俺は北上にからかわれたい。 (LinoKa)
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付き合いたい。
第1話 からかい合戦
ウブ、という言葉がある。
一言でいうと、恥ずかしがり屋は人を表す言葉だ。又の名を、シャイとも呼ぶ。
俺は、よくそういう風に呼ばれている。それも、部下であるうちの艦娘に。確かに、女性と話すのは慣れてるとは言えない。だが、ウブと言われるほどじゃないはずだ。
うちの艦娘の中で、特に俺のことをウブだなんだと、バカにしてくる奴が一人いる。
それが、こいつだ。
「よーっす、提督ー。スーパー北上さまが遊びきてあげたよー」
重雷装巡洋艦北上である。
この野郎は、いつもいつも執務室に来ては、俺の邪魔をする。
「遊びに来てなんて言ってないから」
「そーんなツレないこと言っちゃってさー。本当は嬉しいくせにー」
確かに、女の子が俺の所に遊びに来てくれるなんて、童貞の俺からしたら超嬉しい。
だが、お前それ自分で言うかな普通?その時点でありがたさ半減だわ。
「や、マジ今仕事してるから。遊んで欲しいなら大井の所に行きなさい」
「大井っちは今、駆逐達に授業してるよー。やらせてるの提督じゃん」
そ、そういえばそうだったかな。それなら尚更マズイんだけど。
「や、そしたらお前尚更ここ来るなよ。大井に、お前と遊ぶために授業に駆り出させたって思われたらどうすんの?」
「大丈夫大丈夫。何して遊ぶ?」
「大丈夫の根拠言わねーのかよ。つか、遊ばないし。仕事中だっつってんだろ」
「じゃ、スーパー北上様が手伝ってあげよう」
「え?」
「そうすれば、早く遊べるよね?」
ニヒッ、と何故か勝ち誇った笑みで言うと、北上は俺の横に座った。教室の席と同じくらいの間隔で、俺の隣に置いてある椅子を、わざわざ俺の真横に運んできて、北上は座った。
肩と肩がぶつかり、俺は思わずビクッとする?その俺の反応を見て、北上は楽しそうにケタケタと笑った。
「ほーんと、ウブだね。提督」
「う、うるせぇ。誰だって隣に座られたらビビるだろ」
「いや、普通の人ならビビらないと思うけど。………っと、それより仕事を続けよう」
北上は、わざわざ俺に寄りかかって、俺の右斜め前の書類に手を伸ばした。……あの、膝にささやかな胸が当たってるんですけど…………っと、キョドるな、俺。またからかわれるぞ。
背筋をピンと伸ばして、北上の様子を見てると、北上はニヤニヤしながら俺を見上げていた。
「………な、何笑ってんの?」
「べーつに?」
………その笑顔はむかつく。北上は書類を手に取ると、中をチェックし始めた。
俺は俺で、作業を開始する。俺は報告書は全部手書きで済ませることにしている。いや、特に理由はないんだけどね。ただ、あんまパソコンが得意じゃない。
「相変わらず、手書きなんだねー」
「まぁ、こっちのが楽だからな」
「いや、普通は手書きの方がめんどいと思うけど」
「それは人によるでしょ」
「………あ、もしかして、パソコンにエロ画像入ってるから見せられないんでしょ?」
「いや、入ってないから……大体、パソコンのエロ画像なんてダウンロードするわけないだろ。ウィルス入ってたらエライ目に遭うし」
「まるで、過去に被害にあったみたいな言い方じゃん」
「いや、違うから。友達が被害に遭ってただけだから。ほら、舞鶴の」
「………ああ、あの人」
北上はゴミを見る目になった。悪いな、大将……今度、ラーメン奢るぜ。
「でも、提督がそういう趣味じゃなくて良かったよ」
「俺はそういうの見たいと思わないからな」
「見る勇気がないだけじゃなくて?」
「ちっ、ちぎゃ……!ちがうから!」
「あははっ、焦り過ぎでしょ〜。なに噛んでんの?」
ケタケタと笑って俺の肩をバシバシと叩く北上。こ、この野郎……!ムカつくぞ、その顔……。
だが、ムカついても俺は何も言えなかった。
ぶっちゃけたことを言うと、俺はこの北上が好きだ。いつもいつも執務室に遊びに来て、いつもいつも仕事の邪魔をし、いつもいつも俺の事をからかってくる北上が好きだ。
だけど、俺にその想いを告げる勇気はなかった。ヘタレを絵に描いたような奴だ、俺は。
「…………はぁ」
「どしたん?ため息なんてついて」
「や、なんでもない……」
「なんでもなくないっしょ、今の感じは。この北上様が何でも聞いてしんぜよう」
えっへん、と無い胸を張る北上。
………こいつ、人の気も知らないで……‼︎一度で良いからこいつを困らせてやりたい。
「………聞いてくれんの?」
「へっ?ま、まぁね!聞いてあげようじゃないの!」
「…………誰にも言わないって誓って言える?」
「誓おう!」
うわっ、薄っぺらっ。装甲かよ。まぁいいや。
「………す、好きな人に、想いを伝える時って、どうすりゃいいの?」
「………………はっ?」
ニヤニヤしてた顔が一気にポカンとした顔になる。
で、頬をヒクヒクさせながら、恐る恐るといった感じで聞いてきた。
「………て、提督……す、すす、好きな人、いるの……?」
「……………」
俺は無言で目を逸らした。
…………うん、ちょっと困らせ過ぎたかもしんない。ていうか、このまま大声で叫びながら廊下を走り回られかねない。
「なーんてな、冗談だよ。ジョーダン」
「…………はっ?」
さらにポカンとした表情になる。で、引きつった笑みを浮かべながら空笑いした。
「だ、だよねー!も、もー、変なこといきなり言わないでよー」
「いつもの仕返しだよ」
「にしても心臓に悪いよー。まったく……次やったら本当に怒るから」
「お、おう………」
えっ、なんで怒ってんの?そんなタチの悪い冗談だったっけ………?
「じゃ、私そろそろ帰るね」
「えっ?いや仕事全然進んでな……」
「知らない」
「えっ………?」
北上は何故か怒って、執務室を出て行ってしまった。
仕事は、夜中の0:30まで続いた。
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第2話 守るべき事情
俺は、朝飯の時間が嫌いだ。というか、飯の時間が嫌いだ。
何故なら、色んな艦娘の話が入ってくるからだ。別に、艦娘の話を聞くのは嫌いではない。むしろ、交流を深めるのは大事だ。だが、当然聞きたくもない話も入ってくるわけで。
今は、第六駆逐のみんなと食べてるのだが、その俺達の右斜め後方、北上と大井の二人が飯を食ってる話が聞こえてくる。
「きったかっみさん♪、美味しそうですねー、そのオムライス」
「うん。やっぱ、間宮さんの料理は美味しいよ。……あ、良かったら一口食べる?」
「い、いいい良いんですか⁉︎」
「良いよ。はい、あーん……」
「い、いたっ、いただきます!あー……ん、」
「どう?」
「美味しいです!北上さんが食べさせてくれたから尚更♪」
「ほんと?良かったぁ、あ、大井っちの焼き魚も一口ちょうだいよ」
「は、はい!喜んで!」
「喜んで?」
まぁイライラする。大井も北上も人目も気にせずにイチャイチャしやがって。ていうか、北上が、誰かとイチャついてるのがイライラする。
そして、何より自分がそんな小さいことにイラついてるのにイライラする。大井の方は知らないが、北上にその気はないのは見れば分かる。だから、見方によっては、ただ姉妹間の仲がいいだけだ。そんな事を許容出来ない自分にイライラする。
「……かん、司令官!」
「! な、なに?どしたかみなり?」
「雷よ!もう、聞いてるの⁉︎」
「あ、ああ。結局、平子は卍解見れなくて最後までリアクション芸人だったよな」
「何の話よ!」
「全然、そんな話ししてないのです!」
あんま聞いてなかった。
「わ、悪い……」
「もー、司令官ったら。レディーとの話を聞いてないなんて、失礼よ!」
「…………何かあったのかい?」
響(ヴェールヌイ)がキョトンと質問してきた。
「いや、何もないよ。それより、何の話だっけ?」
「この前の遠征では、この暁が活躍したのよ!」
「暁は途中で電探落としてたじゃない!」
「え?ま、待って?電探落としたの?それ笑えないんだけど」
「大丈夫なのです。雷ちゃんがなんだかんだ言いながら、探すの手伝ってくれたのです」
「し、仕方ないでしょ⁉︎司令官に迷惑かけるわけにはいかないもの!」
「良くやったな、雷」
頭を撫でてやると、雷は気持ち良さそうな表情を浮かべた。ああ、ホントにペットっぽくて可愛いわ、駆逐艦は。
すると、隣から響が袖の裾を引っ張った。
「司令官、電探を見つけたのは私だよ」
「あ、ああ。響も良くやった」
「んっ……これは中々良いものだ」
「…………」
「電も探してくれたんだろ?おいで」
「じ、じゃあ……」
「ち、ちょっと!暁は⁉︎い、いや、別に撫でて欲しくなんかないけど!」
「電探を失くした張本人が何を抜かしてんだ」
暁は俺のことを涙目で睨みつけるが、俺は無視した。こういうとこで甘やかすと、暁自身のためにならない。
雷と響と電を交互に撫でてると、後ろからドンッと背中を押された。
「っ⁉︎」
「何デレデレしてんの?ロリコン」
北上と大井がゴミを見る目で俺を見下ろしていた。
「や、ロリコンじゃないから。え、なんで殴られたの?」
「バーカ」
「死ね」
「おい、大井。お前今なんつった?」
北上と大井はそのまま食器を持って何処かに行ってしまった。
俺はその背中をぼんやりと眺めながら、第六のガキ共と食事を続けた。
++++
食事を終え、俺は執務室に入った。
さーて、今日こそ定時で寝れるように仕事しないと。そう決めて仕事を再開する。
「……………」
飽きたー。やっぱ仕事って面倒臭いわ。楽しくないし。
………そういえば、北上は今何してるんだろ。さっき怒ってたからなぁ。
「はぁ………」
何かしたっけかなぁ。………昨日の冗談がそんなに嫌だったのかなぁ。でも、普段から俺の事からかってくる癖にそれで怒るのはどうなの……。まぁ、女の子なんてみんなワガママなものだからなぁ。
………こんなこと考えてても仕方ないか。仕事しよう。
「よーっす、提督ー」
「………北上」
え、なんで?さっきまで怒ってたじゃん。あ、もしかして殺しにきた的な?
「ど、どした?」
「いやー、お仕事手伝えないかなーって思って」
「や、いいよ。今日はあと書類と午後の分の演習だけだから」
「ふーん?じゃあそこの書類の山は終わった奴なのね?」
「……………」
「手伝ってあげる」
「………悪いな」
「良いって。さっき、理不尽に怒っちゃったし」
「あー、あれなんで怒ったの?」
「……………殴るよ?」
「なんで⁉︎」
「いいから。私、どれやれば良いの?」
「じゃ、この辺で」
書類を渡し、仕事を始めた。
まぁ、手伝ってくれるのはありがたいし、俺的に仕事が減って楽になる。だが、基本的にこういう作業は北上は苦手なわけで。
「そういえば、提督って彼女とかいたことあるの?」
すぐに雑談になった。普通なら、ここは注意して仕事させるのが正解だろう。だが、俺もこの手の作業は嫌いだった。よって、
「あるよ。一人だけ」
雑談に参加した。
「へぇー、意外。その時はウブじゃなかったんだ?」
「今もそんな初心じゃないから」
「いやいや、何言ってんの?」
北上はニヤニヤと笑うと俺の腕にしがみついた。
「いっ⁉︎」
「こんな風に腕にくっつかれただけで、顔真っ赤にする癖に」
「う、うるせーな!ていうか、女の子がそんな簡単に男にくっついてくるなよ!」
「ほれほれー、スーパー北上様が構ってあげよーう」
「い、いいから仕事しろよ!」
話に参加しといて随分と勝手な事を言ったが、北上は割とスッと離れた。だが、仕事をする気は無いようで、ニヤニヤしたまま聞いた。
「で、どんな子と付き合ってたの?」
「中二から高一の三年間、外見は清楚系なのに、中身はイケイケリアリアな子だったよ」
「へぇー、それはまた意外だねぇ」
「………三年間も、三年間も付き合ってたのに、高一の夏に彼女が二人目の彼氏作ってて……それで別れた」
「…………」
北上は気まずそうに目をそらした。俺も思い出しただけで泣きそうになったので、俯いて誤魔化した。
「ま、まぁでも、これからできる彼女は浮気なんてしないと思うよ」
お前それどういう意味で言ってんの?惚れられてるの気付いてないとはいえ、よく言えるなこのヤロー。
「だといいけどな」
「しないよ、絶対」
テキトーに流したことを言うと、やけに確信を持った返事が返って来た。
まぁ、そうだよな。俺の予定(というか願望)では、俺の次の彼女は北上だ。北上が浮気するような奴ではないのは分かりきっている。
………あれ?でもなんで北上がそんな確信してんの?俺が北上好きなことバレてる?バレてないよね?
「提督?どうしたの?すごい汗だけど……」
「や、なんでもない……」
こいつ……まさか、気付いてるなんて事はないよな?気付いててからかってるなんて事ないよな?
