第六駆逐隊行進曲 (kozuzu)
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第六駆逐隊行進曲

初めに言っておく。
これ、作者なーんも考えずに書いてます。
プロットとか、現実との整合性とかをぶち抜いて作者の妄想のままを垂れ流してます。
そんな感じのぐだぐだ感を許容できる方のみお進みくださいませ。


 深海悽艦との終戦から、かれこれ一年が経った。

 俺の現在の心境は、と言えば……。

 まあ、何だ。はっきりと言おうか。

 

 正直、現実味がない。

 

 今でも、これが夢で、朝起きたら今日の秘書艦が総員起こしをかけに来るんじゃないかって。

 遠征の出発時刻に帰還時刻、資材の残量、先方との演習の打ち合わせ、出撃ルートの確認、そんなことばかりが、空っぽの頭に浮かんでくる。

 今でも最前線で奴らとドンパチやってたのが日常で、何にもない平和な一日が過ぎると歯に何かが挟まっているような違和感がする。

 何故だろう。

 俺は、終戦を望んで、艦娘たちと終戦後の世界を語り合って戦ってきたはずだ。

 最終決戦でも前線を支え、奴等に最後の一撃の号令を下したのも俺だ。

 なのに、なんでだろうか。

 少しも、俺は戦争が終わったなんて思えないんだ。

 ……これじゃまるで、俺が終戦を望んでいなかったかのようだ。

 いい加減、戦争ボケした頭のままじゃマズイってことぐらいわかってんだけどなぁ。

 ………………さて、そんな俺の身の上話はともかく、現在は朝の6:30。

 早起きといえば早起きだが、さして言及すべき時間帯でもない。目を開ければ、木目の天井が見え、無地の緑のカーテンから差し込む朝日の光線が視界を横切っている。

 朝特有の気だるく、尚且つ心地のいい感覚を体感で10秒ほど享受し、「今日はこのまま布団から出たくねぇな……」というニート一直線な思考を何とか振り払う。

 まるで徹夜明けのサラリーマンみたいに気だるさを全身に纏って布団から這い出て、ずるずると窓際まで移動。カーテンの隙間からチラリと外の様子をうかがう。

 空は雲が漂い、ちゅんちゅんちゅんと雀が大層ご機嫌に朝の合唱を行っている。まあ、いつも通り、平凡で、平和で、歯に何か挟まったような違和感を覚える、穏やかな朝だ。

 上記のの通り、違和感の正体はわかりきっているのだ。その内、この違和感にも慣れるだろうさ。

 そんな感じで違和感をいつも通り適当に受け流し、徐々に意識を覚醒させていく。

 眼球を瞼の中で八の字を描くように回し、上、下、右、左、と眼球を運動させてから、カーテンを開け放った。

 シャアアア、とレールを釣り子が滑る音と共に、朝日が部屋の中に雪崩れ込む。

 

 

「……っ!」

 

「はにゃ!?」

 

「ぴゃああ!?」

 

「……」

 

 

 すると、後ろの方から可愛らしい奇声が鳴った。

 振り返れば、上半身を布団から起こし、うらめしそうな顔で睨む年相応に子供っぽい顔立ちをした黒髪の少女、「暁」。

 びっくりして肩を竦め、ぎゅっと瞼を閉じたまま硬直している茶髪の少女、「電」。

 未だに眠気が抜けきらないのか、体を起こしてぼーっとした表情で瞼を擦っている勝ち気そうな茶髪の少女、「雷」。

 最後に、何の反応も示さず、未だにすやすやと眠りこけている銀髪の少女、「響」。

 四者四様な寝起き姿に苦笑しつつ、俺は"元"第六駆逐隊の面々に向けて口を開いた。

 

 

「おはようさん。良い朝だぞ、お前ら」

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「もうすぐ朝飯出来るぞー。顔洗って着替えも済ませちまえよー」

 

「「「はーい(なのです)」」」

 

 

 ぱたぱたと駆けていく足音をBGMに、フライパンの上で油を弾くベーコンの焼き色を確かめて卵を落としていく。色気のない男料理だが、朝からインスタントやコンビニ弁当では味気ない上、栄養的にもよろしくないだろう。特に、成長期(・・・)のあいつらにとっては、栄養項目の確認は出撃時の装備や陣形の確認以上に熟考すべき項目だろう。

