ドラえもん のび太と仮想世界 (断空我)
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プロローグ:剣の世界

新連載やってしまいました。

SAOの映画をみてしまった影響なのだ!

アニメの流れを汲んでいますが途中からゲームプラスオリジナル展開が起こります。




 これはもしもの話。

 

 機械いじりが好きだった少年と、ドジでまぬけで取り柄がない少年が出会ったら。

 

 親友となったネコ型ロボットが役目を終えて未来へ帰ったとき、本来なら見つかるはずだった贈り物を少年が知らなかったら。

 

 

 親友が帰ってきたと嘘を吐かれて傷つけられた少年が、もう一人の親友と必死に努力して自分を変えようとしていたら。

 

 これは、そんなもしもが積み重なって起こったお話。愛と勇気、友情が詰まった大冒険の数々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野比のび太は電話をしていた。

 

「今日の一時だね?」

 

『あぁ、ぴったりだからな。時間を間違えるなよ』

 

「大丈夫、昔ならともかく、今日は楽しませてもらうよ」

 

『大げさだな。とにかく、ログインの名前は前に打ち合わせしたとおりだからな?』

 

「わかっているよ。じゃあ、一時に」

 

 電話の相手は桐ヶ谷和人。野比のび太の数少ない親友といえる相手。

 

 彼と共に抽選で当てたゲームの正式サービスが今日からはじまるのだ。

 

 ソードアート・オンライン。

 

 世界初といわれるVRMMORPG。

 

 ネットゲームを少ししか知らないのび太も、このゲームにだけはのめりこんだ。

 

 親友の和人もこのゲームに嵌っていて。正式サービスを楽しみにしていた。

 

 二階の自室へ上がる前に、洗面所に立ち寄って顔を洗ったのび太は鏡を見る。

 

 特徴のない丸眼鏡と少し伸びた前髪、それ以外は特徴のない少年、それが野比のび太だ。

 

 それ以外は特徴のない少年。

 

 野比のび太だ。

 

 そんな彼は短い期間、未来からやってきたという猫型ロボットと幸せな時間を紡ぐ。

 

 猫型ロボットのドラえもんは、のび太のダメダメな未来を変えるためにやってきた。彼らは、いろいろな冒険や日常を通して未来を変えることに成功する。

 

 未来を変えたことで役目を果たしたドラえもんは元の時代へ帰ってしまい、のび太は一人となった。

 

 

――一人でも頑張る。

 

 その約束を守りながら、のび太は今日も頑張っている。

 

「ドラえもん、キミが今の僕を見たら、どう思うかな? ダメっていうかなぁ」

 

 ここにいない嘗ての親友の姿を思い出しながら、のび太は二階へ上がる。

 

 のび太の母親は買い物で夕方まで帰ってこない。

 

 とにかく、のんびりとプレイできるだろう。

 

 そう考えて自室のパソコンと繋いであるヘルメットを手に取る。

 

 ナーヴギア、仮想空間のフルダイブを確立させた道具であり、ソードアート・オンラインを行うための機械だ。

 

 仮想空間のフルダイブを確立させた道具であり、ソードアート・オンラインを行うための機械だ。

 

 のび太は、ヘルメットのようなナーヴギアで頭をすっぽりと覆う。ソードアート・オンラインを遊ぶために必要な情報はすでにインプットされている。

 

 現在時刻は12:56分。

 

 手続きをしている間に時間は過ぎるだろう。

 

「リンク・スタート」

 

 静かに呟いたのび太の意識は闇の中へ消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩い光の後、のび太はソードアート・オンラインの世界にある浮遊城塞、アインクラッドへ来ていた。

 

 ちらりと周りを見て、自分の体を見る。

 

 ゲーム中に設定した自分のアバターがそこにあった。

 

 手を動かして周りを見る。

 

 レンガ造りの建物や水が流れている噴水など。

 

 正式サービスが開始されたようで他のプレイヤーの姿がちらほらとある。

 

 のび太、いや、この世界ではノビタニヤンという名前にした彼は待ち人を探す。

 

 先に来ているはずなのだが、

 

「あ、ノビタニアン」

 

「キリト、早かったね」

 

 長身で黒髪の爽やかなイケメン。

 

 おそらくベータテスターのアバターのようだが、間違いない。親友のキリトだ。

 

 彼はのび太の名前を見て笑う。

 

「どうしたの?」

 

「いや、お前、名前を打ち間違えているぞ?これじゃあ、ノビタニアンだ」

 

「え!?わぁ、やっちゃった!」

 

 慌てるノビタニヤン改め、ノビタニアンは慌てた。

 

「リアルとあまり変化ないな」

 

「そうかなぁ?キリトはイケメンだね」

 

「まぁ、MMOのだいご味だろ」

 

 目の前にいる男性はリアルの彼よりも長身で勇者のようなイケメンだ。

 

「そうなのかな。それよりどうする?アイテムを整えて狩りに行こっか?」

 

「そうだな。行くか」

 

「うん」

 

 二人で道を歩きだす。

 

 商人の姿をしている人、NPCを見ていたり街を眺めているプレイヤー達の間をすり抜けて、目的の場所へ向かおうとした時。

 

「なぁ、兄ちゃんたち!!」

 

 振り返るとバンダナをした青年がこちらへやってくる。

 

「なぁ、アンタたち、ベータテスターだろ?」

 

「え、あぁ」

 

「そうだけど?」

 

「俺にレクチャーしてくれないか?今日初めてなんだよ」

 

「どうする?」

 

「いいんじゃないかな?僕達も試してみたいし……」

 

 二人は頷いて青年を見る。

 

「いいですよ。えっと」

 

「あぁ、俺の名前はクライン!よろしくな!」

 

「俺の名前はキリト」

 

「僕はノビタニアンだよ」

 

 自己紹介をした三人はアイテムを購入してフィールドの外へ出る。

 

 外には青いイノシシのモンスターがいた。

 

「どふぁお!?」

 

 イノシシの攻撃を受けたクラインは派手に吹き飛ぶ。

 

 彼の手の中には曲刀があるけれど、それを手放して腹を抑えている。

 

「衝撃はあるけれど、痛みはないでしょ?」

 

「いや、わ、わかっているけれど!?でも、さ!」

 

 SAOで痛みを感じることはない。だが、それと同じくらいの衝撃をプレイヤーは感じるようになっていた。

 

「クライン、さっきキリトが教えたとおりにソードスキルを使えばすぐに倒せるよ」

 

「わ、わかっているけれど!くそぉ」

 

 そう言いながら曲刀を構える。

 

 ぶつぶつとキリトが伝えた言葉の内容を復唱している。

 

 握りしめている曲刀がライトエフェクトを放つ。

 

 繰り出された一撃で目の前の青いイノシシは輝きを放って消滅する。

 

「うぉっしゃあああああああ!」

 

「初勝利おめでとう!」

 

「でもさ、あのイノシシはスライムレベルなんだ」

 

「うぇ!?マジかよ!?てっきり中ボスかなんかだと」

 

「「それはない」」

 

「二人ともひでぇ!?」

 

 クラインはキリトとノビタニアンへ叫ぶ。

 

 三人はしばらく大笑いする。

 

 笑い終えた後はひたすらわき続けるイノシシを狩り続けた。

 

 その間に三人のレベルが上がり、クラインに至ってはソードスキルを完全に使いこなせるほどになっていた。

 

 夕焼け空を見ながら三人は草原の上に寝転がっている。

 

「綺麗だね」

 

「あぁ」

 

「しかし、こうして見渡すと信じられねぇな。ここがゲームの中なんてよ。SAOを創った茅場晶彦は天才だぜ。すげぇな。マジ、この時代に生きててよかったぜ」

 

「大げさだと思うよ?」

 

 ノビタニアンが苦笑しながら言う。

 

 しかし、キリトは内心、同意していた。

 

「ここは剣一本でどこまでもいける」

 

「お前、相当のめりこんでいるな?」

 

 にやけるクラインにキリトは苦笑する。

 

「それで、どうするこの後?」

 

「このまま狩りを……って言いたいところだけどよ。一度、落ちるわ。これからに備えてアツアツのピザとジンジャーエールを用意しているんだよ」

 

「やりこむ気満々だね」

 

「おうよ!そうだ。もう一度、ログインしたら前までやっていたゲームの仲間と落ち合うんだけどよ。お前達もよかったら会ってみないか?」

 

「俺は……」

 

 クラインの提案にキリトは言葉を詰まらせる。

 

 あまり人と触れ合うことを得意としていないキリトは悩んでいるようだ。

 

「今回は遠慮しておくよ。また今度でいい?」

 

 それを察したノビタニアンが横から尋ねる。

 

「おう!それでもかまわないぜ!そうだ、フレンド登録しておこうぜ」

 

「うん」

 

 三人は互いにフレンド登録をした。

 

 クラインはログアウトしようとメニュー画面を開く。

 

 そこで異変に気付く。

 

「あれ、ログアウトボタンがねぇ」

 

「は?」

 

「え?」

 

 二人はぽかんとした表情を浮かべる。

 

「もう一度、確認してみろよ。メニューの一番下にあるだろ?」

 

「やっぱりどこにもねぇよ。お前らも見てみろよ」

 

 クラインに促されて二人もメニューウィンドウを開く。

 

 無かった。

 

 本来ならメニューの一番下にあったはずのログアウトボタンが綺麗になくなっていた。

 

「ねぇだろ?」

 

「うん」

 

「ない、な」

 

「おいおい、トラブルかぁ?しっかりしてくれよぉ、運営」

 

「そうだね」

 

「とにかく、お前のピザは残念だったな」

 

 キリトの指摘にクラインは注文したピザとジュースの種類を叫ぶ。

 

 そこまでショックだったのかと。

 

「とりあえず、GMコールしてみたら?システム側で何かしてくれるんじゃない?」

 

「試したけれど、反応がねぇんだよ。あぁっ!?くそっ、他に方法ってなかったっけ?」

 

「……いや、ない」

 

 キリトの中でむくむくと嫌な予感という考えが浮き上がる。

 

 その直後、

 

 世界に鐘の音が鳴り響く。

 

 音の出所を探る暇もないまま。

 

 三人は青い光に包まれて転移させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、どこだここ!?」

 

「始まりの街?」

 

「中央広場だ」

 

 キリトの言葉でノビタニアンが周りを見る。

 

 間違いない。始まりの街にあった中央広場だ。

 

 なぜ、ここに?

 

 その疑問を考えようとした時、周りに次々と人が転移されてくる。

 

 誰もが今の状況に理解できておらず困惑している。

 

「どうなっているの!?」

 

「ログアウトできるのか?」

 

「早く出せよ!」

 

「ママ~~~!」

 

 次第に苛立ちの声が広がり始める。

 

 そんな時だ。

 

「おい!上を見ろ!」

 

 反射的に上空を見上げる。

 

 そこでは異様なものが出現していた。

 

 深紅の市松模様に染め上げられ〈Warning!〉〈System Announcement〉の文字。

 

 やがて、その文字から赤い液体がどろどろと流れ出し、それは人の形を形成していく。

 

 出来上がったそれは身の丈が二メートルはあろうという巨大なローブを纏い、深く引き下げられたフードの下は暗闇で確認できない。

 

 呆然としていた彼の前に声が降りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もがその言葉の意味を理解できなかった。

 

 ローブの話は続く。

 

「私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

 その名前を聞いたキリトは衝撃を受ける。

 

 茅場晶彦。

 

 若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。

 

 彼のファンであり何度も雑誌や映像を見てきたキリトはわかる。

 

 この男の声はSAOの開発ディレクターにして、ナーヴギア基礎設計者本人だと。

 

「プレイヤーの諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかし、それは不具合ではない。繰り返す。それは不具合ではなく、ソードアート・オンライン“本来の仕様”である」

 

「し、仕様、だと」

 

 クラインが割れた声で呟く。

 

「諸君は今後、この城の頂を極めるまでゲームから自発的にログアウトすることはできない……また、外部の人間によってナーヴギアの停止、解除もありえない。もし、それを試みた場合……」

 

 やめろ、とキリトは心の中で漏らす。

 

 それ以上はダメだと。

 

「高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊して生命活動を停止させる」

 

 クラインが乾いた笑いを漏らす。

 

「ハハッ、何言ってんだ。アイツ?おかしいんじゃねぇか?できるわけねぇよ。これは、ナーヴギアはただのゲーム機じゃねぇか、脳を破壊するなんて」

 

「そ、そうだよね」

 

 彼に同意するようにノビタニアンが頷く。

 

 しかし、キリトは知っていた。

 

「原理的にありえなくはない」

 

「だからって!」

 

 頭上では茅場によって具体的な情報が伝えられているがクラインやノビタニアンは頭の中に入っていない。

 

 いや、入ってはいるが処理が追い付かないのだろう。

 

 残酷な事実が茅場から伝えられる。

 

「残念ながらプレイヤーの家族友人などが警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例は少なくない。その結果、既に二百十三名のプレイヤーがアインクラッド及び、現実世界から永久退場している」

 

 その言葉が事実通りなら二百人以上がゲームによって命を落としたと言える。

 

 ありえるのか?

 

 信じられない。

 

「信じない、俺は信じねぇぞ!」

 

 クラインが叫ぶ。しかし、あまりに弱弱しいそれは誰の耳にも届かない。

 

「諸君が向こう側へ置いてきた肉体を心配する必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアが大勢の死者が出ていることを含め、繰り返し報道している」

 

 目の前に映像が表示される。

 

 そのニュースはすべて茅場の事実通りの内容だ。

 

 尚、茅場の話によれば、プレイヤーの体は病院に搬送され、厳重な看護体制のもとに置かれるらしい。

 

「しかし、十分に留意してもらいたい。諸君にとってソードアート・オンラインは既にゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久消滅し、同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」

 

 その瞬間、キリト達は恐怖に押しつぶされそうになった。

 

 咄嗟にキリトは隣を見た。

 

 起こした行動は正解だった。

 

 彼の隣にいたノビタニアンは泣くことも、悲しむ様子もない。

 

 むしろ、強い瞳で赤いローブを見ていた。

 

「諸君がこのゲームから解放される条件はたった一つ、先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、そこに待つボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員を安全にログアウトすることを保証しよう」

 

 クラインが喚き、ガバッと立ち上がる。

 

「で、できるわきゃねぇだろうが!?ベータじゃ!碌に上がれなかっただろうが!?」

 

 その言葉は事実だ。

 

 二か月のベータテスト期間中にクリアされた層は九層。

 

 正式サービスには一万人以上のプレイヤーがいるが、この人数を総動員しても百層をクリアするのに、どのくらいかかるのかわからない。

 

 攻略にも己の命を懸けるのだ。

 

「それでは最後に、諸君にとってこの世界が現実であるという証明を見せよう。諸君のアイテムストレージへ私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ」

 

 それを聞いて、プレイヤー全員がメインメニューからアイテム欄のタブを叩き、それを見つける。

 

 アイテム名、手鏡。

 

 名前をタップして実体化させる。

 

 何の変哲もない鏡。

 

 そこに写されているものを見た時。

 

 全員が青い光に包まれる。

 

「うわっ!?」

 

「クライン!?……え?」

 

「ノビタニアン!?……わっ!」

 

 しばらくして光が消える。

 

「だ、大丈夫か?」

 

 光が消えて隣を見たキリトは言葉を失う。

 

 そこにいたのはイケメンの少年ではなく。

 

「……のび太?」

 

 目の前にいたのは現実世界における親友。

 

 その顔だった。

 

「え、和人?」

 

 向こうもこちらに気付いて本名を漏らす。

 

「お前ら、誰だ!?」

 

「お前こそ……って」

 

「もしかして、クライン?」

 

「どうなってんだよ!?」

 

「まるでスキャンを掛けたみたいな……待てよ。そうか、ナーヴギアは高密度の信号素子で頭から顔全体すっぽりと覆っている。脳だけじゃなくて顔も形も精細に把握できたんだ」

 

「でも、身長とか体格は?」

 

「待てよ。確か、初回に装着したときの……キャリブレーション?とかっていうので自分の体をあっちこっち触っただろ、それか?」

 

「成程、そういうことか」

 

 キリトは納得した。

 

 なぜ、こんなことをしたのか。

 

「これは現実だとアイツは言った。それを認識させるために顔や体などを再現させたんだ」

 

 周りでも動揺を隠せていない。

 

 何より先ほどまでの男女比が大きく変わっていた。

 

「でもよぉ、なんで、こんなことを」

 

「多分、すぐに教えてくれると思う」

 

 ノビタニアンが空を見上げる。

 

「諸君は今、なぜ?と思っているだろう。なぜ私が、SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦がこんなことをしたのかと。私の目的はどちらもでもない。それどころか、今の私はすでに一切の目的も理由も持たない。観賞するため、私はナーヴギアを、SAOを創り、今、全ては達成せしめられた」

 

 短い間をおいて、ゲームマスターは告げる。

 

「以上で“ソードアート・オンライン”正式サービスチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」

 

 そう言い、僅かな残響を残して、深紅のローブ姿が上昇していく。

 

 同時にフードの先端からどろどろしたものが流れ出し、最後に波紋を残して消え去っていき、ゲーム本来の色が世界に戻っていく。

 

「ウソだろ!?」

 

「ふざけるな!出せ!ここから出せよ!」

 

「ママ~~~~!」

 

「母ちゃん!!」

 

「嫌ぁあ!帰して!帰してよぉぉぉぉおお!」

 

 はじまりの街に様々な感情が渦巻く。

 

 その中でキリトとノビタニアンは非情にも理解してしまう。

 

 これは現実だ。

 

 茅場晶彦の語った内容は全て真実。

 

 自分たちは当分の間、数か月、あるいはそれ以上、現実世界に帰ることができない。そればかりか、母親や妹の顔を見ることも、会話をすることも永遠に来ないかもしれない。

 

 

 

――もし、この世界で死んでしまったら

 

 

 

 キリトの頭に浮かぶ。

 

 青いイノシシのタックルを受けてHPが0になった時。

 

 自分の体がはじけ飛ぶ姿を。

 

 ぽたりと今朝、雑誌で指を切った箇所から血が流れていく……ことはない。

 

 目の前のキリトの指から血は流れていなかった。

 

 息を吐いたキリトは二人に来るように促す。

 

 頷いたノビタニアンも後に続こうとした時。

 

 

――本当に偶然だった。

 

 

 小さな手がノビタニアンの腕を掴む。

 

「え?」

 

 驚いた顔をしてノビタニアンが見る。

 

 長い髪を地面につけてぺたんと座り込んでいる少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく聞け、この世界で生き残るためにはひたすら自分を強化しなきゃならない。MMORPGっていうのはプレイヤー間のリソース奪い合いなんだ。システムが供給する限られた金とアイテム、経験値をより多く獲得した奴だけが強くなれる。この街は同じことを考える連中に狩りつくされて、すぐに枯渇してしまう。おそらくモンスターのリポップをひたすら探し回る嵌めになる。今のうちに次の村へ拠点を移した方がいい。俺は道も危険なポイントも全部知っているから今のレベルでも安全にたどり着ける。すぐに次の場所に行く。お前も一緒に来い」

 

 ノビタニアンがいないことに気付かないまま、キリトは狭い通路でクラインと話をしていた。

 

「でも、でもよ。言ったろ。俺は他のゲームでダチだった奴らと徹夜で並んでソフトを買ったんだ。そいつらもログインしてさっきの広場にいるはずだ。置いて、行けねぇ」

 

 クラインという男は陽気で、人懐っこく、面倒見もいいんだろう。

 

 彼はその友達全員を一緒に連れて行きたいと思っている。

 

 キリトは頷くことができなかった。

 

 ノビタニアンを含め、あと一人ならなんとかできる。

 

 しかし、あと一人、もっと増えたら危うい。

 

 もし、大勢を連れて死者が出てしまった場合、茅場の言葉通りHP0が現実の死というのだとしたら。

 

 死んだ人の責任を背負うのはキリトだ。

 

 人の命を背負えるのだろうか?

 

 ぶるぶると吐き出しそうになる感情を必死に抑え込む。

 

 そんな考えを察したクラインが笑みを浮かべる。

 

「お前にこれ以上、世話になるわけにはいかないな。俺だって前のゲームじゃギルドの頭を張っていたんだしよ!大丈夫。今まで教わったテクでなんとかしてやるって!それに……これが全部悪趣味なイベントで、ログアウトできる可能性だってまだあるしな。だから、おめぇは気にしねぇで、次の村へ行ってくれ。俺がいうのも変だけど。お前とノビタニアンがいればなんとかなるかもしれない。そんな気が……する」

 

「……そうだな、アイツがいれば、なんとかなると思う」

 

 キリトの表情が柔らかくなる。

 

「また会おうぜ!」

 

「あぁ、何かあったらメッセージをくれ」

 

 そういってキリトはクラインと別れて走り出す。

 

「おい、キリト!」

 

 

 呼ばれてキリトは振り返る。

 

 

「お前、かわいい顔してやがんな!結構、好みだぜ!」

 

「お前も、その野武士面の方が十倍、似合っているよ!」

 

 二人は別れる。

 

 ちらりとキリトは振り返った。

 

 既にクラインの姿はない。広場へ仲間を探しに戻ったのだろう。

 

 誰もいない狭い路地裏を見て、キリトの中で棘のように罪悪感が突き刺さった。

 

「キリト」

 

 呼ばれて前を見る。

 

 そこにいたのは特徴もない、丸眼鏡をした少年。

 

 何の特徴もない。どこにでもいそうな。普通よりもドジで間抜けな子供。

 

 だが、キリトは知っている。

 

 どんな状況でも一人だけ諦めず、丸くて愛嬌のあるロボットと一緒に色々な大冒険をしてきた友達。

 

 誰よりも優しくて、一番、心の強い親友。

 

 彼がいれば、自分の心は折れない。

 

 どこまでもいけるだろう。

 

 そう感じさせる頼りになる相棒。

 

「行こう」

 

 微笑む親友の姿にキリトは頷く。

 

「あぁ、行こう!そして、俺達は生きる」

 

 

 

 

 

 こうして、ソードアート・オンラインはデスゲームとして開始された。



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01:ビーター

 ソードアート・オンラインの正式サービスから一か月が経過した。

 

 はじまりの街を抜け出したキリトとノビタニアン、そして街で出会った一人の少女。

 

「ねぇ、ノビタニアン、キリト、これからどうするの?」

 

 長い髪を揺らして尋ねる少女の名前はユウキ。

 

 はじまりの街でノビタニアンにヘルプを求めてから一緒に行動している片手剣使い。

 

「今日はこの街の広場へ行くんだよ」

 

「広場?」

 

 首を傾げるユウキにノビタニアンが苦笑する。

 

 このメンバーにおいてSAOの戦闘経験が豊富なキリトに続いてユウキは初心者にしてはベテランに匹敵する実力を有していた。

 

 片手剣を使っているノビタニアンは二人と違って盾を装備している。

 

 敵の攻撃を防いで二人が攻め込む。

 

 そんな戦闘スタイルが確立していた。

 

 三人は一カ月の間に様々な村を移り歩き、クエストをこなしている。

 

 最初のころと比べて三人の装備は色々と変わっている。似ているところがあるとすれば所持している剣くらいだろう。

 

 

 

――アニールブレード。

 

 

 第一層のクエストで手に入る武器だが、なかなかの強さを持っており他の階層においても使えるというらしい。

 

 ベータテスター経験者のキリトの言葉を信じて強化をしているが中々のものだ。

 

 ノビタニアンも一応はベータテスターなのだが、家の手伝い、補習などで熱心にプレイはできていない。

 

 だが、ソードスキルや危険なモンスターなどの知識は頭に入っている。

 

「どうして、そんなところに行くの?」

 

「第一層のボス部屋が見つかったからその会議をするんだよ」

 

 キリトの言葉にユウキが目を丸くする。

 

「あ!やっと見つかったんだ」

 

 ユウキの言葉にキリトは何とも言えない表情を浮かべる。

 

「ま、まぁ、一カ月、掛かっていることは仕方ないんじゃない?みんな、慎重なんだからさ」

 

 ノビタニアンの言葉でそんなものかとユウキは納得していた。

 

「さ、行こうぜ」

 

 キリトの言葉に二人は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソードアート・オンラインの正式サービススタートから一か月。

 

 プレイヤーは二種類に分かれた。

 

 一つははじまりの街に閉じこもり救助が来ることを望む人たち。

 

 もう一つが自ら街を抜け出して攻略のために奮闘する者達。後者においてはキリトを含めたベータテスターのほとんどが行動を起こしているという。

 

 しかし、既に死者が出ている。

 

 最初の死人はモンスターによるHP0ではなかった。

 

 自殺だった。

 

 情報でしか知らないが、とち狂った人間が外につながる淵へ飛び降りて自分の理論を実証するために飛び降りた。

 

 それを皮切りにというわけではないが、多くの人がトラップやモンスターによって命を落としている。

 

 一人、三人の前で命を落としたプレイヤーがいた。

 

 アニールブレードを取得するクエストにおいてキリト達を見捨てたソロプレイヤー。

 

 実際に人が死ぬ光景を見た時は三人ともショックが抜けなかった。

 

 思考で沈んでいたノビタニアンはある声で顔を上げる。

 

「はーい!それじゃ、そろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に!そこ……あと、三歩ほどこっち来ようか!」

 

 場所は迷宮区最寄りのトールバーナの街、そこで第一層のフロアボス攻略会議が開かれようとしていた。

 

 周りをノビタニアンは見る。

 

 

――四十七人。

 

 

 司会を担当している青年を含めたメンバー。

 

 それを見て、キリトは心の中で「少ないな」と思う。

 

 SAOでは一パーティーが最大八人までであり、計四十八の連結パーティーを作成することができる。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけれど、自己紹介しとくな!俺の名前は“ディアベル”。職業は気持ち的にナイトやっています!」

 

 間延びしたような挨拶に会場がどっと沸き、口笛や拍手に混じって「本当は勇者って言いたいんだろー?」というヤジが飛ぶ。

 

 今のヤジはおそらくディアベルのパーティーメンバーだろう。

 

 ディアベルは右手を掲げて場を制して、話し始める。

 

「こうして最前線で活動しているトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由はもう言わなくてもわかると思うけれど、今日、俺達のパーティーが第一層のボス部屋を発見した!」

 

 会場内がざわめく。

 

「そこのボスを倒して俺達はみんなに伝えなきゃいけない。このゲームは必ず攻略できるって!それがここにいるトッププレイヤーの義務だ。そうだろう?みんな!」

 

「そうだ!やってやろうぜ!」

 

「俺達ならやれる!」

 

 ディアベルの言葉に誰もがやる気に溢れていた。

 

 そんな空気に水を差すものがいる。

 

「ちょぉ待ってんか!ナイトはん」

 

 人垣が半分に割れてずかずかと前に出てきたのは、小柄ながらがっちりとした体格の男。

 

「ぷふ、なに?あの頭」

 

「ちょっと、ユウキ、聞こえちゃうよ」

 

「そういうノビタニアンも笑いこらえているでしょ?」

 

「ま、まぁ、あんな髪型を見ればねぇ」

 

 彼らの視線は乱入してきた男の頭。

 

 トゲトゲしているも〇っ〇ボールみたいな頭。それを見て笑いをこらえているのだ。

 

「こいつだけは言わせてもらわんと!仲間ごっこはできへんからな!」

 

「こいつっていうのは何かな?でも、発言するなら名乗ってもらいたいな」

 

「ワイはキバオウってもんや!こん中に詫びを入れなあかん奴らがおるはずや!」

 

「……詫び?誰にだい?もしかして、元ベータテスター経験者のことかな?」

 

 キバオウは吐き捨てる。

 

「はっ!決まっとるやろ!?ベータ上がりどもはこのクソゲームが始まった日にはじまりの街から消えよった。右も左もわからん九千人のニュービーを見捨てよった。その代わりにうまい狩場やクエストを独り占めしてジブンらだけぼんぼん強くなって。そのあともずぅっと知らんぷりや。この中にもおるはずやで!ベータ上がりっちゅうことを隠している奴が!そいつらに土下座さして、ため込んだ金やアイテムをこのボス戦のために吐き出してもらわな。パーティーメンバーとして命は預けられへんし、預かれんとワイはそう言うとるんや!!」

 

 キリトは顔をしかめる。

 

 元ベータテスターである自身も思うところがあるのだろう。

 

 だが、これを良しとしない“者達”がいた。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 手を上げたのはノビタニアン。

 

 彼は壇上へ向かう。

 

 その後ろへ続くのはユウキだ。

 

「お、おい」

 

 キリトの制止を聞かずに彼らはキバオウの前に立つ。

 

「発言いいかな?」

 

「い、いいよ」

 

「僕はノビタニアン、このゲームは初心者だよ。キバオウさんだよね?貴方はこのゲームで死んだ人数についてどのくらい知っていますか?」

 

「な、なんや、二千人や!それがどないした!」

 

「その中にベータテスターが何人含まれているか知っている?」

 

 続く形でユウキが尋ねる。

 

「……し、知らん」

 

「少なくとも三百人は含まれている。これはネズミからの情報だから間違いはないよ」

 

「な、なんやと!?」

 

「キバオウさん、貴方は見捨てたベータを許せないみたいだけど、全てのベータテスターが悪人というわけじゃないと思うんだ。初心者の僕をベータテスターの一人は見捨てずに助けて、いろいろと教えてくれた。そんな人もいるのにすべてが悪だって糾弾するのは間違っていると思うんだ」

 

「ぐっ」

 

「ボクもそう思うよ。あ、ユウキ。片手剣使いだよ~」

 

 のんびりとした口調のユウキが続き。

 

「ノビタニアンの話を付け加えると、ベータテスターだから命を落としたという可能性もあると思うんだ」

 

「ど、どうゆうこっちゃ!?」

 

「ベータテスターの人って、このゲームについて経験があるんでしょ?何も知らない人と違って経験があるから、死ぬかもしれないという線を読み間違えたんじゃないかな?少し前にあったこの剣を取得するクエストだって、ベータテスターの人によると内容に変更が入っている。だから、ベータの人がすべて悪いというのは間違いだと思う」

 

「俺も発言いいか?」

 

 二人に続いて屈強な肉体をした男が手を上げる。

 

「俺の名前はエギル。キバオウさん、アンタはこのガイドブックを知っているよな?」

 

 エギルが取り出したのはあるマークが記されているガイドブック。

 

 ノビタニアンやキリトが少しばかりの金を支払って作成されている。

 

「これは各町の道具屋で無料配布されているものだ」

 

「「((無料配布だと!?))」」

 

 キリトとノビタニアンは目を丸くする。

 

「これの作成に協力してくれたのはベータテスターだという。情報はあっちこっちにあったんだ。それなのに死んだ者がいたのは自分の中にいた情報を過信していたかもしれないということだ」

 

 そこでディアベルが話をまとめる。

 

「キバオウさん、キミの言うことは理解できる。俺だって右も左も判らないフィールドで何度も死にそうになりながらここまでたどり着いたわけだ。でも、今は前を見るべき時だ。元ベータテスターだって、いや、元ベータテスターだからこそ、ボス攻略のために必要な人材なんだ。彼らを排除して、結果、ボス討伐が失敗したら何の意味もないじゃないか」

 

「……ええわ、ここは引いといたる。でもな!ボス戦が終わったらきっちり白黒つけたるからなぁ!」

 

 そういってキバオウは席に戻る。

 

 ユウキとノビタニアンもキリトの方へ向かう。

 

「あぁ、疲れたよ」

 

「こっちは心臓が止まるかと思ったよ。びっくりさせるなよなぁ」

 

「だって!我慢できなかったんだよ!あんな悪口……といってもノビタニアンがほとんど言っちゃったんだけど」

 

 たははと苦笑する。

 

「じゃあ、攻略会議を再開したいと思う。まずは仲間や近くにいる人とパーティーを組んでくれ」

 

 ディアベルの言葉でキリトは青ざめるが。

 

「大丈夫、僕達と組もう」

 

「そうそう!あ、あの人、あぶれちゃったのかな?」

 

 ユウキは隅っこで動かないフードを深くかぶっている人物に気付いた。

 

「ボクが行ってくるよ」

 

「俺も行くよ」

 

 ユウキとキリトがフードの人物に近づいた。

 

「アンタ、あぶれたのか?」

 

「違うわ、周りが親しい人ばかりなだけよ」

 

「もしよかったらだけど、ボク達とパーティー組まない?」

 

「いいの?」

 

「うん!」

 

「僕も問題ないよ。自己紹介するね。僕はノビタニアン、こっちはユウキだよ」

 

「よろしくね!」

 

「えぇ、よろしく」

 

 二人はフードの少女を連れてキリトの元へ向かう。

 

 そのまま会議を続けようとした時、新たな攻略本が道具屋に並んだということで一時中断されて、全員がガイドブックを読み漁っていた。

 

 ボスの情報、武器について打ち合わせがなされて会議は解散する。

 

 ちなみにキリト、フードの少女、ユウキ、ノビタニアンのメンバーはE隊のおまけに振り分けられる。いわば、ボスの取り巻きコボルトを狩るというわき役。

 

 キバオウが去り際に悪態をついていった。

 

 どうやらノビタニアン達は先ほどの行動で目をつけられてしまったようだ。

 

「ボス討伐についていろいろと教えて」

 

 解散しようとした時、キリトへ少女が話しかける。

 

 それからが大変だった。

 

 少女はボス討伐を含め、SAOのゲーム知識がほとんどといっていいほどなく、キリトが付きっ切りで指導することとなった。

 

「あ、それならノビタニアン――」

 

「あぁいいよ。僕も」

 

「お腹すいたからノビタニアン、ごはん、食べに行こう!」

 

 有無を言わせずノビタニアンはユウキに連行された。

 

「マジかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 少女と別れてキリトが宿へ戻るとそこには先客がいた。

 

「ヨー、キー坊、お邪魔しているゾ」

 

 フードをかぶり、髭のようなものをペイントされた人物、情報屋アルゴがいた。

 

「よぉ、アルゴ……寛いでいるな」

 

「まぁナ。ノンビがおいしいパンを用意してくれるからな」

 

「おいおい」

 

 キリトがげんなりした表情でベッドの上で寛いでいるノビタニアンを見る。

 

 彼は既に寝ていた。

 

「いつも思うけれど、ノンビはオレっち達と別ベクトルの意味で天才だと思うナ~」

 

「それは否定しない」

 

 キリトが苦笑する。

 

 デスゲームと化した世界の中でマイペースで行動できる人間はすごいと純粋にキリトは思う。

 

「あれ、ユウキは?」

 

「見えていないのカ?」

 

 アルゴに言われてよく見るとノビタニアンの背中へくっつくように寝ている。

 

「兄妹……に見えるな」

 

「そうだな、これは何コルで売れるかな」

 

「やめろ」

 

 親友の名誉のため、キリトはアルゴに釘を刺す。

 

 情報屋アルゴ。

 

 彼女は金になる情報なら何でも商売にする。

 

 プライベートの情報から剣の売買まで“ネズミと話していると何万コルも払わされるぞ”という言葉まである。

 

 キリトとしては頼りになる情報屋とみていた。

 

「さテ、商売を始めるか」

 

 アルゴの言葉にキリトはため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度も攻略会議を重ねた。

 

 ボスの情報から討伐の流れまで。

 

 多くの会議を重ねた本日。

 

 ボス討伐のために迷宮区へ向かっていた。

 

 今のところボス部屋まで行くには迷宮区を通ってボス部屋を目指さないといけない。

 

 道中、湧き出すモンスターを倒しながらキリト達は後方で話をしていた。

 

「どうして、こんな団体行動をしないといけないの?」

 

「ボス部屋までに行く手段が足しかないからね。転移用のアイテムがあれば別なんだけどね」

 

 ノビタニアンが肩をすくめた。

 

 あれから少女はキリトの指導によって装備を変え、スキルもより洗練されたものとなりコボルト相手なら余裕で戦える。

 

 いや、それ以上の実力者になるだろう。

 

「キリトの目がゲーマーになっているよ!?」

 

「よくあることだから」

 

 キリトと付き合いの長いノビタニアンは気にする様子を見せなかった。

 

「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んでおれよ!ジブンらはワイのパーティーのサブ役でしかないんやからな。大人しく、狩り漏らしたコボルトの相手しとけや!」

 

 列から外れてキバオウが釘をさしてくる。

 

 その姿にユウキは嫌そうに顔を歪め。ノビタニアンは小さく頷いた。

 

 キリトは何かを探るようにキバオウの顔を見ている。

 

「どうしたの?」

 

 気づいたノビタニアンがキリトへ尋ねる。

 

「いや……何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮区を通ってボス部屋の前にたどり着く。

 

 ボス部屋。

 

 この中にいるボスを倒せば一層は攻略できる。

 

 まもなくボスと戦うという事に緊張していた。

 

「みんな」

 

 部屋の前でディアベルが振り返る。

 

 その目は決意で満ちていた。

 

「勝とうぜ!」

 

 一言に込められた言葉に誰もが大きく頷く。

 

 扉が開かれる。

 

「最終確認だ。今日の戦闘で俺達が相手をする“ルインコボルト・センチネル”はボスの取り巻きの雑魚扱いだけど十分に強敵だ。ざっと説明したけど、頭と胴体の大部分が金属鎧でがっちり守られているからまずはノビタニアンが奴の長柄斧を防ぎ、ソードスキルで跳ね上げさせるから、スイッチして残りのメンバーで畳みかけるんだ。絶対に集中力を切らすなよ?ボス戦では致命的になるからな」

 

「うん!」

 

「任せて」

 

「わかった」

 

 手順を確認したところで上空からモンスターが降り立つ。

 

 狼を思わせる顎を限界まで開き、吠える。

 

 ボスの名前が目の前に現れた。

 

 “インフィング・ザ・コボルトロード”。

 

 二メートルを超えるたくましい体躯。

 

 血に飢え、らんらんと輝く隻眼。

 

 右手に骨を削って作ったような斧を構え、左手にはバックラーを構え、腰には二メートル半ほどの長物がある。

 

「よし!ボスの武装は情報通りだ!これならいけるぞ!」

 

 ディアベルの指揮により各隊が突進していく。

 

 キバオウが率いるE隊と支援するG隊が取り巻きのルインコボルト・センチネルに飛び掛かりタゲをとる。

 

 だが、その中から一体が抜けて、こちらへ突進してくる。

 

「じゃ、行くね」

 

 迫ってくるルインコボルト・センチネルに盾を構えたノビタニアンが対応する。

 

 彼の剣が輝き、ソードスキル〈ソニックリープ〉を繰り出す。

 

 攻撃を受けてルインコボルト・センチネルの長柄斧が弾かれた。

 

「スイッチ!」

 

 入れ替わるように飛び出したのはフードの少女。

 

 彼女は手の中にある細剣を繰り出す。

 

 ソードスキル〈リニアー〉が。

 

 ユウキのソードスキル〈ホリゾンタル〉がルインコボルト・センチネルの命を奪っていく。

 

 止めとばかりにキリトがソードスキル〈スラント〉で止めを刺す。

 

 これによってセンチネルのHPを全損してその体を散らす。

 

「やったね」

 

「うん!」

 

「はじめてにしては良い連携だった」

 

 パン、パンとユウキ、ノビタニアン、キリトがハイタッチする。

 

 続いて、キリトが少女へ手を出す。

 

 ぽかんとしていたが彼の手とハイタッチする。

 

「次も行こう」

 

 四人は狩り漏れたルインコボルト・センチネルへ走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボスであるコボルトの討伐は順調に進んでいた。

 

 取り巻きのセンチネルもオマケといえる四人で処理していたのでキバオウの部隊もコボルト王の増援へ向かっている。

 

 取り巻きのコボルトを討伐したキリトへキバオウがそっと話しかける。

 

「アテが外れたやろ?ええ気味や」

 

「……は?」

 

 いきなりのことで意味が分からず、振り向きざまに声を上げる。

 

 残り一体もノビタニアンが屠っていたのでしばらく出現するのに少しばかり時間がかかるだろう。

 

「何が言いたいんだ?」

 

「ヘタな芝居をすんな。こっちはもう知っとるんや、ジブンがこのボス攻略にもぐりこんだ動機という奴をな」

 

「動機だと?ボスを倒す以外に理由があるのか?」

 

「何や開き直ったのか?ワイは知っているんや、ちゃんと聞かされたんやで?アンタが昔汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっていたことをなぁ!」

 

 LA、ラストアタック。

 

 キリトはベータテスト時代に数多くのボス戦で敵のHPゲージ残量を測りつつ最大威力のソードスキルを叩き込み、ラストアタックボーナスを狙うことを得意としていた。

 

 しかし、それはあくまでベータテスト時代において。

 

 キバオウはキリトが元ベータテスターだったころはおろか、当時のプレイスタイルまで知っているような口ぶりだった。

 

「(待てよ)」

 

 目の前の男は“聞いた”といった。

 

 それはつまるところ伝言情報ということだ。

 

 キリトはアルゴから自身の使用しているアニールブレードを売買している相手がキバオウだと聞いている。

 

 もしかしたらキバオウも元ベータテスターなのかと考えたが、この話からキリトは推察した。

 

 キバオウもある人物の代理人として動いていたのではないだろうか。

 

 黒幕はキバオウへベータ時代の情報を与えた。そうすることで元ベータテスターへの敵意を煽って操ることにした。

 

 ソイツの狙いはアニールブレードを奪い、自身の攻撃力をあげるためではなく、キリトの攻撃力を削ぎ、弱体化させて嘗て得意としていたLAボーナスの取得を妨げること。

 

「キバオウ……アンタにその話をした奴はどうやってベータテスト時代の情報を入手したんだ?」

 

「決まっとるやろ。えろう大金積んで、ネズミからベータ時代のネタを買ったいうとったわ」

 

――これは嘘だ。

 

 アルゴは自分のステータスを売ってもベータテスト関連の情報は絶対に売らない。

 

 その時、前線の方で動きがあった。

 

 ボスの四段あったHPゲージが遂に最後の一本へ突入したのだ。

 

 三本目のゲージを削った部隊が後退して代わりに回復を終えた部隊がボスへ突進していく。

 

 

 その際にディアベルは此方へ振り向き、不敵な笑みを浮かべる。

 

 コボルト王が猛々しい雄叫びを放つと壁の穴からセンチネルが湧き出す。

 

「雑魚こぼ、くれたるわ。案の定LA取りや」

 

 キバオウは自身の部隊へ戻っていく。

 

 彼とすれ違うようにノビタニアンが近づいてきた。

 

「何を話していたの?」

 

「……大丈夫だ、まずは敵を倒そう」

 

「あとで、話してね?」

 

「……あぁ」

 

 湧き出たセンチネルを倒すために二人は駆けだす。

 

 ノビタニアンが突っ込んでいく姿を見て、不意にキリトの頭にあることが浮かぶ。

 

 黒幕の正体。

 

 考えていることはLAを奪うこと。

 

 そんなことができる人物は誰か?

 

 キリトの頭の中の電気を誰かが付けた。

 

「キリト!」

 

 ノビタニアンの言葉で意識を戻して目の前のボスへソードスキルを放つ。

 

 センチネルを倒したところでボスの方も終わりが見えていた。

 

 コボルト王は雄叫びを上げて自身の武器を放り投げて、腰に下げている武器を取り出す。

 

「下がれ、俺が倒す!」

 

 ディアベルが指示を出しながら前へ飛び出す。

 

 剣が輝いている。

 

 LAを狙っているのだ。

 

 遠くからではっきりできないが湾刀にしては細すぎる。武器の輝きが違う。

 

 キリトは目を見開く。あれは湾刀じゃない。あれは上階のモンスターが使っていた。モンスター専用のカテゴリの野太刀。

 

「だ、ダメだ!」

 

「キリト!?」

 

 キリトは限界を超える勢いで叫ぶ。

 

「だ、ダメだ!下がれ!!全力で後ろに跳べ!」

 

 しかし、コボルト王の攻撃がディアベルを貫く。

 

 彼は目を見開き、宙を舞う。

 

 その動きでソードスキルもキャンセルされてしまう。

 

 刀専用ソードスキル、重範囲攻撃『旋車』

 

 攻撃によって部隊のHPが大幅に削られて行動不能状態となる。

 

「ノビタニアン!」

 

 咄嗟にキリトは叫ぶ。

 

 彼の名前を呼んだのは偶然だった。

 

 だが、相手は自分の考えを読んだ。

 

「行こう!」

 

 駆け出して道を阻もうとするセンチネルをノビタニアンが露払いして、キリトは走る。

 

 しかし、コボルト王が続いてソードスキル“浮舟”が放たれた。

 

 標的はディアベル。

 

 動けない彼はソードスキルを繰り出すこともできず。次撃の攻撃をその身に受けた。

 

 ソードスキル“緋扇”が彼を捉えた。

 

 遠くまで吹き飛ばされたディアベルにキリトが駆け寄る。

 

「おい!しっかりしろ……なんで」

 

「ベータテスターならわかるだろ?」

 

「……LAボーナス」

 

 やはり黒幕はディアベルだった。

 

 回復アイテムを取り出しているキリトの手を掴んでディアベルは訴える。

 

「すまない、キリトさん、あとは頼む。ボスを倒してくれ」

 

 そういって騎士ディアベルはその体を弾け散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーダーディアベルの死は戦っているメンバー全員に大ダメージを与えた。

 

 誰もが困惑して、悲鳴が上がる。

 

 死ぬという状況が想定外すぎて、誰もがどう行動に移せばいいのかわからくなっていた。

 

「なんで……なんでや、ディアベルはん。リーダーのアンタがなんで最初に」

 

 項垂れているキバオウへキリトが近づく。

 

 無理やり引っ張り上げて叫ぶ。

 

「へたっている場合じゃないだろ!!」

 

「な……なんやと?」

 

「E隊リーダーのアンタが腑抜けていたら仲間が死ぬぞ!いいか、センチネルは湧き出る。そいつらはアンタ達が対処するんだ!」

 

「……なら、ジブンはどうすんねん、一人とっとと逃げようちゅうんか?」

 

「そんなわけあるか……決まっているだろ?ボスのLAを取りに行くのさ」

 

 キリトはそういってアニールブレードを構える。

 

 騎士ディアベルは皆を逃がせ、ではなく、ボスを倒せといった。

 

 ディアベルの意思をキリトは継ぐことにした。

 

 これから行われるのは決戦、いや血戦だ。

 

 キリトの隣にノビタニアンが立つ。

 

 おそらく、これからやろうとしていることに気付いているのだろう。

 

「行くよ、キリト」

 

「すまない」

 

「違うでしょ?」

 

 苦笑しながらノビタニアンは言う。

 

「悪い、手伝ってくれ。ノビタニアン」

 

「うん!」

 

 頷いてキリトは後ろの二人を見る。

 

 キリトは「前線が崩壊したら即座に離脱しろ」というつもりだったが、それよりも早く少女とユウキが近づく。

 

「二人だけで行かせないよ。ボクも一緒に行く」

 

「私も行く。このまま逃げるなんてできない。私は戦う!」

 

「おいおい」

 

「大丈夫だよ」

 

 ポンとノビタニアンがキリトの肩を叩く。

 

「一たす一は二。二は一より強い!だよ!」

 

「懐かしいな。その言葉、マヤナ国だっけ?」

 

「うん」

 

 あの日の出来事を思い出してキリトは苦笑する。

 

「行くぞ!ボスを倒す!」

 

「おう!」

 

「「うん!」」

 

 走り出したとき、キリトの隣にいた少女がはためくフードを邪魔そうに掴み、一気に体からひきはがす。

 

 栗色の長髪をなびかせ、疾駆する少女の姿は一筋の流星のようなものだった。

 

 その姿に誰もが言葉を失う。

 

 生まれた静寂を逃さずにキリトは叫ぶ。

 

「全員!出口方向に下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」

 

 キリトの叫びと共に彼らは下がっていく。

 

「それでそれで!どうやってあれと戦うの?センチネルと同じ?」

 

「ああ、手順はセンチネルと同じ。ただ、かなり厄介だからな。気を付けろよ」

 

「うん!」

 

 地面を蹴り、ノビタニアンが駆けだす。

 

 コボルト王が両手で握っていた野太刀から左手を離し、左腰側へ構えようとしている。

 

 ノビタニアンのアニールブレードが輝き始めた。

 

 ”ソニックリープ”を繰り出す。

 

 ボスが構えていた太刀が緑色に輝き“辻風”が放たれる。

 

「ぐっ……くあっ!」

 

 交差した剣の衝撃でコボルト王とノビタニアンは二メートルほど後ろへ下がる。

 

 その後ろから少女のリニアーが、ユウキとキリトが繰り出したスラントがコボルト王を貫く。

 

 この攻撃でコボルト王のHPが減少するが、センチネルと比べてHPバーが多い相手だ。戦いはまだまだ続くことはわかっていた。

 

 入れ替わるように前へやってきたノビタニアンの一撃がコボルト王に突き刺さる。

 

 交代を繰り返してコボルト王へダメージを与えていく。

 

 このままいけばなんとかなるのではないだろうか?

 

 誰もがそう思い始めるが現実は甘くない。

 

 

「しまった!」

 

 ノビタニアンがソードスキルをキャンセルしようとして失敗する。

 

 そこをコボルト王の“幻月”が襲い掛かる。同じモーションから上下ランダムに発動するため、対応が遅れて咄嗟に盾を構えるも衝撃が強すぎて盾ごとノビタニアンの体を切り裂く。

 

 間に割って入ったユウキも敵の技を受けてしまう。

 

 “幻月”は技後硬直が短い。

 

 続いて繰り出されようとしているのはディアベルを殺した“緋扇”だ。

 

 させるわけにいかない!とキリトが前へ踏み出したとき。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

 

 後ろから野太い声と共に重たい一撃が突き刺さる。

 

「わっ!?」

 

 頭上を通過した攻撃にユウキが驚きの声を漏らす。

 

 攻撃をしたのは重武装の集団で構成されているリーダーを務めているエギルだ。

 

「あんたらがPOT飲み終えるまで、俺達が支える。ダメージディーラーにいつまでもタンクやられちゃ、立場ないからな」

 

 気づけば、エギルだけでなく、彼の仲間であるB隊のメンバーが集まってきていた。

 

 キリトの指示を受けながら戦いだすB隊メンバー。

 

 残されたキリト達四人はポーションを飲んで回復を待つ。

 

「キリト、倒しきれるかな?」

 

 その質問にキリトは冷静に考察する。

 

「行ける、いや、行くんだ」

 

 その言葉にノビタニアンは頷いた。

 

 回復を終えたメンバーは走り出す。

 

 その時、コボルト王がスキルを放つ。

 

 狙いは。

 

「“アスナ”避けろ!!」

 

 キリトの叫びに、細剣使いの少女、アスナはギリギリのところで攻撃を躱そうとする。

 

「させない!」

 

 振り下ろされようとしていた攻撃に片手剣ソードスキル“ソニックリープ”を放つユウキが踏み込む。

 

 ソードスキルが旋車を発動させようとしているコボルト王の左腰に突き刺さる。

 

 瞬間、コボルト王の巨体は空中で傾き、床へ叩きつけられた。

 

 起き上がろうと手足をばたつかせる。

 

「これは、転倒状態……」

 

 キリトは叫ぶ。

 

「全員、フルアタック!囲んでもいい!」

 

 エギルら、守りに専念していた部隊が鬱憤を晴らすように次々と攻撃を叩き込んでいく。

 

 賭けだ。

 

 これでコボルト王を倒しきればこちらの勝利。

 

 転倒から脱しられたら刀のソードスキルが炸裂してさらに不利な状況に持ち込まれてしまう。

 

 起き上がろうとするコボルト。

 

「終わらせるぞ!」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

「えぇ!」

 

 倒れているコボルト王へ四人は剣を構えて攻撃を仕掛ける。

 

 アスナのリニアーがコボルトの脇腹を。宙を舞うように跳ぶユウキのバーチカルがコボルトの肩へ。ノビタニアンのソニックリープが腹部へ。

 

 止めとばかりにキリトのバーチカル・アークを放った。

 

 コボルト王の巨躯が力を失い、後方へよろめき、体にひびが入り、その体が消滅する。

 

【Congraatulations!】の文字が現れる。

 

 誰もが言葉を失っていた。

 

 戦いを終えたメンバーはボスを倒したという事実を理解するのに少しばかり時間を有している。

 

 

 

 

しばらくして。

 

 

 

 

「やったあ!」

 

「やった!勝った!勝ったぞ!」

 

 両手を突き上げて叫ぶ者、仲間と抱き合う者、様々な喜びが沸き起こる。

 

 座り込んでいるキリト達へゆっくりと近づく大きな人影があった。

 

「見事な指揮だったぞ。それ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたのもんだ」

 

「いや、これは俺のだけの力じゃ成し遂げられなかったよ」

 

「エギルさん、だよね?さっきは助かりました、ありがとう!」

 

 ユウキがエギルへ体を向けてぺこりと頭を下げる。

 

「おう、良いってことよ!」

 

「僕からもお礼をさせてください。ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

 ノビタニアン、アスナからお辞儀をされてエギルは困惑した表情を浮かべる。

 

「当然のことをしただけだ、気にしなくていい」

 

 アスナがキリトへ近づき右手を差し伸べてくる。

 

「立てる?」

 

「ああ」

 

 右手をゆっくりとひっぱりあげられ、立ち上がった時だ。

 

「なんでだよ!!」

 

 そんな叫び声があがった。

 

 半ば裏返った、泣き叫んでいるかのような響きだ。

 

「なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだよ!」

 

 叫びの主はディアベルと共にいたメンバーの一人だ。

 

 キリトは言葉の意味がわからなかった。

 

「見殺し?」

 

「だって、そうだろ!?アンタはボスの使う技を知っていた!最初からあの情報をディアベルさんに伝えていれば、ディアベルさんは死ななかった!!」

 

 彼の言葉に黙っていなかったものがいた。

 

「ちょっと、待ってよ」

 

 ぶるぶると手を振るわせてノビタニアンが彼の前に立つ。

 

「キリトが見殺しにしたなんて言葉を取り消してよ」

 

「な、なんだと!?」

 

「僕達はこのボスを攻略するために集まっていたんだよ!それなのに誰かを見殺しにして何の意味があるの!?ないでしょ!?仲間の死を認められないからってその罪を押し付けようとしないでよ!!」

 

「ノビタニアン、やめろ」

 

 尚も詰め寄ろうとするノビタニアンをユウキとエギルが止める。

 

 ノビタニアンは涙を零しながら目の前の相手を睨んでいた。

 

 この場の空気がそれで止まろうとした時。

 

「オレ……オレ知っている!こいつは、元ベータテスターなんだ!ボスの攻撃パターンとかうまいクエスト、狩場とか、全部知っているんだ!知ってて隠していたんだ!」

 

 ユウキ達は黙っていなかった。

 

「攻略知識ならボク達も持っているはずだよ」

 

「そうだよ!」

 

「キミの言っていることは勝手な憶測だよ!」

 

「お、お前ら、こいつの肩を持つということは元ベータテスターってことなんじゃないのか!?」

 

 この空気は危ない。

 

 キリトは剣呑な空気にどうすればいいか考える。

 

 そして、

 

「あはははははは!冗談きついぜ、そいつらはニュービーだよ」

 

 笑いながらキリトは前に出る。

 

「だ、だけど、会議の時、お前を庇っていたじゃないか!」

 

「そ、そうだ!」

 

「お前らはわかっていないな。俺が指示を出したんだよ。俺がそいつらを利用しただけだ」

 

 キリトの言葉にアスナ、ユウキ、エギルら周りのプレイヤーも唖然としていた。

 

 ただ、ノビタニアンは目を丸くしつつも真っすぐにキリトの横顔を見ている。

 

「さっきのボス戦もそうだ。こいつらは俺の指示に従っているだけに過ぎない。全く、俺をそこらのベータテスターと一緒にしないでもらいたいな」

 

「な、なんだと!?」

 

「いいか、思い出せよ。SAOのCBTはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ?当選した連中の中でどのくらいのMMOプレイヤー経験者がいたと思う?ほとんどがレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のアンタらの方が何倍もマシだ。その中で俺はベータテスト中に他の誰も到達できなかった階層まで登った。ボスの刀スキルは上層で散々Mobとやり合ったから知っていた。他にも知っているぜ?色々なことをなぁ。情報屋のネズミなんか問題にならないくらいになぁ」

 

「……なんだよ、それ、そんなのベータテスターじゃない、チートだ。チーターだろ!そんなの!」

 

 周囲からチーター、ベータ―の言葉が飛び交い。やがてビーターという響きの単語が生まれる。

 

「“ビーター”、いい呼び方だな、それ」

 

 キリトは周りを見渡す。

 

 そして、LAアタックボーナスで手に入れたアイテム。“コートオブミッドナイト”を装着する。

 

「俺は“ビーター”だ。これからは元テスター如きと一緒にしないでくれ」

 

 

――これでいい。

 

 

 今回の騒動は瞬く間に広まり素人上がりの単なるベータテスターと情報を独占する汚いビーターとで新たに分けられる。

 

 仮に元ベータテスターだと露見してもすぐに目の敵にはされないだろう。

 

「どうせだから二層をアクティベートしておいてやるよ。ついてきたかったら勝手にしろよ。命の保証はできないけどな」

 

 キリトの言葉でついてくるものはいないだろう。

 

 螺旋階段をあがっていたキリトは振り返る。

 

「来たのか」

 

「当然だよ」

 

 後ろからあがってきたのはノビタニアン。

 

 彼なら自分のやることを理解してしまうだろうと予感していた。

 

 周りからドジやバカといわれているが人の心に機敏な彼は――。

 

「僕はキリトを見捨てない。大切な友達だから」

 

 嘗て彼の心を救ったように自分の心を救おうというのだろう。

 

「あ、見つけた、見つけた!」

 

「待って」

 

 続けてやってきたのはユウキとアスナの二人。

 

 

「来るなって言っただろ?」

 

「命の保証はできないと言っていただけよ」

 

「ボク達を置いていこうというなんて酷いよ~」

 

「今すぐ戻れば――」

 

「僕達を舐めないでよ。一緒にパーティーを組んだんだ」

 

「そうそう!ノビタニアンはわかっている~」

 

「ねぇ」

 

 アスナがキリトへ近づく。

 

「どうして、私の名前を知っていたの?」

 

「え、あぁ……パーティーを組んだだろ?このあたりに名前が載っているんだよ」

 

 キリトに言われてアスナは名前をつぶやく。

 

「キ……リ……ト……そう、ここにみんなの名前があったのね」

 

 キリト、ノビタニアン、ユウキとアスナは皆の名前を言う。

 

「アスナ、キミはもっと強くなる。もし、ギルドに誘われることがあったら断るなよ」

 

「……そう」

 

 そういってキリト達は階段を上がっていく。

 

 次の二層攻略に向けて。

 

 

 



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02:月夜の黒猫団

 

 第一層の攻略から少しばかりの時間が過ぎた。

 

 あれから最前線で戦うプレイヤー達は次々と階層のボスを倒していく。

 

 そのうち、アインクラッド解放隊やドラゴンナイツ・ブリゲードと呼ばれるギルドなどが活躍していた。

 

 彼らとは別に三人だけで最前線で挑むプレイヤーがいる。

 

「あ、キリトから連絡きたよ?」

 

 夜道、出現するモンスターを倒していたノビタニアンはユウキの言葉に振り返った。

 

「キリトはなんて?」

 

「えっとね、帰りが遅くなるから適当に切りあげて帰ってくれってさ」

 

「そっか」

 

 第一層のビーター騒ぎの後もキリト、ノビタニアン、ユウキの三人は行動を続けていた。

 

 現在、キリトは自身の武器強化の素材を集めるために第十一層へ降りている。

 

「あ」

 

「……どうしたの」

 

 文面を読んでいたのであろうユウキの言葉にノビタニアンはおそるおそる振り返る。

 

 彼女の言い方でノビタニアンとキリトは何度か危ない目にあった。

 

 大体が命がけだったことから今回もそれに等しい事態なのだろうか?

 

 その事から不安げに尋ねたのだ。

 

「えっとね……あるギルドの手伝いのため、夜にレベル上げさせてくれって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトが助けた月夜の黒猫団というギルド。

 

 モンスターに襲われたところをキリトが助けたのだが、それが縁となって彼はそのギルドをレクチャーすることとなり、昼は彼らと共に、夜はノビタニアン達とレベル上げにいそしむ毎日となる。

 

 ノビタニアンとユウキは夜にキリトと合流して経験値稼ぎに出ていた。

 

 最前線のプレイヤーと差をつけられないためのLV上げ。

 

 迷宮区の踏破に関してはノビタニアンとユウキの二人が行っている。

 

 彼らが訪れたのはオオカミのモンスターが徘徊するエリア。

 

「あれ、先客がいる」

 

 ユウキの言葉にキリトが視線を向けるとサムライのような風貌をしたプレイヤー達、その中で悪趣味なバンダナをつけた男がいた。

 

「クライン……」

 

 キリトが第一層で知り合い、見捨ててしまった友達。

 

 彼はオオカミモンスターを討伐すると一息つくように動きを止めて、こちらに気付いた。

 

「よぉ、キリトにユウキちゃん、後ノビタニアン」

 

「僕をおまけみたいにいわないでよ~」

 

「悪い悪い、こんな夜中に狩りか?」

 

「うん!」

 

「ユウキ、ノビタニアン、俺は先に行――」

 

「まぁまぁ、話をするくらいは問題ないでしょ?」

 

 逃げようとしたキリトだが先回りしたノビタニアンが待ったをかける。

 

「俺は」

 

「ったく、まぁだ気にしているのか?」

 

 クラインが呟いて近づく。

 

「俺は許されないことをしたんだ」

 

「キリの字、俺は気にしてねぇぞ」

 

「だとしても!」

 

 キリトは顔をゆがめて離れていく。

 

「ごめんね、クラインさん」

 

「あの時のことは仕方ねぇっての……悪いな、ノビタニアン、チャンスをくれたのに」

 

「気にしないで。僕はなんとかしてあげたいだけだから」

 

「ユウキちゃんにノビタニアン、キリトのことを頼む。お前らが頼りだからな」

 

「任せてよ!」

 

「大事な親友だからね」

 

 二人はキリトを追いかける。

 

 それから三人は黙々と狩りを続ける。

 

 夜ということで少しばかり疲労が溜まっているが、ノビタニアンとユウキは昼まで休むから問題ではなかった。

 

「そろそろ、戻ったほうがいいんじゃない?」

 

「そう……だな」

 

 ノビタニアンの言葉でキリトは剣を鞘へ納める。

 

 その時、メッセージが届いた。

 

 キリトがメニューを開いて中を見ると、それは月夜の黒猫団のケイタだ。

 

 内容はサチがいなくなったということ。

 

「悪い、ギルドの知り合いがいなくなったから探しに戻るよ」

 

「ボクも行くよ!ね、ノビタニアン」

 

「キリトの仲間だからね。僕も行く」

 

「すまない、追跡スキルで検索するからついてきてくれ」

 

 キリトのナビゲーションを頼りにして二人は後に続く。

 

 しばらくしてたどり着いた先は主街区から大きく外れたところにある水路。

 

 その中でマントを羽織って、蹲るように座り込む黒髪の少女、サチがいる。

 

「サチ」

 

 キリトの呼びかけにサチは顔を上げる。

 

「キリト……」

 

 少女の顔はとても暗いものだった。

 

「みんな……心配しているよ」

 

 そう言って笑いかける。

 

 サチは視線を少し外して俯く。

 

「キリト……私、逃げたい」

 

 疑問の表情になるキリト。

 

「な、なにから?」

 

「この街から……モンスターから、黒猫団から……ソードアート・オンラインから」

 

 サチの言葉でキリトは表情を曇らせる。

 

 出会ったときから戦うことに恐怖していたサチの抱えている恐怖はかなりのもの。

 

 指導しているときもサチはモンスターと戦うことに恐怖していた。

 

 いつかはこうなるのではないかと思った。

 

「サチ……さん?」

 

 ゆっくりとキリトの後ろからノビタニアンが前に出る。

 

 聞きなれない声に気付いたサチは不思議そうに彼を見た。

 

「はじめまして、僕はノビタニアン、キリトの友達なんだ」

 

「ボクはユウキだよ」

 

 ノビタニアンはサチの前に座る。

 

「あなたは戦うのが怖い……んだよね?」

 

「はい……」

 

 その質問で限界が来たのだろう。

 

 サチの瞳からぽろぽろと涙がこぼれていく。

 

「どうしてここから出られないの?なんでHPがなくなると死んじゃうの?こんなことに何の意味があるの?」

 

 ため込んできたものを吐き出す。

 

 戦うのが怖い。

 

 みんなに置いて行かれるのが嫌。

 

「意味を知っているのは一人だけだと思う」

 

 彼女が感情を吐き出す中でノビタニアンは呟く。

 

「私、死ぬのが怖い、怖くてこの頃、眠れないの」

 

 嗚咽を混じらせるサチの手へユウキが手をのせる。

 

「そうだね、死ぬのは怖い、よね」

 

「あなたも……怖いの?」

 

 サチの問いかけ。

 

 ユウキはコクンとうなずいた。

 

「ボクも怖い。でも、戦うんだ。ノビタニアンやキリト達と生きて帰りたいから」

 

「大丈夫、キミは死なないよ、黒猫団は十分に強い。安全マージンも取れているし、無理やり前に出る必要もない。俺からもみんなに言うからさ」

 

 話を繋げるようにキリトが言う。

 

「本当に?私は、死なずに済むの?いつか、現実に帰れるの?」

 

 コクンとキリトは頷いた。

 

「キミは死なない」

 

「そうだよ!」

 

「一緒に元の世界へ帰ろう」

 

 サチの問いかけに三人は答える。

 

 その答えにサチは泣きながら何度も頷いた。

 

 落ち着いた彼女を連れて三人は宿へ戻る。

 

 先を歩くユウキとサチは楽しそうに話をしていた。

 

 少し後ろをノビタニアンとキリトが歩く。

 

「ギルドの皆に自分のレベル伝えていない、よね?」

 

「あぁ」

 

 キリトは小さく頷いた。

 

「その、俺は」

 

「わかった。言わないよ」

 

 ノビタニアンの言葉にキリトは目を丸くする。

 

「どうして」

 

「言えない理由があるんでしょ?それにキリトが自分のレベルを隠してまで協力しているんだから……僕がそれを壊す理由はないよ」

 

「……“のび太”は本当にすごいよな」

 

「“和人”の方が凄いよ。あの時の僕を救ってくれたんだから」

 

 二人ともリアルの名前を言う。

 

 こうしているとあの日の出来事を思い出す。

 

 自分たちがはじめて友達となった日。

 

「二人ともぉ!」

 

「早く戻ろうよ」

 

 前から手を振るユウキとサチの姿に二人は急ぎ足で向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数週間後、月夜の黒猫団が壊滅したという情報を鼠のアルゴからノビタニアンは知らされた。

 

「それは本当、なの?」

 

「あぁ、間違いないゾ。なんでも未開拓のエリアへ入ったパーティーがキー坊を残して全滅したらしい」

 

「……そんな」

 

「さて、ここからはオネーサンがサービスで教えてやる情報だ」

 

 何度かユウキとともに手伝いとしてギルドのメンバーと顔合わせをした。

 

 その時からキリトが彼らに目をかけている理由をなんとなく察する。

 

 彼らの絆は強い。

 

 その強さは攻略組に入れば素晴らしいものになるだろう。

 

 まるであの頃を見ているようだった。

 

「死者を蘇らせるアイテムがあるらしいンダ」

 

「……もしかして」

 

 ノビタニアンへアルゴが頷く。

 

「キー坊がこの情報を買った。他のギルドも狙っているゾ……」

 

「僕も買うよ」

 

「宛はあるのカ?」

 

「多分、だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、アインクラッドで流れている噂のクエスト。

 

 クリスマスの夜、モミの木の下へ現れる“背教者ニコラス”。

 

 それが持つ袋の中には命をよみがえらせる奇跡があるという。

 

 この世界で死者が蘇るアイテムは存在しない。

 

 本当に死者が生き返るというのなら誰もが欲しがる夢のアイテム。

 

 キリトはそれで月夜の黒猫団員を蘇らせようとしているのだろう。

 

「オイ、どこへ行くつもりダ?」

 

「レベル上げだよ……多分、キリトはもっと危険なことをしていると思うから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月24日。

 

 キリトが向かうフィールドは深い雪に覆われていた。

 

 主街区はクリスマスムードだ。

 

 この世界にきて一回目のクリスマス。

 

 周りは幸せな日々を送っているのだろう。

 

 本来なら――。

 

「いや、やめよう」

 

 考えようとしたことをキリトはやめる。

 

 自分に幸せなんて必要ない。

 

 そんな資格はない。

 

 脳裏に浮かんだ二人のことを思い出しながらもキリトは首を横に振りながら目星の場所まで走る。

 

 しばらくして、キリトは立ち止まる。

 

「つけてきたのか」

 

 ワープポイント。

 

 そこから現れたのは――。

 

 

 

 

「クライン……ノビタニアン、つけてきたのか?」

 

「違うよ。僕をクラインが尾行したんだ」

 

 キリトの質問に答えたのはノビタニアン。

 

 よくみるとクラインの傍にユウキの姿もある。

 

「キリト……一人でボスに挑むの?」

 

 不安そうな表情でユウキが問いかける。

 

 表情を変えずにキリトは―。

 

「あぁ、これは俺一人でやらないといけない」

 

「キリトよぉ!ガセネタかもしれねぇモンのために命を懸ける必要はねぇだろ?!俺らと来い!蘇生アイテムはドロップさせた奴のもので――」

 

「黙れよ。邪魔をするなら容赦しないぞ」

 

 キリトが剣を抜く。

 

 本気だとわかり、身構える中、一歩を踏み出す者がいる。

 

「やっぱり、お前が俺の邪魔をするんだな……ノビタニアン」

 

「キリト、僕は君に死んでほしくない」

 

 剣を抜いてノビタニアンは言う。

 

「俺はそんな言葉をもらう資格なんてない!邪魔をするならお前でも斬る!」

 

「仕方ないね」

 

「ま、待て!」

 

 クラインの静止を聞かずに二人は同時にぶつかり合う。

 

 鍛えられた剣が派手な音を立てる。

 

 ソードスキルを使わないまま二人は剣をふるう。

 

「僕は君がいたからここまで来れた……僕はキリトと現実世界へ戻る!!」

 

「俺にそんな言葉をもらう資格はない!俺は、サチを……みんなを守れなかったんだ!」

 

 繰り出された一撃にノビタニアンは雪の上を転がる。

 

 起き上がるとともに振るわれた一撃がキリトの顔をかすめた。

 

「だからってキリトが自分の命を投げ出すことは間違っていると思う!だから、僕と一緒に戦おう!」

 

「無理だ!俺は……サチを救えなかった俺が誰かと一緒なんて!」

 

 派手な音を立てながらキリトは剣を振り下ろそうとする。

 

 剣の先を見切ったノビタニアンが盾を構えたのを見て後ろへ下がった。

 

 互いに譲れない。

 

 譲れないからこそ。

 

「本気を出す」

 

「やっぱり、そうなるよね」

 

 わかってはいた。

 

 二人は剣を構える。

 

 今までの切り結びでは済まない。

 

 ノビタニアンとキリトはソードスキルを使うつもりだ。

 

 その姿に流石のクラインが本気で止めに入ろうとしたとき、無数のワープポイントが現れる。

 

「どうやら、クラインもつけられたみたいだ」

 

「え!?」

 

 クライン達も武器を構える。

 

 現れたメンバーを見てクラインパーティーの一人が悪態をつく。

 

「げっ、聖竜連合か。レアアイテムのためならヤバイことも平気でするらしいぞ」

 

「どうする?」

 

「……キリト、ノビタニアン!」

 

 ユウキが前に出る。

 

「二人とも、行って!!」

 

「ユウキ?」

 

「……お、おいユウキちゃん!?」

 

「やらないといけないことがあるんでしょ?こんなところで立ち止まっていちゃだめだよ!ここはボクが足止めするから!」

 

「あー、くそったれ!ここは俺たちに任せろ!」

 

 叫びながらクラインも刀を抜き放つ。

 

 少し戸惑っていたキリトだが。

 

「行こう!」

 

 ノビタニアンに手を引かれて奥へ走り出す。

 

 目的地の場所へ到達して、二人は互いのアイテムを確認する。

 

「俺は、お前に助けてもらう資格なんて」

 

「友達なんだ、命の危険のある戦いを止めないなんてわけはないよ……大事な親友だから」

 

 それから小さくノビタニアンは呟く。

 

「親友と離れるなんて……嫌だよ」

 

 その時、頭上から鈴の音が鳴り響く。

 

 上から何かが落ちてきた。

 

 赤を基調とした上着と三角坊、頭陀袋を担いで、右手には斧が握られている。

 

 “背教者ニコラス”。

 

 噂のクエストは本当だったという証明だった。

 

 ニコラスは声にならない叫びをあげる。

 

「……うるせぇよ」

 

「キリトは死なせない」

 

 剣を抜いて走り出すキリト。

 

 ノビタニアンも走る。

 