………一応、探りを入れてみるか。
「北上さ、もし誰か男に好意を向けられてるのに告られる前に気付いたら、どうする?」
「んー、どうだろ。まぁ、なるべく気付いてないフリをしてあげるんじゃない?」
「……………」
よし、多分バレてない。危なかった、バレてたら恥ずかしさのあまり破裂して死んでた。
「どしたの?急に」
「………………」
北上が質問して来た。うん、無視しよう、答えられるわけがない。
「………じゃ、仕事再開するか」
「ちょっとー!今の質問何さ?」
「えっと……次の書類は……遠征か」
「言わないと抱きつくぞー!」
「やめろ!」
結局、仕事は夜まで続いたが、破裂は免れた。
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第3話 嫉妬
翌日。俺はいつものように仕事。北上は今日はまだ部屋に来ていない。最近、毎日来てくれていたからか、少し退屈してたりもする。早く来ないかなーなんて思ってみたり。
………こっちから行くか?いや、そんな勇気はない。向こうは俺のことなんて好きじゃないだろうし、こっちから行こうものなら、「え?何この人、少し遊びに来られただけで私のこと好きになったの?キモっ」となるのは目に見えている。
「…………暇」
………やっぱ行こっかな。いやでも嫌われたくないしな。…………やっぱ行こっかな。でも嫌われたく……、
「………いや、北上の所に行くんじゃないから。ちょっと鎮守府の中歩き回るだけだから。これ休憩だから」
誰に言い訳してるのか自分でも分からないが、とりあえず執務室を出た。
えーっと、北上の居そうな場所……あ、いや会いに行くんじゃないけど。会いに行くんじゃないけど、北上に会えたら嬉しいなーって感じ。何処だろ、間宮?だろうな。どうせ、大井とイチャイチャしてるんだろうなぁ。食べさせ合いとか。
「…………」
………よし、間宮に行こう。急ごう。そう思って小走りに廊下を移動した。
すると、曲がり角でドンッと誰かとぶつかった。ぶつかった相手は後ろにひっくり返った。
「きゃっ」
「あ、悪い」
「い、いや大丈……って、提督さん⁉︎」
ぶつかったのは、瑞鶴だった。
「大丈夫?」
「大丈夫。気を付けてよも〜……」
「悪い、余所見してたわ」
謝りながら手を差し出すと、瑞鶴はその手を取って立ち上がった。
「お詫びになんか奢るよ。間宮行こう」
「お、マジで?さーんきゅっ」
素直でよろしい。これで、仮に北上に俺がいることがバレたとしても、北上と会えたら良いなーなんて気持ち悪い考えのもとで動いていたとはバレまい。
二人で間宮さんの店に入った。中には、予想通り北上と大井が百合百合していた。
「あら、提督。瑞鶴さんも。いらっしゃいませ」
間宮さんがにこにこと微笑みながら挨拶してくれた。
「あ、どうも」
「珍しい組み合わせですね」
「さっき、提督さんに押し倒されたから、奢ってもらいに来たの」
「おい、言い方」
「そういう事ですか。お二人共、どうぞお先な席にお座りください」
「あの、今何を納得したの?おーい、間宮さーん」
無視されて、俺と瑞鶴は席に座った。
「さ、好きなもん頼め」
「うん。じゃあ、この空母パフェで」
こいつまったく遠慮しねーよな。別に良いけど。
「はいよ。間宮さん、空母パフェと抹茶プリン一個ずつ、お願いします」
「はぁーい」
注文すると、調理に掛かる間宮さん。
俺はぼんやりとプリンを待ちながら、北上と大井を見た。相変わらず、百合百合してやがる。
「……提督さん?」
「んをっ、何?」
「何見てんの?」
「別に」
「………あー、北上と大井ねぇ。すっごく仲良いよね。割と本気でドン引きするくらい」
「ドン引きしてやるなよ……」
まぁ、嫉妬してる俺の言えた話じゃないけど。
そういえば、俺が北上の事が好きな事を知ってる奴って、この鎮守府にいるのだろうか。昔から、好きな人を隠すことにおいて、俺は最強クラスだったから、そうバレはしないと思うけど………。
「てか、瑞鶴と翔鶴さんも仲良いじゃん。あそこまでいちゃついてないけど」
「まぁねぇ。翔鶴姉は私がいないとダメだから」
「逆じゃね」
「そ、そんなことないもん‼︎」
「いやいや、いっつもいっつも翔鶴さんに纏わり付いてるでしょ。まぁ、翔鶴さんも嫌がってないけど」
「い、嫌がってないなら良いじゃん!ていうか、なんで翔鶴姉は『さん』付けで私は呼び捨てなの?」
「あー………」
そういえばそうだな。なんでだろ。
「知らね」
「加賀さんや赤城さんにも『さん』付けだよね」
「…………飛龍さんも蒼龍さんも雲龍さんも天城さんも『さん』付けだな」
「葛城は?」
「ヅラ」
「は?」
「ヅラって呼んでる」
「うわあ……かわいそう。でも、さん付けじゃないん……あっ」
「どした?」
「………おっぱいだ」
「は?」
「おっぱいが大きいと『さん』付けなんだ!」
「や、違うと思う。鳳翔さんも『さん』付けだし」
「………それ、本人の前で言わないようにね」
「うん、知ってる」
しかし、さん付けの定義か……。
「ああ、多分自分より年上に見える奴には『さん』付けなんだろうなぁ」
「何それ⁉︎私は子供に見えるってこと⁉︎」
「若く見えるって事だよ」
「…………なら許す」
日本語って素晴らしい。
すると、プリンとパフェがきた。
「お待たせいたしました」
「おーきたきた!」
「すいませんね」
「いえいえ」
間宮さんは商品を置くと、店の奥に戻った。
プリンを食べながら、北上と大井の様子を見た。北上は微笑みながら、大井とお話ししている。
ああ、あの笑顔なぁ……かわいい。なんというか、惹きつけられるよね。ヒマワリがパァっと咲くような笑顔じゃなくて……こう、なんだろ。普通に可愛い笑顔。ダメだ、良い表現ができない。
「ん〜!美味しい!」
そう言った瑞鶴は幸せいっぱいの顔だ。
「美味そうに食うな、お前」
「まね。美味しいものは味わって食べないと」
「それな。物を大事に食べるとかわけわからんよな。美味い時に美味く味わえるように食った方がいいよな」
「それを大事に食べるって言うんじゃ……」
………あっ、確かに。
「いや、そういうんじゃなくてさ。チビチビとモタモタと時間をかけて食べる奴って好きじゃないんだよね」
「あーそれは分かるかも」
「だべ?」
「翔鶴姉とか、意外と食べるの遅いんだよねー」
ああ、なんとなく想像できる。まぁ、瑞鶴の話を聞いてやってるからだろうけど。
そんな想像をしながら、生クリームの乗った抹茶プリンをスプーンで掬って一口食べた。
「美味っ」
「ほんと?一口ちょーだいっ」
「へっ?」
えっ、そ、それって……あーんしろってこと?何この子、いきなりハードル高くね?
「え、いやっ……そ、それってつまり……?」
「? ダメなの?」
え?それが常識みたいになってるの?翔鶴さんとはいつもそうなのかな?これって俺がおかしいの?
釈然としないながらも、俺はスプーンでプリンをまた掬って、瑞鶴に差し出した。
「んっ」
「へっ?」
「ん!」
「………えっ、あ、いや別に、良いよって言ってくれれば普通にもらったんだけど………」
「………えっ?」
…………何それ死にたい。
俺は恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆った。
「でもま、もらえるなら頂いちゃおっかな」
「へっ?」
「あー……」
瑞鶴が一口食べようとした直後、隣から別の顔が伸びて来て、一口食べた。北上だった。
「っ⁉︎ き、きき北上⁉︎」
「んーっ、やっぱ間宮さんのプリン美味しいわー」
「お、っ、おっ……おまっ……何やっ……⁉︎」
「それはこっちの台詞。何、イチャイチャしてんの?」
ゴミを見る目で北上は言った。
「う、うるさい…!てか、お前に言われたくねーし!」
「私は別に姉妹で仲良くしてただけだもん。ね?大井っち?」
「え?」
「えっ?」
大井がキョトンと首を傾げた。北上もそれに声を漏らしたが、スルーして言った。
「とにかく、人目のつくところでイチャイチャするのやめなよ」
「や、だから別にイチャイチャしてたわけじゃ……!」
「そ、そうよ、北上。別にイチャイチャなんて……!」
「二人して否定しちゃってる辺りがもうね」
俺は反論の手立てを失って俯き、瑞鶴は「あのねぇ!」と説明する。
「確かに、なんでそこで『あーん』されたのか分からないけど、別にイチャイチャしてたわけじゃないの!」
「いや、それ側から見たら立派なイチャイチャだからね」
な、なんで北上はこんなに機嫌が悪いんだ……?
「わ、悪かったよ……。何を怒ってるか分からんけど、なんか奢るから、もう怒るな」
「………この私を食べ物で釣ろうっての?」
「いや、釣ろうじゃなくて、北上とは喧嘩したくないって事」
「……………」
すると、北上は何故かそっぽを向いて、しばらく考え込んだ後、俺のお向かいに座った。
「じゃ、チョコパフェ、ミルクプリン、たい焼きカスタード、抹茶アイス」
「えっ、そ、そんなに?」
「文句あんの?」
「い、いえ、ないです……」
「じゃ、提督さん。私、そろそろ行くね。奢ってくれてありがと」
瑞鶴が席を立った。
「あ、ああ」
瑞鶴は去り際に北上を見て、ニヤッと微笑んだ。それに、北上はメンチを切って返すと、「おー怖っ」と瑞鶴は呟いて、大井を引きずって店を出た。
「…………」
「…………」
「……あ、間宮さん。チョコパフェ、ミルクプリン、たい焼きカスタード、抹茶アイス」
「はーい」
注文したものを待つ間、俺と北上はただ二人で料理を待っていた。
「…………」
「…………」
「……あの、北上?」
「何」
「まだ怒ってる?」
「怒ってない」
「ほ、ほんとに?」
「しつこい」
怒ってんじゃん。悪かったな、しつこくて。そんな事してる間に、俺はプリンを食べ終えてしまった。
………まあ、北上と二人きりでここにいられるだけでも良しとしよう。
「………提督」
「な、何っ?」
「そんな怯えなくて良いよ。本当に怒ってないから。少し不機嫌なだけ」
怒ってんじゃん。立派に。
「提督さ、瑞鶴と何話してたの?」
「え?あ、あー……いや、大した話してないよ。ただ、俺が『さん』付けしてる人の定義とか」
「ふーん、どういう人なの?」
「歳上に見える人」
「ああ〜、提督ヘタレっぽいもんねー」
「うるせー」
「ま、私も人の事言えないけど」
「………えっ?北上が?ヘタレ?どの辺が?」
「…………」
「え、何その顔」
「何でもないよー。バーカ」
え、なんで罵られたの俺。
そんな事をしてる間に、北上の注文した商品が運ばれて来た。
北上が甘味を食べ始め、俺はそれを黙って見ていた。
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第4話 逆転の発想
自室。俺はベッドの上で寝転がり、天井を眺めながら、ふと思った。
なんつーか、情けねーな。俺。北上を好きになって約一年が過ぎている。だが、未だに自分から話しかけたことがない。これは昔から変わっていない。
学生の頃とか、モテたくて髪の毛を染めたり、筋トレをしたりとかしてたが、好きな子が出来ても告白する勇気なんかなかった。いや、告白どころか雑談する勇気すらなかった。
好きな子と話す勇気なんかない癖に、それを隠すために見栄を張り、虚勢を張り、表面だけ格好付けて来た。好きな子から話しかけて来てくれるのを待った。
「………けど、それじゃダメだ」
そういうのはもう辞めたい。何とか勇気を振り絞って、俺から北上に話し掛けられるようになりたい。
なんて話しかけたら良いのか……。そもそも、みんな全国の男子は女子にどうやって話しかけてんだ?
「………困った」
分からない。でも、そろそろこっちからアタックしていかないと、北上は大井のものになる。それだけは避けたい。好きな子を女の子、それも姉妹に取られるとか死んでも死に切れん。
………よし、とにかく自分から話しかけるんだ。なんでも良い、話しかける内容は明日の俺に任せよう。明日は明日の風が吹くんだ!
「サンダーファイヤー!」
意味不明な必殺技名(?)と共に、俺は眠った。
++++
翌日。俺は仕事をほっぽり出……中断して、北上のいそうな場所に向かった。
昨日、間宮にいたから、今日は多分いないだろう。北上だって女の子だし、体重くらいは気にするだろう。と、なると、演習場か屋根で日向ぼっこか……。
演習場から回ってみるか。そう決めて、廊下を右に曲がると、北上と大井が二人で前を歩いていた。
「ッ⁉︎」
慌てて壁に隠れた。な、何やってんだ俺……何逃げてんの?
俺は後ろから北上と大井を覗いた。
「それでですね、北上さん。私、こんなお洋服が北上さんに似合うと思うんですよ」
「あー、確かにかわいいねこれ。でも、私にはちょっと派手じゃない?」
「そんな事ありません!北上さんは何を着ても似合います!」
「じゃあ別にこれって選ぶ意味なくない?」
「その中でも『特に』の話ですよ」
………気になる。どんな服だ?大井は北上が関わらなければ超女子力高い最強の女の子だ。その大井がコーディネートした北上の私服なんて気にならないはずがない。しかし、私服の北上か………。
………って、イカンイカンイカン!話しかけるんだ、俺!何のんきに妄想を始めてんだ、俺!
なんて話しかけるべきか、あまり向こうが引かずに且つ、話が盛り上がる話題……高校の時に散々調べたろうが!勇気がなくて活かせなかったけど!
「そういえばさ、大井っち」
「何ですか?」
「この前、出掛けた時にあのカーディガン買ったお店ってなんだっけ?また行きたいなぁ」
「ああ。あそこですね。今度行きます?」
「うん。今度は大井っちの服も見つけないとね」
「き、ききっ、北上さんが選んでくれるんですか⁉︎」
「え?うん」
「行きましょう!さぁ行きましょう!すぐ行きましょう!」
「いや、今日は無理だよ〜。午後から雷撃演習だし」
「そ、そうでしたね……。チッ、提督め………」
「大井っちにはロングのスカートも似合うと思うんだよなぁ」
俺がなんて話しかけようか悩んでる間に、二人の話はさらに盛り上がって行く。
な、何か……何か話し掛けないと……。
「提督じゃーん!ちぃーっす」
後ろからドンッと背中を押された。
「っ⁉︎ッ⁉︎」
「あははっ、提督ビビりすぎ〜。鈴谷だよ」
「お、おおっ……脅かすなよ!」
ていうか、よりにもやってお前かよ!青葉に次いで、今来ちゃいけない奴ランキング堂々の2位!
「何してんの?壁に張り付いて。忍者ごっこ?スパイごっこ?エージェントごっこ?」
「ち、違うから!お前には関係ないから!」
「ナニナニ〜?……って、北上と大井………?ナニ、ストーカー?それ笑えないよ提督……」
「違うから!ただのナルトごっこだから!」
「え?それ忍者ごっこじゃん……。しかも一人で?歳いくつよ提督」
「……………」
なんて答えりゃ良かったのか、誰が模範解答を教えて下さい。
「ま、暇なら良いよね?鈴谷、今暇でさ〜。ちょーっと暇潰しに付き合ってよ」
「え、いや俺今忙し」
「ストーカーしてたって、憲兵さんに言っちゃおっかなー」
こ、このアマ……‼︎大体、俺は北上に話しかけないといけないわけで……!
どうしようか悩んでると、鈴谷の後ろからズビシッと頭にチョップが直撃した。
「鈴谷、提督に失礼ですのよ」
「げっ、熊野………」
「申し訳ありません、提督。ほら、鈴谷行きますわよ」
「や、全然」
「ちぇー。提督ー、鈴谷と今度遊んでよー!」
熊野に引き摺られる形で、鈴谷は去って行った。
俺はそれを見ながら、ホッと胸をなで下ろして、北上と大井の方を見ると、姿が無かった。
「いっ⁉︎」
慌てて後を追おうとした直後、ガッと後ろから襟首を掴まれた。大淀さんが眼鏡のレンズを光らせて立っていた。
「提督、何遊んでるんですか?」
「げっ……」
「仕事が溜まってるんですから。執務室に戻ってください」
「……………はい」
俺は執務室に連行された。
結局、午前中は話しかけられなかった。
++++
午後。昼休みに俺は昼飯を食べようと北上を誘おうとしたが、すでに大井と食べていたので、一人で食事を終えた。
さて、ここからだ。北上は演習場にいる。なんとか話し掛けなければならない。
「………どうしたもんか」
俺しかいない執務室で、椅子の背もたれに寄り掛かって、天井を見上げた。
話しかける内容もそうだが、タイミングだ。ずっと大井がくっついて来ている。絶対に邪険にされるだろうなぁ……。いや、大井が怖くて北上と付き合えるか。そこは意志を強く持て。
「よし、じゃあ早速………!」
「何処に行く気ですか?提督」
大淀さんが面白いほどタイミングぴったりで入って来た。
「午前の仕事の遅れを、今から取り返さないといけないんですよ?」
「や、でもッ……」
「仕事、しましょう?」
「……………」
大淀さんが怖くて北上に告白出来るか‼︎
俺は執務室の窓からロープを投げた。
「っ⁉︎」
大淀が動揺してる間に、ロープを握って降りた。ロープを固定するのを忘れてた。
「…………あっ」
死んだな、と、一発で分かった。ロープと一緒に下に落ちた。
「え、嘘?」
「え?」
下から間抜けな声が聞こえた。見ると、北上がいた。
「「ぬあああ⁉︎」」
俺は北上の真上に落ちた。ドッシーン、と言う漫画みたいな効果音の後に、なんとか意識を取り戻すと、目の前に北上の顔があった。
誰がどう見ても、俺が北上を押し倒してるように見える。
「わっ……⁉︎」
「て、提と……‼︎」
俺の顔が真っ赤になると、北上も一瞬だけ顔が赤くなった。
が、すぐに、いつものケロッとした笑顔になった。
「もー、どーしたの、提督?スーパー北上様が見えて、思わず跳んで来ちゃった?」
「え?あ、いやっ………」
チャンスだ。何か、何か話しかけ………!
「な、何やってるんですか提督………⁉︎」
遠くから声がした。大井がすごい形相でこっちを睨んでいた。と、思ったら猛然と走って来た。
ヤバい、狩られる。でも、北上に何か話しかけないと……‼︎わ、話題……話題……!ええぃ、話題なんか知るか!逆転の発想で行け、俺‼︎
「き、北上!」
「何?どしたの?助けてくれってオチ?」
「今日、仕事終わったら話あるから‼︎」
「……………えっ?」
予約を取っておいた。これなら問題ないだろう。
北上の返事を聞く前に、俺は大井から逃げ出した。
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第5話 約束の約束
短くてすいません。
19:30を過ぎた。俺が書類をする横で、北上が立ったまま片手を机の上に置いてすごい形相で睨んで来ていた。
「ねぇ、仕事終わる時間に私呼び出したの提督だよね?」
「はい、その通りです……」
「なんでまだ仕事終わってないの?」
「いえ、別に遊んでたわけじゃ」
「わかってるよ。別にTwitter巡回するのは遊んでるとは言わないもんね?」
「はい、仰る通りです……」
嘘をついた。本当は北上と話す内容ずっと考えていたなんて言えなかった。
俺の返答に、北上は不愉快そうな片眉を上げた。
「仰る通りじゃないから。あと五分以内に終わらせないと私帰るから」
「せめて十分にして下さい!」
「何?三分?」
「五分でやります!」
素直に返事をすると、北上は「まったく……」と息をついて腕を組んだ。
「……楽しみにしてた私がバカみたいじゃん………」
「え?楽しみにしてたの?」
思わず振り返って聞き返すと、真っ赤になった顔を隠すように、俺の頭を掴んで机の上に叩き付けた。
「い、いいから仕事しろ!」
「手を離してくれませんか」
北上は不愉快そうに歩いて、ソファーの上に寝転がった。
++++
「終わったぁー!」
「ん、お疲れ〜」
背もたれに寄り掛かった。時計を見ると1分過ぎていたが、北上は特に攻めてくる様子はない。
「で、話って何?」
「……………」
忘れてた……。そうだよ。話ってなんだよ。何の話だよ。
「あー……えっ……とぉ………」
目を逸らして、必死に何を話すか考えた。
………なんだ、女子ってどんな話が好きなんだ?アクセサリー?服?いや、違うな……。恋バナか!そうだ!女子が好きなのは恋バナだ!
