルは本当に何も言わなかったらしい。俺は教会内で、悪い意味で高い知名度を誇るからな。こんな辺境にいるとは思わなかったんだろ。

俺は立地的に気に入ってるがな。

 

 

イリナ「·······元々行方不明だった1本を除く、6本のエクスカリバーを教会が保管していましたが······堕天使の手によってそのうちの3本を奪われました」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

コカビエルめ······少し前から何やら動いているのは察知していたが、遂に動き始めたか。先日の戦闘はブラフの可能性もあるが······もう頭が痛い。

 

八幡「·······話ってのは悪魔はこの問題に介入するなってことだろ?」

 

ゼノヴィア「そうだ。察しがよくて助かる」

 

何となく想像してたからな。天使と悪魔の仲はいいとは言えない。

 

ゼノヴィア「私達が持っているのは、『破壊』の聖剣、エクスカリバー・デストラクション」

 

イリナ「それと、『擬態』の聖剣、エクスカリバー・ミミックってわけ」

 

紫藤イリナが自分の腕に巻き付けた紐を指差す。変形能力の『擬態』に攻撃力特価の『破壊』。奪われたのが『天閃(ラピッドリー)』、『夢幻(ナイトメア)』、『透明(トランスペアレンシー)』。残りは正教会の『祝福(ブレッシング)』か。正教会はビビって静観決め込んだな。バカが。

 

ゼノヴィア「一つ言っておくが······今回の問題は我々天使と堕天使の問題だ。この街に巣食うという悪魔に要らぬ介入をされては困るのでな」

 

当人が知ってか知らずかはともかく、俺に対しても言ってるように聞こえるな。駒王に滞在していることは天界なら一部知っている奴がいる。

 

リアス「随分な物言いね」

 

ゼノヴィア「聖剣は悪魔にとって忌むべき物。堕天使と利害が一致するじゃないか」

 

リアス・グレモリーがキレかかってるな。こいつらは関わるなって言いに来ただけで何故ここまで発展させるんだ? 全く、教会の至上主義はヤダヤダ。

 

リアス「私は堕天使などと組むことはないわ。グレモリーの名において、魔王の顔に泥を塗るような真似はしない」

 

ゼノヴィア「······それが聞ければ充分だ。今のは本部の意向を伝えたまでだ」

 

本部の意向ね······俺は教会内で結構な人間に嫌われてたりもするからな······

 

リアス「私達はあなた達に一切干渉する気はないわ」

 

ゼノヴィア「それでいい。私達はあなた方がこの街で起こる一切の出来事に関わらないと約束してくれればいい」

 

青髪は、表情を崩さずに言う。

 

結局これを言いに来たんだから、無駄なこと言わずに用件だけ伝えに来りゃよかったのに·······

 

リアス「······了解したわ」

 

ゼノヴィア「時間を取らせて済まなかった。ではこれで失礼する」

 

リアス「折角来たのだから、お茶でもどう?」

 

こいつ結構図太い神経してるよな······

 

ゼノヴィア「遠慮する。悪魔と馴れ合うわけつもりはないからな」

 

そう言って2人が立ち去ろうとして、ふと『破壊』の方を持っているゼノヴィア・クァルタが立ち止まった。

 

ゼノヴィア「······兵藤一誠の家を訪ねた時、まさかとは思ったが·····お前、アーシア・アルジェントだな」

 

アーシア「は、はい。えっと·······?」

 

そうか······こいつはそういう考えか。虫酸が走るな。

 

ゼノヴィア「·······まさかこんな所で《魔女》と出逢うとはな」

 

何で協会本部にはこんなお固い考えの持ち主しかおらんのかね。はぁ、教会で俺を見て全く差別意識持たない奴なんてミカエルとガブリエルだけか。つっても向こうの打算込みだが。

 

イリナ「あ~! あなたがあの! 堕天使や悪魔をも癒すことの出来る力を持っていたがために、教会を追放されたとは聞いてたけど悪魔になっていたとはね〜」

 

アーシア「っ!!!!······」

 

八幡「そこまでだ。お前らから関わるなと言っておいてその言い草か」

 

何で関わるなと言っておいて自分達は要らぬ干渉をしようとしてるんだ。アホかこいつらは。

 

ゼノヴィア「それが何か?」

 

こういうのは珍しくもないとはいえ、態度があからさますぎてそれはそれでイラッときたから、少し反論してやろうか。

 

八幡「······言っておくが、シスター・アーシアは好きで教会を追放されたわけじゃない。お前らみたいな考えしか持たない奴らが追い出したってだけだ」

 

イッセー「八幡······」

 

イリナ「さっきから聞いてれば······随分と偉そうね?」

 

一応ではあるが、形式上は熾天使なんで偉いっちゃ偉いがね······権限なんてビタともねぇがな。

 

八幡「だったらどうする? 俺は教会内のお前らみたいな奴らが大っ嫌いなんだよ」

 

僅かな殺気をこいつらだけに向ける。

 

ゼノヴィア・イリナ「「っ!!!?」」

 

八幡「とっとと帰れ聖剣使い。関わらないんだろう?」

 

ゼノヴィア「クッ······貴様·····今すぐ斬ってやろうか」

 

ゼノヴィアが殺気(笑)を放ってくる。

 

こいつらは馬鹿か。

 

八幡「黙れ三下。これ以上こんな下らないことをしていては神の名が穢れるぞ?」

 

もういない神を盲目的なまでに信じる······か。こいつら見てると本当に信仰心があるのか疑問に思えてくるが。まぁその神が隣人愛(笑)だから仕方ないのかもな。

 

 

ゼノヴィア「······!!」

 

八幡「さぁ帰った帰った。2度とその面見せんな」

 

もう一度殺気を出す。

 

祐斗「········ちょっと待った。その話、僕も混ぜてくれ」

 

あ~······もう来ちゃったか······聖剣使いが来た時はまだ堪えてたが、流石に我慢の限界か。

 

ゼノヴィア「······誰だ」

 

ゼノヴィアは俺の殺気でまだ震えていたが、木場に敵意を見せた。

 

俺に怯えるんならとっとと帰ってくれよ······

 

祐斗「君達の······先輩だよ」

 

 

 



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第12話 教会の異端者

 

 

木場「······君達の先輩だよ」

 

リアス「祐斗······」

 

リアス・グレモリーが木場を心配して声をかけたが、木場は無視した。

 

八幡「それ言ったら俺もこいつらの先輩か······」

 

イッセー「何か言った?」

 

八幡「いや別に。それより木場、俺もお前の話に乗ろう。気が変わった。ここまで大見得切った奴らの実力を見極めてやる」

 

実力次第ではミカエルに送り返してやろう。こいつらがこのまま聖剣を持っていればコカビエルに奪われるのがオチだ。こいつらじゃどう足掻いてもコカビエルに勝てっこないからな。

 

イリナ「へぇ·······?」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

八幡と木場が、聖剣使いと対峙している。

 

朱乃「······いいのでしょうか?勝手に教会の人間と戦うなんて」

 

それもそうだ。堕天使でもある八幡が何で共闘を申し出たのかも分かんないけど、木場は悪魔だし。

 

リアス「これは悪魔の非公式の手合わせよ。八幡もいるなら問題ないでしょう」

 

それもそうだけど、クルルさんが止めないのが気になるな······ずっとだんまりだし。

 

イリナ「お互い、上にバレたらヤバいよね」

 

イリナが八幡にそう言いつつ、腕に巻いていた紐に触れた。

 

と、イリナの腕に結ばれていた紐が日本刀に変形した。本当に擬態なんだな······

 

 

ゼノヴィア「殺さない程度に、楽しもうか」

 

八幡「そうだな。精々負けないよう頑張ってくれ」

 

ゼノヴィア「何······?」

 

八幡「木場、お前は紫藤イリナ······あのツインテをやれ。俺はあの青髪をやる」

 

祐斗「いいのかい?こんなことして」

 

八幡「問題ない。お前らが黙ってるんなら情報の操作は簡単だ」

 

今情報の操作って言った!!?

 

祐斗「そ、そうか······」

 

 

 

 

イッセー「いいんですか?こんなことして」

 

流石に不安なので、近くにいたクルルさんにこっそり聞いてみる。

 

クルル「大丈夫よ。あの聖剣使いどもは知らないけど、八幡には教会から既にあの聖剣使いを送ったことは連絡が来てるのよ」

 

ホントに何者なんだ八幡は········

 

イッセー「そ、そっすか」

 

イリナ「兵藤一誠君!」

 

イリナが突然話しかけてきた。

 

イッセー「な、何だよ·······」

 

俺何かしたっけ?

 

イリナ「一つ聞いてほしいんだけど、再開した幼馴染みは悪魔になっていたなんてなんて運命のイタズラかしら!?」

 

イッセー「はぁ?」

 

突然何言ってるんだ?

 

イリナ「聖剣使いとしての適性を認められ、はるばる海外に渡り、折角お役に立てる日が来たと言うのに!!」

 

ん?話が分からない。

 

イリナ「あぁ!! これは主の試練! しかし、これを乗り越えていくことで真の信仰にまた一歩近づけるんだわ!!!」

 

完全に自分の世界に入っていらっしゃる。ダメだこりゃ。

 

八幡「なら、とっとと始めようや。試練は乗り越えていくんだろ?」

 

八幡が挑発してるな······これは流石に見え見えだと思うんだけど······

 

ゼノヴィア「いいだろう」

 

イリナ「後悔しないことね!!」

 

乗ったー!!!! チョロいよこの子達!! チョロインなの!!?

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

八幡「······じゃあやろうか」

 

そう言った瞬間、木場は紫藤イリナに斬り込む。あいつは勝永に剣の手解きを受けてるからな······まぁ簡単に負けるってことはないだろう。

 

ゼノヴィア「貴様は動かないのか?」

 

八幡「必要ねぇよ。初手はお前にくれてやる」

 

ゼノヴィア「ふん······消滅しても後悔しないことだなっ!!」

 

ゼノヴィアが突っ込んでくる。直球かよ。いや、動きが読みやすくて俺としては楽だからいいんだけどさ。

 

八幡「おーおーお疲れさん」

 

ゼノヴィアが振ってきた聖剣を親指、人差し指、中指の3本で掴む。これは白刃取りに入るのか?······って、周りクレーターになったぞ。お前加減してねぇだろ。殺さない程度って言ったのは誰だ。俺はこんくらいじゃ死ねないけど。

 

ゼノヴィア「なっ!!!?」

 

これが『破壊』の聖剣か·····7つに分かれてもこれって俺が持ってるのはどんな破壊力なんだ?

 

八幡「これが力の差だ。三下」

 

加減してゼノヴィアを蹴り飛ばす。こんなもんか·······ガチでミカエルに送り返しておいた方がいいんじゃないだろうか。

 

 

ゼノヴィア「貴様·······悪魔の癖に何故聖剣触れることが·····!!」

 

祐斗「どうして、彼女らは何も知らないんだい?」

 

紫藤イリナと切り結んでいた木場が距離を取りつつ聞いてくる。

 

八幡「何も教えてないって、依頼主が取り計らってくれた」

 

マジミカエル神だわ。違った。大天使長だった。

 

八幡「『堕天魔』の比企谷八幡だ。お前らと同じくコカビエルの討伐依頼を受けている」

 

羽根を全て開く。

 

イリナ「はぁ!!?」

 

ゼノヴィア「貴様······教会に反旗を翻したのか!!?」

 

依頼受けたっつったろ。

 

八幡「んなわけないだろ。ミカエル直々に俺に依頼してきたんだからよ。これでも熾天使だ。以後よろしく」

 

はぁ········コカビエルがどう動くかもう少し探らないとな········これから大変になってくからな。

 

 

 



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第13話 堕天使の陰謀

────────

 

八幡「··········よう、こんな所で1人でいるとはな」

 

「おう、お前か」

 

八幡「こんな所で釣りとは呑気な野郎だ」

 

「1人は嫌いじゃねぇからな」

 

八幡「そんなこと気にしねぇだろ·········コカビエルが本格的に動き出した」

 

「やっぱりか。戦争を起こしてどうしたいんだかねぇ········」

 

八幡「あいつの目的は戦争を起こすことそのものだ。ったく、何のために俺が三大勢力全てに属してると思ってやがる········」

 

「ま、その時になりゃ·········な」

 

八幡「そうか。じゃあな」

 

「もう行くのか」

 

八幡「お生憎様、釣りしてられるほど暇じゃなくなっちまったんでね」

 

「お前さんも大変だねぇ·········じゃ、嫁さんによろしく」

 

八幡「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

八幡「·········チッ。何体いやがるってんだ」

 

俺達は、はぐれ悪魔を討伐に来たのだが、その数がえぐい。

 

クルル「今の私はこれが、限界かな」

 

八幡「下がってろクルル」

 

クルルにこれ以上は無理か·······

 

八幡「塵外刀 変化。型式『揚羽』。行け、黒丸」

 

黒丸がはぐれ悪魔を狩っていった。

 

 

 

···········全て狩り終えたか。

 

八幡「·········ったく、これで何度目だ」

 

コカビエルを取り逃したあの日から数日。俺は頻繁にはぐれ悪魔に襲われるようになった。まあ雑魚どもが何体来ても同じではあるが、クルルを巻き込んでしまっている。

 

クルル「流石に·········これだけの量を送り込んでくるとは······」

 

しかも、俺達だけの時を狙っている。完全な足止めだろう。あの廃工場の奴も足止めのために呼び寄せたのだろう。

 

八幡「っ!?」

 

クルル「どうかしたの?」

 

八幡「·········バルパーだ。もう来やがった」

 

あの魔力·······聖剣使いと一緒にいるのは知ってたが、イッセー達だ。まずいな。このままだと、イッセー達も聖剣も危ない。

 

八幡「行くぞクルル」

 

魔法陣でジャンプの用意をする。

 

クルル「ん。分かった」

 

八幡「っ!!?」

 

この気配·······あいつか。

 

コカビエル「·······よう坊主。お前にはもう少し大人しくしててもらう」

 

コカビエルは大量のはぐれ悪魔──おそらく雇った部下だろう──を呼び出した。

 

八幡「待てコカビエル。戦争を引き起こしてどうする気だ」

 

コカビエル「ふっ······アザゼルやシェムハザのような腑抜けどもに分からせてやるのさ。行け」

 

コカビエルははぐれ悪魔を呼び出した直後にこの場から離脱していった。

 

八幡「コカビエルの野郎········」

 

コカビエルの呼び出したはぐれ悪魔を斬りまくりながら俺はそう呟いた。

 

 

 

クルル「·······バルパーは?」

 

八幡「流石に逃げたっぽいな。だが、その近くにイッセー達がいる。とりあえず行ってみるか」

 

はぐれ共を速攻で片付け、俺達はイッセー達がいる所に向かった。

 

 

 

 

 

八幡「········何やってんだこいつらは」

 

クルル「見た所おしり叩きのようね」

 

ジャンプして最初に見たのは、リアス・グレモリーとソーナに尻を叩かれているイッセーと匙だった。いや何やってんだマジで。

 

イッセー「八幡!!助けて!!」

 

匙「頼む!!助けてくれ比企谷!」

 

リアス「あら?まだ200回は残っているわよ?」

 

こいつ何回叩くつもりなんだ?

 

ソーナ「御機嫌よう八幡君、クルルちゃん。今下僕の躾中なの」

 

八幡「·········とりあえず一旦やめてくれ」

 

話が分からない······

 

ソーナ「·········仕方ないわね」

 

 

 

 

 

八幡「·······なるほど。それでバルパーと出会ったと」

 

クルル「思ったより厄介だったわ」

 

あの後、話を聞いてみたが、どうやら、街の東に来たイッセー達は、はぐれ神父のフリード・セルゼンと会敵。戦闘が始まったが、その最中にバルパー・ガリレイが現れ2人は逃げた。木場と聖剣使いの2人はそれを追っていってしまったと。

 

八幡「········しかしまずいな」

 

ソーナ「どういうこと?」

 

八幡「今動いてるあの3人はまず間違いなく返り討ちにされる。向こうに更に聖剣が渡るのは避けたい」

 

こんなことなら、有無を言わさずミカエルに送り返しておくんだった。特に、『擬態』の聖剣は純粋な戦闘力ではあの中で一番低いからな········

 

八幡「カマクラ」

 

カマクラ「にゃ〜」

 

 

小猫「········可愛い」

 

 

使い魔であるカマクラを召喚する。猫が100年生きたらなると言われている妖怪、猫又である。元々、比企谷家のペットだった。てか、塔城も猫又だが。

 

八幡「話は分かっているな?」

 

木場、ゼノヴィア・クァルタ、紫藤イリナ、コカビエル、バルパー、フリード・セルゼンの写真を見せる。

 

八幡「この写真の誰かを見つけたらすぐに伝えろ」

 

カマクラ「にゃ~」

 

カマクラは一鳴きした後、飛び出して行った。

 

八幡「お前らも何か分かったら連絡をくれ。こっちは一旦休憩を取らねぇと」

 

クルルなんか特に魔力の消耗が激しいからな··········

 

イッセー「何で休憩?」

 

八幡「さっきまではぐれを狩りまくってた。多分200体は狩ったと思うぞ」

 

イッセー「200!!?」

 

クルル「行くわよ八幡。時間ないから出来るだけ回復しないと」

 

クルルが服の袖を引っ張ってくる。こういう仕草も可愛いんだよな········と、不謹慎ながらも関係ないことを考えてしまう俺がいる。

 

八幡「ああ。そんじゃな」

 

魔法陣で自宅にジャンプ。ベッドまで辿り着いた俺とクルルは速攻で眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カマクラ「ふにゃー!!!!」

 

ベッドで寝ていた俺達の耳元にカマクラの鳴き声が響いた。起こしてくれるのはありがたいが、耳が·······

 

八幡「どうした!?」

 

クルル「何か分かったの?」

 

カマクラ「にゃ」

 

俺とクルルが飛び起きると、カマクラが写真を出す。映っていたのは、紫藤イリナ。

 

八幡「······紫藤イリナが見つかったのか」

 

カマクラが頷く。

 

八幡「クルル行くぞ」

 

クルル「······ええ」

 

俺達はベッドから飛び下りて、魔法陣で紫藤イリナの所にジャンプした。

 

 

 

 

 

俺達がジャンプして向かった時、紫藤イリナはフリード・セルゼンに一方的にやられていた。

 

八幡「······食らえ」

 

目立つように光の矢をフリードに放つ。フリードは下がって避けた。

 

クルル「······大丈夫かしら。聖剣は無事?」

 

イリナ「こ、ここに······」

 

紫藤イリナが自身の左腕を掴む。

 

クルル「そう」

 

八幡「クルル、紫藤イリナを連れて下がれ」

 

クルル「分かった」

 

クルルは紫藤イリナを肩で支えながら後退する。

 

 

フリード「お~お〜誰か知らんけど邪魔してくれちゃってさぁ。死ぬ? 死ぬの? 死にたいの?」

 

八幡「なわけないだろ」

 

型式『揚羽』の状態の塵外刀・真打を魔法陣から取り出し、フリードに斬り掛かる。フリードは手に持った聖剣······おそらく奪取されたエクスカリバーのうちの一振りだろう。

 

フリード「何その刀!! ずっこいんですけど!?」

 

エクスカリバー持ってるお前がよく言う······

 

そこで、フリードから、手に持つ聖剣以外の聖剣のオーラを感知した。

 

八幡「お前······持ってるエクスカリバー、それだけじゃないな?」

 

フリード「お?よく分かったじゃ~ん」

 

フリードが服を捲ると、そこには奪われた筈の他のエクスカリバーも持っていた。

 

八幡「返してもらうぞ」

 

フリード「返すわけねぇだろ〜?」

 

八幡「だろうな」

 

刀を振り切ってフリードを吹き飛ばす。

 

八幡「······こっちも仕事なんでな」

 

フリードに接近して、蹴りを1発入れる。

 

八幡「ふっ!!」

 

更に刀を振ってフリードを吹っ飛ばす。

 

フリード「ぎゃっ······ぐぁぁっ!!」

 

吹っ飛ばした所には、黒丸を幾つか待ち構えさせており、変形させずに、そのまま突っ込む。骨が幾つか砕けている筈だ。とりあえず、フリードが怯んでいる隙に手に持っていた聖剣を奪い取る。その瞬間フリードが斬り掛かってきたので、さっきフリードから取った聖剣は魔法陣に放り込み、塵外黒鱗刀で受け止める。

 

八幡「『天閃』の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリー)か」

 

これか。フリード・セルゼンにしちゃ妙に速かったが、これ持ってんならそら当たり前だな。

 

フリード「返せよてめぇ!!」

 

八幡「やなこった」

 

その時、俺のすぐ後ろで魔法陣が開いた。これはリアス・グレモリーの奴か。木場を除くオカルト研究部が出て来る。

 

イッセー「······イリナ!!」

 

八幡「おいイッセー。そいつ連れて早く逃げろ」

 

兵藤は、クルルが魔法で治療中の紫藤イリナに駆け寄る。

 

イッセー「お前はどうすんだよ!!」

 

八幡「適当に相手して逃げる」

 

こいつはまだ殺さん方がコカビエルの動きを読みやすい。

 

イッセー「おいしっかりしろイリナ!! 何があった!? 木場とゼノヴィアは!?」

 

イリナ「あの2人は······逃げた」

 

そういや聞いてなかった。

 

イリナ「あいつ、強い······」

 

イッセー「アーシア!!」

 

アーシア「はい!クルルさん、失礼します」

 

クルル「······頼むわ」

 

シスター・アーシアまでいるんだから、紫藤イリナは大丈夫だろう。そこで、今度は白い魔法陣が現れた。そこから、ソーナ、副会長、匙が現れる。

 

イッセー「会長!?」

 

ソーナ「クルルちゃんから連絡を受けました。私の家には治療設備もあります」

 

アーシア「お願いします。消耗した体力までは回復出来ないので····」

 

ソーナ「分かっています。椿姫」

 

椿姫「はい、会長」

 

副会長は紫藤イリナを抱えて魔法陣でジャンプしていった。おそらく、ソーナの家だろう。いくらクルルが治療していたとはいえ、ソーナとシスター・アーシアがいなかったらヤバかったな。治療だけならクルルだけで十分だけど、ウチに連れていくのはまずい。機密保持が。

 

フリード「てめぇら、好き勝手しやてくれがってよ·······お、そこの赤毛のお姉さん、あんたに話があんだよ。うちのボスがな〜!!」

 

フリードがそう言った途端空中に強い気配を感じて、見上げると魔法陣が展開される。

 

······この気配。コカビエルか。

 

八幡「······ようコカビエル。昨日ぶりだな」

 

現れたのは、10枚の黒い羽根を広げる男。『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部、コカビエル。

 

イッセー「翼が······10枚?」

 

朱乃「幹部クラスの証ですわ」

 

コカビエル「よう坊主。······おお、お前がサーゼクスの妹か」

 

コカビエルはリアス・グレモリーを目にすると、

 

リアス「御機嫌よう堕天使さん。私はリアス・グレモリー。どうぞお見知りおきを」

 

コカビエル「······紅髪が麗しいことだな。サーゼクスのやつによく似ている。反吐が出そうだ」

 

リアス「それで? 態々幹部が直々に何の用かしら?」

 

リアス・グレモリーはコカビエルを見ても一切態度を崩さない。彼我の実力差を理解出来てないからだろうが、よく言うな。

 

コカビエル「俺、堕天使コカビエルはグレモリーの姫君に宣言する。これから······駒王学園を中心に暴れさせてもらう」

 

やはりこいつ、それが狙いか。

 

リアス「私達の学園を!?」

 

コカビエル「坊主から何も聞いてねぇのか·····そうすれば否が応でもサーゼクスの野郎は出張って来るだろう?」

 

リアス「そんなことをすれば······神と堕天使、悪魔との戦争になるわ!!」

 

リアス・グレモリーがそう言うと、コカビエルは顔をおさえて笑い出す。

 

コカビエル「フハハハッ!! エクスカリバーでも奪えばミカエルの野郎が仕掛けてくるかと思っていたが······来たのはそこの坊主とその嫁、後は雑魚の聖剣使いが2人だ。天界は様子見を決め込みやがったようだがな。一先ず悪魔と戦争といこうじゃないか。

まぁ、そこの坊主は俺と張り合えるから少しは退屈凌ぎにはなったが」

 

そこで、俺はずっと気になっていたことを問う。

 

八幡「······お前、何故そうまでして戦争に拘る?」

 

コカビエル「退屈だったんだよわ俺は·······前の戦争が終わってから、アザゼルもシェムハザも戦争に消極的になりやがった。しかも、アザゼルに至っては神器とかいう訳分からんもんの研究に没頭する始末。これの何処が面白いってんだ。だから、ぎりぎりで保たれている均衡を········そこの坊主が苦労して保っている均衡をぶっ壊すんだよ。そうすりゃ戦争になる」

 

こいつ·······ふざけやかって。

 

コカビエル「だから俺から仕掛けさせてもらう。ルシファーの妹、リアス・グレモリー。レヴィアタンの妹、ソーナ・シトリー。それらが通う学園ならさぞかし魔力が立ち込め混沌が蔓延るだろう。戦場としては充分だ」

 

匙「無茶苦茶だ!」

 

イッセー「こいつ、頭がイカれてやがる」

 

同意見だ。俺の周りにはそういう奴が集まりやすいのか?考えが無茶苦茶なのは眷属にもいるっちゃいるし。

 

フリード「アハハハハッ!!うちのボス、イカれ具合が最っ高で素敵でしょ~!!?だからぁ、ついつい張り切っちゃうのよ」

 

こ〜んなものまで貰っちゃったし!と、エクスカリバーを2本見せつけた。

コカビエル「戦争をしよう·······魔王サーゼクス・ルシファーの妹、リアス・グレモリーよ!!」

 

コカビエルが放ってきた幾つもの光の矢を防ぐ。光の矢を目眩しにしてもう移動しやがったか。

 

八幡「チッ··········何度邪魔すりゃ気が済むんだあの野郎」

 

イッセー「あいつらは!?」

 

八幡「先を越された。奴は駒王学園だ」

 

そこであいつを切り刻んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

フリード「········見るがいい。私の夢が完全していく様を」

 

空を光が貫いた。

 

 

 




八幡の使い魔

カマクラ
種族:猫又
元々、比企谷家のペットだった。八幡とクルル以外が天使に殺されてから、八幡の使い魔となっている。八幡にも懐いているが、どちらかと言えばクルルのが懐かれている。仙術は使える。ただ、カマクラがあまり戦闘向きではないので追跡などを担当することが多い。長時間人の姿になれない(人の姿の容姿は、ワートリの羽矢さんをイメージ)。




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第14話 投げられた賽

八幡side

 

ソーナ「······結界を張りました。周辺に被害が及ぶことはないでしょう。現状のままなら」

 

ソーナとソーナの眷属は、総出で学校に結果を張った。外への被害はこれでかなり食い止めることが出来る。コカビエル次第だが。

 

リアス「ありがとうソーナ」

 

ソーナ「······ただ、学校が崩壊するのは免れないかもしれません。残念ながら」

 

そこに、ソーナの家に紫藤イリナを運んだ副会長が戻ってきた。

 

イッセー「副会長!! イリナは!?」

 

椿姫「命に別状はありません。ツェペシさんとアルジェントさんの治癒のお陰です」

 

クルル「別に大したことしてないわ。したのはアーシアだけよ」

 

アーシア「そ、そうでしょうか······」

 

 

イッセー「ゼノヴィアは何処に行ったんだ·····?」

 

 褒められ慣れてないシスター・アーシアを他所に、ゼノヴィアの所在を気にかける兵藤に尋ねる。

 

八幡「木場と連絡は着いたのか?」

 

イッセー「······そっちもダメだ。けど無事だと信じてる」

 

戦力は多いに越したことはないんだが·····まぁ仕方ないか。どのみちサーゼクスは間に合わない。

 

ソーナ「······今更ですが······リアス、あなたのお兄様に連絡を」

 

 ソ一ナがリアス・グレモリーに急かすも、難色を示される。こういう時プライドってのは非常に邪魔だな。

 

リアス「いいえ。あなただって、お姉様を呼ばなかったじゃない」

 

尚もリアス・グレモリーは反抗する。もう遅かったりするがな。

 

ソーナ「······姉は来れません。外交官であり、私のように暇ではない。ですが、サーゼクス様はあなたを愛しています。援軍は望めるでしょう?」

 

ソーナはそう続けたが、リアス・グレモリーは納得いかないらしい。

 

八幡「リアス・グレモリー。サーゼクスとセラフォルーなら俺が連絡しといた。サーゼクスの方は後1時間で来れるそうだ。セラフォルーは来ないだろうが」

 

ソーナ「八幡君」

 

リアス「何故そんな勝手なことを!?」

 

お気に召さなかったのか、リアス・グレモリーは激昂する。

 

八幡「勝手? 分かりきったこと聞くな。お前らだけで対処出来ると思ってんのか?たかが魔王の妹でしかないお前がか? 調子に乗るな」

 

未熟な上級悪魔でしかないのに、こいつら自分でやろうとしてたのか?実力差なんて火を見るより明らかなんだが······

 

リアス「ッ······」

 

ソーナ「······そうですね」

 

八幡「そういうこと」

 

 とは言うものの、リアス・グレモリーはまだ納得いかないようだった。

 

リアス「出来れば、お兄様に頼りたくはなかった······私に、それだけの力がないから?」

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシア「あれは······?」

 

学園に突入した俺がまず目にしたのは2本の光の柱。それに魔法陣。

 

コカビエル「······2本のエクスカリバーを一つにするらしいぞ。あいつの念願らしくてな。そこの坊主が邪魔しなきゃ4本でやったらしいが」

 

八幡「······そんだけ邪魔が出来たなら満足だな」

 

まぁエクスカリバーの処理は楽になるから十分だろ。

 

コカビエル「リアス・グレモリー。サーゼクスは来るのか?或いはセラフォルーか?」

 

八幡「残念だったな、どっちも来ねぇよ。俺で満足しとけ」

 

コカビエル「ふん······」

 

コカビエルが特大の光の矢を作り出した。そしてそれを体育館に放った。

 

八幡「このっ」

 

コカビエルが放ったのと同じくらいの大きさの光の矢を槍投げの要領でぶん投げる。

 

イッセー「うわっ!?」

 

2つの光の矢は上空で衝突し大爆発を起こした。よし、体育館は無事だ。いや、よく見たら所々壊れてるわ。

 

コカビエル「フハハハハッ!! やはり坊主、貴様は面白い。暫く俺の相手をしていて貰おう」

 

八幡「······どうせそんなことだろうと思ってたがな」

 

塵外刀真打を現出させる。

 

八幡「·······こっから先はお前らの援護は出来ないからな。クルルはシスター・アーシアの援護を」

 

それだけ言って上空に飛翔した。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

八幡の光の矢とコカビエルの光の矢が体育館の上空で衝突し、大爆発を起こした。

 

 

───なんだあのサイズの光の矢!?

 

『ビビってるのか相棒』

 

赤龍帝であるドライグは言う。

 

イッセー「当たり前だろ!なんだあのサイズの光の矢!! レイナーレのやつとはまるで違うじゃねぇか!!」

 

コカビエルの光の矢は体育館を一撃で吹き飛ばすくらい簡単にしそうな威力だった。当然、それを打ち消した八幡のもだ。

以前戦った堕天使······俺を殺そうとしたレイナーレのそれとは、一目で分かるほど大きさ、威力が違った。

 

『ああ、次元が違う。あいつもお前の友達のあの野郎もあの野郎の女も過去の戦争を生き抜いた奴だ』

 

いざとなったら体の大半をドラゴンにしてでも勝たせてやるさ。ドライグはそう続けた。体の大半をドラゴンにしてでも、ね。そう言うレベルかよ!!

 

コカビエル「折角来てもらったんだ。そっちのそいつらには、少し遊んでいてもらおうか」

 

そう言うと、コカビエルが雷撃を地面に放った。と、思ったら、雷撃による爆発の中から、頭が3つもある怪物が出て来た。

 

イッセー「あれは······」

 

リアス「ケルベロス。冥界の門に生息する地獄の番犬よ。まさか、人間界にまで持ち込むとはね」

 

あれがケルベロスか。漫画の中の生き物だと思ってたけど本物がいるんだな。でも関係ない。

 

リアス「行くわよ朱乃、小猫。イッセーは力を貯めて」

 

俺がするべきことをするだけだ!!

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······ケルベロスか」

 

コカビエル「そうだ。貴様のような奴は世界に何人もいないからな。奴らがどれくらいなのかを見るには丁度いい」

 

攻防の中での会話。俺もコカビエルも、まだ本気ではない。本気を出せば楽だが、それではソーナ達が張る結界を破壊してしまう。

 

八幡「······なら、こいつを試してみるか」

 

光の矢を拡散させて、コカビエルから距離を取る。塵外刀真打を亜空間の中にしまい、代わりにさっき手に入れたばかりの物を出す。

 

八幡「『天閃』の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリー)

 

さっきフリード・セルゼンから奪った聖剣だ。

 

コカビエル「·······ほう。エクスカリバーか」

 

八幡「そうだ。お前は俺に着いてこれない」

 

コカビエル「どうだか······なっ!!?」

 

聖剣の力を利用してコカビエルの背後から斬りつける。すんでのところで反応されたが、中々いい武器だ。おそらく、『戦車』や『兵士』の奴がこれを持てば『騎士』の奴と張り合えるくらいのスピードを手に入れることも容易いだろう。それぐらい速度が強化される。7本に分かれてたらこんなもんか。

 

八幡「はっ!!」

 

上下左右からの攻撃で撹乱しつつ削っていく。今度は左側の羽根を3枚切り落とした。

 

コカビエル「このぉっ!!!」

 

コカビエルが放った光の矢を光の矢で打ち消す。爆発を目眩しに更に攻撃のピッチを増やす。

 

コカビエル「ぐはっ·····だが!!」

 

八幡「······?」

コカビエルはダメージを受けながら光の矢を放った。それは俺に放ったのではなく

 

バルパー「そうか!! 聖も魔もそれを司る者が·········」

 

バルパーを貫いた。

 

コカビエル「ふん······それに気付いたことには褒めてやる」

 

コカビエルは地面に下りる。そして、ボロボロの木場に攻撃を放ったが、ゼノヴィアがデュランダルで弾いた。

 

コカビエル「······ほぅ」

 

······こいつ、何を言い出す気だ······?

 

コカビエル「······しかし、使えるべき主を亡くしても、よく戦うものだ」

 

コカビエル、余計なことを······!! 

 

リアス「どういうこと!? コカビエル!!」

 

それは知られてはならない。均衡が崩壊する。なんのために態々出てきたと······

 

八幡「てめぇは······!!」

 

クルル「······はぁ!!」

 

俺とクルルがコカビエルに攻撃を仕掛ける。本気を出しつつ、手加減はしたまま、クルルとのコンビでコカビエルを攻撃する。

 

コカビエル「グッ······フハハッ、どうした?さっきまで微塵もなかった焦りが見えているぞ?」

 

 こいつ、マジで戦争を起こす気だったのか!?

 

八幡「チッ······!!」

 

俺の蹴りをもろに食らってコカビエルは後ずさる。

 

ゼノヴィア「主を亡くしたとはどういうことだ!! 答えろコカビエル!!」

 

コカビエル「ごふぁっ!!······おっと、口が滑った·····グッ」

 

クルルの蹴りがコカビエルの顔を捉え思いっきり吹き飛ばす。だがすぐに立ち上がった。

 

コカビエル「フハハハハッ!! 教えてやろう。先の三つ巴の戦争で四大魔王と共に神も死んだのさ!!!!」

 

八幡「のやろっ!!」

 

クルル「······やってくれたわね!!」

 

コカビエルの左腕を切り落とす。クルルは刀で右側の刀を5枚とも切り落とした。

 

コカビエル「ガハハハハハハハッ!! もう遅いぞ坊主!! 賽は投げられた!! 戦争だ。戦争が始まるんだ!!!」

 

八幡「もういい黙れ」

 

コカビエルの腹にパンチを食らわす。コカビエルは遥か先(といっても結界内)に飛んでいった。

 

八幡「全くよ······」

 

クルル「コカビエルめ······ごふぁっ!!?」

 

クルルが吐血する。限界だ。

······段々戦闘出来る時間が短くなってきてる。継戦能力に限ったら、禁手化状態の木場に劣るかもしれないほど。

 

八幡「クルル!! 大丈夫か!?」

 

クルル「なんとか······暫く、休む·····」

 

八幡「······そうか」

 

心配ではあるが、俺ではどうこう出来ないからな。クルルの再生能力はウチの中ではトップクラスではあるが、油断は出来ない。

 

ゼノヴィア「う、嘘だ······」

 

アーシア「そんな······」

 

バレちまったか······ミカエルと結託して隠蔽に力を尽くしてたつもりなんだがな。

······それはそれとして、来たか。

 

八幡「おい、とっととそいつを連れていけ··············アルビオン」

 

『!!!?何だと!!?』

 

 




雑ですいません。クルルの再現難しい······原作をちゃんと見ねば(作者は簡単にしか読んでない。というかちゃんと読んでない。見てもいないレベル。おかしいなぁ?)。



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第15話 白龍皇

 

 

やっと来たか。もうちょい早く寄越してくれよアザゼル。まぁ、俺が呼んでも普通に来るんだけどさ······

 

「もう片付いていたか。流石だな(全く、何故こんなことをしなければならん)」

 

八幡「·······ああ。柄にもなく焦ったけどな。こいつのせいで(悪かったっつの。もう暫く『禍の団(カオス・ブリゲート)』にいてくれ)」

 

意識を失っているコカビエルを蹴りながら言う。コカビエルは殺すなと、俺はアザゼルに言われたしこいつも言われている筈だ。()内は、お互いの本音だ。

 

「貴様ともあろう者がその程度にか?(はぁ······分かった)」

 

八幡「······本当は無力化するだけのつもりだったんだけどな······(助かる。悪いな、お前に押し付けて)」

 

「······まぁいい。ではこちらに引き渡してもらう。(別に、気にしないでくれ。俺も受け入れていることだ)」

 

八幡「ほれ······これでいいだろ?(ありがとな。今度なんか奢る)」

 

飛んでるあいつに向かってコカビエルを蹴り飛ばす。

 

「ああ。あのはぐれ神父にも聞き出さねばならないことがあるのでな。では失礼する(ならラーメンで。この間、東京にいい店を見つけたんだ。······じゃあ、またな)」

 

八幡「あぁ(分かった。好きなだけ食え)」

 

そう言ってあいつがコカビエルとフリード・セルゼンを引っ掴んで飛び去ろうとした時だった。

 

『待てよ、白いの。俺には何にもなしか?』

 

『······何の用だ赤いの』

 

赤いのが引き止めやがった。

 

俺には二天龍(トカゲ共)の会話になど微塵も興味がない。赤いのが引き止めなきゃすぐに帰ったのに。

 

八幡「······チッ」

 

だが、それはそれとしてクルルの治療をしなければ。赤トカゲのせいでクルルの体はパッと見問題なさそうに見えてボロボロだ。

幻術で術式が見えないようにしながら、1000年以上前に失われたとされている治癒の秘術でクルルを治療する。

 

 

『またな。アルビオン』

 

『ああ。ドライグ』

 

あ、龍どもの会話終わったっぽい。マジで引き止めんなや赤いの。

 

イッセー「······おい!!」

 

おい、何故引き止めるイッセー。帰ろうとしてるんだから見送るべきだろ。

 

八幡「帰っていいぞ」

 

「了解した」

 

『では失礼する』

 

俺が言うと、あいつは飛んで帰って行きました。また速度が上がったな。抜かされるのもそんな遠くないだろうな。

 

イッセー「なっ、何すんだよ八幡!!」

 

八幡「え〜······終わったんだし早く帰りたいんだけど」

 

俺、何言われるか内心ヒヤヒヤしてたんだぞ。特にアルビオン。

因みに、今更なことだが、アルビオンがああやって封印されたのは、半分以上赤いののとばっちりである。すぐ近くに同じような色違いがいたんで、2体ともクルルを傷つけたと思って封印したが、後からアルビオンは戦っていただけだと知る。まぁクルルと戦ってたから封印は解かないけどね。解いたらヤバイし。

 

イッセー「はぁ!!?あいつのせいでな········」

 

八幡「何だよ?」

 

あいつイッセーに何かしたっけ? いや、初対面の筈だから何かしたってことはない筈。あいつは赤龍帝なんかに興味ないし。

 

それより、早くクルルを治療したい。さっきの術だけだと不完全にも程があるし。

 

イッセー「部長の乳を吸えなくなっちまったんだぞ!!!!!」

 

朱乃「あらあら」

 

知るかそんなこと。近くで騒がれて耳が痛い。

 

八幡「どうでもいいわんなこと」

 

イッセー「よっくなぁぁぁぁあい!!!」

 

イッセーのしょうもない心の叫び? が鼓膜に響く。耳が痛い。

 

八幡「お前うるさい·····」

 

 

 

ソーナ「······リアス」

 

リアス「ソーナ。結界を張ってくれて助かったわ」

 

あ、結界消えてる。俺がコカビエルぶん殴ったついでに消し飛ばしてたのか、あいつが突入するために破壊したのか·····

 

ソーナ「まさか······白龍皇まで出て来るとは······」

 

よし。関係を探られる前に帰ろう。!呼んどいてなんだけど、サーゼクスは今はどうでもいいや。後処理任せてまえ。

 

八幡「じゃあ俺は帰る」

 

そう言って、クルルを抱き抱えて魔法陣でジャンプしようとしたが·······

 

ソーナ・リアス「「待ちなさい」」

 

だろうな。知ってた。

 

八幡「頼むから明日にしてくれ。明日説明するから······」

 

ホント、某不動産のCMくらい帰りたいと思ってる。

 

ソーナ「いいでしょう。逃げないで下さいね?」

 

ソーナが俺を睨めつける。こいつ、こんなに強く睨めたっけ?

 

八幡「はいはい。じゃあな······あ、学校ボロボロにしてごめんな」

 

体育館はあのサイズの光の矢が衝突した際の余波で一部崩壊してるし、旧校舎も新校舎もコカビエルを割とガチでボコした際に衝撃で至る所が壊れている。だが、これは襲撃がなければこうはならなかったのだ。だから俺は悪くない······筈。コカビエルのせいだ。そうに違いない。

校舎への影響は深く考えなかった俺のせいではない。

 

ソーナ「なっ!!?」

 

ソーナが校舎の惨状を目の当たりにして驚いた声を尻目に転移魔法陣で即刻転移した。

 

 

 

 

八幡「······お疲れ様。クルル」

 

 

自領の屋敷にある医療施設。そこのメディカルポットの中に眠るクルル。眷属の一人の科学者の協力を得て完成したこの施設でなければ、クルルの完全な治療が出来ない。

 

赤トカゲのオーラが体内に残留し、それが猛毒になって体を蝕まれているクルルから、オーラを除去する装置はここにしかない。

魔法陣で一発で転移出来るし、追跡阻害もあるからそれ自体はそこまで問題ではない。が、外には出せない。外には存在しない、ウチの秘匿技術が使われているからだ。

 

 

八幡「······俺は、いつになったらお前を助けられるんだろうな」

 

そう言ってクルルに目を向けると、クルルが目を覚ましていた。

 

 

クルル「······もう、十分助かってるわよ。八幡が居なかったら、私はどっかで野垂れ死んでるわ」

 

八幡「そんなん助けたって言わない、だろ······現に、俺一人じゃクルルを死なせてる」

 

クルル「それでも、よ。もう少し待ってて。また普通にバカ騒ぎ出来るようにしてやるわ······」

 

クルルはそれだけ言うと、また目を閉じて眠りに就いた。

 

 

八幡「───必ず、お前を助ける方法を見つけてやる」

 

 

 



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第16話 守るべき場所

 

 

 

コカビエルとの戦闘から翌日。

 

 

俺は今オカルト研究部の部室で、ゼノヴィアを新たに加えたリアス・グレモリーの眷属と、ソーナに囲まれている。

 

八幡「······最初に言わせてもらう。すまなかった」

 

頭を下げる。

 

リアス「頭を上げてちょうだい。続けて」

 

八幡「まず、神がとうの昔にいない件なんだが······シスター・アーシアとゼノヴィアは大丈夫か?」

 

俺が尋ねると、2人は表情を歪めながらも言う。

 

ゼノヴィア「······私は大丈夫だ。何より、尊敬すべき聖剣使いから主を失った教会の異端者になってしまったからな」

 

アーシア「······私も、大丈夫です。聞く覚悟を決めて来ました」

 

2人は、辛そうにしながらも、耐えて俺の言葉を待っている。

 

八幡「そうか······」

 

覚悟を決めてきたんだな······こいつらは俺よりもずっと強いらしい。

 

八幡「······昨日、コカビエルの言っていた通り確かに先の戦争で神は前代の魔王と共に死んだ」

 

アーシア・ゼノヴィア「「········ッ」」

 

アーシア「では·······私達の信仰はいったい······」

 

八幡「······システムが残っていたからそれを利用した。信者の祈りの力がなければ、天界は維持出来ない」

 

ゼノヴィア「·······何故君がそれを知っていたんだ?」

 

八幡「俺は先の戦争に参加していたからな······俺は二天龍を封印する直前まで、コカビエルと戦っていたんだが、その時にコカビエルがもらしたんだよ」

 

それにしても、あいつは何故そんなことを······少なくとも敵に教えるような情報ではない。今考えても仕方ないが。

 

八幡「それで、ミカエルは······システムを利用した。仕方なかった。信仰している大半が人間で、それを失うわけにはいかなかったから」

 

あの判断は正しかったのだろうか? 俺もその一端を担いでいるが、結果的にも正しいかの判断は付けられない。

 

 

八幡「それと······木場にも2つ謝らなければならないことがある」

 

裕斗「僕に······?」

 

八幡「一つ目はこれだ」

 

俺は魔法陣から2本の聖剣を出す。

 

裕斗「その2本は······エクスカリバー······?」

 

八幡「ああ。片方はフリード・セルゼンから奪ったものだ。紫藤イリナに本部に持っていってもらうべきだったが、あのあとこっちで少しゴタゴタしてな。返しそびれた」

 

片方は『天閃』の聖剣だ。そしてもう片方は······

 

ゼノヴィア「ずっと所在不明になっていた7本目か······?」

 

八幡「違う」

 

この剣は、ずっと秘匿されていた·····

 

裕斗「ならそれは······エクスカリバーは7本なんだろう?」

 

ゼノヴィア「ああ。その筈だ」

 

木場の問いに、ゼノヴィアが頷く。

 

八幡「これは······8本目の聖剣エクスカリバーだ」

 

「「「「「「!!!!!??」」」」」」

 

俺の言葉に、その場の全員が目を向いて驚く。

 

ゼノヴィア「どういうことだ!? 教会は破壊されたエクスカリバーの破片7つを元に、今のエクスカリバーを作ったのではないのか!?」

 

それは間違ってない。が、そもそもこれは()()()()()()()()

 

八幡「これは·······破壊されていない方のエクスカリバーだ」

 

リアス「その言い方だと、エクスカリバーは元から複数あったように聞こえるのだけれど······」

 

八幡「それであってる。元々、エクスカリバーは2振りあった」

 

ゼノヴィア「なっ!!?」

 

八幡「これは戦争で破壊されなかったものの、ゴタゴタで所在不明になってたものを俺が回収したものだ」

 

あの戦争で、教会はエクスカリバーを2本とも失うという大失態を犯した。7本に分かれたエクスカリバーの核になっている破片も、内2つは俺が回収したものだ。

湖の乙女に返しにいったら、あげると言われて今に至る。まぁ本当はそんな単純ではないが。

 

八幡「·······木場、すまなかった。」

 

俺に木場を止める資格はない。木場の感情は至極真っ当なものだ。

 

裕斗「僕は······そんなことしないよ。僕は1人じゃないんだ。まだ許せるとは言えないけど、今は復讐のためだけに生きてるわけじゃない」

 

八幡「そうか······」

 

そして、俺はこれを言わなければならない。出来れば、言いたくない。言えば、木場がどうなるか分からない。

 

八幡「俺が本当に謝りたかったのはこっちだ······俺は『聖剣計画』を止められなかった」

 

その言葉に木場も限界が来たのか、俺に詰め寄る。

 

裕斗「君は······知っていたのか!? ······どうなんだ!!」

 

イッセー「ちょ、おい!! 木場!」

 

木場が俺の胸倉を掴む。

 

八幡「知っていた·······計画に上がっていた段階で」

 

裕斗「ならどうして·······」

 

八幡「人質に取られたんだよ·······」

 

アレは、中々にクソだったが呑まなければ取り返しのつかない被害が出ていた。

 

ゼノヴィア「人質?」

 

八幡「あぁ······ウチの領には、孤児院がある。だが、邪魔をすればうちの領に、しかもよりによってあそこに襲撃をかける、と」

 

それだけは防がなければいけなかった。俺と眷属だけならなんとでもなるが、そんな楽な話ではない。しかも、最初に襲撃をかけると脅された場所が場所だった。

 

ゼノヴィア「何!? ······教会はどこまで······!!」

 

裕斗「でも······君も君の眷属の方々もあんなに強いのに······?」

 

ソーナ「っ!!·······確か········」

 

ソーナだけは分かったらしい。

 

八幡「そうじゃない······うちの領にはサーゼクスとセラフォルーも設立に協力してくれた、冥界で最大規模の孤児院がある。最初の襲撃場所をあそこにするとも言われた」

 

俺達だけでは、あそこにいる子供達全員を守りきれるとは限らない。だから聖剣計画を見なかったことにした。あの子達の笑顔を守るためだ。俺には両方を取るほどの力はない。

 

ソーナ「私も一度だけ訪れたことがありますが······あの孤児院には、数百を優に超える身寄りのない子供達が引き取られていました······しかも、あそこには種族関係なく天使の子供も悪魔の子供も人間の子供がいた······皆笑顔だったのを覚えています」

 

うちの領は、シトリー領やグレモリー領ともそれなりに近いが、完全に防御が出来るとは言えない。現に俺がそうだったのだから。

確か、ソーナはセラフォルーとシトリー卿に連れられて、孤児院に来たことがあった筈だ。

 

裕斗「ッ!! ······ごめん、取り乱した」

 

八幡「いや、止められなかった俺にも責任はある」

 

結局······聖剣計画の被験者は殺処分にされた。

 

裕斗「事情があったのなら、責めはしないよ」

 

八幡「すまなかった······ありがとう。今度招待する」

 

こいつは優しいな。会ったこともない孤児院の子供達に、自分を重ねたのかもしれない。

 

裕斗「ありがとう······君達が守った子供を見てみたい」

 

八幡「そうか。いつでも言ってくれ。喜んでくれるだろうよ」

 

裕斗「あとで、行ける日を教えるよ」

 

そこで、唐突にあることを思い出す。

 

八幡「ああ······そう言えばイッセー」

 

イッセー「? 何だよ?」

 

八幡「お前、アザゼルに会ったんだろ? 何か言われたなかったか?」

 

 

なんかこの前会った時に「今代の赤龍帝は面白い」って言ってたからな······アザゼルはイッセーがお気に召したようだ。一緒にゲームしたとか言ってたな······この前も絵をあげたとかなんとか。お前この街に何しに来た。俺が会った時釣りしてたしよぉ······

 

リアス「アザゼルですって!!?」

 

ソーナ「この街に·······?」

 

イッセー「アザゼル、って······?」

 

小猫「堕天使の総督······一言で言えば、堕天使で一番偉い人です」

 

イッセー「はぁぁぁぁっ!!?」

 

八幡「落ち着け。あいつは別に敵対するつもりでこの街に来てるわけじゃない(多分)」

 

まあ個人的に『赤龍帝の篭手』に関心を示しはするだろうが。

 

リアス「堕天使の総督が私の縄張りに······!!」

 

八幡「今んとこ何もしなくていい。アザゼルは神器マニアってだけで、手を出したりはしない······筈だ」

 

イッセー「っておい最後!!」

 

兵藤のツッコミも、今回ばかりは反論の余地がない。

 

八幡「まぁ来るのはこれのためだ。まだ情報は来てないと思うが」

 

俺は一枚の紙を出す。各勢力の首脳会談だ。当然の如く俺も出席。というか、各勢力の首脳+俺という感じである。

 

リアス「三大勢力の·······首脳会談!!?」

 

八幡「そうだ。この街でやることになった。多分この様子だと、会場はここだろうな」

 

イッセー「何で八幡が知ってんの!!?」

 

八幡「俺も出席するから」

 

「「「「「はぁぁぁあ!!??」」」」」

 

そういう取り決めになってんだよなぁ······でも、これなかったら俺はどっかの勢力に拘束されているだろうからなぁ。めんどくさいなぁ······はっ!! これがあるということはセラフォルーが······やだ、帰りたい。

 

 






孤児院の名前は百夜孤児院·······多分本編に出ない。


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第17話 無視した気持ち。

八幡「何で俺達まで······暑い」

 

クルル「まぁまぁ······ダメ、やっぱ暑いわ」

 

色々あったのをとりあえず保留にして、俺達はオカルト研究部が何故か引き受けたプール掃除に駆り出されていた。リアス・グレモリー曰く、生徒会がコカビエルとの戦闘でぶっ壊した校舎の修復をやったから、その代わりに······ということらしい。完全に俺の自業自得だった。あ〜····撃退して引き渡してそれでもだめとは······

 

にしても、ホント日本の夏は暑すぎる。プールまだ水張ってないのに、なんでこうも湿度高いんだよ。あ~······日本神話との取引がなきゃ、ずっとサングィネムに居るのに。

 

リアス「······その代わり、終わったら一足先にオカルト研究部だけのプール開きよ」

 

イッセー「プール開き!!?」

 

また始まった。塔城の目が·······またか兵藤。

 

小猫「イッセー先輩、厭らしいです」

 

イッセー「な!!?」

 

八幡「·····早いとこ終わらして帰ろ······」

 

俺は周りがはしゃいでるのに付いていけず、先に着替えに向かった。

 

 

 

 

着替え中······何か木場にヤバい疑惑が浮かんだ。真顔でイッセーにあんなことを言うとは·······確定でいいのか? うん、最近は国際的にもどんどん寛容になってきてるからいいんじゃないか? 日本は中々に遅れてるが。

 

イッセー「先に行ってるからな!!」

 

裕斗「イッセー君!?」

 

何か慌てた様子のイッセーが飛び出してきた。やはりあの木場は危険だ。

 

イッセー「痛っ!!」

 

八幡「ん?イッセー···か······」

 

見ると、イッセーの左腕が『赤龍帝の籠手』の状態になっていた。

 

イッセー「あ、八幡か。最近よくこうなっちまってな······」

 

なるほど。どうりで最近よく赤龍帝の力を外で感じるわけだ。おそらく、アザゼルとの複数回接触が原因だろう。更に、アルビオンとも出会ったことも影響しているかもしれない。

 

八幡「ちょっと待ってろ。おいトカゲ、これは最近のことか?」

 

『ああ。相棒がフェニックスとやった時に、左腕を龍にしてからな』

 

あのレーティングゲームで、腕を龍にしたんだったか。負けてたが。

 

八幡「そうか」

 

俺も左腕に籠手を展開し、イッセーの左腕に翳す。溢れた龍の力を吸い出すだけだ。

 

イッセー「お前こんなことも出来んの!?」

 

八幡「そりゃな。ていうか、お前は今までどうやって抑えてたんだよ」

 

イッセー「いやぁ······それはその······」

 

朱乃「それは、私が直接指から吸い出していたんですよ」

 

その答えは姫島が直接答えた。

 

八幡「··········今までで初めてですよ。直接吸い出す人」

 

指からって何だ?

 

朱乃「あら?そうなのですか?」

 

八幡「まぁそっすね」

 

基本的に、魔法なりが使える人は、手を翳すだけで吸い出すことが出来る筈だ。イッセーの願望が直接じゃないと吸い出せないようにしたのだろうか。

 

 と、着替え終わったクルルが女子更衣室から出てきた。

 

クルル「あら······似合ってるわね八幡」

 

クルルが着ている水着は、黒を基調としたビキニタイプだ。眼福眼福。

 

八幡「どうも。クルルも似合ってんぞ」

 

クルル「そう? ありがと」

 

少し照れるクルル。可愛い。俺もクルルも、水着なんて着たのいつぶりだろうか。

 

と、イッセーがクルルを変な目付きで見ていたので

 

イッセー「うおっ!······これはまた·······「何見てんだ?」····ヒッ!!?」

 

殺気を纏い、肩を思いっきり掴む。若干「ミシッ」という音が聞こえた気がするが気のせいだ。

 

イッセー「痛い痛いごめんなさい!!」

 

八幡「チッ······いいだろう。本当は骨を砕こうかと思ったんだがな?」

 

殺意を収めて(警戒は解かずに)手を離す。

 

イッセー「嘘だろよな······?」

 

馬鹿言え。本気に決まってんだろ。次は目だな。

 

朱乃「あらあら。ふふふ」

 

 

 

 

閑話休題(それはおいといて)

掃除終了。早いって?別にいいんだよ。特に何もなかったんだから。それに、作者に文才なくて描写なんて無理なんだから。

 

八幡「あ〜······終わったー······」

 

当たり前だろ。息抜きがてら見に来たら何の得もしない掃除に付き合わされるんだぞ。水着は亜空間にあったが。

 

イッセー「棒読みだな······」

 

プール掃除終わった。今は姫島がプールに魔法で水を張っている。一般人が見たら卒倒するだろうな。何もない所から大量の水が出て来るとか。

 

八幡「眩しい······」

 

なので、6枚の羽根で即席の日傘を作る。うん、そこそこ快適······でもないな。暑いもんは暑い。まぁさっきよりはマシになった。

 

クルル「······私も入れて」

 

クルルも暑いのは苦手だ。隣を軽く叩く。クルルがそこに座るので、羽根がクルルも覆うように少し広げる。

 

クルル「あ~······ちょっとはマシね」

 

八幡「ならよかった」

 

と言いつつ、魔法で局所的に雨でも降らそうか······なんて考えていると、ゼノヴィアが話しかけてきた。

 

ゼノヴィア「······すまないが、イッセーはどこにいるか知らないか?」

 

何でイッセー?······ってそもそもプール掃除してる時こいつどこいたんだ? サボりか?

 

八幡「イッセーならすぐそこに······ってあれ?」

 

ゼノヴィアがもういない。ていうか、兵藤もいない。俺は幻覚でも見るくらい疲れたのか?

 

クルル「いや······幻覚ではないと思うわよ?」

 

八幡「だよな······って木場しかいねぇぞ」

 

この場にいるのが、俺とクルルと木場だけになっていた。いつの間に? 他は何処に?

 

「だぁぁぁぁぁっ!!!!?」

 

裕斗「······?」

 

八幡「今の兵藤か······今度は何したんだ」

 

揃いも揃って兵藤好きだなこの部は。

 

 

 

 

 

 

夕方。プールで一通り遊んだ(?)あと部室に戻ると兵藤が正座してゼノヴィアと共に他の女子陣に囲まれていた。なんだこれ。

 

リアス「··········全く。イッセーたらどうしてこうもエッチなのかしら」

 

ゼノヴィア「いや違うんだ。イッセーはただ私と子作りを」

 

どこからそんなぶっ飛んだ発想出てきたんだこいつ······

 

イッセー「いいから、ゼノヴィアは黙っててくれ!!」

 

と、兵藤が叫んだその時。

 

「皆愉快だね。私も混ぜて欲しいくらいだ」

 

床に、紅色の魔法陣が展開される。グレモリーの魔法陣。無論、リアス・グレモリーではない。

 それは、魔王ルシファーであるサーゼクスのものだ。因みに、大のシスコンとしてその筋では割と有名らしい。どこで何してんのお前。

 

 

それはさておき、魔法陣が開き、サーゼクスとグレイフィアが現れる。何しに来たシスコンよ。

 

サーゼクス「何かのイベントかい?」

 

リアス「お、お兄様!?」

 

イッセー「お兄様!?ってことは、魔王様!?」

 

何も跪かなくてもいいと思うんだが·······

 

八幡「どうしたシスコン。授業公開は今日じゃないぞ」

 

クルル「久しぶりサーゼクス」

 

本当なら授業公開自体して欲しくない。こいつとセラフォルーが何を仕出かすか分かったもんじゃない。小さい頃は、俺がこいつらの仕出かしたことで、何故か一緒に怒られていたのは今でも理解出来ない。今更だが。

 

サーゼクス「久しぶりだねクルル。八幡、開口一番がそれかい? 君は。昔からだなぁ······」

 

八幡「で?用件は?俺は帰ってもいいのか?」

 

サーゼクス「まぁまぁそんなこと言わないでくれよ。幼馴染みのよしみで頼むよ」

 

「「「「「幼馴染み!!?」」」」」

 

周りが驚いているが、それは無視して進める。

 

八幡「何回お前とセラフォルーのとばっちり食らってると思ってんだ······」

 

こいつも今は仕事中の筈だが······

 

サーゼクスはシスター・アーシアに話しかける。

 

サーゼクス「君がアーシア・アルジェントだね?」

 

アーシア「は、はい」

顔合わせか。今日の必要があるのか甚だ疑問だが······

 

サーゼクス「リアスの優秀な『僧侶』だと聞いているよ」

 

アーシア「そ、そんな!!」

 

シスター・アーシアは両手を大きく振って否定する。俺も、それには同意見だ。神器もあるし、魔法の適性も中々に高い。

 

サーゼクス「まぁ皆も寛いでくれ。今日はプライベートで来たんだ」

リアス「······はい」

 

やっぱりプライベートなのか······どうして魔王はこうもプライベートではっちゃけてる奴ばかりなんだ。

 

ゼノヴィア「あなたが魔王か?」

 

と、今度はゼノヴィアがサーゼクスに話しかける。

 

サーゼクス「君は?」

 

ゼノヴィア「初めまして、ゼノヴィア・クァルタだ。今はマスター・リアスの『騎士(ナイト)』を拝命している」

 

サーゼクス「ご機嫌ようゼノヴィア。デュランダル使いが私の妹の眷属になったと聞いた時は耳を疑ったものだよ」

 

俺は当然な流れだと思ってたがな。あのまま戻ったゼノヴィアは教会の人間に奇異の目を向けられた、と言ってたし。そんな簡単な話じゃないだろうがな。

 

ゼノヴィア「私も悪魔になるとは、大胆なことをしたと思っている。······うん? 何故悪魔になったんだ? ヤケクソ? いや、あの時は······えっと」

 

おい······大丈夫かそれで。

 

サーゼクス「ハッハッハッ、妹の眷属は楽しい者が多い。ゼノヴィア、リアスの眷属としてグレモリーを支えて欲しい」

 

サーゼクスがそう言うと、ゼノヴィアは姿勢を改める。

 

ゼノヴィア「······伝説の魔王ルシファーにそこまで言われては私も後には引けないな。やれるところまではやらせていただこう」

 

サーゼクス「ルシファーと言えば······」

 

 

 

リアス「······それで、お兄様はどうしてここに?」

 

てっきり、授業公開の日を勘違いしてんのかと思ってたが······よくよく考えれば、グレイフィアがいてそんなことしないか。

 

サーゼクス「リアス、この学校ではもうすぐ公開授業があるだろう?」

 

リアス「ま、まさか!?」

 

やっぱりそうだよなぁ。出来ればこいつもセラフォルーで来ないで欲しい」

 

サーゼクス「酷いな······」

 

八幡「ライザーの件を忘れたとは言わせないぞ」

 

俺がライザーとレーティングゲームする必要はなかった。俺には一ミリの得もなかったしな。しかも、あの後俺は貴族の結婚に介入したことで騒がれた。大損じゃねぇか。

 

サーゼクス「······そうだったね。それで、公開授業の件だけど、妹が勉学に励む様を見たいと思ったんだ。ちゃんとお父様も来る」

 

こいつ、軽く流しやがった。

 

リアス「お兄様は魔王でもあるんですよ!?仕事を放り出してまで·······」

 

誰かさんがリーアたんしか言わないせいで今も月1で俺がグレモリー領に出向してることを忘れないで欲しい······」

 

グレイフィア「旦那様······」

 

サーゼクス「と、ともかくだ。これは仕事でもあるんだよ。三大勢力の首脳会談をこの学園で執り行おうと思っているんだ」

 

汗を垂らしながらサーゼクスは言う。魔王の威厳とか全くねぇな。

 

クルル「また声に出てた」

 

八幡「まぁいいだろ」

 

リアス「それは何となく聞いてはいたけど······本当にやるとは」

 

 

 

 

 

 

 

部活終了後。

 

八幡「······? お前ら帰らねぇの?」

 

 解散後、サーゼクスとグレイフィアは冥界に戻って馬車馬の如く働いてくれるのかと思いきや、そうはいかなかった。

 

サーゼクス「今日は妹がお世話になっている兵藤一誠君のご自宅に泊まらせていただこうと思っていてね」

 

八幡「マジかよお前······迷惑かけんなよ?」

 

サーゼクス「君は心配しすぎなんだよ」

 

八幡「別にお前の心配はしてねぇよ。アポなしで行く気じゃねぇだろうな」

 

サーゼクス「アハハ······それはおいといて。本題はこっちだ」

 

 サーゼクスは人差し指を立てて言う。

 

八幡「······何だよ」

 

 サーゼクスは表情を引き締め、一拍おいてから言った。

 

 

サーゼクス「八幡、クルル。彼の封印を解除する訴えが通った」

 

 俺とクルルは目を見開いて驚く。

 

八幡「······ッ。そう、か」

 

 

 3年前、ウチの領である『サングィネム』で事件が起きた。その時、小学生だったあいつを、言うなれば疎開という形でグレモリー家に預けた。その期間中、事故が起きて、あいつは軟禁という体で封印処理にされてしまった。3年の間、ずっと解放するよう訴えていたが、リアス・グレモリーの眷族であるという主張で返されて、叶わなかった。強引な手段も取ろうと思えば取れたが、人質同然の状態では下手なことは出来なかった。

 

 

あの時から、俺達がいなくなってから散々寂しい、辛い思いをさせてただろう、からな······俺やクルルを恨んでいてもおかしくない。

 

 

 

八幡「やっと、か。ただ······あいつには会わせる顔がないなぁ······」

 

サーゼクス「それは仕方なかっただろう? 当時は『サングィネム』のことで面倒を見れないほど2人とも大変だったんだから」

 

八幡「そういうこと、じゃ、ないんだよ······」

 

クルル「あの子の気持ちより、優先されるものなんてない、わ」

 

 あの歳の子どもが、義理とは言え親から引き離されることがどんなに辛かったか。俺自身身を以て知っていた筈のに。

 

サーゼクス「きっと、大丈夫さ。僕が預かった時も君達を親として慕っていたからね」

 

八幡、クルル「「······」」

 

 

 

 

 ごめんな――――――ギャスパー。

 

 

 もう一度話してくれるなら、せめて、謝らせてくれ。許してくれなくても、いいから。

 

 

 

 



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第18話 公開授業

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

「───君が兵藤一誠だな?」

 

明日は授業公開か·····なんて憂鬱になりながら登校していた俺。校門の近くの学園の塀に寄りかかっていた銀髪の男に呼び止められた。無論、俺は銀髪の男になんて会ったことがない。

 

イッセー「あ、あぁ······そう言うお前は?」

 

······こいつはどっかで会ったことがある気がするぞ。それに俺でも一発で分かったほど、こいつは只者じゃない。

 

ヴァーリ「俺はヴァーリ。白龍皇、バニシングドラゴン」

 

白龍皇······!?

 

イッセー「お、お前が······!?」

 

ドグンッ!! と、突然、心臓が強く脈打つ。

 

な、何だ!? ぐ、左腕が燃えるように熱い······!! こんな所で!?

 

イッセー「うぐっ······!?」

 

いつの間にか、ヴァーリと名乗った男が俺の額に指を突き立てていた。いつでも殺せる、とでも言ってんのか······!?

 

ヴァーリ「この程度か。それに······そこに隠れて不意打ちなど無駄だ」

 

ヴァーリがそう言うと、物陰から聖魔剣を携えた木場とデュランダルを構えたゼノヴィアが出て来た。

 

裕斗「······ここで暴れられるのは困るんだよ、白龍皇」

 

木場が警戒を強めながら言う。

 

ヴァーリ「だろうな。別に、今日は戦いに来たわけじゃない。兵藤一誠、赤龍帝の顔を拝みに来ただけだ」

 

ヴァーリは、木場が警戒を強めても全く意に返さない。

 

イッセー「お、俺······?」

 

ヴァーリ「一つ聞きたいことがあってね。突然だが兵藤一誠······君は、自分が世界で何番目だと思う?」

 

ヴァーリは俺を指差しながら言う。

 

イッセー「······?」

 

どういう意味だ······? 世界ってどういうことだ?

 

ヴァーリ「君がまだ至っていない禁手(バランス・ブレイカー)。それ考慮しても、君はこの世界で1000~1500番目ってところだろうか。宿主のスペックが低いからそれ以下かもしれない」

 

イッセー「何が言いたいんだ······?」

 

スペックが低いなんて自覚してる。でも、何で会ってすぐに馬鹿にされなきゃいけないんだ······?

 

と、ヴァーリは突然俺から視線を外して言う。

 

ヴァーリ「だが、そうだとしても、兵藤一誠は貴重な存在だ。充分に育てた方がいい。そうだろう?」

 

ヴァーリが後ろを向く。

 

八幡「まあそうだな。リアス・グレモリーはもっと頑張った方がいいぞ。」

 

そこには、いつの間にか八幡が橋の手摺に座っていた。

 

······死角にいたわけでもないのに、一切気付かなかった。

 

 

と、背後から部長の声が聞こえて、振り向くと、木場動揺強い警戒心を見せる部長がいた。

 

リアス「······言われなくてもそうするつもりよ。白龍皇が何の用かしら?堕天使と繋がっているあなたが、必要以上に接触なんて」

 

イッセー「部長!! 朱乃さんに、小猫ちゃんまで·······」

 

その後ろにら、朱乃さんと小猫ちゃんもいる。

 

ヴァーリ「······白龍皇と赤龍帝。赤い龍と白い龍。それらに関わった人間は禄な生き方をしていない。さて、君たちはどうなるか?」

 

ヴァーリは歩き出し、俺の横を通り過ぎる。

 

八幡「やめとけやめとけ。今のお前らじゃ束になっても瞬殺されるのがオチだ」

 

八幡が右手を横に振りながら言う。今頃気付いたが、八幡はヴァーリに警戒心を見せていなかった。

 

イッセー「でもよ······」

 

ヴァーリが只者じゃないのは俺でも分かった、が、白龍皇は野放しには出来ない筈だ。

 

ヴァーリ「だ、そうだ。さっきも言ったが、今日は戦いに来たわけじゃない。俺もやることが多いのでな」

 

そう言い残し、ヴァーリは去っていった。

 

リアス「······あなた、どういうつもり!?」

 

部長が八幡に詰め寄っていた。

 

八幡「どうもこうもないだろ。実力差がありすぎたってだけで」

 

八幡は興味もなさそうにそう言う。

 

リアス「それは······確かに白龍皇相手じゃ、そうかもしれないけど」

 

イッセー「部長?」

 

実力差があったのは認める。今の俺達が束になっても勝てないかもしれないことも。でも、八幡が止めた理由が今ひとつ掴めない。八幡は何かを知ってるような口振りだった。

 

八幡「ま、いい。俺はクルルを待たせてっから先に行く。じゃな」

 

八幡は同じくいつの間にか校門に寄りかかっていたクルルさんと行ってしまった。八幡は1年の時クラスが一緒だからオカルト研究部に誘ったんだけど、今はクラスが違うからな······

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······で、兵藤一誠を直に見てどうだった?」

 

ヴァーリ『そうだな、これから次第ってとこだろう。あぁは言ったものの、俺は正直どうでもいい』

 

俺は、クルルと先に行ったように見せかけて、隠れてヴァーリと通話していた。

 

八幡「まぁそうだろうな」

 

兵藤一誠はこのままいけば、赤龍帝だしそれなりには強くなれるだろう。だが、それだけだ。あのトカゲの神器だけで上位までのし上がろうだなんて無理無理。そんな甘い世界は存在しない。

 

その程度の存在を気にかけるほど、俺もヴァーリもお人好しではない。

 

ヴァーリ『というか、あんたが面倒を見ているんだろ?』

 

八幡「まあな。それも()()()()終わりだけどな」

 

兵藤一誠がある程度赤龍帝の神器を制御出来るようになってきたし、もうそろそろ潮時だ。

 

ヴァーリ『そうか。それと、一つ考えがあるんだが』

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

イッセー「······や~っと収まった」

 

人間の手の姿をした自分の左腕をさすると

 

俺の左腕はヴァーリの襲来で龍の状態になりそうだった。なので、保健室で収まるのを待っていた。授業があるので朱乃さんに直接吸い取ってもらうわけにもいかない。朝、八幡に取り除いてもらうんだった。朱乃さんは何で直接俺の指から吸い出すんだろ。八幡は手を翳すだけで吸い出すことが出来るのに。

 

イッセー「白龍皇······ヴァーリか」

 

俺の脳裏にあの龍の鎧を纏った姿がチラつく。

 

イッセー「あれが······あいつの戦闘スタイルってわけか」

 

俺も早くものにしないと。

 

『なら、そろそろ相棒もあの野郎に禁手を教えてもらえばいいだろう』

 

イッセー「とは言ってもなぁ······」

 

ドライグが言ったような、劇的な変化か······そんなこと言われてもなぁ。

 

イッセー「そう言えば、あんま詳しく聞いてないけど白い龍と赤い龍ってどういう関係なんだ?」

 

改めて考えると、俺は余りにも知らなすぎる。他の部員は二天龍について常識レベルで知ってるけど、俺については名前しか知らない。

 

『······神と天使、堕天使、悪魔の三大勢力が戦争をしていた時、異形の者達、そして人間がそれぞれの勢力に与していたんだが、ドラゴンだけは例外だった。大半は戦争なんて我関せずで好き勝手に生きていたんだが、その最中、大喧嘩を始めた2匹の龍がいたのさ』

 

イッセー「その2匹って······」

 

絶対こいつだろ。

 

『そうさ。その2匹は神も悪魔もお構い無しに戦場で暴れまくったのさ』

 

イッセー「何でそんなことになったんだよ······」

 

『さあな。昔のことでそいつらももう覚えてない』

 

なんてはた迷惑な······

 

『だから、こいつらを先に始末しないと戦争どころじゃない。三大勢力は一時的に休戦してそいつらを始末にかかったのさ』

 

イッセー「喧嘩を止めるだけで休戦ってどんだけ暴れたらそんなことになるんだよ?」

 

こいつらどんだけ暴れたんだ······

 

『邪魔された2匹は怒り狂って、神、堕天使、悪魔の親玉に食ってかかった。神如きが、魔王如きが、ドラゴンの喧嘩に手を出すなと。まぁ馬鹿丸出しの逆ギレだ』

 

イッセー「マジで最強最悪最低だ······」

 

そりゃ、休戦もするよ······封印されてる今ですらこの強さなんだし。

 

『だが、いや、だからこそか。その2匹は一つミスを犯した』

 

ドライグは、嘆くように言う。

 

イッセー「ミス······?」

 

 

『その2匹は1人の悪魔の女に手を出したのさ』

 

 

イッセー「それがミス·····?」

 

散々暴れたんだからもっと色々ある筈だろ。

 

『ああ。それが、その2匹の最大の失敗さ。その女はその2匹を前にしても引かずに戦っていた。だが、戦場を突っ切りながら戦うそいつらの前に1人の男がいた。例によって俺達は怒った』

 

例によって、って·······

 

『片方はその男を八つ裂きにしようとした。その時、その女が男を庇い、女が背中から切られた。結局、死ななかったようだがな』

 

イッセー「凄いなその人······」

 

『それが最大のミスさ。女を傷付けられた男は怒った。刃を俺達に向けた』

 

へぇ······その人達相当強かったんだな······ってか、その人達って······

 

『そん時だった。奴は殺気を服を着込むようにして何重にも纏った。それこそ、当時の魔王ですら殺気だけで殺せるんじゃねぇかってほどにな。

······それからは一瞬の出来事だったさ。その2匹は殺気で動けなくなり、男に一瞬で粉々になるまで切り刻まれ力のほぼ全てを奪われ魂を武器に封印された。·······それから2匹は人間を媒介にして何度も小競り合いしているのさ。その男の監視の下な』

 

イッセー「それが、ドライグとアルビオンか······じゃあ、庇った女の人って······」

 

『ああ。あの野郎の側にいつもいるあの淡い桃髪の女さ。いつの間にか結婚してやがったけどな』

 

マジかよ······八幡もクルルさんも本物の化け物じゃねぇか······

 

イッセー「じゃあ俺とヴァーリが出会うのも運命とでも言うのか?」

 

『さあな。まぁ、宿主が先に死んで出会わないとかもあった』

 

イッセー「はぁ······出会っちまったじゃねぇかよ·····」

 

冗談キツいぜ······でも、俺には上級悪魔になってハーレム王になるっていう壮大な夢があるんだ!!こんなところで挫けていられるか!!

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

時は飛んで公開授業の日。俺のクラスは化学の授業で、特に何もなかく、公開授業は終了した。知り合いが冷やかしに来るかと思ってたが、別段そんなこともなかった。

 

にしても、真面目に科学なんてやったのいつ以来だったか。ボローニャの医学部狙った時まとめて理系やったの以来か?

 

八幡「あ~······疲れた」

 

今日はもう授業ないんだよな······クルル迎えに行くか。

 

八幡「······あ」

 

そこで、特に会う気もなかった目立つ紅髪の男───まぁサーゼクスなんだが───がいた。

 

サーゼクス「やあ八幡」

 

廊下に出たところでサーゼクスに出会った。こいつ何かやらかして、ないよ、な······不意に問題児ランキング堂々のNo.1の顔が浮かんだ。

 

サーゼクス「聞いて欲しいんだ八幡。やはり私の妹は······」

 

八幡「うるさい!!」

 

サーゼクス「ちょ······」

 

そんなことを話している暇はない。早く探さねば、被害が出てしまう。

 

八幡「おい、セラフォルーはどこだ!?」

 

あいつが大人しくしてるわけがない······こいつに見張らせるんだった。首脳会談があるってのに、あいつの存在を忘れていた······

 

サーゼクス「さぁ。私は見ていないが······」

 

サーゼクスがそう言ったその時、

 

「体育館で魔女っ子の撮影会だってよ!!」

 

「元写真部として、これは記録せねばー!!」

 

すぐ側を大軍が駆けて行った。

 

八幡・サーゼクス「「·······」」

 

なんだ今の頭の悪い大軍。

 

八幡「遅かった、だと······」

 

サーゼクス「······彼女らしいね」

 

時既に遅し。何をアホなことしてんだ俺は。

 

クルル「·······アンタ何やってんの?」

 

鞄を肩にかけたクルルが合流する。

 

八幡「手遅れだった。セラフォルーが······」

 

クルル「あ~······お疲れ様」

 

クルルもサーゼクスも遠い目をしている。

 

八幡「回収してくる······はぁ」

 

こういうのは、いつの間にか俺の役目になっていた。

 

クルル「行ってらっしゃい」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

さっき松田と元浜が猛ダッシュで体育館に向かって行った。何しに行ったのかと思って、俺は、途中で偶然出会った部長と朱乃さんと体育館に向かった。そこにいたのは

 

イッセー「あれは······魔法少女ミルキースパイラル7 オルタナティブのコスプレじゃないか!!」

 

リアス「あ、れは······」

 

とあるアニメのキャラクターのコスプレをした黒髪の女の人だった。かなり再現度高いな······

 

アーシア「一誠さんお詳しいんですね」

 

イッセー「あるお得意様と全話のマラソン鑑賞したことがあってね」

 

俺の頭に魔女コスをしたおっさんの顔が浮かぶ。

 

アーシア「お得意様······ですか?」

 

イッセー「ん、まあな······」

 

匙「こらぁ!!」

 

遠い目でミルたんとマラソン鑑賞したことを回想していると、匙の怒鳴り声で引き戻された。

 

匙「学校で何やってるんだ!! ほら、解散解散!!」

 

松田「撮影会の邪魔すんな生徒会!!」

 

元浜「そうだそうだ!!」

 

松田と元浜やっぱりここにいたのか······

 

匙「公開授業の日にいらん騒ぎを起こすな!! 解散しろ!!」

 

「えぇ〜」

 

「あんだよそれ~」

 

匙が一喝し、撮影会をしていた奴らはブーブー言いながらも帰って行った。

 

匙「あの、ご家族の方でしょうか?」

 

「うん!!」

 

匙「その、学校にそんな格好で来られるのは困るんですが······」

 

匙が尋ねると、お決まりのセリフとポーズが返ってくる。話聞いてなさそうだな。

 

「ミルミルミルミルスパイラル〜!!」

 

随分変わった人だな······いや、悪魔の俺が言えたことじゃないか。

 

匙「いやだから······」

 

イッセー「よぉ匙。ちゃんと仕事してんな」

 

匙「揶揄うな兵藤」

 

その時、『ガラガラッ!!』という音で扉が開いて会長が来た。

 

ソーナ「匙、あなたこんな所で何を、して、る······」

 

会長が言葉を繋げなくなったかと思うと、コスプレした女性が叫んだ。

 

「ソーナちゃん見ぃ付けた!!」

 

ソーナちゃん? まさか会長の知り合いなのか?

 

匙「もしかして、会長のお知り合い······とか?」

 

「ソーナちゃんどうしたの?お顔が真っ赤だよ?お姉ちゃんとの感動の再開なんだから、もっと楽しもうよ~!! 『······お姉ちゃん!!········ソーナたん!!』って、もっと百合百合しいでもいいと思うの〜!! お姉ちゃんはね!!」

 

ソーナ「······」

 

コスプレの女性は一息で息巻きながら、会長に抱き着いた。

 

ん? お姉ちゃん?

 

そこで、眉間を指でおさえた部長の説明が入る。

 

リアス「······現四大魔王のセラフォルー・レヴィアタン様よ。会長のお姉様でもあられるわ」

 

あの人が魔王か······世界は広いな。

 

 

セラフォルー「本当は、お姉ちゃんと会えてと~っても嬉しいでしょ?」

 

プルプル震える会長を他所に、魔王様はマシンガントークをかましていた。

 

リアス「セラフォルー様、お久しぶりです」

 

セラフォルー「あ、リアスちゃん。おっひさ~!! 元気してた?」

 

リアス「ええ。そちらはソーナの公開授業ですね?」

 

セラフォルー「そうそう。聞いてよリアスちゃん!! ソーナちゃんたら酷いのよ!! 今日のこと教えてくれなくて!! 悲しくて天界に攻め込もうとしちゃったんだから!!」

 

ステッキを振り回しながら言う魔王、セラフォルー様だが······

 

イッセー「本気で言ってんのか違うのか分からん······」

 

いやマジで。なんか、あの人ホントにやりそう。

 

アーシア「アハハ······」

 

セラフォルー「リアスちゃん、あの子が噂のドライグの?」

 

と、魔王様は俺の存在に気付いたのか部長に俺のことをお尋ねになった。

 

リアス「はい。イッセー、挨拶なさい」

 

うぅ······魔王様だと思うと緊張するな······

 

イッセー「兵藤一誠です。リアス・グレモリー様の『兵士』をやってます!!」

 

相手は魔王。悪い印象を与えないようにせねば·······

 

セラフォルー「セラフォルー・レヴィアタンです!! レヴィアたんって読んでね!!」

 

イッセー「は、はあ······」

 

お茶目な人だな······そんな印象を受けた時だった。

 

「くぉらセラァァァッ!! てめぇこんな所で何やってやがんだぁ!!」

 

セラフォルー「ふぎゃっ!?」

 

『べグォン!!』

 

その叫び声と共にセラフォルー様が派手に吹き飛んた。

 

あ、頭が壁にめり込んでいる·······

 

八幡「散々大人しくしてろってあれほど·····!!」

 

セラフォルー「ひ、酷いよハチ君!! 姉妹の感動の再開を邪魔するなんて!!」

 

セラフォルー様が出て来た。魔王様に飛び蹴り食らわす八幡って·········

 

八幡「お前またそれか······とりあえずシトリー卿に連行するから」

 

セラフォルー「待ってハチ君!! お姉ちゃん謝るから!!」

 

首根っこを掴んで引きずっていこうとする八幡に、セラフォルー様は、やめるように懇願していた。

 

八幡「問答無用!! ってか、誰がお姉ちゃんだ」

 

セラフォルー「痛っ!!?」

 

八幡がセラフォルー様の頭に拳骨を食らわす。魔王様になんてことを······

 

八幡「こいつシトリー卿ん所に連れてっていいよな?」

 

八幡が、セラフォルー様を指差しながら部長に言う。

 

ソーナ「お願いします······毎度毎度申し訳ございません······」

 

あ、会長がどんどん小さくなってる。これ毎回やってるんだな。会長大変だな······

 

八幡「じゃあなソーナ」

 

セラフォルー「待ってハチ君!! ごめんなさい!!」

 

八幡「うるさい。会談まで大人しくしてろ」

 

セラフォルー「·······はい」

 

八幡はセラフォルー様の首根っこを引っ掴んで、魔法陣でどっかに飛んでった。······と思ったら1人ですぐ戻って来た。早いな。

 

八幡「······あいつは常に眷属に見張りをさせるべきだな······」

 

ソーナ「行くわよ匙······」

 

匙「······あ、はい」

 

会長は疲れた様子で匙を連れて出て行った。

 

イッセー「······ど、どうしたんだよ八幡。あんなに怒鳴ってるのコカビエルの時以来だろ」

 

コカビエルの時はともかく、ここでこんなに強引にどっかに移す必要があったのか?

 

八幡「あいつのせいで俺は何度シトリー卿に怒られたか分かるか?」

 

八幡は怒り新党で矢継ぎ早に続けた。

 

イッセー「い、いや······」

 

八幡「あれとサーゼクスのせいで、俺だけシトリー卿とかグレモリー卿に怒られる気持ちが分かるか?しかも途中から教育係の君が見ていないからだとかマジ巫山戯てんだろあの酔っ払いが」

 

イッセー「ご、ごめん······八幡はセラフォルー様とはどういう関係なんだ?」

 

超気になる。普通魔王に飛び蹴りなんて出来ない。

 

八幡「幼馴染みだ。腐れ縁って意味でな······はぁ」

 

魔王2人と幼馴染みか······八幡って、ほんとに何者?

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 



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第19話 バンパイアの少年(前編)

 

 

八幡side

 

 

 

······オカルト研究部はギャスパーが封印されている部屋の前に来ている。どうやら、リアス・グレモリーもサーゼクスの提案を受けていたらしい。

 

······そもそも、昔は制御出来ていた筈なんだがどうしてこうなった?サーゼクスに聞いたら、いつの間にかまた制御出来なくなったとしか言われなかったが。

 

クルル「······拒絶されたらどうしよう······」

 

八幡「サーゼクスのお墨付きもあるし、大丈夫だ」

 

クルル「うん······」

 

 

リアス「扉を開けるわ」

 

そんな俺達の会話を他所に、リアス・グレモリーが扉を開けた。

 

と、中から悲鳴が俺達の耳を掠めた。

 

ギャスパー「何事なんですかぁぁぁっ!!!?」

 

······そこまでになってたのか······クソ、何が家族だよ。自己満足も甚だしい───

 

 

イッセー「何だ!?」

 

リアス「御機嫌ようギャスパー。封印が解けたのよ」

 

朱乃「さぁ、私達と一緒に······」

 

ギャスパー「い、嫌です!! やめてください·····!!」

 

 

八幡「······ギャスパー。久しぶりだな。······ごめんな。一緒にいれなくて」

 

顔を覗かせる俺達を見て、ギャスパーは悲鳴を上げるのも忘れて呆ける。

 

ギャスパー「······え?」

 

クルル「久しぶりねギャスパー。······ごめんね。勝手に置いてって」

 

ギャスパー「······う······うわぁぁぁぁぁん!!」

 

ギャスパーが俺とクルルに飛びついて来た。寂しい思いをさせたな。

······ごめんな。

 

八幡「おっと」

 

クルル「久しぶりの感覚ね」

 

小柄とはいえ、 あん時より随分大きくなっていた。バランスを崩さないように踏ん張って、しっかり受け止める。

 

ギャスパー「!!」

 

クルル「······よく、頑張ったわね」

 

クルルが、泣くのを堪えながらなんとか言葉を紡ぐ。

 

イッセー「······部長、こいつがもう一人の『僧侶』なんですか?」

 

リアス「ええ······でも、ここまで人に心を許しているのは初めて見たわ」

 

リアス・グレモリーにはまだ気を許してないのか······リアス・グレモリーはこいつを封印するしか出来なかったと。俺がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかったのになぁ······

 

アーシア「何だか······家族というような?」

 

嬉しいこと言ってくれる······

 

リアス「え、ええ」

 

ギャスパー「会いたかったです······!! お父様!! お母様!!」

 

こう呼ばれるのも久しぶりだな······

 

八幡「俺もだぞギャスパー」

 

クルル「私もだよギャスパー」

 

本物の家族に、今度こそ────

 

 

イッセー「······お父様?····お母様?」

 

「「「「「「え?······えぇぇぇぇぇえっ!!!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 

八幡「······こいつはギャスパー。元は人間とバンパイアのハーフだ。とある強力な神器を持っていてな。制御を見誤って暴走した、らしくてな······」

 

場所は変わってオカルト研究部の部室。ギャスパーはクルルの膝の隣に座っている。移動中も、俺とクルルにくっ付いて離れなかった。

 

イッセー「その神器はどういう能力なんだ?」

 

クルル「簡単に言えば、対象の時間を止めることが出来る。条件はあるけどね」

 

アーシア「時間を止める······ですか。凄いですね!!」

 

それはシスター・アーシアにも言えることなんだがな。

 

イッセー「でも何でお父様お母様? 本当に2人の子供とか?」

 

いや、本当の子供をリアス・グレモリーに、というかサーゼクスに預けたりしない。本当は預けるつもりはなかったんだが。

 

八幡「······3年前まで、俺達がこいつの親代わりをしてたからな」

 

そう言って、ギャスパーの頭を撫でる。昔はこれされると凄い喜んでいた。そんな日々が思い出されて、また悲しくなる。

 

リアス「······」

 

ギャスパー「本当に帰って来てくれた、んですよね······?」

 

あぁ、ここまで寂しい思いをさせてたのか······

 

八幡「······ああ。ついでに、またお前の神器の制御も出来るようにしてやる」

 

ギャスパー「本当ですか?」

 

八幡「ああ。お前のことも理解してるつもりだが、少しくらい外に出れるようになりたいだろ?」

ギャスパー「······お願いします」

 

イッセー「ええと、ギャスパーだっけ?兵藤一誠だ。よろしく!」

 

兵藤が手を差し出す。

 

ギャスパー「え、えっと······よ、よろしくお願いします······」

 

ギャスパーは恐る恐るその手を握り返した。

 

イッセー「おう、よろしく!!」

 

アーシア「アーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」

 

ギャスパー「よ、よろしくお願いします」

 

続いて、シスター・アーシアとも握手する。

 

八幡「ギャスパー、何で神器の制御が出来なくなったんだ? 昔は出来てたろ」

 

ギャスパー「あ、その······お父様とお母様がいなくなってから、ずっと1人で······寂しくて······そしたらいつの間にか制御出来なくなってしまって······」

 

······俺達のせい、だな。緊急事態だったとしても一緒にいれはよかったのか······いや、こうなると分かってても、俺達はサーゼクスにギャスパーを預けたろうな。より安全な所にいて欲しいのが、せめてもの親心だった。

 

八幡「······そうか。これは俺達の責任でもある。俺達もついてるから、頑張ろうな」

 

ギャスパー「ありがとう、ございます······」

 

目を涙ぐませながら言うギャスパーに、俺も泣きそうになる。

 

八幡「それでいいだろ?」

 

リアス「······え、ええ、お願いするわ」

 

······なんでかは興味ないが、リアス・グレモリーは少し間を置いてから答えた。

 

クルル「大丈夫?ギャスパー」

 

ギャスパー「は、はい······2人がここまでしてくれるのに、しないわけにはいきませんから」

 

そう言って微笑んだギャスパーは······とても痛ましかった。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。俺とクルルは、自領の屋敷にある訓練室にギャスパーを連れてきていた。昔は、ここで、ギャスパーを鍛えていたのが懐かしい。ギャスパーも懐かしく感じて、郷愁を味わっていた。

途中、ギャスパーを見たウチのヤツらは様々なリアクションを返してきたが、皆喜んでいたのを見て、俺達もまた泣きそうになった。

 

 

八幡「────じゃあ、早速始めるぞ。今日使うのはこれだ」

 

ギャスパー「ボールですか?」

 

俺が取り出したのは、倉庫から持ってきたボール。

 

八幡「あぁ。ひたすらこのボールの動きを止めるを繰り返すんだ。俺達が傍にいるから安心してくれ」

ギャスパー「はい!! ······でも、それでいいんですか? 昔は······」

 

ギャスパーは疑問を呈す。だが、もちろん、

 

八幡「ああ。昔は制御出来てたからな。昔の感覚を掴み直すことを中心にやろう」

 

ギャスパー「なるほど······」

 

 

······神器『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』を暴走させたというギャスパー。その時その場にいなかったから分からないが、神器と違い()()()から強制制御が可能なあの力の話は全く出てこなかった。多分、バレないように()()()()()封じてくれたのだろう。

 

 

八幡「じゃあいくぞギャスパー。ボールの動きを止めてみてくれ」

 

そう言ってボールを軽く上に投げる。

 

ギャスパー「はい!! はっ······」

 

目に力を込めるギャスパー。しかし、

 

ギャスパー「あてっ」

 

ボールを止めることが出来ず、顔に直撃した。

 

······随分、焦ってるな。無理もない、か。

 

クルル「落ち着きなさい。いくらでも付き合ってあげるから」

 

ギャスパー「······ありがとうございます」

 

ここで、無理をしても何にもならない。本来はゆっくりやるものだ。だが、それではギャスパーの焦燥を煽るだけかもしれない。

 

八幡「ギャスパー、今日いきなり無理する必要はない。けど、それでもまだやるか?」

 

ギャスパー「······はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアス「······特訓の成果はどうかしら?」

 

朱乃「どうも皆さん。今日は私達も見させていただいてよろしいでしょうか?」

 

八幡「別に構わないが」

 

翌日。昨日と同じようにやっていると、リアス・グレモリーと姫島が見に来たいと言ったので、出来るだけ他の施設を見せないようにしながらオカ研の奴らをウチにある訓練室に連れてきていた。部室から訓練室に直接転移しただけだが。

 

八幡「そうだな。成果で言えば······まあ、順調だな」

 

俺達がいるってのもだろうが、ギャスパーは少しずつ制御が出来るようになってきた。この類の神器は所有者の精神状態によってはかなり危険だからな。細心の注意を払ってやらねばならない。

 

と、ギャスパーがリアス・グレモリーを見て震え出した。

 

ギャス、パー······?

 

ギャスパー「や············やだ」

 

クルル「ギャスパー?」

 

八幡「ギャスパー、どうした?」

 

見るとギャスパーが怯えていた。リアス・グレモリーが来た瞬間にこれとは、何があったんだ?

 

イッセー「おい、大丈夫か? ギャスパー」

 

ギャスパー「イヤだ·······」

 

それを最後にギャスパーは糸が切れたかのように倒れた。幸い隣りにいたクルルが受け止めたが。

 

クルル「ギャスパー!?」

 

八幡「お前······こいつに何をした!!?」

 

場合によっては、武力行使でこいつを排除するのも辞さない。子どものために、出来ることは全部やる。

 

リアス「わた、しは······」

 

 

 

 

 

 

 

 

リアス「────ということなの」

 

八幡「······お前、ふざけてんのか」

 

リアス「······ッ!!」

 

ギャスパーをウチの屋敷のギャスパーの部屋で寝かせた後、クルルに任せて、オカ研の部室に戻ってきた俺はリアス・グレモリーに事態の説明を要求した。

 

 

その昔、ギャスパーを眷属に引き入れたばかりの頃に、リアス・グレモリーがギャスパーに無茶をさせたらしい。無理に能力を使わせようとしたとか。もしかして、能力の制御が出来なくなった原因の一端はこれかもしれない。

 

 

ギャスパーは、元々人付き合いが得意なタイプじゃなかった。前までは、周りには大人が多かったからおかしな事態に陥るようなことはなかった。だが、あの時は、ただでさえ信頼出来る人物が誰もいない上に、その少し前に起きたことで精神が既に限界だった。

それに加えて、自分を追い詰める要素が増えた。あの時のギャスパーが、どんだけ苦しんだのだろうか。俺が想像出来るものではないのかもしれない。

 

 

八幡「慈愛のグレモリーの姫様は、自分の眷属を追い詰めるのか。いいご身分だな」

 

リアス「なっ·····!!」

 

こいつ一人のせいではない。預けた俺のせいでもある。だが、それでもこいつは許せない。

 

 

八幡「眷属はお前にとってはただの駒なんだろうな。お前の立場だったら、俺はそもそもギャスパーを眷属に誘ったりしないが」

 

こいつはギャスパーに能力を使用することを強制したのだろう。精神状態が不安定なギャスパーが無理強いされれば暴走するのも無理はない。

 

こいつもこいつなりに何かしようとしたのかもしれないが、結果はこれだ。

 

リアス「······私、は、ずっと一人でいたあの子と仲良くなりたくて······」

 

というか、何故サーゼクスが制御に手を貸さなかったのかも気になるが、一番はサーゼクスに預けた俺だ。あの時、サーゼクスに預けた時のギャスパーの顔が頭に浮かぶ。ギャスパーが力を使わない間も力が強くなっていったのも原因かもしれないな。

 

八幡「そうかよ」

 

はぁ、ガキ相手に何してんだ俺は······こいつを責めるのは時間の無駄だ。

 

 

今は、ギャスパーのメンタルケアが何よりも大切だ。それ以外は後でいい。

 

 

 




八幡とクルルには、話が進むにつれて少しずつ罪悪感が蘇っていっていきます。



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第20話 バンパイアの少年(後編)

※繰り返しますが、あくまでも本作は二次小説です。原作とは展開が違うことをご了承ください。


今回は回想編。扱い的には閑話に近いので、とばしても多分大丈夫です。あと、UA1万突破!!ありがとうございます!!


2/24 大幅に修正しました。



 

 

ギャスパーside

 

 

······どうして皆、僕を避けるのだろう。この眼がいけないのか。僕がハーフだからいけないのか。

 

────も、僕を一人にしていなくなった。

 

 

そして冬のルーマニアの山中に一人放り出された僕は、気付いたら病院にいた。

 

 

 

そこで、気絶していた自分を見つけたという後の両親に出会うのだった。

 

 

 

 

♦♦♦♦

 

 

 

 

 

八幡「······ギャスパー、お前は今日からここで住むんだ」

 

ギャスパー「······分かりました」

 

クルル「そんなかしこまらなくてもいいのよ。ここは今日からあなたの家でもあるんだから。困ったことがあれば何でも言ってね」

 

ギャスパー「はあ······」

 

 

連れてこられたのは、僕の家に負けず劣らずの豪邸だった。この人達は何故僕を引き取ったんだろう。そう思っていた。そしてそれ以上に、この現状(孤独)から逃げ出したかった。

 

 

 

 

 

♦♦♦♦

 

 

 

 

八幡「······食わないのか?」

 

どうせこの人達も僕を傷つける。でも、別にいいや。

 

 

そう思っていた。つまるところの自暴自棄だった。

 

 

クルル「食べなきゃダメよ。倒れちゃうわ」

 

ギャスパー「······別に。いいです」

 

八幡「ダメだ、食べなきゃ──」

 

ギャスパー「いりません!!」

 

そうして立ち上がった時に、僕はスープの入ったお皿に腕を引っ掛けて、ひっくり返してしまった。このスープも、体が弱っていた僕の体に合わせて作ってくれたものだったのに。

 

『パリィン!!』

 

ギャスパー「あ······」

 

そして、テーブルから落ちた陶器のお皿は割れてしまった。

 

八幡「全く······」

 

いけない。お皿を割ってしまった。流石に謝らないと。また殴られてしまう。

 

 

そう思った。本能的には、(当たり前だが)殴られるのは怖かった。

 

 

八幡「······怪我、してないか?」

 

ギャスパー「······え?」

 

怒らないの? お皿を割ってしまったのに。殴られないのが不思議だった。

 

八幡「どうした?」

 

その人は落ちたお皿を片付けながら言った。近くにいた人に雑巾を持ってくるように言っていたが、それを無視して聞いた。

 

ギャスパー「······怒らないんですか?」

 

八幡「······何で?」

 

逆に聞き返してきた。怒ることではないのか?

 

 

当時の僕には、気に障ることがあれば、怒られ、殴られ(或いは蹴られ)が当たり前だった。

 

 

ギャスパー「何で、って······お皿割っちゃったのに」

 

八幡「怒ることじゃないな。お前怪我してないんだし」

 

ギャスパー「でも······」

 

 

今でこそ一言謝って終わる話だが、当時はそうはいかなかったのだ。

 

 

八幡「皿を割っていいとは言わないが······態とじゃないんだろ?」

 

ギャスパー「そうです、けど······」

 

八幡「なら、次は気をつけろよ?」

 

そう言ってその人は僕の頭を撫でた。

 

ギャスパー「あ、ありがとうございます······」

 

八幡「それ、謝るほどのことか?」

 

クルル「ギャスパー、これ」

 

ギャスパー「これは·······」

 

クルル「まだ食べてないでしょ?食べなきゃダメよ」

 

その人が出したのは、湯気が上がるスープ。別の皿に装い直してくれたのだった。

 

ギャスパー「······ありがとうございます」

 

 

そのスープは凄い温かかった。────以外で、初めて『僕』を見てくれた気がした。

 

 

 

 

 

♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「おい」

 

ギャスパー「······はい?」

 

養父達に馴染めず、一人でいたある時、街を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

 

ギャスパー「·······あの、何でしょうか?」

 

「お前、『堕天魔』のところのハーフバンパイアだな?」

 

ギャスパー「!?」

 

どうしてこの人がそれを知っているんだ······!?

 

「暫く眠っていろ」

 

何かを嗅がされて僕の意識は真っ暗になった。

 

 

この時は考えが及ばなかったが、お父様達の敵に利用されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······ん」

 

「······まだ殺すな。奴らを誘き寄せる餌を失うわけにはいかん」

 

「······ハッ!! あんなガキで本当に来んのかぁ?」

 

次に目が覚めた時、僕は両手両足を縛られ地べたに転がっていた。

 

ギャスパー「んー!! んー!!」

 

口もガムテープで塞がれていた。それに、ヴァンパイア特有の蝙蝠化まで封じられていた。

 

「へぇ、起きたんか」

 

「残念だがお前は餌だということを、教えておいてやろう。奴らを殺すのに誘き寄せるための餌だとな」

 

そんな······あの人達が······!? どうして········!?

 

「何でだって顔をしてるな。冥土の土産に教えてやる。奴は危険だから、だ。女はついでだがな」

 

ギャスパー「んー!!」

 

殺す? あの人達は初めて僕を見てくれた、のに·······

 

「ちょい黙ってろガキ」

 

ギャスパー「んぅ!!?」

 

そいつは僕の腹を蹴った。凄い痛かった。そして凄い怖かった。

 

「へぇ。まだ泣く余裕があんのか」

 

僕を蹴ったそいつが言ってきた。あれ······僕は泣いてるの? 痛かったから? ······違う。あの人達がいなくなる恐怖からだ。

 

「うちの子泣かすとはいい度胸してんじゃねえか」

 

その時、突然僕を拘束した男達が吹き飛んだ。

 

「は!? がはっ······!!」

 

「帰りが遅いから迎えに来たのよ」

 

口と両手足の拘束を解きながら、その人は言った。

 

ギャスパー「何、で·······殺されるかもしれないのに······」

 

八幡「子供がピンチなのに死ねるかよ」

 

クルル「子供を迎えに来るのは親の義務なの。つまり、当たり前なのよ」

 

ギャスパー「·······っ!!」

 

その人達は死ぬかもしれないのに、僕を助けに来た。

 

「てめぇ······!! 丁度いい、死ねぇ!!」

 

八幡「遅えよ」

 

その人は一瞬で戻ってきた内の一人を倒した。鮮やかと言ってもいいほどだった。

 

「貴様は······!!」

 

もう一人は、剣を抜いた。

 

誰かが誰かに剣を向けるのを実際に見るのが初めてで、恐怖で涙がボロボロと出た。

 

八幡「お前、俺の子ども泣かしといて無事で済むとでも思ってんのか?」

 

その人は剣を抜いた男を一瞬で蹴散らしていた。

 

「がっ······」

 

そいつは意識を失ったらしく、力なく倒れた。

 

 

 

八幡「大丈夫か?怪我してないか?」

 

クルル「お腹を蹴られたのね········」

 

八幡「そうか······」

 

ギャスパー「どう、じ、て······」

 

涙で、上手く言葉を紡げなかった。

 

八幡「お前は俺達の子供だ。血がどうとか関係なしにな。誰にも文句を言わせない。理由なんてそれで十分だろ?」

 

ギャスパー「う·····う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「「おいで」」

 

その2人は僕を抱き寄せた。それが何より温かかった。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「······でよかったね」

 

「······だな」

 

ギャスパー「───ん」

 

八幡「起きたか」

 

いつの間にか眠っていた僕はその人に膝枕されていた。

 

ギャスパー「すいません!! すぐ降ります!!」

 

クルル「いいの。まだ万全じゃないでしょ」

 

ギャスパー「······は、はい」

 

その人は降ろしてくれなかった。

 

クルル「調子はどう?」

 

ギャスパー「······大丈夫です」

 

今気付いたけど、蹴られた筈のお腹が痛くない。

 

クルル「一応治療したけど、まだ安静だからね」

 

どうやら治療してくれたらしい。

 

ギャスパー「ごめんなさい······」

 

八幡「またそれか」

 

ギャスパー「だって僕のせいで······」

 

······巻き込まれて。

 

八幡「ギャスパー、お前は家族だからだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

クルル「もっと私達に甘えなさい。家族なんだから。あなたの親なんだから」

 

ギャスパー「······うっ、うぁっ、うわぁぁぁぁぁっ······」

 

また涙が溢れてきた。嬉しかった。実の親ですら一度も家族として見てくれなかったから。

 

 

 

 

ギャスパー「お母様······お父様······ありがとう······」

 

意図せずに口から言葉が溢れていた。あれ? 今なんて······

 

八幡「お父様、か·····」

 

クルル「お母様、ね········」

 

ギャスパー「あわわわわ、すいません!!」

 

八幡「それこそ何で謝んだよ。初めてお前にお父様って言われて嬉しいぞ俺は」

 

クルル「私もお母様って言われて悪い気はしないわね」

 

ギャスパー「ううっ······」

 

何で今言葉が出たんだろう。

 

八幡「俺達はさ、お前の本当の父親に自分から引き取らせてくれって頼み込んだんだ」

 

そうだったのか········

 

ギャスパー「どうしてですか?」

 

八幡「··········少し前にさ、街で1回だけお前を見たことがあってな。お前の目が昔の俺を思い出させたんだよ。俺はお前を1人にしたくなかった。俺の自己満足だ」

 

ギャスパー「そんなこと、ないです······お、お父様とお母様は僕を助けてくれた!! 僕はここが凄い温かいです!!」

 

八幡「そうか······なら改めまして、いらっしゃい、そしておかえりギャスパー」

 

クルル「おかえりギャスパー」

 

ギャスパー「ヒグッ······はい。ただいま!!」

 

僕は家族を得た。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、僕は幸せだった。お父様とお母様がいる。2人には、僕に宿る神器の制御方法も教えてもらった。頼りになる人がいっぱい出来た。好きな人が出来たりもした。

 

でも、それも、長くは続かなかった。

 

ギャスパー「どうしてですか······!? どうして僕だけ······」

 

八幡「ごめんギャスパー。それは出来ない」

 

クルル「危険なの。お願いだから分かって」

 

どうやら、異常事態であったらしい。ここも、危険かもしれないという話だった。

 

ギャスパー「······そんな······」

 

やっと得た家族と離れたくない。

 

八幡「ごめんギャスパー。必ず迎えに来る······から」

 

クルル「帰って来るから······」

 

2人は泣いていた。でも、僕は更に泣いていた。

 

ギャスパー「僕待ってますから······!!」

 

2人は何も言わずに僕を抱き寄せた。

 

 

 

 

 

八幡「······サーゼクス。ギャスパーを頼んだ」

 

「頼まれたよ」

 

この人がサーゼクスと言うらしい。魔王であるこの人の所のが安全だと。

 

クルル「ギャスパー······行ってきます」

 

八幡「そうだな。行ってきます」

 

ギャスパー「はい。行ってらっしゃい······!!」

 

僕は涙を堪えて笑顔で見送った。

 

 

 

 

サーゼクス「······この部屋を使いなさい」

 

サーゼクスさんにはここを使えと言われた部屋があった。

 

ギャスパー「ありがとうございます」

 

サーゼクス「何かあったら言って欲しいんだ。君に何かあってはいけないからね」

 

ギャスパー「はい」

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「お父様······お母様·······」

 

2人が僕に危険が及ばないように、サーゼクスさんに僕を預けたのは分かっていた。それでも、溢れてくる寂しさが僕を押し潰した。

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、僕は空っぽになっていた。僕にとって、あの2人が全てだった。子供だった僕には永遠の孤独に感じられた。だから、特に考えもせずにサーゼクスさんの妹の眷属にもなった。

 

リアス「······ギャスパーの神器ってどういうものなの?」

 

ギャスパー「そ、それは········」

 

僕は『停止世界の邪眼』を使えなくなっていた。使う度にあの2人が頭に過ぎって······あの家で囲んだ食卓を。特訓した日々を。怒られたことを。あの家で笑い合ったことを思い出して、寂しさに押し潰されないよう、考えないようにしていた。

 

朱乃「·······初めまして。リアスの『女王』の姫島朱乃です。よろしくお願いします、ギャスパー君」

 

サーゼクスさんの妹······リアスさんの『女王』の朱乃さんに会った。僕は変異の駒(ミューテーション・ピース)の『僧侶』らしい。それもどうでもよかった。

 

 

 

 

 

リアス「────ギャスパー、使いなさい」

 

神器の行使を拒否し続けていた僕も、限界がきていた。リアスさんも我慢の限界だったらしい。

 

ギャスパー「いやだ······」

 

怖かった。神器で止まった人を見るのは。

 

トラウマがフラッシュバックして、失神しそうなほど怖かった。

 

リアス「·······使いなさい」

 

ギャスパー「いやだ·······」

 

寂しい。帰って来て欲しい。

 

朱乃「ちょっと、リアス·······」

 

 

 

リアス「使いなさい」

 

 

 

ギャスパー「いや、だ·······いやだぁぁぁぁぁっ!!!」

 

朱乃「······!!?」

 

そうして、僕は暴走した。

 

サーゼクス「すまないギャスパー君······すまない。八幡、クルル」

 

サーゼクスさんは僕を気絶させた。そして、僕はあの部屋に封印されるに至った。

 

 

 

 

 

 

 

どうでもよかった。封印されても、あの2人がいないから。封印は夜限定で解除されるけど、あの2人がいないなら出る意味がない。そして封印が解かれた。

 

リアス「·······御機嫌ようギャスパー。封印が解けたのよ」

 

朱乃「さあ、私達と一緒に······」

 

ギャスパー「いやです!!外怖い!!」

 

あの2人がいないと寂しさで潰れてしまうから。

 

「ギャスパー。久しぶりだな。ごめんな、一緒にいれなくて」

 

········懐かしい、それでいて温かい声が聞こえた。

 

ギャスパー「··········え?」

 

「久しぶりだねギャスパー。ごめんね、勝手に置いてって」

 

間違えようがない。あの2人の声。

 

ギャスパー「う·····うわぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

僕は2人に飛びついた。

 

八幡「おっと」

 

クルル「久しぶりの感覚ね」

 

温かい。家族の温かさがあった。

 

ギャスパー「うぇぇぇぇん!!!」

 

クルル「頑張ったわね」

 

お母様が僕の頭を撫でる手が温かい。僕は2人に頭を撫でてもらうことが何よりも好きだった。

 

ギャスパー「会いたかったです······!! お父様!!お母様!!」

 

八幡「俺もだぞギャスパー」

 

クルル「私もだよギャスパー」

 

おかえりなさい。お父様、お母様。

 

 

 

 

 

♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······ぅん?」

 

あれ?確かお父様とお母様と制御の特訓をしていて·····リアス部長が来て······それから······!!

 

八幡「起きたか?」

 

クルル「あ、起きたみたいだね」

 

お父様の顔が真上にあった。あ、そっか。僕はお父様の膝を枕にして·····

 

ギャスパー「はっ!!」

 

飛び上がるように起き上がる。

 

クルル「大丈夫?」

 

ギャスパー「だいぶ魘されてたわよ。途中から」

 

魘されてたのか······

 

ギャスパー「そうですか······そう言えば、特訓は······?」

 

八幡「中止した。お前が第一だよ」

 

ギャスパー「その、ごめんなさい······」

 

八幡「全く······お前はもっと甘えろよ」

 

クルル「前も散々言ったのにね」

 

ギャスパー「はい·····」

 

その時、2人にこれをまだ言っていなかったことを思い出す。

 

ギャスパー「おかえりなさい。お父様、お母様!!」

 

八幡・クルル「「ただいまギャスパー」」

 

 

······きっと、僕は幸せだ。だって、自分に温もりをくれるひと達が、すぐ側にいてくれるんだから。

 

 

 

ギャスパーsideout

 






作者は別にリアスが嫌いではありません。色々見通しとか甘そうだな、とは思いますが。そこは(早すぎる)展開の都合でございます。

ギャスパーの呼び方

八幡:その人→お父様

クルル:その人→お母様


誘拐した人達:そいつ(複数人いますが、まとめてそいつです)



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第21話 三大勢力首脳会談

 

八幡side

 

 

 

······ギャスパーと家族で再開した翌日。オカ研はかなりピリピリしていた。実際にピリピリしているのはリアス・グレモリー達である。俺もクルルも、緊張を面に出したりなどしない。付け入られるようなことは避けなければならない。

 

リアス「······分かった?じゃあ行くわよ」

 

イッセー「··········はい!!」

 

リアス「ギャスパーはここにいてね。暴走してしまっては元も子もないから」

 

少し顔を暗くしながら言うリアス・グレモリー。まぁ、置いていくつもりはないが。なにせ、ここにいれば安全などというのはリアス・グレモリーの考え足らずだからだ。

 

ともかく、ギャスパーは留守番。塔城がギャスパーの護衛であるらしい。

 

イッセー「大人しくしてろよギャスパー。これ、貸してやるから」

 

リアス・グレモリーの傍にいた兵藤がギャスパーに携帯ゲーム機を渡す。こいつ、本当にあの女子更衣室覗いてたガキと同一人物か?

 

八幡「悪いなイッセー」

 

イッセー「別にいいさ。ギャスパーだってただここにいるのは退屈だろ」

 

悪いな兵藤。ギャスパーをここに置いてくつもりはない。

 

リアス「行くわよ皆!!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

俺達が見る傍らで、リアス・グレモリー達は一足先に部室を後にした。

 

 

 

 

八幡「······行ったな」

 

オカ研が行ったのを確認して、俺は指を鳴らす。転移魔法陣が現れ、メリオダスと桃花が現れた。

 

桃花「あなたはいつも突然ですね······もっと事前の連絡をして下さい」

 

八幡「悪い悪い」

 

一週間前じゃ流石に遅かったな。他にも仕事あるわけだし。とは言え、急遽決まったのだから許して欲しいものだが。

 

メリオダス「お、小猫じゃん。久しぶり」

 

小猫「·········お久しぶりです」

 

以外に仲いいんだなこいつら。塔城はメリオダスを気に入ったらしい。ライザーの時にメリオダスに指導させたのは間違いじゃなかったな。

 

この様子の塔城を知ったあいつは写真の一枚でも撮ってこいとか言ってたが、正直どうやって撮れと。真相を知らない子どもに全部話せってのか。まぁ気持ちは痛いほど理解してるが。

 

八幡「桃花はここで待機。塔城を守れ。メリオダスは俺とだ」

 

だが、人命が掛かってるから仕方ない。

 

桃花「了解」

 

メリオダス「オーケー」

 

八幡「ギャスパー」

 

ギャスパー「はい?」

 

ゲームに夢中になっていたギャスパーが顔を上げる。

 

八幡「リアス・グレモリーはああ言ってたが、一緒に来い」

 

ギャスパー「え、いいんですか?」

 

塔城がびっくりした顔でこちらを向いている。だが、無視させてもらった。

 

八幡「ああ。お前は俺達と一緒にいるのが一番安心だからな」

 

もう二度と、あんな思いにはさせない。

 

ギャスパー「はい······!!」

 

八幡「じゃあ行くか」

 

俺、クルル、ギャスパー、メリオダスは魔法陣でジャンプした。

 

 

 

 

 

 

 

八幡「······悪いな。遅れた」

 

全員もういるな······アザゼルやセラフォルーにまで先を越されるとは。

······まあリアス・グレモリーがジャンプしてから動かなかった俺が悪いんだけど。あ、セラフォルーがちゃんとした服を着てるじゃん珍しい。俺の不安要素が一個減った。

 

アザゼル「······何だよ。お前本当にガキいたのか?」

 

八幡「ああ」

 

リアス「···ギャスパー?」

 

イッセー「え!?」

 

リアス・グレモリーやその眷属は皆驚いているが、無視する。因みに、部室では桃花が塔城に事情を説明中だ。言える部分だけだがな、少なくとも今は言えないことのが多いし。

 

アザゼル「······マジで?」

 

八幡「マジで、な。それより早く始めよう」

 

一つだけ空いていた椅子に座る。その後ろに、クルルとギャスパー、メリオダスが並ぶ。

 

ミカエル「そうですね」

 

ミカエルの後ろにいるのは紫藤イリナ。ミカエルの付き添いだ。

 

サーゼクス「紹介しよう。妹のリアスとその眷属だ。先日のコカビエル戦では活躍してくれた」

 

ミカエル「そうでしたか。ありがとうございます。御苦労様でした」

 

アザゼル「悪かったな······俺のところのもんが迷惑を掛けた」

 

全くだ······それくらいしてくれないと俺達が動いた割に合わない。

 

イッセー「あいつ······」

 

アザゼルの後ろにいるヴァーリを目にして呟く兵藤。頼むから噛み付くないでくれよ。

 

サーゼクス「これで参加者全員が揃った。それでは、会議を始めよう」

 

 

 

♦♦♦♦

 

 

 

リアス「······以上が、私リアス・グレモリーからの、先のコカビエルの一件の報告です」

 

ソーナ「私、ソーナ・シトリーは彼女の証言に偽りがないことを証明します」

 

リアス・グレモリーとソーナの2名が先のコカビエル戦の報告を終えた。俺はその前に報告を終えている。

 

サーゼクス「御苦労。下がってくれ」

 

セラフォルー「ありがとね。リアスちゃん、ソーナちゃん」

 

ソーナ「失礼します」

 

ソーナは恥ずかしいのを隠して歯牙にもかけないように装っている。実際は、顔が真っ赤になるくらい恥ずかしいって前言ってたな。まぁ、あんなコスプレでふらつかれたらそうもなるわ。勝手に、ハロウィンの渋谷ででもやっててくれないか。

 

 

サーゼクス「以上の報告を踏まえて、堕天使総督から意見を聞きたい」

 

アザゼル「意見も何も、あれはコカビエルが単独で起こしたことだからな······」

 

コカビエル単独ね······ただ、裏で色々それ以外にも色々起きてはいるんだけどな。言わないが。

 

ミカエル「では、アザゼルはこの件について何も関与していないと?」

 

アザゼル「目的がはっきりするまで泳がせてたのさ。尤も、俺がこの街に潜入しているとは思わなかったようだがな」

 

流石に、コカビエルの目的まではっきりしてたわけじゃないか······まあ、それを阻止するためにこの場の全員がここにいるわけだが。

 

八幡(『禍の団(カオス・ブリゲード)』の介入はいつだ?)

 

アザゼルの後ろで壁に寄っかかってるヴァーリに、話しかける。当然、他の奴には一切聞こえない。所謂、テレパシーの部類に入る。魔法で再現するのに結構苦労したもんだ。

 

ヴァーリ(予定だと······そろそろだな)

 

八幡(分かった。サンキュ)

 

ヴァーリ(ラーメン。忘れるなよ?)

 

八幡(分かってるって)

 

ヴァーリとの会話を短く終える。これ注意してないとバレかねないからな······

 

アザゼル「ここにいる白龍皇に頼んで処理したんだからいいだろう。堕天魔が殆どやったみたいだけどな。それに地獄の最下層(コキュートス)で永久冷凍にしたんだから文句ねぇだろ? もう二度と出てこれねぇよ」

 

八幡「アザゼル、ここにいるヤツらが聞きたいのはそこじゃない」

 

アザゼルめ。何を分かりきったことを······そんなこと、どこの勢力だってとうに報告されている。

 

ミカエル「そう、問題はコカビエルが事を起こした動機ですよ」

 

アザゼル「あ~······戦争が中途半端に終わったことを恨んでたようだからな。俺は戦争には反対していた。コカビエルは、それが気に食わなかったようだが」

 

セラフォルー「コカビエルが継戦派だったと?」

 

だろうな。あいつの言動からも明らかだった。コカビエルはかなり強硬派だった。このタイミングでことを起こしたのは不可解だが、情報が入らない限り推測もしようがない。どこかで『禍の団(カオス・ブリゲード)』の話を聞きつけた可能性はあるが。

 

アザゼル「お前さんらも色々とあるそうじゃねぇか」

 

サーゼクス「それは今回は関係ないだろう? 問題はコカビエルが今回事を───」

 

サーゼクスが話すのを遮ってアザゼルが言う。

 

アザゼル「もうそんな御託はいいだろ」

 

サーゼクス「······遮るのはやめてくれないか」

 

アザゼル「とっとと和平を結んじまおうぜ。お前さんらもその腹なんだろう? ほら、そこにいる八幡が難しい顔してるぜ?」

 

八幡「俺の顔は関係ないだろ」

 

俺が難しい顔してることと何が関係がある。笑顔で仲良くやることでもあるまいに。

 

アザゼル「今の三竦みの関係はこの世界の害になるだけだ。異論はねえだろ? ······そこで、だ。三竦みの外側にいながら、世界に影響を与えることが出来る二天龍───赤龍帝に白龍皇。お前さんらの意見を聞きたい」

 

ヴァーリ「俺は強い奴と戦えればそれでいい」

 

アザゼル「ふん。戦争なんざしなくったって、強い奴なんていくらでもいるさ」

 

まあヴァーリは割りと戦闘狂の節があるからな······それは俺にも一因······ってかほぼほぼ俺が原因と言っても過言ではないが。こんな小さい頃から傍で見てきた俺に。

 

アザゼル「赤龍帝、お前は?」

 

イッセー「お、俺······!?」

 

一々驚くな兵藤。ヴァーリに聞かれたならお前にも聞かれるのは想像つくだろ。二天龍は基本セット扱いだ。想像力がまるで足りてねぇな。

 

アザゼル「そうだ。お前だ」

 

イッセー「いや、いきなりこ難しいこと言われても·····」

 

まぁ、つい先日までただの人間だった兵藤にいきなりそれを問うのはまあ酷ではあるが。

 

アザゼル「じゃ、恐ろしいほど噛み砕いて説明してやる。兵藤一誠」

 

アザゼルは兵藤を見据えて言う。

 

イッセー「?」

 

アザゼル「俺らが戦争してたら、リアス・グレモリーを抱けないぞ」

 

リアス「な!?」

 

おい、ここで言うことか、それ。数百人のハーレムを築いた独身野郎は言うことが違うな。ギャスパー、聞かなくていいんだぞお前は。

 

アザゼル「だが、俺らが和平を結べばその後に待っているのは、種の繁栄と存続だ」

 

······噛み砕きすぎて、兵藤から聞けば別の話に聞こえてないか。

 

イッセー「種の······繁栄!?」

 

アザゼル「おおよ。それなら毎日、リアス・グレモリーと子作りに励むことが出来るかもしれん」

 

なんて頭の悪い話だ。そも、兵藤にリアス・グレモリーが体を許すかどうかも分からない話なのに。

 

リアス「な、何を言って······!?」

 

 

八幡、クルル「「············アホか」」

 

ミカエル「アザゼル······」

 

 

アザゼル「和平なら毎日子作り。戦争なら子作りなし。お前ならどっちがいい?」

 

イッセー「毎日子づk······ウォッホン。和平でお願いします!! 平和が一番です!! 部長と子作りしたいです!!」

 

どうしようもない本音ダダ漏れじゃねぇか。そう言えば、こいつって何で何時も覗きやらなんやらやってるのに何の処分もなしでいられるんだろうか。犯罪だぞ普通に。通報される方が普通な気もするが。

 

というか、四半世紀前のギャグ漫画みたいなことガチでやろうとしてる男子高校生が今もいたことに驚いたな。教育の意義よ。

 

裕斗「イッセー君······サーゼクス様がおられるんだよ?」

 

恐らくの常識人枠である木場が苦笑いしながら兵藤に告げる。

 

イッセー「あ······」

 

リアス「あなたって人は·····」

 

朱乃「あらあらうふふ······」

 

これを「あらあらうふふ」で済ませる姫島が凄い。いや、凄いというか完全に感覚が狂ってる。

 

小猫『最低です』

 

ん? 塔城ってここにいたか? 部室じゃ。

 

イッセー「んんっ·····と、とにかく、俺のこの力はリアス様と仲間のためにしか使いません!! これは絶対です!!!」

 

と、兵藤が宣言したところで、ミカエルが兵藤に尋ねる。

 

ミカエル「そう言えば······赤龍帝、兵藤一誠君、話があると言っていましたね」

 

イッセー「······あんな約束を、覚えていてくださったんですね」

 

ミカエル「当然ですよ」

 

そういや兵藤はミカエルからアスカロンを受け取ったんだったか。そん時に何かあった、と。俺はその場にいなかったからただの推量だが。

 

イッセー「なら聞きます。アーシアを······どうして追放したんですか?」

 

アーシア「一誠さん······!?」

 

イッセー「あれほど神を信じていたアーシアを何故追放したんですか!?」

 

リアス「イッセー······」

 

前に俺がチラッと言ったことがあったが、それは今、俺が言うべきじゃないか。兵藤はミカエルからの答えを待っている。それでは、兵藤は納得しない。だが、本来、ミカエルには真実を言う必要がないのも事実。さて······

 

と、ミカエルは兵藤を見て語り出す。

 

ミカエル「神が消滅した後、システムだけが残りました。加護、慈悲、奇跡と言ってもよいでしょう。今のシステムは私を含む天使達で辛うじて維持している状態です。システムに悪影響を及ぼす可能性のあるものは排除する必要がありました。

あと、アーシアさんが追放された件そのものには八幡君は関わっていないことも併せて言っておきましょう。彼はこういうことにはあまり乗り気にはなりませんから」

 

ミカエルは言わなくていい余計なことまでさりげなく言いつつ、兵藤に答える。

 

イッセー「アーシアが······堕天使や悪魔の傷をも治せるからですか?」

 

ミカエル「信者の信仰は我々天界に住まう者達にとっての源。信仰に悪影響を及ぼすものは、極力排除しなければシステムの維持が出来ません」

 

仕方のないことだ。天界は最大多数の最大幸福を優先した。天界以外でもだいたいどこも似たようなものだ。

 

ゼノヴィア「だから······予期せず神の不在を知る者を、排除する必要があったのですね」

 

ミカエル「そうです。あなたやアーシアさんも異端とするしかありませんでした。申し訳ありません」

 

そう言って、ミカエルは頭を下げる。

 

ゼノヴィア「頭をお上げ下さいミカエル様。この身は教会に育てられた身。多少なにとも不満がないわけではありませんが、今は悪魔としてこの生活に満足しております」

 

アーシア「私も······今の悪魔の生活に満足しています」

 

ミカエル「······あなた達の、寛大な心に感謝を」

と、アザゼルは何か思い至ったような顔をして、シスター・アーシアに尋ねた。

 

アザゼル「······そういや、俺のとこの女がそこの嬢ちゃんを殺しかせたらしいな」

 

アーシア「······っ!!!」

 

アザゼルの一言で、シスター・アーシアは時が止まったかのように、固まりついた。

 

イッセー「他人事みたいに言うな!! アンタに憧れてた堕天使だぞ!!?」

 

アザゼル「······あぁ。後から報告されたよ」

 

堕天使レイナーレはどうやら、本当に上に悟られずに行動してたらしいな。結構ザルだな。てっきり気付いた上で流していたのかと思っていた。

 

八幡「それは俺も聞いたな。奴は死ぬ間際にアザゼルとシェムハザの名前を口にしていた」

 

アザゼル「······そうか」

 

その時だった。

 

 

────この場の全員が強い敵意を察知する。

 

 

「「「「「「「!!!」」」」」」」

 

これは······結界内に直接入り込まれたな。敵に、腕の立つ魔法使いがいるな。報告じゃ、今日襲撃するやつらにそこまでの魔法使いはいなかった。別の派閥に協力させたか。

 

八幡「メリオダス、クルルとギャスパーを頼む。俺一人じゃ限界がある」

 

メリオダス「任せとけ」

 

その時、桃花が神器の巨大コンパスで、扉を壁ごとぶった斬って入ってきた。普通に入ってこい。

 

「「「「!!?」」」」

 

桃花「······八幡、敵襲です。奴らが来ました」

 

ギャスパーの情報を聞きつけてオカ研の部室に何人か送ったんだろうが、ギャスパーの代わりにいた桃花に一瞬でやられたんだろうな。

 

八幡「ああ。塔城は?」

 

小猫「ここにいます」

 

桃花の後ろからひょっこり出て来た。感覚的にも、やっぱり猫だな。

 

イッセー「何だありゃ!!?」

 

その時、巨大な魔法陣が空に展開され、特大サイズの魔法陣からは魔術師が出て来る出て来る。

 

セラフォルー「······あれは魔術師ね。魔法少女であるこの私を差し置いてなんて!!」

 

自重しろ頼むから。

 

と、不意にヴァーリが俺達に声をかけた。

 

ヴァーリ「なんなら······俺が撹乱でもしてこようか?」

 

こいつが言い出すなんて以外だな······なんて思わない。全部聞かされてるからな。俺とクルルとメリオダスは知ってるけど、口止めしてるから大丈夫だろ。ギャスパーも分かってるだろうし。

 

アザゼル「そうしてくれ」

 

ヴァーリ「ふっ······」

 

ヴァーリは『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を解放して、突っ込んで行った。全身鎧(プレート・アーマー)を纏い、魔術師を蹴散らしていく。

 

イッセー「······なんだあいつ。めちゃくちゃ強えじゃねえか!!」

 

いや、あんなんまだまだ序の口だぞ? ヴァーリの全力ってこんなもんじゃないし。兵藤には絶対に言わんけど。あいつ嫌がるだろうし。

 

サーゼクス「!? ······この魔法陣は!!?」

 

と、サーゼクスの背後にオレンジの魔法陣が展開される。

 

イッセー「何だ!?」

 

オレンジの魔法陣からは褐色のメガネの女───先代レヴィアタンの末裔であるカテレア・レヴィアタンが現れる。

 

 

······出たな、『禍の団』の旧魔王派(テロリスト共)が。

 

 

セラフォルー「カテレアちゃん!? どうしてあなたがここに!?」

 

サーゼクス「······私は、先代魔王の血を引く者。カテレア・レヴィアタン!!」

 

カテレアのこの魔力·······予定変更だ。()()()()()()()()()()()()。確かめさせてもらう。カテレア・レヴィアタン。

 

カテレア「私達は宣言する······この世界に破壊と混沌を齎すと!!」

 

カテレアがステッキを掲げると同時に、カテレアの魔法で大爆発が起きる。まあ、全員に結界張って防いだが。

 

 

 

煙が晴れ、上空から俺達を見下すカテレア・レヴィアタンが姿を現す。

 

八幡「······おいおい、破壊だの混沌だのと言っといてこの程度か?」

 

この面子相手に攻めるのにこの程度か。俺一人の結界すら破壊出来ないようでは高が知れている。

 

カテレア「何ですって!!?」

 

八幡「冗談キツイな······オーフィスの蛇を取り込んだのにこんなもんかよ」

 

警戒していたほどの強さは感じない。だが、油断は出来ない。何か、秘匿されていたような奥の手を備える可能性もある。

 

サーゼクス「オーフィスだと!?」

 

イッセー「オーフィスって?」

 

驚くサーゼクスと、知らない兵藤。兵藤が知らないのも無理はないか。

 

八幡「無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス。最強と言われるドラゴン。襲撃してきたこいつらの(トップ)だ」

 

そして、俺が長い間探している奴だ。次元の狭間にいるとも言われてるが、あいつは静寂を望んでいるだけとも聞く。なら、取り引きは可能であろう。

 

八幡「おいカテレア・レヴィアタン。ちょっと付き合え」

 

カテレア「何の用かしら、『堕天魔』?」

 

八幡「まあそう言うなよ。お前も、さっきの爆破だけじゃ、物足りないだろ?」

 

クルル「気を付けなさい八幡」

 

ギャスパー「お父様?」

 

八幡「分かってる。少し行ってくる」

 

 

 

俺は、自分ごとカテレアを()()()()()()()()に飛ばした。

 

 

 




こんな感じなんです。長いんでここで一旦切ります。



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第22話 禍の団襲撃


4/30 八幡の神器の名前変更しました。


 

 

 

 

······俺が作り出したのは、真っ白で何もない空間。上下左右の感覚もない。

 

 

想像庭園(イマジナリー・ガーデン)』。俺に宿った神器(セイクリッド・ギア)。『聖書の神(ヤハウェ)』が『絶霧(ディメンション・ロスト)』を作った時のバグだと、俺は、考えている。別次元に強引に空間を作り出しそこを支配することが出来る······のだが、燃費がクソで、非常に使い勝手が悪い。だが、秘匿性が非常に高いのは、ラッキーだ。

 

 

カテレア「何だ、これは·······!!」

 

八幡「なんだと思う?」

 

カテレア「······貴様の仕業か。なら、倒してとっとと抜ければいい!!」

 

カテレアが蛇のような魔力を飛ばしてくる。

 

八幡「やれるもんならやってみろよ」

 

魔法陣で防ぐ。オーフィスの蛇で相当魔力が増大したらしいが、こんなもんか。まあ、オーフィスには世界を破壊するとかそういうつもりはなくて、オーフィスが静寂を望んだのに乗っかったってのが旧魔王達の末裔らしい。

 

八幡「······はぁ」

 

別空間に飛ばしといてなんだが、そんなことしなくてよかったな。

 

カテレア「戦闘中に溜息とはいい度胸だな!!」

 

八幡「······」

 

こいつ弱いんだよな······いつか、オーフィスに見限られないか? しばらく泳がせておいたが、そんな価値もなかったみたいだ。

 

八幡「これでいっか」

 

魔法陣から、エクスカリバー・ラピッドリーを取り出す。

 

カテレア「······聖剣か!!」

 

八幡「そうだな」

 

手加減しながら斬り掛かる。せめて、今後に備えて情報を引き出せりゃ楽になるんだが。

 

カテレア「クッ······!!」

 

八幡「弱いなお前。こんなんで、良く奇襲が成功すると思える」

 

カテレア「何ですって!!?」

 

蛇のような魔力弾を避ける。確か、レヴィアタンを蛇だっていう話がどっかにあった気がする。まぁ、キリスト教は蛇を邪見に扱うしそんなもんなんだろ。

 

にしても、相変わらず遅いな。リアス・グレモリーや兵藤みたいだ。

 

カテレア「ぎゃぁぁぁっ!!?」

 

真っ直ぐ突っ込んですれ違いざまに両腕を斬る。

 

八幡「聖剣だ。効果的だろ?」

 

もうオーフィスの魔力は分かった。もうこいつは用済みだ。はぁ、この空間結構魔力食うんだよなぁ·······一度創ったら、解除するまでは内外から崩壊させでもしない限りは永遠に存在させられるし、複数創れるけど。

 

八幡「じゃあな」

 

一瞬ですぐ側まで移動して、両足を叩っ斬る。遅いな、切られてから気付くなんて。

 

カテレア「ぐ、あぁぁぁああ!!?」

 

叫び声を上げた後、カテレアは痛みに堪えきれずに気絶した。呆気ないな。首だけになっても喉笛噛みちぎる程度はしてくるかと思っていた。

 

八幡「魔王の血族っつってもこんなもんか。兵藤でも頑張ればなんとか······ってレベルかもしれんなコイツは」

 

懐からマッ缶を取り出し、プルタブを引いて穴を開け一気に煽る。最近あんま飲んでなかったが、前は仕事終わりとかによく飲んでたな。今は、糖分摂りすぎで体に悪いから出来るだけ飲むな、とクルルに言われてしまい、これが久し(4日)ぶりだが。

 

八幡「ふい〜······やっぱ甘いのはいいな」

 

液体を飲み干すと、缶を放り投げる。この空間はもうすぐ閉じて消すから、問題ないな。世界のゴミを俺が処理すればゴミ問題解決すんじゃね? そんな気ないけど。

 

八幡「『サングィネム』に待機してるヤツらに送り飛ばしてここは終わり、と」

 

四肢を失い、意識のないカテレアを転移魔法陣で飛ばす。

 

殺すなんて勿体無い。捕虜交換があるかもしれないし、それまでは取っておいて有効活用しないと。

 

八幡「······さて、と」

 

空間に歪みを作ると、迷いなくそこに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「·······へっ!!『白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)』ってところか!!」

 

こちらに戻って来ると、ヴァーリと兵藤が禁手(バランス・ブレイカー)を発動して兵藤が白龍皇の力を取り込んでいた。あいつ、いつの間に禁手に至った? そんな兆候なかった筈だが。

 

 

クルル「······八幡、終わったの?」

 

ギャスパー「お父様!!」

 

涙目になったギャスパーが抱きついてくる。

 

八幡「おうただいま」

 

ギャスパー「突然消えるからびっくりしましたよ······」

 

服に顔を押し付けているから表情は見えないが、ギャスパーの表情くらい見なくても分かる。なんたって親だからな。

 

クルル「心配する必要もなかったっぽいわね」

 

八幡「まぁな」

 

クルルと会話しつつ抱きついているギャスパーの頭を撫でる。

 

アザゼル「よお八幡。あいつは?」

 

八幡「エクスカリバーで首チョンパ」

 

今頃気付いたが、あの空間ってこっちと若干時間の流れが違うのか。あそこは次元の狭間き近い性質があるからか?

 

カテレアは、戦死にしといた方が都合が良い。これなら、情報で少しは優位に立てる。

 

アザゼル「ハハハッ、そりゃあいい」

 

八幡「あっそ」

 

 

ヴァーリ「ハッハッハッ!! なら俺も本気を出さなくてはな」

 

にしても、『白龍皇の籠手』か······ヴァーリはどうやらアレをやるらしい。あいつも演技を楽しんでんな。戦闘はこれっぽっちも面白くないだろうが。

 

『Half・Dimension!!』

 

ヴァーリの背中の翼から機械的な音声が流れると共に、空間が揺らめき始める。

 

リアス「な、何!?」

 

ミカエル「いけない、空間が歪んでいます!! ここは危険です!!」

 

あ、校舎が軋み始めた。それ以外にも、旧校舎周りに植えられた杉なんかの木が空間の縮小に耐え切れず倒れていく。

 

リアス「そんな······まともじゃないわ!!」

 

アザゼル「まともじゃねえのさ。ドラゴンを宿すような奴はな。物は試しだ。もう一方のまともじゃねえ奴も啄いてみるか?」

 

また始まったよ。アザゼルの悪ふざけ。言うと怪しまれるから言わないけど、やめて欲しいわ。

 

アザゼル「おい赤龍帝!! お前だよ、兵藤一誠!!」

 

イッセー「······? 何だよ?」

 

アザゼル「あいつの能力をお前にも解りやすく説明してやる。あの能力は周りの物を半分にしていく」

 

イッセー「半分?」

 

あれ、戦闘に関係ない物も半分にすることも出来るんだっけ? ヴァーリの成長スピードには舌を巻くばかりだ。

 

アザゼル「つまりだ。リアス・グレモリーのバストも半分になっちまうぞ?」

 

リアス「は!?」

 

そう来たか······効果的、では、あるのか? なんともバカな話しだが。

 

イッセー「······巫山戯んなぁぁ!! 部長のおっぱいを半分にするだとぉ!?」

 

『Boost!!』

 

ヴァーリ「何?」

 

ヴァーリの、素のリアクションだ。普通はそうなる。アザゼルがいかに悪ふざけしているかよく分かるな。

 

イッセー「許さない!!」

 

『Boost!!』

 

イッセー「てめぇだけは!!」

 

『Boost!!』

 

イッセー「許さないぞ!! ヴァーリィィィィィッ!!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

アザゼル「おぉ、すげぇ力だな」

 

ここまで一気に倍加させるか。どうなってんだあいつ。

 

アザゼル「ハハハッ、主様の胸が小さくなるってだけでここまでとはな!!」

お前、兵藤は玩具(おもちゃ)じゃねぇぞ·······お前にとっちゃ新しい玩具なのかもしれんが。

 

ヴァーリ「今日は驚くことばかりだな······しかし、面白い!!」

 

ヴァーリの演技はまだ続く。俺からしたら、お前の演技のが面白いよ。

 

イッセー「リアス・グレモリーに手を出してみろ!! 2度と転生出来ないぐらい、徹底的に破壊してやる!! ヴァーリィィィ!!」

 

また速くなった。演技中のヴァーリに一瞬で追いつき鳩尾に一発入れる。俺もここまで一気に倍加させたことはないからな······必要ないし。

 

······ともかく、兵藤は危険だな。下手に手を出せないのが癪だが、触らん方がいいかもしれん。あんなアホな理由でパワーアップする奴なんて見たくもない。殺すなら、寝首でも搔けばいい。

 

イッセー「てめぇを野放しにしといたら、部長どころか皆のおっぱいまで半分になっちまう!!!」

 

ヴァーリ「何!?」

 

ヴァーリは、明らかに見えているであろうスピードで接近した兵藤に驚く演技をした。

 

イッセー「これは、部長の分!!」

 

『Devide!!』

 

兵藤が更にパンチを決める。赤トカゲの声で、半減の能力が使われたことが分かる。

 

イッセー「これは、朱乃さんの分!!」

 

今度はヒザ蹴りを食らわす。顔の部分の鎧を破壊した······ように見えて、今のは自分でパージしたのか。器用なやつめ。

 

イッセー「これは、成長中のアーシアの分!!」

 

ヴァーリ「グッ!!!」

 

イッセー「これは、ゼノヴィアの分!!」

 

ヴァーリ「ゴハッ!!」

 

イッセー「これは、半分にされたらまるっきりなくなっちまう小猫ちゃんの分だぁぁぁ!!!」

 

渾身の(と思しき)パンチが決まる。ホントに危なくなったら止めに入るか。あのバカも待機してるし。

 

にしても、堂々とセクハラ発言出来るのはどういう神経してるんだ? ゼウスのクソもそうだったが。

 

ヴァーリ「はぁ······はぁ······面白い。面白すぎる!! こいつになら『覇竜(ジャガーノート・ドライブ)』を使う価値もありそうだ」

 

『······自重しろヴァーリ。その選択は今は適切ではない』

 

と、ヴァーリの背中の白翼から機械的な音声が流れる。封じられたトカゲのものだ。白トカゲ(アルビオン)も、演技に協力的である。何故、って俺が脅したからな。

 

ゼノヴィア「まだ立ち上がれるのか!?」

 

イッセー「ヴァーリ!!」

 

『Boost!!』

 

まだ倍加出来るのか······寿命を削ってんだな。人外は万年生きれるからそんなに問題でもないだろうが。

 

ヴァーリ「クッ······!!」

 

兵藤の拳がヴァーリの顔を捉える─────という時、結界が割れた。

 

 

 

そこから、如意棒を携えた黒髪の男────孫悟空の末裔、美猴が現れる。

 

ヴァーリ「······何しに来た美猴」

 

美猴「北のアース神族とやり合うから、戻って来いってよ」

 

アース神族、北欧神話か。またあいつにちゃんと情報をまとめてもらって送って貰わないと。美猴の情報って所々雑に集めたような時あるし。

 

ヴァーリ「そうか······もう時間か」

 

イッセー「何だお前!! 急に出てきやがって!!」

 

八幡「辞めとけイッセー。そいつは美猴。最遊記の孫悟空だ」

 

初代孫悟空───闘戦勝仏から、孫を鍛える云々の理由で預けられている。困るわけでもなかったし、闘戦勝仏には大きな恩もあるし断るわけにもいかなかったというのが本音だが。

 

イッセー「そ、孫悟空?」

 

八幡(早よ帰れ)

 

美猴(酷いねぃ。ま、今のところはしょうがないか)

 

八幡(あいつらにもよろしく頼むな)

 

美猴(オッケー!!)

 

唇の動きと目で早く帰れと促す。長居させるわけにはいかない。こんなとこで口を滑らされても俺が困るだけだ。

 

美猴「俺っちは美猴。よろしくな〜赤龍帝」

 

美猴は地面に如意棒を突き刺す。地面が闇になり、2人が沈んでいく。

 

ヴァーリ「次やる時はもっと激しくやろう。もっと強く······」

 

お、随分演技に満足したようだな。これで、ヴァーリを弄る口実が一つ増えたな。

 

イッセー「待て!! ······グッ!?」

 

1歩踏み出した瞬間にイッセーの禁手が解除される。

 

八幡「短時間でも、あれだけの力を放出すればそうなる」

 

リアス「イッセー!!」

 

リアス・グレモリーがイッセーを抱く。

 

イッセー「部長······部長のおっぱい、守りました······」

 

リアス「イッセー·······!!」

 

どこまで行っても兵藤はただのエロガキだったらしい。ウチのやつには出来るだけ近付かせたくないな。

 

 

 

 

 

八幡「······三つの種族合同で共同作業か」

 

『禍の団』の襲撃部隊の撤退後、壊れた駒王学園の校舎の修復を、天使、堕天使、悪魔が共同で行っていた。というか今気付いたが、継戦派はここにはあまりいないみたいだな。穏健派だけか。

 

クルル「やっと和平が成立した、って感じね。ここまで来るのに随分時間がかかったわ」

 

八幡「ああ······そうだな」

 

 

サーゼクス「······カテレアの件はこちらに過失があった」

 

サーゼクスがアザゼルとミカエルに言う。

 

アザゼル「こっちだってヴァーリの裏切りに気付かなかった。俺の過失さ」

 

悪いなアザゼル。俺は全部把握している。今はそんなこと言う気ないが。

 

ミカエル「······全てはこれからですね」

 

イッセー「あの、ミカエルさん。一つだけお願いがあるんですが·····」

 

兵藤がミカエルに声をかけた。

 

ミカエル「何でしょうか? 私に出来ることなら───」

 

イッセー「アーシアとゼノヴィアが祈りを捧げることを、お許しいただけませんか?」

 

·······シスター・アーシアが『魔女』なんて呼ばれるようになった理由を考えれば、ミカエルを恨むくらい許されるだろうに。

 

ミカエルは、シスター・アーシアとゼノヴィアの両名と向き合う。

 

ミカエル「······アーシア、ゼノヴィア」

 

アーシア・ゼノヴィア「「はい」」

 

ミカエル「あなた方に問います。神は不在ですが、それでも、祈りを捧げますか?」

 

アーシア「はい。主がおられなくとも、私は祈りを捧げます」

 

ゼノヴィア「同じく、主への感謝とミカエル様への感謝を込めて」

 

だが、シスター・アーシアは一切の恨み節も見せず、ミカエルへ自身が教徒として信仰を続けることを選んだ。

 

これが本物の信仰というやつなのだろう。

 

イリナ「私からもお願いします」

 

紫藤イリナも頭を下げ、ミカエルに願い出る。

 

ゼノヴィア「イリナ······」

 

八幡「別にいいだろミカエル」

 

アーシア「八幡さん·····」

 

八幡「これは、今回の和平の象徴にもなる。今後は、もっと増えるだろうしな」

 

信仰は何も、天使と人間だけに限るものじゃないしな。そういうのは、もっと自由であるべきだ。信仰を心の拠り所にしている者も多い。

 

ミカエル「······そうですね。祈りを捧げても構わない悪魔いてもいいでしょう」

 

ゼノヴィア「感謝します」

 

ミカエル「では、本部に戻ってシステムを操作しなければいけませんね。2、3日待っていただければ、貴女方も、以前のように祈りを捧げることが出来るようになるでしょう」

 

アーシア「ミカエル様······本当に、ありがとうございます!!」

 

 

 

 

アザゼル「俺は暫くこっちに滞在することにしたぜ」

 

イッセー「え?」

 

アザゼル「言ったろ?俺にしか出来ないことをする。大人として、出来ることは山ほどあるからな」

 

アザゼルがそう言い残し、堕天使陣営は帰還していった。アザゼルが何をするつもりなのか、まぁ想像はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

アザゼル「······え~、というわけで、今日から俺がオカルト研究部の顧問になった。以後よろしく」

 

スーツを着たアザゼルが、調度品の机に腰掛けて宣う。

 

 

うん、想像通りだったな。そんなことだろうと思った。

 

リアス「どういうことかしら!?」

 

アザゼル「サーゼクスに頼んだら、会長に言えと言われてな」

 

イッセー「会長が!?」

 

ソーナ「······でないと、姉が代わりに学園に来ると脅さ······いえ、せがまれ·····それも違う。脅迫されまして」

 

言い直したら最後が一番酷くなるという現実が。まぁ残念な姉(セラフォルー)だから仕方ないだろうな。

 

八幡「なるほど。生徒会の安寧のためにオカ研を売ったというわけか。まあ事情は嫌ってほど分かるな。俺もセラフォルーにこっち来て欲しくないし」

 

俺が一番幼馴染みのあいつと会いたくない理由は、俺の領に無許可でライブハウスを造りやがったことだ。単純に撤去費用がかかるのもあるが、ライブハウスは娯楽の少ない子供達に大人気だったので撤去出来なくなった。

 

ソーナ「では、私達はこれで」

 

クルル「じゃあねソーナ」

 

ソーナと副会長の女子はそそくさと退出していった。

 

アザゼル「······ただし、俺がこの学園に在籍する際にサーゼクスから一つ条件がつけられた」

 

サーゼクスが出す条件とかマトモなわけがない。魔王のクセして公私混同するからなあいつは。

 

朱乃「条件······ですか?」

 

アザゼル「お前達の未成熟な神器を正しく成長させることだ」

 

な、俺の私用の端末に延々とリーアたんとだけ書かれたメールを送ったあのサーゼクスが存外まともだと!?」

 

明日は滅びの魔力でできた槍が降るのか······?

 

アザゼル「あいつそんなことしてたのか······」

 

リアス「お、お兄様······」

 

アザゼル「······ま、そういうことだ。『赤龍帝の籠手』に『聖魔剣』。俺の研究成果を叩き込んで、独自の進化を模索してやらぁ」

 

こいつの研究成果は気になるな······

ウチも研究してるが、何分他所から人を呼びにくいため、俺の部下が一人突っ走ってるだけだ。

 

アザゼル「いいか? これからは俺のことをアザゼル先生と呼べ。いいな?」

 

あぁこいつ、先生と呼ばれたいがために今日来たんだな。昨日の今日で正式採用されても、すぐに仕事ってわけがないし。

 

イッセー「アザゼル、先生って······微妙な······」

 

アザゼル「じゃそういうことで。よろしくな」

 

リアス「ちょっと、私はまだ納得してな「おっと」」

 

リアス・グレモリーが話すのを遮ったアザゼルは、またもいやらしい笑みを浮かべて言う。

 

アザゼル「サーゼクスから伝言を頼まれてたんだ」

 

八幡「嫌な予感しかしねぇよ······」

 

アザゼル「あいつ信用ないな······サーゼクス曰く、以前赤龍帝の家に泊まった時眷属のスキンシップの重要性を知ったそうだ」

 

それ自体、どこから知ったんだ······いやどうせサーゼクスが自慢したんだろうが。

 

アザゼル「特に赤龍帝、お前の能力には必要不可欠だからな」

 

イッセー「ええっ? どういう意味?」

 

アザゼル「魔王、サーゼクス・ルシファーの名において命ずる。オカルト研究部女子部員は全員、兵藤一誠と生活を共にしろ。だとさ」

 

イッセー「え、ええ!?」

 

リアス「はい!?」

 

ほぅ······どういうことだ。それは······

 

八幡「アザゼル、それはクルルも入るのか? そうだとしたら、サーゼクスを······」

 

アザゼル「おい、殺気を振り撒くな。当たり前だが、お前の嫁はいいってよ。サーゼクス曰く、お前に殺されたくないってさ」

 

八幡「分かってんじゃんかあのシスコン。本当だったらどうしようかと」

 

いくら相手がサーゼクスと言えど、寛大な俺にも限界はある。

 

アザゼル「はいはいわあったから」

 

 

八幡「そうか。なら、俺らは関係なさそうだし帰るか」

 

クルル「そうね」

 

八幡「ギャスパーも」

 

ギャスパー「あ、はい」

 

話が終わったのでとっとと帰るに限る。ギャスパーを真ん中に3人で手を繋いで帰る。因みに、ギャスパーはもう家で暮らしている。久方ぶりの家族団欒を楽しんでいる真っ最中である。

 

 

······ギャスパーももう15歳だし、いくら長い間離れていたとしても多分すぐにこんなことしてくれなくなりそうで、悲しい。いや、子どもってそんなもんなんだし、成長を喜んだ方がいいのか······? 複雑だな。あいつなんか、すぐにやってくれなくなったし······

 

 

 

 





オリジナル神器設定(完全オリジナルです)

『想像庭園(イマジナリー・ガーデン)』

神器。八幡の神器は、人間に宿らないという特殊な性質を持っている。
この神器は、新たな空間を創り出すことが出来る。一度創り出したら八幡が解除するか、八幡以外の誰かが自力で破壊しない限りは永遠に存在し続ける。この空間は八幡が自在に操ることが可能。魔力を消費するのは創り出す時と解除する時だけ。複数同時に創ることも可能だが、八幡の魔力で1度に作り出せるのは8つまで。『絶霧(ディメンション・ロスト)』の亜種神器。




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第23話 夏休みの予定

 

 

 

 

 

夏休みを明日に控えた一学期最終日の朝。

 

八幡「夏休みどうすっかな·········」

 

手帳を見ながら俺は途方に暮れていた。そう、夏休みだ。今年は想像してたより休みが取れたが、ぶっちゃけうちの領とグレモリー家に顔を出すくらいしか漠然としか決めていない。どのみち、山積みの仕事が待ってるのは去年と変わらないんだ。

 

休みまでに終わっかな······

 

ちなみに、手帳を使っていた時期が長いからスマホに手帳の機能があるのに紙の手帳を使っている。スマホのも去年使ってみたが、結局慣れなかった。

 

ギャスパー「リアス部長達はグレモリー領に帰省するようですよ」

 

クルル「そう。高校生も、帰省するのね」

 

八幡「そうっぽいな」

 

俺達もそれに併せて帰省しよっかな······

 

 

 

 

放課後。

 

 

オカ研の部室で、兵藤は何やら思い詰めていた。「彼女ねぇ······」なんて呟いてたから、何か思い出してたんだろうか。

 

ギャスパー「······イッセー先輩どうかしたんですか?」

 

イッセー「あ、いや何も。それより木場、お前夏休みってどうすんの?」

 

裕斗「······うん? そうか。イッセー君は初めてだったね」

 

そこでリアス・グレモリーが入って来る。

 

リアス「全員揃ってるわね」

 

 

 

 

イッセー「······冥界に帰る?」

 

リアス「夏休みだし、故郷に帰るのよ。毎年やっているわ」

 

そういや去年の夏は3日くらいしか領にいなかったな·······俺仕事押し付け過ぎだろ。

 

リアス「·······って、どうしたのイッセー?」

 

何故か兵藤が泣いてる······お前いつからそんな感傷的になったんだ。

 

イッセー「部長が突然帰るなんて言うから、俺を置いて帰っちゃんかと······」

 

涙流して、鼻水垂らしながら言う。早く拭け。

 

あ、アザゼルが入って来た。クルル以外の誰も気付いてないな。そして、普段リアス・グレモリーが座っている椅子にふんぞり返る。

 

そっちに視線をやると、アザゼルは口に人差し指を当てた。子どもかお前は。

 

リアス「そんなことしないわ。あなたと私はこれから100年、1000年単位で付き合っていくのだから。安心なさい」

 

イッセー「はい、部長······!!」

 

リアス「というわけで、明日から冥界に行くから、長期旅行の準備をしなさい」

 

アーシア「私達もですか?」

 

リアス「当然よ。主と下僕なのだから」

 

アーシア「生きているのに冥界に行くなんて不思議です!!」

 

そりゃ行ったことない奴からしたら、そうなるか。別に、人間には慣れない空気ってだけで、政治に関わるわけでもなきゃ人間界とそう変わるわけではない。

 

海が無いが。

 

ゼノヴィア「私が地獄に送った者と会うかもしれないと思うと、不思議な気分だな」

 

アザゼル「俺も冥界に行くぞ」

 

居たなアザゼル。言った後、イタズラが決まった子どものように得意気になった。

 

イッセー「アザゼル先生!?」

 

オカ研のヤツらは気付かなかったらしい。ギャスパーは気付いたが。

 

アザゼル「お前らも行くんだろ?」

 

八幡「まあな」

 

クルル「向こうにも八幡の眷属はいるしね」

 

眷属······あぁ、眷属か。そういう感じで捉えてないから、偶に分からなくなる。

 

ギャスパー「久しぶりです」

 

リアス「いつの間に!?」

 

アザゼル「そこの2人は気付いてたぞ? 俺の気配に気付けないようじゃまだまだだな」

 

八幡「いきなりそれは無茶だろ」

 

お前思いっきり気配消して入って来ただろうが。こいつらにアザゼルの気配を察知しろだなんて無理だわ。

 

 

 

 

 

 

そして、夏休みに入る。オカ研はグレモリー家所有の列車で一同冥界のグレモリー領に向かっていた。うちの領に行くのは、グレモリー家に顔を出してからということになった。実際にグレモリー卿と夫人に顔を見せるのは割と久しぶりだったっけな。

 

授業公開の時は、セラフォルーをシトリー卿に引き渡してから会おうと思ったが、その頃にはもう兵藤家に行っていたようで、会わなかった。

 

アーシア「······冥界にも列車で行くんですね!!」

 

確かに、初めて行く奴には新鮮だろう。兵藤、シスター・アーシア、ゼノヴィアは今年転生したばっかだし。

 

朱乃「新眷属の悪魔はこの正式なルートで行く決まりなのですわ」

 

因みに、このルートで通るやつは本当に新眷属だけだったりする。俺とクルルが同乗しているのは、アザゼルからの頼み事とリアス・グレモリーに折角なら一緒にどうだ、と誘われたからである。

 

ギャスパー「······小猫ちゃんどうかした?」

 

塔城の覇気がない。普段と違って憂いているような、後悔しているような表情をしている。原因は分かるが、俺が言っても好転しないからな······

 

裕斗「?」

 

小猫「······別に、何でもありません」

 

クルル「貴女、大丈夫?」

 

小猫「はい」

 

この後、シトリー領を経由した。その際、シトリー眷属が乗っているのを知らなかった兵藤が多少驚いていた。駅のホームに居たんだがな。

 

 

 

ギャスパー「······会長達が下車してから随分経ちますね」

 

八幡「冥界はそんだけ広いぞ。グレモリー領だけでも日本の本州と同じくらいあるしな。あそこがそんだけの領を何に使ってんのかは謎だが」

 

ウチの領も、全て有効活用出来るとは言い難いが。

 

イッセー「本州と同じ······マジで?」

 

八幡「嘘言ってどうする」

 

『間もなく、グレモリー領に到着します』

 

もう着くか。

 

八幡「······ギャスパー、ちょっとこっちに」

 

ギャスパー「······はい?」

 

八幡「しー·······」

 

指を口に付けて静かにというジェスチャーをする。俺、こないだのアザゼルと同じことしてんな。

 

ギャスパー「·······?」

 

ギャスパーを抱え、クルルと共に気配を消してこの車両から出る。通路にはアザゼルとリアス・グレモリーがいる。

 

アザゼル「······おい、ギャスパーまで連れて来てよかったのか?」

 

八幡「は? 我が子を率先して危険に晒すやつがどこにいる」

 

クルル「これ以上ない愚問ね。独身に言っても分からないだろうけど」

 

ギャスパー「お父様······お母様······」

 

アザゼル「こいつら人の気も知らないで······」

 

リアス「あはは·······」

 

その時、列車が止まる。

 

アザゼル「はぁ。さて······俺達も行くか」

 

ギャスパー「え? どこにですか?」

 

八幡「ギャスパー、俺から離れるなよ」

 

アザゼルが転移魔法陣に展開する。アザゼル、リアス・グレモリーに続いて俺達も転移した。

 

それとほぼ同時に、俺達以外のオカ研は強制転移で列車から飛ばされた。

 

 

 

 

ギャスパー「······ここは?」

 

八幡「しっ」

 

今いるのは、グレモリー領にある森の少し開けた所を見下ろすようにそびえ立つ崖の上。その下には、状況を把握出来ていないイッセー達がいた。

 

八幡「軽い、あいつらの腕試しだ。まあ見てな」

 

小声でギャスパーに教える。

 

ギャスパー「······はい」

 

 

 

 

イッセー「·······ここは!?」

 

裕斗「先生がいない!!」

 

アーシア「八幡さんとクルルさんもいません!!」

 

子猫「······ギャー君、どこ?」

 

アーシア「部長さんは······「静かに」え?」

 

それぞれが狼狽える中、一番冷静だったゼノヴィアは、自身達に接近するものに気が付いた。

 

ゼノヴィア「何か来る······」

 

ゼノヴィアがそう呟いた直後、『ズンッ!!』という大きな音を立てて高速で接近してきたものは着陸した。

 

 

オカ研の前に現れたのは魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーン。諸事情により悪魔に転生した元龍王。

 

 

 

 

 

ギャスパー「あれは······?」

 

アザゼル「あれは魔龍聖、タンニーン。元龍王だ」

 

ギャスパー「龍王? 龍王にタンニーンなんて······」

 

八幡「だいぶ前の話だけどな、事情があって悪魔に転生したんだよ。当時はかなりのニュースになった」

 

タンニーンのことを教える必要がなかったから以前は教えなかったが、後でちゃんと教えておくか。

 

アザゼル「そうだ。そして、今回の講師だ」

 

ギャスパー「講師?」

 

アザゼル「今回は修行を兼ねてるんだよ」

 

ギャスパー「な、なるほど········」

 

 

 

タンニーンはいきなりブレス───まあ超弱くしてあるが───を吐く。兵藤達はそれを辛うじて避ける。

 

裕斗「どうやら······敵みたいだね」

 

ゼノヴィア「ああ!!」

 

2人はデュランダルと聖魔剣をそれぞれ取り出す。

 

朱乃「小猫ちゃんいけない!!」

 

だが、2人が攻撃の起点を見出す前に、塔城が単独でタンニーンに突っ込んだ。

流石にあれは無謀だな。案の定、タンニーンの尻尾に、崖に叩きつけられた。

 

あいつが見たらなんて言うか想像に容易いが、これも試練だ。塔城小猫───白音は、この程度乗り越えねばならない。

 

 

タンニーン「グォァァァッ!!!」

 

朱乃「部長がご不在故、私が指揮を執りますわ!!」

 

姫島が一瞬で巫女装束に着替える。

 

朱乃「裕斗君とゼノヴィアちゃんは敵を引き付けて下さい。イッセー君はその間に神器を。アーシアちゃんは小猫ちゃんを」

 

「「「「はい、副部長!!」」」」

 

イッセー「『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』!!!」

 

イッセーが『赤龍帝の籠手』を顕現する。『白龍皇の籠手(ディバイディンク・ギア)』なるものは禁手化じゃないと使えないとかあるんだろうか。

 

朱乃「食らいなさい!!」

 

姫島先輩が雷撃を放つ。次いで、木場とゼノヴィアが攻撃を仕掛ける。

 

裕斗「お前の相手は······」

 

ゼノヴィア「私達だ!!」

 

2人がそれぞれ斬り掛かるが、タンニーンの角に弾かれる。デュランダルが弾かれたか······ゼノヴィアがまだまだ未熟者であることの証拠だな。

 

ゼノヴィア「デュランダルが······!!」

 

アーシア「ダメです小猫ちゃん!!」

 

またもや、シスター・アーシアの静止を振り切って塔城が飛び出す。

 

朱乃「小猫ちゃん······裕斗君!!」

 

裕斗「はい!!」

 

木場が塔城の援護で多数の魔剣を出現させるが、全て尻尾で吹き飛ばされる。塔城は、一瞬動きが止まった隙にゼノヴィアが回収した。

 

ゼノヴィア「無策で突っ込むな!!」

 

小猫「······っ!!」

 

『Explosion!!』

 

兵藤は、『赤龍帝の籠手』のパワーアップが完了したようだ。

 

朱乃「イッセー君、一緒に!!」

 

姫島が雷撃を放つ。

 

イッセー「ドラゴンショット!!」

 

2人の同時攻撃がタンニーンに命中する。だが、かすり傷ほどのダメージも与えられない。

 

イッセー「マジかよ!!?」

 

朱乃「これでも······!?」

 

タンニーンが1歩踏むだけで地面が揺れて、イッセーが尻餅をつく。

 

イッセー「クソッ······!!!」

 

タンニーンがジリジリと躙り寄る。そろそろ止めるか。

 

 

八幡「······はいそこまで」

 

アザゼル「おいそれ俺が言いたかったのに」

 

イッセー「八幡!? ·····先生!?」

 

朱乃「リアス、クルルさん·····ギャスパー君まで」

 

 

 

 

イッセー「······このドラゴンが悪魔!?」

 

タンニーン「久しいなドライグ」

 

『ふん、久しぶりだな。タンニーン』

 

赤トカゲはこの茶番劇に気付いてて言わなかったらしい。流石に察せるか。まぁこんな茶番に気付かないような奴が封印されたところで、神滅具(ロンギヌス)だとかたいそうな名前で呼ばれる筈もない。

 

イッセー「知り合いかよ······」

 

アザゼル「こいつは、魔龍聖、タンニーン。元龍王の一角で、悪魔に転生した物好きさ」

 

裕斗「ドラゴンが、悪魔······!?」

 

木場もタンニーンを知らないのか······最近の子には教える必要がないのか。レーティングゲームを好きなやつなら、こいつらよりも年下でも知ってる筈だが。ランカーだし。

 

イッセー「どんだけ最強なんだよ······」

 

アザゼル「タンニーンには、お前らの修行のために手を貸してもらった」

 

ゼノヴィア「つまり······特訓か!!」

特訓と聞いて、ゼノヴィアが興奮し始めた。

 

あぁ、こいつそういう······

 

タンニーン「ふん、サーゼクスの頼みで特別に来てやったのだ。そこは勘違いするな堕天使の総督殿」

 

アザゼル「はいはい」

 

イッセー「アザゼル先生が一枚噛んでんのかよ······」

 

アザゼルはこういうのが大好きな物好きだ。

 

リアス「騙してるような真似してごめんなさい。お兄様まで賛成しちゃって反対出来なくて」

 

アザゼル「······伸び悩んでるこいつらのために態々来てもらったんだ。こいつらが伸び悩んでるのはリアス、お前の甘さと迷いのせいでもあるんだぜ?」

 

アザゼルの言うことも尤もだ。今のリアス・グレモリーは身内に甘すぎる。ライザーの時だって、俺が行かなかったら、間違いなく婚約破棄だなんて無理だったしな。

 

リアス「私はら迷ってなんか!!」

 

アザゼル「不意を突かれてどんだけ力を出せるか、試したくってな。お陰で、お前らの修行方針が決まった」

 

朱乃「堕天使の考えそうなことですわ······」

 

姫島は呟く。確か、バラキエルの娘だったか。親子間で上手くいってないんだろうな。

 

アザゼル「俺はお前らを強くできるんならなんだってやる。先生なもんでな」

 

んで、こいつはこいつで先生を満喫してんな········

 

 

イッセー「おいドライグ。何で知ってんなら先言わねんだよ」

 

『端から分かりきった茶番に付き合う気は無いからな』

 

イッセー「茶番?」

 

『タンニーンの奴、力の千分の一も使ってないからな』

 

イッセー「あれで!?」

 

『ああ。ついでに言えば、あの野郎はコカビエルとやった時激怒こそしてたが力は全然セーブしてたぞ』

 

イッセー「マジかよ······」

 

 

リアス「とにかく、その汚れた服じゃ家に連れていけないわね」

 

 

 

 

 

それでやって来たのは、温泉である。俺とクルルは割とここをよく利用している。昔、グレモリー領は一帯が火山帯だったらしい。それを利用した観光ビジネスがこの領では恐ろしいほど利益を出している。

 

八幡「······ふぅ」

 

ギャスパー「は~温まります······」

 

 

アザゼル「おい兵藤一誠」

 

イッセー「はい?」

 

アザゼル「お前、リアス・グレモリーの胸を揉んだことはあるのか?」

 

 

また始まったよこいつら。ギャスパーの耳を塞がないと。まだだ、まだギャスパーの耳に猥談を届かせんよ!!

 

ギャスパー「お父様?」

 

八幡「気にすんな」

 

ギャスパー「は、はあ」

 

 

 

イッセー「はい!! この右手でもしゃっ、てな感じで」

 

アザゼル「ほぉ、ならお前、女の乳首を啄いたことはあるか?」

 

何生々しい話してんのこのオッサン。

 

イッセー「いえ、それはまだ······」

 

アザゼル「かぁ〜何だよお前、啄いたことないのか。ポチッとじゃなくてズムっと、だ。指が埋没していく様は圧巻だぞ?」

 

イッセー「·······」

 

兵藤は

 

アザゼル「しかもだな、あれは押すと鳴るんだよ」

 

イッセー「ち、乳首は玄関のブザーじゃないんですよ!!」

 

アザゼル「いやあれはある意味ブザーだよ。押すと鳴るんだぜ?イヤンってな」

 

イッセー「なっ!?」

 

また余計なことを·······

 

イッセー「·······先生!! アザゼル先生!! 俺は今猛烈に感動しています!!」

 

······早く出よ。折角の温泉が台無しだ。風情の欠片もないようなこと話しやがって。

 

八幡「おいイッセー。下ネタは勝手に言ってりゃいいが、クルルとギャスパーには指1本触れさせないからな。見るのもダメだ。当たり前だが」

 

アザゼル「そういうお前はどうなんだ?」

何? こっちに矛先が変わりやがった!!

 

八幡「いや、は?」

 

アザゼル「クルルを抱いてんだろ? 毎日」

 

アザゼルはニヤニヤしながら言う。日常生活でこんなにひと殴りたいと思わされたのは久しぶりだぞ。

 

八幡「いや何言ってんのお前······」

 

ボロを出さないようにせねば······って言う俺が何言ってんだか。毎日なんてヤってるわけねえだろ······しかも今ギャスパーいるんだぞ······

 

アザゼル「んなこと言ってよぉ。AからVくらいまで行ってんだろ?」

 

古いなぁ······ってか、Vってど()のことだよ。

 

八幡「聞かれて答えるやつはいねえだろ······」

 

しかも、ここ構造上女湯に丸聞こえだからな······前に騒いでたらクルルに言われたし。

 

アザゼル「なるほど。そうかそうか。お前はクルルをしっかり抱いていると」

 

アザゼルは態々デカい声で言いやがった。

 

八幡「おいてめぇ何言ってやがる」

 

アザゼル「しらばっくれんなよ。夫婦がそこまで行ってねえわけねえだろ」

 

八幡「お前なぁ······」

 

 

 

 

 

同時刻の女湯。

 

 

クルル「······ア、アザゼルの奴······!!」

 

アーシア「お、落ち着いて下さいクルルさん」

 

ゼノヴィア「クルル・ツェペシ、一つ聞きたいのだが」

 

クルル「何よ?」

 

ゼノヴィア「子作りとはどうすれば上手くいくんだ?」

 

クルル「う······うん? はぁ!!?」

 

アーシア「ゼノヴィアさん!?」

 

ゼノヴィア「イッセーと子作りがしたいのだが······いかんせん分からないんだ。経験者に教えてもらいたい」

 

クルル「それは······」

 

アーシア「そ、それは人に聞くようなことでは······」

 

ゼノヴィア「頼む!!」

 

クルル「(どうしたらいいのよ······)」

 

 

 

 

 

再び男湯。

 

 

 

イッセー「おい八幡!!」

 

八幡「うおっ!!?」

 

何だよ藪から棒に········

 

イッセー「羨ましいぞ!! 何でお前ばっかり!!」

 

八幡「何がだよ·······」

 

イッセー「恍けんなよ!! クルルさんと毎日エッチしてるとか、羨ましいにもほどが「ちょっと黙れ」あ痛っ!!!」

 

流石に騒ぎすぎなので、兵藤を殴る。これで済ませた俺に感謝して欲しいものだ。

 

ギャスパー「お父様どうしたんですか?」

 

八幡「気にすんな。イッセーが変なことを言ってるだけだ」

 

イッセー「あれのどこが変なんだ!!」

 

もう無視しよ。本当に早よ出よ。

 

裕斗「それよりギャスパー君。今日の小猫ちゃん、どこかおかしくなかった?」

 

こいつ兵藤をそれよりで流したぞ。俺には無理だ。流石だわその図太さ。グレモリー眷属は図太くねぇとなれねぇのか?

 

ギャスパー「確かに······様子は変だったと思います。でもそれが?」

 

ギャスパーも、多少は予想がついているだろう。が、出来れば、本人が自力でどうにかして欲しいところだ。乗り越えろとは言わないが、折り合いを付けてくれるようになればいい、のだが······

 

裕斗「いや、ちょっと気になっただけさ」

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────なるほどな」

 

「それにしても、もっと早く出来なかったの? 美猴」

 

「そう言うなって。ヴァーリとの段取りの最終確認があったんだよ。じゃそろそろ行くか。あっちこそ待たせたらめんどくさいぜぃ?」

 

「ロキなんてどうでもいいんだけどねぇ······」

 

「その辺、お前が上手くやってくれ。黒歌」

 

「はいはい。ご主人様の命とあらば」

 

「······別に、嫌なら拒否っていいんだぞ」

 

「ま、『王』の言うことには皆従うでしょ······それで、白音は?」

 

「······変だな。お前関連だと思うけど」

 

「その言い方はなくない? ま、私に何か出来ることがほとんどない以上、あんたに頼むしかないんだけど」

 

「頼まれた。あと、ご主人様って呼ぶの辞めろって。お前を奴隷扱いしてるみたいで、嫌なんだよ」

 

「なによ、喜ばれるかと思って言ってやったのに。」

 

「······はぁ。俺にそんな趣味ねぇから。とにかく、そっちも頼んだぞ」

 

「了解にゃん」

 

「じゃあ今日はここまでだ。また進展があったら頼む」

 

「分かった。じゃあなっ!!」

 

「またね」

 

「ああ」

 

 

それを最後に、3人それぞれはその場から魔法陣で消えた。

 

 

 

 

 

 



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第24話 墓参り

ふと、こういう話を書きたくなる。




 

 

イッセー「······すっげぇぇぇぇっ!!」

 

······オカ研は今グレモリー邸に訪れていた。俺はサーゼクス(あのバカ)にしょっちゅう仕事を押し付けられるので、実のところ月1で来ていて流石に見飽きている。

因みに、この邸宅には俺とクルル専用の客間があったりする。使っていいと言ってくれた夫人には本当に感謝しかない。昔は、あの人が親代わりになってくれてた時期があった。一瞬だったが。

 

八幡「うるさいぞイッセー」

 

イッセー「いや何で驚かないんだよ」

 

八幡「もう見飽きてるんだよ」

 

ガキの頃から入り浸ってたからな、ここには。

 

初めて見る兵藤には驚きなのかもしれないが。

 

ゼノヴィア「ここがリアス部長の御実家か······」

 

そこで、現メイド長でもあるグレイフィアが出て来る。

 

リアス「グレイフィア、ただいま」

 

グレイフィア「お帰りなさいませ。リアスお嬢様、眷属の皆様。ようこそいらっしゃいました。八幡様、クルル様」

 

イッセー「あ、グレイフィアさん」

 

グレイフィア「どうぞこちらに」

 

グレイフィアに促され、一同中に入る。

 

『お帰りなさいませお嬢様。いらっしゃいませ八幡様、クルル様』

 

これである。ぶっちゃけ、リアス・グレモリーよりここに来ている。基本顔出して、グレモリー卿と少し喋って終わりとかだが。

 

イッセー「うはぁ······場違い感が凄い」

 

アーシア「こんな所に来ていいんでしょうか······」

 

八幡「とりあえず堂々としとけ」

 

イッセー「あ、ああ」

 

と、元気な声が向こうの角から聞こえてくる。

 

「リアス姉様〜!! お帰りなさ~い!!」

 

前方からサーゼクスとグレイフィアの息子────ミリキャスが走って来てリアス・グレモリーに抱きつく。元気でいいことだ。

 

リアス「ただいまミリキャス。少し見ない間に大きくなっちゃって」

 

ミリキャス「ああっ。お久しぶりです!! 八幡様!! クルル様!!」

 

目が爛々と輝いてるよ。果たしてミリキャスと同じ年の時こんなに輝いた目をしていただろうか。

 

八幡「よぉミリキャス。久しぶりっつっても1ヶ月前にあったけどな」

 

クルル「久しぶりねミリキャス」

 

にしても、何故サーゼクスの子供がこんなにサーゼクスと掛け離れているのだろうか。昔のあいつは、悪い意味でわんぱくだった記憶しかない。セラ然り。

しっかり者グレイフィアの教育の賜物だろうな。

 

リアス「知り合いだったの?」

 

八幡「サーゼクスがな······」

 

リアス「あぁ、そういうことね」

 

リアス・グレモリーにとっても別に驚くことではないらしい。

 

イッセー「部長、この子は?」

 

リアス「お兄様の子よ。名前はミリキャス。ミリキャス、こっちは私の新たな眷属よ。御挨拶」

 

ミリキャス「ミリキャス・グレモリーです!! 初めまして」

 

アーシア「可愛いです〜」

 

ゼノヴィア「正真正銘のプリンスというわけか」

 

今の魔王は世襲制じゃないし、今んところの次期当主がリアス・グレモリーだから、ミリキャスはかなり自由が出来るな。と言っても、根が真面目だからしっかり家を立てると思うが。

 

イッセー「······あれ? サーゼクス様の奥さんって誰だ?」

 

グレイフィア「皆様、こちらへ」

 

 

 

ミリキャス「リアス姉様がお帰りになられました!!」

 

グレモリー卿の私室に走っていくミリキャス。走っても危ないだけだぞ。それに続いて俺達も入る。

 

ヴェネラナ「······全く、何ですか? ミリキャス。お行儀の悪い」

 

ミリキャスは夫人に抱きついている。ミリキャスは夫人に抱きつくと安心するきらいがある。まぁ父親は中々帰って来ないし母親も仕事で家を開ける日があるしで、おばあちゃん子になるのも無理はないか。

 

八幡「おい、おい、イッセー、夫人に色目使ってどうする」

 

と、横を見ると、兵藤がポケーっとしていた。大方、あの人に見惚れてたんだろうな。見た目凄い若そうだが、ミリキャスの祖母である。初見ならミリキャスの姉と言われても信じるだろう。そんくらいには若い。だが、祖母である。

そして、俺とクルルは絶対と言っていいほどこの人に頭が上がらない。

 

イッセー「夫人? じゃあ、あの人がサーゼクス様の奥さん?」

 

八幡「いや? グレモリー卿の奥さん、簡単に言えばサーゼクスとリアス・グレモリーのお母さんだ」

 

イッセー「えぇ!?」

 

朱乃「ご無沙汰してます。ヴェネラナ様」

 

ヴェネラナ「お元気そうで何よりです。新しい方々も初めまして」

 

この人には、ミリキャス同様一ヶ月ぶりだ。サーゼクスには色々被害を被ってるが、この人から受けた恩は本当に計り知れない。昔、両親と妹を殺された時も、この人が匿ってくれた上に援助もしてくれたし。

 

ヴェネラナ「八幡君もクルルちゃんもギャスパー君もお久しぶりです」

 

微笑みを浮かべるこの人相手に頭が上がらない。しかも、またこの人のお世話になってしまっていたし、いつになったら恩返し出来ることやら。

 

八幡「お久しぶりです」

 

クルル「その節はギャスパーを······」

 

ギャスパー「······あ、あの、以前はありがとうございました」

 

ヴェネラナ「好きでやったことです。畏まらなくてもいいんですよ」

 

以前、ギャスパーをグレモリー家に預けた時、ギャスパーが封印処理にされてから、ギャスパーの面倒を見てくれていたのはこの人だったらしい。面会禁止にされていた俺達に代わって、ギャスパーの話し相手にもなってくれていたというし、本当にお世話になりっぱなしだ。

 

 

ヴェネラナ「リアスの母、ヴェネラナ・グレモリーです。この度は主人がご迷惑をお掛けしました」

 

この度ってのは、リアス・グレモリーの婚約騒動のことだろうな。グレモリー卿も、酒に弱いのさえ自覚してくれればいいだけなのに、何故······

 

ミリキャス「八幡様、それ······」

 

と、俺の手元を見て、ミリキャスが俺の持っている紙袋を指差す。

 

八幡「ああ。これから行こうと思ってな」

 

ヴェネラナ「あらいけませんね。ミリキャス、おじい様を呼んでいらっしゃい」

 

ミリキャス「分かりました」

 

ミリキャスはすぐさま走って出て行ってしまった。また怒られるな。

 

リアス「······?」

 

八幡「夫人、そこまでしなくとも······」

 

ヴェネラナ「いいのですよ。リアス、夕食までしばし時間があります。皆様を案内しなさい」

 

リアス「·······分かりました」

 

リアス・グレモリーとギャスパー以外の眷属は疑問を浮かべつつも部屋を出て行った。

 

八幡、クルル「「ありがとうございます、夫人」」

 

ギャスパー「あそこ(・・・)ですか?」

 

八幡「ああ。今セラフォルーも向かってるって連絡がきた」

 

セラフォルーにまで来させてしまうのは申し訳ないな······というか、あいつに連絡したっけ? まぁ俺が気付かないタイミングでクルルが連絡したんだろ。

 

ジオティクス「······では行こうか八幡君」

 

ミリキャスがグレモリー卿とサーゼクスを連れて戻って来た。サーゼクス、今戻って来てたのか。

 

八幡「すいませんグレモリー卿。忙しいのに態々·····」

 

ジオティクス「昔のようにジオさんと呼びなさい」

 

クルル「ヴェネラナさんと全く同じことを言ってる········」

 

サーゼクス「では行こうか。夕食に遅れてもいけないだろう。セラフォルーも向かっているようだし」

 

八幡「悪いなサーゼクス。態々」

 

サーゼクス「気にしないで欲しいよ。あの人達(・・・・)には私もお世話になったからね」

 

八幡「······そうか」

 

俺達はグレモリー邸を出て、ある所に向かった。

 

 

 

 

 

イッセー「部長、八幡達はどこに行ったんですかね?」

 

リアス「さあ······それにしてもギャスパーとミリキャスまで行くというのは······いったいどこに行ったのかしら」

 

 

 

 

 

 

 

そこはグレモリー家の近くにある丘の麓。俺達はそこに来ていた。

 

 

セラフォルー「······あ、ハチ君」

 

俺達が向かうと先にセラフォルーが来ていた。あのふざけた服でもない。

 

八幡「悪いなセラフォルー、来てもらって」

 

セラフォルー「何を今更。グレモリー卿、夫人、お久しぶりです。こんにちはミリキャスちゃん」

 

ミリキャス「お久しぶりですセラフォルー様」

 

ジオティクス「さて。全員集まったことだし、行こうか」

 

八幡「ミリキャスもありがとな」

 

ミリキャス「八幡様にもクルル様にもお世話になっているので当然です!!」

 

八幡「······そうか。ありがとな」

 

クルル「ありがとうミリキャス」

 

 

 

 

俺達は小高い丘の頂上に来ていた。周辺を一望出来る程度には小高い。ここは昔、俺、クルル、小町、サーゼクス、セラフォルーの遊び場にもなっていた。

そこには一つの石碑が立っていた。

 

八幡「······よう親父、お袋、小町。また来たぞ」

 

クルル「久しぶりだね皆·······」

 

ギャスパー「お、お久しぶりです」

 

その石碑には1文だけ字が彫られている。

 

 

『比企谷家之墓』

 

 

これは、親父、お袋、小町の墓である。ジオさんにはうちの領が出来た時に、俺の領に移動させるか?とも聞かれたが、親父とお袋この景色が好きだったらしく、ここに墓が残っていた。結果、管理をジオさんとヴェネラナさんに任せてしまっているのは申し訳ない。

因みに、セラフォルーと会った所は今はなき、昔俺とクルルが家族と住んでいた家があった所だ。今はもうない小さい一軒家。でも温かかく、懐かしい場所。ここにいる者の秘密の場所でもある。ここにいない俺の眷属では、クルル抜いたら3人しか知らない。まぁ他人の家の墓にそこまで興味をもつ必要もないからそれは別にいい。

 

あと、この付近は人払いの結界抜きでもあまり人が来ない所になっていた。

 

ジオティクス「久しぶりだな時宗······」

 

ヴェネラナ「リーラさん、お久しぶりですね······」

 

ジオさんは親父に仕事をよく手伝っていてもらったらしい。ヴェネラナさんはお袋とよく料理を交換していたとか。ルシフェルだなんだ言われてても、お袋もその辺は普通だったんだと思う。

 

サーゼクス「お久しぶりです。おじさん、おばさん」

 

セラフォルー「おじ様、おば様、お久しぶりです」

 

サーゼクスとセラフォルーはよく家に遊びに来ていた。一緒に風呂に入ったり、お泊まり会だとかしょっちゅうやった。

懐かしいな。あの頃は、大人の汚い話とかも考えずにそこら中駆け回っていた。

 

ここにミリキャスがいるのは、1年くらい前偶々ここに来た時に石碑を見付けて、ジオさんに話を聞いたかららしい。それからはミリキャスもここに来てくれている。どうやって人払いの結界をすり抜けたのかは謎だが、偶々結界の綻びにでも触れてしまったのだろう。

 

 

石碑に付いた汚れを掃除して取る。

これで暫くは、大丈夫なくらいには綺麗になっただろう。グレモリー領に来た時は出来るだけここに来て掃除するようにしているが、定期的にジオさんとヴェネラナさんとミリキャスも掃除しに来てくれているらしい。

 

 

紙袋から花束を出して供える。その後、全員で手を合わせる。親父が日本人として生きていたので、ここでは仏式に合わせてくれていた。

 

 

······皆で食卓を囲んでいた日々を思い出して、涙が溢れた。

 

 

八幡「······皆付き合ってくれてありがとな」

 

ジオティクス「気にしなくていいんだ。ここにいる皆が散々世話になったんだ。こうして来なくてはこいつらもつまらないだろう」

 

ヴェネラナ「忘れてはいけませんよ?人は死んだら人の心の中でしか生きていけませんから」

 

心の中でしか生きていけない、か。そうかもな。死んだら、誰かの記憶の中でしか生き続けられない。

 

クルル「······はい」

 

サーゼクス「ここは景色がいいし、風も気持ちいい。こう言ってはなんだけど、気分転換にも丁度いいんだ」

 

セラフォルー「昔を思い出せるしね」

 

ミリキャス「僕も······ここは気持ちいいんです」

 

八幡「そうか······それだけでもここに残してるには、十分な理由だよ」

 

クルル「皆ありがとう」

 

俺とクルルは頭を下げた。

 

本当なら、この人達には管理する義務なんてないし、どちらかと言えば墓なんか撤去して公園でも作った方がいい。その方が人が来る。

 

ジオティクス「全く······このくだりも何度やったことか」

 

ヴェネラナ「悪いことではありませんよ」

 

八幡「ハハ······ありがとうございます」

 

ジオティクス「そろそろ戻ろうか」

 

セラフォルー「あ、じゃあ私はここで」

 

こいつ、本当に仕事の合間だったんだな。基本巫山戯てはいるが、外交担当のセラはサーゼクス達とは違う種類の仕事が山のように舞い込んで来ている筈だ。

 

八幡「ありがとな来てくれて」

 

1度だけ、もう来なくてもいいんだぞ。と、全員に行ったことがあるが、即刻何度でも来るよと言い返されている。

 

セラフォルー「いいって。ハチ君は頑固ねー······では、失礼します。またね」

 

八幡「シトリー卿によろしく伝えてくれ」

 

セラフォルー「うん。じゃあね~!!」

 

そうしてセラフォルーは帰って行った。

 

ジオティクス「······私達も、戻ろうか」

 

ヴェネラナ「そうですね」

 

そうして、俺達もグレモリー邸に戻った。

 

 

 

 

 

 

夕食を取り終え、今は家族3人で俺達用に用意されている客間のベッドの中にいる。ギャスパーを真ん中にして、川の字になっている。尚、この部屋は俺がギャスパーをサーゼクスに預けた時に使われた部屋であり、昔一瞬だけだがこの部屋で住人として過ごしたこともある。

 

八幡「······ギャスパー、明日から修行だぞ」

 

ギャスパー「修行ですか?」

 

クルル「この機会に、全員一度自分を見直してみようって話になってね」

 

ギャスパー「そうですか······でも、お父様とお母様がいるなら大丈夫です」

 

八幡「そうか?」

 

クルル「そう······ね!!」

 

ギャスパー「そうです!!」

 

親父、お袋、小町。俺は家族を持ったよ。血は繋がってないけど子どももできた。俺は大丈夫だ。だから、あの俺達だけの場所で、安心して見守っててくれ。

 

 

 





比企谷.L.時宗
八幡の父。

比企谷.L.リーラ
八幡の母。

比企谷.L.小町
原作通り、八幡の妹。


ルシファー(L)は元々リーラのファミリーネームだったが、時宗とリーラが結婚する際に一家のミドルネームにすることを決めた。という設定です。



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第25話 リアス・グレモリーの眷属、塔城小猫(前編)


これは、サムネで中身がバレるな。




 

 

 

さて、どうしたものか。いや、いずれこうなるのは分かってたけどさ。いざそうなったら、意外と上手くいかないなんてザラなんだよ。

 

小猫「どうして······それを······」

 

八幡「······今教えなくともすぐ分かる」

 

その始まりは、6日前に遡る。

 

 

 

 

アザゼル「······あ~皆揃ってんな。人間界での20日間。その間の特訓のメニューを作った」

 

大元はアザゼルのこの発言。グレモリー領に来た理由の一つに、オカ研メンバーの特訓も入っているのだ。昨日タンニーンを仕掛けさせたことからも分かっていたことだが。

 

イッセー「20日間!?」

 

夏休みは半分以上潰れるな。特訓が20日もあったら。でも、そんだけ夏休みがある学生連中は羨ましい。

 

タンニーン「······全く。ドライグを宿す者は初めてなのだが」

 

兵藤のトレーナーはタンニーンだったらしく。

 

イッセー「······昨日のドラゴンのおっさん!!」

 

アザゼル「こいつがお前の専属トレーナーだ。ま、死なない程度には気張れよ?」

 

アザゼルがニヒルに笑う。

 

イッセー「あのですね。そういうことを勝手に······うわぁぁあぁ!!?」

 

と、タンニーンが兵藤を摘む。ジタバタ藻掻いているが、まぁ無駄だろうな。

 

アザゼル「タンニーン、頼んだぞ」

 

タンニーン「任せてもらおう」

 

兵藤が反論するより先に、タンニーンは兵藤を摘んで飛び去って行った。憐れ兵藤。

 

その後、リアス・グレモリーは基礎練習以外にも、眷属が最大限力を発揮出来るよう知識と機転を身につけること。

木場は禁手の維持・向上と、サーゼクスの眷属のあいつが師匠になって剣の特訓。

姫島はシンプルで、自分に流れる血を受け入れること。特訓と呼べるかすら怪しいものだが、バラキエルがトレーナーであるらしい。ゼノヴィアはデュランダルを手懐けるというそこそこ難易度の高いものだった。

シスター・アーシアは『聖女の微笑み』を使い続けろというものだ。

 

アザゼル「······で、ギャスパーは八幡とクルルがいれば精神的に安定してるから、出来るだけクルルと街に出掛けるだけでいい」

 

ギャスパー「······それだけ、ですか?」

 

アザゼルにもアドバイスを仰いだ結果、軟禁状態で精神の安定を著しく欠いたギャスパーだが、俺やクルルのように親しい者が傍にいればある程度の問題をクリアできた······それにより、対人恐怖症寸前の状態をなんとかしようということで一致した。

だいぶ急だとは思うが、ギャスパーなら大丈夫だ。昔はあそこまで人に怯えていたわけではないし、あいつ自身神器の暴走に寄る所が大きいのは自覚してるから、今なら大きな問題も起こらない筈だ。

 

無論、万が一はあるだろうから、その辺はクルルが上手くやってくれる。

 

アザゼル「ああ。お前は神器の制御もかなり安定してきている。でもってもっと人前に出ることに慣れろ」

 

ギャスパー「お父様は?」

 

······で。当の俺だが······

 

アザゼル「あ〜、八幡についてだが······」

 

八幡「俺は塔城のトレーナーだ。すまんギャスパー。後で出来るだけ時間作るから」

 

ギャスパー「そうですか······仕方ないですね」

 

本当にすまんギャスパー。

 

小猫「······比企谷先輩が、ですか?」

 

クッ······日中、ギャスパーと一緒にいれないなんて······!! だがしょうがない。俺がやると言ってしまった以上、やらない訳にもいかん。

 

八幡「ああ。お前がもっと本格的な戦闘が出来るように、ってな」

 

クルルも出来なくはないのだが、あまり無理はさせたくない。というのが表の理由で、実のところどちらがギャスパーと街に出かけるかで昨日ジャンケンして、俺がクルルにボロ負けしたというのもあったりする。

 

 

 

 

八幡「······で、塔城。お前は、暫くは俺とひたすら組手をしてもらう」

 

各々が別れて特訓開始。ギャスパーはクルルと近くの街に出掛けた。軟禁状態にあったギャスパーをいきなり街に出して大丈夫か非常に心配だが、クルルがいるからきっと大丈夫。

 

で、俺は塔城とジムにいる。

 

小猫「組手?」

 

八幡「お前は典型的なパワータイプだから、手数なり攻撃を繋げることを覚えろっていうことだ。基本はある程度出来てるみたいだからな。基本やり直すにもどのみち時間足りないし。この手のことは、メリオダスにも散々教わったと思うが」

 

こんな単純なことをメリオダスが教えないわけない。

 

塔城小猫は、『戦車』特有のパワーを上手く活用出来ていない。デカいの一発当てるだけでいいなら、リアス・グレモリーか姫島が遠距離から攻撃するだけで全てが終わる。

 

八幡「で、お前には手数が足りない。全くな。俺の眷属はプロモーションしてない『兵士』でも、『僧侶』でも、お前以上のパワーがあるし、お前が一発パンチする間に10人の意識奪うくらい当たり前に出来る。素手だけでもな」

 

約二名を除いて。()()()()『僧侶』は、まだまだ鍛錬が足りてない。で、もう片方は『兵士』なのに絶望的なまでに体力がないのがな······あいつは能力に頼りすぎだ。その能力が強力だから、何とも言えないんだが。

 

八幡「······組手と言っても俺は回避とか防御に専念する。ひたすら攻撃し続けろ」

 

始め、と言った瞬間に、塔城は攻撃を始める。

 

小猫「······はっ!!」

 

塔城が殴り掛かって来る。パンチに裏拳を当てて軌道を逸らす。蹴りは体を反らして避ける。それをひたすら繰り返す。やはり手数が相当少ない。木場のようなスピードとテクニックで戦う相手にはかなり分が悪い。

 

それに、パワーに頼りすぎた結果体に力が入りすぎて、動きに無駄が多すぎる。攻撃は基本、インパクトの瞬間にだけ力を込めればいい。素手の喧嘩(ステゴロ)教えようってわけでもないし。

 

 

 

小猫「······また、当たらない」

 

塔城は既に息が上がり始めている。塔城に攻撃をさせ始めて5分ってところか。

 

八幡「何処を狙ってるか丸見えだ。それ以前にパワーに頼りすぎで、攻撃が遅い。更に言えば、攻撃が続いてない。俗に言うコンボってやつだ。まず、自分の体がどう動いているのかを意識しろ。そうすれば、多少は自分の動きが如何に無駄だらけか分かるだろ」

 

小猫「······はい」

 

塔城の攻撃が再開した。相変わらず無駄が多いが、少しは気付けたか?

 

 

 

 

 

 

八幡「······今日はここまで。ちゃんと休めよ」

 

小猫「はぁ、はぁ······ありがとうございました」

 

あの後も塔城は俺に攻撃を当てられなかった。特訓初日だから仕方ないことでもあるが、あいつは本来パワー特化じゃない。組手を一通りさせたら、向き合わせないといけないだろう。

 

 

 

 

八幡「······て、具合だな」

 

黒歌『······そう。白音、早く会いたいなぁ······』

 

八幡「もうちょい待ってろ。誤解を解けないと、お前の話が通じない。と言っても、すぐに解けないだろうけどな······悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

特訓6日目。

 

 

八幡「······それまで。組手は今日までだな」

 

小猫「······やっと、次のステップに」

 

6日もやり続けていれば、流石に攻撃が繋がるようになってきた。繋げるというのは、一発のデカさで決めようというパワー一辺倒のこいつには少々酷だっただろうが、これぐらいで音をあげられては困る。残りの10日間はもっとキツくなるのだ。

 

八幡「さて、今日から最終日までのお前の特訓だが······塔城、お前には今から自分と向き合ってもらう」

 

小猫「······どういう意味ですか?」

 

八幡「そのままの意味だ。······展開しろ(ひらけ)

 

神器で前もって作っておいた別空間と、ジムの空間に歪みを作り、強引に繋げる。

 

小猫「········!!」

 

驚く塔城を無視して、俺と一緒に別空間に飛ばした。

 

 

 

 

小猫「────ここは?」

 

俺達以外何もない空間。カテレアの時と同じように創った。

 

八幡「俺の神器で創った空間だ」

こいつは、ここで(本当はここである必要はないが)、()()()()()()()()()()()

 

八幡「これも特訓だぞ?」

 

小猫「······分かりました」

 

八幡「じゃあやるか」

 

俺はそう言って、空間を弄る。

 

と、塔城の前に、もう一人塔城小猫が出現する。無論偽物だが、有効な手ではある。

 

小猫「どうして、私が·····!?」

 

八幡「ここは俺が想像したものなら何でも出来るんだ。ま、それは幻術まがいのものだと思えばいい」

 

塔城の前に現れたのは、()()()()()が生えたもう1人の塔城。これは、俺が空間を操作して作った偽物だ。ただし、攻撃も防御もすふ。この空間内限定での幻術だ。別に、幻術使うならこんななり損ない使わなくても同じことが出来るが、秘匿性がこっちのが遥かに上だから使ったまでだ。

 

八幡「お前には自分と向き合ってもらう。今まで封じてきたお前の本来の力と」

 

小猫「······っ!!」

 

猫耳と尻尾が生えたもう1人の塔城が仙術と妖術で本物の塔城に攻撃する。塔城は躱していくが、すぐに被弾する。が、煙(これも空間の操作で編み出してる)の中から本物の塔城がもう1人の塔城に殴りかかる。もう1人の塔城はそれを避けようとするが、本物の塔城の繋げた攻撃をもろに受ける。

塔城はこれを好機と見たか、更に連続で攻撃を決める。

うん、これだけ決められるなら今のところは十分だろう。塔城の偽物を消す。かなり急だが、次のステップに移るか。

 

 

八幡「次にお前が戦うのはこいつだ」

 

俺が指を鳴らすと、塔城の前に新たな人影が現れる。

 

小猫「う、嘘······」

 

「······久しぶりね、白音」

 

現れたのは、塔城小猫─────白音の実姉、黒歌。

 

 

 

さて、どうなるか。

 

 

 

 



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第26話 リアス・グレモリーの眷属、塔城小猫(後編)

 

 

 

黒歌「······久しぶりね、白音」

 

物言わないもう1人の自分(自分の幻影)を倒した塔城が次に対峙したのは、実姉の黒歌だった。

 

小猫「どうして、黒歌姉様が······」

 

八幡「ここは俺の創った空間の中だ。俺の思った通りのことが出来る」

 

小猫「······なら、なんで······!!」

 

自分で分かりきってるくせに、と思った。全く、何で黒歌はこんな回りくどいやり方してるんだか。

 

八幡「お前が自分と向き合うためだ。ここで黒歌の幻影を倒して自分と向き合え。お前が受けるべき本当の修行だ」

 

いくら逃げようともそれは一時的なものにすぎない。逃げ続けたら、いつからこいつはオカ研メンバーといれなくなり、逃避願望と罪悪感にすり潰されるだろう。

 

小猫「わた、私は、い、イヤ······」

 

白音に向かって歩み寄る黒歌に対して、白音は後ずさる。

黒歌「帰ろう白音。あなたはお姉ちゃんと同じ力をその身に宿してる。逃げるなんて無理よ」

黒歌が白音の目の前に来て、手を差し出す。

 

黒歌「あなたと私は本質的に同じ。あの人達をいつか傷付ける」

 

小猫「っ······やめて······」

 

白音の体が震え出す。

 

黒歌「お願いだから、認めて。白音は逃げられないのよ」

 

白音の表情は恐怖に呑まれる。一方の黒歌も、顔には出していないものの内心かなり辛い筈だ。

 

小猫「嫌、で、す······」

 

塔城は頭を抱えて座り込んだ。

 

黒歌「あなたは白音。塔城小猫じゃない」

 

小猫「······!!」

 

塔城の震えが止まり、頭を上げて黒歌を睨みつける。

 

小猫「······違うい、ます

 

黒歌「違わないわ」

小猫「違う違う違う!! ········私は塔城小猫!!リアス・グレモリー様の『戦車』!! 私はあなたとは違う!!」

 

塔城から獣耳と尻尾が出る。

 

黒歌「その姿で? 結局同じ穴のムジナでしかないわ」

 

小猫「そんなことない······私は姉様とは違う!!」

 

塔城が仙術で攻撃する。至近距離から攻撃をもろに食らった黒歌の体がボヤけ始める。

 

黒歌「いつか······迎えに行くわ······」

 

小猫「······私は、負けません。姉様を、乗り越えます」

 

それを最後に黒歌の体は霧散するかのように完全に消えた。

 

 

·······頑張ったな、2人とも。

 

 

 

 

 

小猫「どうして先輩は······あんなことを?」

 

黒歌が消えたあと、俺達は元いた場所(グレモリー邸のジム)に戻った。

 

八幡「·····特に大した理由じゃねえよ。お前がいつまでも姉という存在に縛りつけられてたから、それを解き放っただけだ。少しは吹っ切れただろ?」

 

······それに、(白音)を憂う(黒歌)を見てて辛かったからだ。俺のような想いは、黒歌にも白音にもさせてやりたくない。

 

小猫「······はい」

 

出来れば、和解させてやれれば良かったが、いきなりでは無理だ。誤解もまた一つの(こたえ)。解くには相応の時間がかかる。

 

八幡「一つ言っておくぞ。塔城小猫、お前の力は人を傷付けるためのものじゃない。力ってのは、ただあるだけだ。力の見方は、使う奴次第だ。いい意味でも悪い意味でも、な。それだけは心の片隅に置いとけ」

 

小猫「······はい」

 

仙術は、使い方では相当危険な部類に入る。だが、使いこなせれば白音にとっちゃこれ以上ない力だろうよ。

 

小猫「先輩······ありがとうございました」

 

八幡「そうか。今日はもう休め。疲れただろ?」

 

小猫「······はい」

 

塔城はジムから出て行った。少しは吹っ切れただろう。出なきゃ、辛いのを堪えて出てきたあいつが可哀想だ。

 

 

 

八幡「······見てたのか」

 

扉が開き、クルルとギャスパーが入ってくる。クルルばっかりずるい、と思った俺は悪くない。······違うか。違うな。

 

クルル「ただいま」

 

八幡「おうおかえり」

 

ギャスパー「お父様······小猫ちゃん────白音は大丈夫なんですか?」

 

ギャスパーが恐る恐る聞いてくる。

 

八幡「どうだろうな······でも、多分大丈夫だな」

 

ギャスパー「どうして分かるんですか?」

 

八幡「そうだな······俺も感覚的な所だから上手く言えないが······うし、これから聞きに行くか」

 

魔法陣を出し、ジャンプの準備をする。

 

ギャスパー「これからですか?······久しぶりですけど」

 

クルル「最近八幡しか会ってないからね」

 

八幡「そりゃ悪かったな。お前も会いたかったよな」

 

ギャスパー「そ、そういうわけじゃ」

 

八幡「ギャスパーにだけ聞いたんじゃないぞ?」

 

ギャスパー·······顔真っ赤にしちゃって。

 

ギャスパー「あっ······な、なんでもありません!!」

 

クルル「ふふっ」

 

クルルは、抱き着きたいぐらい可愛いとか思ってるだろうな。何故か、って。そら、俺が思ってるんだし。

 

八幡「じゃあ行くか」

 

クルル「ギャスパーも会いたがってるしね」

 

ギャスパー「お、お母様!!?」

 

ギャスパーにしてみれば、あいつは姉みたいな存在かもしれんな。でも、久しぶりに会うわけだし、双方にとってもなんか刺激になるかもしれない。

 

八幡「ほら、行くぞ」

 

ギャスパー「は、はい!!」

 

俺達は魔法陣でジャンプした。

 

 

 

 

 

 

八幡「よ、さっきぶり」

 

ギャスパー「······その、お久しぶりです」

 

ギャスパーの目が輝いている(頬は若干赤らんでいる)。お前大好きだったもんな、こいつ。暇さえあればずうっと一緒にいたし。

 

クルル「久しぶりだね」

 

俺達はある場所にジャンプした。うちの領の、俺と眷属が密会する洞窟であり、人払いの結界が常に張られている。眷属以外で入ったことがある(入れる)のはギャスパー、ヴァーリ、それともう一人だけである。

 

「······待ちくたびれたわよ」

 

そこには黒歌が先に来ていた。

 

黒歌「ギャスパー、久しぶりね。封印は解けたのね······元気にしてた?」

 

ギャスパー「······はい。黒歌さんもお元気そうで、良かったです」

 

色々言いたいこともあるだろう。

 

八幡「······にしても、お前がやりたいって言い出したことだけど、あんな回りくどいやり方しなくても良かったろ」

 

先程の黒歌、白音には幻術まがいのものだと言ったがあれは本物の黒歌である。霧散するように見せたのは幻術まがいのものだと思わせるためだ。

 

黒歌「これも白音のためだもの。結果的に白音が少しは自分を受け入れたからよかったと思うわ」

 

終わりよければ全てよし、じゃねえからな?