 咆哮しながらニコラスと二人の剣士はぶつかりあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中でレッドゾーンになっているHPバーが目に付く。

 

 傍では膝をついているノビタニアンの姿がある。

 

 キリトはどのくらいの時間が経過したのかわからない。

 

 だが、目の前で砕け散るニコラスの姿を見てキリトは理解した。

 

 自分達がニコラスを倒したのだ。

 

 表示されているアイテム欄を確認する。

 

 

――還魂の聖晶石。

 

 

 現れたアイテムをタップする。

 

 それを見たキリトは目を見開く。

 

 確かにアイテムは死者を蘇生させる力を持っていた。

 

 しかし、

 

「対象が消える十秒以内……」

 

 キリトが手に入れたアイテムの効果は過去死んだ者に使うことができない。

 

 如何なる手段を用いても死者は還ってこないことをキリトは思い知らされた。

 

「……そんな、こんなことって」

 

 崩れているキリトへノビタニアンが近づく。

 

 彼の表情から望んだアイテムではないと気付いたのだろう。

 

「和人……」

 

「こんなことないよ……こんなものぉぉおおお!」

 

 泣き崩れるキリトをノビタニアンは優しく抱きしめた。

 

 かつて泣いていた自分を受け止めてくれたように。

 

 キリトの中の感情が落ち着くまで抱きしめ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いたキリトと共にノビタニアンが戻ると、クライン達は疲労困憊といった感じで座り込んでいた。

 

「キリト!ノビタニアン!」

 

 無事に戻ってきた彼らを見てユウキは喜ぶがキリトの表情で歩みを止める。

 

「蘇生アイテムは?」

 

 聞いてきたクラインにキリトはアイテムを投げた。

 

「いいの?キリト」

 

「次にお前の前で死んだ人に使え」

 

 そう言ってふらふらとキリトは歩いていく。

 

「キリト!」

 

 クラインは大きな声を上げる。

 

「キリト……お、お前はぁ、生きろよ!頼む、生きてくれよ!!」

 

 キリトは何も言わずにその場を去っていく。

 

 ドサリとすぐ後ろで大きな音が聞こえた。

 

「ノビタニアン!?」

 

 ユウキは倒れたノビタニアンへ近づく。

 

「ごめん、僕……限界」

 

「もう、ノビタニアンは無茶しすぎだよ。ボクだって、二人と一緒に戦いたかったんだよ。なんで二人だけで無茶するのさ!ボクだって……ボクだって、仲間なんだからね!」

 

 ボロボロとユウキが涙をこぼす。

 

 疲労で動けないノビタニアンの頭を膝の上へユウキは載せた。

 

「ごめんね、キリトのことを放っておけなかったから」

 

「……今度からはボクも一緒だからね!」

 

「うん、そうだね」

 

 話を聞きながらノビタニアンはゆっくりと意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メリークリスマス。キリト』

 

 聞こえるのはサチの声。

 

『キミがこれを聞いているとき、私はもう死んでいると思います。もし、クリスマスまで生きていたらこれは削除する予定だったんだけど……本当のことを言うと、私、始まりの街から出たくなかったの、こんな気持ちのまま戦っていたらきっといつか死んでしまうよね?それはだれの責任でもない。私自身の問題です。怖くなって逃げだしたあの日に、キミやノビタニアンさん、ユウキちゃんからもらった言葉があったよね?もし、私が死んだらキミは自分を責めるでしょう。だから、これを録音することにしました。

 それと、私、ホントは君がどれだけ強いか知っていました。キリトが自分のレベルを隠して私達と戦ってくれている理由を考えたけれど、私にはわかりませんでした。でも、すごく強いんだってわかったとき、すごく安心しました。キミは本当に私たちを守ってくれるんだって思えたから。私は怯えずに生きることができたんだよ。もしも私が死んでも二人は頑張って生きて、この世界の最期を見届けて、この世界が生まれた意味、私のような弱虫が来ちゃった意味、キミと出会った意味を見付けて、それが私の願いです。大分、時間が余っちゃったね。どうせだから歌でも歌おうかな?赤鼻のトナカイです』

 

 澄んだ歌声が室内に響く。

 

 その歌声はキリトの中にあったモヤモヤしたものを消し去る。

 

『キリト、忘れないでね。あなたは決して一人じゃない。ノビタニアンさん、キリトと一緒にいてあげてね。ユウキちゃんはキリトを支えてあげて……でも、ノビタニアンさんとユウキちゃんの二人は多分、お似合いのカップルになると思うからこういうお願いは困るかな?それじゃあ、お別れだね、キリトと出会えて、一緒に居られて、友達になれて本当に良かった。ありがとう、さようなら』

 

 話を最後まで聞いたキリトはまた泣き出す。

 

 サチは自分を恨んでいなかった。

 

 そのことがわかっただけでもキリトにとって救いといえるだろう。

 

 再び、彼は歩き出す。

 

 自分を支えてくれた友たちと共に。

 

 

 

 

 



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03:三剣士

タイトルに悩みましたが、これでいきます。


「ヤバイ、迷った」

 

 三十五層、迷いの森といわれるエリアでノビタニアンは迷っていた。

 

 仲間の二人と森の中へ入ったはいいが、マップを見間違えたことによって自分がマップのどの辺りにいるのかわからなくなってしまう。

 

 銀色のコートを揺らしながらがさごそと森の中を進んでいた時。

 

「悲鳴?」

 

 すぐ近くから獣の悲鳴らしきものが聞こえてきた。

 

 ノビタニアンが走り出す。

 

 しばらくして、酒瓶を抱えているゴリラのモンスター“ドランクエイプ”三体が一人の少女を囲んでいるのが見える。

 

 少女は涙を流して動かない。

 

「ピナぁあああああああああ!」

 

 叫ぶ少女にドランクエイプが拳を振り下ろそうとしていた。

 

「させない」

 

 ノビタニアンはソードスキル“ソニック・リープ”を放つ。

 

 一体に突き刺さったことを確認して、スキルをつなげるようにしてホリゾンを放った。

 

 攻撃を受けてドランクエイプが消滅する。

 

 三体がいなくなったことを確認して腰の鞘へ剣を収める。

 

「大丈夫?」

 

 ノビタニアンは座って動かない少女へ近づく。

 

「お願いだよ……あたしを独りにしないでよ。ピナぁ」

 

 泣き崩れる少女の手の中には水色の羽がある。

 

 それで、ノビタニアンは少女がビーストテイマーであることを察した。

 

 泣いている少女の姿がかつての自分の姿と重なる。

 

 ビーストテイマー関係のことで、ある情報があったことを思い出す。

 

「そのアイテム、名前はある?」

 

 少女はアイテム名を読み上げる。

 

――ピナの心。

 

 それを見て少女は泣きだす。

 

「あ、ま、待って、待って!えーっと、確か、なんだっけ、えっと、そうそう!プネウマの花!!そのアイテムを使うことでモンスターを蘇生させることができるんだ。確か、第四十七層の南にある思い出の丘って名前なんだ。そこに咲く花が使い魔蘇生に必要だって」

 

 おぼろげな情報を引き出してノビタニアンは伝える。

 

 その事に少女はアイテムを見た。

 

「……ほ、本当ですか!?……でも、四十七層……」

 

 今いる三十五層から十二も上のフロアだ。

 

 少女の顔色からして安全圏とはいえないのだろう。

 

「僕だけで行ってもいいんだけど、使い魔をなくしたビーストテイマー本人が来ないといけないんだ。加えて、制限時間があって、時間が経過すると心が形見になるって」

 

「そんな……!?」

 

 目を見開く少女にノビタニアンはあることを提案する。

 

「これは提案なんだけど、僕と一緒にその思い出の丘へ行かない?持っているこの装備だと底上げができるはずだから、なんとかなると思うんだけど」

 

「……どうして、助けてくれるんですか?」

 

 少女が尋ねた。

 

 その目は疑うように揺れていた。

 

 SAOの世界において、うまい話には裏があるといわれる。

 

 特に女性プレイヤーに話しかける男には疑いを持たないといけないことを少女は知っていた。

 

「キミが親友に似ているからかな。助けてあげたいと思ったんだ。それが僕の理由」

 

 ノビタニアンの言葉と目を見て少女、シリカは理解した。

 

 彼はとても優しい人だと。

 

「ありがとうございます。私、シリカっていいます」

 

「僕はノビタニアンだよ。よろしく」

 

 二人はそういって握手をする。

 

 それから二人は地図をもう一度確認して、出口をみつけて街へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷いの森を抜けた二人は三十五層の街ミーシェへ到着した。

 

 夕方だった空は既に夜空へ変わっている。

 

 色々なことがありすぎて疲労していたシリカは宿へ戻ろうとした。その時にノビタニアンがどうするのかということが気になった。

 

「ノビタニアンさんは、その、どうするんですか?」

 

「そうだね、いつもの宿を使おうかと思ったけれど、今回はこの街の宿でも借りようかな」

 

「それなら私が使っている宿へいきましよう!あそこにあるチーズケーキはとてもおいしんですよ!」

 

「あ、シリカちゃん発見!」

 

「探したんだよ!今度、一緒にパーティーを組もうよ」

 

 嬉しそうに微笑むシリカだったが、聞こえた声に動きを止める。

 

 陽気に手を振ってやってくる男性プレイヤーにシリカは困惑した。

 

「あ、ご、ごめんなさい。私、しばらくこの人とパーティーを組むことになって」

 

「「あん?」」

 

「え!?」

 

 二人してノビタニアンを睨む。

 

 突然のことに目を白黒させてしまうが、シリカに手を引かれる。

 

「ごめんなさい」

 

「いや、大丈夫……それにしても、人気者なんだね~」

 

「そんなことありませんよ。ただ、マスコット扱いされているだけです。竜使いシリカって呼ばれて、浮かれて……そうして」

 

「大丈夫」

 

 ぽんぽんとノビタニアンがシリカの頭を撫でる。

 

「必ず取り戻そうね。大事な親友を」

 

 ノビタニアンの言葉にシリカは強く頷いた。

 

 絶対にピナを取り戻す。

 

 その決意を固めた時、防具屋から二週間参加していたパーティーが現れる。

 

 先頭を歩くのは迷いの森で口論になった女性プレイヤー。

 

 槍使いの女性はシリカを見つけるとわざとらしい反応をとる。

 

「あーら、シリカちゃんじゃない。無事に森を出られたみたいね~」

 

 ムスッとシリカは顔を歪める。

 

 女性プレイヤーは口の端を歪ませて笑う。

 

「あら、あのトカゲ、どうしちゃったの?あらら、もしかしてぇ」

 

「ピナは必ず生き返らせます!」

 

「へぇ、てことは思い出の丘へ行く気なのね?でも、いけるのかしら?貴方のレベルで」

 

「行けるよ。困難なレベルじゃない」

 

 そう言ってノビタニアンはシリカを連れて歩き出す。

 

 シリカ達の姿を女性プレイヤーは怪しげな笑みで見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シリカが利用している風見鶏亭の一階は広いレストランになっている。

 

 窓際のテーブルでシリカと向かい合わせになるようにノビタニアンは座っていた。

 

 シリカはぽつりとつぶやく。

 

「なんで、あんな意地悪言うのかな?」

 

「そうだね、どうしてあんな意地悪言うのか。僕もわからないや」

 

 もし、ここに親友がいればこう言うだろうという言葉はある。

 

 だが、

 

「僕としては意地悪をせずに仲良くできればいいね。キミともこうして仲良くできたんだし」

 

「はい!」

 

 頷くシリカ。

 

 その姿を見てノビタニアンは微笑む。

 

 それだけのことなのにシリカは顔を赤くしてしまう。

 

「あ、あれぇ、チーズケーキ遅いなぁ!すいません!まだですかぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し、話をしたかったなぁ」

 

 宿屋の寝室。

 

 シリカは下着姿でベッドの上で寝転がっていた。

 

 彼女が思い出すのはノビタニアン。

 

 白いコート、腰に片手剣と腕に盾を装備していた優しそうな少年。

 

 レベルを聞くのはマナー違反だが、自分より高レベルプレイヤーなのだろう。

 

 今まで接してきた男の人と違った。

 

 男の人は女性プレイヤーであるシリカをマスコット、もしくはアイドルの様に扱ってきた。楽しいところへ連れていく。

 

 素晴らしいアイテムをプレゼントする。

 

 自分という個を見ずに女性プレイヤーで可愛いというステータスのようなものを見ているだけなのだろう。

 

 だが、ノビタニアンは違う。

 

 自分自身、シリカという存在を見てくれているように感じた。

 

 今までになかった人。

 

 話をしてみたい。

 

 

 そう考えていた時。

 

 扉がノックされる。

 

「シリカちゃん、いいかな?」

 

 ノックした人はノビタニアンだった。

 

 シリカは扉を開ける。

 

「……!?」

 

 ノビタニアンは顔を赤くして背を向ける。

 

「え?」

 

 しばらくして、シリカは顔を真っ赤にした。

 

 室内が防音性でよかったと後に彼女は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、もう寝る直前だったんだね」

 

「はいぃ」

 

 顔を赤くしているシリカにノビタニアンは申し訳なさそうな表情で謝る。

 

 シリカはベッドへ腰を下ろしてノビタニアンは丸テーブルの傍にある椅子へ腰かけると、取り出した箱を机に置く。

 

「何ですか?」

 

「あぁ、これは“ミラージュ・スフィア”っていうアイテムだよ」

 

 水晶をタップすると、大きな円形のホログラフィックが出現する。

 

 綺麗な光景にシリカは目を輝かせた。

 

「ここが主街区。ここから移動して、思い出の丘へ向かうことになる。途中に面倒なモンスターがいるけれど、僕らならなんとかなるよ」

 

 ぴたりとノビタニアンは動きを止める。

 

「ノビタニアンさん?」

 

「……誰!」

 

 ドアを乱暴に開けるがそこに誰もいない。

 

 階段を物凄い勢いで逃げていく人影がある。

 

「何ですか?」

 

「話を聞かれていたみたい」

 

「……え、でも、ドア越しの声は聞こえないんじゃ?」

 

「それには例外があってね。聞き耳スキルが高いとその限りじゃないんだ」

 

「そんな、誰がそんなことを」

 

「……まぁ、なんとかなるよ」

 

 ノビタニアンは人影が去っていった場所を見て小さく笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーどうやら食いついたみたい、警戒よろしく~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、シリカとノビタニアンの二人は転移門を使って四十七層へ来ていた。

 

 シリカは前日の装備と異なりノビタニアンから渡された深紅の服装になっている。

 

 装備も底上げされているからこの階層のモンスターとも渡り合えるとノビタニアンは言う。

 

「わぁ~~」

 

 目の前に広がる光景にシリカは驚きの声を漏らす。

 

 花の街。

 

 そういっても過言ではないくらい色々な花が転移門から一歩出た先に広がっていた。

 

「夢の国みたい」

 

「そういえば、この層はフラワーガーデンと呼ばれているらしいよ?前に来たときは、滅茶苦茶ユウキが騒いでいたような」

 

「素敵です!」

 

 しばらく周りを見ていたシリカはあることに気付いた。

 

 男女のペアばかりだ。

 

 ノビタニアンはわかっていないが、シリカは気づいた。

 

 この層はデートスポットとして有名なんじゃないかと。

 

 そんな彼女に。

 

「シリカちゃん?」

 

 ノビタニアンが不思議そうに尋ねる。

 

「い、いえ!何でもないです!」

 

 疑問符を浮かべながらシリカと共にフラワーガーデンの中を歩き出す。

 

 主街区から思い出の丘の入口へ続く道を歩く中で、ノビタニアンはシリカへ転移結晶を差し出す。

 

「これは?」

 

「シリカちゃんのLVと装備ならここのモンスターは問題ないんだけど、何が起こるかわからないから、僕が逃げろと言ったらそれを使って逃げて」

 

 真剣な顔で言うノビタニアン。

 

 シリカは戸惑いながら。

 

「でも」

 

「大丈夫。あくまで念のためだから」

 

 にこりと微笑むノビタニアンの言葉に、おずおずとシリカは受け取る。

 

「行こうか」

 

 ノビタニアンとシリカは歩き出す。

 

 しばらくして、シュルとシリカの足に何かが絡みつく。

 

「わぁ、きゃあああああああああ!?」

 

 シリカの悲鳴が響く。

 

 ノビタニアンが振り返ると食虫植物に似た巨大なモンスターが現れていた。

 

 そのモンスターの蔓によって宙づりになっているシリカ、彼女はスカートを片手で抑えていた。

 

 シリカが下を見るとモンスターが巨大な口を開ける。

 

 唾液の様なねちゃねちゃしたものを見て、顔を青ざめた。

 

 絶叫しながらシリカは短剣を無造作に振り回す。

 

「いや~~~!助けて!ノビタニアンさん!助けて!見ないで、助けて」

 

「あとで怒らないでね」

 

 目を閉じたままノビタニアンはソードスキルを繰りだす。

 

 攻撃を受けたモンスターは消滅して、シリカは地面へ落ちていく。

 

 ぎりぎりのところでノビタニアンがキャッチする。

 

「……見ました?」

 

「視ないように頑張りました」

 

 頬を赤く染めて尋ねるシリカに同じくらい顔を赤らめて、ノビタニアンは答える。

 

 二人はしばらく無言だった。

 

 そんなシリカへ別のモンスターが狙いをつけようとする。

 

 しかし、ノビタニアンのサポートを受けたシリカの短剣スキルによってモンスターが消滅した。

 

「あの、ノビタニアンさん」

 

「何?」

 

「森で会ったとき……似ている人がいたというのですけれど……誰のこと、なんですか?」

 

 聞いてはいけないことかもしれないと思いながらもあの時の悲しそうで泣きそうな顔が気になって離れない。

 

 ノビタニアンは少し間をおいて。

 

「あれは僕のことだよ」

 

「ノビタニアンさんのこと?」

 

「うん」

 

 ゆっくりとノビタニアンは語る。

 

「これはリアルの話だけど」

 

 ノビタニアンには大切な親友がいた。

 

 ドジで臆病で何もできなかったダメダメな自分を変えるために手伝ってくれた大事な親友。

 

 その親友との別れは唐突にやってきた。

 

 約束を交わしてノビタニアンと親友は別れる。

 

「その親友と別れるときの気持ちとシリカちゃんの気持ちが似ていたと思ったら、放っておけなかったんだ」

 

 遠くを見るようなノビタニアンへシリカはどのように声をかけていいか悩んだ。

 

「あの、その親友さんとは?」

 

「会えていない……どこかで会えればいいなと思うけれど。たぶん、もう二度と会えないかもしれないんだ」

 

「そんなこと、わかりませんよ」

 

 シリカの声にノビタニアンは彼女を見る。

 

「もしかしたら奇跡が起きて、もう一度、会えるかもしれません!私はピナともう一度、会います!だから、ノビタニアンさんもあきらめないでください!」

 

「…………」

 

「あ、もしかして、失礼でした?」

 

「いや、ありがとう、そうだね。諦めたらそれで終わりだよね。うん、頑張るよ」

 

 ノビタニアンの笑みを見たとき、シリカの顔が赤くなる。

 

「どうしたの?」

 

「い、いえ、なんでもないです!さ、いきま――」

 

 一歩を踏み出したシリカの足元にモンスターが姿を見せる。

 

 巨大な芋虫のようなモンスターに飲み込まれようとしていたシリカ。

 

 その瞬間。ノビタニアンのソードスキル、ホリゾンタルによってモンスターが消滅した。

 

「大丈夫?」

 

 小さく微笑むノビタニアンの姿に、シリカは顔を赤らめながらその手を取った。

 

 思い出の丘へ二人は到着する。

 

 そこには台座のようなものがあった。

 

「ノビタニアンさん!ない!花がないよ!?」

 

「え、そ、そんなぁ!」

 

 驚きながらノビタニアンが台座をのぞき込む。

 

 しばらくして、輝きとともに台座の中央に花が現れた。

 

 シリカがおそるおそる台座に触れると

 

 プネウマの花というアイテム名が表示される。

 

「これでピナが生き返るんですね?」

 

「うん!」

 

 花を抱きしめるようにしてシリカは喜びをかみしめる。

 

「すぐに生き返らせたいだろうけれど、ここだと強いモンスターもいるから街に戻ってからにしよう」

 

「はい!」

 

 シリカは涙を拭って頷いた。

 

 幸いというべきなのか、帰り道はモンスターとエンカウントすることなく順調だった。

 

 道中、ノビタニアンはどこかへメッセを飛ばしていた。

 

 ノビタニアンの隣を見ながらシリカはその手を握ろうとする。

 

 ぴたりと急にノビタニアンが立ち止まったことでシリカも歩みを止めた。

 

「ノビタニアン、さん?」

 

「そこに隠れている人、出てきてよ」

 

 彼の言葉とともに近くの木々から隠れていた人物が姿を見せた。

 

 その人はシリカの知っている人だった。

 

「ロザリアさん!?」

 

 迷いの森でシリカを挑発して、三十五層の街においてアイテムを取れるのかとバカにしていた彼女がここにいることにシリカは驚く。

 

「私のハイディングを見破るなんて、なかなかに高い索敵スキルを持っているみたいじゃない」

 

「どうも」

 

「その様子からして首尾よくプネウマの花を手に入れたようね。よかったわ、シリカちゃん。じゃあ、その花を頂戴」

 

「な、なに言っているんですか!?」

 

「だってぇ、中々にレアなプネウマの花を手に入れるっていうじゃない。手に入れるのを待ってからいただいたほうが手っ取り早いでしょ」

 

 にこりと笑うロザリアにシリカは恐怖した。

 

「悪いけれど、そうはいかないよ。ロザリアさん、いや、オレンジギルド“タイタンズハンド”のリーダーさんというべきかな?」

 

 ノビタニアンの言葉にシリカは目を見開く。

 

「オレンジギルド!?でも、ロザリアさんはグリーンで」

 

 ロザリアの頭上に表示されているアイコンはグリーン。

 

 オレンジは他のプレイヤーを傷つけたら表示が変化する。

 

中には人を殺すレッドプレイヤーと称される者も存在している。

 

 

「オレンジギルドといっても全員がそうじゃないんだ。グリーンが獲物を見繕って、待ち伏せのポイントまで誘導するんだ」

 

「そんな、じゃあ、二週間、一緒のパーティーにいたのは」

 

「一番の獲物たるアンタや他の連中がどれくらい素晴らしいものを持っているか調べていたのよ。そうしたらレア度が高いプネウマの花を取りにいくっていうじゃない。それにしてもそこまでわかっていたのに一緒に行動しているなんて、アンタバカじゃないの?それとも本当に絆されちゃった?」

 

 バカにするようなロザリアの問いにシリカが何かを言おうとしたとき、ノビタニアンが前に立つ。

 

「違うよ。僕の狙いはあなただよ」

 

「は?」

 

「十日ほど前にあなた達タイタンズハンドはシルバーフラクスというギルドメンバーを襲ったね?メンバー四人を殺してリーダーだけが生き残った」

 

「あぁ、そんな連中いたわね。儲けが少なくてつまんない奴らだったわぁ」

 

「リーダーだった人は毎日、最前線で攻略メンバーに敵討ちを求めていたよ。その人は連中を殺すことじゃない、捕まえることを望んでいた。仲間を殺されたのに……あなたにその気持ちがわかる!?」

 

「知らないわよ!バッカじゃないの!?ここで人を殺してもホントにそいつが死ぬ証拠はないのよ!それよりも、自分の心配をしたほうがいんじゃない?」

 

 不敵な笑みを浮かべて指を鳴らす。

 

 すると木の陰からぞろぞろとプレイヤーが現れた。

 

 頭上のカーソルはオレンジ。

 

 その数は七人。

 

「に、人数が多すぎます!脱出しないと!」

 

「大丈夫、問題ないよ」

 

 ノビタニアンはそう言うと腰の剣を抜く。

 

「それに、僕だけじゃないし」

 

 そう言うノビタニアンの言葉とともにシリカの後ろから転移によって二人の人物が現れる。

 

 一人は黒衣の少年。

 

 もう一人は民族的な衣装をまとった紫色が中心の少女。

 

「だ、誰?」

 

 戸惑うシリカに対してノビタニアンがほほ笑む。

 

「遅かったね、キリト、ユウキ」

 

「ボク達も全力で来たんだよ!?」

 

「まぁ、ナイスタイミングだから勘弁してくれよ。ノビタニアン」

 

 キリトの言葉に身構えていたオレンジプレイヤーの一人が呟く。

 

「キリト?ユウキ、ノビタニアン?黒衣、紫衣、銀衣に片手剣……まさか黒の剣士、紫の剣士、白銀の剣士!?あの三剣士か!?まずい、ロザリアさん、こいつら攻略組だ!!」

 

「こ、攻略組?ノビタニアンさんが?」

 

「そんな奴らがこんなところにいるわけないじゃん!そもそも、攻略組ならとんでもないお宝を持っているに決まっている!始末して身ぐるみ剥いじまいな!」

 

 ロザリアの叫びにキリトが肩をすくめながら前に出た。

 

「死ねやぁああ!」

 

 叫びとともにオレンジプレイヤーが前に出たキリトとノビタニアンへ襲い掛かる。

 

「ノビタニアンさん!このままじゃ、ノビタニアンさんが!」

 

 震える手でシリカは自身の武器を構えようとする。

 

 だが、目の前にいるオレンジプレイヤー達を前に恐怖していた。

 

「大丈夫だよ」

 

 傍にやってきたユウキがニコニコとシリカに言う。

 

「よく見て」

 

 ユウキの言葉に従ってノビタニアンやキリト達を見る。

 

 オレンジプレイヤーの攻撃によってHPが減っていくが一定時間を過ぎると彼らのHPは元に戻っていた。

 

「え?どうして」

 

 シリカの疑問はオレンジプレイヤー達の中にもあったようで、全員が驚きの声を上げる。

 

「ど、どうなっているんだ?」

 

「なんでHPが」

 

「全体攻撃で400ってところだな」

 

「ふぅん、それなら僕達を倒すことはできないね。キリトのレベルは78、僕のレベルは77、キミ達の攻撃じゃバトルヒーリングを持っているからすぐに回復して倒せないよ」

 

「なんだよ」

 

「そんな理不尽が」

 

「ありえるんだよ!たかが数字が増えるだけで無茶な差がつく。それがLV制MMORPGの理不尽さなんだ!」

 

 キリトの叫びに男達はのけぞる。

 

 実力差を思い知らされたのか、男達は戦意を失い始めていた。

 

 ノビタニアンはアイテムを取り出す。

 

「これは僕達の依頼人が全財産をはたいて購入した回廊結晶。転移先は牢獄だよ。これで全員牢屋へ跳んでもらうよ。逃げようなんて考えないんでね……コリドーオープン」

 

 剣を構えるキリト達の姿を見てプレイヤーの人が諦めたようにゲートをくぐる。

 

 一人、また一人と潜っていき、やがてロザリア一人だけになった。

 

「あなたはどうする?」

 

 ノビタニアンが問いかける。

 

「はっ!それで勝ったつもり?言っておくけれど、私はグリーン」

 

 一陣の風が吹き荒れる。

 

 ブン!とロザリアの眼前に鋭い剣先があった。

 

 視線の先にいたのはノビタニアン。

 

「甘く見ないでよ。僕達は三人で組んでいる……数日足らずオレンジになったとしても問題はない……試してみる?」

 

 小さく微笑むノビタニアン。

 

 笑顔から感じた怒気にロザリアは槍を落とす。

 

 そんな彼女をつかんでコリドーまで歩いていく。

 

 コリドーまで放り込まれる間、ロザリアは命乞いのようなことをつづけた。

 

 しかし、ノビタニアンは表情を変えず、無言で放り投げる。

 

「ノビタニアン、やりすぎだよ」

 

 キリトが肩をすくめながら剣を鞘へ納める。

 

「珍しく怒っていたみたいだね。クリスマスの時以来じゃない?」

 

「茶化さないでよ、ユウキ」

 

 ノビタニアンはシリカへ近づく。

 

「ごめんね、シリカちゃん、巻き込んじゃって」

 

「い、いえ、その、ノビタニアンさんは攻略組だったんですね」

 

「うん。僕が攻略組だって知ったら怯えちゃうかもと思ったんだ。今回の騒動も最初から巻き込んでしまったようなものだし、僕が悪いんだけどね」

 

「……そんなこと、ありませんよ」

 

 瞳に涙を潤ませながらシリカは首を横に振る。

 

「ノビタニアンさんはとても優しい人です!さっきは怖いと思いましたけど……ノビタニアンさんはとても優しくて、強い人です!だから……えっと」

 

 ノビタニアンはシリカの頭をなでる。

 

「ありがとう、シリカちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから少しばかり時が過ぎて、シリカと向かい合うようにノビタニアン、キリト、ユウキの三人が立っている。

 

「行っちゃう……んですね」

 

「三日くらい攻略から離れてしまっているからな」

 

「そろそろ戻らないと大変なことになるかもね~」

 

「す、すごいですね。攻略組なんて、私なんか……足元にも及びません」

 

 本当ならノビタニアンとついていきたかった。

 

 彼と一緒にいろいろな世界を見て回りたい。

 

 そんな気持ちを抱きながらも自分ではレベルなどを思い出して、その言葉を飲み込む。

 

「別にレベルがすべてじゃないよ?シリカちゃんは強いものを持っている」

 

「強いもの?」

 

「うん、心だよ」

 

 ノビタニアンは自分の心を叩く。

 

「ピナを取り戻すために危険な場所へ向かったじゃない。それはこころが強くなければできないことだよ?」

 

「ノビタニアンの言うとおりだね」

 

「レベルだけがすべてじゃない。誇っていいことだ」

 

 キリトやユウキからも言われてシリカは頬を赤くする。

 

「今度はピナも一緒で冒険しようね?」

 

「……はい!」

 

 笑顔を浮かべてシリカとノビタニアンは指切りをした。

 

 

 

 

「(ピナ、目を覚ましたらいっぱい、いっぱい、お話しようね!とんでもない冒険のことと、お兄ちゃんのような素敵な人のことを)」

 



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04:圏内事件

先生、感想が……欲しいです。


基本、この話はアニメをなぞっていますが、途中から異なる展開へ進んでいきます。


 第五十九層、主街区近くにある木の陰。

 

「ぐぅ~」

 

「くぁ~」

 

「すぅ~」

 

 そこで三人のプレイヤーの姿があった。

 

 黒ずくめ、片手剣使い。

 

 もう一人は紫色の民族衣装のような長髪の女性プレイヤー。

 

 最後の一人は枕代わりに盾の上に頭を乗せて幸せそうに眠る男の子。

 

 あたたかな陽気を浴びて幸せそうに寝ている彼らのもとへ一人の女性プレイヤーがやってくる。

 

 全身を白と赤の衣装をまとった少女は険しい顔のまま傍で寝ている黒の剣士こと、キリトへ近づく。

 

「なんだ、副団長さんか」

 

 片目を開けたキリトは自身を見上げる相手、アスナを見る。

 

「他の攻略組の皆さんは時間など関係なく迷宮区へ潜っているというのに、あなた達はなにをしているの!?」

 

「……今日はアインクラッド内において最高の昼寝日和なんだよ」

 

 そう言ってキリトは寝返りをうつ。

 

「アンタもここで昼寝してみたらどうだ?とても気持ちいいぞ。そこの二人も見てみろよ」

 

 アスナが怒鳴ったにも関わらず起きる様子のないユウキとノビタニアン。

 

 昼寝が好きなノビタニアンは完全に寝入っている。

 

 ユウキは右に左へ動きながら時々、ノビタニアンの上へのしかかりかけていた。

 

 こちらを見ている彼女を見ながらキリトは再び寝始めた。

 

 彼らがいる場所は主街区から外れてはいるが“圏内”だ。

 

 この中ではいかなる攻撃でもHPが減ることはない。

 

 犯罪防止コード有効圏内といわれるこの中にいれば、デュエルなどの抜け道を除けば絶対的な安全が保障される。

 

 抜け穴対策のため、キリトは一定距離にプレイヤーが近づくとわかるように設置されていた。

 

 そのまま睡眠を続けるキリト。

 

 しばらくして、アスナも横になって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべっ、寝すぎたか?」

 

 

 夕焼け空に気付いてキリトが体を起こすとすぐそばで寝ているアスナの姿があった。

 

 今までの張りつめたような顔から一転して無防備な寝顔を見てキリトはどきりとした表情になる。

 

「おいおい、こんなところで寝ている奴がいるぞ?」

 

「のんきだなぁ」

 

 帰り道途中から聞こえるプレイヤーに気付いてキリトはノビタニアンやユウキを見る。

 

 そして言葉を失う。

 

 

 ユウキは寝相が悪く、あっちこっちに移動する。

 

 どうやら今回の寝相はかなり悪いもののようだ。

 

 彼女はノビタニアンの上へ覆いかぶさっている。

 

 知らないものからみればユウキが襲い掛かっているように見えない。

 

「ま、大丈夫だな」

 

 ノビタニアンもユウキも互いをそこまで意識していない。

 

 あくまで仲間意識の範囲内だろう。

 

 そろそろ、現実を直視するかーとキリトは視線を向ける。

 

 警戒心を強め、こちらへレイピアを構えているアスナの姿があった。

 

「ごはん、おごる……」

 

 顔を赤くしているアスナの言葉にキリトは頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あれって、閃光じゃね?」

 

「マジか、かわいいな」

 

「もしかして、あっちは紫の剣士?」

 

「傍にいるのは黒の剣士と白銀の剣士か……リア充爆発しろ」

 

 第五十七層のNPCレストラン。

 

 そこで四人はディナーを楽しんでいた。

 

 ちなみにここの飯はキリトが持つことになる。

 

 事情を知らないノビタニアンとユウキは食事代が浮くことに喜んでいた。

 

 周りからの言葉にキリトはバツの悪そうな表情で片肘ををついている。

 

 目立つのが苦手な彼はこの状況を苦手としていた。

 

 アインクラッドの中でトップクラスの美少女のアスナ、

 

 無邪気で明るいユウキ。

 

 そんな二人ともし男子一人だけなら緊張で握りつぶされていただろう。

 

 しかし、隣にはぽけーとした表情のノビタニアンがいる。

 

 少しばかり救いだった。

 

「ありがとうね、キリト、僕たちのガードしてくれて」

 

「気にするなって、俺達は仲間なんだから」

 

 ノビタニアンに対してキリトはそう返す。

 

「もう、ボクのことは無視?」

 

「すまない、そんなつもりはなかったさ」

 

「いつも思うけれど、二人は本当に仲がいいわね」

 

 呆れたようなアスナの言葉にキリトが何かを言おうとしたとき。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな悲鳴が響いた。

 

 突然のことに動き出したのはキリト、続いてアスナ。

 

 ユウキとノビタニアンが最後に続く。

 

 悲鳴の上がった場所へ向かうと目を疑うような光景があった。

 

 教会から男性プレイヤーが首にロープをかけられて吊るされている。

 

 何よりその胸元。刺々しい槍のようなものが突き刺さっていた。

 

 刺さっている個所から赤いエフェクトが出ている。

 

 それはHPが削られていることを指す。

 

「早く抜け!!」

 

 キリトは大声で呼びかける。

 

 男性プレイヤーは一瞬、キリトを見る。

 

 槍に手をかけ引き抜こうとするが抜ける気配がない。

 

 それに気づいたノビタニアンが走り出す。

 

 ちらり、キリトと目が合う。

 

 ノビタニアンが何をするか理解したのだ。

 

 彼が教会へ入るのを確認してキリトは男性プレイヤーの前へ向かう。

 

 少しばかりの時間が過ぎてキリトの目の前で男性プレイヤーの体が消滅する。

 

 歯を噛みしめ叫ぶ。

 

「皆!デュエルのウィナー表示を探してくれ!」

 

 もし、この騒動がデュエルによる流れだとするならプレイヤーの頭上にウィナーの表示がある。

 

 しかし、どこにもそれらしきものがなかった。

 

 落ちてきた槍をキリトは拾い、アスナやユウキと共に教会へ向かう。

 

 降りてきたノビタニアンへ尋ねる。

 

「誰もいなかったよ」

 

「誰も!?」

 

「うん」

 

「どういうことなんだ……」

 

「外の方は?」

 

「ユウキやアスナも調べてくれたがウィナー表示はなかった」

 

「これはデュエルによるPKじゃない?」

 

「でも、デュエル以外でHPを減らす方法はなかったはずだよ!?」

 

「そうだ……このまま放っておくわけにはいかないな。圏内でPKできるなんて離れ業があるなら街の中も危険ってことになる」

 

「じゃあ、調査するんだね!」

 

「あぁ、ユウキ、ノビタニアンも手伝ってくれるか?」

 

「もちろん!」

 

「当然だよ」

 

「私も手伝う。こんなこと放っておけないわ」

 

 四人は頷き、教会を出る。

 

「すまない、さっきの一件を最初から見ていた人はいるか?」

 

 周囲がざわめきはじめる。

 

 その中で一人の女性プレイヤーがおずおずと前へやってきた。

 

 キリトはちらりと装備を見た。おそらく中層で活動しているプレイヤーだろう。

 

「ごめんなさい。怖い思いをしたばかりなのに、あなたの名前は?」

 

「あ、あの、私はヨルコって言います」

 

 アスナの問いかけに女性ヨルコは頷く。

 

 彼女の声にキリトは覚えがあった。

 

「さっきの悲鳴は、あなたがあげたんですか?」

 

 尋ねるよりも早くノビタニアンが聞く。

 

「はい、私、さっき殺された人とご飯を食べに来たんです。あの人、名前はカインズって言います。昔、同じギルドにいたことがあって、でも、広場ではぐれて、探していたあんなことになって、うぅ」

 

 限界が来たのだろう。

 

 瞳から涙をこぼす。

 

 ヨルコへアスナとユウキが傍による。

 

「その時に誰かを見なかった?」

 

 背中をさすりながらアスナは尋ねた。

 

「一瞬、カインズの後ろに誰かいたような」

 

「その、嫌なことを聞くようだけど、心当たりはあるかな?カインズさんが誰かに狙われる理由、とか」

 

 遠慮気味にキリトは尋ねた。

 

 対しヨルコは首を横に振った。

 

 明日、話をもう一度聞くということで彼女を宿へ送り届ける。

 

 送り届けた後、四人は情報の整理をしていた。

 

「まずはあの槍の出所がわかれば犯人を追えるかもしれないな……ユウキやアスナはフレンドでアテはあるか?」

 

「武器屋の娘がいるけれど、この時間帯は無理ね」

 

「鑑定スキル……どうせだし、エギルさんのところへいこっか」

 

 ノビタニアンの言葉でメッセージを打ち始める。

 

 見ていたユウキは苦笑いを浮かべて。

 

「エギルさんも店で忙しいんじゃないかな?」

 

「俺が頼んだらアウトだろうな。だが」

 

 キリトはにやりと悪人のような笑みを浮かべる。

 

「ノビタニアンなら話は別だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくよぉ、お前の頼みなら容赦なく断るつもりだっていうのに……ノビタニアンを使いやがって」

 

 

「断れないのは知っていたさ」

 

 過去、ノビタニアンに救われたことがあるエギルはつい、頼まれたら協力するという約束を交わした。

 

 ノビタニアンがあまり欲深い性格ではないことから油断していたエギルだが、共にいた黒い悪魔の陰謀に巻き込まれたことは一つや二つではない。

 

「この時間帯は一番の稼ぎ時だって知っているだろう?」

 

「ごめんね。エギルさん、こっちも急ぎだったからさ」

 

「お前がそこまで言うなんて、とんでもないことみたいだな」

 

 ノビタニアンはエギルへ圏内で起こった事件についてまとめる。

 

 奥の部屋へ向かい、ノビタニアンは武器を見せた。

 

「これの鑑定をお願いします」

 

 武器を受け取ったエギルは鑑定を始める。

 

「プレイヤーメイドだ。作成者はグリムロック……聞いたことねぇな。少なくとも一級の刀匠じゃねぇだろう」

 

「武器に固有名は?ほかに変わったこととかはないかな?」

 

「固有名はギルティーソーン……罪の茨だな」

 

「どうゆうこと?」

 

 ノビタニアンは頭上に?マークを浮かべている。

 

 しばらく眺めていたキリト。

 

「よし」

 

 小さく頷いて槍を逆手にして自身へ向ける。

 

 勢いよく突き刺そうとするとアスナがその手を止める。

 

「何をやっているの!?」

 

「試してみないとわからないだろ?」

 

「その武器で実際に人が死んでいるのよ!」

 

「でも、試してみないと」

 

「駄目よ!これはエギルさんが預かっておいて!」

 

 アスナは怒りながら部屋を出ていく。

 

「キリトぉ、アスナも怒るよ」

 

「そうだな、もう少し女心とかを考えるべきだな」

 

「そう言われるとつらいな。わかった。助かったよ、エギル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 キリトとアスナはヨルコと話をしていた。

 

 ノビタニアンとユウキは他に目撃者がいないか教会付近を探すことになった。

 

 ヨルコにグリムロックなどについて尋ねてみると、あることがわかる。

 

 グリムロック、ヨルコ、カインズは『黄金林檎』と呼ばれるギルドへ属していた。

 

 半年前、彼らはモンスタードロップでレア度の高いアイテムを手に入れる。

 

 ギルドで使用する意見と売却する意見に分かれて、全体で採決を取った結果。売却になる。

 

 競売にかけるため、リーダーのグリセルダという女性プレイヤーが一泊予定で出かけた。

 

 しかし、彼女は死んだ。

 

 その時に指輪がどうなったのか?どうして死んだのかその謎はわからないままギルドは解散したという。

 

「グリムロックさんというのは?」

 

「彼はグリセルダさんの旦那さんでした。もちろん、このゲーム内ですけど、二人はとても仲が良くてお似合いの夫婦でした。もし、昨日の事件の犯人がグリムロックさんだというのなら指輪の売却に反対した三人を狙っていると思います」

 

 一度、ヨルコは目をそらして。

 

「指輪の売却に反対した三人のうち二人は、私とカインズでした」

 

「……もう一人は?」

 

 アスナが尋ねる。

 

「シュミットというタンクです。今は聖竜連合に属しています」

 

「なんか、聞いたことあるな」

 

「聖竜連合のディフェンス隊のリーダーよ。大型ランス使いの」

 

「あの、シュミットに会わせてもらえませんか?彼も今回の件を知らないかも……もしかしたらカインズのように」

 

 ヨルコは口を閉ざす。

 

「シュミットさんを呼びましよう。ノビタニアン君かユウキに頼みましょう」

 

「なら、一度、ヨルコさんを宿へ送ろう。俺たちがくるまで宿から絶対に出ないでくれ」

念を押してアスナがメッセージを飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖竜連合のホームへ向かう途中、ユウキとノビタニアンは会話をしていた。

 

「ノビタニアンは今回の事件、どう思う?」

 

「うーん、僕は難しいことはわからないからなぁ……でも、今回の件をはっきりしないとみんな安心しないからね」

 

「もし、これが殺人だったら……ノビタニアンはどうする?」

 

「止める」

 

 迷わずにノビタニアンは答える。

 

「キリトの言葉だけど、このゲームはフェアなものだって、圏内殺人なんてこのゲームは認めていないはずだから」

 

 真剣な表情でノビタニアンは答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノビタニアンとユウキによって連れてこられたシュミットは終始落ち着かない様子でソファーに座っている。

 

 いら立ちからか貧乏ゆすりをしていた。

 

 対するヨルコは落ち着いた様子でシュミットと向かい合っている。

 

 シュミットとヨルコの会話をキリト達は傍で見ていた。

 

 だんだんと白熱していくヨルコ。

 

 窓際にいた彼女だが、異変は起こる。

 

 キリト達の目の前でヨルコは体を翻した。

 

 その背中に短剣が刺さっている。

 

「ヨルコさん!!」

 

 ノビタニアンが駆け出す。

 

 窓から外へ落ちていくヨルコへ手を伸ばすも彼女の体は消える。

 

「アスナ!あとは頼む!」

 

「キリト君、ダメッ!!」

 

 外へ飛び出すキリト。

 

 アスナの静止も聞かずにキリトは跳躍して隣の建物へ移動する。

 

 彼の眼はローブの人物へ向けられている。

 

「ボクが行く!」

 

「ユウキ!」

 

 二人のAGIは高い。

 

 あっという間にローブの人物へ追いつくという時、相手は転移結晶を取り出す。

 

 キリトは投剣スキルを使って狙いを定める。

 

 しかし、紫色のシステム障壁に阻まれる。

 

 キリトがヨルコに刺さった短剣を拾い、宿へ戻る。

 

 扉を開いて中に入ると。

 

「バカ!!」

 

 アスナが涙目でキリトへ怒鳴る。

 

「無茶しないで!」

 

「……わ、悪かった」

 

 引き気味でキリトは謝罪する。

 

「ユウキも無茶しないでね」

 

「うん、気を付けるよ」

 

 優しく注意を促すノビタニアンへ苦笑しながらユウキは頷く。

 

「それで、どうだったの?」

 

「転移結晶で逃げられた。街の、宿の中なら安全だと思っていたのに」

 

「あ、あれはグリセルダのローブだ!グリセルダの亡霊だ!!俺たち全員へ復讐にきたんだ!」

 

 恐怖で混乱し始めているのだろう。

 

 シュミットが叫びをあげる。

 

「ゆ、幽霊なんだから圏内でPKができて当然だ」

 

「幽霊はいない。このPKには絶対システム的な何かがある」

 

 キリトの言葉に誰も答えない。

 

 この後、シュミットを聖竜連合本部まで送り届けた四人はマーテンへ戻っていた。

 

 ベンチへそれぞれ腰かけながら考えていた。

 

「本当にグリセルダさんの亡霊だったのかな?」

 

「目の前であんなのものを二度も見せられたらボクも信じちゃうよ」

 

 半ばあきらめたようにユウキが口を開く。

 

「そんなことは絶対にない。本当に幽霊ならさっきも転移結晶なんか……転移結晶」

 

「キリト?どうしたの」

 

 ノビタニアンの質問に首を横へ振る。

 

 しばらく沈黙していると。

 

「はい」

 

 アスナがキリトへ何かを差し出す。

 

 受け取って包みを開くとバゲットサンドが現れる。

 

「お腹すいていたら頭動かないでしょ?これを食べて休憩しましよう」

 

 アスナも自分の包みを開く。

 

「早く食べないと耐久値が切れちゃうわよ」

 

「そ、そうだな!」

 

 キリトはそれに一口かぶりつく。

 

「うまい」

 

 黙々と食べ続ける。

 

 その横のベンチで。

 

「はい、ノビタニアン」

 

「ありがとう、ユウキ」

 

 同じような光景が広がっていた。

 

「準備いいな、これ、どこで買ったんだ?」

 

「売っていないわ」

 

 呆気にとられるキリト。

 

「ま、まさか手作りですか!?」

 

「そうだけど?」

 

「う、うん、アスナは良いお嫁さんになりそうだな」

 

 その言葉にアスナは頬を赤く染めて、キリトを叩く。

 

 叩かれた際にバゲットサンドは地面に落としてしまう。

 

 慌てて拾おうとするも耐久値が限界を迎えて消滅してしまった。

 

「あ、あぁ……」

 

 がっくりとうなだれるキリト。

 

「……キリト君?」

 

「そうか!」

 

 キリトは顔を上げる。

 

「どうしたの?」

 

「俺達は何も見えていなかった……見ているようで何も」

 

「どういうこと?」

 

 

「うん、これおいしいね」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。頑張って料理したから」

 

「これ、ユウキの手作りなんだ!おいしいよ」

 

「ありがとう!」

 

 二件の圏内殺人の解決へ結びつく答えをキリトが見つけた横で奇妙な光景が起こっていた。

 

 それを気にせず、キリトはアスナへ謎解きをする。

 

 自分たちが見ていたもの。

 

 それは防具の耐久値が限界へ向かっていくというものだ。

 

 カインズは自らの防具に槍を突き刺していたのだ。

 

 限界値が迎えたときに転移結晶であの場から姿を消す。

 

 そうすることで彼が死んだとキリト達は錯覚したのだ。

 

 続いたヨルコの件。

 

 部屋へ入る時からヨルコはすでに背中へ短剣を突き刺していた。

 

 そして、限界が来るときになって半狂乱になった演技をして、外へ落ちて転移する。

 

 こうすることで圏内において殺人事件が起こっていると錯覚してしまったのだ。

 

「でも、なんでそんなことを?」

 

「おそらくだけど、指輪事件の犯人をあぶりだそうとしたんだと思う……ヨルコとカインズはシュミットが犯人、もしくはつながりがあると見ている。だから、今頃、その答えを問い詰めているんだと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十九層、自らの隠していた秘密を明らかにしたシュミットだが、彼は麻痺毒を受けて動きを封じ込められていた。

 

 ヨルコとカインズ、シュミット達の前に現れた三人組。

 

 フードで顔を隠している三人の腕には棺桶と笑顔のようなマーク。

 

――笑う棺桶。

 

 アインクラッドにおいて様々なギルドが存在している中で一番、危険なギルドがある。

 

 SAO内最大で最も狂った犯罪者ギルド。

 

 短剣を扱う“ジョニー・ブラック”

 

 エストック使い“赤目のザザ”

 

 メイトチョッパーと呼ばれる武器を使うギルドリーダーの”PoH”。

 

 笑う棺桶のトップスリーがそこにいた。

 

「さぁて、どう料理したもんかねぇ?」

 

「ヘッド!あれやろう!殺し合わせて最後の一人を生き残らせるゲーム!」

 

 子供のようにはしゃぐジョニーの提案にPoHはため息をこぼす。

 

「そんなこと言って、結局、生き残ったやつも殺しただろうが」

 

「ああー!それ言っちゃつまらないよ!!」

 

 騒ぐジョニーをおいて、大型短剣メイトチョッパーをPoHは取り出す。

 

 シュミットは己に迫る死を覚悟する。

 

 その時、馬の鳴き声が轟く。

 

 彼らが視線を向けると、大きな馬に乗った黒装束の少年と白銀のコートを纏った少年が馬から落ちた

 

「お、おい、もう少しうまく扱えないのかよ」

 

「無茶いわないでよ。僕が乗った馬はパカポコだけなんだから」

 

 二人は言い合いながら立ち上がる。

 

「よぉ、PoH、相変わらず悪趣味な格好をしているな」

 

「フン、黒の剣士、てめぇには言われたくないな、それよか状況を分かっているのか?こいつらを助けに来たつもりだろうが、お前たち二人で俺たち三人の相手ができるのか?」

 

「難しいだろうな。ただ戦うだけならまだしもそこの三人を守りながらだと」

 

 でも、と言葉を区切り。

 

「対毒POTは飲んできたし、結晶もありあまっている。何より俺とノビタニアンのコンビは最強。時間を稼げば援軍が駆け付ける。お前たち三人だけで攻略組の三十人と相手できるか?」

 

 キリトはそう言うと剣を抜き、

 

 ノビタニアンも盾と剣を構える。

 

 SAOにおいて強敵とされるビーターとそのパートナーを相手にしてのデメリットを即座にPoHは計算した。

 

 そして。

 

「引き上げるぞ」

 

 PoHの指示に部下の二人も頷く。

 

 覗くフードから鋭い視線でキリトを、隣にいるノビタニアンを睨む。

 

「黒の剣士、白銀の剣士、てめぇらは必ず殺してやる。お前たちの大切なものを根こそぎ奪ってな。特に白銀の剣士、てめぇをもっと絶望に叩き落してやる」

 

「やってみろよ。俺がいる限り、そうはならない」

 

 一瞬、PoHとキリトが激しくにらみ合い、PoHは姿を消す。

 

 彼らの姿がなくなったことを確認してキリト達は武器をしまう。

 

「また会えてうれしいよ、ヨルコさん。そっちのアンタは初めましてかなカインズさん」

 

「いえ、正確には二度目です。僕が死亡を偽装したとき、あなたと目が合いました。あなたには見破られるんじゃないかと予想していたんです」

 

「全部……終わったらきちんと謝罪に伺おうと思っていました……信じてもらえるかわかりませんけれど」

 

「キリトにノビタニアン!助けてくれた礼は言うが、どうしてわかったんだ?あの三人がここへくるって」

 

 ノビタニアンによって麻痺の解けたシュミットが膝をつきながら尋ねる。

 

「わかったわけじゃない。ありえると推測したんだ。カインズさん、ヨルコさん、あの二つの武器を作ったのはグリムロックだよな?」

 

 ヨルコとカインズは顔を合わせる。

 

 しばらくして。

 

「最初は気が進まないようでした。もうグリセルダさんを安らかに眠らせてあげたいって」

 

「でも……僕らが一生懸命頼みこんで、やっと武器を作ってもらったんです」

 

「……残念だけど、アンタ達の計画に反対したのはグリセルダさんのためなんかじゃない」

 

「それは、どうゆう」

 

「圏内PKなんて派手な演出をしてみんなの目を引いてしまえば、いずれ誰かが気付くと思ったんだろう。俺も少し前に気付いたんだ」

 

 キリトは語りだす。

 

 指輪事件の隠された真実を。

 

 彼が話す内容はアスナとの会話で気づいた結婚システムについて。

 

 結婚すればプレイヤー同士でアイテムが共有される。

 

 ストレージ共有について話をしていたところである点に気付いたのだ。

 

「結婚している片方が死んだ場合、その人が持っているアイテムは片方の結婚相手のもとへ向かう。犯人の足元へドロップせずにグリムロックの足元にドロップされたんだ」

 

「じゃあ、グリムロックが指輪事件の犯人なの?グリセルダを殺して?」

 

「多分、直接手を出していなかったと思う。犯人の依頼は今回みたいなことをしていたんじゃないかな、笑う棺桶に」

 

「そ、そんな、なんで彼は私たちの計画に賛同したんだ!?」

 

「アンタ達はグリムロックに計画のすべてを説明したんじゃないか?だったらそれを利用して指輪事件を永久に闇へ葬ることができると思ったんだ。三人が集ったところをまとめて消した方がいいと」

 

 キリトの言葉にシュミット達は理解する。

 

 この場に笑う棺桶の三人がいたことも納得できる。

 

「もしかして、グリセルダさんを殺害した時から……笑う棺桶とつながりがあった?」

 

「多分、だけどな」

 

 ノビタニアンの言葉にキリトが頷く。

 

「キリト君」

 

「見つけたよ」

 

 その時、茂みが揺れてアスナとユウキが現れる。

 

 彼らの傍には長身で革製品の衣服に身を包み、マルメガネのようなサングラスをかけた男性プレイヤーがいる。

 

 彼が逃げないようにユウキが剣を突き付けている。

 

 男、グリムロックは彼らを見渡して穏やかに話しかけた。

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

「グリムロック、さん、あなたは本当に私たちを殺そうとしたの?」

 

 ヨルコは未だに信じられないのだろう。

 

 尋ねる声はとても震えている。

 

 その質問にグリムロックは答えない。

 

「なんでなの!!グリムロック!なんでグリセルダさんを!奥さんを殺してまで指輪をお金にする必要があったの!?」

 

 涙を流しながら叫ぶヨルコ。

 

 カインズやシュミットもグリムロックの動向を伺う。

 

「金?……金だって?」

 

 やがて、グリムロックは小さく笑い声をあげる。

 

「金のためじゃないさ。私はどうしても彼女を殺さないといけなかった。彼女がまだ愛する妻だった間に……」

 

 グリムロックは語る。

 

 現実世界においてもグリムロックとグリセルダは夫婦だった。

 

 彼にとって一切不満のない妻だったという。

 

 彼女自身も彼のことを大切に思っていた。

 

 しかし、デスゲームに囚われた時、明らかな差異が起きる。

 

 閉じ込められたことに怯え、疎んだのはグリムロック。

 

 前に踏み出し、生きようと決意したのはグリセルダだった。

 

 その姿を見てグリムロックは悟ったのだ。

 

 現実世界よりも生き生きしている彼女は、既にいない。グリセルダ――ユウコは消えたのだ。

 

「だから、だからこそ!この殺人が合法的に可能な世界で『ユウコ』を!永遠の思い出の中に封じてしまいたいと思った私を、誰が責められるだろう!?」

 

「そんな理由で、アンタは奥さんを殺したのか?」

 

 静かな怒りを込めてキリトが問いかける。

 

「十分すぎる理由だ。キミもいずれわかるさ。探偵君、愛情を手に入れ、それが失われようとしたときに」

 

 狂気を含んだグリムロックの瞳と目が合って、キリトは言葉が出ない。

 

 愛情。

 

 キリトにおいて理解できない領域だ。

 

 もしかしたら自分もという不安が彼の中に生まれる。

 

「そんなもの愛情じゃない!!」

 

 キリトは顔を上げる。

 

 ギリリとこぶしを握り締めてノビタニアンはまっすぐにグリムロックを見据える。

 

「そんなの愛情じゃないよ!」

 

「ならば、なんだというのかな?」

 

 答えようとしたノビタニアンよりアスナが先に動く。

 

「あなたが奥さんへ抱いていたのは愛情なんかじゃないわ。グリムロックさん、あなたが奥さんへ抱いていたのはただの所有欲と支配欲。それだけよ」

 

 睨みながら指摘したアスナ。

 

 本心を暴かれたことによる驚きか、グリムロックは地面に膝をつく。

 

 そんな彼にシュミットとカインズが歩み寄る。

 

「キリト、この男の処遇は俺たちに任せてくれ」

 

「心配しないでください。私刑にだけはしないと約束します」

 

 キリトは頷いた。

 

 グリムロックを抱えて二人は背を向ける。

 

 ヨルコはその後に続くがすぐに振り返り。

 

「ありがとうございました。キリトさん、アスナさん、ユウキさん、ノビタニアンさん、これでグリセルダさんも浮かばれます」

 

 深々とお辞儀をしてカインズ達の後を追いかけていく。

 

「……帰ろうか」

 

 ぽつりと漏らしたノビタニアンに全員が頷く。

 

 少し歩きだしたところでユウキがノビタニアンへ尋ねる。

 

「ねぇ、ノビタニアンはさ、好きな人の知らない影の部分を見た時、どうする?」

 

「……うーん、僕は戸惑うけれど、受け入れるよ」

 

「どうして?」

 

「それでも、僕は」

 

――その人のことをもっと好きになると思うから。

 

 ノビタニアンの言葉にユウキは目を丸くして笑う。

 

「ちょっと!?なんで笑うのさ!」

 

「べっつにぃ、ノビタニアンは面白いな~って」

 

「おーい、置いていくぞ?」

 

「ノビタニアン君?ユウキ~~」

 

「お先に~~」

 

「あ、待ってよ!」

 

 二人は先を歩く仲間の元へ急ぐ。

 

 

 



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05:鍛冶師が消えた!

心の温度の話をするつもりでしたが、ただなぞるだけでは意味がないし、オリジナル要素を加えました。

感想ありがとうございます。作者の励みとなります。



 

 第四十八層リンダース。

 

 巨大な水車が緩やかに回るプレイヤーホーム。

 

 その室内で規則正しい金属をたたく音が響いた。

 

 彼女の手の中にあるレイピアの整備が完了する。

 

「よし、整備完了よ!」

 

 桃色の髪をした鍛冶師リズベットは親友の剣を返す。

 

「これでメンテ完了よ!」

 

「ありがとう、リズ!」

 

 レイピアを受け取ったアスナは嬉しそうに目を輝かせる。

 

 親友の喜ぶ顔を見ていたリズはアスナの耳元につけられていたイヤリングに気付く。

 

「アスナ、それは?」

 

「あ、あぁ、これは」

 

 リズベットに問われて顔を赤くしながらアスナは考える。

 

 少しして、リズベットはにやりと笑う。

 

「ほー、噂の閃光様に思い人ができたのかしらぁ?」

 

「ちょ、ちょっとリズ!?」

 

「アンタがこれだけ素敵な顔を浮かべるなんてその相手は幸せね。ユウキはそういう相手はいないわけ?」

 

 リズベッドは傍でぼんやりとやり取りを見ていたユウキへ尋ねる。

 

「え?ボク?ないかなぁ、そういうことは興味ないし」

 

「まったく閃光様がこうなっているのに紫の剣士はこんなのって……」

 

「でも、ユウキはノビタニアン君と親しくしているじゃない?」

 

「そういう親しい相手がいるのね!さ、吐きなさい。どんな相手よ!」

 

 問い詰めるリズベッドにユウキは少しのけ反りながら考える。

 

「ノビタニアンのこと?えっと、ドジであわてんぼう、昼寝が大好き」

 

「それだけ聞いているとすごいダメダメに聞こえるんだけど」

 

「でも、誰よりも人を助けるために奮闘して、僕達を守るために盾でモンスターとぶつかりあってくれる、大事な仲間だよ!」

 

 ユウキの言葉にアスナは目を丸くして。

 

 リズベットは頬を指でかく。

 

「全く、無自覚でこんなのろけを言うなんて油断できないわね」

 

「へ?」

 

 首を傾げるユウキ。

 

 その姿が可愛いからこそ、隠れた人気があるのだろう。

 

 ユウキやアスナは自覚をしていないだろうが、とてつもない人気を持っているのだ。

 

 攻略の最前線で戦う少女二人。

 

 閃光と呼ばれる細剣使いのアスナ。

 

 攻略の鬼とまでいわれるが最近は笑顔が多く密かな人気がある。

 

 紫の剣士、ユウキ。

 

 片手剣使いで黒の剣士、白銀の剣士と呼ばれるプレイヤーとパーティーを組む。

 

 とても明るく、誰もが魅了されるような純真な笑顔。

 

 閃光と同じくらい男性プレイヤーから人気が高い。

 

「アンタと一緒にいる男性プレイヤーが嫉妬で狙われないか心配ね」

 

「うん?」

 

 首を傾げるユウキをみてリズベットはため息を漏らす。

 

 余談だが、彼女と一緒にいるノビタニアンに嫉妬する男性プレイヤー達が一度、ノビタニアンにデュエルを申し込んだ。

 

 傍からみれば、ドジで間抜けな相手だから余裕だろうと踏んだ様子だった。

 

 しかし、ノビタニアンはドジだろうと攻略組。

 

 最前線で戦い慣れている彼によって倒された彼らは、信じられないという表情になったことをリズベットは知らない。

 

 久しぶりの親友同士の会話を楽しんだのち、リズベットは接客のために店へ出た。

 

「いらっしゃいませ!リズベット武具店へようこそ!」

 

 そこに待っていたのは黒一色の剣士だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ノビタニアン君!丁度いいところに!」

 

 昼寝をしようとベンチへ寝転がろうとしていたノビタニアンにアスナが声をかける。

 

「やぁ、アスナさん、どうしたの?」

 

「私の友達がいなくなったの!」

 

「え?」

 

「お願い!助けてほしいの!ついてきて!」

 

 有無を言わさずに手を引かれてノビタニアンは転移門を通って第四十八層へやってくる。

 

 説明もないままリズベット武具店と書かれている店へ到着した。

 

「えっと、どうしたの?」

 

「ここで私の友達が鍛冶職人をやっているんだけど、少し前からメッセが届かないの」

 

「フレンドなら居場所を特定できるんじゃ?」

 

「表示されないの!!」

 

「……え?」

 

 流石のノビタニアンも困惑する。

 

 SAOのシステムにおいて居場所が特定できないとされる理由としては。

 

 最悪の事態を同じようにアスナも考えたのだろう。

 

 だから、これだけ慌てているのだ。

 

「どうしょっか。そうだ、キリトに相談でも」

 

 ガチャと音を立てて武具店の扉が開かれる。

 

「ただいま……アスナ!?」

 

 扉を開けたのは桃色の髪をした女性プレイヤー。

 

「リズ!?心配したよぉ!」

 

 ぽろぽろと涙をこぼしながらアスナはリズベットを抱きしめる。

 

 突然のことに驚いているリズベッドの傍。そこには黒の剣士ことキリトの姿があった。

 

「ノビタニアン?どうしてここに」

 

「いやぁ、アスナさんに連れてこられて……昼寝をしようとしたんだけどね」

 

「それはなんか、すまないな」

 

「もしかして、リズベットさんとやらがいなくなっていた理由ってキリトが原因?」

 

「えっと、大まかにいえば、俺が原因かな」

 

 キリトが苦笑する。

 

 しばらくして彼が話した内容はノビタニアンですら呆れるものだった。

 

 アスナから教えてもらった武具店で片手剣を購入しようと考えていたキリトは、店で紹介された片手剣を自身の持つ剣と打ち合わせして、へし折ってしまったという。

 

 リズベット武具店の武器を。

 

「何をしているのさ」

 

「いや、試しでつい……」

 

「キリトの剣は魔剣クラスなんだよ?それと打ち合って折れない剣って、まず見つけるのが大変だってことを理解しないと」

 

「うん、今はすっごい後悔しているから」

 

 そのあと、リズベットと共に雪山のエリアへ向かい鉱石を取りに行った際に、雪穴へ落ちて一晩過ごしたという。

 

 索敵に気付かれない場所にいたことでアスナはリズベットを見つけられなかった。

 

「とにかく、これからはそういうことがないように気を付けてね」

 

「うん」

 

「アスナはともかく、そこの人は誰?」

 

 抱きつかれていたアスナを引きはがしたリズベットがノビタニアンを指す。

 

「えっと、自己紹介していなかったね。僕はノビタニアンだよ」

 

「ノビタニアン……あぁ!アンタが」

 

「へ?」

 

 突然のことにノビタニアンは混乱する。

 

「へぇ~、噂の白銀の剣士がこれだけ平々凡々って、そこの黒の剣士共々、噂だけを鵜呑みにするわけにはいかないってことね」

 

「……僕、どんな噂をされているの?」

 

 ある程度、悪意ある噂が流れたことを知っていたが、リズベットの態度からどんな噂をされているのか想像できなかった。

 

「はいはい、気にしないで、ごめんね。アスナの慌てぶりからして巻き込まれたみたいね」

 

「まぁーうん」

 

「ごめんね。お礼に武器のメンテしてあげるわ!」

 

「お、それはいいな」

 

「アンタね」

 

 リズベットが半眼でキリトを見る。

 

「じゃあ、キリトの剣が終わった後で」

 

「任せて」

 

 アスナ、ノビタニアン、キリトが見ている前でリズベットは手に入れた鉱石で剣を作る。

 

 しばらくして緑色の剣が出来上がる。

 

 

――ダークリパルサー。

 

 

 キリトの使用している魔剣、エリュシデータに匹敵する剣だ。

 

「凄いね」

 

「うん」

 

 手に入れた剣を振り回す。

 

「うん、凄い出来だ。ありがとう、リズ」

 

「最高傑作よ!大事に使ってね」

 

 ほほ笑むリズベット。

 

 それからノビタニアンの剣のメンテナンスを行う。

 

 終えた後、キリトは尋ねる。

 

「なぁ、ノビタニアン、ユウキは?」

 

「あ、ユウキは」

 

 答えようとしていたノビタニアンにメッセージが届く。

 

「あ、呼び出しみたいだ」

 

「へ?」

 

「行くよ」

 

 困惑するキリトの手を引いてノビタニアンは転移門へ向かう。

 

 転移した先は第二十二層。

 

 自然に囲まれたエリア。

 

 そのエリアに進んだノビタニアンはやがて木造建築の家へやってくる。

 

「あ、キリト~~、ノビタニアン~~、こっちだよ!」

 

 家の前、手を振っているのはユウキだ。

 

「お、おい、どうしたんだ、これ?」

 

「これから僕達の帰る家だよ」

 

「家!?」

 

「そうそう!ずっと宿とかで活動するのもどうかという話になってさ。ノビタニアンと話をして家を買うことにしたんだ」

 

「高かったんじゃないか?」

 

「まー、そこそこね。でも、ボク達で分割すればなんとかなったよ!」

 

 にっこりと微笑むユウキを見て、キリトはノビタニアンを見た。

 

「いいのか?俺がいても」

 

「当然だよ!」

 

「僕達三人で仲間なんだから……こういう帰る場所を持っていてもいいんだよ」

 

 にこりと微笑むノビタニアンの言葉にキリトは少し考えて頷いた。

 

「ありがとう、俺なんかを」

 

 苦笑するキリトの左右の手を、ユウキとノビタニアンが掴んで家の中へ招き入れる。

 

 



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06:黒と白の剣舞

夜に投稿できないかもしれませんので、速めに投稿します。


第七十四層。

 

 ソードアート・オンラインがデスゲームと化して二年が過ぎようとしていた。

 

 多くの死者を出しながらも三分の二の攻略を続けている。

 

 目の前にいるリザードソードマンとキリトは戦う。

 

 彼の振るうエリュシデータと剣がぶつかった。

 

 何度か剣をぶつけながらキリトは距離を取るために後ろへ下がる。

 

 そのキリトへ狙いを定めてソードスキルを発動させようとするリザードソードマン。

 

 斬撃がキリトへ直撃をするという瞬間、横から盾を構えた白銀装備の片手剣士、ノビタニアンがパリングで攻撃を無効化する。

 

 動きを止めたリザードソードマンに紫の剣を構えた少女、ユウキがソードスキル、バーチカル・スクエアを繰り出す。

 

 攻撃を受けたリザードソードマンの体が消滅した。

 

「ふぅ」

 

「お疲れ、ユウキ」

 

「みんな、そろそろ帰らない?」

 

 大きな盾を構えているノビタニアンが帰ろうと提案する。

 

「もう少しくらい俺はレベル上げしたいんだけどなぁ」

 

「迷宮区に潜って八時間だよ?そろそろ切り上げて街へ戻ろうよ~」

 

「二対一で街へ戻ることに決定」

 

「あぁ、くそっ、もう少しくらい」

 

「はいはい、帰るよ」

 

「いぇーい」

 

 キリトの左右をユウキとノビタニアンが掴んで歩いていく。

 

 ドナドナされたキリトは大した抵抗もしなかった。

 

 迷宮区を抜け出した三人は森の中を戻っている。

 

「ん?」

 

 ふと、キリトの索敵スキルに何かがヒットした。

 

 森の中を探していたキリトはあるものを見つける。

 

「おい」

 

 キリトの声に二人は視線を追いかけた。

 

 そこにいたウサギのモンスター。

 

「任せるよ、キリト」

 

「お願い」

 

 二人に言われてキリトは投擲スキルを発動させる。

 

 攻撃を受けたモンスターは慌てて飛び出す。

 

 そこにキリトの二撃目が直撃した。

 

 森の中でモンスターの悲鳴が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトは複雑に入り組んだ五十層の街中を歩く。

 

 目的の扉を開けると元気な声が響く。

 

「よし決まった!ダスクリザードの革二十枚で五百コルだ!」

 

 聞こえた阿漕な商売内容にキリトは内心、呆れながらも中へ入る。

 

「相変わらず阿漕な商売をしているようだな」

 

「キリトか、安く仕入れて安く提供するのがうちのモットーだ」

 

 来店したキリトを迎えたのは攻略組として戦っていたエギル。

 

 現在は店を構えて商売をしている。

 

 キリトやノビタニアン達も贔屓にさせてもらっていた。

 

「まあいい、俺の方の買収も頼むよ」

 

 キリトはウィンドウを操作する。

 

 どのような阿漕な商売であろうとまぁ、今回はいいかという感覚だった。

 

 メニューを見たエギルは目を丸くした。

 

「おいおい、ラグーラビットの肉……S級食材じゃねぇか……しかも、三つも売るなんて、金に困ってねぇなら食うことだって」

 

「……普通なら食べるだろうけど。調理したとしても焦がすくらいが関の山だ……ノビタニアンが調理できるけれど、アイツのスキルもそこまで高くない……何よりあの二人へ少しくらい貢献しねぇとなぁ」

 

「なるほど、俺達は調理スキルなんて特に上げていねぇからな」

 

 腕を組むエギル。

 

 とりあえず商売を終えようとした時にポンとキリトの肩が叩かれる。

 

 振り返ると顔見知りがいた。

 

「シェフ確保」

 

 ぽつりと漏らして叩かれた手をキリトは掴む。

 

 振り返った先にいたのは栗色の髪をした少女。

 

 白で統一された衣装に身を包み、ハシバミ色の瞳は少し驚きながらもキリトをまっすぐ見ている。

 

 アスナは驚きの表情を浮かべていた。

 

 彼女の後ろには護衛らしき男性プレイヤーがいる。

 

 男性プレイヤーの表情が険しいものになっていることに気付いてキリトは慌てて、手を放す。

 

「よ、よぉ、アスナ。こんなところにやってくるなんて珍しいな」

 

 アスナはきょとんとしながら。

 

「何よ、もうすぐ次の攻略会議があるでしょ?ちゃんと生きているか確認しにきてあげたのよ」

 

「そ、そっか……そうだ、調理スキルってどのくらいあげている?」

 

「調理スキル?それなら少し前にフルコンプしたわ」

 

 なんですと!?