 ベーコンエッグの他、適当な盛り合わせとサラダを添えて、居間のちゃぶ台の上に並べていく。

 並べ終えたところで、開いたままの襖から隣の部屋、つまりは布団を並べていた寝室兼俺の書斎が見えた。その一番端っこで未だに布団を被って眠っていらっしゃる我らが眠り姫の姿が目に入る。

 毎度毎度、あいつは懲りもせずに……。

 

 

「おら響。気持ちのいい朝だぞ、いつまで寝こけてるつもりだ」

 

 

 そう言って、俺は容赦なく布団を剥ぎ取った。

 流石に布団を剥ぎ取られては寒さに耐えきれなかったのか、響がゆっくりと目を開ける。そのさまはまるで雪の妖精がごとく幻想的。しかして、自然と男を刺激する色気がある。成長したら、男泣かせの悪女になることうけあいだろう。

 そうして、その澄んだ氷のような目でこちらを一瞥した響は、即行目を閉じる。まるで何も見ていない、私はまだ夢の中のお花畑にいます、とばかりに。

 このやり取りも何度目か。

 無駄だと悟りつつも、俺は響に声をかける。

 

 

「おいこらお前、ほんとは起きてんだろ?」

 

「起きてなんかいないよ。全然起きてない。今の私はまるで白雪姫のようにぐっすりだよ」

 

「寝てるやつがそこまで饒舌なもんかよ……しかもそれ、眠ってる原因は眠気じゃなくてりんごの呪いだからな」

 

 

 無表情でくだらない戯言を垂れ流す響。側頭部に鈍痛を感じる。ちくしょう。初めに会った時はあんなに素直だったのに、何故こんなにも捻くれた奴になっちまったのか。俺の記憶では「了解、司令官の言うことなら従おう」と曇り無き眼で俺に接してくれていたのに。なぜだ。誰がこいつをここまで腐らせたのだろうか。

 そんな俺の苦悩など露知らず、響の奴は敷布団の下に潜るという強硬手段に出る。あくまでも徹底抗戦の構えを取る響に、俺は溜息を一つ吐き、かがんで目線をあわせた。

 

 

「おら、今日は一般(・・)の学校に行く日だろ? お前と言えど、初日から遅刻はカッコがつかねぇだろうが」

 

「私のカッコについては問題ない。私には暁姉さんがいるから、きっとそれ以上にアレなことにはならないはずだよ」

 

「否定出来ないのがなあ……! 暁だしなあ……!!」

 

 

 流れるような姉disにはもはや草も生えない。

 その間に、俺は響から敷布団も剥ぎ取ると、響の後ろにある押し入れに押し込む。ついでに押し入れに這っていこうとする響の匍匐前進を首根っこを掴んで持ち上げることで阻止した。

 ぶらーん、と。取っ捕まった猫みたいな情けない格好で、目を閉じたまま響は口を開く。

 

 

「司令官」

 

「俺はもう司令官じゃねぇって何度も……」

 

「じゃあ、あなた?」

 

「いつからおまえの旦那になったんだ俺は」

 

「カッコカリの指輪を渡された時」

 

「ぐうの音も出ない反論をアリガトな。でもカッコカリはあくまで(仮)だからノーカンだ」

 

「ぐぅ……」

 

「このタイミングで狸寝入りとかマジかおまえ」

 

「狸寝入りじゃない……これは、呪いだ。多分、情熱的なベーゼで覚醒する類の……ぐぅ……」

 

「おーけー。歯ァーくィしばりやがれこのマセガキィ!!」

 

 

 バチコン、と空いていた手で強烈なデコピンをお見舞いしてやると、流石の響もおでこを両手で押さえて両眼を開けた。

 

 

「ひどい。旦那からのいわれのない暴力を受けた。DV反対。いじめ、かっこ悪い」

 

「くだらねぇこといってねぇで、派手に空爆を受けたみたいな頭を雷あたりに梳かしてもらってこい」

 

「わかった。私も学習する女だからね。常識的にほっぺにちゅー、で手を打とう」

 

「俺のデコピンは三連装まで拡張可能だが?」

 

「不死鳥の秘密は、撤退のタイミングにもあるんだよ」

 

 

