悪のヒーローアカデミア (シュガー3)
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主人公…?

初投稿です。見てくださってありがとうございます。


『ヒーロー』

 

世界人口の8割が特異体質「個性」を持ち、「超常」が「日常」となった現代において最も脚光を浴びる職業である。

「個性」を使った犯罪者、通称「悪役(ヴィラン)」に対抗するために生まれた職業だ。

自分だけの「個性」を使って華やかに悪役(ヴィラン)を倒し、街や国、更には世界の平和を守る職業は夢見る子供を中心に絶大な人気を誇っている。

今や数多くのヒーローが存在し、社会の安定のためになくてはならない存在となっている。

 

 

 

「個性」があふれる今の社会において「個性」は「才能」とほとんど同じ意味を持つ。

要するに極端に言えば良い「個性」持ちは人生ウハウハ、つまらない「個性」ましてや「無個性」の人間なんかは基本日陰者ということだ。

 

そして良い「個性」持ちはほとんどがヒーローを目指す。自らの「個性」で正義をなすために。

 

 

かくいう俺、先見賢人(さきみけんと)も小さいころからヒーローを将来の目標としている。

ヒーローになろうと思ったきっかけはよく覚えていない。たぶん、ニュースで見たヒーローがカッコよかったとか、誰かを救う姿がカッコよかったとかだと思う。

 

ヒーローとして正義のために! 悪役(ヴィラン)に怯える誰かのために!

誰かのために自分の「個性」を役立てることが出来たら!

そう思ってヒーローを目指している!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……というのは全くの嘘だ!!!

 

いや、見知らぬ誰かの事とか知らんし

「個性」とか100%自分のためにしか使う気が無いですし

 

え?ヒーローを目指してる理由?

給料がどう考えても最強だからですがなにか?

あ、あと人気職だからネ!

 

俺ってチヤホヤされるの大好きだし!

ヒーローになって一般人(パンピー)共から称賛を受けるとか至福ですわ(関西風味)

 

 

最初に言ったとおり「個性」=「才能」なんだから「個性(才能)」に合った職業を選ぶのは当然の選択。

そして割と良い「個性」持ちの俺は自分の適性(と趣味)から将来ヒーローを目指すのも当然ということだ。

 

 

というかあれだ、ヒーローって外面良くしてヴィラン(サンドバック)を「個性」でボコったらお金くれる職業の事でしょ?

 

いやー、ストレス発散しながら金もらえるとか最高ですわー

天職ってやつだと思ったねマジで

 

 

 

首洗って待ってろよ悪役(ヴィラン)共!

俺の!金と!名誉と!輝かしい人生のために!

お前らを一人残らず踏み潰してくれるわ!!!!!

フハハハハハハハ!!!

 

 

 

これは俺がヒーロー(悪人)を目指すまでの物語

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます
簡単に主人公の事を書いときます


先見賢人(さきみけんと)

主人公
英雄(ヒーロー)性は一切なし、正義感?なにそれ美味しいの?系ヒーロー

たぶんヒーロー殺しに見つかったら真っ先に標的にされるタイプ


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いざ、雄英へ

「うおー、マジで広いなこの学校…。校舎もめっちゃでかい」

 

さて、俺は今日本屈指のヒーロー養成学校の「雄英高校」にいる。

朝っぱらからこんなところにいるのはもちろん観光のため……ではなく入学試験を受けに、だ。

 

「雄英高校」といえば数多(あまた)の有名ヒーローを輩出したことで有名なヒーロー養成学校で、「一流ヒーローになるための登竜門」と言われており入試倍率はなんと300倍の超人気高校だ。

 

 

そして今日がその入試の日。馬鹿デカい講堂で番号の席へと向かう。

先に座っていた奴らを横切って自分の席にたどり着いた。

 

「あ、君の席ここ? ごめんごめん、今荷物どけるねー」

「ありがと、悪いね」

 

俺の席に荷物を置いていたのは、なんというかすごい目立つ女の子だった。

ピンク色の皮膚と髪、あとは角も生えている。おそらく異形系の「個性」なんだろう。

 

「私、芦戸三奈(あしどみな)。よろしくねー」

 

歯を見せて「ニシシ」と笑いながら話しかけてきた。

うむ、かわいい。

 

「俺は先見賢人(さきみけんと)。よろしくな芦戸ちゃん」

 

その後はプレゼント・マイクが入ってくる時間まで芦戸ちゃんとしゃべりながら時間を潰した。

割と気安いタイプというかコミュ力が高いのか話してるうちにどんどん話が弾んでいった。

最終的には連絡先とかも交換して「一緒に入学できるよう、ガンバロー!」って言ってくれました。

おかげでやる気30%アップである。絶対入学したる。

かわいい女の子は人類の宝。いいね?

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

さて、プレゼント・マイクの試験説明とありがたいお言葉をいただいた後(なんかメガネかけた野郎とモサモサした頭の奴がなんかやってた)、試験の会場までやってきた。

ちなみに芦戸ちゃんは別会場だったので今はいない。

 

カウントダウンもなしに「はい、スタート」で始まったのには面食らったが、順調にポイントを稼いでいっていると思う。

 

「あらよっと」

 

俺はその辺で拾った瓦礫を自分の前に投げつけると角から出てきたロボットのちょうど(・・・・)目の部分に命中した。

これでもうロボットはほとんど何もできなくなる。

あとはこれまたその辺で拾った棒で殴りつけて行動不能にするだけだ。

 

今ので38P。大体似たようなやり方で壊している。

ロボットを瞬殺できるような「個性」ではないので、索敵とかその辺でがんばらねばなるまい。

 

結構な数のロボットをぶっ壊したが周りの奴らも結構なペースでポイントを稼いでるからまだまだ楽できる状況とは言えない。

 

周りで特に目立っている体から電気を出して次々ロボットをショートさせてるやつ(カッコよくてうらやましい)とか、でっかい手をぶん回してる女の子(かわいい)とか、明らかに自分のペースを上回ってるやつらがいるから油断できない。

中には全然ポイントを取れてないやつもいるが、それは無視していい。

 

「しっかし、結構きついなこの試験…。けが人とかでるんじゃね?」

 

言っちゃ悪いが実力の無い人間も混ざっている、ロボットにやられたりするんじゃないか?と思ったのだ。

そんなことを言ったのがフラグだったのか、急に地震かと思うほどの揺れと地響きが聞こえてきた。

 

「おい! あれ見ろ!」

「でかっ! なんだありゃ!?」

「アレがもしかしてギミックか?」

「ギミックぅ? 0Pの? デカすぎだろ!!」

 

大・混・乱である。まぁあんなデカブツが出てきたらしょうがないだろう。

ビルぐらいの高さのロボットとか、もはや鉄の巨人って感じである。

何処から出てきたかは知らないが、明らかにこっちに向かって進撃してきている。

まぁ、ロボットが集まっていたからその分受験生も集まっている。そりゃこっち来るよな、と思った。

 

「とりあえず逃げるぞ!」

「ああ! あんなのに巻き込まれたらたまんねーよ」

 

我先にと、逃げ出す受験生たち。

実際、巻き込まれたらヤバいし、なによりあれは0P。関わるメリットがない。

 

「(俺もとっとと逃げようあんなのに関わってられん)」

 

そうやって逃げ出すために、ギミックの進行方向から逃れようと視線を向ける。

するとふと、目に入るものがあった。

 

「(逃げ遅れたか? ざまぁとしか言いようがないな、死なないように祈っておりますっと)」

 

地響きか揺れのせいか、崩れた瓦礫に挟まれた受験者が何人かいた。

運が悪かったか注意を怠ったかわからないがどっちにしろ助ける気は微塵もなかった。

 

しかし、

 

「(ん? あれ? あの子は…)」

 

なんと、さっきまで巨大化した手でロボット相手に無双してた女の子が(うずくま)っているではないか。

 

「(はぁ!? まじかよ!)」

 

それを見た瞬間ダッシュしていた。野郎?知らん! だが可愛い女の子は助けないわけにはいかない!

 

 

 

 

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side 拳藤一佳(けんどういっか)

 

「(やっば)」

 

まさかこんなことになるとは思っていなかった。

注意を怠っていたわけではない。地響きが聞こえてきた際も、瓦礫が崩れてこないか気にかけていたし崩れても大丈夫な位置に移動していた。

 

「(助けたはいいけど、まさか巻き込まれちゃうなんてね)」

 

しかし、注意していたからこそ瓦礫に巻き込まれるであろう人を見つけてしまった。

とっさに助けたはいいがその時に自分の足が瓦礫に挟まれてしまったのだ。

「個性」を使って瓦礫自体はどうにかできたけれど、足を痛めたのか上手く動くことができない。

 

「(骨はたぶん折れてない…。早く逃げないと…)」

 

後ろからはギミック(0P)が迫ってきている。

早いところこの場所から離れないとまた瓦礫が崩れてくるかもしれないし、最悪踏み潰されてしまうかもしれない。

 

「(いっったい! けど、がまんしなきゃ!)」

「おい! 大丈夫か!」

「えっ!?」

 

気が付くと目の前に男の子が来ていた。黒髪から金色の綺麗な瞳がこちらを覗いている。

助けに来てくれたのだろうか?

 

「足を痛めたのか? 手を貸す、ここから逃げるぞ」

「あ、ありがとう」

 

そのまま彼は肩を貸してくれた。

そのままできる限り急いでこの場から離れていく。傷めた足のせいで上手く走れず、ほとんど彼に引っ張ってもらってしまった。

そのせいでかなり密着してしまい、こんな状況にもかかわらずちょっと恥ずかしい。

黙っていると気まずいし、恥ずかしさを誤魔化すためにもこちらから話しかけてみた。

 

「ごめんね、試験なのに足引っ張ってるみたいで」

 

しばらく話をした後、口から思わずこぼれるように謝罪が出てきてしまった。

当然だろう、今は試験中。それにもかかわらずわざわざこちらの手助けをしてくれているのだ。

自分に構っていなかったならもっとポイントを稼ぐことができていたはず。

ありがたいというよりも申し訳ない気持ちが勝ってしまっていた。

 

しかし、彼はそれを聞くときょとんとした表情になって

 

「なにいってんだ、助けるのなんて当たり前だろ?」

 

といった。

 

彼は本当に「何を当たり前のことを」という表情をしていた。

そうだった、自分たちは『ヒーロー』になるためにこの試験に挑んでいるんだ。

「『ヒーロー』が誰かを助けるなんて当たり前だ」と彼は心の底から思っているのだろう。

彼は間違いなく『ヒーロー』としての心構えを持って試験に挑んでいたのだ。

 

拳藤一佳は思う。あぁ、こういう人が本当の『ヒーロー』になるんだ、と

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「なにいってんだ、(美少女を)助けるのなんて当たり前だろ?」

 

そう言うと、一佳ちゃん(肩を貸して逃げるときに自己紹介はした)は目を見開いた後、うんうんと頷いた。

なんだろう。すごい誤解を受けている気がするがなんかいい方向に勘違いしてるっぽいし、あえてここは爽やかスマイルでキメ顔をしておこう。

 

しかし、良い子だな一佳ちゃん。俺がポイント稼げないんじゃないかと気を使うなんてな。

自分こそポイントを稼ぐどころじゃないのにそれでも気を使ってくれるところとかほんまええ子や。

 

確かに、ポイントは安全圏内とは言えない。けれどそこそこは稼いでいる。

それにぶっちゃけて言うと俺は雄英に落ちても他の高校に行けばいいだけの事だと思っている。

「トップヒーロー」になるには雄英出身なのは必須かもしれないが、俺は別にトップじゃなくてもいいし。

ここで死に物狂いでポイントを稼がず、美少女とトークする余裕があるのもそれが理由だろう。

他の受験者からすれば「ふざけんな」と言われるかもしれないが、俺からすればそんなもん気にする価値もないのだ。

トークと雄英を天秤にかけてトークを選んだだけである。

 

安全な場所に移動した後、一佳ちゃんに応急手当をしていると試験終了の合図が聞こえた。

一佳ちゃんは「あ…」と声を漏らし、ばつが悪そうにこちらを見た。

 

「ごめんね…。いや、ありがと。手当してくれて。」

 

始めは謝ってきたが、思い直したのか笑顔で「ありがと」と言ってくれた。

うむ、かわいい女の子の笑顔こそ最高の報酬よ

助けたかいがあったというものである。

 

「どういたしまして」

 

こちらも笑顔で返答する。

 

 

しばらく待っていると雄英講師のリカバリーガールが受験者にグミを配りながらやってきてくれた。

 

「おや、あんたは足を怪我しているね。ほら早く見せな」

「あ、はい、おねがいします」

「どれどれ、…捻挫だね、応急処置がしっかりしているからそのままでもいいくらいだ。ま、一応治療するよ」

 

一佳ちゃんを見つけたリカバリーガールが簡単に診察すると「チュー!」とキスをして治療してくれた。

足首を動かして痛みを確認したあと、

 

「ありがとうございました!」

「あんまりけがするんじゃないよ」

 

一佳ちゃんが元気よくお礼を行った後、そう一言だけ言うとリカバリーガールは次の患者へと向かって行った。

あの試験でけがするなって結構無茶じゃありませんかね・・・・

 

「よかったねちゃんと怪我が治って」

「うん! 先見くんもありがとね!」

 

それから、試験会場の外まで二人で話しながら歩いて行った。

アクシデントもあって正直受かるかどうか微妙なところだがそこから話を広げていって「二人とも受かっていることを祈って!」とかいって連絡先も交換してもらった。

 

 

今日だけで二人も可愛い女の子と連絡先を交換したとか、間違いなく今日の俺は勝ち組だな。

家に帰った後、今日一日を振り返って俺はそう思いました まる

 

 

 

 

 

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それから数日後、雄英から合否通知が送られてきた。

両親がかなりそわそわしていたが、こういうのは一人で見たいので自分の部屋で見ることにした。

封筒の中から変な機械が出てきたかと思うと、そこからNO.1ヒーロー「オールマイト」の映像が流れてきた。

 

『私が映像に映された!!』

「うおっいきなりかよ」

 

そういえばオールマイトが新任教師にって噂があったことを思い出す。

 

「(噂はホントだったみたいだな)」

『初めまして先見賢人くん!どうして私が映っているのかって?私が今年度の合否を伝える担当だからさ!』

 

流石は№1ヒーロー、インパクトがすごい。

あと、無駄にすごい技術だ。サポート科とかあるし、そういう技術力の高さも感じる。

 

『さて、あとが詰まっていてねサクサク進めさせてもらうよ。まずは、筆記試験!これは文句なしの合格だ!順位は10番!よく頑張ってくれた!!』

「うしうし」

 

自己採点でいい点数なのは予想していたが悪くない結果だ。…ていうか相当に自信があったのに10位かよって気もする。

よっぽど順位一桁はいい成績なんだろう。

 

『…さて、次は肝心の実技試験の方に移ろう。君の実技の点数は39Pこれも悪くはない点数だ。けれど、君よりも成績のいい生徒はいる。…残念ながら不合格だ。』

「(落ちたか…)」

『―――が、しかし!この試験にはもう1つの点数がある!! その名も、『救助(レスキュー)ポイント』! しかも審査制だ!!』

「はぁ?」

 

なんだそりゃ?救助(レスキュー)

 

『君は確かに拳藤一佳君を助けていたせいでポイントを稼ぐ時間が無くなってしまったのだろう!しかし!誰もが逃げ出す圧倒的脅威を前に、他人を助ける行動を起こした君を評価しないなんて!……あってたまるかってことだよ!!よって、君の実技試験の点数は救助(レスキュー)ポイント25Pを加えて64P!!合格だ!!!』

「……んん~?」

 

これ…たぶんヒーローとしての心意気が評価された的な点数…だよな?

いや、俺は可愛い女の子を助けただけで何人か見捨ててるんですけど……

ヒーローとしての心意気とか最低ランクな自信があるんだけれど……

 

「…………ま、いっか」

 

 

 




ちなみに拳藤が助けた受験者は拳藤を置いて逃げ出しました。
もちろん不合格。



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入学式は?

「うん、よしと」

 

姿見の前で自分の姿を確認する。そこには真新しい雄英高校の制服に袖を通した自分がいた。

流石に苦労しただけあってそこそこ感動するなぁ、と思いながらネクタイなどを整えていく。

 

しっかりと朝ご飯を食べる。朝は多目に食べる派なのだ。

準備が整ったら、制服と同様に真新しい鞄と靴をそろえて玄関へと向かう。

天気は快晴、春の日差しがまぶしいくらいだ。

 

「いってきます」

 

そう、今日は入学初日。華の高校生活、その始まりの日である。

 

 

 

 

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「(なにしてんだコイツ?)」

 

今、俺の目の前には1-A の教室のドアの前で緑のモジャヘアーの男が何やら小声でブツブツと呟いている。

とりあえず早く入ってほしい、すごい邪魔。

すると突然ドアが開き中からメガネをかけた男が出てきた。

 

「おはよう!緑谷君」

「おおぉ、おはよぅ」

 

どうやら、この緑モジャは緑谷というらしい。

メガネの方はしっかりと挨拶をしたのに緑谷のあいさつはどもってるし、尻すぼみだし、いじめられっこみたいなやつだなと思った。

 

「後ろの君もおはよう!」

「おはようございまーす」

「えっ、あああごごごめん! 邪魔だったかな!」

「おう、邪魔だったぜ。入っていいか?」

 

メガネの人が挨拶してくれたおかげで、ようやくこっちの事に気が付いてくれたらしい。

「邪魔だったか?」と聞かれて「邪魔だったよ」と答えただけなのに緑谷とやらはショックを受けてしまったようだ。なんか固まってしまった。

邪魔だったのは本当の事なので俺が悪いわけではないな、うん。

 

動かないのでしょうがなく横を通って教室に入る。

すると入口のすぐそばに座っていた知り合いと目があった。

 

「先見くんじゃーん! おっはよー!」

「おはよう! 芦戸ちゃん。いやー良かった。同じクラスだな!」

「うん! よろしくねー!」

 

入試の時に話した芦戸三奈(あしどみな)ちゃんである。どうやら同じクラスに慣れたようだ。これは素直に嬉しい。

相変わらず元気いっぱいである。朝から元気のいい挨拶を聞くと一日の活力みたいなのが湧いてくるな!

あ、メガネ君の挨拶はノーカンで

 

芦戸ちゃんと話をした後、机に荷物を置きに黒板に書かれた自分の席に向かう…

 

「おう!おはよう!」

 

前に、俺のふたつ前の席の男に挨拶された。

とりあえず荷物を置いてこっちも挨拶を返す。

 

「おはようさん。俺は先見賢人だ、よろしくな」

「よろしくな! 俺は切島鋭児郎(きりしまえいじろう)だ!」

「ういうい、あいにくと知り合いがクラスに少なくてな。仲良くしようぜ」

「おう!」

 

早速友人ができたようだ。こういう明るくてコミュニケーション力が高いやつがにいるとホント助かる。

 

「そういやさっき緑谷と話してたけど知り合いか?」

「いや? さっき初めて話した。ていうかほとんど話してないよ。あいつがどうかしたのか?」

 

さっきの緑モジャ君について聞かれたが特に知っていることはない。なんで気にしているのか聞いてみると

 

「えっ、しらねぇの? あいつ入学試験で0Pのギミックを「個性」でぶっ飛ばした奴だぜ?」

「・・・マジかよ」

 

どうやら、有名人のようである。

驚いた、マジで驚いた。

あんなおどおどしていじめられっこ(ナード)の雰囲気を振りまいている奴があの鉄の巨人をぶっ飛ばした…?

 

切島によるとどうやら筋力増強系の「個性」であるらしく、なんと素手であのギミックをぶん殴って破壊したらしいのだ。

「個性」の反動で腕とか足がズタズタになるほどの強化具合であるらしい。

・・・いや、ズタズタて。なんだそのやばい「個性」。俺だったら絶対に使わん。

しかし、いくら反動があるとはいえ人は感情で動く生き物。もし、緑谷氏がぷっつんしてしまったらシャレにならない。

 

「(やっべ。ぶっ飛ばされる前に下手に出とこ)」

 

緑谷出久は危ない。君子危うきに近寄らず。

もしや、あのビクビクした態度も何らかの罠である可能性も微レ存…?

 

さっきから入口で騒いでる緑谷出久の方に目を向ける。

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは・・・ヒーロー科だぞ」

 

なんかいた。

 

なに…あれ、なに?

寝袋にくるまったオッサンが芋虫みたいにもぞもぞ動きながら教室に入ってきた。

どう見ても不審者です本当にありがとうございました。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性を欠くね」

 

あなたは常識を欠いているのでは?

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね。早速だが、体操服コレ来てグラウンドに出ろ」

「「「(担任・・・!?)」」」

 

無駄にクラスの一体感を感じる。今まさに俺たちの心は一つになったぜ的な。

 

 

 

 

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なんだかんだで着替えて今はグラウンド。

今から体力測定を行うらしい。それも「個性」ありありの何でもアリ体力測定だ。

「まずは、見本」ということで。爆豪勝己(クラスで騒いでいた金髪)とかいう入試1位の奴がソフトボール投げで「個性」を使用して705.2メートルという記録をたたき出していた。

 

それを見てクラスの連中が「面白そう」と騒いでいたのが気に入らないのか、相澤先生は「最下位は除籍する」とか言い出した。

教師の権限すげぇな・・・。ていうかその方針を認めてる雄英もすごいな。

流石に除籍は嫌なのでまじめに頑張るとしよう。

 

 

50メートル走、握力測定、反復横跳び、立ち幅跳び・・・

 

 

今の種目はソフトボール投げだ。

記録的に最下位は何とか免れそうである。生まれつき運動スペックは無駄に高いからな。

ぶっ飛んだ記録はないが好成績しか残していない。

「個性」無しの記録ならクラスでも1,2を争うんじゃないかな?

しかし、流石に上位組には歯が立たない。てか、握力測定で万力とか反則じゃないですか?

 

しかし、噂の緑谷出久の成績が(かんば)しくない。

ていうか、ぶっちゃけ最下位である。筋力増強系とか体力測定じゃ独壇場では?と思ったが、よく考えたらデメリットの存在が痛すぎる。

当たり前の事だが怪我なんかしたら測定中断である。かといって素の身体能力では(そこそこ鍛えているようだが)最下位になってしまう。

あれ?除籍(クビ)かな?やったぜ(ガッツポ)

 

さて、その緑谷の出番である。この後の種目は(パワー)が役に立たないものばかりなので、ここで記録を出さないと間違いなく除籍(クビ)だ。

 

「46メートル」

 

・・・おや?

 

なんと相澤担任が「個性」を消したらしい。聞いたこともない「個性」だが一部では有名らしい。

どうやら緑谷のことがお嫌いなのかな? 担任がそんなことしていいのかよ。・・・とは思うが、いいぞもっとやれ。

 

そして、2度目の挑戦だ。相澤先生から「行動不能になったら失格」と言われているので「個性」を使うこともできず終わるだろう。

みじめ極まりないが諦めてもらうしかない。あぁ~悲しいな~

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ったのだが。

 

 

「先生・・・! まだ、動けます」

 

 

まさかまさかの指先だけの筋力増強。もちろん指は酷いことになっているが、なるほど確かに「まだ動ける」。

しかも記録が705.3メートル。爆豪の記録を上回っている。それも指だけ(・・・)でだ。

・・・どんだけだよ。

 

 

 

 

 

ようやく全種目の測定が終わった。

結果発表の時間だ。最下位は「緑谷出久」

 

ソフトボール投げの後、まだ動けるとはいえ痛みに邪魔されたのかその後の記録がよくなかった。

残念無念というやつだろう。本当に文字通り「骨を折ってまで」努力したというのに除籍処分とは。

しかし、これもやむを得ないこと。世の中残酷なんですね。本当にお疲れさまでs・・・

 

「ちなみに除籍は嘘な。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

・・・HA?

 

「「「はーーーー!!?」」」

「あんなの嘘に決まってるじゃない・・・。ちょっと考えればわかりますわ・・・」

 

あっれぇ? 絶対本気だったとおもったのに。

やっぱりヒーローには演技力も不可欠ということか。まんまと騙されたぜ。

なかなかにむかつく笑顔だぜ相澤先生。

 

「はいはい、というわけでこれで解散。着替えて教室に戻るように。」

 

そう言って相澤先生は歩き去っていった。

半端ないな雄英。

 

緑谷とか緊張が吹き飛んだのかまだ戻ってきてないし、俺も流石に気疲れがすごい。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

「しっかし、終わってみると結構楽しかったな体力測定。」

「ん? 確かにな」

 

昼休み、切島たちと体力測定を振り返っているとそんな感想を漏らしていた。

ちなみにメンツは切島、上鳴、障子、俺、だ。

 

「実際、除籍とか無くてよかったぜホントに。まだ初日だし」

「今回は緑谷が最下位だったけど俺たちも結構危なかったからな」

 

苦笑いしながら「あぶねぇ、あぶねぇ」とか言っているこいつは上鳴電気(かみなりでんき)

今回の最下位レースの参加者の一人だ。

上鳴の「帯電」はクラスでも最強ランクの「個性」なのだが体力測定では物の役に立たなかったらしい。

 

というか、よく考えたら体力測定に使えない「個性」持ちが不利すぎる。だからあの状況で除籍処分はありえなかったんだろうな、と思う。

 

切島も「俺の「硬化」も意味なかったしな!」と笑っている。ちなみにこいつは割と上位だ。体を鍛えまくってるみたいだからな。

上鳴が恨めし気に「この才能マンが・・・」て呟いてる。悪気はないんだよね切島って。

あと純粋な才能だったらお前の方がすごいと思うぞ。

 

「そういえば先見。お前の「個性」はなんだ?」

 

馬鹿話を続けていると、障子から俺の「個性」について話を振られた。

 

 

少し悩む。

 

「(答えてもいいんだけど・・・。ただ教えるだけじゃあつまんないな)」

 

そこでちょっと意地悪をすることにした。

 

「ただ教えるのも面白くない。・・・ヒントを出してあげるから俺の「個性」を当ててみてくれ」

「お! 面白そうだな!」

「・・・ふむ、やってみるか」

「ヒントってなによ?」

 

どうやら、3人とも乗り気になってくれたようだ。

上鳴はちょっと待て。

 

「ちょっと待て・・・。」

 

そう言うとさっき買った缶コーヒーを飲み干す。

そして、大体20メートルくらい先にある自販機。の横にあるごみ箱を指さす。

ゴミ箱はよくあるビン・缶で分けて入れる穴の開いた蓋がかぶせてある。

 

「あれを見とけよ」

 

そして「個性」を発動。

空き缶をゴミ箱に投げる。

 

 

「カァン!」と音を鳴らして見事ホールインワン。針の穴を通すようなコントロールで空き缶はゴミ箱に見事入った。

 

「「「おぉ~!」」」

 

パチパチパチと拍手までいただいた。ノリ良いなこいつら。

 

「さて、今のはどういった「個性」を使って入れたでしょーか」

 

俺が宣言すると真剣な顔をして考察しだした。結構真面目にやるのね。

 

「ん~、スナイプ先生みたいな射撃補正だと思うぜ?」

「・・・サイコキネシスで軌道修正した可能性はないか?」

「わっかんねーなー」

 

色々と意見は出たがどれも不正解だ。

上鳴はちょっとは考えろ。

話しているうちに昼休みが終わったので「正解は次回に持ち越し!」といってうやむやにした。

 

 

ま、そのうち誰か気付くでしょ

 

 




主人公の「個性」はそのうち説明します。

あと、握力測定で万力を使ってたのは八百万百です。


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戦闘訓練

波乱万丈の個性把握テスト(体力測定)を終えて翌日。

 

午前中は英数国など一般科目の授業を受けた。

もちろん講師はプロヒーロー。教員免許とか頑張って取ったんだろーなと思いながら授業を受けた。

授業内容は極めて普通だ。なんにも面白くない。英語で無駄にプレゼント・マイクのテンションが高い。

 

そして午後からは 「ヒーロー基礎学」

 

ヒーロー科の人間でこの授業に期待してないやつはいないだろう。

クラス全体が浮かれる子供のようだ。

 

「わーたーしーが!」

 

そしてついにきた

 

「普通にドアからきた!!」

 

№1ヒーロー『オールマイト』

平和の象徴とも呼ばれる。ヒーローの中のヒーロー。本物の英雄(ヒーロー)だ。

 

「うおお! 画風が違う!」

「すごい! 本物!!」

 

皆興奮している。ま、しょうがない芸能人なんか目じゃないほどの有名人だし。

…ハッ! こっそり写真撮ったら週刊誌とかに売れないかな?

 

「今日の授業はこれ! 戦闘訓練!」

 

どうやら、授業一発目から座学じゃなくて実戦らしい。

すばらしい、座学よりよっぽど面白そうじゃないか。

 

「それに伴って! ――――こちら!」

 

オールマイトがそういうとコスチュームが出てきた。入学前に取られた要望をもとに作られている専用のヒーローコスチュームらしい。

流石、仕事が早いぜ雄英!

 

「よし、それに着替えて移動だ!」

 

俺のコスチュームを確認するとほぼ希望したとおりに作られていた。

パッと見は黒のロングコート、内側に大量の収納ポケットと袖口にも色々と仕込むための収納スペースがつけられている。注文した装備も用意されている。

 

「おお! 先見のコスチュームカッケェな!」

「だろ? 切島のコスチュームは………男らしいな!!」

「!!、わかるかこの男らしさが!!!」

 

切島は「男らしい」ってのがよほどうれしかったらしい。

切島よ・・・コスチュームって言うかお前のそれは上半身裸だから褒めずらいんだよ。

似合ってるけど! お前以外がその恰好したら変質者なんだよ!

 

そんな感じでコスチュームについてあーだこーだ言いながら訓練所まで移動していった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

全員がコスチュームに着替えて訓練所に集まっている。

 

そして、クラスメイトを見渡す。

うん。こうしてみてみると……なんだあれだな。

 

「八百万さ……あんたそれ、ちゃんとコスチュームの意見出した?」

「ええ、出しましたわ。おおむね希望どうりです。耳郎さんは何かコスチュームに不備などがあったのですか?」

「い、いやそういうわけじゃないけど。そっか……希望通りなんだ。」

 

「梅雨ちゃんのコスチュームとっても似合ってるね!かわいい!!」

「ありがとう葉隠ちゃん。うれしいわ。ところで聞きたいのだけれど、もしかして葉隠ちゃんのコスチュームは靴と手袋だけなのかしら?」

「うん、そうだよ! 本気になったらそれも脱ぐけど!」

 

ふむふむ。なるほど、なるほど

 

「(我が世の春はここにあったか……!)」

 

俺が人知れず心の中で感動の涙を流していると、隣で俺と同じ目をした奴がいることに気付いた。

クラスで一番背の低い男。―――確か峰田、だったか?

向こうもこちらに気付いたようでお互いに見詰め合う。

 

「……」

「……」

 

ガシッ!

 

「自己紹介をしよう。俺の名前は先見賢人(さきみけんと)だ。」

「オイラは峰田実(みねたみのる)。よろしくな。」

 

気付けば熱い握手を交わしていた。

理解したのだ。「こいつは同士である。」と。

 

ここに一つの友情が誕生した。

 

 

 

 

 

 

「ハイ! みんな注目!」

 

オールマイトから授業の説明が始まった。やたらとアメリカンな設定なのが気になるが、ざっくり言うと二人一組で英雄(ヒーロー)側と悪役(ヴィラン)側に分かれ、英雄(ヒーロー)側は目標物(核のハリボテ)の確保と制圧、悪役(ヴィラン)側はそれに対抗するという形式の訓練のようだ。

 

ペアはくじで決められた。プロになると現場で即席のチームを組むことがあるとか言う理由らしい。

 

「よろしくね、……えーと、」

「先見賢人だよ。よろしく。」

「あ、うん。ウチは耳郎響香(じろうきょうか)。」

「おっけ、耳郎ちゃんって呼んでいい?」

 

ちゃん付けが恥ずかしいのか苦笑いだが「まあ、いいよ」と言ってくれた。

 

そうなのである。この俺の黄金の右腕は数少ない女子をペアに引き当てるという偉業を成し遂げたのだ。

めっちゃ嬉しい。若干ちゃん付けに恥ずかしがるところとかポイント高い。

 

喜びに浸っていると何処からか嫉妬の視線を感じた。

 

「……」

 

峰田だ。

 

奴の視線からは「同類の癖にお前だけ女子と仲良くしやがって・・・!」という意思を感じる。

これが目は口ほどにものを言うというやつか

 

そして、あいつのペアは砂藤力道(さとうりきどう)とか言うモリモリマッチョマンのようだ。

峰田の性格からして全く嬉しくない組み合わせであろう。

 

「(…ッハ!)」

「…!!!」

 

なので周りから見えないように全力で鼻で笑ってやった。

怨嗟(えんさ)の視線が更に強くなったが、問題ない。実に心地よい

 

どうやら先ほど生まれた友情はお亡くなりになられたらしい。短い命だったぜ。

 

 

 

 

 

そんなこんなで戦闘訓練だ。

 

爆豪の協調性が無かったり、飯田がドまじめにヴィラン役をこなしてたり、相変わらず緑谷の破壊力がぶっ飛んでたり、麗日さんが可愛かったり、色々あったがおおよそ問題なく授業は進んでいった。

 

「じゃあ次! 上鳴・芦戸ペア 対 先見・耳郎ペア!」

 

ようやく自分の出番が来た。

 

「おっ、先見とか。負けても文句言うなよ?」

「言ってろ、返り討ちにしてくれるわ」

 

「耳郎ちゃん! 負けないよー!」

「ウチも負けないからね」

 

対戦相手は上鳴と芦戸ちゃん。

非常に明るい性格のコンビだ。訓練が終わった後、どこかの爆豪みたいに気まずくなる可能性が低いのがすごいありがたい。

 

ちなみに上鳴と芦戸ペアがヒーロー側。俺たちはヴィラン側だ。

宣戦布告みたいな挨拶も終わったし、とっとと中に入ってヒーローを待ち構えておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「―――って言うのがウチの「個性」」

「なるほどね。近距離ではプラグを指して内部破壊、中距離はスピーカーから不可視の衝撃波、音による索敵も高精度で可能、と。 ……ナニコレ汎用性高くない? 俺必要ないんじゃないか?」

 

ペアの「個性」が有能すぎる。偵察も牽制も戦闘もなんでもござれの「個性」だ。

衝撃波に至ってはノーモーションでコンクリを砕く威力で、デメリットなしときた。

あれ?俺いらない子かな?

