ハイスクールD×D inウィザード (kue)
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第一話

この作品のイッセーは顔に感情がでない、冷静な少年です。


まだ太陽が上がり始めてそう時間も経っていない、肌寒い時間帯の街を、

俺―――兵藤一誠は自転車で爆走していた。

何故、こんな朝早くから自転車を爆走させているかというと、

とある事情から結構な金額のお金を稼がねばならないので、

俺はアルバイトを何個も掛け持ちしてお金を稼いでいる。

食費、光熱費や高校の諸々の費用、そして治療費など。

「おっ! 兵藤君!」

「おはようございます。今日の分の新聞です」

「いつもありがとね!」

犬の散歩から帰ってきた六蔵さんに今日の分の朝刊を渡し、

ようやく今日の分の新聞配達を終わらせた。

腕につけてある時計を確認すると、現時刻は朝の五時三十分だった。

この時間帯だとまだ、母さんは爆睡中か……あの人、

一回寝たら本当に何をして起きない人だからな。

「あ、兵藤君! これ!」

自転車を漕ごうとしたときに六蔵さんから呼び止められて、

後ろを振り返ると自転車のかごに紙袋を入れられた。

中を見てみるといくつかのタッパが入っており、取り出してみると昨日、

作ったであろうカレーライスが並々と入れられていた。

それに結構な大きさのタッパに入れられているからかなりの量だ。

「昨日、食べようと思ったんだが孫から外食に誘われてね。

結局、食べなかったから持って行きなさい」

「……よろしいんですか?」

「構わんよ。君も大変だろ。君のお母さんには昔からよくしてもらっているし、

近だけの量はワシにも食べきれん。作り置きの分はちゃんととってある。

これは昔、よくしてもらったそのお礼だ」

「……感謝します」

ニコニコと笑っている六蔵さんに深々と頭を下げ、俺は感謝の意を示して、

次のバイト先へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、新聞配達のバイトの後にあるコンビニのバイトを終わらせた俺は、

学生が歩く道を逆走して家へと向かっていた。

本来なら俺も周りの学生と同じように学校へ向かっている時間帯……でも、

とある事情から俺は登校義務を免除されている。

登校義務免除の条件――――それはどんなテストでも満点を取ること。

学力テスト、実力テスト、全国模擬テストなどですべて、

満点を取れば登校義務を免除するという全国でも珍しい制度を利用した。

その結果、学園史上初の登校義務免除生となった。

本当だったら高校なんて行かずにバイトばっかりしていればいいんだが母さんが、

『せめて、高校は行きなさい』と言われ、もともと頭の出来はそこらよりも良かったことから、

入学試験を全教科、満点を取り、首席で入ったので授業料などはすべて無料になった。

まあ、教科書代、制服代、そして細かいお金などはかかってしまったが。

「ただいま」

「イッセ~」

家に入ると母さんの声が、二階から聞こえてきた。

俺は服もそのままで、二階へと上がり、母さんの寝室に入ると車椅子に、

もたれかかるような格好の母さんの姿が目に入った。

「……いつも、俺が帰ってくるまで待ってっていってるでしょ」

「いやね~。いつもイッセーの手を借りちゃダメかなって思って」

申し訳なさそうにそう言う母さんの両ひざの裏側に手を回し、

首元にも手を回して持ち上げ、車いすに乗せた。

「いつも、ごめんね」

「良いよ。気にしないで」

そう言い、母さんが乗っている車いすを持ち上げ、階段を下りていく。

「イッセー。そう言えば、今日学校じゃないの?」

「……まあ」

「今日はお手伝いさんが来てくれる日だからいってらっしゃい」

「…………分かった」

お手伝いさんが来てくれるまで母さんのそばにいた後、

すぐに俺は身支度をして学校へと向かった。

久しぶりに着た制服の着心地に戸惑いながらも久しぶりに歩く通学路を進み、

学校へとたどり着くや否や、周囲から何やらクスクスと小さな声で、

笑っているような声が聞こえた。

これがただの笑いなら良いんだが俺の場合は嘲笑だ。

そんな声を気にも留めず、外靴のまま教室へと向かっている最中にも、

先ほどと同じものが聞こえてくるがそれも無視しながら教室へと入った。

「兵藤~。今日はママとイチャイチャしなくていいのか?」

「バ~カ。昨日はやり過ぎて気失ってんだよ」

教室に入るや否や、馬鹿どもが俺を茶化しにやってきた。

どうも、俺が学校に来ていない理由が歪曲してママと離れたくないからというものになり、

俺が重度のマザコンになっている。

毎度、無視しているんだが逆にそれがあいつらを調子に乗らせている要因らしい。

「は~い! 邪魔邪魔!」

「バカは退いてろ!」

すると、後ろから茶化しにやってきた奴らを押しのけて二人が俺の傍にやってきた。

学校では超絶に変態だと噂されている松田と元浜。

なんでも女子が着替えているところに必ずいるとまで言われ、

忌み嫌われているエロすぎる二人。

別に俺は嫌いではないんだが……。

「イッセー! 是非、お前に見て欲しいものがある!」

「ひっ!」

ドン! と俺の机の上に置いたものを見た女子が恐怖に顔を引きつらせ、

俺の周りからズザザザ! と一斉に後ろに下がった。

俺の机の上に置かれたもの……所望、世の男性があまりある性欲を、

発散させるために作られた18歳以下は見てはいけない……ストレートに言えばAVだ。

「是非、これを見てイッセーも俺達の世界に」

俺は卑猥なビデオ群を鷲掴みにして窓の外に放り投げようとすると、

二人が涙を流しながら俺の腕に飛びかかってきた。

「あー! 何すんだ! これ、限定品なんだぞ!」

「何故、十八禁の物を買っているかについては何も言わん。流石に学校に持ってくるな」

「これを見ればイッセーも変わると思ったんだが」

ブツブツ言いながら二人は卑猥なビデオ群を持っていき、

二人でエッチで熱い話を展開し始めた。

登校義務を免除されている俺が何故、今日学校に来たか……それは、

校長が流石に毎日こないのはダメだから一年の間に五回は来いと言われたからだ。

正直、来なくてもよかったんだがな……。

「何か用か」

窓の外をボーっと見ていた俺に近づいてくる奴の気配を感じ、

そう言いながらそっちの方を向くと驚いたように微笑を浮かべた男子が立っていた。

「気配でわかるもんなんだね。僕は木場祐斗。放課後、

僕と一緒に部長……リアス・グレモリーさんのところに来てほしいんだ。

名前くらいは知ってるよね?」

リアス・グレモリ-。学園で一、二を争うほどの美貌らしく、

その髪は紅、見るものを全て魅了するらしい……が、

学校にほとんど来ていない俺は彼女の姿を写真などでしか見たことがない。

確かにそこらにいる女子よりかは美人だとは思うが……心を鷲掴みにされるかと言われれば、

NOと即答できる。

「行く必要はない。俺は忙しいんだ」

「あるさ。むしろ、君には義務がある」

「……分かった。行ってやる」

そう言うと笑みを浮かべながら俺に待ち合わせ場所を言ったあと、

木場祐斗とかいうやつは教室中の女子たちからの黄色い声援を受けながら出ていった。

あいつも学校の中で一、二を争うイケメンだといわれている。

「……俺に会わなければならない義務があるのは父さんに会うことだけだ」

誰にも聞こえないようにそう呟いた後、俺は机に突っ伏して眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝過ぎたか」

ふと、顔を上げると窓から入ってくる太陽の光の色が変わっており、

教室にはすでに俺以外に誰も生徒はおらず、

外からクラブ活動をしているらしい活気の良い声が聞こえてくる。

「……帰るか」

無論、俺が約束した場所へ行くはずもなく木場とかいう奴に出会わないように、

周囲に注意を配りながら歩き、近くの窓から飛び降りて、外へと出た。

「兵藤君」

「何か御用ですか? 会長」

いざ、帰ろうとしたときに声をかけられたが後ろを振り向かなくても、

俺に声をかけた奴が誰なのかはその声を聞くだけで分かった。

駆王学園生徒会長……女子生徒からの人気はリアス・グレモリーとかいう奴と、

同じくらいらしいが二人の人気の理由は全く違う。

リアス・グレモリーはその美貌と誰にも優しいことで、

生徒会長はその美貌で誰も寄せ付けない氷のような冷たい雰囲気が、

女子からすればカッコ良く見えるらしい。

会長が廊下を歩けば女子は皆、敬意を評して頭を下げる。

「いささか、先ほどの行為は見逃せませんね」

「少々、急ぎの用があるもんですから」

「貴方の事情は理解はしていますがいくらなんでも二階から飛び降りるという、

危険極まりない行為はしないでください。それで怪我をすればもともこもありません」

「ソーナの言う通りよ」

第三者の声が聞こえ、そちらのほうを向くと朝に教室に来た木場って奴と、

噂の一、二を争うほどの美人様のリアス・グレモリーがいた。

……あの二人の感じだとどうやら俺が逃げないかどこかからか監視していたらしいな。

「イッセー。放課後に来てって言ったのに」

「行く義務はないし俺にはやらなきゃいけないことが」

「大丈夫。そんなに時間はとらせないから」

「……十分で終わるなら」

「決まりね。迷惑をかけてごめんなさい、ソーナ」

「構いません」

そんなわけで俺は木場とリアス・グレモリーに連れられ、

今は使われていない旧校舎へと案内され、一つの部屋へと入れられると地面には大量の魔法陣、

壁のいたるところには不気味な髑髏や紙が長すぎて顔が見えない人形、

そしてそこらじゅうに蝋燭なんかが立てられて物々しい雰囲気が流れていた。

……とてもじゃないが高校生が放課後に行う活動の場所とは思えないな。

「座ってちょうだい」

そう言われ、ソファに座ると対面する形でリアス・グレモリーが座り、

その後ろに待機する形で木場が立った。

「兵藤一誠君。貴方は命を狙われています」

「…………んじゃ」

「まあまあ! 話しは最後まで聞こうよ!」

あんまりにも馬鹿らしい話しに帰ろうとした俺を、

いつの間にか俺の後ろにまわっていた木場が静止させた。

こいつ、いつの間に俺の後ろに……。

無理やり気味に木場に座らされ、小さな笑みを浮かべつつも再び話し始めた

「続けるわね。この世界には貴方達人間が普通に暮らしていれば全く気付かない事実があるの。

その中の最たるもの悪魔、天使、堕天使の三種族。人間界ではそれら三種族は、

空想上の存在として語られているけど……その真実は違う。

私を含めたオカルト研究部に属している人物は皆、悪魔よ」

そこまで言いきった直後、木場とリアス・グレモリーの背中から黒い一対の翼が生えた。

なんというか……驚きを越してもう冷静になることしかできなかった。

「この世界にはセイグリッド・ギアと呼ばれるものが存在しているんだけど、

その中でもとびっきり強いものが貴方の中に宿っているかもしれない」

「そうですか、じゃあ宿っていません。はい論破」

「……それでね」

続けるのかよ。

「それを潰すために堕天使が貴方を殺そうとしているの」

「よ~く分かりました。あなた方の脳の中はお花畑ということがよく分かりました。

バイトの時間なのでそろそろ帰ります。二度と近づかないでください」

そう言い、二人の返事を聞かずして俺は部室から出た。

 

 

 

 

 

 

 

「どうします? 部長」

「ん~。なかなか手ごわいわね。一応、朱乃と小猫に見張らせようかしら」

「その方がよろしいかと。堕天使側も彼を殺そうと必死になるでしょうから」3




こんばんわ。一応、二巻の内容までお試し投稿してみて
受けが良ければ連載を続けます。


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第二話

「あ、兵藤君! 今月のお給料振り込んでおいたから!」

「ありがとうございます」

バイト先の店長から給料の振込されたのを聞き、

お礼を言ってから店から出ると既に空は真っ暗だった。

でも、おかしくはない。時間は既に高校生が出回っていい時間帯を大きく超え、

普通の人たちはベッドで寝ている時間帯だ。

普段なら俺は朝、昼、晩の全ての時間帯に四時間から五時間ほどのバイトを組み込んでおり、

朝に家を出てから帰ってくるのは大体、日付が変わる数分前だ。

今日は早めに終わったが……また、職質されると鬱陶しいから帰るか。

「貴方が兵藤一誠ね」

店の前に置いておいた自転車に乗ろうとしたとき、不意に後ろから女の声が聞こえた。

振り返ってみるとそこにはかなり露出度が高い……警察官に見つかれば、

即声をかけられそうなくらいの服装をしている女が立っていた。

「……何か用か」

「本当に感情のない表情ね。怖がっているのかもわかりゃしないわ。

ま、こっちとしてはそっちの方が都合がいいけどね。少し、お話をしましょ」

刹那、バサッ! と鳥が羽ばたくときの音が聞こえ、辺りにヒラヒラと羽根が数枚、落ちた。

俺は目の前の光景と似たような光景に数時間前に出会っていた。

あいつらの翼とは少し、形状も色も違う……こいつは……天使か、悪魔か。

「そうね。あっちに公園があるみたいだからそこに行きましょ」

云われるがままに俺は自転車をこぎ、近くにある公園に入って自転車を木に、

立てかけて止めると、上から先ほどの女が降りてきた。

「改めて。こんばんわ、兵藤一誠。私は堕天使、レイナーレ。

貴方をこちら側にスカウトしに来たの」

……どういうことだ。リアス・グレモリーどもは堕天使が、

俺を殺しに来ているというお花畑要素満載のことを言っていたのに、

俺の命を狙っている肝心の堕天使が俺をスカウト?

「他の奴らは貴方に宿っている者が危険だって言うけど、

私は貴方の中にある魔力の量が危険だと思っているの。

最初は伝聞情報だけで疑念があったけど、近くで貴方を感じてそれは確信に変わった。

確かにあなたは危険だわ。でも、逆にそれがこちら側に有利に働くこともある」

「……それがスカウトか」

「そう。その莫大な魔力を私達のために使ってもらいたいの。

屑で汚らしい悪魔を滅ぼすために。私はね、悪魔は汚らしいけど人間は、

綺麗なものと考えているわ。人間は二種類いる。悪魔に魅入られて魂が穢れるか、

もしくは天使に魅入られて魂がさらに浄化されるか。いわば、

人間の魂はなんの穢れもない美しい状態」

「俺がそっちに入った時のメリットは」

「貴方が望む物を。富み、女、力。いずれ、

あなたはそれら全てを掌握することのできる存在へとなりうるポテンシャルを持っている。

これは予想じゃない。予知よ」

「デメリットは」

「貴方がこちら側に入らなければ殺すだけ。ね? 

どっちが正しい選択かは優秀な貴方なら一瞬で分かるはず」

拒絶すれば死が、受け入れれば全てが手に入る……か。

「まるで雲をつかむような話だな。その魔力とやらはどうやって証明する」

「もうすでにあなた自身が証明しているわ」

そう言い、女がパチン! と指を鳴らすとどこかからか、

バチッ! バチッ! という放電時に聞こえる音が耳に入ってきた。

「実はね。この公園には強力な結界を張ってあったの。人間なんて絶対に、

入ることができない、それこそ触れた瞬間に丸焦げになる結界をね。

でも、あなたはそれをやすやすと破って見せた。

悪魔ならまだしも人間の貴方が。これは異常なことよ。

いくら、セイグリッドギアを宿した人間でもその魔力量は微々たるもの。

とてもじゃないけど結界を破ることのできる量じゃないわ。生まれつきか、

はたまた宿しているセイグリッドギアが強力なのか。それは分からないけど貴方は、

最強の魔術師になれる。さあ、私と一緒にこの世界を、グレゴリの幹部様達に」

レイナーレが手をさしのばして俺に近づこうとした瞬間、

サクッ! と目の前に刀が突き刺さった。

「悪いけど、彼に近づかないでくれるかな?」

上から声が聞こえ、顔を上げてみると俺の頭上に翼を生やした木場が少々、

怒りを含めた表情をしつつ、刀らしきものを両手に持ってレイナーレを見ていた。

「悪魔風情が。随分と調子に乗るじゃない」

「それは貴方の方ではありませんの?」

―――――刹那。

俺の視界を潰すほどの光が発生したかと思った瞬間、耳を劈くほどの爆音が鳴り響き、

姿勢を崩してしまうほどの揺れが俺を襲った。

何なんだいったい……目の前で何が起こっている。

「一個人が組織に勧誘だなんて。いくらなんでも調子に乗り過ぎていますわ」

空から降り注ぐ声。上を向くと翼を生やしたポニーテールの女が宙に浮いていた。

「それにここはグレモリー領下ですの。

堕天使様が入ってきたなんか知れたら外交問題に発展しそうですわ」

「ふ~ん。貴方達も最初から兵藤一誠を監視していたわけ。まあ良いわ。

兵藤一誠、よく考えておいてね」

何処から聞こえているのかは分からなかったがその言葉を最後に、

レイナーレの声は聞こえなくなった。

「危機一髪でしたわね」

「……なるほど。おれを監視していたわけか」

「監視じゃないよ。警護って言ってほしいな」

その日は何も言われず、そのまま家まで送り届けられた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、俺は旧校舎のオカルト研究部にいた。

今日は母さんはリハビリの日なので、

お昼ごはんも晩御飯もリハビリステーションで済ましてくるし、

お風呂もお手伝いさんが介助してくれるというのでここにやってきた。

「今日はどういった要件かしら?」

「昨日、堕天使とやらに会った。スカウトしたいんだと」

そう言うと、リアス・グレモリーは驚いたような表情を浮かべた。

「俺が宿しているセイグリッドギアとやらではなく、

その魔力量に着目したらしくてな、こっちに来れば最強の魔術師になれるとまで云われた。

あんたらも俺をそんな感じで見てたのかと思ってな」

「それはないわ」

リアス・グレモリーは怒ったような表情で俺の言ったことをばっさりと切り捨てた。

「私は……いえ、私たちは貴方の命を心配しているの。

貴方を物としてなんか見ていないわ」

こちらを見る目は真剣そのもの。

周りの奴らの目も見てみるが、この部室にいる全員が全員、

目の前のリアス・グレモリーと同じような真剣な表情をしていた。

一点の曇りもない目だった。

「一つ聞きたい。俺が悪魔側に入った時のメリットは」

「貴方の身の回りの安全を保証するわ。それだけじゃない。

貴方の大切なものを自らの力で守ることのできる力が手に入る……誰かの悲しみを消し去り、

誰かの希望になることができる」

俺の大切なものを自らの手で守ることのできる力……誰かの悲しみを消し去り、

誰かの希望なることができる………………か。

「…………分かった。俺は悪魔側に入ろう」

「契約成立ね」

そう言い、リアス・グレモリーが制服のポケットから八つの赤い駒を取り出し、

俺に向けると駒が赤く輝きだし、俺の胸に飛んできてそのまま中に入ってしまった。

「まさか、八つ全てを消費してしまうなんて」

「少し失礼しますわ」

そう言い、ポニーテールの女が指先に魔法陣らしきものを出して俺の胸に当てると、

その魔法陣が一瞬にして消え去った。

そのよく分からない光景に戸惑っているのは俺だけで、

他の奴らはあり得ないといった様子の面持ちを浮かべて俺を見てきた。

「凄いですわ。魔力量だけでいえば私や部長を遥かに……いえ。

私たちでは比べ物にならないほどの量ですわ」

「魔法陣が消えたので分かるのか」

「消えたんじゃないよ。外、見てみなよ」

木場にそう言われ、窓の外を見てみると学校の真っ暗な地面に紅色に輝いている線が、

グラウンドを出て外にまでずーっと伸びていた。

「さっき、副部長……朱乃先輩は魔力量を測ったんだ。指先にあった魔法陣は、

魔力量によってその大きさを変えていく。大きければ魔力量が多いんだ。

この中でいちばん多いのは部長だった。それでも旧校舎を囲むほどだったのに」

「ふふ。イッセー、これからよろしくね」

笑みを浮かべながらリアス・グレモリーは俺の手を握ってきた。

 




こんばんわ


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第三話

翌日の朝、俺は正直どういう反応をしていいのか分からないでいた。

「あらあらまあまあ。こんなにも美人な人とお友達だったなんて」

「ふふふ。お義母様こそ大人の色気が溢れ出ていますわ」

早朝のバイトから帰って見るとやけに母さんの楽しそうな声が聞こえてきたから慌てて、

家の中に入って見ると何故か、リアス・グレモリーが母さんと楽しそうに談笑していた。

……心配した分を返せ。

「母さん嬉しいわ。イッセーがこんなに美人な女性と出会っていたなんて」

「イッセー君は新しく入ってきた後輩ですもの。部長としてイッセー君のお母様に、

ご挨拶をしに来ましただけなのにこんなにもおいしいご飯をふるまって下さって」

車いす生活になっても母さんは料理に関しては自分がやると言って、聞かなかった。

だから、その為に台所を母さんが車いすに乗った状態でも、

料理が出来るような高さにリフォームした。

まあ、借金してだけど。

「あ、そろそろ時間ね。イッセー、リハビリ行ってくるね」

そう言って、母さんは玄関へと車いすを巧みに操作してスイスイ~っと行って、

外で待機していたヘルパーさんのところへと向かった。

……本当に車いすだけの障害物競争に出たら絶対に俺の母さんが優勝する気がしてならない。

「……いいお母様ね」

「ええ。自慢の母です」

「さ、イッセーには悪魔の研修を受けてもらうわ」

「残念ながらバイトです」

「大丈夫。バイトは全てクビよ」

言っていることがよく分からなかった。

確かに今朝のバイトは契約切れでクビとは言わないけど……クビか。

まあ、そんな状態になったけど全てのバイトがそうなったわけじゃ。

「私が貴方を雇うわ。事情は後で説明するけど、今は何も言わないで頂戴。

悪魔も会社みたいなものでね。利益を出さないといけない」

「それで俺に働けと」

「もちろん。とりあえず、学校に行くわよ」

手を取られ、無理やり気味に学校へと連れていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の真夜中、母さんが爆睡した時間帯に俺は自転車を爆走させて目的の家まで走っていた。

母さんは一度、

眠れば十時間後にしか絶対に目を覚まさないから一度眠れば翌日まで絶対に起きない。

そして、何故俺が自転車を爆走させているかというと悪魔稼業というものをやっており、

依頼者のもとへと向かっている。

大昔は悪魔も純血が多かったらしいんだが他種族との大戦で純血の多くが死に、

種の存続に瀕した悪魔はあるシステムを開発した。

それが他種族を悪魔へと転生させる駒、イーヴィルピース。

チェスの駒に似せたものらしい。

「めんど」

本当なら転位させてもらうはずだったのが俺の魔力量が多すぎたため、

重量オーバーに似たような状態になり転位できなかったから、

自転車で向かっているんだがいかんせん、依頼者の家が遠すぎる。

『貴方は最強の魔術師になれる』

頭の中にレイナーレの声が響いた。

「出来るのかね……空間と空間を繋ぐ」

『コネクト。プリーズ』

頭に魔法の様子を浮かべながら手を翳すと突然、肘から下を覆うように赤色の籠手が出現し、

何処からともなく音声が鳴り響き、目の前に魔法陣が現れた。

「……ま、気にしないが勝ちか」

試しにその魔法陣を通過してみると、

魔法陣の先につながっていたのは俺が向かっていた依頼者の家だった。

「ほ、本当だったんだ! 魔法使いは本当にいたんだ!」

何やらはしゃいでいる大学生っぽい奴がいるが、とりあえず俺は自転車を降りてもう一度、

同じ魔法を使い、魔法陣を展開してそこへ自転車を放り投げると自転車が消え去って、

その直後に魔法陣が消えた。

「あ、改めまして! 僕も魔法使いになりたいんです!」

「無理だな」

ズコーッ! と関西の芸人がこける様に依頼者が机の上でスライディングする感じでこけた。

「そこをなんとか! 一日限定でも良いですから!」

「そもそも、俺も魔法使いじゃない」

「そうですか……じゃあ、もっと魔法を見せてください!」

と言われても俺もさっきのやつ以外に使ったことないし……さっきの要領でやればいけるかもな。

何か使えるものはないかと周りを探すと机の上のペン立てが目に入り、

そこから一本の鉛筆を取り出し、頭の中で魔法を思い浮かべる。

『ビッグ。プリーズ』

「おぉぉ! 鉛筆がでかくなっちゃったー!」

手を翳すと目の前に魔法陣が現れ、そこに鉛筆を突っ込むと突っ込んだ部分が凄まじいほど、

大きくなった。魔法陣から鉛筆を引くと、元の大きさにもどり、魔法陣も消失した。

「まだあるんですよね!?」

キラキラとした目で見られ、断るに断れなくなった俺は再び頭の中で思い描いて、手を翳した。

『スリープ。プリーズ』

出現した魔法陣が依頼者を通った直後、依頼者は床に崩れ落ちて寝息を立てて眠りについた。

「……良い夢を」

『コネクト。プリーズ』

現れた魔法陣を通ると、繋がっていたのは部室だった。

全員が全員、魔法陣から出てきた俺を驚きの目で見ていた。

「あ、えっと、とりあえずお帰り」

妙な空気が部室に流れ始めた。

「見たことがない魔法ね。ねえ、イッセー。他にも使ってくれないかしら」

『ビッグ。プリーズ』

手をかざし、魔法陣を出すとそこに手を突っ込むと何倍にも大きくなった手が現れた。

ひっこ抜くとまた元の大きさに戻った。

「魔法もすごいですがイッセー君の手に装着されているのは」

「……トウワイスクリティカルかしら」

ペタペタと触りながら木場とリアス・グレモリーがマジマジと、

腕に装着されているものを見てくる。

その時、ガチャッとドアが開けられ、ポニーテールの女が硬い表情で中に入ってきた。

「大公から討伐の連絡ですわ」

 

 

 

 

 

 

『ライト。プリーズ』

町のはずれにある真っ暗な森の中を俺の魔法が明るく照らし、

目的の場所への道を記してくれた。

俺達がここへ来た目的は悪魔を裏切った者―――――はぐれ悪魔と呼ばれる存在の討伐だった。

悪魔にしてもらいながらその主を殺した、悪魔の力に魅入られ罪のない人々たちをその手で、

殺めた存在などを総じてはぐれ悪魔と呼んでいるらしい。

「ここね」

到着したのは古びれた教会のような場所だった。

リアス・グレモリーが教会のドアを開けようと手をさしのばした瞬間、

バチッ! という音とともにドアの目の前に光の壁が現れた。

「まだ、天使の加護が生きていたなんてね」

指先から流れ出る血を見ながら、憎らしげにそう言った。

確かにドアの前にはなにやら魔力が走っているのが見えるけど、

正直に言うと俺なら解けるという自信があった。

じーっと見ていると壁を構成している魔力の情報が全て俺の頭の中に流れ込んでくるようで、

綻びがある場所を見つけた。

「イッセー。離れてちょうだい。加護ごと教会を」

「その必要はない」

綻びのある場所に魔力を少し、注入してやるとガラガラと光の見えない壁が崩れ去り、

キィーっという音とともに少しドアが開いた。

「イッセー。今のは」

「話は後だ。来るぞ」

ドアを開けた瞬間、凄まじい悪臭と俺たちに殺気が向けられ、

否応にも戦闘態勢を取らざるを得ない状況となった。

『なんだかすごい量の魔力があるな~。甘いのか? 辛いのか?』

くぐもった声が上から降り注ぎ、上を向くと天井に何やら巨大な存在がぺたっと張り付いて、

俺達を見ていた。

「はぐれ悪魔バイサー! グレモリー家のなにかけて貴方を滅するわ!」

『小賢しいガキが!』

リアス・グレモリーの言葉に激高したのか、天井から降りてきた。

月明かりに照らされたその姿は下半身が大蛇のように長く、そして太く、

上半身は人間の女とさほど変わらない全裸の恰好だった。

「イッセー。貴方は見学よ」

そう言われ、後ろに引っ込むと剣を持った木場がゆっくりと、

バイサーに向かって歩いていく。

「祐斗に与えた駒はナイト。その特性は」

『死ね!』

木場に向かって太い下半身が鞭のように振るわれる……が、下半身が木場を潰す前に、

あいつの姿が一瞬にして消え去り、血飛沫が舞い、バイサーの悲鳴が木霊した。

……あの時もあの速度で移動していたのか。

「ナイトの特性は高速移動。そして」

喋っている俺達の上にでかい尻尾が振ってくるが、翼を生やし、

白い髪の毛を持った小柄な女がでかい尻尾を殴り飛ばした。

……あの体格で殴り飛ばせるか。

「今、尻尾を殴り飛ばしたのは塔城小猫。彼女の駒はルーク。

特性は怪力と凄まじい防御力よ」

「後は私が」

後ろからカツカツと音を立てながらゆっくりとポニーテールの女が、

痛みに悶えているバイサーに近づいていく。

「彼女は姫島朱乃。駒は私の次に強いクイーン」

『アババババババッバア!』

説明の途中でバイサーの断末魔と、視界を潰すほどの雷光が降り注ぎ、

教会の床に大きな穴をあけた。

肝心のバイサーは落雷の直撃を受け、全身からプスプスと煙を上げて体を、

ビクビクと痙攣させていた。

「能力はこれといってないけど全体的に能力が高めよ」

「俺は?」

「貴方はポーン」

『ビッグ。プリーズ』

横に魔法陣を出現させ、そこに手を突っ込んで手を巨大化させて横に大きく振るうと、

リアス・グレモリーの後ろから迫っていたでかい尻尾が弾き飛ばされ、

壁に穴をあけて外へと吹き飛んでいった。

「駒の価値は弱いけど可能性は最高よ」

『ぐ……ぞ』

最後の不意打ちが呆気なく弾かれたのを見て勝てないと悟ったのか、

はたまた先ほどのダメージが限界を超えたのかバイサーは、

悔しそうなつぶやきを残して意識を落とした。

「そして、私―――――リアス・グレモリーは貴方達下僕のキングであり」

リアス・グレモリーがバイサーに手を翳すと魔法陣が展開され、

その中央部分に漆黒の魔力が凝縮されていく。

その魔力を見て一つ、感じたのは―――――――無。

「オカルト研究部の部長よ」

その一言ともに凝縮された魔力が放たれ、バイサーを飲み込み、

魔力が晴れた時には塵一つ残さず消滅させた。




こんばんわ


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第四話

はぐれ悪魔討伐任務を終えた俺は自宅に向かって歩いていた。

本当ならコネクトで行っても良かったんだが何んとなく歩きたかった気分だったので、

魔法は使わずに自分の足で家に向かって歩いていた。

「貴様が兵藤一誠か」

上から声を掛けられ、返事の代わりに後ろを向くと空中に月をバックに翼を生やした女が、

宙に浮いた状態で俺のことを見ていた。

「そうだ。何か用か」

「……その様子だと悪魔側に入ったと見る」

「だったらどうする」

「殺す!」

女の手に光が集まっていき、やがてその光は一本の長細い光輝く棒となって、女に握られた。

その光輝く棒から放たれるオーラは数メートル離れている俺の肌をチクチクと刺してくる。

……この感じだとあの塊は悪魔の弱点か。

「はぁ!」

『ディフェンド。プリーズ』

無意識のうちに投げられら槍を防ぐ壁を頭の中で思い浮かべ、

手を翳すと空中に円形の魔法陣が展開され、

それに槍が直撃すると両方とも同時に砕け散って消滅した。

「ちっ! だから最初から殺しておけと言ったんだ!」

女は更に槍を作り出して俺に投げてくるが全て、

俺が展開した魔法陣にぶつかり俺に当たる前に砕け散って消滅していく。

でも、今のままじゃいつかは破られてしまう。

攻撃の魔法を……王道中の王道で行きますか。

『フレイム・プリーズ。ヒーヒー、ヒーヒーヒー!』

すると、突然俺の腕を包み込むようにして炎が生まれたかと思うと一瞬にして消え去り、

腕に真っ赤な籠手が装着された。

さっきまで使っていたものとの差異はほとんどない。

「また妙な魔法を!」

女は憎たらしげにそう呟き、

光の槍を投げてくるがその槍は籠手から発生した炎によって飲み込まれ、焼失した。

なるほど、炎を自由に操れるのか。

手のひらに魔力を集めると、そこから炎が生まれ、徐々に球状に形をなしていく。

「っ! そんな魔法見たことがない!」

そう言い、女は翼を羽ばたかせて夜の空へと消えようとする。

「逃がすか」

バスケットボールサイズにまで大きくなった炎の球を女に向かって投げつけた。

「くそぉぉぉぉぉ!」

女の断末魔は炎に飲み込まれたことにより、俺の耳には一瞬だけしか聞こえなかった。

「ざまあみろ」

そう言い残し、俺は自宅へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、いつもの癖でかなり早く起きてしまった俺は、

自分の部屋で思いつく限りの魔法を開発していった。

その結果、思いのほか集中してしまいかなりの数の魔法が作れたが、

気がつくともう朝の九時前だった。

「そろそろ起きるかな」

時計を見てころあいだと思った俺は母さんの寝室へと向かうとちょうど、

今起きたのか目をあけて、じーっと天井を見つめている母さんがいた。

「あら、おはよう。イッセー」

「ああ、おはよ。トイレはどうする?」

「ん~。今は大丈夫。さ、朝ごはんにしましょ」

いつものように母さんを車いすに乗せ、台所まで降り、

母さんが朝ごはんを作ってくれるまでの間、郵便受けに入っている朝刊に目を通すと、

大きく一面に『爆発事故か。多数の住人が爆発音を聞いた』との見出しが出ていた。

……確実に俺だな。少し、自粛するとしよう。

「イッセー! できたから持っていって~」

母さんのその声を聞き、台所に置かれている出来上がった料理を

テーブルへと持っていき、母さんがテーブルに到着するのを待ち、一緒に食べ始めた。

「イッセー。今日、お昼寝したいからお昼は出かけてもいいわよ」

「ああ、そうする」

その後もいくつか談笑をし、朝飯を食べ終わった俺は皿を片づけ、

母さんを二階の寝室へと連れていった後に近くの公園まで散歩に出かけた。

既に時間帯は授業が始まっている時間なので学生は誰ひとりとして歩いていないし、

サラリーマンも歩いていない。

強いて言えば日課の散歩をしている老夫婦ぐらいしか外にはいなかった。

「バフッ!」

妙な音が聞こえ、後ろを振り返ると顔面から地面に激突し、

倒れ込んでいる金髪の少女がいた。

「イタタタ……あ」

顔をあげ、鼻を摩りながら俺を見ると、何やら絶望している中、

ようやく見つけた希望! といった感じの表情を浮かべた。

「あ、あの! ここらへんに教会はありませんか?」

教会……あることはあるんだがあまり、良いうわさを聞かない教会だ。

なんでも信者を洗脳しているとか、どこかから誘拐してきた小さな子を洗脳して、

無理やり信者に仕立て上げるとか、はたまた抜けたいと言ってきた奴を悪魔憑きだとかいって、

拷問にかけた後々、どこかの茂みの中へとそれを捨てるとか。

「あまり良い噂は聞かないが」

「そんな事ありません。教会は神が迷える子羊を救ってくださる場所です」

どうやらこいつも、何かしらの宗教の熱狂的な信者……というよりも心の底から、

宗教を信じきっている純粋ちゃんか。

「分かった。教会まで連れて行ってやる」

「ありがとうございます! あ、私はアーシア・アルジェントと申します」

「兵藤一誠だ」

その後、アーシアといくつか会話を交わしながら、

約五分ほどかけて教会の近くにまで送り届けてやった。

アーシアは中でお茶でもと言ってくれたが、

悪魔の俺が教会に入りでもすればそれこそまた、

過去に匹敵するほどの巨大な戦争が起こるらしい。

本当は教会関係者と一緒にいるだけでもだめらしい。

『チチチチチッ』

「あ?」

アーシアを教会まで送り届けた後、家に向かっているとチチチチッと、

何かの動物の鳴き声が聞こえ、上を向くと紅色のコウモリが俺の頭上で滞空していた。

コウモリはなにやら小さなメモ用紙サイズの紙を口に咥えており、

それを俺に渡すとそのまま、飛び去った。

コウモリから渡された紙を広げてみると、

走り書きで『今夜、部室に来るように』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

母さんが眠りについた真夜中、

俺はコネクトで部室へと空間を繋いで魔法陣を潜り抜けると、

ムスっと怒ったような表情を浮かべたリアス・グレモリーが腕を組んで睨みつけてきた。

「イッセー。どうして今日、呼び出されたか分かってるわよね?」

「教会関係者と一緒にいたからその説教」

「……あなたって喋り方も顔にも感情が希薄だから反省しているのか怒っているのか、

拗ねているのかよく分からないわ。まあ、それであっているわ」

「次回からは気をつけます」

「だから」

リアス・グレモリーが立ち上がろうとした瞬間、床に魔法陣が現れ、

依頼者が俺を呼んでいることを知らせた。

床に現れた魔法陣に手を触れ、目を瞑ると頭の中に依頼者の微々たる魔力が流れ込んできて、

いったん目を開けてから外へ意識を集中させると同じ魔力を見つけた。

「はぁ。お説教はまた後ほど。依頼者のもとへ行ってらっしゃい」

「月額五十万。お忘れなきよう」

実は俺は今、部長からお金をもらって悪魔稼業の研修と、部長のお手伝いをしている。

悪魔稼業での条件は一月に十人以上の依頼者の欲望の達成、

部長のお手伝いは部長の裁量によって点数がきめられ、

上限五十万、下限二十五万のお仕事だ。

「ええ、分かっているわ。頑張ってね、イッセー」

『コネクト。プリーズ』

先ほどの怒った表情はどこへ行ったのやら、

笑みを浮かべて優しい声音で魔法陣を潜り抜ける俺に声をかけた。

魔法陣を潜り抜けた先は依頼者の家の玄関だった。

電気は一切付いておらず真っ暗で、床さえハッキリとは見えず、

月明かりでなんとか歩けている状況だ。

「照らすか」

『ライト。プリーズ』

腕に装着された籠手に埋め込まれている宝玉が弱めに光輝き、

電気がついている状態と何ら変わりないほどの視界が出来た。

「すみません。グレモリーのあく」

そこで思わず言葉が出なくなった……いや、どちらかというと、

言葉を出せなくなったと言った方が正しい表現だ。

居間へとつながるドアを開けたとたん、目の前に手のひらにくぎか何かを打ち込まれて、

壁に貼り付け状態にされている依頼者らしき男性がいた。

腹には大きな切り傷があり、そこからドバドバと血が流れたのか、

床は真っ赤に染め上げられていた。

『ディフェンド。プリーズ』

「うぬぅ!?」

横から殺気を感じ、迷わずに魔法陣の壁を作り出すとそこに、

刀身が光り輝いている刀が躊躇なく思いっきりぶつけられた。

位置的には俺の首を刎ねる位置か。

「誰だ」

「それはこっちのセリフだっちょ! な~んでこんなところに、

悪魔キュン♥がいるのきゃな? きゃなきゃな!?」

やけにハイテンションな白髪にコート、そして右手には拳銃らしきものを、

左手にはさっき降るわれた光輝く刀身の刀が握られていた。

「お前はなんだ? サイコキラーか?」

「サイコキラー? ノンノンノン! わっちはどこからどう見ても神父様だぜ!?