 

 そう叫びたくなる衝動をキリトはこらえる。

 

 本来、この世界において調理スキルというのはあまり重要視されていない。

 

 どちらかといえば、戦闘、鍛冶、裁縫などが育てられる。

 

 その中で調理をレベル上げ、まさかのフルコンプは衝撃的だった。

 

「実はさ」

 

 キリトはメニューを見せる。

 

 それをみたアスナは目を見開く。

 

「調理してくれるなら味見くらいはさせて」

 

「半分こ」

 

 ぐぃっとアスナに顔を近づけられたキリトは少し下がる。

 

「半分こよ。それにこの数だとノビタニアン君やユウキもいるんでしょ?みんなで分け合ってもいいと思うな」

 

「あ、はい」

 

 こくりとキリトは頷く。

 

 アスナはそう言うと後ろの男性プレイヤーを見る。

 

「そういうわけだから護衛は結構です」

 

「アスナ様!こんなスラムに足を運びになるだけでなく、素性を知らぬやつを自宅へ伴うつもりですか!?」

 

「この人の素性はともかく、レベルはあなたより10は上よ。クラディール」

 

「な、なにを馬鹿な!?私がこんな奴に劣るなどと……そうか」

 

 男性プレイヤー、クラディールは忌々し気に顔をゆがめていたが、キリトの風貌を見て。

 

「そうか、貴様があのビーターだな!!アスナ様、こいつらは自分さえよければ他などどうでもいいと思っているような連中ですよ!それを家にあげるなどと考え直してください!」

 

「とにかく!今日はここで結構です。副団長として命令します。行くわよ、キリト君」

 

 乱暴にキリトの手をつかんでアスナは歩き出す。

 

 残されたクラディールは怒りで顔を歪めながらキリトの背中をじっと見続けていた。

 

「いいのか?」

 

「いいんです!それよりキリト君、私の家でいいかしら?」

 

「あ、ま、待ってくれ」

 

 先を歩くアスナにキリトは待ったをかける。

 

「実は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、嬉しいなぁ。アスナの料理が食べられるなんて~」

 

 アスナがホームとしている第六十一層主街区セルムブルク。

 

 そこにある一軒家の中でラフな格好をしたユウキがにこにこと微笑んでいる。

 

 アスナの傍では私服でエプロンを着ているノビタニアンが申し訳なさそうにしていた。

 

「ごめんなさい、アスナさん。僕達までお邪魔しちゃって」

 

「ううん、私こそ、S級レア食材なんて今まで調理したことがないからとても楽しみなんだ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。な、ノビタニアン」

 

「あ、うん」

 

 調理スキルのレベルがそこそこあるノビタニアンはアスナの手伝いとして台所に立っている。

 

 私服のキリトとユウキはテーブルでやり取りを見ていた。

 

「ノビタニアン君、どういう料理にしようか?」

 

「メインはアスナさんに任せます。僕はサラダとかを作るよ」

 

「わかったわ。ラグーだから、シチューとかにしようかな」

 

 アスナはメニューウィンドウを開いて調理を設定する。

 

「SAOの調理って簡単だから味気ないのよね」

 

「僕としては楽だから助かるんだけど」

 

「男の子は料理しないってイメージだから少し意外だわ」

 

「まぁ……あそこの二人が、あまりやりませんから」

 

 フォークとナイフを手に待っているユウキ、キリトは、あははと笑っている。

 

 成程とアスナは理解した。

 

「大変ね」

 

「これでもタンクだから」

 

 しばらくして机の上においしそうなシチューが並ぶ。

 

「おいしそうだね!」

 

「あぁ、うまそうだ」

 

「食べましょう」

 

「いただきます」

 

 四人は満足した表情でハーブティーを飲んでいる。

 

「あぁ、今まで頑張って生き残っていてよかった」

 

「本当だよぉ~、今までで食べた料理の中で一番だ~」

 

「そうだね。キリトに感謝しなきゃ」

 

「言うなら、アスナだろ?調理したのはアスナなんだから」

 

「うん、ありがとう、アスナさん」

 

 頷いたアスナは、キリトを見る。

 

「そういえば、三人に聞きたいことがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「キリト君たちはギルドに入る気はないの?」

 

「ないな」

 

「うん」

 

「ボクも」

 

 三人は同時に頷く。

 

「でも、あの時の約束はほとんど無効みたいなものだし」

 

「あの約束は関係ないよ」

 

 第二層を攻略して少し後。

 

 攻略の指揮を執っている面々からある制約のようなものを半ば結ばされた。

 

 あれからその約束は既に無効となっているに等しい。

 

 律儀にあれを守っている必要はないというアスナに対して。

 

「別にあの件は関係ないさ」

 

「でも、ベータ出身者が集団に馴染まないのは理解している。でも、七十層を超えたあたりからモンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきているような気がするんだ」

 

 アスナの言うことは事実だ。

 

 戦っているモンスターが今までは機械的な動きだったはずなのに、まるで学習しているような動きが多くなっている。

 

 アスナがギルドへ属するように促している理由がなんとなくわかった。

 

「三人だと想定外の事態でもなんとか対処できる。ギルドだと今よりも数が多いから安全性が増すだろう。でも、ビーターと組みたがるもの好きなんか、こいつらくらいさ」

 

 キリトがノビタニアンとユウキを見る。

 

「パーティー申請を出す人がいたら組むの?」

 

「え、あぁ、まぁ」

 

 そう言うとアスナはキリトの返答を待たずに操作をする。

 

 キリトの前にパーティー申請のウィンドウが現れた。

 

「何のつもりだ?」

 

「見てのとおりよ、しばらく私とパーティーを組んで。今週のラッキーカラーは黒だし」

 

「残念、紫じゃないんだ~」

 

「ユウキ、変なちゃちゃ入れちゃ駄目だよ」

 

 ひそひそと二人が話す。

 

「悪いけれど、俺についてこれる人がいるなんて思えな――」

 

 ヒュンと目の前にソードスキルのエフェクトをまとったフォークがある。

 

 目の前でフォークを構えているアスナがいた。

 

「……アンタは例外だ」

 

 手を挙げてキリトは降参をアピールする。

 

「あ、でも、俺は普段、ノビタニアンとユウキで組んで」

 

「ねぇ、ユウキ、ノビタニアン君、キリト君借りていいかな?」

 

 この時、キリトは二人なら断ってくれるだろうと期待していた。

 

 幾多もの戦場をともに駆け抜けて、

 

 多くの危機を三人で脱して。

 

 多くの階層ボスと戦い抜いた俺達ならば!

 

 根拠のない理由だが、二人が一緒ならと思っていた。

 

「「どうぞどうぞ」」

 

 そして裏切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、キリトは第七十四層迷宮区手前の村にある転移門にてアスナを待っていた。

 

 ノビタニアンとユウキの二人は少し離れたところにいる。

 

「裏切り者め」

 

 キリトの言葉にユウキは吹けない口笛を鳴らし、ノビタニアンは壁にもたれて昼寝をしていた。

 

「裏切り者ぉ」

 

「もーう、ボク達だって少し離れたところでいるんだから文句言わないでよぉ」

 

 流石に我慢できなくなったのかユウキが口を尖らせる。

 

「それにしても、遅くないか?」

 

「約束の時間から十分過ぎているんだっけ?この程度、問題ないんじゃないの」

 

「そりゃ、ユウキやノビタニアンは時間にルーズだから仕方ないだろうけれど、あのアスナだぞ?時間に厳しい彼女がこんなに遅刻するなんて何か」

 

 

――起こる前ブレじゃないのか?

 

 

 そう言おうとしたキリトの前に転移門の輝きが起こる。

 

「きゃあああああ!よ、避けてぇえええ!」

 

「え?」

 

 一メートルもない目の前から飛び出したのはアスナ。

 

 突然の出現に流石のキリトも対応できず真正面からぶつかりあってしまう。

 

 派手にごろごろと地面を数回、転がったキリトは手を動かす。

 

 気のせいか、手の中に柔らかいものを感じる。

 

「(なんだ、これは?)」

 

 何度か手の中の感触を確かめていたキリト。

 

「い、いやぁああああああ」

 

 真下から聞こえた叫び。

 

 繰り出された音と共にキリトは派手に吹き飛んだ。

 

「おー、飛んだ」

 

「ん?何の騒ぎ」

 

 様子を見ていたユウキは驚きの声を上げ、寝ていたノビタニアンは体を起こす。

 

 派手に転がったキリトは前を見る。

 

 そこにいたのは自分の体を抱きしめているアスナの姿。

 

 頬を赤くしてキリトを睨むアスナの瞳は潤んでいる。

 

「一体……」

 

「来た!」

 

 立ち上がったキリトの近く。

 

 そこで転移門から何者かがやってくる。

 

 輝きを見たアスナはキリトの後ろに隠れた。

 

 光と共に現れたのは先日、エギルの店で目撃した血盟騎士団に属している男性プレイヤー、クラディール。

 

 彼は周りを見てアスナとキリトの姿を見つけると眉間へ皺を寄せる。

 

「アスナ様、勝手なことをされては困ります」

 

 近づいてくるクラディールに対してアスナはキリトの後ろへ隠れる。

 

「さぁ、アスナ様、ギルド本部まで戻りましょう」

 

「いやよ!今日は活動日じゃないわよ。大体、アンタ、朝からなんで家の前に張り込んでいるのよ!?」

 

「こんなこともあろうと一か月前からずっとセルムブルグで、アスナ様の監視の任についておりました」

 

「そ、それ、団長の指示じゃないわよね?」

 

 話を聞いていたユウキは顔を青ざめる。

 

 ノビタニアンも顔をしかめていた。

 

 震える声でアスナは尋ねる。

 

「私の任務はアスナ様の監視です。それは当然、自宅の監視も」

 

「ふ、含まれないわよ、バカ!!」

 

 流石にやりすぎだ。

 

 キリトからアスナを奪うようにクラディールが腕をつかむ。

 

「聞き分けのないことをおっしゃらないでください。さ、行きますよ。アスナ様」

 

 クラディールはアスナの手をつかんで転移門へ向かおうとする。

 

 強く抵抗できないアスナの顔を見て、キリトは手を伸ばす。

 

「ちょっと待ってくれよ」

 

 反対側のアスナの手をつかむ。

 

「副団長様は今日、俺と共に迷宮区へ向かう約束だ。護衛なら代わりにやるから今日はおとなしく帰ってくれないか?」

 

 キリトの言葉にクラディールは激昂する。

 

「ふざけるな!貴様のような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるものか!私は栄光

ある血盟騎士団の」

 

「それを決めるのはアスナさんだと思うけど?」

 

 横からノビタニアンが割り込む。

 

 両者の間に漂う剣呑な空気を少しでも緩和させるつもりだったのだろう。

 

 ノビタニアンはアスナを見る。

 

 その目に答えるように彼女は頷く。

 

「クラディール。私はこれからキリト君たちと迷宮区攻略へ向かいます。彼とパーティーを組んでの攻略は、立派な攻略活動です」

 

「んなっ!」

 

 アスナからの援護にクラディールは目を見開く。

 

 今の発言は護衛としての能力はキリトが勝っており、加えて自分よりも頼りになるという意味だと彼は考えていた。

 

 その怒りはアスナへ向けられず、傍にいるキリトやノビタニアンへ放たれる。

 

「それならば、その実力があるということを証明してもらおうか!!」

 

 叫びと共にキリトの前にデュエル申請が表示される。

 

「キリト君、お願い」

 

「いいのか?」

 

「大丈夫。団長には後で私から報告しておくから」

 

「……わかった」

 

 許可をもらったキリトはデュエル申請ウィンドウのOKをクリックする。

 

 デュエルが始まるということに気付いた野次馬が騒ぎ立てた。

 

「血盟騎士団と黒の剣士がデュエルするぞぉ!」

 

「見ものだぜ!」

 

 野次馬がぞろぞろと集まってくる。

 

「うわぁ、集まってきたね」

 

「まぁ、キリトだから」

 

「ご覧ください。アスナ様、あなた様の護衛が務められるのはこの私だけです!」

 

 酔ったように叫ぶクラディールは自らの剣を抜く。

 

 相手は大剣。

 

 繰り出されるソードスキルも推測できる。

 

 エリュシデータを構えてキリトは対峙した。

 

 デュエル開始のカウントダウンが始まる。

 

 息を飲む周りの前でデュエル開始のブザーが鳴り響く。

 

 クラディールが繰り出すのは大剣ソードスキル“アバランシュ”。

 

 高威力高レベル技のソードスキルとして対モンスターとして使用されることが多い。

 

 これは平均的なレベルの攻略組プレイヤー相手ならば問題なかっただろう。

 

 そう、クラディールは知らない。

 

 目の前の相手は攻略組においてトップクラスの実力を持ち、幾度もの死地を潜り抜けた猛者である。

 

 目星をつけたところでキリトはエリュシデータを振るう。

 

 発動するソードスキルは“スラント”。

 

 放たれた一撃はクラディールの大剣へ直撃。

 

 キリトとクラディールの立ち位置が入れ替わり、両者の位置が変わる。

 

 音を立ててクラディールの大剣が半ばから見事に真っ二つに折れた。

 

「なっ!?」

 

 大剣が見る影もなく破壊されたことで驚愕するクラディール。

 

 周囲に集まっていたギャラリーも驚きに目を見開く。

 

 ギャラリーの中で驚いていなかったのはノビタニアン、ユウキくらいだ。

 

「今の……」

 

「キリト考案、システム外スキル。武器破壊だよ」

 

「何度かお試しで付き合っていたからボクら知っていたんだぁ」

 

「どうする?武器を持ち替えて続けるというならまだ相手をするけど」

 

「くっ、そぉ!」

 

 短剣を取り出したクラディールがキリトへ飛び掛かる。

 

 その間に割り込む影があった。

 

「あ、アスナ様!」

 

 クラディールに向かい合う形で現れたのはアスナだ。その手には細剣ランベントライトが握られている。

 

「アイツが小細工を!武器破壊も何か仕掛けがあったに違いありません。そうでもなければ、この私が!薄汚いビーターなんかに!!」

 

 自身の敗北をキリトのせいにしようとしている。

 

 我慢できずノビタニアンが割り込んだ。

 

「残念だけど、これはキリトの実力だ。武器破壊の練習も僕達が立ち会っているよ」

 

「何を!貴様らもビーターの仲間の癖して!」

 

「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日をもって護衛役を解任。別名あるまでギルド本部にて待機、以上」

 

「な、なんだと!!この」

 

 納得のいかない表情で原因であるキリトを睨む。

 

 そんな視線を阻むようにノビタニアンとユウキが前に立つ。

 

 顔を歪めながらクラディールは下がる。

 

 周りの目もあることから惨めな真似は避ける必要があると考えたのだろう。転移門へ向かい、クラディールは消えた。

 

「ごめんね、変なことに巻き込んじゃって」

 

「別に、慣れているから」

 

「キリトって、変に厄介ごと持ってくるもんねぇ」

 

「ユウキ……茶化さないの」

 

「別にこれぐらいならもっと頼っても構わないさ」

 

「そう」

 

 にこりとアスナは微笑む。

 

「じゃあ、前衛はよろしく」

 

「えぇ!?そこは交代だろう!?」

 

「どちらにしても僕達は楽できるね」

 

「うんうん」

 

「お、おいぃ!」

 

 第七十四層の二十階あるうちの四階までしか踏破されていなかった迷宮区。

 

 これは複雑になっている迷宮区、トラップの増加。先日、アスナと話をしていたモンスターのアルゴリズムにおけるイレギュラー性が原因でもある。

 

 三人でかなり踏破していたがそこにアスナが参加しただけで。

 

「ここまで順調に進むって凄いな」

 

「キリト君、スイッチ!」

 

「お、おう」

 

 地面を蹴り、キリトはソードスキルを放つ。

 

 攻撃を受けた亜人型モンスターは消滅する。

 

「順調だね」

 

「うん!アスナがいるだけで順調だよ!」

 

「僕の苦労は変わらないけどね」

 

 盾を構えているノビタニアンはモンスターの攻撃を最初に防ぐ役割を請け負っている。

 

 常に前へ出るため、トラップ感知もキリトと同じくらいに高い。

 

 モンスターが出現しない安全圏へ到達したことで、一同は休憩することにした。

 



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07:青眼の悪魔

原作をなぞっていますが、これからオリジナルが入っていきます。





 

第七十四層迷宮区の安全地帯。

 

 モンスターも出現しない文字通り安全な場所。プレイヤーの休憩地帯だ。

 

 安全地帯といっても絶対というわけではない。

 

 悪事を働くオレンジ、レッドプレイヤーが潜んでいることもある。

 

 集団で行動していれば遭遇しても対処できるが相手の数が多すぎると三人パーティーでは不利になることがあるのだ。

 

 そんな安全地帯で四人の男女のプレイヤーが岩壁にもたれていた。

 

「な、なんてむちゃくちゃなことをするのよ!」

 

 荒い息を吐きながら怒るのは血盟騎士団副団長を務めている女性プレイヤー、閃光のアスナだ。

 

「別にいつものことだよ?」

 

「まぁ、主にキリトとユウキが無茶をするんだけどね」

 

 肩をすくめるノビタニアン。

 

 彼も息を整えようと壁にもたれている。

 

「もう信じられない!少数でボスに挑もうとするなんて!!」

 

 事の始まりは数十分ほど前。

 

 半日で迷宮区のほとんどを踏破した四人は運よく……ボスの部屋を見つけた。

 

 重苦しい威圧感を放つ扉を前にしてキリトとユウキ、ノビタニアンが中へ入る。

 

 アスナが止めることも聞かず三人は中へ、仕方なく後に続いた。

 

 そこにいたのは巨大な悪魔とでもいうべき存在。

 

 部屋の中に設置されている松明に次々と火が灯る。

 

 巨大な影が四人を見下ろす。

 

 筋骨隆々の逞しい体に山羊の頭の悪魔。大型剣を携えているその頭には四本のHPバーと名前が表示されていた。

 

 

――『TheGleameyes』

 

 

 第七十四層のフロアボスは獲物たちを見つけた途端、咆哮を放つ。

 

 威圧感と雄叫びを前にしてアスナとノビタニアンは回れ右をし二人を捕まえ全速力で逃げ出した。

 

「別に本格的な戦闘をするつもりはなかったさ。回避しながら攻撃パターンを見極めるつもりだった」

 

「いつものことだね?」

 

「ボスの姿を見たらすぐに撤退するのが普通です!それなのに、二人とも意気揚々と挑もうとするんだから!」

 

「いつものことです」

 

 ぐったりとした表情で盾に体を預けているノビタニアン。

 

 前は進んで飛び込んでいたがキリトやユウキと接してきたことでいつの間にかストッパーになっていた。

 

 何よりあのモンスターは怖い。

 

 ママの額に角が生えているレベルと同じくらいの恐怖だ。

 

「それにしてもあのボスは苦労しそうね」

 

「タンクで攻撃を防いでじりじりとHPを削っていくことになりそうだな、タンクの数がたくさんいるなぁ」

 

「タンク……ねぇ」

 

 アスナがジト目でキリトを見る。

 

 正確にはキリトが背負うエリュシデータを見ていた。

 

「キミ、片手剣を使っているけれど、盾を使っていないわよね?そもそもリズが与えた剣も使っていないみたいだし」

 

「え、それはまぁ、ノビタニアンが盾を」

 

「ユウキは俊敏性を重視しているから盾は不要だけれど、キミの場合、少し違うような気がするのよねぇ」

 

「あぁ、それは」

 

「もう」

 

 探るようなアスナの目にキリトは視線を泳がす。

 

 何かを話そうとするユウキの口をノビタニアンがふさぐ。

 

 しかし、アスナはすぐに探ることをやめた。

 

「スキルの詮索はマナー違反だったわね……もう三時……遅くなったけど、そろそろお昼にしましょうか」

 

 アスナはそう言うとアイテムを取り出す。

 

 出てきたのは小ぶりのバスケット。

 

「はい、どうぞ」

 

 バスケットの中から出てきたのはおいしそうなサンドイッチ。

 

 それを見た三人のお腹が同時に鳴り出す。

 

「いただきます!」

 

「僕もう腹ペコだよ~」

 

「ボクもボクも!」

 

 ぱくりと同時にサンドイッチにかじりついた。

 

 キリトが驚きで目を丸くする。

 

「これって……マヨネーズ?」

 

「フフ、凄いでしょ?」

 

「嘘!?すごいなぁ」

 

「え、どうやったの!?」

 

「一年の研鑽の結果よ。アインクラッドで手に入る百種類以上の調味料、その味覚再生エンジンに与えるパラメータを全部解析して作ったの」

 

 アスナが広げたのはアイテムの詳細。

 

 合成材料には食材以外に解毒ポーションの原料も用いたらしい。醤油の他にマヨネーズまで作ったという。

 

「凄いや。僕、こんなことしたら頭がパンクしちゃうよ」

 

「そうだな」

 

 

「気に入ってもらえたなら、また作ってあげるわよ?」

 

「本当か!?」

 

「やったぁ~!」

 

「アスナさん、僕にも教えてくれる?」

 

「いいわよ、ノビタニアン君に後でデータを送ってあげるわね」

 

「これで、ノビタニアンの料理にも楽しみが出てくるよ!」

 

「ユウキ……それって、僕の料理にケチをつけているってことだよね?」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「僕の目を見てよ」

 

「!」

 

 索敵スキルに反応があることに気付いたキリトが立ち上がり警戒する。

 

 キリトが立ち上がったことでノビタニアン、ユウキも身構えた。

 

 安全圏へぞろぞろと集団が現れる。

 

 似たような装備を纏った彼ら。

 

 装備を見たキリトは警戒を解く。

 

「キリト!久しぶりじゃねぇか」

 

「クライン、お前たちも来たのか」

 

 面識のあるプレイヤー集団、ギルド、風林火山のメンバーだ。

 

「やぁ、クラインさん」

 

「おう、ノビタニアン。相変わらず三人で組んでいるみたいだな」

 

「……まぁ、今回はプラス一名いるんだけど」

 

 ノビタニアンの言葉にクラインは後ろを見る。

 

 キリトの傍にいるアスナ。

 

 彼女を見てクライン達は動きを止める。

 

「攻略会議で見知っていると思うけれど、血盟騎士団の副団長のアスナだ。今回は一緒に行動させて……おい、聞いているのか?」

 

 動きを止めたクラインへキリトは近づいた。

 

 その瞬間、クラインはものすごい速度でアスナの前に立つと手を差し出す。

 

「こここ、こんにちは!クライン、二十四歳!独身です!恋人募集――」

 

「はいはい、落ち着いてね。クラインさん。アスナ、彼の後ろにいる六人のメンバーが」

 

 ユウキの横をすり抜けて風林火山のメンバーがアスナへ話しかけていく。

 

 眼を白黒しているノビタニアンとキリト。

 

「それにしてもよぉ、どうしてお前とアスナさんがパーティーを組んでいるんだよ」

 

「よぉく見ろ。俺達とアスナがパーティーを組んでいるんだ」

 

「実はしばらく、この人とパーティーを組むことになったのでよろしく」

 

 アスナの発言にクライン達は驚く。

 

「驚きだな。ノビ公やユウキとしかパーティーを組まないお前がなぁ」

 

「なんだよ。俺だってなぁ、他の奴とだって――」

 

 反論しようとしたキリトの索敵レーダーにヒットするものがあった。

 

 安全地帯へぞろぞろと集団が現れる。

 

 黒鉄色の鎧に濃緑色の戦闘服を纏った十二人の男性プレイヤー。

 

 前線の盾持ち六人の武装には特徴的な印が施されている。

 

 SAO攻略組に属しているものなら知っている、軍と呼ばれるギルドのものだ。

 

「軍の連中がなんでこんな場所に?」

 

「確か、二十五層攻略の時に多大な被害をこうむってからは姿を消していたよね?」

 

「内部の強化に努めているという話だよ」

 

 少し前に被害を受けたことから各層の主街区に拠点を設けて、犯罪者ギルドを取り締まっているらしい。

 

 らしいというのはキリト達が軍と関わることが少なく、詳しいことを知らないということだ。

 

「そういえば、アルゴさんが教えてくれたんだけど、軍は近々、前線復帰を企んでいて、攻略へ参加すると聞いているよ?」

 

「だが、動き出すのが早すぎないか?」

 

 ノビタニアンの言葉にクラインが反発する。

 

「軍は長いこと前線を退いていたからな。いざ、参加したとしても隅へ追いやられるかもしれない。先遣隊を使って有用な情報を用いて、攻略でトップに立つことを目的としているんだろうな」

 

「……どゆこと?」

 

 首を傾げるユウキ。

 

 ノビタニアンは口を開けて笑うしかなかった。

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

 

 部隊を指揮している人間がやってくる。

 

 他の連中と異なり鎧の装飾が異なっていた。

 

「キリト、ソロだ」

 

「キミ達はもうこの先も攻略しているのか?」

 

「まぁな」

 

「そうか、ならばマッピングデータを提供してもらいたい」

 

 コーバッツの言葉に異を唱えたのはクラインだ。

 

「提供だぁ!?お前、マッピングの苦労がわかって言っているのか!?」

 

「我々は!このゲームに閉じ込められた人たちを開放するために日夜、奮闘している!解放のために協力することは諸君の義務である!」

 

 クラインの叫びを遮るようにコーバッツは叫ぶ。

 

「ちょっとおじさん!乱暴すぎるよ!」

 

 上からの物言いに流石のユウキも我慢ができないようで文句を言う。

 

「別にデータくらい提供するさ」

 

 空気がより悪くなる前にキリトがコーバッツへデータを差し出す。

 

「ふむ、感謝する」

 

「感謝していないでしょ」

 

「まぁまぁ」

 

 ユウキの悪態にノビタニアンが小さく止める。

 

「おい、キリト」

 

「街に戻れば提供するつもりだったからいいよ。そもそもマップデータで商売をするつもりはないから」

 

「全く、お前というやつは」

 

「進軍するぞ!!」

 

 コーバッツの叫びでふらふらと起き上がる軍のメンバーたち。

 

「アンタ達、この先に進軍するつもりか?」

 

「そうだが?」

 

「ボスに挑むならやめておいた方がいい」

 

「我々の部隊はそこまでヤワではない!!」

 

 キリトの言葉にコーバッツが噛み付く。

 

 攻略組として長い戦闘を行っているキリト達はコーバッツの部隊が疲労していることに気付いていた。

 

 このゲームでは肉体的な疲労はない。しかし、頭など精神的な疲労は休まなければ回復することはない。

 

 目の前のプレイヤー達は慣れない連戦によって消耗していることは明らかだ。

 

 ボスと挑むとなれば、危険だとキリトは意見した。

 

 しかし、彼は話を聞かず、部下を無理やり立たせるとそのまま進軍していく。

 

「キリト、どうする?」

 

「少し、連中が気になる」

 

「じゃあ、後を追う?」

 

「悪い、アスナは主街区へ」

 

「何を言っているの?今日は一日パーティーを組んでいるんだから、私も行きます!」

 

「あぁもう!俺も行くぜ!」

 

 動き出した四人を見てクラインとギルドのメンバーも後を追いかける。

 

 数十分後。

 

 続々と現れるモンスターをキリト達は狩っていた。

 

 一度、通った道だがリポップする時間になったようでところどころで足止めを受けている。

 

「これだけ進んで誰もいないなら軍の連中、帰ったんじゃねぇか?」

 

「それならいいけれど……でも、キリトの予感ってこういう場合」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たるんだよねぇ」

 

 

 聞こえてきた悲鳴に全員が走り出す。

 

 駆け出した四人の後にクラインが続こうとするが目の前にモンスターが現れる。

 

 キリト、アスナ、ノビタニアン、ユウキがたどり着いたとき。

 

「開いている!?」

 

「くそっ」

 

 扉の中へ四人は踏み込む。

 

 青い炎に照らされている部屋の中央、巨大な剣を手にして暴れるフロアボス、ザ・グリームアイズ。

 

 周囲には行進していった軍のプレイヤー達が倒れている。

 

 HPは既にイエローやレッドに達しているものばかり。

 

 凄惨な状況だがキリトは人数を数える。

 

「二人、足りない」

 

 戦闘が開始されて数分しか過ぎていない筈なのに、命を落としているプレイヤーがいることにキリトは顔を歪める。

 

 ザ・グリームアイズが剣をふるう。

 

 それだけで多くのプレイヤーが吹きとばされた。

 

「転移結晶を使うんだ!」

 

 キリトは叫ぶ。

 

 扉まで逃げることができなければ、転移結晶を使ってこのフロアから脱出すればいい。

 

 しかし。

 

「駄目だ!転移結晶が使えないんだ!」

 

「転移結晶無効化エリア!?」

 

 驚いている中で再びザ・グリームアイズが剣を振り上げた。

 

「っ!!」

 

 見ているだけしかしなかった中で最初に動き出したのはノビタニアン。

 

 続いて、アスナが細剣を抜いて駆け出す。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 叫びと共に振り下ろされる剣を盾で受け止める。

 

 派手な音を立てて火花を散らす盾。

 

 かろうじて攻撃を防ぎ、後ろの軍のプレイヤーを守る。

 

 がら空きになった胴体にアスナのソードスキルがさく裂した。

 

「早く、今の内に扉の方に、逃げて!」

 

 グリームアイズの標的となったノビタニアンの叫びでふらふらと軍のプレイヤー達は扉の方へ向かう。

 

 そんな中。

 

「恥を晒すことは許さん!我々、解放軍に撤退の二文字は許されない!!」

 

 剣を構えて叫ぶコーバッツ。

 

 彼の言葉で武器を構えるプレイヤーの姿もいた。

 

「あぁ、もう!」

 

 我慢できなくなったのかユウキがコーバッツの襟首をつかみ、自身の筋力全開で彼を扉の向こうまで投げ飛ばす。

 

「おい、どうなって、うぉ!?」

 

 クライン達が到着すると扉の方へ投げ飛ばされたコーバッツの姿を見て驚きの声を漏らす。

 

「クラインさん、軍の人をよろしく。行くよ!キリト」

 

「あぁ」

 

 出遅れながらもユウキとキリトがザ・グリームアイズへ突撃する。

 

「ノビタニアン、スイッチだ!」

 

「うん」

 

 ザ・グリームアイズの攻撃を一人で防いでいたノビタニアンのHPはそこそこ減っていた。

 

 最初に“プロテクションシール”を使ってこの程度で済んでいる。

 

 何もなしで攻撃を受けていたら彼のHPはレッドゾーンに達していた。

 

 入れ替わってキリトとユウキがソードスキルを繰り出す。

 

 攻撃を受けたグリームアイズのHPが削られるが反撃とばかりに猛攻が襲い掛かる。

 

 軍を避難させている風林火山のメンバーに任せて、クラインも参加した。

 

 しかし、HPをすべて削り取ることはできない。

 

 後一手足りない。

 

 ポーションを飲んでHPを回復しているノビタニアンも戦線へ復帰する。

 

 入れ替わる形で後ろへ下がり、キリトが叫ぶ。

 

「三分でいい!少しだけ時間を稼いでくれ!」

 

「オッケー!行くよ!」

 

「わかったわ!」

 

 ユウキがソードスキル“メテオ・ブレイク”を繰り出す。

 

 大技を受けながらもグリームアイズは大剣を繰り出した。

 

 ダメージカットとシールドコーティングを発動させたノビタニアンがシールドで受け止める。

 

「ぐっ!くぅう!」

 

 完全に攻撃を殺しきれず、少し後退しつつも防ぐことに成功する。

 

 キリトはメニューを開いて、ある武器を取り出す。

 

「(使うしかない!)」

 

 覚悟を決めたキリトは背中に現れた深緑の剣、ダークリパルサーを手に取る。

 

「スイッチ!!」

 

 後退したメンバーと代わり前へ出るキリトは同時に二つの剣を振り下ろす。

 

 攻撃の手を緩めずにキリトは次々と剣を振るう。

 

「スターバースト・ストリーム!」

 

 キリトが繰り出すのは自身の持つスキルの中で上位の技。

 

 星屑のごとき奔流の十六連撃は、残りわずかとなっていくボスの命を奪っていく。

 

「(手を緩めるな!もっと、もっと早く!!)」

 

 手を緩めず、反撃を与えず、キリトは攻撃を続ける。

 

 残り少ないHPがゼロになるまで攻撃の手を止めなかった。

 

 ザ・グリームアイズが咆哮をあげる。

 

 音を立ててザ・グリームアイズのHPが0になる。

 

 消滅したことを確認してキリトは意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再びキリトが目を開けると心配そうにこちらを見ているアスナの姿があった。

 

「え?」

 

「よかった、キリト君が目を開けてくれて」

 

「これは……」

 

「お、果報者め。目を覚ましたか」

 

 クラインがこちらへやってくる。

 

 キリトは体を起こす。

 

「あれからどのくらいの時間が?」

 

「一時間くらいだ」

 

 周りを見る。

 

「それよりも、さっきのあれは一体なんなんだよ?」

 

「……教えないと、ダメか?」

 

 困惑しているキリトへクライン頷く。

 

「そりゃ、少しくらいは知りたいと思うだろ」

 

「エクストラスキル、二刀流だよ」

 

 キリトの言葉にクライン達は目を見開く。

 

「し、取得条件は?」

 

「わからない、気が付いたら入っていたんだ」

 

「マジかよ。まさにユニークスキルじゃねぇか」

 

 驚くクライン。

 

 しかし、ノビタニアンやユウキは驚いた様子を見せない。

 

「もしかして、お前達は知っていたのか?」

 

「知っていたというか」

 

「……キリトのスキル熟練を上げているのをボクらが手伝っていたんだけど」

 

「なるほど……まぁ、あんなものを見た後だと、納得だよなぁ」

 

 クラインの言葉に風林火山のメンバーもうんうんと頷いた。

 

 彼らの視線は傍にいるノビタニアンへ向けられている。

 

 何やら様子がおかしい。

 

「何か……あったのか?」

 

「あぁ、実はよぉ」

 

「ノビタニアン君とコーバッツが決闘をしたの」

 

「え!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し巻き戻る。

 

 

 

 

 キリトがボスを倒したことでそのフロアは安全となり、クライン達によって軍の手当がなされていた。

 

 

 倒れたキリトをアスナが介抱していた時、ずんずんとやって来るものがいる。

 

「貴様ら!我らの手柄を横取りするとは何事だ!!」

 

 コーバッツは近づこうとしたクラインを押しのける。

 

「お前、何を言っているんだ!キリト達が助けに入らなかったら全滅していたんだぞ!?」

 

「うるさい!我々の部隊だけであのモンスターを討伐することができたのだ!それを、貴様はぁぁあああ!」

 

 激怒しているコーバッツはクラインを押しのける。

 

 彼の前にユウキが立ちはだかった。

 

「どけ、貴様は」

 

「本当にキリトやみんなの厚意を無下にするって信じられないよ」

 

 笑顔を浮かべているユウキだが目は笑っていない。

 

 怒っていることをクライン達は理解したが、頭に血が上っているコーバッツは気づいていなかった。

 

 ユウキが鞘から剣を引き抜いてデュエル申請を行おうとした。

 

「待って」

 

 声をかけたのはノビタニアンだった。

 

「僕がやる」

 

 共に行動しているユウキですら聞いたことのない低い声に動きを止めた。

 

 その隙をつくようにノビタニアンがデュエル申請を出す。

 

 申請された相手はコーバッツ。

 

「僕が勝ったらさっきの無礼は謝罪してください。仮にそちらが勝ったら今回の討伐は軍が行ったということにします」

 

「ほう」

 

 驚きの声を上げてコーバッツはノビタニアンを見る。

 

 頭の中で自分のメリットについて考えている様子だ。

 

「よいだろう。デュエルを受けてやろう」

 

 コーバッツはデュエル申請を受諾する。

 

「お、おい、ノビタニアン!」

 

「ストップ」

 

 騒ぎを止めようとするクラインだがユウキに止められる。

 

 一定の距離を開けてノビタニアンが盾を背中に回して剣を構えた。

 

「だ、大丈夫なのかよ!?」

 

「あの程度の人にノビタニアンは負けないよ。そもそも」

 

 デュエル開始のブザーが鳴り響く。

 

「ノビタニアンの強さはキリトやボクにないものだからね。あれだけはどうしても勝てないよ」

 

「お前たちにない強さ?」

 

「ソードスキルの熟練度や攻撃はキリトやボクが上だよ。でも、ノビタニアンは剣の扱い方や動きがまるで違う……何度も剣を使って戦ったみたいな動きをしている。それだけじゃないよ。ノビタニアンは心が強い」

 

 胸元に手を当ててユウキは言う。

 

 ノビタニアンの上位ソードスキル“メテオ・ブレイク”がコーバッツの体を貫く。

 

 HPが減損していくコーバッツが驚く前でとどめの一撃が振り下ろされた。

 

 勝者はノビタニアン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノビタニアン君が怒ったらあそこまで怖いんだね。知らなかったよ」

 

 ぶるりと小さく震えるアスナ。

 

 キリト自身もノビタニアンが激怒したところを数回しか見たことがないが妹共々、怒らせないように注意している。

 

 気絶している間にそんなことが起こっていたなんてとキリトは驚いた。

 

「キリの字。七十五層のアクティベートしにいくがどうする?」

 

「俺はもう少しだけ休むよ」

 

「じゃあ、僕はついていこうかな」

 

「ボクも行くよ!」

 

「アスナさん、キリトのことをよろしくね」

 

 手を振ってノビタニアンとユウキはクライン達に続いていく。

 

 残されたアスナとキリトは話をする。

 

「心配、したよ。キリト君」

 

「ごめん」

 

「決めた、私ギルドをしばらく休む」

 

「へ?」

 

「それでキリト君と一緒にパーティーを組む」

 

「あ、いや、どうして!?」

 

「だって、キリト君、無茶ばっかりして見ていられないもの。それにユウキと一緒になるともっと危ないことをしていそうだし……ノビタニアン君だけじゃ止められないし、ストッパーは多い方がよさそうだもの」

 

「えっと、それは」

 

「あ、二人には許可を取ってあるから」

 

 既に包囲網ができあがっていたことにキリトは戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 街中に第七十四層攻略の情報が広まっていた。

 

 加えて。

 

「どこでばれた!?」

 

「さぁ?」

 

「ボク知らない~」

 

 エギルの店の二階。

 

 そこでキリトは愕然としていた。

 

――黒の剣士、二刀流による十六連撃でモンスターを撃破!

 

 どういうわけかキリトが秘匿していたスキル情報が広まっていた。

 

「どこで漏れたんだろうねぇ?」

 

「まぁ、宿屋に集まっただけだし、あの家にやってこないだけましじゃない?」

 

 ノビタニアンの言葉でキリトは頷いた。

 

 キリトが手に入れた二刀流の情報を手に入れようと、利用していた宿屋の前にたくさんの情報屋が集まっていたのだ。

 

 そこでエギルの店へ避難していた。

 

「まー、あの場で使うことは仕方なかったにしても隠れる必要はないんじゃないの?堂々としていればいいと思うんだけどなぁ」

 

「ユウキは気にしないだろうからいいけど、キリトはそういうところが苦手だからね」

 

「あぁ、とにかく、しばらくは」

 

 

 

 

 

 

「キリト君!!」

 

 

 

 

 

 階段の方から現れた一人の少女。

 

 純白の衣装をまとった血盟騎士団副団長のアスナだ。

 

 慌てた様子にただ事ではないとキリトは立ち上がる。

 

「どうしよう!大変なことになっちゃった!」

 

 

 



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08:紅の殺意

 アインクラッド第五十五層主街区、そこは鉄の都といわれている。

 

 全てが鋼鉄製であり、無機質で冷たい雰囲気が街を覆いつくしていた。

 

 そんな街に血盟騎士団の本部がある。

 

 広い空間に腰かけている男性こそ、血盟騎士団団長であり最強と言われる剣士、ヒースクリフ。

 

 そんな彼とキリト、アスナが集っていた。

 

「久しぶりだね、キリト君。前に会ったのはいつだったかな?」

 

「第六十七層のボス攻略の時だ」

 

「そうか、あれはつらい戦いだったな。我々も犠牲を出しそうになりながらもかろうじての勝利だった。あれは君たちがいたからこそ」

 

「世間話をするために呼び寄せたわけじゃないだろ?アスナの話だと少し休みたいと言えば、問題あるそうじゃないか」

 

「話の腰を折ってしまってすまないね。常に我々はギリギリの戦力で挑んでいる。そんな中でうちの副団長をかっさらわれてしまっては困るのさ」

 

「そんな愚痴をこぼすためだけに俺を呼んだわけじゃないだろう?」

 

「キリト君、アスナ君が欲しければ君の二刀流で奪いたまえ、私とデュエルをするのだ。勝てばアスナ君を連れて行くのだ。負ければ血盟騎士団へ入るのだ」

 

「決闘は受ける。ただし、ギルドへ入ることはできない。俺はノビタニアン達とパーティーを組んでいる」

 

「ふむ、ならば、血盟騎士団としていくつか仕事を引き受けてもらうということにしてもらう」

 

「それなら、問題ない」

 

 ヒースクリフからの提案をキリトは受け入れた。

 

 血盟騎士団主催のヒースクリフVSキリトのデュエルが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカじゃないの?」

 

 巨大なコロッセオのような建物。

 

 その一室で待機していたキリトへノビタニアンが罵倒する。

 

「アスナさんを休ませたいならキリトが戦う必要はないでしょ?」

 

「そうかなぁ?譲れないものがあるなら戦え。ボクならデュエルしたと思うなぁ!それに一度、やり合ってみたかったんだよねぇ。ヒースクリフの神聖剣と」

 

 ヒースクリフのユニークスキル、神聖剣。

 

 盾と剣による一体化した攻撃。

 

 噂によると一度もHPがイエローゾーンに達したことがないという。

 

 そんな相手と決闘するキリトを戦闘大好きユウキは羨ましがっていた。

 

 やれやれとノビタニアンは肩をすくめる。

 

「ごめんね、ノビタニアン君、私のことなのに」

 

「アスナさんは悪くないよ。キリトが悪いことだから」

 

「仕方ないだろ?あれ以上、こじれたらどうしようもなかったんだから。それに負けても手伝いをするだけだ。安いもんさ」

 

「どうだか」

 

 やれやれというノビタニアン。

 

 時間となりキリトは会場へ向かう。

 

「頑張ってね」

 

 アスナに声援をもらい、キリトは舞台へ立つ。

 

「随分と派手に宣伝したみたいだな」

 

「私は許可していなかったのだがね」

 

「その発言、管理が行き届いていない証拠だな。ノビタニアンがうるさくなりそうだ」

 

「手厳しい。手伝いとしてギルドの管理も手伝ってもらうとしよう」

 

「すでに勝ったつもりか、始めようぜ」

 

 試合開始のカウントダウンが始まる。

 

 キリトはエリュシデータとダークリパルサーの二つを構え、ヒースクリフは盾とインセインルーラーを構えた。

 

 ブザーと共に二人は同時に駆け出す。

 

 

「はじまったね!」

 

「キリト君……」

 

「大丈夫」

 

 心配そうに戦いを見守るアスナへノビタニアンは微笑む。

 

「キリトは強い。必ず勝つよ」

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コロシアムの中央、そこで黒と赤、二つの剣と一つの剣がぶつかりあう。

 

 砂煙をまき散らしながら激しく打ち合う黒の剣士と最強の剣士の戦いは一進一退を繰り返す。絶妙なバランスの上に成り立っていた。

 

「こうして戦うのは初めてだが、成程。これほどの実力。流石だ」

 

「鉄壁の防御は文字通りみたいだな。それにしても、しゃべっていると」

 

 ヒースクリフの背後へ回り込んだキリトの一撃が捉える。

 

 とっさに盾で防ぐも少し遅ければダメージは免れなかった。

 

「ケガするぜ?」

 

「そのようだ」

 

 目の前の戦いにおいて、キリトは一度もソードスキルを使っていない。

 

 しかし、繰り出した斬撃は既に百を超え始めていた。

 

 わずか五分なれど、彼がこれだけの攻撃をできていたのは一重にパーティーメンバーのおかげだった。

 

 スピード重視の連続攻撃を得意とするユウキ。

 

 盾で攻撃を防ぎ、重たい一撃で敵を倒すノビタニアン。

 

 自分と同じ、もしくはそれ以上の力を持つ彼らと共にスキルを鍛え上げたからこそ、キリトの力はかなりのものになっていた。

 

 だからこそ。

 

「ここだ」

 

 キリトはソードスキルを使うことにした。

 

 十六連撃ソードスキル、スターバースト・ストリーム。

 

 突然のソードスキルにヒースクリフは驚きながらも盾で防ぎ続ける。

 

 しかし、勢いを増す斬撃に押され始めていた。

 

 スターバースト・ストリームの十五撃目においてヒースクリフは体勢を崩す。

 

 今まで防御に意識を置きすぎたことで疲労が溜まり、目が剣を追うことに限界を迎えてきていたのだ。

 

 体勢を崩したところでキリトがダークリパルサーを突き出す。

 

 この攻撃が決まれば、キリトの勝利。

 

「(なに?)」

 

 剣が直撃するという瞬間、ヒースクリフの盾が動き、弾き飛ばす。

 

 突然のことに動きが止まった隙を彼の剣が迫る。

 

「私の勝ちだ」

 

 ヒースクリフが勝利を確信した時、キリトは手の中で剣を回す。

 

 彼の剣がぶつかるという瞬間、エリュシデータが盾となって剣を防ぐ。

 

 しかし、無理な体勢に加えてとっさのことだったことで完全に殺しきれず、剣がキリトの肩を貫いた。

 

 試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 勝者はヒースクリフだった。

 

 剣をしまい、二人は向き合う。

 

「良き試合だった。キリト君」

 

「こちらこそ、流石だな」

 

 二人はそういうと互いに握手を交わす。

 

 観客たちは大興奮で拍手を送る。

 

 互いに背を向けて控室へ戻った。

 

 戻る途中、キリトはヒースクリフの後姿を見る。

 

 その目は何かを秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、キリト敗北の残念会を開始しようと思います。乾杯~」

 

「おい!?」

 

 ノビタニアンの乾杯音頭に待って!と言うようにキリトが意見するも、参加者は静かにグラスをぶつける。

 

 参加者はエギル、ユウキ、アスナ、リズベッド、ノビタニアンだ。

 

 リズベッドはアスナが誘ったのだ。

 

「アタシも観ていたけれど、あの神聖剣ってスキルとんでもないわね。それと真っ向からぶつかりあう、アンタもアンタだけど」

 

「いいなぁ、本当に羨ましいなぁ~、ボクもデュエル申請しようかなぁ?」

 

「神聖剣と黒の剣士の次は紫の剣士が相手って、金取られるわよ?」

 

「確かに、今回のことであれだけの観客がいたんだ。かなり稼いだだろうな」

 

「流石商売人、抜け目がないなぁ」

 

 ノビタニアンが感心している中、アスナはキリトと話をしていた。

 

「ごめんね、私のことでキリト君を巻き込んじゃって」

 

「別に気にしていないよ。俺としては強い奴とデュエルできた得があったし、血盟騎士団も手伝いだから。問題もない」

 

「焦ったよぉ、もし、キリトがギルドに入ったらどうしようって~」

 

「いや、それはないから」

 

「安心したよ。キリトがいなくなったらノビタニアンがタゲを取ることで苦労しそうだから」

 

「お前がやるってことはないんだな」

 

 ユウキの言葉にキリトは苦笑した。

 

 もし、二人だけとなったら昔みたいにノビタニアンが泣きついてくるのだろうかと思ってしまう。

 

 あの時の光景を思い出してキリトは笑う。

 

「どうしたのさ?」

 

 こちらの視線に気づいたのだろうノビタニアンが尋ねてきた。

 

「なんでもないさ。それよりも数日抜けるけど、頼むぜ?」

 

「了解だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、本当にこれ、着ないといけないのか?」

 

 キリトはアスナに尋ねる。

 

 今の彼は黒い装束ではなく、血盟騎士団のユニフォームを待っている。

 

 二人がいる所は第五十五層の主街区グランザムの血盟騎士団本部。

 

 今日からギルドの手伝いということでキリトはここにいた。

 

 しかし、手伝いである以上、血盟騎士団へ貢献してもらうということでキリトはその制服を着ていた。

 

「ごめんね、巻き込んじゃって」

 

「別にいいさ。多分、ここで関わらなかったらノビタニアンに怒られていただろうし」

 

「……ずっと前から気になっていたけれど、キリト君とノビタニアン君って」

 

「おぉ!そこにいたか!」

 

 キリトへ向けて野太い声がかけられる。

 

 大斧を背負ったもじゃもじゃの巻き毛が特徴な大柄男性。血盟騎士団の幹部で名前をゴドフリーという。

 

「俺に何か?」

 

「ウム、これより訓練を行う。私を含む四人のパーティーを組み、五十五層の迷宮区を突破して五十六層主街区まで到達するというものだ。手伝いとはいえ、参加してもらうぞ」

 

「ちょっと、キリト君は私が」

 

 アスナの抗議にゴドフリーは大きく笑う。

 

「いくら副団長と言われても、彼は新入り。規律を蔑ろにするわけにはいきません。何より手伝いとはいえ、血盟騎士団に名を連ねるのならその実力を見せてもらうのが筋というものでありましよう!」

 

「あ、アンタなんか問題にならないくらいキリト君は強いわよ!!」

 

「アスナ、落ち着いてくれ……集合場所と時間を教えてくれ」

 

「聞き分けがよくてよろしい!三十分後に街の西門だ!」

 

 ゴドフリーはそう言うとその場を後にした。

 

「キリト君、私も、その、一緒に行こうか?」

 

「ここから一層上へいくならすぐに到達できるさ。大丈夫だ」

 

 心配そうな表情のアスナにキリトは言う。

 

「気を付けてね」

 

「あぁ、またあとで」

 

 言葉を交わしてキリトとアスナは別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはどういうことだ?」

 

 ゴドフリーの指定された場所へ到着すると、そこにはゴドフリー以外に二人のプレイヤーがいた。

 

 その中の一人、先日、キリトと決闘したクラディールの姿があった。

 

「キミ達の事情は聴いている。だが、これを機会として今までの騒動を水に流してはどうかと思ってな!」

 

「先日は、ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません」

 

「い、いや、こちらこそ」

 

 項垂れるクラディール。

 

 今までの態度が嘘のような姿にキリトは面食らってしまう。

 

「一件落着したところでそろそろ出発だな。その前に今日の訓練は限りなく実戦に近い形式で行う。諸君らの危機対応能力も見たいので、結晶アイテムはすべて預からせてもらう」

 

 攻略に身を投じるプレイヤーにとって結晶アイテムは緊急時の生命線。

 

 唯一の離脱手段である転移結晶などがそれにあたる。

 

 この話を一般プレイヤーが聞けば、無茶苦茶だと言うだろう。

 

 しかし、キリト達は何も言わずにアイテムを差し出す。

 

 ゴドフリーを先頭にクラディール、もう一人、最後にキリトが歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトは後悔した。

 

 主街区のグランザムを出てから目的の迷宮区が近づいてくる。

 

 ビーターであるキリトがいながらあまりの遅さに辟易していた。

 

 その理由は筋力特化型のゴドフリーがパーティーを率いているからだろう。これがノビタニアンやユウキと一緒なら今よりも早く到達できただろう。

 

「よし、ここで休憩!」

 

 迷宮区手前、そこにある安全エリアへ入ったところでゴドフリーが叫ぶ。

 

 各々、身近な岩に腰かけて休みを取る。

 

「では、食料を配布する」

 

 ゴドフリーはウィンドウを操作してアイテムを取り出す。

 

 受け取ったアイテムの中身を見る。

 

 水の入った瓶とNPCショップで格安で売られているパンであった。

 

「(アスナの料理を恋しいと思うなんてなぁ)」

 

 目の前のパンを手に取り、キリトは咀嚼する。

 

 その時、視線を感じた。

 

 キリトが周りを見るとクラディールと目が合う。

 

 彼は何かを待つようにキリトを見ていた。

 

 その顔の端が歪んだ。

 

「うぐっ!?」

 

 瓶を落としたキリトの視界にバッドステータスが表示されていた。

 

 麻痺。

 

 ゴドフリーやもう一人も地面に崩れ落ちた。

 

「ど、どういうことだ、この水を用意したのは……クラディール!!」

 

「クッ……クックックッ!」

 

 怪しく笑うクラディールを見ながらキリトは叫ぶ。

 

「ゴドフリー!解毒結晶を使え!早く!」

 

 キリトの叫びにゴドフリーは回収した結晶アイテムを詰めた袋へ手を伸ばすも。

 

「ヒャッハァァッァァァァァ!」

 

 クラディールはゴドフリーが手を伸ばした袋をその足で蹴り飛ばす。

 

 未だに目の前で起こっている出来事が信じられないという風にゴドフリーは見上げる。

 

「クラディール、何のつもりだ、こんなことをして」

 

「ゴドフリーさんよぉ、バカだバカだと思っていたが、アンタは筋金入りの脳筋だよなぁ!」

 

 狂気を孕んだ嘲笑と共に腰へ差していた剣を抜いて、ゴドフリーの体めがけて振り下ろす。

 

「やめろ、クラディール!」

 

「いいか!俺たちのパーティーはぁ!」

 

 振り下ろされる刃に悲鳴をあげて震えるゴドフリー。

 

「荒野で大勢の犯罪者プレイヤーに襲われて」

 

 もう一人のメンバーに剣を振り下ろす。

 

「勇戦むなしく三人が死亡!」

 

「がはっ!」

 

 高笑いして剣を振り上げる。

 

「俺一人になったものの、見事、犯罪者を撃退して生還しましたぁああああ!ヒャッハハアハハハハハア!」

 

 圧倒的優位であることの余裕からからクラディールは楽しそうに笑う。

 

「この毒……お前、まさか、笑う棺桶の生き残りか?」

 

「やっぱりあの討伐戦で活躍した黒の剣士様は違うねぇ!毒でここまで予測するなんてよぉ!この麻痺テクもそこで教わったのよ。さて」

 

 クラディールの刃がゴドフリーを切り裂く。

 

 HPが一気に減少してキリトの前で彼は死んだ。

 

 もう一人が必死に逃げようとするが追いつかれてクラディールに殺される。

 

 最後に残ったキリトへ近づいて、その体に剣を突き立てる。

 

「ほら、死ね!死ね!死ねぇえええええええ!」

 

 体に突きつけられている刃を前に、キリトは恐怖する。

 

 このまま死ぬ?

 

 急速に減っていく自分のHPを見てキリトはそんなことを考える。

 

 もし、自分が死ねば。

 

 

――キリト君!

 

 

――キーリト!

 

 

 脳裏に浮かんだのは大切なものたち。

 

「(アスナ……ユウキ……)」

 

 そして、

 

 

――キリト、早くいこうよ。

 

 

「っぐ!」

 

 クラディールの剣をキリトは掴む。

 

 腕に刃が食い込みながらも、その手で押し戻そうとする。

 

「おいおい、なぁにやってんだよ。大人しく殺されろよ!」

 

「……俺は」

 

 さらに力を籠めようとするクラディールに抗いながら、キリトは押し戻していく。

 

「俺は、まだ」

 

 しかし、現実は非常だ。

 

 刃が体に刺さっていることでHPがどんどん減っていく。

 

「まだ……!」

 

 イエローからレッドになる。

 

「まだ、死ねない!!」

 

 剣が抜ける。

 

 クラディールが笑いながら再び刃を突き立てようとした時、横から白い影が現れた。

 

 衝撃と共にクラディールが派手に吹き飛ぶ。

 

「キリト君、大丈夫!?」

 

 痺れて動けないキリトの前に現れたのはアスナだ。

 

 大急ぎでやってきたのだろう。彼女は呼吸を乱しながらキリトへ解毒ポーションを飲ませる。

 

「どう、して」

 

「あ、アスナ様!?」

 

 クラディールはアスナが現れたことに驚きを隠せないようでひどく動揺している。

 

「待っていて」

 

 傍にいるキリトへそう言うとアスナは鞘から細剣を抜く。

 

 未だに弁明を続けるクラディールにアスナの細剣が煌めいた。

 

 恐るべき速度で繰り出される突撃にクラディールのHPはあっという間にレッドとなる。

 

「や、やめてくれ!このままじゃ、死んじまう!!俺はまだ、死にたくない!!」

 

 怒りで半ば我を失っていたアスナは“死にたくない”という必死の訴えに剣を止めてしまう。

 

 にやりとクラディールが不気味に笑った。

 

「バカめ!」

 

 笑いながらクラディールがアスナの剣を弾き飛ばす。

 

 がら空きとなった胴体、そこへ狂剣が迫る。

 

 衝撃と共に刃がアスナの体を貫くことはなかった。横からキリトの手がその刃をつかむ。

 

 掌に突き刺さった刃によってキリトの体が破損される。

 

 片方の手でキリトは鞘からエリュシデータを引き抜き、ソードスキルを放つ。

 

 狙いは急所。

 

「へ?」

 

 茫然としているクラディール。

 

 攻撃を受けて彼のHPはゼロとなる。

 

「や、やりやがったな、この、人――」

 

 最後まで言葉を告げることなく消滅する。

 

 クラディールがいなくなったことでキリトは膝をついた。

 

「キリト君!」

 

「アスナ、大丈夫か?」

 

 振り返ったキリトは言葉を失う。

 

 目の前でアスナが泣いていたのだ。

 

「ごめんなさい」

 

 アスナは何度も謝罪をする。

 

 どうして、謝罪をするのか。

 

 困惑しているキリトの前でアスナが漏らす。

 

「私が悪いの、私がキリト君にかかわったから……キリト君が殺されかけたのも全部、私が悪いの……だから」

 

――もう二度とあなたの前に現れない。

 

 キリトは泣きながら微笑もうとするアスナを抱き寄せてキスをする。

 

 これが正しいのかわからない。

 

 だが、彼女の涙を見たくないというキリトの思いをそのまま伝えた。

 

 

 

 

 




活動報告に今後について記載をしますので、意見などがあればお願いします。



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09:朝霧の少女

「……ふぁ、もう、朝なのね」

 

アスナは目を覚ます。

 

すぐ隣には無垢な笑顔を浮かべる夫、キリトの姿がある。

 

クラディールの事件から数日。

 

事件の後、キリトとアスナは夫婦となり、ノビタニアン達が使っている家で療養していた。

 

攻略からも少し離れて二人は新婚生活を満喫している。

 

ノビタニアンとユウキも少しの間は気を利かせようということなのか、家を空けてくれていた。

 

メールによればそろそろ戻ってくるという。

 

「キリト君……」

 

目の前で幸せそうに眠る夫の姿を見る。

 

キリトとアスナが結婚すると言ったとき、誰もが祝福してくれた。

 

特にノビタニアンとユウキはとても喜び、隠し持っていたというS級食材を結婚祝いと送ってくれるほどだ。

 

「そういえば、私、知らないな」

 

 目の前にいる少年は何歳で今まで何をしてきたのだろうか?

 

 おそらく、ノビタニアンへ聞けば答えてくれるはずだ。

 

あの二人は付き合いが長いという。

 

リアルの詮索はマナー違反であるため、アスナは深く聞かないでいるがあの二人は自分とは別の強いつながりのようなものが見える。

 

 それは何なのか、少しばかり気になった。

 

「男の子に嫉妬しているわけじゃないよ。うん」

 

 決してあの二人の仲に嫉妬しているわけではない。

 

 自分に言い聞かせてアスナはキリトが目を覚ますのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分の目が信じられないよ?」

 

 ノビタニアンは目の前の光景にただただ呟いた。

 

 親友が結婚したということでしばらくあの家で生活させてあげようということでユウキと二人で七十五層の宿で生活を行い、久しぶりに第二十二層の“みんなの家”(命名、ユウキ)へ戻ってきた二人を待ち構えていたのは。

 

「パパ……」

 

 キリトの後ろで不安そうに隠れている小さな女の子。

 

 白いワンピース。

 

 腰にまで届く黒い髪。

 

 大きく黒い瞳は不安そうに揺れていた。

 

「ユイ、さっき話しただろう?この人たちがこの家で一緒に生活しているノビタニアン、ユウキだ。二人とも、この子はユイ。俺とアスナの子だ」

 

「事前にメールで受け取っていたから衝撃は少ないけれど……うん、そっくりだね」

 

 宿から家へ戻ると連絡した時に、森で迷子の女の子を拾ったというメッセをキリトからもらっていた。

 

 この“ユイ”という少女が迷子の女の子なのだろう。

 

「よろしくね!ボクはユウキ!」

 

「僕はノビタニアン、キリト……パパの親友だよ」

 

「ユイ、です。よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げる。

 

 

「ユイちゃん、よくできました~」

 

 その姿を見てアスナはほっこりした笑顔を浮かべていた。

 

「完全に親バカになっているよ」

 

「これがあのアスナなんて、少し信じられないや」

 

 

 ユイの頭をなでて微笑んでいるアスナの姿を見て、二人は苦笑するしかなかった。

 

「あ、いけない。二人とも……!」

 

「そうだった、大事なことを忘れていたぜ」

 

 アスナとキリトは互いを見て二人へ言う。

 

「「おかえりなさい!」」

 

 ポカンとしていた二人だがすぐに笑顔を浮かべて。

 

「「ただいま」」と返した。

 

 

 

「なんというか……ユイちゃんって、二人と似ているよね」

 

 リビングのソファーでラフな格好でくつろいでいたノビタニアンは楽しそうにキリトに遊んでもらっているユイを見て呟く。

 

「似ているって?」

 

「ユイちゃん、キリトとアスナさんと似ているなぁって」

 

「え?」

 

 ノビタニアンに言われてユウキは注視してみる。

 

 腰まで届く黒髪はアスナと似ている。

 

 目元あたりもキリトとそっくりだ。

 

 確かに二人を組み合わせたみたいな姿をしている。

 

「結婚したらこんな子が生まれるのかな?」

 

「さぁ?」

 

「そうだ!」

 

 名案を思い付いたというようにユウキは手をたたく。

 

「ボクとノビタニアンも結婚しよう!」

 

「「ぶぅ!」」

 

 紅茶を飲んでいたキリトとアスナは同時に噴き出す。

 

 ユイは首を傾げて。

 

 ノビタニアンは。

 

「フリーズしてる」

 

「驚きのあまり気絶したか」

 

 紅茶の入ったグラスを片手に持ったまま動きを止めている。

 

 ユウキは頬を膨らませた。

 

 そんな二人を見ていたユイはノビタニアンを指さし。

 

「ノビおじちゃん」

 

 続いてユウキを指して。

 

「ユウキおばちゃん」

 

「「ぷっ」」

 

「ちょっと二人ともぉ?」

 

「ごめんごめん、まさか二人がそう言われるなんてさ。なんか思い出しただけで笑いが」

 

「ごめんねぇ……くす」

 

「もう!ノビタニアンもいつまでぼけっとしているのさ!」

 

「ハッ!?僕は何を……」

 

 それから落ち着いたノビタニアンは尋ねる。

 

「二人はこれからどうするの?」

 

「ユイを連れてはじまりの街へ行こうと思う」

 

「やっぱりそれしかないよね」

 

 SAOがデスゲームと化して戦えない者の多くは一層のはじまりの街にいる。

 

 ユイについてそこへいけば手がかりがあるかもしれない。

 

 そもそもユイについては謎が多い。

 

 ステータス画面もアイテムとオプションが存在するだけで、何よりも目に付くのがユイのネームを現すところだ。

 

 ユイ/Yui-MHCP001Xという謎の表示。

 

 何かのシステムバグかもしれない。

 

 急ぐ必要があるとキリトは考えていた。

 

「わかった、僕も行くよ」

 

「でも、お前たちは攻略が」

 

「友達の子の問題だよ?放っておけないよ」

 

 力強く言うノビタニアンにキリトは「すまない」と頭を下げる。

 

 この世界に囚われる前から付き合いがあるから、お互いの考えていることが嫌でも分かってしまう。

 

「ありがとう、ノビタニアン」

 

「当然だよ。友達なんだから」

 

 キリトは親友の言葉に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじまりの街。

 

 SAOがデスゲームと化してから軍が拠点として使用している場所であり、街にはいまだに三千人以上のプレイヤーが生活をしているという。

 

「そのはずなんだけど……」

 

「こんなに寂しいところだったか?」

 

「みんな、お昼寝しているのかなぁ」

 

「ノビタニアンじゃあるまいし」

 

「それどういう意味!?」

 

 ユウキの言葉にノビタニアンが突っかかる。

 

 二人がもめている横でキリトは街を見渡す。

 

 NPCの姿はあるけれど、プレイヤーは一人もいない。

 

 どういうことだ?