 そう言って上着だけ残し、擬音がつきそうなぐらい機敏な動きで洗面所まで駆けていく響。

 まあ、これもいつも通りだ。

 洗面所で暁が「髪がもどらない~~~!! 助けて雷ーーー!!」「たすけるわ」「はわわわ! 電もなのです! 雷ちゃん、電も髪が……!」という予定調和も聞こえてくる。そう。いつも通り、平凡で、平和で、穏やかで、少しばかり騒がしい、なんてことはない朝の一幕だ。

 

 

「……で、いつも通り、お前が最後に起きたのに一番早く席についてんだもんな」

 

「私の髪は素直ないい子だからね」

 

「その素直さ加減がどうにかして髪が生えてる本人に伝わってくれたら僥倖だね」

 

хорошо(ハラショー)。やはり司令官の作るベーコンエッグは最高だな」

 

「聞けよオラ」

 

 

 いつも通り騒がしく、頭の痛い朝だった。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「おし。これで大丈夫なはずだ」

 

 

 そう言って、俺はヒヨコのストラップ(暁セレクト)がぶら下がった鍵を時計回りに捻る。軽い手応えと共にガチャ、と鈍い音がして施錠が成功したことを確認。

 ガス、水道、電気、暁の忘れ物チェック(これだけ三重にやった)を済ませ、引き戸を何度か開閉する動作をして鍵がかかったことを再確認。今時珍しい木製の一軒家の門をくぐった。

 外に出ると、暁を取り囲むかのように塀の前に三人が立ち、何やら話込んでいた。

 まあ、大方三人による暁最終チェックだろう。

 普段の行いがアレとは言え、相変わらず日常生活的な面での信用は皆無だ。流石は暁としか言いようがない。

 だがまあ、戦争が終わってからの丸一年を使い、鎮守府の学校で一般の学校に慣れる為の訓練を重ねてきたわけだから、流石に三人も少しは暁のやつを認めているはずだろうさ。

 ほら、会話だってこの通り、幼馴染同士が忘れ物確認を行う程度に──

 

 

「いい? トイレに行きたくなったら、ちゃんと先生に言うのよ?」

 

「暁ちゃん。嫌なことを言われたら、ちゃんと嫌だって言うのですよ? 電との約束なのです」

 

「暁姉さん。なるべく派手にやらかしてくれていいからね? その分、私への注目が減るだろうから」

 

「てめぇら保護者か!」

 

 

 前言撤回。

 約一名を除いて全員がオカンと化していた。幼稚園から小学校に上がる娘を心配する母親かお前らは。ああ、残り一名の暁を煽っていたやつは言うまでもない。

 一喝してやるも、なおも心配そうな眼差し向ける二人と期待の眼差しを向ける一人。

 これにはため息を吐くしかない。

 

 

「……ったく、揃いも揃って。お前らの姉を信用してやれよ。これでも第一艦隊のレギュラーメンバーの一人だった艦娘だぞ? 学校程度でそこまで取り返しのつかねぇ失態なんざ演じねえだろうさ。なあ?」

 

 

 確認の意を込めて、自称一人前のレディの方へ水を向ける。

 

 

「だ、だだ、だいじょぶ。暁はだいじょうぶなんだから……!! ちゃんと艤装の整備と補給も済ませて……あれ!? ぎ、ぎそうつけてない! ど、どどどうしよう司令官、わた、わたしっ、しゅつげきに遅れちゃう!?」

 

「……、」

 

「……ふっ」

 

 

 響。その勝ち誇ったような顔を止めろ。三連装指弾食らわせるぞてめえ。

 ……しっかし、なんとまあ、第一艦隊旗艦を務めたこともある駆逐艦がなんてザマだ。一般の学校で本当にやっていけんのか、もう一年訓練積んだ方が良かったんじゃねかこれ。

 オラ、がーくがくしてきたぞ。

 そんな俺の表情を読み取ったのか、一番オカンの顔をしていた雷が拳を握ってこちらに向き直る。

 

 

「大丈夫、私がいるじゃない! 暁が何かやらかしても、私がなんとかフォローするから、きっと大丈夫よ!!」

 

「……雷、頼まれてくれるか?」

 

「任せて! もーっと雷を頼ってくれていいのよ!!」

 

 

 握った拳で胸を叩き、謎の説得力を生み出す雷に、俺はただただ平伏するしかない。

 しかし、脳裏で「雷に頼るのは今回限りだ」という誓いをたてる。この誓い、今回で何度目だっただろうか。

 いや、忘れるほど多くしていることから、やらなくてもいいような気がしてくるが、これを止めてしまえば、その先に待つのはいかずちマンマァアアア!!(堕落)であることは、自身の後輩が体を張って教えてくれた。