 

八幡「かなり危険な方法だと思うんだが」

 

黒歌「······他に方法が思い付かなかったのよ」

 

黒歌は、俺から視線を逸らす。

 

八幡「はぁ。もうちょい考えろよ」

 

黒歌「あでっ」

 

黒歌にデコピンを食らわす。別に痛くないだろ。

 

黒歌「酷い!!」

 

八幡「自業自得だ」

 

別に、余計に警戒されるようなことをする必要はなかったろ。確かに、今のままじゃ誤解を解くこと自体結構大変ではありそうだが······全く、妙な所で不器用発揮しやがって。

 

黒歌「もっと酷いっ!?」

 

ギャスパー「お父様、落ち着きましょうよ······」

 

八幡「そうだな」

 

黒歌「変わり身がっ!!」

 

もうちょい安全な策はあるだろ·······全部こいつが焚き付けて、自分を見直させるって感じだが、今回そばにいたのは俺だぞ? 塔城が本格的に自分を見失ったらどうするつもりだったのか。黒歌は、白音が変わる切っ掛けになると信じていたのか。

 

まぁ黒歌本人が知っていれば、それでいいか。

 

 

八幡「······じゃあ俺とクルルは帰るわ。黒歌、後で俺の魔力探ってギャスパー送って来て」

 

黒歌「りょ〜かい」

 

クルル「ギャスパー、しっかりやるのよ?」

 

ギャスパー「うええっ!!? お、お父様!? お母様!?」

 

俺とクルルは魔法陣でジャンプした。

 

 

 

 

八幡「·········ギャスパーも変わってんなぁ」

 

魔法陣でジャンプした先はグレモリー邸の俺達用の客間。ここはサーゼクス達に内緒で、俺と、クルルを始めとする眷属以外のみに効く魔力の感知阻害の結界を掛けてある。

 

クルル「私達も大して変わらないでしょ」

 

八幡「まあ結局黒歌の案に乗ったわけだしな」

 

この点で、結局黒歌と同じだと思うしかないか。

 

 

 

八幡「······早かったな」

 

ギャスパーと黒歌が魔法陣でジャンプして戻って来た。早くね?俺は一晩やそこら帰って来ないのかと思ってた。余談だが、俺や俺の眷属の中では、黒歌とギャスパーが2人だけであの洞窟内にいる時は絶対に邪魔をしない決まりになっている。

 

ギャスパー「もう、お父様もお母様も置いてくなんて酷いですよ」

 

黒歌「いや~私は嬉しかったけどね」

 

クルル「何て言われたの?」

 

俺も気になるな。

 

黒歌「えっとね、僕は黒歌さんのことg「いくらお父様とお母様でも駄目ですよ!?」ちぇ~」

 

なんて言ったのか気になって仕方なかったが、聞こうとしたら、黒歌の口をギャスパーが塞いでしまった。

 

八幡「ま、いつか聞かせてくれよ。それで? なんて返事したんだよ」

 

黒歌「ギャスパーが一人前になったら、こっちから行かせてもらうわ。その時は、ガンガン行くにゃん」

 

ギャスパーが微妙に苦笑いをしていたが、これは、攻められる前に攻めるタイプだな。

 

でも、黒歌も、ギャスパーのこともちゃんと考えてて俺としては一安心だ。比企谷家は安泰だな。

 

八幡「そうだな、それが一番いいんじゃないか?」

 

早いとこギャスパーを鍛えてやらんと。黒歌も割りとモテるからな。基本的に黙ってれば、だけど。

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

小猫「······おはようございます。比企谷先輩」

 

八幡「よお塔城。少しはスッキリしたか?」

 

本人としても、まだ踏ん切りのつかないことが多いだろう。時間はいくらでもあるわけだし、悩み抜いて答えを見つけてくれればいい。

 

 

小猫「······はい。あくまでも姉様は姉様で、私は私です。だから、私はリアス部長の『戦車』の塔城小猫です」

 

八幡「······そうか。少なくとも、今それが言えたんなら、昨日は無駄じゃなかったな」

 

小猫「はい」

 

······これで、やっと一歩進めたな。白音。

 

八幡「なら、今日からは接近戦の特訓に加えて仙術の特訓を行う」

 

小猫「······先輩は仙術も使えるんですか?」

 

これが、俺がトレーナーになった理由。俺とクルルは、須弥山で修行していた時期がある。ウチに来たばかりの黒歌にも手解きしたりもした。

 

八幡「ああ。ある程度はカマクラに教わった」

 

嘘を多めに混ぜて話す。カマクラは猫又だから疑われることはないだろう。それに、今黒歌のことを教えると昨日が丸っと無駄になる。また取り乱されては、やり直しどころかマイナスからのリスタートだ。

 

小猫「カマクラ······先輩の使い魔でしたよね?」

 

八幡「ああ。お出でカマクラ」

 

カマクラを呼び出す。出て来た場所は俺の頭の上。因みに、ディネは俺の肩に座ってる状態で出て来る。ホント可愛い。あいつにも少しは見習って欲しい。この可愛さを。······無理か。

 

小猫「可愛い······」

 

カマクラは俺の頭から飛び降りると、白音の肩に飛び乗る。俺より歳上なのに、妙に可愛く見えるのはなんでなんだろうな······

 

 

八幡「残りの2週間。俺とカマクラでお前に仙術を叩き込む。覚悟しとけよ?」

 

小猫「······はい!!」

 

 

 

 






裏幕:ギャスパーと黒歌


八幡とクルルが若いもんにどうのこうのとか考えてますよな表情で、先に転移していった直後。


ギャスパー「······えっと、その······」

ギャスパーは、八幡とクルルがいきなりいなくなって少し慌てている。可愛い。

黒歌「ギャスパー······」

大丈夫? と声をかけようとした時、何かを決心したような表情になって私を見つめてきた。
にしても、ギャスパーの瞳って真紅で綺麗ね。引き込まれそうよ。

ギャスパー「······僕は、黒歌さんのことが好きです」

分かっていた。ギャスパーが私に無自覚でも好きだって思っていてくれたこと。そりゃ、私を助けてくれたのはギャスパーだし、私だって、この子のことが大好きだ。歳はちょっと離れてるけど·····

でも、誰にも文句は言わせないわ。

黒歌「!! ······ふふっ」

ギャスパー「ふぇっ!? 黒歌さん!?」

私がギャスパーを抱き締めると、ギャスパーは一瞬慌てたけど、すぐに抱き締め返してきた。

今は、私のが10センチくらい背は高いけど、多分すぐに追い抜かれちゃうんだろう。男の子だし。男子三日会わざればーなんてよく言われてる。
ヴァーリも、最初会った時は私より背がちっちゃかったけど一瞬で追い抜いてやるとか息巻いてたから適当に相槌打ってたら、本当に一瞬で抜きやがったし。
······まぁ多分、この子もそう。この子を見下ろせるのも今だけだと思うとちょっと残念だけど、かっこよくなってくれるのは嬉しい。

黒歌「ギャスパーがもっと一人前になったら私から行かせてもらうわ」

でも、今はまだ、それだけ。ギャスパーが、あのことをちゃんと乗り越えて、それでも私を見てくれるなら、その時は、私が全力を出して、全力の本気の本気でギャスパーを攻め落としてやるわ。

ギャスパー「······はい。出来るだけ待たせません、黒歌さん」

だから、私も、早く強くなって、乗り越えていかないと·······



黒歌「うん。待ってるわ、ギャスパー。


·······さ、2人の所に戻ろ?」

ギャスパー「戻りましょうか」


───────────────────




ヴァレリーはギャスパーの幼馴染みポジではなくしました(そこまで続けてればだけど)。※あくまでも二次創作です。





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第27話 アースガルズ


八幡キャラ崩壊大。要注意。


10/30 大幅な修正、加筆。


 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······塔城、組手オンリーの6日間、仙術を使った2週間。どうだった?」

 

20日間の特訓が終了した。バラバラに特訓していたオカ研が全員が久々に集結している。何故か、兵藤はリアス・グレモリーに抱きついているが。

 

小猫「······辛かった、です」

 

だろうな。今まで、必死に押さえ込んでたものを強制的に解放させられたのだし。

 

八幡「······そうか」

 

小猫「······でも」

 

でも、と白音は続ける。少し、目に宿る光が強くなった気がする。まだ完全に折り合いをつけられたわけではないが、それでも白音が自分を見失わずに済んで、僥倖だ。自己否定は自分で自分をすり潰していくだけだからな。

 

小猫「自分から逃げてたのが一番辛かったです。だから、少し楽になりました」

 

八幡「······そうか。なら良かったよ」

 

黒歌、お前の妹は強いよ。俺よりずっとな。それが分かったし、頼まれてよかった。

 

小猫「先輩、ありがとうございました」

 

この時の白音の笑顔は、晴れ晴れとしたものだった。黒歌が見ていないのがなんとも残念だ。あとで写真でも撮っておこうか。

 

八幡「どういたしまして」

 

と、向こうでギャスパーと話していたクルルが、声をかけてくる。

 

 

クルル「八幡、アザゼルがそろそろ行くって」

 

八幡「あぁ、分かった」

 

クルル「先行ってるね」

 

八幡「ああ」

 

話し込んでたらもう時間になったらしい。関係ないが、20日間でもこいつは弟子に入るのだろうか。

 

八幡「じゃあな塔城。向こうでな」

 

 

今日、北欧神話の主神であるオーディンが訪冥する(天界には悪魔と堕天使は入れないため)。そのレセプションが冥界の首都であるルシファードで行われ、俺も招かれている。オカ研は護衛部隊の一つとして、サーゼクスに捩じ込まれている。

 

小猫「······はい。また」

 

 

 

 

 

 

八幡「······ん?」

 

クルル「どうしたの?」

 

 

ルシファードへの移動中、スマホを開いたら、ヴァーリから連絡が来ていた。このスマホもウチのやつが作った特注品だ。凡そ思い浮かぶあらゆる通信傍受を阻止出来るほど、高いスペックだ。

 

そして、暗号化して送られてきていたメールにはこう書いてある。

 

『今日行われるレセプションにロキが襲撃する。今後の戦力確保の為に、フェンリルを確保しておいて欲しい。頼む。今後、フェンリルが必要になる状況が来るかもしれないんだ』

 

······無茶苦茶か、あいつは。しかし、フェンリルが必要になる状況、となると、どっかの神が俺達を狙ってるのか。狙われるのは今や茶飯事だが、クルルが狙われる可能性があるし、そうなると俺一人では多分守りきれない。()()()()は、クルルの護衛に人員を割けない事態がおそらく来る。絶対に避けたいが、多分避けられない。

 

戦力は、確保出来るだけしとくべきか。後処理は適当に誤魔化せばいい。

 

クルル「······うわぁ、無茶苦茶よ。でも、嬉しいわ······難しいところね」

 

クルルも俺と同意見のようだ。当たり前か。フェンリルって言えば、ロキの息子であり、懐刀だ。欲しいとはよく言ったもんだが、ロキが呼び出さないと俺にはどうしようもないんだが。

 

八幡「······まあどうにか出来る筈だ」

 

クルル「······そうね」

 

出来れば『天閃』じゃない方のエクスカリバーはまだ使いたくないんだが······まぁ仕方ないか。もういつ明かすか程度の問題でしかなかったわけだし。

······しかし、あいつから『支配(ルーラー)』の方を借りとけばよかったかもしれない。失敗した。

 

 

 

 

 

 

会場入りすると、最初に目に入ったのはサーゼクスだった。

 

 

八幡「······よ、サーゼクス」

 

サーゼクス「······八幡とクルルか。この前以来だね」

 

クルル「私達はアザゼルと一緒に来たわ。あんたは会った?」

 

サーゼクス「まだだよ」

 

アザゼルはここに来てすぐに俺達と別れた。おそらく、オーディンの護衛を務めるバラキエルと連絡をとっているのだろう。

 

八幡「と、噂をすれば······」

 

アザゼルが戻って来た。

 

アザゼル「······何だぁ?」

 

八幡「何でもねえよ」

 

アザゼル「そうかい」

 

と、ホットラインに連絡が入る。内容は······ミカエルがもうすぐ到着するのか。

 

サーゼクス「······今、ミカエル殿から連絡がきた。もう少しで到着するらしい」

 

サーゼクスにも、同様のものが連絡されていたらしい。

 

八幡「俺んとこにもきたぞ」

 

ミカエル······何故俺とサーゼクスへの連絡が同時なのか······そもそも俺に連絡する必要がないんだが。

 

アザゼル「護衛を任せたバラキエルによると、オーディンもこっちに向かっているらしい」

 

アザゼルには、バラキエルを介して北欧側から連絡が来ていた。

 

······にしても、本当に来るのか。セクハラ発言がなけりゃそれなりにいい爺なんだが。いや、それがあるから違うか。

 

サーゼクス「バラキエル殿が護衛を?」

 

アザゼル「念のためだ。北欧の神々には、主神が悪魔と同盟を結ぶことをよく思わない者もいるらしい」

 

ロキだな。このレセプションを襲撃して、同盟を結ぶことを阻止か。それじゃあ、少し引き伸ばすだけにしか思えんが······何か目的があるのか? いや、ロキにはそうするだけの理由があるな······

 

 

そうなると、狙いは俺か。いや、ギャスパーか······?

 

 

 

 

······と、そろそろあいつらが行動を起こし始める頃か。塔城が黒歌の気配を感じて待合室から出て行った。それを兵藤とリアス・グレモリーが追って行く。

 

 

アザゼル「······問題はそういう連中を『禍の団』が引き入れてるってことだな」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

私は、黒歌姉様の『気』を感じて飛び出した。今は最下の階を疾走している。比企谷先輩が鍛えてくれたお陰で上がったスピードが、早速役に立った。

 

 

黒歌「······来たわね。白音」

 

小猫「······やっぱり」

 

 

そこには、2週間前に比企谷先輩の神器で創られた空間の中で戦った幻影と全く同じ姿の、黒歌姉様がいた。今にして思うが、先輩は何であそこまで再現出来たのだろうか。何か知っているんだろうか。

 

そんな考えは頭の隅に追いやり、目の前にいる姉様に意識を戻す。

 

黒歌「ハロー。白音」

 

小猫「······黒歌姉様」

 

呑気に手なんて振りながら、姉様は私に話しかける。

 

 

私の姉───黒歌姉様は、仙術を利用して以前の眷属悪魔だった頃の主を殺害し、逃亡。私も、姉様に連れられ流されるように一緒に逃げたが、すぐにはぐれてしまい、そこをサーゼクス様の眷属の方に保護された。

その後、私はリアス先輩の眷属に。姉様はSS級のはぐれ悪魔として指名手配に······

 

 

黒歌「私の気をちょっと送っただけなのに、すぐ来てくれるなんてお姉ちゃん感動しちゃうにゃん」

 

小猫「······そんなこと微塵も思ってないくせに」

 

黒歌「白音にそんなこと言われるのは悲しいにゃん」

 

大方、私を追って来たリアス部長とイッセー先輩をここに引き付けるために私を呼び寄せたのだろう。比企谷先輩と先輩の使い魔のカマクラちゃんから、『気』による探知は習っている。まだ足元にも及ばないレベルだけど。

ここにいる黒歌姉様と、前に『禍の団』が学園を襲撃した時、白龍皇を回収しに来た猿が、ここに私を呼び寄せたのだろう。

 

小猫「姉様······これはどういうつもりですか?」

 

姉様に探りを入れてみる。せめて、目的だけでも掴まないと。

 

黒歌「そんな難しい顔しないで欲しいわ。ここで催しをやるって言うから、ちょっと見に来ただけよ?」

 

······嘘だ。

 

姉様は、幻影の時と変わらずヘラヘラしている。相変わらず何を考えているのか分からない。

 

小猫「······そこの猿と時間稼ぎに来たことくらい分かってます。狙いは何ですか?」

 

直球の質問だが、何かしら引き出せる気がする。

 

美猴「·······へぇ、仙術使えたのか。流石、黒歌の妹だな」

 

猿───孫悟空の末裔、美猴が木の陰から現れる。これくらいなら、私も探れるようになっていた。

 

黒歌「私の妹よ? 使えないわけないじゃない」

 

我が姉ながら、簡単に言ってくれる。この人のせいで、私がどれだけ苦労したと······!!

 

その感情を押し殺しながら、姉様に問う。

 

小猫「······言い方を変えます。レセプションに何を仕掛ける気ですか?」

 

時間稼ぎなんて黒歌姉様は普通やらないだろう。姉様のことは好きではないが、それくらいは分かってしまう。

 

黒歌「賢くなっちゃって。お姉ちゃん嬉しいわ」

 

姉様が嘘っぽく、よよよと泣き真似した時、美猴があらぬ方向を見て言う。

 

美猴「おい黒歌。そこで隠れてるつもりの奴ら、いつまでほっとく気だ?」

 

黒歌「分かってるわよ美猴」

 

さっきからリアス部長とイッセー先輩は隠れてるつもりだったようだ。普通に立ち聞きしてるのかと思っていた。リアス部長とイッセー先輩が出て来る。

 

リアス「·······黒歌、小猫は私の眷属よ。あなたには指1本触れさせはしないわ」

 

黒歌「何言ってるのかしら? 白音は私の妹。私といる方がいいに決まってる」

 

部長は開幕から敵意を剥き出しにして、姉様も、それに応じるように部長に敵意を見せる。

 

イッセー「クソ猿さん、ヴァーリは元気か?」

 

美猴「へへっ、まあね」

 

······にしても、少し前からイッセー先輩は白龍皇のことを考えすぎだと思う。

 

黒歌「ああ、こいつが痴漢野郎の赤龍帝ね」

 

姉様がイッセー先輩を見て言う。

 

イッセー「なっ!? ······間違ってないから言い返せないけど」

 

少しは言い返してください ······やっぱりイッセー先輩は最低です。初対面の姉様にまで言われるとは。

 

 

小猫「それで、姉様······今更何の用ですか?」

 

黒歌「言い方がキツいにゃん。白音、あなたを迎えに来たのよ。ヴァーリもオーフィスも喜んで受け入れてくれるわ。あなたには私と同じ血が流れてるんだから」

 

確かに、血を分けた姉妹である私と姉様には同じ血と力が流れている。でも、姉様と一緒に行こうとは思わない。

 

 

小猫「······違います」

 

黒歌「違う? 何が?」

 

小猫「私にも、姉様と同じ血が流れています。でも、私は塔城小猫。リアス・グレモリー様の『戦車』です······!!」

 

私は猫耳と尻尾を出し、いつでも攻撃出来るよう構える。これが私が比企谷先輩との特訓から導き出した答え。

 

黒歌「そう······なら力ずくでも連れて行くわ」

 

美猴「ま、少しは抵抗してくれた方が時間(ヒマ)潰しには丁度いいんだけどねぃ」

 

時間潰し······やっぱり、本命が別にいる。

 

小猫「上に何が来てるんですか·····!?」

 

上に仕掛けるのは確定しているようだ。その時だった。

 

小猫「っ!? ······何この気配!?」

 

 

───鳥肌が止まないほどの、とんでもない気配がした。

 

何これは何······!?

 

寒気が止まらない。息が詰まる。ここは、レセプションの会場からの地下······それもかなり深い所にある筈なのに。

 

 

美猴「北欧の悪神、ロキ。俺っちらと同盟を組んで『神々の黄昏(ラグナロク)』とやらを起こすんだとよ」

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

『······異議あり!!』

 

オーディン「·······やはり貴様か」

 

レセプションという名の和平交渉が始まり、順調に進みながら、オーディンが条約に調印しようという時のこと。会場に異議を申し立てる男の声が高らかに響いた。

 

 

悪神ロキ。北欧のトリックスター。ロキの冒険の数々は多くの文献で語り継がれ、神々の黄昏(ラグナロク)を起こす神とされている。

 

それに、()()()()が起きるまでは、ウチとも親交があった神だ。だが、それ以来は一切の親交が途絶えていた。面と向かって会うのも、確か3年ぶりだ。形は最悪だが······

 

 

オーディン「愚か者めが······」

 

オーディンがそう呟くと同時に、空中に魔法陣が出現し魔法陣が開く。中からはロキが現れた。

 

ロキ「我こそは北欧神、ロキ」

 

アザゼル「······これは珍客ですな」

 

ヴァーリが誘導したのか······? よくロキが乗ったな。ロキにはヴァーリと黒歌の顔が割れてるし、警戒される筈だが。その上で、あいつらの誘導に乗ったのか? 『禍の団』に、ロキが満足する条件を出せるとも思えんが······

 

八幡「······単刀直入に聞くぞロキ。お前は『禍の団』と組んで『神々の黄昏(ラグナロク)』を引き起こすのが目的だろ? 違うか?」

 

アザゼル「『神々の黄昏』、だと······!?」

 

······本当にそうなのかは分からない。そう見せかけて俺とギャスパーを殺すつもりなのかもしれない。とにかく、ギャスパーの殺害だけはなんとしても阻止しなければならない。

 

 

ロキ「チッ、『堕天魔』か······口を慎め」

 

ロキはゴミを見るような目で俺を見たあと、オーディンに視線を戻す。

 

オーディン「ロキ、今すぐヴァルハラに帰るがよい。今ならこの件は許してやらんでもないが······」

 

ロキ「許す? 巫山戯るな老いぼれ。そこまで耄碌したか」

 

ロスヴァイセ「ロキ様!! 主神になんて事を!!」

 

オーディンがロキを刺激し、ロキはオーディンを批判する。

 

ロキ「他の神話体系と和平を結ぶなど、我が成就するべき『神々の黄昏』の障害でしかない」

 

『神々の黄昏』······世界の終わりか。理由は······()()()()()()()、のか······?

 

ロキ「これは我の意思だ。さぁ、来い!! 我が息子よ!!」

 

魔法陣が出現。中からはお待ちかねの巨大な狼───フェンリルが現れる。さて、どう捕獲しようか······8本目のエクスカリバーは出来れば使いたくない。いざという時の秘密兵器だ。そうも言っていられなそうだが。

 

ロスヴァイセ「あれは······フェンリル!!?」

 

 

チッ······フェンリルが出てきたか。ヴァーリが確保しろとは言うものの、そう簡単にやらせてくれる訳がなし。機を見て結界に封じ込めて、周りの目を引っペがさないことにはどうしようも出来ない。

 

 

ロキが指を鳴らすと、フェンリルが襲いかかってくる。その牙を、咄嗟に亜空間から取り出した8本目のエクスカリバーで受け止める。

 

グッ······重い。分裂した方のエクスカリバーじゃ一撃で砕けてたな。()()()に曰く、フェンリルは二天龍と互角以上のバケモノだ。俺に·······やれるか?

 

八幡「ロキ───お前の好きにはさせない。ぶっ飛ばしてやるよ」

 

近距離で、魔法で爆破しようとするも、フェンリルに察知されて完全に躱される。

 

ロキ「比企谷八幡ん(んんん)······!!」

 

八幡「ここじゃ、暴れにくいだろ? お誂向きのステージぐらいは用意してやる」

 

───展開しろ(開け)。『想像庭園(イマジナリー・ガーデン)』。

 

ロキ「堕天m·········!!」

 

ロキとフェンリルを、『想像庭園』で創った空間に強制転移させた。だが、長くはもたない。

 

八幡「はぁ······さて、ロキをどうするかだが······そこからじゃないのか?」

 

相当頑丈な空間を拵えた筈だが、敵はロキ。油断は一切出来ない。それに、ルーンに関しては向こうのが上だ。

 

 

その頃、下ではタンニーンと美猴が戦闘を始めていた。美猴はもとより、タンニーンも元龍王としての血が騒いでいることだろう。更に、兵藤が禁手化(バランス・ブレイク)に至っていた。黒歌め、煽りすぎたな。それに、俺は兵藤を禁手に至らずつもりは一切なかったんだが······敵対した時、その方が楽であるのは変わりないし。

 

 

サーゼクス「······八幡、今何をしたんだい?」

 

八幡「別空間に飛ばした。あんま長くもたないけどな」

 

ここに来て、『想像庭園』の扱いを考慮してこなかったのが悔やまれるな。

 

八幡「······一日もてばいい方か」

 

どうにも、ロキに情をかけてしまいそうだ。あいつは本気で殺しに来ている。手加減すれば、俺が死ぬ。

 

 

オーディン「······お主も、食えない男じゃのう」

 

 

 

ロキの対策を、俺に一任するというぞんざいな議決で終わらせ、オーディンが和平条約の調印を済ませたところで、議席に着く者達が肩から力を抜いた。

 

······俺は、正直なところここには居たくない。

 

八幡「······サーゼクス、俺はちょっと下でドンパチやってたタンニーンと話して来るから」

 

サーゼクス「タンニーンがここに来ているのか!?」

 

そういや黒歌が結界の中で結界張ったんだっけ。だからサーゼクスが分からなかったのも無理はないか。あいつの結界は一級品だ。俺も、いつ追い抜かれてもおかしくないな。

 

八幡「まあな。赤龍帝の波動を追って来たみたいだ。じゃ、他の話は俺抜きで構わない」

 

魔法陣でジャンプして、最下の階まで飛んだ。この間、ギャスパーは何があったのかを察したようで、何も言わなかった。

 

 

 

 

八幡「·······タンニーンいるか?」

 

ジャンプする前から魔力でまだいることは分かってたが、念の為声をかける。

 

タンニーンは、俺を見かけて問い返してきた。

 

タンニーン「·······八幡か。どうした?いや、それより、上にいなくていいのか?」

 

八幡「ああ。サーゼクスに任せるのが一番だ」

 

俺がいなくとも話は進めるだろうし。そもそも、俺が議席に着いてることがおかしい。俺はあくまで、冥界内に治外法権の領を持ってるだけに過ぎない。領というか、独立国家だが。

 

それも、今はもう俺は元首じゃないし。実質的な権利はある程度残しておいたが。

 

タンニーン「お前の先が思いやられるぞ······お前も、自身の影響力を理解出来ないわけでもあるまい?」

 

八幡「そんなに俺はアホじゃねぇよ。あ~もう、そんな話はいい。それより、美猴とやってどうだった?」

 

あいつとはあんま手合わせしたことないからな······アイツ、俺とはあんまり手合わせしないし。しようとした時は既にクルルやメリオダスに瞬殺されてたりするからな······

 

タンニーン「戦闘勝仏の末裔か。中々に楽しめたな」

 

八幡「······この戦闘狂め」

 

やっぱ、タンニーンも結局戦闘狂だな。

 

タンニーン「貴様もそのようなものではないのか?」

 

八幡「······お前にも俺が戦闘狂に見えるのか? 俺は避けられる戦闘は避ける質だよ」

 

ロキとは一触即発で、避けようがなかったが。

 

 

 

タンニーン「ふむ、そのようなものか······残念だ」

 

八幡「何が残念!?」

 

 

 



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第28話 ロキにあるもの



今回は短いです。あと、思いましたが自分でも読んでて面白くないです(作者として有るまじきことですが)。


 

 

 

サーゼクス「······それで、ロキの様子は?」

 

 

現在、俺が強制転移させたロキの対策中だ。先に始めていてくれ、と言ったのだが、ロキを転移させたのが俺なので話が始まらなかったらしい。

 

 

八幡「······今見せる」

 

 

空中に映像を出す。そこには、危険なオーラを漂わせるロキとフェンリルが映っていた。自力で脱出するより、自身を攻撃しに空間に入ってきた瞬間に迎撃して(隙を突いて)空間から脱出する気か?

 

空間に念の為仕掛けもしておいたが、ロキにはおそらく気付かれている。多分無駄だな。

 

 

八幡「······最初は空間ごと消し去ろうと思ったんだが、それが出来なかったから、何時でも攻撃出来る準備だけ整えておいた」

 

アザゼル「······ロキがその空間から強引に抜け出す可能性は?」

 

八幡「微妙だな」

 

オーディン「安心出来んのう······」

 

八幡「仕方ないだろ。向こうがどう出るかも分からない」

 

それに、向こう(禍の団)には、あのオーフィスがいる······多分ここには来ないだろうが、ないとは言い切れない。何らかの利があるなら出張ってくる可能性はある。

 

アザゼル「何だそりゃ·······」

 

 

オーディン「······何にせよ、全ては北欧の主神たるわしの責任じゃ」

 

八幡「······そうかよ」

 

ロキを封印するんなら話が楽に進むんだが、そんな都合いいわけでも無いし。

 

オーディン「ミョルニルを使うかのぅ」

 

オーディンは言う。

 

ミョルニル······雷神トールが使う、あらゆる者に裁きの一撃を与えるっていう戦槌か。

 

八幡「それ、俺は使えるのか?」

 

オーディン「使えるとは思うが······使えない可能性もないとは言えんのう」

 

やはりか······あの類は使い手を選ぶからな。伝説上のミョルニルを考えたら、俺には使えない可能性が高い。

 

八幡「分かった。俺は使えないだろうがな」

 

ロキ一人なら、まぁなんとかなる。だが、フェンリルの生け捕りが追加された今では、易易勝たせてはくれないだろうな。

 

サーゼクス「······何故そう思うんだい?」

 

八幡「そんなん、俺の人となり考えたら言うまでもないだろ」

 

俺はあまりできた人間じゃない。ミョルニルに選ばれるような、 器ではない。それに、使い慣れない物を使わされても、ロキに逃げられるだろうし。

 

八幡「分かった。ミョルニルは取りに行くのにどれくらい掛かる?」

 

オーディン「そうじゃのう······2、3日あれば何とかなるじゃろう」

 

2、3日か······まるで間に合ってないな。

 

八幡「間に合わない。それじゃあ、俺の別空間はおそらくもたない。明日、仕掛けさせてもらいたい」

 

今のロキは、別空間とはいうものの、放置に近い。そんなのを、まだ2、3日も放ったらかしなど出来っこないだろ。

 

サーゼクス「それなら、別の結界を用意すればいいだろう?」

 

サーゼクスはそう提案したが、俺が首を振った。オーディンもわかっていたのか、「無理じゃろうな」と漏らした。

 

八幡「今のロキを見てみろ。結界から結界への移送なんて、アイツは絶対にその隙を突いてくる。そんなことすれば、どんな被害が出るのかも分からない」

 

反対されるだろうが、俺がロキなら絶対にそうする。さて······反対は······妙だな。誰も反対していない。この手のことには、たいてい誰かしらが反論持ち込んでくるものだが。

まぁそちらの方が都合が良い。

 

 

そして、今日のところは解散となった。

 

 

 

 

 

 

八幡「······美猴、タンニーンと戦えとは言ってないぞ」

 

美猴『······おいおい。いきなり勘弁してくれよ。俺っちは付き合わされて暇だったんだし、それくらい。結果的にはテロリストとしての『禍の団』を見せたんだから、十分じゃねえのかよぅ』

 

八幡「······お前、自分の任務の危険度分かってるよな? てか、今回でお前らのチームへの警戒度が跳ね上がった。次同じことやったら、スパイだなんだと言う前に、首刎ねられかねんぞ」

 

美猴『分かってるっての。いざとなったら、トンズラこいて逃げさせてもらうぜぃ』

 

八幡「······はぁ。ならいい」

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

オーディン「お主一人の任せることになって、申し訳ないのう。ロキを、頼んだぞい」

 

オーディンがそう言ってくる。

 

八幡「ああ。ちゃんと裁いてやる」

 

クルル「行ってらっしゃい八幡」

 

ギャスパー「······お父様、行ってらっしゃい」

 

ギャスパーは思うところが多いだろう。だが、ギャスパーの命ほど大切なものもない。多分、このことはギャスパーの心に一生影を落とす。それでも、ロキを止めなければならない。

 

 

八幡「ああ。行ってきます」

 

······待ってろロキ。これで決着にしてやる。

 

 

見送る2人に帰ってくる決意を返して、俺はロキを閉じ込めた空間に転移した。

 

 



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第29話 恨みのロキ

 

 

 

俺は、ロキを閉じ込めるために作った空間に飛び込んだ。

 

 

八幡「······よう。ロキ、久しぶりだな」

 

俺は宙から俺を見下ろしているロキを睨む。この殺意、俺を殺す気満々だな。当たり前だが。

 

ロキ「·······『堕天魔』。よくもやってくれたな」

 

今、この空間は果てしなく続く荒野だ。ロキにはただ別の場所に飛ばされたと思っているか、俺の神器であることに気付いているのか。

 

ロキ「我の邪魔はさせん!! 行けフェンリル!!」

 

ロキの命令を受けてフェンリルが俺に飛びかかってくる。

 

八幡「チッ······」

 

舌打ち混じりにフェンリルの攻撃を避ける。分かってた事だが、速いな。俺もこのくらいのスピードなら追い付けるが、ロキの魔術も加わるし、少々キツい。

 

 

ロキ「······来い」

 

そこでロキが地面に向かって光の束を放つ。煙が晴れると、今俺の目の前にいるフェンリルより1回りくらい小さいフェンリルが2体現れる。更に、ロキが指を鳴らすと空が雷雲に覆われ、雷が落ち、舞い上がった煙からは大蛇が現れる。

 

八幡「······ハティにスコル。更にはミドガルズオルムの模造品か。俺一人殺すのに、随分気合い入ってんな」

 

フェンリルの子、ハティとスコル。それに、五大龍王の一角でもあるミドガルズオルムの模造品(劣化品)。ミドガルズオルムの劣化品だけは一撃でいけるだろうが、他はキツいな。

 

ロキ「行け!!!」

 

フェンリルとハティとスコルが牙を覗かせて襲いかかってくる。更にはミドガルズオルムがブレスを放ってくる。

······フェンリル達だけでなく、ミドガルズオルムのブレスも厄介だな。視界が塞がる。なのでミドガルズオルムがブレスを吐き終わった瞬間に細切れにして、他に意識を戻す。

 

さて、1対4でどこまでやれるか。

 

八幡「ふっ!!」

 

魔法陣から取り出した2本のエクスカリバーでブレスを打ち消し、襲いかかるフェンリル、ハティ、スコルに『天閃(ラピッドリー)』2本分のスピードで回避しつつダメージを与える。更に、ロキにも懐に潜り込んでダメージを与えることに成功した。

 

けど、あんまダメージが入ってないな。

 

ロキ「·······エクスカリバーか」

 

因みに、左手に持つ8本目のエクスカリバーは『天閃(ラピッドリー)』より若干長い。

 

八幡「そうだ。お前も知ってるだろ」

 

ロキには一部の手がバレている。フェンリル対策ではないが、今回の改良が終わったアレも投入するべきか。

 

ロキ「だったらどうする!!」

 

ロキが無数の魔法を発動し弾幕を張りながら、フェンリルとハティ、スコルに命令し、俺を攻撃していく。

 

八幡「この程度で······!!」

 

弾幕を掻い潜りながら、長い方のエクスカリバーでハティとスコルを切り飛ばし、フェンリルの爪を受け止める。

 

グッ······スピードは俺が上回ってはいるが、フェンリルのパワーは俺よりも上だ。それに、獣特有の野生の勘とでも言うべきか、急所を狙った攻撃は防がれた。

 

八幡「なら······!!」

 

短い方のエクスカリバーをロキに投擲する。ロキは僅かに反応が遅れたのか、回避に失敗したが、宙を貫くエクスカリバーはロキの左足を切り裂くに留まった。そこをフェンリルに突かれて、腹を掻っ捌かれそうになったが、辛うじて回避出来た。

 

チッ·······せめて刺さっとけよ。

 

 

ロキは、掴んだエクスカリバーを俺に投擲し返しつつ、自身も魔法で剣を作り出し、フェンリルと連携しつつ俺を挟撃する。咄嗟に亜空間から塵外刀真打を出して、エクスカリバーを弾きつつロキの剣を受け止める。

 

八幡「グゥっ······!!」

 

ロキ「そうだ、このまま八つ裂きにしてやる」

 

八幡「·······誰が!!」

 

剣を反らして2方向からの力を流しつつ、ロキの剣を蹴り、挟まれていた状況から強引に離脱する。

 

流石に危なかったな。体がバラバラにされるところだった。塵外刀真打を亜空間に戻しつつ、エクスカリバーを構える。

 

ロキの魔法の弾幕を俺の弾光の矢の弾幕で打ち消しながら、ロキにエクスカリバーを振り下ろす。ロキは魔法の剣で受け止めるも、俺とエクスカリバーの方が上回ったようで、ロキの魔法の剣は砕け、ロキを袈裟に切り裂いた。そのまま新たにできた傷口を蹴り、地面に叩き付けた。

 

ロキ「ウグあッ······!!」

 

ただ、これでも致命傷は躱されてしまったらしい。運のいい野郎だ。

そして、背後から俺を噛み砕こうとしたフェンリルの牙を辛うじて躱し、顎を蹴り上げ、更にその隙を突いて両前足を切りつけつつ、フェンリルの腹に直接触れて、魔法を発動する。

 

八幡「爆ぜろ······!!」

 

俺が触っている辺りのフェンリルの腹が爆発し、宙に投げ出される。

 

躱しきれなかったのと魔法の反動を軽減させるのを忘れたため、右腕がまともに動かなくなっていたが、簡単に出来る(時間がかからずに済む)治癒の魔法だけかけて、左手に持ち替えながら、爆煙を突っ切ってエクスカリバーをフェンリルの腹に突き刺した。

 

八幡「······大人しく、していろ!!」

 

支配(ルーラー)』の力で体の制御を奪いつつ、背中側にもう一発爆裂魔法を打ち込んで、フェンリルを地面に叩き付ける。叩き付けられて動かなくなったため、気絶したのだろう。

 

······危なかったな。少しズレてたら、3回は軽く死んでいた。

 

八幡「······ロキ。悪いが、フェンリルは俺が頂いた」

 

エクスカリバーの力で完全に制御権を奪ったフェンリルを、転移魔法陣で、ひとまず待機してるの俺の眷属(部下)に送り付ける。

 

ロキ「何······!? チッ······貴様も白龍皇も、初めからそのつもりで······!!」

 

ロキは、新たに魔法の剣を作り出し、傷から出血しているのも厭わずに俺に斬りかかってくる。

 

八幡「悪いな。こっちも戦力的にキツキツなんだよ」

 

ロキ「本気で我に殺されたいようだな!!」

 

ロキが鍔迫り合ったまま魔法を放ち、自分諸共魔法の弾幕の餌食にする。慌てて避けようとしたものの、回避は間に合わず、右腕と右足にいくつか穴が開いた。

 

八幡「······死にたいわけないだろ。だけどな······」

 

ロキ「調子に乗るのもいい加減にしろ······!!」

 

ロキが魔法陣数十枚を重ねて空に向ける。そこから光が放たれ、上空まで届いた光は多数に分裂し、地面に向かって雨のように降り注ぐ。

 

八幡「」

 

光の矢で雨のような弾幕を迎え撃ちつつ、飛び回って弾幕を掻い潜りながらロキの懐に潜り込む。エクスカリバーでロキを一突きで······

 

ロキ「何!?」

 

······が、ハティとスコルの爪によりそれは防がれる。

 

チッ······もう戻って来やがった。流石フェンリルの子だな。少し甘く見ていた。

 

ロキ「······!! 行け、ハティ、スコル!!」

 

ロキは劣化のミドガルズオルム数十体を一瞬で召喚すると、再び魔法の弾幕を張って攻撃してきた。

 

八幡「チッ······」

 

ハティとスコルから距離を取りつつ、弾幕を回避する。

 

ロキ、その傷でどこにそんな力が······

 

ロキ「───墜ちろ······!!」

 

ロキは俺の背後に転移し、魔法を接射した。強引に体を捻って避けたようとしが、右足の穴が更に広がった。流石に、痛みに慣れすぎて骨折ぐらいじゃ痛いとすら感じなくなったとはいえ、これは······!!

 

八幡「グゥあっ!! ······お前が、墜ちろ!!」

 

エクスカリバーをロキの腹に突き刺す。フェンリルの血が付いて多少は神殺しが効いているかもしれない。

 

ロキ「堕天魔ぁぁぁっ······!!」

 

八幡「······終わりだ。ロキ······!!」

 

ロキが魔法を発動するよりも早く、俺がエクスカリバーを引き抜いた。

 

 

 

······ロキは、魔法を維持出来なくなって、地面に落下する。

 

ロキ「貴様も、ギャスパーも、いつか、我が必ず······」

呻くように言うと、ロキはそのまま意識を失い、地面に展開した北欧がよく使う魔法陣に吸い込まれて消えた。

 

 

気絶したロキが北欧側により転移した後。

······スコルとハティは、ロキが魔法陣に呑まれた所に歩いていくと、頭を垂れた。まるで、敗北したロキへ最大限の敬意を払うかのようだ。

 

八幡「······お前らは、まだ戦うか? ハティ、スコル」

 

ハティとスコルは顔を上げ、俺の方を向く。祖父であるロキを倒した俺を、憐憫の目で見つめるハティとスコルは、首を横に振った。

 

八幡「······そうか」

 

正直、この状態で戦ったら、どこぞのプルデュエルみたいになりかねない。投降してくれるんならありがたい。

 

フェンリルを送った所と同じ所に転移先を指定した魔法陣を開く。俺は魔法陣を指差す。

 

八幡「お前らがどう感じるはわかんないが······北欧に投降してロキと一緒に罰を受けるか、俺に降るか、選んでくれ。俺に降るんなら、条件はあれど丁重に扱うし、拘束もしない······」

 

俺が言うと、ハティとスコルは魔法陣の上に乗った。転移させる(飛ばすぞ)、と言うと2頭は頷いた。

 

 

転移の光に呑まれる中、ハティとスコルが見せたのは───俺が憐憫だと思った目は、何かを憂うような目をしていた。

 

 

 

八幡「······ハティとスコルにまで同情みたいな目されるなんてな」

 

アイツらも、アレを目の当たりにしてるから、俺を······というよりギャスパーとヴァーリにでも同情したのかね。

 

 

大小様々な体の傷を禁術で治し、服の汚れを魔力で払って、俺もレセプション会場に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

八幡「······ただいま」

 

クルル「······おかえり八幡」

 

ギャスパー「お父様······」

 

先程、転移した場所にまた戻って来た。時間で言えば、30分とかそんなもんだと思う。

 

八幡「おうただいま。俺が転移してからどんくらい経った?」

 

俺が尋ねると、クルルは腕時計を見て言う。

 

クルル「······1時間半くらいね」

 

八幡「マジか······」

 

まぁ、俺の体内時計なんてアテにならんしそんなもんか。

 

アザゼル「······この短時間でロキを倒すなんてな。それなりに激戦ではあったみたいだが」

 

八幡「そりゃそうだろ。相手は神様だからな」

 

それに、ロキ相手だしな。ロキとは親交があった時期があるし、多少の同情くらいは湧く。

 

八幡「にしても、やってから言うのもどうかと思うが良かったのか? オーディン」

 

オーディン「何がじゃ?」

 

八幡「ロキはそっちの神話の重要な神の1人だろ。柱神だしな」

 

基本的に悪神ではあるが、ロキも北欧神話の重要な神の1人だ。それに、ロキは北欧神話の中心的な存在の一人だ。

『禍の団』と繋がっていた可能性があるから、オーディンその他に『神々の黄昏』共々危惧されてはいただろうが。

 

オーディン「······構わん。時代は変わらねばならん」

 

オーディンは遠く見て、右目を閉じる。

 

八幡「······そうか。時代······か」

 

 

アイツも、変わる時代の中で生じた、歪みの被害者の一人とでも言うべきなのか······?

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······お父様、それでハティとスコルはどうするんですか?」

 

レセプションが終わり、自室(グレモリー邸の俺達に与えられた部屋)に戻って来た俺達。俺に降ったハティとスコルに、ギャスパーは疑問を持ったようだった。

 

ハティとスコルは、『サングィネム』の屋敷で検索を受けて、一度こちらに呼び戻していた。

 

八幡「ああそれか······お前、2頭を使い魔にしないか? フェンリルの子だ。強さはお前も知ってるだろ?」

 

ギャスパー「使い魔······ですか? ハティとスコルを?」

 

ギャスパーの問いかけに、頷いて続ける。

 

八幡「お前に危害を加えることはないから安心していい。常に俺達が守れるとは限らないってのもあるしな」

 

······正直なところ、俺達もこれから激化する戦闘でギャスパーをずっと守ってやれないし、護衛をつけるにもウチは最低限の人数でやってるから、人手がまるで足りない。

 

ギャスパー「そうですか······よろしくね。ハティ、スコル」

 

ギャスパーの答えにハティとスコルは喉を鳴らした。

 

 

クルル「······にしても、よく素直に投降したわね」

 

ギャスパーとじゃれるハティとスコルを見ながら、クルルが言う。

 

八幡「多分、ギャスパーが心配だったんだろ」

 

クルル「······そう、かもね」

 

 

そこで、電話が掛かってきた。画面に表示されていたのは、ヴァーリの名前だ。

 

クルルとギャスパーに一言断って、部屋を出て電話に出る。

 

八幡「······どうした?」

 

『······ロキ、そっちに行ったんだろう? どうだった?』

 

どうって言われてもな、お前······

 

八幡「どうもこうも、予想通り恨まれてた。それだけだ」

 

『······やっぱりか』

 

何がやっぱりか、だ。こっちは大変だったんだぞ。

 

八幡「俺もお前も、随分恨まれてたよ。なんであんなことしたんだお前」

 

ヴァーリもロキが俺達をどう思ってるかなんて分かってるだろうに。

 

『······()()()()()を見ていたフェンリルに少し情が湧いた。ただ······それだけだ』

 

······なるほどな。フェンリルの方が理由か。

 

八幡「そうかい。だが、もう二度とやらんでくれよ?」

 

かなり危なかったんだからな。にしても、死にかけたのにこれで許すあたり、俺もめちゃくちゃ甘いな······

 

『······俺も事態を軽く見すぎていた。ロキの恨みがそこまでだとは、俺も予想出来なかった。次からは気をつける』

 

八幡「はぁ、当たり前だ。で、フェンリルだが俺との戦闘で負った怪我の治療中だ。合流したかったら、一回ウチに戻って来い。偶には顔見せろ」

 

そう言って通話を終了した。

 

 

ギャスパー「誰だったんですか?」

 

八幡「ん? ヴァーリだよ」

 

ギャスパー「······あぁ」

 

ギャスパーはヴァーリ達が『禍の団』に潜入していることを知っている。出来るだけお互いに知らないふりをするように頼んでいるが。

 

 

ギャスパー「じゃあフェンリルもお兄様(・・・)が?」

 

八幡「ああ。とんでもないものをねだったがな」

 

ギャスパー「······随分、思い切ったことしましたね」

 

八幡「だな······全く」

 

 

 



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第30話 里帰り

 

 

 

八幡「······着いたな」

 

クルル「はぁ······やっとね。入国審査、こんなに複雑だっけ?」

ロキとの戦闘から2日後。グレモリー邸を後にした俺は、クルル、ギャスパーと共に自分の領に帰省していた。

 

ギャスパー「······いつ見ても凄いですね」

 

入国審査を済ませ、呼んでおいた車に乗る。

 

 

橋を疾走する車窓には、冥界でも一番発展しているとも言われている"都市”が広がっている。

 

 

『未来都市サングィネム』

 

 

俺の領はこう言われている。他に比べて技術や生活の水準が高すぎるという。そこまでかどうかは分からないが、実際は科学と魔法を融合させて上手いこと遣り繰りしてるだけだ。

 

 

領の中心にはクルルが院長をやっている「百夜孤児院」があり、そこから少し離れた所に俺の家がある。その辺りを中心としてビル群が立ち込め、更には円を描くようにゆっくり浮遊し続ける多数の建造物。未来都市の一番の由来はこれだろう。実際は、俺の眷属でも指折りの魔法使いが建物に魔法を掛けただけだが。

 

 

ギャスパー「······あの浮いてる建物って、魔法でしたっけ?」

 

八幡「ああ。最近は浮かす建物を増やしてるとか言ってたな。事後報告で」

 

クルル「またあいつは······」

 

 

都市の中心から離れるとそこには雄大な自然が広がっており、そこには使い魔の森(幾つかある中の一つ)や、ドラゴンの生息地などがある。又、ドラゴンの生息地もあり、その一部にはタンニーンと協力して開発した『ドラゴンアップル』の群生地がある。

出荷用と品種改良用があるが、最近、民間企業と提携して医薬品の材料に使えないか研究してるって言ってたな。色んな分野で活躍する果物であったらしい。

 

 

八幡「どうする? 家に戻るか、先に孤児院に行くか」

 

クルル「今日は家に帰って、明日孤児院でいいんじゃない?」

 

ならそうするか······久しぶりの我が家で寛ぐのもいい。サングィネムには時々仕事で戻ってはいたが、寛げてなかったし。やっぱ、赤龍帝の監視があるからって、学校潜り込むのはダメだな。あんなに拘束される時間が長い······というか、精神的に疲れるとは思ってもみなかった。

 

八幡「んー······そうだな」

 

 

 

 

 

八幡「······最後に帰ったのって何時だっけ······?」

 

クルル「半年前に帰らなかったっけ」

 

運転手に車庫入れを任せて、先に家に入る。

 

俺の家───というより屋敷はグレモリーの本邸より更にデカい。まあ住み込みの使用人の部屋とかもあるし、眷属で暇してる奴が暴れてもいいような施設を造ったり、その他にも敷地内に色々な生物を飼ってるからなんだが。犬猫からドラゴンだの魔獣だの。

 

 

ギャスパー「やっと帰ってこれました······」

 

そうか······ギャスパーはもう3年近く帰ってないのか。サーゼクスに預けたのは失敗だったか······よくよく考えれば、眷属以外にも腕が立つ奴がいるんだからそいつにギャスパーを任せれば暴走もしなかったかもしれない。今頃言っても仕方ないが。

 

「おかえりなさいませ。八幡様、クルル様、ギャスパー様」

 

玄関から使用人が出て来る。メイド長である彼女とも、だいぶ長い付き合いだな。

 

八幡「ああ。ただいま」

 

クルル「ただいま」

 

ギャスパー「ただいまです」

 

「ヴァーリ様と黒歌様がお帰りになっておられます」

 

ヴァーリと黒歌はどうやら帰って来ていたらしい。急だな。一言言えばいいのに、と思う。ギャスパーの目が輝いているのが一瞬で分かった。当然か。黒歌もそうだが、ギャスパーはヴァーリと会うのは本当に久しぶりだ。

 

八幡「どこにいるんだ?」

 

「八幡様の私室にてございます」

 

あいつら自分の部屋あるんだからそこで休んでりゃいいのに······呼びに行くぐらいするぞ?

 

八幡「分かった。他のやつは誰かいるのか?」

 

「桃花様以外は、各々方の都合でおりません」

 

八幡「あいよ」

 

「それでは。失礼致します」

 

ヴァーリと黒歌が『禍の団(カオス・ブリゲード)』に潜入していることを知っているのは、使用人の中では彼女を含めて数人である。信頼出来ない奴に教えるのは流石にマズいしな。

 

八幡「ああ······じゃあ行くか」

 

ギャスパー「はい」

 

 

 

 

俺の部屋に入ると、ヴァーリと黒歌はコーヒーを飲んで寛いでいた。

 

ギャスパーは自分の部屋に戻って荷物の整理をしているが、すぐに戻って来るだろう。

クルルの部屋は、物で溢れかえってるせいでクルルのクローゼットは俺の部屋にあるから、俺と一緒だが。

 

ったく。荷物を持ち込むなヴァーリ。

 

八幡「はぁ······お前ら自分の部屋あるだろ······」

 

黒歌「別にいいじゃない。別に減るわけでもないでしょ?」

 

ヴァーリ「そうだ。というか、いても文句言わないだろ?」

 

ヴァーリも黒歌も、済まし顔して当たり前のように言うが、土産だとか言ってよく分からんもん持ち込みやがって。というか、俺の部屋は集会所じゃないんだぞ。

 

······もう慣れたけどさ。見られて困るもの置いてるわけでもないし。

 

八幡「まぁいいけどよ。物持ち込むなよ」

 

いつの間にかコーヒーメーカーあるけどな、テレビも無かったのにいつの間にかゲーム機とカセットが積まれてるし。誰だ持って来たの。

まぁ黒歌だろうが。

 

ギャスパー「お兄様(・・・)、お久しぶりですね」

 

ヴァーリ「ああ。久しぶりだなギャスパー」

 

ギャスパーの頭を撫でるヴァーリは、駒王の会談の時みたいな妙なキザオーラは出していない。こいつも一時期サングィネムから離れてた時期があったが、何とか戻って来れたんだよなぁ······

 

黒歌「私はこの前会ったけどねぇ」

ヴァーリに撫でられるギャスパーを見ながら、黒歌が呟く。

 

ヴァーリ「何?」

 

黒歌の一言にヴァーリが黒歌を睨む。

 

黒歌「えぇ······」

 

ギャスパー「まぁまぁ」

 

懐かしい光景だな······ヴァーリと黒歌がいると、時々ギャスパーの取り合いが起こる。それを当の本人のギャスパーが止める。なんだかんだ皆ギャスパー大好きだからな。

 

ヴァーリ「ギャスパーが言うなら」

 

黒歌「······皆ギャスパーに甘くない? 私が言えたことじゃないけど」

 

ギャスパーが宥めるとあっさり引いたヴァーリを見て、また黒歌がボヤく。

 

八幡「俺は、お前が一番甘いと思っている」

 

クルル「そうね。黒歌が一番甘いわ」

 

ヴァーリ「そうだな」

 

ギャスパー「え?え?」

 

黒歌はこの家にいる時間が俺達と同じくらい長い。昔、ギャスパーの神器の訓練は黒歌とヴァーリもいたが、俺やクルルがいない時でも黒歌はずっと付き添っていた。ギャスパーの告白をほぼ受け入れているが、弟のようにも見ているのだろう。

 

黒歌「ん~······まあ否定はしないかな」

 

八幡「だろうな」

 

黒歌はギャスパーに救われてるしな。当然って言えば当然か。

 

クルル「······そういえば、2人とももう()()()()行ったの? 長いこと空けてたでしょ」

 

ヴァーリ「いや、どうせすぐ来るのは分かってたから待ってたんだ」

 

八幡「なら、今から行くか」

 

ヴァーリ「以外だな。戻って来てすぐに孤児院に向かうのかと思ってたが」

 

前回帰省した時はそうしたっけな。こいつ、よく、そんなこと憶えてるな。

 

八幡「クルルが一日寛いでから行こうって言うしな。院長がそう言うなら、それでいいんだよ」

 

ヴァーリ「なんだ。やっぱり何時も通りか」

 

そりゃな。いつも通りだよ。それが一番いいに決まってる。

 

八幡「あれから、もう12年か······」

 

壁に掛けてあったカレンダーを見て呟く。2016年······8の上に書かれたその4文字に不思議な思いが芽生える。

 

ヴァーリ「そうだな······」

 

クルル「もうそんなに経つのね」

 

 

あの日、ヴァーリのSOSを偶々聞き付けられたお陰で、ヴァーリ()を助けることが出来た。あの時、俺が助けられなかったら、ヴァーリはどうなってたんだろうなぁ······やめよ。考えたくもない。

 

 

それは12年前まで遡る──────

 

 

 






真のタイトルは

『里帰り、その②』

理由はグレモリー領が八幡の生まれ故郷だからというありきたりな理由です。



次回、ヴァーリと八幡の過去。

そして、ヴァーリの○○が登場。

投稿は未定です。


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第31話 白を宿した少年(前編)



はい!!今回はヴァーリの過去回です。結構暗いです。不快に感じた方は、ページをお閉じください。



 

 

 

それは今から12年前のこと。

 

 

俺はアルビオンの気配を察知してある所に向かっていた。ある所、とはリゼヴィム・リヴァン・ルシファーの屋敷だ。確か、適当な口実を付けて、強引に入った気がする。。

その時はまだ、アルビオンの気配を感知しただけで誰が今代の白龍皇かは分からなかったのだが。

 

八幡「·······失礼する。リゼヴィムはいるか?」

 

勝手に玄関から上がって、使用人の1人に話しかける。リゼヴィムは大っ嫌いなので何とも思わん。

 

「は、はい。ただいま······」

 

ここの使用人が内線を使おうとしたその時────

 

 

────その時、俺の耳に声が届いた。あまりにもか細い声。余程近くなければ聞こえないであろう声だったが、その時は確かに聞こえた。聞き間違いであるとは微塵も思わなかった。

 

 

───···やめ····よ·····ね······んに·····いじょ······何す·····んだ······

 

 

八幡「······!! おい、今のは何だ?」

 

微かに声が聞こえた。今のは······リゼヴィムの孫のヴァーリか? 姉さんって言ったのか······? ヴァーリには一度だけ会ったことがあったが、姉がいたのか?

 

「······? 私には何のことだか······」

 

チッ······使えないなこいつ。

 

······前に会った時も違和感を感じていたが、ここでは何かを隠している。

 

八幡「もういい!!」

 

俺は微かに聞こえた声の方に全力で駆けて行った。止めようとしてきた使用人の足は適当に払っておいた。

 

 

 

 

八幡「······ここ、か?」

 

微かに聞こえた声は、厳重に閉じられていた部屋からだった。見た感じ、ドアも厚さ10cmはあるだろう。

 

八幡「型式『揚羽』」

 

俺は『塵外刀(じんがいとう)真打(しんうち)』でドアを強引に破壊した。

 

八幡「ここは───っ!!?」

 

「八幡······さ······? お姉ちゃ······助け···て···」

 

無機質なコンクリートの部屋の中に居たのは、ボロボロのヴァーリとヴァーリが姉と呼んだ少女。更に、ヴァーリの父とリゼヴィムだった。

この部屋の中に微かにアルビオンの気配を感じる。リゼヴィムとヴァーリの父は除外するとして······姉弟のどちらかだな。

 

八幡「今助けるから待ってろ······おいリゼヴィム。お前、ここで何してる?」

 

殺気を混じらせながらリゼヴィムを威圧するが、リゼヴィムはあっけらかんと返した。

 

リゼヴィム「うひゃひゃひゃひゃひゃ。何って、見ての通り息子に虐待させてるんだよ?」

 

八幡「······は?」

 

こいつ今何つった? 虐待させてるだと? 巫山戯んな。だからこいつは嫌いなんだ······命を簡単に屠るようなこいつが。命の重みを考えたこともねぇクセに!!

 

八幡「ならこいつらは俺が連れてく」

 

こんな所に軟禁されてる子供を見捨てられるか。まだ未来があると言うのに。無理に決まってる。

 

リゼヴィム「あっそ。勝手にすればいんじゃね? でも、その前に一つやらにゃあかんことがあんだけどね」

 

リゼヴィムはそう言って、自分の息子の(・・・・・・)首を(・・)刎ね(・・)()

 

ヴァーリ「ヒッ······!!?」

 

八幡「お前何を!?」

 

リゼヴィム「さあさあどうぞ? こいつらを連れてくんでしょ〜?」

 

リゼヴィムはそう言ってヴァーリとその姉に掌を向けた。その手には魔法陣が展開されている。

 

八幡「チィッ!!」

 

ヴァーリ達の前に移動し、リゼヴィムが2人に飛ばした魔力弾を『塵外刀・真打』で全部叩き切る。

 

八幡「黒丸(こくがん)!!!」

 

リゼヴィムに黒丸を飛ばせるだけ飛ばして、足止めさせる。リゼヴィムクラスだと、この数じゃ仕留められないからな。

 

八幡「······動けるか?」

 

黒丸でリゼヴィムを足止めしている間に、2人の両手両足に付けられた金属の枷を切る。魔力封じの術がかけられていた。こんな衰弱した子どもじゃ、人外といえど術がなくても絶対に外せない。

 

ヴァーリ「うん。でもお姉ちゃんが······」

 

ヴァーリが姉の横顔を覗き見る。少女の顔からは生気が完全に抜け落ちていて、目には一切の光も無かった。

 

八幡「······君、大丈夫かい?」

 

出来るだけ優しい口調で少女に話しかける。精神はもう崩壊しきっていると言っていいほどかもしれない。明らかに、ヴァーリよりも身長が小さい。多分、栄養失調で······

 

「······」

 

俺が尋ねたら、ゆっくり頷いてくれた。かろうじてだが······なんとか応答は出来るらしい。心身ともに相当衰弱している。いつからこんなことを······

 

八幡「逃げるぞ。ヴァーリ、掴まれるか?」

 

羽織っていたローブを着せて、左手で抱き抱える。

 

ヴァーリ「はい。お姉ちゃんは······?」

 

八幡「大丈夫だ。弱ってはいるがちゃんと生きてる」

 

ヴァーリ「よかった·······」

 

八幡「逃げるぞ」

 

塵外刀真打咥えて、首にしがみつくヴァーリを右手で抱きとめる。塵外刀・真打を仕舞わない理由は、もう暫く黒丸に足止めさせるからだ。刀を仕舞っても黒丸自体は使えるが、若干性能が落ちるので出来れば避けたかった。

 

リゼヴィム「······あひゃひゃひゃひゃひゃ!! ま、精々そのゴミ共を宜しく~!」

 

リゼヴィムの一言に今ここでぶち殺してやろうかと思ったが、子供2人が見てる前ではそんなことするわけにもいかなかった。

 

 

俺は2人を連れて全力でリゼヴィムの屋敷から離れた。

 

 

 

 

 

「······八幡様、こちらが検査結果です」

 

ある程度リゼヴィムの屋敷から離れた俺は魔法陣でジャンプして俺の領にある、お抱えの病院に来ていた。2人には速攻で検査を受けさせた。

 

八幡「······っ。ああ、にしてもこれは酷いな······」

 

俺は医師から渡された紙を見て、絶句した。

 

「そうですね······」

 

ヴァーリは服で見えない位置だけが、青痣塗れだった。それこそ普通の健康的な肌がないと言える程に。更に、多数の火傷や刃物で切ったような痕もあった。

 

八幡「······この娘、オーフェリアって言うのか」

 

「らしいです。弟の子の方が教えてくれました」

 

八幡「こっちの娘はもっと酷いな······リゼヴィムっ······!!」

 

検査結果が記された紙を持つ手に力が入り、グシャッという音が部屋に響いた。

 

「そうですね······まだ9歳の女の子が、()()()()()()()()()······」

 

ヴァーリが姉と呼んだ少女───オーフェリアに至っては妊娠していた。しかも7ヶ月。あの歳でパートナーがいるとは考えられないので、乱暴されて身篭ったのだろう。近親相姦の可能性も······

······あいつ(ヴァーリとオーフェリアの父)がリゼヴィムに向ける目は、恐怖が殆どを占めていた。子供に性的虐待をやってもおかしくはないくらいには。

 

何度も会っていたのに、その事実に全く気付かなかった自分が憎い······

 

それに、後から調べて分かったが、あの子達には日本でいう戸籍のような、身分を示すものがなかった。一つもだ。

 

 

······にしても、年齢もそうだが、あの栄養状態の子が妊娠出来るのか? なんらかの魔法でも使われて、強引に身篭らされた可能性も······否定は出来ない。

 

 

「······それに、彼女の場合自身の持つ魔力に体が耐えきれていません」

 

人間とのハーフであるヴァーリとオーフェリアだが、ルシファーの血族であるため、莫大な魔力を、この歳で既に有していた。が、体は栄養失調もあってその魔力に耐えられていなかった。

 

八幡「······そっちはなんとでもなる。明日魔力の生成を抑える器具を持ってくる·····で、妊娠の方はどうにかならないのか?」

 

「もう堕ろせないところまできていますし······普通に考えれば、中絶が一番いいですが、あの歳の娘にそれを······

それ以前に、今の状態では手術もままなりませんよ」

 

クソ、打つ手なしかよ······

 

八幡「こう言うのはなんだが、仕方ないのか······?」

 

「かもしれませんね······母子ともに衰弱してはいますが、これからの治療で回復を見込めるなのが唯一の救いでしょうか······」

 

八幡「······分かった。また明日来る」

 

「分かりました」

 

医師との相談を済ませ、俺は帰宅することになった。オーフェリアとヴァーリは、当然のことながら入院することになった。ヴァーリはそのうち退院出来るだろうが、オーフェリアは退院すら出来るか分からなかった。

 

 

 

その翌日。俺は魔力の生成を抑える器具(リストバンド)を持って病院に訪れていた。クルルと共に。

 

実は、昨日リゼヴィムの屋敷に訪れることは誰にも言っておらず、一度帰宅したところブチ切れたクルルが待っていた。事情が事情なために、すぐに有耶無耶になってしまったが。

 

クルル「·······一言ぐらい私くらいにも言ってくれてもよかったんじゃないの?」

 

八幡「それは······悪い」

 

内緒で行ったことは事実なので、何も言えない。

 

クルル「もういいわ。で、ヴァーリとオーフェリアって娘は?」

 

八幡「······昨日言った通りだ。精神面で言えば、ことさらオーフェリアが酷かった。肉体云々もそうだが、心が死んでた。あれは······あの歳の子どもの目じゃない」

 

全てを諦めて、全てを手放したような目だった。もうあの瞳には何も映っていないのかもしれない。

 

クルル「そう······」

 

八幡「気付かなかった俺の所為だ。もう少し、踏み入って調べられたはずなのに······」

 

そう。今回は俺がもっと早く気付くべきだったのだ。とヴァーリの母親が死んだと聞いた時点で、調べ上げて、無理矢理にでも保護するべきだったのだ。

 

クルル「それは······違うわ。あんな暗い部屋に子どもを閉じ込めたのよ、あの外道は!!」

 

クルルが顔を顰め、拳を握る。その後、俺達はヴァーリのいる病室に着くまで一言も喋らなかった。

 

 

 

八幡「······入るぞヴァーリ」

 

「······どうぞ」

 

ドアをノックして帰ってきたのはかなり弱々しい声。昨日は姉のために無理をして声を張っていたのだろう。

 

明るい場所でよく見ると、ヴァーリは同年代の子どもと比べて、かなり痩せていて、7歳の男の子には見えなかった。サングィネムには孤児院があるが、そこの子でもここまで衰弱してる子は中々いない。

 

八幡「······少しは落ち着いたか?」

 

ヴァーリ「はい······」

 

クルル「久しぶりねヴァーリ」

 

ヴァーリ「······はい。久しぶりです。八幡さん、お姉ちゃんは······?」

 

八幡「医者曰く、安静にしてれば回復は十分可能だそうだ」

 

先生はここまで言っていなかった。が、真実をそのまま告げることが、出来なかった。

 

ヴァーリ「よかった······俺、お姉ちゃんが殴られてるのに、何も出来なくて······!!」

 

ヴァーリの目から大粒の涙が零れる。恐怖からではない。目の前にいた姉に対して何も出来なかったという自責の念からだろう。

 

八幡「いいや、昨日お前は声振り絞って助けてって言ったんだ。······よく、頑張ったな」

 

ヴァーリ「グスッ······うわぁぁぁぁぁ」

 

ヴァーリは泣いた。いつ折れてもおかしくないまだ7歳のその小さな体と心を、俺とクルルは抱きしめた。それしか出来なかったから。

 

 

 

 

 

それから1ヶ月と少しの後。ヴァーリの退院と共に、オーフェリアとヴァーリを引き取ることを決めた。

 

 

 

 






今回でヴァーリのお姉ちゃん、オーフェリア(学戦都市アスタリスクより)の登場です。12年前の時点では、オーフェリア9歳、ヴァーリ7歳の設定です。ギャスパーを引き取るのはこの5年後です。後編でちゃんと書きます(予定では)。

作者から見ても中々に雑ですが、本編と関係ない誹謗中傷はご遠慮願います。


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第32話 白を宿した少年(後編)

今回の話は飛び飛びになります。今回のメインはヴァーリ(とギャスパー)になります。


 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

俺と姉さんが八幡さん────父さんに引き取られてから3年が経った。

 

父さんと呼んだ当初は無理しなくていいと言われたし、母さんにも言われたが、血縁上の父親(アイツ)を父とは呼びたくなかったし、あの時助けてくれなかったら俺と姉さんは今もあの部屋に監禁されていた。きっと、俺も姉さんも死んでいただろう。

だから、今生きているのは、この命がまだあるのは護ってくれた人達(父さんと母さん)がいたからだ。 せめて恩返しぐらいはしたかったが、今の自分には、返せるものが何もなかった。

 

 

八幡「······どうした? ボーっとして」

 

俺は病院を退院してすぐ、父さんに強くしてくれと頼んだ。もう姉さんが目の前で暴力を振るわれるのを見たくない。姉さんは周りが驚く程回復したが、長い監禁生活の後遺症で今もまだ入院中だ。理由は父さんにも母さんにも言ってないが、気付いているだろう。

 

 

ヴァーリ「なんでもない······もう一本お願いします」

 

八幡「あいよ」

 

今しているのは剣の修行だ。父さんが強いのは知っていたが自分の想像より遥かに強かった。父さんの下で、剣以外にも体術や魔法の修行もしている。

 

······一番驚いたのは父さんの師匠が母さんだったことだろうか。母さんは体にデメリットを抱えているため殆ど戦闘で前線に出ることはないらしいが、父さん曰く、短い時間で限って言えば母さんには絶対に勝てないとか。目指している人達が途方もなく遠いことを修行が始まって3日で実感したが、俺の尊敬する目標になった。

 

 

 

 

 

八幡「······今日はここまでな」

 

ヴァーリ「はぁ······はぁ······はぁ·····ありがとうございました」

 

今日も一太刀も当てられなかった。というか、父さんは全く息が切れていない。対して、俺は立っているのも限界だった。

 

クルル「2人ともお疲れ様。はいコレ」

 

母さんが渡してくれたスポーツドリンクを一気に飲み干す。父さんは母さんと何か話していた。スタミナの差が······

 

『ヴァーリ、気に病む必要はない。アイツとお前では年季が違う。体格もな。差があるのは当然だ』

 

俺を慰めてくれているアルビオン。修行が始まってすぐに、こいつとは会話出来るようになった。今では頼もしい相棒だ。父さんは二天龍に余りいい印象を抱いていないが、どうやら、アルビオンはもう片方の巻き添えを食らったらしい。

 

 

ヴァーリ「そうは、言ってもさ······」

 

『急いでも仕方がない。一朝一夕で身につくものではないからな』

 

ヴァーリ「そうだな······よし、明日からも頑張るか」

 

『その意気だ』

 

 

 

 

 

そうこうすること更に2年後。

 

俺に弟が出来た。名前はギャスパー。人間とのハーフヴァンパイアで、血統を強く重んじる一族の出で、家を追い出された所を母さんが引き取ったらしい。

 

新しく出来た弟······ギャスパーの目には光が宿ってなかった。自暴自棄の一言で済ませてしまえばそれまでだけど、人間、そんな簡単には出来ていない。

 

 

 

ヴァーリ「······食べないの?」

 

ギャスパーが来てから毎日のことだったが、俺が食べ終わっても、ギャスパーは食べ始めてめいなかった。それに、流石にイラッときたが、押さえてギャスパーに尋ねた。

 

ギャスパー「食欲······ないので」

 

ギャスパーはそう一言だけ答えて、出された料理には全く手を付けず自室に戻ってしまった。

 

クルル「······難しいわね」

 

ヴァーリ「そうなの?」

八幡「······心を開く(何かを受け入れる)のはな、それだけ大変なことなんだよ」

 

父さんも言っているし、理由があることは簡単に理解出来たが、父さんにも何を出来ないらしい。これは本人が解決するしかないんだとか。

 

 

八幡「あの子の、ギャスパーの気持ちも分かってる筈なんだけどな······」

 

 

ヴァーリ「なんか言った?」

 

八幡「······聞き間違いだ」

 

ヴァーリ「ふ〜ん」

 

最初はそんな感じで、ギャスパーは家の中でも独りだった。独りでいた。

 

 

 

八幡「······食わないのか?」

 

ギャスパー「······入りません」

 

また始まった。ギャスパーはこの度に部屋に戻ってしまう。ただ、ギャスパーはこちらに来てから明らかに碌に食べていない。

 

クルル「食べなきゃダメよ? 倒れちゃうわ」

 

ヴァーリ「······美味しいのに」

 

クルル「ありがとうヴァーリ」

 

母さんの味を否定されているみたいで、嫌だった。それを見て母さんは、俺の頭を撫でてからキッチンに戻った。

 

ギャスパー「別にいいです」

 

八幡「ダメだよ。食え」

 

ここに来て父さんも流石に見かねたようで、ギャスパーに無理にでも食べるように強く言った。

 

ギャスパー「·····要りません!!」

 

反抗したギャスパーが勢いよく立ち上がるが、その際に手が引っかかり皿が落ちた。地面と衝突した皿は高い音と共に、細かく砕けた。

 

ギャスパー「あ·······」

 

八幡「······怪我、してないか?」

 

ギャスパー「え?」

 

怒られるとでも思ったのか。キョトンとしていた。ここで怒るようなら、父さんも母さんもとっくに怒鳴っているだろうに。

 

八幡「どうした? そんな顔して」

 

ギャスパー「え·······怒らないんですか?」

 

父さんが皿の破片を拾っているので、持ってきた雑巾で零れたスープを拭き取る。その後、母さんが新しいスープが装られた皿を持ってきた。

 

クルル「はい。新しいスープ」

 

ギャスパー「これ·······」

 

クルル「食べてないでしょ? 食べなきゃダメよ?」

 

ギャスパー「ありがとうございます·····」

 

ギャスパーは大人しく席について、スープを咀嚼し始めた。

 

ヴァーリ「こうなるって分かってたの?」

 

クルル「まあね」

 

その後、初めてギャスパーを交えた4人で食事を終えた。ギャスパーの顔が少し緩んだように見えた。

 

 

 

食事を終えてから、俺はギャスパーの部屋を訪ねていた。

 

ヴァーリ「······入っていい?」

 

ギャスパー「······どうぞ」

 

ギャスパーはベッドの上で膝を抱えて窓から空を眺めていた。

 

ギャスパー「······何か?」

 

ヴァーリ「······今日のスープ」

 

ギャスパー「?」

 

ヴァーリ「どうだった?」

 

ギャスパー「······美味しかったです」

 

ヴァーリ「ならよかった······お前のこと聞いたよ。ここに来るまでのこと」

 

ギャスパー「······え?」

 

実は昨日、父さんから聞いたのだ。ギャスパーの今までの暮らしを。

 

 

実の母はもういない。

 

実の父は自分を遠ざけ、兄弟は自分を忌避し、家に居場所はない。

 

外では自分は穢れた血だと罵られ、石を投げられ、暴力を振るわれる。

 

 

父さんは放っておけず、引き取ることを決めたらしい。俺や姉さんが同じ立場だとしても父さんは放っておかなかっただろう。そういう人だ。

 

ヴァーリ「······俺もさ、5年前まで血の繋がった父親に虐待されてたんだ」

 

ギャスパー「·······!!」

 

目を見開いて驚くギャスパーを他所に、俺は続ける。

 

ヴァーリ「姉さんも同じように虐待されててさ、後遺症で姉さんは今も入院中」

 

ギャスパー「······何でそれを僕に?」

 

ヴァーリ「深い意味はない。でもさ·······一つ言うなら、()()()()()抱え込まなくてもいい。そんなの、辛いだけだよ」

 

ギャスパー「でも僕は······」

 

ヴァーリ「別にいいじゃん」

 

ギャスパー「!!?」

 

何を勘違いしてるんだろうこいつは。

 

······こいつを見て、父さんが言っていたのを思い出す。

 

八幡『······俺が何で強いかって? ······ヴァーリ。別に、俺は強くない。俺なんて、クルルがいないと何も出来ないしな。大事なのは······そうだな、強いかどうかじゃなくてどうして強く見えるか、だな。俺が強く見えたのは、俺が、クルルとかメリオダスとか······オーフェリアとかお前に、カッコつけたいだけだよ。

······人間は、誰かを支えにしないと生きていけない。せめて、支えにしてるやつに格好の一つもつけてやらないと、申し訳ないだろ? そんだけだよ』

 

 

ヴァーリ「俺だって最初は怖かったよ。あの2人が」

 

環境の変化に順応出来ない、と言ったら多少は見栄えがいいだろうか。なんであそこまでしてくれるのか全く分からなかったし、どう接したらいいのかも分からなかった。

 

けど、2人とも嫌な顔一つせずに笑いかけてくれた。そんなこと、もういない実の母(おかあさん)だけだった。俺も姉さんも、少なくともそんな2人に救われた。

 

ヴァーリ「少しずつで、いい。父さんはそう言っていた」

 

ギャスパー「······そうですか」

 

ヴァーリ「俺が話したかったのはそれだけだよ。付き合ってくれてありがとな」

 

ギャスパー「······いえ」

 

ヴァーリ「おやすみ、ギャスパー」

 

ギャスパー「······おやすみなさい」

 

 

それから1ヶ月後のことだった。ギャスパーが誘拐されたのは。

 

 

 

 

 

その日、学校から帰ってくると、父さんと母さんが妙に慌てていた。聞くと、出掛けたままギャスパーが帰ってきていないらしい。ギャスパーの足でも歩いて20分もあれば行ける所らしく、もう2時間も帰ってきたいないらしい。

 

八幡「······俺達は探してくるから。ギャスパーが帰って来るかもしれないからヴァーリは家にいてくれ」

 

ヴァーリ「分かった」

 

父さんと母さんは飛び出して行った。斯く言う俺も、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』で飛び出して行きたかった。

 

『·····心配なのも分かるが、任せておくべきだろう』

 

ヴァーリ「······分かってるよ」

 

アルビオンに不満げに返す。いや、7歳の弟が心配に決まってるだろ。でも、何かあった時に下手に迷惑を掛けるわけにもいかないので、大人しく待つことにした。

 

 

 

 

ギャスパーが父さんにおんぶされて帰ってきたのは1時間後だった。

 

 

ヴァーリ「おかえり父さん。ギャスパーは······?」

 

八幡「心配ないよ······今寝てるから静かにな」

 

ヴァーリ「うん、分かった」

 

 

父さんがギャスパーを布団に寝かせると、ギャスパーの頬に、泣いた跡があったことに気付いた。

 

ギャスパー「······お父様······お母様······」

 

ヴァーリ「今お父様って······」

 

寝言で確かにそう言った。今まで言わなかったのは無意識で遠慮していたのか気恥ずかしかっただけなのか。

 

八幡「ああ」

 

 

ヴァーリ「······俺は前から弟だと思ってたけど」

 

八幡「俺も自分の子供だと思ってたけどな」

クルル「私もね」

 

ヴァーリ「俺······お兄さんって呼んでもらえるのかな」

 

八幡「大丈夫だろ」

 

俺だけ「ヴァーリさん」とか呼ばれたら悲しすぎるよ。多分ないけど。

 

······姉さんとカルナにもあって欲しい。学校にもほぼほぼ行けない姉さんも、遊ぶ相手の少ないカルナもきっと喜ぶ。

 

ヴァーリ「·····今度姉さんに会ってもらいたい。カルナとも、友達になってもらいたい」

 

八幡「······そうだな。ギャスパーなら······」

 

 

 

2日後。

 

 

ヴァーリ「······来たよ姉さん」

 

 

2日経って、俺達は入院している姉さんの下に訪れていた。姉さんは栄養失調と虐待による暴力で脊髄を損傷し、下半身麻痺と言語障害により、今も尚入院中だ。皮肉にも、俺が綺麗に回復出来たのは忌避していた悪魔の血による治癒力の高さ故らしい。姉さんは人間の血の方がかなり濃いんだとか。俺は半々ぐらいだった。

 

 

ギャスパー「お、お邪魔します」

 

オーフェリア「······?」

 

事情を知っているとはいえ、初めて会うギャスパーに首を傾げる姉さん。その姉さんの隣にはスヤスヤ眠っているカルナがいる。カルナの頭をそっと撫でる姉さんは、14歳とは思えないくらい大人びている。

 

八幡「······オーフェリア。今度家で引き取ることになったギャスパーだ」

 

ギャスパー「ぎ、ギャスパーです。よ、宜しくお願いします······」

 

宜しくね、この子(カルナ)とも仲良くしてあげてね、と言っているようだった。いや、きっとそう言っている。

 

ヴァーリ「ギャスパー、もっと楽にしていいよ」

 

ギャスパー「は、はいぃ······」

 

仕方ないことなんだけど、ギャスパーの動きはかなりぎこちない。緊張する気も分かるけど、

 

ヴァーリ「今日は姉さんとカルナにギャスパーと会って欲しかったんだ。カルナは寝ちゃってるけど」

 

そう言うと不思議そうな表情を浮かべる。「どうして?」と聞いているのだろう。

 

ヴァーリ「大した理由じゃない。姉さんに、新しくできた弟を紹介したかっただけだよ」

 

姉さんは、「······そう」と簡単に返した。けど、微笑んでいたのは言うまでもなかった。

 

 

姉さんがギャスパーに手招きする。ギャスパーが不思議そうな表情を浮かべつつ姉さんの所まで行くと、姉さんはギャスパーの頭に手を置いて優しく撫で始めた。

 

ギャスパー「あ、あの?」

 

微笑みながらギャスパーの頭をひとしきり撫でた姉さんは、何やら紙に書き出した。筆談をするつもりらしい。姉さんが今まで筆談をしようとしたのは、父さんと母さんだけだ。

 

凄いことだ。医師との会話にすら俺達を挟んでいた姉さんが、今日会ったばかりのギャスパーと筆談しようとしている。

 

 

······今はもう、父さんも母さんも筆談しなくても姉さんの言ってることが理解出来るらしいけど。当然俺もだがな。

 

 

書き終わったようで姉さんがギャスパーに紙を見せた。

 

【改めてまして、私はオーフェリア。こっちは娘のカルナ。ヴァーリとカルナと仲良くしてあげてね】

と、紙に書かれている。

 

ギャスパー「······あ。は、はい」

 

【よかった。特にカルナは人見知りが激しいの。めげずに仲良くして欲しいの】

 

姉さんは続けて紙にそう書いた。まだ5歳のカルナが、ギャスパーを見てどう感じるかは分からないけど、悪いことにはならないと思う。

 

ギャスパー「僕に出来ることなら······」

 

【ありがとう。私はいい弟をもったわ】

 

ギャスパー「そ、そんな······僕なん、いえ何でもないです」

 

僕なんてとは言いそうになったけど、変わり始められたんだな。姉さんが頼むまでもなく、カルナとギャスパーが仲良く出来ればいいんだけど。

 

クルル「······カルナも寝てるし、今日はこの辺でお暇するわ」

 

ヴァーリ「もう?」

 

クルル「文句言わないの。オーフェリアが疲れちゃうわ」

 

あと、3時間ぐらい使って、姉さんに話したいことが山ほどあるのに。

 

ヴァーリ「·······はい」

 

【ギャスパー来てくれてありがとう。皆も】

 

八幡「また、来るからな」

父さんはそう言った姉さんの頭を優しく撫でる。姉さんは嬉しそうに目を細めていた。大人びているように見えても、こういう所は俺やギャスパーと変わらない。

 

ヴァーリ「また来るよ姉さん」

 

ギャスパー「あの、今日はありがとうございました」

 

ギャスパーに対して姉さんは

 

【気にしないで欲しいわ。今度改めてカルナを紹介するわね】

 

と答えた。

 

ギャスパー「あ、ありがとうございました······ま、また来ます」

 

 

今度は姉さんが見守るように目を細めた。

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······ギャスパー、姉さんはどう見えた?」

 

ギャスパー「······優しくて強そうで······でも脆そうだと思いました」

 

ヴァーリ「·····俺が強くなりたいのはさ、姉さんを守れる力が欲しいからだ。笑うか?」

 

ギャスパー「······笑いません。カッコイイです」

 

ヴァーリ「そっか······俺達もいつまでも守られてばかりってわけにいかないしな」

 

ギャスパー「······はい。僕も強くなって────」

 

 

 

少年達は守りたいと······強くなりたいと。願った。

 

 





カルナは、学戦都市アスタリスクのフローラが茶髪になった感じ。


過去回はもう少し続きます。


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第33話 ようこそ我が家へ

本当は6,000文字くらいで出すつもりだったんです。はい(結果10000文字という)。

サムネは今までの過去回が安直すぎたんでほんの少し捻ったら関連性が薄いものになるという。

1/6 読み返したら違和感が凄かったので加筆修正しました。



 

 

ヴァーリside

 

 

ギャスパーが弟になって1年と少し経った。家にもすっかり馴染んだ。俺も『お兄様』と呼ばれるようになった。

 

 

そんなある日のことだった。ギャスパーが体中傷だらけの黒猫を拾ってきたのは。

 

八幡「······ギャスパー、その黒猫はどうした?」

 

ギャスパー「偶々、家の近くで見つけたんです」

 

八幡「······分かった。傷の処置してやるから客間に」

 

ギャスパー「はい。ありがとうございます」

 

若干苦しいような気もした父さんの言葉を疑問に思わなかったのか、、ギャスパーは黒猫を連れて客間に行った。

 

ヴァーリ「······父さん。今の猫絶対ただの猫じゃないよ」

 

八幡「流石に気付いたか」

 

気付いていたらしい。あの猫······ボロボロになっているのに纏っているオーラの量がかなり多かった。

 

クルル「·····この娘じゃない?」

 

母さんが携帯に表示させた写真を見せてきた。そこには、

 

『SS級はぐれ悪魔:黒歌』

 

という悪魔の使う文字と共に、俺と同じくらいの歳に見える女の子の写真が映っていた。

 

はぐれ悪魔とは、()()()()()眷属悪魔の中で主に危害を加えた者や、脱走した者のことを指す······

 

八幡「かもな」

 

ヴァーリ「SS級って最上級クラスでしょ? ······何であんなに?」

 

SS級ともなれば、単に脱走したのではなく大きな力を持つ───つまり、高い危険性があるということだ。

 

クルル「そう、ね······」

 

八幡「理由は何となく分かるが······」

 

父さんが言葉を濁した時に、玄関のチャイムが鳴った。

 

ヴァーリ「? 誰だろ」

 

八幡「俺が出るよ。クルルとヴァーリは先にギャスパーのとこ行っててくれ」

 

クルル「分かったわ」

 

母さんが了承したところで、父さんが玄関のドアを開けた(何故か幻術を発動して)。

 

母さんは意に介さず、救急箱を持って先に行ってしまった。俺はどうすればいいか分からず、立ち止まっていた。

 

「突然で申し訳ございません」

 

チャイムに鳴らしたのは若い女性で、その後ろには薄ら笑いを浮かべている男性がいた。

 

八幡「······何か?」

 

「この付近で黒猫を見かけませんでしたか? このような見た目なのですが」

 

女性は一枚の写真を父さんに見せてきた。遠目だが、写真にはさっきギャスパーが拾って来た猫が映っていたのが見えた。こんな猫どこにでもいると思うんだが······

 

八幡「見てないぞ。というかこんな猫、何処にでもいないか?」

 

「·····そうですか。お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした。失礼します」

 

女性と後ろにいた男性はそう言って去っていった。

 

 

ヴァーリ「······父さん、よかったの?」

 

八幡「何が?」

 

ヴァーリ「あの人達が捜してたのって、ギャスパーが拾って来た黒歌ってはぐれ悪魔でしょ?庇ったりしたらまずいんじゃない?」

 

SS級のはぐれ悪魔を庇ったりしたら父さんの立場がかなり不味いと思うんだけど······

 

八幡「ん~···まあ、大丈夫だろ」

 

ヴァーリ「どうして?」

 

八幡「後で説明してやる。とりあえずギャスパーのとこ行くか」

 

父さんは、黒歌という娘の事情を知っているようだった。

ヴァーリ「あ、うん」

 

 

 

クルル「······これで大丈夫よ」

 

ギャスパー「ありがとうございますお母様」

 

俺と父さんが部屋に着いた時には、母さんによって応急処置が終わっていた。一部包帯が巻かれていたが、回復魔法を掛けたのだろう。すぐによくなるだろう。

 

クルル「ギャスパーはこの子を見てて。私は夕食の準備をしてくるわ」

 

ギャスパー「はい」

 

八幡「俺も」

 

態とやっているかのように、父さんと母さんは部屋を出て行った。

 

ヴァーリ「······あ、えっと、何かあったら呼べよ」

 

ギャスパー「? はい」

 

何も知らないギャスパーと違い、寝ている猫がSS級のはぐれ悪魔だと知っている俺はいたたまれなくなり、部屋を出た。傷は回復していても、あの傷を負っていたならすぐには動けないだろうから、ギャスパーは大丈夫だろう。けど······

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

お父様とお母様が部屋を出ていった直後に慌てながら次いでお兄様が出て行った後も、傷だらけだった黒猫を看ていた。

 

ギャスパー「······綺麗な毛」

 

黒い毛並がとても綺麗だった。吸い込まれそうになるくらい綺麗だと思った。そっと撫でてみた。撫で心地がとても気持ちよくて、何時まででも撫でていれそうだったけど猫が起きたことで止めることにした。

 

「にゃ········」

 

ギャスパー「あ、起きた?」

 

「にゃにゃ!!!?」

 

目を覚ました途端、黒猫は飛び上がって僕を睨め付けた。

 

ギャスパー「こ、怖がらないで!!」

 

慌てたけど、初めて見た人間を怖がらない訳がない、と気付き一周回って僕が冷静になった。

 

ギャスパー「あ、ごめんね。ボロボロになって倒れてたからお父様に無理を言って連れて来たんだ」

 

お父様もお母様も負担だなんて思ってないだろうけど、突然連れて来た僕が言えることじゃない。

 

「にゃ······にゃ、にゃ」

 

ギャスパー「大丈夫、看病してるだけだよ」

 

実はさっきお父様達が話していることを聞いてしまった。少なくとも、お兄様は気付いてなかったようだけど。

 

ギャスパー「()()()()()()()()()ことだけは保証するよ。黒歌」

 

何となくだけど、はぐれ悪魔になったことには事情があると思う。でなければ、すぐに追い出す。SS級なんて僕如き一瞬では殺されてしまう。

 

「にゃ!? ······いつから気付いてたの?」

 

ギャスパー「僕が気付いてたわけじゃないんだけど······」

 

黒歌「?まあいいか。とりあえず、傷を治してくれたのは感謝するわ。でも、ここにいるわけにはいかない」

 

ギャスパー「······もう行くの? 君の主が君を捜してたよ?」

 

部屋の窓が空いていて、お父様が喋っていたのも全部聞こえていた。お父様が黒歌を知らないと言ってくれたのは助かった。でも、お父様はこれくらい見越していると思う。

 

黒歌「······もう主じゃない」

 

黒歌はそう言って起き上がり空いている窓から出て行こうとした。したが······

 

黒歌「······体が動かない」

 

ギャスパー「家の近くで倒れてたんだよ? 体中傷だらけだったし」

 

この辺りまで逃げて来たことを考えると、かなりの長距離を移動したことになる。そもそも今いるのは人間界で、冥界ですらない。

 

黒歌「······でも、動けるようになったらすぐに出て行くわ」

 

黒歌は強情で、それでも出て行こうとした。

 

八幡「悪いがそれはさせられないな」

 

それを止めたのは入ってきたお父様だった。おそらく、途中から話を聞いていたのだろう。お父様はそういうことを偶にやる。

 

 

黒歌「────何で」

 

八幡「気付かないか? この辺り一帯はお前の元主を始めとする眷属達がうろついてるぞ? 動けるようになったからってノコノコ出ていけば、今度こそ死ぬぞ」

 

黒歌「っ······でも、迷惑を掛けるわけにはいかないもの」

 

そこで反論に反論で返したお父様の言葉には、有無を言わさぬ説得力があった。

 

八幡「俺の目の前で死なせるわけないだろ。あと、お前の妹と思しき白猫ならサーゼクスが保護したらしいぞ」

 

黒歌「魔王ルシファー········それなら安心出来るの······?」

 

妹がいたんだ······もしかして、その妹の為に?

 

八幡「あぁ。言っとくが、ギャスパーが連れてきた段階で家のやつは全員お前の素性を知っている。だが、俺はお前が望んではぐれになったのではないと考えている」

 

黒歌「······ここにいていいの?」

 

八幡「お前が望むならな。少なくとも、お前が回復するまでは、ただのボロボロだった猫を保護したって押し通せる」

 

ギャスパー「これからどうするんですか?」

 

八幡「とりあえず、サーゼクスから黒歌の妹のことをそれとなく聞き出しておく」

 

お父様とお母様は魔王ルシファー様と友人らしいが僕とお兄様は会ったことがない。

 

黒歌「······どうしてそこまでするの?」

 

八幡「ん? そうだな······ギャスパーがお前を信頼してるから」

 

ギャスパー「え?そうだったんですか?」

 

そんな理由だとは思わなかった。お父様もお父様で何か思うところがあったんだと思っていた。

 

八幡「そりゃ、それ以外にもあるが······信頼してるわけじゃないのか?」

 

ギャスパー「いえ、信頼はしてますけど」

 

直感的に、彼女は信頼出来ると分かった。今は僕達に敵意を向けてるけど、きっと······

 

黒歌「何で今日会ったばかりの私を信頼出来るの······?」

 

ギャスパー「悪い人には見えないし」

 

八幡「そういや、黒歌ってヴァーリより歳上らしいぞ」

 

ギャスパー「え!? すいません、同い年かと思ってました······」

 

猫の状態だと年齢分かんないし······

 

黒歌「別に今更。そのヴァーリってのはよく分かんないけど」

 

ギャスパー「僕のお兄様です。凄く強いんですよ」

 

お兄様の特訓風景は僕も偶に覗いている。お兄様は凄い強い。それでもお父様には全く歯が立たない。それに、もう禁手化(バランス・ブレイク)出来るらしい。僕は自分の中に眠る神器、『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』が怖くて使うことさえままならない。

 

黒歌「ふぅん······?」

 

と、お父様は黒歌······さんに尋ねる。

 

八幡「お前、飯はどうする? 食うか?」

 

黒歌「う······恥ずかしながら体が動きません」

 

黒歌さん、は恥ずかしかったのか顔を逸らしながら言う。

 

八幡「なら後でギャスパーに食べさせてもらえ。持ってきてやるから」

 

ギャスパー「僕がですか? ······あ」

 

流れ的にお父様が食べさせるのかと勝手に勘違いしていた。黒歌さんを連れてきたのは僕だ。僕がそれくらいの面倒を見ろ、と言うことだろう。

 

八幡「分かってるならいいが、ギャスパー、お前が連れてきたんだからな? 必要な物があるなら揃えるが、そこから先はお前がやるんだぞ?」

 

ギャスパー「分かりました」

 

八幡「うし。ならもう少ししたら持って来るからな。ちゃんと黒歌の分の飯も用意してあるから安心しろ」

 

お父様は、部屋のドアを開けながら振り向いて言う。

 

黒歌「ていうか、そこまでバレてるとは思わなかったにゃん」

 

八幡「オーラが明らかにそこらの野良猫のものじゃなかったからな」

 

それだけ言ってお父様は出て行った。

 

 

ギャスパー「······そう言えば、黒歌さんって何ではぐれになったんですか? あ、あの、良ければでいいですけど······」

 

自ら進んではぐれになるようには見えない。

 

黒歌「······ま、話してもいいか」

 

それから黒歌さんはぽつぽつと話し始めた。

 

黒歌「······きっかけは私の元主が原因だったわ」

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

黒歌side

 

 

 

きっかけは私の元主が原因だった。元主のたった一言だった。

 

 

『お前の妹使えそうだな······よし、『僧侶』と『騎士』は埋まってるから『戦車』にでもするか』

 

薄笑いを浮かべながら言うその姿に、どうしようもないほどの危機感を覚えた。

 

『どういうことよっ!? 妹には手を出さない契約だった筈よ!!』

 

『ククッ···眷属にするだけだ。特に問題ないだろう?』

 

 

それを聞いた私は即座に元主を攻撃して、妹の手を引いて逃げ出した。

 

私の元主は周囲の者に知れ渡るくらいの乱暴者で、眷属はいつも乱暴されていた(『女王』だけは例外だったけど)。妹である白音だけは、乱暴されずにいたのは幸運だった。

 

私は、白音の手を引いて走り続けていた。しかし、私は追手からの攻撃で吹き飛ばされそのまま白音とはぐれてしまった。止む無く、追手の部隊を全滅させ白音を捜しに引き返したが、そこで力尽き────

 

 

 

黒歌「······ギャスパーに拾われた、ってわけ」

 

話し終えて、嘆息をついた時に気付いた。

 

黒歌「······ギャスパー?」

 

ギャスパーに頭を撫でられていた。

ギャスパー「え?あ、すいません!! ······いつもお父様とお母様がこうしてくれると落ち着くんです」

 

どうやら、無意識の内に体が震えていたようだ。

 

······確かに、怖かった。下卑た男の笑い声も、そいつらが放つ魔力も。

 

 

黒歌「気にしなくていいわ。でも、もう少しだけお願い出来る?」

 

私は無意識の内に強ばっていた体から力を抜き、頭を少し下げた。

 

ギャスパー「こ、こうですか?」

 

そう言って、ギャスパーはまた私の頭を撫で始めた。

 

ギャスパーに撫でられたのはとても心地よかった。幼い頃母親が撫でてくれたのを思い出して、心が温まる感じがした。

 

 

そして私の意識は再び沈んでいった。

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー「·······黒歌さん?」

 

 

撫で心地がよくて撫で続けていたら黒歌さんはまた眠っていた。お父様やお母様が撫でてくれるようにやってみたのだが、本当に安らぐ効果があったみたいだ。

 

八幡「······夕飯出来た·······が」

 

お父様が呼びに来たけど、首を横に振る。

 

八幡「ギャスパーは夕食どうする?」

 

お父様が小声で聞いてきたけど一瞬考えた。

 

ギャスパー「······黒歌さんが起きてから一緒に食べます」

 

と答えた。きっと、一人で食べるよりは落ち着く。今は黒歌さんを一人にしない方がいいと思う。無理して出て行きそうだし、出て行っても見つかるだけだから。

 

八幡「······分かった。クルルとヴァーリにはそう伝えとく。後で2人分持っていくからな」

 

ギャスパー「ありがとうございます。そう言えば、黒歌さんのはぐれって取り消せるんですか?」

 

黒歌さんは仕方なくはぐれ悪魔になったのだ。事情を伝えればはぐれ悪魔としての認定を取り消せるかもしれない。

 

お父様は、少し考え込んでから言った。

 

八幡「出来ないってわけじゃないが······証拠が足りない」

 

ギャスパー「······そうですか」

 

やはり難しいらしい。しかもSS級の認定をされてしまった。かなり困難なのかも。

 

八幡「······だから今証拠を探ってる。既に桃花と勝永に調査に向かってもらった」

 

ギャスパー「!! ······ありがとうございます」

桃花さんと勝永さん。お父様の眷属の人達だ。実力は折り紙付きで、最上級悪魔以上らしい。

 

八幡「シッ。黒歌が起きちまう」

 

ギャスパー「あ······」

 

八幡「にしても、やけに黒歌に入れ込むな」

 

ギャスパー「そうですか?」

 

自分ではそんな風に考えてなかったけれど······

 

八幡「惚れたか?」

 

ギャスパー「んぅ!!?」

一瞬大声を上げそうになった口を手で塞ぐ。

 

八幡「お前の人生だからな。ダメなんて言わないよ」

······黒歌さんの話を聞いて、好きとかそういうの抜きで、黒歌さんを支えられたらって思った。

 

ギャスパー「······? 分かりました」

 

八幡「ならいい」

 

お父様は僕の頭をワシャッと撫でてから部屋を出て行った。

 

 

結局、夕食を食べたのは10時前になったけど黒歌さんの話を聞けたから、その選択は成功だったと思う。

 

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

ギャスパーが黒歌を家に連れてきてから、一週間が経った日。

 

 

俺は勝永と桃花を呼び戻して、報告を頼んだ。

 

勝永「······あまり時間が無かったものですから、この程度しか集められませんでした」

 

桃花「八幡、本来ならもっと時間を掛けるものなんですが」

 

溜息を漏らしながら桃花は言う。

 

八幡「いや、こんだけ揃ってんなら十分だ。悪かったな。無理言って」

 

ここ一週間、勝永と桃花には黒歌の元主が黒歌、及び妹の白音に何をしたのかや、元主の眷属に対する処遇などを調べてもらっていた。

 

桃花「それにしても急ですね。何かありましたか?」

 

あったあった······惚れたかとか適当に言ってみたが、ギャスパーは、黒歌を()()()重ねていたんだろう。

 

八幡「ああ。ギャスパーがな」

 

『ガタッ』という音と『そんな······』というクルルの声がしたのにも気付いてない。

 

勝永「彼ももうそんな年頃ですか」

 

八幡「"普通の”子供ならこれくらいの歳には初恋ぐらいするだろ」

 

俺はもっと小さい頃だったと思うが。

 

桃花「······そんなこと今はいいでしょう。それより、はぐれの認定解除はどうするんですか?」

 

八幡「ああ、明日にでも黒歌の元主に話をつけに行く」

 

桃花「話で分かるならこんな事態になってはいないと思いますが」

 

八幡「だろうな。そこはメリオダスとミカに頼む」

 

 

うちの眷属でも指折りの武闘派の2人だ。特にミカ。完全な戦闘屋だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。俺は黒歌を連れて黒歌の元主の下を訪れていた。

 

 

 

八幡「······帰っても大丈夫だぞ? 俺一人でもやりようはあるし」

 

 

メリオダスとミカはいつでも出れるように幻術で姿を晦ましながら待機している。

 

黒歌「······だ、ダイジョブよ。白音も無事に保護されたって言ったのはあんただし。とりあえずはあんたを信じることにする」

 

黒歌は若干震えながらも、深呼吸してしっかりとした口調で答えた。

 

八幡「そうか。なら行くぞ」

 

黒歌「う、うん」

 

 

俺と黒歌は、元主とやらが所有する屋敷に入っていった。

 

 

 

 

八幡「······ジェロマ・リバートリンだな」

 

ジェロマ「ええ。私がジェロマ・リバートリンでございます。堕天魔殿」

 

俺の目の前に座っている、胡散臭い笑みを浮かべた金髪の初老の男。黒歌の元主のジェロマ・リバートリン。

 

リバートリン家は、確かナベリウスの分家に取り入った家だった筈だ。そのナベリウスもネビロスの配下だが、俺が言えたことではないがきな臭い噂が絶えない。

 

八幡「早速だが本題に移ろう······こちらが要求するのは、黒歌のはぐれ悪魔の認定の取り消しだ。無論、そちらの要求も出来る限り呑むつもりだ」

 

とりあえず口上を述べる。目の前の男が実際はどんな性格をしてるのかまだ計り兼ねている。

 

ジェロマ「そうですか······なら、こちらの要求は黒歌の身柄」

 

黒歌「っ!!」

 

八幡「······あ?」

 

······は?

 

ジェロマ「聞こえませんでしたか?ならもう一度言いましょう。こちらの要求は黒歌の身柄。黒歌を引き渡すならはぐれ悪魔としての認定を解除しましょうということですよ」

 

そういうことね······結局は、黒歌は立場をいいことに利用され続けていたと。そして、妹の白音に利用価値を見出したこの男から白音を守るために黒歌は脱走したと。

 

······つまり、こちらの交渉に応じる気は毛頭ないわけだ。

 

八幡「······それは無理だな」

 

ジェロマ「おや?何故です?」

 

八幡「条件に追加しなかった俺も悪いが·····その要求には『黒歌の心身の安全』が含まれていない。白音のもな」

 

黒歌を引き渡した後でこいつが黒歌に乱暴するかもしれない。いや、もうされている可能性も······

 

ギャスパーは、()()()()()()()()()()()って聞いたらしいし。

 

 

ジェロマ「······ならどうします?たった2人でノコノコ敵陣のど真ん中にいるのに······まあいいでしょう。あなたの首を取って上層部に差し出せば、私の立場は不動の物となる」

 

黒歌「お前っ!!」

 

ジェロマ「さあ行けっ!! 愚かな男の首を取れ!! 金なら追加でいくらでも払う!!」

 

こいつの狙い俺の首かよ······まあいいや。お陰で楽に証拠集めも出来たことだし。

 

八幡「······残念だったな」

 

ここの応接室の扉が開き、メリオダスが入ってくる。

 

メリオダス「八幡、何か武装してる奴が50人くらいいたから全員気絶させといたけどよかったか?」

 

2人の後ろには倒れている男が多数。どうせ目の前の奴が雇ったのだろう。悪魔以外の気配もするし。

 

八幡「ああ、サンキュー」

 

「······殺さないって命令だけど、いいの? 起きたらまた殺しに来るよ?」

 

八幡「それは問題ない」

 

2人の後ろに転がっている奴等に光の矢を降らせる。何も直接当てるわけじゃない。脇だの股だの等の隙間に降らせるのだ。当然、少しでも動けば、特に悪魔なんか触れた部分から消滅していく。

 

「なら問題ないね」

 

そう言って、ぶかぶかのジャケットから木の実を取り出して食べ始めたミカ。

 

三日月・オーガス。訳あって俺の『兵士』に転生した元人間だ。うちの眷属の中では中堅の実力だが、いざ戦闘になれば、巨大なメイスで敵をなぎ倒し、太刀を振るって敵を切り裂き、神器も使って敵を駆逐していく。うちでは、メリオダスとよく組手をしていたりする。

 

 

八幡「······どうやらお前が雇った奴等は全員のびているようだが?」

 

ジェロマ「なっ!! ······こうなったら私が!!」

 

八幡「無理だな」

 

ジェロマ「!!?」

背後に回り込んで『塵外刀(じんがいとう)(しん)(うち)』をこいつの首に突き付ける。塵外刀変化はしていないので、俺の身長よりデカい刀を突き付けていることになる。

 

 

八幡「さあどうする?黒歌のはぐれを取り消して2度と近付かないことを誓うか、今この刀の錆になるか、好きに選べ。一つ言っとくが、先に手を出したのはそっちだ。これは正当防衛にあたる」

 

ジェロマ「クッ·······そちらの要求に従う」

 

その言葉を聞いて、殺気をぶつけつつこいつから離れる。

 

八幡「そうか。いい返事が聞けて俺も満足している」

 

そう言って、懐から『僧侶』の駒を放り投げる。

 

八幡「『僧侶』のトレードだ。黒歌は俺の眷属という名目で俺の保護下に入れる」

 

ジェロマ「······いいでしょう」

 

念には念を入れる。元はぐれだろうがなんだろうが、これで次こいつが攻撃を仕掛けて来た時に、正当防衛で眷属を守るという大義名分を得た。

 

八幡「3人共、帰るぞ」

 

メリオダス「おう」

 

三日月「······つまらなかったな」

 

黒歌「えっ、ちょっ待っ」

 

俺にメリオダスとミカが。遅れて黒歌が付いて来る。

 

と────

 

ジェロマ「クソッ······クソックソックソォォォッ!!!」

 

突然叫び出したジェロマ・リバートリンが魔力で攻撃してきた。それは冷静さを欠いてるからなのか、刀を振って簡単に消せる程弱い攻撃だった。

 

三日月「あ〜あ」

 

八幡「型式『揚羽』」

 

持っていた『塵外刀・真打』が細身の黒い刀身に変わる。

 

八幡「『黒丸(こくがん)』」

 

周囲に浮いていた鉄粉が幾つかの球体を形成し、一斉に飛んでいく。奴は『黒丸』を攻撃するも、全て避けられ、『黒丸』の直撃により、ダメージを食らう。殺しはしないが。

 

三日月「殺さなくていいの?」

 

三日月が冷たい目であいつを見下ろしている。まあ気持ちは痛いほど分かる。

 

八幡「いいんだ。こいつには黒歌のはぐれを取り消させるっつー大事な仕事がある。それまでに殺すと俺達がお尋ね者になっちまうからな」

 

三日月「分かった。そう言うなら」

 

八幡「······悪いな」

 

パッと見敵への容赦が微塵もないミカだが、本人はそうしないと真っ先に撃ち殺される戦場を駆け抜けてきたのだ。何も間違ってないと俺も思う。

 

八幡「······さて、ジェロマ・リバートリン。これでもまだ黒歌のはぐれを取り消せないか?」

 

勝永と桃花に集めてもらった証拠を目の前に出す。コピーのプリントだがな。

 

ジェロマ「······っ!?」

 

八幡「······この件は既に通報済みだ。お前一人で反抗しようが、結果は何も変わらない。大人しくしておくんだな」

 

そう言って、這いつくばってるこいつの目の前に光の矢を突き立てる。

 

通報と言っても、上層部じゃない。全く信頼出来ないし。俺が通報したのは、魔王ベルゼブブであるアジュカだ。政治(面倒事)が絡む時は、サーゼクスよりも信頼出来る人物だ。

 

因みにだが、今までの話は全離れた所にいるて美猴に録画させている。向こうの、俺の首云々の話などを出せば簡単に勝てる。

 

 

俺達はジェロマ・リバートリンの屋敷を後にした。

 

 

 

そして更に翌日、黒歌のはぐれ悪魔の認定は取り消された。又、ジェロマ・リバートリンが逮捕された。元眷属達は保護されたらしい。

 

八幡「······さて黒歌。お前はどうしたい?」

 

黒歌「どうって?」

 

八幡「名目上トレードで俺の眷属入りしたわけだが、俺は別にお前をどうもしない。ここに残るもよし。妹を迎えに行くのもよし。お前の自由だ。妹を迎えに行って悪魔自体から離れるのなら、こっちで多少の支援はしてやれる」

トレードはただ単にそれが引き抜くのに楽だったからそうしただけだ。俺は黒歌を縛り付けようとは思わないし。まぁ何かの縁だ。もうちょい面倒見るくらいなら訳ない。

 

 

黒歌「······ひとまずここに残る。白音は今は精神的に不安定なんでしょ?それにあんた達には助けてもらった恩があるから」

 

八幡「そうか。なら歓迎するよ、よろしくな」

 

黒歌「ありがと。これからよろしく頼む」

 

 

 

 

そうして、俺の眷属に『僧侶』の黒歌が加わった。

 

 

 

八幡「あ、俺の眷属ってお前より強い奴しかいないからな」

 

黒歌「·······マジ?」

 

八幡「マジだ。今度ボコボk······鍛えてもらえ」

 

黒歌「今ボコボコにされろって言った!!?」

 

八幡「言った」

 

黒歌「······そこは嘘でも言ってないって言ってよ」

 

 

 

 

 

 

八幡「この12年間はかなり波乱だったな······」

 

見舞いに行く傍ら、久しぶりに回想に耽りながら病院に向かっていると、ふと思い出したこの12年間に対して言葉が漏れた。

 

ヴァーリ「······父さんがそれを言うのか?」

 

八幡「いやどういう意味だよ」

 

俺にしてみれば、戦争の時と同じくらい色々あったって印象なんだが。

 

ヴァーリ「父さんはずっと昔から巻き込まれ体質なんだろ? メリオダスから聞いたよ。ほとんど笑ってたけどな」

 

八幡「間違っちゃいないんだろうが······メリオダスめ。余計なことを」

 

だいたいは酒の肴になってんだろうな······

 

 

クルル「仕方ないわ。八幡はそういうのを放っておけない(タチ)だから。巻き込まれに行っているようなもの」

 

黒歌「私もギャスパーもヴァーリもそれで救われたもんねぇ」

 

八幡「あのなぁ······」

 

別に好き好んで巻き込まれたいわけじゃないぞ·······ただ見過ごせなかっただけだ。同じではない。

 

それに、ギャスパーを助けたのはクルルだろうに。俺はほとんど何もやってないからな。

 

ギャスパー「悪いことじゃないですし、いいじゃないですか。お兄様も黒歌さんも、お父様に救われたんですし」

 

八幡「黒歌に関してはお前だと思うけどな」

 

クルル「そうね」

 

ギャスパー「そうですか?」

 

ギャスパーは首をコテンと傾けた。それを見ていた俺達4人は心の中でガッツポーズをしている·····と思う。少なくとも俺はそう。俺の天使(癒し)である。異論反論抗議は頑として認めない。

 

ヴァーリ「いや、そうだと思う」

 

黒歌「·······確かに、私がギャスパーと一緒にいる時間がこの中で一番多いと思う」

 

クルル「そうね。何処に行くにも猫の姿になってギャスパーにくっついてたものね」

 

黒歌「ちょっ、それは言わないで」

 

家に迎えてから、黒歌は常にと言っていいほど、ギャスパーと一緒にいた。風呂にも一緒に入ってた(黒歌が押しかけた)くらい。

 

黒歌「今思い出したら恥ずかしいにゃ······」

 

そう言って黒歌は猫の姿になってギャスパーの頭に飛び乗った。黒歌は猫の姿の時はギャスパーの頭に乗っかるのが定位置だったのを思い出す。

 

クルル「······着いたわよ」

 

話に華が咲いているうちに病院に着いたらしい。

 

ヴァーリ「姉さんに最後にお見舞いに行ったのは一月前か······」

 

八幡「はぁ。俺も呼べよ」

 

本当なら最低でも毎週は来たいのだが、忙しくて中々そうも出来ないのだ。

 

ヴァーリ「父さんと母さんはグレモリー領にいただろ」

 

八幡「そういやそうか。やっぱ冥界来てすぐに行くべきだったか」

 

そうこうしていると、病院の受付の女性が話し掛けてきた。

 

「あの、八幡様······動物は······」

 

黒歌「······」

 

黒歌は猫の姿でギャスパーの頭に乗ったままだった。

 

 






八幡が八幡じゃない? 何を今更。

ギャスパーのキャラ崩壊についてですが、

『家族』という精神的支柱を得て、心に余裕が出来た。又、同様に『家族』と離れ離れになり精神的支柱を失ったことで、精神の安定を大きく欠いた。

という話です。

黒歌の元主等の情報が原作で出てたらごめんなさい。


眷属更新

『王』
比企谷 八幡(俺ガイルより)


『女王』
クルル・ツェペシ(終わりのセラフより)


『戦車』
メリオダス(七つの大罪より)
※駒2つ消費


『僧侶』
四条 桃花(魔法戦争より)

黒歌(原作キャラ)


『騎士』
???

???


『兵士』
毛利勝永(常住戦陣!!ムシブギョーより)
※駒2つ消費

三日月・オーガス(機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズより)

美猴(原作キャラ)

???

???


八幡は何かあった時のために、トレードでリアスからギャスパーを引き離せるように駒を一つ予備で持ってます。

八幡の眷属の中で一番扱いが軽いのは美猴。次に軽いのは黒歌。


報告が2つあります。

一つ目は、比企谷家のミドルネームのルシファーを『ルシフェル』に変更します。魔王ルシファーとの差別化のためです。

2つ目は、この作品から作品名のタグを消して、キャラ名のタグに変更します。

例:メリオダスだったら、タグは『七つの大罪』→『メリオダス』という感じです。D×D以外の要素が薄すぎたので、このような措置を取らせていただきます。ご了承ください。




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第34話 お見舞い

 

八幡「······よ、オーフェリア。元気だったか?」

 

黒歌を見えない所で人の姿に戻させてから、俺達はオーフェリアの病室を訪ねた。

 

オーフェリア【父さん久しぶり。母さんとギャスパーも。ヴァーリと黒歌は1ヶ月ぶり】

 

相変わらずの筆談だが、あの頃からは想像もつかないくらいに表情豊かになった。カルナも元気に生活している。

 

ヴァーリ「姉さん、久しぶり」

 

クルル「久しぶりね。オーフェリア」

 

ギャスパー「お久しぶりです。お姉様」

 

黒歌「久しぶりにゃ。オーフェリア」

 

それぞれが挨拶を済ませたところで、病室のドアが勢いよく開いた。

 

カルナ「お母さんただいまー!!」

 

オーフェリア【おかえりなさい。カルナ】

 

カルナはこの病院の近くにある学校に通いつつ、基本毎日ここに来ている。俺がずっと見ててやれないのが悔やまれるが、うちの眷属に代わる代わる迎えに行ってもらっている。

 

三日月「······ダメだよカルナ。病院の中を走っちゃ」

 

今日はミカが当番だ。カルナはすごい明るい性格で、時々突っ走るところが玉に瑕。

 

三日月「あ、八幡達帰ってたんだ。久しぶり」

 

八幡「ああ。久しぶりだなミカ」

 

ミカに返事を返したところで、背中に重みがかかった。

 

カルナ「おじいちゃーん!!」

 

八幡「いきなり危ないぞ?カルナ。後、病院内も走るなよ?」

 

カルナが背中に飛び付いてきた。

 

カルナ「ごめんなさい」

 

八幡「分かったならいいよ」

 

カルナ「あ、おばあちゃんだ!!」

 

俺の背中から飛び降りて、今度はクルルに飛びつく。

 

クルル「久しぶりねカルナ。元気だったかしら?」

 

カルナ「うん!!」

 

カルナはオーフェリアをお母さん、俺をおじいちゃん、クルルをおばあちゃんと呼ぶ。が、若干ややこしいのだが、ヴァーリとギャスパーをヴァーリ兄、ギャスパー兄と呼ぶ。ギャスパーは長らく会っていないので、今までのように接せれるのか少し不安な気もしないでもないが。

 

カルナ「ヴァーリ兄久しぶり!!」

 

ヴァーリ「ああ、久しぶりだなカルナ」

 

ヴァーリには抱きつかないが、ヴァーリに頭を撫でてもらいすごい気持ちよさそうにしている。ヴァーリは俺やクルルが撫でてくれたようにやっていると言うが、クルルは兎も角、俺が撫でるのにそんなに効果があるのか?

 

カルナ「··········もしかして、ギャスパー兄?」

 

凄いな。一発で分かるか。3年ってこのくらいの歳の子にとっては凄い長いと思うんだが。

 

ギャスパー「!!······うん。久しぶりだね。カルナ」

 

カルナ「うわーん!!ギャスパー兄だー!!」

 

そう言ってカルナは涙目になりながらギャスパーに抱き着いた。会えないというのは、やはり寂しいよな。俺達だって寂しいのだ。当時9歳のカルナが寂しくないわけないか。

 

ギャスパー「よしよし。泣かないでカルナ」

 

黒歌「むー·······」

 

カルナ「黒歌姉には渡さないもん!!」

 

黒歌「にゃにゃっ!!!?///」

 

因みに、黒歌のことを黒歌姉と呼ぶ。尚、メリオダスをメリ兄、ミカはミカ。勝永は勝永おじさん、桃花は桃ちゃんと呼ぶ。おじさんと呼ばれた時の勝永の表情が硬直したことには一瞬吹き出しかけた。しかしすぐに持ち直して話しかけていたのは流石だ。アーサーはアーサーさん。ルフェイはルーちゃん。美猴は······なんだっけ?

 

ギャスパー「お、落ち着いてカルナ」アセアセ

 

カルナ「いや!!ギャスパー兄は私の!!」

 

一番歳が近いギャスパーに一番(オーフェリアを除けば)懐いている。どうしたものか·······

 

ギャスパー「か、カルナは可愛い妹だから。ね?」

 

カルナ「······ならいいもん」

 

そう言ってギャスパーから離れるカルナだが、黒歌をジト目で見ていた。

 

黒歌「······大人気ないと言われようが負ける気はないにゃ」

 

カルナ「·······カルナだって負けないもん」

 

2人の間から火花が散っているように見えた。というか、カルナはどこで知ったんだ。メリオダスか?いや、違うか流石に·····

 

黒歌「······ぐぬぬ·····この前来た時ギャスパーに会ったことを喋ったのは間違いだったかにゃ······!」

 

·······お前かよ。何故率先して墓穴を掘るんだ······

 

カルナ「ふんだ」

 

ギャスパー「お、落ち着いて2人とも·····」

 

黒歌・カルナ「「ギャスパー(兄)は黙ってて!!」」

 

ギャスパー「」

 

 

そしてまた何やら言い合いを始める2人。

 

それを微笑ましく見守るオーフェリアとヴァーリ。興味なさそうに木の実を食べ始めたミカ。クスクス笑いながら見ているクルル。俺もこのわちゃわちゃをもう暫く見ていたいとは思うが、ここは病院なのでそろそろ止めに入るか。

 

八幡「······あ〜はいはいそこまで。騒ぎすぎるとオーフェリアの体に障る」

 

カルナ・黒歌「「ごめんなさい(にゃ)······」」

 

八幡「それ以前にここは病院だからな?」

 

カルナ・黒歌「「·······あ」」

 

忘れないでくれ······

 

オーフェリア【私の体なら大丈夫だから気にしないで】

 

ヴァーリ「姉さんはちょっとは気にしてくれ」

 

クルル「全くね。もっと気にしなさい。バチが当たるわけでもないのに」

 

「オーフェリアさーん。検査のお時間ですよー」

 

オーフェリアの検査の時間が来てしまったようだ。

 

 

その後、オーフェリアの検査が終わると、また他愛のない話を楽しみ、カルナが疲れて眠ってしまったのでその場はお開きになった。ミカは、普段は孤児院の警備をしているので孤児院に戻っていった。

 

 

 

 





クルルがおばあちゃんと呼ばれるのに反感をもつ人は多そうですが、原作でも1000歳以上だし、子供が産める体+パートナーがいる、なら孫ぐらい普通にいそうだと思います。


過去編の時系列まとめ

原作12年前:八幡とクルル、オーフェリアとヴァーリを引き取る。カルナ誕生。

原作9年前:ヴァーリが禁手に至る。この頃にはヴァーリは八幡と本格的な修行をしている。

原作7年前:ギャスパーを引き取る。時間はかかるもギャスパーは八幡達を家族として信頼出来るようになる。

原作6年前:ギャスパーが黒歌を拾ってくる。そのままはぐれ認定を取
り消し、黒歌は『僧侶』として八幡の眷属入り。

原作3年前:ある事情により、八幡はギャスパーをサーゼクスに預け る。過去編には書かなかったが、これと同時期(正確にギャスパーをサーゼクスに預ける二日前)にヴァーリは自身を白龍皇として『神を見張る者(グリゴリ)』に売り込んだ(この頃から戦闘狂になり始める。アザゼルの影響)。



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第35話 クルルの笑顔

 

 

八幡「······ここも久しぶりだな」

 

もう領に来てから疲れから何度も出た溜息を漏らす。

 

 

オーフェリアのお見舞いに行った翌日。俺はクルル、ヴァーリとともにうちの領の中心にある孤児院───名を『百夜孤児院』という───に訪れていた。この孤児院には、人間を始めとし、悪魔、堕天使、更にはヴァンパイアや妖怪の子供など、多種多様な種族の孤児が暮らしている。

 

貴族主義や血族を重んじる種族が多いこの世界では、混血の者を『忌み子』と呼んで迫害することが多々ある。ギャスパーもそう呼ばれていた。

 

そんな子共を受け入れるために設立した孤児院だ。当然、純粋な人間の子供などもいる。

 

『聖剣計画』の際にここを襲撃すると脅しをかけてきた奴はガチでぶち殺してやろうと思った。その時は殺さなかったが。······そして何も出来なかった結果、バルパー・ガリレイに逃げられ、殺処分を一人免れた木場 裕斗(当時はイザイヤ)がリアス・グレモリーの眷属になったと聞いた時は安堵し、脅しをかけてきた愚か者をぶっ殺したが。

 

 

······本音を言えば、俺みたいな子が少しでも減って欲しかったというだけの話だ。馬鹿みたいな話だがな。

 

 

 

 

ヴァーリ「······孤児院か。そう言えば、俺は来るのは初めてだな」

 

クルル「そうだっけ? まぁ、だいたい副院長のティアに任せてるけど」

 

ヴァーリは、ここに来たことはない。境遇的にヴァーリに近い子はいるが、引き取った当時、ヴァーリは姉と姪以外の存在を受け入れられなかった。今でこそこうして話しているが、最初は、誰に対しても遠慮か恐怖が先に立って()()()出来るようになったのも、2年近くかかった。仕方ないことではある。

 

 

で、ティアはうちの『騎士』で、古株の眷属だ。眷属になったのは、メリオダスの次だ。『悪魔の(イーヴィル・)(ピース)』をもらった時にクルルが『女王』になり、次にメリオダスが『戦車』になったので、順番では3番目。

 

メリオダス然り、駒を渡しただけだが。

 

 

ヴァーリ「·····副院長······!? あいつが、か?」

 

ヴァーリが驚く。

 

お前は知らんかったのかもしれんが、最初からずっとそうだったぞ?

 

 

八幡「まあ普通なら驚くよ。俺も引き受けた時は驚いた」

 

クルル「そうかしら。ああ見えて以外と面倒見はいいのよ。私は引き受けると最初から思ってたわ」

 

まあ女同士なら分かるってものもあるか······

 

ヴァーリ「······想像がつかない。娘がいるにしても、想像がつかない」

 

そう言って唸り出すヴァーリ。気持ちはよく分かるぞ。今じゃもう慣れたがな。

 

「さて、話を聞いてれば随分といってくれるわね2人とも」

 

声のする方に振り向くと、深い蒼の髪を靡かせるティアがいた。

 

人間態を取っていても、今はそのオーラを隠してはいない。

 

ヴァーリ「······!?」

 

八幡「よ、久しぶり」

 

ティア「久しぶりね。ヴァーリ、覚えておきなさいよ」

 

ヴァーリ「」

 

ヴァーリは言葉を失い、挙動不審になる。まぁ、()()()にこうも言われれば、その立場なら俺も同じリアクションだろうな。

 

 

天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット。(一応)俺の眷属で『騎士』だ。赤蜥蜴のせいで世界中に散らばったアイテムを集めるのを手伝ったら、その流れで『サングィネム』の設立を手伝ってもらって、今に至る。

 

現在はレーティングゲームの真の審判を務める傍ら、孤児院の副院長をしている。

 

因みに、俺よりクルルとの付き合いが長い。比企谷家に来る前のクルルに会ったことがあるらしい。眷属入りした理由にはクルルがいたことも含まれるのだろう。副院長を引き受けた理由にもクルルの要請があるだろう。尚、この孤児院の副院長がティアだと知っているのは、うち以外ではアジュカのみだ。

 

「院長先生だー!!」

 

ティアの後ろから着いてきた子供達はクルルを見掛けて集まってきた。コカビエルの一件の時、クルルは一度こちらに来ている。この孤児院は冥界でも結構有名なので、万が一に備えて警備面の再確認をしたためだ。

 

俺はコカビエルの動向に注視する必要があったため駒王にいたが。

 

クルル「皆落ち着きなさい」

 

「遊ぼー!!」

 

クルル「はいはい、慌てないの。逃げやしないわ」

 

クルルは子供達に引っ張られて、向こうで一緒に遊び始めた。

 

ヴァーリ「······母さん、楽しそうだ」

 

八幡「そりゃな。子供はクルルの欲しかったものの一つだし」

 

クルルは屈託のない笑顔を浮かべている。俺が、クルルにあげられなかったもの······

 

ヴァーリ「ティア、俺は施設を見ておきたいんだが大丈夫か?」

 

ティア「えぇ。終わったら子どもたちの遊び相手もしてきなさい」

 

ヴァーリ「······まぁいいか」

 

ヴァーリが、見学に行ったのを横目に見ながら、ティアは言う。

 

 

ティア「クルルはここができてから更に表情が柔らかくなったわ。······ふと悲しい表情を浮かべることは未だにあるけど」

 

八幡「······あぁ、分かってる」

 

この孤児院は血統主義者、特に悪魔政府の上層部に蔓延する老いぼれが目の敵にしている。それでも手を出さないのは、俺や俺の眷属の報復が怖いからだ。当然、『禍の団(カオス・ブリゲード)』とかがここに手を出したとしたら、そいつらは存在ごと消滅させるつもりだ。

 

 

八幡「······クルル。ごめんな」

 

 

 

 

 

 

クルル「······楽しかったわ。やっぱり子どもって素敵ね。私達と違って、純粋で、見てて癒されるわ」

 

ばいばーいと手を振る子達に手を振り返して、クルルが言う。

 

八幡「見てて気持ちよかったよ。クルルもここに毎日いたいくらいだろ」

 

クルル「そう、ね······毎日は無理でも、週に一回は来れるようにしたいわ。設立したのは私だしね」

 

八幡「······そうか。ならこっちの仕事早いこと終わらせんとな。あ、ヴァーリ、悪いんだが一つ頼んでいいか」

 

そう言うと見学から戻ってきていたヴァーリが呆れたような目を向けてきた。

 

ヴァーリ「······やっとか。もう準備は済んでるぞ」

 

いつから気付いてたんだ、ヴァーリは·····

 

八幡「······マジで」

 

クルル「······何の話よ?」

 

え?何で知ってんの?

 

ヴァーリ「ああ。いつ呼び出すかだけだ」

 

八幡「······そこまでバレてたのか」

 

クルル「呼び出す?」

 

クルルは突然のことに話についていけてない。クルルのためにやるからな。とはいえ本当はもっと先になる予定だったんだが。

 

ヴァーリ「まあ。分かりやすかったしな。父さんが考えてたことなら多少は想像つくからな。いつがいい? あいつならいつでも大丈夫だと思うが」

 

八幡「そうだな······なら2日後だな」

 

ヴァーリ「分かった。2人はあの洞窟で待っててくれ。俺が連れていくから」

 

八幡「ああ······ありがとな」

 

クルル「? ······そうじゃあ」

 

首を傾げるクルルだが、誰も伝えてないのだから当たり前だ。サプライズくらい、させて欲しい。

 

ヴァーリ「じゃあ、俺はそろそろ戻らないと。もう抜けようとは思うが」

 

八幡「ああ。またな」

 

そう言って頭をクシャッと撫でると「ああ」と柔らかな笑みを浮かべて魔法陣でジャンプしていった。

 

クルル「·····ねえ八幡。何の話?」

 

事情を知らないクルルが、懐疑的な目を向けてくる。

 

八幡「サプライズのつもり、だったんだけどバレたし隠す必要ももうないか」

 

クルル「何をするつもり?」

 

八幡「······お前の体から、『毒』を除去出来るかもしれない。大丈夫、俺もヴァーリも危ないことはしてないから」

 

クルル「ッ······どうして? 私は────」

 

目を見開いて驚くクルルの姿に自分を殺したくなる欲求を抑えながら続ける。

八幡「よく辛そうな顔をしてるのは俺だけじゃなく皆知ってる。だからヴァーリが協力してくれた。ヴァーリだけじゃない。皆が協力してくれてるんだ」

 

 

あの戦争で俺を庇った時、入り込んだあの蜥蜴の魔力がクルルの魔力と混ざって変質化し、クルルの体に今でも残っている。クルルはそのせいで幾つかの臓器不全、身体能力の極端な低下、魔力も殆ど練れなくなった。受けた時の傷も傷跡となって未だに治らない。

 

クルルの体はそれに蝕まれていた。今は俺が奪ったアルビオンの力を使い、限界まで毒と化した魔力を減少させることで事なきを得るには得たが、身体能力や魔力は戻らず、傷跡も治らなかった。

 

そして、クルルを最も苦しませているのが、()()()()()()()()()だ。クルルは長いこと塞ぎ込んでいた。なんとか立ち直りはしたが、今でも自分の体がそうであることを悔いている。

 

······俺のせいで。

 

 

 

変質化した蜥蜴の魔力だが、完全に抜き出さないといけなかった。当然、考えつくあらゆる方法を試したが結果はダメだった。

 

 

そして······サプライズという名目で、最後に思い付いたのが、二天龍を上回る龍、即ち『ムゲン』から力を借りるということだった。提案したのはティアだ。ただ、2体が何処にいるかは総力をあげて探しても全く掴めず、『夢幻』は次元の狭間の何処かにいるとは分かったが、ほぼほぼ探しようがない。

『無限』は『夢幻』に負けて次元の狭間を抜け出してから全くの所在不明だった。

そこに降って湧いたかのように『禍の団(カオス・ブリゲード)』というテロ組織のトップが『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』だという情報が入った。尤も、ヴァーリ達と、今ヴァーリ達とは別に旧魔王派に潜入しているうちの眷属の一人のお陰で分かったことなのだが。

 

だから、なんとかオーフィスに接触出来ないかを考えていたのだが、ヴァーリ達が動いていてくれたらしい。親孝行にしては上出来すぎる。本当に、感謝してもしきれない。

 

 

俺は前々から考えていたことを全てクルルに話した。

 

 

 

 

クルル「わ、私······なんとかなるの·····?」

 

クルルは涙を零しながら聞いてきた。

 

八幡「ああ。·······もしかしたら子供も産めるようになるかもしれない」

 

クルルの体に残る魔力によって生殖機能は停止したので、もしかしたら、時間はかかるだろうが回復を見込めるかもしれないのだ。

 

俺が言った瞬間、クルルは飛び込んできた。

 

クルル「わ······私······!」

 

八幡「ああ。よく今まで頑張ったな」

 

クルルを抱き締めそっと撫でる。暫く涙を流し続けた後

 

 

クルル「ありがとね」

 

クルルは涙も拭かずに顔を上げてニッコリ笑った。

 

 

俺も、涙を堪えきれなかった。

 

 





八幡が語ったクルルの体については、プロローグから少し経った頃発覚したことです。又、クルルは、戦闘面では原作通りのイメージで書いてますが、それ以外(プライベートとか)では(終わセラ原作での)クルルの3000年前はこんな感じかな?という想像のもとキャラを書いてます。

※ティアに渡した駒は一つです。
又、ティアの強さは眷属内で5番目になります。


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第36話 『無限』は何を望む

 

 

 

八幡「·······っていうわけだ」

 

「·······なるほど。やっとあの息苦しいところから出れますよ」

 

八幡「·····旧魔王派ってのはそんなに息苦しいのか?」

 

「はい。口を開けば『真の魔王』だの『偽物』だのと。僕も一応純血ではありますが、そこまで興味はありませんので。理解もしようとは思いませんし」

 

八幡「そうか········ヴァーリ達はもう抜ける」

 

「僕も抜けますよ。もういる意味がなくなりましたし」

 

八幡「分かった。お前の眷属は大丈夫か?」

 

「はい。何かあった場合転移出来るネックレスを作っていただきました」

 

八幡「ああ·····あいつに頼んだのか」

 

「はい。しかし彼女は凄いですね。そう言えば、頼まれた物が出来たから送っといたと言っていましたよ」

 

八幡「あいつ、俺に言わずにお前に言ったのかよ。まぁ分かった。報告ご苦労さん」

 

「お言葉には及びませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

『百夜孤児院』を訪ねた翌日。

 

 

俺は眷属の一人に作成を依頼していた物を受け取りに、屋敷にある専用のラボにいた。

 

「おっ、来たね〜」

 

八幡「······出来てるって聞いてな」

 

「ここにあるよ」

 

じゃじゃ〜んなんて言って、被せていた布を思い切り取った。

 

 

「······にしても、堕天使総督も侮れないね〜。これは凄いよ」

 

机の上に置かれていた紙束をバシバシと叩く。

 

俺は、三大勢力の会談の時にミカエルから、アザゼルが堕天した時天界に置いてった神器研究の資料を受け取った。それをこいつに渡して試験的に製造出来ないか頼んでいた。

 

 

八幡「へぇ······お前がそこまで言うとはな」

 

「ちょっと? はーくんは束さんをなんだと思ってんのさ。凄いと思えば、束さんも普通に褒めるよ?」

 

篠ノ之 束。うちの『兵士』だが研究員として眷属入りしており、一応非戦闘員。ただ、美猴よりは確実に強い。そして俺をはーくんと呼ぶ。というか、だいたいのやつにアダ名を付けている。

 

あと、お前はその褒めるのラインが高すぎるんだよ。

 

 

八幡「いやお前自分の頭から螺子が数十本弾け飛んだとか言ってなかったっけ?」

 

束「いや自虐だよ?」

 

八幡「······ああ。それもそうか」

 

自虐だったのか······素で言ってんのかと思ってたわ。

 

束「今の間は!?」

 

八幡「悪い悪い。ちょっと巫山戯ただけだよ」

 

分かってるっつの。冗談だってことは。

 

束「趣味が悪いな~もう」

 

八幡「······にしても、凄いな。設計図よりいい出来じゃねえか?」

 

話を戻すべく、一番手前にあったやたら凝ったデザインの剣を手に取ってみる。

 

束「······話逸らしたね。まいいや。堕天使総督(アザゼル)の資料で不備だった所を束さんの技術で手直ししたから一部資料と違うからねー」

 

八幡「あいよ」

 

にしても、『|閃光と暗黒の龍絶刀《ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・サムライソード》』か。アザゼルのやつネーミングセンスねえな。だから『閃光と暗黒の龍絶剣 総督』とか言われんだろ。

 

ミカエルがこれの資料を渡してきた時は凄かった。笑い転げるのをぎりぎりで我慢してた感じだ。

 

束「はーくんそれどーすんの?」

 

八幡「ん?とりあえず『閃光と暗黒の龍絶刀(コレ)』はアザゼルを弄りつつ、俺が使うかな。昨日渡したあの日本刀の代わりにでもしようかと。それ以外はうちのやつが持っててもしょうがないし······そうだな、ソーナの眷属にでも渡してテスト運用でもしてもらうか。レーティングゲームには流石に間に合わんが」

 

 

束「あー、グレモリー眷属に比べて戦力で劣るもんね。火力に関しちゃ、グレモリー側の運が良かったんだろうけどねぇ」

 

スパッと言うな。まあ間違っちゃいないし。

 

八幡「ああ。セラフォルーにも頼まれたっちゃ頼まれたしな。」

 

束「ふ〜ん」

 

因みに、この資料だが──アザゼルの預かり知らぬことだが──俺以外にも、サーゼクスやセラフォルーにも渡されていたりする。これを受け取った時、サーゼクスとセラフォルーは苦笑いしていた。ミカエルが和平の証の一つとか言っていたが、絶対あいつはアザゼルを弄りたいだけだ。

 

 

 

 

 

束から試作品を受け取った翌日。俺はクルル、ギャスパーと共に、眷属達と打ち合わせに使う洞窟に訪れていた。今はヴァーリが来るのを待っている。

 

クルル「······もう殆ど諦めかけてたのよ」

 

クルルが呟く。遠い目をして、嘆くような声色で。「ギャスパー達がいるのにね、諦められなかった」と堪えるように言って、顔を下げた。

 

 

ギャスパー「お母様·······」

 

クルル「誰にも対処出来なくて、どうしようもないのかなって」

 

八幡「·······でも、最後まで諦めなかっただろ」

 

ギャスパー「そうです!! こうして対処法が見付かったんですよ。お母様が諦めてたらこうはなりませんでした」

 

ギャスパーが言うと、クルルは一瞬だけ驚いたあとギャスパーを抱き締めた。

 

クルル「うん······ありがとう八幡、ギャスパー」

 

ギャスパー「どうってことないです。それに······いいじゃないですか」

 

八幡「······俺からも、ありがとなギャスパー」

 

 

もう完全に諦めていたら、ヴァーリもオーフィスに頼むなんてことはしなかっただろう。ヴァーリはクルルが望まないことなんかしないだろうしな。当然、ヴァーリ以外のヴァーリチームも、うちの眷属達も。それだけクルルへの信頼は厚い。俺以上だ。クルルナシには、俺が存在しなかったしな。

 

だから、クルルが耐えてきたことを側で見続けてきた身としては、頑張ったの一言だ。

 

正直なことを言えば、子供が出来ないクルルのためにオーフェリアやヴァーリ、ギャスパーを引き取ったところもある。それは皆分かっていることで、それでも着いてきてくれてここまでしてくれている。

 

 

 

 

ヴァーリ「······遅くなって悪い。オーフィスを連れてきた」

 

その場に魔法陣が展開し、ヴァーリの声が響く。

 

魔法陣から出てきたのは、ヴァーリとその隣にいる幼女。おそらく、今のオーフィスだろう。

 

オーフィス「·····ハチマン、クルル、久しい」

 

そのオーラは、俺とは比ぶべくもないほどのものだ。一つ間違えば、消し飛ばされかねない。

 

八幡「ああ······久しぶりだな」

 

クルル「そうね。久しぶりね」

 

ギャスパー「こ、この人が、オーフィス······!!」

 

オーフィスと会ったのは戦争が始まる少し前。俺とクルルの魔力を察知して暇つぶしに来たらしい。その時は老人のような風貌だったが、今は小学校上がりたてみたいな幼女の姿だ。こいつからして見れば容姿や性別なんて何の意味も成さない。

 

オーフィス「我を呼び出した·······何故?」

 

首をコテンと傾げながら、オーフィスは言う。

 

八幡「交渉したいんだ、オーフィス」

 

オーフィス「······交渉?」

 

 

八幡「クルルの······クルルの体に入り込んだドラゴンの魔力を取り除いて欲しい」

 

オーフィス「······分かった。我、クルルの中に根付くドライグのオーラを除去出来る。ただし·····」

 

八幡「静寂を得るためにグレートレッドを倒すのに協力する、か?」

 

ヴァーリ達から散々話は聞いてきた。ヴァーリ達が見てきた限りではそれ以外見当たらないらしい。まあ基本的に興味というものが殆どないならそれもそうかと思う。

 

だから、俺達はオーフィスの言葉に驚愕した。

 

 

 

 

 

オーフィス「······違う。それもそうだけど、条件にはならない。ハチマンとクルルでもグレートレッドには勝てない」

 

「「「「······?」」」」

オーフィスの言葉に、俺達は首を傾げる。

 

······俺達がグレートレッドに勝てないことなんか百も承知だが他に何があるのか。次元の狭間の静寂が恋しいのではなかったのか?

 

オーフィス「今の我、次元の狭間に帰れない。我、居場所がない。次元の狭間に帰れないなら静寂を得ることは不可能」

 

······なるほど。そう考えたのか。なら何を望まれるのか。俺には想像がつかない。ノスタルジーに引き摺られているのかと、俺は思っていたが······

 

オーフィス「我、居場所を望む。ヴァーリ、さっき仲間と『禍の団』を抜けた。我、ヴァーリと話して今まで孤独だったことを知った。ヴァーリ······我の話し相手。ヴァーリがいなくなればまた孤独に戻る。我、もう孤独に戻りたくない」

 

ヴァーリ「オー、フィス······」

 

こいつが望むのは孤独を抜け出すことか······

 

ウチにも人間に感化されて昔よりかなり柔和になったやつがいるが、それに近い······のか?

 

ヴァーリ「オーフィス」

 

オーフィス「何?」

 

ヴァーリが、一歩前に出る。

 

ヴァーリ「話し相手くらいいくらでもする。だから、頼む。力を貸してくれ」

 

オーフィス「······母さん? 母親?」

 

オーフィスがクルルを指差して言う。

 

ヴァーリ「ああ、母さんだ。だから頼む」

 

八幡「オーフィス、頼む」

 

ギャスパー「お、お願いします!!」

 

俺達は頭を下げる。

 

······はぁ。ヴァーリに任せっぱなしだなぁ······俺。

 

 

オーフィスは俺達を見て十秒程黙ったあと───

 

オーフィス「·······分かった」

 

と一言だけ言った後、クルルの胸に右手を翳した。すると、数秒間クルルの体とオーフィスの右手がぼんやりと光った。

 

オーフィス「終わった」

 

すぐその光は消えた。オーフィスが手を下ろすと同時にヴァーリが尋ねた。オーフィスはそれに答えた。

 

ヴァーリ「もう、終わったのか······?」

 

オーフィス「ん。ついでに、体内で傷付いてた部分も治した」

 

 

───嬉しすぎる予想外の答えとともに。

 

 

クルル「本当に······?」

 

オーフィス「······我嘘つかない。信用出来ないなら、自分で確かめるといい」

 

八幡「······ありがとうオーフィス。どう礼をしたらいいか分からないくらいだ」

 

クルルは、生殖機能の停止と、一部の臓器が部分的に不全になっていた。それも治ったということだ。どう礼をしろというのか分からない。

 

それくらい俺達には嬉しかった。

 

オーフィス「礼は我の居場所がいい」

 

そして、オーフィスは最初に言ったように、居場所を望んだ。

 

 

クルル「ありがとうオーフィス、ヴァーリ。八幡とギャスパーも」

 

クルルは嬉し涙を流しながら言った。

 

クルル「ねえオーフィス」

 

オーフィス「······?」

 

クルル「家に来る?」

 

お礼としてオーフィスの新たな居場所への誘いを。

 

オーフィス「······クルルの家?」

 

クルル「そうよ。そして、その家はヴァーリの家でもあるわ」

 

オーフィス「······なら我、クルルの家に行く。断る理由ない」

 

クルル「そう。ようこそオーフィス」

 

そして、俺達は魔法陣で家まで転移しようとしたが、

 

ヴァーリ「······どうしたオーフィス?」

 

ヴァーリが不思議そうにオーフィスに尋ねた。見ると、オーフィスはヴァーリの服の袖をちょこんと摘んでいた。

 

オーフィス「······とりあえず、我、ヴァーリを居場所にする」

 

ヴァーリ「そ、そうか······」

 

八幡「オーフィス、転移するが大丈夫か?」

 

オーフィス「問題ない」

 

 

 

 

そう言って俺達はオーフィスを連れて家まで転移した。冥界にあるうちの屋敷だ。ヴァーリ達も『禍の団』を抜けたのなら暫くはゆっくりしていたいだろうし、ここにはティア以外にもドラゴンがいるので大丈夫だろう。

······あいつにも伝えとくか。

 

オーフィス「······ここがクルルやヴァーリの家?」

 

クルル「そうね。ここ以外にもあるけど」

 

八幡「そう言えば、オーフィスの部屋はどうする? 部屋ならかなり余ってるから、好きに使ってくれて構わないが」

 

流石に寝る場所(睡眠が必要なのか分からないが)とか部屋の一つも必要だろう。

それ以外にも、何かしら望むだろうし。

 

オーフィス「部屋······なら、我、ヴァーリと一緒の部屋でいい」

 

返ってきた答えから、ヴァーリは相当オーフィスに好かれていることが分かった。息子がそこまでオーフィスに懐かれてるとは······喜んだ方がいい、のか?

 

ヴァーリ「······え?」

 

八幡「······随分オーフィスに好かれたなヴァーリ」

 

ヴァーリ「そ、そうなのか······?」

 

ヴァーリにとっても想像の斜め上を突っ込まれたらしく、らしくなく混乱していた。

 

オーフィス「我、ヴァーリが好き?」

 

八幡「······さあな。自分で好きだと思うんならそれは好きってことでいいんだと思うぞ」

 

オーフィス「? ······なら、我、ヴァーリ好き?」

 

どうやら、グレートレッドに追い出されるまでずっと次元の狭間で、静寂の中にいたオーフィスには分からないようだ。

 

八幡「俺にはオーフィスがヴァーリをどう捉えるかなんて分からないが······ゆっくり考えればいいだろ。お前は『無限』。ヴァーリは『有限』ではあるが、悪魔とのハーフだ。時間ならあるだろ」

 

オーフィス「ん······我そうする」

 

そうして、オーフィスが家に住むことになった。

 

 

その翌日、クルルの体からドラゴンの魔力が完全に取り除かれたことで、体の全ての機能、つまり生殖機能が完全に回復させられることが明らかになった。抱き合って、泣いて喜んだ。

 

 

 

 

 

又、俺の眷属になっているティアともう一人(・・・・)(人ではないが)のドラゴンを見てオーフィスが無表情で驚いたのと、その2人がオーフィスを見て過去に例がないほど驚いたのは別の話だ。

 

 

 

 

オーフィス「······神格?」

ヴァーリ「オーフィス、どうかしたか?」

 

オーフィス「気のせい?······なんでもない」

 

ヴァーリ「?······そうか」

 

 

───そして、オーフィスが感じた感覚の正体が明らかになるのはまだ暫く先の話だ。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

オマケ

 

八幡「·······そういやオーフィス」

 

オーフィス「?」

 

八幡「何でお前『禍の団』なんかに手を貸したんだ?」

 

オーフィス「······グレートレッドを倒すの、手伝ってくれるって言った」

 

八幡「グレートレッドに勝算がある奴がいたのか?」

 

オーフィス「··········いない。クルルやハチマンの方がまだマシ」

 

八幡「ならこれからどうするんだ?」

 

オーフィス「ん······我、『禍の団』抜ける。あそこ、もう利用価値ない」

 

 




この話、本作を書き出した時から1、2を争うくらい書きたかった話です(最初考えてたのとは若干違う感じになったけど)。

オーフィスは原作より若干物分りがよくなってます。知識はないけど頭の回転は早い。みたいな。



八幡の眷属更新

『王』
比企谷八幡(俺ガイルより)


『女王』
クルル・ツェペシ(終わりのセラフより)


『戦車』
メリオダス(七つの大罪より)
※駒2つ消費


『騎士』
ティアマット(原作キャラ)

???(原作キャラ)


『僧侶』
四条 桃花(魔法戦争より)

黒歌(原作キャラ)


『兵士』
毛利勝永(ムシブギョーより)
※駒2つ消費

三日月・オーガス(機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズより)

篠ノ之 束(IS〈インフィニット・ストラトス〉より)

美猴(原作キャラ)

???(原作キャラ)



八幡のもう一人の『騎士』はある程度想像ついてる人もいるかと。

『兵士』の最後の一人は、八幡の眷属で一番の新入り。原作キャラだけど、今作では原作とは別人と化してるかも(まだ話書いてない)。




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第37話 愚者の末路

まだ2学期には入っていません。



 

 

 

 

八幡「······準備は?」

 

「······問題ない」

 

俺が今いるのは次元の狭間。それも『禍の団(カオス・ブリゲード)』旧魔王派の本部(派閥毎に少しずつ本拠地の場所が違う)のほど近くだ。

 

 

先日、オーフィスが『禍の団』から脱退したことを受けて、俺達は予定より早く『禍の団』旧魔王派の壊滅に踏み切った。

 

······(トップ)が離脱しても組織としてさしたるダメージを見受けられなかったため、オーフィスは本当に(マジの)お飾りだったのだろう。

 

 

八幡「······戦力は俺とお前。後は潜入中のあいつだけだ。問題ないだろ?」

 

今回、ヴァーリチームは参加しない。元『禍の団』がまたここに来るのは危険だからだ。それにヴァーリが来れば多分オーフィスが付いてくる。おかしな事態への突入待ったなしだ。

後、クルルは力が戻ったが、突然戻ったことにより少し制御が効きにくくなっている。ふとしたことで体のリミッターが外れる可能性も否めないので、暫くは安静にしていなければならないだろう。

 

「あぁ。俺達だけでも十分すぎるだろう。向こうにもいることだしな」

 

八幡「そうだな。頼むぞ───クロウ」

 

隣に立つ、ヘテロクロミアの男に言う。

 

クロウ「分かっている」

 

 

 

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ。一応、うちのもう一人の『騎士』。

 

 

二千年と少し前。トゥアハ・デ・ダナンとフォモール族の内紛で疲弊しきったケルト神話は、キリスト教の介入を受けた。フォモールの長の臣下であったクロウも、例に漏れず巻き込まれた。

 

その後、クロウはケルトの領土を離脱したもののキリスト教の介入を煩わしく感じて、人間界、冥界問わず修行と見聞を兼ねて回っていた。その際、俺達と出会った。

 

その時、偶々ティアが一緒にいたため、ティアと一緒にいた俺に興味を持ったらしく、俺に戦いを要求してきた。一週間にも及ぶ長時間の戦闘の末、なんとか俺が勝利した。その際、俺の力を認めたらしく、ティアが眷属になったことにも納得がいったようで、俺に眷属にしろと言ってきた。

断る理由もなかったし、俺としても修行の相手が増えると感じたので『騎士』の駒を渡した。尚、『騎士』の駒はクロウに渡した瞬間に『変異の駒(ミューテーション・ピース)』に変異した。

 

 

因みに、うちの領が未来都市なんて言われる理由の一端は、こいつと開発した魔法による。空中に巨大な建造物が浮遊出来るほどの魔法である。尚、当たり前のことだがこの魔法は既に殆ど俺とクロウの制御下から離れており、俺とクロウが死んでも解除されないようになっている。

 

 

八幡「───旧魔王のトップ2人は最上階にいるらしい」

 

クロウ「そこまでどうやって行く?」

 

八幡「正面突破。ただし、途中の奴は出来るだけ殺さないでくれ」

 

情報は、少しでも多い方がいい。それに、数は多い方が擦り合わせた情報の信頼度が増す。

 

 

クロウ「······まぁ、妥当だな」

 

八幡「頼むぞ。殺したら無駄に敵増やしかねない」

 

悪魔勢力において、『禍の団』には参加していないがものの魔王派の理念に賛同している悪魔は意外と多い。それの殆どが上層部の老害や貴族主義や血統主義の上級悪魔だ。

 

この時期に政敵なんて増やしたら、こっちが疲れるだけだ。

 

クロウ「·······分かった。今の指揮官はお前だからな」

 

八幡「そうか。なら、行くぞ!!」

俺達2人は、『無』の影響を受けないように張られた結界に侵入する。

 

八幡「······こっから先、俺達は二手に分かれよう。」

 

クロウ「了解した」

 

俺達は二手に分かれると、それぞれ旧魔王派のアジトに侵入した。

 

 

 

 

 

「侵入者だー!!」

 

「たった1人で来ただと!? この精鋭が!!」

 

「あいつ······『堕天魔』だ······!!」

 

「何ですって!?」

 

侵入した俺に向かって飛んでくる多数の光線や魔力弾。それを魔法陣で軽く防ぎながら魔法で反撃する。

 

八幡「残念だが、ここまでだ」

 

大出力の魔法で下っ端共を薙ぎ倒しながら、転移魔法の陣を開く。目標座標───『地獄の最下層(コキュートス)』。

 

「なっ······!?」

 

ハーデスからは『地獄の最下層』に放り込む許可なら取ってある。さっきからわらわら出て来る旧魔王派の構成員を、薙ぎ倒しつつ片っ端から『地獄の最下層』に放り込んでいる。

 

 

八幡『······あ〜、聞こえるか?』

 

旧魔王派に潜入している(ヴァーリが心配で黒歌達とは別で俺が頼み込んだ)あいつに連絡を取る。攻敵からの攻撃も止むことなく続いているが、この程度で破れるほどヤワではない。

 

『はい。八幡殿ともう一人······クロウ殿が侵入した報告もこちらまで来ていますよ。クロウ殿の正体はバレてはいませんが、こっちは大慌てです。僕が八幡殿と連絡していることにも誰も気付きもしてません』

 

八幡『分かった。俺は今は建物の真ん中くらいだ。お前どこ?』

 

『今は最上階の一つ下の階にいます』

 

ここは確か9階建てだから······俺が4階、あいつが8階か。

 

八幡「そうか。俺とクロウももう少しでそこまで行ける。で、シャルパ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスは未だに最上階でふんぞり返ってんのか?」

 

『いえ、流石に危機感を感じたようで何人か引き連れて下の階に向かいましたよ』

 

······こっちに来てくれるなら好都合だな。

 

八幡『分かった。ひとまず俺と合流してくれ』

 

『了解しました』

 

 

 

「貴様!!戦闘中に会話など!!」

 

八幡「五月蝿い」

 

何か言ってきた構成員の一人を、裏拳で床に叩き付けてから、『地獄の最下層』に転移させる。

 

八幡「全員、『地獄の最下層』に墜ちろ」

「『地獄の最下層』だと!?」

 

「まずい!! 逃げろ!!」

 

旧魔王派の戦闘員共は撤退を図ったが······

 

八幡「遅ぇよ」

 

逃げようとした奴が片っ端から床に現れた魔法陣から出てきた、光る鎖に拘束される。

 

 

────『魔の鎖(グレイプニル)』。北欧神話に登場する、ラグナロクまで神喰狼(フェンリル)を縛り続ける鎖。大昔、ドルイドにもらった切れ端を改良に改良を重ねたものだ。北欧神話が保管している本物よりも遥かに高性能だろうな。

 

 

「なっ!? 何だこの鎖は!!」

 

八幡「そのくらい、自分で考えろよ」

 

「グッ······!?」

 

『魔の鎖』に拘束された奴らを転移させる。拘束する者が転移した『魔の鎖』は近くにいる奴を拘束し始める。俺はそいつらをどんどん『地獄の最下層』に転移させた。

 

 

 

「······流石、早いですね。ここは数百人はいたと思いますが」

 

八幡「·····ん?ああ、『魔の鎖』で縛って『地獄の最下層』へ放り込むだけだからな」

 

『魔の鎖』を使ってからは2分もかからなったしな。まぁ下っ端相手ならこんなもんだろ。最上級クラスくらいはいると思ってたが。

 

 

八幡「悪かったな。こんなおかしな組織に入ってくれなんて頼んで」

 

「お気になさらないで下さい。僕と眷属一同の命を救ってくれたことに比べれば大したことではありません」

 

八幡「そう言ってくれると助かるわ······サンキューな、ディオドラ」

 

ディオドラ「礼には及びませんよ」

 

ディオドラ・アスタロト。うちの『兵士』で一番の新入りだ。2年前、SS級はぐれ悪魔に眷属と共に襲われ、危機に瀕していたところを偶然助けた。

 

今の強さは眷属の中では一番下だが、それでもグレイフィアあたりとまともにやり合うくらいの強さはある。桃花とメリオダスによる修行(という名の地獄)を眷属と共に乗り越えて、驚異的な成長を見せている。

有力な若手悪魔の6人のうちの1人となっているが、とうに若手の枠から逸脱するくらいの強さはある。

 

それに、ウチ以外でディオドラが俺の眷属だと知っているのはアジュカだけだ。

 

 

八幡「······っと、敵の大将のお出ましだ」

 

「······ディオドラ・アスタロト。貴様そこで何をやっているか」

 

階段から降りてきたのは、魔王のみが着ることを許された服を着る、橙色の髪の男。

 

ディオドラ「主と合流しただけですよ。問題がおありで?」

 

 

シャルバ・ベルゼブブ。旧魔王派のリーダーの1人で、カテレア・レヴィアタン、クルゼレイ・アスモデウスと共に旧魔王派を仕切っている。真の魔王を名乗るだけあって実力者であることは確かなんだろうが、俺はディオドラ未満だと思う。なんたってオーフィスの『蛇』でドーピングしてるだけだし。

 

シャルバ「主·····『堕天魔』だと!? 貴様、裏切ったのか!!」

 

ディオドラ「物騒なこと言わないで下さいシャルバ。せめて騙していたと言って欲しいですね」

 

八幡「旧魔王派もここまでだったな。シャルバ・ベルゼブブ」

 

俺達がおちょくると、高潔なプライドとやらをもつシャルバ・ベルゼブブは、すぐに乗った。

 

シャルバ「貴様舐めた口を叩いたことを後悔するがいい!!」

 

そう言ってシャルバは『∞』が描かれた魔法陣を展開し、俺達に攻撃してきた。巨大な魔力弾、上級悪魔くらいじゃガードも許されず一瞬で消し飛ぶだろうな。

 

シャルバ「なっ······!?」

 

だが、その攻撃は緑色のアスタロトの魔法陣によって容易く防がれた。

 

 

ディオドラ「八幡殿。僕がやってもいいですか?」

 

八幡「いいぞ。ただし殺すなよ?『地獄の最下層』に堕としてコカビエルの横で永久冷凍する手筈になってんだからな」

 

シャルバとクルゼレイは『地獄の最下層』で永久冷凍する手筈になっている。何度も言うが、ちゃんとハーデスから許可を取っている。

 

ハーデスが、よく俺と話す気になったと思うが。向こうも、何らかの企みがあるのは間違いないが、今は泳がしておくしかないか。今何か言っても、証拠はないし、こっちがアホみたいに騒いでいるようにしか見えないだろうし。

 

ディオドラ「何気にエグいですね」

 

八幡「うっせ」

 

ディオドラ「まあそんなことは置いといて······シャルバ、僕の実力を高めるための礎となってくれ」

 

シャルバ「何だと······!?」

 

八幡「うわー······」

 

こいつ澄まし顔で言いやがった。お前エグいとか人のこと言えないだろ。

 

ディオドラ「なんですかうわーって」

 

と、シャルバの魔力が高まるのを感知して、視線を戻す。

 

シャルバ「覚悟しろディオドラッ!! 先程は加減したが······このオーフィスの『蛇』で強化されたこの私の力、存分に思い知れ!!」

 

そう言って、先程より更に高い威力の魔力弾を放ってきたシャルバ。だがまぁ、()()()()じゃな。

 

 

シャルバ「何·····だと······!?」

 

シャルバの攻撃をまたもや容易く防ぐディオドラを見て、愕然とした表情を浮かべるシャルバ。今の攻撃にそこまでの自信があったのか。

 

まぁ、シャルバがこの程度の実力じゃあ反政府勢力のクーデターに、あっという間に国を乗っ取られた旧魔王共もたかが知れてるな。

 

ディオドラ「オーフィスの力を使ってこれですか?」

 

シャルバ「貴様も『蛇』を使った筈だ!!」

 

ディオドラ「まさか。ここにいる手前、貰いはしたがすぐにオーフィスに返したよ。必要ないからね」

 

ディオドラの返答を聞いて、驚愕するシャルバ。ディオドラの魔力を見れば一発で分かるだろうに。

 

シャルバ「なっ······!!」

 

ディオドラ「シャルバ、棒立ちだよ?」

 

そう言って多数の魔法陣を出現した。そこからは先程のシャルバの攻撃を遥かに上回る威力の魔力弾が無数に放たれた。

 

シャルバ「グッ······ぐぁぁぁぁっ!!?」

 

魔力弾はシャルバの防御をあっさりと突き破り、シャルバの手や足を穿つ。おいおい、殺すなって言ったろ。

 

シャルバ「が······は······」

魔力弾を受け、シャルバの体は幾つもの穴が空いた。俺は『魔の鎖』でシャルバを拘束する。そこに、別行動していたクロウが、体中傷だらけのクルゼレイ・アスモデウスを『魔の鎖』で拘束して連れてきた。

 

『魔の鎖』は分割して複数人で別々に動かすことも可能で、現在、うちの眷属全員と、クルル、ヴァーリ、ギャスパー、アーサーに分割した物をそれぞれ渡している。ギャスパーは最近扱えるようになったばかりで、目下練習中だ。今だと2、3人を一度に拘束出来るくらいか。

 

クルゼレイ「······くっ······忌み子が······」

 

八幡「その忌み子に負けたのは誰だよ。お前ら魔王サマの血統がそんなに偉いのか」

 

俺は、自分に流れる血を誇りに思っている。特にお袋は、他所から見れば到底褒められた人物ではなかったし、お袋よりいい母親など探せばいくらでも見つかるだろうが、それでも、俺からしたら唯一人の"母親”だからな。親父もそうだ。

 

忌み子上等だ。それがこいつらの敗因だからな。

 

八幡「······さて、シャルバ・ベルゼブブ、クルゼレイ・アスモデウス。お前らが俺に何かしたわけではないが、これもお前らの運命だ。諦めろ」

 

クルゼレイ「貴様······今すぐ、滅ぼして······」

 

シャルバ「貴······さ、ま」

 

八幡「無理だな」

 

クルゼレイ「ガッ!?」

 

舐めた口を叩いたクルゼレイの背中を思い切り踏み付ける。おっと、床に罅が入っちまった。

 

八幡「······じゃあ『地獄の最下層』まで行ってくるわ。2人とももう戻ってていいぞ」

 

クロウ「·····ああ」

 

ディオドラ「お疲れ様です」

 

 

 

 

 

ハーデスに一言連絡を入れて、俺はシャルバとクルゼレイを『魔の鎖』で拘束したまま『地獄の最下層』に空間を切り裂いて転移してきた。

 

クルゼレイ「······コカビエル」

 

拘束されているクルゼレイが目の前にいる氷の中にいるコカビエルを見て言う。シャルバはディオドラの攻撃がクリーンヒットしたらしく、喋ることもままならないようだ。

 

八幡「そ。じゃあな、旧魔王」

 

クルゼレイ「や、やめ······」

 

『魔の鎖』を回収して、シャルバとクルゼレイを、念には念を入れて、三重に魔法の氷に閉じ込めた。内側から抜け出すことなんて出来やしないだろう。

 

八幡「ふう······」

 

一息ついて、俺は転移した。

 

 

 

 

 

八幡「·····っと、着いたか」

 

俺が転移したのは、人間界の自宅でも、うちの領でもない。

 

タンニーン「······何事だ?八幡よ」

 

俺が転移したのはタンニーンの領地。それもタンニーンの巣の近くだ。タンニーンが留守でなくて助かった。

 

八幡「ようタンニーン。この前ぶりだな」

 

この前ぶりというのは、ロキのせいで中止になっていた若手悪魔の交流会が再度開かれたのだ。ギャスパーとディオドラは参加していた。タンニーンには会場まで送ってもらい、俺も一応参加したがソーナの夢が笑われた時に

 

『お前ら老いぼれ共が無駄にのさばるから、悪魔が衰退してることにも分からないのか。ソーナの夢の実現に困難が付き纏うことは確かだが、ソーナの夢を笑う前に自分の足元見てみたらどうだ?』

と言ってやった。上層部の老いぼれ共の顔は出来るだけ見たくなくてイライラしていたのだ。レーティングゲームでも平然と不正を働いているし。ティアがしょっちゅう愚痴を漏らすんだよ。

 

 

 

話が逸れたが、俺に、タンニーンへ一つ頼み事があるため足を運んだ。

 

八幡「······タンニーンに頼みたいことがあってな」

 

タンニーン「いいだろう。俺で出来ることならな」

 

八幡「ああ────

 

 

 

 

 

──────というわけだ」

 

タンニーン「······お前やはり自分で厄介事を招き入れているのではないか?」

 

八幡「うっせ。悲しいことに自覚あるわ。それで、頼めるか? 見返りなら、相応の物を用意するよ」

 

俺が頼みたいことは、オーフィスについてだ。オーフィスが『禍の団』を抜けたことは対外的にはまだ知られていないので、もしウチにいることがバレたら大問題だ。なので、タンニーンの親戚の「フィース」というドラゴンがうちに遊びに来ている。といった具合に口裏を合わせて欲しいということだ。

 

タンニーン「······まあよいだろう。それに、サングィネムとの共同研究で龍種の食べ物も随分品種改良が進んだからな。見返りもいらんよ」

 

なんてことはないという表情でタンニーンは言う。

 

タンニーン······なんて良いやつなんだ。

 

八幡「ああ。悪いな」

 

タンニーン「分かった。ではな」

 

八幡「ああ。またな」

 

その後、俺は冥界の屋敷に戻った。が、まさかオーフィスの食い意地があんなに張ってるとは思わなかった。

 

 







クルゼレイさんボコされるところ全てカット。瞬殺だったから必要ないけど、是非もないよネ。



八幡の眷属最後の更新


『王』
比企谷 八幡(俺ガイルより)


『女王』
クルル・ツェペシ(終わりのセラフより)


『戦車』
メリオダス(七つの大罪より)
※駒2つ消費


『騎士』
天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマット

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)クロウ・クルワッハ
※変異の駒


『僧侶』
四条 桃花(魔法戦争より)

黒歌


『兵士』
毛利 勝永(ムシブギョーより)
※駒2つ消費

篠ノ之 束(IS〈インフィニット・ストラトス〉より)

三日月・オーガス(機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズより)

美猴

ディオドラ・アスタロト
※ディオドラ自身も『王』で眷属持ち


八幡の眷属はこれで全員となります。話の展開で増えることはあるかもしれませんが。



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第38話 テロ対策チーム『D×D』

何やら雲行きが怪しくなってきた·········



 

八幡「······さて、ヴァーリチームとディオドラが『禍の団(カオス・ブリゲード)』を無事抜けたわけだ」

 

俺達は冥界の屋敷に集まっている。ここにいるのは、俺の眷属全員とヴァーリチームだ。オーフィスは寝てる。

 

ヴァーリ「······それでどうするんだ? まさかこのまま何もしないわけないだろ」

 

八幡「まあな。·······っと本題に行こう」

 

その言葉に全員が頷く。

 

八幡「ここにいるメンバーで、テロ対策チームを組織したい」

 

俺の提案に、全員が呼ばれた理由に納得したような表情をする。

 

クルル「『禍の団』というテロ組織の台頭。それに伴うテロ活動の活発化。それに対する対抗勢力······ということよ」

 

八幡「ああ······だが、10数人じゃ磨り潰されるのがオチだ。そこでだ」

 

ここにいるのはたった16人。いくら俺が二天龍の力を持ってようが、邪龍だの龍王だのがいようが、数千、数万の敵勢力の数の暴力には勝てない。持久戦になればなるほど、ウチは不利になる。

 

一応、他にもエージェントがいるが、それでも少数であることは変わらない。

 

八幡「ここにいる一部の奴には、方々に散ってもらって、各勢力に俺達の説明、協力か、最悪俺達にも『禍の団(カオス・ブリゲード)』にも不干渉であるよう取り付けて欲しい」

 

黒歌「はいはいしつも〜ん」

 

黒歌がご丁寧に挙手までして質問してくる。

 

八幡「何だ」

 

黒歌「同盟を組むのはいいとして、何処と組むの?」

 

まあ妥当な質問だな。まあもう第一候補は決まっている。

 

八幡「先ずは、北欧神話。それと、美猴」

 

美猴「何だよぅ······? 嫌な予感しかしねぇ」

 

八幡「須弥山······最悪、初代闘戦勝仏だけでもいいから説得してくれ」

 

美猴「·······マジかい」

 

初代闘戦勝仏だけでも相当心強い。美猴本人は初代が苦手らしいが、俺が行くよりかは話は早く進む筈だ。

 

桃花「三竦みではないんですか?」

 

八幡「ああ。三竦みは非協力的な奴も他より多いだろうしな」

 

桃花「そうですか」

 

しかもそれぞれの勢力·····特に天使勢と悪魔勢で古い考えの古参の奴らは、絶対に協力しないだろうしな。俺は色々な所から恨みを買っているし。

 

八幡「······ああ言い忘れてた。俺達の現段階の最大の討伐対象は『禍の団』の派閥の一つ、まだ主だった活動を見せていない『クリフォト』だ」

 

その言葉でヴァーリの顔が険しくなる。

 

クルル「大丈夫?ヴァーリ」

 

ヴァーリ「あ、ああ······」

 

八幡「ならいいが無理だけはしてくれるなよ」

 

ヴァーリには、こんなところで潰れて欲しくない。事情を知りすぎているだけに、強く言えないのが辛いところだが······

 

ヴァーリ「······分かっている」

 

八幡「これからについてだが、ディオドラはまだ暫くは"普通の”若手悪魔として活動してくれ。貴族主義者で不穏な動きがあった時、お前が一番察知しやすい」

 

アスタロト家として活動するなら、こういうことは察知しやすい。独自の情報網はあるにはあるが、一番安全だ。

 

ディオドラ「分かりました」

 

八幡「クロウ、勝永、ヴァーリはオーフィスとここで待機を。クロウは領に何かあった時に。ヴァーリは一番オーフィスに懐かれてるからだな、目を離さないでくれ」

 

クロウ「ああ」

 

勝永「承知しました」

 

ヴァーリ「······分かった」

 

八幡「ティアとミカは今まで通り孤児院の方を頼むぞ」

 

ミカ「うん」

 

ティア「分かったわ」

 

八幡「クルルとギャスパーはまだ学園にいてくれ。現段階で、人間界でテロに狙われる可能性が一番高い」

 

三竦みの首脳陣が出入りする場所だ。俺がテロリストなら、忍び込まないわけがない。

 

クルル「分かったわ」

 

ギャスパー「分かりました。いざと言う時は待機の人に連絡した方がいいですか?」

 

八幡「ああ、その意味も含めて学園にいてくれ。メリオダスと桃花は、明日から俺と北欧に行くぞ。オーディンと話をつけに行く」

 

本当なら俺一人で行ければいいのだが、名目的にも護衛すら付けずに行けば、俺の、ひいては他のやつらの意識を疑われかねない。

 

メリオダス「オーケー」

 

桃花「分かりました」

 

八幡「じゃあ今日のところはここまでだ。集まってくれてありがとな」

 

クルル「八幡、チームの名前はどうするのよ。あった方がしまりがいいわ」

 

八幡「そうだな·······なら『D×D』なんてのはどうだ?」

 

適当に考えた名前だが······まぁその場じゃこんなもんだろ。対外的にはDragon×Downfall、実際の意味合いはDestruction×Devastationで。俺も随分短絡的な発想だな。

 

勝永「いいのではないでしょうか」

 

八幡「よし······これより、俺達はテロ対策チーム『D×D』。殲滅対象はテロ組織『禍の団』だ」

 

 

そして、チーム『D×D』が発足。

 

 

『禍の団』との戦闘は過激化の一途を辿る。

 

 




原作より圧倒的に発足が早いです。尚、リーダーは八幡です。

今作はここまでアニメ基準でやってきたので、7巻があってからの5巻の真ん中くらいです。

念のためタグにストーリー改変のタグを付けてあります。


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第39話 2学期開始。同盟成立。

今回も短いですよー。



 

 

 

イッセーside

 

 

 

 

どうも皆さんお久しぶりです。赤龍帝、兵藤 一誠です。久しぶりにこんな感じで回ってきました。

 

 

 

イッセー「······そう言えば部長、会長とのレーティングゲームっていつなんですか?」

 

2学期も始まってもう数日。俺が部長に尋ねたのは、北欧神話のロキっていう悪い神の襲来によって予定が大幅に遅れた有力な若手悪魔6人のレーティングゲームだ。

 

───そして、初戦は部長VS会長という同じ駒王学園の生徒同士となった。

 

 

リアス「ええ。一週間後よ」

 

イッセー「思ったより早いですね」

 

正直、まだ先の話だと思っていた。

 

ロキの襲来もそうだけど、そもそも、未成年の悪魔は、()()()レーティング・ゲームには出場出来ないから、特例措置の今回は有耶無耶になってもおかしくなかった。

 

リアス「ロキの襲来で大幅に予定変更せざるを得なくなってしまったものね」

 

イッセー「そうですね」

 

······会長達とやるんだ。俺も頑張らないと!!

 

俺の相手は······きっと、匙だろうな。

 

 

だけど、それとは別に、オカ研全員(アザゼル先生も含めて)気になっていることがあった。

 

アザゼル「······おいクルル。八幡はどうした? まだ一回も顔見せてないが、まさか体調不良なんてわけじゃねえよな?」

 

そう、八幡がまだ一度も学園に来ていない。木場が八幡と同じクラスらしいのだが、新学期始まってからずっと欠席しているとのこと。当然、俺達もグレモリー領を後にしてから一度も会っていない。この場で知っていそうなクルルさんやギャスパーに聞いても軽く濁されてしまっていた。

 

クルル「今更夏バテになるほど八幡は弱くないわよ」

 

ギャスパー「想像出来ないですね」

 

クルルさんは朱乃さんが淹れた紅茶を口に含みながら言った。ギャスパーはそれに同調する。なら他にどんな理由が?

 

クルル「まあ言ってもいいかしら······」

 

ギャスパー「あ、場所だけなら言ってもいいってお父様言ってましたよ。どうせ分かることだって」

 

場所だけならという言葉に、俺達は引っ掛かりを覚える。

 

クルル「そうなの。八幡は今、ヴァルハラ······オーディンに会いに行ったわ」

 

いきなりのカミングアウトに俺達は······

 

「「「「「「はぁぁぁぁぁあ!!!?」」」」」」

 

声を上げるしかなかった。

 

 

 

クルル「まあ、レーティングゲームやる頃には戻って来るんじゃない?」

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

 

八幡「······ようオーディン。久しぶりだな」

 

俺はメリオダス、桃花を連れてヴァルハラに来ていた。無論、来た理由はチーム『D×D』を発足させたはいいが、戦力(というか人手)が少なすぎるからだ。

 

そこで、ロキの一件で俺と関係があり、且つこちらに協力的な、北欧神話を最初に味方に付けようと考えた。

 

大抵の物は用意出来るが、あまり変な見返りを要求されたらどうしたものかねぇ······

 

 

 

秘密会談の場には、俺達と、オーディンとそのお付きのヴァルキリー───ロスヴァイセがいる。

 

オーディン「そうじゃの。『堕天魔』の小僧······いや、ルシフェルの息子とでも言えばよいか?」

 

ロスヴァイセ「······なっ!?」

 

やっぱバレてたか。身内以外では、サーゼクス、セラフォルー、アザゼル、ミカエルにしか言ってなかった筈だが、情報とは何処から漏れているか分からないから恐ろしい。現に俺の母親が誰かバレているのだから。

 

八幡「やっぱ知ってやがったか······まあどっちでも構わない」

 

オーディン「そうこなくてはの······して、何故ここに来た?」

 

八幡「ああ────

 

 

 

──────というわけだ。うちは今テロ対策に戦力が欲しい。北欧神話と同盟を組みたい。ダメでも、勢力内へのテロリストに対する注意喚起をお願いしたい」

 

チーム『D×D』の発足。ヴァーリチームがうちにいること。オーフィスを『禍の団』から()()したこと。旧魔王派を壊滅させたことを包み隠さず話した。

 

 

ロスヴァイセは驚き、オーディンは顎の髭を擦りながら言う。

 

ロスヴァイセ「そんなことが······三竦みの会談から、まだ日は経っていないでしょうに」

 

オーディン「······母親に似て、恐ろしい行動力じゃの」

 

八幡「そう言われても······お袋はもういないし、何の意図があったのかは俺には分からない。迷惑は方々に掛けまくったんだろうけどな」

 

俺は、昔のお袋が堕天前何してたかなんて正直興味ないしな。態々隠居するくらいだ。戦争への興味やらがなくなったか、子供が出来て気が変わったか。俺も、子供をもつようになってから考え方は少し変わったしな。

 

 

オーディン「そうか······同盟の件だが、ワシの方でも協力させてもらおうじゃないかの」

 

八幡「本当か?」

 

それは良かった。オーディンの協力は、こちらとしても心強い。

 

オーディン「うむ。わしの方でも『禍の団』の対処を考えとったしな。丁度いいじゃろ。ルシフェルの息子に白龍皇。更には邪龍に龍王とまで。こちらとしても組むには十分すぎる戦力じゃ。お前さんらが齎した情報で、先手を打つことも出来そうじゃしのぉ」

 

八幡「そう言ってもらえると助かる」

 

肩の荷が一つ降りた。

 

オーディン「そうじゃ。お主に2つほど頼みたいことがある」

 

八幡「俺で出来ることなら」

 

オーディン「そうか。──────────」

 

 

 

八幡「分かった。一つ目だが、一週間後に行われる。その時に案内すればいいか?」

 

オーディン「それで構わん。二つ目もその後に同様にな」

 

八幡「ああ。これからよろしく頼む」

 

オーディン「うむ」

 

出来すぎているような気がするが、俺達チーム『D×D』は北欧神話と協力関係を結ぶことが出来た。

 

 

 

その後、俺達は、インドとケルト、日本に中国にも協力ないし静観の協定を取り付けることが出来た。

 

 




まずい·······闘戦勝仏と美猴との会話が分からない······よし、カットしよう。


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第40話 レーティングゲーム⑤


今回は八幡は出ません。多分飛ばしちゃっても問題ない話。



 

イッセーside

 

 

 

クルルさんの衝撃的カミングアウトから6日後。俺達は明日に行われる会長とのレーティングゲームに備えて先生の部屋でミーティングをしていた。

 

 

 

アザゼル「······イッセー。禁手化(バランス・ブレイク)の状態は?」

 

イッセー「えっと······なれるようにはなったんですけど、条件がありまして」

 

なりたての禁手(バランス・ブレイカー)には、幾つか条件があった。

 

一つは、変身までに時間が掛かること。今の俺だと、だいたい2分ってところだ。2つ目は、一日一度しか使えず、変身を解除しても神器の効力が殆ど失われていることだ。

 

俺はその条件を話した。

 

 

アザゼル「ふむ······データの通りだ。歴代もほぼ同じだ。鎧を解除しても使える奴はいたようだがな。問題は変身までに要する2分だ。時間を短縮することは出来るには出来るが時間がない。

お前にとって、この2分は死活問題だ。2分ありゃお前を倒せる奴なんて、それこそ幾らでもいるからな。その2分をどうやり過ごすか考えておけ。多分逃げの一手になるだろうが。お前そのものが、お前の一番の弱点だからな」

 

変身に必要な2分をどうするか······か。アスカロンもゼノヴィアに渡してるから攻撃は避けて逃げるしかないのか。

 

 

アザゼル「普通の『倍加』と『譲渡』も使い方に幅があるからな······だが、禁手も必須。一長一短か。禁手はどれくらい保てる?」

 

イッセー「フルで30分くらいです。力を使うならもっと早く減ります」

 

アザゼル「初めてでそれならまずまずだが、30分じゃ完全にアウトだ。しかも力の使用込みになると少なすぎる。長丁場のゲームなら論外だ」

 

アザゼル先生は、はっきり断言する。

 

······まだまだ修行不足ってことか。いくら神滅器(ロンギヌス)の一つと言えど、禁手も万能ってわけじゃない。

 

アザゼル「リアス、向こうはこちらの情報をある程度持っているんだろう?」

 

リアス「ええ、だいたいは把握されてるわ。全員の主力武器は認識していると思うわ。フェニックス家との一戦も一部には公開されているし、ギャスパーの神器や小猫の素性もほぼ割れている」

 

向こうにはほぼほぼ知られちゃってるんですね······秘密兵器みたいのがあればいいんだけどな·······

 

でも、そういうのって、何度も通じないのがお約束というかなんというか······

 

 

アザゼル「逆に、お前はどれくらい把握してる?」

 

リアス「ソーナ、副会長である『女王』、他数名の能力は。ただ、一部判明していない者もいるわね。それに、向こうだって夏休みを使って修行している。未知の手を使われる可能性もある」

 

アザゼル「情報面ならこっちが不利だな。ま、そんなんゲームでも戦闘でもよくあることだ。警戒を怠るなとしか、俺には言えん」

 

先生の話ってホント分かりやすいな。話がどんどん進んでいく。あ、相手もこっちと同じ8人か。

 

アザゼル「レーティングゲームはプレイヤー毎に細かなタイプをつけて分けている。パワー、テクニック、ウィザード、サポート」

 

先生がホワイトボードに十字線を引いて、上下左右に各タイプ名を書いて、グラフを書く。

 

アザゼル「リアスと朱乃は魔力全般に秀でたウィザードタイプ。

木場はスピードや技で戦うテクニックタイプ。

アーシアとギャスパーはサポートに特化してる。ギャスパーはテクニックタイプに近く、アーシアはウィザードタイプに近いな。

ゼノヴィアは一撃必殺を狙うスピードに秀でたパワータイプ。

小猫は純粋なパワータイプ。

イッセーはギフトの力で一応のサポートも出来るパワータイプだ」

 

なるほど。俺はサポートも出来るパワータイプか。こうして見ると、俺達はパワー寄りではあるけど、結構バランスがいい感じに纏まってるな。

 

アザゼル「パワータイプのイッセー、小猫、ゼノヴィアが一番注意する必要があるのがカウンターだ。パワータイプからしたら相当厄介になる。神器にもカウンター系があるが、パワータイプはカウンターたった一発で形勢をひっくり返してくることもある。自分が強いほどそれに比例してダメージも尋常じゃなくなるからな」

 

確かに、攻撃を返されたら怖い。俺の禁手とか、そのままカウンターされたら下手すりゃ仲間を巻き込むぞ。

 

ゼノヴィア「カウンターか。ならば力で押し切ってみせよう」

 

おおぅ······ゼノヴィアが勇ましいことを言う。でも、それ危険すぎないか?

 

アザゼル「それで何とかなる場合もあるが、よっぽど実力に差がない限りは通用しない方が多い。何事も相性だ。パワータイプがテクニックタイプと戦うリスクを頭に入れとけ」

 

その言葉にゼノヴィアは言い返せなくなった。教会の戦士として、戦闘経験が豊富だと、尚思い当たることがあるのだろう。

 

アザゼル「例えば、イッセー、お前、禁手使って木場に勝てるか?」

 

イッセー「······正直無理ですね。スピードに翻弄されると思います」

 

禁手に至ったのは木場のが1ヶ月以上早い。俺との元々の戦闘経験の差もある。そもそも、俺には木場みたいにテクニカルな戦いが出来ないから、直線距離のスピードで勝てても、無駄に消耗して一気にボコされそうだ。

 

アザゼル「そう。それが戦いの相性ってもんだ。今回はカウンター使いの対策もしていかないとな。それ以前に、イッセーは禁手化する前に撃破される可能性が高い。赤龍帝の禁手はもう広く知られちまってるしな」

 

イッセー「はい······」

 

禁手化までの時間稼ぎと合わせて、カウンター対策を考えないとな·······うぅん。戦いって、俺の考える以上に難しいな。

 

 

アザゼル「お前達が勝つという見込みのが多いが、『絶対』なんてもんはない。駒の価値だって『絶対』じゃない」

 

先生はペンを仕舞いながら続ける。この人の言葉は、不思議と心に響くんだ。

 

アザゼル「長く生きてきたから言える。勝てる見込みが一割以下でも、生き残ってきた奴がいること。たった1%を、たかがと舐めるな。絶対に勝てるなんて夢想だ。だが、絶対に勝ちたいと思え。それこそが、お前達を勝利に導いてくれるだろうよ」

 

 

それが先生のアドバイスだった。その後、俺達はクルルさんと何やら話に行った先生を除いて、決戦当日まで戦術話し合った。

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

アザゼルside

 

 

 

ミーティングを終えた俺は、クルルに尋ねた。

 

アザゼル「······八幡はヴァルハラに行った、と言ったな」

 

クルル「ええそうね。それが?」

 

何か問題でもあるの? と言うかのように聞き返してきやがる。何故八幡はオーディンに会いに行った? イッセー達はソーナ・シトリーとのレーティングゲームに備えてるから大して気に止めなかったようだが、俺はそうもいかない。

 

アザゼル「何が、それが? だ。俺は何故、八幡がオーディンの爺に会いに行ったかを聞いている」

 

クルル「そのことね。安心しなさい。あの子達のレーティングゲームが終わったら話すわ。八幡も明日帰ってくると連絡があったし」

 

アザゼル「ああそうかよ」

 

今は、話す気は微塵もありませんってか。

 

クルル「そうね」

 

クルルはそう言うと、行ってしまった。

 

 

結局、八幡が明日帰ってくるということ以外ははぐらかされてしまった。

 

そして、俺はサーゼクス、セラフォルーと共に、八幡と一緒に来日したオーディンに驚かされることになる。

 

 

 

アザゼルsideout

 

 

 



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第41話 レーティングゲーム⑥

 

八幡「······着いたぞ、オーディン」

 

オーディン「おぉ、やっとかの。ジジイの老体には応えて仕方ないの」

 

オーディンは腰を擦りながらスレイプニルが引く馬車を降りる。

 

八幡「嘘つけ」

 

この程度で体に響くわけないだろうが······

 

 

 

俺はオーディンとそのお付きのヴァルキリーのロスヴァイセを連れて、2日ぶりに日本に戻ってきた。これなら、一昨日の秘密会談の後すぐに帰国しても良かったかもな。

 

そういや、そろそろソーナ達のレーティングゲームが始まる頃か?

 

 

八幡『······クルル、今日本に戻ってきたんだが、ソーナ達のレーティングゲームってもう始まってるのか?』

 

クルルに連絡を入れる。にしても、魔法使わなくても地球の裏側のやつと会話出来るとか、本当に便利な時代になったもんだな。携帯とかPCとか使う度に思うし。携帯ゲーム機ですらネット通信当たり前だからな。

 

それにしても、オーディンは何故レーティングゲームを観たいだなんて······オーディンからしたら、他所の国の若いのが喧嘩してるだけに見えてもおかしくないんだが。

 

クルル『·····まだ始まってないわよ。後20分くらいで始まるけど、観たいんなら早くしなさい。始まっちゃうわよ』

 

八幡『サンキュ』

 

もうそんな時間なのか······オーディンがスカイツリー見たいだなんて言わなきゃ、ゲーム前にオーディン含めた会談が出来たのになぁ······

 

クルル『それで、収穫はあったの?』

 

八幡『もちろん』

 

クルル『そう。学園で待ってるわ』

 

八幡『ああ』

 

そう言って通話を切る。

 

 

オーディン「······お主の妻か?」

 

隻眼の爺が、つまらなそうに聞いてくる。

 

八幡「まぁな。レーティングゲームなら後20分で始まるそうだ。良かったな間に合って」

 

オーディン「そうかの。楽しみじゃわい」

 

目に見えてオーディンの機嫌が変わるのが分かる。子どもか、こいつは。

 

ロスヴァイセ「オーディン様!! 遊びに来たわけではないんですよ!?」

 

そうだな。こいつ、日本神話とも同盟結びたいって言ったよな?

 

ロキの気持ちがよく分かるわこんなんじゃ······

 

オーディン「固いのぅ······だから彼氏の一人もできないんじゃよ」

 

ロスヴァイセ「······うぅっ、私だって好きで処女じゃないんですよー!!」

 

この2人いつもやってるな。飽きないのか?

 

オーディン「はぁ······」

 

八幡「あんたいい加減、お付きいびりやめてやれよ······はぁ、行くぞ」

 

オーディン「ほれロセ。シャキッとせんか」

 

この爺容赦ねぇな。ロスヴァイセも長くて後2、3ヶ月でお付きの仕事辞めるな、こりゃ。

 

ロスヴァイセ「ううっ······」

 

八幡「はぁ······元気出せよロセ。お前なら良い男すぐに見つかるだろ」

 

ロスヴァイセ「ううっ······ありがとうございます」

 

 

 

 

その後、5分で駒王学園に到着。終始ロスヴァイセは涙目だった。なんとか涙は収まったらしいが。

 

 

予め指定されていた部屋に入ると、壁にモニターが5つ設置されており、その部屋にはサーゼクス、セラフォルー、アザゼルがいた。いくつかある空席の一つは、ミカエルのものだろうな。

 

八幡「······よ、アザゼル、サーゼクス。1ヶ月ぶりだな。クルル、ただいま」

 

クルル「ええ八幡。おかえりなさい」

 

今日のレーティングゲームは、サーゼクスやアザゼルはここで観る。この場で他にいるのは、クルルだけ。グレイフィアは今回も審判なのだろう。

見当たらないグレモリー眷属とシトリー眷属でそれぞれ最後の打ち合わせでもしてるのか。因みに、後1時間したらミカエルも来るよう呼んである。

 

アザゼル「ああ······ってヴァルハラなんてお前は何を······何でオーディンが」

 

オーディン「久しいのう悪ガキ。ま〜た小賢しいことでも考えとるのか?」

 

アザゼル「ハッ!! しきたりやら何やらで古臭い田舎神話と違って、若輩者は敵対意識より勢力の発展を優先したのさ」

 

何故こうもオーディンのじいさんは口が減らないのか。アザゼルも、何か知らんが敵対心を持ってるし。話がまるで進まないぞこれじゃ·····

 

 

 

サーゼクス「お久しゅうございます、北の主神オーディン様」

 

サーゼクスがオーディンに挨拶する。何故アザゼルはこんな風に出来ないのか。

 

オーディン「サーゼクスにセラフォルーか。1ヶ月ぶりじゃの」

 

セラフォルー「お久しぶりでございます、オーディン様」

 

サーゼクスに続いてセラフォルーが挨拶する。

 

サーゼクス「時にオーディン殿。何故このような場に?」

 

オーディン「何、お主らの身内同士でレーティングゲームをやるそうじゃが、わしも興味があっての。それを話したら此奴が案内してくれることになっての」

 

サーゼクス「そうですか」

 

セラフォルー「ハチ君······いつの間に?」

 

八幡「一週間前にな。まあ、少しあったんだよ」

 

旧魔王派壊滅させたり、オーフィスが脱退したりと、少しどころの話じゃないがな。でも旧魔王派壊滅させたのもまだ言ってねえや。このじいさんに言ったぐらいか。ウチの話聞くか、『地獄の最下層(コキュートス)』に行かないと分からねえ話だ。戦力集めで完全に忘れてた。

 

アザゼル「オーディン連れてくることの何処が少しだよ、ったく······」

 

八幡「お、始まった」

 

スクリーンには、両陣営が転移されたところが映された。

 

 

······さて、誰がどうなるか。見物だな。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

イッセーside

 

 

 

 

今回のゲームの舞台は、学園の近くにあるデパートを模したものだった。

両陣営の転移されたところが本陣らしい。俺達の本陣は2階の東側。会長達の本陣は1階西側。ここに来ると、『兵士(ポーン)』は『プロモーション』が出来る。『フェニックスの涙』は両陣営一つずつ。

 

尚、『今回はバトルフィールドを破壊し尽くさないこと』という特別ルールが設けられたため、俺、部長、朱乃さん、ゼノヴィアにとってはかなり不利だ。俺達の得意な面攻撃を封じられたに等しい。又、ギャスパーの眼は使えず、アザゼル先生特製の神器封印メガネを掛けている。

 

イッセー「······弱ったな。俺力抑えて戦う練習なんて一切してないぞ」

 

リアス「それについては仕方ないわね。ただし、禁手(バランス・ブレイカー)は何処かで使ってちょうだい。ドラゴンショットは撃たないように。デパートが吹き飛ぶかもしれないわ」

 

イッセー「はい」

 

キツイな······禁手化までの時間稼ぎ以前の問題かもしれないぞ? これ。木場みたいな戦い方が出来ればよかったんだけどな······アザゼル先生が言ってた『絶対』がないって意味がよく分かった。

 

リアス「攻めるのには吹き抜けのショッピングモールが厄介ね。立体駐車場もある」

 

朱乃「そうですね。屋上も注視する必要がありますわ」

 

木場「立体駐車場の車は存在するんでしょうか」

 

部長、朱乃さん、木場の主導で作戦会議を行う。

 

車······即席の盾とかにも使えそうだな。流石に、モール内を突っ切ったりは出来ないだろうけど。

 

 

リアス「裕斗は先ず屋上と立体駐車場を見てきてちょうだい。ギャスパーはコウモリに変化して、デパート各所に飛んで、逐一様子の確認を」

 

ギャスパー「はい」

 

ギャスパーは部長を許したらしい。昔何かしらあったらしく、八幡とクルルさんが険しい顔をしてたのはまだ記憶に新しい。あの顔は······俺もその場にいたけど、正直思い出したくない。

 

リアス「ゲーム開始は15分後。開始5分前になったら集合して。それまでは各々リラックスしていてちょうだい」

 

部長の言葉により、一度解散になった。が、俺だけ呼び止められた。

 

リアス「イッセー、禁手に至ったことで『兵士』の駒8個の力は全て解放されているわ。ただし、貴方の体はまだ追い付いていない。気を付けてちょうだい。赤龍帝の力は、使い方を誤ればあなたを滅ぼすかもしれないものよ」

 

イッセー「分かりました、部長」

 

 

今は無理でも、いずれドライグの力を使いこなせるようになりたい。元々、俺の駒8個分はドライグの価値も同然だ。ドライグの力を使いこなすことが俺の真価だ。肝に命じないと。

 

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

グレイフィア『開始のお時間となりました。このゲームは制限時間の3時間の短期決戦(ブリッツ)となります。それでは、ゲーム開始です』

 

グレイフィアのアナウンスが入り、ゲームが始まる。

 

 

今回は短期決戦か。ルール的にグレモリー側の勝ち目はないに等しいと言える。

 

ギャスパーには、あんま無茶して欲しくないんだがな······

 

 

サーゼクス「リアス·······」

 

セラフォルー「ソーナちゃん·······」

 

シスコン'sは妹が心配らしい。斯く言う俺も、ギャスパーが心配だ。もしリタイアしたらどうなることか。そういや、このゲームは冥界にも放送されてるけど、黒歌は見てんのか? あいつ、今仕事ないしな。

 

 

オーディン「······にしても、大事な親友同士というのにぶつけおって質が悪い。流石は悪魔じゃの」

 

サーゼクス「酷ではありますが······このぐらい突破してもらわないと悪魔の未来が危ぶまれるというところです」

 

妹関連なら、すぐに見境なしになるとばかり思っていたが、意外に冷静だな。

 

セラフォルー「うちのソーナちゃんが勝つに決まってるわ」

 

オーディン「頼もしいのぉ」

 

 

リアス・グレモリー側は各自動き出す。イッセーと塔城が店内から。木場とゼノヴィアが立体駐車場を経由か。ギャスパーはコウモリになって監視。頑張ってんな。リアス・グレモリーと姫島とシスター・アーシアは待機している。

 

 

イッセーと塔城は物陰に隠れながら進んでいく。走らないようにしているのは足音を押さえるためだな。まだまだだが。木場とゼノヴィアは、立体駐車場を車を陰にしながら移動している。

 

 

匙『───兵藤か!! まずは一発だ!!』

 

慎重に進んでいた兵藤と塔城に、ラインをターザンのように利用した匙が2人に奇襲をかける。兵藤はそれを籠手でガード。匙の背には生徒会の1年がくっついていた。

 

兵藤は蹴られた衝撃でぐらついている。ぎりぎりで気付いたところを見ると、2人とも魔力の感知は大の苦手らしい。塔城も仙術は使ってるだろうが、まだまだ甘い。黒歌に比べたらな。

 

 

匙『よう兵藤』

 

イッセー『よぉ匙』

 

 

兵藤の籠手にはラインが繋がれており、既に力を吸われ始めているのだろう。兵藤の右手にも繋がっているが、それは匙ではなく別の所に繋がれていた。兵藤は、自力での破壊は断念したらしく、意識を匙本人に戻していた。

 

しかし、呑気にも匙と睨み合いながら話している。ラインはどこに繋がって······あぁなるほど。そんな手があったのか。

 

 

この勝負、グレモリーの負けがほぼ確定したんじゃないか? グレモリー側は、兵藤を落とされた時の作戦の立て直しが甘そうだしな。

 

 

 

その時、グレモリー陣営の『僧侶』がいきなりリタイアした。リアス・グレモリーの所にシスター・アーシアがいる。ということは······ギャスパーか!! さっきの様子だとニンニクを利用されたっぽいな。

夏休みの特訓は人に慣れることと『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の制御に集中してたからな。仕方ないか。昔から、あいつはニンニク食おうとはしてなかったし、別にそんな困るわけでもないからいいと思ってたが、流石に対策取らなきゃな······

 

 

で······ギャスパーをリタイアさせた奴後でちょっと面貸せ。殺さないでやるよ。

 

 

 

その一方、兵藤は禁手化のためか、籠手に数字が表情された。クルルの話によると、兵藤は禁手化するまで2分も要するらしい。まあ歴代も最初はそんなもんだったな。寧ろ、歴代では短い方か。兵藤は距離を取って時間稼ぎをしようと考えたようだが、ラインに阻まれた。そのまま、匙はラインごと兵藤を引っ張り、思いっきり腹に蹴りを食らわせた。

 

その直後、匙にくっついていた1年───仁村というらしい───が匙にサングラスを投げ渡した。何かと思ったら、匙がラインを、近くの家電屋のライトに繋いで、即興の閃光弾にした。その直後、匙のアッパーがイッセーに刺さった。

 

 

 

その一方、木場とゼノヴィアは立体駐車場を進んでいた。そして、長刀を持つ副会長、ソーナの『女王(クイーン)』と会敵した。

 

椿姫「ごきげんよう木場君、ゼノヴィアさん。御二方はここに来ると思っていました」

 

更に2名、『騎士(ナイト)』が1人と『戦車(ルーク)』が1人。騎士の方が3年の(めぐり)で、戦車は2年の由良(ゆら)だったか。そういや、巡っていう退魔師の一族がいるって聞いたことがあるな。

 

木場は聖魔剣、ゼノヴィアはアスカロンを抜いて構えた。その次の瞬間、木場と副会長、ゼノヴィアが『騎士』と剣を交えた。『騎士』はゼノヴィアの持っているアスカロンに気付くと、一旦即座に後退した。

 

 

中々いいな。ゼノヴィアはデュランダルに頼った戦い方だが、今回のルールには適さない。まだデュランダルのオーラを制御出来ないだろうし。イッセーの所にアスカロンがないことがどう影響するのか見物だな。

そのまま攻防は続く。グレモリー側の2人は一太刀浴びせるだけで勝てるため大幅に有利だが、そう簡単にはいかないだろう。ふと、ゼノヴィアが空間に穴を開けた。なるほど。デュランダルの性質を利用するのか。ゼノヴィアは、アスカロンにデュランダルのオーラを纏わせる。

 

ゼノヴィア『くらえっ!!』

 

ゼノヴィアが一瞬の隙を見逃さず詰め寄るが、ソーナの『戦車』が間に割って入って、ゼノヴィアに向かって両手を突き出した。

 

由来『反転(リバース)!!』

 

ゼノヴィアはアスカロンを振ったが、聖のオーラが消えて、魔のオーラに変化した。どういうことだ? 堕天使はまだ、『反転』はまだ研究段階だった筈だが······

 

 

八幡「アザゼル、いつの間に『反転』を実証段階まで持ってったんだ?」

 

アザゼル「俺はまだ研究段階だ。俺がアレを渡したわけじゃない」

 

八幡「うぅん······?」

 

じゃあ誰だ?『神を見張る者(グリゴリ)』がやったんじゃないとしたら······思い浮かぶのは『禍の団(カオス・ブリゲード)』だが······あいつらに、態々そんなものを渡す必要があるのか?