 

「い、いや! 流石に一人じゃ無理だよ。当てられるかわかんないし、ウチの「個性」多人数相手には弱いんだよね。それに、上鳴の「個性」は触れたら一発でアウトでしょ? あれを相手にするのはちょっとキツイ」

「あー、そっかぁ。アイツ(上鳴)の「個性」って対人じゃほぼ無敵だもんな。」

 

他人の事を才能マンとか呼ぶくせに才能にあふれるやつである。電気系の「個性」は『生まれた時からの勝ち組』とか呼ばれてんのに。

自覚がないのかなんなのか……。とにかく敵に回ると面倒なのは間違いない。

 

「あとさ、耳郎ちゃんの「個性」って向こうに知ってるやつはいる?」

「うん、どっちにも話してある。」

 

つまり、向こうからすればこちらが索敵する手段を持っているって前提で動くわけか。

むしろそっちの方がいいな。行動の制限ができるし。

 

 

「――――おっけ。思いついたよ、作戦。」

 

 

これならたぶん大丈夫。

 

近寄るだけでアウトになる上鳴、やたら身体能力が高く、応用も強さもある「個性」の芦戸ちゃん。

チームワークも悪くなる性格じゃないし、連携も即席ながらしてくる可能性もある。

ぶっちゃけ相当面倒くさいんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残念だったな。今回の俺はマジだ。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

side 上鳴電気

 

『訓練スタートだ!』

 

通信からオールマイトのスタートの合図が聞こえてきた。

 

「うっし。じゃあ、行くか!」

「おー!」

 

とりあえず、他のチームも基本的に上の階に居たし上に向かうか!

 

「ねえねえ。二手に分かれたりとかしないでいいの?」

「いいんだよ、確か耳郎が音で周りの事がわかるって言ってたし。分かれてもすぐに見つけられるから意味ねーだろ?」

「あ、そっか! たしかそういうこと言ってたね!」

 

しっかし、先見の「個性」は結局教えてもらってないんだよな。身体能力を上げるタイプの「個性」じゃないのはわかるけど。

対策とか立てられねえし、あいつの情報だけないってなんかズルいよな。

 

まあいっか! 実際に「個性」使われたらわかるだろ!

 

「あー! 階段見つけたよ!」

「よっしゃ! 行くぜ!」

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「どう? あいつらまとまってきてる?」

「……うん。二人まとまってきてる。ていうか、すごいペースでこっち来てるんだけど。下の階とか全然探索してない。」

 

なんと。あの二人、索敵の「個性」もないのにどうしてこっちの場所がわかってるんだろう?

確かに他の組と同様に一番上の階に核のハリボテを設置してあるが……。

まさか当てずっぽうじゃあるまいし。

 

「まあいいや。じゃあ作業はその辺で中断してアイツらを待ち構えよう」

「うん。了解」

 

核の置いてある広間から廊下へと移動する。

耳郎ちゃんによると部屋から一番近い階段から足音がするそうなので、そちらに注意を向けておく。

 

「ねえ、ホントにいいの? 核の部屋に誰もいなくて(・・・・・・・・・・・)?」

 

今、核の周辺には誰もいない。つまりはノーガード。部屋に入られたら即ゲームオーバーである。

 

「いいの、いいの。なんせ耳郎ちゃんがいるんだもん(・・・・・・・・・・・・)。確かにドアが一つだけとはいえ窓から入ってきたり、壁とか床を破ってくる可能性はある。たぶん芦戸ちゃんならどっちもできる。でも、耳郎ちゃんに気付かれずにって言うのは無理だ。酸でコンクリを溶かすとか間違いなく変な音がするでしょ?」

 

つまるところ奇襲については考えなくてもいいのだ。もしも「二手に分かれている」とか「派手な音を立てながら向かってくる」とかだと話は別だが。

ま、その時は奇襲前提で作戦を組み立てるだけなのだが。

 

「だから大丈夫。俺たちは相手の位置を探れるからどうあっても向こうは後手になる。問題ないさ。……それに、そろそろ来たみたいだ。」

 

俺の耳にも階段を上ってくる音が聞こえてきた。

しばらくすると上鳴と芦戸ちゃんが階段を上ってきた。

 

 

――――さて、始めるか

 

 

「よう。早かったな」

「いいや、待たせちまったみてえだな」

 

そんなことねえよ。マジで早かったよ。予想以上だよ。

 

「しかし、お前らどうやってこっちの居場所を探ったんだ? 他の階は全然調べてもないみたいだけど?」

 

答えるとは思えないが、索敵手段の有無は重要情報だ。探りを入れて損はない。

 

 

 

「え? だってみんな上の階にいたじゃん」

 

 

 

……ホントに当てずっぽうかよ。

二人とも「何言ってんだこいつ?」みたいな顔でこっち見てんじゃねーよ。

こっちのセリフだよそれは。耳郎ちゃんも「マジかコイツら」って顔してるじゃん。気づけ。

 

「……まあいいや。それより始めようぜ。時間制限あるのはそっちだろ?」

「あ、やべ。そうだった。―――それじゃ行くぜ!! 芦戸! 援護頼む!」

「まっかせてー!!」

 

二人が構える。戦闘時の打ち合わせ位はしてきたようだ。

むしろそれくらいしておいてくれないと困るんだが。

 

「んじゃ、こっちも行くか。耳郎ちゃんは援護お願い」

「おっけー」

 

こっちの準備も完了だ。

耳郎ちゃんがいつでもスピーカーから音出せるように構えるだけだけど。

 

 

 

それじゃ、悪役(ヴィラン)らしくいきますか!

 

 

 

「さあ来い英雄(ヒーロー)共! 希 望 ご と 踏 み 潰 し て や る !!!!」

 

 

 

 

 

 




彼は主人公です




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主人公(?)活躍の時

side 上鳴電気

 

「さあ来い英雄(ヒーロー)共! 希 望 ご と 踏 み 潰 し て や る !!!!」

 

すっげえ怖いんだけど先見の奴。

あいつホントにヒーロー科か? ヴィラン役がめっちゃハマってんだけど!?

 

と、とにかく「個性」発動! これでどっかに触ったらシビれるはず! そしたらテープまいて確保だ!

 

「おっしゃあ!!」

「・・・!」

 

当てること優先! 体ごと突っ込む! 触ればこっちの勝ち、避ければそのまま耳郎にタックルしてや――――

 

「があ!?」

 

なんだ? 腹に? ――蹴られた!?

 

「甘いぞ、上鳴。「個性」に頼り過ぎだな。触れればそれで勝ちだと思っていたんだろうが、・・・残念だったな。俺のヒーローコスチュームは『動きやすさ』よりも『防御性能』を追及してるんだよ。防弾、防刃どころか耐熱、耐電(・・)仕様まであるのさ。」

 

な、んだよそれ。対策してあるのか!? それじゃ攻撃が通じないのか?

 

「狙うのならコスチュームの防御がないココ(・・)。俺の顔面を殴るしかない。それでお前の勝ちってわけだ。」

 

自分の頬を指さして、嘲笑(あざわら)うかのように笑顔を見せる先見。

その目はまるで「殴れるなら殴ってみろ」と言わんばかりにこちらを見下しているかのようだ。

 

一発腹に蹴りを入れられただけで地面に手を付けた俺を、見下してやがる!!

 

「!! なめんな!」

 

すぐさま起き上がる。

タックルは無意味。やったことないけどボクシングみたいな拳主体に切り替える。

とにかくジャブ連打! あのニヤけ面に一発ぶち当ててやる!

 

「オラオラァ!!」

 

左、右、左、右、左、左、右!!!

当てれば良いだけなのは変わらない。威力なんてどうでもいい! 速さだけを重視して―――!!

 

「くっそ! なっんで! 当たんねえんだ!?」

「ハハハハ! どうしてだろうなぁ? 動きが遅いんじゃないのかなぁ?」

 

当たらない。先見はケラケラ(わら)いながらヒラリヒラリと避ける。

クッソ! アイツ防御すらほとんどしてねえ! あのむかつく面ぶん殴ってや…

 

「上鳴ぃー! 下がってー!」

「「!!!」」

 

後ろにいた芦戸から声がかかる。

俺と先見に向かって大量の酸が上から・・・ってヤバい!

 

「うおおぉ!???」

 

ジュージューと音を鳴らしてコンクリの床を酸が溶かしていく。

ギリッギリだった! あとちょっとで巻き込まれてた!

 

「お、おい! なにすん…「もー! ダメだよー!」 

 

怒ろうと思ったら怒られた。

ダメって・・・なにが?

 

「あんなに近づいてたら援護とかできないじゃん!」

 

あ、そうだった。

 

「一人じゃなくて二人で協力すれば勝てるかもしんないでしょ!」

「わ、わかった。悪かったって・・・」

 

 

芦戸が「もー!」って言いながら怒ってくる。

その気の抜ける姿のおかげか、少しだけ冷静さが戻ってきた。

 

さっきまで頭に血が上ってて考えもしなかったけど・・・

自力で先見に当てるのは無理っぽい。全然当たる気しないし。

制限時間もあるし協力して何とか・・・って!

 

「先見! お前わざと(あお)って時間潰そうとしてたな!?」

「あ。バレた」

 

あんにゃろう! 強制的に一対一に持ち込んで制限時間と体力を削るつもりだったのか!

 

「うーん、結構気付かれるのが早かったな。もうちょっと行けると思ってたんだけど」

 

「ま、いっか」と呟きながら先見は改めて構えを取った。

 

「それじゃ、第2ラウンドだ」

 

あのにやけ面が無くなった。

ホントに煽るためだけに笑ってたのかよ・・・

 

こちらも構える。

けどな、今度はこっちの番だ!

 

「芦戸!」

「いっくよー!」

 

さっきと同様に芦戸が大量の薄めた(・・・)酸を先見にかけようとする。

 

それに隠れて先見に俺が突っ込む! お前には薄めてるかどうかなんてわかんないだろ!

 

 

 

「耳郎ちゃん」

「はいはい」

 

 

 

パァン と耳郎の音の衝撃波で酸が吹き散らされる。

 

「・・・あれ?」

 

姿を隠すための酸が無くなったから当然奇襲でもなんでもなくなったわけで。

 

「ウボァ!?」

 

また腹を思いっきり蹴り飛ばされた。

 

「うわっ、上鳴大丈夫?」

「・・・ぬぐぐぐ」

 

あんまり大丈夫じゃない。

 

「ナイス耳郎ちゃん」

「ナイスって・・・。ウチはとにかく酸を吹き飛ばせばいいんでしょ? それだけなら誰でもできるっての」

 

ま、マジか。それじゃ芦戸の酸も使えないじゃん!

 

「どうやら、「個性」の相性もこっちの味方みたいだな? 上鳴?」

 

先見が見せつけるように笑顔を向けてくる。

 

「(ど、どうすんだこれ?)」

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「(・・・ふむ)」

 

上鳴の行動を(ことごと)く潰していったが、そろそろ打つ手がなくなってきたようだ。

「自分の「個性」も芦戸の「個性」も通用しない!」とか考えていそうだ。

 

「(実際はそうでもないんだけどねー)」

 

余裕そうな雰囲気を出してはいるが、実はこっちも結構追いつめられていたりする。

 

「(耐電性なのは本当だけど、電気を完璧に通さないって訳じゃないし)」

 

さっき上鳴を蹴った足はまだちょっとシビれてる。

蹴るたびに会話を挟むのは追撃ができないのを誤魔化しつつ余裕をアピールし、回復する時間を稼ぐため。防御せずに避けるのは防御できない(・・・・)からだ。

 

そもそもこうやって相手の手札を一つ一つ潰していくやり方を取っているのは、それくらいしか勝つ方法が無いからだ。実のところ我がチームのメイン方針は『相手の降参待ち』である。

それが一番勝算が高いのだ。まともにやると向こうの方が強いし

ちなみに2番目は『タイムアップ』、3番目でようやく『ヒーローの捕縛』を目的にしている。

 

本来、ヒーロー側がすべきなのは核のハリボテを確保することだ。ヴィランの捕縛はできたらでいいのだ。

その点を踏まえて一番されるとまずいのは、戦いから逃げ出して上鳴が俺を足止めしつつ、芦戸ちゃんが手当たり次第酸で壁に穴をあけて核を探すことだ。これをされるとかなり分が悪い。

 

理由は簡単。「個性」の相性が悪いから。

 

芦戸ちゃんが逃げて耳郎ちゃんが追う。この状況だと身体能力が上で実質壁を無視できる芦戸ちゃんが圧倒的有利なのだ。いくら耳郎ちゃんが索敵して場所がわかっても追いつけなきゃ意味がない。

 

だからこれでもかってくらい余裕アピールをして、「逃げ出したら・・・やられる!」みたいな雰囲気を作っているのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて、」

 

そう言いながら目を細める。酷薄(こくはく)な雰囲気も忘れずに。

あ、少しビクッってした。よしよし、ビビれビビれ。

 

「理解できたか? 酸を使うのは無意味だ。さっきのは薄めたものだったから問題はなかったが、もし強力なものだったら? それを吹き飛ばされたら?」

 

どうやら想像できたらしい。酸を使えば自分たちに返ってくる。そう思ってしまえばもう使えないだろ。

 

「これで酸が使えなくなった。電気もほぼ通用しない。上鳴の拳が俺に当たることもない。」

 

セリフに合わせて見せつけるように右手の指をたたんでいく。

 

「まぐれ当たりを狙って殴りかかってきてもいいが、さっきまでは遊んでやったが次からはきちんとカウンターを決めてやるからな。あとは、・・・連携して攻撃なんてのもできないだろ。練度不足だ」

 

シビれるからカウンターとかしたくないんだが・・・。

っと、演技、演技。

全部の指をたたんだ後、視線を上鳴の方に向ける。

 

 

 

「『もしかしたら』という希望を持つのも諦めた方がいい。俺の「個性」の前では役に立たない言葉だ」

 

 

 

仕上げにかかるか

 

「俺の「個性」は『未来視』。それもただ未来が見えるだけじゃない。俺の望む(・・)未来をどうすれば達成することができるのか、を見ることができる。そして、俺が見た未来は必ず実現する(・・・・・・)。これは絶対だ。」

 

ようするに『確定した運命を見る』とか『可能性の高い未来を予測する』とかではなく、『可能性のある未来を取捨選択する』というのが俺の「個性」だ。もちろん制限はあるが伝えるつもりはない。

 

内容を理解してしまったのか絶望が目に浮かんできた。

 

「最初に言ったよな?『希望ごと踏み潰す』、と」

 

ラスト、養豚場の豚を見る目で言い放つ。

 

 

 

 

「上鳴、おまえ、まだ希望が残ってるのか?」

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

side オールマイト

 

「(ナニコレェェェェェ!!?)」

 

冷や汗がすごい。

戦闘訓練のはずがどうしてこうなった? なぜ彼はクラスメイトの精神を破壊しようとしているのだろうか?

 

「クソッ! なんか言ってるのはわかるけど音が無いから何言ってるのかわかんねえ!」

「オールマイト! あいつらなんて言ってるんだよ!」

「上鳴の顔色ヤベェぞ!?」

「いや、先見の雰囲気が一番ヤバイ! ラスボスみてーなオーラ出してるぞ!?」

 

画面越しに伝わってくるものがあるのか、クラスの子たちも騒がしくなってきた。

 

「(いや、ホントどうしようか、コレ)」

 

ここで無理やり中止させるのは彼等のためにならないが、中止させなければ上鳴少年に深いトラウマが生まれそうでもある。

いやでも・・・しかし・・・

 

「みなさん、そんなに心配しなくてもでしょう。見たところ上鳴さんのダメージはキック二回分のみ、問題はないと思いますわ」

「体の方はそうかもしれないけどよ。俺たちが心配してるのはメンタルの方なんだよ八百万。」

 

そう、肉体面では問題ない。有効打は二つだけ、あとは誰もダメージを受けていない。

 

「あら。それこそ心配することはないと思いますわ。」

「なんでだよ。ほら、顔色すげーことになってるだろ? どうしてそう思うんだ?」

 

 

「だって私たちはヒーロー科。英雄(ヒーロー)を目指す人間がこんな訓練で心が折れるはずがありません。」

 

 

八百万百は堂々と言い切った。

 

「(そうか・・・)」

 

彼らはヒーローを目指しているんだ。

そんな彼らの心の強さを、私が信じなくて誰が信じるというんだ!

 

「大丈夫だみんな! 彼らを信じて見ててくれ!」

 

私の言葉に反応してクラスが落ち着きを取り戻す。彼らはきっと大丈夫だ。

 

 

 

 

 

『・・・がうよ!』

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「ちっがうよ!」

 

急に芦戸ちゃんが叫びだした。

違う? 違うって何が?

 

「もー! なにしょんぼりしてんの上鳴! ほら、元気出して!」

「お、おう?」

 

あ、やべ。せっかく作った雰囲気が流されちゃった。

しゃーない、タイムアップ狙いに切り替えるか。上鳴はほぼ戦意喪失状態だし、そう難しいことじゃないはず。

嫌がらせと時間稼ぎは俺の十八番(おはこ)だぜ!

 

「先見もだよ!」

「!?」

 

え、こっちにも話振ってくるの?

 

「さっきからなんなんだよ! 希望がないとか言っちゃってさ!」

 

どうやらご立腹の様子。地団太を踏みそうな勢いだ。

精神的嫌がらせをこれでもかってくらいにしたから、怒るのは当たり前と言えば当たり前だが・・・。なんというか怒っているポイントが違う気がする?

 

「そりゃ、あたしも上鳴もぜんぜん「個性」通じなかったし先見の「個性」がすごい強いのもわかったけど! それと諦めるかどうかは関係ないじゃん(・・・・・・・)! 」

「!!?」

 

・・・おっと、これはまずいぞー?

 

 

 

 

「アタシたちはヒーロー(・・・・)なんだよ!? そんな理由で諦めるなんてヒーローじゃない!!」

 

 

 

 

 

あーあ、気づいたか。

 

相手が強いとか相性が悪いとか、それ以前にまだ全力を出してないのに(・・・・・・・・・・)諦めるやつはヒーローじゃない。ヒーローを目指すならこんなことで諦めるなんてありえない。

 

上鳴のほうはどうだ?

 

「そっか、・・・そうだな!!」

 

はい、復活オメデトウ

先ほどまでと違って明らかに目に力が戻っている。

くっそ、なんとかならんかこれ?

 

「・・・おいおい、お前たちのやる事全部潰されたのを覚えてないのか?」

「ああ、忘れた! 俺は頭良くないんでね!」

 

ならんな。皮肉で返されちまったよ。

ちくしょう! 結構頑張ったのに! 演技力が足りなかったか!?

 

しょうがないので作戦変更。

後ろの耳郎ちゃんにハンドサインで合図を送る。

後ろから「ハァー…」とでかいため息が聞こえてくる。

マジスイマセン。こんな胸糞悪い作戦立てて、しかも失敗してすいません。

俺もため息をついて張りつめた雰囲気を消す。

 

「・・・くっそー。いいとこまで言ったんだけどなぁ。俺の『上鳴の精神フルボッコ作戦』。」

「おまっ! よくもそんな作戦立てやがったな! マジで泣くとこだったぞコラァ!」

「今おれはヴィラン役だからいいんですぅー。ほら、ヴィラン役に(てっ)してたと思えば? さっきまでの言動も許せるような気が?」

「しない!!」

 

ですよねー。

 

「あーもー、しょうがない! ここからはガチで戦闘する! 「個性」もバレた・・・バラしたし! 小細工は無しだ!!」

「こっからはウチもやるから。芦戸のほうは任せといて」

 

頼もしいぜ耳郎ちゃん!

 

「おっしゃ! 今度こそ一発殴ってやるぜ!」

「おっけー! いくよ耳郎ちゃん!」

 

よっしゃ! 乗ってきた!

もう勝機は戦闘で倒すしかない! あと、君たち完璧に核の事忘れてるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ続きます。
次回はホントに戦闘描写。むずい

耳郎ちゃんが無口なのは主人公にあんまり口を挟まないように言われてたからです。




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やっと戦闘してる

今回は戦闘ばかりです。

主人公の個性(チート)についてはあとがきに詳しいことを載せます。

お楽しみください。





「いっくぜぇ!」

 

上鳴が「個性」を発動させる。全身が帯電した、当たればシビれる人間スタンガンだ。

コスチュームがあっても何発かもらえば動けなくなるだろう。

 

そのまま俺に向かって殴りかかってくる。冷静になり余計な力が抜けたおかげか、挑発して頭に血が上っていた時よりもずっとキレのあるパンチだ。

 

しかし、

 

「当たらないって言ったろ!」

 

俺の「個性」で『拳を避ける未来』を観つづける限り当たることはない。掠らせもしない。

だが攻撃をどうする? 蹴るか? ダメだ、足がやられたら回避ができなくなる。

くそぅ、こんなことならコスチュームに手袋も付けておくんだった! そしたら殴れたのに!

 

とにかく、避ける避ける避ける避ける――――!!

 

「くっ!」

「・・・」

 

避けきった! ラッシュを終えて、呼吸を整えるために距離を取る。

 

体力に問題はない。純粋な身体能力なら俺の方が上だ。近接戦闘の技術でも俺の方が上だろう。さて――?

 

「そういうことかよ」

 

上鳴に不敵な笑みが浮かぶ。

 

「ガードしないんじゃなくて、ガードできないんだろ? 俺の電気が効いてないってわけじゃないんだな?」

 

ばれたーー! 「くっ!」とか言ったのが悪かったか? でも、躱すのきつかったし!

ちくしょう隠してたことが次から次へとばれてやがる! 

誤魔化せ俺ぇ! 顔面狙いの縛りが無いと流石によけらんねー!

 

「それはどうかな? まだよけr「オラァ!」うおお!?」

 

い、いきなり殴ってきた!? ヒーローならヴィランのセリフくらい聞いてよ!

 

「もうしゃべらせねーぞ! ろくなことになんねーからな!!」

「余裕、の、無いやつ、だな」

 

散々口先で(もてあそ)んだからか落ち着いてしゃべらせてくれるつもりはないようだ。動きながらじゃ軽口にキレが出ない。

トラッシュトークは俺のメインウェポンなのに!

 

チッ!もう限界だ! 痛いのは嫌なんだがな!

 

これ以上は躱し続けられないと判断して、一つ決心する。

上鳴の拳を前に踏み込みながら(・・・・・・・・・)躱す。

そのまま懐に潜り込み、渾身の肘鉄(・・)を打ち込む!

 

「フン!!」

「ぶはあ!?」

 

よし、成功! 思いついてよかった。肘ならコスチュームに守られてるからな。

腕が痛いしシビれる! けど許容範囲だ。

胸の中心、心臓マッサージをする位置に打ち込んだ。ハートブレイクショットだったか? 呼吸が一瞬止まるだろ?

 

呼吸が止められ、咳きこもうとして動きが止まった上鳴に向かって追撃に走る。

 

長期戦は不利! 判断力が戻る前に決めさせてもらう!

 

間合いに入る。

――狙いはハイキック。頭に打ちこんで気絶させる。

踏み込み。

――ようやく上鳴の視線が俺を捉える。もう間に合わない、体も動かない。動くのは目線ぐらいだろう。

 

 

 

「・・・!!!」

「ぐ、あ゛!?」

 

 

 

・・・・あ?

 

 

体中が痛い。体が上手く動かせず、立っていられない。受け身も取れずうつぶせに倒れる。

 

体に電気を(まと)ってもコスチュームのおかげで足がしびれる程度で済むはず。

行動不能になるなんて・・・?

 

混乱する頭を落ち着かせ、先ほど見た光景を思い起こす。

 

――踏み込み、勝利を確信した時。こちらを睨みつける上鳴。

――あとは、足を振り切るだけ。上鳴の全身が今までの比ではないほど光る。

――体に衝撃が奔り動きが止められる。コスチュームに覆われてない顔・手を含め全身を襲う激痛。

 

・・・もしかして『放電』か?

あのやろ! 「個性」は『帯電』だって言ってたじゃん! 『放電』もできるのかよ!

こんな手札を残しているとは思わなかった。「俺のは電気を纏うだけ」って言ってたのに!

 

か、か、完全にしてやられた。幸い、気絶はしてないがしばらくは体を動かせない。詰みだ。

 

うぐぐ。くやしい! こんな「切り札は最後までとっておくべきだ(キリッ」みたいな負け方をするなんて!

おバカキャラに頭脳戦で負けました(笑) とか!

精神攻撃(爆笑) とか言われるに違いない! うわあああああ!!

 

鬱だ・・・。世界滅ばねえかな・・・。

 

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

あれ? まだこないの?

 

少しは体が動くようになってきた。何とか頭を動かして上鳴の方を確認する。

 

 

 

「・・・ウェーイ。」

 

 

 

とりあえず目を閉じる。もう一回確認してみよう。

 

「ウェイ。」

 

サムズアップする上鳴(?)がいた。

 

「ええー・・・」

 

そういえば、「個性」を使い過ぎるとアホになるとかなんとか・・・。アホってなんだよと思ったが、確かにアホとしか言えない感じになってるな。あれで使い切ったのか・・・。

 

まだ立って歩けるほどに回復していないので、這いずって上鳴のもとへ向かう。

近づいても大した反応が無い。ずっとウェイウェイ言ってるだけだ。

確保テープを巻こう。頑張って立ち上がり、鉢巻みたいにしてあげた。

 

『・・・先見少年! 上鳴少年を確保!!』

 

オールマイトが確保宣言をした。どうやら俺が勝ったらしい。

動くのがきついので仰向けになって休む姿勢に移る。

 

「・・・むなしい」

 

もう寝よ。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

side 耳郎響香

 

先見の作戦通りに、二人から引きはがすことは成功した。

 

「(えっと、確か・・・)」

 

作戦会議の時を思い出す。

 

 

『耳郎ちゃん、これは作戦が失敗した時のための作戦だ。』

『俺たちは二人ともあまり防衛に向いた「個性」じゃない』

『だから、とにかく核のハリボテから気をそらすことが重要だ』

『一対一、正々堂々の一騎打ち。これならヒーローは必ず乗ってくる』

『互いに邪魔が入らない距離まで移動してそれぞれを相手にする』

『後は、頑張って勝ってくれ!!』

 

 

作戦と呼べるほどじゃなかった。

引きはがした後は頑張れとしか言われていない。

 

「(ウチとしてはその方が気楽でいいけど)」

 

少ない時間、かつ、たったあれだけの情報で、信じられないほど精密な作戦を立てたのだ。

そのことに関しては素直にすごいと思うし、実際有効な作戦だとも思った。

 

ただ・・・

 

「(上鳴には悪いことしちゃったな)」

 

予想の何倍も気まずかっただけだ。

だから先見には悪いが、あれを止めてくれた芦戸に感謝している。

 

「(だからここからは正々堂々真っ向勝負!)」

 

柱が何本も立ち並ぶ大広間、その中央までやってきた。

気合を入れなおして相手を迎える。

 

「お待たせ、はじめよっか」

「うん! いっくよー!」

 

同時に動き出す。

芦戸がまず、床一面に酸をぶちまけた。

 

自分の傍まで来た酸を警戒して音で吹き飛ばす。

しかし、量が多かったのか自分の周囲以外は酸で水たまりができるような状態だ。

 

「おそいよー!」

「うわっ」

 

「(早い! 酸で濡れた上を滑って移動してる!?)」

 

いつの間にか接近していた芦戸の飛び掛かりを躱す。

床にまかれた酸は移動の補助を目的としていることに気付く。

 

「(これなら、ウチも気にせず動ける!)」

 

しかし、

 

「(動きずらい・・・)」

 

スケートのように滑り高速移動を可能にする芦戸の酸。慣れない人間にとっては滑り易いせいで踏ん張りのきかない、転んでしまいかねないものになる。

 

「とりゃー!」

「うわっと、あっつ!」

 

そんな状況で周囲からは芦戸の攻撃用の酸が飛んでくる。

当然音で吹き飛ばそうとするがすべてをはじくのは難しい。ある程度は被弾してしまう。

 

「(とにかく、移動して自分が動ける空間を確保しないと!)」

 

踏ん張れる場所を確保するのは正しいが、今や機動性に雲泥の差がついている。

芦戸が見逃がしてくれるはずもなく、移動しようとするとどこからかやってきては攻撃される。

 

移動するのを諦め、足元の酸を全て音で吹き飛ばそうとするがぬるぬるして取れずらい上に、芦戸にすぐ補充されてしまう。

 

「(どうしよう!?)」

 

芦戸の主な攻撃方法は酸を投げかけること、しかも音の衝撃波よりも若干射程が長い。

つまり、射程の外から攻撃され、距離を詰めようとするとすぐさま離れる。自分よりもリーチが長く、速度も速い敵にヒット&アウェイされると打つ手が無くなる。

 

そうこうしているうちに何度か攻撃をもらいある事(・・・)に気付く。

 

「え!? ちょっと待って待って! 芦戸!! ウチのコスチュームが溶けてるんだけど!?」

「えー? そりゃ溶けるよー。酸だもん。」

「いやいやいやいや! まずいって!!」

「どっぱーん!」

「いやあああああ!!!」

 

乙女の危機的状況に先ほどよりも必死で酸を打ち落とす。

 

酸は溶かすもの。服が溶けるのも道理である。

気が付くのが遅かったせいか、ロックな雰囲気のコスチュームがパンクな雰囲気になってしまっている。

 

涙目になりながら襲いくる酸を吹き飛ばしていく。

 

「そりゃそりゃそりゃー!」

「うわわわわわ! あわわわ!!!」

 

耳郎響香のスピーカーから出る音の衝撃波は心音を増幅させたものだ。

つまり、慌てたり焦ったり緊張したりすると、

 

「はぁ、はぁ、全部はじいたよ!!」

 

鼓動が早くなり、音の衝撃波は威力と数を増してゆく。

もはや音の弾幕となった衝撃波で酸の一切を吹き飛ばした。

 

『・・・先見少年! 上鳴少年を確保!!』

 

すると、オールマイトからの通信が届いた。

 

「え!? 上鳴が負けちゃった!?」

「(いよっし!!)」

 

先見と上鳴の対決は先見が勝利した。

 

「(これで2対1。先見がこっちまで来たら勝てる!)」

 

耳郎は時間稼ぎすれば勝ちが決まると判断した。

 

「ごめんね! いっきにいくよ!」

 

しかし、それは芦戸も同じこと。

彼女もまた時間稼ぎをされたら負ける。一気に勝負を決めにかかる、と判断した。

 

「それそれそれー!!」

「うああああ!!!」

 

鳴り響く爆音。

まき散らされる強酸。

 

全力で倒しにかかり、全力で時間を稼ぐ。そして――――

 

 

 

 

「「来ない!(来ない?)」」

 

 

 

 

何時まで経っても、先見は来なかった。

耳郎はもう(R指定的に)限界だというのに、先見は来ない。

そろそろ(乙女的に)ヤバいというのに、先見は来ない。

 

「ああもう!! なんで来ないのよ!?」

 

文句は言うが想像はできている。相打ちに近い形で倒し、動けないほどダメージを負っているのだろうと。すなわち自力で倒さねばならないということを。

 

「(どうしよう、どうしよう。防戦一方だし、攻撃は届かないし、ウチじゃ芦戸に追いつけないし・・・)」

 

芦戸は本当に強い。運動能力も高いし、「個性」の応用も上手い。

 

「(先見も「まともに戦ったら向こうの方が圧倒的に強い」って言ってたし)」

 

確かに強い。勝てないかもしれない。―――けれど、諦めるつもりはない。

 

「(この程度で諦めたらヒーローじゃない、だよね!)」

 

そして、一つの案が浮かぶ。成功すれば勝てるかも(・・)しれない。失敗すれば当然のように負ける。そういった案だ。

 

「いけっ!」

「??」

 

しかし、可能性があるならそれに賭ける。

辺りの壁や柱、腰から上にあるコンクリート製のものを粉々に砕きながら移動する。

土埃が立ち、芦戸が高速機動で離れる。

 

「・・・」

 

視界が晴れると、芦戸はどこにも見当たらなかった。

そして―――

 

 

「うぎゃ!!」

 

 

後ろから接近した(・・・・・・・・)芦戸を振り向きもせず迎撃した。

 

「確保ぉーー!!」

 

怯んだすきにテープを芦戸にまきつける。

 

『ヴィランチーム! WIIIIIN!!!』

 

オールマイトの勝利宣言が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公:先見賢人(さきみけんと)

個性:『未来視』(正式名称は後述)

 主人公の「個性」。非常に希少な【未来視系】の「個性」である。その中でも更に特殊な複合型個性。
未来視には「運命を見る」ものと「先を予想する」ものの2種類がある。彼は後者の「先を予想する」未来視。彼は最大で12分後の(このタイプの未来視では破格)視界全ての未来においてほぼ確実な予測が可能。
そして、彼の「個性」で最も特殊なのが、予測の未来視と同時に、理想の未来を見て、そこに至る過程を知ることができる。という点だ。

第3話「入学式は?」で行った、空き缶を投げる動作を例にしよう。
普通の未来視
 個性発動→缶が外れる未来を見る→缶を投げることを諦める
主人公の未来視
 個性発動→缶が外れる未来を見る。と同時に缶が入る未来を見る(理想の未来)→理想の未来に至る過程を感覚的に理解する→感覚に従い投げる→缶が入る

未来を演算し理想に至る方法を逆算しているらしい。本人は無意識でしている。
すなわち「可能性があれば達成する」というチート。どの程度の可能性まで達成できるかは不明。(測定方法が無い)

本人の認識は「未来さえ見えれば必ず成功する」というもの。
個性の正式名称は『逆行未来演算』

デメリットは未来を理想のモノに変えるといちいち演算しなおさないといけないこと。連続使用は脳に負担がかかる事。






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勝利の後に

個性についてはいくらか独自解釈が含まれておりますのでご了承ください。





戦闘訓練が終わった。

俺が上鳴を確保。耳郎ちゃんが芦戸ちゃんを確保したらしい。

なぜか耳郎ちゃんのファッションが青少年にはまぶしすぎる感じになっていたが、ToLoveったのかな?