SINPUSAMAダゼ!」

『ディフェンド。プリーズ』

奴が銃口をこちらに向けた瞬間に魔法陣の壁を出現させると、

銃声もなく魔法陣に弾丸がぶつかった。

銃声がならないように改造された拳銃か……面倒くさいな。

「んんん!? また妙な魔法を使いまするな!」

「よく言われるよ」

「キャァァァァァァァ!」

軽口をたたいていると女の甲高い叫びが聞こえ、そちらの方へ視線を向けると今朝、

教会まで送り届けたアーシア・アルジェントが床に座り込んで、

カタカタと全身を震わせていた。




ども


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第五話

「し、神父様。これはいったい」

「ぬふふふ! よくぞ聞いてくれました! このように! 

悪魔に魂を売ったピーなものよりも汚くて汚らわしい存在は殺されなければならないのです!」

「そ、そんなことありません! 神父は神に仕える身! 悪魔に魂を売ったのならば、

その魂を浄化してあげるのが私たちの役目じゃ」

「んなわけねえだろバーカ!」

奴が何の躊躇もなくアーシアに銃口を向けた瞬間。

『フレイム・プリーズ。ヒーヒー、ヒーヒーヒー!』

「どわっ!」

腕に装着されている籠手に炎を包み込ませ、埋め込まれている宝玉を、

真っ赤な赤色に変化させた際に発生した熱波で白髪神父を壁にまで吹き飛ばした。

「俺の言ったとおりだろ」

「……イッセーさん」

『ディフェンド。プリーズ』

炎で出来た壁を作り出し、奴が放った無音の弾丸を全て散りへと返すとパラパラと粉が床に落ち、

辺りに焦げ臭いにおいが立ち込めた。

「はーい! アーシアちゃんは悪魔に魂を売った売女と見なして殺す!」

『バインド。プリーズ』

「ぬぅ!? なんですかこの鎖!?」

俺の背後に四つの魔法陣が出現し、音声とともに炎で出来た鎖が四本、

交差するようにして排出され、白髪神父を雁字搦めに巻きあげた。

白髪神父はどうにかして鎖を引きちぎろうとするが奴自身の魔力でさらに鎖はきつくなり、

奴を強く縛ってゆく。

「アーシア」

「……イッセーさん……私がやってきたことは……間違っていたんでしょうか」

アーシアは綺麗な両眼から大粒の涙をポロポロと流し、俺の方を見てきた。

自分が心の底から信じ、崇拝し、他人を助けられると思っていたものが逆に、

不幸にしてきたんじゃないかと思いつめた結果、絶望した……か。

「アーシア」

俺は出来るだけ、優しく彼女の名を呼び、彼女の両手を握りしめた。

「お前がやってきたこととあの白髪神父がやったことは違う」

「ほん……とうですか?」

「ああ。俺が保証する。お前の……お前の最後の希望の俺が」

「ぬらぁぁぁぁぁぁ!」

後ろから叫び声が聞こえ、振り返ると炎の鎖を無理やり引きちぎった白髪神父が額に青筋を立て、

息を荒くしながら俺の方をひどく睨んできた。

「殺す! その売女もてめえも殺す!」

『ディフェンド。プリーズ』

怒りが許容量を超え、無造作に銃の引き金を引き、

無音の弾丸がこちらに向かって何発も放たれてくるがすべて、

炎の壁によって燃えカスに変化し、俺達のもとには届かなかった。

「死ね死ね死ね!」

『コネクト。プリーズ』

「アーシア。この魔法陣を通れ」

「イッセーさんは!?」

「あいつを倒してから行く。早く行け」

炎の壁で弾丸を防いでいる間に背後に俺の部屋の空間をつなげた魔法陣を出現させ、

アーシアにその魔法陣を通らせてから数秒後、

彼女の姿が見えなくなったと同時に魔法陣が消滅した。

「あぁもう! うざったいですねー!」

「今の状況では褒め言葉だ」

「褒めてないんだよー!」

白髪神父が弾丸をすべて使い切ったのか拳銃を投げ捨て、

左手に持っていた光輝く刀身を持つ刀を持って、俺に突っ込んできた。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

その音声が流れるとともに足に炎が集まっていく。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」

「お前がな」

相手の刀の殺傷範囲に俺が入る前に奴の腹部にコネクトの魔法陣を展開し、

そこへ蹴りを打ち込むと、空間を飛び越えて、奴の腹部に炎を纏った蹴りが炸裂し、

事前に奴の背後に展開しておいたコネクトに吸い込まれるように吹き飛んで行き、姿を消した。

「ふぅ。終わり……じゃないな」

外から複数の魔力を感じた。

オカルト研究部の奴らの魔力じゃない……これは、堕天使か?

とりあえず、俺は俺の部屋へと空間をつなげ、そこへ飛び込んだ。

「イ、イッゼーざぁぁぁん!」

部屋に戻るや否や、涙で顔をグチャグチャにしたアーシアが俺の腹部にダイブしてきた。

思いのほか、アーシアの頭が綺麗に俺の鳩尾に入り、一瞬呼吸ができなくなり、

そのままベッドにまで吹き飛ばされた。

「イ、イ、イ」

「しゃべる前に顔拭け。後、母さん寝てるから静かにしろ」

アーシアに床に置いてあった綺麗なタオルを渡し、離れさせた。

「よ、よかったですぅ。イッセーさんが無事で」

「高々、出会って数時間だろ」

「いいえ……きっと、イッセーさんと出会ったのは主がお導き下さったんです。

お導き頂いた神に感謝を」

服の下から十字架を取り出し、それを握り締めてアーシアは深く、

お祈りをし始めてしまった。

「さ。イッセーさんもお祈りをしましょう。アーメン」

「ア、アーメン」

直後、頭痛が一瞬だけ走った。

……お祈り、十字架ってこんなにも痛いんだな。

お祈りがすんだのか十字架を服の下に入れ、アーシアがこちらを向いた。

その表情を見ただけで彼女が何を云わんとしているのか一瞬で分かった。

「今晩だけだぞ」

パーっと効果音が聞こえるんじゃないかと思うくらいに表情を明るくしたアーシアは、

疲れていたのか、ベッドに入ってものの数分で眠りについた。

「……行きますか」

『コネクト。プリーズ』

部室へと空間をつなぎ合わせ、魔法陣の中を通ると目の前に腕を組み、

先ほどよりも仏頂面の部長が立ちはだかっていた。

どうやら、俺の先ほどまでの行動は全て筒抜けらしい。

「今回のことはお咎めなし。堕天使が関係していたみたいだから」

「そうですか」

「ただ……あの子に関しては見逃すことはできないわ」

教会関係者と悪魔が一緒に居れば糾弾される……そのことを部長は俺に言いたいんだろう。

「では、部長はアーシアを殺せと。あいつらがアーシアを殺すのを黙って見ていろと」

「そうは言っていないわ。ただ、教会関係者のことは教会に任せなさいって言っているの」

「では、部長はアーシアを殺せと。あいつらがアーシアを殺すのを黙って見ていろと」

同じセリフをもう一度、言うと部長は大きなため息をついて額を押さえた。

「イッセー。貴方に一週間の謹慎処分を下すわ。いい? “一週間だけよ。

一週間の間、この部室には来なくていいわ”」

一週間の謹慎……裏を返せば一週間でアーシアに関する問題をすべて、

俺自身で解決しろってことか。

俺は一度だけ、頭を下げて魔法陣を通過して自宅へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあらまあまあ。嘘が下手くそなこと」

「朱乃。私は昔からウソをつくことが少しだけ苦手なの」

「少しどころかだいぶ下手だと思います」

「小猫まで……まあ、良いわ。私たちは私たちで動くわよ」




うーす


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第六話

翌日の朝、俺はアーシアを近くの河原に連れ出していた。

今の時間帯ならまだ、母さんは起きてこない……だから、

この時間帯の間にアーシアを完全に助けてやれる方法を考えないと。

「イッセーさんは神を信じますか?」

「……俺は目には見えないものは信じない」

「そうですか……私は神はいると信じています。この世界は神によって作られた、

なんてことを仰っている方がいますが……私はそうじゃないと思うんです。

神は……主は私たちに希望を、幸福を与えてくださる方だと思うんです」

「逆にいえばそれだけしかしていないと」

そう尋ねるとアーシアは首を上下に振った。

「この力も主から与えられた希望なんです」

アーシアが両の掌を見ながらそう言うと、彼女の手のひらがポワッと淡く光輝きだした。

そうか……アーシアはセイグリッドギアを宿して。

「この輝きはどんな傷も癒すことができるんです。だから、

私の役目は傷ついた人をこの力で癒し、迷える子羊を主のもとへと導く……私は、

物心ついたときから崇拝してきました……でも」

そう言い、彼女の表情が急に暗く、重いものとなった。

「昨日のことか」

そう言うと、彼女は首を縦に振った。

同じ神を崇拝している者同士、役目は同じだと思っていたが神に仕える身であるはずの神父が、

人を殺した……それが役目だと言った……って感じか。

「イッセー……さん?」

俺は何も言わず、彼女の頭に手を置いた。

「お前の心の支えが神であるならば……お前の最後の希望は俺だ。

心の支えが無くなった時、俺がお前の近くでお前を支えてやる。

神は幸福と希望を与える存在だって言ったな」

「はい」

「人間、誰しも神から与えられなくても希望も、幸福もこの手でつかみ取ることができる。

お前が信じたものは最後まで信じとおせ。疑うな、迷うな。ただまっすぐ信じろ」

「まあ、それが悪魔に言われちゃ世も末よね」

後ろから声が聞こえ、振り返るとそこにはレイナーレがいた。

「レ、レイナーレ様」

「さあ、アーシア。こっちへいらっしゃい。今なら怒らないから」

レイナーレは笑みを浮かべてアーシアに手を差し伸べるが、アーシアは恐怖から身体を震わせ、

俺の後ろに隠れた。

「何か用か」

「ええ、その子を返しなさい。私達の計画に必要な“道具”なのよ」

その言葉を聞き、俺はアーシアを手を握り締めた。

人を平気な顔して道具扱いする奴に、なおさらアーシアは渡せないな。

目の前に手をかざし、魔法を発動しようとした瞬間、体が一瞬だけ右にグラついた。

「は、離してください!」

上からアーシアの悲鳴が聞こえ、

見上げるといつの間にか彼女を抱き上げた紺色のコートを身に纏った男の堕天使が翼を広げ、

滞空していた。

そこにレイナーレも合流し、

二人して俺を汚いものでも見るかのような目で俺を見下してくる。

「アーシアは確かに返してもらったわ。行くわよ」

「ああ」

紺色のコートを着た男性とレイナーレが飛びあがる前に、

俺に向かって光の球体を何発も投げつけてきた。

『ディフェンド。プリーズ』

降り注いでくる全ての光の球を防ぎきった後に空を見渡してみるが既に三人の姿はなかった。

既にアーシアの魔力は記憶してある……後はアーシアの魔力を探知すれば、

自ずとあいつらの城か何かに着くだろ。その前に準備を整えるか。

俺はアーシア奪還の準備を整えるべく、いったん自宅へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、母さんが眠りについたのを見計らってアーシアの魔力を探知し、

そこへ空間をつなげて魔法陣を潜り抜けるとそこは以前から、

あまり良い噂が無かった古びれた教会の近くだった。

「流石にアーシアの目の前に行くのは無理か」

教会の扉の前に行くと既に扉が開いており、中を覗いてみると争った形跡が見られた。

試しに教会内の魔力を探知してみると……木場と塔城とかいう奴らの魔力が感じられたし、

さらに下には部長と副部長の二人の魔力も僅かながらに感じられた。

「すでに来ていたのか……だったら」

俺は木場の魔力を探知して、空間をつなげて魔法陣を通り抜けると何故か、

天井に魔法陣が張り付き、真下には大量の神父と木場、塔城が乱戦を行っていた。

『フレイム・プリーズ。ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー!』

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「イッセー君!?」

「どけ」

そう一言、呟き、木場達がどいたのを確認すると、

そのまま躊躇なしに大量の神父めがけて急降下していく。

『ビッグ。プリーズ』

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

途中で出した魔法陣に足を突っ込むと足が巨大になり、

炎を纏った巨大な足による蹴りが地面を砕き、大量の神父を一瞬にして吹き飛ばした。

「ケホッ。案外、強行突破な面があるんだね」

「……また、部長にお説教です」

「やってくれるじゃない」

声がした方向を向くと、魔法陣の中心で壁に貼り付けられているアーシアと、

ウザったそうな表情を浮かべているレイナーレがいた。

「まあ良いわ。既に準備は出来た……さあ、私が崇高なる存在に昇格する瞬間を、

その目に焼けつけなさい!」

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

レイナーレが掌に光を集め、それを球状に集めた直後にそれをアーシアに触れさせた瞬間、

彼女の悲痛な叫びが教会内に木霊し、

凄まじい光がレイナーレとアーシアのいる場所から放たれた。

なんだ……何が起きているんだ。

やがてその光は収まっていき、そこにあったのは気味の悪い笑みを浮かべているレイナーレと、

おかしなくらいに全身が蒼白になっているアーシアだった。

「……ふふふ……ハハハハハハハハハハ! ようやく手に入れた。最高の癒しを!

この力でシェムハザ様とアザゼル様の傷を癒すわ! あぁ! 

今まで私をバカにしてきた奴らの驚く様が目に浮かぶわ!」

「おい、木場。何が起きている」

「……今、レイナーレはアーシアさんからセイグリッドギアを無理やりはぎ取ったんだよ」

「セイグリッドギアを無理やりはぎ取られた場合、元の所有者は……死にます」

その説明を聞き、慌ててアーシアの方へ視線を向けるとつい数時間前までの彼女とは、

別人かと思うくらいに色白になり、さっきから項垂れたまま全く動かなかった。

死ん……だのか……アーシアは……。

死んだ……あいつが……堕天使が……レイナーレがアーシアを殺した。

「っっ! な、なに?」

ゴゴゴ! と地響きのような音が響き、教会がガタガタとまるで人が恐怖のあまり、

体を震わしているかのように揺れ始め、窓にはピシッ!とヒビが大量に入り、

地面にはいくつものヒビが走った。

『ウォーター・プリーズ。スイ~スイ~スイ~』

音声とともに籠手を包み込むように水が生まれ、さっきまで赤色だったのが

青一色に変わり、辺りに水飛沫が跳ねた。

「へ、へえ。やっぱり凄い魔力量ね。でも、下級のあんたに私が負けるはずがない!」

『リキッド。プリーズ』

レイナーレの手から放たれた槍が俺を貫通するが、

貫通した部分が水になってはじけ飛び、再び元の肉体に戻った。

レイナーレは驚き、もう一度俺に槍を投げてくるが結果は同じ。

「あ、あり得ない。魔法で肉体を変えるなんて」

『チョーイイね! キックストライク! サイコー!』

「だぁ!」

「きゃぁ!」

跳躍し、レイナーレに向かって蹴りを放つがそれはかわされ、

レイナーレの代わりに地面が砕かれ、

彼女に向かって大量の水飛沫と砕けた地面の破片が飛び散った。

「まだ、死ぬなよ」

『ハリケーン・プリーズ。フーフー、フーフーフー!』

直後、籠手を包み込むようにして風が生まれ、青色だったものが全て緑色に変わり、

辺りに突風が生じた。

「消えろ」

「きゃぁ!」

拳に力を込め、レイナーレに向かって拳を前に突き出すと、

籠手からすさまじい強さの風が放出され、レイナーレを吹き飛ばし、

壁に穴をあけて外へと突き飛ばした。

アーシアは木場に任せ、外に吹き飛ばされたレイナーレの後を追うと地面を抉って、

数メートル離れたところまで吹き飛ばされていた。

『ランド。ドッドッドドドン、ドンドッドッドドン』

「嘗めるな!」

先ほどよりも数倍太い槍を手元に作り出し、それを俺に向かって投げつけるが、

投げられた槍を思いっきり籠手で殴りつけるとバキィィン! という音が辺りに響き、

辺りにパラパラと光の粉が舞った。

その瞬間、彼女の表情が余裕なものから焦燥感が見て取れるほどにまで変化した。

「う、嘘よ。下級のあんたが私の槍を」

『コネクト。プリーズ』

「ひっ!」

レイナーレは恐れをなし、翼を羽ばたかせて空へと逃げようとする……が。

『チョーイイね! キックストライク! サイコー!』

彼女の耳に絶望を知らせる音声が聞こえると同時に、

彼女の目の前に魔法陣から現われた黄色の籠手を装着し、

足に魔力を纏わりつかせた状態で急降下してくる俺が映っただろうな。

「わ、私は至高の」

彼女が喋っている途中で魔力を纏った俺の蹴りが彼女の腹部に深く突き刺さり、

そのまま地面に向かって急降下し、大量の砂埃を上げて地面に叩きつけた。

「ガッ! ゲハッ!」

口から血反吐を吐き、痛みに意識を揺られながらも俺を睨みつけてくるレイナーレ。

全身から淡い光が出ているところを見ると既にアーシアから奪ったセイグリッドギアで、

自らの傷の回復を始めているようだが、聊かその傷の回復速度は遅いように見える。

魔力が足りないのか、それとも意識がもうろうとしているからかは知らないが。

「わ、私は……至高の」

「少し黙れ」

『バインド。プリーズ』

「ぐうぅ!」

彼女の傍の四か所から黄色の魔法陣が現れ、そこから土で出てきた鎖が排出され、

彼女を地面にきつく縛りあげた。

「終わりだ」

『ドリル。プリーズ』

右足を挙げると地面から砂が巻き上げられ、それらが俺の右足の周りを高速回転しはじめ、

やがてドリルのような形に変化した。

その姿を見たレイナーレは目に恐怖の色を浮かばせ、涙をためた。

「ま、待って」

「待たない」

「待って!」

「待たない」

上げた右足を下ろそうとした瞬間。

「イッセー。そこまでよ」

部長の声が聞こえ、思わず足を降ろすのをやめて振り返った。

「アーシアはまだ間に合うわ」

そう言い、ポケットから赤い駒を取り出した。

「レイナーレからアーシアのセイグリッドギアを回収したあと、

イーヴィルピースで悪魔として転生を行う」

「ふ、ふざけないで! これは私の」

「あなたのじゃない。アーシアのものよ」

怒った表情を浮かべ、レイナーレに手のひらを向けるとそこに黒い魔力が集まっていき、

徐々にその大きさを増していくとともに、

レイナーレの顔の恐怖の色もそれに比例して濃くなっていく。

「お、お願い。待っ」

部長はその言葉を最後まで聞かずに、魔力を放ち、レイナーレを飲み込ませ、

塵一つ残さずに消滅させた。

レイナーレを包み込んだ魔力が消えるとそこに淡い光を放って浮いている光の球体があった。

「行くわよ」

ブツブツと何かしらも呪文みたいなものを呟くと、イーヴィルピースがアーシアの体の中に入り、

フワフワと浮いていた球体も一緒に彼女の中へと戻った。

その数秒後――――――。

「ん…………イッセー……さん?」

「良かったですわ。間に合って」

基本的に俺はあまりうれしいとか、悲しいとかの感情がないに等しい。

たとえあったとしてもあまりにも希薄すぎて、周りの奴からは何も思っていないと思われる。

でも……そんな俺でも。

「アーシア」

「イッセーさん」

「帰ろう」

――――――――嬉しかった。




感想プリーズ


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第七話

暗く、なにも見えない空間を俺――――兵藤一誠は歩いていた。

何も見えない―――――何も感じない。

一体、どれだけ歩いたろうか……三十分? 五十分? いや、もっとだ。

数時間単位の長い時を俺は歩いている。

何も見えなかった視界に一つの大きな光の塊が現れ、何も見えなかった空間を明るく照らす。

「ぐっ!」

刹那、塊からすさまじい量の炎が吹き荒れ、辺りは一瞬にして何もない空間から、

炎しかない空間へと変わり、辺りは文字通り火の海と化した。

『ほぅ。ここへたどり着いたか』

「誰だ」

周りを火で囲まれている中、突如、聞き覚えのない声が辺りに響いた。

直後、パキパキ! という音が聞こえ、下を向くと俺の両足が凍りつき、

さらに耳をつんざくような爆音が鳴り響き、空から幾つもの落雷が降り注いだ。

『いずれは貴様の身体を貰うぞ』

その声が聞こえだ直後、上から巨大な岩石がいくつも落ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! はぁ、はぁ」

今にも岩石につぶされようとした瞬間、目が覚め、

ベッドから飛び起きると額から大量の汗が滴り落ち、

ねまきが汗でぬれて皮膚にくっつき、不快感を感じた。

「何なんだいったい……これは」

ふと、視線を上げると部屋の入り口である扉付近に、

四つの魔法陣がふわふわと浮いているのが見えた。

赤、青、緑、黄の4つの色をした八つの魔法陣は俺が目覚めたのを感じたのか、

俺の方へ寄って来て右腕の中に消えていった。

……さっきのドラゴンの夢と何か関係があるのか。

『エラー』

試しに先ほどの腕に入った魔法を使ってみるが籠手からそんな音声が流れ、

魔法が発動されなかった。

まだ魔法を使い始めて一月にもなっていないが……こういう状況になったのは初めてだ。

試しに普段使っているコネクトを発動させてみるが、今度は普通に籠手が出現し、

音声が流れるとともに赤色の魔法陣が出現した。

……いったい、あの魔法陣は何だったんだ。

「イッセーさーん! 外に部長さんが来ていますよ~!」

一階からアーシアの声が聞こえ、俺の意識を完全に覚まさせてくれる。

アーシア・アルジェント。かつては教会でシスターをしていたがある一件により、

リアス・グレモリーのイーヴィルピースであるビショップの駒を与えられ、

悪魔として転生し、今は俺の家にホームステイという名目で住んでいる。

無論、母さんにもこのことは話し、快く引き受けてくれた。

「イッセーさん? 大丈夫ですか?」

いつまでたっても降りてこない俺を心配してか、

アーシアが階段を上がって来て俺の部屋に顔だけ覗かしてこちらを見てきた。

「ああ、今行く」

汗だくになったTシャツを脱ぎ棄て、机の上に置いてあるタオルで吹き出ている汗を、

綺麗にふき取り、外で待っている部長のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い風ですね~」

「そうだな」

その日の晩、俺はアーシアを自転車の荷台に乗せて悪魔稼業を行っていた。

今朝、部長が来た理由はアーシアも悪魔になったので稼業をやらせたいんだが一人では、

不安なので監督として俺を指名したい……要約すればそんな感じだった。

本来なら魔法陣で飛べばいいんだがどうしても俺と一緒に行きたいと、

アーシアが部長に懇願したらしい。

まあ……部長もアーシアには誰かしらに警護を任せようとはしていたんだろうが……。

「これで終わりか」

「はい!」

「じゃ、帰るか」

俺達がチラシ配りを任せられている担当エリア内にある最後の家に広告を入れ終わり、

俺たちは旧校舎へと戻り始めた。

昼はあれほど蒸し暑い日が続いているが夜にもなると風が出て、

非常に過ごしやすい気候になる。

……まあ、丁度よかったかもな。

あんな蒸し暑い日に悪魔稼業をやることになるよりかは。

「イッセーさん」

「なんだ?」

「ローマの休日って知っていますか?」

確か、俺達が生まれるよりもずっと前に公開された映画の名前だったはず。

「昔、それを見たことがあって映画ではバイクでしたけど私、ずっとあれに憧れていたんです」

そう言い、アーシアは掴んでいた俺の肩から手を離して俺の腹部に手を回し、

顔を背中にうずめた。

あの日以来、俺はアーシアとともに行動することが多くなった。

その理由は彼女を一人で暗い街を歩かせば変な輩が絡んでくる……それもあるが、

どちらかといえば妹を暗い夜道の中一人でいさせられないと言った、

兄が抱くような感情から来ているのが正しかった。

本来なら空間と空間を繋ぐ魔法、コネクトを使えばあっという間に、

学校に戻ることも出来るんだが……何故か、

それをしなかった。普段ならさっさと旧校舎に帰って、

そのまま家に帰るというのに……心の中のどこかで俺自身が、

それをするよりもアーシアと一緒に居たいと望んでいるのか。

「イッセーさん? イッセさ~ん」

「…………あ、着いたのか」

アーシアの声で考え事から抜け出し、

顔をあげるといつの間にか旧校舎の前にまで来ていた。

『コネクト。プリーズ』

彼女の荷台から降ろし、魔法陣を展開してそこへ自転車を放り込むと、

自転車が消え、それの直後に魔法陣も消滅した。

「行くぞ」

「はい!」

旧校舎に入り、長い廊下を歩いていき部室の入り口である扉を開いて、

中へはいるといつものメンバーがそろっていた。

「あ、お帰り。イッセー君、アーシアさん」

今、声をかけてきたのが木場祐斗。

ナイトのイーヴィルピースを与えられたキングを護る位置にいる剣士。

ちなみに学校では女にちやほやされているイケメン。

「イッセー君。お茶はいかが?」

「……いえ。いりません」

姫島朱乃。一つ上の先輩であり、

クイーンのイーヴィルピースを与えられたこのメンバーの中で二番目に強い存在。

ポニーテールでいつもニコニコしている。

『コネクト。プリーズ』

「あ……お菓子」

魔法陣を展開し、そこへ手をツッコンで展開された先にあった和菓子を取ると、

悲しそうな表情をして、こちらを睨んできたのが塔城小猫。

ルークの駒を与えられた怪力少女……あまりそのルックスに合わないがな。

「先輩、ずるいです」

「……ん」

「どうも」

ジトーっと睨んでくるもんだから食べるに食べられなくなり、

結局、塔城に和菓子を返却した。

「皆集まったわね」

そして、俺達下僕の主でありキングである女。

部長と書かれた札を机の上に立て、

長い髪を揺らしながら立ち上がったリアス・グレモリーが、

俺たち全員を見るように辺りを軽く見渡した。

「これから部活を始めるわ」

今日も今日とてオカルト研究部は活動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、オカルト研究部の活動が終わりアーシアと帰ってきた俺は風呂も済ませ、

アーシアが上がってくるのを窓の外から夜空を見ながら待っていた。

何度か今朝の魔法を発動してみようとするが全く発動せず、

エラーとしか音声が流れなかった。

「ふぅ。ドラゴン」

あの時の夢が覚める一瞬だけ、巨大なドラゴンの姿が視界に入った……気がする。

真っ赤な鱗に鋭い爪を生やし、その巨大な目で俺を睨んでいた。

そして奴の目には……憎しみがあった。

「ん?」

そんなことを考えていると部屋の床に見慣れた文様が描かれた魔法陣が現れ、

暗かった部屋を紅色に明るく照らした。

この文様……俺たち卷族のものだった……はず。

魔法陣から徐々に誰かが現れてくる。

全体像を見るよりも前に、魔力で誰なのかが分かった。

「なんかようですか? 部長」

魔法陣から出てきたのは、

オカルト研究部部長兼俺たち卷族の主であるリアス・グレモリーだった。

その表情は真剣そのものだった。

「イッセー。私を抱いてちょうだい」

『バインド・プリーズ』

「きゃっ」

とりあえず、おかしなことを言う変態さんを魔力の鎖で縛っておいた。

「変態さんは御返却いたします」

「イ、イッセーったら。こんなプレイを」

『テレポート。プリーズ』

とりあえず、この変態さんを御返却するために物体を瞬間的に臨んだ場所へ、

返還する魔法陣を部長の足もとに展開させ、転移させようとした瞬間、

その魔法陣に上書きされる形でまた、卷族の文様が書かれた魔法陣が現れた。

それにより、縛っていた鎖も消滅した。

「お嬢様。このようなことで破断に持ち込もうというのですね?」

魔法陣から出てきたのは銀色の髪にメイド服を着た女性だった。

「グレイフィア。いつもいつも、貴方は私の邪魔をする」

「邪魔をしているわけではありません。お嬢様を補佐しているだけです」

「とりあえず、家の外でしてください」

『テレポート。プリーズ』

お客さん二人をオカルト研究部室がある旧校舎へと転移させようとした瞬間、

展開された魔法陣が凄まじい魔力の圧で砕け散った。

「見たことのない魔法を使いますね。貴方は何者ですか?」

俺に敵意の視線を向けながらそう言うと、部長が俺とメイドさんの間に入ってきた。

「彼は兵藤一誠。私の可愛い下僕よ」

部長がそう言うと、銀髪メイドは急に畏まり、俺に頭を下げてきた。

「これは失礼いたしました。私はお嬢様の身の回りのお世話をしております、

グレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」

……つまりはこいつのメイドさんだと。

「貴方が来たということは家が総出で私を止めに来たというわけね」

部長の一言に銀髪メイド―――――グレイフィアさんは静かに首を縦に振った。

「はぁ。わかったわ、私の根城に行きましょ。

イッセー、さっきのもう一回してくれないかしら」

『テレポート。プリーズ』

音声が流れ、部長とグレイフィアさんの足もとに魔法陣が展開されると、

下から上にあがっていき、最終的に魔法陣が消えると同時に部長もグレイフィアさんも、

旧校舎へと完全に転移された。




こんばんわ。なんか案外好評なのでこのままいけば連載行こうかもです


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第八話

翌日の深夜、部長の使い魔である紅色のコウモリに呼び出され、

テレポートでアーシアとともに旧校舎の部室へと転移すると既にオカルト研究部員全員と、

グレイフィアさんが集合していた。

その雰囲気はどこか、いつもの部活の際に空気とは大きく違っていた。

「相も変わらず見たことのない魔法を……彼は魔術師の家系ですか?」

「いえ、普通の一般人よ」

どうやら俺が使う全ての魔法は悪魔からしたら見たことのない未知の魔法らしい。

「そんなことは良いわ。皆には言いたいことが」

直後、床に赤色に輝く魔法陣が出現し、そこから膨大な量の炎が噴き出し、

部室の温度が一気に上がった。

『ウォーター、プリーズ。スイー・スイースイー』

籠手を包み込むようにして水が生まれ、赤色だった籠手が青色に変わり手のひらから、

水を発生させて辺りの炎に水をかけ、消火した。

「ちっ! 俺の炎に水をかけた奴は誰だ」

不機嫌そうな声を上げながら魔法陣から赤いスーツを着崩し、

ネクタイもつけずに胸が見えるまでボタンを開けたチャライ系の男が出てきた。

「ま、良いか。会いに来たぜ、愛しのリアス」

軽々しい言葉を吐きながらチャライ男は部長の腰に手を回すが、

すぐにその手は部長に払われた。

「厳しいね~。おれたちは結婚を約束した中だろ?」

どうやら俺の予想以上に事態は複雑かつ、面倒くさいものらしい。

直後、チャラ男の後ろの床に魔法陣が出現するとそこから大勢の美女たちが現れた。

「ライザー様。いつも言っておりますが我らとともに転移してください」

「卷族と一緒に飛ぶかよ。さ、リアス。式場についてなんだが」

「……結婚はしないわ。とりあえず座ってちょうだい」

部長がそう言うとチャラ男はため息をつきながらもソファに座った。

それから約十分ほど、長い話が二人の間で行われた。

話しを要約すると今の悪魔は純血非常にが少なく、純血の数を増やすことは重要とされ、

純血同士の縁談が必要不可欠となった。

よって、相手側のお家であるフェニックス家と部長側のグレモリー家との間で、

純血同士での縁談を組んだらしいんだがその縁談は部長の意思とは反するものらしく、

断っているんだがなくならないらしい。

部長が「自分の婿は自分で決める!」と言っても、向こうさんは

「大学も卷族も君の自由にすればいい。ただし、婿に関してはもう、

わがままを言っていられる時代じゃないんだ」といってどっちつかずの混戦状態。

これは話には関係ないんだが向こう側の卷族はみんな女、女、女。

そんな中、俺は暇つぶしに手のひらに水を生み出してポチャポチャと、

水の玉をつついて遊んでいた。

「これも魔法で作り出したんですか?」

アーシアが興味津津の様子で俺の手のひらの浮いている水の玉をつついてくる。

「いい加減にしてちょうだい!」

部長の突然の怒声に驚いたアーシアの指がブスっと深く、

水の玉に突き刺さり水の玉が破裂した。

「貴方とは結婚しない!」

部長がそう言った瞬間、奴の周りに火の玉が次々に生み出されていき、

俺たち下僕にだけ殺気をぶつけてきた。

「リアス。流石の俺も怒るぞ。この婚約は」

俺は呆れながらも空中にいくつもの水の玉を瞬時に作り、

火球にぶつけて消火すると同時に全員を護るように水の壁を出現させた。

驚いた様子でこちらを振り返る部長に対して、チャライ男は俺の方を睨みつけてくる。

「お前か。さっき、俺の炎を消した奴は」

「この密室で炎を使わないでほしい。アーシアが火傷するだろ」

一応、水で出来た壁を立ててはいるが絶対ということはない。

俺はゆっくりとチャライ男に向かって歩いていき、鼻先が当たる距離まで近づき、

たがいにメンチを切る。

「御家のことは知らないが……俺たちに迷惑をかけるな。“邪魔だ”」

「あ? 下級悪魔が。調子に乗るなよ」

お互いに同時に魔力を上げていき、相手をけん制する。

魔力が上がっていくにつれてあたりの空気が重くなっていき、

ミシミシと旧校舎の壁が悲鳴を上げていく。

「そこまでにしてください」

俺達に割って入るようにグレイフィアさんが割り込み、

俺達を無理やり引き離した。

「この話が膠着状態になることは予想済み。

この話の決着はレーティングゲームでおつけになってはいかがでしょうか?」

レーティングゲーム――――――その一言にチャラい男もその卷族も、

また部長や俺とアーシアを除いた奴らも驚いていた。

「レーティングゲーム……はっ。最初から仕組まれていたのか、

それとも偶然かは分からないが……いいだろう。リアスが勝てばこの縁談は無しですよね?」

チャラい男がそう言うと、グレイフィアさんは静かに首を縦に振った。

目線で部長にも問うと部長も何も言わずに首を縦に振った。

「では、ゲーム開始日は十日後といたします」

その一言で今日は解散となり、副部長と部長は部室の奥に引きこもり、

俺達は帰宅、とのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、突然の訪問客に俺とアーシアは戸惑っていた。

訪問客―――――それは大きな荷物を持った木場、塔城、姫島、部長そして、

グレイフィアさんが家の玄関の前に立っていた。

「強化合宿に行くわよ」

どうやら俺たちに対する連絡が何らかのトラブルで行き違いになったらしかった。

母さんのことはどうするんだと聞けば、グレイフィアさんが母さんの世話を俺が、

出かけている間にしてくれるらしい。

「イッセー様。少しお話が」

準備をしていると背後からグレイフィアさんが話しかけてきた。

「なんですか」

「……貴方はいずれ、冥界を背負うことになるでしょう」

「……意味がわかりません」

「今はそうでしょう……ですが、いずれ貴方はこの意味を理解します」

そう言い残してグレイフィアさんは部屋から出ていった。

あとを追おうかとも思ったが外から部長の声が聞こえ、あとを追うのを止めて、

部長のもとへと向かった。

「全員揃ったわね。イッセー、ここから南の方角に私の魔力が感じられるはずよ」

なんとなく部長の言いたいことは理解した。

俺は目を瞑り、部長の言うとおり南の方角へと意識を向けると確かに部長の魔力を、

微弱ながらも感じられた。

『テレポート。プリーズ』

「この魔法陣に乗れ」

そう言い、全員が魔法陣に乗ったのを確認した俺は魔法を発動し、

部長の魔力が微弱に感じられる場所へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まると同時に目を開けるとそこは山の中にある小さな小屋だった。

「ここはグレモリー下にある小屋でね。露天風呂もあるわよ」

部長の紹介を聞きながら、小屋の中に入ると木の匂いが俺達を出迎えた。

これといって特別な仕掛けが施されている様子はなく、

普通にどこの山の中にでもある小屋だった。

「ここで鍛錬を行うわ。初日の今日は基礎鍛錬、および自分の弱点の部分を見つけて、

それ以降はそこを修正していきながら対人戦をこなしていく予定よ。

イッセーと祐斗は一階で着替えて頂戴ね」

そう言い、女性達はジャージが入った袋を片手に二階へと上がっていった。

俺たちもジャージに着替え、女子たちが降りてくるのを待つ。

「そう言えば、イッセー君は何かスポーツとかは?」

「何も。ずっとアルバイトだよ」

「バイトか……なにか事情でも?」

その問いに対して黙って答えを言わずにいたら、

木場は空気を読んでかそれ以上は俺に質問をしなくなった。

その数分後、女子たちが降りて来て外で鍛錬が行われることとなった。




おはようございます!