 因みに、その彼。今は海軍の幹部直属の部隊に在籍しており、エリート街道を絶賛邁進中である。勤務態度は非常に熱心で、健康管理も怠ったことがないとのこと。

 家では雷にべったりのねっとりのぐっちょんぐっちょんだとか風の噂で聞いたが、奴はいつごろ逮捕されるのだろうか。

 いや待てよ。その実狡猾な奴のことだから、そのままゴールインするかもしれない。

 ……いや、するな。間違いない。りんごが地面に落ちるぐらい確実にするだろう。ロリコンは狡猾で気色悪いってそれ昔から言われてるから。

 

 

 

 っと、話どころか思考がおかしな方向へ航行していた。

 とりあえず、暁のことは雷に一任しよう。それでもやらかすんだったら、まあ暁だった、ということにしよう。うん。俺は悪くないはずだ。……監督責任? はは、ワロス。

 

 

「……そんじゃま、表に車が待たせてあるはずだから、ぼちぼち行きますか」

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「……確かに、当日の足を貸してくれたら助かるとは言ったが……なんでよりにもよってコレで来るかなぁ……」

 

「ねえ、そろそろ自覚したらどうなんだい? 元連合艦隊関東支部総司令官殿。戦争の立役者かつ国民栄誉賞候補が不用意に「足を用意してくれ」なんて言ったらどうなるか」

 

 

「……いや、その、タクシーとか適当に手配してくれるかなーって。思って。大淀が、困ったことがあったら何でも言ってくれって言うから、じゃあ、まあよろしくーってな感じで……」

 

「司令官、さては馬鹿だね?」

 

 

 響の辛辣な言葉に、俺はぐうの音も出なかった。

 それも致し方ない。目の前のそれが、反論を許さなかったからだ。

 黒塗りのボディに白銀のライン。バックには日の丸の国旗。

 トヨタ・センチュリー。

 日本政府、内閣総理大臣の専用車として有名なこの車である。

 おかしい、俺は確かに大淀に「足をかしてくれないか?」と頼んだ。ああ、確かに「なるべく安全なやつな。できれば国産でー」と冗談めかして頼みはした。だが普通、トヨタ・センチュリー(これ)なんかをよこしてくるか? おかしいよな? だってこれ重役中の重役しか乗れないはずだろ? こんな戦争が終わってほぼニート生活してるやつに与えるべきもんじゃないよな?

 

 

「司令官。君は自身の立場をもっとよく理解するべきだ。君の最後の奮闘がなければ、この国どころか世界規模で人類が滅亡するところだったんだから」

 

「……俺が実際に戦ったわけじゃない、こともないが。それでも手柄の九割九部九厘はお前ら艦娘のもんだろう? なんだってこんな」

 

「どうでもいいから乗っちゃわないかい? さっきから人に見られてばかりだ。今に電が暴走して手当たり次第に衝突事故を起こすかもしれないよ?」

 

「……大淀にはもっと具体的に指示を出そう。そうしよう」

 

「そういう問題でもないと思うけど……はぁ。まあいいさ。それは、おいおい私が言い聞かせていくからね。私への愛と共に」

 

「ラストは不穏でしかねぇなおい」

 

 

 

 

 

 

 

 




電はエアーになって大気中に漂ってます。






23


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第六駆逐隊狂想曲

書いてなさ過ぎてわけわからんことになってるので、まあ、適当に流し読みでおなしゃす。
前にもかいたけど、何も考えずに書いた。後悔はない。


 あの後、観衆の目線をスポットライトのごとく浴びながら暁たちを学校に送り届けた。

 校庭前に現れたトヨタ・センチュリー(お偉いさんの証)で一悶着、結局初日に遅刻という輝かしい記録を打ち立てた四人は今頃クラスで質問責めにあっているところだろうか。

 ああ、あれが原因でいじめられたりなんかしたらまじで切腹モンだなぁ、と自責の念に駆られ第2種軍装の白い軍帽をずらして顔に乗せる。

 

 

「…………、はぁ……。しっかり、しねぇとなぁ……」

 

 

