セシリアは英国面 (タカがトンビ)
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始まりの日、彼女が英国面に落ちたわけ

 セシリア・オルコットはその日全てを失った。

 

 

 彼女の両親は突然の列車事故で亡くなり、一人残された彼女は莫大な遺産を相続する事になった。

 だがその遺産を狙う者が数多く現れた。

 

 

 名も知らぬ親戚を名乗る者。

 両親の元で働いていたという社員。

 両親に貸しがあったと言ってくる人。

 

 

 まだ若い彼女から金を奪おうとする金の亡者達であった。

 

 残された遺産を守るために彼女は頑張った。

 慣れない家業を行い両親の部下だった人達に命令を下し、自分に出来る限りの事を行っていた。

 しかし、その努力は全て無駄に終わってしまった。

 

 

 

 守るための一環として受けたISの試験によってA評価と高評価をとった彼女だがそれによりIS開発に尽力する必要が出来てしまったのだ。

 IS開発には国が関わるためどうしても断ることが出来なかった彼女はその合間に家業を両親の部下だった人達に任せた、任せてしまった。

 

 

 

 両親の部下だった人達による裏切りに気づいたのは彼女が代表候補生になった時であった。

 彼女の居なかった隙を狙い行われた裏切りによって気づいた時に残されていたのは両親の写真と個人的な身の回りの物、そしてオルコット家と言う家名だけであった。

 

 

 残されたオルコット家と言う家名は決して軽いものではなかった。

 維持のために必要な費用は代表候補生によって入ってくる収入のほとんどであった。

 

 

 良くて現状維持、

 それが今の彼女に出来る全力であった。

 

 

 家を失い使用人達を雇う余裕も無くなってしまった彼女は友人であった使用人とも別れる事になってしまう。

 もはや彼女の周りに頼れる人も居ない。

 

 

 

 

 

 彼女は悲しみ恨んだ、

 何故この様なことに、どうしたら良かったのか。

 そして悩んだ、これからどうすればいいのか。

 

 

 

 一時は全てを諦め自ら命を絶とうかとも思った。

 あるいは恨みを晴らすためテロ組織に加担しようかとも思った。

 

 

 

 たがそんなとき、彼女は思い出した。

 両親が生前、彼女に送った言葉を。

 

 

 

 

 

「英国貴族としての振る舞いを心がけてね」

 

 

貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)を忘れるな」

 

 

 

 

 そして彼女は目を覚ました。

 そうだ両親が残してくれたものは財産だけではないと。

 

 

 

「そうですわ、私にはお父様とお母様に託されたオルコット家が残ってますわ」

 

 

 

 彼女の目にはもう絶望は残っていなかった。

 その目にあるのは前に進む思いのみ。

 

 

「私はここに誓いましょう!

 英国貴族として、オルコット家を必ず再興してみせると!」

 

 

 

 その輝きに満ちたその目は決して曇ることはないだろう

 彼女の心に英国貴族としての思いが有る限り。

 

 

 

「私の縦ロールと紅茶、

 そして、心のパンジャンドラムに誓って!」

 

 

 

 しかし彼女の中の英国は何処かが少しズレていた。

 

 

 



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IS学園入学、彼女の悩み

 セシリア・オルコットは悩んでいた。

 

 

 オルコット再興のために彼女は自分が使える技術をさらに磨いた。

 幸い代表候補生となった事でIS学園への通行費と学費は国が負担してくれることになった。

 IS学園は寮暮らし、制服の購入の負担も国のおかげで無事に衣と住を確保することが出来た。

 

 

 しかし、

 

 

(紅茶…紅茶が足りませんわ)

 

 

 オルコット家は現在貧乏だ。

 今の彼女には、昔飲んでいたような紅茶を買う余裕はない。

 没落したあの日から残っていた紅茶は少しずつ飲んでいたがつい先日最後の紅茶を飲みきってしまったのだ。

 

 

(それにカロリーも、なんとか入学まで持たせてきましたが…)

 

 

 IS学園入学の日まで凌いでいた彼女だったがこれまたつい先日最後の食料を食べ終えてしまった。

 学食や購買はお買い得な値段だが今日の授業開始日まで開いていなかったのだ。

 つまり彼女には衣食住のうち食が圧倒的に足りないのである。

 

 

 先生の挨拶、クラスメイトの自己紹介を聞き流しながらセシリアは考える。

 カロリーの確保方法を、紅茶の補給方法を。

 考える後ろで他生徒の黄色い声が、唯一ISを動かせるという男子学生の声が聞こえる。

 だが、今のセシリアは完全にスルーしていた。

 

 

 気づいたら休み時間となっていた、だが彼女は動かない。悩みが、焦りが止まらないのだ。

 

 

(くっ、これなら自販機でいいから紅茶を買っておくべきでしたわね。

紅茶は冷静さを生み出してくれる、紅茶があれば冷静に考えられるでしょうに…)

 

 

 悩む、悩む、悩む。

 せめて食事だけでも、カロリーを安く摂取したい。

 そんなときだ、

 

 

「では授業の前に再来週のクラス対抗戦に出てもらうクラス代表を決めようと思う。

 クラス代表は対抗戦以外にも生徒会の開く会議や委員会にも出てもらう……まあわかりやすく言えばクラス長のようなものだな。

 一度決まると一年間の変更は無いのでそのつもりで、自薦他薦は問わない」

 

 

 担任である織斑千冬の発言を聞いた時、セシリアに電流走る。

 

 

(確かクラス対抗戦の優勝商品は学食のデザート半年間フリーパス!これですわ!)