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第九話

初日の最初の鍛錬の相手は木場だった。

木場から木刀を渡され、対峙する。

こんな殺し合いにも似た雰囲気を出しているにも拘らず、

あいつは未だに小さな笑みを消すことはなかった。

余裕があるのか……それとも、緊張を悟られぬようにああやって、

昔から顔に小さな笑みを浮かべているのか。

そんなことを考えているとフッ! と木場の姿が一瞬にして消え、

それに従って態勢を後ろに軽く倒すと俺の鼻先すれすれのところを、

木刀の切っ先が通り過ぎていく。

どれだけ速い速度で移動しようが魔力がある限り無駄だ。

『コネクト。プリーズ』

二歩三歩、後ろに下がりながら傍に展開した魔法陣に木刀を突っ込むと、

木場の後ろから木刀の先が現れ、木場へと向かうがしゃがみこまれて避けられてしまった。

「その魔法はけん制にもってこいだね!」

木場は楽しそうに言いながらさらに攻め込んできた。

向こうには武器を使いなれてるという利があるため、

もちろん俺は何度か当てられそうになるがこっちにだってあっちにはない利がある。

防ぎきれなかった剣は全て魔法陣の壁で防いだ。

が、部長から許可されたのはこういった牽制用の魔法だけで、

フレイムやらの攻撃専門の魔法はすべて禁止されてしまった。

『ビッグ・プリーズ』

「よっ!」

木場は巨大になった木刀を避けるとそのまま急降下して俺に斬りかかってくるが、

木場が持っている木刀に俺の木刀を全力でぶつけると破裂音が辺りに響いた。

「そこまで。祐斗は自主練に入ってちょうだい。次は朱乃」

「お任せあれ。私が担当するのは魔力に関してですわ」

部長の呼ばれた副部長はニコニコと笑いながら片手に水が入ったペットボトルを持ち、

俺達の前に立った。

この前に木場に聞いたんだがどうやら副部長さんは雷を戦闘で主に使うらしく、

その形相から雷の巫女と呼ばれているそう。

まあ、あれだけ雷を使っていればそう呼ばれるわな。

「では、まず手のひらに魔力を集めてみてください」

そう言われ、手を翳すと一秒も経たないうちにバスケットボールサイズの魔力の塊が、

何処からともなく出てきたが隣のアーシアは少し手こずりながらも、

ソフトボールサイズの魔力の塊が出来上がった。

「あらあら。こんなにも早く出すなんて」

相当、おかしなことらしい。

俺の魔力量といい、見たこともない魔法を作る技術、才能といい他の組織からは、

最強の魔術師になるといわれ、同胞からは冥界を担うといわれ……正直言って自覚はない。

ふと気づいたんだがアーシアの魔力には色がついているのに、

俺の魔力には色が一切付いていない。

「ふふ、二人とも魔力の才能は十分すぎるくらいみたいですわね。

では次にその魔力で何かしらを生み出してみましょう」

『フレイム・プリーズ。ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー!』

腕を包み込むようにして炎が生まれ、真っ赤な籠手が右腕に装着された。

籠手からは時折、炎が噴きでていた。

「あらあら。その音声はイッセー君が?」

「勝手に流れているだけです」

意識を炎から水に変えると再び音声が流れた後に炎が水へと一瞬で変化し、

掌にあったものが火球から水の球体へと変わっり、さらに意識を変えると水が風へと変わり、

さらに変えるとさっきまでそよ風がフていたのが突然やみ、

俺に手には大量の土が残った。

「凄いですわ。私でもそんなに早く変えられません」

「朱乃はアーシアに付きっきりでお願い。次は小猫よ」

「よろしくお願いします」

アーシアと副部長が少し離れた場所へと去った後、塔城が俺の目の前にやってきた。

どうやら剣術、魔力の鍛錬の次は肉弾戦の鍛錬を行うらしい。

『ランド・プリーズ。ドッドッドドン! ドッドッドドン!』

籠手の色が赤色から黄色へと変化した。

今までは魔力に頼る戦い方だったが、この魔法に関しては俺自身の防御力、

打撃力などの身体能力が底上げされ、肉弾戦向きの魔法だった。

「ふん!」

塔城が駆け出すと同時に俺もかけだし、互いにつきだした拳がぶつかり合い、

鈍い音が辺りに響き渡り、周りの木々に止まっていた鳥たちがいっせいに驚いて飛んでいった。

『バインド。プリーズ』

「む?」

一度離れ、土で出来た鎖で相手を拘束する……が。

「ふん!」

相手の駒はルーク。

全ての駒の中で最も力が強く、さらにはその使用者の体格にかかわらず、

圧倒的なまでの防御力を得るという。

なるべくしてなる奴がルークの駒を得ればそれもう、凄まじいらしい。

そんなことより、どうやらもう少しバインドという魔法は改良が必要だな……だが、

改良が必要ということは現時点よりもさらに上があるということ。

その後も俺と塔城の殴り合いは部長に止められるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー、貴方の最大の武器は何といってもその魔法。

でも逆を言えばそれを封じられれば戦えなくなるかもしれない。だから、基礎を鍛えるのよ」

俺が持ち上げている巨大な岩石の上に優がに座りながら涼しげにそう言うが、

肝心の俺は額から汗をダクダク流しながら急な山の斜面を何往復もさせられていた。

この鍛錬ではさっき、奴が言っていたように魔法を封じられた際の対処法を鍛えるらしく、

一切の魔法の使用を禁じられている。

……正直、普通に鍛えた方が効率はいいとは思うが……こいつも根性論の持ち主か。

「あと一往復ね」

俺は死にかけながらも部長の提案する鍛錬をすべてこなしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、今日の鍛錬を終え、晩飯も風呂も済ませた俺は小屋の外で精神統一ならぬ、

魔力統一を行っていた。

魔力統一を行い、全ての魔法を整理し弱点、

長所などを頭の中で纏め上げ、それらを実践にて修正する。

他にもあまりある魔力の天井を見ようとするが、一切見えてこない。

その時、この場に俺以外の魔力を感じた。

「部長ですか」

「よく分かったわね」

魔力統一を中断し、後ろを振り返るとメガネをかけて一冊の本とルーズリーフ、

筆記用具を持った部長が立っていた。

本のタイトルからするにレーティングゲームで使われているメジャーな陣形などが、

まとめられている本のようだった。

部長も部長で今回のレーティングゲームに不安を抱いているらしい。

「隣、良いかしら」

「どうぞ」

隣に部長が座り、辺りには風で葉音を立てる木がやけに大きな存在に感じられた。

「イッセーは不安を感じたりしないの?」

「不安……ですか」

昔はよく言われた。

感情があまり顔に出ず、テスト前などでもあまり表情、動作などに緊張が出ず、

周りからは不思議がられた。

抱いていることは抱いている。俺だって悲しい時だってあるし、

怒る時だってある……でも、それが顔に出ないって言うだけ。

「今でも感じていますよ。ただ、顔に出ていないだけで」

「…………それは、イッセーのお母様が関係しているの?」

痛いところを突かれた。

確かに俺が顔に感情が反映されなくなったのは母さんが関係……いや、

母さんだけじゃない。今はいない父さんだって関係している。

「……今から十年前。今日みたいに夜風が涼しい時でした」

俺は静かに語り始めた。俺が顔に感情がでなくなったこと、

そして感情が希薄になったことの理由を。

「その日は父さんの誕生日で母さんと俺とで準備をしていたんです。

ケーキを買って、美味しい料理を作って……でも、父さんは帰ってこなかった。

会社からの帰り道、車を運転中に事故にあって即死だったそうです。

それからというもの一家の大黒柱を失った俺の家は母さんが必死に働きました。

俺も、母さんの迷惑にならないように俺に出来ることをやっていきました。

家事全般……でも、その無理が祟ったのか母さんは過労からめまいを起こし、

階段から落ちたんです……結果、頭を強く打ったことによる下半身麻痺。

そこからは生活費を稼ぐためにバイト三昧……こんな感じです」

話し終えた頃には部長は申し訳なさそうな表情をしていた。

「さ、戻りましょう。明日も早いんですし」

「ええ、きゃっ」

部長に手をさしのばし、彼女の手を取って引いた瞬間、

少し強く引きすぎたらしく思いのほか部長が立ち上がった後に俺の方に

寄って来て俺の胸に顔をうずくめる状態になった。

「……部長?」

「…………少しだけ、こうさせて」

そう言って部長は俺の胸に身を任せた。




昨日の夜中、一日中書いていたら四巻の内容までかき上げてしまった。
ちなみ気弱はすでに最終話まで書いたとね


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第十話

九日間を鍛錬を終え、一日休みを入れ、体力も完全に回復した決戦当日の今日。

俺はベッドの上で座禅を組み、心の奥深く―――――深層心理と呼ばれる場所へ、

自らの精神を沈み込ませて、目的の物を探していた。

――――――数日前、夢に出てきた赤いドラゴン。

奴には聞きたいことがたくさんある。

その目的を果たすべく、海のように深い深層心理を潜り続けていると、

今までの速度が減速され、ゆっくりと俺の身体が地面に落とされた。

止まったといっても本当に今、俺の脚が付いている場所が地面に当たる場所なのか分からない。

全てが暗く、上を向いても下を向いても同じ場所を見ているような感覚がして、

本当に自分はキチンと立っているのかも疑わしい。

「……来たか」

とんでもない量の魔力を感じた直後、ボボボボ! と炎が集まっていき、

その炎はやがて巨大な形へと変化していく。

炎が爪、牙、翼、尾、足へと変わっていき、それぞれのパーツが出来上がるとそれぞれを、

つなぐかのように炎が線のように伸びていき、

輪郭を描いていくとどこからともなくドラゴンの咆哮らしきものが聞こえ、

その音によって風が生み出され、俺の髪型を崩していく。

やがて全ての輪郭が描かれ、今まで閉じていた目が開かれ、そこに光が灯った。

「会いたかったぞ。ドラゴン」

俺の目の前には以前、夢の中で見た巨大な赤いドラゴンが佇んでいた。

『貴様がここに何の用だ』

「色々あるんだが……お前はなんだ」

『貴様に語ることなど何もない。消えろ』

「うわっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……強制的に外へ追い出されたか」

目を開けるとそこはすでに元の世界だった。

時間は夜の十時。決戦が開始されるのは真夜中の午前零時、

部室への集合時間は開始時間の三十分前。

だから、あと自由にできる時間は一時間と三十分ほど。

恰好は駆王学園の学生服。

部長曰く動きやすい格好なら何でもいいと言われたものの、恐らく服なんてものは戦いの最中に、

血まみれになったり、破れたりすることが考えられるので比較的、

変えの準備がしやすい学校の制服になった。

「イッセーさん。入っていいですか?」

「ああ、入れよ」

アーシアの声がドアの外から聞こえ、

了承すると部屋にシスターの服を着たアーシアが入ってきた。

以前までは毎日のように来ていたシスターの服……今は悪魔になり、

その時以来ずっと来ていなかった。流石に十字架はしていないようだが……。

「部長さんが一番落ち着く格好で来いとおっしゃいましたので……私は、

この服装が一番落ち着くんです」

そう言いながら、アーシアは俺の隣に座り肩に自分の頭をコテッと乗せて、

全身を預けてきた。

俺の手を握っている彼女の手は少し汗ばみ、小さく震えていた。

今まで戦いとは無縁のところで育ってきたアーシアがいきなり、

戦場に出るとなれば、震えるのも仕方がない。

「怖いです……イッセーさんの隣にいても震えてしまうんです……でも、

私は……頑張ります! イッセーさんという最後の希望があるから」

最後の希望……俺はそんなに大層な存在じゃないんだがな。

そんな気持ちを隠すかのように俺はアーシアの頭を優しく撫でた。

「時間だ。行くぞ」

「はい」

『コネクト。プリーズ』

集合の時間になり、目の前に旧校舎の部室へと繋げた魔法陣を展開し、

彼女とともに魔法陣を潜り抜けると既に部員の全員が集合していた。

皆、各々その時が来るまで暇を潰していた。

部長と副部長の二人は優がに紅茶を飲み、木場は手甲を装備し、

脛当てをつけ、剣の状態の最終チェックを行い、

塔城はオープンフィンガーグローブを両手につけ、ただじっと時間が来るのを待っていた。

いつもの軽い雰囲気ではなく、重く、緊張の色を感じさせる雰囲気が部室の中に充満していた。

そして、決戦開始十分前になると床に魔法陣が現れ、

そこから銀髪メイドのグレイフィアさんが転移してきた。

「皆様、準備はよろしいでしょうか」

その言葉に誰も声を出さずにただ、グレイフィアさんをジッと見つめた。

その視線で準備完了の念を感じ取ったのか、グレイフィアさんは一度、首を縦に振り、

俺たちに魔法陣の上に乗るように言った。

「では、試合会場へと転移いたします」

その一言ともに魔法陣が一層、輝きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝きがはれ、俺達の目の前に広がっていた光景は転移する前と何ら変わりない部室だった。

『皆様。このたびグレモリー家と、

フェニックス家のレーティングゲームにお越しいただきありがとうございます。

このたび審判(アービター)役をさせていただきますグレモリー家使用人、

グレイフィアであります』

校内放送からグレイフィアさんの声が聞こえてきた。

『両陣営転送された場所が本陣となります。リアス様の本陣が旧校舎のオカルト研究部部室、

ライザー様の本陣が新校舎の生徒会室となります。

兵士の方はプロモーションする際は相手の本陣まで赴きください。

なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまでです。それでは開始です』

放送からサイレンの様な音が響き渡り、レーティングゲームの開始を告げた。

「じゃ、皆。これを耳につけて」

部長から貰ったものは小型のイヤホンマイクを渡された。

「作戦に関してはそのイヤホンマイクを通じて随時、報告するわ。

まず、序盤は体育館を占拠するわ。ここの取れば新校舎までの道を確保することができる。

イッセー、小猫。お願いできるかしら」

俺は何も言わず、首を縦に振った。

「じゃ、頼んだわよ」

部長に激励を貰い、塔城とともに旧校舎の玄関から抜け出し、

体育館の真正面からではなく、裏側の入り口から入る。

ドアノブを回すと鍵はかかっておらず、簡単に開いた。

「そこに隠れてるのは分かってるわよグレモリー家の下僕さん!

ここに入ってくるのを監視してたんだから!」

そんなことを考えていると体育館から女性の甲高い声が聞こえてきた。

どうやら、俺達が侵入してくるのは筒抜けだったらしい。

「どうするの」

「……バレている以上、入ります」

体育館の中へと入ろうとする塔城の腕をつかみ、静止させた。

「正直に正面から行っても面白くない。ここはひとつ、不意を突こうじゃないか」

『コネクト。プリーズ』

空間をつなげた魔法陣を展開させるが、

視界に入っている場所には魔法陣は見当たらない―――――そんなことを思っているらしく、

塔城はキョロキョロと見渡していた。

「天井に繋げた」

ボソッと言うとようやく気付いたらしく、目を見開いた。

「行くぞ」

「はい」

俺たちは同時に魔法陣を潜り抜けるとそこはすでに

体育館の天井―――つまり、数メートルの高さから落ちるのと同じ。

「さあ、ショータイムだ」

「上よ!」

チャイナドレスを着た女がいち早く気付き、

他の三人の下僕も遅れて上を見るがその時には既に俺たちはいない。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「ぎゃっ!」

棒らしきものを持った女の背中に炎を纏った蹴りが加えられ、

そのまま壁に激突するまで吹き飛んで行った。

「ミラ!」

「よそ見禁物」

チャイナドレスの女の背後から東城が殴りかかるがギリギリのところで、

チャイナドレスが攻撃をかわした。

上からの奇襲と見せかけ、全員が上を見た瞬間にそれぞれの相手の近くに空間をつなぎ合わせ、

背後からの攻撃。これで一体は倒した。

「こんのー!」

「ミラの仇ー!」

『ウォーター・プリーズ。スイー・スイー・スイー』

『リキッド。プリーズ』

直後、チェーンソーが俺を切り裂くが切り裂いた部分が水となり、

またくっついて元の肉体に戻った。

「な、何これ!?」

「こんな魔法あり!?」

あり得ない事態に驚きながらも双子らしき女たちはチェーンソーで何度も俺を切り裂いてくる。

そのたびに俺の身体が水となって散っていくがそのたびにまた再生される。

『バインド。プリーズ』

「うなぁ!? つ、冷た!」

双子の背後から水で出来た鎖が雁字搦めに拘束し、二人を地面に貼り付けの状態にした。

向こうの方はどうなっているかと視線を送ると既に勝負は決していたようだった。

腹部を抑え、動けないでいるチャイナガールに余裕シャキシャキの表情の塔城。

『イッセー、小猫。そこから立ち退いてちょうだい』

その知らせを聞き、俺たちは理由を聞かずに一目散に出口へと向かって走り出した。

「逃げる気!? ここは重要拠点なのに!」

センター……そんな感じの重要な場所らしいが部長の命令に従い、

相手に目もくれずに俺達が体育館の外へと出た瞬間、

凄まじい爆音と雷光が迸り、体育館が一瞬にして瓦礫の山と化した。




連投です


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第十一話

瓦礫の山と化した体育館の上空に巫女服を着た副部長がうっとりとした表情で、

電流が迸っている指を一舐めした。

どうやら体育館ごと相手を吹き飛ばすというのが部長が考えた作戦らしい。

『どうやらうまくいったみたいね』

イヤホンから部長の声が聞こえてくる。

『さっきの一撃は朱乃の最大の一撃でね。あれをもう一回使うには少し時間を、

置かないといけないの。数も相手の方が上。

だから朱乃の回復が済み次第私たちも前に出るわ』

「塔城」

「え?」

『ディフェンド、プリーズ』

塔城の腕を掴んでこっちに引き寄せようとしたが一瞬遅く、

突然、彼女が爆発し、俺たちに向かって何発もの火球が放たれた。

俺と副部長に関しては間にあったが塔城は間に合わなかった。

「テイク……私としては雷の巫女も魔法使いも倒したかったんだけど」

声が降ってくる方へ首を向けると副部長よりも高い位置にフードをかぶり

魔導師の格好をしている女性が浮いていた。

塔城に視線を向けると既に彼女は光に包まれており、転送が行われていた。

「もっと……お役に立ちたかった」

「大丈夫ですわ。貴方は十分に活躍してくださいました。

後はゆっくり休んでください」

一瞬、小さな笑みを浮かべた後、完全に塔城は転送されてフィールドから消え去った。

『リアス・グレモリー様のルーク一名リタイア!』

「私たちは駒を犠牲にしても何らダメージはない。でも、

あなた達は少しでも人数が減れば致命傷。さ、とっとと片付けます!」

相手が杖をこちらへ向けた瞬間、夜空を切り裂くように俺たちと、

相手の間に雷がいくつも落ちてきてグラウンドの砂を大量に空中に巻き上げ、

視界を完全に潰した。

「ここは私に任せて行ってください」

「任せた」

「逃がすとでも!?」

魔術師の格好をした女の声が聞こえるが、その直後に雷の爆音が鳴り響き、

激しい戦闘が始まったことを俺に知らせていた。

俺はその爆音に一切振りむかず、次の目的地へ行くために、

木場のもとへ空間をつなげた魔法陣を展開し、

そこをくぐると物置のような場所に隠れている木場の近くに出た。

「待ってたよ。小猫ちゃんは残念だったけど」

「私の名はカーラマイン!」

木場の話声を遮るように女性の甲高い声が聞こえ、

何事かと二人して小さな隙間から外を見ると短剣を持ち、

甲冑を身に纏った女性が運動場のど真ん中に立っていた。

「こそこそと腹の探り合いをするのにはもう飽きた! 

いざ尋常に勝負しようではないか!」

良いように捉えれば正々堂々でコソコソするのは嫌いな性格……悪くいえば、

頭脳まで筋肉でできている単細胞。

そんなに強者と戦いたいのか、ただ単に戦いが好きなのか、

それともあの大剣で人を切りたいだけのヒステリックな奴なのか。

様子を見る限りでは最初のだと思うけどな。

そして、木場の性格を考える限りあいつは――――。

「あそこまで言われちゃ黙ってはいられないよ」

予想どおりの木場の行動に内心呆れながらも、木場についていき、

物置から外に出ると甲冑の女が嬉しそうにニンマリと笑みを浮かべた。

「僕はリアス・グレモリーの眷属、ナイトの木場祐斗」

「お前みたいな剣士がいてくれて嬉しく思うぞ。

堂々と真正面から来るのは正気の沙汰じゃないからな」

甲冑を着た女は短剣を木場に切っ先を向けると短剣に炎が灯り、

タダの鉄の剣だったのが炎の剣に変わった。

木場も黒い刀の切っ先を女に向けた。

一瞬の沈黙――――刹那、二人の姿が消え、金属がぶつかり合う音と火花が散った。

「貴様のような兵と戦えて私は嬉しいぞ!」

「僕もですよ!」

鍔迫り合いを続け、さらに高速移動でその場から消え、

また別の場所で鍔迫り合いを繰り広げ、また消えの繰り返しで、

次第にグラウンドの土が二人の移動の際して巻き上げられ、小さな砂嵐ができていた。

「あのような暑苦しい様は嫌いですわ」

後ろから見下したような声が聞こえ、振り返るとこの場には不相応なドレスを着て、

長い金色の髪を二つに縦に巻いた女と顔の半分を仮面で隠した女が立っていた。

あの金髪女……どことなく、チャライ男に似ている。

「兵藤一誠だったっけ?」

「ああ。おれを倒しに来たか?」

「今の状況でそれ以外の理由があるかい?」

確かに仮面の女の言う通り、この状況で俺を倒しに来た以外の理由があるはずがないか。

「その前に、そいつはなんだ。戦う気がないように見えるが」

「ああ、彼女は特別でね。彼女――――レイヴェル・フェニックス様は主の妹さ。

さあ、そんなことより戦おうじゃないか!」

『ウォーター、プリーズ。スイー・スイー・スイー』

『リキッド、プリーズ』

相手の拳が俺に当たる直前、二つの魔法を発動させ、

俺の身体を水へと変化させ、相手からの攻撃が当たった個所が水となり、

攻撃を流していく。

「……報告は受けていたが見たこともない魔法を使う」

相手は一度、距離を取って俺の出方を窺う。

一瞬の沈黙―――――刹那。

『バインド。プリーズ』

俺の背後から四つの青い魔法陣が排出され、相手を雁字搦めに拘束しようと伸びていく。

「くっ! 君は魔法使いの家系なのか!?」

「いいや、普通の人間だ」

『コネクト。プリーズ』

「なっ!」

鎖が伸びている先に魔法陣を出現させ、

さらに相手の周囲に四つの空間をつなげた魔法陣が出現し、

そこから青色に輝く鎖が伸びて相手を拘束した。

ほんと、この空間をつなげる魔法は使いやすい。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

籠手からの音声が魔法の内容を遠まわしに言いきる前にすでに、

俺の脚は拘束されているやつにめがけて放たれようとしていた……が、放たなかった。

「……何故、何もしない」

「今の一瞬の攻防で分かった。私では君には勝てないと……やれ」

そういった直後、奴の腹部に蹴りが入れられ、

ブチブチと鎖を引きちぎりながら後方へと飛んでいき、

校舎の壁を粉砕しながら吹き飛んで行った。

『ライザーフェニックス様のルーク一名、リタイア』

あと何人いるかは知らんが……その前に後ろか。

振り返ると未だに高速移動をしながら鍔迫り合いを二人は繰り広げていた。

若干、木場が押しているように見えるがまだまだどちらが勝つかは分からない。

その時、後ろからぞろぞろと魔力がこっちに近寄ってくるのをかんじ、

振り返ると残りの下僕どもが全員集まって来ていた。

「いくら、貴方が見たことのない魔法を使おうとも数の前では無意味ですわ。

それを今、証明して見せましょう。シーリス、ニィ、リィ。

相手が魔法陣を展開した時、たがいに背を合わせ、それぞれの死角をカバーしなさい」

「にゃ」

「にゃにゃ」

「御意」

ワイルドな出で立ちで背中に大きな剣を背負った女性と、

獣耳を頭部にはやした女二人が俺へと迫ってくる。

「まずは私から」

巨大な剣を片腕で持った女がゆっくりと俺に近づいてくる。

「貴様の魔法はすでに見切っている。

空間をつなげる魔法陣にさえ気をつければ対処できる」

「戯言は良い。かかってこい」

その一言に激高したのか額に青筋を走らせ、

ナイトの特性である高速移動で俺の視界から一瞬で消え去った。

が、魔力が消えたわけではないので魔力の位置を頼りに奴の居場所を探り、

俺の後ろに魔力を感じた瞬間、頭を下げるとそこを剣が通り過ぎていく。

「私たちもいるもんね!」

獣耳を生やした女二人が殴りかかってくるがそれを両手を使い、

いなしながらも斬りかかってくる女の剣も避けていく。

「な、なんで当たらない!」

徐々に奴らの顔に焦燥の色が見えてきた。

焦燥の色が濃くなればなるほど、相手の攻撃にも焦りから丁寧だったものが荒くなっていく。

それに伴い、隙も多くなる。

「シーリス! 二ィ、リィ! 落ち着いて攻撃しなさい!」

「で、でも一撃も」

剣の一撃を魔法陣の壁で弾いた後、獣耳の女の腹部を強めに殴り、相手を飛ばした。

そして、剣を持った女の突きを横に少し飛んだあと、魔法陣を展開し、

そこへ剣が向かっていく。

「しまっ」

相手が剣を引こうとしたときに既に遅く、魔法陣に深く剣が突き刺ささったと同時に、

後ろから肉に何かを突き刺したような音が聞こえ、小さな悲鳴が聞こえた。

「自らの剣で消えろ」

「こんの!」

「ニィ! リィ! やめなさい!」

『コピー、プリーズ』

魔法陣を上に展開すると俺の右隣りに魔法陣が現れ、そこからもう一つの俺が現れた。

「ふ、二人!?」

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

同時に魔法を発動し、右足に水の魔力が集まっていき、

こちらへ突っ込んでくる相手へ向かって跳躍し、

回し蹴りを放つと二人同時に首元に蹴りを喰らい、同じ方向へと吹き飛んで行った。

「まだだ」

『ランド。ドッドッドドン! ドッドッドドン!』

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

跳躍しながら魔法を二つ同時に発動し、青色だった籠手が黄色に変化し、

足には土の魔力が俺の右足を覆っていた。

『ドリル、プリーズ』

さらに、もう一つ発動するとただ俺の脚を覆っていた魔力が徐々に渦を巻いていき、

最終的に俺の足には一つのドリルが装着された状態へと変わった。

俺のやろうとしていることを察知した木場はすぐさまその場から消え去った。

「貴様! どこへ行く!」

「カーラマイン! 上です!」

チャライ男の妹が声を張り上げ、危険を知らせるが時すでに遅く、

剣を持った女の腹部を隠している甲冑の腹の部分をドリルが打ち砕き、

そのまま姿が見えなくなるくらいに遠くの方へと消えていった。

『ライザーフェニックス様のナイト一名、ポーン二名リタイア!』

「いきなりだから驚いたよ」

「それでも、反応した」

「僕を信じてくれたんだ」

木場はニコニコと笑みを浮かべながら俺の近くにまで歩いてきた。

「……この状況も全て、貴方の頭の中に思い浮かんでいたというのですか」

「さあな……ただ、少なくとも俺達が地に伏せる状況は考えてはいなかった。

それだけだ……ここは任せる」

「あいさ」

『テレポート、プリーズ』

俺はライザーの魔力が感じられる屋上へと転移した。




こんにちわ! 明日からまた学校だ


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第十二話

注意:今回の決着が気に食わないと思いますがご了承ください


『リアス・グレモリー様のクイーン一名、ナイト一名リタイア』

転移が完了した直後にその放送が聞こえた。

副部長と木場がやられたか……可能性としてはあのフードを被った相手側のクイーンか。

今はその考えは頭の片隅に置き、目の前で余裕綽々の顔をしているチャラ男の方へ、

視線を向けた。

「あ? なんでお前が来てんだ」

「雑魚どもはいない。後はキングであるお前を討つだけだ」

「俺はリアスに一対一を申し込んだんだがな……まあ良いか。

リアスの代わりにお前とサシで戦ってやる」

そう言い、ライザーは耳に手をやり、ぼそぼそと俺には聞こえない音量で喋った。

フィールドにいる下僕に連絡を飛ばしたのか……手を出すなと。

「じゃ、お前で我慢」

『バインド、プリーズ』

ペラペラとよくしゃべる口ごと奴を水の魔力で出来た鎖で拘束するが、

奴の全身から炎が一瞬で凄まじい量放出され、鎖が引きちぎられた。

なるほど……流石は炎を司る悪魔だ。

「この程度で俺を拘束できるとでも思ってんのか!?」

『フレイム、プリーズ。ヒー・ヒー! ヒーヒーヒー!』

そう叫びながら俺に向かってバスケットボールサイズの火球を放ってくるがそれに軽く触れて、

軌道を反らし、グラウンドへと急降下していった。

地面に着弾したのか下から爆音と砂埃が舞い上がってきた。

自らの攻撃を格下の俺にいなされたことが相当気に食わないらしく、

顔を怒りの色で染め上げて、こちらを睨んでくる。

「そんなに格下に攻撃をいなされたのがご不満か。相当、

狭い世界でしか自分の力を使ったことがないらしい」

「偶然、いなせたくらいで調子に乗んじゃねえぞ!」

背中から炎をジェット噴射させ、凄まじい速度でチャラ男が突っ込んでくる。

『コネクト、プリーズ』

「んなもん効くか!」

チャラ男は目の前に展開された魔法陣に火球をぶつけ、

その威力で魔法陣を強制的に消すが――――――。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「っ! ぐぉ!」

上からの音声に反応し、無理やり気味に身をよじるとさっきまでチャラ男の背中、

があった個所に炎を纏った俺の右足が床をぶち抜き、屋上を大きな揺れが襲った。

「なんでてめえが上から!」

チャラ男は俺に乱暴に尋ねてくるが俺が答えるはずもなく、魔法陣を展開させる。

『ランド。ドッドッドドン! ドッドッドドン!』

籠手を土の魔力が包み込んでいき、赤色だった籠手が黄色一色に変わった。

ちなみに答えは目の前に出した魔法陣は囮であり、

俺の背後に同じ魔法の魔法陣を出現させ、そこから上に移動した。

「はぁ!」

チャラ男が拳に炎を纏わせ、俺に殴りかかってくるがそれを片腕で殴り落とし、

空いている右腕で奴の顎にアッパーをくらわし、上を向いた奴の隙だらけな腹部に――――――。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

『ドリル、プリーズ』

「がっぁぁ!」

土の魔力を纏わせ、同時にドリルの魔法を発動させて魔力を回転させてドリルのようにし、

それで奴の腹部に蹴りを入れると肉がえぐれる音が聞こえ、

辺りに血しぶきをまき散らしながら吹き飛んでいった。

だが、すぐに傷が炎に包まれて跡形もなく消えていた。

「炎で傷を治したら魔力を消費するらしいな。お前の魔力が少しだけ下がった」

「はっ! それがどうした!」

「つまり、お前が魔力をつきるまで攻撃すれば……俺の勝ちだ」

「っっ!」

俺の一言に顔を引きつらせ、奴が一歩後ろに下がった瞬間、

奴の背後に空間をつなげた魔法陣を目の前に出現させ、

そこへ手を突っ込んで奴の首根っこを掴みながらこちらへと引きずりこみ、

チャラ男ごと運動場へと落ちた。

「離せ!」

地面にぶつかるギリギリのところで俺の手を薙ぎ払い、

背中から炎を噴射させて地面に着地した。

「さあ、ショータイムだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライザーから一対一の申し出受け、屋上へと上がった

私――――リアス・グレモリーとアーシアは外からの爆音が気になり、

外へと行くと、グラウンドに膝をついているライザーとところどころから

血を流しながらも余裕の表情を見せているイッセーがいた。

イッセーの魔力量は変わらず莫大、それに比べてライザーの魔力が

異常なまでに少なくなっており、その量は下級悪魔クラスだった。

「い、いったい何が」

アーシアは目の前の状況に理解が追い付かずにそう呟いたけど、

私もアーシアと同じ状況だった。

何故、イッセーがライザーと戦っているのか。

何故、魔力が少なくなっているかなどの疑問が大量に現れては消えていった。

「この……俺が下級悪魔……ごときに!」

ライザーは最後の力を振り絞り、炎をイッセーに向けて爆発させ、

その爆発から生まれた勢いを使って後ろへと下がった……けど。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

既にその行動を読んでいたらしく、イッセーは足に魔力を凝縮させ、

ライザーに向かって飛びかかり、回し蹴りを放とうとしていた。

敗北――――――その言葉がライザーの頭によぎったのか、

彼は表情を今までに見たことのない色へと変化させ、

目の前の迫りくる光景に恐れ、慄いていた。

イッセーの回し蹴りがライザーに直撃すると思った瞬間!

まるで、連続で花火が上がった時に聞こえる音を発しながら、

イッセーの身体が連続して大きな爆発を上げた!

「イッセー!」

「イッセーさん!」

イッセーがライザーの目の前から吹き飛ばされ、

地面に倒れ込んでもなお彼の体は爆発し続けた。

「主を倒させやしない!」

上から声が聞こえ、顔をあげるとそこにはフードを被り、

赤色に輝いている宝石のようなものを先端に付けた棒を、

イッセーに向けているライザーのクイーンがいた。

「これで止め!」

ライザーのクイーンがひときわ大きく、杖を振るうと輝きが最大になり、

思わず手で顔を隠すほどの熱気を放つ、大爆発が起き、

爆発の瞬間に発生した熱風が私達を襲い、また校舎の窓ガラスを全て粉砕し、

グラウンドに大きな焦げた跡と大きな穴を作り出した。

「ハァ、ハァ、ハァ」

全ての魔力を使いきったのかライザーのクイーンは肩で息をし、

地上へと降り立ち、地面に膝をついた。

「ユーベルーナ! 何をしてんだてめえは!」

彼の叫びに私もアーシアも、そしてライザーのクイーンも驚き、

相手のクイーンにいたってはあまりの驚きに目を見開いてライザーのことを見ていた。

「あ、主」

「俺は手を出すなと言ったはずだ!」

「で、ですが! 主が負けかけているのを黙って見ていろと言うのはあまりにも酷です! 

私にはできません!」

その言葉にライザーは言葉を失った。

ライザーのクイーンはその忠誠心から主であるライザーの言葉を裏切り、

一対一で戦っていた二人の勝負に手を出した。

何発もの爆発を受けたイッセーは全身から血を流し、一歩も動いていなかった。

「イッセーさん!」

アーシアがイッセーの傷を治療しようと駆け寄ろうとした瞬間、

彼が光に包まれていき、一瞬にして消え去った。

アーシアは立ち止り、数秒、呆然とした後、地面に膝をつき、

声を大にして泣き叫んだ。

「イッセーさぁぁぁぁん! イッセーさぁぁぁぁん!」

辺りにはアーシアの泣き叫ぶ声しか響かず、

私たちとライザー達の間には重い空気が流れていた。

私は泣き叫んでいるアーシアの肩を抱き、こう言った。

「ライザー……リザインするわ」

直後、放送からグレイフィアの試合終了を告げる内容の放送が流れ、

このレーティングゲームは決着した。

 

 

 

 

 

私も、ライザーもこう思ったのでしょうね。

―――――――――なんて後味の悪い。




こんにちわ。もしも気に食わないという方が多ければ……どうにかして書きなおす!


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第十三話

暗く、なにもない空間に俺は浮遊していた。

全身を針で何度も刺しているかのようなチクチクとした痛みが走っている。

どうにかして目を開けた瞬間―――――

『貴様の体、貰うぞ!』

「っっ!」

鋭い牙を何本も生やした大きな赤い口が俺を飲み込まんと突っ込んできた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! ぐぅ!」

後味の悪い悪夢から目が覚め、起き上がろうとすると全身に痛みが走り、

そのまま後ろへと倒れ込んだ……が、誰かに肩を抱かれた。

「お目覚めですか」

銀色の髪にメイド服を着た女性――――――グレイフィアさんが俺の肩を抱いていた。

彼女の助けを借りながらゆっくりと起き上がり、

グレイフィアさんから貰ったコップに入った水を飲み干し、

今の状況を把握しようと頭を動かす。

そして数秒後には理解した。

――――――戦いに……レーティングゲームに敗北したのだと。

「今リアスお嬢様はグレモリー家が準備した会場で」

そこまで言った後、グレイフィアさんは言葉を詰まらせたのか、

それとも目の前の光景に絶句したのかそれ以上話そうとしなかった。

「……見つけた」

彼女の目の前の光景――――――それは、俺がリアス・グレモリーの魔力を感知し、

彼女がいる場所へとつながる魔法陣を出現させていた。

俺はすぐさま上の服を変え、クローゼットから服を取り出そうとするが体全体を、

動かさないようにするためかギュウギュウにまかれた包帯が、

邪魔で服がある場所まで腕が上がらなかった。

「……邪魔だ」

ブチブチという悲鳴を上げる包帯を俺は躊躇なく破り捨て、

服へと手をかけようとするが横から手が入り、俺の腕をつかんだ。

「お待ちください! 今、貴方が展開した魔法陣は冥界へとつながるものです! 