 

······それとも、危険だと最初から分かっているから外部の者を実験台にしてデータ収集ってか。だが、それならこいつらじゃなくてもいくらでも······

 

 

裕斗『───デュランダル・バース!!!』

 

考え事をしていたら戦闘が進んでいたらしく、木場の背中側に空いた空間の穴から漏れ出している聖のオーラが『魔剣創造(ソード・バース)』に合わさって、立体駐車場に聖魔剣の花を咲かせた。ソーナの『騎士』と『戦車』はリタイアしていく。聖魔剣なら『反転』は無理と考えたか。2つの性質を合わせ持っているから『反転』させられない。

 

状況の不利を察した女王は、撤退を決め込んだ。

 

 

ゼノヴィア『木場······いい、攻撃だった』

 

裕斗『ああ、僕達2人なら、また聖なる剣の華を咲かせられるさ』

 

木場に抱えられたゼノヴィアの体が光り出し、粒子になって消えた。

 

 

グレイフィア『リアス・グレモリー様の『騎士』一名、リタイア』

 

 

 

木場が女王を撤退に追い込んだ直後。

 

 

匙『······俺達の夢は笑われるために掲げたわけじゃないっ!!』

 

 

ボロボロになりながらも匙は兵藤に殴りかかっていく。その度に禁手化が間に合ったらしい兵藤に殴り飛ばされる。匙の顔は腫れ上がっており、歯はボロボロ、口からは血が垂れている。

 

それでも、自分達の掲げた夢を笑われた屈辱から立ち上がり、また殴りかかっていく。

 

イッセー『俺は笑わない!! 命かけてるお前を、笑うわけねえだろ!!』

 

匙『───俺は!! お前を超えていく!!』

 

殴りかかっていく匙をイッセーは迎え撃つ。何十発も撃ち込まれたが、匙は膝を付かない。眼光は依然として全く鈍らない。

 

オーディン「面白いのぉ······ヴリトラ系神器所有者か。彼奴のようなやつが強くなる」

 

クルル「将来、大物になりそうね」

 

八幡「そうかもな」

 

クルルとオーディンの呟きに軽く首肯する。逸脱したとも言える程の匙の気迫。自分の命を削ってまでここまで出来るやつは今時そうはいない。居られても困るが。

 

 

イッセー『来い匙ィィィッ!!! こんなところで終わりか!? 俺達に出来ることなんて突っ走るだけの筈だ!!』

 

匙はそれに答えるように1歩ずつ前に進んでいく。

 

イッセー『匙······俺はお前を倒す!!!!』

 

匙は折れ曲がった腕を懸命に振るい、パンチを繰り出した。イッセーはそれを最小の動作で避けて、匙の顔面にカウンターを食らわした。しかし、意識を失い、体が倒れながらも、両の腕でイッセーの右腕を掴んでいた。そして、右腕から手を離さないまま、匙の体は光に包まれ、消えた。

 

グレイフィア『ソーナ・シトリー様の『兵士』1名、リタイア』

 

 

────この場にいる全員が匙 元士郎の戦いから目を離すことはなかった。

 

 




作者はイッセーよりも匙が好き。


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第42話 血の呪縛

 

 

 

グレイフィア『······投了(リザイン)を確認。リアス・グレモリー様の勝利です』

 

 

レーティングゲームは、ソーナの投了によって終了となった。匙がイッセーから血を抜き続けたことにより、大量出血でイッセーがリタイアするも、最後の『王』同士の戦いはリアス・グレモリーが勝利を掴んだ。

出力と面攻撃の威力の差では、ソーナはリアス・グレモリーに敗北した。

 

サーゼクスはガッツポーズをし、セラフォルーはソーナの名前を呟きながら机に突っ伏していた。

 

 

 

ミカエル「······どうも皆さん。お久しぶりです」

 

レーティングゲーム終了後、対談場所にミカエルも訪れる。ようやっと、この場に全員が揃う。

 

ミカエルの護衛の2人は、そのままミカエルの後ろに控えた。

 

アザゼル「······よう、ミカエル」

 

アザゼルが、ミカエルに声をかける。今、この場にはアザゼルとサーゼクス、セラフォルー、怪我で治療施設にいるイッセーと匙を除いたグレモリー眷属とシトリー眷属もいる。

 

 

オーディン「この前以来じゃの。ミカエルよ」

 

ミカエル「はい。お久しゅうございます、オーディン殿」

 

サーゼクス「それにしても、何故来られたのです、ミカエル殿?」

 

オーディンと話していたミカエルにサーゼクスが尋ねる。俺が理由を告げずにミカエルの招待を行ったため、サーゼクスもセラフォルーも、理由を知らない。教える暇もなかったからな。

 

八幡「無理言って、俺が呼んだんだよ」

 

ミカエル「はい。オーディン殿まで来るとなれば、拒むわけにもいかないでしょう?」

 

アザゼル「······まぁな」

 

本当に申し訳ない。オーディンをダシにしてミカエルを呼んだからな。

 

八幡「悪いな。お前も忙しいだろうに」

 

相当急な呼び出しになった筈だ。俺がヴァルハラにいた時に打診したからな。

 

ミカエル「八幡君は無駄なことはしないでしょうしね」

 

うん。そう言われると何だかな·······本当に申し訳ないよ。実際は、天界に何か利益が出るってわけでもないしなぁ······

 

八幡「······オーディン、そろそろ本題に入っていいよな?」

 

オーディン「構わんぞ」

 

八幡「今回、ミカエルまで呼んだ理由は報告だ」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルside

 

 

 

·······報告。この場にいる全員──オーディンのくそじじいは分かってるようだが──が一様に頭に疑問符を浮かべた。八幡がたかが報告でミカエルを呼び出すとは考え難い。他に目的でもあるのか。

 

 

サーゼクス「······八幡、その報告とは?」

 

サーゼクスが代表するかのように尋ねる。

 

 

八幡「······俺達は、『禍の団(カオス・ブリゲード)』が活動を開始したことに併せて、それに対するチーム『D×D』を組織した。今回はそれを報告させていただく」

 

アザゼル「······それだけか?」

 

八幡「ああ。まぁ最後まで聞け」

 

その『D×D』ってのがまだよく分からねえが、どうにも勘繰ってしまう。今の発言から考えると、『禍の団』への対策チームってところか。サングィネム側は、早々に、対策を打ち出したらしいな。少人数ってのは、こういう時動きやすくて羨ましいくらいだ。

 

 

アザゼル「じゃあそこのくそじじいは差詰めそのチームとやらの協力者ってとこか?」

 

八幡「まぁ。と言っても、どうしてもって時に協力してもらうだけで、協力を結んだだけだ」

 

 

協力? 北欧がその『D×D』とやらに参加したわけではない、ということか······?

 

 

ミカエル「では普段は誰が『禍の団』を対処するのですか?まさか八幡君とクルルさんだけではないでしょう?」

 

まあ非常時以外は2人で対処、はねえよな。流石に。八幡とクルルと言えど、複数の場所を同時に攻撃するのなんざ、まぁ無理だろう。

 

八幡「ああ。今、紹介する」

 

八幡が指を鳴らす。その際、クルルとギャスパーが八幡の横に並んだ。ギャスパーは知ってやがったか。まあ親子なら知ってて当たり前か。

 

八幡が指を鳴らした直後、八幡の後ろに魔法陣が現れた。そこからは十数人の男女が現れる。

 

 

······って、おいおいマジかよ。

 

 

 

ヴァーリ「······待ちくたびれたよ」

 

「「「「「!!」」」」」

 

ソーナ「白龍皇!?」

 

アザゼル「······ヴァーリ······何故お前が」

 

先ず最初に現れたのはヴァーリだった。その後ろからはヴァーリの仲間であろう猫又、腰に剣を差した金髪の男、その妹と思しき10代前半の少女。

 

黒歌「久しぶりね。白音」

 

小猫「姉様······!!」

 

リアス「何故黒歌が!?」

 

更に、レーティングゲームでも八幡と共に戦った者達。昔俺が戦った奴。最後に現れたのは若手悪魔の会合に出席していた奴だ。

 

メリオダス「やっぱ警戒されてんな」

 

桃花「まあヴァーリ達は()()()『禍の団』所属ですからね。仕方ないと言えば仕方ないでしょう」

 

ヴァーリ「はぁ······」

 

ディオドラ「僕まで来て大丈夫なんですか?」

 

八幡「まぁ大丈夫だろ。いつばらすかって問題だからな。予定が早まっただけだ」

 

サーゼクス「何故、彼が······」

 

ヴァーリを筆頭に魔法陣から現れた奴らのオーラが、全員が只者ではないことをひしひしと告げている。あの若手悪魔もそうで、オーラの質は紛うことなき最上級悪魔のそれだ。

 

以前、若手悪魔同士の顔合わせがあったが、あの時は綺麗に隠してやがったな?

 

 

八幡「全員、自己紹介頼む」

 

八幡の言葉に全員が頷く。

 

ヴァーリ「この場にいる者は知っているだろうが、白龍皇のヴァーリだ。『禍の団』へ潜入していた」

 

 

潜入調査······なるほどね。ヴァーリはウチへのスパイであり、『禍の団』への鞍替えに見せかけて、それすらも最初から全て予定通りだったわけだ。

にしても、ヴァーリとだけ名乗ったのに疑問が残る。前回はヴァーリ・ルシファーと名乗っていたのに、何故今回はヴァーリと名乗った?

 

黒歌「ヴァーリチームの黒歌。八幡の『僧侶』と兼任だけど」

 

アーサー「同じくヴァーリチームのアーサーと申します。隣りにいるのは妹のルフェイ」

 

ルフェイ「ルフェイです」

 

 

あの黒猫は八幡の眷属の一人か······確か、サーゼクスからははぐれ悪魔だと聞いていたが、不自然なタイミングではぐれ指定の解除がされてたやつだな。

 

アーサーと名乗った男は、腰に聖剣を提げている。ルフェイと名乗った少女は······『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』制服を着ていた。

······この少女単身か、黄金の夜明け団全体がサングィネムに賛同したのかはまだ分からないが。

 

 

メリオダス「知ってると思うけど、八幡の『戦車』のメリオダスだ」

 

桃花「黒歌に同じく八幡の『僧侶』の四条 桃花です」

 

勝永「八幡殿の『兵士』毛利 勝永です」

 

束「同じく『兵士』の束さんだよ~。ブイブイ」

 

三日月「同じく『兵士』の三日月・オーガス」

 

今名乗ったのが、八幡とレーティングゲームに出ていた奴だ。残りの若手悪魔の1人と蒼い髪の女、しかし、あの黒づくめの男はいったい······?

 

ディオドラ「同じく、八幡殿の『兵士』ディオドラ・アスタロトです」

 

こいつも眷属だったとは······暗躍がお好きなこって。この蒼い長髪の女は昔戦った。うんざりするような強さの持ち主だ。

 

まさか眷属だとでも言うんじゃねえよな? 龍王だぞ? いや元龍王のタンニーンは確かに転生してるが······

 

ティア「八幡の『騎士』のティアマットよ。世間では『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』なんて呼ばれていたりもするわね」

 

リアス「龍王ティアマット!?」

 

裕斗「本当ですか!?」

 

ミカエル「彼女まで、眷属とは······」

 

 

おいおいマジかよ······本当に眷属だったとは······

 

ティアマットのこともそうだが、最後の黒づくめの男。こん中では、メリオダスや八幡に劣らないオーラだ。何者だ? そいつは不意にと言っていいような感じで口を開いた。

 

 

クロウ「······同じく『騎士』のクロウ・クルワッハ。()()()

 

「「「「「「「!!!!!?」」」」」」」

 

まさか『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハだと!? あの伝説級の邪龍じゃねぇか!! 確か、キリスト教が封印したと聞いていたが······免れたのか? こいつ、邪龍すら従えてるとはな······

 

こうまでくると、八幡が相当ヤバい所に通じてる可能性もあるな······一先ず、警戒しておくに越したことはないか。

 

 

サーゼクス「まさか······龍王筆頭格に、伝説の邪龍までが·····」

 

セラフォルー「初めて知ったわ······」

 

この様子······サーゼクスやセラフォルーですら知らなかったのか?この2人は幼馴染みだと聞いているが······

 

アザゼル「おい、サーゼクスとセラフォルーは知らなかったのか?」

 

サーゼクス「ああ······ティアマットは勿論、クロウ・クルワッハが眷属になっていたなんて初耳だ」

 

セラフォルー「······私もよ」

 

悪魔側が隠してた······ってわけじゃなさそうだな。まぁ、八幡は情報に因れば悪魔とはあまり仲が良いとは言えない。幼馴染みといえど、政府の中心人物にホイホイ漏らさないか。

 

八幡「更に、ここにはいないが、ヴァーリチームであり俺の『兵士』の美猴、ディオドラの眷属も加わる。以上がうちの現メンバーだ」

 

美猴······駒王会談の時にヴァーリを回収に来た奴だな。

 

ここまでくると、会談のあの襲撃が八幡のマッチポンプだった可能性も出てくる。全く、済まし顔して腹の底じゃ何考えてるかさっぱり分からない野郎だ。

 

 

サーゼクス「八幡、一つ聞きたい。何故白龍皇がここに?」

 

八幡「·······つい、先日まで、無理言って『禍の団』に潜入させていた。追々説明するが······いても問題はない。こいつに攻撃の意図はないからな。それに、一応、俺はこいつの親だしな。俺に務まっているとは思えない話だがな」

 

なるほど······合点が行ったぜ。『神の子を見張る者(グリゴリ)』にいた時から、こいつはよく両親の自慢をしていた。両親の名前は頑なに言わないという矛盾的なものもあったが、八幡とクルルの立場を考えれば頷ける。

 

······ギャスパーも、ヴァーリが『禍の団』に何故いたかも知っていそうだな。

 

サーゼクス「聞いていないよ?」

 

八幡「俺は立場上、三竦みの共有財産だ。白龍皇を宿す子供がいたら危険が及ぶだろう。ギャスパーだって、お前に預けるまで知らなかったろ?」

 

サーゼクス「それは······そうだが」

 

 

サーゼクスは案外信頼されてないのか?いやそれは違うか······今代の白龍皇を息子に迎えたなんてことがもっと昔に露呈していたら、確実に八幡は責められる。そしたらサーゼクスやセラフォルーはこいつを庇うだろう。それによって起こる二次的被害を考えたってことか。

 

三竦みの和平前の八幡の立場はそれなりに危ういところがあったからな······八幡自身、悪魔の政府の上層部を操作してる節があったが。

 

 

セラフォルー「ハチ君、一言ぐらいいってもよかったじゃない!!」

 

セラフォルー·······気持ちは分からんでもないが、立場が違えば、こういうことが起こるのは最早、避けられない事実なんだよ。

 

クルル「セラフォルー。貴女は魔王。立場というものがある以上無理なことよ」

 

セラフォルー「────ッ」

 

アザゼル「ヴァーリ、一つ聞きたいんだが、何故『禍の団』に潜入した? せめて、それぐらいは聞かせてくれよ」

 

別に、ここで、スパイ活動をしていたのを批難する気はない。ウチにもスパイのような活動を専門とするエージェントがいるし、敵勢力へスパイを送るなんざ、どこの勢力でもやっている。

 

しかし、それなら『禍の団』に移動した理由が分からん。目下危険ではあるが······

 

 

ヴァーリ「色々あってね。それに、個人的にオーフィスに少し興味があったんだ。だが、旧魔王派が壊滅したから一先ず帰還したのさ」

 

アザゼル「ほぉ······は?」

 

オーフィスに会えたのか。にしても、何故オーフィスに興味をもった?『神の子を見張る者(グリゴリ)』時代にオーフィスのことは教えてないし、八幡達が教えたのか?

 

それは置いといて、こいつ今旧魔王派は壊滅したと言わなかったか?

 

メリオダス「10日前に、八幡とクロウとディオドラが大暴れしたぞ」

 

俺の疑問を察してかメリオダスが言ってきた。

 

取り敢えずの、手土産のつもりか?

 

 

八幡「現リーダーだったシャルバとクルゼレイはほら」

 

八幡がスクリーンに移し出したのは『地獄の最下層(コキュートス)』に封印したコカビエルの隣で氷漬けにされた男が2人。こいつらがカテレア・レヴィアタンと同じく旧魔王派の首魁であった、シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウス。

 

しかし、態々ここまで連れていったのか。随分と趣味が悪い。

 

 

ティア「八幡、私と三日月は顔合わせも終わったことだし帰らせてもらうわ」

 

いや帰るのかよ!! 俺達としてはまだまだ聞きたいことが山積みなんだが······!!

 

八幡「分かった。2人ともサンキューな」

 

三日月「うん。またね」

 

呆然としている俺達を意に介せず、ティアマットと『兵士』の奴は魔法陣を展開して帰って行った。ホントに顔合わせだけかい。

 

八幡「さて、帰った2人の分も含めて他に聞きたいことは?」

 

なんてことはない、と言わんばかりの表情で、八幡は続ける。

 

 

と、小猫が八幡に言う。そしてそれは、途中から叫びに変わった。

 

 

小猫「どうして······姉様がいるんですか······?力に溺れて、はぐれ悪魔になった姉様が!!」

 

はぐれ悪魔ってのは力や欲に溺れて主に危害を加えた者を言う。だが、あの黒猫からはそんな感じがしない。

 

イマイチ、情報に納得がいかないな。何か、違う方向に誘導されているような······

 

 

ギャスパー「小猫ちゃん······黒歌さんは、力に溺れてなんかいないよ」

 

八幡がそれに答える前に、小猫の叫びをギャスパーが拾った。

 

小猫「どうして、ギャー君が言えるの······!!」

 

ギャスパー「······黒歌さんは小猫ちゃんを守るために眷属になった。だけど、主から理不尽な暴力を受け続け、小猫ちゃんに危害を加えようとした主を見限って、小猫ちゃんを連れて逃げ出した。

 

······けど途中ではぐれて、小猫ちゃんはサーゼクスさんの所に。黒歌さんはお父様に保護された」

 

小猫「そんな·······」

 

小猫が愕然とするのと反対に、俺はある種の得心を得た。

 

 

······はぐれ悪魔って一緒芥に言っても、止む無く主を攻撃した者もはぐれ悪魔に認定されるのか。制度として、穴だらけだな。悪魔側のとんだ失態だな。少し調べれば簡単にボロが出そうだ。

 

それに、下手に情報を公開しようものなら、そういう理由で見限られた主が、危害を加えてくる可能性もある。

 

 

八幡「黒歌のはぐれ悪魔の認定なら、はぐれ認定後2週間で取り消した。その後手っ取り早くトレードで主から解放したわけだが、今もこうして俺に協力してくれている。当然、はぐれ認定取り消したあとに、自由にしていいとは言った」

 

小猫「嘘っ······!!」

 

 

小猫はキャパオーバーしたのか泣き崩れた。はぐれ悪魔が例外なく力や欲に溺れた者という間違った認識をしていただけに、ショックも大きかっただろう。八幡もこれを察して今まで会わせなかったのか。

 

 

黒歌「白音······」

 

白音ってのは小猫の本名か? 小猫ってのは、リアスが眷属にした時に命名したとか······それが功を奏したのか。

 

八幡「一つ言い忘れていたが、ウチは黒歌みたいに望まぬ形ではぐれ悪魔になった者も保護している。悪魔は元々欲望に忠実で、こういうのは案外多いからな」

 

サーゼクス「っ·······」

 

アザゼル「どんくらいだ?」

 

八幡「全体の1割弱ってとこだな。今まで調べた限りではそんくらいの筈だ」

 

めちゃくちゃ多いな······八幡がどれくらい調べたのかは知らないが。

 

ミカエル「八幡君、何故このタイミングなのですか? まだ秘密裏に行動することも容易かった筈です」

 

八幡「今まで『禍の団』で主立って活動していたのは、旧魔王派と魔法使い派だけだった。だが、他に英雄派とクリフォトという派閥がいる。こっちはあまり情報を得られなかった。だから、敢えてこちらの情報を公開して出方を見る」

 

英雄派にクリフォト? 初めて聞く名だな······クリフォトってのは、セフィロトの逆位置のあれか。嫌な匂いがする。

 

八幡「······英雄派は神器所有者を集めている。それこそ、拉致、洗脳までやってな。集めてどうするまでは今のところ不明だが」

 

ミカエル「では、他に何か分かっていることは?」

 

八幡「中枢人物は皆、英雄の子孫や生まれ変わりらしい。そして、『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』、『絶霧(ディメンション・ロスト)』、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の所有者がいる。正直、こっちの対応でも人手が欲しいから今回表に出て来たってわけだ」

 

その3つの神滅器が揃って『禍の団』かよ······八幡達でも流石に手を焼くか。ヴァーリチームは『禍の団』でも特殊部隊みたいな扱いらしかったからな······情報集めにも限界があるか。

 

 

アザゼル「上位神滅器所有者が揃ってんのか·······で、クリフォトってのは?」

 

八幡「残念なことに、殆ど分かっていない」

 

 

······こいつの情報網でも、か。

 

八幡は、俺の疑問に答えるかのように続けた。

 

八幡「今分かっている限りでは名前と、そこのリーダーだけだ。実のところ、こちらの索敵にはまるで引っかからなかったからな」

 

こっちに至っては情報がないと来たか······他とは違って一切気取られぬように行動しているのか、情報を残さないように移動しているのか。

 

どちらにせよ相当なもんだ。

 

アザゼル「そこのリーダーは誰なんだ?」

 

八幡「ここにいる奴は、全員名前ぐらいは聞いたことがある筈だ。聖書に『リリン』と記載された───」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

まさか······あいつが!! ヴァーリの祖父であるあいつが!!

 

 

 

八幡はそこまで言うと、強い殺気を放って言った。

 

 

八幡「旧ルシファーとリリスの息子、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。俺達『D×D』の最大目標だ」

 

 






なんて酷い出来だ·······楽しみに読んでる読者様、ごめんなさいね······


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第43話 与える

 

 

 

アザゼルside

 

 

リゼヴィム、だと······!? こいつ、本気で······!?

 

 

 

······リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ヴァーリの祖父であり、前ルシファーとリリスの間に生まれた男だ。今は姿を晦ましてるが列記とした「超越者」の一角だ。聖書には「リリン」という名で記載されている。

 

しかし『クリフォト』ね······リリンだのと散々持て囃されたあの男がその名でテロリストか······引っ掛かるな。

 

 

アザゼル「おい八幡。『クリフォト』の狙い、拠点、その他戦力についての情報は?」

 

八幡「······残念ながらほぼない」

 

アザゼル「はぁ!?」

 

よくそんなんで狙おうなんてしてるな······らしくない、こいつにしては早計すぎる。

 

八幡「そもそも、『クリフォト』自体、他の派閥と関係が薄くてな。俺達が知り得たのだって、偶々ディオドラが耳にしたからで、ヴァーリチームには存在すら知らされていなかったからな」

 

アザゼル「······そんなんで大丈夫かよ」

 

奴は何考えてるかさっぱり分からねえからな······

 

それはともかく、『禍の団』は派閥ごとに別々の理念で動いていると見てもいいな。少なくとも、クリフォトは旧魔王派とは表立った協力はしていないと見ていい。決め付けすぎんのもよくないが、これぐらいははっきりしたと見て問題ないだろう。

 

八幡「まあこれに限って言えば()()だと思ってくれても構わねえよ、アザゼル。目的は、俺達が動くことで向こうを刺激することだからな」

 

 

確かにあいつの性格なら、従兄弟(勝手にやられた)の八幡と、孫のヴァーリがいるなら何かしら行動を起こす可能性もある。それが分かってるから、ヴァーリ達まで連れてきたのだろう。

 

私怨、か······まあ隠居しようとして早々、ルシフェルはいつの間にかルシファー家の者という扱いでやりたい放題やられたし、ヴァーリも孫ってだけあって、かなりあったろうからな······あいつは怒りに震えているが、両手を強く握りすぎて指が掌に食い込んでるほどだ。

 

言ってる八幡も何食わぬ顔をしてるが、殺気を隠しきれていない。相当だな······こりゃ。そこに北欧のジジイが口を開いた。

 

 

オーディン「······ルシフェルの息子よ。今その話はしても意味無いと思うがのぉ。今は、英雄派が先決じゃろうが」

 

八幡「······それも、そうだな」

 

「「「「「「「!!!!!?」」」」」」」

 

なっ······!? このジジイどうしてそれを!? それはトップシークレットの筈だぞ!? 天界ではミカエルしか知らないし、『神を見張る者(グリゴリ)』でも知ってんのは俺だけだぞ!!?

 

八幡「······いや、そりゃまあ向こうが行動起こさないと、情報が入ってこないのは確かだが、表立って活動する以上、好評しないと拙いだろ。色々と」

 

何で、八幡達は平然としていられる······!?

 

オーディン「それもそうじゃの。お主の言うことも一理あるのぉ」

 

アザゼル「おいジジイ!! 何で八幡がルシフェルの子どもだって知ってんだよ!?」

 

オーディン「騒ぐでないクソガキ。昔、ルシフェルが赤ん坊の此奴と共にわしの下を訪れてのぉ······その時、『ミーミルの泉』の水を飲ませろと言ってきての。気配は覚えておったんでのぉ」

 

その言葉に俺達全員が絶句した。と言うか、八幡もクルルも驚いていた。え、お前らも知らなかったの!?

 

八幡「それは俺初耳なんだけど······クルルは知ってたか?」

 

クルル「私も知らなかったわ······」

 

オーディン「そりゃそうじゃろう。彼奴は自身の光力と引き換えに泉の水を手に入れよったからのぉ」

 

光力と引き換えに、だと!? それは二度と戦えなくなるのに等しいことだぞ······!?

 

ルシフェル、血迷ったのか······? それとも······

 

八幡「お袋は知識だけ得て何しようとしてたんだ·······?」

 

オーディン「泉の水を飲んだのはお主じゃがの」

 

八幡「······俺に飲ませてなんの意味がある」

 

オーディン「お主は今まで何らかの術で気付かなかったようじゃがのぉ。その様子だと、今もまだ得た知識は駆使出来んのじゃろう。何が目的であのようなことをしたのか······はてさて、儂にも分からんよ」

 

そうかあいつ······いや、結婚すらしてない俺の推測なんて無粋もいいところか。

 

リアス「ちょっと待ってちょうだい!! ルシフェル!? ミーミル!? どういうことなのかしら!?」

 

見ると、リアスの眷属一同(ギャスパー除く)とシトリー眷属一同は皆それに頷いていた。

 

まあ······ルシフェルの存在を利用してルシファー家が好き放題やったが、『神を見張る者(グリゴリ)』結成した直後に行方を晦ましてからは人々の記憶から薄れつつあったからな。

 

俺達も驚いているが、顔に出していないだけだし······

 

サーゼクス「落ち着きなさいリアス。『ミーミルの泉』の件に関しては、私も驚いたけどね」

 

リアス「ですが、お兄様、突然言われても何がなんだか······」

 

その時、サーゼクスが横目で八幡を見、八幡はそれに頷いた。八幡は自分の身分を正式に明かすらしい。冥界の上層部は八幡が睨めばどうにでもなると思うが、大きな騒ぎになることは間違いないだろう。それも踏まえて、リゼヴィムを刺激するのかもしれん。

 

サーゼクス「比企谷八幡は────亡き堕天使ルシフェル様の実の息子だよ」

 

その言葉に知らなかった者は仰天していた。

 

ヴァーリ「言っておくが、悪魔のルシファーとは別物だからな」

 

と、ヴァーリがリアス達に向いて言う。

 

······ヴァーリが言うとは思わなかったよ。ルシファーの血より、血が繋がってなくともルシフェルの家族()であることを求めたか。

 

 

 

リアス「ギャスパー······あなた知っていたの?」

 

ギャスパー「はい。お父様には絶対に言うなと」

 

リアス「そ、そう······」

 

 

まあギャスパーの言うことは尤もだしな······こんなこと、絶対に三竦み内で混乱を招く。過激(タカ)派の活動への理由付けにもなりかねん。八幡め······分からんわけでもないだろうに、何故このタイミングで······?

 

 

 

アザゼルsideout

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

まさかお袋が『ミーミルの泉』の水を求めて、北欧まで行っていたとは。しかも光力を代償にしてまで手に入れた水を、何故俺なぞに飲ませたのか。

 

 

あの後、会議は若干混沌(カオス)になりながらも、チーム『D×D』の活動に対して理解を得ることは出来た。又、ヴァーリチームの認識と、黒歌のような例のはぐれ悪魔云々の認識も改めさせられた。

 

黒歌と白音については当人達に任せることにした。黒歌がそうしたいと言ったからだ。

 

 

 

更にその3日後。オーディンを連れて、京都にて日本神話から使いとして派遣された九尾の八坂と対談。

北欧神話は日本神話と協定を結べたし、『D×D』も活動にある程度の協力をしてもらえることになった。まあ······ある程度が何処までなのかは俺達が考えるしかない。日本人ってのは、こういう時面倒だな。

 

 

 

そしてもう一つ言えば、会議では、オーフィスのことについては完全に伏せた。会議の翌日、アザゼルだけを呼び出して、オーフィスに会わせた。アザゼルの驚き様は半端じゃなかったが、こちらの協力もしてくれるらしい。というか、せざるを得なくさせたわけだが。

オーディンにも聞いてみた結果、最低でも『禍の団(カオス・ブリゲード)』がなくなるまではオーフィスのことを秘密にすることになった。

 

まあ向こうはオーフィスが居なくなったとバラせるわけがないので、すぐにバレる可能性はそこまで高くはないだろう。

 

オーフィス自身についても、ヴァーリにくっ付いているが雰囲気からある程度察せるようなので、そこまで問題ではない。こっちの言い分にも耳を傾けてくれるし。

 

 

 

 

そうして、『D×D』(ウチ)が表舞台に立った僅か一週間後。俺達は早速一つの大問題を抱えることになった。

 

 

冥府のハーデスと完全に連絡を取れなくなったのだ。

 

 



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閑話 母の願い①

更新が遅れてしまい申し訳ございません。原作イッキ読みして先の展開練ってたら、最後の更新から2週間弱経ってました。

今回。突然ですが八幡の母、ルシフェルの話となります。どれくらいいるか分かりませんが、本編楽しみにされている方、申し訳ございません。本編はもう暫しお待ち下さいませ。



話は突然始まります。ご注意下さい。



 

 

 

これは、今よりも遥か昔。

 

 

 

時は14世紀。イングランドとフランスが大戦争を始めた直後の話。

 

 

 

 

 

ルシフェルside

 

 

 

ルシフェル「······天使長を降りるわ」

 

 

私──ルシフェル──は、聖書の神(ヤハウェ)とミカエルを前にして言った。

 

 

ミカエル「なっ······!!? ルシフェル!?」

 

弟のような存在であるミカエルと、我が創造主たるヤハウェを前にして、私は自身を奮い立たせる。ヤハウェはともかく、ミカエルへは心が痛む。が、私はやらねばならない。

 

ヤハウェ「······ルシフェル。どういうつもりですか?」

 

ルシフェル「あなたに愛想が尽きただけのこと、ヤハウェ。人々の信仰と宣って、侵略を繰り返す貴方に愛想が尽きた。他にも理由が必要?」

 

ヤハウェ、あなたには心底愛想が尽きた。人々の信仰を受けても、救いを与えないあなたに。

 

 

全ては────嘘だった。もう、私がここにいることは······

 

 

ヤハウェ「要するに······貴女は私達に反旗を翻すと。そういうことですね?」

 

 

巣立つ時が────天使長(おにんぎょう)から堕天使(一つの存在)へ。

 

 

ルシフェル「その通りよ」

 

その言葉とともに、広げた、私の3対6枚の純白の羽は漆黒に染まる。

 

ミカエル「───ルシフェル!!!?」

 

ルシフェル「······只今を以て、私は堕天使を司る者ルシフェルとして、(ヤハウェ)の是非を問う!!!」

 

ヤハウェ「ルシフェル······!!」

 

私は両手に光の剣を作り出す。それに対してヤハウェは手に光球を出現させる。ミカエルも手に光の槍を作り出した。

 

相手は私の創造主()と私に次ぐ実力を持つミカエル。圧倒的に分が悪いが、ここでくたばるつもりはない。時宗(愛しい夫)八幡(愛しい我が子)がいる。絶対に生きて帰る。

 

それだけを考えて、ヤハウェに突っ込む。小手先は通用しない。

 

 

······出来るだけの準備は既に済ませてある。私が堕天したと分かれば、アザゼルが着いてくる筈だ。アイツも、天界の現状に不満を抱いていた。というか、そもそも最初から周りと反りがあっていなかったが。

 

 

ヤハウェ「ミカエル」

 

ミカエル「······はっ······!!」

 

ヤハウェの声に応じて、ミカエルが私とヤハウェの間に割り込んできた。

 

ミカエル「何故ですルシフェル!!」

 

ルシフェル「言った筈よ······もうここにいるつもりはないと!!」

 

ミカエルの横に高速で移動し、ミカエルを全力で蹴り飛ばす。私相手に迷いを見せるようでは。

 

 

ミカエル「カハッ·······!?」

 

ルシフェル「次は貴方よ。他所の神様みたいに、今際を呪え!!」

 

右手に持つ光の剣をヤハウェに投げる。が、ヤハウェの両目が光ったかと思うと、空間を貫くようなスピードで投げた剣は最初から何もなかったかのように消えていた。

 

ルシフェル「······」

 

予想はしていた。堕天使というものが存在する以上、強制的に制御する術くらいはあるのではないか、と。

 

 

ヤハウェ「私は貴方達の創造主です。まだやりますか?」

次の瞬間、私の体から一気に力が抜け、膝を付く。体内の光力を無効化されたようだ。

 

ルシフェル「···まだだ!!」

 

左手に魔法陣を展開し、限界まで圧縮した魔力弾をヤハウェに放つ。

 

ヤハウェ「グッ·····!?」

魔力を使えると思っていなかったのか、ヤハウェは一瞬怯み、魔力弾の直撃を食らった。それを好機と見なし、私は魔力で身体能力を強化して、ヤハウェの懐に潜り込んで魔力を纏わせた渾身の蹴りを叩き込んだ。

 

本来、天使は魔力を使えないが、私は堕天したことと悪魔である時宗と結ばれたことによって魔力を使うことが可能になった。とは言っても、天使だったためか、魔力は下位の下級悪魔と比べても見劣りするくらい少ないのだが、それでも、使いようによって如何様にも出来る。

 

 

ヤハウェ「何故、魔力を·······」

 

ルシフェル「さあ·····ね?」

 

今ので光力の無効化が解除されたらしい。

 

ルシフェル「食らえ!!!」

 

おそらく、ミカエルでも作れないようなサイズの光の矢を作り出し、ヤハウェに投擲する。まあ、また無効化されるだろうがそれでいい。一瞬隙を作れればいい。

 

案の定また消失させられたが、一瞬視界を奪った隙にさっきよりも更に圧縮かつ濃縮した魔力弾を放つ。視界を奪われたヤハウェは魔力弾を諸に食らい吹っ飛んだ。

 

更に追撃として、魔力で形成した剣を体勢を立て直した瞬間のヤハウェの胸の真ん中に突き刺した。

 

殺した······私が、この手で!!

 

 

 

ルシフェル「さようなら、創造主(我が父)よ。さよなら、ミカエル(私の弟)

 

そう言い残し、私は魔法陣で転移した。

 

 

 

 

────世界は荒れる。それでも、人間は自分達だけで進める筈だ。バケモノ達が我が物顔で人間界を闊歩する時代も、もうすぐ終わる。

 

 

 

 

最後の最後で詰めが甘かったことに、私は終ぞ気付けなかった。

 

 

 

ルシフェルsideout

 

 

 

 

 

 

 

ミカエルside

 

 

ミカエル「······主よ·······ご無事ですか?」

 

先程、ルシフェルに吹き飛ばされた主の下に駆け寄る。

 

ヤハウェ「大丈夫ですよ······安心なさい、ミカエル」

 

そうは仰られたものの、主の顔は暗かった。ルシフェルが反旗を翻したことに意気消沈なされているのだろうと推測する。

 

ミカエル「しかし、何故·······」

 

 

 

4ヶ月ぶりに現れたルシフェルの言葉の意味は、終ぞ分からなかった。

 

 

 

ミカエルsideout

 

 

 

 

 

 

 

ルシフェルside

 

 

 

私は、天界から20を超える中継点を経由した後、我が家に転移した。転移魔法陣には魔力のみを使ったうえ、追跡阻害を五重に掛けておいたので、ヤハウェでもまず追って来られないだろう。

 

この家は私の愛しい夫、時宗が様々な伝手を辿って手に入れた、冥界のグレモリー領にある。色々なことを工面してくれたグレモリー卿には、あの時ばかりは流石に頭の下がる思いだった。

 

 

ルシフェル「ただいま」

 

時宗「······リーラ。大丈夫か? 怪我してないか!?」

 

帰宅して真っ先に、時宗は鬼気迫る勢いで私に聞いてきた。

 

リーラ······私を天使長(ルシフェル)から解き放ってくれた時宗が与えてくれた名前。

 

 

リーラ「時宗······大丈夫よ。例え神だろうとやられるつもりはないわ」

 

時宗「そうか、よかった······」

 

リーラ「貴方、心配し過ぎよ」

 

時宗「そうか? それならいいんだが」

 

私は天使長ルシフェルではなく、1人の女、リーラとして彼に見てもらえる。それが、これ以上ないほど嬉しかった。天使(つくりもの)であったこの身を、時宗が、時宗だけが、生きる個として認めてくれた。

 

リーラ「八幡は?」

 

時宗「寝てるよ」

 

私の子───八幡は穏やかな微笑みを浮かべて、寝息を立てていた。

リーラ「八幡······愛しい私の子······」

 

八幡の寝顔を堪能しつつ、そっと八幡の頬を撫でる。

 

 

リーラ「ごめんなさい八幡······あなたはいつか平和を手放さなくてはならなくなる」

 

時宗「リーラ、お前······」

 

 

 

八幡が、私のせいで平和の中にいられなくなることを───

 

 

その時、私は側にいないことを悔やみながら。

 

 




比企谷.L.リーラ(リーラ・ルシフェル)の容姿はモンストのルシファーにアホ毛が生えたのを創造してね。服装はお任せします。せめてD×D原作でガブリエルの全身イラストがあれば······もしあったら教えて下さい。

時宗、ヤハウェの容姿については、完全に読者の皆様方のご想像にお任せします。俺ガイルのキャラの誰かでも、全く違うパロキャラでもご自由にどうぞ。



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閑話 母の願い②

一身上の都合で暫く不定期更新になります。更新速度は月2くらいになります。ご了承ください。




リーラ(ルシフェル)side

 

 

リーラ「······八幡偉いわ。母さんの代わりに小町のこと見ててくれたのね」

 

八幡「うん。お母さんお料理してて大変そうだったんだ。それに小町寝てるし」

 

全く、可愛いわねこの子達ったら······

 

 

 

私が堕天してから4年。堕天使組織───『神の子を見張る者(グリゴリ)』のトップをアザゼルに押し付けてから、三竦みのトップ陣営に気取られぬように生活していた私達には娘が産まれた。名前は小町。八幡より3歳年下だ。

 

 

 

リーラ「夕食にしよっか。父さん呼んできて」

 

八幡「分かったー」

 

そう言い残しまだ4歳の八幡はとてててと可愛く走りながら時宗の書斎に向かった。

 

私は基本家にいて、子供2人を見ている。時宗は、グレモリー卿の仕事の手伝いをしていた。住む場所まで提供してくれたグレモリー卿に申し訳ないと思い、好意に甘えさせていただいた。私も家で出来ることはやっているし、外での仕事も身分を隠して手伝っている。まさか、天使長だった時の真剣に逃げ出したくなるような量の事務作業を捌いていた時の経験がこんな所でも役に立つとは思わなかった。

 

料理をテーブルに並べて、小町の様子を見に行く。まだ寝ているようだ。

 

時宗「······今日も美味そうだな」

 

八幡「お母さんの料理は何時でも美味しいもん」

 

リーラ「ありがとう2人とも。早く食べよっか」

 

この時の私は間違いなく幸せだった。愛する夫と可愛い子供2人に囲まれて。

 

 

だが、それは束の間の幸福だった。

 

 

 

········いや、それは堕天した時点で、本能で分かっていたことだった。それでも、最後は家族と一緒にいたかった。

 

 

 

 

 

 

────突然だった。本当に、何の前触れもなく────

 

 

 

「天使長ルシフェル様とお見受けします」

 

リーラ「·····誰だ!!」

 

ある日、1人の男が訪問して来た。

 

 

·······唯一の幸いだったことは八幡がクルルと共に出掛けていたことだろうか······

 

 

「私、『(あまつ)の月』より要請を受けました。アリガルと申します」

 

リーラ「天の月······!!?」

 

その男の目を見た瞬間私は悟った。この男は私達を殺しに来たのだと。

 

天の月は、以前耳にしたことがあった。無数にある教皇下部の組織の中の、過激派だと。そして、事実上ウリエルの管轄下であることも。

 

ウリエルに、嗅ぎ疲れた······!?

 

 

小町「ママ、どうしたのー?」

 

騒ぎが聞こえて、お昼寝中だった小町が目を覚ましてしまった。

 

リーラ「小町来るな!! 時宗!! 急いで小町と逃げて!!」

 

時宗「どうし······!?」

 

一瞬、目を離したのがいけなかった。

 

アリガル「······なるほど。この子が天使の面汚しですか。報告では兄がいた筈ですが、あなた方が何処かにでも逃がしたのでしょう」

 

小町「あっ······がっ······」

 

その男──アリガルと名乗った男──が次に言葉を発した時、奴は小町の首を掴んで締め上げていた。

 

いつの間に······!!

 

時宗「お前·····!!」

 

アリガル「あなたがあの女の夫ですか·····ほう。滑稽もいいところだ!!」

 

奴は小町を適当に捨てるかのように放り投げて、時宗の懐に入り込んで時宗を切り裂いた。

 

時宗「があっ·······!?」

 

時宗が崩れ落ちる。

 

アリガル「クククッ·····アハハハハハッ!!」

 

リーラ「それはっ······!?」

 

私は奴が手にしている物を見て驚愕した。

 

奴の手に握られていたのは光の剣だった。

 

アリガル「改めまして私、座天使のアリガルと申します」

 

奴の背中には上級天使であることを示す4枚の純白の羽が生えていた。

 

リーラ「なっ······!?」

 

ヤバい·····()()()()()今の私ではこいつに勝てない······悪魔である時宗もまだ倒れてはいないが、今の一撃で相当なダメージを負った。

 

せめてクルルがいれば······いや、クルルにはこのまま八幡を連れて遠くに······小町······

 

 

アリガル「私、あなたを筆頭にあなたとあなたの御家族を始末するように頼まれておりまして」

 

奴の持つ光の剣が小町の背中に突き刺さった。

 

時宗「!!? ······おぉ前ぇぇぇぇえっっ!!!」

 

リーラ「なんてっ、ことをっっっ!!!」

 

私と時宗が同時に魔力を纏って飛び掛った。だが、向こうの方が早く、私達は蹴散らされた。時宗が更に切り付けられ玄関の方まで吹き飛ばされ、私も光の剣の餌食になってしまった。

 

リーラ「時宗、小町······がはっ」

 

奴の光の剣が私の背中に突き刺さった。奴は光の剣をぐりぐり捻る。その度に私の体には激痛が走る。

 

 

 

 

·······どれだけやられたか分からないが私の体はもう指一本も動かなくなった。

 

 

·······時宗、八幡、小町、クルル、ごめんね······あなた達は何も悪くないのに。私がここにいたせいで······

 

 

クルル·····せめて八幡だけでも連れて出来る限り遠くに逃げて······

 

 

自分の体が冷たくなるのを感じながら私は息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーラ「······ん、これは······」

 

私は目覚めた。あまりにも強烈な怒りと殺意を感じて。

 

 

·······私は八幡に厳重な封印を掛けていた。八幡の身に宿る()は到底1人が持てるものとは思えないほど強大だ。八幡には力に溺れて欲しくなかったため、ある条件下でのみ解除されるように設定して封印を掛けたのだ。それはヴァルハラで八幡にミーミルの泉の水を飲ませてからなので、大幅に寿命を削る禁術なのだ。解除条件は八幡に死の危険が迫った時にした。

 

そして、封印が解除される頃には、私はもういないだろうと分かっていたので、自分の意識の一部を剥離させて封印の制御装置にした。それも大幅に寿命を削るものではあったが、やらない選択肢はなかった。

 

目覚めた私は、剥離した意識の残りカスのようなものなのだ。

 

「······許さない」

 

リーラ「八幡······?」

 

「······殺す」

 

どうやら、八幡の強い感情が封印を中途半端に破壊したらしい。力が漏れ出ている状況だ。

 

八幡の視界を共有する。八幡は気付いてないだろうが。

 

八幡の強い感情が向く先にいたのは『ウェールズ』に出て来る赤い龍と白い龍だ。二天龍、と称されたムゲンの次に強いとされる圧倒的強者。

 

そして、八幡のすぐ側には血を流し続けているクルルがいた。それだけで八幡の怒りと殺意の理由は分かった。

 

······そう八幡。何をしてでも守りたい人·······一緒にいたい人を見つけたのね。

 

八幡『······汝らを我が名の下に······封印せしめん』

 

八幡は2体の龍を切り刻んで、一つは籠手、もう一つを鎧の破片に封印した。

 

 

八幡······漏れ出た力だけでここまでのことを······ごめんね。私は死んでもあなたを縛ってしまう。

 

でももうあなたは守りたい人、支えたい人がいるのね。もう、私の出る幕はなさそうね。

 

······クルル·····八幡の側にいてあげてね······八幡、クルルと支えてあげてね。2人とも、末永く生きなさいね。

 

 

そう思って封印の脆くなった部分を構築し直すと、私自身もまた意識を閉ざした。

 

 

 

リーラsideout

 

 

 

母は「生きて」と願った。死してなお子を想う母の、最後の願いだった。

 

 

 




『天の月』

天界の下部組織の一つであり、過激な思想をもつ者が集まりやすい組織である。主への信仰を裏切ったとして元天使長ルシフェルの抹殺を座天使アリガルに要請した。また、アリガル自身も天界では過激派思想をもつ者だった。



八幡に掛けられた封印は色々とおかしいところがありますが、流して下さいませ。

前話でルシフェルがヤハウェに言ってたことの大半は自分の堕天後の場所を誤解させるために言ったことです。ルシフェルは『神の子を見張る者(グリゴリ)』を創るだけ創って、後はアザゼルに押し付けて自分は雲隠れしました。


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第44話 久方の日常

更新が遅いのに日常回なんか入れて。ホントもう·······すいません



 

 

 

 

八幡「······王手(チェックメイト)だ」

 

ギャスパー「·······また負けました·······」

 

クルル「まぁ八幡の方が長い間やってることなんだから、気にすることないわよ」

 

俺とギャスパーがやっていたのはチェスだ。

 

俺は現在4連勝中。

 

 

 

 

ギャスパーがチェスをやるには理由がある。

 

ギャスパーはいずれ、独立した『王』として眷属を持つのが一つの目標なのだ。

 

そのため、俺やクルルが、上級悪魔に昇格するために必要なことを教えている。

·······まぁ元々要領がいいので、どんどん吸収しているし、さっきのチェスも、何度も危ない場面があったのだが······

 

レーティングゲームもチェスを取り入れている部分が多いのでやっているのだ。

 

 

 

ギャスパーが『王』を目指している理由の大半を占めているのは黒歌にある。

 

ギャスパーは、自分が黒歌を拾って来たのに途中から俺や眷属任せになってしまったことを後悔している。だから、次はそうならないように力をつけるんだそうだ。

あと、これはサーゼクスに預ける前から言っていたことだ。

 

 

その際は、黒歌から悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を一旦抜いて、ギャスパーの駒を入れるつもりだ。

 

尚、ギャスパーが『王』になった時は、クロウもギャスパーに付いて行くつもりらしい。まあギャスパ(・・・・)ーに宿った奴(・・・・・・)が理由だろうが······

 

 

 

 

 

八幡「······もっと気張れよー」

 

ヴァーリ「まだまだぁッ!!」

 

今度はヴァーリと戦闘訓練。尚、今回の訓練では白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を封じて訓練している。ヴァーリは神器(セイクリッド・ギア)に頼らない戦い方も模索している。これはその一環だ。

 

他にも、昔からやっている剣術などもだ。これにはギャスパーも参加している。とは言っても、サーゼクスに封印される前は停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)の制御訓練しかしていなかったので、始めたばかりで、殆ど基礎的なことしかしていないのだが。

 

 

俺はヴァーリから飛んでくる無数の弾丸を『閃光と暗黒の龍絶刀』で片っ端から叩き落としていく。複雑な軌道を描いた魔力弾が飛んでくることもしょっちゅうだが、まだ甘い。

 

因みに、俺達が今特訓しているのは、駒王町にある家の地下に作った空間だ。強力な結界を10枚張っているので、ヴァーリとの特訓くらいなら1枚も割れることはない。ただ、床は既にボロボロなんだが。後で魔法で直すか。

 

·······まぁ、近くでクルルと一緒に見ているオーフィスなら、パンチ2、3発で突破出来るんだろうが·······

 

 

ヴァーリ「·······父さんのそれ破壊力高すぎだろう!!」

 

八幡「なら上回ってみろ」

 

ヴァーリ「······いいね!!上等!!」

 

ヴァーリは亜空間から魔剣バルムンクを取り出す。それを右手に持ち、大きく引くように構え、バルムンクに竜巻のようなオーラを纏わせると、バルムンクを突き出した。

 

バルムンクが纏ったオーラはそのまま俺に向かって一直線で飛んでくる。直撃したら確実にダメージを受けるだろう。

 

俺は手に持った刀からオーラを飛ばしてバルムンクから放たれたオーラにぶつけて相殺する。

ヴァーリはオーラを一気に複数飛ばしてくるが、俺も刀からオーラを飛ばして全て相殺する。

 

ヴァーリ「これならッ!!」

 

ヴァーリは竜巻のようなオーラを飛ばしてきた後、バルムンクで斬りかかってきた。それを刀で受け止める。

 

ヴァーリ「はっ!!」

 

右からの袈裟切り。それを受け流すと、今度は逆手に持ち替えて逆袈裟。その後逆袈裟の勢いを利用して一回転しつつ再び順手に持ち替えて切り払ってくる。逆袈裟を体を捻って躱し、切り払いを後ろに跳んで躱す。

 

八幡「逆袈裟までは良かったが、切り払う時に動きに無駄があったな」

 

ヴァーリ「やっぱり強いなっ!!」

 

八幡「そりゃ伊達に何年も生きてないからな」

 

ヴァーリの剣撃を全て 躱す or 受け流す でやり過ごしながらヴァーリが苦し紛れに漏らした言葉に軽く返す。

八幡「ヴァーリ、隙ありだ」

 

ヴァーリがバルムンクを振った直後にバルムンクを叩き落として懐に潜り込み、ヴァーリの目の前に刀の先を向ける。

 

ヴァーリ「ッ!!·······はぁ。また俺の負けだ。いったい何時になったら父さんに勝てるんだか·······」

 

八幡「そりゃお前の『父さん』だからな。まだまだ負けちゃいられねえよ」

 

ヴァーリの頭をワシャワシャ撫でてから床の補修を始める。尤も、一番床をボロボロにしたのは、俺が振った『閃光と暗黒の龍絶刀』から放たれたオーラなんだが。

 

 

 

 

クルル「······八幡。日本神話、もっと言えば京都から緊急の要件よ」

 

ヴァーリとギャスパーの修行(と言っても、ギャスパーとはチェス以外には神器の特訓を軽くしたくらいだが)の後、クルルが少し焦った様子で言ってきた。

 

八幡「京都······? 何があった?」

 

クルル「······八坂が行方不明になったそうよ」

 

 

 

人間の人間らしいところってのは俺の予想を大幅に上回っていたらしい。

 

 




ディオドラが『禍の団(カオス・ブリゲード)』から離脱したので、6巻は丸々カットです。イッセーは覇龍化しません。

今回ヴァーリがバルムンク使ってましたけど、ジークは出ます。

後、ヴァーリはバルムンクにちゃんと認められてます。



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第45話 笑顔を守る

更新が遅くてすいません。今回の話から、9巻です。短編の話は、ネタが思い付いたらねじ込みます。因みに、使い魔の話を普通の話として入れたのはアニメで使われてたからです。




京都から八坂の行方不明の旨を伝える連絡があった翌日。

 

俺とクルルは早速京都まで来ていた。ヴァーリがここにいるのは拙いし、ギャスパーは学校があるので駒王町にいる。

 

クルル「·······『八坂が行方不明になった』。京都の長である彼女が自ら行方を晦ますとは考えられないわ」

 

八幡「だが、簡単にも捕まるとは思えないな·······」

 

八坂とは、オーディンと一緒に和平を結んだ時以外にも何度も会っているが、そう易々と捕まるとは思えない。おそらく、龍王クラスの実力者だ(流石に、ティアにはわずかにだが劣るだろうが)。

 

となると、やはり、『禍の団(カオス・ブリゲード)』と考えるのが自然だろうか。上位神滅具(ロンギヌス)なら十分可能だろう。

 

因みに、俺は日本神話とは独自のパイプを持っているから、八坂とは、八坂が子供の頃からの付き合いである。

 

それのお陰で、悪魔が日本神話から駒王町周辺の地域を譲り受けた(ぶんどった)時は何とか取り持ったのだが······あの時はホント危なかった。『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』のことも含めて、日本神話は悪魔を滅ぼそうとすら考えてたからな······

 

今回の連絡も、本来なら聖書勢力の者には来ないであろうものだが、そこも、パイプゆえだろう。

 

「比企谷 八幡様。クルル・ツェペシ様。大変お待たせ致しました。九重(くのう)様がお待ちにあられます。こちらへ」

 

思案している俺とクルルの所に八坂の娘、九重の側近の1人が来る。八坂がつけた従者の1人だろう。天狗だと思われる。

 

八幡「······分かった」

 

クルル「······案内をお願いするわ」

 

「畏まりました。こちらへどうぞ」

 

俺とクルルは案内に従い九重の所に向かった。

 

 

 

だが、この時俺達は完全に失念していた。駒王学園の生徒が修学旅行で訪れるのが京都であることを。

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

イッセーside

 

 

今日から駒王学園の2年生は修学旅行だ!!

 

そして、今の俺達は京都駅から一駅で行ける「稲荷駅」で下車し、伏見稲荷大社の千本鳥居をくぐりながら山登りをしていた。

 

歩き始めて既に20分ちょっとかな?

 

元浜「······はぁ·······はぁ·······待って、くれ·······何故そんなにすいすい登って行けるんだ·······」

 

尚、元浜が既にこの状態である。体力ないな。悪魔である俺達は兎も角、人間である松田は全然余裕なのに。

 

松田「情けないぞ元浜。アーシアちゃんだってまだまだ元気なのに。お前は女の子にまで負けるのか?」

 

元浜「クッ······!!あ、でも美少女に運動不足を攻められて、一緒に運動してそして体育倉庫で·······なんてのも······グフフフフフ」

 

体育倉庫には共感しつつも、流石に少し呆れたのだった。

 

 

 

イッセー「悪ぃ、俺頂上の景色先に拝んでくるよ」

 

タンニーンのおっさんに山で修行をつけられた影響かどうしても頂上を見に行きたくなった俺は、皆に断りを入れてから先に頂上に向かって階段を駆け上がり始めた。

他の観光客に邪魔にならないように階段を登る。

 

頂上と思しき所に出ると、そこにあったのは古ぼけたお社だ。適当に走ってきたから、道間違えたのかな?

 

辺りは木々が生い茂っており、まだ昼の2時だというのに薄暗い。

 

取り敢えず、お社に手を合わせて下山することにした。

 

イッセー「おっぱいを触って揉んで啄けますように! 彼女できますように! 皆とエッチできますように!」

 

と、我ながらこんな所にお願いするようなことでもないような、卑猥で正直な願いを念じて、その場を後にしようとした時だった。

 

「······お主、京の者ではないな?」

 

イッセー「······!? 誰だ!?」

 

周囲に気を配ってみると、俺は囲まれていた。強大ってほどでもないが、結構な数だ。

 

俺達の監視?

 

いや、確かに囲まれて周囲に気を配って初めて気付いたけど、監視にこんなに人数が必要か?数十人はいる。

 

すると、俺の前に巫女装束を纏った金髪の小さな女の子(可愛い)が現れた。

 

·······ただし、その子に小猫ちゃんみたいに頭から獣の耳が生えていることから明らかに普通の人間ではないことが分かった。あの感じ狐か?

 

イッセー「えっと·······」

 

囲まれている現状が理解出来ずにいた俺を見た女の子が俺を激しく睨み、吐き捨てるように叫んだ。

 

「余所者がのこのことッ·······!!かかれ!!」

 

女の子の声と共に、俺を山伏みたいな格好して、黒い翼を生やした頭部が烏みたいな連中と、神主の格好して狐の格好した狐のお面被った連中が俺を囲んだ。

 

「母上を返せ!!」

 

女の子が俺に指を向けると同時に俺を囲んだ奴らが一斉に襲い掛かってくる。このぐらいならぎりぎりなんとかなるか·······!

 

イッセー「俺はお前の母ちゃんなんて知らねぇッ!!」

 

「嘘をつくな!!誤魔化そうとしても無駄じゃ!!」

 

何で修学旅行に来てまで襲われなきゃいけない!? それに誤魔化そうとなんてしてない!! 京都に来たばっかだぞ!?

 

ゼノヴィア「·······イッセー!!」

 

イリナ「イッセー君!!」

 

そこで、ゼノヴィアとイリナが加勢に来た!! 2人は買った木刀を持っていた。少し遅れてアーシアも駆け付ける。

 

「お前達·······神聖な場所を穢し、母上までッ······!! 絶対に許さん!!」

 

3人が駆け付けたのを見て、更に憤慨した女の子。俺達を囲んでいた奴らも俺達に向けていた敵意や殺意を更に強めていた。

 

どうする······? 4人でやればなんとかこの場は凌げそうだけど、ここで凌ぎきってもまた襲ってくる可能性がある。俺達は兎も角、一般人の松田、元浜、桐生を巻き込むわけにはいかない。

 

ここで『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』をフルに使えば簡単だけど、それだとこの辺り一帯を破壊してしまうし、何より、部長が大好きな京都をあまり傷付けたくない。

 

俺がどうするか考えている時だった。

 

「両者そこまでだ」

 

林の中から1人の男が出て来る。そいつは俺達のよく知る······

 

イッセー「八幡!?」

 

アーシア「八幡さん!?」

 

ゼノヴィア「何っ!?」

 

八幡だった。八幡は駒王学園の制服ではなく、私服と思われるラフな服装だった。

 

そう言えば、木場から聞いてたが、八幡は修学旅行に参加してない筈だ。何故ここに?

 

八幡「······こいつらが八坂を攫った犯人じゃないさ。それは保証しよう。それに、こいつらが束になって掛かるくらいで捕まるほど、八坂は弱くない」

 

八坂······?攫った······? 八幡は何の話をしてんだ·······?

 

「······お主がそう言うなら信じよう」

 

八幡「助かる。それよりも、引き上げるぞ。お前らもだ」

 

八幡がそう言うと、俺達を囲っていた奴らが一斉に攻撃の手を収めた。何なんだ······?

 

八幡「感謝する。行くぞ」

 

八幡が転移用と思われる魔法陣を展開した。

 

イッセー「ちょっ、待てよ八幡!!」

 

何やら知っているらしい八幡に事情やら修学旅行に参加してないのにどうしてここにいるかなどを聞こうとして呼び止めようとしたのだが······

 

「······お主の知り合いか?」

 

八幡「まぁな······」

 

八幡は一瞬だけこちらを見た後、金髪の女の子や、俺達に攻撃した奴らと共に転移してしまった。

 

 

その場には、俺達4人だけが残った··········

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

八幡side

 

 

八幡「·······それで、どうしてあいつらを攻撃したんだ?」

 

俺はイッセー達を襲撃していた九重を始めとする奴らを収めてから、俺達のために日本神話から与えられた旅館の1室に八坂の一人娘、九重を連れてきてからそう尋ねた。

 

ここに、別で行動していたクルルも戻って来ている。

 

九重に付き従っていた者達は俺が一通り事情を説明した後、各々八坂の搜索に戻ってもらった。ここは、イッセー達と知り合いの俺達が話を聞こうと思ったからだ。

 

九重「······お主と共に、母上を搜索している途中、お主らではない魔の者の気配を感じ取って······そやつらが母上を奪った犯人じゃと思うて、いても立ってもいられなくなって······お主らの知り合いだとは思わなかったのじゃ。すまない······」

 

まぁ気持ちは痛いほどよく分かる。俺が九重の立場なら、間違いなく京都に無断で侵入した悪魔だとふんで、殺しに掛かるだろう。

 

俺もクルルも(・・・・)家族を一気に亡くしたクチだからな。九重はもし八坂を亡くしたとなれば、自分のせいだ、と一生自分を責めるだろう。なんなら、自殺してもおかしくない。9歳の女の子である八坂にとって一番大事な人は間違いなく母親の八坂だろう。

 

俺は、無力な自分を限界まで責めていた時を思い出した。こいつにそんな思いはさせたくない。家族からの愛は何物にも変えることは出来ないから。

 

八幡「······そんなに自分を責めるなよ九重。お前が正しいとは言わないが、それは母を助けるための行動だ。だから、今は八坂を助けることを考える。それだけでいいんだよ。俺達はいくらでも力を貸してやるから」

 

九重「っあ······」

 

出来るだけ優しい口調でそう言って、九重の頭を撫でる。まぁ、子供の扱いなら、ヴァーリやギャスパーでそれなりに慣れている。2人とも聡い子だから、手が掛からなかったが、頭を撫でてやると決まって目を細める。曰く、気持ちいいらしい。

 

九重がほんの少しでも気持ちが落ち着くなら、いくらでもやってやろう。

 

子供に似合うのは笑顔だ。それ以外には考えられない。子供が笑顔でいられるなら、及ばずながら、いくらでも力になる。

 

九重「ありがとう······ありがとう······」

 

九重は涙をポロポロ零しながら、そう口にする。

 

八幡「ま、今はしっかり休んで明日に備えな」

 

九重の体内の気を操作する。

 

九重「ん······母上······」

 

崩れ落ちる九重の体を抱き寄せて支える。今やったのは仙術を用いたもので、対象の精神を安定したものにしつつ、対象を眠らせるものだ。

 

以前は、オーフェリアやヴァーリ、ギャスパーが不安定になった時によく使っていた。

 

八幡「クルル、任せていいか?」

 

クルル「もちろん。九重は私が見てるわ」

 

八幡「そうか······で、あんたはどうする?比企谷(・・・)紫陽花(・・・)

 

俺は九重が座っていた椅子の後ろに佇んでいた、妹の面影を見せてくる女性に話し掛ける。

 

紫陽花「······側近である私目から見ても、九重様は御二方にたいそう懐いておられます。申し訳ありませんが、ここはクルル様にお任せしてもよろしいでしょうか?」

 

比企谷紫陽花(ひきがやあじさい)。日本神話に仕える一族、比企谷家の才女で、八坂、九重の側近の1人だ(側近は他にもいるが、今は出払っている)。何の偶然か、小町にそっくりである。まあそっくりであるというだけで、性格は似ても似つかないのだが。

 

 

割と最近知ったのだが、比企谷家は1000年以上前からある名家らしい。

 

尚、父方の祖父は大昔この家を飛び出したらしく、放浪生活の中で、悪魔である祖母と出会ったらしい。話によれば、祖父が家を出た理由は当主になれなかったところだとか。

 

俺が日本神話とパイプを持てた理由はこの辺にもあったりする。まあこれ以外にもあるんだが。

 

クルル「······全然構わないわ。子供は嫌いじゃないもの」

 

紫陽花「······誠にありがとうございます」

 

八幡「さて時間だ。紫陽花、そろそろ行くぞ。もう出ないと待たせることになるからな」

 

紫陽花「料亭『大楽(だいらく)』でよろしかったでしょうか」

 

八幡「ああ······そこに天使と堕天使と悪魔が待ってるんでな」

 

紫陽花「畏まりました」

 

 




唐突に出たオリキャラの説明します。


比企谷紫陽花(ひきがやあじさい)

太古より日本神話につかえる比企谷家の次期当主。才女と呼ばれるほど才に恵まれており、現在は八坂と九重の側近を務める(修行も兼ねて)。又、偶然か必然か、八幡の亡き妹、小町とそっくりである。

神器『鎌鼬(スラッシュ・シェイル)』を宿しており、神器、体術、陰陽術を用いた戦闘を行う。



神器:『鎌鼬(スラッシュ・シェイル)

風を操る神器。発動すると、右手に鉤爪が付いた篭手が現れる。この神器は、風を用いて遠隔的に斬撃を発動させる他、篭手による直接の攻撃や防御、更には自身を浮かせたり、相手の攻撃を反らす、など応用が効きやすい神器。



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第46話 英雄(を名乗る者達)の思惑

今回も駄文に付き合っていただけるとありがたいです。



料亭『大楽』に向かう途中、俺は紫陽花(あじさい)を連れて、メリオダスと合流した。

 

八幡「······悪いなメリオダス。突然呼び出して」

 

メリオダス「な~に、気にすんな。俺だって『(キング)』1人にやらせるのはどうかと思うしな」

 

紫陽花「······あの、八幡様。この方は······?」

 

そういや説明してなかったな。

 

八幡「ん? ああ、うちの『戦車(ルーク)』のメリオダスだ。事が事だからな。急遽冥界から来てもらった」

 

と言うよりは、呼べるのがメリオダスだけだったのだ。

 

クロウとミカは普段領の警備をしている。ティアは孤児院。百花と勝永は俺が人間界にいる間の事務仕事をしてもらっている。ディオドラは自身が『王』であるので、うちの領にいないことの方が多い。束は······うん。まぁ、あいつの技術力は凄いなんてレベルじゃないほど役立ってるのは確かだな。

 

メリオダスも普段は警備をしているが、こういう事態の際は真っ先に呼ぶ。クルルを除いた場合、俺の眷属内で一番の古株で、相当腕も立つからな。

 

余談だが、メリオダスの次に眷属入りしたのがティアで、その次がクロウだ。

 

メリオダス「八幡の『戦車』のメリオダスだ。よろしくな紫陽花」

 

八幡「ああ、お前のことは前もって知らせてもらったからな」

 

紫陽花「それは問題はありません······この度はよろしくお願い致します。メリオダス様」

 

メリオダス「う~ん。様付けはいらないんだけどな」

 

紫陽花「身分をはっきりするよう当主より仰せつかっておりますので」

 

日本神話と何かある時は、直接神の誰かと話し合って決めてるから、先日京都に来た時に八坂が代理で来たのは、急に決まったことだったからだし、比企谷家の現当主とはまだ会ったことないな······

 

メリオダス「そっか」

 

八幡「さて、顔合わせも済んだことだし、そろそろ行くぞ」

 

メリオダス「おう」

 

紫陽花「畏まりました」

 

俺はメリオダスと紫陽花と、料亭に向かった。

 

 

 

 

 

 

俺達が来たのは、古い赴きのある料亭。ここは異形に関わりのある者もよく利用するため、料亭には特殊な結界が張ってある。

 

 

この料亭の中からは、セラフォルー、アザゼル、昼間会ったオカ研の部員達。更には、熾天使(セラフ)の気配があった。

 

この感じは······ガブリエルか。まぁ、紫藤イリナ1人ってのは荷が重いか。魔王と堕天使総督がいるのに、天界が上級天使1人だけってのは体裁的に問題があるとミカエルが判断したのだろう。

 

「······比企谷 八幡様、お待ちしておりました。魔王様、堕天使総督様、熾天使様がお待ちしております。こちらへどうぞ」

 

俺達が裏口から入ると、頭から狐の耳が生えた女性が話し掛けてくる。この女性は八坂の従者の1人だ。

 

案内に従い廊下を歩く途中、不意に先を歩く女性に話し掛けられた。

 

「······八幡様、九重様は······」

 

八幡「九重なら、今、妻が側で面倒を見ている。下手に護衛を付けるよりよっぽど安全出来る。実力は折り紙つきだからな」

 

「······そうですか」

 

まぁ思う所はあるだろう。側近の紫陽花がここにいるしな。とは言っても、俺はクルルより強い奴を『ムゲン』を除いたら知らないから一番安全だとは思うが······クルルも懐かれてるし。

 

「······こちらでございます。皆様、こちらの方々が日本神話の代理としてお越しいただいた比企谷 八幡様でございます。では私はこれで」

 

襖を開けた案内の女性はそれだけ言うと一礼し、狐火を出現させて消えた。

 

俺達は開いている襖から部屋に入る。部屋は15畳ほどで、部屋の中心に大きめの木目のテーブルが置かれており、そこにセラフォルー、アザゼル、ガブリエルが座っており、それ以外の面子は後ろに立っていた。

 

······何故オーディンの側近である筈のロスヴァイセがいるのだろうか。

 

アザゼル「······八幡?」

 

セラフォルー「ハチ君!?」

 

八幡「······今回は(・・・)日本神話の代理で来た比企谷八幡だ。先ずは、こちらの手違いで悪魔の方を襲ったことを謝罪しよう。済まなかった。昼間そちらを襲った九尾の娘······九重というんだが、あの娘の代わりに謝罪しよう。何分まだ9歳なんだ。都合のいい話だが、大目に見ていただけると助かる」

 

簡単な自己紹介と、昼間九重がイッセー達を襲ったことを謝罪する。今は、天照からの要請で日本神話の代理として来ているからな。こういうことは形式上必要だろう。

 

俺達が来たことに、目を見張る者。怪訝な表情を浮かべる者。眉に皺を寄せる者。ここにいる奴ら全員の視線が俺達に向けられた。

 

そもそも、何故主神である天照から要請が来るかと言うと、各神話勢力と独自のパイプを持っている俺が、三竦みの被害(主に神器(セイクリッド・ギア)関連)で方々に現れた神器所有者の保護のために、行っているからである。尚、それは北欧なども同様だ。

 

因みに、悪魔が駒王町を委任された(ぶんどった)時は、何とか宥めてもらった······あのままだと、激怒した須佐之男あたりが悪魔に喧嘩売ってもおかしくなかったからな······

 

アザゼル「······おい八幡。お前が京都に来てるってことは聞いてたが、これはどういうことだ?何故イッセー達が襲われた?」

 

一番最初に冷静になったアザゼルが俺に聞いてくる。

 

八幡「今回は、天照からの要請で京都に来ている。それは順を追って話すから落ち着け」

 

そう言うと、アザゼルは更に怪訝な表情を浮かべる。

 

アザゼル「何故天照がお前に······?いや、そもそも、何故お前が呼ばれた······?」

 

八幡「話すから落ち着けよアザゼル。昨日のことだ······」

 

 

事の始まりは昨夜、京都からの一報だ。その一報は、八坂、九重の側近である紫陽花が報せたものだ。

 

その直後、天照から同様の報せと八坂捜索の要請を受けた俺はクルルと、早速京都に来た。

 

そこで、目からこれ以上ないほどの大粒の涙を零した九重と、苦虫を噛み潰したような表情の側近の紫陽花からより詳しい事情を聞いた。

 

話によると、八坂は数日前に帝釈天の使いと会談するため、裏京都にある屋敷を出発したらしい。だが、会場に着いた直後に、八坂は側にいたもう1人の側近の烏天狗と一緒に、忽然として姿を消したらしい。

紫陽花がその時にも着いて行っていたらしいが、一度だけ、八坂から離れるタイミングがあったという。帝釈天の使いと前もって会談の打ち合わせを軽くしに行った時だと。ほんの数分のことだったが、八坂ともう1人の側近の烏天狗は何処にも居なかった。

 

妖怪側で血眼になって探した所、行方知らずだった側近の烏天狗が発見された。重傷を負っていたらしい。その烏天狗の話によれば、自分達は突然黒い靄のようなものに包まれたかと思うと、気付いたら違う場所にいた、と。

 

そして、突然そこで襲撃され、強烈な攻撃を受けたかと思うと、また黒い靄に包まれて、そこで意識を失った。

 

その烏天狗は発見されてから一度だけ意識を取り戻したようだが、これを話すとすぐにまた意識を失ったらしい。

 

この話を聞いた俺とクルルは、早速八坂捜索に加わった。

 

尚、この時にメリオダスに来るよう頼んだが、流石にすぐには来れないので、今日になった。

 

その後、俺とクルルは単独で行動していたが、赤龍帝のオーラを感知した俺がそこに向かうと、既に九重がイッセー達に襲撃を仕掛けていた。恥ずかしながら、この時まで完全に駒王学園が修学旅行で京都に来ることを忘れていた。

 

八幡「······その後はアザゼル達の知っての通りだ」

 

ガブリエル「黒い靄······」

 

八幡「ああ。『絶霧(ディメンション・ロスト)』だ」

 

あれを除いて任意の者を簡単に転移させる神器なんてない。俺の『想像庭園(イマジナリー・ガーデン)』は『絶霧』とは比べ物にならないほど燃費が悪いからな。黒い靄も、あれが発生させる霧をそう認識しただけだろう。

 

アザゼル「······お前から話は聞いちゃいたが······『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』以外の上位神滅具(ロンギヌス)が揃ってテロリスト側だとはな······」

 

イッセー「あの先生、その『絶霧』っていうのはそんなにやばいもんなんですか?」

 

アザゼル「ああ······あれは直接的な攻撃力は無いに等しいが、国1つを丸ごと次元の狭間に転移させることが出来るほどだ。神器システムが引き起こしたバグだなんて言う意見もある」

 

イッセー「そ、そんなにですか······」

 

アザゼル「······で、八幡。その八坂姫はまだ京都にいるんだろ?」

 

八幡「ああ。やっぱ分かってたか」

 

流石に気付くか。隣りに座っているガブリエルも気付いてるだろうな。

 

アザゼル「京都の気が乱れてないからな。京都ってのは存在自体が大規模な力場だからな。総括の九尾に何かあれば、何かしら異変が起こる」

 

 

アザゼルの言う通り、京都の気の気脈だののバランスを保ってるのは八坂だからな。今のところ異変の予兆も起こっていない。『禍の団(カオス・ブリゲード)』の英雄派が何かしら事を起こしたら、異変が起こるからな。まだ八坂が無事だという証拠でもある。

 

 

ガブリエル「······八幡は八坂姫の足取りを掴んでいるのですか?」

 

八幡「少しはな······つっても、今何処にいるかはな······」

 

セラフォルー「今、京都に詳しい悪魔側のスタッフにも動いてもらってるよ」

 

アザゼル「······なるほどな。最悪の場合、お前達にも動いてもらうかもしれん。何分人手が足りなくてな。最悪の事態の想定もしといてくれ。心苦しいが、いざという時には頼む」

 

アザゼルが後ろにいたイッセー達に言い、イッセー達はそれに「はい」と応じた。

 

 

 

 

 

ここで俺は1つアザゼル達に嘘をついた。それは、先程八坂は今も行方が分からないと言ったが、俺は、八坂が何処にいるか知っている(・・・・・・・・・・・・・・)

 

英雄派には俺が潜り込ませた奴ら(・・)がいるからな。出来るだけ怪しまれないようにあまり連絡を取っていないのだが、そいつらにマーカーを持たせている(俺だけに分かるGPSみたいなもの)。ここでそいつらに対して下手にアクションを起こすと、八坂が余計危険になるうえに、内通がバレてそいつらも危険になるので、九重には悪いが黙っていたのだ。

 

無論、すぐに動くつもりだ。英雄派がやろうとしていることは、下手したら八坂の命に危険が及ぶからな。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

昨夜、深夜。

 

八幡「······なるほどな。にしても、英雄派はほんと何考えてんだ?」

 

『······僕の思考が及ばない所にあるのは確かだね。────に何か伝えることはあるかい?言っとくよ』

 

八幡「ま、危険になったら逃げてくれればそれでいい。────にも伝えといてくれ」

 

『────がそんなことになるとは思えないんだけど······まあ伝えておくよ』

 

八幡「ああ······気を付けろよ」

 

『······了解』

 

     




京都の時ずっと不思議だったんです。
悪魔側からはセラフォルー、堕天使側からはアザゼルが出てるのに、天使側から出てるのがイリナしかいないこと。

アザゼルがミカエルに報せてないとも思えないし······


という過程からガブリエルを追加したものの、23巻だけだと全然口調が分からない······


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第47話 小町はもういない


前回中途半端な所で終わりましたが、料亭『大楽(だいらく)』での会談はもう少し続きます。

駄文警報常時発令中。



 

 

 

 

八幡「······さて、何故俺が日本神話の代理で来ているか、気になっているだろうから、そちらについても、話しておく」

 

次は、俺のことを話さなければならないだろう。ここまでしたのと言えば、状況説明と簡単な謝罪だけだ。

 

アザゼル「······俺としてはそっちの方がよっぽど気になるんだがなぁ」

 

八幡「続けるぞ··········簡単に言えば、俺は方々に神器所有者の保護に行ってんだよ。日本神話とはそこで独自にパイプを持った。それで天照から要請が来た、というわけだ」

 

北欧やオリュンポスならこれだけだがな。日本神話だけに限って言えば、他にもあるが······まあそれは今はいいだろう。

 

アザゼル「なるほどねぇ······お前ならそれ以外にもありそうだが」

 

やはり、この中での一番の実力者なだけに鋭いなアザゼル。実際そうだからな······

 

八幡「そうだな。実際それ以外にもある。だが、それはこの場には全く関係ない」

 

声を一段階低くし、遠回しに、それ以上聞くな、と言っておく。これを言うと、悪魔側と天界側に更に敵が増える(・・・・・)可能性があるからな。尤も、それは駒王町関連で、日本神話側からしたら俺が言うのは好都合になるんだろうが。

 

アザゼル「······ま、これ以上は聞かないことにするよ。まだ死にたくないんでね」

 

八幡「別に殺したりしねえよ······」

 

アザゼルの軽い冗談に軽くつっこむ。アザゼルから力借りれれば、更に楽なんだからな。そんなことをふと思った時だった。

 

セラフォルー「······ねぇハチ君······どうして小町ちゃんがいるの?」

 

 

ずっと、半ば放心状態だったセラフォルーは紫陽花を見ながらそう言った。

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

セラフォルーside

 

 

私は、ハチ君が比企谷紫陽花(ひきがやあじさい)という少女を連れてこの場に来た時言葉を失った。

 

その女性は、割と大人びてはいるが、ハチ君の妹であり、子供の頃、友人の少なかった私の一番の話し相手になってくれた小町ちゃんに瓜二つだった。

 

小町ちゃんは、既に亡くなっている。時宗さんやルシフェル様と共に·······それは分かっている。

 

それでも、あの活発な少女を見間違えられる筈がない。ハチ君は戦争や結婚を経て、振り切ったと言うが、私やサーゼクスちゃんは、墓碑の前でハチ君が泣いたことを知っている。ハチ君を支えようと気を張っていたクルルちゃんがハチ君にバレないように陰で泣いていたことも。一番辛いのが2人なのに私が泣ける筈がない。

 

そう思い、完全に自分の記憶の底に封印していた。墓参りの時にも、解けなかった封印が、少女の顔を見て不思議と解けた。解けた理由は分からない。雰囲気は違うし、実際に小町ちゃんが亡くなった時より歳上だろう。

 

なのに。

 

何故。ハチ君が小町ちゃんに瓜二つな少女を連れて来た時、純粋にそう思ってしまった。

 

だから魔王という立場も忘れて聞いてしまった。

 

セラフォルー「······ねぇハチ君······どうして小町ちゃんがいるの?」

 

 

セラフォルーsideout

 

 

 

 

八幡side

 

 

セラフォルー「······ねぇハチ君······どうして小町ちゃんがいるの?」

 

やっぱお前なら聞くよな。当時、一番小町と仲が良かったお前なら。

 

俺の隣にいたメリオダスは僅かに顔を暗くする。紫陽花は自分が何故指差されているか分からずに、頭に疑問符を浮かべている。

 

 

俺は、サーゼクスとセラフォルーが、俺が墓碑の前で泣いていたのを見ていたことも分かっている。当然、クルルが俺にバレないように泣いていたことも。

 

 

八幡「······セラフォルー。小町はもういない。ここにいるのは比企谷紫陽花。ただの他人の空似だ······ただ、今でも小町を覚えててくれたことは、本当に嬉しく思う」

 

まぁ、俺達も初めて紫陽花に会った時は驚きを隠せなかった。だが、雰囲気から小町とは似ても似つかない存在であることはすぐに察した。

 

紫陽花「あの······八幡様。小町······様?という方は······」

 

八幡「ああ悪い。単なる昔の話だ。気にすんな。お前がそいつと似てたってだけの話だ」

 

紫陽花「······そうですか」

 

俺もクルルも、お袋や親父、小町のことを完全に振り切れたわけじゃない。そんなことは無理だ。

 

だが、この話を続けるのは拙いだろう。俺やセラフォルーの精神的な面が。俺もいつまでも平静を保ってられるかは分からないしな。

 

八幡「セラフォルー、小町の話は終わりだ。ここに来たのは小町の話をするためじゃない······さて、話が反れてしまったが、戻そう。都合の良い話ではあるんだが、出来ることなら、八坂の捜索にセラフォルー、カブリエルにも加わっていただきたい」

 

セラフォルー「ハチ君······」

 

アザゼル「俺も加わるよ。取り敢えずは、生徒達には引率のロスヴァイセについてもらう。お前もそれでいいだろ?ガブリエル」

 

カブリエル「はい······アザゼルに言われるのは癪ですが、それで構いません」

 

アザゼル「あのなぁ······」

 

だから、強引に話を切って、協力の要請を頼む。

 

八幡「感謝する。アザゼルもな」

 

アザゼル「気にすんな。俺も今は教師として生徒達に被害が及ばないようにするだけだよ」

 

八幡「······そうか」

 

······てか、ロスヴァイセって駒王学園の教師になってたのか······リアス・グレモリーの眷属になったのはサーゼクス経由で聞いてたが。しかも2年の引率とはな······

 

オーディンの爺さんが日本に置いてったの恨んでんだろうな······何かそんな感じがする。全くの勘だが。

 

イッセー「あのぉ······俺達は?」

 

八幡「イッセー達は京都観光を楽しんでくれ。巻き込んでしまったのはこっちだが、出来るだけこちらで何とかするつもりだ。最悪の事態が起こる場合も否定出来ないのが辛いんだがな······」

 

対応が遅れているのは、俺のせいでもある。流石に、イッセー達まで巻き込もうとは思わない。

 

イッセー「わ、分かった。取り敢えず最悪の事態になった時には俺達も戦うよ」

 

八幡「助かる」

 

 

そうして、この会談は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会談を終えた俺は、日本神話から用意されていたホテルの一室に戻って来ていた。

 

因みに、紫陽花の部屋は隣であり、メリオダスの部屋も急遽用意し、紫陽花の部屋の隣となった。

 

八幡「······クルル起きてるかね······?」

 

部屋に入ってそう思い、寝室を覗いてみると、クルルは眠っている九重の頭を撫でていた。

 

クルル「······あら八幡。帰ったのね。おかえりなさい」

 

俺に気付いたクルルは小声で言ってきた。

 

八幡「ただいま。お前も九重と寝てて良かったんだぞ?」

 

クルル「まさか。私は八幡が帰ってくるまで起きてるわよ」

 

八幡「······ありがとな」

 

クルル「早く八坂を助けないといけないわね。小さい子に重荷を背負わせるのは嫌だもの」

 

八幡「······ああ。そうだな」

 

 





今まででも特に駄文な今回の話にお付き合いいただきありがとうございます。


※八幡は自分がだいぶめちゃくちゃなことを言っているのを承知のうえでアザゼル達に頼んでいます。

ここから余談。

セラフォルーの一番の話相手がクルルではなく小町である理由ですが、クルルの護衛対象が基本的に八幡だったからです。当時、対外的にルシフェルの子とされていたのは、ルシフェルが堕天前に産んだ八幡(当然八幡の素性は知られていない)だけであり、堕天後に産まれた小町は存在を認知すらされていませんでした。

よって、小町よりも圧倒的に八幡のが危険だったため、護衛だったクルルは基本的にずっと八幡と一緒にいました。なので、セラフォルーの一番の話し相手が小町だったというわけです。

又、小町は、もし八幡達と一緒に外に出て遊んでいれば、クルルが一緒だったため助かったと思われます。小町が家にいたのは八幡が外に出た際昼寝してたからです。



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第48話 少女の想い


ごめんなさい。話が進みません。今週中にもう一話頑張るので、許して下さい。



 

 

 

 

イッセーside

 

 

料亭『大楽(だいらく)』での会談があった翌日の早朝。

 

今、俺はアーシア、ゼノヴィア、イリナ、そして八幡と共に、裏京都──レーティングゲームで使う空間に近い方法で作りだされた、妖怪達の住む場所──の一角にいた。

 

俺を襲った、九尾のお姫様······九重······様? が、俺達に謝りたいと言うことをアザゼル先生経由で八幡に聞いたので、八幡に連れられてここにいる。

 

九重様は、クルルさんが連れてくる。あと、昨日いた紫陽花(あじさい)っていう女の子も一緒に来るらしい。なんでも、側近なんだとか。

 

八幡「······悪いな。こっちの我が儘に付き合ってもらって」

 

イッセー「いや別に······謝りたいっていうんだし、向こうの勘違いだからさ。俺は少なくとも、咎めたりしようとか思ってないし」

 

ゼノヴィア「しかし驚いたな······『堕天魔』が日本神話と裏で繋がっているとはね」

 

八幡「まぁ昔······お前らが生まれるよりもずっと前にちょっとあってな。込み入ったことだから詳しくは言えないが、神滅具(ロンギヌス)の所有者が日本神話に仕えてる人間のある一族に生まれてな。そん時偶々日本にいたから、軽く扱い方を教えてやったら、それから色々便宜を図れるようになったんだよ」

 

そんなことがあったのか······

 

イリナ「へぇ······もしかして、そういうのって、他にもあるの?」

 

八幡「ああ······というか、そんなのは珍しくもなんともないな。どっちかって言ったら、強い異能を持ってる奴に神器(セイクリッド・ギア)が惹かれやすい傾向にあるようでな」

 

不思議だな『神器』っていうのは······神様は何を考えて創り出したんだろうか。

 

八幡「······っと、来たぞ」

 

八幡の目線の後を追うと、クルルさんと昨日会った紫陽花さん。そして、クルルさんに手を引かれている女の子······九重様がいた。

 

クルル「······ほら九重」

 

何やらクルルさんが九重様に促す。

 

九重「······私は、表と裏の京都に住む妖怪を束ねる者の娘······九重と申す。昨日は大変申し訳なかった。お主達の事情も分からずに襲ってしまったこと······どうか許して欲しい」

 

九重様はそう言って深く頭を下げる。

 

ゼノヴィア「······まぁいいんじゃないか?誤解も解けたのだし、私は構わない。折角の京都でギスギスしたまま過ごすなんて勿体ないからね。観光の邪魔をしないなら、だけどね」

 

ゼノヴィアはそう言う。まあ、一度しかない修学旅行でもあるんだし、京都を堪能したいもんな。

 

アーシア「はい。私は、平和が一番だと思います」

 

アーシアもゼノヴィアに続いて言う。

 

イリナ「······そうね。慈悲深き天使としては、許す心も必要だもの。私は恨みません」

 

イリナがさらに続く······てか、自分で慈悲深いとか言うんだ。流石は自称天使(ゼノヴィア命名)······

 

イッセー「······ということで俺達は別に構いません。頭を上げて下さい······えっと、九重様」

 

九重「九重で構わぬ。敬語も不要じゃ」

 

九重様······九重は、そう言って頭を上げた。

 

イッセー「なら九重って呼ばせてもらうよ。九重はその、お母さんのことが心配なんだろ?」

 

九重「······当然じゃ」

 

イッセー「なら、昨日みたいに間違えちゃうこともあるさ。もちろん、それがいいことっていうわけじゃない。でも、九重はこうして謝ったんだ。九重が間違ったって思ったから、こうして謝りに来たんだろ?それなら、俺達は九重を咎めるようなことはしないよ」

 

膝をついて九重の目線に合わせ、肩に手を置き、笑顔でそう言った。

 

この娘はお母さんが心配だから、多少荒っぽい手でも使ったんだ。俺だって、母さんや父さんがそうなったら同じことをすると思う。やったことはいいことじゃないし、間違ってる。でも、悪いことかと聞かれれば、それもまた違うと思う。

 

九重「······ありがとう」

 

九重は目を涙で潤ませながらそう返した。

 

八幡「スケベしか取得のない奴だと思っていたが······以外に子供の扱いに慣れてんだな」

 

イッセー「いや、これでも精一杯だし、思ったことをそのまま言っただけなんだけど······」

 

何か見当違いな方向で褒められてるような······本当に、子供の扱いに慣れてるとかじゃないんだけど。

 

アーシア「流石イッセーさんです。感動しました!」

 

イリナ「本当、子供の味方みたい」

 

ゼノヴィア「確かにそうだな。さしずめ、子供の味方のおっぱいドラゴンとでも言うところか?」

 

3人とも恥ずかしいから辞めて!! てか、ゼノヴィアの最後の何!? おっぱいドラゴンって何!?

 

八幡「なるほど······一度アザゼルやサーゼクスに相談してみるか」

 

とか八幡は言ってるし!!

 

イッセー「いや絶対に辞めてくれ!?」

 

ドライグ《······お、おっぱいドラゴン······だと!? 赤龍帝と、二天龍と称され、畏怖されたこの俺がおっぱいドラゴンだとぉぉぉお!!!!?》

 

あぁ······ごめんなドライグ。多分これは、俺が普段スケベ丸出しにしてるからなんだろうな······

 

俺は自分の行いを真剣に考えるべきかと思った。

 

 

 

 

 

八幡「······クククッ。ざまぁみろ赤蜥蜴」

 

 

イッセーsideout

 

 





薄々分かってると思いますが、今作ではイッセーはまだ(・・)乳龍帝(おっぱいドラゴン)になってません。


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第49話 『人間』の限界

今週中とか言っている間に合わなくて申し訳ございません!

テストが~!! テストがあるんですよ〜!!

(······他の作者の方みたいにやってみたけど、自分がやると凄いキモイな······)



 

······俺とクルル、紫陽花は、自分達に認識阻害の術を掛け、京都を歩いていた。

 

当然、観光などではない。観光するなら紫陽花連れて来ないし。そもそも、そんなことしてる暇ないからな。

 

メリオダスは、俺達とは別の場所から見張っている。

 

九重「······ここ、天龍寺は景色が絶景なのじゃ。何せ、世界遺産に登録されるほどじゃからな」

 

イッセー「······へぇ、凄いな。ここが大方丈裏(だいほうじょううら)か」

 

九重「そうじゃろう」

 

俺達がこうしている理由は、先ほどの九重の謝罪の時にある。

 

 

 

九重『せめてもの詫びとして、お主達の京都観光を案内をさせて欲しいのじゃ。悔しいが、私には母上を助ける力もなければ、八幡やクルルに泣きつくようなことしか出来ない······釣り合わぬかとは思うが······』

 

 

と、いうわけだ。

 

別に、それを俺が否定するわけではないが、八坂が襲われた以上、九重の身も安全とは到底言えない。もし『禍の団(カオス・ブリゲード)』の英雄派に襲われでもしたら、イッセー達だけで九重や、一緒の班である松田や元浜、桐生を守るなんて無理だからな。

 

だから、気配を消して、一定の距離を保ちながら前を行くイッセーや九重達の後を追っているわけだ。当然、イッセー達からは許可を取っている。あそこで事情を説明しなかった俺にも非がないわけでもないし、後を付けられるのは気分がいいわけないしな。

 

 

一行は、庭園の景色を堪能しつつ、最後に法堂に向かう。

 

堂内に入り、一番目に付くのは天井······『雲龍図』だろうな。長い体をもつ、所謂東洋タイプのドラゴンが描かれている。尚、この絵は『八方睨み』と言う仕組みで、何処から見ても睨まれているように見える。

 

何度見てもこの絵を見ると、『西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)を思い出すな。

 

先週会ったばっか(・・・・・・・・)だし。

 

 

その後、九重はイッセー達を二尊院や竹林の道に案内した。途中、湯豆腐屋に寄って、イッセー達と湯豆腐を食べたりと、自分も楽しんだようだ。今は渡月橋に向かっている。

 

 

ここ数日、ずっと暗い顔していただけに、年頃の女の子の顔を見せていたことに、俺達も一息つけた。九重に案内させるのは、せめてものメンタルケア的な意味もあったからな。むしろそういう意味合いのが強い。でなければ、九重に案内させないし。

 

これには、側近である紫陽花も緊張していた表情を少し和らげていた。

 

 

······引率の癖に昼間っから浴びるように酒飲んでたアザゼルとロスヴァイセにはほとほと呆れたが。というか、ロスヴァイセ酒癖悪過ぎだろ。

 

まぁオーディンのじいさんの付き人やってたストレスなんだろうな···········ッ!!!!

 

あいつら、こんな所で使うのか······!!!

 

クルル「······八幡」

 

八幡「······ああ。クルル、後は頼んだ」

 

紫陽花「いったい······?」

 

クルル「······分かったわ。でも、絶対に無理はしないこと」

 

八幡「······分かった。お前もな」

 

クルル「もちろんよ」

クルルがそう言ったのが聞こえた瞬間、俺の体を生暖かく、気持ちの悪い感覚が包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

·············俺が、周りを見渡すと、周囲には俺以外の誰もいなかった。念のため、周囲を探るが、メリオダス以外誰もいない。

 

そして、俺の足下には霧が立ち込めていた。

 

どうやら、ちゃんと(・・・・)成功したらしい(・・・・・・・)

 

八幡「······さてと」

 

俺は亜空間から破壊されなかったエクスカリバーを取り出した。エクスカリバーらバチバチとオーラを迸らせている。尚、壊された方の『天閃(ラピッドリー)』はない。前にミカエルに会った時に渡したからな。

 

メリオダス「······お、いた」

 

八幡「よぉメリオダス。無事か?」

 

メリオダス「まあな。にしても、流石八幡だな。『絶霧(ディメンション・ロスト)』の転移対象を(・・・・・)強制的に(・・・・)自分1人に(・・・・・)()き換える(・・・・)なんてさ」

 

八幡「まぁ······向こうの『絶霧』所有者が魔法使いだったから何とか干渉出来たんだけどな」

 

さっき俺がやったのは、メリオダスの言った通り、『絶霧』による転移の対象を俺1人に書き換えたのだ。と言っても、対象か。メリオダスだけは外さなかったんだが。

 

干渉出来たのは、向こうの所有者がゲオルグ······魔法使いだったからだ。おそらく、自分に掛かる使用に対する負担を軽減する魔法か何かを掛けているんだろう。そこから干渉出来た。

 

······何で発動したのを察知出来たかは分からん。何故か分かった、としか言いようがない。今までも何度かあったが、俺はいったいどうなってんだ?

 

 

その時、突如、目の前に霧が立ち込め、霧の中から複数の人影が姿を表した。

 

「······ゲオルクによる転移に邪魔が入ったかと思ったら、貴方でしたか。『堕天魔』比企谷八幡殿」

 

そして、先頭に立っていた、学生服の上に漢服を羽織り、聖槍を手にしていた黒髪の青年······曹操が俺達に挨拶してきた。

 

八幡「······よぉ曹操。随分久しぶりに会ったと思ったら、テロリストとはな。帝釈天から何か言われたか?」

 

曹操「いえいえ。俺達『英雄派』は『人間』の限界を知りたいだけですよ。いつだって、超常の存在を倒すのは『人間』でなければならない」

 

八幡「······神を滅ぼす力を使って妖怪を攫ってまでか?」

 

こいつらが犯人であることは、とっくに知れている。 反応からして、特に動じてないな。まぁ俺に会った程度で動じるような奴がこんなでかいことを仕出かすことなんて無理だが。

 

曹操「彼女には我々の実験にお付き合いしていただくのですよ。スポンサーの1人(・・・・・・・・)が無茶難題を言ってきたものですから」

 

スポンサーの1人······? 誰だ? リゼヴィム(ゴミ屑)か?それとも、『禍の団』にはまた別の派閥でもあんのか?それとも違う協力者か?

 

八幡「そうかい。それで? 何で態々俺に挨拶なんぞしに来たんだ?」

 

曹操「隠れる必要がなくなったもので、実験の前に挨拶でもしようかと思いまして。本当なら、アザゼル総督と赤龍帝殿にもお会いしたかったのですが······貴方の邪魔が入ったようだ」

 

曹操が手に持っていた聖槍を構える。

 

八幡「······そりゃあ何よりだ」

 

俺はエクスカリバーを構え、メリオダスも、黒い鞘に金の装飾が施された短剣を取り出す。

 

曹操「······と、思ったが、今ここで、超常の代名詞とも言われるほどの貴方とやるのは、随分と分が悪い」

 

突然、曹操は構えを解いた。

 

曹操「······比企谷八幡殿。我々は今夜、この京都という特異な力場と九尾の御大将を使い、二条城で実験をします。観覧したかったら是非とも。ゲオルク」

ゲオルク「······ああ」

 

ゲオルクは『絶霧』を使ったようだ。この場にいる全員が霧に包まれる。

 

 

······転移先は······俺とメリオダスは元居た渡月橋か。向こうの転移先は······探れそうにないな。早速こちらの干渉を妨害する魔法を使いやがったか。

 

 

 

 

 

 

僅か数瞬、霧が晴れると俺は元居た渡月橋の近くにいた。

 

周りを探ってみると、メリオダスも、転移される前の場所に戻されたようだ。

 

九重達、そして、後ろから着いていってるクルルと紫陽花は既に渡月橋に着いたようだ。ゲオルクに結界内に転移(とば)される前からそんな離れた所にいたわけじゃないから当然か。

 

 

 

 

 

 

八幡「······さて餓鬼ども。少しばかりお灸を据えんといけんようだな」

 

異常な視力によって二条城を見ながら、俺はそう口にして、ゆっくりクルル達の後を追うことにした。

 



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第50話 悪意の矛先

難産だった······話進んでないのに。




 

アザゼル「······実験?」

 

曹操率いる英雄派に遭遇した俺は、曹操の言っていたことをアザゼルと話し合っていた。セラフォルーとガブリエルもいる。

 

メリオダスには警戒を続けてもらい、クルルは一時的に冥界に戻っている。うちから非常要員として誰か連れてきてもらうのだ。多分(たばね)になると思うが。

 

九重には紫陽花が付いており、現在は案内ではしゃいだからなのか、疲れて眠っている。

 

八幡「······ああ。二条城でやるらしい······巫山戯てんのかあいつらは」

 

何が実験だ。何が英雄だ。あいつらはただのテロリストでしかない。英雄は民衆が、英雄を求めて、英雄と祭り上げて初めて英雄になる。傍から見れば都合の良い偶像崇拝でしかないし、そも英雄なんて呼ばれる奴はえてして大量虐殺者だ。

 

······祖先がなりたくて英雄になったとでも思ってんのか?筋違いも甚だしい。

 

アザゼル「······実験の内容は何か分かってんのか?それなら対策のしようがあんだけどよ」

 

八幡「······ああ。英雄派は八坂を使って『龍門(ドラゴン・ゲート)』を開きドラゴンを召喚しようとしている······そして、召喚しようとしているのは『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド」

 

「「「なっ!!!!???」」」

 

アザゼル「おいおい、冗談じゃねぇよ」

 

セラフォルー「そ、そんなことしたら、八坂姫は無事では済まないんだよ!? 下手したら、命だって!!」

 

八幡「······ああ。そんなことになれば、下手しなくても八坂は死ぬ」

 

『龍門』でグレートレッドを呼び出したいなら、それこそ、六大龍王全員に、二天龍が両方揃ってやっと出来るかどうかだ。八坂1人で行おうとすれば、力に耐えられずに、八坂の体は四散するだろう。

 

ガブリエル「······しかし、仮にグレートレッドを呼び出すとして、何をするのですか? 呼び出せるとしても、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスでさえ敵わなかったグレートレッドとなると、例え『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』であったとしても彼等に勝機はないと思うのですが」

 

ガブリエルの言う通りだろうな。だが、そこまでは分からなかった。おそらく、そこから何をするのかを知っているのは曹操とゲオルクのみだ。あいつら(・・・・)もそこから先は分からなかったと一昨日言ってたからな。それに、それから連絡取れてないし。

 

八幡「さぁな······そこまでは分からなかったからな······」

 

それに、曹操の言っていたスポンサーというのが気に掛かる。というより、胸騒ぎがする。リゼヴィム(ゴミ屑)が関わっているのは確定と見て間違いない。だが、『スポンサーの1人』と言うからには他にもいると考えて自然だろう。曹操のフェイクでなければ、だが。

 

誰だ······? いると仮定した場合、相当な力を持っている筈だ。やはり帝釈天か? あいつは戦争大好きな狂人だ。曹操も須弥山の出身である以上、繋がりはあるだろうから、バックについていると考えられる。だが、あいつが戦いたいのは『破壊神』であるシヴァだ。態々、こんな極東の島国で活動する人間にそこまで協力するのか?

 

······グレートレッドを倒したいなら、『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』は先ず必須だ。クルルがあいつに貸している『魔帝剣グラム』も最強クラスの『龍殺し』だが、グレートレッドに勝てるとは到底思えない。

 

オーフィスの『蛇』くらいで何とかなるならばとっくにグレートレッドは討伐されているだろうからそれもない。

 

その時、俺の脳裏に一つの光景がフラッシュバックの如く通り過ぎた。

 

 

 

『オオオオォォォォォォォォ···········』

 

『······なぁ、この磔にされてるキモいのはなんだ? 凄い寒気がするんだが······』

 

『······ふん。此奴はサマエル。貴様の所の神から生み出された天使でありドラゴン。蛇とドラゴンを嫌った神の呪いが未だに渦巻いている。あまりの危険性故に、ここに封印されたわ。しかも、存在ごと抹消されてだ』

 

『こいつがね······曰く『神の毒』。曰く『神の悪意』、か』

 

 

 

八幡「······そういうことかよクソったれが······!!」

 

やってくれたなハーデスの骸骨が······!! しかもよりによってサマエルの封印まで解くなんてな······!!

 

狙いは何だ!? グレートレッドか!? オーフィスか!?

 

セラフォルー「ハチ君!?」

 

何故今まで忘れていた!? 封印されてるからって軽く考えてたのか!?·······俺に反感をもつ奴は数知れずだが、まさかテロリスト共に協力する奴がいるとは思わなかったがな。

 

俺は急いで冥府に対して通信用の魔法陣を開く。周りの3人が何か言ってきているが、気にしている事態ではない。

八幡「骸骨如きが······巫山戯やがって!!」

 

冥府からは一切の応答がない。それどころか、完全に拒絶された。あのクソジジイに先手を許してしまった。

 

今度は、うちの領にいる桃花に対して通信用の魔法陣を開く。

 

八幡「桃花、聞こえるか!?」

 

桃花『······八幡、突然どうしたんですか?随分焦ってるようですけど』

 

八幡「悪いが、説明している時間がない。冥府に連絡を取ってくれ。早く!!」

 

桃花『? 分かりました················? 駄目です。一切応答がありません···あ、先程クルルが来て束を連れて出ていきました』

 

八幡「そうか······悪い。事情は後で一から説明する。取り敢えず助かった」

 

桃花『······そうですか。では失礼します』

 

切羽詰っていると察したのか、桃花は聞いてこなかった。

 

·······チッ······完全に後手に回ってるな······今すぐ冥府に突撃してハーデスを締め上げたいところだが、今は八坂の救出が先か······本当にやってくれるな。

 

取り敢えずは八坂の保護と、曹操達英雄派を拘束する事だ。

 

アザゼル「おい八幡。お前、自分1人だけ何か納得したみたいだが、俺達にはさっぱり分からねぇ。説明してくれよ」

 

八幡「······ああ」

 

こいつらがいたこと忘れてたわ。

 

八幡「······アザゼル、グレートレッドを倒したい。でも、『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』も、『絶霧(ディメンション・ロスト)』も、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』もグレートレッドには通用しない。如何なる『龍殺し』もグレートレッド相手では通用しない」

 

アザゼル「?······それの何処が問題なんだよ? 最強だからこその『ムゲン』だろ」

 

まぁ······一般的に考えればそうなる(・・・・・・・・・・・・)。一般的に考えればだが。

 

八幡「······ってのが常識だ。いや、そう思い込んでいた」

 

ガブリエル「······あると言うのですか? 『ムゲン』に通用するほどのものが」

 

八幡「通用するどころか、確実に滅ぼせる」

 

近付いただけの俺でも身の危険を感じるほどの寒気がしたほどだ。『ムゲン』だろうが、ドラゴンという種族である以上、必殺の猛毒であることに変わりはない。

 

セラフォルー「なっ······!?」

 

八幡「『エデンの園』、『知恵の実』、『地獄の(コキュ)()下層(トス)』。ここまで言えば、最初期に神に創られた天使であるアザゼルとガブリエルは分かる筈だ」

 

アザゼル「おいおい······冗談だろ······!!?」

 

ガブリエル「まさか······あれの封印が解かれたと言うのですか!?」

 

八幡「······まだ推測の域を出ないけどな。ただ、『禍の団(カオス・ブリゲード)』がハーデスと繋がっていると見て間違いない」

 

アザゼル「ありゃあただの『龍殺し』とはわけが違うんだぞ·······!? あの毒食らえば、ドラゴンや蛇以外だって簡単に命を失ってのによ」

 

龍喰者(ドラゴン・イーター)』、サマエル。現存する······いや、全ての『龍殺し』の中で、文字通り最強の『龍殺し』。未だに渦巻き続ける蛇とドラゴンに対する悪意は『ムゲン』ですら容易く喰らう。故に『龍喰者(ドラゴン・イーター)』。

 

セラフォルー「······ねぇ、そのサマエルっていうのは、そんなにドラゴン以外にも危険なの? 『ムゲン』に通用するほどなんだから、相当なものではあるんだろうけど」

 

アザゼル「ああ······『神の悪意』とまで言われた程の猛毒を宿している。本来、『聖』を司る神の悪意は有り得ない。それほどの猛毒だ······オーフィスやグレートレッドへの唯一無二の対抗手段と言ってもいいだろうな。『聖書の神』が幾重にも封印を施して『地獄の最下層』に封印した。存在を抹消して、だ」

 

今思い出しても鳥肌が立ちそうだ。おそらくは、俺が奪って体内に封印した二天龍共の力の影響もあるんだろうが。

 

ガブリエル「何故八幡はサマエルを知っているのですか? あれは『地獄の最下層』に封印された段階で存在を抹消された筈です。知っているのは熾天使(セラフ)、そして最古参の堕天使幹部くらいだった筈です」

 

八幡「昔『地獄の最下層』に行った時に偶々見つけて、ハーデスに聞いたらあっさり教えてくれた。今思えば、あの段階で俺を牽制と警告だったのかもな。俺が二天龍から力を奪ったことは全勢力に知れ渡ってるし」

 

考えてみればおかしな話だ。存在を抹消されるほどの危険性を宿すものが、異教のものとはいえ、部外者にそう易々と見せる筈がない。そんなことにも気付かなかったとは。

 

その時、通信用の魔法陣が開いた。

 

八幡「······桃花か。どうした?」

 

桃花『大変です。うちの領に、旧魔王派に触発された者達が襲撃して来ました』

 

八幡「何だと······?」

 

 



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第51話 反撃の狼煙


まだ話は進みませんよ。



 

 

 

 

八幡「······何だと?」

 

ハーデスが英雄派と繋がっていると気付いた側からこの有様だ。これなら、多少危険でも、ディオドラをもう少し旧魔王派に潜らせとくんだった。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』でないとしても、ある程度は情報を掴めた筈だ。

 

 

桃花『······領に侵入されてはいませんが、千人規模の大軍で攻めてきたとのことです。現在、『鉄華団(てっかだん)』の一番隊、二番隊、三番隊が応戦中です』

 

八幡「······分かった。こっちも手を離せない。クロウに出て貰え。すぐ終わるだろ」

 

桃花『分かりました······それと、まだ確定した情報ではありませんが、大群の中に堕天使を目撃した者が何人かいるとの報告がありました。しかも、複数対の羽をもっていたと』

 

複数対······少なくとも上級クラスか。悪魔に傾倒する堕天使がいるとは考え難いが······

 

八幡「そうか。そっちは任せる。気を付けろ。詳細は省くが、ハーデスが『禍の団』に繋がっている可能性がある」

 

桃花『了解』

 

それで通信は切れた。

 

·······色々考えたいことはあるが、今はクルルと(たばね)が来しだい二条城に向かうのが先決か。

 

取り敢えず、ここにいない紫陽花(あじさい)に連絡を掛ける。

 

八幡「······あ〜、もしもし、聞こえてるか」

 

紫陽花『······はい』

 

八幡「さっき送った情報の通りだ。俺達は二条城に向かう」

 

紫陽花には、前もってアザゼル達より先に経緯を話しておいた。ハーデスのことまでは話してないが。

 

八幡「お前はどうする紫陽花」

 

紫陽花『私も行かせていただきます。私は八坂様の側近ですので』

 

八幡「分かりやすい罠だぞ?」

 

紫陽花『分かっています。ですが、この程度で音を上げるようでは次期当主の名折れです』

 

八幡「そうか。なら準備しとけ。もうすぐ二条城に向かう」

 

紫陽花『分かりました』

 

紫陽花との通話はそこで終わる。

 

そこで、うちの魔法陣が開きクルルと束が出てくる。

 

クルル「遅くなったわ」

 

束「やぁやぁはーくん久しぶりー。と言っても一週間だけど」

 

八幡「悪いな」

 

束「今は、はーくんの『兵士(ポーン)』だからね〜」

 

八幡「ありがとな」

 

束「遅くなったのはギャー君に『あの槍(・・・)』をレプリカの槍と一緒に再調整して渡してきたからなんだよ〜。早いでしょ? 褒めて褒めて〜」

 

八幡「ああ」

 

一週間前に頼んだのに、レプリカは兎も角、本物の方まで終わらしたとはな······

 

クルル「······はぁ。束、後にしなさい」

 

束「え〜? クーちゃんのケチ〜······痛いっ!?」

 

文句をたれる束の頭にクルルの拳骨が落下した。

 

······俺は食らいたくないな。

 

クルル「漫才しに来たわけじゃないの。八幡、状況は?」

 

八幡「かなり拙い······直接送るわ。『光矢伝達(ブロードキャスト)』」

 

2人に向けて軽く指を向ける。指から一筋の光が放たれる。

 

クルル・束「「······!!」」

 

光矢伝達(ブロードキャスト)』······昔、メリオダスの仲間の1人だった者がもっていた能力の一つだ。魔法で再現したものなので、元々のものよりはかなり劣る(メリオダスに聞く限りでは)が、2人に情報を飛ばすくらいなら問題ない。

 

クルル「ハーデス······あの骸骨め。舐めた真似してくれるわね」

 

束「これはちょ〜っとお仕置きが必要かな〜?」

 

2人から黒いオーラが漏れ出す。まあ極僅かだが、上級悪魔程度なら触れただけで死ぬな。

 

八幡「束、それこそ後にしてくれ。今は英雄派を何とかして八坂を助けないといかん」

 

束「ん〜······はーくんが言うならしょうがないか」

 

そこに、二条城方面の見張りをしてもらっていたメリオダスが戻ってきた。『魔の鎖(グレイプニル)』で人間と思しき男を縛って連れてきた。

 

メリオダス「······凄いオーラ感じたんだけど大丈夫か?」

 

八幡「何でもねえよ。気にすんな」

 

メリオダス「そっか·········八幡、こいつはさっき二条城に向かってた。多分『禍の団』だ」

 

八幡「そうか······おい」

 

「······!!? 何かな?『堕天魔』」

 

八幡「何故二条城に向かっていた? この夜中に観光なわけないだろ」

 

ライトアップとかしてるんなら兎も角、今は照明の点検中でやってなかった筈だ。時刻は夜の8時。この時期だととっくに日は暮れている。

 

「······知らない」

 

まだ白を切るのか。呆れたもんだ。まぁ人間らしいっちゃそうなんかもしれんが。

 

八幡「そうか······なら」

 

複数の『魔の鎖』の先を突きつける。鎖は改造して鏃を先端に付けている。一斉に突き刺せば、鎖自体の能力も相まって、下手な神だって一発で殺せるほどだ。

 

八幡「お前はここで死ぬか?」

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルside

 

 

八幡「お前はここで死ぬか?」

 

俺はこれを聞いて内心驚いている。

 

八幡は基本的に、殺す、などの明確な脅しはしない。そんなことをしなくとも、八幡や八幡の周りに危害を加えれば、神であろうとどんな奴でも『終わり(・・・)』だからだ。実際にそれぐらいやってのけるくらいの力は余裕でもっている。奪った二天龍の力ではなく、だ。

 

又、ここから先は直接関係ある訳ではないが、先日サーゼクスから聞いた話によれば純血悪魔の半数以上が断絶した理由は八幡にあるらしい。

 

 

数百年前。俺達堕天使と、悪魔、天使の三つ巴の戦争が終わった直後のことだ。

 

まだ八幡の所属が明確に定まっていなかった頃、当時の悪魔の上層部は、何とか八幡を手元に置いておけないか、と考えたらしい。

 

ただ、二天龍をたった1人で滅するような奴には勝てない。そう考えた上層部の連中はある計画を実行した。

 

───それは、八幡の妻であるクルル・ツェペシの誘拐。

 

人質にとって、逆らえないようにしてやろう。という、何ともまぁあんな連中の考えそうなことだ。

 

それを成功させるべく、戦争で相当疲弊しているにも関わらず、万を優に越す大群をもってクルルを襲撃した。そこには、かなりの数の純血の悪魔も含まれていたらしい。

 

当然、それを知った八幡は激怒。クルルを襲撃しようとした大群を瞬く間に殲滅した。一人残らず皆殺しにしたという。

 

当然、その中に含まれていた純血の悪魔は全て滅んだ。その数は、千を軽く超える。そして、それは戦争で死んだ純血の悪魔とほぼ同数。つまり、途絶えた純血の悪魔の家系のうち半分は八幡が滅ぼしたことになる。

 

尚、この事実は漏洩を恐れた上層部の隠蔽工作によってもみ消されたらしい。その際、八幡は、敵対しないことを条件に、自分達に一切の危害を加えないこと、自分達の要求を全てのむことを条件に、隠蔽工作を見逃したらしい。

 

その際の隠蔽工作というのが、戦争で純血の悪魔の半数以上が途絶えた、という現在の悪魔における史実だとのこと。

 

八幡「······白を切るか? 今お前の記憶を覗いたから、お前が『禍の団』だってことは分かっている。殺さないにしても、手足の1本や2本奪うなり、お前から神器(セイクリッド・ギア)を奪うなり簡単に出来るんだが?」

 

「頼む、死にたくない!! 殺さないでくれ······」

 

メリオダス「どうすんだ八幡。放っといたらまた曹操(そうそう)のところに行くぞ?こいつは」

 

八幡「······まぁ、もうこいつは用済みだから、拘束しておけばいいだろ」

 

どうやら、本気で殺すつもりではないらしい。殺気が、本気で殺そうとしてるよう奴が出すものにしか見えなかったんだが。

 

ていうか、八幡今記憶を覗いたとか言ったよな。平然ととんでもないことをやってのけてることを自覚しているのか······

 

そこに、比企谷紫陽花(ひきがやあじさい)がやってくる。腰には刀提げている。確か、九尾の姫様の救出にこいつも同行するんだっけか?

 

紫陽花「······遅れてしまい申し訳ございません。ところで、そちらの方は?」

 

八幡「『禍の団』の1人だ。さっきメリオダスが見つけて捕まえてきた。まぁ下っ端だったからあんま大した情報は持ってなかったがな」

 

紫陽花「······そうですか」

 

さっき八幡に殺気をぶつけられたからか、八幡の眷属の1人、メリオダスが捕まえてきた男は放心状態になっており、もう、暫くはまともに会話出来ないだろう。

 

八幡「······さて、二条城に向かうぞ。最優先事項は八坂の保護、及び救出だ。さて、行くか」

 

アザゼルsideout

 

 

 





八幡の記憶を読むというのは、七つの大罪でゴウセルがやったものを、劣化してノーモーションでやってるものだと思って下さい。一応、魔法陣は出ませんが魔法で再現したものです。


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第52話 鬼か蛇か

暫く短めが続いております。申し訳ございません。

次の更新はいつになることやら······



 

 

八幡side

 

 

······俺達は二条城に来ていた。

 

ここにいるのは、俺、クルル、メリオダス、(たばね)、セラフォルー、アザゼル、ガブリエル、紫陽花(あじさい)だ。最悪の事態になった場合は、紫陽花が強引にでも八坂を英雄派から引き剥がし、制御の及ばない所まで移動する手筈になっている。

 

リアス・グレモリー眷属と、ソーナの眷属は、ホテルで待機。いざという時は一般人の避難に回る。まぁ、そうならないようにやるわけだが。

 

尚、九重は着いてこようとするだろうと考えたため、一度起きたが再び眠らせた。

 

 

八幡「······さてと」

 

俺が一言漏らすと、ご丁寧にも俺達は霧に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の後、辺りを見回すと、俺はだいぶ遠くに転移させられたようだ。

 

······敢えて大人しく転移させられたわけだが······ここは京都駅か。地下鉄のプラットホームらしい。

 

俺と一緒にいるのは束だけ。想像の範疇にあったが、やっぱしバラバラにされたか。

 

八幡「大丈夫か?」

 

束「束さんは大丈夫だよ。ただ······」

 

八幡「······ああ。結構広いフィールドだな。ご丁寧に転移阻害の術式まで掛けられてる。このフィールド内にいる限り転移出来そうにないな」

 

このフィールドは、二条城を中心に、京都の町を再現しているようだ。レーティングゲームでもこのくらいの広さは普通だが、転移阻害を掛けられてるとはな。確か、『絶霧(ディメンション・ロスト)』の所有者であるゲオルクはそれなりに高い技術をもった魔法使いだったか。

 

やろうと思えば、この転移阻害の術式も無効化させられるだろうが、それなりに時間が掛かるし、カウンタートラップが仕掛けられている可能性もある。外へも連絡は取れないな。 大人しく足で行くか。八坂の安全が確保出来ない限り、向こうがどう出るかは把握しようがない。

 

まぁいざとなったら、潜入させてるあの2人も動くだろう。

 

 

それはそれとして、クルルへ通信用の魔法陣を開く。

 

八幡「······クルル、そっちはどうだ?」

 

クルル『······私はセラと一緒よ。八幡は?』

 

八幡「こっちは束と一緒だ。気配を探ってみたが、俺とクルルが二条城を挟んで反対方向に転移させら(飛ばさ)れたようだから、合流は二条城でいいか?」

 

クルル『ええ。割と近くにアザゼルと紫陽花がいるから、2人と合流してから行くわ』

 

八幡「分かった。ならこっちはメリオダスとガブリエルと合流してから行く」

 

クルル『分かったわ。気を付けて』

 

八幡「ああ。クルルも気を付けろよ」

 

クルル『ええ』

 

クルルとの通信を切る。

 

八幡「束、近くにメリオダスがいるから合流しよう。出来れば、その時にガブリエルも拾っていきたい」

 

束「りょーかいだよはーくん」

 

俺と束は魔法で浮遊すると、メリオダスと合流するために飛行を開始した。

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

クルルside

 

セラと共に転移させられた私は、紫陽花と紫陽花と合流するため魔法で飛行して2人の所に向かっていた。セラは悪魔の翼を広げ、私に追従する形で後ろから追ってきている。

 

クルル「······あれは『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』で造られたアンチモンスター······紫陽花は······大丈夫のようね」

 

紫陽花は『魔獣創造』で造られたアンチモンスターに襲撃を受けていた。

紫陽花は、その身に宿る、『鎌鼬(スラッシュ・シェイル)』という篭手型の神器(セイクリッド・ギア)と、左手に持つ業物の日本刀で応戦している。

 

だが、アンチモンスターの数が多く、苦戦しているようだ。私も加勢しよう。

 

クルル「食らいなさい」

 

紫陽花が倒していなかったアンチモンスター全てに光の矢(・・・)を降らせる(・・・・・)

 

光の矢全てがアンチモンスターの頭部と思われる部位に命中し、アンチモンスターは消滅した。

 

·······久々やったけど、腕は鈍ってないわね。八幡と軽くだけど特訓し直した甲斐が少しはあったようね。

 

クルル「紫陽花、大丈夫かしら?」

 

紫陽花「·······クルル様。助かりました。ありがとうございます」

 

紫陽花は刀を納めながら言う。

 

クルル「気にしなくていいわ。それぐらい」

 

アザゼル「······おいおい、何であの威力の光を天使でも堕天使でもないお前が使えるんだよ。おかしくね?」

 

クルル「ああアザゼル······そう言えば居たわね」

 

気配で気付いてたけど、忘れてたわ。

アザゼル「お前それは酷くねぇか? 俺もこいつと一緒に応戦してたんだけど」

 

クルル「そう? 後、何で光が使えるかって話は、私が八幡の眷属でもあるからとしか言いようがないわね」

 

アザゼル「はぁ······?」

 

 

まぁ、アザゼルが疑問に思うのも仕方ないだろう。

 

 

 

余り知られてはいないことだが、八幡の『悪魔の(イーヴィル・)(ピース)』は、正規品のものではない。八幡のものは、正規品が完成する直前に作られた、試作品の最終号といった物だ。安全性には問題ないが、規格(レギュレーション)が正規品と全く違うといった特徴がある(アジュカが色々試していたため)。

 

規格が正規品と全く違うためだろうと私達で結論付けたが、八幡の駒を宿す者は、駒から常に光力が供給されるようになる(トレードで眷属入りした黒歌を除いて)。

 

 

クルル「八幡達とは、二条城で合流するわ」

こちらもそろそろ二条城に急がなければならない。

 

セラフォルー「ハチ君は何処にいるの?」

 

クルル「二条城を挟んでここから正反対の位置にいるわ。八幡も向こうでメリオダスやガブリエルと合流するようね。私達も急ぎましょうか」

 

再び魔法で浮遊すると、後ろから3人が着いてくるのを確認して、私は二条城に飛翔した。

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

さっきメリオダスとガブリエルと合流出来た俺は、二条城に向かって飛行していた。

 

ガブリエル「······どうして八幡達は翼も出さずに飛べているのですか?」

 

飛行中にガブリエルは、翼を出しもせず飛んでいる俺達を疑問に思ったのか尋ねてくる。

 

八幡「普通に魔法を使ってるだけだ」

 

ガブリエル「······そうですか」

 

 

そんなことを話している内に、二条城に到着した。

 

 

二条城の門前から少し離れた所に、クルル、セラ、紫陽花、アザゼルがおり、俺達より早く到着していたことが伺える。

 

八幡「早かったな」

クルル「私達も着いたのは八幡達より一瞬早いくらいよ。アンチモンスターがいたけど、全部消し飛ばしてきたから」

 

八幡「そうか。まぁ俺も似たようなもんだしな」

 

俺はメリオダスと合流する前に、神器持ち1人と戦ったな。『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』だったか。禁手(バランス・ブレイカー)に目覚めていたが、すんなり倒せた。今は気絶しており、『魔の鎖(グレイプニル)』でぐるぐる巻きにして亜空間に閉じ込めている。

 

 

メリオダス「······八幡」

 

険しい顔をしたメリオダスが俺に話し掛けてくる。言いたいことは分かる。

 

八幡「······ああ」

 

この気配······八坂のオーラを感じるな。かなり攻撃的なオーラだ。完全に向こうに操られていると見ていいだろう。

 

サマエルもある中で、どうしたものかね······

 

二条城の本丸御殿に向かいながら俺は考えを巡らした。

 

 

 




前話で八幡の強さ云々の話の一例を出しましたが、具体的じゃなかったので、おおよそですが、八幡の眷属達も含めて補完します。ネタバレを含むので、一部省きますが。


グレートレッド>>>オーフィス>>八幡>クロウ・クルワッハ=メリオダス>二天龍=ティアマット>原作での2位~10位>>勝永>三日月≧ 束=桃花=ヴァーリ(素。神器、魔剣なし)>美猴=黒歌=グレイフィア>ディオドラ>並程度の最上級悪魔


今作において、異様に強化されたディオドラ。又、クロウ・クルワッハとティアマットも強化されております。というより、八幡の眷属全体が強化されてますが。

原作での2位〜10位には、サーゼクスとアジュカも含めてです。



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第53話 それは因果応報だったのか


今の今までずっと書き忘れてましたが、八幡の目は腐ってません。(気付いてた人多いと思うけど)



 

 

 

 

八幡side

 

俺達は二条城の敷地を進み、『櫓門(やぐらもん)』を潜る。

 

古い日本家屋が立ち並ぶ場所は、ライトアップされていないため、人外の視力がないとほぼ何も見れないだろう。

 

八幡「······着いたか」

 

そう言った途端、先頭を歩いていた俺の全周囲から、ミサイルと思しき物が飛んでくる。それを、魔力弾で全て撃ち落とす。爆発が周囲に広がる前に、それも全て魔力で覆って圧縮して消滅させる。

 

八幡「よぉ······随分手荒な歓迎だな。曹操」

 

「なっ······!? 『超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)』が全て撃ち落とされた!?」

 

曹操「流石は『堕天魔』······やはりこの程度の攻撃など不意打ちにすらならないか」

 

今のこの巨体の男はヘラクレス。ギリシャ神話に伝わる、人から神になった英雄の子孫である(らしい)。

 

神器(セイクリッド・ギア)は触れた物を任意で爆発させる『巨人の(バリアント・)悪戯(デトネイション)』。禁手(バランス・ブレイカー)は、今やられたようなミサイルを体から生やして撃ち出す、『超人による悪意(デトネイション・マイティ)の波動(・コメット)』だったか。

 

この情報は、2人から(・・・・)暗号化して齎された物だ。

 

さて、その2人はと言うと、随分とまぁ好戦的な笑みを浮かべていた。うちの若い世代の奴らには戦闘狂が多い気がする。ヴァーリ然り、こいつら然り。ギャスパーは違うと信じたい。

 

······最近のギャスパーの特訓を見てると、ヴァーリと組み手したり魔力の砲撃合戦したりと、ちょっと······いや、結構ヴァーリ辺りに毒されてるような気がしないでもないが。

 

八幡「囲まれたか······まあ分かっていたが」

 

建ち並ぶ家屋の屋根の上には英雄派の制服を着た者達が、俺達を包囲していた。 ゲオルクが、『絶霧(ディメンション・ロスト)』で転移させていた。

 

 

このくらいなら何とでもなるか。問題は八坂だな。

 

 

曹操「······ゲオルク」

 

ゲオルク「······ああ」

 

曹操がゲオルクに呼び掛けると、ゲオルクは魔法陣を開き、虚ろな目をした八坂を呼び出した。洗脳······いや、催眠か。なら、解除するのはそこまで難しくはないだろう。

 

これが、洗脳だったら、この場で救出出来るかすら怪しい。俺達は攻撃出来ないが、向こうはバンバン攻撃してくるからな。催眠なら、本人の自我は眠っているという感じだから、術式を解除すればいい。洗脳は本来の自我がないに等しいからな。

 

紫陽花「八坂様!!?」

 

紫陽花が八坂を見て叫ぶ。

 

曹操「······やれ、ゲオルク」

 

曹操が再びゲオルクに促した時だった。

 

八坂「······う······うぅぅ······うあぁぁぁああっ!!」

 

突如八坂が悲鳴をあげ、体が光り出す。

 

光が収まると、九尾としての本来の姿の八坂がそこにいた。体躯はだいたい10mで、エクスカリバーで『支配』して、今ヴァーリのとこにいるフェンリルと同じくらいの大きさだ。

 

クルル「暴走させたのね·······!!」

 

曹操「ご名答。貴方方に対抗するにはこうでもしないと」

 

あまり状況は芳しくないな·······兎にも角にも、八坂をゲオルクから引き剥がさないといかん。

 

八幡「······クルル」

 

クルル「ええ······『魔の鎖(グレイプニル)』」

 

クルルが掌を八坂に向ける。掌には小型の魔法陣が開き、複数の鎖が飛び出し、八坂の胴体に巻き付く。

 

八坂「ぐがぁぁっ!!」

 

『魔の鎖』の効果で、八坂が弱体化し始める。

 

『魔の鎖』には、触れた者の異能を弱体化させる効果を付加させている。ここから、離れた所まで八坂を連れて行けば、クルルと紫陽花······あと1人2人いれば十分の筈だ。

 

クルル「ごめんなさい八坂······はぁっ!!」

 

クルルが鎖を両手で握り、遠心力も利用して、思いっきり後方に八坂を吹っ飛ばす。

 

クルル「行くわよ紫陽花!!」

 

紫陽花「分かりました!!」

 

クルルが紫陽花を連れて離脱する。

 

八幡「メリオダス、(たばね)、お前らもクルルの方に行け」

 

メリオダス「おう!!」

 

束「分かったよはーくん」

 

クルルと紫陽花の後を追うようにメリオダスと束も離脱する。

 

ゲオルク「······曹操、どうする?」

 

曹操「九尾の姫君はあくまであちら側を分断するための餌だ。別にそのままでも構わないが······ジーク、ジャンヌ、ヘラクレス、向こうが戻って来ようとしたら足止めしてくれ」

 

ジーク「了解だ」

 

ジャンヌ「仕方ないわね····分かったわ」

 

ヘラクレス「チッ······比企谷八幡に一発入れたいとこだが仕方ねぇ」

先ずヘラクレスが。次にジャンヌが。最後にジークが俺の真横を通り過ぎて行った。

 

·······おい、アイコンタクト取ろうとするなよ。バレるだろ。

 

アザゼル「おい八幡。よかったのか?」ボソッ

 

3人がクルル達を追いかけていった直後、アザゼルが小声で問いかけてきた。

 

八幡「ああ······向こうは大丈夫だ(・・・・)。それに、もし最悪の事態になったら紫陽花と八坂だけでもこの空間から逃がす」ボソッ

 

本当はクルルとメリオダスと束も逃がしたいが。

 

アザゼル「······そうか」

 

取り敢えずは納得したらしい。

 

 

八幡「······で、お前ら2人とアンチモンスターだけで俺達を相手にするつもりか? 『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』のレオナルドはここにはいないぞ?」

 

エクスカリバーを亜空間から取り出しつつ言う。

 

余談だが、『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリー)』は、アーサーが持っていた『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』と共に教会に送った。錬金術の研究に使うらしい。俺もアーサーも、他にもっと強力な聖剣を持っているので、何も問題はなかった。

 

曹操「まさかそこまで掴んでいるとはね······まあいいさ。八幡殿の相手は彼等(・・)に任せるからね」

 

曹操がそう言った瞬間、俺の横に黒い霧が発生した。そして、中から振られた光剣を体を捻って躱す。

 

八幡「チッ······!!」

 

·······こいつらの封印まで解いたのかハーデスは!!

 

「久しぶりだなぁ小僧!! いや、比企谷八幡!!」

 

アザゼル「なっ···!!? てめぇ何でここに!?」

 

八幡「·······ハーデスがやったのか。お前が来るとは思わなかったな、コカビエル」

 

コカビエル「ハハハハッ!! 俺は言った筈だぞ!! 賽は投げられたと!! さあ、戦争の続きをしようではないか!!」

 

·······俺に斬りかかってきたのは、4ヶ月前に駒王学園を襲撃したコカビエルだった。

 

その時、真後ろに『絶霧』の霧が発生したのを感じ、反射的に『塵外刀(じんがいとう)真打(しんうち)』を左手に持って後ろに振る。

 

『塵外刀・真打』の刀身に魔力弾が直撃し、明後日の方向に反射して飛んでいった。

 

「我等を忘れるな。烏の幹部が」

 

霧が晴れ、2人の男が現れる。

 

セラフォルー「······っ!? 彼等はハチ君が封印した筈じゃ······」

 

八幡「てめぇらまで来たのかよ。シャルバ・ベルゼブブ。クルゼレイ・アスモデウス」

 

シャルバ「そうだ!! 貴様を殺すため、堕天使に、更には下等な人間如きにまで我等の偉大な力を貸すという屈辱に次ぐ屈辱に耐えてここに来た!! さあ死ね!! 『堕天魔』!!」

 

クルゼレイ「そうだ。我等こそ至高の種族。その誇りを穢し、あまつさえカテレアを殺した貴様は万死に値する!!」

 

霧が晴れ、そこに居たのは、俺達が壊滅させた旧魔王派の首魁の内の2人、シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスだった。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 





シャルバとクルゼレイ、コカビエルがここで再登場。ハーデスはアンチマジックで凍結の封印を解除しました。そして、八幡達と英雄派の戦いに投入されました。

ハーデスにとっては八幡は一番厄介な存在なのです。



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第54話 帳尻合わせ

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

八坂「がぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

······私はメリオダス、(たばね)紫陽花(あじさい)と共に、戦線を離脱。八坂に掛けられた術の解析をしていた。

 

 

紫陽花「戻って来て下さい八坂様!」

 

クルル「目を覚ましなさい八坂!」

 

龍王クラスの力をもっているため、『魔の鎖(グレイプニル)』で拘束しているにも関わらず、鎖を強引に破壊しようと口から青い火炎を吐いて、鎖を破壊しようとしている。

 

『魔の鎖』で相当力は弱まっているが、口から吐く火炎は上級クラスの悪魔や天使なら余裕で焼き殺せる程の火力だ。『魔の鎖』はタンニーンのブレスにも余裕で耐えられるよう何度も改造を施したため問題はないが。(実際に試した時はタンニーンが傷一つ付けられず、ガチで凹んでいた。)

 

そして、メリオダスは、ジークフリート、ジャンヌ。束はヘラクレスと交戦中だ。

 

ヘラクレス「オラオラァッ!!」

 

束「もう、うるっさい!!」

 

束はヘラクレスの攻撃を躱していく。直撃しても問題ないだろうが、ダメージは受けないに越したことはない。

 

メリオダスは、ジーク、ジャンヌと斬り結んでいる。

 

八坂「ぐっ······ああああぁぁぁっ!!」

 

八坂が苦しむように叫び出す。そして、先程より更に莫大なオーラが八坂から放出される。が、すぐに体から放出されたオーラが八坂の体に戻っていく。

 

『魔の鎖』の効果だ。対象の力を強引に押さえ付けるのだ。

 

又、暴走して力のリミッターが外れている中で、強引に力が押さえつけられているから、相当な苦痛を感じている筈だ。

 

クルル「ごめんなさい八坂······もう少しだけ我慢して」

 

八坂が放ってきた火球を両手に持った双刀で細切りにする。その時······

 

「母上!! 目を覚まして下され!!」

 

「「「「「「「!!!?!?」」」」」」」

 

紫陽花「九重様!?」

 

クルル「九重!? 何故来たの!?」

 

······物陰から現れた九重が八坂の前に立った。

 

九重「戻って下され母上!! 母上!!」

 

八坂「がぁぁっ······あぁぁぁぁぁっ!?」

 

八坂が口に火球を形成していく。それは今まで私達に放った物よりも強力な物で······

 

紫陽花「九重様!!」

 

クルル「逃げなさい九重!!」

 

九重に叫びながら、双刀を放り投げて九重に向かって走り出す。同時に、『魔の鎖』を九重に巻き付けてこちらに投げ飛ばし、防御魔法陣に全力を回すが······

 

八坂「があぁぁっ!! ぐがあぁぁぁぁっ!!!」

 

八坂の放った今までで最大の火球が魔法陣に直撃して大爆発を起こした。

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

アザゼルside

 

 

八幡がコカビエル、旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブ、同じくクルゼレイ・アスモデウスと交戦を開始した直後。

 

俺、ガブリエル、セラフォルーは英雄派の曹操、ゲオルクと対峙していた。

 

曹操「······さて、八幡殿は向こうの3人に任せるとしよう。まぁ、先ず勝てないだろうが、八幡殿は手加減しているし、多少時間稼ぎするくらいならあの3人でもしてくれるだろう」

 

曹操は、既に上空に上がって戦っている八幡達を見ながら言う。あいつは全く本気を出していない。それが態となのか、理由があって出せないのかは知らないが······

 

ゲオルク「曹操、俺は『龍喰者(ドラゴン・イーター)』の調整をしておこう。俺達では、あれ以外に『堕天魔』に通用する(すべ)を持っていない」

 

ゲオルクという男の言葉に俺とガブリエルは目を見開く。八幡の予想は正しかったということだ。

 

やはりこいつらサマエルを······!!

 

曹操「1人で堕天使総督に、女性最強の天使、魔王レヴィアタンか。非力な人間でしかない俺が何処までやれるか。やってみようか」

 

アザゼル「······1人で俺達を相手出来ると思ってんのか?」

 

殺気を放ちながら言う。が、

 

曹操「まあね。そうでなければこの槍を持つ資格なんてないようなものだ」

 

俺は無力に等しいようなものだけどね、と付け加えて言う。言葉とは裏腹に、俺の殺気に動じている様子もない。まだ何か策でもあるのか······?

 

曹操「出し惜しみは出来ないな······禁手化(バランス・ブレイク)

 

やはり禁手(バランス・ブレイカー)に至っていやがったか!!

 

曹操が言葉を発した瞬間、槍から眩い閃光が放たれる。

 

静かな禁手だ。今まで幾つもの神器(セイクリッド・ギア)の禁手を見てきたが、ここまで静かでシンプルなものは初めてだろう。

 

だが、注視しなければならないのが槍本体と、奴を囲むように浮いている7つの球体だ。あんな物は『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の禁手、『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』では見たことがない。

 

亜種ってことか······!!

 

曹操「『極夜なる(ポーラーナイト・)天輪聖王の(ロンギヌス・チャクラ)輝廻槍(ヴァルティン)』。これが俺の禁手さ。未だに未完成だけどね」

 

アザゼル「やはり亜種禁手か!! 名称から察するに、自分は『転輪聖王』だとでも言いたいのか!?」

 

曹操「俺の場合は、『転輪聖王』の『転』の部分を敢えて『天』として発現させた。そっちの方がカッコいいだろう?

まぁ、発現出来たのは、八幡殿がヴァーリ達との修行に招いてくれたから出来たことなんだけどね。尤も、八幡殿も、ヴァーリも、ヴァーリの義弟(おとうと)のギャスパーも、まさかこんなことになるだろうとは思わなかっただろうけどね」

 

亜種禁手に驚いて俺だが、一つ言いたい事があった。

 

至らせたのは八幡かよっ!!

 

曹操「さて、先ずはレヴィアタンと熾天使(セラフ)ガブリエルだな。『七宝(しつぽう)』が一つ───『女宝(イッティラタナ)』」

 

曹操は手元に球体の一つ寄せる。かと思うと、それは超高速で俺の横を通り過ぎた。

 

アザゼル「······!? お前ら離れろッ!!」

 

あの球体は危険だ。そう思ってガブリエルとセラフォルーに離れるよう叫ぶが遅かった。

 

曹操「弾けろッ!!」

 

ガブリエルとセラフォルーが動き出す前に、球体が輝いて、2人を包んだ。

 

セラフォルー「······!?」

 

ガブリエル「こんなものッ······!?」

 

2人は球体に攻撃しようとするが、何も起こらない。

 

どうなっている······!!!?!?

 

2人から、オーラが完全に消えた······!!!?

 

アザゼル「何をした······!?」

 

曹操「『女宝(イッティラタナ)』。異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。相当な手練れでないと解除出来ない。流石に、魔王レヴィアタンと熾天使(セラフ)に効くかは微妙なところだったが、通用したようだ。

八幡殿と互角の力をもつクルル殿だったら間違いなく無効化されるところだけど、戦力の分断がこうも上手くいくとは思わなかったよ」

 

マジかよ······いきなり2人も脱落か······

 

その時、俺と曹操の間に何かが落下してくる。

 

八幡「いっつっ······」

 

落下してきたのは八幡だった。八幡があの3人にやられた······?

 

セラフォルー「ハチ君!!」

 

その時、八幡がバク転を繰り返してその場から離れる。八幡がその場から離れた直後、大量の光の矢と、魔力弾が八幡が落下した所に降り注いだ。

 

そして、上空にいたコカビエル達が降りてくる。シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスの手には剣が握られていた。

 

何だあの剣は······!? 見ているだけで寒気がする······

 

シャルバ「どうだ比企谷八幡ッ!! ハーデスから借り受けた、サマエルの血が練り込まれた剣だ!! 貴様を倒すと言ったらハーデスが大喜びで貸してくれたぞ!!」

ッ!! ハーデスの野郎······そこまで八幡を亡きものにしたいのか······!!

 

八幡「······ごぷっ」

 

八幡が咳き込むと、大量の血と一緒に口から黒い塊が吐き出された。八幡はそれを魔力弾で消し飛ばした。おそらく、今の黒い塊はサマエルの毒なのだろう。

 

八幡の腕には僅かだが斬られた後があり、そこから毒が体に回ったのだと分かる。

 

八幡「掠っただけでこれかよ······」

 

八幡は口の周りに付いた血を手で拭いながらそう漏らす。

 

八幡の体には、二天龍から奪った力が宿っている。掠っただけでも、大ダメージ必須だ。

 

普通なら、八幡はこの3人くらいならまとめて相手しても余裕を以て対処出来る。ここまで不利になることなんて今まで想像も出来なかったが、サマエルの毒を警戒して、力を出せないんだろう。

 

それに、曹操の『女宝』で力を使えないガブリエルとセラフォルーを巻き込まないように、力を最小限に抑えているのかもしれない。

 

それに、目の前にいるこの2人······前魔王くらいの力をもっている。八幡は、そこまでの力はなかったと、前言っていたから、オーフィスの『蛇』を使ったのだろう。まさかとは思うが、『蛇』を回収しようとしているのか? こいつの家にはオーフィスが居候してるし。

 

シャルバ「どうだ比企谷八幡!! サマエルの毒に苦しみながら死ね!!」

 

クルゼレイ「カテレアに与えた痛み、その身で味わうがいい!!」

 

目の前の男2人は、体中から煙が出ている。八幡のエクスカリバーに斬られたのか。それでも、全く痛みを感じている様子がない。

 

狂っている。そう感じる。

 

コカビエル「······まあいい。坊主はこの2人にでも任せるか······折角だ。俺達もやろうか。なぁ、アザゼル」

 

コカビエルは俺を見て言う。そして、両手に光の剣を創り出した。

 

 

アザゼル「······そうかよ」

 

 

俺も両手に光の剣を創り出し、そう返した。

 

 

 

······これも、俺が神器(セイクリッド・ギア)研究に(うつつ)を抜かしていた罰なのかねぇ······

 

 

アザゼルsideout

 

 







ふぅ·······何とか書けた······やばい。最初に練ってた構想から離れていってる······調整せねば。


と、ここから若干のネタバレ↓


クルルが手にしている双刀、なんとなく分かりますね?

コカビエル襲来の時にクルルが使っていた物も思い出して(読み返して)みて下さい。

分かりますね?


そうですよ·······1巻と7巻と12巻の表紙に出てるアレですよぉぉぉっ!!


以上、ネタバレでした。

······今週中にはもう1話更新したいなぁ······


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第55話 優柔不断

 

 

 

 

八幡side

 

 

······拙いな······曹操の禁手(バランス・ブレイカー)の『七宝(しつぽ う)』は7つそれぞれが全て神器(セイクリッド・ギア)としての能力を持っている。破壊出来ないことではないが、かなり厄介だな······

 

俺が知っているのは、

 

武器破壊の『輪宝(チャッカラタナ)』。

 

任意の相手を転移させる『馬宝(アッサラタナ)』。

 

攻撃を受け流す『珠宝(マニラタナ)』。

 

女性の異能を一定時間完全に封じる『女宝(イッティラタナ)』。

 

この4つだけだ。禁手を発現してから、俺が面倒見てた時に発現したのはこの4つだけで、他の3つはあるだけで曹操は全く使えなかった。

 

曹操の未完成という言葉からまだ能力が発現していない球体があるのか、それとも制御が不安定なだけか······

 

魔法と仙術でサマエルの毒は体から完全に取り除いたから十分動ける。

 

先ずは、『女宝』で動けないセラとガブリエルを何とかするか。

 

八幡「······慈愛斬(じあいぎ)り」

 

曹操の『女宝』を細切りに斬る。球体の能力が解除された直後にどれだけの力が出せるかは分からないが、全力が出せなくとも、自衛するぐらいの力はもう出せる筈だ。

 

ガブリエル「······八幡、助かりました」

 

セラフォルー「ありがとうハチ君」

 

八幡「さて、仕切り直しだ」

 

エクスカリバーをシャルバとクルゼレイ、曹操に向ける。コカビエルはアザゼルと対峙しているので、アザゼルに任せる。

 

塵外刀(じんがいとう)真打(しんうち)は亜空間に仕舞った。こいつら程度の強さ相手だと、微妙に扱いずらい。手加減すればダメージが通らないし、刀の力を引き出せば、オーフィスの『蛇』ごと消し飛ばしてしまう。それに、余波がクルル達の方まで行くからな。

 

シャルバ「さあ死ねっ!!」

 

シャルバが剣を手に突っ込んで来る。それをエクスカリバーで受け止める。

 

やはりサマエルの毒は危険だな。こうしているだけでも、漏れ出た瘴気だけで体の震えが止まらない。ずっと『祝福(ブレッシング)』で浄化を続けているが、毒、というか呪いが強すぎる。

 

八幡「······チッ」

 

クルゼレイ「食らえ!!」

 

クルゼレイが剣で斬りかかって来る。シャルバを光力を纏った蹴りで吹っ飛ばして、振られる剣から距離を取る。

 

そして、急加速してクルゼレイの剣を持っている剣を斬り飛ばす。更に、クルゼレイの腕ごと剣を光力弾で消し飛ばした。

 

クルゼレイ「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

クルゼレイは失った腕のあった所を押さえて、塞ごうとするがエクスカリバーの聖なる力を『蛇』で強化しただけのこいつが中和出来るわけないので、痛みに喚く。

 

 

···········チャンスだ。

 

 

八幡「······来い」

 

クルゼレイに向けて、掌を翳す。

 

すると、クルゼレイの傷口から血が更に吹き出す。そして、吹き出した血にはオーフィスの『蛇』が混じっており、『蛇』は俺の手元にふわふわ浮きながら飛んで来る。

『蛇』を亜空間から取り出した試験管の中に入れて、また亜空間に戻す。こいつどんだけ『蛇』を取り込んだんだ。普通の上級クラスなら体が力に耐えきれなくて破裂する数だぞ。

 

八幡「回収完了っと」

 

クルゼレイ「······『蛇』を返せぇぇぇぇぇッ!!」

 

クルゼレイがみっともなく突っ込んで来る。突っ込んで来たクルゼレイを『魔の鎖(グレイプニル)』で縛り上げる。

 

八幡「情ねぇな······」

 

シャルバ「貴様ぁぁぁッ!! 何処まで我等『真』の魔王を侮辱すれば気が済むのだぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

八幡「何処まででも、とでも言えばいいのか?」

 

また考えなしに突っ込んで来たシャルバの両手首、両足首に『魔の鎖』の(やじり)を突き刺して、地面に縫い付ける。

 

八幡「来い」

 

シャルバの中のオーフィスの『蛇』を呼び寄せる。これはオーフィスから教えてもらった『蛇』の回収方法だ。もちろん、後で回収した『蛇』はオーフィスに返す。

 

その隙を狙ったのか、曹操の『輪宝』が俺に飛んで来たが、エクスカリバーで反撃する。

 

八幡「重っ······うらぁ!!」

 

エクスカリバーで破壊しようとした、途中で球体は曹操の元に戻って行った。

 

八幡「破壊しようと思ったんだがな······」

 

曹操「そう簡単に破壊されては俺の立つ瀬がないね」

 

本気で攻撃するためにこっちに飛ばしたんじゃないな······曹操は未だにこちらの様子見をしている。

 

曹操「······それにしても、シャルバ・ベルゼブブもクルゼレイ・アスモデウスも情けないな。折角、我々が実験で使っていた『蛇』まで与えたというのに、この程度とは。堕天使総督殿と戦っているコカビエルを少しは見習ったらどうかな。あっちは戦いになってるぞ?」

 

『魔の鎖』で地面に縫い付けられたシャルバに曹操がコカビエルとアザゼルを指差しながら言う。

 

曹操の指差した場所では、アザゼルとコカビエルの光の矢が飛び交っており、周囲の地面は抉れ、建造物は軒並み吹き飛んでいる。

 

シャルバ「黙れ下等な人間が······貴様らは我等の言う事を聞いていればよいのだ」

 

曹操「今のお前が言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえないな」

 

シャルバ「黙れ······!!」

 

曹操がシャルバを嗤って、シャルバはそれに歯噛みをしている。

 

その時、ずっと黙々とサマエルの調整をしていたゲオルクが口を開いた。

 

ゲオルク「······曹操、サマエルの調整が終わった。後は実行に移すだけだ」

曹操「やっとか」

 

ゲオルク「ああ。出力の調整に想像以上に手間取った」

 

······マズい!!

 

ゲオルクに向かって斬撃を飛ばし、サマエルの召喚阻止をするべくゲオルクを押さえに向かおうとするが、放った斬撃は聖槍のオーラで消し飛ばされ、ゲオルクに斬り掛かろうとしたが曹操に止められる。

 

曹操「ゲオルク!!」

 

ゲオルク「了解だ!!」

 

ゲオルクが口の端を歪ませると、二条城の敷地より広いのではないかと言えるほどの魔法陣を展開した。

 

そして、魔法陣からはドス黒く禍々しいオーラが発生する。

 

八幡「ヤバいッ!!」

 

曹操をアザゼルとコカビエルが戦っている方向の反対側に蹴り飛ばし、魔法陣を破壊しに、サマエルを滅しに向かう。

 

曹操「······そうはさせない」

 

八幡「邪魔だ!!」

 

曹操が蹴り飛ばした所から瞬時に戻って来、また目の前に立ちはだかる。

 

曹操「行け」

 

曹操が球体の一つを飛ばして来る。

 

八幡「悲愛一(ひあいひと)き······!?」

 

擬態(ミミック)』の能力で2本に増やしたエクスカリバーで球体を斬ろうとした。が、

 

曹操「『馬宝(アッサラタナ)』。貴方は後だ」

 

八幡「しまっ······」

 

 

 

 

 

『馬宝』で櫓門(やぐらもん)まで転移させられた。

 

八幡「曹操の野郎!!」

 

全力で元いた所まで戻ると、既にサマエルが召喚されていた。

 

曹操「······先ずは魔王レヴィアタンからだ」

 

曹操が指を鳴らすと、サマエルが口を開き、触手のような舌が飛び出す。それは、未だに『女宝』の効果が抜けきっていないセラに向けられていた。

 

曹操「サマエル、食らえ」

 

『魔の鎖』でセラを放って、セラに向けられて発射された触手のような舌を斬る。

 

八幡「悲愛一斬(ひあいひときり)!!」

 

2本に増やしたエクスカリバーでサマエルの舌を切り裂こうとする。

 

が、舌は俺が斬る寸前に16に分裂した。

八幡「なっ······!?」

 

それも斬ろうとするが、あまりの速さに間に合わず、俺はサマエルの舌に飲み込まれた。

 

 

 

 

八幡「·······ぐあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

マズい······サマエルの呪いで意識が······

 

 

八幡「あぁぁ、ぁ(あぁ)······」

 

エクスカリバーが手からすり抜けるのが分かったところで俺の意識は途絶えた。

 

 

八幡sideout

 

 





本作屈指の強引な流れだなー(他人事)。

一応、雑ですけど、今回はその後の物語の展開に必要です。


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第56話 心の光

今回は絶対に万人受けしないだろうなぁ(今までと対して変わらないけど)。

あと、設定で、鬼呪装備は(ブラック)トリガーみたいな物って最初書きましたが、紆余曲折の結果原作通りの設定に戻っております。大変申し訳ございません。

尚、閑話を読んだ上で読むことをお勧めします。



 

 

 

クルルside

 

 

クルル「······危なかった」

 

九重「······クルル?」

 

ぎりぎり防御が間に合った私は、九重を抱えて八坂から距離を取る。まさか、『魔の鎖(グレイプニル)』で力を押さえ付けているのに、あそこまで力が出るとは思わなかった。

暴走させた際に何か別の術を掛けたのか、元々八坂の力を見誤っていたのか。

 

クルル「九重、この際貴方がどうしてここにいるのかは聞かない。貴方も八坂を助けに来たんでしょ?」

 

九重「も、もちろんじゃ!! 母上は私が救いたい!!」

 

クルル「······分かったわ。なら、八坂を取り敢えず押さえないといけないわね」

 

九重を地面に降ろし、魔法を発動する。

 

クルル「『光矢伝達(ブロードキャスト)』」

 

八坂に向けた右手の指から光が飛び出し、八坂の頭に繋がる。反対の手でも発動し、こちらは九重の肩に手を置く。

 

クルル「九重、心の中で八坂に語りかけなさい」

 

九重は、不安がりながらも頷き、瞑目した。

 

九重『母上······母上······!! 聞こえますか、母上!! 九重です······』

 

九重が八坂に語り掛ける。『光矢伝達』を通して仲介している私にも九重の声が聞こえてくる。ただ、八坂からは反応がない。暴走して自我が飲まれているという可能性もある。

 

九重は涙混じりに続けた。

 

九重『もう、我が儘は言いません。嫌いな魚だって食べます。夜中に京都に飛び出すことももうしません···········だから、どうか、いつもの母上に戻って下され······九重を、許して······母上······』

 

九重は何度も何度も八坂に謝り続ける。

 

······というか、この子、夜中に京都に飛び出すとかやんちゃしすぎじゃない? それとも、このぐらいの年の子はそれぐらいが普通なのかしら?······オーフェリアもヴァーリもギャスパーもそんなことなかったから······いやヴァーリは違うか。

 

クルル『八坂···私からも頼むわ。九重を許してあげて。そして、この子を抱き締めてあげて』

 

九重『クルル······』

 

その時だった。

 

『······九、重』

 

微かにだが、八坂の声が私達に、確かに聞こえた。

 

九重『母上!! 九重はここにいます!! 母上!! また歌を歌って下され!! また舞を教えて下され!!······また母上と一緒に、京都を、この都を歩きたいのです······!!』

 

その時、九重と八坂を淡い光が包み込んだ。そして、八坂の体は光を発しながら、徐々に人型に戻っていった。

 

倒れそうになる八坂の体を支える。序でに、『魔の鎖』も解除した。

 

八坂「ここは······クルル? お主いつの間に京都に来たのじゃ?」

 

クルル「はぁ、よかった。意識もある」

 

八坂「?」

 

そこに、九重が八坂に駆け寄り、抱きつく。

 

九重「母上ぇ······母上ぇぇぇっ!!」

 

八坂「九重どうしたのじゃ······全く、お前はいつまで経っても泣き虫じゃのぅ」

 

八坂は九重を優しく抱き締め、そっと頭を撫でた。もう大丈夫だ。私は、八坂から少し離れて地面に座り込んだ。

 

八坂「それにしても、いったい何がどうなっておる? 確か······天帝の使いと対談しにいった筈······」

 

クルル「ああ、それは······」

 

そこまで言いかけた所で、突如、とてつもないオーラを感じた。寒気がするような、この感じはまさか······サマエル!?

 

クルル「八坂、話は後よ。暫く九重とここにいて。メリオダス!!」

 

メリオダス「ああ!!」

 

進路上にいた、(たばね)が戦っていた図体がデカい男······ヘラクレスを思いっきり殴り飛ばしつつメリオダスと、サマエルのオーラを感じた所に向かって駆けた。

 

束「······うん。相変わらずくーちゃん容赦ないな〜」

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

「······ん。は······ん。起きなさい八幡」

 

八幡「······ぅん?」

 

誰だ······? 俺はサマエルに飲み込まれた筈だ······というか、サマエルに飲み込まれたのは俺1人の筈なのに、何で誰かいるんだ?

 

「やっと目覚めたわね。大丈夫? 八幡」

 

八幡「······お袋?」

 

目覚めた俺の視界に入ったのは金髪の女······忘れもしない、俺の母親のルシフェル(リーラ)、その人だった。周りとの光量もあって、顔が見えるまで少しフリーズした。

 

······色々聞きたいことはあるが、先ず第一に、お袋の顔がこの位置にあるってことは、俺はお袋に膝枕されてるのか······この歳にもなって。いや恥ずいわ。

 

取り敢えず起き上がる······誰に見られているわけでもないが、あのままだと恥ずかしくて俺の精神が削られそうだ。

 

ルシフェル「貴方······いつまで寝ぼけてるの? 貴方には私以外の誰かに見えるの······って、ちょっと。何で泣いてるの?」

 

八幡「······は?」

 

自分の頬を触ってみると、俺は泣いていることが分かった。

 

ルシフェル「どうかした? ここは貴方の精神空間だけど、私がいて何か不調でも出た?」

 

八幡「あぁいや、嬉しいんだよ。死んだお袋に会えるなんて夢にも思ってなかったから······

 というか、やっぱここ俺の精神空間なのか。どうりで見覚えがあると思った」

 

前後左右上下の概念が一切ないこの真っ白な空間に、俺はいた。

 

 

ここは俺の精神空間だ。鬼呪装備(きじゅそうび)の中でぐうたらしてる鬼達によく引きずり込まれる。クルルのとこではやらないくせに。だが今回は、俺とお袋しかいないらしかった。

 

八幡「······色々聞きたいこととかあるが、取り敢えず、お袋、ごめん。すまなかった」

 

お袋に土下座して謝る。俺は、お袋に謝らないといけない。

 

 

そして、俺はずっと謝りたかった。

 

 

ルシフェル「······何が? 貴方私に何か謝らないといけないようなことでもしてた? 貴方の中から見てる限りそんなことしてなかったけど」

 

八幡「お袋が死んだあの日、俺はのうのうと遊んでた。お袋が、親父が、小町(こまち)が、死の恐怖に飲まれていたあの時俺は1人のうのうと······」

 

涙をボタボタ溢しているが気にせずもう一度謝ろうとした時、俺はお袋に抱き締められていた。

 

ルシフェル「······バカねぇアンタ。それを言うなら、原因である私が謝らなきゃいけないじゃない」

 

八幡「お袋······?」

 

 下手くそな作り笑いを浮かべて、お袋は言う。

 

ルシフェル「私が死ぬのは、八幡が生まれるより前から決まってたのよ。貴方のせいじゃない。一番悪いのは······時宗(ときむね)と小町を道ずれにした私ね」

 

八幡「そんなこと······」

 

ないだろ。言おうとしても、お袋は首を横に振った。

 

ルシフェル「今言った通り、私は死ぬことが決まっていた。それでも時宗が私を選んでくれて、貴方と小町が生まれた。私にはそれだけで十分」

 

だからね。と言ってまたお袋は続ける。

 

ルシフェル「生き残ってくれた貴方に残した力を、今解き放つわ」

 

八幡「それってオーディンも言ってた、俺に掛けた封印か?」

 

あのじいさんは、以前俺に封印が掛けてあると言っていた。

 

ルシフェル「ええ。と言っても、消滅する筈だった私の断片がこうして存在している段階で、貴方に必要だったのか分からないけどね」

 

そう言ってお袋は俺の頬にそっと触れる。

 

八幡「······!!」

 

その瞬間、俺の頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。

 

お袋から俺に継がれた『権能(・・)』。

 

闇に葬られた禁術、秘術。

 

聖戦(せいせん)、今やほぼ死に絶えたと言ってもいい魔神族、女神族。

 

蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』と、『究極(テロス)の羯磨(・カルマ)』の能力と特性。

 

神とお袋、ミカエル、アザゼルによって封印された『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)666(トライヘキサ)······っておいおいマジかよ。

 

しかも、力が溢れてくる······? これは封印されていた本来の俺の力······?

 

お袋が俺の肩に手を置きながら言う。

 

ルシフェル「······色々聞きたいこともあるだろうけど、それは後でね。貴方の肉体は『光』で保存されてるから安心して。でも八幡、一つだけ約束して。貴方もさっき分かっただろうけど、クルルはあいつと人間の男との間に生まれた()()()なの。あの子は、バケモノと謳われた者の子。絶対にクルルの手を離さないで」

お袋は不安そうに俺に言ってきた。

 

 

 愚問だな。

 

八幡「······そんなこと百も承知だ。別にお袋に言われなかろうがクルルが何者だろうが、俺がクルルから手を離さないことは変わらん。俺とクルルは夫婦で、俺からあいつから離れることは絶対にない。逆も然りだ。それに、クルルはバケモノなんかじゃねえよ」

 

ルシフェル「······そう。なら良かった。じゃあ貴方は戻りなさい。取り敢えず、馬鹿やった子供にお仕置きしてきなさい。

聞きたいことがあったらまたここに来ればいいわ。本当なら、封印を解除したら私は消滅する筈なんだけど、貴方の力が強すぎたせいで、意識の断片でしかない私もある程度意識としては貴方の精神空間限定で存在を確立してるようなの。そうそう、鬼呪装備を経由すれば八幡以外もここに来れる筈よ」

 

 何で鬼呪装備が必要なのかは知らないけど。とお袋は続けた。

 

八幡「······ああ、分かった」

 

封印の際に、お袋は自分の意識を2つに分割して、片方を俺に掛ける封印の制御装置にしたらしい。本来、この封印が消滅すると、お袋の意識の断片も一緒に消滅する筈だったらしいのだが、俺から流れた力が封印とお袋の意識にも影響を与えて、不安定だったお袋の意識の断片は存在が安定したとか。

 

八幡「·····んじゃ、行ってきます」

 

ルシフェル「······行ってらっしゃい」

 

視界が光で染まる。俺は精神空間から現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「······サマエルの毒が消えた?」

 

俺が目を覚ますと、そこは再びサマエルの舌の中。だが、さっきまで感じていた意識が飛ぶような激痛はもう感じない。お袋が光力か何かで、防御膜でも張っていたのだろう。

 

······今思ったが、意識体のお袋は俺の力に干渉出来るのか。存在が確立されたからか? まぁ、今はありがたい。

 

手からすり抜けたエクスカリバーを掴み、エクスカリバーに聖剣の因子を流し込む。

 

八幡「よし、ここ破壊して······!!」

 

 サマエルの舌で形成された球体を切り刻む。真っ黒だった空間は呆気ないほど簡単に切れた。毒が効かなければ、所詮はその程度だ。

 

 

曹操「この短時間でサマエルの毒を克服したのか!!?」

 

曹操とゲオルクが俺を驚愕の目で見ている。シャルバとクルゼレイは気絶している。俺が意識を失ったせいで『魔の鎖』の拘束は消えているが、2人は出血多量で卒倒したのか? だが意識はないようだし気にする必要もなさそうだ。

 

セラフォルー「······ハチ君?」

 

ガブリエル「あれは······」

 

アザゼルとコカビエルの戦いは決着が付いたらしく、コカビエルは倒れ伏していた。アザゼルも鎧がかなり損傷していたことから短時間で、相当切迫した戦いだったようだ。消耗しているのが見て取れるほどに。

 

八幡「······さて曹操。覚悟はいいな?」

 

曹操「そう思い通りにはいかないか······」

 

 

 

俺はエクスカリバーを曹操達に向けた。

 




八幡に掛けられた封印ですが、話の中で説明されたことで全てです。(それ以上の設定を決めなかったとも言う)


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第57話 『遺志』

 

 

 

(たばね)side

 

 

束さんは、ヘラクレスをぶん殴ってはーくんの方に向かっていったくーちゃんとめーくんを見送って、気絶したヘラクレスを『魔の鎖(グレイプニル)』で縛り上げた。

 

束「······は〜疲れた〜。束さんは非戦闘員なのに、くーちゃんったら人遣い荒いよ〜」

 

まいいや。帰ったらいっくんに頭なでなでしてもらお〜。

 

「お疲れ様束。クルルに呼ばれたの?」

 

「······お疲れ様。あ、クルルに魔剣返すの忘れた」

 

束「じーくんとしーちゃんも、潜入任務お疲れ様~」

 

ジークフリート改め、ジークフリートの子孫である魔剣使いのジン。ジャンヌ改め、『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』を持ち、ジャンヌ・ダルクの子孫であるシフラ・ダルク。

 

2人は、くーくん(クロウ・クルワッハ)が休暇を取ってふらっと旅に出て帰って来た時に連れ帰ってきた。2人は、教会で悪魔祓い(エクソシスト)として悪魔を祓ってきたが、ある一件で教会に見限られ、途方に暮れていた所をくーくんが見つけたとか。詳しくは聞いてない。

 

はーくんが、おーちゃん(オーフェリア)とかヴァーくん(ヴァーリ)とかぎゃーくん(ギャスパー)を引き取ったのに影響された、と束さんは見ている。

 

束さんはじーくん、しーちゃんと呼ぶ。この呼び方、くーちゃんはネーミングセンス無いって言うんだよね〜。いいと思うんだけど。

 

束「じーくんは大丈夫?『龍の(トゥワイス・クリ)(ティカル)』とグラムの相性最悪だけど」

 

ジン「まあなんとか。束から貰ったこの指輪のお陰で、短時間ならほぼノーリスクでグラムを使えたしね」

 

そう言ってじーくんは左手の人差し指に付けてる指輪を撫でる。

 

束「束さんとしては、まだ未完成なんだけどね〜······」

 

ジン「いや、これも十分凄いと思うんだけどね······」

 

この指輪は束さん特製のもので、一定時間グラムのリスクを代わりに受け持ってくれる。一定時間内にだったら、何回でも使えるけど、それを超える時間使ったら、すぐに壊れちゃうんだよね〜。

 

本当はもっといいの作りたかったけど『禍の団(カオス・ブリゲード)』が想定より早く動き出しちゃったから、この程度の未完成品渡すしかなかったんだよ〜······

 

シフラ「······あら? どうかしたの? 九尾のお姫様は」

 

しーちゃんが言ったことを受けて、思い出す。そう言えば九尾の御大将とその娘が、くーちゃんにここにいろって言われてたっけ。

 

九重「お主らは、『禍の団』とやらの仲間ではなかったのか······!?」

 

シフラ「あぁそっか。潜ってたことは分かんないか」

 

ま、こんなちっちゃい子に潜入任務とか分かんないか。仕方ないね。

 

八坂「潜ってたこと······? お主らは『禍の団』ではないのか?」

 

ジン「そうだね。僕とシフラは八幡からの命を受けて、『禍の団』に潜入していたんだ。貴方方に手荒な真似をしたことは謝罪しよう。曹操達の目論見に気付くのが遅れたこちらの不手際でもあるからね」

 

律儀だね〜じーくんは。

 

束「しーちゃん、さっきの気持ち悪いオーラの奴は何か聞いてる?」

 

シフラ「殆ど何も。曹操達が『龍喰者(ドラゴン・イーター)』とかなんとか言ってたのは聞いたことがあったけど、あんな禍々しい物だとは思わなかったわ。八幡に聞いとけば良かったわ」

 

ふむふむ。『龍喰者』ね。はーくん達何でもいいからデータ取ってきてくれたりしないかな? 束さんも興味あるし。

 

束「まあそれは後でいいんじゃない?······取り敢えず、九尾のお姫様は束さん達と一緒にいてね〜」

 

束さんの言葉に頷く2人。というか、束さん達にそんな怯えることなくない? このちっちゃい子。

 

ジン「じゃあ僕は気絶してるヘラクレスを見張ってようかな」

 

束「よろしく〜」

 

って言うけど、じーくんは女4人の中に居づらいだけじゃない?

 

 

束sideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

曹操「······いったい、どうやってサマエルから抜け出した······? 二天龍の力を奪っている貴方が······!?」

 

俺の前にいるのは、俺に怯えるような視線を送る曹操。サマエルから自力(と言っていいのか微妙だが)で抜け出した俺はそんなに畏怖対象らしい。

 

······ってか、容姿?

 

ルシフェル《今の貴方は、髪が私みたいになってるわね。瞳の色も変わってるし》

 

あれ? お袋精神空間だけじゃねえの?

 

ルシフェル《八幡だけならこうして話が出来るわ。気付いたの今だけど。クルルがメインで契約してる鬼だって似たようなものでしょ? それに髪に触ってみなさい》

 

お袋に言われた通り自分の髪を見てみると、髪は耳にかかるぐらいの長さだったのが、腰にかからないくらいまで伸びてる。ウェーブが掛かっていて、何より、黒だった髪がブロンドになっている。

 

······これも力が解放された影響か。息子ってだけの俺が、力解放しただけで髪の色まで変わるとは。流石は天使堕天使で最強の女。

 

ルシフェル《······褒めても何もでないわよ》

 

いやそういうことの為に言ったわけじゃないが。まぁ今はいいか。

 

ルシフェル《流したわね》

 

改めて曹操に意識を戻す。

 

八幡「······さあな。一々敵にそこまで教えると思ってんのか?」

 

曹操「それはそうだ」

 

さて、ここはお袋から受け継いだ『権能』を試すべきか。これを権能と言うのかは微妙だが、お袋が権能と言っていたから権能なのだろう。

 

「オォォォォォォオオオッ!!」

 

その時、突如、サマエルが一際大きな咆哮を上げる。

 

ゲオルク「!?······何をしているサマエル!?」

 

曹操「ゲオルクどうした!?」

 

あれは······まさか暴走か? ハーデスが何か仕掛けたのか? それとも、俺のもつ『権能』に反応してゲオルクの術を打ち破った?

 

ルシフェル《······多分最後ね。八幡に移譲した『権能』は、サマエルがああなった原因とかなり近い性質をもっているから。まあ、元が同じな以上当然と言えば当然ね》

 

······随分他人事だな。対処するの俺なんだけど。

 

ルシフェル《貴方なら楽勝でしょ? 今更サマエル如きに遅れをとるわけでもあるまいし》

 

はぁ······消し飛ばした方がいいのか? 封印するか、それともサマ()エル()使ってハーデス脅すか。

 

ルシフェル《消し飛ばすか、封印するか、冥府の神を脅す材料に使うかしか選択肢ないの?》

 

いや、俺以外の奴に使う可能性だってあったろ。現に、魔王であるセラが狙われてたし。俺を引きずり出すためのブラフの可能性もあるが。

 

 

その時、サマエルが再び触手のような舌を飛ばしてくる。今度は、先程の操られていただけとは違い、純粋な怒りと憎しみを感じる。

 

なるほどな。サマエルからは『地獄の最下層(コキュートス)』に堕とされた原因と、俺が重なって見えたのか?

 

八幡「悲愛一斬(ひあいひとぎり)

 

擬態(ミミック)』の力で2本にしたエクスカリバーで、サマエルの舌を切る。そのまま斬撃を飛ばし、サマエルに切り付ける。

 

サマエルの肩口から血が吹き出した。

 

「オォォォ······オォォォアァァァァァアアアッ!!」

 

サマエルが更に狂ったように叫び出す。今度は怒りすらなくなり、純粋な憎しみを感じた。

 

八幡「じゃあなサマエル。『魔の鎖』」

 

『魔の鎖』でサマエルを拘束する。触れた者の異能の力を抑え込む能力のをもつ『魔の鎖』なら、強制的に暴走状態を鎮めることは可能だ。追加で睡眠の魔法も掛け、そのまま俺の亜空間に封印した。二重の拘束は不要であればありがたいんだが。

とにかくこれで、サマエルは二度と目覚めることはないはずだ。

 

 ただ、ハーデスとの交渉に使えるかは······少し微妙だな。あいつと外交で拗れるのはめんどくさい。

 

ゲオルク「······ッ!! 『堕天魔』······!!」

 

曹操「これは完全に俺達の負けか······? いやまだかな」

 

チッ······『覇輝(トゥルース・イデア)』か。なら、ここは早速『権能』を試すべきだな。

 

曹操「槍よ、神を射貫く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を───」

 

 聖槍から光が漏れる······いや、溢れ出す。

 

俺は曹操に手を向けた。

 

八幡「悪いな曹操」

 

『権能』を発動させ、俺が言葉を口にした瞬間、聖槍は光を完全に発しなくなった。

 

曹操「······!? どうなっている······!? 『覇輝』が中断された······!?」

 

八幡「一時的に神器を封印させてもらった」

 

 曹操は、『覇輝』がダメならと、『禁手(バランス・ブレイカー)』を発動しようとし······そして失敗した。

 

曹操「!!!?······まさか、神器(セイクリッド・ギア)のプログラムに介入をッ!?」

 

八幡「どうだろうな」

 

濁しはしたが、曹操ので大正解だ。そう、それこそが俺がお袋から移譲された『権能』。

 

 

天使長だったお袋は、『聖書の神(ヤハウェ)』以外で唯一神器の『システム』に直接介入する権限を持っていた。それは俺に移され、封印が解けた今、こうして発動している。

 

お袋によって、生まれてすぐに天界の『システム』から外された俺がこの『権能』を一部でも行使するなんて皮肉な気もするが······

 

サマエルが反応したのもこの『権能』が神格に限りなく近いものだからだとお袋は考えているらしい。

 

八幡「曹操、お前達はここまでだ。サマエルを使ったのが逆に悪手になったな」

 

曹操「クッ······」

 

5年前、闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)から暫く面倒を見ろと言われて、一年半近く家で暮らしていたこいつを俺が対処するというのも必然だろう。ヴァーリが『禍の団』にいたことで、その時に、既に俺が勘づいていることに気付かなかったのがこいつの最大のミスだな。

 

ルシフェル《そう言えば、貴方そんなこともしてたわね。極々稀にだけど、封印が不安定になってるから偶に貴方を通して外見てたけど、貴方毎日飽きないような生活送ってるわよね》

 

自覚してるわ今更。余計なお世話だ。

 

八幡「今の状態でまだ抵抗出来るなんて考えるほど、お前はバカじゃないだろ?」

 

ゲオルク「曹操······撤退しよう。今の『堕天魔』に俺達が敵うわけがない。ここで──」

 

 ゲオルクが、転移の魔法陣を展開する。

 

八幡「残念だがな、お前らを見逃すわけがないんだよ。ああは言ったがな」

 

再び『権能』を発動させ、今度はゲオルクの『(ディメンシ)(ョン・ロスト)』を封印する。

 

ゲオルク「なっ······!? 霧が!!」

 

ゲオルクは取り乱した。曹操同様に神器を使えなくなったことに動揺を隠せなかったらしい。

 

······この『権能』、あまり使わない方がいいな。やり方次第じゃ各地から神器使いを一方的に攫うことも出来るし。やらないが。

 

ルシフェル《そうね。与えたのは私だけど、八幡の立場から考えたら、使わないに越したことはないわね》

 

だよなぁ······

 

八幡「『魔の鎖』」

 

取り敢えず、状況に絶望している2人を縛り上げる。騒がれても面倒だから、暫く眠らしとくか?

 

······唯一ここにはいない、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』のレオナルドも探さないといけないか。じゃあ今眠らすのはダメか。

 

なぁお袋。

 

ルシフェル《何? どうかした?》

 

この髪と目はどうやったら戻るんだ?

 

ルシフェル《力抑えれば戻る筈よ。まあ初めて解放したわけだし、こっちからも制御しとくわ。貴方も仙術使えば、楽に抑えられると思うわ。目はともかく髪は目立つし》

 

サンキュ。それにしても、今のお袋、ロボットアニメに出てくる緑とか黄色の球体型のロボットみたいだな······

 

ルシフェル《まあ存在的には似たような物じゃない? あれと一緒っていうのは流石にやめて欲しいけど》

 

取り敢えず、力を出来るだけ抑えとくか······あ、戻った。これも何れは自分一人で制御出来るようにしないとな······

 

 

 

八幡「アザゼル」

 

アザゼル「ふぅ······ん? 何だよ」

 

八幡「ほらコレ」

 

アザゼル「?······ はぁ!? 『黄昏の聖槍』の曹操か。じゃあこっちは『絶霧』のゲオルクか」

 

曹操とゲオルクを引き渡す。俺が連れ帰ってもいいが、いい機会だしアザゼルに恩を売っとくのも悪くない。

 

ここの擬似京都は、俺達が出たら崩壊するだろう。

 

 両方とも、禁手(バランス・ブレイカー)に至れないように細工をしておいた。当然、『覇輝』も。これが一番危ないからな。

 

八幡「『神の子を見張る者』で厳重に管理してくれ。俺だと、それだけで継戦派に刺激与える原因にもなりかねないからな」

 

アザゼル「あ、あぁ、それは分かったが······お前どうやってこれを?」

 

八幡「あ〜······」

 

これは言った方がいいのか? というより、言って大丈夫なのか?

 

ルシフェル《アザゼル一人ならまだいいけど、ガブリエルがいるから······本当のことを全て話すのはマズいんじゃない?》

 

それもそうか······

 

八幡「後で話す」

 

アザゼル「あぁ······てか、さっきの少し見てたが、お前ルシフェルから何かしら受け継いでるだろ」

 

八幡「さてな」

 

流石アザゼル······あれだけでここまで分かるとは。恐ろしい観察力だわ。おお怖。敵に回したくねぇ。

 

ルシフェル《コイツド変態でオタクじゃなければ、とっくの昔に結婚してたろうにねぇ》

 

······まあハーレム築いておきながら、未だ独身だしな。

 

八幡「まあ······お袋の力をちょっとな」

アザゼル「······そうかい。あの女の力なんて碌でもないだろうが······とにかく、ウリエルに絶対に知られるなよ。あいつは堕天したルシフェルを間の敵にしてたからな。お前自身敵対してるし」

 

八幡「あぁ······分かってるつもりだ」

 

 

その時、先程まで曹操達がいた所に黒いもやのような物が発生した。

 

「「「!!」」」

 

『······サマエルを回収しに来たつもりが、まさかハーデス様の温情で貸し与えたサマエルを失った上に、自らも敵の手に落ちるとは。なんとも情けないですね。英雄擬きが』

 

 

 もやから現れたのは、黒いローブを纏い骸骨の仮面を付けた存在。携える鎌は斬られた者の魂に直接ダメージを与えることの出来る凶悪な武器。

 

曹操「······何故ここに······?」

 

『魔の鎖』で縛られている曹操が問いかけた。

 

八幡「······ハーデスに言われて、俺を殺しにでも来たか? プルート」

 

プルート『······まあそうですね。比企谷八幡』

 

黒いもやから姿を表したのは、ハーデスの側近の一人でもある死神(グリム・リッパー)のプルートだった。

 

 

 






今気付いたけど、セラフォルーとガブリエル、曹操の『女宝(イッティラタナ)』で力封じられただけで何もしてないですね。まぁ、外交官が直接戦闘してるのも変だけど。


キャラ追加説明

篠ノ之(しののの) (たばね)
IS〈インフィニット・ストラトス〉より。

比企谷八幡の『兵士(ポーン)』。元々(人外を知らない時から)、生まれてくる時代を間違えたのではないか、と言える程の頭脳と科学力を有していた。が、ある時、自身の頭脳により、時代から逸脱した科学力を発揮し、研究のデータが漏洩してしまったために、偶々一緒にいた幼馴染みの弟である織斑(おりむら)一夏(いちか)諸共殺されかける。そこを八幡達によって保護された。その後、一夏の生活のために八幡の眷属になる。

尚、情報漏洩は、束の科学力に目を付けた一部の悪魔の仕業。漏洩したデータを(人外の力で)完全に抹消し、一夏と共に冥界に移り住んだ。一夏の姉である幼なじみは友人ではあったが、一夏への態度と価値観から反りが合わなかった模様。眷属になってからも暫くは連絡を取っていたらしい。

原作に比べて性格は(かなり)軟化しているが、他人に冷たいのは相変わらず。それでも、一夏曰く昔に比べて相当マシになったとか。


・ジン/ジークフリート

八幡陣営の中では割と数少ない純粋な人間。元々、教会の悪魔祓い(エクソシスト)として、名を馳せていたが、ある一件で神の真相を知ってしまい、当時ペアを組んでいたシフラ・オルタ(後述)共々教会から追放され、宛もなく彷徨っていた所を、ふらっと旅に出ていたクロウに保護された。

ジンという名前は、クルルが付けた。

彼の持つ魔剣は、本作での設定では、クルルの所有物を潜入任務の際に怪しまれないように借り受けたことになっている。グラムと相性が悪いのは原作と変わらないが、束の開発した指輪のお陰で、グラム使用のリスクを最低限に収めている。

一つ原作との大きな違いを上げれば、クルルがグラムを所有しているため、シグルト機関は存在しない。彼は別の戦士育成機関のデザインベビーとして生まれた。尚、フリード・セルゼン(とその妹)はここでも彼と同じ機関で生まれた。


シフラ・ダルク/ジャンヌ

八幡達と出会ったのはジンと同じ理由。クロウに保護された時、彼女は死にかけていた。彼女はジンやフリードと同じ機関で生まれたデザインベビーであるが、本来は失敗作として廃棄寸前だったところを、『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』を宿していたためにそれを免れた。
その後、ジンとペアを組んで、悪魔祓いとして活動していた。

彼女の名前は、ファーストネームをクルルに付けられ、ファミリーネームは尊敬する先祖という意味で自分から名乗るようになった。

八幡の屋敷にある宝物庫(ティアマットの宝はほぼここにある)から、幾つか聖剣を借りたが、あまり手に馴染まなかったために、殆ど使わなかった。




その内、八幡陣営のキャラの設定を簡単にまとめた物を改めて出します。


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第58話 絡み付くアクイ

本作での『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』と『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』は、八幡がルシフェルから受け継いだ『権能』を無意識下で使った際に出来たイレギュラーで不安定な神器(セイクリッド・ギア)という設定になっております。




 

 

クルル「······八幡、サマエルは?」

 

プルートと対峙していると、八坂に掛けられた術を解除しに離脱していたクルルとメリオダスが戻って来た。

 

どうやら八坂に掛けられた術の解除に成功したようだ。

 

さっきのオーラから、サマエルが使われたことまで分かったらしい。流石クルル。一度見ただけでサマエルのオーラまで覚えているとは。

 

八幡「サマエルは拘束して亜空間に封印した。2度と出すつもりはないな。そっちは?」

 

クルル「多少手荒な真似になったけど、八坂に掛けられた術は解除出来たわ。向こうは束達に任せてきた」

 

束達、か。あの2人もやっと肩の荷が降りるか?

 

メリオダス「······八幡、何でここにプルートがいるんだ?」

 

ずっと険しい顔をしているメリオダスが低い声で言う。

 

八幡「サマエルを回収しに来たんだと。まあさせないがな」

 

プルート『そこの子供······何処かで······』

 

プルートに向き直る。

 

八幡「······さて、ここで俺達全員を相手にして消滅するか、大人しく手ぶらで撤退するか選べ。プルート」

 

ここでプルートを殺すのは簡単だが、やりようによってはこいつを使ってハーデスへの牽制が出来る。

 

プルート『······なるほど。ここで『堕天魔』とその眷属を相手にするのは些か荷が重い。ここは大人しく撤退した方が身のためでしょう』

 

······こいつ絶対何かするな。

 

クルルとメリオダスに目で合図する。

 

プルート『······ですが、このまま手ぶらで帰るわけにもいきませんので』

 

言うなりプルートが高速で移動する。やっぱりか。

 

八幡「······させると思ってんのか?」

 

プルートは、どす黒い刀身の鎌でガブリエルを斬ろうとした。

 

ガブリエル「······!!」

 

プルート『······流石に止められるとは思いませんでした。流石アーサー王が振るったとされる伝説の聖剣』

 

当然、エクスカリバーでプルートの鎌を受け止める。大方この中では実力が下になるセラかガブリエルのどちらかに攻撃でもしていくのかとは思っていた。

 

俺がプルートの鎌を受け止めている所に、プルートにクルルとメリオダスが斬り掛かる。

 

······あいつクルルに魔剣返してなかったのか。

 

プルート『······これは不意打ちも無理そうですね······諦めて退却しましょうか』

 

プルートの足元から黒いもやが発生する。

 

八幡「······ハーデスに伝えろ。次に敵対行為と思しき行動を起こしたら、即刻冥府に攻め込むとな」

 

プルートに殺気をぶつけながら言い残す。これでハーデスが何か仕出かしたら、言い逃れ出来なくした上で冥府に攻め込むだけだ。

 

プルート『!!?······いいでしょう。ハーデス様に伝えてあげましょう』

 

黒いもやに包まれ、プルートは撤退していった。

 

 

 

メリオダス「······八幡、良かったのか? プルートを殺さなくて」

 

短剣を鞘にしまったメリオダスが聞いてくる。

 

八幡「別にいい。これでハーデスへの牽制になるならそれでよし。これでハーデスがこっちの忠告を無視するような行動を起こせば、冥府に攻め込むだけだからそれはそれでよし」

 

当然、攻め込むのは俺1人でやるが。

 

メリオダス「······そっか。分かった」

 

メリオダスはそれ以上は聞かないことにしたらしい。

 

ルシフェル《······さっきの八幡の殺気凄いわね。こっちに向けられたわけでもないのに、震えが止まらなかったわ》

 

お袋が意識内で話し掛けてくる。

 

いや、言い過ぎだろ。そんな大層なものじゃない。

 

ルシフェル《見くびりすぎよそれは······》

 

 

八幡「······あ~、ガブリエル、大丈夫か?」

 

何かプルートが置き土産に仕掛けていったことも考えられる。一応見ておくに越したことはない。

 

ガブリエル「······あ······はい。助かりました、八幡」

 

八幡「そうか。ならいい」

 

 

 

 

 

······さて、英雄派もここまでくれば、もう完全に瓦解したも同然。残党を全員捕縛出来るか若干微妙な所だが······

 

 

後は『クリフォト』だ···········リゼヴィム(あのゴミ屑)を見つけ出して必ず殺す。オーフェリアとヴァーリから全てを奪ったあいつを。

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

ルシフェルside

 

 

 

八幡の精神空間で、私は1人考えていた。

 

 

聖書に『リリン』と記載された男。リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

八幡とクルルが引き取ったオーフェリアという少女と、ヴァーリという白龍皇の少年の祖父にあたる。

 

八幡の中から見る限りは、酷い、としか言いようがない。一言で言えば、超重度の精神異常者。イカレてるとかいうレベルではない。

 

(いにしえ)の大戦であの男とは何度か対峙したことはあるが、その際は頭がイカレてる戦闘狂程度にしか考えていなかった。

 

 

 

 

息子に人間の女性との間に子供を作らせ、その子供達の目の前で母親を惨殺。そして、更には父親を惨殺。

 

オーフェリアって娘は、この段階でもう精神が崩壊仕掛けていたのだろう。その後にも肉体的、性的虐待を受けたことで、完全に精神が崩壊した。

 

弟のヴァーリって子が精神を保てていたのは、姉を支えなければ、という義務感からきたものだと八幡は考えている。それは間違ってないだろう。

 

なにせ、姉が虐待されるところを目の前で見せられていたらしい。彼の心も、折れていてもなんら不思議はないが、彼に宿る『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の存在が大きかったのかもしれない。

 

オーフェリアの娘、カルナは、ルシファー特有の銀の髪ではないが、それは誰かも分からぬ、もうリゼヴィム・リヴァン・ルシファーに殺された父親の遺伝かと思われる。

 

そして、彼女が明るくいれることは何よりの幸いだろう。

 

尚、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを、再び屋敷に戻った八幡は屋敷のありとあらゆる所を虱潰しに探したが、その時には既にもぬけの殻だった。

 

 

あの男は、『禍の団(カオス・ブリゲード)』で『クリフォト』を率いていったい何をするつもりなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

······八幡とクルルをすぐにでもあの場所(・・・・)に案内するべきかしら。

 

彼女が······『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)666(トライヘキサ)が利用される前に······

 

 

 

 

 

 

 

······そして、幼くして本当の両親を失ったクルルのためにも······

 

 

 

ルシフェルsideout

 

 



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第59話 過去、そして現在(いま)

感想で、詳しい設定や補足を出した方がいいとのご意見を頂きましたが、もう暫くお待ちください。




 

八幡side

 

 

 

八幡「······で、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』のレオナルドは何処にいるんだ。曹操」

 

魔の鎖(グレイプニル)』で拘束している曹操に聞く。確か、アンチモンスター創造に特化していたと聞いている。

 

曹操「······ハハッ。大見得切ってこのザマか。全く、情けないな······レオナルドなら、清水寺でアンチモンスターを創ってるよ。師匠」

 

八幡「お前、今更師匠とか呼んで同情誘おうとしても無駄だからな」

 

昔は呼ばれていたが······今更そう呼んでどうしたいのか。

 

尚、シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスは、『魔の鎖』で拘束して、亜空間に閉じ込めている。気絶しているのでちょうど良かった。

 

後で然るべき処罰を冥界の上層部から言い渡されるだろうが······俺が消してもいいかね。

 

八幡「メリオダス、レオナルドを回収してくれ。束達も連れてっていいから」

 

メリオダス「分かった。そう言や八幡。結局、こいつらはどうすんだ?」

 

両手を縛られて膝をついている曹操とゲオルクを指差しながらメリオダスが言う。

 

八幡「まぁこいつらは······うちで独房入とかだな。いや、八坂を攫ったわけだから、日本神話に身柄を預けるか。そこまで悪い扱いにはならんだろ。こいつらは反省してもしたりないと思うがな」

 

俺としては、八坂を攫ったんだから個人的にも処罰したいところだが······まあ日本神話に意見を聞いてからでもいいか。

 

2人の神器(セイクリッド・ギア)はもうアザゼルに預けたからな。後は完全に任せてもいいくらいだろう。

 

メリオダス「ああ、それもそっか」

 

そこに、ヘラクレスを引き摺って束が戻ってくる。その後ろには、魔剣を鞘に納めて腰に提げているジン。欠伸してるシフラ。そして、その後ろから八坂に抱き着いている九重と、九重を抱いて頭を撫でている八坂。

 

ジン「······やぁ曹操。八幡に随分やられたんだね」

 

シフラ「随分こっぴどくやられたわね~」

 

曹操を見ながら言う2人。その2人を見て驚愕の表情を浮かべる曹操とゲオルク。

 

曹操「······ジーク? ジャンヌ?」

 

ジン「悪いね曹操。僕とジャンヌ······いや、シフラは元々こちら側なんだ。八幡を出し抜きたかったら、内部にも警戒しておくべきだったね」

 

シフラ「八幡は英雄派が発足してすぐに察知してたわ。周到さが足りなかったのね」

 

曹操「······やっぱり師匠には適わないか」

 

俺を出し抜けなかったと悟った曹操。そんな簡単に出し抜けると思ってんのか?

 

そんな馬鹿弟子にため息をついていると、お袋が八坂や九重に対して聞いてくる。

 

ルシフェル《······そう言えば、あの九尾の娘とはどういった関係なの?》

 

お袋俺の記憶覗くとか出来そうだが。

 

ルシフェル《込み入ってそうな話まで覗いたりしないわよ》

 

そうですか。まあそうしてくれると助かる。

 

······ってか、それ以外はやっぱり覗いたんだな。

 

ルシフェル《······それで? どうなのよ》

 

無視ですか······そうだな、八坂と出会ったのは······もう100年以上前のことだっけな。

 

 

 

 

 

 

100年以上前。

 

 

その当時、日本神話の一大勢力である妖怪、特に京都に属する妖怪達は、一部の悪魔と大規模な戦争をしていた。

 

昔から他勢力の領土を分捕るのが好きだった聖書勢力は、日本でも有数の力場だった京都に進出しようとしていた。

 

当然、京都に住む妖怪達はそんな身勝手を許すわけがない。だが、悪魔とは自分の欲望に何よりも素直な種族だ。

 

 

この当時、転生悪魔であるタンニーンやリュディガーがレーティングゲームで本格的な活躍をし始めていたくらいで、今より貴族が幅を効かせていた冥界では、より悪魔という種族元来の元に純粋だったという背景もある。

 

 

話を戻すが、そういう経緯によって正面から対立していた悪魔と妖怪だが、この妖怪達の先頭に立っていたのが、八坂の先代を筆頭とした九尾、即ち九尾の一族だった。

 

 

 

この戦争の結果、妖怪側は悪魔に大打撃を与え、退けるも、妖怪達は人口が激減した。そして、特に大打撃を受けたのが九尾の一族で、絶滅寸前まで追い込まれていた。

 

この戦争では、俺は裏での活動に徹していたが、その際、当時から親交があった日本神話から、九尾の少女を匿って欲しい、との依頼があった。

 

この少女が八坂だった。

 

俺は冥界上層部との取引で、悪魔側からの干渉が少なかったことを踏まえて、という背景による。

 

その後、八坂は10年程うちで暮らし、戦争が完全に終わったのを見計らい、京都に戻ることになった。

 

 

 

 

 

ルシフェル《·······へぇ〜、そんなことがあったのね。悪魔ってやっぱり頭が弱いのね》

 

まぁそうだな。現魔王派と大王派は止めようとしてたが、それでも止まらなかった奴らが始めたことだからな。

ルシフェル《どんだけなのよそれ······》

 

まぁ戦争引き起こした奴等はだいたいは消したから問題ないと思うが。

 

 

 

八坂「······八幡も来ておったのか。お主とクルルには昔から世話になってばかりで、すまぬな」

 

八坂が微笑みながらそう言ってくる。クルルがどうやったかは想像つくが、ゲオルクに掛けられた術は綺麗に解けたようだ。

八幡「気にすんな。と言うか、弟子の手網握ってなかった俺の落ち度だ。こちらこそすまなかった」

 

今更ではあるが。

 

クルル「私からも、改めて謝罪させていただくわ」

 

八坂「そこまで言われるとこちらが何も言えなくてのぅ。お主とクルルには昔から世話になってばかりでなぁ······」

 

八幡「じゃあ、天帝の使いと和平でも結んでくれ。今度はうちの猿(・・・・)もいるだろうしな」

 

クルル「それもそうね。それに、九重もいることだし早く帰るわよ」

 

八坂「では、お言葉に甘えさせてもらおうて」

 

そして、俺達は『絶霧(ディメンション・ロスト)』で創られた擬似京都から脱出した。

 

 

 

 

その後、八坂は日本神話の使いとして、帝釈天の使いである闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)と、悪魔側のセラと会談。日本神話は、須弥山、悪魔との協力態勢を敷いた。

 

 

会談の後、八坂に悪魔を恨まないのか、と聞いてみたが、 八幡もクルルも、悪魔が混ざっておるから一々悪魔全体を恨んだりしない。と返された。一時期娘のように接していた八坂が成長したな、と感じたのは、俺とクルルだけに留めておく。

 

 

 

 

余談だが、闘戦勝仏の所に向かわせた美猴は、全然帰ってこないな、と思っていたが、会談の際に、闘戦勝仏に(強制で)鍛え直されていたことが分かった。

 

連絡してきた時に、顔を青くしていたからまあ何か言われてんだろうな、とは思っていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

八幡「······さて曹操。『クリフォト』について、知っていることを全て吐け」

 

俺は冥界の自領で拘束している曹操に会いに来ていた。理由は当然、尋問のためである。

 

先程、ゲオルクへの尋問も済ませた。こちらからは、ハーデスが教えたサマエルの制御方法以外は、殆ど掴んでいる情報だった。

 

尚、この2人の処遇は日本神話から一任されたため、結局うちの領にある刑務所に投獄した。

 

曹操「まぁ俺には拒否権がないですし······と、言われましても、俺自身もあまり知らないんですよ」

 

八幡「······何なら知っている」

 

曹操「······『クリフォト』は聖杯を手に入れ、それの研究を行っているとは聞きましたね。

 

実のことを言うと、俺もリゼヴィム・リヴァン・ルシファーとは一度会ったきりです。『禍の団(カオス・ブリゲード)』は派閥ごとに掲げてる目標が違いすぎて、お互い不干渉だったくらいだし。

 

話を戻すと、『クリフォト』は俺達英雄派や旧魔王派よりも人材が集まってましてね。神滅具(ロンギヌス)の一つである、『紫炎祭主による磔台(インシレネート・アンセム)』の現所有者がクリフォトに協力していると」

 

八幡「あれか······」

 

2年近く前の『空蝉機関』の一連の騒動の際に、所有者がいたとは聞いたが·····あれは奔放だからな······今何処にあるのか······

 

曹操「後、クリフォトは何かを探していると聞きました。何を、何の目的で、はさっぱりですが」

 

八幡「······そうか。ならお前はまた暫くここにいて頭を冷やすことだな」

 

そう言って、面会を切り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯か······もし、その聖杯が『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』だとしたら······いや、彼女(・・)を保護する最後のチャンスかもな。

 

 

そして、奴等が探している何か······俺達が探しているあの人に会いに行ったら······あの人が持つ情報から何かを得られるかもしれない。

 

 

 




曹操が八幡の弟子になったのが5年半前。ジークとジャンヌがクロウに保護されたのが2年前です。尚、これと同時期に、家出していたヴァーリは八幡に見つかり、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』の前で踵落としを食らいます。

尚、悪魔と妖怪との戦争は捏造100%ですのでご注意ください。



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第60話 クルルの後悔

 

 

 

 

 

クルル「······精神空間?」

 

八幡「ああ、俺の精神空間に潜ってくれ」

 

日本神話、須弥山、悪魔が会談によって協力態勢を敷いた翌々日。

 

俺はクルルにそう切り出した。

 

八幡「詳しい話はそっちでする。お袋に掛けられた封印が解かれたんでな」

 

クルル「?······何かこっちじゃ出来ないような話があるのかしら?」

 

八幡「······まぁそうだな」

 

京都から駒王に帰って来、今家にいるのは俺達2人だけだが念のため。

 

クルル「······分かったわ」

 

クルルは右手に黒い鞘に納められた刀を手に持ち、俺の肩に逆の手を置き目を閉じる。

 

 

 

精神空間に潜るには、『鬼呪装備(きじゅそうび)』という物が必要である。

 

『鬼呪装備』とは、簡単に言えば、『鬼』と呼ばれる特殊な種族になるための儀式を経た人間を武器に封じ、『鬼呪(きじゅ)』という特殊な力を宿した武器のことを指す。又、『鬼呪装備』は言ってしまえば、封印系の神器(セイクリッド・ギア)に近い。

 

『鬼』となり『鬼呪装備』の中に封じられた者も意識はしっかり存在し続けており、『鬼呪装備』の所有者の精神空間を形成することが可能になる。これも一部の神器とほぼ同じ。

 

所有者は『鬼』と契約を交わすことで、『鬼呪装備』の力を引き出せるようになる。尚、一つの『鬼呪装備』でも契約を交わせば何人でも使うことが可能だが、契約を交わさず使おうとすると、精神を破壊される。

 

『鬼』と契約を交わしている者は、『鬼』が複数の人物と契約している場合に限り、自分以外の『鬼』との契約者に触れることで、『鬼呪装備』を介して他者の精神空間に潜ることが出来る。

 

クルルが持った刀は、『鬼呪装備』の中でも屈指の力を持ち、最高位にあたる『黒鬼』の『阿修羅(あしゅら)(まる)』だ。封印されている『鬼』はクルルの義兄(あに)であるアシェラ・ツェペシ。

 

彼はクルルを守るため、自ら『鬼呪装備』の中に封印された。それについてはまたいつか······

 

 

 

 

八幡「······クルルは気分大丈夫か? 普段は俺がクルルの精神空間に(勝手に)引っ張りこまれてるが、こうして俺の方に来ることはほぼないからな」

 

クルル「······ええ、大丈夫よ」

 

クルルを俺の精神空間に潜らせた。後はお袋が寝てなければ、お袋に一部説明してもらいたい(お袋は意識体のくせに普通に眠る)。

 

「お〜い。僕を忘れてイチャイチャしないでくれるかい?」

 

そこにもう1人の声が響く。振り向けば、黒い長髪に、クルルと同じ赤い瞳の男······クルルの義兄で、『阿修羅丸』に封印されている『鬼』のアシェラ・ツェペシがいる。

 

八幡「忘れてない忘れてない。義兄さんのことなんてこれっぽっちも忘れてないから安心しろ」

 

アシェラ「······そんな棒読みで言われてもねぇ。説得力皆無だよ八幡」

 

クルル「まぁ、兄さんも途中から来たのがいけないのよ。最初から私達と一緒にいればいいのに」

 

アシェラ「あれ······多少気を使おうかと思った矢先に、妹夫婦が辛辣だよ」

 

義兄(にい)さんは毎度毎度似たようなことをやっている気がするが······妹に強く当たられて喜ぶ性質(タチ)なのか?