 

なんでも、芦戸ちゃんとの戦闘でそうなったらしい。

 

なんてことだ。俺にもっと力があれば・・・! 見に行けたのに・・・!!

内心はそんなもんだが表にはださない。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。

「これで隠しときなよ」と言って、俺のコスチュームを差し出す。「あ、ありがと・・」って言いながらモゾモゾと上に羽織る。かわええ。

 

そして、次はもちろん

 

「さあ! 反省会だ!」

 

オールマイト大先生による反省会のお時間だ。

 

「今回のMVPは! 先見少年! 君だ!」

 

やったぜ。

 

作戦の立案や、ヴィラン役をしっかりとこなしたことを評価されたようだ。

その他、俺たちのチームは「工夫を凝らした」とか「趣旨に沿ってやり遂げた」とか、結構な高評価をいただいた。

 

「ヒーローチームは今回は負けてしまったけれど大丈夫! 得難い経験をしたはずだ。ヴィランは先見少年のようにえげつない作戦も躊躇なく実行する! 悪意にまみれたそのやり口を体験できたことは必ずヒーロー活動で活かされる時が来るはずだ!」

 

ヒーロー側もこれまた高評価らしい。

上鳴は精神面での未熟さがどうとか言われていたが、それはこれから鍛えるものだとはげまされていた。芦戸ちゃんはもうちょっとよく考えて行動をするようにと言われていたが、それでも他の対戦だったらMVPでもおかしくない評価だった。

 

「どちらのチームもよく頑張っていたよ!!」

 

オールマイトはそう言って締めくくった。

 

マジで頑張ったよ今回は。上鳴も芦戸ちゃんも、直接触れたら感電、もしくは溶かされる「個性」持ちだから肉弾戦しかできない俺としては相性良くない相手だった。どうにか戦わずに勝とうとしたのに結局は戦闘になったし。勝ったけど。

 

「よう! おつかれ!」

「二人ともおつかれー!」

 

反省会が終わるとヒーローチームが話しかけてきた。

愛想笑いとか無理やり笑ってるとかではなくフツーに笑顔だ。

俺に対して「マジ強かったぜなんだよあの「個性」!?」とか「すごかったねー! あれ全部作戦だったの?」とか普段と同じように話しかけてくる。

 

・・・器がでけぇなー。

俺だったら絶対復讐計画とか考えるのに。末代まで祟るとか言いそう。

 

クラスメイトのところに戻ってくると

 

「おつかれ!!」

「すげえなあの「個性」!」

「結局どんな作戦だったのだ?」

「先見君! ヴィラン役を徹底するのは、相手のこれからを思っての…」

「ハァハァ、耳郎よぉ、暑くないか? 脱いじまえよ…それ…」

「…【未来視】? どの程度見れるのか、制限は…ブツブツ…」

 

一斉に話しかけられた。

 

聞き取れねーよ、落ち着け。緑谷はこっちに話しかけてるのか? 独り言か?

あ、峰田がぶっ飛ばされた。さもありなん。女性陣から汚物を見る目で見られてるぞ。

 

「オイッ! クソ金目ェ!!」

「はい? おれ?」

 

やせいの 爆豪(ボンバーマン)が あらわれた!

 

「チョーシのってんじゃねえぞ? お前もぶっ飛ばしてやるからなぁ!!」

「遠慮したいなーって・・・」

「わかったかコラァ!!」

「あ、返答は聞いてないんですね」

 

爆豪はキレながら(いっつもキレてるけど)自分の席に戻っていった

 

何の用かと思ったが、どうやら対抗意識を燃やされたようだ。マジ勘弁である。いや、普通に勝てないからね?

 

「おお・・・我がクラスの二大ヴィラン顔が・・・」

「ああ゛!? だれがヴィラン顔だぁ! このクソしょうゆ顔が!!」

「待って!? なにそれ!?」

 

心外である。

爆豪はともかく、俺はそんな厳つい顔をしてない。むしろ爽やか系だろ!

訴訟も辞さない。と、詰め寄るとクラス一のしょうゆ顔、瀬路範太(せろはんた)は言い訳を始めた。

 

「いやいやいや、俺が言い出したんじゃねーって! ほら、さっきまでの訓練で「先見がラスボスみーてなオーラ出してる」って話になってな? その時の顔が完全に悪の親玉(フィクサー)だって結論になっちまって・・・」

 

なんということでしょう。

アレは悪役(ヴィラン)という役作りで雰囲気を作っていたから、その時の事を言われると反論できない。

 

「ああ、確かに! あの時の先見は完全に悪役(ヴィラン)だと思ったぜ! ていうか、そんじょそこらのヴィランより怖かった・・・」

 

上鳴ィィィ!! 余計なこと言ってんじゃねえよー!!

みんなウンウン頷いて同意している。

 

ち、ちくしょう。救いはないのか?

 

その時「ハッ!」とある事に気付き、耳郎ちゃんの事を確認する。

まだだ! まだ俺には大天使耳郎ちゃんがいる!!

 

「・・・ごめん。いいやつなんだけど、ヴィラン顔だったていうのは反論できないっていうかその・・・」

 

か み は し ん だ

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

その後は、切島に言われて俺の「個性」の詳細について説明させられたり、残りのクラスメイトの戦闘風景を観戦したりして授業は終わった。

 

帰り道、ふと瀬路に話しかけられた。

 

「にしてもさー。すげえ「個性」だよな未来視って」

「ん? まあな」

 

ドヤ顔をしてやる。すごいのは事実だからね! しょうがないね!

「うぜえ」とか言われても気にしない! ・・・気にしない!

 

「俺の「個性」ってほら・・・地味じゃん? 見た目的には先見の「個性」も派手なわけじゃないけど、やっぱインパクトが違うよな。・・・あー、俺も珍しい「個性」がよかったなー」

 

ふむ。瀬路は地味なことを気にしてるらしい。

しかし瀬路よ。希少な「個性」は希少なりの厄介ごとがついてくるんだよ?

 

「いや、お前・・・。珍しい「個性」がいいって言うけどさあ。下手に希少な「個性」だとひたすらに面倒なことになるんだぜ? 俺とか・・・後は八百万の「個性」だと特に」

「面倒なことって?」

 

決まってるでしょうよ

 

「誘拐」

「?」

「連れ去られたのが2回、未遂が5回、家を襲撃されたのが1回。」

「何の回数だそれ?」

「俺が(ヴィラン)に狙われた回数だよ」

「・・・マジ?」

「まじ」

 

俺は法律に気を使わなければ金の成る木だからな。俺がヴィランでも間違いなく狙うね。

 

「こんなもん序の口だぞ? 友人が人質にされないように中学までは学校を転々としなくちゃならんし、無断で出歩くことも禁止されてた。ついでに、俺は警察にマークされてるしな。俺の事を守るためじゃなくて、俺が(ヴィラン)にならないか監視するために、だ。」

 

おや、瀬路の顔色がよくない。調子に乗って話し過ぎたな。

 

「というわけで、だ。普通にお前の「個性」の方がいいと思うぜ? というか派手じゃないかも知れないが、応用の幅が広くて優秀な「個性」だろ?」

「おう・・・そうだな。贅沢は言わねえ」

 

納得してくれたようだ。あと、瀬路は「個性」を使用して立体機動とかするから別に地味じゃないと思うんですが。・・・まあいいか。

 

それからは重い話は止めて普通に授業の事とか話しながら教室に帰った。

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「ただいまー」

 

今日も一日が終わり、我が家へと帰ってきた。

実家は遠いので絶賛一人暮らし中だ。

ただいまとか言う必要は全くないのだが、癖とはおそろしい。

 

そのままベッドにダイブする。制服さえ着替えてない。

訓練で疲れているからか、すぐさま眠気が襲いかかってきた。

 

「うおーやべーおきろーおれー」

 

一人暮らしは独り言が増えるというのは本当らしい。

どうにか眠気を振り払って夕飯を作る。

 

もそもそと一人でメシを食べながら考えるのは授業でのこと。「個性」を使えば大抵のことはできると思っていただけに、今日の苦戦はそれなりに思うところがあるのだ。

 

「(決め手が無いんだよな。必殺技というか。)」

 

そもそも攻撃手段が少なすぎる。

素手で殴れない相手にはほぼ抵抗できないことが分かった。

芦戸、切島、上鳴、あとは轟もかな? ああいう、自分の体の表面に攻撃性を帯びるタイプの「個性」が天敵となってしまっている。

 

後は、瀬路が言っていたことも重要だ。【戦闘が地味】これはヒーローとしての人気に関わるのではないだろうか?

つまりは――

 

「(派手で、直接触らず、かつ俺だけにしかできないこと)」

 

んな都合のいいもんあるかな? とは思うが。とにかく考えてみる。

 

とりあえずは、武器・・・だろうか?

 

近接武器――は、意味ないな。敵の身体能力が高かったら奪われて終わる。威力も出ない。

射撃武器――銃はヒーローとしてどうなんだろう? 「個性」を使えば百発百中ではあるんだが。

投擲武器――地味だな。なんとか派手にできたらなぁ。

 

武器というか兵器を使うことを前提にするなら、一番いいのは爆弾だろう。

 

未来を観て(ヴィラン)が通るであろう位置を把握。

殺さない程度に行動不能にする理想の未来を観て、爆弾の設置場所を決める。

後は、タイマーをセットするだけ。

 

・・・・か、完璧だ!

これはいけるぞ! 爆発は派手だしな!! この戦法なら無敵に近い!!

 

 

 

 

・・・むしろ完璧に(ヴィラン)だこれ!!!

 

 

 

 

ていうかテロリストかよ! 絶対人気とかでない、むしろドン引きされるわ!

 

考えれば考えるほど俺の「個性」は暗殺とかに向いてるな。狙撃とかでも、【精度が許す限り】じゃなく【威力が許す限り】の距離で撃てるからな。大量にグラスを用意してどのグラスを誰がとるのか把握、ターゲットのグラスだけに毒を混ぜれば毒殺完了・・・。

 

ハッ! いかんいかん! 俺はヒーローだヒーロー。アサシンではない。

 

やっぱり投擲武器かな、地味だけど。

これも「個性」を使えば絶対に命中するだろうし、あとは威力と派手さと携帯性かな?

 

ちょっと調べてみるか、えーと? 

投げナイフ、ダーツ、ブーメラン、手裏剣、トマホーク、etc・・・

 

結構いいのがあるな。

大量のナイフとかカッコイイ。現実的じゃないけど。

 

よし! 今度相澤先生にでも相談しよう。

あの人俺と同じ攻撃力のない「個性」だし。方向性としては見習うべきだろ。

 

たしか、あの包帯かマフラーかよくわからんやつが先生の武器だったか?

ヒーローにふさわしくない武器とかあるだろうし、一度聞いてみないとな。

 

うんうん。勝って兜の緒を締めよを実践してるな。流石俺!

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

side 相澤消太

 

「―――それで、先見をどう感じましたか?」

 

トゥルーフォームに戻ったオールマイトに今日の戦闘訓練での事について聞く。

 

 

先見賢人。座学・実技ともに好成績でヒーロー科に入学した男。「個性」は非常に有用かつ希少な『未来視』。個性把握テストでは、個性を使用せずに8位と肉体的にも優秀。これだけ見れば優等生なのだが・・・。

 

入試実技、彼は現在1-Bの拳藤一佳(けんどういつか)を救助。これによる救助(レスキュー)ポイントで入学が決定した。しかし、彼女以外にも要救助者が居たにも関わらずそれを助けようとしなかった。教員の間で、「複数を助けられないと判断した」もしくは「気が付かなかった」という意見の人間がポイントを入れた。

 

だが、「わざと助けなかった」という意見の人間も少なからず存在する。少なくともここに二人。

 

 

彼は難しそうな顔をして話し始めた。

 

「・・・私は彼が積極的に(ヴィラン)に加担することはないと思う。しかし、彼はなんというか容赦がない(・・・・・)

「容赦がない? 訓練で手加減をする方が問題だと思いますが?」

「いや、違うんだ。戦闘での手加減ではなく、発想に容赦がない。私はそう感じた」

 

発想に容赦がない? どういうことだろうか?

 

「あの授業は基本くじ引きで対戦相手を決めたが、彼だけはわざと(・・・)上鳴少年と対戦するように操作した」

「なぜそんなことを?」

「彼にとっては上鳴少年が天敵だからさ。「個性」を使えば簡単に勝てるという相手ではない、その時にどういった選択をするのかが知りたかった。」

 

上鳴の『帯電』は先見のような肉弾戦しかできない人間に対して絶対的な有利を誇る。いくら未来が読めても攻撃手段が無ければ何時かはやられてしまうだろう。

 

「結果はあの通りさ。」

「精神的に打ちのめすことで相手の心を折る。ですか。」

「そう、その発想が問題だ。普通なら戦闘の工夫を考える。もしくは時間切れ狙いとかね。しかし、彼は違った。言い方を悪くすると、相手の絶望を狙ったのさ。・・・これは、完全に(ヴィラン)側の思考だ。」

 

(ヴィラン)側の思考。

確かに、ヒーロとして活動しているときに似たようなことを好むヴィランがいた。

相手の絶望の表情を見るのが大好きだという最低最悪の犯罪者だ。

 

しかし――

 

「先見は相手を絶望させたくてやった・・・ということですか?」

「それは違う。彼は『有効だと思った』、『他の選択肢よりも可能性があった』、『ヴィランらしい発想だと思った』と言っていた。つまりそれが有効な戦法だと思って使っただけだ。」

「それなら問題はないのでは?」

「いいや、それも違う。彼はおそらく必要とあればどんなことでも(・・・・・・)する。文字通りどんなことでも、だ。それはヒーローの考え方ではない。」

 

№1ヒーロー。平和の象徴は断言する。それはヒーローとして間違っていると。

 

「彼は正義心や道徳心ではなく、自分の利益に従って行動している。彼が(ヴィラン)ではないのは単純にメリットがない、もしくは好みではないからだろう。」

「それは・・・」

 

それはヒーローとは呼べない。

 

「やはり除籍処分にするべきでしょうか。」

 

ヒーローにふさわしくないものがヒーロー科にいるべきではない。本当に心からヒーローを目指し才能の壁に潰された人間のためにも。

 

「それは・・・ダメだ。」

 

しかし、オールマイトはそれを否定する。

 

「なぜです? 彼はヒーローにふさわしい心を持っていない。除籍処分も当然でしょう。」

「相澤君。彼は確かに悪かもしれないが、(ヴィラン)ではない。・・・しかし、ヒーロー科を辞めた彼が(ヴィラン)にならないとは限らないんだ。」

 

それは・・・確かにそうだが・・・

 

「君の考えることもわかる。彼は多くのヒーローの心を持った人間を才能だけで叩き潰している。それが許せないと思うことはしょうがない。だが、少し待ってもらえないだろうか?」

「・・・ヒーローとしての心を教え込む、ということですか?」

「その通り、敵を増やすくらいなら味方にしてしまえ。そういうことさ」

 

事実、先見がヴィランとして活動すれば厄介極まりない。間違いなく大物のヴィランになるだろう。暗殺や資金繰り、作戦指示などできることの幅が広すぎる。

 

「この方針は根津校長も賛成している。」

「!!・・・わかりました」

 

上に話が通っている以上、除籍するのは簡単ではないだろう。

 

 

「せいぜい見極めさせてもらいますよ。先見をね・・・。」

 

 

 

 

 

 

 




主人公の座学の成績がいいのは「個性」の副産物のようなものです。
なので特に努力して勉強したわけではありません。

身体能力はヴィランに対する危機感などから。そこそこ鍛えてあります。
まあ、そこそこで切島より身体能力が上なのですが・・・







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閑話:仲良きことは

これは原作のストーリーとは関係ありません。





今日は休日。

ヒーローの卵たる俺たちも高校生。休日では当たり前に遊ぶ。

 

それは俺も例外じゃない。

そんなわけでただいま待ち合わせ中。そろそろ誰か来てくれると嬉しいんだが・・・

 

「よっす」

「よお、来たな。」

 

軽く手を挙げて挨拶してきたのは上鳴電気。今日のメンバーの一人だ。

 

「予定時間の十分前に集合。感心だな。ぶっちゃけ遅刻するくらいだと思ってたのに」

「ぶっちゃけすぎだろ。流石に今日は遅刻しねーって」

 

上鳴の服装はジーンズに無地で黒のVネック。アクセも付けてシンプルにおしゃれだ。

 

「そりゃそーか。なんせ―――

 

「おはよー! おまたせー!」

「あれ? ウチが最後? ごめんごめん」

 

元気よくやってきたのが芦戸三奈ちゃん。

集合時間に遅刻した訳じゃないのに律儀に謝ってきたのが耳郎響香ちゃんだ。

 

そう、なんせ今日は戦闘訓練の時「せっかくだからこのメンツで遊びに行こうぜ!」と誘って実現した、女子との休日である。

上鳴がたいそう喜んでくれたぜ。気持ちはわかる。俺もめっちゃ嬉しい。

あと、話を聞いてた峰田が泣いてた。ざまあ。

 

「おはよう芦戸ちゃん。耳郎ちゃんも、まだ集合時間の5分前だから気にしなくてもいーよ。」

「はは、みんな集合時間前に集まっちまったな。」

 

芦戸ちゃんはロングブーツにホットパンツ。上は黒のTシャツと健康的なファッションだ。

耳郎ちゃんは丈長のTシャツにサマーニットを羽織って、これまた下はホットパンツ。

 

うむ。眼福である。魂がいやされるな~。

 

「今日はどうするんだっけ?」

「はーい! 服見に行きたい! 服!」

「あー、俺は服より靴見に行きたいな」

 

おっと、ボーっとしている場合ではないな。

 

「よし、それじゃまずは服見に行こうか。時間が余ったら次は靴も見に行こう。たぶんそのあたりで昼になると思うから、そしたら昼ご飯ね。」

「りょーかい!」

「へーい」

「わかった」

 

さあて楽しもう。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

ところ変わってフードコート。

 

「あー! 楽しかった!!」

「ウチは疲れたんだけど・・・。ずっと着せ替えさせられたし・・・」

 

芦戸ちゃんはホクホク笑顔。対して耳郎ちゃんは疲労困憊といった有り様だ。

俺の事を恨めしそうな目で見ている気がするがきっと気のせいだろう。

 

「いや、気のせいじゃねえよ」

「そーだよ! ウチが疲れてんのもとはと言えば先見のせいだからね!!」

 

怒られた。しかし、待ってほしいあれはやむを得ないことだったのだ。

 

「だって耳郎ちゃんが暇そうにしてたから。つい。」

 

そうなのだ。

芦戸ちゃんが服を見て回ってる時、「男子の意見もほしい」と言われたので俺と上鳴は芦戸ちゃんと一緒にあーだこーだ言いながら服を見ていたのだ。

すると、耳郎ちゃんは自分の見たいものを見終わったのか、ただ着いてくるだけになっていたので

 

『ねえねえ、これとか着てみない?』

『え、ウチが?』

『そうそう。今ちょっとヒマでしょ? 暇つぶしもかねて、さ』

 

そう言って色々とコーディネイトしてあげたのだ。

あれこれ着せてどれも似合ってたので褒めまくったら、耳郎ちゃんもやる気が出てきたらしく。

耳郎ちゃんのセンスとは違うけど似合う服装とかも着せたりした。

 

すると、なぜか店員さんがやる気になってしまったらしく、「これもお似合いですよ!」「これもいいと思います!」「これも!」とどんどんと服を持ってきてくれるようになった。

 

ここまではよかったのだが

 

流石に芦戸ちゃんと上鳴がこちらに気付き、芦戸ちゃんも耳郎ちゃんの着せ替えをしだした。この時点で完全に耳郎ちゃんのセンス云々は無視されていたように思う。

 

それで店員さんと芦戸ちゃんが次から次へと可愛らしい服装、かっこいい服装、いやそれもう民族衣装だよね?な服装を持ってきて耳郎ちゃんに着せていった。

勢いに負けたのか耳郎ちゃんも律儀にそれらを全部着て、さながらファッションショーのごとき有り様だった。

 

最終的にゴスロリを着せられた耳郎ちゃんを思わずスマホで撮影したところで正気に戻ったらしく、ファッションショーは終了した。

 

「いや、耳郎ちゃんノリノリだったじゃん。ほら、見てよこれ」

「うわあああ!! 消してってばーー!」

 

スマホにはしっかりとゴスロリ着た耳郎ちゃんが映っている。絶対に消さない。絶対にだ。

 

「うわー! かーわいいー!」

「おおー、マジだ!」

 

恥ずかしさに耐えきれなかったのかテーブルに突っ伏してしまった。腕の隙間から見える耳が真っ赤である。

 

「まあまあ、どんまいどんまい」

「なんで先見が慰めてんの!? おかしいでしょ!!」

 

慰めたら怒られてしまった。

いやー楽しい。

 

「それくらいにしとけよ先見。それより、次どこ行くか決めようぜ」

「次はどこに行こっかー!」

 

そうだな。からかい過ぎてもよくないしな。よし。

 

「それじゃカラオケはどうだ? ストレス発散的な意味で」

「アタシはおっけー!」

「俺もいいぜ!」

「・・・よし! 歌おう! 歌って忘れる!」

 

そんじゃ、満場一致でれっつごー!

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

『―――!――、――――!!』

 

そんなこんなでカラオケ店。

今は耳郎ちゃんの歌の番だ。伊達でロックなファッションをしているわけじゃないらしい。力強い歌声でめちゃくちゃ上手い。

 

ジャーン! と曲が終了する。

 

「「「おおー」」」

 

『ありがとー!!』

 

ノリノリである。

次は・・・上鳴か、ロックで対抗するようだ。『耳郎より上の点とってやる!』とか言ってる。

 

「うーん。何歌おっかなー?」

 

おや? 芦戸ちゃんが曲を決めかねてるらしい。

 

「芦戸ちゃんは何を歌うんだ?」

「ん? えーと、どうしよっかなーって考えてたとこ。・・・そうだ! 先見は何歌うの?」

 

自分の好きな曲を歌えばいいのに。まあいいや、俺が歌う曲か。

 

「バラードかな」

「え? 二人ともロック歌ってるのに?」

 

確かに、場の空気を読んで歌うならロックかポップス。バラードは論外って感じだ。

 

「まあ、空気は外すかもしんないけど歌いたいのを歌えばいいんだよ。俺が今はバラード歌う気分ってだけ」

「ええ~、ちゃんと空気読まないと~」

 

当然ながら空気を呼んだ方がいいのは間違いないけど

 

「二人ともちょっと空気外すくらいで文句言うような奴じゃないだろ? もちろん、芦戸ちゃんも」

 

友達に合わせるのも大切だが、自分を出せないのはつまらないからな。

するとなぜか芦戸ちゃんがキョトンとした表情をしている。

 

「そっか! そうだね!」

 

すると突然機嫌がよくなった。

よくわからんが曲が決まったっぽい。

 

入力したのは少し前にCMで流行った曲だ。辛くてもくじけない、いつか報われる。という曲だったはず。割としっとりとした歌なので確かに空気は読めてないかもしれない。

 

「ちょっと前に流行った曲だね」

「うん! アタシこの曲が大好きなんだ!!」

 

お、上鳴が歌い終わった。ロックの雰囲気が似合いすぎなんだよな。

 

「っしゃーー! どうだ!!」

「うっそ! ウチが負けた!?」

 

点数で耳郎ちゃんに上鳴が勝った。

くやしいのか耳郎ちゃんがぐぬぬ顔になってる。かわいい

 

「次は俺だ。マイクくれ。」

「おう、ほらよ。曲は・・・バラードか」

「悪いなテンション下げて。」

「気にすんな。お前の歌が上手かったらテンションあがるぜ?」

 

にやにやと笑いながら上鳴がそう言ってくる。

耳郎ちゃんに勝てたからって。調子に乗っているようだな。

 

「ハッ! うっとりしてテンション上げ忘れないように気を付けとけ!」

「おお!? すげえ自信だ!」

 

曲が始まった。いくぜ!!!

 

『―――、――。―――――!!!!』

 

「「!!?」」」

 

・・・曲が終わった。

ドヤ顔しながら感想を待つ。

 

 

 

「ふつうだ・・・。」

「普通だったねー」

「あれだけ自信満々で普通かよ・・・」

 

 

 

せやろな。

 

『うるせーー!! 普通で悪いか!! お前らが上手すぎるんだよ!!!!』

「お前がうるさい!! マイクを使うな!!」

 

おっと、思わず。

 

「流石に無理。だって上鳴の点数とか90後半じゃん。」

「それでなんであんな自信満々なんだよ・・・」

 

もう俺の事はいいんだ。それより次だ。

 

「はい、芦戸ちゃん」

「はいはーい! それじゃ歌うよー!」

 

芦戸ちゃんの出番だ。曲が始まる。

 

『――――。――、―。――。』

 

「あ、懐かしい」

「たしかCMで流れてたよな?」

 

しっとりとした曲を歌う芦戸ちゃんは、いつもの明るく天真爛漫な雰囲気とは変わっていた。

 

「いい曲だな」

「そうだねー。ウチも次は懐かしいのいれよっと」

 

曲が終わった。

 

「うーん。アタシも先見と同じくらいだね!」

「よし! これで今のとこ一位は俺だな!」

「ウチが抜かすまではね! 芦戸ちゃんマイク貸して」

 

芦戸ちゃんが耳郎ちゃんにマイクを渡してこっちに戻ってきた。

 

「はーっ、つかれたー!」

「おつかれさま。ジュース飲む?」

「のむー!」

 

ジュースを手渡す。

なんかさっきより芦戸ちゃんのテンションが下がった気がするな?

 

「ねえねえ先見。」

「ん? なに?」

「さっきのアタシの歌どうだった?」

「よかったよ。普段と違う雰囲気の新しい一面を見れたって気分だ。」

 

感想を返すと「ふーん」といって静かになってしまう。

あれ? なんかマズイこと言った? どうしよ。

 

「・・・うん! わかった!」

 

急にテンションが戻った。

まったく意味が分からんが、気まずい雰囲気にならずにほっとする。

 

「えーと、なにがわかったの?」

「え、うーん。・・・こっち来て!」

 

隅の方に呼ばれた。二人には内緒の話みたいだ。

 

「あのさ、入試の時隣の席に座ってたの覚えてる?」

「覚えてるよ。」

「あの時、アタシの方から話しかけてきたよね?」

「・・・確かそうだったな」

 

なんで入試の話? 

 

「アタシ、初対面の人には自分から話しかけるようにしてるんだ」

「うん、そんな感じする」

 

 

「それってね、アタシに初対面の人は話しかけてこないからなんだよね。見た目のせい・・・だと思う。」

 

 

は? まじかよ。

ありえねえな。と思ってると芦戸ちゃんが苦笑した。

 

「ほら、不思議そうな顔した。先見は全然気にしないんだよねそういうこと。」

「え、うん。気にしない。」

 

可愛いかどうかしか気にしてなかったわ。

 

「曲を選ぶときも他の人と違うことをするのが怖かったんだ」

「・・・ああ、なるほど。俺の選曲で安心したのか。」

「そーいうこと。違っても大丈夫だって思った。」

 

そっか、そんなこと思ってたのか

 

「それでもちょっと不安だったから感想聞いてみたの!」

「どうだった?」

「うん! 先見は大丈夫だってわかった!」

 

なるほどね。安心してもらえたようでよかった。

でも―――

 

『ふーん。先見は大丈夫なんだ』

 

気になるよね。隅でこそこそ話してると

 

『なにが大丈夫なのかなー?』

「・・・あれー? 聞こえてたかなー? なんて・・・」

 

芦戸ちゃんが振り向くとマイクを持った耳郎ちゃんが歌うのを中断して後ろに立ってた。

 

「ハァ・・・。ウチが聞いちゃったのは選曲の時の話からだよ。」

「ア、アハハ・・・」

 

わかりづらいけど、ピンクの肌に赤みがさしてる。

 

「まったく! ウチは気にしないし、上鳴はアホなんだから、気を遣わなくていいんだよ!」

「うん、」

「クラスメイトだし、友達なんだから!」

「うん! ありがと!」

 

「なあ、なんで俺は馬鹿にされたの?」

「わかんね」

 

芦戸ちゃんが耳郎ちゃんに飛び込むように抱きついた。

耳郎ちゃんも「あーもー」とか口では言ってるけど嬉しそうだ。

どちらも顔が真っ赤だ。

 

「ま、あの光景に免じて許してやれ」

「しょーがねーなー・・・」

 

その二人をパシャリと撮影する。どちらも嬉しそうな表情をしている。

 

写真にタイトルをつけると・・・そうだな。

 

仲良きことは美しきかな。

 

・・・なんてな。

 

 

 




たぶんあったと思うんですよね。いじめ
異形系の個性のいじめとか社会現象になってそう

この話、書き終わった後になんか悶えました。きつい


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委員長決め

時系列は閑話の前です。





「ん? なんだあれ?」

 

戦闘訓練の翌日。

若干の筋肉痛に悩みながら登校していると、校門のところで人だかりができているのを発見した。

 

カメラがあるし・・・メディアの取材かな?

校門をふさぐのは止めていただきたい。

 

「雄英の生徒の方ですか? 今お時間よろしいですか?」

 

やべ、見つかった。

・・・このキャスター美人だな。野郎か不細工なら無視してたが美人なら話は別だ。

 

「はい、大丈夫です。取材ですか?」

「そうです! ありがとうございます! それでですね、本日は雄英にオールマイトが教師として・・・」

 

オールマイトが教師をやっていることについての意見を聞きたいようだ。

好青年っぽく「トップの指導を受けられて光栄です」とか「オールマイトの最初の生徒として頑張りたい」など無難に返答をこなした。

 

インタビューのところどころで「今度落ち着ける場所で話しませんか?」とか番号とか聞き出したかったけどガードが堅かった。流石は芸能界の住人だ。無念。

 

 

 

「おはよー」

 

若干テンションが下がったがどうにか教室までやってきた。あのあと、他の取材陣もやってきたが美人はいなかったので全部無視した。

教室では校門の取材陣について話題になっていた。

 

「おう、おはよう。先見も取材されたのか?」

「おはよ、切島。 ああ、されたよ。結構真面目に答えたぜ?」

「俺は緊張しちゃってさあ。インタビューとか初めて受けたし」

「そんなもんだろ、普通。ヒーローにマスコミは付き物だし、今のうちに経験できてよかったじゃん? オールマイトのおこぼれみたいなものだけど」

「ああいうのを見ると、やっぱオールマイトが教師になるってすげえことなんだなって感じるよな」

 

たしかに、実際意味わからんくらいすげえ

 

「そうだな。だってオールマイトってたぶん日本一人気がある個人だろうし。それが教師をしてるっていうんだから・・・ファンの人から見たら羨ましすぎて発狂もんでしょ」

「マジかよ。でもそっか、そうだな。気合入るぜ!」

「いや、気合はよくわからん」

 

その後、色々雑談してしばらくすると相澤先生がやってきてHRが始まった。

 

「今日は取材の人間が来ているが、ああいった手合いに不必要なことを話さないように。それと、不名誉な行動は慎め。雄英の名に関わる。」

 

キャスターをナンパしたのは不名誉かな? いや、不名誉ではない(反語)

 

「さて、今日のHRの本題だ…。急で悪いが今日は君らに…」

 

テストか!? もしかしてまたか!?

 

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「「「学校っぽいのきたーー!!」」」

 

 

ああそっか、ここも一応普通の学校っぽいこともするんだな。

 

「はいはい! アタシやりたい!」

「おれも!」

「オイラも!」

 

なんかみんな手を挙げてるんですけど。

え、なにこのやる気は?

 

どうやらみんなはヒーローとしてみんなを引っ張る経験を積みたかったらしい。

収拾がつかなくなった辺りで、飯田の提案により投票で決めることになった。

 

しかし、ほぼ全員が自分に投票している。一票の人間がずらっと並んでいる。

当たり前か、みんな挙手してたし。

 

しかし、俺は自分ではなく飯田のところに線を入れた。

 

「・・・! 先見君!」

「・・・(グッ!」

 

サムズアップで返答する。

だって、飯田って明らかに委員長気質だし。今回も収集のつかない状況を投票という形でまとめ上げたのは飯田だ。これほど委員長向きの人材もいないだろう。

 

 

「えー、緑谷三票、八百万二票で委員長は緑谷に決定。八百万は副委員長な。」

 

―――と、思ったのだが。

 

アホなのかな?

飯田のやつ自分の投票を緑谷に入れやがった。

なんで自分に入れないんだよ! それでも副委員長だけど!

あああ、壇上の緑谷ガチガチじゃん。大丈夫かこれ・・・?

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「メシくおーぜ」

 

今は昼休み。メシの時間だ。

切島と上鳴を呼んで食堂に向かう。

 

朝のHRで決まった緑谷が委員長になるのは、正直不安だったが。結局やる事は授業の号令くらいしかなかった。なので、特に問題はないかなと今は思う。

 

「にしてもやりたかったなー委員長」

「そうか? そういや二人とも自分に入れてたっけ?」

 

上鳴はまだ未練があるらしい。号令くらいしかやる事ないだろ。

 

「むしろなんで先見は自分にいれなかったんだよ?」

「切島も見てたろ? 俺は飯田が委員長にふさわしいと思ったからあいつに投票したんだよ。」

「飯田は委員長っぽいもんな。メガネだし」

 

雑だな理由が! わかるけど!