もしも、なんの許可もなしに冥界に入国すれば貴方は不法侵入者として拘束されます!」

グダグダと御託を並べる奴の話を聞くほど俺は性格がなっていない。

だから、彼女の腕を払い、服を取り出して着て、

魔法陣へと向かおうとする俺の前にグレイフィアさんが立ちはだかった。

「貴方は向こうに行けば犯罪者になるかもしれません! 

リアスお嬢様を救うがために」

「犯罪者になっても助ける価値がある奴がいる。それだけで十分だ」

その一言にグレイフィアさんは言葉を失っていた。

「……貴方の覚悟、承りました。ですが、

貴方が犯罪者になってはお嬢様が悲しみます。これを」

メイド服のポケットから一枚の紙を取り出し、それを俺に手渡してきた。

それは両面に魔法陣が書かれた紙だった。

「行くのであれば必ず、お嬢様を助けて下さい」

その時のグレイフィアさんの表情は、主に仕えるメイドではなく、

妹のことを心底心配している家族……姉のように見えた。

扉の奥にアーシアの魔力……。

「アーシア。行くぞ」

「はい!」

その言葉を待っていたのか嬉しそうな表情を浮かべ、俺の手を握ってきた。

その瞬間、アーシアの手が光輝き、その光が俺に流れてきた。

「向こうにつくまでの間、限界までイッセーさんの傷を癒します」

「……お前も俺の希望だ。行くぞ」

アーシアの手を強く握りしめ、紙に魔力を流しこむと目の前に魔法陣が展開され、

俺達はその魔法陣をくぐる抜けるべく、一歩一歩、踏みしめて歩いて行った。

魔法陣を抜けた俺達の目の前に大きな扉があった。

どうやらもともと、ゴールはこの地点に設定されているらしかった。

「アーシア、もう良い。十分だ」

そう言い、アーシアの手を離すと彼女は微笑を浮かべ、俺の手を離した。

「……アーシア。上と下、景色を見るなら地上から高い方か低い方か。どっちがいい」

突然の質問に戸惑っているようだったが彼女はすぐに答えを出した。

「じゃ、じゃあ高い方で」

『コネクト、プリーズ』

俺は魔法陣を展開し、アーシアをお姫様だっこにして抱えると魔法陣へと突っ込み、

陣を潜り抜けるとそこはすでに教会の中の天井で、

多くの参列者とドレスを着たリアス・グレモリー、そしてスーツを着たチャラ男の姿、

そして正装をした木場達の姿があった。

一瞬、木場達と目があい、その瞬間に何かしらの意図を掴んだらしく、

全員が首を縦に振った。

「だ、誰だ!」

俺が着地したと同時にその言葉が掛けられ、

また背後から放電時に聞こえる音と何かを強く殴る音、そして金属音が聞こえてきた。

「兵藤一誠。リアス・グレモリーのポーン」

涙目のアーシアを降ろし、一歩ずつ両者が立っている場所へと向かう。

「リアスを……連れ戻しに来たのか」

五歩ほど進んだところで、チャラ男の方が先に口を開いた。

「ああ、それもあるが……お前との決着を付けにも来た」

「……お前に一対一での決闘を申し込む」

その言葉が教会内に響いた瞬間、後ろからざわざわと耳に障る音が聞こえてきた。

「……フェニックスの名において……お前を倒す! 俺が負けた時はリアスを返す! 

だが、俺が勝ったときは結婚は続行だ」

「ふざけるな!」

だが、しょせんチャラ男という悪魔一人の意見が通るほど悪魔の社会がやわなものでもなく、

後ろにいる参列者から罵詈雑言が飛んできた。

チャラ男は目を瞑り、数秒間考えると目を見開き、

俺の方へと歩いてくるが俺を通り過ぎてもなお、歩き続けていた。

そのまま俺から十歩くらい離れたところで、停まった。

「俺は! 俺はあの時、兵藤と一対一を行うとき、下僕に手を出すなと言いました! 

ですが、それの約条は下僕の俺に対する忠誠心から破られてしまいました! 

下僕の失態は主である俺の失態です! どうか! 

どうか、兵藤一誠との再戦をお許しください!」

チャラ男は参列者に頭を下げ、

懇願するが参列者からの罵詈雑言がやむことはなく、ただただ奴にぶつけられ続けた。

だが、俺はこの耳でハッキリと聞いた。

罵詈雑言が溢れるこの教会の中でたった一つの拍手を。

参列者たちもその拍手に気づき、徐々に罵詈雑言が息をひそめていく。

向けられる視線は俺の背後に集まっており、

振り返るとそこにはリアス・グレモリーと同じ紅色の髪を持った男性がいた。

「素晴らしい。言い方は悪いがまだ、君はまだ子供だと思っていた……だが、

それは私の考え違いだったようだ。私も君に似たような考えでね……皆さん! 

私はライザー君の頼みを受け入れるつもりです!」

その一言に再び、教会内は騒然となった。

「受け入れるつもりのない方もいるでしょう。しかし、

ここは私の顔に免じて受け入れてやってもらいたい」

どうやら、目の前で喋っている男はこの世界でもかなり高位の位置に坐しているらしく、

騒然としていた教会が一気に静まり返った。

「お父様。そしてフェニックス卿、よろしいでしょうか」

男の質問に名前を呼ばれた二人は何も言わず、目を瞑り、

ただただ一度、頭を上下に振った。

この瞬間、俺とチャラ男の決闘が成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、全ての参列者が移動し終わり、俺とチャラ男は広い場所で互いに対面していた。

「始めるぞ」

「ああ……ここでお前を倒す」

手をかざし、目の前に魔法陣を展開しようとするが――――――出なかった。

「はぁ!」

魔法陣がでないことは後回しにし、

放たれたバスケットボールサイズの火球をその場から飛び退いてかわすが、

全身に激痛が走った。

ぐっ! 包帯を取ったせいか傷がまた開いて。

「おおぉぉぉ!」

咆哮をあげながら背中から炎の翼を生やしたチャラ男が突っ込んでくるのが見え、

それを避けようとした瞬間、足から力が突然抜けて、地面に膝をついた。

「らぁ!」

「がっぁ!」

そのままロクに防ぐこともできず、相手のパンチを腹部にモロにくらい、

血を口から吐き出しながら吹き飛び、会場の壁に激突した。

幸い、参列者は会場の二階席の部分で戦いの様子を見ていたから誰にも怪我はない……が、

そんなことよりも……何故、魔法が発動しない。魔力は山ほどある……まさか、あのドラゴンか。

「兵藤……弱った体のままで戦いに来たことがお前の敗因だ」

拳に炎を纏わせたチャラ男が俺を見下ろしていた。

ふざけるなよ……ふざけるな! ドラゴン! 俺に力を貸せ!

「終わりだ!」

「俺に力を貸せぇぇぇぇぇぇ!」

叫びながら手を目の前にかざした瞬間、突然、目の前が真っ暗になった。




こんにちわ


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第十四話

……ここは、どこだ……俺は戦っていたはずじゃ。

周囲を見渡して見るが何も見えないように見えた……が、

向こうの方に光が溢れているのに気づき、そこへと近づいていく。

『パパ! パパ!』

そこから父親を呼ぶ声が聞こえ、辺りを見渡すと俺の右の方向に小さな子どもと、

その子供を抱きかかえながら号泣している女性、

そして顔に布をかぶせられている人物がベッドに横たわっていた。

俺はその光景に見覚えがあった……しかも、俺はその光景を経験している。

「あれは……あの日の」

『そう。これは貴様が絶望した日だ』

隣りから声が聞こえ、振り向くとそこには俺自身が腕を組みながら立っていた。

『パパ――――――――!』

『絶望の時だ』

目の前にいる俺はニヤつきながら目の前で泣き叫んでいる俺自身を眺めていた。

俺が俺を見ている……そんな異常な事態にありながらも俺は別のことを頭の中で考えていた。

「……ドラゴン。何故、俺は魔法を使えなくなっている」

『本来、魔力というものはその生物の体内器官で生産され、全身を駆け巡っている。

だが、貴様のようにセイグリッドギアを宿し、

さらにそれに魂を封印されたものの場合は話は違う。貴様の魔力を生産しているのは俺だ』

「……つまり、お前が魔法を使えないようにしたと」

その質問に目の前の俺は気味の悪い笑みを浮かべながら俺を見てきた。

……つまり、あの魔法を――――――チャラ男を倒せる魔法を使えるようにするのもこいつ自身か。

「ドラゴン……この魔法を使えるようにしろ」

俺は手のひらに二つの魔法陣を出して目の前の奴に見せた直後、

目の前の俺の周りから魔力があふれ出し、姿を徐々に変えていき、

光に包まれていきながら俺の何倍もの背丈まで伸び、赤色のうろこ、

鋭い爪を持った足、そして大きな尻尾を生やした赤いドラゴンの姿へと変化した。

そして、ドラゴンは翼をはばたかせ、宙を舞いながら俺に話していく。

『確かにその魔法を使えば貴様は俺の力を現実で使うことができる。

ただ……今の貴様に耐えることができるか』

「……貴様の意思次第で使えるんだな」

『聞いていたのか!? 今の貴様の状態では使えるかすらままならんと言っているんだ! 

それに俺は貴様が気に食わん。このまま貴様を殺すことさえできるんだぞ』

俺の真正面でドラゴンはニンマリと口角を上げて、そういう。

「……わかってないな」

『なに?』

「お前の力も俺の希望だ。敵を倒すためのな。

それに俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。お前が俺の死を望んでいようとも」

『フハ…………ハッハハハハハハハハハッハ!』

ドラゴンは大笑いしながら大きな翼を羽ばたかせ、空を舞う。

『面白い! 俺の力が希望か! 貴様に興味が湧いた。

どこまで耐えられるか試してやろう! 思う存分! 俺の力を使うがいい!』

「うっ!」

ドラゴンが俺の身体へと入っていく。

すると右腕に籠手が現れ、そこから以前、使っていた炎よりもさらに強力な炎が、

俺の周囲に現れた魔法陣から吹き出し、辺りを明るく照らした。

「さあ! ショータイムだ!」

そう叫んだとたん、目の前の景色が元に戻った。

『フレイム・ドラゴン』

「な!? ぐぉ!」

籠手の宝玉から赤色の魔法陣が飛び出し、その大きさを一瞬で大きくするとチャラ男にぶつかり、

俺から引き離すように吹き飛ばした。

『ボー、ボー、ボーボーボー!』

赤色の魔法陣から炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、

俺の周囲を旋回しながら上へと上がっていき、

ドラゴンが消え去ると同時に辺りに火の粉が飛び散り、俺は赤色の鎧に身を包んでいた。

二階にいる参列者から驚きの声が聞こえてくる。

そして、前にいるチャラ男からも。

「さあ、ショータイムだ」

「ぬぐぉぉぉ!」

俺がゆっくり歩き始めたとたんにチャラ男が背中から炎を噴射して俺にものすごい、

速度で迫って来て、拳を放ってくるが俺はそれを左腕で弾き、

奴の顔面に思いっきり拳をめり込ませ、殴り飛ばした。

「がはっ! ぺっ! まだだ! おおぉぉぉぉぉ!」

チャラ男は全身から炎を噴出させ、己の頭上に全身から噴出させた炎を集め、

球体へと変化させていく。

「これがフェニックスの炎だ!」

叫びながら巨大な球体が俺めがけて放たれる――――――が、

俺がその巨大な火球に触れた瞬間、膨大な量の炎が一瞬にして消えた。

その光景にチャラ男は戸惑いを見せるがすぐに炎の消えた場所を察知し、驚きに顔を染めた。

「ほ、炎を吸収したのか」

「上乗せで返してやる」

手を目の前にかざすと魔法陣が展開され、

そこから先ほど吸収した膨大な炎が火炎放射機のようにまっすぐ放たれ、チャラ男に直撃した。

「んぬぬぬぬぬ! 俺はフェニックス! ライザー・フェニックス!

誇り高きフェニックス家の三男であり上級悪魔であり! 風と炎を司る悪魔だぁぁぁ!」

チャラ男は両腕を振り払うと炎が一瞬にして分散され、会場の一階部分の壁に直撃し、

二階席を大きく揺らし、さらに熱した。

「やるな……ん?」

刹那、籠手に埋め込まれている赤色の宝玉が突然、

俺に何かを知らせるように赤色に輝きだした。

……なるほど、そうか。

『チョーイイネ! スペシャル、サイコー!』

ピーンと何かが来て、目の前に手を翳すと赤色の魔法陣が展開され、

魔法の内容を遠まわしに表現する音声が鳴り響き、

展開された魔法陣から先ほどの炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、

俺の周りを何周か旋回した後、俺の背後へと回り、

背中にぶつかると俺の鎧の胸の部分から先ほど、出会ったドラゴンの頭部が現れ、

俺の身体が宙に浮かびあがった。

「うおあぁぁぁぁぁぁぁ! これがライザー・フェニックス! 最強の技だ!

主であるリアスの前で塵となって消えやがれぇぇぇぇぇ!」

咆哮を挙げるライザーの背中から炎で作られた巨大な翼が一対出現し、

その一対の翼がライザーを包み込むと、奴の家の名前のとおりフェニックスが誕生し、

俺へと突っ込んできた。

「フィナーレだ」

直後、ドラゴンの口が大きく開き、そこから炎が勢いよく噴射され、

ライザーのフェニックスと正面から衝突し、辺りに熱波と衝撃波をまき散らした!

「ぐぅぅぅ! おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「お前も負けられないだろうが……俺も負けられないんでね。はぁ!」

ドラゴンの頭部にありったけの魔力を注ぎ込み、放たれている炎を底上げすると、

徐々に俺の炎が奴の纏っているフェニックスを飲み込んでいく。

「こ、この俺が! ハハハハハハハハッハハハハハ! あぁぁぁぁぁぁぁ!」

俺の炎が完全にチャラ男……いや、ライザー・フェニックスを飲み込み、

地面へとぶつけ、大爆発を上げた。

その大爆発は地面に大きな穴をあけ、辺りに熱波だけでなく衝撃波も撒き散らし、

会場を大きく揺らし、大量の粉塵を辺りに撒き散らした。

「ハァ……ハァ」

地面に降り立った瞬間、見に纏っていた鎧とつき出ていたドラゴンの頭部が、

ガラスが砕けるように砕け散り、光の塵となって消えた。

あれほどあった魔力はすでに残り少なくなっていた。

それほどまでに消費しなければ勝てなかったという訳か……ライザー・フェニックス。

痛む体を引きずりながら大きな穴のもとへ近寄ると体のところどころから、

小さな炎をだしているライザー・フェニックスが横たわっていた。

「げほっ……俺が二度も、お前に負けた理由が……ようやく、

分かった気がする……お前にはあって、俺にはげほっ! ないもの……それが、

俺達の決定的な差だったんだ」

そう言い、ライザーは目を閉じ、意識を落とした。

俺はまだやることがあり、それを遂行するまで意識を手放すわけにはいかなかった。

悲鳴を上げる全身に鞭をうち、足を引きずりながら白いドレスを着て、目に涙をため、

俺の先で待っているやつのもとへ、行くために。

「イッセー!」

足が絡まり、地面に倒れた俺に駆け寄ろうとするが、

それはこの勝負を許可した紅の男によって止められた。

俺は最後の力を振り絞り、立ち上がり、一歩ずつ近づいていく。

一歩ずつ、一歩ずつ前へと進んでいき、

ようやくリアス・グレモリーに手が届くところまでたどり着いた。

俺は彼女に手を差し伸べた。

「イッ……セー」

「帰ろう」

「うん!」

この会話により、この戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェニックス卿。申し訳ない。折角の縁談を」

「いえいえ、構いません。確かに純血同士の縁談は魅力でしたが、

それ以上に価値があるものを見れましたので」

「ライザー君ですか」

「ええ。親としては息子の成長以上に嬉しいものはありませぬ。

それに我らには既に純血の孫が居りますゆえ」

「少し、我らは強欲すぎたのかもしれませんな」

「ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、そのような感じでわたくし、

リアス・グレモリーも兵藤家にホームステイさせていただくことになりました」

「あらあらまあまあ! もう両手に花じゃない! これで私も安心していつでも逝けるわ!」

そんな不吉なことを言いながら母さんが俺の背中を満面の笑みを浮かべながら、

バンバン叩いてくる。

母さん……そんな不吉なことを言わないでくれ。

でも、確かに予想外ではあった。まさか、部長までホームステイするとは。

「これからよろしくね。イッセー」

「……どうも」




こんにちわ!


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第十五話

戦いが終結してから数日後のある日、

数日ぶりに俺は母さんと一緒に家の近くを散歩していた……はずだった。

「イッセーは迷惑掛けていないかしら?」

「ふふ、迷惑どころか私たちを助けてくれていますわ」

副部長が母さんと楽しそうに笑い合いながら話をしていた。

ことの発端は数刻前、ここ最近、悪魔関係のことで母さんと一緒に、

何かをしていなかったからたまには散歩をしようということになり、

車いすを押しながら近くを散歩していたらまず木場に会い、次に塔城、

最後に副部長に出会い、大所帯の散歩になってしまった。

もともと、部長とアーシアには話してあったから二人は家で留守番していたものの、

こいつらに出会うのは予想外だった。

ま、母さんも楽しそうにしているから良いとして。

「ふふ、イッセーもお友達が増えて楽しそうなの」

「どこが」

「ふふ。母親の私には分かるのよ」

いつもの散歩ルートを回った俺たちはそのまま家に帰り、

何故か木場達も俺の家に上がって、俺の部屋にやってきた。

ちなみに母さんはリハビリステーションへ行っている。

「さて。みんなにイッセーの家に集まってもらったのは今後に関しての話しをするためよ」

そこから部長による、今後に関する話し合いが行われた。

前回のレーティングゲームから浮かび上がった今の自分たちの弱点を克服し、

さらに連携を高めていくということで……何故か俺の家に集まり、

そのための話し合いをするという。

その話し合いも、ものの十分で終わり、

何故か俺の昔の写真を見るという妙な催しになってしまった。

「あら! このときのイッセーはまだ笑ってたのね!」

「可愛いですぅー!」

「でも、ムスっとした幼いイッセー君も可愛らしいですわ」

「…………クーデレの象徴かも」

一部、気に食わない意見もあったがとりあえず放っておくことにした。

「早速イッセー君は部内でハーレムを築いたかな?」

「首だけ転移させるぞ」

「ごめんごめ……これって」

俺のきつめの冗談を笑ってかわしていた木場がある写真を見たとたんにその顔から笑顔を消し、

何やら重い空気を纏わせて写真を手に取った。

チラッと目だけを動かしてその写真を見てみると、

それは俺がまだ感情を顔に出せていたころに幼馴染の女の子の家族と撮った写真だった。

木場の目がその写真に写っている女の子に集中していて、

恋をした! とかふざけたものではなく、その隣に映っていた剣に集中していた。

「……聖剣」

ボソッとつぶやいたその単語を俺は聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、オカルト研究部の全員が旧校舎の裏手に、

草の生えていない開かれた場所があるんだが、そこで野球の練習をしていた。

数日後に迫ったスポーツ大会に備え、野球を練習している。

正直、俺は参加しなくてもいいんだがそれはクラスとして参加する必要はなく、

オカルト研究部として出なくてはならなくなった。

「イッセー! そっち行くわよ!」

カキーン! と金属音が鳴り響き、ボールが晴天の空に打ち上げられ、

最高地点まで上がった後、急降下してくるがそれを背中にグローブを回し、

キャッチして全力で部長がいるもとへと投げた。

「ナイスキャッチだけど返さなくてもいいのよー!」

なかなか遠い距離にいるので一々、大きな声で叫ばなければ聞こえない。

俺は返事の代わりに軽く手を上げて返事代わりにするが、正直、

気になるのはスポーツ大会などではなく、木場の方だった。

あの日以来、心ここにあらずの状態だ。

「次! アーシア! ノック行くわよ!」

部長が打ったボールがアーシアへと向かっていき、彼女も捕球の態勢に入るが、

スポーツとは無縁の場所で育ってきたからか、彼女のまた下を通り抜け、

そのままコロコロとボールが転がっていく……が、その途中で俺が拾い上げ、

アーシアに渡した。

「あ、ありがとうございます!」

「こらーイッセー! あなたがとっても意味ないでしょ!」

その後も部長の楽しそうな怒鳴り声は響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼ごろ、本来なら俺はアルバイトをしている時間帯なのだが部長によって、

全てのバイトをクビにされ、

その代り一回の悪魔稼業で上限五十万の給料をもらえる仕事に雇われたので暇になり、

昼は母さんは週に三度はリハビリステーションへ、

あとの日曜以外の曜日は昔馴染みのママさんと一緒にお茶会を開いているので家にはいない。

なので、部室から拝借した魔法書のようなものを読破しようかと思ったんだが、

またまた部長の使い魔のコウモリが俺のところにやって来て、

口にくわえた手紙を俺に渡し、どこかへと去った。

『お昼休みに明日行われるスポーツ大会のミーティングやるから、

アーシアを連れて部室に来て頂戴』と、そんな内容だった。

その手紙を見たのが数分前。

今、俺はアーシアのクラスへと向かっている。

俺を茶化してくる奴もいたんだがそいつらは一切無視して、

私服のまま教室に入ると若干、好奇の目で見られるがすぐに消えた。

見渡すと仲良く男子のグループと話しているのが見えた。

「アーシア、行くぞ」

「あ、はい!」

そのまま彼女と一緒に教室を出ようとした俺の腕が後ろから掴まれ、

動きを止められ、無理やり後ろに向かされた。

「おいおいおい。今、俺アーシアちゃんと楽しく話してたんですけど~」

「マザコンは消えてろよ」

「一回だけ言ってやる。腕を離せ、じゃないとひっくり返るぞ」

「あ? 何がひっくり返るんですか~? 教え」

そのまま変わらず突っかかってきたので腕を一回転させると悪魔となった影響で、

筋力が人外となったこともあり、いとも簡単に男子生徒は一回転して腰から床に落ちた。

「あまり面倒なことはさせるな。行くぞ」

「はい!」

アーシアもしつこいあいつらに辟易していたのかは知らないが、

あいつらを少し心配はするものの、俺に付き添い、教室から出ていき、

そのまま旧校舎へと向かった。

アーシアといくつか会話を交わしながら部室の扉の前についた瞬間、

中からいつものメンバー以外の魔力がいくつか感じられ、思わず足を止めてしまった。

その魔力を持つ者は人外なものとかかわっているか、他種族と決まっている。

『コネクト、プリーズ』

警戒も含め、俺は目の前に魔法陣を展開させ、

そこから部室内へ入るとアーシアと同じ学生服を着た奴らが部室内にいた。

皆、俺のことに驚いているのか、

見たこともない魔法で驚いているのか知らないが目を見開いて俺を見ていた。

「来たわね。二人とも、座ってちょうだい」

部長に言われ、部長を挟み込む形でソファに座ると、

対面する形で生徒会長と一人の男子生徒が座っていた。

「紹介するわ。私の新しいビショップのアーシア・アルジェント。そしてポーンの兵藤一誠よ」

「アーシアさんとは初めてね。私はソーナ・シトリー。

そして私の隣に座っているのがポーンの匙元士朗。匙」

「は、はい。新しく下僕になった匙元士朗です!」

緊張した面持ちの男子生徒が頭を下げ、挨拶をしてきた。

「え、えっと新しくビショップになりましたアーシア・アルジェントです」

「ポー」

「アーシアちゃん! 新人悪魔同士よろしく!」

俺が自己紹介をしかけた瞬間、匙元士朗とかいう男は、

テーブルから身を乗り出す勢いでアーシアに近付き、握手をし出した。

俺のあいさつの間隔が悪かったのか、

それとも奴が意図的に俺の自己紹介を潰したのか……別にどっちでもいいが気に食わん。

自己紹介は初対面の相手に自らの印象を植え付けるいわば自己呈示。

今の行動で俺の中でのこいつの評価は低い。

人の自己紹介を聞かずに一定の相手と仲良くするおバカさん……そんな感じか。

「匙。まだ兵藤君が」

「構いません。うわべの情報なんざそちらで手に入れられます。

ただ今後、そちらがとられた態度と相応の態度で当たらせていただきます。

それだけは御記憶ください。では」

『テレポート、プリーズ』

自らの部屋に転位先を指定し、

足もとに魔法陣を展開させると陣が徐々に上がっていき、俺は自室へと転移された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匙。貴方はよほど私の顔に泥を塗りたいようですね」

「え? お、俺は別に」

「では、何故兵藤君の自己紹介を潰すような真似を?」

「……気に食わないからです」

「どこが」

「勉強ができるからってほとんど学校に来ない点にです」

「彼は合法的に来ていないだけです……リアス。後日、彼に謝罪に行くわ」

「まあ、良いことは良いんだけど……何となく嫌な予感がするような」




こんばっぱー!


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第十六話

翌日、本来の予定ならば一人の家で魔法書を読破するはずだったが、

アーシアから一緒に学校へ行くように懇願され、断る気もないので彼女と一緒に学校へ行き、

今は会長と部長のテニス対決を見ている。

「グレモリー流カウンターを喰らいなさい!」

「甘い! シトリー流のカウンターの為のカウンターを喰らいなさい!」

部長が空中に上がったボールを凄まじい勢いで地面に叩きつけるが、

会長はボールが地面に当たってバウンドし、

最高にカウンターを打ちやすい位置に上がるまで待ち、

その位置に来たところで全力(魔力で大幅強化)で弾き返し、部長の顔スレスレを通って―――――。

「きゃっ!」

ボールがフェンスにぶつかるが思いのほか、ボールが強化され、

金網をねじに捻じ曲げて貫通し、

フェンスの外で眺めていたアーシアの顔面に向かってきたが、

俺がギリギリのところでボールをキャッチしたことで難を逃れた。

「お二方。テニスをするのは構いませんが、“人間”の領域で戦うように」

「「……はい」」

どこか、二人の俺を見る表情が引きつっているように見えたが気のせいだろうと自己暗示をかけ、

再び二人の試合に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部長と会長の一騎打ちが終了し、無事にオカルト研究部として出た球技大会も勝利をおさめ、

祝勝ムードであるはずの部室内にはそれとは正反対の空気が流れていた。

この原因こそ木場の態度だった。

試合中は終始、心ここにあらず。部長が何度怒鳴ろうがそれは変わらなかった。

「いい加減にしなさい、祐斗。いつまでボーっとしているつもりなの!?」

部室内に部長の怒声が響き渡る。

「もう帰ってもいいですか? それと少し疲れたので休ませてもらいます」

しかし、帰ってきた反応はぞんざいなものでその反応に部長自身驚いていた。

一度、木場と目が合うが奴は何も言わずに俺の隣を素通りしていき、部室から出ていった。

「はぁ……あの子の想いがまたぶり返してきたのかしら」

「部長。お二人ほど、置いてけぼりですわ」

「そうだったわね……話さなきゃいけないわね。あの子の過去について」

それから俺は机の上に座り、腕を組んだ状態で木場の過去を聞くがその肝心な話は、

右から左へ素通りし、木場の魔力を追っていた。

すると、突然、木場の近くに強大な魔力……いや、

俺に匹敵する何かしらの力の塊が現れた。

そして木場の魔力も――――――。

「っっ!」

『テレポート、プリーズ』

「イッセー!?」

俺は部長の制止を無視して、木場の近くへと転位先を決定した魔法陣へと飛び込んだ。

着地した俺の目の前で魔剣を持った木場と光輝いている刀を持った白髪神父が、

鍔迫り合いを起こしているが、すでに木場の魔剣のオーラは弱弱しくなっている。

『フレイム・プリーズ。ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー!』

「んにゃ!?」

突然の乱入者に驚いた白髪神父はいったん剣を引き、俺たちから距離を取った。

「イッセー君。退いてくれないかな? 邪魔だよ」

「その弱弱しい剣で何ができる。すっ込んでいろ」

『バインド、プリーズ』

木場を魔法の鎖で拘束し、俺は白髪神父と対峙した。

奴が持っているあの剣……あれが噂に聞く聖なる剣か。

そんじゃそこらの魔剣よりも相当強力な力を感じるが……まあ良い。

「取り敢えずうざいから死んじゃいなよ!」

白髪神父は狂った笑みを浮かべ、剣を俺に振りかざすがそれをギリギリで避けると、

ジュワッ! と焦げる音が聞こえ、頬に痛みが走り、

いったん距離を取って頬に触ると擦り傷のようなものができていた。

「ヒャッハー! これに触れれば君みたいなカス悪魔は一瞬で消・滅!

その名も聖剣エクスカリバー! 俺ッチが正義の味方だぜ!」

奴が夜空に向けて聖剣をかざすと凄まじい輝きが発せられ、その光を見た瞬間、

即座に俺は拘束していた木場を担ぎ、その場から跳躍し、離れた。

近くであの光を受ければ悪魔の俺たちは即死だな。

そう感じ取った俺はあの魔法を発動した。

『フレイム・ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!』

俺の背後から炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、俺の周りを旋回し、

幻影が消えると俺は赤い鎧を身に纏っていた。

降ってくる雨が鎧に着くたびに一瞬で蒸発し、

ジューっ! という音を出していた。

「あん? なんだそのよわっちい鎧はよぉ!」

白髪神父は未だに輝き続けている剣を振り回しながら俺に駆け寄って来て、

剣を振り下ろすが、それを俺は腕の装甲で受け止めた。

どうやら、装甲でなら聖剣でも一定時間は止められるらしいな。

聖剣の一撃をはじき、隙が生まれた奴の顔面を思いっきり殴り飛ばし、

遠くに吹き飛んだことを確認し、止めの魔法を発動する。

『チョーイイネ! スペシャル、サイコー!』

背後から炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、俺の周りを旋回し、

背後へと戻り、背中にぶつかると鎧の胸の部分にドラゴンの頭部が出てきた。

「燃え尽きろ、カス」

直後、ドラゴンの口が大きく開き、

そこから火炎放射のように炎が伸び白髪神父に直撃し、小さな爆発を上げた。

「……ん? 逃げたか」

爆煙が晴れ、視界がクリアになるがそこに白髪神父はいなかった。

後ろを振り返ると今の状況に納得がいかないと、

表情を見ただけで分かるほどに不機嫌な木場がいた。

互いに互いを睨みあうが木場はすぐに視線をそらし、スタスタとどこかへ歩いて行った。

「……何を怒ってんだか」

『テレポート・プリーズ』

用件も済み、自宅へと転移すると何故か腕を組んで不機嫌な顔をしている部長と、

アーシアが正座をして俺の部屋にいた。

ここ最近のこの二人の仲の良さには驚いていはいるが……いったい、この二人に何があった。

「イッセーさん? そこにお座りになってください」

「……母さんの」

「お母様からさっき電話があって『友達が新作料理をふるまってくれるらしいから、

今晩は女だらけの宿泊大会に参加しま~す』って言う風に連絡があったわ」

車いす生活になってから以前よりも性格が明るいものになった母さん……今だけ、

恨むことを許して下さい。

俺は空気に耐えられず、何も言わずに正座した。

「せっかく、部長さんが木場さんの過去をお話しになっているのに何も言わずに、

転移するとはどういう意味でしょうか」

「その後にソーナがやってきて私の領下で神父が惨殺されているって言う重要なことを、

話してくれたのに……ソーナ悲しんでいたわ。貴方に謝りたかったのにって」

何故だ……何故だ……何故、こんなにも二人からの言葉の一つ一つが、

俺の心を刺している……これぞ、女性の言葉の重みという奴か。

「まあ。貴方のことだから大体の見当はつくけど……さて、

おふざけはここで終わり。本題に入るわ」

先ほどまでのふざけたようで楽しそうな空気は消え去り、

部長の周りから重苦しい雰囲気が辺りに流れ始め、

俺も正座を崩してアグラに変えて話を聞いた。

「明日、旧校舎の私達の部室に教会関係者が二人、来るらしいわ」

「さっきの神父惨殺の件ですか」

「ええ。向こうは神に誓って私たちに危害を加えないと言ってきたけど」

「それは信じるに値する言葉なんですか?」

「こればっかりは向こうの信仰心とやらを信じるしかないわ」

恐らく、教会関係者がこっちにやってくる理由はあの白髪神父が、

持っていたエクスカリバーとかいうことに関係することか。

その日は翌日の対策を話し合い、一日を終えた。




こんばっぱー!×2!