 

アシェラ「違うよ!?」

 

一々心を読むな。読めるからって。

 

アシェラ「······で、態々ここにクルルを呼んだ理由はなんなのさ。自分の口から言いたいだけなら、遮音の結界張るだけでもいいだろ? まぁ八幡の記憶から、僕は何がしたいか分かってるけどさ。クルルに教えてあげなよ」

八幡「すぐに分かるって······お袋」

 

俺が今日ここに態々クルルを連れてきた理由······それは、お袋をクルルに会わせるためだ。

 

ルシフェル《······ふぁ。呼んだ八幡?······って、クルルじゃないの。久しぶりね。未だに八幡はクルルに世話になりっぱなしみたいね》

 

お袋を呼ぶと、お袋は欠伸をしながら現れる。ここは俺の精神空間なのに、お袋はこの中で割と勝手にしている。そして、意識体のくせに睡眠が必要らしい。生前の習慣がぬけなかったのか。

 

クルル「······う、そ」

 

アシェラ「······やぁルシフェル。700年ぶりかな? 今ではお互い肉体を失っているとはね。ビックリだ」

 

お袋を見て目を見開くクルルと、目を細める義兄さん。

 

ルシフェル《······そうね。久しぶりアシェラ。そしてクルル、久しぶりね。八幡を支えてくれたこと、感謝してもしきれないわね》

 

······? お袋は義兄さんと会ったことがあるのか?

 

クルル「······ルシ、フェル、様、どう、し、て······?」

 

ルシフェル《様なんて付けなくていいわよ······今の私は、生前の(ルシフェル)が八幡に掛けた封印の制御装置にすぎない。単なる残りカスが八幡の力を受けて消滅せずに残っただけよ。こうでもしないと、八幡以外には会えないような矮小な存在》

 

お袋は目を細めて言う。

 

クルル「そんなこと·········ッ、ルシフェル様······申し訳ございません。あの時私がいれば、ルシフェル様は······」

 

「「《!?》」」

 

クルルはお袋に謝罪の言葉を口にした後、土下座してお袋に謝罪した。突然のことに、俺達は驚いた。

 

クルルが謝ることじゃない。クルルは俺から離れられないのに、お袋達から離れた俺が悪いのだ。それを言おうとして、先にお袋が口を開いた。

 

ルシフェル《はぁ······貴女も八幡と全く同じことを言うのね。クルル、頭を上げなさい。いい? 私が死ぬことは貴女が生まれる前から決定していた。貴女はそれを承知の上で八幡の護衛を引き受けた。今更私のことなんて気にしないでいいの》

 

クルル「ですが······」

 

八幡「クルル······そんなこと······」

 

アシェラ「はぁ、クルル、ルシフェルがここまで言ってるんだから、頭上げなよ。これ以上言ったら君に八幡を託したルシフェルに失礼になるよ」

 

呆れたように義兄さんが言って、やっとクルルは頭を上げた。

 

ルシフェル《こっちを見なさいクルル》

 

クルル「······え?」

 

お袋はクルルをそっと抱き締めた。子供を優しくあやすように。 それに対して、クルルは何が何だか分からないとでも言うような表情を浮かべる。

 

ルシフェル《貴女には感謝してる。貴女は自分が一番辛い時期なのにも関わらず、何も言わずに八幡の護衛を引き受けてくれた。感謝しかないの。私なんかに頭下げちゃだめよ》

 

クルル「ルシフェル様······はい」

 

ここにクルルを呼ぶ前にお袋から聞いた。

 

当時は分からなかったが、昔のクルルは俺達家族に対して一線引いていた。それは、お袋を仕事の上司として見ているからであり、クルルが自分の感情から目を背けていたからであり、ある種の自己防衛だという。

 

ルシフェル《······もう一つ、貴女に言わないといけないことがあるの》

 

そしてお袋は更に切り出した。

 

クルル「?」

 

アシェラ「ルシフェル、それは僕から言わせてもらってもいいかい? 兄として、僕がクルルに伝えなきゃと思うんだ」

 

ルシフェル《······分かったわ。お願いね》

 

八幡「······俺が言わなくていいのか?」

 

俺が言うべきかと迷っていた。

 

ルシフェル《これは貴方ではなく、私やアシェラが直接伝えなければならないこと》

 

アシェラ「そうだね。肉体をも失った僕に出来る数少ないことだからね」

 

クルル「八幡は知っているの? 兄さんが何を言うつもりなのか」

 

八幡「ああ······昨日お袋から聞いた」

 

この場においてクルルだけが知らないこと······昨日までは俺も知らなかったことだが。

 

アシェラ「クルル、君の両親のことだよ」

 

クルル「······ッ!!」

 

アシェラ「ずっと黙っていたことなんだけどね······君に話すよ。あれはもう700年も前─────」

 

義兄さんはそうして語り出した。

 

 

クルル・ツェペシは如何にしてツェペシとなったのか。

 





ここで一旦切ります。次回はクルルの過去回。クルルの両親が判明します。まぁ、間接的に答えを書いていたので、分かってる人が大半だと思いますが。

次回はルシフェル視点かアシェラ視点になる予定。


補足説明

鬼呪装備(きじゅそうび)

700年以上前に活動していたとある組織によって研究されていた対人外用の装備。

特殊な儀式によって、『鬼』という種族になった人間が封印されており、『鬼呪』という特殊な力が宿っている。所有者は『鬼』と契約することによって、装備ごとに様々な力を引き出すことが出来る。
又、『鬼』は複数の者と契約することが可能。

人工神器(セイクリッド・ギア)に近い。

尚、『阿修羅丸(あしゅらまる)』以外にも『鬼呪装備』は複数あるが、現在は現存する物全てをクルルが所有。


キャラ設定

アシェラ・ツェペシ

クルルの義理の兄。彼はある事件で死にかけ、自ら『鬼呪装備』となったのだが、詳しくは次回。



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第61話 追憶の『女王』

また長くなってしまった······



 

 

アシェラside

 

 

 

今から約700年前。

 

その当時、僕は『帝ノ月』と呼ばれる、対人外の異能集団に所属していた。僕はその集団のNo.3として活動していた。

 

 

そんなある日のことだ。天使最強の女と謳われる女性が僕に接触を図ってきたのは。

 

 

アシェラsideout

 

 

 

 

 

 

 

ルシフェルside

 

 

 

私は目の前でスヤスヤ眠っている幼子を見て溜め息を吐く。

 

彼女はクルル・ゼクスタ。『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』としてグレートレッドと同等の力を持つ女性、666(トライヘキサ)と人間との間に生まれた子だ。

 

 

『ルシフェル······この子に罪はない。ルシフェル、貴女を1人の女性と見込んで、この子を頼みたい』

 

 

私にクルルを託した、グレートレッドと同等の力を持つ女性の言葉が頭を過ぎる。

 

彼女は、神と私達熾天使(セラフ)の手で既に封印された。彼女の夫······クルルの父も、神に危険分子と判断され消されてしまった。

 

 

ここは聖書勢力の力が及ばない領土にある、人間界のとある街に秘密で作った私の隠れ家。

 

クルルを匿った私は、天界から抜け出してこの場にいた。

 

 

 

 

······さて、この子をどうするべきだろうか。私が堕天して、時宗(ときむね)と共に姿を晦ます? いや、それはおそらくまだ無理だ。

 

まだ準備が整っていない。今堕天すれば、神が簡単に私の場所を探し出してしまう。それだけは避けなければならない。悪魔である時宗は間違いなく消されてしまうし、最凶の力を受け継いだ彼女は、危険視されてどんな仕打ちを受けるか分かったものではない。

 

 

そこで、私は対人外の集団がここから程近い所に拠点を置いていることを思い出し、早速接触を図った。

 

 

 

ルシフェルsideout

 

 

 

 

 

 

 

アシェラside

 

 

 

『帝ノ月』に接触を図ってきた、目の前の金髪の女性······名をルシフェルという。かの有名な天使長ルシフェルだ。

 

先日、僕らの組織に接触を図りたいという者がいた。指定された場所に向かうと、彼女はいた。そこはヨーロッパの片田舎の民家だ。

 

アシェラ「······で、あの有名な天使長様が人間である僕達に何の用かな? しかも子連れとはね。これはまた驚いたよ」

 

後ろに立っている、僕の直属の部下(敬語使わないほどには生意気だけど)、一瀬(いちのせ)グレンと(ひいらぎ)深夜(しんや)がいつでも戦闘に入れるように自身の武器に手を掛けたことを横目で確認して続ける。

 

ルシフェル「この娘は私の友人の娘よ······単刀直入に言わせてもらうわ。この娘を貴方の組織で預かって欲しい」

 

天使長ルシフェルは、隣りにいる淡い桃色の髪をした女の子の頭を撫でながら言う。

 

······こんなちっちゃい女の子をうちで育てろと? 何の冗談だ? いや、態々こうして来てまで冗談を言う奴なんかいないか。

 

グレン「······どんな冗談だ?」

 

深夜「いや僕に言わないで欲しいんだけど」

 

部下2人も突然のことに驚いているようだ。

 

ルシフェル「別に、無理にとは言わないわ。ただ、さっき渡した資料を見て、事情だけでも理解してくれるならありがたいけど」

 

先程渡された資料をペラペラ捲ってみる。

 

 

······ふむふむ。なるほど。そこの女の子は人外(しかもこの世界で最強クラス)と人間とのハーフで、天使長ルシフェルのところの神に見付かれば、間違いなく殺されてしまうと。

 

ルシフェル「······無理かしら?」

 

アシェラ「うんいいよ。その娘はうちで育てよう」

 

このままほっとくのも罪悪感があるし、訓練を積ませればうちの組織の戦力にもなる。うちは対人外の組織だけど、うちでは人間に害を成す奴が殲滅対象だから、悪意に染まってないこの娘は対象外だ。

 

グレン・深夜「「えっ本気?」」

 

アシェラ「本気だよ?」

 

······そこまで驚くこともないだろうに。こいつらときたら。

 

ルシフェル「······なら良かった。この子を頼むわ。あと、これはこの子の養育費ということで。急だったからこれしか用意出来なかったけど」

 

そう言って、小さな麻袋を渡してくる。中には金貨が数十枚ほど。

 

アシェラ「十分だね。この子が大人になるまで甘やかしても余裕でお釣りがくる。まぁその娘はやれるだけやってみるよ。それでいいだろう?」

 

ルシフェル「······そうね」

 

天使長ルシフェルはそれに満足したように帰って行った。

 

 

 

 

 

グレン「······おい本気か?」

 

部下のグレンが再度聞いてくる。

 

アシェラ「さっきも言ったろ? 言っとくけど、これは決定事項だからね。文句は絶対に言えないと思っときなよ」

 

深夜「グレン、もうアシェラに何言っても無駄だと思うよ」

 

深夜は諦めたようにグレンに言う。君達僕を何だと思ってるんだ。これでも上司だぞ。

 

その時、ルシフェルから預かった女の子······クルルが話し掛けてくる。この子、ルシフェルが渡してきた資料が正しければ、まだ5歳だ。

 

クルル「······ねえおにいちゃん。パパとママは?」

 

う〜ん。いきなりそう来たか······取り敢えず、ここは誤魔化しておくべきかな。

 

アシェラ「君のパパとママはね、お仕事で遠くに行っちゃったんだ。だから、帰ってくるまで僕が君の面倒をみてあげるよ。よろしくね」

 

クルル「うん!」

 

可愛かったので、取り敢えず頭を撫でておいた。

 

 

 

 

グレン「······おい、此処に幼女誑かしてる奴がいるぞ」ヒソヒソ

 

深夜「そうだね······これはアシェラについてちょっと······いや、本格的に考え直すべき事案だね」ヒソヒソ

 

アシェラ「おっと手が滑った」

 

僕の(グー)が吸い込まれるように2人の後頭部へ。

 

グレン・深夜「「グエッ」」

 

 

アシェラ「······馬鹿やってないで帰るよ。君達が口外しないなら、そこの資料見てもいいから」

 

僕がそう言うと、深夜が机の上に置いてた資料を手に取る。

 

深夜「痛たたた······えっ? アシェラ、これ本当なんだよね?」

 

深夜が後頭部を擦りながら聞いてくる。

 

アシェラ「ルシフェルが嘘をついていなければそうなるね。まぁあの感じからして、彼女は嘘をついてはいないと思うけど」

 

深夜「いや······これが本当だったら、天使長ルシフェルは神に刃向かってることになるよ?」

 

グレン「これは······天使長はとんでもないもの置いてきやがったな」

 

グレンも深夜が持つ資料を覗き込みながら言う。

 

アシェラ「だから神の力が及ばないこんなちっちゃな組織に預けたんだよ」

 

グレン「······それもそうだな」

 

 

そうして、僕はクルルの保護者となった。

 

 

 

 

 

 

ルシフェルからクルルを預かった僕は、取り敢えず『帝ノ月』に連れて帰った。

 

「······おいアシェラ。そのガキは誰だ?」

 

最初にあったのは、同僚の柊暮人(くれと)。こいつは僕の部下である柊深夜の義兄だ。割といけ好かない。

 

アシェラ「知人から預かって欲しいって頼まれたんだよ」

 

資料をその場にいなかった者に見せるかは後で決めよう。

 

暮人「どうするんだ」

 

アシェラ「何言ってるんだ。僕が面倒見るに決まってるだろう」

 

暮人「そうか」

 

そう言って、暮人は持っていた書類に目を通した。因みに、クルルは暮人が怖かったのか知らないけど、僕の後ろに隠れていた。

 

 

深夜「······暮人兄さんに言わなくていいの?」

 

深夜が小声で聞いてくる。

 

アシェラ「ちょっと様子を見るよ。暮人辺りは真っ先に利用しようとして、何するか分かんないし。僕はそこまでしようとは流石に思わないよ」

 

深夜「それで大丈夫なのかなぁ···」

 

アシェラ「まぁ何かあったら、君達を道ずれにするだけだよ」

 

悪戯っぽく笑って言ってみる。

 

深夜・グレン「「······えっ」」

 

おお、面白いように反応するなぁ。

 

アシェラ「冗談だよ冗談。責任は当然僕が取るさ。それに、暮人も僕の保護下にあるこの娘に手出ししないと思うよ」

 

グレン「それ本当に大丈夫なのか·····?」

 

 

その後、クルルの身分を隠すために、僕と同じツェペシ姓を名乗らせることにした。

 

因みに、ツェペシ姓は、『串刺し公』として知られるヴラド3世とは何の関係もない。

 

 

 

 

 

その後、クルルは『帝ノ月』の面々に囲まれながら何事もなく育っていった。子供の面倒を見るなんて初めてだったけど、組織には普通に女性が所属していたことが幸いだった。

 

驚いたのは、暮人が普通に接していた事だった。こいつ周りにいる奴全員を道具としてしか見てないと思ってたが実は違うのか、と思った。グレンや深夜が、飛び出るんじゃないかってくらい目を見開いていたのは言うまでもない。

 

 

クルルのことは最初は正直言って、戦力に使えるとしか考えていなかった。でも、クルルが成長するのを間近で見ていく内に、その考えは180度変わった。クルルが笑っていられるようにする、という目標が出来た。

 

 

 

仕事の合間とは言え、クルルには一応とはいえ自衛のために戦闘技術は叩き込んだし、力が暴走しないようにオーラの制御も教えたけど、戦闘に駆り出すことはしなかった。クルルが出なくても何とかなっていたから、態々駆り出す必要もなかった。

 

僕としては、頑として出したくなかったので。

 

 

『帝ノ月』はあくまで、仕事の依頼があった場合に動くまでなので、毎日戦闘に駆り出されるわけでもない。それで良いと思っていた。そして、戦闘が終われば仲間との束の間の安穏を過ごせると思っていた。

 

 

 

 

 

グレン「······動ける奴は怪我人を連れて逃げろ!! 殿(しんがり)は俺達で務める!!」

 

「ッ!!······グレン様もお早く!!」

 

グレンが光に反射して真紅に輝く『鬼呪装備(きじゅそうび)』を手に叫ぶ。グレンの従者の2人は泣く泣く怪我人を連れて離脱した。

 

暮人「······轟け『雷鳴鬼(らいめいき)』!!」

 

暮人の持つ緑色に輝く刀が強烈な電撃を帯びる。

 

アシェラ「······っくそ。なんだあの女······バケモノめ······」

 

クルル「兄さん······?」

 

アシェラ「逃げるんだクルル。このままじゃ全滅する。逃げるだけの力は与えたつもりだ」

 

クルル「兄さん達も一緒に······!!」

 

アシェラ「無理だ。僕達にあと出来るのは、君を逃がすくらいだ」

 

「······逃がすとでも?」

 

アシェラ「黙れバケモノ······剣よ。血を吸え」

 

右手に持つ日本刀から伸びる茨のような蔦が腕に巻き付き、腕から流れる血を吸っていく。刀身が血の色に染まっていく。

 

『鬼呪装備』は完膚なきまでに破壊されてしまった。僕のもう一つの武器を持ち、女に対峙する。

 

深夜「······『白虎丸(びゃっこまる)』」

 

「······あら、久しぶりね『白虎丸』」

 

深夜の持つ銃剣から、白い虎のような弾が撃ち出される。女は手刀を軽く横に振るだけで弾を打ち消した。

 

深夜「······え~、冗談でしょ······」

 

グレン「憑依しろ『真昼(まひる)()』」

 

グレンが禍々しいオーラを纏う。

 

そして、深夜の援護を受け、3人同時に女に斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

クルル「······兄さん······!! 兄さん!!」

 

死を悟った僕は自分に刀を突き刺す。

 

 

女を瀕死に追い込んだものの、僕達も致命傷を免れることは出来なかった。

 

僕に出来る最後のことだ。僕は『鬼呪装備』となって、クルルを守ろう。

 

 

アシェラ「クルル······ありがとう」

 

そして僕は刀に吸い込まれていく。

 

クルル「兄、さん······? 兄さん!! 兄さぁぁぁぁん!!」

 

ああ······意識が遠のいていく。

 

クルル······大丈夫だよ。僕は君の傍にいるよ。

 

 

ここで、僕の人間としての人生は完全に終わりを迎えた。

 

 

 

 

「······はぁ···はぁ····ふ、ふふふ。君、は、生かして、おいて、あげ、る。『世界の最果ての地』、で、待って、いる。私、の、名は─────」

 

 

 

 

 

······その日、『帝ノ月』は襲撃を受けた。襲撃してきたのは、天使のような羽を複数対持つ女がたった1人。『帝ノ月』はその日、たった1人の女によって壊滅した。

 

生存者クルル1人を残して。

 

ある者は『鬼呪装備』の中に。ある者は形も残らず消滅した。

 

 

 

あの女は何故『世界の最果ての地』でクルルを待つと言ったのか。そもそも、あの女はいったい何者なのか。未だ真相は闇の中だ。

 

 

 

アシェラsideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

義兄さんから語られた言葉を俺は考えていた。『世界の最果ての地』·······お袋から教えられた、クルルの母親である666(トライヘキサ)が封印されて、今も尚眠っている場所。

 

だが、その女はいったい誰なんだ? 何故『帝ノ月』を襲撃する必要があった?

 

クルル「··············」

 

アシェラ「クルル、もう一度言うけど君の父親は人間で、君の母親は『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)666(トライヘキサ)だ。そしてあの女は······君のことを何故かは分からないが知っていた」

 

八幡「······お袋は義兄さんの言う女のことを何か知ってるんじゃないか?」

 

お袋なら何か知っているのかもしれない。俺は、お袋のお陰で『ミーミルの泉』の水を飲んだから、知識量ならオーディンのじいさんと同等。だが、それはあくまで全知というわけではない。

 

お袋が持っていた知識も一部受け継がれてはいたが、該当するものは無かった。

 

クルル「······ッ。あの女は······自分は『四鎌童子(しかまどうじ)』だと。自分の名は『四鎌童子』だと、そう言ったわ」

 

『四鎌童子』·······? 誰だ······?

 

ルシフェル《『四鎌童子』·······!!? そんな······あいつは消滅した筈······!!》

八幡「お袋、『四鎌童子』ってのは誰だ?」

 

ルシフェル《『四鎌童子』は······かつて、熾天使(セラフ)全員で滅ぼした天使。存在自体を、魂ごと完全に消滅させられた筈の天使よ》

 

八幡「なっ······!!?」

 

そんなサマエルみたいな奴がまだいたのか······!?

 

しかも、存在を抹消されたサマエルと違い、存在を消滅された······?

 

存在を完全に隠匿する『抹消』とは違い、存在を消滅された······まさか、サマエルより危険なのだろうか?

 

ルシフェル《クルル、貴女はどうしたい? 『世界の最果ての地』で今も待っているかもしれない『四鎌童子』を倒しに行き、母親に会いに行く。それとも、666······母親を諦め、この話を無かったことにする》

 

そうか······会いに行かないという選択肢だってある。それに、今も『四鎌童子』ってのが生きているとも限らない。

 

クルル「私は······母に会いに行きます。必要ならば『四鎌童子』を倒す」

 

お袋の問に、クルルは決意を決めてそう答える。

 

ルシフェル《そう······気を付けなさい。『四鎌童子』は666を認知しているわ。もしかしたら、貴方達に差し向ける可能性だってある。今の貴女達は、大抵の洗脳程度なら解除出来る。多少強引になるかもしれないけどね。

 

でも、それが出来なかった場合、クルル、貴女はどうする? 666が暴走すれば、間違いなく世界が滅ぶわ》

 

クルル「そうなった場合は······私は······母を······」

 

クルルはお袋に答えられない。母親と敵対なんて簡単に出来るわけがない。いくら物心つく前に生き別れた母親だとしても、だ。

 

だが、クルルはすぐに答えを出した。

 

クルル「母を······私の手で······やります」

 

ルシフェル《······そう。ごめんなさいクルル。私は貴女から奪うことしかしてこなくて······》

 

お袋はクルルの返答に涙ながらに謝った。

 

俺はクルルに何か与えられただろうか······

 

クルル「違いますルシフェル様。私はルシフェル様から十分すぎるくらい貰いました。ルシフェル様がいなければ、私は兄さんとも八幡とも会えませんでした。それだけで十分です」

 

クルル······

 

アシェラ「クルル······」

 

ルシフェル《ありがとう······ありがとうクルル······そうね。私が出来る唯一のこと······『世界の最果ての地』への行き方を教えるわ》

 

 

 

 

そして、3日後。俺達は『世界の最果ての地』へ向かった。

 

 

 




クルルもう原作の面影ないな······(後悔はしていない)

補足説明

鬼呪装備(きじゅそうび)
本作において、鬼呪装備は『鬼』が宿る前は《終わりのセラフ》原作における、吸血鬼達が持つ一級装備である。
これは『鬼呪装備』の研究段階で偶然出来た代物。

現存する物はクルルが全て契約して所有している。

尚、本作において、クルルが持つ武器は大抵『鬼呪装備』である。


キャラ設定

アシェラ・ツェペシ
クルルの義兄。ルシフェルからクルルを預かった。
『四鎌童子』との戦闘で、死に掛けた際に少しでもクルルの力になるため、自ら『鬼呪装備』となる。実は、クルルを預かった時には既に『鬼』一歩手前まで来ていた。何時でも『鬼』になれるようにしていたため。
現在は『阿修羅丸(あしゅらまる)』の『鬼』としてクルルを守る。クルル以外には、八幡と契約している。


一瀬(いちのせ)グレン
生前はアシェラの直属の部下だった。『黒鬼』の『鬼呪装備』であり、かつての恋人が宿る『真昼(まひる)()』を持つ。『四鎌童子』との戦闘で死に掛けたが、死ぬ直前に、『真昼ノ夜』に宿る彼のかつての恋人の(ひいらぎ)真昼(まひる)が彼を『真昼ノ夜』の中に引きずり込んだ。

尚、『真昼ノ夜』には、現在2人の『鬼』が宿っており、名前が『(くれない)(つき)』に変わった(命名、真昼)。これのみ刀身が赤い。

『紅ノ月』とも八幡は契約を交わしている。ただし、2人揃って八幡を弄るため、八幡が使ったのは過去数回のみ。


(ひいらぎ)深夜(しんや)
グレンと同じく、アシェラ直属の部下だった。『黒鬼』の『鬼呪装備』の『白虎丸(びゃっこまる)』を持つ。『白虎丸』は『鬼呪装備』にしては珍しい銃剣型。と言っても、彼が近接戦闘を行うことなどほぼなかったが。
『四鎌童子』との戦闘で死に掛けた際に、グレンに同じく、『白虎丸』に引きずり込まれた。ただし、名前は変わらず。

『鬼呪装備』の中では扱いやすいタイプのため、一時期オーフェリアに自衛用として持たせようか、と八幡とクルルは考えたが、オーフェリアは戦闘自体出来ないので結局ボツになった。


(ひいらぎ)暮人(くれと)
生前のアシェラの同僚(アシェラは『帝ノ月』のNo.3だったため、同僚は暮人しかいなかった)。『黒鬼』の『鬼呪装備』である、『雷鳴鬼(らいめいき)』を持つ。『雷鳴鬼』は強烈な電撃を放つ能力。

尚、彼も『雷鳴鬼』に『鬼呪装備』の中に引きずり込まれたが、その際理由は不明だが、暮人の従者である三宮(さんぐう)(あおい)の持つ『地字竜(ちじりゅう)』が葵ごと『雷鳴鬼』に吸収された。葵は『鬼』として『雷鳴鬼』の中に存在している。『地字竜』の能力は『雷鳴鬼』に付与されている。名前は変わらない。




クルル・ゼクスタというクルルの旧姓は、6の英語(six)を文字っただけです。


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第61話 追憶の『女王』sideクルル:在りし日の私は。


間違えて、執筆途中に投稿してしまいました。申し訳ございません。




 

クルルside

 

 

 

私には両親との記憶がない。いや、実際にはあるにはある。が、両親の顔だけはベールが掛かったようになって思い出せない。

 

幼い頃。それも、やっとまともに会話が出来るような頃までしか両親はいなかったのだが。

 

八幡に記憶を読んでもらっても、記憶のベールは一切紐解かれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アシェラ『────君の面倒を見てあげるよ。よろしくね』

 

クルル『うん!』

 

その人と初めて会ったのは5歳の時。頭を撫でられて気持ち良かったことは未だに鮮明に覚えている。

 

 

 

 

 

クルル『······おにいちゃんはおなまえなんていうの?』

 

舌っ足らずの口を懸命に動かして名前を聞いた。名前を聞くと、その人は私の目線に合わせてこう言った。

 

アシェラ『僕? 僕はアシェラって言うんだ。アシェラ・ツェペシ。君の名前は?』

 

その人はアシェラ······アシェラ・ツェペシという名前で。アシェラは私の名前を聞いてきた。

 

クルル『わたしはクルル!』

 

父と母が何度も丁寧に教えてくれた名前を口にした。

 

アシェラ『······そうかクルルか。よろしくね、クルル』

 

アシェラは満面の笑みで私に答えた。アシェラの笑顔を見て私の心は暖かくなったのを感じた。

 

 

この日、クルル・ゼクスタはクルル・ツェペシとして『帝ノ月』に迎えられた。

 

 

 

 

 

 

クルル『······わたしもお兄ちゃんみたいにたたかえるようになりたい!』

 

アシェラ『え······えええ?』

 

グレン『おい······これ大丈夫なのか?』

 

深夜(しんや)『うん······大丈夫じゃないよね。クルルに戦わせたいとは思わないよ』

 

 

『帝ノ月』に来て1年くらいたった頃。私は兄さんにそう言った。そして、兄さん含めその場にいた全員をおおいに困らせた。特に、兄さんと、兄さんの部下だったグレンと深夜は、周りより更に困ったらしい。

 

 

小百合『グレン様、どうするんですか?』

 

グレンの従者である花依(はなより)小百合(さゆり)がグレンに尋ねていた。

 

グレン『どうするってもなぁ······あくまで決めるのはアシェラだからなぁ』

 

深夜『そうだねぇ······あくまで僕らはアシェラの部下だからねぇ······どうするの?』

 

アシェラ『う、う〜ん。どうしたものか······』

クルル『······だめ?』ウルッ

 

アシェラ『う、わ、分かったよ······ただし、少しだけだからね?』

 

クルル『やったぁ!』

 

この時の私は涙目+上目遣いで兄さんに頼んだと思う。勿論、この時はそんなテクニックなんて分かるわけがない。今だったら普通に八幡に対してならやっているが。

 

······と言うか、こんなことを頼む子供は普通はいないと思う。

 

『『『『『弱っ······』』』』』

 

兄さんは立場や仕事があったため、直接鍛えてくれるってことは中々なかったけど、そんな時は兄さんの部下達が代わる代わる見に来てくれた。

 

兄さんの同僚である(ひいらぎ)暮人(くれと)が見に来た時は、周りの人達が目が飛び出そうなくらい驚いていた。今にして思えばそうもなるだろうが、当時はそんな様子を不思議に思ったなんて話もある。

 

 

 

周りの優しい人達に囲まれながら、私は色々な物を吸収していった。

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんな日々は何の前触れもなく崩れて消えた。

 

 

 

 

 

アシェラ『·····逃げるんだクルル』

 

クルル『やだよ!! 兄さんも一緒に!!』

 

 

その日、『帝ノ月』は襲撃を受けた。襲撃してきたのはたった1人の女だった。たった1人の女が、だ。

 

だが、その女の強さは異常だった。

 

 

暮人『······クソッ』

 

体中血塗れで倒れ伏す暮人。

 

グレン『······あ~くそ。体が動かねぇ。もう痛みも感じねぇ·····』

 

片目が潰れ、両足のないグレン。

 

深夜『ハハ······僕なんかもう意識が消えそうだよ······』

 

右手と左足が不自然な位置で途切れている深夜。

 

『······くふっ。ここま、で私を、追い詰め、たこと、は賞賛、に、値する、わ』

 

クルル『兄さん!! しっかりして兄さん!!』

 

そして、2本目の刀を握る右手以外がない兄さん。

 

自分の服を破って、止血しようとするが、兄さんは首を横に振った。

 

アシェラ『······ごめんクルル。僕達はもう······』

 

兄さんはそうこぼして自分の胸に刀を突き立てる。

 

クルル『兄さん!? 何やってるの兄さん!!』

 

アシェラ『クルル······』

 

兄さんは自分の胸に刀を突き刺した。

 

クルル『兄さん·····!! 兄さん!!』

 

兄さんは私の頬に手を添える。そして微笑んだ。

 

アシェラ『クルル·····ありがとう』

 

兄さんの体が刀に吸い込まれ始める。兄さんは自分を『鬼呪装備(きじゅそうび)』に封じるつもりなのだ。

 

クルル『兄、さん·····? 兄さん!! 兄さぁぁぁぁん!!』

 

そして、兄さんは完全に刀に吸い込まれた。

 

クルル『兄さん······うぅっ、あぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

兄さんが吸い込まれた刀を手に、死にかけの女に斬り掛かる。

 

『······ふふふ』

 

クルル『ッ!!?』

 

その時、女から感じたのは、圧倒的なまでの死の恐怖。死にかけとは思えないような圧倒的なまでの殺意。

 

だが、女は私を目にすると目を見開き呟いた。

 

『君、は、生かして、おいて、あげ、る。『世界の最果ての地』、で、待って、いる。私、の、名は『四鎌童子(しかまどうじ)』。『世界の最果ての地』で、いつ、まで、でも、待って、いる。忌々し、い、あの、女、の、────』

 

そこで私は意識を失った。

 

 

 

 

 

意識を失っている間、夢を見た。

 

 

兄さんが、グレンが、真昼(まひる)が、深夜が、暮人が、皆が、ずっと傍にいる、と私に言ってくれる夢だ。

 

皆の『鬼呪装備』が、意識を失った私を守るように地面に突き刺さっていたことを知るのはすぐのことだ。

 

 

 

そして、私が次に目を覚ました時、ルシフェル様の夫である、比企谷(ひきがや)時宗(ときむね)様に保護されたことが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

クルル『·······んん』

 

時宗『······お、起きたか?』

 

目を覚ました私に、短い黒髪の男性が話し掛けてきた。

 

クルル『······誰······?······ッ!!?』

 

時宗『·····おいおい落ち着け』

 

激しく取り乱しそうになった私を男性は優しく収めた。

 

クルル『あぁ······すいません。えっと、ここは?』

 

時宗『お前が倒れてたからな······ここは冥界の俺の家だよ。ああ安心してくれ。お前には決して何もしていない』

 

どうやらここは私を保護した男性の家らしい。

 

 

クルル『ううっ······』

 

 

そうだ······寝惚けた私を優しく起こしてくれる兄さんも、一緒に巫山戯てくれる友達も、一緒に特訓してくれる人も、もういないのだ。

 

ここの部屋を見渡してそう思った。思わずしていられなかった。これからは独りを受け入れざるを得ないのだ。

 

·······寂しさで潰れてしまいそうだ。

 

兄さん······皆·······

 

 

時宗『お、おいどうした? どっか痛むか?』

クルル『いえ······何でもありません。すいません······』

 

何とか涙を堪えて、男性の問に答える。

 

時宗『そうそう、いきなりで悪いんだけど、あんたが気絶してた周りに色々突き刺さってきたから全部持ってきたんだけど、マズかったか?』

 

男性が立て掛けてあった袋の口を開ける。

 

そこにあったのは、漆黒の、刀や銃や斧や槍や······

 

そこで私は夢の内容はこのことを指しているのだと気付いた。

 

クルル『ううっ、うあぁぁぁ······』

 

大粒の涙が溢れた。

 

時宗『え? あれ? 持って来ちゃまずかったのか?』

 

そう言ったが、男性は私が泣き止むまで、それ以上は何も言わなかった。

 

 

クルル『······いえ。持ってきていただいてありがとうございます。これは私が預かってもいいですか?』

 

時宗『あ、ああ。それは勿論だ。それより、何で彼処に倒れてたか聞いてもいいか? 彼処は先日壊滅した『帝ノ月』っていう組織があったと聞いているが······』

 

クルル『はい。私は······』

 

嘘を付いている様子もなかったので、私は何があったのかを話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

時宗『そうか······そんなことが······』

 

クルル『·······はい。あまり聞いていて面白い話でもないでしょうが』

 

私が今まで過ごしてきたこと。『帝ノ月』がどうあったのかを、全て話し終えた。

 

時宗『いや、軽率に聞いちまった俺が悪いな。すまない』

 

クルル『いえ······』

 

男性は顔には出していないものの、心中では複雑だろう。この話は聞いていて面白いなんて普通なら言わないだろう。

 

時宗『それと、あんたこれからどうするんだ? あまり言いたくないが······聞いている限りだと、あんたもう帰る場所ないんだろ? アテがあるんなら、送っていくぐらいはしてやれるが······』

 

男性の問に、無様に生き残った自分のことが、頭から完全に抜けていたことに気付いた。

 

これからどうすればいいだろう。

 

私は、生かしてくれた兄さん達の分まで生きなければならない。

 

だが、生きるためには、当たり前のことだがお金が必要だ。今の私には収入がない。『帝ノ月』と親交が少なからずあった組織に雇ってもらう? おそらく無理だ。それに、あの女が『帝ノ月』以外の組織も襲撃する可能性がある。

 

······絶対に自殺はしない。したら、兄さん達の頑張りを全て無駄にしたことになる。

 

時宗『······ないんならうちに来るか? うちにはちっちゃい子が2人いるから相手してくれれば助かるんだが。下の子はまだ赤ん坊だしな』

 

悩んでいると、男性から驚くような提案をされる。

 

クルル『それはありがたいですが······』

 

そこまでしてもらうのは罪悪感がある。この人は何故ここまでしてくれるのだろうか。

 

時宗『ならこうしよう。あんたには、あんたの家族が宿った武器で、うちの息子の護衛をして欲しい。当然見合った報酬は出すし、この部屋をそのまま生活に使ってくれて構わない』

 

クルル『······分かりました。そこまで言われてしまった以上、ありがたくその話を受けさせていただきます』

 

そこまで言われると、断ることも出来そうにない。

 

時宗『改めまして、比企谷時宗だ。これから宜しくな、クルル』

 

 

そして、私は護衛という名目で、比企谷家に迎え入れられた。

 

 

更に、後の夫である八幡ともこの時に出会った。

 

 

ここが、私の新たな原点となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「······クルル、そろそろ行くぞ」

 

兄さんとルシフェル様から自分の真実を聞かされた。

 

 

改めて自分がこうして生きていることを噛み締めながら、思い出に耽っていた。

 

クルル「······分かったわ八幡」

 

八幡に呼ばれて、八幡に駆け寄る。

 

八幡「どうかしたのか?」

 

クルル「何でもないわ。少し昔を思い出していただけよ。ご主人のが······時宗様が私を迎え入れてくれた時とか」

 

八幡「······そっか」

 

クルル「······ええ」

 

八幡「行くか」

 

クルル「母さんに会いにね」

 

 

 

私は、これから『世界の最果ての地』に封印された母に会いに行く。

 

 

『四鎌童子』との因縁を果たすことになるかもしれない。母を滅しなくてはならないかもしれない。

 

 

覚悟はある。

でも、本心を言えば ······母に会って、私を生んでよかったのかを知りたい。

 

少しは立派になったと自慢したい。

 

そして何より────

 

 

 

 

───大好きな家族の自慢がしたい。

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

 

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。でぇ? この俺に会いに来たっつー理由は何~? つーかあんた誰?」

 

「ねぇ、私は興味ある娘がいるんだけど、その娘を殺したいの」

 

「ふ〜ん。その娘って誰。ってか、先ず名乗れよあんた」

 

「その娘の名は『クルル・ツェペシ』。いや······『クルル・ゼクスタ』」

 

「おっ、まじでー? クルルちゃんか~」

 

「そして私の名は────『四鎌童子』」

 

 

 

???sideout

 




実は次回の展開が決まっておりません。拍子抜けするような展開になるかもしれないです。



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第62話 世界の果てで再開を果たした者

今回は話がただただ流れていくだけだ······




 

 

八幡side

 

 

 

俺達はこれから、『世界の最果ての地』へと向かう。

 

 

向かうのは、俺とクルル。もしもの時のためにクロウ、束。そして、何かあったら何も考えずに逃げるという条件で、ヴァーリとギャスパー。

 

息子2人は祖母に会って話がしたいと、危険だと言っても引き下がらなかったため、連れて行くことにした。当然、この2人は有事の際には真っ先に逃がすつもりだ。

 

まぁ、ヴァーリは白龍皇の力があるし、ギャスパーも3段階ぐらい封印が解けて、昔みたいに『あの槍』や、『闇の力』も使えるから逃げるだけなら十分の筈だ。又、束には逃げる際に2人と一緒に行ってもらう。最悪の事態になることだけは防げる筈だ。

 

······完全に想定外なことも起きないとは言えないが、それを話していたら俺達も行けなくなるので今はいいだろう。

 

 

クルル「······準備はいい?」

 

クルルが、魔剣ノートゥングを手に聞いてくる。

 

俺達は聞いてきたクルルに対して首肯する。

 

魔剣ノートゥング。切れ味だけならグラムに勝るほどの剣だ。アーサーが振るうコールブランドと並ぶ程の切れ味を誇る。

 

無論、コールブランドのように空間を切り裂くことも可能だ。

 

長いことジンに貸していたが、ジンが戻って来たため、グラム、バルムンク、ディルヴィング、ダインスレイブと共にクルルの手元に戻ってきた。

 

尚、ヴァーリが持っているバルムンクは束が作ったレプリカだったりする。

 

 

 

クルル「······皆、行くわよ」

 

クルルが掲げたノートゥングを振り下ろす。

 

ノートゥングが振り下ろされた所には、空間に切られた跡が出来たかと思うと、人数人が入れるくらいの穴が開いた。

 

穴の向こうからは、次元の狭間が顔を覗かせている。

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

俺、クルル、クロウ、束はオーラで体を包む。

 

ヴァーリが『|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》』を纏う。

 

ギャスパーは自分の体を闇で覆う。

 

 

そして、俺達は空間に開いた穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

クルルの母、『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)666(トライへキサ)が封印されている、『世界の最果ての地』は次元の狭間からしか行くことが出来ない。

 

『世界の最果ての地』自体は次元の狭間ではなくこちら側にあるものの、大昔に、完全に空間が切り離されたため、直接行くことは出来ない。

 

切り離したのは、お袋は神だと推測しているがどこの神かは不明。その神自体もう消滅しているかもしれない。

 

尚、切り離される前は本当に世界の最果てだったらしい。確か、ジブラルタル海峡の外側だったようだ。

 

 

 

 

 

次元の狭間を漂うこと数十分ほど。

 

八幡「······クルル、ここだ」

 

目標の座標に到達した。念のため、意識体のお袋に確認を取る。

 

······お袋、ここでいいんだよな?

 

ルシフェル《ええ。ここから行けるわ》

 

分かった。サンキュお袋。

 

次元の狭間には物理法則が通用しないため、時間も距離も関係ないように思えるが、実際は次元の狭間の『無』が強すぎて物理法則がめちゃくちゃになっているだけであり、一応時間や空間は存在する。

 

まぁ、ある程度広大なフィールドを魔力などで常に形成して、フィールド内の『無』をある程度弱めておかないと、座標の観測なんて到底不可能なんだが。

 

 

目的の座標に到着すると、クルルが再びノートゥングを振り下ろす。

 

それだけで空間は真っ二つに避け、穴の向こうからは俺達の目的地である、『世界の最果ての地』が顔を覗かせた。

 

俺達は躊躇なく空間に開いた穴にそこに飛び込んだ。

 

 

因みに、ここの座標にくるまでの間、束は次元の狭間に流れ着いていた古代文明の遺産やら旧時代の兵器を発見する度に、目を輝かせては自分の亜空間に放り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······ここが世界の最果てだった場所······」

 

お袋に案内された、『世界の最果ての地』。俺は何もない場所だと勝手に想像していたが、予想とは違い、一面の草原が広がっていた。

 

クルル「······もっと何もないと思ってたけど······」

 

ヴァーリ「······神が封印に選ぶにしては、穏やか過ぎる気もするが······」

 

クロウ「······ああ」

 

束「向こうなんか、花畑になってるよ? 本当にこんな所にいるの?」

 

確かに、もっと封印に適した場所はある筈だ。現に、サマエルなんかは『地獄の最下層(コキュートス)』に封印されてたしな。

 

そこで、意識体のお袋が話し出した。

 

ルシフェル《······なんとか神を丸め込んでここにしたのよ。何もない所に封印されるなんて可哀想じゃない······これでも友人だったものだから。あの時ほどミカエルとアザゼルにおかしな目で見られた時はないわね。今考えると、よくバレなかったわ》

 

·······お袋はどこで666(トライへキサ)·······さんと、知り合ったんだよ。

 

ルシフェル《······666は元々『聖書の神(ヤハウェ)』が創り出したものよ。それで、天使長だった私は666の管理を任されていたのよ。管理って言い方は嫌いなんだけどねぇ······》

 

そうか······それで、666さんは何処にいるんだ?ここかなり広そうなんだが······今の所、俺達以外の気配を感じないからそこまで急がなくても良さそうだけど。

 

ルシフェル《さっき、貴方の『兵士(ポーン)』の······束だっけ? が、花畑があるって言ったでしょ? その花畑の中央。そこにほぼ安置って形で存在している筈よ》

 

ああ、分かった。

 

八幡「······666さんはさっき束が言った、花畑の中央にいるらしい。取り敢えずそこまで行くか」

 

クルル「そうね」

 

 

 

 

 

 

 

俺達は花畑の中を歩いていく。ここが本当に666(トライへキサ)さんが封印された場所とは未だに思えない。

 

それに、お袋の話だと666さんはグレートレッドと同等クラスだと言うが、それなら、神や熾天使(セラフ)が数人程度で封印出来るわけがない。

 

封印される際に無抵抗だったとか? それならまぁ納得がいくが······

 

 

 

クルル「······(ひつぎ)? 八幡、もしかして、ここに母さんが眠っているの?」

 

花畑の中央に着いた俺達の目の前にあるのは、真っ白なキャスケット型の柩だった。とても封印されてから700年以上経ってるとは思えない。今さっき設置されたと言われた方が納得出来る程だ。

 

ルシフェル《······状態保存の術を掛けたのよ。私が》

 

そうか······よく神にバレなかったな。

 

ルシフェル《······666が封印されてからも、私がこの空間の管理をしていたのよ。私が死んでからは誰が入ったのかは分からないけど······》

 

ここに神が来るってことはなかったのか?

 

ルシフェル《封印してからは私以外は誰も来てないわ。もしかしたら『四鎌童子(しかまどうじ)』がここに来ていた可能性はあるけど······》

 

まぁ今探れる範囲には俺達以外は誰もいないし、ここには普通の手段じゃ入れないからな。

 

それに、オーラの形跡も全く感知出来ないから、ここに来ていたとしても、かなり前にここから出て行ったと考えるのが自然だな。

 

 

ギャスパー「······お父様、この柩、術が掛けられてて普通にやっても開きそうにないですよ?」

八幡「そうだな······下手に触るとどうなるか分からんし······」

 

術の解除に時間掛かりそうだな。まぁ時間ならあるんだが。

 

ルシフェル《······それは簡単に開くわよ。『アグロ』って唱えてみて》

 

なんだその開けゴマみたいなのは······

 

ルシフェル《······悪かったわね。単純な思考してて》

 

別に悪いとは言ってないんだが。

 

八幡「······『アグロ』」

 

クロウ「······なんだそれは」

 

八幡「さぁ······お袋に言えって言われた。解除の呪文的な奴らしい」

 

すると、棺の蓋に切れ込みが入り、スライドして横に動き始める。

 

 

······俺は、開くだけでも数千単位の術を解除する必要があると思ってたが······

 

ルシフェル《······言っとくけど貴方とクルルだけよ。この言葉で解除出来るの》

 

そこまで考えて術に組み込まれてたのか。

 

ルシフェル《因みに、貴方の場合はクルルと(つがい)になった時のみって条件つきよ》

 

な、何故そんな面倒なことを······?

 

ルシフェル《貴方がクルルを好きだったことはクルル以外の殆どが分かりきってたからねぇ。あの時のクルルは八幡の護衛を第一に考えてたから気付かなかったんだろうけどね》

 

恥ずかしい······。

 

 

 

そんなことがあったのか、と恥ずかしく思いながら柩が開いていくのを見ていると、蓋は幾つかに分かれてスライドし、そして柩の横に落ちた。

 

 

柩の中には、クルルと同じ色の髪をした女性が眠っていた。この女性の周りには沢山の花が敷き詰められており、やはり先程入れたとしか思えないような状態だ。

 

 

クルル「母さん·····」

 

クルルが女性の顔を覗き込む。クルルの母、666さんはクルルによく似ている。いや、クルルが似ているのか。クルルは母親に似たんだな。

 

ギャスパー「この人が······」

 

ヴァーリ「俺の母方の祖母にあたるというわけか」

 

ギャスパーとヴァーリもクルルに続いて顔を見る。

 

束「······この花、相当時間が経ってる筈なのに一切枯れてない」

 

クロウ「······この状態で700年以上保存されているのかもしれん」

 

束「あ〜、なるほどー。そういう術もあったね~」

 

束とクロウは敷き詰められている花を見て、一切枯れていないことを不思議に思っていた。クロウの考えで正解なのだが。

 

······お袋、この人にはどれくらいの封印術式が掛けられているんだ?

 

ルシフェル《······神によって、数千はくだらない数よ。一応、神にバレない範囲で術を少しは解除しといたけど》

 

あんた天使長のくせして神への忠誠心なかったのかい。それはそれで驚きだわ。

 

ルシフェル《最初はあったわよ。最初は》

 

最初だけ············

 

 

八幡「······どうする? 見たところ(トラップ)は仕掛けられてないし、うちの領に移動してから解除するか?」

 

666さんを見てからクルルに尋ねる。

 

クルル「······そうね。それに、ここは元の世界との時間の流れが違う可能性もあるし、下手に長時間い続けるのは危ないかも。次元の狭間を通る必要もあるし」

 

八幡「そうだな」

 

 

その後、柩を一旦閉じて、俺達は『世界の最果ての地』を後にした。

 

尚、柩も調べたいので一旦運ぶ際に閉じたのだが、閉じる時の呪文的な奴は『カーユ』だった。お袋···いくら身内だからって単純すぎだろ。

 

 

 

 

一度冥界の屋敷に戻り、クルルより年上である、クロウ、ティア、メリオダスに666さんのことを一応聞いてみたが、3人とも『ヨハネの黙示録』や『創世記』などに記載されている以上のことは知らなかった。

 

 

又、広義的に見れば、黙示自体は『ヨハネの黙示録』以外でも何度も起こっているため、666さんが何故必要となったのかは、管理を任されていたお袋も知らなかった。

 

 

取り敢えず、何事もなくクルルが666さんと再開出来たことを今は喜ぶべきだろう。

 

 

八幡sideout

 

 




666(トライへキサ)が眠っている柩が開くところは、ハリー〇ッターで、ダ〇ブルドアの棺桶をあの方が開くシーンを想像していただければ。


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第63話 準備


8/15 ブリューナクの設定を書き加えました。


 

 

八幡side

 

 

 

ゼノヴィア「······食らえぇぇッ!!」

 

八幡「遅い」

 

ゼノヴィア「何ッ!? ぐあッ!!」

 

俺は今、グレモリー領の地下にある広大な空間にいた。理由は、ギャスパー経由で、ゼノヴィアが俺にエクスカリバーの指導を頼み込んできたからだ。受ける理由もさしてないが、断る理由もないため引き受けることにした。

 

リアス・グレモリー経由で頼み込んできたら、間違いなく断っていただろうがな。

 

尚、ゼノヴィアは『破壊(デストラクション)』以外の能力を全然使えないため、修行はすこぶる難航している。

 

エクスカリバーは、7本を統合した物がデュランダルに統合された。ゼノヴィアがエクス・デュランダルと名付けたとか。

 

八幡「······もう少し『破壊』以外の能力を意識して使え。相性は仕方ないにしても、因子持ってる奴なら、ある程度までは誰でも使いこなすくらいにはなれる」

 

ゼノヴィア「······そうは言ってもね。『天閃(ラピッドリー)』や、『透明(トランスペアレンシー)』はまだしも、他は制御が不安定だし、『祝福(ブレッシング)』と『支配(ルーラー)』に至っては、発動すら儘ならないんだ」

 

八幡「魔法の心得があればコツ掴むぐらいは楽にいけるんだが······」

 

こいつ2代目ストラーダみたいな感じだからな······魔術的なことは一切やってこなかったんだろうな······

 

ゼノヴィア「それは言わないで欲しいな。前に一度、簡単なものを朱乃副部長に習ってみたんだがまるで形に出来なくてね。こっち一本に絞ったんだ」

 

八幡「一回で諦めてどうする······取り敢えず、手軽な資料を貸してやるから少しは出来るようにしとけ」

 

或いはロスヴァイセに教えさせてみるか? いや、ロスヴァイセが投げ出しそうな気がしないでもない。

 

ゼノヴィア「感謝するよ。そう言えば、ギャスパーはどうしたんだ?」

 

八幡「あ〜、ああ、ギャスパーはな······」

 

ギャスパーは現在うちで修行中だ。だが、ここにいてもな······

 

ゼノヴィア「······?」

 

グレモリー眷属如きじゃ特訓相手にならねぇからな······今頃はヴァーリと殴り合いしているかもしれん。

 

それに、ある程度封印が解けて『闇』を昔みたいに振るえるようにしないといけないが、『闇』を解放している時は並の最上級クラスじゃ歯が立たないからな。特訓はうちでやる必要がある。

 

流石に、若手の交流がメインのレーティングゲームで使うことはないだろうが······

 

 

因みに、ディオドラはうちで修行してからは、最上級の域に至っているため、バアル、シトリー、グレモリーとのレーティングゲームがなしになった。

 

グラシャラボラスの所の奴はサイラオーグがボコボコにして再起不能にしたためこちらもなしになった。結局、アガレスの子女としかやってないな。ゲームを見る限り、あれでもかなり力をセーブしていたが······

 

 

八幡「······まぁ今日はここまでだな。明日記者会見があんだろ?」

 

ゼノヴィア「ああ······しかし、何を言えばいいんだ?」

 

八幡「聞かれたことに対して当たり障りのないことを言っておけば、一先ずの問題はないぞ」

 

ゼノヴィア「······それもそうか。取り敢えず、少しは考えておこう」

 

その時、先程までここから少し離れた所で木場と模擬戦していたイッセーが間抜けな声を上げた。

 

イッセー「······え? 記者会見?」

 

八幡「知らなかったのか? バアル眷属と合同で記者会見するって俺は聞いてるぞ?」

 

リアス・グレモリーは何故伝えないんだ······? わざとやってるのか?

 

イッセー「え···ええぇぇぇぇぇぇええっ!?」

 

······こいつ相変わらずうるせぇ。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

お父様がゼノヴィア先輩に頼まれて、グレモリー領にいると同時刻。

 

僕はお兄様と修行をしている。内容はお互いの神器(セイクリッド・ギア)のしようを禁じた近距離戦闘だ。因みに、僕の『闇』の能力も使用禁止。使っていいのは、近接武器と、一部の魔法、魔力による身体能力強化のみ。来る時に備えるためだ。

 

 

お兄様はバルムンクのレプリカ。僕はある槍のレプリカを使用している。お母様からダインスレイブを借りることも考えたが、普段僕が持っていない物を使っても、いざという時に手元にあるか分からない物を重点的に特訓するのは間違いな気がするのでやめにした。ダインスレイブのレプリカはないし。

 

束さんに頼めば作って貰えるだろうけど·······

 

 

 

 

目の前にいるお兄様を見据えて、手に持つ槍をお兄様に向ける。

 

 

『神魔槍ブリューナク』。僕が今手にしている槍のオリジナルだ。ケルト神話において、太陽神ルーが持ち、魔神バロールの魔眼を貫いて殺した槍だとされる。

 

能力は、史実の通り、灼熱と稲妻を操る。

 

バロールさんを宿す僕が持っているのも皮肉のような話ではあるが、オリジナルは変形して、体内でバロールさんの力の制御装置にしている。この状態だと『闇』を最低限にしか使えないけど、解放したければ外に出せばいいのだ。

 

 

 

ギャスパー「······業炎よ!!」

 

僕が叫ぶと、血の色をした二叉の槍の穂先から猛烈な火炎が放たれる。

 

ヴァーリ「ふっ!!」

 

お兄様はバルムンクからドリル状のオーラを放って火炎を打ち消した。

 

お兄様が火炎を打ち消すと同時に両手で槍を持って突っ込む。そのまま数度突きを繰り出すが、剣先や剣の腹で逸らされる。

 

ヴァーリ「······これならどうだ」

 

今度はお兄様がバルムンクで斬りかかってくる。斜めから斬りかかってくるのを槍で受け止める。

 

ヴァーリ「はぁッ!!」

 

ギャスパー「グッ······まだ!!」

 

至近距離で竜巻のようなオーラを出されたため、皮膚のあちこちに切られた跡が出来るが、槍から火炎を放って打ち消し、お兄様から距離を取る。

 

ヴァーリ「いいぞギャスパー!!」

 

ギャスパー「今度こそ勝つ!!」

 

お兄様と、剣も槍で何度も斬り合う。お互いに軽い傷こそ負わせることは出来るものの、決定打が決まらない。

 

お兄様とはこうやって何度も模擬戦をしているが、決着がつく場合が殆どない。お互いの一番の長所を封じているからだろう。

 

 

そうして数十分間剣と槍で斬り合うが、今回も決着がつかなかった。

 

 

クルル「······2人ともお疲れ様。久しぶりにやった感想はどう?」

 

僕とお兄様にスポーツドリンクを渡してお母様が聞いてくる。

 

ヴァーリ「······俺としてはギャスパーの腕が鈍ってなくて何よりだ」

 

クルル「相変わらずね。はぁ······アザゼルが余計なことまで教えるから······」

 

お母様が溜息を付く。アザゼル先生ってお兄様に何を教えたんだろう······

 

ギャスパー「アハハ······ブランクがあったから勘を取り戻すのが大変でしたけど······」

 

僕は3年間もまともにやってなかったせいで、勘を取り戻すまでにかなり大変だった。よく一ヶ月ちょっとで取り戻せたなぁ······お父様の指導が良かったんだろう。

 

クルル「ギャスパーは?」

 

ギャスパー「僕は、前にやってたように出来るくらいにはなりましたけど、オリジナルのブリューナクを使った時が心配ですね。今は体内で制御に回してますから」

 

今は心臓に、鎖にして巻き付けてある。常にバロールさんの力を解放しておけるほど、僕の体が負担に耐えられないため、一定まで押さえつける必要がある。

 

いずれは自分の力だけで完全制御出来るようになりたいものだ。

 

クルル「······そうね。なら、今度は2人対私でやってみる?」

 

と、お母様が言ってきたので、お兄様と2人でお母様に戦いを挑んだ。

 

 

 

 

·······途中からは、僕とお兄様は神器をフルに使って(お兄様は『極覇龍』まで使って)、僕は『闇』の力を使える限界まで使ったのだが、お母様は赤子の手を捻かのように簡単にいなした。

 

終わった直後に、何事も無かったかのように普通に(しかも鼻唄を歌いながら)料理を作りに行ったお母様を見て、ヘトヘトになっていた僕とお兄様はちょっとショックを受けた。

 

 

 

あ、お母様の料理は凄い美味しかったです。

 

 

 

ギャスパーsideout

 




本作において最も改造されているのはギャスパーです。本作において魔改造されているのがギャスパーです。(大事なことなので二回言いました。)


設定

・神魔槍ブリューナク
イメージ:ロンギヌスの槍、カシウスの槍(共にヱヴァ)

長さ:250cm

ケルト神話において、魔神バロールを貫いた槍。バロールを貫いた時に魔を帯びた。元は神槍だった。

業火と稲妻を操ることが出来、投擲しても自動で手に戻って来る。また、オリジナルに限り変形機能があり、ギャスパーは普段、鎖に変形して心臓に巻き付けている。それが一番バロールの力の制御がしやすいらしい。
一定以上力を込めると、二叉の刃が一本の刃になる。これは所有者の意志とは関係ない。
又、ギャスパーは手で持たなくても宙に浮かせて使うことが出来る。これは魔法で操っているだけだが。

キリスト教の介入を鬱陶しく感じたクロウ・クルワッハが持ち出した物。

尚、レプリカでも『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』と普通に斬り合うことが可能。オリジナルはオーディンのグングニルとほぼ同じくらいの力をもつ。レプリカの槍が放つ稲妻でも姫島朱乃の雷光とは比較にならない威力。





因みに、ディオドラの眷属で最弱が、現在2巻時点のライザーよりちょい上です。


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第64話 姉は何時でも妹を想っている(彼が妬けるくらいには)


今回はギャスパーがよく喋ります。



 

 

 

 

八幡side

 

 

 

俺は今クルル、ヴァーリとグレモリー領のホテルに来ている。尚、ヴァーリは髪の色を魔力で黒に偽装している。

 

今日は、バアル眷属とグレモリー眷属の合同記者会見があるのだ。俺達はギャスパーとサイラオーグを見に来ただけだが。

 

因みに、サイラオーグも俺の弟子の一人である。サイラオーグの母、ミスラ・バアルが、俺に土下座までして頼み込んできたのだ。

 

『恥を承知の上でお願い致します。この子に、サイラオーグに力授けて頂きたいのです!! サイラオーグには······魔力という物が殆どありません。ですが、この子には立派な体があります。そして、未来があります。魔力が無いというだけでこの子の未来を潰したくないのです!! どうか!!!』

 

サイラオーグの境遇は、初代バアルであるゼクラム・バアルとの裏取り引きの際に聞いていたので、受けることにした。

 

尚、このためサイラオーグはギャスパーとヴァーリと曹操も知り合いであるため、ヴァーリチームが『(カオス)の団(・ブリゲード)』に潜入した時に、身内以外で唯一説明しなくてはならなかった。

 

又、曹操が純粋にテロリストに成り下がった時は好敵手(ライバル)が一人減ったと嘆いていた。

 

 

 

 

グレモリー眷属が会見場に入ると、拍手で迎えられていた。俺達は裏から見ている。別に、ギャスパーとサイラオーグを見に来ただけなので、記者に紛れたりとかする必要は皆無。あと、ギャスパーとサイラオーグは俺達がここから見ていると気付いたな。2人だけこっち見たし。

 

会見席の上には『サイラオーグ・バアルVSリアス・グレモリー』と書かれた幕がある。これ見ると1対1で戦うかのように見えるが、リアス・グレモリーじゃサイラオーグに瞬殺される。というか、ギャスパーを除いたグレモリー眷属でサイラオーグと精々善戦出来る程度なのが赤龍帝であるイッセーくらいだ。他は戦うまでもない。

 

尚、ギャスパーは後方2段目の右から2番目、サイラオーグは真ん中に座っている。

 

 

司会進行役が一言掛けたところで記者会見はスタートした。ゲームの概要や日取り等の基本情報が司会から通達され、両『(キング)』が意気込みを語る。

 

その後、『王』以外にも一人ずつ質問がなされていたが、ギャスパーは当たり障りのない答えを返していた。俺やクルル、ヴァーリの事は奇跡的に聞かれもしなかった。

 

 

 

あと、イッセーのインタビューには笑いを堪えることが出来なかった。何故なら、

 

『最近、巷で乳龍帝や、おっぱいドラゴンとして名を馳せている兵藤一誠さんにお訊きします』

 

だぞ? 俺とクルルは笑いを堪えられなかった。ヴァーリは、これから自分も不名誉な名で呼ばれるんじゃないかという不安に駆られていたアルビオンを慰めていた。その時のイッセーの顔と言ったらな。あの無表情で『え?』という顔は暫く忘れることはないだろう。

イッセーはその後の質問でも墓穴を掘りまくっていた。

 

因みに、ネタを提供したのは俺だ。京都で九重とイッセーが話している時のゼノヴィアの一言をアザゼルもサーゼクスに言ったら、瞬く間にここまで広まった。サーゼクスは、このネタを特撮にしてグレモリー家の一大ビジネスにしたいらしい。

 

サーゼクス特撮大好きだもんな。サタンレッドだし。俺はイエローに巻き込まれそうになって、グレイフィアを身代わりにしたが。あの時のことは未だに恨まれてんな。見ていて面白いから後悔はしていない。

 

 

尚、イッセーの受け答えによって会場の張り詰めた雰囲気は完全に砕けて、笑いに満ちた状態で会見は終了した。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

記者会見後、会見場の裏でグレモリー眷属とバアル眷属が集まっていた。

 

サイラオーグ「······ハハハハッ!! いやすまない。それにしても、お前達と絡むと楽しいことばかりだ。戦闘前から闘気を纏って会場入りしたんだが、すっかり毒気を抜かれた。逆にリラックス出来たぞ」

 

サイラオーグさんは豪快に笑っている。昔から変わらないと思う。その性格は自分の置かれていた状況からの裏返しなのかもしれない。

 

リアス「サイラオーグ!! 変なこと言わないで!!」

 

サイラオーグ「いいではないか。血なまぐさい会見ではなく、話題性に富んだ物となったからな。明日の朝刊が楽しみだよ」

 

サイラオーグが愉快そうに言うと、部長はいっそう顔を赤らめる。因みに、話題性というのは若手悪魔の会合の時に暇つぶしに会場に来た美猴さんが、イッセー先輩が禁手(バランス・ブレイカー)に至った時のことをカメラで全て録画しており、お父様が録画映像をサーゼクスさんやアザゼル先生に渡したのだ。

 

巷で有名らしい。渡してからまだ一週間とかだったと思うけど、ここまで広がるのが早いとは。

 

 

その後も談笑で盛り上がって、この場は解散となった。

 

 

 

 

 

サイラオーグ「······聞いたぞ、曹操のこと。『禍の団』に参加しているとな。残念だ」

 

この場に残ったのは僕とサイラオーグさんのみ。気を使ってか、他の人がいる時は、サイラオーグさんは僕に殆ど話しかけてこなかった。

 

ギャスパー「······まぁ、お父様は危うく死に掛けたそうですけど。お父様はそれのお陰で収穫があったらしいので、あまり弟子が起こした問題については悲観的ではなかったですね」

 

サイラオーグ「ハハハハッ。流石八幡殿だ」

 

サイラオーグさんは僕から見れば弟弟子にあたる。曹操さんと同時期にお父様に弟子入りしたのだ。そのため、曹操さんについて残念がっている。

 

サイラオーグ「そう言えば、先程の会見場に、八幡殿とクルル殿、それにヴァーリまで来ていたな。兵藤一誠が受け答えに戸惑っていた時、爆笑していたな」

 

ギャスパー「お父様は赤龍帝ドライグが大嫌いですからね」

 

多分、ザマァみろクソ蜥蜴って思ってる。

 

サイラオーグ「そうかもしれんな」

 

サイラオーグさんも同意見だったらしい。

 

そして、唐突に不敵な笑みを浮かべた。

 

サイラオーグ「······レーティングゲームで、『今度こそ』勝たせてもらうぞ」

 

ギャスパー「『次も』負けませんよ」

 

サイラオーグ「ではな。ギャスパー」

 

そして、廊下の角を一瞥すると(・・・・・・・・・・)、サイラオーグさんも帰って行った。

 

 

 

 

ギャスパー「······もう出てきていいよ、小猫ちゃん」

 

壁に寄り掛かりながら言うと、先程サイラオーグさんが一瞥していった廊下の角から小猫ちゃんが出てくる。

 

小猫「······ギャー君、気付いてたの?」

 

ギャスパー「まぁ······最初からかな。サイラオーグさんも気付いてたけど、何かしようってわけじゃなさそうだったから」

 

小猫「······ッ!!」

 

小猫ちゃんが聞いてくる。どうやら帰ろうとしなかった僕に疑問を抱き、隠れて聞き耳を立てていたらしい。黒歌さんのような猫耳がぴょこんと頭に出ている。僕とサイラオーグさんは気付いてたけど、敢えて気付かなかった体で話していた。

 

小猫「······ギャー君は姉様についてどう思ってるの?······知ってたんでしょ?」

 

小猫ちゃんは黒歌さんのことについて聞いてきた。いくら事情が事情だったとは言え、姉妹間に出来た溝は深い。黒歌さんのためにも、僕が出来ることはしたいけど······どうしたらいいんだろう。

 

ギャスパー「······黒歌さんのことについてなら知ってたよ。倒れてたところを保護したのは僕だしね」

 

小猫「!!」

 

ギャスパー「で、続きだけど、僕から見たら黒歌さんはどうしようもないくらい優しい人、かな」

 

小猫ちゃんはおそらく黒歌さんの身に何があったかを知らない。知っているのは、はぐれ悪魔の認定が解除されていた、ということぐらいだろう。

 

小猫「······どうして?」

 

ギャスパー「黒歌さんは、小猫ちゃんの身を案じていた。6年前、黒歌さんの元主は、高い素養を持っていた黒歌さんと小猫ちゃんに目を付け、眷属に勧誘した。ここまでは小猫ちゃんも知ってると思う」

 

そう言うと、小猫ちゃんは無言で首肯する。それを見て、更に続ける。

 

ギャスパー「······そこまでは何の問題もないことだった。けれど、黒歌さんの元主───ジェロマ・リバートリンは黒歌さんとの間に交わした契約を破った。『自分は手足となって働くから白音の身の安全を保証する』という契約をね。ジェロマはその契約を破り、小猫ちゃんを強引に眷属にしようとしたんだ。黒歌さんが『僧侶(ビショップ)』の駒2つ分だったから、小猫ちゃんも猫又としての高い素養に目を付けられた」

 

小猫「······そんな······姉様が······」

 

現在の冥界でもこのような悪魔はかなり多い。それは身分が高くなればなるほど多く、純血が、上級以上が至高だ、という思考なのだ。おそらく、僕も『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を貰ったら、このような者達と顔を合わせなければならないだろう。

 

止む無くはぐれとなった者は年々増加傾向にあり、お父様達が、その人達を内々で保護している。とは言え、全員を保護出来るわけではない。

 

ギャスパー「······黒歌さんはね」

 

小猫「······?」

 

不意にこぼした言葉に、小猫ちゃんが顔を上げる。

 

ギャスパー「いつも小猫ちゃんのことを自慢してるんだ。白音がね、白音がね、って。小猫ちゃんのことを一番想ってるのは、他でもない黒歌さんなんだ。それは断言出来るよ。だから、今度黒歌さんと会って話をしてあげて。無理にとは言わないし、すぐにとも言わない。ゆっくりでいいから。人外にはそれが十分出来るだけの寿命があるしね」

 

小猫「······姉様」

 

小猫ちゃんの頬から一筋の涙がつーっと垂れた。

 

小猫「ギャー君は、どうしてそこまで······」

 

絞り出すように小猫ちゃんは口を動かして言葉を発する。

 

ギャスパー「······妹である小猫ちゃんに言うのもなんだけど、黒歌さんが大好きだからかな? 見てると助けたくなるんだ。いつも白音のために何が出来るか、って考えてる黒歌さんを支えたいから」

 

小猫「······そう」

 

ギャスパー「······何時でも家に来ていいよ。きっと、皆歓迎してくれるから」

 

小猫「······うん。ありがとうギャー君」

 

 

そこで、小猫ちゃんは笑った。翳りのない綺麗な笑顔だと思った。

 

ギャスパー「僕ももう帰るよ。あ、この場のことは出来れば秘密にしてね」

 

小猫「?······どうして?」

 

ギャスパー「お父様の立場だと、大王家の次期当主と繋がりがあるって思われるのはあまり良くないんだ。いくら初代バアルとの合意の上とはいえ、お父様の影響力は魔王や大王を上回る時もあるらしいからね。お父様は政治からは距離を置いてるんだけど」

 

小猫「······分かった」

 

ギャスパー「ありがとう小猫ちゃん。レーティングゲーム頑張ろうね」

 

 

僕はそう言って帰ることにした。小猫ちゃんを送ろうかと思ったけど、部長とイッセー先輩が小猫ちゃんを探しに戻って来たから任せることにした。

 

 

 

黒歌さんのためにも、小猫ちゃんを黒歌さんと出来るだけ早く会わせてあげたいな。

 

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 



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第65話 客観的事実

ATTENTION!!

※今回の話は、ギャスパーファンの方は読まないことをオススメします。
※本作のギャスパーは、原作のギャスパーとは完全な別物だと思って下さい。
※こんなのギャスパーじゃない。という方は速やかにブラウザバックを。

以上の注意書きを読んだ上で、それでも良ければどうぞ。




 

八幡side

 

 

 

ある日の早朝。

 

俺は自領の屋敷にあるトレーニング空間にいた。

 

この空間は束が造ったもので、余程のことがない限り壊れることはない。ここで起こった戦闘は余波のエネルギーが壁に吸収され、壁が強固な結界を張るという仕組みになっている。

 

ギャスパーの特訓相手は基本ヴァーリなのだが、ヴァーリは朝に弱いので俺になった。

 

 

そして、俺の前には、『ブリューナク』のレプリカを手に持つギャスパーがいる。

 

八幡「·······うし、やるかギャスパー」

 

ギャスパー「······はい。お願いします」

 

ギャスパーはサイラオーグとのレーティングゲームに備えて、こうして特訓をしている。バロールの『闇』を使わずともディオドラくらいの強さは余裕であるギャスパーだが、サイラオーグ相手では、それでは安心など出来ない。

 

サイラオーグは己の肉体だけで戦い抜いてきた。筆舌に尽くしがたい境遇の中でも突き進んで来た。

 

 

3年前だったら、ギャスパーの実力はサイラオーグより明らかに上だった。が、ここ数日で何とか3年前の実力を取り戻したギャスパーと、3年間己を磨き続けてきたサイラオーグでは、サイラオーグがギャスパーを上回っている可能性は十分ある。

 

バロールの『闇』を使えばサイラオーグを上回るだろうが、ギャスパーはそれでは納得しないし、バロールの『闇』やオリジナルの『ブリューナク』をレーティングゲームで使うわけにもいかない。

 

オリジナルの『ブリューナク』は強すぎる。いくらギャスパーが完全制御出来ているとしても、余波が一般市民に及ぶかもしれん。『グングニル』と同等クラスだから当然と言えば当然なのだが。

 

 

ギャスパー「······行きます!! 稲妻よ!!」

 

八幡「来いギャスパー」

 

ブリューナクから複数の稲妻が迸る。ギャスパーは家族相手にやる時は基本的に手加減はしないが、レプリカのブリューナクでも姫島朱乃の雷光の軽く30倍くらいの電撃を放つことが出来る。尤も、ギャスパーは魔法も雷系統に割と寄りがちだが。

 

 

ブリューナクから放たれた稲妻を光の矢で相殺していく。

 

ギャスパーは稲妻で相殺出来なかった光の矢をブリューナクで叩き切りながら俺に接近してくる。そのまま穂先の刃で切りかかってくるので、エクスカリバーで受け止める。

 

ギャスパーはこのままでは不利だと判断したのか、一旦距離を取って、数百の魔法陣を展開し、一斉に魔力弾を放つ。

 

それに対し、俺も多数の魔法陣を展開して魔力弾を放つ。偶に相殺出来ずに当たりそうになったりする弾があり、油断が出来ない。

 

ギャスパーは教えてもいないのに、フェイントで魔力の密度が全く違う魔力弾を同じ魔力陣から放ってくるので、相殺が大変なのだ。

 

八幡「今度はこっちからいくぞ」

 

透明(トランスペアレンシー)』を発動して、フェイントを交えて掛けてエクスカリバーでギャスパーに斬り掛かるも、それはブリューナクで受け止められる。やっぱり、聖のオーラが強すぎて流石にバレるか。

 

高速で複数回振るうも、刃と柄で全て受け止められる。今度はギャスパーが連続で槍を振るって攻撃してくる。

 

 

 

ギャスパーの連撃をいなしていると、お袋が話しかけてきた。

 

ルシフェル《······この子本当に15歳? 今は違うみたいだけど、神魔槍の本物も使えるなんて。あれは並の神仏じゃ使えもしないのよ?》

 

ギャスパーはダナ神族とフォモール族両方の血を継いでるみたいだからな。おそらくその辺りが関係してんだろ。バロールの意識の一部を宿したのだって、血に反応したってことなら納得がいく。

 

それに、今のギャスパーは並の神仏じゃ太刀打ち出来ねえよ。ヴァーリもそうだがな。

 

ルシフェル《······異常ね》

 

それはこの異形社会全体がそうだ。三大勢力の和平を筆頭に、時代の転換期が来てるからな。今が史上類を見ないくらい異常だと思うのは無理ないな。

 

ルシフェル《······オーフィスを超えた貴方が言うの? ギャスパー君もそうだけど、私からしたら貴方とクルルのがよっぽど異常よ》

 

······息子夫婦に当たりキツくないか?

 

ルシフェル《······封印解いただけでオーフィス超えるなんて誰が想像着くと思う? クルルはクルルで、666(トライへキサ)の力を使えるようになってるし》

 

サマエルの奴は······俺にはどうしようもなかっただろうが。

 

それに、クルルには、666さんの影響がかなりあったみたいだが、まだ封印が2割近く残ってるしな。

 

ルシフェル《貴方達解析早すぎるのよ。一週間で神が掛けた封印の8割解除するなんて》

 

残りの2割が厄介なんだよ。今までよりもずっと複雑だし。

 

ルシフェル《それでも封印1つにつき、掛かって10分や20分でしょうが》

 

いったい、後幾つあると思ってんだよ。まだ軽く3桁はあるんだぞ。

 

お袋との会話もそこそこに、俺はその後もギャスパーと特訓を続けた。

 

 

 

時計を確認すると、もう6時半だった。始めてから40分くらいか。そろそろ終わりにしないとギャスパーが学校行けなくなるな。

 

 

八幡「ギャスパー、そろそろ終わりにするか。もう時間だ」

 

ギャスパー「······ふぅ。はい、分かりました」

 

ギャスパーは一息ついて、タオルで汗を拭いた。シャワー浴びさせとくか。

 

八幡「ギャスパー、お前今日も学校あるんだからシャワーくらい浴びとけ」

ギャスパー「あぁ······そうですね」

 

ギャスパーは魔法陣でトレーニング空間から出て行った。学校は人間界にあるからな。そっちの家の方に行った。俺もそっちに行くか。クルルが飯作ってるだろうし。

 

 

その後、ヴァーリを起こし、朝食を済ませて、ギャスパーは学校に行った。

 

俺とクルル? アザゼルが赴任してきたお陰で、赤龍帝の監視の必要がなくなったから、転校ってことでもう駒王学園には行ってない。『禍の団(カオス・ブリゲード)』関連で、行ってる暇がまずないしな。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

授業は何事もなく受けてその放課後。僕はオカ研の部室にいる。ここに、グレモリー眷属は全員集まっている。アザゼル先生もだ。

 

今からサイラオーグさんとのレーティングゲームのミーティングだ。

 

アザゼル「······さて、ミーティングを始めるか。俺はサイラオーグ戦のアドバイザーってことにもなってるからな」

 

先生はアドバイザーという立場らしい。サイラオーグさんのアドバイザーは誰なんだろうか。いくら何でもいないってことはないだろう。

 

ギャスパー「······先生、向こうのアドバイザーは誰なんですか?」

 

アザゼル「ん? あぁ、向こうには皇帝(エンペラー)様がついたそうだ」

皇帝(エンペラー)······レーティングゲームのレート一位のディハウザー・ベリアルさんか。サイラオーグさんのアドバイザーも凄い人だ。

 

リアス「······っ。ディハウザー・ベリアル」

 

ギャスパー「向こうも凄い人が着きましたね」

 

僕は一度だけあったことがあるけど······纏ってるオーラが尋常じゃないくらいの密度だった。魔王クラスという評価は、見誤りでも過大評価でもなく事実だ。

 

アザゼル「だな。まぁ、リアスやイッセーが上級悪魔としてゲームに参加したら、目標と見ていいだろう。眷属のメンバーも、主がゲームに参加するなら避けて通ることは出来ない相手だろうしな」

 

僕ももし上級まで昇格出来たら、当たることになるかもしれないかな? まだまだ先は長いけど。

 

アザゼル「お前達、サイラオーグ達のデータは覚えたな?」

 

先生の言葉に全員が頷く。

 

僕はレグルスさんのこともその場にいたので知っているのだが、サイラオーグさんが秘密にしているなら、話してしまうとイーブンにならないかと思って話さなかった。

 

 

先生は部屋の宙に立体映像を展開した。そこには、サイラオーグさん達がパラメータ付きで表示されていた。あくまで、グラシャラボラス戦でのデータのようだ。サイラオーグさんのパラメータが3年前の実力よりも明らかに低い。

 

レグルスさんは仮面を被った状態のものが映っているが、『兵士(ポーン)』と表示されていた。

サイラオーグさんは名前も公表してないのか。益々話せなくなった。

 

サイラオーグさんも、僕のことは『停止世界の(フォービトゥン・バロール・)邪眼(ビュー)』を持ったデイライトウォーカーとしか言ってないと思う。あの人は、僕が普段使わない能力まで明かしたりしないだろう。

 

アザゼル「グラシャラボラス戦では能力を全部見せていない者もいる。まぁ、あれはグラシャラボラスのガキ大将がサイラオーグにタイマン申し込んだからな。実質サイラオーグが勝負を決めたってとこだな」

 

先生が手を組みながら言う。

 

 

······グラシャラボラス家の次期当主は、サイラオーグさんにタイマンを申し込んだんだ······実力差が分からなかったのかな······余程のことがない限りは、サイラオーグさんは最上級クラスの実力者じゃないと相手にならないけど。

 

 

アザゼル「······サイラオーグ達はお前達と同じて、悪魔では珍しい修行する奴らだ。グラシャラボラス戦の時よりレベルアップしているだろう」

 

サイラオーグさんは自分の夢の為に努力を怠ることはない。果たして、今の僕で勝てるだろうか······

 

アザゼル「あいつら、『禍の団』相手にも戦っているらしいからな。危険な実践も経験している。『若手を戦に駆り出さない』って宣言してるサーゼクス達の意向も虚しくな。それに、お前達も何度か巻き込まれてたしな」

 

 

グレモリー眷属が通ってきた実践と言えば、中位のはぐれ悪魔討伐以外では目立った戦闘はコカビエルの時と和平会談で『禍の団』が襲撃してきた時くらいだ。『禍の団』襲撃に関してはお父様が先立って対抗策を練っていたし。

 

これからは益々戦闘が激しくなっていくことくらい、僕だって予想出来る。忌々しいリゼヴィム・リヴァン・ルシファー率いる『クリフォト』は、『英雄派』よりも強大な戦力を集めている。

 

先日、お父様が曹操さんから聞き出した情報から、『クリフォト』が吸血鬼社会に関わっている可能性が出てきた。吸血鬼が統べるルーマニアには、お父様達と一緒に僕も行くつもりだ。

 

······僕が比企谷家に出会う切っ掛けを作ってくれたあの人のために······

 

 

それに、魔王様方は、アジュカさん以外の考え方は大まかにしか分からないけれど、考えが何処と無く甘い。『禍の団』に旧魔王派が加入したことに気付きもしなかったし、はぐれ悪魔の調査だってやってない。黒歌さんがいい例だ。アジュカさん以外の魔王は『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の悪い面を一切見ていない。

時代が変わりつつあるのに、悪魔全体の考え方を変えるような行動も起こしていない。お父様達は政治への影響力が強すぎるから、表立って行動するようなことは少ないし······

 

 

アザゼル「······そういやギャスパー。お前、八幡とかから何か聞いてないか? サイラオーグとかの情報とか。特に、情報の一切ない『兵士』とか」

 

 

考え込んでいたら話が進んでいたらしい。先生に、サイラオーグさんの情報をお父様から何か聞いてないかを聞かれた。小猫ちゃんが僕に何か言おうとして口を閉ざしていた。その事には誰も気付かなかった。

 

サイラオーグさんが僕のことを話していないのであれば、僕がサイラオーグさんの情報を話していい道理にはならない。お茶を濁しておくべきか。

 

 

ギャスパー「えっと······いえ。サイラオーグさんが『禍の団』との戦闘を切り抜けていることぐらいは聞いてますけど、それ以上······特にサイラオーグさんの『兵士』のことは知らないです。お父様でも流石に知っているかどうかも分かりませんし」

アザゼル「······そうか」

 

先生は一言だけ言って、皆に視線を戻した。これは······何かしらバレたみたいだ。

 

イッセー「先生、俺達が正式にレーティングゲームに参加したら、将来的に王者と当たる可能性はあるんですか?」

 

 

イッセー先輩は、ディハウザーさんと当たるかどうかが気になっているらしい。イッセー先輩は上級悪魔昇格を目標にしているから、気になるようだ。部長もディハウザーさんを目標としているらしいから当然と言えば当然かもしれない。

 

 

アザゼル「お前達とサイラオーグ達は、若手でも異例の布陣だ。正式に参加してもないのに、これだけの力を持った面子が集まってるんだからな。久方ぶりの大型新人チームと目されている。正式参加しても、トップテン入りは時間の問題だな」

 

アザゼル先生はグレモリー眷属とバアル眷属に太鼓判を押している。当然だ。

 

グレモリー眷属なら、『赤龍帝』に『雷光の巫女』、『聖魔剣』に『猫魈』に『デュランダル』に『ヴァルキリー』。

 

バアル眷属なら、『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』にアバドンの『(ホール)』。それに、断絶した元72柱の末裔がいる。

 

これだけでも、相当なタレント揃いなのだ。

 

因みに、偶然なのかサイラオーグさんの眷属には、お父様が滅ぼした72柱の末裔はいない。

 

アザゼル「······お前達で変えてやれ。レーティングゲームで、トップテンも皇帝もお前達で倒して、新しい流れを作ってみろ」

 

 

アザゼル先生のその言葉で、ミーティングは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

······だが僕だけ呼び止められた。さっきのが態とらしかったのだろうか。

 

アザゼル「······さて、単刀直入に聞くぞギャスパー。お前、本当は知ってるんだろ?」

 

ギャスパー「······何をですか?」

 

取り敢えず恍ける。何の意味もないけども。

 

アザゼル「とぼけんなよ。サイラオーグの所の『兵士』についてだ。まぁ、それ以外もあるが」

 

······やっぱりバレてる。人を見る目で、お父様やお母様よりずっと長生きしていた人を誤魔化すのは到底無理みたいだ。

 

ギャスパー「······まあ本当は······知ってます」

 

アザゼル「何故言わなかった?」

 

アザゼル先生の表情が険しくなる。僕は堕天使総督というものを何処かで甘く見ていたらしい。

 

ギャスパー「······他の人に言わないなら」

 

アザゼル「······ああ。それで構わねえよ」

 

ギャスパー「イーブンじゃないと思ったからです。多分、サイラオーグさんも僕のことを殆ど言ってない筈です」

 

正直に話すことにした。嘘はもう通用しない。グレモリー眷属より、昔一緒に修行したサイラオーグさんに肩入れしていることは事実だ。

 

アザゼル「······お前、サイラオーグに会ったことがあんのか?」

 

ギャスパー「······サイラオーグさんは弟弟子です。師匠はお父様で」

 

サイラオーグさんは、サイラオーグさんのお母様、ミスラ・バアルさんの頼みにより、お父様の弟子になった。サイラオーグさんは自分が置かれた境遇をものともせず、みるみる実力を上げていった。

 

······3年前に、お父様の領であり、僕の故郷である『サングィネム』で起きたある事件で、バアル領に帰ることになってしまったのだが······

 

アザゼル「ああそうか。そういうことか······で、サイラオーグと所の『兵士』についても知ってるんだな?」

 

ギャスパー「······はい。サイラオーグさんの眷属になった時その場にいたので。絶対に内緒にして下さい。あの人は─────」

 

 

 

 

アザゼル「······は? マジで?」

 

アザゼル先生がこれ以上ないくらいに目を見開く。僕は先生の言葉に頷く。

 

アザゼル「そうか······ギャスパー、最後に一つ聞きたい」

 

ギャスパー「?」

 

アザゼル「お前はサイラオーグに勝てるか?」

 

 

答えはNOだ。

 

サイラオーグさんは3年前より遥かに強くなっている。それは昨日会った時によく分かった。少なくとも、『ブリューナク』で力を押さえている状態で勝つのは絶対に無理だ。

 

ブリューナクによる力の抑制を解けばギリギリ勝てるかもしれないけど······

 

 

ギャスパー「正直なことを言うと、分かりません。一緒に修行していた3年前とは、比べものにならないくらい強くなってます。でも、一つ言えるとしたら、僕を除いたグレモリー眷属でサイラオーグさんに勝てる人は絶対にいません」

 

アザゼル「何故そう言い切れる? 確かにサイラオーグは強敵だが、こっちには、赤龍帝でありイッセーがいる。勝敗を決めるのは早計じゃないのか?」

 

 

確かに、イッセー先輩ならもしや、ということも有り得る。白龍皇であるお兄様が、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』の更に上に到達したことを考えると、イッセー先輩もまた禁手(バランス・ブレイカー)とは別の進化をするかもしれない。

 

ただ、レーティングゲーム中にそれに至っても、サイラオーグさんには絶対に勝てない。イッセー先輩とサイラオーグさんでは、積み上げてきた厚みが違いすぎる。

 

 

ギャスパー「いえ、イッセー先輩では勝てません。サイラオーグさんは既に最上級クラスです。いくら赤龍帝とは言え、裏に関わるようになって一年も経っていないイッセー先輩とは積み上げてきたものが違いすぎます」

 

これ言ったことがバレたら、兵藤家に居候している人達に半殺しにされそうだなぁ·····その時は全力で逃げよう。逃げるくらいなら何かなる筈······

 

アザゼル「······分かった。悪かったな、引き止めて」

 

アザゼル先生は表情を和らげ言う。

 

ギャスパー「いえ、そんなことないです······失礼しました」

 

 

一礼して、部室を出てそのまま今日は家に帰った。

 

 

あまり時間がない。サイラオーグさんに勝つためにも、やれるだけのことを出来る限りやっておこう。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 




ライオンハートは、グレモリー眷属が活躍回のため、ギャスパー以外の八幡陣営は全員脇役になります。



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第66話 2度目の警告


ATTENTION!!

※本作において、ギャスパーは別人です。
※こんなのギャスパーじゃない。とお思いの方は即座にブラウザバックをお願いします。




 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······入るぞ」

 

白いドアを3回ノックして、その部屋に入る。

 

 

ここはオーフェリアの病室だ。今日はギャスパーとサイラオーグのレーティングゲームなのだが、オーフェリアの外出許可が降りたため、オーフェリアを迎えに来たのだ。

 

カルナ「おじいちゃんだー!!」

 

孫である茶髪の少女、カルナが抱き着いて来る。

 

八幡「よ、カルナ。元気か?」

 

カルナ「もっちろん!! ギャスパー(にい)がかっこよく戦うんでしょ?」

やはりギャスパーが大好きらしい。黒歌に牽制してギャスパーに抱き着くぐらいだからな。にしても、最近の女の子は()かすぎると毎度のように思う。

 

八幡「······オーフェリアも。体調大丈夫か?」

 

俺が聞くと、オーフェリアは可愛げに笑って首肯した。声帯を切除してしまったオーフェリアは2度と声を発することが出来ない。それに、下半身も殆ど動かないのだが、昔と違いよく笑顔を見せてくれるようになった。

 

十分なだけの栄養も取るようになり、まだ病弱であることには変わりはないが、昔に比べればずっと体が丈夫になった。

 

未だ退院は叶っていないが、ここ数年は、自身をも侵す猛毒の魔力もある程度制御出来るようになった(それでも、魔力を抑制する補助器具は外せないが)。早ければ数ヶ月、遅くとも後数年もあれば退院出来るだろう。

 

 

 

八幡「カルナ、はぐれんなよ?」

 

カルナ「はぐれないもん!!」

 

八幡「分かった分かった」

 

オーフェリアを優しく車椅子に乗せる。オーフェリアの乗った車椅子を押して、カルナを伴って病室を出る。

 

クルルとヴァーリと黒歌が病室の外で待っており、カルナはクルルに抱き着いたかと思うと、本人がいない所でギャスパーの取り合いを黒歌と始めていた。

 

 

そんな溜息が付きたくなるも微笑まし光景を見ながら、オーフェリアの外出手続きを終え、アグレアスに向かった。

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

僕達オカ研はアグレアスに続いているゴンドラの中から、アグレアスを眺めていた。

 

イッセー先輩達、今年部長の眷属になった人達は物珍しそうに見ていた。僕は『サングィネム』に浮かぶ建造物群を見ているので慣れている。

 

あれはアグレアスとは違い、魔法と束さんの科学力の結晶なのだけど。

 

アザゼル「······聞いた話じゃ、今回のゲーム会場設定はかなり上が揉めたらしいな」

 

アザゼル先生が漏らした言葉に皆の視線が集中した。

 

······なるほど。現魔王はグレモリー領か魔王領での開催を望んだけど、大王家はバアル領での開催を望んだと。それで、結局アガレス領にあるアグレアスに落ち着いたのだろう。

大公は中間管理職のような立場だと聞いていたが、予想よりだいぶ大変なようだ。アガレス家の人々の胃が心配だ。その内破裂するんじゃないだろうか。

 

アザゼル「現魔王は世襲制じゃないからな。家柄だの血筋だのを重視する悪魔にとっちゃ、バアルってのは魔王以上のファクターだからな」

 

血筋や家柄をどうしてそこまで重視するんだろう······吸血鬼もそうだが、全く理解出来ない。

 

イッセー「······旧魔王に加担してた悪魔も、過去に同じこと言って内部で相当揉めたんですよね? 何で同じことを······?」

 

イッセー先輩がジェスチャーを入れながら漏らしている。

 

小猫「それで結局アガレス領······」

 

小猫ちゃんがぼそりと呟く。先生はそれに頷き続ける。

 

アザゼル「ああ、大公は魔王と大王を取り持ったって話だ。時代は変われど苦労してんなぁ······」

 

アガレス家の苦労は大昔からの話らしい。逃げ出す人とかいそうだ。悪魔は思想も倫理観も何もかもがバラバラすぎるからなぁ······そんな人達の間を取り持つってどれだけ大変なのだろうか。

 

裕斗「僕達のゲームは、ルシファーとバアルの代理戦争ということになるのだろうか」

 

裕斗先輩が目を細めて言う。先生も顎を擦りながら裕斗先輩に答える。

 

アザゼル「ま、そう見る連中が多いのも事実だ。裏じゃ政治家があーだこーだ言い合いながら見てんだろうな」

 

サイラオーグさんには、夢を叶えるためにも、各所とのパイプが必要だ。政治とはそういうものだ。サイラオーグさんだって、向こうが自分を利用しようとしていることぐらい分かっている。

 

······甘い汁を吸うためなら一度見放した相手でも平気で擦り寄っていくのは、些か気持ち悪い。

 

イッセー「めんどくさいっすね。俺らは俺らで目標があって臨んでるのに······」

 

イッセー先輩が先生が疲れたように言うと、嫌そうな顔をして言う。

 

アザゼル「それでいいんだよお前らは。努力を積み重ねた結果、注目されるようになったと思えばいい。理由があろうと無かろうと名のある者には成果が求められる。お前達は政治云々のことなんか気にせず全力で行け。そうでなければ、あいつには勝てないだろう」

 

サイラオーグさん相手にそんなことを考えられる余裕はないんだけど······曹操さんの『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』に拳一つで対等以上に渡り合える人だからなぁ······今はレグルスさんまでいる。

 

裕斗「でも、大王家はサイラオーグ・バアルの夢を容認するでしょうか。能力さえあれば、身分を超えて、どんな夢でも叶えられる。反対意見も相当多いと思いますが」

 

裕斗先輩が先生に聞く。

 

アザゼル「家柄に拘る大王家が容認すると思うか? あくまでも、あいつらは、サイラオーグを現魔王に一矢報いるための駒としか思ってないだろう。サイラオーグはそれも認識してるだろうな」

 

サイラオーグさんは境遇に恵まれなかった。それでも自身の夢のために、どこまでも愚直に突き進んでいる。僕ではその心中は計り知れない。

 

 

僕がサイラオーグさんの境遇を考えていると、ゴンドラはアグレアスに到着していて、降り過ごしそうになった。

 

 

ゴンドラを降りると、待ち受けていたのはマスコミのフラッシュだった。スタッフとボディガードの誘導の下、用意されていたリムジンに全員が乗り込む。

 

 

 

 

ゲームの舞台となるドームを目指すリムジンの中で、僕はサイラオーグさんとの戦いを考えていた。

 

 

ゲームで、多分僕はサイラオーグさんと一対一になる。サイラオーグさんが出てくるのは十中八九最後になるだろから、そこまでは出来るだけ消耗を避けたい。

 

だが、今の僕はあくまで部長に従うだけの駒だ。あまり眷属としての常識の範疇を超えるようなことは出来ない。危なくなったら流石にそんなこと気にしないけど······

 

 

それと同時に、『禍の団(カオス・ブリゲード)』の対策についても考える。

 

あのリゼヴィム・リヴァン・ルシファーの性格からして、今ルーマニアにいなくとも、ルーマニアの現状を知れば絶対に飛び付く。

 

何せ、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』はルーマニアにあるのだ。所有者は僕の大恩人で、比企谷家に出会う前の僕に、唯一、家族の温もりを与えてくれた人だったと言っていい。

 

吸血鬼は他の勢力との干渉を極端に嫌っているため、お父様は彼女を引き取ろうとしたが、拒否されてしまい、僕だけを引き取ることになった。今までに数回は申し出ているが、全て拒否されたと聞いている。

 

いっそ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが吸血鬼達に干渉してたら、それを理由に保護することも出来るんだけど······

 

 

僕が考え込んでいるうちも、リムジンは都市部を走り、アグレアス・ドームに着いた。

 

 

 

 

僕達はアグレアス・ドームの横にあるホテルに移動していた。

 

 

試合までまだかなり時間があり、ホテルのボーイに、グレモリー眷属専用ルームまで案内されている途中。

 

通路の向こうから、気持ち悪いオーラを放ちながら歩いてくる集団があった。

 

その集団は顔が隠れるくらいフードを深く被り、足元が隠れるほど長いローブを着込んでいる。そして、その集団の中央には、祭服を着て、杖を携え、ミトラを被る骸骨······冥府の神、ハーデスがいた。

 

 

······へぇ。この人達はお父様に戦争でも仕掛ける気なのかな? 警告を無視したと見ていいのかな?

 

取り敢えず、警告の意を込めて、一歩前に出て挨拶する。

 

ギャスパー「······これはこれは冥府の神ハーデス様。お久しぶりですね」

 

目玉の無い眼孔を見据え、殺気を放ちながら言う。

 

「「「「「なっ······ハーデス!?」」」」」

 

僕とアザゼル先生以外は会ったことがなかったらしい。

 

僕はお父様に無理を言って各地を飛び回るお父様とお母様について行っていた時期があるので、ぶっちゃけたことを言えば、各勢力のだいたいの柱神とは会ったことがある。このハーデスとも。

 

······あの時はかなり反対されてたなぁ······今思うと懐かしい。

 

ハーデス『······ほう。久しいな『堕天魔』の息子、ギャスパー・ルシフェル。それに、紅髪のグレモリーに堕天使の総督』

 

アザゼル「何故ここに······!!」

 

ハーデスも相当なオーラを放っているが、これくらいはうちでは普通なので、別にどうということはない。

ギャスパー「······ここに何の用ですかね? お父様の警告を無視して戦争吹っかけにでも来ましたか?」

 

更に殺気を強めて言う。

 

ハーデス『ファファファ······この殺気、流石と言えようか。まあよい。今宵は貴様や『堕天魔』と戦争をしに来たわけではない。貴様とやり合えば、私とてただではすまん。それに、『堕天魔』とこれ以上やり合えば冥府は消し飛ぶのでな』

 

ハーデスは愉快そうに笑い声を上げる。取り敢えず、今のところは行動を起こすつもりはないらしい。

 

流石にこの程度の殺気で怯むわけないか······まぁ僕も全開にしているわけではないから当然なのだが。

 

ギャスパー「······そうですか······でも一応言っておきましょう。これ以上何かするようであれば、お父様の前に僕が冥府に攻め込むつもりなので。刺し違える気でいけば、貴方を道ずれにすることぐらいは出来るでしょう」

 

これは傍から見れば宣戦布告なのだが······ハーデスは既にお父様に敵対行為を起こしている。サマエルを貸し出したことなど、本来ならお父様に消し飛ばされてもこの目の前の骸骨は文句を言えないだろう。

 

まぁ······お父様は敢えて泳がすことにしたのだが······お父様やお母様、お姉様やお兄様やカルナに何かあれば、今度は僕が最初に動く。容赦など、微塵もない。

 

ハーデス『ファファファ······しかと命じておこう。そこの烏の首魁以上の実力を持つ貴様相手では、この年寄りでは荷が重い。では、私達は失礼するとしようか。精々死なぬように頑張るとよいわ』

 

そう言い残して、ハーデスは僕達の横を通り過ぎて行った。後ろに控えていた死神(グリム・リッパー)も通り過ぎて行った。

 

······だいたいはハーデスにただ着いていくだけだったが、何人かは僕に明確な敵意と殺意を示していたが。でもプルート······あれは自業自得だと思う。

 

 

ハーデス相手にどうしたら勝てるかを少し考えてみたが、バロールさんの『闇』で完全に飲み込むしか出てこなかったので、考えるのをやめて後ろを振り向いたら、アザゼル先生以外の全員が2、3歩後ずさりしており、額に脂汗を垂らしていた。

 

 

 

どうしたんだろう······?

 

ギャスパー「·······皆さんどうかしましたか?」

 

ロスヴァイセ「······北欧にいた頃、先輩のヴァルキリーからハーデス様の話は聞いてはいましたが······魂を掴まれる感じは生きた心地がしませんね」

 

ロスヴァイセさんがそう言うと、皆が頷いた。

 

そんなに怯えることはないと思うんだけどな······あれでもお互い様子見だし。

 

ロスヴァイセ「と言うか······ギャスパー君は何故平気なのですか?」

 

平気、と言われても、お互い様子見程度の殺気しか出していなかったのだ。それに、お兄様と本気で修行している時は、お互い、今のとは比べ物にならないくらいは殺気出してるし······お互いがお互いを殺す気で掛かってるし······

 

ギャスパー「そう言われましても······あれはお互い様子見ですよ?」

 

ロスヴァイセ「よ、様子見······!?」

 

アザゼル「······ギャスパー、それは異常なんだよ。普通はハーデス相手にあんな口聞けねえよ。そもそも、俺でもあの殺気は出せない」

 

先生が僕の肩に手を置きながら言う。

 

ギャスパー「先生まで······僕はハーデスがお父様の警告を無視したように見える行動を取ったからやっただけですけど······」

 

アザゼル「頼む。あれはやらないでくれ。見ろ、他の奴らは未だに体が震えてる」

 

ロスヴァイセさん以外はまだ震えており、脂汗を垂らしていた。ロスヴァイセさんは一足先に止まったということなのだろうか。

 

 

 

その後、やっと皆の震えが収まったぐらいのタイミングで、主神ゼウスと海神ポセイドンがやって来て、僕と先生に、開口一番に『嫁は取らんのか?』と聞いてきて、僕には黒歌さんがいるから、『間に合ってます』と答えたら今度は小猫ちゃん以外の皆が固まっていた。

 

先生は四つん這いになって『イッセーじゃなくて、まさかのギャスパーに先を越された······』と今にも泣きそうだった。

 

先生に貶された気がする······

 

 

 

というか······先生、結婚相手ぐらいいくらでもいたでしょうに。

 

 

僕は史実における『アザゼル』という堕天使に疑問を抱いた。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 



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第67話 レーティングゲーム⑦



今回から原作沿いに戻ります。今までオリジナル展開入れてきたから、ギャスパーの戦闘以外はほぼ現在通りとなります。


 

 

 

 

クルルside

 

 

 

私達は、アグレアス・ドームにある専用ルームで試合の開始を待っていた。

 

ここには、私を含め八幡の眷属が殆ど集まっている。唯一、桃花だけは有事の際に備えて屋敷に残ったのだが。それとディオドラの『女王(クイーン)』も来ている。

 

他には、ヴァーリチームのアーサーとルフェイ。

 

そして、ヴァーリと車椅子に座るオーフェリア、ギャスパーの試合を待ちきれなくて興奮しているカルナ。

 

クルル「······カルナ、ギャスパーがゲーム開始からすぐに戦うとは限らないのよ?」

興奮しすぎてギャスパーが戦い出す前に疲れそうなカルナに言う。

 

カルナ「分かってるよおばあちゃん!! でも、ギャスパー兄かっこいいんだもん!!」

 

カルナは、ギャスパーがヴァーリと修行しているのを見て、かっこいいと思ったらしいけど······それにヴァーリは含まれないのかしら?

 

黒歌「にゃにを〜? ギャスパーは渡さないにゃ!!」

 

カルナの発言に黒歌が突っ係る。

 

黒歌······貴女、いくら結婚適齢期ギリギリだからって、12歳の子供にそれはどうなの?

 

ヴァーリ「······両方という案はないのか······?」

 

ヴァーリが睨み合っている2人を見ながら呟く。

 

······ヴァーリ、貴方はいい加減ラヴィニアからの好意に気付きなさい。ラヴィニアが流石に可哀想になってくるわね······

 

そこで、レーティングゲームの実況と思しき者の声がドーム全体に響く。

 

『さぁ、これより世紀の一戦が始まります!! 東口ゲートからは、サイラオーグ・バアルチームの入場です!!』

実況の紹介により、サイラオーグ達がゲートから現れる。全員が戦意に満ち溢れてるわね。

 

『西口ゲートからは、リアス・グレモリーチームの入場です!!』

 

今度は、サイラオーグ達が出て来たゲートとは逆のゲートからグレモリー眷属が現れる。ギャスパーは呑気に黒歌の妹、白音と話している。

 

あの子将来とんでもない大物になるわね。

 

カルナ「······あ!! ギャスパー兄だ!!」

 

黒歌「ホントにゃ!!」

 

カルナと黒歌がガラス張りになっている壁にへばりつく。この娘達ギャスパー好きすぎじゃない?

 

『では、両チームの皆さんは陣地に上がって下さい』

 

実況が促す。両チームは長い螺旋階段を上り、陣地に上がっていく。両チームの陣地にあるのは、椅子が人数分と、テーブルが一つ。一段高い所に移動式の魔法陣。

 

······今回やるのは『ダイス・フィギュア』ね。

 

 

『ダイス・フィギュア』は、両チームの『(キング)』が6面のダイスを振り、2つのダイスの出た面の合計の数が、出場出来る選手の駒価値の合計となる。無論、『王』が負けた場合、その時点で試合は終了となる。

 

『王』の駒価値は審査委員会によって決められるけど、サイラオーグは12以内に収まるのかしら? サイラオーグの本来の実力をリアス・グレモリーと比較した場合、リアス・グレモリーが8くらいだとすると、サイラオーグは100とかには少なくともなるけど······

 

まぁ、そうなるとサイラオーグはどうやったってゲームに出れなくなるから多分12になるでしょうけど······

 

 

 

兎に角、今回でギャスパーとサイラオーグが何処まで出来るか楽しみね。

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

私達グレモリー眷属は陣地で実況を聞いている。

 

実は、今回の特別ゲストとして、アザゼル先生が実況席に呼ばれていた。特別ゲストには、レーティングゲームランキング7位のリュディガー・ローゼンクロイツと、1位の皇帝(エンペラー)ディハウザー・ベリアルがアザゼル先生と一緒に呼ばれている。

 

実況4人は両チームの選手の評価を語っていた。

 

そして、話は『フェニックスの涙』についてになった。

 

ナウド『まずは『フェニックスの涙』についてです。皆様もご存知の通り、『禍の団(カオス・ブリゲード)』のテロにより、価格と需要が高騰しております。しかーーしっ!!』

 

実況のナウド・ガミジン(ガミジンは元72柱の一角)がモニターに指を突きつける。そこには、高価な箱に入った2つの瓶。

 

ナウド『涙を製造販売されているフェニックス家の現当主、バアル、グレモリー、グレモリー眷属の一人であるギャスパー・ヴラディ選手の父である『堕天魔』比企谷八幡様のご厚意。そして、、両チームを支持されるたくさんの皆様の声が届きまして、今回のゲームで各チーム一つずつ支給されることになりました!!』

「「「「「ワーーーッ!!」」」」」

 

その報せに会場は大いに湧いている。

 

『フェニックスの涙』······おそらく、向こうはサイラオーグ・バアルが使うだろう。

 

そして、比企谷先輩がどれだけビックネームだったのかを、私は今更にして知る。比企谷先輩の情報は、多少はグレモリー家の文献にも載っており、読んだことはあった(それでも魔王様方に比べたらかなり少なかった)。が、まさかこのゲームのスポンサーになっているとは。

 

小猫「比企谷先輩······ゲームのスポンサーだったんだ」

 

ギャスパー「うん。このドームのVIPルームから観戦するって言ってたよ。しかも家族全員で。流石に恥ずかしいなぁ······」

 

私が漏らした言葉に顔を両手で隠したギャー君が答えた。比企谷先輩VIPなんですね······

 

ギャー君は両親に見られるのが恥ずかしいようだ。理由は分かるけど。ふと思ったが、ギャー君は家族全員と言ったが、白龍皇のヴァーリ・ルシファーも来ているのだろうか。

 

 

私が考えている間も実況の解説は続く。

 

今回は『ダイス・フィギュア』というルールで行い、試合はシトリー眷属と戦った時と同じ短期決戦(ブリッツ)だ。このルールはプロ仕様だ。

 

この観客の数だし、エンターテインメント性が重視されているのだろう。

 

ナウド『······それでは、審査委員会が決めた、両『王』の駒価値はこれです!!』

 

実況が叫ぶと、モニターに部長とサイラオーグ・バアルの名前が表示され、その下にある数字が動き出した。そして、軽快な音楽と共に数字が表示される。

 

ナウド『サイラオーグ・バアル選手が12!! リアス・グレモリー選手が8!! サイラオーグ選手の方が高評価ですが、逆に言いますとマックスの合計が出ない限り、出場出来ないことになります!!』

 

私はその数字に驚く。サイラオーグ・バアルは駒価値が12であると評されているのだ。これは、イッセー先輩の8を大きく上回ることになる。

 

······駒価値の算出方法が私達と同じとは限らないから、一概には言えないが······

 

そして、隣りに座っているギャー君も驚いていた。だが、その理由が私とは正反対であることがギャー君の呟きで分かることになる。

 

ギャスパー「······変だ。サイラオーグさんの実力なら、最低でもあの駒価値の10倍はないとおかしい話になるけど······あ、でもそれだとサイラオーグさんがゲームに出場出来ないし、グラシャラボラス戦はサイラオーグさんは手加減してたし、相手があの程度だと準備運動にもならないから当然なのか······」

 

 

ギャー君の呟きに私は絶句する。駒価値があれの、10倍はないとおかしい······!? つまり、サイラオーグ・バアルの本来の駒価値は少なくとも120はあるということか······!?

 

それに、グラシャラボラス戦は手加減していた!? 本来の次期当主ではないにしろ、グラシャラボラスの『王』も、才能がなかったわけではない。だが、サイラオーグ・バアルは己の拳一つで相手を再起不能にしたと聞く。

 

 

どうやら、私以外にギャー君の呟きは聞こえていなかったらしく、皆は既に作成の話し合いをしていた。

 

ギャー君の呟きは頭の隅に置き、私も作戦会議に加わった。因みに、ギャー君は私よりも先に作戦会議に加わっていた。

 

 

 

 

リアス「······最初に12が出てきたとしても、サイラオーグ自身が序盤(オープニング)から出てくることはまずないでしょうね。サイラオーグの性格上、自分の眷属を組み合わせて見せてくるだろうから。でも、彼自身も何処かで出てくるのは間違いないわ。合計の数字にもよるけど、何処かで仕掛けてくるでしょうね。バトルマニアなのは確かだから」

 

部長はサイラオーグ・バアルの性格から、彼がすぐには出て来ないと見抜いていた。

 

裕斗「このルールだと、アーシアさんを単独で出しても組んで出しても悪手ですね。回復役は真っ先に狙われますから」

 

裕斗先輩が言うと、部長は頷いて、アーシア先輩を陣地に残ってもらうようにすると決めた。『フェニックスの涙』以外でも回復出来るのは、こちらの一番の利点だと言っていいと思う。

 

アーシア「はいお姉様。私はここで皆さんの怪我を癒します!! だから、皆さん無事に帰ってきて下さい!!」

 

アーシア先輩が笑顔で言う。全員がもちろんと頷いた。

 

朱乃「アーシアちゃんが出て来ないのは読まれますわね」

 

リアス「ええ。こちらの戦闘要員は実質8名ね」

 

そこで、実況からの合図が入る。

 

ナウド『さぁ!! そろそろ運命のゲームがスタート致します!! 両チームとも、準備はよろしいでしょうか?』

 

実況者が煽り、審判(アービター)が大きく手を挙げた。

 

ナウド『これより、サイラオーグ・バアルチームとリアス・グレモリーチームのレーティングゲームを開始致します!!ゲームスタート!!』

 

開始を告げる音と共に、観客の声援が響き渡る。

 

 

 

 

遂に、ゲームが始まった。

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

『それでは、両『王』の選手、台の前へ』

 

審判に促されてサイラオーグさんと部長がダイスを置かれた台の前に立つ。

 

『第一試合を執り行います。出場させる選手を決めますので、両者共にダイスを手に取って下さい』

 

2人がダイスを手に取る。

 

『シュート!!』

 

掛け声と共にダイスが振られる。そして、ダイスの動きが止まると共に、ダイスがモニターに映し出される。

 

ナウド『リアス選手が出した目は2!! サイラオーグ選手が出した目は1!! 合計は3となり、その価値分だけ眷属を送り出すことが出来ます。さぁ、両チームの先鋒は誰なのか!!? 作戦タイムは5分とします。その間に出場選手を選出して下さい』

 

いきなり最小の数字だ。部長はおそらく、単独で僕を出さないだろうしアーシア先輩も出ないから、『騎士(ナイト)』の裕斗先輩か、ゼノヴィア先輩のどちらかとなる。

 

部長はエクス・デュランダルの能力を知られたくないだろうから、おそらくゼノヴィア先輩はまだ出さない。となると、必然的に裕斗先輩が出ることになるだろう。

 

リアス「······出すなら裕斗ね。エクス・デュランダルは一つでも能力を晒せば、正体を読まれる可能性がある。それは後々に取っておきたいの。中盤(ミドルゲーム)にサイの目が大きく出て激闘になるのは予想出来るなら、晒すならそこね。初手で使うのは勿体ないわ。だから、手の内が知られても臨機応変に対応出来る裕斗よ」

 

エクス・デュランダルは能力がバレる可能性が高い。7本のエクスカリバーの能力は悪魔にも広く知られているから、一つ使えば残りの6つも推測される。

 

それに、ゼノヴィア先輩はまだエクスカリバーの方の能力を殆ど引き出せていないから、『破壊(デストラクション)』がバレただけでもピンチに陥る可能性さえある。

 

裕斗「······読まれてても行かなきゃね······行くよ」

 

裕斗先輩が襟元を直しながら一歩前に出る。

 

イッセー「初戦からやられんなよ?」

 

イッセー先輩の煽りに、当然勝つよ、と笑顔で返事して裕斗先輩は転移して行った。

 

 

 

 

 

裕斗先輩が転移したのは、広大な草原だ。

 

そこに、裕斗先輩と、『青ざめた馬(ペイル・ホース)』という全身から青白い炎を放つ馬に乗った甲冑騎士がいた。

 

ナウド『第一試合の出場選手がフィールドに登場!! 合計数字3によって、両チームから選ばれたのは、グレモリー眷属が神速の貴公子!! 『騎士(ナイト)』の木場裕斗選手!! 対するバアル眷属は、同じく『騎士』のベルーガ・フールカス選手です!!』

 

フールカスは馬を司る一族。だが『地獄の最下層(コキュートス)』に生息する『青ざめた馬』を乗りこなすのは至難の業だ。相当な特訓を重ねてきたのだろう。

 

ナウド『第一試合、開始して下さい!!』

実況が試合開始を告げる。

 

ベルーガ『私の愛馬──アルトブラウの脚は神速。では······貴殿の速度と私達の速度。どちらが速いか勝負だぁぁぁッ!!』

 

裕斗『───速い!!』

 

ベルーガさんに呼応するようにアルトブラウが雄叫びを上げる。と同時に、高速で走り始めた。

 

『青ざめた馬』なだけあって本当に速い。お父様達に鍛えられてこなかったら、間違いなく見失っていた。

 

裕斗先輩は、気配を感じ取るような姿勢で聖魔剣を構える。裕斗先輩は気配だけでベルーガさんのランスを受け流す。距離を取ったところて、裕斗先輩も同じくらいの速さで駆け出した。

 

両者は高速でぶつかり合い、獲物は金属音と火花を上げる。周囲は、剣の波動とランスの突撃で抉られていく。

 

ベルーガ『アルトブラウの脚を持ってさえも互角とは······恐るべし、リアス姫の『騎士』!!』

 

両者が鍔迫り合う。両者とも、実力がほぼ拮抗しており、中々決まらない。裕斗先輩はベルーガさんとアルトブラウのコンビネーションの前に、決定打を決められずにいた。

 

裕斗『貴方と馬とのコンビネーションも抜群ですね······足場を消し去るしかないみたいだ!!』

 

裕斗先輩の周囲の地面から大量の聖魔剣の刃が幾重にも飛び出した。だが、アルトブラウは宙を駆けて、全てを軽々と躱す。

 

裕斗『ならば!! 雷の聖魔剣よ!!』

 

裕斗先輩が振りかざした聖魔剣から、ベルーガさんに雷が降り注ぐ。朱乃さん直伝の雷らしい。雷の威力は朱乃さんに劣るが、裕斗先輩はそれでも雷を降らせる。

 

ベルーガ『あまい!!』

 

ベルーガさんはランスを上空に投げる。ランスは避雷針となって雷を逸らした。ベルーガさんはアルトブラウの鬣に手を入れると、2本目のランスを取り出した。

 

『青ざめた馬』の鬣は違う次元に繋がっていると言われているのだ。

 

ベルーガ『貴殿の剣がどれほど悪魔に有効であろうと······当たらなければどうということはない!!』

 

飛び出したと同時に、ベルーガさんとアルトブラウが幾重にも姿を増やした。

これは幻影か······本物は······右から3番目か。一瞬どれが本物か分からなくなった。

 

ベルーガさんとその幻影は四方八方から裕斗先輩に襲いかかる。剣である程度受け流せているものの、流石に全てを受け流すのは無理らしく、着実にダメージを追っていっている。

 

裕斗『くっ!!』

 

裕斗先輩は2振り目の聖魔剣を創り出し、オーラを弾けさせることで幻影を消し飛ばした。平原が吹き飛んでいく。

 

裕斗『······初手から手の内を見せるのは嫌だったんだけどね······どうやら、そこまで出し惜しみ出来るほどの余裕はないね。ゼノヴィアのことをパワー一辺倒だと内心思ってたけど、人のこと言えないな』

 

裕斗先輩が自嘲気味に言う。

 

やっぱり、ゼノヴィア先輩ってパワーバカだったんですね。グレモリー眷属の修行に参加してる時は、『破壊』ばかり使ってたけど本当にそうだったとは。だからお父様に指導を頼み込んだのか。

 

裕斗『僕は貴女よりも強い。いずれ、僕が貴方の動きを捉えるだろう。けどそ、それまでに相当なスタミナを消費してしまう。今後のことを考えて、短期決戦で仕留めよう』

 

裕斗先輩が堂々と宣言する。宣言を受けて、ベルーガさんも不敵に微笑む。

 

ベルーガ『自信満々ですな。確かに、貴殿は私とアルトブラウをいずれ上回る。だが、ただでは死なない。手足の1本でも貰い受ける!!』

 

裕斗『そう、だからこそ貴方が怖い。覚悟がある使い手ほど怖いものはない。だから······僕はもう一つの可能性をお見せしましょう』

 

裕斗先輩は聖魔剣を聖剣に変えて、静かに呟く。

 

裕斗『······禁手化(バランス・ブレイク)

 

次の瞬間、裕斗先輩が聖なるオーラに包まれていく。すると、地面から聖剣の刃が多数出現し、同時に甲冑の姿をした存在が形作られていく。甲冑の異形達は地面に生えた聖剣を手に取り、裕斗先輩の周囲に集まっていく。

 

裕斗先輩はさながら騎士団を仕切る長のようだ。

 

ベルーガ『バ、バカな···!? 禁手化だと!? 貴殿の禁手化は『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』の筈!! 何故違う禁手(バランス・ブレイカー)となれる!?』

 

裕斗『······『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』。『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の亜種禁手です』

 

裕斗先輩は、コカビエル襲撃の一連の事件で、後天的に聖剣の因子を同胞達から譲り受け、『聖剣創造』の能力も得た。魔剣と聖剣という2種の剣を振るう剣士となった。

 

先日まで『禍の団』の英雄派に潜入していたシフラさんもこの神器(セイクリッド・ギア)を持っており、こちらも亜種禁手に至っているが、裕斗先輩とは違うものだ。

 

裕斗『······至るために、自前の聖剣のみで赤龍帝と戦ったけど······肝が冷えたよ。死さえ覚悟したほどさ。本気で殺しにかかってきてくれたからね。頼んだは僕だけど』

 

実況席に座るアザゼル先生が、面白そうに顎に手をやっていた。

 

アザゼル『本来、『聖剣創造』の禁手は、『聖輝の(ブレード・)騎士団(ナイトマス)』だ。木場選手はそれに独自のアレンジで亜種として発現出来たらしいな。にしても、龍の騎士団か!! 木場、イッセーの影響受けすぎだぞ!! 大きなお姉さんが喜びそうな展開だな!!』

 

先生は嬉々として実況する。最後のが無ければもっと良かったのになぁ······

 

裕斗『······行きます!!』

 

裕斗先輩は騎士団と共に駆け出す。

 

ベルーガ『くっ!! まだここで終わるわけにはいかん!!』

 

騎士団とベルーガさんの幻影がぶつかる。

 

そして、一振りの金属音が鳴り響く。

 

一拍あけ、ベルーガさんの甲冑が肩口から腹部にかけて砕け散る。傷口からは聖の属性を帯びたダメージを食らっていた。

 

ベルーガ『······見事だ。木場裕斗』

 

ベルーガさんはそう言い残して、光と共にフィールドから消えてリタイアした。

 

『サイラオーグ・バアル選手の『騎士』1名。リタイアです』

 

審判の声が響く。その報告に観客は湧き、グレモリー眷属も歓喜した。

 

 

 

 

初戦。リアス・グレモリーチームは順調なスタートを切った。

 

 

 

 

 



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第68話 レーティングゲーム⑧

 

 

ナウド『······初戦を制したのはグレモリーチーム!! 次の試合はどうなるのでしょうか!!』

 

実況が観客を煽る中、裕斗先輩が魔法陣から帰ってきた。同じくして、結界が薄れて外部から見えるようになる。

 

そして、サイラオーグさんと部長が再びダイスを振る。

 

出た目はサイラオーグさんが4、部長が6。合計は10だ。

 

ナウド『今回の合計は10!! 両チーム、10までなら選手を出せることになります。もちろん、複数の選手の出場もOKです!!』

 

部長は誰でいくだろう。ゼノヴィア先輩はまだ出ないだろうから、『戦車(ルーク)』+『戦車』か、或いは『戦車』+『僧侶(ビショップ)』のどちらかか。

 

リアス「······ここは手堅くいきましょう。ロスヴァイセ、サポートに小猫。2人にお願いするわね」

 

『戦車』+『戦車』か······まぁ『女王(クイーン)』のクイーシャさんでも出て来ない限りは、油断しなければ大丈夫だろう。

 

ロスヴァイセ「分かりました」

 

小猫「·······了解」

 

小猫ちゃんも一見無口だけど気合が入ってる。ただ、ロスヴァイセさんはまだしも、小猫ちゃんは心配だ······

 

 

 

2人が魔法陣で転送された先は、薄暗い神殿だった。あちこちに巨大な柱が立っていて、祭壇もある。天井は一部崩れており、そこからは月明かりが射し込んでいた。

 

 

サイラオーグさん側から転送されたのも2人だ。軽鎧(ライト・アーマー)に身を包み、帯剣している金髪の男性──『騎士(ナイト)』のリーバン・クロセルさんと、3m近い身長の大男──『戦車』のガンドマ・バラムさん。

 

クロセルは、断絶した元72柱の一角だ。その末裔をサイラオーグさんはスカウトしたのだろう。

 

ナウド『サイラオーグ選手の眷属、リーバン・クロセル選手は、断絶したクロセル家の末裔です!!』

 

断絶したといは言え、何らかの形で血を継ぐ者が生きている場合がある。大抵は、人間界に行き場を求めそのまま住み着いたなどだ。

 

『第2試合、開始して下さい!!』

 

審判(アービター)が試合開始を告げる。

 

小猫『······相手が相手なので、最初から本気で行きます』

 

小猫ちゃんは呟いて、全員に闘気を纏う。同時に、二又の尻尾と猫耳が生える。

 

『猫又モードレベル2』。仙術により、全身に闘気を纏うことで一時的にパワーを爆発させる。暴走の危険性も出来る限り取り払ったらしい。

 

黒歌さんはこれを見て興奮しているに違いない。

 

ああ······今日寝る時は、一晩中(白音)自慢を黒歌さんに聞かされるに違いない。多分一睡も出来ないだろうなぁ······睡眠は諦めよう。

 

 

小猫ちゃんは素早く飛び出し、ガンドマさんの顔面に一撃入れる。が、パッと見のダメージは入っていない。それでも、仙術で体内の気を乱している筈だ。

 

ガンドマ『······ぬぅんっ!!』

 

ガンドマさんが腕を横に薙ぐ。それだけで空気が震える。小猫ちゃんはそれを素早く避け、その背後からロスヴァイセさんが魔法を繰り出す。

 

多属性の魔法を同時に放つが、ガンドマさんの体に目立ったダメージはない。相当防御力が高いらしい。僕だったら、あの防御力は突破出来るかな?

 

その時、ロスヴァイセさんとその周囲が突然ぶれ出す。その時、ロスヴァイセさんが膝を付いた。同時に、周囲の床が何かに押し潰されたかのように凹んでいった。

 

リーバンさんは『魔眼の生む枷(グラビティ・ジェイル)』という重力を操る神器(セイクリッド・ギア)を持っている。

 

リーバン『······隙アリだお姉さん』

 

リーバンさんが双眸を光らせながら言う。

 

ロスヴァイセ『······重力の能力』

 

ロスヴァイセさんは足元に魔法陣を展開しようとしたが、先んじて、リーバンさんが手元に魔法陣を展開して、ロスヴァイセさんの足元を凍らせた。

 

ロスヴァイセ『······そう言えば、魔法剣士でもありましたね!!』

 

リーバンさんが剣を抜いて向かってくる。ロスヴァイセさんは不敵な笑みを浮かべた。リーバンさんが剣を手元で遊ばぜながら言う。

 

リーバン『·····俺はクロセルと人間の魔法使いの混血の混血でね!! 序に剣術も得意だ!! 重力の方は『魔眼の生む枷』!! 重力を操る神器さ!!』

 

部長がイヤホンマイクを通じて、神器のロスヴァイセさんに注意を促す。

 

『魔眼の生む枷』は僕の『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』に近いが、重力を操るという能力で見れば、単なる停止能力より使い勝手がいい。

 

やりようによっては、重力のベクトルを操作するだけで敵の体をバラバラにすることも出来る筈だ。

 

 

横では、小猫ちゃんがガンドマさんの攻撃を掻い潜りながら攻撃を加えていた。一方のガンドマさんは、神殿の柱を引っこ抜いて、軽々と振り回していた。速くはないが、当たれば相応のダメージは覚悟する必要があるだろう。

 

ロスヴァイセ『······クロセルの神器は、アザゼル総督からも伺っています。視線を媒介にする神器は弱点も分かりやすい!!』

 

ロスヴァイセさんが震える手で、手元に魔法陣を展開させた。閃光が周囲を照らす。

 

リーバン『甘いぜお姉さん!! 鏡よ!!』

 

リーバンさんが手元に鏡を出現させ、閃光を防ごうとする。

 

ロスヴァイセ『······そちらこそ甘いですよっ!!』

 

ロスヴァイセさんが手元の魔法陣をいっそう輝かせる。すると、鏡に反射した閃光がガンドマさんに当たる。

 

閃光が止んだ時、リーバンさんの重力操作を食らっていたのはガンドマさんだった。あの魔法は相互転移の魔法だったのだ。

 

裕斗「上手い!! 最初から反射されることを読んだ上での転移!!」

 

裕斗先輩がロスヴァイセさんに賛辞を送る。

 

ロスヴァイセ『小猫さん!! 攻撃はもう通っていますか!?』

 

小猫『······はい。もう魔法に対する防御力が展開出来ないほどには、あの人のオーラと内部の気を乱しました』

 

あれ······この感じはマズそうだ······

 

ロスヴァイセ『了解です!! フルバースト!! 2人とも食らいなさい!!』

 

ロスヴァイセさんが前方に多数の魔法陣を展開し、リーバンさんとガンドマさんに無数の属性魔法攻撃を繰り出す。

 

フィールドを壊そうと言わんばかりの攻撃は塵芥を周囲に巻き起こした。

 

マズい······2人はもう倒したと思って安心しきっている。審判がリタイアを告げていない限りは、安心してはいけないのだ。

 

手負いの獣ほど、恐ろしいものはない。昔、魔獣の森で今の2人と同じことをしてオルトロスに殺され掛けて、普段怒らないお兄様に思いっきり怒られたことがある。

 

本当なら、戦場にいたら安心や慢心、油断をしたらその時点で死を意味するのだが······まぁそれはレーティングゲームだからおいておこう。

 

イヤホンマイクを通じて2人に言う。

 

ギャスパー「2人とも相手はまだリタイアしてないから油断しないで!!」

 

小猫・ロスヴァイセ『『!!?』』

 

イッセー「ギャスパー?」

 

その時、巨大な腕で塵芥を振り払ってガンドマさんが2人に殴りかかっている。

 

ガンドマ『ぬぅぅぅぅぅんっ!!』

 

ロスヴァイセさんは何とか避けるが、小猫ちゃんは回避が一歩遅れてしまい、直撃こそ免れたものの、巨大な拳が巻き起こす風圧で思いっきり吹き飛ばされ、神殿の壁に叩き付けられた。

 

小猫『······うぐあッ』

 

だが、それが最後の一発だったのか、ガンドマさんがリタイアの光に包まれる。リーバンさんも同じくリタイアの光に包まれていた。

 

ロスヴァイセ『······小猫さん大丈夫ですか!?』

 

小猫『ゲホッ······ギャー君に言われてなかったら確実にリタイアしてました······』

 

何とか、リタイアを免れたらしい。流石『戦車』。

 

『サイラオーグ・バアル選手の『騎士』、『戦車』各一名。リタイアです』

 

審判が告げる。第2試合。危うく犠牲が出るところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナウド『第2試合を終えて、バアル眷属が3名、対してグレモリーは未だ健在。グレモリー優勢ですが、まだまだ分かりません!! 試合はまだ始まったばかりです!!』

 

実況がそう煽る。

 

 

小猫「······ありがとうギャー君。お陰で助かったよ」

 

アーシア先輩に治癒を施されながら小猫ちゃんが言う。

 

ギャスパー「だめだよ小猫ちゃん油断しちゃ。こう言うのもなんだけど、僕が言わなかったら、小猫ちゃんかロスヴァイセさんのどちらかはリタイアしてたよ?」

 

ロスヴァイセ「······それもそうですね。戦場では有るまじき油断です」

 

ロスヴァイセさんも反省しているらしい。この中での実力は頭一つ抜けているけど、何処かで慢心があったのだろう。

 

裕斗「それにしても、ギャスパー君よく分かったよね。バラムがまだ動けたこと」

 

裕斗先輩が言ってくる。

 

ギャスパー「分かったってよりは······レーティングゲームは、審判がリタイアを(・・・・・)告げてくれる(・・・・・・)ぐらいには(・・・・・)親切ですから(・・・・・・)

 

音もなく殺しにくる蜻蛉みたいな魔獣もいたし、完全に息の根を止めたと思ったら、そこから猛毒の唾液を飛ばしてくる複数の頭を持つ蛇もいた。

 

裕斗「そ、そうかい?」

 

ロスヴァイセ「親切······? ギャスパー君はどんな修羅場をくぐり抜けてくればそんなことが言えるのですか······?」

 

ロスヴァイセさんが口元をひつくかせながら聞いてくる。

 

あれは修羅場ってほど、修羅場ではないけど······自分の油断が招いた事態だし······

 

ギャスパー「······昔、魔獣の森でオルトロスに首を噛み千切られそうになったことがありまして」

 

僕がそう言うと、話を聞いていた小猫ちゃん、裕斗先輩、アーシア先輩、ロスヴァイセさんは顔を青くした。

 

ロスヴァイセ「く、首を······」

 

小猫「噛み千切られそうになった······」

 

裕斗「······す、凄い経験だね······」

 

3人は絞り出すかのような声を上げ、アーシア先輩に至っては絶句していた。

 

ギャスパー「アハハ······あの時はお兄様に助けていただいて難を逃れたんですけどね」

 

唯一お兄様に怒られたのがあの時だったっけ······

 

小猫「······お兄様······? それって白龍皇の?」

 

ギャスパー「そうだよ。あの時は一緒にいたからね」

 

あの時のお兄様は、僕を殺そうとしたオルトロスをパンチ一発で首2つとも消し飛ばしていた。そこから1時間も怒られていたのだが······

 

あの時ほど、お兄様を恐いと思ったことはないなぁ······それも、僕を想ってのことなのだから嬉しいことではあるが。

 

そこで、両『(キング)』がダイスを振った。合計は8。朱乃さん以外なら全員が出れる数字だ。

 

部長が戻って来て、作成タイムに移る時だった。

 

サイラオーグ『······こちらは『僧侶』のコリアナ・アンドレアルフスを出す』

 

そうサイラオーグさんが審判に告げた。モニターには、サイラオーグさやの『僧侶』である、ウェーブの掛かった長い金髪の女性······コリアナ・アンドレアルフスさんのが映し出されている。

 

ナウド『これは······出場宣言でしょうか!? サイラオーグ選手、その理由は?』

 

実況がサイラオーグに尋ねると、サイラオーグさんは何故かイッセー先輩に視線を向けた。

 

サイラオーグ「兵藤一誠は女性に対してのみ有効なスケベな技を持つと聞いている。では、そのスケベな技に対抗する術を彼女が持っているとしたら、兵藤一誠はどう応えるだろうか?」

 

サイラオーグさんが言う。それに観客席はざわめいていた。

 

あのコリアナさんという女性······あの最低な技への対抗策を編み出したんだ。イッセー先輩のあの技は、魔法で防御壁、無効化壁を張れるお母様には通用しないだろうけど、お姉様やカルナにイッセー先輩が使おうとしたら何としてでも止めなければならない。

 

これは期待出来そうだ······!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時期が僕にもありました。と、思ったのは僅か5分後である。

 

 

 

サイラオーグさん·······何故あれでゴーサインを出したんですか······

 

 

 

 

お父様かお母様がカルナとお姉様の目と耳を塞いでいて欲しいと、切に願うばかりだった。

 

 

 





※オーフェリアとカルナの目と耳は、きっちり八幡とクルルによって塞がれました。


尚、ギャスパーは小猫と、イッセーにただただ白い目を向けるだけでした。



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第69話 レーティングゲーム⑨



何度でも書きますが、本作のギャスパーは現在のギャスパーとは別人です。魔改造されてます。




 

 

 

史上最低クラスの試合が終わり、次のダイスシュートだ。

 

サイラオーグさんが5、部長が3で、合計はまたまた8だ。さっきイッセー先輩はさっき出たから出られない。

 

ゼノヴィア「·····8か。私が出よう」

 

ゼノヴィア先輩が一歩前に出る。

 

リアス「そうね。そろそろゼノヴィアが適任かしら」

 

部長がそれに応じる。

 

リアス「ゼノヴィアの援護には······ギャスパー。貴方の停止能力でゼノヴィアの援護をお願いするわ」

 

ここで僕に指名が出た。後試合に出ていないのは、僕とゼノヴィア先輩だけだ。

 

ギャスパー「分かりました」

 

ゼノヴィア「うん、頼りにしてるぞギャスパー」

 

 

もし、先にゼノヴィア先輩が倒されたら、実力を少しだけ出そう。

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

第4試合。ギャー君とゼノヴィア先輩が転送されたのは、ゴツゴツした岩だらけの荒野だった。

ゼノヴィア先輩がスピードよりの『騎士(ナイト)』だったら、戦いに影響が出たかもしれない。

 

そして、2人の前にはバアル側から選出された2人が現れる。ひょろ長い体格の『戦車(ルーク)』の男性と、不気味な杖を携えた小柄な『僧侶(ビショップ)』の男性。『僧侶』の男性の顔立ちは、俗に言う美形という部類に入るだろう。

 

ナウド『グレモリーチームからは、伝説の聖剣デュランダルを持つ『騎士』のゼノヴィア選手、最強で有名な比企谷八幡とクルル・ツェペシを両親にもつギャスパー選手です!!』

 

ふっ、と軽く息を吐き、落ち着いているギャー君と、デュランダルを手にやや緊張気味なゼノヴィア先輩。

 

ナウド『対するバアルチームからは、なんと!! 両者と共に断絶した御家の末裔というから驚きです!! 『戦車』のラードラ・ブネ選手と、『僧侶』のミスティータ・サブノック選手。それぞれ、断絶したブネ家とサブノック家の末裔だそうです!! アザゼル総督、バアルチームには、複数の断絶した御家の末裔が所属しておりますが······』

 

実況に訊かれたアザゼル先生が答えている。

 

アザゼル『能力さえあればどこの誰でも受け入れる。それがサイラオーグの答え。それに断絶した御家の末裔が呼応したということでしょうな。断絶した御家の末裔は、現悪魔政府から保護の対象でありながら、一部の上役から厄介払いを受けているのが実情。他の種族の血と交わってまで生き残った家を無かったことにしたいという純血悪魔も上に行くほどおりますからな』

 

先生が皮肉げにコメントしている。実況の人も先生に困り顔だった。

 

ディハウザー『ハハハ、全くその通りです』

 

皇帝(エンペラー)ベリアルは笑っているが。

 

ラードラ『······その通りだ。サイラオーグ様は人間と交じってまで生きながらえた一族を迎え入れてくれた』

 

ミスティータ『サイラオーグ様の夢は僕達の夢だ』

 

両者とも、固い信念をもっている。瞳は使命に燃えていた。

 

『第4試合、開始して下さい!!』

 

審判(アービター)が試合開始を告げた。全員が素早く構え、攻撃を開始する。

 

リアス「ギャスパーは蝙蝠に変化して!! ゼノヴィアはその後に攻撃!!」

 

部長がイヤホンマイクを通して指示を飛ばす。

 

ギャー君は体を無数の蝙蝠に変化させ、フィールド中に散らばる。ゼノヴィア先輩は開始早々デュランダルの聖なる波動を相手に放った。

 

バアル側の2人は攻撃を躱し、『僧侶』が杖から複数の炎の魔法を放つ。が、ギャー君が炎の魔法を、双眸を光らせ全て停止させた。そして、停止した炎の魔法をゼノヴィアがデュランダルで振り払った。

 

ミスティータ『······ラードラ!! サイラオーグ様からの指示が届いた!! 先に剣士だ!! 僕は準備に移る!!』

 

ラードラ『了解!!』

 

何やらサイラオーグ・バアルからの指示が届いたらしく、敵の『僧侶』は後退し、全身にオーラを迸らせた。禍々しいオーラが立ち込めている。

 

すると、『戦車』の男性が『僧侶』の男性の前に立ち、衣服を破り捨てる。何らかの準備をしている『僧侶』の壁になるのだろうか······?

 

その時、『戦車』のひょろ長い体が突如盛り上がり、異様な体付きになっていく。あれは······ドラゴン······!?

 

巨大な黒いドラゴンは、ゼノヴィア先輩の前に立ちはだかる。

 

リアス「······ブネは悪魔でありながらドラゴンを司る一族······けれど、変化出来るのは、血を引く者でも限られている······よりによって······!!」

 

あの能力はグラシャラボラス戦では使われていなかった。使えなかった······? 或いは温存していた······?

 

アザゼル『ドラゴン変化は情報には無かった!! サイラオーグ!! その眷属を鍛え上げて、覚醒させたのか!!』

 

実況席に座る先生も驚いている。

 

 

ゼノヴィア先輩はデュランダルの波動を放ち、直接攻撃も加えているが、高い防御力により中々決定打が作れない。

 

ゼノヴィア『ギャスパー!! あれを撃つ!! 時間を稼いでくれないか?』

 

ギャスパー『了解!!』

 

ギャー君は魔力弾を放ち、ドラゴンをゼノヴィア先輩から離そうとする。

 

イッセー「部長、ギャスパーはドラゴンの血を飲めばパワーアップするんですよね? あのドラゴンの血を飲んでも同じ効果を得られますか?」

 

イッセー先輩が部長に訊く。吸血鬼の血を引くギャー君は、他者の血を飲めば一時的にパワーアップすることが出来る。だが、部長は首を横に振った。

 

リアス「ブネの血がギャスパーにどう影響を与えるかは分からないわ。もしかしたらいい効果が齎されるかもしれないけれど、逆も有り得る。飲むのは得策ではないわ」

 

ギャー君の攻撃をうざそうにしている『戦車』は、口から大質量の火炎を放つが、ギャー君は散開することであっさりと躱している。

 

ゼノヴィア先輩がエクス・デュランダルを掲げて、パワーをチャージし始めた時だった。

 

ミスティータ『今だ!! 聖剣よ!! その力を閉じよッ!!』

 

その瞬間、相手の『僧侶』の杖が怪しく光り、ゼノヴィア先輩を捕らえた。ゼノヴィア先輩の体が不気味な光に包まれ、おかしな模様が浮かび上がる。ゼノヴィア先輩の手元が震え出し、遂にはデュランダルを下ろしてしまった。

 

ギャスパー『一定時間対象の異能の力を封じる力を持つ神器(セイクリッド・ギア)、『異能の棺(トリック・パニッシュ)』······』

 

ミスティータ『正解だ!! 最近になって漸く使えるようになった能力でね!!』

 

相手の『僧侶』がやつれた表情で言う。

 

 

最近······? だから記録映像では使われていなかった······?

 

アザゼル『『異能の棺』。自分の体力、精神力などを極限まで注ぎ込むことで、対象の異能の力を一定時間完全に封じる神器だな。バアルの『僧侶』は自分の力と引き換えに、ゼノヴィア選手の聖剣を使う力を完全に封じたようだ』

 

ゼノヴィア先輩の聖剣を使い能力を封じられた! その代償で、『僧侶』がやつれたということか。

 

ミスティータ『聖剣を封じた余波で、彼女自身にも聖剣のダメージを与えたかったが······聖剣使いとしての才能は予想以上に高かったらしい······』

 

そう言えば、ゼノヴィア先輩はコカビエル襲撃の際、自分は聖剣の因子を与えられて聖剣使いになったわけではなく天然ものの聖剣使いだと言っていた。それが功を奏した······?

 

デュランダルを使えなくなったゼノヴィア先輩に、『戦車』のドラゴンが容赦なく襲い掛かる。ゼノヴィア先輩は為す術もなく······その時、無数の蝙蝠がゼノヴィア先輩を包み込んだ! あれはギャー君!

 

2人が間一髪で避けた所に、ドラゴンの踏み付け攻撃がされた。

 

2人は何処かの岩陰に避難していた。

 

 

 

ゼノヴィア『······すまないギャスパー。私は約立たずになりそうだ』

 

ゼノヴィア先輩は申し訳なさそうにギャー君に言う。

 

ギャスパー『そんなことないですよ。それに、この神器は、前にこれよりもずっと強力なものを受けたことがありますので、解呪も出来ます』

 

ギャー君はそう言った後、手元に小さな魔法陣を展開する。それはゼノヴィア先輩の足元に移動し、直径が3mくらいまで大きくなる。

 

ギャー君は指を噛んで自分の指を切ると、魔法陣に血を垂らす。すると、魔法陣が光り出した。

 

ギャスパー『後は時間が経てば勝手に解呪してくれます。解呪が完了したら、一応デュランダルをチャージしておいて下さい』

 

ゼノヴィア『待てギャスパー。お前1人では·····』

 

ギャスパー『大丈夫です。ここからは僕の番です』

ギャー君はそう言って、岩陰から出て行った。

 

リアス「無謀よ!! ギャスパー!! 隠れて!!」

 

部長がギャー君に叫ぶ。

 

ギャスパー『ここで戦えるのは僕だけです。それに、僕はこんな所で負けていられない』

 

リアス「ギャスパー······? いいから逃げなさい!! 早くッ!!」

 

部長の悲痛な叫びも虚しく、ギャー君の眼前にはドラゴンと『僧侶』が迫っていた。

 

ラードラ『見つけたぞ。あの剣士は何処かに隠したのか。この周辺にいるのだろう? 火炎を巻き散らせば出てこざるを得まい』

 

巨躯に迫られているが、ギャー君は平然としている。

 

ギャスパー『ここで貴方方に暴れさせるわけにはいきませんね。まぁさせる気もありませんが』

 

ラードラ『······ほう。ならばやって見せるものだ』

 

ギャー君は単身で立ち向かう気······!!? いやでも、死を司る神ハーデスにも一目置かれているギャー君なら······でも······

 

 

ギャー君は魔法と思しき魔法陣で浮かび上がると、ゼノヴィア先輩がいる岩陰とは反対方向に飛んでいく。ドラゴンと『僧侶』はギャー君を追う。確実に倒せる相手から倒していくつもり·····!?

 

 

ギャー君はある程度まで飛んだ所で、ドラゴンと対峙する。手を前に出して、魔力を撃つ格好になった。

 

ドラゴンは口から巨大な火球を吐き出した。ギャー君は防御魔法陣でそれを防ぐ。

 

ラードラ『······今のを防ぐのか。やるな』

 

ギャスパー『まだだ!!』

 

ギャー君は複数の魔法陣を展開して、多数の魔力弾を放つ。が、ドラゴンの防御力には叶わず、目立ったダメージは与えられない。

 

ドラゴンが先程よりもかなり大きな火球を放つ。ギャー君はそれを再び魔法陣で防ぐ。が、ドラゴンは更に大きな火球を放ち、ギャー君の魔法陣を突き破った!!

 

ギャスパー『ぐあっ······!!』

 

火球に吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドして漸く止まる。

 

ゼノヴィア『ギャスパー!! 無理はよせ!!』

 

ミスティータ『聖剣使いの声? やっぱりこの近くに?』

 

ギャスパー『まだ······!!』

 

ギャー君の服は火球でかなり焼け焦げている。火傷も負っている。それでも、よろよろと立ち上がった。

 

ラードラ『ならこれで······!!』

 

ドラゴンの踏み付けが容赦なく襲い掛かる。ふらふらしているギャー君は回避に入れていない。

 

小猫「ギャー君·····!!」

 

私ら思わず声を上げる。

 

そして、ドラゴンの踏み付けが無常にもギャー君を襲った······

 

ズゥンッ!!!

 

リアス「そんな······!!」

 

ギャー君は踏み付けを諸に食らってしまった······

 

 

────ところが······

 

ラードラ『なっ······!? ヴァンパイアがいない!?』

 

ドラゴンが足を退けるとギャー君はそこにはいなかった······!!?

 

裕斗「ギャスパー君が消えた······!?」

 

裕斗先輩も声を上げる。

 

ミスティータ『何処だ······!?』

 

ドラゴンと『僧侶』は周りを見渡してギャー君を探している。斯く言う私達も探している。

 

 

ギャスパー『······ここですよ』

 

踏み付けを食らった筈のギャー君の声が聞こえた。

 

ロスヴァイセ「あ、彼処に!!」

 

ロスヴァイセさんがドラゴンの上空を指差す。

 

イッセー「なっ······!? いつの間に!?」

 

······ギャー君は、上空からドラゴンと『僧侶』を見下ろしていた。

 

 

いつ移動したの······!?

 

ミスティータ『まさか······一瞬で彼処まで移動したと言うのか!!?』

 

ギャスパー『······そういうことになります』

 

ギャー君はこともなさげに答える。

 

小猫「傷がない······!?」

 

ギャー君は、ドラゴンの火球によって、火傷を負っていた筈。なのに、火傷どころか擦り傷一つないし、燃えた制服も元通りになっていた。

 

どうなっているの······!?

 

ギャスパー『······小猫ちゃんとロスヴァイセさんが油断してやられそうになっていたので、折角ならと思って、僕も貴方方の油断を誘いました』

 

ギャー君はそう言って上空を指差す。

 

ミスティータ『何だこれは······!?』

 

ラードラ『マズイッ!!』

 

ギャー君が指差した上空······そこには、数え切れない程の輝く矢と思しき物が、バチバチと帯電して浮いていた。

 

ラードラ『······させんッ!!』

 

ドラゴンが上空にいるギャー君に火球を放つ。が、火球は空中で停止した。

 

ラードラ『停止の邪眼かッ······!!』

 

あれはギャー君の『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の停止能力!!

 

ギャスパー『食らえ······『天雷星群(サンダラ・インペルディオ)』!!』

 

双眸を光らせたギャー君が手を振り下ろす。すると、一斉に帯電する矢のような物がドラゴンと『僧侶』に降り注いだ。

 

 

 

 

『サイラオーグ・バアル選手の『戦車』1名、『騎士』1名、リタイアです』

 

 

 

第4試合、本領を発揮したギャー君によって、グレモリーチームが勝利を収めた。

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

黒歌「······ギャスパー······容赦ないにゃ。鬼畜にゃ。またそこがいいんだけど」

 

フィールドでは、ギャスパーがサイラオーグの『戦車』と『騎士』に『天雷星群(サンダラ・インペルディオ)』を放っていた。

 

カルナ「ギャスパー兄かっこいい······」

 

黒歌は遠慮なく(手加減はしているが)技を食らわせるギャスパーを見て恍惚とした表情を浮かべ、カルナはギャスパー兄かっこいいと呟いていた。

 

オーフェリア【あれがギャスパーの実力?】

 

筆談のため、メモに話したいことを書いたオーフェリアがメモを見せてくる。

 

八幡「······いや、全然手加減してるな。本来なら、あの技を使った段階で、フィールドが消し飛んでもおかしくないからな」

 

ギャスパーはかなり威力を抑えていた。最大医力の一割も出ていない。

 

まぁ、態々あんなことしなくてもギャスパーは相手2人を倒すくらい準備運動よりも簡単に出来るんだが······

 

『サイラオーグ・バアル選手の『戦車』1名、『騎士』1名、リタイアです』

 

審判(アービター)がリタイアを告げる。

 

ヴァーリ「······何故ギャスパーは全力でいかないんだ······?」

 

ヴァーリはギャスパーが力を出さない理由が分からず頭を傾げていた。

 

ギャスパーが力を出さなかった理由は十中八九······

 

ディオドラ「おそらくリアスのことを考えてのことでしょう。最初から全力で行けば、リアスは勝つために『堕天魔』の息子を雇ったと認識されますからね。それを避けたんでしょう。結局、使うことになりましたけど」

 

そのヴァーリにディオドラが説明していた。

 

 

ギャスパーの力は強大だ。それも魔王を凌ぐほどの。まぁリアス・グレモリーは陰で我が儘姫って言われているから、そこから、今ディオドラが言ったような考えを持つ奴も多いだろう。俺はギャスパーがリアス・グレモリーの眷属になった時のことを知らないから何とも言えないのだが。

 

俺はそんなこと放っておけと思うが、ギャスパーは身内には優しいからよしとしないのだろう。リアス・グレモリーを身内と認識しているかは分からんが······

 

 

 

そこで、サイラオーグはカメラ目線で訴えた。

 

サイラオーグ『やっと本来の力の触りを見せたかギャスパー······ああ······俺は、委員会に、そしてギャスパーに申したい。俺はギャスパーと······ギャスパー・ルシフェルとの一騎打ちを所望する······!!』

 

 

 

八幡sideout

 






オリジナル技説明

・『天雷星群(サンダラ・インペルディオ)
使用者:ギャスパー・ルシフェル、他数名

上空に、魔力などで形成した矢に超高電圧の電気を付加した物を100~10000本ほど出現させ、一気に降らせる技。

今回のギャスパーはかなり手加減していたが、本来の威力は、一発が姫島朱乃(原作23巻時点)の雷光を軽く上回る威力である。

尚、次にいつ使われるかは未定。

似たような技に、『業焔星群(フレイム・インペルディオ)』という無数の火球を降らせる技がある。使われるかは同じく未定。



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第70話 レーティングゲーム⑩

 

 

ギャスパーside

 

 

 

サイラオーグ『······やっと本来の力の触りを見せたかギャスパー······ああ、俺は、委員会に、そしてギャスパーに申したい。俺はギャスパーと······ギャスパー・ルシフェルとの一騎打ちを所望する······!!』

 

サイラオーグさんがカメラに向かって言う。

 

リアス「なっ······!? サイラオーグは何を言っているの!?」

 

ここにいる僕以外の全員がサイラオーグさんの発言に驚いている。僕から見れば、望んでいたことだ。折角向こうから1対1を申し込んできたのだ。断る理由がない。

 

ナウド『おおっと!? サイラオーグ選手からの驚きの提案が出てしまいましたーっ!!』

 

観客席がどよめき、実況が叫ぶ。

 

ディハウザー『······確かに、今見せたギャスパー選手の実力から見るにグレモリーチームでサイラオーグ選手と渡り合えるのはおそらくギャスパー選手のみでしょう。そうなれば今後の展開は結局読めてしまいますので、つまらないという点はありますね』

 

ディハウザーさんはにこやかに言っている。

 

アザゼル『ディハウザー殿の言う事が本当なのであれば、ワンサイドゲームになりかけることは防げる。さて、委員会はサイラオーグの要求を飲み込むか切り捨てるか』

 

先生も顎に手を当てながら、意見を口にしている。

 

リアス「アザゼルまで!!······ギャスパー、これは無理に受ける必要はないのよ?」

部長は無理に受ける必要はないと言うが、僕からしたらありがたい限りだ。僕が言ったところで一笑に付されるだけだが、サイラオーグさんが言うなら話は変わってくる。

 

サイラオーグ『······さてギャスパー。お前はどうする?』

 

サイラオーグさんが訊いてくる。当然答えは一つだ。

 

ギャスパー『······もちろん、ありがたくお受けさせていただきます』

 

受ける以外他にない!!

 

リアス「ギャスパー!!?」

 

小猫「ギャー君······!?」

 

ナウド『え、はい······今、委員会からの報告を受けました!!······なんと、認めるそうです!! 次の試合、サイラオーグ選手とギャスパー選手の一騎打ちとなります!!』

 

これは······もしかしたら、お父様が裏から何かしたのかもしれない。ありがたい。

 

サイラオーグ『······だ、そうだ。ギャスパー、3年越しになってしまったが、今度こそ(・・・・)勝たせてもらう』

 

闘志で目をギラつかせたサイラオーグさんが言う。僕も負けてはいられない。

 

ギャスパー『······いいえ。今回も(・・・)僕が勝たせてもらいます』

 

僕達の宣言に会場が湧いていた。

 

 

 

僕は、心臓に巻き付けていた『ブリューナク』を外して体外に出し、服の中でバレないようにブレスレットに変形させる。そして、懐から出したように見せかけて、血の色をしたブレスレットを左腕に付けた。

 

そして、仙術でオーラを調整しつつ魔法陣で転移して行った。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

何ということだろうか······

 

 

······ギャー君とサイラオーグ・バアルの一騎打ちが決定してしまった。

 

いくらギャー君が強くても、勝ち目がない。

 

サイラオーグ・バアルには並の遠距離攻撃など一切効かず、尋常ではない速度で懐に潜り込まれる。

 

僧侶(ビショップ)』であるギャー君とは相性は最悪に近い。ギャー君がサイラオーグ・バアルの防御力と速力を上回る攻撃が出来るなら話は変わってくるが、それは相当な威力がないと出来ないことだ。

 

 

フィールドにギャー君とサイラオーグ・バアルが転送された。フィールドは、裕斗先輩が初戦で戦ったような、広大な草原だ。

 

アーシア「······どうして······?」

 

イッセー「アーシア······ギャスパー、何で1人で······?」

 

アーシア先輩はこれから起こることを想像して既に目を向けられないでいた。それは私達もほぼ同じで、辛うじて目を向けられているところだ。

 

だが、幾つも気に掛かることはある。数時間前に会った、ハーデスのギャー君に対するあの言葉······ギャー君の言動からも2人には、面識があり両者の実力を垣間見ていることを伺える。

 

それに、先程の『今度こそ』というサイラオーグ・バアルの言葉と、『今回も』というギャー君のあの発言······こちらも、面識があるのだろうか?

 

 

一方で、フィールドに転送された2人は話をしていた。

 

ギャスパー『······『兵士(ポーン)』は使わないんですか? サイラオーグさんの勝ち目が減りますよ?』

 

······? サイラオーグ・バアルの『兵士』は何か訳ありなのだろうか? 今までひた隠しにしてきたから、何かしらの事情はあるのだろうが······

 

サイラオーグ『構わん。あれは冥界の危機に関しての時のみに使うと決めたものだ。それに、お前とは神器(セイクリッド・ギア)など関係ない己の純粋な拳だけで勝ちたいからな』

 

ギャスパー『······分かりました。なら、僕もサイラオーグさんと同じで行きます。神器も魔法も使いません』

 

 

ギャー君は、自分もサイラオーグ・バアルと同じ土俵で戦うと言った。つまり、『僧侶』のギャー君がサイラオーグ・バアルと殴り合いをするということだ。

 

これは、剣道の初心者が未経験のレスリングで、レスリングのオリンピック金メダリストに挑むようなものだ。勝てるわけがない。

 

 

裕斗「ギャスパー君!!?」

 

裕斗先輩が堪らず声を上げる。

 

サイラオーグ『······嘗めている······わけがないか。それは俺自身が分かっていることだ』

 

ギャスパー『······そうですか。サイラオーグさん、このブレスレットの意味が分かりますよね?』

 

ギャー君が左腕に付けたブレスレットを翳しながらサイラオーグ・バアルに言う。すると、サイラオーグ・バアルは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

あれは、ギャー君が転送直前に懐から出していたものだ。ブレザーの内ポケットに入っていたものだとばかり思っていたが、違うのだろうか······?

 

 

サイラオーグ『当然だ!! それはお前の身体能力を限界まで引き下げるものだ。それを外に出している(・・・・・・・)ということは、お前の本気が見れるということだ······ならば俺も自身に課した枷を解き放つしかあるまい』

 

サイラオーグ・バアルの四肢に奇妙な紋様が浮かび上がる。かと思うと、紋様から淡い光が漏れ、その紋様は弾け飛んだ。

 

次の瞬間、ドンッ!! とサイラオーグ・バアルを中心に周囲が吹き飛ぶ。暴風が巻き起こり、足元は抉れてクレーターとなった。湖の水が揺れ動き、大きく波立っている。

 

そして、サイラオーグ・バアルが身に纏っていたのは────白く光輝く闘気だった。彼は仙術を会得しているのだろうか。

 

 

アザゼル『······なんて奴だ。可視化するほどの質量の闘気を纏っていやがる······』

 

先生が言うと、実況が皇帝(エンペラー)に質問をぶつけた。

 

ナウド『となりますと、サイラオーグ選手は気を扱う戦闘術を会得しているのでしょうか?』

 

ディハウザー『はい。彼も師の下で己を磨いたと言っていました。ですが、あれは仙術ではなく、体術を鍛え抜いた先に目覚めた闘気のようです。パワーを純粋なまでに求め続けた彼の肉体は、魔力とは違う、生命の根本とも言うべき力を身に付けたのです。彼の活力も生命力が可視化したと言っていいでしょう』

 

凄い······仙術を扱える私でも、ここまでの質量の闘気を身に纏うこと出来ない。

 

 

ギャスパー『······流石ですね。僕も最初から本気でやらないと、瞬殺されそうだ』

 

ギャー君がそう言うと、ギャー君の体からもサイラオーグ・バアルと同じように、白く光り出した。それもサイラオーグ・バアルの闘気に劣らないほどの質量。

 

ギャー君の周りも抉れて、クレーターのようになって行く。

 

ギャスパー『いつ見ても凄いですね。サイラオーグさんの闘気とは違って、僕のは仙術によるものですから。純粋な生命力をそこまで可視化出来る人はサイラオーグさんを除いていませんよ』

 

ギャー君も仙術を会得している······!? それも私より遥か上の······

 

 

イッセー「2人ともすげぇ······まるで、パワーの権化だな」

 

イッセー先輩が2人を見て言う。2人の闘気によって、勝負がまだ始まっていないのにも関わらず、周りの地面は今も尚抉られ続けている。

 

サイラオーグ『······行くぞッ!!』

 

サイラオーグ・バアルが飛び出す。それを見て、ギャー君は同じように飛び出した。

 

ギャスパー『はぁぁぁッ!!』

 

サイラオーグ『うおぉぉぉッッ!!』

 

ギャー君が左拳を、サイラオーグ・バアルが右拳を握り、引き絞るようにして突き出す。

 

────両者の拳は真正面から衝突した。その瞬間、ドウッ!! という爆音と共に、2人の周囲の地面は完全に吹き飛び、地面には一つの巨大なクレーターが出来る。

 

その衝撃は、ギャー君とサイラオーグ・バアルをも吹き飛ばすが、2人は吹き飛ばされても目に見えないほどの速度で、また接近した。

 

 

 

 

 

それからは、ただひたすら殴り合いが続いた。

 

ナウド『殴り合いです!! 壮絶な殴り合いがフィールド中央で行われております!! 華麗な戦術でも、練りに練られた魔力合戦でもない、超超至近距離による殴り合い!! 殴って殴られて、ただそれだけのことが、頑丈なバトルフィールド全体を吹き飛ばさんばかりの大迫力で行われています!!』

 

2人の壮絶な殴り合いは、観客を総立ちにし観客全員を興奮させている。最早、ギャー君をただの『僧侶』だと見る者は誰もいない。

 

ギャスパー『はあぁぁぁぁぁあッ!!!』

 

サイラオーグ『うおぉぉぉぉぉぉおッ!!!』

 

ギャー君の拳がサイラオーグ・バアルの顔をめり込ませる。サイラオーグ・バアルの拳がギャー君の腹に突き刺さる。

 

フィールドは、2人の殴り合いにより既に崩壊寸前であり、まともな地面など殆ど残っていない。

 

それでも2人は殴り合いを止めない。

 

サイラオーグ『俺は負けん!! 今度こそお前に勝つ!! 俺には叶えたい夢があるのだッ!!』

 

ギャスパー『僕にだって負けられない理由くらいあります······だから、今回も僕が勝つ!!』

 

2人にあるのは恐ろしいまでの勝利への執念。

 

まるで、勝たなければ全てが終わると言わんばかりの執念だ。

 

 

 

······私は、そこまでの執念を抱いたことはあるだろうか。いや、ないだろう。ギャー君に言われるまで、姉様がはぐれ悪魔になった理由を知ろうともせず、優しい周囲の人に甘えきっていた。

 

私には行動を起こすだけの覚悟が無かった。いや······姉様が悪いと全て擦り付け、自分はただただ現実から逃げていただけだ。

 

 

負けられない理由は?·······ない。そんなこと考えたことも無かった。

 

 

叶えたい夢は?······それもない。現在の安穏だけを見て、過去も未来も見ていなかった。

 

 

 

私は、殴り合い続けている2人から目を離せなかった。

 

 

私と同じように、2人を見る者全員が釘付けになっている。

 

 

 

そして─────

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー『はぁ······はぁ······はぁ······』

 

サイラオーグ『······まだ、遠い、な······また、俺の負け、か······』

 

膝を付き、大量の血を流しながら肩で息をしているギャー君。

 

そのすぐ隣りで倒れ伏すサイラオーグ・バアル。

 

ギャスパー『僕の······僕の勝ちだぁぁぁぁぁあッ!!!』

その声に固唾を飲んで見守っていた者全てが湧いた。

 

 

 

 

『サイラオーグ・バアル選手、投了。ゲーム終了です。リアス・グレモリーチームの勝利となります』

 

 

 

 

小猫sideout

 

 

 






超が付くぐらいにはパワーバカもいけるギャスパーでした。メインはまた違いますが。


サイラオーグの強さですが

制限時(本作)=制限解除時(現在)

制限解除時(本作)≧禁手化(バランス・ブレイク)状態(原作)

禁手化状態(本作)=覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)状態(原作)


くらいには作者は考えてます。



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第71話 力を求めた

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

試合が終了し、魔法陣でグレモリー側の陣地に戻って来る。

 

『ブリューナク』は、転送されている間に鎖に戻してまた心臓に巻き付けておいた。

こうしておかないと、さっきまでの試合の反動で、力が暴発する可能性はあるのだ。消耗が酷くて、制御がかなり雑になっている。いったい、何のために仙術を身に付けたのか······自分の力を制御出来ないなんて、嫌になりそうだ。

 

ギャスパー「······ただいま戻りましたー」

 

転移用魔法陣は、陣地より一段上にあるので、階段を降りる必要があるのだが、降りてみると、僕を見る目が不思議だった。ポカンとしている人と、ギョッと驚いている人に分かれていた。

 

···········?

 

ギャスパー「皆さんどうかしましたか?」

 

声を掛けると、やっと戻って来た(何処からかは不明)らしく、慌てて声を掛けられた。

 

イッセー「すげぇよギャスパー!! 肉弾戦でサイラオーグさんに勝つなんてさ!!」

 

ゼノヴィア「ああ!! 最初ひ弱だとしか思っていなかったが、ここまでだとは思いもしなかったぞ!!」

ギャスパー「あ······はい、ありがとうございます」

 

びっくりした······でも、嫌われなくて良かった。

 

でもひ弱って思われてたんだ······

 

ロスヴァイセ「傷がない······!?」

 

ロスヴァイセさんとアーシア先輩は、僕を見て驚いていた。

 

ギャスパー「傷······? あれなら治しましたよ?」

 

転送されている間には傷なら全て治した。なかった(・・・・)状態に戻した(・・・・・・)と言った方が適切だけど······

 

アーシア「で、でも、明らかにそんな簡単に治る量じゃありませんでしたよ······!?」

 

何て言おうか······流石に、家族以外に言うと嫌われるのが目に見えているから······

 

ギャスパー「え~っと······魔法ですよ。ただ、自分以外に使うと精々捻挫くらいしか治せないんですよ」

 

イッセー「でも、それならシトリー戦の時にリタイアしたのは何でだ? 最後まで生き残れたろ?」

 

ギャスパー「それは······ニンニクだけはどうしても苦手で。克服しようとしてはいるんですけど、どうしても苦手で」

 

イッセー「ああ······前も言ってたけど、まだ苦手なんだな」

 

ギャスパー「はい······」

 

シトリー戦で引っ掛かってから、克服しようとしてはいるんだけどやはり苦手だ。匂いがするだけで鳥肌が······

 

裕斗「ギャスパー君はハーフヴァンパイアだからね。仕方ないと言えば仕方ないね」

 

ギャスパー「そう言ってくれるとありがたいです······」

 

小猫「······ギャー君」

 

ギャスパー「? 小猫ちゃんどうかした?」

 

小猫「あの仙術······」

 

小猫ちゃんは猫魈の末裔だから、仙術が使えるんだっけ? 教えてもらおうかな。

 

ギャスパー「お父様とお母様と黒歌さんと美猴さんに教えてもらったんだ」

 

小猫「そうなんだ······姉様が······」

 

やっぱり、6年も誤解を抱えていたら簡単にはいかないのかな······

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

黒歌side

 

 

 

はぁぁ〜、ギャスパーカッコよかったにゃ~。

 

あの最後の叫びとかもう······////

 

『僕の······僕の勝ちだぁぁぁぁぁあッ!!』

 

超カッコよかったにゃ。

 

ギャスパーはもう一人前の男にゃ······今日はギャスパーを·······////

 

クルル「······はぁ。黒歌、カルナと一緒にギャスパーを迎えに行って(なんてだらしない顔してるのかしら······ギャスパーは罪作りね)」

 

クルルが溜息を付きながら言ってくる。

 

クルル······なんて魅惑のお願い!!

 

黒歌「いいの!?」

 

カルナと一緒じゃなければもっといいけど······ま、この際気にしないにゃ。

 

カルナ「えぇ〜·······黒歌と一緒? おばあちゃんとかじゃダメなの?」

 

黒歌「このガキ······」

 

図に乗ってるにゃ。年上を敬うって知らないの?

 

クルル「誰でも同じよ。それより、貴女場所分からないでしょ······」

 

カルナ「あ。そうだった。ギャスパー兄今どこ?」

 

クルル「······はぁ」

 

八幡「はぁ······黒歌、カルナ連れてってやれ(ここで黒歌一人行かせると、後で五月蝿いからな。そこもカルナの可愛いところなんだが)」

 

さっきからクルルは溜息付きすぎだと思う。八幡も何で溜息付いてるにゃ?

 

カルナ「む~······」

 

黒歌「仕方ないにゃ······了解にゃ」

 

 

仕方なしに、私はカルナを連れてギャスパーを迎えに行った。

 

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

黒歌がカルナを連れてギャスパーを迎えに行ったのを見送った俺は、『須弥山』専用の観戦室にいた。

 

八幡「よぉ。久しぶりだな」

 

「HAHAHA!! 久しぶりじゃねえか『堕天魔』の小僧!! 今日は何か用か?」

 

俺の目の前に座るのは、五分刈りの頭に丸レンズのサングラス、アロハシャツを着て首に数珠というおかしな格好をした奴がいる。

 

『帝釈天』。それが俺の目の前に座る奴の名である。こいつは、アジア神話の主神であり、インド神話におけるインドラでもある。

 

八幡「······曹操が、『禍の団(カオス・ブリゲード)』で活動し始めていたことを知っていたな?」

 

 

曹操を俺に預けたのは闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)なのだが······『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』を所有していた曹操を、この目の前の巫山戯た格好した奴が把握していないわけがない。

 

 

帝釈天「だとしたら、どうすンよ? 俺さまがあいつをガキの頃から知っていたのは、予想付いてンだろ? お前はアホじゃねえしな。態々知ってることを訊きにくるなンて、律儀だなぁお前」

 

想定内の反応だな。まぁ俺はそもそも『禍の団』のことではあるが、『英雄派』のことを聞きに来たわけじゃない。

 

八幡「俺は思ってもいないお世辞聞きに来たわけじゃない。どうせ、『英雄派』がハーデスと繋がっていたことまで知っていたんだろう?」

 

帝釈天「HAHAHA!! そこまで見通してて何しにきたよ? 俺さまと喧嘩でもしに来たか?」

 

八幡「そんな下らんことはしない。今までは全て確認だ。曹操の身柄がこちらにある以上、曹操が誤情報を話してないかを確認しただけだからな」

 

帝釈天「そうかい。なら何だ? お前まさか雑談でもしに来たのか?」

 

······曹操のことを話しても、動じるわけがないか。大方、あんだけ大口叩いておいてあっさりやられやがって、とでも思っているのだろう。

 

八幡「······リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを知っているか」

 

俺がここに来た理由······それは『クリフォト』の情報を少しでもこいつから引き出すためだ。

 

曹操とハーデスが繋がっていることまで知っているなら、『クリフォト』の活動まで何か掴んでいる可能性は十二分にある。

 

 

帝釈天「リゼヴィムって言やあれか? お前ン所の『リリン』とか言うのだろ?」

 

八幡「ああそうだ······知っているなら答えろ。あのゴミは今何処にいる」

 

帝釈天「ハッ!! そンなン一々把握してるわけねえだろ。俺さまはお前の情報屋でも便利屋でもねえぞ? ンなこと一々聞きに来んなや」

 

······これ以上問い詰めても無駄か。まぁ仕方ない。駄目元で来たからな。他の神話勢の奴らが繋がっている可能性もあるのだが、取り敢えず、一番信用ならん所に来たからな。答えてくれるとも思っていない。

 

帝釈天「ま、表向きに何か入ったら教えてやンよ。『禍の団』は確かに邪魔だからな」

 

その『禍の団』というのが何を指しているのか······

 

帝釈天はそれだけ言い残して去って行った。帝釈天の護衛も退室して、俺一人が部屋に残った。

 

アザゼル「······あん? 八幡、何でここにいるんだ?」

 

帝釈天と入れ違いに、アザゼルが入ってくる。

 

八幡「何だアザゼル。お前こそ何しに来たんだよ」

 

アザゼル「俺は帝釈天に聞きたいことがあったんだが······お前もそうか?」

 

八幡「ああ。逆に言えば、それ以外で用なんかないしな」

 

今日来ていたのは帝釈天とその護衛だけだからな。須弥山の他の柱神とは顔見知り程度でしかないし。

 

アザゼル「それもそうか。それより八幡。ギャスパーとサイラオーグは何なんだよ。あいつら2人は明らかに若手なんて言っていいレベルじゃねえ」

 

それもそうか······だいたいの観客は気にしていないだろうが、下級と若手の上級があんな試合を繰り広げたら疑心になるのは当たり前だ。

 

 

八幡「まぁ両方とも、3年前まで(・・・・・)俺が鍛えてたからな。あれくらいやってくれなきゃ困る。それに、今回の試合は両方共奥の手を使ってないしな」

 

サイラオーグは『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』を出さなかったし、ギャスパーもバロールの『闇』の力を使っていない。怪我のリセットくらいには使ったろうが······

 

アザゼル「だとしてもあれは異常だ。並の最上級を超えてんだぞ」

 

八幡「だろうな。サイラオーグは接近戦に限ればグレイフィアより上だし、ギャスパーはそれより更に上だ。まぁセラフォルーかファルビウムくらいならギリギリ勝てるだろうな。超越者の2人はまだ荷が重いが······」

 

ギャスパーはバロールの『闇』の力と、ブリューナクをフルに使えば、魔王以上の実力は出せるからな。うちだったら、今の実力は、ヴァーリとどっこいどっこいってとこか?

 

アザゼル「どうなってんだよお前の家族は······」

 

八幡「さあな」

 

ヴァーリも、ギャスパーも、サイラオーグも、これからの成長が楽しみだ。世代交代が来たら、3人は魔王候補筆頭くらいにはなっているだろう。

 

 

だから、それまでに俺も出来ることをしないとな。

 

 

 

八幡sideout

 

 






正直やりすぎた感が凄いな。この2、3話。

まぁ何とかなるか。



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第72話 すれ違い

 

 

 

小猫side

 

 

 

私は、今日のグレモリーの仕事を休んで、駒王学園から少し離れた所にある住宅地の一角を訪れていた。

 

小猫「······どうしよう」

 

私は門の前で往生していた。

 

目の前の家は、住宅地にしてはかなり大きく、綺麗な家だ。最近建てられたようにすら見える。

 

ギャスパー「······あ、小猫ちゃん来たんだね。どうぞ入って」

 

門の前で立ち止まっていると、玄関のドアを開けてギャー君が出て来た。

 

小猫「あ······うん。お邪魔します······」

 

靴を脱いで、家にお邪魔することにした。

 

この家は比企谷先輩やツェペシ先輩、ギャー君が住んでいる家である。

 

 

今日、私は姉様の話を聞きに来たのだ。

 

 

 

 

八幡「······よ、塔城」

 

クルル「あら来たのね。いらっしゃい」

 

ギャー君に連れられて、リビングに入ると、比企谷先輩とツェペシ先輩。そして──

 

ヴァーリ「ん? 君は確か黒歌の」

 

──白龍皇のヴァーリ・ルシファーがいた。3人とも何か飲んでいる。匂いからしてコーヒーだ。比企谷先輩のカップだけ、甘い匂いがする。

 

小猫「······はい」

 

ヴァーリ「そうか。悪いね。黒歌はまだ寝てるんだ」

 

小猫「あ、いえ。大丈夫です。お邪魔しているのはこちらですから」

 

時刻は午前10時30分。姉様はまだ寝ているらしい。猫らしいと言えば猫らしいのだが······

 

八幡「まぁいきなり会っても話が出来ないだろ。あ、お茶でいいか?」

 

小猫「あ······ありがとうございます」

 

比企谷先輩が淹れてくれたお茶を飲む。美味しい。少し肩の力が抜けた気がする。

 

ギャスパー「ごめんね小猫ちゃん。今黒歌さん起こしてくるから」

 

ギャー君はリビングを出て行った。

 

 

八幡「······はぁ。悪いな。あの猫はいつもこのくらいまで寝てるからな······」

 

小猫「いえ、そう言うわけでは······あの、姉様とギャー君って······」

 

ギャー君は姉様を······その、大好きと······言っていた。それは、家族愛? それとも······

 

八幡「ん?······ああ、ギャスパーが言ったのか」

 

クルル「ギャスパーは黒歌が大好き。黒歌もギャスパーが大好き。相思相愛というやつね」

 

小猫「······そうですか」

 

相思相愛······つまり恋愛という意味の好き······

 

私は······姉様を理解しようとすらしていなかった······一人だけ置いていかれたような気分だ。

 

黒歌「······白音」

 

小猫「黒歌姉様······」

 

姉様がリビングに入ってくる。ギャー君が呼んできたのだろう。

 

 

ギャスパー「······僕達はいた方がいいですか?」

 

ギャー君が訊いてくる。

 

黒歌「2人で······話したいにゃ」

 

小猫「······うん。出来れば2人で」

 

私と姉様がそう言うと、リビングにいた4人は何も言わずに出て行った。

 

 

 

 

黒歌「······白音、久しぶりね」

 

小猫「······久しぶりです。姉様」

 

目を見て話せない。一方的に逃げてきた私が、姉様に許してもらえる筈がない。

小猫「あの、姉様······」

 

何とか話を切り出そうとした時だった。

 

黒歌「良かった······!! 白音···本当に良かった······!!」

 

······私は姉様に抱き締められた。

 

小猫「姉、様······!?」

 

黒歌「白音ごめんね······!! 置いてってごめんね······!! 辛い時に一人にしてごめんね······!! 怖い思いさせてごめんね······!!」

 

姉様は泣きながら何度もごめんねと謝っていた。

 

違う。姉様は悪くない······あの時のことは思い出したくなかった。姉様が、私の手を引いて何人もの男から逃げていた時。

 

あの時の恐怖で、私は姉様が悪いと自分で思い込んでいた。

 

 

小猫「姉様······!! 私こそごめんなさい!! 私、姉様が私のためにやったなんて思いもしなくて······!! 自分がこんな目にあってるのは全部姉様が悪いんだって······!! 自分が辛いのは全部姉様が悪いんだって······!! 私、自分のことばっかりで姉様のこと分かろうともしなくて······!!」

 

私の目からは自然と涙が出ていた。

 

黒歌「違うの······!! 白音は悪くない!! お姉ちゃんがあんなのに騙されたのがいけないの!!」

 

白音「姉様は悪くありません······!! 知ろうともしなかった私が悪いんです······!!」

 

 

私と姉様はそれからも抱き合って謝り続けた。

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

ヴァーリ「······? 物音がしないな」

 

リビングから出て一時間程経ったが、未だに出て来ないので4人で様子を見に行くと、黒歌と塔城は抱き合って寝ていた。目元が腫れているから、泣き疲れたのだろう。

 

ヴァーリ「······起こした方がいいのか?」

 

ギャスパー「ここはそっとしておきましょうよ」

 

確かに、起こすのもどうかと思うから寝かしておきたい。2人とも安らかな寝顔してるしな。

 

クルル「でもここに寝てたら間違いなく風邪ひくわね。ギャスパーの部屋で寝かせておく?」

 

ギャスパー「客間じゃダメなんですか? 態々僕の部屋じゃなくても、部屋なら他にも使ってない部屋が」

 

クルルの呟きに、ギャスパーは抵抗を見せる。塔城もいるから、気持ちは分からんでもないが。

 

八幡「黒歌はお前以外の部屋で寝かせてもすぐに起きそうだな」

 

黒歌は、いつもギャスパーを抱き枕にして寝てるからな。鼻が利く黒歌は客間に寝かせようとしても起きそうだな。折角だし寝かせておいてやりたい。

 

八幡「というわけでギャスパーが2人を運んどけ。イッセーの所には、連絡しとくから」

 

ギャスパー「え? あ、はい。分かりました」

 

釈然としない様子だが、ギャスパーは自室に2人を運んでいった。ギャスパーも混ざってそのまま川の字で寝てりゃいいと思う。

 

 

 

 

 

八幡「······そう言うわけで、塔城の飯は大丈夫だ。こっちで食べさせていくから。帰る時は、(ギャスパーが)送っていく」

 

イッセー『······分かった。部長達にはそう伝えとくよ。小猫ちゃんによろしくな』

 

八幡「ああ。じゃあな」

 

要件を伝え終えて、通話を終える。

 

塔城が熟睡しているため、そっちで昼食を用意する必要はないとイッセーに伝える。

 

ヴァーリ「兵藤一誠は何と?」

 

八幡「お前が気になるようなことねぇよ。小猫ちゃんによろしくだとさ」

 

そこで、ギャスパーが戻ってくる。戻ってきたギャスパーにクルルが2人の様子を訊く。

 

クルル「どうだった?」

 

ギャスパー「······2人とも暫く起きそうにないですね」

 

八幡「別に戻ってくる必要はないぞ?」

 

若干遠回しに、一緒に寝てこいと言ってみる。

 

ギャスパー「で、でも、女の子2人が寝てる部屋にいるのは自分の部屋でも流石に······黒歌さんだけなら兎も角、小猫ちゃんがいますし······」

 

が、気が引けたらしい。まぁそりゃそうか。

 

そして、黒歌はOKだと言っている辺りから黒歌は問題なしと判断しているようだ。昨日、襲われた奴の言動とは思えない······

 

ヴァーリ「別に嫌われてるわけではないのだから、いいと思うが·····」

 

ヴァーリが首を傾げながら言う。

 

 

······お前がそれを言うの? お前はラヴィニアの好意にいい加減気付け······あそこまであからさまに態度に出てるやつもそうそういないぞ······

 

クルル「······はぁ」

 

クルルはヴァーリの鈍感さに溜息を付いている。俺も付いているが。

 

ギャスパー「······お兄様はそれを僕に言うんじゃなくてラヴィニアさんにしてあげて下さい······」

 

ヴァーリ「ラヴィニアに? 何故だ······?」

 

マジかよ······ガチで気付いていないだと······? てっきりタチの悪い冗談でも言い続けているのかと思っていたが······どうりで『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』の3人が呆れていたわけだ。

 

ギャスパー「ええ······」

 

ギャスパーが少し引いている。

 

 

ヴァーリはどうしたら気付くのだろうか······ダメだ。どうやったら気付かせられるのか想像が付かない······

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

小猫「······ふゎぁ」

 

あれ······? ここは何処? 私は確か、ギャー君の家に来て姉様と2人で話してて······抱き締められて謝られて······それから······どうしたんだっけ。

 

小猫「姉様······起きて下さい姉様······」

 

姉様の体を揺さぶって起こす。何度も揺さぶって、姉様はやっと目を覚ました。かなり本能に従順ならしい。

 

黒歌「······ふにゃ······あれ白音? 何してるの?」

 

小猫「それはこっちのセリフです。ここ何処か分かりますか?」

 

私が訊くと、姉様は周りを見渡した。

 

黒歌「ここは私とギャスパーの部屋にゃ。多分······ギャスパーが運んでくれたのね。ふゎぁ~······って、もう夕方!!?」

 

小猫「えっ······」

 

マズいです······寝すぎた!?

 

 

······そう言えば······姉様とギャー君の部屋だ、と言っていましたが、この部屋にはベッドが一つしかありません······まさか一緒に寝ているのでしょうか。

 

小猫「······姉様はギャー君と一緒に寝ているのですか? この部屋ベッド一つしかないんですけど······」

 

体にのしかかっていたような重りが、取れた気がする。すんなり訊くことが出来た。

 

黒歌「そうよ~······お姉ちゃんはギャスパーを抱き枕にしないと寝れないにゃ。ギャスパーの抱き心地が最高で最高で」

 

未だに寝ぼけ眼を擦っている姉様が言う。

 

小猫「姉様まさか······」

 

ここで私は浮かんだ疑問を姉様にぶつけた。姉様は大人だし、ギャー君だって男の子だし······その······間違い的なことも起きないとは······

 

黒歌「白音が思ってるようなことは起きて(・・・)ない(・・)わよ。やろうとしたら、クルルが『魔の鎖(グレイプニル)』に仕込んだ術式でぐるぐる巻きにされちゃったし。昨日もギャスパーがレーティングゲームでカッコよかったからやろうとしたらミノムシにされて天井から吊るされてたからね······はぁ」

 

最後でシュンとなる姉様。

 

訊いた私がバカだった······

 

 

黒歌「······ありゃ? 白音何処行くにゃ?」

 

姉様は立ち上がった私に訊いてくる。

 

小猫「帰ります······姉様と話が出来たのは嬉しいですけど、ここの家の人に迷惑掛けるわけにはいきませんし。しかも寝てたベッドはギャー君のですし」

 

黒歌「今日くらい泊まっていけばいいのに」

 

小猫「そう言うわけには······」

 

部長のレーティングゲームの時も、コカビエルの時も、ずっとこの家の人達にはお世話になっているし、これ以上は迷惑になってしまいます。

 

黒歌「まぁ無理強いはしないけど。せめて夕飯くらい食べていくにゃ。八幡とかクルルがもう作り始めてるだろうし」

 

小猫「そこまで言うなら······と言うか、姉様は作らないんですか?」

 

そう言えば、私が来た時は寝てたし、姉様はいったいこの家で何をしているんだろうか。

 

黒歌「一応簡単なものなら作れるけど······八幡とかクルルとかが作った方が美味しいしね」

 

小猫「······だらしないですね」

 

鼻で笑いながら言う。

 

「あ、小猫ちゃん夕食食べていく?······え?」

 

ギャー君がノックしてからドアを開けながら言う。それと同時に姉様が叫んだ。

 

黒歌「にゃにをー!? ギャスパーと結婚したらちゃんとやるにゃ!!······え?」

 

小猫「結婚······ですか?」

 

ギャスパー「え、く、黒歌······さん······? と、突然、ど、どうしたんでしょう······///」

 

黒歌「な、何でもないにゃ!! 忘れ······て欲しくはやっぱりない!! でも何でもないにゃ!! ///」

 

この後、ギャー君と姉様が顔を真っ赤にして暫くフリーズしたため、戻って来ないギャー君を呼びに来たヴァーリ・ルシファーがギャー君を呼びに来るまで、この部屋にいる3人は真っ赤になっていた。

 

······何で私まで真っ赤になったのだろうか。

 

 

 

結局、私は夕食だけ美味しく頂いて、ギャー君に送られて兵藤家に戻った。

 

 

·······そう言えば、ヴァーリ・ルシファーの隣に座っていた黒髪の少女は結局誰だったんだろうか。私と同等かそれ以上に食い意地が張っていたが······

 

後でギャー君に訊いてみるとしよう。

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

 

 

とある研究施設。そこには、銀髪の40代くらいの男性と、黒髪と金髪の混ざった若い女性がいた。

 

そして、その2人の目の前には液体で満たされたカプセルがあり、その中には黒髪の少女が眠っていた。

 

「···················ぅ······あ」

 

2人の男女が見ている前で、黒髪の少女が目を覚ます。

 

「おぉぅ? 起きたー?」

 

銀髪の男性は嬉しそうに笑う。

 

「······こいつは?」

 

黒髪と金髪が混ざった女性は少女が誰か分からず、男性に少女が誰かを訊いた。

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ。この娘はねー♪ 『堕天魔』なんだ♪」

 

銀髪の男性は、目の前のカプセルの中で目覚めた少女を指差して愉快そうに笑う。

 

「それはあの女の娘の······」

 

「ま、『堕天魔』ってのは基本的には八幡君のことを指すんだけどねー。でもさぁ······もう一人だけいるんだよねー♪」

 

男性は目の前の少女から目を逸らさず、言う。

 

「それがこの少女?」

 

黒髪と金髪の混ざった女性──四鎌童子(しかまどうじ)は男性に尋ねた。

 

「そーだよ♪······さあ比企谷(ひきがや)小町(こまち)ちゃん♪ 悪者退治といこっか♪」

 

そして、銀髪の男性──リゼヴィム・リヴァン・ルシファーは、目の前のカプセルの中で自分に無機質な目を向ける少女──比企谷小町を見て不気味に笑った。

 

 

 

sideout

 

 

 



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第73話 元凶は酒


9/25 スコルとハティがギャスパーの眷属となっていましたが、正しくは使い魔です。申し訳ございません。





 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ヴァーリ「······では頼んだぞフェンリル」

 

俺が言うとフェンリルは首を縦に振り、目の前にいるスコルとハティに向き直る。

 

 

今日は使い魔の修行になっている。フェンリルは俺の使い魔としてチームのメンバーに加え、調査の時はいつも同行している。

 

スコルとハティはギャスパーの使い魔だ。フェンリルに比べたら、当然劣るが、それでも神殺しの力は強大だ。それをただ置いておくてはない。

 

又、父さんはいないが、父さんの使い魔である猫又のカマクラとウンディーネのディネは黒歌から指導を受けている。

 

唯一、母さんの使い魔であるアルカーヌは母さんの肩に止まって、その光景を見ているだけだが······アルカーヌの種族の分類を知らない俺には、翼をバタバタ広げて飛ぶ様子は若干不気味だ。何という種族なのかは父さんどころか母さんまでも知らないようだが······

 

ギャスパー「スコル、ハティ、頑張ってね」

 

ギャスパーが言うと、2匹の狼は振り向かずに頷く。

 

そして2匹はフェンリルに襲い掛かった。

 

 

 

······それにしても、ライザー・フェニックスのアフターケアは済んでいるというのに、何故今頃になって父さんはフェニックス家に行ったのだろうか。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······はぁ。あのですねフェニックス卿。その話はお断りした筈ですが。それとも、またライザーの時のようなことをするつもりですか?」

 

ある日。俺はフェニックス家の本家に来ていた。

 

 

俺の目の前に座るフェニックス家現当主、イオズ・フェニックス。そして隣りには長女レイヴェル・フェニックス。

 

イオズ「······その節は世話になった。その後もライザーが世話になったね」

 

八幡「ならそこで終わりに出来ませんかね。俺は純血じゃない······どころか、ルシフェルという元天使長の血を引いている。お袋は、半年前まで悪魔という種族の最大の敵と言ってもいい女でした。この辺で諦めた方がレイヴェルの為でもあるでしょう」

 

ルシフェル《······八幡その言い方はなくない!?》

 

俺が何故ここにいるか······それは約半年前まで遡る。

 

 

半年前。ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの非公式のレーティングゲームを、巻き込まれる形で俺達が終わらした数日後。

 

ライザーのアフターケアをしていた俺に、一つの話が舞い込んできた。

 

それは······何故かはさっぱり分からなかったんだが、俺とレイヴェル・フェニックスの見合い話だった。巻き込まれた直後なので、これには本気でカチンときた。多分、グレモリー卿が『また(・・)』何かやらかしたんだと思い、問い詰めた所あっさり吐いた。その後、グレモリー卿は夫人によって折檻を受けた(地獄を見せられた)

使用人はその後数日間、何処にもグレモリー卿を見なかったらしい。

 

その後、ライザーのアフターケアのついでで、その話が反省しないグレモリー卿の暴走だと伝えて、俺にはその意がないことを長々と説明した。

 

てっきり、俺はそれで終わったと思っていたが、和平会談の少し前に、ライザーからフェニックス卿がまだ諦めていない、という話を聞いた。

 

その後、レイヴェルと結婚する意がないことを毎度毎度説明しているのだが、何故か諦めないフェニックス卿によって、何度も呼ばれており、今日も来ているのだ······

 

ライザーにも、フェニックス卿に諦めるように言ってもらったのだが、フェニックス卿に諦める気がなくてライザーが早々に匙を投げたため、自分で何度も断りに来ている。

 

 

 

ルシフェル《······レイヴェルちゃんが貴方に惚れてるだけじゃないの?》

 

だとしたらフェニックス卿が諦め悪すぎだろ······72柱の現当主は皆こんななのか? 分からん。最近は、グレモリー家、シトリー家、フェニックス家の次に会う純血悪魔が若手を除けば、ゼクラム・バアルの俺にはさっぱり分からん······

 

子供の恋路を成功させてやりたいというのは分かるが、それにしてもな。

 

 

イオズ「······君の母親がルシフェルだということは承知の上だ。君が公表してからも呼んでいるからね」

 

だったら、フェニックス卿がいい加減諦めさせろや······と出かかったのを飲み込んで言う。

 

八幡「それは分かりました······ただし、俺にこの話を受けるつもりはありません。ライザーからも聞いている筈ですよね?

そもそも、俺はレイヴェルの意見すら聞いていません。貴方が出張るのはそろそろご遠慮願いたいですね」

 

レイヴェルを横目で見た後に、視線をフェニックス卿に戻して言う。

 

イオズ「······レイヴェル」

 

フェニックス卿がレイヴェルを見ながら促す。

 

レイヴェル「わ、私は······構いません」

 

心做しか表情が暗い······大方、フェニックス卿が俺に迷惑を掛けていると思っているのだろう。そうなると、俺が云々は、レイヴェルの勘違いだと思われる。

 

それに、ライザーの婚約が破談したばかりだったから、兄のフォローをしようとしたのだろう。それは恋心と言うよりは家のためだ。恋愛結婚が出来るなら、その方がいい。

 

八幡「······だったらやめた方がいいでしょう」

 

イオズ「な、何故だ!?」

 

フェニックス卿が驚きながら言ってくる。

 

八幡「まぁ理由は、まず第一に、俺とクルルが望んでいないこと。レイヴェルがまだ若いこと。レイヴェルが本心で言っているわけではないこと。

······そしてもう一つ。俺は『禍の団(カオス・ブリゲード)』との戦いで最前線に立っています。フェニックス卿、貴方は娘を戦争の最前線に立っている男と結婚させたいと思いますか? 俺なら思いませんね。何よりレイヴェルが危険すぎる。うちの子なら兎も角、レイヴェルには危険が迫った時に払い除ける、最悪でも逃げるだけの力がある訳でも無い。俺は逃げる力すらない奴の命まで守れる保証は出来ませんよ?

分かったら、家督とか抜きでレイヴェルともう一度しっかり話し合って下さい。今日は失礼します」

 

そこまで言い切って、俺はフェニックス邸を後にした。

 

 

うちは、ディオドラの眷属も含めて最悪でも逃げるだけの力はもっている。だが、それはうちではの話であり、レイヴェルはそんな力は到底もっていない。まぁそれは傍から見れば、俺達の力が大きすぎるという話であり、実際に巻き込まれた場合はそれが普通なのだが、子供が巻き込まれずに済むならばその方がいい。クルルとも話し合って決めたことだ。

 

 

ルシフェル《······悪魔は一夫多妻制でしょ? 悪い話じゃなかったんじゃないの?》

 

いや、考えなしに受けると、テロに巻き込まれるからな。俺には近付かない方がいいだろ。

 

それに年齢差考えろ。600歳は離れてんだぞ。

 

ルシフェル《人外の600年なんて人間換算なら4、5年もないけどねぇ······》

 

俺達は人間とは根本的に違うだろうが······

 

それにしてもお袋やけに勧めるな。何でだ?

 

ルシフェル《う~ん······貴方を見る目が、クルルが貴方を見る目と似てたから?》

 

それは色々なもんに板挟みにされた中での思い違いだ。なまじ優しいからそうなるんだろ。そもそも、俺はクルル以外と結婚する気は全くない。

 

ルシフェル《結局それ以外建前でしょ。そういうとこ時宗(ときむね)にそっくりね······時宗はかなりモテてたけど結局私以外とは付き合いもしなかったから》

 

ならそれは俺が親父に似たってだけの話だ。俺は別にモテてないし、クルル以外にモテたいとは微塵も思わないが。

 

もういいだろ。この話は終わりだ。いくらなんでも、これでフェニックス卿も諦めるだろうしな。

 

ルシフェル《だといいけどね······》

 

······なんだ、その含みのある言い方は。怖いんだが。もう(グレモリー卿とフェニックス卿が)何も(起こさ)ないと信じたい。

 

 

 

 

 

転移して人間界にある家に帰る。

 

 

今日は、使い魔達に修行をつけている筈だ。そう思っていると、

 

八幡「······? どうかしたかアルカーヌ」

 

クルルの使い魔である、蝙蝠のようだが、絶対に蝙蝠ではないアルカーヌが飛んできた。目の前で止まったので、手を出して指に止まらせる。

 

クルル「八幡、おかえりなさい。どうだった?」

 

アルカーヌを指に止まらせた直後、クルルが歩いてくる。

 

八幡「断ったに決まってるだろ。俺はクルル以外と結婚する気はない」

 

最初から一切変わっていないことを言う。

 

クルル「ありがとう八幡······」

 

クルルが抱き着いてきたので優しく受け止める。と同時に、指に止まっていたアルカーヌはクルルの肩に止まって羽を閉じた。

 

 

 

そして、どちらからともなく唇を奪った。

 

 

 

 

 

 

 

この時は、まだ知りもしなかった。

 

 

 

 

 

─────何故リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが今になって行動を起こしたのかを。

 

 

 




使い魔説明

・フェンリル
ヴァーリの使い魔。現在はヴァーリチーム所属。八幡が『支配(ルーラー)』の力でロキの支配から解き放った。
段階的組織構造(ヒエラルキー)においては、八幡とヴァーリを主人。クロウとティアを見習わなければならない圧倒的強者。それ以外の八幡の眷属(黒歌、美猴除く)とアーサーは行動を共にするに値する者。クルルとルフェイは自分好みの食事を作ってくれる盟友。ギャスパーは自身の子供を面倒見ているため尊敬すべき友人。黒歌は、自分より下部にいる何時でもギャスパーに対して盛っている雌猫。美猴は最下層で仲間と思いたくない。


・スコル、ハティ
共にギャスパーの使い魔。現在修行中。フェンリルより神殺しの力を受け継いでいるため、自分達は八幡達の中でも上位だろうと驕っていたら、自分達は下の上だったことを知る(フェンリルが中の上の異常集団なため)。最初に見ていたヒエラルキーはもう崩れ去った。


・カマクラ
猫又。八幡の使い魔その1。元は、喋れないことと人化出来る時間が極端に少ないことを理由に家族から追い出された所を時宗に保護された。比企谷家が八幡を残して亡くなると、時宗の遺言を守り八幡の使い魔になった。ただ、どちらかと言えばクルルに懐いている(けして八幡に懐いていないという意味ではない)。探知以外の仙術を黒歌から習っている。今の目標は人化の制限時間を伸ばすこと。


・ディネ
八幡の使い魔その2。ウンディーネ。HSDDのウンディーネはバリバリの肉体派だが、体が弱く、殆ど体が成長していないため普通の女の子とパッと見変わらない。あのまま使い魔の森にいても短命であったことは間違いなく、自分を使い魔にしてくれた八幡は、自分の救世主と考えているほど。簡単な術なら出来るので、黒歌に習っている。


・アルカーヌ
クルルの使い魔。主であるクルルでさえアルカーヌの種族を知らない。実は、こちらの世界に迷い込んできた異世界の蝙蝠である。



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第74話 封印(生存)の代償

クルルside

 

 

クルル「······これでッ!!」

 

手元に展開した魔法陣を操作する。魔法陣は私の手元から離れて、目の前で弾ける。

 

八幡「······やっと終わった······後はこの人が目覚めてくれればいいんだが······」

 

私と八幡は、『サングィネム』の屋敷にある秘匿空間にいた。

 

目の前には私の母親である『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)

666(トライヘキサ)がベッドの上で眠り続けている。

 

たった今、『聖書の神』に掛けられていた封印の術式を全て解除したところだ。8割くらいは2、3日で簡単に解除出来た。が、残りの2割が想像以上に複雑で、残りの2割だけで2週間近く掛かってしまった。

 

クルル「······700年も眠り続けているなんて前列がないから······」

 

八幡「ああ······後は目覚めてくれればいいんだがな。体には何処にも異常がなかったから封印を解除すれば目覚めると思ったんだが······」

 

母にも母が眠っていた柩にも『四鎌童子(しかまどうじ)』が何かした痕跡がなかったから、大丈夫だと思ってたんだけど······そう上手い話なわけがないわね······

 

クルル「オーフィス、まだ何かあったら教えてくれない?」

 

一緒に来ていたオーフィスに訊いてみる。

 

オーフィス「······もう、ない。我から見ても、外部からの干渉を与える物は、全て八幡とクルルが解除した。目覚めないのは、魂の疲弊のせい」

 

魂の疲弊······? 魂にもあるのだろうか?