 

 キリトはただただ、困惑するしかなかった。

 

「とにかく、人を探しましよう」

 

 そうして歩き出して十分後。

 

 

 

 

 

 

「誰も、いないね?」

 

「もしかして、ここは、はじまりの街に見せかけた眩惑の惑星だったりして」

 

「げんわく?」

 

「ノビタニアン、そういう冗談はやめろ……あの枯れ木の化け物を思い出したよ」

 

「ねねね、眩惑の惑星って?」

 

「あー、また今度な」

 

 街の散策を続けながらも人が見つからないことに様子がおかしいと思い始めた時、少し先の道から叫び声が聞こえる。

 

「行ってみよう!」

 

「あぁ!」

 

 彼らが叫び声の場所へたどり着くと、シスターの格好をした女性プレイヤーと重厚な鎧をまとった数人のプレイヤーが道をふさいでいた。

 

「あれ……」

 

「ブロックだな」

 

「ブロック?」

 

「システム外でプレイヤーが通れないようにする手段だ。昔のRPGだと道をNPCがふさいでいると通れないっていうのがあっただろ?それと同じだ」

 

「なるほど……じゃあ、あれはNPC?でも、あれって」

 

「プレイヤーだね」

 

 ユウキの言葉通り道をふさいでいる連中はプレイヤー。

 

「子供たちを返してください!」

 

 女性の訴えにリーダー格らしき男が笑う。

 

「人聞きの悪いことを言わないでほしいな。ちょっと社会常識を教えてやっているだけだ。これも軍の大事な任務でねぇ。何より市民には納税の義務がある」

 

 女性と男の会話からして連中の後ろに子供たちがいるのだろう。

 

 実際、姿は見えないが声が聞こえた。

 

「サーシャ先生!」

 

「先生!」

 

「お金なんて全部渡しなさい!」

 

 サーシャ先生と呼ばれた修道服の女性は言うが、返ってきた言葉は恐怖と不安が混じってた。

 

「先生、それだけじゃ、ダメなんだ!!」

 

「あんたら、ずいぶんと滞納しているからな。装備も置いていってもらわないとなぁ。防具も全部」

 

 鎧のプレイヤーの言葉に修道服の女性が怒りを込めて叫んでいる。

 

 鎧のプレイヤー集団が小さな子たちを通せんぼして悪さをしていることは明白だった。

 

「……うん」

 

「限界だ」

 

「あ、二人とも」

 

 すらりと立ち上がった二人を見てキリトが慌て始める。

 

「え、キリト君!?」

 

 戸惑うアスナの前でノビタニアンとユウキは剣を抜く。

 

 二人は同時に駆け出す。

 

 俊敏に重点を置いているユウキがすぐにノビタニアンを抜いて走る。

 

「あ、なんだ、てめ――」

 

 リーダー格の男が言葉を発する前にユウキの剣が輝く。

 

 ソードスキル“ホリゾンタル”を受けて男は派手に吹き飛ぶ。

 

「いきなり何を」

 

「危ないよ」

 

 剣を上へ向けたままくるくると舞うように動きながら、ユウキは警告を飛ばす。

 

 数秒の間をおいてノビタニアンのソードスキルが通過する。

 

 彼の得意とする”ヴォーパル・ストライク”によって残りのメンバーが左右に倒れこむ。

 

「ほら、行っていいよ」

 

 ユウキに言われて茫然としていた子供たちはサーシャの下へ走る。

 

「サーシャ先生!」

 

「もう大丈夫よ、早く装備を戻して」

 

「貴様らぁ、解放軍に喧嘩を売ってただで済むと!」

 

 起き上がったリーダー格の言葉にサーシャは子供たちを守るように立つ。

 

 少し遅れてキリトとアスナがサーシャたちの前へ。

 

「悪いけどさぁ」

 

 殺気立っている男達は振り返る。

 

 そこには長い髪を揺らして剣を構えるユウキが挑発し、ノビタニアンが静かに剣先を向けていた。

 

「喧嘩を売るなら強い相手にしなよ。そんな弱い者いじめなんて最低だよ?」

 

「そうそう、ボク達を倒してからだ」

 

 剣を向けてノビタニアンとユウキが言う。

 

「上等だ。貴様らをぼこぼこにしてすべてひんむいてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解放軍の連中は身ぐるみを剥がされて地面へ捨てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないところを助けていただいてありがとうございます」

 

「いえ、俺達はたまたま通りがかっただけですから」

 

「それでも、貴方たちがいなければ、この子たちはどうなっていたことか」

 

 サーシャと子供たちが住んでいるという教会へキリト達は来ていた。

 

 お礼をしたいという彼女の言葉に甘えてやってきたのだ。

 

 教会の中にはたくさんの子供たちがいて、元気に騒いでいた。

 

「それにしても、SAOって年齢制限があったと思うんだけど」

 

 騒いでいる子供たちはどう見ても十二歳前後、もしくはもう少し下だ。

 

 年齢制限が設けられているこのゲームにおいて、こんな小さな子たちがいることにアスナは驚いている。

 

 アスナの疑問に答えたのはキリトだ。

 

「子供は好きなことに年齢制限とか守ろうとしないものさ」

 

「そういうものなのかな?」

 

 首を傾げるアスナ。

 

 サーシャははじまりの街や他の階層で迷っている子供をこの教会で保護して育てているという。

 

「あのぉ」

 

 おそるおそるアスナはある場所を見る。

 

「二人、止めなくていいかな?」

 

「いいだろ?やりすぎていたし」

 

 キリトの視線は子供達でもみくちゃにされている二人へ向けられていた。

 

 たくさんの子供達の中心、そこでは顔を引っ張られ、もみくちゃにされているノビタニアンと一緒に暴れているユウキの姿があった。

 

 はじまりは軍の連中に襲われていた男の子がノビタニアンへ叫んだことが切欠だった。

 

 彼らが攻略組であることを察した子供たちは興奮して群がり、ユウキは楽しそうに。

 

 ノビタニアンは子供たちにいじられていた。

 

「あのぉ、この子、ユイちゃんっていうんですけれど、どこかで見たことないですか?」

 

「……申し訳ありません。いろいろな階層を見て回っていますけれど、見たことはありませんね」

 

「そうですか……」

 

「ん?」

 

 ユイに関する情報が途絶えたことでどうしようかと考えていた時、教会へ誰かがやってきた。

 

「サーシャ、大丈夫か!?」

 

 扉を開けて入ってきたのは長身の女性。

 

 装備を見てキリト、ノビタニアン、ユウキは身構える。

 

「あ、待ってください!彼女はユリエール、解放軍に属していますけれど、彼女は親友ですから大丈夫です!」

 

 サーシャの言葉で三人は武器を下す。

 

「改めましてユリエールといいます。ギルドALFに属しています

 

「ALF?」

 

「AincradLeberationForce。アインクラッド解放軍の略です」

 

「もしかして、さっきの仕返し!?」

 

「いえ、むしろよくやったと言いたいくらいです」

 

「へ?」

 

 ぽかんとするユウキ。

 

 キリト達も事態に困惑してしまう。

 

「事情があるみたいですけれど……お聞きしても?」

 

「はい、実はその件も踏まえて相談したいことが私の方でもあったんです」

 

「こちらも自己紹介を。俺はキリト。こっちは妻のアスナです」

 

「アスナです」

 

「ノビタニアン、キリトとパーティーを組んでいます」

 

「ユウキだよ!この二人とパーティー組んでいるよ~」

 

「今日は四人にお願いがあって参りました」

 

「お願い?」

 

 真剣な表情のユリエールにキリトは尋ねる。

 

 ユリエールは事情を説明する。

 

 アインクラッド解放軍は二十五層のボス攻略で多大な被害をだしてから内部強化に努めていたのだが、キバオウの横暴なやり方によってトップを務めるシンカーとぶつかりが起こり。

 

 七十四層の戦いにおいてトップギルドからの苦情を受けて、キバオウを排斥する動きが始まったとき。

 

「キバオウはシンカーと一対一で話し合いをしたいと迷宮へ呼び出したのです」

 

「街じゃないの?」

 

「それって」

 

 アスナの言葉にユリエールは頷く。

 

「はい、罠でした……キバオウはシンカーを迷宮で置き去りにしたのです。丸腰で話し合おうという言葉を信じた彼は転移結晶も何も持たないまま迷宮に閉じこもっています。お願いします!シンカーを、彼を助けてほしいんです!」

 

「……その、シンカーさんが迷宮に閉じ込められてどのくらい?」

 

「今日で二日目です」

 

「……どうする?」

 

 ノビタニアンがキリトへ尋ねる。

 

「助けようよ!こんなこと見過ごすなんてできないよ」

 

「ユウキの言うとおりね。私も賛成」

 

「……そうだな、俺も行こう」

 

 罠かもしれないと考えたがノビタニアンも最後は頷いた。

 

「パパ、ママ、私も、行きます」

 

「ユイ?」

 

「ユイちゃん、ダメよ。危険だから教会に」

 

「大丈夫です」

 

 力強いユイの言葉に戸惑いつつもキリトは頷いた。

 

「わかった。ユイは俺が守る」

 

「はい、パパ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインクラッド第一層。はじまりの街における最大施設、黒鉄宮。

 

 黒光りするこの建物はベータテストにおいては死に戻り。

 

 HPが0になったプレイヤーが蘇る場所とされていた。

 

 デスゲームとなった現在は生命の碑が置かれており、すべてのプレイヤーの名前が記されている。

 

 命を落としたプレイヤーの墓参りとして利用されることを除けば、奥の施設は軍が管理していた。

 

 その黒鉄宮、地下に続く階段があった。

 

「まさか、第一層にこんなダンジョンがあるなんて知らなかったなぁ」

 

「上層攻略の進み具合で解禁されるダンジョンかもな」

 

「なんか、裏ボスでもでてきそうな空気だね!」

 

「やめて、ユウキ。それはフラグだから」

 

「このダンジョンは六十層相当の難易度だといわれております」

 

 ユリエールの言葉にアスナは注意深く周りを見る。

 

「何が起こるかわからないから注意しないとね」

 

「索敵はしっかりやるからな」

 

「任せて」

 

 盾を実体化させてノビタニアンが前に出る。

 

 キリトも私服から攻略用のコートと二本の剣を構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらおらおらおらおらおらぁ!」

 

「いくよ!行くからね!行くよぉぉぉぉぉおおおお!」

 

「おかしいなぁ、タンクの役目が全く必要ないや」

 

「……攻略組というのはここまですさまじいものなのでしようか」

 

「いえ、あの三人が例外なだけです」

 

 震えるユリエールにアスナは小さく首を横へ振る。

 

 巨大なカエル型モンスターの大軍。

 

 それらをキリトの二刀流が、ユウキの片手剣のスキルが。

 

 攻撃をノビタニアンが盾で防いで次々とモンスターを狩っていく。

 

 短い間に倒したモンスターの数は二けたを超えている。

 

 目の前の一方的な蹂躙はユイの教育によくないなぁとアスナは思っているとキリトがやってきた。

 

「なぁ、アスナ!これって調理できるか!」

 

 キリトは両手に抱えた大量のドロップアイテムを見せる。

 

 カエルの肉だ。

 

 それを見たアスナは顔を青褪める。

 

「ひっ!」

 

 悲鳴を上げてキリトから離れる。

 

「え?どうしたんだよ?この程度、平気だろ?」

 

「戦うのと食べるのでは全く違うの!!想像するだけで震えが……」

 

「ホントーにキリトはダメダメだね。ついでにノビタニアンも」

 

「ちょっと僕を罵倒する理由は!?」

 

「ふーん」

 

 ユウキはカエル型モンスターへとびかかる。

 

 キリトはアイテムをしまってアスナの頭をなでた。

 

「ごめんな」

 

「ううん」

 

「パパとママはとっても仲良しなんですね」

 

「いや、ユイも一緒で仲良しだぞ」

 

「そうだよ!ユイちゃん!」

 

「パパ!ママ!」

 

 嬉しそうにほほ笑むユイを二人は抱きしめる。

 

「ほほえましいですね」

 

「僕たちはいつも“あれ”を見ているんですけどね」

 

 苦笑するノビタニアン。

 

 羨ましそうにユリエールは言葉を漏らす。

 

「いいなぁ、私もいつかシンカーとあんな風に」

 

「もしかして、シンカーさんとユリエールさんって」

 

「……はい」

 

 顔を赤くしてユリエールは頷く。

 

「ねぇねぇ、ユリエールさん!シンカーさんって、どんな人?」

 

「そうですね、とても優しい人です。ここへ来る前はMMO攻略の大手サイトの管理をしていました」

 

「そうなんだ。ねぇ、少し聞きたいんだけど。人を好きになるってどういう気持ち?」

 

「え?そ、そうですね……苦しいですけれど、暖かくて気持ちいいものですよ」

 

「ふぅん」

 

 ユウキとユリエールが会話をしている傍で戦闘は続いている。

 

 ユリエールが話をしている横でキリトとノビタニアンが剣をふるう。

 

 粗方、敵をせん滅し終えたところでキリトが尋ねる。

 

「ユリエールさん、このあたりの敵を相手にするのはアンタのレベルじゃ、きついんじゃないか?」

 

「はい、私一人だと確実に無理です。今の軍はかなり弱体化しています。残された精鋭で挑んだとしてもここに来れるパーティーはかなり限られているでしよう」

 

「軍はこの場所を知っていたんだろうか?」

 

「いえ、どうやらキバオウ一派の者が偶然発見したようです。狩場を独占しようとしたようですが……ここのレベルが高すぎて、見つけられないようにしただけのようです」

 

「そんな場所へシンカーさんは一人で行ったの?」

 

「実は斥候が奥へ行き、回廊結晶を設置したんです」

 

「それなら奥まで行けるよね」

 

「そのせいで今回の犯行を行う気になったようで……キバオウも最初は軍を立て直そうと頑張っていたのですが……ぁ!」

 

 ユリエールは声を上げる。

 

 遠くに人影が見えた。

 

 その人は精一杯に手を振っていた。

 

 あの人がシンカーなのだろう。

 

 駆け出すユリエール。

 

 その時、ユイが警告する。

 

「パパ!怖いものがいます!」

 

「っ!ユリエール戻れ!!」

 

 キリトが叫び、ノビタニアンが弾丸のように飛び出す。

 

 驚いて振り返るユリエールの背後。

 

 ゆらりと巨大なモンスターが姿を見せる。

 

 ボロボロのローブに身を包み、手の中には巨大な鎌があった。

 

 髑髏のモンスターは鎌を振り下ろす。

 

「っ、そぉ!」

 

 その攻撃は狙いをユリエールにつけた。

 

 だが、刃をノビタニアンの盾が防ぐ。

 

 爆音と共に二人は派手に吹き飛ぶ。

 

「ノビタニアン!!」

 

「嘘だろ……」

 

 驚くキリト達の中、土煙の中からふらふらとノビタニアンが姿を見せる。

 

 ユリエールも無事らしく、彼の後ろで倒れていた。

 

 再び攻撃を繰り出そうとする死神モンスターにユウキがソードスキルを纏った一撃を繰り出すも、死神は信じられない速度で攻撃を躱す。

 

「二人とも大丈夫か!?」

 

 その間にキリトが駆け寄り、ユリエールを連れて離れる。

 

「ノビタニアン、敵の姿を見たか?」

 

「うん、死神タイプ……でも、カーソルが真っ黒だった」

 

「まずいな、俺のスキルでも看破できなかったから、九十層クラスの敵だろうな」

 

「なら、むやみに戦うべきではないわ。安全地帯を目指しましょう」

 

 アスナの指示に全員が頷く。

 

 ノビタニアンが盾役として挑発を繰り返し、アスナたちが安全地帯を目指す。

 

 その時、死神モンスターは自らの影の中へ消えていく。

 

 突然のことにノビタニアンが驚きの声を漏らした。

 

「モンスターが消えた!?」

 

「なに!?」

 

「キリト君!」

 

 アスナの叫びにキリトが上を見る。

 

 影から姿を見せたモンスターの鎌が迫っていた。

 

 鎌の刃がキリトへ迫る。

 

 アスナはキリトを守ろうと抱きしめる。

 

 ユウキやノビタニアンが急ぐも間に合わない。

 

 迫る衝撃に構えた時。死神の前に光の玉が現れて、死神は大きく後退する。

 

「一体、何が」

 

「パパ!ママ!」

 

「ユイ?」

 

「ユイちゃん!!」

 

「パパ、ママ。私、すべてを思い出しました」

 

 光の玉はユイだった。

 

 小さく言いながらユイの手の中には炎の剣が握られていた。

 

 身の丈を超える剣をユイは死神へ振り下ろす。

 

 炎の刃は死神を焼き尽くしてしまう。

 

 モンスターが消えると炎の刃がなくなり、ユイは地面へ落下する。

 

「大丈夫か、ユイ?」

 

 落下したユイをギリギリのところでキリトが受け止める。

 

「パパ……私が指す方向へ、連れて行ってください」

 

「……わかった」

 

 案内された場所には奇妙な機械があり、それに触れたユイの顔色がよくなっていく。

 

「大丈夫、か?」

 

「はい、先ほどの戦闘で通常与えられている権限以上の力を使ったために、私だけではもう体を維持することができませんでした。そのため二つのMHCPの助けを借りて、今の状態を保っているのです」

 

「ユイ、ちゃん?」

 

 ユイはぽつりと話し始める。

 

 ユイの正体。

 

 彼女はプレイヤーではなく、SAOの根幹をなすカーディナルシステムの一部であるメディカルヘルス・カウンセリングプログラムであり、人の精神をケアする役目を負っていたという。しかし、人の精神はデスゲーム開始時からとてつもない負の感情を生み出し続け、次第にシステムに負荷を与えていたという。

 

「そんな中で、今までと違う、負の感情ではないものを持った人たちを私は見つけました。それがパパとママ……ノビおじちゃんとユウキおばちゃんでした」

 

 彼女が今まで見てきた負の感情ではない。

 

 この世界で幸せな感情を持っていた彼らに会いたいと望んだ。

 

 親のようなものだと思い、キリトとアスナをパパ、ママと呼んだのだ。

 

「パパ、ママ、ごめんなさい。私はもうすぐ消えます」

 

「なっ!?」

 

「そんな!」

 

「無理なアバターの生成と先ほどの戦闘のせいでカーディナルに異物として判断されて消去されようとしています」

 

「そんな!いや、いやだよ!」

 

「そうだよ!これからじゃないか!みんなと……ユイちゃんのパパとママと一緒にいろいろなところを見て回ろうよ!僕やユウキも一緒に」

 

「ユイちゃん、そうだよ。みんなで一緒にいろいろなものを」

 

 泣きながらユイの消滅を拒む。

 

 しかし、その間にもユイの体は崩壊を始めていく。

 

「(何も……何もできないの?僕は……こんな時、ドラえもんが)」

 

「駄目だ!」

 

 キリトは叫ぶと置かれていた機械へ手を触れて操作をしていく。

 

 その動きに困惑しているメンバーをおいて、キリトはユイへ尋ねる。

 

「ユイ!ユイの管理者としてのIDを俺に教えてくれ!」

 

「はい、私の、IDは、ユイ……です?」

 

「間に合えぇえええええええええええええ!」

 

 ユイが消えるのと同時にキリトが操作を完了させる。

 

 しばらくして、キリトはコンソールから一つの宝石のようなものを見せた。

 

「宝石?」

 

「キリト君、それは?」

 

「ユイのプログラムをシステムから切り離して、ここへ移した。ユイは休眠状態だけど、この中にいるんだ」

 

「ありがとう、ありがとうキリト君!」

 

「間に合ってよかった……いつか、いつか一緒にユイと俺達が一緒に暮らせる日が来るまで、しばらくのお別れだ」

 

 キリトとアスナは互いの手で“Y・U・I”へ触れる。

 

「ユイ、聞こえるか?どんな姿になってもユイは俺とアスナの大切な娘だぞ」

 

「ずっと一緒だよ。ユイちゃん!きっとまた会えるよ」

 

 

 



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10:奈落の淵

 ユイの出会いからしばらく、キリトとアスナは新婚生活をこれでもかと満喫した。

 

 もちろん、ノビタニアンやユウキも交えて遊んだりした。

 

 下層で知り合ったニシダという男性プレイヤーと食事を楽しみ。ある湖畔に住むヌシを吊り上げるなど。

 

 とても楽しい日々。

 

 しかし、それも唐突に終わりを告げた。

 

 ヒースクリフから招集がかかったのだ。

 

「全滅!?」

 

「そうだ。少し前にギルド合同で結成した二十人の偵察部隊が全滅したことが明らかとなった」

 

 ヒースクリフの話によると第七十五層のボス部屋に偵察隊が入ってから数十分後。

 

 外で待機していたプレイヤー達の目の前で扉が開たという。

 

 中を覗き込むとそこには誰もおらず、転移した痕跡も見られず、生命の碑を確認して全滅が明らかとなった。

 

「結晶無効化エリア……」

 

「そのようだ」

 

 キリトの脳裏をよぎるのは月夜の黒猫団が全滅した場所と七十四層のボスとの戦闘時のこと。

 

「七十四層、おそらくはこれから先のエリアは転移結晶で抜け出すことができないのだろう」

 

「そんなこと……」

 

 キリト達が戦慄している中。ろくに情報も集まっていない中でボスの討伐を行うことが決定した。

 

「情報収集すら儘ならない以上、議論の時間は浪費でしかない。正体不明のフロアボスを相手にとれる有効手段は一つだけ。攻略組プレイヤーのもてる戦力のすべてを投入して戦いへ挑むということだ」

 

 その決定に反論せず、時間が伝えられてキリト達はその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスナ、討伐に参加せず残ってくれないか?」

 

「キリト君!?」

 

「今回のボス攻略はおそらく、とても危険だ。できればキミには街へ残ってほしいと思う」

 

「……それはできないよ」

 

 アスナは首を横に振る。

 

「キリト君、一人を戦わせるなんてことはできない。それにリアルの私達の体も限界が来るかわからないから」

 

「それはどういう?」

 

「デスゲーム開始直後にプレイヤーのほとんどが倒れる事件があったでしょ?」

 

「あぁ」

 

 デスゲームが開始して少し後、プレイヤー達が急に意識を失う事件があった。

 

 おそらくプレイヤー達の安全を確保するために外部の人間が動いたのだろうとキリトは推測している。

 

「私達の意識はゲームの中だけど、体は?動かさなければ筋力は衰えていくし、栄養も摂取できない……」

 

「ゲームを攻略できなくても俺達は制限時間がつきまとっているってことか?」

 

 アスナは頷く。

 

「何より……」

 

 彼女はキリトの手を握り締める。

 

「私達はずっと一緒だよ……何があっても」

 

「アスナ……」

 

 二人は徐々に顔を近づけていく。

 

「あのさ、二人とも」

 

「少しは~、場所をわきまえた方がいいと思うよ」

 

 傍で様子を見ていたユウキとノビタニアンの言葉で二人は顔を真っ赤にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、来たみたいだな。キリの字!」

 

「クライン、エギル、お前たちもきたのか?」

 

「当たり前だぜ!」

 

「今回はえらい苦戦しそうだって言うから商売投げ出して加勢にやってきたから感謝してくれよな!」

 

「だったら、今回のドロップアイテムの分配、エギルさんはいらないよね~」

 

「お、おい!?ユウキ、そりゃねぇぜ」

 

「一本、取られたね」

 

 ノビタニアンの言葉に全員が笑う。

 

 しばらくして広場に血盟騎士団が現れる。

 

 その先頭にいるのは団長ヒースクリフ。

 

 神聖剣を持ち、HPが一度もイエローに達したことがないといわれる最強プレイヤー。

 

 彼の放つ威圧感に誰もが緊張を浮かべる。

 

 かくいうキリトやノビタニアンもギリッと拳を握り締める。

 

「コリドーオープン」

 

 目の前に光の扉が現れる。

 

 ヒースクリフは全員を一瞥して静かに告げた。

 

「さぁ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘開始」

 

 ヒースクリフの合図と共に武器を携えてその中へ飛び込んでいく。

 

 広がる空間はドーム状でとても薄暗い。

 

 しかし、部屋の中心にボスの姿がない。

 

「何もいねぇぞ?」

 

「どういうことだ!?」

 

「……上!」

 

 ノビタニアンが叫ぶ。

 

 見上げると天井に張り付いている赤い双眸がこちらをみていた。

 

「いけない!逃げて!」

 

 アスナの叫びで全員がその場を離れようとする。

 

 しかし、二名ほどしりもちをついて遅れてしまう。

 

「早く来い!」

 

 キリトが叫ぶも。巨体が彼らをたたきつぶす。

 

「っ!?」

 

 ボス攻略でプレイヤーが死んだ。

 

 その事実にキリトへ目を見開きながら前を見る。

 

 全長十メートルはあろう巨体。全身を構成するのは灰白色の骨のみ。凶悪な形をした頭蓋骨、その両手らしき部分には鎌状の武器がついている。

 

 名前を。

 

「スカル……リーパー……」

 

 

 

――TheSkullreaper。

 

 

 それが目の前に現れた脅威だ。

 

 スカルリーパーは巨体に合わない速度で走り出す。

 

 その攻撃を受けてさらに命を落とすプレイヤーがいた。

 

 防御する暇もなく、体を散らせる。

 

「い、一撃だと!?」

 

「滅茶苦茶だ」

 

 今までのフロアボス、クォーターポイントといわれる場所でとてつもない力を持っているボスはいた。しかし、一撃でプレイヤーを殺せるほどの即死の力は持っていなかった。

 

 近くにいたプレイヤーへ即死級の一撃が放たれようとしている。

 

 その前に盾を構えたノビタニアンが割り込む。

 

「お、重い……」

 

 タンクとしての役割を持っているノビタニアンですらスカルリーパーが放つ一撃は重たかった。

 

 そこに二本の剣を構えたキリトが二刀流ソードスキル“ダブルサーキュラー”を放つ。

 

 攻撃を受けたスカルリーパーはキリトへ狙いを定めようとする。

 

「キリト君!」

 

「ノビタニアン!」

 

 アスナの細剣ソードスキル“フラッシング・ペネトレイター”とユウキの片手剣ソードスキル“ファントム・レイブ”が放たれた。

 

 仰け反るフロアボス。

 

 ヒースクリフが指示を出しながら前に出る。

 

「俺達が正面の鎌を引き受ける!みんなは側面から叩け!」

 

 キリトの叫びにクラインやエギルが攻撃を繰り出す。

 

 正面からスカルリーパーの攻撃をノビタニアンとヒースクリフが防ぎつつ、入れ替わりながらキリト、ユウキ、アスナが攻撃を仕掛けていく。

 

 攻撃の手を緩めはしない。

 

 プレイヤー達も止まらない。

 

 足を止めることは自らの命を失うことにつながる。

 

 敵を倒さなければ自分たちは生きて帰ることすらできないのだ。

 

 必死の攻撃の雨が次々とスカルリーパーの命を刈り取っていく。

 

 やがて、HPがゼロとなり、スカルリーパーは掠れた金切り声を発する。

 

 命がけで戦っていたプレイヤー達は目の前の脅威が去ったことをすぐに理解できなかった。

 

 

 

 

やがて、“Congratulation”というメッセージが現れたことで彼らは把握した。

 

 

 

 自分たちはボスを倒したと。

 

 倒したと理解すると全員が大理石に上へ倒れこむ、座り込む者ばかり。

 

 誰も勝利の歓声を上げない。

 

 仲間を失った喪失感。これからのことを考えて絶望しかけていた。

 

「何人……やられた?」

 

 大の字になって倒れていたクラインが尋ねる。

 

 キリトはウィンドウを開いて確認した。

 

「十四人……だな」

 

 絶望の色が広まっていく。

 

「そんな!?」

 

「嘘、だろ」

 

「俺達……生きて帰れるのか?」

 

 誰もが絶望している中、キリトはヒースクリフを見る。

 

 彼は佇み、静かに周りを見渡していた。

 

 その目は何かを探るようなもの。

 

 キリトはHPをみる。

 

 グリーンのまま。一度もイエローになったことのないHP。

 

 ふと、キリトの頭の中でこの前の決闘がよぎる。

 

「キリト君?」

 

 ゆらりと立ち上がったキリトへアスナは疑問の声を漏らす。

 

 その中、剣を構えてヒースクリフめがけて振り下ろした。

 

 至近距離の攻撃、ボス討伐直後ということでヒースクリフは油断していたのだろう。

 

 目の前の斬撃を躱すことができず。

 

『ImmortalObject』

 

 キリトの斬撃はシステムメッセージと共に阻まれてしまう。

 

「はぁ!?」

 

「嘘!」

 

『ImmortalObject』とは不死存在を指す。

 

 壁や破壊不可能なものに現れる表示。

 

 これは建築物などに攻撃を加えたら現れる。

 

 プレイヤーに現れることはない。

 

「システム的不死!?」

 

「ど、どういうことだよ!」

 

 ゲームの仕様でありえない現象にアスナをはじめとした血盟騎士団のメンバーは目を見開く。

 

「簡単なことだ。この人のHPはイエローゾーンにならないように設定されているんだよ。システムにそんな設定ができるのはシステム権限をもつ管理者のみだ」

 

 ずっと、考えていたとキリトは言う。

 

「この世界をデスゲームにした茅場晶彦は二年間、どこで何をしているのか、俺は考えていた。だが、盲点だったよ」

 

「え?どゆこと」

 

「他人がやっているゲームを横で見ているのはつまらない。そうだろ?」

 

 尋ねるノビタニアンへキリトはそういう。

 

「団長、まさか!?」

 

「本当に茅場晶彦なのか!?」

 

「でも、だって!」

 

 周りが騒ぐ中で静かにヒースクリフは尋ねる。

 

「なぜ、気付いたのか、参考までに教えてもらえるかな?」

 

「この前のデュエルの時だよ。あの最後の一撃、アンタは速すぎたんだ」

 

「あまりにキリト君の一撃が速くてシステムのアシストを使ってしまったが、失敗だったようだ。予定では第九十五層までは正体を明かすつもりはなかったのだがな。こうなっては致し方ない。その通り、私は茅場晶彦だ。付け加えると最上層でキミ達を待ち受けるはずだった最終ボスだ」

 

 ヒースクリフの肯定。

 

 それは自らが主犯であることを告白する。

 

「キミは……いや、君たちは本当に私の予想を裏切るよ。全十種類あるユニークスキルのうち、全プレイヤー中最高の反応速度を見せたプレイヤーのみが会得できる二刀流スキル。魔王を倒す勇者。それが君になったわけだ……私としてはユウキ君の可能性も考慮していたのだがね、だが、今の君をみて確信したよ。二刀流はキミのためにあると」

 

「笑えないな。最強のプレイヤーが一転して最悪のラスボスか」

 

「ふざけんな!俺たちの覚悟を、作り上げた騎士団を!!」

 

 血盟騎士団の一人が剣を抜いてヒースクリフへ襲い掛かろうとした。

 

 しかし、ヒースクリフはメニューを開いて何かを操作する。

 

 攻撃しようとした体が硬直し、地面へ倒れた。

 

 それだけではない。

 

 二人を除いて全員が地面に崩れ落ちていく。

 

 HPバーには麻痺のアイコンが点滅している。

 

「管理者権限でここにいる人間、口封じをするつもりか?」

 

「まさか、そんな理不尽な真似はしないさ。ここまで育てた血盟騎士団を手放すのは惜しいことだが、私はこのまま最上層の紅玉宮にて待つとしよう。キミ達なら必ずたどり着けるだろう。その前に」

 

 ヒースクリフはキリトを見る。

 

「キミには私の正体を見破った報酬を与えなくてはいけないね」

 

 ヒースクリフは目を閉じると再び目を開ける。

 

「キリト君、チャンスを上げよう。キミとノビタニアン君。二人と私でデュエルを行うのだ。もちろん、不死属性は解除しよう。私に勝てばゲームはクリアされる。全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。どうかね?」

 

「駄目よ!キリト君。あなたを排除するつもりだわ!」

 

「そうだぜ!キリの字!!」

 

「受けるさ……だが、なんで、ノビタニアンも」

 

 キリトは隣をみる。

 

 そこでは麻痺を受けずにユウキを守っているノビタニアンがいる。

 

 彼自身、どうして自分が立っていられるのかわからない様子だ。

 

「前から興味があったのさ。キミとノビタニアン君。もちろん、アスナ君、ユウキ君との連携も素晴らしいものだったが、それを上回るほどの適応能力が二人にあった。ゲームマスターとして君たちに興味があるのさ……そう、あのネコ型ロボットのことも含めて」

 

 今度こそキリトとノビタニアンは言葉を失う。

 

「どうして、それを!!」

 

「勝てば教えよう」

 

「駄目だよ!キリト君!ノビタニアン君も!!ユウキ!あなたも止めて!」

 

「ノビタニアン、死んだら許さないよ。ボクの手を引っ張ってもらうんだから」

 

「え?」

 

「ユウキ!!」

 

「アスナ、俺は逃げるわけにはいかないんだ」

 

「駄目だよ!」

 

「キリト、やめろ!」

 

「クライン、あの日見捨てた俺を信じてくれてありがとう、感謝してもしきれない。お前が俺のことを仲間だと言ってくれたこと、とてもうれしいよ。ありがとう」

 

「キリの字!お前は俺の仲間なんだ!死んだら許さねぇぞ!!ノビタニアン!てめぇもだぞ!俺達はリアルで必ず会うんだからなぁ!」

 

「エギル……今まで攻略のサポートをしてくれて助かった。儲けのほとんどを中層プレイヤーの育成へつぎ込んでくれたおかげで多くの命が助かった」

 

「キリトぉぉぉぉおおお!ノビタニアン!!」

 

「アスナ、必ず終わらせるから信じてくれ」

 

「そんな、ダメだよ!キリト君!」

 

「アスナ、二人を信じよう。ボク達は見ているしかできないんだから」

 

 仲間たちの叫びを聞く中でキリトは剣を抜いて隣に立つノビタニアンへ謝罪する。

 

「悪いな。こんなことに巻き込んじゃって」

 

「大丈夫。キリトがいれば、何とかなるって思うし」

 

「お前には助けられてばっかりだよ」

 

「そんなことないよ。あの日から、僕はキリトに助けてもらっているんだから」

 

「……終わらせよう」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエル開始のブザーと共に飛び出したのはキリトだ。

 

 エリュシデータとダークリパルサーの二つの刃が光を描く。

 

 放たれた斬撃をヒースクリフは冷静に盾で受け流す。

 

 盾を構えたまま剣を構えようとするヒースクリフだが、衝撃を受けて後ろへ仰け反る。

 

 キリトがスイッチといわず入れ替わったノビタニアンが盾を構えて突撃していた。

 

 その突貫を受けてヒースクリフはのけ反ってしまったのだろう。

 

 ノビタニアンの剣とキリトの剣が交互に繰り出されていく。

 

 声の掛け合いもないままに繰り出されていく剣の嵐に普通のプレイヤーなら慌ててHPを削られて終わるだろう。

 

 しかし、相手はヒースクリフ、ユニークスキル神聖剣を持つばかりか、ソードスキルを生み出した当人である茅場晶彦が相手。

 

 ソードスキルを使えば、自分達が負けることは目に見えている。

 

 だから。

 

「(ソードスキルは使うなよ)」

 

「(わかったよ!)」

 

 二人は目配せをしながら武器を繰り出す。

 

 ヒースクリフは二人を相手しているというのに慌てることなく剣をいなす。それどころか目は笑っている。

 

「(遊ばれている!!)」

 

 キリトは眼前に突きつけられている剣を前に顔をしかめた。

 

 もし、一人ならキリトはここでソードスキルを使っただろう。

 

 キリトは一人で戦っているわけではない。

 

「うわっ、とと!?」

 

 バランスを崩しながら繰り出したノビタニアンの剣がヒースクリフの頬を掠める。

 

「キリト、下がって」

 

「あ、あぁ!」

 

 剣を振り下ろすヒースクリフの攻撃を受け止めてノビタニアンが叫ぶ。

 

 この時、誰もが気付かなかった。

 

 ヒースクリフの体にノイズが走っていた。

 

「流石だな。二人掛かりでここまでやれるとはとても素晴らしい。ノビタニアン君もユニークスキルを持っていたら苦戦は逃れないだろう」

 

「その割には余裕の態度だな」

 

「これでも焦っているのだがね」

 

 三人は攻撃を続けながら会話をする。

 

 最初よりもそこまで余裕が生まれていると思われるが実際は違う。

 

 三人ともすでにHPはかなり削られていた。

 

 回復アイテムを使う暇もなく、HPがどんどん減っていくのだ。

 

 バトルヒーリングシステムも追いついていない。

 

「しまっ!」

 

 派手な音を立ててノビタニアンの盾が砕け散る。

 

 耐久限界値を迎えたのだ。

 

 隙ができて、ヒースクリフのソードスキルがノビタニアンを捉えた。

 

 衝撃と共に派手に地面へ転がったノビタニアン。

 

 HPゲージが残り数ドットとなった。

 

 ちらりとノビタニアンがキリトを見る。

 

「くそぉおおお!」

 

 キリトはついにソードスキルを発動した。

 

 ヒースクリフが盾を構えようとした時、その動きが遅れる。

 

 彼が驚いている中、二刀流ソードスキルの“ジ・イクリプス”が放たれた。

 

 躱すこともなくヒースクリフの体に二つの刃が炸裂する。

 

 HPが大きく削られていくヒースクリフは剣を振るう。

 

 派手な音と共にキリトの手の中にあったダークリパルサーが途中で音を立てて折れていた。

 

「キリト!!」

 

 呼ばれて振り返るとノビタニアンが自身の武器“シルバーナイツ”を投げる。

 

 エリュシデータに匹敵する魔剣。

 

 それを受け取ったキリトは剣を繰り出す。

 

 一撃はヒースクリフの懐へ入り、深々と突き刺さる。

 

 ヒースクリフの体からノイズをまき散らして、消滅していく。

 

「……やっ、た?」

 

 消滅したヒースクリフの姿を見てキリトは呟いた。

 

 その直後、麻痺から解放されたアスナが後ろから抱きしめる。

 

 

 




はい、SAOアニメの流れはここまでです。

次回からゲーム展開へ入ります。より、好き嫌いが激しくなっていくと思います。

オリジナルも含みますが、書きたい話をやりながら進めていきます。



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11:歪んだ世界

オリジナル展開へ突入していきます。


「キリト君!大丈夫!?」

 

「アスナ……麻痺が解除されたんだな?」

振り返ると涙目のアスナが自分を見ていた。

 

「心配かけて!今度、あんな無茶をしたら許さないからね!」

 

「ごめん」

 

ヒースクリフが倒されたことで麻痺が解除されたのだろう。

 

倒れていたメンバーがぞろぞろと立ち上がる。

 

「ノビタニアン~?大丈夫?」

 

「うん、ありがとう」

 

ユウキがノビタニアンへ手を差し伸べる。

 

「もう!ずるいよ!キリトもノビタニアンも!」

 

「ユウキ、そういう話じゃねぇと思うぞ?」

 

二人の傍へエギルがやってくる。

 

「まったく、とんでもねぇ無茶をやりやがって」

 

「あはは、すいません」

 

苦笑するノビタニアンの頭をエギルはなでる。

 

「ま、よくやったな」

 

「お、おいおいおい!キリの字!とんでもねぇじゃねぇか!」

 

クラインが興奮した様子でキリトへ駆け寄ってくる。

 

「クライン……」

 

「とにかくよぉ、これでログアウトできるわけだよなぁ!」

 

「……そのはずだ」

 

しかし、いつまで経ってもログアウトされる様子がなかった。

 

次第に攻略組の中で不安が広がり始める。

 

「どうなっているんだ?」

 

茅場晶彦の言葉通りなら自分たちはログアウトできるはず。

 

それが起きないのはなぜか?

 

「キリト、どうする?」

 

「このままここにいても仕方ない……次の層へ向かおう」

 

「やっぱ、そうするしかねぇよな」

 

クラインがやれやれといいながらキリト達は次の層への階段を歩み始める。

 

「あ、そうだ、ノビタニアン、これ」

 

キリトは手の中にある“シルバーナイツ”をノビタニアンへ渡す。

 

「ありがとう……折れちゃったね。ダークリパルサー」

 

「ノビタニアンの盾も……次の層で補充しないとな」

 

「そういえば、あれのこと、聞けなかった」

 

「あぁ」

 

 ノビタニアンの言葉でキリトは思い出す。

 

 

 戦う直前、ヒースクリフは“ネコ型ロボット”という単語を放った。

 

 この世界においてそれを知っているものはキリトとノビタニアンの二人だけのはず。

 

 二人の頭に浮かんだのは青い彼のこと。

 

 もう会えない筈の存在をヒースクリフは、茅場晶彦はどうして知っていたのか。

 

 その謎を残しながらキリト達は七十六層へ到達する。

 

「うわぁ~!」

 

 次の層へ到着して広がる景色にユウキが驚きの声を上げる。

 

 緑が豊かな階層だ。

 

 青く広がる空に優しい風が彼らの頬を撫でる。

 

「これが第七十六層」

 

 第七十六層アークソフィアへキリト達は到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリの字。第七十六層のアクティベート完了したぜ!」

 

「ありがとう、クライン」

 

 街で装備などを整えて彼らが中央の転移エリアへ戻るとアクティベートを終えたクラインが待っていた。

 

「ごめんなさい、クラインさん」

 

「ただなぁ、ちょっと問題が発生してんだよ」

 

「問題?」

 

「ま、とにかく、どこでもいいから下層へ転移してみろよ」

 

「じゃあ、僕がやってみるよ」

 

 ノビタニアンが転移門の前に立つ。

 

 階層を選んで転移する。

 

 光に包まれてノビタニアンが消えた。

 

 ―と思うと光が現れてノビタニアンが姿を見せる。

 

「……あれ?」

 

 周りを見てアークソフィアにいることに気付いてノビタニアンは困惑した。

 

「どうゆうこと?」

 

「クライン、これは」

 

「それがよぉ。どういうわけか七十六層より下の階層へ転移できねぇんだよ」

 

「……そんな!」

 

「とにかく、何度か試していて、他の階層にいる連中に頼んで上がってこないように注意を促しているんだ」

 

「そうね、レベルの低い人がここへきて戻れなくなったら大変だね。リズに」

 

 その時、キリト達の前で光が現れたと思うと女性プレイヤーが現れる。

 

「あ、キリト、アスナ!ついでに二人も」

 

「リズ!?どうしてここに!!」

 

「どうしてって、ボス討伐でとんでもないことが起こったって聞いてね。アンタ達のことが心配になってやってきたのよ……」

 

「あ、あのリズ」

 

「それにしても、アンタ達、見たところ武器も大分、消耗しているみたいね~、任せなさい。鍛冶職人である私がしっかりメンテしてあげるからとりあえず武具店の方まで」

 

「あのさ、リズ、大事な話があるんだ」

 

「へ?何よ」

 

「実はね、今、システムに何か問題が――」

 

 バシュと転移門から新たにやって来るプレイヤー。

 

「ぶはっ!?」

 

 光が消えると同時に青い影がノビタニアンへとびかかった。

 

「ぴ、ピナ!駄目だよ!!」

 

 飛び出してきたのは深紅のようなドレスの装備を纏った少女。

 

「あれ~、キミって、シリカ?」

 

「ゆ、ユウキさん!?キリトさんも!お久しぶりです」

 

「ブハッ!シリカちゃん、久しぶりだね……もしかして、このフェザーリドラがピナ?」

 

「キュルルルル」

 

 ノビタニアンの腕の中にいるフェザードラゴン、ピナは嬉しそうにノビタニアンの顔をなめる。

 

「ピナ!もう……ノビタニアンさん、ごめんなさい」

 

「ううん、大丈夫。それにしてもシリカも、もしかして心配になって?」

 

「はい!ノビタニアンさん達に何か起こっているんじゃないかって不安になって落ち着かなくなって……」

 

「この子も、ね」

 

 アスナが神妙な表情で二人へ呼びかける。

 

「あの、リズ……それとシリカちゃん。大事な話があるの」

 

「どうしたのよ?さっきも何か言おうとしていたけれど」

 

「はい?」

 

「実はね……」

 

 アスナが転移門について説明する。

 

「嘘ぉ!?店へ戻れないの!!」

 

「そんな、私……どうしたら」

 

「大丈夫。僕達が手助けするから!」

 

「ノビタニアンさん……」

 

 ノビタニアンの言葉でシリカは安堵の表情を浮かべる。

 

「むぅ……ボクもいるからね!!」

 

 ノビタニアンを半ば突き飛ばすようにしてユウキが言う。

 

「そうだな、この層のフィールドに出ずに安全圏でクエストを受けてレベルの底上げをすればなんとかなるだろう

 

「キリト君!なにか光っているよ!?」

 

「なっ!?」

 

 驚くキリトの前で小さな光が起こるとそれは人の形となる。

 

 白いワンピースに腰まで届く黒い髪。

 

「パパ!!」

 

「ゆ、ユイ!?」

 

「ユイちゃん!?」

 

 現れたのは黒髪の小さな少女、ユイ。

 

 少し前まで一緒に生活していた少女だ。

 

「また会えてうれしいよ!ユイちゃん!」

 

「はい!」

 

「でも、どうして、会えたんだ?」

 

「実は……カーディナルが現在、問題を抱えていて、システムの何割かに膨大な負荷がかかっているようで、私もこの世界で活動できるようになったんです」

 

「そうなんだ!嬉しいよ!またユイちゃんと一緒にいられるんだね!」

 

「はい!パパ!ママ!」

 

「あのぉ」

 

 申し訳なさそうに三人へ割り込んだのはノビタニアンだ。

 

「申し訳ないんだけど。そこの方たちが目の前の事態に困惑しているので説明よろしく」

 

「え?」

 

「は?」

 

 キリトとアスナが振り返ると顔を真っ赤にしているシリカと面白いものを見つけたようなリズベットの姿があった。

 

「僕達はエギルが購入した宿へいっているから~」

 

「頑張って~~!」

 

 ひらひらと二人は手を振ってその場から離脱する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、ノビタニアン、ユウキ、お前達の分も部屋を抑えておいたぞ」

 

「ありがとう、エギルさん。それより大勢が押し掛けることになると思うけれど、大丈夫?」

 

「おう!事前に連絡を受けていたからな。ここでしばらく生活することになっちまうしなぁ」

 

「それより、ほかに大きな問題とかないですか?」

 

「……お前ら、スキルの方とかチェックしたか」

 

「うん、スキルのいくつかがリセットされていたよ」

 

 表情を暗くしてユウキが言う。

 

 七十六層に来てからステータスなどが一部リセットされていた。

 

 これもシステムに問題が起こっているのだろうと推測されている。

 

「新たに育て上げないといけないわけだが、モンスターがどんな動きをするのかわかんねぇしなぁ」

 

「そうですね。僕達も注意しないと」

 

「そうだ!」

 

 ポン!とユウキが手を叩く。

 

「どうせだし、二人でモンスター討伐行こうよ!」

 

「えぇ!?」

 

「周辺のモンスター相手ならなんとかなると思うんだ!試しに行こうよ。ソードスキルもレベル上げしたいし」

 

「……まぁ、行こうか。エギルさん、後でキリト達がやってくるからお願いします」

 

「おう、気をつけてな」

 

 エギルに手を振って二人はフィールドへ出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークソフィアから少し出たところのモンスターとユウキ、ノビタニアンが戦ってみたのだが、問題なかった。

 

「普通だね」

 

「普通というか、七十五層のモンスターより弱い気がするなぁ」

 

 剣を構えながらノビタニアンが首を傾げる。

 

「それより、ノビタニアンの盾、やっぱり性能が落ちているね~」

 

「そうだね。前の盾が砕けちゃったから、新しいものも前のと比べるとやっぱり、使いにくいところも……」

 

「はいはい、先を急ぐよ!」

 

 先を歩くユウキの姿を見て、ふとノビタニアンは気になった。

 

「もしかして、心配してくれている?」

 

「なんのこと~?先を急ぐよ」

 

「あ、待ってよぉ!」

 

 ずんずん進んでいくユウキの姿を見て慌ててノビタニアンは追いかけた。

 

 

 

 



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12:連続する異変

「キリの字。東の森の噂、聞いたか?」

 

 エギルの店、もとい宿屋でキリトがくつろいでいるとクラインが話しかける。

 

「噂?」

 

「おう、なんでも東の森に妖精が出るらしいぜ」

 

 あくまで噂の領域を出ないらしいのだが攻略のために東の森へ出ていたプレイヤーが金髪で背中に羽をはやした妖精をみたという。

 

 妖精はプレイヤーの姿を見ると慌てて森の中へ消えていったらしい。

 

「NPCのクエストか?」

 

「わっかんねぇんだよなぁ。それでお前達、東の森へ行くっていっただろ?何か見つけたら教えてくれってことだ」

 

「わかった、注意してみるよ」

 

 クラインにそういってキリトは部屋からやってきたノビタニアンをみる。

 

「おはよう~」

 

「ノビタニアン、寝坊だぞ」

 

「ごめんごめん」

 

 装備を整えてキリトとノビタニアンはフィールドへ出る。

 

 あれからシリカとリズベットの二人もエギルの宿で生活をしている。現在は町中のクエストでレベル上げを試みているらしい。

 

 キリトがアルゴに頼んで情報を集めて勧めたという。

 

 ユウキとアスナは二人でレベル上げをしている。

 

 今回は男女別々の行動。

 

 キリトとノビタニアンはモンスターを倒しながら東の森へ足を踏み入れる。

 

「ここに妖精がいるんだよね?」

 

「クラインの話によるとな」

 

 エリュシデータと第七十六層のショップで購入した片手剣を構えてキリトとノビタニアンは森の中へ入っていく。

 

 二刀流の情報が公表されてから、キリトは隠すことなく二つの剣で攻略をしていた。

 

 その方がより早くこのゲームをクリアできるだろうと考えたからだ。

 

 昆虫系のモンスターが現れるも二人のソードスキルで倒される。

 

「妖精、いないね」

 

「見間違いだったのかもなぁ」

 

 キリトが首を傾げていると森の奥。

 

 太陽の光が差し込む場所。

 

 その中に立っている人の姿があった。

 

 それだけならプレイヤーかNPCだと判断するが、二人の目はその人物の背中。

 

 光を受けて反射している小さな羽。

 

 羽がついているその姿はまさに。

 

「妖精!?」

 

 ノビタニアンの叫びに妖精は振り返る。

 

 長い金髪が揺れる中、少女は二人の姿を見ると目を見開く。

 

「お兄ちゃん……」

 

 目を見開いていた少女はキリトの手を取って喜びの表情を浮かべていた。

 

 対してキリトは困惑するばかりだ。

 

「えっと、キリトは妖精さんの妹がいたの?」

 

「い、いや!?もしかしたらそういうクエストかもしれないぞ?それにしてもこの妖精、とても綺麗だな」

 

「何を言っているの!?私だよ!私!」

 

「いや、私っていわれても身に覚えがないし」

 

「私だよ!直葉だよ!」

 

「は!?スグ!!?いやいや、ありえない、スグじゃない!だって、ここまで胸大きくないし」

 

 キリトの言葉を聞いた直後、少女は拳を繰り出す。

 

 拳を受けたキリトは数メートルほど吹き飛び、地面へ倒れた。

 

「キリト……」

 

「いってぇな!おい!」

 

 顔を抑えながらキリトは睨む。

 

 少女は自分の胸元を抑えて顔を赤くする。

 

「そりゃ、二年もあれば私だって成長するよ!のび太さんも!私だよぉ!桐ケ谷直葉だよぉ!」」

 

「え!?どうして、僕のリアルの名前を……?って、本当に直葉ちゃん?」

 

「はい!」

 

 にこりとほほ笑む金髪ポニーテールの少女はノビタニアンの質問に大きく頷く。

 

「仮にスグだとしたら、俺とノビタニアン……いや、のび太について知っていることを答えてくれ」

 

「えっと、桐ケ谷和人がお兄ちゃんの名前でしょ……野比のび太さん、お兄ちゃんの一番の親友でドジで間抜けっていわれていてテストはいつも赤点、スポーツもダメ。得意なのは射撃とあやとり、0点のテストの隠し場所は」

 

「ストーップ!もういいから!僕のことをこれ以上いわないでぇ!」

 

 涙目ながらにノビタニアンが止めに入るが間違いない。

 

 目の前の金色の妖精はキリトの妹だと。

 

「もう、こんなのユウキに聞かれたらからかわれちゃうよ……それにしても直葉ちゃん……なら、どうしてそんな髪を染めているの?」

 

「え、あ!?そっか、これ、ALOのアバターだった!」

 

 くるりと自分の体を見て直葉はポンと手を叩く。

 

「ALO?」

 

 首を傾げるノビタニアン。

 

「とにかく、詳しい話を聞きたいから俺達の拠点としている場所へ行こう……そうだ、スグ」

 

「なぁに?」

 

「この世界ではリアルの名前は厳禁だから、俺のことはキリト、のび太のことはノビタニアンと呼んでくれ。それでスグのことは」

 

「リーファだよ!」

 

「リーファ、とにかく町へ行こう」

 

「うん!」

 

 二人に会えたことが嬉しいのかにこにこと直葉、もといリーファはキリトとノビタニアンの左右の手を掴む。

 

「懐かしいな。これ」

 

「昔はみんなで一緒に歩いていたもんね!」

 

 嬉しそうにほほ笑むリーファ。

 

「本当にお兄ちゃんに会えた……よかった」

 

「え?」

 

「何でもない!」

 

 首を振るリーファに二人は首を傾げながらもアークソフィアへ歩み始める。

 

「あれ、なんだ?」

 

 街へ戻ったキリトが空を見る。

 

 他のプレイヤーも何事かと見上げていた。

 

「え、なに?」

 

 戸惑うリーファ達の上空が歪む。

 

 どす黒い波のようなものが起こり、そこから何かが落ちてくる。

 

「くそっ!」

 

「キリト!」

 

 キリトが落下する影をみて駆け出す。

 

「届け!!」

 

 両手を伸ばして落ちてきたものを受け取りながら地面をスライディングする。

 

 少し遅れてノビタニアンがやってきた。

 

「人……!?」

 

「あぁ」

 

「え、何?」

 

「キリト君!これは?」

 

「なになに?落とし物~?」

 

 街へ戻ってきていたのだろうアスナとユウキがやってくる。

 

 ノビタニアンがキリトの腕の中にいる少女を見た。

 

「女の子?」

 

「キリト、どこで拾ってきたのさ~」

 

「いや、空から落ちてきたんだよ……それよりも騒ぎが大きくなる前に宿へ行こう。リーファも」

 

「あ、うん!」

 

「うわっ!羽がついている!」

 

 ユウキはやってきたリーファをみて驚きの声を漏らす。

 

 いろいろと質問しようとするユウキに待ったをかけてキリトが宿へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子はまだ寝ているから先にリーファについて話をしておこうと思う」

 

 宿に集まったのはキリト、ノビタニアン、アスナ、ユイ、シリカ、リズベット、リーファ、エギル、クラインだ。

 

「リーファはリアルの俺の妹なんだ」

 

「は!?」

 

「キリの字、お前に妹がいるのは聞いていたけれど、向こう側、現実の世界にいるはずだろ?」

 

「そうなんだよ。でも、リーファはここにいる」

 

「付け加えておくと僕とキリトで本物かどうか確認したからそこは安心してね」

 

「キリトの妹かそうでないかはともかくとして……なんで背中に羽なんてあるのよ?」

 

 リズベットの質問に答えたのはリーファだ。

 

「実はこの体はALOっていうゲームのアバターなんです」

 

「ALO?」

 

 リーファの話によると彼女の体はSAO以降に作られたVRゲームソフトのアバターだという。

 

 そして、そのゲームをプレイ中にどういうわけかSAOの世界へ飛ばされたらしい。

 

「俺達が閉じ込められた後にVRが作られているのか、信じられないな」

 

「そうだね。普通はなくなると思ったんだけど」

 

 誰もが驚きを隠せないようだ。

 

「でも、その羽は?」

 

「あ、ALOでは空が飛べるんです」

 

「嘘!?」

 

「凄いです……」

 

 リズベットとシリカが驚く。

 

 空を飛べる。

 

 SAOにおいて、空を飛ぶことはできない。

 

 飛行モンスターにしがみついて、飛ぶということはできるがそれはまた別の話だ。

 

「いいなぁ、空を飛べるなら飛んでみたいよ!」

 

 羨まし気に答えたのはユウキだ。

 

「そうだね。空を飛べるなんて。めったにできないことだよ」

 

 アスナも同意する。

 

「でも、この世界じゃ飛べないみたいなんです」

 

「なぁ、ユイ。これはどういうことなんだ?」

 

「おそらくですが……カーディナルに何か異変が起こっているのかもしれません。さっきの人も……もしかしたら別のゲームで巻き込まれたのかもしれません」

 

「おいおい、それはとんでもねぇことだぞ」

 

 クラインが驚きの声を漏らす。

 

 もし、リーファのように他のVRゲームをプレイしている人がSAOの世界に引き込まれているとしたら。

 

 これは中だけの問題ではなくなってしまう。

 

 ユイの言葉にキリトは思案する。

 

 その時、後ろでのそりと音がした。

 

 全員が振り返ると空から落ちてきた少女が目を覚ます。

 

「ここは……」

 

「あ、目を覚ました――」

 

「きゃっ!」

 

 覗き込んだキリトをみて黒髪の少女は拳を繰り出した。

 

「ぶっ!?」

 

 衝撃を受けてキリトは後ろへ座り込む。

 

「あ、アンタ、何よ!」

 

「落ち着いて、もう、キリト君、女の子に不用意に近づいちゃだめだよ」

 

 アスナがキリトへ注意した。

 

「まぁ、仕方ないわね。アンタのような黒づくめじゃ怪しまれるのは仕方ないわね」

 

 リズベットが苦笑する。

 

「いや、心配したから、それにしても変か?」

 

 キリトは自分の格好を見る。

 

「おにい……キリト君、昔から服にこだわりとかなかったよね」

 

「うーん、私は似合うと思いますよ」

 

「ボクはどっちでもいいや」

 

 シリカは賛同してユウキはどうでもいいと答える。

 

「おい、それよりもその子、話を聞くべきじゃないのか?」

 

「おう、その通りだな……ん?」

 

 エギルの言葉で全員が落ち着き、クラインが話しかけようとした時。

 

 起き上がった緑や黒の衣装をまとったショートカットの少女はまっすぐにある人物を見ていた。

 

「ん?」

 

 見られていることに気付いたノビタニアンがベッドの上へ腰かけている少女を見る。

 

 ふらふらと立ち上がった少女は――。

 

「え、どうし」

 

 迷わずにノビタニアンを抱きしめた。

 

「のび太君」

 

 リアルの彼の名前を告げて。

 



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13:強くなりたくて

 

「え!?」

 

 抱きしめられたノビタニアンは目の前の事態に戸惑う。

 

「の、ノビタニアンさん!?」

 

「お、おいおいおい、これはどういうことだ!?なんて羨ましい展開なんだよぉ!」

 

 目を丸くするシリカと嫉妬の声をあげるクライン。

 

 対するノビタニアンは目の前の事態にただ戸惑うことしかできない。

 

「えっと、君は……えっと」

 

「のび太君よね?私よ。詩乃……朝田詩乃」

 

「詩乃……え、詩乃ちゃん!?」

 

 ノビタニアンは驚きの声を上げる。

 

 少し離れて少女と向き合う。

 

 ショートヘアーで、不安そうにこちらを見ている少女の顔は数年前のあの日を連想させる。

 

 昔の面影が残っている。

 

 ノビタニアンは察した。

 

「本当に、詩乃ちゃんだ」

 

「久しぶり、のび太君。それにしてもなにその恰好……コスプレ?」

 

「えっと、そのぉ、実はここ」

 

「おい、ノビタニアン、その子は?」

 

 キリトがおそるおそる尋ねる。

 

「少し待ってね。えっと、詩乃ちゃんはどうしてここに?」

 

「……思い出せない」

 

「え?」

 

「思い出そうとすると頭に靄がかかっているみたいにはっきりしないの。唯一、覚えていたのはのび太君の記憶だけ」

 

「どういうことかな?ユイちゃん」

 

「おそらくですけれど、この世界へ来た時のショックなのかもしれません」

 

「それよりも、ここはどこなの?なんでみんな変な格好をしているのよ」

 

 戸惑う詩乃。

 

 彼女がリーファ同様に外からやってきた人間ならキリトやノビタニアン達の格好は変だといえるだろう。

 

 

 ノビタニアンがゆっくりと説明する。

 

 

「えっと、まずは落ち着いて聞いてほしいんだけど、ここはソードアート・オンライン、二年前に発売されたVRゲームの世界なんだ」

 

「ソードアート……オンライン、うそ!あのゲームで死んだら現実でも死ぬというあの!?」

 

「うん、それで……詩乃ちゃん、ここではリアルの名前は禁止なんだ。プレイヤー名……えっと、シノンで呼ぶから、僕たちのことも表示されている名前で呼んで」

 

「わかったわ……えっと、ノビタニアン?」

 

「うん」

 

「どうせだし、自己紹介しましよう!アタシはリズベット!」

 

「シリカです。この子はピナ」

 

「きゅるる!」

 

「俺はエギル。この宿の店主を務めている」

 

「お、俺はクライン!二十四歳独身!」

 

「その情報はいらないだろ……俺はキリト、ノビタニアンとパーティーを組んでいる」

 

「私はアスナ、よろしくね?」

 

「最後はボクだね!ユウキだよ!よろしく!」

 

「……よろしく」

 

 それぞれが挨拶をして詩乃こと、シノンは小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ノビタニアン」

 

「うん?」

 

 クラインへシノンについての情報収集を行うように頼んだ後、キリトは隣にいる親友へ尋ねる。

 

「あの子、シノンと知り合いだったのか?」

 

「……友達、かな」

 

 ノビタニアンの言葉に少しキリトは気になった。

 

「珍しく歯切れが悪いな」

 

「うん、その、彼女と出会ったのはあの事件の後なんだ」

 

「あの事件、か」

 

 ノビタニアンの言葉通りの意味なら“あの事件”とすぐに結び付ける。

 

「あの後、いろいろとやけくそになって東北の方まで家出した時に知り合ったんだ」

 

「長い家出だったよなぁ」

 

 キリトがしみじみとつぶやく。

 

「その家出の途中で知り合って……いろいろとあったんだ」

 

 含みのあるような言い方だが、ノビタニアンとしてはそれ以上、踏み込んでほしくはなかった。

 

 なにせ、シノンこと、詩乃の過去は――深い傷がある。

 

「キリト、ノビタニアン、情報屋とかに調べてもらったぞ」

 

 クラインが店へ入ってくる。

 

「どうだったクライン?」

 

「色々と調べてもらったが、ダメだな。他にこの世界へやってきた奴はいねぇみたいだ」

 

「そうか……とりあえず、一安心ってところかな」

 

「そうだね」

 

 キリトの言葉にノビタニアンも同意する。

 

「とにかく、今後についてシノンと話をしないとな」

 

「何の話?」

 

 三人で話をしていると噂の本人であるシノンがやってくる。

 

「シノンさん」

 

「さん付けはいらないわ。私のことは呼び捨てでいいわ。あなたのことはノビタニアンって呼ぶから」

 

「え、ああぁ、うん」

 

「ねぇ、この世界でHPがゼロになると死ぬのよね」

 

「あぁ。だから安全なところで」

 

「この世界から脱出するために戦っているのよね」

 

 キリトの話を遮ってシノンが尋ねる。

 

「あぁ、今は七十六層、百層攻略を目指している」

 

「命がけの戦い」

 

「……シノン、もしかして」

 

 ノビタニアンが何かを訪ねようとした時、シノンが決意した表情で答える。

 

「私も攻略に参加させて」

 

「な!?わかっているのか!これは」

 

「わかってる。この世界は命がけの戦いをしている。私は強くなりたいの」

 

 強い意志を宿した瞳でシノンはキリトをみる。

 

 その目に何かが気になりながらもキリトは確認した。

 

「後悔、しないな?」

 

「えぇ」

 

 頷いたシノン。

 

 キリトは「わかった」と答える。

 

「俺やノビタニアンが一緒にレベル上げに付き合う。それが条件だ」

 

「わかった、よろしくね」

 

 二人とシノンは握手する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというものの、キリトやノビタニアンはシリカ、リズベット、リーファ、シノンらと交互にパーティーを組みながら迷宮区の攻略を行う。

 

 リーファやシノンと出会い、少しばかりの時が進み現在は第七十九層の攻略をしていた。

 

 システム的な問題なのか周辺のモンスターは脅威と言えずSAO初心者であるシノンでもなんとか戦える相手ばかりだった。

 

「なんというか悔しいわね」

 

「え?」

 

 短刀を構えながらシノンが半眼でノビタニアンを見る。

 

「いくら実戦の差があるとはいえ、こうも差が開かれていると悔しい。昔は私の方が強かったから」

 

「あはは、そ、そうだったね」

 

 昔、うっかりシノンを怒らせてぼこぼこにされたことを思い出してノビタニアンは苦笑する。

 

 仲直りできたがあれはすさまじい思い出だ。

 

「あれから、シノンは」

 

「強さを求めてきたわ」

 

 空へ手を伸ばす。

 

 シノンの目は強さを渇望していた。

 

「私は強くなりたい……あれを乗り越えたいから」

 

「……シノン、キミは」

 

 シノン。

 

 彼女は幼いころにある事件に巻き込まれた。

 

 その時の出来事から彼女は強さを求めるようになった。

 

 抱えている傷を自分で乗り越えるため。

 

 だからこそ。

 

「その強くなる手伝い、僕にできるかな?」

 

「え?」

 

 ノビタニアンの言葉にシノンは驚きの声を漏らした。

 

 目を丸くしている彼女はまじまじとこちらをみている。

 

「僕は強くないけれど、その手伝い、してもいい?いや、させて欲しい」

 

「……どうして?」

 

「放っておけないから、じゃダメかな」

 

「アンタには関係のないことなのよ?」

 

「だとしても、僕がやりたいから」

 

「自分勝手ね」

 

「ごめん」

 

 苦笑するノビタニアン。

 

「でもいいわ」

 

 シノンは小さく微笑みながらノビタニアンを見る。

 

「そこまでいうんだからこれからもっとレベル上げにつきあってもらうからね。さ、次のエリアへ向かうわよ」

 

「あ、待って、待ってよ!」

 

 歩き出すシノンに引っ張られる形でノビタニアンは歩き出す。

 

「……本当にお節介ね。そんなアンタだから」

 

「え?何かいった?」

 

「別に!ほら、行くわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノビタニアン、少し、いいかしら?」

 

 あれからボス部屋までたどり着いたノビタニアンとシノンは宿へ戻っていた。

 

 夕食を終えて後は寝るだけの時間となった時、部屋へシノンがやってくる。

 

「あれ、シノン、どうしたの?」

 

「この世界のこと、教えてもらおうと思って」

 

「SAOのことを?」

 

「そうよ、ここへきて私は日が浅いから。色々と知識とか不足しているからそういう面で足を引っ張りたくないの」

 

「……別に急がなくても」

 

「あんなところで足を引っ張りたくないもの」

 

 シノンが言うのはトラップに引っかかった時のことだろう。

 

 簡易的なトラップだったから問題はなかった。

 

 しかし、シノンはそんなミスも許せないらしい。

 

「私は強くなりたいの」

 

「強くなりたいっていっても急ぎ足でなれるものじゃないでしょ?」

 

「……そうだけど」

 

「何の話~?」

 

 二人が扉前で騒いでいるとユウキがやってくる。

 

「あ、ユウキ」

 

「どうしたの?痴話げんか?」

 

「そんなのじゃないわよ!ノビタニアンにSAOのことを教えてもらいたかったの」

 

「いいことじゃないの?」

 

「そうだけど……」

 

「もう、ノビタニアンは心配性だよ!シノンだって、力になりたいって思っているんだからさ!」

 

「……そう、だけど」

 

「いいわ、私が焦りすぎたみたいだし」

 

「わかったよ。いろいろと教えるよ」

 

 ノビタニアンは折れてシノンの提案を受け入れる。

 

「そうこなくっちゃね!」

 

「(ユウキめ……覚えていろよぉ~)」

 

 笑顔で去っていった台風娘を恨みながらノビタニアンはシノンへレクチャーを行う。

 

 彼女の強くなりたいという思いにこたえるため。

 

 

 



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14:楽しい日々?

?不要だろうって。作者的に気になったからつけたのさ。

仮面ライダークロニクル、オーディナルスケールで使えそうだな。誰か書いてくれないかな。

EXステージで書いてみるか?


ちなみに今回の話は次の話のつなぎです。


「これはどういうこと!?」

 

 エギルの宿でリーファが叫んでいる。

 

 彼女はキリトへ詰め寄っていた。

 

「いや、リーファに説明をまだしていなかったけどさ……えっと、説明する時間を俺に」

 

「リーファさん、落ち着いてください。パパが慌てています」

 

「え、あ、ごめんね」

 

 ユイに言われてリーファはキリトを放す。

 

「説明するとかなり難しいんだけど、ユイは俺とアスナが見つけた子供なんだ」

 

 AIだということを遠回しに説明しながらキリトはリーファへ伝える。

 

 最初は驚いて慌てていたリーファだが、説明を受けて納得した表情を見せる。

 

「もう、驚いたよ。私、二年の間におばさんになったかと思っちゃった」

 

「そうだよね」

 

 リーファの言葉にノビタニアンも同意する。

 

「いや、ノビタニアンは知っていただろ!?」

 

「ぴゅー、ふぃ~」

 

「吹けていないよ!?」

 

 ユウキの突っ込みで笑いが広まる。

 

 第七十六層の攻略は順調に進んでいた。

 

 スキル消失やシステムのバグめいた問題はありながらも一からのスキルビルドを行っていく。

 

 かくいうノビタニアンも一部のソードスキルが失われていたがなんとか攻略していた。

 

 キリトがホロウエリアへ行っている間はノビタニアンがユウキやアスナ、シリカ、リズベット、リーファ、シノンと攻略をしている。

 

 最初はレベルが不足していたシリカやリズベットも町中でのレベル上げで最底辺だが攻略組として活動していた。

 

 解放されたキリトがノビタニアンの傍へやって来る。

 

「お疲れ様、大変だね~」

 

「そう思うならちゃんと助けてくれ」

 

「それはそれ、これはこれだよ」

 

「まったく」

 

 二人は運ばれてきた料理を食べる。

 

「ノビタニアン」

 

「はい、ホワイトソースのパスタ」

 

「おう、こっちはミートパスタな」

 

「ありがとう」

 

 互いがおいしそうに食べているパスタを交換し合う。

 

「前から聞こうと思っていたんだけど」

 

 そのやり取りを見ていたアスナが二人へ尋ねた。

 

「キリト君とノビタニアン君って、仲がいいというか、互いの考えていることが本当にわかっているよね?」

 

「へ?」

 

「あ、アタシもそれは思っていた!」

 

 リズベットが頷く。

 

「攻略も言葉に出さずに動いていますよね。スィッチも掛け声なしでやる時があるし……すごいと思います」

 

 シリカがうんうんと同意する。

 

「まぁ、キリト君とノビタニアン君は小さいころからの知り合いだし、色々と大冒険を――」

 

「り、リーファ、それ以上はやめろ」

 

 気付いたキリトがリーファにストップをかける。

 

 何かに気付いたのか彼女も話を止めた。

 

「どうしたの?」

 

 ユウキとシノンが尋ねるよりも早く食べ終えたノビタニアンが立ち上がる。

 

「ごちそうさま、僕、眠いから上へあがるね?」

 

 会話を打ち切って、ノビタニアンは階段を上がっていく。

 

「なんだ?もう寝るのか?」

 

「あちゃー」

 

 去っていくノビタニアンを見てエギルが首を傾げる中でキリトが額に手を当てる。

 

「キリト君、もしかして」

 

「あぁ、アイツは“まだ”引きずっている」

 

「そっか、悪いことしちゃったな」

 

「どうしたの?キリト君」

 

「アタシたちにわかるように説明しなさいよ!」

 

 アスナやリズベット達がさっきの件について尋ねてくる。

 

 しかし、キリトは首を横に振った。

 

「悪いけれど、この話はかなり根が深いものなんだ。おいそれと話したら……多分、ノビタニアンは俺達に遠慮してここから出ていくかもしれない」

 

「なんか、信じられないな。普段のアイツの姿からして」

 

 エギルの言葉にアスナ達は頷く。

 

 みんなが話をしている中でユウキはノビタニアンが去っていった場所をじっ、とみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 ノビタニアンはリーファと共に迷宮区へきていた。

 

「うーん、ALOと少し違ってやりにくいなぁ」

 

 片手剣を構えながらリーファがぽつりとつぶやく。

 

 レイピアのように細い剣を振るいモンスターを倒す。

 

 その後ろで監督役としてノビタニアンがみている。

 

「やっぱりというか、なんというか、リーファちゃんはソードスキルなしでも凄いね」

 

「やっていたゲームはソードスキルがなかったからね、剣道が生かせたんだよね……うーん、私としてはソードスキルになれるのが少し難しいけど、なんとかモノにしないとね!キリト君達の足手まといにならないようにね!」

 

「そういえば、リーファちゃんはALOっていうゲームをやっていたんだよね?そこはどんなところなの?」

 

「前も話したけれど、ALOは空を飛べる以外に種族を選ぶの」

 

「種族?」

 

「私のこの姿はシルフなんだけど、他にもウンディーネやサラマンダーとかあるの」

 

「へ~」

 

「あとはスキルがあることと……魔法かな?」

 

「魔法!?」

 

 ノビタニアンが驚きの声を漏らす。

 

「もしかして、チンカラホイって呪文を唱えるの?」

 

「そんなシンプルなものじゃないよ。英文を読み上げるの」

 

「うへぇ、僕には無理かな~」

 

「あははは、このゲームをクリアしたらプレイしてみようよ」

 

「どうしようかなぁ?魔法を読み上げることは苦手だからなぁ……剣一本だけならなんとかなるかなぁ」

 

「いけるんじゃないかな?お兄ちゃんやのび太君ならいけると思うよ」

 

 ノビタニアンやキリトの前だとリーファは自然とキリトのことをお兄ちゃんやのび太君というようになった。

 

「……そういえば、リーファちゃんはみんなの前はキリト君なのに、僕やキリトの時は「お兄ちゃん」なんだね」

 

「あ、うん。みんなの前だと余計な騒動を生み出しそうだから注意してほしいって言われたの」

 

「オーイ!ノンビ!」

 

 攻略のために迷宮区を歩いていたノビタニアンへ声をかけるものがいた。

 

 振り返るとローブで頭をすっぽりと隠している女性がやって来る。

 

「久しぶりダナ!ノンビ」

 

「あぁ、アルゴ、久しぶり」

 

 フードを外して露わになる顔には三つの髭のようなペイント。

 

 情報屋のアルゴだ。

 

「まさか、ノンビとこんなところで会うとは思わなかったゾ!デートの最中とはナ!」

 

「デ、デート!?」

 

「違うよ。アルゴ、リーファちゃんのレベリングに付き合っているだけだから、情報売買の素材にしようと考えないでね」

 

 念のため釘をさす。

 

 間違ってキリトにおかしな情報が伝わってデュエルとなったらしゃれにならない。

 

「チェー、白銀の剣士の面白い情報になると思ったんだがナァ」

 

「やめてくれよ~」

 

「白銀の剣士?」

 

「あぁ~、そっか、東の森の妖精というのはアンタだったんだナ。どうせだからただで教えてやるヨ。コイツは、白銀の剣士といわれてSAOの中じゃ三剣士の一人に数えられているゾ」

 

「へぇ、凄いな!」

 

 リーファが驚きと羨望のまなざしを向ける。

 

 歯がゆい気持ちになりながら首を振った。

 

「もう、やめてよ。それよりどうしてこんなところに?町中で情報集めしていると思ったんだけど」

 

「まぁナ。そうだ、ノンビ、情報を買わないか?」

 

「いくら?」

 

「五百コル」

 

「はい、どうぞ」

 

 アルゴが提示した額にノビタニアンが支払う。

 

 目の前の光景にリーファは目を丸くしている。

 

「毎度~、さテ、情報についてだが、近々、攻略組に新しいギルドが参加するゾ。もともと、中層で活動していたみたいなんだがな。この数日の間にメキメキと実力をつけてあがってきたんダ」

 

「へぇ~」

 

「ま、わかっていることはこれくらいダナ」

 

「ありがとう、また、色々と情報があったら頂戴~」

 

「毎度アリ~~」

 

 アルゴはそういうと走り去っていく。

 

「は、速いなぁ」

 

「アルゴの敏捷はキリトに匹敵するものがあるからねぇ」

 

 驚くリーファにノビタニアンは苦笑する。

 

「さっきの人、アルゴさんって」

 

「情報屋だよ。お金を払えば色々と調べてくれるよ。販売しない情報もあれば、こっちの情報が根こそぎ奪われるかもってことがあるから注意した方がいいってキリトが言っていたよ」

 

「うわー、気を付けないと」

 

「でも、いい人だから警戒しすぎることはないから」

 

「うん!わかった」

 

 頷いて二人は攻略を再開する。

 

 この時、ノビタニアンは思いもよらなかった。

 

 アルゴが伝えた情報。

 

 そのギルドがもたらす騒動があることを。

 

 ノビタニアンは予想もしていなかった。

 

 

 



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15:消えない痛み

色々あり続けてもう一話投稿します。見ていない人は一つ前からみてください。

尚、今回はアンチ色がかなり濃いです。

救済は考えていますが、SAO内で終わるかどうかは不明です。




 

 

 現在、アインクラッドは第八十五層まで攻略をしている。

 

 今までの攻略と比べると異例の速度。加えて死者が一人も出ていないのは素晴らしいことだった。

 

 一時はスキル消失、システム的なイレギュラーといったことが起こったが今のところ落ち着いている。

 

 キリトはホロウエリアと呼ばれる場所を見つけて、そこにいた“フィリア”という少女と冒険を繰り広げ、

 

 シノンは完全に記憶を取り戻し、八十一層にて“射撃スキル”を獲得し弓を用いて最前線のメンバーと共に戦っている。

 

 少し危険な部分は鳴りを潜めたが、強さを求めて危険なことをしようとするのは変わらなかった。

 

 そして、ノビタニアンは――。

 

「スィッチ!」

 

 ユウキの叫びと共にノビタニアンが前へ入れ替わりソードスキル“ヴォーパル・ストライク”を放つ。

 

 攻撃を受けて鳥類型モンスターが消滅する。

 

「やったね!」

 

 周囲にいる敵をあらかた倒した二人は武器を鞘へ納めた。

 

 駆け寄ってくるユウキとノビタニアンはハイタッチを交わす。

 

「なんか、ノビタニアンとコンビ組んでモンスターを討伐するの、久しぶりだね~」

 

「そういえば、最近はシリカちゃんやシノンと組んでいたからなぁ」

 

「キリトはホロウエリアをいったりきたりだし、アスナさんは血盟騎士団の立て直しでバタバタしているもんね」

 

「ボク達、三人でパーティーを組んでいたのが昔みたいだよ」

 

「そうだね……二年間ずっと組んでいたからいきなり離れるとそう感じるんだ」

 

「え?」

 

 ユウキが驚いた顔をしてノビタニアンを見る。

 

「どうしたの?」

 

「う、ううん。そろそろ街へ戻ろっか!ボク、お腹すいたよ」

 

「そうだね」

 

「(そうだよ、ありえないよ。ノビタニアンが今にも泣きそうな顔をしていたなんて……)」

 

 

 戸惑った様子のユウキだが、ノビタニアンの顔を見て見間違いだと思い街へ歩き出す。

 

 アークソフィアへ戻る途中、キリトと遭遇する。

 

「あれ、キリト?」

 

「やっほー、キリト!」

 

「ノビタニアンにユウキ、攻略の帰りか?」

 

「うん、これから宿に戻ってご飯のつもり!キリトは」

 

「俺も戻ろうか……あれは」

 

 転移門の近くで立っている女性。それはアスナだった。

 

「キリト君、みんなも、こんなところでどうしたの?」

 

「いや、通りかかっただけだけど、アスナはどうしたんだ?」

 

「私は見てのとおり、待ち合わせ、攻略に参加したいギルドがあるってね、血盟騎士団宛に連絡があって、そのギルドリーダーと話をするの……本当は二組あるんだけど、時間をずらして、これからその一組目とお話するんだ」

 

「参加したいって、凄いやる気だね」

 

 ノビタニアンが驚きながらアスナも頷く。

 

「一組目は最近、頭角を現したハイレベル集団、かなりの強さなんだって、結構評判になっているの。もう一組目は中層で活動していたんだけど、最近、攻略に追いつけるようになったみたいで参加を希望したの」

 

「へぇ、それは頼もしいな」

 

 驚いた表情でキリトが頷く。

 

「そうだ、キリト君達もご意見番として一緒にいてよ」

 

「え、俺、そういうの苦手なんだけど!?」

 

「ボクはいいよ!強い人ならみてみたいし!」

 

「僕達で役立つならオーケーかな?」

 

 渋るキリトに対してノビタニアンとユウキはオーケーを出す。

 

「ね、お願い。居てくれるだけでいいから」

 

「ん~、でもなぁ」

 

 未だに渋り続けるキリトに対してアスナが最終兵器を透過する。

 

「ふーん、じゃあ、今日の晩御飯は煮込みハンバーグにしようと思ったけれど、やめて黒パンね」

 

「えぇ!?」

 

「あぁ!いいなぁー!ボク、煮込みハンバーグ食べたい!」

 

「ユウキは食べさせてあげるね。ノビタニアン君もどう?」

 

「え、いいのなら」

 

 ちらりとキリトをみてからノビタニアンも頷く。

 

 再度、アスナはキリトを見る。

 

「ね、お、ね、が、い」

 

「わかったよ、そのかわり晩御飯は煮込みハンバーグだからな」

 