 呻くように呟く。

 声は帽子の中に篭ってぼやけ、外に伝播する頃には意味を成さない音に変わった。音は本当に走行しているのか怪しいほど静かな車内に消え、それきり何かしらの音が発されることはなかった。

 そんな不自然な静けさの中、軍装の左内ポケットに手を入れ、内容物の感触を確める。

 

 

「……ああ。まだ大丈夫だよ。まだ、な」

 

 

 先ほどから黙ってハンドルを握っていた白髪混じりの運転手は、特にその奇行に反応することなくクラッチを操作し、滑らかに車の速度を上げた。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「……おはよう大淀。今朝はどうもありがとうな」

 

「提督、おはようございます。血税の塊の乗り心地はいかがでしたか?」

 

「貴様やはりワザとか!?」

 

「いえいえ。私はただご自身の立場を弁えない提督に目に見える手段を採っただけですから」

 

「つまるところわざとじゃねーか!」

 

「見解の相違ですね。これ以上の議論は時間の浪費になるかと。そういうわけで、仕事しましょう。仕事」

 

「お前、戦争終わってから遠慮とかなくなったよなあー」

 

 

 以上、執務室に入って数秒の会話である。

 執務室、という言葉から連想して分かる通りここは戦前から使用している軍事施設、我らが横須賀鎮守府である。

 戦争が終わっているのに何故未だにこの施設が閉鎖されず運営されているのかと言えば、それは終戦後のごたごたの一つにまで遡る。

 水平線の和を取り戻したことで艦娘の兵器として存在理由がなくなり、その後の処遇で大いに揉め、国会では意見が真っ二つに割れた。

 鷹派の主張は「即刻全艦娘を解体し、元の戦争放棄状態に回帰すべき」というもので、鳩派のそれは「艦娘を人間として社会に復帰させる」というものだった。

 世論は艦娘への恩義から、鷹派の意見を一蹴。

 鳩派の意見を採用したが、今度は「もし艦娘がその力を陸で奮ったとしたら、どう責任をとるつもりだ」と鷹派が抜かし、国民置き去りでいつもの不毛国会へ突入した。

 そして、戦後処理でクッソいそがしい中、国会に証人喚問で呼び出された俺は誰も求めちゃいない野党の「こくみんのためのろんそう」に呆れ返り「なあ、こんなことしててもあんたらの支持率は上がらねえぞ?」なんてポロっと漏らしてしまい、お偉いさん方は大層お冠に。審議は中断。ネットは祭りになった。俺は控室で爆睡。結局いつもの通り憲法9条下りに落ち着いた。

 そこから全国の明石や夕張、妖精さん、整備士さんたちが血ヘドを吐きながら艦娘の部分解体の技術をものの二ヶ月で完成させ、鷹派の懸念を血走った目で「なんか文句あっか? アァン!?」と一蹴し、現在に至る。

 長くなったが、つまるところ艦娘の管理は戦前と殆ど変わらず鎮守府にある。責任を押し付けられたとも言う。

 餅は餅屋とばかりに全国の提督たちは未だに艦娘たちの管理職として維持されている。しかも結構高給取りで。

 こんだけ面倒なしがらみがあれば、色々とやるべきことがあるはずなのだが。

 

 

「あー、大淀。今日の仕事って何すんだ? あいつらの承認系書類全部終わらせたし、鎮守府の運営日誌は終業前の三十分まで書けない規則だろ?」

 

「何を言っているんですか提督。今日も仕事は山積みですよ? ほら、こんなに任務(ミッション)がタスクボードに」

 

「大淀。職場で、しかも就業時間中にネトゲをおっぱじめるのはどうかと思うのだが……」

 

「あ、宝玉落としましたよコイツ」

 

「なんでかなー。いっちゃん真面目だった大淀がなー」

 

 

 ここ最近、仕事がない。

 驚くほどに仕事がない。

 全くもって、仕事がない。

 あの生真面目眼鏡委員長キャラがオオヨドロップアウトするぐらいには仕事がない。

 朝、鎮守府に出勤して、執務室で大淀と駄弁って、終業時刻の三十分前に日誌を書いて一日が終了。

 これでサラリーマンの軽くうん十倍の給与を貰っているのだから、罪悪感がひどい。

 

 

「てーとく、あそこの棚のカントリー◯ームとってください」

 

「自分で取りに行けネトゲ廃人」

 