 

八幡「魂にも疲弊があるのか?」

 

オーフィス「ある。生物の魂は、常に一定以上のエネルギーがないと存在出来ない。これは、我も同じ。666は魂が我よりも強い。故に、魂が疲弊していても存在を維持出来る。でも、エネルギーが戻るにはまだ時間が掛かる。それまでは目覚めない」

 

オーフィスに時間が掛かると言わしめるほど······下手したら、私や八幡が生きている間には目覚めることはないかもしれない。

 

クルル「私達からエネルギーを供給することは?」

 

オーフィス「それは可能。クルルと八幡のエネルギーを使えば、かなりの時間短縮は出来る」

 

ならやらない手はないわね······それでも、相当時間が掛かることは確かだろうけど······

 

八幡「ならやるか。オーラを同調させれば暴発することはないだろ」

 

クルル「そうね」

 

私と八幡は、母さんに手を翳す。そして、仙術で自分達のオーラを母さんのオーラに同調させ、母さんにエネルギーを送り込む。

 

 

 

 

 

 

クルル「······かなり供給したと思うけど、まだ目覚めないわね······」

 

私と八幡がエネルギーを供給し始めて既に一時間が経った。

 

八幡「封印された時に、戦闘で相当エネルギー使ったんだろうな······お袋も666さんと神が戦闘してたっつってたからな」

 

既に汗まみれの私達だが、仙術で常にオーラを同調させ続ける必要があるので、精神的な疲労が並ではない。

 

オーフィス「それ以上供給すると、八幡とクルルの魂に影響が出る。それ以上は、回復するのを待つべき」

 

尚も続けようとするも、オーフィスから制止がかかる。

 

毎回これぐらい供給してれば、近いうちに目覚めてくれるだろうか。いや、『禍の団(カオス・ブリゲード)』が活動しているうちは下手にエネルギーへ供給 めたらすると、いざという時に行動に支障が出るかしら······

 

八幡「······今日はここまでにするにするか。オーフィスの言う通り、俺達は供給するのにエネルギーを使いすぎたからな。休むか」

 

クルル「ええ」

 

八幡が出した手を握って、そのまま抱き着く。

 

今日はそのまま人間界の家に帰って、シャワーを浴びた後、寝てしまった。危うく、夕飯の準備が間に合わなくなるところだった······

 

兎にも角にも、母さんの封印が解けて母さんと話せるあと一歩のところまで来た。

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

授業を受け、オカ研の部活もそこそこに帰宅すると、お客さんがいた。

 

ギャスパー「······あ、ラヴィニアさん。こんにちは」

 

ラヴィニア・レーニさん。『灰色の魔術師(グラウ・ツァオペラー)』所属の最上級魔法使い。神滅具(ロンギヌス)の『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』を所有しており、現在は『神の子を見張る者(グリゴリ)』の『(スラッシュ)(・ドッグ)』チームに出向している。

又、お兄様が契約している魔法使いでもある。

 

ラヴィニア「こんにちはなのですギャー君。お邪魔しているのです」

 

ギャスパー「いえ、お構いなく」

 

ラヴィニアさんはお兄様の淹れた紅茶を飲んでいる。ラヴィニアさん未だに告白してないからなぁ······

 

ヴァーリ「帰ってたのかギャスパー。父さんと母さんなら、汗だくで帰って来たかと思えば、シャワー浴びてすぐ寝てしまったから暫く起きないだろう。封印が完全解除出来たらしいからな。何があったかは聞いてないが、相当疲れたんだろうな」

 

お父様とお母様を疲弊させるって、相当なことがあったんだ······封印にカウンタートラップでも仕込まれてたのだろうか。『聖書の神』って生前は何を考えていたのだろう。

 

ギャスパー「分かりました······黒歌さんはどうしてます?」

 

ヴァーリ「黒歌なら兵藤一誠の家に行った。妹に修行をつけて欲しいと頼まれたと言っていた」

 

一昨日の一件以来、小猫ちゃんは黒歌さんとのわだかまりが消えて、普通の姉妹のような関係に戻った。前に、小猫ちゃんは自分がグレモリー眷属で役立たずだ、ってこぼしてたから、高練度の仙術の使い手である黒歌さんに頼み込んだのだろう。

 

ギャスパー「そうですか。なら、僕もイッセー先輩の家に行ってきますね。折角なら、僕も一緒に修行したいですし」

 

2人の時間を邪魔するのも悪いし、僕は早々に退散しよう。

 

ヴァーリ「そうか」

 

お兄様は紅茶に口を付けながら言う。

 

ラヴィニア「え? 今帰って来たばかりなのにですか······?」

 

ラヴィニアさんが若干慌てた感じで言う。

 

······この2人早く結ばれないかなぁ。お兄様いい加減気付きましょう? 下手したら逃げられちゃいますよ。ラヴィニアさんに限ってならないと思いますけど。

 

ギャスパー「はい。そうですよ?」

 

その後、パパッと学校の道具を片付けて、イッセー先輩の家に行った。

 

 

正直なことを言うと、お兄様とラヴィニアさんは付き合ってもいないのに、恋人同士である僕や黒歌さんに砂糖を吐かせるほどなので、一緒にいたくないというのは秘密である。

 

 

 

ラヴィニアさんが帰ってから、それもなくお兄様に聞いたところ、ラヴィニアさんはまたしても告白出来なかったらしい。

 

定期的に連絡を取っている僕とメフィストさんは、進展しなさすぎて溜息を付いた。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

 

 

「······誰だ」

 

「『クリフォト』の─────と申します。単刀直入ですが、提案があって参りました」

 

「『クリフォト』······確か『禍の団(カオス・ブリゲード)』の一派だったな。それで何の用だ?」

 

「我々は打倒『堕天魔』を目標としています。貴方にもそれに加わっていただきたいのです。神である貴方が加わるとなれば、我々も心強い」

 

「『堕天魔』······!! いいだろう。他勢力、それも聖書の者は気に食わないが、我も貴様らに加わるとしよう。

 

─────覚悟しろ『堕天魔』。貴様を殺して今度こそ黄昏を······!!!」

 

 

 

sideout

 

 

 



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第75話 魔法使いと契約と悪魔のビジネス

少し遅れました。もうすぐ夏休みが終わりますので、更新が一気に遅くなります。よくて週2、遅ければ月1になります。申し訳ございません。




それと、完全に描写し忘れていた666(トライヘキサ)がいる秘匿空間ですが、簡単に例えれば、

八幡達の魔力などを水とし、肉体をペットボトル、1度に放出出来る魔力をペットボトルをひっくり返した時一秒間に蓋から流れていく水とします。

例えとしては、秘匿空間にはペットボトルの穴を小さくする(放出量を抑える)術が掛けられています。


作者の頭ではこの例えが限界です。察して下さい。




 

ギャスパーside

 

 

『······そうそう、ギャスパー君もある程度は聞いてるかもしれないけど、ルーマニアで何やら政争が起こってるんだって? 最近になって更に苛烈さが増してるとか』

 

赤色と青色の髪が入り混じった頭髪を固め、切れ長のオッドアイ(右が赤、左が青)で、椅子に座っている男性の立体映像が僕の前に浮かんでいる。

 

ギャスパー「はい。少しは聞いてます。ツェペシュとカーミラのですよね。

禍の団(カオス・ブリゲード)』が一枚······どころか思いっきり噛んでるってお父様は見てます。僕もそうだと思いますね。閉鎖的な吸血鬼の国は隠れ蓑にするにも、うってつけですから」

 

好きでもない生まれ故郷に思いを巡らせながら答える。

 

『確かにねぇ。向こうは純粋な吸血鬼とその他って認識だから、入り込むのは容易だろう。彼処は陸の孤島と言うだけあって、テロリストの情報なんて禄に行ってないだろうからねぇ』

 

はぁ、と溜息を付くオッドアイの男性に、そうですね、と返す。

 

 

メフィスト・フェレスさん。『灰色の魔術師(グラウ・ツァオペラー)』の創始者にして現理事。悪魔に転生する前は一時契約していた。その時はお父様とのパイプという意味だったのだろうが、僕としても勉強になった。

契約は終了しているが、今も偶に連絡を取り合っている。大抵は、ラヴィニアさんとお兄様の話に終息していくが。

 

尚、お兄様と契約しているラヴィニアさんも、『灰色の魔術師』に所属している。

 

メフィスト『······見たよギャスパー君。レーティングゲームの映像。凄いじゃないか。あの身長差でもものともしないなんてね。個人的には魔法を使ってくれたら良かったけど』

 

流石に観られていた······あれは気分が高まってしまった結果だからなぁ。ゲームとして見れば、僕とサイラオーグさんの暴挙ってとられても可笑しくない。

そこは試合後の会見でディハウザーさんがフォローしてくれたから特に何事もなく済んだけど······

 

ギャスパー「アハハ······気分が高まってました······次は魔法使いますので」

 

メフィスト『そうしてくれると助かるよ。是非とも宣伝してね。そう言えば、最近ゲームした若手に話をつけろと下に突っつかれてね。ギャスパー君のところにも、そろそろ話がいくと思うよ』

 

もう若手悪魔が魔法使いと契約を交わす時期なんだ。今の若手は豊作って言われてるから、時期が早まったのかな。

 

ギャスパー「そうなんですか。そんな時期なんですね」

 

メフィスト『ギャスパー君は既に契約しているから関係ないかもしれないけどねぇ。一方的な反撃をしたかと思えば、あのサイラオーグ・バアルと殴り合った君も例に漏れず、と言うところだよ。リアスちゃん達と一緒に、書類を送るかい?』

 

どうしようかな······別に契約していい魔法使いは1人だけなんてルールはないし······

 

ギャスパー「お願いします」

 

メフィスト『了解したよ』

 

 

そうして、メフィストさんとの連絡を終えた。

 

 

 

 

その翌々日。

 

 

オカ研は部室に勢揃いして、部長の話を聞いていた。

 

リアス「······皆、今日集まってもらったのは他でもない······今日から『魔法使い』との契約期間に入っていくの」

 

僕は今、ルフェイ・ペンドラゴンと契約している。

 

ルフェイは、ペンドラゴン家の家宝である聖王剣を持ち出したアーサーさんの後を追って、家を飛び出して、『禍の団』及び潜入していたお兄様のチームに入った。うちで唯一、アーサーさんとルフェイは『禍の団』からスカウトしたことになる。

 

ルフェイが『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』という魔術師組織に所属していた時から、ペンドラゴン家の子女が有望視されているとは聞いていたが、お兄様のチームに入っていると聞いた時は驚いた。

 

 

リアス「魔法使いが悪魔と契約する理由は大きく分けて3つ。一つは用心棒として。いざという時に後ろ盾になる強力な悪魔がいれば、何かに巻き込まれた時に相手先に折り合いがつけられるからよ」

 

部長が理由を説明すると、イッセー先輩がヤクザみたいですね、と言った。

 

リアス「2つ目に、悪魔の知識や技術を得るため。魔法使いの研究には大きな効力を発揮するの」

 

普通は魔法使いは冥界に来ることが出来ないため、悪魔との契約を交わした方が余程楽だし、コストも掛からない。

 

リアス「最後に、己のステータスにもなるため。強力な悪魔であるほど、契約することが大きな財産になるわ。また、何かあった時の相談役でもあるわ。私のお父様やお母様だって魔法使いと契約しているわ。

上級悪魔やその眷属ならばそれが義務であるの」

 

ゼノヴィア「まさか、私が魔法使いに呼び出される側になるとはね。人生は分からないものだ」

 

ゼノヴィア先輩は何やら哲学まで到達しそうだ。部長は苦笑して続ける。

 

リアス「元々異能に携わる人間なら、呼び寄せる側だものね。だからこそ、皆には契約を大切にしてもらいたいの。一度交わした契約は簡単に反故出来るものではないわ。悪魔は等価交換が原則。最高の取り引き相手を選びなさい。魔法使いには研究の延長線上でしかないかもしれないけど、私達にとっては立派なビジネスよ」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

部長の言葉に全員が頷く。イッセー先輩が何やら妄想していたようだが、見なかったことにしておこう。

 

リアス「そろそろ時間ね。皆、魔法使いの協会のトップの方が魔法陣で連絡をくださるの。きちんとしていてね」

 

部長が部屋の時計を確認しながら言う。全員がソファに座り直したところで床に魔法陣が展開される。

 

祐斗「メフィスト・フェレスの紋様······」

 

祐斗先輩が呟く。

 

あ、本人がご登場なさるんですね。誰か違う人が来るとばかり思っていた。

 

魔法陣がメフィストさんを映し出す。メフィストさんは椅子に優雅に座っており、アジュカさんみたいな雰囲気を出している。演出なのだろうか。

 

メフィスト『やぁリアスちゃん。久しいねぇ』

 

かと思ったら、部長に破顔した。やはり5、6年の付き合い程度ではこの人のことは掴めそうにない。

 

リアス「お久しぶりです、メフィスト様」

 

部長が返したことで、僕以外は緊張していたが、それが解けていた。

 

メフィスト『いやー、お母様に似て美しくなるねぇ。君のお祖母様もひいお祖母様もそれはそれはお美しい方だったよ』

 

リアス「ありがとうございます。皆、こちらの方がメフィスト・フェレス様。番外の悪魔(エキストラ・デーモン)にして、『灰色の魔術師』という魔法使いの協会の理事でもあらせられるの」

 

メフィスト『紹介にあずかりました、メフィスト・フェレスです。詳しくは僕を取り扱った関連書物でご覧下さい』

 

 

メフィストさんは初代ゲオルク・ファウストが亡くなってからも人間界に残り、そのまま協会のトップになった。因みに、前に実年齢を尋ねたらはぐらかされたので、訊かないようにしている。前魔王と同年代だから、ルシフェル様とかとも同年代だとは思うけど。

 

 

リアス「メフィスト様は悪魔の中でも最古参のお一人で、人間界で活動しているの。それと、夏休みにイッセーがお世話になったタンニーン様の『(キング)』でもあらせられるわ」

 

イッセー「マジですか!?」

 

イッセー先輩が驚いている。知らなかったのだろう。

 

メフィスト『タンニーン君には、『女王(クイーン)』の駒をあげたんだ。滅びそうなドラゴンを出来る限り救済したいと言ってきたんだよね。いや、ドラゴンの(かがみ)だよ。僕は基本的には冥界のことに首を突っ込まないから、自由にさせてるけどねぇ』

 

前も思ったけど、龍王で『女王』ってタンニーンさん凄い肩書きだ。龍王を『女王』の駒で転生させたメフィストさんも十分凄いけど。僕なら『変異の駒(ミューテーション・ピース)』が必要になるかも。そうなったらクロウさんの転生どうしよう······

 

メフィスト『年寄りの話を聞いてくれるのはリアスちゃんとギャスパー君だけだよ。リアスちゃんのお祖父さん達は元気かな? 隠居して久しいと聞くよ』

 

リアス「は、はい、グレモリー領の辺境でひっそりと過ごされてます」

 

グレモリー家は家督を次の当主に引き継いだら、その時当主だった人は隠居生活に入るんだ。

 

······ゼクラム・バアルにも見習って欲しい。いや、隠居したら悪魔の政治が麻痺しかける。

 

メフィスト『それにしても君達『若手四王(ルーキーズ・フォー)』は大人気だからねー。下に突っつかれて仕方なくってね。早速だけどリアスちゃん。君達と契約したいと言ってくる魔法使いの詳細なデータを魔法陣経由で送ろう』

 

立体映像のメフィストさんが右手の人差し指をくるくる回して、真正面にいる部長に向ける。すると、新たな魔法陣が空中に展開されて、書類がドバドバ降ってくるので、部員総出で回収する。

 

こんなにいたんだ······でも赤龍帝とか、聖魔剣とか、デュランダルとか、北欧の魔術とか、研究したい魔法使いはいくらでもいるって考えると多くはないのかな?

 

祐斗「······昔は兎も角、今は書類選考なんだ。その後の選考と決定は、僕達に委ねられているけどね」

 

祐斗先輩が書類を拾いながらイッセー先輩に説明している。今は、異形社会でも普通の人間のシステムを取り入れているところも多い。人間が作った仕組みが、それだけ画期的で効率的だと言う事なのだろう。

 

ロスヴァイセ「······就職活動ならぬ、契約活動ですね。昔は抜け駆けを目指して血に塗れた時代もあったそうですが」

 

イッセー「······うわぁ。俺この時代に生まれてよかった」

 

各々、拾う手を止めずに軽く小話を交えながら書類を整理する。

 

 

結果、一番多いのは部長で、僕は一番少ない·····というか0だった。

 

······あれ? 一応目を通すぐらいはしとこうと思ったんだけど······まさか、僕がサイラオーグさんと殴り合ったのがそこまでマイナスだった? 大王家のサイラオーグさんと違って、僕はただの下級と見られてるし······

 

小猫「······ギャー君人気ないね」

 

ギャスパー「言わないで小猫ちゃん······」

 

今の凄いグサッときた。暫く立ち直れなそうです。

 

メフィスト『ハハハ、ごめんごめん言い忘れてたよギャスパー君。君の分はリアスちゃん達とは別で基準を設ける必要があったからラヴィニアが選考してるんだよ。ヴァーリ君の分もやってるから、もう数日待ってね』

 

頭を掻きながらメフィストさんが言ってくる。良かった······流石にここまで見事に0って泣ける。今回で契約結ばなくても、既にルフェイと契約してるから問題はないけど······

 

ギャスパー「······そうだったんですか·····良かったです。希望者0かと思いました」

 

メフィスト『そんなわけないって。君の強さと顔の広さは僕が羨むくらいだよ』

 

と言うか、お兄様も魔法使いの契約の対象なんだ。

 

リアス「?······メフィスト様はギャスパーとお知り合いなのですか?」

 

メフィスト『まあね。一時期僕はギャスパー君と契約してたからねぇ。彼と契約している期間は面白かったよ。あ、ギャスパー君、もう一回契約するかい?』

 

ギャスパー「今はお父様と契約されているじゃないですか」

 

お父様はメフィストさんの契約相手の1人だった筈。形だけみたいなものだけど。

 

メフィスト「そうだったね」

 

「「「「「「「······えぇぇぇぇえ!!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······と言うわけで、お兄様にも契約希望の魔法使いの書類が来ましたので、目を通しておいてください」

 

ラヴィニアさんから送られてきた書類を見ながら言う。

 

ヴァーリ「······これ全部か?」

 

書類の束を見ながら、顔を引き攣らせてお兄様は返す。

 

ギャスパー「そうですよ。これでも、ラヴィニアさんが審査した上でかなり削られたらしいですよ」

 

お兄様への希望者は0が3つは付く。今まではテロリストとして危険視されていたけど、それが潜入していただけとなれば話は別。ハーフ悪魔の白龍皇と契約を結びたい魔法使いなんてごまんといる。

 

ヴァーリ「俺はラヴィニアと契約しているのだが······」

 

ギャスパー「まあ1人だけというルールはないですからね。折角の機会ですよ?」

 

ヴァーリ「まぁそのようなものか······?」

 

 

 

これでお兄様も、ラヴィニアさんの有り難みが少しは分かる筈······だと信じたい······

 

 

 




八幡が『魔剣創造(ソード・バース)』で『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』やるっていうD×Dのssの設定考えたけどどうしよう······



というのは置いといて、


少し補足説明

アーサー・ペンドラゴン、ルフェイ・ペンドラゴン

ペンドラゴン家の子息子女。アーサーは聖王剣コールブランドを勝手に持ち出して『禍の団(カオス・ブリゲード)』に加入。ルフェイはその兄を追って『禍の団』に加入した。最初は英雄派に所属していたものの、曹操と反りが合わなかったためヴァーリチームに移籍した。

現在は、2人は八幡の保護下という名目で、『D×D』に参加している。尚、ルフェイは1度は離脱した『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』に八幡の口聞きもあって復帰した。




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第76話 追憶は影を落とす


更新が遅れてしまい申し訳ございませんでした。新学期が始まって忙しくなり、作者はFGOを始めて忙しくなり、筆が進みませんでした。

こんな駄文で良ければどうぞ↓


 

 

······ここは何処だろうか?

 

 

 

気付いたら、僕は真っ暗な何処かにいた。

 

周りは真っ暗。さながら本物の闇。漆黒一色と言ってもいい。その中で自分一人だけが存在しているかのようだ。

 

 

 

周りを探るために体からバロールさんの『闇』を噴出させようとするが、何故か出来ない。なけなしの魔力も出せない。魔法も使えない。

 

 

 

加えて、何か制約を受けているわけでもないのに、この場から離れられない。周囲を見渡すくらいなら出来るのだが。

 

 

 

『············()··········()·········』

 

 

 

微かに、本当に微かにだが、声が聞こえた。小さ過ぎて、男性か女性か、若いのか歳をとっているのか、何を言ったのかすら分からない。

 

 

 

ギャスパー「·······誰? 何処にいるの?」

 

 

 

声を出して返答を待つ。だが、一向に来る気配がない。この場から何故か動けない僕には声を出すことしか出来ない。

 

 

 

 

『············(ギャスパー)················』

 

 

 

 

今度は名前で呼ばれた。相変わらず声の主のことを把握出来ないが、自分の名前を口に出したということだけは分かった。

 

 

 

 

ギャスパー「誰······? どうして僕を知ってる······?」

 

 

 

相変わらず声の主からの返答はない。もしかして、声が届いていないのだろうか。

 

 

 

『······(ギャスパー)······()()·······』

 

 

 

 

ギャスパー「何処なの? 声が聞こえてるなら───」

 

 

そこまで言った時、声の主は言った。今度こそはっきりと聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

『────助けて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······!!」

 

瞬間、意識が覚醒する。飛び起きる。

 

そうか······今のは夢······でも、やけにはっきりとした夢だった。忘れてはいけない······そんなことを強く意識させるような夢だ。

 

黒歌「······ギャスパー、落ち着くにゃ」

 

隣で眠っていた筈の黒歌さんに抱き寄せられる。止みそうになかった動悸が、一気に収まっていくのが分かった。

 

 

 

黒歌「······落ち着いた?」

 

ギャスパー「······ありがとうございます。落ち着けました」

 

母性すら感じさせるほどの優しい笑みに、強ばっていた表情も自然も弛む。

 

黒歌「どうしたの······? 魘されてたわ」

 

笑顔から一転、不安そうな表情を浮かべて、黒歌さんが訊いてくる。

 

いけない。またこんな表情をさせてしまった。

 

ギャスパー「そんな大したことじゃないですから······」

 

黒歌「はい嘘。そんな苦しそうな表情で言ったら誰だって気付くにゃ。話して、ギャスパー。話せば少しは楽になるわ」

 

そこまで言われるほどなのだろうか······僕にそんな自覚はないのだが······

 

ギャスパー「うっ·····はい·」

 

強めの口調で言われると断れない。心配してくれていると思うと申し訳なくなる。以前、お父様が、お母様には敵わないと言っていたことの意味が分かった気がする。

 

黒歌さんに甘えて、見た夢を話すことにした。

 

 

 

 

 

 

黒歌「······『助けて』か。そう聞こえたの?」

 

黒歌さんに夢の内容を話した。

 

ギャスパー「はい······でも、誰の声か分からなくて······知ってる気がするんです。だけど思い出せない」

 

最後に聞こえた『助けて』という声······声質からして、女性の声だった気がする。聞き覚えがある気がするが······駄目だ。思い出せない。

 

黒歌さんは少し考え込むように唸ってから言った。

 

黒歌「む〜······それはギャスパーの知ってる誰かではあるんだろうけど······ギャスパーの深層心理が見せたものかもね。ギャスパーは女性の声に聞こえたみたいだけど、実際は、それが実在している人かも怪しいし、ギャスパー自身が忘れてる何かかも」

 

ギャスパー「僕自身が忘れた何か······」

 

深層心理が見せた何か······魔法でも見ることの出来ない最深部の領域が僕に何を見せたかったのだろうか······それとも、ただ単に悪夢を見せただけなのか······

 

だが、単純に悪夢だと片付けてはいけない気がするのだ。

 

黒歌「ま、今深く考えても仕方ないにゃ。切っ掛けがあれば何か分かる筈だしね。それより朝ごはん朝ごはん」

 

黒歌さんが話を切り上げてベッドからピョンと降りると、鼻唄を口ずさんで部屋を後にするのでそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

その日、吸血鬼との会談が翌日行われることが決定した。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

この日、私はオカルト研究部の部室にいた。無論、私だけではない。

 

グレモリー側のオカルト研究部全員とアザゼル先生。ソーナ会長と真羅副会長と匙先輩。比企谷先輩とツェペシ先輩。そして、20代後半ほどで柔和な表情を浮かべたシスターが1人。

 

 

 

何故ここにシスターまでいるのかと言うと、今日、吸血鬼との会談がここ、駒王学園のオカルト研究部部室で行なわれることになったかため、天界から派遣されたのだ。

 

詳しくは知らないが、駒王町の警護にあたっている悪魔や堕天使に、吸血鬼が接触を図ってきたことが大元の理由らしい。

 

 

 

シスターが見渡すように全員に挨拶をくれた。

 

「······挨拶が遅れました。私、この地の天界スタッフの統括を任されております、グリゼルダ・クァルタと申します。シスター・アーシアとは少し前にご挨拶させていただきましたが、皆さんとはまだでしたので、改めまして、今後とも何卒よろしくお願い出来たら幸いです」

 

シスター·······グリゼルダ・クァルタさんは自己紹介をして頭を下げる。

 

イリナ「私の上司さまなんです!!」

 

イリナ先輩がそう付け加える。そこで先生がグリゼルダさんと握手を交わす。

 

アザゼル「話には聞いてるぜ。ガブリエルの『Q(クイーン)』なんだってな。シスター・グリゼルダって言えば、女性悪魔祓い(エクソシスト)の中でも五指に入る実力者だってな」

 

相当な実力者であるらしい。熾天使(セラフ)の一角であり、女性天使最強のガブリエルの『Q』とは。

 

そう言えば、アーシア先輩は、ゼノヴィア先輩とイリナ先輩と一緒に町の教会に行っていた。その時に顔を合わせたのだろう。

 

グリゼルダ「申し訳ございませんでした。本来ならば、もっと早くに挨拶に伺うべきでしたのに、都合が付かず、今になってしまい、己の至らなさを悔やむばかりです」

 

グリゼルダさんは深く陳謝する。丁寧な物腰の人だ。

 

八幡「気にしなくていい。こちらには、ガブリエルが既に詫びを入れてきたからな」

 

グリゼルダ「そうでしたか······」

 

 

イリナ「あら? どうしたのゼノヴィア。顔色が悪いわね?」

 

イリナ先輩が何やら含みのある口調でゼノヴィア先輩に投げ掛ける。

 

ゼノヴィア「か、揶揄うなイリナ」

 

ゼノヴィア先輩は何故かグリゼルダさんの視界に入らなそうな位置に移動しようとするが、途端、ガッチリと両手で顔を押さえられた。ゼノヴィア先輩は顔から冷や汗を垂らしている。

 

グリゼルダ「あら? そんなに私と顔を合わせるのが嫌なのかしら?」

 

ゼノヴィア「ち、違うんだ······ただ······」

 

グリゼルダ「ただ?」

 

こう会話している間にも、ゼノヴィア先輩の顔からは汗が垂れている。

 

ゼノヴィア「電話に出なくてごめんなさい······」

 

ゼノヴィア先輩がそう言うと、グリゼルダさんは手を離した。周りの人は暖かい目で見ている。

 

グリゼルダ「よく出来ました。折角番号を教え合ったのだから、連絡の一つぐらい寄越しなさい。分かりましたか? 食事くらいなら出来るでしょう?」

 

ゼノヴィア「ど、どうせ、小言言われるんだし······」

 

グリゼルダ「当たり前です。また管轄が一緒になったのだから、心配ぐらいします」

 

しっかり者の姉と、それに頭が上がらない妹という図式が出来上がっている。剛胆という言葉を地で行くゼノヴィア先輩の新たな一面が見られた気がする。

 

 

 

グリゼルダさんとの挨拶も済ませ、後は吸血鬼を待つだけになった。夜は更けていき、室内での会話も少なくなった頃、外から異様な冷たさを感じた。全員が、それを把握して窓のある方に視線を向けた。

 

小猫「······ギャー君?」

 

隣りにいたギャー君の雰囲気が一瞬で全くの別物に変化したことを感じ取った私は声を掛ける。

 

ギャスパー「······どうしたの小猫ちゃん」

 

視線は逸らさずにギャー君は返答する。さっきまでと違い、険しい表情を浮かべている。気付くと、比企谷先輩とツェペシ先輩も似たような雰囲気を纏っていた。

 

小猫「······う、ううん。何でもない」

 

ギャー君の近寄り難い雰囲気に気圧され、会話を打ち切ってしまう。

 

リアス「······相変わらず、吸血鬼の気配は凍ったように静かね」

 

部長が祐斗先輩に視線を向けると、祐斗先輩は一礼して部屋を後にした。

 

会談をしに来た吸血鬼を迎えに行ったのだろう。

 

 

 

吸血鬼───ギャー君しか知らない私にとってはあまり慣れない言葉だ。吸血鬼は招待されないと建物に入れない、鏡に姿が映らない、影がなく、流水を渡れない。

他にも、ニンニクを嫌っていたり、十字架や聖水に弱い。

そして、自分の棺で眠らなければ自己の回復が出来ないと聞く。

 

ギャー君はデイライトウォーカーと呼ばれる吸血鬼の中でも特殊な種族で、ここにはあまり当てはまらない。

 

祐斗先輩が下に降りていったのは、吸血鬼が招待されないと旧校舎に入れないからだ。

 

 

私達眷属は、来客に備えてそれぞれ席を立ち、『(キング)』の傍らに並んで配置する。シトリー眷属も同様だ。イリナ先輩はグリゼルダさんの後ろに立ち、朱乃さんは給仕出来るよう台車の前に待機している。

 

座っているのは、アザゼル先生、グリゼルダさん、比企谷先輩、ツェペシ先輩くらい。

 

 

暫くして、部室のドアがノックされ、吸血鬼を連れて祐斗先輩が戻って来た。

 

祐斗「お客様をお連れしました」

 

祐斗先輩は紳士な対応でドアを明け、客を招き入れた。

 

 

姿を現したのは、中世のようなドレスに身を包む人形のような少女だ。整った顔立ちは整いすぎていると言ってもよく、生気がない。作られた美しさ、と言えば分かりやすいかもしれない。

死人と見間違うほどに顔色が悪いことが、人形のようなイメージを強調させている。

 

 

「······ご機嫌よう、三大勢力の皆様。エルメンヒルデ・カルンスタインと申します。エルメとお呼び下さい」

 

 

ギャー君より深い、赤色の双眸をした少女はそう名乗った。

 

 

 

小猫sideout

 

 



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第77話 想いの祈り

ブリュンヒルデと赤セイバー10連一回ありがとうございまぁぁぁぁす!!!(初の星5)

失礼。大変取り乱してしまいました。申し訳ございませぬ。


では駄文でよければどうぞ。




 

 

八幡side

 

 

エルメンヒルデ・カルンスタインと名乗った吸血鬼はリアス・グレモリーに促されて席についた。

 

 

カルンスタイン。男真相を尊ぶツェペシュ派と真っ向から対立している、女真相を尊ぶカーミラ派の中でも最上位クラスの家だ。目の前のカルンスタインの名をもつ女も純血の吸血鬼だろう。ギャスパー以外の吸血鬼は、はぐれとかを除けばギャスパーを引き取ったあの日以来か。

 

 

······だが、カーミラが何の用だ。吸血鬼には『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』があるが、あれはツェペシュ側。吸血鬼の情報もある程度入ってきてはいるが、今あれ以外の理由で吸血鬼が他勢力に会談を持ち掛けに来る理由が分からん。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』だって取るに足らない存在だと思ってるだろうし。

 

 

八幡「······それで? 単刀直入だが吸血鬼が何の用だ。お前らは今まで霧の中に隠れて内輪揉めに勤しんでいただろうが」

 

何の目的で来たのかは······予想がつかない訳ではないが、理由が分からん。それに、その目的だってこちらが叶えてやる必要も皆無だ。

 

エルメンヒルデ「言い方に棘を感じますが······まぁいいでしょう。

 

────我々はギャスパー・ヴラディのお力を借りたいのです」

 

「「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」」

 

クルル「······はぁ?」

 

ギャスパー「············」

 

こいつは、いやこいつらはいったい何を言っているんだ? 今のギャスパーはヴラディ家との縁を完全に切っている。示談も成立している。仮に『禍の団』関連の話だとしても、ツェペシュ側ですらないカルンスタインがギャスパーの力を借りに来るのはおかしい。

 

ギャスパーは考え込んでいる。理由を考えているのだろう。

 

 

······まさかこいつらが来たのは、本当に内輪揉めのためにギャスパーを駆り出しに来たってのか······!?

 

 

クルル「······お前達は高々内輪揉め如きで──「いいですよ。ただし僕の提示する条件を呑めば、ですが」······ギャスパー······!?」

 

クルルが、それこそ口調が変わるほど激昂するが、それを遮ってギャスパーが言う。

 

八幡「おいギャスパー······」

 

ギャスパー「大丈夫ですよ、お父様、お母様」

 

エルメンヒルデ「······どうやら、そちらはギャスパー・ヴラディの方が賢いようですね」

 

クルル「お前っ······!!」

 

エルメンヒルデ「もちろん手ぶらで来たわけではございませんわ。書面を用意しました。応じるというなら、出来る限りでギャスパー・ヴラディの提示する条件とやらにも応えましょう。結果どうなるかは私の知る所にはございませんが」

 

エルメンヒルデ・カルンスタインは後ろで待機していたボディガードを呼び、鞄から書類を取り出させた。それをアザゼルに渡す。

 

アザゼル「······カーミラ側の和平協議について、だと?」

 

「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」

 

和平協議······? 今まで応じていなかったクセに、ここにきて簡単に切るだと? こいつらは内輪揉めに対する処理能力低すぎないか?

 

グリゼルダ「つまり、今日のこの会談において、貴方は外交官として私達の下に派遣されたということですか?」

 

シスター・グリゼルダの問いにエルメンヒルデは笑みを見せて答える。

 

エルメンヒルデ「はい。我等が女王カーミラ様は堕天使総督様や教会の方々との長年に渡る争いの歴史を、憂いておられます。休戦を提示したいと申しておられました。必要とあらば、ツェペシュ派と何度(・・・・・・・・・)も接触している(・・・・・・・)『堕天魔』様の要求を呑むよう仰せつかっています」

 

そう来るかカーミラ──エリザベート・バートリーめ。

 

今の吸血鬼の内情はある程度把握しているが······思った以上にこいつらは切羽詰まっているらしいな。

 

エルメンヒルデ「それでは、ギャスパー・ヴラディの出す条件とはいったい何でしょうか?」

 

カルンスタインがギャスパーを向いて言う。そしてギャスパーは口を開いた。

 

 

 

ギャスパー「······出す条件は唯一つ。ヴァレリー・ツェペシュの身の安全を保証し、僕らが安全に保護出来るようにすること」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー「······出す条件は唯一つ。ヴァレリー・ツェペシュの身の安全を保証し、僕らが安全に保護出来るようにすること」

 

ご丁寧にも僕の発言を待つエルメンヒルデ・カルンスタインに言う。

 

······さぁどう出る?

 

エルメンヒルデ「······そう来ましたか。確かに、貴方は『堕天魔』に引き取られるまでは幽閉される城の中でヴァレリー・ツェペシュと手を取り合って生きてきたと聞いていますわ。

まぁヴラディ家と完全に縁を切った貴方が我々に要求することなんてそれくらいなものでしょう」

 

一々人の嫌なことを喋りながら話す人だ。今気にしても仕方がないが。

 

エルメンヒルデ「いいでしょう。カーミラ様にもそう伝えさせていただきます。ですが······貴方には自分を捨てたヴラディ家──ツェペシュへの恨みはないのかしら? 貴方の力では復讐ぐらい簡単なのに」

 

エルメンヒルデ・カルンスタインは僕を見ながら言う。

 

 

『復讐』か······昔は毎日のように考えていた。自分とヴァレリーを幽閉して、毎日毎日暴力を揮い罵詈雑言を浴びせてくる。僕の知っている限りでも、ヴァレリーは誰かも分からないような奴に慰み者にされそうになったこともある。今ではもうなってしまっているかもしれない······

 

でも昔あった、ある一件の時に家族の皆と黒歌さんに誓ったのだ。

 

 

 

 

『僕は復讐のために力を揮わない。揮うのは周りの人を守る時だけです』

 

 

 

 

───と。だから、今、復讐に走ることはない。

 

ギャスパー「······そんな気は毛頭ない。僕はここにいられるだけでもこれ以上ないくらい満足している。でも、もし吸血鬼が家族に危害を加えようとするのならば────その時は危害を加えようとする者全て、滅ぼすだけだ」

 

そう言ってエルメンヒルデ・カルンスタインを改めて見る。

 

エルメンヒルデ「······そうですか。『雑種』にしては中々高尚な心を持っているようで。感嘆に値します」

 

『雑種』か······どうにも人の傷を抉らないと済まない人みたいだ。

 

クルル「お前っ······!!」

 

お母様が怒りに震え立ち上がるが、首を振って溢れ出しそうな魔力や光力を収めてもらう。僕のために激昂してくれるのは嬉しいけど、これは大チャンスだ。上手くすればヴァレリーを解放出来る。ヴァレリーが自由に生きられるようになる。

 

無論、ヴァレリーが望めばの話だけど······

 

エルメンヒルデ「······我々からの話は以上ですわ。今夜はお目通り出来て幸いでした。自分の根城に招いていただいたお心遣いに感謝致しますわ。リアス・グレモリー様」

 

エルメンヒルデ・カルンスタインは態とらしい微笑みを浮かべた。そして、ドアから出ようという時に振り返って再び口を開いた。

 

エルメンヒルデ「そうそう、一つ言い忘れていました。ツェペシュ側で、吸血鬼ではない、銀髪の男性と、そこの堕天使の総督様のような髪をした長髪の女性、不気味な雰囲気を纏う黒髪の少女を確認したとの報告を受けましたわ。精々注意なさって下さい。では」

 

八幡「おい待て───」

 

お父様が何か言い返そうとしたが、そのまま出て行ってしまった。これ以上訊いても、今日はもう何も答えなそうだ。

 

お父様も察したようで、諦めて溜息をついて椅子に座った。

 

八幡「はぁ······現地に行って調べるしかないか······なぁクルル」

 

クルル「そうね······それに最後の······ヴァーリが知ったら何て思うか。でもギャスパー、いいの?」

 

お母様も普段の口調に戻り、緊張を解いて背もたれに寄り掛かる。

 

ギャスパー「はい。それに、今回がヴァレリーを解放出来る最後のチャンスになるかもしれないですし。見逃す手はないです」

 

クルル「そう。ならいいけど······」

 

だが、想像以上に今の吸血鬼社会が厄介になっていることは想像に容易い。エルメンヒルデ・カルンスタインが最後に言った3人の内1人は間違いなくリゼヴィム・リヴァン・ルシファーと見て間違いない。写真で何度も見たが、向こうが態々言ってくるぐらいだ。確定と見て間違いない。

 

問題は他の2人だ。アザゼル先生のような髪······要するに黒と金が入り混じったような髪の女性······心当たりがない。それに、不気味な雰囲気を纏う少女についても······

 

 

『禍の団』、旧魔王派と英雄派が瓦解した現在において最大派閥である『クリフォト』が吸血鬼社会に想像以上に深く根を張っていることは否めない。

 

 

結局、対テロチームである以上、現地に行くことにはなっていたようだ。向こうがそれも見越して言ってきたのかどうかは想像がつくわけではないが······

 

 

 

その後、色々問い詰めてきたアザゼル先生を筆頭に、僕とお父様とお母様は話せることだけは一通り話して、その場はお開きとなった。

 

 

 

 

······ルーマニアか。今まで目を逸らしてきた。ここで、今回で全て終わらすんだ。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

 

「はっ···はっ···はっ···」

 

その少女は走っていた。彼女が走っているのは冥界にある多数の魔獣の生息する森。本来ならば、余程の物好きか、強力な使い魔を探しに来た者以外は立ち入ることはほぼない。

 

 

しかし、彼女は──彼女を追いかけている者達によって──幸か不幸か、魔獣に襲われる心配ない。いや、彼女の視点で考えれば間違いなく不幸だろう。

 

何せ、自身の悪魔としての特性を封じられ、飛ぶことも出来ずに、こうして走る羽目になっているのだ。

 

 

彼女を追いかけているのは人間の魔法使いが十数名。普段なら、家柄によって上級悪魔となった未熟な彼女でも対抗出来るのだが、彼女は魔法によって悪魔としての力を封じられたため、身体能力が異様に高い人間程度でしかない。

 

偶々、兄の修行を見に、普段来ない森に足を運んだのだが、誰が襲われるなどと思うだろうか。兄が師匠──最近自分もよく顔を合わせるようになった──の眷属に修行をつけてもらった(本物の地獄を見せられた)お陰で、魔獣くらいなら兄が何とかしてくれると思っていた。

 

そもそも、自分の父親が統治する領の森で、冥界に不法侵入した人間の魔法使いに襲われるなど想像が出来るわけがないのだが。

 

 

 

彼女の足下に、魔法使いの一人が放った氷の魔法が氷塊となり地面に接触すると共に大きな衝撃波を起こし、彼女の体を吹き飛ばす。

 

 

悪魔としての力を封じられた彼女は、吹き飛ばされた衝撃によって自身の体が痺れているが、何とか意識を保った。しかし、目の前に不法侵入した魔法使いが降り立った。

 

 

「······悪いな。上からの命令であんたら『フェニックス』の誰かを取っ捕まえてこいって言われちまってなぁ」

 

少女──レイヴェル・フェニックスの一番近くにいる魔法使いの男は申し訳の欠片もなさそうにヘラヘラしながら言う。

 

「そう言うわけで、暫く眠っててくれや」

 

「うぁ······や、やめて······」

 

「そう言うわけにもいかなくってな」

 

魔法使いの男は、上半身を辛うじて起こしているレイヴェルの下に魔法陣を展開する。

 

魔法陣が光り出すと、彼女の意識が段々と暗闇に包まれていく。必死に抵抗するも、レイヴェルにはこの魔法を解除出来るような技術を持ち合わせていないため、どんどん意識は落ちていく。

 

 

レイヴェル「助けて···お兄様······助けて···········八幡様···········」

 

 

敬愛する兄と、成就することのない片想いをした自分の元お見合い相手の男に、来ない助けを求め、遂に彼女の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

「······はぁ~。やっと終わった。次はなんだっけ?」

レイヴェルの意識を奪った魔法をかけた男は、レイヴェルを拘束した後、近くにいる仲間に尋ねる。

 

「あ~、次は、この嬢ちゃんから『フェニックス』の魔力のデータ取るっつー手筈だ」

 

頭を掻きながら尋ねられた男は、面倒くさいと言わんばかりのオーラを出しながら答える。

 

「で、次はいよいよ『堕天魔』に仕掛けるんだろ?」

 

好戦的な笑みを浮かべて男は言う。もう片方の男は不機嫌そうに答える。

 

「いきなりは無理だっつの。『堕天魔』の息子の······ギャスパー・ヴラディだっけ? にこの嬢ちゃん使ってケンカ吹っかけるんだとよ。何でも、新しく入ったスポンサー様が『堕天魔』の家族を全員殺したいから一人ずつ連れてこいと仰られたらしくてな。因みに、その嬢ちゃんは魔力のデータ取って、ギャスパー・ヴラディ? の餌に出来たら後は返すなり食べるなり好きにしろってよ」

 

「何それめんどくさ······ってことは、こんなことを後何回もやんの? 俺達」

 

「仕方ねえだろ。上の命令なんだから」

 

 

ぶつくさ文句を言いながら、拘束したレイヴェルを連れて十数名の魔法使い達は転移魔法陣でその場を後にした。

 

 

 

これが、ギャスパー・ルシフェルが比企谷八幡とクルル・ツェペシと共にルーマニアに赴く5日前のことである。

 

 

 

sideout

 

 

 





最近筆が進まなくて困ってます。そして、今回出て来たモブsはもう出て来ません。

まさか 苦し紛れに書いたオリ話が役に立つとは。



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第78話 愛しい人に


今回はちょっと日常回的になります。尚、本作は原作の6巻と12巻を丸々カットして、9巻と11巻を強引にくっつけたため、時系列の調整のために日常回を多めに書いてます。




 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

ギャスパー「······というわけで、暫く留守になります」

 

黒歌「······私も付いて行っていいかにゃ?」

 

ギャスパー「······え?」

 

 

吸血鬼からの特使、エルメンヒルデ・カルンスタインとの会談から一夜明けた今日。パソコンでの契約も済ませて、僕は黒歌さんに昨日のことを話した。

 

 

ギャスパー「そ、それは···僕一人だけで決められることでもないですし······黒歌さん今はお父様の眷属じゃないですか。幾ら何でも、僕一人じゃ決められないですし······」

 

ルーマニアに行き、ツェペシュ側の暴挙を止めることで吸血鬼同士の争いを止めることへの協力をすることになった。暫く······多分、2、3週間は最低でも留守にすることになる。

 

 

······それに、本音を言えば、黒歌さんに危険なことに関わらないで欲しい。吸血鬼と無関係な黒歌さんなら、途方もなく長い人外の一生でも、吸血鬼の内輪揉めに関わらなくて済む。後は僕が止めればいいだけ。

 

 

黒歌「大丈夫だって。実は、八幡とクルルからはもう許可取ってるにゃ。後はギャスパー次第」

 

行動が早い······でも怪我とかして欲しくないし······

 

黒歌「にゃは♪ 私に怪我して欲しくないって考えてるでしょ?」

 

 

返答出来ずに悩んでいると、黒歌さんが抱き着きながら言ってきた。

 

ギャスパー「え!? い、いやそれは······」

 

黒歌「······ギャスパーは私を見くびりすぎにゃ。私だって、この6年間無駄に過ごしてきたわけじゃない。前は、仙術妖術に頼りきりだったけど······今はそれ以外のことだって少しは出来るようになったんだから」

 

 

6年間。黒歌さんがお父様の眷属になってからもう6年も経った。途中3年間は自分の所為で全く会えなかった。でも、またこうして僕と一緒にいる。

 

その3年間は、黒歌さんはずっと寂しい思いをしていたと後になってお父様とお母様にこっそりと教えられた。

 

ギャスパーがいなくなって一番悲しんだのは黒歌だ、と。

 

そうだ。寂しい思いはさせちゃだめだ。僕が守らないと······

 

黒歌「今度は僕が守らないと······なんて思ってる」

 

ギャスパー「······っ!?」

 

黒歌さんにデコピンされた。何故か凄い痛い。でも、何でこうも思ったことが分かるんだろう。

 

黒歌「ギャスパーのことなら何でも分かるにゃ。だってお嫁さんだもん。───それに、私はギャスパーに守られっぱなしの弱い女じゃない。隣りに立つくらいはやってやるにゃ」

 

ギャスパー「······ごめん、黒歌さん」

 

自分の勘違いが恥ずかしい。いつだったか、2人で強くなろうなんて言ったこともあった。きっと、覚えててくれたのだろう。

 

黒歌「分かればいいの。謝る必要もないけど。ルーマニアに私もいく。ギャスパーの最初の家族にも挨拶しなきゃね」

 

僕の最初の家族······ヴァレリーのことだ。黒歌さんは僕がルーマニアにいた頃のことを全て知っている。ずっと前のことだが、全て話して、それでも受け止めてくれたのは家族以外に初だったと思う。お父様の眷属でも僕のことを全部知っている人は少ない。

 

お父様の眷属で全部知っているのは、お母様と黒歌さんを除けば、クロウさん、メリオダスさん、ティアさん、勝永さん、束さんだけだ。おそらく、それ以外の方はルーマニアにいたとかの断片的にしか知らないと思う。ある程度は察しているような気もするけど······

 

ギャスパー「······はい」

 

黒歌「分かればよし!! さ、辛気臭い話もここまでにして寝るにゃ」

 

 

 

そして、この日はそのまま眠りに就いた。黒歌さんの抱き枕にされるのはとっくに慣れているので、安心して眠ることが出来た。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

ギャスパーと黒歌がもう寝ているであろう時刻。俺は自室で一人考え込んでいた。

 

 

ヴァーリ「······ルーマニア······そこにあの男がいる······」

 

昨日行われた、三竦みと吸血鬼の会談の最後に、吸血鬼の特使が言い残したという言葉。吸血鬼ではない銀髪の男性。この時期に限って、タイミングが良すぎる。間違いない······あの男はルーマニアにいるのだ。

 

ラヴィニア「······ヴァー君は一々考えすぎなのです」

 

少し離れた所でココアをちびちび飲んでいるラヴィニアは言う。

 

彼女は今日に限って何故か家に来た。泊まっていくというので、客間を用意しようとしたら、何故か俺の部屋で寝ると言った。別に、俺の部屋には特に大した物は置いてないんだが······

 

 

そう言えば、客間を用意する、と言った時に、ギャスパーと黒歌が何やら内緒話をしていたようだが······何の話だったのだろうか。いや、いくら家族とはいえ勝手に詮索するのはやめておこう。

 

 

ラヴィニア「······ヴァー君の気持ちを私が考えても想像がつかないです。でも、ずっと考えてる必要はないですよ? 今は仕方ないですけど、ヴァー君にはそれ以外のものだってあることは忘れてはいけないのです。考えすぎは毒ですよ?」

 

ラヴィニアがほっ、とココアで一息つきながら言う。マグカップを両手に持って、それを膝に乗せながらマグカップに目を落とす。

 

ヴァーリ「······それもそうだな。ありがとうラヴィニア。少し考えすぎていたかもしれない。これはルーマニアに行く時に考えることにするよ」

 

俺はコーヒーを一口飲んでから言う。因みにブラックだ。父さんが、母さんに隠れて飲んでいるあれは甘すぎる。糖尿病まっしぐらな気がしてならないが······まぁ父さんだし大丈夫だろう。それにとっくに母さんにバレているし、何かある前に母さんが何とかするだろう。

 

正直なところ、母さんの説教が俺やギャスパーに飛び火しなければいいが······以前の説教で本物の地獄を見た気分になったからな······二度と味わいたくない。

 

ラヴィニア「それぐらいが丁度いいですよ」

 

ラヴィニアが言う。

 

ヴァーリ「しかしラヴィニア、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』の方にいなくて大丈夫なのか? 『神の子を見張る者(グリゴリ)』でアザゼル直下の対テロチームに任命されたと聞いているが」

 

前々から疑問に感じていたことを言う。チーム『刃狗』は、父さんが『D×D』を設立したように、アザゼルからテロ対策チームに任命された。

 

ラヴィニアは以前から週に一回は来ていたが、それは変わらずだ。正直、ここに来る暇があるとはとても思えないのだが······

 

ラヴィニア「気にする必要はないのですヴァー君。トビー達やアザゼル総督にはちゃんと言ってあるのです」

 

ヴァーリ「ならいいが······」

 

トビーとは神滅具(ロンギヌス)の一つである『黒刃の狗神(ケイネス・リュカオン)』の所有者であり、『刃狗』のリーダーでもある幾瀬(いくせ)鳶雄(とびお)のことだ。生まれた時から禁手(バランス・ブレイカー)に至っていたと聞いている。

 

灰色の魔術師(グラウ・ツァオペラー)』から『神の子を見張る者』に出向しているラヴィニアは『刃狗』所属となっている。

 

ラヴィニア「さぁもう寝る時間なのです。ギャー君とクロちゃんは多分もう寝てるのです」

 

ヴァーリ「ああ、そうだな」

 

ラヴィニアが何故俺の部屋で寝る何て言うのかは分からないが······まぁ前にもあったし、誰かいる方が落ち着くのだろうか。いや、それなら同性の黒歌の方がいいと思うが······母さんは父さんと一旦冥界に戻ったからな。

 

考えても分からないので、頭の隅に追いやって、来客用の布団で寝ようと思うが、ラヴィニアに腕を掴まれる。

 

ラヴィニア「ヴァー君どこに行くのです?」

 

ヴァーリ「今日はここに布団を敷いて寝ようと思って、取りに行こうとしただけだが」

 

何か問題があるのか?

 

ラヴィニア「ベッドを使えばいいです」

 

ヴァーリ「それはラヴィニアが使ってくれ。今日干したばかりだから汚れは気にしなくていい」

 

ラヴィニア「それではダメなのです」

 

ヴァーリ「だが来客に下で寝かせるわけにもいかないだろう」

 

そこまで言うと、何故かラヴィニアは意味深な笑みを浮かべた。

 

ラヴィニア「ふふん。ならば一緒に寝ればいいのです。2人くらいなら十分寝れるサイズです」

 

ヴァーリ「それはいくら何でも失礼だろう······」

 

俺だって、それくらいは弁えているのだが······

 

ラヴィニア「問題ないのです!!」

 

ヴァーリ「む?」

 

そう言ったラヴィニアにベッドに引きずり込まれた。身長差から、彼女は俺に抱き着いている格好になる。

 

ヴァーリ「離してくれ」

 

ラヴィニア「嫌なのです。毎日会えない分、ヴァー君成分を補充させるのです」

 

ヴァーリ「何だそれは······」

 

 

 

 

結局、離してくれなかったため、この日は俺が根負けしてそのまま眠りに就くことになった。

 

 

 

因みに、朝になって目が覚めたらラヴィニアは顔を真っ赤にしていたのだが、何があったのだろうか。気にしてもしょうがない思って、聞かないことにした。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 





ラヴィニアがもう寝るのですと言っている時間に作者は寝れていない······



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第79話 黄昏の使者

 

 

 

 

イッセーside

 

 

吸血鬼エルメンヒルデが訪れてから2日経った。

 

とはいえ、俺達は普通の悪魔の日常を過ごしている。ギャスパーがかなりワケありだと知った時は驚いたけど、それはそれこれはこれ。

 

別に今から態度を改めるってわけでもないし。本人も気にしなくていいって言っていた。

 

 

そして、今俺は───

 

元浜「どうだイッセー!! このお宝を見よ!!」

 

イッセー「こっ···これは······!!」

 

元浜がバッグから出した箱のパッケージを見せる。そこには、金髪の美人な女性が全裸で描かれている。

 

松田「なんて奴だ······これは、僅か3日で発売が禁止されたという、我々の中では伝説とまで言われた幻の一品ではないか······!!」

 

何時もの3人で教室の片隅に集まっている。アーシアやゼノヴィア、イリナはそれぞれ同性の友達と談笑している。

 

元浜「フッフッフ······かなり苦労したが、遂に手に入れることが出来た。ここまで色々な伝手を使ったのは初めてだ」

 

自慢げに言う元浜。クソッ···羨ましい······!!

 

 

 

イッセー「頼む!! お前がプレイしてからでいいから貸して──」

 

そこまで言った所で俺は気付いた。

 

イッセー「──く、れ······おい、松田? 元浜?」

 

松田と元浜が虚ろな目をしていた。これはまるで······部長が初めて俺の家に来た時のような······

 

祐斗「イッセー君!! アーシアさん!! ゼノヴィア!! イリナさんも!!」

 

凄い慌てた様子で木場が駆け込んで来た。何時もの、こいつらしい爽やかスマイルもない。俺達4人はことの緊急性を理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達4人は木場と合流して、オカルト研究部の部室に来ていた。グレモリー眷属とシトリー眷属が勢揃いしており、教師として学園にいるアザゼル先生もいる。だが、何時もの和やかな雰囲気はそこにはなかった。

 

 

 

何故なら、この場にはギャスパーだけがいないからだ。

 

 

アザゼル「······小猫。ギャスパーに何があったんだ」

 

アザゼル先生が緊張した面持ちで小猫ちゃんに問う。

 

小猫「······実は────」

 

 

 

 

 

小猫ちゃんの話によると、昼休みが始まってすぐのことだ。

 

 

小猫『······ギャー君、一緒に食べよ?』

 

小猫ちゃんはギャスパーと一緒に昼食を摂っているらしく、普段は食堂で食べる所を、偶には趣向を変えて、ということで外で食べることにしたらしい。

 

屋上でオカ研2年組と飯を食べている俺には分かるが、この学園は太平洋から程近い所にあるため、潮風が気持ちいい。だから外で食べる人も少なからずいる。

 

小猫ちゃんとギャスパーは外に出て、自分達が昼食を摂る場所を探している時だった。

 

 

ギャスパー『ごめん小猫ちゃん!!』

 

小猫『ギャー君······!?』

 

ギャスパーは突然小猫ちゃんを抱えて、軽く10m近く跳び退いた。

 

ギャスパーが小猫ちゃんを抱えて飛び退いた直後、2人がいた場所に魔法が降り注いだ。

 

ギャスパー『······この真っ昼間から何のつもりだ』

 

『······いや〜、躱されるとは思わなかったなぁ』

 

現れたのは、黒いローブを纏い、フードを深く被って顔を隠した2人。ローブには、小さくだが変わった模様が刺繍されていたらしい。

 

小猫ちゃんに聞いてみた所、それは松田と元浜の様子が突然おかしくなった時刻と完全に一致した。

 

あれは魔法使いが催眠の結界を張っていたらしい。

 

 

ギャスパー『その刺繍······『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』の魔法使いか』

 

『ご名答。俺達は『魔女の夜』の魔法使いで······今は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員さ』

 

 

その魔法使いどもは悪びれもせずに言ったという。『禍の団』······!! こんな白昼堂々と学園に······!!

 

 

ギャスパー『······何が目的だ』

 

ギャスパーは小猫ちゃんを自分の後ろに隠しながら、臨戦態勢を取った。

 

『いやなに、俺達の目的はあんたを連れて行くことだよギャスパー・ヴラディ。あれ、今はルシフェルだっけ? まぁどっちでもいいや。とにかく、あんたを連れてこいって上の命令でね』

 

ギャスパー『僕を? 何のつもりだ』

 

『さあてね。でも、あんたが大人しく俺達に付いてくりゃここに張った結界は解くし、他の奴らにも手は出さないと誓おう』

 

魔法使いの1人は飄々としながら言った。

 

その後、魔法使いはギャスパーの目の前まで近づくと、ギャスパーの耳元で何やら呟いたらしい。

 

すると、今度はギャスパーが、なんと、臨戦態勢を解いた。

 

ギャスパー『······いいだろう。ただし、僕一人だ。他の人に手を出すな』

 

『交渉成立だ。その条件を呑もう』

 

魔法使いが魔法陣を展開する。

 

ギャスパー『はぁ······折角の黒歌さんが作ってくれたお弁当が······でも背に腹は変えられない、か。ごめんね小猫ちゃん、ちょっと行ってくるね』

 

 

ギャスパーは小猫ちゃんに弁当箱を渡すと、魔法使いと共に光に包まれて消えてしまったらしい。

 

 

 

 

ソーナ「······今日は学園を休校にします。『変質者が校内に侵入したため休校となった』ということにします。魔法使いが放った魔法については、幸いにも旧校舎が近かっただけに、旧校舎の老朽化で誤魔化すことが出来そうです」

 

会長が言う。魔法使いが現れた場所は学内でも人通りの少ない所だから、学園の裏の顔がバレる心配はないだろう。

 

アザゼル「しかし何が目的だ······? 奴らがギャスパーを何かの実験に使うためとも考えられるが······」

 

なっ······!? ギャスパーを実験に使う!?

 

リアス「そんなッ······!?」

 

部長も声を荒げて言う。

 

アザゼル「だが、ギャスパーなら魔法使い2人程度、一般人にバレずに何とか出来る筈だが······いやまさか······」

 

考え込む先生だったが、何やら一人で呟く。

 

ゼノヴィア「何か分かったのか!?」

 

アザゼル「······小猫。八幡やクルルは?」

ゼノヴィアの問いには答えずに、先生は小猫ちゃんに視線を向ける。

 

小猫「······ギャー君は、ルーマニアに行く準備のために今一旦冥界に戻ったって言ってました」

 

アザゼル「このタイミングでかよ······なら、ヴァーリや黒歌は?」

 

ヴァーリと小猫ちゃんのお姉さん──黒歌は、今は人間界にいる。最近はうちで小猫ちゃんに修行をつけている姿を見るようになった。

小猫「···2人は既にギャー君の捜索に向かってます。さっき連絡したら姉様が言ってたので」

 

そうか······2人はもう探しに出ているのか。俺達も早く探しに行かないとギャスパーが危ねぇ!!

 

祐斗「小猫ちゃん、ギャスパー君が連れて行かれた場所についての手掛かりとかなかった?」

 

小猫「······いえ。すいません」

 

祐斗「あ、いや、謝らなくてもいいんだけど······」

 

 

リアス「ロスヴァイセ、何か手掛かりがあったかしら?」

 

部長がロスヴァイセさんに尋ねる。

 

ロスヴァイセ「はい。魔法の痕跡などを分析したところ、少なくともセキュリティーを突破するタイプの魔法ではないことが分かりました。

実家に、強固なセキュリティーを突破出来る術式について聞いてみましたが、かなり厳しい見解を口にしていました。私も可能性としては有り得なくはないとは思っていましたが······」

 

イッセー「可能性って?」

 

ロスヴァイセさんに訊く。

 

ソーナ「······裏切り者です」

 

会長が代わりに答えた。全員の視線が会長に集まる。まさか裏切り者とは······

 

アザゼル「······ここら一帯は、三竦みの同盟で重要地なだけに、俺達以外にも多くのスタッフがいる。学園を中心に、完璧とは言えないが、町全体に強力な結界も張ってある。不審人物の侵入に誰かがすぐに察知出来るようにな。ここに入るにはそれなりに選択肢が絞られるんだよ」

 

今度は、アザゼル先生が言う。

 

アザゼル「一つは、強引な侵入。これは力がありゃ出来なくはないが、発覚しないわけがない。2つ目にこの町に住む者が結界の外で捕らわれて操作され、侵入されるケース。これも今のところ誰からも反応が出てねぇ」

 

だから裏切り者······だけど、俺達の中に裏切り者がいるっていうのか!?信じられるわけがない。信じたくもない。

 

アザゼル「だから、必然的に裏切り者って答えが出るわけだ。だが、今そいつを探している時間はない。俺はヴァーリと連絡を取る。グレモリー眷属とシトリー眷属でそれぞれ分かれて、ギャスパーの捜索に入ってくれ!!」

 

『『『『『はい!!』』』』』

 

先生の言葉に全員が応じた。

 

 

そして、グレモリーとシトリーに分かれて、ギャスパーを探しに向かった。

 

 

イッセーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

······さて、学園の生徒を人質に取られたこともあって、転移に大人しく付いてきたが、ここは何処だろうか。駒王の何処かなのか、はたまた駒王の外か、又は人間界ではないか······複数の高度な幻術が掛かっているため、今いるただ真っ白な空間がいったい何処に設置されているのかが分からない。

 

 

 

転移した先には、凝った装飾の銀色のローブを纏った誰か。

 

そして、拘束され、ぐったりしている金髪の女の子が一人いるだけだ。

 

「······じゃ、俺達はギャスパー・ヴラディを連れてきたんでこれで失礼しますよ」

 

「お疲れ様でした。次に備えて休んでいて下さい」

 

「へいへい了解っと」

 

僕を連れてきた魔法使いの2人組は、転移して何処かに行ってしまった。

 

ギャスパー「······ここは何処だ」

 

僕の問いにローブの男は答える。

 

「ここは次元の狭間に作った『工場』です。レーティングゲームに使われる技術を応用してまして。彼女には、製造の手伝いをほんの少ししていただいただけですよ」

 

そうだ······思い出した。彼女は確かレイヴェル・フェニックス。ライザーさんの妹で、フェニックスの長女だ。お父様が、勝手に見合い話取り付けられたって言っていた相手が彼女だった筈。

 

 

まさか、『工場』が製造しているのは『フェニックスの涙』なのではないか? 『禍の団』がテロ活動を始めてから、フェニックスの涙は価格が高騰する一方、裏のルートで捌かれる物が一気に増えた。それに、フェニックス家の者ではないフェニックスの涙なんて物まで出回り始めたと聞く。曹操さんが吐いた情報の中に、そんなものもあった。

 

 

『工場』。フェニックス家のクローンでも生産すれば、フェニックスの涙の量産なんて幾らでも出来る。

 

 

尤も、ここがその『工場』かどうかは、幻術が掛かっているため、嘘か本当か計り兼ねるが······

 

 

ギャスパー「······お前が僕を呼び出した?」

 

「もちろん。と言っても、貴方に用事があるのは私ではないですがね」

 

ならいったい何のために? 昼間に来るなんてリスクが高すぎる。

 

ギャスパー「?······どういうことだ」

 

 

その時、空中に白銀の魔法陣が展開した。この魔法陣はまさか······奴は『禍の団』に与したと言うのか!?

 

「······遅かったではないか。待ちくたびれたぞ······と、要望通り連れてきたようだな···········久しぶりではないか。ギャスパー・ルシフェル」

 

ギャスパー「ロキ······!!」

 

 

 

 

ロキ「ふははははっ!! いい殺気だ。以前にもまして、更に実力が跳ね上がっている。次世代を担う者の一人となれるだろう。『神々の黄昏(ラグナロク)』の際にはこちらに加わって欲しいほどだ。

 

 

 

───────だがここで殺す」

 

 

 

 



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第80話 命の灯火





────これでよかったのだろうか。



────他にも選択肢はあったのか。




────いや、例えどの選択肢を選んでも結果は変わらなかっただろう。





────どう転んでも、自分はこの無意味な自問自答をしただろう。







────そもそも、自分に選択肢など最初から与えられていなかったのだから。





 

 

 

 

 

自分の目の前で浮いている黒いローブの目付きの悪い男──悪神ロキを睨みながら、思考を巡らす。

 

 

こっちは僕一人。先程スコルとハティを呼ぼうとしたが、呼ぼうとした途中で魔法陣が突然弾けた。空間に転移阻害の術式が仕込まれている。

 

解除は出来なくはないだろうが、向こうは北欧の悪神ロキに、顔が隠れるくらい深くフードを被った男。この男は気配から悪魔だと思うが、最上級クラスの実力者であると見て間違いない。

 

それに、金髪の少女──レイヴェル・フェニックスが人質に取られている。親しいわけではないが、顔見知りが拘束されているのはあまり気持ちのいいものではない。

 

 

 

 

ギャスパー「ロキ。何のつもりだ。お父様にフェンリルさんとスコルとハティを奪われたのがそこまで悔しかったか?」

 

 

ロキはお父様のエクスカリバーの力で、フェンリルさんとスコルとハティが支配下から抜けた。ロキは自分の切り札が奪われてさぞかし悔しかっただろう。同情はしないが。

 

 

ロキ「······黙れ。貴様らは黄昏の障害。排除して今度こそ我が黄昏を始めるのだ」

 

ギャスパー「······そうはさせられない」

 

レプリカのダインスレイブを亜空間から取り出しながら言う。ロキには、ある一件の際に、僕がブリューナクを所持していることを知られてしまっている。だが、どれくらい使えるかは分からない筈だ。

 

 

ロキ「······神魔槍を使わないだと? 嘗められたものだ!!」

 

ロキの両手に濃密なオーラが集まっていく。まともに食らうのはまずい。

 

僕は左手に魔力を集中させる。ロキが波動を放つと同時に、僕も魔力弾を放ち、ロキが放った波動にぶつける。ぶつかると爆発し、白い爆風が発生する。

 

 

僕はその隙に、フードを深く被った男の隣で拘束されているレイヴェル・フェニックスを抱えてロキとローブの男から距離を取る。

 

今まで気を失っていたが、今の爆発の音で目が覚めたらしい。

 

 

レイヴェル「······ここは?」

 

ギャスパー「ごめん、ここから動かないでね······後ろにいてくれないと命の保証は出来ない」

 

レイヴェル「貴方は······ギャスパー・ヴラディ?」

 

 

 

ロキ「チッ···今までのは全てブラフか。高々その程度の子供を助けて何になる」

 

ロキは恨めしそうにこちらを睨んでくる。

 

ギャスパー「別に。顔見知りがこんな所にいるのにいい気分がするわけがないだろう」

 

 

100以上の魔法陣を一度に展開し、全てから魔力弾を放つ。流石に、これで傷を負わせるのは無理だろうが、それでいい。幸い、ローブの男は今のところ参戦するつもりはないらしい。

 

まだお互い手の内を見せない腹の探り合いをしているのだ。せめて、出来るだけ時間を稼いでお兄様と黒歌さんが来るまで持ち堪える。

 

 

レイヴェル「あ、あの······」

 

ギャスパー「?」

 

レイヴェル「貴方は何故ここに······? それよりここは······?」

 

レイヴェルが視線を落としながら聞いてくる。何処を見ているかと思えば、僕が手にしているダインスレイブに視線が注がれていた。

 

ああ······このクラスの魔剣を見たことがないのかな?······まぁ、いくらレプリカと言えど、ダインスレイブ並のクラスの魔剣はそうそうある物じゃないのか。

 

ギャスパー「どこまで覚えてる?」

 

ロキに向き直って、訊く。波動の雨を大量の魔力弾で相殺する。爆発は防御の魔法陣で防ぐ。

 

レイヴェル「······魔獣の森で、数人の男性に襲われたところまではっ······!」

 

そこまで言ったところでレイヴェルの体が震え出す。嫌なことを思い出させてしまったらしい。襲われたことを失念していた僕が悪かった。

 

ギャスパー「もう言わなくて大丈夫だよ······君は『禍の団(カオス・ブリゲード)』に捕まってここに連れて来られたんだ。で、彼処にいるのが『禍の団』の構成員の一人で、僕に攻撃を仕掛けているのがテロ組織に下った馬鹿な悪神だよ」

 

上空に数千本の魔力で形成し、電撃を付加した矢を出現させる。

 

ロキ「ここで死ね······!! ギャスパー・ルシフェル!!」

 

ロキが無数の波動弾を放ってくる。

 

ギャスパー「······ここで死ぬつもりはない!! 『天雷星群(サンダラ・インペルディオ)』!!」

 

手を振り下ろす。上空に出現させた電撃を帯びた矢がロキの放った波動弾に降り注いで相殺していく。相殺した矢は電撃を周囲に飛ばして消滅していく。

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······グッ······何だ·······?」

 

レイヴェル「ギャスパー様?」

 

『天雷星群』が全て消滅した時だった。降らせた矢は、ロキの波動弾の数を上回った。ロキにも少なくないダメージを与えた······が、その時突然体から力が抜けて、地面に手を付いた。

 

ロキ「ふははははっ!! どうしたギャスパー・ルシフェル。情けない姿を晒しているぞ?」

 

ロキが高笑いを上げる。それなりにダメージは与えたようだが、そこまで大きなダメージを与えられていない。反対に、僕は力がどんどん抜け続けている。

 

 

 

······まずい。相手は狡猾な神ロキであるというのに、失念していた。最初から僕が目標だと言うのだから、僕を苦しめてくるあらゆる罠を仕込んでくるに決まっている······!!

 

 

ギャスパー「うあぁぁぁっ!!」

 

抑えていた分のオーラに術式破壊の術式を付加したものを解き放って、強引に術を破壊する。

 

ギャスパー「グッ·······はぁ······はぁ······」

 

消耗が酷い······相当持ってかれてたのか······

 

ロキ「······ほう? だがそんなことが何時まで続くかな?」

 

その時、ズゥゥゥン、と低音が響く。そして、ロキの向かって右側の空間が激しく歪み出した。

 

マズイッ······!! ここで何か呼び出されたら終わりだ!!

 

ギャスパー「はぁッ!!」

 

レプリカのダインスレイブをロキに投擲し、レプリカのブリューナクを亜空間から取り出す。

 

だが、投擲したダインスレイブは······空間の歪みから出て来たフェンリルさんとそっくりな魔獣に爪で弾き飛ばされた······!!?

 

ギャスパー「なッ······!!?」

 

ロキ「ふはははは!! それはフェンリルの量産型だ。力はスコルやハティにも劣るし中々量産が効かないが、今の貴様なら十分だ」

 

最悪だ······まさかフェンリルさんの量産型まで投入してくるなんて······!! 『魔の鎖(グレイプニル)』で対処出来るだろうか······?

 

ギャスパー「クッ······『魔の鎖』!!」

 

複数の魔法陣を展開し、鏃の付いた鎖を操って量産型フェンリルを狙う。

 

これでいけるか······!?

 

ロキ「『魔の鎖』だと······!?」

 

量産型フェンリルを『魔の鎖』で捕縛する。ロキはそれを見て狼狽している。これで少しは大丈夫な筈だ。ロキが量産型を改造してなければだが······

 

レイヴェル「ッ!? ギャスパー様!!」

 

 

 

ギャスパー「え?······ごぷっ」

 

その時、口から大量の血が吐き出される。見下ろすと、胸の真ん中から少し右あたりを、黒く光る剣が貫いていた。

 

剣は間もなく引き抜かれる。

 

 

ギャスパー「······何、で···············ディオ、ドラ、さん······」

 

何とか振り向いて、僕に剣を突き刺した人に尋ねる。

 

ディオドラ「すまないギャスパー君······すまないッ······!!」

 

 

 

······ディオドラさんは、涙を零しながら、もう一度同じ所に黒い剣を突き刺した。そしてすぐに引き抜いた。

 

ギャスパー「がはっ······」

 

やばい······あの剣は、僕にとって猛毒か······意識が······

 

 

とうとう立つことさえ出来なくなって、倒れ伏す。

 

量産型フェンリルを捕縛していた『魔の鎖』は解けてしまった。

 

 

 

 

ロキ「ふははははっ。こうもあっさり終わるとは······拍子抜けもいい所だ」

 

ロキが高笑いを上げている。

 

「······さて、この空間はそろそろ崩壊します。我々は離脱しましょう」

 

ローブの男が魔法陣を展開している。おそらく、転移用魔法陣だろう······

 

「では、貴方も行きましょう。ディオドラ・アスタロト」

 

ローブの男がディオドラさんに言う。ディオドラさんは苦しそうな表情を浮かべつつも、頷いた。

 

ロキと量産型フェンリルとローブの男、そしてディオドラさんが魔法陣の光に包まれていく。ディオドラさんは、転移する直前に、持っていた黒い剣を僕の側に放り投げた。

 

剣が地面に落ちるより先に転移用魔法陣は弾けて、魔法陣に包まれた者は全員消えていた。向こうの転移が成功したと言うことだろう。

 

 

 

······ディオドラさんが吐いた去り際に投げた剣を見て気付く。この剣は、僕に三重の意味で特攻作用があるらしい。

 

刺された所は、『闇』で再構築したが、剣から流れた力が問題だ。

 

 

 

剣には、サマエルの毒が塗られており、剣自体も強い『聖』の属性を帯びていた。

 

 

······それに、この剣はどうやら、量産型フェンリルの牙から作られているらしい。神性を帯びている(・・・・・・・・)今の僕には、必殺の効果を発揮する。

 

 

やばい······もう意識が限界だ。せめて、さっきからずっと僕に声を掛け続けているレイヴェルだけでも逃がさないと······

 

ギャスパー「それで逃げて······」

 

レイヴェル「なっ······!?」

 

転移用魔法陣を展開する。意識が朦朧としているが、家かオカ研の部室のどちらかを目的地に指定出来た筈だ·······

 

 

ギャスパー「こぷっ······」

 

レイヴェル「ギャスパー様!! ギャスパー様!!」

 

仙術で、サマエルの毒と『聖』の力を、吐き出して、体から排出する。ああでも、ここから動けないんじゃ、神殺しだけでも死ぬ(・・・・・・・・・)か······

 

 

ああ、意識が薄れていく······

 

走馬灯ってあるんだなぁ······脳裏には、お父様とお母様に引き取られてからのことが鮮明に映し出されている。

 

 

そう言えば、ルーマニアに行って、ツェペシュの暴走を止めて、ヴァレリーを助けなきゃいけないんだ······まだ死ねない······それに、また黒歌さんに寂しい思いをさせられない······結婚するって、約束したのに······

 

 

 

「·······ギャ····パー······」

 

「ギャス······················」

 

「ギャ··························」

 

「···································」

 

 

 

誰かが呼んでる? でも、もう誰の声なのか判別出来ない······これ、この前見た夢みたいだ······でも、もう僕には助けてって言う力も残ってないからなぁ······

 

 

 

 

僕の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ディオドラside

 

 

 

すまないギャスパー君······こうするしか、他になかったんだ······

 

 

彼女を助けるためには······君に剣を突き刺すこと以外に他になかったんだ······すまない。

 

 

君には殺されても文句は言えない。いや、僕はもう八幡様の眷属(家族)でいる資格はない。そうだとすれば、誰かが必ず殺しに来るだろう。

 

 

僕の命はどうでもいい。こうなってしまった以上、僕の命は風前の灯というやつだ。でも、彼女が助かればそれでいい。それだけでいいんだ。僕の『女王(クイーン)』であり、婚約者でもある彼女を······こうして救えるなら······

 

 

 

僕は、自分の体内から、八幡様にいただいた『悪魔(イーヴィル)の駒(・ピース)』を取り出すと、感知されないように術を掛け魔王である兄の元に転送した。

 

 

 

ディオドラsideout

 

 

 







ギャスパーを呼んだのは、上から順に、ヴァーリ、クルル、八幡、黒歌です。


牙ってあまり武器にはされないと思いますが、フェンリルの牙って原作二天龍の禁手(バランス・ブレイカー)の鎧も軽々と破壊出来るんで、余裕でアリだと思いました。

ギャスパーが刺された剣のイメージは、赤い外套着た弓使わない弓兵が、赤い槍持った顔以外全身青タイツと初めて戦った時に、最初に壊されたやつです。




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第81話 この腕(て)の中に···


最近八幡視点全然書いてないな。まぁ、原作だとギャスパーメインの14巻と16巻で、ギャスパー視点に一回もならなかったからいっか。





 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ヴァーリ「·······さて、何があったのか聞かせてもらおう」

 

崩壊する空間から瀕死のギャスパーと一緒にいた少女──レイヴェル・フェニックスを何とか連れ出した俺と黒歌は、冥界で、666(トライヘキサ)に目覚めてからも力を苦痛なく制限出来るようにする術を掛けていた父さんと母さんを呼んだ後、ギャスパーの治療を任せた。

 

 

空間から2人を連れて脱出してから3時間後。治療は終了し、父さんと母さんは崩壊した空間から、敵の足取りを探しに。黒歌はギャスパーに付きっきりで看病している。余った俺は、ギャスパーと一緒にいたレイヴェル・フェニックスから事情を訊くことにした。

 

 

レイヴェル「······はい。──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴェル・ フェニックスから聞いた話を整理すると、彼女は一昨日、冥界のフェニックス領······つまり彼女の父が治める領にある魔獣の森で、修行中の兄──ライザー・フェニックスに会いに行っていたらしい。

 

 

だが、彼女はその兄に会いに行く途中に人間に(・・・)襲われた。

 

 

その際、何らかの術を掛けられた彼女は、魔力を出せなくなり、ほぼ抵抗も出来ずに捕えられた。

 

その後のことは気絶してしまい分からないらしい。目が覚めた時は、ギャスパーが黒いローブを纏った男(僅かに聞こえた声から判断したらしい)と戦っているのが朧気に見えたという。彼女は目が覚めた時は五感が麻痺していたようで、3時間前に回復術式を施してやっと感覚が正常に働きだしたところだ。

 

 

 

 

 

レイヴェル「······あ、あの、ギャスパー様は······」

 

俺に怯えたような目を向けながらレイヴェル・フェニックスは聞いてくる。

 

ふむ。俺がそんなに怖かったのだろうか? 出来るだけ優しく話したつもりなのだが······

 

ヴァーリ「······ギャスパーなら今は治療が済んで安静がしている筈だ。かなり危なかったが何とか間に合ったのでな。現在は黒歌······ああ、俺と一緒にいた着物を着ていた女が看病しているよ」

 

ギャスパーの体からは、僅かだがフェンリルのオーラを感じ取れた。フェンリルはあの時、俺と一緒に探していた筈だが······

 

ギャスパーは昔とある神から神格の一部を引き継いでいる。フェンリルの神殺しは、ギャスパーに対しても特攻作用をもつ。さぞ苦しかっただろう。

 

ギャスパーをそんなことにした奴を······許すことは出来ない。

 

レイヴェル「そうでしたか···········よかったです······!!」

 

ヴァーリ「······? 何故泣く?」

 

見ると、彼女は涙を流していた。

 

レイヴェル「ッ!!·······い、いえ、ただ······こうして自分が助けていただいたのに、ギャスパー様があんなに傷付くことはなかったのに······」

 

ヴァーリ「······それは違うね」

 

レイヴェル「······え?」

 

彼女は聞き返してくる。

 

ヴァーリ「君を助けたいと思ったのは他ならぬギャスパー自身の意思だ。君がどう思うかは勝手だが、そういう考えはやめてもらいたい。ギャスパーがしたくてやったことだ。

傷付くことはなかったのに······まぁそう思う気持ちもよく分かるが、それはあくまでギャスパーが君を見捨てられなかっただけのことだ。気にするなとは言わないが、思い詰められるとギャスパーのしたことが無駄に思えてならない」

 

レイヴェル「······分かりました。大変失礼致しました」

 

 

ギャスパーは下心などそんなものなしで助けたに違いない。敵に対しては父さん以上に冷徹になることもあるが、根の優しい部分が変わることはないだろう。

 

 

後、泣き顔を見られるのは気分のいいものではないと思い、取り敢えずハンカチを渡して、部屋を出ることにした。

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

僕は、またもや真っ暗な何処かにいた。

 

 

·······夢? またこの夢か?

 

 

『······やぁギャスパー』

 

 

突然耳に僕の名前を口にした声が届く。僕と同じ声。ただし、声の主が何処にでもいるように聞こえた。

 

ギャスパー「······どうもバロールさん。珍しいですね。普段はまず出てこないのに」

 

 

振り向くと、僕によく似た姿をした女の子がいた。僕と違う点は、髪が腰にかかるくらい長いことと、瞳が漆黒······例えるなら、オーフィスさんの髪より黒いほどであることくらい。

 

魔神バロール。ケルト神話において、フォモール族を率いた魔神だ。僕がもつ神器(セイクリッド・ギア)の、『停止世(フォービトゥン)界の邪眼(・バロール・ビュー)』はバロールさんの魔眼を模して聖書の神が作ったものであり、生まれる前に僕の魂に同化したバロールさんの意識が呼び寄せた物だ。

 

また、魔神バロールは太陽神ルーの祖父でもある。女の子の姿を取っているのは、バロールさんは闇の具現化そのものであり、本来性別などなく、生前男性の姿でいたため、今度は女性の姿になってみようとの気まぐれだそうだ。

 

 

バロール『まあね。でも、キミはフェンリルの神殺しで殺されかけたろ? ボクとしては気が気じゃなかったよ。ねえルー(・・・・)?』

 

バロールさんが、僕の背後に呼び掛ける。僕が再び振り向くと、そこには、長身で長い金髪を一つに纏めた美形の男性がいた。

 

ギャスパー「こんにちはルーさん」

 

太陽神ルー。ケルト神話において、ダナ親族に加わって魔神バロール率いるフォモール族と戦った。魔神バロールを『神槍ブリューナク』で貫いたのは太陽神ルーとされる。

 

実際は、ルーさんは呆れるくらいのおじいちゃん子だったらしく、バロールさんと知らずに投石機に変形させたブリューナクでバロールさんを討ったらしい。

 

現在は、バロールさんの意識が紛れている僕に、バロールさんと会いたいがために、神格の一部を意識の一部と一緒に切り離して僕に埋め込むくらいだ。

 

お願いだから僕の夢の中で騒がないで欲しい。

 

 

ルー『やぁギャスパー、こんにちは。それと、現実での時間だともう夜だよ』

 

僕と小猫ちゃんが『禍の団(カオス・ブリゲード)』の魔法使いと遭遇したのがだいたい午後1時。今の時期、日が落ちるのが5時半とかだから少なくとも4時間は寝ていたのか·······

 

ギャスパー「·······そうなんですか」

 

でも、少なくとも僕は生きてるってことだ。神殺しのオーラを流し込まれて本当に死を覚悟した。

 

 

 

バロール『······にしても、キミはまた黒歌ちゃんを泣かせたみたいだね』

 

ギャスパー「······ッ!!」

 

唐突にバロールさんは僕の核心を突くようなことを言った。

 

ギャスパー「返す言葉もないです······」

 

言葉が尻すぼみになっていく。

 

ルー『うーん···ギャスパーは何処か焦ってるように見えるなぁ。黒歌ちゃんを守りたいから強くなりたいっていうのは分かるけど、もう少し休んだ方がいいよ。最近のギャスパーは強さってものに執着しすぎてる』

 

ギャスパー「·················」

 

何も言い返せない。図星だからだ。

 

バロール『まぁこれからルーマニア行くんだろうからあんまりとやかく言うつもりはないけどさ。このままだとキミは何度も黒歌ちゃんを泣かせることになるからね』

 

ルー『そうならないようにボクとおじいちゃんがいるんだけどね。頭の片隅でいいから常に置いておきなよ』

 

ギャスパー「······分かりました」

 

分かってるんだ······このままだといつか限界来ることぐらい。でも、もっと強くならないと黒歌さんを守れない。

 

 

 

バロール『······さて、ならもうキミは戻りな。可愛くて愛しくて抱き締めたくてたまらない奥さんが待ってるよ』

 

ニヤニヤしながらバロールさんが言ってくる。ウッ···恥ずかしい······

ギャスパー「わっ、分かりました······////」

ルー『若いね~』

 

口笛吹かないでルーさん······!!

 

ギャスパー「じゃ、じゃあ戻ります······ありがとうございました」

 

僕の夢はそこで終わった。

 

 

······しばらく夢は見たくないかな。

 

 

 

 

 

 

ルー『いや〜若いな〜』

 

バロール『ルー、いつまで言ってるの?』

 

ルー『いいじゃんかじいちゃん。子孫(・・)の成長を見てるのは楽しいでしょ。だからじいちゃんだって力貸してるんでしょ?』

 

バロール『ん〜、まぁそうだね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······んぅ」

 

目が覚めた。刺された所は心臓から外れていたため、すぐに闇で欠損部分を作り直したためもう傷はない。けど凄い体が怠い。神殺しか·········神格に大きな影響が出なくてよかったのかな。

 

ギャスパー「黒歌さん······」

 

黒歌さんは僕が寝ているベッドに突っ伏すように眠っている。

 

ずっと付いていてくれたんだ······泣いたような後がある。バロールさん達が言ってたように、やっぱり泣かせたのか······僕は何度黒歌さんに心配させたのだろうか。

 

ギャスパー「······ごめんね、黒歌さん······また僕のせいで泣かせて······」

 

そっと髪を梳くように黒歌さんの頭を撫でる。手触りがよくて、癖になってて偶に無意識でやってたりもする。

 

 

時計をふと確認したら、時刻は夜の9時前。8時間近く眠っていたらしい。

 

黒歌さんは8時間ずっと僕の看病をしてたのかな······

 

黒歌「······んにゃ?」

 

ギャスパー「あっ·······」

起きてしまった。寝顔が可愛かったもう少し見てたかったけど、撫ですぎたかな。気付いたら、20分近く撫でてるし。

 

黒歌「······ギャスパー?」

 

ギャスパー「あ······おはようございます?」

 

······何で僕挨拶したの?

 

 

黒歌「ギャスパー······!! 良かった······!!」

 

黒歌さんが抱き着いてくる。涙ぐみながら良かったと言った。

 

ギャスパー「ごめんなさい黒歌さん······僕また泣かせたみたいで」

 

黒歌「ホントにゃ!! 死んじゃうかも、ってどれだけ心配したと思ってるの!?」

 

ギャスパー「······ごめんなさい」

 

僕はどうしようもないなぁ······周りに心配掛けてばっかで······

 

黒歌「······私を置いてかないで······」

 

黒歌さんが言った一言にハッとする。

 

 

そうだった。黒歌さんは親に先立たれていたんだ。それでも、残った白音を守るためになりたくもない転生悪魔になって······何時もは小猫ちゃんに対してお姉さんとして振る舞っているけど、本当は誰よりも寂しがり屋で、甘えたいのを我慢して。

 

 

ギャスパー「······ごめん黒歌さん。もう置いていかないから。絶対に離さないから」

 

黒歌さんを抱き締め返す。もうこの人に寂しい思いはさせない。僕が隣にいる。

 

 

 

黒歌「······絶対?」

 

ギャスパー「·······うん。絶対に」

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルル「······あら、あの子も言うようになったわね」

 

八幡「これなら、もうギャスパーは大丈夫だろうな。俺達が何かする必要はなさそうだな」

 

 

ヴァーリ(············何故俺まで?)

 

 

 

 






追加キャラ説明


・バロール
ケルト神話の魔神。『魔眼のバロール』と称されダナ親族に恐れられた。バロールは自身を太陽神ルーにブリューナクで貫かれたとされる。

本作においては、バロールの意識は生まれる前のギャスパーの魂と同化しており、ギャスパーは最大限とはいかないまでも、バロールの闇を司る能力を使いこなすことが出来る。

尚、ギャスパーはバロールやルーの直系の子孫の一人。バロールの闇やブリューナクを使えることはここに起因するところが大きい。

ギャスパーと同化したバロールは、神格を失っていたが、ギャスパーがルーから神格の一部を埋め込まれた(同意の上)時に、神格が一部復活した。



・ルー
ケルト神話における太陽神。『長腕のルー』と称される。元々のブリューナクの持ち主であり、魔神バロールを討ち取ったとされる。

本作では、大のおじいちゃん子であったが、バロールがフォモール族を率いていたとは知らずにダナ親族に加わった。ブリューナクでバロールを貫いてから初めて彼は祖父を殺したことに気が付いた。


ブリューナクに選ばれたギャスパーを見て、彼に正式にブリューナクを譲る。序に、その時に自分の神格の一部と意識の一部を切り離してギャスパーに埋め込むという荒業をやってのけた。

それによって、ギャスパーは太陽神の力を一部扱えるようにもなった。このため、ギャスパーはダナ親族からは柱神としてスカウトを受けたことがある。

現実にいる際は神としての振る舞いを弁えているが、ギャスパーの夢の中でバロールと話している時はノリが軽い。とにかく軽い。ギャスパーの安眠を妨げるくらいには。
一つ言っておくと、バロールとルー(ギャスパーの中にいる方)は、八幡の精神空間にいるルシフェルと違い、如何なる方法でもギャスパー以外と接触することは出来ない。

因みに、ギャスパーには何重にも術を掛けられており、神格やブリューナクを外から感知出来ないようになっている(一部例外あり)。





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第82話 覚悟の夜

ここ最近、中々進まないな······でも終わらすまでは何とか続けます。




 

 

ギャスパーside

 

 

 

僕はお父様が治める『サングィネム』の屋敷の地下にある、宝物庫の最奥部にいた。

 

ここには基本的に、ティアさんが所有していた物やお父様方が集めたアイテムの中で、伝説に名が残るような物が保管されている。

 

僕が封印されていた時は、ブリューナクもここに保管されていた。

 

 

 

ギャスパー「······久しぶりだね」

 

目の前にある、『魔の鎖(グレイプニル)』を巻き付けられて力を抑えられている純白の槍にそっと触れた。

 

だが、目の前の槍は僕が触れても何の反応も示さない。その予兆すらない。

 

 

ここにある物で、所有者が決まっていない、或いは所有者を見放したなどの物には『魔の鎖』を巻き付けて力を抑えている。

 

目の前に鎮座する純白の槍は、僕が封印された時に僕を完全に見放したらしい。

ブリューナク以上に所有者を選ぶこの槍なら、まぁ当然とも言えるだろう。

 

ギャスパー「······はぁ。やっぱりダメか······」

そもそも、本来の所有者は僕ではない。暫定的に、仕方なく、僕に使われることを承諾した。と言った方が正しいとすら感じる時もある。

 

 

諦めて手を離し、入口で待っていた黒歌さんと合流すると、そのまま人間界に戻った。

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

エルメンヒルデ・カルンスタインが訪れてから5日。俺はオカ研の部室にいた。これからルーマニアに向かうからだ。行くことに関しては、魔法陣による転移一回で出来る。

 

俺とクルルは、ルーマニアに着くと先にカーミラ側に向かう。ギャスパーが取り付けた交渉を、改めてカーミラに確約させるためだ。俺達以外はツェペシュに向かうことになっている。

 

まぁギャスパーには黒歌が付いて行くし、今回はアザゼルを初めとするグレモリー眷属がアザゼルの護衛としてルーマニアに行くから、そうそう大事になることはないだろう。

 

······向こうにいるであろう『クリフォト』も、突然仕掛けたりはしないだろう。

ギャスパーのことを考えると安心は出来ないが、念の為に、黒歌を除いたヴァーリチームにクロウ、ジン、シフラを加えた混成チームをバックアップ要員として待機させている。クロウがいれば、何らかの事態になっても対処は出来る筈だ。

 

それでもどうにもならない場合は、俺達全員でかかるしかない。

 

 

もう一つ、重大な問題がある。3日前、俺の眷属の一人であるディオドラと、ディオドラの『女王(クイーン)』のフェリア・ダンタリオンが行方不明になり、かと思えばディオドラがギャスパーを襲ったロキと行動していた。

 

また、ギャスパーは神殺しの影響で全開ではないものの戦闘なら全く問題ないくらいには回復した。それに、ギャスパーが襲われた時一緒にいたレイヴェル・フェニックスは、ヴァーリがレイヴェルの兄であるライザーに引き渡した。俺やギャスパーでないのは、その時ヴァーリしか手が空いていなかったからだが。

 

そちらに関しては、ヴァーリを通して、一人で行動させないように言ってあるから大丈夫だろう。元々、狙いは俺達だしな。下手に俺達と行動していれば更なる危険が舞い込む。それはオカ研も同じなのだが······アザゼルが、聖杯に関して現地で調べたいことがあるらしい。つまり仕方なく、だ。

 

 

 

俺は、全員が魔法陣の上に立ったことを確認して魔法陣を操作する。確認出来ると、魔法陣を操作する。魔法陣は光を強めていき、弾けた。

 

 

 

 

 

転移が終了すると俺達は石造りのドーム状の建物にいた。吸血鬼側が指定した座標に転移して(飛んで)きたが、それなりに辺境な所に来たらしい。俺が最後に来た時は、城下町は既に現代ヨーロッパの建築様式だったからな。

 

エルメンヒルデ「······皆様、よくぞお越しになられました。

───手前どもは、ギャスパー・ヴラディだけでも宜しかったのですが」

 

俺達全員を見たあと、ギャスパーを見てから、再び俺達を、邪魔そうな目で見てくる。やっぱ吸血鬼は人をイライラさせるのは天才的だな。

 

エルメンヒルデ「到着そうそうでございますが、車まで案内致します」

 

俺達は建物を出る。外は時差の関係から深夜であり、雪が降っていた。俺達は防寒着を着てはいるが、かなり突き刺さるような寒さが襲ってくる。

 

ルーマニアの山奥にあることもあって、この時期には吸血鬼の領地は既に氷点下が当たり前となり、純血以外の吸血鬼ならば防寒着は必須だ。

 

現に、ギャスパーは防寒着を着込んでいるし吐く息も白いが、カルンスタインは防寒着を着ていないし、吐く息は白くない。

 

ギャスパー「は~······寒っ」

 

手袋はしているが、それでも両手が冷えるのでポケットに手を突っ込んでいだ。

尚、ここに来るまで普通に人の姿だったくせに、外がこれだと見るや否や、黒歌は猫の姿になってしれっとギャスパーのコートの胸元に潜り込んだ。お前その姿でいれば防寒着いらねえだろ······

 

 

待機してるヴァーリやクロウ達には後で何か温かい物持ってってやるか······そういや、城下町に既に潜っていると聞いたが何処にいるんだ?

 

 

アーシア「わぁ······」

 

そこで、シスター・アーシアが目の前の光景に感嘆の声を上げた。

 

 

眼下に広がる城下町は中央の城を囲むように建造物が立ち並んでいる。城下町は周囲が雪山なだけあって、余計映えるらしい。近代的な建造物も散見されており、家畜家畜言ってる割に、しっかり人間の文化を取り込んでいることが分かる。

 

因みに、俺達が出て来たのは監視用の塔であり、魔法陣はそこに用意されていたものだった。ドーム状の空間はそこの1階のものらしい。

 

 

俺達は塔を抜けると用意されていた2台のワゴン車に乗り込む。運転は俺とアザゼルですることになった。言っておくが、ちゃんと免許は取っている。人間界で暮らすなら当たり前だ。

 

こちらに乗ったのは、運転手の俺、クルル、ギャスパー、黒歌、塔城、ロスヴァイセ、カルンスタインで、他はアザゼル運転のもう1台になった。

 

ただ、猫の状態の黒歌はギャスパーの膝の上に乗っかっていればいいので、車内のスペースに余裕が出来た。

 

 

 

 

俺達は車内の中で、カルンスタインからの説明を受けていた。

 

ギャスパー「······ヴァレリーが···ツェペシュのトップ······!?」

 

カルンスタインの話によると、今から1ヶ月ほど前に、ツェペシュのトップがヴァレリー・ツェペシュにすげ変わったらしい。

 

八幡「······お前らは『禍の団(カオス・ブリゲード)』について把握してるのか?」

 

カルンスタインに尋ねる。せめて、何処か別の勢力と交流があればこんな事態にはならないと思うんだが······

 

エルメンヒルデ「······最近になって、ですが。やっと存在が認知されだしたところです。民衆の中には知らない者もいるでしょう」

 

カルンスタインは平然として言う。相変わらず自分達以外への興味が欠片もねえ奴らだな。そんなんだから簡単に侵入されるんだろうが······

 

周囲に張っている霧の結界は何なんだ······ハリボテか? それとも、俺が勘違いしてるだけでただの自然現象なのか?

 

ロスヴァイセ「男性真相を尊ぶツェペシュのトップがハーフの女性ですか······かなりのことが起こっているのは間違いないようですね」

 

ロスヴァイセが言う。

 

クルル「······カーミラは何て言ってるのかしら?」

 

クルルが窓に頬杖つきながら訊く。クルルから見ても、ギャスパーを利用したいという魂胆が見え見えで、気持ちいいわけがない。それでも、ギャスパーが受け入れたから無駄に口出しするつもりは俺達にはないが······

 

 

エルメンヒルデ「カーミラ様は、止められるのならそれに越したことはない、と。それに、上手くすれば救援を要請してきたツェペシュの王に貸しを作れるだろう、と仰られておりました」

 

何だそりゃ······

 

八幡「本当に止める気あんのか······?」

 

思ったより面倒だな。割とギャスパーに投げてやがる······溜息止まらなくなりそう···

 

 

簡単に言えば、『禍の団』が裏からツェペシュ側の一部、特に反政府グループを誘導して政権を乗っ取った。逃げ出した政権側はカーミラ側に頼らざるを得ず、カーミラはこの状況を打開するための一手に、元ヴラディ家のギャスパーに白羽の矢を立てたのだ。

 

勢力内の内輪揉めに一々外部の者を使うな······傲慢な態度でいるくせに、こんな状況になるとプライドはないのか。

 

こう悪い状況が続くとな······大規模な戦闘は免れないとは思っていたが、下手したらギャスパーをルーマニアから脱出させる必要があるかもしれん。

 

 

一番の問題は······リゼヴィム(あのゴミ屑)が何処まで根を張っているかだな······出来れば殺しておきたいが、あのゴミ屑のことだ。偽名を使って、既にこの国にいるだろう。

 

八幡「······ギャスパー。最悪の場合になったら、お前は黒歌とヴァレリーを連れてルーマニアから出ろ」

 

最悪の場合······全滅になる可能性も視野に入れなければならない。そうなった場合は、せめてギャスパーとヴァレリー······と黒歌ぐらいは逃がしたい。クロウにも、最悪の場合はヴァーリを縛り上げてでも離脱してもらうように頼んでいるからな。

 

だから先に言っておく。分かっていても免れない状況はでてくることもある。そうならないように力をつけてきたつもりだが······

 

本当のことを言えば、俺が自分の命を賭ける覚悟を決めるために言った。出来ればクルルがギャスパー達を連れていってくれるのが一番安心なんだが······クルルはここまでお見通しだろうな。俺一人が残ると言っても絶対に聞かないだろうな。

 

当のクルルは何も言わないが分かっているからこそ何も言わないのだろう。

 

ギャスパー「ッ!!······でも、これは僕が引き受けたことです」

 

八幡「でもだ。お前の目的は生きてヴァレリーを連れて帰ることだ。ならその想定はしとけよ」

 

ギャスパー「······分かりました」

 

ギャスパーだってそのくらいの覚悟があるからここにいる。そうでなければ、狙われているギャスパーを態々敵地に連れて来るようなことはしない。ギャスパーには生きて帰る覚悟をもっていてもらわなくては困る。

 

 

 

それからも暫く車を走らせていると、吸血鬼の領土の中心にある、ツェペシュとカーミラの領土を繋ぐ巨大な橋が見えてくる。俺は車を路肩に停めると、車外に出て伸びをする。3時間ぐらい走っていたが、この時間車を走らせるのは割と久々だったな。

 

車からはクルルとカルンスタインも降りる。俺達3人は一度カーミラの下に赴く予定になっている。

 

この後は、カーミラ側からの使者が車を寄越してくるので、それに乗ってカーミラの城に向かう。

 

アザゼルが運転する車が通りすぎるのを横目で見て、ギャスパーと黒歌に声を掛ける。

 

八幡「······じゃあ俺達はカーミラ側に行ってくる。先にツェペシュに向かってくれ」

 

クルル「黒歌、ギャスパーのこと頼んだわよ」

 

黒歌「了解にゃ。ま、ギャスパーから離れるつもりは一切ないけど」

 

クルル「······そう。なら良かったわ」

 

 

クルルが言った直後に、別の車が停めている車の後ろに停る。

 

エルメンヒルデ「······来たようですわ。それではこちらに」

 

カルンスタインに後ろに停った車に案内される。こちらは普通のワゴン車ではなく、黒塗りの車だった。おそらく、要人警護車両かと思われる。俺が向こうからどう思われてようがどうでもいいが。

 

 

運転席にロスヴァイセが座った車が発進したのを見送って、俺達も車に乗った。

 

 

 

 

······その際に、黒歌が運転席に座らなくて良かったと密かに思ったことは胸の内に留めておこう。黒歌は運転席に座ると、やたらはしゃぐからな······

 

 

 



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第83話 遅すぎた救済

 

 

 

カーミラが用意した車に乗って走ること約30分。俺とクルルは、カーミラ側の領土の中心にある白塗りの城壁の城まで来ていた。

 

カルンスタイン「······それでは案内致します。こちらへ」

 

先頭を歩くカルンスタインの後ろを付いて行く。すれ違う吸血鬼共は、カルンスタインの後ろを歩く俺とクルルに奇異の視線を向けてくる。

 

はぁ······昔からこの手の視線はしょっちゅう向けられていたが、気分がいいもんじゃないな。

 

 

数分歩いていくと、天井まで20メートルはあろうかという大広間に出た。窓は一つもなく、壁には(ほのか)に光る電灯が等間隔で設置されている。

 

そして······玉座であろう所に、中世のようなドレスを身に纏った、銀髪の女性が肘掛けに両手を掛け俺達を見下ろしている。

 

女王カーミラ······女性真相を重んじるカーミラ側のトップであり、カーミラという吸血鬼一族の始祖でもある。過去にエリザベート・バートリーとも呼ばれ、ハンガリー王国とオスマン帝国の戦争に関わっていたとも噂されていた。

 

また、エリザベートの名前から皮肉を込めて、『血の(エル)伯爵夫人(ジェーベト)』という揶揄とも言える二つ名があったりする。

 

 

因みに、ツェペシュの始祖は隠居しておりツェペシュ側でも極々一部しか居場所は知らないらしい。

 

 

カルンスタイン「······カーミラ様。お連れ致しました」

 

カルンスタインは膝を付き、頭を下げカーミラに話し掛ける。

 

カーミラ「······ご苦労。下がりなさい」

 

エルメンヒルデ「はっ。失礼します」

 

カーミラが一声掛けると、カルンスタインは一礼して出て行った。

 

 

カーミラ「······良くぞ来てくれました」

 

カーミラはその場から動かずに言う。

 

八幡「······ああ。それで、こちらからの···ギャスパーからの交渉条件は聞いているな?」

 

目を細めながら言う。純血の吸血鬼然としており、肌の色は生物の肌の色には見えない。

そんなことを言うなら、吸血鬼以外にも生物とは思えないような外見の生き物はいくらでもいるのだが、そう感じてしまうのは人の姿だからだろうか。

 

カーミラ「当然です。ヴァレリー・ツェペシュの安全を確保した状態で保護出来るようにする、というものでよろしいですね?」

 

八幡「ああ」

 

要は、こいつらにツェペシュ側に手を回せということだ。

 

カーミラ「分かりました。こちらからもツェペシュ側に手を回してみましょう。ですが、ツェペシュ側が応じるかどうかは分かりませんがよろしいですね?」

 

八幡「構わん。それでいい。ギャスパーからもそう伝えられている」

 

カーミラ「分かりました。交渉は成立です」

 

噂では、感情の起伏が激しい人物だと聞いていたがそこらの吸血鬼よりはよっぽど話の通じる吸血鬼だったな。

 

その時、カーミラはクルルを見て言った。

 

カーミラ「······クルル・ツェペシ、『ティリネ』という人物をご存知ですか?」

 

ティリネ······? 誰だ? カーミラの縁者か?

 

クルル「······ティリネ? 知らないわね。何処の情報かしら?」

 

カーミラ「知らないのなら構いません。先日こちらに接触を図ってきた者がそう名乗っただけにすぎませんから」

 

クルル「······そう?」

 

首を傾げながらクルルが言う。可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

その後、多少の事実確認の後、俺とクルルはカーミラの居城を後にした。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

お父様とお母様がカーミラの城に向かっている頃。僕達は僕達で、ツェペシュの城に向かっていた。

 

車での移動を終え、カーミラ側が用意したツェペシュ側の城下町に繋がる山肌に設置されているゴンドラに乗っている。

 

黒歌さんは未だに僕のコートの胸元に潜り込んでいるが、猫の状態の黒歌さんが胸元に潜り込んでいると、凄く暖かいので悪い気は一切しない。

 

ゴンドラは雪山を昇っている。悪天候だが城下町は辛うじて見える。今のところ、何かが起こりそうな気配は感じない。これで吸血鬼の領土でなければ平和そのものなのだが。

 

 

 

 

ルーマニアか······改めて思うけど、ここには二度と来ることはないと薄々感じていた。いや······正確には来たくなかった。

 

ここは僕がお父様やお母様、お姉様にお兄様にカルナ······今の家族に会うまでに僕が過ごした町であり、思い出したくもない記憶の宝庫だ。

 

 

 

······あの頃は、城の地下に幽閉されていて、ヴァレリーと2人だけで生きていた。そのまま、日の目を見ることもなく朽ちていくんだと思っていた。

 

 

ある時、完全に用無しと判断された僕は、着の身着のまま、ボロボロの薄い手術着のような服のままで、真冬の山······それも吸血鬼領の外に、お金も持たずに放り出された。

 

 

あの時のことは今でも忘れられない。体が寒さで動かない中、いつ野犬に襲われるかも分からず、木陰でガタガタ震えていた。

 

その時、誰かの暖かい手が僕の頬に触れて、僕を抱き締めたことは覚えている。その時はそのまま気を失ってしまったため、顔を見ていなかったが、今思い出せる限りだと、多分お母様だ。

 

その後気が付いたらツェペシュの城下町の病院で寝ており、僕はヴラディ家の邸宅に送還され、そこでお父様とお母様に出会った。あの頃は意味も分からず周りに強く当たっていたため、お父様とお母様、お兄様には相当な迷惑をかけてしまっていた。

しかも、その頃は碌に面識もなかったお姉様にまで心配をかけさせてしまっていた。

 

そして、今もこうして僕のことに巻き込んでいる。でも、きっとどれだけ反対しても付いてきただろう。皆、僕を家族だと言ってくれたから。

 

だから、せめて無事にヴァレリーを連れて帰ることで報いよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴンドラに揺られること30分ほど。山を越えて、ツェペシュの城下町の近郊にあるゴンドラ乗り場で降りる。

 

ゴンドラから降りると、迎えと思しき吸血鬼が数名現れる。アザゼル先生に確認を取った後、全員を見て言う。

 

「お待ちしておりました、アザゼル総督にグレモリー眷属の皆様。話は伺っております。我らはツェペシュ派の者です。こちらへどうぞ。ツェペシュ本城へお連れ致します」

 

それにしても、クーデターが起きた割に町からは争いの気配を感じ取れない。余程周到な準備をしていたのだろうか······?

 

乗り場で待っていた吸血鬼に連れられていくと、そこには豪華な宝飾が施された馬車が待機していた。城下町ではそれなりに自動車が走っていたが······貴族は未だに馬車を使っているのだろうか。

 

 

僕達が乗り込んだ馬車は町を通過し、ツェペシュ本城の正門を通り抜けて入城する。

 

ツェペシュの城は遠目で見たカーミラの白塗りの城と違い、石造りの古めかしい趣がある。吸血鬼独特のオーラが隠されもせずに城から漏れ出している。

 

 

僕達は馬車を下車するとそのまま城内に通され、大きな扉の前まで連れて来られた。扉には魔物を象ったレリーフが刻まれている。

 

「では、王への謁見を────」

 

僕達をここまで連れて来た吸血鬼が、両開きの扉を、重々しい音と共に開けていく。

 

アザゼル先生が先に進み、次に部長が、僕達はその後に続く。広大な室内には赤い絨毯が敷かれており、扉のレリーフに象られたものと同じデザインの魔物の刺繍が金色に輝いている。

 

 

玉座と思しき場所には、忘れもしない僕のここでの唯一の家族のヴァレリーが座っていた。その隣には、若い男性が列席している。その2人以外にも数人いるが、ヴァレリー以外は全員純血であることが見て取れる。

 

そこで、ヴァレリーが口を開いた。

 

ヴァレリー「······ごきげんよう皆様。ヴァレリー・ツェペシュと申します」

 

ヴァレリーは微笑みを浮かべているが、その微笑みは儚さが色濃く映し出されている。

 

······ヴァレリーが壊れる寸前(・・・・・)だという証だ。

 

ヴァレリー「えぇと、一応ツェペシュの現当主を務めることになりました。以後、お見知り置きを」

 

軽やかな声音をしている反面······光を失った赤い瞳は何も映していないような錯覚にすら陥る。

 

ヴァレリー「ギャスパー、大きくなったのね。とても会いたかったわ」

 

ヴァレリーは僕に話し掛けて来る。僕に向かって歩いてくるが、ヴァレリーの側近と思しき者達は止めようとしていなかった。

 

ギャスパー「······そうだね。僕も会いたかった」

 

笑顔を作ってヴァレリーに向ける。

 

ヴァレリーは僕の目の前まで歩いて来ると、そこで僕を抱き締めた。僕はなされるがままになる。黒歌さんも察してか、何も言わない。

 

ヴァレリー「元気そうで良かったわ」

 

ギャスパー「僕は元気だよ。ヴァレリーも······」

 

その後は口を動かせなかった。ヴァレリーが余りにも辛そうに見えた。

 

······でも、本人はきっと気付いていない。人はそれを当たり前と受け入れると、そうだと思い込み疑わなくなる。

 

ヴァレリー「ええ。そのことは報告を受けていたの。あちらでは大変お世話になっているそうね」

 

ギャスパー「うん······お父様もお母様もお兄様も、皆僕を家族だって受け入れてくれたんだ······それに、友達も出来た」

 

だからヴァレリーも、とは言えない。喉につかえて言葉に出来ない。ヴァレリーが、ヒビだらけで今にも壊れそうなガラス細工にすら思える。

 

ヴァレリー「それは良かったわ······あら?」

 

その時、ヴァレリーがふとあらぬ方向に顔を向けた。

 

ヴァレリー「───────(そうですわね。ギャスパー)───────(が幸せだと感じているから)───(楽しくて、)──────────(私も自然に笑えることが出来ますの)

 

そこで僕の息が詰まる。

 

ヴァレリーが向いた方向には、微かにだが黒い靄が浮かんでいた。

 

 

 

まさかヴァレリー·······ここまで人格を汚染されていたの······!?

 

 

 

その時、ふと靄が動いたような気がした。目が合って、お前にも見えているのか、そう聞かれている気がした。

 

僕はバロールさんとルーさんの神格のお陰で、この世の者ではない者の影響を受けずにすむ。

 

 

幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』と呼ばれるヴァレリーが宿す神器(セイクリッド・ギア)は、生命の理に触れることの出来る物だ。

一見すれば不治の病を治したり死者蘇生すら行える代物だが、命の情報量というものは果てしないほどに膨大だ。聖杯を使う度に、生者や死者など、様々な者達の精神や概念を取り込んでしまう。それも、自身の心や魂に。

 

ヴァレリーは既に相当な回数聖杯を使っているのだ。無数の他者の意識が心に流れ込んで、侵食されていく······ヴァレリーはもう限界寸前まで来ているのだ。

 

早く聖杯とヴァレリーに適切な処置を施さなければ、ヴァレリーの精神は崩壊し、やがて魂もこの世の者ではない何かに破壊されてしまう。

 

 

 

 

僕はバロールさんとルーさんの神格のお陰で、この世の者ではない者の影響を受けずにすむ。そのため、ヴァレリーが何と言っているのか理解出来てしまう。

 

でも、まともに干渉したらどうなるか分からない、とルーマニアに来る前に夢の中でバロールさんとルーさんに忠告された。だから、気付かなかったふりをして、ヴァレリーに視線を戻した。

 

 

おそらく僕以外の人は全く理解出来ないだろう。ヴァレリーが発している言語は普通だったら絶対に理解出来ないのだから。

 

アザゼル先生が、教会出身のゼノヴィア先輩とアーシア先輩に視線を外させるように言っていた。他の人は怪訝な視線で見つめている。

 

 

そこで、ヴァレリーの座っていた玉座の隣にいた男性がパンパンと手を鳴らす。そこでやっとヴァレリーはハッと気付いたような表情になる。

 

「ヴァレリー、その方々とばかり話していては失礼ですよ? お客様の前なのですからきちんと王として振る舞わなければなりません」

 

ヴァレリーは同意して相槌を打つと、笑顔で続けた。

 

ヴァレリー「ごめんなさいね、皆さん。でも、私が女王であれば、平和な吸血鬼の社会を作れるそうなの。楽しみだわ。私やギャスパーが虐められることもなくなるのよ?」

 

ヴァレリーは何も映さない瞳で僕を見て、更に続けた。

 

そこで僕はやっと気付いた。遅すぎた。来るのが遅すぎたんだ。壊れそうなんかじゃない······ヴァレリーは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ヴァレリーはもう──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────壊されていたんだ。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 




カーミラについては、FGOのカーミラ(再臨第三段階とか?)でも軽く思い浮かべていたたければ。全く同じ、というわけではありませんが。



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第84話 想いとオモイ、愛とサツイ、イカリと悲しみ

今回は久しぶりにアザゼル視点で書いて見ました。おそらく、暫くイッセー視点で書くことはないです。原作のグレモリー眷属ファンとイリナファンの方々ごめんなさい。これからどんどん空気になって行きます。




 

 

 

 

 

アザゼルside

 

 

 

ギャスパー「ヴァレリー······」

 

クーデターを起こした一部の吸血鬼によって新たなツェペシュの王となったヴァレリー・ツェペシュに抱き着かれた直後、ギャスパーは硬直して動かなくなった。

 

······見たところ、ヴァレリー・ツェペシュが『幽世(セフィロト)の聖杯(・グラール)』にかなり精神を汚染されていることまでは察しが着いたのだが、ギャスパーはいったい何があったんだ?

 

ギャスパー「······ごめんね······」

 

ヴァレリー「? ギャスパー、どうかしたのかしら?」

 

ギャスパーがボソッと呟いたことの意味を理解出来なかったのか、女王ヴァレリーはギャスパーに聞き返した。

 

ギャスパー「······ううん、何でもないよ」

 

ギャスパーは女王に笑顔で返していたが、普段の笑顔に比べると僅かにぎこちなく感じる。

 

だが、ギャスパーの言葉の意を俺やリアス達も理解出来ていないため、何故ギャスパーが謝ったのかは分からない。白音の姉であり、八幡の眷属の一人でもある黒歌だけは理解出来ていたようだが······

 

俺は女王の側にいた若い男に問いてみることにした。

 

アザゼル「······よくもまぁここまで仕込んだもんだな。それを堂々と俺達に見せるとは趣味が悪い。この娘を使って何をする気だ? 今回の件、お前さんが首謀者で間違いないんだろう?」

 

男は吸血鬼特有の、人形のように端正な顔立ちを醜く歪ませた。今ので分かったが、こいつは危険だ。まるで、悪意というものが服着て歩いているとでもいうかのような存在だ。

 

「首謀者、と言えばそうなのでしょう。おっと、ご挨拶がまだでしたね。私はツェペシュ王家、王位継承第5位のマリウス・ツェペシュと申します。暫定政権の宰相兼、神器(セイクリッド・ギア)研究機関最高顧問を任されております。まぁ本職は後者ですが······叔父上方に頼まれまして。そちらともよい関係を築きたいものです」

 

ツェペシュだと······!? この男、王族だったのか!? だが、それならハーフである女王よりこのマリウスという男が政権を継いだ方が自然な流れてある筈だが······この国、いったい何が起きている?

 

マリウス「あ、私実は系譜的にはヴァレリーの異母兄でして。ツェペシュの将来を憂いた可愛い妹が、王としてどう吸血鬼の世界を変えていくのか見守りたいのです」

 

何だと···!? ツェペシュと名乗ったから王族であるとは思ったが、女王の兄だと!?

 

 

しかも、奴の発言は見え透いた嘘で塗り固められていた。女王の異母兄であることは事実なのかもしれないが、女王に関する発言は全て嘘だ。口から出て来たものが全て悪意に感じたほどだ。

 

ギャスパーはマリウスを強く睨んでいた。おそらく、マリウスの悪意を一番感じていたのはギャスパーなのだろう。女王には見えないように握り締めていた拳からは、血が滴っていた。

 

 

そこでマリウスが手を鳴らした。

 

マリウス「今日はここまでにしましょう。皆様もしばしご滞在下さい。そうそう、ヴラディ家の現当主の方もこの城の地下室にて滞在しております。一度お会いになってみてもよろしいかと」

 

ヴラディ······そう言えば、ギャスパーはヴラディ姓を名乗っていた。ルシフェルを名乗らなかったのは八幡の指示か?

 

マリウスの一言で謁見は終わりを迎え、俺達は退室を余儀なくすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

王の間の扉が完全にしまり、ガチャンという音を耳にした俺達の耳に、破砕音が届いた。

 

ギャスパー「はぁ······はぁ······」

 

黒歌「ちょっとギャスパー!?」

 

俺達がその音に慌てて振り返ると、ギャスパーの拳が壁を破砕していた。

 

ギャスパー「······あぁ、ごめん黒歌さん······少し感情が抑えられなくなってきた」

 

黒歌「いいにゃ。私も気持ちは同じだし」

 

俺達は声を掛けようとしたが、ギャスパーのもつ雰囲気に気圧されて声を出すことが出来なかった。黒歌も苦々しい表情を浮かべながらも、ギャスパーを宥めていた。

 

堕天使総督の俺が、雰囲気だけで声すら上げることが出来ないとは······

 

 

 

その時、廊下の向こうから何者かが歩いてくるのに気が付いた。数は2。2人ともローブを羽織り、フードを深く被っているので顔までは分からないが、片方は体のラインから女であることが分かった。もう片方は男だろう。

 

そして、オーラから吸血鬼ではないことも分かった。

 

 

 

俺達がその者達を疑問に思っている中、ギャスパーと黒歌だけは違った。

 

ギャスパー「お前は······!!」

 

黒歌「······会うのは初めてとは言え······こうして会うと殺したくなるわね······!!」

 

2人は一瞬で臨戦態勢に入る。ギャスパーは亜空間から魔剣と思しき物を取り出し、黒歌は両手の爪を尖らせて重心を下げた。

 

「およよ? こいつは珍しいこともあったな♪」

 

男だと思われる者は軽い口調でギャスパーと黒歌に声を掛けた。

 

その声に俺は目を見開いた。こいつはまさか······!!!

 

ギャスパー以外のグレモリー眷属は誰だか分かっていないようだ。それもその筈、こいつは姿を晦まして久しい。何故今頃になって······!!

 

「へぇ~。君達が、うちの孫娘と孫息子の義弟君とそのお嫁ちゃんの黒猫ちゃんか♪」

 

俺が驚愕と怒りに震えている中、この男はギャスパーに更に話し掛けた。それに対し、ギャスパーも返答した。

 

ギャスパー「······黙れゴミ屑。お前如きがお姉様とお兄様のことを語るな」

 

ギャスパーの怒りが、純粋なまでの殺気に変わる。それは俺を遥かに圧倒するものだった。黒歌の放つ殺気も、俺と同等クラスのものであるといえる代物だった。

 

「うっひょー、いい殺気♪ 八幡君は中々にいい鍛え方してるじゃん」

 

奴はこの殺気を無かったかのように続けた。

 

ギャスパー「お前がお父様の名を口にするな······!!」

 

「んほほっ! また殺気が一段階上がった♪ それに、こっちにいるのはアザゼルのおっちゃんじゃん♪ 元気にしてた?」

 

マリウス以上に悪意の篭った言葉を口から吐きやがる。

 

アザゼル「てめぇ······今更何のつもりだ!?」

 

溜まっているものを吐き出すように言う。こいつはヴァーリを虐げてきた男だ······!! 許せる筈がねぇ···!!

 

「いや~、ちょっと前までソファに寝そべってワイン煽るような半分死人ライフを満喫してたけどさ♪ 色々面白いこと聞いたからには、俺が割り込む以外にないじゃん?」

 

ギャスパー「面白いことだと······!? 散々お姉様とお兄様を虐げておいて言うことがそれか!!」

 

ギャスパーが親の仇を見るかのような目で睨みながら言う。

 

ん? お姉様? 八幡とクルルには、俺が知らない娘がいるのか?

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ、そう睨むなって♪ 俺はビビりなバカ息子に、『怖いんなら虐めとけよ』ってちょ〜う的確なアドバイスしてやっただけなんだぜ? ま、魔王の血族から、白龍皇と、体に神でも侵すような猛毒宿した奴が生まれたら、あの豆腐メンタルが耐えられるわきゃないけどさ」

 

軽く言うこいつは······!! 正真正銘本物の外道だ······!!

 

「結局、孫2人は八幡君に攫われちゃったしー? あのバカは見てていらついちゃったから殺しちゃったし☆」

 

こいつは巫山戯た口調で続ける。ギャスパーがゴミ屑だと言えるのも頷ける。ここまでの外道はゴミ屑と呼んでも何の問題もないと、俺ですら思ってしまう。

 

グレモリー眷属は、さっきのギャスパーと黒歌の殺気で腰が抜けていて

まともに話を聞けてすらいないようだが。

 

ギャスパー「······今すぐにでも殺したいな······!!」

 

黒歌「······同感にゃ。まさしく害悪そのものでしかない」

 

2人の殺気が更に強まる。見れば、殺気によってアーシアは既に意識を刈り取られていた。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ♪ まぁちょっと待てばとんっでもないサプライズが待ってるからさ〜♪ もうちょっと我慢してみるのもいいかもよ? あ、今、俺とこの『シーちゃん』は偽名使って国賓として来てるから手は出さない方がいいかもよ~?」

 

やっぱりか!! ここにいる以上、簡単に予想は付いたが······しかし、このシーちゃんと呼ばれた女。気配が悪魔ではなく、堕天使のものだが······いったい誰だ? 妙に懐かしい気配だが思い出せん······『神の子を(グリ)見張る者(ゴリ)』にはこんな気配はいなかったから、はぐれの可能性が高いな······そうなると、俺が知らない奴の可能性もあるが······

 

黒歌「······!!」

 

「んじゃ、俺はマリウス君にお話があるので通らせてもらうよ〜? ここでは平和的に過ごしましょ~う。ヴァンパイア君達のお家なのですから〜。ケンカはんた〜い」

 

そのまま歩み出した奴等に、声も掛けられなかったが、ギャスパーと黒歌が告げた。

 

ギャスパー「······一つ言っておく。お兄様はいつでもお前の首を刎ねることが出来る。精々、残り少ない余生を謳歌していろ」

 

「おっ、マジで? 超楽しみなんですけど♪」

 

ここまでされて尚この調子を崩さないとは······

 

黒歌「それと、済まし顔のアンタにも言っといてやるにゃ。アンタが何しようがクルルには絶対に勝てない」

 

「······!! 何だと······!?」

 

アザゼル「······!!!!?」

 

奴の後ろに控えていた女が初めて口を開いた。そこまで大きな声ではなかったが、俺はその声に驚愕する他なかった。

 

「獣の娘風情が······!!」

 

「おいおいシーちゃん。ここでやり合うのはナシっつったぜ?」

 

「······クッ」

 

奴の制止を受け、女はそのまま奴の後を付いて立ち去ろうとしていく。俺は、立ち去ろうとしている女に声を掛けてしまった。

 

アザゼル「おい、待ってくれ······!!」

 

「······アザゼル」

 

彼女は俺の名を口にした。

 

口の中がカラカラに渇く。嫌な汗が噴き出してくるのが分かった。

 

ギャスパー・黒歌「「······?」」

 

アザゼル「お前なのか······? 何故こんなことを······」

 

俺には、何故奴に加担しているのか分からなかった。もしかして、彼女は奴に脅されているのか······? そう思った俺は聞く必要を感じていた。

 

「······もう貴方の隣に戻ることはない」

 

アザゼル「あ······」

 

だが、彼女はそれだけ言って奴の後について行ってしまった。

 

 

 

 

 

暫くその場に立ち止まっていた俺達だったが、あそこまでの殺気を出していながら奴を見送ったギャスパーと黒歌が口を開いた。

 

ギャスパー「······僕達は少し外の風を浴びて来ます。頭を冷やしたいので」

 

黒歌「私も。今の調子だと誰かを殺したくなるにゃ」

 

アザゼル「······待ってくれ!! あいつについて何か知っているのか!?」

 

先程の口ぶりから、何かしら知っていることは分かった。尤も、八幡が生前のルシフェルか、ミカエルに聞いたことを、そのまま聞いた程度がいいところではあると思うが······

 

俺は聞くべきだと感じていた。生きていたなら。ルシフェルに殺された筈の彼女が生きていたなら、俺には聞かなければならなかったから。

 

 

 

──────彼女が(・・・)ルシフェルに(・・・・・・)殺されたこと(・・・・・・)を、知っている俺には·······

 

 

 

ギャスパー「······すいませんが、アザゼル先生でも無理です。これはお母様に関わることなので」

 

黒歌「そういうこと。何があったかは知らないけど、総督には悪いけどアイツも生かしておくつもりはないにゃ」

 

アザゼル「······そうか。いや、今のことは忘れてくれ······」

 

外に風を浴びに行くといって、奴とは反対の方向に歩き出したギャスパーと黒歌を見送りながら、俺は力なく壁に寄りかかった。

 

 

 

──────どうしてだ四鎌童子(しかまどうじ)······生きていたなら、どうして俺には何も言ってくれなかった······?

 

 

 

アザゼルsideout

 




何故、四鎌童子はルシフェルに殺されたのか。

アザゼルが四鎌童子に聞きたいこととは何なのか。




──────物語の全ての鍵はルシフェルが握る。真相を知るのは彼女一人。



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第85話 夜明け前の決意


昨日の倍の時間掛かってこれかよ······と思わざるを得ない酷い出来になってしまいました。お気を付け下さい。



 

 

 

 

 

 

 

 

裕斗side

 

 

 

イッセー「······っはぁ!! な、なんだったんだ······?」

 

イッセー君がそう言ったことで、やっと全員がギャスパー君と小猫ちゃんの姉の黒歌さんの殺気から解放された。

 

······あの殺気は誰でも分かるほど強烈なものだった。恥ずかしながら、僕は殺気に怯えて解放されるのを待つことしか出来なかった。ギャスパー君達の会話は朧気にしか覚えていない。あのローブを纏った2人組は結局誰だったんだろうか。

 

リアス「······ギャスパーに何があったのかしら······?」

 

小猫「······今気付きましたが、私達ギャー君のこと殆ど知りませんでした」

 

部長と小猫ちゃんが言って、初めて僕達は彼のことを殆ど知らないことに気付いた。僕達は実際に言われるまでは、ギャスパー君の家族を一人も知らなかった。彼の両親がそうさせていた可能性もなくはないが······

 

イッセー「先生はあの2人組が誰か知ってますか?」

 

壁に寄りかかるアザゼル先生にイッセー君が尋ねる。先生は、最後に2人組の片方に何やら話し掛けていたが······

 

アザゼル「······あぁ、知ってる。

 

───────『リゼウィム』。若いリアスでも親からこの名を聞いたことはあるだろう? グレモリーであれば知らなければならんだろう」

リゼウィム······? あの2人組のどちらかの名前だろう。そう言えば、以前八幡君がそのような名前を言っていたような気もするが······

 

リアス「······ッ!?······ウソ······でしょう?」

 

名前を聞いた瞬間、部長の声が震え出す。それほどの人物であるということなのだろうか······?

 

アザゼル「······アイツのクソみたいな顔は忘れたくても無理だな。奴はリゼウィム・リヴァン・ルシファー。前ルシファーと『リリス』の間に生まれた息子。聖書に『リリン』と記載された男だ」

 

ルシファーだって······!? いや、ルシファーと名乗っていたのはサーゼクス様と白龍皇ヴァーリだ。サーゼクス様は役職として名乗っているから、おそらくヴァーリの関係者なのだろう。

 

ただ、ギャスパー君と黒歌さんは何故あそこまで激しい殺意をもっていたのだろうか······?

 

アザゼル「そして、歴代最強の白龍皇とすら称されるヴァーリの実の祖父だ」

 

ヴァーリの実の祖父······!! では、八幡君はどうなるんだ? ヴァーリは八幡君を父さんと呼んでいたが、彼は堕天使ルシフェルの息子の筈······

 

裕斗「なら、ヴァーリは何故八幡君とクルルさんを······? 今の話が本当なら、ヴァーリは少なくとも八幡君とは血の繋がりがないことになります」

 

アザゼル「······そうだ。最近になって聞いた話だが、ヴァーリは八幡とクルルの養子らしい。ヴァーリだけでなく、ギャスパーもだ」

 

養子······ギャスパー君もか······ならば納得出来る。

 

ロスヴァイセ「ですが、何故2人が養子になる必要があるのですか? 言い方は悪いかもしれませんが、ルシファーとヴラディなら両方とも名家ですし養子になるようなことは······」

 

今度はロスヴァイセさんが訊く。

 

アザゼル「ギャスパーについては詳しくは知らんが······奴は自分の息子、つまりヴァーリの父親に、『ヴァーリを迫害しろ』と命じたんだよ」

 

「「「「「「······!!?」」」」」」

 

先生の言ったことに、全員が驚く。

 

ローブの男性は、ヴァーリ······つまり自分の孫を虐げるように言ったということか·······?

 

アザゼル「······その後、白龍皇の目覚めを察知した八幡が保護して養子に迎えたらしい」

リアス「そんなッ······!?」

 

 

 

マリウス・ツェペシュ。リゼウィム・リヴァン・ルシファー。

 

僕達の知らない所で、敵は動いていた。

 

 

 

裕斗sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

カーミラとの謁見を終えた俺とクルルは、カーミラが用意した車でツェペシュの城に向かっていた。

 

クルル「······カーミラ側は思ったよりは真面な対応だったわね」

 

八幡「······そうだな。これで後はヴァレリーを連れ帰れればいいんだが······」

 

その時、ツェペシュの城から強烈な殺気を感じ取った。

 

この殺気は······ギャスパーとギャスパーには劣るが黒歌のものか。

 

クルル「······そうはいかないわよね」

 

八幡「······急ぐぞ」

 

 

俺は車のギアを変え、ツェペシュの城に車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「そうか······リゼウィム(あのゴミ屑)は既にこの国に根付いてやがったか······」

 

ツェペシュの城に着くと、何故かギャスパーと黒歌が城の玄関に寄りかかっていたため、話を聞いた。

 

クルル「マズイわね······奴が既にこの国にいるとなると、ヴァレリーの身が危ないわ。『幽世の聖杯』に目を付けていないわけがない。あまり時間がないわね······」

 

ギャスパー「分かってます。でも·······」

 

そこまで言うと、ギャスパーは口を噤んだ。何かあったのか?

 

ギャスパー「······ヴァレリーはもう壊れてました。きっと、聖杯を使いすぎたんです」

 

··················!! マジでヤバいな······聖杯の乱用は、到底普通の奴が耐えられるものなどではない。何に使っているのか分からんが、早いとこ止めさせて聖杯に凍結処理を施さないと本当に間に合わなくなる。

 

 

 

···········なにせ、聖杯の乱用の先に待つのは魂の崩壊だからな······

 

 

 

ギャスパー「······お父様はヴァレリーを元に戻すことは出来ますか? 神器(セイクリッド・ギア)ならお父様が······」

 

ギャスパーが怒りを堪えながら聞いてくる。それはヴァレリーを利用してきた者達への怒りであり、今まで何もしてこなかった自分への怒りでもある。

 

八幡「······保証は出来ない。俺にとってもこの『権能』は謎が多い。ヴァーリの『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』に調整をするくらいなら何とでもなるが、所有者の精神療養は専門外だ。すまん」

お袋が掛けた封印が解けたことによって扱えるようになった神器に干渉する『権能』。お袋が生前神から与えられていたものであり、生後間もない俺に移植して封印していたものだ。

 

だが、元々は神の権能だったために無闇矢鱈に使うわけにもいかず、お袋が必要最低限のことしか言わないため、扱いに四苦八苦している。神器の調整やら封印くらいなら何とかなるんだが······寧ろ封印前より扱いにくさが増したほどだ。

 

 

ギャスパー「謝らないで下さいお父様······僕が今まで何もしてこなかったのが悪いんですから······」

 

ギャスパーが目を伏せる。これはギャスパーから話を聞かなかった俺のせいか······? もっと強硬手段に出ていれば、ここまで酷い事態にはならなかった筈だ······

 

黒歌「それは違うにゃ。ギャスパーが何もしてこなかったんじゃない、精一杯やって来たにゃ。だから、ここでしっかりヴァレリーを救うの」

 

ギャスパー「そう、だね······ありがとう黒歌さん」

 

黒歌のお陰でギャスパーは決心がついたらしい。黒歌がいてくれて良かったな······おそらく、これからのギャスパーに最も必要なのは黒歌だろう。

 

 

 

クルル「······未だ行方不明のフェリアのことも気掛かりだわ」

 

クルルが溢す。

 

 

フェリア······フェリア・ダンタリオン。こちらを裏切ったディオドラの『女王(クイーン)』であり婚約者。婚約自体は両家の親同士が決めたものらしいが、2人の仲はかなり良好だった。

 

ギャスパー曰く、ディオドラの様子はかなりおかしかったらしいが······ギャスパーに攻撃した時涙を流して謝り続けたらしい。ギャスパーに攻撃したことは許すつもりはないが、2人に何かあったことは明らかだ。

 

 

黒歌「······例え何かがあったとしても、ディオドラは許せないにゃ」

 

黒歌の目が強い光を発しているように感じる。まぁそれだけの想いでギャスパーの側にいるということだ。

 

八幡「······まぁそれでいい。詳しい調査は曲がり形にも『(キング)』やってる俺の仕事だ」

 

クルル「······『王』の仕事かしらそれ」

 

八幡「······多分な」

 

多分そうだ。眷属にしたのが俺なんだから俺が最後まで面倒見るつもりだ。それに、黒歌は既に俺よりギャスパーを理解している。俺は露払いをして邪魔する奴を潰してやるさ。

 

 

 

黒歌「ねえクルル······四鎌童子(しかまどうじ)は······」

 

黒歌がクルルに尋ねる。俺達はあのゴミ屑だけでなく四鎌童子······クルルの義兄、アシェラやその仲間達を葬り去った女を探さなければならない。

 

クルルはどうするつもりだ······? 無論、危害を加えるようであれば殺すが、どうするかは基本クルルに任せる。クルルが一番憎んでいる筈だからな。

クルル「······決まっているわ。これ以上家族に手を出すつもりなら······問答無用で消し飛ばす」

 

クルルの瞳には地獄すら灰に帰すような炎が宿っているように感じた。

 

 

 

八幡sideout

 

 



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第86話 カウントダウン


今回から、三人称視点の導入することになりました。理由はリゼウィムの精神構造が作者にはさっぱりだったからです。基本的には、敵サイドを書く場合に使うことになりそうです。


三人称の場合は、side〇〇とします。〇〇はキャラ名。



忘れている方のために今回登場のキャラ説明。


シフラ・ダルク
原作でいうところのジャンヌ。実際にジャンヌ・ダルクの魂を受け継いでいる。元悪魔祓い(エクソシスト)。本作品では、八幡の要請により『禍の団(カオス・ブリゲード)』の英雄派に潜入していた。
現在はヴァーリチームと共にルーマニアに潜入中。


ジン
原作でいうところのジークフリート。本作品では、シグルト機関出身ではないが、ジークフリートの子孫ではある。シフラと共に『禍の団』の英雄派に潜入していた。魔剣5本はクルルから借り受けた物である。
現在はヴァーリチームと共にルーマニアに潜入中。シフラとは悪魔祓い()時代からコンビを組んでいる。




 

 

 

 

sideリゼウィム・リヴァン・ルシファー

 

 

 

時は遡ること数年前。聖書に『リリン』と記載された男、リゼウィム・リヴァン・ルシファーは生というものへの渇望を枯らしていた。

 

悪魔含め、万年生きる人外には、人間のように生きる目標や情熱を保ち続けることが出来ず、半廃人のようになる者は少なくない。今で言う、『燃え尽き症候群』というものだ。

 

 

彼もまたその中の一人であり、日々をソファに体を預けてワインを煽るだけのつまらない生活に埋もれていた。

 

彼は『明けの明星』と称された悪魔ルシファーの息子であるが、同じく『明けの明星』と称された堕天使ルシフェルの息子比企谷八幡に、新しい遊び道具になりそうな孫2人は取られてしまった。

 

元々一時の遊び道具程度にしか期待していなかったので、取り返そうとはしなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

長い自堕落生活で自殺も考えていたリゼウィムだったが、ある時彼に一人の女性が接触を図ってきた。

 

 

彼女の名は『四鎌童子(しかまどうじ)』。嘗ては熾天使(セラフ)の一角であったが、とある理由によりルシフェルに存在ごと抹殺された天使である。偶然にも死を免れた彼女は、ある場所での再起と復讐を願っていた。

 

 

 

 

彼女から齎された情報は、リゼウィムの全てに破滅を齎す思考を再び蘇らせた。

 

 

彼女からの情報に従い、リゼウィムはまずグレモリー領に向かった。ここには比企谷八幡の家族が眠る墓碑があり、水面下で誰にも悟られず行動していた四鎌童子は独自でここを突き止めていた。

 

張られていた結界に察知されないように侵入し、墓を掘り返した。死後相当な年数が経っており、遺骨はほぼ残っていなかったが、僅かに回収出来た物もあった。

 

 

リゼウィムは四鎌童子と共に、これを基にある研究を始めた。

 

『堕天魔』と称される八幡の正体の研究である。

 

 

三竦みの大戦より以前から、堕天使と悪魔のハーフは少数ながらも確認されており、光力と魔力の両方を有していたことも確認されていたため八幡が光力を揮っていたことに疑問を持つ者は殆どいなかったが、リゼウィムはここに仕掛けがあると考えた。

 

 

そして、その予想は的中した。

 

 

 

 

彼は回収した遺骨から採取した遺伝子を調べたところ、『堕天魔』は、ただの堕天使と悪魔の間に生まれたハーフではないことが分かった。

 

 

だが、リゼウィムの好奇心はここで更に増大し、八幡の実妹の比企谷小町のクローン製造に着手することになった。

 

 

試験体の内の一体は製造中突如行方不明となったが、比企谷小町のクローンの製造は成功し、その後リゼウィムはヴァンパイアに接触した。

 

己の欲求を満たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そして、リゼウィム・リヴァン・ルシファー(破滅を目論む悪意)はヴァンパイアの国、ルーマニアで動き始めた。

 

 

 

sideoutリゼウィム・リヴァン・ルシファー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シフラside

 

 

 

私──ジャンヌことシフラ・ダルクは、現在ヴァーリチームと共にルーマニアに潜伏していた。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』の英雄派という派閥に潜入していた私は、同じく潜入していた魔剣使いのジークフリートことジンとコンビを組んでおり、今は変装して城下町で情報収集をしていた。

 

 

シフラ「······でも、びっくりするほど静かね。いくらクーデターが民衆に知られていないからって、静かすぎない?」

 

横を歩いているコンビのジンに小声で話し掛ける。先ほどから街中での人影が少なく、情報収集があまり捗っていない。

 

時刻は夜中の3時過ぎ。吸血鬼は昼間は寝てしまうため夜中に情報収集をするしかないのだが、人間である自分には些かキツい。だが何とかならないほどではないためそこまでの支障にはならない筈だ。

 

ジン「······そうだね。この時間なら吸血鬼はまだ活発に行動している筈だけど······」

 

普段は雪のように真っ白な髪を幻術で黒に染めたジンが小声で返してくる。

 

ジン「僕達だって詳しく知っているとは限らないし。身近にいると言えばギャスパーだけど、ギャスパーは吸血鬼って言えるかは甚だ怪しいし······」

 

ジンがそう言うと私達の頭に、金髪で女顔、いつも黒猫が一緒にいる少年の顔が浮かぶ。

 

······うん。ギャスパーが吸血鬼かって言われると素直に首を縦に触れないね。ギャスパーの『闇』の力は、悪魔祓い(エクソシスト)時代に見た吸血鬼が影を操る能力とは完全に別物だし、規模が桁違いだし。

 

 

 

······と、繁華街に差し掛かっていた私達の目にあるものが映り込んだ。

 

「······う~ん」

 

黒髪で、頭頂部に特徴的なアホ毛のある女の子が露店の前で座り込んで唸っていた。

 

 

シフラ「······ねえジン、あの子一人かな」

 

周りの人影は(まばら)で、親と思しき人物も見当たらない。そんな子が果たして一人でいるだろうか?

 

ジン「そうっぽいけどあの子一人かな? 親は? いくら吸血鬼だからって子供を一人にはしとかないでしょ」

 

私達がそんなことを言い合っている時も、少女は見ている私達に気付かず、目を落ち着かせずうんうん唸っていた。

 

「······えっと、お嬢さん欲しい物は決まった?」

 

露店の店主が唸っている少女に痺れを切らしたのか、問い掛けていた。

 

「え〜、もうちょっと待っておじさん。小町一つにしろってお姉さんに言われてるの」

 

どうやら、彼女の名は『コマチ』というらしい。日本っぽい名前ね。八幡とクルルに娘が産まれたらそんな名前付けそう。八幡の父方の祖先には日本人がいたらしいし。

 

お姉さん? 姉と来ているのだろうか。

 

「······小町、こんな所にいたの」

 

コマチ「あっ、お姉さん」

 

そこに、ローブを着た女性が露店の前で唸っていた少女に声を掛けた。どうやら、その女性がお姉さんらしい。フードが付いているが被ってはおらず、黒と金の珍しい髪だ。

 

「······まだ決まらないの?」

 

女性が嘆息しながら言う。言われてコマチという少女はわたわたしていたが、やがてどれが欲しいのか決めたのか、女性に、これ!!、と言って三日月を模したようなペンダントトップが付いたペンダントを渡していた。

 

 

ジン「あの人が保護者っぽいね」

 

シフラ「な〜んだ、思い過ごしか~」

 

そう言って、私達も歩き出そうとした時だった。

 

 

 

シフラ・ジン「「·········!!?」」

 

 

突如、強い殺気を感じた。汗が噴き出すのし、背中を伝った。反射的に亜空間から聖剣を取り出そうとしてジンに左手を抑えられた。

 

ジンも額から汗を垂らしており、右手で私の右肩を掴むと、一気に走り出した。

 

 

ジンに押されて走り出した私が一瞬だけチラッと殺気を感じた方向を横目で見ると、先ほどコマチという少女からお姉さんと呼ばれていた女性の双眸がこちらを睨んでいた。

 

寒気を感じ、咄嗟に前を見て全速力で走り出した。

 

 

 

──────彼女はいったい何者なの······!?

 

 

その後、私達は繁華街を通り抜けて、暫くした所にある喫茶店まで全速力で駆けていた。

 

 

 

 

 

コマチ「······? お姉さんどうかしたの?」

 

「あ、いえ。何でもないわ。それより帰りましょうか。お買い物も済んだことだし」

 

コマチ「うん!!」

 

 

 

 

 

シフラsideout

 

 

 



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第87話 『親』

 

 

 

八幡side

 

 

 

ルーマニアに来て一夜明け、俺とクルルはツェペシュの城にいた。そして今は─────

 

 

 

八幡「······貴女がヴァレリーか。ギャスパーが世話になったと聞いている」

 

クルル「······ここに来るまで、ギャスパーから話は聞いていたわ。自分に初めて家族の温かみを与えてくれたと。今の自分があるのはヴァレリーのお陰だと言っていたわ」

 

俺とクルルはヴァレリー・ツェペシュに謁見していた。玉座に座るヴァレリーの隣には、薄っぺらい笑みを顔に張り付けた男が立っている。あれがギャスパーと黒歌が言っていたマリウス・ツェペシュか。

 

ヴァレリー「はい。話には聞いていますわ。ギャスパーの新しい両親の方々だとか」

 

クルル「ええ······出会いはあまりいいものとは言い難いけども、私達はギャスパーのことを愛しているわ」

 

ヴァレリーは優しい笑みを浮かべているが目は光を失っており、俺達を捉えているかは怪しい。

 

ヴァレリー「良かった······昨日ギャスパーには会いましたが、ギャスパーが今どうしているか訊きそびれてしまって。良ければ話していただけませんか?」

 

確かに、昨日は面会時間に限界がきてあまり話せなかったとギャスパーから聞いた。俺達に与えられた面会時間もそこまで長いものでもないが、息子自慢なら一週間ぶっ通しでやる自信はある。

 

ギャスパーのことが聞きたいなら時間ギリギリまで語ってやるとするか。

 

八幡「俺達で良ければ」

 

クルル「喜んで」

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

ルーマニアに来て一夜明けた朝。

 

僕と黒歌さんはツェペシュ側から与えられた部屋で、ルーマニアに潜伏しているお兄様達と連絡を取っていた。もちろん、外からは干渉出来ないように結界を張ってだ。

 

 

ヴァーリ『······こちらからの報告は以上だ。ギャスパー達はどうだ?』

 

報告を終えたお兄様が、こっちに訊いてくる。

 

昨日ゴミ屑に遭遇した······と言ってもいいものだろうか······

 

ギャスパー「············『アイツ』はやはりいました。この国に」

 

迷ったが、結局伝えることにした。お兄様は血眼で探していたのはよく知っている。本音では隠したくはない。それにお兄様はいずれ知ることになるかもしれない。ならば今伝えた方が得策かもしれない。

 

ヴァーリ『··········そうか』

 

お兄様はそう一言だけ言った。

 

尚、お父様とお母様にはクロウさんが報告を済ましたらしい。

 

黒歌「······ねえヴァーリ」

 

そこで、黒歌さんはお兄様のふいと問い掛けた。

 

ヴァーリ『どうかしたか?』

 

黒歌「ヴァーリはさ······復讐を終えたとしたらどうするの?」

 

ギャスパー「······黒歌さん?」

 

ヴァーリ『······どうもしないさ。アイツを殺せば、姉さんとカルナが少しは安心出来るからな。特に姉さんは今でも入院生活だ。俺はこれ以上姉さんに辛い思いをさせたくないだけさ。この力はそのためのものだ』

 

お兄様は顔の前で拳を握る。

 

黒歌「············そ」

 

ギャスパー「黒歌さんどうしたの?」

 

ヴァーリ『······? 突然どうした?』

 

僕とお兄様が黒歌さんに尋ねる。

 

『復讐』か······もしかして黒歌さんは今でもあの時のことを······

 

黒歌「別にぃ? もしあの時ジェロマ・リバートリンをしっかり殺せてたら、今どうしてたかなってだけにゃ。少なくとも······白音を彼処まで追い詰めずに済んだかもしれないし」

 

黒歌さんが皮肉げに笑いながら言う。僕もお兄様も事情を知っているだけに口を噤んでしまう。

 

ギャスパー「······でも、黒歌さんはあの時最善の行動を取っていた。確かに白音を追い詰めていたかもしれないけど、黒歌さんがいたから白音はグレモリーに保護してもらえたんだよ?」

 

黒歌さんは元々力のある悪魔の誰かに小猫ちゃん───白音を保護してもらうつもりだったらしい。それが偶々、魔王サーゼクス・ルシファーだった。

 

途中ではぐれてしまったけど白音が保護してもらえたのは黒歌さんが白音の手を引いていたからだ。実際に保護した魔王サーゼクス・ルシファーのお陰というのももちろんあるが。

 

ギャスパー「それでも黒歌さんが不安なら、黒歌さんと白音は今度は僕が守るよ」

 

そう言って黒歌さんに微笑みかける。あ、黒歌さんの顔が真っ赤になってる。可愛い。

 

 

 

·······二度と黒歌さんに寂しさを思い出させない。生涯添い遂げると誓ってくれた人に寂しい想いをさせてたまるか。

 

 

ヴァーリ『······ふむ。俺はどうやら邪魔者らしい。では伝えることは伝えたから失礼する。また後でな』

 

ギャスパー「はい。また後で」

 

 

お兄様が通信を切る。魔法陣から出ていたホログラムがゆっくり消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄様との連絡を終えた僕と黒歌さんは、ツェペシュの城の地下に向かっていた。城の中は静寂に包まれており、偶にメイドや巡回中の衛兵とすれ違うくらいだ。

 

 

僕達は、城の地下にいるというヴラディ家現当主······すなわち、僕の実の父(血が繋がっただけの赤の他人)に会いに行くことにした。当然、僕が会いたいと思ったからなどではない。本音を言えば二度と会いたくない。

だが、城の地下に幽閉されているのなら、何かしら情報をもっているかもしれないと踏んだからだ。テロの予兆なども、情勢の細かい変化から読み取れた可能性だってないとは言えない。

 

石造りの城を進んでいき、地下への階段を下りてゆく。暫く下りると広い空間に出る。扉が幾つかあり、その中の一つにメイドが側に立っていたので、面会に来た旨を伝えた。

 

 

メイドは扉をノックした後「お客様がお見えです」と中の者に報告した。施錠した扉を開き、中に入るよう僕達2人に促した。それに従って入室する。

 

 

 

中は、質素な造りだった外に比べて、正反対なくらいに豪華だった。

 

中に配置されている家具も高級品ばかりだ。天井にはシャンデリアが釣られている。

······腐っても貴族か。

 

室内でソファに座っていた男が立ち上がった。

 

 

 

ギャスパー「······どうも。お久しぶりですね。何年ぶりでしたっけ?」

 

「お前は··········そうだな。まあお座り下さい」

 

ヴラディ家現当主、トリスト・ツェペシュ。僕の血縁上の父親であり、僕の血縁上の母親を慰み者にした。血縁上の母親は既に死亡している。

 

 

黒歌「······どうも。二度と会うことはないけど一応言っとくにゃ。『堕天魔』の『僧侶(ビショップ)』黒歌」

 

トリスト「······それで、ここへは何をしに来たのでしょうか?」

 

先程言ったように、情報収集の過程で色々分かってきているため、その補完のために来ている。

 

ギャスパー「······情報収集です。この国がクーデターで政権が変わっていることくらい知っていて然るべきですよね」

 

 

僕が言うと何やら瞑目し、その数秒後にトリスト・ツェペシュは両目を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

トリスト「──────と、私が知る限りではこんなところです」

 

 

トリスト・ツェペシュ曰く、今から2週間ほど前。ツェペシュ側は、武装した吸血鬼達およそ200人に襲撃を襲撃を受けたらしい。

 

彼等は警備の交代時間を見計らい、待機していた兵と警備を終えた兵が一度に集まったタイミングで城内に強い睡眠ガスを流すことで無力化。一気に制圧し、捕縛した。逃げ延びた者は追わなかったらしいが。

 

 

そして、彼等はツェペシュのトップだった者を強引に退陣させると、新たな王としてツェペシュのトップにヴァレリーを据えた。

 

 

 

尚、トリスト・ツェペシュが捕まって幽閉された理由てしては、おそらくやってくるだろう『堕天魔』やその一派達に備えるため、『堕天魔』に度々接触されていたかららしい。

 

 

 

トリスト「────しかし、何故お前が来た? お前はヴラディ家を嫌っていただろう」

 

トリスト・ツェペシュは突如口調を変え僕に言った。黒歌さんが臨戦態勢に入ろうとするのを首を横に振って止める。

 

こんなのに一々黒歌さんが出る必要はないだろう。

 

 

ギャスパー「······何故って何の話ですか?」

 

だから言う。僕はもうヴラディではない。封印された時に、寂しさに潰れないようお父様やお母様を思い出さないために思わずヴラディ姓を名乗ってしまったが、僕はルシフェルだ。

 

ギャスパー・ルシフェル。それこそが僕の名前であり、大切な人達との家族の証。

 

 

ギャスパー「······僕はギャスパー・ルシフェルです。そして、僕の父親は比企谷八幡で母親はクルル・ツェペシです。ヴラディに対しては正直なところもう何とも思ってません。ルーマニアだって、来るのは此れっ切りにしたいですから」

 

僕は今でも偶に昔の夢を見る。虐げられていたあの頃の夢だ。僕の深層心理には、あの頃のことがきっと深く深く根付いている。

 

だがそれだけだ。僕としては、一々昔のことを夢に見て怯えるより、今の生活の方が大事だ。

 

ルーマニアに来たのだって、それをヴァレリーに味わって欲しいことと、聖杯に縛られているヴァレリーを今度こそ助けるためだ。僕にとって重要なのはヴァレリーであり、ヴラディなんてもうどうでもいい。強いて言うなら、産んでくれてありがとうと言ったところか。それも、捨てられてからは一切思わなくなったが。

 

 

ギャスパー「······今まで知らなかった情報も少しは入ってましたね。情報提供感謝します。ありがとうございました。行こう、黒歌さん」

 

黒歌さん「そうね」

 

 

 

僕達は、トリスト・ツェペシュの幽閉されている部屋を後にした。そこで、僕と黒歌さんはメイドに呼び止められた。

 

 

「ギャスパー・ルシフェル様、黒歌様、ヴァレリー陛下がお呼びでございます」

 

 



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第88話 踏みにじられた想い


ホムンクルスベビー足りねぇ······


最近中々書けない。時間足りないし寝落ちするし寝落ちするし寝落ちするし······作者寝過ぎだわ。

連休中にもう一話出したかった······頑張って木曜までにもう一話書きます。(投稿出来るとは言ってない)




 

 

 

 

八幡「よ、ギャスパー」

 

ギャスパー「あ、お父様とお母様も呼ばれてたんですね」

 

ヴァレリーから呼ばれて、この城に来てから最初に訪れた部屋に入ると、お父様とお母様がいた。2人もどうやら呼ばれていたらしい。

 

 

クルル「2人とも呼ばれてたわね」

 

お父様とお母様はヴァレリーと話していたようで、お茶会のような雰囲気でお兄様やお母様も穏やかな雰囲気だ。

 

ギャスパー「はい」

 

と、お父様とお兄様が何やら温かい目で僕を見ていることに気付いた。

 

この目は······黒歌さんと出掛ける時に必ず向けられる視線だ。むず痒い······というか、穏やかな雰囲気じゃなくてこの視線を勘違いしただけか······

 

クルル「悪いわねギャスパー。話が盛り上がって喋ってしまったわ」

 

ギャスパー「何をですか?」

 

喋った? 2人とも口は硬いから大事なことは話さないと思うけど······

 

そこで、ヴァレリーが手を合わせて、笑顔で言った。

 

ヴァレリー「あ、そうそう、聞いたわギャスパー。そこの方······黒歌さんでしたっけ? とお付き合いされているとか」

 

ギャスパー「はい!?」

 

黒歌「!?」

 

何故それを!?······って、これを喋ったのか。だから温かい目で見てたのか······一番恥ずかしいんですけどお父様お母様······

 

ヴァレリー「昔は泣き虫だったギャスパーが立派になって······私も嬉しいわ」

 

ギャスパー「う、うん、ありがとうヴァレリー······」

 

姉的存在のヴァレリーにそんなことを屈託のない笑顔で言われると、恥ずかしい······黒歌さんは笑顔で抱き着いてくるから尚更恥ずかしいし······悪い気はしないけど。寧ろ嬉しい。

 

黒歌「ギャスパーが泣き虫······想像出来ないにゃ」

 

黒歌さんは難しい顔をして言っている。別に想像出来なくても······

 

八幡「ま、黒歌が来たのはギャスパーが来てから更に一年経ってからだからな。無理もない」

 

うんうん頷いているお父様。ま、まぁ、引き取られたばかりの時は偶に泣きはしたと思うけど······

 

クルル「······懐かしいわねぇ」

 

カップに軽く口を付けてお母様は言う。

 

 

 

会話が弾んで少し経ってから、ヴァレリーがふと言った。

 

ヴァレリー「······でも良かったわ。あの時一緒に行けなくて、ギャスパーのことはずっと心配していたの。今はいい人達に恵まれたのね」

 

ヴァレリーは僕の頬をそっと撫でた。懐かしい感覚に思わず目を細めた。

 

ギャスパー「ヴァレリー······うん。お父様もお母様も優しいし、お兄様は勉強教えてくれるし、黒歌さんはいつも一緒にいてくれるし······これ以上ないくらい僕は今、恵まれてるよ。ヴァレリーも日本に来れたら······」

 

そこで言葉がつかえた。言うことは簡単だけど、成すことは簡単ではない。もし僕が失敗したら······いや、今まで力を付けてきたんだ。絶対に成功させる。

 

そこで、ヴァレリーは再び手を合わせて笑顔になった。

 

ヴァレリー「そうですわ。お兄様が仰っておられたのですけど······私、どうやら日本に行けるらしいんですよ!!」

 

「「「「!!?」」」」

 

僕達は目を見開いて驚いた。

 

ギャスパー「本当!?」

 

ヴァレリーが日本に来れる······!!

 

 

 

だが、ここで気付いた。

 

······でも、何で突然そんなことになった······? ヴァレリーの要求が通った? いや、ヴァレリーは女王だ。例え傀儡政権だとしても、この早さでトップを退任させたりする筈がない。

 

僕達の要求を呑んだ? いや、僕達はあくまで客分で、ヴァレリーは女王だ。すんなり呑む必要はない筈。

 

そもそも、何で僕達はすんなりここに通されたんだ······? 自分達の敵が接触した相手を客として招き入れるなんて危険極まりないだろう。まさか、テロリスト側と裏で繋がっている『クリフォト』は、僕達を一網打尽にする気なのか······!?

 

それ以前に、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』の所有者でありヴァレリーを手の届かない所に行くのを何故許可する······? まさかヴァレリーの聖杯を······!!?

 

 

ヴァレリー「······ギャスパー!! 私、日本に行ったら、皆さんと一緒にピクニックに行きたいわ。お日様の下でピクニックなんて夢みたい」

 

ヴァレリーはこちらの変化に気付かなかったのか、楽しそうに語る。

 

ギャスパー「そうだね······僕が何処にでも連れてってあげるから······」

 

ヴァレリー「本当!? それに、お買い物もしてみたいし、美味しい物もいっぱい食べてみたいわ。あ、ルーマニアの料理が美味しくないってわけじゃないのよ? ただ、日本には美味しい物がいっぱいあるって聞いたから」

 

ヴァレリーは笑顔で、更に続ける。それは、とても聖杯に精神を侵されている者とは思えないほどに綺麗な笑顔だ。

 

これだけ見ていたら、世間に疎い女の子にしか見えない。

 

ギャスパー「うん······日本にはここよりも美味しい物がたくさんあるよ」

 

何とか言葉に出して続ける。

 

ヴァレリー「夢みたいだわ······」

 

夢······城から出たことのなかったヴァレリーにとっては確かにそうなのかもしれない。

 

だが、ヴァレリーにとっては最悪なことが、ヴァレリー本人の口から語られた。

 

ヴァレリー「······それもこれも、お兄様が『解放』してくれると約束してくれといただいたお陰ね」

 

「「「「······ッ!!」」」」

 

僕達は再び目を見開いた。

 

 

 

 

······『解放』? ヴァレリーを? いや、あの男がそう簡単に聖杯を手放す訳がない。

 

 

やはりヴァレリーの聖杯を抜き取る気か······!!

 

ギャスパー「······ヴァレリー。それ本当?」

自分の憤りが限界を超えたことを感じた。

 

ヴァレリー「ええ······ギャスパー? どうかしたの?」

 

ヴァレリーが不安そうに見つめてくる。

 

ギャスパー「······あ、うん、何でもないよ。良かったねヴァレリー」

 

限界を超えた憤りを堪えながら返した。

 

 

 

······奴は絶対に殺す。後悔する間もなく、絶望と恐怖の底に叩き落として殺す。

 

自分の心が何処までも冷えていくのを感じた。

 

 

 

そして、その状態のままお茶会は終了する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルル「······ギャスパー、大丈夫かしら?」

 

退室して、廊下を歩いているとお母様が訊いてくる。これ昨日黒歌さんにも言われた······

 

ギャスパー「······何とか。怒りが3周回って今冷静ですから」

 

どこをどう巡った結果かは自分でも分かっているか怪しいが、今は冷静だった。

 

クルル「······そう」

 

お母様は目を細めただけで口を閉じた。

 

その後、お母様は黒歌さんに何か耳元で囁いていた。また、お父様は自分用の亜空間に手を突っ込んで、何か作業しているようだった。

 

黒歌さんはお母様から何か囁かれた後、頷いた。

 

八幡「······ギャスパー。動けるようにしとけよ」

 

お父様が僕の頭に手を置きながら言う。僕が分かってます、と言うとそのままワシャワシャしながら続ける。

 

八幡「ならいい。時間がない以上─────ッ!!」

 

お父様が話していた時、突如目を開けていられないほど強い光が窓から射し込んだ。

 

僕達は慌てて窓から外の様子を伺った。

 

クルル「これは······!!」

 

お母様が息を呑んだのが分かった。城を覆うように、超巨大な光の壁が発生していた。

 

これは······神器(セイグリッド・ギア)摘出の術式!! 堕天使が使っている物にかなり手が加えられているようだが、間違いない!!

 

八幡「······悪いギャスパー、訂正する。今すぐ動くぞ」

 

ギャスパー「······はい!!」

 

八幡「黒歌はこのまま俺とギャスパーと一緒に行くぞ」

 

黒歌「了解にゃ」

 

八幡「クルルは潜伏中のヴァーリ達に連絡を取ってくれ。その後は俺達と合流」

 

クルル「分かったわ」

 

お母様はすぐに連絡用の魔法陣を展開して、外にいるお兄様やクロウさん達に連絡を取り始めた。

八幡「ギャスパー、正念場だ。覚悟を決めとけよ」

 

ギャスパー「分かってますよお父様······覚悟なら最初から決まってます」

 

 

······最初から覚悟は出来ている。もちろん、命を賭ける覚悟ではない。それではヴァレリーを助けられたとしても、ヴァレリーが一人になってしまう。それは本末転倒でしかない。

 

ヴァレリーを無事助けて全員無事に帰る覚悟だ。それ以外の覚悟は、無謀、或いは蛮勇でしかない。

 

 

 

 

八幡「······ならよし。行くぞ」

 

僕とお父様と黒歌さんは、地下の最下層にある祭儀場に全速で向かった。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 



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第89話 静かな開戦

 

クルルside

 

 

 

転移が封じられたせいで走っていった八幡達を見送りながら、私は連絡用の魔法陣を展開する。

 

クルル「······無茶苦茶な妨害術式ね······」

 

最近毎度のように妨害を受けているが、この程度なら術式解体に時間は掛からない。

 

妨害の術式を片っ端から解体していく。連絡用の魔法陣にも妨害も受けているが、全て解体する。

 

結構な数があったが、一つ一つは大して複雑でもないため、2分ほどで全て解体出来た。

 

改めて連絡用の魔法陣を展開し、クロウと連絡を取る。

 

 

クルル『······クロウ、聞こえる? こちらクルル』

 

一瞬間を置いて、クロウから返答される。尚、何処で聞かれているか分からないため、連絡用の魔法陣以外にも『光矢伝達(ブロードキャスト)』と、魔法陣の不可視化の術式を複合使用している。

 

クロウ『······クロウだ。聞こえている。事態は把握した。こちらでもツェペシュの城に張られた結界を確認した』

 

敵は近くに来ないと見えないとか、認知阻害と言った類の術式は用いていないらしい。それが偶然なのか態となのかは私には分からないが······

クルル『なら良かったわ。八幡はギャスパーと黒歌を連れて、ヴァレリーと聖杯の奪還に向かったわ。そっちはこっちに来れる?』

 

クロウ『可能だ。今から────む?』

 

今から向かう、と言おうとしたクロウが途中で言葉を切った。

 

クルル『どうかしたの?』

 

クロウ『······すまないクルル。こちらの動向が予測されていたらしい』

 

ということは······クロウやヴァーリ達はすぐにはこっちに来るのは無理ね。

 

クロウ『吸血鬼と、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーに賛同と思われる悪魔が多数。すぐには向かえない······最悪ヴァーリだけでもそちらに向かわせるつもりだ』

 

クルル『······十分よ。気を付けて』

 

クロウ『······了解』

 

 

そこで連絡を切る。その時、廊下の向こうから何者かが歩いて来るのに気付いた。

 

クルル「······誰だ」

 

ローブを羽織り、白いフードを深く被っているため顔は見えない。が、少なくとも味方ではないことは雰囲気からすぐに察することは出来た。

 

「······久しぶりだな。クルル・ゼクスタ」

 

クルル「······!!」

 

ゼクスタ······私の名がツェペシになる前の旧姓だ。だが、私がそれを知ったのはルシフェル様の意識体を八幡が感知出来たからだ。私はゼクスタを名乗ったことはない。

 

······いや、一人いた。可能性ではあるが、知っている者が。

 

クルル「······四鎌童子(しかまどうじ)!!」

 

私はいつの間にか握り締めていた、義兄さんが宿る黒塗りで翠に輝く刀───『阿朱羅丸(あしゅらまる)』を手に臨戦態勢に入っていた。

 

四鎌童子「······漸く思い出したようだな。さぁ······殺してやろう」

 

奴はフードを取り、右手に聖剣と思しき物を亜空間から取り出した。奴の長い金髪は以前とは違い、黒髪のメッシュが入っていた。

 

手にしている聖剣からは、攻撃的なオーラが漏れ出している。

 

 

······ここで暴れれば、下にいるであろうヴァレリーに多大な影響を与える可能性がある。この場にいたら最小限に力を抑えないといけないわね······

 

 

一つ息を吐いた後、刀を右手に持って素早く振る。壁の一部をバラバラに斬って外に飛び出す。

 

クルル「······来てみなさいよ。私を殺したいのでしょう?」

 

四鎌童子「貴様·····!!」

 

挑発して、外に誘き出す。結局、外で戦うことにした。どの道奴は元熾天使(セラフ)。奴くらいの力なら、戦闘の際に周りにそれなりに影響を与えることは覚悟しなければならない。

 

遠目で、町の外れの方で魔力などが飛び交っているのが見えた。おそらく、ヴァーリやクロウ達だろう。こちら側はここの住民を巻き込む可能性のある技を使うわけにはいかない。結構不便ね。

 

 

 

私が壁に開けた穴から魔法を使って飛び出してすぐに、奴は羽を広げて外に出て来た。

 

羽が······3対? 堕天していたアザゼルとシェムハザも含め、熾天使は『聖書の神』の死後、システム調整の際の不具合で羽が6対になった筈だけど······

 

 

まぁ、今それを気にしても仕方ない。目の前の敵に集中するとしよう。

 

 

八幡達と合流するのは諦めるしかないわね······

 

 

 

 

私は刀を構え、奴の攻撃に備えた。

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

お母様と分かれた僕とお父様と黒歌さんは、地下に向かって駆けていた。

 

黒歌「······ギャスパー、ここの城での儀式は、主に地下の祭儀場で行われるのよね?」

 

足は止めずに、黒歌さんが訊いてくる。

 

ギャスパー「······うん。トリスト・ヴラディもそのように言ってたし、昨日何かあった時のために、って警備兵からくすねておいた城の見取り図にもそこ以外で大きな儀式が出来そうな場所がなかったから間違いない筈だよ」

 

顔だけ向けて答える。

 

八幡「お前そんなことまでしてたのか······いや、まぁ神器(セイクリッド・ギア)の反応は確かにそこからだと思うが······」

 

ギャスパー「だって」

 

黒歌「なるほどねぇ···」

 

 

 

 

 

僕は見取り図を頼りに右へ左へ曲がりながら進んでいく。この城はそれなりに入り組んでいるため、見取り図がないと地下に辿り着くのは難しいだろう。

 

床をぶち抜いて地下に行く手もなくはないが······

 

地下に向かう階段を見付けたので、そこを駆け下りて行く。階段を駆け下りている最中に、何度か吸血鬼から襲撃を受けたが、特に大したこともなかったため軽く吹き飛ばしておいた。

 

地下への階段を暫く降り続けていると、開けた空間に出た。天井の照明で奥まで様子を見ることが出来たが、鎧を纏った200人以上の吸血鬼が待ち構えていた。

 

八幡「チッ······面倒だな」

 

お父様が舌打ちしながら愚痴を漏らす。そう言いつつも、手には3メートル以上ある大刀────『塵外刀(じんがいとう)真打(しんうち)』を亜空間から取り出していた。つまり、吹き飛ばす気満々だということだ。

 

お父様が一歩前に出て口を開く。

 

八幡「······俺達の邪魔をしないならば、攻撃はしない。さてどうする?」

 

お父様が手に持つ大刀が超高速で振動を始めた。『型式・蟋蟀(こおろぎ)』だろう。一振りするだけで破壊力抜群の高周波を塊として放つことが出来る。お父様なら、一振りで山脈を丸ごと消し飛ばすことも簡単に出来るだろう。しないと思うが。

 

お父様の問い掛けに対して吸血鬼達の反応は───手に持つ獲物をこちらに向けることだった。

 

八幡「······そうか。なら仕方ないか」

 

ギャスパー「······どうします? 僕がやりますか?」

 

お父様に訊いてみる。

 

八幡「いや、俺がやる。ギャスパーは出来るだけ力を温存しとけ」

 

ギャスパー「分かりました」

 

控えるよう言われたので、大人しく退る。

 

 

お父様がキィィィンと高音を発し続ける大刀を構える。そして、大刀を横に薙いだ。

 

次の瞬間、ギャリィィィン!!!というとてつもない轟音と共に高周波の塊が放たれ、200人以上の吸血鬼達を一度で消し飛ばした。建造物への損害が思ったより軽微であることを考えると、限界まで力を抑えたのだろう。

 

黒歌「······うわ。これでも限界まで抑えたんだよねぇ······」

 

あれだけいた吸血鬼達は完全に消し飛んでいて、広大な空間は綺麗になっていた。高周波で、肉眼では分からないほど細かく粉砕されたのだろう。相変わらず恐ろしい刀だ······

 

 

 

 

先ほどの空間から更に地下に向かう階段を駆け下りている僕達は、次の階層から負のオーラが流れてくるのを感じた。

 

黒歌「······ねぇギャスパー。このオーラは······」

 

ギャスパー「······うん。クロウさんと似てる。邪龍のオーラだよ」

 

邪魔は、その殆どが滅されており、クロウさんのように生き残っている者は極僅かだ。この強さのオーラなら、既に討伐された筈だろうが······

 

 

······まさか、これもヴァレリーの聖杯を使ったのか?

 

八幡「······ギャスパー、お前の予想通りだ。邪龍のオーラに僅かに神器のオーラが混じってやがる。こんなことは聖杯じゃないと出来ん」

 

お父様は苦虫を噛み潰したような顔で言う。

 

ギャスパー「やっぱり······」

 

聖杯の乱用がここまでだとは······相当無茶苦茶な乱用だ。邪龍を蘇らせるなんて······

 

 

 

僕達が次の階層に辿り着くと、そこには黒い鱗に銀の双眸をした巨大なドラゴンが佇んでいた。

 

『んぁ?······グハハハハハッ!! やっと来たのかよ、待ちくたびれたぜ』

 

黒いドラゴンの哄笑が空間内によく響く。

 

初めて見るドラゴンだ······相当昔に滅ぼされたのだろうか?

 

八幡「······こいつがグレンデルか······なるほど。クロウの言ってた通りイカレてるな」

 

と、お父様がドラゴンを見ながら言った。

 

こいつが『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル······!! デンマークの伝承に登場するドラゴンで、ベオウルフに滅ぼされたと言われていたドラゴンだ。まさか『クリフォト』が蘇らせるとは······!!

 

グレンデル『······ああ、てめぇが『堕天魔』とか言うのか? 少し俺と遊んでくれよっ!!』

 

戦いに身を狂わすほど興じるタイプか。この類の手合いは腕を捥ぐくらいじゃ全然戦意を失わないから厄介なんだよなぁ······

 

そこで、お父様が僕と黒歌さんに言った。

 

八幡「ギャスパー、黒歌。お前ら先に行け。取り敢えず、ここは俺がやろう。まぁすぐに滅ぼして追いつくから安心しろ」

 

お父様は、空いている左手にエクスカリバーを亜空間から取り出しながら言う。

 

ギャスパー「······いいんですか?」

 

黒歌「邪龍は面倒なんでしょ?」

 

僕と黒歌さんがそう言うが──

 

八幡「逆だ逆。こいつらの生命線は聖杯だ。早いとこ押さえないと俺達が手を付けられなくなる」

 

ギャスパー「ああ······」

 

黒歌「それもそうにゃ······」

 

お父様の言うことの方が正しい気がしたので、何も言えなくなった。

 

ギャスパー「······じゃあ······先に行きます!! お父様も気を付けて下さい」

 

黒歌「······そっちも頑張ってにゃ」

 

僕と黒歌さんはグレンデルの横を駆け抜けていく。グレンデルは僕達のことなど眼中に無いのか、お父様から視線を外さなかった。

 

八幡「······ああ、お前らもな。

 

────さて、俺もやるか」

 

 

 

僕達は、お父様にこの場を任せて更に先へ進んだ。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 




ギャスパー、黒歌
(ツェペシュ城の地下祭儀場へ移動中)

八幡
(ツェペシュ城地下にてグレンデルと交戦開始)

クルル
(ツェペシュ城城外にて四鎌童子と交戦中)

ヴァーリチーム、及びクロウ達混成チーム
(多数の吸血鬼と悪魔と交戦中)

混成チームメンバー

・ヴァーリ
・美猴
・アーサー
・ルフェイ
・フェンリル
・クロウ
・ジン
・シフラ
・スコル(転移が可能になり次第、ギャスパーの下へ向かう)
・ハティ(転移が可能になり次第、ギャスパーの下へ向かう)


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第90話 混沌の邪龍

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「·······さて、俺もやるか」

 

 

邪龍、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデルを前にして、亜空間からエクスカリバーを取り出し、『塵外刀(じんがいとう)真打(しんうち)』の型式を『揚羽(あげは)』に変えた。

 

グレンデル「あ? 聖剣か?······いいぜぇ。そうこなくっちゃ面白くねぇ。もう一本の方も形と色が変わりやがった。いいぜ······面白そうじゃねえかっ!!」

 

悪意に満ちたオーラを垂れ流しながらグレンデルが叫ぶ。面倒な奴だ。クロウから聞いたことはあったな、戦闘狂のイカれた野郎だとか。その時は、戦闘好きなあいつが言うんだから相当な奴だとは思ったが俺の予想を上回っているようだ。

 

·······しかも、それで聖杯で強化されていると来た。こっちとしては早くギャスパー達の方に向かいたいが、こいつ確実に邪魔するだろ。ギャスパーと黒歌なら、一対一でも流石に倒せるとは思うが、状況が状況だからな。

 

ここで消し飛ばす······いや、復活されても面倒なだけだから封印するか。邪龍を封印するのは二度目だが······殺すと封印出来ないからなぁ······

 

 

八幡「······『黒丸(こくがん)』」

 

俺の周囲に、鉄粉で形成された漆黒の球体が現れる。数は30だ。俺の意思で動かすことも出来るし、自動で動くことも出来る。

 

八幡「行け······!!」

 

俺の周囲に浮遊している『黒丸』は高速でグレンデルに向かっていく。

俺も数拍遅れて突っ込む。

 

グレンデル「マジかよっ!! 黒いのが勝手に動くのかよっ!! いいぜこいやぁっ!!」

 

グレンデルは拳を握り締めて突っ込んでくる。

 

こいつは直接的な攻撃力と防御力に特化していると聞く。()()()()()ダメージが通らないだろう。

 

『黒丸』の形状を円錐形に変化させ、グレンデルの腕に突き刺す。が、突き刺さったものの貫通はしなかった。

 

グレンデル「いってぇなっ!!」

 

グレンデルは突き刺さった黒丸を強引に振り払うと、黒丸を殴りつけた。威力に耐え切れなくなり、黒丸の一つが形状を維持出来なくなって鉄粉に戻って地面に落ちた。

 

······ここまで強化されてるとはな。前回邪龍を封印した時は、そいつが黒丸殴っても逆に殴った奴がダメージ食らったぐらいの頑丈さを誇ったんだが······

 

グレンデルが繰り出してきた拳を軽く躱して、『塵外刀真打』で斬りつける。

 

グレンデル「ぐあっ······!! いいなっ!! それ中々の斬れ味じゃねえかっ!! やっぱこうでねえとなっ!!」

 

腕を深く斬りつけることは出来たが、切り落とせは出来なかった。手加減しているとはいえ、中々の硬さだ。

 

八幡「こっちとしては切り落とすつもりだったんだがな」

 

エクスカリバーを『擬態(ミミック)』の能力で鞭に変化させ、振り上げる。

 

 

 

······腕は軽々切り落とせたが、マジで硬いな。純粋な防御力ならティアくらいあるんじゃないか? 攻撃力ならティアの圧勝だが。

 

グレンデル「グハハハハハッ!! マジ痛えなっ!!」

 

肩口から切り落としたため、そこからは青い血と煙が大量に出続けてんだが、それでも笑ってられんのか。

 

 

·······型式『揚羽』を解除し、塵外刀真打を亜空間に仕舞う。エクスカリバー一本の方が楽だと判断した。

 

グレンデル「······なんだぁ? そのおもしれぇ剣は使わねえのかよ」

 

左手に持っていたエクスカリバーを右手に持ち替えて言う。

 

八幡「······まぁな。お前相手ならこれ一本の方が楽なんだよ」

 

手元でエクスカリバーを遊ばせながら言う。

 

 

その時、この空間に繋がる階段から複数の人物が下りて来た。

 

八幡「······なんだアザゼル達か。今忙しいんだから後にしろ」

 

階段から下りて来たのは、アザゼルとギャスパー以外のオカ研部員だった。

 

······てか、この状況下で歩いて階段下りてくるとか嘗めてんのか。俺達は壁も走ったぐらいなんだが。

 

アザゼル「······そんなこと言ってる場合か!?······いや、それよりアイツは······グレンデルかっ······!!」

 

なんだ、アザゼルはこの邪龍(トカゲ)······邪龍(じゃりゅう)に会ったことがあるのか。まぁアザゼル単騎じゃグレンデルを倒すのは無理だな。他は言わずもがな。いてもいなくても変わらんな。

 

八幡「······まぁそんなことはいい。ギャスパーと黒歌は先行させた。何かする気あんならお前ギャスパーに聖杯の知識貸してくれないか?」

 

ここにいるよりはマシだろうし······お袋の封印の解除で得た情報が全てとも限らんからな。神器(セイクリッド・ギア)の方の聖杯は殆どいじったことないし。

 

アザゼル「ああ、それぐらいならもちろん構わんが······」

 

アザゼルはグレンデルを見ながら言う。

 

八幡「んなら頼むわ」

 

 

アザゼル「ああ、分かった······お前達、この場は八幡に任せて先に急ぐぞ」

 

アザゼルがオカ研の部員を見ながら言う。が、何人かが反論した。

 

小猫「······でも、比企谷先輩一人で邪龍を相手にするなんて······」

 

まず塔城が。次にイッセーが。

 

イッセー「そうっすよ!! アイツ見るからにヤバそうじゃないすか!!」

 

えぇ·······早く先行ってくれよ·······いたら庇いながら戦う必要が出て来るじゃねえか······

 

アザゼル「いや何言ってんだイッセー。俺から見たらグレンデルより八幡の方が遥かにヤバいぞ」

 

八幡「それはどういう意味だ」

 

こんな戦闘狂よりヤバいわけないだろ·······ないよね?

 

アザゼル「強さ的な意味だよ。おいイッセー、八幡は俺達とは別次元の強さだぞ。仮に俺やお前が加わったって邪魔になるだけだ」

 

リアス「ちょっとアザゼル!! その言い方は───」

 

リアス・グレモリーが何か言おうとしたが遮りつつ言う。

 

八幡「そういうわけだ。邪魔だからとっとと行け」

 

下りてきた階段とは逆側にある、更に下の空間に続く階段を指差す。

 

グレンデル「·······んで、話し合いは終わったのかよ『堕天魔』」

 

未だに右肩口から煙を上げ続けているグレンデルが訊いてくる。

 

八幡「·······まぁな。じゃあやろうか······と、言いたいところだがそうも言えなくてな······おいアザゼル、早く行け。邪魔だ」

 

人の視線に敏感な俺が恥ずかしいことに今頃気付いたのだが······()()()()()()()()()。こいつをじわじわ弱らせながら封印するのは無理そうだ。俺封印得意ではないんだが······

 

アザゼル「·······あぁ、分かった。行くぞお前達」

 

アザゼルが他を連れて先に向かった。どの道、アザゼル達に残られても邪魔になるし、アザゼル達に任せるとグレンデルを討伐も出来ずに逃がすか全滅かのどちらかだからな。結局こうなるんだが。

 

 

グレンデルは俺達の横を通り過ぎて行くアザゼル達に興味を持たなかったのか、一切見もしなかった。まぁ自分より弱い奴に興味持ちそうにないからなこいつ。

 

グレンデル「グハハハハハッ!! 邪魔が入ったが続けられんだろ? とっとと始めようぜっ!!」

 

そう言いながらグレンデルは突っ込んでくる。そして残った左腕を引いてパンチのモーションを取る。そして突き出した。

 

八幡「悪いが、ここまでだ」

 

エクスカリバーのオーラを放出させて振り下ろす。放たれた聖なるオーラは突き出されたグレンデルの左腕を軽く消し飛ばし、グレンデルの体を焦がしていく。

 

グレンデル「ガ····グ、グアァァァァアアアッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がエクスカリバーから聖なるオーラを発し終えると、そこには見るも無惨(やったの俺だが)に倒れ付したグレンデルがいた。

 

グレンデル「······ガ·······ァ·······」

 

よし、生きてるな。

 

 

俺は亜空間からなんの変哲もない一振りの日本刀を取り出す。これは半年くらい前まで使っていた奴で、俺の力に耐えれなくてすぐにボロボロになっていたが、夏に冥界に戻った時に鍛え直したのだ。

 

それ以降は使う機会がなかったのだが、他に封印に使う物を用意出来なかったので、グレンデルはこれに封印する。

 

 

俺は日本刀を転がっているグレンデルの体に突き刺した。

 

八幡「·······滅びし魂よ。常闇(とこやみ)閃耀(せんよう)の狭間に眠れ」

 

俺が呪文を唱えた刹那······グレンデルの体が刀に吸い込まれていく。

 

グレンデル「······てめぇ······いった、い···何、を······」

 

 

最後にグレンデルが何か言った気がするが、声が小さくすぎて聞こえなかった。

 

 

八幡「······ふぅ、封印完了」

 

やっぱ結構精神的にくるものがあるな·······封印術は。

 

グレンデルが封印された刀は、グレンデルのオーラの影響か、刃紋から刃の部分が深い緑色に変化し、刃紋から峰側が黒く染まった。

 

······『鬼呪装備(きじゅそうび)』みたいだな。あれはもっと綺麗な色をしているが。

 

取り敢えず、グレンデルを封印した刀に『魔の鎖(グレイプニル)』を巻き付けて、亜空間に仕舞っておいた。本格的な処理は後でいいだろう。

 

 

八幡「······さて、そろそろ出て来い」

 

俺は上の階に繋がる階段側を横目で見ながら言う。先程から妙な視線を感じていたが、こちらに若干の敵意を抱いていた。普段ならそれぐらいは別に気にしないが、ここはテロリストがトップに立っている国だ。何があるか分からんからな。

 

 

俺が言った直後、黒い祭服を着た褐色の肌の青年が階段から下りてきた。

 

「······どうやら、グレンデルは敗北したのだな」

 

八幡「······誰だ」

 

褐色の肌の青年は先程までグレンデルが倒れ付していた所を見つめながら言う。

 

 

 

·······こいつやばいな。グレンデルなんか比較出来ない程に。感じ取れるオーラは静かなものだが、ドラゴンのものだ。それも邪龍のオーラ。

こいつも『クリフォト』の協力者ではあるんだろうが······俺が生まれる前に滅ぼされたのか?

 

 

 

 

「······そうだった。貴公には自己紹介をしていなかった。私はアポプス」

 

八幡「何っ······!!?」

 

あ、アポプスだと······!!!!?

 

クロウに並ぶ邪龍筆頭格がテロリストに降ったのか······!!!!?

 

アポプス「『原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプスだ。お見知り置きを、『堕天魔』」

 

 

 

八幡sideout

 

 



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第91話 最初の後悔

 

 

ギャスパーside

 

 

邪龍グレンデルをお父様に任せ、黒歌さんと共にツェペシュ城の地下祭儀場に向かっていた僕は、階段を下りた先にあった装飾が施された扉を蹴破った。

 

 

扉を蹴破った先にある巨大な空間は、儀式に使われるような像や、書物が収められているであろう棚、魔術に使われる素材などがあちこちに置かれていた。

 

 

そして、空間の中央には床に描かれた巨大な魔法陣があり、その中央に置かれた寝台に、ヴァレリーは寝かされていた。

 

そして、その周りには術式を操っているマリウス・ツェペシュと、マリウス・ツェペシュに協力しているのであろう吸血鬼が十数人ほどいた。

 

ギャスパー「ヴァレリー、今助けに────っ!!」

 

助けに行こうとしたが、僕達と奴らの間には障壁が存在していた。

 

魔法陣の中で術式を操作しているマリウス・ツェペシュが口を開く。

 

マリウス「おっと、下手な攻撃は控えて下さいね。術式に影響が出ればどうなるか分かりませんよ?」

 

ヴァレリーを助けに行こうにも、障壁に阻まれて近寄ることが出来ない。

 

······しかも、この障壁に使われているプロテクトコードは666(トライヘキサ)さんに使われていた封印術に用いられていたものと同じ系統のもの!! 何故こいつらが使うことが出来る······!!?

 

だが、今そんなことを気にしている余裕はない!!

 

ギャスパー「ヴァレリー!! ······クソッ!!」

 

黒歌「ギャスパー!!」

 

ギャスパー「分かってま······分かってる!!」

 

僕と黒歌さんは急いで障壁のプロテクトコードの解除にかかる!

 

だが、元々『聖書の神』とルシフェル様が使っていただけあって、僕達だけでは簡単には解除出来ない······!! せめてお父様かお母様がいれば······!!

 

いや、お父様に任された以上、僕達で何とかするしかない!!

 

ヴァレリー「······ぎゃ、ギャスパー······?」

苦しそうなヴァレリーの震える声が耳に届く。

 

クソッ······!! こうならないためにこの国に来たのに······!!

 

ギャスパー「待っててヴァレリー!! 今助けるから!!」

 

障壁のプロテクトコードを一つ一つ解除していく。プロテクトコードの解除で、普段の限界を余裕で超えて脳を酷使させているからか、鼻血が出てきた。

 

お父様やお母様と違って、僕は666さんの封印の解除はそこまで関われなかった。僕が冥界にいると、オカ研の人達に怪しまれてしまうからだ。だから、僕は封印の中でも比較的簡単な物しか解除していない。

 

それがこんな所で裏目で出るなんて······!!

 

ギャスパー「グッ······!!」

 

僕自体は肉体の損傷ならどうとでもなるとは言え、限界を超えて脳を使い続けているせいで頭が割れそうだ······

 

黒歌「ッ!! ······ギャスパー!!」

 

ギャスパー「!! ······出来た!!」

 

お父様やお母様ほど早くはいかないけど、十層程に掛けられていたプロテクトコードは解除出来た!!

 

マリウス「······何ですって?」

 

ギャスパー「ヴァレリー!! 今行く!!」

 

僕は瞬時に障壁の術式を解除して、魔法陣に向かって駆け出す。

 

「そうはいくか!!」

 

数人の吸血鬼が僕の前に立ち塞がる。たかたがその程度で止められると思うな······!!

 

ギャスパー「邪魔だッ!!」

 

パンチ一発で立ち塞がった数人を消し飛ばす。

 

 

ギャスパー「『魔眼(バロル・アイ)』!!!」

 

停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』······ではなく、その元となったもの······『魔眼(まがん)のバロール』の二つ名の元となったバロールさんの『魔眼』を使い、神器(セイクリッド・ギア)摘出の術式を停止する。

 

 

······そして、吸血鬼達の目にも留まらぬようなスピードで、ヴァレリーをそっと抱えると、黒歌さんのいる所まで後退した。

 

更に、ヴァレリーに掛けられた神器摘出の術式を解除した。

 

 

······良かった。どうやら、聖杯を摘出される前に助けることが出来たらしい。後は帰るだけだ。

 

 

マリウス「······いったい何をするというのです? ギャスパー・ヴラディ。私はヴァレリーに言いましたよ? 『貴女を()()()()解放する』、と」

 

ッ!! ······この男、この後に及んでまだそんなことを······!!

 

黒歌「······何処までもクズね」

 

黒歌さんもこの男の外道さに軽蔑の念を抱いている。

 

 

ヴァレリー「······ギャスパー?」

 

その時、僕に抱えられて、うっすら目を開けたヴァレリーが僕に尋ねる。

 

ギャスパー「大丈夫だよヴァレリー······今度こそ僕が守るから······一緒に日本に帰ろう」

 

今度こそ······家族を、僕に温もりを与えてくれた人を······

 

 

ヴァレリー「ふふっ······そうね」

 

ヴァレリーは先程まで神器摘出の術式を掛けられていたとは思えないほど柔らかな笑みを浮かべる。が、その顔はやはり辛そうだ。

 

ギャスパー「······だから、もう少し待っててね」

 

ヴァレリー「? ええ······ギャス、パー······」

 

ヴァレリーの首にそっと触れる。すると、ヴァレリーの瞼がゆっくり閉じていった。

 

 

仙術。体内の気を操り、自然の気から力を取り込む技術。その応用で、僕はヴァレリーの体内の気を操ってヴァレリーを強制的に眠らせた。

 

ここから先はヴァレリーは見なくていい。いや、僕は見せるつもりはない。

 

 

 

────僕がこれから行うのは、一方的な蹂躙で殺戮なのだから。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

比企谷先輩に邪魔者扱いされ、アザゼル先生に正論で説き伏せられた私達オカ研部員は、渋々比企谷先輩にグレンデルという邪龍を任せ、ギャー君と姉様が先に向かったという地下の最下層に向かっていた。

 

 

イッセー「······確かに、俺達は八幡より弱いけど、あんな言い方しなくたって······」

 

階段を下りている最中、イッセー先輩が不意に言う。

 

リアス「······そうね。確かに私達が束になっても八幡一人に適わないけれども、あんな言い方は······!! ······私達だって、八幡との実力差ぐらい理解しているわ」

 

ゼノヴィア「······確かに部長の言う通りだ。私達だって彼と会った時より遥かに実力を身に付けている。幾ら何でも邪魔にはならない筈だ」

 

リアス部長とゼノヴィア先輩が言うと、私を含め部員全員は頷いた。だが、そこにアザゼル先生が異を唱えた。

 

アザゼル「······それは違うぞリアス、ゼノヴィア。確かに、お前達は以前とは比較にならないほど実力を付けているが、それでもお前達は八幡との実力差を全く理解していない······まぁ殆どの奴は理解出来ないだろうが」

 

先生に、部長は更に異を唱える。

 

リアス「アザゼル·····どういうことかしら? 私達は理解出来ているわ。ライザーとのレーティングゲームや、コカビエルの襲来で彼の実力は目の当たりにしているわ。

二天龍を一人で封印したことからも、魔王様と同等、或いはそれ以上の実力を有している」

 

部長が言うと私達部員の皆は頷いたが、先生は更に否定した。

 

アザゼル「いや、それが間違っているぞリアス。アイツを魔王と比較する段階で、まずお前は八幡との実力差を理解していない」

 

リアス「何ですって······?」

 

部長は半目になりながら言うが、先生は何処か遠くを見ているかのような目をして言った。

 

アザゼル「······アイツはな。単騎で全神話勢力と戦争が出来る程のバケモンだ。アイツに勝てるとしたら、全盛期のオーフィスかグレートレッドのどっちかだけだな······いや、グレートレッドは兎も角、今のオーフィスじゃ勝てるかすら怪しい」

 

「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」

 

 

先生から明かされたことに私達はただただ驚くことしか出来なかった。

 

単騎······つまり、たった一人で全ての神話勢力と戦争が出来る······!? それは最早、二天龍すら及ばないのではないのだろうか······!?

 

しかも、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスですら勝てるか分からないと······!!?

 

アザゼル「全ての神話勢力で八幡と戦争して勝てると言われたら、俺なら勝てないと答えるな。しかも、神と旧四大魔王すら屠った二天龍をたった一人で滅ぼしたのが数百年前の話だ。今のアイツは当時とは比較にならないだろうな······っと、着いたか」

 

私達は驚愕しつつも、何とか先生の目線を追う。

 

 

───そこには、女王ヴァレリーを抱えたギャー君と、姉様が立っていた。

 

 

 

ギャスパー「······大丈夫だよヴァレリー······今度こそ僕が守るから······一緒に日本に帰ろう」

 

 

 

そして、私達は比企谷先輩だけでなくギャー君との実力差をも否応なく理解することとなる。

 

 

 




次回も小猫視点続投です。


因みに、ギャスパーはヴァレリーに対して恋愛感情を抱いていません。オーフェリアとは別の、もう一人の姉だと認識してます。




まぁ、本作のギャスパーは割と重度なシスコン············とブラコンとファザコンとマザコンという設定があったりしますが。



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第92話 世界のヤミ

《終わりのセラフ》原作と四鎌童子のキャラが全く違うと感じている方が多数おられるかと思いますが、作者は単行本だけなので、四鎌童子のキャラを知りません。想像でございます。




 

 

ギャスパー「······大丈夫だよヴァレリー······今度こそ僕が守るから······一緒に日本に帰ろう」

 

ギャー君は俗に言うお姫様抱っこで女王ヴァレリーを抱えており、優しく女王を床に降ろすと、首に触れた。すると、女王の体からは力が抜けたかのように崩れ落ちた。

 

ギャスパー「······だから、もう少し待っててね」

 

ギャー君は亜空間からルーマニアに来た時に着ていた黒いコートを女王に掛けると、姉様に女王を任せた。

 

ギャスパー「······黒歌さん、ヴァレリーをお願い」

 

黒歌「······任されたにゃ」

 

姉様はしゃがんで、女王の肩を抱いて女王に体を支えた。

 

黒歌「······ギャスパー。やっちゃって」

 

ギャスパー「······うん」

 

 

ギャー君はそのまま前にゆらゆらと歩いていく。

 

ギャスパー「······お前ら。何か言うことはあるか」

 

 

 

ぞわっ。

 

 

 

 

ギャー君が言葉を発した瞬間、凍てつくような何かが背筋を突き抜けた。

 

「よくも儀式の邪魔をしてくれたな!」

 

「何故我らの本懐の邪魔をする!?」

 

宰相マリウスの近くにいた吸血鬼が声を上げた。

 

 

······本懐?

 

ギャスパー「·······本懐だと?」

 

ギャー君が、人を動けなくするほどの凍えるような雰囲気を放ちながら言う。吸血鬼達はそれに気付いていないのか、更に続けた。

 

「······我らヴァンパイアは弱点の多い種族だった」

 

「日の光、流水、十字架に聖水······人間などよりも優れている筈の我らは多数の弱点のせいで人間の繁栄を許してしまった」

 

「我らは聖杯を用いて吸血鬼を超越した存在に作り替える!」

 

「そして、人間どもの繁栄するこの世界を再び支配せねばならない!! 上位種たる吸血鬼に支配されてこそ、人間どもは······家畜としての本懐を遂げられるであろう!!」

 

人間が······家畜!? 吸血鬼は悪魔以上に貴族第一主義なのだろう······夏休みの若手悪魔の会合で、悪魔の上役達が貴族主義であることを垣間見た私ですら驚くほどだ。

 

 

吸血鬼の一人が嘆くように息を吐く。

 

「放逐された輩が無駄に増えるとはいえ、長かったですな」

 

「全くですな。しかし、これで世界は真の姿を取り戻すでしょう」

 

「後は現王と憎きカーミラですな。折角齎された聖杯を使わないなどという愚鈍な考えを示した。彼らさえ始末すれば計画の最終段階だと言うのに」

 

私達は絶句する他なかった。彼らの価値観は危険すぎる······!! 聖杯を使って世界を支配しようだなんて······!!

 

 

「だから我らの聖杯を───」

 

ギャスパー「クッ、ククッ·······ハハッ!! アハハハハハハッ!!」

 

吸血鬼の男性が話すのを遮って、ギャー君の笑い声が広大な空間に響いた。

 

ギャスパー「ハハハッ!! アハハハハハッ!!」

 

ギャー君は左手で顔を押さえながら笑い続ける。

 

マリウス「······ギャスパー・ヴラディ。何かおかしいことでも?」

 

マリウスが突然豹変したギャー君の様子を訝しんで尋ねた。

 

ギャスパー「ハハハハッ······いやなに、お前らみたいな三流未満の戯言に振り回されてた自分が滑稽に感じただけだ」

 

──ギャー君······?

 

 

ギャー君は続けた。この程度の連中に昔の自分は怯えながら過ごしていたのか、と。

 

「······何だと貴様!! ハーフ如きが我々の聖杯を奪っておいてその言い草か!!」

 

吸血鬼の一人が叫ぶ。すると、嘲笑を浮かべていたギャー君の顔から一切の感情が消えた。

 

ギャスパー「()()()、か······聖杯はヴァレリーのものだ。どう転んでもお前達のものではないが?」

 

ギャー君は更に続けた。抜き出している段階でただの搾取だ、と。

 

マリウス「······ですが、ヴァレリーは言いましたよ? 私達に協力すると」

 

マリウスは平然とした顔で答えた。

 

ギャスパー「協力? 聖杯を抜き出したらヴァレリーは死ぬぞ? それも協力と言うのか?」

 

私はギャー君から黒いオーラが漏れ出していることに気付いた。

 

マリウス「ええ。例えヴァレリーが死んだとしても、ヴァレリーの()()()()()聖杯は私の研究を大きく躍進させ、彼らのように新世界を統べる叔父上達の助けにもなるでしょう」

 

マリウスがそう言うと、周りからはそうだ、そうに決まってるとばかりに賛同の声が上がった。

 

家畜、支配、上位種······吸血鬼の彼らはとことんまで人間を見下していた。

 

 

そこで、ずっと黙っていた隣にいた姉様が溜息をついた。

 

黒歌「······あ~あ。あいつらも馬鹿にゃ。適当に媚売っとけば楽に死ねたのに」

 

私は姉様の漏らした一言に目を見開いた。

 

小猫「······!? 姉様、それはどういう────」

 

 

楽に死ねたのに······!!?

 

 

それはどういうことですか。そう姉様に訊こうとした時、ギャー君の発した声が、決して大きくなかったその声が、私には恐怖や絶望と言ったものを、凝縮したものに感じられた。

 

 

ギャスパー「······お前達、僕が昔何て呼ばれていたか知っているか?」

 

こちらが凍えるような声で言葉を発するギャー君の問いかけに、吸血鬼は問い返す。

 

 

·······私は、ギャー君がギャー君ではない何かに感じた。

 

 

「な、何の話だ······?」

 

吸血鬼の様子に、ギャー君は笑みを浮かべた。

 

ギャスパー「答えは─────『バケモノ』だよ」

 

ギャー君はそう言いながら、靴で床をトン、と鳴らした。

 

 

 

その瞬間、世界は闇に包まれた。

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

ツェペシュ城城外に飛び出した私は、追い掛けてくる四鎌童子(しかまどうじ)を挑発しつつ城下町の空を、城ともヴァーリ達が戦闘を繰り広げている場所とも違う方向に向かって飛行していた。

 

四鎌童子「······死ね······!!」

 

奴は手にする聖剣のオーラと巨大な光の矢を飛ばして攻撃してくる。

 

それを私は、義兄さんが宿る刀──『阿朱羅丸(あしゅらまる)』で、全て切り裂いて霧散させる。

 

四鎌童子「······貴様さえ······貴様さえ生まれて来なければ!!!」

 

奴は今までのものよりも遥かに巨大な光の矢を作り出し、こちらに投擲してきた。

 

クルル「······何の話だ」

 

それを『阿朱羅丸』を揮い、粉々に切り裂く。そしてお返しとばかりに、奴が飛ばしてきたものよりも更に巨大な光の矢を投擲し返す。

 

奴は、私が飛ばした光の矢を聖剣で破壊しようとする。が、聖剣は光の矢に耐えられずに砕け散り、奴は光の剣を作り出して私の光の矢を受け流した。

 

クルル「······一つ聞く。700年前、何故『(みかど)ノ月』を襲撃した?」

 

私が尋ねると、奴は表情を更に歪ませて叫んだ。

 

四鎌童子「何だと······? 自分のことを棚に上げて、まだしらけるのか!?」

 

クルル「······は?」

 

別に私は自分を棚に上げてるわけでも、(とぼ)けているわけでもない。

 

······この女の妄想か?

 

 

 

奴は堰を切ったように叫ぶ。

 

 

それは、聖書勢力の根幹に関わるものだった。

 

そして、私が何も知らない頃の話だった。

 

四鎌童子「······お前のせいで、()()()()()()()()!! お前のために()()()()()()()!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

────お前に分かるか!? 死ぬことも出来ず、()()()()()()()()()私の気持ちが!! 堕天も出来ず、一生神に仕えねばならなくなった私の苦しみが!!

 

······私は、私達は、ただ平和に暮らしていただけなのに!!」

 

 

クルル「······ッ!!!?」

 

奴は何を言っているの······!?

 

父も母も死んだ······!? 奴は熾天使(セラフ)ではなかったのか······!?

 

 

一族······!?

 

私の父親が四鎌童子の弟······!?

 

 

 

四鎌童子「······お前さえ生まれなければ誰も死ななかったのに······!!」

 

 

奴から明かされたことに私は動けなくなった。

 

 

 

クルルsideout

 

 



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第93話 《ゼクスタ》という一族


この作品、今回で99話目(設定とかも含め)なんですね。次でとうとう100話······応援してくれる方々に感謝しかありません。


今回はかなり人を選ぶ内容になっているかもしれません。ご注意下さい。

尚、話に出て来る内容に就きましては、作者の独自解釈増しましですので、その道に詳しい方がご覧になると違和感を感じる可能性がございますが、ご了承下さい。




 

 

 

side???