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第十七話

翌日、放課後になるくらいに教会関係者である二人の女が、

旧校舎のオカルト研究部にやってきた。

一人は青色の髪に緑のメッシュを入れ、布を巻いた大きな剣……力を感じる限り、

白髪神父が持っていたものと同等の強さのものを背中に背負った女―――ゼノヴィアと、

茶髪の髪をして、木場が見ていた写真に乗っていた少女――――イリナ。

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、

正教会側が保管、管理していたエクスカリバーが盗まれました」

彼女は淡々と、現在の状況について語っていく。

「現在判明しているのは聖剣を強奪した主犯格のみ」

「その名前は」

「コカビエル、そしてバルパーガリレイよ」

その二つの名前が出された時、部長は表情を少し硬くした。

どちらの名前に反応したかはさておき、両方ともかなり名が知れている存在とみた。

「コカビエル……。古の戦いから生きて、

しかも聖書にまでその名が書かれている堕天使とはね」

堕天使……天使が欲望……それも卑猥な方の欲望に耐えられずに行動に移った途端に、

白の翼が真っ黒に染まり、頭の上に浮いている天使の輪も消滅し、堕天使に変化する。

「我々の注文はただ一つ。我々と堕天使との戦いに手を出すな」

「私の領地の中で起きていることを無視しろというの?」

その質問をした声はいつものように感じられたが言葉の節々に若干の怒り、

そして呆れが含まれているような気がした。

「ああ、そう言っている。よく言うだろ。余所は余所、家は家。それと同じだ。

例え悪魔の主の領土内で起きた事件でも、我々の最高機密が関係した事件は我々で解決する。

これ以上話しても時間の無駄だ。イリナ、帰ろう」

「ええ…………少し、表で待っていてくれる?」

その一言に青い髪に緑のメッシュを入れた女は何も言わずに首を縦に振り、

部室から出ていった。

女が出ていったのを確認した紫藤イリナはこちらを向き、笑みを浮かべた。

「久しぶりね、イッセー君」

「……そうだな。今更、会いたくもなかったがな」

「まったく、冷たいんだから」

イリナと俺とで二人だけの空間を作り出し、

ほかの部員達が入ってこれないようにして二人だけの懐かしさを共有しながら話をしていく。

その間も木場はひたすらイリナを睨みつけていた。

「私たちは悪魔の助けは借りないつもり……でも、イッセー君は別」

「どういう意味かな」

我慢の限界が来たのか、両手に魔剣を握り締めた木場が最上の睨みをきかせながら、

イリナに喧嘩を売るが、彼女は何ら反応せず、

み向きすらしないでただひたすら俺のことを見続けた。

「俺の助けは快く受け入れると。悪魔の俺の」

「ええ。この世界で私が心の底から、

それこそそのためなら命だってはれるくらいに信じているものが二つある。

一つは我らが主、そしてもう一つは、貴方―――――兵藤一誠。

悪魔か人間かなんて関係ない。私は貴方を信じている」

イリナは表情をうっとりとさせ、俺の両手を軽く握りしめてきた。

「もしも、貴方の力を借りたいときはすぐに連絡するわ……なんたって、

貴方は私の最後の希望だもの」

そう言って、イリナは満面の笑みを浮かべて部室から出ていった。

結局、最後の最後まで睨みつけている木場に関しては目もくれず、

俺ばかりに集中していた。

一つのことに集中し過ぎるのがお前の悪い癖だ……イリナ。

俺は部員達には何も言わず、部室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、頼むぞ。ガルーダ、クラーケン、ユニコーン」

俺が魔法で作り出した使い魔にそれぞれ、木場の捜索、教会関係者のメッシュ女の監視、

そして同じく今日関係者であるコカビエルとかいう奴の捜索の命を与えて放った。

どのみち悪魔は後々、使い魔を手に入れるんだがもっとも簡単に手に入れる方法がこれ。

魔力で作った存在……攻撃性能は弱いが捜査能力は高い。

「イッセー君の使い魔?」

後ろからお目当ての声が聞こえ、

振り返るとそこには幼き頃と何ら変わりない服装をしたイリナが立っていた。

「ここに来ればお前に会えると思ったが……俺もお前も時は経てど、変わらずってとこか」

今、俺達がいる場所は幼い頃、まだ俺の両親が元気だったころに両家でよく遊んだ公園だった。

最後に会ったのはイリナが引っ越す際の二人だけのお別れ会の時以来か。

イリナは公園の周りを囲うように設置されているベンチに立って、ゆっくりと歩き始めた。

「この街は変わらない。変わったのは私達の状況、体、そして力。

貴方は魔法に目覚め、私は聖剣という力に目覚めた。私は女らしい

体つきに変わり、貴方は男らしい体つきに変わった。私は教会関係者になり、

貴方は悪魔になった……あなたは彼のように教会関係者は嫌い?」

彼……木場のことか。

俺はイリナが歩いている方向と同じ方向に向かってゆっくりと歩き始め、

彼女の問いに対する答えを言う。

「嫌いじゃない。アーシア・アルジェントは元教会関係者だが嫌う気はない。

むしろ仲良くやっている……わかりきった質問をするな」

「確かめたかっただけ。女の子は確かめたがるものなのよ」

イリナはトンと公園を囲うように繋がっているベンチの途中で地面に降り、

俺の隣にやって来て、また歩き始めた。

「彼のことを怒らないであげて」

俺は彼女の言葉に驚いた。

ただでさえ教会関係者が悪魔といるだけで糾弾されるかもしれない状況の中、

仇敵であるはずの悪魔を擁護するような発言を取った。

「彼は……教会が生み出したあってはならない犠牲者の一人……そんな彼が、

私たち――――聖職者を憎むのは致し方がないこと。

私はその憎しみを突っぱねる気はない……だから、

貴方も彼の気持ちを突っぱねずに受け止めてあげて。

いくら私が謝罪しようとも彼の恨みが晴れることはない。彼の憎しみという雲を払えるのは」

そこまで言い、イリナは俺の胸にトンと指を置いた。

「貴方だけ。貴方はいずれ、彼の最後の希望になる」

「…………行くのか」

イリナが考えていることは互いに言葉にして吐き出さなくても、

相手の声、表情、しぐさなんかを見ることで瞬時に分かるようになった。

親友故の能力か、またはそれ以上のものなのか。

「ええ。私は教会から聖剣を奪ったコカビエルを許せない。

だから、私はやつに挑むわ……もしも、私が傷ついた状態で貴方のもとに、

来たなら……その時は貴方にコカビエルを託す。そして、彼の恨みを払ってあげて」

そう言い残してイリナは去っていった。

一人残った俺の髪を強く吹いた風によって乱れ、髪で視界が隠れ、

元に戻したときには既にイリナの姿はどこにもなかった。

「最後の希望……か」




あぁ、神よ。後パソコンはいつまで命が持つのでしょうか。


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第十八話

これとは関係ないですが気弱の方を夏休み中にすべて、
組み立てなおします


数日後の夜、俺たちオカルト研究部は俺の自室にてその時を待っていた。

コカビエル達が盗んだという聖剣エクスカリバーはその昔の大戦で砕けてしまい、

今は七つの欠片となって力を七つに分け、現代に残っているという。

そして常識で考えればその欠片を合わせれば元のエクルカリバーが戻ってくる……そう考える。

つまり奴の手には教会から奪った二つのほかにまだ欠片を持っていると考えた方が良いし、

それが完成した際の性能の試験も必要になる。

ここ数日で聖職者虐殺のことから考えれば奴がここを試験の土地に選ぶ可能性は、

ほぼ確実といっても良い。

そんなわけで俺は全員……木場以外のメンバーを自宅へと呼んだ。

そして、時間は夜の十一時を示していた。

「イッセー君。本当にコカビエルは」

「黙って待っていろ。奴は……」

その時、外に見知らぬ魔力が二つと弱っているがイリナの魔力が感じられた。

姿勢を崩さないまま、外へ視線をやるとちょうどコカビエルと思わしき初老で、

十枚もの翼を生やした堕天使と目があった。

既に全員、窓から差し込む月明かりによって床に照らされた影に気づき、

窓の外へと視線を向けていた。

「お前がコカビエル……だな」

「ああ。いささか年上に対する礼儀がなっていないようだな……こいつと同じように」

そう言って、空いている窓に向かって俺の部屋へと抱えていた何かを放り投げたが、

それは床にぶつかる前に俺によって受け止められた。

「……アーシア、頼む」

「は、はい!」

傷つき、血だらけのイリナを彼女に託し、俺は外に佇んでいる二人へと視線を向けた。

「ほぅ。俺にそのような視線を向けるか……サーゼクス・ルシファーの妹よ。

そして名も知らぬ下級悪魔よ」

「向けるに値することを貴方はやったのよ」

「ふん。その紅色の髪、そして眼つき……貴様の兄にそっくりだ。

見ているだけでも反吐が出る。平和という夢物語を見ていた兄と貴様はそう、変わらんようだ」

直後、部長の全身からにじみ出るように怒りに満ちたオーラがあふれ出してきた。

家族を侮蔑されたから……それともう一つの理由をあいつのオーラから感じる。

「兄様を……我らが魔王を侮蔑した償いは貴方の死で償ってもらうわ」

「ふん。償えさせるものならやってみろ、貴様の領土の駆王学園で待っている。

少しばかり、余興も準備している。行くぞ、フリード」

「あいあいさ!」

隣にいたフリードと呼ばれた白髪神父は着ているコートから何かを取り出し、

それを俺達の方へ放り投げると、投げられたものが閃光を放ち、俺達の視界を潰した。

視界の機能が回復した頃には目の前に、二人の姿はなかった。

「みんな学園に行くわよ! 我らが王を侮辱した罪を償わせるわよ!」

その一声で俺たちは学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が学園へ到着すると、すでに会長の卷族という先客が待っていた。

「ソーナ、今の状況は?」

「グラウンドにて力を開放するコカビエルと、

その近くで何やら作業を行なっている堕天使を確認しました」

コカビエル、フリード以外の堕天使……それが、

さっきあいつが言っていた余興という言葉を表わすものを制作する男なのか……。

「現在、学園の周りを結界で覆っています。

ですがこれはあくまでも応急処置のようなものです」

「外に被害が出なければそれでいい。会長たちは結界を破れないように張り続けてください」

「無論そのつもりです。ですが兵藤君、相手は聖書にも名が載っている古の堕天使です。

油断はくれぐれもしないでください」

俺は会長の言葉に何も返答を返さず、首を縦に振った。

「ソーナ、レヴィアタン様には」

「……言っていないわ。貴方の方こそ」

「援軍など必要ない」

俺の言葉に驚いた様子で会長と部長がこちらを振り向いた。

聞いた話では会長には姉がおり、その姉は冥界を統治している四大魔王の一角を担われている。

それに部長の実兄はその頂点に立つ魔王。

この状況で、呼ばないことも異常だが援軍を、

必要ないと言ったことも異常……二人はそう考えているんだろう。

「俺がコカビエルを潰せばいいだけのこと……それに、この領土はグレモリー領であり、

ルシファー領ではない。ま、ここまで大ごとになったから、

連絡は行っているとは思うがな……一時間か二時間。

別に油断はしていない、余裕も感じてはいない……だがな、奴に負ける気もない。

お前がここの領土の主なら、領地の問題は領主が解決する……そうだろ」

そういうと、先ほどまで不抜けていた奴の表情にやる気が満ちていくのが分かった。

「みんな! コカビエルを倒して、もう一度、あの学園へ通うわよ!絶対に勝つわよ!」

『はい!』

部長の一声に全員の気合いのこもった声が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー。ありがとう」

コカビエルがいるグラウンドへと向かう最中、私―――リアス・グレモリーは、

目の前を歩いているイッセーにお礼を言った。

彼は何も言わず、スタスタと先を歩いていくがその背中からまるで、

お父様にお叱りを受けているような感じを受けた。

シャキっとしろ……そんな風に感じた。

私は少し、引いていたのかもしれない。

相手は聖書にも名を残している古の堕天使、コカビエル。

それに伝説の聖剣、エクスカリバーだって向こうにある。

本当に私たちだけで勝てるのか……そんな感情が、

私の全身を駆け巡っているときにイッセーの喝が響いた。

援軍は来る……さっき、こっそりと朱乃から教えて貰った。

本来ならばイッセーの言う通り、

領地のことは領主が解決する……でも、今の私ではそれは出来ない。

だから、私は援軍が来るまでの間、必ず耐えてみせる。

この街を……学校を護るために。

そんなことを思っているといつの間にかグラウンドにたどり着き、

目の前に倒すべき相手が立っていた。

「来たか……誰が来る。レヴィアタンか? サーゼクスか?」

「レヴィアタン様とサーゼクス様に代わって」

刹那、目の前で一瞬眩しいくらいの閃光が起こった。

『ディフェンド、プリーズ』

視界が元に戻り、目を開くと私たちの目の前に大きな魔法陣が展開されていた。

「ほぅ。貴様だけは別格らしいな……だが、貴様もこいつには勝てん」

何が起こったかは両者しか分からないことだけど、コカビエルはそんなことなど気にも留めず、

次の一手を打つために指を鳴らすと私たちの背後に大きな魔法陣が展開された。

そこから現われたのは両手に鎌を持ち、口から鋭い牙を私たちに見せつける圧倒的な存在。

「キ、キマイラ! どうしてこんなものがここに!」

「俺が作ったのだよ。色々と苦労はしたがな」

合成獣キマイラ。あまりの凶暴さゆえに最初は期待されていたけど、

倫理的な理由から実験はすべて中止になってそのレシピも全て闇に葬られたはず!

『ディフェンド、プリーズ』

刹那、キマイラの姿が消えたかと思うと背後から聞きなれた音声が聞こえ、

振り返るとイッセーが二つの魔法陣の楯でキマイラの二つの鎌を防いでいた。

ま、まったく見えなかった!

「こいつは俺がやる。後の奴らを頼む」

『テレポート、プリーズ』

そう言い、イッセーはキマイラ事どこかへと転移した。

直後、旧校舎の裏手から夜空を照らしだす輝きが見えた。

「貴様らの相手はこいつだ」

コカビエルが再び指をパチンと鳴らすと彼の近くに魔法陣が現れ、

徐々にそこから何かが現れてきた。

「ケ、ケルベロス!」

魔法陣から出てきたのは三つ首の獣で地獄の番人のケルベロスだった。

「朱乃!」

「はい!」

私と朱乃は背中から翼を出し空中へと飛び出した。

『オォォォォォォォォォォォッ!』

「させません!」

私めがけてケルベロスの一つの首から火球が放たれてきたけど、

私に当たる前に火球は朱乃によって凍らされ、砕け散った。

「喰らいなさい!」

私の滅びの力が凝縮された魔力の塊が放たれたのと同時に火球が放たれ、

それらはぶつかり合った瞬間、爆音とともに消え去った。

流石はケルベロス! タダでは勝たせてくれないわね!

「隙だらけ」

直後、横から小猫が飛んできてケルベロスの三つ首がつながっている部分へ、

激しい拳打を打ち込んだ。

あまりに激しい拳打を入れられたケルベロスは一瞬グラついたけど、

すぐにまたこちらを睨んできた。

「もう一発プレゼントですわ」

夜空から雷鳴が鳴り響き、一発の落雷がケルベロスに直撃し、

爆音と雷光が辺りに放出された。

さらに落雷を受けて隙だらけのケルベロスの腹に滅びの魔力の塊をぶつけた。

でも、消滅はせずに腹部からどす黒い血を出しただけだった。

いける! この調子でいけばケルベロスを倒せる!

『グルルルルルルルル!』

後ろから唸り声が聞こえ、全員が後ろを振り向くとそこには今、

私達が闘っているケルベロスと同種族であろうケルベロスがもう一体いた。

「な! もう一匹いたの!?」

「リアス! アーシアさんが!」

ケルベロスという圧倒的な存在の前に力が抜けたアーシアがへたり込んでいた!

ケルベロスがその大きな口を開き、火球をアーシアに向けて放とうとした瞬間!

『ギャァァァン!』

ケルベロスの悲鳴が辺りに響き渡り、どす黒い血液が辺りにブチまかれた。

 




おはようございます! 暑い。パソコンがいつ壊れるか超心配


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第十九話

首をひとつ、失ったケルベロスはあまりの痛みに悲痛な叫びをあげながら、

のたうち回っていた。

「助太刀しよう」

アーシアをケルベロスから守ってくれた人――――それは以前、

旧校舎の部室にやってきた青い髪に緑のメッシュを入れたゼノヴィアだった。

ゼノヴィアはその握っている聖剣を持ち、痛みにのたうち回っているケルベロスに向かっていき、

もう一本の首をはね、さらなる痛みで動けないでいるケルベロスを横に一閃すると、

塵となってケルベロスは消滅した。

「朱乃! 小猫! 私たちもケリをつけるわよ!」

朱乃の落雷と私の滅びの魔力の塊、そして小猫の激しい拳打を同時に受けたケルベロスは、

その場から逃げようと後ろを向いた瞬間、突然地面から刀が生え、

ケルベロスの全ての足を地面に突き刺して拘束した。

「部長! 今です!」

声の主は顔を見なくても分かった。

「朱乃!」

「はい!」

数秒、魔力を高め、今もてる全ての力を凝縮させた滅びの魔力の塊と、

幾つもの落雷を直撃したケルベロスはついにその体を地面に這いつくばらせ、目を閉じた。

「やった」

ホッと一息ついたのもつかの間、向こうから聞こえてくる心のない拍手に私たちはすぐさま、

意識をそっちへ持っていかれた。

「おめでとう。よく、ケルベロスを倒したものだ」

コカビエルがそう言った直後、彼の背後からすさまじい輝きが発せられ、

辺りを明るく照らし出した。

私はその輝きを見た瞬間、背筋が凍りつき、

言葉を発することができなくなってしまったうえに体がカタカタと震えだした。

あの光が何なのかはまだ私も完璧に理解できていない……でも、

私の……悪魔の遺伝子があの力は危険だと私自身に伝えているようだった。

「コカビエル、完成したよ」

「そうか。よくやった、バルパー」

その名には聞き覚えがあった。

バルパー・ガリレイ。向こうでは皆殺しの司教と呼ばれ、

祐斗達被験者の人生をめちゃくちゃにした最低の男の名前。

「回収したすべてのエクスカリバーを合体させた。フリード」

私はコカビエルのその話を聞いて愕然とした。

エクスカリバーは欠片になっても並みの悪魔なら一瞬で、

消滅してしまうほどの聖なる力を持つ伝説の剣! その欠片がすべてではないとはいえ、

合わさった……本当に覚悟を決めないと私達が……。

「あいあいさ」

暗闇から白髪の神父が現れ、

校庭に突き刺さっている聖剣を手に取り、私達の方へと向いた。

「四本のエクスカリバーが一本になったことで下の術式も完成した。

後20分もすればこの町は跡形もなく消える。解除方法はコカビエルを倒すことだけだ」

下の術式!? いつの間にそんなものをこの街に施したの!?

すると、憎悪の色を顔中に乗せた祐斗が一歩前に出て、

バルパーと白髪神父が握っている聖剣を睨みつけた。

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残りだ。今は悪魔として生きている」

「ほぅ。こんな極東の国で出会うとはな。数奇な運命とでもいうべきか」

バルパーは嫌な笑みを浮かべ、祐斗の方を見た。

「どうしてあんな惨い計画なんかを実施したんだ!」

「私はな。聖剣が好きなのだよ。幼いころから本を読みそれに興奮したものだ。

自分も本の中のヒーローのように悪を切り裂きたいと……だが、

その夢はあっけなく砕け散った。私には才がなかった。聖剣を扱う才がな……そして、

私は研究の道へと入った。そして知ったのだよ。聖剣を扱うものは皆、

体内に聖剣を扱う因子が存在していることを……そこで私は思いついた。

その因子を抽出し、体内に埋め込めば使えるのではと」

「それで……自分の夢を叶える為だけに多くの少年たちの命を奪ったのか!」

「それがなんだ! 私のおかげで聖剣使用者は増加した! だがミカエルどもは俺を、

異端者として断罪し、追放した! これがその因子を集め、

結晶化したものだがこんなものなどいらん。

環境さえあれば量産など簡単だ。貴様にくれてやろう」

そう言い、バルパーは地面に結晶を転がし、祐斗の足もとへと転がした。

祐斗は涙を流しながら、その結晶を手に取り抱きしめた。

彼がその結晶をもって抱きしめた途端に結晶が光り輝き始め、

結晶から光の集まりがいくつも出てきて、彼の周囲を回り始めた。

その輝きはエクスカリバーのものとは違い私たちに恐怖ではなく、

安心を与えてくれている気がする。

その光景に私たちもバルパーもコカビエルも驚いていた。

「バカな……何故だ! 研究の際はこのような現象は起こらなかったはずだ!

その結晶に何があるというのだ! ただのゴミ同然の奴らの因子だぞ!」

その光の集まりはやがて彼の中へと入り込み、直後、

彼の体全体が淡く輝き始め、徐々に魔力が上がっていくのを感じた。

「ゴミじゃない……人間だ。バランスブレイク」

その一言を発した直後、夜空を切り裂くように上空から光が彼の前に落ち、

やがてその光は一本の刀へと変わっていく。

その刀には悪魔の魔力、そして聖なる力が感じられた。

彼がその刀を手に取ると、輝きは消え去った。

「バランスブレイカー。この剣は皆の思いが詰まった最高の刀、

聖と魔が宿った剣。双覇の聖魔剣(ソードオブビトレイヤー)」

その瞬間は彼がバランスブレイクへと至った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ! フリード!」

僕はナイトの特性である速さで高速移動してフリードに斬りかかった。

フリードは四本のエクスカリバーを統合した刀で防ごうと構え、

互いの刀がぶつかりあった直後、金属音を鳴り響かせた。

しかしその直後に今まで相手の刀から強く……それこそ、

僕達を殺すくらいに発せられたオーラが一瞬にして弱弱しくなった。

「おいおいおいおい! 本家本元の刀がそんな駄剣に負けるのかよ!」

フリードは舌打ちをし、僕を睨みつけながら一旦距離を取り、僕に刀の切っ先を向けた。

「伸びろぉぉぉ!」

彼のエクスカリバーが意思をもったかのようにウネウネと動き出し何本も枝分かれして、

神速でこっちに向かってきた。

刀身を伸ばすエクスカリバー・ミミックの力と対象に、

凄まじい速度を付加するエクスカリバー・ラピッドリの効力……そう言えば、

四つのエクスカリバーの欠片が集まったのがフリードが持っている刀だったね。

「はぁ!」

横薙ぎに聖魔剣を振るうと強いオーラが放たれてさっきまで見えなかった彼のエクスカリバーが、

刀身に無数のヒビをつけた無残な姿でその姿を現した。

最初の時の強いオーラは面影をなくし、今では僕が普段創造して使っている普通の魔剣の方が、

はるかに強いオーラを発しているんじゃないかと思うくらいに弱くなった。

いける……みんなの思いが詰まったこの刀で!

「おいおいおいおいおい! 本気を出せよ本気をぉぉぉぉぉぉぉ!」

不意に彼の刀の刀身が消え去った。

姿を消す能力を持つのはエクスカリバー・トランスペアレンシーのみ……でも、

そんなに刀に殺気を乗せていたらせっかくのエクスカリバーの能力も意味がなくなる。

僕は心の中で笑みを浮かべながら殺気を感じる部分に刀を全力で叩きつけると、

金属音を響かせながらフリードのもとへと戻っていった。

……あと一回、ぶつけられたら砕けたんだけどな。

「私も参戦しようか」

横殴りにゼノヴィアが入ってきた。

でも彼女が握っているものは明らかに僕のよりも強いオーラを放っていた。

「デュランダル、こいつを使うのは久方ぶりだ」

デュランダル!? エクスカリバーに並ぶ伝説の剣じゃないか!

そうか、彼女は人口の聖剣使いじゃなくて天然の使い手なのか。

だから二つもの伝説級の刀を使えるんだ。

その光景にバルパーもコカビエルも驚いていた。

「お前もお前もうざったいんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

彼の刀身が消え去り、殺気がこちらへと向かってくる。

ゼノヴィアは軽くデュランダルを横に振るうとバキィィンン! というガラスが、

砕けた際に聞く音を発しながら、砕け散った無残な姿でエクスカリバーが姿を現した。

「エクスカリバーがどれほど強くても使用者が弱くては意味がないな。

宝の持ち腐れ、豚に真珠だな……止めは貴様に渡そう」

「ありがとう」

彼女に礼を言い、僕は全速力でフリードに近付くと彼は砕け散ったエクスカリバーで、

僕の振り下ろす刀を防ごうとする―――――脆い!

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

刀を全力で振り下ろした直後、ガラスが砕けるような音と肉を切り裂く音が聞こえるとともに、

辺りに鮮血をまき散らしながらフリードは地面に倒れふした。

「やったよみんな」

僕は刀を握り締め、天を仰いだ。

「そ、そんな……有り得ない……反発し合うものが合わさるなど」

フリードが倒されたのを見ていたひどく狼狽した初老の堕天使の姿が見えた。

そうだ、まだこいつがいた。

「そうか! 分かったぞ! 

先の大戦で聖と魔のバランスが崩れているならば説明がつく! 魔王だけではなく神も――――!」

直後、僕たちの視界に鮮血が舞った。

その鮮血を散らしているのはバルパーだった。

腹部に太い光の槍を受け、口から血を流し、宙に浮いているコカビエルを一度、

見た後に地面に倒れ伏し、動かなくなった。

近くに行かなくても分かった……即死だった。

「バルパー、お前は優秀だったよ。優秀だったが故にその結論に至ってしまった。

貴様がいなくてもこの計画は進んでいたのだよ」

彼が地面に足をつけた瞬間、僕達を押しつぶすほどの重い重圧が掛けられた。

っ! これが古の戦いを生き残った堕天使の幹部のプレッシャー!

剣を握っている手はカタカタ震え、額から冷や汗が流れおちた。

「貴様らは使える主を失ってもよく戦う」

主を? ……いったいどういう。

「どういう意味だ!」

コカビエルの言葉に一番早く反応したのはゼノヴィアだった。

「教えてやろう。魔王も神も先の大戦で死んだ!」

衝撃の内容だった。

先の大戦で魔王様が戦死したというのは聞いていた。だから今の四代魔王制がつくられ、

今の平和な冥界ができた……あの大戦で、

死んだのは魔王だけじゃなくて神までも死んでいたのか!

「嘘だ……嘘だ」

「わ、私たちはいったい……何を信じて」

神を崇め、信じていた二人の口から信じられないといった言葉が漏れ、

見ていられないくらいに狼狽し、地面に膝をついた。

「そろそろキマイラも奴の死体を持って帰ってくるだろう」

そうだ……さっきからイッセー君の姿が見当たらない。

最初からこの場にいた部長たちは知っているだろうけど、

途中から来た僕は彼がどこで何をしているかは分からない。

直後、コカビエルの背後に魔法陣が現れた。




おはようございます!


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第二十話

「おぉ、帰ってきたか。キマイラ」

魔法陣から出てきたのは今は製造自体が禁止されているキマイラ。

それ自体も驚きだけど……どこか、あのキマイラ。ひどく怯えているような……それに、

至る所からどす黒い血液をダラダラ垂らしている……まさか。

『ギャ……ァ』

コカビエルもキマイラの異常なまでの怯えに戸惑いを覚え、

目を細めてキマイラを見た瞬間!

『ギャァァァァ! アァァァァァァァ!』

「どうしたキマイラ!」

突然、キマイラは叫びをあげ、背中から翼を生やして夜空へと飛ぼうとした瞬間!

キマイラの全身に凄まじい数の魔法陣が出現し、体内から体外へと出るように炎が放出され、

断末魔を挙げるキマイラを容赦なく焼き焦がしていく!

「くっ! キマイラ!」

突然のことにコカビエルも驚きを隠せないでいた。

炎によって焼き焦がされているキマイラの下を通って、

こちらへとゆっくりと歩いてくる存在が見えた。

その存在は異常なまでの魔力を有し、赤色の鎧を身に纏った人物―――――兵藤一誠だった。

「き、貴様まさかキマイラを一人で」

コカビエルの話を無視し、彼は魔法陣を自分の目の前と僕達の目の前に出現し、

僕たちの前にある魔法陣から出てきた。

そして、膝をつき、狼狽しているゼノヴィアとアーシアさんのもとへと向かい、

彼女たちの前で屈み、彼女たちの手を軽く握りしめた。

「イッセー……さん」

「話は聞いていた……アーシア、思い出せ。お前の最後の希望は何だ。

目に見えないものがお前の最後の希望だったのか」

アーシアさんにそういうと、今度はゼノヴィアさんの方へと向いた。

「名前は」

「……ゼノ……ヴィア」

「ゼノヴィア。お前の希望は神だった。だがその神はいない……今、

お前が絶望しているなら、俺がお前の最後の希望になる」

「最後の……希望」

「神はいない……でも、俺はいる。お前を絶望させたものを俺が消し去ろう」

そう言い、イッセー君はコカビエルの方へ向き、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様……いったい何者だ」

『チョーイイネ! スペシャル、サイコー!』

俺の背後に赤い魔法陣が出現し、そこから炎を纏ったドラゴンの幻影が出現し、

背中に突っ込むと胸からドラゴンの頭部が現れた。

「はっ!」

ドラゴンの頭部から火炎が吐きだされコカビエルに直撃する。

だが、コカビエルは己の眼前に光の壁を出現し、放たれる火炎を完全に防いでいた。

……なるほど。流石は古の戦を生き残り、聖書にまでその名を刻まれた堕天使だ。

「はぁぁ!」

光の壁が砕けると同時に火炎もかき消された。

「貴様の魔法は未知のものだがこの程度では俺は殺せん!」

「安心した。この程度で死んでもらっては意味がないからな。

俺は兵藤一誠……リアス・グレモリーのポーンであり下級悪魔。

お前には新しい魔法の実験台になってもらう」

『ハリケーン・ドラゴン。ビュー! ビュー! ビュービュービュー!』

魔法を発動した瞬間、風を纏った緑色のドラゴンの幻影が現れ、

俺の周りを旋回し、ドラゴンの幻影が消えると俺が纏っていた赤い鎧の色が変わり、

赤色から緑色へと変化した。

「見たことのない魔法だが……所詮、下級悪魔が扱う魔法だ!」

コカビエルは手をかざし、

目の前に大量の光の槍を生み出すとそれを俺に向かって一気にはなってきた。

『チョーイイネ、スペシャル。サイコー!』

魔法陣を展開すると、俺の背後に魔法陣が出現し、そこから大きなドラゴンの

一対の翼の幻影が現れるとこちらに向かってくる大量の光の槍を打ち砕くと、

俺の周囲を旋回しはじめた。

それと同時に辺りに強風が吹き荒れ、砂埃を上げながら幻影が俺の背中にくっつくと、

幻影が一瞬にして一対の翼へと変化した。

「その翼は!」

「さあ、ショータイムだ」

コカビエルと同時に空へと飛びあがり、コカビエルは光の槍を放ってくるが、

俺はそれを翼を駆使して避けると奴に向かって突進し、

奴の顔面へと拳を沈めてそのまま殴り飛ばした。

「ぐっ!」

コカビエルは鼻を押さえながら、翼を羽ばたかせ、

俺から遠ざかろうとするが俺はそれを上回る速度で奴に近づくと、奴の胸倉をつかんだ。

「それで逃げたつもりか?」

奴に蹴りを入れ、距離を取り、互いに平行になりながら飛行を続ける。

『スモール、プリーズ』

「な!? うおっ!」

俺が小さくなり、僅かに開いている窓の隙間から外に出るがコカビエルは目の前に、

迫っている校舎の壁に気づかずにそのままガラスに突っ込んで、

ガラスを割りながら校舎の壁を貫通させて、俺がいる場所へと戻ってきた。

ガラスに突っ込んださいにそこらを切ったらしく、顔や腕から血を流していた。

「ふざけるな……この俺が……聖書にも名を残している俺が下級悪魔などに、

圧倒されるなどあってはならん!」

コカビエルは激高し、ひと際太い、光の槍を生み出し俺に投げつけてくるが俺は、

両方のドラゴンの翼を使ってそれを叩き潰した。

その光景を目の当たりにしたコカビエルの顔は絶望の色が侵食していき、

俺をまるで化け物でも見るかのような目で見てくる。

「なかなかの威力だった。片方の翼だけじゃ無理だった。だが、相手が悪かった。

残念だがこれでフィナーレと行こう」

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

魔法を発動させ、コカビエルの上空に大きな緑色の魔法陣を出現させ、

コカビエルの周りを高速で旋回し、強風で奴を縛り上げた。

「おぉぉぉぉ! この俺がぁぁぁぁぁぁぁ!」

そのまま風に持ち上げられた瞬間、緑色の魔法陣から雷で形作られたドラゴンが放たれ、

コカビエルに直撃しながら奴を地面へと叩き落とし、辺りの地面を砕いた。

その衝撃は周囲の地面に波のように伝わり、校舎の全ての窓という窓を砕き、

周囲を覆っている結界すらも破壊する勢いで学校全域に伝わった。

「ふぅ」

一息つき、地に足をつけると背中に生えていたドラゴンの翼が消え去った。

「イッセーさん!」

地面に降り立った俺の胸にアーシアが飛び込んできた。

「どうした」

「イッセーさんは最後の希望です……でも、私は主を忘れることはできません」

「それでいい。俺は最後の希望であって、お前の全ての希望じゃない」

そう言い、彼女の頭を撫でていると近くに、

ゼノヴィアを含めたオカルト研究部員達がやってきた。

「兵藤一誠……お、お前は私を」

「支えてやる。お前だけじゃない。

アーシアも部長もオカルト研究部員全員を俺が支えてやる」

そういうと、この場にいる全員の表情笑みが浮かべ、そしてその笑みはすぐに消え去った。

全員、俺の背後に視線が集中しており、気になった俺も振り返るとそこには、

ボロボロの姿になりながらも立っているコカビエルの姿があった。

「ハァ……ハァ」

「まだ立つか。しつこいやつだ」

止めの一撃として、もう一度、魔法を発動しようとした瞬間、

夜空を割るようにして地上に向かって真っ白な流星がコカビエルに向かって落下した。

「なんだ」

輝きが消えるとそこにはコカビエルを肩に担いだ白い鎧を身に纏った存在が、

こちらの方を向いて立っていた。

『感じる……やつだ』

何処からともなく声が聞こえてくる。

その声を聞いた瞬間、俺の魔力が一瞬だけ乱れた。

……何なんだ。

「だが、鎧の色が違うが」

『鎧の色など関係ない。奴からあいつの魔力を感じる』

「そうか……ようやく見つけたよ。俺のライバル、またゆっくり会おうじゃないか。

コカビエルとフリードに関してはこちらのミスだ。自分たちのミスは自分で修正する。

アザゼルがよくいう言葉だ。ま、そんなわけで君とは一度、ゆっくりと話したい」

理解しがたい会話をしながら奴は勝手に現れ、

フリードとコカビエルを担いで勝手に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後の休日、アーシアに無理やり気味に旧校舎の部室へと連れてこさせられた俺は、

部室に座っている意外な人物に若干驚いていた。

「やあ、アーシア。兵藤一誠」

目の前にいたのはヴァチカンの聖職者であるはずのゼノヴィアだった。

イリナと一緒に向こうへ帰ったと思っていたんだがな……。

「神がいないことを知り、破れかぶれで悪魔に転生した。それに今の私の希望はお前だからな」

そう言い、ゼノヴィアは俺の隣にやって来て急に腕に抱きついてきた。

「これからよろしく頼むぞ。イッセー」

「ず、ずるいです! 私もお願いしますね! イッセーさん!」

ゼノヴィアとは逆の腕に満面の笑みを浮かべたアーシアが抱きついてきた。

「おっほん! 神側が悪魔側にコンタクトを取ったらしいわ。

まことに遺憾ながらそちらと連絡を取りたいってね。近々、

堕天使のボスのアザゼルが会談を開くそうよ。三陣営のね」

淡々と話していく部長の言葉の節々にどこか刺々しい感触を感じた。

「何を不機嫌になっている」

「別に! これが私なのよ!」

アーシアとゼノヴィアは笑みを浮かべながら俺の腕に抱きつき、部長は怒り、

副部長は部長の様子を見て含み笑いを浮かべ、木場と塔城は我関せずといった様子で、

ソファに座っている。

……やはり、よく分からん。




うっす!