「き、北上!」
「な、何……?」
「好きな人、いない?」
「……………へっ?」
何を聞いてんだ俺は。北上困ってんじゃん。
ていうか、うんって答えたらどうするつもりだよ。死にたいのか俺は。
「ご、ごめん!何でもない!今のナシ!」
「へ?あ、そ、そう……」
「そうじゃなくて、えっと……」
電ってよく「はわわわ!」って言うけど、その気持ちがよく分かるわ。マジで今、はわわわ!
一人でテンパってると、北上が俺の横まで来て、肩に手を置いた。
「なに、どしたの?落ち着いて?」
「い、いや……えっと……」
「はいはい、深呼吸してー」
「すぅーはぁー……」
「私に合わせて呼吸してー。ひっひっふー」
「ひっひっふ……や、違うだろ!てかそれ女がやるとブラックジョークにも程があるから!」
「よし、いつもの調子に戻ったね。何?」
戻ってねえよ。さっきまでとは確かに違うけども。普段の俺って一体どんな風に見えてるの?
ああもうっ、結局何話したら良いかわからんし。こんなことならやっぱ呼び出さなければ良かった。
とりあえず何か、何か話さないと……北上が退屈しないような、話を………!
「き、北上!」
「それ3回目」
慣れた様子で「はいはいなんですか?」みたいな感じで言う北上の肩を掴んだ。
「俺と、付き合って下さい」
「………………はっ?」
余裕の態度から一転、北上は超動揺した。
「はっ……は、はぁぁぁ⁉︎い、いきなりっ……にゃっ何を………⁉︎」
「あ、いやっ……えっと……!」
や、ヤバイ!ドン引きされる!気がする⁉︎
「や、あのっ……あれだ!実は、あれ……も、モンハン買おうと思って!だけど一人でやってもつまんないから!ていうか、良い大人が一人でゲーム買うの痛い(気がする)から!そのっ……色々と付き合って下さい!」
「………………」
北上はしばらくぽかんとした後、烈火の如くブチギレたラージャンのように髪を逆立て……たかと思ったら、急に照れたようにそっぽを向いて、頬をポリポリと掻き、今度は「ん?待てよ?」みたいに何か思いついた顔になったかと思ったら、いつもの飄々とした笑みを浮かべた後、ニヤリとイタズラっぽく微笑んで言った。
「何、遠回しにデートのお誘い?」
「はっ?」
…………確かに。二人で買い物の約束じゃん。しかも、デートで買いに行くものがゲームって………。
「デートに誘っておいて買いに行くのがゲームってどうなの?」
「お、俺が今思ったことを反復するな!」
「ま、付き合ってあげるよー。その代わり、私の分のゲームも買ってよね」
「わーってるよ」
「じゃ、来週の日曜ね」
「りょかい」
「じゃ、また」
「んっ。おやすみ」
北上は執務室から出て行った。
「………………えっ、日曜?」
日曜って確か、第一艦隊の出撃予定があったような……。ま、いっか。
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第6話 嫌いな食べ物はいくつになってもダメ
何かおかしい。少し、北上と話せれば良いと思っていたのに、なんかいつの間にかデートの約束をしてしまっていた。いや、北上とデート出来るのはグラブルでSSRが当たった時よりも全然嬉しいんだけど、何か違う。普通にお喋り出来れば良かったはずなのに……。
デート行くのは確定として、さりげなく声掛けられるようにならないとダメだ。このままじゃ、デートに行っても何も話せなくなるのがオチだ。
「…………いや、落ち着こう」
大丈夫、まだ日曜日まで何日があるんだ。焦って昨日みたいなことになれば今度こそ終わりだ。それより、デートの日のために仕事やらないと。
しばらく、書類に目を通してはなんか色々書き始めて、三時間くらい経過した。うん、俺にしては、良く集中力保ったもんだよ。
仕事増えるから出撃はない。開発と遠征と演習だけしちゃおう。
執務室を出て、まずは遠征メンバーの元へ。えっと、天龍と龍田に人選は任せよう。あいつ、面倒見良いし。
軽巡の部屋に向かい、天龍龍田の部屋をノックした。
「はぁ〜い」
龍田の声が聞こえて「俺だ」と答えた。
「あら、オレオレ詐欺かしら〜?」
「提督だって。天龍もいる?」
「いますよ〜。今、開けますね〜」
扉が開き、龍田がにこやかに出迎えた。
「あの、遠征の旗艦二人に頼みたいんだけど……」
「お話はお茶でも飲みながら中でしませんか〜?」
「へ?いやそんな気を使わなくても」
「良いから良いから〜」
「入っても良いって事?」
「大丈夫ですよ、私は見られても困るものありませんから〜」
龍田に言われ、俺は部屋の中へ。
部屋の中では、天龍が抱き枕しながら昼寝していた、まだ午前中だけど。龍田を見ると、すっごく良い笑顔だった。こいつ、ほんと良い性格してんのな。
「………お茶もらえる?」
「提督も中々良い性格してますね〜」
ニコニコしながら、龍田に緑茶を淹れてもらった。ズズッとお茶を飲みながら、天龍の寝顔を写真撮ると、龍田に聞いた。
「これ、青葉にいくらで売れると思う?」
「ダメですよ〜?天龍ちゃんをいじるにも、やって良いラインというものがありますから〜。流石にそれは見過ごせません〜」
「なんだ、一応姉のこと守ってあげるんだな」
「青葉にはもう私が売りましたから〜」
「お前すげぇな!よくさっき、いじるラインだの何だの言えたな⁉︎」
「写真を売ることはやっても良いラインですから〜」
「見過ごせないんじゃないの⁉︎てかやって良いラインなのか?」
「私だから良いんです〜」
「横暴!」
ホント、妹にいじられるとか天龍可哀想な。そんな事を話してると、横から「んっ……」と声が漏れた。直後、龍田は録音機を取り出した。
「たつたぁ……いつも、ありがとう………」
それを録音すると、龍田はすごく良い笑顔になった。
「お前のそういうとこ、ほんと尊敬するよ」
お茶を飲みながらそう言うと、龍田はそれを鮮やかに無視して聞いて来た。
「それで、何のお話でしたっけ〜?」
「ああ、そうだった。遠征。お前と天龍旗艦でボーキ輸送とタンカー護衛」
「了解しました〜」
「メンバーは……好きな奴連れてって良いから」
そう言って、お茶を飲み干した。
「ご馳走様、俺もう行くわ」
直後、また「んっ……」と、吐息が漏れて、天龍が起き上がった。
「ふわあぁあ〜……おはよう、龍田ぁ………」
すると、龍田は俺の方を見た。俺はため息をつくと天龍に言った。
「おはよう〜、天龍ちゃん〜」
「龍田ぁ?お前なんか声低くね……」
言いながら、俺の方を見た。すると、ギョッとした天龍は、後ろに手をついた。
「て、提督っ⁉︎なんでここにっ⁉︎」
「あら、天龍ちゃん〜?私は龍田よ〜?」
「はぁっ⁉︎な、何ふざけてんだよ⁉︎龍田ならそこにっ……」
「ああ、天龍……。実は、俺達入れ替わっちまったっぽくてな……」
自分で言うのもなんだけど、龍田の奴、俺の真似上手いな……。
「んなっ……⁉︎ま、マジかよ⁉︎なんでだよ!」
「いや、ちょうど前を通りかかった時にぶつかっちまってな」
「申し訳ありません〜。私がちゃんと周りを確認しなかったばかりに〜……」
「いや、俺もスマホいじりながら歩いてたから。龍田は悪くないよ」
そんな話をしてると、天龍が口をパクパクしながら後退りし、そのまま部屋を飛び出した。
「だっ、誰かぁー!て、提督と龍田がっ……提督と龍田が混ざり合ってるぅー!」
「「ぶふっ⁉︎」」
俺と龍田は揃って吹き出した。そのまま天龍は「だ、誰かー!」と、どこかに走り去った。俺と龍田は顔を見合わせ、走って部屋を飛び出した。
「ま、待てええええ!その言い方はマズイ!その言い方は不味いから!」
「て、天龍ちゃん、落ち着いて!からかっただけ、からかっただけだからぁ〜‼︎」
慌てて追いかけて、なんとか広まる前に止められた。
++++
遠征を頼みに行っただけなのに、随分と疲れてしまった。続いて、肩をコキコキと鳴らしながら執務室に帰ってると、球磨型の部屋からちょうどバッタリと北上が出て来た。
「あっ」
「おっ、てーとく」
ヤバい、何話そう。
「なんか天龍が叫んでたけど、なんかあったの?」
「いや、何もない、けど……」
「ふーん……。ま、天龍が叫んでるのはいつもの事か」
いつも叫んでんのかあいつ……。まぁ、バカは騒ぐ事とか好きそうだし。
って、違う違う違う!どうする?こんなチャンス滅多にないぞ!何か、何か言え俺!
俺は心の中で深呼吸して、勇気を振り絞ると、北上に言った。
「あ、のさ………」
「んー?」
「飯、まだだよね?」
「うん。これから行こうかなって思ってたとこ」
「じゃあ、その………いっ、一緒に、食べない……?」
あああああああ!言っちまったああああああ‼︎これで断られたら俺明日から一ヶ月部屋に引きこもる!なんなら提督やめるまである!いや、提督やめるどころか人間やめて海の藻屑になって、もういっそのこと深海提督になるまで……!
「良いよー」
「………深海の対応になってや………今なんて?」
「え?良いよって」
「ま、マジで?」
「うん。早く行こうよ」
北上は俺の手を取って走り出した。
「………そうか、俺は死ぬのか……」
「何バカ言ってんの?早く行こうよ」
そのまま、食堂に到着した。北上と最初から二人きりで食事なんて、多分初めてじゃないか?しかも、今回は俺から誘ってるんだぞ?何これ、奇跡?
「提督、何食べんの?」
「うどん」
「へー、やっぱそういう感じかー」
「え?ど、どういう風に見えてたの?」
「いや、私も同じだからさー。大井っちがいると『栄養バランスを考えて(以下略)』だのなんだの言われて定食にしないとうるさいんだけど、一人の時はテキトーに麺類にしちゃうからさー」
「あ、それ分かるわ。麺類最強だよな」
「そうそう。ラーメン然りうどん然り焼きそば然りパスタ然り………あ、でもトマトラーメンだけは無理」
「それな。いやほんとそれ。トマトラーメンって何?ナメてんの?」
「ていうか、もうトマトが無理」
「そうか?単品なら美味いだろ」
「単品なら、ね。でもさ、ほら……ソースとか塩とか付いただけでゴミカスみたいになるのに、タンメンとか味噌汁に入ってたりもするじゃん……。なんでトマトを別の何かと融合させちゃうのかな……」
「それ分かる。あいつ何かとしゃしゃり出て来て全部台無しにするんだよな」
そんな話をしながら、食券を買ってカウンターに出した。
…………あれ?なんか、話せてない?いいんじゃないこれ?普通に調子良いんじゃないの?
そんな話をしてると、うどんが完成したのか、カウンターの奥から二人分のうどんが出て来た。………トマトが5個ずつ乗った。
「「…………へっ」」
間宮さんはニコニコしながら俺と北上を睨んでいた。
「残したら、お説教ですからね」
「「………………」」
俺と北上はうどんの器を持ち上げた。
「…………提督の所為だからね」
「トマトの話題を出したのお前だろ⁉︎」
「責任とって、私のトマト全部食べて」
「おまっ……!入れんなよこっちに!」
北上は自分の方のうどんに入れられないように、俺の前を走って移動した。
で、振り向くと、目の下に指を当てて舌を出した。
「へへーんだ」
「っ………!」
あ、あのやろっ……!そんな、仕草されたら………‼︎
可愛過ぎて許しちまうだろうが!煽られてんのに!
俺は仕方なくため息をついて、北上の後を追った。
この後、「食べ物で遊ぶな」と間宮さんに超怒られた。
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第7話 ダブルフラッシャー
日曜日になった。今日だよ、今日。昨日から一睡もしてない。
ていうか、一睡もできなかった。
ていうか、眠れるわけなかった。
ていうか、寝れる方がおかしかった。
ていうか、
「いやもういい。しつけぇ」
自分の脳内にツッコミを入れるほど、頭が機能してなかった。大丈夫だ、アレから北上と少しは話せるようになったろ。落ち着け、俺。
俺は深呼吸すると、私服に着替えて部屋を出た。あまり私服に気を使う人間じゃないけど、今日くらいは少し考えた。まぁ、あまり服に気を使わない奴が考えた所で、まともな案なんか出るわけないから、結局普段と変わらないけど。
待ち合わせ、というと大袈裟だが、鎮守府の玄関で集合。まぁ、他の場所だと他の艦娘に見られるかもしれないし、妥当だろう。
そう決めて、玄関を開けた直後、うな垂れた北上と、何故かニコニコ微笑んだ大井が立っていた。
「…………はっ?」
大井は俺を見るなり、手に持ってるボードの上の紙に文字を書き始めた。
「女性を待たせる、減点10」
え?なんか採点されたし。その採点キツくない?
「ごめん、提督……」
北上は謝って来たよ。
「ど、どしたの?なんでいんの大井?」
「お構いなく。さ、私を差し置いて北上さんと二人きりのデートをどうぞ」
「や、お前なんで……つーかなんか言葉に棘ない?」
「お構いなく」
「いやお構いなくとか言われても……構うよ」
「お構いなく」
「あの、ほら……あ、もしかしてお前もゲーム欲」
「デートの相手の女性を差し置いて、他の女性と話す。減点20」
「よし、行こうか北上!」
なんかよくわからないけど、怖かったので北上の手を引いた。
「あの、どうしたの大井」
北上の耳元で囁いた。
「………朝早起きしたら、私のベッドに潜り込んでた大井っちに見つかっちゃって」
こいつら部屋離さないとダメだな………。北上は木曾辺りと二人部屋にしてあげよう。他の所は問題児をかき集めたってことで。
「ごめんね、提督」
「いや、全然平気」
うん、なんとなく上手くいかないなんて分かってたから。
「………あの、そもそもバイクで行こうと思ってたんだけど」
「良いですよ。どうぞ?」
あ、良いんだ……。これ多分、あいつ盗聴器北上に持たせてやがんな………。まぁいいや、下手なこと言わなけりゃ良いんだし。
俺は車庫からバイクを出して、ヘルメットを北上に放った。あ、バイクのヘルメット被る北上、似合ってなくて可愛いな。それ結局似合ってるんだけども。
「後ろ」
「んっ」
北上は俺の後ろにまたがった。すると、キュッと後ろから腰に抱きついて来た。
「っ?き、北上?」
「何?」
あ、この声。ニヤニヤしてるのが1発でわかった。この野郎は本当に……!