 

 

 

700年前。ヨーロッパ南部の某国の山奥に、一つの名もなき集落があった。

 

 

その集落には《ゼクスタ》という名を持つ一族が住んでおり、その一族は代々とある神を祀っていた。

 

尚、そのとある神と言うのが今日のクルル・ツェペシの母であり、『ヨハネの黙示録』に記される『黙示録の(アポカリプティック)皇獣(・ビースト)』とされた666(トライヘキサ)の原形である。

 

『ヨハネの黙示録』に取り入れられ666(トライヘキサ)という名前が付くまでは、どの神話勢力も相手にしないような小さな土着信仰によって生み出された神だった。

 

 

 

 

 

さて、話は戻るが、その名もなき集落に住む《ゼクスタ》の一族に、男女の双子の姉弟が産まれた。

 

姉の名は『ティリネ』。弟の名は『ロラン』。

 

次の一族の跡継ぎとして姉弟は育てられた。2人は集落の人々皆から好かれるほど優しい性格であり、虫も殺せないような性格をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

ここまでなら、この人外が跋扈するこの世界においてはそれほど珍しい話でもないだろう。

 

 

だが、集落をも巻き込んで姉弟の運命は突如狂い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、少年ロランはとある少女と出会った。彼女は綺麗な桃色の髪に真紅の瞳をもっていた。

 

その時のロランが知る由もないが、彼女こそが自分の一族が代々祀ってきた神だった。

 

名もないような弱き神───後の666は、聖書に取り込まれて以降神性が強くなっており、当時人間の住む世界に下りても影響を受けない程度には強い肉体を持てるようになった。

 

そして、その神は長らく自分を祀る『人間』に強い興味を持っており、度々人間界を訪れていた。

 

 

 

神は、最初は人間を眺めるだけであったが、それでは満足出来なくなり、遂に人の姿を取って地に降り立った。

 

その時始めて会ったのが、少年──ロラン・ゼクスタだった。

 

 

 

神からしてみれば自分を崇める人間の一人に過ぎなかったが、少年はその神に恋をした。

 

少年は神から目を離せなくなったのだ。

 

 

────やけに馴れ馴れしい人間だ。

 

神が少年に抱いた第一認証がそれだったが、神は少年が自分を祀る一族の者だと人目見て分かったため、暫く少年に付き合うことにした。

 

 

 

 

──────悪くない。

 

 

神が少年に付き合っている時に抱いた感情がそれである。少年によく似た姉も、彼らの両親も、神を祀ること以外は温かみを持った人間だった。彼らの一族は強い異能を持たなかったため、その神がすぐ近くにいるとは夢にも思わなかったのだが。

 

 

 

 

そして、時はまた暫く経過する。

 

 

少年ロランは青年へと成長し、新たに一族の長となっていた。この時になってもまだ、神は自分を偽って青年ロランと会っていた。ロランがら少年の頃の頻度では会えなくなったが。

 

 

 

青年へと成長したロランが一族の長となって数年が経った頃。

 

 

集落は突然外から来た者に占領された。言うまでもない、『聖書の神』が率いる天界勢力である。

 

 

 

この集落は、『宗教』、と呼ぶほど強い信仰心を集落の全員が持っている訳ではなかったが、『聖書の神』はこの集落の《ゼクスタ》という一族が祀る神に目を付けた。

 

 

『聖書』自体は人間が作ったものであり、そこには存在しない者もいたりする。その時の666はまだ、人間の想像上の産物に過ぎなかった。

 

 

と、誰もが、それこそ『聖書の神』ですら思っていた。

 

 

 

『聖書の神』率いる天界勢力の占領によって、自分も自分を崇める者達も逃げられないと悟った名もなき神は、自らの正体を明かし、天界の監視下に置かれることで自分を慕う者達の自由を『聖書の神』に願い出た。

 

当然、このことに集落のだれもが驚いた。少年ロランが桃色の髪を持つ少女と出会ったことは集落の間では周知のことだった。

 

神への無礼を承知の上で、名もなき神が『聖書の神』に下らずに済むように誰もが願ったが、それは集落が無事ですむよう願う名もなき神自身により、届くことはなかった。

 

 

 

 

名もなき神の申し出を『聖書の神』は承諾したが、一つ条件を課した。

 

集落の内の一人······正確に言えば、《ゼクスタ》の一族の内の一人が、正式に天界勢力に下り、『聖書の神』に仕えること。それが、名もなき神に課された条件だった。

 

 

当時の《ゼクスタ》の一族には跡継ぎがおらず、長であるロランはもちろん集落を離れるわけにはいかない。そして、白羽の矢が立ったのが、ロランの双子の姉──ティリネだった。

 

 

無論、集落の人気者であったティリネが集落を離れることもまた惜しまれたが、ティリネは喜んでその役割を願い出た。

 

 

 

 

それから暫くして、集落を離れるティリネの代わりに、名もなき神の監視役として天使長ルシフェルが集落に派遣された。

 

 

·······この頃のルシフェルは誰よりも『聖書の神』に心酔しており、『聖書の神』を唯一絶対のものと考えていた。当然、当時のルシフェルが悪魔を憎く思っていたのは言うまでもない。

 

 

ルシフェルが集落に派遣されたことは、集落の誰からも良く思われることはなかった。だが、『聖書の神』に任された役割を全うするということしか頭になかった当初のルシフェルにとっては、どうでも良かった。

 

 

 

その一方で、『聖書の神』にお仕えする者として天界にいたティリネは、『四鎌童子(しかまどうじ)』と名を変え、神に仕えるに相応しい()()として、熾天使(セラフ)智天使(ケルブ)の注目を集めていた。

 

······しかし、その裏で彼女が()()()()()()()()ことに気付いた者はいなかった··············

 

 

 

 

それから数年が経つ。その頃、名もなき神は《ゼクスタ》の一族の長、ロランと恋仲まで発展していた。これは集落の誰もが既知であり、異論を挟む者もいなかった。

 

また、この頃になると、名もなき神の監視役として派遣されたルシフェルも集落の者からも認められ始め、派遣された時に比べれば思考は多少柔軟なものになっていた。

 

 

 

しかし、『聖書の神』はあることについて常に警戒していた。名もなき神は、聖書勢力に降ることで、聖書······特に『黙示録』の影響を受け、性質が変化していた。

 

名もなき神は、獣の数字────『666』または『616』の特性を内包するようになっていた。

 

 

 

 

 

それから更に数年が経つ。この頃、名もなき神とロランの間は晴れて夫婦となり、子供を授かった。名前はクルル。

 

クルルは集落の皆にも歓迎され、ルシフェルも、この頃になると集落の一員と認識されるほどになっていた。

 

既に、ルシフェルが派遣されてから10年が経っていた。

 

 

集落は、クルルの誕生によって更に活気づいた。皆、クルルの成長を見守る気であり、ルシフェルもその気でいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、事態は一変する。

 

 

 

 

 

 

この頃になると、名もなき神は完全に666の性質を取り込んでおり、『聖書の神』と言えど簡単に手出しが出来なくなるほどだった。

 

そして、クルルの誕生は、『聖書の神』にとって青天の霹靂以外の何物でもなかった。

 

 

グレートレッドと並ぶ『黙示録』の獣。それが666であり、名もなき神と、その血を継ぐクルルが『聖書の神』に危険視されるのは当然と言える。

 

 

 

そして、『聖書の神』は、名もなき神───666と、クルルの討伐に乗り出した。当然、監視役たるルシフェルも命を受けた。

 

 

だが、以前ほど『聖書の神』を信頼出来なくなったルシフェルは、簡単に手を下すことは出来なかった。

 

彼女は天使長。創造主たる『聖書の神』の命令には従わなければならない。

 

だが、人外にとって毛先程度の筈の10年間は、ルシフェルの考えを変えるのには十分すぎる時間だった。

 

 

·······それでも、ルシフェルは泣く泣く『聖書の神』の命令を実行に移した。

 

 

 

だが、集落の者は皆、この件を察知していた。青年ロランが《ゼクスタ》の一族の長に就いてから外の民族との友好をもつようになっていたため、天界の異変を察知することが出来たのだ。

 

 

そして、それは名もなき神とロランにも言えることだった。

 

 

彼らは、自分の命を犠牲にクルルを天界の手の届かない何処かへ、それも天界に知られない場所に逃がす算段をつけていた。

 

 

ルシフェルはそれを受諾する。

 

 

 

算段通りに、まず、名もなき神──666を指定の場所に連れ出し、『聖書の神』、ミカエル、アザゼル、メタトロンと共に世界の最果てへと封印した。自分が『聖書の神』の施す封印術を知れるように仕組んで。

 

その際、彼女が、封印された666の監視役の続投を懇願したことに疑問を持ったのはアザゼルだけだったが、アザゼルにはその理由を知る由など当然ないため、アザゼル自身も、そこまで深く気にすることも追求することもなかった。

 

 

 

 

そして、ルシフェルはロランを殺し、クルルを殺したように見せかけて、『聖書の神』にも極秘で作った、自分の人間界での隠れ家へと避難させた。

 

 

 

しかし、ここで一つ誤算が生じた。ロランの双子の姉、ティリネに、ロランを殺してクルルの殺害を偽装している所を見られてしまった。

 

ルシフェルは細心の注意を払っていたが、天界に顔を見せる回数が以前より格段に減っていたルシフェルは、四鎌童子に目を付けられていたことに気が付かなかったのだ。

 

 

そこで、正気を失って襲い掛かってきた四鎌童子を止む無く始末したルシフェルは、集落を去った。

 

 

 

実は、四鎌童子との交戦中にその姿をアザゼルに目撃され、ルシフェルは更にアザゼルに疑われることになり、それがアザゼルの堕天にも繋がるのだが、ルシフェルにはそこまで気を配る余裕もなく、姿を見えなくしたクルルを連れて脱出するしかなかった。

 

 

その後、幼きクルルは『(みかど)ノ月』という呪術組織に迎えられることとなり、ルシフェルは後の夫である比企谷(ひきがや)時宗(ときむね)と出会うこととなる。

 

 

 

また、ルシフェルとは別で、人間界に秘密裏に拠点を持っていたアザゼルに、四鎌童子は一時の間匿われることになる。

 

そして、そこで四鎌童子が元は人間だったことをアザゼルは知り、堕天を決意することになる。

 

 

 

 

尚、彼らの過ごしたその集落はその後間もなくして、原因不明の山火事により跡形もなく燃えてしまったとされる。

 

 

 

sideout《ゼクスタ》

 

 

 

 

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

四鎌童子「大人しく私に殺されろ······!!」

 

クルル「······クッ」

 

奴が揮ってくる光の剣を、間一髪で避ける。

 

先ほどの奴の言葉を、私の動きを乱すのに十分だった。私は思考が混乱する中で、何とか目の前から迫る攻撃を躱す。

 

 

······奴の話が本当ならば、ルシフェル様は『聖書の神』の命令に従って、私の父を始末したことになる。

 

······母の封印をしたのもルシフェル様だ。ならば、何故私が生きている······!? 私はルシフェル様や『聖書の神』にとって邪魔になった筈······

 

·······八幡はこのことを······いや、八幡に私の過去を離したのは修行の旅で各地を旅していた時。その時は八幡は私のことは何も知らなかったし、今も知っている様子はない。八幡が知っているならば、何か言ってくれる筈······

 

 

 

────私が信じるべきなのは誰なの······?

 

 

 

クルルsideout

 

 

 





過去の回想の中では語りませんでした(書くタイミングがありませんでした)が、四鎌童子には事実がかなり歪曲して伝わっており、『聖書の神』によってある程度の思考の操作をされていました。



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第94話 ギャスパーの世界


祝、更新100回目!! ありがとうございます。これからも本作をよろしくお願い致します。





※今回の話には若干過激な描写が含まれております。ご注意下さい。




 

 

小猫side

 

 

ギャスパー「······お前達、僕が昔何と呼ばれていたか知っているか?」

 

 

ゆらゆらと歩いていたギャー君が立ち止まり、顔を押さえていた左手をダランと下げる。

 

そして隠れていた真紅の瞳が──全てを吸い込むような漆黒に染まった。

 

 

ギャスパー「······答えは─────『バケモノ』だよ」

 

 

次の瞬間、ギャー君から膨大な量の漆黒のオーラが噴出し、この広大な空間を覆い始めた。

 

ギャー君から放出された漆黒のオーラは、瞬く間に広がってゆく。

 

 

ギャスパー「······逃げようなどとは考えないことだ」

 

全身から漆黒のオーラを放出し続けるギャー君が口を開く。

 

 

 

そして遂に、空間全てが漆黒───闇のような『ナニカ』に覆われた。

 

 

────もう、この空間には上下左右の概念があるのかすら分からない。

 

暗く、冷たく、光すら消失させた空間には、私達だけがポツンと闇の中で取り残されたような錯覚を起こす。

 

 

「こ、これは······!?」

 

「いったいなんなのだ!?」

 

吸血鬼達が驚いているが、それは私達も同じだ。このような現象は見たことがない。

 

まさか、これをギャー君がやっているのだとしたら······これはあまりに異常な力ではないのだろうか······?

 

ロスヴァイセ「······これは······!?」

 

この光景には、魔法に秀でたロスヴァイセさんも、堕天使の総督であるアザゼル先生ですら驚くばかりだった。

 

アザゼル「······おい、リアス······これは何だ······? いくら『変異の駒(ミューテーション・ピース)』とはいえ、これは······!!」

 

リアス「······私にも分からないわ······ギャスパーは眷属になった後すぐにお兄様に封印されてしまったから······」

 

部長ですら知らない能力······!?

 

マリウス「······落ち着いて下さい、叔父上方。これがリゼヴィム殿やロキ殿からの報告にもあったギャスパー・ヴラディの()()なのでしょう。しかし、恐れる必要などありはしません。聖杯によって強化された我々がハーフの持つ力に屈しているようでは、笑いの種にもなりませんでしょう」

 

マリウスはこの空間を見渡しながら言った。すると、言われた上役達は臆した様子を見せつつも頷いた。

 

「そ、そうだ」

 

「聖杯にて強化された我々がハーフ如きに遅れを取るなど────」

 

その吸血鬼が最後まで言い切ることはなかった。

 

 

 

─────空間から突如出現した、闇のような『ナニカ』で形作られた無数の刃に貫かれたから。

 

ギャスパー「······ハーフハーフ煩い。僕をお前達の同類にするな」

 

その時、空間の一部が突如隆起したかと思うと、何かを形作っていった。

 

それは空間の至る所で起こっており、見たこともないような漆黒の生物が無数に生まれていく。

 

三つ首の龍のようなものに、トカゲの爬虫類のようなフォルムに蝶の羽のようなものが生えたもの。脚が20本はある蜘蛛(くも)のようなものに、双頭で4枚の翼をもつ猛禽類のようなもの······空間のあちこちからそのような生物が生まれ続けており、全てが吸血鬼達の下に歩んでいく。

 

 

この光景に、私達も吸血鬼達も身震いが止まらない。姉様とマリウスだけは平然としているが······

 

「『()()()』め······!! その手の芸当が貴様だけのものだと思うな!! たかが闇でできた獣如きが我らに適うとでも───」

 

次の瞬間、鳥のようなものに啖呵をきった吸血鬼が連れ去られていく。そして次の瞬間───

 

「や、やめっ······!!」

 

床に叩き付けられて、頭部を(くちばし)で噛み潰された······

 

 

この光景を見ているギャー君が不意に口を開く。

 

ギャスパー「『魂をも喰らう(フォービトゥン・インヴェイド)禁夜の怪物(・バロール・ザ・ビースト)』。────絶望と恐怖を抱きながら死ね」

 

······ギャー君は彼らを呪うかのように吐き捨てる。

 

 

「や、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「し、死にたくないっ······!!」

 

吸血鬼達は為す術もなく、魔獣のようなものに一方的に喰われていく。

 

 

 

これを、ギャー君がやっている······こんな恐ろしいものをギャー君が······

 

 

あまりの光景にアーシア先輩は目をぎゅっと瞑り、両手で耳を塞いでいた。

 

だが、マリウスはこの状態でも依然として余裕な表情を浮かべていた。

 

 

マリウス「······素晴らしい。昨今、ハーフで異質な力を持つ者は増加傾向にあるが、君はその中でも別格だ。聖杯で強化された叔父上達をああも簡単に蹂躙する力······しかも、これが神器(セイクリッド・ギア)の力でないと言うのだから、尚のことだ」

 

私達はマリウスが口にした言葉に驚愕した。

 

神器の力ではない······!? 私は禁手(バランス・ブレイカー)だとばかり思っていた。そうでないならば、この空間は、あの獣のような『ナニカ』は、いったい何なの······!?

 

ギャー君は特に動じる様子もなく吐き捨てるように返した。

 

ギャスパー「······そうだよ。確かに、この力はあんな偽物の邪眼の力じゃない。で、それが分かったところでどうする?」

 

そう言ったギャー君の右腕に闇のような『ナニカ』が纏われていく。

 

ギャー君も認めた······!! 私達の知らないギャー君のこの力はいったい······

 

 

マリウス「······ここで会ったのも何かの縁だ。折角ならこちらに協力を────ッ!!!?」

 

そこまで言った所で、突如マリウスの息が詰まる。

 

「「「「「「「「······ッ!!?」」」」」」」」

 

その光景には、私達も目を見開いた。

 

ギャスパー「はぁ······今際に言うことがそれ? くだらない。お前達は多少楽に死ねるようにしてやろうか考えた。でも無駄だったよ。特に、お前は生きていたなら周りに害を振り撒くだけだ」

 

ギャー君の右腕が巨大で闇のような『ナニカ』で出来た腕に変貌しており、それがマリウスを掴んでいた。

 

マリウス「······流石『再誕の魔神(バロール・リヴァイヴァル)』だ」

 

巨大な手に掴まれても尚、余裕な表情を浮かべるマリウスが言う。

 

───『バロール・リヴァイヴァル』······? ギャー君のことだろうか?

 

アザゼル「······『魔神の再臨』······!! ギャスパーがか······!?」

 

アザゼル先生は何やら知っているようで、一人驚いている。

 

ギャスパー「······そこまで情報が······まぁいいや」

 

ギャー君はそんな先生の様子も気にもとめずに呟いた。

 

 

─────死ね。

 

 

ギャー君がそう呟いた瞬間、マリウスを掴んでいた巨大な右腕は······マリウスを握り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇に覆われた空間が、霧が晴れていくように霧散していく。

 

そこには、もう闇のような『ナニカ』の獣も、ギャー君の真っ黒で巨大な右腕も、もうそこにはなかった。

 

その空間に立っていたギャー君は、何事もなかったかのように柔らかい笑みを浮かべ、姉様が肩を支えている女王ヴァレリーの頭をそっと撫でた。

 

黒歌「······仙術が効いたから今は落ち着いてる。でも、ギャスパーも分かると思うけど、この場ではどうしようもないほど負の気を溜め込んでるにゃん。私からすれば、生きてる方が奇跡よ」

 

姉様は女王の頭を膝の上に乗せて、しゃがんでいるギャー君に言う。

 

ギャスパー「······うん。何があるか分からないから、早くここから────ッ!! ······黒歌さん!!」

 

黒歌「······了解にゃ」

 

ギャー君は立ち上がり、突如何もない所に黒い魔法陣を展開した。更に、姉様もそこに魔法陣を重ねがけする。

 

 

突然どうしたのか2人に聞こうとしたが、空中に、見るだけで本能的に理解出来るほどのプレッシャーを放つ光の粒子が集まっていった。

 

 

ロスヴァイセ「あ、あれは······まさかッ······!!」

 

 

光の粒子は、数瞬で巨大な塊へと変化し、次の瞬間、無数の光の(つぶて)となって降り注いだ。

 

······私達は、ギャー君と姉様が張った魔法陣がなければ即死していた。

 

 

降り注いだ光の礫は、爆煙を引き起こした。

 

それはすぐに晴れたが、煙の中に一人の男性が立っていた。黒を基調としたローブを着ており、少々目付きが悪いが整った顔立ちだ。

 

アザゼル「あいつはっ······!! 夏に捕縛された筈だ······!!」

 

ロスヴァイセ「なっ······何故ここにおられるのですか······!?」

 

 

先生とロスヴァイセさんが目を見開きながらも声を上げる。と、男性はそれの反応した。

 

「······誰かと思えば、オーディンの付き人をしていた戦乙女(ヴァルキリー)ではないか。我が邪魔をしないでもらおう」

 

ロスヴァイセ「······ッ!!」

 

男性は一睨みでロスヴァイセさんを黙らせ、ギャー君に話し掛けた。

 

「······さて。殺したこと思えば、まだ生きていようとはな。くたばり損ないの魔神。また神殺しの餌食にされたいようだな」

 

くたばり損ない······? 魔神? 神殺し? 彼はいったい······!!

 

ギャスパー「·····こんな所まで態々来るとは。テロリストに屈した悪神は暇なのか」

 

悪神······!? 神がテロリストに屈した!?

 

「ほざけ。我が黄昏の障害足りうるは殺さねばならん。そのために貴様ら『ルシフェル』が邪魔なだけだ······!!」

 

ギャスパー「······『神々の黄昏(ラグナロク)』か。僕にはそれが必要な理由が分からないな、ロキ」

 

ロキ······!!!? 北欧神話で『ラグナロク』を引き起こすとされる悪神!! 何故ここに!?

 

 

ロキ「それが我の使命だからだ。『神々の黄昏』こそ、我が成就すべき行いであり、存在理由だ。貴様も我に力を貸さないのであれば、排除するしかあるまい。『神魔槍』に貫かれた魔神の遺物」

 

 

ギャスパー「······そうか。僕もお前が邪魔だ。お前こそ僕達の危害に成りうるなら、消す」

 

 

ギャー君は固有の亜空間から血のような色をした二叉の槍を取り出すと、悪神ロキに向けた。

 

 

 

小猫sideout

 

 

 



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第95話 あいまいな存在


本作の敵は描写こそないものの、全体的に原作より強化されてます。描写こそありませんが。




 

 

 

 

八幡side

 

 

 

ギャスパーと黒歌を先行させ、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデルを封印した俺の前に現れたのは、『原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプスだった。

 

 

八幡「······まさか、アポプスが『禍の団(カオス・ブリゲード)』に降っていたとはな」

 

俺はエクスカリバーを握り締めながら言う。無論、戦闘態勢は解かない。こいつはグレンデルとは比較にならんほど危険だ。普通にやれば、討伐はいけそうだが、ここではそこまで派手な戦闘が出来ない。

 

······バロールの力を感じたから、ギャスパーが使ったのだろう。ならばそこまで問題はないだろうが、万一のこともある。アポプスは、最悪でも撤退させる必要があるな······

 

アポプス「······勘違いしないで欲しい『堕天魔』。私は『禍の団』に降ったわけではない。王子と目的が一致したため協力関係にあるだけだ」

 

······王子? あぁ、あのゴミ屑(リゼヴィム)のことか。あんなクソ野郎でも前ルシファーの息子だからな······と言っても、あいつは悪魔って種族の恥さらしでしかないが。

 

八幡「······ま、お前が何であんなゴミに協力するかは兎も角として、お前に今邪魔されるのは困るんでな」

 

······取り敢えず、ギャスパーの邪魔をされないことを第一条件に据えるか。ヴァーリには悪いが、こいつの相手しながらあのゴミの足止めとか無理だ。

 

アポプスは、俺と戦った時の二天龍を超えている。クロウには劣るが、ティアは上回るって所か。厄介極まりない。

 

クロウ呼んだ方がいいか? さっきクルルが転移阻害の魔法の解除をしていたから呼べるだろうが······

 

 

アポプス「······ではやろう。お互い、この場で全力を出せないのが心残りだが、折角の機会だ。存分にやらせてもらおう」

 

アポプスがそう言うと、足元から闇が生じて、そこからどす黒いオーラが触手のように高速で伸びてくる。

 

八幡「······チッ」

 

俺は舌打ち混じりにエクスカリバーから『聖』のオーラを放って相殺していくが、これでも結構キツい。エクスカリバーで相殺していくんじゃすぐに限界がくるか?

 

なら狙うのは······まぁ本体だよな。

 

 

八幡「······乱残穢(みだれざんえ)

 

エクスカリバーを神速で揮って、濃密な『聖』のオーラを周囲に放ち、アポプスが生み出した闇を全て消滅させる。

 

そのままアポプスに接近し、エクスカリバーで肩口に斬り込む。が、生じた闇に防がれる。驚いた······エクスカリバーを防げるのか······聖杯の強化か?

 

 

アポプス「······なるほど。噂に違わぬ実力者であることは間違いないようだ」

 

八幡「そりゃどう、もッ!!」

 

俺は空いている左手に光の剣を作り出し、すぐさま振り上げる。アポプスは反応が遅れたため、アポプスが闇による防御が間に合わなかったため深く切りつけれたのだが、右腕ぐらい落としたかったな······

 

アポプスは少し後退しながら言う。

 

アポプス「ッ!! ······どうやらこの力だけでは私には勝ち目はなさそうだ」

 

次の瞬間、俺の右、左斜め後ろ、頭上から黒い水がうねりながら襲いかかってきた。魔法陣を展開して防ごうとするが、接触部分から魔法陣がどんどん溶けていく。俺は三方からの黒い水を防ぎつつ後方に飛び退いた。

 

黒い水······? ああ、そう言えば、こいつは『原初の水』を使えるんだった。『原初の水』から生まれたんだったか?

 

 

······触れたら何でも溶かす黒い水、か。マジで厄介だな。しかも液体だから決まった形がない。先ほどの闇は、『原初の水』の副産物か。元々、闇だの混沌だのを象徴とすると言われているからな。

 

 

俺はエクスカリバーから『聖』のオーラを放ってみる。が、水の一部を消滅させただけだった。

 

今度は、少し強めに作った光の矢を投擲する。今度は、さっき俺の右から襲いかかってきた黒い水を、完全に消滅させた。想像通り、光の類はよく効くみたいだな。

 

 

······まぁ、光も闇も効かないとかいうチートはギャスパーだけで十分だ。あれは最初にブリューナクとルーによって力の仲介と調整がなされたから成立したものでもあるんだが。

 

 

八幡「······結構キツいなその黒い水。俺とは相性が悪そうだ」

 

アポプス「······それは私の台詞だ。これでも割と本気のつもりなんだがね」

 

エクスカリバーを亜空間に戻し、両刃の光の剣を右手にも作り出す。そして、両方を逆手に持ち、二刀を構える。

 

 

そしてアポプスの懐に一歩で潜り込み、右手に持った光の剣を振り抜き斬りつけ、アポプスの右腕を切り落とした。

 

 

 

 

────いける。俺がそう確信した時だった。

 

 

八幡「······ッ!!」

 

返しの太刀でアポプスの左腕も切り落とそうとした時、突如膨大な量の魔法が俺に向かって降り注いだ。

 

幾重にも展開した魔法陣で防ぎつつアポプスから離れるが、魔法陣がどんどん割れていく。

 

最後の一枚が割られると同時に両手の光の剣を消し、巨大な光の矢を一瞬で作り出し、魔法が放たれた方向に投げた。

 

八幡「······誰だ?」

 

 

俺が疑問を口にすると同時に、連絡用の魔法陣が展開した。そこからは、城下町で戦闘をしていた筈のクロウの声が響いた。

 

 

クロウ『······すまない八幡。邪龍の一体がそちらに向かった!! そちらに向かったのは────『アジ・ダハーカ』だ······!!』

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

『闇』の檻のようなフィールドで吸血鬼達を蹂躙したギャー君の前に現れ、突如攻撃を仕掛けてきたのは、夏にも冥界に攻撃をしたという悪神ロキだった。

 

 

そして、ギャー君は二叉の深紅の槍を黒いローブの男性────悪神ロキに向けている。

 

 

ロキ「······よもや、死に際に瀕しても『神魔槍』を使うことを躊躇うか。我は失望したぞ。貴様だけは『堕天魔』の一派の中でも実力を買っていたのだがな。()()()()()()がそんな面白いとは思わんがな」

 

······ッ!! 悪神に認められるほどの実力······ギャー君がそこまでの実力者だったなんて······

 

ギャスパー「別に面白いとか求めてるわけじゃない······ま、僕はお前に認められても、何も嬉しくなかったけどね。『神々の黄昏(ラグナロク)』に協力するつもりなんて微塵もないし」

 

対峙するギャー君とロキは、言い知れぬほどの強いオーラを放っている。私では触れるだけで、『戦車(ルーク)』の防御力を突破して大怪我をしそうなくらいだ。

 

アザゼル「·····ブリューナクッ······!! あれはキリスト教の介入によって所在不明になった筈だ······!!」

 

先生はギャー君が持つ深紅の槍を見ながら言った。

 

 

ブリューナク······!! ケルト神話の太陽神、ルーがエスリンとヌアザから授かったという、投げれば稲妻になるという灼熱の槍!! 確か、通説では先生の言ったようにキリスト教の介入の際に失われたとされていた筈だけど······

 

そこで姉様が先生に言う。

 

黒歌「······総督、あれはロキの言うようにレプリカにゃん。オリジナルは"ある”だけで周囲に影響を与えるんだから簡単に出せるわけないでしょ」

 

アザゼル「それは······まぁ、あの万能の太陽神が持っていたものなんだからそうなんだろうが······」

 

先生は口を濁らせる。

 

······というか、姉様は本物を見たことがあるかのような言い方をしたけど······

 

黒歌「······ま、ブリューナクのことなんて今はどうでもいいにゃ」

 

そう言って姉様は指を鳴らす。すると、()()()()()()()()()()私達の周囲に、ドーム型の結界が張られた。

 

小猫「姉様······!?」

 

私は驚きながらも何とか聞き返す。

 

黒歌「悪いけど、ギャスパーの邪魔になるかもしれないからあんた達は大人しくしててね。総督も。ギャスパーもいいでしょ?」

 

ギャスパー「······ありがとう黒歌さん。これである程度は遠慮せずに戦えるよ」

 

ギャー君はそう言って、素早く空中に何かを書いていく。ギャー君の指が通った軌跡はオレンジに発光し、文字となった。あれは······ルーン文字?

 

ギャー君が空中に書いたルーン文字は火球となってロキに降り注ぐ。

 

ロキ「······ルーン魔術か」

 

ロキもまた、ロスヴァイセさんが使うような北欧の魔術を使い、ギャー君のルーン魔術を相殺していく。2人の魔術は相殺される度に激しい爆発と衝撃を発生させた。それは姉様が張った結界でこちらまで届くことはないのだけど······

 

その時、ギャー君が持つ深紅の槍───ブリューナクがバチバチと音を立て始めた。見れば、ブリューナクから途轍もないほど強烈な電撃が発生していた!!

 

そしてギャー君がブリューナクを揮うと、電撃は波動となってロキに襲い掛かる!!

 

ギャスパー「ふっ······!!」

 

ロキが魔術で電撃を打ち消していく中、ギャー君はロキの懐に潜り込み、神速の突きを繰り出す。

 

······突き、と言ってもぎりぎり見える予備動作から判断しただけで、突きそのものは全く目で追えないのだけど。

 

ロキは身を捻ることで突きを躱していくが、完全に躱しきれなかったのか服は所々破け細かな傷を負っていく。が、ギャー君もロキから放たれる魔術を身を捻って躱したり魔術などで相殺していくが完全に相殺出来ず、徐々にダメージを受けていた。

 

 

2人が距離をとれば、一発一発が途方もない大質量の砲撃で攻撃し合い始めた。

 

······あの威力、一発一発が最上級悪魔と同等かそれ以上!!

 

 

 

砲撃が休まることのない中、ギャー君はロキに何かを問い掛けた。2人の砲撃が衝突する音やブリューナクが放っている電撃の音で、猫趙である私ですら聞き取ることが出来なかった。

 

 

唇の動きから、ロキが何かを言ったと分かった時、ギャー君がワナワナと震えだした。

 

 

次の瞬間、ロキの右腕が宙を舞った。

 

 

小猫sideout

 

 



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第96話 ハカイシャの憤怒

 

 

クルルside

 

 

 

クルル「······ガフッ!!」

 

四鎌童子(しかまどうじ)が放った突きをモロに食らい、私は地面に叩き落とされた。口からは血の塊が吐き出された。

ブランクが長かった分、いざと言う時になって私は自分の力に振り回されていると言ったところが正直な感想だろうか。

 

 

······私はペースを完全に乱され、四鎌童子の攻撃を良いように食らい続けていた。まともにやれば私の圧勝だろうが、攻撃しようとする度に私の頭を先ほど四鎌童子が言った言葉が過ぎり、攻撃の手が止まる。そこを突かれてしまう。

 

 

アシェラ『───しっかりしろクルル!!』

 

阿朱羅丸(あしゅらまる)』を通して、義兄さんの声が頭の中に響く。

 

······分かってるわよ。でも、四鎌童子の言っていることが本当なら、少なくともルシフェル様は私に嘘を付いていることになる······

 

その時、私に四鎌童子の聖剣が振り下ろされる。が、私の右手が()()()()()()『阿朱羅丸』で聖剣を受け止めた。

 

アシェラ『······しっかりしろクルル。僕は君の体の主導権を奪ってでも君を生かすぞ』

 

······分かった。今はこれに集中する。どの道ルシフェル様には終わってから問い詰めるしかない。

 

義兄さんはひとまず納得したのか、何も言わなくなった。

 

 

四鎌童子が横薙ぎに聖剣を揮ってくるのを体を反らして躱し、そのまま顎を蹴り上げる。そのまま地面に左手を付いてバク転で体勢を整えつつ、『阿朱羅丸』で袈裟斬りにする。

 

奴が直前で後ろに下がったため、深く切りつけられなかったのだが、まぁ多少のダメージにはなっただろう。

 

『阿朱羅丸』に付いた血を払い、再び構える。昔だったら振り上げて振り下ろすだけで山を真っ二つにしたりしたのだが······夏に体は元に戻っても戦闘の勘が中々戻らず、この有様だ。我ながら情けない。

 

 

そう思って溜息を吐きつつ、切り込もうとした時、不意に奴が声を上げた。

 

四鎌童子「······!! この女を見逃せと言うのか!!」

 

クルル「······?」

 

奴は耳に手を当てながら、何やら叫ぶ。どうやら通信機の類を耳に付けているようだ。

 

四鎌童子「······チッ。分かった。撤退する」

 

次の瞬間、奴は魔法陣を展開して転移する。私に恨み辛みの篭った目で睨みながら。

 

奴は転移の光の中に消えていった。

 

アシェラ『······見逃してよかったのかい?』

 

義兄さんの声が頭に響く。声に出さずに、それに答える。

 

────今はいいわ。今はギャスパーの方を優先すべきだから······

 

 

 

······それに、奴はまた現れるでしよ? 殺すなり捕縛するなり、その時に考えるわ。

 

声に出さずに、そうとだけ返した。今は私のことより優先するべきことが多い。

 

 

アシェラ『······うわ。君えげつないな』

 

────失敬な。貴方の妹なんですけど。

 

アシェラ『う〜ん·····どこかで教育を間違えたかなぁ······君、昔はもっと純真無垢ないい子だったのに』

 

 

────·············ふ〜ん。あっそ、分かったわ。

アシェラ『えっ······今の間は何?』

 

────さぁ?

 

アシェラ『えっ、ちょっ』

 

 

日本に戻ったら義兄さんとオナハシ(物理)することを決めた私は、服の戦闘によって破けた部分を魔力で修復すると、戦闘中の八幡達の気配を頼りに、地下に急いだ。

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー「······一つ訊くが、ディオドラさんは何処にいる」

 

ロキとの砲撃戦を繰り広げる中、目の前に対峙するロキに向かって言う。

 

ずっと気に掛かっていた。あのゴミ(リゼヴィム)やロキまで来ているのだから、本当に寝返ったのならディオドラさんがここにいないのは普通に考えておかしい。

 

ロキ「ディオドラ? ああ、フェンリルの牙から作った神殺しの聖剣まで与えたにも関わらず貴様を殺し損ねた無能悪魔は確かディオドラとかいう名前だったな」

 

ギャスパー「······ッ」

 

こいつ······!! 知った風な口を······!!

 

······今のではっきりした。少なくとも、『クリフォト』は一枚岩ではない。ゴミが仕切る派閥とは、ロキは別で存在している。ディオドラさんがゴミに降ったのなら、の話だが。それも今では怪しい限りだ。

 

ロキは更に続けた。そして、僕の怒りを完全に爆発させる。

 

ロキ「ふはははっ。奴なら今頃我が独自で開発した魔術によって拷問を受け、死に体となっているだろうな······奴の側には何やら女がいたが、そいつも同じようにやったのだったかな? ま、無能にはお似合いだろう。奴共々貴様を殺し、『堕天魔』や白龍皇なども始末して後から送ってやる。安心するといい」

 

ロキは笑いながらそう言った。

 

────僕の中で何かが弾け飛んだ気がした。

 

 

 

······次の瞬間、僕の手に握られていたブリューナクは振り上げられ、ロキの右腕を切り飛ばしていた。

 

ロキ「クッ······!! よくも貴様······」

 

ギャスパー「殺す」

 

ただでさえ先ほどの吸血鬼共のせいで怒りが頂点に達していたのだが、こいつのせいで完全に爆発した。

 

ロキは───この存在自体に価値のない男は殺す。絶対に、確実に、迅速に。

 

ギャスパー「······黒歌さん、結界強化しといて」

 

自分でもこれは身内に向けるものとは思えないほどの低い声が出た。それだけ怒りを爆発させるのに十分だったのだ。今の一言は。

 

黒歌「······了解にゃん」

 

ギャスパー「ありがとう黒歌さん」

 

黒歌さんは僕と目の前の奴以外に張った結界を三重に張り、今までの倍近くの強度に強化させて、僕に言った。

 

 

黒歌「······別に気にしなくていいにゃ。私も腸煮えくり返ってるから。私もやりたいけど、ギャスパーに譲るにゃ。────潰して」

 

黒歌さんからの死刑宣告に頷いた後、口から一言だけ発した。

 

ギャスパー「······来い」

 

その一言を聞いた、鎖になって心臓に巻き付いているオリジナルのブリューナクは、僕の胸から飛び出して僕の周囲を数周周り、完全に僕の外に出た。

 

僕は先端の鏃になっている部分のすぐ後ろを持つ。すると、ブリューナクは深紅の粒子となって弾けた。そして、柄、刀身、と集合した深紅の粒子が二叉の槍を形作っていく。

 

ロキ「······ほう。それが本物のブリューナクか。以前も貴様は偽物を使っていたから実物は初めて見るが······なるほど。ケルト神話ではブリューナクは槍や投石器と、話によって形状が定まらなかったが、変形するというのか」

 

何やらぶつぶつ呟いているが、聞く気は毛頭ない。

 

 

ギャスパー「······天雷よ」

 

そう唱えると、ブリューナクは(おびたた)しいほどの電撃を放ち始める。これがブリューナクの能力の一つだ。ケルト神話の伝説には、投げれば稲妻となる灼熱の槍とあるが、この能力から来ていることは明白だ。

 

 

そして、周囲の地面すら放電だけで抉り始めるブリューナクを·········奴に向かって全力で()()()

 

ロキ「······ガッ!?」

 

奴は飛来する槍に全く反応出来ずに、右足を切り飛ばされた。傷口からは一気に大量の血が流れ出る。

ブリューナクは付け根から右足を切り落としても尚止まらず、一直線に飛び続ける。だが、向こうの壁に突き刺さる直前に急停止し、むちゃくちゃな光条を描いて、僕の手に戻ってくる。これもブリューナクの能力だ。

 

 

投げれば必中し、必ず戻ってくるという、一種の因果逆転の力だ。

 

他の神話で言えば、グングニルなどはこれに近い。まぁ、だいたいの神話にはある程度の共通点があるのだが。

 

 

ギャスパー「······力を寄越せブリューナク」

 

僕がそう言うと、ブリューナクは更に強力な電撃を放ち、物凄い高熱を帯びた。

 

······さて、終わりにしよう。

 

 

僕はブリューナクを両手で構える。槍の切先には電撃と高熱の一点への収縮により、恐ろしいまでの力がチャージされる。全力ではないが。

 

ギャスパー「······消し飛べ」

 

一歩踏み出し、槍を突き出す。ブリューナクの先端からは極大のオーラが放出され、奴はそれに飲まれていった─────

 

 

 

 

 

 

 

僕はブリューナクを鎖に戻してまた心臓に巻き付けると、黒歌さんの結界を()()()()()、黒歌さんとヴァレリーの元に駆け寄った。

 

黒歌「······ちょっとギャスパー、やりすぎにゃ」

 

ギャスパー「······あ〜、うん、そうだね。確かにやりすぎたと思う」

 

あれでも全力ではないし、黒歌さんも分かっているとはいえ、確かにやりすぎた。

 

······城を破壊するとかじゃなくて、崩壊寸前まで空中を歪ませたらそうなるよね。

 

 

黒歌「······まぁそれはいっか。そうそう、この娘の体ちょっと調べさせて貰ったんだけど······今のままじゃ暫く目覚めそうにないにゃ。やっぱり、聖杯を()()()()()()()()()そうなる?」

 

ヴァレリーに宿った神器(セイグリッド・ギア)の、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』は亜種神器であり、聖杯が3つでワンセットになっている。これはバロールさんが最初に目覚めた時に観測したことらしい。

 

······お父様の話では、最悪一つでもあれば死ぬことはないそうだが、一つか2つは抜き出されている可能性が高いとの話だった。

 

黒歌さんの調べた結果、体内には聖杯が2つあることが分かった。

 

 

 

······一つを抜き出したのは『クリフォト』で間違いないだろう。そもそも、『クリフォト』とは、生命の実『セフィロト』の逆位置を指す言葉だ。あのゴミならそんな悪趣味な名前を付けることもするだろう。

 

その時だった。

 

 

「······あー、ロキはやられたのかぁ。いくら神格持ちとはいえ、北欧の悪神がガキ一人に負けるなんてねぇ。聞いて呆れるぜ」

 

 

僕と黒歌さんの耳に不快な音が届いた。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 




ギャスパーがやったのは『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』をモデルに考えました。


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第96話 『魔神』と『悪魔』


······うん。今までも書いてきたけど、リゼヴィムの口調改めて全然分からん。何考えてんのか分かんねぇ······



······っと失礼しました。では駄文かつ不快になるかもしれませんがそれでもよければどうぞどうぞ。





 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······ッ!!? アジ・ダハーカ!?」

 

原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプスとの戦闘中に、アポプスとは別で俺は攻撃されたのだが······まさかアジ・ダハーカだとは······

 

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ。古代ペルシア神話やゾロアスター教に登場する邪龍である。悪神アンリ・マユの配下であり、英雄スラエータオナに討伐されデマーヴァンド山に封印されるも、世界の終末に際して解き放たれ英雄ケレサースパに滅ぼされるとされる。

 

『シャー=ナーメ』には悪王ザッハークとして登場し、フェリドゥーンに滅ぼされる。

 

 

······まさかアジ・ダハーカまで復活しているとはな。あのゴミはどれだけ聖杯を乱用すれば気が済むんだ······!!

 

 

八幡「······クロウ、悪い報せだ。こっちにはアジ・ダハーカの前にアポプスがいる」

 

向こうと繋がっている魔法陣でクロウに一言だけ言っておく。

 

クロウ『アポプス······!! ······そうか、アジ・ダハーカはアポプスの回収に······』

 

八幡「······悪い、向こうはやる気まんまんだ。後で改めて報告する」

 

空中に魔法陣が展開され、そこからは三つ首の巨大な黒いドラゴンが現れた。三つ首のドラゴンは強烈なオーラを放っている。

 

こいつがアジ・ダハーカか······

 

クロウ『······分かった』

 

クロウが返したところで、魔法陣を閉じた。

 

アジ・ダハーカ「······おー、やられてんじゃねえかアポプス」「やられてる!!」「情けないぞ☆」

 

三つ首はそれぞれが独立している······? いや、三つ全部が完全に別で動くってことはない筈だ。

 

アポプス「······そう言うなアジ・ダハーカ。相手は一人であの二天龍を滅ぼした『堕天魔』だ。この状態の私ではとてもではないが勝てないだろう」

アポプスがそう言うと、アジ・ダハーカは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、嬉々とした表情を浮かべて言った。

 

アジ・ダハーカ「へぇ、お前がそんなこと言うとはな。なるほどねぇ。あのクロウ・クルワッハを眷属に引き込んだだけはある」「アポプスより強い!!」「最強なだけはある!!」

 

俺は500近くの魔法陣を展開しながら言う。

 

八幡「······そりゃどうも。で、ここでやる気か?」

 

アジ・ダハーカ「そりゃあいい!! ·········と、言いたいとこだが今回はアポプスの回収だけだ」「リゼヴィムのケチ!!」「ドケチ魔王!!」

 

あのゴミは復活させた邪龍にまで嘗められてんのか······いや、あいつ程度はその程度だろう。

 

八幡「······見逃してくれんのか。ありがたいこった······」

 

両手を上げて降参のポーズを取る。

 

アポプス「······仕方ない。では、今度は本気の勝負といこう『堕天魔』」

 

祭服の男と、三つ首のドラゴンが転移魔法陣の光に包まれる。

 

八幡「··········とはいかないがな」

 

俺が出せる全力の速度でアポプスとアジ・ダハーカに接近し、両手に光の剣を作り出す。そして、横薙ぎに振り抜く。

 

アジ・ダハーカ「うおあっぶね!!」「痛ぃ!!」「卑怯だぞ!!」

 

アポプス「······不意打ちとはつまらないな、『堕天魔』」

 

······が、アジ・ダハーカが張った魔法陣と、アポプスが生み出した『原初の水』に阻まれて軽いダメージしか与えられなかった。

 

チッ······アジ・ダハーカの首一個ぐらい刎ねとこうと思ったのに。しかし、この魔法陣初めて見たな······魔法の腕前は向こうのが上か。

 

アジ・ダハーカとアポプスはそのまま魔法陣の光に包まれて消えていった。

 

アポプス「······『堕天魔』、貴殿は王子を警戒しているだろう。だが、王子は貴殿が想像しているより非道だ。更なる警戒をすることを勧める」

 

と、アポプスが言い残して。

 

 

────何故敵である俺にそんなことを言い残したんだ······? 奴らはゴミに降ったんじゃないのか······?

 

 

その後、俺は地下に降りてきたクルルと合流して、ゴミの気配が消えた地下祭儀場にいるギャスパー達の下に向かった。

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ロキを倒した僕達の前に現れたのは、ゴミ屑こと『リリン』リゼヴィム・リヴァン・ルシファーだった。

 

 

アザゼル「······お前ッ!!」

 

アザゼル先生の激昂を尻目に自分でも驚くほどの冷たい声で言った。

 

ギャスパー「·····何をしに来た。ゴミ屑が」

 

黒歌「······うわぁ、実際に顔見るのは初めてだけど出来れば二度と見たくない顔にゃ」

 

黒歌さんは汚物を見る目で言う。

 

リゼヴィム「うひゃひゃひゃひゃひゃっ、まぁそう言うなよ〜。おじちゃん泣いちゃうぜ」

 

······いつ聞いても虫酸が走る声だ。今ならお兄様を呼べるだろうか。

 

 

不可視化した魔法陣で、お兄様に向けてのメッセージを送った。お兄様もお兄様で戦闘中だから来れるかは分からないけど······

 

二叉の深紅の槍───ブリューナクを構える。黒歌さんはヴァレリーを抱えて後ろに下がった。

 

こんな奴を黒歌さんと戦わせたくない。

 

 

リゼヴィム「うひゃひゃひゃひゃ、そんな目されるとおじちゃ嬉しくてイッちゃいそう!!」

 

ギャスパー「······黙れ。その汚い口を今すぐ閉じろ」

 

ブリューナクの刀身に、バロールさんの『闇』を纏わせる。

 

すると、ゴミは嬉しそうに、愉しそうに、醜悪な笑顔を浮かべて言った。

 

リゼヴィム「んじゃあ~? そんな殺気の篭った目を向けてくれるギャスパーきゅんにぃ~、予告通りの素敵なサプラ〜イズッ!!☆」

 

奴は地面に魔法陣を展開する。あれは転移魔法陣だ······グレンデル以外にも邪龍を復活させた······とかだろうか? 何にせよ、碌なことではないだろう。

 

すると、魔法陣からはローブを来た小柄な人物が現れる。フードで顔は見えない。身長の大きさはオーフィスさんと大差ない。もしかすると、オーフィスさんより小さいくらいだ。

 

ゴブリンのような小柄な妖精或いは精霊の類だろうか······?

 

 

「······ねぇおじちゃん、コマチは何をすればいいの?」

 

ローブの······少女? がゴミを見上げながら言った。どこかお母様に声質が似ている気がするが······

 

リゼヴィム「小町ちゃんはね~、あの金髪のギャスパーって子を相手にしてね!!」

 

コマチ······いや、その名前を持つ人は700年も前に亡くなっている。いくら聖杯があっても()()()()()()······いや、3年前の『サングィネム』の事件······結局実行犯が全員死亡したから迷宮入りしてしまったけど、あの事件まさか!!

 

黒歌「ギャスパー······!! このゴミは······!!」

 

黒歌さんも同じ考えに辿り着いたらしい······!!

 

ギャスパー「お前······!! 3年前の『サングィネム』の事件の時にグレモリー領に侵入したのか······!!」

 

リアス「なっ······!!?」

 

あそこにはお父様が小さい頃に住んでいた家があったんだ······!! お墓もあそこに······!!

 

リゼヴィム「わぉ凄ぉい!! 大正解だよギャスパーきゅん!! そうだよぉ、3年前の『サングィネム』の事件は俺が犯人だよん!! いやぁ、シーちゃんから面白いことを聞いてねぇ」

 

ゴミは手を叩いて笑いながら言った。

 

こいつのせいで······!! 3年前のあの事件さえなければ······()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なかったのに······

 

黒歌さんを泣かずに済んだのに······

 

 

黒歌さんは吐き捨てるように言う。

 

黒歌「この下衆が······!!」

 

奴は······子供が悪戯が成功した時みたいな笑顔を浮かべて言う。

 

······この例えは全世界の子供に失礼だった。

リゼヴィム「いやー流石だ。血が繋がってないとはいえ、あの八幡君とクルルちゃんの息子なだけあるわ。これだけでそこまで分かるなんてねぇ。座布団あげよっか? それともヨーロッパ一周旅行とか?」

 

ギャスパー「黙れゴミ屑······!!! お前一人のせいでどれだけの人が悲しい思いをしたと思っている······!!」

 

 

 

······不快だ。怒りはとうに限界を超えている。殺意はそれだけで人を殺しさえ出来るほど溢れている。

 

リゼヴィム「おじちゃんは『悪魔』だぜ? 『悪』で『魔』な存在だ。いつだって『人間』の敵である存在だ。『魔』の神を内包してるギャスパーきゅんなら分かるっしょ? 『魔神』ってのは、いつの時代も英雄に倒されるラスボスの称号だぜ? ほら、『悪魔』の俺と根底にあるもんはおんなじってわけよ」

 

ギャスパー「······なっ!!? そんなわけ······!!」

 

あるわけがない······!! フォモール族の長たるバロールさんは、長として周りに恥じないように生きた。『魔』ではあっても『悪』の存在なんかじゃない······!!

 

僕だって、その力を持った以上バロールさんの汚点にならないように生きているつもりだ。こんなの一緒にされてたまるか······!!

 

 

リゼヴィム「ま、そんなことはどうでもいんだけどね~。今日はこの娘のお披露目がしたいだけだしねっ☆」

 

ゴミはそう言うと、隣の少女『コマチ』にフードを取るように言う。少女が見せた顔は────やはり······!!

 

 

ゴミは両手を広げ、高らかに言った。

 

リゼヴィム「この娘は俺のボディーガードの比企谷(ひきがや)小町(こまち)ちゃんどぅえ~っっす!! なんとぉ、あの『堕天魔』こと八幡君の実の妹にして、貴重な貴重なもう一人の純粋な『堕天魔』!!

 

······今はその記憶は一切ないけどね☆」

 

 

 



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第97話 あの日見た幻影


どうも。御坂の運極が作り終わるまで貫通タイプだとずっと勘違いしていたアホの作者です。

ルーマニア編、想定よりだいぶ伸びましたが、後数話で終わりそうです。(終われるとは言い切れない)




 

 

 

リゼヴィム「この娘は俺のボディーガードの比企谷(ひきがや)小町(こまち)ちゃんどぅえ~っっす!! なんとぉ、あの『堕天魔』こと八幡君の実の妹にして、貴重な貴重なもう一人の純粋な『堕天魔』!!

 

······今はその記憶は一切ないけどね☆」

 

 

 

───奴は不快な音を発しながら言った。

 

 

ギャスパー「·····屑が」

 

高速で奴よ前に移動し、ブリューナクの刃先に貯めた膨大なオーラを放出する。ロキに劣るこいつが耐えられる筈がない。

 

 

だが─────

 

 

リゼヴィム「うっひゃああっぶねぇ。やってくれんじゃん」

 

ギャスパー「······ッ!?」

 

奴は余裕の表情を浮かべてその場に立っていた。

 

──奴の体はオーラの膜で覆われている。それで防いだのか? にしても、このオーラ······お母様に近いものを感じる。何がどうなって······?

 

小町「おじちゃん大丈夫!!?」

 

リゼヴィム「おうよ小町ちゃん。君のお陰でおじちゃんは無傷だぜ♪」

 

少女──小町の両手からは赤いような青いような黒いような······()()()()()()()()()()()()()()をしたオーラがリゼヴィムに向けて送られていた。

 

 

いくら最大威力ではないとは言え、これだけでブリューナクの力に耐えられるのか······!?

 

リゼヴィム「はっはっはーッ!! さっすがおじちゃんの最高傑作にしてボディーガードなだけはあるぜっ!! ······これが『皇獣』の力か。おじちゃんの予想以上でびっくりだ」

 

奴は体を覆っているオーラの膜をまじまじと見詰めながら言う。

 

 

『皇獣』······? まさかこのオーラは······!!

 

 

僕は奴から距離を取る。

 

その時、空中に白と黒の入り混じった魔法陣が展開される。この魔法陣を使うのは、僕達の中で一人だけ······

 

 

ヴァーリ「······話は聞かせてもらった。久しぶりだな、リゼヴィム」

 

リゼヴィム「うっは♪ ヴァーリきゅんじゃん♪ ひっさしぶりだねー。元気にしてた?」

 

魔法陣からはお兄様が現れる。お兄様の目には、強い怒りがこもっている。

 

ヴァーリ「すまない。思ったより敵が多くて遅れた」

 

お兄様は僕の隣に降り立ちながら言う。

 

ギャスパー「いえ······それより、今は奴をどうにかしましょう」

 

本音を言えば、今すぐ首を刎ねてやりたいが······お兄様がいる以上、それはお兄様がやるべきだと思う。

 

奴を一番憎んでいるのは紛れもなくお兄様だ。僕がそれを奪うことは出来ない。さっきは殺すつもり満々で何を言っているのか、と自分でも思わなくはないが。

 

 

リゼヴィム「······さってさてー。役者も揃ったことだし、おじちゃんもう一個見せたいものがあるのよ」

 

何だ······? 奴は何を······?

 

奴がそう言って指を鳴らすと、宙に立体映像が出現した。あれは······ルーマニアの吸血鬼領の城下町? 城の外観からしてカーミラ側?

 

ギャスパー「······カーミラ側の城下町?」

 

リゼヴィム「イェス!! その通りだよギャスパーきゅん!!」

 

立体映像には吹雪いている街並みが映っているだけだが······

 

その時、奴は再び指を鳴らせた。

 

リゼヴィム「さてさて、これからサーカスショーの生中継ですぞ〜。ほら来た!!」

 

奴が指を差すと、立体映像に映る街並みに、黒いドラゴンのようなものが出現する。一つ、2つ······それはどんどん増えていき······

 

 

 

 

······口から禍々しいオーラを放って街を破壊し始めた!!

 

黒歌「何よこれ───ッ!! これ、3年前と同じ······!!」

 

黒歌さんは後ずさりながら体を震わせ出した。

 

リゼヴィム「そうだよん!! 3年前、八幡君が治める『サングィネム』でやったことの発展版さ♪ あん時は()()()()()()()()()()()()()のせいで不発が相次いだんだけど、今回は大成功〜!! やったぜ☆」

 

 

 

───3年前、お父様の自領『サングィネム』では、SSS級はぐれ悪魔が徒党を組んで襲撃を掛けるという前代未聞の事件が起きた。僕だけでもその被害を免れるように、という家族の皆の配慮でグレモリーに預けられたのだが······

 

その事件の最中、領民が突如魔獣に変貌するという現象が複数確認されたと聞いている。魔獣に変貌した領民達は、総出で鎮圧に乗り出していたお父様達に拘束され、掛けられていた術を解除することで様々な検査と一年近い休養とリハビリを経て漸く社会復帰にまで回復したと聞いた。

 

ただ、掛けられていた術は解除されるよりも前に自壊したらしいけど······

 

 

それもこれも全てこいつの仕業······!!!

 

 

ヴァーリ「3年前······だと······!? そうか、3年前の事件もお前がッ!!」

 

お兄様の顔が怒りで歪む。前言撤回だ。

 

 

────こいつは今ここで確実に殺さなければならない。

 

リゼヴィム「うひゃひゃっ。ギャスパーきゅんと言い、そっちは頭の回転が良くて助かるぜっ!! 回答役っていいね☆ ま、3年前は今回の術式の試運転だったわけよ」

 

ギャスパー「·······このッ!!」

 

ブリューナクから極大のオーラを放つが、やはり奴に張られているオーラの膜に阻まれる。

 

リゼヴィム「いいねぇ♪ 攻撃に殺気がいい感じに乗ってるぜ。これでも本気じゃねぇってんだから想像したら寒気がするぜ☆」

 

奴は顎に手を当てながら下卑た笑みを浮かべた。

 

ヴァーリ「リゼヴィムッ······!!」

次いでお兄様が『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を発動しながら奴に突っ込む。

 

そして、神器(セイグリッド・ギア)の力を身体能力の強化のみに絞って奴に拳を打ち込む。が······奴には届かない。

 

リゼヴィム「うんうん、可愛い孫がそんな目しながら殴ってくるなんておじいちゃん感激!! イキそうになっちゃう!!」

ヴァーリ「なっ······!?」

 

リゼヴィム「ただ、ちーっとばかし相性が悪かったな。神器使えないお前なら、おじいちゃん一人でも何とかなんのよ。うひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

奴の蹴りを、お兄様は体を捻って躱し僕の所まで後退した。

 

ヴァーリ「······『神器無効化(セイグリッド・ギア・キャンセラー)』か。それに、貴様の側のその少女······」

 

リゼヴィム「そうそう、もう一人の純粋な『堕天魔』なんよ。ルシフェルってのはすげぇよ。『堕天魔』ってのは『聖書の神』の『システム』のバグから生まれたんたぜ?」

 

 

『聖書の神』のシステムのバグから生まれた······? 『堕天魔』はルシフェル様が堕天しないよう掛けた術がお父様にまで及んだということか?

 

嘘の可能性もあるが······何か引っ掛かる。

 

 

奴は暗い銀髪を掻き上げながら言う。

 

リゼヴィム「······にしても、お前らはイレギュラーの宝庫じゃねえか。システムバグから生まれた『堕天魔』比企谷八幡。グレートレッドと同格のバケモンから生まれたクルル・ツェペシ。ダナ神族とフォモール族のハーフであり魔神と太陽神の神格を宿すギャスパー・ルシフェル。

 

───そして、魔王血族でありながら白龍皇であるヴァーリにサマエル級の猛毒神器を宿して生まれたオーフェリア。

 

それ以外にも神話級のバケモンがごろごろいやがる。おじちゃん楽しくて愉しくて仕方ねぇよっ」

 

「「「······ッ!!?」」」

 

僕達は驚くしかなかった。

 

 

こいつ、どこまで知っている······!!? ルーさんの神格のことも666(トライヘキサ)さんのことも極秘事項の筈······!! 特に666さんのことはディオドラさんにも殆ど伝えられていない筈なのに!!

 

 

 

リゼヴィム「······さぁ~って。言いたいことは全部言ったから、おじちゃん今日は帰ろっかね」

 

その瞬間、僕はブリューナクで、お兄様は亜空間から取り出したバルムンクで、黒歌さんは妖術で、一斉に砲撃を仕掛けた。

 

爆発が起き、奴とその隣にいる少女、小町は煙に包まれた。

 

 

煙が晴れると、そこにいた奴は······無傷だった。

 

ギャスパー「なっ······!!?」

 

黒歌「嘘······」

 

目を凝らすと、奴を覆っていたオーラは完全に消えているのが見えた。

 

リゼヴィム「うっは!! やべぇやべぇ、『皇獣』の力で作られたフィールド破壊するとかびっくりだわ。

 

お? シーちゃんとアポプスは撤退したか······あ、小町ちゃん帰るよ~」

 

小町「······うん、おじちゃん」

 

奴と少女は光に包まれる。転移で逃げる気か······!!!

 

ヴァーリ「逃がすか!!」

 

ギャスパー「ヴァレリーから抜き取った聖杯を返せ······!!」

 

僕がブリューナクを、お兄様がバルムンクを手に奴の懐に潜り込む。

 

─────が、突如体から一切の力が抜け、僕達は崩れ落ちた。

 

黒歌「ギャスパー!? ヴァーリ!?」

 

 

これはこの前のと同じ······!! しかも前回のと違って無効化が効かない······!!

 

リゼヴィム「おおっと、これはアンチマジックだのを無効化するように術式組んだからすぐに解除するのは無理だぜ?」

 

ヴァーリ「待て······!!」

 

お兄様は地に伏しながらも全く鈍らない強い眼光を奴に向ける。

 

リゼヴィム「······いや~、可愛い孫が強くなってておじいちゃん一安心だわ。今度あったらまたヤろうぜ☆ そん時はちゃんと相手してやるよ」

 

奴の体が光に包まれて、消えていく。

 

早く術式を·······!! ·············解けた!!

 

ギャスパー「逃がすかぁぁぁッ!!」

 

手からすり抜けていたブリューナクを手元に引き寄せ、ブリューナクから極大のオーラを放つ。

 

リゼヴィム「うっはマジで!!?」

 

小町「おじちゃん!!」

 

────が、少女が放ったオーラによってブリューナクから放ったオーラは相殺され、奴に届くことはなかった。

 

リゼヴィム「若い諸君···········じゃあねー☆」

 

 

···········そして、奴は転移の光に包まれて消えた。

 

 

 

また何も出来なかった······聖杯の奪還も、奴を殺すことも······

 

 

ギャスパー「クソッ······!!」

 

僕はまた、何も出来ずに立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

────結局、僕は、()()()()()()()()()何も変わってなどいなかった。魔王サーゼクス・ルシファーに封印を施される前も、そして今も。

 

 

つまるところ、ただ、力を得たと思い上がっていただけだった。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 



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第98話 火の海の中、

 

八幡side

 

 

 

アポプスとアジ・ダハーカの撤退のすぐ後、クルルと合流した俺は、ゴミ屑の気配が消えた地下の祭儀場に向かっていた。入口のドアが破壊されていたが、ギャスパーか黒歌がやったのは想像がつく。

 

クルル「ギャスパー!! ヴァーリ!! 黒歌!!」

 

黒歌「······あ、クルル······」

 

 

祭儀場にヴァーリが転移していたのは気配で分かっていたが、ヴァーリは地面に倒れ伏していた。

 

黒歌はヴァレリーの頭を膝に乗せたまま、手元に魔法陣を展開してヴァーリを手当てしており、当のギャスパーはブリューナクを左手に持ったまま呆っと突っ立っていた。

 

 

ヴァーリ「······ああ、父さんか」

 

ヴァーリがふらふらと立ち上がりながら言った。さっき黒歌が展開していた術式から見るに、一時的に対象の体から制御権を奪う術式だろう。この系統の術式は現在では禁止指定だ。

 

一応、黒歌には俺達がいなくても()()()()()()()()()()()()()()ように、教えておいたのだがこんな所で役立つとはな。

 

八幡「······おい、大丈夫か?」

 

ヴァーリ「······やられたよ。奴相手に遅れをとってしまった。その上むざむざ見逃すとは······!!」

 

ヴァーリの顔が怒りで歪む。身体的なダメージはそこまで負ったようには見えないが······そうか、あのゴミも撤退したのか。

 

 

 

ギャスパー「クソッ······!!」

 

ギャスパーはブリューナクを握り、吐き捨てるように言った。ギャスパーがあんな口調で喋るのは珍しいな······多分、言ったのは他には《5年前のあの日》ぐらいだと思うが······

 

そのギャスパーはクルルに宥められていた。

 

クルル「落ち着きなさいギャスパー。今は反省は後よ」

 

 

 

ヴァーリ「······案の定、ヴァレリー・ツェペシュの聖杯の内の一つは奴に抜き出されていたよ。そのまま持ち去られた」

 

ヴァーリは目を薄めてギャスパーとヴァレリーを交互に見ながら言う。

 

やはりか······3個でワンセットだから2つ抜き出されている場合も想定していた。2つ目はあのゴミが気付かなかったのか故意に抜き出さなかったのか知らんが、流石に一つは抜き出されてたか。てことは2つ残ったのか。これをラッキーと見るかどうかは······外の様子を見れば言うまでもないか。

 

八幡「ヴァーリ。お前はあの黒いのをドラゴンと見るか?」

 

俺がそう問うと、ヴァーリは一瞬きょとんとした表情をした後、すぐさま表情を険しくして言った。

 

ヴァーリ「······まさか。俺はあんな作り物をドラゴンだと認める気はない。ドラゴンは、すべからく誇りを持っている。だが、奴らには破壊衝動しかない。俺はあんなものをドラゴンとは認めない······!!」

 

ゴミが出したのであろう立体映像で見ながら言う。

 

ありえないことが、ヴァーリが認めた場合は消さずにおこうとは思っていたが、その考えは杞憂だったらしい。

 

 

ならば、だ。

 

八幡「よし、全部潰すぞ。異論は?」

 

ヴァーリ「ないね。俺はあんなものを残したくはない」

 

決まりだな。取り敢えず俺とヴァーリで上にいるクロウ達と黒いのを殲滅して·······後は住民の避難誘導だな。

 

八幡「クルル、俺とヴァーリは地上に出た黒いのを、クロウ達と分担して一匹残らず潰してくる。クルルは、ギャスパーと黒歌とここに残ってくれ。後の判断は任せる」

 

ギャスパーを宥めているクルルに言う。

 

ギャスパー「お父様······僕も行きます。このままじゃ何も出来ずに終わってしまう······」

 

八幡「却下だ。自分の今の状況を鑑みろよ?」

 

ギャスパー「······ッ!?」

 

 

ギャスパーがヤバい。ギャスパーの左目の周りには血管を模したような黒い模様が浮き出ており、それは徐々に広がっていっている。

 

これは謂わば暴走であり、ギャスパーからブリューナクの制限が完全に離れた時に稀に現れるのだ。

 

今回は仕方ないのだが······これ以上になると、ギャスパーが神格の力を暴走させ、ルーマニアを闇で丸ごと呑み込んで地図から消す可能性すらある。

初めてギャスパーが暴走した時は、ルーの神格を埋め込まれた時にバロールの意識が強く共鳴して暴走し、闇が『影の国』にまで及んだ。

 

あの時はギャスパーに宿った方のルーの神格の一部と復活したバロールの神格の一部をブリューナクで仲介することにより共鳴を止めることが出来て事無きを得た。

 

それ以降も、一度だけ暴走したことがあったのだが······まぁそれは今はいいだろう。

 

 

クルル「······了解よ。もし八幡達で対処出来なくなったら私も出るわ」

 

そう言いつつ、クルルはギャスパーの背後に回ってギャスパーの首に軽く触れた。

 

その瞬間、ギャスパーの体は崩れ落ち、地面に伏す直前でクルルが抱き留めた。仙術の応用で、ギャスパーを動けなくさせたのだ。これは以前京都で九重にやったこととほぼ同じものだ。

 

ギャスパー「まだ動けます······」

 

クルルに抱きとめられた瞬間、ギャスパーが握っていたブリューナクは深紅の粒子となって霧散し、先端に鏃の付いた鎖の形になると吸い込まれるようにギャスパーの胸の中に入っていった。

 

クルル「ダメよ。ブリューナクの制限が離れて暴走仕掛けているじゃない」

 

ギャスパーはクルルから離れようと弱々しくもがくが、クルルに抱き締められたまま動けずにいた。

 

クルル「······よくやったわギャスパー。後は大人の仕事よ」

 

クルルが呟き、そっとギャスパーの頭を撫でると、ギャスパーは微睡みの中に落ちていった。

 

黒歌「······むぅ、ずるい」

 

クルル「あら、貴女にはまだ『お母様』の役は早いわよ?」

 

 

 

八幡「······さて、ギャスパーの暴走も未然終わったことだし、俺達は行くか」

 

ヴァーリ「ああ」

 

俺が転移用魔法陣を展開すると、俺とヴァーリは間もなく光に包まれ、地上に転移した。

 

 

 

 

 

 

俺とヴァーリが地上に転移すると、既に街のあちこちで黒いドラゴンもどきが暴れ回っていて、一面火の海となっていた。

 

八幡「······ヴァーリ、悪いがまだ避難出来ていない市民を見付けたら、東門の先に避難するよう促してくれ。カーミラ側からの情報提供には、その少し先に地下シェルターがあるんだと」

 

ヴァーリ「······分かった。と言っても既に、クロウ達が動いているこの状況で、逃げ遅れた者がいるようには見えないが」

 

まあそりゃな······さっき、クロウ達は既に避難誘導とドラゴンもどき殲滅を始めたって連絡来たし。

 

八幡「ま、頭に入れといてくれ」

 

ヴァーリ「分かったよ」

 

八幡「じゃあ俺達は別れて行動しよう。ヴァーリ、程々に暴れていいぞ。あの黒いもどきを片っ端から潰せ」

 

ヴァーリ「······無論だ」

ヴァーリは『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を発動させる。

 

俺達は目だけで合図を交わすと、それぞれ別方向に飛び立った。

 

 

 

 

ヴァーリと別れて行動を開始した俺は、上空を飛び回りながら、地上で暴れているドラゴンもどきをエクスカリバーを揮って消していった。

 

やはりと言うべきか避難に遅れた市民はおり、ツェペシュ側もカーミラ側もエージェントを出して対応に当たっていたが、てんやわんやしていた。

 

 

八幡「······チッ」

 

今ツェペシュ側の領土の、カーミラ側に面していない方の端まで来たのだが······恐ろしい程に避難が進んでないな。この辺はドラゴンもどきの数も少ないみたいだから、見た感じ被害は中心部に比べれば少ないが······

 

八幡「······『擬態(ミミック)』」

 

『擬態』の能力で、エクスカリバーを弓に変形させる。そして、右手の指と指の間に、計4本光の矢を作り出す。

 

それらを纏めて弓にしたエクスカリバーで引き絞り、一斉に発射する。

 

放った4本の光の矢は途中で無数の光の礫となって、ドラゴンもどきを貫き、消し飛ばした。

 

これで8割は片付いた筈だが······取り敢えず、下に降りるか。

 

八幡「······おい、そこのあんた。ここの避難はどうなっている?」

 

逃げ遅れていた住民の一人に尋ねる。

 

「こ、この地区は街の端だから避難誘導がまだ来てないんだ」

 

避難誘導がないのか······余程あたふたしてるのか。吸血鬼は。

 

八幡「······なら、代わりに俺が避難誘導を務めよう。街の東門の先に地下シェルターがある。俺が上空から、そこまでの避難の援護をしよう」

 

「ほ、本当か?」

 

八幡「ああ。ここで見なかったことにするほど腐っちゃいないんでな」

 

逃げ遅れたのは······だいたい50人か。上からなら何とかなるだろう。街は多少破壊することになりそうだが······

 

 

その後、クロウ達と連絡を取りつつ住民の避難を完了させ、俺は再びドラゴンもどきの殲滅に戻った。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

父さんと別れて行動していた俺は、ツェペシュ側の南部を黒いドラゴンの偽物を屠りながら避難誘導を行っていた。

 

ヴァーリ「······もうすぐだ。そこの先を行けば、東門の先にある地下シェルターに辿り着く筈だ」

 

俺の声に、避難中の住民達は安堵の声を漏らし始めた。

 

俺は上空から避難する住民達の護衛をしつつ、握り拳大に濃縮したオーラの弾を無数に放ち、的確に偽物のドラゴンの頭を潰していく。

 

 

 

住民達が東門の先にある地下シェルターまで辿り着き、住民の避難が完了する······その時だった。

 

 

 

 

 

ふと、俺の目に()()()が映り込んだ。

 

 

次の瞬間、俺の目前に銀色の魔力が迫っていた。

 

 





作者は諸事情のため、暫く投稿が出来なくなります。申し訳ございません。次の投稿は早くても来週の月曜になるかと思います。



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第99話 白銀は舞い、闇は微睡む


·······大変遅れてしまい申し訳ございませんでしたぁぁぁっ!!(スライディング土下座)

サブタイトル手抜きです。(白目)




 

 

 

ヴァーリ「はっ!!」

 

俺は迫ってきた膨大な銀色の魔力を、オーラの波動をぶつけて消し飛ばした。

 

ヴァーリ「······誰だ」

 

俺の前には銀髪の男性が降り立つ。

 

そして······その男性の右腕には見覚えのある赤い篭手。

 

「······これはこれは白龍皇ヴァーリ・ルシファー。初めまして。私、ユーグリット・ルキフグスと申します」

 

ルキフグス。俺をルシファーと呼んだその男はルキフグスと名乗った。

 

 

 

 

ルキフグス。冥界でその名を知らぬ者はまずいないだろう。ルキフグスは『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』の中の一つであり、代々ルシファーに仕えてきた一族。

 

ただ、現在のルキフグスは『銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)』グレイフィア・ルキフグス一人を遺して、アルビオンが父さんに滅された戦争で断絶したとされている。

 

 

目の前のこの男も、その戦争の際に行方不明となりMIA(戦争時行方不明)になっていた筈だが。少なくともうち独自のデータベースで見た時はそのようにまとめられていた。

 

────ルキフグスか。ルシファーの名は捨てたとは言え、俺も無関係とはいかないだろう。

 

 

ヴァーリ「······では、俺の声に現れた理由を聞こうか」

 

目の前の男──ユーグリット・ルキフグスに問う。男は隠す様子も見せず口を開いた。

 

ユーグリット「いえ、来たのならば一度会っておけ、とリゼヴィム様から勧められましてね。これの試運転にも丁度よかったものですから」

 

そう言って男は右腕に装着している赤い篭手を胸の前にかざした。

 

 

······『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』か······?いや違う。あれはッ······!! まさか『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』なのか!?

 

ヴァーリ「貴様······何故それを持っている······!!」

 

それを持ち得るのは本物の赤龍帝か父さんだけだ······!! そもそも神滅具(ロンギヌス)自体、本来なら複製出来るものではない!!

 

 

俺の内心を知ってか知らずか、ユーグリット・ルキフグスはほくそ笑みながら言った。

 

ユーグリット「······貴方は京都で英雄派が『堕天魔』にサマエルをけしかけたことをご存知でしょう?」

 

ヴァーリ「······?」

 

ユーグリット「······実は、あの時サマエルは『クリフォト』の研究所と繋がっていましてね。僅かですが赤龍帝の力を採取することに成功したんですよ。これはそれを元に作りまして·······まぁ、レプリカに過ぎないものですが。何故『堕天魔』はこのような形で二天龍を封印出来たのでしょうね······是非とも気になる所ですよ」

 

確かに、その時の話は聞いている。その時に父さんはルシフェルから移植された『権能』が封印から解放されたのだ。だが、向こうにディオドラが寝返ったのなら知っていてもおかしくない筈だが······もしディオドラが話していないのなら······

 

 

······やはりディオドラはギャスパーの言うように、何かを失ったのか失いそうなのか。例えば······人質のような。

 

 

ヴァーリ「······ユーグリット・ルキフグスと言ったな」

 

俺は『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を解除しつつ接近すると、無防備だったユーグリット・ルキフグスに蹴りを食らわした。

 

奴の体はくの字に折れ曲がり、数十メートル先まで吹っ飛んだ。

 

この程度の蹴りであそこまで吹っ飛ぶのか······レプリカの持ち主はさして強いとは言い難いな。

 

 

俺は地面に落下したユーグリット・ルキフグスのすぐ側に降り立ち、見下ろす。

 

ユーグリット「ガハッ······何故、倍加はしていた筈······」

 

なんと。あれで倍加を掛けていたとは。弱すぎるな。

 

ヴァーリ「······ふん。その程度の倍加でよく通用すると思ったものだ」

 

ユーグリット「グッ······これでも一応、姉に劣っていると感じたことはないのですがね······」

 

姉······グレイフィア・ルキフグスか。しかし、旧魔王派はどこもゴタゴタしすぎだろう。あまり俺が言えたことではないが。

 

ユーグリット「······一つ聞きたいのですが、何故神器(セイグリッド・ギア)を解除したのです?」

 

奴は地に伏し、血を吐きながら尋ねてきた。

 

ヴァーリ「·······使う必要がなかったからだ。それに、アルビオンはお前を赤龍帝と認める気はないようだからな。さて、大人しくそれを手放し投降しろ。お前には聞きたいことが山ほどある」

 

亜空間から、母さんから借りているバルムンクを取り出し、オーラをチラつかせながら首元に突き付ける。

 

逃げようとするなら、『魔の鎖(グレイプニル)』で拘束するだけだ。

 

 

······と、案の定奴は転移の魔法陣で逃走を図ったので、『魔の鎖』で拘束し顎を蹴り上げると、奴は動かなくなった。

 

ヴァーリ「······もう一つ言っておく。俺を白龍皇と呼ぶなら勝手にすればいいが、二天龍とは呼ばないでもらおう。俺は赤龍帝ドライグは嫌いなんでな」

 

······と言っても、奴は既に聞いていないか。

 

 

 

俺はユーグリット・ルキフグスを亜空間に閉じ込め、黒いドラゴンの偽物を殲滅に戻った。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

クルル「······後は大人の仕事よ。よく頑張ったわね、ギャスパー」

 

黒いドラゴンのようなものの殲滅に向かおうとしたら、お父様とお母様に止められた。言われて初めて気付くと、僕は暴走寸前まで陥っていた。

 

お母様の手が僕の首に触れた。その瞬間、お母様に抱き締められているな、と感じながら僕の意識は暗転していった─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、少し昔話をしよう。

 

 

 

時は遡ること5年前のこと。

 

 

良くも悪くも、あの日は僕のターニングポイントだった。

 

 

 

 

当時の僕はとある女性とよく会っていた。初めて会った時の彼女は僕より7、8歳ほど年上で、どういった経緯かも詳しく覚えていないのだが、何故か彼女に恋愛相談をしていた。恋愛相談、と言っても、(笑)ってつくぐらいのものだが。

 

 

その女性も、とある男性との所謂禁断の恋というものをしていた人で、その男性も含め、僕はよく相談に乗ってもらっていた。

 

······その類の話は年が近いお兄様にもしたことはあったのだが、お兄様はその類の話に関心がなさすぎて全く参考にならなかった、ということがあったりもしたのだが。

 

 

まぁ実際のところは、当時の僕には近所のお姉ちゃんお兄ちゃん、 といった風にしか見えて居なかったので、その2人には偶に遊んでもらっていたというわけだ。

 

 

 

 

 

だいたい、その2人に遊んでもらうようになって半年が経った頃だろうか。

 

 

その日こそが最初に言った、あの日だった。それはクリスマスイブだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程禁断の恋と言ったが、別に比喩でも何でもない。本当の意味で、本質的な意味で、ある、種の根源的な意味だ。

 

 

僕はそれを知らなかった。当時の僕は、テレビドラマでよくある両家の親に反対されているとかだと思っていた。

 

2人のうちの男性の方は、女性より2、3歳年上で、仕事でこの町に来ていると言っていた。20歳になるかならないかで凄い、と僕は漠然と思っていた。

 

 

 

だが、その仕事というのが問題だったのだ。正確言えば、彼女の()()()()()()()()()()も大きな一因だった。

 

そして当時の僕は、()()()()()()を本当の意味で知らなかった。

 

 

 

 

 

『······どけガキ。死にたくなきゃ失せろ』

 

ギャスパー『い、 いやだ······!!』

 

今でも目を閉じるだけで思い出すその光景。あれを闇と言わずして何と言うのか。

 

 

ギャスパー『何でこんなことをするの!!? 2人は何も悪くないのに!!』

 

光を放つ剣を持った男の殺気に怯えながらも、僕は言った。

 

 

子供だから仕方なかった。とは言いたくないのだが、結局はそれだ。僕は本物の殺気というものを知らなかった。その当時から既に色んな人に鍛えられていたが、殺し合いというものを経験したことはなかった。

 

 

 

『······お願いします────。せめてこの2人は·······!! 悪いのは自分ですから······』

 

その男性は僕の前にいる男の後ろにいる男の名を呼んだ。微かな望みだけを頼りに。だが、呼ばれた男は瞑目して、無言で首を横に振るだけだった。

 

男性の顔は悲嘆と絶望に歪んだ。

 

『そんな·······』

そして、僕の後ろで大怪我を負って壁に寄り掛かっていた女性は僕に言った。

 

『に、逃げてギャーちゃん······逃げれば、ギャーちゃん、は、助かる、から······』

 

息も絶え絶えになりながら言う女性に、僕は必死に拒否した。

 

ギャスパー『だ、ダメだよ!! そんなことしたら─────死んじゃうよ!!』

 

『大丈夫、またいつか、会えるよ』

 

その女性は完全に諦めていた。死を受け入れようとしていた。

 

 

ギャスパー『そんなのダメだよ!! 死んじゃったら何も───グッ!!?』

 

『いい加減どいてろよガキ』

 

先程僕僕は後ろから脇腹を蹴り飛ばされ、数回地面をバウンドした後受け身も取れず壁に打ち付けられた。

 

ギャスパー『うあっ······!!』

 

僕には、壁にぶつかった瞬間に肺の中の空気が全て吐き出されてしまったかのような感じられた。

 

 

 

『······悪いな───、これも仕事なんだよ』

 

僕を蹴り飛ばした男が、光を放つ剣を振り上げる。男の目の前にいたのはさっきまで僕の近くにいた女性。

 

『頼むよ···········殺すなら僕だけじゃダメなのか······?』

 

身を捩って這いずりながら女性の所に向かおうとする男性は、男に問い掛ける。

 

『悪いな······お前は仲間だと思ってたが、俺は神の名の下にお前を断罪する。この女と出会ったのが運の尽きだったな、───』

 

剣を持った男は女性から目を話さずに返した。その目は凍えるように冷たい。

 

『お前もだ女。───に出会わなければ死なずに済んだものを』

 

男は光を放つ剣を強く握り、振り下ろす。

 

ギャスパー『や、やめっ·······』

 

振り下ろされる光を放つ剣を前に、女性は死を前に目を閉じた。

 

 

 

 

────だが、その剣が女性を斬ることはなかった。

 

 

 

 

バリィン!! という音と共に建物の高窓が粉々に砕け、黒いローブを纏った人が2人侵入してきたからだ。

 

 

『だ、誰だ!!?』

 

突如現れた人物を前に困惑する者達だったが、叫んだ人物はローブを纏った内の一人に壁際まで吹き飛ばされ気絶した。

 

 

もう一人のローブを纏った人物は僕に駆け寄ってきた。そして、僕を抱き締めた。

 

『ギャスパー!! よかった······!!!』

 

フードの下から覗き込む格好で、顔が見えた。

 

ギャスパー『黒歌、さん······?』

 

侵入してきた内の一人は黒歌さんだった。気配を探ったところ、もう一人はお父様だと言うことがすぐに分かった。

 

 

後で聞いたことだが、僕の帰りが遅いので心配になって皆で探しに出たところ、ここに僕の気配を感知したらしい。この時は気付かなかったが、外でお母様とお兄様が待機していたとも聞いた。

 

 

ギャスパー『ごめんなさい······!!』

 

黒歌『いいの、ギャスパーが無事だっただけで私は······それより······』

 

黒歌さんの視線を追うと10人ほどいた襲撃者達は一人を残して全員が倒れ伏していた。

 

 

 

八幡『······さて、お前はここで何をしている?』

 

お父様は最後の一人の首を掴み上げる。フードを取っていないためこちらは表情を見ることは出来ないが、見たことがないほどの怒りを抱いているのが感じ取れた。

 

『うぐっ·······』

 

男が呻き声を上げると、お父様は男を投げて壁に叩き付けた。お父様は投げた男に足を向けて、歩き出したかと思ったらふと足を止めた。

 

八幡『······あぁなるほど、あの2人がそうなのか。耳にしたことはあったが······そうか。あの2人が······』

 

ギャスパー『······?』

 

お父様は何やら呟いていたが、黒歌さんを見て言った。

 

八幡『そこの2人は連れ帰って治療する。手伝ってくれ』

 

ギャスパー『······!!』

 

 

黒歌『······了解。ハァ、折角のクリスマスイブだってのに物騒ねぇ······ギャスパー、立てる?』

 

黒歌さんは僕の服を軽く叩いて服についていた汚れを落としてくれた。

 

ギャスパー『······うん。ありがとう黒歌さん』

 

 

 

その後、重症を負った2人を『サングィネム』の治療施設まで連れて行った。下手したら死んでいたかもしれない傷を負っていたが、2人とも命を取り留めたのは何より幸いだった。

 

 

更にその後も、一悶着では済まないであろう騒動が起きたりしたのだが、それはまたの機会に語るとしよう。

 

 

 

 

 

 

·

 

 

 

 

 

 

黒歌「······起きた?」

 

ギャスパー「·······うん」

 

目が覚めると、黒歌さんが目の前にいた。いや、黒歌さんが僕を覗き込んでいるのか。というか、膝枕されているんだ。

 

ギャスパー「······ごめんね、膝借りちゃって」

 

黒歌「気にしないでいいにゃん。好きでやってるんだし」

 

周囲を見渡すと、さっきまではいたお母様がいなかった。上に向かったのだろうか?

 

 

·······暴走が完全に収まっている。きっと、お母様が僕を眠らせた隙を衝いて()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ギャスパー「黒歌さん、僕も地上に出てみるよ」

 

僕は立ち上がりつつ言う。

 

黒歌「······暴走は? 体はもう大丈夫なの?」

 

黒歌さんは僕の体をぺたぺた触りながら言う。僕もうそんな歳じゃないんだけど·······って言っても説得力なかった。

 

ギャスパー「うん。ブリューナクを外に出さなければ大丈夫」

 

ブリューナクは体内に戻っている。きっとルーさん側から操作したのだろう。

 

黒歌「······そう。行ってらっしゃい」

 

ギャスパー「行ってきます」

 

 

僕は転移用の魔法陣を展開し、そこに飛び込んだ。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒歌「······ねぇ、いつまで眠ったフリしてる気?」

 

ヴァレリー「うふふっ。いえ、2人の邪魔をするのもどうかと思いまして」

 

黒歌「ギャスパーが地上に出る前に少しぐらい声掛ければよかったのに」

 

ヴァレリー「······今のギャスパーに一番必要なのは貴女でしょうから。弟の恋を邪魔するほど無粋な真似をしたくはないですわ。弟と言っても従兄弟ですけど」

 

黒歌「······そ。何か聞いたこっちが恥ずかしくなってきたにゃん」

 

ヴァレリー「ふふっ」

 

 



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第100話 ある少女の分岐点


この作品もとうとう100話ですか!!(少し前に同じこと言った)


こんな駄作を読んでいただいている皆々様方、誠にありがとうございます。




 

 

 

八幡side

 

 

 

『クリフォト』のリゼヴィムのゴミ屑が聖杯で作り出した黒いドラゴンもどきは先刻完全に討伐された。避難も完了し、事態は一応の収束を迎えた。

 

ただ、町の中でも被害の大きい所は瓦礫の山と化しており復興には時間が掛かるであろう。

 

 

 

この一連の出来事については、先程各勢力に報告しておいた。簡単にまとめたものだが。

 

それについては、ロキが『クリフォト』側についていた北欧神話では青天の霹靂だったらしく、大慌てしていた。

 

尚、ロキの消滅は確認出来ておらず、ギャスパーにやられながらもどこかに逃げおおせた可能性が高い。

 

 

 

 

 

そして、俺は今義兄であるアシェラに呼び出され、『阿朱羅丸(あしゅらまる)』の中にいた。

 

クルルは今戦闘の怪我を癒している。側にはギャスパーと黒歌がついており、その側でヴァーリはクロウと話している。

 

俺もそっちに加わりたかったが······アシェラの話には後回しに出来ないことが余りにも多かったため、急遽こちらに来ている。

 

 

八幡「······こっちに呼び出したのは『四鎌童子(しかまどうじ)』の件だよな?」

 

アシェラ「······ああ。今の君にはルシフェルの精神体が融合している。何か知ってるだろ?」

 

アシェラは、明らかに俺に疑いの目を向けている。

 

八幡「······いや、悪いが俺も知らない。お袋が何か隠してるのは薄々勘づいてたが、まさかこんな事態になるとは思ってもいなかったからな」

 

アシェラ「······そう。まぁ僕も彼女が向こうに与してるなんて考えてもいなかったから一概に八幡だけが悪いとは言いきれないか」

 

アシェラは溜息をついて、堅い表情を僅かに緩めた。

 

 

アシェラの言う通り、俺の魂にはお袋の精神体(正確にはその一部)が融合していたのだが、お袋(の精神体)は俺の記憶などを好き勝手に覗けるのに対して、俺からはほぼ干渉が出来ない。出来るのは話し掛けるだけだ。

 

八幡「知っての通り、俺からお袋の記憶だの精神だのに干渉することは出来ない。何度か試したが、突然お袋がリンクを切りやがるからな」

 

この会話も聞いている可能性があるが······

 

アシェラ「······それはないよ。ここは『阿朱羅丸』の中だ。僕の許可なく干渉することは出来ない。生前のルシフェルは怪しい点が多々あったからね。精神体が発覚しても許可を出さなかったのは我ながら懸命だった」

 

俺の考えを読んだのか、アシェラは簡単に説明してくれた。

 

ただ、俺の魂に融合してるせいでお袋側からの精神干渉を防げないんだよな······さて、どうしたものか。

 

アシェラ「そこで僕の出番だ。八幡の精神を『阿朱羅丸』の一部としてルシフェルの精神空間に侵入する。これなら『阿朱羅丸』がルシフェルの精神干渉を防いでくれる」

 

八幡「分かった。助かる」

 

俺が頷くと、アシェラは指をパチンと鳴らした。

 

アシェラ「じゃあ行こうか」

 

次の瞬間、真っ白な空間はブウンと音を立てて歪むと、一瞬だけテレビの砂嵐のように乱れた後また真っ白な空間に戻った。

 

だがそこは『阿朱羅丸』の中ではない。俺の母、ルシフェルの精神空間だ。

 

 

俺とアシェラの前には、母ルシフェルが金髪を弄りながら立っていた。その表情はいつになく堅い。

 

ルシフェル《······来たわね。来ると思ってたわ》

 

 

八幡「ああ······お袋、少し話をしようか」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ルシフェルside

 

 

 

八幡「·······お袋、少し話をしようか」

 

いつもとは違う手段で私に干渉してきた八幡。その隣には私がクルルを預けたアシェラがいる。

 

八幡への精神干渉が失敗したことから『鬼呪装備(きじゅそうび)』を使って私の精神空間に侵入してきたことが分かる。侵入のプロセスが分からない以上、私にはどうしようもないのだ。

 

ルシフェル《······ええ。こうなった以上、言い逃れは無理だから》

 

観念して両手を上げて降参のポーズを取る。多少軽く振る舞ってみたものの、2人は一切動じない。

 

2人の目は私に強い疑念を向けている。腹を痛めて産んだ子にそんな目を向けられるのは悲しいことだが、八幡やクルルに拒絶されることを恐れて言い逃れした私が悪い。

 

 

アシェラ「······じゃあまず僕から聞こう。クルルの父親は何者だい? 君の渡した資料にはただの一般人としか記載されていなかった。母親のことが多少書かれていただけで、最も重要な部分は何も書かれていなかった」

 

ルシフェル《······クルルの父親はある集落の一族の後継ぎだったのよ。で、四鎌童子───ティリネ・ゼクスタはその双子の姉》

 

尤も、四鎌童子がティリネだったことに気付くのには暫く時間が掛かったのだが。()()()の彼女からは殆ど人間の気配がしなかった。

 

「「·······は?」」

 

ルシフェル《続けるわ。クルルの父親は666(トライヘキサ)·······まぁ当時は名前もないような土着の神ね。恋をしたのよ、その神に。八幡がクルルに初恋だったのと同じよ》

 

よくよく考えれば、八幡はひと回り以上歳が離れてるクルルが初恋の相手だしクルルの父親も何年生きてるか分からない神だし、ギャスパー君も猫又の黒歌とは歳がひと回りくらい離れてるし······上手い具合に年上好きばかりなような·········その相手達は揃って年下好きだし。

 

ルシフェル《666っていうのはクルルの母親が黙示録のバケモノの特性を自分に取り込んで誕生したものよ。その頃に生まれたのがクルルで、クルルの父親は成長して一族の後を継いだその幼子》

 

八幡「······待てよお袋。四鎌童子がクルルの父親の姉? ならなんで四鎌童子はクルルを殺そうとした?」

 

八幡は動揺を隠せないまま私に問い掛ける。

 

ルシフェル《······あまり詳しいことは分からないわ。でも、クルルの父親はクルルの情報を漏らさないようにするためだけに死んだのよ。私の手で》

 

八幡「·······っ!!?」

 

何の変哲もない自分の手を見つめる。

 

今でも、精神の欠片に成り果てても忘れることはない。クルルの父、ロランの目を。あの日私は666を封印し、情報が引き出されないようロランを手に掛けた。

 

ロランの目は、自分は今から死ぬというのに、驚くほどに穏やかだった。最後に聞いたのは、『······怖くないの?』だった。ロランの答えは────

 

 

ルシフェル《四鎌童子はクルルがいなければ、クルルの父親が死ぬことはなかったと思ったんでしょうね。あの娘が人間をやめたのも神との取り引きで、弟を巻き込みたくなかっんでしょうし》

 

アシェラ「······それはおかしい。その考えでいくなら、クルルの父親を殺したルシフェルの息子である、八幡が狙われない理由がない。でも八幡の前に四鎌童子が現れたことは一度もない。この差は何だ」

 

ルシフェル《······それが分からないのよ。もしかしたら四鎌童子の中での優先順位がクルルの方が上ってだけかもしれない》

 

八幡「······なら、クルルを殺してから俺を殺すつもりだと?」

 

八幡を通してクルルの話を聞いた限りでは四鎌童子は、クルルが感じたのは怒りや殺意以上に─────怨念だった。四鎌童子は八幡を殺さない······?

 

ルシフェル《かもしれないわ······でも、もしかしたら·······》

 

私は、頭に浮かんだ仮説を口にする。本当なら考えたくもない仮説を。

 

「「?」」

 

 

 

 

ルシフェル《······八幡()()を生かして苦しめる気なのかもしれない》

 

 

それは、彼女の破滅を呼び込むだけなのに。私はどこかそう思った。

 

 

 

ルシフェルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルシフェル『怖くないの? 貴方はこれから私に······』

 

ロラン『······いいえ。不思議なんですよルシフェル様。普通なら、死は怖いものである筈なのに、私は平然と死ぬことを受け入れているんです』

 

ルシフェル『······どういうこと?』

 

ロラン『······きっと、私に希望があるからです。娘が幸せに生きていて欲しい。何もルシフェル様のような強い人になる必要はない。友達と笑い合って、恋をして、家族を持って、子供を授かって······それだけが幸せの形とは言いませんが、とにかく一人の人間として生きて欲しい。それだけでいいんです』

 

ルシフェル『······』

 

ロラン『ルシフェル様、娘をお願いします。願わくば、クルルが笑顔でいれますように』

 

ルシフェル『······分かったわ』

 

 

ロラン・ゼクスタは生涯の幕を下ろした。

 

 

 

 

 

その時から、小さく細かな蝶の鱗粉は歴史を変え始めていた。

 

 

 






この時のルシフェルは、まだクルルを自分の手で育てられるとは考えていません。この時のルシフェルにはまだ出来ないでしょう。この直後から各地を転々とするようになり、ルシフェルは信頼出来そうな組織を見つけそこにクルルを預けた後、四鎌童子が掴むように誤情報を流して情報工作を行いました。



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第101話 あの日の掌(て)


今回は少し短いです。最近展開に困って······


まぁFGOやりすぎて書いてないのもあるんですけどね。うちのカルデアはキングハサンをお迎えしました。じぃじめっちゃ強え。


·······やっとキャメロット終わった。最後以外殆どエウリュアレゲーだった。男性特攻強し。聖杯使おうかな。



 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

『クリフォト』との衝突があった翌日。

 

 

僕は黒歌さんと共に、お父様に連れられてカーミラの城に赴いていた。

 

ここに来たのは、テロの折にツェペシュの現当主と真祖がカーミラ側に避難しており、今後の吸血鬼達の方針の決定と共に、ヴァレリーの処遇について話し合うことになったからだ。

 

 

昨日は、暴走をお母様に解除してもらって一時的に眠らされて目覚めると黒歌さんの膝枕で目覚め、隣でヴァレリーが寝たフリをしていたのを一瞬だけ半目で確認した後、僕も黒いドラゴンもどきの討伐に出た。

 

僕が30体ほど狩る頃には事態は沈静化を始めており、間もなくしてドラゴンもどきが吸血鬼領内で確認出来なくなると、僕達は一旦その場で解散となり、カーミラ側が用意した宿泊施設で休息を取った。

一言も言っても言われてもないのに、黒歌さんと同じ部屋だったことは今更なので気にしない。僕にとってご褒美みたいなものだし。

 

 

 

僕達がカーミラの城に着くと、城の門にはエルメンヒルデ・カルンスタインが待っていた。

 

エルメンヒルデ「······お待ちしておりました。女王がお待ちであられます。ではこちらに」

 

城の門の巨大な扉が開くと、僕達はエルメンヒルデ・カルンスタインを先頭に歩いていく。玄関を抜け、更に歩くと一際大きな空間に出た。ツェペシュの城も似たような造りだったので、普段はカーミラはここにいるのだろう。

 

 

 

謁見の間には、真ん中に大きなラウンドテーブルが置いてあり、そこには中世風のドレスを纏った銀髪の女性、毛先だけ銀の金髪の初老の男性、肩ほどまで伸びた金髪の男性──こちらはどこかヴァレリーに似ている気がする──が右から卓を囲むように座っており、3つ椅子が空いていた。

 

エルメンヒルデ「女王、お連れ致しました」

 

エルメンヒルデは跪いて女性に話し掛けた。やはり、彼女が女王カーミラなのだろう。

 

カーミラ「分かりました。案内ご苦労様です。下がりなさい」

 

エルメンヒルデ「畏まりました。失礼します」

 

エルメンヒルデは立ち上がると一礼し、退室していった。

 

 

 

カーミラ「······3人ともよく来てくれました。そちらの2人とは初対面なので自己紹介を。私はカーミラ。存じているでしょうが、女王を任されています。こちらの2人はツェペシュの真祖と現当主です」

 

八幡「······ならこちらからも。知ってると思うが、比企谷八幡だ。こっちは息子のギャスパーと、眷属の黒歌」

 

お父様は僕と黒歌さんの肩に手を起きながら言った。

 

カーミラ「······では、そちらに掛けてください」

 

女王がそう言ったので、僕らも席に着いた。

 

 

 

ここではヴァレリーの処遇の前に、今後のツェペシュとカーミラ両方の領地の事後処理を議論することになった。これに関しては僕達はお門違いでありこれだけならここに来ることはないが、話に拠れば、両者で協力体制を敷いて出来る限り復興を早急に行うようだ。

 

だが事を焦れば、『禍の団(カオス・ブリゲード)』に協力した者達のような内乱が再び起きかねないので、慎重に進める必要がある。現に三竦みは焦ぎすぎて、旧魔王派が一斉にテロリストになっている。天界や『神の子を見張る者(グリゴリ)』からもかなりの謀反者が出たと聞く。

 

今回の一連の騒動で、お互いの陣営が一枚岩とは掛け離れたものだと嫌でも理解出来た筈だが······

 

 

 

議論は更に進み、ヴァレリーの処遇について、となった。神滅具(ロンギヌス)の一つである『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』は普通に考えれば手放したいとは思わないだろう。

 

お父様は『堕天魔』として名が知れ渡っているだけに、お父様を批難する者も多い。只でさえ力を持つ集団に神滅具を渡していいのか、と特にツェペシュ側は思っているだろうか。

 

僕達は吸血鬼の内情に関することには出来る限り口を出さないように気を付けているが、それでもツェペシュ······特に現当主はお父様と僕には強い批難の目を向けている。真祖の方はあまりいい意見を持っているわけではないようだが、どちらかと言えば現当主に委ねていた。

 

カーミラ「······さて、ギャスパー・ヴラディは先の交渉の条件を要求なさい。私達は出来る限りその条件を呑むことを確約しましょう」

 

女王がそう言ったのを聞いて、僕は立ち上がる。

 

 

ギャスパー「······僕の要求は、ヴァレリー・ツェペシュの身柄と彼女の持つ『幽世の聖杯』を無期限で僕に預けること、です。よろしいですね?」

 

ツェペシュ側から来た2人の男に向かって言う。

 

 

ツェペシュ側は、僕の要求を呑まないほどの反論は出来ない。僕達がテロの被害を未然とはいかないまでもかなり小さく収めたからだ。

 

この点は、僕というよりお父様やお母様やお兄様の方に該当することだが、折角のチャンスを無駄にする気はない。ここで要求が通らなかったら、若干の強硬手段に出るだけだが。

 

カーミラ「私はもちろん賛成ですよ。そちらは?」

 

女王がツェペシュの2人に尋ねると、真祖の方は瞑目して言った。

 

「······仕方あるまい。『堕天魔』達がいなければ我らが領土は滅んでいたやもしれん。無下には出来まい」

 

どうやら、真祖の方は僕の要求を呑むらしい。

 

だが現当主の方はオロオロした様子で反論した。

 

「で、ですが真祖よ、彼らは異国······冥界の民ですぞ。仮にも王族の出の者を預けようなどとは」

 

現当主の方は僕の要求を呑むつもりはないらしい。テロリストに利用されたものでも手元に置きたいというのだろうか。それにしても、たかだか現当主が真祖に物申すのは如何なものか······

 

すると、真祖は目を開けてツェペシュの現当主に言った。

 

「諦めよ。異教の神の遺物一つとその持ち主で済むのであれば安いことよ」

 

「ですが······」

 

どんだけ渋るんだろうか現当主。

 

「此度の騒動は我らの失態と慢心の結果でもあろう。其方もあまりみっともない姿を晒すでない」

 

「わ······分かりました······」

 

ギャスパー「では、僕の要求を呑むということでよろしいのですね」

 

僕が言うと、ツェペシュの真祖と女王は頷いた。そこで話は終わったと思ったが、ツェペシュの真祖が僕に尋ねてきた。

 

「······一つよいか」

 

ギャスパー「? 何でしょうか」

 

「貴殿はヴラディ家の出身ではあるがその名を捨てたと耳にした。なれば、今の其方は何者だ?」

 

何者、か······あの時ツェペシュの城からヴァレリーの助けを経て脱出して、お父様とお母様に救われた僕はヴラディの名を捨てた。その名は名乗りたくない、というのが当然一番ではあるが······

 

僕が家族と同じ名前を名乗って、家族との繋がりを感じていたいというのも同じくらいあるのだ。

 

ギャスパー「······そうですね。ルシフェル、或いはツェペシです。僕に温もりをくれた両親から貰った名です」

 

 

その後、簡単な取り決めを交わして会議は終了となり、僕達はカーミラの城を後にした。

 

 

恥ずかしいこと言うな、と言いつつお父様が頭を撫でてくれて心が温かくなったのは、バレている気がしないでもないが僕の秘密だ。

 

 

 

 

そう言えば名前を捨てたと言うと、已むを得なかったとはいえあの人の現状もそれにかなり近いけど······一月ぶりに会いに行こうかな。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 



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第102話 幕間:独白


大変遅れてしまい申し訳ございませんでした。作者このところ忙しくてですね······(言い訳)

まぁほぼテスト勉強とFGOだったんですけど。


最近ネタが尽きてきてるせいで辛い······やっぱり思い付きで書き始めると後が大変······



 

 

 

 

八幡side

 

 

 

クルル『八幡は······こんな(わたし)でも、一緒にいてくれるの······?』

 

 

 

クルルにプロポーズした時。クルルにこんなことを言われた。俺は、クルルじゃないと嫌だ。俺はクルルがずっと側にいて欲しいんだ、と言ったっけか。子供みたいな言い分だが、それは今でも変わらない。それは俺という存在が完全に消滅しても変わらないだろう。

 

 

クルル『······本当に?』

 

 

八幡『当たり前だろ。嘘言うわけないっての』

 

 

恋人になって一年くらい経ってからのことだったか·······その時はまだ俺は領を持っていなかったため、幼少期を過ごしたグレモリー領に戻って、戦争の事後処理をしていたサーゼクスやセラフォルーの手伝いをしていた。

 

この時、サーゼクスを魔王として輩出したために後継ぎがいなくなったグレモリー家に養子として入って次期当主になってみないか、という話をヴェネラナさんから持ち掛けられていたりもする。結局、それは政治的な問題で立ち消え、リアス・グレモリーが生まれるまでは分家の一人に仮決定となったのだが。

 

 

八幡『······もう一度言わせてもらうけど、俺がクルルの隣にいてもいいか?』

 

 

クルル『八幡───そんなの、当たり前じゃない······!!』

 

 

 

俺が在るのはクルルがいたからだ。クルルがいなければ俺はあの時お袋や親父、小町と一緒に殺されていただろうし、仮に助かっていたとしても、復讐に走って何処とも知れぬような場所で果てていただろう。

 

 

故に俺がクルルを裏切るようなことはしない。仮に、他の誰がクルルを裏切ろうとも、俺はクルルから命を貰ったのだから───

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

四鎌童子『────お前のせいで·······!!』

 

 

 

私はさっきの戦闘での最中四鎌童子が口にしたことが頭の中で堂々巡りを繰り返していた。

 

 

────ルシフェル様はまだ隠していることがある。

 

 

これだけは疑いようがない。四鎌童子が嘘をついた可能性も捨てきれないが、あのタイミングであの表情が演技だったとしたら敵ながら大したものだ。敵でなければ普通に賞賛している。

 

何せ、後少しで私が首を刈ろうとした時に出た言葉だ。だが、命欲しさに出任せを言ったようには見えなかった。四鎌童子が私に刃を向ける理由は、『憎悪』。この一点だけだったから。

 

 

 

四鎌童子は自分が私の父の姉だと言った。やはりルシフェル様の話と噛み合わない。ルシフェル様は、私は母の手一つで育てられた、と言っていた。

 

私は物心ついた時には『帝ノ月』にいたから、赤ん坊の時に死別したと言うなら辻褄が合うが······それならルシフェル様が、私の父に会ったことはないと語ったことは嘘になる。

 

 

ならばルシフェル様の嘘はどこから────

 

 

 

八幡「······()···()·······クルル!!」

 

クルル「······え?」

 

八幡「え? って······大丈夫か?」

 

気付いたら八幡が目の前におり、私の肩を掴んで揺すっていた。

 

私は休んでいるよう言われて先にホテルに戻っていた。八幡は私を先にホテルに送ってから、ギャスパーや黒歌、それにヴァーリや今回待機していたクロウ達に休むよう言って、それから一人吸血鬼側の事後処理に混ざっていた。

 

八幡が戻って来た、ということは作業が一段落ついたのだろう。

 

 

クルル「···えぇ。ごめんなさい、ちょっと混乱してて······」

 

深呼吸して精神を落ち着かせる。仙術もリラックス効果があるがそれは他者に対してのもので、使用者への効果はほぼない。そも、仙術は使用者の精神状態に大きく左右されるものなので、今の私が使えば逆効果になり得る。

 

深呼吸で落ち着きを何とか取り戻した私だったが、八幡の次の一言で再び平静でいられなくなる。

 

八幡「······もしかして、いやもしかしなくても四鎌童子のことか?」

 

クルル「ッ!! 四鎌童子は自分のことを───」

 

私の言葉を遮って、八幡が口にした。

 

八幡「クルルの叔母······」

 

クルル「······!?」

 

その言葉で完全に平静を保てなくなり、私は八幡の胸ぐらを掴んで押し倒していた。

 

クルル「知っていたの······!!!?」

 

八幡「グッ······いや、俺もさっき知った。アシェラに手伝ってもらって何とかお袋から聞き出せた」

 

八幡が呻き声を出すが、何とか落ち着きを取り戻した。

 

クルル「······そう。義兄さんが······」

 

私は掴んでいた手を離して、立ち上がった。八幡は頭をさすりながら立ち上がる。私が押し倒した時に打ったようだ。私はやりすぎたらしい。

 

クルル「······ごめんなさい八幡。取り乱しすぎたわ」

 

八幡「いや、俺も軽率だった。すまん」

 

私が謝ったのに、結局八幡の方が申し訳なさそうにしていた。

 

 

八幡「それは単に俺が謝るべきだと思っただけだよ」

 

やはり私の考えることは八幡に筒抜けらしい。八幡はベッドに腰掛けると、自分の横を叩いた。座れ、ということらしい。素直に頷いて座ると、八幡は嘆息して更に口を開いた。

 

八幡「······クルルには全部話すよ。まぁ隠そうとしても無駄だが」

 

 

 

 

私は、自分という存在がどういうものなのかを改めて知ることになった。

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒歌side

 

 

ヴァーリ「······どうかしたのか?」

 

黒歌「ん〜、ちょっといい?」

 

ヴァーリ「まぁいいが」

 

黒歌「おじゃましま〜す」

 

 

 

『クリフォト』の馬鹿共が帰り際にばら撒いていったドラゴンもどきの鎮圧が終了して暫し経った頃。私は一人ヴァーリに割り当てられた部屋を訪ねていた。

 

ヴァレリーがギャスパーと一対一で話したいことがあるらしく、部屋を抜けて来たのだが、偶々隣の部屋がヴァーリの部屋だったのでここにいようと思ったのだ。ヴァーリは何故かコーヒーに関して(厳密に言えばコーヒー豆とかカカオ豆とか···)は矢鱈凝っているので、久々に飲んで一息つこうと思っただけである。

 

 

ヴァーリ「······どうして態々俺の部屋に? 黒歌の部屋は隣だろう?」

 

ヴァーリはコーヒーを淹れながら聞いてくる。

 

黒歌「ヴァレリーがギャスパーと2人で話したいんだって。白音が何処に泊まってるのかも聞き逃しちゃったから他に行くとこも思い付かなかったし。後はコーヒー淹れてもらおうかなっと」

 

ヴァーリ「後者が本音な気がしないでもないが······まぁコーヒーくらい出すさ」

 

尚、私に八幡とクルルの部屋に行く勇気はない。あの2人は2人っきりになった時のイチャつきっぷりがヤバい。偶々目にした時は、私でも見ているだけで砂糖が······

 

ヴァーリ「······ヴァレリーについて父さんと母さんは何か言ってたか?」

 

ヴァーリが両手に1個ずつマグカップを持って椅子に座る。片方を私の前に置き、もう片方はテーブルに置かずに口を付けた。

 

黒歌「今のところは特には。ギャスパーに任せるくらいしか言ってないにゃん」

それは何となく予想してた通りだけど······すんなり行くかしらねぇ。

 

ヴァーリ「······そうか。まぁギャスパーがどうするかは分かっているんだろう?」

 

黒歌「もちろん」

 

 

 

ふーふーしながらヴァーリが淹れてくれたコーヒーを飲む。私もコーヒー淹れることはあるけど······こいつに勝つのは無理だわ。何でだろ······

 

ヴァーリ「相変わらず猫舌なんだな」

 

ヴァーリがテーブルにマグカップを置いて言ってくる。

 

黒歌「あちっ···仕方ないでしょ。私猫だし」

 

ヴァーリ「その理論でいくと父さんはどうなる······」

 

黒歌「そんなん知らないわよ」

 

八幡は私より猫舌だったりする。だからコーヒーが冷めるまで待っていたりするが、ヴァーリは淹れたてを飲ませたいらしい。淹れたてが一番美味しいのは同感。熱くてほとんど飲めないけど。

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······ずっと気になっていたんだが······」

 

黒歌「何よ」

 

やっと普通にコーヒーが飲めるようになってきた時。ヴァーリは不意に呟いた。

 

ヴァーリ「黒歌は2人を父母と呼ばないんだな」

 

黒歌「············」

 

 

確かに、私は2人のことを親として認識していると思う。今ある居場所は八幡がくれたものだし、戦闘技術も八幡を初めとした皆が鍛えてくれた。家事とか教養とかはクルルに教えてもらった。私にとっては白音以外に初めて寄り添ってくれた人達······

 

でも·······

 

黒歌「未だに私はギャスパーに話せてない······」

 

 

私はギャスパーに話していないことがいくつかある。ギャスパーは、私と白音は両親を事故で失った()()()知らない。

 

私は未だに怖がっている。本当のことを話したら、ギャスパーが離れていくのではないのかと。頭では分かっている。ギャスパーが私を拒絶するこもなんて有り得ないことくらい。

 

実際、私が成り行きで八幡の眷属になった時に事に関わっていた面子は知っているし、ヴァーリは以前偶々知ることになった。それでも皆私にも分け隔てなく接してくれている。ギャスパーだってきっと変わらずに接してくれるのは分かっている筈なのに······

 

ヴァーリ「······そうか。すまない、今のは軽率だった」

 

ヴァーリは目を伏せて言う。

 

黒歌「別にいいわよ。私の思い過ごしなんだし······」

私は少しでも早くこの空気を払拭したくて強引に話を切りたかった。

 

 

あの2人を親と呼ばない理由······それは私は八幡とクルルを、父と、母と、呼ぶことに負い目を感じてしまうから。ギャスパーに話せて、初めて皆と家族になれると思ったから······

 

 

ヴァーリ「······まぁ、ギャスパーも何となくだが察している筈だ。黒歌が話してくれるのを待っているよ」

 

黒歌「······うん」

 

そこで、ヴァーリは何かに気付いたのか部屋のドアに目を向けた。

 

ヴァーリ「···と王子様が迎えに来たぞ」

 

気配を探れば、ギャスパーがすぐそこまで来ていた。話は終わったらしい。

 

黒歌「ん。ありがと。コーヒーごちそうさま」

 

ちょうどコーヒーも飲み終わったのでここいらでお暇しよう。

 

ヴァーリ「ああ。お粗末さま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······お兄様と何か話してたの?」

 

黒歌「·······別に大したことは何も話してないにゃん。ただギャスパー可愛いなぁ〜って2人して言ってただけ」

 

ギャスパー「可愛いって······僕もうそんな歳じゃないんだけど······」

 

黒歌「アハハ、ごめんごめん。つい本音が」

 

 

まだ、話せそうにない。でも、いつか覚悟を決めなきゃ。きっとギャスパーも待っているんだから。

 

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ『······ああそうだ。一つだけ言おうと思ったことがあったんだった』

 

黒歌『······?』

 

ヴァーリ『黒歌、最初は俺も姉さんもそうだった。話すことが怖かった。話したら拒絶されるのではないかと。またあの場所(くるしみ)に逆戻りしてしまうんじゃないかと。

 

だが、あの2人は変わらず俺を、姉さんを愛してくれた。血が繋がっていないのに。父親が誰かも分からないカルナだって、あの2人は何事もなかったかのように抱き上げてくれた。

 

俺が自分の境遇をギャスパーに話した時、ギャスパーはこう言った。自分も同じだ、と。自分も最初はお父様とお母様が······あとお兄様も怖かった、と』

 

黒歌『そんなことが······』

 

ヴァーリ『ああ。最初から本音を吐露出来る奴なんていないさ。お互いを理解して信じ合うには膨大な時間がかかる。黒歌、今すぐの必要はない。いつか、必ず、でいいんだ』

 

 

黒歌『······そう。ヴァーリ、ありがと。少し楽になったわ』

 

ヴァーリ『ならよかった。俺の話が意味を持つならそれで十分だ』

 

 

 






24巻読みました。

ストラーダ猊下強すぎだろ···········あれで人間なのか?



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第103話 幕間:続、独白《強がり》

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー「······遅くなってごめん。久しぶりだね、ヴァレリー」

 

ヴァレリー「ええ、久しぶり、ギャスパー」

 

ヴァレリーが2人だけで話したいことがある、というので申し訳なく黒歌さんには一旦外に出てもらい、2人で対面して備え付けのテーブルを挟んで椅子に座った。

 

ヴァレリー「······朧気だけどずっと見てたわ。強くなったのね、ギャスパー」

 

ギャスパー「うん。少しはね······僕も護りたい人が出来たから」

 

今日、ロキを撃退しリゼヴィム(ゴミ)と戦闘をしたわけだけど、戦果は思わしくなかった。ロキには逃げられるし、奴にはほとんど攻撃を与えられなかった。その上、暴走しかけた。あの時お母様が来なければ間違いなくルーマニアを吹き飛ばしていた。

 

ヴァレリー「それって、黒歌さん?」

 

ギャスパー「······うん」

 

大好きな人。一生隣にいて欲しい、というのは流石に僕の思い上がりかもしれないけど。

 

 

ヴァレリー「······ギャスパー、私ね。貴方には謝らないといけないと思ってるの」

 

ヴァレリーは唐突にそう言った。そして、その目には強い後悔が現れていた。

 

ギャスパー「何で······?」

 

困惑する僕に、ヴァレリーは続けた。

 

ヴァレリー「私ね、心の奥底でずっと言っていたの。気付いて、助けて──ギャスパー、って。私、嬉しかったわ。ギャスパーが助けに来てくれた。私の願いが叶ったんだって。でも······」

 

ギャスパー「ヴァレリー、僕は······」

 

ヴァレリーが次に何を言おうとしてるのか···いや、ヴァレリーが()()僕に対してどう感じているか、僕は分かっている。だから言葉で表すしか······

 

ヴァレリー「分かってるわ。でも、思ってしまうの。ギャスパーには今の生活があるでしょう? そこに今まで居なかった私は───異物なんじゃないか、って。分かってるのよ、ギャスパーが私のために遠い国から来てくれたことは。でも、ギャスパーには家族がいて、好きな人がいて······」

 

ギャスパー「······ヴァレリー」

 

僕は考えが甘かった。今の僕とヴァレリーでは自分が置かれている状況が全く違う。人は皆それぞれ価値観が違うのだから、他者の見方は当然人それぞれ。

 

僕は、ヴァレリーが新しい生活をすんなり受け入れられるものだとばかり思っていた。突然違う環境に身を置くことになれば、困惑するのは当たり前だ。自分が邪魔者なのではないか、と勘繰ることだってある。

 

 

自分がそうだったじゃないか······

 

 

ヴァレリー「······ギャスパー?」

 

僕は立ち上がり、ヴァレリーの隣に行くと、ヴァレリーを自分に抱き寄せた。

 

ギャスパー「······ごめんヴァレリー、君のことちゃんと考えられてなかった」

 

ヴァレリー「ギャスパー·······」

 

ギャスパー「僕は······ヴァレリーのことも好きだよ。ヴァレリーは自分のこと邪魔者扱いしてたけど、僕の初めての家族はヴァレリーで、今でもそうだよ」

 

でなかったら、こんな所まで来ない。どういう意味で好きなのか、と言えば家族としてllikeなのだと思うけど。

 

 

 

·······家族を、家族が好きでもなんでもないなんて、そんなの悲しすぎる。だからこれからは───

 

ヴァレリー「っ······ありがとうギャスパー。何だか、うじうじしていた自分が可笑しくなってきたわ」

 

ギャスパー「······うん。それなら良かった」

 

 

ヴァレリーから離れてまた椅子に座ると、ヴァレリーは僕の頬にそっと手を触れた。

 

ヴァレリー「ふふふっ、よく見たら昔と全く変わってないわ」

 

ギャスパー「それはそれで思うところあるんだけど······」

 

昔と比べたら、力もついたし身長も伸び······た筈。

 

 

ヴァレリー「ごめんなさい。音が変わってないな、って思ったのよ。

·······ギャスパー、私はまた貴方のお姉ちゃんでいれる?」

 

ギャスパー「もちろん。ヴァレリー、これからもよろしく。

······これからは姉さんって、読んだ方がいいかな」

 

あっ、でもお姉様との区別はどうしようかな。お姉様と姉さんで区別? でもそれ何か変だし·······名前を前に置いた方がいいのか······

 

ヴァレリー「あら、呼んでくれるの?」

 

 

ギャスパー「······姉さん」

 

まぁ······それを考えるのは後でいいかな。今は取り敢えず姉さんと呼ぼう。半分冗談みたいなつもりだったけど。

 

······って、これ言ってみると以外と慣れないし、思ったより恥ずかしい······

 

ヴァレリー「ギャスパー······!!」

 

ギャスパー「んぐっ」

 

何故か感極まったヴァレリー······姉さんに抱きしめられた。テーブルを挟んでだから首がっ!!

 

ギャスパー「いだだっ!! ヴァレリー、首!! 首!!」

 

ヴァレリー「あら、ごめんなさいね」

 

お、折れるかと思った······折れても大したことないけど。

 

ギャスパー「ちょっと勘弁してよヴァレリー······流石に痛いって今の」

 

涙目で首を擦る。

 

ヴァレリー「あら? 姉さん呼びは?」

 

ギャスパー「話聞いてないし······姉さん」

 

 

······あ、そろそろ黒歌さん呼びに行こうかな。まだヴァレリーが話したいことがあるなら別だけど。

 

 

ちなみに、ヴァレリー······じゃなかった。姉さんは満足したみたいだけど、このくだりを黒歌さんを呼びに行くまでに後2回繰り返した。首が痛い······

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ギャスパーの迎えが来て黒歌が帰った後、俺は父さんと母さんの部屋に来ていた。

 

理由は······色々あるが、目下相談するべきなのは、ユーグリット・ルキフグスと名乗った俺を襲撃した男のこと。それに······奴から『コマチ』と呼ばれていた少女のこと。

 

 

ヴァーリ「父さん、入っても······どうかしたのか?」

 

何やら、こちらの部屋は重苦しい空気で満ちていた。まさかこんな所で夫婦喧嘩になったわけでもあるまいし···

 

八幡「······ああ、いや何でもない。入っていいぞ」

 

ヴァーリ「あ、ああ······」

 

 

······心做しか2人とも表情が暗いな······来るタイミングを何か間違えたのだろうか?

 

 

八幡「······んでヴァーリ、態々どうしたんだ?」

 

ヴァーリ「ああ」

 

俺が指を鳴らすと亜空間に閉じ込めておいたユーグリット・ルキフグスがこの場に現れた。無論、何をするか分からないため気絶させてある。それに、『魔の鎖(グレイプニル)』による拘束も抜かりない。

 

ヴァーリ「······先ほどこの男に襲撃された。この男、ユーグリット・ルキフグスと名乗ったんだが······父さん、ルキフグスは『殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)』を残して滅んだのではなかったか?」

 

『サングィネム』にあるうちのデータベースでもそうなっていた。2人が何らかのデータの隠蔽を図るとは思えない。これと言ったメリットがない。情報の偽装ということに関してはデメリットならあるが。

 

ユーグリット・ルキフグスというのは三竦みの戦争で戦争時行方不明扱いになって死亡したことになっている、グレイフィア・ルキフグスの実弟だ。

 

八幡「ユーグリット······確かグレイフィアの弟だったな。俺も生で見るのは始めてで、死亡したことしか知らなかった。確か、二天龍の争いに巻き込まれて行方不明になった筈なんだが······」

 

父さんがクルルはどうだ?、と母さんにも尋ねたところ、母さんも首を横に振るだけだった。

 

行方不明の原因が二天龍か。二天龍を封じた父さんと敵対し、そのうちの白龍皇の神器(セイクリッド・ギア)を宿した俺に、レプリカの赤龍帝の神器を持って俺に奇襲をかける······自分や俺達への皮肉なのか、過去やらを払拭したかったのかどうかは分からない。意趣返しかもしれない。

 

ヴァーリ「······日本に戻ってから、アジュカに引き渡そうと思うのだが」

 

魔王の中で一番信用出来るのは、ディオドラの兄であるということを加味してもアジュカだ。サーゼクス・ルシファーやセラフォルー・レヴィアタンは全く信用に足らないわけではない。父さんや母さんの旧知の仲だしな。だが、俺は今ひとつ現魔王ルシファーとレヴィアタンを信用出来ない。尤も、アスモデウスは全く信用など出来ないのだが。

 

八幡「······ああ。分かった」

 

 

俺はこの男に襲撃を受けたこと、この男がレプリカの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を所持していたことを話した。

 

 

 

そして、『コマチ』と呼ばれた少女と戦闘があったこと、その少女が母さんの母親である666(トライヘキサ)とほとんど同質の力を持ち、揮っていたことを······

 

 

クルル「3年前のあの事件の時、あのゴミが墓を掘り返した······!?」

 

八幡「······小町が······」

 

 

憤りを見せる母さんとは反対に、父さんは悲痛な面持ちだった。

 

 

 

その後、俺は細かい報告を済ませると、早々と2人の部屋を跡にした。

 

 

何となく、俺はこの部屋に居づらさを感じてしまっていた。父さんと母さんの間に流れる雰囲気に妙な居心地の悪さを感じていたのだ。いつもなら夫婦の邪魔をしたくない、といったものが今は全くの逆の意味で。そしてそれはギャスパーや黒歌も同じだった。一緒に帰国したヴァレリーも、その雰囲気を何となく感じていたようだった。

 

 

俺やギャスパー、黒歌がその原因を知ったのは、俺達が帰国して数日経ってからのことだった。

 

 

ヴァーリsideout

 

 





時系列的に言うと
102話→103話→101話です。



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第104話 残滓


作者冬休みなのに全然話進まない······去年ワートリのSS書いてる時は1日2つ3ついけたのに······あ、今全く手を付けてませんがチラシの裏にまだあるので興味ある方は是非。作者をしてクソだと思えるくらいの駄作です。


それより、これとは別の八幡inD×Dが書きたくて仕方ない。




 

 

 

八幡side

 

 

ルーマニアから帰国した翌日。俺はヴァーリとアジュカの下を訪れていた。

 

八幡「······よ、アジュカ」

 

アジュカ「······やぁ八幡、ヴァーリ。久しぶりだね。要件は聞いているよ」

 

ヴァーリ「ならば話が早い······この者についてだが」

 

ヴァーリが腕を鳴らすと、何もないところに『魔の鎖(グレイプニル)』で両手両足と首を拘束されたユーグリット・ルキフグスと名乗りヴァーリに攻撃した男が現れた。ヴァーリの亜空間に閉じ込めていたのだ。

 

ヴァーリ「·····こっちはこの者に尋問した際の詳細をまとめてある」

 

続けて、ヴァーリは亜空間から昨日作成した書類をアジュカに手渡す。

 

アジュカ「どれどれ······確認したよ。これで間違いないね?」

 

ヴァーリ「ああ」

 

アジュカはヴァーリが渡した書類に目を落とし、流すように読む。

······『サングィネム』のうちの屋敷からも情報引っ張り出してきて短時間でかなり細かくまとめてたから確か10枚くらいだったか······まあユーグリット・ルキフグス(仮称)以外にも少しだがルーマニアのことも書いたからな。そっちは俺が書いたが。

 

後でルーマニアの一連の騒動の正式な書類は作っておくか。今は関係ないことだが、正直、『魔王』という立場を含めた場合サーゼクスよりアジュカの方が信頼出来る場面は多い。大抵はこちらの場合となるんだが······

 

 

アジュカは自身の『女王(クイーン)』に書類を渡すと、ユーグリット(仮称)を一瞥した。

 

アジュカ「·····確かに、グレイフィア・ルキフグスに弟がいる、というのは耳にしたことはあったけどまさか生きているとは」

 

八幡「······ああ、聞いた時は驚いた。しかも『禍の団(カオス・ブリゲード)』に加担してると来た」

 

俺は昨日顔を見たのが初めてだ。俺もサーゼクスからいるとは聞いたことはあったが戦争後の話で既に戦死扱いになっていた。

 

まぁ、顔も見たことがない行方不明者に構う余裕は当時は全くなかったから今の今まで終ぞ忘れていたが。

 

アジュカ「······『禍の団』、か······聞いたところによれば弟は、いやさっきの報告書を見る限り自ら寝返ったのではないと信じたいな······今それを言っても無駄だがね」

 

弟······アジュカの弟、ディオドラは『禍の団』に寝返った。ただ、それが発覚する2日前、あいつの『女王』であるフェリア・ダンダリオンが、消息を絶っている。もしかしたらあいつは探しに行った先で何らかの情報を掴んだ結果俺から『クリフォト』に乗り換えたのかもしれん。

 

しかも、ディオドラの眷属も数ヶ月前に加入した『兵士(ポーン)』と『僧侶(ビショップ)』の2人を除いて軒並み姿を消した。これはディオドラに着いて行ったと考えるのが妥当だな。

 

ギャスパーの話によればロキがそれっぽいことを口にしていたようだが、確証はない。デタラメの可能性もある。なにせ悪神だ。真に受けると何があるか分からん。

 

 

ただ、今はまだあいつら全員の生存は()()()()()()()から戦闘なしで何とかならないものか······いや、これは希望的観測か。

 

ヴァーリ「ああ······俺もそうだと思いたい。だから、この男からもっと情報が引き出せれば、と思うが······」

 

拘束されているユーグリット・ルキフグスに目をやりながらヴァーリは言う。

 

アジュカ「そちらで引き出せなかった情報をこちらが引き出せるとは思えないが」

 

アジュカは俺を見ながら言う。

 

八幡「そんな便利なもんじゃねえよ······あれは」

 

確かに俺は人の記憶を映像として覗けるが······個人的にはあまり便利なものではない。傍から見れば便利なんだろうが。

 

これは精神干渉の魔術を応用したものだが、覗かれている者が違うことを考えていれば覗く記憶に違うものが混ざり、記憶を改竄されていれば本来の記憶は読めない。この場合改竄を解けば見れるが

ちなみにこの魔術、相手に強い恐怖を与えるか意識を奪うかしていないと発動せず失敗する。

 

 

俺はユーグリット・ルキフグスを尋問して情報を引き出したのだが······一つ言えることは、この男は6年前から2年前の記憶が妙にぼやけていた。

 

クソが······3年前の事件の情報を引き出せるかと思ってたんだがなぁ

······既に記憶操作が施されてたのか? いや、向こうにアジ・ダハーカがいるんだった。魔術的な面だけでは俺達が勝つのはほぼ無理だな······

 

アジュカ「まぁ何か分かったら知らせよう。君達、確か昨日ルーマニアから帰ったばかりだろう? 後は俺がやっておこう。ここからは魔王である俺の仕事だからね」

 

アジュカは、翡翠の色をした魔法陣······ディオドラとはまた違ったアジュカ独特の魔法陣を展開すると、ユーグリット・ルキフグスを別の場所に飛ばした。おそらく、アジュカの亜空間か予め手配していた

 

ヴァーリ「ああ。助かる」

 

八幡「悪いな。ヴァーリ、俺達は好意に甘えさせてもらおう」

 

ヴァーリ「そうだな」

 

そこで一つあることを思い出し、ヴァーリに先に帰るよう伝えた。

 

 

 

ヴァーリ「······? まぁ分かった。先に帰ってるよ」

 

ヴァーリは不思議な表情を浮かべていたが、俺に追求せず先に転移して『サングィネム』に帰った。

 

いや、どうせ俺が帰ったら追求するだろうな······はぁ。これはまだ()()()()()()()()()()()()ちゃんと伝えてないんだがな······黒歌に教えたのですら今年になってからなのに。

 

 

 

アジュカ「······八幡、もしや()()が見つかったのか?」

 

アジュカは目を細めて俺を見る。

 

八幡「······ああ」

 

俺は亜空間からあるものを取り出す。

 

アジュカ「これで6つか······にしても、ヴァーリを先に帰してよかったのか?」

 

八幡「まだ伝えてないんだよ······ギャスパーにもだが。ヴァーリとギャスパーに伝えたのは()()()が知ったことだけだ」

 

アジュカ「本当に一部だろうそれは······」

 

あの時······5年前は闇すら知らない完全な子供だったからな。いや、それに越したことはない。()()()平和が一番なことに越したことはないのだ。だが、結局関わらせてしまった。俺は今でも後悔している。それにギャスパー本人が今でもその事を根に持っている。自分に、だ。

 

はぁ······親失格だな。全く。

 

 

 

······『()()()()()()()()なんて危険なもんにギャスパーを巻き込むなんて。

 

八幡sideout

 

 

 

 



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第105話 幕間:ヴァレリーという少女


皆様あけましておめでとうございます。この駄文が如き作品は1歳歳をとりました(旧暦は1月1日で1歳年を取ります······まちがってたらごめんネ!!)。





 

 

 

 

ヴァレリーside

 

 

 

 

どうも皆さん初めまして。ヴァレリー・ツェペシュと申します。突然ですが、少し昔話をさせてください。あまり良いものではないのですが。

 

 

私は元々ルーマニアの吸血鬼領でツェペシュ家当主と人間の母の間に生まれました。物心つく前から年下の従兄弟のギャスパーと一緒にいましたから、本当の姉弟のように可愛がっていました。

 

本当に可愛いんですよ。今でもですけれど。あ、それを言うとギャスパーに姉さん呼びされなくなってしまうので複雑なところです。ギャスパーは反抗期なのでしょうか······いえ、きっと照れ屋さんなのでしょう。

 

 

話を戻します。私は、私、人間の母、ギャスパーの3人で暮らしていました。人間である母とハーフである私とギャスパー。周りから差別されることも多々あり、飽きるほど辛い経験はしました。それでも、母とギャスパーがいて私は幸せでした。

 

母が病死するまでは────

 

 

 

 

 

 

偶々アイルランドから妹(ギャスパーのお母様)とルーマニアに旅行に訪れていた際運悪く吸血鬼に拉致され2人とも慰み者とされました。そして、私とギャスパーが生まれます。

 

元々あまり体が丈夫ではなかった母。ただでさえ気候が厳しいルーマニアの僻地で私を生み、私と、生後間もなくして母親が亡くなったギャスパーを差別や偏見に耐えらながら女手一つで育てていました。その心労は計り知れないものです。

 

 

無理が祟り、母は病を患ってしまいます。きっと今の医療技術なら治療出来たものでしょう······しかし、母は禄な治療も受けられずに亡くなりました。

私は子供ながらにして絶望の淵に立たされました。私もギャスパーも子供。私は当時8歳、ギャスパーは5歳でした。母が亡くなった時のことは今でも鮮明に覚えています。子供ながらに、二度と母が目を覚まさないことを理解したことを。

 

 

 

母が亡くなった次の日。空腹に耐え凌ぐしかなかった私達のもとに、数人の男性が訪れました。

ここから私達の本当の絶望が始まりました。

 

 

 

私達は突如数人の男性によりツェペシュの本城に連れてこられました。何故連れてこられたか分からない私とギャスパー。私の服をちょこんと掴んでいたギャスパーは眠い目を擦っていました。

 

そして、そこにはツェペシュの当主でいました。私の血の繋がった父親です。その人は言いました。『お前達の力は危険だ。我々で管理する、と』

 

私は自分に不思議な力──神器(セイクリッド・ギア)が宿っていることを自覚していました。どうやら、遊んでいた時ギャスパーの怪我を神器で治したことを目撃されていたようなのです。

 

 

 

 

 

 

────私達はお城の地下に幽閉されました。そこには、私達以外にも何人か同年代くらいの子がいました。

 

 

お城の地下に幽閉された私達は、道具として扱われました。管理なんて建前。首輪に手枷に足枷を繋いでストレスの発散に使われたのです。日夜暴力を受けていました。ギャスパーは多分知らなかったでしょうが、時には性的な暴力も······

 

 

 

そんな日々が2年近く続き、肉体的にも精神的にも限界だった私はルーマニアからの脱出を企てました。

 

最後の力を振り絞って、何度も計画を練りました。必死に、誰にも悟られないように。

 

 

 

 

結果、計画は成功しました。()()()()()()ツェペシュの城下町の外まで逃がすことに成功したのです。私が計画していたのは自分の脱出計画ではありません。ギャスパーを脱出させる計画です。

 

 

そして、ギャスパーが吹雪の中に姿を消した直後、私は捕まり、再びあのお城の地下に幽閉されました。それから暫くは、記憶があやふやでほとんど思い出せません。

 

 

 

 

 

 

 

再び記憶がはっきりするようになったのはつい最近。私が玉座につくようになってからです。

 

 

マリウスお兄様は私に言いました。私が玉座につき、吸血鬼を統べる王となれば、差別や偏見のない、誰も傷つくことのない国になると。私はそれを信じて行動しました。私は本当は分かっていたのです。差別や偏見がない世界も誰も傷つくことのない世界も夢物語でしかないと。

私はそれでも精一杯王としてルーマニアをよくしたい、と思いました。王として国を納めれば、どこにいるかも分からないギャスパーの耳に届くかもしれない。そう思って────

 

 

裏で何が起きていたのかなどつゆほども知らずに·······

 

 

 

 

 

ある日、レジヴェムという銀髪の初老の男性がマリウスお兄様を訪ねてきました。話を聞くと、お兄様の神器の研究に協力しているそうです。その人はティリネという金髪の女性と、コマチという黒い髪の女の子を連れていました。家族だとか。

 

 

レジヴェムさんは、私が持つ神器に、強い興味を持っていました。なんでも私の神器は神滅具(ロンギヌス)の一つである『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』であるらしく、データを取らせて欲しいと言いました。

 

私は拒否する理由もなく協力することにしました。この頃からです。自分の意識が突然ぼやけたり、死んだ方々と会話が出来るようになったのは。レジヴェムさんによると、それは王としての責任感から疲れているからだそうです。幻視、幻聴だそうです。

 

 

 

 

そうしてレジヴェムさんがルーマニアに滞在するようになって2ヶ月ほど経った頃。

 

 

なんと、ギャスパーが私に会いに来てくれたのです!!

 

 

······ギャスパーを脱出させてから7年が経っていました。あの頃のちっちゃくて可愛かったギャスパーは、成長して落ち着いた雰囲気を持っていました。

 

 

 

嬉しかった───私の行動が無駄にならなかったのだと、嬉しかった。ただ、ギャスパーは1人だけで来たわけではありません。ギャスパーは、特に隣にいた綺麗な黒髪の女性に全幅の信頼をよせているように感じていました。それが少しだけ······ほんの少しだけ寂しく感じました。

 

それでも、嬉しかったのは本当ですよ?

 

ですが、ギャスパーは私を見て一瞬だけ悲しい表情をしました。その時は私が王となったことに困惑したのだろう、と思いました。

 

 

 

 

遅れて来たギャスパーの''今の’’お父様とお母様である八幡さんとクルルさんとも出会いました。カーミラのお城に訪れていたそうです。

 

マリウスお兄様にお話したところ、お二人ともお話をする機会を設けていただきました。

 

 

 

お二人は私が知らないギャスパーのことをお話してくださいました。お二人にはギャスパー以外にも娘さんと息子さんがいるらしく、お孫さんもいるそうです。

 

そのお二人をギャスパーが姉と、兄と呼んでいること。お孫さん──カルナちゃんというそうです──とよく遊んでいること。

 

そして、最初に会った時ギャスパーの隣にいた黒髪の女性──黒歌さんは、ギャスパーの恋人なのだそうです。

 

当たり前ですが、全て私の知らないことです。

 

私は───寂しかった。淋しかった。ギャスパーが私の知らない、全く違う場所にいることを知ってしまった。私は、王として、ギャスパーがいつ帰って来ても笑えるような国にしようと私なりに頑張ったつもりだった。

でも、ギャスパーは新たに居場所を見つけた。もう新しい家族がいる。

 

 

きっと、もう、古い家族(わたし)はいらない───

 

 

 

少し考えれば、ギャスパーがルーマニアに来る理由が私以外にないことは分かった筈なのですが、何故かその時は全くその可能性に行き着きませんでした。

 

 

 

 

ギャスパー達がルーマニアに滞在して3日ほど経った日。私はマリウスお兄様に呼ばれて、ツェペシュのお城の地下の祭儀場に行きました。

 

私の神器のデータを研究に使うようで、広い場所が必要だそうです。

 

私は置いてある寝台に寝ます。どうやら、神器未発動時の波長のデータを取るのだそうです。

 

 

そして、私を囲むように魔法陣が展開します。その時でした。私の躯を激痛が走りました。

 

 

何らかのミスなのか。マリウスお兄様に術式を止めるよう助けを求めようとしても、助けて、という言葉を発せませんでした。激痛は増々強くなっていきます。

 

 

そして、何とかマリウスお兄様に顔を向けた時、私は全てを悟りました。

 

マリウスお兄様は────笑っていました。

 

 

騙されていた───それだけはすぐに分かりました。この人は私から神器を抜き出すつもりなのだ。神器を抜き取られれば、例外なく所有者は死にます。

 

神器とはごく稀に人が生まれながらにして持つ、()()宿った特別な異能。何らかの要因で抜き取られれば、所有者の魂は崩壊してしまいます。

 

 

既に声が枯れた喉から、最後にギャスパーの名前を呼びました。そしたら、ギャスパーに呼ばれた気がしました。それ以降の記憶はありません。ですが、何故か温もりを感じました。

 

 

 

 

次に意識を取り戻した時、私はギャスパーの恋人である黒歌さんに何故か膝枕されていました。

 

段々と意識がはっきりしてきて、ギャスパーと黒歌さんが何か話しているのが分かりました。ただ、ギャスパーにどう接していいか分からず、黒歌さんに寝たフリがバレた時も咄嗟に恋人の邪魔をしたくない、と誤魔化してしまいました。

 

 

 

その後、私の身柄はギャスパー預かりとなり、ギャスパーと共に日本に行くことになりました。その直前、私はギャスパーに自分の本音を全て吐き出しました。自分はギャスパーといていいのか、邪魔者───異物ではないか、と。でも、それは杞憂に終わりました。

 

ギャスパーは私を受け入れてくれました。今は姉さん呼びは照れてしまってなかなかしてくれませんが、してくれれば嬉しいものです。実は、ルーマニアで母、私、ギャスパーの3人で住んでいた時は基本姉さん呼びでした。

 

 

 

 

 

───これからの生活には割と不安なのですが、これだけは言いたいのです。

 

 

ギャスパー、ありがとう。私を助けてくれて。

 

 

 

ヴァレリーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······ヴァレリー、買い物行くよ?」

 

ヴァレリー「あら、もうそんな時間?」

 

ギャスパー「うん。ヴァレリーの服とか日用品買いに行かなきゃ。余裕あった方がいいよ」

 

ヴァレリー「分かったわ。行きましょう、ギャスパー」

 

ギャスパー「だね。行こっか、ヴァレリー」

 

 

 



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第106話 この温もりに


火力足りなくてアサシン・パライソ勝てない······せめてキャスニキとかメディア育てとけば良かった(´;ω;`)




 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······ちっ。これか」

 

俺はグレモリー領にある墓を······正確にはその周囲を探っていた。

 

 

───ヴァーリによると、あのゴミはどうやってか知らないがここを嗅ぎつけ、墓を掘り返したという。今僅かだがその痕跡を発見した。何で気付かなかったんだ俺は······ここに張った結界が完璧だと自惚れてたんだろうな······

 

 

親父、お袋、小町は土葬した。クルルは火葬しようと考えていたのだが、当時の俺には火葬したら家族が本当に違うモノになってしまいそうで、怖くて出来なかった。

 

 

あのゴミはおそらく遺体から小町の遺伝子を採取したのだ。吸血鬼ほどではないのだが、人外の肉体は腐敗が遅いという。人外が持つ異能の力が、死後肉体の腐敗を数百年、数千年単位で遅らせるという。

 

人間の死体は土に還るが人外の死体はそうも行かない、というのは神話でも極々稀だが描写されている。神性を持つ者なんかは死体は死後も遺体が腐敗することはないだろう。

 

 

 

八幡「······すいません卿。こんなことに付き合わせてしまって」

 

態々様子を見に来てくれたグレモリー卿へ謝罪する。俺はグレモリー家には相当迷惑を掛けていることは自覚している。それが足りているのかは、自信がないが······

 

ジオティクス「構わないよ。ただ······」

 

卿は掘り起こした3つの棺を見て、ここではないどこかに目を向けた。

ジオティクス「······時宗(ときむね)には随分世話になったからね。こうして顔を見るのは本当に最後だと思うと、ね······」

 

先程、一瞬だけ3つとも棺を開けてみたのだが、小町の遺体だけなかった。あのゴミの仕業だろう───

 

親父の遺体、お袋の遺体は死んだ時とほぼ変わらない顔だった。ここにない小町の遺体を除いて、親父とお袋の遺体を火葬し直すことに決めた。墓も、ここから『サングィネム』の屋敷の敷地内に移すつもりだ。

 

親父、お袋、小町が亡くなってもう700年にもなろうとしていた。

 

 

ジオティクス「折角だからヴェネラナとミリキャスにも顔を見せてくれないかな。特にヴェネラナは君とクルルのことをかなり心配していてね」

 

八幡「······すいません。今日は······」

 

ジオティクス「······そうか。でも、今度はちゃんと顔出して欲しい」

 

八幡「······はい。今度はちゃんと、クルルと一緒に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「······悪かったな、親父。寝てるところ騒いで」

 

親父とお袋の火葬を済ませ、墓を移した。どうしたらいいのか分からず小町の棺だけはそのままになってしまったが······

 

クルル「······八幡」

 

棺を運ぶ途中で呼んだクルルとは、呼んだものの余り積極的に話す気になれなかった。

 

 

俺はクルルだけ呼んだ。ヴァレリーが来てギャスパーが付きっきりになってヴァーリも黒歌もそれに付き合っているし、俺の他の眷属もそれぞれやることがあるから······というのもあるのだが、どうしてもクルルと2人だけになりたかったのだ。

 

クルル「良かったの? 八幡はあの時······」

 

 

八幡「······ああ······まぁな。あの時は怖かった。遺体とはいえ火に包まれる家族を直視なんてとてもじゃないが出来なかったと思う。それに、こんな事態になるなんて想像もつかなかった。

俺は死んだ家族と戦いたいとは思わない。でも、小町みたいに死んでから利用されるくらいならこうして眠ってて欲しいからな」

 

 

クルル「······そう。八幡は強いわね」

 

八幡「俺が?」

 

クルル「ええ。昔は八幡は怖がりだったわ。八幡に自覚があったかは分からないけど、昔の八幡が恐怖を感じていたのは、自分が時が経つにつれて亡くなった家族のことを忘れるかもしれないっていうことによ」

 

俺は直接言ったわけではない。無理言って土葬にした時も、何故かは言わなかった。それも、クルルに見抜かれていたらしい。

 

クルル「でも今は違うわね。ちゃんと向き合ってる。私が八幡のことを分からないわけないでしょ。いつから一緒にいたと思ってるの。貴方がこんな時から一緒にいたのよ?」

 

クルルはそう言いながら自分の腰の辺りで手を水平に振る。

 

八幡「そんな小さくねぇ」

 

クルルの身長で腰の辺りだと2歳児とかだぞ······てかそんな小さかったか、俺。

 

クルル「そんな小さかったわ。あの時は可愛かったわね······今はかっこいいけど」

 

八幡「······はいはいどうも」

 

クルル「あら、真に受けてないわね。昔と変わらず可愛いの方が良かった?」

 

八幡「俺のどこを見て可愛いと······」

 

クルル······ついに目が節穴に······

 

クルル「私、八幡に関しては自信あるわよ。節穴ではないわ」

 

クルルは胸に手を当て、ふふんとドヤ顔する。

 

クルル「八幡は可愛いわよ? 貴方、何気に小さかった頃の癖がそのままだったり。あと、アホ毛がちょくちょく動くのも」

 

八幡「え」

 

クルル「···え?」

 

······俺のアホ毛って動くの? それは風じゃね? 黒歌のケモ耳じゃあるまいし。

 

八幡「······いや風か何かだろ。髪の毛が勝手に動くわけ······」

 

クルル「······今動いたんだけど······」

 

八幡「えっ」

 

つうか鏡がないのに頭の上見えるわけないな。今確認するの無理だった。

 

 

 

 

 

 

八幡「······なぁクルル」

 

唐突に、俺は切り出した。

 

クルル「?」

 

八幡「······ごめんな。不安にさせて」

 

クルル「······」

 

 

クルルに───俺は何が出来るのだろうか。俺はクルルに支えられてきた。では、俺はクルルを支えられていたか? 夫婦は支え合ってこそだろう。俺はクルルと夫婦でいる資格なんてないのではないか?

俺は────

 

 

クルル「······大丈夫。大丈夫よ八幡。十分、私は八幡に支えてもらってるわ。それに、私こそ今では皆のお陰で健康ではあるけど、ちょっと前までは3分間も戦闘出来ないような体で散々周りに迷惑かけて······」

 

俺はそっと抱き締めた。

 

八幡「·······そんなことないさ。周りが迷惑に感じてるなら、俺とクルルの周りから人は離れて行くよ。誰もそんなことしてない。俺は一度もクルルが迷惑だなんて思ったことない。俺こそクルルに迷惑かけてるからな」

 

クルルが俺を抱き締め返したのが感触で伝わってくる。それが何よりも温かく感じた。俺はこうしてクルルに支えられてきたのだと改めて実感した。

 

 

······寧ろ俺の方が信頼を得るのが難しい。クルルが俺に迷惑をかけたなんて思ったことはただの一度もない。というか、クルルがかけてくる迷惑ならウェルカムだ。

 

クルルの体は未だに本調子に戻っていないから心配は当然するが、今度こそ俺が支えればいいんだ。

 

 

クルル「迷惑でもないし不安でもないわ。八幡がいなければ、或いは他の誰かだったら·········私はきっと、ずっと昔のどこかで潰れ、果ててる。こうはならない」

 

八幡「そう言ってくれるのは嬉しいよ。出来てる自信全くないんだけどな」

 

クルル「だったら、今から自信を持てばいいじゃない。私も今から自信を持つわ。私が八幡のお嫁さんなんだ、って」

 

八幡「むちゃくちゃだな······ハハッ、でも、俺もそうなれるよう頑張るよ」

 

クルル「む······そこは言い切りなさい」

 

 

 

八幡side

 

 

 

 





最後いきなりキャラ崩れたなー。まぁこの2人がこういう精神構造してるとか思って下さい。

毎度毎度思うけど、心理描写って難しいっすね······描写がめちゃくちゃなのは自覚してます。
この作品書いてて一番キツいのはクルルの地の文ですねー。他もそうですが。原作とは全く違うキャラでやってるので······最近はクルルの出番がどんどん増えてるので一話書くのに3日4日掛かってます······(´・ω・`)

でも続けたい。



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第107話 シ者


さぁ、回収する気ZEROだった伏線を(露骨)に回収しようかと思いますよ皆さん。




 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー「······ここは······?」

 

 

ルーマニアから帰国して一月ほど経ったある日。『サングィネム』の屋敷で黒歌さんと談笑していた僕は、気付いたら全く知らない場所にいた。

どこかの会議場なのか、50畳はある講堂のような場所で中央には10人が囲めるようなサイズのラウンドテーブルが置かれていた。周りには古めかしいものの一目で上物だと分かる椅子が10脚置かれていた。

 

 

講堂にはアーチ型の窓が壁に等間隔で造られており、そこからは、すぐ側に純白の···白亜の城が、別の方を向けば、大きな城下町が広がっており、街の端は侵入者を拒むかのような、これまた純白で巨大な壁に囲まれていた。その外には果てが見えない砂漠が広がっていた。

 

 

「······あら、漸く気付いたのね」

 

ギャスパー「!! ··············」

 

突然背後に現れた気配に、振り向くと小柄な銀髪の女の子がラウンドテーブルに腰を掛けていた。彼女は質素な服を来て手にミスティルティンの杖を持っている。

 

彼女は、服の上からでは分からないが上半身が健康的な肌色をしているが、下半身は緑がかった黒なのだ······

当たり前だが彼女は服を着ているため膝下しか見えていないが。

 

 

「久しぶりじゃない。もう少し喜んで欲しいわ、ギャスパー」

 

僕が立ち尽くしていると、彼女はラウンドテーブルから降りて言った。

 

ギャスパー「······何が久しぶりなんだ。その姿をした人は消滅した」

 

───僕の手で。

 

 

何故このタイミングで姿を現したんだ······? ルーマニアに行く前に来た時はうんともすんとも言わなかったくせに。

 

 

ギャスパー「······その程度で騙せると思っているのか?」

 

「あら残念······」

 

全く残念そうに見えない顔で女がそう言うと、光に包まれた。若干眩しさに目を細めていると、やがて光は止んだ。

 

 

「······少し試してみたのだったが······やはり駄目だったな。我には感情というモノが未だに理解出来ない」

 

光が収まると、そこにいたのは銀髪の女性ではなく、金髪で碧眼、軽鎧を纏い、白いマントを肩に掛けた女性がいた。

 

ギャスパー「······それはそうだろう。お前が持つのは自身を揮うに足るかを選別する擬似的なシステムだけ。

 

······何故このタイミングで僕を()()()()()。お前は僕を切ったのではなかったか? ()()()()()()()

 

 

ロンゴミニアド······それは、かつて騎士王アーサー・ペンドラゴンが揮ったとされる聖なる槍。彼女──正確にはその容姿からそう呼んでいるだけ──は自身に何者かが埋め込んだシステムというかプログラムがあるらしく、それは自身を揮う者を見極めるのだとか。

 

ロンゴミニアドによれば、カムランの丘でアーサー王が叛逆の騎士モードレッドを討った時はエクスカリバーではなくロンゴミニアドを使ったのだとか。

 

 

失われたとされていたが、エクスカリバーを湖の乙女ヴィヴィアンに託されたお父様がヴィヴィアンに捜索を依頼されたもので、偶発的に発見出来たらしい。

 

 

ロンゴミニアド「······貴殿が分からないわけではあるまい。我の担い手を選別するシステムに再び貴殿が引っかかっただけのこと。こうして呼び出しでもしなければ、貴殿はもう我を揮うことはないと思ったのでな」

 

一時は切ったくせに勝手な······いや、目の前の女は人ではないし、そもそも僕に合わせて擬人化しただけだ。多少好き嫌いが激しいだけの強力な槍だ。

 

 

ギャスパー「······ならもう一つ聞くが、何故あの人の姿を真似た? 僕に嫌がらせをしたかったとでも?」

 

と言っても、そもそも槍であるロンゴミニアドには人としての容姿なんて本来ない筈だから、今の姿も誰かしかを真似たものなのであろうが。

 

 

ロンゴミニアド「ただの気まぐれ、というやつだ。深い意味はない。貴殿が初めて我で屠ったのがあの()()だっただけのこと。これは『堕天魔』が初めて我を手にした時も同じことをした。奴は我の姿を見るやいなや、問答無用で我の首を刎ねようとしたがな」

 

気まぐれ···深い意味はない···以前僕が持った時は人を手にかけたことがなかったからやらなかったというのか。それにしても、そんなことをする必要はどこにもないと思う。

 

 

ギャスパー「······そうか。なら二度と同じことはするな。次やれば······お前を闇で飲み込んで消滅させる」

 

右腕を闇に変質させる。が、ロンゴミニアドはそれを見ても全く動じなかった。

 

ロンゴミニアド「······肝に銘じておこう。何せ、かの女神は貴殿が───」

 

ロンゴミニアドがそこまで言ったところで、僕はロンゴミニアドの首に闇で変質させた右手をかけていた。

 

ギャスパー「それ以上言ったら───」

 

ロンゴミニアド「───まぁ良かろう。では、また良い関係を築けることを願うぞ、ギャスパー」

 

 

それを聞いた直後、僕の視界は安定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「······あれ、ここは······」

 

気がつくと、僕は『サングィネム』の屋敷の地下にある、宝物庫にいた。そして、手には『魔の鎖(グレイプニル)』から解放されやわらかな光を放つ純白の槍が握られていた。

 

 

だいぶ思考がまとまらない······さっきまで黒歌さんと話してて···いつの間にか何処かに転送されていた筈······あれ、何だっけ?

 

というかなんでここにいるんだろう? ロンゴミニアドって僕を切って勝手にスリープモードに入ったってお父様が······

 

 

ああそうだ。ロンゴミニアドがまた何とか言って勝手に僕を主として認めたんだっけ。確か僕は何かが理由でロンゴミニアドを脅した気がするけど······理由が思い出せない······ほんとに何で脅したんだっけ?

 

 

ギャスパー「あ〜、ダメだ。頭がぼんやりする。とりあえず黒歌さんに謝らないと」

 

 

とりあえず、この槍はあまり信用しない方がよさそうだ。念のため『魔の鎖』を掛け直して亜空間に放り込んだ僕は、宝物庫を出た。

 

 

 

この時、僕は5年前のあの男と出会うことになるとは露ほども考えていなかった。

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

黒歌side

 

 

 

黒歌「······あれ。何ここ」

 

気がつくと私は、真っ白で何もない空間にいた。さっきまでギャスパーと話してた筈なんだけど·······

 

「申し訳ありません。突然ですが、貴方を呼び出させてもらいました」

 

黒歌「······アンタか」

 

声がした方を見ると、そこには質素な服を着た銀髪の女の子が立っていた。そして何よりも目を引くのが······緑がかった黒に染まった足······服で膝下までしか見えていないが、それは腰のあたりまでそうなっている。

 

「お久しぶりです黒歌さん。こうして会うという意味では初めましてでしょうか?」

 

黒歌「ヘル······」

 

ヘル······北欧の冥府の()()()。4年前まで八幡に対する北欧神話の特使だった女神。

 

黒歌「······ってことは······そっか。ギャスパーがロンゴミニアドに呼ばれたのね」

 

そう呟くと、ヘルは頷いた。

 

 

 

ヘルは······ギャスパーが初めて手にかけてしまった人。ギャスパーが助けられなかった人。そして、ギャスパーに恋をしてしまったために永劫の虚無に落ちた女の子───

 

·······確か、彼女の神性の一部がロンゴミニアドに引っかかったとか八幡に聞いたことはあったけど、引っかかった方の本人が望んで封印されたんだっけ。ギャスパーがそれを知ってるのかどうかは分からないけど。

 

 

黒歌「······どうしてここに? ロンゴミニアドが何考えてるかは興味ないけど、どうして私を呼んだの?」

 

ヘル「少しお話がしたかったのです。自らとは言え···孤独というものが───」

 

黒歌「······辛かった?」

 

私がそう言うとヘルは俯いた。肯定と見なしていいのだろう。

 

 

ギャスパーに恋をしたという意味ではライバルだけど······容姿も相まって、彼女に冷たくあたったりするのは気が引ける。彼女の生前は多少面識があったため、あまり無下にしたくない。

 

それに、最初にギャスパーに好意を抱いていたのはヘルの方だから······

その時の私は、ギャスパーを弟のように認識していた。私がギャスパーに異性としての明確な好意を抱いたのはもっと後。

 

黒歌「そう······ちょっとこっち来なさいな」

 

ヘルが不思議そうな顔して私の前まで来る。

 

 

 

私は目の前に来たヘルを抱き締めた。

 

黒歌「······寂しいなら、またいつでも呼びなさい」

 

冷たい体·········生と死の狭間を司ってるだけに、彼女からはほとんど生気が感じ取れない。

 

 

ヘル「ですが······」

 

抱き締めている上に身長差があるから表情は全く見えないけど、喜びと躊躇いが入り交じっているように聞こえた。

 

黒歌「······別にアンタがギャスパーに恋心持ってたとか気にしないし、私。本当はギャスパーには私だけを見てて欲しいけど、最悪正妻ポジでちゃんと愛してもらえるなら、アンタくらいはまぁ······」

 

ヘル「·······ありがとうございます」

 

黒歌「···私が言うのも何だけど、負けませんくらい言いなさいよ。そっちの方が私にも張り合いあるし。負ける気なんか皆無だけど」

 

こうなりゃヤケよヤケ。この娘は八幡との特使になるまでは、話相手が偶に様子を見に来るオーディンのエロジジイだけだったとか ただ義務を熟すだけの機械だったって聞いてるし、ギャスパーに会って初めてアイデンティティーを意識するようになったとか聞いている。

 

 

ギャスパーは女性を惹き付けるみたいなタイプだからライバルがいるのは仕方ない。この娘以外にもグレーゾーンがいないわけではないし······

 

私が正妻戦争で勝てばいい。ただ、この娘も報われるような結果にどうにか出来ないものか······

 

ヘル「 ······ありがとうございます黒歌さん。私負けません。ギャーちゃんの正妻ポジ? も」

 

顔を上げて私に笑顔でヘルはそう言った。あれ? この娘の体少し温かくなった? にしても、身長差で上目遣いになったらキュンときたし侮れないわね······

 

尚、ギャーちゃんという呼び名はどうも流行っているらしい。この前他にそんな呼び方するのに会ったばっか。

 

 

 

ヘル「······ふぅ、今日は私のお話に付き合っていただいて、ありがとうございました。槍の意思のギャーちゃんとのお話は終わったようです」

 

黒歌「······槍の意思? ロンゴミニアドのこと?」

 

あれは担い手を選別するシステムだけじゃなかったっけ? 見方によれば、それが意思とも取れるけど······

 

ヘルは私の考えてることが分かったらしく、首肯して続けた。

 

ヘル「はい······ロンゴミニアドにはシステムなどでなく、明確な意思が存在しています。ギャーちゃんはじめ、今まで誰も気付かなかった···いえ、気付かせなかったようですけど」

 

 

黒歌「気付かせなかった? 何で?」

 

ヘル「おそらくですが────」

 

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

 





ギャスパーと黒歌の間に生まれる娘がヘルの生まれ変わりだった(それと同時にロンゴミニアドに引っかかった神性が消滅する)、って設定も考えはしたけどそんな未来の話書くか不明。

もしこの作品が完結を迎えたまでに作者が書かないって決めちゃったら他の人が書いてもオッケーです(こんなの書く人いないでしょうが)。自分より物書きに向いている方なんていくらでもいるでしょう。




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第108話 想い人達


お久しぶりです。更新遅れてすいません。新年明けてから忙しくて更新がままなりません······

今年中に何とか終わらせたい。これからもこの駄作を温かく見守っていただけると幸いです。


暗い雰囲気の話ばっかだから偶には明るい話が書きたい······というわけで少しでも明るい話を書こうとしたのが今回でさぁ。




 

 

 

side八幡

 

 

八幡「······よぉユーグリット・ルキフグス。お縄に掛かった気分はどうだ?」

 

冥界、旧グシオン領にある監獄。そこに八幡は足を運んでいた。

 

 

 

ユーグリット「······あぁ、『堕天魔』ですか。そうですね·······サイアクだとだけ言っておきましょう」

 

両手両足を特殊な術式を編み込まれた枷で拘束され、動くこともままならないユーグリット・ルキフグスは答えた。

 

八幡「ざまぁ見ろ。で、お前の姉貴をグレイフィアを尋問官に指名したらしいな」

 

ユーグリット「······何か問題でも? あぁ、どうせ、私の要求が通らなかったのでしょう。そして貴方はそれを笑いに来た。まぁテロリストの要求をそう易々と飲み込むバカはいませんか」

 

ユーグリットには自分がテロリストであるという自覚はある。あるだけだったが。

 

八幡「まぁそうだな。お前の要求は当然の如く通らなかった。お前を擁護しようとかいう馬鹿野郎も世論の反対にあって失脚した」

 

ユーグリットは、実姉のグレイフィアを尋問官に指名するも、それは叶わなかった。その裏では、魔王眷属の『女王(クイーン)』を批判する者もいたが···結局騒ぎ立てただけに終わった。八幡はサーゼクスが許可しなかったことに内心驚いていたりする。

 

 

また、中には八幡をヴァーリを材料に批判する者もいる。が、当のヴァーリが捕らえたため、あまり大きくはならなかった。そもそも八幡を政治的に批判する者も多い今の冥界で、八幡やその擁護派は相手にしなかった。

 

ユーグリット「分かっていましたよ······姉に会いたいのは本心からですけどね」

 

ユーグリット自身、駄目元でやったに近い。表情を変えずに八幡に言い返した。

 

八幡「······何がおかしい?」

 

とうの八幡の目には、ユーグリットは歪んだ笑みを浮かべたように見えた。

 

ユーグリット「······いえいえ。単に、私をこうして捕まえただけでは貴方方の気休め程度にもならないと思いましてね」

 

八幡「当たり前だ。あのゴミが逃げた後に出て来たお前を捕まえたところで何の気休めにもならん」

 

そう八幡は言いつつ、リゼヴィムの狙いを考えていた。

 

八幡(······あのゴミは何が狙いだ? こいつは捨て駒···いや、そう決めつけるのはまだ早い。こいつが爆弾を隠し持っている可能性はある。それにアポプスのあの言葉······)

 

そこまで考えて、八幡は思考を切り上げた。証拠もなしに下手な推察をすると先入観に囚われるかもしれない。

 

 

八幡は体を明後日の方向に向け、歩き出した。

 

ユーグリット「······おや? もう行くのですか? 何かしら情報を聞き出そうとしたのかと思いましたが」

 

八幡「······さぁな」

 

ぶっきらぼうに言い放って、八幡は監獄を後にした。その際、ユーグリットが目に強い光を宿していたことに八幡は気付いており、また気付かれてたこともユーグリットは気付いていた。

 

 

『それでいい』。ユーグリットは口元を歪めた。そして、今後八幡達がどう動くかの想定を始めた。

 

 

八幡達も、これで『クリフォト』の尻尾を掴んだとは思うまい。そもそも自分は切り離されたトカゲの尻尾のようなものか、とユーグリットは一人自分を鑑みて、思考の海に自身を沈めた。

 

 

sideout八幡

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ヴァーリ「······ふぅ」

 

一息ついて、かけていた眼鏡を外した。

 

ラヴィニア「お疲れさまなのですヴァー君」

 

眼鏡をケースに仕舞ったところで、ラヴィニアがコーヒーを淹れてくれたのでありがたくいただく。うん、美味いな。

 

 

 

俺は、魔法使いの契約相手であるラヴィニアと、新しい魔法の研究をしていた。

 

俺がラヴィニアと研究しているのは主に防御・守護魔法。今までもそれなりに俺とラヴィニア独自のものを開発してきたが、今研究しているものは、俺の神器(セイクリッド・ギア)、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』に掛けて、防御を今までよりも堅牢にするものだ。

 

 

 

奴に───リゼヴィム・リヴァン・ルシファー相手にどこまで通用するか·······いや、この魔法は()()()()()()()()()()()。もっと()()()()使()()()()()()開発しているのだ。奴相手にだけに使うわけではないからいいだろう。

 

 

 

ヴァーリ「······ふむ。今の段階でどれだけの防御力を得られるのか試したい。ラヴィニア、手伝ってくれ」

 

ラヴィニア「了解したのです」

 

可愛く敬礼するラヴィニアを見、俺は一言だけ口に出した。

 

 

ヴァーリ「禁手化(バランス・ブレイク)

 

ラヴィニア「行きますよヴァー君。禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······ふむ。神器と組み合わせているだけ今までの魔法とは桁違いの防御力だな」

 

ラヴィニア「······です。でもヴァー君は満足してないのですよね?」

 

ラヴィニアがそう言われ、首肯する。今のでラヴィニアの禁手化の攻撃力を易々と防げる防御力があることは分かった。

 

 

永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』。神滅具(ロンギヌス)の一角であるそれの禁手(バランス・ブレイカー)を防げるだけの防御力······だが、()()()()()()

 

 

ヴァーリ「······ああ。これではダメだ。また()()()の二の舞になる」

 

ただ見ているだけだったあの時と······

 

 

ラヴィニア「ヴァー君······今日はもう切り上げるのです。少し休むべきですよ? 根を詰めすぎです」

 

ラヴィニアを見れば、先程とは打って変わって、不安そうな表情を浮かべていた。心配してくれるのはありがたい。が、いつその時が来るか分からない。少しでも早く完成に近づけないと······

 

ヴァーリ「ありがとうラヴィニア。だが、今休めばそれだけ懸念が増える」

 

俺はそう言ったが、ラヴィニアは俺に言い返した。

 

ラヴィニア「ダメです。ヴァー君がルーマニアから帰国して一月経って、毎日のようにこんなことしているのは知っているのです」

 

ヴァーリ「······それは、そうだが」

 

ルーマニアから帰国して1ヶ月が経った。俺は毎日、この魔法の研究をしている。いや、厳密に言えばこれ以外にも研究しているものはあるのだが、毎日やっているのは事実だ。

 

 

······急がなければならない。()()()()()()()()()()()()()()()。なにせ奴は一度『サングィネム』に密入国している。今回しないとは言いきれない。

 

 

で、それをラヴィニアに言ったのは誰なのか······父さんか母さんか······はたまたギャスパーか黒歌か······それとも魔法使い繋がりで桃花かルフェイあたりか······まぁラヴィニアに聞いても答えなそうだ。後で誰かに聞いておけばいいか。

 

 

ラヴィニア「休むことが大切なことぐらいヴァー君だって分かる筈です。ヴァー君を休ませるよう色々な人から言われているのです。頑固者のヴァー君を説得して欲しいと」

 

ヴァーリ「が、頑固者か······」

 

確かに周りから言われていることを流している自覚はある。ついにラヴィニアにまで言われるとは······自覚が足りなかったらしい。

 

ラヴィニア「今日と明日ぐらい休んで英気を養うのです」

 

ヴァーリ「······はぁ。分かった」

 

······どうも、俺はラヴィニアに弱いらしい。

 

 

と、思ったところでラヴィニアに腕を掴まれた。

 

ラヴィニア「と言うわけで、今からヴァー君はお姉さんとお出掛けするのです!!」

 

ヴァーリ「は、はぁ!? ······おい、ラヴィニア!?」

 

ラヴィニア「レッツゴーなのです!」

 

ラヴィニアは俺の制止を一切聞かず、俺を引っ張ってどんどん進んでいく。

 

 

引っ張られている際に、リビングを通ったのだが、そこにいた母さんとギャスパーに助けを求めたら······

 

ギャスパー「2人とも行ってらっしゃい」

 

クルル「行ってらっしゃい2人とも。なんなら、今日は帰ってこなくてもいいわ。ラヴィニア、早く(連れて)行きなさい」

 

ヴァーリ「ちょっと待て!? というか母さんは何を言っている!!?」

 

ラヴィニア「了解なのです!」

 

 

·······と、不穏な単語が聞こえただけだった。

 

 

ラヴィニア「さぁ反対する人もいないのですし、行きますよヴァー君!!」

ヴァーリ「分かった、分かったから!!」

 

 

 

 

 

 

 

ラヴィニア「〜♪」

 

結局反抗を諦め、ラヴィニアになされるがままになったのだが、来たのは最近オープンしたことで話題になっていたショッピングモールだった。やけにCMが長かったことが記憶に新しい。

 

荷物持ちか······まぁ偶にはいいか。こうして連れ出してくれたわけだし。

 

ヴァーリ「楽しそうだな」

 

ラヴィニア「当然ですよ? ヴァー君とお出掛けしてるんですから」

 

ヴァーリ「······そうか。それは何よりだ」

 

文句の一つでも言おうとしたが······楽しそうだからいいか。

 

 

 

 

ヴァーリ「······中々面白かったな」

 

ラヴィニア「······想像以上だったのです」

 

さっきまで映画を観ていたのだが······これが以外と面白かった。昔ギャスパーと一緒に観ていたあるアニメの完結作として出ていたが······

登場人物の精神描写や、1期、2期、3期、劇場版、と通して登場人物の成長がしっかりと描かれており、劇場版では3期の最終回で目の当たりにした仲間の死に苦しみながらも、最後にして最大の戦いに挑む······

というものだった。俺や母さんの方がメインでアニメを観ていたギャスパーよりハマっていたので、今になってかなり楽しめた。尚、俺は『アナザー』を認める派であり、母さんは『アナザー』否定派である。そして、ギャスパーは『何この人達めんどくさい』だった。俺と母さんは少し凹んだ。

 

母さんはこの映画観ても完結編としては納得しないだろうな······

 

 

ヴァーリ「······正直、ラヴィニアがこの作品を知っていたことに驚いたよ」

 

ラヴィニア「私こそ、ヴァー君が知っていたことに驚きなのです。私は父の影響でハマったのです」

 

あああの人か······何度か会ったことがあるが、穏やかな人柄だった。以前会った時はやたらと温かい目をしていたが······娘の父親としてはそれでいいのだろうか?

 

ヴァーリ「俺はギャスパーが観てた影響かな。ギャスパーよりハマっていたよ」

 

ラヴィニア「想像に難くないです」

 

ヴァーリ「そうか?」

 

ラヴィニア「はい。家族皆仲良くていいと思いますよ?」

 

ヴァーリ「······そうか」

 

家族。当たり前だと感じ始めていたことが、人から言われると嬉しく感じた。

 

 

 

 

 

ラヴィニア「······今日は私の我儘に付き合ってくれてありがとうなのです」

 

ヴァーリ「ああ。何だかんだ、俺も楽しめたよ。ありがとうラヴィニア」

 

ラヴィニアは『神の子を見張る者(グリゴリ)』に出向中であるため、『神の子を見張る者』の『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』に与えられたベースまで送った。皆川(みながわ)夏梅(なつめ)鮫島(さめじま)綱生(こうき)がいなくて良かった。あの2人は俺達を見ると必ず揶揄う。全く。恋人ですらないのに夫婦ではないと何度言わせれば······

 

ラヴィニア「なら良かったのです。これからはちゃんと休むんですよ?」

 

ヴァーリ「ああ、分かってるよ」

 

ラヴィニア「······本当ですか?」

 

ヴァーリ「分かったと言ってるだろ······」

 

ラヴィニア「······なら信じるのです。ではまた」

 

ヴァーリ「ああ。またな」

 

俺は転移用の魔法陣を展開する。ラヴィニアが部屋に入ったのを確認して、俺も魔法陣で転移した。皆川夏梅と鮫島綱生の声が聞こえた気がしたが、おそらく幻聴である。どうやら、ラヴィニアの言う通り疲れているらしい。

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······はぁ。今日は疲れた」

 

でも、楽しかった。多少気が緩んでいるように感じているが、それが心地よかった。ラヴィニアがそう気を使ってくれたのだ。

 

 

·······だが、それなのに俺は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······すまないラヴィニア。俺は君の想いに応えることが出来そうにない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごめんね2人とも······!! お母さん、もうあなた達の近くにいてあげられないの······あなた達が大きくなるまで側にいたかったなぁ······』

 

 

 

どこまでいけば、あの時の涙を2度と流させずにすむのか。俺にはどうしても分からないんだ。

 

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 







思いつき小ネタ。比企谷家のとあるアニメ事情。

クルル「宇宙〇紀こそ至高。正〇は認める」

ヴァーリ「〇.Cと西〇くらい認めるべき。商業的に成功してる。他が失敗しているわけでは決してないが」

ギャスパー「何この人達めんどくさっ」←〇.W好き

八幡「平和的にビルド〇ァイターズで。ト〇イ? 知らん」

黒歌「アンタらアニメの話で騒ぎすぎ」←C〇Aいいよね

↑ただの作者の趣味です。(アナザー大好き。全部観てないけど)




↓以下超駄文。読む必要ZERO。



最近他の作者様の八幡ss(特にクロスオーバー)を読んでて、こう思いました。

『無理にハーレムにする必要あんの?』

まぁ自分がヒロイン複数立ててハーレム作るとか作品的に出来そうにないって苦手意識が大きいんでしょうが(ハーレム作品が嫌いなわけではありません。好きです。原作は純ハーレムものですし)、無理にヒロインを10人も20人も作るのは無茶苦茶に感じます。

(理由もなしに、無理矢理にでも八幡を好きにさせるとかまであって···駄文製造機の作者自身からも、これは酷い、以外言いようがない作品を見かけたことも)

自分の言いたいことは、ストーリーをちゃんと楽しみたいと言うことですね(原作でも、最初は小猫がイッセーにいい感情を抱いていなかったですし朱乃は最初は可愛い後輩程度にしか見てなかった)。
ヒロインにするにはそれに見合ったストーリーが必要だと思いました(笑顔向けただけで何で惚れるの? 一目惚れにしては無理がある)。
まぁ原作のゼノヴィアとレイヴェルのはいくらなんでも強引だと感じましたが。


出来てない自分が言うのもなんですが、ストーリーがおまけ以下に成り下がるくらいなら、メインヒロインと、(いても)サブヒロイン(が多くても)2、3人で十分なのかなぁ···と思います。ヒロインが存在しなくても(或いはラブコメ要素ほぼ空気でも)人気のある作品もありますしね。

と、まぁこんな本文にもましてクッッッッッソ下らない作者の本音に目を通していただいて······本当に······感謝しかありません。

不愉快に感じた方は是非とも低評価を付けてくださって結構です。ばっち来いやぁ。評価をいただけるだけ作者の励みになります。評価0の価値すらない? まぁこの出来の作品じゃ仕方ないですよね。やめませんが。

これからもこの作品を御贔屓に······(都合良すぎか笑)



追記。

プロローグと設定だけ書いて、その後はチラシの裏にずっと放置していた00のssを消そうかと思います。好きだ、と言っていただいたこともありましたが、そもそも原作が完成しているのでどうしたってつまらないものになってしまいますしね。
作者は自分が少しでも自分の作品に面白いと感じられないとやってらんないので······(ならこの作品とかワートリのはどうか、って言うと、自分の中では多少は自信があるわけで······読者様から見ればクソみたいな駄作なのでしょうが)

あのssを読んで頂いた方々に、感謝を述べさせていただきます。




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第109話 隠れし憎悪


悩んだ末に、17巻は丸々すっとばすことにしました。


ちょっと補足説明。

(設定だけですが)八幡の領である『サングィネム』には、身分関係なく通える学校があるため、アウロス学園はまだ建っていません。尚、この学園はレーティングゲームに出るためのものではありませんので、ソーナはレーティングゲームを教えるための学園を建てるつもりでいます。ただ、防衛科がある学校なら別であります。




 

 

 

八幡「······アンタはどう思う?」

 

ゼクラム「······どうだろうね。私が『悪魔』という種族の全てを理解出来ていたのは昔の話だ。ルシフェルの息子である君に言うことがそもそもの間違いかもしれないがね。君は今の冥界をどう感じる? ルシフェルの息子であり、───の血を引く君は」

 

八幡「······さぁな。俺は家族や眷属と平和に暮らせればそれでいい。後は領民の安寧くらいだ。クリフォトを壊滅させる気ではいるがな」

 

 

ゼクラム「······強大な力を持つ故の平和への渇望、か」

 

八幡「······なんとでも言えばいい」

 

ゼクラム「だが君······いや、君達は復讐鬼でもある、或いはあっただろう? それが果たされたかどうか、今は復讐心の有無は別としても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

暦の上で師走にも入り、街はクリスマスで騒ぎつつある、ある休日のこと。

 

 

リアス「······小猫、ここにいたのね」

 

お世話になっている兵藤家で、いつものように過ごしていた時のこと。

 

小猫「······どうかしましたか?」

 

リアス部長はとても慌てた様子で廊下を歩いていた私を呼び止めた。

 

リアス「急ぎ、皆を集めてちょうだい! 私は裕斗やギャスパー、それにアザゼルを呼んで来るわ」

 

そう言ったっきり部長は魔法陣を展開してどこかに行ってしまい、何故オカ研の活動のない今日日、部員全員やアザゼル先生まで呼ぶ必要があるのか分からなかったが、部長のあの切迫した様子から察するに何かただならぬことがあったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

兵藤家の最上階はフロアぶち抜きで、巨大な会議室の様を呈している。いつものようにそこに皆が集まった、のだが······

 

 

リアス「皆、集まったわね」

 

部長がそう言うが、ここにはイリナ先輩とギャー君がいなかった。そして、何故か白龍皇のヴァーリがいる······

 

イッセー「······? 部長、イリナとギャスパーはどうしたんですか?」

 

裕斗「それに、ヴァーリが何故いるんでしょうか」

 

私同様に疑問を抱いていたイッセー先輩と裕斗先輩は部長に尋ねる。それ以外の皆も怪訝な顔を浮かべている。

 

ヴァーリ「······俺はただの代理だ。ギャスパーは今冥界にいるからね。俺はただギャスパーの代わりに顔を出しただけだから気にしないでくれて構わない」

 

そう言うなり、ヴァーリは腕を組んで部屋の壁に寄りかかった。皆聞きたいことはあるが、部長が話を再開したので部長に視線を戻した。

 

リアス「······本人が言うように、ヴァーリはギャスパーの代理のようだから気にしないでちょうだい。そう簡単にはいかないかもしれないけれど、それは後にして」

 

部長は真剣な表情でそう言う。その表情はどこか苦しそうだった。

 

朱乃「部長、私も話を聞いていないのですが、何があったのです?」

 

イッセー「朱乃さんも知らないんですか?」

 

女王(クイーン)』であり、部長の右腕でもある朱乃さんにすら伝えていない話······相当重要な話らしい。

 

部長は頷いてから、皆を見渡して言う。

 

リアス「イリナさんは······最近、教会の聖職者が何者かに襲われて死亡するという事件が起きたことは前に伝えたわね?」

 

皆頷くが、まさかっ······!?

 

イッセー「まさか、イリナに何かあったんですか······!?」

 

ゼノヴィア「イリナにいったい何があったんだ!?」

 

イッセー先輩とゼノヴィア先輩が同時に問う。部長は来るしそうに話始めた。

 

リアス「······私もさっき聞いたことなのだけど───」

 

 

リアス部長の話によると───

 

 

 

 

2週間前に渡欧したイリナ先輩は、聖剣使いの任務に赴いていた。

 

初めて知ったことだが、イリナ先輩のお父さんも聖剣の使い手だったらしく、なんと、四大熾天使(セラフ)の一角を担うウリエル直属の部下であるという。

 

イリナ先輩のお父さん───紫藤(しどう)トウジさんは現在イギリス、プロテスタントの牧師をしており少し前までは戦闘職から離れていたのだが、『禍の団(カオス・ブリゲード)』のテロリズムにより復帰していたらしい。

 

 

その紫藤トウジさんとイリナ先輩の2人で、教会の勢力圏に侵入したはぐれ悪魔の()()任務にあたったらしい。

 

三大勢力の和平後、八幡先輩は、はぐれ悪魔は『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の転生制度が生み出したものであり、一方的に討伐するものではないと提唱していた。

和平よりずっと以前から八幡先輩達は、転生システムにより()()()()()()()()はぐれ悪魔の保護を行っていたらしい······つまり、姉様のようなケースは、少なくないということだ。

 

 

 

今回は、はぐれ悪魔に関する情報の詳細が不明瞭であるためとりあえず捕縛することになったそうだが、その任務の最中、イリナ先輩とトウジさんは何者かに襲われたという。

 

 

 

イッセー「······部長!! 2人は、イリナとイリナのお父さんは無事なんですか!?」

 

イッセー先輩は部長の両肩を引っ掴んで、部長に問う。

 

リアス「······イリナさんは軽傷で済んだそうよ。でも、イリナさんのお父様は······」

 

部長は視線を僅かに下げながら言う。イッセー先輩の顔が目に見えて青ざめた。

 

イッセー「まさか······」

 

リアス「生きてはいるわ······ただ、天界に運び込まれるほどの重体だそうよ······」

 

ゼノヴィア「そんな······」

 

リアス「これから、イリナさんに話を聞きに行こうと思っていたの。皆も来てちょうだい」

 

 

ヴァーリ「そうか······では、俺は帰らせてもらおう」

 

ヴァーリは()()()()魔法陣を展開する。

 

······? 彼は以前、彼の神器(セイクリッド・ギア)である『白龍皇のの光翼(ディバイン・ディバイディング)』と同じ、白銀の魔法陣を展開していた筈······魔法陣は基本1人が複数の色──つまり系統を持つことは出来ない筈だが······

 

アザゼル「······帰んのか?」

 

ヴァーリ「ああ。俺がいても紫藤イリナが困るだけだろう。ではなアザゼル」

 

イリナ先輩は、ヴァーリがいても困るとは思わないような気もするが······

 

ふと、ヴァーリは立ち止まって振り向いた。

 

ヴァーリ「······ああ、そうそう。この事件が起きたことも、俺がこの事件を調べていることも、黒歌とギャスパーには絶対に伝えないでくれ」

 

姉様とギャー君に······? 何故······? 伝えられない何らかの事情があるのだろうか。

 

小猫「姉様とギャー君に······?」

 

ヴァーリ「そうだ」

 

リアス「······何故かしら?」

 

部長が尋ねると、ヴァーリは顎に手をやり10秒ほど考え込んだ末に口を開く。

 

ヴァーリ「······そうだな。黒歌に伝えればギャスパーに気づかれるし、ギャスパーが知れば······あいつは()()()()だろうからな。では頼んだぞ」

 

鬼と化す······? ギャー君が鬼に? 増々意味が分からない。

 

小猫「鬼······? それはどういう───」

 

私がその意味を聞こうとした時には、黒い魔法陣でヴァーリは転移していた。

 

 

ロスヴァイセ「行ってしまいましたね·····」

 

イッセー「あいつ結局何が言いたかったんだ······?」

 

謎の発言を残して去ったヴァーリに、私達は増々疑問が浮かぶ。

 

リアス「ヴァーリの発言は謎だけど······とりあえずイリナさんに話を聞きに行きましょう。もしかしたら、ギャスパーが鬼と化すというヴァーリの発言に関しても何か分かるかもしれないもの」

 

部長の言葉に皆が頷き、イリナ先輩の話を聞きに行くことになった。

 

······ギャー君が······どういう意図で言ったかは分からないが、鬼になるわけが······

 

 

ゼノヴィア「イリナ······」

 

 

 

 

アザゼル「······」

 

小猫「アザゼル先生、どうかしたんですか?」

 

アザゼル「ん? ······あぁいや、何でもない」

 

 

 

 

 

 

イッセー「イリナ!!」

 

イリナ「······イッセー君······」

 

私達は魔法陣で教会まで転移した。天界にいたイリナ先輩がこちらまで来てくれたのだ。

 

 

イリナ先輩は消沈しており、目も若干虚になっていた。普段は明るく、天真爛漫という言葉が似合うイリナ先輩とはかけ離れた様相だった。

 

イッセー先輩はイリナ先輩の下に駆け寄り、肩を揺すった。

 

イッセー「おい、イリナ······大丈夫か?」

 

イリナ「イッセー君······パパがね······」

 

イリナ先輩は、沈痛な面持ちでそう口からこぼした。

 

リアス「イリナさん、来て早々悪いのだけれども、何があったのか。聞かせてもらえるかしら? 私達でも少しは力になれるかもしれないわ」

 

イリナ「······2日前────」

 

イリナ先輩は語り出す。

 

 

小猫sideout

 

 

 



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第110話 泪


回想シーンでは、会話に『』を使うようにします。




 

 

 

 

イリナside

 

 

 

2日前。私は教会による招集を受け、イギリスに赴いていた。

 

 

私はミカエル様より、ミカエル様の御使い(ブレイブ・セイント)の『(エース)』の席次を頂いたとは言え、悪魔祓い(エクソシスト)の任を完全に解かれたわけではない。

······いつも悪魔の皆と一緒に部活してるけどね。

 

 

もちろん、ただはぐれ悪魔の捕縛任務だけなのなら、私が招集されることはない。日本にいる私を呼ばなくとも、私より戦闘における腕の立つ人はいっぱいいる。現に、パパだって前線から遠のいていたとは言え、私より遥かに腕が立つ。

 

私が呼ばれたのは、今は牧師であるパパ───紫藤(しどう)トウジが、渡したい物がある、というので拝領とそれの試運転も兼ねて、本来パパの単独任務であったはぐれ悪魔の捕縛任務に動向したのだ。これが事の始まりだった······

 

 

 

 

私とパパが再開した時、パパの他にもう一人男性がおり、その男性がパパにアタッシュケースを渡して去って行った。後から聞いたところ、昔のパパの部下だった人らしい。

 

 

 

 

トウジ『······イリナちゃん!! 久しぶりだね!! 元気にやってるかい······?』

 

イリナ『うん。パパ、久しぶり!! パパこそ元気だった? ママは?』

 

トウジ『パパもママももちろん元気だよ!! 可愛いイリナちゃんが孫を抱くその日までは是か非でも生きるつもりだよ』

 

イリナ『もう!! パパは気が早い!!』

 

······もう、パパったら私が高校生になってからそういうこと言い出すんだもん。まだ高校生なんだから、恋愛もしたいけどそれ以外にもやりたいこといっぱいあるんだから。

 

御使いとしての責務を適当にやるってわけじゃないけど。

 

 

トウジ『ハハハ、ごめんごめん。イリナちゃんが可愛くてつい······と、そうだった。イリナちゃんに渡したい物はこれなんだ』

 

パパは全然申し訳なさそうに言った後、アタッシュケースの鍵を開け、アタッシュケースを開いた。

 

イリナ『······これって······』

 

ケースに収まっていたのは······静かに聖なる波動を放つ、一振の剣だった。柄は黄金で意匠が施されており、柄頭には水晶が埋め込まれている。

聖剣、それも、今持っている量産型聖魔剣や、嘗て私が使っていた『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』を凌駕する力を持った剣。

 

トウジ『······聖剣オートクレール。真に清き者以外は触れることすら拒まれるという、かの聖騎士オリヴィエが揮った剣だよ。イリナちゃんに渡したいのはこれなんだ』

 

オートクレール!! かの英雄オリヴィエが揮った、純潔の意を冠した剣!! 確か、数年前に前代の使い手が引退した際に教会に返却されて、それ以降新たな所有者が見つかってないって聞くけど······

 

トウジ『実は、『禍の団(カオス・ブリゲード)』の登場に際して大規模な適正の再検査が行われたんだけど、その結果イリナちゃんに最も適正があると判断されたんだ』

 

イリナ『嘘っ······!?』

 

私が······このオートクレールの新たな所有者······!?

 

トウジ『本当だよ。聖騎士オリヴィエはかのローランの幼馴染だ。研究者曰く、デュランダルの持ち主であるゼノヴィアさんの相棒を務めていたことが作用したとも言ってたよ。パパはそれがなくとも、イリナちゃんが選ばれると思うけどね』

そっか······ゼノヴィアとの縁がこんなところで······運命めいたものを感じちゃう。

 

オートクレールにそっと手を伸ばす。指が柄に触れたところで、剣からは強い光が溢れるように聖なるオーラを放ち始めた。

私はオートクレールから手を離し、姿勢を整えパパに言う。

 

イリナ『伝道師、紫藤イリナ。ただいまをもって、聖剣オートクレールを拝領しました』

 

私は今伝道師。いつかはパパのように牧師になりたいとも考えている。出来るかは分からないけれど。

 

トウジ『······うん!! 良かった良かった。オートクレールも無事イリナちゃんを主と認めたみたいだね』

 

パパは私がオートクレールを拝領したことに、満足そうに頷いていた。

 

 

その後、私とパパは任に赴いた。だが······

 

 

 

 

『遂に······見つけたぞッ!!!』

 

任務に向かう途中······私とパパは禍々しいオーラを放つ剣を揮う男性に襲撃された。

 

 

イリナ『きゃっ!?』

 

トウジ『なっ······!? 君は······何故······!?』

 

パパは全身を震わせ、仰天しながら震える声を発す。

 

イリナ『パパ······この人を知ってるの······?』

 

私は拝領したばかりのオートクレールを構えながら言う。

 

『オートクレールですか······紫藤トウジ、僕と彼女······それにあの子への当てつけか?』

 

男性は私が構えるオートクレールを目にして、忌々しそうに言った。

 

当てつけ? どういうこと······?

 

トウジ『違うッ!! 君こそ······どうしてこんなことを······』

 

パパは悲愴めいた表情を浮かべた。パパは、この人と何かあった······!?

 

『決まってるじゃないですか······お前を裁くためだッ!!』

 

その人は一瞬で距離を詰めた。

 

イリナ『パパっ!!』

 

私はパパの前に走り、男性が振り下ろした禍々しい剣をオートクレールで受け止める。

 

······この剣、ただの魔剣じゃない······?

 

『邪魔だ······』

 

イリナ『きゃぁっ!?』

 

男性が剣を横に薙ぎ、パワー負けした私は近くの木に叩き付けられた。

 

イリナ『ぐあ、ぁっ······』

 

叩き付けられたことで、お腹から空気が一気に漏れた。

 

トウジ『イリナ!! ······よくもやってくれたな八重垣(やえがき)ぃぃぃぃッ!!』

 

パパは光の剣を手に叫ぶ。それに対し、男性は口元を歪めた。

 

八重垣『それがあの時の僕の気持ちなんだよッ!!!』

 

トウジ『······ッ!!』

 

パパの手が一瞬だけ止まる。男性はその隙を逃さなかった。

 

八重垣『思い知れっ······!! 思い知れぇぇぇッ!!』

 

イリナ『パパッ······!!』

 

男性はパパが持っている光剣を巻き上げ、弾き飛ばした。パパは咄嗟に避けようとしたが、間に合わないことは私にも分かってしまった······

 

 

そして─────

 

 

トウジ『ぐああぁッ······!?』

 

イリナ『パパ······!!』

 

男性の剣は、パパを捉え、袈裟に斬った。

 

八重垣『これでいい······呪いに苦しめ······あの時の···僕の、彼女の苦しみを······』

 

 

男性はそう言い残し、赤黒い色をした魔法陣の光に消えた。

 

 

 

 

その後、私とパパは、最初にパパにオートクレールが入ったアタッシュケースを渡した男性に回収され、パパは天界の第五天に運び込まれた。

 

 

 

パパ······お願いだから······私、出来ることならなんでもする······お願い、死なないで······

 

 

 

イリナsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

イッセー「·······」

 

ゼノヴィア「イリナ······」

 

事の顛末を語ったイリナ先輩。彼女の目からは涙がポロポロとこぼれており、イッセー先輩とゼノヴィア先輩が、背中をさすっていた。それに、アーシア先輩は『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の光をイリナ先輩に注いでいる。

 

 

そのうち、イリナ先輩は堪らなくなって、ゼノヴィア先輩の胸に飛び込んだ。

 

イリナ「ゼノヴィア、私······!! 私······!!」

 

ゼノヴィア先輩は何も言わずにイリナ先輩を抱き締め、背中をさすり続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナ「······ありがとうゼノヴィアもう大丈夫よ」

 

その状態が暫く続き、イリナ先輩は顔を上げ、ゼノヴィア先輩から離れた。

 

ゼノヴィア「······本当かい?」

 

イリナ「······うん。それに、いつまでも、めそめそしてるわけにはいかないわ。私には治癒とかの知識がないからパパの治療は出来ない······けど、私は、私が出来ることを探す!! イッセー君にアーシアさんも、ありがとう!!」

 

イッセー「ああ、その意気だぜイリナ!!」

 

ゼノヴィア「······そうだね、イリナなら出来るさ」

 

アーシア「はい!! イリナさんならきっと出来ます!!」

 

イリナ「ゼノヴィア、イッセー君、イリナさん、ありがとう」

 

イリナ先輩が笑顔を作って自分に檄を飛ばすと、3人はイリナ先輩に激励を送った。

 

 

 

 

 

そこで、アザゼル先生がイリナ先輩に尋ねた。

 

 

アザゼル「······あ〜、イリナ、お前の気持ちを掘り返すかもしれないんだが、少し話を聞きたい······大丈夫か?」

 

アザゼル先生は真剣な面持ちで、イリナ先輩を見た。

 

イリナ「ッ·······」

 

「「「ッ!!」」」

 

ゼノヴィア「イリナ······」

 

ゼノヴィア先輩が何か言う前にイリナ先輩が口を開いた。

 

イリナ「大丈夫です······」

 

イリナ先輩はそこまで言うと、一旦深呼吸をして続けた。

 

イリナ「······私は、パパがどうしてこんな目に会わなきゃならなかったのかを知りたい」

 

アザゼル 「······よし。早速聞きたいんだが、その襲撃した男、八重垣と言ったんだな?」

 

イリナ「······はい。その人はパパと······あとなんでかオートクレールを憎んでるように見えて······」

 

聖剣を憎む······

 

そこで、私の頭には、裕斗先輩が『聖剣計画』の生き残りだったことが過ぎった。八重垣という男も聖剣に人生を······?

 

アザゼル「······なるほどな。次だが、その八重垣という男と、そいつが持っていた剣に見覚えは?」

 

そうアザゼル先生が聞くと、イリナ先輩が視線を伏せがちに首を横に振った。

 

アザゼル「最後だが······お前の父───紫藤トウジは悪魔祓いの時、()()戦っていた?」

 

どういうことだろうか······? もしかして、イリナ先輩のお父さんと、オートクレールは関係がある······?

 

イリナ「······分かりません。パ······父が悪魔祓いをしていたのを知ったのも、私がエクスカリバーを拝領した日でしたし······」

 

アザゼル先生はしばし考え込んだ後、イリナ先輩に言った。

 

アザゼル「······分かった。イリナ、とりあえず、オートクレールを運んだ奴に話を聞きに行け。紫藤トウジに話を聞けるんなら一番それが手っ取り早いが、現状を聞く限りそれは難しい。

とにかく、調べられる当時の紫藤トウジの仕事仲間······それと過去の悪魔祓いの仕事内容。その辺のこと、そいつや同僚に話を聞けば何か分かるかもしれないからな」

 

イリナ「······はい!!」

 

先生は、今度は部長を見て言う。

 

アザゼル「リアス、俺も俺で少し調べてみようと思う。話を聞く限り、ただの復讐ではない可能性がある。この話、妙にきな臭い」

 

リアス「? ······分かったわ」

 

 

 

こうして、私達は各自動き出した。

 

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オカルト研究部が動き出したと同時刻。

 

 

ギャスパー「······!!」

 

 

冥界、とある女性が『サングィネム』にいたギャスパーを訪ねていた。それは、知ってか知らずか、ヴァーリの思惑通りにいかないことを示していて······

 

 

 

「······ギャーちゃん。あの人を······正臣(まさおみ)を止めて欲しいの」

 

 

 



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第111話 溶け消えた氷

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

『サングィネム』の屋敷の一角。(たばね)さんが造った特殊な施設で僕と黒歌さんは剣を交えていた。いや、どちらも剣を持ってないからその言い方には語弊があった。

 

 

ギャスパー「······ふっ!!」

 

何もかもが鮮血の如き色の二又の槍──レプリカのブリューナクを彼女の胸目掛け突き出す。も、交差した彼女が持つ()()()()()()()()()()()()()2丁の拳銃が槍の穂先を逸らし、黒歌さんは体を反らして僕の一撃を避ける。

 

黒歌さんが持つのは、デザートイーグルの砲身を延長したようなものだが、それを苦もなく鈍器として扱ったり至近距離で撃つので一瞬の油断も許されない。

 

 

突きを避けられた僕は、ブリューナクを手放し、彼女が銃を交差したところに回し蹴りを入れ、床に落ちる前にブリューナクを拾うとすぐに距離を取る。

 

黒歌「あっぶな······」

 

ギャスパー「それこっちのセリフだけど······」

 

と言いつつも、黒歌さんは右手に持つ銃を撃つ。銃口から一条の紅い閃光が放たれる前に体を右に半歩下げて躱し、そのまま回転しつつ横投げで槍を投げる。と同時に黒歌さんが首を傾けたので、懐に潜り込もうかとしたその時······

 

ギャスパー、黒歌「「えっ···」」

 

入口のドアが開いた。

 

 

そして、金髪の男性が顔を覗かせた。

 

 

メリオダス「おっと」

 

金髪の男性───メリオダスさんは一瞬の後自分の眉間に突き刺さろうかというブリューナクを苦もなく掴んで止めた後、僕に言った。

 

メリオダス「おいおいギャスパー、入口に向かって槍投げすんなって前も束に言われたろ?」

 

ギャスパー「す、すいません······」

 

この施設は重体以上になる攻撃は当たる直前に自動でキャンセルされるのだが······この人にはそもそも必要ないらしい。

 

メリオダス「俺に謝る必要はねえけど······ギャスパー、お前にお客さんが来てるぞ?」

 

 

メリオダスさんの後ろから顔を覗かせた女性を見て、僕と黒歌さんは目を見開いた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別室に移動し、メリオダスさんが僕を尋ねた女性に紅茶を出したところで、僕は尋ねた。

 

ギャスパー「お久しぶりです······でも、珍しいですね。いつもは僕の方から()()()会いに行くのに」

 

お兄様よりもだいぶ明るい銀髪の彼女に、会うのも最近はいくらか足が遠のいていた気がする。彼女は、そうだね、と表情を暗くさせて、彼女はケースに入った何かを取り出した······SDカード?

 

メリオダス「それ、どうしたんだ?」

 

彼女はSDカードを取り出したタブレットに挿して、何かのファイルを開くと、僕達3人に見せた。

 

「3日前、家に送られて来て·······」

 

タブレットに映っていたのは、ある男性の写真と経歴、今の職場······履歴書なのだろうが、送り主はどこでこんなもの······

 

···················

 

 

メリオダス「こいつは······」

 

黒歌「まさか、これ······」

 

 

ギャスパー「······そう言えば、あの人はどうしたんです? 一人でこっちも来させるようには思えませんけど」

 

自然と語彙が強くなっていた。

 

 

──落ち着け······ここで感情を解き放つな······

 

 

手に力が入ってタブレットを真っ二つに握り割りそうになるが、なんとかこらえた。

 

「······これを見て、飛び出してっちゃったの······それから帰ってこない」

 

ギャスパー「······!!」

 

途端、自分が冷静になっていくのを感じる。そうか、だからこの人一人で······

 

メリオダス「おいおいマジか。だとしたらまずいな······」

 

彼女───クレーリア・ベリアルは泣きそうになるのをこらえて僕に言う。

 

クレーリア「ほんとはこんなことギャーちゃんに頼むのは間違ってる。だけど、私は今はこんなだから······お願いギャーちゃん。あの人を······正臣(まさおみ)を止めて欲しいの。

 

あの人······死ぬ気かもしれない」

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

イリナ先輩のお父さんが重体だと聞いた翌日。

 

私達は、先生の協力もあり、事情を知っているかもしれない人に会いに行けることになった。

 

 

イッセー「······イリナ、その、これから会いに行く人は?」

 

イッセー先輩は、どう接していいか分からないながらも、イリナ先輩と出来るだけ話すようにしたらしい。その方が、まだイリナ先輩も気は紛れるだろう、と。

 

イリナ「う、うん。最初に話を聞きに行くのは、スミス・エインドさん。オートクレールをパパに運んでくれた人」

 

イリナ先輩の話によると、イリナ先輩のお父さん同様、元悪魔祓い(エクソシスト)であり、現在はプロテスタントの牧師をしているという。

 

元悪魔祓いの方に、私達悪魔がイリナ先輩に同行するのはどうかという意見もあったが、話を聞く限り三大勢力の和平には賛成しているようで、私達の同行は問題ないらしい。

 

 

 

 

 

イリナ「······ご存知かもしれませんが、紫藤イリナと申します。ご協力いただき感謝します」

私達は、イギリスまで転移魔法陣で飛び、そこの教会の離れのような施設に案内された。私達悪魔や、先生をはじめとする堕天使は、一部の信者からは未だに嫌われているらしい······

 

スミス「いいえ。昔から紫藤······ああ、トウジさんにはお世話になっていましてね。今回のことも······多少は協力出来ればよいのですが」

 

イリナ先輩を対面のソファに座らせる、黒髪の初老の男性。一目見ただけで、穏やかな人物だと分かる。このような人でも過去に悪魔祓いであった、というと複雑な気分ではあるが······

 

 

 

 

イリナ「······実は、父が意識不明に陥る直前に少しだけ話が出来たのです」

 

スミス「そうですか······」

 

スミスさんは伏せ目がちにこぼした。

 

イリナ「その時、うわ言のように、彼は私達に復讐するために舞い戻ってきたんだ、と言っていたのですが······何か心当たりがございますか?」

 

───復讐。私達には聞き慣れない、いっそ言葉を知っているだけで直接耳にするのは初めてかもしれない。

 

スミス「······復讐、ですか。私も悪魔祓いであったから、その関係者かもしれませんが······ああ、今は悪魔の方々を祓おうとは思ってはいませんよ? 和平は結ばれましたし、もう前線は退きましたから」

 

確かに、そう考えるのが普通なのだろうが······3種族間でも、確執があることは確かなようだ。

 

イリナ「いえ······父と私を襲ったのは間違いなく人間です。父は······彼のことを八重垣(やえがき)と呼びました」

 

イリナ先輩が八重垣と言った瞬間、スミスさんは目を見開き、動揺し始めた。

 

スミス「八重垣······!? まさか、そんな筈は······!! あいつは5年前死んだ筈だ!!」

 

声を荒らげ、髪を掻き毟り始める。その後、錯乱状態に陥ったスミスさんとは話が出来ず、面会は終了した───

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーグリット「······そう言えば、いつかに会った彼、今どうしているんでしょう。予定では、そろそろあれが届いた筈なんですけど」

 

 

 





特に隠す必要ないので補足設定


・黒歌が持っていた2丁拳銃について。

だいたいの方のお察しの通り、ブリューナクのレプリカ(その2)でございます。ほぼギャスパーが持ってるのと同じですが、ギャスパーの持ってるのに比べて出力を若干犠牲にする代わりに、こちらは変形機能をオミットしておりません。
この状態の見た目は、ギャスパーはデザートイーグルの砲身を延長したようなもの、と言いましたが、使い方はアリオスのGNビームライフル(詳しくは調べて下ちい)みたいなもんです。


ライフルは鈍器。\_(・ω・`)ココ重要!!!