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第二十一話

「よっ! 座れ座れ」

魔法陣で転移すると俺――――兵藤一誠の目の前にニコニコ顔の男が近寄って来て、

俺と肩を組むとそのまま無理やり気味にソファに座らされた。

最近、俺はこの男に散々、振りまわされている。

黒髪で悪そうな風貌、そして最近は浴衣にでもハマっているのかこいつのマンションに来るたびに、

浴衣を着ているのを見ている。

それに何故かは知らんが契約の際の代価として非常に高価であろう、

金塊やら宝やらを俺にくれたりする。

まあ、そのおかげで俺に対する部長の評価はこいつに会うたびにウナギ登りで、

給料もマックスの金額に達していることはいるんだが……何故か、

こいつからはレイナーレと同質の魔力を感じる。

「あんたはいったい何なんだ」

「何って日本が好きな外人だけど。I love Japan!」

「確かに今のあんたを見ていると、

そう思いたいんだが……あんたからは魔力を感じる。堕天使のな」

そういうと黙りこくり、

観念したのかうっすらと微笑を浮かべながら背中から合計十二枚の翼を出した。

やはり、こいつは堕天使。

それもレイナーレなんか足元にも及ばないほどの強力な力を感じる。

「いや~。新人悪魔に魔法が超強い奴がいるって聞いていたんだがまさか、

魔力に関しても強いとはな」

「もう一度聞く。あんたは何なんだ」

「俺はアザゼル。堕天使のトップをしている」

堕天使のトップ……まあ、

魔力からして下級はないと思っていたがまさか一種族の頭をしていたとはな。

……でも何故、俺を連日呼ぶ必要がある。

「お前をここ最近、呼び出したのはお前を直接見たかったからだ。

魔力の質、量。魔法も見たかったんだが流石にそれは無理だったがな。

コカビエルを倒したのも頷ける」

アザゼルとかいう男は何やら腕を組んで独り言を言いながら、

うんうんと俺の方を見て頷いていた。

以前、コカビエルと白髪神父を連れ帰った白い鎧を着た奴も、

こいつの名前を言っていた……つまり、あいつも堕天使側の存在という訳か。

「ま、そんなわけだ。お前とは少し話がしたい」

そう言いながらアザゼルは冷蔵庫からビールと、

ジュースを持ってきて小さなテーブルに置いて、俺に対面する形で座った。

「いや、ビックリしたぞ。てっきり魔法を使うもんだから遠い先祖に、

そういう家系があったのかと思えば辿っても辿ってもごく普通の一般人しかいなかった」

一体どうやって俺の家系を調べたかが知らんが正直、昔の母さんと父さん、

そして祖母と祖父を見ていても本当にごく普通の一般人としか思えない。

もしもあれで、どっかの有名な人の家系が混じっていますって知ったらたぶん、

俺は驚きすぎて逆に引く。

「普通、魔法使いってのは遠い先祖に魔法使いがいるもんだ。

だがお前には一切ない……つまり、お前から始まる魔法使いといえる」

「俺から始まる魔法使い……ねえ」

缶ジュースを一口飲みながらそう呟くがアザゼルが言っていることはあまり信じられないが、

一応筋は通っている。

あのドラゴンも言っていたが俺の魔力を生産しているのはあいつだが、

それを魔法として扱うのかは俺自身……つまり、俺が元来持っている才能だけで、

魔法を使役しているということか。

ふと、壁に掛けられている時計を見てみるとそろそろ終業時間が迫っていた。

「お、もうこんな時間か。いつもありがとな。今日の礼はこいつだ」

そう言うとアザゼルはポケットから真っ白な石を取り出した。

「その名もムーンストーン。月光龍(ムーンライトドラゴン)っていう、

ごくたまにしか姿を見せないドラゴンからしかとれない超貴重な石だ。

これが競りに出された日には何人もの資産かが消えるといわれているくらいに貴重な石だ」

そう言うとアザゼルは窓を覆っているカーテンを開け、月の光を部屋に中に入れると、

その光が集まっている部分に石を近づけると今まで真っ暗だった部屋が淡く、

白色に照らし出された。

「月の光を浴びると美しい輝きを放つことから月光龍。やるよ」

「……あぁ。じゃあな」

『テレポート・プリーズ』

俺は自室にゴール地点を設定したテレポートを発動させ、自分の部屋へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信じられないわ」

翌日の朝、俺の家に何故かオカルト研究部の奴らが全員来て俺の部屋でまったりとしていた。

なんでもアザゼルが昨晩、俺に行った行為は営業妨害に当たるらしく、

さらに俺に接触してきたことを不満がっている。

特段、噂で聞くような凶悪なオーラは感じなかったし、むしろ穏やかな奴だがな。

「確かにイッセーは魔力も多くて魔法も見たことのないものをいっぱい、

作ってクールでかっこいいけどだからって同性が近寄ったらダメだと思うの!」

「知らん」

俺は部室から持ってきた古い魔法書なるものを読みながらコーヒーを飲み、

部長の言い分を華麗にスルーした。

副部長は部長の言い草にいちいち含み笑いを浮かべ温かい視線を向けている。

「はぁ。私、イッセーがアザゼルに取られたら寂しいわ」

「だから知らん。そもそも取られることはないだろ」

「彼の言うとおりだよ」

この場にはいない第三者の声が聞こえ、驚きながらもそちらのほうを向くが誰もいなかった。

俺が声を聞くまで魔力を感じなかったとは……相当強いやつか。

少々、警戒をしながらも周りを見渡すが第三者は見当たらなかった。

「こっちこっち」

すると、俺の机の引き出しがひとりでに開き、

そこから紅色の髪をした部長によく似た男性と銀髪で、

メイド服を着たグレイフィアさんが出てきた。

……どっかの耳のない狸か。

「お、お兄様!? ていうか何故、そこから!?」

その姿を見た瞬間、部長は慌て、ほかの部員達は一斉にひざまづいた。

「いやな。レヴィアタンからこうすれば受けるといわれてね。

あ、今日はプライベート出来ているからリラックスしていて構わないよ」

レヴィアタン……四代魔王の一人の名か。

そして今俺の目の前にいるのが実質、悪魔の世界である、

冥界の頂点に立っている冥界最強と、

いわれるほどの戦闘力を持つ男――――サーゼクス・ルシファー。

「まずリアスの質問だが今週に授業参観があるからね。

それを見に来たのと三大組織の会議をここで行おうと」

その瞬間、俺は思わず飲んでいたコーヒー噴き出し、

グレイフィアさんとサーゼクス様を見た。

「ああ、語弊があったね。駆王学園で行うつもりで言ったんだ」

あ、焦った。まさか、俺の家で会談を行うのかと思った。

「グレイフィアね。授業参観があることを言ったのは」

そういうと、グレイフィアさんは無表情のまま首を縦に振った。

「私はお嬢様に仕えるメイドであり、サーゼクス様のクイーンでもありますので主に報告と、

お嬢様の卷族の皆さまのスケジュール管理は私がしております」

それを聞くと、部長は嘆息する。

「あ、父上も来ると言っていた」

それを聞いて床に手を付いて軽く絶望しながら、再び大きな嘆息をついた。

どうやら授業参観に家族である兄と父親に来られることは嫌……こいつの表情と、

雰囲気から考えるに嫌というよりもどちらかというと恥ずかしいと言った様子か。

まあ、そういう奴もいる……待て。確か、さっき部長の兄は今週に

授業参観があると言ったな……ま、まさか母さんは授業参観に。

「それと兵藤様のお母様は授業参観にはいかないらしいです。

理由は息子は見に行かなくても優秀だから見る意味がない。らしいです」

俺はそれを聞いて少し安心した。

母さんが俺をそう思ってくれているなら俺も嬉しい。

「お兄様。学園で会談を行うというのは本当なのですか?」

「ああ。聖魔剣、デュランダル、そして未知の魔法を使う者、

コカビエルの来襲と白龍皇の乱入……とても偶然とは思えなくてね」

そう言い、部長の兄は俺のほうをチラッと見ながらもすぐにその視線をはずし、

妹である部長の方へと向いた。

「兵藤様。申し訳ありませんが今晩、泊めていただけないでしょうか」

「構いません」

そういうことで俺の家に泊まることが決定した。

その後も母さんとサーゼクス様が楽しく談笑したり、何故か俺達を省いて、

母さんの部屋でグレウフィアさんと一対一で話し合ったりしながらも時間は過ぎていき、

あっという間に就寝時間となってしまった。

「……何か御用ですか?」

扉の前にサーゼクス様の魔力を感じ、

そう言うとニコニコと笑みを浮かべたサーゼクス様が俺の部屋に入って来て、

部屋の床に座り込んだ。

「君には感謝しているよ」

それは悪魔として上位の地位にいるものとしての言葉か、

それとも一人の兄としての言葉なのか……真意は分からないが俺は両方に感じた。

「リアスの婚約から始まり、ライザー君の成長を促したのも君、

リアスの心を救ったのも君、木場君を救ったのも、

信じるものをなくした彼女達を救ったのも君だ」

「それが何かの価値があるとは思いませんが」

「あるさ。現にリアスは……」

そこまで言って急に部長の兄が言葉を詰まらせた。

この先を言うべきか言わないべきかを悩んでいるらしい。

「いや、この先は言わないでおこう。君とはもっと話がしたくてね」

その後も夜が更けるまで、俺は部長の兄と一晩中話し明かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、起きてみると既に部長の兄もグレイフィアさんの姿もなかった。

部長曰く、町の下見に行ったらしい。

そういう俺たちはというと何故か、プールの掃除を任され、

俺まで掃除要因として駆り出され、藻だらけのプールの床をせっせとブラシで擦り、

藻を削り取り、水で綺麗に流してから水をためた。

「みんなお疲れ様。掃除のご褒美としてプールに入っていいわよ」

そんなわけで女子と木場は水着に着替えに行ったが生憎、

俺は水泳と言うものに興味がないので太陽の日が当たらない陰でゆっくりと、

休んでいると俺の肩をトントンと軽く叩かれ、

目を開けてそっちを見ると学校指定のスクール水着を着たアーシアと塔城が立っていた。

「イッセーさん! 似合いますか?」

「ああ、よく似合っているよ」

そういうと、アーシアは嬉しそうに頬を緩めてプールへと入っていった……が、

泳げないのか浮き輪に捕まってプカプカと浮いているだけだった。

ちなみに塔城も同じ。

「イッセー♪」

横からまたもや声が聞こえ、

振り向くとそこには布面積が小さい水着を着た二大おねえさまが立っていた。

……学生の割には若干、露出が激しい気がしなくもしないが。

「どう? 似合ってるかしら?」

そう聞く部長の姿はいつも、お姉さまと言われてキャーキャー言われているような姿ではなく、

年相応の女の子のような気がした。

「似合ってる。その後ろにいる奴もな」

「あらあら、私も褒められてしまいましたわ」

「んん! 朱乃と私じゃ私よね?」

「あら、どちらでしょうね」

隣で火花が散りあっているような気もするが、

俺は放置して陰で魔法書なるものを読んでいると隣にゼノヴィアが座った。

視線は外していないが魔力で分かった。

「お前は泳がないのか」

「まあな。私は無縁のところで育ったせいか、興味が薄くてね。

また今度、アーシアに誘われたら泳ぐさ」

そのまま俺とゼノヴィアは陰で全員が泳ぎつかれて寝るまで座っていた。




おはようございます!


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第二十二話

泳ぎつかれ(二人は戦いつかれ)で眠ってしまった奴らを俺の自室へと転移させ、

俺とゼノヴィアで戸締りをしてから二人で帰ろうとしたとき、

校門付近に見知らぬ白髪……というよりも銀に近い色の髪の若い男が校舎を眺めていた。

普段の俺なら普通にスルーしてゼノヴィアと一緒に帰っていたかもしれない。

――――――先日の戦いが無ければの話だが。

「よう、白い鎧の男」

「やあ、俺のライバル」

そのたった一つの会話から俺達の間に重苦しい空気が流れた。

ゼノヴィアも俺の後ろで臨戦態勢をとってはいるが、

流れている重苦しい空気の前に一歩も動けずにいる。

それは強者からの重圧か、それとも俺へすべて任せるといったものなのかは分からない。

「何故、お前のライバルが俺だ」

「ふむ。どうやら君の中のものはアルビオンの言うとおり、

相当不機嫌になっているらしいな」

「アルビオン?」

「君の中にある存在とは対極の存在さ」

そういうと男は腕を軽く上げると男の腕を白い魔力が包み込み、

魔力が晴れると腕に俺の赤い籠手とはま逆の色をした白色の籠手が装着されていた。

確かに対極だな。だが。

「それだけで俺の中のドラゴンと対極な存在とは言えない」

「まあね。今となっては確認する術はない。でもアルビオンが言っている以上、

君の中のドラゴンとやらは対極な存在だよ。今は力は貸していないようだけどね」

そう言い、男は踵を返して俺から離れようとしたから追いかけようとすると、

若干量の魔力の風圧が奴から発せられ、一瞬だけ俺の動きを止めた。

その隙に奴は光となって消えうせた。

「ふぅ。とんでもない奴のライバルになってしまったな、イッセー」

「……さあな」

ゼノヴィアの問いにそうとだけ答えて、俺は家へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、アーシア達が授業参観を行っている間、

俺は母さんと久しぶりに本当の意味での家族水入らずで散歩をしていた。

本来ならば行かなければならない授業参観、だが俺は登校義務免除生なので行かなくても良い。

既に学校にも五回は行っているから今年は行かなくても良い。

ちなみに今日のリハビリは午後から。

「最近、イッセーが楽しそうで母さん嬉しいわ」

「……俺が楽しそうに見える?」

「見えるわ。リアスさんたちに出会ってからイッセーの顔にまた笑顔が戻ったみたい。

顔はまだ無表情だけど雰囲気は昔の笑っているあなたよ」

未だによく言われる。俺は顔にも雰囲気にも感情というものが現れないので本当に、

反省しているのか笑っているのかが一切分からないと。

俺としては別に感情がないという訳ではないんだが、父さんが死に、

母さんも車いす生活になったくらいから顔や雰囲気に感情が現れなくなった。

「この調子だとイッセーの子供も見れるかもね」

「……さあね」

そんな冗談などを交えながらも、俺は母さんと散歩を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

母さんとの散歩も満足し、母さんもリハビリに行ったので俺はなんとなく、

学校へ赴きアーシアの授業参観の様子を覗きに行こうとクラスまで歩いていると、

廊下で人だかりと大量のフラッシュがたかれているのが視界に入った。

「あ、イッセー君。来たんだね」

後ろから木場の声が聞こえ、振り返ろうとしたときに隣にやってきた。

「なんだか魔法少女が写真撮影をしているらしいって噂を聞いてね。

まあ僕の隣には魔法少年が……冗談だって。そんな目で見ないで」

まあ、冗談はさておき、俺達は大量の人だかりが写真を取っている方へと向かうと、

確かに木場の言う通り、魔法使い……と言っていいのか分からんが、

何かのコスプレをした女がポージングを決め、それを撮っている関係図だった。

ふと、そのコスプレ少女の顔を見た途端にどこか生徒会長に趣が似ているのを感じた。

なんか、あのコスプレ少女の目をもっと強い目に釣りあげたら生徒会長が出来るような……。

「おらおら! 学校の廊下でしかも授業参観の日に、

写真撮影会なんかしてんじゃねえよ! 散った散った!」

向こう側から生徒会の男が走り込んで来て、

やじ馬どもを散らせながらコスプレ少女に詰め寄る。

「あんたも今日授業参観なんだからあまり迷惑をかけないでくれよ!」

「ぷんぷん! 私も保護者なんだぞ!」

コスプレ少女はそう言いながら胸を張る。

正直、コスプレしている保護者なんざ……待て。

俺はそこまで考えてピーンと来た。

保護者―――――その言葉は両親という固定概念に縛られがちだが別に両親じゃなくても良い。

妹の参観に姉が保護者として参加してもその姉は保護者として見られる……つまり、

目の前のコスプレ少女は。

「まさかとは思うが……レヴィアタン様……なのか?」

ボソッと言ったつもりなんだが、向こうさんは非常に耳がいいらしく、

さっきの俺のつぶやきを聞き、

こっちを向くと何故か目をキラキラさせて俺の方に駆け寄ってきた。

「やーやーやー! 君が兵藤一誠君だね!」

「え、ええ」

「私はレヴィアたん! 奇遇だねー! 君も魔法使いで私も魔法使い! 

運命を感じちゃうねー!」

「え、あ、お、おう」

「あのイッセー君が押されている……というよりもレヴィアタン様。

流石に公の場でそのような恰好は」

木場は最初から目の前のコスプレ少女が四代魔王が一人の、

セラフォルー・レヴィアタンであると気づいていたらしい。

正直、こういう性格の奴は嫌いだ。

「ふっふーん! これが公の服装だもん!」

「いったい何事ですか?」

と、そこへ会長が到着……しかし、いつもの凛々しい雰囲気は、

コスプレ少女の顔を見た瞬間に消え去り、軽く絶望した表情を浮かべている。

「あー! ソーナちゃん発見!」

そう叫び、レヴィアタン様は思いっきり人前で妹の会長へと向かっていき、抱きついた。

「あ、うぅ、えあぉ。もうイヤ!」

普段の会長らしくない理解しがたい言葉を発生しながら顔を真っ赤にした会長は、

抱きついている姉を引っぺがして廊下を走っていった。

「待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ソーナたぁぁぁぁぁぁん!」

「その呼び方はやめて下さいと何度も!」

叫びは二人の姿が見えなくなっても廊下に響いていた。

「……一番悲しいのは会長の親御さんだろうな」

「イッセー君。それは世界の不条理という言葉で言い表すのが最も平和的だと思うんだ」

遠いところを見るような表情で俺達は世の中の不条理というものを脳裏に焼き付けた。

「ところで部長は」

「部長はお父様と魔王様を案内しているところだよ。おそらく、

アーシアさんも小猫ちゃんも参観は終わっていると思うよ。僕たちも行こうか」

「ちょっと待てよ」

木場と一緒に部室へ行こうとした俺の肩を後ろから掴まれ、静止させられた。

別に顔を見なくても魔力と言い方から誰なのかは分かったが正直、

こいつとは一言も話したくはなかった。

「なんでお前私服なんだ」

「家から来たんだ。私服に決まってんだろ」

「そうじゃねえよ。お前だってこの学園の生徒だろが。学園に来るときは制服を着て来いよ」

どうやら相当、俺のことを気に食わないらしい。

「登校義務免除生だか何だか知らねえけど学生である以上、学校来いよ。義務だろが」

「お前の経験だか何だか知らんがお前の文は矛盾している。

まず、学生の義務が登校であるということは俺に当てはまらない。

俺は登校義務免除という許可を貰って登校していないわけで俺に登校の義務はない。

そして俺はなにもさぼっているわけじゃない。校長、理事長、

および他の教員の許可を貰い、さらには生徒会長からも許可を貰っている。

つまり合法的だ。合法的であるゆえに俺は学校に来ていない。

俺が非合法的な方法で来ていないのであれば話は別だがな。お前と話す気はない」

俺の肩を掴んでいるやつの腕をはじき、そそくさと旧校舎へと向かった。




ども


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第二十三話

翌日、以前からの謎だったアーシア以外のもう一人のビショップについて、

部長の兄から大丈夫だろうという判断を貰い、俺たちに対面させることになったらしい。

部長の口から聞いたのは初めてだが、薄々とは気づいていた。

彼女の手に残っているイーヴィルピースはルーク一つのみ。

駒はそれぞれ、ポーンが八つ、ナイト、ルーク、ビショップが二つずつ、

クイーンが一つの計十六個の駒があるんだが、ビショップのイーヴィルピースを部長が、

持っているのをアーシア以外に見たことがない。

その謎が今日、明かされるわけだが。

「ここですか」

「ええ、もう一人のビショップが封印されている場所よ」

目の前にあるのは幾重にもテープで頑丈に固定され、

幾つもの呪術らしきもので封印を行っている扉だった。

どちらかというとこの呪術は誰かを出られないように封印するというより、

魔力が外に漏れ出ないようにするもの、そしてよっぽど封印しているものが危険なのか、

ある時間になると更新されるようにも設定されている。

「イッセー。今のあなたならこの程度の呪術は解呪できるわ」

部長に言われ、扉に手を置くと呪術の情報が頭の中に入ってくる。

もちろん、解除の方法も。

その方法に従うとものの数秒で封印が解け、扉がキィっと少しだけ開いた。

「気をつけて欲しいのは中にいる子はとてつもなく引きこもりでね。

人に会うだけで拒絶反応をおこしちゃうような子だから」

部長は苦笑いをしながら中へと入っていき、俺達もそれに続いて中へ入ろうとした瞬間―――――。

「イヤァァァァァァァァァァ!」

耳をつんざくような悲鳴が聞こえ、思わず耳を塞いでしまった。

部屋の中は綺麗に装飾されており、部屋の中央には何故か棺桶、そして段ボール箱、

その棺桶の中に金髪の少女が涙を流しながらフルフル震えていた。

「お外に出れますのよ?」

「出たくないぃぃぃぃぃ! お外は危険いっぱいぃぃぃぃぃ!

太陽の光は痛いし、ガーリックはあるし、怖い人たちだらけですぅぅぅぅぅ!」

そう言い、棺桶に入って扉を閉め、中から鍵を閉めてしまった。

「ちょっとギャスパー! 開けなさい!」

『絶対に! ぜっっっっっっっっったいに開けません!』

これは筋金入りの引きこもりだ。

お手上げといった様子で部長が俺の方を向き、俺も仕方なく、目を瞑り、

棺桶の中に入っているギャスパーと呼ばれた少女の魔力を感知し、

棺桶の中からこちらへ転移させるように魔法陣を展開する。

『テレポート、プリーズ』

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! どうして僕が外にぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「逃げるなよ」

今にも逃げようとするギャスパーと呼ばれた少女の腕をつかんだ瞬間、

俺の全身を何かが駆け巡った。

なんだ…………この感覚……一瞬、時間が遅くなったような。

俺は全身を駆け巡った感覚に少年は何かあり得ない物を見たような様子で戸惑っていた。

「イッセー君。その子は興奮すると視界に映った全てのものの

時間を一時的に停止させてしまうセイグリッドギアを宿していますの。

格上の相手には通じないようですが」

時間を一時的に止めるセイグリッドギアか……だから、

さっき時間が遅くなったような感覚を感じたのか。

「うぅ。な、なんで効かないんですかぁ?」

涙ながらに訴えてくる少女の問いに俺は答えられなかった。

「この子の名前はギャスパー・ヴラディ。ビショップで転生前は人間と吸血鬼のハーフ。

駆王学園の一年生で……れっきとした男の子よ」

「…………男……だと」

「……はい」

部屋の中に妙な空気が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、五分ほどかけてギャスパーを部屋から連れ出し、部室へと戻ってくることが出来た。

時計は五分だが、実際の時間的には五分以上経過している。

その理由はすぐにギャスパーがセイグリッドギアを発動し、

俺以外の奴らの時間を止め、俺の時間も普段よりも遅くしたため。

今は段ボール箱の中でお茶をちびちび飲みながら落ち着いている。

「とにかく私と朱乃、そして祐斗は少し出かけるからその間のギャスパーの教育はお願いね」

どうやら三組織の会談の準備諸々を手伝う必要があるらしく、部長と副部長、

木場の三人は出かけてしまった。

部室には俺、アーシア、ゼノヴィア、塔城、そしてギャスパーの五人が残った。

「教育といっても何をすればいいんでしょう」

「とりあえず、ニンニクを段ボール箱に詰めるか」

「ガーリックらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「冗談だ」

俺の冗談を真に受けたギャスパーは眼から涙を流しながら、

段ボール箱から出て逃げようとしたため、バインドで軽く拘束しておいた。

さて、困ったものだ。こうまでも泣き虫な、

性格のギャスパーをどういう風に教育してやればいいものか。

「よし! 私に任せてもらおう。ヴァチカン時代に吸血鬼とも戦ったことがあるんでね。

行くぞ、ギャスパー! 今こそスーパー吸血鬼になるのだ!」

「びえぇぇぇぇぇぇぇぇん!」

段ボール箱にひもをくくりつけたゼノヴィアはそのままズルズルと、

段ボール箱を引きずって外へと行ってしまった。

別に今は生徒もいないから良いんだが……何か不安だ。

俺以外にも不安を覚えているやつはいたらしく、

俺が立ち上がったと同時に全員が立ち上がり、外へと向かった。

「うわぁぁぁぁぁん!」

外に出た瞬間、ギャスパーの凄まじい叫びが聞こえ、その声の方向を向いてみた。

ブゥゥゥゥン! って言ってるぅぅぅぅぅ!」

ゼノヴィアはデュランダルをブンブン振りまわしながら、

泣きじゃくっているギャスパーを追いかけ回していた。

……恐らくだがゼノヴィアは怖いものは慣れるが勝ち! という考え方の持ち主であり、

それを悪魔の弱点である聖なるオーラを弱くしたものを放ちながら追いかけまわすという、

形で実践しているということか。

たぶん部長が期待している教育って言うのはそういう弱点克服、

みたいなんじゃないと思うんだが。

「先輩助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『バインド、プリーズ』

「むぅ? ダメか?」

「ダメだ」

半強制的にゼノヴィアの教育と称した鬼ごっこは終わらせた。

「先輩。お任せ下さい」

妙に自信ありげの表情で塔城が俺の傍にやってきた。

…………まあ、こいつならゼノヴィアみたいなはっちゃけた考えを持っている様子もないし、

こいつになら任せても大なり小なり、結果は出るか。

「わかった、任せる」

俺がそう言ったとたん、塔城はポケットに手を突っ込んでギャスパーを追いかけはじめた。

ギャスパーも何故、追いかけられているのか分からない様子だったが彼女が、

ポケットから出したものを見た瞬間、顔を絶望の色一色に変えた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! ガ――――――リックらめぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ガーリック食べれば口は臭くなる……でも、健康になる」

塔城に任せた俺がバカだった。

だから、部長が教育してねって言っていたのは弱点克服じゃねえよ。

ていうか吸血鬼の弱点克服はほとんど遺伝子に刻み込まれてるレベルの話で、

俺達が解決できるレベルの問題じゃねえだろ。

「たずけでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『バインド、プリーズ』

「むぅ」

「終わりだ」

ギャスパーが両眼から大粒の涙を流し、鼻から鼻水をダラダラ流しながら、

俺の足もとに抱きついてきた時点で強制的に、

教育という名のガーリック追いかけっこは終わった。

「俺が思うにこいつのセイグリッドギアを

制御できるように教育しろって言う意味だろ」

そう言うと、二人ともはっ! としたような表情を浮かべた。

マジであんなのが期待されている教育だと思ったのか……まあ良い。

『ウォーター・プリーズ。スイースイースイー』

籠手の色を青色の変化させ、手のひらに小さな水の塊を準備した。

「ギャスパー、今から俺が投げる水玉を停止させてみろ」

「は、はい」

軽く上に放り投げ、ギャスパーは目に力を入れて水玉を見てみるが水玉は止まらずにそのまま、

ギャスパーの顔面に当たって破裂した。

…………前途多難とはこういうことか。

「うぅ、ビチョビチョです」

「もう一回」

もう一度、同じようにして見るが今度は何故か水玉の上半分だけが止まり、

下半分は止まらずにそのまま地面に落ちた。

「…………お前、殺人鬼になれるぞ」

「うぅ、そんなの嫌ですぅ」

それから数時間ほど、ギャスパーとともに教育という名の鍛錬を続けた。




おはようございまあす!


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第二十四話

ギャスパーとの夜通しの鍛錬から一夜明けた翌日の早朝、

朱乃さんから呼び出しを受け、アーシアとゼノヴィア、

塔城に母さんのことを任せて朱乃さんの魔力へとコネクトして、

魔法陣を潜り抜けると目の前に、

巫女服を着た朱乃さん……と頭に光の輪を浮かべた青年が立っていた。

この様子からみるに……天使か。

「ふふ、時間通りですわね」

「ふむ、噂どおり見たことのない魔法を……遅れながら、

私は天使の長をしておりますミカエルと申します」

いくつかのあいさつを交わした後、二人の先導のもとに付いていき、

神社の奥にある本殿へとたどり着き、中へ案内されるとそこには

でかい柱が何本も立っている小さな部屋だった。

その小さな部屋の中央に力強いオーラを放つ剣が突き刺さっていた。

「あれは聖剣」

「ええ。あれはゲオルギウス―――――聖ジョージといえばわかりやすいでしょうか。

彼が持っていたドラゴンスレイヤーであるアスカロンです」

ドラゴンスレイヤー……ドラゴン専門の殺し屋の名称、

およびその武具の名前だったはずだ。だが、何故こんな貴重なものを悪魔の俺に。

「今度の会談にて三大組織は手を結ぶでしょう。

このまま小さな小競り合いが続けばいずれ組織は滅亡する。

アザゼルも私もサーゼクスも、もう争いは望んでいないのです。

ですから和平への証として悪魔側にプレゼントという訳です」

中央に突き刺さっている剣に触れ、

掴んでみると何らダメージはなくずっしりとした重みを感じる聖剣だった。

「問題は収納場所なんですが……」

「問題はない」

『コネクト、プリーズ』

魔法陣を展開し、そこへ剣を放り投げると剣が消失すると同時に魔法陣も消失した。

「誰も手が出せない場所。コネクトで空間と空間を繋げる際に、

出来るその通路にアスカロンを置いた。俺以外に使えなくはなるがな」

「それで構いません。これで三大組織は和平を組み、

少なくとも天界、冥界ともに平和になるでしょう。これからの時代は今、

そして未来を生きる者達のための世界作りを、

していかなければならないと思っています……それでは私はこれで」

そう言った直後、ミカエルさまの全身が淡く輝きだし、

光に包み込まれて俺の目の前から消え去った。

 

 

 

 

 

 

「お茶ですわ」

その後、特に何もやることはないので朱乃さんのお茶を貰うことにし、

今は普段、彼女が住んでいるという和室に案内され、お茶を貰っている。

俺達の間に沈黙が流れ始める。

何か話題がないものかと探してみるが特に思いつかなかった。

「イッセー君は三大組織が和平を結んだら嬉しいですか?」

「…………本心を言えよ。何が言いたい」

「……貴方は私たちオカルト研究部の最後の希望として皆を、

支えると言いました……それが例え怪物でも支えてくれるのですか?」

「…………」

何も言わないでいると、突然朱乃さんが背中から翼を生やし、辺りに翼が舞う。

だが、彼女の背に生えているのは悪魔の翼だけではなく、堕天使の黒色の翼も生えていた。

なるほど。堕天使と人間のハーフでそれに重ねる感じで悪魔に転生したという訳か。

「私は堕天使のグリゴリの幹部の一人、

バラキエルという堕天使と人間のハーフです。

母はこの国のとある神社の娘でした。ある日、傷ついたバラキエルを救い、

その結果、私を身に宿したと聞きます」

彼女は背中に生える黒い翼を握り、忌々しそうに眺めた。

「この羽が嫌で私は悪魔に転生した……なのに生まれたのはおぞましい生き物。

怪物ですわ……あなたはこんな怪物でも私を」

彼女が言い終える前に俺は彼女の頭を俺の胸へと押し付け、抱きしめた。

「イッセー……君?」

今の状況をうまく頭の中で整理することができないでいるらしく、

彼女は戸惑いの色を顔に見せていた。

「怪物か……悪いがそうは思わない。俺はオカルト研究部の奴らを支えると言った。

まあ、お前が支えて欲しくないといえば支えないが……俺はお前の全てを支えよう。

プライド、コンプレックス、全てを受け入れる。

これは俺だけじゃない。部員全員がこういうだろうな」

「イッ……セー君」

彼女は体を震わしながら眼から流れ出てくる涙で俺の胸を濡らしながら、

泣き続けた。

今まで抱き続けた劣等感という膿を吐き出すように。

五分ほど泣き続け、目を真っ赤にしながらも彼女は笑みを浮かべて俺から少し離れた。

「ふふ、やっぱりイッセー君は優しいですわ。

誰かを包み込む大きな存在……最後の希望というのも間違っていませんわね」

そんな大きな存在でもないがな……まあ、

皆を支えられるのなら俺はそれに似合う大きな存在になるだけのこと。

「朱乃と呼んでくれませんか?」

「…………」

「イッセー」

「……朱乃」

直後、満面の笑みを浮かべた朱乃が俺の顔に重なり、唇に柔らかい感触が押し付けられ、

視界にはドアップの朱乃の顔が映し出されており、俺の太もも辺りに彼女の手が置かれた。

「今までは凄いな~っていうくらいの少し気になる人でしたの。

魔法がすごくていつも冷静で、でもその心の中にあるものは情熱。

私もこんなにもチョロイものだとは思っていなかったですわ……それとも、

貴方が私の心を落としたのか」

朱乃がもう一度、俺に顔を近づけてきた瞬間、バン! と力強い音が二人だけの部屋に響き、

その音の方へ向くと紅色のオーラを放っている不機嫌顔の部長が立っていた。

「あら、リアスじゃない」

「うぐぐぐ。アーシアとゼノヴィアはともかくとしてまさか、

朱乃まで落とされるなんて……しかも、キスまで行って……行くわよ、イッセー」

俺の首根っこを掴み、コツコツ! とヒールで地面を刺しているんじゃないかと、

思うくらいの強い歩みをしながら俺と一緒に部屋から出ていった。

境内から抜けたところで部長は俺の首根っこを掴んでいた手を離したが、

何故か今度は俺の腕に抱きついて来て不機嫌そうな顔を浮かべながら歩きだした。

「おい、何をそんなに不機嫌になっている」

「別に不機嫌になんかなってないわよ……計画の再構成が必要ね」

なんか計画の再構成だとか聞こえたような気がしたが、

かかわるとろくな事が起きる気がしないのでそこはスルーしておくことにした。

「……イッセーは私のことはなんて呼ぶの?」

「……どういう意味だ」

「朱乃に頼まれた時、貴方は朱乃って呼んだわよね? 

私も頼んだら……リアスって呼んでくれるの?」

「………………行くぞ。今晩なんだろ、会談」

何も言わず、俺は自宅に向かって歩き始めた。




こんにちわ! 


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第二十五話

「256回目」

「やっ!」

その日の晩、集合の時間が来るまで俺とギャスパーは鍛錬をしていた。

と言っても俺はただ単にテニスボールを投げるだけであって、

ギャスパーが力を使うといった簡単なものだけど。

256回行って成功した回数が95回ほど、そのうちボール全体の

時間を止められた回数は75回。大体三割後半行くか行かないかの瀬戸際か。

最初のころよりかは成功確率はだいぶ上がってはいるが……まだだま、

不安が残る確率だな。

「休憩にしよう」

「ふぅぅぅ~。疲れましたぁ」

セイグリッドギアを一回発動するくらいでは大した疲労はない、

でもそれが三桁の回数にもなるとその疲労は大きくなる。

まあ、実践中に二百回も時間を止める機会はそうないとは思うがな。

「イッセー先輩は行くんですよね?」

そう。ギャスパーを除いた俺達オカルト研究部員達は、

コカビエル関連の事件の核心に関係しているため、その報告の為に会談に呼ばれている。

無論、話すのは部長だろうが……アザゼルのことだ。俺にも話を聞きに来るだろう。

「俺がいない間も自分でやっておけよ」

「はい。皆さんの邪魔にならないように……僕って邪魔ですよね」

元来、こいつの性格がネガティブかは知らないがこの性格のせいで時折、

ネガティブ思考に一期に突入してしまうことがある。

それさえなければ鍛錬も捗るんだがな。

「取り敢えず、今のお前に学校全体の時間を止める力はない。

まあ、外部的に暴走させられれば話は別だがな……それにここに来るのは組織のトップたちだ。

お前程度の力で止められるような弱い奴らじゃない」

「じゃ、じゃあ……も、もしも僕が暴走した時は」

「俺達が助ける。お前もグレモリー卷族の一人だからな」

「……うぅ、頑張って鍛錬します」

「そうしろ……時間か。俺はもう行く、じゃあな」

『テレポート、プリーズ』

そう言い、ギャスパーから離れた位置に部長のもとへと、

転位先を設定した魔法陣を展開し、転移すると部長の傍に転移した。

「来たわね。じゃ、行きましょうか」

その一言で卷族全員が会談の会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

会談の会場となった部屋は新校舎にある職員会議室。

普段は駆王学園の教師達が会議をするために使われる質素な部屋だが今日に限っては違った。

豪華けんらんな装飾に、それぞれの陣営の護衛達がズラーっと横一列に並び、

会議室の中央には三組織のトップがそれぞれの顔が見えるような形で座っていた。

その時、俺の肩を軽く叩かれ、振り返るとそこには白の鎧の男がいた。

「やあ、兵藤一誠。今回で三度目の邂逅だね」

「そんな大したものじゃないだろ。邂逅ではなく再会と言った方が正しい」

「ま、そんなことは良いさ。後でゆっくり話そう。”全てが終わったら”ね」

そう言い、白い鎧の男はスタスタと歩いていき、

アザゼルが座っている背後に用意されている座席に着席した。

……全てが終わったら……か。何を考えている。

奴の発言に一抹の不安を抱えながらも、俺はサーゼクス様の背後に用意されている座席に着席し、

会談が始まるのを待った。

そして、サーゼクス様が会場を見渡し一言。

「始めようか」

その一言で会談は始まり、

次々と俺たち下の地位にある奴らには聞いたこともない単語が飛びだしていく。

今は亡き神が生み出した信奉する者に幸福を与えるシステム、

アザゼルのセイグリッドギアに関する研究の成果と今後、

起きるであろうイレギュラーな事態。

「以上のように我々天使は―――――――」

「悪魔としても―――――――」

「俺はどっちでも良いぜ」

ミカエル様、サーゼクス様の発言につき、

アザゼルの何気ない一言でこの場の空気が一瞬にして凍り付いたこともあったが、

堕天使陣営は既に頭のそんな発言に慣れっこなのかスルーして、真顔でいた。

トップがあんなおチャラケな奴だとしたの奴らはしっかり者に変わるんだな。

「アザゼル、何故近頃セイグリッドギア……中でも強力なロンギヌスを集めている」

「そちらが白龍皇を手に入れた時は強く警戒しました」

「おいおい、俺の信頼度はマイナスかよ」

「無論」

「もちろん」

「もちろんよ☆」

若干、この場にはふさわしくない声音の人もいたがそこはスルーしておこう。

アザゼルはそれぞれの陣営の頭からの言葉に苦笑いを浮かべながらも、

その奥底ではどこかその状況を楽しんでいるように思えた。

「俺が集めていた理由はセイグリッドギアの研究だ。俺はもともと、

武闘派というよりも研究派なんだよ。組織の下の連中には人間界の政治に手を出すなと、

強く厳命しているし、悪魔、天使と遭遇しても無駄な戦いは避けろと言ってきた……まあ、

若干名の堕天使がそこの魔法使いにスカウトを持ちかけたらしいがな。なあ、兵藤一誠」

俺の名を呼ばれ、会場にいるほぼ全員の視線が俺に集中した。

チラッと左右を確認してみるが、どいつも同じような目をしていたので俺は立ち上がった。

「確かに、レイナーレとかいう堕天使の女にスカウトを持ちかけられたのは事実。

だが、雲をつかむような話で現実味がなかったがな」

「そうか。内容は聞かねえがそれは俺の監督責任だ」

「個人がやったことだ。アザゼル……総督の責任じゃない」

「言うじゃねえか……まあ、そんな話よりも俺は今、あるロンギヌスを追っていてな」

俺の目を見ながらアザゼルは淡々と話していく。

「また、コレクターの血が騒いだのか?」

「最初はそうさ……でもな、まったく見つからないんだよ。手がかりなし」

「グリゴリの追跡能力を持ってしてもですか?」

ミカエルさまの静かな問いにアザゼルはただ、首を縦に振って肯定した。

「別に自慢じゃねえんだがグリゴリはそういう系のことは得意な方なんだよ。

でもな、一切の手がかりも見つからないんだよ」

「そのロンギヌスの名は」

サーゼクス様の問いにアザゼルは目を瞑り、

少し間隔をあけてグリゴリの追跡能力を持ってしても所在が、

判明していないロンギヌスの名を呟いた。

「後ろにいるヴァーリとは対極の存在であるウェルシュドラゴン―――ドライグの魂が、

封印された所有者の魔力を十秒ごとに倍増させていくロンギヌス。

ブーステッドギア……それが今探しているものだ」

そのセイグリッドギアの名が部屋に響いた時、所々からあのセイグリッドギアが、

みたいな内容のつぶやきが出てくるが、すぐに消え去り、再び会談の会場は静寂に包まれた。

「ヴァーリ君でも分からないのか?」

「さあな。本人は分かっているようだが教えてくれなくてよ」

正直、俺は会談の内容は半分ほどしか聞いていなかった。

確かに会談の内容も面白そうなのだがそれ以上のものがあり、

俺はそちらに意識を集中していた。

「…………滑稽な話だ」

「あ? 何がだ?」

アザゼルが俺の呟きに反応し、他の連中も反応した。

「この会談がそんなに魅力的か……侵入者」

俺は椅子から立ち上がり、二歩三歩歩いたところで物にかかっている布でも、

剥ぎ取るような感じで何もないところを掴み、

腕を下に降ろすと今まで何もなかった場所にある存在が現れ、会場内は騒然となった。

俺がはぎ取った場所から出てきたのは……血だらけで既に絶命している天使だった。

「っ! こ、これは!」

ミカエルは自らの部下の惨状に驚いていた。

俺は床に倒れ伏した天使の翼を弄っていると何か機械質のものにあたり、

その部分の羽根をちぎってよく見ると、盗聴器らしき小さな機械が取り付けられていた。

「なるほど。既に絶命した奴に魔力は存在しない。俺たちでも感知は出来ない。

そいつを魔術で姿を消した状態で盗聴器をつけて隠した……なるほど。よく出来たもんだ」

アザゼルは感心した様子で俺が持っている盗聴器を眺めていた。

だが、それは俺とアザゼルの反応であって他の奴らの反応は俺達とは大きく違っていた。

「貴方は誰ですか」

ミカエルは静かな怒りのオーラを全身に纏わせながら今、

床に倒れ伏している奴と同じ顔の天使へ、問いただした。

同じ顔をしている天使は諦めたように部屋の中央へとゆっくり、歩きだした。

「どうやって気づいたんだ?」

「簡単さ。何もないところから微弱な魔力を感じた。おそらく、魔術を発動した際の残りカスだ」

「まったく……てめえにはお手上げだ。兵藤一誠」

直後、嫌な笑みを浮かべている天使の全身から炎があふれ出し、

その炎は徐々に天使を覆っていく。

 

 

 

 

 

 

 

会談は混乱の極みへと向かって進み続ける。

 