からかわれてる、と分かってても心臓がドキドキする。本当に、意地悪い奴を好きになったもんだよ。
すると、隣から大井が口を挟んだ。
「………ウブ過ぎ。減点20」
「出発前から半分になってますけど⁉︎」
「ゴチャゴチャうるさい。減点……」
「さ、行きましょう北上さん!大井、行って来まーす!」
バイクを走らせた。
後ろからは、北上が抱き締めてきている。
「……………」
背中に、柔らかい感触が……。イカンイカンイカンイカン!落ち着け、別に俺はそんなつもりでバイクで行こうとしたわけじゃないから!落ち着け俺………。
「ね、提督」
「はひっ⁉︎な、なんでしょう⁉︎」
変な声が漏れた。
「ぷっ、焦り過ぎだよー」
「ご、ごめん……」
「いや、別に謝らなくても良いけど。今更だけどさ、モンハンって、どんなの?」
「えっ?」
「ゲームってあんまやらないんだよねー」
それで良くモンハンやろうと思ったなこの人……。まぁ、実際俺もあの時出まかせ言っちゃっただけだから、モンハンあんまやったことないんだけどね。
「まぁ、モンスターを狩るゲームだよ。剣、鈍器、ボウガン、弓とかで」
「ふぅーん。難しい?」
「………モンスターによる」
本当にな。あの世界の食物連鎖とかどうなってんだろうな。ゲームだから仕方ないとは思うけど、草食竜のが肉食竜より少ないんだもんな。まぁ、ディアブロスみたいなとんでも草食竜もいるんだけど。
「ふぅーん……」
「興味なければ、別に無理して買うことないと思うけど」
「何、奢りたくないってこと?」
「いや、普通に。ゲームじゃなくても良いよってこと」
「んー、それも悪くないけど、ゲームでいいよ」
「あら意外。ゲームに興味持つようには見えなかったわ」
「いや、興味あるのはモンハンじゃなくて」
「?」
「提督が興味持ってるものに興味あるんだよー」
「………………」
こいつは何故、ピンポイントで俺の弱点を狙撃して来るのだろうか。
「何、照れてる?」
「うるせぇ!」
「やーい、純情男ー」
「うるせぇバーカバーカ!」
「聞こえませーん」
こいつ……!さっきまでしおらしくなって謝って来た癖に………!いつか逆襲してやる。
…………あれ?今更だけど、なんでさっき謝られたんだろ。
++++
ゲーム屋に到着した。モンハンの前に、ゲーム機本体を買わなくてはならない。
「色は?」
「薄緑」
とのことで、北上は随分と地味な色を選んだが、この際ツッコマずに買った。
店を出て、軽く伸びをした。
「さて、帰るか」
「えー。せっかく出掛けたんだし、何処か寄ろうよー」
ふむ、確かに。そもそもゲーム買いに出てる時点でアレなのにそのまま帰るとかあり得ない。
「じゃ、どこ行く?」
「んー、どっか?デパートとか?」
「りょかい。近くにあるから。北上くらいの女の子をよく見かける店たくさんあったよ」
「ふぅん?それはつまり、出掛けてる時に若い女の子をよく見てるって事か」
「や、違うから!ただ、そのっ………カップルでそういう店入りやがるもんだから、『爆発しろクソリア充が』と念じてるだけで………」
「側から見たら、今の提督も十分リア充だけどね」
「そう?……………あれ?それどういう意」
「さっ、早く行こう」
どういう意味か聞こうとしたら遮られ、北上はバイクの後ろに乗った。
デパートに到着し、バイクを止めると、いざ入店。
「おおー、お店いっぱい」
北上は俺の前を小走りで移動した。珍しく、その後ろ姿が少し浮かれてるように見えた。
やっぱ、北上も普段は落ち着いてるけど、こういう時は年相応なんだなぁ、としみじみ思いながら、俺はその背中を追った。
すると、北上はゲーセンの中に入っていった。
「服見ないのかよ……」
まぁいいか。服を見に行っても、俺は「あ、あの服北上に似合いそう」と思っても本人に言う勇気はなくて、もどかし思いをするだけだ。それから、ゲーセンで遊んだ方がいい。学生の時に友達とゲーセンに通ってたどのゲームでも、そこそこうまく遊べる自信がある。
「提督ー」
「何?なんかやりたいのあった?」
さて、どのゲームだ?埼玉のアントニオが相手をしてやろう。そう思って、北上のある方に歩くとプリクラがあった。
「………まじ?」
「マジ」
マジかよ……。正気かバナージ⁉︎
プリクラとか無理なんだけど。まともに写真撮れる気がしない。俺、写真写り悪いんだよね。免許証とか犯罪者とか言われてるし。
「ほら、早く」
「え、ちょっ、」
半ば強引に北上に引っ張られ、俺はプリクラの筐体の中に入った。
俺が300円入れると、北上がなんかようわからんフレームを選び、いよいよ撮影開始。コーンな感じでポーズしてね、と言いながら、出来損ないのフュージョンみたいなポーズが画面に映された。北上はそれを全く無視して、俺と肩を組んだ。ちょっ、シャンプーの香りがふわっと漂って来たぞ。
「いえーい」
「え?あのポーズじゃなくて良いの?」
「良いの良いの。ほら、早くポーズして」
えっ、ポーズと言われても……。おれは咄嗟にM87光線のポーズをした。
「え、何それ」
「ウルトラ兄弟中最強の必殺光線。スペシウム光線より強いメタリウム光線より強いストリウム光線より強い光線」
「何言ってんだか全然、分からな」
パシャッと音がして、北上の台詞は遮られた。
続いて、次のフレーム。またも、北上は指示をもろに無視して、俺の肩に手をかけた。
「提督も肩組んで」
「え、なんで」
「提督にポーズをとらせるとロクなことにならないから」
「………え、でもっ」
「良いから、気にしないから。セクハラだなんて思わないから」
見抜かれてた。俺は失礼して、北上と肩を組んだ。脱力して、手をプランとぶら下げた時、ムニッと変な感触が手に走った。
見ると、垂らした手が北上の胸に当たっていた。
「やべっ」
「? どしたの?提督」
北上は気付いていないようだ。俺は手をズラして、不自然じゃないようにピースを作った。
すると、カシャッと音がした。写真を撮られた。
「おーしぃ、次ぃ」
北上がそう言うと、そこから一枚、更に一枚と撮っていった。その間、北上に胸の事で突っ込まれることはなかった。
で、ラスト一枚。
「最後、提督がポーズ決めて良いよ」
「え?マジ?」
「うん」
………まだ、気は抜けない。体が変に密着するポーズはダメだ。少し離れるようにしよう。
「あ、そういえばちょうど良いポーズあるよ。それにしよう」
「何?」
「北上は両手合わせて前に出して。あ、角の方向いてくれた方が良いかも」
北上は言われるがまま、そのポーズをした。俺はその前に片膝ついて、両手を上げて北上の手の前で合わせた。
直後、パシャっとシャッター音がした。俺は立ち上がって、「行こうぜ」と北上に声を掛けると、「待って」と止められた。
「今のなんのポーズ?」
「ダブルフラッシャー」
「は?何言ってんの?」
「二人でやる必殺光線」
「え?二人でやるの?」
何故か少し嬉しそうな顔をする北上。
「うん。ウルトラマンレオ」
「へぇー。一緒に撃つのは?………恋人?」
「いやいや。弟のアストラ」
「お、弟?」
「弟」
「……………」
何故かムスッとした表情になる北上。
「………え、何?」
「さっき、胸触ったこと大井っちにチクるから」
「待ってそれは待って。死んじゃうから待って。てかお前気付いてたのかよオイ」
北上は俺の制止を無視して、落書きする椅子の上に座った。
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第8話 本当にやらかした時に自覚がない奴はダメな奴
翌日、俺は昨日のデートのことが未だに忘れられずに仕事をしていた。
あの後、昼飯を食って、北上の服とかを買って(大井への口止め料)、帰宅し、今日は北上とモンハンの約束をしておる。まぁ、もちろん仕事が終わってから。その為、北上が執務室に仕事を手伝いに来てくれるから、それを待ちながら仕事をしていた。
すると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
キターーーーーーー‼︎と、言いそうになった声を抑えて、あくまで冷静に返事をした。
入って来たのは、大井だった。
「………へっ?」
あ、ヤバイ、狩られる、と速攻で勘付いた。。大井はニコニコしたまま手元のボードを持って言った。
「では、昨日のデートの採点を致しますね」
「えっ、なにそれ頼んでない」
「昨日の会話の内容を盗聴器、または北上さんからの惚気話から基づいて、採点させていただきました」
「やっぱ付けてたんだ、盗聴器」
「では、発表しますね」
大井は手元の紙を読み上げた。
「デートの相手を待たせる、減点10」
「うん、まぁそれは少し納得してるよ。減点の量はともかく」
「デートの相手を差し置いて、他の女性と話す、減点20」
「うん、それも減点されるのはわかるけど減点20ってなんだよ」
「ウブ過ぎ、減点20」
「うん、だから減点のペース考えよう」
「ゴチャゴチャうるさい、減点10。ここまでが、昨日提督に言ったところです」
「あ、それ結局引かれたんだ。ていうか、もう半分切っちゃってるし」
「バイクでの移動、加点5」
「おっ、初めて加点されたよ。でもたったの5ですか?アレだけ引いて来た癖に?」
「バイクでの二人のり。減点15」
「待て待て待て。危険なのは分かるけど加点したものを3倍で引くかよ普通」
「ゲームを買った直後に帰宅の進言、減点20」
「あ、やっぱそれダメだったんだ……」
「北上さんとプリクラを撮る、羨ましいので減点80」
「80⁉︎てかマイナス張り切ってますけど⁉︎」
「プリクラでウルトラマンのポーズを二回決める、減点50」
「いや、うん。それは良いや」
「プリクラの途中、北上さんの胸を触る。減点酸素魚雷」
「どういう事だ⁉︎待て待て待て酸素魚雷ってお前何するつもりで……‼︎」
その後も、次々に点を減らされていった。
「北上さんとデートする時点で、減点867」
「と、とうとう減点5000に………。てか半分以上が私怨だったじゃねぇか……」
「以上です。何か不満な点は?」
「減点だけにってか?」
「減点一億」
「ごめんなさい!」
ち、畜生………。何されるんだ、俺………。マイナスに振り切るなんて………。
「最後に、北上さんが楽しそうに私に惚気話を語っていたので、加点100です」
「………あ、ありがとうございます」
それは少し意外だった。この女、クレイジーサイコレズじゃなかったのか?思わずお礼言っちゃったし。
ていうか、北上のやつ、楽しそうに惚気話してくれたのかぁ………。
「ふへへ」
「すこぶるキモいので今の加点は無しに」
「ごめんなさい待って下さい‼︎」
「良いですか、提督。本当なら、減点を一億も超える人なんて、私は酸素魚雷で沈めようと思っていました」
「ほとんど私怨だけどな」
「ですが、アレだけ楽しそうに北上さんが惚気ていたら、私には止めることは出来ません。私は、北上さんの幸せが全てですから」
「………………」
意外だ。他の鎮守府の大井は北上の為なら提督に魚雷をダンクシュートして来るらしいのに。
「と、いうわけで、提督を北上さんの足元に及ぶくらいまでには届くように、これからしばらくビシバシしごこうと思います」
「えっ………?」
それはつまり、協力してくれるってことか?
「まじで?」
「はい。言っておきますけど、北上さんのためですからね?提督がどうなろうとどうでも良いですが、北上さんには幸せになってもらいたいんです」
「…………」
おいおいまじかこれ。ひょっとして最強の味方を手に入れたんじゃないの?
すると、コンコンとノックの音が響いた。「スーパー北 北上様が来てあげたよー」と、声が聞こえて来た。
「では、提督。後ほど」
大井は軽く会釈すると、出て行った。………そういえば、俺に協力してなんで北上が幸せになるんだ?
++++
「で、提督。大井っちとなんの話ししてたの?」
仕事を開始して一時間、北上が喧しい。なんか真面目な顔ですごい聞いて来る。
「いや、大した話じゃないって」
「提督、大井っちと仲良いよね。昨日も、待ち合わせ場所で私ほっとかれたし」
「いや、あれはなんか大井が採点始めたからでしょ。てか仕事しようよ、モンハン後でやるんでしょ?」
「………むー」
なんでそんな真剣なのかな。怖いんだけど。すると、北上はニヤリと微笑んで、俺の腕にしがみついてきた。
「っ⁉︎」
「提督、教えてくれないと、このままずーっと張り付いてよっかなー」
「の、乗らないぞ!そんな脅しには乗らないぞ!」
「ふぅん?あ、顔真っ赤にしてる。慣れないねぇ、提督も」
し、仕事が終わらねぇええええええ‼︎このままじゃ、北上とのモンハンタイムが……‼︎
「わ、分かったよ……言うよ………」
まぁ、嘘を言わなければ何とかなる。俺は目を逸らして、呟くように言った。
「れ、恋愛相談、だよ………」
バレないよねこれ、大丈夫なんだよねこれ。
おそるおそる、北上の方を見ると、固まっていた。
「…………ごめん、聞こえなかったも。もっかい言ってくれる?」
「だから、恋愛相談」
「……………提督、好きな人いるの?」
お前だよ、お前。と、思ったが、そんなこと言えるはずもない。俺は目を逸らして、そっぽを向くと、北上は俺の腕から離れて、真っ白になって白目を剥いた。ぽえっと口から魂が出て来そうな顔になった。
え、なんか俺やらかした、かな……。俺が狼狽えてると、俺の10倍くらい狼狽えてる北上はふらりふらりと立ち上がり、執務室の出口に向かった。
「き、北上………?」
「帰る」
「えっ?ちょっ、仕事は⁉︎モンハンは⁉︎」
「知らない」
「嘘でしょ⁉︎」
北上は出て行ってしまった。
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第9話 決断
北上が部屋を出て行ってしまい、俺は仕方なく一人で仕事を始めた。
しかし、なんで北上はショックを受けたのだろうか。俺そんな悪い事言ったのかなぁ。まぁ、わからない事考えても仕方ないよな。それより、仕事を終わらせよう。
しばらく、書類を書いたり報告書を書いたりしてると、「クマァ!」とすごい勢いで部屋の扉が開いた。
「っ⁉︎ ………ああ、球磨か。どした?」
「少し話があるクマ」
「なんか飲む?」
「カフェオレクマ!」
「砂糖は?」
「入れるクマ」
俺はコーヒーを淹れて、砂糖とミルクを加えてスプーンでかき混ぜた。
ソファーの前の机にカップを置くと、球磨はソファーに座り、俺はその向かいに座った。
「で、何か用?」
「むっ……このコーヒーは中々……。でも、もう少し甘い方が好きクマ」
「え、結構入れたつもりなんだけど。甘党なの?」
「クマ」
「じゃ、も少し足していいよ」
砂糖の容器を取って来て、球磨の前に置くと、砂糖をダボダボと入れ始めた。おい、それもうコーヒーじゃなくね?
「で、何?」
「うえっぷ!甘いクマ!」
「そりゃそうだろ。コーヒー足すか?」
「クマ」
「ああ、これ無限ループ臭いから、もう砂糖入れんなよ」
コーヒーを足して、ようやく話が進んだ。
「実は、さっき死に掛けた状態の北上が部屋に戻って来たクマ」
「は?なんかあったのか?」
「外傷は見当たらないけど、真っ白になって明日にへたり込んだままピクリとも動かないクマ」
「それ大丈夫なの⁉︎不安になって来た!」
「北上が最後にいた場所はここクマ。だから、提督に会いに来たクマ」
「は?でもここでは何も無かったし……部屋に戻る前にどっか行ったんじゃね?」
「大井からの情報だから確かだクマ」
「それは確かに正確だな……」
あいつの北上情報は本当に正確そうだもんな。そろそろ北上予報とか出来ちゃうんじゃないの?
「それで、一応北上はここで何してたか聞きに来たクマ」
「ここで、と言われても……」
そんな特別な事してねーぞ。まぁ、確かになんかショック受けて出て行ったけど。
「確かここに大井がいて、北上が来たから大井が出て行って、北上がなんか大井と何してたかしつこく聞いて来たから、それに答えたら急にショック受けて出て行った」
「………なんて答えたクマ?」
「えぇー………答えなきゃダメ?」
「答えなきゃ、北上のパンツをこの部屋の見つかりやすいところに隠すクマ」
「わ、分かったよ………。大井に恋愛相談に乗ってもらってたって言ったんだよ」
「それクマ」
「はっ?なんで?」
「事情は分かったクマ。コーヒーご馳走様クマー」
「えっ、ちょっ」
言うだけ言って、球磨は出て行った。
「…………やっぱり俺の所為だったのか」
どうしよう……謝った方が良いかな。や、でも事情が分からないのに謝るのって相手を煽ってることになるよな。
「どうしたもんかね……」
………ま、良いか。下手に謝るより、ここは大井からの情報を待とう。
そう思って、仕事を再開した。なんだか今日は珍しく集中力があるんだよな。今のうちに終わらせてやる……!