「今獣畜生の寝床に大きな樽と小さな樽でGG(グッドでグレート)なモーニングコールの準備を施しているので手が離せません」

 

「……仕事しよ」

 

 

 ネトゲ沼に浸かって罪悪感を感じなくなった大淀が少しだけ羨ましい。

 しかし、ここで足を少しでも沼に沈めれば、そのままネトゲの亡者(オオヨドロップアウト)に沼底まで引きずりこまれるのが目に見えている。

 なので、大人しく大淀にベル◯ースオリジナルの袋を投げつけ、自分の机に着く。

 なにやら沼の方から「私渾身のデコレーションが爆発四散した!?」という愉快な悲鳴が聞こえてくるが、心のバリアーでシャットアウト。

 PCを立ち上げ、大本営のページから自分のIDでログインし、とあるページを開く。

 

 「艦娘の里親及び後見人名簿」

 

 そう書かれたページを睨み、何度かマウスのホイールを上下させるが、ページは細かく上下に揺れ動くだけで、何一つ検索結果を表示することはなかった。

 

 

「……仕事、終了」

 

 

 顔をPCから上げると、「Quest falsed」というモニターの表示を背景に此方を睨め付ける大淀がいた。その表情はまるで、男っ気が全然ないと思っていた那智に婚約者を紹介され、危うく闇堕ちして深海悽艦になりかけた足柄のようだった。あとこれは実話である。

 

 

「提督、あなたは重大な罪を犯しました。当方は起訴も辞さない所存です」

 

 

 最高裁まで徹底抗戦してやると言わんばかりの形相で此方を威圧する大淀。

 しかし、俺は仕事中にネトゲをしている奴に好意で菓子を投げてやったにすぎない。怒られる筋合いは微塵もない。

 よって、上司としてそれなりの対応を採ることにした。

 

 

「……大淀、勤務態度悪化。至急矯正すべし。宛先、神通っと」

 

「神通さんはガチのやつじゃないですか! 冗談が通じないんですか提督!?」

 

「はは、きっと神通も張り切ってくれるだろうからさ──さっさと逝って来いこのクソニートがぁっ!!」

 

「ニートとは失礼な! 今こうして立派に働いてるじゃないですか何が問題だと言うんですか!!」

 

「職務中にゲームやってんのと経費でリンゴのカード買ってんのに決まってんだろうがオラァ!」

 

「だって仕方がないじゃないですか仕事がないんですもん! だって仕方がないじゃないですかDelight wo◯ksがイベガチャを連発しまくってくるんですもん!!」

 

「ラストはギルティ。送信」

 

 

 ボタンをタップ。

 

 

「な!? やってくれましたねこの鬼畜!! いーでしょう、ならばこちらは『提督が六駆メンバーを舐め回したいといっていました』と書いて送ってやります。宛先、神通さんッ!!」

 

「なにしくさってんだこのアマ! ……あ、響からメールだ」

 

 from 響

 

 今夜辺り、お風呂場でどうだい?

 

 

「さらっと参加してくんじゃねぇよ怖えぇよあいつ!」

 

「はっはー! 言質いただきましたよこのロリコン!!」

 

「うるせえ代わりに犯すぞてめぇ!!」

 

 

 

 因みにこの後、二人の端末に集合場所と時刻が淡々と書かれたfrom神通のメールが届き、後書きの「授業中にマナーモードにし忘れて授業中にナカチャンダヨーが鳴り続けました。鍛練、楽しみですね?」という文章で、今週の週末が終末になることを悟ったのだった。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 あの後ドッタンバッタン大騒ぎしていたら取り締まるのが得意なフレンズ、もとい憲兵にしょっぴかれて昼飯抜きになるという中々に愉快な業務を終え、鎮守府を後にした。そして、今は──

 

 

「うちの暁がすみません」

 

「いえいえ、暁ちゃんも初めての学校で緊張していただけだと思いますので。少し周りのみんなとスタートが違うだけで、とってもいい子ですよ」

 

「ありがとうございます。そう言っていただけると幸いです」

 

 

 よく分からないが高級そうな木彫りのオブジェに囲まれ、体をふんわりと受け止めてくれる焦げ茶色のソファーに姿勢を正して座り、学校の応接室で暁のクラスの担任と校長とで三者面談中だった。