初めてのオリキャラ投入でした。


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第二十六話

天使を覆っていた炎が消えた瞬間、そこに立っていたのは天使ではなく、

どこかライザーに似た風貌をした男だった。

来ている服はすべて赤一色に統一されており、髪の色も赤、

靴も赤だし耳に付けているイヤリングも赤色、さらに指輪も赤色だった。

「俺はフェニックス。名前なんざ捨てた」

「裏切りのフェニックスか」

サーゼクス様は表情を強張らせ、ライザーに似た風貌をしている男性の方を強く睨みつけた。

裏切りのフェニックス……その名前を聞いただけで大体は分かった。

「はっ! サーゼクスじゃねえか。お前も随分と偉くなったもんだな。

今ではルシファーの名を受け継いだ偽物の王様じゃねえか」

「何故、君がここにいる。なんのためにこの会談に忍び込んだ」

「簡単さ。今俺はある組織に所属している。

そこは俺の好き勝手に暴れられる自由な場所さ! アザゼルなら知ってるだろ」

「カオス・ブリゲートか」

裏切りのフェニックスと呼ばれた男は口角をニンマリと上げ、

アザゼルに指で作った銃を向けると楽しそうに撃つ動作をした。

カオス・ブリゲート……また、面倒なことを起こしてくれそうな名前の集団だな。

「アザゼル、その組織はいったい」

「俺がセイグリッドギアを集めている理由のもう一つは、

こいつらとの戦いを想定した上でのことだった。カオス・ブリゲートは旧魔王派の連中が、

立ち上げたとか言う噂があるがいつから動きだしたのかは不明だ……簡単にいえば、

あまりよろしくない影響をこの世界に与えるテロリスト集団だ」

直後、この部屋全体を覆うように以前、

感じたことのある全身の時間が遅くなるような感覚が一瞬だけ感じ、

さらには外から新校舎が攻撃でも受けているのか会談の会場がぐらぐらと揺れ始めた。

一瞬だけギャスパーの魔力が乱れたな……旧校舎の部室に何者かが侵入し、

ギャスパーのセイグリッドギアを何らかの方法で暴走させたか。

「ヴァーリ! 外の奴らを潰してこい!」

アザゼルは声を荒げ、白い鎧の男にそういうと男は何も言わず、

背を向けるとバランスブレイクを発動し、以前見た白い鎧を身にまとい、外へと飛び去った。

辺りを見渡してみると護衛で来ていた奴らは全員停止、俺達の方は木場、

部長と俺以外の奴らは全員時間が止まっていた。

「ついでに教えておいてやる。ここには旧魔王の血を継いだ奴も来てるぜ。

あいつらの方がよっぽど血走っているがな」

フェニックスがそう言った直後、床に青色の魔法陣が出現し、

そこから光があふれ出して裏切りのフェニックスを包み込みだした。

「そこの魔法使い。俺と戦おうぜ。外で待ってるから来いよ」

そう言い、青色の魔法陣に乗った裏切りのフェニックスは外へと転移された。

「お兄様! ギャスパーが」

「ああ、分かっている。まさか、裏切りのフェニックスだけでなく旧魔王派まで、

ここに来ていたとは……我々だけで防衛できるか」

確かに今の状況を鑑みるに弱音を吐きたくなるのも分かる。

いまや護衛は全員停止し、動けるのはわずかに数人。しかもまだ悪魔になりたての俺を、

含めた若い連中しか動けていない。

おそらくサーゼクス様とミカエルさまはこの校舎を護るために結界を張っているから動けない。

動けるのは俺と木場、部長、ゼノヴィア、そしてアザゼルだけ。

「ひとまず、ギャスパー君のことだ。どうにかして彼の場所まで行ければ」

「それならイッセーの魔法で行けます」

「イッセー君。頼めるかい」

何も言わず、俺は魔法陣を展開した。

「何人でも飛ばせるぞ……俺的には木場と部長が行けばいいと思うんだが」

「イッセーは? イッセーこそ適任じゃ」

「俺はあいつを倒す必要がある。それにあいつはお前が思っているほど心が弱い男じゃない。

誰かのためになるなら予想外の力を発揮する……そういうタイプだ」

「……行きましょう。部長」

木場の言葉に部長は首を縦に振り、俺が展開した魔法陣に乗った。

二人が乗ったのを見計らって、俺は魔法を発動させ、

二人をギャスパーがいるもとへと転移した。

「よし。ギャスパー君は二人に任せて、

ゼノヴィアにはヴァーリ君と一緒に魔法使いの撃退を頼みたい」

「了解した」

そう言い、ゼノヴィアはデュランダルを出現させてそれを握り締め、外へと出ていった。

魔法使いは白龍皇とゼノヴィアに任せればなんとかなる……問題は、

裏切りのフェニックスと旧魔王の血を受け継いでいるという旧魔王派の連中か。

「すまないがアザゼル。ここは任せたい」

「ああ、任せろ。お前らはここの校舎を頼んだ。行くぞ、兵藤一誠」

新校舎を御二方に任せ、俺とアザゼルの足もとに魔法陣を展開させ、

外へと転移させると、目の前に腕を組んだ裏切りのフェニックスと女の悪魔が立っていた。

「よう! 待ってたぜ魔法使い!」

男は楽しみにしていたらしく、笑みを浮かべながら俺の方を見てきた。

こいつと遊んでいる時間はない……すぐに決着をつける。

『フレイム・ドラゴン。ボー・ボー! ボーボーボー!』

魔法陣を展開するとそこから炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、

俺の周りを旋回し始め、幻影が消えたと同時に俺は鎧を身に纏っていた。

「レヴィアタン。俺の戦いが終わるまで手ぇ出すなよ」

「はいはい」

呆れたようにそういうと、女悪魔は後ろへ下がった。

互いに互いを睨みつけ、一瞬の沈黙が流れた。

――――――刹那。

「うおぉ!」

「ふん!」

同時に炎を推進力として爆発させ、突進し、

そして同時に拳を突き出すとそれぞれの拳がぶつかり合い、辺りに爆風と炎がまき散らされた。

拳がぶつかり合った瞬間にもう片方の腕で顔面を殴り飛ばそうとするが、

それは相手の空いている腕に防がれた。

いったん距離を取ると相手が掌に炎を集めてあっという間に巨大な火球を作り出し、

俺に向かって投げてきた。

だが、その火球は俺の拳に当たった瞬間、俺の籠手へと吸い込まれるようにして吸い寄せられ、

さらに強化された状態で相手に投げ返した。

「ハッハー! やるじゃねえか!」

相手は投げ返された火球を背中に炎の翼を作り出して避け、

相手の視線が俺から外れた瞬間――――――。

『テレポート・プリーズ』

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

テレポートで奴の頭上へと瞬間的に転移し、

足に炎を纏わせながら空高くから奴めがけて急降下していく。

「だぁ!」

「ぐぅぉぁ!」

腕を交差させて蹴りを防ぐが俺は無理やり脚を振り、相手を地面にたたきつけた。

「はっ! やるじゃねえか!」

『チョーイイネ! スペシャル、サイコー!』

背後から魔法陣が出現し、そこから先ほどの幻影が現れて、

俺の背中に当たるように突進してくると鎧の胸の部分からドラゴンの頭部が現れ、

大きく口を開いた。

「あ?」

「フィナーレだ」

叩きつけられたことにより頭から血を流しているフェニックスは不思議そうに俺を見ていたが、

俺は容赦なく奴に火炎を叩きつけた。

「これでフェニックスは終……何!?」

火炎を叩きつけられた奴は平然とした顔で立っていた。

確かにスペシャルの炎が通じないことはこの前のコカビエルの時にもあったが、

あの時奴は聖なる力で壁を作って防いでいた!

あいつは炎を直撃しているにも拘らず平然としてやがる!

「確かに悪魔のフェニックスなら倒せた火力だ。

だが……裏切りのフェニックス様にこの程度の火力が効くかぁぁぁぁ!」

「うわっ!」

フェニックスが腕を夜空に向けてあげると、奴から莫大な炎が噴き出され、

俺が放っていた火炎を全て飲み込み、熱風が俺を吹き飛ばし、ドラゴンの頭部が消えさった。

「くっ! ぐぅ!」

起き上がろうとしたところにフェニックスが足を叩きつけてきた。

「けっ! しょうもねえ戦いだったぜ。その顔、叩き潰してやるよ」

フェニックスは手に炎を集め、それを長細く伸ばすと炎が固形化して、

真っ赤に染まっている大きな刀が出現した。

こいつ! 炎を固形化して剣を作りやがった!

「んじゃ、とっとと死ね」

『コネクト、プリーズ』

「何!?」

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「だぁ!」

「うぉ!」

奴が剣を振り下ろした瞬間、俺はコネクトでアスカロンの鍔の部分を出し、

そこでフェニックスの剣を受け止め、奴の腹部に蹴りを入れて遠くにまで吹き飛ばした。

「くっ! やるじゃねえか」

「おれをライザーを倒したときの俺だと思うな。お前と遊んでいる時間はない。これで決める」

『ウォーター・ドラゴン。ジャバジャババッシャーン、ザブーンザブーン!』




どうも~。もうすぐ大学のテストです。


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第二十七話

魔法が発動し、今度は水を纏った青色のドラゴンの幻影が出現し、

俺の周りを何周か旋回した後、消滅すると同時に周囲に大量の水が拡散し、

俺の周りの地面が水を吸って砂から泥へと変わり、俺は青色の鎧を身に纏っていた。

「はっ! コロコロと色が変わりやがる!」

フェニックスは先ほどよりも何倍も大きい火球を生み出し、

俺に投げつけて来たのを確認し、目の前に青色の魔法陣を二つ展開し、

そこから膨大な量の水を放出し、一瞬にし炎をかき消した。

「な!? 俺の炎が!」

「言ったろ。これで決める」

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

「うおぉぉ! 冷気か!?」

目の前の青色の魔法陣を展開し、

そこに手を置いて魔力を流しこむと魔法陣から全てを凍りつかせる冷気が放出され、

フェニックスへと向かっていき、奴のもとへ行く前にも通り道を次々と凍らしていく。

冷気がフェニックスに直撃するがやはり相手は腐ってもフェニックスの力を持つ悪魔、

全身から大量の炎を噴き出して冷気と相殺させ、自分が凍らされるのを何とか回避していた。

「ぐうぅぅぅぅ! この程度で! この程度で俺が凝らされてたまるかぁぁぁ!」

フェニックスは全身から炎を放出し、

無理やり冷気を押し返すと俺の方へ向かって走ってきた。

しつこい奴だ……まだ、あとがつっかえているんだ。とっとと消えろ。

『ウォーター、スラッシュストライク! ジャバジャババッシャーン!』

「はぁ!」

「何!?」

コネクトでアスカロンを完全に呼び出し、刃に手を置くと籠手から音声が流れ、

アスカロンの刃を回転するように水の魔力があふれ出し、

そのまま魔法陣に向かって水の一撃を放つと、

魔法陣ではじけた大量の水がフェニックスにかかり、

その水が冷気によって凍らされ、奴は完全に氷の彫刻と化した。

「これで終わらせる!」

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

背後に赤い魔法陣が現れ、俺のおしり辺りに引っ付くとそこからドラゴンの尻尾が生えた。

「砕け散れ!」

俺は軽くその場で跳躍し、

一回転した勢いのまま尻尾を氷の彫刻に叩きつけると尻尾の先で氷が切り裂かれ、

フェニックスごと氷が砕け散った。

辺りにキラキラと月明かりで輝く氷の結晶が舞う―――――だが、

その幻想的な景色に闇が重なり、上を向いた俺の視界の先には……巨人がいた。

「なんだ……こいつは」

「おいおいおい。こいつはオークじゃねえか、しかも見るからに族の長か。

しかも生殖期に入ってやがるじゃねえか! 兵藤一誠! 気をつけろ!

生殖期に入ったオークのオスはかなり気性が荒い! 

同族のメスだけじゃなくて他種族のメスすらも抱くって聞いている!」

『グオオォォォォォォォォォォ!』

『フレイム、プリーズ。ヒー・ヒー、ヒーヒーヒー!』

俺は方向をあげ、聞いた通り気性の荒いオークの拳を避けながら一段階下の魔法を発動し、

鎧を解除して籠手を赤色に戻した。

「カテレア。どうやってこいつを使い魔に」

「簡単よ。叩き潰しただけ。あの悪魔はこの子に任せて貴方を殺すとしましょうか!」

なるほど。戦いの中でどちらが圧倒的な存在であるかを知らしめただけってことか。

「なら、俺もとっておきの奴を召喚しようか」

『ドラゴラーイズ! プリーズ』

上空へ魔法陣を展開させるとそこから莫大な量の炎が放出され、

放出された炎がやがて一体の巨大なドラゴンへと形を変えていく。

『オオォォォォォォォォォ! 懐かしい! いったいいつ以来だ!

俺の眼でこの空を見たのは! そしてお前が』

俺の中に宿るドラゴンはその大きな眼で俺の姿を捉えるとニンマリと口角を上げた。

『意外と醜い姿だな。人間』

「っ!」

突然、奴が大きな口をあけたかと思うとそこから巨大な火球が俺めがけて放たれた。

「ちっ! 何をしている! 俺じゃなくてあいつを狙え!」

『断る! いくらか姿も変えられ、

力は拘束されているようだが貴様程度の存在ならば簡単に踏みつぶせる!』

そう言い、巨大な翼を羽ばたかせて少し宙に浮くと、

その何トンもありそうな全身を使って俺めがけて振ってきやがった。

「バカが」

『テレポート、プリーズ』

俺は踏みつぶされる前に奴の背中に転移し、

右足で強めにダン! と奴の背中を踏むと足から俺の魔力が流し込まれ、

奴を拘束している拘束具の間を通って線が走り、奴の苦悶に満ちた声が聞こえてきた。

「ドラゴン、俺に従え」

『ぐぅぅ! き……さ……ま!』

徐々に奴の眼から光が消えていき、完全に奴自身に意識が奥底へと沈みこみ、

俺の言うことを聞くペットへと変わった。

たっく、俺の中じゃ好き勝手出来ないから力を使わせておきながら、

拘束された状態で外に出されたらすぐに裏切るのか。これはなかなか使えないな。

『グオオォォォォォォォォォォ!』

オークはどこから出したのか分からない巨大な棍棒を俺たちに向かって、

振り下ろしてくるがドラゴンが翼を羽ばたかせて宙に舞ったことで回避した。

『グボァァァ!』

ドラゴンの口から巨大な火球が放たれ、地上にいるオークに直撃し、その肉を焼き尽くすが、

オークは熱の痛みなど感じないのかなんらひるまずに俺たちに向かって跳躍してきた。

「まあ早いが、フィナーレだ」

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

魔法を発動し、俺が跳躍するとドラゴンの形が変化していき、

巨大な足の形をした装備となるとそこへ俺の脚をぶつけると魔力でくっつき、

さらに巨大な足の形をした装備から炎が噴き出し、炎で形作られた巨大な足が出来上がった。

「だぁぁ!」

炎の巨大な足の攻撃による蹴りは棍棒ごと相手を粉砕し、

オークは大爆発を起こし、塵となって爆発四散して消え去った。

「よっと」

装備具から飛び降り、地面に足をつけると装備具が元のドラゴンの姿となり、

ドラゴンは炎となって消え去った。

「終わったか。こっちももう終わる」

声がした方向を向くと血だらけの悪魔の女とドラゴンを模した黄金の鎧を身にまとい、

背中から十二枚の黒い翼を生やしたアザゼルがいた。

状況から見るに既に勝負は決したか。

「タダで死ぬと思うな!」

女の腕がウネウネと触手にようなものに変化すると、

その腕は凄まじい速度でアザゼルに向かい、

奴が避けるよりも前に奴の腕に絡まりついた。

「俺ごと自縛するってか?」

「もちろんです! 総督一人殺せば目的は果たされる」

だが、その言葉の後にアザゼルは容赦なく自分の腕を切り捨てた。

「っ! 自分の腕を」

そこまで言いかけたところで女の腹にアザゼルが生み出した光の槍が突き刺さり、

女は塵となって消え去った。

これで襲撃者はすべて死んだか……。

そう考えた瞬間、突然夜空が一瞬光ったかと思うと、

アザゼルめがけて巨大な白い魔力の塊がいくつも降り注いだ。

幸い、アザゼルはすぐさまその場から回避したことにより軽症で済んだ。

「ちっ! こんな時に反旗を翻すのか!? ヴァーリ!」

奴が睨みつけた先の夜空に白い鎧を身に纏った男が立っていた。

「ああ、そうだよ。でも、アザゼル。あんたの顔はそんなに驚いているようには見えないが」

「イッセー!」

背後から名を呼ばれ、振り返るとギャスパーを連れた部長と木場がこちらに走って来ていた。

この状況を見てギャスパー以外の二人は一瞬で理解したらしく、驚きに顔を染めた。

「まあな。このタイミングでの裏切りは別におかしいことはねえ。いつからだ」

「コカビエルを運んでいた時さ。その時に誘われたんだ。こっちの方が戦いやすくてね。

フェニックスが言っていたのと似ているのさ」

そう言いながら幻想的なまでの光景を生み出している羽を使い、

地上へと降り立つと俺の方を見てきた。

「君は結構、特殊なんだよ」

「どういう意味だ」

「本来、強力な魔法使いというものは親も魔法使い、

その血筋をたどっていけば名が歴史に残っている者の血を引くことが多い。

だが君は違う。少し、調べさせ貰ったが君は一般の家系だ。

父親はすでに他界、母親は事故により下半身麻痺。とてもじゃないが、

魔法には関係していない。何故だ? 何故、そこまで強力な未知の魔法を創造し、

扱うことができる。旧魔王の血筋を引くおれでさえ、魔法は作れないんだ」

「ど、どういう意味?」

今度は部長が驚いていた。

「こいつのフルネームはヴァーリ・ルシファー。正真正銘の魔王の血筋を引く男だ」




夏休み真っ只中ですよ! 最近、地球防衛軍にはまっております。


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第二十八話

「そ、そんな嘘よ」

告げられた真実に順応できていない部長は首を左右に振って、

否定し続けたがそれだけで事実が変わることもなく目の前に立っていた。

ルシファーの名を継ぐ、本当の魔王が。

「君の魔法は面白い。特にその鎧の色を変える魔法を……龍の魔法、

ドラゴンズマジックとでも名付けようか。御託はもう良い、俺は君と戦いたいんだ」

「……良いぜ、俺もお前と戦いたかった。魔王の血を引く者よ」

『ランド・ドラゴン。ドッデンドッゴッドッゴーン! ドッデンドッゴッドッゴーン!』

音声が発せられ、黄色いドラゴンの幻影が現れて俺の周囲を何周か旋回し、

消え去ると俺は黄色い鎧を身に纏っていた。

「ほんと、君の魔法は面白い。もしかしたら小さい子には受けがいいかもね。

その音声といい、魔法といい」

『チョーイイネ! スペシャル サイコー!』

目の前に黄色い色をした魔法陣が現れ、そこから先ほどのドラゴンの幻影が現れ、

俺の両腕の手首から先の方を周りを何周か旋回すると、

そこにドラゴンの鋭い爪を生やしたクローが現れた。

「行くぞ、ヴァーリ・ルシファー」

「ふははははは!」

奴は狂ったように笑い声をあげ、籠手から小型の魔力弾を何発も俺に向かって乱射するが、

俺はそれをかわさずに敢えて、喰らいながらも無視して、奴に向かって走っていく。

「良いね! それでこそ俺のライバルだ!」

奴も駆け出し、俺に向かってくる。

奴のセイグリッドギアはディバイン・ディバインディング。

触れた相手の魔力を十秒ごとに半分にし、半分にした魔力分だけ己の魔力を増大させる! 

強力故に有名なセイグリッドギアだから、

いろんな書物にその能力が書かれていることを後悔しろ。

俺は奴が振るってくる拳をギリギリのところで避け、

クローで奴の鎧を斬りつけると火花が散り、少量の鮮血が舞い、

地面には破片となった白い鎧が散らばっていた。

「くっ! なかなかの切れ味だな!」

ヴァーリは籠手から巨大な魔力弾を俺に向かって放ってくるがそれをクローで切り裂くと、

目の前にヴァーリが突然現れた。

俺はすぐさま奴の背後に空間をつなげた魔法陣を俺の背後に出現させ、

そこへ倒れ込んで奴の背後に回り、クローで切りつけようとするが背中から魔力が放出され、

その際の衝撃で軽く吹き飛ばされた。

「やはり君の魔法は戦っていて怖いよ。どこにでも転移でき、

発動時間も既存のどの魔法よりも早く、効果も比べ物にならないくらいだ。

牽制にも使える。君の魔法は多種多様という訳か」

「ごちゃごちゃうるさいぞ」

クローを横に、縦に振るうと十字型に黄色い衝撃波がヴァーリに向かって放たれた。

「よっと!」

ヴァーリは衝撃波を態勢を後ろに崩して、

衝撃波を避けるがすぐさま奴は白い籠手を俺に向けた。

そりゃあ、そうだ。

鋭い爪を金色の輝きが溢れるまで溜めこんだクローを装着している俺が上空に現れたんだから。

金色の衝撃波と白い魔力弾が同時に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ」

ボタボタと滴り落ちる血液が地面を赤く汚し、白色の鎧も赤く汚している。

俺も鎧を見ればダメージはないように見えるが、中は結構、傷ついており

ところどころ血が流れているが奴ほどではないように思える。

あの時、俺の衝撃波が先に奴に着弾したことで直撃は免れた。

が、直撃でなくともこの威力……流石は時に聞く白龍皇。

「まったく……とんでもない存在がいたものだ。バランスブレイクと

同等に戦える魔法を生み出したんだからな」

「悪いが……これで終わらせる」

『チョーイイネ! グラビティ、サイコー!』

「う! ぐぅぅぅぅぅ! 重力を操る魔法か!」

奴の上空に黄色い魔法陣が現れ、そこから景色が歪んで見えるほどの

重力がかかり、奴の体重が何倍にも跳ね上がり、地面にめり込んだ。

『ウォーター・ドラゴン。ジャバジャババッシャーン! ザブーンザブーン!』

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

鎧の色を青色に変え、目の前に青色の魔法陣を展開し、

そこへ手を置いて魔力を流しこむと魔法陣の周囲の地面が凍りついていく。

これで奴に止めを刺す。

「終わりだ。ヴァーリ・ルシファー」

「ふっ」

『DividDividDividDividDividDivid

DividDividDividDividDividDivid

DividDividDividDividDividDivid!』

冷気を放とうとした瞬間、奴が一瞬だけ笑みを浮かべた。

その直後、奴の籠手から音声が何度も鳴り響き、俺の魔力が半分、

また半分と減っていき、逆に奴は倍々に跳ね上がっていく。

な……なん……起こって。

突然、魔力がなくなったことにより鎧も魔法も維持できなくなり、

パリン! とはかない音をたてて鎧も魔法も消え去り、地面に膝をついた。

「ゼェ……ゼェ」

呼吸が荒い俺とは対照的なまでに奴はピンピンしていた。

「うん。やはり、魔力があると体力も元に戻る」

「何を……した」

息も途切れ途切れになりながらも奴に問いただすと、

奴は口角をニンマリと上げてしてやったり! といった様子だった。

「俺のセイグリッドギアの能力は触れた者の魔力を十秒間、

バランスブレイク時はその制限を取っ払い、一秒で何度も発動ができる」

「だから……俺は貴様に触れさせない……ように戦いを……した」

「ああ、そうだね。だがよく考えてみなよ。ほんとに君は触れられなかったのかい?」

「どう……いう意味だ」

「分かりにくいのならこう聞こうか。“君は今日、一日俺に触れられなかったのか?”」

その発言で俺は過去数時間の記憶を探っていき、ある一つの答えにたどり着いた。

そうだ……俺は奴に一度、触れられた。会場に入ったところで俺は……。

「気づいたようだね。この籠手が触れたものを記憶する期間は一日。

一日が経てば記憶は自動的に消されるが逆にいえば、

その一日以内ならどこへいようが半分にできる。ただし、俺が自覚して触れた場合のみ」

そうか……こいつはこの状況になることを最初から想定し、

最初のうちに俺の触れておくことで戦況をひっくり返す策を打っていた訳か。

「アルビオン。兵藤一誠は“あれ”を見せる価値がある。そう思うだろ?」

『見せてやろう。今の我らの力を』

その直後、奴の全身から圧倒的な質のオーラがあふれ出した。

「我、目覚めるは――――――」

<消し飛ぶよっ!> <消し飛ぶねっ!>

奴の声ではない声がどこからともなく聞こえてくる。

「覇の理に全てを奪われし、二天龍なり――――――」

<夢が終わるっ!> <幻が始まるっ!>

「無限を妬み、無幻を想う―――――――」

<全部だっ!> <全てを捧げろっ!>

言霊が一つ一つ、

発せられるごとに奴から放たれてくるオーラがより質の濃いものへと変化していく。

「我、白き龍の覇道を極め汝を無垢の極限へと誘おう!」

その瞬間、奴を飲み込むように圧倒的なまでの質量の魔力が放出され、

奴の周囲の地面がさらにへこみ、辺りに風が吹き始めた。

圧倒的なまでの存在が今、俺の目の前に立っていた。




こんばんわ。書きためはすでにオリジナルの話まで行っております。
D×Dの二次で残すのはおそらくこれだけです。
後は英雄派との戦いで切るか、ですね。


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第二十九話

減少させた分だけ増えた魔力で何かを発動した奴のオーラは先ほどとはま逆のものだった。

さっきと比べて……鋭い。

「これが強制的に力を開放し、全てを打ち砕く力。

その名も覇の龍と書いてジャガーノートドライブ」

奴を覆っている鎧は先ほどよりも輝きが増しており放出されている魔力も質も、

量も今の俺とは比べ物にならないくらい上だった。

「礼を言うよ。君の莫大な量の魔力のおかげでここまで完全に解放することが出来た。

俺でもこいつを扱うには大量の魔力を消費して、使えるのはたったの数分程度だ。

だが、君の魔力を使ったことにより、三十分は戦えるほどの量を得た。

感謝するよ。礼と言ってはなんだがこれで……止めを刺そう」

俺の背筋を駆け巡る殺気―――――――臨戦態勢を取ろうとした瞬間、

突然、視界が真っ暗になり、体制が無理やり後ろに持っていかれる感覚を感じた。

「はぁぁぁ!」

そのまま投げられた俺はサーゼクス様とミカエルさまが守護している新校舎の会議室ではなく、

違う棟の校舎の壁をぶち抜き、そのまま壁に投げつけられた。

「ガッ……ァ」

「ま――――――――だ」

「ぁぐぅ!」

奴の声がうっすらと聞こえた瞬間、腹部に経験したことない激痛が走り、

口から大量の血反吐を吐き、ボキボキと何かが折れる嫌な音が聞こえ、

俺は地面にめり込まされた。

痛みを我慢し、目を開けてようやく今の状況を理解した。

ヴァーリは俺の腹部に膝打ちを入れたのかと。

だが、理解したのも束の間、首を掴まれ、そのまま空高く運ばれ、

そこから急降下しながら地面へ俺を叩きつけた。

意識が飛びそうになるが、激痛により再び意識が無理やりこちら側へ持ってこられた。

「よっと」

ゴミを拾って放り投げる感覚で奴は俺を拾い上げて地面にたたきつけた。

「ガッ……うぁぁ」

体に鞭をうち、どうにかして立ち上がろうとするが途中で腕から力が抜け、

地面に倒れ伏すが、胸倉を掴まれ、先ほど行おうとしていた行動を誰かにやらされた。

「ヴァー……」

そこまで言いかけたところでまた、俺は背中から地面にたたきつけられた。

「もうやめて! それ以上したらイッセーが死んじゃう!」

叩きつけたあと俺の胸倉を持ったまま片腕で俺を持ち上げているヴァーリの腕に、

涙を流した部長が駆け寄ってくるが、ヴァーリは振り向きもせずに全身から魔の波動を発し、

部長を吹き飛ばした。

「きゃぁ!」

「部長!」

吹き飛ばされた部長は木場が抱きかかえたことにより、

地面にたたきつけられることはなかった。

「兵藤一誠。君は確かに強い……だがそれは下級悪魔だけのランキングの中ではだ。

この世界には強者ランキングなるものがあってね。

サーゼクス・ルシファーでさえトップ10にも入らない。そのランキングに君を当てはめれば、

君はランキングの下位の方……そうだな。千から千五百といった

位の強さだ。この世界には君なんか一撃で倒せる奴が大量にいる。

人間の言葉でいえば君は井の中の蛙大海を知らず、だ。

浅瀬でピチャピチャ遊んでいる子どもと同じなんだよ」

掴んでいるやつの腕にさらに力が入り、俺の首をさらに強く締め上げる。

まだ……手は……動……く…………………………。

『コネクト、プリーズ』

意識が朦朧とする中、俺は最後の魔力を絞りだし、

空間を繋げたがヴァーリはそれを見て失笑していた。

「何をするかと思えばそんな小さな魔法陣を出してどうする。

この差はどう足掻こうが埋まらない。君はここで俺に負ける」

「……さっさと」

「ん?」

「…………俺を……殺さなかったことを……後悔しろ」

『っっ! ヴァーリ! 避けろ!』

ヴァーリが音声の指示を実行する前に鎧ごと奴の皮膚が切り裂かれ、

俺の視界に大量の血飛沫が舞い、キラキラと光りを発する鎧の塵が綺麗に思えた。

「がっ! ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「まだ……だ!」

よろめきながらも解放された俺は振り上げたアスカロンを両手で握り締め、

今もてる全ての力を腕にこめた振り下ろすと、防ごうと腕を交差させた奴を鎧ごと切り裂き、

先ほどよりも多い血飛沫が舞った。

「あ……ぐぅ……ぁ」

二三歩、ヴァーリが後ろへ下がると同時に大量の血が地面を赤く汚し、

あれだけ圧倒的なオーラを放っていたのが嘘のように弱々しくなり、鎧が消え去った。

『この力はドラゴンスレイヤーのアスカロン!』

「な……ぜ。そんなものを」

「記念……だとよ」

「くそ……驕りゆえの……隙を……討たれ……た……か」

そのまま奴は意識を失い、地面に倒れ伏した。

まだだ……ここで奴を殺す。

俺は足とアスカロンを引きずりながら意識を失い、

動かないでいるヴァーリのもとへとゆっくりと歩いていく。

その間にアルビオンがヴァーリに必死に声をかけているがヴァーリが動き出すことはなかった。

「余裕、驕り、過剰な自信……この三つがそろったら……最悪の結末が起こることを覚えておけ」

ヴァーリの頭のところまで近寄り、アスカロンを振り上げようとした瞬間。

「なっ! ぐぁう!」

突然、目の前に火の粉が集まり、小さな爆発を起こして俺を吹き飛ばした。

やがてその火の粉は集まっていき、徐々にその形を人型へと変えていく。

「ま、まさか」

完成し、姿を現したのは先ほど俺が砕いたはずのフェニックスだった。

「ふぅ。ようやく復活したぜ」

「バカな……あの状態から復活しただと」

「まあな。俺はフェニックス。不死身だ。切り刻まれ、バラバラにされようとも、

凍りつかされ砕かれても一段階強くなって復活する。まあ、フェニックスの突然変異だ。

ま、その後は魔力空っぽだから戦えねえんだけどな。

ちょうどお前みたいな状態だ。悪いがこいつは持って帰るぜ」

「ちょうどみたいだな!」

そう言いながらフェニックスがヴァーリを担ぎあげた瞬間、

上空から声が聞こえ、顔をあげると金色の雲に乗った存在がふわふわと浮いていた。

「おせえよ、美猴」

「俺っちも忙しいんだよ。ほら、さっさと掴まれ」

背に棒をしょっている男はフェニックスから気を失っているヴァーリを担ぎ、

フェニックスの腕を掴んだまま、金色の雲で徐々に上へと上がっていった。

「じゃあな! 兵藤一誠! この借りは必ず返すぜ」

そう言い放ち、フェニックス達はものすごい速度で夜空の向こうへと消え去った。

心のどこかでようやく戦いが終わったと、ホッとしたのか俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー? イッセー!」

目を開けると涙を流して俺の名を叫び続ける部長の姿と同じような状態のアーシア、

朱乃が周りにいた。

どうやら、戦いが終わった直後に意識を失っていたらしくその間の記憶はない。

だがアーシアの治療のおかげか幾分、体が軽くなった気がする。

「大丈夫なのね!?」

「ああ……ただ」

「ただ!?」

「お前の声がひどく響く。少しトーンを落としてくれ」

もっと重要なことを言われると身構えていたのか、結構どうでもいいことを云われ、

部長は大きなため息をつきながらも俺の頭を撫で始めた。

目線だけを動かして辺りを見てみるが、すでに事後処理に入っているらしく、

それぞれの陣営の護衛達がせっせと修復作業に入っていた。

「おぉ! イッセー君! 無事で良かった」

「本当です」

これ以上首を動かすのはしんどいが……声からするにサーゼクス様とミカエルさまの二人か。

「君にはかなりの負担をかけてしまった。裏切りのフェニックス、カテレアの使い魔、

そして白龍皇。魔王としては不甲斐ないことだ」

「……別に構いません。サーゼクス様は動けないでいる皆を守り続けてくれた……それに、

応えたまでです」

「感謝する」

サーゼクス様からの礼を受けた後、視線を動かして辺りを見渡すと部下と、

一緒に飛び立とうとしているミカエルさまの姿は入った。

「あ、ちょ」

「ミカエルさま! イッセーさんが」

俺の様子から用件を悟ったアーシアがいまにも、

飛び立とうとしていたミカエルさまを呼びとめてくれた。

「どうかしましたか?」

俺は部長と朱乃に支えられながらもどうにかして立ち上がり、

ミカエルさまに対面した。

「先ほど、会談でエクソシストなどの聖なる力の効果や祈りに対する慈悲に関して、

おっしゃっていましたよね?」

「ええ」

「その際に悪魔が祈りを捧げるとダメージを受けるというのも」

「ええ、神が生み出したシステムの影響です」

「それをアーシアとゼノヴィアの二人だけ、はずしてくれないでしょうか」

俺の頼みに周りにいた部員はもちろん、ミカエルさまも驚きを表していた。

「……わかりました。二人ほどならどうにかなるでしょう。

アーシア、ゼノヴィア。神がいない今でも祈りますか?」

「はい。たとえ主がいなくとも私はお祈りを捧げたいです」

「私も主への感謝と……ミカエルさまへの感謝をこめて」

二人の問いにミカエルさまはふっと小さく笑みを浮かべた。

「わかりました。何とかしましょう。兵藤一誠君。

今回は助かりました」

そう言って、ミカエルさまは金色の翼を羽ばたかせて既に

明るくなりかけている天へと部下とともに飛んでいった。

アザゼルが後ろで待っていた軍勢の方を向き、声を張り上げる。

「俺は天使、悪魔との和平を選択する! 不満があるなら抜けても良い!

ただし、次にあった時は容赦なく殺す! 良いな!?」

『この命! アザゼル総督の為に!』

風貌はチャラけていてもカリスマは本物か。

堕天使の軍勢は魔法陣を展開させ、次々と転移していき、

悪魔の軍勢も転移していっていた。

こうして三組織を巻き込んでの戦いは終結し、歴史に残る三種族の和平条約が結ばれ、

三種族は協力体制へと移っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てな訳でお前達、オカルト研究部の顧問になったアザゼルだ。

先生か、総督って呼んでも良いぜ」

数日後、一学期の修了式が終わった後、俺達は部室で呆れていた。

どうやら、レアなセイグリッドギアを放ってはおけないらしく自らが指南して、

成長をさせるということでこの役職についたらしい。

「これからお前達をバンバン、鍛えていってやるからそのつもりでいろよ」

こうして、波乱だらけの一学期は幕を閉じた。

 

 

駆王学園、一学期終了。

リアス・グレモリー卷属。

 

王:リアス・グレモリー。

 

女王:姫島朱乃

 

戦車:塔城小猫

 

騎士:木場祐斗、ゼノヴィア。

 

僧侶:ギャスパー・ヴラディ、アーシア・アルジェント

 

兵士:兵藤一誠

 

 

オカルト研究部顧問:アザゼル




最近、マジで小説書くのが楽しいですよ。
まあ、とあるレーベルの新人賞に五回ほど送っているんですが
全部、一次選考落ちなんですよね~。(笑)
一応、今回で一次で落ちたらもう二度と送らないですけど。
それでは!