と、思ったら突然執務室の扉がぶち壊され、何かが突っ込んで来た。それが業務机に直撃し、爆発。俺は窓の外に投げ出され、木に落下した。
「ゴフッ……な、何が……一体、何が……?」
「………提督」
見上げると、大井が爆発した執務室から俺を睨んでいた。
「提督、少々お話聞かさせ願えますか?」
大井から情報ではなく、魚雷がやって来た。
++++
「と、いうわけなんだけど……ていうか球磨から聞かなかった?」
説明すると、大井は呆れたようにため息をついた。
「聞きました」
「じゃあなんで魚雷撃ったの⁉︎」
「北上さんを泣かせる者は殲滅するのみです」
「怖っ!てか泣いてたの?」
「いえ、涙は確認してません」
「それ俺のこと撃ちたかっただけだろ!」
「はい」
否定しろよ……。せめて言い訳しろよ………。
「まぁ、別に責めはしませんけど………。でも、北上さんがあんなんになってしまい、少しイラッと来たので魚雷飛ばしました」
「………はぁ、どうしたものか」
「もう告白しちゃいましょう。それしかありません」
「なんでだよ!無理無理無理無理!破裂する!」
「それこそなんでですか」
「そもそも、北上は俺のこと好きでもなんでもないからね?いつもからかって来るし、ウブだなんだとバカにして来るし」
「………………」
「この前、出かけた時だって後ろからしがみついて来て、心頭滅却するので頭いっぱいだったし」
「………………」
「少し前にソファーで寝てると、頬をめっちゃ突いて来て起こされたし」
「………………」
「この前なんて」
「もう良いです」
「えっ、ちょっ」
「誰がノロケろって言ったんですか」
「はぁ⁉︎どこがノロケだよ!俺がいじめられてた武勇伝だろうが!」
「とにかく、告白しなさい。良いですね?」
「ええっ⁉︎急に何を………⁉︎」
「本当はもう少しジャブを繰り返させるつもりでしたが、事こうなった以上は仕方ありません。開幕雷撃決めなさい」
「いやそんな無茶な……失敗したらどうすりゃ良いんだよ。死ねば良いのか?」
「失敗なんてしません。保証します」
「え、なんでそんな……」
「保証します」
「わ、分かったよ。告白すれば良いんだろ」
「はい。出来ますね?」
「…………すみません、2日ほど待ってもらえませんか」
「このクソチキン」
「すみません………」
その夜、俺は眠れなかった。
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第10話 ミスしても良い、それを活かせとか言うけど、絶対にミスできない時もあるもんだ。
一週間が経過した。はい、私は未だに告白していません。いや待て、違うんだよ。言い訳があるんだ。
今まで、艦娘のレベリングの為に同じ海域を繰り返してたんだけど、大本営から「良い加減、先に進めろ」と怒られて、今週までに北方海域抜けろと命令を出された。まぁ、練度90オーバーの艦娘が67人もいるのに未だに北方海域から抜けようとしてないんだもん、そりゃ怒られるわ。
だが、それも今日で終わりだ。北方領域は余裕でクリアし、明日は休みにする。
北上も北上で、ちゃんと仕事をしていたし、告白はこれからで良いだろう。俺は、そう思っていた。
だが、甘かった。そこから先は一週間分の書類地獄である。
「畜生おおおおおお‼︎報告書とかマジふざけんなああああああ‼︎」
泣きながら仕事していた。艦娘達はお疲れ様って事で全員、休暇中。北上に告白するどころか、寝る時間も食事の時間もなかった。
手をバリバリ動かし、お腹が空くか喉乾いたら赤飯おにぎりとコーヒーを飲む。眠くなったら壁に頭突きする。そんな感じで、もう半日以上ぶっ通しで仕事していた。
やらなきゃ、仕事。頑張らないと。じゃないといつまで経っても俺に自由はない。
そう心で反復して(78回目)、仕事を続けてると、コンコンとノックの音が聞こえた。
「仕事中だ!」
「失礼するわ!」
俺の言うことをまるで無視して、第六駆逐のみんなが入って来た。
「おい、話聞いてたか。俺は仕事中だ」
「だからこそさ。疲れてる時には甘い物だと聞いてね」
「私達がクッキー焼いて来てあげたわ!」
「一人前のレディは料理だってできるんだから!」
「あ、暁ちゃんは型抜きしかしてなかったのです!」
「よ、余計なことは言わなくて良いのよ!」
「ハラショー」
そんな彼女達を見て、俺は不覚にも涙が溢れた。そして、席を一度立つと、四人まとめて抱き締めた。
「…………ありがとう、四人とも」
「「「「ーっ!」」」」
四人はすごく嬉しそうな表情ではにかむと、俺にクッキーを渡して出て行った。俺はクッキーを一枚齧った。
…………ああ、癒される。良い子達に恵まれたなぁ……。元気が湧いて来る。よっしゃ。いっちょ仕事やってやるか!
俺はむんっと気合を入れて、机に向かった。
〜二時間後〜
「…………死ぬー」
なんだよこれ、仕事無限にあるんじゃねーか?永遠に湧き出る書類の泉にいる気分だ。どんな泉だよそれ。
しかし、もう嫌だな仕事。ふざけてるよ、こんなの。クッキー食べる度に元気出てたけど、そのクッキーももう切らしたし………。
うん、少し仮眠取ろう!良いよね少しくらい!そう思って、机に伏せようとした時、コンコンとノックの音がした。
「………………どーぞ」
思わずドンヨリした声で返すと、瑞鶴が入って来た。
「提督さん?」
「何、どしたの?」
「いや、第六のみんなに聞いたけど、仕事大変なんでしょ?」
「かなりな」
「だから、はい、これ。差し入れ」
瑞鶴は間宮さんのミルクプリンを持って来てくれた。いや、母乳的な意味じゃなくて。
「おお……マジか」
「あとこっちが間宮さんから。コーヒーゼリーだって」
「悪いな……わざわざ」
「もしキツイなら手伝うけど………」
「良いよ。頑張ってくれたお前らには休暇あげてるんだし。このくらいで俺が踏ん張らないでどうする」
「うーん……まぁ、提督さんがそう言うなら。無理しないでね」
「ああ……。あ、瑞鶴」
「ん?」
「これ」
俺は500円玉を二枚、財布から出して指で弾いて瑞鶴に渡した。
「確かボスルートに最初に入った時、お前と翔鶴さんが制空権取ってくれて助かった。とりあえず、今はそれでなんか甘いものでも食ってくれ」
「良いの⁉︎」
「ああ」
「さーんきゅ♪じゃ、頑張ってね!」
瑞鶴は元気よく出て行った。さて、頑張ってね!と言われてしまったからには仕方ない。頑張るか。
俺はまずはミルクプリンを食べると、仕事を再開した。
〜一時間半後〜
これ死ぬわ。間違いなく死ぬ。もう無理だよ………俺のライフはゼロどころかマイナスに振り切ってる。書類の山がまだ四分の三は残ってるもん。
どんなに倒してもウルトロンの数減らないんだけど。誰でも良いからアベンジャーズ呼んでくれ。
「……………ちょっと休憩するか」
俺は息抜きにゲームでもしようと、スマホを取り出した。その直後、コンコンとノックの音がした。
「またかよ……どうぞ」
ボヤきながら答えると、鈴谷と熊野がやって来た。
「ちぃーっす、提督」
「お疲れ様ですわ」
「本当にな。何、どうした?」
「いやー、提督ここにずっとここに篭ってるからさー」
「少し、息抜きにでもと思って、CDを持って来ましたわ」
「おお……それって、鈴谷とか熊野が聴いてる曲?」
「そだよー。このCD貸したげるから、仕事頑張って」
「悪いな」
「いえいえ。それでは、御機嫌よう」
熊野が俺の机の上にCDを置くと、二人は部屋から出て行った。
…………せっかくだし、CD掛けながら仕事するか。
〜20分後〜
…………おい、ふざけんなよ。なんでJポップとクラシックを交互に入れてんだよ、このCD。ギャップありすぎて集中できねえよ。切ろう。
いや、まぁ悪気ないのは分かってるんだけどね。むしろ、俺のためにやってくれた事だし。
………ああ、でもなんかもう疲れたわ。俺は立ち上がって、とりあえず音楽を切ると、コンコンとノックの音がした。入って来たのは、大井と球磨だった。
「失礼するクマー」
「大丈夫ですか?仕事」
「ああ、いや、あんまり大丈夫ではないかな」
「だろうなクマ」
「そう思って、手伝いに来ましたよ」
「いいよ別に。これは俺の仕事だし」
「でも、提督に倒れられたらクマは心配だクマ」
「倒れない倒れない。1日2日無理したって平気だよ」
「そうですか………?」
「というか、二人ともこの前の作戦でめちゃくちゃ仕事させちゃったし、休んでてくれよ」
「…………そこまで言われたら仕方ないクマ」
「キツい時はキチンと言ってくださいね」
「………………」
「な、なんですか?」
「お前、北上が絡んでなきゃ普通に良い子なんだな」
「んなっ……⁉︎私は普通に良い子です!魚雷撃ちますよ⁉︎」
「ほら見ろ、そういうところクマ」
「ね、姉さんまで………!」
「あ、そうだ。二人とも待った」
俺は立ち上がって冷蔵庫を開けた。中にはビ○ードパパの箱が入っていた。
「これ、球磨型で食っていいぞ」
「ひゃっほー!ラッキークマ!」
「すみません、ありがとうございます」
「いいって。じゃあな」
二人は部屋を出て行った。ふぅ……なんか二人と話してたら若干元気出て来た気がする。よし、やってやりますか!
++++
それから、十時間経過した。それからも、色んな艦娘が途中で部屋に入って来てくれて、卵焼きだの紅茶だの健康ケーキだなと言った食品、踊りだのライブだのといったなんかよう分からんけど、とりあえずみんな元気付けてくれようとしてくれた。
まぁ、それで実際元気付いて、仕事も残り少し。俺のHPもみんなが来てくれる度にゼロになったり、赤点滅になったりしている。あれ?これ瀕死の所を遊ばれてる感じもするな……。
「……………でも、疲れた」
俺は背もたれに寄りかかった。
…………そういえば、一番来て欲しい奴はまだ来てくれていない。まぁ、仕方ないか。俺とあいつは、今はあまり良い関係とは言えないし。
つーか、あれ以来話してないな。いや、命令したりはしたけど話したりはしてない。向こうからも話しかけて来てないし。
まぁ、今はゴチャゴチャと考えないで、仕事を終わらせるか。何かあるにしてもないにしても、仕事が終わらない限りは進まないのだ。
俺はそう決めて、仕事を続けた。すると、コンコンとノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
返すと、カチャッ……と、控えめにドアが開けられた。入って来たのは、北上だった。
「………おお」
「んっ」
「お疲れ」
「疲れてるのは提督じゃん」
「………だな」
…………まさか、来るとは。内心かなり焦っていた。仕事どころじゃないんだけど。ていうか何?北上も応援しに来てくれたの?
と、思ったら北上はソファーの上で寝転がった。
「…………仕事、どう?」
「もう少しかかる」
「じゃ、終わるまで待ってるね」
「んっ。あ、コーヒー飲む?」
「いいから。自分の仕事して」
北上は自分のコーヒーを淹れると、足をパタパタさせながらソファーでダラけた。
俺はその様子を見ながら、仕事を続けた。周りの艦娘と違って、頑張れとも言われてないし、何か差し入れをもらったわけでもないのに、何故か落ち着いて集中できた。何故か、ペンが進んだ。
「………………」
「………………」
北上が来てから30分ちょっと経過。ようやく、仕事が終わった。時刻は23:30を回っている。
「…………終わった」
「んっ、お疲れ」
北上はそう返してソファーから立ち上がると、執務室の扉に向かって歩き出した。
「待って」
その北上に、俺は思わず声を掛けてしまった。足を止める北上。
多分俺は、これから告白する。それなのに、何故か心臓がうるさくなかった。落ち着いていた。告白しろ、と大井に言われた時は、すごく緊張していた癖に。
「何?」
北上は気だるそうに答えた。俺は椅子から立ち上がると、北上の前に立った。
「北上」
「ん?」
あれから、作戦の合間とかに色々考えた。北上のこと、自分のこと。過去に、なんで俺が暁型のみんなの頭を撫でると不機嫌になったのか、なんでデートの前に謝られたのか、なんでこの前、真っ白な灰になったのか。そして、俺なりの回答を見つけた。
その答え合せの時間だ。
俺は、北上に言った。
「…………好きだ、北上」
ストレートに。シンプルに。スパッと言った。
「この前、大井にした恋愛相談。対象はお前だ、北上」
今更になって心臓の鼓動が加速し始めたが、俺はそれを黙らせて、口を開いた。
「俺と、付き合っぇくれ」
…………心臓は黙ってくれなかった。
噛んだ、一番噛んじゃいけないところで。多分、俺今顔真っ赤。北上も目をパチパチしてキョトンとしてるもん。
「………………」
「………………………」
それ以上、俺から言葉は出なかった。ああ……死んだなこれ…………。
そう思った直後、「プッ」と北上が噴き出した。
「あっははは!そこで噛まないでよ!」
「わ、笑うなよ!すっごい恥ずかしいんだから!」
「いやっ……笑うなって言う方が無理………!普通そこで噛む?だって………プふふ!」
「う、うるせぇな!………だぁ〜、畜生………」
俺はしゃがみ込んで顔を両手で覆った。これは死ねる。恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。穴があったら減り込みたいとはこの事か。
超後悔してると、俺の肩に手が乗せられ、「提督」と声が掛かった。反射的に顔を上げた直後、俺の目の前に北上の顔があり、口に柔らかい感触があった。
「っ」
「………っふぅ」
三秒くらい押し付けられた後、離れた。今になって、キスされたんだと自覚した。自分の頬が熱くなるのを感じる中、北上も少し照れたように顔を赤くしながら、微笑んだ。
「こちらこそ。よろしくね」
「っ…………」
その答え方は卑怯だろ………!
思わず目を逸らすと、北上はいたずらっぽい口調で言った。
「………あ、今照れた?照れたでしょ?」
「う、うるせぇ!」
「相変わらずウブだねぇ……。可愛いよー、提督」
「お、お前なぁ!」
頭をペシペシと叩かれ、北上の方を向くと、北上はそっぽを向いていた。その理由は一発でわかった。
「いやぁ、キスくらいで真っ赤にしてるようじゃ、これから先が思いやられ……」
立ち上がって、そう言う北上の顔をこっちに無理矢理向けると、顔が超真っ赤だった。
「あっ………」
「ぷっ……お前も真っ赤じゃん」
「っ!て、提督に言われたくないし!」
「いやいやいや、俺だって北上に言われたくないね」
「ぐぬぬっ………!」
悔しそうに奥歯を噛む北上。ああ、これがからかう側か………。悪くないな。
「これからは、俺がからかう側になるかもしれませんなー」
「ち、調子に乗るなぁ〜!」
ぽかぽかと俺の胸を叩く北上の拳を胸で受け止めながら、俺は北上を抱き寄せた。
「………北上」
「…………何さ」
「これから、俺はお前を幸せにすると誓う」
「…………うん」
「だから、頼む」
俺はそこで言葉を切ると、言った。
「…………さっきの告白、やり直させてくれない?」
「この雰囲気でそういう事言うなよ!」
そんなわけで、俺たちは付き合い始めた。
なんで深夜にゴールさせるんだろう………。
北上は番外とかなかったので短くなりましたが、大和さんと同じでそこそこ続きます。
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付き合えた。
第11話 子供は甘やかすな、厳しくしろ。
と、いうわけで、北上と付き合い始めたわけだが、しばらくは連続出撃によるみんなの疲労と資材の減少により休暇にする事にした。
もちろん、哨戒任務に当たる子達もいるが、その子達には間宮アイスで労うことになってるので、一応は問題ない。
で、今は執務室でのんびりしている。俺の膝に上に北上がいなければ、もっとのんびり出来るんですけどね。
「あの、北上」
「あっはは……えっ?」
でんじゃ○すじーさんを読みながら、北上はこっちを見た。てかそれ読んで笑うなよ、良い年して……。俺が小学生の時に読んでた漫画だぞ。
「あの、なんで俺の上に座ってんの?」
「良いじゃーん。提督の上、暖かくて好きなんだもん」
「はいはい……」
「好きなのは提督もだけどねー」
「……………」
「あ、照れた?今照れた?」
「う、うるさい!」
「相変わらず可愛いねー、提督は」
「う、うるさいって!お前に可愛いとか言われたくない!お前の方が可愛いだろ!」
「かわっ……⁉︎ぅ、うううるさいのは提督だから!何いきなり褒めてんの⁉︎」
「褒めちゃいけないのかよ自分の彼女を!」
「い、いけない事、ないけどさ……‼︎」
北上は視線を逸らして、頬を赤く染めながら呟いた。
「し、心臓に悪いからっ、やめてよ……」
「っ」
お、俺の方が心臓に悪いんだけど………!