「もちろん、任せておいて」

 

 キリトが了承した時、彼らの前にプレイヤーがやって来る。

 

「来たみたいね」

 

「お初にお目にかかります。アルベルヒと申します」

 

 アルベルヒと名乗ったプレイヤーは輝く鎧に流れるような金髪、柔和な笑みを浮かべている。

 

「(装備はそれなりのものをそろえているようだが、なんだろうこの違和感?装備に相応するだけの気迫というか、経験的なものを感じられない)」

 

 キリトは冷静にアルベルヒを観察する。

 

「はじめまして私が血盟騎士団副団長のアスナです。本日はよろしくお願いします」

 

「お噂はかねがね聞いております。閃光のアスナさん。いやはや、お美しい限りです。もしや現実の世界ではご令嬢だったりするのでは?っと、失礼。この世界では現実世界の詮索はタブーでしたね。フフフフ」

 

「は、はぁ」

 

 アルベルヒの態度にアスナは戸惑ったような顔になる。

 

「ボク、あの人、苦手かも」

 

「こら、ユウキ!」

 

 小さく呟いたユウキへノビタニアンが注意する。

 

「ところでアスナさん、こちらの方は?」

 

 アルベルヒはキリト達が気になったのだろう、尋ねてきた。

 

「ええっと、この人達はオブザーバーとして同席してもらっている」

 

「キリトだ、よろしく」

 

「ユウキ、です」

 

「ノビタニアンです。どうも」

 

「オォ!キリト!黒の剣士様でしたか!?それに紫の剣士様に白銀の剣士様とは!!あなた方のご活躍のおかげで僕達もここまで来られました。攻略組の方々のお力になれますよう、粉骨砕身の覚悟で尽力いたす所存です。どうぞよろしくお願いいたします」

 

「あ、あぁ」

 

「……どうも」

 

「は、はぁ」

 

 アルベルヒの態度にキリトは「(不自然に礼儀正しいというかむしろ、慇懃無礼だ)」という感想を抱き、ユウキは「(この人、嫌いだ!)」と嫌悪を表に出し、ノビタニアンはただ苦笑していた。

 

「さて、それでは本日はどのようにいたしましよう。我々の実力をお見せできれば、攻略組としてお互いわだかまりなく、協力関係になれると思うのですが」

 

「そうですね、ではお手数おかけしますが、試験代わりに私とデュエルを」

 

 キリトはアスナに待ったをかけた。

 

「待ってくれ。そのデュエル俺にやらせてくれないか?」

 

「え?キリト君が!?」

 

「俺も攻略組の端くれだからな。新進気鋭のギルドリーダーと聞いて、お手合わせ願いたくなったんだ」

 

「……?」

 

 キリトの言葉にノビタニアンが不思議そうな顔になる。

 

「これはこれは、光栄ですね。黒の剣士様直々に剣を交えていただけるとは」

 

「ちょ、ちょっとすいません」

 

 アスナは少しばかり距離を取る。

 

 ユウキもとてとてと二人の傍へ近づいた。

 

「ねぇ、急にどうしたの?」

 

「少し変な感じがする」

 

「変?」

 

「アスナは横から見てアイツの実力を判断してくれ。ユウキは危険なものを感じたら止めてくれ」

 

「オッケー」

 

「え、でも?」

 

「頼む」

 

「う、うん」

 

 真剣なキリトの言葉にアスナは折れた。

 

 攻略組へ参加するかどうかの試験としてキリトとアルベルヒのデュエルが始まる。

 

「じゃあ、アルベルヒさん、そういうわけだから好きなタイミングで始めてくれ」

 

「ほほう、なんといいますか随分と余裕がおありで……さすがは黒の剣士様だ。それではお言葉に甘えましていかせてもらいますよ!」

 

 アルベルヒが剣を構えて攻めてくる。

 

 ソードスキルなしの斬撃をキリトはエリュシデータで受け止めた。

 

「どうです!これが僕の力ですよ」

 

「(パラメータは高い、おそらく俺やアスナよりも……しかし、この稚拙な動きはなんなんだ?経験もテクニックも何も感じられない)」

 

 高揚しながら叫ぶアルベルヒだが、キリトの中で疑問が膨れ上がっていく。

 

 その間もアルベルヒの攻撃は続いた。

 

「(システムフォローのない動きのところはまるで初心者が最強のアバターを操っているようなものだ)」

 

 疑問を解消するべくキリトはアルベルヒへ問いかける。

 

 そのやり取りを見ているアスナ、ノビタニアン、ユウキの表情も険しい。

 

 彼らもアルベルヒに疑いの目を向けていた。

 

「なぁ、アルベルヒ。まさか手加減しているってことはないよな?」

 

「なっ、なに!?それは僕が弱いとでもいうのか!?いいさ、僕が戦いというものを教えてやる」

 

 アルベルヒは激怒すると少し距離を取る。

 

 ソードスキルを出すのか?とキリトが身構えていると――。

 

「(砂埃エフェクトでめくらまし?)」

 

「キリト君!」

 

「この!」

 

「駄目だよ。ユウキ」

 

 止めに入ろうとしたユウキをノビタニアンが止める。

 

 視界を封じられたキリトへアルベルヒが攻撃を仕掛けた。

 

「こんな使い古された手を今更」

 

 キリトは過去に同じ手を受けたことがありその対処法を知っている。

 

「おっと外したかタイミングよく転んだな」

 

「(俺がローリングで攻撃を避けたのを転んだと勘違いしているのか、何もかもビギナーレベルだ)」

 

 アルベルヒについてキリトは結論を下す。

 

「(レベルは高いんだろうが、この実力でこられても攻略組と足並みを乱すだけだ)」

 

 攻めてくるアルベルヒを前にエリュシデータで受け流しソードスキルを放つ。

 

 受けたアルベルヒは敗北となり勝者はキリトとなる。

 

「勝負あったな」

 

「う、うそだ僕が負けるはずがない!データがおかしいんじゃないか!このクソゲーが!」

 

 負けたことで隠していた本性が露わになったのか自分の敗北をゲームシステムのせいにする。その姿にユウキは興ざめという顔をして、ノビタニアンも溜息を吐いている。

 

「あの、アルベルヒさん、残念ですけど、もう少し力をつけてからご連絡をいただくということで」

 

 おずおずとアスナが結果を伝える。

 

「能力的には問題ないはずなのですが」

 

 アスナに声をかけられたことでアルベルヒは冷静さを少し取り戻した様子だ。

 

 笑みを張り付けて尋ねる。

 

「最前線はレベルが高ければ攻略できるというようなものではないんです。ですから、ごめんなさい」

 

「わ、わかりました」

 

 悔しさを滲ませながらアルベルヒは頷く。

 

「しかし、いずれ僕の力を必要とする日がくるでしょう、その時は遠慮なく声をかけてください」

 

 そういうと彼は去っていく。

 

「なんだか、おかしな人だったね」

 

「おかしすぎるよ!キリトに目くらましなんて最低だね!ボクだったら容赦しないよ」

 

「あとあと、何かの火種にならなきゃいいんだが」

 

「そうだね……」

 

 アスナが神妙な表情で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、もう一組いるんだよな?どんなギルドなんだ?」

 

「えっとね、メンバーは四人なんだけど、最前線でも戦えるみたい」

 

「さっきみたいな人だったら嫌だなぁ」

 

「そこは大丈夫だと思う。団長も気にかけていたみたいだから」

 

「ヒースクリフが?」

 

 アスナの言葉にキリトが目を見開く。

 

「ねぇねぇ、どんなギルドなの?」

 

「えっとね……あ、来たみたい」

 

 前を見たキリトは目を丸くした。

 

 やってきたのは四人の男女。

 

 一人は丸い体格をしているが腕は太く、リアルに殴られたらとても痛いだろう。

 

 もう一人は独特な髪形をしており、それを大事そうに撫でて居る。あとメンバーの中で低身長。

 

 続く男の子はさわやかな笑顔が似合う、知的なイメージを持つ。

 

 最後の一人は女の子で肩にまでかかる髪の毛をうなじ当たりで左右に分けている。

 

 驚いているキリトは隣を見る。

 

 ノビタニアンも同様で信じられないという表情をしていた。

 

「あなた達がギルド“ジャイアンズ”ですね?私はアスナ、血盟騎士団副団長を務めています」

 

「おう!俺さ……俺は“ジャイトス”、このギルドのリーダーだ!」

 

「話ではギルドのリーダーだけが来ると聞いていましたが」

 

 ちらりとアスナは他のメンバーを見た。

 

 HPバーの近くに表示されているマークから同じギルドのメンバーということがわかる。

 

「すいません、僕達も攻略へ参加するつもりなので、話を聞きたかったのですが彼が話を勝手に進めてしまい、後になる形となってしまったんです」

 

 話へ入ったのは“ヒデヴィル”という名前のプレイヤーだ。

 

「ま、僕ちゃん達にかかればすぐに攻略組に入れるもんね~」

 

 呑気な態度をとっているのはスネミスという低身長の少年だ。

 

「あのぉ……その人たちは?」

 

 最後の一人、シズカールという女性プレイヤーがキリト達をさす。

 

「彼らは私のオブザーバーとしてきてもらっています」

 

「キリト、こっちはノビタニアン、ユウキ、この二人とパーティーを組んで攻略に挑んでいる」

 

「ふーん、強そうに見えないねって、お前達“和人”に“のび太”じゃないのか!?」

 

 スネミスが二人をみて驚き、特にノビタニアンをみて指さす。

 

 さらにいうとリアルの名前を叫ぶ。

 

「間違いない。おい!のび太!お前、攻略組にいたのかよぉ!ふーん、お前みたいなドジでノロマな奴でも攻略組になれるんだぁ!なら、僕ちゃん達でも楽勝じゃん!」

 

「ちょっと」

 

「やめろ、スネミス。攻略組を甘く見るな。彼らは多くの階層のボスと戦っているんだぞ」

 

 止めようとするアスナよりも早くジャイトスが注意する。

 

「へ?なぁにいってんのさ!この、のび――」

 

 ジャイトスがスネミスを睨む。

 

 それだけで冷や汗を流してスネミスは口を閉じる。

 

「すまない、俺の仲間が」

 

「い、いや」

 

 ジャイトスの言葉にキリトが首を振る。

 

 コイツ、こんな奴だったか?と内心、キリトは思っていた。

 

 見計らってアスナが提案した。

 

「それじゃあ、皆さんが攻略組に入れるかどうかデュエルをしてもらいます。デュエルの相手は」

 

「僕ちゃんがやりまーす!相手は!」

 

 スネミスが勝手に名乗りを上げてデュエル申請を行う。

 

 その相手は。

 

「お前だ!のび太!!」

 

 スネミスが選んだ相手はノビタニアンだった。

 

「おい!」

 

「いいじゃん!こいつみたいな最底辺とやりあえるならとりあえず攻略組に入れることはわかるんだからさ!」

 

「ちょっと!」

 

「いいよ」

 

 我慢の限界を迎えたユウキが叫ぶよりも早く、ノビタニアンが頷く。

 

 しかし、その声を聴いたとき、アスナ、キリト、ユウキは驚きを隠せなかった。

 

 いつもと変わらない表情。

 

 だが、彼の発した声は今まで聞いたことがないほど低く、暗い何かを含んでいる。

 

 それに気づけたのはともに死地を潜り抜けてきた仲間だけだった。

 

「の、ノビタニアン?」

 

「デュエルは半減決着でいいよね?初撃だと判断できないだろうし」

 

「ふふん!いいとも~!」

 

 相手が自分の知っている人物だから余裕だとスネミスは思っているのだろう。

 

 手の中にある短剣をくるくると遊びながら構えるスネミスに対してノビタニアンは愛用している片手剣を水平に構えた。

 

「(楽勝、楽勝!だって、相手はあののび太だぜ?僕ちゃんが負ける理由なんかないもんね!)」

 

 リアルのノビタニアンを知っているからスネミスは浮かれていた。

 

 だから、彼は見落としていた。

 

 ここはSAO。

 

 レベルの差が大きければ大きいほど、その力はおそろしいものになると。

 

 なによりスネミスは知らなかった。

 

 ノビタニアンは攻略組において最底辺ではないと。

 

 キリト同様に白銀の剣士という呼び名を持つタンクとしても、剣士としても実力のある人物だということに。

 

 デュエル開始と共にスネミスが駆け出す。

 

 瞬間、眼前に刃が見えた。

 

「へ?」

 

 間抜けな声を上げるとともにスネミスの顔に片手剣ソードスキル“ヴォーパル・ストライク”が炸裂する。

 

「ぶべら!?」

 

 顔にダメージはないが衝撃は相当なものだ。大きく仰け反る。

 

 ブンと剣を振るう。

 

「こ、このぉ!僕ちゃんの顔に!!」

 

 怒ったスネミスがソードスキル“ラプッド・バイト”を繰り出す。

 

 短剣が当たる直前、ノビタニアンはバトルスキル“パリング”を発動。

 

 衝撃によってスネミスの動きが止まり、ソードスキルがキャンセルされ、硬直する。

 

「え、ちょっ」

 

 動けないスネミスに容赦のないソードスキルの嵐が降り注ぐ。

 

「や、やめっ!」

 

 HPがみるみる減少していく。

 

 デュエルなので死にはしないが目の前でHPが大きく減ることは恐怖する。

 

 ぶるぶると震え、瞳に涙を浮かべ始めた。

 

「これで終わりだよ」

 

 冷たい声と共に放たれたバーチカル・スクエアがスネミスのHPを奪う。

 

 HPが半分となりデュエルの勝敗が決まった。

 

「キミの負けだよ」

 

 表情を変えずノビタニアンが告げる。

 

 恐怖のあまりスネミスは座り込んでしまう。

 

「酷いわ!」

 

 デュエルが終わり、瞳に涙を浮かべながらシズカールが抗議する。

 

「酷い?」

 

「そうよ!動けない相手をここまでいたぶる必要なんてあったの?」

 

「いたぶるなんて勘違いしないでくれない?」

 

 ノビタニアンは肩をすくめる。

 

「僕はこれでも“手加減”していたんだよ?最初のソードスキルもわかりやすいものをチョイスしていた。攻略組の人なら予想して対策をとることもできた。僕がソードスキルを出す直前、少し間をおいていた。普通ならそれがわかるはずだ。だよね?アスナさん」

 

「え、えぇ……」

 

 いきなり話を振られてアスナは戸惑いながらも頷く。

 

「だとしても、こんなの!“のび太”さんらしくないわ!!」

 

「シズカール君、落ち着いて、リアルの名前は駄目だよ!」

 

 涙目で訴えるシズカールをヒデヴィルが止める。

 

 だが、その声はノビタニアンへ届く。

 

「らしくない?」

 

 ノビタニアンは顔を上げる。

 

 その顔は怒りに染まっていた。

 

 視線は気絶しているスネミス、佇んでいるジャイトスだけではない。二人にも向けられている。

 

「キミ達が僕の何を知っているのさ?“あの日”止めることもせず、みているだけだった二人やあんなことをしたこいつらを僕は許せない……僕は」

 

 そこで冷静さを取り戻したのだろう。

 

 ノビタニアンはハッとした表情で周りを見た。

 

 ユウキは不安そうな表情を浮かべ、

 

 アスナは困惑している。

 

 キリトは何も言わない。

 

「ごめん、少し冷静さを欠いていた。アスナさん、あとは任せるね。僕はエギルさんの店へ戻るよ」

 

 剣を鞘に納めるとノビタニアンは去っていく。

 

 茫然としていたアスナだが、しばらくしてジャイトスをみる。

 

「ジャイトスさん、攻略の件ですけど」

 

「うちの仲間がすまないことをしたな。結果は後日でいい。こいつを連れて帰る」

 

 淡々とした態度でジャイトスは気絶しているスネミスを抱えるようにして立ち去る。

 

 残された二人もその場を離れた。

 

「……なんか」

 

 アスナが疲れた顔をして呟く。

 

「色々ありすぎて頭がパンクしそうだよ」

 

「そうだな……」

 

 

 

――まさか、アイツらもSAOに囚われているなんて。

 

 

 

 キリトは去っていくギルド、ジャイアンズの後姿を見て神妙な表情を浮かべた。

 



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16:過去から進むために

「ちょっと!いい加減にしてよ!!」

 

 キリトが町中を散歩していると騒ぎが起こっていた。

 

 店の中へ入ると女性プレイヤーに一人の男性プレイヤーがべたべたと触っている。

 

「なんだよ、これぐらい別にいいだろう?」

 

「ふざけないで!これ以上やるなら監獄送りにするわよ!!」

 

「どうぞ?別に構わないぞ」

 

 女性プレイヤーの訴えに男性プレイヤーは慌てた様子を見せない。むしろ挑発してくる。

 

 この行動にキリトは違和感を覚えた。

 

 SAOにおいて異性へ接触する際、ハラスメントコードが発動する。

 

 これを女性プレイヤーがOKすれば黒鉄宮へ転送されてしまう。

 

「いいのね!今は転送が滅茶苦茶になっているから外周区に飛ばれるかもよ!」

 

「いいさ?早くしてみなよ」

 

 促す男性プレイヤーに少し驚きながらも女性プレイヤーはハラスメントコードを発動させようとする。

 

「嘘!?なんで、なんでよ!」

 

 慌てた様子の女性プレイヤーは何度もシステムを起動させようとするがうんともすんとも言わない。

 

 見ていられないとキリトが割って入る。

 

「おい、やめたらどうだ?相手が嫌がっている」

 

「おやぁ、これはこれは、黒の剣士様、このようなところで出会うとは攻略組も暇のようですね」

 

 男性プレイヤーの傍に立っていたのは先日、騒動を起こしたアルベルヒだ。

 

「アルベルヒ」

 

「さ、行くぞ」

 

 アルベルヒは不敵に笑いながら男を連れて去っていく。

 

「大丈夫か?」

 

「え、えぇ……でも、なんでハラスメントコードが」

 

 戸惑いを残している女性プレイヤーを見てキリトは去っていったアルベルヒ達の方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犯罪防止コードが発動しないってこと、あり得ると思うか?」

 

 エギルの店へ戻ったキリトはアスナに尋ねる。

 

「唐突ね……えーと、これまでのことを考えるとそんなことは起きないと思うけど」

 

 アスナは不思議そうな顔でキリトをみた。

 

「何かあったの?」

 

「ああ、実はあのアルベルヒを偶然見かけたんだけど、そこで奴の部下が女性プレイヤーに対して強引に迫るような事をしていてさ。それにもかかわらず犯罪防止コードが発動しなかったんだ」

 

「見間違いとかじゃなくて?」

 

「被害者の女性プレイヤーも発動しないのがおかしいって言っていたから見間違いの類じゃないと思う」

 

「うーん、なんなんだろう?」

 

 考えるアスナとキリトへリズベットがやって来る。

 

「あれ、どうしたの辛気臭い顔して」

 

「リズ、ちょっと面倒なことになってそうなのよ」

 

 アスナは事情を説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはそいつを攻略組に入れなかったのは大正解ね!」

 

「痴漢なんて最低ですよ!」

 

 リズベットの言葉にシリカも激しく同意する。

 

「なんで、セクハラコードが働かなかったんだろう?ゲームシステムの異常なのかな」

 

「確かに七十六層へ来た時に起きたシステムの異常が関係しているのかもしれないな」

 

「それなら一回、試してみてはどうでしよう?」

 

 ユイの提案へ全員の視線が集まる。

 

「試すって?」

 

「実際にパパが誰かを触ってみて、システムメッセージが出るかどうか試してみるんです」

 

「え?えぇ!?じゃあ、キリトさんがち、痴漢するってことですか!?」

 

 シリカが戸惑いの声を上げる。

 

「痴漢?キリトぉ、それは犯罪だよぉ」

 

 咎めるようにユウキが目を細める。

 

「そうです!そんなことをしてくれるなら、ノビタニアンさんの方がぁ」

 

「あ、あたし達兄妹だし……そういうのはいけないと思うよ!」

 

「誰もアンタらにやるなんて言ってないでしょうが……」

 

 戸惑うシリカとリーファにリズベットが呆れた表情でいう。

 

「じゃあ、じゃんけんで誰がテストするか決めましよう」

 

 ユイの言葉で全員が拳を構える。

 

「そんなの、みんなに頼めないでしょ……私で試してみて、キリト君」

 

「まあまま、ここはユイちゃんの提案どおりじゃんけんで決めようよ」

 

「ちょっとリズ!どういうことかわかっているの!?」

 

「どういうことってどういうこと?」

 

「だから、キリト君に触れられちゃうんだよ」

 

「ああ、そんなこと?もちろん、わかっているわよ。でも、セクハラし放題なんていう一大事かもしれないんだから、みんなで協力してちゃんと調べないとね!」

 

「(なんか、話が怪しい方向へ動き出したぞ)」

 

 キリトはその場から逃げ出したかった。

 

 しかし、この問題を無視することもできないので動けない。

 

「あ、あたし協力します!犯罪防止コードに異常がないか、女性代表として調べないといけません!できれば、その相手は」

 

「アスナさんは攻略でみんなのために活躍されています!あたしはあたしのできる事で、みんなに貢献したいんです!」

 

「やっぱ、私も参加なのよね。これ」

 

 意気込むシリカとリーファに対して、シノンは呆れた表情をしていた。

 

「当然!体を張って、この事件を乗り越えましょう」

 

「乗り越えるというか、自らのっかっていっているように思えるんだけど」

 

「まー、みんなで楽しもうよ!」」

 

「(ユウキの奴!?)」

 

 ノリノリで参加するつもりのユウキにキリトはため息を吐く。

 

「さぁ、じゃんけんをしますよ。ママもこっちへ来て下さい」

 

「もう……キリト君のバカ!」

 

「俺のせいなのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃんけんの結果。

 

 選ばれたのはシノンだった。

 

「なんか、私がやることになったわ」

 

「そ、そうか」

 

「一応、信じてはいるけれど、変なところを触ったら容赦しないから」

 

「お、おう、それで、ユイ。どうすればいいんだ?」

 

「どこでもいいのでパパはシノンさんに触れてください」

 

「おう」

 

 キリトはシノンの腕へ軽く触れた。

 

 するとシノンの前に表示が現れる。

 

「あ、出たわね」

 

「ということは、システム全体がおかしくなっているってことじゃないみたいだな」

 

「少し安心したね」

 

 アスナの言葉にキリトは頷く。

 

「ええ~!肩を触るくらいでセクハラコードが発動しちゃうの~?つまんない」

 

「結構、シンプルなんだね~」

 

「リーズー!キリト君で遊びすぎ!ユウキも!大事なことなんだからね!」

 

「「はーい」」

 

「(そうなると、アルベルヒ達に何か仕掛けがある可能性が出てくるな、いったいどうやって?)」

 

 キリトは考えるもこれといった答えがでることもなかった。

 

「もう少し情報が必要だね」

 

「ひとまず犯罪防止コードが正常だとわかって安心だ。シノンも協力してくれてありがとう」

 

「どういたしまして、それで……この犯罪防止コード発動っていうウィンドウのOKボタンを押せばいいのよね?」

 

「うん、いいんじゃないかな?」

 

 頷いたユウキに従って指がOKボタンへ向かっていく。

 

「それに触れちゃダメ!!」

 

「それに触れたらキリトさんが監獄行きです!」

 

「しかも、今は転送がおかしくなっているからちゃんと監獄に送られるか怪しいから!!」

 

 アスナ、シリカ、キリトが慌てて止めに入る。

 

「そうなんだ……へぇ、よく覚えておかないとね」

 

「し、心臓に悪い」

 

「さて、キリトで遊んだところで少し真面目な話をしましようか」

 

「遊んだってなぁ」

 

 リズベットに文句を言うも、彼女は無視する。

 

「アタシがいいたいのは、ノビタニアンのことよ!」

 

「……ノビタニアンか」

 

「アイツ、ここのところみんなと行動していないじゃない!ほとんど迷宮区へソロでこもっているみたいだし、戻ってきたとしても部屋へいっちゃって誰とも話そうとしない!明らかにおかしいでしょ!」

 

「そうですね。ノビタニアンさん、メッセージは返してくれるんですけれど、会うことはしてくれません」

 

 シュンとうなだれるシリカの頭をリズベットが優しくなでる。

 

「そうだね……ノビタニアン君がおかしくなったのはギルドの面接に付き合ってもらったからなのよね」

 

「面接って。アルベルヒの奴?」

 

「ううん」

 

 アスナは首を横へ振る。

 

「ジャイアンズっていう少数ギルドだよ」

 

「え!?」

 

 驚いた声を出したのはリーファだ。

 

 その目は信じられないという表情をしている。

 

「リーファ、どうしたの?」

 

「え、あ、ご、ごめんなさい。キリト君。もしかして」

 

「あぁ、リーファの思っている通り、彼らだ」

 

「そう……だったんだ」

 

 瞳を揺らしながらリーファは呟く。

 

「その様子からしてアンタ達はジャイアンズとかいう連中のことを知っているみたいね」

 

 リーファとキリトの様子から気付いたシノンが尋ねる。

 

「キリト君、教えて。彼らとノビタニアン君の間に何が起こったの?」

 

「キリトさん、お願いです!」

 

「……キリト、教えて、ボクも知りたい」

 

「みんな……」

 

「キリト君、話してあげようよ」

 

 リーファに言われてキリトは頷いた。

 

「これは、リアルのころの話になるんだが、俺とリーファ、ノビタニアンはジャイアンズのメンバーと同じところに住んで遊んでいた友達だったんだ」

 

「だから、向こうは二人のことを知っていたんだね?」

 

「あぁ、特にジャイトスとスネミス、シズカールの三人とノビタニアンは幼いころからの付き合いだったんだ……そのメンバーと俺、リーファに加えて、もう一人、ドラえもんっていう奴がいた」

 

「ドラえもん……?人にしては変な名前ね」

 

「ドラちゃんは人じゃないんだ。二十二世紀からやってきたネコ型ロボットだったの」

 

「はぁ!?ロボット!!」

 

 驚くリズベット達に二人は頷く。

 

「ドラえもんはノビタニアンの未来を少しでもより良いものにするためにやってきたんだ。ノビタニアンと最初はうまく打ち解けなかったみたいだけど、段々と仲を深めて、親友となったんだ。そして、俺達もドラえもんと接していた」

 

「ドラちゃんはポケットに二十二世紀で作られた秘密道具っていうものを持っていて、私たちはそれで遊んだり、色々な冒険をしてきたんです」

 

 キリトは大冒険を少しだけ話す。

 

 化石から蘇った恐竜、ピー助を恐竜時代へ送った時のこと。

 

 ノビタニアンの部屋の畳の裏が遠い宇宙にある星、コーヤコーヤ星へ繋がり、悪事を働くガルタイト工業との戦い。

 

 もしもボックスという秘密道具で魔法の世界へ向かい、地球を侵略しようとする悪魔族デマオンを倒すための冒険。

 

 地球侵略のためにやってくる鉄人兵団を迎え撃つためザンダクロスと共に鏡の世界で迎えうったこと。

 

 何もかもがブリキでできたおもちゃの島、ブリキン島からチャモチャ星を支配しているナポギストラーの暴走を止めるためにラビリンスといわれる大迷宮を攻略していったこと。

 

 夢を楽しく見られる道具、気ままに夢見る機でユメミール国を支配しようとする妖帝オドロームを倒すために夢幻剣士として大魔導士ドラモンや仲間と共に挑んだ冒険。

 

 

 タイムホールがマヤナ国へ繋がり、ノビタニアンと瓜二つのティオ王子と共に魔女レディナと戦いを挑んだ話。

 

 他にもいくつか冒険はあるがとてもドキドキ、ハラハラするようなものばかりだった。

 

 勿論、その冒険で悲しい別れもあったが今は語る必要もないだろう。

 

「でも、別れは唐突にやってきたんだ。ドラえもんは未来へ帰らないといけなくなった」

 

「どうして、ですか?」

 

「やり遂げプログラム……ドラちゃんを連れてきたノビタニアンの子孫のセワシさんって人が設定していて、決められたことを遂げられると未来へ帰ってこられるようにって……なっていて、ノビタニアン君は未来を変えるためにやり遂げたと判断されて、二十四時間以内に未来へ帰らないといけなくなった」

 

「あの時は俺達も別れを悲しんだ。なにより一番、つらかったのはノビタニアンだ」

 

 泣きながら帰らないでといわず、頑張ると約束していたノビタニアン。

 

 ジャイトスと決闘して見事、勝利した時もボロボロながら「大丈夫、頑張る」と言っていた。

 

「それからしばらく、ドラえもんが帰ってからもノビタニアンは頑張っていたよ。空元気もあっただろうけれど」

 

 だが、その頑張っているノビタニアンにある悲劇が襲った。

 

「あのスネミスとジャイトスの二人がエイプリルフールでノビタニアンをからかったんだ。それも最悪なタイミングで」

 

――ドラえもんが帰ってきたという嘘をついた。

 

「そんな!!」

 

 シリカは息をのむ。

 

「そんなこと」

 

「今なら冗談だって言えるかもしれない……でも、当時、まだ別れから抜けきっていなかったノビタニアンにとっては最悪なことだった」

 

 ドラえもんとまた会えると信じてどら焼きまで買っていた彼の顔を思い出してキリトとリーファの表情は曇る。

 

「あれからだよね。ノビタニアン君が彼らと話をしなくなったの」

 

「許せないと思うわ。大切な思い出を土足で傷つけたんだから」

 

 シノンの目には少しだが怒りの色がみえた。

 

「でも、このままにしておくことも出来ないよね。ノビタニアン君を元気にする方法ないかな?」

 

「元気か……」

 

「みんなでパーティーをするというのはどうでしよう?」

 

「そうだね、うん!それがいいと思うよ!」

 

 ユウキが同意する。

 

「ボク達でノビタニアンを元気にするパーティーをしよう!」

 

「そうと決まれば、食材を集めないといけないわね」

 

「私も頑張ります!」

 

「そうね……手伝うわ」

 

「キリト君とユウキはノビタニアン君を連れてきてくれる?私たちが準備しておくから」

 

「わかった」

 

「うん!行こう!キリト!」

 

 ユウキとキリトはノビタニアンがいる迷宮区へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、くそっ!」

 

 主街区をスネミスは一人で歩いていた。

 

 先日の決闘で無様な姿を見せたことで彼の機嫌は悪い。

 

 あの後、ギルマスであるジャイトスから勝手なことをするなと怒られ、最悪、攻略組に参加できなくなるかもしれないといわれた。

 

 

 

――それもこれも全部、のび太が悪いんだ!

 

 

 

「そもそも、ジャイトスもジャイトスだよ!なんであんな奴に遠慮なんかしているのさぁ!」

 

 あの事件から疎遠となったのび太のことをジャイトスは未だに気にしていることにスネミスは納得していなかった。

 

 あんな愚図でノロマな奴なんか放っておけばいいのに。

 

「そうだよ、アイツ、なんかズルしているに決まっている!」

 

「おやおや、随分とあれていますねぇ」

 

 前からやってきたプレイヤーをスネミスは見る。

 

 アルベルヒは笑みを浮かべて尋ねた。

 

「しかも、先ほどから告げている名前、黒の剣士様と縁のある者の名前ですね。私もひどい目にあいましてね。もしよろしければ、力をお貸ししましよう」

 

 それが悪魔の誘いであることにスネミスは気づかない。

 

 気付かないまま笑みを浮かべて、彼の提案を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノビタニアンは一人で迷宮区のモンスターを倒していた。

 

 本来ならキリトやユウキ、他のメンバーと攻略を進めていたのだが、遠慮していた。

 

「(僕自身の問題だからね)」

 

 ノビタニアンは先のことについて後悔していた。

 

 いくら過去のことが許されないとはいえ、私情であそこまでやってしまうことは間違っている。

 

 何より。

 

「ユウキ……怯えていたよね」

 

 スネミスをぼこぼこにしていた時、ユウキは平然としているように見えたが自分を見て怯えていた。

 

 自分の変貌によるものなのか、それとも別のものかはわからない。

 

「はぁ……はぁ、少し休もうかな」

 

 近くに安全エリアが見えてきたのでノビタニアンはそこで休憩をとる。

 

「そろそろ装備も調整しないとね」

 

 使っている盾や剣も整備に出さないといけなくなる。

 

 アイテムやポーションも売らないといけないだろう。

 

「少し気まずいなぁ」

 

 エギルは気を遣って何も言わないけれど、リズベットは胸倉をつかんで問いただそうとしてくるだろう。

 

「キリトも……心配しているよね」

 

 エイプリルフール事件を知っているから余計に心配しているかもしれない。

 

「いい加減、みんなと話をしないといけないよね」

 

 休憩を終えたノビタニアンは立ち上がり安全圏エリアを出ようとした時。

 

「おい!のび太!!」

 

 リアルの名前を呼ばれてノビタニアンが前を見ると。

 

「……スネミス」

 

 デュエルでボコボコにした相手、スネミスが不敵な笑みを浮かべてこちらをみていた。

 

「この前はよくもやってくれたな!僕ちゃんに恥をかかせたこと後悔させてやる!」

 

 叫びと共にノビタニアンの周囲にモンスターが現れる。

 

「ここはモンスターが現れない筈なのに!!」

 

「ふふふ、僕ちゃんにできないことはないんだ!いけぇ!」

 

 スネミスが叫ぶとモンスター達は襲い掛かる。

 

 まるで彼に従うように襲い掛かってくるモンスターに驚きを隠せない。

 

 しかし、攻略組として行動をしているノビタニアンは意識を切り替えて襲い来るモンスターを次々と倒していく。

 

「フン!ズルをしているだけあって、これくらいは楽勝みたいだな!でも、次は行かないぞ!」

 

 スネミスが叫ぶと再びモンスターが現れる。

 

「お前が助けてぇって降参するまで出し続けてやるよ!のび太ぁ!」

 

 襲い掛かってくるモンスターを前に盾を構える。

 

 その時、横から影が現れた。

 

「やぁ!」

 

 放たれた斬撃によってモンスター達が一掃される。

 

 目の前に現れたのは紫の衣装をまとい、ゆらゆらと揺れる紫の長い髪。

 

 強い意志を宿した瞳はスネミスを見据えていた。

 

「ユウキ……」

 

「邪魔するなぁ!」

 

 スネミスがモンスターを召喚しようとした時、横からキリトが二刀流を振るった。

 

 モンスターを巻き込んだ衝撃波を受けてスネミスはごろごろと地面を転がる。

 

 その際、彼の手から奇妙な杖が転がりおいて消滅した。

 

「あ、あぁ!?」

 

「よぉ、ノビタニアン、こんなところにいたのか」

 

「キリト……」

 

 剣を構えながらキリトは茫然としているスネミスへ声をかける。

 

「さて、スネミス。お前には聞きたいことが色々とある……どうして、お前はモンスターを使役できる?」

 

「う、うわぁあああああああああ!」

 

 スネミスは叫ぶと一目散に逃げだした。

 

 その光景に流石のキリトも茫然としてしまう。

 

「おいおい、わき目も降らずに逃走かよ」

 

 驚きながらキリトは周囲を警戒する。

 

 その中、ノビタニアンは剣を仕舞ってこちらへやってくるユウキをみた。

 

「ユウキ、その」

 

「バカ」

 

 近づいたユウキはノビタニアンの頬を殴る。

 

 殴られたノビタニアンは驚いた顔をしていた。

 

「ボク達は仲間でしょ!仲間なんだからもっと頼ってよ!辛いよ……」

 

 ポカポカとユウキはノビタニアンの胸元を叩く。

 

「今度、勝手にいなくなったら許さないからね!怒るよ!ボクも!」

 

「うん、ごめん」

 

「ノビタニアン」

 

 剣を仕舞ってキリトがやってくる。

 

「キリト、その」

 

「お前には助けられてばっかりだからな。こういう時くらい頼ってくれ。俺は親友なんだからさ」

 

「……うん」

 

 涙を浮かべてノビタニアンは頷く。

 

「さ、戻ろう!」

 

「うん、あ、それと今までごめん」

 

「いいよ!キリトから教えてもらったから」

 

「え?」

 

「あー、すまん、ノビタニアン。みんなにお前のことを話した」

 

「え!?」

 

 ユウキは微笑みながらノビタニアンの手を引く。

 

「大丈夫だよ!」

 

「ごめん、何が大丈夫なの!?え、もしかして」

 

「色々と話した。後悔はしていない。すまん」

 

「ちょっとぉ!!」

 

 叫ぶノビタニアン。笑うユウキ、キリトは苦笑しながらも頭の中では別のことを考えていた。

 

「(それにしても、スネミスの奴……モンスター召喚なんてどうやったんだ?)」

 

「キリトぉ!早く行こうよ!」

 

「あ、あぁ、ごめん。すぐ行く」

 

 キリトは後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エギルの宿へ戻るとクラッカーの音が三人を出迎える。

 

「おかえり!」

 

「あ、アスナ?」

 

「ほぉら!主役達は早く席へつきなさい」

 

「そうよ、座りなさい」

 

 キリトをリズベットが、ユウキをアスナが、ノビタニアンをシノンが引っ張りそれぞれを席へ座らせる。

 

 周りを見るとリーファ、シリカの他にクライン、エギルの姿があった。

 

「えっと、これは?」

 

「最初はノビタニアンさんを元気にさせようという会だったんですけれど、リズベットさんがどうせだから三人に感謝を込めての会にしましようということで」

 

「そうゆうこと、アンタ達に色々と面倒見てもらっていたからね。それのお礼も兼ねようということよ!」

 

「俺達は祝いたいから来たぜ」

 

 胸を張るリズベットにノビタニアン達は苦笑するしかできなかった。

 

「さ、キリト君やみんなもそろったことだし、乾杯しよ!」

 

 リーファに促されて全員がグラスを手に取る。

 

「音頭は俺が簡単に……キリト、ノビタニアン、ユウキ!いつも、ありがとう!」

 

 本当に短くクラインが音頭を取ると全員が乾杯を取る。

 

 それから楽しい宴がはじまった。

 

 ノビタニアンは心の底から笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおやおや、どうされました?スネミスさん」

 

 荒い息を吐きながら逃げていたスネミスの前に現れる影があった。

 

「ど、どうなっているんだよ!あの杖、壊れちゃったよ!」

 

「そうですか、耐久は弱くしていたのですが、もろすぎたかもしれませんね」

 

「は、はぁ!?なんだよ、それ!?あいつらのチートを暴くための道具とか言っていたのに!そんなんじゃ意味ないじゃないか!」

 

「えぇ、あくまで実験です」

 

「な、なんだよ、それぇ!」

 

 驚くスネミスの前で彼は独特なデザインの短剣を取り出す。

 

「さて、貴方に協力して差し上げたので、次はこちらの番です」

 

 スネミスが顔を上げた時、短剣を振り下ろす男の姿があった。

 

 碌な抵抗もできないままスネミスは光に包まれて消える。

 



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17:第九十二層攻略開始

今回の階層はあるものをネタにしています。

色々と意見があるかもですが。


「うーん、これはどういうことなんだろうな?」

 

 キリトの問いにノビタニアンは「うーん」と返すことしかできない。

 

 皆で行った宴からアインクラッドの攻略は進み、現在九十二層まで進んでいた。

 

 ホロウエリアと呼ばれるエリアの騒動にひと段落ついたらしく、メンバーにフィリアが加わっている。

 

「二人とも、この階層の何が気になっているの?」

 

 ユウキが尋ねる。

 

「前に俺とノビタニアンがリアルで大冒険したことは話をしたよな?」

 

「うん、面白そうだよねぇ」

 

「その中の一つとこの階層のフィールドとモンスターが似ているんだ」

 

 ノビタニアンの言葉にユウキが驚く。

 

「じゃあ、攻略も楽だね」

 

「そうだと、いいけれど」

 

 答えるキリトの言葉もどこか覇気がない。

 

「とりあえず、攻略は明日からにしてエギルの店へ戻ろうか」

 

「そうだな」

 

 頷いて三人は宿へ戻る。

 

 戻ったところでキリト達を出迎える者がいた。

 

「よぉ、キー坊、ノンビ!」

 

「アルゴさん」

 

「聞いたぞ、九十二層を解放したようだナ」

 

「相変わらず情報が早いな」

 

 キリトが呆れながら頷く。

 

「早速だが、その九十二層である情報が見つかったんでナ。お前達に売ろうと思ったんダ」

 

「情報?」

 

「払う。これでいいか?」

 

「毎度アリ、あるNPCが言っているんだガ、ヨラバタイ樹とかいう樹の上に」

 

「最強の剣と兜がある?」

 

「ム?なんで知っているんダ!?」

 

「キリト……」

 

「どうやら、そういうことらしいな」

 

「ちょっと二人だけで話をまとめないでよぉ!」

 

「悪い悪い、アルゴ、新たに情報が手に入ったらまた教えてくれないか、ちゃんと買うから」

 

「お、オウ。それにしてもなんでわかっタんダ?」

 

「まぁ、内緒だ」

 

 キリトはアルゴへそういってウィンクする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、エギルの宿でキリトとノビタニアンは九十二層の攻略について打ち合わせしていた。

 

「まずはヨラバタイ樹を探さないといけないわけだけど……僕とキリトで二手に分かれた方が効率いいかな?」

 

「そうだな。俺とノビタニアンが一緒だと効率が悪い可能性がある」

 

「大樹を見つけたら連絡だね」

 

「あぁ」

 

「二人とも、何の話をしているの?」

 

「フィリアか」

 

 テーブルへやってきたのは自称トレジャーハンターのフィリア。

 

 ソードブレイカーという武器を操る少女。ホロウエリアでキリトと出会い、今はともに攻略組として活動している。

 

「九十二層の攻略をノビタニアンと別れて行うことにしたんだ。それで誰と攻略するか考えていたんだ」

 

「あ、じゃあ、私はキリトと組みたい」

 

「俺と?」

 

「うん、ノビタニアンはユウキも一緒になると思うから」

 

「え?そんなことは」

 

「あれ」

 

 フィリアに言われて視線を向けるとノビタニアンの傍にユウキと薄紫の長い髪の少女、ストレアがいた。

 

 薄紫を中心とした衣装、女性として魅力的なスタイルに宝石のように赤い瞳の女性プレイヤー。

 

「ボクはノビタニアンと組むよ!」

 

「じゃあ、アタシもノビタニアンと組むね~、キリトと組むのもいいけれど、今回はこっちにする。ぎゅ~~」

 

「あ、ズルい!ボクも!」

 

 左右から顔を抱きしめられてジタバタしているノビタニアン。

 

 その光景を見て、キリトは小さく合掌する。

 

 

――ストレア。

 

 

 少し前にキリトとノビタニアンをストーキング、もとい観察していた両手剣を操る少女でキリトと同じくらいの実力者。

 

 ところどころ謎が多いが裏表の性格がないことからメンバーに好かれている。

 

 そして、ストレアはどういうことかキリトとノビタニアンを気に入っていた。理由はわからない。

 

「じ、じゃあ、私もノビタニアンさんと行きます!ね、ピナ!」

 

「きゅるる!」

 

 左右にサンドされているノビタニアンをみて力拳を作りシリカが参戦を決意。

 

 ピナは既にノビタニアンの頭の上を占拠していた。

 

「あっちはあれで決まりだな……こっちは、シノン、一緒に来てくれないか?」

 

「いいわよ、あっちは…………今日だけ譲ってあげる」

 

 シノンはちらりと一瞥してからこちらへやってくる。

 

 気のせいか瞳が険しい気がした。

 

「後は一人だけど……」

 

「あ、キリト君、あたしも行きたい!」

 

 名乗り出たのはリーファだ。

 

 四人パーティーで行動ということでひとまず話はまとまった。

 

 ちなみにアスナは血盟騎士団の仕事で、リズベットはアイテムの整備などで今回は見送りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノビタニアンは九十二層へきて早々に疲れていた。

 

「(どうしてこうなったんだろう?)」

 

 左右をみる。

 

 腕に抱きついているストレア。

 

 反対側で頬を膨らませているユウキ。

 

 その様子を見てなんとか背中へ向かおうとしているシリカ。

 

 頭の上でのんびりと寝ているピナ。

 

 はっきりいおう、胃がキリキリと痛んで仕方がない。

 

 モンスターは動物系統が現れていて、さっきからユウキとシリカが倒している。

 

 本当ならノビタニアンが前衛として奮闘するべきなのだが。

 

「ストレア、そろそろ放してほしいんだけど」

 

「だぁめ!滅多にできないんだから、ぎゅ~~」

 

 強く抱き着いてくるストレアにノビタニアンは息を吐くことしかできない。

 

「はぁ、ところでヨラバタイ樹って、どれなのかな?あっちこっちに木があるからわからないなぁ」

 

 ユウキが周りを見る。

 

 九十二層ユミルメはところどころ大きな樹木があり二人の探している“ヨラバタイ樹”について判断できなかった。

 

 そのユウキへノビタニアンが答える。

 

「多分だけど、ヨラバタイ樹は一番大きな樹でてっぺんが輝いているんだ」

 

「あのぉ……どうして、ノビタニアンさんは詳しいんですか?」

 

 疑問の声を上げたのはシリカだ。

 

「キリトからリアルの冒険について聞いたよね?」

 

「は、はい」

 

「その中の一つの冒険とこの階層は似ているんだ……多分だけど、この川沿いに沿っていけば、ヨラバタイ樹は見えてくると思うんだ」

 

「そういえば、どんな冒険だったの?」

 

 ユウキが尋ねてくる。

 

「ユミルメ国を支配しようとする妖霊大帝オドロームを倒すためにヨラバタイ樹にある白銀の剣と兜を手にした剣士が他の三剣士と共に戦うものだよ」

 

「SAOだとあってもおかしくはないね~」

 

「うん、だから……気になっているんだ」

 

 ノビタニアンは思案する。

 

「ノビタニアン?」

 

 首を傾げるユウキだが、ノビタニアンは前へ進み始める。

 

 その時。

 

「あ――」

 

 何かにバランスを崩して前のめりになる。

 

 普段ならなんとか立て直すことも出来ただろう。

 

 しかし、彼の腕はストレアに掴まれていることに加えて、頭にピナが乗っている。

 

 倒れたノビタニアンはごろごろと下り坂を転がって川の中へ落ちてしまう。

 

「の、ノビタニアンさん!」

 

「ノビタニアン!ストレア!大丈夫!?」

 

「アタシは大丈夫~」

 

「ピナは……きゃっ、冷たい!」

 

 ぬれたピナはシリカの前で体を震わせて水を弾き飛ばす。

 

 水滴が当たってシリカは冷たい水に顔を隠した。

 

「ブハッ、ゴホッ、ゴホッ!ぼ、僕、泳げない!誰か!」

 

「この川、浅いよ?」

 

「……」

 

 ストレアにいわれてノビタニアンはゆっくりと立ち上がる。

 

「さ、行こうか!」

 

「……スルーしたいんだね」

 

「無理だと思うなぁ」

 

「お願いだから……放っておいてほしかったよ」

 

 ノビタニアンは涙をこぼしながら顔を上げる。

 

「……あ、あれって」

 

 ノビタニアンは水面に輝くきらきらとしたものを見つける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおお!」

 

 キリトの振るう二本の剣が近づこうとする獣型モンスターを倒す。

 

「この辺りはモンスターが多いわね」

 

 弓を構えてシノンが周りにモンスターがいないか調べる。

 

「それにしても、ここ、本当に似ているね」

 

 剣を構えてリーファが呟いた。

 

「前にアスナ達から聞いたけれど……リアルで体験したっていう冒険と似ているんだよね?」

 

「あぁ、おそらくだが、攻略のカギになるのはヨラバタイ樹にある剣と兜が必要になる」

 

「その剣と兜はクエスト攻略用のアイテムなのかな?それともお宝?」

 

「わからないなぁ、あの時に剣と兜を手に入れたのはノビタニアンだけど……アイツが使うととてつもなく強力な武器だったな……この世界でどういう扱いなのかはわからないが」

 

 キリトは自分の手の中にある二つの剣を見る。

 

 一つは魔剣といわれるエリュシデータ。

 

 そして、赤い片手剣。

 

 リズベットが打ってくれたダークリパルサーに匹敵、もしくはそれを超えるほどのスペックを持つ剣、リメインズハート。

 

「まぁ、向かえばわかるさ」

 

「ねぇ、キリト君」

 

 リーファがキリトへ近づく。

 

「ヨラバタイ樹ってことは木を登らないといけないんだよね?」

 

「あぁ、そうなるかな」

 

「前にノビタニアン君から聞いたんだけど、その時は川に沈んでいる月を膨らませたと聞いたから、それと同じってないかな?」

 

「川か……可能性としてはあり得るかもしれないな」

 

「何かお探しかな?」

 

 キリトが川を見た時。

 

 村人のような出で立ちをしたNPCが現れる。

 

 頭上には?マークがある。

 

「あ、はい、ヨラバタイ樹というものを探しています」

 

「ほぉ、では、白銀の剣と兜を探しているということですな?でしたら」

 

 リーファが答えると頭上の?マークが!マークとなる。

 

「クエストが発生したみたいだな」

 

「どういう内容のものかしら?」

 

「ヨラバタイ樹は一番高いといわれる神霊樹じゃ。それを普通の人は登ることはできぬ。登るために風精霊の加護を受ける必要がある」

 

「加護?」

 

「左様、その加護と器があれば、ヨラバタイ樹はすぐに登ることができる」

 

「あの、どうすれば加護を受けられますか?」

 

「ここから少し先にいった森にあるペンダントを手にする必要がある。だが、そこは妖霊軍がおり、入ることはできん」

 

「妖霊軍?」

 

「ユミルメは今や妖霊大帝オドロームが支配しようとしておる。その森も妖霊軍の幹部がいるということじゃ」

 

 首を傾げるフィリアとシノンに村人が説明する。

 

「つまり、そいつを倒せばクリアということね?」

 

「そうなるな」

 

「任せてください。お爺さん。私達がなんとかしてみせます」

 

 リーファが伝えて、一行は森を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖霊軍って、どんなのがいるのかな?」

 

「おそらく人型のモンスターがほとんどだと思う。特殊能力を持っているかもしれないから注意する必要はある」

 

「それにしても、風精霊の加護だって」

 リーファは何かが面白いのか笑っている。

 

「どうしたんだよ?リーファ」

 

「私のこのアバター、風精霊なんだ。SAOにも風精霊がいるなんて少し面白いなって」

 

「そうなんだ。それは楽しみだね」

 

 フィリアとリーファがほほ笑んでいる中でキリトが手で制する。

 

「モンスターの反応だ。シノン、後方で準備してくれ」

 

「わかったわ」

 

「二人とも、俺が突撃するからフォロー頼む」

 

「了解!」

 

「任せて」

 

 しばらく進んだ先、キリトの視界に現れたのは二メートルを超える像型モンスターだ。

 

 人の形をしており、手には巨大な手斧が握られている。

 

 耳は翼のように巨大だ。

 

 ぎろりと周囲を警戒する像型モンスターの名前をみる。

 

 

 

――ジェネラル・ジャンボス。

 

 

 

「(どうやら周囲にモンスターはいないみたいだな……よし)」

 

 二つの剣を構えてキリトは走る。

 

 キリトの存在に気付いたジャンボスが巨大な手斧を振り下ろす。

 

「おっと」

 

 斧による斬撃を躱したところで距離を詰めて二刀流ソードスキル“エンド・リボルバー”を繰り出した。

 

 衝撃を受けてジャンボスは後ろへ下がる。

 

「スィッチ!」

 

 キリトの指示と共にリーファが片手剣を、フィリアがソードスキル“ファッド・エッジ”を放つ。

 

 攻撃を受けながらもジャンボスが手斧を振り回す。

 

 キリト達を追いかけようとした時、シノンの射撃スキルによって放たれた矢がジャンボスのHPを削っていく。

 

「よし、これでとどめだ!!」

 

 ジャンボスの懐へ入りソードスキルを繰り出す。

 

 攻撃を受けたジャンボスの体は消滅していく。

 

「やったね!」

 

 フィリアがガッツポーズをとる。

 

 ジャンボスが消滅すると祠があった。

 

「みて、祠があるよ!?」

 

「近づいてみるか」

 

 キリトが祠へ近づいたとき、小さな光が目の前に現れた。

 

「剣士様、助かりました。ありがとうございます」

 

「……へ!?」

 

 現れた妖精の姿を見てリーファは驚きの声を上げる。

 

 祠から現れた妖精は白いワンピース、背中に小さな羽を生やしていた。

 

 何よりもその顔は。

 

「(うわぁ、リアルのスグの顔だ)」

 

「あわわわぁ!?」

 

 妖精の顔はキリトの妹、直葉の顔そのものだった。

 

 リーファは慌てた様子だ。

 

 その事情を知らないフィリアやシノンは首を傾げている。

 

「あの、俺達はヨラバタイ樹の天辺を目指したいんだ。そのために加護が必要だって聞いたんだけど」

 

「はい、私の力の一部を宿した宝石が祠の中にあります。それを持って行ってください」

 

 妖精が扉を開けて中から緑色の綺麗な宝石を差し出す。

 

 キリトはそれを受け取る。

 

「気を付けてください。妖霊大帝の力は強大です」

 

「わかっている。一度、倒されているからな」

 

 

 

――夢の中でだけど。

 

 

 

 心の中でそういいながら手の中にある宝石を握り締める。

 

「そうだ、ヨラバタイ樹はどこにあるか、知っているか?」

 

「はい、この道をまっすぐに進んでください」

 

 妖精が指をさすと一本の道が開ける。

 

「気を付けてください。剣士様たち!」

 

 そういうと妖精の姿は消えていく。

 

 残されたキリト達は道を見る。

 

「行くか」

 

「ええ」

 

「そうだね!」

 

「うん……でも、さっきの妖精は驚いたなぁ」

 

「そうだな」

 

 二人だけがわかること。

 

 リアルの直葉の顔だったことから二人は考えていた。

 

「あれ、ドラちゃんが設定したんだよね?」

 

「ああ、妖精役は直葉になっていた」

 

 夢幻三剣士。

 

 ドラえもんが出してくれた道具の中のカセットの一つ。

 

 その中でノビタニアンが白銀の剣士として、キリトは彼を手助けする夢幻三剣士の一人として参加していた。

 

 リーファは妖精役を務めており、その妖精と目の前の妖精が同じだった事に驚きを隠せなかった。

 

「ノビタニアンと話をしてみるべきかも」

 

「うん」

 

「キリト~~、行くよ!」

 

「早くしなさいよ」

 

 フィリアとシノンにせかされて二人は道を急ぐ。

 



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18:和解の一歩

「ノビタニアンもヨラバタイ樹を見つけたらしい」

 

 メッセージを受け取ったキリトへフィリアが尋ねる。

 

「向こうは何かを見つけたかな?」

 

「……月を見つけたって言っているな」

 

「月?どういうこと」

 

 キリトの質問の意味がわからず、シノンが尋ねる。

 

「この九十二層が俺達の知っているものと同じなら月はヨラバタイ樹の天辺を目指すのに必要になるはずだ」

 

「よくわからないけれど、ノビタニアン達と合流する必要があるわけね」

 

「ああ」

 

 頷いたキリト。

 

 ヨラバタイ樹を目指すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト~!」

 

「皆さん!」

 

 キリト達がヨラバタイ樹へ到着すると既に来ていたノビタニアン達が出迎える。

 

 ヨラバタイ樹は今まで見てきた樹木よりも太く、天辺に届きそうな高さを持っていた。

 

 アインクラッドは階層なので、流石に二人の知るヨラバタイ樹と比べると規模は小さい。

 

「高さは違うが……これを普通に登るなら数日はかかるな」

 

「この入手した宝石を使えばいいんだよね?」

 

 フィリアがキリトの手の中にある宝石をみる。

 

「でも、どうやって使うのかな?」

 

「あ、キリト君!あのNPCのおじいさん、器が必要っていっていたよね!!」

 

「だから、これの出番さ」

 

 キリトが指をさすのはノビタニアンが手に入れた巨大な布袋。

 

「でも、そんな布袋が何の役に立つのよ?」

 

「僕が体験した世界と同じならこれを攻略するならこれが役立つんだ。キリト、お願い」

 

「よし」

 

 ノビタニアンの持つ袋へキリトが手に入れた宝石を使う。

 

 すると宝石が輝いて袋の中へ入っていき。

 

「ふ、膨らんでいきますよ!?」

 

「凄いなぁ」

 

 皆の見ている前で袋は丸いものへなっていく。

 

「ね、ねぇ、これって」

 

「さ、みんな、乗るよ」

 

「乗るの!?」

 

 キリトとノビタニアンが三日月の形をした袋へ飛び乗る。

 

「よし!行こう!」

 

「わーい!」

 

 続いて、ユウキ、ストレア。

 

「い、行きます!」

 

「なんか、わくわくしてきたよ!」

 

「わ、わぁ!」

 

 シリカとフィリア、リーファが。

 

 最後に、

 

「行くしかないのね」

 

 シノンが飛び乗るとともに三日月の袋は上昇していく。

 

「これでヨラバタイ樹までいけるのはわかったけれど、この袋は何なの?」

 

 掴まったままのシノンが尋ねる。

 

「月だよ」

 

「月って、あの夜空に浮かぶ?」

 

「簡単にいうと、僕が体験した冒険のはじまりに月が折れて、風船みたいに飛んでいったんだよ。それがヨラバタイ樹の近くにあったから膨らませて天辺を目指したんだ」

 

「ありえないわよ。それ、現実からして」

 

「「だって、夢だもの」」

 

「……アンタ達が規格外だって改めて思い知らされたわ」

 

 二人の言葉を聞いてやれやれとシノンはため息をこぼした。

 

 十分足らずでヨラバタイ樹の天辺へ到達する。

 

 落ちないように注意しながら彼らは天辺へ降り立つ。

 

「あ、宝箱があるよ!」

 

 フィリアが豪華な作りの宝箱を見つける。

 

「どうやらモンスターじゃないみたいだね。開ける?」

 

『ようこそ』

 

「いや、その必要はなさそうだぞ」

 

「声が!?」

 

『この中にある剣と兜を手にしてください』

 

 バカッと音を立てて開く。

 

 中を覗き込むと白い鞘に納められている剣と兜がある。

 

「うわぁ、これ、凄い重たい!」

 

 取ろうとしたフィリアは剣の重さに座り込んでしまう。

 

「どれどれ?うわっ、ボクでも持てないよ!?」

 

 ユウキが剣を持ち上げようとするがびくともしない。

 

「ユウキが無理じゃ、私やリーファでも無理かもね」

 

「うーん、そうかも」

 

「俺とノビタニアンでやってみよう」

 

「うん」

 

 二人が剣へ手を伸ばす。

 

「うわっ」

 

「二人掛かりでやっと、だな」

 

「それ、装備できるんですか?」

 

「いや……多分だけど、イベント限定アイテムだな」

 

「残念だね。これだけ凄かったら大活躍できたのに」

 

 残念がるフィリア。

 

 キリトがアイテムとして収納する。

 

「さて、問題はここからどうやって帰るかだね」

 

「あ、そっかー、お月様はとんでいっちゃったもんねぇ」

 

 ストレアの言葉通り、月は空へ消えており、戻る手段は。

 

「じ、自力でここから降りないといけないんですか?」

 

 下を覗き込んだシリカが青褪める。

 

 かなりの高さだ。足を滑らせて落ちてしまったら命はないだろう。

 

『その心配はありません。帰り道はこの箱の中』

 

「箱の中!?」

 

 驚くユウキが覗き込む。

 

「うわぁ~、レールができているよ!?」

 

 顔を出したユウキは驚きの声を上げる。

 

「よし、行こう」

 

「罠じゃないよね?」

 

「大丈夫だ。行こう」

 

 全員が宝箱を通ってヨラバタイ樹の下へ到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ、お帰りなさいです!」

 

「ただいま、ユイ、アスナも戻ってきたんだな」

 

 キリト達がエギルの店へ戻るとユイ、アスナ、リズベットが出迎える。

 

「おかえり、キリト君。攻略に出ていたの?」

 

「あぁ、九十二層の攻略だ」

 

「くたくたです」

 

 シリカがぐでーと机に突っ伏す。

 

「お疲れ、はい、飲み物よ」

 

 リズベットが皆へ飲み物を渡していく。

 

「それで?攻略はなんとかなりそうか?」

 

「あぁ、かなり大変だけど。目途はついた。アルゴに情報も送っておいた」

 

 ヨラバタイ樹を攻略した後、キリト達は続けて竜の谷へ向かった。

 

 宝箱からヨラバタイ樹の下へ降りた時にいたNPCの情報から竜を討伐するように頼まれたのだ。

 

 竜は人を石化する能力を持っており、苦戦はしていたのだが、ギリギリのところで勝利を収めることに成功する。

 

「温泉!?それって、どんな効能があるの!?」

 

「いや、効能はわからないなぁ」

 

 詰め寄ってくるリズベットにキリトは苦笑しながら首を振る。

 

「でも、肌がすべすべになったような気がするわ」

 

「そうですね。疲れも取れたような気がします」

 

 シノンとリーファの言葉にアスナが「いいなぁー」と声を漏らしてキリトをみる。

 

「パパ!ママと三人で温泉へ行きたいです」

 

「うっ……」

 

「パパは大変だねぇ~」

 

「アタシたちも温泉に行きたいから護衛の剣士が必要、そう思わないかな?ノビタニアン君」

 

「え、あれ?」

 

 参加していなかった女子二人の視線を受けて。

 

「「あ、案内します」」

 

「よろしい……そういえば、九十二層の攻略はかなり早く進んでいるみたいだけど、どうして?」

 

「あぁ、俺やノビタニアンが経験した冒険の一つと同じ内容なんだよ」

 

「二人が体験した?」

 

「うん、夢幻三剣士って名前の夢のソフトなんだけどね」

 

「夢?」

 

「うん、ドラえもんが出してくれた気ままに夢見る機のソフトなんだけどね」

 

 ノビタニアンとキリトは夢幻三剣士について話す。

 

「その気ままに夢見る機っていうの?いいわねぇ、好きな夢がみられるなんて」

 

 気ままに夢見る機についてリズベットが興味を示した。

 

「うん、僕も気に入ったんだけどね。夢幻三剣士が現実に力を及ぼすというのであまりよくないなぁってことで返却したんだ」

 

「それじゃあ、その夢はどうなったんだ?」

 

「クリアはしたさ。妖霊大帝オドロームを倒してユミルメを救った……そのあとは……」

 

「えっと、思い出せないね」

 

 二人は首を傾げる。

 

 結末を思い出せない。

 

 尚、二人は知らないことだが、気ままに夢見る機が直前に回収された影響で夢の最後が曖昧になっているのだ。

 

「二人の話通りなら九十二層も折り返しということだね?」

 

「これならすぐに九十二層も攻略できるわね!」

 

「明日も攻略に行くつもりだ」

 

 キリトの言葉に反応したのはシノンだ。

 

「なら、明日はノビタニアンと行動するわ」

 

「え?」

 

「じゃあ、私はキリトと行こうっと!」

 

 ノビタニアンの腕を掴みシノンが、キリトを抱きしめてストレアが手を上げる。

 

「ボクもノビタニアンと行くよ!」

 

「わ、私も!」

 

 遅れてユウキとシリカがノビタニアンへつくといいだす。

 

「じゃあ、私も行く!明日は血盟騎士団の仕事はないから!」

 

「私も武具店の仕事がひと段落ついたから行くわ!」

 

「だったら、ノビタニアンの方でも」

 

「わかってないわね!アンタと行くことに意味があるのよ!それに、温泉も行ってみたいしね」

 

 温泉が大好きなリズベットも参加すると言い出し、キリトの周りが騒がしくなる。

 

 キリトは助けを求めてノビタニアンを見ようとするが。

 

 シリカとユウキによって引っ張られているノビタニアンの姿があった。

 

「くそう、なんであいつらはモテるんだよ!?」

 

 カウンターで食事していたクラインが悔し気な声を上げる。

 

「だが、あれはあれで大変だと思うぞ」

 

「だからって、くそう、なんで俺はもてねぇんだ!?」

 

 エギルの言葉にクラインは悔しそうな声を上げる。

 

「それより、攻略の話に参加しなくていいのかよ?」

 

「問題ねぇよ。俺達風林火山は別方向から攻略を進めるからな」

 

「そうかい、ま、無茶はするなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、疲れたなぁ。明日に備えてそろそろ寝ようっと」

 

 夜、ノビタニアンは自室へ戻っていた。

 

 装備を解除してラフな格好になったノビタニアンはベッドへ寝転がる。

 

 電気を消して寝るという時。

 

 

 

――コンコン。

 

 

 

 ドアがノックされる。

 

「ん?どうぞ~」

 

「やっほ~」

 

 入ってきたのはユウキだった。

 

「ユウキ?どうしたの」

 

「うん、さっきのお話がしたくて」

 

「話って?」

 

「夢幻三剣士!それって、どんなゲームなのかなって!」

 

「ゲームっていうか、夢だよ?」

 

「それでも!楽しそうなんだもん」

 

「……本当、ユウキは楽しい話に目がないね」

 

「だって、楽しいことは幸せでしょ?」

 

「え、ああ、うん」

 

 頷くノビタニアン。

 

「さ、教えてよ!どんなことをしたの?」

 

「どんなっていわれても、最初は現実世界の教室が舞台だったよ」

 

「学校だよね!?いいなぁ」

 

「そう?先生に怒られて廊下に立たされていたんだから」

 

 今でも思い出したくはない。

 

 廊下に立たされて先生に怒られ、ママに泣かれたのだから。

 

「その後、ユミルメの世界へ飛ばされたんだ」

 

「話によると飛ばされたときに月へ落ちたって聞いたけど?」

 

「夢の中だからね、まぁ、ナビゲートしてくれた妖精がこれまた酷かったんだけど」

 

 無責任なところが多い妖精だったもんなぁとノビタニアンは思い出し笑いをする。

 

「その途中でキリトと……」

 

 話の途中でノビタニアンは言葉を止める。

 

「ノビタニアン?」

 

「ジャイトス、スネミスに会ったんだ」

 

「ジャイトスって……ジャイアンズの人?」

 

「…………うん」

 

 ユウキにノビタニアンは小さく頷いた。

 

「ねぇ、ユウキ」

 

「どうしたの?」

 

「僕は……間違っているのかな」

 

「何を?」

 

「ドラえもんのことで騙した二人のを僕は許せない。でも、いつまでも許せないままだと何も成長しないんじゃないかって思う自分もいるんだ」

 

 ジャイトスとスネミスを許せるか?