 

「しっかし、自分の一票を緑谷に入れちゃうんだもんな。意味なかったぜ。これなら切島に投票すりゃよかった。」

「まじか! 俺にも入れてくれるのか!」

「俺は? ねえ?」

 

切島はコミュ力の権化だからな。むしろクラスをまとめるのに委員長の肩書すら必要ないくらいだ。男らしいことが大好きだから、クラスを引っ張っていくタイプのリーダーになるだろう。

上鳴はあきらめろ。

 

 

ウウゥーーーー!!

 

 

すると、突然サイレンが響いた。

 

警報? (ヴィラン)か?

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください。』

 

避難指示の放送まで出された。もしかしてやばい?

まずは―――

 

「おい! 避難するぞ!」

「先見! 急げ!!」

 

上鳴と切島はすぐさま行動に移る。本来なら理想的な行動なんだが・・・今は、いいや未来(・・)ではそれが悪手となる。

 

「ちょっと落ち着け。今は動かない方がいい。「個性」で確認したから間違いない。パニックに巻き込まれて怪我しても知らんぞ」

「え、あ。【未来視】か。何が見えたんだ?」

「とりあえず問題ないってことだけはわかった。あとあれだ、出口の上のところ見とけ。」

 

こういう時はまず【未来視】。まったく便利な「個性」である。

観えたのはパニックになる群衆。狭い出口で押しつぶされる生徒。倒れて踏まれそうになる生徒。そして・・・。

 

そろそろである。音声が無い【未来視】じゃ、何が何だかわからんが面白いのだけは間違いない。パニックも収まってたし。

 

 

 

「大丈ーー夫!!!!」

 

 

 

飯田が出口の一番目立つところに張り付いた。すると、食堂全体に響き渡るほどの声で説明を始める。

 

「ただのマスコミです! 何も心配になる事はありません!!」

 

どうやらマスコミが学校の敷地に侵入してきたようだ。警報は侵入されれば自動で鳴り出すらしく、(ヴィラン)が侵入してきたとか言うわけではないらしい。人騒がせな話だ。

 

食堂中の注目を集めるためにわざわざあのポジションを選んだのだろう。パニックになった人間は、そうでもしないと話を聞いてくれないからな。

 

そして、出口の上で話す飯田の姿はまさしくアレだった。

 

「非常口だな」

「非常口だ」

「非常口飯田だな」

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「――――というわけで、僕は委員長を飯田君に任せたいと思います」

「委員長の指名なら仕方あるまい!!」

 

「がんばれよ、非常口!!」

「任せたぞ非常口飯田!!」

 

なんと委員長が交代した。

クラスメイトも歓迎(?)している。

 

理由も納得だ。あの状況下で冷静かつ的確に判断できたのは飯田しかいない。俺もパニックにはならなかったが、できたのはせいぜい周りの数人を助けることくらい。

食堂全体をまとめた飯田のリーダーシップを疑う人間はもういないだろう。

 

そして、非常口はあだ名に決定した。

印象に残るよね・・・あれは。

 

それにしてもマスコミはすごいな。

雄英の校門は校門って言うかほとんど防壁なのに、あれをどうやって突破したのだろう?

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「―――というわけでして、相談に来たのです。」

「そうか」

 

授業も終わって現在放課後。場所は職員室。

職員室って悪いことしてないのに入るの躊躇しちゃうよね? なんでだろうね?

 

昨日の夜から考えてた装備について、相澤先生にご相談している。

なんだか、職員室が慌ただしいからちょっとだけ申し訳ない。マスコミのせいかな?

 

「まず、銃やナイフの殺傷性の高いものは基本的にダメだ。あくまでヒーローは(ヴィラン)を捕縛するのが仕事だからな。「個性」がそれに関するものだったりしたら別だが、お前はそうじゃないだろ。」

「なるほどなるほど」

 

やっぱ銃はダメか。スナイプ先生は例外ってことね。

 

「あとは、「個性」と全く関係が無い装備もあまり推奨できない。ヒーローには「個性」を有効活用している象徴という一面がある。なので、「個性」を有効活用させる装備を考えろ。」

 

警棒とか誰でも使えるのはあんまりよくないってことか。

そういったものを使うならヒーローじゃなくて警察でいいもんな。

 

「それと、そういったコスチュームや装備に関することは俺じゃなくてサポート科に聞け。とりあえずサポート科のパワーローダー先生を紹介してやる。」

「ありがとうございます」

 

餅は餅屋。ということか。

というわけで、パワーローダー先生に話を聞く。

 

「くけけ…。この時期から装備について考えるとは優秀じゃないか…」

 

キャラが濃い! さすが雄英だぜ!!

ヒーローはやっぱり地味じゃダメなんだな! 理解したぜ!

 

話を聞くと、そういうことはサポート科の生徒にも関わらせてほしいらしい。

ヒーロー活動の悩みを解消する事の経験を積ませたいようだ。もちろん先生が監修するので半端なものを渡すことはない。と、断言してくれた。

 

「ウチの生徒の経験にもなる。お前もいろんな装備を試せる。一石二鳥だろォ…?」

 

ようは教材になれってことだ。

何度か試作品のテストをしなくちゃいかんので、時間と手間が少々かかるようだが、別に問題はない。せいぜい中間試験に間に合えばいいだろ。

 

俺の「個性」の詳細と、欲しい装備について意見を書いたプリントを提出させられた。

 

「これをもとに生徒に考えさせるからな…。いくつか試作ができたら伝える。」

「わかりました。期待して待ってます。」

 

先生は「くけけ…」と笑いながら了承してくれた。

これで後は、優秀なサポート科の諸君がなんとかしてくれるだろう。

 

もう用事はないので職員室から出ようとすると、相澤先生から呼び止められた。

 

「先見。お前が考えてた装備についての意見もまとめてくれ。冗談で考えたような奴でもいいから。サポート科に参考として提出する。」

 

そういうことなら、と。昨日のうちに考えてたことをレポートにまとめる。

冗談で考えた奴も書けとのことなので、爆弾の戦法とかも全部書いちゃう。

書き終わって提出すると「もういいぞ」と言われたので、今度こそ退出する。早いところ武器ができればいいんだが。

 

 

 

 

「・・・ふん」

 

 

 

 

 




主人公は信頼を得ることができるのでしょうか?
私にもわかりません。




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救助訓練にて

武器使うヒーローってどうなんでしょう?
たぶん居ますよね。ほかにも。きっと

後すごいどうでもいいですが、サムズアップは親指を立ててGoodサインするアレです。


 サポート科に武器を依頼してからしばらく。

 俺の武器はまだ完成していない。試作品をいくつか試したがどれもイマイチだった。

 とりあえず、素手よりはましなのでそれを装備している。

 

『どうです! 私のドッ可愛いベイビーは!!』

『これなに?』

投げやり(ジャベリン)です! 派手なのがいいとのことなので、サイズを大きく! 一定の衝撃で爆発する機構を付けました!!』

『重さは?』

『320キログラムです!!』

『持てるわけねーだろ! アホかぁ!!!?』

 

 おっと、いかん。アホの事を思い出してしまった。アレは試作品とさえ認めてない。

 あの後も散々わけわからんメカを試させよってからに・・・

 

 後ろでパワーローダー先生がめちゃくちゃ申し訳なさそうな顔をしてたじゃねーか。

 見た目はかわいいのに何故ああなったんだ?

 

「どうしたの? 先見ちゃん。車酔い?」

「ああいや、気にしないでくれ。むしろ頭が痛くなるような記憶を思い出していたというか・・・」

 

 隣にいる梅雨ちゃんが心配して声をかけてくれた。

 ちなみに今は教室じゃない。今日はヒーロー基礎学、救助訓練の日だ。

 

「にしても敷地が広いのは知ってたけど、学校内をバスで移動するとは思わなかった」

「そうね。私もよ」

 

 あまりにも遠いので、救助訓練を行うにあたって施設までバスで移動しなければならない。

 こういうのもスクールバスと呼ぶのだろうか?

 

 バスの前方では相変わらず爆豪が暴れている。

 あの爆豪をいじれる上鳴も、フレンドリーに接する切島もコミュ力の化け物である。

 

「爆豪って救助とか向いてなさそうだよな。性格的に」

「んだとコラ! できるわ!」

「わかる。クソを下水で煮込んだような性格してるもんな」

 

 なんだその罵倒のセンスは?

 

「うるさいぞ! 静かにしろ!」

 

 ついに相澤先生がキレた。騒ぎ過ぎはよくないね

 

「ねえ、先見ちゃん。先見ちゃんはどうなの?」

「ん? なにが?」

 

 梅雨ちゃんが唐突に質問してきた。

 

「先見ちゃんの「個性」はどうやって救助に使うのかしら? いまいちよくわからないの」

「…あーなるほど。そうだな、どうやってか。」

 

 うーん? 改めて考えると、自分が助かるために使うのはともかく人を助けるには使いづらいな。あれ? 思いつかん。

 

「俺の「個性」は災害救助に直接役立つことはない。かも」

「え?」

「できることと言ったら…他のヒーローに指示出すこと?とか?」

 

 マジで役立たずだわ。どないしょ。

 

「判断を適切に下すことはできるけど。…それ以外にできることが思いつかない」

「落ち込まないで先見ちゃん。きっと何かやれることがあるわ」

 

 やさしいなあ、梅雨ちゃん。

 でもなあ、災害時に未来見たってあと何分後に死ぬかわかるくらいだしなあ。

 戦闘時とかはともかく、限界の12分まで先を見ても見れる時間が短すぎだし。

 

「ダメだ、俺の灰色の脳細胞じゃ良い考えが出ない。」

「いいの? それで?」

 

 よくない。しかし、問題もない。

 

「大丈夫、大丈夫。今からそれを教えてもらいに行くんだし」

「それもそうね。災害時の「個性」の使い方を教えてもらえるといいわね。」

 

 分らないのなら先達から教えを乞う。プロヒーローなんだからいい考えの一つや二つ出るでしょう。予知系の個性だって何人かいるだろうし。

 

 しばらくするとバスが到着した。

 目の前にはデカいテーマパーク・・・に似た災害訓練施設がある。13号先生が作った【嘘の災害や事故ルーム】。略してUSJだ。

 その略称はヤバいぞ先生!

 

 

 

 

 

「―――人命のために「個性」をどう使っていくのか学んでいきましょう!」

 

 13号先生からの小言と激励が終わった。皆かなり感動したようだ。「君たちの個性は人を助けるためにある」とか言いきっちゃうのがかっこいいね。

 

 俺はそんなこと思っちゃいないけど。

 

「それじゃあ、授業始めるぞ。まずは―――」

 

 相澤先生が授業の説明を始めようとしたところ。

 何かに気を取られたのか、突然に言葉を切った。

 なんだ? 広場の中央を見つめている?

 

「なんだあれ? 黒いモヤみてーなのが・・・」

「入試の時みたいなすでに始まってるパターン?」

 

 見えた。なんかいっぱい人がでてきてるな。水色の髪の奴が先頭に立ってる。

 なんか変なマスクつけてんなアイツ―――? 人の手? きもい

 

 

「下がれ!!」

 

 

 相澤先生の声が弛緩した空気を切り裂く。

 

「アレは! (ヴィラン)だ!!」

 

 ・・・まじかよ

 雄英のドッキリとかそういった類ではないらしい。

 正真正銘の社会に対する敵対者。奴らが俺たちに牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 相澤先生がヴィランであふれる広場へ飛び込む。

 あの数を相手に一人で立ち向かうつもりだ。

 

 「個性」を使い、連携を乱れさせ、隙あらば拘束・制圧する。

 どの敵の「個性」を消すのか、判断が上手い。

 遠距離からの攻撃に拘束具を巻き付けた別の敵をぶつける。連携攻撃は「個性」で足並みを乱し、活路を開く。戦場全体をコントロールする戦い方だ。

 

 ヴィランどもを次々となぎ倒していく。

 ていうか、肉弾戦強すぎ!!

 

「・・・すごい。多対一こそ先生の得意分野だったんだ。」

「何をしてるんだ緑谷君! 早くこっちへ!」

 

 緑谷さん分析してる場合じゃないっすよ。逃げましょ?

 

 するとさっきの黒いモヤがこっちに来た。

 アイツもヴィランか! 空間系? 便利なモンもってんな。

 

「そうはさせません。あなた方にはここでオールマイトをおびき出す餌になっていただかなくては。」

 

 ――あ、やばい。『観えた』

 

「平和の象徴。オールマイトに息絶えていただきたいと思いまして。」

 

 ダッシュ。

 切島と爆豪の攻撃は無意味に終わる。

 

「それとは関係なく、私の役目はこれ。散らして 嬲り 殺す」

 

 黒いモヤが一気に広がる。

 アレに包まれたらアウトだ。その前に飯田が範囲外に何人か連れて逃げる。

 もう一人くらい何とか。尾白の奴を外に投げ捨てる。

 

「助けを呼べ」

 

 何とか言えた。

 驚愕に目を丸くする尾白。それを最後に視界は暗闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 視界が開ける。どこだここ? 火災ルーム・・・かな?

 

「ん? 俺一人か?」

 

 周囲には誰もいない。クラスメイトはこっちに来ていないようだ。

 

「まだまだピンチは続いてるみたいだな」

 

 物陰に指をさす。

 そこにはぞろぞろとヴィランが待ち構えていた。

 

「だいたい20人くらいか。分断させて囲んでボコる。そういう戦略ってわけね」

 

 有効な戦略だ。数は力。それは正しい。

 しかし、これはどうなんだろう?

 

「しょーがない。ちゃちゃっと片づけよう。」

 

 この程度の数なら問題ない。数の不利を覆してこその英雄、だろ?

 

 ちょうどいいや、こいつ等で試作品の使い心地でもチェックするか

 

「そんじゃ、いくぜー。ほっ!」

 

 試作品その一。ブーメラン。

 

「ヒーローの卵だろうが油断すんなよ。」

「ぶっ殺す!」

「腕振り回して何やってんだあいつ?」

「なんか、変な音聞こえねえ?」

 

 もちろんタダのブーメランじゃない。サポート科なめんな。アイツら変人だけどすげえぞ?

 

「ギャアアア!??」

「なんだあ!?」

「ぐあああ!? 斬られた!?」

「なんか刺さってるぞ!?」

 

 なんと、このブーメランほぼ目に見えない。極薄の透明な素材で作られているらしく、少なくとも遠目に視認することは不可能だ。

 欠点は極薄なせいで相手を切り裂いてしまうこと。そして、周りから見ると『腕を振り回したと思ったら敵が切り刻まれてた』ように見える。つまり、地味だしグロイ。

 

 うん! これはボツ!!

 

「おら、次いくぞー!」

 

 試作品その二! ヨーヨー!

 

「ぐべっ!?」

「何か投げてきたぞ!」

「ボールか? なんか紐みたいなのがついてたが」

 

 まだ俺の攻撃ターンだ。ずっと俺のフェイズ!

 

「うわあ! また投げてきた!」

「ゴムで手元に戻してやがる! また来るぞ!」

「避けろー!」

 

 これは縁日の水風船ヨーヨーを模してある。伸びやすく縮む力が強いという特殊なゴムで本体とつなげてある。これを投げつけてゴムで引っ張って再利用。ぶん回して使うことも可能だ。

 欠点は単純。威力が無い。そして、

 

「おっしゃあ! つかんだぞ! こっちにこい!!」

 

 掴まれやすい。せっかく再利用できてもこれでは意味が無い。体勢を崩されこっちが不利になるだけだ。

 

 これもやはりボツ!

 

 やむを得ないので武器を手放す。

 さあ、次だ。

 

「そらよっと!」

 

 試作品その三!! ダーツ!!

 

「いってぇ!!」

「グッ!? 肩に! なんだこりゃ? ダーツ?」

 

 こいつはすごいぜ! 悪い意味でな!!

 

「ぎゃあああ゛あ゛あ゛!!?」

「いだあああああ!??」

 

 このダーツはモーターを内蔵している。そして針と本体は特殊な形状をしていて、相手に刺さると傷口を掘り進んでいくぞ!

 欠点とかそういう話じゃねえ! グロすぎる!!

 

 当然の如くボツ!!!

 

「あ、あ、いでえぇぇ」

「ううう・・・」

「ち、ちくしょう。」

 

 何時の間にやら死屍累々。こりゃあひでえ。

 残りのヴィラン共も俺に向かってくるのを躊躇してる気がする。

 

 ブーメランもヨーヨーもダーツも、「個性」のおかげで相手を行動不能にする場所に打ち込めるのはいいんだが・・・

 

「くそっ、腕の腱がやられた。動かせねえ」

「こっちの奴はアキレス腱だ。あの野郎、躊躇なく急所を狙ってやがる。」

「お、おい。こいつ泡吹いてるぞ? 痙攣してるし」

「そいつは…息子をやられたんだ・・・」

 

 まあ、すなわち急所に当ててしまうというわけでして・・・。

 やむを得なくだよ? 一撃で行動不能にするためですよ?

 どうしてヴィランの皆さんは俺を頭おかしい奴みたいな目で見ているのかな?

 

「おい、ゴラァァァ! かかってこいやヴィランンンン!!! 逃げたらそれよりひどい目にあわせてやるからなァァァアァ!!」

「「「うわあああ?! クッソがあああ!!」」」

 

 ばらばらに逃げられると厄介なので、挑発してこっちに来させる。

 

 ようやく遠距離だとマズイことが分かったのか接近戦を仕掛けてくる。複数人で囲めば何とかなると思ってるのだろう。

 

 甘いぞ。

 

 殴りかかってきたヴィランを最小限の動きで躱す。

 左から顔面を蹴ろうとする奴がいるので屈んでかわす。その際に足を払って転ばす。

「個性」なのか、周囲の瓦礫を取り込んで巨大化させた拳で攻撃してくる。ジャンプして躱す。そのまま腕を伝って顔面を蹴っ飛ばす。

 左右からの同時攻撃。左からの攻撃を躱し右側の攻撃をそらす。そらした拳は左の奴の顔面に直撃した。

 

 これは使える。

 さっきの相澤先生の物まねだが、これはかなり有効だ。

 

 回避は最小限、相手の攻撃をなるべく利用する。言うは単純だが行うのは難しい。

 

 普通は無理かもしれない、訓練が必要かもしれない。しかし、俺には関係ない。

 経験で磨かれた戦術眼がいるかもしれない、武術を学んで修行する必要もあるかもしれない。しかし、全く持って関係ない。

 

 

個性(さいのう)」で全部何とかなる。

 

 

 最終的に、近接戦闘で残った全員を片づけてしまった。色々試せたし満足しました。

 

 武器を回収するついでに、他の敵が潜んでないか確認する。

 火災現場だからあんまり隠れる場所とか無いけど。

 あと熱い! コスチュームが頑丈で助かった。割と生命線だな上鳴との戦闘でもそうだったし。

 

 それはさておき、ヴィランを動けないように拘束する。

 

「これからどうするべきか?」

 

 俺は大丈夫だった。しかし、他の人間もそうだとは限らないだろう。戦闘が不得意な人間は間違いなくピンチだろう。

 

 つまりだ。

 俺は戦闘が割と得意な「個性」だが、そうじゃない「個性」の人間も―――

 

「いや、大丈夫な気がしてきた?」

 

 だって、みんな普通に強いじゃん? 俺が勝てそうな人間の方が少ない様な?

 

 当たり前だが我々はヒーローの卵。

 こんなチンピラ程度のヴィランに負けるクラスメイトがいるとは思えない。

 

「よし、決定。災害ルームをぐるっと回ってクラスメイトを助けようかと思ったが、止めだ。」

 

 俺が今まで戦ってたやつとかはほとんどチンピラの(ヴィラン)もどきだったが、中にはヤバそうなやつが存在した。

 

 水色の髪の奴とか、黒いモヤの空間系「個性」の奴とか。

 

 

「そいつらのところに行ってくる。つまり広場を目指す。」

 

 

 なにより、「嬲り殺す」と言われたからな。ワープで飛ばされたし、やり返さないとな!!

 

 

 

 

 




試作品はもうあまり使われないかも?

メイン武器はすでに他のを考えてあります。




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本物の敵

原作を読みなおすの楽しいですね

新しいアイディアも浮かびますし




 広場を目指す。

 正確に言うと、黒いモヤのヴィランを目指す。

 報復は当然の権利! ハンムラビ法典もそう書いてる!

 

 しばらく走り回って、火災ルームの出口を発見した。

 

「おらぁ!」

 

 蹴り飛ばす。

 熱くて熱くてイライラしていた。一刻も早く脱出するために、この扉はやむを得ない犠牲だった。

 

「フゥー! 涼しいー!」

 

 気分爽快である。

 やっぱ暑いのはダメだな。クーラーの効いた部屋こそ至高よ。

 

 広場はまだ戦闘中のようだ。戦闘音がここからでも聞こえてくる。

 相澤先生ドライアイなのにきつくないのかな?

 とにかくさっさと向かう。奇襲できるなら一番なんだけど。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 side 相澤消太

 

 数が多い。

 どいつもこいつも雑魚ばかりだが、数の多さが問題だ。

 

「この人数相手によくやる…。流石はプロヒーロー」

 

 そして、おそらく主犯格のであろうヴィランがいっこうに動かない。

 こちらを舐めているだけなら構わないが・・・

 何か、隠し玉でもあるのか?

 

「動いているからわかりづらいが、一動作のたびに髪が下りている・・・。その間隔もずいぶん短くなった。・・・そろそろ限界が近いんじゃないのか?」

 

 気付かれたか。

 

「たしかに連携を乱すのは上手い。けれど本来は奇襲による短期決戦が得意なんじゃないのかなあ…?」

 

 ただのヴィランじゃない。

 こちらの「個性」や戦闘スタイルについて正確な分析をされてしまった。

「個性」の連続使用の限界が近いのも確かだ。その前に終わらせて―――?

 

「だから、数さえ用意すれば詰みだ。」

 

 ワープゲートから更なる敵の増援が現れた。

 馬鹿な、わざわざ予備の人員を・・・?

 

 新しい敵が向かってくる。相変わらず雑魚だが、体力と・・・目に限界が来た。

 

「個性」の消し損ね。クリーンヒットをもらってしまう。

 

「ぐあ!?」

 

 マズイ、隙が、内臓にダメージ、動きが戻るには―――

 

「調べておいてよかったよ。13号、イレイザーヘッド。あくまでオールマイトのついでだけど、プロヒーローには変わらないからな・・・」

 

 男の目が嗜虐に歪む。

 知っていた。弱点を調べられていた。今まで隠してたのは限界近くで増援を見せて心を折るため―――

 

「フッ! ヴィランらしい考え、だな」

「…? 何がおかしい?」

 

 ふと、思い出した。似たようなことを戦闘訓練でしでかしたやつを。

 

 なるほど、これは上鳴たちのいい経験になったはずだ。

 必要があったとはいえ、まさしくヴィランの発想そのままだ。

 

 ・・・・・・なら、こいつらにもそうするだけの理由がある?

 しかし、理由がどうあろうとこっちはもう限界だ。一度休めなければ「個性」にも支障がでる。

 

「・・・なんだ? 風切り音?」

 

 すると、何処からか風を切る音が聞こえてきた。

 何かが高速で飛び回っているような――?

 

 

 ブシュ! と血が噴き出す音が聞こえた。

 

 

「なああぁぁぁあぁ!!!?」

 

 

 男の体から鮮血が噴き出す。一度にいくつもの斬撃を受けたかのように。

 そして、体中に刺さったソレ(・・)が血の化粧によって姿を表す。

 

「な、んだこれ。ブーメランか?」

 

 それは、透明なブーメランだった。非常に視認しづらい。先ほどの風切り音はこれが飛来してくる音だったのだろう。

 

 

 

「そうそう、ブーメランで間違いねーですよー。」

 

 

 

 この、軽薄は声は・・・。

 

「先見!」

「はい! 先見賢人です! ピンチっぽいんで助けに来ましたよ!」

 

 コイツ…この状況でまだそんなへらへらした態度を・・・!

 

「お前・・・!! ・・・!?」

「なんだい、水色の人?」

 

 マズイ! 生徒が相手にするには荷が重すぎる!

 

「先見ィ! ふざけてないで逃げろ! 冗談で済む相手じゃないんだぞ!!」

「冗談・・・?」

 

 なぜ逃げない? ・・・いや、それよりも敵はどうした? なぜ黙っている?

 

 

 

 

「今回は本気も本気。一切の手加減も、一切の容赦も、一切の慈悲もありません。あとは、脳みそ丸出しの奴だけです。それ以外はもう終わりました(・・・・・・)。」

 

 

 

 

 なに?

 

 周囲を見渡す。増援に来た敵も、いまだ残っていた敵も例外なく地に倒れ伏している。

 全員の背中の中心には、先ほどの主犯格のヴィランと同じ透明なブーメランが刺さっている。

 

「知ってますか? 背骨には隙間がある。もし何か刺さったらどうなるでしょうか? 下半身麻痺? 植物人間状態? どれになるかはご愛嬌! とりあえず気絶はしてくれますよね? 気絶するまでは未来を観たんですけどその後は知りませんので。 ・・・ああ! 先生ご安心を。殺してはないですよ。ただ、もう【一生】歩けないかもしれないだけで!」

 

 まるで何でもないかのように話す。それが恐ろしい。

 先見は本当になんとも思ってない。敵とはいえ一人の人生を潰しておいて何の感慨も抱いていない。

 

「水色の人も動けないでしょ? 四肢の腱を切っちゃったから。悪いね、奇襲で俺の「個性」を使うと強すぎてさー。」

 

 

 

 絶体絶命のピンチ。そこに現れた味方なのに、そいつはヒーローと呼ぶには遠すぎる何かだった。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 ふうー! 奇襲成功! 大成功!

 

 焦ったー、先生やられちゃうんだもんな。本当は黒いモヤの奴のところに行きたかったのに。

 でも、いっか! 水色の人すげえドヤ顔してたしな! 台無しだぜ! ざまあ!!

 

「さてさて? どうしますか、水色の人。先生もそろそろ復活するでしょうし、二対一ですね?」

 

 しかし、予想外なことが一つ。

 

「・・・・・・脳無ゥ!!!! こいつらを、殺せ!!」

 

 こいつ、勝てる未来が観えないんだけど。

 

 全力でサイドステップ。

 俺がいた場所を砲弾のような拳が通り過ぎる。

 衝撃波が離れたところにあるコンクリートを爆散させていた。

 

「・・・はは。冗談キツイって」

 

 あ、冗談では済まないって言われたばっかだったわ。

 

 しゃがんだ後にバク転する。

 頭上を振り回した腕が空振り、足を狙ったローキックは飛び越えた。

 

 足を引いて反転。その後、飛び込み前転。からのヘッドスライディング。

 目の前を手刀が横切り、頭の後ろに蹴りの風圧を感じた。ストンピングは俺の股を通って床を陥没させた。

 

 一つとして動作が見えない。

 死んでいない未来を観て、その通りに動いているだけだ。

 

 そもそも、俺が回避してから相手が攻撃している。

 現在の状況を見ても全く役に立たない。未来だけ観た方が楽かもしれない。

 

 すると脳みそ丸出しのヴィラン(脳無だったか?)に先生の包帯が巻き付いた。

 一瞬の隙をついて離脱する。

 

「いやー、強いな。ここまでとは・・・」

「あれだけ煽って今更なにいってんだ。余計なことしてくれやがって。」

 

 どうやらダメージは回復したようだ。時間を稼いだ甲斐があった。

 呼吸を整える。「個性」は何度も発動しまくってる。一秒気を抜いたら死んでる気がする。

 

「相澤先生、あいつの「個性」消しました?」

「ああ、消した後もパワーに変化が無かった。つまりあれが素の筋力ってことだ」

「うげえ、まじっすか」

 

 勘弁してほしい。緑谷並みのパワーが「個性」じゃないとか。

 

「ははは! さっきまでの調子はどうした? ヒーロー? ずいぶん余裕が無いじゃないか。」

 

 ずいぶん機嫌がよさそうだ。もしかして挑発のつもりか?

 

「お前、せめてそう言うセリフは立ち上がって言ってくれよ。結構ダサい。」

 

 俺が四肢の腱を切ったせいだが、倒れたままなのだ。もうちょっと頑張っていただきたい。むしろ悲しくなってしまう。

 

「脳無ゥウウ!!! 殺せェ!!」

 

「挑発しすぎだって言ったろうが! この馬鹿!!」

「うおおお!? すいませーん!!」

 

 とにかく回避する。

 気分は一発の被弾も許されない弾幕ゲーだ。

 違いはベットするのがコインか命かってこと!! スリル満点だなチクショウめ!!

 

 だが、先生が復活したおかげで余裕が出てきた。

 一瞬しか動きを止められないが、十分である。その隙に逃げれる。いったん脱出すると、なぜか水色の人の指示を待つのも好都合だ。

 

「ジリ貧ですね。持って20分ってところです」

「あの攻撃に20分耐えられるなら上等だ。・・・お前、持久走で手を抜いてたな。」

「滅相もない」

 

 手を抜いたわけではない。気力が尽きたので走るのを止めただけだ。

 

 そんなことより攻撃手段だ。またこれに悩まされるのか・・・

 

「相澤先生。さっきから未来視で確認してるんですけど、脳無というやつには攻撃が通じません。」

「どういうことだ?」

「ようするに俺じゃあどうあがいても傷をつける可能性が0%ってことです。あと、たぶん先生も」

「チッ どうするかな・・・」

 

 戦闘訓練の時と状況が似ている。こちらは攻撃できないのに向こうだけ攻撃できる。

 どうしてこう、ワンサイドゲームに縁があるのかなあ? むしろ俺がワンサイドゲームしたいんだけど?

 

 すると、黒いモヤのヴィランが水色の人の傍にワープしてきた。

 

「無事ですか、死柄木(しがらき)!?」

黒霧(くろぎり)か・・・何しに来た?」

 

 ほう、黒モヤは黒霧。水色は死柄木というのか。

 

「そうでした・・・。申し訳ありません。生徒の一人を取り逃がしました。応援をよばれてしまうでしょう。」

「はぁ?」

 

 おっと、グッドニュース。

 相澤先生の方を窺う。軽くうなずいてくれた。

 

 どうやら緊急事態には教員のプロヒーローがすぐさま集合してくれるようだ。

 この脳無が幾ら強くてもオールマイトにはかなうまい。

 

「・・・くそ、くそ、くそ! 黒霧、お前ワープゲートじゃなかったらバラバラにしてたよ」

「申し訳ありません・・・」

 

 つまり、援軍が来るまで耐えれば俺の勝ちだ。10分くらいかな?

 

「脳無! 誰でもいい(・・・・・)! ガキどもを一人でも多く殺せ!!」

 

 

 

 ――『それ』は、マズイ

 

 

 

「緑谷ァァァアア!!!! 下がれェェェ!!!!」

 

 脳無が駆け出す。後ろに向かって(・・・・・・・)

 俺を殺すのが難しいと判断したのかはわからない。そんなことはどうでもいい、脳無はこちらを選ばなかった。

 

 ―――そして、向こうには緑谷、梅雨ちゃん、峰田の三人がいた。

 

 緑谷が反応する。おそらく全力。迎撃を選んだ。

 

SMASH(スマッシュ)!!!」

 

 轟音。

 

 クラス最強の破壊力。自身さえ壊す力は伊達ではない。

 伊達ではないが――脳無には通用しなかった。脳無は吹き飛んですらいない。緑谷の拳の先で仁王立ちしている。

 

 緑谷が呆然としている。自分の力が足りないなど初めてなんだろう。だが、いまはマズイ。

 

「そこをどけ!!!」

 

 追いついた。

 目に向かってダーツを投擲。効き目があるかは知らん。気がそらせれば十分。

 

 その隙に緑谷が離脱した。

 俺は峰田と梅雨ちゃんを思い切り突き飛ばす。

 そして、脳無が苦し紛れに振るった腕が―――

 

「があ゛あ゛!!」

 

 かすった。

 掠っただけのはずだ。それでこれ?

 

「ごふ゛!?」

「先見ちゃん!!」

「おおお、おい! 大丈夫か!?」

 

 肺に、肋骨、刺さって、

 

「ち、血を吐いてる!? ヤバいってこれ!」

 

 峰田と梅雨ちゃんが慌てている。悪いなスマートな助け方じゃなくて。

 

 相澤先生と緑谷がしのいでくれてる。

 たのむ、あと、もうちょっとなんだ。

 

「先見ちゃん! しっかりして!!」

 

 悪い。無視してる訳じゃないんだ。ちょっとしゃべるのが無理なだけで。

 

 緑谷が吹き飛ばされた。脳無との距離が開く。

 ダメージは大したことなさそうだが、

 

 脳無がこちらを向いた。

 

 緑谷の位置からフォローに入ることはできない。先生の足止めもすぐに破られるだろう。

 

「あ゛ああ!! もうだめだ!!」

 

 峰田が叫ぶ。誰も脳無を止められない。

 こちらには重傷者が一人、逃げられない。状況は最悪だ。

 

 

 

 

 

 

 ――――ドゥン!!!!!