「………それよりさ、提督」
「な、なんでしょう」
「彼女が膝の上に座ってたら、後ろから抱きしめてよ」
「…………マジ?」
「早く」
俺は少し照れ気味に後ろから抱きしめた。すると北上は若干、嬉しそうに微笑んで、鼻歌を歌いながら漫画読むのを再開した。
………畜生、可愛いなぁ。ほんとはずっとこのまま居たいんだけど、この後に間宮さんにお使い頼まれてんだよな。
「悪い、北上」
「んー?」
「ちと、買い物行くからさ。ごめん」
「何買いに行くの?」
「間宮さんに頼まれたお使い」
間宮さん、という単語が出た直後、北上のさっきまでのメチャクチャゆるゆるダラダラふわふわした可愛い顔が、一気にシンッとした真顔になった。
「…………提督」
「え、何」
「彼女と二人きりの時に他の女の人の名前出す?」
「……………ごめん」
「私もその買い物、行くからね」
「よ、よろしくお願いします………」
すごく怒られた。
++++
早速、支度をして鎮守府を出た。万が一の時の指揮に関しては長門さん(うちのナンバーワン戦艦)に任せて、とりあえずスーパーへ歩いた。ていうか、別に気にしてないけど、提督をお使いに向かわせる間宮さんの図太さな。
買う物は板チョコを二箱である。バイクで行こうとしたら、北上に「歩け」と怒られたので歩いてます。
「………箱買いとか、小学生の時のデュエマ以来だなぁ」
あの時は周りの友達があまりにもデュエマの箱買いをするもんだから、羨ましくて親にねだったっけか。ボルベルグ当たって満足しました。
北上が隣から聞いて来た。てか、なんで腕組んでんの?緊張するんだけど。嫌じゃないけど。
「デュエマって何?」
「昔流行ったカードゲーム。今にして思えば、デッキ作るのに、中身がランダムで、当たるか当たらないか分からないパックを何度も買うなんて馬鹿げてるよなぁ。博打も良いとこだ」
「ふぅーん……あ、ユーギオーって奴?」
「まぁ、そんな感じ」
「でも、少し私はカードゲームとか楽しそうだなーとは思うよ。アニメとか駆逐達が見てるのをたまーに後ろから見えたりするんだけどさー」
ああ、談話室な。艦娘増えたから談話室6ヶ所くらいあるけど。
「『俺のターン、ドロオオオオ‼︎』とかいい歳した人達が大声で叫んでるって事は、相当面白いんでしょ?」
モノマネ北上かわいい。
「いや、あれはアニメを面白く見せるために、多少大袈裟に演出してるだけだよ。『ファイナルフラッシュ』よりも、『セルーッ‼︎いくら貴様が完全体になったといっても、こいつをまともに受け止める勇気があるかーッ‼︎ははーッ‼︎無理だろうなー‼︎貴様はただの臆病者だーッ‼︎ファイナルフラーッシュ‼︎』の方が強そうでしょ」
「いや、それ台詞変わってんじゃん。てか誰の真似?かなり煽ってるし」
「ベジータ様。ドラゴンボールなら部屋に全巻あるよ。読む?」
「読む」
あ、墓穴掘った。ドラゴンボールなんて読ませたら、しばらく夢中になって構ってくれなさそう。
「ちなみに、提督はカードゲームやらないの?」
「俺はもういい。飽きたし金かかるし」
「ふーん……。あ、ゲームといえばモンハンやらないの?」
「あっ………」
忘れてたわ。
「帰ったらやるか」
「ん」
そんな話をしてる間にスーパーに到着。今更だけど、板チョコの箱買いなんて出来んのかよ。
そもそもそういうのって、発注とかするんじゃねぇの?その辺の事務作業は大淀さんに任せてるからわからんけど。
「店員さんになんて聞けばいいんだろうなぁ」
「ね、提督。あれ何?」
北上の指差す先には、福引きのテントがあった。
「ああ、あれな。何円以上お買い上げで引けるんだよ。大当たりとかは大体温泉旅行とかだな」
「へぇ〜……何円以上?」
「引きたいの?」
「雪風じゃないし、多分当たらないよ」
「引きたいのね……」
「いや、引きたいというより、あのガラガラ回したい」
「それすっごい気持ちわかる。帰りに引くか」
「良いの?」
「どうせああいうのは700円以上に付き1回くらいだから、2、3回くらい引けんじゃね?」
「やったね」
とりあえず、スーパーで買い物を済ませることにした。
チョコの箱ある?と店員さんに聞いた時の引きつった顔と言ったらもうね。「板チョコを20枚集めても願いが叶うとか、そんなん無いからね?」って言われて殺したくなったわ。
籠にチョコを入れて、レジに向かった。………なんか、今持ってる籠にズシッと重みが………。籠の中を見ると、1.5リットルのコーラが三本入っていた。
「あっ」
棒アイスの箱を抱えた北上が俺を見ていた。
「………何やってんの」
「いやー、せっかく福引きできるんだし、せっかくならたくさんやらないと!」
「子供みたいなことしてんなよ………」
「…………だめ?」
「今回だけな」
「ひひっ、やったね」
少し前まで、電車の中で子どもが暴れるたびに「親は何やってんだよちゃんも躾けろゴミカスがあの子絶対将来ヤンキーになるな」とか思ってたけど、これじゃ人な事言えないな………。
そのまま、北上はレジに向かうまでの間に籠にたくさん物を入れた。「今回だけ、今回だけだからな」「わーかってるってぇ」なんてやり取りしてたけど、多分、わかってねーなこいつ……。
「10038円でございます」
「……………へっ?」
い、いつの間にこんな……。北上を睨むと、サッと目を逸らされた。
「…………マジで今回だけだからな」
「うん、ごめん」
買い物を済ませて、袋に商品を詰める。
両手いっぱいに荷物を持って、スーパーの外に出た。
「半分持とうか?」
「大丈夫、それより福引きやってきな」
「うんっ」
レシートを持って、北上は福引きの方に走った。1回、750円以上のお買い上げらしい。10038円ってことは、えーっと……何回だろうか。7500円で10回で……残り2538円で………。
計算してると、ガランガランと音がした。
「一等、温泉旅行〜‼︎」
見ると、北上が固まっていた。ていうか俺も固まっていた。
「…………マジ?」
ボンヤリしてると、残りの分を北上が引き始めた。さらに松坂牛、自転車、掃除機と2、3、4等を根こそぎ奪い、すごい目で福引の人と逆にすごく睨まれたが、北上は気にせずに景品を持って来た。
「提督ー!すごい、すごいよ!福引きチョロい!」
「うん、そういう事大声で言わないでね。みんな写輪眼に開眼しそうなくらい睨んでるから」
とは言っても、北上はすごく嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
………この笑顔だけでも金払った価値はあるなぁ。いや、お釣りが出るレベルまである。
北上はニヤニヤしながら褒めて欲しそうな顔をしてたので、俺は軽く頭を撫でて、北上の手から折り畳み自転車の箱を取った。
組み立てて、ハンドルの両側に買ったものを引っ掛けて北上に自転車を渡した。
「ニケツは無理だから、北上がこれ押してって」
「えー、そういうのは提督の役目でしょー」
「掃除機と枕を抱えるのとどっちが良い?」
「自転車押すわ」
実際、重さは自転車と袋のが上だけど、手に持つ必要がないのでそっちのが楽だろう。
さて、帰るか。このまま北上と帰りに遊ぶってのは無理だし。
帰宅の途中、北上がご機嫌に聞いて来た。
「ね、提督」
「んー?」
「行けるかな、温泉旅行」
「行けるでしょ、多分」
「楽しみにしてるね」
「んっ」
正直、温泉なんて全く興味ないが、北上と出掛けられるってだけですごく内心舞い上がってる辺り、俺ってやっぱ単純なんだなぁ、と思わざるを得なかった。
++++
鎮守府に到着し、俺と北上は執務室で大井に正座させられていた。
「……で、福引のために一万いくらも買い物したと?」
「は、はい……」
「馬鹿なんですか?提督。たまたま当たったから良いものの、外れたら大赤字ですよ?分かってます?」
「はい……。重々承知しています」
「いくら彼女だからってそういうとこ甘やかすのは良くないんですよ?分かってます?」
「はい……。北上が余りにも楽しそうだったので、今回だけ………」
「麻薬も煙草も競馬もパチンコも『今回だけ』がスタートなんです。分かってます?その辺」
「はい……」
「北上さんも、いくら提督が優しいからってそこに漬け込むような真似はやめてください」
「えー、別に提督が良いって言ってるんだから……」
「お二人が結婚したら、将来とても苦労しますよ?その辺もわかってるんですか?」
「「け、結婚………」」
「話を聞け」
夜まで説教は続いた。
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第12話 たまには錯乱する事も大切である。
夜中。俺は一人で部屋でゴロゴロしていた。
しかし、温泉旅行か……。前々から思ってたけど、温泉旅行って意味分からないんだよな。なんていうか……同性の友達と行くのなら分かるけど、異性と二人で行っても温泉の前で男女別れるし、後は部屋でのんびりするだけでしょ?温泉の場所によっては観光も出来ないだろうし、本気でただのんびりするだけのイベントになりそうだ。
まぁ、北上が行きたいなら、俺は付き合うだけだけども。
「………温泉の場所調べるかぁ」
どうせなら、北上に楽しんでもらわないと。高校の時にデートのイメトレをしてたから大丈夫だ。女の子を誘う勇気がなかったから本当にイメトレだけだったけど。
チケットに書いてある文字を読んだ。○○温泉……露天風呂付き客室とかいうイカれた客室か。すごいな。
近くに川があって釣りも出来て、バスに乗れば遊園地がある。中々すごくね?
北上はなんだかんだ、プリクラとか好きだし、悪くないかもしれない。
………けど、デートをしたことがない奴がデートプランを確定しても、それは俺の自己満足になるだけで、向こうが楽しめるかは別だ。最終決定は北上に決めてもらうべきだな。
「……………」
つーか、さっきから予定決めてるけど、北上と行こうなんて約束してねーな。正確な日にちとか。まぁ、近いうちに行くのが正解なんだろうけどね。最近はたくさん出撃したから、しばらく休みだし。
………つーか、明日からで良いか。一応、北上に連絡しよう。俺は床に落ちてる充電中のスマホを拾った。
午後T督『起きてる?明日から3日間暇?』
寝てたら、仕方ないから明後日から行こう……と、思ったらもう既読が付いた。はえーよ。
スーパー北上様『暇だよー。ていうか休暇くれたの提督じゃん』
午後T督『じゃ、明日から温泉な』
スーパー北上様『は?』
スーパー北上様『本気で言ってんの?』
午後T督『え、暇なんじゃないの』
スーパー北上様『あのさ、ちょっと急過ぎるよ』
スーパー北上様『そういう事は、せめて夕方に言ってくれないと』
ふむ、なるほど。そういうもんか。
スーパー北上様『と、いうわけで明後日からね』
明後日からなら良かったのかよ。いや、まぁ1日あるだけで大分違うかもしれないけどね。
午後T督『把握』
スーパー北上様『じゃ、おやすみー』
午後T督『おやすみ』
よし、じゃあ寝るか。明後日楽しみだわ。
俺はパソコンをシャットダウンして寝た。………待てよ?部屋に露天風呂付きって………混浴って事ですか?
「…………」
エロ本読みまくって精神でも鍛えるか。←錯乱気味
++++
翌日。エロ本、と言ってもどんなものを読めば良いのか分からん。←まだ錯乱してる。
………そういえば、そういうのに詳しそうな人がいたな。俺はスマホで電話した。
「………もしもし?」
『ああ、どしたん?』
「お前、飛龍さんとヤッたんでしょ?」
『バッカお前、そういう事大声で言うなよ……。飛龍さん、エロスイッチ入ってない状態でそういう話するの超嫌いでさ、ガチでキレられるから』
「バレなきゃダイジョーブ。………それでさ、」
『え、何。お前北上とそういう事したいの?』
「いや、そうじゃなくて、その……北上と温泉行くことになったんだけど、部屋に露天風呂があるっていうイカれた構造なんだよね」
『ああ、一緒に入りたいんだ?』
「違っ……!いや、違くないけど、万が一、入る事になった時に、興奮して鼻血出るなんて事になりたくないじゃん?」
『そうだな』
「だから、精神鍛えるためにオススメのエロ本無い?」
『何でそうなるんだよ。何で俺に聞くんだよ』
「だってヤッたんでしょ?」
『ヤッてる奴全員エロ本持ってるみたいな言い方すんな。大体、飛龍さんとヤッたんだからエロ本なんて必要ないからね』
「………確かに?そういうもん?」
『そりゃな。いやぁ、ヤッてる時の飛龍さんマジエロいのな。もう激しくするたびにあんあんと』
「おいやめろ、聞きたくねーんだよそんな話」
『良いじゃん、今飛龍さんいないからこういう時に発散させろよ。それで飛龍さんって実はドMで……』
『提督?何話してるの?』
『あっ……やべっ』
『もうっ!人にそういうこと話すのやめてって言ってるじゃん‼︎』
『や、待っ……‼︎』
『今日という今日は許さないから‼︎友永隊‼︎』
『待て待て待て待て!かわいい奥さんくらい自慢して良いだろ‼︎』
『かっ、かわっ……⁉︎』
『だ、だから怒らないで………今夜、激しくするから』
『…………こ、今回だけですからね』
『ふぅ……で、なんの話だっ』
俺は通話を切った。すっごいイライラして来た。何だこいつら、死ねば良いのに。しかし、こうなると誰に相談すれば良いのか………。
とりあえず、ネカフェにでも行くか。ネカフェならアダルトコーナーとかあるだろ。
俺は原チャリに跨って出かけた。
〜二時間後〜
ネカフェから出た。
俺は今の二時間、何をしていたんだろうか……。←正気に戻った
ていうか、AVって頭おかしいだろ……。女の性器ってあんな風になってたのか………。なんかもう……カルチャーショックだよこれ………。異国の異文化よりビックリだ。
………いや、でもこれで女の全裸への耐性は出来た。それに、温泉に入るだけで、性器の中に性器を突っ込む性器のマトリョーシカみたいな事をするわけではない。
後は明日の荷物を整えるだけ、と俺は鎮守府に戻った。
「たでーまー」
特に誰に言ったわけでもないが、テキトーな挨拶と共に鎮守府に帰って、執務室に入った。大井が待っていた。
「………えっ、何」
思わず後退りしてしまった。
「あ、帰って来た。どこに行ってたんですか?」
「ネカフェ」
「ふーん……明日、北上さんと温泉行くみたいですね」
ブフォッと吹き出した。何で知ってるんですか。
「こ、殺す気………?」
「別に殺しませんよ、殺したいけど。それで、どんな服で行くんですか?」
「ほっ……え?殺したいの?」
「どんな服で行くんですか?」
この女やっぱ怖ぇ………。
「服って……普通のだよ。タンスの中入ってるのテキトーに選んで」
「銀河の彼方まで殴り飛ばしますよ。なんですかテキトーって」
「ぎ、銀河の彼方……?」
なんか発言がバカっぽいのに怖いんだけど……。北上のためならマジで出来そうで怖い。
「とりあえず、提督のお部屋を見せてもらっても良いですか?」
「それは良いですけど。なんで?」
「明日以降の服は私が決めます。北上さんとお泊りなんですから、それなりの格好をしていただきます」
「それなりって……何、タキシードとか?」
「頭の悪いこと言うのやめてくれませんか?」
銀河の彼方に言われたくない。
大井と自室に入った。そこそこ綺麗な部屋なので、ここで怒られはしないだろう。
大井さんは部屋の中を見回したあと、タンスとクローゼットを開けた。中の服をジロジロと見た後、ホッとした様子で呟いた。
「なかなか良いじゃない。見直したわ」