 

 そういわれると許せないとノビタニアンは答えるだろう。だが、SAOやドラえもんと別れてからの日々を考えると、今のままではダメなのではないか?とノビタニアンは思っていた。

 

「うーん」

 

 ユウキはまっすぐにノビタニアンをみる。

 

「よし!」

 

 何かを決めたユウキは拳を作ると誰かへメッセージを飛ばす。

 

「ユウキ?何を」

 

「ノビタニアン!明日は攻略をしないよ!」

 

「へ?」

 

 目を白黒するノビタニアンへユウキは笑顔で言う。

 

「明日、ジャイトスって人と会おう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十六層アークソフィア。

 

 転移門のある広場にノビタニアンはユウキと共にいた。

 

「なんで、こんなことに」

 

「泣き言いわない!アルゴさんが連れてきてくれるからね!」

 

 今すぐにでも逃げたいノビタニアンだが、こうと決めたユウキは頑固でどこまでも追いかけてくる。

 

 仮に逃げ出しても敏捷値の高い彼女から逃れられはしないだろう。

 

「オー、ユウキちゃんにノンビ、待たせタナ~」

 

 手を振って、こちらへやってくるのは情報屋アルゴだ。

 

 彼女の傍には図体の大きいプレイヤーこと、ジャイトスがいた。

 

「……ノビタニアンか」

 

「ジャイトス」

 

「はじめまして、ボクはユウキだよ」

 

「……俺は、ジャイトスだ。情報屋の鼠からここへ来るように言われたんだが……」

 

 ちらりとジャイトスはベンチに座っているノビタニアンを見る。

 

「何の用だ?」

 

「ジャイトスさん、ノビタニアンと仲直りしようよ!」

 

「仲直り?」

 

 鋭い目でジャイトスがノビタニアンをみる。

 

 どんなモンスターと戦ってきたことで多少なりと恐怖をこらえることができたノビタニアンだが、やはり、昔から苦手なジャイトス。

 

 彼と対峙するとやはり緊張してしまう。

 

「ノビタニアン、お前は俺を許してくれるのか?」

 

 震える声でジャイトスが尋ねてくる。

 

 驚いた表情でノビタニアンは彼を見た。

 

 その顔はとても後悔しているという表情だった。

 

 ノビタニアンの知っているジャイトスがそんな顔を見せたことに戸惑ってしまう。

 

「どういうこと?」

 

「……あの日のことを後悔している。昔は四月バカとか、そういうので済むもんだと思っていた。だが」

 

 ジャイトスはゆっくりと話す。

 

 四月バカの騒動から一年と少しの時が過ぎた時、ジャイトスの家族に異変が起こったのだ。

 

 ジャイトスの大好きだった“おじさん”が事故で命を落としてしまったのだ。

 

 彼にとって憧れで目標の人の死にショックを受けて、死ぬ直前に言われた事で変わったという。

 

 

 

――立派な漢になれ。

 

 

 

 それからジャイトスは乱暴者から変わっていった。

 

 他人から物を奪わず、不用意に暴力を振るうことはしなかった。

 

 そんな彼の心残り――ドラえもんが帰ってきたという嘘をついたこと。

 

 あの嘘をついてからノビタニアンとキリト。その二人と交流することがなくなった。

 

「おじさんがなくなってから俺は気づいたんだよ。大切な人を失ったお前の気持ちってやつ……」

 

「ジャイトス……」

 

「ノビタニアン……俺のこと、許してくれるのか?」

 

「少し前の僕ならずっと許さなかった」

 

「っ!」

 

「でも……」

 

 驚くジャイトスへノビタニアンは真っすぐに目を向ける。

 

「僕は前に進みたい。だから、君のことも許していきたいと思う、ジャイトス」

 

 ノビタニアンはジャイトスへ手を伸ばす。

 

「もう一度、僕と友達になってよ」

 

「……おう、友よ」

 

 二人はそういって握手を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かあっさりと解決したケド、これでよかったノカ?」

 

 二人のやり取りを見てアルゴが尋ねる。

 

「うん、ありがとう、アルゴさん」

 

「それにしても、あんな男同士みたいな友情、初めてみたゾ」

 

「ボクも」

 

 楽しそうに会話をしているノビタニアンとジャイトスの二人。

 

 長い時間、疎遠になっていた二人は今までの時間を埋めるように会話をしている。

 

「ボクがノビタニアンへしてあげられることは限られているから」

 

「ン?」

 

「何でもない。ありがとうね。アルゴさん」

 

 何処か遠くを見るような表情をしてユウキは一歩、踏み出そうとして。

 

「……」

 

「お、オイ!?どうしタ?」

 

 胸元を抑えて座り込んだユウキをみて、アルゴが驚きの表情で駆け寄ってくる。

 

「ごめん、少しチクって痛みがきただけだから大丈夫」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべるユウキにアルゴはそれ以上の追及をやめた。

 

「大丈夫……まだ、時間はある……まだ、ボクはここにいるんだ」

 

 アルゴへ聞き取れないほどの小さな声でユウキは呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十二層のボス門。

 

 その前に攻略組が集まっている。

 

 彼らは今日、九十二層のボス討伐を開始する。

 

 二つの剣を構えているキリト、片手剣を構えているリーファ、短剣を構えているシリカ、メイスの準備しているリズベット。弓と矢の数などをチェックしているシノン。

 

 盾を構えているノビタニアンと剣を抜いているユウキ。

 

 門の前には血盟騎士団のアスナがいる。

 

 これよりボス討伐が始まろうとしていた。

 

「皆さん、勝ちましょう!」

 

 

 アスナの言葉と共にボスの門が開かれる。

 

 転移できないエリア。

 

 その部屋の中央。

 

 浮遊しているボスの姿がそこにあった。

 

 鳥類のような嘴をもち、茶色い皮膚は老けていながらもどこか不気味な雰囲気を持っている。手に持っている杖の握り部分は骸骨となっておりそこは怪しい光を放っている。

 

 黄色い瞳はプレイヤーを捉えるとランランと輝き始めた。

 

 

 

――妖霊大帝オドローム。

 

 

 

 かつて夢の世界で戦った相手にキリト達は挑むために走り出す。

 

 そんなオドロームを守るように甲冑姿のモンスター、妖霊兵士が現れる。

 

「行くよ!ユウキ」

 

「うん!」

 

 妖霊兵士が攻撃を繰り出すよりも早くノビタニアンのソードスキルが敵を薙ぎ払う。

 

 ユウキがその横を突っ切りオドロームへ仕掛ける。

 

 彼女と並ぶように二つの剣を構えてキリトが走っていく。

 

 オドロームが攻撃を仕掛けるよりも速くキリトとユウキのソードスキルが放たれた。

 

 攻撃を受けたオドロームが杖を構える。

 

「直線状から離れて!」

 

 アスナの指示を受けてプレイヤー達が離れた直後、オドロームの杖から火球が放たれた。

 

「(事前の情報通りだ!)」

 

 クエストでボスの情報が開示されていた。

 

 オドロームは魔法による攻撃、HP減少によってプレイヤーを石化して動きを封じ込める力を発動させるという。

 

 キリトがスィッチで後退してポーションを飲んで回復を行う。

 

「キリト君!」

 

「順調だな」

 

「うん」

 

 アスナもポーションを飲んで状況を確認する。

 

 敵のHPバーは残り二つ。

 

 範囲攻撃も無事に対応できている。

 

 現在はノビタニアンとユウキがアタッカーとしてオドロームのHPを刈り取っていた。

 

 

「みんな!下がって!」

 

 その時、ノビタニアンが何かに気付いて叫ぶ。

 

 オドロームのHPバーが残り一本になったと同時に杖のグリップ部分の骸骨を掲げたのだ。

 

 何か範囲攻撃が来るのだろう。

 

 ノビタニアン達が後退していく時、地面から巨大な枝のような棘が飛び出す。

 

 プレイヤーが直撃すると麻痺のバッドステータスが現れる。

 

「不意打ちによるバッドステータス攻撃……!?」

 

 キリトはポーションを飲み終えると駆け出す。

 

 オドロームの攻撃で少し体制が崩れる攻略組だがキリトの二刀流ソードスキル“スターバースト・ストリーム”がオドロームのHPを奪っていく。

 

「まずい!そっちに行ったぞ!」

 

 ジャイトスの声にキリトが視線を向けると妖霊兵士の数体がこちらへやってこようとしている。

 

 ソードスキルを発動しているキリトは対処できない。

 

 近づこうとした妖霊兵士の頭へ矢が刺さる。

 

「行かせないわよ」

 

 離れたところにいるシノンが“射撃”で援護してくれたのだ。

 

「ありがとう!シノのん!」

 

 その間にアスナの細剣とカバーするためにやってきたリズベット、シリカが妖霊兵士たちと戦う。

 

「キリト!」

 

 やってきたのはノビタニアンとユウキ。

 

「二人とも!終わらせるぞ!」

 

 オドロームが範囲攻撃の体制に入ったのをみてキリトが叫ぶ。

 

 二人は頷きながらオドロームへソードスキルを繰り出す。

 

 三人のソードスキルを受けたオドロームのHPが0となる。

 

 黄色い瞳を限界まで見開き、おぞましい悲鳴を上げてオドロームの体が消滅する。

 

 

 

 “Congratulation”。

 

 

 

 その表示を見た時、プレイヤー達は歓声を上げた。

 

「やったね、ユウキ!」

 

「……」

 

「ユウキ?」

 

「そ、そうだね!やったよ!」

 

 ノビタニアンはユウキへ何かを尋ねようとしたが彼の肩へ誰かが腕を回す。

 

「やったな!ノビタニアン!」

 

「ジャ、ジャイトス!う、うん!やったよ!」

 

 いきなりのことで面喰いながらも素直にノビタニアンは喜びを分かち合う。

 

 

 



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19:ユウキの秘密

 

「アルベルヒが?」

 

「ああ、奴が不思議な短剣でプレイヤーを刺すとどこかへ転送されるらしい」

 

 ノビタニアンはキリトに呼び出されてアークソフィアにあるNPC経営のテラスで話をしている。

 

 話の内容はキリトがフィールドへ出ているとき、男女のプレイヤーにアルベルヒとその仲間が襲い掛かっているという光景。

 

 止めに入ったときにアルベルヒと一戦あったらしいがキリトの圧勝だったという。

 

 その後、激怒したアルベルヒはどこかへ去っていった。

 

「その短剣はどうなったの?」

 

「アルベルヒが投げ捨てると砕け散った」

 

「悔しいね。それがあったら証拠として捕まえることもできたのに」

 

 SAOに犯罪者を裁くシステムは存在しない。

 

 しかし、悪意あるプレイヤーや危険なものを使っていることが分かれば、対処することはできる。

 

 アルベルヒの不穏な動きは気になるが、証拠がない以上、自分達は予防策を講じることしかできない。

 

 実際、キリトはアルゴへ情報を流して注意を呼び掛けてもらっている。

 

「ジャイトスの仲間、スネミスも行方不明らしい」

 

「もしかして、それもアルベルヒの仕業だって?」

 

 ジャイトスからスネミスが姿を消したことは伝えられていた。フレンド登録しているのにマップのどこにも見つからないという。

 

 

「おそらくだが、モンスターを呼び出すアイテム、あれもアルベルヒがスネミスへ渡した可能性がある……」

 

 立ち上がったノビタニアンをキリトが止める。

 

「待てよ」

 

「アルベルヒを探す。アイツがスネミスをどこかへやったっていうなら見つけ出さないと!」

 

「だから、落ち着けって、そのアルベルヒも見つからないんだ。もしかしたら攻略の邪魔をしてくるかもしれないんだ」

 

「それなら、なおのこと!」

 

「とにかく、落ち着け!」

 

 ノビタニアンは渋々、着席する。

 

「アルベルヒについて注意することと……もう一つ、ユウキのことだ」

 

「ユウキ?」

 

「気付いているだろ?最近、アイツの様子がおかしいこと」

 

「……うん」

 

 九十二層の攻略後からユウキは単独行動をすることが多くなっていた。

 

 最初は気のせいだと思っていたが、一人になることが増えている。

 

「このことについて、ユウキへ尋ねようとしてもはぐらかされる。機会を見てアイツと話をしようと思う。いいか?」

 

「うん」

 

「よし、宿に戻ろう。アスナ達が心配するからな」

 

「キリトがふらふらと姿を消すからでしょ?もう少し、アスナさんを大事にすべきだよ」

 

「うっ、そうするよ」

 

 二人はエギルの店へ戻る。

 

 宿へ戻った二人はそのまま自室へ向かおうとした。

 

「あ、キリト君」

 

 目の前の扉が開いて顔を出すのはアスナだ。

 

「アスナ、シノンと話でもしていたのか?」

 

「シノのんだけじゃないよ。みんなもいるよ」

 

 二人が顔をのぞかせるとシリカ、リズベット、リーファ、シノン、ユウキの姿がある。

 

「あ、ノビタニアンさんにキリトさん!」

 

「女子会か?」

 

「うん!色々と話をしていたの」

 

「じゃあ、僕達はお邪魔だね」

 

「待ちなさい」

 

 去ろうとしたノビタニアンをリズベットが止める。

 

「どうせだから、アンタ達にも色々と聞きたいから来なさいよ」

 

「えぇ、僕は疲れているからそろそろ寝ようかと」

 

「いいじゃないの!アンタは何もなければ昼寝とかしているでしょ?ほら、入る!」

 

「え、ちょっとぉ!」

 

 抵抗むなしく、リズベットの手によってノビタニアンは部屋の中へ放り込まれる。

 

「アンタ達も来たのね……」

 

 呆れたようにシノンがこちらをみた。

 

「ま、まぁ」

 

「まぁな」

 

「じゃあ、ボクはそろそろ部屋に戻ろうかな。眠たくなってきたし」

 

 ユウキがちらりとノビタニアンをみると部屋を出ていこうとした。

 

「あ、ユウ――」

 

 

 キリトが声をかけようとした時、視界が真っ暗になる。

 

 

「え!?」

 

「な、なに!?」

 

「真っ暗じゃない!」

 

 キリトだけでない、全員の視界が真っ暗になったのだ。

 

「ん?なんだろう、この柔らかいの」

 

「だ、誰ですか!?私のお尻触っているの!!」

 

 しばらくして暗闇から解放される。

 

「今のは……なんだか、本格的にシステムが不安定になっているみたいだな」

 

「そうだね。こんなことばっかりが起こるなんて心配になってきたよ」

 

「でも、元に戻ってよかったです」

 

「って、シリカちゃん!なんでそんな格好しているの!?」

 

「ふぇ?きゃあ!ノビタニアンさん!みないで!」

 

「って、全員じゃない!?」

 

 リズベットの言葉通り、女性陣はタオル一枚だけの姿になっており、キリトとノビタニアンも腰にタオルを巻いている状態だった。

 

「す、すぐに装備を……嘘!?通常状態じゃない!」

 

 メニューを開いてリーファが装備のチェックをして叫ぶ。

 

「ど、どうやらこれが標準扱いになっているみたいだな」

 

 戸惑いながら冷静にいうキリト。

 

 かくいうキリトもメニューを操作して装備を入れ替えていた。

 

 しかし。

 

「駄目だ、戻らないな」

 

 何度やってもタオル一枚の姿のまま。

 

「あれ、ユウキ?大丈――」

 

「っ!!」

 

 ノビタニアンが沈黙を保っているユウキへ近づこうとしたら思いっきり張り手が繰り出された。

 

「へぶ!?」

 

 衝撃と共に吹き飛んだノビタニアンは壁にぶつかり、ぐるぐると目を回し、意識を失ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目を覚ましたみたいね」

 

 再びノビタニアンが目を覚まし、体を起こす。

 

 周りを見るとこちらを心配そうにのぞき込んでいるシノンの顔があった。

 

「僕はどのくらい?」

 

「ほんの二時間、もう夕方ね」

 

「もしかして、看病してくれていた?」

 

「これといってやっていないわ。ただ、様子をみていただけ」

 

 椅子に座っていたシノンはノビタニアンが寝ているベッドへ腰かける。

 

「シノン?」

 

「アンタ、ユウキのこと気にかけているみたいね」

 

「うん、様子がおかしくて」

 

「あの子、相当、深いわよ」

 

「……もしかして」

 

「私は何も聞いていない。女の感みたいなものよ……あの子、笑顔を浮かべているけれど、笑顔じゃない……嘗てのアンタみたいに」

 

 その指摘にノビタニアンは小さく笑う。

 

「そっか、ユウキの笑顔をずっとみていたのに全く気付かなかったよ」

 

「悔しい?気付けなかったこと」

 

「……少し、でも、全知全能になるつもりはないから」

 

「そう、安心した」

 

 シノンは立ち上がる。

 

「あの子なら転移門近くをうろついていたわ」

 

「ありがとう!」

 

 立ち上がってノビタニアンは部屋を出ようとする。

 

「あ、ノビタニアン」

 

「なに?」

 

「気をつけなさいよ。あの子、私と同じくらい頑固だから」

 

「ははっ、シノンと同じくらいか、それ以上だったら泣いていたよ」

 

「アンタねぇ」

 

「でも、ありがとう」

 

 シノンに感謝してノビタニアンは部屋を出る。

 

「敵に塩を送るなんて、私も甘い……かな」

 

 出ていくノビタニアンにその呟きは届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた……」

 

 ノビタニアンは転移門前の広場で佇んでいるユウキを見つけた。

 

 彼女は何もせず、アインクラッドの空を眺めている。

 

 その姿はどこか儚く、今にも消えてしまいそうな雰囲気が漂っている。

 

「ユウキ……」

 

 呼ばれていることに気付いてユウキは振り返った。

 

 目の前に立っている相手がノビタニアンだと気付くと申し訳なさそうに笑顔を浮かべる。

 

「あ、ノビタニアン!ごめんね。ボク、びっくりしちゃって、殴っちゃったけれど、大丈夫!?」

 

「うん。大丈夫だよ。ユウキの方は?」

 

「ボク?ボクは大丈夫だよ!それより、お腹がすかない?そろそろ」

 

「ねぇ、ユウキ」

 

 笑顔のまま去ろうとしたユウキへノビタニアンは尋ねる。

 

「どうして、無理して笑顔を浮かべるの?」

 

 ぴたりと立ち止まる。

 

 ユウキは振り返らずに話す。

 

「いやだなぁ、ボクは無理して笑顔なんて浮かべていないよ。いつも通りの笑顔さ」

 

「無理しなくていいんだよ?僕達は仲間なんだ」

 

「……」

 

「僕が無茶をした時もいってくれたよね?仲間だから頼れって……今度は僕から言わせてもらうよ。仲間だから頼って……それとも僕じゃ、頼りないかな?」

 

「そんなこと、ないよ」

 

 小さな声でユウキがいう。

 

「ボクはノビタニアンのことをとても頼りにしているよ!はじまりの街にあってから、ずっと、ずっと、こんなボクを頼りにしてくれて」

 

「……だったら」

 

「でもさ、怖いんだ」

 

「怖い?」

 

「ノビタニアンにまで拒絶されたボクは」

 

 震えるユウキ。

 

 彼女の過去にどんなものがあったのか、ノビタニアンは想像できない。

 

 しかし、小さく震えている彼女を放っておくほど、ノビタニアンは冷たい人間ではなかった。

 

「……ノビタニアン?」

 

 ユウキの手をノビタニアンは優しく握りしめる。

 

 彼女の前にハラスメントコードが表示されたことで顔を上げた。

 

 微笑みながらノビタニアンは真っすぐにユウキの目を見る。

 

「約束するよ」

 

 いつもと変わらない口調。

 

 けれど、その目は真っすぐで強い輝きがあった。

 

「約束する。何があってもボクはユウキの傍を離れないよ」

 

 きょとんとしていたユウキだが、次第に笑顔を浮かべる。

 

「それだと、告白みたいだよぉ」

 

「え、あ、いや、その」

 

「冗談だよ」

 

 慌てふためくノビタニアンにユウキは微笑む。

 

 今までの無理をしたようなものと違う。

 

 純粋で素敵な笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボク……小さいころから重たい病気なんだ」

 

 ノビタニアンとユウキはベンチに腰かけて話をしていた。

 

「重たい病気?」

 

 頷いたユウキの話によれば、重たい病気で病院の生活を続けていたという。

 

「その時に知り合いの人からもらったのが、ソードアート・オンラインなんだ」

 

 今でも覚えているとユウキは話す。

 

「初めてSAOに入った時、とても喜んだんだ。自由にどこまでも続く世界を走り回れる。僕にとっては天国、いや本当の世界といっても過言じゃなかったんだ。人が死ぬ……それが余計に、ここが自分のいるべき世界、なんて思ったこともあったよ」

 

「ユウキ……」

 

「でも、そんな世界に終わりが近づいていると思ったら、少し怖くなったんだ」

 

「怖く?」

 

 ユウキはノビタニアンの手を強く握りしめる。

 

「ゲームが終われば、ボクはもうみんなや、ノビタニアンと会えない。そう考えたら怖くなっちゃって」

 

「ゲームが終わっても会えるようにすればいい」

 

「無理だよ」

 

 首を振ってユウキは言う。

 

「ボクの病気は厄介なんだ。多分、現実世界へ戻ってもノビタニアンと会うことは叶わないよ」

 

「やってみないとわからないよ。だって、ちゃんと同じ時間にいるんだよ?」

 

 ユウキははっとした表情になる。

 

 ノビタニアンの親友、ドラえもんは二十二世紀に帰っている。どれだけノビタニアンが望んだとしてももう会うことはできないのだ。

 

「指切り、この世界が終わっても僕はユウキへ会いに行く。絶対」

 

「……え」

 

「指切りげんまん、」

 

「わ、わわ!待って、待って!えっと、うそついたら――」

 

「「ハリセンボン、ノーます!」」

 

 言葉を交わしてノビタニアンとユウキの二人はどちらかともなく笑いだす。

 

「信じるよ。ノビタニアン、約束だからね!」

 

「絶対、何があっても僕は約束を守るよ……さて、そろそろ帰ろうか。みんなも心配しているよ」

 

「わ、もう、こんな時間なんだ。アスナも心配しているよね。怒られないといいけれど」

 

「まぁ、その時は一緒に怒られるだろうね」

 

「でも、安心かな」

 

 ユウキはノビタニアンの手を握る。

 

「ノビタニアンが一緒なら怖くないよ!」

 

 そういってほほ笑むユウキの姿にノビタニアンも小さな笑顔を浮かべる。

 

 宿へ戻るとリズベットとアスナに怒られて正座するノビタニアンとユウキの姿があった。

 

 

 

 




ぼかした形ですが、ユウキのルートは現実世界で完結するのでそこまで、我慢してください。

尚、これから第百層を目指して進んでいきます。



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20:ジャイアンズと共に

今回、あるキャラの救済回。


「お、ノビタニアン、キリト!良いところに」

 

「ジャイトス?」

 

 キリトとノビタニアンがアークソフィアで昼寝をしているとジャイトスがこちらへやって来る。

 

 和解から少しずつだが、キリト達もジャイトス達と会話をするようになっていた。

 

 尤も、ジャイアンズは行方不明のスネミス捜索で忙しい。

 

 アルベルヒの行方も探しているのだが、これといった手がかりもつかめていなかった。

 

「どうしたんだ?」

 

 隣でぐーすか寝ているノビタニアンに代わってキリトが尋ねる。

 

「実はよぉ、上の階層でダンジョンを見つけたんだが、俺達だけだと少し苦労しそうなんでな。協力してくれないか?」

 

「ダンジョン攻略か、俺はいいぜ?」

 

「悪いな、明日の朝、転移門前で待ち合わせな、じゃーなー」

 

 ジャイトスは手を振って去っていく。

 

「さて、俺ももうひと眠りと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、何があったの?」

 

 フィリアが目の前の光景をみて、キリトへ尋ねる。

 

「えっと、俺とノビタニアンがシリカと一緒に町中を散歩していたら占い師のNPCに遭遇してさ」

 

「占い師の?」

 

「その占い師に言われたんです!ノビタニアンさんは異性と触れ合っていないと恐ろしい目に合うって!」

 

 力説するシリカ。

 

「ですから、こうやって触れ合っているんです!ギュー」

 

「えっと、あははは」

 

 苦笑するノビタニアンにこれでもかと抱き着いている少女、シリカ。

 

 三人で町中を歩いていた時に遭遇したNPCの占いからずっと彼女はこうやってノビタニアンに抱き着いている。

 

「ただいま……って、シリカ、アンタ、何やっているのよ?」

 

 戻ってきたリズベットは目の前の光景を見て目を丸くしている。

 

「これはノビタニアンさんのためなんです!」

 

「じゃあ、アタシもするね、ぎゅ~~!」

 

 いつの間にやってきていたのかストレアがノビタニアンへ抱き着く。

 

「うぶ!?く、ぐるじぃ!」

 

「す、ストレアさん!くっつきすぎです!」

 

「えぇ~、これがノビタニアンのためでしょ?だったらこれぐらいやらないと~」

 

 ある意味、純粋にノビタニアンを心配しているストレアは彼を抱きしめる。

 

 柔らかい感触や気持ち良いにおいが漂ってきてノビタニアンの頭がクラクラしてきた。

 

「む、むむむ!でしたら!」

 

 シリカも頬を赤く染めながらよりぴったりと抱き着いてくる。

 

「なんか、混沌としてきたね」

 

「というか、その占い師、本当に宛になるの?」

 

「一応、そういう職を専門としている人がいてもおかしくはないからな……何より、ノビタニアンは運が悪いといわれると本当にそうだからな」

 

「え?どうゆうこと」

 

「リアルの世界でもあったんだけど、アイツ、ドラえもんの道具で運が悪いと判断されると本当に悪いんだよ。空から飛んできたラジカセに直撃したり、看板が落ちてくるとか」

 

「ええ!?」

 

「それ以前に、看板が落ちてきて、よく無事だったわね」

 

「まぁな(ドラえもんがいて、軽いケガで済んでいるんだってことは黙っておこう)」

 

「でも、アイツが嫌がっていない理由はそういうことね」

 

「普通なら気にしないんだろうけどね」

 

「ただいま……って、キリト君、これはどういうこと?」

 

「……入る店を間違えたかしら」

 

「お帰り、アスナ、それと店を間違えていないぞ。シノン」

 

「これはどういうことかしら?幻覚を出すモンスターでもいれば、こんなことが起こるのかしら?」

 

「いやぁ、それだったら本当にありがたいんだけどさ、実は、俺とノビタニアン、シリカの三人で商業区を歩いていたら占い師のNPCがいてさ」

 

「占い師?」

 

「もしかして、そこで運が悪いとかいわれたの」

 

「そうだ、でも、なんで」

 

「そこの占い師、インチキよ」

 

 シノンの言葉で場の空気が止まる。

 

「い、インチキ?」

 

「そうよ、占いをするといって悪い結果を伝えて、幸福アイテムを売りつけようとする詐欺師よ」

 

「えっと、それって」

 

「マジか」

 

 場の空気が何とも言えないものになった時、にこりとシノンがほほ笑む。

 

「さて、ノビタニアン。私がアンタを占ってあげるわ」

 

「え、シノンが?」

 

「えぇ、見えるわ。アンタに不幸がこれからやってくる」

 

「え?」

 

 カランカランと音が鳴り響く。

 

 それは死神がやってくる知らせ。

 

「ただいまぁ、いやぁ……楽しかった……よ」

 

 中へ入ってきたのは紫髪の少女。

 

 彼女は目の前の光景を見て、それから笑みを浮かべる。

 

「やぁ、ノビタニアン。なんか知らないけれど、楽しいことをしているね」

 

「ゆ、ユウキ?その、これは」

 

 気のせいか、ゆらゆらと彼女の髪が逆立っている気がする。

 

「あ、そ、そうだぁ、私、ピナの面倒みなきゃ!」

 

「ストレア、アンタ、こっち来なさい」

 

 離れるシリカとリズベットによって連れていかれるストレア。

 

 ノビタニアンも逃げ出したいが目の前の恐怖に腰を抜かしていた。

 

「あぁ、大丈夫だよ」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべるユウキ。

 

「ここは圏内だから何があっても死ぬことはないから」

 

 死刑宣告と共にユウキの振りぬいた一撃がノビタニアンを襲う。

 

 その後のことは記憶にない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい目にあったよぉ」

 

「まぁ、お前の運のなさは昔から変わらずだな」

 

 テーブルへ戻ってきたノビタニアンにキリトは苦笑しながら迎える。

 

「そうだ、アスナ。明日なんだけど、ジャイアンズのメンバーとダンジョン攻略を行うんだが、一緒に来ないか?」

 

「うん、いいよ」

 

「ノビタニアン、大丈夫?」

 

 ユウキが身を乗り出して尋ねてくる。

 

 小さな頭痛を感じながらもノビタニアンは頷く。

 

「大丈夫だよ。ユウキはシノン達とダンジョンへ行くんでしょ?そっちの方も危険だってアルゴさんから聞いたんだけど」

 

「大丈夫!シノンは強いから」

 

「アンタみたいに前衛はできないけれど、ちゃんとやるから安心して」

 

「ううん、シノンは頼りになるから信じているよ」

 

「そ、そう」

 

「むむ」

 

 頬を赤らめるシノンにユウキは不満そうな顔をしている。

 

「じゃあ、明日は俺とノビタニアン、アスナの三人とジャイアンズのメンバーでダンジョンの攻略だ」

 

「うん、任せて」

 

「オッケー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

「前に自己紹介したけれど、血盟騎士団の副団長を務めるアスナです。今日はよろしくお願いします」

 

 ダンジョンの手前、ジャイアンズのメンバーにアスナが改めて自己紹介をしていた。

 

「自己紹介ありがとう、アスナさん、俺様はジャイトス、ジャイアンズのギルドマスターで斧使いだ」

 

「同じ細剣使いのヒデヴィルです。今日はよろしくお願いします」

 

「シズカールです。槍を使っています」

 

「キリト、ノビタニアンも今日はよろしく頼むぜ」

 

「任せてくれ」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「すまないね、ノビタニアン君、キリト君、このダンジョン、僕達だけだと出現するモンスターの数に対処できないんだ」

 

「俺らは攻略組になりたてなんでな。頼むぜ、黒の剣士に白銀の剣士」

 

「おいおい、それで呼ぶのはやめてくれ……それならせ――」

 

 ヒュン!

 

 キリトのすぐそばをアスナのレイピアが通過した。

 

「キリト君?」

 

 にこりとほほ笑むアスナにキリトは沈黙を選んだ。

 

 同じくノビタニアンも口をふさぐ。

 

「今の……見えなかったぜ」

 

「凄い」

 

「素敵だわぁ」

 

 ジャイアンズのメンバーはそれぞれの感想を漏らす。

 

「さ、行きましょう」

 

 場の空気を換えるようにアスナが歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、かなり強いな」

 

 ダンジョンは石造りになっており、その中を徘徊するリザードマンやゴーレムはこの階層においてかなりのレベルを持っていた。

 

 ジャイアンズはジャイトスが壁役として奮闘しているがレベル差もあって苦戦している。

 

「アスナ、彼らのフォローを頼む」

 

「任せて!」

 

「ノビタニアン」

 

「彼らをカバーするね」

 

 アスナと共にノビタニアンが苦戦しているジャイアンズのメンバーのサポートへ向かった。

 

「ジャイトス、スィッチ!」

 

「すまねぇ」

 

 後退するジャイトスに代わってノビタニアンが盾でリザードマンの攻撃を受け止める。

 

 受け止めると同時にソードスキル“スター・Q・プロミネンス”を放つ。

 

 攻撃を受けて怒りの声を上げるリザードマンだが、続けてアスナが放ったソードスキル“アクセル・スタブ”を受けて大きくノックバックする。

 

「今よ!ソードスキルを放って!」

 

 アスナの指示で待機していたヒデヴィルのソードスキル“リップ・ラヴィーネ”とシズカールのソードスキル“リヴォーブ・アーツ”を受けたリザードマンの体がはじけ飛ぶ。

 

「やったわ!」

 

「うん!」

 

 喜ぶ二人をみてアスナとノビタニアンは歩き出す。

 

「流石は攻略組だね。僕達の使っているソードスキルよりも熟練度が上だ」

 

「だな、俺なんか、防ぐのに精いっぱいなのに、ノビタニアンなんかソードスキルも放てる。どんだけ、筋力とかにステータス振り分けているんだ?」

 

 ヒデヴィルとジャイトスが前を歩くノビタニアンを見ながら話す。

 

「でも」

 

 そんな二人に対してシズカールはどこか納得のいかない表情をしている。

 

「私たちの知っているノビタニアンさんじゃなくなっているみたい」

 

 シズカールの知っているノビタニアン。

 

 誰よりも優しくて暴力を嫌う、優しい人だった。

 

 だが、彼は攻略組として最前線にいる。噂によれば彼らは殺人ギルドのプレイヤーを手にかけたという。

 

 それが事実だとすれば、彼は――。

 

「それは違うと思う」

 

 シズカールの言葉を否定したのはアスナだ。

 

 彼女は表情を変えずにシズカールを見る。

 

「私はリアルのノビタニアン君を知らない。でも、彼は何があろうと誰かのために奮闘する人……きっと、本質は変わっていない」

 

「……ノビタニアンさんの本質」

 

「触れてみないとわからないものだよ」

 

 アスナに言われてシズカールは小さく頷いた。

 

「みんな、止まるんだ」

 

 先を歩いていたキリトが制する。

 

「どうしたの?」

 

「この先に強力なモンスターがいる。おそらくこのダンジョンを守っているボスだ」

 

 キリトの言葉に奥を見ると奥の広い空間。

 

 そこで剣をもって佇んでいる鎧の騎士が立っている。

 

 名前はリベリオンナイト。

 

「俺達で対処できると思う」

 

「なら、やっちまおうぜ」

 

 ジャイトスがやる気をみせる。

 

「キリト君、どうする?」

 

「危険になったら撤退する。俺とアスナが攻め込んで、ジャイトスとノビタニアンがタンクする。ヒデヴィルとシズカールは他にモンスターが沸いた場合の対処を頼む」

 

「わかった」

 

「はい!」

 

「それじゃあ、行くぞ!」

 

 キリトが二つの剣を抜いて駆け出す。

 

 ボスである騎士はキリトを視認すると純白の輝く剣を構える。

 

 振り下ろされる剣を躱してソードスキル“ダブルサーキュラー”を放った。

 

「アスナ!」

 

「はぁああああああ!」

 

 アスナの細剣のソードスキルが騎士のHPを奪う。

 

 仰け反る騎士は大振りの一撃を繰り出すが。

 

「ジャイトス!」

 

「任されよ!!」

 

 盾を構えた二人が騎士の攻撃を受け止める。

 

「ぐっ!?」

 

 あまりの衝撃にジャイトスが少しのけ反るも防御に成功した。

 

「そこだぁ!」

 

 大振りでがら空きの胴体へキリトの二刀流が炸裂する。

 

 このままいけば、倒せるという時。

 

「キリト君!」

 

 アスナの叫びで横を見ると数人のプレイヤーがシズカールとヒデヴィルを拘束していた。

 

 プレイヤーのカーソルはオレンジだ。

 

「おっと、そこまでだ、黒の剣士!」

 

 短剣をシズカールへ突きつけてオレンジプレイヤーが叫ぶ。

 

「オレンジプレイヤーがなんで、この階層に!?」

 

「動いたら、このガキたちを殺すぞ」

 

 オレンジプレイヤーに刃を向けられて震えるシズカールと歯がゆさに顔をゆがめているヒデヴィル。

 

 上級の階層で姿を見せなかったオレンジプレイヤーの出現にキリトは驚きを隠せない。

 

「……ノビタニアン」

 

 キリトはちらり、とジャイトスと共に奮闘しているノビタニアンを見る。

 

 

 

――しばらく、任せていいか?

 

 

 

――オーケーだよ。

 

 

 

 

 アイコンタクトして、キリトはオレンジプレイヤー達をみる。

 

「アスナ、頼むぞ」

 

「うん」

 

「やめろ!武器を捨てるから、二人を離せ!」

 

 キリトはエリュシデータとリメインズハートを地面へ投げる。

 

「よし、まずは、てめぇから」

 

 武器を捨てたことで油断したオレンジプレイヤー。

 

 その隙をついてキリトが投擲用のピックを投げる。

 

「つっ!?」

 

 ピックはオレンジプレイヤーの持っている短剣をはじく。

 

「アスナ!」

 

 閃光とまでいわれる速度を持ったアスナのレイピアの衝撃を受けてオレンジプレイヤーは倒れる。

 

「二人とも、大丈夫!?」

 

「アスナさん!」

 

「はい!」

 

 キリトは剣を拾い、逃げようとしているオレンジプレイヤーの前に回り込む。

 

「動くな。お前たちに」

 

「うわぁ!」

 

 ジャイトスの悲鳴が聞こえた。

 

 振り返ると叛逆の騎士がジャイトスを弾き飛ばしてこちらへ迫っている。

 

 アスナは二人を守ろうとレイピアを構えた。

 

 キリトも駆け出そうとするが。

 

「死ね!黒の剣士!」

 

 オレンジプレイヤーが襲い掛かってくる。

 

 キリトは攻撃を受け止めて、救援を阻まれてしまう。

 

「あ、あぁ」

 

 アスナを狙おうとしている反逆の騎士の姿を見て、シズカールの顔は恐怖に染まる。

 

 目の前の騎士が放つ威圧感。

 

 これから死ぬかもしれないという恐怖。

 

 倒れているシズカールを守ろうと細剣を構えるヒデヴィル。

 

 アスナがソードスキルを放とうとした時。

 

「やめろぉ!」

 

 “ヴォーパル・ストライク”放ってノビタニアンが叛逆の騎士へ攻撃する。

 

 攻撃を受けたことで標的がノビタニアンへ移る。

 

 ソードスキルを纏った剣がノビタニアンに振り下ろされた。

 

 咄嗟にノビタニアンはHPを見る。

 

 キリトの攻撃を受けて残りHPは僅か。

 

 これならば。

 

 ノビタニアンは盾を構えることなく剣を繰り出す。

 

 チョイスしたのは得意としているヴォーパル・ストライク。

 

 敵の放つソードスキルも自分のものと同じヴォーパル・ストライクだった。

 

 

「うぉおおおおおおおお!」

 

 

 二つの剣がぶつかり火花を散らす。

 

「そこだぁあああああああああああ!」

 

 真っすぐに放った剣が叛逆の騎士を捉える。

 

 残り僅かだったHPを刈り取り、叛逆の騎士はくぐもった声を上げてその体が消滅した。

 

「……ふぅ」

 

 ノビタニアンは耐久値が減った剣を鞘に納めて振り返る。

 

「大丈夫?シズカール」

 

 そういって手を差し伸べるノビタニアンをシズカールは茫然と見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「あ、ご、ごめんなさい」

 

 手を掴んでシズカールは真っすぐにノビタニアンを見る。

 

 昔の面影を残しながらも男の子として成長しているノビタニアン。

 

「(アスナさんの言うとおりだわ)」

 

 シズカールは間違いに気づく。

 

 彼の本質は変わっていなかった。

 

「ごめんなさいね、ノビタニアンさん」

 

「え?」

 

 小さく謝罪されたことにノビタニアンは気づかなかった。

 

「キリト君!オレンジプレイヤーは?」

 

「すまない、逃げられた……」

 

 キリトの話によるとオレンジプレイヤーはあらかじめ持っていた転移結晶で姿を消したという。

 

「攻略組に連絡しないとね、注意を呼びかけないと」

 

「そうだな」

 

「ねぇ、キリト」

 

 ノビタニアンがキリトのところへやって来る。

 

「悪いな、騎士を任せちまって」

 

「大丈夫だよ。少し危なかったけれど」

 

 ポーションを飲んで回復したノビタニアンはメニューからある武器を取り出す。

 

「それよりも、とんでもないのドロップされたんだけど」

 

「おいおい……とんでもないものじゃないか」

 

 ノビタニアンがアイテムを取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそぉ、魔剣クラスに匹敵する武器じゃない」

 

 リズベット武具店(新)。

 

 ノビタニアンは叛逆の騎士がドロップした武器を鑑定してもらっていた。

 

「“リベリオンクラレント”……キリトの使うエリュシデータ以上の力を持っている剣。アンタの使っているシルバーナイツより上だから喜んで使ってもいいんじゃない?」

 

「うん……今の僕の筋力値だとギリギリ使えるんだ」

 

「なら、使っちゃえばいいじゃない。何か気に入らないものがあるの?」

 

「……この設定だよ」

 

 ノビタニアンはリズベットへリベリオンクラレントの設定を話す。

 

「大事な人を裏切り、親友と殺し合いをした騎士が所持していた剣……アンタね。設定は設定であって、実際にそうなるわけじゃないでしょ」

 

「だとしても、縁起が悪いよ。キリトと殺しあうなんて」

 

「そうね。なら、売り払って金にするのがいいかもね」

 

「ありがとう、よく考えるよ」

 

 ノビタニアンは頷いて武器をしまう。

 

 彼が出て行ってからリズベットは呟く。

 

「ホント、アイツらの友情はすごいわね。驚くばかりだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノビタニアン君!」

 

 外に出て宿へ戻ろうとしていたノビタニアンの前にやってきたのはヒデヴィルだ。

 

「やぁ、ヒデヴィル」

 

「今日はありがとう、シズカール君も、感謝していたよ」

 

「そう、そういってもらえると嬉しいかな」

 

 ヒデヴィルと歩きながら話をする。

 

 もともと、ヒデヴィルをライバル視していたノビタニアンだが、今はそんな気持ちはない。

 

 クラスメイト、もしくは知人として、真っすぐに見ている。

 

「それにしても君たちは強いね。ソードスキルの熟練度も、技術も」

 

「……それだけがこの世界のすべてじゃないよ。人の感情も重要になってくると、僕は思っている」

 

「その、ノビタニアン君」

 

「なに?」

 

「もう一度、僕と友達になってくれないかな?」

 

 ヒデヴィルの言葉にノビタニアンは目を丸くする。

 

「僕はジャイトス君達との騒動を知らない、でも、もう一度、友達として仲よくしたいんだ……ダメかな?」

 

「いいよ」

 

「本当に!?」

 

「でも、攻略では手加減しないからね?足手纏いにはならないでよ?」

 

「任せて。頑張るよ」

 

 二人は互いに握手をする。

 

 



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21:シノンの心

 昼寝をしていたノビタニアンはいきなりの衝撃で目を覚ます。

 

 普段は誰かに何をされても目を覚ますようなことはなかったのだが、的確に自分を狙ったようなものに目を開ける。

 

「なんだ、シノンか」

 

「のんきに寝ているんじゃないわよ」

 

 機嫌の悪そうな態度でシノンは拳を振り上げる。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで拳を振り上げているのさ!?」

 

「アンタ、約束を忘れたみたいね」

 

「え、や、約束!?ち、ちょっと待って」

 

 慌ててノビタニアンは脳みそを回す。

 

 攻撃に痛みはない。

 

 しかし、衝撃を何度も受けるなんて御免だ。

 

「思い出したよ。訓練だよね?」

 

「そうよ、まったく」

 

 溜息を吐いてシノンは弓を取り出す。

 

 少し前からシノンは射撃訓練をする際に自分に訓練相手を頼んでいた。

 

「射撃訓練でどうして近接相手と戦うなんてこと?」

 

「みんなの足手まといになりたくないのよ」

 

「キリトからの話だと遠距離でもモンスターを倒せるから問題ないんじゃないの?」

 

「私は強くなりたい……今よりももっと、乗り越えないといけないのよ」

 

 険しい表情で答えるシノンをみてノビタニアンは心を痛める。

 

 まだ、彼女は過去を引きずっていることがわかった。

 

「何よ。こっちをまっすぐに見て」

 

「シノンは強くなりたいんだよね」

 

「そうよ、だったら」

 

「一つ、クエストを受けてみない?」

 

「クエスト?」

 

「うん、誘惑の歌姫っていう九十三層にある湖クエストなんだけど」

 

「受けるわ」

 

 シノンは頷いた。

 

「強くなるためならどんなことでもする。私は強くならないといけないから」

 

「じゃあ、行こうか」

 

 ノビタニアンとシノンは九十三層“ナルニアデス”へ向かう。

 

 九十三層はユミルメ同様にノビタニアンとキリトが体験した冒険の一つの世界が元になっていた。

 

 ボスはあの大魔王デマオンで苦戦はしたが勝利を収めることに成功する。

 

 尚、フィールドボスはメジューサだったことでノビタニアンとキリトのトラウマが刺激されたことを記しておこう。

 

「それで、この湖のクエストはどんな内容なの?」

 

「湖にさらわれた男を助けるために人魚がいる湖へ行くんだ」

 

「討伐クエストかしら?」

 

「うん」

 

 二人は村長から話を聞いて、クエストを受諾して湖を目指す。

 

「やけに薄暗いわね」

 

「ここは天候が曇りに設定されているみたいだね……雨は降らないから大丈夫」

 

「安心するところなのかしら……まぁ、弓を射るのに問題はないわね」

 

「あ、そうそう」

 

 ノビタニアンはシノンへ声をかけようとした時。

 

 どこからか歌声が流れてくる。

 

「この歌声は……」

 

「人魚の歌。これで村人を誘拐しているんだ。さ、行くよ」

 

 こそこそと移動しながら二人は湖へ向かう。

 

 湖畔の近くで水色の肌をした人魚型モンスターとふらふらと歩いている村人の姿があった。

 

「まずいわ!」

 

 シノンが立ち上がり弓を構える。

 

 射撃スキルによって放たれた矢が村人の足元へ刺さった。

 

「後方の援護、よろしく!」

 

「わかったわ!」

 

 ノビタニアンは走る。

 

 村人を捕まえようと人魚が恐ろしい顔で陸から手を伸ばそうとした。

 

「悪いけど、俊敏さは二人に劣るけど、そこそこあるんだ、よっと!!」

 

 かなりの速度でノビタニアンは剣を振るう。

 

 腕を切り落とされた人魚の顔が恐ろしいものとなり、ノビタニアンをターゲットにする。

 

 

 だが、シノンの射撃を受けて人魚のHPが削られた。

 

「うわぁあああああああ!」

 

 ノビタニアンは“バーチカル・スクエア”を放つ。

 

 攻撃を受けた人魚は体を四散させた。

 

 人魚の消滅を確認してシノンは弓を下ろそうとする。

 

「まだだよ!」

 

 ノビタニアンの叫びにシノンは思い出す。

 

 村長がクエスト開始前に伝えたこと。

 

 

――湖には人魚を守護する守り神がいる。

 

 

 同時に湖の海面から巨大な魚が顔を見せる。

 

 額に伸びる角。

 

 眼はぎょろぎょと黄色く、動いている。

 

 青い鱗の肌。

 

 HPバーは人魚たちよりも二つ多い。

 

 名前はツノクジラ。

 

 シノンが射撃スキルを使おうとした時、黄色い瞳と目が合う。

 

「シノン!」

 

 ノビタニアンが盾を構えて割り込むよりも早く、シノンは駆け出す。

 

 後ろではなく、前に。

 

 矢を連射しながらツノクジラへ攻め込んでいく。

 

 HPを削られたツノクジラはシノンを標的とする。

 

 口から紫色の舌を伸ばす。

 

 地面を蹴り、舌の攻撃を躱しながら走る。

 

 走りながらツノクジラへ矢を射続けた。

 

「倒す……倒すんだ!」

 

 シノンの叫びと共に矢を射ようとしていた瞬間、湖から人魚が飛び出してシノンの足を掴む。

 

「しまっ」

 

「シノン!」

 

 ノビタニアンが助けに向かおうとすると別の人魚に阻まれてしまう。

 

「くそっ!」

 

 ソードスキルで一掃しても人魚はすぐに湧き出す。

 

 足を掴まれていたシノンはいつの間にか水面に足をつけていた。

 

 このままではツノクジラに叩き潰されてしまう。

 

「(仕方……ないか!!)」

 

 ノビタニアンはメニューを開く。

 

 盾と剣を収納して、あるものを取り出す。

 

 武器を仕舞ったことでチャンスと見た人魚たちが飛びかかろうとする。

 

 瞬間。

 

 白い剣が人魚たちを弾き飛ばす。

 

「売り払うつもりだったんだけどなぁ」

 

 ノビタニアンの手の中にあったのは叛逆の騎士から手に入れた剣“リベリオンクラレント”

 

 使っていた剣よりも何倍の力を持つ魔剣。

 

 それを構えてノビタニアンは走る。

 

「こっちが相手だぁああああ」

 

 リベリオンクラレントがソードスキルの輝きを纏う。

 

 得意のヴォーパル・ストライクがシノンを拘束していた人魚を蹴散らす。

 

「シノン!大丈夫」

 

 ぺたんと座り込むシノンへ尋ねる。

 

「え、えぇ」

 

「だったら、そこにいて、こいつは僕が倒す!」

 

 ツノクジラにリベリオンクラレントを構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 派手な音を立ててツノクジラは消滅する。

 

 ノビタニアンは敵が現れないことを確認してリベリオンクラレントを鞘へ仕舞う。

 

「大丈夫?」

 

 座り込んでいるシノンへノビタニアンは声をかける。

 

「……」

 

「あんな無茶はしない方がいいよ?遠距離攻撃は接近されたら」

 

「わかっているわ……でも!」

 

「強くなるにしても、自分の命を粗末にしちゃ意味がないよ」

 

「私は、死んでも良いと思っていた」

 

 自分の体をシノンは抱きしめる。

 

「でも、本当に死ぬかもしれないという時、恐怖した!私は死にたくないって」

 

 震えながらシノンは叫ぶ。

 

 いつも知っているシノンと異なり、どこか弱弱しい。

 

 ノビタニアンは近づいて彼女を抱きしめる。

 

 そっと抱きしめて、ノビタニアンは言う。

 

「死なないよ。シノンは死なない」

 

「どうして……」

 

「僕がいるから……じゃ、ダメかな?僕やキリトがいれば、なんだってできる。そう思っているんだ。だから、みんなを守る。シノンも死なないよ。絶対。今回も死ななかったでしょ?」

 

 ノビタニアンの言葉にシノンは頷く。

 

「約束。シノンは死なない。死なずにこのゲームをログアウトするんだ。みんなで!」

 

「……そう、ね。今のアンタをみたら不思議とそう思えるわ」

 

 ノビタニアンを見て、シノンは立ち上がる。

 

「約束よ。絶対に私を現実世界へ返して……そして、一緒にデートでもしましょう」

 

 チュッとノビタニアンの頬で音がした。

 

 顔を赤くしてノビタニアンはシノンをみる。

 

 彼女は小さく微笑み、離れた。

 

「さ、戻りましょう。クエストの報告をしないとね」

 

「そうだね」

 

 二人はそういうとNPCを連れて村へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村へ戻ったノビタニアンはキリトから緊急の呼び出しを受ける。

 

「どうしたの?」

 

「キリトから、アルベルヒのことで手助けが欲しいって」

 

「手助け?」

 

 キリトから送られたメッセージの内容を見る。

 

 最前線の攻略をしていたキリトはプレイヤーを拉致しようとするアルベルヒとその仲間と遭遇する。

 

 アルベルヒと決闘して勝利するが、アルベルヒは逃走、その仲間を捕らえて尋問した際に、捕まえたプレイヤー達の居場所をばらしたという。

 

 そこを襲撃するため、キリトはクラインを含め、ノビタニアンに援護を要請していた。

 

「行こうか、キリトの指定するエリアへ」

 

「わかったわ……ところで、装備はそのままで行くの?」

 

「あ、そうだね。元の装備に戻そうか」

 

「最前線はその魔剣を使うのかしら?」

 

「うーん、これは奥の手かなぁ」

 

 リベリオンクラレントの性能は素晴らしいものだが、あまりノビタニアンは気に入らなかった。

 

「……しばらくは私達だけの秘密ってことね」

 

「え、そうなるかな」

 

「くすっ」

 

「シノン?」

 

「何でもないわ。キリトが呼んでいるんでしょう?行きましよう」

 

 シノンに言われてノビタニアンは転移門へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトに指定されたエリアへ二人が到着する。

 

「悪いな。急に呼び出して……シノンも来たのか」

 

「えぇ、どうしたの?」

 

「実は」

 

 話の内容はアルベルヒについて。

 

 キリトはフィールドでプレイヤーを襲っているアルベルヒと遭遇。

 

 戦い勝利を収めるも、アルベルヒは逃走。

 

 彼の部下から潜伏先を聞き出し、これから攻め込むという。

 

「クライン達もいるから安心していいとおもうけれど、シノンは後方で支援を頼む」

 

「……わかったわ」

 

「ノビタニアン、頼むぜ」

 

「うん」

 

 頷いてノビタニアンは盾と剣を取り出す。

 

「行くぞ!」

 

 キリトの言葉と共に突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、参った!降参!」

 

「なんだよ。あっけねぇな」

 

 刀を下してクラインはメンバーに頼んでアルベルヒの部下を拘束する。

 

 突入から数十分。

 

 部下はあっさりと投降した。

 

「なんというか、拍子抜けだね」

 

「俺達が強すぎたというより相手のスキルの使えなさが目立ったな」

 

「キリトの言ったとおりね。あっさり過ぎるわよ」

 

 リズベットがメイスを振り回してやってくる。

 

「危ないよ、リズベット」

 

「大丈夫、こんなのに当たるのはノビタニアンだけだから」

 

「僕が近くにいるんだけど……あれ、キリトとシノンは?」

 

 リズベットと話をしていたノビタニアンは二人の姿がないことに気付く。

 

「どこにいったのかな?」

 

「すぐに戻ってくるはずだけど」

 

「あ、戻ってきたね」

 

 キリトが何か考えるような様子で戻ってきて。

 

「あれ、シノンはユウキと」

 

「そうよ、ユウキと一緒に戻ってきたの」

 

 シノンがやって来るとそのままノビタニアンの片腕に抱き着く。

 

「え、ちょっと」

 

「さ、アークソフィアへ帰るわよ」

 

「え、あぁ、うん」

 

「むむむぅ!」

 

 二人のやり取りを見てユウキは頬を膨らませていた。

 

「大変ねぇ……モテル男は」

 

 リズベットがにやにやと笑みを浮かべているがノビタニアンはただ困惑することしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(なんだよぉ!ノビタニアン、シノンに抱き着かれてニヤニヤしてさぁ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(これくらいはいいわよね。コイツは鈍感だし)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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22:アルベルヒの企み

活動報告にあるこの話の設定を一部載せました。

SAO編も残りわずかです。


「これで!!」

 

 キリトの一撃を受けて九十八層のボスモンスターは倒される。

 

「やったね!」

 

 ノビタニアンとキリトがハイタッチをした時。

 

「いいや、まだ終わりではないよ」

 

「っ!?誰だ!!」

 

「やあ、キリト君、ごきげんよう」

 

「あ、あなたは!?」

 

「アルベルヒ!?」

 

 フロアボスへつながる扉の前に姿を現したのはアルベルヒ。

 

「キリト君、よくも僕の研究を邪魔してくれたね。キミが荒らしてくれた実験結果……キリト君はあの研究の偉大さがわかっているのかい?」

 

 アルベルヒのいう実験とは前にキリトが見つけた人の感情などをトレースするというもの。

 

「プレイヤーをさらって、人体実験を繰り返す、それのどこが偉大なんだ」

 

「やれやれ、僕の世界的快挙がこんな低能に妨害されていたとは、まったく腹立たしい限りだ」

 

 ため息をこぼしてアルベルヒは言う。

 

「僕の研究がどれほどに偉大か、君にもわかるように説明してあげよう。人は楽しいと思ったり、辛いと思ったり、色々な感情があるだろう?たとえば、戦争、戦争は怖いよね?どんなに訓練をした兵士も、死を前にすると、恐怖で思考が鈍ったり、動けなくなってしまう……では、恐怖で塗りつぶされた兵士の感情を喜びで満たしてやると、どうなると思う?飛び交う銃弾の中に身を置くことを何よりの喜びと感じ、進んで危険な任務を果たそうとするようになる。軍にとって、これほど使える兵士はないだろう?」

 

「僕……ほとんどわかんないんだけど」

 

「お前の言っている研究というのは、人間の感情を操作するということか?」

 

「そ、そんな!」

 

「どうかな?僕の研究の偉大さに気付いたかな?実際にそういった実用に向けて接触してきている国が複数あるんだ」

 

 アルベルヒの話は続く。

 

「しかし、向こう側では人体実験なんて、そうそう行えるはずもなくてね。研究が思うように進まず、やきもきしているときによい場所を見つけたのさ」

 

「SAOの中か……確かに、ここで起きていることは外の人間、警察や国の人間には知りえないだろうな……知ったところでこの世界の中で起きた不幸はすべて茅場晶彦の責任となる」

 

「そんなの!ひどすぎる!」

 

 ノビタニアンが憤慨する。

 

 彼の行ったことは許せないが、他人のしでかしたことまで茅場の責任にされるなどノビタニアンは許せなかった。

 

「全員が脳を操作するための電子パルスを発生させるナーヴギアをかぶっているんだ。つまり、この世界は僕の研究にとって最高の実験場なんだよ。だが、実のところ、この世界に来てしまったのは事故でね?」

 

「事故?」

 

「このゲームと他のシステムをネットワークで接続させるテストを行っていたら急に知らない場所へ転送させられてね。そこがニュースで騒がれているSAOの中と知った時はさすがに焦ったよ。事故でもなければ、こんなわけのわからないデスゲームに誰が好き好んで入ってくるものか!」

 

「ネットワーク接続、感情操作の実験やら明らかに普通のプレイヤーじゃないな……お前はいったい、何者なんだ!!」

 

 キリトはアルベルヒの会話から普通のゲーマーではないことを見抜いていた。

 

「僕かい?僕はこのSAOの統括者だよ」

 

「何を言っているんだ?それは茅場のことだろう」

 

「んっふふふ、茅場なんて、この事件が始まってから失踪中だよ。そしてSAOを開発したアーガスは既に解散……現在は我々レクト社のフルダイブ技術研究部門がこの世界の維持を請け負っている」

 

「レクト!?」

 

「そう、君のお父さんが経営している会社だよ。明日奈」

 

 アルベルヒは嬉しそうにアスナへ話しかける。

 

 アスナは信じられないものを見たような顔をしていた。

 

「ひょっとして……あなたは、須郷、伸之!?」

 

「ようやく気が付いたのかい?」

 

「アスナ、知っている奴なのか!?」

 

「ええ、何回かあったことがある……フルダイブ技術の権威ある研究者の一人で、茅場晶彦に次ぐ実力を持っているとか……」

 

「全く……茅場晶彦に次ぐか……」

 

 アスナの話にアルベルヒは顔を歪める。

 

「確かに、今までに幾度も茅場と僕は技術研究において比べられることがあった。そのたびにヤツは僕の一歩先を行っていた……だけど、それももう終わりだ」

 

「茅場は失踪して、現在は生きているかどうかもわからない。築き上げた名誉もすべて失った。今やフルダイブ技術研究者で僕の右に出るものはいないんだよ。さらに僕は茅場の作った世界を支配し、名実ともに奴の上に立つんだ!」

 

「この世界を支配するって、いったい、どういうこと!?」

 

「こいつが開発側の人間であること、そして、いままで起きていた不可解な出来事、それらのことから考えられるのは……普通のプレイヤーはもたない、特殊な力を持っているんだ」

 

「ふふふ、その通りだよ。キリト君。スーパーアカウントといってね。開発者のみが使用できるアカウントだよ。事故でこの世界に引きずり込まれたものの、スーパーアカウントが継続されたのは幸運だった」

 

「犯罪防止コードが発生しなかったことや、人を強制的に転移させるアイテムを持っていたっていうのも……」

 

「スーパーアカウントができたことだろう」

 

「そんなの……ズルじゃないか!」

 

「上級の装備も、妙に数値の高いステータスもこれで納得がいった」

 

「これだけのステータスがあれば、このゲームを終わらせることは余裕だろ?この世界にいるプレイヤー達で一通り実験を済ませたら僕自身がゲームを終わらせる。そうすれば、自らをデスゲームに飛び込み、人々を救った英雄としてさらに僕は注目されるだろう」

 

「攻略組に近づいたのも、自分が活躍できるようにするためなんだね!?」

 

「そうとも、その中に明日奈がいるのを知った時は驚いたけどね」

 

「お前が英雄になることはない。向こうへ戻ったら警察にすべてを話す」

 

「それは無理な話だよ。なぜなら、君たちはここで死んでしまうのだからね」

 

「ステータスが高いくらいで俺達、攻略組に勝てると思っているのか?」

 

 アルベルヒが操作したと同時に全員の動きが鈍くなる。

 

「か、体が痺れる……」

 

「アハハハハハハハ!!やぁ、気に入ってくれたかな?スーパーアカウントを使って、ここにいる全員に麻痺属性を付与したんだ。キミ達は一定時間、まともに体を動かすことはできないよ。どうだい、これがこの世界の支配者の力だよ!」

 

「く、そ!」

 

「キリト君!」

 

「あぁ、そうそう、明日奈、君は殺したりしないから安心してくれ」

 

 キリトへ手を伸ばそうとしているアスナをみてアルベルヒはいやらしい笑みを浮かべる。

 

「現実の世界では、君が眠り続けている間に、僕と君が結婚するように話が進んでいる」

 

「な、何を言っているの!?」

 

「結婚が成立すれば、君のお父さんの会社であるレクトは僕のものになる。勿論、そんなことになったら、君は拒絶するだろう?でも、僕の研究が完成してキミの感情を操ることができれば、拒絶どころか、よろこんで僕を受け入れてくれるだろう」

 

「っ!?」

 

 アルベルヒを受け入れる自分を想像したのだろう。

 

 アスナは体を震わせる。

 

「ヒッヒッ!心も体も僕のものというわけだよ」

 

「貴様……!」

 

「違う……よ!」

 

 アルベルヒの言葉に叫んだのはノビタニアンだ。

 

「心も、体も、その人のものだ。アンタのものなんかじゃない」

 

 起き上がろうとするノビタニアンだが、麻痺が発動していてうまく動けない。

 

「さて、長話も終わりだ。キミ達の最後はこいつにやってもらうとしよう」

 

 アルベルヒが操作すると目の前にアバターが現れる。

 

「こいつは!?」

 

「あ……あの時、このゲームが始まった時に……わたしたちの前に……現れた」

 

 はじまりの街で茅場がチュートリアルを行うために姿を見せたアバター。

 

「どうも、このゲームのラストのボスとして用意されていたものらしいんだが……まぁ、君たちにとっては本当にこれがラストバトルなわけだし、ちょうどいいんじゃないかな?」

 

 ローブの中で怪しい輝きが起こる。

 

「さぁ、何もすることのできない中で、にじり寄る死の恐怖に怯えながらゆっくりと、おやすみ……アハハハハハッ!」

 

 

 アルベルヒの言葉でキリトが憤りを感じる中、ノビタニアンも激しい怒りを抑えられずにいた。

 

 アルベルヒ、須郷は自分勝手にこの世界を作り替えていく。

 

 自分の都合のいいものに、いらないものは勝手に消し去って。

 

 そんなことがあっていいわけがない。

 

 許されるわけがない。

 

「助けるんだ……」

 

 動けない体に鞭打つようにノビタニアンはメニューからリベリオンクラレントを取り出す。

 

 アバターに攻撃されている親友を。

 

 自分の力で守るんだ。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

 

 ノビタニアンは叫ぶ。

 

 バリバリとまとわりつく何かが剥がれていく。

 

「ば、バカな!?麻痺を解除しただと!?」

 

 アルベルヒの驚く声が響く中、ノビタニアンはリベリオンクラレントを振り下ろす。

 

 衝撃を受けて吹き飛ぶアバター。

 

 キリトもふらふらと立ち上がる。

 

「ノビタニアン?」

 

「キリト、大丈夫?」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノビタニアン達の前にはホロウアバターと表示されるボスモンスターが立っていた。

 

 第一層、はじまりの街でキリト達へゲームのチュートリアルをしたアバターが現れたのだ。

 

 驚きながらもキリトやノビタニアン達は目の前のホロウアバターへ攻撃を仕掛ける。

 

「バ、バカな!!」

 

「そろそろ観念するんだな」

 

 驚愕を隠せないアルベルヒへキリトがいう。

 

「くっ!観念しろだと?ふざけるな!さっきはなぜ麻痺の効果がきれたのかわからんが、今度はそうはいかないからな!」

 

「また何かする気か!くそっ、させるか!」

 

「キリト!」

 

 キリトとノビタニアンが同時に駆け出す。

 

「一度、ここにいる連中の状態をリセット……それから再度、状態を麻痺に設定。これでどうだ!?」

 

「くっ!?」

 

「わっ!」

 

 二人の動きが封じられる。

 

「ふはははっ!残念だったね。キリト君、やはりスーパーアカウントには敵うはずがないんだよ」

 

「須郷!」

 

「さて、せっかく用意したボスのアバターが倒されてしまったな。やはり大事なことは自分でやらなくてはダメか。あんなものに任せた僕が悪かった」

 

 アルベルヒは懐から不気味なデザインの短剣を取り出す。

 

「これはね、スーパーアカウントのみが扱える特殊武器の中でもとりわけ面白い一品なんだよ……なんと一刺しでどんなにHPがある相手だろうが確実にHPをゼロにする」

 

 キリトは目を見開く。

 

「しかも一瞬ではなく、徐々に、ジワジワとだ。素晴らしいだろ?自分のHPが徐々にゼロになるというのはどんな気分なんだろうね?」

 

 笑いながらアルベルヒはキリトへ近づいていく。

 

「ぜひ、教えてほしいな。キリト君。その体と魂が砕け散る寸前に、僕にだけでいいから」

 

「やめろ!」

 

「性懲りもなく……汚い手を」

 

「どうとでも言え!!これでお前も、おしまいだ!!」

 

 アルベルヒが短剣を突き立てようとした時。

 

「だめぇ!」

 

 ある影が間へ割り込む。

 

 ズブリと音を立てて刃がその人物へ突き刺さる。

 

「ストレア!!」

 

 ノビタニアンが叫ぶ。

 

「なっ、貴様!」

 

「これで終わり、だね」

 

「なっ、出ない!?」

 

 ストレアから刃を引き抜こうとするアルベルヒだが、びくともしない。

 

「もらっちゃった」

 

 ストレアは冷や汗を流しながらもアルベルヒへ不敵な表情を浮かべる。

 

「キリト、ノビタニアン……大丈夫だよ……こんな奴、大したことない……アタシがいるから」

 

 起き上がろうとするノビタニアンとキリトだが、麻痺で動くことができない。

 

 いや、違う。

 

 ノビタニアン達はいつの間にか麻痺が解けていた。

 

 二人は起き上がる。

 

「なっ、貴様ら寄るんじゃない!!」

 

「なにが寄るんじゃねぇだ」

 

「麻痺させられた礼をしないとな、このゲームが終わるまでお前には大人しくしててもらうぞ」

 

 クラインとエギルをはじめとする屈強な大人プレイヤー達がアルベルヒを拘束する。

 

「こ、この低能どもがぁ!放せ!放せぇ!」

 

 アルベルヒが叫んでいる横でノビタニアンとキリトがストレアへ駆け寄る。

 

「キリト!どう!?」

 

「くそっ!回復アイテムを使っているのになんでHPの減少が止まらないんだ!ノビタニアン、解毒のアイテムは!?」

 

 ストレアへ回復アイテムを使っているのにHPが減らない。

 

「駄目!解毒も効かない、あの武器についていた状態異常がわからない……どうしよう、どうしたらいいんだよ!」

 

「うぅ……うぅ……キリト、アイツ……やっつけた?」

 

「あぁ、捕まえた、ストレアのおかげだ!」

 

「そうだよ!凄いよ!ストレア!」

 

「やったね……アイツが持っていたアカウントの権限、奪ってやったんだ」

 

「権限を奪った?」

 

「うん、でも、そんなことしなくても、キリト達なら勝てたかな?ねぇ、アタシ、キリト達に言っていないことがあるの、聞いてくれる?」

 

「あぁ」

 

「うん、聞くよ」

 

「アタシね、アタシ……」

 

――人間じゃないんだ。

 

 

「!?」

 

「え、それは……」

 

「アタシはメンタルヘルスカウンセリングプログラム……この世界に組み込まれたプログラムの一つなんだ」

 

「それって、ユイと同じ」

 

「うん、もともと、アタシもこの世界を見ていることしかできないよう制限をかけられたプログラムなの、その間、色々な人を見てきたよ。絶望で泣き叫ぶ人、恐怖に怯える人、怒りで震える人キリト達が七十五層で戦っているときもずっとモニタリングしていたんだ」

 

 ストレアの告白にキリトは口をはさめない。

 

「だけど、その時、急に目の前が真っ暗になって、気が付いたらこの世界に立っていたの。それからしばらくは記憶もおかしくて、アタシの本来の目的も忘れてしまっていて、でも、唯一、キリトとノビタニアンのことは覚えていて、アタシは二人のことを探していたんだ。そのあと、次第に記憶が戻ってきて、アタシはこの世界のプログラムとしての役割を思い出したの」

 

「役割?」

 

「この世界の崩壊を阻止しないといけないということ」

 

「世界の崩壊というのは……俺達がSAOをクリアするということか?」

 

「そう……でも、アタシには阻止することができなかった。でもね、できなくてよかった」

 

 ストレアは小さく微笑む。

 

「キリト……みんな……今までありがとうね」

 

「おい!ストレア!変なこと言うな!!」

 

「そうだよ!これからも、もっといろいろなものを見て回るんだ!そうでしょ!?」

 

 ノビタニアンがストレアの手を握り締める。

 

「待って!キリト君!ストレアさんの全身に何か黒いオーラみたいなものが!」

 

 アスナが叫ぶ。

 

 ストレアの周りからどす黒いものが噴き出していた。

 

「な、なんだ、これは!?くっ、離れろ!」

 

「だ、ダメ!キリト君まで包まれちゃう!」

 

「ノビタニアン!離れて!」

 

 アスナやユウキが叫ぶ。

 

 しかし、キリトは抱きしめたまま離れず、ノビタニアンもストレアの手を離そうとしなかった。

 

「くっ、放すものか!!」

 

「いやだ!」

 

 直後、ストレアから衝撃波のようなものが放たれ、二人は吹き飛ばされてしまった。

 

 ストレアは黒いオーラのようなものに包まれ、宙へ浮き上がる。

 

「うう!……」

 

「キリト!あれ!」

 

「どうなっているんだ!?たった今、倒したばかりなのに!?」

 

「ストレアさん、ストレアさんは!?」

 

「こいつに……取り込まれた?」

 

 音を立ててラストアバターは姿を消す。

 

「き、消えた!?」

 

「ま、待て!ストレアを返せ!」

 

 キリトが手を伸ばすも届かなかった。

 

 

 



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23:決戦前夜

「なんで、温泉!?」

 

 九十二層、ユミルメ。

 

 そこにある竜の温泉でキリトが叫ぶ。

 

 目の前にはタオルを巻いているアスナやリズベット達がいる。

 

「だって、明日には百層を攻略するんでしょ?どうせだし、楽しい思い出を残そうってことよ」

 

 

「明日ですべてが終わるかもしれないと思うと、楽しい思い出は必要だと思うんです!」

 

 リズベットの言葉にシリカが頷く。

 

「変なことをしたら射るわ。アンタ達」

 

「怖いよ!?」

 

 さらりと怖いことを言うシノンにノビタニアンは叫ぶ。

 

「大丈夫だよ。何かあってもボクがノビタニアンをしばくから」

 

「ユウキ!?しばくこと確定!!」

 

「さ、行くよ!」

 

「あ、放して、僕!装備を外してがぁばああああああああ!」

 

 二人に引っ張られてノビタニアンは温泉へ落ちる。

 

 最初はただの湯だったのだが、竜を倒してからお湯が緑色に代わり、ステータスを一時的に上げる機能などがあった。

 

「ノビタニアン君やユウキ達が楽しんでいるんだから、私達も今日くらいはゆっくりしましょう。ここにはモンスターも出ないんだから」

 

「はい!パパもママと一緒に入りましよう!」

 

 タオル姿のユイに促されてキリトも装備を解除する。

 

 少し暴れていたノビタニアンも装備を外していた。

 

「明日で、SAOも最後……か」

 

 湯船の中でキリトは小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところにいたんだ」

 

 第七十六層、アークソフィア。

 

 夜の街中。

 

 そこにあるベンチで夜空をみていたノビタニアンへユウキが声をかける。

 

「あ、ユウキ」

 

「もう遅い時間。エギルの宿に戻ろうよ。心配するよ」

 

「あぁ、ごめん、ごめん」

 

 苦笑しながらノビタニアンは体を伸ばす。

 

「何か考え事?」

 

「うん……ストレアのこと」

 

 九十八層から姿を消して、彼女の行方は分からない。

 

 九十九層においても姿を見せないことからおそらく、百層で待ち構えているのではないかと仲間たちは予想している。

 

「ノビタニアンはストレアのこと……好きだったの?」

 

 ユウキが尋ねてくる。

 

 その目は何かを探るようなものがあった。

 

 ノビタニアンはそれに気づかないまま、答える。

 

「大事な親友だよ。僕は、ストレアを助けたいと思っている」

 

「相手が人じゃなくても?」

 

「そんなの、助けない理由にならないよ」

 

 小さく、けれど力強くノビタニアンは答える。

 

「僕はドラえもんやキリトといろんな冒険をしてきた……ただ、人じゃないからって助けないのはおかしいと思うんだ」

 

 思い出すのはピッポとリリルのこと。

 

 彼らは人ではなくロボット。

 

 遠い星、メカトピアからやってきた彼らは先遣隊として侵略部隊、鉄人兵団を誘導するための基地を作ろうとしていた。

 

 そんな二人とノビタニアン達は触れ合い、侵略を間違いと考え、共に戦ってくれた大切な友達。

 

 もう会えないけれど――。

 

「僕は助けるよ。放っておけないもの……」

 

 ノビタニアンの言葉にユウキは小さく頷いた。

 

「そっか、なら、ボクは戦うノビタニアンを守るよ」

 

「え?」

 

「だってぇ、ノビタニアンはキリトと同じくらい無茶をするんだもん」

 

「それなら、僕よりもキリトの方が」

 

「キリトはアスナがいるじゃん。ノビタニアンは…………(鈍感だから)」

 

「そこは手厳しいね」

 

 後半の言葉をユウキは飲み込む。

 

 ノビタニアンは気づいていないがキリトと同じくらい異性にもてるのだ。

 

 彼が望めば、支えようとする者は現れるだろう。

 

 最近、シノンが妙に距離を詰めているのが良い例だ。

 

「(ボクはずっとノビタニアンといることはできないけれど)」

 

 自身の手を胸元に当ててユウキはノビタニアンを見る。

 

 首を傾げている彼を見ていると不思議と温かい気持ちになってくる。

 

「どうしたの?」

 

「別に!ほら、宿へ戻ろうよ!みんな、待っている!」

 

「わ、引っ張らないでよ!わかったから!」

 

「ノビタニアン!ボクはキミの相棒だからね!」

 

「いきなり何さ。そんなの当たり前じゃないか!」

 

「そういってくれると嬉しいよ!」

 

「だから、手を放して、わ、転ぶ!ちょっと、止めて、できたら速度をぉぉおぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前、少しは手加減というものを覚えたらどうだ?」

 

 出迎えたエギルは目の前の光景を見てぽつりと漏らす。

 

「いやぁ、早く帰らないといけないと考えたら、つい」

 

 てへへと微笑むユウキの前でボロボロになっているノビタニアン。

 

 もし、圏外だったらHPが少しばかり減っていただろう。

 

「それよりも飯だろ?アスナが準備してくれているからそれを食べな」

 

「ありがとう!さ、行くよ!」

 

「お前も大変だな。ノビタニアン」

 

「あははは、もう慣れました」

 

 苦笑しながらノビタニアンはテーブルに着く。

 

「ノビタニアンさん、お帰りなさい」

 

「きゅるる!」

 

「やぁ、シリカちゃん、ピナも」

 

「どこに行っていたんですか?」

 

「散歩……ほら、終わりが近いから色々と考え事をしたくて」

 

「そうですね……もう、終わるんですね」

 

 シリカももう終わると考えると何か感じるのか少し暗い。

 

「もう終わりだけど、僕達がもう会えないっていうわけじゃないよ?」

 

「え、あ、そうですね……でも、また会えるでしょうか?」

 

「会えるよ。多分、みんな、同じ病院に搬送されているはずなんだから」

 

「ノビタニアンの言うとおりよ。安心なさい。元の世界へ戻ったらアンタを探してあげるから」

 

「リズさん……ありがとうございます」

 

 ぺこりとシリカは頭を下げる。

 

「ノビタニアンこそ、ちゃんとアタシたちを探すのよ?」

 

「うん、絶対さ」

 

 シリカとリズベットの三人と話をしているとユウキが割り込んでくる。

 

「ノビタニアン、まだ食べているの?遅いなぁ~」

 

「からかわないでよ」

 

 そういいながら食事を終えてノビタニアンは部屋へ向かうことにした。

 

「あれ、ユウキもついてくるの?」

 

「うん!ノビタニアンと話をしたいからね」

 

「もう~、すぐ寝るつもりだったのにぃ」

 

「そういうと思ったよ」

 

「楽しそうね」

 

 目の前の扉が開いてシノンが顔をのぞかせる。

 

「明日で終わりかもしれないんだから、早く休みなさいよ?」

 

「そうだ!シノンとも話をしようよ!」

 

「え?」

 

「おじゃましまーす!」

 

「ちょっと!?」

 

「僕もお邪魔します~」

 

 二人はシノンの部屋へ入る。

 

「全く。少しは遠慮することを覚えなさいよ」

 

「ごめんなさい~」

 

「ごめんね、シノン」

 

「まぁいいわ……ねぇ、ユウキ、ノビタニアン」

 

 シノンは真っすぐに二人を見る。

 

「明日ですべてが終わるかもしれないのよね」

 

「そうだね」

 

「うん、でも、最後まで気を抜かないよ!」

 

「いつでも、ユウキは元気ね」

 

 苦笑しながらシノンは二人を見る。

 

「明日、絶対に生きて帰りましょう」

 

「うん、約束だよ!」

 

「絶対!」

 

 三人はそういって拳をぶつけ合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキと別れてノビタニアンは部屋へ入ろうとする。

 

「よっ」

 

 反対側の通路から姿を見せるのはキリトだ。

 

「キリト」

 

「これから寝るところか?」

 

「そのつもり……キリトも?」

 

「そのつもりだったんだが、最後となると、なんでか、ノビタニアンと話しておこうと思ってさ」

 

「……うん、僕もそんな気分だった」

 

 二人して笑い出す。

 

「こんなところまで息が合うのかよ」

 

「それは、付き合いが誰よりも長いからでしょ?」

 

「そうだな、さて、立ち話もなんだ、中へ入るか」

 

「うん……って、僕の部屋だから」

 

「違いない」

 

 そういって部屋へ入る。

 

 二人は眠くなるまで話しつくした。

 

 百層の攻略について。

 

 ストレアのこと。

 

 現実世界へ戻ってからのこと。

 

 色々なことを話し合い、彼らは当日を迎える。

 

 

 SAO第百層、紅玉宮の攻略が――。



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24:終わる世界

今回でSAOの世界は終わりです。

次回からアフターストーリーになります。


「キリト、ユイちゃんを連れてきて大丈夫だったの?」

 

「ユイがどうしても行きたいっていっているんだ」

 

 第百層攻略を迎えた今日。

 

 仲間たちと共に百層、紅玉宮へやってきたノビタニアンとキリト。

 

 キリトの傍にはユイがいる。

 

 彼女は戦闘能力がないため、本来なら第七十六層アークソフィアで待っているはずだった。

 

「大丈夫です。パパたちの戦闘の邪魔はしません」

 

「なにより、ユイは俺が守るからな」

 

 キリトがユイの頭をなでる。

 

「そうだね。キリトパパは大丈夫だよね~」

 

「ユウキ、茶化すなよ」

 

「全くもう。気を緩めないでね。もうすぐ紅玉宮の入り口なんだから」

 

 アスナの言葉に三人は「はーい」と手を上げる。

 

「これで最後だっていうのに呑気ね。アンタ達は」

 

「でも、ガチガチで固まっているより、いいかと思います」

 

「そうだね。私たちもリラックスできるもん」

 

「本当に最後なのね」

 

「絶対に現実へ帰ろうね!」

 

 リーファ達が話をしている中。

 

「腕が鳴るぜ!」

 

「少し、怖いわ」

 

「大丈夫だよ。シズカール君。みんな強いんだから」

 

 ギルド、ジャイアンズのメンバーもやる気を見せている。

 

 尚、スネミスはアルベルヒが行った実験の後遺症なのか、体調不良のため参加できていない。

 

 しばらく進んでいた攻略組の前に分厚い扉が現れた。

 

 これを開ければ、最後のボスとの戦いが待っている。

 

「みんな」

 

 キリトは周りを見る。

 

 まずはシノン。

 

 途中からSAOに参加しながらも射撃スキルや冷静な判断で攻略組になった一人。

 

 フィリア。

 

 ホロウエリアで出会い、PoHに騙されていた少女だが、今は自分を信じて、戦うトレジャーハンター。

 

 

 シリカ。

 

 ノビタニアンが迷いの森で出会い、ピナを生き返らせるために出会い、第七十六層へ来てしまったことからレベルを上げて攻略へ参加するようになった少女。

 

 リズベット。

 

 鍛冶屋、リズベット武具店の店長。七十六層の騒動でスキルの一部を失いながらも失われたダークリパルサーに代わるリメインズハートを作ってくれた最高の鍛冶師。

 

 

 リーファ。

 

 リアルのキリトの妹でSAOへ来るためにナーヴギアを使った。リアルの剣道を使いながら一人の剣士として戦ってきた。SAOの中で昔のような関係へ戻れたと思っている。

 

 

 アスナ。

 

 自分の妻であり最愛の人。色々なところで自分を助けてくれた強い人だ。現実世界へ戻ってもずっと一緒にいたいと思っている。

 

 

 ユイ。

 

 正体はAIだが、キリトにとっては大事な一人娘。

 

 

 

 ユウキ。

 

 はじまりの街から共にしてきた剣士。キリト以上の瞬発力を持つ、おそらく、ノビタニアンと出会っていなかったら二刀流はユウキが取得していただろう。

 

 

 

 ノビタニアン。

 

 彼のことは多くを語る必要はないだろう。

 

 あの日、自分と出会ったことで関係は始まった。

 

 ずっと一緒にいてくれてありがとうとキリトは心の中で呟くと相棒であるノビタニアンが真っすぐにこちらを見る。

 

 

――行こう!