 

 

 

 

 

 そして、音が聞こえた。

 何かを吹き飛ばすような音だ。似たような音を俺は聞いたことがある。ついさっき聞いた。

 

 ・・・あれは、扉を蹴破る音だ。

 

 

 

 

「――みんな、もう大丈夫だ」

 

 

 

 

 やっときた、5分ジャスト。予測してたぜ

 

 

 

「わたしがきた!!!!!」

 

 

「「「オールマイト!!!」」」

 

 

 

 これで、ゲーム、クリアだ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公よりオールマイトがかっこいいですね。

アニメでもこのシーン大好きだったのでつい。

5分っていうのは緑谷に叫ぶちょっと前からです。



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それから、これから

 ―――それからの事は簡単だ。

 

 

【オールマイトが来てくれた】

 

 

 これだけで、生徒たちは絶大な安心感を覚えた。中には安堵で涙を流す者もいたぐらいだ。

 

 目にも止まらぬ速さで俺たちを回収し、戦いの場から下げさせた。

 俺という重傷者もいたので特に逆らうこともなく、戦闘の被害を受けない距離まで避難した。

 

 

 そして、相澤先生とオールマイトのコンビによる敵との戦いが始まった。

 

 

 主犯者の死柄木弔(しがらきとむら)曰く、脳無(のうむ)はオールマイトを殺すための(ヴィラン)であるらしい。

 戦っていくうちに判明したその性能は、凄まじいの一言に尽きた。

 

 超怪力・超回復・ショック吸収。どれもが強力な「個性」。それを複数所持するなどイカれている。

 超怪力はオールマイトとせめぎあい。超回復は四肢を数秒で修復させた。ショック吸収はオールマイトの拳を無効化した。

 

 死柄木弔は「オールマイトの100%にも耐えられる超高性能サンドバック人間」と評していた。

 明らかな対オールマイト仕様。間違いなく、脳無はそういう風にデザイン(・・・・)されたのだろう。

 

 死柄木弔はその性能に疑いを持っていないのか、オールマイトの戦闘を見て嗤っていた。

 

 しかし、もう一人のヒーローの存在が敵の計略を打ち破る。

 

 相澤消太。「個性」は【抹消】。視線だけで敵の「個性」を消し去る男。

 彼は超怪力とショック吸収こそ消すことができなかったが、超回復の「個性」を消すことには成功した。

 

 それも、黒霧(くろぎり)と死柄木弔がオールマイトの邪魔をしないように牽制を行いながら「個性」を脳無へと使っていたのだ。

 

 三つの「個性」がそろってこその対オールマイト仕様。これを崩し、後は打ち倒すだけだった。

 その倒し方がこれまた規格外。ショック吸収でも吸収しきれないほどの連打と威力でねじ伏せる。というものだった。

 

 まさに力技。工夫も何もあったものではない。

 切島が「究極の脳筋」と呼んでいたが、まさしくその通りだろう。

 

 脳無が倒された後、よほど悔しかったのか死柄木がオールマイトに恨み言を吐いていると、飯田が動ける教員を連れて舞い戻ってきた。

 流石に何人ものプロヒーローの集団に睨まれた黒霧と死柄木弔は離脱を始めた。もちろん、教師陣も13号などが気力を振り絞って捕まえようとしたが、ワープホールの「個性」で逃げられ、捕縛することは叶わなかった。

 

 

 

 これにて、USJヴィラン襲撃事件は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「――――と、言うわけよ。」

「私が聞いた噂よりもすごいことになってんだね。」

 

 ヴィランに襲われた次の日。

 雄英はセキュリティの強化や緊急会議などのため臨時休校となった。

 

 俺が今いるのは真っ白のな内装が目に優しい場所。すなわち、病院だ。

 

「それで一番大怪我を負ったのがアンタってわけ?」

「そゆこと。一佳(いつか)ちゃんが見舞いに来てくれなかったら寂しくて泣いてたかもしれないな?」

 

 ヴィランを撃退した後、思ったよりも傷が深かったらしくリカバリーガールの治療だけでは不十分とのことで入院を余儀なくされたのだ。

 少なくとも臨時休校の間は安静にしとけ、ということらしい。

 

「まったくもう・・・。ちゃん付けは止めろっていったでしょ。ていうか見舞いはアンタが呼んだんじゃない。『暇だから話し相手になってくれない?』ってメールしてきてさ」

「いいんだよ。俺が呼んだとしても、来てくれたことが嬉しいのさ。ま、交換条件に昨日の事を話せって言われるとは思わなかったけど」

 

 どうやら噂の内容を詳しく知りたかったらしい。

 しかし、噂が回るのが早いな。

 

「私らB組にとっては結構重要なことなんだよ。雄英体育祭も近いしね。」

 

 そっか、そろそろそんな時期か。

 あれ? これもしかして敵情視察? 情報吸い出されたのかな?

 

「・・・流石だな、拳藤一佳。この俺に情報戦を仕掛けるとは」

「は?」

「あれ? 違った?」

「違うって・・・。A組に注目が集まるだろうから、どんな体験したか聞きたかっただけ。私の事をなんだと思ってんのよ」

 

 いや、だってさ

 

「B組の学級委員長でしょ? むしろそれくらいした方がいいと思うけど?」

「うっ・・・。だって、そういうのヒーローらしくないじゃん。」

「そう言われたらそうだけどさ。俺たちの「個性」の情報とか欲しくないの?」

 

 俺が訪ねると「う~ん」と、腕組みして悩み始めた。

 ヒーローとしてのプライドと合理的な判断との間で揺れているのだろう。

 俺だったら一秒も迷わず情報をもらうけど。

 

「・・・いや、やっぱり聞かない。A組もB組の情報は持ってないでしょ?」

「たぶん持ってないと思う。」

 

 B組と関わることが無いし、入学してから慌ただしくてそんなこと気にする暇もなかった。

 

「なら、なおさら聞かない。フェアじゃないし。やるなら正々堂々叩き潰す!」

「わーお、男らしい。」

「それ、女の子に言うセリフじゃないでしょ!」

 

 つい、本音が。

 やめなさい。横腹をつつくな。そこは治ったばかりぃ!!

 

「悪かったって。お詫びに1-A(うち)の要注意人物を教えるから勘弁してくれ」

「だから、そういうのはいらないって」

「大丈夫、問題ない範囲でしか言わないから」

 

 少々渋ったが、最終的には「それくらいならいいかな」と了承してくれた。

 

 よしよし。

 

「それじゃあ、1-A要注意人物を発表する。轟焦凍、緑谷出久、爆豪勝己、上鳴電気。この4人だ。」

「爆豪勝己は知ってる。入試一位のやつだろ?」

「そうそう。もし知らないなら、他の三人についてもある程度調べてた方がいいよ? マジで」

 

 ホントに調べてよ?

 

「わかった、調べとく。ありがとね」

「どーいたしまして」

 

 これであの4人はB組が対策を練ってくれるだろう。普通にやっても俺じゃあ敵わないやつらだからな。敵に敵を潰させる。完璧な戦略だ。

 最上の戦略とは戦わずして勝つことなのさ。潰しあった後で漁夫の利を掻っ攫ってくれる。

 

 内心で高笑いしていると、

 

「じゃあ、お返しに1-Bの要注意人物を教えてあげる」

「え?」

物間寧人(ものまねいと)塩崎茨(しおざきいばら)鉄哲徹鐵(てつてつてつてつ)、あと私。この4人には注意しな。」

 

 さらっと教えてくれた。しかも自分の事入れてるし。

 

 表情を確認してみても全く裏が感じられない。こちとら打算ありきの情報だったのに、純粋な善意で返されるとなんかこう・・・ねえ?

 

 それはそれとして、情報は有効活用しますけれども!

 

「自分の事を数に入れるとか逆にすごいな・・・」

「だってホントの事だし。委員長なんだからある程度実力があって当然でしょ?」

 

 確かに。

 他はともかく、ヒーロー科で無能が委員長を務めることはありえない。

 そして一佳が高い実力を持っているのは知っている。手首から先を巨大化させる「個性」で入試のロボを破壊していたのはまだ記憶に新しい。

 シンプルゆえに強い「個性」だ。体術の心得があればことさらに脅威となるだろう。

 

 他の奴らは聞いたことなかったが、同等もしくはそれ以上の実力ってことか。やだなあ。

 けど―――――

 

 

 

 

 

 そういうやつらを負かすのは、さぞ気分がいいんだろうなぁ

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 翌日。

 入院生活も終わり、臨時休校も終了した。

 

 病院になんていたからか、教室の風景が懐かしい気さえする。

 

「おはよー」

「お、おはよう。先見君」

 

 おや? 珍しく緑谷が話しかけて来たぞ?

 

「ん、おはよ緑谷。どうした? なんかあったか?」

「なにかあったっていうか、その・・・。ケガは、もう大丈夫?」

「リカバリーガールにばっちり治療してもらったよ。『体力があるから回復させやすいねえ』って言ってた」

「そ、そっか。よかった」

 

 心配してくれてたのか。

 こいつらからすると、俺がかばったせいで怪我したんだしな。

 

「俺を心配してくれるのは嬉しいけど、ケガは緑谷もだろ? 腕バッキバキになってたじゃん」

「僕も大丈夫だったよ。いつものことだし」

「・・・あのケガで『いつものことだし』ってセリフが出るあたり色々と末期症状だな。」

 

 おそろしいやつだ。ゾンビの親戚かなにか?

 

「先見ちゃんおはよう。体の調子はどう?」

「先見ぃ! ケガは!?」

 

 梅雨ちゃんと峰田もこちらにやってきた。

 

「問題なし!! 昨日はずっとゲームしてたからな! これ以上なく安静にしてたぜ! ナースの皆さんも優しかったし、心身共に万全さ!」

「よかった。心配してたのよ?」

「そうだぜ、全くよお! 後その話はあとで詳しく!!」

 

 心配ないことを示すために笑顔で元気よく言ってみた。

 よかった。納得してくれたか。

 

 うんうん。梅雨ちゃんに心配されるのは嬉しいなあ。それもまた一つの癒しだよ。

 そして峰田よ安心しろ。あとで思いっきり自慢してやるからな。

 

「おいお前ら、そろそろ席につけ。朝のHR始めるぞ」

 

 おっと、話し過ぎたか。怒られる前に着席する。

 

 

 

 委員長の号令からHRが始まる。

 

「早速だが今日は重大な連絡事項がある。」

 

「こんどはなんだ?」

「テストか? いや、もしかしたら普通の行事か?」

「もしかしてまた(ヴィラン)かーー!?」

 

 教室がざわつく。

 いい加減疑心暗鬼になってるやつもいるんだけど。これどうなの?

 

「雄英体育祭が迫ってる!!」

 

「「「クソ学校ぽいやつだー!!」」」

 

 ノリ良いよね、ホント。

 

 

 

「―――雄英体育祭はヒーローを志す者にとって絶対に外せないイベントだ!」

 

 相澤先生のお話が終わった。襲撃事件のせいで開催に疑問視があったが、むしろだからこそいつも通り開催するらしい。

 ようするに【スカウトアピール】、【ヒーロー体制の万全さ】、【メディア圧力】、これらが見逃せない、もしくは知らしめたい。ということだろう。

 

 体制側(おとなたち)は色々あって大変である。選手側(おれたち)にとっては大して関係ない苦労だが。

 

「にしても、やっぱテンションあがるなおい!」

「ああ! ここで目立てばプロへでっけえ一歩だぜ!」

 

 熱血組を中心に見るからにモチベーションが高まってる。トップヒーローになるためにはかなり重要なイベントになるわけだし当然だろう。

 

「上鳴ー。お前らの分もトレーニングルームの申請出しといたぞ。やっぱほとんど埋まってた」

「サンキュー! 今回はいつになくやる気だな先見!」

「いつもはやる気が無いみたいに言うんじゃねーよ」

 

 無論、俺もやる気に満ちている。

 何せスカウトだ。すなわち将来の給料に関わる。つまり金に関わる。

 

 (マネー)こそが(パワー)であり、正義(ジャスティス)である。すなわち幸福(ハッピー)につながる。

 

 ここで全力を出さずにいつ出すというのだろう。今の俺はUSJの時よりも真剣だ。

 

「やるぜぇ・・・。今回の俺はやってやるぜぇ・・・!」

「おお! すげえ熱くなってやがる! 男らしいぜ!」

 

 ありがとう、切島。

 

 先だって昼休みのうちに情報収集を行ってみたが、これはうまくいかなかった。

 そもそもまだ入学して日も浅い俺にツテなどない。よって、あえて正面突破してみた。

 

『ブラドキング先生。B組の「個性」について教えていただけませんか?』

『君は何を言っているんだ?』

 

 ダメだった。

 それでも粘ってみようとはしたのだが。恐ろしく冷たい目をした相澤先生に職員室からつまみ出されたので諦めるしかなかった。

 

 次の手を考えるか。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「というわけで初めまして。A組の先見賢人です。皆さんの「個性」を教えてください。」

 

「・・・おい、拳藤。お前の知り合いだろ? 何とかしろよ」

「ゴメン、今話しかけないで」

 

 なにがというわけなんだよ。という、ツッコミはいただけなかった。

 

 現在放課後、やってきましたB組へ。

 わからないことは人に聞く。そして、なるべく詳しく知っている人に聞くべきだ。つまり本人。

 

「・・・えっと、先見君だったかな?」

「そうだ、先見君だ。お前は?」

「おま!? ・・・僕は物間寧人だ。初対面の人をお前呼ばわりするのは礼儀としてどうなのかな?」

 

 ほうほう、物間寧人。聞いたことがあるな。

 

「お前が一佳の情報にあった物間寧人か。要注意人物なんだってな?」

「・・・・・・!!?」

「ちょ!? 誤解を生む言い方すんな先見!!」

 

 心外だ。俺は事実しか述べていない。

 向こうが勝手に誤解しただけだろう。

 

「なんてことだ! ヒーローを目指す身でありながら自分の情報をコソコソと隠すだなんて・・・! 恥ずかしくないのか!? 「個性」を見られ研究されたとしても、それを踏み越える。それがヒーローじゃないか! 俺たちの校訓だろう? 『Plus Ultra(プルス ウルトラ)』さ!」

 

「あれ? 言われてみると・・・?」

「騙されるな塩崎!? 適当言ってるだけだぞアイツ! 校訓も若干意味が違うし!」

 

 チッ! 流石に無理か。

 しかし、塩崎? アイツも要注意人物だったな。アレは騙しやすそうだ。

 

「おやおや、世間から注目を集めるA組の人間がこんな卑劣な真似をするなんて! 君こそ恥ずかしくないのかい? そんな風に僕らの「個性」の事を嗅ぎまわっちゃってさぁ!!」

 

 お?

 

「ヒーローの(おこな)いとは思えないよねぇ!! まるで(ヴィラン)だ! いや、ハイエナみたいって言う方が相応しいかしれないね?」

 

 おおん?

 

「これじゃ襲撃を生き残ったのだってマグレな気がしてきたよ。・・・・・・ああ! コソコソ隠れて震えてたのかなぁ!?」

 

 よし! ぶっ殺しちゃうぞ(はぁと

 煽りスキルで俺に敵うと思うなよゴラァ!!

 

「・・・いやー、これは参った! どうやら俺たちの事をよく知ってくれてるみたいだ。ごめんね俺たちばかり注目を集めちゃってさ! 目立ってゴメン! 世間がお前たち(B組)の事眼中にないのは俺の責任じゃないと思うけどさ! 一応謝っといてあげる! やっぱり「個性」隠したいなら隠してていいぜ? 目立つのは俺たち(A組)が代わっといてやるよ! お前たちは隅っこの方で吠えててくれ!」

 

 目の前のスカした金髪を見下してやる。身長はちょっと俺の方が高いぜ!

 目元ぴくぴくしてますけどぉー? 怒ってるんですかぁー?

 

「ふん? なかなかユニークな宣戦布告だね。ちょっとセンスが悪いようだけれど?」

「宣戦布告ぅ~? そんな価値が君にあると思ってるんですかぁ?」

「少なくとも君よりは価値があると思うなぁ。ヒーローとしての価値がね!」

「へぇー。世間に認められてない価値って意味あるんですか?」

「ふ、ふ、ふふふふふ」

「・・・くくくくく」

 

 

「「・・・ぶっころす!!」」

 

 

「おい、あいつらどうする?」

「ほっとけ、もう帰ろうぜ。」

「そうだな。拳藤、あとは任せた」

「は!? 私ぃ!?」

 

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 

 俺たちは最終的に二人とも一佳の拳によって沈められた。「喧嘩両成敗!」と言われてしまった。

 物間と同じ扱いなのが納得いかない。そう主張するとまた殴られた。解せぬ。

 

 気が付くと他の生徒はもう帰ってしまっていた。

 情報は何も得られなかった。

 

 

 ・・・うん、物間のせいだな。アイツだけは必ず体育祭でぶっ飛ばしてやろう

 

 

 

 

 




何時もより文字数が増えてしまいました。物間を書くのが楽しい。主人公も煽りキャラだからかみ合うんだよねぇ






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準備期間

 情報収集は完全に失敗した。

 

 B組を訪れてから数日。ことあるごとに情報を引き出してやろうとしたのだが、物間というスカした金髪たれ目野郎に邪魔されてしまった。

 

 塩崎ちゃんとか、あとちょっとでポロっと「個性」の事をこぼしてくれそうだったのに!

 

 そのせいなのか、どいつもこいつも俺の事を情報を隠しながらあしらうようになってしまい、ことここに至ってこれ以上の情報収集は不可能と判断せざるを得なくなった。

 

「オノレ・・・オノレ・・・」

 

「なあ切島。先見のやつ、一体どうしたんだ? 隣の席だから正直怖いんだけど」

「あー、なんか色々失敗したらしい。しばらくしたら元に戻ると思う。尾白には悪いんだけど、ちょっと我慢しててくれ」

「わかったよ。心配ないならそれでいいけどさ・・・」

 

 だがしかし、まだできることが無くなったわけではない。

 ちょうど今日は新作の武器ができたらしいので、サポート科の人間を味方に引き込みに行くというのも悪くない。

 どうせ奴らにしてみれば自分のサポートグッズを大衆に見せる機会、というくらいの認識だろうし。・・・・・・味方にするなら発目以外の奴にしよう。あれは(ぎょ)しきれん。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「くけけ・・・。先見、ヒーロー科の人間が体育祭でサポートグッズを使うのはルール違反だぞ」

 

 どうやら、耳の調子がよくないみたいだ。久しぶりに耳掃除をしなくてはならんな。

 あー、女の子が膝枕で耳かきしてくれないかなぁ

 

「現実に戻ってこい・・・。ヒーロー科の人間は他の科と違って実践的な演習を積んでいるから、その分ハンデが無いといけない。だから、コスチュームの使用も禁止だ。」

「マジっすか先生・・・。嘘だと言っておくれよ・・・」

 

 パワーローダー先生が無慈悲なルール説明をしてくれた。

 コスチュームが使えないのはホントにヤバい。アレが無いと上鳴に対する勝率がほぼ0になる。ていうか0だ。

 

 正直な話、戦力が半減どころではない。俺の「個性」は便利だが道具を使わないと真価を発揮できない。これでは回避能力くらいしか自慢できるところが無くなってしまう。

 

 どうしよう? 素の身体能力だけで何とかできるか?

 ―――無理だな。良いところまでは行けたとしても、優勝は無理だ。表彰台に上がるのさえ厳しい。

 

「あと、サポート科一同からだが・・・『メリットが無いから味方するのはヤダ』だそうだ。・・・くけけ!」

 

 でしょうね。

 そもそも協力を結べると思ったのは、俺がだれよりもグッズを使いこなせるからだ。サポートグッズの使用が禁止された俺に協力するほどの価値はない。そういう判断だろう。

 

 困った。しかし、諦めるわけにはいくまい。

 とりあえずこれから他に何ができるのかを考えて・・・時間との勝負に、

 

「先見さん見つけましたよ! 今日も私のドッ可愛いベイビーの試運転に協力してくれるんですね!」

 

 勝負に・・・

 

「こちらが新しいベイビーです! これは移動方法の選択肢を増やすために――――。市街地戦を主な活動としているヒーローに対してのアプローチとして――――。感覚的なインターフェイスの構築に関しては――――。デザインと機能の兼ね合いが――――。」

 

 しょ、しょうぶに・・・

 

「―――というわけで、コレとコレとコレとコレと。あとはこのベイビーですね! さあ始めてください! こちらの準備はできています!!」

 

「あああああ!! うるせーー! やってやるよお!! ちくしょーー!!」

 

 今日の時間はこれで潰されるだろう。間違いない。

 「個性」を使わずに未来がわかるとかすごいなー、はははー。・・・はぁ。

 

「くけけ・・・。いつもいつも、すまんな・・・。発目はもう、先見の武器をどうこうといった話も忘れたらしい」

「悪いと思っているなら止めていただきたい、切実に。担任でしょう?」

「そいつ・・・。俺の話も聞かないんだよォ・・・!!」

「・・・お疲れさまっす」

 

 半端ねえな。予想より更にぶっ飛んでやがるぜ。

 

 発目明(はつめめい)、サポート科の異端児。他の科からすると変人しかいないサポート科において、その中でも更に異端。いい意味でも悪い意味でも常識が無い。とはパワーローダー先生のお言葉だ。

 

「ぐあああああ!!?」

「おっと、どうやら移動制御にバグが出たようですね! 想定と違う方向に行きましたが・・・なるほど! 改善点が見えてきました!」

 

 そして、こいつは俺の事を(てい)のいいテストパイロットだと思っている。俺は武器製作を依頼した依頼主なのに、どういった思考経路でその考えに至ったのかは不明だ。

 

「お、まえ。俺、いま、壁に激突したんだけど?」

「ああ!! そうでした! 私のベイビーが傷ついたりしていませんか!?」

「・・・そうじゃないんだよなぁ。俺の事心配してほしいんだよなぁ」

 

 こいつはとにかく大量のメカを発明する。その発想、製作数、性能など、どれも他の生徒よりも一歩抜きんでている。

 

 が、しかし、それら成功例よりはるかに多くの失敗作も生み出す。

 それ自体は当たり前の事で、何かを発明する以上は全部成功作というのはありえない。

 ただ、試運転や起動実験で被害が出過ぎなのがちょっと・・・。

 

「・・・発目。考えなしに作るなって言ってるだろォ?」

「問題ありません先生。失敗は成功の母! これを糧として私は更なるベイビーを―――」

「・・・そうじゃなくて、失敗するにして周りの被害をだな・・・「しかも、前回と比べても問題点の洗い出しの作業が以前より――」―――聞けよォ!!」

 

 ホントに担任の話さえ聞いてないな・・・。

 いや、聞いているようで聞いてないというべきか。もしくは、都合のいいことしか耳に入っていないというべきか。なんにせよアレの相手を一日中させられるパワーローダー先生は大変だな。

 

 こんど差し入れを持って行ってあげよう。胃薬でいいかな?

 

「さあ、先見さん! 早く次のベイビーを試してください! そしてベイビーの感想を!!」

「わかったわかった、落ち着け。次はコレだな? 用途と重視した点を教えてくれ」

「そのベイビーはですね――――」

 

 なんだかんだ性能がいいものを作るのはコイツなのだ。試作品の武器で気に入るのも発目の作品が多い。ホントに阿呆なんじゃないかと思う時もあるが、まぎれもなく天才と呼ぶべき人物だ。

 だからこそ、こうやって実験に付き合っているのだ。発目の柔軟な発想とアイディアはなにかと参考になることが多い。

 

 ん? どうして俺を睨んでるんですか? 先生。

 

「先見、お前が甘やかしてるから。アイツは話を聞かなくなったんじゃないだろうなァ・・・?」

 

 

 失敬な、甘やかしてません。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 昨日は予想通り発目に時間を潰された。

 失敗作に付き合わされる身にもなってほしい。【未来視】で結果を伝えても『ベイビーの事は私の目で確認しないと納得できません!』といって結局やらされるし・・・。

 

 今度は切島をどうにかして連れて行こう。頑丈だし。

 

「先見! 今日の放課後、トレーニングルーム一緒に行こうぜ!」

「了解。今日は誰の名前で予約してたんだっけ?」

「たしか・・・尾白だっけ?」

「いや、俺は明日だよ。今日は障子が予約してくれたんだ」

 

 そっか、ローテーションも一巡したな。

 

「それにしても、せこいこと考えるよね。体育祭に近づいて部屋の予約が抽選になる事まで予想して、バラバラの名前で登録しようだなんて。」

「せこいって言うな。実際その通りだっただろ?」

 

 トレーニングルームは一部屋で4人くらいまで使えるが、学校全体で使用を希望する生徒が出ればもちろん需要に見合うだけの数があるはずもない。

 俺が提案したのは、『以前に何度も登録した方は抽選をお控えください』とか言われることを危惧して4人の人間が一日一人ずつ使用登録した方がいいと提案したのだ。

 そして、体育祭まであと3日を切り、読み通り使用が抽選になった。

 

「たしかに助かったよ。先見に声を掛けられなかったら、この時期にいい練習ができなかった」

「だろう?」

 

 俺が声をかけたメンバーは、切島、障子、尾白、の三名だ。

 理由は簡単。接近戦の相手役が欲しかったから。

 

「先見にはまだ全然勝ててないからね・・・。倒すためにしっかと練習させてもらうよ」

「尾白さん、目的代わってませんか? 体育祭のために練習してるんだよ?」

 

 武闘派ヒーローを目指している尾白だが、「個性」は尻尾があるというだけ。それも、しっかりと武術を学んでいるせいか尻尾を使った奇想天外な動きなどが少ない。

 武術に頼っているうちは俺の【未来視】から逃れられない。俺の「個性」はある意味、武術の奥義みたいなものだし。

 

「冗談だよ。先見のおかげでまだまだ「個性」が使いこなし切れていないことが分かったし、今日はそれを練習させてもらうよ」

「そうか、それなら他の二人に組手を頼むとするよ」

「・・・では、今日は俺が相手になろう。切島は今日は筋トレの日だと言っていたからな」

「おっけい、障子か。今日こそまともに倒してやろう」

 

 俺たちの中で一番強いのはもしかしたら障子かもしれない。体力測定の時点で分かっていたが、純粋に力が強い。あの触手に体のどこかを掴まれたら一巻の終わりだ。

 

 このメンバーの選考基準は、全員が「個性」での遠距離攻撃を持たず、近接での肉弾戦を主体とすることだ。

 つまり、組手の相手を求めていたのは向こうもだったわけだ。渡りに船といったところか。

 

「有効打を決めた数なら先見が圧倒的なのだがな。」

「有効打はあくまで有効打でしかない。障子の力があればたった一撃もらうだけで戦況がひっくり返る。気を抜いてなんてやらないさ」

 

 体育祭までにできることはもう練習しかないだろう。

 下剤とかを飲ませる案もあったが、相澤先生にくぎを刺されてしまった。誤魔化しはしたが、下手をすると失格になりかねない。自重しよう。

 

 

 しょうがなく、本当にしょうがなく正々堂々と挑むしかない。

 体育祭で、本当に俺は勝てるのだろうか?

 

 

 

 

 

 




サポートグッズは一切使用禁止です。
原作で飯田が使用していたのはあくまで例外なので






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雄英体育祭:慢心注意

 空には花火が打ち上げられ、出店からは安っぽいソースの香りが漂う。

 雄英体育祭の本番当日、開会式に備えて控室で待機しているところだ。

 

「おおー、お祭りだなこりゃ。観客のざわめきが聞こえてくるぜ」

「先見、おまえ全然緊張してねえな? 俺はなんかもう腹痛くなってきた・・・」

 

 おいおい、大丈夫かよ? 今からそんな調子で?

 

「瀬路、そりゃさっきからがぶがぶ水飲んでるからだろ。緊張で喉が渇くのはわかるけど飲み過ぎはよくないぞ」

「そんなこと言われてもなあ」

 

 周りを見回してみると、誰もかれもが緊張で顔色が悪かったりそわそわしていたりしている。

 

「つか、何食ってんの?」

「たこ焼き。見ればわかるだろ? あ、1個いるか?」

「お、さんきゅ。・・・じゃなくて、どんだけマイペースなんだよ。このピリピリした空気の中でソースの香りが気になってしょうがねえよ」

 

 そうか、道理で何人か俺の方を睨んでると思った。

 おなか減ってたのかと思ってたわ。

 

「ほら・・・緊張しすぎはよくないだろ? たこ焼きのソースの香りで皆のすさんだ心を何とかしようと思ったり思わなかったり?」

「本音は?」

「出店で美味そうだったから買った。味はまあまあだった」

「コイツ・・・」

 

 朝ごはんの代わりでもあったんだ。許してくれ。

 それにしてもみんな緊張しすぎだ。緊張感を高めるのはいいが、緊張で体が固まるのはよろしくない。何事もほどほどがいい、ということだ。

 

 見たところ理想的な緊張状態を保っているのは一部の人間だけ。爆豪、轟、梅雨ちゃん、くらいか? 梅雨ちゃんメンタル強いな。あの二人と並ぶか、むしろ上回ってる。

 

「俺は何だかんだ普段通りのテンションでいるのが一番いいのさ。緊張で集中力を高めるタイプでもないし」

「その普段通りを維持できるのがすげえよ」

 

 そう難しいことじゃない。失敗した時の事とか、ベストを発揮できるかとか、いろいろ考えるから緊張するのだ。何も考えなければ緊張も何もない。

 

「何にも考えてないだけだよ、俺は。頭空っぽにしてる」

「腹が据わってんのか、アホなだけなのかどっちなんだ・・・」

 

 アホとはなんだアホとは。

 

 

 

 

「先見。」

「うん?」

 

 轟? 何の用だろう?

 

「俺はお前の事を強いと認めてる。戦闘訓練やUSJでの活躍から考えて、だ。」

「お、おう。ありがとう」

「だが、それを認めたうえで俺はお前に勝つぞ。」

 

 宣戦布告か?

 違うか、みんな優勝目指してるもんな。お前も一緒に頑張ろうぜとか健闘を祈る的な方か。

 

「ああ、お前も頑張れ」

「・・・っ。眼中にねえ、そういうことか」

 

 なんかミスった感じあるよね。ちょっと冷気が漏れてますよ。

 凄いにらんでる。眼力パねえな。

 

「おいおい、落ち着けって」

「・・・そうだな。実力で振り向かせてやるよ」

 

 違う。そうじゃない

 

「い、いや、だから「皆! そろそろ入場の時間だぞ!」」

 

 委員長ォォォ! なんてタイミングだよ!

 あああ、轟のやつもう行っちまった。完全にケンカ売られて、大特価で買い取った感じになってる。

 

 アイツに目を付けられるのだけは嫌だったのに・・・

 

 

「――――(クソ金目ェ・・・!)」

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

『群がれマスメディア!! お前らが大好きな雄英体育祭が始まディエビバディアァユゥレディ!!!!?』

 

 さすがプレゼントマイク! テンションあげることに関して右に出るものがいないぜ! 開会式というよりクラブイベントみたいになってるけど!

 

『どうせてめーらこれだろ? アイツらだろ? (ヴィラン)襲撃を乗り越えた奇跡の新星!!』

 

 よっしゃ、俺たちの出番だ。にしても煽るねえ。

 

『ヒーロー科! 1年!! A組だろおおおお!!?』

 

 会場が揺れる。そう錯覚するほどの歓声が沸き起こる。音の振動が体にびりびりする。

 

「うはー、めっちゃ注目されてるぅー」

 

 観客席に向かって手を振ってみる。

 更なる歓声が響き、何人もの人が手を振りかえしてくれた。

 

 やばい、この感覚。クセになりそうだぜ!

 

「お前ホント怖いもんなしだな・・・」

「そんなことねえよ。上鳴もやってみれば? 楽しいぞこれ」

「やらねえよ」

 

 楽しいのになあ

 

 

 

 

 

 

 

 開会式が始まった。

 爆豪のユニーク()な選手宣誓で我がクラスは周りの全てからヘイトを集めてしまった。ぶっちゃけそういう事言っちゃうだろうと予想してた。

 

 テレビ的には美味しいんだろうなさっきの。

 

『さあ! 第1種目はこれ! 障害物競走!!』

 

 1年主審の18禁ヒーローミッドナイトにより第1種目が発表された。ルールはコースさえ守れば何でもアリらしい。障害物競走って言うかサバイバルレースだな。

 

 あと、ミッドナイトはエロい。最高です。なんだそのコスチュームは、素晴らしけしからんな。

 

『それじゃ、位置に着きまくりなさい!』

 

 おっと、気を抜いてちゃいけないな。どうせ雄英の事だ、どぎつい障害があるに決まってる。

 

 

 

『スターーーート!!!』

 

 

 

 まずは、と

 

「ちょっとごめんよ」

「がっ!?」

「いてっ!」

「てめっ!?」

 

 選手の人数に対して極端に狭いスタートゲート。

 狭き門を潜り抜けろとでも言いたいのか? 野郎どもとおしくらまんじゅうすることになるのはごめんだな。

 

 スタートゲートで密集して動きが取れなくなる前に、体格のいいやつの肩に飛び乗って人の上をぴょんぴょん跳んで進んでいく。

 ぎちぎちに人が密集しているから割と簡単だったりする。

 

 まったく、人を踏みつけるとか心苦しいぜ!!!

 

「うわああ!」

「なんだこれ! 凍った!?」

 

 轟だな。

 ゲートを抜けたあたりから妨害を始めやがった。――観えてたがな。

 地面を凍らせただけだ。俺の足場を増やしてくれてありがとう。

 

『さあ! スタートゲートを飛び出した! トップは1-A、轟焦凍だ!!』

 

 やっぱ1位か。だが、俺も抜けたぞ。

 俺たちのクラスが多いな。流石だ。

 

『最初の障害物はこいつ等だ!! ロボインフェルノォォォ!!!』

 

 入試の時の0P(ギミック)? 10体以上いるな。サイズと数で道を塞ぐのが目的と見た。

 

「多すぎて通れねえ!?」

「ヒーロー科はこんなのと戦ったのかよ!?」

 

 轟はどう対処するつもりだ?

 

『凍らせやがったー!!』

 

「あの隙間だ! アイツに続くぞ!!」

 

 あーあ、止めとけばいいのに。そんな隙を見せるわけないじゃん。もうちょっと周りをよく見るべきだ。ロボの体勢とか。

 ・・・切島じゃん。ならいいか、頑丈だし。

 

『崩れたあーー! 轟! 妨害と突破を同時にやりやがった! こいつはシヴィー!!』

 

 爆豪と瀬路、常闇は上を飛び越えるみたいだな。立体機動が使えるやつはいいねえ。

 

 さて、俺も行くかな。

 

『こいつはクレバーだ!! 爆豪、瀬路、常闇がロボの頭上をフライァウェイ!! またまた1-Aじゃねえか!? どうなってんだよイレイザーヘッド! お前のクラスは!?』

『知らねえよあいつらが勝手に成長したんだろ。』

 

 解説にいたのか相澤先生。全然しゃべってないぞ?