お、おお……。なんか厳しい母ちゃんに褒められたみたいで嬉しかったんだけど………。
まぁ、前々から外見には気を使ってたからな。ただ、告る勇気がなかっただけで。
「これなら、私が口出すことはないですね。明日、頑張って下さいね」
大井は出て行った。
なんか、あいつ母ちゃんっつーより姉ちゃんみたいだな。
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第13話(前編) 温泉1日目
朝の6時過ぎに、コンコンと俺の部屋を叩く音がした。おそらく、北上だろう。これから二人で温泉旅行である。
「おはよー、提督ー」
「ああ、おはよう。少し待ってて」
「はーい」
靴下を履いて、俺は部屋を出た。部屋の前では、私服の北上が待っていた。
「お待たせ」
「んっ」
「行くか」
「…………それより、言う事は?」
「………えっと……私服、かっ、可愛いよ………」
「提督も照れてて可愛いよ」
「う、うるせぇ!」
「いいから、いこ?」
北上は俺の手を引いて歩き出した。
そのまま駅に向かい、改札を通って、俺と北上は電車に乗った。これから小一時間、電車の旅である。
「おおー……!私、電車乗るの初めてなんだー」
北上が目を輝かせて車内へ。まだ6時半頃なので、電車も空いていた。
「ああ、そっか。悪いな、今までバイクで」
「ううん?提督の背中にくっ付けるし、バイクも良かったよ?」
「…………そ、そうか」
「あ、やっぱ照れるんだそこで」
「う、うるせぇ!バーカバーカ!」
「はいはい、かわいいかわいい」
俺の頭を撫でて来る北上の手を払いのけながら、椅子に座った。本当にこいつは俺の事ばかりからかって来る。
……いや、それが北上なりの愛情表現なのかもしれないが。あ、なんかそう思うと可愛く思えて来た。
「北上」
「なにー?」
「かわいい」
「うえっ⁉︎な、何急に⁉︎」
「好きな子にちょっかい出す小学生みたいで可愛い」
「………あ、謝るからやめて下さい……」
北上は顔を赤くして俯いた。本当に受けに回ると弱いなこいつ。
++++
電車を乗り継いで、新幹線に乗った。北上は当然、新幹線に乗るのも初めてのようで、子供みたいにはしゃぎながら窓の外を眺めていた。
「おおー……すごい早いね……」
「まぁ、新幹線だからな」
「これどのくらい速いの?」
「普通の電車より速い」
「比較対象考えてよ」
「いや、俺も詳しくないんだよ。ちょい待ち」
俺はスマホを取り出した。
「ふーん……時速285kmだって」
「嘘っ⁉︎速くない⁉︎」
「ウルトラマンは時速450kmで走るなら、余り速いとは感じないや」
「何と比べてんの?ていうか、前々から思ってたけど、提督はウルトラマン好きなの?」
「ウルトラマンっていうか……特撮ヒーローとかアメコミが好き」
「ふーん……子供だねー」
「うるせ。アメコミは一般的だろ。仮面ライダーとかウルトラマンだって大人も見るぞ」
「じゃあ特撮ヒーローと私、どっちが好き?」
「ベクトルが違うだろ………」
「誤魔化さない」
「…………………北上」
「そのくらいで照れないのー」
「う、うるさい!良いから朝飯食うぞ!」
「おーおー、いつまで経っても提督は可愛いねぃ」
北上が隣でケタケタ笑うのを無視して、俺は新幹線に乗る前にニューデイズで買った食い物を取り出した。前の席の背中の机を出し、北上の方にはパン二個と午後ティーのミルクティー、俺は鮭のおにぎり二個といろ○すの炭酸水ぶどうを置いた。
北上がパンの袋を開けて、思いっきり一口噛み付いた。パンのラインナップは、チョココロネにチョコクロワッサンと、可愛らしいチョイスだった。小さい口で、ハムハムとパンを頬張る北上は何とも可愛かったが、ジッと見過ぎでた所為か、北上が俺の方を見た。
「…………今、そんな高カロリーなの食べて太らないの?って思ったでしょ」
「え?いや、思ってないけど⁉︎」
「ふっふっふっ、それに関しては問題ないね。私は太らない体質なのだからっ」
ああ、それを自慢したかったのか。俺、女子じゃないんだけどな。
「ああ、それは知ってる。見れば分かる」
シレッと答えると、北上の目付きが鋭くなった。
「………どういう意味?」
「え?どうって……あっ」
俺の目は北上の胸に吸い寄せられた。大井よりおとなしい胸。妹より控えめな胸。俺はふっと目を逸らした。
「………個人差だから」
「……………提督、嫌いっ」
「ッ⁉︎」
ぷいっとそっぽを向かれ、俺はその場でうなだれた。
++++
「き、北上ぃ……機嫌直してよ……」
「うるさいおっぱい星人」
俺を無視して、北上は前を歩いている。新幹線は目的地に到着し、送迎バスを待ってる状態だ。
「いや、俺別に巨乳に興味ないし!むしろ大き過ぎない方が……!」
「ロリコンなの?キモっ」
「ど、どうしろと……」
お、大井ぃ……。お前がいてくれれば……!いや、俺が狩られるだけだな。
誠意を伝えてもダメなら、物も付けるしかない。
「………北上」
「何?ロリコンオッパイ星人」
「この辺に美味いたい焼き屋があるらしいんだよね」
ぴくっと北上の耳が動いた。本当、下調べしといて良かったわ。
「味が5種類あるらしくて、カスタード、あんこ、チョコ、抹茶、そして密林檎らしいんだけど……これ一1個奢るから許してくれない?」
「………5個で許す」
「…………あ、はい。りょかい」
ちなみに、1個350円とかいうナメた価格である。合計1750円也。しかもこれ1個も食えないんだよなぁ。
北上と屋台まで歩いた。平日なだけあって誰も並んでなかった。すごく良い香りが漂って来て、嗅いだだけでも腹が減る、というのはこの事かと納得してしまった。
「5種類1個ずつ!」
北上はといえば、さっきまでの怒りはどこに行った?と聞きたくなるほどに上機嫌になって注文していた。
たい焼きを買って、北上は俺の手を引いてベンチに座った。………嗚呼、畜生。良い香りだなぁ………。
「……………」
北上は俺の事などまるで無視して、袋の中のたい焼きをひとつ取った。
すると、何を思ったか半分に割った。
「…………はっ?」
思わず間抜けな声を漏らした俺を無視して、北上はムムムッと割ったたい焼きを見比べると、小さい方を俺に渡した。
「はいっ」
「………え、良いの?」
「良いも何も、最初からそうするつもりだったんだけど?」
「えっ……他のも全部?」
「……………」
北上は少し照れたようにそっぽを向いてから頷いた。俺は「ありがと」とお礼を言うと、ありがたくたい焼きを受け取った。
で、二人揃ってあむっと一口食べた。
「おおっ……美味ぁ。なんだこれ」
なんだこれ、外サクサク中ふわふわとか本当にあるんだ世の中に………。
北上も満足してるかな、と思って横を見ると、無言で咀嚼しながら、片手をブンブンと振っていた。え、何その味わい方、可愛い。
「ん〜!」
「良かったなぁ、買って」
「ね、次!あんこ!」
「んっ」
二人でたい焼きを食べた。割った奴、全部大きい方を北上は取ったけど、別に気にしなかった。
丁度、全部食べ終えたタイミングでバスがやって来た。俺は軽く伸びをしながら立ち上がった。
「行きますか」
「うんっ」
バスに乗った。これから、いよいよ温泉である。
席に座って、バスが出発した。
「所で北上、お前これから行く温泉の事、どれくらい知ってる?」
「? 普通の温泉じゃないの?」
「……………」
こいつは一切、調べてないのか……。今思い出したけど、部屋に露天風呂付いたんだよなぁ………。いや、別に一緒に入るとは言ってないし、入っても特訓してあるし、大丈夫だろう。
「なんなの?」
「いや、何でもない」
言うのは温泉着いてからで良いか。と、思ったのだが、北上はジッと俺を睨んだ。
「………そう言う言い方されると気になる」
「今はまだ、気にしない方がいいよ」
「………ふーん?」
すると、北上は俺の脇腹に手を突き刺し、指を動かした。
「ふぁひょっ⁉︎ちょっ……、やめっんんひゃはははは‼︎」
「吐く?」
「吐く!吐くからやめろ!」
客が俺たち以外にいなくて良かった。いたら怒られてた。
「あー実は、さ……」
「うん?」
「これから行く、温泉なんだけど」
「うん」
「部屋に、露天風呂があるらしいんだよね」
「うん。………うん?」
どうやら、理解したみたいだな……。
そこから先は、お互い顔を赤くして俯いたまま、一言も話さなかった。
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第13話(後編) 温泉1日目
温泉に到着し、部屋に案内された。それまでの間、俺も北上も一言も話さなかった。ただ、顔を赤くして俯いていた。
「……………」
「……………」
なんだこれ、どうすりゃ良いのこれ。やはり言うべきではなかったか?………いや、でも言わずに連れて来たら騙してラブホに連れて来たみたくなるよな。それに、一回も北上は「嫌」とは言わなかったし、大丈夫だよね?ね?
俺は荷物を床に置いて、畳に座り込んだ。いかん、何か話さなくては。
「へ、部屋広いなー。枕投げとかできっかなー」
何を言ってんだ俺は⁉︎狂ったかマジで!
「え?あ、う、うん!枕投げってあれだよねー、私の姉二人がたまにやってる奴」
い、意外と乗ってきたぁああああ⁉︎
ていうかあいつら何してんだよ……。
「そ、それよりどうする?三日間あるわけだし、今日はのんびりするか?」
「そう、だね。せっかくだから、のんびりと温……!」
そこまで言って、顔を真っ赤にする北上。うん、その気持ち、痛いほど分かるぜ!気持ちが分かるから、俺の対応も早かった。空欠伸をして、「聞こえませんでしたよ?」とアピールする。
「ふぁ……え、何?」
「な、何でもない何でもない!のんびりしよっか!」
「そうだな」
どうやら、上手くいったようだ。俺は畳の上で寝転がり、北上はその俺の隣にゴロンと寝転がった。
…………近い。
「にひひ」
「なんだよ」
「いや、今照れたなーって」
「うるせっ。お前だって顔赤いぞ」
「う、嘘⁉︎」
「嘘」
「むー!提督の癖に私をからかったなー」
「提督の癖にってなんだよ……」
北上は体を横にして、俺の頬をぷにぷにと突く。よくアニメとかで、「やめろ」とか言って払い除けるけどわけわからんな。女の子に頬突かれるのってすごく気持ち良い。
「北上さぁ」
「んっ?」
「なんでOKしたん?」
「何が?」
「告白」
「ああ……や、私も提督の事好きだったし」
「そういうんじゃなくて。何が良かったの?俺の。………あっ、俺が照れない程度でお願いしますわ
「じゃあ思いっきり照れさせてあげる」
え?なんでそうなるの?おかしくない?
「んー、なんかね。最初から顔が好みだったんだよね」
「…………は?」
「二十歳超えてるくせに幼い顔が。後はー……その、何。艦娘が大破して進撃出来なくなっても絶対怒らなかったり、仕事とか全然できなかったり、軍人の癖に随分ユルい人だなーって思って。あれ?この人、外見も中身もドストライクなんじゃない?って」
「…………そこまででいいです」
「で、好きになってちょっかい出してたらかなりウブで可愛くて。もうこれは」
「……………やめてください」
「攻略するしかないなーって。だけど、提督って優しいから色んな艦娘と仲良くしてて、すごい嫉妬してた」
「………いた頃から?」
「私が来てから一ヶ月くらい」
「一年弱も……なんかごめん」
「ううん。私もからかうのに夢中であまりアタックしてなかったし」
「俺ってもしかして鈍感だった?」
「うん。それは確定してる」
マジか……。まぁ、人の気持ちなんてそんな簡単に察せるもんじゃないよな。
「ま、結局私はこうして提督と付き合えてるわけなんだけどね」
にししっと笑って、北上は起き上がった。
「なーんか、気分良くなって来ちゃったなー。ていうか、すごく恥ずかしい事暴露した気がする」
んーっと伸びをすると、北上はにひっと微笑んだまま、俺に言った。
「入ろっか?お風呂」
「ああ、お先にどうぞ」
「ぶっ殺がすよ」
ぶ、ぶっ殺がす………?
「…………マジ?」
「私の気が変わる前に返事した方がいいよ」
確かに………。段々、顔赤くなってるし。
「……………じゃあ、入るか」
「んっ」
「浴衣、どこにあるかな」
「あの中じゃない?」
北上の指差すクローゼットの中を開けると、浴衣が入っていた。
「あ、本当だ。サイズは?」
「………提督ってさ、たまにマジでデリカシー無いよね」
「……え、あ、ごめん。いやでもこれからどうせ」
「どうせ、何?」
「何でもない」
「続き言ってたら殴ってたから」
…………これからは言動に気を付けよう。
北上は自分のサイズの浴衣と体洗うタオルとバスタオルをを取り、俺も同じようにその三つを持った。
「………提督、ここ更衣室はないの?」
「あー……そういえば、ベランダに風呂あるな」
「………どうしよっか」
「ここで脱ぐしかないか……」
「こ、こっち見ないでよね……」
後でどうせ見るのに?とは言えなかった。脱ぐところを見られるのが恥ずかしいのは分かるからな。
「お、おう」
俺は温泉の方を見て、北上はその反対側を向いて、それぞれ脱ぎ始めた。俺はさっさと脱いで、腰にタオルを巻いて深呼吸した。
…………後ろで、北上が着替えてる。イカンイカンイカン!想像するな!AV見まくって修行しただろ!大丈夫、女の子の裸は慣れたはずだ。落ち着け、女の股間を見たろ。もんじゃ焼きよりエゲツなかっただろうが。あのグロイのに毛が生えてんだぞ。もはや斬新なデザインのモンスターだろ!イソギンチャクがモンスターになったようなもんだ!
…………よし、落ち着いて来た。
「て、提督。良いよ」
北上に言われ、振り返ると、天使がいた。違った、北上だった。
髪を下ろして、体にタオルを巻いてる北上。AV女優と自分の好きな女の子の裸では、例えタオルが有ろうと無かろうと超えられない壁というものがあった。いや、胸的な意味ではなく、性的興奮的な意味。
思わずマジマジ見てると、北上は恥ずかしそうに両手で肩を抱いた。
「………あ、あまり、見ないでよ…………」
おい、そのポーズは反則だろ。勃つからやめてマジで。ていうか、もう半勃ち状態なんだよ。
俺は股間の膨らみを誤魔化そうと、さっさと風呂に入る事にした。
「あっ、わ、悪いっ。行くか」
「………うん」
二人で外に出た。室外で裸になるのは変な感じだったが、腰にタオルなんて格好は海パンとほとんど変わらないので余り気にならなかった。
「………シャワー付いてないのかな」
「あ、本当だ。本当は、大浴場の方で入ってからこっちに来るべきだったのかもね」
「………大浴場なんてあんの?」
「さっき、提督がチェックインしてる時に『天然温泉』って矢印付きで書いてあったけど」
「………マジかよ」
後で分かったけど、部屋に別のユニットバスがあって、ちゃんとそこにシャワーがありました。
俺と北上は湯船のお湯を、桶で身体に掛けてから浸かった。タオルは身体とか洗ったわけじゃないし、別に汚いわけではないと思った、という言い訳の元、着けたまま入浴した。
「…………ふぅ」
「んーっ、露天風呂って初めてだけど良いねぇ」
「だな。後、あまり伸びはやめてね」
「? なんで?」
「…………察して」
「……あっ、ご、ごめん」
北上は自分の胸を隠すように抱えた。
「いや、別に謝らなくても良いよ」
「…………提督も、やっぱり私の胸とかに興味あるの?」
「は、はぁ⁉︎そんなわけ……!…………少しある」
「て、提督も男の子、だもんね……」
「…………悪かったな」
「別に、悪くないよ。少し安心したから」
どういう意味だよ。ホモだとでも思ったか?