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第112話 友達なら


週一更新が板についてしまっている······非常にまずい······そして眠い。



 

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「───というわけだ。束、クレーリアが持ってきたSDカード調べてくれ。ただ、システムトラップとかには気を付けろよ」

 

目の前のパソコンには、眷属の一人である篠ノ之(しののの)(たばね)の顔が映っている。さきほど持ち込まれた物を、束に調べるよう要請したのだ。

 

 

 

ギャスパーを訪ねた女性──クレーリア・ベリアルが持ち込んだSDカード。ギャスパーが、黒歌やメリオダスと一緒に閲覧した時は、ただ()()()()()()()()()()()()()10名の個人データが一部入っていただけのようだが、もしかしたら、それ以外のデータが隠されている可能性もある。

システムトラップだのウイルスだのが紛れているだろうが、まぁ束なら大丈夫だろう。

 

何せ、こいつは自分の神器(セイクリッド・ギア)を科学的に再現しようとして、独学でほぼ完成までいった挙句、動力に半永久機関を使おうとした奴だ。それを理由に狙われていたので、眷属入りした時に一旦凍結させたが。

 

束『りょうかーい。それとはーくん悪い報せだよ······()()()()に揺らぎが出た。死者が出たような大きなものじゃないけど、もう猶予はないよ』

 

その顔にいつものヘラヘラとした笑顔はない。

 

 

八幡「······分かった」

 

通信が切れる。と同時に、今は使い魔となっている我が家がペット、カマクラ(猫の姿)が膝に乗ってきたので頭を撫でておいた。

 

八幡「お前にも、働いてもらうかもな」

 

そう言うと、にゃ〜お、と一鳴きして、丸まって俺の膝の上で目を閉じた。分かった、ということだろう。なんだかんだ、クルルとより付き合いが長いので何を言っているのかは分かる。

 

人の姿にもなれる猫又とは言え、人化出来る時間が極端に短いカマクラにとって、猫形態の方がデフォルト。にしても、クルルがいれば基本俺の方に来ないこいつにしては珍しい。

 

八幡「そうか、そん時は頼むな」

 

カマクラを抱え、部屋を出る。

 

 

······さて、これからどう動こうかね。ギャスパーを関わらせないように出来なかった以上、ちゃちゃっと終わらせるしかないか。今回で奴らの本拠地を突き止めて、早期に叩くしかなくなったか······

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

イリナ「······はぁ」

 

イリナ先輩が溜息を吐く。そして、途中で抜けたアザゼル先生を除くオカ研皆も、同様の表情だった。

 

 

 

ギャー君を除く私達オカ研部員は、イリナ先輩のお父さん──紫藤(しどう) トウジさんが襲われた原因を探るため、イリナ先輩のお父さんの同僚の方々に話を聞いて回っていた。

 

 

 

今のところ、分かっているのは最近起きている教会関係者の連続殺人事件と今回の一件が関係あること。

 

 

そして······イリナ先輩のお父さんを襲った男が名乗った──『八重垣(やえがき) 正臣(まさおみ)』という人物は5年前に亡くなっていること。

 

はっきり言って、収穫は少ない。

 

 

3日かけてなんとか12人とアポイントメントを取り付け、話を聞きに行ったはいいものの、『八重垣』という名前を聞くと、困惑するかあいつは死んだ、と錯乱に陥るばかりで、肝心な情報はほとんど得られていない。

 

その八重垣という男が亡くなった当時の資料か、イリナ先輩のお父さんから話が聞ければ早いのだが······イリナ先輩のお父さんは未だ昏睡状態にあるし、イリナ先輩が申請したものの、当時の資料の閲覧申請が通るには時間がかかるとのこと。

 

 

 

イリナ「······すいません、シスター・グリゼルダ。ここまで手伝っていただいているのに······」

 

グリゼルダ「構いませんよ、戦士イリナ。私自身、この事件のきな臭さは感じていたところです。それに、『クリフォト』がどこで動いているか分からない以上、常に警戒を怠らぬようガブリエル様も仰られておりましたからね」

 

そう、今回の調査には、シスター・グリゼルダが手伝ってくれている。ミカエル様の『A(エース)』と、ガブリエル様の『Q(クイーン)』という、近くに女性転生天使のツートップがいるというのは、中々に凄いことなのだろう。イリナ先輩の普段を見ていると忘れがちになるが。

 

 

グリゼルダ「······そうそう。例の、当時の資料の閲覧申請なら明日までに通るでしょう」

 

イリナ「ほ、本当ですか!?」

 

その一言に一同が驚く。申請には時間がかかると聞いていたが······

 

グリゼルダ「知っての通り、ウリエル様の管轄であられる資料の閲覧は容易ではありませんが······どうやら、戦士イリナが動いていることを知った転生天使の一部が申し出たようですよ?」

 

そう、微笑みかけるシスター・グリゼルダと目を見開くイリナ先輩。

 

イリナ「!」

 

グリゼルダ「何か、分かるといいですね」

 

イリナ「はい!」

 

そうして、今日はここまでとなり、各々一旦解散することになった。イリナ先輩が少しでも休むように、というシスター・グリゼルダの発案だった。

 

 

 

この時、私達は見逃していた。

 

 

『復讐』。それが、なぜ()()()()を······

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

あの後、念の為にクレーリアさんを屋敷の一室に泊まらせることになり、僕と黒歌さんは彼女に付き添うことになった。

 

 

ギャスパー「クレーリアさん、大丈夫ですか?」

 

いったい何が大丈夫なのか自分でもさっぱりだが、声を掛けずにいられなかった。

 

クレーリア「······うん。大丈夫」

 

彼女の部屋も、ほとんど使われないもののあるにはあるので、多少の荷物を取りに戻るだけで済む。屋敷に戻ってくるまではメリオダスさんも一緒にいたものの、あの人もやることがあるようなので、さきほど別れた。

 

ちなみに、この屋敷見た目も相当だが中もおかしいくらい大きく、中が居住区とそれ以外の区に分かれているくらいの大きさだ。今のところできる予定はないが、そのうち商業区とかできそう。

束さんが色々いじった結果そんなことになったらしいが、果たして何をしたらそうなるのか教えて欲しい······

 

 

黒歌「一応綺麗にはしてある······というか、束が作ったロボットが勝手に掃除するんだけど」

 

まだ両手で数えられるくらいしか使われていないクレーリアさんの部屋だが、黒歌さんが言うように束さんが気まぐれで作ったロボットが勝手に掃除しているので、ロボットの定期点検以外の日は掃除する必要があまりない。

 

 

クレーリア「······ごめんね2人とも。私に付き合わせて」

 

部屋に入ると、クレーリアさんは引いていたスーツケースをベッドの横に置き、南側の窓に背を向けるようにして置かれているソファに座ると、僕達に笑顔を向けた。

 

黒歌「気にすることでもないけど······」

 

黒歌さんが部屋を見渡す。

 

 

生活に必要な家具は全て揃っているものの、普段使わない上一人で使うには些か広すぎる部屋は、妙に生活感を感じない。

 

この屋敷は一人一部屋あっても、使われていない部屋が多い。お母様の部屋は一応あるだけでほぼ何もおいてない空き部屋だし、黒歌さんは基本僕の部屋にいる。逆に、クロウさんのように誰かに管理を任せている人もいるくらいだ。あの人ふらっといなくなることあるし。

 

 

屋敷に泊まることになったものの、クレーリアさん一人にさせるのはあまりいい予感がしない。具体的に言うと、いなくなった正臣さんを探しに行きそうだ。あの人がクレーリアさんに何も言わずにいなくなるなんてまず有り得ないから、関わらせたくない何かがあったんだと思う。

 

 

ギャスパー「······クレーリアさん、探しに行こうとしてません?」

 

クレーリア「······ギャーちゃんは何でそう思うの」

 

首を傾げてクレーリアさんは僕に尋ねる。僕の思い過ごしなら別にいいんだけど。

 

ギャスパー「何となくです。クレーリアさんって、何かあったら取り敢えず行動しようとするでしょ? 正臣さんが何も言わなかったのは、クレーリアさんに動いて欲しくない何かがあるんじゃないかな、と。想像ですけど」

 

そもそも、この人は()()()()()()()()()()()()()()()()。『クリフォト』の影響で情勢が不安定な今、この人も正臣さんも、本来なら一般社会に関わらない方が身のため、なんだと思う。

 

クレーリア「凄いね。私達のことそこまで分かるんだ」

 

彼女に特に驚いた様子はない。分かっていたような会話を続ける。

 

ギャスパー「僕に初めて友達だ、って言ってくれたのは2人なんですよ。多少は分かります」

 

あれは偶然、街の教会に入り込んだ時のことだっけ?

 

 

黒歌「ねね、私は?」

 

隣に座っていた黒歌さんがサムズアップしてくる。

 

ギャスパー「黒歌さんは恋人でしょ?」

 

黒歌「ギャスパーってば!!」

 

そう言いながらも大げさに抱き着いてくるこの人は可愛い恋人。

 

クレーリア「わお、見せつけるね。まぁ私も似たようなものかな」

 

クレーリアさんは苦笑いを浮かべる。ちょっとやりすぎたらしい。でも、普段のお父様とお母様を見たら、このくらいの光景には何も言わなくなるとは思うけど、口には出さなかった。

 

 

その後、他愛ない会話をして、食事は食堂に来てするよう言って、また来る約束をして僕達はクレーリアさんの部屋を出た。

 

 

 

 

クレーリアさんがその復讐心に気付かないことを祈って。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束「ほほ~ん? 八重垣が見たのはこれかな〜? つまんないの。ウイルスもはったりだったし~」

 



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第113話 嘘と真実は話しよう

突然のサブタイぱろでーネタだぜ。(サブタイのネタパクりは別に初ではないんですけどね)





 

 

小猫side

 

 

 

イリナ「······何、よ、これ······は」

 

グリゼルダ「······なるほど。はぐれの堕天使に手を貸したから追放されたと聞いたことがありましたがあれは真っ赤な嘘·······『復讐』······これが教会の闇······」

 

 

一夜明けた翌日。申請していた資料を借りることが出来たイリナ先輩は、駒王の教会で資料を手に取っていた。天界に保存されている資料を人間界に持ってきて大丈夫なのか、とロスヴァイセさんは尋ねていたが、どうやら()()()そちらも許可が降りたらしい。

 

 

顔を青くしたイリナ先輩とシスター・グリゼルダは資料から手を離した。2人の顔色から、良くないことが記述されていたのは分かるが······

 

 

リアス「イリナさん、それは私達が見ることは可能なのかしら?」

 

それを見た部長は割と大変なことを口にした。私や朱乃さん、裕斗先輩も驚いた。当然だ。天界の資料を悪魔が見るのだし。

 

イリナ「だ、大丈夫よ。情報を外に漏らさなければだけど······」

 

どうやら、大丈夫なようだ。そう簡単にいくものではないと思うのだが······

 

リアス「ありがとう。少し失礼するわね」

 

()()()()()()()()()()()()()()イリナ先輩を尻目に、部長は資料を手に取る。資料をパラパラ捲っていく内に、部長の眉間には皺が寄っていき、資料を持つ手にも力が入っていた。

 

資料からクシャッという音が聞こえたが、部長はそれに構わずに叫んだ。

 

リアス「どういうこと······? 前任者は教会とのいざこざで退任した筈じゃなかったの······!?」

 

前任者······? 部長の前任者と言うと、この町の管理者のことだろうか。

 

イリナ「リアスさん······?」

 

リアス「ッ······ごめんなさい。少し取り乱したわ。でもイリナさん、一つ思いついたことがあるわ。()()()()()()()()()()()()()()に一人、心当たりが出来たのだけれど」

 

この事件を知っている人物······?

 

 

···········そう言えば、数日前ヴァーリはこの事件をギャー君と姉様に知らせるな、と忠告してきた。口ぶりからして、何かしら知っている可能性はかなり高い。

 

裕斗「······もしかして、ヴァーリのことですか? 部長」

 

裕斗先輩も私と同様の考えだったらしく、部長に尋ねた。

 

リアス「その考えも間違ってはいないわ。ただ、彼よりも事件に詳しいとしか思えない人がいるでしょう?」

 

小猫「それって······」

 

頭の中に、アホ毛がぴょこぴょこする男の人が思い浮かんだ。

 

リアス「そうよ。比企谷 八幡。『堕天魔』と称された彼が、管理者である私にすら気付かれずにこの街に滞在していた彼が事件に関与していたとは考えにくい。

······小猫、黒歌と連絡が取れるかしら?」

 

部長は私に尋ねる。一応、姉様の携帯の番号なら登録してある。尤も、ヴァーリの発言から考えるにいい手ではないように思えてしまうが······

 

私が頷くと、部長は続ける。

 

リアス「ヴァーリの発言が本当だとしたら、増々関与していた可能性が高いわ。ヴァーリは伝えるなとは言っていたけれど、八幡とのアポイントメントを取るだけなら、ダメとは言われてないわ」

 

それは限りなくクロに近いグレーでは······

裕斗先輩なんかは苦笑いしていた。

 

リアス「······小猫、黒歌と連絡は取れる?」

 

小猫「······大丈夫です」

 

話し合えたあの日、番号の交換はしていたが、よもやこんなことに使うなんて思ってもみなかった。

 

リアス「イリナさん、八幡に会いましょう。話を聞けば、何かしら分かるかもしれないわ」

 

イリナ先輩は、それに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一夜明けた翌日。

 

 

驚くことに、八幡先輩の予定が合ったらしく、次の日に会えることとなっていた。兵藤家の応接室に呼ぶことになった。

 

 

姉様には、特訓をつけてもらいたいからとそれっぽいことを言って何とか誤魔化したのだが、八幡先輩は一人で来ると言ったらしい。

 

何故一人なのか······おそらくヴァーリのあの言葉が理由なのだろうが、そもそも何故ギャー君と姉様に伝えてはならないと言ったのかが分からない。

 

 

姉様は分からないけど、当時10歳のギャー君が関わっているわけがないし······

 

 

 

八幡「よぉイッセー······で、俺に聞きたいことってのは何なんだ? あまり詳しい話は聞いてないんだが」

 

八幡先輩はイッセー先輩に軽く挨拶しつつ、兵藤家の応接室に入った。ここには、ギャー君以外のグレモリー眷属とイリナ先輩がいる。逆に、シスター・グリゼルダは予定が合わなかった。

 

 

八幡先輩は応接室のソファに座ると、頬杖をついて、返答を待つ体制が入った。いつにも増して気怠そうなのは、突然のことだからなのか······

 

イリナ「実は──────」

 

 

 

 

 

 

事情をあらまし説明し終えると、八幡先輩は口からこぼす。

 

 

八幡「八重垣正臣、ねぇ······」

 

イリナ「何か知ってるの!?」

 

イリナ先輩が食い気味に詰め寄るが、その答えはやはりと言うかなんというか、あまりいいものではなかった。

 

八幡「さぁな。精々、この町の前任者とやらかした末に罷免されたことぐらいしか知らんな」

 

リアス「あまり関わっていなかったと?」

 

部長は疑わしげに八幡先輩を見つめるが、先輩は身じろぎ一つせず、気怠そうに返す。

 

八幡「あのなぁ······俺が全部知ってるとか思ったら大間違いだ。()()()()()()()関わらないに決まってるだろうが。お前らと会ったのだってただの偶然だろ。どの道、サーゼクスの頼みで会うことにはなったのかもしれないがな」

 

イリナ「で、でも、ヴァーリ···さんは、何か知ってるような感じだったし······」

 

イリナ先輩は必死に食い下がる。何か、ほんの僅かでも手掛かりになる情報があるかもしれないと信じて。

 

八幡「? ヴァーリが何て言ったんだ?」

 

『鬼』という単語を疑問に思ったのか、先輩は聞き返した。

 

普通、家族のことを鬼と呼んだりしないと思うのだが······私達には彼の考えは、見当もつかなかった。

 

イリナ「······この件を伝えたら鬼になる、って。その『鬼』って言うのが何のことかも分からなかったんだけど······」

 

八幡「······(『鬼』、ねぇ······もう少しまともな)(例えはなかった)(んかい)

 

イリナ「? ······何て言った?」

 

先輩は一瞬何かを呟いたような気がしたが、声が小さすぎてその場の誰も聞き取れなかった。

 

八幡「いや、思わず出ちまった独り言だ。ま、俺にも何でヴァーリがんなこと言ったかよく分からんが、普通は家族を鬼なんて呼ばねぇだろ? ま、帰ったらとりあえず聞いてみるわ」

 

イリナ「う、うん」

 

先輩は()()()()()()()()()()()()言う。

 

八幡「ともかくだ。俺達もその件に関しては一応調べてはいるが、何分最近の例の事件によって発覚したことで、調査を始めたのは最近でな。さっき言った以上の情報は、ほとんど掴めちゃいないんだよ。で、ヴァーリが実際に調査してる内の一人ってわけだ。俺もしてるがな。

俺は別でやることがあってヴァーリほど調査に時間かけられないからな。基本的に情報はあいつの方が早い」

 

全体を見渡すように言った後、先輩は立ち上がった。彼は忙しいと聞くし、やることがまだあるのだろう。

 

イリナ「······いいの。簡単に分かることなら、パパはそもそもあんな目に遭わないから。それだけ事情が入り組んでるってことは理解出来てる」

 

八幡「······そうか。悪かったな、俺も事情に()()()()()()

 

イリナ「ううん!! そんなことない。忙しいのにありがとうございます」

 

八幡「あぁ······じゃあ、俺は失礼するよ。邪魔したな」

 

そう言うと、八幡先輩は応接室から退室した。

 

 

·······一瞬、八幡先輩の目が退室する瞬間にだけ険しくなったような気がした。

 

 

 

リアス「······その、ごめんなさいイリナさん。私が言い出したことなのに」

 

申し訳なさそうに部長は謝る。

 

イリナ「いいんです。半分ダメ元みたいなものだし······」

 

 

 

その時、室内に携帯電話に着信音が鳴り響く。曲はイリナ先輩が気に入っていたという、とある女性歌手の歌だった。以前聞いたことがあったが、割と耳に残っていた。

 

イリナ先輩がそれを手に取り、耳に当てる。

 

イリナ「······本当ですか!!!? 良かった······パパッ·······!! ああ、はいっ!! すぐにでも向かいます!! ···············はい、はいっ、分かりました!!」

さっきまでとは打って変わって、一転してイリナ先輩は笑顔になった。今までの表情は全て嘘なのではないか、と思えるほどに。

 

イッセー「イリナ? どうしたんだ?」

 

イッセー先輩に聞かれると、イリナ先輩は嬉しそうに言う。

 

イリナ「パパが······パパがね」

 

イッセー「お、おじさんが······?」

 

イリナ「パパの意識が戻った、って!!」

 

意識が戻った······!! つまり、魔剣に当てられたという呪いに打ち勝ったということだ。

 

そのことに一番に反応したのは、やはりイッセー先輩だった。

 

イッセー「本当か!? 良かったなイリナ!!」

 

イリナ「うん!! ······それと、協力してくれた皆もパパに会いに来てもらいたいの」

 

リアス「それは天界に、ということ? 悪魔が天界に入るなんて聞いたこともないけど······」

 

あ、悪魔である私達が天界に······? 天使が冥界に来るよりも遥かに大事な気がするが······

 

イリナ「特例で許可されたんだそうです!! これから迎えが来るって!!」

 

リアス「迎えが来る······私達まで昇天しような勢いね」

 

イリナ「大丈夫です。特殊なアイテムを使えば、ですけど。特別に支給されるそうです」

 

イッセー「すげぇ!! 俺達が天界に······!!」

 

 

 

この時、私達はまだ甘く考えていた。いや、無知だったと言えば正しいだろうか────

 

 

とりあえず、いやらしい想像をしていたイッセー先輩の脇腹を抓っておいた。

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「······ったく、更に面倒なことになりそうだな。分かってはいたが······はぁ」

 

 

 



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第114話 親と子と


今回は割とすんなり出来た······毎度この調子なら楽なんだけどな·······




 

 

 

 

八幡side

 

 

 

 

クレーリアが持ち込んだSDカードを束に回したばかりの頃。

 

俺はギャスパーに問い質されていた。

 

 

ギャスパー「······知ってたんですか? お父様は」

 

 

知っていた───とは、5年前の事件が再び動き出していることをだ。俺とヴァーリ、他何人かで極秘の調査をしていたのがあえなくギャスパーにバレたのだ。

無論、ヴァーリにも危険なことまで踏み込まないよう言ってある。危険がどの範囲を指すのか曖昧だし、そもそもヴァーリは俺の言うことに素直に従うわけではないから俺はそこにも目を光らせているが······

 

 

八幡「まぁな」

 

ギャスパーは俺に詰め寄ってくる。

 

ギャスパー「何で僕に教えてくれなかったんです?」

 

八幡「······今、何でお前はこんな所にいると思ってる? お前の療養もそうだが······ギャスパー、お前に頭を冷やさせるためだ」

 

1ヶ月······ギャスパーを、学園以外はほぼ冥界の屋敷に帰ってこさせている。一度心臓がダメになる大怪我を負った子供が心配じゃないわけがない。

今回は八重垣が飛び出して行って、探しに行きたいのは分かるが、今動いてまた怪我したらどうする気だ。

 

八重垣が飛び出してった段階で、そのうちこうなることは分かってはいたが······

 

ギャスパー「僕は冷静です」

 

八幡「そりゃあ言われればだいたいの奴はそう返すさ。パッと見冷静ではあるが、その実全然冷静じゃない。クレーリアのことを考えれば分からなくもないが、ギャスパーは焦りすぎだ」

 

ギャスパー「焦ってなんか───」

 

ギャスパーは焦っている。ディオドラのこともあるし、八重垣が似たような状況に陥るかもしれないと危惧している。

 

だから、ここは俺が言うのではなく────

 

八幡「後ろ見てみ」

 

ギャスパー「後ろ? あっ······」

 

 

 

 

黒歌「ギャスパー·······」

 

 

ギャスパーが好きで好きで心配で心配で堪らない黒歌の口から聞かせた方が早い。

 

八幡「黒歌がいたこと、気付かなかっただろ」

 

ギャスパーは黙り込む。沈黙は肯定と見なしていいんだろう。別に悪いこととは言わない。ギャスパーの感情は誰しもがもつ正当なものだ。怒りってのはヒトがもつ原初の感情の一つだからな。

 

だが······誰かを好きになるのも、誰もがもっている原初的な感情の一つだろう? ギャスパーが完全にその感情を失くさない限り、きっと何があっても戻ってこれる。

 

俺も、今まで何もしてやれなかった分、一つくらいは何かしてやるべきだな。

 

 

黒歌「······ギャスパーは、もういなくならないでしょ?」

 

ギャスパー「······ッ!!」

 

黒歌は儚げな表情を浮かべて、ギャスパーに問う。

 

 

······おお、これは凄い。俺がギャスパーだったら確実にコロッといってるな······どこでそんな技術身につけたんだ黒歌よ······ナチュラルにやってるから恐ろしい。多分意識してねえよな······?

 

 

ギャスパー「······うん、もういなくならないよ」

 

ギャスパーは黒歌の頬に手を伸ばし、そっと触れる。これが15歳がやることか?

 

黒歌「良かった······」

 

黒歌は自分の頬に触れているギャスパーの手に、自分の手を重ねる。こいつら俺がいることを忘れてるな······うんうん、未来の夫婦は安泰そうで良きかな良きかな。

 

出来ればこのままこの場を去りたいが、そうもいかない。声掛けづれぇ。

 

八幡「あ~······ちょっといいか新婚夫婦」

 

ギャスパー、黒歌「「新婚夫婦!? 」」

 

俺が声を掛けると、顔を赤らめて全く同じ感じにわたわたした後、何もなかったように装って俺に向き直ったが、全く出来てなくて面白いったらありゃしない。だが、弄りたいが野暮ったいことはあまりしたくない。

 

八幡「続けるのは別にいいが、少し渡しておこうと思ったものがあってな」

 

「「?」」

 

八幡「まぁお守り程度に考えとけばいい。ヴァーリにも何か渡すつもりだしな」

 

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

イッセー「ホントに俺達が天界に行ってもいいのか?」

 

兵藤家の地下で、天界への転移魔法陣を描くイリナ先輩に尋ねるイッセー先輩。

 

イリナ「もちろんよ。───」

 

 

ミカエル『······是非ともグレモリー眷属も連れて来て下さい。イリナは彼らにお世話になっているのでしょう? 第三天などは流石に無理ですが、治療施設のある第五天だけならば連れていくことも可能でしょう。貴女では気付かないことも、違う視点から見れば新たな発見となるかもしれませんよ』

 

 

イリナ「───って、ミカエル様が仰ったの」

 

 

そうして魔法陣を描き終わると、イリナ先輩とシスター・グリゼルダが礼拝の時のポーズで呪文を唱え出す。多分聖書の一節·······頭痛が·······

 

2人が詠唱を終えると、私達に天使が頭に付けているような輪───エンジェル・ハイロゥが配られた。これは私達のIDなどが登録されているらしい。これを付けておけば、天界の『システム』への干渉が限りなく小さく済むらしい。

 

 

ゼノヴィア「アーシア、私、天使になったみたいだ·······」

 

アーシア「はい!! 私もです」

 

ゼノヴィア先輩とアーシア先輩は感無量になったのか、涙を流していた。

 

イリナ「じゃあ、天界に入る前に記念でお祈りしましょう!!」

 

ゼノヴィア「ああ!!」

 

アーシア「はい!!」

 

「「「ああ主よ!!」」」

 

天使の光輪を付けているからか、神々しく感じる。悪魔の私が神々しく感じてよいのかは分からないが。

 

 

魔法陣に私達が乗ると、魔法陣が輝き出す。

 

 

 

 

魔法陣の光が収まると、私達の目の前には巨大な白亜の門が現れた。ただ、今回はこの門を潜るわけではないらしい。悪魔である私達ならば仕方ないのだろう。

 

 

私達は門から少し離れた所にある壁の前まで案内された。ここで何が? と私達が思案し始めた時、イリナ先輩が壁に触れた。

 

イッセー「すげぇ·······」

 

イリナ「ごめんね、本当なら門を潜ってもらいたかったけど、流石に信徒の魂や一般の天使に騒がれないようにしないといけないから······ここは裏口みたいなものかな」

 

イリナ先輩が壁に触れると、普通の壁だった所に縦に切り込みが入り、門のように開き始めた。先輩は裏口と言ったが、それでも6メートルくらいの大きさだった。

 

イリナ「さぁ皆入って。これ、第五天まで行けるエレベーターなの」

 

全員が裏口から入ると、白い空間が広がっており、足元に描かれていた金色の紋様が輝き出した。

 

不意に、体が浮遊感に包まれたかと思ったら、体が宙に放り投げられたような感覚を得た。イリナ先輩を見たら、特に何かあるという表情ではなかったから、これがエレベーターが上昇しているということなのだろう。

 

 

 

 

体を包んでいた浮遊感が収まると、研究所らしき建物が多い所に出た。ここが第五天のようだ。人間界の建造物に近い建物も多い。

 

堕天する以前の『神の子を見張る者(グリゴリ)』の者達──つまり先生やコカビエルのような堕天使が、天使だった頃ここにいたというので興味を惹かれるが、見学するために来たわけではない。

 

 

と、シスターが思い出したかのように言う。

 

グリゼルダ「言い忘れていましたが、天界のルールとして、人間界や冥界の俗世のものにあまり強くありません」

 

人差し指を立てて付け加える。

 

グリゼルダ「簡単に言うと、邪なものに弱いのです。また、天界では天使の堕天防止のために、必要以上煩悩が発生すると自動で発動する機能があります。流石にそんなものが発動するような機会はないと思いますが······一応付け加えさせてもらいました」

 

 

更に暫く歩いていると、患者服のような服装で、車椅子に乗った男性を見つけた。

 

イリナ「······パパッ!!」

 

トウジ「イリナちゃん!!」

 

イリナ先輩は、車椅子の男性に抱き着く。この柔和な人が紫藤トウジさんで間違いないのだろう。それにしても、本当にちゃん付けだったとは·······

 

 

·······今は亡き私の両親だったら、私をなんて呼ぶだろうか? 名前で呼ぶのか、何か愛称を付けてくれるかも······

 

 

 

 

トウジ「······やぁ、イッセー君。おじちゃんのこと覚えてるかな?」

 

イッセー「あ~、えっと、何となく、ですけど。すいません、ちっちゃい頃であんまり······」

 

トウジ「いやいや。まだこんなだったからね。覚えてなくても仕方ないさ。それにしても、大きくなったね」

 

イッセー「あ、はい、ありがとうございます」

 

トウジさんは久しぶりだというイッセー先輩を懐かしそうに見ていた。

 

 

イリナ「パパ、体調は大丈夫なの?」

 

イリナ先輩が尋ねると、明るい顔をしてトウジさんは答える。

 

トウジ「もちろんだよ!! マイエンジェルの顔を見たら怪我なんて吹っ飛ぶさ」

 

マイエンジェル······私から見ても明らかに分かる溺愛っぷりだ。

 

イッセー「(ま、マイエンジェル······そう言えば、前もそんなこと言ってたっけ······)」

 

トウジ「受けた呪いもここの設備のおかげでもう体に残ってないし、少しリハビリの期間を設けたら、元の生活に戻って大丈夫だそうだよ」

 

トウジさんが言うには、ここには通常の(例えば普通の生物が生成するような)毒とは違う、特殊な毒や呪いなどの治療に特化した施設があるらしい。同盟によって堕天使から齎された技術で、更に医療技術に進歩が見られたそうだ。

 

イリナ「良かった······ねえパパ。私、パパを攻撃した八重垣って人のこと調べてるの」

 

トウジ「なんだって!? ······イリナちゃん、気持ちは嬉しいけど、今すぐにその件から手を引きなさい」

 

トウジさんは驚いた後、イリナ先輩を諭すように言った。何故······? 多少危険はあるだろうが、イリナ先輩の実力があればよほどのことがない限り何ともなさそうなことだと思うのだが·······

 

イリナ「どうして?」

 

引き下がらないイリナ先輩に、トウジさんは返す。

 

トウジ「どうしても、だよ」

 

その目には有無を言わさぬ光があり、イリナ先輩を身じろがせた。

 

そこで、イッセー先輩が一歩前に出て、頭を下げた。

 

イッセー「おじさん、お願いします。イリナはずっとおじさんのために、って調べてたんです。危ないことだったら、これ以上は俺もイリナを止めます。だから、せめて、事件のこと教えてもらうことは出来ませんか?」

 

トウジさんは暫く考え込むが、イッセー先輩の圧に負けたのか、観念するかのように言った。

 

 

トウジ「分かった······イッセー君にもこうまでしてくれたなら流石に話さないわけにもいかないね。でもイリナちゃん、これ以上の深入りはダメだよ。それだけは分かってね」

 

 

イリナ先輩は深く頷いた。その頷きが何を示しているのか私に推し量ることは出来なかった。

 

 

 

 



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第115話 マリオネット


アルターエゴ欲しくて引いたらジャンヌの宝具が2になったぜ。そうじゃねぇんだよ·······。


最近、アニュー生存√ からの、複座式コクピット採用型のサバーニャが見たくて仕方ないんです。誰か書いてくれません? クリスリヒティ生存√ からの、リヒティがオーライザー乗るってIfも。(別に沙慈が嫌いなわけではありません。好きです)





 

 

 

 

ロスヴァイセside

 

 

特例で天界に入場した私達は、そこで治療を受けているイリナさんのお父さん───紫藤トウジさんと面会していた。

 

 

トウジ「······あれは、5年前の12月 24日。世間がクリスマスで賑わっていた日だった─────」

 

 

紫藤トウジさんは語り出す。それは天界から届いた資料とは違う、ある事件の真実だった。

 

 

 

 

 

 

 

5年前のクリスマスイブ。紫藤トウジさんはその年最後の任務に赴いていた。

 

聖剣使いは、通常の職とは違う。要請があれば剣を握る。そう出ない時は、神父、或いは牧師など信徒に教えを説く。私は信者ではないのでせいぜいが多少の見聞でしか知識を得ていないが、要は聖剣使いは兼業で任務についている者が多い。

 

 

 

 

話は戻るが、その当時紫藤トウジさんが受けた任は、悪魔の手に堕ちた信者······それも、単独で任務に先行していたというある聖剣使いを、救済の名のもとに断罪することだった。

 

 

その聖剣使いを誑かしたのは上級悪魔。紫藤トウジさんを中心とした、聖剣使い10人ほどのチームが組まれた。

 

 

 

トウジ「······その時から、皆が薄々感づいていました。彼が······誑かされたのではないと。ですが、我々は信徒であり信仰を是とする者。任務を放棄することなど有り得ぬことです」

 

 

 

奇しくも紫藤トウジさんが任務で赴いたのは、自身の家族が住む地。

駒王町だった。その町の教会、討伐対象の上級悪魔と()()()聖剣使いがいるということだった。また、目撃者は全て抹殺せよ、とも命ぜられていた。つまるところ、口封じだ。今は同盟が結ばれたからこうして天使や信徒以外も特例とはいえ天界に入れているが、少し前なら当たり前だったのだろう·······

 

 

 

そして任務のため教会に奇襲かけ、聖剣使いである八重垣正臣、上級悪魔の女性、そして()()()()()()()()()()()少年の3人を手にかけ()()()()()

 

 

イリナ「······ようとした······って?」

 

トウジ「幸か不幸か······チームの1人が上級悪魔の女性にトドメを刺そうとした直前に、何者かに介入されたんだ」

 

イリナ「何者かに介入された······? でも、当時の資料にはそんなこと全く······」

 

そこで、紫藤トウジさんは私達も驚くべきことを言った。

 

トウジ「······仕方ないよ。イリナちゃんが受け取った資料はおそらく······書かれていることのほとんどがデタラメなのだから」

 

デタラメ······!!

 

ふと、私の脳裏に、錯乱した当時の関係者が過ぎった。資料がデタラメ······もしかすると、関係者への改竄も行われていた······?

 

イリナ「デタラメ······!? パパ、どういうこと······!?」

 

そこで、僅かに困惑を見せながらもグリゼルダさんが問う。

 

グリゼルダ「······それはつまり、誰かが当時の事件の資料を改竄したということでしょうか? まさか貴方が?」

 

トウジ「実行した······という意味では私で間違いありません。シスター・グリゼルダ」

 

つまり、指示した人物が別にいる······

 

グリゼルダ「誰です? 貴方に改竄を指示したのは」

 

 

その問いに対し、紫藤トウジさんは更に驚くべきことを言った。

 

トウジ「『堕天魔』比企谷八幡······彼の良心で、私は今ここにいます。彼が、もっと冷酷であったら······私は5年前に間違いなく殺されていたでしょう」

 

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

紫藤トウジさんのその発言に私達は驚くしかなかった。

 

無理もない。彼は、調査を進めているところだ、と私達に語ったのだ。それこそが全くのデタラメだった。真実を知っていて尚、私達を騙したのだ。それは言外に、私達に関わらせないようにしているということだ。

 

 

紫藤トウジさんは更に語る。

 

トウジ「彼らはその場に介入すると、瞬く間に私達を制圧しました────」

 

 

トウジさんによると、その時黒い外套でフードをかぶった2人組みに介入され、紫藤トウジさん達は瞬く間に制圧された。

 

片方が『堕天魔』と称される比企谷八幡。もう片方は、直接攻撃しなかったそうだが、声から女性であったらしい。

 

10人で組んだチームは比企谷八幡1人によって、紫藤トウジさんを除いて一瞬のうちに意識を刈り取られ、紫藤トウジさんは掴み上げられた。

 

 

トウジ「彼は私に言ったのです────」

 

『次にその面を俺達に見せてみろ。お前に地獄の方がマシってくらいの絶望をくれてやるよ』

 

 

 

その後、紫藤トウジさんを除くチームは記憶を改竄され、紫藤トウジさんは彼らを回収、離脱したらしい。当時の関係者が一様に八重垣正臣の名前を聞くと錯乱するのは、彼が無意識下に恐怖を植え付けたから、らしい。紫藤トウジさんに行わなかったのは、報告の際に口裏を合わさせるため。死体の偽装に、疑いを持たれぬようにするためだという。また、錯乱するのは3日後以降という条件もあったという。

 

資料には八重垣正臣と駒王町のリアスさんの前任者は死亡したことになっていたが、それが偽りであり、比企谷八幡が彼らを何処かへと連れ去ったのだという。

 

 

 

 

 

 

その時、震える声で、小猫さんが紫藤トウジさんに問う。

 

 

小猫「······じゃあ、そこにいた子どもって、ギャー君のことなんじゃ······」

 

トウジ「······そうです。君の言うように、ギャスパー・ヴラディ───今はルシフェルですか、は当時居合わせた。先程偶然、と言いましたが彼は八重垣君と悪魔の女性と親交があった」

 

リアス「そんな······!?」

 

小猫「ギャー君·······」

 

ギャスパー君が······

彼は落ち着いた雰囲気を持ちつつも明るい性格で、クラスメイトと話している場面をよく目にしている。だが、彼は見ている。経験しているのだ。死の恐怖を、友人を失う恐怖を、その怒りを·······だから、ヴァーリは鬼と形容した·······

 

 

トウジ「······ごめんねイリナちゃん。パパは汚れている。この手なんか、もう血に塗れすぎて何色をしてるかも······分からないんだ」

 

イリナ「パパ·······?」

 

 

紫藤トウジさんは、自分の手を見つめて悲しく微笑んだ。だが、私にはそれが、死の淵に立った人間の顔に見えてしまった。

 

 

 

ロスヴァイセsideout

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

イッセー「おじさん······」

 

イッセー先輩の苦しげな呟きが嫌に大きく耳に届いた。

 

 

トウジさんのしたことは、任務とはいえ許されることではない。それもギャー君に······

だが、トウジさんとてしたくてしたわけではない。偶然が重なった結果でもある。

 

悪魔側、教会側、それぞれが掲げているものはお互いを喰らい合うものなのだ。当時の政治に詳しいわけではないが、

 

 

その男女が、今出会っていたとしたら······きっと、状況は全く違っていたのだろう。そんなこと、本人達に言えるわけがないが───

 

 

トウジ「······イリナちゃん」

 

イリナ「? ·······何? パパ」

 

ふと、トウジさんがイリナ先輩の名を呼ぶ。

 

トウジ「八重垣君が来たら迷わず逃げるんだ。今度は、今度こそ、パパは殺される。彼はオートクレールを憎んでいる······今度彼が来たら、イリナちゃんも······」

 

·······ッ!!

 

トウジ「シスター・グリゼルダ。都合のいいことだとは分かっています。もしもの時は、イリナを·······よろしくお願いします」

 

トウジさんはフラフラと立ち上がり、グリゼルダさんに頭を下げた。

 

グリゼルダ「······分かりました。『A(エース)』イリナは任せて下さい」

 

一瞬の沈黙の末、グリゼルダさんは答える。

 

イリナ「パパ!? 何言ってるの!?」

 

トウジ「······パパは、イリナちゃんが無事ならそれが一番だよ。親はね、子どもが無事でいてくれることが一番の幸せなんだ。だから────」

 

トウジさんがそこまで言ったところで、突然声が響いた。

 

 

『そうだな。親は子どもを第一に考える生き物だもんな』

 

 

この声には聞き覚えがある。つい先程あったばかりなのだから間違えようもない。

 

 

トウジ「······お久しぶりです。八幡様」

 

「「「「「「ッ!!」」」」」」

 

 

地面にいつか見た黒い魔法陣が展開される。魔法陣は光り出し、光が弾けたように光り、数瞬の後光が収まると、そこには拳銃を構えた男性が立っていた。

 

 

八幡「よぉ紫藤トウジ。5年ぶりだな。

 

────で、あの突っ走ってたバカの逆鱗に触れた気分はどうだった?」

 

 

 

 





後書きに書くことでもありませんが、更新遅くてすいません。ペースほんと上がらなくて······



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第116話 脆い呪いに縋る男



もう読んでる人がいるかは知りませんが······

大変遅れて申し訳ございませんでしたぁぁ。



もうすぐ春休みに入るので、少しは投稿ペースは上がるかとは思いますが······



 

 

 

 

トウジ「······お久しぶりです」

 

八幡「そうだな。俺としては会いたかったなんて微塵も思ってないが」

 

 

天界で療養中のイリナ先輩のお父さん──紫藤トウジさんに会いに来た私達の前に、突如八幡先輩が現れた。拳銃をトウジさんに向けて。

 

 

イリナ「何で······」

 

イリナ先輩の震える声が、この場に嫌に響いた。そしてそれは、この場の、トウジさん以外の全員が感じていることでもあった。

 

 

彼がここにいる······ということは、彼は私達に嘘をついていたことになる。何故······

 

八幡「何でもクソもない。何で態々教えなきゃいけない? こういうことは部外者が介入すればするほど事態が明後日の方に転がってくことぐらい流石に分かるだろうに」

 

その目には、以前あった時とは違い、私達に突き刺さるような冷たいものが宿っているように感じられた。

 

 

八幡「······一応聞いておくが、何故この場にオートクレールがあるか話せ。紫藤トウジ」

 

八幡先輩はトウジさんに視線を戻し、一分の隙もない冷たさをぶつける。

 

トウジ「······この子に適正があったからです。この先、ミカエル様の『A(エース)』としでイリナには嫌でも力が必要になる場面が来るでしょう。その時のために、私が、今出来ることを少しでも······」

 

イリナ「パパ······」

 

それは、娘を想う父親の愛にほかならなかった。トウジさんは、八幡先輩に答えた。だが、八幡先輩はそんなトウジさんを見て、つまらなそうに言う。

 

八幡「ほぉ······まぁ言い分は理解出来るが、そのためならその剣を使ってもいいわけだ。オートクレールは天界の研究所の最奥にて、ラファエル管理の下永久封印と処理された筈だが? ま、どうせウリエルの差金だろうかな」

 

 

熾天使(セラフ)が管理する下に永久封印······? でも、オートクレールは今イリナ先輩が······

 

イリナ「永久封印······?」

 

トウジ「······何故、ここにきて封印処理が解かれたのかは私には分かりません。私は便乗しただけ······ですから、イリナには手を出さないで下さい。お願いします」

 

八幡「それはまぁそうだろうな。俺は紫藤イリナをどうこうしようというつもりはない。俺は、()()()()()()()()あのアホとあのバカが持ち出したものを回収するだけだ」

 

次の瞬間、イリナ先輩はオートクレールを手に、トウジさんを庇うような位置で八幡先輩を睨みつけた。

 

イリナ「どうしてっ······こんなことを······!!」

 

イリナ先輩が目の前に立っても、八幡先輩は銃を降ろさない。

 

八幡「さっきお前の父親も言ってただろ。親が望むのは子どもの幸せ······紫藤トウジがウチの子に手を出した事実がある以上、また同じことをしないという可能性を否定することは出来ない。

───分かってるよな? 紫藤トウジ?」

 

最後の一言に、私達はゾッとする寒気を覚えた。

 

トウジ「もちろん······分かっています」

 

イリナ「パパッ!!」

 

イリナ先輩は振り向いてトウジさんに叫ぶが、トウジさんは首を横に振るだけ。

 

それを見た八幡先輩が呟く。

 

 

八幡「おいおい、娘を巻き込みたくなかったらとっとと避難させろよ······つっても、もう遅いがな」

 

 

次の瞬間、トウジさんの後方10メートルほどの位置に魔法陣が展開し、そこに1人の男性が現れる。

 

 

そして、現れるやいなや、どこからか禍々しいオーラを放つ剣を手に取り、トウジさん達に斬りかかった。

 

トウジ「イリナっ!!」

 

イリナ「えっ? きゃっ!?」

 

トウジさんは咄嗟にイリナ先輩を突き飛ばし、自分は懐から瞬時に取り出した剣の発振部から光の東晋を顕現させ、禍々しいオーラを放つ剣を受け止める。

が、咄嗟だった上に、まだ療養中の身であるトウジさんは男性のパワーにあえなく押し負けて、八幡先輩の足元まで押し飛ばされた。

 

 

八幡「よ、八重垣。来るのは分かってた」

 

八幡先輩は、トウジさんを弾き飛ばした男性に話しかける。この人が八重垣······ 八重垣正臣······

 

正臣「そうですか、じゃあ僕の邪魔をしないでください。この男を······殺すのだから!!」

 

言うなり、男性───八重垣正臣はトウジさんを斬り殺さんとばかりに踏み出す。トウジさんは素早く立ち上がって剣を構え、防御に入る。

 

八幡「······そりゃな。俺は邪魔しねぇよ。俺はな」

 

それは、どういう······

 

そして、八重垣がトウジさんに再び斬りかかる。トウジさんは何とか受け止めるも、パワーで押し負けているトウジさんはどんどん押されていき、片膝をついてしまう。そして次の瞬間───

 

 

バギィィィィン!!

 

甲高い音を立てて、光の剣が中程から砕け散る。トウジさんは辛うじて身を捩ることで剣を回避したが、回し蹴りを諸に食らって何度もバウンドしながら蹴り飛ばされた。

 

イリナ「パパ!! このっ!!」

 

イリナ先輩は八重垣に斬りかかるが、初撃を難なく回避され、トウジさんの逆方向、私達がいる方向に弾き倒されてしまった。が、イリナ先輩は、トウジさんに向けて足を出そうとする八重垣の右足を掴んだ。

 

イリナ「行かせないっ·······」

 

だが、八重垣は自分の足を掴んだ手を軽く振り払い、トウジさんの方へ進む。

 

イリナ「っ、やめっ······」

 

 

そして、八重垣が禍々しいオーラをいっそう妖しく輝かせる剣をトウジさんに振り下ろ────

 

 

八幡「······だがな。お前は気付いているだろ?」

 

 

────すことは出来なかった。

 

 

 

ガギィィ(イィィィ)ン!!

 

 

突如出現した純白の槍が、八重垣の剣が振り下ろされる直前で受け止めた。

 

その槍を手にしていたのは───

 

 

 

ギャスパー「────どうも正臣さん。いつまであの人に心配させる気ですか?」

 

 

 



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第117話 アンチストロファ


今更思ったけど、この作品まだ読んでる人いるんで?




 

 

 

 

小猫「ギャー君!?」

 

 

私達の前に突如現れたのは、純白の槍を携えたギャー君だった。

 

 

正臣「······そこに八幡様がいるからね。まさか君が来るとは思わなかった」

 

ギャー君を睨む八重垣に対し、ギャー君は胸ポケットから何か黒っぽいものを取り出すと、全く見もせずに後ろにいる八幡先輩に放り投げた。八幡先輩は危なげなくキャッチすると左耳にそれを着ける。

 

何故かは分からないが、ギャー君が投げたのは片耳に着けるタイプの小型のインカムだった。

 

ギャスパー「あの人に頼まれたんですよ。だから、戦えないあの人に代わってここに来ました。頼まれなくても止めに来ましたけど」

 

正臣「何故そうまでして僕を止める······」

 

そう言う八重垣の表情にはどこか苦しさが浮かんでいる。

 

八幡「ギャスパー!!」

 

八幡先輩は亜空間から何か取り出し、それをギャー君に投げる。ギャー君が掴むことで、何を投げたのか明らかになる。

 

 

······エクスカリバー!!?

 

八幡「ギャスパー、俺は第二天に行く。お前も無理せず何かあったら撤退しろ、いいな。

······それと、その槍はあんま使うな」

 

そう言うと、八幡先輩は魔法陣を展開して転移してしまった。

 

 

ギャー君は右手に持ったエクスカリバーをしばし見つめると、左手から純白の槍を手放す。地面に触れる前に、それは粒子となって消えた。

 

ギャスパー「······そりゃ止めますよ。あの人は今泣いてるんです。貴方がいなくなるのが怖いんですよ。僕にもその気持ちは解ります。あの人以上に解ります。正臣さんだって、それが解りますよね?

だから······貴方をぶっとばして連れ戻しに来たんですよ!!」

 

その瞬間、ギャー君の姿が消える。次の瞬間、ギャー君の拳が八重垣の頬を穿った。

 

正臣「グゥッ······!!」

 

そのまま吹っ飛ばされた八重垣は、剣を持っていない左手を地面について体勢を整え、真正面から斬りかかってきたギャー君のエクスカリバーを受け止める。

 

 

2度、3度斬り合うと、八重垣が叫ぶ。

 

正臣「分かってるさ······!!」

 

ギャスパー「なら······!!」

 

八重垣が振り下ろした剣をギャー君はエクスカリバーで受け止める。

 

正臣「それでも、オートクレールだけでも破壊しないと気がすまないんだよ!!」

 

ギャー君「グッ······」

 

鍔迫り合う八重垣に押され、ギャー君は一歩下がる。

 

イリナ「えっ······?」

 

ギャスパー「それは······!! 分かるけど!!」

 

ギャー君が押し返し、強引に距離を取る。

 

正臣「なら邪魔しないでくれ!!」

 

八重垣とギャー君は、私では視認出来ないほどの速さで動き、剣戟を繰り出し合い、再び鍔迫り合いに持ち込む。

 

ギャスパー「復讐を忘れられなければ、あの人を無視してもいいと!?」

 

正臣「そんなこと言ってないだろうが!!」

 

ギャスパー「同じだ!!」

 

ギャー君が八重垣を弾き飛ばし、追撃を繰り出そうとするが、八重垣は間一髪のところでそれを躱し蹴りを食らわせる。ギャー君は左腕でそれを受け、その衝撃で吹っ飛ぶ。

 

 

 

その時だった。

 

ドウッッ!! という音が聞こえると同時に、天界が大きく揺れた!!?

 

イッセー「何だ!?」

 

地震······ではない!! 空の上にある天界で地震が起きるはずがない!!

 

途端に、空一面に赤い天界文字が点滅を繰り返しながら幾重にも大きく飛び交い始める!!

 

そこで、グリゼルダさんが叫ぶ。

 

グリゼルダ「大変です!! 天界が······襲撃を受けました!!」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

その報せに皆が一様に驚く。

 

 

······襲撃!? 誰もが耳を疑ったが、全員の視線が八重垣に向けられる。この襲撃に関係があるのでは·······?

 

 

グリゼルダ「襲撃してきたのは······『クリフォト』です!!」

 

 

その報告に、私達は戦慄する。

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

ギャスパーにエクスカリバーを投げ渡した俺は、第二天の端の端に転移した。

 

そして近くの建物に寄り掛かると、左耳に着けていたインカムのスイッチを入れる。

 

 

八幡「······俺だ、束。聞こえるか?」

 

インカムのマイクに声をあてると、スピーカーから俺の耳に束の声が響く。流石天災様だ。冥界、天界間で通信出来るとは。束は今回、オペレーターだ。というか、基本的にあいつが趣味で作ったものはあいつしか動かせない。

 

にしても、いくら束お手製と言ってもこのインカム、科学技術だけで製造されたものだぞ······いや、以前オーフィスにあげた俺の神器(セイクリッド・ギア)のテクノロジーの応用だってのは分かってるんだが。

 

 

束『はいは〜い。聞こえてるよはーくん。通信出来たってことは、ギャーくんはちゃんとそっち行けたんだね〜』

 

今回、あえてインカムなんかを使ったのにはいくつか理由があるが······その最たる理由は、傍受を回避することにある。

向こうには、俺達よりも遥かに魔法に長けたアジ・ダハーカがいる。魔法での通信は向こうに情報を漏らす可能性が高いのだ。それならばまだ、科学技術の方が安全だ。安心は出来ないが。

 

まさか、束がお巫山戯で作ったものから流用したものがこうも役に立つとは······

 

 

八幡「ああ。で、そっちはどうだ?」

 

束『おーけーだよ。各員準備完了した───』

 

 

 

その時、天界が揺れた。

 

八幡「おっと······予定通りだ。束、来やがったぞ」

 

空には、無数の魔法陣が出現する。そしてそこから────無数の邪龍が降ってきたのを視認出来た。

 

 

束『はーくん、第二、第三、第四天に邪龍のオーラを確認。襲撃者を 『クリフォト』と断定』

 

八幡「了解した。

 

······総員に通達。作戦開始」

 

 

 

八幡side

 

 

 

 

 

 

 

 

束side

 

 

 

八幡『······総員に通達。作戦開始』

 

 

はーくんの通達が全員に届いたのを確認した束さんは、一旦通信を切る。作戦が完全に上手くいくなんて甘い考えしてないけど、作戦通りいくならば、後30分ほど通信は切ったまま。

天界にいる側だけで対応する手筈。

 

そして────

 

 

「······終わったか」

 

束「うん終わったよ〜」

 

 

この四鎌童子とかいう金髪が屋敷に忍び込んで来て、今私の首に剣突き立ててることも作戦の内。

 

作戦はなーんも終わってないし、天界に襲撃するなんてするなら、それに紛れて誰か侵入する可能性は十分あったけど〜···束さんとしてはこっちに来ないで欲しかったなー。

 

 

 

束さんのラボが汚れる。

 

 

 

束「······そーそー、束さんね〜───今ガチ切れしてんだけど」

 

四鎌童子「······!!」

 

 

魔法陣を展開し、束さんとこの金髪を遥か彼方へと転移させる(とばす)

 

 

 

 

 

束「あはは〜、天界側にかかりっきりで冥界側の警備が手薄になるとでも思ったー?」

 

 

転移したのは、『サングィネム』の辺境。はーくんにもらった、束さんの研究区域。ここなら、基本的に何作っても大丈夫。前に∀ガ〇ダムの縮退炉の研究施設作ろうとしたら、クーちゃんにマジのお説教コース食らったんだけどねー。ガチで死ぬかと思った。その後いっくんにまでお説教されるし······

核融合炉の研究施設だって、説得に説得を重ねてやっとこさ屋敷の地下4000メートルに造ったってのに······解せぬ。鍵は束さんの生体データだし、そこのコンピュータも外とは一切繋がってないから情報漏洩の心配はゼロなのに。結界も張ったし。

 

 

四鎌童子「何······?」

 

束「残念でしたー。束さんが入れてあげたんだよ〜?」

 

言うと同時に、束さんは服の中に隠し持っている銃を引き抜き迷わず発砲する。

うんうん、先手必勝って大事だよね〜。避けられたけど。

 

 

束「ちょ~っと束さんとアソンデってよ」

 

 

 

束sideout

 

 

 

 



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第118話 憎しみの剣閃

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

第二天に転移した俺の目に、上空に出現した魔法陣から降下する無数の邪龍もどきが映り込む。

 

 

しかと確認した俺は、ミカエルに特殊な魔法で入電。こちらは別に傍受されようが構わないことだけを送信したので普通の魔法だ。

 

一瞬で入電を完了させ、寄り掛かる建物の壁を駆け上がり、屋上まで登りきるとそこからジャンプしつつ、亜空間から剣を取り出す。

 

久々の『塵外刀真打』だ。多少暴れさせてもらおうか。

 

 

───塵外刀変化。型式『蟋蟀(こおろぎ)』。

 

 

巨大な刀身は少し細くなり、全体的に以前より好かれている。

 

俺が、触れただけで指が弾けそうなほどの速さで振動する刀を上空で一薙ぎ。ドデカい超高周波の塊でもって魔法陣から現れた瞬間の千を超す邪龍もどきどもを片っ端から消し飛ばした。

 

まだ連絡を取ってないが、第三、第四天にも俺のように待機していた。てことは、向こうも戦闘に突入してるってわけだな。

 

 

また10体ちょっと消し飛ばした後、俺は少し移動することにした。

 

 

 

 

 

 

八幡「······うだうだしてないで早く逃げろ!!」

 

第二天はバベルの塔関連の収容施設がある。俺は避難が進んでいなそうなところがどこか考えたら、まずここが出てきた。既に第二天でも天使が避難誘導や迎撃を開始しており、もう少しすれば俺達は必要なくなるだろう───

 

 

八幡「───って言っても逃してくれねぇもんなぁ!!」

 

トカゲもどきを斬り裂いた直後、背後に寒気を感じ、通常形態の『塵外刀真打』を盾のように構える。

 

 

瞬間───莫迦みたいな衝撃に襲われる。俺の体は施設の壁を突き破って思い切り外まで吹き飛ばされる。防御に間に合ったし、後ろに跳んで衝撃は逃せたからダメージはない。

 

俺が空中で姿勢を整えると、俺の目の前に俺を吹き飛ばした張本人の少女がフラッと浮かび上がる。

 

八幡「······来ると思ってたよ。コマチ」

 

 

少女───コマチは、絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような濁った色のオーラを震わせ、俺を睨みつけた。

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫side

 

 

 

ギャスパー「こんのっ·······!!」

 

正臣「いい加減にっ·······!!」

 

 

グリゼルダさんに、天界『クリフォト』に襲撃されているという報告が入ってきても、私達は動けないでいた。

 

·······襲撃者とギャー君が戦っている。果たして、私達がギャー君をその場に置いて避難してもいいのか。いや、そんなことは······

 

 

ふと、部長が私達を見て言う。

 

リアス「······皆、私達も避難しましょう。ここにいても、私達に出来ることは何もない。イリナさん、トウジさんを連れて、安全な所へ行きましょう。ここも、ギャスパーと八重垣の戦闘の余波に晒される可能性は十分ある」

 

避難······ギャー君を置いて······?

 

イリナ「は、はい」

 

小猫「でも部長······」

 

私は······

 

リアス「小猫、今の私達ではギャスパーの足でまといにすらなれない······悔しいのは分かるけど。私達には何も出来ないのよ」

 

ギャー君を見捨てるなんて······

 

 

正臣「ぐぁっ······」

 

小猫「······!!」

 

剣がカチ上げられ、人が倒れる音に思わず振り返ると、仰向けに倒れる八重垣に、八重垣を見下ろしながらエクスカリバーをダラリと持つギャー君の姿が映った。

 

ギャスパー「はぁ······はぁ······貴方の負けです」

 

正臣「けほっ······」

 

ギャー君にカチ上げられた八重垣の剣は、明後日の方向に飛んで、地面に突き刺さった。

 

ギャスパー「なんで、今になって······」

 

肩で息をしながらギャー君は問う。八重垣はそれにポツリポツリと答える。

 

正臣「ギャーなら、分かってくれると思ってたんだけどな······知ってるだろ? オートクレールは元々母の遺品だ。あの日───クレーリアを選ぶか、オートクレールを選ぶか。僕にはその二択しかなかった。比企谷さんは強いけど、万能ではない。オートクレールを紫藤トウジに回収させなかった場合、僕達の死の偽装は······」

 

その口ぶりは───まるで、オートクレールは元々八重垣のものだったとしか思えないものだ。

 

ギャスパー「······分かってます。だから、せめて永久封印になるように条件をつけたんですよね?」

 

正臣「······あぁ。と言っても比企谷さんがいなければそんな条件つけようもなかったけどな。

·······あの日、差出人不明の茶封筒が届いた。中に入ってたのは、5年前の襲撃部隊の個人データ。それと、紫藤イリナへのオートクレールへの貸与の旨を示した書類が幾つか。見た時は驚いたさ······そして、あの日から閉じ込めてた感情も解き放った」

 

ギャスパー「何も言わずに飛び出して行ったのは、あの人が止めると思ったからですか?」

 

正臣「それも少しはある。目の前が真っ赤に染まって、見えなくなったんだ。何もかも」

 

ギャスパー「······そうですか」

 

ギャー君はそう言うと、不意にこちらを向いて言う。

 

ギャスパー「すいませんイリナ先輩。文句は貴方の父親と上司に言ってください」

 

イリナ「きゃっ······!!」

 

そう言いギャー君がイリナ先輩に手を向ける。指をクイッとすると、突然イリナ先輩が持っていたオートクレールが引っ張られ、イリナ先輩が手を離してしまうと同時に吸い寄せられるかのようにギャー君の手に収まる。

 

イリナ「なっ······!?」

 

ギャスパー「······どうします?」

 

ギャー君は刃に触れないように器用に刀身を持って、柄側を八重垣に出す。

 

八重垣「······ああ」

 

八重垣はオートクレールを受け取る。と、次の瞬間、思いっきり上に放り投げた。

 

八重垣「······頼むよ」

 

ギャスパー「いいんですか?」

 

八重垣「さぁ······これが正しいのかなんて分からない。復讐心は消えてない。

······僕には覚悟が足りなかった。これと向き合おうと、折り合いを付けようとしてこなかった。それでも、今はこの選択が僕にとって一番正しいと信じる」

 

ギャスパー「僕も······そう信じますよ」

 

不意に、ギャー君は宙を舞うオートクレールに向けて手を伸ばす。掌を向けたかと思うと、拳を握った。

 

と、次の瞬間─────

 

 

ギギギャギッ────

 

パキィィィィィン!!

 

 

 

オートクレールは粉々に砕け散った────。

 

 

 

 

正臣「母さん·······僕は、今度こそ、この呪縛と向き合っていこうと思う。そっちに行くのはまだ先になるから、もう暫く待ってて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「·······正臣さん。大人しく来てもらいますよ。聞きたいことが山ほどありますから」

 

正臣「······分かった。(ペナルティ)は大人しく受けるよ」

 

ギャー君は頷くと、指を鳴らす。すると、魔法陣が開き、そこから妙な鎖が飛び出してきて、八重垣の両手首に巻き付いた。

更にもう一回指を鳴らすと今度は地面に魔法陣が開く。

 

ギャスパー「じゃあ、行きましょうか」

 

ギャー君が八重垣を先に歩かせ、魔法陣の中に入ろうとする。

 

イリナ「あ、ま、待って!!」

 

そこで我に返ったイリナ先輩が2人を呼び止める。思わずだったのか、2人は立ち止まって振り返る。

 

ギャスパー「······先行っててください。このために態々待機してもらってるんです」

 

正臣「あ、あぁ、分かった」

 

そして、八重垣は魔法陣の中に消え、次いで魔法陣も消える。その場にギャー君だけが残った。

 

 

ギャスパー「······なんでしょうか」

 

ギャー君はイリナ先輩を見据えて言う。

 

イリナ「な、なんでしょうかって······」

 

イリナ先輩はギャー君の声色に困惑する。普段の明るいギャー君からは想像もつかない冷たい声。斯く言う私もこれには困惑を隠せなかった。

 

ギャスパー「······まぁ。僕も突然来て介入しましたからね。同じ状況なら戸惑うと思いますよ。ただ······」

 

そこで、ギャー君は一旦言葉を切る。

 

イリナ「ただ·······?」

 

イリナ先輩は恐る恐る聞き返す。

 

ギャスパー「そこの男から、だいたいのことは聞いたとは思いますが。貴方の父親は弄られてないはずですよ?」

 

ギャー君の眼光が、イリナ先輩へと突き刺さる。トウジさんは何も言わなかった。それとも、言えなかったというべきなのだろうか。

 

ギャスパー「まぁ聞いてないんなら言いますけど。

5年前、オートクレールはそこの男が回収して教会に献上しました。あの人の死亡を偽装するためにです。ただ、それは元々正臣さんのお母様の遺品。お母様の死後、正臣さんが引き継いだもの。そこの男が触れるだけでも憤死しそうになるのを堪えるほどですが、始末したのに回収出来なかったでは不審がられる。だから、あえて回収させたんです。苦悶の末に。

ただ、それだけでは、また別の誰とも知らない誰かの手に渡る可能性もあるし、最悪の場合そこの男が持つ場合もある。だから、永久封印という条件をつけたんですよ」

 

それなら、なんで封印が解かれたのか······

 

 

ギャスパー「封印を解かれた理由は詳しくは知りませんが······大方、もっと上の誰かがテロにかこつけて封印を強引に解放させたと考えるのが自然ですかね。

 

───そこの男がこれに便乗しさえしなければ、正臣さんがオートクレールを回収して、それで終わりだった」

 

 

そこまで言うと、ギャー君は一息吐いて持っていたエクスカリバーを消した。亜空間へ収納したと考えられるが······

ギャスパー「難しいなぁ······どうしてこう上手くいかないんだろ」

 

ギャー君が何か呟いた時だった。

 

 

「それって、こういうシチュエーションを言ってるのかい?」

 

 

ゼノヴィア「なんだ!?」

 

突然、男の声が辺り一帯に響き渡る。それは一月前、ルーマニアでも聞いた声────

 

 

次の瞬間、空中に無数に出現した魔力弾がギャー君に降り注いだ!?

 

ギャスパー「·······チッ」

 

 

 

数分の後、降り注いだ魔力弾が病む。魔力弾はギャー君を覆い、10メートル近くまで巻き上がっていた。咄嗟に聖魔剣でシールドを張った裕斗先輩のおかげで、私達には被害はなかった。

 

リアス「ギャスパー!?」

 

部長がギャー君の名を呼んだ瞬間、巻き上がった粉塵が吹き飛ばされる。

 

小猫「ギャー君······」

 

粉塵の中から、ギャー君の姿が浮かび上がる。ギャー君は光のベールのようなものに包まれており、一切のダメージを受けていないように見える。

 

 

 

そこで、銀色の魔法陣が出現。ギャー君を攻撃したであろう張本人が姿を現す。銀髪で初老───実際はその1000倍は生きているであろう───のように見える男。

 

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!?

 

前ルシファーの息子でありサーゼクス様やアジュカ・ベルゼブブ様に並ぶ『超越者』の1人。そして『クリフォト』を率いる稀代の扇動家······!!

 

リゼヴィムは、ボロボロの服を着た紫色の髪の女性の、髪を掴んで現れる。

 

ギャスパー「ゴミ屑が······!!」

 

そしてリゼヴィムは、ギャー君の敵意を物ともせず、まるで旧友に逢いに来たかのような笑顔で言う。

 

 

 

リゼヴィム「やっほ〜ギャスパーきゅん。1ヶ月ぶりー。ヴァーリが何処にいるか探すの面倒だったから、こっちに来ちゃったゼ♪」

 

 

 



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第119話 お前は甘い

ギャスパー「······何のつもりだ」

 

ギャー君が吐き捨てるように言う。こうも嫌悪感を隠そうともしないギャー君を見たのは、ルーマニアでの一連の騒動と今回くらいだ。

 

 

リゼヴィム「嫌だな~、そんな目で見られるなんておじちゃん悲しい」

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。白龍皇ヴァーリの祖父にして、前魔王ルシファー子息。現ルシファー様、ベルゼブブ様と同様、『超越者』と称されている。

 

そして、『クリフォト』を率いて、各地でテロリズムを繰り返す外道。

 

ギャスパー「お前らが情報を流さなければ······こんなことにはならなかった」

 

ギャー君は再びエクスカリバーを現出させる。

 

リゼヴィム「······イヤイヤ、未だにあの小僧は復讐心に囚われてるぜ?」

 

ギャスパー「利用したクセに抜け抜けと······!!」

 

ギャー君はエクスカリバーで斬り掛かる。リゼヴィムは赤黒いオーラを腕に纏い、エクスカリバーを受け止めた!!

 

ギャー君はエクスカリバーを2度3度揮うも全て受け止められ、鍔迫り合いに持ち込む。

 

リゼヴィム「おいおいギャスパーきゅん、全部おじちゃんのせいにしちゃだめだぜ? 天界(ここ)に単身乗り込んできてそこの男を殺そうとしたのが何よりの証拠じゃん。俺っちはほんのちょ~〜っと情報をあげただけよ」

 

ギャスパー「あの人に復讐は必要なかった!! やっと得られた安寧を、何故壊す!!?」

 

エクスカリバーがリゼヴィムの頬を掠める。それに、リゼヴィムは歪んだ笑みを浮かべる。

 

リゼヴィム「そりゃあ違うぜギャスパーきゅん。復讐しなきゃその先を見い出せない奴がいることぐらい分かんだろ? 同族同士、共感出来るものもあったんじゃねぇの? おじちゃん達は、そこに便乗する形で手を貸したっただけー」

 

ギャスパー「お前の身勝手で!! あの人は死んでいたかもしれないのにか!!」

 

ギャー君の蹴りがリゼヴィムの側頭部を捉える。リゼヴィムはオーラを纏っていたが、蹴りの威力に耐えきれなかったのか、何度かバウンドして吹っ飛んだ。

 

ギャスパー「はぁ·······はぁ······」

 

リゼヴィムは起き上がると目にも見えぬ速さでギャー君の目の前に現れ、ギャー君がしたように、ギャー君の側頭部に蹴りを入れる。ギャー君は間一髪両手をガードに回せたものの、地面に叩き付けられた!! が、すぐさま体勢を立て直して距離を取った。

 

リゼヴィム「うおいてて······流石に衝撃までは緩和しきれんかったか~」

 

リゼヴィムは後頭部を掻きながらギャー君を見る。

 

リゼヴィム「やっぱ神格でブースト掛かってる奴は違ぇなぁ······なぁギャスパーきゅん」

 

リゼヴィムはギャー君に問いかけた。ギャー君は何も言わずリゼヴィムを睨むのみ。

 

神格でブースト······? じゃあ、ルーマニアでのあの桁違いの能力はやっぱり魔神バロールの力······? でもそれなら、なんでギャー君は魔神の力を使えるの······?

 

リゼヴィム「ギャスパーきゅんはどうなのよ。()()復讐心はどう晴らす? どう癒す? 君の復讐心は······そう!! 君自身の後悔として今も残っている!! 君の友───女神ヘルを手に掛けた自分への復讐心さ!!」

 

 

 

小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界『サングィネム』辺境にて。

 

 

束side

 

 

束「ほらほらどうしたの〜?」

 

束さんは、屋敷へ忍び込んで来たコソドロ······じゃなかった。四鎌童子を自分ごと研究区域に飛ばして、そのまま戦闘状態に持ち込んだ。

 

四鎌童子「うぐっ······」

 

束「あははっ、その程度でクーちゃん殺そうとしたなんて甘い甘い」

 

束さんの銃型の神器(セイクリッド・ギア)から放たれた光が四鎌童子の左腕を貫く。

 

特異異装(タクティクス・アーマード)』。束さんが身に宿した神器。

この神器は、所有者が初めて発現した時に強くイメージした武器へと変貌する。所有者によって初期形態はバラバラ。ただし、発現させるにはある程度は()()への強い意識が必要だった。束さんが······私が、この神器を発現させたのも、ある事件によってそうせざるを得ない状況に追い込まれたからだった。

 

 

 

 

もう何十年も昔。

束さんが裏の世界を知らない純粋な、ちょっと人より頭が良かっただけの人間だった頃。

 

 

束さんは走っていた。幼馴染の年の離れた弟を抱えて、ただひたすら走っていた。

 

 

 

 

当時、剣術道場を営む父と母に反発して度々幼馴染の家に入り浸っていた束さんは、ある日夢を見る。その夢は、不思議な鎧を纏った自分が拳銃を持ち人に発砲しているというもの。その当時、いくら束さんの実家が片田舎にあったとは言え、第一次大戦中だったからその影響だろうとしか考えていなかった。

 

自分が夢の中で銃を持っていたことにもなんの感慨も抱かなかったことに、その時は気付いていなかった。

 

それより、自分が夢の中で纏っていた不思議な鎧をもっと······目で、手で、確かめたくなった。

 

 

元より細胞レベルでオーバースペックを自称していただけあって、頭は良かった。すぐさま、研究に取り掛かった。この時、自分がやっていることは、当時の技術から逸脱していたことには気付かなかった。

 

だから、それが元凶だったなんて、思うはずもなかった───。

 

 

研究を初めて暫くして、束さんの下に妙な男が訪ねてくる。日本人には全くそぐわない髪色、彫りの深い顔、日本人男性の平均よりかなり高い身長。

その男は、自分に研究成果を売って欲しいと言った。とは言え、一般人が満足な研究施設なんて持てるはずもないから、一から建造、そして研究の流れだったため、そこまで研究も進んでなかったし、適当に断った。

なんで研究してることがバレてるのか気になったけど、それより研究。何よりも研究。山の中に作った研究施設は滅多なことで邪魔も入らないもんだから、益々のめり込んでいった。

全く、当時の自分の脇の甘さと来たら、全力でぶん殴ってやりたい。

 

 

それから暫くして、またその男が訪ねてく来た。またか······と思ったけど、また来られるのも面倒だから、てきとーに資料作って渡した。

 

けど、実はその男が狙っていたのは、束さんの研究成果じゃなくて、束さんの研究技術そのものだった。実は、当時は周りなんて何処吹く風でやってたせいで全く気付きもしなかったのだが、当時研究用に組み上げた機材が現代の中国のスパコンぐらいの性能だった。

 

 

······まぁそんなものがあるのが分かれば狙われるのは当然なわけで······

 

 

結果から言うと、束さんの研究(興味本位)は、周りからほぼ全てのものを奪った。そして冒頭に戻る。

 

両親と妹は今も行方不明。幼馴染は私を庇って凶弾に倒れた。狭い世界で生きていた私に残ったのは、幼馴染の弟だけだった。

 

 

そんな時に、はーくんとクーちゃんと出会った。行き場も分からず、彼の手を引いて逃げ惑っていた時に、2人に保護されたことが切欠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

束「つまんないの」

 

四鎌童子「······うぐっ」

 

呻き声をあげて倒れ付す四鎌童子を冷ややかに見下ろす。

 

束「······ねぇさぁ、ほんとにこんなんでクーちゃん殺せると思ってんの?」

 

四鎌童子「う······」

 

腰下ろして、うつ伏せになってる四鎌童子の髪引っ掴んで強引に顔を上げさせる。

 

よくそんな実力でうちに単独で忍び込んで来たもんだねぇ····ま、単独じゃなかったとしても眷属内で最強のメリーが待機してるから無駄なんだけど。うん、やり方次第で、はーくんとクーちゃん両方抑え込めるメリーなら何の問題もないね。

 

 

と、そこで、突然束さんの背後に魔法陣が展開された。

 

 

 

束sideout

 

 

 




補足設定。

・『特異異装(タクティクス・アーマード)
所有者のイメージに引っ張られる形で発現する神器。他の神器とは違い、所有者の初発現の際に形状が固定化される。そのため銃や剣、槍、籠手、盾等々所有者によって形状はバラバラ。また特性も異なる場合がある。
属性系と創造系の中間に位置する神器。割と数自体は多いが、その特性故に他の神器と誤認される場合も多い。

束の場合は、初の発現時に銃を向けられていたことからそのまま銃となった。この他、三日月・オーガスもこの神器を所有。三日月のそれについては、オルフェンズ原作におけるルプスレクスのテイルブレードを参照。



やっと出せました。設定は束が初登場した時からあったにも関わらず、戦闘回ではなかったため設定記載を見送りにされております。
尚、束の神器は本作品が終わるまでに後2回出番があればいい方です。




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第120話 クリティカルドリーム

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「······なんでこうなったんだろうな」

 

目の前で悠然と俺を睨み続けるコマチを見て、独りごちる。

 

コマチ「······知らない。コマチはアンタなんか知らない」

 

誰かの仇のようなものを見る目で俺を睨む。お前の目に、俺はどう映ってるだろうな。

 

八幡「そうか······そうなんだな」

 

ただ、流石に、目の前で言われるとクるもんがあるな······多分、俺やお袋、親父のこともクルルのことも、小さい頃一緒に遊んだサーゼクスやセラのことも、もう覚えてない。覚えていればこんなことは、いや······

 

 

 

······きっと、俺の妹だった小町はもういない。死んだんだ。ほんとに······

なんだ。もう何百年と前のことをこんなに引き摺って。情けない。

 

 

割り切れよ。向こうは俺を殺す気でかかって来てる。この後に及んで戸惑っているようなら、俺は死ぬぞ?

 

 

コマチはー人呟く。

 

コマチ「······コマチはアンタを倒す。そうすれば、またおねえちゃんが撫でてくれる」

 

······?

話が噛み合ってない、か。向こうは聞き耳持たずだから当たり前か。

 

······でも。せめてこれぐらいは聞いておきたい。俺の憂いを断つためにも。

 

八幡「······一つ聞かせてくれよ。お前の······お前に家族はいるか? 信じることの出来る人はいるか?」

 

コマチ「······」

 

コマチは何も答えない。代わりに、臨戦態勢に入った。

 

 

そのまま、俺とコマチの戦いは火蓋を切った。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束side

 

 

 

四鎌童子を追い詰めた束さんの背後に魔法陣が展開する。四鎌童子の髪を離して振り返り、神器の銃を向ける。

 

 

「おおっとぉ? いきなりの熱烈な歓迎感謝するぜ」

 

魔法陣から現れたのは、黒を基調としたラフな格好した男。束さんの記憶が正しければ、こいつは······

 

束「······『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ」

 

アジ・ダハーカ「へぇ。もう俺のことが知れ渡ってんのか。しっかりしてんな堕天魔は」

 

クーくんに並ぶ邪龍がご登場ときたか······束さんが相手するのは荷が重いかな。というか無理。いくらなんでもティアちゃんと同等以上はねぇ······

 

束「一応聞こっか。何しに来た?」

 

逃げるのは······向こうが見逃してくれない限りほぼ無理。戦闘になったらまず束さんじゃ太刀打ち出来ない。でもメリーが来てくれればいける······のかな?

 

アジ・ダハーカ「ん? あぁ、そこの女の回収だ。リゼ公から頼まれてな。回収の必要があるんか知らんが」

 

戦闘目的じゃない······なら、下手に手を出さない方が身のためそうかな。

 

束「ふぅん······なら、勝手に持っていきなよ」

 

そのままの姿勢で四鎌童子から離れる。銃はまだ下ろさない。

 

アジ・ダハーカ「おぉよ。そうさせてもらうわ」

 

アジ・ダハーカは四鎌童子を片手でひょいと抱えると、魔法陣を展開する。

 

 

ほんとに来た理由がこれだけ······? 今考えても仕方ないけど。でもやっぱ、それだけとは考えられないなぁ······リスクがデカすぎる。

 

 

そして、アジ・ダハーカと抱えられている四鎌童子が光に包まれる。と、アジ・ダハーカが口を開いた。

 

アジ・ダハーカ「···あ、そうそう。『堕天魔』に伝言だ。『次が最後だ』───嬢ちゃんもなんとなくでも意味は分かるだろ」

 

そう言い残し、アジ・ダハーカは魔法陣の光に消えた。

 

 

束「次で最後······ね」

 

次で最後······今までの戦闘は『クリフォト』の組織の規模から考えると小競り合いに近い。

······次は全面戦争を仕掛けるという腹積もり?

 

 

束「······あ、もすもすひねもすー? 束さんだよー。メリー、聞こえてる?」

 

 

 

束sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー「お前、なんでそのことを知ってる······!!?」

 

僕は驚愕と困惑に襲われていた。

 

 

『ダメ、ギャーちゃん。あんまり自分を責めないで? 父様の支配を跳ね除けることが出来なかったわたしが悪いの。だから······泣かないで』

 

 

今はもういないあの人の声が脳内でフラッシュバックしてくる。一番、思い出したくなかった記憶だ。そして、忘れてはならない記憶だ。

それをどうしてこいつが知っている······!!?

 

リゼヴィム「おいおい忘れたんか? ロキは今こっち側だぜ?」

 

ギャスパー「······ッ」

 

悪神ロキはあの人の······ヘルさんの父親でもある。だったら知っててもおかしくはない······?

 

そうだ。それなら、僕を狙ったこと全てに辻褄が合う。

 

リゼヴィム「あの悪神様も変わっててなぁ。のうのうと暮らしてるギャスパーきゅん達をぶっコロしたいんだと。『神々の黄昏(ラグナロク)』がどうのこうのと宣ってても、結局は娘殺して息子と孫奪った八幡君達が赦せないだけじゃねぇの? おじちゃんは面白けりゃどっちだっていいけどなぁ〜」

 

 

だったら、僕やお父様がハティとスコルにしていることは、洗脳、になるのか······? ·······ハティとスコルがヘルさんと仲悪かったわけでもない。

僕はそんなつもりじゃ······

 

······それとも、僕は報いを受けるべきなのか······?

 

 

その時、僕の肩を誰かが叩いた。

 

ヴァーリ「······待たせてしまったな、ギャスパー。ここからは俺が受け持とう」

 

ギャスパー「お兄、様······?」

 

振り返ると、そこにはお兄様がいた。

 

ヴァーリ「あぁ。ギャスパー、お前は間違ってない。あの時は、ああでもしないとお前と黒歌が危なかった」

 

ギャスパー「······」

 

 

本当に間違ってないと言えるのか······? 僕が殺したのは事実なのに······?

 

 

お兄様は何も言えない僕から視線を奴に移す。

 

 

ヴァーリ「·······選手交代だ。やっと会えたなリゼヴィム」

 

リゼヴィム「おぉ、態々お前から出張って来てくれるなんて思わなかったぜヴァーリ。随分殺気立ってるじゃねぇか」

 

瞬間、両者の姿が消える。

 

 

ドゴッ!!

 

お兄様と奴は拳をぶつけ合い始める。

 

リゼヴィム「うおほっ♪ 随分強くなったじゃねぇか。神器だけの軟弱野郎で終わると思ってたぜ」

 

ヴァーリ「勝手にそう思っていろ······!!」

 

お兄様が背負い投げを掛け、奴は地面に手をついてお兄様の胴を足で挟み、背負い投げの勢いを利用して地面に叩きつけようとする。

 

お兄様は奴の両足を強引に振り払い、魔力弾を叩き込もうとするが、奴は退りつつオーラを纏って全て払い除けた。

 

 

······とそこで、胸の内ポケットに入れていたインカムが小刻みに振動し始めたので、耳に着ける。

 

ギャスパー「······はい」

 

メリオダス『おっ、繋がった! ギャスパー、聞こえるか?』

 

インカムのスピーカーから聞こえたのはメリオダスさんの声。確か、束さんと共に屋敷で待機だ。

 

ギャスパー「はい、聞こえます」

 

メリオダス『ヴァーリがそっちに向かった。もういるか?』

 

ギャスパー「はい。既に······戦闘中です」

 

ダメだ······さっきのがどうしても頭から離れない。今は事態の把握を······

あれ? 通信オペレーターは束さんでは?

 

ギャスパー「あの、束さんはどうしたんですか?」

 

メリオダス『あぁ。束は、屋敷に忍び込んで来た奴と戦闘してた。束の頼みで俺が代わりにオペレーターやることになったんだ。と言っても、束が戻ってくるまでだけどな』

 

忍び込んで来た······こっちは陽動だったのか?

 

ギャスパー「分かりました」

 

そこで、通信を切る。

 

 

リゼヴィム「いや〜、()()()で来ただけなのにこんなにいいモン見れるとはねぇ」

 

ヴァーリ「ついでだと······?」

 

お兄様と奴が蹴り交え、お兄様も奴も距離を取る。

 

リゼヴィム「おぉよ。元々、八重垣のガキがここに襲撃仕掛けるのに乗じて、量産型の邪龍のテストするだけのつもりだったんだがなぁ。俺の母親────つまりアダムの前妻であるリリスだが、なんかある度に口にしてたのを思い出したのさ。『神の目を盗んで、ある物を隠してやった』ってな。あひゃひゃひゃ、まぁ実際にあったわけだが」

 

そう言うと、奴は懐から何かを取り出す。パッと見何かの果実に見えるが·······あんな果実があるのか?

 

リゼヴィム「これは『生命の実』。お前さんらも知っての通り、聖書に出てくるパライソに生えた木になる実だ」

 

『生命の実』······? いったい何に使う気だ?

 

リゼヴィム「まぁ干からびてたんでさっき聖杯使って復活させたんだけどねっ♪ 今回天界を襲わせた量産型の邪龍はこの『生命の実』から供給されるエネルギーで復活しててな。逆説的にエネルギーを取り出せるかのテストでもあるわけだ」

 

······聖杯か。ヴァレリーから奪った聖杯でそんなくだらないことを。それはヴァレリーに返してもらう!!

 

 

と、奴は僕を見て言う。

 

リゼヴィム「おおっと? なんだか知らんがギャスパーきゅんやる気再燃? ああ、これね。亜種の『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』の内の一つ」

 

ヴァーリ「リゼヴィム、貴様が邪龍擬きで何をしたいかなど興味はない。だが、それは奪還させてもらう」

 

リゼヴィム「へぇ? ヴァーリまでこれに執着を見せるときたか。益々手放したくなくなった·······が」

 

その時、奴の背後に魔法陣が展開する(ひらく)

 

リゼヴィム「今日はここまでだ。タイムオーバーでな、ここでお前らと全力戦闘してもいいが、そこまでするメリットがここではないんだわ」

 

魔法陣からは、四鎌童子を抱えた男が現れる。確か、お父様はルーマニアでグレンデル以外の邪龍と接触した······肌が褐色でもないし、あれが『魔源の禁龍』アジ・ダハーカと見て間違いない。

 

ヴァーリ「どういうことだ······?」

 

奴の意図が掴めない僕達を見て、奴は言う。

 

 

リゼヴィム「······次が本当の最後だ。場所は冥府ヘル。俺達『クリフォト』は逃げも隠れもしない。さぁ、『堕天魔』と『クリフォト』で全面戦争と洒落こもうや」

 

そう言って、奴は回収されて魔法陣の光に消えた───。

 

 



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第121話 束の間の終着


新学期が始まってゴテゴテしてて更新出来ませんでした。大変申し訳ございません。

受験怖いよぉ······((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタ



 

 

 

 

ヴァーリ「······魔力の反応が完全に消えた。逃げられたか」

 

 

お兄様は奴らがいた辺りにしゃがみ、地面に手をついて追跡の術式を使いながら言う。

 

ヴァーリ「ギャスパー、どうやら奴らの邪龍もどきも撤退を開始したみたいだ。俺達も引き上げよう」

 

お兄様がこっちに歩いて来ながら言う。

 

ギャスパー「分かりました······でも、良かったんですか? 奴らを追わなくて」

 

 

 

『······ギャスパー、奴らを追うな』

 

 

 

ヴァーリ「あぁ。向こうにアジ・ダハーカがいるなら追うだけ無駄だからな。おそらく魔法で逃げられる」

 

お兄様が嘆息しながら言う。戦闘でのダメージはお兄様にもあまりなかった。だが、今日『クリフォト』が天界を襲撃するという情報を掴んでから、お兄様はあまり休んでいない。

本当なら、お兄様が一番追いかけたいだろうに······

 

ギャスパー「······そうですか」

 

ヴァーリ「それに、光力の反応が弱い父さんのことも気になる」

 

お兄様の言う通り、第二天にいるお父様の反応は今まで見たことないほど弱くなっていた。あの人が死ぬなんて有り得ないけど······

 

ギャスパー「······はい」

 

そこで、お兄様が耳にインカムを着けてスイッチを入れた。少ししてスイッチを切って、知らされたことを教えてくれた。

 

ヴァーリ「第一、第三、第四に介入したうちの面子は撤収した。父さんは母さんが迎えに行くらしい。現場検証も出来なそうだ。俺達も帰ろう」

 

お兄様が転移魔法陣を展開する。

 

ギャスパー「はい」

 

そうして、僕とお兄様は『サングィネム』に戻った。

 

 

 

 

僕を呼び止めようとする声は聞かなかったことにした。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「グッ······がふっ、ゲホッ。はぁ···はぁ···」

 

込上がってきた血を吐き出して、思いっきり空気を吸う。

 

八幡「チィッ······!!」

 

集団で仕掛けてくる質の悪いもどき(ザコ)共を消し飛ばしつつ、アホみたいなスピードで動き回りながら殴りかかってくるコマチの攻撃をなんとかうけ流す。

 

 

もう随分と昔に亡くなった妹に顔も声もまるで死んだ時そのままな少女に、俺は決定打となる攻撃を出せないでいた。

したがって、俺はほとんど攻撃をしていないことになる、のだが······

 

 

八幡「あぁくそったれが······割り切るんじゃなかったか」

 

コマチは俺の前に降り立ち、俺を睨みながら話しかけてくる。

 

コマチ「なんで本気で攻撃しない? コマチを嘗めてるの?」

 

なんでコマチが俺を恨んでるのかは知らないが······これじゃ周りに示しもつかないし、下手したら俺がここで死ぬ。それがあの屑の作戦なのかもしれないが。

 

八幡「······なんだ。それが悪いのか?」

 

どうしても、後一歩でとどめをさせない。今の力量差なら一撃で仕留められるのに。

この娘は小町じゃない······いい加減気付け(理解れ)よ俺······!!

 

俺の苦悩など何処吹く風とばかりに、コマチは言う。

 

コマチ「ふざけるな······!! やる気のない相手を殺してコマチが楽しいとでも思うのか!!」

 

そりゃあそんなんで喜ぶのは戦争屋だけだ······あの屑みたいな。

 

八幡「······じゃあどうする」

 

コマチ「殺す。コマチがどうでもお前がどう思おうとも、お前を殺すことだけがコマチの存在理由───」

 

次の瞬間、コマチは俺の懐に入り込もうと一気に距離を詰めてくる。俺は退って距離を稼ぎつつ、構え直して攻撃に備える。

 

そして、間合いに入った瞬間にコマチの蹴りと俺の手刀が同時に繰り出される。

 

八幡「クッ······」

 

俺はコマチの蹴りを左腕で防ぐ。コマチは俺の手刀を左手でいなそうとしたが、そうしなかった。

 

コマチ「どこまで······!!」

 

結局、俺がこの娘を殺せなかった。

 

 

さんざん命を踏み躙って歩いてきたくせに、今更必要な殺しから逃げるのか? ······俺は。

 

 

八幡「······うあぁぁぁっ!!」

 

俺は自分の弱さを振り払うために叫びをあげながら回し蹴りを繰り出す。コマチは即座に反応して両腕でガードしたが、衝撃で吹っ飛んだ。

 

コマチ「コッ、ゲホ······」

 

コマチは吹き飛んで背中から地面に叩きつけられながも、片手を地面についてバク転の容量で姿勢を整えつつ、そのまま上空に飛び上がって無数のオーラで形作られた矢を出現させ、そのまま一気に降らせてくる。俺も対抗して光で無数の矢を作ると、それを迎撃で飛ばす。

 

コマチは面攻撃が通じないと思ったのか、矢が降り終えると同時にオーラを足に纏わせて飛び蹴りを繰り出してくる。それを避けると、至近距離で波動をぶっぱなしてくる。

それも上空にいなすと、今度は追撃の蹴りを避けれずに蹴り飛ばされた。

 

コマチ「殺すっ!!」

 

コマチは拳を握って、真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

八幡「チィッ······!!」

 

コマチにカウンターを食らわすため、構えた。と────

 

 

「はいはいは~い。こまっちゃんそこまで~」

 

 

コマチ「······!! おじちゃん······?」

 

突如魔法陣が開き───そこからはアレとアジ・ダハーカが現れる。アジ・ダハーカは女───四鎌童子か? を抱えていた。奴は、そして、一声でコマチに制止をかけた。

 

俺が拳を握った瞬間、コマチは距離を取る。

 

八幡「······クソ野郎。何しに来た」

 

リゼヴィム「おんやぁ? 八幡君は妹とのスキンシップを邪魔されてお怒りですかい? ······ま、どうでもいいや。帰るぜコマチちゃん。もうここにいても利益はねぇ。八幡君とのバトルは次までお預けってね」

 

奴はその手に果実のようなものを持っていた。あれが何かは気になるが······

 

コマチ「······わかった」

 

先ほどまで俺に向けていたコマチの殺気が嘘のように消える。コマチは奴らの方へ歩いていき、魔法陣の上に立つ。

 

リゼヴィム「······一応他の奴は らにも言っておいたけど、『堕天魔』比企谷八幡に宣言する。

 

一週間後、我々『クリフォト』は貴殿らが本拠地である『サングィネム』を襲撃し、全面戦争を仕掛ける。冥府ヘルにて我々は待つ。襲撃されたくなくば、貴殿らから襲撃を仕掛けるといい。我々は逃げも隠れもしない」

 

奴は今までの巫山戯た口調が嘘かのような口調と表情で俺に言う。

 

八幡「な······に······!!!?」

 

 

『サングィネム』を襲撃する!!? こいつら何が目的だ!?

 

 

リゼヴィム「では、さらばだ」

 

奴らが光に包まれる。

 

八幡「ッ、待て!!」

 

追いかけようとした瞬間、足から力が抜け、体が崩れ落ちた。

縛魔法か······!!

 

俺の足元には黒い魔法陣が。そこから鎖のようなものが足に巻き付いていた。感触がないことから、物理干渉がほぼないタイプの魔法だとわかる。見えている鎖は幻に近いものだ。

 

この類いは禁術に値するレベルだが······

 

八幡「たかたが禁術で······!!」

 

向こうが禁術を使うなら、こちらも禁術で対抗するのみだ。俺は対禁術用に以前開発した魔法······禁術の域にまで突入させた無効化の魔法を使う。もう()()がないからホイホイ使えるわけではないが······それで十分だ。無効化の魔法が縛魔法を中和して崩壊させる。

 

アジ・ダハーカ「おっとぉ?」

 

八幡「一発っ、もらっていけ!!」

 

コマチ「!!」

 

亜空間から抜いた塵外刀真打を思いきり横に薙ぐ。そしてそれはコマチが張った障壁に阻まれるも、その障壁を破壊する。なら······!!

 

奴らが転移する直前に、光の矢をいくつか投げ射る!!

 

両手に光の矢を精製し、奴に狙いを定めて投げる。食らえ······!!

 

 

投げた光の矢は奴らと一緒に魔法陣の光の中に消えた。当てられてたらいいんだが·······

 

 

 

 

 

奴らが転移して数分、向こうの邪龍もどきも撤退を開始した。

 

 

八幡「はぁ~······」

 

緊張の糸が切れて、長い溜め息が出る。俺達が戦っているすぐ側で避難が進んでいたこともあり、精神的にかなり疲れた。今度は精神的疲労から力が抜けて、地面に座り込んだ。

 

八幡「いっつぅ······」

 

と、今まで感じていなかった痛みが一気に襲ってくる。コマチにしてやられたな······

左肩、右足はバキバキに折れてんな······俺のクセから狙われたか。骨折は魔法ですぐ治せるから問題はないけど。とは言え、すぐには動けないかもな······

 

 

 

一週間。奴の言葉を信じるなら一週間後、サングィネムにクリフォトが攻めてくる。だが、本当に一週間後であるとは限らない。嘘の可能性の方が格段に高い。あの野郎の言葉を真に受けるのは危険だ。

 

 

だが、攻めてくるというのはおそらく本当だろう。攻められたくなければ攻めろ、か。奴などに言われるのは屈辱だが······

 

上等だ。元々、向こう側の協力者から冥府ヘルを今の本拠地に置いているという情報が入ってきた矢先のこれだ。準備はすぐに整う。

 

 

向こうにいるディオドラとその眷族の救出はもちろんだが、俺はコマチともう一度話をしたい。しなければならない。死んだ小町が聖杯で蘇ってコマチになったのか、それとも別の何かで小町の姿形を取っているだけなのか······俺は前者だと感じたから攻撃を躊躇したわけだから、後者だったら迷いなく殺すだけだ。

 

 

 

 

クルル「───八幡」

 

八幡「ん。クルル、お疲れ様」

 

迎えに来てくれたクルルが隣りに腰掛ける。

 

クルル「ええ、八幡もお疲れ様」

 

八幡「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

クルル「······八重垣は確保したって」

 

八幡「そうか。ギャスパー、上手くいったんだな」

 

クルル「みたいよ。もうサングィネムに送ったって。メリオダスと桃花が監視してるそう」

 

八幡「あいつも運がねぇな······」

 

クルル「······これからよくなるといいけど。この肩も」

 

クルルはそう言って、俺の肩に手を置く。

 

八幡「ちょっ、痛い」

 

クルル「あ、黒歌に渡したんだっけ」

 

八幡「あぁ······今頃ギャスパーは、なんで自分を連れて行かなかったんだー、って黒歌に言われてるだろうな」

 

クルル「かもね。八幡、帰りましょうか」

 

八幡「あぁ。帰ろうか、クルル」

 

 

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 



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第122話 夜明け前/闇を臨む


更新が遅れて大変申し訳ございませんでした。あまり読者様は失望させるようなことはしたくなかったのですが······新年度忙しくて更新出来るだけの時間が中々取れずにおります。次の更新もまた時間が開きそうです。大変申し訳ございません。

(色々の中にオルタニキのバスターチェインで殴るの楽しすぎるがあることは心の中にしまっておこう······)




 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

天界での戦闘から2日。俺達は『クリフォト』の拠点強襲のための準備に追われていた。俺は束の手伝いで各種機器のメンテナンスを束、メリオダスと担当している。

 

 

奴ら『クリフォト』は、5日後にここサングィネムに襲撃をかけると宣戦布告してきた。さんざん各地を襲撃、はたまた制圧、一国の政府を乗っ取っていたド外道のテロ組織が宣戦布告など今更何を言うのか、と誰もが思ったが、やらなければこちらがやられるのだ。

 

サングィネム都市部の人口は100万超を記録しており、冥界でもかなりの人口密集地帯なのだ。3年前のこともあり、それだけ治安・防衛は厳しいものになっているが、大部分は一般人。攻め入られたらどうなることか。

 

 

このペースで行けば準備は後一日で終わり、そのまま奴らとの決戦に持ち込める。メリオダスは奴らは本当に全面戦争を仕掛けるつもりではないか、と踏んでいるが結局そうなる前に根絶やしにでもしなければならない。奴らがやっているのは宗教戦争でも侵略戦争でもない。徒に破壊して回っているだけだ。話し合いの余地もない。

 

 

ヴァーリ「······束、こっちは終わった」

 

要にもなる通信機器。ミスは許されない。

 

束「ほ〜いお疲れさまー。ヴァーくんもうあがっていいよ〜。お見舞い行くんでしょー?」

 

ヴァーリ「あぁ······助かる」

 

と、メリオダスが紙袋を渡してきた。

 

メリオダス「ほいこれ。オーフェリアとカルナに持ってってやれ。新作のフルーツゼリーだ。添加物はほぼ使ってない。味は保証するぞ」

 

ヴァーリ「あぁ、ありがとう。では、先に失礼させていただく」

 

メリオダスは、昔は酒場の店主のクセに料理の味(だけが)壊滅的だったと聞く。とてもそうは思えないが······果たして、ティアは重度の味オンチだったのだろうか。

 

とにかく、折角もらったのだから、3人でありがたくいただくとしよう。

 

 

 

 

 

 

姉さんが今も入院している中央病院で受け付けを済ませ、姉さんの病室にノックをして入室する。今日は土曜だから、カルナも多分いるだろう。いなかったら、冷蔵庫にでも入れておこう。

 

ヴァーリ「姉さん、来たよ」

 

俺の声が聞こえると、姉さんはこちらを向いて、嬉しそうに微笑んだ。今日はとりわけ機嫌がいいようだ。

ベッドの横に椅子を置いて、カルナは姉さんと話していた。

 

ヴァーリ「カルナ、来てたんだな」

 

カルナ「うん、ヴァーリ兄もおかえり!」

 

ヴァーリ「あぁ、ただいま」

 

ただいまと言いつつ、カルナの頭を撫でる。昔からやっていたから、もう癖だな。

 

俺が持ってきたものとメリオダスにもらったもの合わせて2つの紙袋を近くのテーブルに置き、カルナが座っている隣にパイプ椅子を置いて、俺も座る。

 

ヴァーリ「随分良くなったな。これなら、もうすぐ退院出来るんじゃないか?」

 

あれから12年。俺はバリバリ戦闘まで熟せるようにまでなったし、神器の影響で体が弱かった姉さんも随分良くなった。5年前から外出許可も出るようになって、今では神器の稼働を封じるブレスレットさえあれば、月に一回は外出許可は降りるようになった。

 

カルナ「先生はね、もうほとんど大丈夫だって言ってたよ! また外出許可も出たし!」

 

ヴァーリ「······そうか。良かった」

 

 

 

 

ヴァーリ「これ、メリオダスから」

 

カルナが、俺が持ってきた紙袋が気になり出したのでそろそろ出そうかとなった。

 

メリオダスにもらった紙袋の中には、更に保冷剤入りのクーラーバッグが入っており、そこには5つほど瓶のフルーツゼリーが入っていた。5つあるのは、カルナが2つ食べることを見越してだろうか。また姉さんがつつけるようにか。

 

カルナ「美味しそう······メリーのお店の新しいのかな?」

 

ヴァーリ「みたいだ。あとで感想を言いに行こうか。姉さんも食べられるか?」

 

一緒にプラスチックの使い捨てのスプーンで入っていたので、それもカルナに渡す。姉さんも食べられるようだったので、瓶とスプーンを渡す。姉さんには果物のアレルギーは一通り調べた時に見つからなかったし、念には念を、と食器類に使われているものも調べたがそれもなかったので大丈夫だろう。

 

カルナ「いただきまーす」

 

カルナが舌鼓を打つのを見て、姉さんもゼリーを食べ出した。俺も······うん、美味い。また作ってもらおう。

 

ヴァーリ「余分に作ってくれたみたいだから、余ったのは冷蔵庫に入れておくよ」

 

残りの2つは冷蔵庫に。明日もカルナは来るだろうから、その時にまた2人で食べるだろう。

 

 

姉さんがゼリーを食べ終わったところで、俺が持ってきた紙袋を開ける。持ってきたのは、黒歌に見繕ってもらった外出の時に着るための新しい服、小説と雑誌が数冊ずつに、観るか分からないが映画とお笑いのDVDをいくつか。

 

ヴァーリ「ほら、この前気になってたっていう小説。一冊じゃ飽きるだろうし他にも何冊か見繕ってみた。こっちはDVD、暇な時観てくれ。で、これは黒歌が見繕ってくれたやつだ。今度出掛ける時に着てくれってさ」

 

やはり女性なだけあって姉さんも例にもれずファッションへの興味は強いらしい。正直なところ、黒歌に頼んで正解だったようだ。

 

ヴァーリ「気に入ってくれたなら良かった」

 

カルナ「お母さん早く着れるといいね」

 

 

姉さんが早く退院出来るように、今の戦いを次でケリをつける。今度こそ。

俺の中の覚悟が改めてそう俺を決断させた。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

天界での戦闘から2日後の夜。

 

俺含む『クリフォト』の拠点強襲のメンバーは屋敷の会議室で作戦会議を行っている。

 

 

八幡「······で、これが向こうにいるアイツから送られてきたアジトの見取り図だ」

 

手元のタブレットを操作し、空中にホログラムを表示する。プロジェクションマッピングの応用のようなものだ。

 

八幡「アイツ曰く、最上階が『クリフォト』中心メンバーの居住区。その下の階がフロアぶち抜きのホール。ここが奴らの()()()らしい」

 

ポインターで各階を差していく。

 

メリオダス「実験場? あの量産型のか?」

 

真っ先に疑問に思ったらしいメリオダスが尋ねてくる。

 

八幡「あぁ。それに、聖杯自体の研究もここで行われているらしい。向こうが煉獄から天界につながる抜け道で発見したっていう『生命の実』もここの研究所で研究し始めたらしい」

 

続いて、更に下層階のめぼしい所も全て説明していく。奴らのアジトは10階に大きく分けられており、9階が今言ったようにホールとなっておりここが矢鱈デカい。10階に区切られているが、9階だけ高さが他の5倍近くだ。建築物として欠陥がありそうな構造だが、なぜ9階がそうなったのかまでは分からなかった。

 

説明が前後してしまったが、1階が各地で誘拐されて捕えられた者達の収容所。ディオドラとその眷属もここにいるという。

2階は暴れ足りない奴らの専用区画だという。

3、4階はアイツの調べた限りでは特になし。せいぜい巡回してる奴がいるくらい。

5階が『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』含む奴らに賛同した魔法使いの区画。

6階が魔法使い以外の人間の異能関係者。と、人外で奴らに与した一派。

7階が人外で奴らに与した一派。のそれぞれ専用区画。

8階には司令室がある。尚、司令室は10階にもあり、両方同時に制圧する必要がある。各階層ごとにセキュリティで区切られているためだ。

 

なぜ各地を転々とするテロリストどもがこんな拠点なのか気になったが、どうやら移動要塞であるらしい。このサイズなら空飛ぶ超弩級空母と形容した方がしっくりくるが。

 

そして、この拠点───どちらかと言えば敵本基地───は結界で覆われており、生半可な攻撃ではそもそも攻め込めないと来ている。

 

八幡「······というわけで、俺、クルル、クロウが3方に別れて一斉攻撃を仕掛けようと思う。その間に、メインの行動班が司令室の掌握、ディオドラ達含む捕えられている捕虜の保護にそれぞれ別れてくれ」

 

今回は行動班を4つに分けた。

勝永と束、美猴と三日月、ギャスパーと黒歌、そしてヴァーリとジンとシフラ。今名前が挙がらなかった、メリオダス、ティア、桃花はこちらでもしもがあった時のために残る。

 

そして、向こうに潜入しているアイツは美猴と三日月に合流後、2人の援護に回るという手筈だ。

 

八幡「······アイツが知り得なかった情報もいくつかあるだろうから、最大限の警戒を怠らないようにしてくれ。で、もう一つ肝心な問題であるロキだが、もし向こうにいた場合、ロキが攻撃してこない以上は完全に無視。出来るだけ戦闘は避けるように」

 

ギャスパー「·······避けるんですか?」

 

八幡「あぁ。特に、捕虜に被害を出すわけにはいかない。だがもし避けられないようであれば、俺かクルルかクロウに知らせてくれ。フォローに回る」

 

ギャスパー「······わかりました」

 

八幡「······よし。最終確認は以上だ。作戦開始は0330。それまで各自休んでくれ」

 

 

 

······さて。アイツは上手くやってるかね。いや、俺に心配されるような神経はしていないな。俺は俺の戦いに集中するべきだな────。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 





一緒に、と打ったら予測変換でバルタン星人と出て来ました。自分のスマホはどうなっているんでしょう······まぁ面白いからいいんですけどね。ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ·······(似合わねぇなぁ)




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第123話 オペレーション・デモリッシュ

「死ぬほど痛いぞ!」(EndlessWaltz版)
に不謹慎ながら腹筋を殺されかけました。あの場面でそんなこと言えば、そりゃトロワも笑うわ。さぁ同士よ来たれ。

(作者は遂に敗栄に手を伸ばしました。テレビ版は8話までしか観てません)


先に言っときます。他意しかありません。




 

クルルside

 

 

時刻は03:23。草木は寝静まっているであろう時間帯。

 

私達は作戦開始を目前として、冥府ヘルの上に位置する人間界───ミズガルズの端で残り7分を待っていた。

 

 

作戦は単純。時計の針が定刻を示すと同時にヘルに突入し、私、八幡、クロウの3人で敵拠点を覆う結界に一斉攻撃を仕掛け破壊。その後、目立った3人を陽動として、メインの実働部隊が敵の2つの司令室占拠と捕虜奪還に向かう。無論、全てが上手くいくはずがないのでその時は各自のその場の判断になる。一応、作戦失敗時の対応も考えてはいる。

 

対して、向こうが取ると予想される手は2つ。陽動に陽動をぶつけその間に数の力で私達の実働部隊を殲滅。又は陽動を無視して最大戦力で即効殲滅。

奴らが何処ぞへと逃げることも考えられなくもないが、ほぼ地続きとなっているニヴルヘイムはトールとアポロンが。ヘルから直接フヴェルゲルミルに行こうとしてもヘイムダルとヴィーザルが待ち構えている。物理的な逃げ場はない。あそこは違う場所への転移も制限されているから、そう易易と逃げはしないだろう。

 

 

 

······四鎌童子はおそらくどこかのタイミングで私を狙ってくる。殺すか、殺さないか。どちらにしろ、四鎌童子には聞き出さなければならないことが山のようにある。四鎌童子は、おそらく私の唯一の肉親だが、容赦も躊躇もしていられない。しない。

 

 

八幡「······時間か。作戦開始······全員、無理は叩き伏せろ。無茶は飼い慣らせ」

 

 

八幡がそう言うと同時に、私達は転移魔術でかつて死者の国であった世界へと突入した。

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

僅かな光も差さず、温度という概念が存在しない虚無の世界。ヘル。又の名をヘルヘイム。かつて女王ヘルが統治した死者の国は、機能をそっくりそのまま隣国のニヴルヘイムに移されている。

 

そのため、ヘルは北欧神話から丸ごと放棄されており、ほとんど何もない空間が存在するだけとなっていた。俺としては不快だが、テロ組織の隠れ家にはちょうど良かったわけだ。

実際、ヘルを悪用される可能性は前々から議論されていたが、統治者だったヘルがいない中、管理を申し出る者はいなかった。

 

 

今、俺の目の前には超巨大な結界が三重に張られている。おそらくアジ・ダハーカの仕業であろうが、サングィネムに張った結界の倍はあろうかという結界を三重に張るとは恐れ入る。

 

結界一枚の強度も相当なものだろう。解除は······時間をかければ出来なくはないだろうが、向こうに気付かれるのが関の山だ。張り直される。俺達にぶち破る以外に手はない。

 

 

 

俺は、肩に担いでいた平行連結している2連装ライフルを構える。

 

まんまシェルターシールドを破壊したアレだが、そこは束の趣味だ。束はあの作品の戦争と平和への考え方が気に入っているらしい。俺も好きだけどな、アーリータイプ。

 

本物と違うのは装弾数であり、一発だけということ。俺が光力を供給すると、それぞれに一基だけ装着しているカートリッジに限界まで縮退してチャージする仕組みだ。因みに、構造的には2連装じゃない方に近い。

掃射後はライフル自体を爆破させる。

 

 

今回これを持ち出したわけだが、俺は一点にエネルギーを収束させるのが苦手なのだ。出来ないわけじゃないが、クルルやメリオダスに同じことをさせるのと比べると倍近く時間を食う。対して、これにはエネルギーを限界まで供給し続ければいいだけ。

 

 

八幡「······こちらは準備完了」

 

クルル『同じく』

 

クロウ『······こちらも同じく。いつでもいける』

 

耳に着けたインカムに声を吹き込むと、スピーカーからクルルとクロウの声が返ってくる。

 

八幡「よし·······攻撃開始!!」

 

 

紫黒、真朱、金の三色の閃光が、クリフォトの拠点を覆う結界を貫かんと放たれた────。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒歌side

 

 

 

3つの光が結界を貫かんと突き刺さる。とうとう始まった。これがクリフォトとの最終決戦になる。

 

と、インカムから声が届く。

 

勝永『······各員に通達します。これより我々は結界の崩壊と同時に突入。セキュリティがダウンするのは約7分。その間にA班、B班がそれぞれ8階と10階にある司令室を占拠。セキュリティを完全破壊し遊撃へ』

 

聞こえたのは勝永の声。彼が今回の戦闘指揮を取る。

 

 

毛利勝永。本名、毛利吉政。又は森吉政。1597年の朝鮮出兵や1600年の関ヶ原の戦い、1615年の大阪夏の陣にも参加した、毛利勝永其の人。

何故八幡の眷属になったのかはそこまで詳しくは知らないが、本人が話した限りでは勝永の息子(太郎兵衛)が八幡に助けられたかららしい。死ぬはずだったが遺体を幻術で誤魔化したとか。太郎兵衛本人はその後病に伏して二十歳を迎える前に息を引き取ったそうだが······

 

その時の恩で、妻子の今際を看取った後、八幡の眷属になったそうだ。

 

本人はメリオダスとタメを張れるほどの剣の腕前で、八幡に『想いの刃』を伝授したのは勝永だとか。因みに大の酒好きで、メリオダスが不定期でやってる酒場に必ず顔を出しているらしい。あと、桃花が勝永の直属の部下。

 

 

勝永『C、D班は1階の収容所を襲撃、捕虜の救出を。戦闘は最小限に』

 

次の瞬間、3箇所で大爆発が起こり、堅牢な結界にヒビが広がり、砕け散る。勝永はそこで一旦切ったあと、いっそう引き締まった声で私達に指揮を飛ばす。

 

勝永『全員、侵入開始!!』

 

 

ギャスパー「······行こう、黒歌」

 

ギャスパーはブリューナクを手に私に言う。

 

────貴方に返す言葉は決まっている。

 

黒歌「もちろん。ギャスパーが行くのに私が行かないわけないでしょ?」

 

ギャスパー「······じゃあ、生きて帰らないとね」

 

ギャスパーが揮うブリューナクが、3階の外壁をぶち破って大穴を開ける。

 

黒歌「うん。私はまだ────死ねない。ギャスパーと何も紡げないまま終わるなんて絶対に嫌だ」

 

 

私は両手に、真紅の銃を構える。

 

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美猴「······おうおう、おアツいねぃ。俺達もいるってこと分かってんのかねぃ? なぁ三日月」

 

三日月「さぁ。俺が口出すことでもないし、作戦に支障出さないならあの2人が何してようが俺はどうでもいい」

 

美猴「そうかい······」

 

 

 



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第124話 ミッドナイト・サン①

 

 

 

クルルside

 

 

 

ライフルを爆破して結界を破壊した後、私は、八幡やクロウとは別方向から攻撃を続けながら進撃を続けている。

 

 

ここは陽動らしく外壁を派手にぶち破って侵入をしよう────としたその時。

 

私を目標に雨霰のように光弾が降り注いだ。防御魔法陣を張りながら、空中をジグザグに飛びながら光弾の雨を抜ける。抜けると同時に周囲を確認すれば、真っ黒な空には夥しい数の魔法陣が浮かんでいた。こんなことが出来るのは······

 

 

クロウ『アジ・ダハーカは伝承が語る通り、千、万の魔法を扱うドラゴンだ。神と同等······いや、魔法に関しては神すら下せるだろう』

 

 

様子見でこれをやれるのはクロウが言うように······

 

クルル「······アジ・ダハーカ」

 

目の前に魔法陣が出現、そこから男が一人現れる。

 

アジ・ダハーカ「ご名答。知ってても実際に会うのは初めてか、クルル・ツェペシ」

 

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ。クロウに並ぶ実力者。過去、クロウ・クルワッハやアポプスと同列に扱われた最強の邪龍。

 

クルル「そうね。知ってるのなら話が早い」

 

阿朱羅丸を呼び出し、いつでも抜刀出来るように手を掛ける。

 

アジ・ダハーカ「グックック。お互い血の気が多いな、気が昂って仕方ねぇ」

 

アジ・ダハーカの背後に無数の魔法陣が現れる。まだおふざけ程度だろうけど、まともに全部受けきるのは多分無理。

 

クルル「私は全然面白くないわ」

 

魔の鎖(グレイプニル)』を数百同時に出現させ、一気に魔法陣を潰していく。

 

アジ・ダハーカは『魔の鎖』を見ながら呟く。

 

アジ・ダハーカ「フェンリルを縛る鎖······いや、元がそうだっただけでこりゃ全くの別モンだな。いいねぇ······異能殺しか。俺の魔法もこれの前じゃ形無し。こりゃぁ益々楽しめそうじゃねぇか。

さぁさぁ、もっと俺を楽しませてみろってなぁッ!!」

 

アジ・ダハーカは更に多くの魔法陣を出現させる。

 

 

 

私は、邪龍が見せた牙に、真っ向から刃を向けた。

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

美猴side

 

 

 

C班、俺と三日月はギャスパーが開けた穴から侵入し、最下層の捕虜収容所まで向かっていた。と言っても、A、B班が司令室を占拠するまではセキュリティが一時的に落ちてるだけだから戦闘は可能な限り避けなきゃいけねぇのが辛いところだぜぃ······

 

 

2階に降りて少し進んだところで、俺の仙術に奴さん方が引っかかった。

 

美猴「来たぜぃ三日月。数は少ねぇけど、廊下使って上手いこと挟まれた」

 

三日月「どうするの? 時間ないけど」

 

んなことわかってるよい。

 

美猴「前蹴散らして突破すりゃあいいだろ。こっちが暴れれば、別ルートのギャスパーと黒歌が楽に進めるようになるしなぁ」

 

三日月「わかった。じゃあ、そうする」

 

美猴「じゃあってなんでい。じゃあって」

 

言うなり、三日月は細身で無骨、しかしとんでもなく重いメイス───束特製のソードメイスを構える。しっかし、こいつよくこんな重いもん振り回せるねぃ。ま、12年前に加入した時も似たようなもんだったかねぃ。

 

 

 

 

12年前。民間警備会社『鉄華団』に当時から三日月は所属していたが、その当時、鉄華団は新鋭企業としては破格のスピードで成長を続けており、敵視されることもしばしば。三日月はそこの遊撃隊長だった。

 

元々過激派の対人外組織『CGS』という組織の、消耗品扱いだった少年達の決起によって設立された組織で、設立時からかなり危ない橋を渡っていた。

 

 

鉄華団には姉妹企業に『タービンズ』という運送会社があったのだが、鉄華団とタービンズは、タービンズが禁止兵器密輸の罪を着せられたことから、『アリアンロッド』という秘密独立治安維持部隊と交戦状態に入ってしまう。

 

最終的に、タービンズはリーダーの名瀬・タービンやアミダ・アルカを初めとして組織の人員の半数以上が犠牲になり、鉄華団も団長のオルガ・イツカを初めとした多数の犠牲者が出ながら、両者とも何とか()()()()、生前の名瀬・タービン、オルガ・イツカと八幡が交わした契約によりタービンズは鉄華団に接収(一部はタービンズを離脱し別の道を歩み始めた)され、その鉄華団はサングィネムで5年前警備会社として再起した。

この一連の出来事は表向きはヒューマンデブリ事件と称され、裏では禁止兵器の名前からダインスレイブ抗争と呼ばれている。

 

因みに、今は鉄華団じゃなくて別の名前を使ってるんだが、身内内だと今でも普通に鉄華団呼び。

 

 

 

三日月「······ねぇ美猴、ここ次はどっち?」

 

美猴「ここは右だっつの。お前、覚えてなかったんかい」

 

三日月「うん。俺が覚えるより美猴とかが覚えた方が効率がいいだろうし」

 

美猴「お前地頭いいのにもったいないねぃ······」

 

 

 

美猴sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

突入後、外壁の穴から侵入した俺は実働部隊の邪魔にならないように注意しながら6階付近で派手に暴れていた。

 

 

八幡「······チッ。クリフォトはどっからこんな人数確保してんだ······」

 

 

俺への迎撃にあてがわれた奴らの多さに辟易しつつも陽動を続ける。クルルはアジ・ダハーカと交戦を開始したから、俺かクロウのところにコマチかアポプスがそれぞれ来ると思ったんだが、今のところその兆候はない。とにかく物量で押し切ろうという戦いだ。

 

俺は一対多なんて毎度のことだから慣れているし、クロウは圧倒的な実力でちぎっては投げを繰り返してるだろうから、いくら構成員が多いとは言え、こちらだけに回せるわけでもなし、すぐに尽きるはずだが······

 

 

にしても、どっかで見覚えのある奴らがチラホラいるのはなんでだ······?

 

 

数百本の『魔の鎖』を操作し俺に差し向けられた尽くを薙ぎ払っていく。

 

 

いや待て、この状況どこかで······あぁ、思い出した。

 

 

八幡「チッ······そういうことかよ······」

 

コマチ「そう、そういうこと」

 

八幡「ッ!!」

 

 

突如爆発的に増大したエネルギーを感知した直後、コマチが急襲を仕掛けてくる。なんとか身を捩って躱すと、一息で十歩ほど退る。

 

八幡「やっぱり俺を攻撃すんのはお前だよな······コマチ」

 

コマチ「そう···········コマチのために、死んで」

 

八幡「嫌なこった」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 



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第125話 ミッドナイト・サン②

 

 

 

 

黒歌side

 

 

 

D班、私とギャスパーは、C班の美猴・三日月と別れ、2人とは別ルートから下層の捕虜の収容所を目指す。わかってるだけの建物の構造は全部頭に叩き込んだ。あとは最短ルートを通るだけ。

束がセキュリティを一時的に落としたのが2分前。残り5分。それがすぎると、向こうのセキュリティが復活して外部からの接触を一切受け付けず、尚且つ敵側の幹部のパーソナルデータを直接入力しないと何も出来なくなるといういやなおまけ付き。

 

A班とB班が司令室を占拠して、完全にシステムを破壊出来ればそれに超したことはないけど、失敗する確率だってあるわけだから油断は出来ない。

 

 

黒歌「······あと3つ」

 

収容所エリアまであと3つのゲートを通れば辿り着く。配置された敵兵が思ったより少なくて助かった。無駄な戦闘をほとんど避けられたから。

 

ギャスパー「······そこに、捕囚された人達がいる。助けられれば僕達の勝ち······!!」

 

 

───と、ギャスパーが言ったその時、空中に殺気を感じて、その場を慌てて飛び退く。

 

 

次の瞬間、一瞬前まで私達がいた場所が弾け飛んだ。

 

危なかった······体がバラバラ死体になるところだった。

 

 

特に広いわけでもない廊下に粉塵が舞い上がるが、一瞬にしてそれは晴れる。いや、吹き飛ばされた。

 

ロキ「······よもや、其方から来てくれるとは思わなかったぞ。ギャスパー・ルシフェル」

 

吹き飛んだ粉塵の中から姿を現したのは、一見してヤバそうな杖を携えた悪神ロキ。

 

ギャスパー「ロキ······!!」

 

黒歌「なんでこんな所に······」

 

事前に齎された情報では、ここには幹部クラスは誰もいなかった······

スパイだからって内部事情を全て盗めるわけではないとは言え、まさかコイツがここにいるなんて······私達がここに来るのを読んでいた?

 

 

ロキは改めて私達を見据えた後、持っていた杖で床をトン、と叩いた。

 

 

··········ヤバい!!!!

 

 

私が銃型のレプリカブリューナク2挺を、ギャスパーがオリジナルのブリューナクを構え、魔法陣を展開して防御に全力を注ぐ。次の瞬間、私達は雷の嵐に襲われて、外壁ごと突き破って外に吹き飛ばされた。

 

黒歌「かハッ······」

ギャスパー「うぐぅッ」

 

すぐさま空中で姿勢を整えると、ロキは音もなく私達の前に移動した。

 

ロキ「······どうだ? 我にしてやられる気分は」

 

ギャスパー「良いと思うか?」

 

構えは解かず、ギャスパーが言う。

 

ロキ「そうであろうな。だが······我は今最高に気分が良い。貴様を我が手で滅ぼせるのだからな!!」

 

ロキが杖を天に掲げる。すると、ギャスパーとロキが強烈な光に包まれる────

 

黒歌「ぎ、ギャスパー!!」

 

ギャスパー「僕は大丈夫だから!! 先に行って!!」

 

 

次の瞬間、ギャスパーとロキの姿が共に掻き消えた······

 

 

黒歌「わかったにゃん。必ず帰って来なさいよ、ギャスパー」

 

 

 

私はロキに外に吹き飛ばされた時の穴を利用して再び侵入する。そこには、狭い通路にズラッと並んで、待ち構えていたクリフォトに傾倒した悪魔に堕天使、魔法使いetc······

 

たかだか女一人相手によくもまぁ······

 

 

黒歌「······そうだよね······ギャスパーにおかえりって言わないといけないもんね」

 

両サイドに鮮紅の銃口を向ける。そして、躊躇なく銃爪を引いた。

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ロキに自分ごとどこかに飛ばされた僕は、ブリューナクを構えロキと対峙していた。

 

 

ギャスパー「何のつもりだ、ロキ」

 

ロキ「貴様の排除に決まっているだろう。ここは我が魔法で作り出した異空間だ。ここならば堕天魔や奴らの周りに邪魔されることもあるまい」

 

まんまと閉じ込められたわけか······

 

 

ロキが杖を翳すと、バチィッ!! と稲妻が走り、僕に迫ってくる。ブリューナクで薙ぎ払うと、第二第三と追従するように稲妻が追いかけてくる。ブリューナクを手放して、右腕を闇の巨腕に変えてロキを殴りつけるも、ロキは杖で容易く受け止めた。

 

この杖······

 

ロキ「白き槍を構えよ。ギャスパー・ルシフェル。大人しく殺されるというのであればそこになおっておれば良いがな」

 

ギャスパー「·······チィッ!!」

 

背後から飛んでくる稲妻を、巨腕化した腕で受け止める。が、稲妻が闇の巨腕を貫通し僕の右肩を掠めた。

 

ギャスパー「ッ······」

 

と同時に、稲妻が貫通したことに気を取られた僕の背後にいたロキに背中から蹴り飛ばされた。

 

放り投げていたブリューナクを引き寄せつつ、受け身をとって距離を取る。

 

ロキ「······どこまでも我を愚弄するか。生き汚く我の言う通りにしておれば、ここで死なずに済んだやもしれんがな」

 

 

次の瞬間、僕の体は切り刻まれていた。

 

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

7階。俺はジン、シフラと共に8階の司令室を目指していた。俺達の目標はそこの占拠、及び10階を目指している勝永と束と連携し、ここのシステムの完全破壊。

 

······そして、リゼヴィムとの決着。

 

 

 

ヴァーリ「······思ったより数が少ないな。10階に集まっているのか?」

 

通信では、ギャスパーと黒歌の方も少ししか会敵していないという。美猴達の方も、そんなに敵と出くわしていないらしい。勝永と束の方に回された?

 

ジン「かもね。奴らは捕虜にそこまで利用価値を感じていないみたいだし」

 

シフラ「だとしたら、何か別の意味があるのかもしれないわよ。向こうは堂々と宣戦布告したんだし」

 

既に別の場所に部隊を移動させているのかもしれないが······なら、こちらを攻めるのはチャンスか?

 

ヴァーリ「ここを開ければすぐに8階の司令室に行ける」

 

ただ、待ち伏せされている可能性は高い。向こうも、俺達が司令室を取りに行くことぐらい簡単に予想出来る。だが······

 

シフラ「罠って明け透けでも突っ込まなきゃいけないのが辛いところね······」

 

ジン「だね」

 

ヴァーリ「······あぁ。2人とも首尾は?」

 

ジン「オーケー。何の問題もないさ」

 

シフラ「私も。いつでもいいわ」

 

ヴァーリ「······よし。突入する!!」

 

 

8階。知る限り、司令室がある以外はそこまで何かがあるわけではない。だからこそ、俺達が知らない何かがあるのではないか、という不安に駆られる。

 

ヴァーリ「······妙だな」

 

先知の状態では、このフロアはかなり強固な警備だったはずだが······

 

ジン「あぁ。人の気配がほとんどない。ここの警備はいったいどうなって······」

周囲を注意しながらあと僅かな司令室に向かって進む。

 

シフラ「待って。これは······」

 

シフラが立ち止まる。彼女の目の前にあるのは何の変哲もないドア。これと言った特徴はない。()()()()()()()ということを除けば。

 

ヴァーリ「───ッ」

 

この部屋に······いや部屋と言っていい大きさではない。吸血鬼カーミラ領の、本城の大広間と同じくらいの大きさがある······!!

 

そして、その中からよく知った気配を感じる······!!

 

ヴァーリ「2人とも、先に行け」

 

ジン「······いるのか? その中に」

 

ヴァーリ「······あぁ」

 

声が震える。

 

シフラ「なら、行った方がいいわ。元々、私達は別行動も取れるように他と違って3人で組んでるんだし」

 

ヴァーリ「あぁ······!!」

 

俺が答えると、ジンとシフラは顔を見合わせ、そして俺に言う。

 

ジン「シフラは僕と司令室に向かおう。もう時間もない」

 

シフラ「了解」

 

ジン「······ヴァーリ、僕達はヴァーリとオーフェリアさんに何があったのかよく知らない。けどこれだけは言えるよ。()()()()へは行くな。

 

······行くよシフラ」

 

シフラ「ええ······ねぇ、ヴァーリ。これは私の独り言だけどさ。今もまだ()()()()()()わけじゃないでしょ?」

 

2人はそれだけ言って、司令室へ向かった。

 

ヴァーリ「······分かっているさ」

 

 

周囲を警戒しながら、突入する。

 

 

 

 

 

リゼヴィム「······よぉヴァーリ、おじいちゃん待ちくたびれたぜ。少しは楽しませてくれるんだよなぁ?」

 

 

ヴァーリ「知るか。俺は···········()()()()に戦うだけだ」

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 



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第126話 ミッドナイト・サン③


最近リアス達のアンチの作品が増えてきましたね······ところで、その作者様方は、アンチ主人公達がリアス達をどうでもいいと言ってる段階で主人公がリアス達に関心を抱いていることに気づいているんですかね? あと、読者目線としてはアンチの理由皆同じですよね(書けないお前が何言ってんだって話になりますけど)。


八幡side

 

 

 

八幡「······なんでそうまでして俺を殺そうと躍起になってるか、聞きたいもんだな」

 

 

有象無象な敵に囲まれ、コマチと距離を取って対峙出来る僅かな瞬間。少しでも情報を聞き出しておきたい。この作戦が成功しようがめでたしめでたしで終わりたくとも終われない。

 

あと、なんで見覚えのある奴がいるのかわかった。復讐だ······俺への。

俺が踏み潰してきた命へ、俺の断末魔を鎮魂歌とするために。

 

 

コマチは俺の問い掛けに対して、憤怒で答えた。

 

コマチ「言ったでしょ······そうでないとコマチが()()。コマチは()()()()()()()()

 

もう······か。

 

 

 

─────起きてよ小町。起きてよ······!! あぁぁっ、うぅっ、うぅあぁぁぁぁぁっ!!!

 

 

 

もうあんなおもいはしたくない。それでも······

 

八幡「······そうか。

 

·············悪いなコマチ。俺はもう一度お前を暗黒へと突き落とす」

 

コマチ「いや、だ······!! 二度とあんな怖いところに落ちたくない······!!」

 

コマチは震えながらも俺を睨む。俺への殺意が更に強くなった。

 

八幡「恨んでくれていい。呪ってくれていい。俺に、()の感情を拒絶する資格はない」

 

 

それでも、俺を想ってくれる人達を悲しませたくないんだ。優しい人達を······

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ロキ「······そうだったな。貴様はケルトの魔神の神格を有していた」

 

 

切り刻まれた体を、闇で()()()する。

 

僕の実体は闇そのもので、決まった形はない。水が氷にならない限り形を保てないようなものだ。無論、痛みや疲労といった概念を超越するわけではないが。

これは、僕の魂が魔神バロールの残留神格とほぼ融合しているかららしい。力を使うごとに、融合は進む。僕は力を使える時は迷わず使っていたから、融合はどんどん進んだ。

 

 

ギャスパー「食らえよ!!」

 

雷槍を降らせる。無敵ではないとは言え、神殺しもある程度なんとか出来るようになった僕への決定打をロキは持たないはず。だが······

 

ロキ「甘いぞギャスパー・ルシフェル」

 

ロキが杖を掲げると、雷槍は······全て杖に吸収された!!

 

ロキは杖を下げると、僕を蔑視して言う。

 

ロキ「貴様はいつでも甘い。環境に、周りの人間に、己が偶然手に入れただけの力に、甘え続けている。貴様の力は努力でもなければ才能でもない」

 

そんなこと············言われなくとも分かっている。でなければ、少なくともヘルさんが僕の手にかかって死ぬことはなかった。あの時僕が出しゃばらなければ、お父様とロキが上手くやってヘルさんは生きていたはずだ。

 

ロキ「我は何度でも言うぞ。貴様がいなければ────ヘルは死ななかった」

 

ギャスパー「·········」

 

ロキ「貴様も知っているだろう。ヘルは我とアングルボザの実の娘だ。ただの合成獣(キメラ)にすぎぬフェンリルやミドガルズオルムとは違う」

 

ギャスパー「······そしてアングルボザ様の忘れ形見だ。昔よく聞いた」

 

ロキ「アングルボザ亡き後、オーディンにヘルヘイムを任された彼奴は感情を押し込めた。神とて根本的なところは人間とさして変わらん。巫女としてただただ死者を裁くだけの存在へと堕ちた」

 

ギャスパー「それを見兼ねた主神がうちへの外交担当に命じた」

 

ロキ「死者の記憶を見続けることで感情(ひかり)を見失ったヘルがそれを取り戻す切欠になったことは我も感謝している。貴様がそれの一端を担っていることもな。

だが、まさか貴様がヘルを手に掛けることになるとは夢にも思わなかった」

 

ギャスパー「······僕だってそんなつもりでヘルさんと会っていたわけじゃない」

 

ロキ「それくらい我が解らぬわけがあるまい。しかし、貴様はあの日言った」

 

 

『後悔してる。会わなければ良かった』

 

 

ロキ「そう、言った······言っておくが、貴様が抱いたものはヘルに対する後悔ではない。己が抱いた罪悪感からの逃避願望だ。しかも、貴様はそのまま暗い部屋に閉じ込もった。貴様を、子どもだと周囲は責めるようなことはしなかっただろうな。理解はしよう。だが······」

 

ギャスパー「それ、は······」

 

ロキ「3年だ。その間、貴様は何をしていた? 無為に、無駄に、時間を費やし、漸く部屋を出たかと思えば別の女に逃げただけではないか。なんということか。これでは貴様を恨みもせず死んでいったヘルが浮かばれん」

 

ギャスパー「······ぼく、は、二度と、二度と繰り返さないために戻ってきた!!」

 

ロキ「ならば、貴様に恋慕の情を抱いたばかりに死んだヘルを無視するとでも言うのか。都合の良い奴だ」

 

ギャスパー「違う······!!」

 

ロキ「何が違う?」

 

 

ギャスパー「あの日から一度もヘルさんのことを忘れたことはない。僕が戻って来たのは······あいつらを······あの日、ヘルヘイムを破壊した『E(エヴィー)×E(エトゥルデ)』を滅ぼすためだ!!」

 

 

ロキ「ほう······確かに、その言葉自体に嘘は無さそうだ。だが、我は貴様を殺す。その後、貴様の甘ったれた復讐心を継いでやろう」

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

 

ヴァーリ「······ふっ!!」

 

リゼヴィム「とっとぉ?」

 

大規模な研究施設を舞台に、俺はリゼヴィムに攻撃し続ける。

 

 

リゼヴィム「いいねぇヴァーリ。おじいちゃん嬉しいぜ。メソメソ泣くしか能がないクソガキだった頃が懐かしいね☆」

 

ヴァーリ「一人で言っていろ!!」

 

魔剣バルムンクを揮い斬撃を飛ばすも、全て避けるか軽く潰される。ならば!!

 

リゼヴィム「おっ? 神器(セイクリッド・ギア)でスピードにだけブーストをかけたか? 考えんじゃねぇか。俺がオーラを読めねぇようにデコイで攪乱もバッチリだ」

 

残像を使って攻撃を仕掛ける。が、それすら避けられる。

 

リゼヴィム「けどさぁ、まだ甘ぇんだよ」

 

俺の動きが先読みされ、蹴りを先に置かれる。無論、その程度の攻撃をモロに食らう程度の甘い環境にいたわけではない······!!

 

ヴァーリ「うおぉぉッ!!」

 

強引に体を回転させ回し蹴りを避けると、スピードを乗せた蹴りを奴の顔に食らわせる!!

 

リゼヴィム「ぐおっ!!」

 

対応出来ない奴は、吹き飛んで、数あるカプセルの一つにぶち当たって漸く止まる。

 

リゼヴィム「いってぇなぁ······チッ。試験体が一個無駄になったか」

 

粉々になったガラスから奴は舌打ち混じりに立ち上がる。そして、後ろを見て言った。

 

 

······試験体? 何かの実験でもやっていた······?

 

 

だが、その試験体とやらが俺の目に映ると、俺は余裕を保てなくなる。

おかしい······彼女は今、()()()()()()()ではなかったのか!!?!?!!?

 

 

リゼヴィム「······んぉ? これか? これは俺の実験だぜ。サイコーだろ?」

 

ヴァーリ「何がだ······!! 死人の尊厳をどこまで弄べば気が済むんだお前は!!」

 

彼女を······亡き比企谷小町をクローニングして実験材料にしていた。

 

 

 

ヴァーリ「まさか······このカプセル全部······!!?」

 

 

リゼヴィム「いいねぇ。頭のキレが良くて助かるわ。

 

 

 

······なぁヴァーリ。お前は異世界についてどう思う?」

 

 

 

 

 





『鬼滅の刃』アニメ化ですってー!!? (超歓喜)
制作ufotableだそうですよ奥様。楽しみですわよね〜



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第127話 ミッドナイト・サン④


24巻の表紙の黒歌と、腸咥えて悦に浸ってる妲己が重なって見えた作者の目は末期中の末期(第一作も第2作もアニメ観てないけど、あのシーンあるのかな?)。





 

 

 

ヴァーリ「······異世界だと?」

 

俺の疑問に奴は嬉々とした笑みを浮かべて答える。

 

リゼヴィム「おおよぅ♪ ここ数年の間、各勢力が極秘裏に調査してるあれよ。お前も知ってんだろヴァーリ。何せお前は、奴らが初めてこっちに来た時に戦闘をしたうちの一人だからな」

 

何故突然その話になる······? そもそも、その情報をどこから得た。ロキが? いや、付き合いがそこまで長かったわけではないがロキがそこまで情報を流すとは思えないが······

 

リゼヴィム「ロキじゃねぇよ? あいつは俺が知ってることは知らねえ。知ってても別に問題ねぇけどな」

 

ヴァーリ「······話が見えないな。その話になんの関係がある」

 

奴は子どものような表情を浮かべて、更に俺に言う。

 

リゼヴィム「よく言うぜ。わかってんだろ?」

 

ここまできて推測出来るのは一つだけだ。

 

ヴァーリ「リゼヴィム······貴様、『E(エヴィー)×E(エトゥルデ)』と繋がっているな」

 

リゼヴィム「だ〜いせ〜いか〜い♪ ついでに言やぁ、ここ(ヘルヘイム)に本拠地を置こうと決めたのは、それが理由の一つだったりするんだぜ? ま、向こうを知らなくてもここにしたろうな。立地が良すぎる」

 

だいたい解ってきた。比企谷小町····いやコマチか? のクローンはおそらく、異世界への侵略でも企んでいるのか交渉用の武力としてチラつかせるのか······

 

ヴァーリ「······リゼヴィム。貴様、異世界への侵攻をするつもりか。あの世界に攻め込んで何になる」

 

異世界『E×E』は、精霊を司る善伸レセトラスと、機械生命体を司る邪神メルヴァゾアが戦争を繰り広げる、この世界以上に混迷を究める世界だ。ウチの独自の調査では、戦争によって環境破壊は進むところまで進んでおり、極々一部を除いて荒廃が進む秩序なき世界だ。調査ならともかく、こちらの世界よりはるかに貧困が進む世界に侵攻するメリットなど無いようなものだ。

 

 

リゼヴィム「決まってんだろ。   

 

 

 

 

─────破壊だ。異世界から訪れた未知の存在!! 戦争に介入し暴虐の限りを尽くす!! なんて、向こう側で伝説になったりしたら最高じゃねえか。つっても、お優しいヴァーリ君には理解出来ねぇだろうがな」   

 

ヴァーリ「あぁ、理解出来ないな。しようとも思わない。俺はお前と違って今に満足しているからな」

 

 俺は悪魔(ルシファー)としての自分を認めない。リゼヴィムの血が流れる自分を認めない。俺が比企谷八幡の子だと知って尚、高潔な血だと近づいて来た奴は何人もいたが、全て問答無用で追い払った。

 こんな穢れた血、必要ない。

 

俺に必要なのは力だ。あんなことを二度と繰り返さないための絶対的な力だ。だが、俺は(ドラゴン)として······そして、人間として生きる。そうでなければ、もういない()()()へ顔向け出来ない。

 

リゼヴィム「か~っ、つまんねぇの。お前がやりたいっつったら一緒にいれてやったのによ。まぁ、端から期待しちゃいなかったが」

 

 リゼヴィムは俺をつまらなそうに見るも、すぐに嬉々とした表情へと戻る。  

 

ヴァーリ「······話はそれで終わりか。俺はお前の話に何一つ魅力を感じなかったがな」

 

 何が異世界だ。クローンは侵略の兵力にでもする気だろうが、そんなことはさせない。  

 

ヴァーリ「第二ラウンドといこうか、リゼヴィム。お前を殺し尽くす。

───禁手化(バランス・ブレイク)」 

 

  

 

 ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロウside

 

 

 八幡とクルルが戦闘に突入し、大暴れして陽動を続けていた俺は敢えて(・・・)手薄な所に誘い出された。ここに───俺と似た気配を感じた。

 

 ドアを蹴破ると、外観からは不自然な程に広い空間に出た。前情報ではなかった場所だが······そこに、俺もよく知る男がいた。褐色肌で、数千年前にエジプトで用いられていた祭服を着る───原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)アポプス。俺やアジ・ダハーカと並んで邪龍最強の一角と称せられていた。

 

 

クロウ「······久しぶりだなアポプス。会うのは数千年振りだが、相変わらずのようだ。このような形でなければ純粋な闘いを心行くまで堪能出来たろうに」

 

 テロリストに与していなければ、ただドラゴンの闘いが出来たのだろう。

 

アポプス「そう言うお前はいつかと比べて驚くほど変わっているな、クロウ・クルワッハ。お前はバロール神に仕えることか、ただ闘いに明け暮れるだけの男だった」

 

 驚き半分、興味半分でアポプスは俺を見る。

 

 

 変わった、か───当然と言えば当然だろう。人間界に潜って多くの『人』と云うものを知ったからな。それに───

 

クロウ「俺も所帯と云うものを持ってただ闘いに明け暮れる以外の楽しさを知ったからな。家族というものは中々捨てたものではない」

 

 俺が誰を妻にしたか知れば流石のアポプスでも驚くだろうが───

 

アポプス「······これは驚きだ。考えられないわけでもないと言えば、そうだが、お前の口から家族という言葉を聞くことになるとは······なるほど、瞬きほどの時間を尊ぶ人間の気分を味わったようだ」

 

クロウ「だが嘗めてくれるなよ? 昔とは違う強さを手に入れた俺を見せてやろう」

 

ただ暴力に任せて破壊の限りを尽くす戦いは捨てた。昔は、それがドラゴンとしての在り方だと思っていた。だが、今になって、それは自分からドラゴンとしての誇り(プライド)を踏みにじるに等しい行為だったと解る。

 

アポプス「······嘗めるようなことなどしないとも。私は復活したことをここまで嬉しく思ったことはない」

 

アポプスが、本来の姿である、全長100メートルを越すであろう超大型のドラゴンへと変貌する。

 

クロウ「······なるほどな。ここが空間を捻じ曲げてまで広大に造られた理由は端からこのためか」

 

俺も、アポプスに最大限敬意を払い、本来の姿で(ドラゴンとして)、全力で相手をしよう。

 

 

アポプス「クロウ・クルワッハ、ここは私が戦闘するために造られた空間だ。我々が大暴れしようとも外への影響に心配はない。存分に楽しもうではないか」

 

 

クロウ「······あぁ。いくぞアポプス!!」

 

 

 



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第128話 ミッドナイト・サン⑤








 

 

 

クロウ「───うぉぉッ!!」

 

アポプスが放つ闇をブレスで相殺し、触手の如くうねり狂う『原初の水』の弾幕を掻い潜りドラゴンのオーラを込めた拳を叩きつける。

 

原初の水は、触れたものを文字通り『溶かす』。アポプスは神話に記される通り闇の化身であり、ラー神の太陽の船の運行を妨げていた。

話が反れるが、この世界に住まう生物の大半───それこそ邪龍や邪神、純血悪魔を除くほぼ全ての生物は、光を司る者の血を継いでいる。これは俺も例外ではない。

 

原初の水は、これら光に纏わるもの───その要素を崩壊させるという厄介な特性を持っている。これはアポプスが邪龍筆頭格足る理由の一つでもある。

 

 

アポプス「·······ぐぉっ!! なるほどっ······伊達に強さを求め続けてはいないな!!」

 

お返しとばかりに、うねる原初の水が左腕と右足首を掠める。

 

クロウ「クッ······当然だ。今の俺は破壊を拒絶するために戦っている!!」

 

俺の左足がアポプスの肩に突き刺さる。そして、原初の水が俺の右足を貫く。

 

アポプス「ドラゴンが破壊を拒むか······では、私はお前のその矜持を上回ろう!!」

 

クロウ「上等だ、アポプス!!!」

 

俺の拳、アポプスの拳が激突し、拮抗状態に入る。スケールにして軽く俺の6倍以上あるアポプスだが、俺も負けてはいない。昔なら或いは······と言ったところだが、伊達に数千年鍛え続けてきたわけではない。

 

───今の俺が簡単に押し負けると思うな!!

 

クロウ「·······ぬおぉぉぉおおお!!」

 

アポプス「なにッ······!!?」

 

アポプスの拳を、俺の拳が上回る。アポプスの拳は砕け、アポプスの腕が不自然に歪む。

 

ズドンッ!! と音を立ててアポプスの腕が折れ曲がる。

だが、これで終わらせるつもりは──ない!!

 

クロウ「おぉぉッ···!!」

 

すれ違いざまに、アポプスに全力でブレスを叩きつける。と、触手のような原初の水が俺の両翼を貫く。が、俺のブレスもまたアポプスの頭にほど近くを大きく消し飛ばした。

 

クロウ「クウッ······!!」

 

アポプス「がァっ······!?」

 

 

一度アポプスから距離を取り、治癒の魔法を翼に掛ける。再生の禁術は時間が掛かりすぎて使えん。止血しか無理だ。

······機動力も先程までより格段に劣るだろうが、無いよりはマシだろう。そう思う外ない。

 

 

地面は既に原初の水で浸水しており、アポプスを降さない限り降りることは適わない。時間がないな······だが、それはアポプスもそうだろう。

 

翼から直接オーラを排出して機動力を少しでも確保する。アルビオンの鎧を参考にした急場凌ぎではあるが······瞬間速度なら多少は確保出来るだろう。

 

 

クロウ「······流石だアポプス。今の俺は天龍を超えた強さを手にしたと自負しているのだがな」

 

 

この強さ、八幡に影響されたおかげか。

 

八幡とは数百年の付き合いになるが······アイツに出会い、俺の価値観は大きく揺らいだ。

俺よりも遥かに強さへの渇望を抱きながら、アイツは俺と真反対の理由を持っていた。当時の俺が戦う理由はドラゴンの力を揮うためであり、その力ために磨きをかけ続けた。

だが、八幡の強さを求める理由······いや、存在理由とでも言った方がいいのだろうか。アイツの強さは、刹那の平和への渇望と直結している。クルルのために───と、いっそ自己犠牲と言った方が正しいほどに、八幡は強さを求めていた。

 

『力がないと、また俺は誰かを殺す』

 

初めて聞いた時はまるで理解出来なかったが、アイツは本当は誰かを巻き込みたくないのだ。本来なら、この襲撃もアイツ一人で行う気だったのだろう。

 

 

初めて理解した時、俺の価値観は根底から揺らいだ。()()()()()である八幡は最初から強者として存在している者達を見てきた。力を揮うことしか考えていなかった俺とは、見ている世界が違った。

 

今でこそ多少は柔軟な思考が出来るようになったものの、俺が出会った当初は本当にそればかり考えていた。俺が危機感を覚えるほどだ。更に間近で見てきたメリオダスやティアはもっとであろう───。

 

 

クロウ「アポプス······護るべき者がいる、ということはすなわち生きて帰らなけれはならないということだ。今のお前に言っても解らないだろうがな。

───つまり、俺はお前に勝つ。そういうことだ」

 

体から放つオーラを一層高める。次の一撃が最後になるだろう。

 

 

俺に限った話ではなく、俺達の命は俺達のものだけではない。違う場所で戦う者、共に戦う者、そして────帰りを待つ者。一堂に会して全員で笑い合う。嘗ての俺は知らなかった最大級の喜び。

 

 

アポプス「······このオーラ、まともに食らえば私は一瞬で消え去るだろう。だが、私とてやられるつもりは毛頭ないぞ、クロウ・クルワッハ!!」

 

重傷を負っているとは思えない昂りを見せるアポプス。

 

クロウ「ならば勝負だ。原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)アポプス!!」

 

翼から推進剤代わりにオーラを吹かせ、急加速でアポプスに突貫する。

 

アポプス「面白い!! だが勝つのはこの私だ!! 三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)クロウ・クルワッハ!!」

 

アポプスが今までで最大級の闇の濃縮弾を放つ。食らえば致命傷になり兼ねない────ならば、それすらも打ち破ってみせよう!!

 

クロウ「おおぉぉぉぉぉおおおッ!!!!」

 

オーラを纏う拳にて正面から迎え撃つ。

 

アポプス「なれば、これならどうだ!?」

 

アポプスは更に4つの闇の濃縮弾を放つ。尚、チャージをして追撃を3つ放つ。

 

全部で8つ────それがどうした!! 俺は勝つためにアポプス、お前に拳を向けたのだぞ!!

 

クロウ「俺の────勝ちだ!!」

 

一つ、また一つ俺の拳は闇を吹き飛ばしアポプスに肉薄する。そして全ての闇を突き破り────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アポプス「······完敗だ、クロウ・クルワッハよ。私の力はお前に届かなかった」

 

アポプスは人間態に戻り、地面に仰向けに倒れる。

 

クロウ「いや、恥じることはない。少しでも何かが違えば、俺の勝利は夢想の内に終わるものだった」

 

地面を沈めた原初の水は既に完全に引いており、元の無機質な床が顔を覗かせていた。

 

 

······と、アポプスの体が端から塵へと変わり始める。

 

アポプス「······どうやら、私の体が限界を迎えたようだ。本来なら数千年と時間がかかる筈の手順を聖杯によって強引に省略したからだろうな」

 

両足の先から始まったアポプスの体の崩壊は、膝まで到達する。

 

アポプス「そうだ、最後に聞かせて欲しい。お前をそこまでの強さまで押し上げた女の存在が気になるのだ。堕天魔だけでは、おそらくそこまで価値観が様変わりはしまいよ」

 

 

最後にそんなことが気になるとはな。だが、俺もアイツも表舞台へと舞い戻った。アポプスに教えるくらいならば問題はあるまい。

 

クロウ「······そうだな。もう、それくらいは教えても良いだろう。『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット······俺に生きるとはどういうことかを教えた最高の女だ」

 

と、アポプスは目を見開いた後、フッと笑う。

 

アポプス「······そうか。ティアマットか。それでは私が勝てぬのは当たり前だったよ。龍王筆頭格足るティアマットと高め合ってきたことは想像に容易だからな」

 

アポプスの両腕が塵となり舞い散り、胸まで消滅する。

 

クロウ「そういうことだ。闘争以外に生きることも悪くない。アポプス、貴様も次に復活した時は、世界を見渡してみるといい。今の貴様では見えぬ世界がそこに広がっていることだろうよ」

 

アポプス「······次は、お前が負ける番かもしれないぞ、クロウ・クルワッハ」

 

クロウ「フッ······その言葉は次に相見えた時に聞かせてもらいたいものだな」

 

とうとう、アポプスの首まで塵へと変貌し、頭までも消滅を始める。

 

 

アポプス「そうさせてもらおう。ではな、クロウ・クルワッハ。また会おう────」

 

最後にそう言い残し、アポプスは消滅した。

 

 

 

クロウ「······もちろんだ。また会おう、アポプス────」

 

 

 

クロウsideout

 

 

 

 

 






今作の独自設定の中に、クロウ・クルワッハは人間界に潜伏中に人間にかなり感化された、っていう設定があります。この辺はルシフェルあたりにもあります。

アポプスとクロウの最後の会話は魔法戦争で鷲津吉平の最期から着想を得てます。ほぼそのままにも見えますけどもね(笑)。



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第129話 ミッドナイト・サン⑥

今年度入って相変わらずの亀投稿で申し訳ありません。(7月中にもう一話出せるかなぁ…)





 

束side

 

 

 

8階の司令室を目指すA班の束さんと勝永。メンドい有象無象を避けつつ来ているため、かなり遠回りした挙句、情報外の奴らが結構居て、尚更時間を食っていた。

 

 

とはいえ、セキュリティが薄い所しかクラッキングしてないから、警備が堅い所に突っ込めば、最悪捕虜が殺される。『クリフォト』が捕虜を捕まえに捕まえたのは、こっちを自分達有利に引き摺り込むための手段でしかない。飽きりゃ殺すかも。

三重四重の意味で、それは避けたい。

 

 

勝永「······束、クラッキングの残り時間は?」

 

勝永は左手を腰に提げた刀の柄頭に掛けたまま、束さんに確認する。

 

束「後4分。ただ、向こう側が早速気付いてきたから保障は無理」

 

束さんはずっとバソコン片手に移動してるけど、向こうのセキュリティめ中々にやる。

 

勝永「了解しました。束、スピードを上げますよ。置いて行かれないように」

 

勝永が目に見えてスピードを上げる。ホント、何でこんな狭い通路でそんなスピード出せるかなぁ!?

 

束「あぁもう了解ッ!!」

 

と、マジで足の速い勝永に追いつこうとして、スピードを上げたところ······

 

勝永「止まりなさい束」

 

勝永が急ブレーキを掛けた。もちろん束さんは止まれなくて勝永の背中にクラッシュ。

 

束「いっつー······何で止ま───」

 

あ痛たた······束さんは痛いのに、なんで勝永は微塵も痛がってないのさ。

 

勝永「構えなさい束。司令室を目の前にして、最後の関門ですよ。予想の範疇ではありますが」

 

勝永は、こっちに一切視線を向けずに言う。勝永は、司令室の前に立ち塞がる木······? みたいな感じのドラゴン? ······うん、ドラゴンだ。を捉えていた。その双眸は赤い。と言っても、クーちゃんやギャーちゃんのように深紅というわけでもなく、もっと明るい赤。ついでに言うと、あんま綺麗じゃない。

 

「······そちらのお嬢さんは初めましてでしょうかね。私は『宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)』ラードゥンと申します。ここの足止めを任された者です。以後お見知りおきを」

 

ラードゥンって言うと······なんだっけ。束さん、ギリシア・ローマ神話興味ないからあんま調べてないんだよね。あそこってガチでどうしようもない奴ばっかだし、そういうの他に任せてるし。

 

勝永「······ラードゥンは初代ヘラクレスの十二の試練で、ヘラクレスにヒュドラの毒を口の中に投げ込まれて死んだマヌケドラゴンですよ、束」

 

勝永にしては珍しく棘のある言い方で言う。

 

束「あれ、妙にあたりキツいね」

 

勝永「この低木擬きは過去に私が封印したドラゴンですよ。その時は、幻術にまんまと引っ掛かっていましたが」

 

へ〜······そんなこともやってたんだ。そう言えば、はーくんも昔アスガルズに依頼されてトカゲ退治やったとか言ってたっけ。サングィネムが出来る前はホントに色々やってたんだね。

 

束さんの話無視されたけど。

 

ラードゥン「また出会えるとは思いませんでした、毛利勝永。今度は私の障壁で押し潰されるのでしょうかね」

 

対するラードゥンも、体から発するオーラを敵意として見せつけながら勝永を睨めつける。

 

勝永「仕方ない。束、援護するので司令室に向かいなさい」

 

勝永が目に見えない(ホントに束さんの目じゃ全く追えない)ほどの早さで剣を揮った。が、ラードゥンの前に三重の障壁が張られて、ラードゥンまで斬撃が届かなかった。

束「はいはいりょうか〜い」

 

 

ラードゥンの脇を通り過ぎようとすると、障壁が張られる。が、斬撃が飛んで障壁を破壊されたので、魔法で強化(ブースト)を掛けて、束さんは壁を駆け司令室に突入を······

 

束「────っと」

 

というところで、束さんの周囲に立方体の結界が張られる。神器(セイクリッド・ギア)の銃でぶちあけて······と、思ったより固くてこの状態じゃ傷付けるだけに留まった。

 

ラードゥン「神器ですか。中々の練度ではありますが······無駄ですよ、私の障壁を破るのにその程度では」

 

余裕綽々で束さんを鼻で笑いやがる。

 

勝永「······チ、なら───」

 

勝永がラードゥンを消し飛ばそうとするが、勝永も結界で閉じ込められそうになり即座にその場を離れる。

 

 

ラードゥン「させませんよ。前回は幻術にしてやられましたが、今回はそうもいきません。毛利勝永、あなたの人生をここで閉ざして差し上げましょう。どうせ()()()主君を護ることなど出来ないのでしょう。そこで、地団駄を踏んでいなさい」

 

 

わー······束さん完全にアウェー·······

 

 

う〜む······どうしたら手っ取り早く抜けられるかなぁ?

 

 

 

束sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美猴side

 

 

 

美猴「······ここだぜぃ、三日月」

 

 

最下層の収容所へと辿り着いた俺っちと三日月は、セキュリティがダウンしてただの自動ドアと化した、ロックが外れた入口のドアをバリケードごと三日月がソードメイスで破壊して中に入る。

 

美猴「うおっ······こりゃひでぇ······」

 

奥まで延々と続く通路に、両側に3畳くらいの部屋に一人、或いは2人······両手両足を繋がれて捕囚されていた。通路側を鉄格子で区切り、おまけ程度でカーテンがあった。そして何より────

 

美猴「······ひでぇ匂いだ」

 

三日月「何人か、死んでる」

 

鼻の奥を突くような強い腐臭。生物の死体から発せられる悪臭。見たところフロア全部を換気出来るほど換気扇もねぇし、埃の溜まり具合からここは碌な管理をされていない。つーか、その肝心の換気扇も埃塗れでまるで掃除されていなかった。あれ、効いてんのか?

······ホンット、捕まえるだけ捕まえて後は放置って感じだ。

 

美猴「おい三日月────」

 

俺が三日月に話しかけようとしたところで、遮られた。

 

三日月「来るよ」

 

三日月が言うやいなや、入口の向こう······廊下の奥から複数の火球が飛来する。俺は如意棒を、三日月はソードメイスを、盾にして火球を凌ぐ。弾いたらマズい。捕虜を余計な危険に晒しちまうなんて本末転倒もいい所だぜぃ全く。

 

 

俺と三日月が入口から外へ出ると、そこにはくるぶしまでかかるローブを着てフードを深くかぶった魔法使いが多数。このローブ······『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』かい。

俺っちと三日月はぎりぎりまで戦闘を避けてきたから、追いつかれたってのが正しいとこか。

 

三日月「アンタら、捕虜がいるのに攻撃とか、正気?」

 

三日月がそう呟くと、敵さんの内の一人が高い声で叫ぶ。

 

「そのような死に体を何故気にする必要がある!」

 

そいつが叫ぶと、周りからも同調するような声が挙がる。

 

 

······参ったね。ロキと交戦中のギャスパーは別として、黒歌はまだ来ねえし、あいつとも結局合流出来なかったし、俺達2人で守りきれるか? 殲滅だけなら三日月一人いりゃ余裕なんだろうけどねぃ。

 

 

 

「侵入者を殺せ!! 潰してしまえ!!」

 

今度はだいぶ後ろの方から別の女が叫ぶ。それを銃爪に一斉に魔法による攻撃が開始される。

·······ん? この声······あいつ合流出来ねぇなと思ったら、んな所にいたのかぃ。

 

 

俺達が魔法攻撃を捕虜達に当たらないように弾きながら、接近して如意棒で魔法使いを薙ぎ倒していくと、突然、俺っちと三日月のいた位置の中間に()()()が上がり、そこにいた魔法使い3人が灰すら残さず燃え尽きた。

 

それを見た魔法使いの一人が喚く。

 

 

「な、何をしておられるのですか、()()()()()()様!!?」

 

 

ヴァルブルガ───紫炎使い、『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』と呼ばれる神滅具(ロンギヌス)の使い手。聖遺物(レリック)の一つに数えられる聖十字架を持つ魔法使い。

 

 

ヴァルブルガ「······あらん? ごめんなさいね。わたくし、元々貴方方の味方ではないのですわん」

その一言で何人かの魔法使いの顔が絶望で覆われる。

 

『魔女の夜』の最大戦力の一人たるヴァルブルガが敵の仲間だったっつったらその派閥の奴はショックだろなぁ。

 

 

ま、元々、次元の狭間に『オズ』っつー魔法使いの国があるが、そこの不安定な情勢を危険視したクルルが送り込んだスパイだし、それに気付けなかったこいつらの不覚だろうねぃ(『魔女の夜』はオズのはぐれ者が集まった烏合の組織)。

 

「そ、そんなっ······!!」

 

ヴァルブルガ「ごめんなさいん♪」

 

と、エネルギーの収束を感じて慌てて俺っちと三日月が退ると、集団の中心にポッとちっちゃい紫炎が発生したかと思うと、それが爆発して魔法使い達をまとめて吹き飛ばした。

 

何人かは免れたが、それもヴァルブルガが魔法で意識を奪い、瞬く間に鎮圧された。

 

 

 

 

美猴「······オイオイ、俺っち達を巻き込む気かよい」

 

フードを取ったヴァルブルガに、呆れるようにぼやく。

 

ヴァルブルガ「だから、規模も威力も調整したわん。

······避けれると思ったし。あー、この口調疲れる」

 

ヴァルブルガの口調が素に戻った。何でんな珍妙な口調にしたんか俺っちには謎だわ·····

 

 

と、牢を見て回っていた三日月が戻ってくる。

 

三日月「······ヴァルブルガ、ディオドラとフェリアがいないんだけど」

 

美猴「お疲れさん三日月。で、ディオドラもフェリアもいなかったって?」

 

三日月「みたい。他にも、何人か捕えられたっていうやつのリストに載ってた中でもいないのがいた」

 

そっちは覚えてたんか······ここの地図も一緒に覚えて欲しかったぜぃ。

 

ヴァルブルガ「ディオドラ含む一部の捕虜は4階に移送されたわ。体のいい実験体扱いで。どうにかしようにも、知ったの昨日だし、何ともならんかったわよ」

 

美猴「そうかぃ。ま、スパイお疲れさん。終わったら飲み行こうぜ。お前もう飲めんだろ?」

 

ヴァルブルガ「全くよ。飲まんきゃやってらんないわ」

 

美猴「お、いいねぃ」

 

 

 

美猴sideout

 

 

 

 






毎度、話を上手く切るのホント難しい······尻すぼみ酷い(笑)




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第130話 ミッドナイト・サン⑦

いや〜更新が遅くてすいません。大筋はほぼ決まってるのに細かいことが決まらない近頃···


水着ジャンヌ宝具2に出来た。やったぜ。




 

束side

 

 

 

時間がない中、束さんと勝永はラードゥンの障壁に足止めを受けている。

 

ぐぬぬ······禁手(バランス・ブレイカー)を使えばラードゥンごとき軽く吹っ飛ばせるんだけど······それだと司令室まで吹っ飛ばしちゃうんだよねー·······

 

取り敢えず、束さんを閉じ込めた立方体を殴ってぶっ壊す。1枚ならただの紙だけど、これを何枚も張られるからめんどい。

 

 

はーくんとかメリーならラードゥンだけキレーに消し飛ばせるんだろうけど、束さん撤退戦とか性にあわないんだよ。壁ぶち抜く? いやぁ、中の配線とかまでは流石に把握仕切れないよこの状況じゃ。

 

 

束「······ねぇねぇ勝永。ラードゥンだけ切り刻めたりしないの?」

 

勝永の側まで退って、こっそり聞く。いけるよね? だって普通の人間の時でも剣振るだけで肉眼で辛うじて見えるだけのどっかの城の天守閣の鯱斬ったとか聞いたし。

 

勝永「障壁が薄ければいけますよ。ただ、あの障壁は空間を捻じ曲げているせいで普通に攻撃しても反れるだけ」

 

と、ラードゥンが私を押し潰そうと障壁を飛ばしてきたので、ぶん殴って壊しながらもう少し退る。うん、一枚なら力ちょっと込めればなんとでもなるね。

 

勝永「束、その後突っ込みなさい。貴女のスピードとパワーでもラードゥンの障壁を破壊するくらいわけないでしょう。障壁を破ったらその勢いを利用してラードゥンを殴りなさい」

 

わーお。まさかの正面突破。作戦ですらないよね。まぁコイツが足止めに徹してるからめんどいんであって、普通にやれば軽く圧倒出来る程度だけど。

 

束「んー分かった」

 

足だけ禁手化(バランス・ブレイク)ー。膝下に純白の脚甲が装着。束さんのスピードが一気に上昇。正確には脚甲のバーニアのお陰で、更なる急加速が出来るようになる。

手の方はいいや。パンチしても多分痛くないだろーし。束さんに痛いと思わせたいなら、チタンとオリハルコンの合金の100倍は硬い物質持ってきてね。

 

 

束「じゃ、行くよー」

 

バーニアを吹かして、微調整可能な限界まで加速する。そのまま、ラードゥンの障壁に突っ込む。ラードゥンは四重だった目の前の障壁を更に10枚重ねたけど、無駄無駄。束さんのパンチがラードゥンの障壁全てを軽く突き破り、そのままラードゥンの腹にめり込む。

 

 

······電子機器への戦闘の影響とか心配して損したじゃん。

 

勝永「左へ避けなさい、束」

 

勝永に言われて、手を引っ込めて慌てて左へ避けると、ラードゥンが一瞬で縦に3枚に卸された。右目真っ二つじゃん。うわーグロー。

あ、返り血で服汚したくない。結界張んなきゃ。

 

ラードゥンの死体を結界で覆い返り血が飛び散らないようにすると、勝永が束さんに言う。

 

勝永「私はラードゥンを粉々に切り刻んでから行きます。束は先に司令室を占拠しなさい」

 

束「りょーかいりょーかい」

 

ラードゥンを覆った結界を飛び越えて司令室のドアを開ける。こっちを監視する目がないのを確認してドアを閉めて結界を三重に張り、誰も入れないようにする。

 

 

と、束さんが張った結界をすり抜けて勝永が入って来る。早っ。束さんが張った結界ごとなんちゃらってドラゴンを切り刻んだんだろうな〜。

 

 

それはいいとして、えーっと、シフラちゃんのインカムのチャンネルはーっと。あ、向こうから先にかかってきた。パソに『さうんどおんりー』と表示が入る。

 

シフラ『······束、聞こえる?』

 

束「うん、聞こえるよ〜」

 

 

 

束sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シフラside

 

 

 

ヴァーリと別れた私とジンは、目の前へと迫ろうとする司令室へ急ぐ。残りは3分。束が、私達にセキュリティが働かないようにした細工は後3分しかもたない。

 

駆ける私とジン。しかし、最後の角で足が止まる。

 

 

人の気配────

 

 

ジン「シフラ、僕が引き付ける。先に行け」

ジンが亜空間から魔剣を抜く。彼にとっては使い慣れた魔剣グラム。限界までオーラを抑えているはずなのに肌にチクチク刺さるような剣気を放つそれは味方が揮う時、とかく頼もしい。

 

シフラ「······了解」

 

ジンに倣うように、亜空間から剣を摂る。私が持つのは無銘の聖剣。聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)があると言えど、創造系神器によるものは、ほとんどの例外なく本物に劣る。結局頼れるものは本物だ。

 

ジン「良し······行くぞ」

 

ジンが先ず飛び出す。そして、角から司令室に繋がる狭い通路の中ほどに陣取るやつにジンが斬り掛かる瞬間に気配を消したまま私も飛び出す。

 

ジン「久しぶりじゃないか!! フリード!!」

 

フリード「おぉう、愛しのジークフリートのアニキじゃんか!!」

 

壁を走りながらジンとフリード・セルゼンの上を飛び越えて司令室に突っ込んだ。

 

 

シフラ「······誰もいない?」

 

司令室には、下っ端一人構えていなかった。ドアの陰に気配を潜めて隠れてるとかそういうのもない。拍子抜けしそうになったが、敵地で気を弛めるのはいけない。なにせ、私とジンがクロウに拾われたのも元を正せば敵地で気を抜いたからだ。

視線を感じないから、もう一つの司令室に映像を送る監視カメラもないと見ていい。

 

とにかく、ここのシステムを破壊する。結界を三重に張って誰も入って来ないようにして、予め束に渡されていたメモリーカードを取り出す。因みに512PBとかいうバケモノみたいな容量の束お手製品である。

これを貰ってペタという単位を初めて聞いたわ。こんなバカみたいな容量何に使うの。尚、1PB=1024TB。

 

まぁこんなん普段から思いつきで作ってる頭ブラックボックスな束の趣味は深く考えてもしょうがない。八幡がやりすぎそうになったら止めるんだし。

 

 

インカムを耳に付けて、束との連絡を。

 

シフラ「······束、聞こえる?」

 

束『うん、聞こえるよー』

 

向こうも、司令室の占拠に成功したみたい。

 

束『じゃあ今から束さんが言う通りにやってね』

 

シフラ「わかった」

 

 

束の言う通りに、入口のすぐ近くにあるタイルを剥がす。そこにはパスワード式の電子キーと、メモリーカードの差し込み口が。前情報じゃ分からなかったのに、クラッキングでもう突き止めたのかしら。相変わらず仕事が早い。これで、プライベートでふざけなければ、とっくに結婚してただろうに······

 

 

束『シフラちゃんあんま変なこと考えてると、今度暇つぶしに作ったパワードスーツのテスターやらせるからねー?』

 

シフラ「考えてないわよ!」

 

差し込み口にウイルス満載のメモリーカードを差し込み、パスワードを解除する。32桁が3回とかめんどくさ······

 

シフラ「出来たわ」

 

束『後は、そっちのコンソールとこっちのコンソールを同時操作でシステムを木馬式ウイルスが乗っとるよ』

 

束の指示通りにコンソールを操作······ここまでくるとエラい簡単ね。流石天災様。逆に怖くなってくるわ。

 

セキュリティの完全掌握、電気系統の完全掌握、捕虜の拘束具のロック解除、根幹システムの強制書き換え······あと捕虜のデータ、拷問・実験のデータ、資源の裏取り引きルート、クリフォトのスポンサーの一覧等々、確保完了。

 

ん······? ディオドラとフェリアだけ4階に移されてる?

 

 

シフラ「これでいいの?」

 

束『うん。これでOKだよ』

一息吐きそうになって、慌てて意識を改める。油断はダメ。

 

束『後は、美猴達が捕虜を保護してはーくん達が勝てば完全勝利だよ。ただ······』

 

束にしては珍しく、歯切れが悪い。私が問い返すと、打って変わって低い声で束は続けた。

 

 

シフラ「ただ······何よ?」

 

束『正念場はまだ終わらないっぽいんだよね』

 

 

束が見つめる画面には······

 

 

束『《被験体E-0001(レイワン)E-0002(レイツー)における後天的超越者創造実験の追記事項》······だってさ』

 

 

 

シフラsideout

 

 

 

 




ハイ。今年で今作を終わらせることがほぼ不可能になりました。シャルルヤです······
なんという、情けなさ。腹を切ってお詫びしたいほどです。まぁ切ったら続き書けなくなるんですけど()




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第131話 ミッドナイト・サン⑧

 

 

ジンside

 

 

 

フリード「······にしても、マジで久しぶりッスねぇ。ジークフリートのアニキ」

 

光の剣を持つ手をだらんと下げるフリード・セルゼン。僕やシフラと同じくデザインベビーとして造られた男。

 

 

 

歴史に名を残してきた名だたる英雄を造り出そうという、『英雄再臨計画』。僕やシフラはその計画により造り出された。フリードはその計画で齎されたデータで発案された同機関の別の計画で造られたデザインベビーだ。

確か、フリードとほぼ同じ塩基配列で造られた女の子がいたはず。あの機関はクロウが潰滅させたけど、彼女はどうしているのだろうか。

 

 

フリード「にしても、驚きだぜ。アンタが今もジャンヌのアネゴと一緒にいたとはねー。堕天魔にでも保護されたんか」

 

鍔迫り合いながら、フリードは軽口を叩く。

 

ジン「まぁそんなところさ。フリード、お前こそリリンにでも拾われたのかい?」

 

確か、駒王で教会から強奪されたエクスカリバーを振ってたはずだ。その時はコカビエルの手足だったろうが、ヴァーリがコカビエルを回収しに向かった時にはどさくさに紛れて姿を消した、というのが分かっていた限りだ。

 

フリード「まぁな。センセももういねーしコカビエルのダンナも捕まっちまったしで、とりあえず逃げてたところをユーグリット・ルキフグスにスカウトされたっつーわけですよ。いやー、あんなに殺しまくったクソ悪魔にスカウトされるなんて、世の中分かんねーもんでさー」

 

と、別方向から殺気を感じて慌てて振り返ると、突如空間が避けてそこから剣が飛び出してきた。身を捩ってなんとか躱すも、フリードがその剣を掴んで振り下ろしてくる。

 

グラムに負けない聖の波動を放つ剣······知っているものだ。

 

 

『ガラティン』───アーサー王伝説に登場する太陽の騎士ガウェインが揮った剣。聖王剣コールブランドの姉妹剣。擬似太陽が収められているとされるほどの灼熱を操る日輪の剣。

 

記憶の限りでは、過激派の悪魔祓い(エクソシスト)のダヴィード・サッロがこれを持ち出して姿を消して以降行方不明だった。フリードが持っていたのか。

 

 

フリード「あー、会心の一撃だったんだがなー。まっさか見破られるなんて思わねーわ」

 

フリードは左手に持ったガラティンを遊ばせながら不気味に笑う。

 

ジン「伊達にグラムを使ってるわけじゃないさ」

 

借り物ではあるが。まぁ気難しいグラムを持っても一切嫌われなかったのは、きっと僕がシグルズと起源を同じくするジークフリートの遺伝子で造られたデザインベビーだからだろう。

 

フリード「けっ、案の定グラムかよその剣。めんどくせー。堕天魔はどっからんなもん入手したんだよオイ」

 

ジン「降参する気にでもなったのか? 今なら4畳一間で3食付きの一人部屋に入居出来るよ」

 

フリード「オイオイ、俺っちをブタ箱に放り込むとか」

 

ジン「分かってるじゃないか」

 

3次元的に飛ぶ魔剣のオーラで牽制しながらフリードと切り結ぶ。ガラティンの能力はある程度の予想はつくものの、攻撃範囲や直接的な攻撃力まではサッパリだ。

だが、斬り合いならグラムに分があるはずだ。何せ、切れ味と龍殺し(ドラゴンスレイヤー)だけで魔剣最強格足らしめる剣だ。

 

と言っても、斬り合ってるだけでそのうちガラティンが折れてくれるとかそういうことはない。フリードの右手にある、悪魔祓いなら誰でも持っている普通の光の剣なら、真っ二つに出来るだろうが、そんなこと分からないフリードではあるまい。

 

 

フリードの攻撃をグラムで捌いていくが、二刀流ならではの手数の多さは中々に厄介だ。僕に攻撃されないことを優先してだ。

 

ジン「はぁっ!!」

 

グラムのオーラを飛ばしながら距離を取る。シフラはもう司令室を占拠している。結界が張られていることから分かる。結界を破壊しないように力を調節すればいい。

 

フリード「チッ」

 

フリードがガラティンで、飛ばしたオーラを斬っていく。予想通り、右手の光の剣じゃグラムを受けるのは無理みたいだ。あいつがそう見せかけようとしてるのかもしれないが、それならそれで対処するまでだ。

 

追加でオーラを飛ばしながら、グラムで直接追撃をかける。左手だけでグラムを受けなければならないフリードに対して、両手でグラムを握る僕が押し切るのは簡単だ。

 

フリード「それで勝ったなんて思っちゃぁいませんかぁ!?」

 

ジン「クッ···」

 

右手の剣を手放してガラティンの両手持ちに咄嗟に変えたフリードが鍔迫り合いを拮抗まで戻す。

 

ジン「ならこれはどうだい!!」

 

敢えて込めていた力を弱め後ろに去がる。フリードが僅かにバランスを崩すしながらガラティンを振り下ろすのをスレスレで避けて、腹に膝蹴りをかます。更に、後ろに吹っ飛ぶフリードの右肩と二の腕を亜空間から出した拳銃で撃ち抜く。

 

フリード「ガッ······!! ならぁ!!」

 

フリードが床にガラティンを突き刺す。

 

ジン「(カハッ)······!?」

 

次の瞬間、僕を灼熱が襲う。熱帯とか鼻で嗤えるほどの暑さ······!!

ガラティンの能力か······!!

 

一瞬で脂汗が吹き出す。

 

フリード「立てねぇだろ? オレもセンセにやられた時は死にかけた」

 

座標指定で熱を発生させられるのか···?

空気が揺らいで、屋内なのに蜃気楼が見えそうだ。

クソ。暑さで声すら出ない···

 

フリードのガラティンをグラムで受ける。フリードは暑そうな素振りを見せないから、所有者には無効化されるのか。

 

驚くほど体力が消費される。魔法でブーストして強引にフリードと体を入れ替えながら灼熱の檻を脱する。

 

ジン「カハッ······!!」

 

漸く呼吸が出来る······

 

フリードが光の銃で撃ってくる弾をグラムで弾きながら、もう空気の揺らぎのない床を突っ切って、フリードをグラムで壁まで押し込む。

 

フリード「いつっ······」

 

ジン「降参しろ。でないとお前を殺す」

 

壁まで押し込めて喉に剣を突きつける。

 

フリード「のヤロゥッ······!!」

 

フリードは左手一本でガラティンを逆手に持ち、片手とは思えない速さでグラムを弾く。

 

ジン「チィッ!!」

 

そのまま順手に持ち替えて高速で揮われるガラティンと切り結びながら、片手で振るうことにより大きくなった隙を突いて、今度はガラティンを受けながらもう一度壁に叩きつけた。

 

フリード「ウッ······!?」

 

呻き声を上げるフリードの襟と右腕を掴んで、一本背負いの要領で床に叩きつけ、そのまま闇の鎖(グレイプニル)で床に縫い付ける。そして、左手首を踏んでガラティンを手から離させる。

 

はぁ······フリードが僕を剣をメインに使うと思ってくれて助かった。必要以上にグラムに意識を集中させてくれたおかげで、楽に攻撃が出来た。

 

フリード「いっづ······グラムは囮かよクソが······」

 

ジン「あぁ、グラムに気を取られたおかげで、楽にお前を制圧出来た」

 

周囲に気配がないのを確認してフリードに問う。

 

 

ジン「じゃあ聞かせてもらおうか。なんで僕らはこんなに()()()()誰かと戦ってるのかね」

 

 

 

ジンsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「オ、ラァ!!」

 

コマチ「こんのッ!!」

 

俺がコマチの頬を殴ると同時に、コマチのアッパーが俺の顎を捉える。一瞬気を失いかけるのを強引に繋ぎとめながら脇腹を蹴り飛ばそうとするも、コマチが右足で合わせてきて拮抗状態になるが、向こうにパワー負けして一瞬で押し負ける。

 

姿勢が崩れた所に追い撃ちとばかりに放たれた蹴りを両手をクロスさせてガードしつつ、そのまま足を掴んで蹴りの勢いを利用して地面に叩きつける。

 

 

あんなちっこい癖に、体のどこにクルル並のパワーがある···? 魔法での強化じゃこうはならない。やはり、666(トライヘキサ)さんの力は奪われてるのか?

 

八幡「降参は!」

 

コマチ「ない!!」

 

パンチを受け止められ、コマチのパンチを受け止める。クソ、相手のレンジに入られると威力が乗らない。

 

八幡「死にたくないんだろ!?」

 

受け止められた右手を強引に引き剥がしつつコマチの右腕を掴んでもう一度コマチを投げて地面に叩きつける。普通なら、これで体の骨の8割を粉々に出来るが、俺を狙っていただけに、これくらいじゃそこまで大きなダメージにならない。

 

コマチ「お前についていってもどうせ死ぬ!! だからァ!!」

 

コマチは俺の足を掴むと、そのパワーで強引に俺をブン投げた。姿勢制御もままならずに壁に叩き付けられる。

 

八幡「ガッ······!!」

 

一瞬でコマチが距離を詰めてくる。即座に立ち上がって、光力を纏わせた貫手でコマチの左腕を切り落とすが、コマチのパンチが顔······詳しくいうと右眼の辺りに直撃して、また壁に叩きつけられた。

 

 

クソが······!! 利き目をやられた!! ······右眼破裂したなこりゃ。俺だけじゃ禁術でもすぐには治せないし、暫く片目で生活かよ。

 

 

光の剣を薙いで、コマチに距離を取らさせる。コマチは飛んだ左腕を横目で見つめながら左肩を押さえる。

 

斯く言う俺も、破裂した右眼を押さえながら片目でコマチを睨めつける。あの左腕を繋ぎ直されるのも厄介だ。消し飛ばすに限る。

 

 

光の剣を投げてコマチを落ちた片腕から引き離しつつ、もう一本作り出してコマチに切りかかる。コマチは腕によく分からない色のオーラを纏って、剣を受け止めた。

 

そして、コマチが剣を受け止めている間に炎でコマチの左腕を灰にする。

 

コマチ「······!!」

 

八幡「ゼア''ァ!!」

 

限界まで剣に力を込めて、コマチを押し込む。高さもあってコマチが膝をつく。

 

八幡「これ、で······!!」

 

 

 

······だが、押し切れる寸前で飛んできた()()に気付いて、俺はコマチから離れつつそれを受け止めるしかなかった。

 

八幡「黒歌······!?」

 

 

 





ミッドナイト・サンはまだ5話続きます(予定では)。ぐだりそうだなー、とお思いの方も多いでしょうが、お付き合いいただければ幸いです。



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第132話 ミッドナイト・サン⑨

 

 

八幡「黒歌!! 黒歌!!」

 

黒歌を抱えつつ、コマチから距離を取る。

 

コマチとの戦闘中に突如飛んできた黒歌は、体中傷だらけで、気絶していた。戦闘服もボロボロ。

 

 

気配を探ると、こっちに近寄ってくる者が3、4······5人か。内3人が悪魔で、一人がドラゴン、最後の一人は···死神(グリム・リッパー)

耄碌骸骨の回し者め······!!

 

俺よりも息が上がっているコマチは、左肩を押さえながら、その場を動かない。休ませる時間をくれたやるのは癪だが、気絶した黒歌をどっかに連れていかないと俺も危ない。

 

 

八幡「悪いなコマチ。一旦休戦といこうか」

 

コマチ「待て!! ······クッ!!」

 

フロアの地面を足でぶち抜いて人が余裕で通れるくらいの穴を開け、舞い上がった埃に乗じて、複数トラップを仕掛けながらその場を離れる。

 

俺が今いるのが6階。黒歌は1階に向かうはずなのにここにいるってことは、戦闘でこっちまで追い詰められたのか。黒歌を追い詰めるなら、魔王連れて来るぐらいしなきゃだが······邪龍か、クソ骸骨のとこの木っ端かだな。あの骨が自ら出て来たりはしないだろ。

 

上には行けないな······勝永、束、シフラが司令室2つを確保して、ヴァーリはゴミ(リゼヴィム)と交戦中。ジンも足を止めさせられた。クルルはアジ・ダハーカと、ギャスパーはロキと交戦中。美猴は1階に辿り着いて、ミカとヴァルブルガはディオドラ達の保護へ。

クロウならアポプス撃破後は遊撃に回ったから合流出来るか? 片目で、視界の4割真っ暗なら俺よりは、少なくとも安心出来る。

 

幸い、前に黒歌に渡した()()のおかげで、黒歌の傷はもう塞がり始めている。ただ、気絶している以上誰かが守らなければ。俺が出来ないのが辛いところだ。コマチはすぐに俺に追いついてくるだろうし。

 

八幡「クロウ、応答を頼む」

 

耳に着けたインカムでクロウに連絡を取る。

 

クロウ『······こちらクロウ。八幡か、聞こえている』

 

八幡「なら良かった。合流出来るか? 場所は······そうだな。5階の北西で」

 

お、トラップが予想通り発動した。黒歌を追って来たやつの内2人が光の矢で串刺しになった。他の3人も、閃光と爆音のトラップで暫く動けないだろ。コマチも。

 

クロウ『了解した。おそらく、俺の方が近い』

 

八幡「助かる」

 

戦闘を回避しながら走り、音を立てないように床を切り裂いて5階へ。爆音のトラップが予想以上の効果を発揮してるな。ここらにいたヤツらが軒並み向こうに行った。

 

 

······にしても、俺達が突入してから、迎撃してくる奴が妙に少なかったな。ヤツらはご丁寧に、俺達に宣戦布告までしてきたのだ。人員の大部分が出払ってるとかそんな都合がいいわけがない。

陽動の俺達は引っかからなかったで終わるが、捕虜の方も司令室の方も気味悪いほどに警備が薄かった。いくらなんでも、ヴァルブルガのリークとは数が合わない。裏切った? アイツが二重スパイだった? いや、それならもっと他にも偽の情報を細かく混ぜてくるはず。

 

狙いは黒歌か······? あの計画は潰したが、確かに、他に継承されている可能性はあった······と考えるしかないな。木っ端の死神がいる点を考えると、ハーデスのクソが噛んでるな。

 

 

クロウ「······八幡」

 

5階に降りて少しした所でクロウと合流する。クロウもクロウで、アポプスとの戦闘を無傷で切り抜けるのは無理だったようだが、俺よりは遥かに軽傷だ。

 

八幡「悪いクロウ。頼まれてくれ」

 

クロウ「······分かった。お前、その目はどうした」

 

抱えていた黒歌をそっとクロウに預ける。

 

八幡「コマチにやられた。アレは今黒歌が持ってるし、神経にまでダメージがいってるしで、暫く片目の生活だ······今はいい。黒歌を。今フリーなのがクロウしかいないしな」

 

クロウ「気にするな。だが、あとで一杯付き合え。お前がアルコール全般を苦手にしていることなど知るか」

 

俺が缶ビール2本で顔真っ赤になるくらい酒に弱いの知ってるくせにこいつは······

 

八幡「あいよ。それくらいなら安いもんだよ······じゃあ俺は戻る。黒歌は、頼んだ」

 

そう告げて、元来た道を引き返す。6階に戻って少しした所でさっきのトラップに引っかからなかった3人とカチ合う。案の定ただの雑魚だった。ギリ致命傷にならない傷を負わせて失神させ、そのまま少し離れた所で左肩を押さえながら俺を追っていたであろうコマチを蹴り飛ばす。

 

 

 

 

八幡「ようコマチ。さっきは逃げて悪かったな。さて、続きといこうか?」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ヴァーリ「───禁手化(バランスブレイク)

 

背中の白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)が外れ、浮遊しながら俺の両サイドまで浮遊して来ると、カシャカシャと有機的な音を立てながら変形していく。

 

リゼヴィム「へぇ······亜種禁手か。ま、俺相手にゃ全身鎧(プレート・アーマー)は悪手か。いい判断じゃねぇの?」

 

ヴァーリ「言っていろ。その減らず口をぐちゃぐちゃにして二度と開けないようにしてやる」

 

一対の光翼が変形を終えると、右手側が特殊な形をしたバスターソード。左手側が大型の角張ったフォルムを持つソードシールド。また、その両方が、斬ってよし撃ってよしのフェザーと呼称する遠隔誘導兵装を各6基ずつ搭載したキャリアでもある。

そして、攻撃力を削がずに、全てが魔法でかなり厚くコーティングされている。つまり、魔法が剥がされない限り、神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)を持つリゼヴィムに神器での攻撃が可能となる。ただ、半減や吸収まではおそらく通らない。

 

──『白銀龍の極光天破(エンピレオ・ディバイダー)

 

今の俺にはまだ至高天(エンピレオ)の名前は役不足であると言わざるを得ないが、名付けたクロウに、いずれその名に恥じぬ高みへと到れることを期待されていると思えば嬉しくもあった。

 

 

リゼヴィム「はっ。そんなんでおじいちゃんを楽しませられるのかねぇぇ?」

 

ヴァーリ「そんなことはどうでもいい。お前を殺せれば······俺の勝ちだ!!」

 

リゼヴィムは俺に多数の魔力の束を撃ってくるが、高速で飛行するソードシールドで防ぎ切る。今までは誰かとの試験運用でしか使ったことがなかった奥の手だが、実践運用も十分に可能だとこれで分かった。

 

魔力の束をバレルロールで避け、避けきれないものはソードシールドで防ぎながら、バスターソードでリゼヴィムを攻撃する。何回か攻撃していくうちに、掠り傷であるが攻撃が届いた······!!

 

リゼヴィム「チッ······無効化を封じたか。でもそれだけじゃぁなぁ!!」

 

追撃をかけようとしてリゼヴィムにカウンターをかまされるが、そのまま足を掴んで地面に投げる。リゼヴィムの胸にバスターソードを突き立てようとするが、リゼヴィムはすぐさま避けて、バスターソードは地面に突き立ってクレーターを作るに留まる。

 

舞い上がった埃を突き抜けてその場を離れようとするリゼヴィムを追って、剣を向ける。

 

ヴァーリ「フェザー!!」

 

バスターソードの柄頭に接続されていた6基のフェザーが、手前から順に2基ずつ刀身に合体して、巨大な()()を形作る。

 

ヴァーリ「食らえッ!!」

 

先端に合体している2基のフェザーが開き、そこから極太の魔力を放つ。

 

リゼヴィム「んのやろっ!!?」

 

回避しようとするリゼヴィムに、砲口をずらして、強引に直撃させる。

 

魔力の放出を止め、即座に追撃をかける。開いていたフェザーが閉じ、両刃の巨大なバスターソードになる。

 

リゼヴィム「今のは中々じゃねぇか······っとでも言うと思ったか!?」

 

リゼヴィムは12枚の翼で砲撃を防御しており、所々血が噴き出してはいたものの、致命傷にはほど遠い。

とはいえ、ダメージは通っている。俺は半減も吸収も使用していないし、今の砲撃も俺の魔力を圧縮して放っただけなのだから当然と言えば当然だが。

 

禁手化しているものの、俺の身体能力の底上げのみに留めている。その分、禁手化のリソースを全て身体能力強化に割り振っているから、通常時より大幅に身体能力を強化出来ている。リゼヴィムの無効化がどこまで有効なのかは知らないが、それに対応する策を要すれば、そもそも知る必要がない。

 

全長5m弱のバスターソードを振り下ろしつつ、覆っている魔法を更に強化。

 

再びフェザーを分離してオールレンジ攻撃を行いつつ、ソードシールド側のフェザーで魔力の塊を放ちながらバスターソードで斬り掛かる。バスターソードがリゼヴィムの腕を掠めると同時に、リゼヴィムを蹴り落とす。

 

リゼヴィム「ぐぉっ······!!」

 

ヴァーリ「がふっ······!!」

 

と、同時にリゼヴィムに魔力弾の接射を食らい、俺は天井に叩きつけられる。

 

リゼヴィムは無数に並ぶコフィンの一つに突っ込み、そのままコフィンを壊す。コフィンの中の比企谷小町と同じ姿をした少女は、ドサリと床に倒れる。それでも少女は目を覚ますことはなく、リゼヴィムが雑に片腕を掴んで別のコフィンに寄り掛からせた。

 

アルビオン『······ヴァーリ。どうやら、ここにいる少女は全て、魂の宿らない人形(クローン)のようだ』

 

────と言うと?

 

アルビオン『所詮、比企谷小町の肉体をコピーしただけの抜け殻だということだ。女の腹から生まれて個の生命として成長しない限り、魂は発生しない。ついでに、今比企谷八幡が戦っているのは、どこぞから引っ張ってきた誰かの魂を入れられたものである可能性が高い』

 

────本人ではなくてか?

 

アルビオン『あぁ。太古から死者の蘇生が研究されながら、極々一部の者以外にそれに成功したことがないのは、天国や地獄、冥府のように簡単に呼び戻せない所にその魂があるからだ』

 

なるほど。では、何故リゼヴィムはクローンをいくつも作り出している? 神の中に、リゼヴィムに協力する者がいるからか?

 

 

その考察をする間もなく、高速で飛んできたリゼヴィムの蹴りをバスターソードを盾にして防ぎ、魔力を纏って貫かんとしてくる12の翼を、ソードシールドに搭載されたフェザーも全て分離しつつ、フェザー11基と、ソードシールドで防ぐ。

 

そのまま両手足と全ての翼を使うリゼヴィムの攻撃をなんとか防ぐ。12の翼を加えた、圧倒的な手数のコンビネーションは強力だ。バスターソードもある以上、こちらは内に入り込まれれば圧倒的に不利。取り回しのいいものに変形させてくれる暇など与えてくれない。

 

ヴァーリ「くっ······」

 

リゼヴィムの近接能力を侮っていた。生まれ持った能力だけの男ならば、という想定は甘かった。

 

だが。

だからどうした─────

 

 

 

俺の頬をリゼヴィムの右腕が陥没させる直前。

 

 

リゼヴィムの背後から飛来した白銀の魔力が、リゼヴィムの右腕を消し飛ばし、焼き切った。

 

 

 

 



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第133話 ミッドナイト・サン⑩

 

 

 

リゼヴィムの背後に潜ませておいたフェザーが、リゼヴィムの右腕を消し飛ばす。

 

リゼヴィム「······がぁ!?」

 

ヴァーリ「取った!!」

 

リゼヴィムが痛みで一瞬で怯んだ隙を突き、バスターソードで袈裟に斬り下ろす。そのままの勢いで新しくできた傷を抉るように蹴り飛ばし、次いでバスターソードを投擲しリゼヴィムの腹に突き刺した。

 

神器無効化が発動したのか、バスターソードは塵のように消えていくが、できた傷は塞がらない。

 

リゼヴィム「ごぽっ······」

 

リゼヴィムは塊のような血を吐き出して、飛行を維持出来なくなったのか墜落する。

今なら、リゼヴィムはダメージで動けまい。

 

新しいバスターソードを出現させ、12枚のフェザー全てを合体させる。9m近くあるバスターソードは切先が先程同様に開き、そこに俺の魔力を注ぎ込む。

砲口となった切先がスパークを発しながら、蓄積限界を超えて漏出する魔力で光り出す。

 

ヴァーリ「終わりだ。リゼヴィム」

 

砲口から放たれる極大の魔力は、あっという間にリゼヴィムの体を覆い尽くし、周囲のコフィン諸共消し飛ばしていった。

 

 

注ぎ込んだ魔力も尽き、この空間を照らしていた白銀も姿を消す。

 

ヴァーリ「ふぅ······」

 

息を吐き、禁手を解除する────

 

 

『クリフォト』の首魁、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。聖書に記されたリリン。悪魔の母リリスと、旧魔王ルシファーの息子。忌々しい、認めたくもないが、血縁上俺の祖父だったクソ野郎。

 

たった今、奴の命は俺の手で絶たれる。俺も姉さんもカルナも、ルシファーという血族として生きていくつもりは毛頭ない。ここで、ルシファーという御家は滅びる。

俺の勝ちだ。もう······姉さんが苦しまずに済む。旧ルシファー、その影に怯え続けてきた姉さんが、今度こそ苦しまずに生きられるようになる。

 

ヴァーリ「······だから、大人しく死を受け入れろ(滅びを認めろ)

 

リゼヴィム「ヴァーリ・ルシファァァァァアアア!!!」

 

禁手を解除する────と見せかけてもう一度バスターソードを現出させると、背後から俺に魔力の雨を浴びせようとしていたリゼヴィムの首を貫く。

 

リゼヴィム「カッ·······」

 

バスターソードを一度振って、日本刀に纏わりついた血を払うようにリゼヴィムを宙に放ると、柄頭に連結していたフェザーが刀身に合体し巨大な砲身を形作る。

 

ヴァーリ「終わりだ······このクソ野郎がッ!!!」

 

 

······今度こそ、リゼヴィムというクソ野郎は消滅という末路に堕ちた。

 

 

ヴァーリ「···········そして、さようなら。ヒトとしての尊厳を踏み躙られた少女達よ」

 

リゼヴィムを消し飛ばしたそのままに砲口を向けたのは、コフィンの中で眠る比企谷小町と同じ貌をもつ無数の少女達。

 

ヴァーリ「今度は平和の中で生まれることが出来るよう、願っている」

 

 

白銀の閃光は、俺の視界を奪った─────。

 

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

私「······これ、は、私が······」

 

アジ・ダハーカ「分かったろ? これは─────」

 

 

眼前の屍の山に、私の膝は崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

その、数分前。

 

 

 

クルル「······墜ちろ!!」

 

地面に万を越す魔法陣を展開した私は、上空に私が展開した10倍以上の魔法陣を展開するアジ・ダハーカを魔の鎖(グレイプニル)で引きずり下ろそうと足に絡みつける。

 

アジ・ダハーカ「ハッ!! いいねぇ、こういうのを待ってたんだよ。こんなのはスラエータオナと殺り合った時以来だぜ!! だが残念だな───」

 

アジ・ダハーカは魔法で鎖を簡単に引きちぎり、私に無数の魔法を飛ばしてくる。阿朱羅丸で強化(ブースト)を掛けた私は、魔法を避け、切り払い、禁術に禁術をぶつけて弾幕を掻い潜り肉薄する。

 

クルル「取った···!!」

 

アジ・ダハーカ「いいや!!」

 

幻術で、一瞬だけ自分を複製して全方位から貫かんとするも複製は全て消し飛ばされ、逆に同じ手を使われてクリフォトの拠点の外壁に叩き付けられた。

 

······魔法じゃどう足掻いても上回るのは無理か······!!

 

アジ・ダハーカ「残念でならねぇ。嬢ちゃんは次世代のスラエータオナになれる逸材だったんだけどよ······これも、リゼヴィムの坊っちゃんとの契約なんだわ。恨むなとは言わんが、諦めてくれな」

 

すぐ様体勢を立て直して距離を取ろうとした瞬間、私の周りに展開された魔法陣から鎖が伸びてきて、両手足と首をギャリギャリと締め上げられる。

 

クルル「あ、ぐ······!!」

 

その鎖は、魔の鎖を遥かに越す強度でまるでビクともしない。

更に、アジ・ダハーカは私の足元にもう一つ一際大きな魔法陣を展開した。

 

これ、ゾロアスターの魔法陣······しまっ────

 

私の意識は底なし沼に沈んでいく。

 

 

アジ・ダハーカ「······嬢ちゃんがこれに耐え切ったら、続きを楽しもうぜ? 生き地獄への無力さに耐え切れたら、だけどな」

 

アジ・ダハーカが言葉を発していたのかどうかも、私には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルル「······ん、ぐ。わた、し、は······」

 

痺れる体に無知を打って強引に立ち上がる。

 

? ······地面が変な感しょ───

 

クルル「───ッ」

 

私が踏んでいたものは······人の骸。否。私の足元だけではない。見渡す限り、死体。死体の大地と言わんばかりの数の死体。

 

死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体。

むせ返るような血の匂いに、全て吐き出して楽になってしまいたくなる。

 

そして、その死体の溢れ返る野原──野原と言っていいのか分からないが──で視界に捉えた。見えた。見えてしまった。

 

クルル「ヴァーリ······!!」

 

綺麗な銀髪。私の愛しい、大好きな······

 

これ以上遺体を踏まないように、魔法で浮遊しながらヴァーリの下に急ぐ。

 

クルル「ヴァーリ、聞こえ───そんな······」

 

目に光はなく、呼吸もしておらず。死後硬直が始まっていた。そしてよく見れば、ヴァーリは────ラヴィニアに覆い被さるように力尽きていた。そのラヴィニアも、もう······

 

クルル「なんなのよ、これ······」

 

見渡す限り死体だらけ。呼吸を躊躇うほどの血の匂い。空は画用紙にぶちまけた血のよう。これは幻術だ。幻術であって欲しい。幻術でないと私は······

 

私の隣に、この世界を見せている張本人が姿を現す。

 

アジ・ダハーカ「······ここは、太古の未来にして、待ち受ける過去。夢想であって現実であり、虚像でなければ実像でもない」

 

クルル「ふざけやがっ────」

 

その時、私の耳に爆発音が届く。ここから200mくらい離れた所で、もうもうと粉塵が舞い上がっていた。

 

アジ・ダハーカ「行って実際に見てみろよ。これは、お前の精神を疲弊させるためだけに俺がテキトーに見せてる幻術じゃねぇ」

 

殴りかかってもすり抜けるだけだったために、今攻撃しても無駄だと判断して、渋々粉塵の舞い上がる場所に向かった。幻術であると分かっていながらも、何故か、ただの偽物だと決めつけることが出来なかった。

 

 

 

 

粉塵はもうもうと空に上がっている。爆発音が何度も響き、中心で何が起きているのかは伺い知ることが出来ない。

ここでは、私の能力がほとんど封じられているに等しく、自前の亜空間へのアクセスすら出来なかった。

 

······と、一段と大きな爆発音が周囲を轟くと、舞い上がっていた粉塵が丸ごと吹き飛ばされ中心が露になった。

 

 

そこにいたのは、血だらけのメリオダスとボロボロの私。メリオダスは阿朱羅丸を握っており、私は輝くオーラを放つ槍を握っていた。

 

メリオダス『······答えろ、クルル!! なんでエリザベスを殺した!?』

 

メリオダスの背後には、結界に守られるようにして倒れている彼の妻と、事切れた彼女を護るように立つ、彼が経営している酒場の残飯処理騎士団団長が。

 

そこに幽鬼のように佇む『私』は何も答えない。

 

メリオダス『あいつが何をした!! お前に一度でも攻撃なんてしたことなかっただろうが!!』

 

よく見れば、残飯処理騎士団団長ことホークの足元には、柄だけになった彼の愛用の短剣と、魔剣が散乱していた。だから、メリオダスは阿朱羅丸を握っているらしいということだけは分かった。

 

アジ・ダハーカ「先に言っとくが、声掛けようとしても無駄だぜ? ここは俺の展開した幻術ではあるが、この映像(ヴィジョン)は俺が作ったものじゃない。俺もお前も、ただ外から()()()()()()だけだ」

 

意味が、分からない······理解出来ない。何故、メリオダスと敵対している? 何故彼女を殺した?

 

私の疑問など知ったこっちゃないとばかりに、メリオダスはそこにいる『私』を攻撃する。と、次の瞬間、メリオダスの首から血が吹き出たかと思うと、阿朱羅丸諸共メリオダスの体は塵のように消し飛んだ。

 

そん、な······いったい、何が、何が······?