 

『これでトップが轟、それから爆豪、瀬路、常闇と続いて・・・・・・うん?』

 

 まったく、それにしてもどうしてみんなわからないんだ?

 

『なんかシレっと抜けてるぅぅぅ!!? 誰だアイツ!?』

『1-Aの先見だ。轟の後に抜けてた。いまんとこ2位だな。』

 

 上を通るより、地面を走ったほうが速いに決まっている。

 【未来視】で観た最短ルートを進めばいいだけ、ロボを倒す必要すらない。回避なら得意分野だ。

 

 

 次のフィールドが見えてきた。崖? ロープ?

 

『さあさあさあさあ! トップ組が次のステージにやってきたぁ!! 断崖絶壁! 落ちたくなけりゃロープにしがみつけ!!』

 

 まじかよ、断崖絶壁て、頭おかしいな雄英は

 

「断崖絶壁? んなもん俺には関係ねえー!!」

「うお!?」

 

 爆豪の奴、文字通り飛んできやがった!! 便利すぎるだろあの爆発! しかも、わざと俺の(そば)を通りやがって、見せつけたつもりか??

 

 舐めんな! 甘いんだよ!

 

『すげえええ!? ほとんど飛行してるぜ爆豪! 先見を抜かして2位に浮上だあ!!』

『「個性」の応用なんだが、使い方が上手いな。いきなり使いこなしてるセンスもある。』

 

 確かに俺は飛べないし、轟みたいに氷で足にロープをくっつけたりとかはできない。だがこれもさっきと同じことだ、

 

『先見は爆豪と轟に追いつけるのかぁ!? それともツートップで逃げ切りかぁ!?』

 

 

 普 通 に 走 っ た ほ う が 速 い っ て 言 っ て る だ ろ !

 

 

『・・・そのまんま爆走してるぅぅぅ!!? 落ちるのが怖くねえのかクレイジーボーイ!!?』

『一応「個性」の効果・・・みたいなもんだ』

 

 落ちない。絶対に落ちない(・・・・・・・)。俺の目が落ちる未来を映さない限り、落ちるはずがない。

 

「ああ゛!?」

「・・・・・・!」

 

 追いついた。もう目の前にいる。

 しかし、断崖絶壁も終わってしまった。

 

 あいつら単純に足速すぎぃ!! 障害物が無いと追い抜けない!!

 

『ラストステージ!! キリングフィールド地雷原!! 足元ご注意下手すりゃドカンだ!!!』

 

 地雷原? てゆーことは・・・ 

 

 らっきいいいい!! 俺の独壇場だあ!

 俺は【未来視】で爆弾に引っかからない位置を走り抜ければいいだけだ! お前らは爆弾に怯えろ!!

 

「ふははは!! あばよ!」

「まてやゴラァ!!!」

「・・・クソッ!」

 

 終盤に連れて加速する爆豪、冷静にベストを判断してトップを維持していた轟。そいつらを・・・

 

『抜いたあぁぁぁ!! レボリュゥーション!! 初めてトップが入れ替わったぁ!! てゆーかアイツだけ障害物を全スルーしてるんだけど!? 障害物競走じゃなくて徒競走みたいになってるじゃん!!』

『どれも「個性」の効果だ。』

 

 おっしゃ! このままゴールまで突っ走ってやる! この場所で俺よりも早くゴールするやつなんて――――

 

『な、なんだあぁぁぁ!!? 1-A、緑谷。地雷の爆風で吹っ飛んできた!!?』

 

 は? なにそれ!

 

「俺の前にいくんじゃねえ!!」

「どけ! 緑谷!」

 

 後ろが白熱してる。何しようと逃げ切っちまえばこっちのもんだ

 

「うわあああ!!」

 

 おや、緑谷が振りかぶった鉄板が地面に叩きつけられ――

 ―――あ゛、観え・・・

 

 閃光、轟音。俺の真横で(・・・・・)

 

「ぐはあああぁ!!?」

『緑谷の妨害ィィー!! もろに先見が巻き込まれた!!』

 

 ま、まじか? あとちょっとでゴールだったのに。

 

『そのまま地雷原を即クリア! そのままゴールへと向かってくるぅーー!! 序盤の様子から誰が予想した!? 今トップでゴールに帰ってきたこの男! 緑谷出久をーーー!!』

 

 トップ・・・とられた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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雄英体育祭:奪い合い

「ええっと、ごめんね先見君?」

「いいや、気にすることないさ。誰しもが優勝を目指している。すなわち、自分以外の誰かを押しのけて勝利するために努力しているんだ。だから緑谷がやったことは何も間違いじゃないし、俺も勝利を目指している以上文句を言う資格はない。・・・・・・ああそうとも、文句なんてないよ? 俺の真横で爆弾を起動させて吹き飛ばし、あまつさえ1位の座を奪われたことは気にしてない。更に他の連中にも抜かれ結局4位でのゴールになったことについて全く! 全然! これぽっちも! 気にしてないとも!!!」

 

「「「(引くほど気にしてる・・・)」」」

 

 つい先ほど第1種目の障害物競走が終了した。

 俺はトップを目前にして、目の前の緑谷からまんまと1位の座を奪われた。

 

 ケッ! なにが『ごめんね』だ畜生め! 申し訳ないと思うなら順位交換しろよ、あぁん?

 麗日さんから褒められやがって! 羨ましい!!

 

 しかし、俺はあくまで紳士だ。勝負の場で負けたことにグチグチ文句を言うことはない。気にしていないこともしっかりアピールしてやっただろう。眉間にしわが寄っていたり、目つきが悪くなってるような気もするが気のせいに違いない。

 

「お、おい。あんまりいじめんなよ・・・。それに言うほど順位が悪いわけじゃないだろ? いいじゃねえか4位でも。ここから十分挽回できるって。」

 

 おや、最終的に常闇に追い抜かされた瀬路さんじゃないですか。いじめとはいったい何のことだろう、全くわからない。

 

 それにしてもよくないな、その心構えはよくない。

 

「瀬路・・・お前はそんなだから地味顔なんだ。」

「なんのことだよ! 顔は関係ねえだろ! 顔は!」

「聞け。いいか? トップを目指すって言うのはな、頂点かそれ以外しか(・・)無いんだ。上位だからどうだとか、そうじゃない。一番でなければ意味が無い。それ以外は全部ゴミ。むしろ、それ以外で満足する様なやつは一生負け犬だ。」

 

 真剣な顔で瀬路に詰め寄る。心当たりがあるだろう? いい順位? 傷の舐めあいなんぞごめんなんだよ。

 

 そうだ、俺は勝ちたいとかそれ以前に俺より上に誰かがいるのが許せない! 誰か一人にでも見下されてたら意味ないんだよぉぉぉぉ! 完全な勝利の優越感に浸りたいんだ俺は!!

 

「先見・・・お前・・・。いや、悪い。謝るよ。真剣勝負ってモンをわかってなかった。心のどこかで【いい順位】でいいと思ってた。優勝するのを諦めてたんだ。」

「だからしょうゆ顔なんだよ」

「だから顔は関係ねえよ!? あーもう! いいから聞け! ここからは俺も真剣だ! 優勝を目指す! いいな!?」

 

 宣言が恥ずかしかったのか、赤い顔をして離れていく。

 

 どうやら発破をかけるのには成功したようだ。アイツ絶妙に力を抜いてたからな。

 全力だけど本気じゃないというか、たぶん負けても『アイツら強すぎだ、しょうがねえ』とか言うつもりだったに違いない。負けたくはないが、負けて心を痛めるのはもっといやだ。そういうタイプだ。

 

 それじゃ、勝てないんだよなぁ。いいところまで行っても最後の最後で負ける。常闇に負けたのもそのせいだったりするんじゃないのか?

 

「先見ィ!!!」

「うおっ、なんだ切島か。」

「お前、今日は一段と男らしいじゃねえか! 貪欲に一番を目指す姿勢! それなのに友を気遣う優しさ! マジかっこいいぜ!!」

「おう。ありがとう」

 

 切島の中で俺の株が急上昇中のようだ。ふふふ、いいんだぞ。もっと褒め称えろ。

 

 ・・・・・・ま、打算無く発言したわけではない。瀬路は「個性」の相性的にほぼ確実に勝てる。だからこそ、俺が勝てなさそうな相手を掃除してほしいのだ。

 特に、上鳴。瀬路ってアイツの天敵だよね? セロテープって絶縁体なんでしょ?

 上鳴以外でもある程度食らいつけるはずだ。今の瀬路の精神状態ならばジャイアントキリングの可能性まである。

 

 さあ瀬路よ! 俺のためにがんばれ!! そしてその後、俺に倒されろ!!!

 

 

 

 

「――敵に塩を送るなんてずいぶん余裕なんだね?」

 

 あん? このウザい声は・・・

 

「おやおやおや、障害物競走36位の・・・36位! の物間さんじゃないですか? 4位! の俺に何の用があるんでしょう?」

「キミは本当に隙あらば煽ってくるね・・・」

 

 お前に言われたくはないわい

 

「でも、ま。調子に乗っていられるのもここまでだよ。僕の順位が悪かったのには理由がある。予選段階では情報収集に努めていたのさ、後ろからずっと観察させてもらっていたよ。君たちの「個性」、性格、運動性能に至るまで、ね。」

「・・・・・・」

「おや? 反論も思い浮かばないのかい? どうやら理解してくれたみたいだ。今の時点で一番アドバンテージを握っているのは僕だってこと――――」

「悲しいなぁ・・・」

 

 自信満々にしゃべっているが、本当に憐れだ。ここまでくると皮肉も言えない。

 

「なんだい・・・それ。負け惜しみかな?」

「いや、違うよ。本当に悲しい。憐れだ。」

「・・・! だからなぜ―――」

「俺が情報収集にこだわっていたのは本番前(・・・)だからだ。事前に情報を仕入れて悪いことにはならないからな。けど、順位を犠牲にするなんて間抜けなことはしない。そもそもなんだ? 予選段階? ミッドナイトは「第1種目」といったんだ。すなわち、ポイントが加点式で判断されることくらいわかるだろ?」

 

 たった一度、それも自分が競技に参加しつつ得られた情報なんぞたかが知れてる。それが失ったポイントほどの価値があるはずがない。

 なにより―――

 

「本番に至って情報収集するなんて、『今ある材料じゃ手も足も出ません』って宣言してるようなものだ。お前がしたのはクレバーな判断じゃない。みっともない悪あがきだ。」

「は、はは・・・。相変わらず腹の立つ男だ。僕の判断が間違っていて、キミの言葉が全部正しいなんて、いったい誰が決めるんだい?」

 

 その通りだ。判断するのは言葉ではない。

 

「もちろん決まってる。勝利した奴が正しい。どっちが正しいのかは勝利した奴が決めればいい」

「・・・そうだね、その通りだ。勝った方が正しいに決まってる。・・・これ以上言葉を交わしても無駄みたいだ。少しくらい戦意を挫いておきたかったんだけどね。」

 

 性格の悪い奴だ。ゆさぶりをかけて精神的優位に立ちたかったわけだな。無駄だが。

 

 そもそも情報収集といったって、傍目(はため)から俺の「個性」を看破できるはずがない。俺の「個性」ほど複雑で見た目に変化が無いモノを俺は知らない。つまり奴の観察は俺にとって全くの無意味。

 

 他の人間の情報なんぞむしろくれてやるわ! 俺の代わりに倒せ! つーか共倒れしろ!!

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

『第2種目はコレ! 騎馬戦!!』

 

 ミッドナイトから第2種目の発表がされた。

 第1種目の上位42名で2~4人で騎馬をつくるチーム戦だ。

 

 ふむ、誰と組むか考えることも戦略のうち。なるべく利害が一致する人間で組むべきかな?

 

『先ほどの順位によってポイントが変わってくるわ! 上位の人間ほど高ポイントよ!』

 

「組む騎馬のメンバーによってポイントが変わるのか?」

「なるほど、奪い合いというわけか」

 

『そういうこと! そして、1位のポイントは1000万!! 下剋上サバイバルよ!!』

 

 

 

 

 

 

 第2種目の控室。騎馬戦のメンバーをここで決めろと言うことらしい。

 

「誰と組もうかな・・・?」

 

 できるなら騎手はやりたくない。なにせ攻撃能力も防御性能も俺には無いのだ。それよりも、騎馬で有利になるルートを選ぶ方が建設的だろう。

 そして、俺が理想とする騎手は―――

 

 

 

「おい、クソ金目」

 

 

 

 勝つためならば無茶な注文にも応えられる奴。勝利に餓えている奴が相応しい。

 

「爆豪か、なんだ?」

「・・・・・・チッ!!」

 

 舌打ち!?

 

「あの・・・爆豪さん?」

「・・・・・・」

 

 表情がヤバい。眉間のしわといい吊り目具合といい・・・。

 ていうか何しに来たの? 

 

「・・・・・・お前、俺の騎馬に入れ。」

 

 お前それ言うのに時間かけすぎだろ。

 

「かっちゃんが人に頼った????」

「ば、爆豪が自分から人を・・・!」

 

 爆豪の評価はどうなってるんだ? たしかに、ある意味ではコミュ障だけど!!

 

「・・・ちょうどいい。お前みたいな騎手が欲しかったところだ。他のメンバーは?」

「しょうゆ顔と、クソ髪だ。」

「なるほど。瀬路と切島か。」

 

 良いメンバーだ。というか・・・ふむ・・・

 

「よろしくな、先見!」

1-A(うち)で最凶の二人がそろったな! これならいけるぜ!!」

 

 瀬路? なんか字が違わない? 

 

「ちなみにチームの方針も聞いておこうか」

「決まってんだろ・・・!! 1000万だ!!」

 

 そっか、爆豪は緑谷のこと目の敵にしてたな。

 だが・・・それだけじゃあ足りんよ。

 

「爆豪・・・お前ともあろうものがどうした?」

「ああ゛!?」

「方針を変更してくれ。1000万じゃまだ足りない(・・・・・・)!!」

「は、はあ? なにいってんだ先見!?」

「切島、緑谷だけ狙うなんて生ぬるい方針じゃつまんないだろ?」

 

 この騎馬戦の本質はポイントを取る事じゃない。

 

「俺が提案する方針は一つ。『どいつもこいつも皆殺し』だ! この方針なら協力してやる!」

 

 ポイントを奪う事(・・・)だ。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

『さぁー! それぞれ騎馬を作っての入場だあああ!! 起きろイレイザーヘッド! 始まるぞ!!』

『ん・・・。なかなか面白え組み合わせになってるな。』

 

 さてさて? ほぼ完璧な作戦を立てたと思うが・・・

 

「全員いいか? それぞれの役割を忘れんなよ。」

「わかってるよ」

「まかせろ!!」

「・・・」

 

 爆豪が返事してくれない・・・。

 

 ま、いっか。爆豪は「勝つこと」に並々ならぬ思いがあるようだ。こういうやつは言うこと聞かなくても勝利に全力を出してくれるのは間違いないからな。

 

『それじゃあいくわよー! 第2種目騎馬戦! スターート!!!』

 

「行け、クソ髪! デクの野郎をぶっ殺す!!」

 

 当然みんな緑谷を狙うよね。

 

「追われし者の運命(さだめ)、選択しろ! 緑谷!!」

「当然! 逃げの一択!」

 

 で、当然逃げる、と。

 ―――ふむ。

 

「爆豪。もうすぐ緑谷がジャンプするぞ。空中で攻めろ。」

 

「二人とも! 顔よけて!」

 

 緑谷が背中につけたジェットで大ジャンプを行う。発目のサポートグッズか?

 なるほど、麗日さんの「個性」で軽量化してるのね、相性のいいチームだ。

 

「死ねや、デク!!!」

「かっちゃん!?」

 

 しかし、観えてる。こちらも空中戦は可能なんだよ、爆豪限定だが。

 

「防げ、黒影(ダークシャドウ)!」

「・・・チッ!」

 

 うーん、観えてたとは言えめんどいな。ほぼ奇襲なのに防がれるか。黒影(ダークシャドウ)が厄介だ。なんだよ自律思考する伸縮自在の「個性」て。

 

「うし、瀬路。」

「おーらい!!」

 

『うおおお!? 騎馬から離れたぞ!? 良いのかアレ?』

『テクニカルなんでおっけー!』

 

 空中にいる爆豪を瀬路のテープで回収する。

 ――んで。

 

「もう一回だ!! 今度は騎馬ごと――」

「爆豪、振り向け。」

 

 反応、迎撃、爆発音。

 

 流石は爆豪。恐ろしいほどの反応速度だ。攻撃が終わり、気が抜けた一瞬を狙われた奇襲だ。まったく、性格がにじみ出てるとしか思えない戦法だ。なあ、

 

「残念だったなぁ。物間?」

「へえ、気づいてたんだ」

 

 気づいてたわけじゃない。【未来視】に爆豪が鉢巻を奪われる瞬間が観えただけだ。

 ・・・・・・やはり、こいつは俺の「個性」に気付いてない。俺が騎馬である最大のメリットは「絶対に奇襲されないこと」だからだ。

 

「・・・! 円場(つぶらば)、ガード!」

「よっしゃ!」

 

「死ねオラァ!!」

 

 またしても爆音。強烈な爆豪の攻撃だが、見えない壁のようなものに防がれた。

 流石! 手が速いぜ! でも、せめて何か言ってから飛べ!!

 

「――切島! 突っ込め!」

「おっしゃあ!」

 

 ガードとか良い「個性」だな。・・・・・・しかし、俺の「個性」はそういうものの対処法を理不尽に見つけ出すんだ。

 爆豪を拾って、今度は騎馬ごと突進する。

 

「爆豪! ぶち破れ!!」

「くたばれコラァ!!」

 

 爆音。

 

 さっきよりも強烈な爆発だ。ガードごとぶち抜いて敵の鉢巻をもぎ取った。

 

「・・・チッ。いったん下がれ! 狙いを他の奴に切り替える!」

 

 そう来るか。時間の割にしけた成果だったな。

 ただまあ・・・お前の思い通りになるのは癪に障る。

 

 思いっきり息を吸い込む。そして全力で叫ぶ!!

 

「A組ぃ!! 緑谷に気を取られ過ぎんな!! 後ろから狙うチームがいるぞ!!!」

 

「なっ!?」

「ぐああ、うるせー!?」

 

 すまん切島。耳塞げないもんな。

 

『なんだぁ!? クラスぐるみのチームプレイか!?』

『いや、そんな感じじゃねえな。たぶんだが目の前のチームに対する牽制だろう』

 

 その通りです。これで簡単に後ろから取ることなどできまい。せいぜい苦労しやがれ。

 

「よし、どうする爆豪。」

「デクの野郎に騎馬ごと突っ込め!!」

 

 任せとけ! ―――んん!?

 

「進路変更! 切島! 緑谷の後ろ! ライン際! 轟に取られた(・・・・)!!」

「まじかよ! よりによって轟!?」

 

 あと10秒後にやられる! なんだあの技!?

 

 

 

「レシプロバースト!!!」

 

 

 

『とっっったーー!! なんだ今の速すぎィィィ!? そんなんあるなら予選でも使えよ飯田!』

 

 ホントだよ!

 

「よこせ! 半分野郎!!」

「爆豪!?」

 

 爆豪が轟に挑む。奪われてすぐに俺たちがやってくるとは思わなかっただろ。

 

「オラオラオラァ!!!」

「グッ!?」

 

 連続爆破。

 

 氷を纏わせてかろうじて防いでいる。だが、いつまで持つかな?

 

「・・・飯田、いったん下がれ!」

「クッ! すまないエンストしていて上手く動けない!」

 

 ほう、そういうことか。

 

「いいこと聞いた! 爆豪! 氷を出す隙を与えんな! スタミナで押しつぶせ!」

 

「死ねやぁぁぁぁ!!」

 

 爆豪のスタミナを舐めんな。ずっと攻撃し続けりゃ轟もいつかは堕ちる。

 ―――甘い

 

「絶縁シートですわ!! 上鳴さん!  これで――」

「瀬路、シート奪え」

「あいよ!!」

「あ!?」

 

 八百万がシートを生み出した瞬間に奪う。ダメじゃないか、俺を相手に気を抜いたら。

 上鳴の「個性」なんて警戒してないはずがないだろ。

 

 これでこっちは何時でも電気を防げる。いいもんゲットぉ!

 ―――よし

 

「返せぇぇぇ!!」

 

「デク!?」

「・・・チッ!?」

 

 緑谷が乱入してきた。最高のタイミングだ。ただでさえ体勢の崩れていた轟が、緑谷の超パワーで更にガードまで崩された。

 

「うわああああ!!!」

「・・・・・・!」

 

 取った。轟の胸元、一番上にある鉢巻を奪い取った。

 

「取った!! 取ったあああ!!」

「デク・・・! あ、の、野郎!!!!」

 

 勝利の叫び。

 

「それ・・・違いませんか!?」

 

 しかし、緑谷がとったのは1000万ポイントの鉢巻じゃない。

 

「爆豪。」

「ああ゛!? さっさとデクを殺しに行くぞゴラァ!!!」

 

 なにせ―――

 

 

 

 

 

 

「瀬路。」

「ほい、1000万。」

 

 

 

 

 

 

 取ったのは俺たちだ(・・・・・・・・・)

 

『アメィジーーング!!? なにが起きたかわかんねえ!! 緑谷が突っ込んでポイントを奪ったかと思えば、いつの間にか爆豪たちが1000万を奪い取ったああああ!!?』

 

 いや、放送席からならわかるでしょ。緑谷に全員が気を取られた隙に奪っただけだ。

 

「よし、逃げるぞ爆豪! 切島! ダッシュ!!」

「お、おう」

 

 ホント最高だわこの戦法。

 

 爆豪の爆炎で目隠し、瀬路が爆炎の中にテープを飛ばして鉢巻を奪う。もちろん位置がわからないがそこは俺が指示する。これをあの状況で防がれるなら諦めるしかないくらいだ。

 

 そしてなにより――

 

「・・・爆豪を追え! このままじゃ終わらせねえ!!」

 

 一本ずつ取るなんてみみっちいことは言わない。取るなら全部だ。頭の鉢巻は無理だったが。

 俺は勝ちたい以上に、お前らを勝たせたくない(・・・・・・・)

 緑谷も轟も、ここで終わってしまえ。

 

『残り時間わずか!! このまま圧倒的ポイントを持って爆豪チームの逃げ切りかー!!?』

 

「かっちゃん!!」

「待て! 爆豪!」

 

 緑谷、轟チームが同時に攻めてきた。

 どうする? 逃げる? だが、轟のポイントを取り尽くすチャンスかもしれない。

 

「来るならこい! 雑魚共がァ!!」

 

 爆豪がやる気だ。逃げの選択肢はなくなった!

 

「絶対に逃がさねえ!!」

「やべっ! 足が凍らされた!」

 

 逃がす気も無い、と。

 

 緑谷と轟と黒影(ダークシャドウ)が爆豪の鉢巻を狙う。騎馬の足は封じられ、騎手の爆豪に時間まで耐えてもらうしかない。

 

「そこだ!!」

「この、クソナードが!!」

 

 やばい、今のはとられそうだった。いくらなんでも無理があったか?

 

「・・・クソ!」

「舐めんなや、半分野郎!! 絶対に渡さねえ!! 勝つのは俺だ!! 完っ璧な勝利だ! お前のポイントもよこせえええええ!!」

 

 信じられん全部さばいてやがる。爆豪の勝利の餓え・執着心は予想をはるかに超えてる。

 スロースターターな「個性」だと思ってたが、それだけじゃなく集中力まで時間が経つほどに増加している。

 

 後10秒。

 緑谷が超パワーで爆豪の体勢を崩す。その隙を狙って、轟が1000万ポイントへと手を伸ばす。

 爆豪が手のひらの爆発で無理やり体勢を元に戻す。轟の鉢巻をそのまま狙い――視界の外から緑谷が手を伸ばし――

 

 

 

 

 

『終ーーーー了ーーーー!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書きずらい・・・
なぜ主人公の個性をこんな面倒なのにしたんだ・・・





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雄英体育祭:アピール

『終ーーーー了ーーーー!!!!』

 

 騎馬戦が終了した。

 最後の10秒近くは時間が引き伸ばされたと錯覚するほどの緊迫感が存在した。

 そして、俺たちはその時間に耐えきった。

 

『それじゃあリザルトの発表だ!! 上位4チーム、いってみよう!!』

 

「・・・ク、ソが!! あの、クソナード・・・!!!!」

 

 最後の瞬間まで爆豪は1000万ポイントの鉢巻を守り抜いた。敵の最後のあがき、最後の猛攻をとうとう踏み潰すことができたのだ。

 しかし、その表情はとてもではないが勝者が浮かべるものとは思えない。

 

『まずは1位!! 爆豪チーム!!』

 

 トップ通過。誰恥じることのない成績。まさしく、完璧な勝利。

 

 

 そして――――

 

 

 

『2位!! 緑谷チーム!!!』

 

 

 

「取ったよ、かっちゃん。君のポイント(・・・・・・)を」

「デクぅ・・・!!  この、クソカスが・・・!!」

 

 最後の瞬間、緑谷は標的を変更した。

 いや、正確に言うのならば最後の瞬間のためにずっと1000万ポイントを狙い続けていた。

 

 おそらく、俺たちが1000万を轟から奪われたときにこの作戦を考えていたのだろう。轟と緑谷、さらに黒影(ダークシャドウ)までもが1000万ポイントの鉢巻を狙い続け、爆豪の注意を全てそこに集約させる。

 爆豪はセンスこそ優れた人間だが、視野を広く持つ性質の人間ではない。いつもキレて視野が狭まってるしな。後半に連れて増していった集中力もその一因だろう。

 

 それを突かれた。

 俺たちのチームは切島が10位、瀬路が9位、俺が4位、爆豪が3位。総ポイント数はかなりのモノになったはず。それゆえ緑谷チームも次のステージへと進出した、というわけだ。

 

『続いて3位! 轟チーム!!』

 

 結局、奴らの最初から持っていたポイントを奪う事は出来なかった。というか、猛攻をしのぐのに精いっぱいでそれ所ではなかったのだろう。

 もちろん、爆豪が、だ。

 俺と切島と瀬路。騎馬の連中は最後の方は轟の氷のせいでただの役立たずだったからな。

 

「・・・最悪だ。」

「何言ってんだよ、先見も爆豪も。1位通過だぜ?」

「切島か・・・。1位は勿論うれしい。しかし、俺としては轟たちか緑谷たち、どっちかはここで落としてやりたかったんだよ。」

「ああ・・・、作戦の時に言ってたな。『この競技は実力のあるチームが次に進出する人間を選べる』ってやつか?」

 

 その通りだ。

 障害物競走と違い、騎馬戦は他の人間と戦うことが目的の競技だ。つまり、自分にとって厄介な人間のポイントを根こそぎ奪ってしまえば、次の競技で有利に進めることができる。どうせ、最後の競技は例年同様ガチバトルだろうし。

 

「理想を言えば轟チーム・・・しかし、せめて緑谷達は潰しておきたかった・・・!」

 

 今回で確信した。常闇踏影(とこやみふみかげ)、あいつの「個性」は万能に過ぎる。

 伸縮自在ゆえに射程が広く、変幻自在ゆえに対応力が高い。おまけに自律思考するせいで片方の隙をもう片方が埋めてくるため死角も少ない。

 

 アイツには、落ちてほしかった!! あとは、ぶっちゃけどうでもいいけど!!

 

「くっそ! ベターじゃなくベストの結果を出したかった!!」

「デクの野郎・・・また、また! 俺を出し抜きやがった!!」

 

 

「俺たちのチームって1位通過だよな・・・?」

「こいつ等を見てると上手く喜べねえんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、昼休憩をはさんだら午後の部だぜ!』

 

 ようやく休憩できる時間だ。

 先ほどの結果は、あまり気にしないことにする。それよりも、気持ちを切り替えて次に望むことが重要だろう。

 

「・・・おい、おい! 先見!」

「ん? どうした、峰田?」

 

 峰田が目を血走らせて話しかけてきた。

 どうやら、指をさしている方になにかあるらしいが・・・

 

 ほほう?

 

「・・・すばらしいな。本場のチアリーダーか」

「ああ、見ろよ、あのボンッキュボンを・・・」

 

 目の保養になる。最後の種目までの余興なのだろうが、ナイスセレクトと言わざるを得ない。これが野郎どものストリートダンスとかだったら抗議文を提出するまである。

 

 峰田が目を血走らせるのもわかる。わかるんだが・・・。峰田さん、もうちょっと表現をオブラートに包みませんか?

 

「それでだ・・・オイラからの提案なんだが・・・―――。」

「ふむふむ?なるほど。・・・峰田よ、やはり貴様は天才だったか・・・!」

 

 恐るべき発想だ。とてもまねできない。

 しかし、まだまだ計画には穴があるようだ。僭越ながらこの俺の頭脳をもってしてパーフェクトな計画へと仕上げてやろう。

 

「峰田、ここはだな―――で、――って感じにしたら・・・後はわかるな?」

「・・・! 流石だぜ、先見! えげつないことを考えさせたら右に出るやつがいねえな!!」

「おい、褒めてんのかそれ」

 

 峰田はさっそく女子の方へと向かって行った。どこまでも欲望に素直な奴である。

 頑張れ峰田。負けるな峰田。ヘイトは全部お前に行くようにしたけど!

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた体に栄養が染み渡る・・・。」

「若者のセリフじゃねえなそれ。」

「うるさいぞ、上鳴」

 

 昼食が終わった。

 俺の「個性」はどうやら脳を酷使しているらしく、使い過ぎると頭痛を引き起こす。誰の「個性」でも同じことが言えると思うが、栄養の補給は非常に重要だ。

 

「――それより、さっき言ってたことは本当か?」

「本当だ。峰田が予定通りに動いているならそろそろ登場するはず」

 

 今いる場所は控室。1-Aのクラスメイトで使わせてもらっている。昼休みの間に男子連中に声をかけて集合してもらったのだ。

 すると、峰田がようやく表れた。手には音楽プレーヤーとスピーカーを持っている。

 

「よっしゃあ! 集まってるな!! みんな注目!!」

 

 峰田が皆に呼びかける。

 集めた中にはまったく事情を説明していない人間もいるので、当然ながら質問が浴びせられた。

 

「峰田君!! なにをするのかそろそろ教えてくれないか! 先見君は後で君に聞けと言っていたぞ!」

 

 もちろん、飯田には事情を説明していない。

 

 あ、峰田が俺を窺ってる。無視していいぞ、強引に進めてしまえ。

 

「オイラ達1-Aはかなりの人数が最後まで残ってるだろ? だから、それに対して士気を上げようって企画だよ。」

「なるほど!」

 

 そんな説明でいいんだ。雑、極まりないな。

 

「とにかくいくぜ! ミュージックスタート!」

 

 峰田の持っていた音楽プレイヤーからポップな曲が流される。パーティーソングというか、イケイケな曲というか、そんな感じだ。

 

 

「yeeeeeah!!」

 

 

「「「おおお!」」」

 

 そして、チアガールの格好をした1-A女子の諸君が現れた。

 

 これぞ、俺と峰田で計画した『女子にチアの格好させようぜ作戦』!! 

 

「いいよ、いいよ~」

 

 峰田が身長差を活かしたローアングルで写真を撮りまくる。控えめに言っても変態にしか見えない。もちろん、あのカメラを渡したのは俺だ。データは後でもらう。

 

「み、峰田さん! 今更ですが、これは本当に意味ある事なんですの!?」

 

 今更すぎますよ、八百万さん。

 

「もちろんだ! こうやって女子に応援されてやる気にならないヤローはいねえよ!!」

 

 本当にいい笑顔をしているな峰田。本当にヤバい感じの笑顔だ。通報ものだ。

 

 はじめは、クラスでの応援合戦とか言うつもりだったがプランを変更。【士気高揚】とか【B組もなにかしてるよ?】とか【クラス皆のためになるよ!】とか、とにかく八百万に効きそうなワードで攻めてみた。

 他の女子はなんだかんだ面白そうとか言って拒否しないか、皆がするなら私も、とかいうと予想したのだ。

 

 結果は成功。

 女子が俺たちのために『自分から』チアガールとなってくれた。

 

 素晴らしい光景だ。よし、

 

「いやー、みんなかわいいね! ほら、耳郎ちゃんも恥ずかしがってないでよく見せてよ」

「え、いや、ちょっ、あああんまり見られると恥ずかしいんだけど・・・」

 

 その恥ずかしがる姿がいいんじゃないか! 口には出さないけど!! 

 

「いいねー、八百万ちゃんいいねー。そうやって応援されたらかなりやる気が出る!」

「ほ、本当ですの?」

 

 うんうん、フォローは大事。本音でもあるけど。

 

「お前、やってることほとんどナンパだな・・・」

「シャラップ。上鳴、私は心に浮かんだ言葉を口に出しているだけなのです・・・いいね?」

「へいへい・・・」

 

 実に有意義な昼休憩である。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 最後の競技が発表された。

 予想通りトーナメント式のガチンコバトルだ。

 

 その際、尾白とB組の庄田の二人が突然出場を辞退。なんでも、記憶が騎馬戦終盤までなく、プライドが許せないとかなんとか。よく理解できない理由で出場を取りやめた。

 

 わけがわからん。プライドでメシは食えないという言葉を知らんらしい。せっかくプロヒーロー達に対してアピールできる舞台なのに。

 もし、今までの分でアピールが十分だとか考えているのなら、認識が甘い。スカウトの人間からすれば最後の戦闘こそが評価の基準。むしろ、これしか見ないという判断の人もいるはずだ。

 

 本当にやめてほしいぜ。尾白には勝てるのになあ・・・

 

 そして、その代わりに鉄哲達のチームがトーナメントに参入した。・・・本来なら一佳達だったのだが、こちらもよくわからん理由で出場を辞退していた。

 

 トーナメント前半の一山が終了した。

 緑谷、轟、塩崎、飯田が二回戦へとコマを進めた。

 

 わざわざ気合を入れてやった瀬路だが、轟にはさすがに敵わなかったようだ。

 開幕からの奇襲・捕縛。そして大氷壁、なんとか躱すも次第に追い詰められ、最後は指一本動かなくなるまでガチガチに凍らされてた。

 しかし、大健闘だ。凄まじい気迫だった。轟が焦りの表情を浮かべ、不必要なまで氷漬けにしたのはある意味成果と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 そして、試合は後半戦。俺の試合だ。

 

『行くぜ! トーナメント後半戦! 第1種目、第2種目ともに好成績!! でも、いいかげん「個性」がなんなのか教えろよ!! 先見賢人! (vs)――』

 

 正直、勘弁してほしい。

 

『キュートでピンキー、アシッドガール!! 芦戸三奈!』

 

 一回戦から天敵に当たるとか。

 

「うし、負けないよー!」

「お手柔らかに頼むぜ」

 

 互いに挨拶。

 しかし、芦戸ちゃんとは敵対することが多いな。別に敵対したくはないのだが。

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

 

 

 

 

 ―――!