 

 

 相棒の言葉にキリトは頷く。

 

「行くぞ!!」

 

 

 

 ボスとの闘いは今までのものを凌ぐ激戦だった。

 

 ストレアを模したモンスターと巨大なストレアのようなボスモンスター。

 

 彼女を助けるためといいながら剣を振るい、戦いを行う。

 

 キリトが二刀流を振るい。

 

 モンスターの攻撃をノビタニアンが盾で防ぎ、

 

 アスナの細剣とユウキの片手剣が煌めき、

 

 仲間を守るためにリーファとフィリアがソードスキルを繰り出す。

 

 ピナと共にシリカがフィールドを駆け巡る。

 

 リズベットがメイスでモンスターの頭をフルスイングし、全体を援護するようにシノンが射撃を行う。

 

 ジャイトスの武器が牽制を行い、シズカール、ヒデヴィルがモンスターと戦う。

 

 クラインと彼の仲間がそれぞれの武器を振るい、

 

 エギルがタンクとして奮闘する。

 

 長い時間を経て、ボスは倒された。

 

 本来なら消滅するはずだったストレアもユイの手によってキリトのナーヴギアへデータが送られる。

 

 これですべてが終わるのだ。

 

 誰もがそう考えていた時。

 

 紅玉宮の室内で拍手が響く。

 

 とても小さなもののはずなのに全員がその音を聞いて動きを止める。

 

 紅玉宮の玉座のような場所。

 

 そこから現れたのは深紅の甲冑を纏い、白い盾を持つ男。

 

 神聖剣を扱う最強の男、ヒースクリフだった。

 

「おめでとう、実に見事な勝利だったね」

 

「!?」

 

「そ、そんな……」

 

「嘘だ」

 

「ラストバトル、見させてもらったよ」

 

「ヒースクリフ……生きていたのか」

 

 現れた男、ヒースクリフにキリトは息をのむ。

 

「身構えないでくれたまえ、君たちにお詫びをしに来たんだ」

 

「詫び?」

 

「ここまで何の説明もしないでいたこと。本当に申し訳なく思っている。なぜ、そんなことになったのか、そして、なぜ私が生きているのかを君たちに説明しなければならないだろう」

 

 ヒースクリフは語る。

 

 第七十五層のキリトとノビタニアン参加によるヒースクリフとの決闘。

 

 その途中で起こったシステム障害がすべての発端だという。

 

「あの時、この世界を制御しているカーディナルシステムに予想外の負荷がかかってしまった。負荷の要因はプレイヤーの負の感情によって引き起こされたエラーの蓄積、キミ達がよく知っているであろうメンタルヘルス・カウンセリングプログラム……MHCP試作二号コードネーム“ストレア”。彼女はこの世界のプレイヤーたちが抱える負の感情に対処できず、次々とエラーを蓄積していき、やがて抑えきれなくなった膨大な量のエラーがカーディナルシステムのコアプログラムに流れ込んできてしまった。そして負荷の要因のもう一つが須郷君達による外部からの干渉だ……外部干渉という例外的状況の対応にカーディナルシステムの処理能力の多くを割かなくてはいけなくなった」

 

 この二つが想定外の負荷を引き起こし、カーディナルシステムの一部が暴走するという事態になってしまい、ヒースクリフは強制的に管理者モードへ切り替わり、決闘の途中にあの場から姿を消すことになったという。

 

「一刻も早く、このことを伝えたかったのだが、そのあとも対応に追われてしまったね。こうしてキミ達の前に姿を現すことが遅れてしまったというわけさ」

 

「つまり、あの時、勝負はついていなかった」

 

「そういうことになる」

 

「……」

 

 キリトは小さく拳を握り締める。

 

 あの時、自分は勝利したと思っていた。しかし、それは間違いだとヒースクリフに言われたのだ。

 

「それにしても、キミ達には本当に驚かされた」

 

 感心するようにヒースクリフは言う。

 

「須郷君の予想外の動きに対しても見事に対応し、カウンセリングプログラムのユイとストレアのことも、どちらもカーディナルシステムのセキュリティプログラムによって消去されるはずが、それを救って見せた。やはりゲームの運営には想定外の事態がつきまとう……いや、やはりあのネコ型ロボットと行動を共にしていたからこうなるのは当然だったといえるんだろう」

 

「これだけ人間が深くかかわる世界だ。すべてが思い通りになると思うなよ!」

 

「もちろん、その通りだ。しかし、私の思い通りになることもある。たとえば、ゲームクリアの可否」

 

「なっ!?」

 

「この期に及んでクリアさせないっていうつもりじゃ」

 

「それはない。これでもフェアプレイを心掛けているつもりなんでね。キミ達は間違いなく百層のボスを倒した。本来の想定とは違う。イレギュラーなボスではあったがね」

 

 勿論とヒースクリフは続ける。

 

「イレギュラーだからといって君たちの勝利を取り消すつもりはない。そもそも、最後のボス戦に遅れたのは私の方なのだから」

 

 

 

 

――改めて、賞賛を送ろう、クリアおめでとう、勇敢なる者たちよ。

 

 

 

 ヒースクリフの言葉を素直にキリトは受け取れなかった。

 

「気に入らないな」

 

「数々の非礼を詫びよう、約束を違えたのはこちらの責任だ」

 

「そうじゃない、あんたはさっき、百層のボスをイレギュラーだったといったよな?」

 

「百層のボスは私が受け持とうとしていたからな」

 

 七十五層の決闘前にもヒースクリフは語っていた。

 

 そのことをノビタニアンは思い出す。

 

 だから、キリトの言いたいことを理解できた。

 

「俺達はこのゲームを……SAOを、二年以上プレイし続けてきた。文字通り、命をかけてな……そのゲームのラスボスがイレギュラーな存在だった、だと?それはプレイヤーに対する裏切りってもんなんじゃないのか?」

 

「つまり君は、無謀にもこう言おうというのか?本来のボスと決着をつけさせろ」

 

「……いま、俺が心の中で思っていることを言えといわれたらそうなるな。とはいえ、もちろん、みんなを巻き込むつもりはない……百層のボスを倒したことは間違いないんだ。俺以外の全員をログアウトさせてくれ。そのあと、俺と勝負してほしい」

 

「キリトだけじゃないよ」

 

 彼の傍にノビタニアンは立つ。

 

「イレギュラーなボスで終わりなんて、今までの二年間を無駄にするようなものだよ!僕達はちゃんとボスと戦って勝利して現実世界へ帰るんだ。僕も一緒だよ」

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!何を言っているの!?クリアできたんだから、一緒に現実世界に帰ろうよ!ノビタニアンさんも!」

 

「スグ……すまない、けど、これは、俺の……俺達なりのけじめのつけ方なんだ。今ここでヒースクリフを倒さずにゲームをクリアしてしまったら、きっと、俺は現実世界に戻っても、きっと、SAOに縛られたままだろう。心をアインクラッドに残したまま、現実世界に帰っても空しいだけだ」

 

 止めようとするリーファにキリトは言う。

 

「そんな!ノビタニアン君!」

 

「ごめんね、リーファちゃん。でも、大丈夫。リーファちゃんより、ほんの少し帰るのが遅くなるだけだから」

 

「先に帰って、夕飯でも作って待っててくれよ」

 

 キリトが呑気にいう。

 

「…………イヤ」

 

「スグ?」

 

「お兄ちゃんとまた離れ離れになるなんてぜったいにいや!お兄ちゃんが残って戦うならあたしだってそうする!!」

 

「何言ってんだ!?」

 

「俺も乗るぜ、キリ公!ノビ坊!本当のラスボス倒して、アインクラッドにケリつけよーや!!」

 

「クライン、さん」

 

「私も乗るわ。この決着。ケリをつけなきゃならないのは私も同じだもの」

 

「クライン、シノン!みんなの命まで危険にさらす必要はない」

 

「アタシだって、このゲームにはアンタと同じだけのプレイ時間を費やしてきたんだからね。ここでしっかり終わらせないと費やした時間が無駄になる気がする。一緒にケリつけようよ」

 

「あ、あたしも残ります!ノビタニアンさんやキリトさん達だけを残して現実世界に帰るなんて嫌です!ノビタニアンさんと一緒に現実に帰るんです!」

 

「リズ……」

 

「シリカちゃん」

 

「私も一緒に戦うよ。他の人と比べて、キリトと過ごした月日は短いかもしれないけれど……私はキリトからいろんなことを学んだの。その中でも一番大切なことが、困難に立ち向かうための強い心なんだから!」

 

「フィリア……」

 

「大丈夫だよ、キリト君だって、負けるつもりないんでしょ?」

 

「それはそうだけど」

 

「みんなが一緒なんだから、絶対に負けないよ!ボク達は最高のパーティーメンバーだ!」

 

「アスナ……ユウキ」

 

「やれやれ、保護者として俺も付き合う必要がありそうだな」

 

「俺様も付き合うぜ!」

 

「私も!このまま終わるなんてできないわよ!」

 

「僕も同じだよ。この二年間をきちんと終わらせよう!」

 

「エギル……みんな、いいのか?」

 

「うん、決意は固まっている。キリト君についていくよ」

 

 アスナの言葉にキリトは頷いて。

 

「ふ……人の意思というものは本当に面白い。私はこの光景が見たくて、SAOを作り上げたのかもしれないな」

 

「アンタの作ったこの世界を、今ここで俺達が終わらせる!」

 

「これが最後の戦いだよ!」

 

「よろしい、かかってきたまえ、正真正銘のラストバトルをはじめるとしよう」

 

 ヒースクリフの言葉と共にキリトは駆け出す。

 

 彼の繰り出す二刀流をヒースクリフは愛剣で受け止める。

 

「やはり、前よりも速度は増しているか」

 

「当然!何より」

 

 気付いたヒースクリフが後ろへ下がる。

 

 彼のいた場所へノビタニアンのリベリオンクラレントがソードスキルを纏い、さく裂した。

 

「驚いたな。キミが盾をすてるとは」

 

「キリト!」

 

「おう!」

 

 ヒースクリフが反撃に移る前に二人の猛攻が始まる。

 

 第七十五層の時と違い、二人の速度は前よりも上昇している。ヒースクリフも余裕の態度を浮かべておらず、本気で相手の動きを見極めようとしていた。

 

「だからこそ!」

 

 ノビタニアンのリベリオンクラレントが輝く。

 

「それは!」

 

 ヒースクリフが驚きの表情を浮かべるが間に合わない。

 

 ホロウエリアでノビタニアンが実装エレメント調査で入手した片手剣ソードスキル、カーネージ・アライアンスがヒースクリフの体を切り裂く。

 

「ホロウエリアで、そのスキルを」

 

「当然、俺も!」

 

 ノビタニアンとスィッチしてキリトが二刀流ソードスキル“ブラックハウリング・アサルト”が放たれた。

 

 体勢を崩していたヒースクリフは盾を構える暇もないまま、二刀流の嵐に飲まれる。

 

「このまま終わると思わないことだ」

 

 二人の反撃の隙間を見つけた彼のソードスキルがキリトへ狙いを定めようとしていた時。

 

「駄目だ!」

 

 先回りしたノビタニアンがリベリオンクラレントで受け止める。

 

 剣で受け止めていることでソードスキルが繰り出されず、ノビタニアンのHPはあっという間にグリーンからイエローに変わる。

 

「うぉおおおおおおおおおお!」

 

 横からキリトがエリュシデータでヒースクリフの剣をはじく。

 

 ヒースクリフのHPもイエロー。

 

「これで」

 

――終わらせる!!

 

 互いの感情が交差して剣がぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ、キリト君」

 

「ヒースクリフ」

 

 戦いに勝利したのはキリトとノビタニアン。

 

「これほどまでに鮮やかに勝利をおさめるとは、私の想定以上だ」

 

「ヒースクリフさん、教えてください。どうして、貴方はドラえもんのことを知っているんですか!?」

 

 ノビタニアンがヒースクリフへ聞きたかったことを尋ねる。

 

「そういえば、まだ話をしていなかったな。教えよう。なぜ、私がドラえもん君のことを知っているのか、実をいうとノビタニアン君、いや、野比のび太君。私はキミと会っていたのだよ。ただし、別世界のキミとだ」

 

「……それは、どういう」

 

「魔法世界の野比のび太君とドラえもん君と私は会っているのだよ」

 

「え?」

 

「魔法世界って、もしかして、俺達がもしもボックスで行った世界?」

 

「キミ達は知らないだろうが、数年前、地球に未知の衛星が迫っていてね。それの対処で国が秘密裏に動いていた。私も協力者としてプロジェクトに参加していた。その中で野比のび太とドラえもんと出会った。彼らはもしも箱という魔法道具とやらで、科学の世界へやってきたという。彼らから色々な冒険の話を聞かせてもらったのだよ。今回の九十層以降でその冒険内容を反映させてもらった」

 

「だから、ユミルメや魔界みたいなエリアがあったのか」

 

「まさか、この世界のノビタニアン君と出会うことになるとは思わなかったがね、何が起こるかわからないものだ……さぁ、アインクラッドの最後のボスは倒された。キミ達が勝利者だ。これから順に君たち全員が元の世界に戻っていく」

 

「ヒースクリフ、アンタは?」

 

「私は戦いに敗れたのだよ。今は創造者の権限でこうしてキミ達と話をしているが、ここでSAOのルールを自ら破っては私にとって唯一の現実であるこの世界を否定することになってしまう」

 

「そんな……」

 

「ここでお別れだ。キミ達がこの世界に来てくれて、本当に良かったと思っているよ。私の夢想の中でキミ達は真剣に生きてくれた」

 

「確かに……ここはゲームの中の世界だ。それでも俺はここも一つの現実だったと思っている」

 

「僕も……嫌なことや辛いこともたくさんあったけれど、楽しいこと、嬉しかったこと……出会いもあった……ここはもう一つの現実だよ」

 

 ノビタニアンはそういってユウキをみる。

 

 ユウキもこくりと頷く。

 

「そう、思ってくれるのか……ありがとう、キリト君。ノビタニアン君」

 

 ヒースクリフの姿が消える。

 

 それと同時に巨大な鐘の音色が流れ出す。

 

『ただいまよりプレイヤーの皆様に緊急のお知らせを行います。現在、ゲームは強制管理モードで稼働しております。すべてのモンスター及び、アイテムスパンは停止します。ゲームはクリアされました』

 

「ゲームクリア。これで本当に私達、きゃっ!」

 

 アスナが喜びを露わにしようとした時、地面が揺れだす。

 

「これって、浮遊城全体が壊れ始めているんじゃ?」

 

「シリカちゃん、光ってる!光っている!」

 

「光っているって、え?あ、なんか、景色がぼんやりしてき」

 

 最後までいう前にシリカが消えてしまう。

 

「き、消えちゃった」

 

「だ、大丈夫なのかよ、オイ」

 

「強制転移させられたみたいだけど」

 

「おそらく、現実世界への転送が始まっているんだ」

 

「じゃあ、長かったSAOでの日々もこれでもう終わりなんだね」

 

「でも、本当にこれでクリアなのかしら、いまいち実感がわかないっていうか」

 

「ボスにはてこずらされたが、それでも幕切れとしてはあっけないもんだったな……」

 

「そうね、この世界がなくなっちゃうなんて、やっぱり、なんだか寂しいわね」

 

「うん、自分でも気づかないうちにアインクラッドでの日々を楽しんでたんだなぁーって、思う」

 

「あぁ、俺も同じ気持ちだ」

 

「キリト君、本当、いろんなことがあったね。キリト君と一緒に戦って、泣いて笑って、ゲームの中なのにここで過ごした時間が一番長く感じた」

 

 アスナの言葉にキリトは頷く。

 

「俺もそうだよ、本当に色々なことがあった」

 

「ねぇ、私達、現実に帰っても変わらないよね?この世界でキミと作った絆は本物だって信じているから」

 

「当然だよ。現実に戻ったとしても君への気持ちが変わらない。俺は変わらずアスナが大好きだ」

 

「ありがとう、キリト君。わたしも、好き……愛しています」

 

「現実に戻ったら、真っ先に会いに行くよ」

 

「待ってる。ずっと待っている。でも、あんまり遅かったら、私から会いに行っちゃうかも。あ、うふふ」

 

「どうしたんだ?」

 

 笑い出したアスナへキリトは尋ねる。

 

「ううん、よく考えてみたら。私、キリト君の本当の名前を知らなくて。それなのに、こんなに好きで愛してて、ネットゲームっておかしいなって」

 

 キリトは苦笑する。

 

「ああ、確かに。現実とは色々と順番が違うからな」

 

「教えてほしいな。現実世界で呼び合えるように」

 

「俺は桐ヶ谷和人、あ、年齢は十六歳だと思う」

 

「きりがや……かずと君」

 

 小さく、アスナは彼のリアルの名前を呼ぶ。

 

 そして。

 

「私は結城明日奈、十七歳です。キミと過ごしたこのかけがえのない時間は絶対に忘れない」

 

「現実に戻ってからも二人の思い出を作り続けよう、明日奈」

 

「うん!」

 

 和人の視界も真っ白に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノビタニアン……えっと」

 

「ユウキ、そういえば、僕の本当の名前、教えていなかったよね」

 

「あ、そうだね」

 

「僕の名前は野比のび太……向こうだと十六歳になっていると思う」

 

「ボクの、ボクの名前は……紺野……紺野木綿季だよ」

 

「……木綿季」

 

 小さくノビタニアンは繰り返す。

 

「ねぇ、のび太。現実に帰るまで……その、手をつないでいてくれないかな」

 

「手を?」

 

「駄目?」

 

「ううん、良いよ」

 

 二人は互いの手を握る。

 

「暖かいね。のび太」

 

「木綿季の手も暖かいよ……僕は絶対に会いに行くからね。待っていて」

 

「……うん、そうだね。待っているよ」

 

 儚げにほほ笑む木綿季の手を最後まで握り続ける。

 

 そういってのび太の視界が真っ白に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、多くの死者を出したソードアート・オンラインはクリアされる。

 

 

 

 

 

 

 クリアに費やしたのは二年と数か月だった。

 

 

 

 

 



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25:小さな願い

今回からSAOアフターストーリースタートです。


 野比のび助と野比玉子は慌てた様子で病室へ駆け込む。

 

 数時間前、病院側から緊急の電話があった。

 

 仕事が休みだったのび助と二人でくつろいでいた玉子は電話の内容に慌てて部屋の中にやって来る。

 

 

――息子が目を覚ましたと。

 

 

 二人の最愛の子供、野比のび太は友達の桐ヶ谷和人と共に世界初のVRMMOの世界に囚われていた。

 

 その名前をソードアート・オンライン。

 

 二人は詳しいことを知らないがゲームなのにHPがゼロになった途端、プレイヤーの頭は装着している凶器、ナーヴギアによって破壊される。

 

 政府の対策チームという人から聞かされた内容に玉子は目の前が真っ暗になった。

 

 最初は自暴自棄になりかけたが最愛の夫となんとか乗り切って、彼らは毎日、息子のケアを行った。

 

 同じ場所に入院していた桐ヶ谷家と会った時は恨み言などをぶつけようと思っていた玉子だが、泣いている直葉の姿を見て、その感情は消え失せて、今は家族共にケアをしている。

 

 二年間。

 

 息子の安否を気遣いながら眠っている彼の体のケアをし続けた。

 

 二年が過ぎて数か月。

 

 のび太が目を覚ましたと聞いて二人は病室へ駆け込む。

 

 今までは白い部屋に最愛の息子が凶器のナーヴギアを装着したまま死んだように眠っていた。

 

 だが、

 

「パパ……ママ」

 

 ナーヴギアを膝の上において肩まで伸びている黒い髪を揺らして彼は二人を呼ぶ。

 

 ぽろりと玉子が涙をこぼす。

 

「のび太!!!」

 

 溜まらず玉子は息子を抱きしめる。

 

「ま、ママ……痛いよぉ」

 

「生きている……本当に生きているわ!よかったわ!」

 

「のび太」

 

「パパ……」

 

 のび助はゆっくりと近づいて息子の頭をなでる。

 

 SAOの世界で息子がどのように生活してきたのかのび助はわからない。

 

 だが、やりきったような顔をしているのび太を見て彼は微笑みながら撫でる。

 

 こうして、野比家は再会することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しの月日が進んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、空が青い」

 

 総合病院の中庭。

 

 そこで野比のび太はベンチに腰かけて青空を見ている。

 

 病院服を着て、ぼーっと空を見ている彼へ近づいてくるものがいた。

 

「やぁ、野比のび太君」

 

「……菊岡さん、でしたか?」

 

 彼の前にやってきたのは髪をオールバックにして、メガネをかけ、ビジネススーツを纏った男性。

 

 彼は菊岡誠二郎。総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二分室に努めている職員。

長い職業名。

 

 彼は通信ネットワーク内仮想空間管理課:通称仮想課であり、SAO事件において、被害者の搬送先となる病院の受け入れを整えたという人物らしい。

 

「そうだよ。隣、いいかな?」

 

「どーぞ」

 

 のび太が言うと菊岡は腰かける。

 

「今度は僕の事情聴取ですか?」

 

 菊岡はSAO内の情報を求めて、攻略組だったプレイヤーに事情聴取として話を聞いていた。

 

 最近までキリトこと、桐ヶ谷和人の事情聴取をしていたという。

 

 のび太はようやくリハビリが終わり、退院が近づいていた。今まで聴取がなかったことからようやくということだろう。

 

「そう……といいたいところなんだけどね。キリト君に頼まれたことがあってね」

 

「和人に?」

 

「紺野木綿季さん」

 

「!?」

 

 驚いた顔で菊岡を見る。

 

 彼は小さな笑みを浮かべて話をつづけた。

 

 その名前を聞いたとき、ズキリとのび太の心が痛んだ。

 

「彼女とまだ再会できていないんだろう?」

 

 SAOで二年間を共に過ごした仲間で、大切なパートナー、ユウキ。

 

 彼女と再会できていないことが棘となってのび太の心に突き刺さっている。

 

「そんなノビタニアン君のことを心配したキリト君が僕に彼女の居場所を探すように頼んできたのさ、SAOの情報を条件としてね」

 

「和人……」

 

 親友の行動にノビタニアンは嬉しさがこみ上げると同時に迷惑をかけてしまったことに申し訳なさを感じた。

 

「菊岡さん、ユウキはどこに?」

 

「ここに彼女の居場所が記されてある」

 

 菊岡はメモ用紙を取り出す。

 

 それをのび太が受け取ろうとした時。

 

「でも、会うなら少し覚悟しておいた方がいい。彼女はかなり特殊な状況下にある」

 

「特殊な、状況?」

 

 言葉の意味がわからずのび太は困惑してしまう。

 

 SAOにおいてユウキが伝えていた病気と関係があるのだろうか?

 

 だとしても、

 

「そうだとしても、僕はユウキにもう一度、会いたいんだ。だから」

 

 菊岡の手の中にあるメモ用紙をのび太は受け取る。

 

「後悔しないね?」

 

「覚悟は決まっています」

 

「なら、これ以上は言わないよ。頑張ってね」

 

「ありがとうございます」

 

「お礼ならキリト君に言うべきだよ」

 

「それもそうですね」

 

「あれ!?」

 

 驚く菊岡の前でのび太は松葉杖をつきながら立ち上がる。

 

「行くのかい?」

 

「……ここからならすぐに行けますから」

 

 菊岡に背を向けてのび太は歩き出す。

 

「英雄も大変だね~」

 

 のんびりとした態度で菊岡はその背中を見送った。

 

 菊岡は去っていく少年の後姿を見る

 

 野比のび太。

 

 年齢は十六歳。

 

 最前線で戦っていた他のSAO帰還者と同様に短期間でリハビリを終えた人物。

 

 彼がどうなるのか、菊岡はその先を想像して小さく笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来ならのび太は母である玉子と共に家へ帰る予定だった。

 

 しかし、玉子の到着が大幅に遅れるということで、のび太は菊岡からもらったメモの場所へ向かうことにする。

 

 母が心配しないように事前に場所などのことはメールで送ってあった。

 

 のび太がやってきたのは横浜北総合病院。

 

 そこにユウキがいるという。

 

 彼女と再会できると考えるとのび太の心臓がバクバクと音を立てる。

 

 受付にいる女性へのび太が声をかける。

 

「あの、すいません」

 

「はい」

 

「紺野木綿季さんに会いたい、えっと、面会を希望するんですけれど」

 

「え?」

 

 のび太の言葉に受付の女性は目を丸くする。

 

 何か問題ある発言でもしただろうか?

 

 困惑しているとのび太の傍に誰かがやって来る。

 

「もしかして、野比のび太君かい?」

 

「あ、はい」

 

 振り返ると白衣の男性が立っていた。

 

「貴方は……?」

 

「私は倉橋といいます。紺野木綿季さんの担当医です」

 

「木綿季の!?」

 

「……キミのことは彼女から聞いていました。もうそろそろ来られるのではないかと思っていましたよ。さ、案内します」

 

 倉橋に言われてのび太は病院内を歩く。

 

 しばらくして最新設備が沢山、用意されている部屋へ到着する。

 

「ここでは消毒を行いますので中へ入ってください」

 

 倉橋に促されて無菌室へ入り、そのまま目の前の扉を抜けた。

 

 真っ白な空間。

 

 ガラス張りの向こう。

 

 そこに一人の少女が寝ていた。

 

 頭部に機械を装着している少女は異様にやせ細っている。

 

『やっぱり……来たんだね』

 

 室内に設置されているスピーカーから響く声にのび太は目を丸くした。

 

 その声はSAOで何度も聞いてきた声。

 

 共にフィールドを駆け抜けて、様々な日々を送ってきた相棒のような少女。

 

「……ユウキ?」

 

『そうだよ、のび太』

 

「どういう……こと?」

 

『やっぱり驚くよね?前に話したと思うけれど、ボクの病気が原因なんだ』

 

「……病気?」

 

 SAOでユウキが話していた病気。

 

 それが何なのか、知る時がきたようだ。

 

「それは」

 

『AIDSなんだ』

 

「A……IDS?」

 

 困惑するのび太に木綿季は話す。

 

 自身が抱えている巨大な爆弾について。

 

 紺野木綿季は出生時に輸血用血液製剤からHIVに感染してしまった。

 

 同じように彼女の両親や双子の姉もAIDSに感染してしまったという。すでに両親は他界しており、姉は別の場所で闘病生活を送っているがあまり長くないかもしれないという。

 

 かくいう木綿季も治療法が見つかっていない。

 

「そんな、ことって」

 

『本音をいうと、SAOですべてが終わればいいなって思ったんだ。そうすれば、こんな姿を見られることなく終わったのになぁって……でも、やっぱり現実世界で会いたかったんだ。触れられないけれど、のび太と会えてボクは嬉しいよ』

 

「そうだね。僕も嬉しいよ。触れ合えないのが本当に悲しい……ねぇ、ユウキ」

 

『なに?』

 

「これからも会いに来ていいかな?」

 

『……会いに来てくれるの』

 

 スピーカー越しの声は喜びを堪えているように感じた。

 

「うん」

 

『でも、ボクは』

 

「……僕はユウキと最後まで一緒に居たい。色々な話をして、いろんなことを伝えあいたい。こんな関係があったっていいじゃないか」

 

 俯いたままのび太は言う。

 

『のび太……』

 

「今日はもう帰らないといけないけれど、また会いに来るからね」

 

 にこりと笑みを浮かべてのび太は病室を後にする。

 

 その後、のび太は倉橋と二三、会話をしてから総合病院から家へ帰った。

 

 どうやって家へ帰ったのか思い出せない。

 

 途中から頭の中が真っ白になっていた。

 

 家へ帰り、二階の自室へ入ったところでのび太は椅子をどけて机の下へ入り込む。

 

 悲しいことがあると机の下へ。

 

 かつてドラえもんが帰ると知った時のショックと同じ、いや、それを超えるかもしれない衝撃だった。

 

「のびちゃん?」

 

 蹲っているのび太へ玉子が声をかける。

 

「どうしたの?」

 

 膝をついて玉子は最愛の息子と目を合わせた。

 

 顔を上げた息子の顔を見た玉子は驚く。

 

「のびちゃん、どうしたの?」

 

 のび太はぼろぼろと涙をこぼしていた。

 

 玉子は驚く。

 

 彼の泣き顔をみるのは実に久しぶりだった。

 

 息子はドラえもんが帰ってから泣いたのは一回きりだ。

 

 また、この子に何か起こったのだろうか?

 

「のびちゃん」

 

 玉子は優しくのび太の頭をなでる。

 

 しばらくのび太は玉子の腕の中で泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、紺野木綿季ちゃんというの……」

 

「僕は何もできないんだ……ユウキを助けたいのに……病気のことだから、何もできない」

 

 のび太は無力だ。

 

 SAOでキリトと並ぶ英雄だといわれても現実世界へ帰れば非力などこにでもいる。いや、それよりも劣る十六歳の少年にすぎない。

 

 そんな少年に難病を抱えている少女を助ける手段などあるのだろうか。

 

 答えは明白、ありはしない。

 

 だから、のび太は悔しい。

 

 無力な自分が嫌になる。

 

 何もできないからこそ、苛立ちが募っていく。

 

「悔しいよ。僕は……SAOの中じゃ白銀の剣士と言われても、リアルじゃ何もできない。いや、もともと、僕は何も……こんなんじゃ……僕は」

 

「のびちゃん、のびちゃんは、どうしたの?」

 

「僕は……」

 

 のび太は考える。

 

 頭に浮かぶのはSAOで築き上げたユウキとの時間。

 

 温泉へ突き落されたり、嫉妬して殴られたり。

 

 ともにフロアボスへ挑んだり、色々なおいしいものを食べたりした記憶。

 

 しばらくして、彼は顔を上げる。

 

「ユウキを助けたい……ユウキと一緒にいろいろなものをみたい。一緒に楽しいことをしたい。SAOの時みたいに和人やみんなと一緒に、いたい」

 

 話を聞いていた玉子は立ち上がる。

 

「ママ?」

 

 玉子はのび太の部屋の襖を開ける。

 

 そこはかつて大親友が眠っていた場所。

 

 無駄に立ち入ることを許さず、プライバシーの侵害だと怒ったほどだ。

 

 襖をあけてがさごそと漁っていた玉子はあるものを取り出す。

 

「それは……?」

 

 玉子は座るとのび太へ差し出す。

 

 銀色のドラえもんを模した箱。

 

「これはドラちゃんがのびちゃんのために残した最後の道具よ」

 

 




箱の中身は!?


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26:帰ってきたドラえもん

やっと、このタイトルが出せた!


 

 話は五年前までさかのぼる。

 

 ドラえもんが帰らないといけない日。

 

 ジャイアンと決闘をしてボコボコになりながらものび太は勝利をもぎ取った。

 

――僕は大丈夫だよ。ドラえもん、だから、安心して未来に帰って。

 

 ボロボロになりながらドラえもんを安心させる言葉を伝えて、のび太は痛みで顔を歪めながらも笑みを浮かべていた。

 

 今は疲れて眠りについている。

 

 玉子も就寝準備をしようとしていた時。

 

「ママ」

 

 呼ばれて振り返るとドラえもんがやってくる。

 

「ドラちゃん、帰るのね?」

 

「はい、今までありがとうございました」

 

「いいえ。元の時代に帰っても元気でね」

 

「あの、これを預かっておいてください」

 

 ドラえもんは腹部の白いポケットから自分と同じ姿を模した道具を取り出す。

 

 彼のポケットは四次元ポケットといわれて、未来の道具が入っている。

 

「それは?」

 

「もし、のび太君が本当に助けを求めてきたときにこれを渡してあげてください。この中に一つだけ、のび太君の役に立つ道具が入っているから」

 

「道具?」

 

 コクリとドラえもんが頷く。

 

「のび太君がこれから頑張っていくんだろうけれど。もしかしたら何かあるかもしれない。その時に、のび太君が道具を必要として、誰かを助けたいときのためにこれを残しておきます。本当にたった一回、一回だけの道具だから」

 

「のび太へ直接、渡さないの?」

 

「多分、渡したらそれに頼っちゃうから、ママからみてのび太君が本当に必要とした時に渡してほしいんだ」

 

 ドラえもんは心の底からのび太の将来を心配してくれている。

 

 血のつながりも、人ですらないけれど、ドラえもんは本当にのび太のことが好きなのだと玉子はわかった。

 

 本当ならもっと居たいのだろう。

 

 だが、それは出来ない。

 

 やり遂げプログラムというものでドラえもんは未来に帰らないといけないのだ。

 

 本人の意思に関係なく帰らなければならない。

 

 そのことに悲しく思いながらも玉子は言葉にしない。一番、辛いのは目の前にいるドラえもんとのび太なのだから。

 

 玉子は微笑む。

 

「本当にのび太が必要と思ったときに渡すわ……安心してドラちゃんは未来へ帰って」

 

「ありがとう、ママ」

 

 ドラえもんを玉子は優しく抱きしめる。

 

「未来でも、元気でね。あなたは私の子供のようなものなんだから」

 

「ママ……」

 

 ドラえもんは涙をこぼしながら玉子を抱きしめ返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当ならエイプリルフールで騙されて泣いていた時に渡すべきかもしれないと思っていたわ……でも、のびちゃんは和人君の手助けを借りながらも乗り越えた」

 

「ママ……」

 

「でも、今回の件はのびちゃんだけで乗り越えられそうにないのね……。だから、これを渡してあげる。ドラちゃんが残した最後の道具よ」

 

 玉子はそういってドラえもんのケースをのび太へ渡す。

 

 受け取ったのび太はそれをみて悩む。

 

 今、この道具に頼ってしまっていいのだろうか?

 

 確かに、道具の力ならユウキのことをなんとかできるのかもしれないだろう。だが、本当にそれでいいのか。

 

「頑張ってね。ママは応援しかできないから、それとご飯よ」

 

「うん。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、松葉杖をついてのび太は桐ヶ谷家へやってきた。

 

 桐ヶ谷家は昔ながらの造りで祖父が使っていた剣道場がある。

 

「あれ、のび太君?」

 

「や、直葉ちゃん」

 

 桐ヶ谷家の玄関をノックすると、和人の妹、直葉が出迎えた。

 

「お兄ちゃんに会いに来たの?」

 

「うん、いるかな」

 

「いるよ。入って、入って!」

 

 直葉にいわれてのび太は家の中へ上がり込む。

 

「直葉ちゃんはリハビリ、終わったんだよね?」

 

「うん!お兄ちゃんたちよりSAOにいた期間は短かったからね。体も鍛えていたし」

 

「剣道部だったけ?」

 

「そう!あ、のび太君もお兄ちゃんみたいに剣道場で鍛えてみない?ビシバシ!とSAOの時みたいにできるかも!」

 

「えっと……考えておきまーす」

 

 リビングで直葉がいれてくれたお茶を飲みながら他愛のない話をしているとラフな格好をした和人がやってくる。

 

「あれ、のび太、来ていたのか?」

 

「……もしかして、寝てた?」

 

「まぁな、それより、どうしたんだ」

 

「実は相談したいことがあって」

 

「……真面目な話みたいだな」

 

 和人に頷いてのび太は持ってきていたカバンからあるものを取り出す。

 

「それって、ドラちゃん?」

 

「ドラえもんが残してくれた最後の道具なんだ」

 

 のび太はユウキのことを踏まえて道具について話をする。

 

「そっか、ユウキと会ったんだな」

 

「うん……」

 

「のび太君はその道具でユウキを救うの?」

 

「それが正しいのかわからないけれど、僕はユウキとまた一緒に居たい。でも、少し踏ん切りがつかないんだ、これを使って本当にいいのか、どうか、和人の意見が聞きたくて」

 

「……のび太が決めたことなら俺は迷わずにやればいいと思う。SAOでもそうだ。のび太は誰かを助けるためならどんな無茶もしてきた。今回のことも、ユウキを助けたいなら迷わずに動けばいいんじゃないか」

 

「お兄ちゃんの言うとおりだと思う。確かにドラちゃんが最後に残した道具だから使うかどうか悩むのはあると思うよ?でも、今使わないと、後悔するならやるべきだと私は思う」

 

「和人、直葉ちゃん」

 

「それに、忘れていないか?もう少ししたらエギルの店で打ち上げをやるんだぞ」

 

 和人の言葉にのび太は「あ!」と驚きの声を漏らす。

 

「その様子だと忘れていたみたいだな」

 

「いやぁ」

 

「お前は本当に……」

 

 少し前に和人を中心として全員と連絡を取り合い、SAOをクリアした打ち上げをエギルの店。ダイシー・カフェで行うことが決まった。

 

「そうだった」

 

「あれはSAOをクリアした全員が参加しないと意味がないんだ。必ず、ユウキを連れて来いよ」

 

「うん、絶対だ」

 

 和人と拳をぶつけ合い、のび太は桐ヶ谷家を後にする。

 

 向かう先は横浜北総合病院。

 

 木綿季の病室。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のび太……また、来るかな?」

 

 病室で木綿季は彼のことを考えていた。

 

 リアルに復帰してすぐに総務省の役人という人がやってきてSAOの内情について色々と尋ねられた。

 

 担当医師の倉橋が止めに入るまで質問は続き、最後に彼女は質問する。

 

――野比のび太という人は元の世界に帰ってきましたか?

 

 その質問に総務省の役員が驚きの表情を浮かべながらも話してくれた。

 

 

――彼は現実に帰っているよ。居場所を教えてあげようか?

 

 

 彼の言葉に木綿季は首を横に振る。

 

 自分から進んで会いに行こうとしない。

 

 そもそも動けない自分ができることなんか限られている。

 

「(やっぱり、のび太と会うと……嬉しいんだ)」

 

 ドクドクと音を立てる自分の心臓に木綿季は驚いていた。

 

 のび太といると嬉しい、楽しい、もっと居たいという気持ちが強くなる。

 

 でも、それをもっと欲しがってはいけないのかもしれない。

 

「(のび太にはSAOにいた時のボクだけを覚えてほしい……と思っている。でも、今のボクを知ってほしいという自分もいる。どうすればいいのかなぁ)」

 

 そんなことを考えていると来客のお知らせが来る。

 

 相手が誰なのか。

 

 考える暇もなく目の前の面会室に現れたのは。

 

『のび太……』

 

「やぁ、木綿季」

 

『どうしたの?』

 

「……ユウキ、僕はこれから君へ嘘をつく」

 

『え?』

 

 困惑する木綿季。

 

 いきなり嘘をつくといわれたら当然だろう。

 

「その嘘でキミが救われると信じている……だから、僕を信じてくれない?」

 

 何を言っていいのかわからない木綿季。どのように返せばいいのかという答える暇もないまま、のび太は話し始める。

 

 木綿季を救うための嘘を――。

 

「紺野木綿季とその家族の病気は一生、治らない。幸せになれないまま終わる」

 

『何を』

 

「僕は木綿季が嫌いだ。会わなければよかったとすら思っている」

 

『え?』

 

 のび太から告げられる言葉に彼女はただ困惑するしかできない。

 

 しかし、ぶつけられている言葉は刃となって自分に突き刺さる。

 

 ずきずきと心に刺さり、木綿季の瞳から涙がこぼれた。

 

『どうして、ボクは……」

 

「もう二度と会いたくない……さようなら、木綿季」

 

 そういって、のび太は病室を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、良かったんだよね」

 

 壁にもたれてのび太は手の中の瓶をみる。

 

 ドラえもんが最後に残してくれた秘密道具『ウソ800』。

 

 赤い液体を飲めば、ウソが本当になるという力がある。

 

 これを使って、のび太はユウキを救うことにした。

 

 勿論、百パーセント救えるのかはわからない。

 

 でも、もしもという可能性があるのなら。

 

 彼女が生きていてくれるのなら、疎遠になっても構わない。

 

 

「ドラえもん……もう帰ってこないのはわかっているけれど、ありがとう」

 

 ユウキにもう会えないかもしれないと思いながらのび太は家へ戻る。

 

 どうやって家へ戻ったか覚えていない。

 

 玉子へ帰ってきたということを伝えて、二階の自室へ向かう。

 

 引き戸を開けて部屋の中に入る。

 

「やぁ、のび太君!」

 

 聞こえた声にのび太の時が止まった。

 

 彼の部屋の中。

 

 青いボディ、白い半円ポケット、黄色い鈴、丸い体をしたネコ。

 

 もう何年もみていない、会えない筈の親友。

 

「ドラえもん?ドラえもん!!」

 

 のび太はドラえもんを抱きしめる。

 

「どうして!?どうして!!」

 

「のび太君がウソ800で僕が帰ってこないっていったからだよ」

 

 微笑むドラえもんにのび太は涙をこぼしながら叫ぶ。

 

「ドラえもんなんか、大嫌いだ!もう会えなくても構わない!大嫌いだ!」

 

「うん」

 

「色々と話したくなんかない!僕は頑張らなかった!」

 

「うん!うん!」

 

「また会いたくなかった。永遠にさよならだよ!」

 

「うん……うん……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソードアート・オンラインかぁ……未来でもその事件は歴史に残されていたけれど、のび太君が関わるなんて思っていなかったな」

 

 やがて、ウソ800の効き目が切れてのび太はドラえもんと向かい合う形で話し合う。

 

 ドラえもんがいなくなってからの数年間。

 

 それらを埋めるように二人は話し続ける。

 

「未来でもSAOは有名なんだね」

 

「VR技術の出発点だからね。良くも悪くも話題だよ。未来においてもアミュスフィアという技術が普及しているくらいだし」

 

「アミュスフィアって」

 

 のび太は卓上を見る。

 

 そこにはなけなしの小遣いで購入したアミュスフィアと呼ばれるナーヴギアの後継機と数日後に行う予定のVRMMORPGのソフト。

 

「のび太君。もしかして、またVRを?」

 

「うん、皆もやるんだ。ドラえもんも……って、その頭じゃ無理だよね」

 

「むむ、甘いね。未来じゃネコ型ロボットも参加できるように専用のアミュスフィアがあるのさ!」

 

 ドラえもんは四次元ポケットから大きなアミュスフィアを取り出す。

 

 かなりの大きさだから、ネコ型ロボットでもすっぽりと装着できる。

 

「それ、ALOも使えるの?」

 

「ふふふ、問題ないよ!」

 

「だったら、ドラえもんも行く?」

 

「え?」

 

 のび太が話す。

 

「明日、SAOの攻略完了をお祝いした祝賀会をするんだ。ドラえもんも行こう!みんなに紹介するよ。SAOでできた仲間や大事な友達を」

 

「……のび太君、ありがとう」

 

「ううん、こっちのセリフだよ。ありがとう、ドラえもん。本当に、ありがとう」

 

 のび太はそう言ってほほ笑む。

 




果たして、これでよかったのかと自分は悩みながらもこの話を書きました。

次の話でアフターストーリーは終わって、この世界はドラえもん時空へ一時的に突入することになります。



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27:新たな世界へ

ドラえもんが帰ってきてこの反響。

やっぱり、凄いなドラえもん。


「おーい、のび太、行こうぜ」

 

 桐ヶ谷和人は妹の直葉と共に野比家へ来ていた。

 

 今日はSAO攻略を記念しての打ち上げが行われる。

 

 集合場所であるダイシー・カフェへ向かう前にのび太と合流しようとしていた。

 

「あ、ごめん、すぐ行くよ」

 

 二階の窓から身を乗り出してのび太が中へ消える。

 

「そういえば、お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

「のび太君が大事なお知らせがあるって言っていたけれど、なんだろう?」

 

「さぁな。のび太のお知らせって…」

 

 扉の向こうを見た和人は言葉を失う。

 

「お兄ちゃん?どうした……」

 

「やぁ、和人君、直葉ちゃん、久しぶり!」

 

 ドアを開けて現れるのはドラえもん。

 

 笑顔を浮かべて手を振るその姿に二人はしばらく硬直していたが。

 

「ドラえもん!?」

 

「ドラちゃん!!」

 

 直葉が笑顔を浮かべてドラえもんを抱きしめる。

 

「わっ、おっとと、大きくなったね。直葉ちゃん」

 

「本物だ!本物のドラちゃんだぁ!」

 

「これは……」

 

「やっぱり、驚くよね。実は」

 

 やってきたのび太が二人へ話す。

 

 最初は半信半疑だった二人だが、ドラえもんの道具のおかげだということで納得する。

 

「そっか、やったな。のび太」

 

「うん!」

 

 二人は拳をぶつけ合う。

 

「あのぉ、そろそろ」

 

「そうだな、おい、スグ……そろそろ明日奈も待っているから行くぞ」

 

「うん!ドラちゃん!行こう」

 

「はい!」

 

 直葉はドラえもんの手を引いて歩き出す。

 

「明日奈さんも驚くだろうね」

 

「……そうだな」

 

 自分の最愛の人はどんな反応をするだろうか。

 

 それを楽しみにしながらも和人は歩き出す。

 

「はじめまして、僕、ドラえもんです」

 

「……青い狸さん?」

 

「タヌキじゃなーい!!」

 

 アスナこと、結城明日奈はドラえもんの姿を見て目を丸くする。

 

「えっと、明日奈さん。彼はドラえもん。前に話した。僕らの友達だよ」

 

「え、ドラえもんさん!?この青いの!?」

 

「僕はネコ型ロボットなの!失礼だなぁ!」

 

「ご、ごめんなさい。えっと、私は結城明日奈といいます。キリト君……和人君のガールフレンドです」

 

「え!?和人君に彼女!?驚いたなぁ。あ、僕、ドラえもんです」

 

 二人は挨拶を交わす。

 

 ドラえもんと話を終えた明日奈が和人の傍にやって来る。

 

「驚いたよ。ドラえもんって、本当にロボットなんだね?」

 

「実物を見たら驚くよな……その反応は当然だ」

 

「でも、もう会えないんじゃ?」

 

「そこはいろいろあったんだよ。歩きながら話すさ」

 

 和人と明日奈が横を歩く中、直葉は嬉しそうにドラえもんとのび太の三人で話をしている。

 

 ドラえもんは自分が知らないことに驚く。

 

「やっぱり、のび太君がSAOの最前線でいたなんて、信じられないなぁ」

 

「まだ言っているよぉ」

 

「くすっ、のび太君はすごかったよ。盾でモンスターの攻撃を受け止めて、ソードスキルを繰り出して、お兄ちゃんの最高の相棒だったんだよ!」

 

「へぇ~、それはみてみたいね」

 

 他愛のない話をしながらみんなはダイシー・カフェへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、僕達、遅刻しちゃった?」

 

 ダイシー・カフェへのび太達が中に入ると既に参加者全員がそろっていた。

 

「大丈夫よ。アンタ達だけ到着時間を少しずらしたのよ」

 

 やってきたのはリズベット。

 

「え?それって」

 

「主役は遅れて到着するということよ」

 

 シノンの言葉に隣の和人は察したようだ。

 

「どうやら俺達にサプライズのようだな」

 

「え、ど、どゆこと!?」

 

「のび太君。キミ達を驚かせるために彼女たちは時間をあえて少し遅く教えたんだよ」

 

「あ、成程」

 

 ドラえもんの言葉でのび太は納得する。

 

「というか、アンタ達と一緒にいる。その、青い狸は?」

 

「僕はタヌキじゃなぁああああああああい!!」

 

 ドラえもんが叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(のび太、和人、事情を説明中)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、みんな、いいかな?」

 

 グラスを持った明日奈が周りへ声をかける。

 

「コップが空の人はいませんか?いたら手を上げてください……いませんね?リズさん、OKです!」

 

「えー、それではみなさん、ご唱和ください。せーのぉ!」

 

『SAOクリア、おめでとう!!』

 

 全員がグラスを掲げて叫ぶ。

 

 こうして、アインクラッド攻略記念パーティーははじまった。

 

 舞台はエギルの店、アークソフィアじゃなく、東京都大東区にある喫茶店ダイシー・カフェだ。

 

 全国のSAOプレイヤーが一斉に覚醒した時の大混乱は当然のことだ。

 

 それから検査やリハビリの毎日で、全員が会うことはできなかった。

 

 ようやく“全員”が会することができたのは今日が初めてのことだった。

 

「僕、参加していないけど、いていいのかなぁ?」

 

「あははは、まぁ、みんなは初対面だけど、そこは気にするなよ。楽しもうぜ」

 

 苦笑しているドラえもんへ和人は言う。

 

「それにしても、これがアンタ達のいっていたドラえもんなのね?」

 

 リズベット、篠崎里香はドラえもんをまじまじと観察する。

 

「SAOでもドラえもんのことは話題になっていたけれど」

 

「でも、かわいいですよ」

 

 シリカ、綾野珪子もドラえもんをみる。

 

「そんな見つめないでよ。照れちゃうよ~」

 

 頬を赤らめるドラえもんを見て、珪子と里香は同時に思う。

 

「「(かわいいなぁ~)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「詩乃……ちゃん」

 

「ちゃん付けはいらないわ。詩乃でいいわよ」

 

 のび太はメガネをかけた知的な印象を持つ少女、朝田詩乃の前に座る。

 

「えっと、リハビリの方はどう?」

 

「アンタ達と比べたらすぐに終わったわ……」

 

「よかった」

 

「それより、アンタはこれからどうするの?」

 

「SAO帰還者を集めた学校がはじまるからそこに通うつもりだよ」

 

「そっちじゃないわよ、VRの方……二次会の方は聞いているけれど、良かったら、私がやっているもう一つのゲームをやってみないかって」

 

「もう一つ?」

 

「えぇ、まぁ、落ち着いたら話すわ。アンタなら得意そうなものだし」

 

「へぇ~」

 

「おい!のび太!お前もこっち来いよ!」

 

 詩乃と話をしていると横からジャイトスこと剛田武、ジャイアンがのび太の手を引いていく。

 

「お前に話があるんだ」

 

 ジャイアンに言われて別のテーブルへ向かうとそこには源静香、出木杉英才と。

 

「スネ夫!ちゃんと言えよ!」

 

 MPKを仕掛けたスネミスこと、骨川スネ夫がいた。

 

「……る」

 

「え?」

 

「SAOで助けてくれたことは感謝している!それと、四月バカの件は、悪かった!!」

 

「最初からそうしていればいいんだよ!」

 

 ジャイアンがスネ夫の背中をたたく。

 

 その勢いで置かれているピザにスネ夫は顔を突っ込む。

 

「こんな感じだけど、彼も後悔はしているんだ。それだけは理解してくれないか?」

 

「うん、わかったよ」

 

 出木杉の言葉にのび太は頷いた。

 

 少しずつだが、溝は埋まっていく。

 

 そんな気がした。

 

 

「よぉし、俺がさらに場を盛り上げるために歌って」

 

「カラオケ機がないから今度にしてぇ!」

 

 スネ夫の叫びがこだましてみんなが笑う。

 

 彼らと話をしていたのび太へ珪子が話しかける。

 

「ノビタニアンさん」

 

「やぁ、シリカ……おっと、リアルじゃ、珪子ちゃんだったね」

 

「はい!」

 

 にこりと笑みを浮かべる珪子。

 

 久しぶりの再会に二人は笑顔を浮かべる。

 

「ドラえもんはどうだった?」

 

「とってもかわいいです。でも、リアルでしか会えないのは残念ですね」

 

「そうでもないよ?」

 

「え?」

 

「ドラえもんもアミュスフィアを持っていて、今日の二次会もログインできる」

 

「本当ですか!?それはすごいですね」

 

 手をもじもじさせながら珪子は尋ねる。

 

「あの、ノビタニアンさん、SAOはクリアしちゃいましたけど、これからも一緒にいてくれますよね?」

 

「もちろんだよ。アインクラッドと現実、住む世界が変わってもそれだけは変わらないよ。これからもよろしくね、シリカ」

 

「はい!」

 

「あーあー!キリト先生はソッチ側ですよね!」

 

 クラインの叫びが聞こえてきた。

 

 二人で話をしていると里香が和人を連れてくる。

 

「キリトさん!」

 

「や、その様子だと連れてこられたみたいだね」

 

「まーな、まったく」

 

「あ、ノビタニアンさん、キリトさん、これ、リアルのピナの写真なんです」

 

 嘗て、SAOの中でテイムしたフェザーリドラと異なり、リアルで彼女はネコを飼っている。それの名前がピナだという。

 

「おー、どこかSAOのピナと似ているな」

 

「そうだね、かわいいよ」

 

「えへへ、そうですか?」

 

 微笑む珪子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れたところで和人は里香と話をしていた。

 

「ま、リアルに帰れたのは嬉しいけど、やっぱり、アインクラッドの自分のお店が恋しくなるわ。アンタに作ったダークリパルサーやリメインズハートも、もうなくなっちゃったのよね」

 

「どんなゲームだって終わりはある。そしたらまた新しいゲームを始めればいいさ」

 

「アンタは生粋のゲーマーよね。あんな事件に巻き込まれたのに、本当に変わらない」

 

「リズはもう、VRMMOをやらないのか?」

 

「ふふ、どうかな~」

 

 にこりと里香は微笑む。

 

「でも、そうねぇ、新天地にリズベット武具店三号店を出店するのも悪くないかな。その時はキリトに売り子をやってもらおうかしら、そうすれば、アスナとか、リーファとか、女の子のお客さんが殺到しそうだし、大繁盛しちゃうかもね~」

 

「それは勘弁してくれ、どうせだからのび太を巻き込んでやってくれ」

 

 和人は苦笑する。

 

「迷わずに親友を差し出したわね。アンタ」

 

「まぁな、それぐらいは許される関係だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト」

 

 歩いていた和人へフィリアが声をかける。

 

「あの、そのね、ありがとう」

 

「ん?どうしたんだ、藪から棒に?」

 

「えへへ、楽しいなって思ってさ。こうしてみんなで集まって、騒いで……こんな幸せ、私には二度と訪れないんだって思っていた。これもぜんぶ、キリトのおかげだなって、思ってさ、だからお礼」

 

 フィリア、竹宮琴音はホロウエリアで自分のホロウを殺してしまったことでバグを起こし、アインクラッドへ戻ることができなかったばかりかホロウPoHに騙されてキリトを殺しそうになった。

 

 自分を助けてくれたキリトにフィリアは感謝している。

 

「俺はそんな立派な人間じゃないよ。もし、俺がフィリアを助けられたのだとしたら、それは運が良かっただけだ」

 

「そんなことないよ!」

 

 フィリアは否定する。

 

「ねぇ、キリトは、『黒の剣士』はその二本の剣でたくさんの人を救ったんだよ。アインクラッドの人はみんなそう、キリトがSAOをクリアしてくれたから、みんなリアルの世界に戻って、アインクラッドのことを少しずつ忘れるかもしれない。でも、私は忘れない。キリトも忘れないでね。黒の剣士としてたくさんの人を救ったキリトは本当にヒーローだったの、私の、ヒーロー……なの」

 

 頬を赤らめながらフィリアは言う。

 

「それをずっと誇りに思ってて、キリトに助けられた女の子がいるって、ずっと、覚えててね」

 

「わかった、忘れないでいるよ……でも、なんだか、別れのセリフみたいだな」

 

「え?」

 

「別に俺達はこれっきりってわけじゃないだろう?こっちの世界で会えるんだし、もし、フィリアがVRMMOをいやになっていなかったら、一緒に他のゲームを遊ぶことだってできる」

 

「そっか、そうだよね。あれのことも忘れちゃっていたよ」

 

「だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、のび太君に会わせたい人がいるの」

 

「え、僕に?」

 

 明日奈の言葉にのび太は目を丸くする。

 

「誰なの?」

 

「それは……あ、来たみたい」

 

 扉が開いてやってきたのは和人と。

 

「やっほー、ノビタニアン……あ、のび太だったね」

 

 紫色に近い黒い髪、SAOよりもやせ細った顔。

 

 けれど、浮かべている笑顔は太陽のように明るい。

 

「もしかして……ユウキ?」

 

「そうだよ、紺野木綿季だよ」

 

「え、どうして」

 

 あの時、のび太はウソ800を使って彼女を救った。

 

 だが、ウソで救えるといわず、ただ、傷つけるようなことを言っただけにすぎない。

 

 だから、もう会えないと決めつけていた。

 

「あ、ドラえもん!」

 

 木綿季はドラえもんを見つけると手を振る。

 

「え、どうして」

 

「僕が事情を話したんだ」

 

 ドラえもんがほほ笑みながらやって来る。

 

「ドラえもん」

 

「もう、のび太君、ウソ800を使ったのなら、ちゃんと理由を彼女に説明しないとダメじゃないか」

 

「もしかして」

 

「そうだよ、ドラえもんがボクに話してくれた。全部」

 

 ぷくぅと頬を膨らませて彼女は怒る。

 

「えっと」

 

 何を言えばいいのかわからず、のび太は二の句を告げられない。

 

 殴られるかもしれないと身構えようとした時。

 

「でも、許してあげる」

 

 彼女は微笑む。

 

「のび太のおかげでボクやお姉ちゃんは生き続けることができるから」

 

 のび太がウソ800を使ったことで彼女たちの病気は完治した。

 

 後はリハビリをするだけらしいのだが、長い闘病生活による衰えはSAOの帰還者と比べても、それ以上のリハビリが必要だ。

 

「えっと、その……僕は」

 

「ほら、ちゃんとした再会でしょ」

 

「ユウキとのび太、俺の三人でパーティーを組んできたんだ。リアルでもちゃんと顔合わせしようぜ」

 

 和人に言われて戸惑っていたのび太の手を彼女は握る。

 

「これからも一緒だよ。のび太」

 

「うん、よろしく。ユウキ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SAOから元の世界に戻って起こった出来事で和人たちに関わることが幾つかあるが、その中で特筆することが二つ。

 

 一つは須郷伸之。

 

 彼がSAOで行ってきたことが総務省の役員から警察へ情報が行き、逮捕された。

 

 裁判に対しても最初は否定的な供述ばかりだったらしいが、SAOを通しての証拠などから、今は検察側の内容に素直な供述をしているという。

 

 そして、もう一つは須郷が管理していたSAO以降に作られたVRMMORPG『アルヴヘイムオンライン』。

 

 管理してい須郷が逮捕されたことで一時的に閉鎖されていたのだが、レクト社の意向で再スタートされ、和人たちはALOをプレイすることになっている。

 

 そして、この記念パーティーの二次会である場所も――。

 

「ねぇ、のび太」

 

 考えていると木綿季が声をかける。

 

「これからもっと、色々なものをみようね」

 

「うん、もっといろいろなものを」

 

「ボク達、一緒に」

 

「うん」

 

 二人は互いに手を取る。

 

「これからも一緒だよ」

 

「うん、約束!」

 

 

 

 

 

 

『リンク・スタート!』

 

 

 




これにてSAO編は終わりです。

次回、新しい話の導入に入ります。

少しストックためるつもりなので、不定期更新になるかもしれません。



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28:アルヴヘイム・オンライン

あくまで今回はALOのはじまりです。

次回はちょっと、あるタグの回収のため、特別話に行きます。


 

 どこまでも澄み切った空。

 

 風で揺れる草原、周囲には壊れたレンガの残骸などが並んでいる。

 

 そんな草原フィールドの崖。

 

 崖の上からフィールドを見下ろす一人のプレイヤーがいる。

 

 黒髪、黒いコートを羽織った少年。

 

 プレイヤー名をキリト、種族はスプリンガン。

 

 彼がいる場所は現実世界ではない。VRMMORPGの世界の一つ、アルヴヘイム・オンラインの世界だ。

 

「キリト君!」

 

 呼ばれたキリトが振り返ると緑の衣装に金髪の少女が背中に羽を生やして飛んでいた。

 

「リーファ」

 

「何をしているの?みんな、待っているよ?」

 

 リーファと呼ばれた少女はキリトへ手を伸ばす。

 

「悪い、悪い、すぐ行くよ」

 

 地面を蹴って、キリトは崖から空へ飛ぶ。

 

 彼の背中に黒い羽が生えている。

 

 この世界“アルヴヘイム・オンライン”はかつてキリト達がプレイしていたソードアート・オンラインと異なりいくつかの種族を選び、羽で空を飛べるようになるのだ。

 

 もともと、キリトの妹、直葉がプレイしていたのだが、SAOから現実世界へ生還したことで、仲間と共にこのゲームを始めることにした。

 

 尤も、ALOを始める経緯に少しややこしいものがあったのだが、それは割愛しておくとしよう。

 

「早くしないと、みんな、集まっているよ!」

 

 隣を浮遊しているリーファに苦笑しながらキリトは目的地、新生ALO内の浮遊大陸“スヴァルト・アールヴヘイム”へやってくる。

 

 新生ALO内に新しく登場した浮遊大陸。

 

 そこでキリトは仲間たちと待ち合わせしているのだ。

 

「それにしても、本当に飛ぶんだな」

 

「でしょ!?前と違って飛行制限がなくなったからどこまでもいけそうだよ」

 

 嬉しそうに話すリーファと共に二人はスヴァルト・アールヴヘイムの街へ降り立つ。

 

 空都ラインへ降り立つ。

 

「おお!これがスヴァルト・アールヴヘイムの街か!」

 

「やっぱり新しい街へやってくるとわくわくするね!」

 

「宿屋や商店などの基本的な施設はもちろん、酒場や闘技場などもあるようですね」

 

 ぴょことキリトの服の胸元から飛び出したのは小人の妖精、ユイ。

 

 SAOでキリトとアスナの娘として活動していたMHCPのユイだったが、SAO崩壊後はキリトのナーヴギアデータに保管されており、ALOにおいてはナビゲーションピクシーとしてキリトのサポートをしている。

 

「あ、パパ、システムの一部がアップテートされているようです。従来のALOの町中と違って、この街では飛行ができないようです」

 

「そうか、新エリアの街はALO本土とシステムの仕組みが違うみたいだな」

 

「はい、ですが、今回のバージョンアップではシステムのアップデートはもちろん、新しいダンジョンやクエストも多数追加されています。高難度クエストもあるみたいですよ」

 

「それだけ遊びごたえがある、攻略し甲斐があるってことだな。ははっ」

 

「相変わらずだね。キリトは」

 

 キリトが顔を上げると二人のプレイヤーがやってくる。

 

「や、キリト」

 

「キリト君、リーファちゃん、こんにちは」

 

 一人はインプの少年、白銀のコートを羽織っている。

 

 もう一人はそもそも人といえる形をしておらず丸いネコ、頭に星がついたとんがり帽子をかぶり、茶色を模した服を纏っている。種族はケットシー。

 

 プレイヤー名はノビタニアン、もう一人はドラモンとなっていた。

 

「ノビタニアンはインプか」

 

「まぁね、ユウキに一緒の種族にしようって念を押されちゃってね……」

 

「ドラちゃんはやっぱりケットシーなんだ?」

 

「当然!僕はネコだもん!」

 

「タヌキってバカにされるかもしれないよ?」

 

「失礼な!」

 

 怒るドラモン。

 

 ノビタニアンが苦笑しているともこもこと服が動いてそこから妖精が現れる。

 

 ユイの妹、ストレアだ。

 

「キリト!リーファ!久しぶり~!」

 

「ストレア、元気そうだな。その姿で行くのか?」

 

「ううん!みんなと遊びたいもん。普段はこっちでいくよ!」

 

 ストレアが輝くとナビゲーションピクシーからノームアバターへ切り替わる。

 

「ほらね!こっちのほうがいいかな?」

 

「だからって、俺とノビタニアンを抱きしめる必要はぁ」

 

「もう!ストレア!パパとノビおじちゃんが困っています!」

 

 三人の周りをユイがぷんぷんと怒る。

 

「もう~、ユイは怒りっぽいなぁ」

 

「パパやおじちゃんを困らせるのは許しません!何よりストレアのお姉さんなんですから!」

 

「はーい」

 

 ユイに言われてストレアは離れる。

 

「キリトくーん!」

 

「おお、アスナ達が到着したな」

 

 キリトの言葉通り、やってきたのは四人のプレイヤー。

 

「やっぱりあんた達、待ち合わせ時間より先に来ている!」

 

「仕方ないですよ、リズさん。キリトさんとノビタニアンさんが待ち切れるわけないじゃないですかぁ」

 

「ホント、アンタって、欲望に忠実というか、団体行動を乱すわよね……ノビタニアンはバカだけど」

 

 レプラコーン種族のリズベット、ケットシーのシリカとシノン。

 

「ふふ、ここ数日キリト君。ずっとそわそわしていたもんね」

 

「やっほー、キリト!相変わらず元気そうだね!」

 

 キリトの恋人、ウンディーネのアスナ。キリトと同じスプリガンのフィリア。

 

「ははは、すまんすまん」

 

「おいおい!さっきから俺達のこと、忘れていないか!?」

 

「クライン、エギルも来てくれたんだな?」

 

「ネットでも話題になっていた。前代未聞の大型アップデートだろ?ゲーマーならまちきれねぇよ」

 

 クラインとエギル。

 

 SAOにおいて攻略組として戦ってきた仲間たちが集まった。

 

「しかし、俺達も酔狂なもんだよなぁ。あれだけの目に遭っておきながら、こうしてまた、この世界に来ちまっている」

 

「そうだね、アインクラッドで二年間、戦い続けて、またこうして集まれるなんて、なんだか不思議な気分」

 

「ちょっとぉ!ボクのこと、忘れていない!?」

 

 プンプンと紫の長い髪を揺らしてインプ種族のユウキがやってくる。

 

「あ、ごめんごめん、ユウキ」

 

「もう!ノビタニアンもキリトも先にログインしているなんて、ずるいよぉ」

 

 頬を膨らませて抗議するユウキにノビタニアンとキリトはごめん、ごめんと謝罪する。

 

 他愛のない会話をしているが彼らはSAOで二年間戦い続けて百層あるアインクラッドを攻略した。

 

 その時の絆があるからこそ、こうして集まれることができたのだとキリトは思っている。

 

「さて、そろそろ新しいフィールドに出ようとしようぜ!」

 

「腕が鳴るわね」

 

「ふふふ、どんな新しいお宝が眠っているのかな?楽しみだよ」

 

「さぁ、新しい素材を見つけるわよ」

 

「俺も新商品をどんどん仕入れるぜ」

 

「ピナ、がんばろうね!」

 

「きゅるる」

 

「おうよ!俺もカッコイイとこ、みせてやるぜ!」

 

「データの分析は任せてください」

 

「アタシも頑張っちゃうよぉ」

 

「おお!みんな気合入っている。あたしも負けられないね」

 

「ボクも頑張るよ!」

 

「行こう!キリト君!」

 

「ドラモン、行くよ」

 

「うん!」

 

「あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ALOにOSSが実装されたけれど、ノビタニアンはどうするの?」

 

 隣で飛行しているユウキがノビタニアンへ尋ねる。

 

「OSS?」

 

 ドラモンが尋ねる。

 

「そういえば、知らなかったっけ?アインクラッドで使っていたソードスキルがALOに実装されたでしょ?」

 

「そうみたいだね」

 

 ALOはもともと、SAOのデータをベースとして作られており、一度、閉鎖の危機に陥ったが運営側の尽力により様々な手を加えられながらも再びALOは再稼働した。

 

 その際にSAOで使われていたソードスキルが実装された。

 

「それとは別、システムアシストなし、自分だけのソードスキル、オリジナルソードスキルをOSSっていうんだよ」

 

「ノビタニアンはOSSどうするの?ボクは手に入れたけど」

 

「うーん、今はいいかなぁ?それよりかはこの初期装備を強化したいよ」

 

 ノビタニアンは背中にぶら下げている片手剣をみる。

 

「SAOの時と同じ感覚だと、この剣、軽いんだよねぇ」

 

「俺も同じだ。だから、ここで色々と新しいアイテムとか手に入れようぜ。お先!」

 

「あ、キリト、待ってよ!」

 

「ボクもいくよぉ!」

 

 キリトが先行したことで後を追いかけるノビタニアンとユウキ。

 

 少し遅れてアスナやリーファも追尾する。

 

 キリトは背中の剣を抜いて速度を上げて目の前で浮遊する竜型モンスターと接敵した。

 

 剣を振るおうとした時、それよりも早く放たれた矢がモンスターへ直撃する。

 

「狙撃なら私に任せなさい」

 

 離れたところで弓を構えているケットシーのシノンがいた。

 

 SAOの時と同様にALOでも弓を使うことができる。

 

「一番槍はシノンがとっちゃったけど!」

 

 ユウキの片手剣が煌めく。

 

 ソードスキル“シャープネイル”による三連撃がモンスターを切り裂く。

 

「よし、僕もぉ!」

 

 繰り出されるソードスキル“レイジスパイク”によってモンスターが倒される。

 

「よし!」

 

「……くそっ、初モンスター取られちまった」

 

「先に行ったのに、何やってんのよ」

 

 キリトへリズベットがため息をこぼす。

 

「くそう、三人に先を越されちまったぜ」

 

「キリトこそ、何をしているのさ~」

 

「ユウキの言うとおりだよ」

 

「でも、驚いたなぁ。VRの中とはいえ、ノビタニアン君があそこまで活発に動けるなんてぇ」

 

 ドラモンが驚きの声を上げる。

 

「そりゃそうよ、こいつらはSAOじゃ、三剣士っていわれるほどの最強剣士たちだったのよ?」

 

「キリトさんが黒の剣士、ユウキが紫の剣士、ノビタニアンさんは白銀の剣士と言われるほどです」

 

 シリカの説明にドラモンは驚くばかりだ。

 

「それにしても、相変わらず、あの三人は突撃してばかりね」

 

「……三人とも前衛だったから仕方ないわよ」

 

「それにしても、サラマンダーのクラインはともかく、スプリガン、インプの三人が暴れているなんて、少し変な感じがするね」

 

 スプリガンのフィリアが目の前で暴れている三人をみて感嘆の声を漏らす。

 

 ALOには複数の種族が存在しており、それぞれに特徴がある。

 

 

 

 スプリガン、黒色を基調としたトレジャーハントが得意な種族。属性の上級魔法を使うことはできないが特殊な攻撃魔法やダンジョン探索を得意とする魔法が使える。

 

 

 

 

 ウンディーネ、見た目は水色を基調とした細身、長身で水属性の魔法が使えるほか、全種類の回復魔法が使える。

 

 

 

 

 シルフ、見た目は緑色を基調とした風属性が得意な種族で風属性の上級魔法が唯一使えることや有用性が高い。

 

 

 

 

 ケットシー、見た目はネコのような耳と尻尾を持っており、使い魔の使役ができる種族である。

 