 

 

 クラス代表に選ばれれば代表候補生としての給与に色がつくかもしれない、

 それに入学してすぐの今ならば専用機を持つ自分が優勝する可能性は非常に高い。

 

 

(これです、これですわ。優勝すればデザート食べ放題で食費は浮きますし、

 成果を出せば給与が増え紅茶の購入する余裕が出来るかもしれません)

 

 

 そうと考えれば行動は早いほうがいい、そんなパンジャンドラム精神を持ったセシリアは大きく発言しようとした。

 

 

「私が立こ「織斑君を推薦します!」うぇっ!」

 

 

「そうだねせっかくの男子なんだから男子が代表のほうが面白いよね!」

 

「私も織斑君を推薦しまーす!」

 

 

 一人が推薦すると次から次にあがる推薦。

 

 

(こ、このままではいけませんわ。いくら珍しいとはいえ彼は完全な初心者。

 これでは優勝の可能性が遠ざかってしまいますわ…

 わ、私のデザートフリーパスが…!)

 

 

 しかし、ここでデザートフリーパスが欲しいので何としてでも優勝したいので専用機を持ち実力が最もあると考える自分が代表になりたいですと言ってしまっていけない。

 なぜならそれは貴族らしくないからだ。

 

 

(いえ、ここで立ち止まってはダメですわセシリア。

 紅茶のためデザートフリーパスのため、まっすぐ進むのですわ)

 

 

 だがここで立ち止まるセシリアではない。

 目的のためにどこまでもまっすぐに突き進む、それがパンジャンドラムなのだから。

 

 心にパンジャンドラムを持つ彼女は決して突き進むことをやめないのだ。

 

 

 



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些細な一言、彼女はマジギレしました

 

 

「お、お待ちください!」

 

 

 挙手し立ち上がるセシリア

 その声に反応しクラスメイト全員の目が彼女に向かう。

 

(ううっ…視線が痛いですわ)

 

 

 だがここで止まらない、何故ならパンジャンドラムは止まれば壊れるだけだからだ。

 

 

「だ、男子であるという理由だけで推薦するのは問題があると思いますわ。

 クラス対抗戦という実力が必要な舞台があるのですからそれ相応の実力者がクラス代表になるべきであると私は提案いたしますわ」

 

 

 突然の発言にクラスメイトからの痛い視線

 今そういう流れじゃないだろ

 空気読めよといった視線の痛い嵐

 

 

(くっ、やはりなにか理由を。このままでは説得力が足りない気がしますわ、あと何か、何か理由を言わなければ…くっ頭が回りませんわ、紅茶、紅茶が足りない!)

 

 

 普段どおりの彼女だったならばここで終わったかもしれない。だが彼女には紅茶が足りなかった。

 紅茶の足りない彼女はイライラしていた、そりゃもう普段言わないようなことを言ってしまうぐらいイライラしていた。

 

 

(ええい、こうなれば一度私の評価をあえて下げることで何らかの展開を…)

 

 

「そもそも私としては(紅茶が簡単に手に入らない)文化として後進的な国で暮らさなければいけないなんて自体苦痛だというのに、その上――」

 

 

「イギリスだってメシマズ国家じゃないか…」

 

 

 一夏の一言によりセシリアから目の光が消えた。

 彼女らの中にあった混乱は今の一言により完全に消え失せた。

 

 

「……皆様、先程の言葉を訂正させていただきますわ。」

 

 

「日本を馬鹿にするような発言を行い誠に申し訳ございません。

 私、クラス代表になりたいがために少し熱くなり過ぎてしまったようです。」

 

 

「重ねて深くお詫びいたしますわ」深々と頭を下げる彼女に周りのクラスメイトは「わ、私達もちょっと浮かれすぎてたかもね」「そうそう、対抗戦なんだしちゃんと実力とか考えるべきだったかもね」

 

 

 セシリアは一夏の方を向くとにっこりとした笑顔で話しかけた。

 

 

「ありがとうございますわ、貴方のおかげで冷静さを取り戻すことができまし」

 

 

「あ、ああ、こっちも悪かった」

 

 

「所で代表の決め方なのですが、ここは実力を比べるために分かりやすくISによる試合で決めてはいかがでしょうか」

 

 

「えっ、いやでも俺まだISにほとんど乗ってないんだが」

 

 

「ISは乗れば乗るほど身に付くものです。今後を考えるならば今のうちに馴れておくことも大切ですわよ。

 それに貴方を推薦した方もちゃんといらっしゃるのだから推薦に答えるためにもよろしいのではないでしょうか」

 

 

 

「そ、そうかそう言うことなら試してみるかな」

 

 

 

「ええ、それがいいですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかくですから賭けをしませんか」

 

 

 

「いや、俺初心者だから普通に負けるぞ」

 

 

 

「いえそこまで大きい賭けではありませんわ、ただ、負けた方が勝った方に食事を奢るだけの単純な賭けですよ」

 

 

「ああ、それぐらいならOKだ。」

 

 

 

「そうですか、では賭けは成立ということで」

 

 

 

「あ、メニューは勝者が決めることで」

 

 

 

「えっ」

 

 

「大丈夫です、そんなに高い料理は選びませんわ。美味しい英国料理をおみま…こほん、食べさせてあげますよ。………ウナギゼリーとか(ボソッ」

 

 

「えっ」

 

 

 

「どうやら話はついたようだな、それでは一週間後の月曜日、第3アリーナにて試合を行う。

 織斑と、オルコットはしっかりと準備をしておくように」

 

「わかりました。」

 

 

「えっ」

 

 

 一夏は今も混乱状態にあった。

 彼は気づくのだろうか、自分の些細な一言によってパンジャンドラムに火が着いたことに。

 あるいはジャンピングタンクのロケットに火が着いていることに。

 

 

 確かなことはただ一つ、彼は彼女を怒らせてしまったのだ。

 

 

 

 



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