 開幕早々。芦戸ちゃんから溶解液が飛ばされた。

 

 相手に何かさせる前に範囲攻撃で即潰す。実にいい判断だ。

 おそらく、肉を溶かすことはないだろうが、皮膚、そして服ぐらいは溶ける濃度の酸だろう。

 

 しかし、無意味。あえて紙一重で回避する。

 俺の「個性」で見切れば液体だろうがなんだろうが、肌に触れるギリギリで回避が可能だ。

 

「うわ、全然驚いてくれないし」

「これくらいじゃまだまだ。サプライズにもなってない」

 

 ――今度はこちらの番だ。

 

 酸を飛び越え、距離を詰める。

 接近するこちらに手を向け、溶解液を放つことで迎撃を狙っているようだ。

 

 そして、溶解液が放たれる―――

 

 と、全くの同時に、サイドステップ。これまた範囲ギリギリでの回避。無論、このまま突っ込む。

 

 芦戸ちゃんがもう一度迎撃を狙う。手をこちらに向け溶解液を噴出するのだろう。

 だが、距離は詰めることができた。俺の手が芦戸ちゃんに届く間合いに入ったのならば、溶解液なんぞ別に怖くはない。

 

 ――こちらに向けられた腕をそっと横にずらしてやる。それだけで溶解液はあらぬ方向に飛んで行った。

 

 芦戸ちゃんが驚愕の表情を浮かべる。

 

 この体育祭ではヒーローコスチュームの着用が認められていない。

 つまり、今の芦戸ちゃんは酸の噴出できる場所が制限されている。コスチュームを着ている状態なら靴の先からでも酸を出せる機構が備わっているが、体操服にそんな機能はない。

 

 普段なら腕全体に酸を纏っておくぐらいするんだろうが、流石に体操服でそれはできまい。出力をミスったら自分の服も溶けちゃうし。

 

 ――芦戸ちゃんが肉弾戦に切り替えてきた。

 切り替えが早い。フックで俺の顎をカチ上げるつもりのようだが・・・・・・

 

 ほんのわずかに上体を反らす。それだけで拳は空を切った。

 体勢が完全に崩れた。その無防備な芦戸ちゃんに向けて―――

 

「(女の子を殴るのは気分がよくない。せめて一撃で沈めよう)」

 

 顎先を掌底で打ち抜く。

 てこの原理により、芦戸ちゃんの頭がシェイクされる。

 

 意識の消失。

 脳震盪だ。全身から力が抜け前のめりに倒れようとする。――受け止める。

 

「・・・ふう。」

 

 静寂。観客たちはまだ何がどうなったか理解が追い付いてすらいない。

 

 審判のミッドナイトへを視線を向けて呼びつける。そして、

 

 

 

「――うん、気絶してるわ。戦闘続行不能! 勝者! 先見賢人!!!」

 

 

 

 勝利宣言が行われた。

 

『そ、ソッコーで終わったぁぁぁぁ!!? 一撃、一撃で終わらせた! 相手の攻撃は掠らせもしてない!! なんてこった! めちゃ強いぞ先見ィィィィ!?』

 

 歓声が響く。

 

「すげえ! 圧勝だ!」

「相手の攻撃は全部完全に回避して、自分は一撃で決める・・・完璧な内容だ・・・」

「何が起きたのかわかんなかったぜ!」

「優秀な子だ、「個性」は?」

「今の年齢であれほどの近接戦を行うとは・・・将来有望だな」

 

 き、気持ちいい~!

 ふははは、愚民どもめ俺を崇めろ!! もっと、もっとだ!!

 

 手でも振ってやろうかと考えていると、ミッドナイトに話しかけられた。

 

「それじゃ、会場から下がってね。悪いんだけど、その子を医務室まで連れて行ってくれる?」

 

 そうだった。芦戸ちゃんを抱きとめたまんまだった。

 

「ええもちろんです。むしろ自分に最後まで運ばせてください、とお願いするつもりでした。それが彼女を倒した者としての礼儀・・・だと思いますから。」

 

 とりあえず、適当に良いことほざいとこ。

 表情のタイトルは『勝利の喜びと仲間を手にかけた罪悪感との狭間』だ。

 

「よろしい。それじゃ、お願いね」

「はい、失礼します」

 

 ステージから降りると、拍手が響いていた。

 

 よしよし、感動的な場面だろ? 麗しき友情、みたいな感じだろ? テレビ的にも美味しい絵だろ? しっかり撮るがいいぞ!!

 

 

 

 最終種目の一回戦。

 様々な意味で実に満足のいく試合だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません。更新頻度を落とします。




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雄英体育祭:紙一重

 俺の試合が終了した後、芦戸ちゃんをリカバリーガールのところに連れて行った。外傷はほぼ無いので寝かせて置くだけでいいらしい。

 

「どの子もこれくらいのケガだったらいいんだけどねえ」

「それは難しいですね。誰もが手を抜くことなんて考えてもいない。むしろ、手を抜かれた方が怒り出すくらいでしょう。そして、全力で戦えばケガ人も出る・・・痛ましいことですが、やむを得ません。」

 

 俺はなぜかリカバリーガールの話に付き合わされていた。

 

 正直早く観戦に戻りたい。

 俺は先生とかと話すのは好きじゃないんだ。優等生の返答を考えながらしゃべるのは結構メンドクサイ。

 

「そういうアンタは優しく相手を倒したみたいじゃないか。」

「自分のそれは心の甘えみたいなものです。相手は全力、自分も全力。だというのに仲間を傷つけるのは心苦しい。・・・・これはあくまでも相手を思いやったというより、自分に対しての偽善のようなものです。」

 

 これは本当。

 俺の気分がよくない。だから、手加減しちゃう。できるし。

 

「そうかい・・・。それがわかってるなら何にも問題はないよ。――長々と話に付き合わせて悪かったね。話を聞いてくれて嬉しかったよ。」

「いえ、こちらこそ。自分の心を見直すいい機会でした。――失礼します。」

 

 ようやく医務室から退室する。今からなら一回戦の最終試合には間に合うかもしれない。

 

 あーあ、ばあさんの話に付き合うとか時間の無駄だったわー。ご機嫌伺いも楽じゃないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・本当にわかってるなら問題は無いんだけどねえ」

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

「お? やっと戻ってきたか先見! 俺より戻ってくるのが遅いってどういうことだよ?」

「医務室でちょっとな。・・・・それより切島、今は誰の試合だ?」

「さっきちょうど、爆豪と麗日の試合が終わったところだ。次は緑谷と轟だな。」

 

 がってむ! 見損ねた!!

 俺の中で注目の対戦カードだったのになぁ。見たかったなぁ。

 

「まじかよ・・・。一応聞くけど爆豪と麗日さんどっちが勝った?」

「勝ったのは爆豪だ。けどよ! 麗日も根性あふれるいい試合だったぜ! 爆豪の奴にかなり食らいついてた!」

「は? 爆豪に? アイツが手加減・・・・・・するはずないな。絶対に全力だろ。そりゃすげえぜ。」

 

 そんなん見損ねたの? 俺?

 やべ、テンション下がってきた。

 

「・・・・・・・・・まぁ、いいか。爆豪は散々騎馬戦で観察したしな。うん、・・・」

 

 そういうことにしとこ。精神衛生的な理由で。

 

「お、始まるみたいだ。」

 

 さて、これも注目の一戦。

 戦闘能力でクラス最強に対して、破壊力でクラス最強の対決だ。

 

 99%轟が勝つだろうが、緑谷はどこまで奮戦するのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――勝者、轟ィィィ!!』

 

 奮戦っていうか、うん。粉砕だな、ステージが。

 

「なにあれ? 二人ともヤバすぎない?」

「ああ、すげえ威力だ・・・」

 

 そういう意味じゃねーよ。

 今の「個性」の使い方は確実に殺すつもり(・・・・・)だったじゃん。二人とも威力が高かったからステージが粉砕された程度で済んでるけど・・・。いや、ミッドナイトとセメントスが干渉してなけりゃどっちか死んでた。

 

 下手すると決勝はあれと戦うの? 普通に嫌なんだけど? 失格にならないかな?

 

「・・・そろそろ控室行ってくる。」

「おう! 頑張れよ!!」

「切島もな。相手が爆豪だし。」

 

 俺の対戦相手は――常闇か。

 騎馬戦で脱落させられなかったのが悔やまれる相手だ。とにかく隙が無い「個性」中距離戦闘では無敵に近い。近接戦なら俺の方に分があるが―――

 

 

 ま、どうにかなるでしょ。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

『――1回戦じゃ一撃で相手を沈めた瞬殺ボーイ!! 先見賢人 対 変幻自在の影使い! 常闇踏影の対決だァァァ!!』

 

「よろしくな」

「ああ、良き闘争をしよう」

 

 なんやねん、良き闘争って

 

 開始位置に着く。

 どうやって戦おうか。とりあえず―――

 

 

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

 

 

 相手次第、かな。

 

「ゆくぞ! 黒影(ダークシャドウ)!」

「アイヨ!」

 

 常闇の「個性」が俺に手を伸ばして攻撃してくる。

 速度はそこそこ、不定形だから本来なら攻撃の予測がしづらい。

 

 

 ―――が、関係ないね。

 

 

 相手の攻撃を受け流す。

 避けるでもなく防ぐでもない。相手の力の方向をずらし(・・・)、そこにできたスペースへ回避行動を行う。

 

 何度繰り返しても同じこと。見切り、捌き、躱す。

 残念ながらその程度の速度では俺を捕まえることは不可能だ。

 

『うおおおい!! 全然当たんねーー! 一回戦からそうだけど、神回避すぎるぞ先見ィ!!』

 

 あざっす。

 

 しかし、大体わかってきた。最初の方こそ警戒してたが―――

 

「ふ、攻撃せねば勝利を掴むことはできないぞ。」

 

 焦れてきたのか、常闇から挑発してきた。

 たぶん、アイツは俺の防御を抜けないのだろう。隙を見せてほしいのかな?

 

 ていうか、挑発へったくそだな!!

 

「では、お言葉に甘えて!」

 

 しかし、あえて乗ってやる。

 

 前に出る。

 ここぞとばかりに攻撃の密度を高めてきやがった。

 

 右からの薙ぎ払い。――前傾姿勢にして潜り抜ける。

 地面を這うような軌道からのアッパー。――体を横に一回転。旋回して避ける。

 上から下へ唐竹割。――斜めに踏み込み。攻撃範囲から紙一重の距離外れる。

 

 躱しきった。

 奴の「個性」の間合い、その内側に潜り込んでやった。

 

 ここまでくれば、あとは接近戦だ。

 常闇の本体はそこまで強いわけじゃない。身体能力的にも戦闘技術的にも俺が圧倒している。

 

 ゆえに、奴は俺を近づけたくなかったはずだ。

 本体の脆弱性、これこそが常闇に唯一見つけられた弱点。

 

 

 

 

「「(取った!!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

side 常闇踏影

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

「(さて・・・。)」

 

 目の前の敵を見る。

 構えもせず、薄ら笑いを浮かべこちらを見つめている。その姿はまさしく隙だらけ。

 

 しかし、実際には隙など無いのだろう。

 構えとは、相手の攻撃に対してなるべく迅速に対応するためのモノ。奴の「個性」の前では構えが必要になるはずがない。

 

 とにかく攻勢に出るべきだ。

 中距離を保ち、一方的に攻撃していればいずれ体力の問題も出てくるだろう。

 

 

『うおおおい!! 全然当たんねーー! 一回戦からそうだけど、神回避すぎるぞ先見ィ!!』

 

 

 全く当たらない。

 いや、それ以前だ。当たる気がしない。

 

 奴がこちらを見ている。

 そうだ、あの目だ。あの黄金の目ですべてを見切られている。まさしく慧眼無双、あらゆることを見通し、看破する恐るべき(まなこ)よ。

 

 そして想定外の体力。

 爆豪ほど逸脱していないが、それでも息切れすらしていないとは!

 

 ―――やはり、あの方法しかあるまい。

 

「ふ、攻撃せねば勝利を掴むことはできないぞ。」

 

 挑発。

 何とかして先見に攻勢に移らせなくては

 

「では、お言葉に甘えて!」

 

 乗ってきた! ここで仕留める!

 

 広い攻撃範囲で当てようとした、体勢が崩れたところに攻撃を仕掛けた、意識の反対側から仕留めにかかった。

 

 しかし、すべて躱された。

 

 信じがたい。

 轟のような技術を基礎とした動きではない。「個性」に導かれるままの最適行動。

 

 よもや、これほどとは思わなんだ。

 

 先見が拳の届く範囲まで侵入してきた。

 絶体絶命というやつだろう。

 

 

 ―――しかし、ここにこそ勝機はある。

 

 

「(黒影(ダークシャドウ)!!)」

 

 奴は紙一重で黒影(ダークシャドウ)の攻撃を躱した。

 こちらに攻撃する直前、なるべく行動の無駄をなくすためにそうすると思っていた!

 

「(背後から襲え!!)」

 

 これこそが我が策略。

 先見がどれだけ先の未来を観ていようが関係ない。

 

 視界に映らない攻撃(・・・・・・・・・)

 

 これならば未来に映る事もない。これのみが無敵とさえ感じる先見の「個性」唯一の弱点!!

 

 

 

 

「「(取った!!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

『決・着ゥゥゥ!!!』

 

 やられた、背後からの奇襲とはな。

 

『激闘を制したのは―――!』

 

 俺の弱点だ。視界に映らなければ予測もクソもない。本当に―――

 

『勝者! 先見ィィィイィ!!!』

 

 危なかった(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「ば、ばかな・・・。背後からの攻撃に、どうやって反応した?」

 

 少し離れたところから声が聞こえてきた。

 思いっきり蹴ったのにもう意識が戻ってきたのか。確実に脳震盪にしたんだが。

 

「常闇、お前の判断は正しい。視界の外からの奇襲、これを俺は【未来視】で確認することができない。」

「ならば、なぜ・・・?」

 

 俺の「個性」がただの【未来視】ならそれでもよかった。

 しかし、

 

「攻撃は見れない。しかし、そのままだと意識を失うということはわかる。俺は「個性」で『意識を失わずにすむ未来』を直感的に理解したのさ。」

 

 未来視に攻撃は映らない。しかし、未来に視覚が途絶えるのはわかるのだ。

 視覚が途絶えるということは意識を失う、もしくは死ぬということ。

 

 背後から奇襲をかけるのならば、一撃で意識を刈り取るのではなく、背中でも殴りつけて動きを止めてから仕留めればよかったのだ。

 

 USJの時もそうだった。

 相手の攻撃なんぞ映らない。しかし、『死なずにすむ未来』にするにはどうすればいいかがわかる。それに従うことで脳無の攻撃を避けていたのだ。

 

「でたらめ・・・だな。なんという「個性」だ・・・」

「常闇の万能「個性」に言われたくねーな」

 

 本当に厄介な「個性」だった。

 

 今回の勝利は半分くらい運が良かっただけだろう。常闇が俺の「個性」を深く理解していたら、やられていたのは俺だった。

 事実として、俺は最後の最後まで背後からの奇襲に気付けなかった。それはすなわち戦闘での読み合いに負けた、ということだ。

 

 

 今回の勝因は一つ。

 俺の「個性(さいのう)」が常闇の予想を上回った。それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





常闇くんの口調がなんとなく好き。
えげつないくらい厨二ワード入れられるから。






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雄英体育祭:天才ゆえに

戦闘シーンむずいでーす

今回は少しばかり勘違い要素みたいなのがあります
いや、今回も・・・かな?






 トーナメントの二回戦が終了した。

 準決勝に進出するのは俺、轟、飯田、爆豪の4人だ。

 

 次の俺の対戦相手はあの(・・)爆豪だ。

 俺の常闇戦の後、切島と爆豪が戦い爆豪が勝利したのだ。

 

 心の底から切島を応援したのに・・・! 爆豪と戦うのは嫌だったのに・・・!!

 

 爆豪の「個性」はとんでもなく強力だが、それに耐えうる切島も十分に勝機がある戦いだと思っていた。

 

 しかし、結果は爆豪の勝利。

 

 切島の戦法は爆豪の【爆破】を自らの【硬化】で耐え、カウンターを返すというものだった。

 この戦法なら爆豪の恐るべき戦闘センスもほとんど意味をなさなくなる。これは切島の「個性」と相性のいい戦法で、とてもいい選択だと俺も思った。試合が終わるまではね。

 

 ―――爆豪はその戦法すらねじ伏せた。

 

 切島の硬化が切れるまで殴り続ける。それだけだった。

 無尽蔵のスタミナ。そしてカウンターで何度も殴られたにもかかわらず、一切攻撃の手を緩めなかった耐久性と攻撃性の勝利というところか。

 

 しかも、試合を見ていた限り爆豪は切島の「個性」の特性を見切って、その上でゴリ押しを判断したようだ。

 

 なんであの「個性」と戦闘センスで頭脳的な戦略取るんだよ。もっとふんぞり返って慢心してくれないかな? これだから天才ってやつは苦手なんだ。

 

 

 

 

 

『準決勝第2試合の始まりダァァ!!!』

 

 プレゼントマイクの放送が聞こえる。

 ついに爆豪と戦闘を始めなければいけない。

 

「よお、よろしくな」

「・・・チッ」

 

 舌打ちされるのにもだいぶ慣れてきたな。

 俺と話すときいっつも舌打ちされるんだもん。何が気に入らないというんだ。

 

「おい、クソ金目。」

「なんだよ」

「手ェ抜いたら絶対にぶっ殺す。全力でかかってこい」

 

 こっちは何時だって全力だっつーの。手を抜いたこととか無いし。たぶん

 

「・・・爆豪相手に手を抜くわけないだろ?」

「チッ!!!」

 

 さっきより舌打ちが大きくなった。

 なんやねんなもう。

 

『それじゃあ行くぜ!! 爆豪勝己 対 先見賢人!』

 

 ま、いいか。割とやる気も出てるし、頑張りましょ。

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪(こいつ)のみじめに負ける顔は見物だろうからなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

side 爆豪勝己

 

 

 先見(クソ金目)が話しかけてきた。これから俺と()り合うってのに相変わらず舐めた態度だ。

 だが、どんな態度を取ろうが関係ねえ。俺は勝ちに行くだけだ。

 

 俺が欲しいのは完璧な勝利、全力のコイツを更に上回る事だ。

 

 釘は刺しておいた。手加減したなんて言い訳はさせねえ。だが――――

 

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

 

「その・・・・・・見下した目を止めろォ!!!」

 

 

 俺のことが眼中にない様な、必死になる必要すらないと言う様な、『敵』として見てもいないような。そんな目だ。

 

 

 

 コイツ(先見)他の連中(モブ共)とは違う。

 

『頂点かそれ以外しか(・・)無い』

 

 障害物競走が終わった後、しょうゆ顔にコイツが言ったセリフ。その通りだと思った。

 勝つってこと、絶対に負けねえってことはそう言うことだ。

 

 だから騎馬戦でもメンバーに誘った。他の生ぬるい考えの連中よりもよっぽど信用できたからだ。

 そこでコイツはカスみてぇなモブ共にも全力で対策を立てていた。俺が考えてた勝利(1000万P)より、よほど完璧な勝利を求めてた。みっともないくらい勝ちに餓えてた。・・・・・・俺よりも勝利に貪欲だった。

 

 始めは違った。

 俺を差し置いて、実力もないくせに半分野郎から宣戦布告される勘違い野郎だと思っていた。

 

 騎馬戦で思い知った。

 コイツも半分野郎と同じ、俺の上にいる壁だと分かった。半分野郎がコイツに宣戦布告したのはそのせいだろうと思った。

 

 

 だからこそ(・・・・・)

 

 

 コイツに『敵』としても見られないのは我慢ならねェ!!

 

 

 

 

 

 

「その目を止めろ先見ィィィィイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

「その目を止めろ先見ィィィィイ!!」

 

 は? 目?

 

 爆豪が爆速ターボとかいう方法で加速しながら突っ込んでくる。

 何時もの倍くらいはブチ切れてる様子だ。

 

 ―――よくわかんねえな。

 

 俺の間合いに入るとほぼ同時、俺の視界が爆炎に遮られた。

 

 ・・・視界を潰された? 目くらましか。

 

 爆風の調整と加速で頭上を飛び越え、死角からの奇襲を行う。

 

「チッ!」

「残念」

 

 ―――はずだったのだろう。

 視界を遮られた瞬間、即座に横へと逃げた。結果として奇襲は失敗、爆豪が攻撃しようと思った場所に俺はいなかったわけだ。

 

 壁で視界を遮り、未来視に映らないよう頭上などから背後へ、そして奇襲っと。

 俺の「個性」対策としては典型だな。それくらい想定してるぞ? 

 

「死ね!!!」

 

 殴りかかってきた。

 普通に殴るだけじゃ俺には当たらんがな。

 

「オォォラァ!!」

「・・・おっと?」

 

 爆発と体術の組み合わせ? こんなモン使ってたか?

 

 右の大振りを屈んで躱す。

 空ぶった右手を爆発で無理やり止め、裏拳へとつなげてきた。それも俺に当てる寸前で爆発による加速を付け加えて、だ。

 

 回避が間に合わない。

 やむを得ず右ひじで相手の腕を打ち上げて攻撃軌道を反らす。

 

 その後も爆発による加速、軌道変更、フェイント、そのまま攻撃したり。

 近接戦闘における「個性」の使い方が上手すぎる。今まで見せなかった奥の手だろうか?

 いちいち攻撃の速度が変化したりするから、俺じゃなければ圧倒されるかもしれない。

 

 メンドクサイ。

 ギリギリ躱せるが、攻撃の回転速度が速すぎて反撃に移りにくい。

 

 ―――が、このままスタミナ勝負になるのは下策だな。

 

 諦めて、一発受け止めよう。

 爆豪の「個性」は手のひら限定で爆発が起きる。だから未来視で見切り、手首を掴めば抑え込めるだろう。

 

「あ゛あああ!!」

「(あれえ?)」

 

 掴むのには成功した。

 しかし、抑えようとした腕を無理やり振りぬきやがった。とっさに後ろに跳んだせいもあるだろう。だが、まさか腕力だけで俺を投げ飛ばすとは。距離を取ることはできたが・・・。信じられんほどの身体能力だな。

 

「気ィ抜いてんじゃねえぞ!!!」

「・・・! まじかよ!」

 

 爆炎が迫る。

 初めての戦闘訓練。ビルの一角を吹き飛ばし、オールマイトに使用を禁止されていたソレを躊躇なく撃ってきた。

 

 チクショウ! 遠距離攻撃もあったか! 安全地帯もないのかよ?!

 

 こうなれば、距離が離れるのは自分の首を絞める結果にしかならない。しかし、距離を詰めても反撃できないし・・・。

 やっべ、詰みそう。

 

「クソ!」

「かかってこいゴラァ!!」

 

 悪態をつきながら前へ進む。

 不利だろうがなんだろうが、一方的に射程外から攻撃されるよりはましだ!

 

 ―――未来を観る。

 

 近づいても爆豪の優勢は変わらない。

 更に信じられないことだが、どんどんと洗練された攻撃を繰り出すようになってきている。細かな爆風による姿勢制御、手に気を取られた隙に繰り出されるただの蹴り(けんかキック)

 

『すげェ! 爆豪の動きがもうなんか意味不明だ!!?』

『「個性」を機動力や補助に使う奴は多いが、あそこまで変幻自在に使いこなす奴は少ないだろうな』

 

 放送席もべた褒めだ。

 対戦相手が自分じゃなけりゃ俺もそう思うよ。

 

『接近戦でほとんど無敵だった先見も押されてるぅ!! アイツが回避もできないって相当じゃねーか!?』

 

 俺の「個性」を使用してギリギリってことは、相当にヤバいですぜ。

 

 こうなりゃもう「個性」頼みだ。

 極小の隙でも、一瞬の隙でも構わない。俺が隙に気付かなくても構わない。『隙をついて攻撃する』未来が観えれば俺の勝ちだ。いくらなんでも微塵の隙も見せず攻撃し続けられるわけでもあるまい。

 

 爆豪も、勝ちたかったら遠距離攻撃に徹するべきだったな。

 

 不利かどうかも関係ない。

 勝つ確率なんざ、そもそも1%あればいいのだ。

 

 勝つ可能性がほぼ無かろうが俺は勝てる。絶対に勝てる。当然のように勝てるのだ。

 

 ―――なに?

 

 爆豪の振り下ろし。当然、横にはじいて躱す。

 すると、爆豪はそのまま地面に手をつき―――

 

「オラッ!」

 

 ズシン! と鈍く響く爆発音。

 ステージごと爆破し、衝撃で俺は後ろに吹き飛ばされた。

 

 後方に飛び退いたことによりダメージはゼロだが・・・・・・

 巻き上げられた砂煙によって、視界もまたゼロになった。度重なる爆音のせいで聴覚もイカレている。

 

 つまり、爆豪の事を完全に見失った。

 

 

 

「死ねクソがァァァ!!!」

 

 

 

 爆豪が砂煙の中から飛び出してくる。さっきまでいた場所とは逆方向から(・・・・・)

 

 考え方は常闇とほぼ同じ。

 視界に映らないようにした強襲。常闇と違い一撃で意識を刈り取るのではなく狙いは胴体。

 

 完璧な奇襲。

 冷静な思考で俺の「個性」を読み切った策略。流れるようにこの展開まで持ち込まれた。

 

 そして、渾身の拳が顔面へと吸い込まれる。

 

 

「ッがあ゛!!?」

 

 

 だから当然――――俺には通用しない。

 

 

『か、カウンターァァァァ!!? 爆豪がぶん殴られた!?』

 

 爆豪の策略は完璧だった。完璧すぎた(・・・・・)

 

 俺の「個性」の弱点は少ない。そして、俺はアイツが頭脳的な戦略を取れることを知っていた。

 だからこそ、これくらいしてくると信じていた。

 

 砂煙を巻き上げられた後、俺は即座に後ろを向いた。ここはもう賭けだった。

 爆豪が真っ直ぐ殴りに来たら当たり前に負ける。

 

 そして俺は賭けに勝った。

 砂煙が揺らぎ、「個性」を発動。爆豪の攻撃を読み切ってカウンターで迎撃した。

 

「ぐ、クソが・・・!!」 

 

『おおお! 爆豪立ち上がった!』

 

 残念ながら気絶させる未来は観れなかった。

 おそらく、ギリギリの「個性」発動だったゆえに、いいポイントを打ち抜く可能性が生まれなかったのだろう。

 

 だが、のんびりダメージの回復を待つほど優しくはない。

 「個性」発動。今度は俺がぶん殴りに行く。

 

 接近する俺に爆豪が反応する。

 両手で大きめの爆発を繰り出すことにより、俺が近づかないように牽制している。

 

 ―――無駄だがね?

 

 当たり前のように爆炎の密度の薄い場所を通り抜ける。

 爆豪の苦い表情が目に映った。

 

 この程度では牽制にもならない。無駄に「個性」を使うせいで隙が増えるだけだ。

 

 ―――終わりだ。

 

 間合いへ踏み込む。

 狙いは顎、いつも通り脳震盪狙いだ。

 

 爆豪の苦し紛れの反撃。

 今更そんなものには当たらない。

 

「シッ!」

 

 コツン と軽い手ごたえが返ってくる。

 

 未来で見た通りの光景。

 俺の掌底は完全に顎を捉えた。このまま脳震盪で気絶する。

 

 凄まじい形相で爆豪がこちらを見つめる。鬼のような面貌。

 勝利への執着が目の奥で燃えるように滾っている。

 

 しかし、無駄だ。既に終わりを観た(・・)。油断はない。

 俺の目には俺の勝利した後の未来が映っている。愉悦で顔が歪みそうだ。

 

 どれだけ悔しがろうと俺が勝者で、爆豪は敗北者だ。

 その表情に満足する。すばらしい、勝利っていうのはこうでなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛ああああ!!!」

 

 は?

 

 

 

 炸裂、爆発音、流れていく現実の視界。

 

 ――動けない。・・・吹っ飛ばされた?

 

 どこか遠くから歓声が聞こえる。

 

 ――? なぜだ? 俺の勝つ未来は?

 

 ミッドナイトが何か宣言している。更に歓声が増した。

 

 ――いや、おかしい。勝利する未来は既に観えていた。

 

 音がどんどん遠ざかっていく。

 

 ――なぜ? なんでだ? 気絶した(・・)はず。俺の「個性」で観た未来は絶対のはずだ。

 

 意識が落ちていくのがわかる。もはや音も光も感じられない。

 

 

 

 

 最後に意識に浮かんだのは、燃えるような意思を宿す爆豪の瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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敗北者

 目が覚めた。

 

 ベッド? 頭が痛い。 蛍光灯の明かりがまぶしい。 周りがカーテンに遮られている。

 

 ―――意識が覚醒してきた。

 ここは・・・・・・医務室?

 

「ああ・・・」

 

 思い出した。

 

「負けたか・・・」

 

 だんだんと戦闘の記憶がよみがえってきた。

 勝利の未来を観て、それを確定させ、憐れみを持って爆豪の表情を眺め―――

 

「ぶっ飛ばされた・・・と」

 

 まさに道化。滑稽極まりない。

 緩んだ顔を晒していないのが唯一の救いだろう。

 

 絶対勝ったと思ったのになぁ、いやホント―――

 

 

 ・・・・・・どうして負けたのだろう?

 

 

 ふと、そんな疑問が浮かんできた。

 

 戦闘の記憶は完全に戻った。だが、自分が敗北した理由が一向に分らない。

 あの時、俺の掌底は確実に爆豪の意識を奪うはずだった。今まで何度もやってきたことだ、感覚的にもこれ以上ないほど脳みそを揺らしてやったのは間違いない。

 

 ゆえに、倒れるはず。

 ダメージがどうとか、戦闘意欲がどうとか、そんなものとは関係なく。ただ単純に物理学的・生物学的な話として、脳震盪が起き、気絶するはずだ。

 

 ならば、なぜ? なぜ倒れなかった?

 

 そもそも倒れる未来だった。観た未来を忠実に再現したはずだ。

 

 ―――もしかして、【未来視】が外れた?

 

 馬鹿な。ありえない。

 今まで一度たりとも外れなかったのだ。

 俺がコイントスでコインの表が出る未来を観る限り永遠に表が出続ける。そういった「個性」のはずだ。

 

 一時期、自分の「個性」について調べた時は100回以上表を出し続けたこともある。

 【未来視】で観た未来は確定したモノのはず・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや? 目が覚めたのかい?」

「あ、・・・おはようございます。リカバリーガール」

 

 リカバリーガールがいたことを思い出す。

 ここが医務室ならば彼女が居るのは当然だ。

 

 改めて、自分の体を見る。

 ――傷跡はない。治療はすでに終了しているのだろう。

 

「俺はどれくらい寝てましたか?」

「ほんの15分ほどだよ。ああ、治療はしておいたからね。左の蟀谷(こめかみ)から火傷・裂傷・鼓膜破裂、あとはちょっと頭蓋骨にヒビが入ってたくらいだね」

 

 めちゃくちゃ大怪我じゃねーか。これ15分以下で治るの? 流石すぎる。

 

 気絶していた時間はそれほどでもないらしい。

 

 ということは、今は決勝戦の最中ということだろうか? もしくは始まる前?

 流石にちょっとは休憩を挟むだろうしな。スタミナお化けの爆豪でもそれは変わらないだろう。

 

 そう思ったとき、遠くから歓声が届いた。

 

「ああー・・・。」

「決勝戦が終わったみたいだねえ。」

 

 見損ねた。

 一人の観客として、爆豪と轟の戦いは興味あったんだけどな。どっちが勝ったんだろう。

 

 どうせこの後は閉会式だし、しばらく医務室でゆっくりしておこう。

 ついでに、負けて医務室に運ばれてきた奴と一緒に向かおうかなー。

 

 

 

 ―――しばらくすると、担架に乗せられて医務室にぼろぼろになった轟と意識を失った爆豪がつれてこられた。

 ・・・え? 二人とも気絶してんの?