 

 

 

 ノーム、見た目は大柄でがっちりとした体格が多く、土属性の魔法が使える。

持久戦においてその力を発揮しやすい。

 

 

 

 

 サラマンダー、見た目は赤色を基調とした大柄な体格。旧ALOにおいて、多くのユーザーがチョイスしていたというほど、攻撃特化の種族だ。

 

 

 

 インプ、見た目は紫色を基調として、闇属性の魔法を得意とする。

 

 

 

 レプラコーン、見た目は茶色や赤色を基調としており武器の生産や鍛錬に特化している。全種族の中でデバフ系統のスキルが豊富だ。

 

 

 

 プーカ、音楽を奏でるのに秀でた種族であり、プーカだけが使える特殊能力“歌”がある。

 

 

 

 

 

 

 

 キリト達はそれぞれ気に入った種族を選び、このALOへやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「粗方、狩りつくしたな」

 

「アタシたちも暴れたけれど、アンタ達も大概よね」

 

「でも、さすがはノビタニアンさん達です!」

 

 リズベットやシリカが三人の戦いに感嘆している中で三人はそれぞれの感想を言う。

 

「やっぱり、僕は盾を持った方がいいかな?」

 

「うーん。ノビタニアンがタンクをやってもらっていたから、攻撃を防いでくれる人がいた方が効率いいかもねぇ」

 

「ノビタニアンが攻撃を防いで、俺とユウキが攻め込む……三人だけだったらいいかもしれないけど、他の皆もいるんだ。ある程度、固定しないほうがいいんじゃないか?」

 

「そうだねぇ」

 

「あの三人、頭がゲーム脳になっているわね。そもそも、狙撃がいるんだから、それくらい考慮しなさないよ」

 

 シノンが呆れた声を漏らす。

 

「シノのんも、大差ないよ」

 

 アスナが苦笑する。

 

 一旦、街へ戻るということで一同はフィールドを後にする。

 

 こうして、新生ALOの一日は騒がしくも終わりを迎えた。

 

 

 

 




ドラえもんがいるから、SAOの死者も生き返らせれるのではないかという意見がありますが、それは実行しません。

確かに、それをすれば、完全なハッピーエンドですけれど、キリトらの今までの人生をなかったことにするように感じますので、死人が生き返るというのはなしにします。

これから死ぬかもという人が生きるかもしれないですけれど、


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29:妖界大決戦(前編)

今回、タグにある一つをようやく消化できる。

ちなみに、これはある漫画にあった話をベースとしているので、完全オリジナルではありません。


 SAOの帰還者が集まる学校。

 

 それはのび太達が通っていた小学校だった。少子化に伴い、いくつかの小学校が廃校となり、のび太達の学校もその流れに巻き込まれた。

 

 廃校になっていた学校をSAO帰還者が集まる場所として白羽の矢が当たったのだ。

 

「へぇ、学校の裏手に山があるのね」

 

「僕達は裏山と呼んでいるんだ」

 

「ドラえもんと一緒にここで遊んだりもしたんだ。あのでかい杉の木の下は昼寝のおすすめスポットなんだ」

 

 山道を明日奈、和人、のび太の三人が歩いていた。

 

 のび太と和人が通っていた学校であり、授業が始まって数日、この場所を案内しようと決めていた二人によって明日奈は裏山を進む。何より。

 

「木綿季もここを通うからね。みんなで案内できるようにしておきたいね」

 

 明日奈の言葉通り、SAOでともに駆け抜けた仲間、ユウキこと紺野木綿季がSAO帰還者の集う学校へ通うことが決まった。

 

 難病が治り、肉体の方も回復に向かってきていることから担当医師の判断で学校へ通えることが決まったとALO内でユウキは嬉しそうに話している。

 

「ね、ねぇ、キリト君」

 

 前を見た明日奈は目を見開いて指を動かす。

 

「アスナ?」

 

「あ、あれ……」

 

 震える明日奈の視線の先、

 

 茂みの中から伸びている手。

 

「「手ぇ!?」」

 

 目の前に伸びている手に二人は驚き、慌てて駆け寄る。

 

 茂みの中にいたのは十歳くらいのおかっぱの女の子。

 

「キミ!大丈夫!?」

 

「息はある。気絶しているのか」

 

「救急車を呼ぶ!」

 

「待って、僕の家が近いからそこに行こう。ドラえもんならなんとかできるから」

 

「そうだな、のび太、背負えるか?」

 

「任せて!」

 

 少女を背負い、彼らは裏山を駆け下りていく。

 

 そんな三人の姿を闇に包まれている木々の隙間から覗いている不気味な目があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸いにもドラえもんは家にいた。

 

 のび太の部屋へ連れていき、気絶している少女を布団に寝かせる。

 

「今時、こんな服を着ているなんて珍しいわね」

 

 明日奈は布団で死んだように寝ている少女をみた。

 

「うーん、変だ」

 

「どうしたんだ?ドラえもん」

 

 困ったような声を上げるドラえもんに和人が尋ねる。

 

「お医者さんカバン、万能薬、万能治療薬、どれも効かないんだ」

 

「え!?」

 

「人間の病気なら治せるはずなのに」

 

「ドラえもんでも、治せないとなるとお手上げだな。病院へ連れていっても期待できないかもな」

 

「僕じゃ手に負えない、助っ人を呼ぼう」

 

「何それ?」

 

 ドラえもんはポケットから金色の輝きを放つカードを取り出す。

 

 見たことのない道具にのび太は尋ねる。

 

「親友テレカさ」

 

「親友テレカ?」

 

「テレカって、テレホンカードか?」

 

「ウソ、あのすたれてもうないって言われている?」

 

「テレホンカードでもあるけれど、これはテレパシーカードの方が強いかな?これはね。不滅の友情を誓い合った者だけが使える特別な秘密道具さ。こうやって電話でもできるけどね」

 

 ポケットから出した電話機に親友テレカを入れる。

 

「どうせだから、他の皆にも声をかけてやれ」

 

「……誰を呼ぶんだ」

 

「さぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザ・ドラえもんズ!集合!」

 

 数分してのび太の机から六人のネコ型ロボットが現れる。

 

 ドラ・ザ・キッド。空気大砲を持ち、百発百中の腕前を持つ。

 

 エル・マタドーラ。スペインの闘牛士、昼寝が大好き。

 

 ドラリーニョ。ブラジルの若きストライカー、三歩歩くと忘れてしまう。

 

 王ドラ。中国の格闘家、女性に弱い。

 

 ドラニコフ。ロシアの旅人、無口で何があっても喋らない。

 

 ドラメッド三世。エジプトで活動する魔術師。水が大の苦手。

 

「えっと、ドラえもんさん、この人たちは?」

 

「僕が通っていたロボット養成学校の大親友さ」

 

「元気にしていたか?」

 

「懐かしいなぁ~」

 

「それで、王ドラ、この子なんだけど」

 

「ふむ」

 

 中国服をきたネコ型ロボット。王ドラは眠っている少女を観察して。

 

「私の調合した薬を使いましょう。これで、元気になるはずです」

 

 少女に飲ませた後、のび太が尋ねる。

 

「そういえば、ドラえもんズって言っていたけど」

 

「なんだ、ドラえもんは話してねぇのか。俺達の友情伝説を」

 

「友情伝説?」

 

「未来に存在していた古代遺跡。そこに存在した不滅の友情を誓い合った者だけが使える道具。それを手に入れた大冒険。友情伝説だ」

 

 キッドが説明する。

 

「素敵だね。それ」

 

 明日奈はドラえもんズの友情伝説を羨ましいと感じた。

 

 優等生で常に成績ばかりを意識していた明日奈にとって親友とはまぶしいものだと思う。

 

 他愛のない話をしていると寝ていた少女が目を覚ます。

 

「あ、目を覚ましたみたいだね」

 

「ここは?」

 

「のび太の家だ。キミは街の裏山に倒れていたんだ」

 

「あなた達が助けてくれたのね?ありがとう」

 

「いやぁ、ところで、君の名前は?」

 

「話しても信じてくれないわ」

 

「……話してみないとわからないぜ?」

 

 和人の言葉で少女は少し考えるようなそぶりを見せて。

 

「実は私……座敷童なの」

 

「座敷童って……なに?」

 

「まったく、のび太君は!」

 

「すまん、俺も知らない」

 

「あら!?」

 

 のび太と和人にドラえもんは呆れてしまう。

 

「座敷童は妖怪ね。日本の屋敷の中に紛れ込んで住む妖怪で。座敷童が住むとその家は裕福になるといわれているわ」

 

 明日奈の説明で二人は理解する。

 

「それにしても、座敷童って」

 

「頭がおかしんじゃねーか?」

 

「おいおい」

 

 キッドとマタドーラの言葉にドラえもんが止めに入る。

 

「ごめん。気にしないでね。それより、どうして、あんなところにいたの?」

 

「実は半年ほど前から」

 

 座敷童が話した内容は想像を絶するものだった。

 

 妖怪達は妖界といわれる世界に移り住んでいたのだが、半年前から百目王という妖怪がその世界を支配する。

 

 強力な妖怪軍隊を率いて人間世界を支配しようとするということらしい。

 

 座敷童はそれを阻止するために特殊な力を宿していたという“魔鏡”を手にして人間世界にやってきたという。しかし、途中で追手に襲われて。

 

「やっぱり、信じてくれないのね!?」

 

 キッドとマタドーラが険しい顔で座敷童をみる。

 

「座敷童は人間界に住んでいるんだろう?なんで妖界にいるんだよ」

 

「もともとは人間世界にいたわ……でも、今は私の存在を知っている人がいなくなって、妖界に住むしかなくなったの」

 

 座敷童の言葉にのび太と和人はなんともいえない表情を浮かべる。

 

 知っていた明日奈と違い、自分達は座敷童の存在を知らなかった。

 

「どう思う?」

 

「座敷童ねぇ~」

 

 首を傾げていた時、ドシンと巨大な揺れが起こる。

 

「え、地震?」

 

「いや、違うぞ!」

 

 みんなが揺れに驚いていた時、座敷童が外を見る。

 

「しまった、もう夜なのね!?」

 

 直後。

 

「見つけたぞ!」

 

 部屋の窓ガラスをぶち壊して巨大な斧を構えた鬼のような怪物が現れた。

 

 緑色の皮膚に赤い髪、額から伸びている一本の角。

 

「見つけた!今度こそ、逃がさん!」

 

「なんてことするんだ!ママに叱られる!!」

 

「そんな心配している場合か!」

 

「……こいつが妖怪!?」

 

「マジかよ」

 

「とにかく追い払え!!」

 

 ドラえもんの指示でドラリーニョがサッカーボールを、キッドが空気大砲を繰り出す。

 

 攻撃を受けた妖怪、一角大王は平然とした様子で部屋の中を突き進む。

 

「明日奈!こっちに」

 

 和人が明日奈を自分のもとへ引き寄せようとすると一角大王が巨大な腕で明日奈を捕まえる。

 

「この!明日奈を離せ!」

 

「ハチョー!!」

 

 和人を飛び越えて王ドラがキックを繰り出すも一角大王に投げ飛ばされてしまう。

 

「和人、これを!」

 

 のび太は机に置かれている照明スタンドを投げる。

 

 和人はそれを受け取り、一角大王の頭に振り下ろす。

 

 バリンと音を立てて照明スタンドが壊れる。

 

 大したダメージはないようだが、視界がふさがれた。

 

 衝撃で一角大王は明日奈を落としてしまう。

 

 明日奈は地面へ落下する直前、ドラニコフに抱えられて離れる。

 

 痛みを感じないのか一角大王は巨大な斧を振り下ろす。

 

「スィッチ!」

 

 キリトの叫びと共にノビタニアンが前に出て椅子を振るう。

 

 ベキャッと歪んで椅子が壊れた。

 

「無駄よ!一角大王にどんな武器も通用しないの!!」

 

「弱点とかないの?」

 

 座敷童に明日奈が尋ねる。

 

「太陽の光が弱点なんだけど」

 

「光って、今は夜だぜ!?」

 

 空を見てキッドは叫ぶ。

 

「全員で力を合わせて頑張るしかない!」

 

「ドラえもんさん、何か武器はない?」

 

 目の前では和人とのび太が壊れた道具で一角大王の気を引いていた。

 

 それをみて、明日奈はドラえもんへ頼み込む。

 

「怖い!」

 

 戦いを見ていたドラリーニョが叫ぶ。

 

「どうしたんだ、ドラリーニョ!」

 

「ブラジルに帰る!!」

 

 マタドーラが尋ねるもドラリーニョは去っていく。

 

「見損なったぜ!」

 

「一人で逃げるなんて」

 

 ドラえもんが信じられないという中、全員で総攻撃を仕掛ける。

 

 ドラえもんズと和人、明日奈、のび太の攻撃を受けても一角大王は平然としていた。

 

「こんちくしょう!」

 

 使えなくなった空気大砲をキッドが投げる。

 

 滅茶苦茶にドラえもんがポケットの中の道具を放り投げていた。

 

「だ、ダメだ、動けない」

 

「くそっ、VRと違いすぎる……」

 

「ゲハハハ!皆殺しにしてやる!!」

 

 一角大王が巨大な斧を振り上げる。

 

 誰もが自らの死を覚悟した。

 

 その時、一角大王の足元に丸いものが現れる。

 

 噴き出した光を浴びた途端、一角大王の体が溶け始めた。

 

「な、なんだ?」

 

「大成功~」

 

 どこでもドアが現れて、そこから姿を見せたのはドラリーニョだった。

 

「日本の裏側のブラジルは今、昼!通りぬけフープでブラジルの太陽の光を持ってきた」

 

「凄いであーる!」

 

 ドラリーニョの言葉にドラメッドが驚く。

 

「すまん、俺はてっきり……」

 

「気にしていないよ。僕こそごめんね~?」

 

 マタドーラが謝罪する。

 

「た、たすかったよぉ」

 

 ぺたんとのび太が座り込む。

 

「ヤバイ、俺も限界だ」

 

 同じく和人ものび太の横へ倒れこんだ。

 

「もう、キリト君……」

 

 明日奈が呆れていた時、ほとんど、体が溶けていた一角大王が頭の角をへし折る。

 

 そして、角を投げる。

 

 狙いの先は座敷童。

 

「危ない!」

 

 気付いたのび太が座敷童を突き飛ばす。

 

 もし、VRだったら持っていた道具ではじくことも出来ただろう。

 

 しかし、のび太の体は肉体、VRと異なり、万全ではない。

 

「ぐっ!?」

 

「のび太!ドカン!!」

 

 落ちていた空気大砲でキッドが撃つ。

 

 攻撃を受けた一角大王の残りの体が吹き飛ぶ。

 

 腕に刺さった角を引き抜いて、のび太は倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王ドラ、どうなんだ?」

 

「こっ、この傷は」

 

 倒れたのび太を抱えて家へ戻った一同。

 

 眠っているのび太の腕を見ていた王ドラは言葉を失う。

 

 角で貫かれた腕。

 

 そこにはどす黒い模様のようなものがあった。

 

「なんだよ。これ」

 

「まるで――」

 

「一角大王の呪いだわ」

 

 座敷童が驚愕の表情を浮かべる。

 

「呪い……それは一体」

 

「徐々に体が妖怪になっていくの」

 

「のび太君が妖怪に!?」

 

「どうすれば助かる!?どうすればいい!」

 

 和人が座敷童へ尋ねる。

 

「百目王の居城にある……いやしの泉の水を飲めば治るんだけど……三日以内に飲まないと二度と太陽の光を浴びれない体になってしまうわ」

 

「案内してくれ!」

 

「キリト君!落ち着いて、私達はただの人なのよ?今のままじゃ」

 

「わかっている!でも、親友を見捨てるなんてできない!俺は何が何でも行く!……確かにここはVRじゃない、現実の世界だ。今の俺達じゃ、どうすることもできないかもしれない。でも、のび太は親友だ」

 

 和人の目を見て、王ドラがポンと手を叩く。

 

「なんとかなるかもしれません」

 

「え?」

 

 驚く和人たちの前に王ドラがある道具を取り出す。

 

 巨大な機械だ。

 

「これは?」

 

「ヒーローマシンです」

 

「ヒーローマシン?」

 

 首を傾げる明日奈の前にキッドが思い出したように叫ぶ。

 

「これは二十二世紀のゲームマシンだよな?なんで、こんなものを出したんだ?王ドラ」

 

「忘れたのですか?和人君達はSAOをプレイしていたのですよ」

 

「そうであーるか!二十二世紀のヒーローマシンにおいても、SAOをプレイできるようにと、当時の情報でヒーローが設定されていたであーるな!」

 

 ドラメッドの言葉に和人は驚く。

 

「もしかして、この中に入れば、SAOの俺達の力が」

 

「使えるはずです」

 

「明日奈……俺は行く、君は」

 

「バカなこといわないで、のび太君は大事な仲間よ。私も行くわ。それにキリト君、一人に無茶させられない」

 

「……明日奈」

 

「けっ、熱いこって……早く行ってこい!」

 

 キッドにせかされて二人はヒーローマシンの中へ入る。

 

 しばらくして、

 

 黒衣にエリュシデータ、ダークリパルサーの二つの剣を背中に背負った和人こと、黒の剣士キリト。

 

 純白の衣装、細剣を腰に下げている明日奈こと、閃光のアスナ。

 

 SAOを攻略した二人の嘗ての姿だった。

 

「体がウソみたいに軽い」

 

「ゲームのスーツですが、VR世界で戦っていたというスペックが使えるはずです」

 

 皆の姿を見て、座敷童が尋ねる。

 

「妖界に入ると、二度とかえってこれないかもしれないわ……それでも、行くの?」

 

「行くとも!」

 

「のび太君は僕達、ドラえもんズが助けて見せる!」

 

 彼らの決意を見て座敷童が頷く。

 

「のび太君、大丈夫?」

 

「安心しろ、お前を絶対に妖怪にはさせねぇぜ」

 

 のび太を背負っているキッドの言葉に小さく頷く。

 

 座敷童の誘導に従ってやってきたのは裏山だった。

 

「ここが入り口よ!」

 

 目の前に渦巻く門に彼らは飛び込む。

 

 

 

 




基本的にSAOと関係ないドラえもんエピソードは前編、中編、後編の三部作、もしくは二部作方式でいきます。



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30:妖界大決戦(中編)

 激しいスパークと共にキリト達は地面に落下する。

 

「いってぇ……アスナ、大丈夫か?」

 

「うん、私は大丈夫……それより、ここが妖界なのかしら?」

 

 不気味な植物がうごめく森の中、黒衣の少年、キリトが上にいるアスナへ尋ねた。

 

「おいおい、不気味なところにきちまったなぁ」

 

 キッドが周りを見て呟く。

 

 森の中には無数の獣の骨や口や目のついた不気味な植物が蠢いていた。

 

「ここは、とらわれの森!」

 

「なんだか、不気味な名前だな」

 

 

 

――とらわれの森。

 

 

 

 それは百目王に反逆する者たちを捕まえては解き放ち、処刑人の韋駄天が追い立てては狩る、狩場。

 

「狩場!?」

 

「いきなり物騒なところにでてきちまったな」

 

「処刑場といったほうがいいかもしれないわ。なぜなら、韋駄天から逃げられたものはいないわ」

 

「おい!それよりも、みんなぁ!」

 

 マタドーラが真剣な顔で訴える。

 

「早く降りてくれぇえええ!」

 

 全員がマタドーラの上へ落ちていた。

 

「あ、ごめん」

 

 天辺のアスナが降りて、キリト達が降りていき、マタドーラは解放される。

 

「ふぅー、酷い目にあったぜ」

 

 降りたマタドーラは首をごきごきと鳴らして。

 

「じゃ、シェスタ」

 

「するなぁ!」

 

 寝ようとしたところでキッドが叫ぶ。

 

「で、どんな奴なんだ?韋駄天っていうのは?」

 

『トテモオソロシイヤツ!オソロシイヤツ!』

 

「なんだ!?」

 

「き、木がしゃべっているわ!」

 

 アスナの目の前、人の顔をした木々が楽しそうにしゃべっている。

 

「口先だけの人面樹よ。大ウソつきなの、どんな話も信じてはいけないわ」

 

 座敷童の言葉にキリトは周りを見る。

 

「どう?キリト君」

 

「SAOならまだしも、マッピングもされていない世界じゃ何もわからないな」

 

 ため息をこぼすキリト。

 

「とにかく、どこでもドアでどこかに」

 

 ドラえもんが四次元ポケットからどこでもドアを出し、場所を移動しようとした時。

 

 バチィと音を立ててドアからドラえもんが弾き飛ばされてしまう。

 

 ドアの向こうは不気味な光が渦巻いていた。

 

「な、なんだこれ!?」

 

「この妖界は百目王の妖力で空間が歪んでいるの」

 

「どこでもドアが使えないんだ!」

 

「じゃあ、歩くしかないな」

 

 キリトの言葉で全員が森の中を歩き始める。

 

 SAOの時と違い、マッピングできない以上、歩き回るしかなかった。

 

「ふぅ、疲れた」

 

「オカエリオカエリオカエリオカエリ!」

 

「元の場所に戻ってきちゃった!?」

 

「デグチハミギ、ミギ、ミギダヨ」

 

「本当!?」

 

 喜ぶドラえもんに対して座敷童が否定する。

 

「ウソよ!人面樹は何があっても本当のことを言わないの」

 

「……!?」

 

 ドラえもんが座敷童へ尋ねる。

 

「人面樹は本当のこと言わないんだよね?」

 

「そうよ」

 

 ポケットから嘴みたいな道具を取り出すと人面樹へつける。

 

「さぁ、教えてくれ。出口はどこなんだ?」

 

「デグチハワタシノウシロダウシロダウシロダ」

 

「また、ウソを」

 

 ドラリーニョが呆れていた時、人面樹の後ろから光が差し込む。

「出口だ!」

 

「不思議だわ……どうして?」

 

「人面樹にソノウソホントっていう道具をつけたんだ。これをつけたらどんなウソもホントになるんだ」

 

「キィィィィィ、クヤシイクヤシイ!」

 

 人面樹が悔しがる中でタケコプターを使って出口へ向かう。

 

「これでとらわれの森から脱出できるわ。よかった。本当によかったわ。韋駄天にみつからなくて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはどうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、下がれ!」

 

 キリトがエリュシデータを抜く。

 

 雲に乗った妖怪、韋駄天が浮いていた。

 

「出口を見つけたのは褒めてやろう。だが、この俺を倒さない限り、ここからは出られないぞ」

 

 韋駄天が鎌を構える中、のび太を抱えているキッドが空気大砲を装着する。

 

「ならば倒してやるぜ!早撃ち0.1秒の空気大砲をくらえ!」

 

 キッドの空気大砲が韋駄天へ。

 

「何を狙ったんだ?」

 

 直撃せず、キッドの後ろに韋駄天が浮いていた。

 

「消えるなんてずるいぞ!」

 

 キッドが韋駄天の方向へ空気大砲を撃つ。

 

「消えているんじゃない!それだけ奴のスピードが速いんだ!」

 

「この野郎!!」

 

 キッドが乱暴に空気大砲を撃つ。

 

 しかし、すべてが直撃することはない。

 

「もっと、速いものを呼ぶであーる!ア・ブ・ラ・カ・タ・ブ・ラ」

 

 

 

――雷!

 

 

 ドラメッドが雷を呼び出すも韋駄天はそれを回避する。

 

「信じられんであーる!雷より速く動けるなど!」

 

「動きを止める場所がわかれば!」

 

「なんとかできる!」

 

 キリトとアスナが剣を繰り出す。

 

 しかし、韋駄天は俊足で即座にその場を離れる。

 

「アスナ!」

 

 鎌の斬撃がアスナへ繰り出されようとしていた時、キリトがエリュシデータとダークリパルサーを繰り出す。

 

 刃が輝いて二刀流のソードスキルが発動する。

 

 しかし、それを上回る速度で韋駄天は逃げていく。

 

「そんな、キリト君より速い!?」

 

「韋駄天のスピードは妖界一なのよ」

 

「だったら」

 

 ドラえもんはポケットから現実ビデオ化機を取り出す。

 

「これで韋駄天をスローにするからみんなで攻撃するんだ!」

 

「よし!」

 

 全員が韋駄天へとびかかる。

 

 しかし、韋駄天のスピードは変わらず、全員が傷だらけになっていく。

 

「おい!壊れているんじゃないのか!?」

 

「違うよ!これでもスローになっているんだ。韋駄天の元のスピードが速すぎるんだ!」

 

 マタドーラの叫びにドラえもんが答える。

 

「遊びは終わりだ!」

 

 韋駄天の鎌がキリトを襲う。

 

 攻撃を受けて、吹き飛ぶキリトの鼻にあるにおいが漂ってきた。

 

「……これは……」

 

 臭いにキリトは思考する。

 

「どうするんだ?全然、敵わないぜ!」

 

 目を見開いたキリトはドラえもんから道具を奪い取る。

 

「早送り!」

 

「キリト君!?」

 

 キリトはスローではなく、早送りに設定した。

 

 その途端、先ほどよりも韋駄天の速度が増す。

 

「やめろ!キリト!これ以上速くしたら手が付けられなくなる!死ぬつもりか!」

 

「いいや、これが起死回生の一手だ!さらに倍速!」

 

「わぁああああ、キリトが壊れやがったぁ!」

 

 キリトの手によってさらに速度があがった韋駄天は興奮していた。

 

「凄いスピードだ!この速度なら百目王にも勝てる!!」

 

 韋駄天は百目王に忠誠を誓っているわけではない。

 

 ただ、勝てないから従っているに過ぎなかった。

 

 このスピードがあれば、百目王を倒せると確信した。

 

「ありがとうよ!さぁ、死ね!!」

 

 鎌がキリト達に襲い掛かる。

 

 来る衝撃にドラえもん達が身構える中、韋駄天の体が燃えだす。

 

「いいや、俺達の勝ちだ。燃え尽きちまえ」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 止める暇もなく韋駄天の体は瞬く間に燃え尽きてしまう。

 

 

「……え、どういうこと?」

 

「もしや、空気の摩擦で燃やしたのですか?」

 

 困惑するマタドーラ。

 

 王ドラがキリトに尋ねる。

 

「あぁ、奴がぶつかった時に空気が焦げたようなにおいがしたんだ。だから、奴の速度をさらにあげたら」

 

「空気の摩擦で燃え尽きるというわけですね。成程」

 

「よくわかんねぇが、すげぇぜ」

 

 キッドが感心する。

 

「のび太君!」

 

 アスナの悲鳴にキリトが振り返る。

 

 立っていたのび太がぺたんと座り込んでいた。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん、ちょっと疲れただけ」

 

 荒い呼吸ののび太へドラえもんが駆け寄った時、目を見開く。

 

 のび太の口から長い牙が覗いていた。

 

「牙が!?」

 

「妖怪化が進んでいるんだ!」

 

「一刻も早く、百目王の城へ!」

 

「あれが百目王の城よ!」

 

 座敷童が不気味な建物を指さす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、霧がかかってきたな」

 

「周りが見えなくなってきたわ。このまま進むのは危険よ」

 

 百目王の城を目指すキリト達。

 

 城へ近づこうとすると霧が現れて、段々と城が隠されていた。

 

「このまま進むのは危険だ」

 

「……還らずの沼のせいよ」

 

「なんだそりゃ?」

 

「百目王の城のまわりにある巨大な底なし沼よ。城に敵が近づくと霧を出して城を隠してしまうの」

 

 座敷童が地上へ降りる。

 

「地上から沼づたいに進むしかないわね。待ってて、近道を探してくるから」

 

「私も行くわ」

 

 座敷童の後をアスナが追いかける。

 

「くそう、城までもう少しだっていうのに!」

 

「それにしても、女子たちだけに任せて大丈夫であーるか?」

 

「アスナの細剣技術はなかなかのものだ。そうそう油断はしないはずだ」

 

 

 

 

 

 アスナと座敷童の二人は霧が広がる道を歩く。

 

 

 

「おかしいわね、このあたりに近道があったはず」

 

「座敷童ちゃん、下がって!!」

 

 気付いたアスナが座敷童を守るようにランベントライトを抜く。

 

「そこにいるのは誰!」

 

 アスナの叫びと共に近くの木から一人の妖怪が現れる。

 

 黒い服を纏い、額に伸びている一本の角。

 

「よぉ、久しぶりだな、座敷童」

 

「天邪鬼!?」

 

「知り合いなの?」

 

「はい」

 

「おいおい、久しぶりにあった幼馴染にそんな態度はねぇだろー?妖界を裏切って変な連中を連れてきたくせに」

 

 天邪鬼は飄々とした態度で座敷童の傍にいるアスナを指す。

 

 座敷童は驚いて天邪鬼へ抗議する。

 

「裏切ったなんて、そんな!私はただ」

 

「おっと、言い訳ならあの方にするんだな!」

 

「座敷童ちゃん!!」

 

 アスナが座敷童を抱えてその場を離れようとした。

 

 しかし、すぐそばの湖から現れた巨大な影に飲み込まれてしまう。

 

 ニヤリ、と天邪鬼は笑い、顔に手を当てる。

 

 音と共に天邪鬼は座敷童へ姿を変えた。

 

 変装した天邪鬼は走り、待っているドラえもんズとキリトの前に姿を見せる。

 

「おまたせー!城への近道を見つけたぜ……いや!見つけたわ!」

 

「さっき、あっちで何か叫び声がしたけど?」

 

 マタドーラの質問に天邪鬼は知らないという。

 

「声が少し違う気がするであーる」

 

「そうなの。カゼひいちゃって……」

 

「なぁ、アスナはどうしたんだ?」

 

 キリトの問いにどきりと天邪鬼は焦る。

 

「アスナはどうしたんだ?それと、座敷童は右目の下にほくろがあったはずだぜ?」

 

「え!?」

 

 慌てて天邪鬼は右目へ手を近づけようとする。

 

「残念、ウソ」

 

 天邪鬼は目を見開く。

 

 キリトは表情を変えずに背中からエリュシデータを引き抜く。

 

「アスナと本物の座敷童はどこにいる?」

 

 エリュシデータを向けられて天邪鬼は冷や汗を流す。

 

 その時だ。

 

 近くの湖から白くて巨大な龍が現れる。

 

「な、龍!?」

 

「てめぇ!座敷童とアスナをどこにやりやがった!」

 

 キッドが空気大砲を天邪鬼へ向ける。

 

「い、今頃、龍神様の腹の中さ。急がないと……溶けちゃうかもなぁ!」

 

 本来の姿を現した天邪鬼はものすごい勢いで逃げていく。

 

 水面から飛び出した龍神が口を開けて威嚇する。

 

「この野郎!」

 

 キッドが空気大砲を撃つ。

 

 しかし、龍神の鱗に空気大砲は傷一つつかない。

 

「傷一つ、つかない!?」

 

「この!」

 

 ドラメッドが雷を繰り出すも龍神は無傷だった。

 

 マタドーラとキリトが駆け出そうとした時、龍神が口から衝撃波を繰り出す。

 

 とてつもない衝撃と風によって全員が吹き飛ばされる。

 

 龍神の繰り出した衝撃波は周囲の木々などを根こそぎ吹き飛ばす。

 

「な、なんて、ものすごい衝撃波だよ」

 

「たった一声で世界が震えているようだ」

 

 ドラえもんが目の前の光景に戦慄していると再び、龍神が衝撃波を繰り出す。

 

「龍神に弱点は!?」

 

「ありません!神となった龍は無敵です!」

 

 マタドーラの質問に王ドラは叫ぶ。

 

 少し離れたところで天邪鬼が挑発を行うが全員、聞いていなかった。

 

「も、もうだめだ……」

 

「次をくらったら、終わりだ」

 

「いや!手はあるぜ!」

 

 空気大砲を装着したキッドが前に飛び出す。

 

「俺に手がある!ついてこい!」

 

「無理だよ!逃げよう!」

 

 走り出すキッドにドラリーニョが呼びかけるが応じない。

 

「……」

 

「どうする?」

 

 マタドーラにドラえもんはタケコプターを装着する。

 

「行こう!友情を誓い合った僕達に迷いなんかない!」

 

 ドラえもんの言葉にキリトを含めた全員がキッドの後を追う。

 

「さぁ、その口を開けてみろよ。さっきの衝撃波をもう一度、やってみな!」

 

 キッドの挑発に龍神が大口を開ける。

 

「今だ、奴の口の中へ飛び込め!!」

 

 全員が衝撃波を繰り出される前に龍神の口から、胃袋の中へ飛び込んだ。

 

「キッド、これは?」

 

「龍神の奴、外は強くても中は弱いはずだ」

 

「なるほど!」

 

「みんな、中から攻めるんだ!」

 

 全員が胃の中で暴れる。

 

 キリトはエリュシデータとダークリパルサーで胃の中を切り裂きながら進んでいくと。

 

「キリト君!」

 

「キリトさん!」

 

「アスナ!座敷童、無事だったか?」

 

 アスナと座敷童。

 

 二人は龍神の胃の中にいたのだ。

 

「キリト君、来てくれるって信じていたわ」

 

 抱き合うアスナとキリトの二人。

 

「まさか、二人が胃の中にいるとはな」

 

 キリトが驚いていると胃液が流れ始める。

 

 どうやら龍神が胃袋から吐き出そうとしているようだ。

 

「ドラニコフ!出番だぞ!」

 

 全員が胃液で外へ流されようとしていた時、キッドが叫ぶ。

 

「ガル!」

 

 四次元マフラーから丸いものを取り出すドラニコフ。

 

 丸いものを見た瞬間、ドラニコフはスーパーウルフへと変身する。

 

 変身したドラニコフはタバスコを取り出して口に流し込む。

 

「ガルォォオオオオオオ!」

 

 叫びと共に繰り出される火炎。

 

 胃液を発火材として中から龍神を焼き尽くす。

 

 炎に包まれた龍神は暴れていたが力尽きて地面に倒れる。

 

「すげぇ、あいつら、龍神様を倒しちまうなんて、信じられねぇぜ!」

 

 驚く天邪鬼。

 

 龍神の口からドラえもんズ、キリト、アスナ、座敷童が出てきた。

 

「ふぅ、間一髪だったぜ」

 

 全員が安堵の息をついたとき、後ろの龍神が光に包まれるとともに老人が姿を見せる。

 

「見事じゃ、仲間を助けるためにわしの体内に飛び込んでくるとは……大した知恵と勇気じゃ」

 

「アンタ、さっきの龍神か?」

 

「さよう、悪かったの試すような真似をして」

 

「一体……」

 

「わしは妖界が始まって以来、ここで異世界の者から妖界を守ってきた、しかし、今の妖界は百目王によって地獄のあり様じゃ、だが、お前たちのように真の友情と知恵と勇気を持つものなら、この世界を良き方向へ導いてくれるかもしれん」

 

 龍神は懐から水晶のように澄み切った玉を取り出す。

 

「この龍玉を持っていきなさい。必ず、お前達の役に立つはずじゃ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 龍玉を受け取り、龍神から百目王の城に続く道を教えてもらう。

 

 彼らは道を進んでいた時だ。

 

「オーイ!待ってくれよう!」

 

 後ろから追いかけてきたのは天邪鬼だ。

 

「オイラは龍神様と互角に渡り合えたお前達の子分になりたいんだよ!どこまでもついていくぜ!」

 

「ちぇっ、調子のいい奴」

 

「なんか、SAOでもこんな奴いたなぁ」

 

「そうだっけ?」

 

「知らんぷりしてろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、百目王の城……」

 

「みんな、覚悟はいいね!」

 

 ドラえもん達の手によって扉があけられる。

 

 その先に広がっているのは綺麗な花畑。

 

 西洋の城。どこまでも澄み切った湖が広がっていた。

 

「なんだこりゃ!?」

 

「これが百目王の城!?」

 

「綺麗だなぁ」

 

「あ、天使たちだ!」

 

 西洋のおとぎ話に出てくるような天使がキリト達を出迎える。

 

 

「これだけ綺麗な場所だと百目王も悪い奴じゃないかもしれないなぁ」

 

 一行が感想を漏らしながら歩いていると天使からキラキラした光が放たれる。

 

 その光を浴びた途端、キリト達はほんわかした気分になっていく。

 

 ふらふらと天使の誘導に従って進む。

 

 ふと、ドラえもんが湖を見る。

 

 その水面に映っていたのは目の前に広がる光景と全く違うもの。

 

 ドラえもんは目を見開き叫ぶ。

 

「みんな!騙されるな!」

 

 跳ねながら仲間たちを殴る。

 

「な、何するんだ!?」

 

「周りをよく見るんだ!」

 

 ドラえもんに言われて全員が周りを見た時、周囲の景色が歪む。

 

 しばらくして、綺麗だった城は土のようなものに、植物はとらわれの森のようなものへ、飛んでいる天使は鳥人間のようなものに変わっていく。

 

「アスナ!」

 

 キリトはアスナへ襲い掛かろうとする鳥人間へ剣を振り下ろそうとする。

 

 ひらりと躱した鳥人間はキリトへ爪を繰り出した。

 

 攻撃を受けたキリトは地面に倒れる。

 

「キリト君!?」

 

「みんな!急いで中へ入れ!!」

 

 空気大砲を装着してキッドが叫ぶ。

 

 倒れたキリトをドラえもんが担いで岩の洞窟の中へ入り込む。

 

「百目王がいる王の間は城の一番奥にあるはずよ」

 

「どんな奴かわからねぇが早く倒してやりたいぜ!」

 

「人間界に攻め込もうなんてこと考えやがって」

 

「でも、なぜ、百目王は人間の世界へ攻め込もうとするの?」

 

 アスナは座敷童へ疑問をぶつける。

 

「妖界と人間界は光と影のような存在なの」

 

 座敷童の話によれば、片方の世界によくないことが起これば、その影響が片方の世界に広まる。

 

 おそらく、人間世界の戦争や様々な負の問題が妖怪世界に悪影響を及ぼし、百目王のような存在を生み出したのだろう。

 

「オイラ、ちょびっと行ったことがあるけれど、人間界の方が怖かったぜ」

 

「だからといってのび太君をこんなことにしたやつを許せないよ!」

 

 ドラえもんが叫んでいると前方から何かが姿を見せる。

 

「こんな奥まできやがって、偽天使と一緒に行けば楽に死ねたものを」

 

「誰だ!」

 

 キッドが空気大砲を撃つ。

 

 しかし、相手は華麗に躱す。

 

「(避けた、なんて身のこなしの軽い奴だ)」

 

「ケケケ、今、なんて身のこなしの軽い奴だと思っただろう?」

 

「(俺の考えたことがわかるのか!?)」

 

「今、俺の考えたことがわかるのか?と思っただろう……」

 

「気をつけろ!コイツ、人の心が読めるぞ!」

 

「サトリ!あなたは百目王の新鋭隊長のサトリね!」

 

 座敷童の指摘で影から現れたのはサルとヒトを足したような外観の妖怪。

 

 サトリは不気味に笑う。

 

「俺はこれまでたくさんの人間の心を読んできてわかったんだ。心の醜い今の人間どもは百目王様に支配されるべきだ」

 

「違うわ!良い人間もいるわ!」

 

「私達は仲間を助けないといけないの!ここを通して!」

 

 アスナの叫びにサトリは答えない。

 

 ドラえもんズは作戦を立てようとして喧嘩をしていた。

 

「とりあえず、石ころ帽子で姿を消してサトリの注意をそらそう」

 

 ドラえもんは石ころ帽子をかぶって姿を消す。

 

「フフン、一人くらい、後で料理できるわ」

 

 サトリは腰の剣を抜く。

 

「さぁ、一人ずつ切り刻んであげよう……おっと、お前たちの攻撃は通用しないぞ。動きはすべて読めるぞ」

 

 空気大砲を構えようとしたキッドは悔し気に顔を歪める。

 

 サトリが剣を振り下ろそうとした時、背後から現れたキリトの二刀流ソードスキル“スターバースト・ストリーム”がサトリを倒す。

 

「な、なんだ!?何が起こったんだ?」

 

「キリト君……?」

 

「サトリの弱点をついたのさ」

 

「どういうこと!?」

 

「気絶した和人君に人間ラジコンをつけたのさ。いくら人の心読めても気絶している相手までは読めないからね」

 

「あれ……俺は何を?」

 

「キリト君、良かったぁ」

 

 意識を取り戻したキリトへアスナが安堵の声を漏らす。

 

 座敷童も驚いていた。

 

「凄いわ、サトリは妖怪の中でも実力者なのに」

 

「何度も戦ってコツをつかんだのさ」

 

「よーし!この調子で先を目指すぞ!」

 

「のび太が妖怪化しちまう前に!百目王のいる場所へ!いやしの泉へ!!」

 

 それから道を阻むように、釣り天井、振り子の斧といったトラップが現れるがそれを難なく突破する。

 

 しかし、彼らの前に妖怪の配下が現れる。

 

 触れただけでどんなものだろうと切り裂く爪を持つ、牛鬼。

 

 妖界一の乱暴者、両面スクナ。

 

 鳴き声で人を操る妖怪、ぬえ。

 

 吐く糸で相手をがんじがらめにしてしまう土グモ。

 

 炎を纏い、相手に突撃しようとしてくる火車

 

 それらの妖怪にマタドーラ、王ドラ、ドラメッド、ドラニコフ、ドラリーニョが相手をするために残り。

 

 王の間へ到着したのはキリト、アスナ、座敷童、天邪鬼、キッド、のび太だ。

 

 長い階段を抜けてやってきた王の間にキッドが安心の表情を浮かべる。

 

「よし、のび太!すぐにお前を」

 

 キッドに後ろからのび太がかみついた。

 

「いてぇ!?」

 

「えー!?間に合わなかったの!?」

 

「まだ完全に妖怪化していないわ、でも、その一歩手前で自分を見失うの!」

 

「だったら……気絶させればいいさ」

 

「キリト君!?」

 

 二本の剣を抜いて獣のようにうなっているのび太へ近づく。

 

「面白い」

 

「なんだ!?」

 

 目の前にあったいやしの泉が消えてのび太の前に一振りの剣が現れる。

 

「今の声は……」

 

「あそこをみて!」

 

 アスナは剣が飛来した奥、不気味に蠢く巨大な物体を見つける。

 

 それは全身が黒く、体中に目玉がついていた。

 

「あ、あれが、百目王よ……」

 

「なんてでかさだ」

 

「ひゃ、百目王、さま」

 

「人間の友が戦いあうさまはとても面白いものだ。私は見物させてもらおう」

 

「悪趣味な野郎だぜ!ブッ倒してやる!」

 

 キッドが空気大砲を構えようとした時、キリトが前に飛び出す。

 

 金属同士が派手にぶつかる音と共にのび太がキッドへ剣を振り下ろそうとしていた。

 

「なっ!?」

 

 あまりの速さにキッドは動けないでいた。

 

「おいおい、リアルでもここまで動けたことないだろ!?」

 

 キリトが驚きながらエリュシデータを振るう。

 

 獣のように唸りながらのび太は天井を走る。

 

「おいおい、獣丸出しじゃねぇか」

 

 驚きながら振り下ろされる剣をダークリパルサーで弾き飛ばし、エリュシデータを振るう。

 

 しかし、のび太はあっさりと躱して剣を振るう。

 

 ソードスキルを模した動きにキリトも対応をする。

 

「そういや、お前と剣をぶつけあうのって、SAO……背教者ニコラスの時以来じゃないか?」

 

 飄々としながらキリトはのび太の剣を躱す。

 

「覚えているか?自暴自棄になっていた俺を止めようと、お前やユウキ、クラインが止めようとしてさ……でも、最後は俺のためにたった二人でニコラスと戦ったよな?」

 

「う……ウァ?」

 

「それからはまた一緒にパーティーを組んでシリカを助けたり……ヒースクリフとデュエルしたり……本当に色々あったよな」

 

「あ、あぁああ」

 

 頭を押さえて苦しみだすのび太。

 

「のび太君!思い出してSAOで過ごした日々を!」

 

「のび太君!僕達は友達だよ!」

 

 アスナ、ドラえもんの叫びにより苦悶の声を上げるのび太。

 

「お前は人間だ!妖怪にはならない!!」

 

 叫びと共にキリトが駆け出そうとした時。

 

 のび太の背後に立っていた天邪鬼が剣を振り下ろす。

 

 ボクゥ!と殴られたのび太が気絶する。

 

「……うそぉ」

 

 

 目の前の光景にキッドが声を漏らす。

 

「あれ、やっちゃった?」

 

 ぽつりと天邪鬼が戸惑いの声を上げる。

 

 天邪鬼が持っている剣を見て座敷童が驚く。

 

「それはサトリの魔封剣!」

 

「咄嗟に持ってきたんだが、役に立ったぜ」

 

 手の中にある剣を見て天邪鬼は微笑む。

 

 倒れたのび太へキリトが駆け寄ろうとした時。

 

 百目王が叫ぶ。

 

「影よ!」

 

 眼から無数の妖怪が現れる。

 

「な、なんだ、ありゃ!?」

 

「百目王は一度見た相手を影として操ることができるの」

 

 座敷童が思い出したように叫ぶ。

 

「百目王はすべての目をつぶしたらその力を失うと聞いたわ」

 

「よし!やってやるぜ!」

 

 キッドが空気大砲で百目王の目をつぶしていく。

 

 順調に目をつぶしていた時、いやしの泉が現れて、百目王の体を癒す。

 

「傷が治っていくわ!」

 

「あれがいやしの泉の力。隣にあるのが死の泉よ!触れただけで相手の命を奪ってしまうわ」

 

「最悪すぎる!」

 

 キリトが悪態をつく中で百目王が最強の影を召喚する。

 

 

 一角大王、韋駄天、サトリ、牛鬼、両面スクナといった。かつて戦い、仲間たちが倒してきた妖怪たちが現れていた。

 

「前は全員でなんとか倒した相手なのに」

 

「くそう!これまでか!?」

 

 キッドが諦めようとしている中、キリトが剣を構える。

 

「敵が多くても、俺はのび太を人間に戻す!そのためならなんだってするさ!」

 

 叫びながらキリトが目の前に現れた牛鬼を切り裂き、両面スクナを薙ぎ払う。

 

「そうだわ!百目王を封印することができるという魔鏡!」

 

「龍神のおじいさんからもらった龍玉!」

 

「サトリの魔封剣!」

 

 なんとかできるかもしれない、と彼らは三種の神器のように三つを掲げる。

 

 しかし、何も起きない。

 

「何も起きないわ」

 

「使い方が間違っているんじゃねぇのか!」

 

 キッドが呆れた声を上げる。

 

「諦めろ、お前たちに勝ち目はない」

 

 百目王が諭すように問いかけた。

 

「そんなのやってみないとわからないだろ?命がけの戦いなら俺は何度も経験しているからな!」

 

「ならば、死ね!」

 

 一角大王が斧を振り下ろそうとする。

 

 その時、飛来した光線が一角大王を焼き尽くした。

 

「あ、あれは!」

 

 

 



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31:妖界大決戦(後編)

「待たせたでーある!」

 

「大丈夫か!?親友!」

 

 入り口から現れたのはドラメッド、マタドーラ、王ドラ、ドラニコフ、ドラリーニョと

 

 キッドたちを行かせるために先へ進ませた親友たちだった。

 

「どきやがれ!」

 

「ガルル!」

 

 両面スクナや韋駄天を蹴散らしてマタドーラやドラニコフ、仲間たちが駆け寄ってくる。

 

「みんな!無事だったんだね!」

 

「みんなで戦えば百人力だ!百目王なんざ、怖くないぜ!!」

 

 キッドがサトリに向かって空気大砲を撃つ。

 

 しかし、ひらりとサトリは砲撃を躱す。

 

 標的を外した砲撃はボコボコと泡立つ黒い泉へ直撃。

 

 爆発のような音を立てて黒い水しぶきが王ドラへ迫る。

 

「王ドラさん!危ない!」

 

「わっ!?」

 

 水しぶきが王ドラの袖に当たった途端、服が溶ける。

 

「気を付けて!それは触れただけで相手の命を奪う、死の泉よ」

 

「……そうか!」

 

 王ドラの頭にある考えが浮かぶ。

 

「キッド!死の泉へもう一度、撃って!」

 

「水しぶきを百目王にかけるのか!?」

 

「でも、そんなことしても癒しの泉の力でもとに……」

 

「大丈夫です!」

 

 アスナの疑問に王ドラは大丈夫と返し、仲間のマタドーラとドラメッドと呼ぶ。

 

 円陣するように並び、王ドラは合図する。

 

 キッドが空気大砲を撃つ。

 

 大量の水しぶきがマタドーラに迫る。

 

 

 瞬間。

 

 

「ヒラリマントぉぉぉお!」

 

 牛のマークを模したヒラリマントですべての水を躱す。

 

「水しぶきよ!カチンコチンに固まるであーる!」

 

 ドラメッドの呪文により水しぶきが鋭い針へ変わっていき、百目王の体へ突き刺さっていく。

 

「よし、いいぜ!」

 

 キッドが次々と空気大砲を撃っていく。

 

 百目王の最後の目玉に針が突き刺さる。

 

 断末魔のような声を上げて百目王が消滅していく。

 

「や、やった!」

 

「おい!」

 

「そうだった、のび太君!」

 

 ドラえもん達が残っているいやしの泉へのび太を沈ませる。

 

 しばらくしてのび太の顔から牙が消えて、人間の顔へ戻っていく。

 

「のび太、か?」

 

「……親友の顔を見間違えないでよ」

 

 苦笑しながらのび太がキリトの肩を叩く。

 

「のび太君!」

 

 ドラえもんが泣きながらのび太を抱きしめる。

 

「よかったね!キリト君」

 

「あぁ、アスナも、サンキューな」

 

 誰もが喜びの声を上げていた時、城内が大きく揺れだす。

 

 同時に二つの泉も消えていく。

 

『ワハハハハハ!』

 

「この笑い声」

 

「百目王の声よ!?」

 

 アスナが驚き周りを見ていると周囲の岩で覆われていた城内が変化していく。

 

 周囲が音を立てて動いていた。

 

 まるで体内の臓器が活動を始めているかのように。

 

『お前達が倒したのは体の一部に過ぎない』

 

「もしや……」

 

 周りを見て王ドラが言葉を漏らす。

 

「どうやら、我々は百目王の体内にいるようですね」

 

「これが百目王の中だっていうのかよ!?」

 

 マタドーラが驚いているとどこからか手が飛んでくる。

 

「危ない!」

 

 アスナが細剣で座敷童を捕まえようとしていた手をソードスキルで弾き飛ばす。

 

「外に逃げるんだ!」

 

 キリトの言葉で全員が外へ走り出す。

 

「ドラえもん、名刀電光丸を貸して!」

 

「あ、うん!」

 

 のび太はドラえもんから名刀電光丸を借りるとアスナやキリトと並ぶ。

 

「おいおい、生身なのに大丈夫か?」

 

「病み上がりだけど、なんとかなるよ」

 

「無茶はしないでね」

 

「のび太君!?和人君!明日奈さん!」

 

「みんなが外に出るまで僕達が時間を稼ぐよ!」

 

「一人不在だけど、SAOパーティー結成だね」

 

「みんな、急いでくれ!」

 

 のびてくる手に三人はそれぞれの武器で応戦する。

 

 後退しながら出口へ向かう。

 

「よ、ようやく、出口だ」

 

「お、おい、何だよ、これ!?」

 

 振り返ったキッドの声に全員が顔を上げる。

 

 そこにあったのは巨大な山。

 

 山と思っていたのだが百を超える無数の目玉が彼らを見下ろしていた。

 

「で、でかすぎるだろ!?」

 

 キリトが驚きの声を上げるほど、存在している百目王はでかすぎた。

 

「くそう!お前なんかに人間界を支配されてたまるか!」

 

『何を言う』

 

 キッドの叫びに百目王はバカにするように答える。

 

『私をここまで成長させたのは人間界にうずまく憎しみと悲しみなのだぞ?』

 

 人間界で戦争や自然破壊が起こるたびに百目王の体に邪悪な目が一つ、また一つと増えていき。今の巨大な体に成長させた。

 

「あの目の数は、人間の罪の数だっていうのかよ!!」

 

 キリトが剣を握り締めて叫ぶ。

 

「来るぞ!逃げろ!」

 

 ウゾロウゾロと近づいてくる百目王に逃げ出す。

 

 走り出す際に座敷童はバランスを崩した。

 

 その際に彼女の袖口から魔鏡が転がり落ちる。

 

 王ドラは落ちた魔鏡を拾う。

 

「この裏の文字は?」

 

「古代妖界語で書かれていて、読めないの」

 

「ドラえもん、ほんやくコンニャク!」

 

「はい、ほんやくコンニャク」

 

 のび太がコンニャクを口に含む。

 

「ちょっと、こんな時にコンニャクなんて」

 

「アスナ、大丈夫だ」

 

「えっと、魔鏡は邪を映し、魔封剣は憎しみを絶ち、龍玉はすべてを浄化する。魔鏡、魔封剣、龍玉の三種の神器が一つになる時、降魔の剣となり、全ての悪を切り裂くであろう」

 

「そっか、この三つをくっつければよかったのか」

 

「借りるぞ!」

 

 キリトが剣を掴み、三つの神器を重ねる。

 

 すると魔鏡が剣の中へ入り、龍玉が剣の下部分へ。

 

 一体化した剣が輝きを放つ。

 

 

「凄い」

 

「これが降魔の剣か!」

 

「あ、龍神様だ!!」

 

 天邪鬼の言葉通り、上空から龍神が現れる。

 

「降魔の剣に選ばれた勇者よ!我が背中に乗るのだ!」

 

 タケコプターを使って全員が龍神へ乗り込む。

 

 百目王は目玉から無数の蛇を生み出す。

 

「うわっ!?」

 

「剣に念を込めよ!みんなの念を集めて切り払え!されば、悪は必ず倒される!」

 

「剣を見て強く勝利を願うんですね!」

 

 王ドラの言葉と共に全員が意識を集中させる。

 

 しかし、何も起きない。

 

「こんな高いところで集中できるかぁ!俺は高所恐怖症なんだぞぉ!?」

 

「来る!」

 

「わかってるよ!」

 

 キリトの叫びにキッドがやけくそ気味に念じていた時。

 

 剣が眩い輝きを放つ。

 

「今よ!」

 

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 キリトが剣を振るう。

 

 眩い光と共に放たれた斬撃は周囲の山と百目王の体を両断する。

 

「や、やった」

 

「凄い!凄いよ!キリト君!」

 

「ね、ねぇ、あの黒いの何かな?」

 

 のび太は両断された百目王の体から噴き出している黒い靄に気付いた。

 

「あれは、罪じゃ!百目王が人間界に背負っていた罪が消滅と共に噴き出したようじゃ」

 

 龍神は目を見開く。

 

「いかん!一刻も早く人間界へ戻らなければ!」

 

「ど、どうゆうことだよ!?」

 

「噴き出した暗黒の罪が人間界へ戻ろうとしているのだ。このままでは二つの世界のバランスが崩れて、大崩壊を起こしてしまう!」

 

 龍神がゲートを開けて人間界へ戻ろうとする。

 

「駄目だ」

 

 キリトが龍神から飛び降りる。

 

「手遅れだ……ゲートの中まで罪が広がっている」

 

「みんなは先に戻ってくれ」

 

 降魔の剣を構えてキリトは罪の方へ走りだす。

 

「キリト!」

 

「お、おい!戻れ!」

 

「キリト君!駄目だよ!すぐに戻って!」

 

「駄目だ、ここで罪を何とかしないとみんなに危険が及ぶ。みんなのためにも、俺がなんとかする!」

 

「そんなこというなら僕も!」

 

「駄目だ!お前ら仲間を守るために」

 

「(……仲間のため……)」

 

 奥へ走っていくキリトは荒い息を吐きながら剣を振り下ろそうとした時。

 

 後ろから誰かが自分を突き飛ばす。

 

 バランスを崩した際に剣を落としてしまう。

 

 落とした剣を天邪鬼が拾った。

 

「ヘヘ……オイラには大事な仲間とか友達とかいない、独りぼっちなんだ。でも、お前には大事な仲間がいるんだ。だから、オイラに、任せな!」

 

 天邪鬼はそういうと一人、罪の中へ突撃していく。

 

「よせ!」

 

 キリトが後を追いかけようとするがアスナやみんなに羽交い絞めされてしまう。

やがて、ゲートが閉じる。

 

 ゲートが閉じるとともに彼らは人間界へ戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍神の持っていた玉から妖界の様子がみえた。

 

 今までの薄暗い不気味な雰囲気と異なり、大自然に囲まれて鳥が空を羽ばたいている。

 

 草原が広がる空間の中心、そこに天邪鬼が倒れていた。

 

 彼の傍には降魔の剣が落ちている。

 

「でも、天邪鬼が」

 

「アイツ、気が弱かったけど、良い奴だったな」

 

「なんとかしてやりたいけど」

 

「降魔の剣にある龍玉は魂を浄化し再生する能力があるのじゃ。天邪鬼に会いたいと心の底から願う友達がいれば、天邪鬼は生き返るだろう」

 

「……俺は願う」

 

 和人は玉を握る。

 

「アイツは良い奴だ。友達だ。だから、もう一度、会いたい」

 

「僕も」

 

「私も」

 

「アミーゴ……」

 

「ガウ!」

 

 全員が天邪鬼と再会することを願う。

 

 その時、まばゆい光と共に天邪鬼が目の前に現れた。

 

「え、オイラ、どうなって?」

 

「そこにいる人たちがあなたと再会することを願ったの……あなたのことを友達だって」

 

 茫然としている天邪鬼に座敷童がほほ笑みながら答える。

 

「お前は友達だぜ」

 

 和人の言葉に天邪鬼は涙をこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんというか、こんなことをキリト君やノビタニアン君は体験してきたんだね。終わったのにまだドキドキしているよ」

 

「まぁな」

 

「でも、他にもいろいろあったんだ」

 

「ずるいなぁ!」

 

 SAOの帰還者が集められた学校、

 

 その裏手にある山の一本杉があるベストプレイスに明日奈、和人、のび太、そして転校してきた木綿季の姿があった。

 

 彼女に妖界の出来事を話していたのだ。

 

 自分が知らない間に仲間が体験していたことに彼女は頬を膨らませる。

 

「そういえば、なし崩しとはいえ、私、キリト君とのび太君がちゃんとデュエルしたところみたことないなぁ」

 

「ん……?」

 

「クリスマスの時にしていたけれど、有耶無耶なっていたから、ちゃんとした決着はついていないな」

 

「そういえば、ALOに闘技場が設営されたよね?あれでデュエルしてみたら?」

 

 木綿季の言葉に和人とのび太の二人は「え?」という声を漏らす。

 

「ちょっと、見てみたいかも」

 

「そうだね!」

 

「まぁ……機会があれば、だな」

 

「そうかもね」

 

 のび太と和人、

 

 白銀の剣士ノビタニアンと黒の剣士キリト。

 

 二人が決闘する場面を想像して木綿季は心を躍らせていた。

 

 対して。

 

「勘弁してよぉ」

 

「俺も」

 

 二人はどこか辟易とした表情だった。

 

 

 



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32:偶像と出会い

「ふぅ、ようやくALOにログインできるよ」

 

「仕方ないよ。ママのお使いが終わってからでないとログインできないんだからさ」

 

 のび太とドラえもんは愚痴を言いながら自室へ入る。

 

 置かれているアミュスフィアを二人は装着した。

 

「「リンク・スタート!」」

 

 二人が同時に叫ぶとともに意識がALOの“スヴァルト・アールヴヘルム”の空都ラインの転移門に白銀のコートに肩まで伸びている髪を後ろに束ねたインプ族のアバター“ノビタニアン”と茶色を基調とした服に青い耳を生やしたケットシー族のアバター“ドラモン”が現れる。

 

「キリト達はエギルさんのお店かな?」

 

「ノビタニアン君。店へ行く前にアイテムを補充しておいた方がいいんじゃないかな」

 

「それなら、問題ないよ。事前にまとめてあるから」

 

「あれ、いつの間に?」

 

 驚くドラモンにノビタニアンは苦笑する。

 

「こういうことはSAOで重要になって来るんだよ?ドラモン君」

 

「おみそれしました~」

 

 二人でふざけあいながら歩いていると遠くで人だかりができていることに気付く。

 

「なんだろう?」

 

「他種族が入り乱れているね」

 

 ドラモンの言葉通り、ウンディーネ、サラマンダー、ケットシー、シルフといった他種族が集まって騒いでいる。

 

 ノビタニアンは知らないがアップデートされる前のALOでは他種族同士が交流をすることは少なく、PKするなどのいざこざを起こしていたらしい。

 

 ノビタニアンは近づいて一人のプレイヤーへ尋ねようとした時だ。

 

「あ、ノビタニアン君!」

 

「やぁ、ヒデヴィル」

 

 やってくるのは出木杉英才ことウンディーネ種族のヒデヴィルだ。

 

「この騒ぎはなんなの?」

 

「セブンが来るんだよ」

 

「セブン?知っている?」

 

「さぁ?」

 

 二人が首を傾げているとヒデヴィルが驚いていた。

 

「本当に知らないのかい?」

 

「「うん」」

 

「セブンはALOでアイドルとして騒がれているプーカの少女でシャムロックを率いているんだ」

 

「シャムロック?」

 

「クローバーの一種だね」

 

 そこでノビタニアンは思い出す。

 

 

 ALOを初めて少し経過したころ、総務省の菊岡にキリト共々呼び出されて、相談を持ち掛けられた時に話題となった少女。

 

「確か、リアルでも科学者として有名な天才少女だっけ?」

 

「ハーフでMITを飛び級かつ首席で卒業しているそうなんだ。今は仮想ネットワーク社会やVR技術を中心と研究しているらしいよ」

 

 唐突にキリトが言っていたことを思い出す。

 

「茅場晶彦がVR技術の闇なら、七色・アルシャービン博士は光にたとえられている」

 

「ノビタニアン君?」

 

「ううん、あ、もしかして、あの子?」

 

 ノビタニアンは人ごみの中心で微笑んでいる銀髪のような長い髪を持つ、可愛い女の子。

 

 周囲には独特な髪飾りをつけているプレイヤー達が身を固めていた。

 

 その中、ノビタニアンは長身のウンディーネプレイヤーをみている。

 

 細身ながらも鋭い目つきで周囲を警戒している男はただならぬ気配を放っていた。

 

 武器を持てば、圧倒的な力で叩き潰すほど気迫を持っていそうだとSAOにおいて戦闘経験を積んできたノビタニアンは思う。

 

「あれ、ヒデヴィルはどうしてここに?」

 

「あそこ」

 

 ノビタニアンの記憶が確かならヒデヴィルはアイドルとかに興味が薄かったはずだ。

 

 どうしてと尋ねたヒデヴィルはある場所を指す。

 

「セブンちゃあああああん!」

 

「こっち向いてぇえええええええ!」

 

 ある二人のプレイヤーが他のプレイヤー達と騒いでいた。

 

「……あの二人」

 

「すでにセブンの大ファンなんだ」

 

 肩をすくめるヒデヴィル。

 

 サラマンダーのジャイトスとシルフのスネミス。

 

「あの二人、クラスタになっているんだよねぇ」

 

「へぇ~、クラスタ?」

 

「セブンの追っかけさ」

 

「ふぅん~」

 

「あれ、しずか……シズカールは?」

 

 周りを見てシズカールの姿がないことにドラモンは気づく。

 

「彼女はリアルの用事で参加できないみたいなんだ……それより、そっちは大丈夫なの」

 

「あ、ヤバイ」

 

「急ごう!」

 

「またね!」

 

 ノビタニアンはヒデヴィルに手を振って走り出す。

 

 そんな二人を遠くから見ているプレイヤーがいた。

 

「あれは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁにぃ!?セブンちゃんに会っただとぉぉおお!」

 

 エギルの店へ到着したノビタニアンとドラモン。

 

 遅れたことを謝罪して、セブンを目撃したということを伝えるとクラインが激怒する。

 

「え、え、どうしてクラインさん、激怒しているの?」

 

「アンタ、何にも知らないのね?セブンは今やALO、リアルを問わず人気なのよ。そこのクラインはともかく、滅多に会えないことでファンの間でもうるさいそうよ」

 

「シノのん、詳しいね」

 

 戸惑っているノビタニアンの前でシノンが説明し、アスナが苦笑している。

 

 エギルの店でキリトをはじめとするメンバーが集まっており、今後の攻略について話をするはずだ。

 

「ノビタニアンさんも、まさかセブンのファンに?」

 

「えぇ~、ノビタニアンって小さい子が好きなのぉ~」

 

 シリカの言葉にストレアが反応して立ち上がる。

 

 ドラえもんは身の危険を感じてその場を離れた。

 

「ぶべっ!?」

 

 直後、ストレアがノビタニアンを抱きしめる。

 

「変な性癖は駄目だよ~、アタシがなんとかしてみせる~」

 

 豊満な胸に顔を押し付けられて喋られなくなり、手足をばたばたさせていた。

 

「あー、また始まったわ」

 

 リズベットが呆れたようにため息をこぼす。

 

「ノビタニアン君、中々解放されないんだよね~」

 

「……ま、まぁ、今日はアイツがいないから救い」

 

 リーファの言葉にキリトが苦笑していた時、お店のドアが開く。

 

「アーメン」

 

 ドアの向こうの人物を見てカウンターにいたエギルが小さく十字を切る。

 

「やっほー、遅くなって……」

 

 やってきた人物、ユウキの姿を見てそれぞれが動く。

 

 キリトはアスナの傍に向かい。

 

 シリカはピナを連れてエギルの傍に。

 

 クラインとフィリアは安全圏へ。

 

 リズベットはストレアを引きはがす。

 

 リーファはドラモンの視界を自らの手で隠す。

 

「ねぇ、ノビタニアン」

 

 ゆらりと近づいてくるユウキ。

 

 その姿にノビタニアンは全力で逃走しようとする。

 

 しかし、彼の俊敏を上回るのが彼女、ユウキだ。

 

「逃がさないよ!!」

 

「いやだぁ!僕は悪くない!」

 

 エギルの店のドアをふさぐユウキだが、それを予想していたノビタニアンは窓から店を出ていく。

 

 ユウキは鞘から剣を抜いて追いかける。

 

「待てぇええええええええ!」

 

「……ねぇ、キリト君」

 

「言うな、ドラモン。少なくともノビタニアンは死なないさ。このゲームはHP0=現実の死と無関係だからな」

 

「それで安心したよ」

 

 逃げたノビタニアンの安否を気にしながらキリト達は攻略の話を始めることにする。

 

 あのユウキを止めることはさすがのキリトも不可能だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここまでくれば、大丈夫かな?」

 

 ユウキから逃げるためフィールドへ出たノビタニアン。

 

「紫の剣士のころよりも早くなっているもんなぁ」

 

 ALOを始めたころ、ユウキはキリトやノビタニアン達と少し別行動をとっていた。

 

 その間に何をしていたのか、彼女は“絶剣”という二つ名を持ち、様々な種族とデュエルをしていたらしい。

 

 これは情報屋アルゴからの情報なので確かなものだ。

 

「まぁ、ユウキにもいろいろあるってことだよね」

 

 彼女の過去をノビタニアンは追及しない。

 

 相手から話してもらうのを待つ。

 

 無理に聞くことをしない性格だからこそ、キリトと親友といえる間柄になれたのかもしれない。

 

「そうだなぁ、適度にモンスターを狩って、素晴らしい昼寝スポットでも探そうかな」

 

 装備である剣を構えながらノビタニアンは背中に羽を広げて、空を飛ぶ。

 

 それから空や地上に存在していたモンスターを狩りつくしたノビタニアンは崖の近くにある草原のフィールドに寝転がる。

 

 本来ならモンスターが現れるかもしれないエリアのため、誰かが近づいてきたらアラームはなるようにセットして眠りについた。

 

「あれ?」

 

 寝ているノビタニアンは滅多なことがない限り起きることがない。

 

 そんな彼にそろりそろりと近づく影が。

 

 流れるような紅い髪、種族はレプラコーン。

 

 整った顔立ちの少女はどこか緊張したような様子でそろりそろりと近づいていく。

 

 ピクッ、とノビタニアンが身じろぎする度に身構えてしまうが起きる気配がないことに安心する。

 

 やがて、彼の顔をちゃんと見える場所まできて少女は立ち止まる。

 

「やっぱり似ているなぁ」

 

「何か、僕に用事?」

 

 パチリと目を開けたノビタニアンに少女は慌てて逃げようとする。

 

「落ち着いてよ、別に何かするとかはないから」

 

 起き上がったノビタニアンは攻撃する意思はないよ~と両手を上げてアピールする。

 

 少女は少し警戒していることに気付いてノビタニアンは置いてあった片手剣を遠ざけた。

 

「とにかく、座って話をしない?」

 

 ノビタニアンの言葉に少女は少しの距離を開けて草原へ腰かける。

 

「まずは自己紹介から、僕はノビタニアン、見てのとおり、インプの剣士だよ」

 

「…………私は、レイン」

 

 ぽつりと名乗った少女、レイン。

 

 種族はレプラコーンと彼女は言う。

 

「僕に何か用事でもあった?」

 

「……」

 

「えっと」

 

 半眼でこちらをみているレインにノビタニアンはなんて返そうかと考えてしまう。

 

「キミはあの白銀の剣士なの?」

 

「え?」

 

 驚いた顔でノビタニアンはレインを見る。

 

「どうして、その名前を」

 

「……本物なんだ?偽物とかじゃないんだね」

 

「う、うん、てか、偽物なんているの?」

 

「有名だもん。あの三剣士は」

 

「へぇ」

 

「まぁいいや、それだけわかれば大収穫だ」

 

「え?」

 

「じゃあね、また会おうね」

 

 ひらひらと手を振ってレインは去っていく。

 

 残されたノビタニアンは茫然とするしかできなかった。

 

「え?なんだったの」

 

 すっかり姿の見えなくなったレインに困惑しながらノビタニアンはラインへ戻ることにした。

 

「お帰り」

 

「!?」

 

 ラインへ戻ったノビタニアンを待ち構えていたユウキの存在をすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご慈悲を」

 

「……今度、街に出るからケーキをたくさん」

 

「そ、それで許してもらえるなら」

 

「……うん、許さない」

 

「いじわる!!」

 

「ノビタニアンが悪いんだ!」

 

「理不尽すぎるよぉ!!ドラえもん~~~~!」

 

 空都ラインにノビタニアンの絶叫がこだました。

 

 

 




次回、大長編行きます。


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33:パラレル西遊記(前編)

このモチベーション、いつまで続けられるかな?

今回から大長編に行きます。第一弾はこれからです。


 花果山の上に落雷が落ちる。

 

 落雷は天辺にあった丸い岩へ落ちたとともにその中から一匹の猿が生まれた。

 

「やぁやぁ!われこそは野比のび……違った!斉天大聖孫悟空であーる!」

 

 岩から生まれたのは野比のび太、間違い。孫悟空。

 

「筋斗雲!」

 

 彼は特殊な雲、筋斗雲に乗り、七十二の術を操る石猿だ。

 

 乱暴者で術を使うのも死ぬことが嫌だったからというほど自分中心。

 

「うん、出たな!妖怪!」

 

「「あぁ!悟空!」」

 

 ジャイアンとスネ夫みたいな姿をした妖怪は悟空の姿を見て逃げようとする。

 

 悟空は如意棒と呼ばれる測定用の道具を武器として利用していた。

 

 如意棒で二人を乱暴に叩きのめす。

 

 二人は泣きながら逃げていく。

 

「ガッハッハッ!俺様にかなう相手はいないのだ!」

 

「これ、悟空よ」

 

 名前を呼ばれて悟空は振り返る。

 

 そこには雲に乗った丸い狸……もとい、ドラえもんがいた。

 

「ドラえもんじゃないか」

 

「ドラえもん?違うぞ。われはお釈迦様だ」

 

 ドラえもん、もとい、お釈迦様は試すように悟空を見る。

 

「悟空よ。お前は誰よりも強いと言っているようだな」

 

「当然だ。おいらに勝てるものは誰もいないぞ!」

 

「ほおう、ならば、この私の手を飛び越えることも造作ないというのだな?」

 

「その手を?当然だ!饅頭みたいな手を飛び越えることくらい造作もない!」

 

「わぁ!」

 

 筋斗雲でお釈迦様を飛び越えて悟空はどこまでも飛んでいく。

 

 地の果て、空を超え、どこまでも遠い世界へ。

 

 やがて、この世界の果てともいえるような場所までたどり着いた悟空は目の前の丸いもので止まる。

 

「ここでいいかな」

 

 悟空は髪の毛を抜いて筆を作ると丸い物体にあるものを描いていく。

 

「まるかいてちょん……よし、これでどうだ」

 

 目の前に描かれたドラえもんの顔に満足して悟空は地球へ戻ろうとする。

 

「そ、そんなぁ」

 

 お釈迦様の高笑いが響く中、悟空は顔を青ざめる。

 

 目の前にいるのは巨大な姿をしたお釈迦様。

 

「悟空よ、これがお前の力か?お前が果ての目印と思っていたのは私の手のひらだぞ?お