北上は顔を赤らめたまま、おそるおそるといった感じで聞いて来た。
「………………タオル、取ろうか?」
「…………………は?」
「見たい、んでしょ?」
「見たい。………あ、いや見たいけど」
「…………じ、じゃあ」
北上は自分のタオルに手を掛けた。おいマジか。バカ俺、マジマジ見るな。何凝視してんだよ!………だめだ、目がッ……!吸い寄せられる………‼︎
と、思ったら、北上はタオルから手を離した。
「…………ごめん、もう少し覚悟する時間を下さい」
「…………正直、俺も少しホッとしてる」
「「………はぁ」」
二人揃って、ため息が漏れた。
++++
露天風呂から出て、俺と髪下ろし北上は食事を済ませ、大浴場で身体を洗ってから部屋に戻った。
まだ19時頃なのに、随分と長く感じた。結局、露天風呂で北上も俺もタオルを外すことは無かった。「明日!明日外すから!」と北上は言ってたが、それフラグって言うんじゃねぇの?まぁ、こういうのは北上のペースに任せよう。
「この後、どうしよっか?」
「そうだなぁ……。まぁ、お菓子でも食べながらのんびりすりゃ良いんじゃねぇの?」
「お菓子あるの?」
「ああ」
俺は鞄からサワーとビーフジャーキーとポテチとその他諸々のお菓子を取り出した。
「おおー………」
「北上は飲んだ事あるか?」
「サワーはないなぁ。姉二人にビール飲まされた事はあるよ」
「ま、飲みたかったらあげるよ」
「じゃ、少し」
「紙コップ持って来て良かったわ」
「よ、用意良いね……」
「そりゃ、高校の時とか彼女が出来た時のイメトレしまくってたから………お、あった。はい」
「ありがと。……提督もそういう時あったんだ」
「まぁ、彼女なんてほとんど出来なかったけどな。好きな子いても話しかける勇気出なくて」
「ああ、それ想像できる」
「だから、北上が彼女になってくれて、すごく嬉しい」
「…………は、恥ずかしいこと言うの禁止」
「…………うん、俺もつい本音出たけどすごく恥ずかしい」
「ーッ!だ、だからそういう事言わないでってば!次言ったらぶつから!」
「ご、ごめん……」
今のは恥ずかしい事だったのだろうか……。釈然としながったが、謝りながら紙コップにほろ○いを注いだ。半分くらいで止めて、北上に渡した。
「乾杯」
「何に対して?」
「何でも良いんだよ」
「えー、ちゃんと決めようよー」
「………じ、じゃあ……その、新婚旅行、とか………」
「……〜〜〜っ!」
「い、痛い!悪かったから無言で叩くな‼︎」
「………ま、まだ結婚してないし」
「今、練度いくつ?」
「98」
「…………次はどこ行きたい?」
「提督と一緒なら、どこでも良いよ」
「………だな」
二人で乾杯した。
飲んで、北上は紙コップを机に置いた。
「どうだ?」
「ジュースと変わんないね。本当にお酒?」
「お前、酒強いのかもなぁ」
「もう一口」
「飲みすぎるなよ」
「んっ」
北上にもう一口分注いでから、ポテチとビーフジャーキーを開けた。割り箸を北上に渡して、摘んだ。
「提督はさ、」
「ん、なに?」
「何で私のこと好きになったの?」
「はっ?」
「さっき、私しか喋ってなかったじゃん。だから、気になって」
「あー…………」
そういやそうだったか。
「なんだかんだだよ」
「うわっ、女の子には喋らせて自分は言わないんだ?」
「………冗談だよ。まぁ、特に理由はわからないからなぁ。気が付いたら好きになってたんだよ」
「えーなにそれ」
「なんていうか、のらりくらりとした雰囲気とか、やる気ないように見えて任務は人一倍真面目なとことか、ウザがってる駆逐艦の事もブツブツ言いながらちゃんと面倒見るとことか、いろんな所が見えて来て、いつのまにか好きになってたんだよ」
「………ふーん。意外とよく見てるんだね」
「まぁな。でも、好きだって自覚するのは割と早かったなぁ。男ってのは、単純な生き物だから」
「確かに、提督って単純そうだよねー」
「うるせ」
「でも、そんな提督を好きになっちゃった私も、単純なのかなー」
紙コップの中の酒を飲みながらそんな事を呟く北上の肩に、俺は手を乗せた。
「? 何?」
「…………一発」
「は?」
「恥ずかしいこと言ったら、一発良いんだっけ?」
「えっ、私今恥ずかしい事言った?」
「言った」
「………いや、待って?私、女の子だよ?か弱い女の子に提督、暴力振るえるの?」
「…………か弱いのは俺の方だろ」
「分かった。いや別にビビってるわけじゃないけど。でも、ほら?加減は必要だからね?だから少し落ち着いて………」
北上の言葉を無視して、俺は拳を振り上げた。反射的にビクッとして北上は目を閉じた。その北上の唇に、俺は唇を押し当てた。
「ッ⁉︎」
「…………い、一発」
「…………〜〜〜ッッ‼︎」
「いだっ!ちょっ!だ、だから無言で蹴るのやめろって!」
「う、うるさいうるさいうるさい!バカバカバカブァ〜カ!」
「お、怒るなよ!悪かったって!」
「ッ!」
「痛い!い、今のは効いたぞ………!」
お腹を抑えて蹲る俺を真っ赤な顔で睨みながら、北上はつぶやいた。
「……わ、悪かったわけ、ないじゃん…………‼︎」
北上は恥ずかしくなったのか、一人で布団を敷いて、毛布の中に潜り込んだ。
「…………ちゃんと歯磨きして寝ろよ」
余った摘みと酒を全部食べてから、俺も歯磨きした。今日はもう寝るか………。
歯磨きをしながら、布団をもう一枚敷こうと思ったのだが、見当たらない。
「…………一枚しかねぇのかよ」
困った………。ま、俺はソファーでも良いか。そう思って、とりあえず歯磨きしてると、突然布団から北上が飛び出て来た。俺の目の前まで歩くと、胸ぐらを掴んで来た。
「…………一緒の布団で寝ても良いから」
そう北上は言うと、洗面所に向かった。おそらく、歯磨きしに行ったのだろう。
「……………素直な奴だなぁ」
「何か言った⁉︎」
「別に」
ちなみに、一緒の布団で寝てる緊張感の所為で、朝まで眠れなかったのは言うまでもない。
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第14話(前編) 温泉2日目
翌朝、俺は目を覚ました。北上は隣で俺の服の裾を握って寝ていた。まだ寝てたか………。
さて、どうしようかな。少し、寝汗かいたら風呂入りたかったんだけど、裾握る力が強過ぎて離れない。
「………つーか、こいつ寝顔かわいいな」
普段から可愛い顔してるとは思ってたけど、寝顔になるの幼さが表に出てきて可愛さが倍増する。髪下ろしてるし。
「……あ、顔赤くなった」
なんだ?なんか恥ずかしい夢でも見てるのか?
呟くと、なんか肩がビクッとした。まぁ、寝てる時にビクッとなるのは良くあることだ。
「ま、昨日一緒に風呂入ってたし、それが夢に出てきてもおかしくないよね」
アレは俺も少し恥ずかしかったしなぁ……。そんな事を思ってると、俺の裾を掴んでる手が俺の手首の皮膚を摘んだ。そして、ギュウウゥッと力が入った。
「いだだだ!皮膚剥がれる!皮膚剥がれる!」
な、なんの夢見てんだよこいつ!
俺は力づくで腕を引いて、皮膚を剥がされる前に何とか回避した。
「ってぇ〜……。なんか怖い夢でも見てたんかこいつ」
まぁいいか。とにかく、抜け出せた。
さて、風呂入ろう風呂。今日は北上まだ寝てるし、一人で伸び伸びと入れる。俺は浴衣を脱ぎ捨てた。
「っ⁉︎」
「ん?」
なんか急に北上が布団の中に潜ったな。もしかして、空母から爆撃を受ける夢でも見てんのか?だとしたら少し可哀想だな。
俺はパンイチのまましゃがんで、布団の中に手を入れて頭を撫でた。
「大丈夫だ。俺の仲間は誰一人、沈ませやしなーいよ」
なんて、第七班の隊長みたいな事を言って手を抜くと、パンツも脱いでタオルを腰に巻いてベランダの温泉に入った。
++++
「…………人が起きてるかくらい、確認しなよ」
++++
風呂から上がって着替え終わった所で、北上がトイレから顔を赤くして出て来た。
「あ、おはよう」
「…………おはよう」
「なんか顔赤くね?どした?」
「………………誰の所為だと思ってんの?(小声)」
「あ?何?」
「何でもない。私、お風呂はいって来る」
「んっ」
と、いうことは脱ぐからこっち見るなって事だろ?
ちゃんと気を利かして、スマホゲームをやりながらさりげなく部屋の出口に向かった。
「飲みもん買って来るわ」
「んー、私コーラ」
「はいよ」
俺は部屋を出て、フロントの自販機で飲み物を買った。
戻って来ると、北上の姿はなかった。まだ風呂に入ってるようなので、コーラとサイダーを布団の上に置いた。
暇なので布団でも畳もうと思ったのだが、布団の上には北上の浴衣だけではなく、パンツとブラジャーも落ちていた。
「……………」
どうしようか。本当なら、畳んでおきたいんだけど、パンツとブラが布団の上に落ちてたら、どう足掻いてもそれらを手にとって移動させなければならない。
だが、ベランダとこの部屋の間はガラス窓なので、北上のパンツとブラを手に取るところを北上に見つかれば、まず提督人生終了コースである。
なら、やっぱ何もしない方が良いか。そう決めて、部屋に備え付けの椅子の上に座って、スマホをいじりながら窓の外を見た。
今更だけど、この窓からの眺めは良い。地平線の彼方まで見えそうな場所だ。何より、ここから海が見えるのがすごい。
「写真撮るか」
窓にスマホを向けた。スマホの画面の左端に、北上が写っていて、こっちをゴミ見る目で見ていた。
「…………あっ」
これじゃ盗撮しようとしてるみたいじゃん………。なんで向こうからこっちが見えると分かっていたのにこっちから向こうを見ることを考えなかった………。
数秒後、土下座する俺の頭を北上は踏んでいた。
「………で?犯行に及んだ経緯は?」
「…………いえ、わざとじゃないんです。あまりにも暇だったので、窓の外の景色を撮ろうと思ったわけです」
「と、いう口実の元、私の裸を撮ろうとしたと?」
「違うから!俺がそんな頭良さそうに見えるか⁉︎」
「……………」
北上はしばらく考えた後、俺の頭から足を退かした。
「………もう、良いよ。分かった」
「悪い」
しかし、なんか北上機嫌悪いな。何かあったのかな。
「で、この後どうする?」
「とりあえず、朝ご飯」
「ああ、それな。その後」
「……んー、私は提督と部屋でまったりしてたいなぁ」
「まったり?」
「ようは、一緒にゴロゴロして、たまに会話して、トランプとかゲームして、一緒に温泉入って、一緒に少し外に出てご飯食べて、また一緒にゴロゴロするの」
「え?お、お風呂もやっぱり一緒に入る?」
「………なんでさりげなく言ったのにリピートしちゃうかな」
「ご、ごめん………」
「提督がどこか行きたいなら、それでも良いけど」
「ふむ………」
確かに、北上はアウトドア派には見えないよなぁ。まぁ、この旅館はトランプやウノだけじゃなく、将棋やオセロの貸し出しもあるらしいし。
「………じゃ、まったりするか」
「うん。ありがと」
「とりあえず、朝飯だな」
「朝ご飯なんだろうね」
「多分、バイキングじゃねぇの?」
「昨日みたいにポテト馬鹿みたいに取るのやめてよね」
「良いだろ、好きなんだから」
「子供といるみたいで恥ずかしいもん」
そんな会話をしながら、部屋を出て朝飯に向かった。
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第14話(後編) 温泉旅行2日目
そのまま、北上とただ部屋でまったりと過ごした。トランプやったり花札やったり、フロントからオセロや将棋を借りたりと、まぁ遊び尽くし、夜になった。思い出すのは、やはり昨日の夜の風呂である。お互いにタオルは巻いてたものの、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「北上、今日はどうする?」
「? 何が?」
「え………や、その、だから……………ふ、風呂……」
聞くと、北上は一気に顔を真っ赤に染めた。
「………ど、どうしよっ、かね」
「俺は、どっちでも良いけど………」
「………………」
「………………」
お互いに顔を赤く染めたまま、目を逸らした。
あーもうっ、どうすんだよこの空気。やっぱり聞かない方が良かったかな。と、思ったら、北上は顔を赤くしながら答えた。
「………今日は、タオルとろっか」
「ゲフッ!ェゲフッ!ゴホッ……!」
「て、邸宅⁉︎大丈夫⁉︎」
「だ、大丈夫…………」
こいつ本気で言ってんのか?顔真っ赤じゃん。
「………き、北上?別に無理しなくても良いんだぞ?」
「む、無理なんかしてないし………」
いや、そんな顔赤くしてモジモジしながら言われても………。
「て、提督」
「は、はいっ」
「女の子が、ここまで言ってるのに……逃げるの?」
「…………じ、じゃあ、入るか」
「………んっ」
俺が了承すると、北上は頷いた。
先に部屋の備え付けのシャワーを浴びてから、俺が温泉に浸かった。その後で、北上が入って来る予定だ。
あーくそっ、さっきから心臓の鼓動がうるさい。通常の三倍のスピードで鳴り響いてやがる………。多分、心臓赤いし、もしかして角も付いているんじゃないだろうか。
いやいやいや、俺は北上を性的な目で見るつもりか?そんな最低な奴じゃないだろ。北上と付き合ってはいるが、決して裸を見るために付き合ったわけじゃないはずだ。心頭滅却、心を無にしろ。そうすれば、きっと扉が開かれ………、
「お、お待たせ……」
「ッ!」←即見
………う、おお。スゲェ……ノン・タオルとはこの事か……。スレンダーボディの上に立つ二つのニップル、そのセンターには少なくとも存在はしている谷間、その谷間を直進すると、控えめなおへそ、その下の陰部には流石にタオルがまかれていた。
マジマジと眺めてると、北上は自分の胸を抱いて隠した。
「………そ、そんなに見ないでよ……」
「ご、ごめん!」
慌てて目を背けた。いや、でも……眼が、吸い寄せられる………‼︎
そんな俺の気も知らずに、北上は俺の隣に座った。肩と肩がくっ付き、ビクッと震え上がりそうになったが、北上が耐えてるので何とか耐えた。
「…………」
「…………」
えーっと、何だこれ。何で無言なんだこれ。何か言った方がいいのか?いや、でも服や水着とは違うから、似合ってるね、なんて口が裂けても言えない。
「………て、提督」
「な、何⁉︎」
「そのっ………何か、話しよう!」
「えっ?」
「ほ、ほら……!何か、話さないと……その、え、えっちな気分に…なる、から………」
「わ、分かった!」
「実はさ、私ってこう見えて虫が嫌いでさー」
北上の話を聞きながら、あれは少し自己嫌悪した。今の所、ほとんど北上にリードされている。男として、こんな情けない話があるか。
もう少し、男前なところを見せないと、いつか愛想を尽かされちまう。気合を入れろ、俺。チキンな俺とは、もうサヨナラしたはずだろ。
「北上」
「それで大井っちがさー……なに?」
「んっ」
「んんっ……⁉︎」
こっちを向いた直後、北上の唇に唇を押し当てた。北上の顔が真っ赤になるのを見ながら、俺はさらに舌を入れた。
「んっ……んんっ⁉︎」
「………んりゅっ」
ベロチューというのは何をすれば良いのか分からなかったので、とりあえず舌で口の中を掻き回した。
しばらくそのまま続けた後、口を離した。涎が後を引き、俺と北上の合間を垂れる。
「………てぇ、ていとく……?ど、どうしたの…?き、きゅーに……」
ボーッとした表情の北上が、かろうじてと言った様子で聞いて来た。
「………そ、その、えっと……し、シたくなった、から……」
「…………」
俺は目を逸らし、北上のいない方を見た。あー……はずかしい。でも、不思議とやらなきゃ良かった、とは思わなかった。俺は恥ずかしさで熱くなった顔を冷やすように、浴槽にもたれ掛かると「提督」と呼ばれた。
「んあ?」
反射的に北上の方を見ると、両手で顔を固定され、唇を押し当てられた。
「んっ………⁉︎」
唇をペネトレイトしてくる舌。今度はこっちが口の中を掻き回され、俺の顔が熱くなる。
それだけではない。いつの間にか腰のタオルを外した北上は、俺の体の上に跨ってキスしていた。
「んんっ………!」
「れろっ………ぷはっ」
北上は唇を離した。俺の顔から手を離し、お湯の中に手を入れる。その直後、俺の魔羅を握った。
「ひあっ⁉︎」
「………提督のここ、辛そう」
「ちょっ……おまっ………‼︎」
「提督だからね、私のスイッチを入れたの」
「す、スイッチ、って………?」
「………後悔しても、知らないんだから」
北上はそう言うと、再び俺の股間をしごき始めた。
++++
数分後、俺は全力で恥ずかしがってる北上の背中を洗っていた。
「…………北上」
「うるさい喋んな」
さっきまでの自分を殴り飛ばしたいそうです。俺が声かけてもこの調子である。まぁ、ほとんど逆レイプだったからね。仕方ないね。
「………まぁ、うん。俺も気持ち良かったし、気にするなよ」
「うるさいぃ〜……!」
北上は思いっきり俯いた。あー……これ、どうすれば良いんだろ。何とかフォローしてやりたいなぁ。俺は誘ったつもりなんか無かったけど、あのベロチューが北上の性欲を駆り立てたらしい。
………仕方ない。このまま北上にふて腐られても困る。何より、結局北上にリードされたままだ。俺は深呼吸すると、北上に言った。
「………ちなみに、北上」
「何」
「後で、一緒に寝る、よな?」
「うん」
「………今度は、俺がリードする、から」
「…………えっ?ま、また、スるの……?」
「……嫌か?」
「い、嫌じゃ、無いけど………」
「……………なら、良いだろ?」
「………じ、じゃあ……今度は、提督が私を犯して、ね」
「………………」
「提督?」
「…………やっぱ少し考えさせて」
「ヘタレ」
「……うるさい」
この後、メチャクチャチキり、結局北上が跨った。
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