 会話の内容からわかる通り、まあ予想通り暁がやらかした。半分以上俺の過失と言うか大淀の悪行のせいもあるのだが、本当に期待を裏切らない”れでぃ”っぷりに俺は閉口し目の前の御二方に平謝りするしかなかった。

 

 

 事の顛末としてはこうだ。

 件の車騒ぎのために朝のHRにあるはずだった恒例の自己紹介タイムが流れ、そのまま一時間目の授業に入ったらしい。

 暁たちはその間、職員室で各自の教室と席の位置などを説明され、時間割からちょいずれてしまった今日のタイムスケジュールを聞かされた後に、二時間目の授業から復帰という運びになったらしい。

 先生方も何かと気を回してくれていたようで、四人は各人(因みに全員別々の教室)のクラスの前まで連れ添い、一人一人別れていったらしい。

 響、電、雷、暁の順で別れて、最終的に残ったのが暁ということなのだが、姉妹たちの前では比較的安定(当社比)していた彼女が、案の定緊張でガッチガチになった。

 そんでまぁ、教室に入って黒板の前に立ち自己紹介タイムと相成ったのだが、そこで暁の思考はオーバーフローとオーバーヒートを併発したらしく、名前だけでいいものを所属艦隊から出撃方面まで事細かに報告し、そのまま「定時通信終わりっっっ!!」といって教室から出ていってしまったらしい。

 もはや何かのドッキリかと思うレベルだ。流石は暁。予想の斜め上をきりもみ回転上昇、その後ど派手なとんぼ返りをキメるような奇行に言葉もない。

 因みにその後は担任の先生が急いで暁を追いかけ、教室に連れ戻して何事もなかったかのように授業を始めてくれたらしい。担任の先生がいい人すぎてドック入りしそうだ。

 改めて担任の先生にお礼、そしてこれからも暁共々宜しくお願いします、と頭を下げる。

 これで一応、暁の不祥事は一段落といったところだろうか。……あとでPTAとかで問題にならんといいが。ママ友のコネクションは下手な海軍の上下関係より複雑怪奇な代物だろうし、トラブルになったら火消し作業に相等の労力が要るに違いないしなー。

 そんな懸念を心中で抱いていると、今まで事の成り行きを見守っていた六、七十がらみの温厚そうな顔つきの御老体──学校長の荻原氏が口を開いた。

 

 

「しかし、深谷様も大変ですね。お一人で四人のお子さんを養っていらっしゃるとは」

 

「ああいや、それほどでもありませんよ。あいつr──彼女たちも率先して家事を手伝ってくれたりしてますし、むしろ独り身の私としては助かっている面の方が多いですよ」

 

「ははは、ご謙遜を。職業柄、片親での子育てがどれほど大変かは弁えているつもりです。何かあれば、お気軽にご相談下さい」

 

「有難うございます。そうですね、その時はどうかよろしくお願いします」

 

 

 ニコニコと微笑むご老体からは特に悪意などは感じられないが、何分同じような手合いを相手に腹芸を重ねてきた手前、あまり居心地はよろしくない。

 自慢ではないが、教師や教官との面談でいい思い出がほぼない。つか、呼ばれるのはいつもやらかした時なので、この状況は俺のメンタルにとって針のむしろに等しい。

 表には出さないが、今座っている高級そうなシートから飛びのいて後ろにあるドアまでアクロバットに飛びのき、ダイナミック退室を決めたい。

 そんなネジが二、三本トびかけた思考をしていると、荻原さんが静かに表情を変えていく。

 やばい、なにか内心を晒すようなヘマをやらかしたか、と冷たい汗が背中を伝う。

 荻原さんが口を開く。

 

 

「深谷総司さん。これは、この学校長としてではなく私個人の言葉として受け取ってください」

 

「……はい」

 

「子供たちの明日を。未来を護っていただき、ありがとうございました」

 

「いえ、人として当然のことをしたまでです」

 

 

 ああ、そっちの話だったか。

 背中の冷や汗はすっと引いて、膓が冷えていく。

 右から左へ荻原氏の謝辞を受け流しながらぼんやりと考える。

 学校(ここ)に通う前までは、外出は鎮守府と家の往復だけだったのでほとんど実感が湧かなかったが、今朝響にも言われた通り、世間様からは英雄だの国民栄誉賞だのともてはやされているらしい。