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 決勝戦が終了し、閉会式・・・そして、表彰が行われた。

 

 ちなみに俺は3位だ。

 表彰台すら怪しいと思っていたのでかなり嬉しい。自分で言うのはなんだが大健闘というものだろう。

 

 決勝戦は爆豪の勝利で終わったようなので2位は轟、優勝者は爆豪となる。

 

 で、その爆豪は・・・

 

「ん゛ーー!! ん゛んんん!!!」

 

 かつて見たことが無いほどブチ切れている。

 目つきがヤバい、轟の方を向いて殺気?を飛ばしている。

 

 爆豪が医務室で目が覚めた後、とても・・・とっても大変だった。

 

 爆豪はいきなり轟に向かって「個性」を使って襲いかかり、その場にいた俺とセメントスの二人でどうにか抑え込んだ。そして、すぐに表彰式が始まってしまうから、やむを得ず鎖とセメントスの「個性」で無理やり表彰台に固定してやったのだ。

 

 ただでさえ疲れてんのに、・・・どうして猛獣の世話をしなければならないのか? 世の理不尽さに嘆きながらの作業だった。

 爆豪はなんかもう・・・あれだ。ヒーローに捕まえられた後にもがき続けるヴィランって感じだ。

 

「私が! メダルを持ってきた!!!」

 

 表彰はやっぱりこの人、オールマイト。観客席からも俺たちをうらやむ声が聞こえる。

 

 プレミア価値とか付きそうだよね『オールマイトが初めて授けたメダル』とか。

 ・・・・・・銅メダルじゃたいして売れんか。

 

「先見少年、よく頑張った。相性はあるが、隙のない君ならまだまだ上を目指せるだろう。ま、今回は爆豪少年の気迫勝ちといったところだね!」

「・・・・・・ありがとうございます。」

 

 オールマイトからメダルの授与と、激励をいただいた。

 

 ―――やっぱり調子が悪いな。いつもならもっといいセリフとか出てくるはずなんだけど。

 

 轟、爆豪にも同じように激励とメダルの授与が終わり、・・・爆豪はなんかアレだったが。

 最後は見事にオールマイトが滑って雄英体育祭は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

「あ゛ー、疲れた。」

 

 ようやく自宅に帰ってきた。

 どうやら、明日と明後日は休みらしく、休み明けまでにプロからの指名などを受け付けるようだ。

 

 つまり明日はぐっすり休める。

 お昼まで目覚めない所存である。

 人間の三大欲求たる睡眠欲を、これでもかと満たすつもりだ。

 

「に、しても」

 

 帰ってきて早速、録画した雄英体育祭の映像を見ていた。

 自分がどのタイミングで「個性」を使ったか、どのタイミングまでの未来を観ていたか。それを思い出しながら第一種目から最後のトーナメントまでを見返した。

 

「わからん」

 

 しかし、それでも、やっぱり、どうして爆豪に負けたのかがわからなかった。

 自分が未来を観たタイミングは記憶している。そして自分が観た内容の通りになっている。

 

 

 ―――『あの瞬間』以外は

 

 

 ただし、気づいたこともあった。

 

「あれ? 爆豪・・・いや、まじか?」

 

 信じがたいというか、信じきれないというか。

 ともあれ、スロー再生で見つづけていると気が付くことがあった。

 

 ――俺の掌底が顎に当たる。

 ――脳みそを揺らされた爆豪がふらつく。

 ――画面上の俺を睨む目が一瞬だけ裏返って・・・・・・

 

 ここ! こいつ気絶してるじゃん!!? 明らかにここで意識飛んでるよ!?

 

 その後の事は記憶と同じだが、そんなことはどうでもいい。

 明らかに気絶していた。目が裏返って白目になってたし。

 

 だが、そこから舞い戻って俺をぶっ飛ばしている。・・・・・・意味が分からない。

 

 いや、倒れなさいよ。気絶したでしょ? どうやって意識を戻したの?

 

 どうやら、気絶した(・・)ところまでは【未来視】で観た通りだったらしい。

 

 なおさら訳が分からないことになってしまった。謎が増えたぞ?

 

 改めて内容を整理してみるとこうなる。

 爆豪は俺の「個性」で観た通り確実に(・・・)気絶させられた。しかし、そこからなぜか(・・・)意識を取り戻して俺の事をぶっ飛ばした。

 重要なのは気絶した後で、意識を取り戻したことだ。

 

 どういった理屈で意識を取り戻したのか。それが俺の【未来視】を狂わせた原因だろう。

 

 

「――――わからんな・・・。」

 

 

 だが、全くわからない。

 何が原因だったのか、爆豪に何が起きたのか、それらがまるで分らない。

 

 しかし、糸口は見えた。

 同じように、気絶からすぐさま意識を取り戻した事例を探せばヒントが得られるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ――――フッ

 

 色々と探してみたが、どれもこれも失笑ものだった。

 ボクシングの試合などに見られたが・・・・・・やれ『気合いだ!』とか『意志の強さ』とか『執念が』とか、それで勝負に勝てるのなら苦労しないというのに。

 もう少し、精神論以外の意見を出してほしいものである。

 

 というか、インタビューされた選手はともかくとして、解説の人間までそう言っているのはいかがなものかと思う。解説という意味を調べてから解説役をしていただきたい。

 

「んー・・・。」

 

 その他にも、『パンチが鋭すぎてキレイに意識を失ったから』とか『予め気絶することを覚悟していた』とか・・・うんたらかんたら。

 

 ・・・・・・根拠ある理由をください!!

 

 だめだ、格闘技の解説役は使えん。精神論しか言っていない。

 ここは、誰かに相談をするべきだろう。誰か? また相澤先生か?

 ごーりてき、ごーりてき、言ってるから精神論を言うことは無かろう。

 

 とりあえず、反省はここまでにして置く。これ以上考えてもらちが明かないだろうからな。

 

 それよりも他に考えるべきことがあった。

 そう、俺は負けたのだ。訓練とか練習でとかではない。本番の大衆の前で負けを晒したのだ。

 

「・・・・・・悔しいな。」

 

 ポツリと声が漏れてしまう。

 実際悔しい。悔しくて、悔しくて―――

 

 

 

 

「よし、復讐計画でも練ろう。」

 

 

 

 

 反省なんて置いといて、やり返しを考えなくてはならない。

 爆豪に対して精神的屈辱を与えなくてはならない。轟はまあ許す。実際戦ってないし。

 

 休み明けからはプロヒーローのところへ研修?みたいなものが始まるから動けないが、復讐は絶対にする。

 俺は屈辱を忘れない男! 絶対にやり返すからな!! 具体的には期末の時とかに!

 

 

 

 






これ書いている時にヒロアカ2期のOP聞いてたんですが、いいっすね!
OPの常闇くんがカッコよすぎてもう・・・
厨二魂に突き刺さりやがる。





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職場体験へ

感想で疑問など多くいただきました。
けれどもまだ話せないのです。
モヤモヤしながら待っていただきたい。





 雄英体育祭が終わって二日後。

 天気はあいにくの雨。

 

「む・・・。」

 

 いつも通り通学路を歩いているのだが・・・。

 どうも視線を向けられているような気がする。

 

 周りを窺う。

 やはり、周囲の人間がちらちらとこちらに視線を向けている。

 

 なんだ・・・? 最近は誰かに狙われるようなことはしてないはずだが・・・?

 カツアゲも、他人の彼女をナンパしたりもしていない・・・いったいどうして?

 

「なあ、君。雄英の先見くんだろう?」

「はい、そうですが?」

 

 すると、なんかオッサンに話しかけられた。

 オッサンだと!? カツアゲはしてないってば!

 

「やっぱりそうか! いやー、良かったよ体育祭!」

「・・・ああ! ありがとうございます!」

 

 あ、そっか。テレビに出たんだった。そりゃ知名度も上がるか。

 昔でいうところのオリンピック銅メダリストみたいなもんだしな。

 

 なるほど、この視線は俺の監視じゃなくて好奇の視線だったのか。

 素晴らしい。一気に気分がよくなってきた。

 

「おっさんも熱くなって応援しちゃったよ~。頑張ってな! プロになっても応援するからな!!」

「ありがとうございます! 頑張ります!!」

 

 ふははは、もっと褒め称えろ!! 家族とかに俺と出会ったことを自慢してもいいんダヨ?

 

 すると、オッサンを皮切りにして周囲の人たちが一気に話しかけてきた。

 

「準決勝はおしかったな!」

「応援してたぞ!」

「次は頑張んな!!」

「地味だけどカッコよかったよ!!」

 

 これだよ、これを求めてヒーローを目指してる感じあるよね。

 贅沢をいうのならオッサンじゃなくて若者・・・女の子がよかったが。

 

 ていうか、ほとんど野郎なのはどうして? 4対1くらいで男の方が多いんだけど?

 

 ――――ハッ! そうか! (イケメン)か!!

 お゛のれ!! クラス最強のイケメンには勝てないってことか!? いいよなあ!! アイツは「個性」も派手だもんなあ!!! 映像で見るならアイツが一番だよなあ!!

 

 ・・・・・・爆豪よりは人気があると信じたい。あれよりはましだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよーう」

 

 喜んだり、落ち込んだりと、いろいろあったが無事教室へ。

 やはりというかなんというか、教室ではみんなが一気に有名人へとなってしまったことに戸惑いを覚えていた。

 

「超声かけられたよ来る途中!」

「おれもおれも」

「・・・俺、いきなり小学生にドンマイコールされたんだけど」

「ドンマイ」

 

 流石は雄英体育祭。

 ヴィラン襲撃の件で話題性もあったし、視聴率がよかったんだろう。

 特に最後のトーナメント戦まで行った人間はかなり名前が知られるようになったみたいだ。

 

「先見、先見。ほら、これ見てよ」

「ん? どした尾白?」

 

 尾白が俺に自分のスマホを見せてくる。

 

 ネットニュース? なになに・・・・・・

 

「おー、表彰式の写真じゃん。改めてみるとすげえ絵面になってるな。」

「ははは。」

 

 ギャグみたいになってる。爆豪のインパクト強すぎでしょ。

 

「ほら、この記事ニュースランキングのトップになってるんだよ」

「お? うわ・・・まじだ。この写真が全国に晒されてるとなると流石に爆豪が憐れだな。」

「誰が憐れだゴラァ!!!」

「「うおおおお!?」」

 

 びびった。

 いつの間に来てたんだよ爆豪。

 

 ドデカい舌打ちをかましながら自分の席へと爆豪は向かって行く。

 どうやら未だにイライラが続いているらしい。

 

 あの後、クラスの奴らに詳しいことを聞いたところ、なんでも轟が緑谷戦で使用していた左側の炎の個性を使用せずに爆豪と戦ったらしい。それを舐めプだと爆豪がブチ切れ、あの表彰式につながったというわけだ。

 

「はぁ・・・。」

 

 ため息も出るというものである。

 今の爆豪はまともに話を聞いてくれるか怪しい。俺と戦った時の最後について聞いてみたいんだが・・・。

 

 ちなみに表彰式が終わった後に聞いてみた時の対応がコレである。

 

『なあ、爆豪。俺と戦ったとき最後なにしたの?』

『あ゛? 知るかカス、失せろ!』

『すいませ~ん(こぇ~)』

 

 なんだろ・・・俺、アイツとまともに会話できる気がしない。

 せめてイラついてないときに会話したい。・・・・・・めったにないな。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。」

 

 相澤先生がいらっしゃった。

 クラス全員が一斉に席へ着席し、静かになる。

 

 訓練されたなあ、俺ら。

 相澤先生騒がしいと躊躇なく肉体言語で黙らせに来るから・・・。

 

「早速だが、今日の"ヒーロー情報学"は特別授業になる。」

 

 またテストかな。

 どうでもいいけど雄英の授業抜き打ちテスト多すぎませんかね?

 

 

「【コードネーム】ヒーロー名の考案だ。」

 

「「「「胸ふくらむ奴きたああああ!!!」」」」

 

 

 おおお、ヒーロー名か。かっちょいい奴考えないとな!!

 

「これは以前話した「プロからのドラフト指名」に関係してくる。指名が本格化してくるのは2、3年から・・・今回来た指名はあくまで"興味がある"程度のものだ。指名が撤回される可能性は十分にある。」

 

 ふむふむ。

 指名というより"スカウトの目に留まった"ってぐらいに考えておくべきかな?

 

「例年はもっとバラけるんだが、今年は二人に注目が偏った。」

 

 黒板に指名数が表示される。

 もっとも指名されているのは轟、その次に指名されているのが爆豪だ。

 この二人が三番目に多く指名されている奴と大きく差をつけている。ツートップ状態という奴か。

 

 ・・・・・・まあ、その三番目が俺なんだが。

 

「1位2位逆転してんじゃん」

「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな」

「ビビってんじゃねーよプロが!!!」

 

 うん、俺でも爆豪じゃなく轟を指名するな。怖いし。

 

「で、だ。これを踏まえいわゆる"職場体験"ってものに行ってもらう。プロとしての活動を実際に体験して、より実りある経験を積んで来いってことだ。」

 

「なるほど、それでヒーロー名か。」

「俄然楽しみになってきたぁ!」

 

 学生とは言えプロ活動するんだからヒーロー名を考えないといけないってことか。

 

「まあ、仮の名前ではあるんだが適当なモンは――

「つけたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 おや? ミッドナイト先生がやってきた。

 

「この時の名前が世間に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」

 

 相変わらず素晴らしい格好だ。

 様々な意味でギリギリだが、

 

 

パァン!!

 

 

「――何か言ったかしら。」

「イエ、なにも。」

 

 いきなりムチを鳴らしたかと思うと、ものすっごい睨まれました。

 いや、ほんとに何も言ってない。何かは思ったけど。どうしてわかったんですかね?

 

「というわけでだ。ネーミングセンスを査定してもらうためにミッドナイトを呼んだ。俺はそういうのできないからな。名前を考えるときは自分が将来成りたいイメージを持って名前を付けろ。それによって自分の目指すものが明確になる・・・・"名は体を表す"ってやつだ。」

 

 良いこと言うな相澤先生。

 将来のイメージ・・・ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 およそ15分後。全員だいたい考えがまとまってきた頃。

 

「さあー! できた人から発表してってね!!」

 

 は、発表形式ですか・・・。

 いや、まあ、世間に知らしめるものだから、ここで恥ずかしがるようでは意味が無いというのはわかるんだが・・・。

 

 続々とクラスメイトが自分の考えたヒーロー名を発表していく。どれも秀逸なネーミングだ。

 

「小学生のころから決めてあったの【フロッピー】」

「俺はコレ! 【烈怒頼雄斗《レッドライオット》】!」

「ヒアヒーロー【イヤホン=ジャック】」

        ・

        ・

        ・

 

「いいよ、いいよー! この調子でじゃんじゃん言っちゃって!!」

 

 皆そこそこのネーミングセンスだな。

 しかしまだまだ。ここらで真打登場と行こう。俺のネーミングセンスにひれ伏すがいいわ。

 

 

 

 

 

 

「【爆殺王】!」

「【魔眼王】!」

 

「そういうのは止めた方がいいわね。」

 

 なんだと!!??!?

 馬鹿な・・・。超かっこいいだろ、このネーミング。いったい何がいけないというんだ?

 

 しかし、爆豪はいいセンスしてやがる。

 戦闘センスだけではなくあらゆるセンスが一流ってことか・・・。油断ならん奴だ。

 

「えーと、あと決まってないのは――飯田君と、緑谷君ね。先見君と爆豪君はもいっかい別の考えて。」

 

 ボツ・・・だと・・・。

 あれ以上の名前となると・・・。ふむ・・・。

 

 おや、緑谷が決まったらしい。壇上に登っていく。

 

「えぇ? 緑谷それでいいのかあ?」

「うん・・・。今まで好きじゃなかったんだけど・・・"ある人"に意味を変えられて・・・。」

 

 【デク】

 緑谷のヒーロー名はそう記されていた。

 

 確か、でくの坊的な意味で貶されていた名前だったはず。

 けれども、緑谷の表情は晴れやかだった。

 初めての戦闘訓練の時に叫んでたな・・・・・・

 

「これが僕のヒーロー名です。」

 

 "「頑張れ」って感じのデク" だったな。

 

 

 

 

 

 

「爆殺卿!!」

「魔眼皇!!」

 

「違う。そうじゃない」

 

 馬鹿な!!!?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・結局、今回は名前をヒーロー名として扱うことになった。

 

 おかしい。

 あの後いくつものヒーロー名を挙げていったんだが、全部ボツにされてしまった。

 

 あれだな、俺が時代を先取りしすぎたんだな。

 まあ、俺がプロヒーローになる事には世間も俺に追いついてくるだろう。

 ふう、まったく。ミッドナイト先生ってばしょうがないなぁ。

 

「いやぁ・・・あの名前は無いよ、マジで」

「先見ちゃん、ネーミングセンスはダメダメだったのね」

 

「(ぐふぁ!!!?)」

 

 そんな感じでヒーロー名について話していると、思わぬダメージをいただいた。

 

「じ、耳郎ちゃん? 梅雨ちゃん?」

 

「ウチも大して自分のセンスを良いとは思ってないけど・・・。アレは無い。」

「ええ。あれはちょっと無いわ。」

 

 言葉の刃が俺の心を抉ってくる。

 もうヤメテ!! 俺のハートはズタボロだよ!!?

 

 同級生の女の子にセンスを罵倒されるのは想像以上に心にくる。

 うぐぐ、かっちょいいと思ったのに・・・・・・。

 

 しかし、事実として俺の案は全部ボツ。しょうがないから名前で登録される有り様だ。文句を言える資格が無い。

 

 割と落ち込んでいると、耳郎ちゃんと梅雨ちゃんが慌ててフォローに回ってくれた。

 

「え、えっと、ほら! 先見は他が色々優秀だしネーミングセンスが悪いことぐらい気にすることないって!!」

「そうよ、先見ちゃん。気にすることないわ。爆豪ちゃんも同じくらい悪いのだし。」

 

 フォローのようでそうでもない。

 ネーミングセンスが悪いことは覆らないんですね、わかります。

 

「ち、ちくしょう。中学校の奴らはどうして俺のセンスについて何も言ってくれなかったんだ・・・!」

 

 誰も文句とか言ってなかったのに・・・。「ピッタリだよ!」とか「ナイスセンス!」とか言ってくれてたのに・・・。

 あれか? 「ピッタリだよ(笑)」、「ナイスセンス(笑)」だったってことか?

 許せん。今度奴らの家に行ったらコーラで濡らした雑巾で床を拭きまくってやる。蟻が家の中で繁殖する恐怖におびえるがいい。

 

「それよりアレよ、職場体験学習! どこ行くか決めた?」

 

 耳郎ちゃんが話題を変えてくれた。

 職場体験か・・・。

 

「俺はもう提出したよ。即日提出した。」

「そうなの? で、どこにしたの?」

 

 どこにした・・・というか。

 

「指名が来てた事務所の中から、ヒーローランキング順に上から三つを候補に出したんだ。」

「え? そんな決め方でいいの?」

 

 と、言われてもな。

 活動地域もジャンルも特に希望が無いのだ。よほど特殊なジャンルじゃない限り「個性」が対応できないってこともないし・・・。

 

 ぶっちゃけどこでもいい。

 

「ほら、いい経験を積むことが目的でしょ? 様々なジャンルに取り組むことも経験だと思ってさ? だからジャンルとかにこだわらず、できるだけいい事務所を選んだんだよ。」

「それも一理あるわね。私はジャンルを決めてから選んだけれど、先見ちゃんみたいな選び方も良いと思うわ。」

 

 適当なことをほざいたが、割と納得してもらえたみたいだ。

 候補に出した事務所はどこも人気ヒーローだったが、結局どれになるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――職場体験当日。

 

 いい天気だ。

 遠出するのに天気が悪いと、それだけでめんどくささがアップするからな。

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場での着用は厳禁だ。落とすなよ。」

 

 相澤先生からの注意が始まった。

 

 外部へと生徒たちを出すわけだから心配もあるのだろう。

 ヒーロー科の人間はなんというか少々問題があるやつが多いからな。

 

「くれぐれも失礼の無いように。じゃあ行け!」

 

 クラスメイトがそれぞれの研修先へと向かう。

 中には九州まで行くやつもいたり、もちろん近場の事務所に行くやつもいる。

 

 ちなみに俺の研修先はここから近い。時間もかからず到着するだろう。

 

 えーと? 地図によると場所は・・・・・・。

 

「こっちか?」

 

 都心にも近く、どちらかと言えば雄英のある地域寄りの場所に事務所が建てられている。

 

 都市部は犯罪率の高さからヒーローの需要が高い。

 ゆえに、ヒーローの多くが都心部に事務所を構え、ヒーローが乱立する状況ができてしまう。

 ここで活躍するということは、そのヒーローの実力が確かなことを表している。

 

 つまり、ここは実力ある人気ヒーローの事務所。

 少しばかり緊張しながら中に入る。

 

「雄英高校から来ました。先見賢人です。よろしくお願いします。」

「・・・ああ、来たか。どうぞ、入ってくれ。」

 

 中にいたのは一人の男。

 木製のヘルメットのような頭部、黒のぴっちりとしたヒーロースーツ、そして腕がひと肌ではなく樹木のような質感を持っている。

 

「歓迎しよう。ようこそ"シンリンカムイヒーロー事務所"へ。」

 

 目の前にいるのは実力派人気若手ヒーロー"シンリンカムイ"だ。

 

 

 

 

 

 

 



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職場体験:不運は誰だ?

「ようこそ"シンリンカムイヒーロー事務所"へ。」

 

 ただいま職場体験一日目。

 到着した俺を歓迎してくれているのはこの事務所の所属ヒーロー"シンリンカムイ"だ。

 新進気鋭の若手実力派ヒーローとして今人気急上昇中の次世代を担うと言われているヒーロー。(緑谷出久調べ)

 

 人気ヒーローと一口に言っても様々な種類がある。

 

 例えばNO.2ヒーロー"エンデヴァー"。

 彼は最高の事件解決率を持つヒーローだ。

 すなわち本来の"ヒーロー活動"において優秀な成績を残しているヒーローだと言える。

 しかし、反面メディア出演等の所謂"副業"はCM出演程度でしかない。

 

 ・・・・・・要するに、人間的魅力ではなくヒーローとしての実力で人気を得ている、ということだ。

 

 例えばシンリンカムイと同時期に活躍しだした"マウントレディ"。

 彼女は「個性」の関係上二車線以上の大通りでしか活動できない。

 そのせいもあり、事件解決率はなかなかと言ったところ。

 しかし、その人気はシンリンカムイに勝るとも劣らないほどになっている。

 

 ―――そして彼女はとても見目麗しい。

 

 ・・・ぶっちゃけアイドル的人気が強い。

 

 シンリンカムイはどちらかと言えば前者。

 半生を追ったドキュメント番組から人気に火が付いたものの、ヒーローとしての実績で人気を得るタイプだ。

 

 ま、そもそもアイドル的人気を学んでもしょうがないし・・・。

 選ぶとしたらこういうのしかないよね。指名が来てた中で一番の有名どころだったし。

 

 で、さっきから気になってはいたが・・・・・・。

 

「あら? 先見さんもご一緒だったのですね。」

「みたいだね。よろしく、塩崎ちゃん。」

 

 塩崎茨。

 かつて一佳から聞いた1-Bの実力者。

 俺の天敵たる上鳴をトーナメントで瞬殺した女の子だ。

 

 あと、めっちゃ素直。めっちゃ優しい。

 初対面だと"騙しやすそうな子"だと思ったけど、なんかもう騙すのが申し訳なってくる。

 もはや、将来詐欺にあわないか心配になってきた子だ。

 

「ああ、指名は二人分枠が設けられているんだ。」

 

 正直言って知り合いがいるのは嬉しい。

 これが物間とかだったら殴り合い必至だったが、塩崎ちゃんに文句があろうはずもない。

 

「二人とも来るのは珍しいらしいんだが・・・。仲良くやってくれ。」

「わかりました。プロの現場ではたとえどんな人とでも協力する必要がある、ということですね。」

 

 言い方にトゲがある気がしますね!

 その言い方だと嫌々俺と協力するみたいに聞こえますよ?

 

 ちなみに、たぶんだが彼女に悪気はない。

 素直に思ったことを言っているだけだ。

 裏のない性格というか・・・。オブラートを切らしてるというか・・・。

 

「う、うむ。その通りだ。」

 

 シンリンカムイも、そのストレートな言い様にちょっとびっくりしてる。

 

「既に教えられているかもしれないが、協調性というのはヒーロー活動において非常に重要な要素となる。強力なヴィランや組織的なヴィランは、オールマイトのようなトップヒーローでなければ一人で相手取れるものではない。そう言ったときはヒーロー同士の連携が必要になる。他人との連携に慣れておくに越したことはない。」

 

 ヒーローが徒党を組んだヴィランには敵いませんって言うのもどうかと思うけどね。

 ま、所詮は公務員だし? あんまり期待されても困る。

 

 職業ヒーローと英雄(ヒーロー)は今の世の中別物なのだ。

 

「なるほど。非常にためになる話でした。ありがとうございます。」

 

 しかしながら、本心はともかくとして、ヨイショを忘れないのが俺である。

 ヒーローにだってコネくらい使えるでしょ。たぶん。

 さあ、俺の事を気に入れ。

 

「早速だが、これから市内のパトロールへと向かう。二人ともコスチュームを着て付いて来てくれ。」

 

 ふむ。あまりいい感触ではなかった。おだてられて喜ぶタイプではないようだ。

 普通に礼儀正しくするくらいに切り替えよう。

 

「分りました。・・・塩崎ちゃん更衣室に行っていいよ。俺はここで着替えるんで。」

「ありがとうございます。では、失礼しますわ。」

 

 塩崎ちゃんが更衣室に向かった後、俺の着替えはすぐに終わってしまい、手持ち無沙汰というか、気まずくなるのもどうかと思ったのでシンリンカムイに色々と聞いてみる。

 

「市内のパトロールというのは都心の方まで行くのですか?」

「いや、あくまで事務所付近の範囲だけだ。都心の方はヒーローが事務所を構えすぎてパトロールの意義がほとんど無くてな・・・。」

「たしかに犯罪率が高い分ヒーローの数も充実していますね。」

 

 トップヒーローの事務所も多く建てられている。

 オールマイトも確か六本木に事務所を持っていたはずだ。まあ、今は事務所付近よりも雄英付近で活動することの方が多いんじゃないかな。

 

「あと、ヒーローは基本的に自分の担当する地域で活動する。例外を除いて、他の地域で活動するには事前に申請をする必要がある。」

 

 地域のヒーローが決まっている。

 ということは、地域の犯罪率がヒーローとしての評価にも繋がるってことかな?

 

 その辺にいくらでもいるヒーローの地域はともかく、オールマイトとかの膝元で犯罪を犯す阿呆は・・・・・・?

 なるほど、「存在そのものが"抑止力"」だったか。誰だか知らんが上手いこと言ったものだな。

 

 おっと、塩崎ちゃんが出てきた。

 

「お待たせしました。」

「うむ。では行くぞ。」

 

 シンリンカムイを先頭にパトロールへと向かう。

 そうそう犯罪など起きるものではないし、真面目な人間を演じる一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・フラグだったかー。まいったなー。」

「先見さん!? 呆けている場合ではありませんよ!」

 

 さて、パトロールを始めておよそ2時間。

 いい加減歩くのもダルくなってきたし、カムイさん(こう呼べって言われた)に提供する話題もなくなってきたころ。

 

「いやー、天下の雄英サマは違うね。こんな状況でも冷静なんだもんなあ?」

 

 我々、割とピンチ。

 

 目の前にいるのは一人の男。

 派手な金髪に無駄に長い襟足。売れないホストみたいな格好だ。

 ―――異常なほど淀んだ目さえ見なければ、だが。

 

 男の後ろにはもう一人、俺たちが追いかけてきた奴がいる。

 

「でもさあ、そういう態度取られるのは、・・・・・・・・・ムカつくんだよね。」

 

 軽々と笑っていた雰囲気が一変する。

 空気が粘ついたモノへと変質し、わずかに気温が下がったような気さえする。

 

 男の身体が膨れ上がる。

 骨格から変形していっている。瞳孔は縦に割れ、爪は鋭く、歯は牙と呼ぶのが相応しい。

 

 変わり果てた男の姿は言うなれば獅子獣人。

 男から放たれる圧力。これはUSJでも感じた、本当のヴィランの圧力。

 ・・・いや、今回の場合は捕食者の気配とか言うべきか?

 

 塩崎ちゃんの頬を汗が伝う。

 俺と違って、彼女はヴィランと対峙するのはこれが初めてのはず。

 

「ヘイヘイ。緊張しすぎはいいことねーぞ?」

 

 塩崎ちゃんの肩に手を置きながら、彼女を落ち着かせる。

 

 経験者として、あと男の子として、カッコ着けるくらいはしないとな。

 

 ―――彼女が胸に溜まった息を吐き出す。

 

「・・・ありがとうございます。」

「ん。気にすんな。」

 

 もう落ち着いたか。優秀だな。

 

 (ヴィラン)の方を見る。

 油断してくれる様子はない。「個性」を振り回すだけのチンピラでもない。

 

 つまるところ、相手は一人前のヴィラン。対してこっちは半人前以下、カムイさん(保護者)もすぐには到着しない。

 

 

 ―――さて、何とかしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりはこうだ。

 

 はじめの方は穏やかだったパトロール。

 流石は人気ヒーローだけあって、一緒に歩いていると注目されたり手を振られたりとなかなか楽しかった。

 

 たまーに、写真撮られたりして塩崎ちゃんが恥ずかしそうにしたりもしてた。

 俺は勿論それを見ながらご満悦ですよ。

 

 カムイさんとしては街の人たちがヒーローの一挙一動を見ていること、ヒーローに対して向けられる期待の目だとかを体感してもらいたかったらしい。

 しかし塩崎ちゃんは期待を感じることで気を引き締めるタイプ、俺は期待されることや注目されることが大好きなタイプなので全く問題は無かった。正直言って二人ともプレッシャーとは無縁だ。

 

 カムイさんは割とプレッシャーとかを感じてしまうタイプらしく、地味に羨ましがられた。

 

 後はヒーロー活動のルールを説明したり、給料の仕組みだったり、副業の話などプロの詳しい話を聞きながらのんびり歩いていた。

 この時、パトロールはヒーローが姿を見せることで、犯罪への牽制と住民に安心感を与えることが目的。という話を聞いた時点で、俺のやる気はほぼ無くなっていた。3人で散歩してるくらいの気分だった。

 

 ―――しかし、突然カムイさんの端末が鳴り出し、平和な時間は終わった。

 

 俄かに表情を険しくするカムイさん。

 端末を確認しようとする――― 前に凄まじい音が、そして悲鳴が聞こえてきた。

 

 悲鳴が聞こえてきた方向にあるのは、銀行。

 カムイさんが走り出す。俺たちも遅れまいとその後をついて行くと―――

 

 

 

 ありがちな光景(・・・・・・・)が展開されていた。

 

 「個性」を使った銀行強盗。

 数人の男たちが金を鞄に突っ込んでいるところだ。

 

 どうやら脅しの一環として、銀行の外から「個性」をぶち込んだ後で侵入したらしい。

 おかげで通りに面したガラス窓は全部吹き飛んで、中にいた人たちは皆血まみれだ。窓際にいたであろう人に至っては、もはや助かるまい。

 

 派手にやったものである。

 後始末をする人にはご愁傷様というほかない。

 

「貴様等・・・!」

 

 勿論、カムイさんが事態の鎮圧へ動いた。

 

「懲戒! 先制必縛・・・"ウルシ鎖牢"!!」

 

 必殺技一発。

 それだけで犯人共を全員制圧した。

 

 デカいことをするくせに犯人たちはとんだ雑魚共で、ヴィランというよりチンピラだ。

 そして、犯人たちにとっては残念なことだが、カムイさんの"先制必縛『ウルシ鎖牢』"はこういった現場では大活躍する。

 

 近くで見てわかる事だが、腕の変形スピードや変形範囲が凄まじい。拘束、というより面制圧と呼ぶ方が相応しい。相手に不要なケガをさせる心配もないし、使い勝手のいい必殺技である。

 

 人質を取る暇も与えられず、全員制圧・・・。

 

 ――したかと思えたが、裏口側から奴らの仲間らしき男が顔を出した。

 

 おそらく一人で裏口でも見張っていたのだろう。

 そいつは仲間を助けようともせず、一目散に逃げ出した。

 

 良い逃げっぷりだなー、と思っていると。俺の横を何かが走り抜けて行った。

 

「待ちなさい!!」

 

 なんと、塩崎ちゃんが一人で追いかけているではないか。

 非常に険しい目をしている。現場に着いたときは血の気が引いた情けない顔をしてたのに。

 

 しかし、それはマズイ。

 俺達はヒーロー科だが、ヒーローの資格は持っていない。資格無所得者が「個性」を使用して他人に危害を加えるのは立派な犯罪行為だ。

 

 カムイさんは犯人を捕まえているからすぐには動けない。だから自分がいく。・・・とでも、考えたのだろうか?

 

「なっ!? ・・・先見君! 塩崎さんを追いかけてくれ!」

「了解です!」

 

 言われるまでもない。

 ダッシュで追いかける。急げば塩崎ちゃんを追いぬけるだろう。

 

 カムイさんの指示の意図は掴んでるつもりだ。

 俺の「個性」はすでに二人には説明してある。俺ならば「個性」を使ったかどうかなど、第三者にばれるはずないというコトも理解しているはず。

 

 他人に「個性」で危害を加えることは犯罪。

 しかし、犯罪者を捕まえることは犯罪ではない。

 そして、俺の「個性」使ったかどうかわからない。

 

 

 つまり、俺が犯人を捕らえればオールオッケーだな!

 

 

 しばらく塩崎ちゃんを追いかけると、人気のない・・・建設現場? のような所まで来た。

 周囲から覗かれない様な場所。つまり、いかにも(・・・・)な場所だ。

 

 で、そこには追い詰められた犯人と―――

 

 

 

 明らかに、ヤバそうな奴がいた。

 

 

 

 直感した。

 アレは、USJで出会った死柄木と同じモノだ。

 有り余る悪意が、隠すことない敵意が、正義の味方(ヒーロー)へブチまけられている。

 

 何かに不満があり過ぎて、何に不満があるかもわからなくなった奴だ。

 

 

 その瞬間、神を呪った俺は悪くないと思う。

 心底こう思ったものだ。

 

「(どんだけ運が悪いんだよ・・・。)」

 

 

 

 

 




「塩崎さんを追いかけてくれ!(ヴィランに手を出すのはヤメテ!)」
「了解です!(おk把握。ヴィランをボコしますね。)」

おお、人と人がわかりあうとは・・・かくも難しい・・・

被害状況の描写はマイルドな感じに、なっております(・・・・・・・)





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