 

アジ・ダハーカ「ここは可能性の世界。いつか迎えたかもしれなかった、或いはこれから待ち受けるかもしれない可能性の世界だ」

 

メリオダスの張っていた結界が解けたのか、ホークとエリザベスの亡骸を守っていた結界が溶けるように消える。

 

ホーク『······お前、本当に壊れちまったんだな───』

 

『私』は、一人と一匹を跡形も残らず消し飛ばした。

 

 

クルル「······なんだこれは、答えろアジ・ダハーカッ······!!」

 

アジ・ダハーカ「······破滅だ。無数に存在する破滅の可能性の一つを俺とお前は覗いていんのさ。そら、まだあるぜ?」

 

と、空間がヴゥンと揺れたかと思うと、今度は、また別の場所にいた。

 

 

どこかは分からないが、そこには、先ほどとは打って変わって何かに怯える『私』と、クロウとティアがいた。

 

クルル『ふ、2人とも、どうした、のよ。なんか、変、よ?』

 

後ずさる『私』に対し、クロウとティアは毅然と構えている。

 

クロウ『······自分の旦那を捻り潰しておいてよく言う』

 

ティア『貴女は壊れたのよ、クルル······』

 

クルル『わ、私はっ。壊れてなんか······!!』

 

『私』が、背を向けて逃げ出そうとする瞬間。

 

ティア『さよなら』

 

『私』は、先程のメリオダスのように跡形もなく消えた。

 

 

アジ・ダハーカ「こんなんほんの一部だ。まだまだ付き合ってもらうぜ? 廃人になったら······ま、俺が殺してやるよ」

 

 

 

 

 

 

美猴『······あぁクソ。俺っちが最後かよ』

 

美猴の首をへし折った。

 

 

 

三日月『······お前は、死んでいいヤツだ』

 

三日月のメイスに叩き潰された。

 

 

 

束『お前が!! お前がいっくんを殺した!! お前がぁぁぁああ!!!』

 

束の心臓を握り潰した。

 

 

 

勝永『せめて、安らかにお眠りください。我がもう一人の主よ』

 

勝永の刀に真っ二つにされた。

 

 

 

ディオドラ『クルル様!! 正気に戻ってください!! 貴女はまだ戻れるはずです!!』

 

ディオドラを串刺しにした。

 

 

 

桃花『貴女はもう、誰にも助けられません』

 

桃花の魔法で消し飛ばされた。

 

 

 

ジン『ここまで、みたいだ、シフラ······今から、いく······から』

 

ジンを八つ裂きにした。

 

 

 

ヴァーリ『返せっ······!! カルナとラヴィニアを返せ!! クルル・ツェペシ!!』

 

ヴァーリを焼き殺した。

 

 

 

黒歌『返して·····白音とギャスパーを返してよ!!』

 

黒歌の二丁拳銃に蜂の巣にされた。

 

 

 

 

 

 

八幡『······クルル。愛してる』

 

最後まで手を伸ばそうとした八幡を切り刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルル「······あ。あぁぁッ······!!」

 

何かが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちたような気がした。

 

 

 

クルルsideout

 

 





クルルは気付けませんでしたが、幻術の最初の場面でヴァーリはラヴィニアに覆いかぶさっていましたがそのラヴィニアは生後4ヶ月の赤ちゃんを庇うようにして倒れていたという裏設定が······
(誰の子かは想像におまかせ)



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第134話 ミッドナイト・サン⑪

巻きで書いたせいで、色々変です······



(夏目友人帳の映画もう1回観に行きたい。)




 

 

ギャスパーside

 

 

ギャスパー「こぉのぉぉぉぉぉおおお!!」

 

ロキ「チッ······」

 

ブリューナクの砲撃で、ロキの杖の雷を打ち消しながら肉薄する。

こうも近づけば、フルで杖の能力は使えない!!

 

 

────が。

 

 

 

カラン。そんな音を立てて、ブリューナクが落ちる。

 

 

ロキ「ククッ。どうした? ギャスパー。ブリューナクが落ちたぞ? 拾わなくてよいのか?」

 

ギャスパー「ぐっ、ぐぅぅ······」

 

腕が痺れる。ぐ、使()()()()の反動が······

 

 

両手が麻痺した僕を見て、ロキは嗤う。

 

ロキ「語るに落ちたようだな。もうバロールの能力もブリューナクも使えまい。幾ら貴様が神性を得ていようが、元はただのハーフヴァンパイア。融合しきっていない貴様では使うだけで()()の部分が捻り潰されるような負担を負う」

 

ブリューナクに拾って構え直すが、ブリューナクの力を引き出せない。

 

一進一退の攻防で、僕もロキもボロボロり余力もどちらもほとんど残っていないが、精神的に余裕が出来たロキと、限界がきて追い詰められた僕では雲泥の差。

何か、何かないのか······!!

 

そこで、ふと思い出す。

 

ギャスパー「······ロンゴミニアド」

 

レプリカの魔剣や魔の鎖(グレイプニル)なども全て破壊されて、残ったのはこれだけ。絶対に使いたくなかった。けど、まだ死にたくない。死ぬわけにはいかない。

 

ロキ「ようやっとか。それだ、それを使わせたかった」

 

ロキは杖を向ける。あの杖は、風と雷を操る。あの杖の能力で発生する風はバロールさんの闇さえ吹き飛ばし、雷は闇を焼き払う。ロキの奥の手であるのは間違いないだろうが、どうやって攻略する?

接近しても、奴から有利は取れない。ロキは、僕の年齢を1000倍しても足りないほどの年数を生きている。年季が違う。

今までは、ロキがあの杖を使わなかったからバロールさんの闇で優位に立てた。

 

闇が使えないと、魔法だけで回復しなきゃだから、どうしても遅い。

それに、再生の禁術は僕には使えない。お父様やクロウさんは割と普通に使っているけど、どんな代償を払えばいいのか、想像するのも怖い。

 

ギャスパー「おおぉぉあぁぁ!!」

 

慣れない幻術で撹乱しつつ、ロキに迫る。

 

ロキ「ぐっ······甘い!!」

 

疲弊していようと僕の幻術に引っかかるような価値を感じないのか、幻術には目もくれずに僕の攻撃を杖で受け止めた。ロキは傷が傷んで顔をしかめたが、それも極一瞬のことですぐに雷の反撃をかけてくる。

 

ロキ「足りん······貴様にはまるで足りん!! 他者を傷付ける覚悟も!!」

 

ギャスパー「がっ······」

 

後ろに回り込もうとしたが、腹から蹴り飛ばされゴムボールのように弾みながら吹っ飛ばされる。

 

ロキ「誰かを愛する痛みも!!」

 

ギャスパー「悪神風情が······!!」

 

片手で体勢を立て直し、ロンゴミニアドを投擲しロキの右肩を僅かに抉る。

 

ギャスパー「来い!!」

 

彼方へと突き進んでいくロンゴミニアドを魔法で呼び寄せ、ロキの頭を狙う。が、首を傾けるだけで避けられる。

 

ギャスパー「力を寄越せ······!!」

 

飛んできたロンゴミニアドを掴み、残った力で一気にロキに接近する。

 

ギャスパー「がぁぁああッ!!」

 

ロキ「クッ······!! かハッ······」

 

心臓を狙って突きを放つが杖で逸らされて、右脇腹に突き刺さった。

 

ロキ「まだ、だ······貴様如きに殺される我ではない······!!」

 

血を吐きながらロキは杖を放り投げ、ロンゴミニアドを右手で掴む。そして左手で僕の肩を掴んだ。

 

まず、い······!!

 

ギャスパー「離、せっ······!!」

 

強引にでも引き剥がそうとしても、ロキの左手は僕の肩を掴んだまままるで離れようとしない。

 

ぐ······離れ、ない。 ロキは、どこに力を残して······

 

ロキが、恨みを込めて一言だけ呟いた。

 

ロキ「······爆ぜろ」

 

 

その瞬間、僕とロキを爆発が包んで、そして、吹き飛ばした。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

黒歌をクロウに送り届けた俺は、俺を追っていたコマチに逆に強襲する。

光の矢を嵐のように吹き荒れさせ、オールレンジ攻撃もどきで、彼女から自由を奪う。隻腕の彼女が無傷で凌ぐのは不可能だ。

 

 

八幡「はぁ···ふぅ···」

 

コマチは、コマチの力は正直予想外だった。俺の妹、小町ではどう罷り間違っても手に入りそうにない力を行使している。あいつもお袋譲りで俺と同じくそこまで魔力を持っていなかったし、魔力の色も、お袋や俺と同じ紫黒だった。

 

だが、コマチは形容し難い色の莫大なオーラを保有している。それに、一度も光を使わなかった。あれが、奪われた666(トライヘキサ)さんの力なのかもしれない。

 

 

片腕のコマチは瓦礫を消し飛ばしながら俺を攻撃出来る位置まで戻ってくる。やった俺が言えたことではないが、コマチは左腕を失い、右腕も変な方向に曲がっており、右足を引きずっている。

俺も、右目を失って左腕は捻じれ、左足の骨はおそらく粉々だろうが、まだマシだな。

 

八幡「今なら、投降すれば、俺はお前を殺さなくて済む。それでも戦うのか」

 

ここにきて、決心が鈍る。なんて情けない野郎だ。

 

コマチ「当たり、前だ······!!」

 

八幡「······そうか」

 

塵外刀真打を現出させ、型式を揚羽へ変化させる。うぐ、普段からこんな体力持ってってやがったのかこの刀は。

 

 

八幡「コマチ······」

 

コマチ「うああ、おあぁぁぁぁぁ!!」

 

捨て身に等しい状態で攻撃してきたコマチ相手に、刀を向ける。そして、下段に構えて俺も駆け出す。

 

 

僅か10歳で何も分からずに命を奪われた俺の妹、小町と瓜二つの少女。ルーマニアでは、ジンとシフラが彼女と接触した時は見た目相応の女の子だったらしいから、きっと、ずっとこんな殺気を振りまいたりはしていないのだろう。

 

 

八幡「······今度生まれてくる時は、女の子として普通の幸せをもってくれ。俺は、きっと来世でもお前の笑顔は見せてもらえないだろうけど」

 

脳裏に、()()()が過ぎる。

······子どもを手にかけるなんて、もう二度とないと願いたい。かなしすぎて、心が潰れてしまいそうだ。

 

八幡「······さようなら」

 

 

すれ違って両者が止まった直後。コマチは左の脇腹から右肩にかけて傷が裂け、血飛沫を散らしながら倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

コマチ「·········あぁ。また、こうなってしまった」

 

倒れ伏し、仰向けになったコマチが呟く。先程までとはまるで違う口調。()()()()ではあっても、いざこうなっては驚きを隠せない。

 

八幡「また、か。やっぱ人格の上書きか」

 

塵外刀真打の力で洗脳が解けた。そう見ていいだろう。本来の用途とはかけ離れたものではあるが。

 

ある程度、察しはついていた。彼女の行動は不自然さの塊だった。俺を殺すと言いながら、真正面からしか仕掛けてこない。アジ・ダハーカやアポプスがいるんだから、俺に毒を盛るなり睡眠中に叩き潰すなり出来たはずで。

 

そうしなかったのは、彼女の本来の良心か。はたまた。ともかく、彼女はコマチであって比企谷小町ではなかった。

 

八幡「俺に恨みがあるからとかじゃなく、上書きされた人格に俺を殺すことが本能下でインプットされてたんだろ。お前の殺意には()()がなかった。怨恨でも、利益を求めてたわけでもない。快楽殺人者には見えなかったしな」

 

コマチ「······察しがいい。流石、ルシフェルの息子だよ。比企谷八幡君」

 

足を引きずりながらコマチの隣に座って彼女の上体を支えると、先程とは打って変わって別人の口調で続ける。

 

コマチ「我は『獣』。黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)666(トライヘキサ)。まぁその役割を唯一神だとか宣う侵略者に押し付けられただけの、ただの死に損ないだ。好きに呼べ」

 

なるほど。道理で封印を全て解いても起きないわけだ。魂がここにあるのなら、向こう(サングィネム)にあるのはただの抜け殻ということになる。

可能性として考えてないわけではなかったが、存外世界は狭いらしい。俺は四鎌童子が魂だけ消したのかと思っていた。

 

八幡「······はぁ、まぁ好きに呼びますよ」

 

しかし、この人に人格を上書きするとなると、それ相応のリスクが伴う筈だが······まぁいい。束が回収したデータを見れば、分かることだ。

 

八幡「娘さんには、お世話になってます」

 

コマチ「クルルが? あぁ結婚してたか。君も随分と物好きだね。あの娘は、昔からこちらの手に負えないじゃじゃ馬な娘で、今も本質的には変わらんだろう?」

 

まぁ······9割方俺が引っ張られてますが。

 

八幡「そんなこともないですけど」

 

コマチ「嘘をつくな嘘を······それより、幾つか伝えておきたいことがある。時間がない。心して聞いてくれ」

 

捻れた右腕に顔を顰めながら、その手で俺の腕を掴む。

 

 

 

コマチ「────八幡君。世界に散らばる『鍵』の一つが君の中にある」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 



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第135話 ミッドナイト・サン⑫


なんかミッドナイト・サンあと5話で終わる(131話のあとがき)とか言いながら終われなそう(空知感)。




 

 

クルルside

 

 

 

崩れていく。ガラガラと音を立てて、崩れていく。私の心が、ガラガラと音を立てて、崩れていく。

 

あの光景を、ただの幻術だと割り切れたらどんなに楽だったのか。割り切れなかった結果がこれなのだから考えても無駄な話だが、それでも、どこかで考えずにはいられない。

 

 

 

アジ・ダハーカが見せてきた幻術は、当の本人が可能性だと言った。辿ったかも、或いはこれから辿るかもしれない。そんな過去(未来)

 

 

怖い。あの人の笑顔を自分で踏み潰すと考えるなど。仮に、本当にああなるのだとしても、私は刃を向けるなんて絶対にしたくない。彼が、彼女が、彼らが、彼女達が、私の全てだから。こんなどうしようもないちんちくりんを受け入れてくれるあの人達が。

 

 

 

 

 

気付けば、あの世界は消えていて、私をアジ・ダハーカが見下ろしていた。

女には流石に無理だったか、とでも言いたそうな顔をしている。

 

クルル「はぁ、はぁ、」

 

動悸が早くなり、手足が震える。冷や汗が止まらない。視界はボヤけている。いつ気絶してもおかしくない。メンタルはこんなに肉体に影響を与えるものだったか。

 

アジ・ダハーカ「『鍵』とかいうのの持ち主だっつー話だったから、俺自身過度の期待をしていたみたいだな。単純なスペック的には俺以上なんだろうが、こうもメンタルが弱ぇんじゃ、話にならねぇ」

 

アジ・ダハーカが手刀にオーラを纏わせる。せめてもの手向けだ、俺の手で直接葬ってやるよ。まるでそう物語っているかに見える。

 

 

アジ・ダハーカが私の首を刎ねようとするが───その手刀を掴んで止める。力が出なくて腰が抜けそうになるのを、強引に立たせる。

 

クルル「······いい加減に、しろ」

 

アジ・ダハーカ「······ほぉ。ポッキリ逝って、もう戦えねぇのかと思ってたな」

 

あの光景は脳裏にこびり付いたまま離れてくれない。けど。

 

クルル「心が壊れても。お前に殺される理由にはならない······!!」

 

アジ・ダハーカ「───いいねぇ······!!」

 

 

今だけは。今だけは。恐怖を捨てろ(受け流せ)。感情を、思考から切り離せ。

 

どうすればこいつに勝てる(を殺せる)か、考えろ。

 

 

 

『クルル───愛してる』

 

 

 

······そうだ。心はズタボロで、壊れちゃったけど、まだ死んでない。

 

 

私の心は、まだ、生きている!!

 

 

クルル「私は、生きる。お前の生き血ぐらいいくらでも啜ってやる。お前なんかに、殺されるつもりはない!!」

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

また夢を見た。何度も見た、夢を見たこと

 

 

『────初めましてギャスパー。私はヘル。主神オーディンより冥府の管理を命じられているわ』

 

その少女に、僕は魅せられた。

 

 

 

5年ほど前。当時10歳の僕は、無理言って、お父様の仕事に連れて行ってもらっていた。ヘルさんと会ったのはそんな時だった。

 

 

八幡『······仕事に連れて行って? お父さんの仕事にか? 急にどうした』

 

ギャスパー『ダメ、ですか?』

 

ただの好奇心。当時、不定期で長期間家を空けたりするお父様の仕事が気になっていた。長期間、と言っても子どもの感覚で、その頃にはもうサイラオーグさんがうちに預けられていたのもあって長くても一月ないくらいだったけど。

 

八幡『うーん······多分、ギャスパーには何にも面白くないぞ? お父さんも面白いからやってるわけじゃないし』

 

お父様は反対したけど、それっぽいこと言って甘えたらすぐに連れて行ってもらえることになった。当然条件付き。と言っても、言うこと聞いて大人しくしてるようにとかそんなレベルだ。

お母様はそんなお父様に呆れてたけど、たまたまその時うちに来ていた束さんに、どの口が言ってんのとか突っ込まれていたりする。

 

 

 

そして、早めの社会勉強と称して連れて行ってもらった先が、ヘルヘイムだった。

 

 

ヘルヘイム───死者の国と言われれば、三途の川渡った先にある地獄みたいなイメージが思い浮かぶが、実際はそんなことはない。

 

普通に死者の魂を裁き、鎮めるための場所だ。

······正直なこと言うと、なんもない。田舎にコンビニがないとかそういうレベルじゃなくて、本当になにもない。当時のヘルヘイムにあったのは、ヘルさんの住居であるエリュズニルの館、死者を鎮める儀式で使う祭壇と、館に隣接するその祭具を保管庫しかなかった。

 

死者に死後の安らぎを与えるのに、他所の喧騒は不要であったらしい。

ただ、ヘルさんもずっと死者が魂を鎮める儀式やら裁定やらを行っていたわけではない。色んな所から集めた書物を読み漁ったり、時たま主神の許可を得た神が顔を出したりしていたらしい。本人は、そんな神を見て物好きだと朗らかに笑っていた。

 

神話のイメージは、あくまでイメージだ。本人はラグナロクが起きても死者をロキ側の援軍に出したりする気もなかったとか。だいたいスノッリ・ストゥルルソンのせい。

 

 

 

ヘル『······ギャーちゃんは』

 

ギャスパー『?』

 

ヘル『どうして御父上のお仕事について行こうと思ったの? それが悪いわけではないけれども』

 

ギャスパー『うーん······好奇心かな? お父様は、あんまいい顔しなかったけど』

 

ヘル『······そう。偉いのね、ギャーは』

 

ギャスパー『そ、そうかな······』

 

 

ヘルヘイムがサングィネムとの窓口になっていたのは、そこに政治的な価値がなかったからだ。何か重要なものがあるわけではないし、北欧神話ではヘルさん以外に死者の蘇生は出来ない。だが、ヘルさんは狙われない。死者の蘇生はヘルさん一人では出来ない。主神の許可がなければその権能の解放が出来ないからだ。存外不便な話だ。

 

 

 

だから、『E(エヴィー)×E(エトゥルデ)』にこちらへの侵入口にされた時対応が遅れた。

 

 

侵入してきたのは4人。そいつらのリーダー格と思しき人物はお父様でも手こずり、その部下達はたった2人でロキと互角以上に戦えるほど。3人は倒したけど、残りの一人への対応が遅れたのがまずかった。

 

 

ヘル『ああぁぁぁぁおぉぎゃぃあぁぁぁあああ!!』

 

目を付けられていた。敵の狙いはヘルさんで、彼女は見たこともない術で操られ、2人から離れて、ヘルさんを探しに行った僕は操られたヘルさんの攻撃を受けた。その時はお兄様もいたけど、それでもヘルさんを助けることは出来なかった。

 

 

ヘルさん自身は戦う神ではない。幸か不幸か、僕もお兄様も死ななかった。だが────

 

 

 

ヘル『ギャーちゃん、あんまり自分を責めないで。悪いのは、思うがままに操られた私だから······泣かないで、ね? ヴァーリくんも、ありがとね。ヴァーリくんは今日初めて会ったのに······』

 

ギャスパー『ごめん、なさい······』

 

ヴァーリ『······すまない。貴女と弟だけでも、ここから逃せたら良かったんだが······』

 

彼女は、無機質に白い槍が自分を貫いているにもかかわらず微笑んで、僕の涙を拭った。

 

ヘル『······願わくば、2人の将来が希望で溢れていますように』

 

ギャスパー『ごめんなさい······!!』

 

 

 

泣いて、謝ることしか出来なかった。

 

 

この後、お父様とロキに回収されるまで、ずっとヘルさんの遺体を抱いて、泣き続けた。お兄様は、悔やみきれないままずっと俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『────相変わらず、弱いな』

 

不意に、声が響く。聞き覚えのある声。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーとは別の意味で聞きたくない声。

 

ギャスパー「······何が言いたい。ロンゴミニアド」

 

真っ暗な闇、自分だけが切り離されたように佇むそこに、金髪で碧眼の女が現れる。

 

ギャスパー「槍如きが夢の中にまで干渉するな。お前に用はない」

人が一人でいたい時に限って、夢───というかそれに近い精神世界に引きずり込む最悪(性悪)女だ。実際は女性の姿を真似ているだけで、固定の姿はないが。

 

ロンゴミニアド『たかだか、女が一人死んだだけだろう? なぜそこまで思い詰める』

 

相変わらず、人の気持ちを汲もうともしない女だ。僕の記憶や感情を勝手に覗きまくるだけに、下手したらどこぞのゴミよりも質が悪い。

 

ギャスパー「それの何が悪い」

 

ロンゴミニアド『お前はいずれ神になる。神は余所者が一人死んだ程度では動じない。違うか?』

 

本当に破壊してやろうかこいつ。

 

ギャスパー「僕は神じゃない」

 

ロンゴミニアド『ではお前に宿りしバロールの神格はどうなる。誰かに押し付けるか?』

 

チッ······一々答えにくいことを突きたがる。

 

ギャスパー「誰がそんなことするか。それに、神格を得たぐらいで人が神になれるわけがない。

······お前を破壊しないのは、お前がヘルさんの神格の残滓を()()()()()()掻き集めたからってだけだ。分かったら、二度と僕に干渉するな。次はない。今度やったら粉々にしてやる」

 

ロンゴミニアド『フン······連れないな』

 

クソ女が口元を歪めると、サァッと塵のように消える。

 

 

そして、僕も引き上げられる感覚に身を委ねて、意識を一旦手放した。

 

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 



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第136話 ミッドナイト・サン⑬

 

クルルside

 

 

クルル「がぁぁぁああぁッ!!」

 

雄叫びを放ちながら無我夢中で剣を振り、魔法を放つ。

 

アジ・ダハーカ「はっはっはっ、いいねぇ。そういうの!!」

 

アジ・ダハーカは万にも及ぶ禁術で、私を攻撃する。回避は不可能だ。

 

 

······八幡なら、これに禁術をぶつけ返して相殺するだろう。メリオダスなら、全反撃(フルカウンター)で全て跳ね返すかもしれない。ティアやクロウなら、持ち前のスピードとパワーで反撃しながら掻い潜れるかもしれない。

 

 

でも、私にはどれも出来ない。だから、オーラを全方位に放って全て消し飛ばした。

 

アジ・ダハーカ「マジかよ······!! 俺以上のバケモノってか? なぁ? 最ッ高(サイッコウ)だなぁおい!! クルル・ツェペシィィィィィィ!!」

 

クルル「お前をぉぉ!!」

 

阿朱羅丸(あしゅらまる)が、禁術と防御の魔法陣ごとアジ・ダハーカの右腕を切り飛ばす。と同時に、禁術が私の左足を吹き飛ばした。

 

お互いに距離を取り、私のオーラの砲撃と、アジ・ダハーカの禁術の弾幕のせめぎ合いが再び始まる。

 

その間に、私が持ち前の再生能力で左足を元に戻すと同時に、アジ・ダハーカも禁術で右腕を再生させていた。

 

 

明らかに敵のが上手。出し惜しみはする余裕がないし、そんな余裕与えてくれない。

 

クルル「食、らえ······!!」

 

特大の槍を作り、それを連射する。私が出来る最大の攻撃。悪魔の陣営を軽く半壊させる自信がある。それを、アジ・ダハーカは禁術をぶつけて相殺していく。

 

私がその弾幕の隙間を縫うように懐に入り込んで刀を振るえば、アジ・ダハーカは魔法で剣を作り出して応戦する。アジ・ダハーカの禁術が勢いを増したら、オーラで消し飛ばしながら、私が使える禁術で反撃する。

 

 

クルル「もっと力を寄越せ、阿朱羅丸!!」

 

アシェラ『やめろクルル!! これ以上は危険だ!!』

 

阿朱羅丸に宿る義兄の制止を振り切り、強引に力を引きずり出す。

 

クルル「やるのよ!! 私が死んだら義兄さん達だって消滅すんのよ!?」

 

アシェラ『あぁぁもうッ······!! 分かったよ!! 一月ぐらい筋肉痛で悶えてろ!! 僕も悶えてやるから!!』

 

義兄さんがそう言うと、私の体が更に軽くなった気がした。

 

力を。力を。力を。力を。

 

······壊れた心が死なない程度に、私達の限界まで力を引き出す。普段、無意識が掛けてるリミッターも全部取っ払って、刀を振るう。

 

 

クルル「()ぅああぁぁぁぁあああ!!!」

 

限界まで引き上げられた身体能力で、アジ・ダハーカが張った禁術の弾幕の中を突き進む。

 

 

右足に穴が開く。気にしていられない。

 

左腕が吹き飛ぶ。構うものか。

 

右耳が消し飛ぶ。それがどうした。

 

 

クルル「ぅおおぉぉぉぉああぁぁぁぁッッ!!」

 

アジ・ダハーカ「やべ······!!」

 

アジ・ダハーカの右腕と右足を、一太刀で切り落とす。

 

クルル「まだぁッ!!」

 

アジ・ダハーカの禁術に頭部を少し吹っ飛ばされる。

 

クルル「グァッ······まだっ、アンタを殺して······私は生きるッ!!」

 

アジ・ダハーカ「ごふぅっ······!!」

 

 

······阿朱羅丸が、アジ・ダハーカの胸を貫いた。

 

クルル「まだ、私には帰らなきゃいけない所が······!!」

 

 

もう一撃······!! まだアジ・ダハーカは······!!

 

 

だが、無常にも私の体はアジ・ダハーカを貫いた体勢のまま動かない。魔法で外から動かそうにも、それすら出来ない。

 

クルル「グッ······わた、し、には······」

 

意識が薄れていく。

 

ダメよ、今意識を失ったら······死·······

 

 

アジ・ダハーカ「······今回は、どうやら俺の負けだ。楽しかったぜ」

 

 

一瞬だけ右腕が引っ張られた気がしたけど、そのまま、私の意識は闇に墜ちていった。

 

 

 

アジ・ダハーカ「······投降しようにも、これじゃあな······」

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

八幡「────鍵?」

 

コマチ······の肉体の666さんは、そう言った。

 

コマチ「······そう、『鍵』だ。まぁ、便宜上そう呼んでいるだけで、実際には別の名前があるんだろうが。ルシフェルが一度だけそう言っていたんだよ」

 

······まーたお袋絡みか。まぁお袋の残滓が俺の中にあった以上、分かってはいたことだ。

 

八幡「名前は問題じゃないですけど、その『鍵』ってのは?」

 

コマチ「······今、直接情報を送ろう。知る限り、だが────」

 

 

666さんが言う限りには、彼女の言う『鍵』とは、『聖書の神(ヤハウェ)』が作った物らしい。

 

お袋が『鍵』と呼んだのは、それが()()()()()()鍵───ファクターであるからだという。何とも傍迷惑な話だ。

 

 

生前、ヤハウェとかいうのは、自身の支配地域を広げ、自分の信奉者を増やすため、あることを行った。

 

 

────天使、堕天使、悪魔の創造。人間を模した3つの種族を自ら作り出し、敢えて種族間の戦争を起こした。

 

 

『悪魔』という解りやすい『悪』を作り出すことで、信者にできそうな人間にわかり易く頼りやすいもの(=ヤハウェ)を意識させた。

 

『堕天使』という『(堕天の)システム』を作り出すことで、働きアリの法則の如く自身に反感をもつ者を天界から排除させつつ、天使の団結意識を高めた。

 

また、堕天使が人間を魅力するために情欲的な肉体になりやすいのも、天使が欲を抱くと堕天するようになるのも、悪魔に倫理観が欠如した、欲に忠実的な精神になるのも···········全て神が仕組んだこと、であるらしい。

 

更には、ルシフェルが堕天すること、アザゼルが堕天して『神の子を見張る者(グリゴリ)』を組織して天界、悪魔に宣戦布告して冥界に侵攻することも、ヤハウェの仕組んだことであったらしい。

 

この仕組みを利用することで、西暦初め、急速に領域を広げながら、キリスト教の信者を獲得。それがマンネリ化し始めると、ムハンマドを利用してイスラム教を成立させ、別の方向からも信者を獲得した。

 

 

そして、ゼロサムゲームを続けることで、他種族に対する敵対意識を保たせる。

 

 

そして、肝心の『鍵』というのは、そのゼロサムゲームが二度と戻らないほど完全に崩壊した時、世界を滅ぼ(リセット)し、一からやり直すためのシステムであるという。

 

詳細な数は定かではないが、少なくとも『鍵』は20個以上あり、それが全て

 

 

傍迷惑どころの話ではない。他所の神話の100億倍はクソみたいなヤローだ。

 

 

コマチ「······君には、ルシフェルの残滓が混ざっているな。『鍵』は、宿()()が消滅しても、余程のことがない限り別の誰かに移るようになっている。ルシフェルの死とともに、息子である八幡君に移ったのだろう」

 

俺の膝に頭を預けていた666さんは、痛みに耐えながら、起き上がる。

 

コマチ「······そして、我にも『鍵』が宿っている。おそらく······死ねばクルルに移るだろう」

 

悔しさで顔を顰めながら、666さんは言う。

 

コマチ「情けない話だ······最後に娘に遺すのが、娘を危険兵器にすることだなんて······母親失格だよ」

 

八幡「そんなことは······ないでしょうに」

 

666さんに、治癒の魔法をかけながら言う。

 

コマチ「そう······かな? ところで、君は何をしている」

 

八幡「何って、治癒ですけど。俺がやったんですから、せめて俺が治すのは当たり前でしょ」

 

俺が切り飛ばした腕までは流石に治らないな······元の肉体に魂を戻せれば······

 

八幡「もう敵対心もなさそうですし······それに、貴女、ここで俺に殺される気ですよね? 俺は絶対にやりませんよ。というかクルルに会うチャンスなのに、あいつ何も言わない気ですか。曲がりなりにも俺も親なんで。少しは分かるんですよ」

 

一息で言い切って息を吐くと、666さんは笑って言った。

 

コマチ「······降参だよ、八幡君」

 

八幡「そりゃどうも。俺も、殺さずに済むなら殺しませんよ」

 

人を殺すことが出来るやつでも普通はそうなるだろう。殺したくはないが、最悪殺す気ではいた。結局、出来なかったがな。

 

コマチ「それと、半ば筋違いなことではあるが、一つ頼み事をしてもいいかな?」

 

八幡「もちろんですよ。それでその頼み事ってのは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「────で、お前は投降するんで、いいんだな? アジ・ダハーカ」

 

全戦闘が終了して30分後。

 

俺の前には、闇の鎖(グレイプニル)で拘束され膝を付いたアジ・ダハーカがいた。大怪我を負ったクルル、ギャスパー、黒歌は即刻ICU行き。クロウとジンも、すぐに病院で検査に行かせた。クロウもかなりの重傷だったしな。本人は不服だったが。

 

666さんは、コマチとして、死体を偽造してサングィネムの屋敷の束の研究所へ。あそこは、存在を知らないと絶対に入れないようになってるしな。

 

ディオドラやフェリア達その眷属含め、酷い扱いを受けていた捕虜達も即刻病院に。ただ、人数が結構いたから十箇所に別れて運ばせたが。

 

 

······それにしても、前に黒歌に譲ったアレが本来の性能を発揮してないな。アレは、ちゃんと発動すれば、半身が消し飛んでも数分で回復出来る筈なんだが。

 

 

アジ・ダハーカ「まぁな。クルル・ツェペシはああなっちまったが、本気でもう一回戦いてぇしな。しかも、俺も無茶な復活の影響で、暫くは戦闘に支障が出そうだしな。何にせよ、ここでクロウの奴に殺されるのがもったいないと思ったわけだ」

 

アジ・ダハーカは当たり前だと言うように語る。

 

······あんな大怪我させたクセに、それか!! これだから、クロウん家以外の邪龍は嫌なんだ。自分が戦うこと以外の何にも関心を持たない。そういう奴ほど、戦闘で被害は出すし、情報を漏らしやがる。

 

 

八幡「······あぁ、そうかよ。もういい黙ってろ」

 

クソが······俺が666さんと話してる間に、クルルはあんな辛い思いをしてたとは······666さんじゃないが、俺は旦那失格もいいところだ。

 

はぁ······クルルの目が覚めた時、どんな顔して会えってんだよ。

 

 

とにかく、俺達ももう帰投だ。事後処理は北欧神話が請け負ったし、もうここに俺達がいる意味もない。後は、そのうち行われるであろう一連の事情説明と、捕虜だった人達が日常生活に戻れるような支援するくらいか。

 

······黒歌を追ってた奴らは、先にヴァーリが連行したし。あいつも負傷してた筈だが、自分で治療していた。あいつ、あんなに魔法使えるようになって······お父さん嬉しい。きっと、ラヴィニアの影響だろうな。

 

 

八幡「束、俺達も帰投するぞ。これから、やることが山積みだ。お前にも働いてもらうからな」

 

束には、コンピュータ関連でまだやってもらうことがあったため、最後まで残ってもらっていた。

 

束「······りょーかい。でもはーくん、言っとくけど束さんはそういうの専門外なんだからね?」

 

アジ・ダハーカの拘束を限界まで強めながら、転移の魔法陣を展開する。

 

アジ・ダハーカ「······痛ぇんだけど」

 

八幡「投降した奴は黙ってろ」

······戦闘が終わったことに対する爽快感や安堵感など、ない。戦争なんだから当たり前だが、クルルのことだけでもブチ切れそうだが、それ抜きでも悪魔滅ぼしたくなるぐらいに理性が吹き飛びそうなんだよ。

 

 

 

束「はーくん······」

 

八幡「······あぁ、分かってるよ。とにかく、帰投するぞ。働いてもらうとは言ったが、戻ったらデータの整理だけやって、お前も休んでくれ。後は俺が出来る仕事だから」

 

束「モチそうするけど······はーくんも休みなよ? 最近のはーくんは働きすぎ」

 

八幡「······分かってる。分かってるけど、なんかやってないと落ち着けなさそうなんだよ······!!」

 

束「······ま〜、気持ちは分かるんだけどさ。無理しないでね? 束さんも、ガラにもなく心配しちゃうし」

 

八幡「······はぁ。束、悪いな」

 

 

 

 

八幡sideout

 

 





ミッドナイト・サンは一応これで終わりです。ただ、ここからはシリアス120%の回が一気に増えます。日常回少しずつ増量していきたいんですけど、それで誤魔化し効くのかな·······?(今考えてる新章のストーリーは)



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第137話


何とか(強引に)クリフォト抗争編を終わらせられたので、新章いきます。でも、作者は戦闘回ばっか書いてて疲れたので今回は日常(はしやすめ)回です。

さてさて、作者は思い付きで広めた風呂敷を畳めるのか······? いや、無理であろう。
ご期待(なさらないで)ください!!




 

 

ヴァーリside

 

 

ラヴィニア「久しぶりなのですヴァーくん。聞いたのですよ? 『クリフォト攻略戦』では大活躍だったと」

 

ヴァーリ「ありがとう、にしても耳が早いな。さ、上がってくれ」

 

ラヴィニア「お邪魔するのです」

 

 

······クリフォトの本拠地を奇襲してから四日。帰還した強襲部隊の皆がそれぞれ事後処理に追われている中、俺は、療養という名目で仕事を取り上げられ、安静にしているようキツく言い渡されていた。

黒歌とギャスパーはまだ入院中だが、俺はもう怪我も治ったというのに。

 

 

 

 

 ───あの後、投降したアジ・ダハーカは北欧に引き渡し、作業の引き継ぎを済ませて俺達は撤収した。その後、666······さんを元の肉体に戻したり、束とシフラが回収したデータを片っ端から洗ったり等々、事後処理が山積みになっていた。

 

悲しいことに、()()()()()()()()()()状況は少ししか好転しなかったが。

 

 

 

手伝うのすら禁止されて歯痒い中、サングィネムの屋敷にいた俺に、ラヴィニアが尋ねてきた。

 

 

ヴァーリ「······しかし、急にどうしたんだラヴィニア。『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』も忙しい時期だろう? 俺に会いに来て大丈夫だったのか?」

 

廊下の奥から覗いていた黒歌を手で追い払い、自室に案内する。

 

ラヴィニア「なんとか休暇が取れたのですよ。ですから、折角なのでヴァーくんに会いに来たのです」

 

······文脈が繋がっていないような気もするが、ラヴィニアだし別段気にすることでもないだろう。

にしても、無理に俺に会いに来なくてもいいだろうに。彼女はどちらかと言えばマイペースではあるが、仕事にストレスを感じない人間などまずいない。ゆっくり心と体を癒して欲しいものだが······

 

と、普段は戦闘以外ではあまり話しかけてこないアルビオンが、珍しくこんなタイミングで話しかけてきた。

 

『······そろそろ恍けるのもやめたらどうだ、ヴァーリ。ラヴィニアがお前目当てでここに来ているのが分かっているのだ。話は早いだろう? 何を悩む』

 

 

────余計なお世話だ、アルビオン。

確かに、この手でリセヴィムは倒した。だが、俺にはまだ足りないんだよ。

 

 

それに、まだ()()()()()()()()()だろう。

 

 

アルビオンは、この偏屈が、と言うとつまらなそうに奥に戻っていった。ああ、そうとも。俺は偏屈だよ。

 

 

ラヴィニア「ヴァーくん?」

 

ヴァーリ「何でもないさ、ラヴィニア」

 

 

ラヴィニアにコーヒーを振舞った後、サングィネムの都市部に出てみようという事になった。

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······ここが、百夜孤児院。母さんが設立した孤児院で、冥界で最大の孤児院なんだ」

 

ラヴィニア「おぉ~。いつも通り過ぎるだけでしたが、よくよく見ると大きいですね」

 

ヴァーリ「位相を少し歪めて場所を確保しているからね。でなければ、こんな都市部でこの大きさの建物を新規で造るなんて無理さ」

 

空に浮かせている建造物も結構あるが······子どもの遊び場には些か危険だ。以前、観光客の子どもが落ちそうになった事件があったらしいしな。

 

ヴァーリ「見学していくか?」

 

ラヴィニア「是非お願いするのです。ヴァーくん、凄い楽しそうですよ?」

 

そうか? そう尋ねるのも野望な気がした。人からでないと見えないものも、多いのだろう。

 

 

 

「あー、ヴァーリおじさんだー!!」

 

孤児院内の施設を案内していると、子ども達が移動しているのにカチ合ったのか、10人くらいの子ども達に見つかってしまった。

 

ヴァーリ「やぁ、久しぶりだね。元気にしていたか?」

 

おじさん、と呼ばれるのも俺と10歳も差のある子からしたら20前後の男なんておじさんと大差ないだろう。と、強引に納得している。強引に納得した。というか、おにいさん呼びさせるのに失敗したのだが。

 

流石に、カルナにおじさん呼ばわりされるのは避けたいところではある。

 

「いや、聞いてよおじさん。ユウがさー」

 

なんて言う金髪の男の子(ミカ)に、黒髪の男の子(ユウ)が反論する。

 

「おいミカ!! 余計なこと言うな!!」

 

と、茶髪の女の子(アカネ)がユウを押し退ける。

 

「じゃあわたしが代わりに言うね、ユウ」

 

「やめろアカネぇ!!」

······うん元気そうで何よりだ。

 

 

ラヴィニア「元気ですね」

 

ヴァーリ「······まぁね」

 

これが、母さんが目指していた────

 

と、女の子らしく一番目敏いアカネが、ラヴィニアに目を付ける。

 

「ねぇおじさん、この綺麗な人だれ? おじさんの恋人?」

 

ラヴィニア「こッ······」

 

流石年頃の女の子、この手の話題大好きだな。そう言えば、父さんも前に浮気がどうのこうの聞かれたとか笑ってたな。週刊誌のガセネタを真に受けてしまったらしいが。

 

顔を赤らめるラヴィニアを出来るだけ気にしないようにして、アカネに言う。

 

ヴァーリ「違うよアカネ。この綺麗な人は俺の友人さ」

 

───と言うと、アカネは目を細めて

 

アカネ「ふぅ~ん·····カルナちゃんまだチャン······オホン、なんでもないよ!! 綺麗な人だから、おじさんが身内自慢しに来たのかと思ったとかないよ!!」

 

カルナの名前を出して何か言った時咳払いして、あからさまな弁明をした。

 

ヴァーリ「? そうか」

 

······カルナ、アカネに何を話した? というか、凄い弁明だな。

 

 

ラヴィニア「き、綺麗な人······」

 

 

その後、子ども達の好奇心をあしらい、施設の案内を済ませた後、街をぶらぶらすることになった。

 

 

 

 

 

 

市内を歩いている途中、偶々通りかかった喫茶店で軽い昼食を取ることにした。店主とは知り合いで、店を気に入ったため偶に一人で寄るが、誰かと入ったのは初めてだった。

 

 

ラヴィニア「······ヴァーくんは、子どもの相手にも慣れてるのですね。意外です」

 

ヴァーリ「そうか? ······カルナも、あのくらいだからかな。自然に慣れたさ。大変であることには変わりないが」

 

正直、毎回言い逃······付き合うのは疲れはするが、イヤな疲れではない。大人にはない純粋な部分を見ていると、自然と癒される。

 

 

ヴァーリ「それより、良かったのか? 嫌なら言ってくれ」

 

あのあと、お互いの服を一着ずつ買い、ブックカバーを贈って······まぁ、傍目から見たら確かにデートだな。ラヴィニアが本音ではどう思っているのか、確信が持てないが。

 

 

ラヴィニア「大丈夫ですよ。あのくらいの子ども達のバイタリティには驚きましたけど······楽しいのです。ヴァーくん」

 

そう言って笑うラヴィニアを見て、溜飲が下がる。彼女の気を害していたらどうしようかと······

 

ヴァーリ「······なら、良かった」

 

 

 

 

 

 

 

その後も遊び倒して、日が傾き出しそろそろ時間が迫る中、俺達は、ある場所に訪れていた。

 

 

ラヴィニア「────ここは······」

 

ヴァーリ「······ここは、サングィネムを一望出来るんだ」

 

ロープウェイで麓から20分で頂上まで上がることが出来る小さな山。この山はほとんど人が来ないため、俺達を除いて周囲に人はいない。

 

 

燃え上がる空が世界を照らす。宙を浮遊する建造物群が夕焼けの炎に照らされて、不思議な───綺麗な景色を作り出していた。

 

ヴァーリ「この山は、展望台を老朽化で取り壊して以降人が来なくなってね。でも、この景色は変わらなかった。所謂穴場なんだ」

 

 

独りよがり、かも、しれないが。俺はこの景色をラヴィニアに見て欲しかった。昔、母さんに教えてもらった───あの時はまだ展望台があったが───この景色は、一種の俺の救いでもあった。ゴミのような世界しか知らなかった俺に、この景色が、世界の広さを教えてくれた。

 

ヴァーリ「ラヴィニア、俺に────ッ!!」

 

 お前のことを────そう、言いかけて口を噤んだ。

 

 

 

 

ラヴィニア「······ヴァーくん、もう遅いのです。私には、もう、ヴァーくんに好きと言うことも、ヴァーくんの想いに応えることも出来ないのです」

 

 彼女は、泣いていた────。

 

 

 

ヴァーリ「ラヴィ、ニ、ア? どうし────そういうことか」

 

何故、彼女が泣いているのか────?

 

 

  その答えはすぐにわかった。

 

 

ヴァーリ「······しかし、これはどういうことだ。答えろ────

 

 

 

────幾瀬鳶雄ッ!!」

 

 

 

鳶雄「······すまないヴァーリ。抵抗は、しないでくれ。お前を殺したくはない」

 

 

刃狗(スラッシュ・ドッグ)』のリーダー、幾瀬(いくせ)鳶雄(とびお)が、俺の頭に拳銃を突き付けていた。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

第137話 俺の愛した(ひと)/私の愛した(ひと)

 

 

 

────ヴァーリ、敵の手に墜ちる。

 

 



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第138話 消えない戦火


久しぶりに一話で6000文字書き込んでみました。情報量めっっっっさ少ないんですけどね。


閃ハサ映画化やったぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
(小説読んでない並感)

来年再来年は本格的にガンダムの年ですねぇ······お金足りるのかな?




 

ギャスパーside

 

 

 

────全く、随分とまた無茶したねぇ。

 

 

夢······とも、術中とも分からないような感触の中、聞き知った声が響く。

 

 

ギャスパー『······まぁ』

 

偶発的に僕に宿った神格────魔神バロールは溜息を吐き、不定形の闇(本来の姿)(から)少女の姿に変える。

 

バロール『不機嫌だね? まぁそんなこともあるか。

 

······君は、ロキとの戦闘の最中、意識を失った。比企谷八幡に回収された君は、大慌ての彼に病院に送られて、今はICUのド真ん中さ。隣で黒歌が寝てるけど、まぁそれはいいか』

 

ギャスパー『全然良くない』

 

何処がいいんだ······黒歌さんも、少なくともICUに放り込まれるほどの重傷を負ったということなのに。

 

バロール『あれ、呼び捨てはやめたのか。黒歌本人から頼まれたのに?』

 

時々発揮される壮絶な無遠慮が、このタイミングで発動したらしい。何とはなしに思っただけで、ここまで突いてくるなんて。

 

ギャスパー『別に······』

 

ただ、さん付けが癖になっただけで······

 

バロール『ウソだね。君は揺らいでいる。ヘルのことを思い出して、そっちに意識が戻ろうとして······そして、自分でどうしたらいいのか分からない』

 

···········よく、ご存知で。僕より僕を知ってるみたいで複雑ですよ。

 

ギャスパー『······僕を弄りに来たなら、早く解放してくださいよ。さっきまでロンゴミニアドと微塵も楽しくない話をしたばっかりなのに、やっと起きれると思ったのにこれだ。僕、趣味悪い奴に好かれたいわけじゃないんですよ』

 

······今は、変わり者の人達を相手するほどの余裕がないんだ。心が限界で······

 

 

バロール『それは悪かった。ロキと再戦後の君の心境の変化を、様子見したかっただけなんだ。ごめんごめん。もう僕の用は済んだよ』

 

全く······勘弁して欲しい。

 

 

やっとこさ解放される────そう思った矢先、バロールさんは最後に一言だけ付け加えた。

 

 

バロール『まぁ一言だけ言うなら───思春期の君には、悩み抜け、と言いたかったんだけど。君は、早く決意を、覚悟を固めた方がいい。彼女、モテるだろう? フラっと現れた何処ぞの馬の骨に取られるかもよ?』

 

 

······なんで、起きる直前にそんなこと言うかな······

 

 

一言くらいは言い返してやろうとしたが、引き上げられる(意識が覚醒する)感覚に身を任せることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「─────うぁ」

 

情けない声が出る。

 

 

────今、何時だろ。

 

 

 

クルル「ギャスパー······!! 良かった······!!

 

 

 

······ごめんなさい」

 

 

頭がボーッとしてふわふわした中、母に抱き締められた。

 

 

ギャスパー「────」

 

 

─────·······ッ!! 黒歌さんも、ここにいたのか······

 

僕が目を覚ます傍ら、隣のベッドでは黒歌さんがまだ寝ていた。今は、目に見える所には傷は見当たらないけど、戦場でどうだったかは分からない。

 

 

ギャスパー「おかあ、さん······」

 

クルル「!! ごめんギャスパー、どこか痛んだ?」

 

お母様が、慌てて手を退ける。

 

ギャスパー「あ······いや、どのくらい寝てたのかな、って」

 

一瞬、()()()()()()()()()()()()()()()、適当な質問をした。

 

ダメだ、まだ頭がボーッとする······なのに、この前やったゲームとかは思い出すし、どうでもいいことには働くもんだから······

 

クルル「4日。心配したのよ。あなたも黒歌も、一昨日までICUにいて、一向に目覚めないから······って、連れてった私が言っても、意味ないか」

 

お母様は、苦笑いしながら言う。

 

ギャスパー「そんなこと、ない、よ······」

 

 

そんなこと、ない。僕が、違うって、いってあげないと。あれ、また眠く······

 

 

ギャスパー「······おかあ、さん」

 

クルル「なに、どうしたの?」

 

喉から······いや、本音から零れたものにお母様が問い返してきたが、視界がボヤけて、意識がグラつき始める。

 

ギャスパー「おや、す、み······」

 

 

そのまま()()()()にもたれかかった僕は、再び意識の底に沈んでいった。

────今度は、()を見なくてよさそうだった。

 

 

クルル「······おやすみ、ギャスパー。眠れるまで、()()()()()一緒にいるから」

 

 

 

あぁ······あたたかい。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

ギャスパーの寝息が安定し始めたところで、ギャスパーをベッドに寝かせて布団を掛け直す。

 

この子は、パッと見周りの子と大差なく普通の生活を送っているように見えるけども。この歳の子が3年間の軟禁生活を独りで送ったことが、癒えぬ傷を植え付ける程の辛苦を与えたことは、一目で分かった。

 

年齢よりも幼いこの子をこんな風に変えてしまった責任を取りたくとも、トラウマは抱える本人が乗り越えるより外にない。私が出来るのは、こうして抱き締めて、眠るまで一緒にいることぐらい······か。なんて情けない。

 

 

────そんな子を戦場に出させて······私は、何をしているんだろう。

 

 

こんな────私も、今までの分を取り返すためにももっと戦わないと。八幡は、私にも戦場に出て欲しくないみたいだけど、こちとら守らっぱなしじゃいられないのよ。

 

 

クルル「ギャスパー······ごめんね」

 

と、呟いた時、不意に後ろから声をかけられた。

 

······全く、起きてたのなら、ギャスパーにも一言くらいは声かけてあげなさい。

 

黒歌「───何の話? ふわぁ···」

 

黒歌は、欠伸をしながら起き上がると、目を擦りながら私に言う。

 

クルル「黒歌、起きてたの?」

 

黒歌「たった今、ね。あんたがギャスパーを寝かせたところぐらいで」

 

体の方は······見た感じ大丈夫ね。『氣』も安定してるし。

 

クルル「体、大丈夫?」

 

黒歌「う〜ん······まぁ。凄いダルいけど。八幡がくれたアレ、よく効いてるんだと思う。てか、私どんくらい寝てたの?」

 

黒歌は伸びをして、欠伸を噛み殺しながら言う。

 

クルル「ギャスパーにも同じこと聞かれたけど、4日よ」

 

黒歌の額に手を伸ばす。熱はない。

 

黒歌「ふ、くぁ〜······もう起きたし、体大丈夫だし、こんなとこ早く出たいわ」

 

クルル「ちょっと、まだ寝てなきゃダメでしょうが」

 

ベッドから降りようとした黒歌を慌てて止める。体動かしてた方が気が楽な時もあるけど、まだ寝ててくれないと困る。主に、私がヒヤヒヤするから。

 

黒歌「いやいや。やめてよ、私も子どもじゃないんだし」

 

クルル「何言ってんの。私から見たら、アンタもまだまだ子どもよ」

 

全く、まだ24の小娘が何を言うか。

 

黒歌「じゃあ何よ、オバサンとでも呼びゃいいの?」

 

オバ······全く。そういう発想が子どもじゃない。お茶目とかじゃなくて、単なるガキの発想じゃないのそれ。

 

クルル「そういうとこが子どもなのよアンタは。好きに呼んだら? ······ったく、いいから寝てて。仕事なら退院して(ここ出て)からいくらでもやるから」

 

大人ぶった子どもね、黒歌······まぁ、私からしたらそういうところが微笑ましくて可愛いところでもあるわけだけど。

 

黒歌「オバサーン、私まだ子どもですけどー」

 

クルル「さっき、自分で子どもじゃないって言ったじゃないの。大人なら、自分で仕事してちょうだい」

 

黒歌を寝かせて、布団を掛け直す。

 

黒歌「······何。私、クルルからは3歳児に見えてんの?」

 

クルル「変わんないわよ、3歳だろうが20歳だろうが······私達は、あなた達に頼られたいの。子ども達にくらい、かっこいいって言われたいのよ」

 

黒歌の首に触れて、外から気を流す。

 

黒歌「······ちょっと、仙術で寝かせようとしないで······」

 

微睡みに落ちていく黒歌の頭をそっと撫でる。

 

クルル「無理にでも寝なさい。今は、英気養う時よ。黒歌、おやすみ」

 

 

寝息を立てるギャスパーと黒歌の額にキスを落として、私は病室を出た。

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

 

 

闘戦勝仏『────お前さん、何でそんなに強くなりたい?』

 

八幡『俺は─────』

 

 

おれは、あの時何と答えたんだっけ······?

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

「────ん。────んくん」

 

 

誰かが呼ぶ声がする。あれ、俺は仕事してたんじゃ······

 

 

八幡「ふ、うわ······」

 

欠伸しながら、伸びをすると、背骨からゴキっという音が聞こえた。

 

······態々仕事中の俺を起こすなんて、クルルが戻って来たのか······?

 

ギャスパーも黒歌もまだ病院だし、ヴァーリはラヴィニアとデートしに出かけたし······他のやつらにも、休み取らせたはず······

 

肝心のクルルは、禁術で自分の再生力を限界まで底上げして、自分の負傷を強引に治していた。

 

子ども達が寝ているのに、自分まで寝ているわけにはいかないし面目丸潰れになると、半日で超強引に······担当医をほぼ脅すに等しい形で退院した。ただ、そんなやつが退院してもすぐに日常生活を送れるようになるわけがないので、今日は、今度は俺が脅す形で病院に行かせた。

 

そのままもう一度入院してくれた方が安心だが、あいつのことだし、絶対帰ってくるよ······

だが、クルルは多分ギャスパーと黒歌が寝てる病室に行ってるだろうし、変なことは起きない筈だ。

 

 

 

八幡「ふわぁ······」

 

あ〜、ダメだ。まだ眠い。確か、これで二徹目だっけ?

 

と、欠伸を噛み殺しながら声の方に顔を向けると、俺を起こしたのはクルルではなく······

 

「やっと起きたか。八幡君、こんな所で寝ていては体を冷やすだろう。少し休みなさい」

 

 

八幡「······すんません。おはようございます、お義母さん」

 

「今は夕方だ。もう少しで日が暮れる」

 

 

俺を起こしたのは、お義母さん────かつては666(トライヘキサ)という名前で呼ばれていた、クルルによく似た(クルルが似たんだろうが)女性だった。

 

 

クリフォト強襲の翌日。保護したお義母さん(コマチ)の魂を、本来の肉体に戻して、改めて保護させていただいた。

 

因みに、女神としか呼ばれたことがなかったと聞いていたが、人間の世界に降りる時はミーシュ・ラライアと名乗っていたらしく、お義母さん呼びに慣れないならそう呼んでくれ、と言われた。

 

 

八幡「······あれ、もう5時か。寝すぎたな」

 

帰還して以降、各勢力への事情説明に奪還した捕虜の身分確認と順次移送。回収した宝物や情報の精査など、やることがあまりに山積みで、寝ている暇がなかった。

 

 

各勢力への事情説明だけは、昨日各勢力の要神(ようじん)達を集めて一先ず終わらせたが······

 

 

ミーシュ「······配下の者は休ませておいて、自分だけ仕事か」

 

八幡「クリフォトの奇襲だってかなり前倒しでやったですし、休みくらいあげてもいいでしょ」

 

リゼヴィムのゴミクソが宣戦布告しなかったら、12月21日に総力あげて叩き潰すつもりだったんだが。実際は3週間前倒しの一日だ。

 

ミーシュ「君が根を詰めるのは別の話だと思うよ。まぁ、体を壊さないようにほどほど······と言っても説得力はないか」

 

自嘲するお義母さんをどう宥めようか、という時、側に置いてあったスマホからメールの着信音が鳴る。

 

断りを入れてから届いたメールを見ると、ヴァーリからのものだった。

 

メール······? あいつメール使わないクセに、珍しいな。

 

 

 

手前勝手で非常に申し訳ないのだが、さ

っきスラッシュドッグとラヴィニアに夕

食に招待されたので、帰りは遅くなる。

俺は、夕食は要らないから作らなくてい

いぞ。とうさん、悪いな。

 

 

 

なんか、改行な不自然な気がするが、にしてもあいつ······態々メー、ル、なん、て······

 

 

慌てて国内全域まで感知網を広げるが、ヴァーリの気配もラヴィニアの気配も引っかからなかった。あいつ、サングィネムからは出ないって言ってたし、出るならそれこそ通話で言う筈······

 

 

───おい、ヴァーリ。冗談、だろ······?

 

八幡「────マジ、かよ」

 

ミーシュ「······? どうかしたのか?」

 

 

ヴァーリ────お前今、何処にいる······!?

 

 

一瞬飛びかけた意識を繋ぎ止めて、眠気の吹き飛んだ頭を回す。

 

······こんな、クルルになんて言えばいい······!?

 

 

八幡「クソっ!!」

 

ヴァーリのケータイに電話を掛けたが、一向に出ない。『おかけになった電話番号は────』と音声が流れて、そのまま切れた。

魔法は······!! ────······クソ、駄目か!!

 

ミーシュ「······? 八幡君、いったいどうした?」

 

 

 

と、部屋の扉を開けて、束が入って来た。何の用───

 

八幡「───なんだ束!!」

 

束「······? いや、別に急ぎじゃないからあとにするよ?」

 

束は、お義母さんを見て一瞬顔を歪めるが、すぐに俺に視線を戻した。

 

······不幸中の幸いというかなんというか。

 

八幡「束、ヴァーリに繋げ。早く!!」

 

束「え、どうしたのはーくん。それはいいとしてなんで────あれ」

 

疑問を俺に投げかけながらも、束は亜空間から出したノーパソからヴァーリのケータイに繋ごうとしたが一向に繋がらず、魔法でも繋がらなかった。

 

マズい······!! あいつ、本当に······!!

 

束「どーしたんだろヴァーくんは······って、はーくん?」

 

八幡「束!! 休暇中の奴ら全員呼び戻せ!!」

 

束に叫びながら、アプリの電話を開く。

 

クソ、早く病院にいるクルルと孤児院にいるティアに連絡を·······豚の帽子亭にも、早く連絡しねぇと。

 

 

······ったく、最悪だな。

 

敵はどいつだ。このタイミング、クリフォトの残存部隊······? それとも、ハーデスかゼウスの手の者か·······? 或いはエレシュキガルか?

 

 

とにかく、今は国内の警戒レベルを引き上げて、市民の安全の確保を······

 

 

ミーシュ「······八幡君、どうしたというんだ」

 

突然の慌て様に流石に疑問を隠しきれないお義母さんが尋ねてくる。束もそれに頷いた。

 

束「そうだよはーくん。()()()()()()()しょうがないけどさ、何があったのさ」

 

 

 

八幡「────敵だ。ヴァーリが、攫われた!!」

 

束「は? ウソ······でしょ?」

 

八幡「冗談で言うわけねぇだろうが!!」

 

 

こんな時に!! 全く、誰かが大成功とか書かれたプラカードでも持ってきてくれりゃ気は楽なんだけどな!!

 

 

 

ヴァーリ、すぐに探し出してやっから、無事でいてくれ······!!

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ヴァーリ「······全く。これでは俺も、ざまあないな」

 

 



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第139話 ピンチという舞台で踊る


1ヶ月以上も空けてごめんなさいぃぃぃぃ。でも1mmの間違いもなく今年最後の更新ですぅぅぅ。

始皇帝の運用が思いの外難しいのがいけない。

なんでグッちゃんはあんな可愛いんだ······朕様は来たんだからグッちゃんもウチのカルデア来とくれよ。



 

 

ヴァーリside

 

 

 

鳶雄『────頼む、ヴァーリ。従ってくれ······』

 

 

幾瀬鳶雄が俺に銃を突き付けてから、体内時計でだいたい3時間が経った。

 

 

あの後、魔術的な細工がなされた枷が四肢に取り付けられた俺は、鳶雄とラヴィニアに、暗い建築物に連行された。一瞬、アザゼルが父さんに対して、何らかの裏取引の材料に使うために捕縛させた、のかと思ったが違った。

 

サングィネムから人間界のどこか────一瞬だけ見えた風景や周囲の人間から、アフリカのどの国かのスラム街であろうことは分かった。だがそれだけだ。せめて地元民の言語が分かれば、範囲の絞りようもあるのだが。

そしてその一角にあった廃墟────に偽装した建築物に、俺は連行された。

 

 

タイミングからして、クリフォトの残党である可能性は······いや、流石に早計だな。父さんと母さんはあらゆる勢力(のタカ派)から反感を買っているし、強襲作戦の直後で少なからず疲弊した瞬間を狙うのは必然だ。しかもウチは少数が基本だからな。

 

それに、クリフォトの生き残りと偽装して攻撃することも普通に可能だろう。俺が敵ならそうする。リゼヴィムの名前を使うのは癇に障るがな。

 

 

 

そして、今の俺はと言うと······

 

 

ヴァーリ「······はぁ。全く、これでは俺も、ざまあないな」

 

「······ヴァーリは、随分と余裕だね」

 

「余裕だな、ルシドラ先生は。日夜捕まった時の練習でもしてんのか?」

 

ヴァーリ「これでも焦ってはいるさ。俺には一切情報がないんだからな」

 

今現在俺をジト目で見ている東城(とうじょう)紗枝(さえ)鮫島(さめじま)綱生(こうき)皆川(みながわ)夏梅(なつめ)────鳶雄とラヴィニアを除く『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』の構成員と共に、オリハルコン製の檻に監禁されていた。無論、ただの硬い檻ではないだろう。ここにいる者全員が、神器(セイクリッド・ギア)及びそれに類するものの所有者だからな。

 

·······4人も一緒くたに放り込んでいるあたり、敵は人質の扱い方を弁えていないようだが。

 

 

 

······まぁ、流石に俺も焦っている。何せ、アルビオン───白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を抜き取られているからな。

────また、綱生も夏梅も紗枝も、俺と同じく神器及びそれに類するものを奪われている。

 

 

綱生「······まさか、俺達が揃って捕まるなんてな。信じられるか? あの金髪女、鳶雄の禁手(バランス・ブレイカー)で出来たフィールドを強引に弾き飛ばしたんだぜ?」

 

夏梅「おまけに、パンチ一発でラヴィニアの氷姬を魔法ごと破壊した、のよ」

 

紗枝「グリフォン達も、吹き飛ばされたからね······」

 

······黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)禁手(バランス・ブレイカー)永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)の本体をラヴィニアの魔法ごと破壊する攻撃力、か。

 

······恐ろしいな。喩え2年前までは───『虚蟬事件』以前はただの高校生だったのだとしても、刃狗(スラッシュ・ドッグ)は総督アザゼル直下の特務部隊だ。それを、聞く限りでは単独で突破するなどと。

 

 

······そんな存在が仕掛けてきているなら、多少は情報があるはず、だが······容姿は、金髪で(3人が見たところ)赤い瞳······パッと思い浮かんだのはギャスパーとヴァレリー、それに母さんだが、禍の団に参加した吸血鬼の可能性もある。そんな吸血鬼なら、情報がない筈が······

 

······待て。何で今、俺は母さんを思い浮かべた? 吸血鬼でなくとも赤い瞳だけなら人外には探せばいくらでも······

 

 

ともかく、今は脱出及び俺達の神器の奪還を最優先だな。次点で敵に分析された俺達のデータの抹消とこの場所の特定。壊滅させられたらそれに越したことはないが、恐らく無理、だろうな。父さん達が俺達の魔力の痕跡を追ってここを特定出来たとて、敵もそこまで馬鹿じゃないだろう。ここを放棄して逃げられるのが関の山だな。

 

 

 

────今は、耐えて、情報を集めつつ機会を見出すに専念しよう。俺が────あの人の息子であるこの俺が、ただ捕虜として救出されるわけにはいかない。これはチャンスだ。上手くいけば、ここ以外の残党の隠れ家も突き止められる。

 

 

 

リゼヴィムの人形風情が、俺を御しきれると思うなよ。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

桃花に要請して国内の警戒レベルを引き上げさせ、警備隊の人員を大幅に増加したあと。お義母さんを部屋に帰し、俺は休暇に出ていたやつら全員を呼び戻した。

 

ただ、退院したばかりのギャスパーと黒歌には、ヴァレリーとカルナと一緒に部屋から出ないように言い付けている。

クロウと三日月は、別の場所で警戒状態を維持したまま待機。病み上がりのクロウと家族計画中の三日月を呼び戻すのは気が引けたが、仕方がない。

 

クルルは、お義母さんの()()()()に行った。

 

 

勝永「────そうですか。ヴァーリが······」

 

勝永は考え込みながら続ける。

 

勝永「とにかく、今はヴァーリの消息を追うしかありませんか」

 

八幡「ああ、それについては······」

 

勝永「この場にいない、美猴ですね?」

 

八幡「あぁ」

 

既に、最初に戻ってきた美猴に要請していた。あいつは、足が軽い(機動力がある)しな。何かあっても逃げられる。

 

───と、今まで黙っていた束が口を開いた。

 

束「······はーくん。やっぱりさ、666(トライヘキサ)が裏で敵の奴等と繋がってるんじゃないの? 死んでも消滅するのか分からないし、この前のあの場で保護するのが妥当だとしてもさ」

 

腕を組んだまま黙って俺の話を聞いていた束は、顔を顰めながら言う。俺が666を保護す(連れ帰)るのに反対していた束からしたら、その結論に至るのは必然とも言える。先の攻略作戦でも、渋々俺が連れ帰るのに頷いただけだった。

 

当然、俺だってお義母さん(ミーシュ・ラライア)を殺すことも考えた。だが、旧約聖書に終末の怪物(バケモノ)とまで記された彼女が殺されたくらいで消滅するとも思えない。俺個人としても、一時妹の姿をしていた女性を殺すのに躊躇ってしまったわけだが······それすらも、リゼヴィムの掌の上であるだろうことに苛立ちを覚える。

 

聖書全てを信じるわけではないが、彼女曰く、自分は神が用意した世界に対する破壊工作の準備の一つ。下手に殺そうものなら何が起こるのかも分からないし、失敗して敵対されようものなら俺達は一環の終わりだ。オーフィスと全面的に協力しても滅ぼせるか怪しいからな。

 

なので、あまり気が進むやり方ではなかったが、クルルをダシにしてこちらに抱き込んだ。アイツが今後落ち着いた時なんて言うかは、正直予想出来ない。

 

 

束「───束さんには、あの女をここに置いておくのは危険すぎるよ。単騎でこっちの戦力を上回りかねないバケモノには違いないけどさ。戦力が上回る敵を潰す方法なんていくらでもあるんだし、今からでも······」

 

まぁ、気持ちは痛いほど分かる。束からしてみれば、クルルの母親でしかない他所の危険女(クソアマ)だ。だが、これは政治の問題だ。俺達の利害だけを追求していては、あらぬ方向に敵を作る。

今までは対テロリズムとしてある程度他所の勢力から便宜を引き出せていたが、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの死亡を確認して、クリフォトの瓦解が認められた今、そんなに簡単には動けない。動く訳にはいかない。

 

八幡「束、流石に無理だ。俺達の手に余るのなら、他の勢力でも手に余る。ウチは、軍事力だけは()()()()()()()()しな、そんなん他所だって抱えたくはないだろ。ウチに置いて批判の材料にする方が遥かにいい」

 

まぁ、俺達がこんな不毛な言い争いをしていることぐらい、お義母さんも想定出来ているだろう。その上でウチに大人しく居座っている。あの人にはどこにも行き場所なんてないし。俺としては、宙ぶらりんの今の状況を維持するのが最善なんだが······

 

八幡「······とにかく、今はヴァーリの捜索だ。敵の狙いは十中八九ウチの何かだからな。ヴァーリは人質だろう」

 

そこまで言って、一つ息を吐いた。

 

人質······だから、少なくとも今はまだアイツは生きている筈だ。だが、アイツが自力で脱出出来ない何かがあると見て考えた方がいいな。

 

······そうだ。アイツは今日、ラヴィニアとデートだった。失念していた。ラヴィニアがヴァーリと一緒にいたなら、ラヴィニアも······巻き込まれたろうな。ラヴィニアもあの歳じゃ考えられないほど異常な強さなのは違いないが、ヴァーリと比べても弱点は多い。そうなると、『刃狗』チームそのものが巻き込まれた可能性もあるな······

 

 

勝永「······ラヴィニア・レー二は、本当に休暇でヴァーリを訪れたのでしょうか?」

 

俺の思考が深みに嵌り始めた時、唐突に勝永が呟いた。

 

勝永「美猴の調査が終わらなければなんとも言えませんが、こんな情勢で二重兼業の彼女に休暇が取れるとは考え難いでしょう? どちらの組織とも別の意図でヴァーリの拉致、ないしはそれに加担したと考えられる」

 

八幡「······あぁ。確かにな」

 

有り得るな。無意識にその可能性(選択肢)を外していた。よくウチに遊びに来てはいたが、そもそもラヴィニアはウチの人間じゃない。組織の命令なら、余程のことがない限りアイツはやるだろう。出来るだろう。ラヴィニアはそれが出来る奴で、ここはそういう世界だ。

 

 

と、そこで執務室のドアが開いた。ノックもナシに戻ってきたのは美猴。そして、何故か人間態のカマクラを連れていた。

 

美猴「戻ったぜぃ」

 

八幡「お疲れ美猴。なんでカマクラと?」

 

美猴は後ろにいるカマクラを親指で差しながら言った。

 

美猴「ヴァーリの魔力を最後に感知した場所から引き返してすぐの所で偶々会ったんだよ。()()()()()()()()()()()から連れて来たんだよ」

 

そこまで言うと、美猴は溜息を吐いた。

 

八幡「なるほどな。美猴、助かった。カマクラ、こんなタイミングで頼んで悪かった」

 

俺が言うと、カマクラは猫の姿に戻って俺に飛び付いて来た。俺が両手を前に出したら、分かっていたかのように······分かっていたんだろうがそこに収まった。

 

八幡「頼んだやつは?」

 

カマクラは目だけ向けて肯定の意思を伝えると、丸まって眠り出した。呑気なヤツめ。

 

八幡「お疲れさん」

 

俺はカマクラから美猴に視線を戻す。

 

八幡「······美猴。お前の報告も聞きたいんだが、その前に、ドアの陰に隠れてる(ババァ)について聞いとこうか」

 

美猴「······だろうな」

 

美猴が言うのと同時に、魔法で作られた氷柱がドアをぶち破って俺の眉間目掛けて飛んで来た。簡単な術式で罠もないと分かったので、術式を狂わせ矛盾させて、インパクトの直前で崩壊させた。

 

束に敵意の視線を送られながら、女が出てくる。13世紀のイングランドで見られた貴族の纏うドレスを着た女が笑みを浮かべて言う。

 

 

「······全く。人殺しを覚えて以降どんどん可愛げがなくなったな、八幡(バカ弟子)

 

束が腕を組んで一瞥した後、壁に寄り掛かって関わりたくないと目を閉じる。

 

八幡「そうですか。お帰りなら貴女が今入ったドアを通って左に行けば玄関です。もう歳なんですから無理は体に障りますよ?」

 

「嘗ては私に師事しておきながら随分な物言いだな、そんなに私が嫌か」

 

八幡「えぇ。この情勢下でアポもなくノコノコやってきた貴女が苦手じゃない(に敵意を抱かない)わけないでしょう。念の為無力化させてもらいましたよ」

 

部屋を見渡してから俺に視線を戻して言う。

 

「まぁ、当然か」

 

と、勝永が俺の耳に口を寄せた。

 

勝永「······()()。よろしいので?」

 

聞こえないように小さい声で返す。

 

八幡「仕方ないだろ。玄関前で美猴に話し掛けたと思ったら、脅してきやがった。お前も遠見で見てたんだろ?」

 

さっき、屋敷に戻ってきた美猴だったが、玄関前で突如やって来たこのババァに脅された。カマクラもいたし、美猴に断るという選択肢を取らせないためだろうというのは遠見で見ていた俺達にもすぐに分かった。

 

勝永にそれだけ言うと、視線を戻した。

 

八幡「······貴女含めてもたった2人しかいないのに、『影の国(貴女)』は俺達と敵対する、という腹積もりと見ても?」

 

 

 

────スカアハ。目の前のパッと見30代の女が、影の国の女王であり俺の嘗ての師だった。

 

 

スカアハ「はぁ······そんなわけなかろう、私はただの使いだよ。ルーのな。ホント、可愛げのないやつだな」

 

 

 






この作品のスカアハは、紫タイツでなければおっぺらすっちょんコーポレーションでもありません。ご注意を。



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第140話 ツケ


あけおめことよろッ!!(無礼)

ゆっくりでも更新は続けるので、目に止まったら楽しんで頂けたら嬉しいでっす。


師匠(スカアハ)にぶち破られたドアを魔法で直して、ソファに掛けるように促した。これまた魔法で来客用のポッドに紅茶を淹れて出す。カマクラは、俺の腿の上で寝ている。起きない時は起きないので放っておく。温かいのもある。

 

 

スカアハ「·····お前、そんなに面倒くさがりだったとな」

 

八幡「アポなしで来たくせに一丁前に来客面しないでください」

 

ちょっと人間的に面倒な部類に入る女だ。ただ、俺とクルルはこの人に弟子入りしてるし、この人の旦那には散々世話になったし、一時期ヴァーリの外部コーチに来てもらったりと山のように恩がある(借りを作ってしまった)

美猴もそれを知ってるから屋敷に入れたんだろう。でなかったら武力で追い返している筈だ。

 

 

束が俺の隣に座るのを見ながら寝ているカマクラを膝に降ろして、視線を戻す。

 

八幡「······それで、突然どうしたんです。ルーの使い、らしいですが」

 

ルーの使い、とは言うもののアポなしで来られては堪らん。そんだけ急を要することなのだろうが。

 

スカアハ「そう急くな。落ち着け」

 

スカアハは紅茶に口を付けて一息吐く。そして、手元に展開した小型の魔法陣から出した書類の束を渡してきた。

 

八幡「これは?」

 

スカアハ「ここ1ヶ月でケルト神話の領域で確認された、行方不明者の日毎の増減と、パーソナルのデータだ」

 

八幡「ふむ······」

 

横から覗き込む束にも見えるように調整しながらパラパラと捲る。このデジタルが当たり前の時代になっても、紙の信頼性は依然として高い。情報の流出を防ぐなら紙の方が処分が容易だからな。データは一度情報が流出すると、もうそれで手遅れ。

 

 

で、スカアハが持ってきたリストだが ······多いな。クリフォトの拠点襲撃で保護した者も混ざってはいたが、半分もいない。クリフォトを襲撃する前に、奴らがどこぞに連れ出したのか、また別の組織が動いているのか。

なんにせよ、リゼヴィムはもう死んでいる。ユーグリッド・ルキフグスに問い質すしかないか。散り散りになったであろう残党は残っている筈だし、クリフォトが秘匿していた拠点も見つかっていないものもあろう。四鎌童子は拠点襲撃時に確認されていないから、どこぞに潜伏しているだろうし。

 

 

八幡「お前どう思う?」

 

横にいる束にも意見を乞う。俺の独断で出来る領域をとっくに超越している。あとで、全員集めて話し合わないとな······それも、ヴァーリが帰って来ないことには何ともならない。なんとも情けない話だが、アイツは俺にない視点を持っている。出来るだけ多くの意見を聞いておきたい。

 

束「う~ん······束さんの今の推測で言うなら、クリフォト及びその残党だけじゃないだろーね。クリフォト()()がこっちに攻めてくるとか変だし」

 

それもそうか······はぁ。今まで裏で散々にやってきたからな。ツケが回ってきた、って言えばそれまでだが。ツケごと消し飛ばしてぇ······俺が好き好んで作ったツケじゃねえってのに。

 

まぁ、俺達が標的と確定したわけじゃない。もっと情報が欲しい。

 

 

八幡「······情報提供感謝します。わざわざご足労いただきありがとうございました」

 

書類を置いてスカアハに視線を戻す。

 

スカアハ「まぁ待て待て。まだこっちの用事が終わっていないんだ」

 

八幡「と、言うと?」

 

スカアハ「まだいくつかあってな」

 

俺が尋ねかえすと、スカアハは指を鳴らした。と、テーブルの上に展開された魔法陣から、ゴトンという音を鳴らしながら牛革に包まれた細長い何かが落ちてきた。

 

八幡「······一応聞きますが、これは?」

 

全く、何てものを持ってきてくれたんだか。影の国は、書類上は少なくともケルト神話の管轄だが、許可取ったんだろうか。

 

スカアハ「クルージーンだ」

 

八幡「やっぱりか」

 

ホント、なんてものを持ってきてくれたんだこの女。第一、アンタの旦那の剣だろうが。

 

スカアハが、革の袋から······鞘に収められた剣を取り出して言う。見た感じ、一般的な日本刀よりも刀身が短いな。前に見せてもらったときは、かなりの長さだったんだが。

 

スカアハ「ああ安心しろ。これは私の旦那のものではないよ」

 

ならいいんだが······じゃあ、クルージーンと同型の剣ってだけか。ゲイボルグだって何本もあるわけだし、クルージーンが何振りあってもおかしくない······のか?

 

スカアハが少しだけ刀身を見せてくれたが、刀身は赤かった。まるでゲイボルグのような深紅だ、と感じた。

 

スカアハ「わざわざボルグ・マックベインに依頼してな。我が居城の倉庫に、大昔、献上された海獣───クリードの骨が少し残っていたから、いい機会だと思ってお前用に拵えさせた」

 

······2人揃って前につんのめりそうになった。色々突っ込みたいが、取り敢えず何故クリードの骨でクルージーンなんだ。ゲイボルグじゃダメなのか。

 

俺の表情を読んだのかは知らないが、スカアハは更に続けた。

 

スカアハ「先に言っておくが、金は要らん。私と旦那からのプレゼントだ。お前は基本的に使うのが剣だから、ゲイボルグではなくクルージーンにしておいたぞ」

 

八幡「そう、ですか······ならお言葉に甘えて」

 

この人、こんな優しかったか······? あぁ、(ウアタハ)ができて以降丸くなったんだっけか。

 

スカアハ「さて、クルルとヴァーリもいないようだし私は帰るよ」

 

スカアハはゆっくり立ち上がる。

 

八幡「あぁ、送ります」

 

玄関まで、と言おうとして手で制された。なんか妙に様になってんな。やっぱり、仕草一つ取っても女王としての威厳があるな······プライベートじゃ割かしないが。

 

スカアハは、扉に手を掛けて、不意にこちらに振り向いた。その表情はいつになく引き締まったものだった。

 

 

スカアハ「八幡。ルー経由で、妙な噂が入ってきている。ここのところオリュンポスと瀕死の筈のメソポタミアが妙にきな臭い。お前も上に立っているんだ、頭に入れておけ」

 

八幡「······ご忠告痛み入ります。あと、今度からはちゃんと連絡入れてから来てください」

 

スカアハ「······その時は、楽しみにしておくよ」

 

ふっと笑みをこぼして、師匠は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束「······思ったようなこと何もなかったね、はーくん」

 

束はソファに身を投げ出す。

 

八幡「······だな。クルージーン(仮)も、罠が仕掛けられてたワケじゃなかったしな。善意だけならありがたい」

 

後から脅されて渡すしかありませんでした、なんて言われることもないだろう。クルージーンとは大きさが違うし、本当にそうなったら録音したさっきの会話を流せばいい。

 

と、束が欠伸しながら言う。

 

束「······ねぇはーくん、カマクラ退けてよ」

 

八幡「なんで?」

 

尋ね返しつつも腿の上で丸くなってるカマクラを抱えると、今度は束が俺の腿に頭を預けてきた。

 

八幡「······はぁ」

 

束「いーじゃん。少しは甘えさせてよ。束さん頑張ったんだからさ」

 

束の目にはもう瞼が降りていた。

 

束「昔、()()()()を子どもみたいなもんだ、って言ってたでしょ。前も言ったけど嬉しかったんだよ? 人間の時、変なのに追っ掛け回されて、しかもそいつらは束さんよりも遥かに強くって······はーくんと勝永はまさしく救いだったよ」

 

束と一夏が人間の頃、2人のことをどこからか聞き付けた悪魔達に狙われていた。束は当時から科学者として飛び抜けた頭脳を持ち合わせていたが、自分の研究に熱を注ぐあまり脇が甘かった。何らかの方法で一夏の姉、織斑千冬から束の研究について聞き出したその悪魔達は、束の追跡を開始。

 

最初は一夏を人質に取ったらしいが、束は奇襲を掛けてなんとか一夏を救出。一夏が神器(セイクリッド・ギア)持ちだったため、尚のこと狙われた2人は逃亡生活を余儀なくされた。別件ではぐれ悪魔の調査をしていた俺と勝永と鉢合わせした。

 

八幡「······改めて言うなよ。俺が恥ずかしい。勝永なら、普通に喜ぶだろうがな」

 

束の頭をそっと撫でると、束はまた一つ欠伸をした。

 

束「少し寝るね。その後やるから······」

 

母親は関東大震災で被災し、後を追うように父親も88年前の済南での軍事衝突で戦死していた束達は、俺達に親を重ねたのかもしれない。

 

八幡「ありがとな。おやすみ、束」

 

束「······うん。おやすみ()()······」

 

間もなくして、腿の上からはすーすーという寝息が立ち始めた。

 

 

 

八幡「··········美猴」

 

束が寝息を立て始めて間もなく、俺が呼ぶとすぐに美猴が戻って来る。

 

美猴「あい、よ」

 

寝息を立てる束に気付き、美猴は声のボリュームを下げた。

 

八幡「聞かせてくれ」

 

美猴「起きてからじゃなくていいのかよ?」

 

束に、大き目のブランケットを掛けると、美猴は束を見て言った。

 

八幡「お前のことだし、書き起こしてるんだろ」

 

美猴はいつも飄々としているが、先祖譲りなのか抜け目はまるでない。機転が利く、と言ってもいい。でなきゃ単独任務を任せたりしない。

 

美猴「当たり前だぜぃ」

 

手元の魔法陣から封筒を出すと、俺に手渡した。この短時間でここまでか。相変わらず準備のいいやつだ。早速拝見させてもらおう。

 

 

 

······なるほどね。

 

美猴「八幡の名前使って『神の子を見張る者(グリゴリ)』に問い質してみたが、収穫ナシだったぜ。向こうは、そんな命令は出していない、どころかこちらからも連絡が繋がらないとよ」

 

美猴は呆れたように言う。そら堕天使側がそんな反応じゃ呆れるわな。

 

仮に堕天使だとしたら、アザゼルやシェムハザに、ヴァーリを拉致って何の利益があるのかがさっぱりだ。ヴァーリはアザゼル相手なら、そんなことされなくともデータぐらい提供する。ヴァーリから抜き取っても、使えるやつなんかいないしな······

 

八幡「······お前個人の見解は?」

 

実際に調査した美猴の目にはどう映っているのか、尋ねた。

 

美猴「少なくとも、アザゼルじゃねぇ。あの総督はバカじゃない、やるんならお粗末に証拠なんか残さないだろうねぃ。現時点じゃクリフォトの残党? が妥当だろ。更に別の可能性もあるけどよ」

 

八幡「なるほどな、分かった」

 

束の首と膝の下に腕を滑り込ませて抱え上げる。カマクラは、美猴と入れ替わりで部屋から出たのでもういない。場所はギャスパー達の所だろうな。

 

 

八幡「······美猴、追加で一個頼んでいいか」

 

美猴「いいぜ」

 

美猴の手元に魔法陣を展開し、そこから要請書を出した。その文面を見て、美猴は大きな溜息を吐いた。

 

美猴「······あぁ、そういうやつね」

 

八幡「頼めるか? 勝永にも頼むつもりだ。書いてあるように、お前と、勝永に護衛を頼みたい」

 

さて、束を部屋に連れてったら、俺も少し仮眠取って動き始めるか。

 

美猴「俺っちはいいけどよ。向こうが───本人や()()()()()()()()()()()()()()()、どうすんだよ」

 

八幡「それに関しては大丈夫だ。お前に渡したそれとは別で、法的効力を持つ礼状がある。あとで渡す。発行者は魔王(アジュカ)だ。問題ないだろ。行くのは少し先だけどな」

 

美猴は再び溜息を吐いた。悪いな、本当に。

 

美猴「そうかい。ギャスパーとの仲が拗れなきゃいいけどねぃ······流石に無理っぽいぜ?」

 

八幡「······そうだな」

 

 

 

────上級悪魔、リアス・グレモリーに猫趙、白音の引渡しを命ずる。

 

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 




本作の束ちゃんは、研究以外だと割りとマトモ······誰やねんって思っても仕方ないっすね。だって作者も書いてて思ったもん。



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第141話 宙ぶらりんのヴァーリ


12月一回しか投稿出来なかったお詫びの意を込めて、ちょっと頑張りました。が、多分、次の投稿は早くても月末になります。ごめんなさい。 





 

 

ヴァーリside

 

 

 

俺がラヴィニアと鳶雄に拉致されてから一夜が明けた。俺は、一緒の牢に放り込まれていた3人と、睡眠を取りながら交代で外の様子を観察していた。

 

 

そして、幾つか分かったことがある。

 

 

綱生「······あの女が、ここの戦闘員だってのは間違いなかったな」

 

単騎で刃狗チームを追い詰めたバケモノのような女は、確かにここの戦闘員だった。俺も綱生と一緒に自身の目で確認している。その時、何故かまた母さんを想起した。

 

ヴァーリ「そうだな。俺の神器(セイクリッド・ギア)は、あの女と一緒にいた······四鎌童子に抜き取られたわけだし」

 

3人と再開した直後、3人が言っていた《あの女》が、俺達の牢に来た。俺より前から入っていた夏梅達にとっては、戻って来たと言うのが正しいか。その女に同行していた四鎌童子も確認した。そして俺は『白龍皇の光翼(アルビオン)』を抜き取られた。

と言っても、その時は顔もオーラも完全に隠しており、後々再び現れた本人から告げられて分かったことだ。

 

······少なくとも今はアルビオンとお互いの位置を捕捉できているが、それもいつまでもつかは分からない。

 

 

夏梅「······ということは、ここはクリフォト或いはそれに協力する組織のアジト、って思っていい訳だよね」

 

夏梅が総括して、俺達3人は頷いた。尚、鳶雄とラヴィニアは別の場所にいるという。どういう待遇なのかは不明だ。まぁ······鳶雄の目的が紗枝の奪還で、その紗枝もここにいる以上、あまりいい扱いではないだろう。

 

 

極限の状態に追い込まれても、自分の状況を客観視する。束に嫌という程叩き込まれたが、こんなおかしな事態でも役立ってくれたようだ。

 

 

······そして今、最も疑問なのが、紗枝に宿った試作型人工独立具現型神器───ウツセミである『勇気を失った獅子(カウアドリ・レオ)』の存在だ。オズの魔法使い達が虚蟬(うつせみ)機関に情報提供という形で完成させた『三魔獣』の内の一体。これもまた抜き取られているが、今更データを取って何になるのか。

 

そもそも三魔獣に関しては、禍の団の前身の組織が、次元の狭間に国及び領域を持つオズの魔法使い経由で、データを獲得している。ヴァルブルガからもたらされた情報で、かなりのデータが禍の団に流れていたことが明らかになったからな。抜き取らずとも、使えなくするだけでいい筈だが。今更手に入れておきたいデータなどあるのか······?

 

 

夏梅「······ヴァーリも同じ意見?」

 

尋ねてきた夏梅に頷く。

 

ヴァーリ「あぁ······状況証拠から察するに、夏梅と同じ意見だ。まだ不鮮明な部分も多いが······」

 

そもそも、先日のクリフォト襲撃作戦の段階から不可解なことが多かった。参加した全員が口々に疑問を呈していたが······

 

何よりも、リゼヴィムをこの手で葬った筈なのに、俺の中の不安、というか違和感が消えない。リゼヴィムの死は確認されており、魂の消滅も確認されている。肉体は灰になって厳重封印された。それなのに、俺の不安は増大したと言ってもいい。

 

紗枝「不鮮明って、クリフォト襲撃作戦の時も含めて、で?」

 

東城紗枝は、察しがいいんだな。少なくとも3人の中で一番勘がいいらしい。

 

ヴァーリ「······あぁ。まず第一に────」

 

そこまで言った時、俺達のいる牢に接近する気配を感じて、4人全員が顔を上げた。

 

 

その気配の発生源は、刃狗を襲撃した《あの女》───

 

 

「······初めましてだな。お前がヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーか」

 

女は、座り込む俺に目線を合わせると、俺を見て怪し気に微笑んだ。得体の知れん女、危険度で言えば四鎌童子の上を行くだろう。

 

この女が来た目的は、俺、か······? 俺の読みでは、俺を都合よく手に入れられそうな戦力(カモ)として拉致ったのだと踏んでいたのだが······

 

······俺のファミリーネームはルシフェルだ、と言っても聞き入れないだろうから訂正するだけ無駄か。

 

 

ヴァーリ「······だったらどうする。というか、そろそろお前も名乗ったらどうだ。曹操ですら俺達との初戦闘の際に名乗ったんだぞ」

 

まぁ俺がその場にいたわけでも、『曹操』は本名でも何でもないただの偽名だが······まぁ捕虜に言われたからと言って、名乗ったりはしないだろう。

 

だが、女は立ち上がると、意外なことに、俺を見下ろして───名乗った。

 

 

「私はルエルト。ルエルト・グレイヴィー」

 

ヴァーリ「·······」

 

 

ルエルト・グレイヴィー······全く知らない名前だな。クリフォトのメインコンピュータにクラッキングした束とシフラからもたらされた情報に、そんな名前は無かった。保護した者達の中にも、当然そんな名前はない。偽名か。

 

 

······クソっ。それにしてもなんなんだろうか。さっきからこの女には妙な既視感と違和感を感じているのは。これはいったい······

クリフォト襲撃作戦とは関係ない違和感だ。敵意を抱けないというか、疑心が薄れていくというか······術をかけられた様子はない。それらに対する感知と対処くらいなら、両手両足に魔力封じの枷を嵌められた今の状態でもなんなく行使できる。

 

 

······何故、母さんの顔が脳裏にチラつくのだろうか。この既視感の正体が分かれば、違和感も消えるのか?

 

 

ルエルト「ヴァーリ・ルシファー。やっと話が出来るな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルエルト・グレイヴィーと名乗った女に牢から出され、拷問部屋のようなコンクリの部屋に、俺一人だけ連れて来られた。他の3人は女の興味の対象外だったらしい。

入室した瞬間から、僅かだが、部屋から血の匂いがする。掃除が行き届いていないのだろう。横を見れば、壁にはうっすらと血を拭き取ったような跡があった。

 

その部屋には、四鎌童子の姿もあった。ふむ······さしずめ、俺を拷問してサングィネムが隠している情報を吐き出させる腹積もりか。四鎌童子の目的が母さんの殺害だと言うことは知っている。バレないように、情報を吐かないように、先に痛覚を遮断し(切っ)ておくか。

 

 

ヴァーリ「······で、俺をここまで連れ出して何の用だ」

 

······電気椅子か。こんなものまで用意しているとはな。

 

ルエルト「まぁ座れ。私は、お前と話がしたかったんだ。待ちくたびれたよ」

 

ヴァーリ「そうか」

 

大人しく電気椅子に座って、一瞬だけ目だけ動かして部屋を見渡す。分かってはいたが何もないな。四鎌童子が監督官のつもりなのかは知らないが。

まぁ電流を感じたら激痛を感じている体で、呻き声でもあげればいいだろう。

 

 

ルエルト「······さて、私の目的から最初に説明しておこう」

 

四鎌童子が視線だけこちらに向けてきていた。

 

ルエルト・グレイヴィーと名乗ったこの女の目的、か。四鎌童子がいる以上、母さんに関することの可能性は高い。実は協力者なのかもしれない。

 

ルエルト「私の目的は、そこな四鎌童子と一応は同じくして、クルル・ツェペシの殺害だ」

 

······ノーリアクションを貫く。まぁ、予想の範疇だ。阻止するにも、情報が足りない。嘘の情報を喋る可能性も高い······というか本音を話す訳がないが、それならそれで一応の手掛かりにはなる。幼少期の経験もあって、それなりには嘘に敏感だと自負している。

 

ヴァーリ「······で、それを俺に話すのに何かメリットがあるのか? 俺がはいはい手伝いますとばかりに大手を振って、協力するとでも?」

本人でもなく、父さんやメリオダスでもなく、今や捕虜である俺に言う。俺を人質にして身柄の交換の要求でもするのだろうか。多分、父さんはその要求に応じないだろうな。

 

ルエルト「思わんさ。目的は一緒でも、四鎌童子とは理由が違う」

 

四鎌童子の目的は、本人が言うように、家族や故郷が焼き尽くされる原因となった666とその娘である母さんへの復讐であろう。八つ当たりに近いと思っているが、四鎌童子しか知らない何かがある可能性もある。だが、ルエルト・グレイヴィー(偽名の可能性高)は違うらしい。

 

 

そんな俺の訝しむ目を何処吹く風とばかりに受け流すルエルト・グレイヴィーは、言った。

 

 

 

ルエルト「────気に食わないからさ。()()()()()()()()()()、のうのうと日常を暮らしているあの女の存在が。

 

 

どうだ······単純だろう?」

 

 

 

────女の口は、今もまだ不気味に歪んでいた。

 

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 






ルエルト・グレイヴィー······彼女はいったい誰なんでしょうねー。既にお気付きの方もいるかもしれませんけど、ヒント言うと、四鎌童子の母親でも娘でもありません。クルルに実は姉妹がいた、ってわけでもありません。でも、ヴァーリの既視感と違和感は、思い過ごしではありません。

ここまで言えば、流石に分かるかな───。

分かったとしても、まかり間違っても感想に書いたりしないでくださいねっ。(この後書きまで読む人がいたらだけど)



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第142話 未だ曙は来ず。

クルルside

 

 

 

ヴァーリが消息を絶って30時間が経った。

 

 

時刻は夜の11時。実母を部屋から出られなくして、私は、ある人物と会っていた。

 

 

クルル「······こんな時間に悪かったわね」

 

「大丈夫です。俺の耳にも話は入ってきてますから」

 

 

目の前に座る青年────織斑(おりむら)一夏(いちか)は、嫌な顔一つせずに言った。だが、次の瞬間には普段の柔和な雰囲気を振り払った。

 

一夏「······それで、ヴァーリがいる場所にある程度の目処は付いてるんですよね?」

 

彼、織斑一夏は、元神器持ちの人間で、束と共に勝永と八幡に保護されてウチにきた。公私共に束の右腕的存在でもある。普段は後方支援が多い。実力は束と大差ない。束を第一に考えがちという可愛いところがある。

過去、20人以上の女の子を無意識に引っ掛けておいて告白してきた娘全員をフるという大記録を持っており、私はある意味で尊敬している。

 

 

クルル「当然。美猴が持ち帰ったデータと、これまでに手に入れたクリフォトの情報から推察するに、こことここ。あとは······」

 

ホログラムで宙に投影した世界地図に、バツ印のポイント加える。

 

一夏「この国、確か今も紛争中だよな······」

 

一夏の呟きに首肯する。洗い出した場所は、アフリカ某国。現在も内紛が続いている国だ。このような地域に調査の手が行き届かないことなどよくあることで、定石とも言える。

 

クルル「奇襲作戦で手に入ったデータが無かったら、まぁ絞り込めなかったわ。保護した人達一人一人から聞き出せるだけ聞き出しといてよかったわよホント」

 

奇襲作戦が失敗していたら、アフリカということまでしか絞り込めなかっただろう、と私は考えている。救出した人達は、アフリカ在住の人が一番多かった。253人。それが先日救出した人数であるが、そのうち129人がアフリカ······特に治安の悪いことで有名な国の人間だった。次に多かったのは73人でアジア(特に内陸部や中東)だった。

 

 

銃弾がすぐ側で飛び交うような地域で、人一人がいなくなっても大きな問題にはならない。ならない、というか、側にいる人間達でも気に留めていられない。気の毒な話だ、とは思う。

 

 

一夏「······4つまで絞り込んだはいいですけど、決行はいつになるんですか?」

 

ホログラムから視線を外した一夏が言う。

 

クルル「準備が整い次第。今調整してるのよ。魔の鎖(グレイプニル)

 

先日の戦闘で、敵の戦闘の中核相手に魔の鎖がまるで通用しなかったことを踏まえて、調整をすることになった。ディオドラかロキが情報を提供したのだろうが、あれが通用しないと、些か不便になる。魔法よりも諸々のコスパが遥かに良く、耐久性に優れ、攻守に転用出来るため、ウチでは標準装備だからだ。

使う使わないはともかく、ウチの中で持ってないのは非戦闘員であるカルナとヴァレリーくらいだろうか。

 

八幡が急ピッチで調整を進めているが、どこまで持っていけるかは分からない。

 

一夏「それはまた急ですね······ここのところ、いつもですけど」

 

一夏は、ココアを啜りながら言う。奇襲作戦では、保護した人達の引受先の病院探しに奔走していた一夏の顔には、若干疲れが浮かんでいた。たった4人であの人数を捌き切った内の一人だが、下手したら戦闘に赴いた私達よりも、疲れが溜まったかもしれない。

 

クルル「その······ごめんなさいね」

 

一夏「あ······いえ。俺は散々お世話になってますし。これくらいどうってことないです」

 

一夏は頭を掻きながら言った。

 

 

······若者ばかり巻き込んで。私達は、どうかしている。

 

 

と、ドアがノックされる。陰々とした思考を堰き止めたノックに返事すると、艶めいた蒼髪の少女がドアを開けた。

 

少女の───母親譲りのその髪は、いつ見ても美しい。それでいて、父親譲りのヘテロクロミアがミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

 

「失礼します。こんばんわ、御二方」

 

笑顔で挨拶した彼女がここに来たことを変に思った一夏は、入ってきた少女に問いかけた。

 

 

一夏「······クレア? こんな時間にどうしたんだよ?」

 

一夏にクレアと呼ばれた、後ろ手にドアを閉めた少女───クレア・ナンムは言う。

 

 

クレア「はい。(わたくし)は、両親に代わって今回の騒動の解決に協力せよ、と仰せつかってきました。どうか御二方の支援をさせていただきとう存じます」

 

 

「「······うん?」」

 

 

クレアの提案?が予想外だったため、2人揃って妙な声が出てしまった。

横を見れば、「あの親バカが娘を戦場に出すなんて!?」、とありありと顔に書いてあった。私も多分、顔に出ている。

 

······うーん。本当にこの娘の両親───クロウとティアが言ったのだろうか。今までの経験からじゃ有り得ないんだけど。

 

 

クルル「それ、本当に貴女のパパかママが言ったの?」

 

クレア「いいえ、祖母です。実力的には後方支援くらいなら出来るだろう、と」

 

クレアが言うと、一夏が、あー流石にそうかと呟いた。

 

私としては·······初の実戦がテロリストの基地を襲撃して人質奪還など、考えられない。この娘の祖母(一応)は遂に耄碌したようだわ······

 

一夏「······どうするんですか。バレたら俺達殺されません?」

 

一夏は、クロウ達の恐怖が上回ったようで私に判断を委ねてきた。とはいえ、私だって死にたくない。私があの2人の立場だったら、間違いなくゴーサイン出したやつを血祭りにする。

ヴァーリやギャスパー、黒歌を戦場に出した私が言えることではないが·······

 

クルル「······クレア。おばあちゃん呼んで」

 

自宅で死の恐怖に怯えていることに怯えながら、思考を戻す。なんか頭痛くなってきた。

 

クレア「それなら······」

 

と、クレアが後ろを向いた。そこに魔法陣が展開され、カルナぐらいの身長で、クレアも持つ艶めく蒼髪の、()()()()女の子が現れる。

 

一夏「げっ······」

 

 

クレア「おばあちゃん」

 

「······一夏よ。げ、とはなんだ、げとは。儂が直々に来てやったんだぞ。もう少し喜んだらどうだ?」

 

 

クレアの()()の祖母────ナンム・ナンム。孫娘をここに寄越した本人で、今年の秋頃に隠棲をやめて復帰した老媼(ろうおう)

 

その正体は────。

 

 

ナンム「······クルルよ。お主、死にたがるのもいい加減にせよ」

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

綱生「······で、どうだったよ」

 

 

ルエルト・グレイヴィーとの対談とも拷問とも言えぬものが終わり、俺は元いた牢に戻された。

そんな俺を見た鮫島綱生は、俺に声をかけた。俺は、それに溜息混じりで返した。

 

ヴァーリ「どう、などと言われてもな······謎が深まっただけだ」

 

 

恥ずかしいことに、結局ルエルト・グレイヴィーが何故俺を呼んだのか、分からずじまいだった。俺の母(クルル・ツェペシ)に捨てられた、と息子である俺の前で言い、殺害を目標としていると宣言した理由も、分からなかった。

手っ取り早く知りたいなら、俺を拷問なり洗脳なりすればいい筈だ。それをしない、或いは出来ない理由があるのか、カウンタートラップを警戒しているのかは不明だが······

 

泳がされているのだとしても、取り返しのつかないラインはまだ超えていなそうだ。

 

 

ヴァーリ「俺はともかく、君達を狙った理由は掴めなかった。だが······」

 

一つだけ、収穫はあった。俺が牢に戻る時、一瞬だが、俺達から抜き出した神器を目撃した。光翼はケースに置かれ、独立具現型の3つは檻の中で、それぞれケーブルに繋がれていた。

 

そこから導き出される推論は······

 

 

綱生「ウツセミの研究、か······」

 

綱生がそう言ってから、俺達は暫く口を噤んだ。2年前のウツセミ事件は、彼等に途方もなく深い傷跡を遺した。

 

五代家の追放された者達が独立具現型神器を人工的に開発して五代家に復讐するという目的、彼等によって当時の陵空高校の生徒などに多大な被害をもたらしたウツセミ。人的被害は決して少なくなく、ラヴィニア以外の刃狗のメンバーは()に関わるようになった。

 

紗枝「あれが、また起こるの······?」

 

ぽつりと、紗枝が呟くのを聞いて、夏梅は歯噛みする。

 

夏梅「······せめて総督か詩求子(しぐね)に連絡が取れれば······!!」

 

七滝(ななだる)詩求子────ここにはいない、もう一人の刃狗のメンバー。神の子を見張る者が神器のデータを採取するため、一人任務を離脱していた彼女だけは、拉致を免れていた。

彼女の神器はシンプルに強いが、刃狗の中で一番禁手に至ったのが遅かったため、必要な処置だった······というのが綱生から聞いた話。

 

そもそも、ラヴィニアと鳶雄を除く5人の内3人が2年かからずに禁手に到達したこと自体、相当異常なことだ。才児だなんだと持て囃されてきた俺よりも遥かに天才というか、鬼才というか。

 

 

と、その時不意に、牢の外から会話が聞こえてきた。2人。男の声。

 

「······アレらの調査はどうなっている?」

 

「は。四凶の2つと勇気を失った獅子(カウアドリ・レオ)は順調に進んでおります。しかし、神滅具(ロンギヌス)となると流石に思うようには進まないのが現状で······」

 

 

ここは、研究室からそこまで近くない筈だが······場所は廊下の角の向こうか。牢と言っても、元は別の用途の部屋だったようだから、かもしれない。俺達以外に拉致された者もいないようだ。会話はその後も続いた。

 

 

「······捕らえた白龍皇の調査は?」

 

俺の話か。連れて来られてすぐ、血を採られたな。奴ら、俺の血からバケモノでも作る気なのか······?

 

「それが、当人が事前にガードを固めていたようでして······」

 

······どうやら、まだ俺の血の解析はされずに済んでいるらしい。安心は出来ないが、

 

「そうか。研究を続けろ」

 

「かしこまりました」

 

 

······あまり、喜ばしい状況とは言えないな。ここにいる俺達4人なら、脱出はすぐにでも出来る。遠見の魔法でこの建物の構造、トラップの位置、見張りの配置は把握出来ている。だが、抜き取られた神器を回収し漏れたデータをバックアップ含め全て消さないと、このあとのどこかで詰む。

四鎌童子やルエルト・グレイヴィーも無視出来ないし、どうしたものか······

 

 

と、その時、牢の前に立つ者が。見るまでもなくオーラで分かっていた。

 

ヴァーリ「······何か用か。四鎌童子」

 

俺以外の3人は、四鎌童子が顔を見せた瞬間に臨戦態勢に入っていた。

 

四鎌童子「気分はどうだ、と聞きたいところだが······ヴァーリ・ルシファー。貴様、聞き耳を立てていただろう?」

 

ヴァーリ「何の話だ」

 

あの位置、あの距離で、気付かれた······!? 気配は完全に押さえていた筈だ······!!

 

 

四鎌童子「クルル・ツェペシは、盗み聞きの練習まではさせなかったようだな。ほんの僅かだが、貴様は気配(感情)を殺しすぎた。経験が足りなかったな」

 

ヴァーリ「······」

 

 

 

────さて、どうする。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 



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第143話 母を失う日




いやもうホント、5ヶ月も空けてすいませんでした。我ながら、これは流石に不味いですね····




 

 

 

黒歌side

 

 

 

ヴァーリが拉致された。ラヴィニアとデートに行ったきり、そのまま消息を絶った。

 

 

けれども、この娘────カルナにだけは、誰とも言わず満場一致(暗黙の了解)でそのことを伝えないことが決定していた。

ヴァーリの姉、オーフェリアの実子である彼女は、私達の中で唯一()()()()の中にいない。それこそ、ヴァーリが力に固執する理由でもある。

 

 

 

ヴァーリ『カルナには、俺や姉さんのような思いはさせたくない。もちろん、姉さんにもこれからはいい思いしてもらいたい』

 

黒歌『凄いわ、ヴァーリは。私なんか全然』

 

ヴァーリ『?』

 

ギャスパー『黒歌さんは白音ちゃん? をちゃんと守ってたんじゃないですか?』

 

黒歌『だと、思ってたんだけどね······忘れちゃったわ』

 

 

自分の無力さなんて······忘れられれば楽だったのに。

 

 

 

 

カルナ「んん······(にい)······」

 

ベッドの中で寝返りを打つカルナに布団を掛け直して、立ち上がる。輪の中にいない······それでも、運命からは逃げられない。私がカルナに抱いた印象はそんなものだった。生まれが普通じゃないこの娘も、いつかは戦争に巻き込まれるのだろうか。

 

 

八幡『······カルナは、遺伝的にはオーフェリアからもヴァーリからも不自然に遠いんだよ。しかも、リゼヴィムとも直接繋がっていない。なのに、ルシファーの魔力は受け継いでる。それに、何故か茶髪だ』

 

黒歌『帝王切開で生まれたんでしょ? そんなこと、有り得るの?』

 

八幡『普通は有り得ないけどな。オーフェリアが宿した赤ちゃんは、全く別のどこかから来たって。代理出産なら魔力は引き継がれない。妥当なラインなら、体外受精して受精卵持ってきたってとこだが、手術跡がない。オーフェリア本人も話したがらないし、手詰まりだ。まぁ······無闇に掘り返すものでもなし、原因究明は断念した。

魔力は······母体の影響を受けた、としか言えない。本人が妊娠を自覚するまでに時間かかってたから、余計にどんな状況だったのかも推測しにくいしな。

······お前も、あの子とは普通に接してくれ。頼む。カルナはこのことは知らないから······な』

 

黒歌『それは、いいけど······』

 

 

 

黒歌「ねぇ、ギャスパー」

 

ギャスパー「?」

 

ココアを啜っていたギャスパーがこっちに顔を向ける。ギャスパーと対面する形で座ると、ギャスパーは新しいココアを渡してくれた。ヴァレリーは、雰囲気を察してか黙っていた。

 

黒歌「どう思う? カルナのこと」

 

ギャスパー「どうって?」

 

聞き返したギャスパーに、カルナの、とだけ言った。この娘の事情を知っているなら、これだけで私の言わんとすることがわかる。それだけ、この娘がいずれ直面するであろう闇は深い。

 

ギャスパー「どうとも言えないよ。気にはなるけど、軽々しく触れていいことでもないし······突然どうして?」

 

ギャスパーの瞳に、言葉に、詰まった。

 

黒歌「それ、は······」

 

 

こんな時だからこそ、言わなきゃ。私が────カルナに······同情して、そんな自分を慰めて欲しいだなんて。

 

 

ヴァレリー「······黒歌さん?」

 

黒歌「······なんでも、ない。こんな時だからか変に気になっただけね。ごめん」

 

どうしようもなく口が開けなくて、結局濁すしか出来なかった。

 

 

 

 

黒歌(くろか)······─いや、『Enhancedー0001(レイワン)』が、人工物に産み落とされたデザインベビーだなんて。

 

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

目頭を押さえて、目の前のブツから目を離す。

 

八幡「勝永、そっちどう?」

 

勝永「最大限やりましたが、どうでしょうね」

 

 

魔の鎖(グレイプニル)の調整。時間のない中では、やはりと言うか、限界があった。

 

クリフォト襲撃時······敵側には俺達の対策がこれでもかと言うくらい成されていた。ロキか誰かは知らないがウチの情報が漏れていた。便利なだけあってこれに頼ることが多かった分、対応に慎重を要せざるを得なくなったなんて言うまでもない。

 

クリフォトから押収したデータ全てを精査して、対策の対策の対策を、更なる術式を施した。言うには簡単だが、魔の鎖には、強化や反魔法(アンチマジック)で既に改造・改修を重ねてたせいで、新たな術式を組み込むのに神経を擦り減らされた。500年以上改良し続けてる代物だ。もう俺からでも思い付きで弄り回せない。12万の術式が、噛み合わなくなる。

 

とはいえ、クルルに作戦指揮を任せた分、俺もこれぐらいはやらなければ夫として立つ瀬がない。今回ばかりはクルルは戦場に出ないのが幸いか。今のあいつはおかしい。

 

 

······誰も口に出さなかったが、目が覚めてからのクルルは明らかにおかしかった。アジ・ダハーカとの戦闘で何かあったのは間違いないが、アイツが口を割らない限りは、俺は何があったかを知ることが出来ない。ある程度は察せるとはいえ。

ユーグリット・ルキフグスと違って、アジ・ダハーカを自由に尋問出来ないのもある。身柄を三竦みに引き渡したのは、大失敗だった。政治なんてクソ喰らえだ。いくら向こうとこっちの信用云々ったってな。ったく、アザゼルの頭と口は回りすぎだ。回りすぎて空回りしねぇかな。

 

兎に角、クルルは自分の体調を管理出来ないほどのバカ女じゃない。とはいえ、もうちょっと自分の身体を大事にして欲しい。はぁ、体張るのは俺だけで十分、の筈だったんだがなぁ······流石に、思い上がりすぎた。

 

 

八幡「兎に角、もう時間切れだ。勝永、助かった」

 

勝永「これぐらいは」

 

 

 

とにかくヴァーリ······帰ってきて骨にでもなっててみろ。もう3回骨にしてやる。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ヴァーリ「······」

 

事態が一気に退転した。これ以上下手に手を打てば、俺達全員殺される。

 

さっきの男の声は······少なくとも片方はこの女の声だったのだろうか。四鎌童子は、声が聞こえていた方向から歩いてきた。

 

母さんと束は、以前この女を撤退に追い込んでいるが、俺に出来るかは分からない。母さんを殺そうとしているのだ。それなりの手段と準備があって然るべきだ。

 

 

四鎌童子「······速攻でダンマリだな。そうまでして喋りたくないようだが······これを見て、同じことを続けられるか?」

 

四鎌童子が指を鳴らす。と、転移の魔法陣が展開され、そこからラヴィニアが現れた。後ろで両手を縛られている。

 

夏梅「ラヴィニア······!!」

 

ラヴィニアは力ない目をこちらに向けた。空虚だ。まるで、本当に自殺しそうなやつのそれだ。

 

ラヴィニア「ナツメ、シャーク、シャーエ······ヴァーくんも」

 

紛れもない、幻術(ニセモノ)でなく本物のラヴィニアだ。『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』が拉致されてからそう何日も経っていないはずなのに、何故あそこまで衰弱して······?

 

 

クソ。彼女に何の非がある。それもこれも俺のせいなのか······?

 

 

ヴァーリ「······なんの、つもりだ」

 

ないまぜにした怒りと後悔を押し殺しながら声を絞り出すと、四鎌童子は俺を見下して、嗤う。

 

四鎌童子「こいつの身体には爆弾が仕掛けられている。と言ったら?」

 

綱生「······ッ!!」

 

紗枝「そんな······!!」

 

こことここ、ここにな。四鎌童子は、ラヴィニアの頭部、胸、下腹部の順番に指差した。

 

四鎌童子「もちろん魔法のな。ここまで言えば、意味は分かるだろう?」

 

つまり、四鎌童子が爆発しろ、と頭の中で命令しただけで爆裂する。スイッチを押す必要もない。多分、時間があれば俺でも解ける魔法だろうが、『起爆』と『解除』、命令するだけでいい起爆と、正しい手順で解除し(バラさ)なければならない解除では、当然ながら前者の方が圧倒的に早い。

 

四鎌童子は更に、運が良ければ()()()()爆発なら、生存は、出来るかもしれないな、と他人事のように呟いた。

 

綱生「ゲスが······!!」

 

ヴァーリ「四鎌童子!! 貴様、そうも外道に堕ちてまで母さんを殺したいのか!!」

 

四鎌童子「当然だ。お前は、リゼヴィムを憎んでおきながら復讐が何かを理解出来ていない。いやお前の心情などどうでもいいか。

さて、ここからが本題だ」

 

今までとは違う笑み(嗤い)を浮かべ、四鎌童子は俺を見る。

 

 

四鎌童子「ヴァーリ・ルシファー。私の下に降れ。ラヴィニア・レー二を見殺しにしたくなどないだろう? それに、条件を呑むなら、お前が喉から手が出るほど欲しい情報をくれてやろう。例えば、『E(エヴィー)×E(エトゥルデ)』の、などな」

 

 

────俺は、母さんに何も!! 何も······

 

 

 

ヴァーリ「······分かった。その代わり、今すぐラヴィニアを解放しろ」

 

綱生「正気かヴァーリ!!」

 

夏梅「ヴァーリ!?」

 

綱生と夏梅、紗枝が、目を見開いてこちらを見るが、俺はそちらを向かなかった。向く余裕など、なかった。

 

四鎌童子「そう答えてくれると思っていたぞ。まぁ、今すぐとはいかんがな」

 

ヴァーリ「貴様······」

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

一夏『準備整いました』

 

クルル「了解」

 

 

インカムに、一夏の声が届く。出撃しようとして取り押さえられた私は、結局安全な場所から口を出すだけの役割に収まっていた。映像は、一夏のカメラからこちらまで届いており、夜の闇に、廃墟が不気味に佇んでいた。

 

私が放られる一方で、一夏はクレアとナンムを伴って襲撃を仕掛けに現地に飛んだ。が、4つに絞って、既に2つスカしている。本人達もそうそうヤワではないが、そろそろ疲れが溜まり始めるはず。ここらで決着を付けたい。

 

 

クルル「突入開始」

 

一夏『了解。突入します』

 

 

一夏が外壁を特殊なブレードで音もなく切り裂いて廃墟に侵入する。クレアとナンムが後に続いた。

 

 

クルル「中はどう?」

 

一夏『······当たりです。()()()()がいくつもあります』

 

今までのスカした2つは、チンピラだかホームレスだかが根城にしていただけで特にめぼしいものは何もなかった。が、今回は本命らしい。

 

ナンム『さて一夏よ。儂が適当に暴れるから、クレアと共にヴァーリを探せ。そんな大きな建物ではなさそうだ』

 

一夏『了解。行くぞクレア』

 

クレア『はい』

 

2人がナンムと別れて移動を開始した数秒後に、爆発音が轟き、叫び声が上がり始めた。

 

クルル「どう? 中の構造は」

 

一夏『終わってます。位相歪めてて、ウチと似たような感じです。でも、そこまで広くなさそう。俺達は陽動(向こう)がバレた前提で動きます』

 

一夏が神器(セイクリッド・ギア)───束と同じ、拳銃型のそれを発動した。一夏の神器は束と同じもので、通常形態も禁手(バランス・ブレイカー)も同型のもの。まぁ、細かい機能にはそこそこ差があるけど。

 

クルル「分かったわ。

······当初の目的通り、ヴァーリの奪還と敵部隊の鹵獲。最悪排除。一夏、クレアの援護、頼むわ」

 

クレア『了解です!』

 

一夏『了解。これよりバタフライ3(スリー)指揮下、ヴァーリ・ルシフェルの奪還作戦に移行します』

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 



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第144話 涙は流せない

え、前回の更新が二月前······? すみませんでした(gkbr)。




 

 

ヴァーリside

 

 

 

四鎌童子の取引に応じた俺は、『刃狗』の4人がいた牢から引き摺り出され、ラヴィニアと共に建物の真反対の牢に放り込まれた。

 

ここから、すぐ近くに俺達からデータを取った研究スペースがある。抜き取られた神器(セイクリッド・ギア)もそこに保管されていた。まるで、牢から出て取ってってくださいと言わんばかりのザルさだ。この牢自体も、破壊しようと思えば簡単に出来る程度の脆さだ。

四鎌童子には、神器(セイクリッド・ギア)はそこまで重要ではないのだろう。

 

 

─────『復讐』、か。

 

 

 

どうにも出来ないまま無意味な時間が続く。そんな中、ラヴィニアが口を開いた。

 

 

ラヴィニア「······ヴァー君。その」

 

ヴァーリ「今は何も言わないでくれ。ラヴィニア。頼む」

 

母さんを売って、ラヴィニアを助けた。両方助ける方法は、きっとあったはずだ。はず、なんだ······

 

はぁ、こういう状況だと、碌なことを思い浮かばない。そうまでしてラヴィニアを助けたいのか、それとも母さんをそこまで大切に考えていないのか。疑心暗鬼に陥ると、その辺もまたぐちゃぐちゃになってくる。

 

しばし、沈黙が場を満たした。一分か5分か分からないが、ふとラヴィニアはその沈黙を破った。

 

ラヴィニア「ヴァー君、言い訳をさせてください」

 

ヴァーリ「言い訳?」

 

彼女に言い訳するような非はない、はずだ。彼女は彼女の最善を果たしているはずだ。

 

ラヴィニア「私は、ヴァーくんが好きです。でも、仲間を裏切ることは···私には出来ないのです」

 

ヴァーリ「ラヴィ······」

 

 

ここ暫く、こんなことばかりだ。

 

力の強い者が······いいや、徹底的に知恵を働かせられる者がそうでない者から、あらゆるものを搾取し(むしり取っ)ていく。それが戦争だ。そんなことは分かっている。誰かが虐げられ(生贄にな)ることが、唯一阻止出来る手段だ。

だが、それを許容し、受け入れることが出来る者は存在しない。例外などない。もちろん、現実はどうだったか、どうなったかは別の問題だ。

 

ただ、この場を支配するのは、戦争が終わっていないという子供でも分かる事実だ。

 

 

ラヴィニア「私の選択肢は2つ。仲間を裏切って一人だけ生き残るか、アシャーダロンで心身を癒していたヴァー君を(ワナの材料)として引き摺りだして生贄にするか、でした。私は、前者を取ったのです。恨んでください。恨んで欲しいのです。恨んで、欲し、い···」

 

ラヴィニアは、静かに泣いた。彼女を責めれば、当たり前だが楽だ。彼女を人殺しと、人でなしと罵ることは簡単だ。だが俺には出来ない。あまり言いたくはないが、愛だ恋だは、人の視野を強奪して人をいつまでも狂わせる。

 

······それに、俺にも退路はない。このまま狂って彼女を慰め続けることを、俺は、選んだ。もう、行くところまで行くしかない。

 

手を伸ばそうとして、止めた。

 

ヴァーリ「ラヴィニア、俺はラヴィニアを恨まない。俺は、自分を餌にすることで生き長らえる選択肢を取った。俺の······自分のためだ。だから────」

 

 

だから、泣くな。そんなに悲しまないでくれ。その言葉は、爆発音に掻き消された。

 

 

ヴァーリ「爆発······!?」

 

ラヴィニア「上で、何が?」

 

更に爆発音は続き、こちらにも振動が届いてきた。ここは多分地下だが、地上は大慌てだろう。魔力で探れないように仕掛けがされているから父さん達かどうか分からないが、おそらく、これは俺達を陥れるための爆発じゃない。つまり、チャンス(ピンチ)だ。

しかし、こんな早く来るとは流石に思いもしなかった。

 

ヴァーリ「ラヴィニア、出るぞ」

 

ラヴィニア「え、ヴァーく」

 

両手足の拘束具を強引に引きちぎり、ラヴィニアの拘束具を叩き割った。視線から四鎌童子がこちらを監視しているのは分かっているが、動く気配はない。やつの掌の上で踊っているのは分かっているが、今は神器を取り返して脱出するのが最優先だ。

そう考え、監視用に設置されていた魔法を全て破壊し、檻の格子を魔力で弾き飛ばす。そのままラヴィニアの手を引いて外に出た。

 

粗雑な封印が施されただけの達の神器······何故ここに保管され······いや、トラップの類いは仕掛けられていない。破壊するかも考えるが、やはりここは回収するべきか。おそらくこの先、戦力のキープはインフラの確保並に最重要の問題になる。

 

ヴァーリ「ラヴィニアは神器を。俺はここのデータを破壊する」

 

ラヴィニア「っ。分かったのです」

 

手分けして作業を急ぐ。

······にしても、この研究装置に使われている機材、けっこう前のものだな。確か、2003年あたりのものだ。今は2016年だぞ。クリフォトがそこまで資金難だったとは思えないし、態となのか?

 

ヴァーリ「チ······束に仕込まれた知識が、こんな所で発揮されるとはな」

 

見つけた。しかし、この研究データ、どこかに送られている可能性もある。そこにはトロイの木馬でも送り込めば······どこにも送られていない? 神滅具(ロンギヌス)3つに四凶2つと人工具現型だぞ。ここの誰かが持っているのか、コピーだけして手作業で運んだのか。

こっちはフェイクの可能性もあるか。だが情報も時間もない中考え出しても仕方ない。

 

ラヴィニア「ヴァー君、こっちは終わったのです!」

 

ラヴィニアが叫ぶと同時に、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)が俺の背中に飛んできて、間もなく粒子化して俺の体に取り込まれた。何らかの違和感があったわけではないが、やはりあった方が収まりがいい。

 

アルビオン『······ヴァーリ、何やら複雑な事情の板挟みになっているようだな』

 

アルビオンめ、勝手に記憶を読んだな······全く、やめてくれ。

 

アルビオン『そうも言ってはいられまいだろう』

 

ラヴィニアの方を見れば、ラヴィニアの氷姫が主の傍で跪いていた。黒狗と獅子、白虎に大鷲もラヴィニアの傍にいた。これで全部か。

 

ヴァーリ「······行こう」

 

 

 

 

 

 

俺達が鮫島達がいる牢に向かった時、牢の格子は破壊され、中にいた全員が外に出ていた。全員、拘束具からも解放されている。

 

ヴァーリ「······一夏か」

 

織斑一夏にクレア・ナンム。2人とも、父さんにも母さんにも直接命令権はないはずだがここにいるということは、志願したのか、誰かに押し付けられたか。後者はなさそうだな。

しかし、直接命令出来ないとはいえ母さんの息がかかった一夏を出し抜いて、本拠地にいる母さんを殺すなんて······俺と『刃狗』の全員でかかってもまず不可能だぞ。四鎌童子め。いったい何を考えている·······

 

一夏「ん? ヴァーリ。ラヴィニアさんも。自力で出られたのか?」

 

ヴァーリ「あ、あぁ···」

 

一夏は神器のナイフを展開していたものの、それ以外の武装は装着していなかった。だが爆発音は、一夏かクレアが起こしたものと考えていいだろう。

 

にしても、よくクレアが出てきたな。クレアの父親はこういうことに絶対に関わらせないようにしているものだとばかり思っていたが。

 

クレア「一夏さん、この人が······?」

 

思考の纏まらない頭でそんなことを考えていると、クレアは、ラヴィニアを見ながら一夏に聞いた。ああと頷き返した一夏は、亜空間からバズーカを出すと、天井と壁の境目に向けて撃った。

 

一夏「脱出するよ。『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』の君達は動けるかい?」

 

一夏に尋ねられ、俺達は言葉もなく頷いた。疲労が溜まっていた4人は、一夏が男2人、クレアが女2人を両脇に抱えて風穴から飛び出した。俺はラヴィニアの手を引いて、そのあとに続いた。

 

この腐ったアジトを飛び出して、爆煙を突っ切る寸前、俺は強烈な気配を全身で感じ取った。

 

ヴァーリ「ッ······」

 

 

ナンム·····!! 出て来たのか······!!?

 

 

 

ヴァーリsideend

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

664年前。

 

 

 

ヴェネラナ『いい加減になさい! 2人とも何をしているの!』

 

八幡『あ、ヴェネラナさん·····』

 

サーゼクス『母様······』

 

グレモリー家本邸地下の決闘場で、俺とサーゼクスは揃ってボロボロだった。

 

 

 

 

当時12だった俺は、親父が持っていた僅かなコネを辿って、グレモリー家に匿ってもらっていた。

 

 

······そして、情けないことに、匿われている身でありながら、俺はグレモリーの跡取り息子だったサーゼクスと度々喧嘩していた。

 

 

ヴェネラナ『────で、今回は何でこんなことになったのかしら。答えなさい』

 

サーゼクス『······八幡が男なのにいつまでもメソメソしてるから······です』

 

八幡『サーゼクスが、クルルだって悲しいのにその前で自分だけ泣きわめくなんて、家族として失格だって·····』

 

 

そして、喧嘩を止めるのは、決まって割って入るヴェネラナさんの滅びの魔力だった。

 

 

ヴェネラナ『はぁ······毎回毎回。サーゼクス、それだけですか?』

 

サーゼクス『だって、八幡はその後、クルルは血が繋がってないし僕を騙してたひとなんて家族でもなんでもないだなんて言うから······そんなの、クルルが可哀想だ』

 

八幡『だって······』

 

 

両親と妹が殺されて1ヶ月。俺は毎日のように赤ん坊のように泣きじゃくってクルルを困らせ、それを見つけてイライラしたサーゼクスに引っ張り出されては強引に喧嘩相手にさせられていた。

といっても、当時の俺は魔力はほとんど使えない、光は出すのにも苦労するというレベルで、ほとんどは俺が地面に這いつくばったあたりでヴェネラナさんが止めに入る、の繰り返しだった。

 

 

原因は、当時クルルに片思いしていたサーゼクスの目の前で、泣き喚きながらクルルに八つ当たりで毒を吐いていた俺なんだが、今でも何故俺はクルルと結婚出来たのか、不思議だ。この時の俺は、クルルがどんな思いで俺の傍にいたのかも考えようとしていなかった。

 

 

クルルの目が親も妹もなくして可哀想と笑ってくるようで、完全にクルルを間の仇にしていた。少なくとも、当時の俺にはそうとしか感じられなかった。

 

 

 






唐突に復活した設定解説。(トバシてくれて構わない)

『アシャーダロン』

建国:1739年(王国制として建国。1990年に共和制に移行)
首都:サングィネム市

八幡が建国した国。冥界随一の軍事政権国家。傀儡国家とも言う。元々はグレモリー領辺境の町サングィネム。三竦みの戦争が終結後、魔王政権が危険分子である八幡を政府から遠ざけるための軟禁場所として指定したこと町。
ただし、戦後の混乱の中八幡を危険視した一部の悪魔(旧魔王派、大王派の一部)が襲撃。八幡は襲撃部隊を壊滅させるもそれが4度続き、業を煮やした八幡が町の議会を制圧し、グレモリー領と隣接していたアンドロマリウス領とムールムール領を壊滅させて吸収。アシャーダロン王国としてクーデターを起こした。
この建国が1739年で、この後八幡は独立戦争をふっかけて更にフールフール領の一部を吸収。八幡は講話を引き出すためにソロモン72柱の内19家を滅ぼして、1749年、魔王政権をテーブルに引きずり出した。独立の際、取引(裏工作)でバアル領の一部も吸収している。
また、1829年、1956年のオリュンポス戦争で八幡はギリシャ神話を半壊に追い込み属国化。貿易規制で追い討ちをかけ、アシャーダロンに依存せざるを得ないように財政を崩壊寸前まで傾けた。

サングィネムは、中心部にクルルが経営する冥界最大規模の孤児院があり、そこを中心として高層ビルが立ち並んでいる。都市中心部の上空(250〜300m)には、建造物群が魔法によって円を描くように浮遊しており、主にテーマパークやショッピングモールで構成されているが、僅かに居住区もある。魔法は大方クロウ・クルワッハのもの。事業開始当時、観光客が落ちかけるという事故が頻発して批判を浴びた。

面積はスカンジナビア半島2つ分。ただし、サングィネム市以外は一部を治安部隊(旧鉄華団)が農牧地、訓練施設として所有している以外はほとんど手付かず。アシャーダロン東部には使い魔の森の一つがあり、北東部にはドラゴンアップルの群生地がある(貿易品に出来るほどの収穫量はない)。
一応、福利厚生はルシファードやシトリー領を抜いて冥界でもトップクラスで、悪魔のような階級制度も存在しない。
農産品、観光業で莫大な利益をあげているが、建国者に八幡に黒い噂が絶えないため、ここ3年ほど国内の観光関連企業の業績が軒並み右肩下がりを記録している。

また、今の八幡は国家元首ではないが、特別外部軍事顧問などといううさん臭い地位を得ている。




(この情報量(1000文字オーバー)でSS一本書けないのが作者クオリティ)


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第145話 泣き声

限定公開がぁぁ! シンフォギアの限定公開が終わっているぅぅぅ!(無知並感)





あの時の俺は、クルルを信じられなかった。お袋が死に、小町が死に、親父も殺された。その殺害の実行犯───後々ウリエルのシンパだと分かった───を瞬殺したクルルの顔が、悦に浸ったまま飛ばされた顔と重なった。最初はそこまで酷くなかったはずだが、ある時から急に、毎日のように夢でクルルに殺されるようになって、そんなことが続けば、そりゃあクルルが怖くなる。俺そん時12だかのガキだし。

 

 

それよりも、その時ヴェネラナさんに言われた言葉が俺にとって大きかった。

 

······なんであの人が俺の母親じゃないんだろうな。今思えば、お袋よりよっぽど母ちゃんしてた。

 

ルシフェル《ひどいわ》

 

 

 

 

 

 

ヴェネラナ『八幡君。何故そうクルルを遠ざけるのか、聞きます。包み隠さず言いなさい』

 

俺を見下ろす目は、厳しかった。

 

八幡『え······』

 

サーゼクス『言ったらどうなんだ八幡』

 

サーゼクスも半分呆れ始めていて、俺にはいよいよもって逃げ場がなかった。

 

八幡『······あの時のクルルが、その、怖くて······』

 

『『怖い?』』

 

うっすら憶えてる限りじゃ、泣くのを堪えてた記憶がある。ガキの頃の話だ。なんで堪えようとしてたのかまでは覚えてない。

 

八幡『アイツが······親父達を殺したやつの目と、クルルの目が重なって見えるんだ。だから、その···』

 

サーゼクス『なんで······! 八幡にはそんな風に見えるのか?!』

 

サーゼクスが本気で怒ったのは、多分その時が初めてだった気がする。そのあと言われたな。家族じゃないみたいだ、って。そう言ったっきり、サーゼクスは部屋を出た。そのあとクルルと話してたらしいが、その内容は知らない。

 

ヴェネラナ『······はぁ。八幡君、良くお聞きなさい』

 

八幡『······はい』

 

ヴェネラナ『今の貴方には分からないでしょうけど、クルルは毎日泣いているんですよ』

 

八幡『クルルが、泣いて······?』

 

ヴェネラナ『部屋が同じでもクルルのが先に起きてれば······はぁ。分からないか······』

 

勿論、俺はそんなこと知らなかった。部屋は一緒だったが、食事の時以外は顔を合わせないようにしていた。俺はグレモリーの図書館に逃げ込んでて、部屋に戻る時に必ずのようにクルルと鉢合わせしては喚き散らしてサーゼクスに引き摺られるを繰り返してた。

 

ヴェネラナ『貴方の気持ちも分かります。八幡君の性格なら、あの天使とクルルの目が重なることもあるでしょう。ですが。クルルが泣いているということだけは知っておきなさい。

 

······クルルを家族と思うかどうかは八幡君の勝手でも、クルルに護られているのよ。貴方は』

 

 

言い切ったヴェネラナさんは仕事に戻っていった。

 

クルルが様子を見にくるまで、取り残された俺だけがひたすら泣き続けていた。

 

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

一夏達に回収された俺と『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』のメンバーは、サングィネムにあるウチの本邸に運びこまれた。何故かは考えるまでもないが、ウチは軍事的に籠城出来るほど設備が整っている。医療設備だって最新のものがある。掃除が行き届いていなければ確実に埃を被っている代物だが。

 

 

一通りのメディカルチェックを終わらせて、俺はラヴィニアと医務室のベッドがある部屋に戻ってきていた。この部屋は、昔は束が在勤してたらしいが、今は束の作った無人機が管理しているため、実質無人の部屋だ。

 

ラヴィニア「ヴァー君、どうするのです。ここまで来てしまった以上······」

 

ラヴィニアは、困惑を隠そうともせずに俺を問い詰めてくる。彼女の優しさが悲しい、痛い。

 

ヴァーリ「分かってる。分かっている······」

 

母さんを殺す。殺す───殺せるのか? 今の母さんは、素の再生能力だけで父さんの治癒魔法全てを上回っている。それこそ封印前のア・ドライグ・ゴッホの炎でもない限り、殺すのは不可能に近い。

ということは、そういった回復力を大幅に減衰、或いは無効化させる手がある。

 

母さんの再生能力は、父さんと違って先天的なものらしいから、元をたどれば666(トライヘキサ)のものなんだろう。アレに効くものがなんなのか、検討もつかない。殺すより封印する方が楽なタイプだと遥かに思うが。

 

······兎も角、四鎌童子はラヴィニアに仕掛けた魔法を辿ってこちらに来るはずだ。クソ、情報が筒抜けだから下手なことを喋れない。

 

 

ヴァーリ「八方塞がりだな······」

 

ラヴィニア「ヴァー君······」

 

 

今のラヴィニアは、四鎌童子に生かされているだけだ。俺の動き一つ言葉一つで、簡単に木っ端微塵だ。それに、奴が交渉を守る保証も最初から無い。こんな時、父さんだったら迷いなく四鎌童子を殺しにかかるだろうが、俺にはそこまでの覚悟も力もない。

 

だから、せめて。

 

ヴァーリ「······聞いてくれラヴィニア」

 

 

 

 

 

 

ドアがノックされ、母さんが入ってくる。

 

クルル「調子はどう?」

 

 

 

······刻限だな。

 

 

ヴァーリ「悪いな。母さん」

 

屋敷に張られている結界。強力な防壁と、魔法的な干渉を尽く跳ね返す役割を兼ねるものが、100を超える数張られている。よしんばすり抜けて侵入出来ても、内側からだろうが破壊はほぼ不可能た。

 

でも、侵入者ではない俺なら干渉は難しいことではない。

 

クルル「結界に穴が······ヴァーリ、アンタ何をや────」

 

 

次の瞬間には、母さんの右腕が丸ごと切り落とされていた。

 

クルル「ぐぅあっ······!?」

 

 

結界の穴に乗じて転移で侵入した四鎌童子が、俺の前に降り立った。

 

その手には、ラッパかブブゼラのような楽器が握られていた。

 

 

四鎌童子「宣言通りだ。無に帰る準備の時間はくれてやっただろう」

 

クルル「四鎌童子······!」

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

ヴァーリの安否が確認されて2時間経った。メディカルチェックも終わった頃だろう。

 

 

 

美猴「なぁ、ずっと聞きたかったんだけどよ」

 

美猴は、執務室のソファに座って、缶ビールを呷った。ここ俺の執務室なんだけど。お前だけじゃないけど、冷蔵庫に勝手になんか入れんのやめてくんない。特に束だけど。

 

八幡「何だ。てか、待機中だろお前。酒飲むなよ」

 

美猴「ノンアルだっつの。だいたい、ヴァーリ帰ってきたのに、なんで俺っちの待機命令解除されねぇの?」

 

そう言いながら、ソファに浅く腰掛けた美猴はグビりと酒(よく見たら梅酒だった)をまた一口呷った。

 

······そういや、桃花と束の待機先に解除したんだった。 束は美猴と対面してるソファに寝転がってゲームやってるけど。

やべ、5徹で頭働かなくなってる。書類作るのになんでこんな時間かかってんだ俺。

とっとと終わらして寝よ······

 

八幡「悪ぃ、俺のミスだわ」

 

美猴「ダイジョブかよそんなんで。んでよ」

 

八幡「あぁ、何だっけ?」

 

美猴「気になってたんだけど、八幡よぅ、なんで黒歌拾ったのよ。アイツ、お前を殺すために調整されてたんだろ」

 

スマホでゲームしてた束の目が一瞬だけ美猴に向いた。それもすぐに、画面に視線を戻して画面を連打し始めた。

 

八幡「今更かよ」

 

黒歌拾ったの自体何年前だと·······

 

美猴は飲み切った缶をテーブルに置いて続けた。

 

美猴「黒歌の時は聞かないでおこうと思ったけど、白音がどーたらで、気になっちまったんだよ」

 

拾った理由にまでは興味持ってないのかと思ってたが、気を遣ってたのか。全然気付かなかった。

 

八幡「お前資料見ただろ? 黒歌と白音は、俺を殺すための強化実験体で俺のDNA使って、その上ただの試験体扱いでデータが取れたらポイ······なぁ。流石に放っとけなかったんだよ。まぁ、あいつには暫く術掛けてたけどな」

 

美猴「ほっとけないの基準が低いねぃ。八幡は、そんなんでよく寝首を搔かれなかったもんだわ」

 

美猴は片手で2本目を開けると、一気に飲み干した。缶を壁のゴミ箱に放り込み、立ち上がった。

 

八幡「蓋凹むし、残ったの飛び散るから投げ入れるのやめろ」

 

美猴「ダイジョブだって。んじゃ、俺っちは一旦帰るわ。やっぱ家の方が······ん?!」

 

 

美猴が声を上げた瞬間、俺の眠気は吹き飛んで、束は飛び起きた。

 

 

結界が破られた。それも内側から······!

 

 

束「侵入された······! いつの間に!?」

 

 

 

八幡sideout

 

 

 



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第146話 溺れる者が掴んだ藁は


3ヶ月ぶりの投稿、期待に添えず申し訳ございません。



 

 

八幡side

 

 

 

クルルと話し合う。あの時の俺には、そんなことをする余裕はなかったし、あってもクルルの話を聞き入れはしなかったと思う。

 

 

クルル『───八幡、聞いて? 信じられないかもしれないけど、私はね······八幡を守るために、八幡を傍にいたの』

 

八幡『は。なんだよそれ。守るって、親父もお袋も小町も! 皆死んだじゃないか! 何が守るだよ。冗談も程々にしてくれよ······』

 

俺もクルルに殺されるかもしれない。この当時は、毎日そんなことに怯えていた。アイツもクルルも、人殺しだ。この考えを改める機会も俺は見落としていた。見ないフリを続けていた。

 

クルル『聞いて八幡、まだ話は』

 

八幡『もういいよ······そんなの、聞いても虚しいだけだ』

 

クルル『待っ───』

 

 

 

 

八幡『ヴェネラナさん、やっぱ無理だよ。クルルの話聞いたところで誰も帰ってこないんだよ······』

 

ヴェネラナ『でも、生き残ったのは貴方ただ一人。辛かろうが、今の貴方にクルルの助け無しで生きていくのは不可能です。もう一度、今度はちゃんと逃げずに話し合いなさい。それでどうにもならないのなら、貴方とクルルはその程度ということです』

 

当時のグレモリーには、ヴェネラナさん以外に味方が誰もいなかった。サーゼクスは追い出す気まんまんだったし、グレモリー卿はまだ、俺を殺すかどうか考えていた。そうなると、必然的に、俺はヴェネラナさんの後ろ盾を失うわけにはいかなくなる。

そしてそのヴェネラナさんはクルルの味方をしている。

 

俺がクルルに向き合おうとした切欠で言えば、その程度だった。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

母さんは、切り落とされた腕を押さえて呻いた。ちょうど肘を切られていた。

 

クルル「くぁ······」

 

母さんは、二の腕の半ばあたりを魔の鎖(グレイプニル)で縛り上げる。そこで、気付く。

 

再生が始まらない。母さんの再生力は驚異的だ。1cm角の肉片が残っていれば、体を完全に修復出来る。人体の完全修復(或いは錬成)は技術的には不可能じゃないが、3秒で肉体を完全に再生させる術など存在しない。

現代医療の再生治療は年単位の時間がかかるし、父さんが知っている中で一番強力な禁術でも、一から3秒以内で治せるものと言えば、人体の中では比較的に構造が単純な腕や足くらいだ。それにも限度がある。

 

ラヴィニア「クルルさ······」

 

四鎌童子「驚いたろう? これを取り戻すのに随分時間がかかったが、やはり効果は折り紙付きだな。欲を言えば、比企谷八幡から引き剥がしたかったが

······」

 

四鎌童子がフッと口端を歪めると、俺に横目を向けた。加勢しろと、命令している。俺は······そうだ。ラヴィニアを護ると、決めたんだ。今は四鎌童子の言うことに従うしかない。

 

ヴァーリ「······禁手化(バランス・ブレイク)

 

ラヴィニア「ヴァー君!」

 

白銀龍の極光天破(エンピレオ・ディバイダー)』。まさか、訓練以外で母さんに向ける日がくるとは、思わなかった。

 

ラヴィニアの瞳を無視して、出力を限界まで高めた。

 

ヴァーリ「フェザー!」

 

白銀の盾から平行四辺形の剣が分離し、動きが鈍った母さんの両足を、太腿から切断した。支えを失って倒れ伏す母さんだが、両足はやはり再生が始まらず、ただ血を流すだけだった。

 

ヴァーリ「何がどうなっている······?」

 

俺の呟きが愉快だったのか、は、と笑った四鎌童子はその手の楽器を演奏し出した。

 

ヴァーリ「······ダンテの神曲?」

 

地獄編。トランペット? だけだとかなり味気ないものだが間違いない。これにいったいどういう意味が。そう思った次の瞬間、母さんが残った左腕で頭を押さえ、そして叫び出した。

 

クルル「うぐっ、うぅぅあぁぁぁぁああああっ!」

 

トランペットの演奏で、叫ぶ、いや悲鳴を上げ、目と鼻から血を流してのたうち回る。そんな異様な光景に、俺とラヴィニアは気圧された。

 

ラヴィニア「何······?」

 

俺達の様子に見向きもせず、四鎌童子はトランペットを吹き続けた。一分半ほど演奏を続けた四鎌童子は、マウスピースから口を離すと仰向けで肩で息をする母さんの腹を踏み付けた。吹奏が終わると、母さんは悲鳴を上げるのを止めていた。あのトランペット、どういう代物なんだ······?

 

クソ。ラヴィニアさえ無事なら、今すぐにでもやつの首を刎ね飛ばせるんだが。

 

四鎌童子「どうだ。惨めだろう? 貴様も私も」

 

母さんの腹に足をグリグリと押し付け、その度に聞こえるうめき声に、俺は目を逸らした。生殺与奪の権利は、俺達にはない。

 

クルル「ぐっ、うぅぁ······」

 

とその時、四鎌童子が張った結界が破られ、父さんが束と美猴を連れて突入してきた。形勢逆転、吉と見るか······いや、大凶だな。下手な手を打てば、俺達2人とも四鎌童子の前に父さんに殺されかねない。

 

せめてもの対抗策として、禁手(バランス・ブレイカー)の盾を、ラヴィニアの前に浮かせた。

 

八幡「······クルル」

 

四鎌童子「お早い登場だな。お前の女は死に体だぞ」

 

四鎌童子は母さんの首に光で出来た剣を突き立てた。

父さん、意外に冷静だな······だが、こっちにも殺気が飛んできている。動けば殺すと、本能に脅迫してきている。

 

八幡「そうなる前に、お前を殺せばいいだけだろ。まだなんとかなる」

 

父さんが魔法を仕掛けると、一瞬で姿が消えて次の一瞬には四鎌童子の左から切りかかっていた。受け止めた四鎌童子を力で壁に押し付けると、そのまま壁をぶち破って外に出る。間もなくして、外からは地鳴りのような轟音が届いた。

 

 

 

美猴「おいヴァーリ。どういうことなのか、俺っち達に説明して貰おうじゃねぃか」

 

ヴァーリ「······それは」

 

美猴が如意棒を出現させ俺達の前に来ると、美猴を壁にして束が母さんに駆け寄っていた。

 

束「くーちゃん、すぐ治してあげるから······」

 

束が治癒魔法陣を展開させた瞬間だった。

 

八幡「束!」

 

上空で四鎌童子と戦闘していたはずの父さんが壁に空いた穴から突っ込んできて、束を突き飛ばした。

 

束「え」

 

八幡「がはっ······!!」

 

父さんの胸は紅いオーラでできた剣で貫かれていた。貫いたのは。

 

ヴァーリ「ルエルト・グレイヴィー、どうしてここに────」

 

あのクリフォトの拠点にいた、謎の女。四鎌童子からこの女が来ることは聞いていない。俺を信用しなかっただけかもしれないが。

いや、四鎌童子の気配が消えかかっている······?

 

八幡「な······づぅぁっ!」

 

「残念。殺し損ねた」

 

父さんから剣が引き抜かれて、壁に蹴り飛ばされた。父さんは手に小さな魔法陣を展開して胸に押し当てつつ、即座に体勢を立て直す。

 

美猴「八幡!」

 

父さんは血を吐きながら魔法で傷を修復し、ルエルトの周りに光の矢を展開した。

 

八幡「げほ、がほ、お前がルエルトか······死んだんじゃなかったんだな」

 

この口ぶり、父さんはこの女のことを知っているみたいだな。

周りが訝しみ、父さんが警戒を強める一方で、ルエルトは()()()()いた。

·······と、横を見れば、美猴と束も既に戦闘体勢を整えていた。

 

美猴「八幡。誰なんだいコイツは」

 

ルエルトの柔らかい笑みに、俺は恐怖を覚えた。こんな感覚は始めてだ。リゼヴィムに殺されかけた時だって、ここまでおぞましい感覚を感じてはいない。

 

そんな俺の様子に気が回らないのか、父さんはルエルトから目を離さず、さらっと言った。

 

八幡「あぁ。死んだっていうクルルの娘だ。実のな」

 

娘······? そんな話聞いたことは·······

 

束「はーくん。冗談キツいよ」

 

八幡「本当だ。嘘は言ってない。それより束、外に転がってる四鎌童子を回収しろ。そこの女にやられて瀕死だ。生かさなくていい、殺すな」

 

本当に、四鎌童子がやられたのか。父さんとの戦闘に介入して。オーラを隠しているせいで実力を正確に出来ないが、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』メンバーが言っていたように、相当な実力者なのは間違いないらしいな。

 

束「それこそ冗談でしょ。なんであんな奴を」

 

誰も動けない状況の中束が吐き捨てたが、美猴が待ったをかけた。額に脂汗をかきながら、如意棒を構えた。

 

美猴「束、八幡の言うことに従った方がいいと思うぜい。コイツはヤバい」

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

 

八幡「そのラッパ、随分といい使い勝手だな!」

 

四鎌童子「だったらどうするっ」

 

四鎌童子は俺の蹴りをさがりつつ腕で防ぎぎると、光の剣の刺突を俺に繰り出した。光力のジェットで加速を続けながらそれを回避しつつ、後ろに周り込んで胴体を真っ二つにするべく切り払う。それはギリギリで届かず、逆に反撃の魔法が飛んでくる。

 

八幡「投降しないなら殺すぞクソ(アマ)

 

四鎌童子「その前にお前が死ね」

 

視界を埋める魔法をまとめて消滅させ、物量による死角からやつの顎を蹴り抜いた。が、同時に蹴った足を太腿から切断された。

 

四鎌童子「ぅあ·······」

 

八幡「チッ」

 

すぐに切られた足をくっつけ直しながら四鎌童子の腕を切り落とす。そのまま片腕のやつと何回か切り結んだところで、仕掛けを一つ発動させた。

 

四鎌童子「ぐぅあ······!」

 

ボン、という音とともに俺の魔力が炸裂して、赤黒い光に四鎌童子のもう片手も飲み込まれた。もう少し遅かったら勘づかれてたかもしれない。

怯みに乗じて女を地面に叩き付け、バウンドしたところを魔の鎖(グレイプニル)で縛り上げた。

 

四鎌童子「まだぁ······っ!」

 

四鎌童子は身動ぎして、拘束を引きちぎらんばかりに前のめりになる。反抗されてもめんどくさい。心臓に当たらないように、右胸に直径5cmくらいの風穴を空けて、強引に黙らせた。痛いだろうがまぁ、人外ならこのくらいじゃ死ねない。

 

八幡「さて、何から聞くべきか······」

 

しかし、こいつの強さがイマイチ分からんな。俺みたいにズルで強化してるタイプだとは思うが、前は束一人に殺されかけたのに、今回はクルルを瀕死に追い込んでる。それに、俺のスピードに着いてこれた。クルルや束より俺の足の方が速いんだが。

 

やっぱこのラッパ擬き? が原因なのか。前2回の戦闘では使ってなかったし、理屈は置いといて、それっぽいドーピング系か。

 

八幡「全く、これだから復讐の対象も絞れないやつは」

 

四鎌童子「それに、触るな······」

 

往生際の悪い女だな。そう思いながらラッパ擬きに触れた瞬間、頭に激痛が走った。

 

八幡「ぐぅあっ·······!?」

 

四鎌童子から距離を取る。そして顔をあげて、気付く。

 

 

四鎌童子の胸に、腕が───手刀が突き刺さっていた。

 

四鎌童子「あ、ごは······ルエルト、貴様」

 

八幡「ルエルト······!?」

 

黒の革手袋をした金髪の女は、血が滴る腕を引き抜き、ラッパを拾った。そのまま片手を振り上げ───

 

八幡「────やべっ」

 

俺は魔力を凝縮した剣で女の胴体を真っ二つにした。いや。

 

八幡「あの女、どこに······」

 

手応えがない。消えた。全く気付けなかった。俺は、感知だったらオーディンもシヴァも上回れる。と、急にあの女の存在が()()()()

 

八幡「クソが······!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束が渋々と転移でこの場を離脱した。

 

 

ルエルト「やっと会えた。お母さん」

 

ルエルトは、しゃがみこんでクルルの頬に手を添えた。

 

ヴァーリ、ラヴィニアの前に立つ美猴に視線を移した。臨戦態勢は出来ている。だが、今俺と美猴で2人を見張りながらの戦闘は無理だ。こいつが本当にルエルトなら───いや、本当にルエルトなんだろう。クルルや666と同じ匂いを感じる。どれだけ捜しても見つからなかったが、生きてはいた。

 

 

俺が知っている限りでは、ルエルトは俺が11の時に産まれている。当時単独任務中のクルルが、潜入中にヘマをして捕まり、ウリエル派の組織のシガマドゥに乱暴されて産んだ子······で、脱走途中で編んだ草木に毛布を詰めた粗野な籠に入れて川に流した、だったか。

クルルから聞いた状況で赤ん坊が生きていられる確率なんてたかが知れてるし、どれだけ捜しても見つからなかったから、死亡として扱ってたが、まさか生きてたとは。

 

それに、その組織はクルルが脱走時に邪魔になりそうな末端の構成員は殺して回ったって聞いている。クルルが仕留め損なったシガマドゥも、後にメリオダスに殺害されている。存在を知る人間はもうほとんどいないと思われていた。

 

 

八幡「確かに、お前はルエルトみたいだな。お前のオーラはクルルにそっくりだ」

 

俺がルエルトに目を向けると、彼女はキッと俺を睨んだ。まるで、さっきまで俺が目に入ってなかったみたいだな。俺を刺した女とは思えん。そういうタイプか。

 

ルエルト「私の邪魔をするな」

 

八幡「は。不法侵入者がいっちょ前にほざくな」

 

ルエルトは、クルルを抱えて立ち上がる。随分大胆なやつだな。っても、メリオダスもクロウもティアも今はいない。勝永は別件中、それ以外のやつはここに呼びたくはない。

 

ルエルト「······付き合うだけ時間の無駄だな」

 

ルエルトが、クルルを抱えた。

 

八幡「美猴! お前はここに残れ!」

 

次の瞬間には、ルエルトは窓を突き破って脱出を図っていた。

······こいつの狙いはクルルを殺すことじゃなかったのか!

 

慌てて開けた窓枠から飛び出したが、その時にはルエルトもクルルも、影も形もなかった。

ルエルトが飛び出してから1秒も経っていないはずだったが、転移の痕跡もなし、オーラの残滓も窓を飛び出してすぐに途切れていた。監視カメラの映像くらいはあるかもしれないが、どこまで役に立つか·····

 

 

八幡「ごめんクルル······」

 

 

 

八幡sideout

 

 



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第147話 人と怪物のハザマ


 8ヶ月間も無更新だったこと、謹んでお詫び申し上げます。とは言っても6000文字もあるのに、盛り上がりのないリハビリみたいな回なんですけどね(目逸らし)

 9月中にもう一本投稿出来ればと思ってるんで、この作品をまだ生暖かい目で見てくれる、という方は期待せずに待っていてください。
 


 

 

 

 ギャスパーside

 

 

 嫌に忙しい朝だった。お母様が連れ去られたことはもとより、屋敷内に侵入を許したことでセキュリティの見直しを余儀なくされて、手の空いていた人全員が体力を搾り取られるまで魔法と頭脳を酷使することになった。

 親が連れ去られたというのに、ろくすっぽ動揺している暇もなかった。

 

 

 

 

八幡「束、監視カメラのチェック終わったか?」

 

束「とっくにね〜·······束さんは四鎌童子の様子見てくるから」

 

 自分のスペックを高々と誇るほどの束さんでも、焦りと動揺はあったようで疲れが見えていた。お母様と仲が良かった分もあるはずだ。

 

八幡「頼んだ。勝永、金庫のチェックは?」

 

勝永「ダメですね。宝玉類と秘薬系の物にかなり被害が出たようです」

 

八幡「分かった。追跡はお前と美猴で────」

 

 

そんな光景を見て一周回って冷静になれた僕は、任された区画とその結界のチェックと報告だけやって、引っ込んだ。悔しいが、僕がいても邪魔になりそうだった。

 この屋敷の結界はあらゆる系統の魔法を複合して作られたもので、流石に今の僕では出入りする程度が限界だ。頑強に張り直される予定らしいけど、手助けも出来ない。こんなことなら、もっと魔法の勉強をしておけば良かったかもしれない。ロキとの戦闘でも、その差をパワーで埋めようとして失敗したのだ。

 

ギャスパー「はぁ······」

 

溜息をついてベッドに寝そべれば、部屋に来ていたヴァレリーが僕の視界を覗きこんだ。

 

ヴァレリー「ねぇギャスパー。紅茶を淹れたの」

 

 

 

 

 

 

ヴァレリー「ギャスパーは、落ち着いてるのね。意外だわ」

 

ヴァレリーは紅茶を淹れることに集中して、強引に自分を落ち着かせたらしい。

 

ギャスパー「自分でも不思議だけどね。他の人が皆慌ててて、逆に冷静になった感じ」

 

 ヴァレリーを見れば、平常心を保っているようで焦りの色が見えていた。当たり前だ。寧ろ、落ち着いていられる自分がおかしいのかもしれない。

 

ギャスパー「現実を受け入れられてないだけかも······」

 

ヴァレリー「私はダメね。ルーマニアでは女王までやったのに。こういう状況でこそ毅然としてるべきなのに·······」

 

 ヴァレリーは窓の方に目を逸らして、呟いた。

 

意外だった。ウチでは、心身に大きなダメージを負ったヴァレリーの、ルーマニアで女王に担ぎあげられていたことはタブーのようなものになっていて、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』が摘出された後でもその話題が上がるのはせいぜいリゼヴィム討伐の時だけだった。

 

ギャスパー「ヴァレリーを女王にしたルーマニアが······ヴァレリーは怖くないの?」

 

窓の外では、メリオダスさんとクロウさんが張り直された結界の強度を確認しているところだった。微かにドン、という音が聞こえた。

 

ヴァレリー「怖くないわけではないけど······皆がびくびくする程ではないかしら。あの頃の記憶があやふやなのもあるし」

 

ギャスパー「そっか」

 

 ティーカップを置いて立ち上がる。

 

ギャスパー「僕、何か出来ないか聞いてくるよ」

 

ヴァレリー「ギャスパー」

 

 歩きだそうとしたところをヴァレリーに呼び止められた。

 

ギャスパー「?」

 

ヴァレリー「あ······私にも出来ることがあるなら手伝わせてね」

 

 ヴァレリーは一瞬迷ったかのような表情を見せたが、次の瞬間には元の表情に戻っていた。何か、違うことを言おうとしたのが分かった。でも、踏み込んでいいのか分からなかった。

 

ギャスパー「うん」

 

 どこを手伝おうか。破壊された医務室の改修してる一夏さんの所でもいいし、食堂の人達の手伝いもいい。孤児院の警護してるディオドラさんの所でもいいかもしれない。

 

手持ち無沙汰でふらふらしてるよりはマシだと言い聞かせて、ドアを締めた。

 

 

 

 ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡side

 

 

 

オーフィス「······話は分かった」

 

八幡「それは助かる」

 

 

 ウチの国の端っこ。タンニーンの領にも跨る広大な森の中にポツンと佇む一軒家で、俺はオーフィスと秘密裏に接触した。俺がオーフィスを匿っていることを知ってるやつは少ないが、アザゼルに知られているため接触も簡単ではない。

 今でこそアザゼルとは表面上は仲良くしているが、ウチは60年前に、冥界のエネルギー利権でもめにもめて、『神の子を見張る者(グリゴリ)』と戦争寸前までいったことがある。結局、合弁企業で利権確保になったがよくそこまで漕ぎ着けたと思う。マジで。

 

 

オーフィス「我、クルルの救出に、関与しない」

 

八幡「頼む」

 

 こいつは仮にもテロリスト。匿っているなんてバレるわけにはいかない。それを知ってるアザゼルがバラすとも思えないが。

 

オーフィス「······八幡、クルルをどう、助ける? 」

 

八幡「アテは······あるにはある。使いたくはなかったが······」

 

 

 建設的、とは言い難かったが、オーフィスとの話を纏めて俺は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 自分の屋敷に戻った俺は、屋敷の地下にある懲罰房に向かった。作って以来埃が溜まりっぱなしだったここには、初めての利用者がいる。

 

八幡「意外と元気そうだな。捕まってるワリには」

 

 利用者───四鎌童子は俺の声に気付くと、俺を睨み付けた。

 

四鎌童子「······なんの用だ。雑談ならお断りだ」

 

 3m以上ある壁の向こう側、最低限の治療だけ受けて両腕と下半身を壁に埋め込まれた四鎌童子は、忌々しさを隠しもしなかった。

 

八幡「俺が、んなこと来たと思うか?」

 

 光も魔法も何も使えなくされて、筋弛緩剤を打たれてマトモに動くことも出来ない姿は滑稽だった。天使嫌いの悪魔に見せたら、腹抱えて笑い転げそうだな。

 

八幡「聞きたいことなんて決まってるだろ。ルエルトだよ」

 

 四鎌童子は、ハッと笑って言う。

 

四鎌童子「そうか。アイツはクルル・ゼクスタに届いたか。それで? 殺したか?」

 

 仮にも姪に対しての扱いじゃないな。ただこれを見ても、世界のどこにもこいつを諌めるやつがいないって点では哀れだ。

 

八幡「······クルルは死んだよ。で、今お前に聞きたいのはルエルトがどうやって生きてきたかだ。答えない場合はお前をバラして魔獣の餌にする」

 

 俺の言葉を真に受けるほどバカではないだろうが、この女もマジの死にたがりじゃないだろう。死にたいとか死んでも構わないとか言うやつほど、いざと言う時は死ぬのが怖くなるのが世の常だ。そう言うやつは、頭の片隅で自分の生死を意識してるからな。

 

四鎌童子「私が答えて何の得になる?」

 

八幡「ならないな。だが、お前の寿命は少し延びる。お前をありがたがるやつはウチ以外でも存在しないぞ?」

 

 答えなきゃ首だけにして記憶を読むだけだが、損切りするにはまだ早い。それに、こいつは俺に負わされた負傷が回復していない。ここから脱出して誰かが助けてくれるとしても、()()()助からない。

 

 そんな自分の立場くらいの理解はしていたのか、四鎌童子は嫌々口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 何百年も昔、クルル・ツェペシに産み落とされたルエルトは、生後3週間程で母親に捨てられた。当然、赤ん坊は誰かに守られなければ人外だろうと関係なく死ぬ。だが、当時の上流階級の使用人に偶然にも拾われたルエルトは、九死に一生を得る。グレイヴィーというのはその使用人らしい。

 

 大人になるまで自分が人外だとすら知らなかったルエルトだが、ある日同僚と買い出しに赴いた帰り、教会と悪魔の戦闘に巻き込まれる。そこを助けたのが、クルルを殺す手立てを探していた四鎌童子だった。

 助けたルエルトの気配から666(トライヘキサ)の縁者だと気付いた四鎌童子は、人外の存在と見たことの無い実母のことを教えた。実母に対して、自分を捨てたことへの恨みと迎えに来て欲しい寂しさをない混ぜにして四鎌童子に同行することを決めたルエルトを同行させて、今に至る。

 

 

八幡「······なるほどな」

 

 聖書の三竦みの戦争が疲弊の限界に近付いていた頃、俺とクルルで、クルルの娘(ルエルト)を探してヨーロッパ中を歩き回っていた時期かある。でもその時は、ルエルトのことを何も突き止められなかった。

 

 それに、クルルが娘を捨てたというのも少し思うところがある。ルエルトは、結論から言えば望まれない妊娠だ。それでも、それだけならクルルは娘を放り出しはしなかっただろうが、当時クルルは任務の失敗から身柄を狙われており、冥界に戻るのもままならずの状況だった。当然、赤ん坊を連れては行けない。

 まぁ、これもクルル側に立って見ればという話で、ルエルトから見れば自分を捨てた母親という認識になるのも当たり前だし、それでもまだ母親を愛したいと思えるルエルトの、その点は俺は尊敬したい。

 

 

八幡「で、お前は復讐のためにルエルトを利用したと」

 

四鎌童子「まぁそうなるな。殺す目的の私とは、いずれ対立するのが決まっていたが。それくらいはアイツも分かっていただろう」

 

 これが本当のことならとりあえず何でつるんでたか、だけは解決する。問題は、ルエルトがどこに行ったか、クルルが無事なのか、だが······とりあえず、話が本当ならクルルはまだ生きてるな。

 

八幡「そうか。話してくれて感謝する。味のある固形食くらいは出すように言っておいてやるよ」

 

 モニター室に、面会終了とメールを送って頭を切り替える。

 

四鎌童子「······意外だな。ルエルトがどこに行ったか聞かないのか」

 

八幡「お前の話が本当なら、お前とルエルトの協力関係はもう破綻しただろ。時間と金の無駄だ」

 

四鎌童子「どうだかな。そう思わせるのが狙いかもしれないとは思わないのか?」

 

 四鎌童子はつけ込める隙でも見付けたのか、俺を引き止めるように言葉を繋いだ。

 

八幡「思わないが······もしお前の言う通りだったら、食事はフレンチでもトルコ料理でもお前の希望通りにしてやるよ」

 

 俺が軽口を叩くと、意外にもこいつは乗った。

 

四鎌童子「イタリアンにしろ」

 

 乗ったが······こいつトマト好きかよ。趣味合わねぇな。

 

八幡「考えといてやるよ。じゃあな」

 

 

 

 

 

桃花『八幡、とっとと出て下さい。閉められません』

 

八幡「分かってる分かってる。あぁ、今出たから閉めてくれ」

 

 

 分からないことだらけだが、一歩前進だな。分厚い扉が閉まっていくのを背中で聞きながら、俺は頭の中で次にやることを考えていた。

 

 

 

 八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルルside

 

 

 

 

 私は、森の中を走っていた。泣き叫ぶ赤ん坊を抱えて。

 

 

クルル「はぁ、はぁ、状況、を切り抜け、るには······」

 

 腕の中で赤ん坊の泣き声が反響する。私の不安を感じとって。

 

クルル「静かに、してよ······!」

 

 潜入の失敗、隷属、拷問、脱出、妊娠、出産······父親はこの赤ん坊のオーラで分かる。間違いなくあの憎きシガマドゥだ。でも腹に風穴一発開ければ、それだけで私は解放されたはず。私自身はその程度では死なない。なのに出来なかった。やろうとすると手が震えて、体から血の気が引いた。

 

 どうして、産んじゃったの······!?

 

 頭の中がぐちゃぐちゃのままがむしゃらに走っている内に、切り立った崖に辿り着いた。周囲を魔法で探索すると、自分の真下にそれなりのサイズの空洞があることが分かった。飛び降り、飛び込み、奥に潜り込んだ。

 

 結界を張って、へたり込む。

 

クルル「あ······」

 

 その瞬間、自分が抱えているものを思い出した。出来れば、ずっと忘れていたかった。

 

 

クルル「ルエルトなんっ、名前付けて······!!」

 

 結界の中に赤ん坊の泣き喚く声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

クルル「は────!」

 

 

 視界が一瞬ボヤけ、すぐにピントが合った。

 

クルル「夢······か。ここは······」

 

 私は、知らない部屋のベッドで寝ていた。布団を捲れば自分は全裸で、寝ている間に犯されたかと思ったが、頭が猛烈に痛いことと耳鳴りがすること以外は体に異常はなかった。すぐ側には、畳まれた自分の服と下着が置いてあった。服の下に隠し持っていた銃やナイフは流石にない。

 

 服の匂いを嗅ぐと、使ったことのない柔軟剤の匂いがした。何かが仕掛けられているわけではなかったが。

 

 服を着て、体内を仙術で安定させれば、頭痛も耳鳴りも収まったから、状況を整理する。

 

 

 ヴァーリ達を保護して、医務室に様子を見に行ったら四鎌童子に奇襲された。アイツのラッパの音を聴いた瞬間、頭を勝ち割られたような痛みがして怯んで、攻撃された。切られた腕や足の再生が出来なかった。失血で意識が朦朧としてたら、八幡と束が突入して、八幡は四鎌童子を外に追い出した。そこからの記憶はない。

 

 あのラッパは十二分に脅威だけど、私が生きているってことは四鎌童子は私を殺せなかったということ。八幡か束か、あの場には美猴もいたし四鎌童子を殺すなり撤退なりさせた、という認識でいいはず。ならここは。四鎌童子の増援? 別の勢力? あの世、は流石にないか。死んだら魂ごと無に帰るだけだし。

 拉致にしてはどこも拘束されてないし、監視カメラもない。盗聴器、はこれから探せばいい。もしかしたら隠しカメラとかあるのかも。

 

 唯一気がかりなのは、部屋の外を探れないこと。結界なのは間違いないが、知らない術式だ。

 

 

クルル「出来ることからやるか······」

 

 色々探って分かったのは、部屋の間取りは16、7畳くらい。窓は開かない。電気ガス水道は通っている。内装は特に気になるようなこともない。最近の女なら、だいたいこうなるだろうという程度。間取りにしてはキッチンは広い。トイレ、洗面台、シャワールームもあった。水道水が毒入りの可能性もあるけど、確認のための持ち合わせはない。

 あった家電は冷蔵庫、炊飯器、ドライヤー、電子レンジ、洗濯機。冷蔵庫は空、洗濯機は使った後の匂いがする。この服の洗濯はこれでやったのだろう。テレビや電話はない。ネット環境もなかった。気がかりなのは、コード付きの家電や、キッチンに刃物があること。ベッドから少し離れた所の棚の引き出しには、ハサミとカッター、ドライバーまであった。

 

 酔狂な話だが、私を閉じ込めるためだけの部屋なのだろう。私が出られない、という確証でもあるのかもしれない。脱出ゲームのつもりだろうか? 或いは、自殺に持っていかせる気か。ただ、飢え死にさせるつもりが無いなら冷蔵庫が空な以上補充しにくるはず。失血で力が出ない今、思い付く脱出のチャンスはそれくらいだ。

 

クルル「外と連絡取れれば楽だけど、そんな訳ないか」

 

 換気扇と冷蔵庫の稼働音だけが静かに充満する。どれだけ魔法で探っても、室内に怪しい箇所はない。本当に、少し手狭だが一人暮らしのOLとかが住んでそうな部屋だ。ミッション インポッシブルみたいな脱出劇は起こらなそう。

 

 あと出来ることは、結界の術式を解析するくらいか······駄目だ。血が足りないし糖分も欲しい。

 

 

 ······拉致られたのなんてそれこそさっきの夢以来だ。されかけた事は何度もあるけど、八幡か、偶に八幡がいない時はメリオダスとかが守ってくれたし。でもあの時とは違う。力も知恵も経験も武器も、あの時とは比べ物にならない。

 

 

 そう自分を奮い立たせた時、ドアのノブの回る音がした。

 

 

 

 

 クルルsideout

 

 



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第148話 受け止めるために



 9月中(30日の9時すぎ)



 

 ヴァーリside

 

 

 

 2時間前、俺は、小部屋に放り込まれて、何人かに尋問されていた。

 

黒歌『アンタ、ラヴィニア助けようとしてここの情報教えたんだって? ラヴィニアに聞いたけど』

 

 その内の一人の黒歌は、そう言った。言い訳する気も起きず、俺はただ頷いた。

 

ヴァーリ『······あぁ』

 

黒歌『他になんか思い浮かばなかったの?』

 

 違う、と言いたかったが、この時は何も答えられなかった。沈黙は是だ。

 

黒歌『······ま、いくらヴァーリでもそうなる時はそうか』

 

 そう言って、黒歌は後ろのメリオダスにバトンを渡した。

 

メリオダス『んじゃぁ、初めるぞ。八幡にゃいい感じに伝えとくから、隠し事はすんなよ。な?』

 

 

 言葉とは裏腹に、メリオダスの圧は強かった。だが、それ以上に黒歌の問い掛けが俺には辛かった。

 

 

 

 

ヴァーリ「······他のやり方、か」

 

 

 3年前、家を飛び出した時も。アザゼルに会ってからも。俺は、中途半端なままだ。

 父さんの力なんて借りなくとも。あの時のリゼヴィムによる騒動の対応に追われて、会見で必死になって説明する父さんを見てそう思ったことは今でも憶えている。だが、出奔して分かったのは、そんなものは、そう思わせてくれるだけの環境を与えられていたからだということ。アザゼルの所に転がり込んでからも、それまでの延長線上をただ歩いているだけだった。

 

 

ヴァーリ「俺がもっと強ければ、今回のことは未然に防げたのか······?」

 

 分からなかった。力があれば? 知恵があれば? 武器があれば? 分からない。そんな規模の話とも思えない。

 他の誰かだったらと思ったが、その誰かが、こういう時どうやって対処するかも、思い浮かばなかった。意外と、自分が他人をよく見てないのだと気付いただけ、良かったと思うべきなのか······

 

 他人のやり方を真似ればいいというわけでもないのは分かる。

 

 

ヴァーリ「俺のやり方、か······」

 

 

 

 ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザゼルside

 

 

 

 駒王学園、オカルト研究部。新年明けてそうそう、その部室で俺とリアスは、一枚の書類に頭を抱えていた。

 

『上級悪魔リアス・グレモリーに猫趙『白音』の引き渡しを命ずる』

 

 引き渡し先はよりにもよって比企谷八幡。だが、問題はそんなことではない。

 

 この引き渡し命令は、アジュカ・ベルゼブブ······つまり、魔王の承認を受けていること。先日、本人に直接確認したため間違いもなく。

 

アザゼル「リアス、一応聞くが、小猫にこのことは」

 

リアス「昨日、小猫には······でも、他の眷属にはまだ伝えてないわ。アジュカ様に確認を取る前だったのもあるし······」

 

 一週間前に突如届いたこの通知。いや、勧告か。先月の、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』を保護してウチに移送してきた件もある。裏な取れたというのもある。

 

アザゼル「八幡は、軟禁するわけじゃないとは言ってたが······駄目だったな。あいつの目的は探れなかった」

 

リアス「そう······でも、どうして今なのかしら。小猫は、素行に問題があるわけでもなし、私もイッセーも小猫と同居しているのだからあの娘が犯罪に関わってない証明くらい······」

 

 リアスは疑惑を更に深めるが、答えは見つかりようもない。

 

アザゼル「八幡は、実際は『保護』だと言ったが······」

 

リアス「禍の団(カオス・ブリゲード)もない今、何から保護するというの······?」

 

 そんな時、部室のドアがノックされた。まだ冬休みで、今日は部活も休みにしているのに、訪問者なんているはずもないのだが。

 

リアス「どうぞ」

 

 訪問者は、オカルト研究部の所属一年生。

 

「お久しぶりです。部長、先生」

 

 リアスの眷属でもある、ギャスパーだった。

 

 

 

 

 

アザゼル「久しぶりだが、ギャスパー。今日は休みにしていたはずだが」

 

 コートを脱いでソファに座ってギャスパーは、鞄から封筒を出した。

 

ギャスパー「分かっています。今日は、部員としてではなく、比企谷八幡の息子として来ました」

 

 差し出された封筒を開けると、そこには一枚の紙が入っていた。

 

ギャスパー「それは、父からです。アザゼル総督宛に、って」

 

 書類に書かれていることをざっくり纏めると、『禍の団はまだ存続しており、我々の作戦はまだ終わっていない。また、塔城小猫はその存在を狙われる可能性があり、保護する必要性を主張する』

 

 正式な書類じゃないとしても、こんな紙一枚を雑に寄越しやがって······

 

アザゼル「······まぁ、八幡の言い分は分かった。にしても、何で引き渡しなんだ。あいつは、一度も保護の必要性なんて言わなかっただろ。今更どういうことなんだ」

 

 リアスに紙を渡してギャスパーに視線を戻せば、ギャスパーは、窓を······いや、もっと遠い所を見ていた。

 

ギャスパー「僕も詳しくは聞き出せませんでしたけど、聞けた限りだと、サーゼクス魔王との折衝に持ち込ませないため、らしいです。父は、政治だとサーゼクスさんと偶に揉めるので······」

 

 八幡は、実利主義がいきすぎて、周りには政敵だらけ、揉めないのなんてファルビウムくらいだが······まぁそれはいい。

 

リアス「ギャスパー。真剣に答えて。小猫は、誰に狙われてるの? 何故わ狙われてるの······」

 

ギャスパー「小猫ちゃんは······いや、『白音』は······」

 

 ギャスパーは、言い淀んだ。ほんとは黙ってるよう言われてるんですが、と言って、意を決した。

 

 

ギャスパー「彼女は、父の敵全てに狙われています」

 

 

 

 罪悪感で満たされた顔を、俺は忘れられそうになかった。

 

 

 アザゼルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャスパーside

 

 

 

 12月末。

 

 

 

ギャスパー『白音······小猫ちゃんですよね。何で引き渡しを』

 

 あのような書類を見れば、誰だって疑いの一つや二つ持つはずだ。僕も当然その一人だった。

 

八幡『お前には言えない』

 

 お父様は、こちらを見ようとしなかった。手元のタブレットから目を離さない。

 

ギャスパー『じゃあ、何で僕にこれを見せたんですか!』

 

八幡『······そうしてくれって頼まれたからだよ』

 

 そんなことを頼む人がいるわけ······いや、いるか。身柄の引き渡し(もとい保護)なら、小猫ちゃんに危機が迫っているからだ。彼女に、政治的な価値はない。貴族子女の眷属の一人でしかない。それなら、知名度がある朱乃さんやイッセー先輩のが余程重宝されるはず。

 小猫ちゃんがそういう状況にあるなら、黒歌が、知らないわけがない。あの人は妹のために、他の全てを捨てたこともある人だ。

 

ギャスパー『わざわざウチに引き渡すのは』

 

 お父様は、漸く僕を見た。

 

八幡『ギャスパーなら想像、出来るだろ』

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー『······黒歌』

 

 彼女は、部屋で酒を煽っていた。時間的には、まだ少し早い。それに、部屋が酒臭くなるって普段は外に呑みに行く人だ。鼻がいいから、部屋が酒臭いと起きた時気持ち悪くなる、らしい。

 

黒歌『······八幡から、聞いたんでしょ』

 

 頬が少し紅潮した黒歌は、ぎろりと僕を睨んだ。

 

ギャスパー『詳しくは聞いてないよ。引き渡しがあるからってだけ』

 

 冷蔵庫から出したお茶のペットボトルを一気飲みすれば、黒歌は新しい缶ビールを開けていた。

 

黒歌『じゃあ、聞いてよ全部。私の好きなギャスパー······』

 

 

 ビールの缶が、ドラマチックな甘いセリフと噛み合わなくて、ちぐはぐさを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 話し終えた途端、飲み過ぎたと青い顔をしてトイレに駆け込んだ黒歌を見送って、僕はまた、お茶を飲み下した。

 

ギャスパー『E(エンハンスド)0001(レイワン)、か』

 

 余りに無機質な名前だ。人の名前にしておくべきじゃないものだと思う。

 

 ネビロス家の研究機関で生まれた黒歌は、幼少期から投薬や拷問レベルの訓練、思想教育を受けて育った。だが、妹が生まれた時、そんな環境に疑問を抱く。お母さんの死後は、ナベリウスに下って自分一人で妹を育てていたが、主を殺して逃走。途中で妹とはぐれて、その後に僕と出会って······

 

 普段は飄々としてるし、割と他力本願みたいな言動もあるけど、本質的には人に頼れない人だ。責任感というか使命感というか······不器用すぎる。

 

 

 何の気なしに飲みかけのビールを飲んでみた。

 

ギャスパー『苦っ······』

 

 飲めなくはないけど、結構キツい苦さだった。大人がこんなんをありがたがる理由が分かるのは、まだ時間がかかりそうな気がする。匂いもキツいし。

 

黒歌『う、頭痛い······』

 

ギャスパー『水飲む?』

 

黒歌『飲む······』

 

 ペットボトルを渡せば、水をがぶ飲みしてぷはっ、と短く息を吐いた。

 

 

黒歌『ごめんねギャスパー······酒臭いでしょ』

 

ギャスパー『そんなことないよ。僕はこの匂い嫌いじゃないし』

 

 

 

 ギャスパーsideout

 



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第149話 留守番たち

 八幡side

 

 

 

八幡「······カマクラ、いるのか」

 

 執務室で俺がそらに呟くと、使い魔の猫又、カマクラが出現した魔法陣からぴょこんと現れる。俺が生まれた時、つまりクルルとよりも付き合いの長いカマクラは一目俺を見て、肉球で俺の頬をペチンと叩いた。

 

八幡「分かってる。クルルは生きて助け出す、また、手を貸してくれ」

 

 そう言うと、満足してカマクラは部屋を出て行った。

 

 

ルシフェル《あの娘、あんなに強かったのね》

 

 意識体のお袋は、そう一言だけ呟いた。生前のお袋に、カマクラは寄り付こうとしなかったらしい。お袋が死んだ時、あいつは()()()()()()当時16やそこらだったと思うが、継母のお袋を好かなかった。とはそれとなく本人に聞いたことがある。俺を通してあいつの違う一面を見て、お袋はよく驚いている。俺の切り札というかジョーカー的存在でもあるし、戦闘ならクルルとよりも連携しやすいくらいだしな。

 人間態を長時間維持出来ない体質と言っても、それが単なる欠点ってわけじゃない。

 

ルシフェル《私は、あの娘の戦闘能力なんて知らなかったわ》

 

八幡「猫が混ざってるだけあって精神的な成長は早かったんだよ。お袋がどうやって俺を生んだのかを本能的に把握しちゃったんだろ」

 

 どうもあいつは、生まれた時の俺と、生んだお袋をおぞましく感じたらしい。俺はそれでも見捨てられなかっただけ良かったか。クルルが、ギャスパーを助けたのも何か俺に通ずる所を感じたからかもしれない。

 

ルシフェル《それは······》

 

八幡「別に、俺は恨んでない。()()()生まれ方をしてなきゃ、間違いなく俺はとっくに死んでるしな」

 

 覚醒したお袋に、一つ聞かされたことがあった。俺はお袋の胎から生まれたわけではないらしい。詳しいことは知らない、というか、外法に外法を重ねすぎていて、ミーミルの泉の知識を動員しても理解しきれなかった。今も、カマクラに何を見たのか聞けていない。

 

ルシフェル《あの時は、ああするしか無かったのよ······》

 

八幡「それくらい分かる。俺でも」

 

 お袋は、それきり喋らなかった。

 

 

 

 理解出来ない。或いは、理解出来たからこそ恐ろしい。四鎌童子も、そうやってクルルや666を排除しにかかったのかもしれないと、今更ながらに気付いた。

 

 

 

 八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 クルルside

 

 

 

 

 きぃ、と音を立ててドアが開く。自分の鼓動が加速するのを感じる。使える武器は自分の能力と体だけ。いけるか······

 

 待ち構えていると、訪問者はやぁ、と軽い声をかけてきた。

 

クルル「え────」

 

 訪問者は、金髪に私よりも頭半個分高い身長。瞳は、私と同じ赤。でも、私よりは綺麗な赤だ。だが、四鎌童子じゃない。というより、彼女の気配が答えをくれた。

 

クルル「ルエ、ル、ト·······?」

 

 だ、だ、だって······

 

ルエルト「凄い、一瞬で分かるんだね。比企谷八幡ですら疑ってかかってたのに」

 

クルル「は────?」

 

 どう、、、······?

 

ルエルト「ただいま。そしておかえり、お母さん」

 

 

 目の前の事態に頭が真っ白になった私を、ルエルトは抱き締めた。

 

ルエルト「今度は、捨てたり捨てられたりすることもないんだよね?」

 

 

 

 クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー『黒歌はこね、白音ちゃんの身柄引き渡しに反対しなかったの?』

 

 2日前。引き渡しの旨が記された書状のコピーを手にしたままじっと動かない彼女に、ふと尋ねた。

 

黒歌『······まぁね。リアス・グレモリーのとこに居るよか安全だとは思うし』

 

ギャスパー『でも本人の意思にはきっとそぐわない、って?』

 

 黒歌は、ゆっくりと頷いた。頬杖ついて窓に目をやりながら、言った。

 

黒歌『ここだって、デカいトラブルがあったばっかだしさ。セキュリティ面は、八幡と勝永で見直したらしいけど。そんなとこが本当に世界で一番安全なとこって? バカな話よ』

 

 クリフォトの拠点から見つかった、旧ネビロス家研究機関の実験データ。塔城小猫が狙われるのも時間の問題。小猫(しろね)ちゃんは、自分がそういう存在だということすら知らないらしい。リアス部長は知っているはずもない。アザゼル先生でも知らないだろう、とお父様は言った。

 

 僕にはお父様の行動は余りにも露骨に見えたが、お父様は守りやすい場所(ホーム)に移動させることに重きを置いたらしい。その上で、先手を取る。黒歌と一緒にいた方が守りやすいというのも分かる。

 お母様がいない状況で強気に打って出たお父様の大胆さは、僕には真似出来なさそうだ。

 まぁ、お父様にはどちらかと言えば強硬派でもあるから、そういうやり方に行き着いたのだと思う。

 

黒歌『白音は、学校で友達とワイワイやってるのが合ってるって、お姉ちゃんとしては思う。ギャスパーもそう思うでしょ』

 

ギャスパー『うん。周りよりは口数こそ少ないけど、僕よりもよっぽどアクティブだよ』

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「────クリフォトの拠点から回収したデータの中に、小猫ちゃんのパーソナルデータがあったんです」

 

 先生と部長は、僕の一言一言を吟味しながら聞いている。

 

ギャスパー「どうしてそれが問題なのかと言うと、そのデータの中に、父と敵対する組織との関連性が認められたんです」

 

アザゼル「だが、それだけで八幡を狙う連中全てってことにはならんだろう。偶然や杞憂の可能性もある」

 

ギャスパー「いえ、似たようなデータが別の、複数の拠点からも回収されたんです。さっきのとは、また別の組織への提供用に暗号化されていました」

 

 お父様からは、問い詰められたらこう返せと段取りを決められた。堕天使側が小猫ちゃんの保護に反対するとはお父様も思っていないみたいだけど、なるべく借りは作りたくない、ということだと思う。相手がアザゼル先生じゃ、そうなるのも仕方ないのかな、とは想像がついた。

 

ギャスパー「クリフォトは聖書勢力外の多数の組織と裏で繋がっていたみたいで。先生も、ご存知だと思います」

 

アザゼル「それはな。あいつの報告だとオリュンポスや須弥山の一部だ、って話だったが」

 

リアス「オリュンポスに須弥山が·······?」

 

 お父様は、回収した全てのデータを公開したわけじゃない。それに、殆どの勢力は首脳部に通知されたデータを末端まで公開していないと聞いている。だいたいの勢力にはクリフォトのシンパが紛れ込んでいる。あれは、一テロ組織というにはあまりに巨大な組織だった。テロで経済的に疲弊した勢力もあるため、安易に刺激も出来ない。

 お互いジリ貧になる前に行動を起こすとは思うが、その膠着を破壊するのはお父様かもしれない。

 

ギャスパー「大小問わなければもっとあるらしいですけど、どうやら、報告されてない中に、悪魔の政治家の一部も含まれているらしいです」

 

アザゼル「それで?」

 

ギャスパー「これはクリフォトの張った予防線の一つですけど、ウチの黒歌さんの妹である塔城小猫を攻める糸口にしようって作戦があったらしいんです」

 

リアス「そんな······」

 

 愕然とする部長と表情を変えず思案を巡らす先生は、エラく対照的に見えた。

 

アザゼル「だから、向こうが小猫に対してアクションを起こすこと前提で、先んじて小猫を使われる前に手元に置こうってわけか。最近の八幡にしちゃ強気だな」

 

ギャスパー「それは僕もそう思います」

 

 先生と僕の意見が一部一致したところで、部長は堪らずなのか声を上げた。

 

リアス「待ってちょうだい。それなら、グレモリー家でもいいはずよ。理由なんて後からいくらでも······」

 

ギャスパー「部長。その政治家は、サーゼクス・ルシファー派の一人なんですよ」

 

リアス「お兄様の······? そんなことが有り得るわけ······」

 

ギャスパー「サーゼクス派の政治家が小猫ちゃんを狙ってるんじゃなくて、小猫ちゃんを狙っている者が政治家としてサーゼクス派に潜り込んでいたんです。残念な、ことですけど」

 

アザゼル「リアス······」

 

リアス「分かっているわ······。私は『(キング)』だもの。でも······!」

 

 部長はがっくりと項垂れて、椅子に深々と座り込んだ。本当に嫌な役回りだ······お父様、何でこんなことをグレモリー眷属の僕にやらせたんだ。

 

 部長の背中をさすっていた先生が僕を呼んだ。

 

アザゼル「······ギャスパー、一つ聞いていいか」

 

ギャスパー「はい」

 

アザゼル「お前、クリフォトの討伐作戦に参加していただろう」

 

 僕が頷くと、先生は僕の目を捉え直した。

 

アザゼル「そこで生き残ったお前から見て、小猫はどう見える? お前自身の意見でいい。聞かせてくれ」

 

 先生の目は、ここだけは嘘は許さないと強く叫んでいた。

 

ギャスパー「······正直に言うと、今巻き込まれたら確実に死にます」

 

 覚悟を決めて言うと、部長が俯いたまま呟いた。

 

リアス「ギャスパー、貴方、小猫の努力は知っているでしょう? 今のあの子なら、上級悪魔相手に引けを取らないはず」

 

 暫くグレモリー眷属から離れて行動してはいたが、色々話には聞いている。昔は忌避していた猫魈の力と向き合って、それを完全に使いこなせるようにと。黒歌も指導に来ていたし、本人からも経過とか聞いてはいた。

 

ギャスパー「もちろんです。でも、その、今の小猫ちゃんのレベルだと、万に一つもない、と思います。小猫ちゃんが仙術を完璧に使いこなせても、イッセー先輩並の攻撃力や防御力を持ってても、多分、変わらないと思います。逃げに徹するのも、今の小猫ちゃんだと······」

 

 部長の代わりに、先生が「そうか」と言った。

 

アザゼル「理由は?」

 

ギャスパー「敵は殺し合いや非合法手段のプロです」

 

アザゼル「そりゃそうだな」

 

 彼女は仲間で、好きな人の妹だ。何も起きないで欲しい。でも。

 

ギャスパー「でも、小猫ちゃんに同じことは、出来ないですよ。普通に生きてくなら、普通は出来なくても何も問題ないですけど······」

 

 今の小猫ちゃんは中級と上級の間くらいの実力しかない。猫魈の力の性質的に格上相手に渡り合うことは不可能ではないけど、コネや財力とかは身分相応にしか持ち合わせていない。対して敵は最上級クラスのものを当たり前のように持ち合わせてる。手段も選ぶ必要がない。勝てるわけがない。

 

アザゼル「そうだな。小猫は、八幡みたいに常に危険の傍にいるわけじゃない。巻き込まれたことはあっても、あいつの歳なら出来なくて当然だ。それに、本当にサーゼクス派の中に間者がいるってんならグレモリー家の方もあまりアテには出来ない」

 

ギャスパー「······はい」

 

 それに、グレモリー家はウチの屋敷みたいにオートメーションを進めて非戦闘員の出入りを限界まで減らしているというわけでもない。

 

 先生は、椅子にどっしりと座り、コーヒーをあおった。

 

アザゼル「問題はそれ以外にもあるが、一番の問題は、小猫本人にどう伝えるかだな。八幡はなんて言ってるんだ」

 

ギャスパー「父は、本人の精神に大きな負担がかからない最低限に収めると言ってます。黒歌さんとの姉妹であるということだけを伝えて、それ以外は当面の間伏せておく、と」

 

 分かった、とため息を吐きながら先生は立ち上がった。それから、少し窓を眺めてから言った。

 

アザゼル「良いだろう。小猫以外にも、引き渡しの件は必要なことだけ俺から話しておいてやる。その代わり、引き渡しには八幡本人が来るように伝えるんだ。あいつには聞きたいことも山ほどあるしな。いいな、ギャスパー」

 

ギャスパー「必ず伝えます」

 

 僕の返答を聞いて、先生は肩から力を抜いた。

 

アザゼル「なら今日はもう帰れギャスパー。俺とリアスで考えなきゃいかんこともあるしな」

 

ギャスパー「はい、失礼しました」

 

 

 

 

ギャスパー「······変な役回りを引き受けちゃったなぁ」

 

 購買の側の自販機によりかかる。カイロ代わりに買った缶コーヒーはもうぬるい。蓋を開けたまま、逃げていく湯気を暫く缶を見つめていたが、気付いたら湯気は見えなくなっていた。

 

 正直、後悔している。引渡しの件は、お父様に反対しなかった。でも、反対していたら多少は違ったんじゃないか。白音······小猫ちゃん本人はこれを聞いてどう思うんだろう。漠然と自分の身に危険が迫っているとだけ聞いて納得するようなタイプではないし。姉との確執が無くなって、姉のいる生活に慣れ始めてようやくこれからって時期なのに。

 

ギャスパー「反対しても状況が良くなるわけでもないんだよな······」

 

 

 

 ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 



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第150話 今から過去

 

 

 小猫side

 

 

 

 豪邸である兵藤邸の一室。長期休暇中のオカルト研究部の集合場所でもあるこの部屋に、グレモリー眷属とイリナ先輩、アザゼル先生が集まっていた。ギャー君だけは、最近のいつものように欠席だけど。

 そして、いつものようなワイワイとした雰囲気は、今日に限ってはなかった。

 

 

 最初に口開いたのは、イッセー先輩だった。

 

イッセー「······それ、本当なんですか」

 

アザゼル「本当だ。紙切れ一枚の通知だが、確かに効力のある文書だ。魔王アジュカのハンコまで付けられちゃな」

 

 

 数日前、上級悪魔リアス・グレモリーに一つの命令がくだった。塔城小猫()を、比企谷八幡に引き渡せと。正確には比企谷さんからの要請で、アジュカ様がその要請を受け入れたということになるらしいが。

 

 

リアス「この文書が届いたのが3日前。一応、小猫にはすぐに伝えたのだけれど、アジュカ様への事実確認もしなければいけなくて、皆にはすぐに伝えなかったの」

 

 ロングスカートを強く握りしめる部長。

 

リアス「確認はすぐに出来たし、アジュカ様へ抗議するつもりだったのだけれど······昨日ね、ギャスパーがオカ研に来たわ」

 

小猫「───ギャー君が?」

 

 ギャー君は、ここ2週間ほど全く部活に出ていない。冬休みに入るまで学校には来てたけど、それまでも暫くの間部の活動にはほとんど顔を出さなかった。何度か来ないのか聞いたけど、実家の用事としか言わなかった。

 もちろん、ギャー君が実家で何してるかは知ってるけど······比企谷さんのクリフォト討伐作戦からもう1ヶ月経つのに。

 

朱乃「昨日の部活は休みでしたよね? 入試がありましたから」

 

リアス「えぇ、ギャスパーも知ってて私とアザゼルを呼んだのでしょうね」

 

 祐斗先輩がおずおずと手を挙げた。

 

祐斗「部長、ギャスパー君はなんと?」

 

リアス「ギャスパー達······向こうも詳しくは調査中のようだけど。どうやら、小猫と、小猫のお姉さんの、黒歌が狙われているようなの」

 

アーシア「そんな······」

 

朱乃「狙われている、とは、誰にでしょうか」

 

 アーシア先輩が震える中、朱乃さんは意を決したように尋ねた。

 

リアス「ギャスパーは、クリフォトだと言ったわ」

 

「「「!!」」」

 

 

 その場を緊張が支配した。

 

 

 そんな中ゼノヴィア先輩が首を傾げた。

 

ゼノヴィア「······おかしいだろう、リアス部長。比企谷八幡のクリフォト討伐作戦から1ヶ月経っている。あの男は首魁の死亡を確認したと宣言したし、多少の生き残りはいるだろうが、中級の転生悪魔を狙う意味が分からない」

 

 ゼノヴィア先輩がそう言って、初めて気付いた。自分が狙われるということにほとんど違和感がなかったことに。

 サーゼクス様に保護されたあとも、はぐれ悪魔の妹を野放しにするのかという声が多かったことは知っている。だから、今回もそういう、比企谷さんに保護される前の姉のトラブルが原因ではないかと思っていた。いや、でも今考えてみれば······

 

アザゼル「ゼノヴィアの言うところももっともだよ。ただ、ギャスパーは、理由までは言わなかった。ギャスパーが知ってるかも怪しいとこだな。

 明後日の引渡しの日に、八幡のやつから直接聞くしかないかもしれんが······」

 

小猫「あの、先生」

 

アザゼル「どうした」

 

小猫「姉の指名手配は、どうやって取り消されたんでしょうか」

 

 先生は、ふむ、と少し考え込んでから言った。

 

アザゼル「確かに、八幡の話を聞く限り、黒歌は冤罪というわけではなかったみたいだが······」

 

リアス「まさか、はぐれ悪魔だった頃の黒歌の因縁が原因だとでもいうの?」

 

アザゼル「その可能性も無くはない。が、黒歌は指名手配されてすぐに八幡に保護されたんだろう?」

 

小猫「はい。姉様はそう言ってました」

 

 以前、姉様は自分が比企谷さんのところに居着いた時の話をしてくれたことがある。私とはぐれてから暫くしてギャー君に保護された、と聞いた。それから、一年かからずにはぐれ悪魔の登録は解除出来たけど姉様の身の安全を考えて表沙汰にならないようにしたと。

 ただ、はぐれ悪魔になる前のことははぐらかされてしまった。その時は、本人のトラウマなのだろうと深堀しなかった。

 

イリナ「だとすると、はぐれ悪魔になるよりもっと前のことなのかしら」

 

リアス「はぐれ悪魔は、主君に牙を向いた眷属悪魔がほとんどだけど、登録される際にその経緯が問われることはほぼ無いわ。制度の欠陥なのかもしれないわね······。気になるの?」

 

小猫「はい。姉様ははぐれ悪魔になる前のことは話したがらないんです。話を聞く限り指名手配がすぐに解除出来たのもその辺に理由があるのかな······と」

 

 よくよく考えてみれば、姉は政治的に強い影響力のある人の保護下にある。比企谷さんの考えていることは分からないけど、もしかしたら私達姉妹は、まだ政治の渦中にいるのかもしれない。

 

 

 

 

 小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡side

 

 

 

 

 がちゃんという音を立てて、鍵を開ける。

 

ヴァーリ「おはよう父さん」

 

 ヴァーリは、壁によりかかって、窓も無いのに遠くを眺めていた。

 

八幡「考えごと、少しは落ち着いたか」

 

ヴァーリ「正直、全くまとまらなかった」

 

 

 クルルが拉致されて、それを手引きしたヴァーリは独房へ入ること数日。

 

 

 俺にとってこの数日は、クルルのことや白音のこと、テロのことで一瞬だったが、ヴァーリはどうなんだろうな。

 

 

ヴァーリ「······迷惑を、かけた」

 

 灯りの消えた独房に振り返り、ヴァーリは呟いた。

 

八幡「なら、あとで、皆に謝りに行くぞ。『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』にもな」

 

 ヴァーリにしては、珍しく弱気だな。普段のすまし顔も今は見えない。かなり堪えたな。当然と言えば当然だ。すぐに切り替えてくれると考えていた俺の感覚の方が麻痺している。

 

ヴァーリ「あぁ······ラヴィニアは?」

 

八幡「『神の子を見張る者(グリゴリ)』の本部で静養中。監視付きのな。向こうも事情聴取は終わってるらしい。お前には悪いが、ラヴィニアにだけは暫く会わせられない」

 

ヴァーリ「······まぁ、そんなことだとは思ったさ」

 

 強がりを言ってみせても、その一言だけでヴァーリは押し黙った。

 

 あのあと、ヴァーリはウチの独房に。ラヴィニアは他の『刃狗』のメンバー共々バラキエルが連れてきた移送部隊に回収されていった。総督直属の部隊だ。こっちが優先的に尋問するとか流石に出来ないし、すぐに尋問に移る余裕もなかった。

 

八幡「ヴァーリ、逆効果になることを承知で言うが無理に気に病むなよ。必要以上に気に病んでもろくなことにならん」

 

 そう言う俺も、いざヴァーリを前にするとうまい言葉が見つからない。親父のくせに。親のくせに。

 

 『親』って、もっとこう、どっしりと構えて子どもに余裕を与えられるとか、そういう存在じゃなかったのか。

 

 あー、ダメだ。俺の不安はヴァーリの不安になる。ただでさえ黒歌が気落ちしてるってのに。

 

八幡「ヴァーリ。飯、食うか」

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······これは」

 

八幡「嫌だったか?」

 

ヴァーリ「······そういうわけでは」

 

 塩茹でしただけのパスタ。匂いのしないパスタ。香り付けのにんにくはもちろん、コショウすらほとんど使ってない。これ、作るの久しぶりだな。

 

 ······俺も料理して少しは頭整理出来たし、切り出してみるか。

 

八幡「黒歌とメリオダスから、話は聞いてる。めちゃくちゃ頑張ったんだってな」

 

ヴァーリ「はは。物は言いようだな······」

 

 

 昔、ヴァーリとオーフェリアの思い出を頼りに作ったパスタ。2人の、お母さんの思い出。俺達3人とも、何度もこれに力をもらっていた。

 

 

ヴァーリ「······母さんと、ラヴィニア。どちらか一方しか助けることは出来なかった。どっちも助ける手段が思い浮かばなかった。結局、母さんを裏切った。()()()から、まるで進歩していない。

 ······父さんはなんで今これを」

 

八幡「······少しな、2()()()()()()()の力を借りたかった。情けない話、こうでもしないとお前を許せなくなるところだった」

 

 実は、3日前にも作って食べたんだよ。

 

 そう付け加えた。

 

ヴァーリ「父さんは、よく、言いきれるな。俺がやったのは、スパイみたいな······ものだ」

 

 ヴァーリは少しずつ口に運ぶ。

 

八幡「これ、作りながら考えたんだけどな。同じ状況にあったとして、あの人がヴァーリを恨むか」

 

 ヴァーリは、首を横に振った。そうするだろうと思った。俺もそう思う。一度しか会ったことがないが、本当に強い人だったのを覚えている。当時既に軟禁状態でキツかったろうに。芯、というか目力というか······母親というものの意地を感じた。······なんで助けられなかったんだろうな。

 

八幡「だろ。で、仮にもお前の親父やってる俺が、許せなくなるなんて······ま、そういうわけで、許すための力をもらった」

 

 そうか。か細い声が聞こえた。

 

八幡「今のクルルもな、お前が手引きしたとか、そういうことを伝えても、お前を恨んだりしないだろうな」

 

 空になった食器を浮かせて、食洗機へ送り込む。

 

八幡「だから、あんまり自分を責めるなよ。ヴァーリ。それにな、お前が何かしなくてもルエルトはいずれこっちに攻めてきただろうと思うぞ」

 

 そうかもしれないが。そう言いそうになっているヴァーリに先んじて続けて言う。

 

八幡「·······というかな、お前。ラヴィニアを助けるためにしたことだろ。ラヴィニアはあの状況でも軽い切り傷程度で済んだんだぞ。『刃狗』の他のメンバーも大した怪我はしてない。しかも、お前が送ったメールのおかげで早い対応が出来た。俺としては助かったよ。それは誇れよ」

 

 ヴァーリの顔が、少し和らいだ。折角整った顔してるのに、親がそれをダメにしちゃ最悪だな。

 

八幡「で、だ。ヴァーリ。情けない話だが、もう少し父さんを助けてくれ」

 

ヴァーリ「あぁ······もちろんだ」

 

 

 いつものヴァーリらしい、余裕を含んだ笑顔があった。

 

 

 

 八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 



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