 テレビで他人事のように言われるのと、実際に人から言われるのではかなり違うが、やはりここでも俺は自身が成したことを実感することはできなかった。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 響が編入されたクラスの教室に入ると、四人は教室の窓際付近に陣取り管を巻いていた。

 

 

「わりぃ。待たせたな」

 

「待ってなんかいないさ。私も今来たところだしね」

 

「はいはいテンプレテンプレ」

 

「解せぬ」

 

 

 響のアリガタイ気遣いを軽く受け流し、後ろ手で扉を閉じた。

 そうして四人の下へと机の合間を縫っていくと、夕日に照らされて仄かに艶を見せる黒髪が、学習机の天板の上で無造作に広がっていた。

 彼女の前後の机には何とも言えない表情をした電と雷が、こちらを見て双方両手を上に向けて軽く肩を竦めた。

 何があったかなんてさっき聞いた通りなので聞かずに、その黒髪の中心地に手を置いて、

 

 

「あれだ。まぁ、なんだ。その。……名前は覚えてもらえたんじゃないか?」

 

「所属艦隊と出撃先まで完璧に完璧に覚えられちゃったわよッ!!」

 

 

 頭が跳ね起きた。

 髪が乱舞。

 電と雷が修正。

 ここでまで僅か2秒足らず。

 

 

「もう、わたし学校行けない……。鎮守府に戻る」

 

「おいおい」

 

 

 再び頭が机に落ちる。

 ゴンって音がした。

 デコ抑え始めた。

 ……こりゃ、かなり重症だ。ほっといたら鳳翔さんとこの居酒屋で子供ビール飲んで愚痴ってそうな勢いだ。いっそのことそれでもいい気がしてきたし、その方が上手くいくような気もするが、ここで他人に丸投げってのは流石に無責任てもんだろう。

 

 

「なあ、暁。ちょいと真面目なお話だ」

 

 

 暁の隣の机の椅子を引き、目線を合わせるように姿勢を崩して座った。

 そうすると、髪の塊がずるずると蠢いて桃色に色づいた頬とアヒルのように窄められた口元がこちらを向いた。

 

 

「……なに?」

 

「失敗出来て、良かったじゃないか」

 

「…………はへ?」

 

 

 窄められていた口元が、緩んで間抜けな形になる。

 

 

「足柄たちから聞いてなかったか? 学校ってのはな、間違える場所なんだよ。間違えていい、場所なんだ」

 

「……」

 

 

 ゆっくりと、頭が持ち上がる。

 

 

「遅刻しちまった。じゃあ、今度からもうちょっと早く家を出よう。挨拶を間違えた。仕方ない、言いなおそう。入る教室間違えた。今度から、部屋の看板を見るようにしよう。問題を間違えちまった。うん、どこを間違えたのか見直そう。……しょっぱなの自己紹介、大失敗しちまった。だから──」

 

 

「「やり直そう」」

 

 

 口元はいつもの生意気そうな笑みをたたえていた。夕日を反射してアホみたいに綺麗な黒髪に右手を乗せる。わしゃわしゃっと乱暴に撫で繰り回すと、「うえあぁぁぁぁ……」と素っ頓狂な声が上がる。

 

 

「もう! 頭をなでなでしないでっていつも言ってるでしょう!? ていうか、撫でるんだったらもっと優しくしてってば!!」

 

「わりぃわりぃ。ついな。今度から気を付ける」

 

「それ戦時中から言ってるじゃないっ! その今度はいつくるのよ!?」

 

「当方は今後、全力をもって課題に取りんでいく所存であります」

 

「急に政治家みたいな言い訳しないでよ!? っていうかそれ治すってないわよね!?」

 

「雷、暁の髪のセット頼んだ。利根みたいなやつでお願いな」

 

「りょーかい!」

 

「あ、ちょっと雷!? せ、せめてwarspiteさんみたいな編み込みのやつで!」

 

「時間がないから利根さんヘヤーにするわね!」

 

「はにゃあ!? な、なんでこんなところに大人のご本が!??!??」

 

「……ふむ。この年でTS物か。この子は中々に見所があるね」

 

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる面子に溜息を一つ。こりゃあ、一筋縄じゃいかないな、と俺は笑った。

あと、昼飯を抜いたせいで腹の虫は泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに司令官さん。遅刻したのは司令官さんと大淀さんのせいですから、神通さんにきつーくお仕置きしていただくといいのです」

 

「……まじかよ」

 

 

全俺が泣いた。



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