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第三十話

夏休み……以前までの俺なら一日中アルバイトを入れ、

生活費の足しになるであろう給料袋、もしくは通帳を見ながら月の出費などを計算して、

母さんと一緒に小旅行に出かけていた。

だが、今は違う。悪魔となった俺は母さんとの時間をうまく作れなくなってしまったため、

日々の母さんとの何気ない会話を楽しんでいた……んだが。

「あらあらまあまあ。いつの間にこんなに豪邸になったの?」

母さんとの一泊二日の小さな旅行から帰ってきた俺達を出迎えたのは何故か、

タワーマンション並み……とまではいかないがおそらく五、六階建てだろうか、

それほどの高さがある豪邸に変化していた。

確か、俺の家は父さんと母さんが三十年ほどのローンで購入した一軒家だったはずだが……。

「何の断りもなくリフォームをしてしまって申し訳ありません。

実は私の父が建築関係の仕事をしておりまして、

これからはバリアフリーの時代というスローガンの下、

モデルハウスの一環としてリフォームいたしました」

「あらそうなの? ねえ、イッセー」

「……母さんがよければそれで」

母さんのワクワクしたような表情を見て、この場で部長に小さなお説教をするのはやめにした。

別に部長だって悪気があったわけじゃないだろうし……おそらく、

これから母さんは年老いていく。その過程で足腰が弱くなり、

付きっきりで介護しなければいけないことだって出てくるだろう。

そこら辺を踏まえてのことだと思うんだが……流石にこれはちょっと。

「イッセーさーん!」

上の階から笑みを浮かべたアーシアが俺に向かって手を振ってくる。

ちなみにこの豪邸から木場、朱乃、塔城、

ゼノヴィアの魔力を感じるのは気のせいであると祈りたい。

「イッセー! 早速、探検に行くわよ!」

「はいはい」

俺は興奮している母さんを宥めながら豪邸の中へとはいっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「で? どういうことか説明をしてください」

母さんはいつものママ友達と二泊三日の大型旅行に行っているため留守。

その間に俺は部長に尋問をかけていた。

「いやね。お兄様が下僕のスキンシップを図る目的でこうすればいいんじゃないかって」

「その結果がこれか」

「イッセー君♪」

俺の目の前に正座している部長、右腕に満足そうな表情をしている朱乃が抱きつき、

左腕にはアーシアが、さらにノリにのってか右足のゼノヴィア、

左足にギャスパー、そして俺の首元に肩車の要領で乗っかっている塔城が、

ちなみに木場は優雅にコーヒーを飲んでいる。

「お? 早速ハーレムを形成し始めているなイッセー!」

そして、何故かアザゼルまでもが俺の新自宅に来ていた。

「じ、実は地下が三階もあってね! 一階は映画鑑賞会を開いたり、

トレーニングルームを開ける場所にして、大浴場もあるのよ!?

それに二階はまるまる室内プール! そして地下三階には書庫になっていて私の実家にあった、

古い魔法書とかもたくさん」

「謝罪」

「ごめんなさい。一声かけなかった私が悪かったです」

初めて部長を言い負かした気がした。

「別にいいですよ。母さんを思ってのことでしょうし」

上の階へと上がる際には階段を使ってもいいのだが小型のエレベーターも設置されているし、

階段から行くにしても手すりには窪みがあり、専用の機械を使えば人の力なしで運べる。

さらに、段差はどこにもない。まさにバリアフリー。

「ありがとう……さて、話は変わるけど冥界に里帰りするわよ」

一回、こいつのデコにでも魔力全力の凸ピンでも喰らわせた方がいいのか?

「八月の二十日くらいまであっちにいようと思うの。あ、安心して。

イッセーのお母様のお世話はグレモリー家のメイドが責任を持ってするわ」

いや、まあ母さんの心配はそれほどないんですよ。

母さん、夏休みになったら結構、友達とお茶会行くし、

だいたい夏休みは『眠りの楽園よ!』とか言って平気で二日は眠りにつく。

腹は空かないのかと聞けば『私は寝るときはスーパー省エネママになるのよ!』

とか意味が分からんことを言っている。

まあ、もともと寝るのが好きな人だったけど。

「それに付け加えると鍛錬もあるし、非公認ではあるが一戦、

ゲームを加えようと思っている。既にサーゼクスには打診済みだ。

あと下級悪魔の会合があるんだったよな」

「ええ。まあ、昔から続いているならわしのようなものね」

「はぁ~! サーゼクスとの会談はあるわ、悪魔のご意見番とのお茶会みたいなのはあるわ。

総督面倒くせー! イッセー! 俺の代わりとしてお茶会を魔法で盛り上げてくれよ」

「断る。俺の魔法はそんな能力はないし、創造する気もない。

総督として自覚を持てよ、アザゼル」

「だから先生と呼べー!」

こんな感じで冗談を踏まえながらのこれからのスケジュール発表は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅立ちの日、俺が連れてこられたのは最寄りの駅だった。

俺を含めた全員が学園の夏の制服。どうもこの卷属の正装が学園の

制服になりつつあるよう。

「おい、歩きにくいから離せ」

「嫌ですわイッセー君。私は不慣れな貴方のために案内しているのよ?」

別に腕にくっつかなくても案内することはできると思うんだが――――そう言いたい気分を、

グッとこらえて俺は周りからの鋭い視線を一身に受けながらも、

案内についていくとエレベータの前で止まった。

「私と朱乃、イッセー、アーシア、ゼノヴィアで先に行くから、

貴方達はアザゼルと一緒に来て頂戴」

「わかりました」

そう言った後に、扉が閉まり、部長がスカートのポケットから一枚のカードを取り出し、

階数が表示されている下の方にある電子パネルにカードをタッチするとピッという音とともに、

エレベーターが下に向かって動き始めた。

一階と二階しか無かったはずなんだが……これも悪魔の権力とやらか。

一分ほど経つと、エレベーターが止まり、

ドアが開くとそこに広がっていたのはかなり広い空間だった。

もちろん線路もあるし、自販機だってあるし、何番線かを教える電子掲示板もある。

悪魔専用のものらしい。

遅れて木場達が到着し、部長についていくと人間のものとは少しフォルムが異なる。

列車が止まっているホームにたどり着き、列車が発車するまでの間、自由時間となった。

「…………お前ら何をそんなにじゃんけんをしている」

俺が座ると急に朱乃、アーシア、ゼノヴィアがまじめな顔をしてじゃんけんをし出した。

ちなみに部長は慣習らしく一番前の席に座り、

憎たらしいものでも見るかのような視線でこちらを見てくる。

「よし! 私の勝ちだ!」

勝ち誇った様子のゼノヴィアが俺の隣に座り、

ムスっとした様子のアーシアと朱乃が俺の前に座った。

ちなみに木場と塔城、ギャスパーとアザゼルはそれぞれ四人席に座っている。

「あの時パーを出せば」

「うぅ。主がいないことがこんなことに影響を及ぼすなんて」

神がいようがいまいがじゃんけんはそれぞれ、勝つ確率は同じだろうが。

そう思っていると発車の汽笛が鳴り響き、列車のドアが閉まって動き始めた。

「さて。向こうには一時間後くらいにつきますわ。だから、

皆でトランプでもしましょう。持ってきましたのよ」

そう言うと朱乃がポケットからトランプを出し、ポン! と魔力で木の板を出した。

「ポーカーでもやるか」

「うむ。それくらいなら知っている」

そんな感じでポーカーが始められた。

ルールは二回チェンジ、降りることもできるというかけ要素は一切なしのもの。

「ツーペアだ」

「ワンペアです」

「フラッシュですわ」

「…………」

俺がいつまでも手札を出さないことに全員が、俺の方を疑問の視線を送った。

……ハートの五、クローバーのキング、スペードのエース、ダイヤの三、

ハートの二……相も変わらず運勢は最悪なもんだ。

観念して手札を出すと全員、何故か嫌な笑みを浮かべた。

俺は悪魔になって以来、究極なまでに運が悪くなった。

転生する前はま逆に究極なまでに運が良かったんだがな……福引で毎回一等賞をあてたし、

ガラガラ抽選でも十回回せば十個の色つきの玉が出てきた。

だが、今となっては二十回ガラガラ抽選をすれば二十回とも真っ白な弾が出てくる。

「ふふ、このまま続けますわよ」

その後、俺は女のSな部分を垣間見た。




こんにちわ! いや~ウィザードも最終局面に入りましたね!


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第三十一話

「……もう勘弁してくれ。デートでも何でもしてやるから」

その後、レイナルドさんという車掌が俺達を照合しに来て、冥界へと俺達の情報を登録し、

さらに部長までもが寂しいとこっちにやって来てポーカーに加わり、

さらに後ろの席にいた奴までもがやって来て凄まじい数になったんだが、

それでも俺は負け続けていた。

十五回ほどやったが十五回連続敗北、一つのセットも作れずの完敗だ。

「あら、到着したみたいね」

窓の外へ視線をやるとグレモリーの文様が刻まれた兵服を着た大量の兵士たちが、

列車の前で待機していた。

「みんな、荷物を持って」

それぞれの荷物を持ち、外へ出るとアザゼルは魔王領へお呼ばれされているらしく

そのまま列車に残り、俺達が出るとともに列車が発車し、

更にパンパン! と花火のような音が俺達を出迎えた。

『おかえりなさいませ! リアスお嬢様!』

「ただいま、皆」

「ひぃぃぃぃ! 人がいっぱいですぅ」

俺が持っている段ボール箱の中から紙袋に二つの穴をあけたギャスパーが震えながら、

目の前の光景に驚いていた。

部長が笑みを浮かべれば待機していた奴らも全員笑みを浮かべてかえした。

隊列から銀髪のメイド、グレイフィアさんがやってきた。

「お嬢様、おかえりなさいませ。道中無事で何よりです。

既に馬車は準備しております。卷族の皆様もお乗りください」

「じゃあ、私とイッセー、アーシア、ゼノヴィア、

朱乃で一緒に行くわ。三人は初めてだから」

一番先頭の馬に五人が乗り込み、その後ろに待機していた馬車に残りが乗り込んで、

もう一個後ろにある奴には荷物を持ったメイド達が乗り込んだ。

以外と馬の移動時には騒音がなく、

鳴り響く蹄の音も聞いていればなかなか心地よいものに感じる。

「わぁ! 見てくださいイッセーさん! 大きなお城です!」

「そうだな」

「やはり、まだイッセーの顔には感情がでないものだな」

「これでも驚いているさ」

横に広がっている風景は中々の大自然でほとんど手がつけられていないのか自然が広がっており、

その中でも大きな城が一際、目立っていた。

「あれも私のお家の一つよ」

とりあえず、今の発言はスルーしておくことにした。

俺はとんでもない勢力を持つ上級悪魔のポーンになったのだと改めて感じさせられ、

そんなことを思っていると馬車が止まった。

「着いたようね」

部長に言われ、馬車から下りると両脇に執事とメイドが並んで列を作り、

それに挟まれるようにして赤いじゅうたんが城までつながっていた。

歩き出そうとしたときに列から紅色の髪を持った少年が走って来て部長の足もとに抱きついた。

「リアスねえさま! お久しぶりです!」

「ミリキャス! 大きくなったわね!」

部長は愛おしそうにその少年を抱きしめた。

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄様の子供で私の甥にあたる子よ」

ほぅ。つまり魔王の子供で正真正銘のプリンスであると。

「ほら、ミリキャス。この子たちはあたらしい卷族よ」

「ミリキャス・グレモリーです。よろしくお願いします!」

「ポーンの兵藤一誠」

簡単に挨拶を済まし、ガタガタ震えてしまいには段ボール箱まで、

共振を起こしているギャスパーを運びながら、城の玄関ホールにたどり着くと子供数人が、

遊んでも十分なくらいに広い玄関、そして前方には二階へとつながる階段。

「お嬢様、先のお部屋へお通ししたいのですが」

「そうね。先にお父様に挨拶をしたいのだけど」

「ご主人さまはただいま外出中であります。夕食の際には戻られると、

おっしゃっていましたのでその時がよろしいかと」

「そうね。先に部屋で皆に休んでもらいましょう」

「あら、リアス。帰っていたのね」

グレイフィアさんが手を挙げ、数名のメイドが俺達のもとへやって来て、

部屋への案内を受けようとした瞬間、上から女性の声が聞こえ、

そこへ向くとドレスを着た女性が降りてきた。

その姿はあまりにも部長に似ていて……相違点は髪の色が紅ではなく、

亜麻色ということくらいだ。

「お母様。ただ今戻りましたわ」

その瞬間、思わず共振していた段ボール箱を落としかけた。

幸い、すぐにバインドで固定はしたものの少々、ギャスパーには怖い経験をさせてしまった。

あとで文句は聞いてやるからな。

文句を言いたげなギャスパーをスルーして女性の方へ眼を向ける。

「彼が兵藤一誠君ね?」

「……俺をご存じで?」

「ふふ、あの婚約パーティーの時の登場には驚きました。

それと面白い魔法もいくつもお持ちだとか」

かなり優しそうな雰囲気をしている女性だった。

「申し遅れました。私はヴェネラナ・グレモリー。リアスの母ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、部長の親父さんが戻られたということで卷族が呼ばれ、

えらい豪勢なディナーが執り行われた。

「ここを自分の家として楽しんでくれたまえ」

そうは言うが正直、かなりきつい。

上を向けば豪華けんらんなシャンデリア、下を向けば豪華そうな装飾が施された椅子。

そして壁際にはメイドがズラリと並んでいた。

「いや~。長年生きてはいるが、君の魔法は見たことがないものばかりだ。

あれは全て君が作ったのかな?」

「ええ、あれは全て自作の物です」

「リアスもすごい男を下僕にしたものだ」

親の言うことに部長は恥ずかしそうに頬を染めるが、どこか嬉しそうでもあった。

「兵藤君」

「はい?」

「私のことをお義父さんと呼んでも構わんぞ」

一瞬、思考が停止したがとりあえず噛み砕くのは後にして、

頭の片隅のなかの片隅……つまり忘却の彼方へと押し込んでおいた。

「あなた。少し性急すぎますわ。物事には順序がありますわよ」

「うむ。だが、紅と赤……まあ、いろいろ色はあるがそれだぞ? めでたいではないか」

「浮かれるのは早いということですわ」

何やら部長のご両親がサクサクと話を進めているようだが特に俺に、

関係はしていないようなので気にも留めずに晩御飯に手をつけた。

特に食文化で違いはないらしく、味はうまかった。

「兵藤さん。これからイッセーさんと呼んでよろしいですか?」

「ええ」

「イッセーさん。これから滞在なさるのですのよね?」

「主がいる間はこちらにいます」

「そう。ちょうどいいわ。これからあなたには紳士的な振る舞いなどを学んでいただきます。

後マナーなどもお教えいたしますわ」

少し引っかかったところで俺の気持ちを代弁するかのように部長がバン! とテーブルをたたき、

立ち上がった。

「お父様! お母様! 先ほどから私を置いて話を進めるなんてどういうことでしょうか!」

直後、部長のお母様の表情から優しい笑みが消え、母親の威厳に満ち溢れた顔になり、

部長を細い眼で睨みつけた。

「お黙りなさい、リアス。今回、貴方がライザーとの婚約を、

破断したことによって周りの貴族の方からは下僕を使って、

無理やり破断した我儘姫と言われているのよ? 

どれだけお父様とサーゼクスが手を回したと思っているの? 

破断を許したのを破格の待遇と思いなさい」

「わ、私は」

「サーゼクスと関係ないと言いたいのでしょう。しかし、

三種族が協調体制に入った今、組織の末端にまで貴方の名は飛んでいるでしょう。

それに未知の魔法を扱う者を手駒にしているとして自然とあなたにも視線が集中します。

甘えは大概になさい」

部長は何も言えずに悲しそうな表情を浮かべながら席に座った。

俺は基本的にやったことは後で後悔はしないタイプだがこの一件に関しては疑問を感じる。

あの時、俺の行動は最善だったのか? 

もしあの時ライザーが俺に再戦を申し込んでいなければ……。

「一つ聞きたい。何故、俺をそこまで重要視されるのですか?

貴方がたの視線には未知の魔法ということを除いた何かを感じるのですが」

「ふふ。貴方は娘の最後の我儘ですもの。親としては最後まで面倒をみますわ」

笑みを浮かべながらそう言い、部長を見ると何故か部長は顔を赤くして、

恥ずかしそうにうつむいていた。




こんにちわ。


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第三十二話

翌日の朝、他の奴らが冥界の名所を回っている中、

俺はミリキャス様とともに朝から必死にペンを走らせ、講師の話をノートに書き写していく。

魔法書は全て冥界の言葉。

よって俺も冥界の言葉を覚える必要があったので覚えたが、それほど難しくはなかった。

「若様。悪魔の文字はご存知でしょうか?」

「魔法書を読める程度には」

「そうですか。では、古い言い回しなどを学んでいくとしましょう」

教育係は懇切丁寧に指導をしてくれる……それは嬉しいんだが若様ってのはなんだ?

昨日以来、会うメイドや執事全員に若様と呼ばれる。

「若様にはグレモリーの歴史を知ってもらわねばなりません」

「その若ってのはなんだ」

「………では、初期のグレモリー家について」

また、はぐらかされた。

どいつに尋ねてもこんな感じではぐらかされ、何故、

俺を若様と呼ぶのかは分からずじまいだった。

それにこんな教育を受けているのも部員の中では俺のみ。

「おばあさま!」

そんな声が聞こえ、頭をあげると部長のお母様が入ってきた。

部長のお母様は俺とミリキャス様のノートを見ると笑みを浮かべた。

「サーゼクスとグレイフィアの報告通りね。一を聞けば百まで理解する。本当に優秀ですね」

そこからいくつか話をし、次のスケジュールをこなすために俺は授業を抜けて、

部長のもとへと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

都市ルシファード。俺が今いる場所はそんな名前だった。

旧魔王のルシファーがいたことにちなんでそう名付けられたらしい。

電車でここまで来たんだが長距離ジャンプ用の魔法陣を何度か、

潜り抜けても三時間くらいかかった。

「ここから地下鉄だよ。騒がれないためにね」

「キャーッッ! リアスお姉さまー!」

突然の黄色い声援に驚き、その方向へ向くと向かい側のホームにいた女性達が、

部長に憧れの眼差しを向けていた。

駆王学園の男女にも大人気だがやはり、冥界でも学校以上の人気を誇っているか。

どうやら木場がさっき言っていたことはこういうことらしい。

護衛に守られながらも地下鉄をいくつか乗り継ぎ、

たどり着いたのは都市で最も大きい建物の地下にあるホームだった。

なんでもお偉いさん方が集まる会場がこの建物にあるらしい。

俺達はエレベーター前で護衛と分かれた後、乗り込んで上へと向かった。

「みんな良い? これから私たちが合うのは将来のライバル。

みっともないところは見せられないわ。たとえ何があろうとも手は出さないこと。

良いわね。特にイッセーは絡まれると思うけどそこは、

貴方の持ち味の冷静さで乗り切ってちょうだい」

俺は何も言わずに腕を組んで壁にもたれながら、首を縦に振った。

奴――――ヴァーリによって命名された俺だけの魔法、ドラゴンズマジック。

それらはすでに奴によって流布されているかは知らんが、

おそらく敵対組織であるカオス・ブリゲートには知れ渡っているだろう。

悪魔側に流れているかは知らんがな。

エレベーターが止まり、扉が開いて外へ出ると道の一角に人が集まっていた。

「サイラオーグ!」

どうやら部長の知り合いらしく、部長が声を上げると一角にいたガタイの良い男が、

こちらを向くと歩いてきた。

二人は笑みを浮かべながら固い握手を交わした。

「紹介するわ。彼はサイラオーグ・バアル。母方の従兄弟に当たるわ」

「サイラオーグ・バアルだ。バアル家次期党首だ。よろしく頼む」

バアル家。確か魔王の次に地位が高い大王家だったはず。

つまりあそこで俺達を見ているやつらはこいつの卷族……つまり、

大王家の卷族か。魔王に大王……やはり、こいつの周りは異質だ。

「でも、どうしてここに?」

「つまらなかったからな」

疑問を抱く部長をよそに向こうのホールから爆音が鳴り響き、

こちらにドアが吹き飛んできた。

『ディフェンド、プリーズ』

俺と木場は同時に駆け出し、男と部長の前に立つと魔法陣を展開し、

木場は魔剣を出現させた。

魔法陣の壁が一枚防ぎ、木場の魔剣がもう片方の扉を切り裂いた。

「彼らが私の卷族よ」

「そうか」

爆音の方へと近付いてみるとホールの中央でいがみ合っている二人の悪魔がいた。

一人は化粧をして傍から見ても美人な女性悪魔、

もう一人は全身に魔術的なタトゥーを入れており、ライザー以上にチャラかった。

「ゼファードル。そんなに死にたいの?

繰り上がりで次期党首になった貴方が私を倒せるとでも思うの?」

「はっ! 女が調子こいてんじゃねえよ! 大体、

俺が隣の部屋で一発仕込んでやるっつうのにてめえが拒否したからだろうが!

だからいつまでたっても処女なんだよ!」

あいつがペラペラと喋っていることを聞く限りではあの男が化粧をしている女に、

下な誘いをしたのだがバッサリと断られた……どうやらセクハラをしたらしい。

さっきのは訂正だ。ライザー以上に性格が出来上がっていない奴だ。

「本来はここは待合室で軽い茶でも振る舞う場所だったんだがな」

「ようはあいつを止めればいいわけか」

「そうなるな。やれるか? あんな性格といえど一応は上級の位にふさわしい強さだ」

『バインド、プリーズ』

俺は床に四つの魔法陣を出現させ、ゼファードルと呼ばれたやつへ向けて鎖を放ち、

雁字搦めに拘束した後に床にたたきつけた。

「がっ! 何しやがんだクズが! 俺は次期党首だぞ!」

「上級だろうがこの程度の奴に負ける気はしない。後、お前。近所迷惑だ。

暴れるなら外で暴れてくれ。今から軽いお茶会を開くらしいんでな」

「下級の癖して調子こいてんじゃねえよ!」

「その下級の鎖を解けない貴様は何級だ」

この程度の安い挑発だけで奴は額に青筋を立て、

俺を睨みつけながら鎖を引きちぎろうとするがその程度の力で砕かれることはなく、

余計に奴の魔力を吸収して強くなった。

塔城に引きちぎられて以来、修正に修正を重ねたものだ。

「これで良いのか?」

「ああ、助かる。会談が始まるまでそうしておいてくれ。

後、口もふさいでくれたらもっと助かるんだが」

『スリープ、プリーズ』

魔法陣を展開させ、奴に通すと床に突っ伏して眠りについた。

相変わらず、この魔法の睡眠効果は良い……広告でも出して、

不眠症の依頼者にでも呼んでもらうか。

壁際で待機していたこいつの卷族もいったい何が起きているのか、

うまく理解できていないらしく、動けないでいた。

「この有様だが軽いお茶会をしよう。久し振りにリアスと話したい」

「ええ、私も」

その後、担当の悪魔が来るまで部長とサイラオーグは思い出話に花を咲かせ、

俺たち下僕はせっせと周りの後片付けを行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「一悶着あったみたいだが始めようか」

担当の悪魔に呼ばれ、連れていかれた場所は野球ドームのように俺達を中央に置いて、

その周りを囲うように席で覆われているんだが今は前の席だけ埋まっていた。

一番下の階には四代魔王が、その上の階には偉そうなおっさんたちが座っていた。

すると、それぞれの主が一歩前に出た。

「よく集まってくれた。君たちは今、

若手の中で最も注目がある者たちだと思ってくれて構わない」

おっさんが威厳のある声で淡々と話していく。

「早速やってくれた奴もいるがな」

嫌味ったらしく髭を生やしたおっさんがゼファードルとか言う今、

さっきまで寝ていた男を見た。

「君たちは家柄、強さも申し分ない。君たちの将来に期待しているよ」

それから五分ほど、サーゼクス様がお話をなされ、

最後にそれぞれの主が将来の目標などを言っていき、この会談が終盤へと近づいた時だった。

「時にリアス・グレモリーよ」

「はい」

突然、今にも終わろうとしていた時に髭を生やしたおっさんが部長に質問をした。

出来れば早く終わってほしい。

「貴様が下僕にしたポーンは魔法を使うと聞いたが」

「ええ、そうですが」

「それは未知の物だと聞いた。ここで見せてみろ」

「それは」

「申し訳ないがそれはお断りする」

部長が言い切る前に俺は髭のおっさんの申し出を断った。

「なんだと」

「俺の魔法はあんたらを楽しませるためにあるんじゃない。

誰かの希望を護るために……絶望から救うためにある。

見世物として魔法を使う気はさらさらございません」

もっと、きつい言葉で言ってやっても良かったのだが、

そうすれば部長が批判されてしまいかねない。

部長が批判されればこの先に活動において支障が出てしまう恐れが高くなる。

だから俺は懇切丁寧な言い方をした。

「フハハハハ! たかが魔法を見せるだけだろう。それともなんだ?

貴様の魔法は見せられない理由でもあるのか」

「魔法は俺の宝。貴方だって自らの宝、

またはそれに類するものは人にはなかなか見せないものでしょう」

「ふん、人間からの転生風情が」

「お言葉ですが」

その言葉を聞き、部長が急に立ち上がった。

その背中には怒りを感じた。

「貴方がいま転生風情と仰った彼の力がなければこれまでの戦いには、

勝利はできなかったでしょう。

彼がいたから今の協調体制がある……私はそう考えております」

「彼女の発言には一理あると思うがね」

突然の発言に会場が一瞬、どよめいた。

発現が聞こえた方へ顔を向けるとレヴィアタン様の隣に、

座っていた怪しげな雰囲気を醸し出している若い男性がいた。

「報告では彼は会場にて裏切りのフェニックス、旧魔王派の強力な使い魔、

そして白龍皇を一人で撃破している。彼がいなければ被害は甚大なものとなり、

とてもじゃないが和平など結んでいる暇はなかっただろう」

一人の魔王の発言に眉を潜め、嫌そうな顔で髭のおっさんは男性をみるがすぐに、

周りの空気に耐えられなかったのか顔を俯かせた。

「やはり今の若い子は面白い。そうだここで一つゲームをしよう。

圧倒的な破壊力を持つグレモリーと綿密な計画を立て、

ゲームを支配するシトリーでだ。破壊と戦略。

どちらが勝つか、見ものではないだろうか?」

サーゼクス様が周りを見渡し、肯定か否かを視線で尋ねるがどの人物も顔を横に振ることはなく、

サーゼクス様の方を見た。

ただ、レヴィアタン様だけはやたらとキラキラした様子で首を縦に振りまくっていた。

「決まりだな。他のゲームについても考えておくつもりだ。これにて閉会としよう」




一応、この物語だけ連載作品として残そうかなと思っています。
後は完結作品として残そうかと考えております。


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第三十三話

「ほぅ。シトリーと対戦か……まあ、

俺としてはそれ以上にお前とリアスの会話にあったんだがな」

どうやらアザゼルもどこかであの対談を聞いていた、

もしくは内容を聞いたのかニヤニヤしながら俺達の方を見てきた。

あの発言はどこかから漏れだしたらしくすぐさまその日のテレビのニュースで一斉に報道され、

大勢のマスコミの集団が部長の家に突撃してきたらしいがその全てを門前払いにしたらしい。

まあ、あの髭のおっさんが外に漏らしたとは思うがな……。

「ま、そんなさておき。人間界では今は七月二十八日。

ゲーム開始日まであと二十日ほどある訳か」

「……修行か」

「そうだな。既にお前たちそれぞれにあったメニューは考えているさ。

ただ一人だけまだなんだが……まあ、大丈夫だろ」

恐らく向こうのチームにはレヴィアタン様がアドバイザーとしてつくだろうし、

こちらには堕天使総督兼オカルト研究部顧問のアザゼルが担当する……不公平は、

今のところなしか。

あとはどれだけゲームまでに己を高めることができるのかが重要だな。

すると、俺達のもとへグレイフィアさんが歩いてきた。

「皆様、温泉の準備が整いました」

グレイフィアさんからその言葉を聞き、俺たちはさっそく洗面用具など全てもって、

温泉へと向かうと本邸から少し離れた所に壁で分けられた露天風呂があった。

悪魔の社会もどうやら封鎖的なものではなく開放的で、

異種族の文化などを積極的に取り入れているのか……。

そんなことを思いながらも服を脱ぎ、裸になってお湯に浸かるとちょうど良い湯加減で、

温かさが足の先から全身を登ってきた。

……ん。やっぱり温泉は良いな。

「まあ、なんつうか。冥界に来たのは温泉が目当てだったんだよ!」

アザゼルはいつの間に持って来ていたのか酒が入ったお猪口をお湯に浮かべた木の板に乗せ、

調子よさそうに大きな声を上げながらガブガブと酒を飲み干していく。

……まさか、リアルにあんなことをする奴がいるとはな。

大きな壁を挟んで、向こう側には女湯。

温泉自体は中々のものだった。

下手をすれば人間界のよりも豪勢な作りになっているかもしれない。

だがやはり、人間界のをモチーフにしているのか、

そんな頭一つ分出ているような奇抜なデザインはない。

『イッセー君!』

『朱乃! 最近、ちょっと前に出過ぎじゃないの!?』

『女は出過ぎるのがちょうど良いのよ。リアス』

壁を挟んだ向こう側からやたらとバシャバシャというお湯をかけあう音が聞こえてくる。

「なあ、イッセー。お前、部員の女子たちの中なら誰を取る」

ニヤニヤしながらアザゼルが俺の肩に腕を回してくるが、

すぐにその腕を弾いて、少し距離を置く……が、すぐにまたずいずいっと、

こっちにやって来て先ほどと同じ質問をした。

「どういう奴がタイプだ?」

「あいつから聞いていないのか?」

「聞いてるさ~。感情が顔に出にくいってだけでちゃんと抱いてはいるんだろ? 

過去数百という数多のハーレムを築いた俺だ。女のことなら結構詳しいぜ? 

な、誰がタイプだ。ちなみに俺はお姉さんタイプの」

『コネクト、プリーズ』

アザゼルの背後に空間を繋げた魔法陣を展開し、

そこへアザゼルを押し込むと壁の向こう側……つまり、

女子風呂の方(地獄)へとアザゼルを飛ばしてやると向こうからキャー! ではなく、

滅びの魔力やら雷やら岩石が砕ける音やらブゥゥン! というデュランダルがオーラを放つ時に、

聞こえてくる音が聞こえ、数秒後には静かになった。

まあ、あいつらも殺しはしない。

ただ、二度と俺にあんな質問はしないと心に誓わせたことだろう。

「イッセー君って時々、むごいことをするよね」

「流石先輩ですぅぅ!」

「それが俺だ」

若干、ざまあみろと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、グレモリー邸の中にある広い大広間に卷属全員が集められて、

修行内容が書かれたメニューを持ったアザゼルの近くに集まっていた。

肝心のアザゼルは顔中に湿布を貼っており、女子陣からは冷ややかな視線を向けられていた。

「まだ痛いし……ごっほん! では、それぞれにメニューを配る。まずはリアス」

部長が呼ばれ、メニューを配られる。

「お前はすでに全ての要素が最高水準クラスの悪魔だ。

このままいけば最上級悪魔候補には間違いなく上がるだろう……だが、

将来よりも今強くなりたいんだな?」

「ええ、もう負けるのは嫌だから」

部長は表情に凄みを含ませながらアザゼルにそう返答した。

だが、俺にはそれ以外の理由がある気がした……こう、

何かを自分から切り捨てたいような気持が……。

「そこでお前に渡したメニューだ。基礎トレーニングはもちろんだがお前には、

キングとしての資質を高めてもらう。キングは時には力ではなく頭を求められる場面もある。

現存している全ての記録、映像を片っ端から見ていけ。そして学べ、

王たる行動を、王たる支配を」

普段のアザゼルからは感じられない強い何かが感じられ、

部長もいつも以上に真剣な様子でその話を聞き、首を縦に振った。

「次は朱乃だ」

「……はい」

朱乃はまだ、アザゼルが嫌いらしい。

その根幹には堕天使……自分の父親のことが関係している。

協調体制になったとはいえ、全ての奴の心が協調体制になったわけじゃない。

未だに各地で協調体制に反発している集団がデモなどを起こしているらしく、

さらには政治家の中にも反対している奴らがいるらしい。

「お前は自分の血を受け入れろ。まずはそこからだ」

「…………」

「ライザー戦を見させてもらったが滑稽だった。なんだあの様は。

お前が持つ全ての力を開放さえしていればあの程度のクイーンは簡単に倒せたはずだ。

たとえ相手がフェニックスの涙を使おうともな。

ゲームの敗因が直接的にお前とは言わんが……少なくとも結末は変わってはいたはずだ。

自らの血を拒むな。血を拒むということはおのれ自身を拒み、

力をも拒むことになる。次、木場」

朱乃にメニューを渡し、下がらせた次に呼んだのは木場だった。

「お前はバランスブレイクを一日何もしない状態で保持できるようにしろ。

そこから実戦形式で一日持つようにできれば倍々に保てる日数を増やしていけ」

「はい」

「剣術に関してはお前に任せる。師匠に行くんだろ」

木場は何も言わず、アザゼルの言葉に首を縦に振った。

木場をここまで至らしめた師匠……どれほどの、強さの剣士なのか。一度、会ってみたい。

「次はゼノヴィアだ。お前はデュランダルを今以上に使えるようになれ。

後、もう一本の聖剣もな」

「もう一本?」

「ああ、次ギャスパーだ」

首を傾け、疑問を感じているゼノヴィアを下がらせ、次に呼んだのはギャスパー。

しかし、ギャスパーはアザゼルに名前を呼ばれただけで、段ボール箱の中で体をビクつかせ、

オロオロしながらアザゼルのもとへ行った。

「お前にはまず、その恐怖心を克服してもらう。

お前の力はいずれ卷族を護る面でも攻める面でも重宝する。

まずは俺が組んだプログラムをこなしていってもらう」

「は、はいぃぃぃぃ! 玉砕覚悟で頑張りますぅぅぅぅ!」

俺からすれば今のギャスパーではアザゼルが考えたプログラムとやらを受ければ、

玉砕覚悟ではなく玉砕することになると思う。

ギャスパーを下がらせ、次に呼んだのはアーシア。

「アーシア。お前も基本的に基礎トレだがお前は戦闘ではなく回復専門だ。

セイグリッドギアのことをもっと知ってもらう必要がある。

そこら辺に関しては後々、マンツーマンで教える」

「は、はい!」

「次、小猫」

呼ばれた塔城が一歩前に出るが、その表情はどこか暗かった。

「お前も基本的に朱乃と同じだ」

その一言で、さらに塔城のオーラも表情を一層暗いものとなった。

どうやらこの卷族は全員、何かしらのコンプレックスを抱いたまま、

悪魔に転生した奴らが多いみたいだな。

「それでイッセー。お前なんだが……ない」

その言葉通り、メニューの紙が俺の分だけあらず、

奴の手の中には既に一枚の紙も残ってはいなかった。

「以前、お前の戦いを間近で見せて貰ったが転生して数か月の新人悪魔で、

ここまで完成された戦いをする奴は初めてだ。

ふつう、どんな新人悪魔も自らの戦い方は分からないもんだ。

主の、同じ下僕の戦い方を見て、参考にして長い年月をかけてようやく、

自らの戦い方を完成させる……が、お前はすでに完成している。

完成したものに手をつけるほど、俺はバカじゃない」

「なら、アザゼル。体術を鍛えさせれば」

「おれも思った。だがな、よくよく考えてもみろ。こいつの魔力は異常な量だぞ?

あの三連戦でも尽きなかった魔力だ。それに魔力に直接干渉することができるのは、

今確認されているものでロンギヌスの二天龍のセイグリッドギアだけだ。

その中で相手にという事で括ればヴァーリのみ。だが既にお前は対策を見つけているんだろ?」

さらなる力で奴を超え、触れさせる前に叩き潰す―――――それがもっとも近道で、

もっとも簡単な方法だった。だが、そうなると……。

「そこでだ。俺はこんなこともあろうかと準備はしてきた。もうすぐ来ると思うんだが」

アザゼルが窓の外を見ようと立ち上がった瞬間、突然、

何かが地面に不時着したようで、すさまじい音の地響きが鳴り響いた。

「ついて来い。お前の師匠だ」

アザゼルに言われ、奴についていき、

外へ出るとそこには俺の中に宿っているドラゴンのように赤い鱗を持ったドラゴンが座っていた。

「ブレイズ・ミーティア・ドラゴンのタンニーン。

元ドラゴンで今じゃ最上級悪魔だ」

「ふん。よくのこのこと悪魔の領地に入ってこれたもんだな。アザゼル」

「まあ、そう言うなよ。今俺がここにのこのこいられるのはこいつのおかげだ」

アザゼルが俺を指さすとタンニーンとやらがこちらを振り向き、その大きな目で俺を見ると、

どこか懐かしそうな表情をし、目を細めた。

「ほぅ。懐かしいオーラだ。随分と奥深くにいるな」

その一言が何を指しているのか、

この場でいる奴でそれを理解しているのは恐らくアザゼルと俺くらいだろう。

あの戦いの中でドラゴンを見たのはアザゼルのみ。

ああやって、ぶつぶつ何やら呟いているのが気付いているという証拠だ。

「で、このガキをどうすればいい」

「あ、ああ。とにかく、戦うだけでいい。全力でいってくれて構わない」

「ほぅ。お前がそこまで言うんだ。これは楽しそうな戦争(たたかい)ができそうだ」

絶対にこいつの中での戦いは、戦いではなく戦争と書いて戦いと読むに違いない。

「リアス嬢。あそこの山を借りる」

「ええ……イッセー」

部長は心配そうな表情を浮かべながら俺を見てきた。

……何故、そこまで心配そうな顔をする。別に大きな戦争に行くわけじゃないんだ。

「何も心配することはない。

俺が強くなることはお前にとってはプラスだろ……それに、俺は死なない」

「そうね……逆にあなたを心配する方がダメね。待ってるわ」

「ああ。背中、乗るぞ」

「ああ、構わん」

タンニーンの背中に飛び乗り、それを確認した奴はその大きな翼を羽ばたかせ、

向こうに見えている大きな山へと飛行を始めた。




とりあえず、ダッシュでISの二次を完結させてやる!
俺、頑張る!


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第三十四話

数日後、俺―――――アザゼルは途中経過を見に行こうと、

イッセー達が向かった山へと足を運んでいた。

手にはイッセーのためにと火花(魔力)を迸らせながら、

女子軍団が気合いを入れて作った弁当が入っている。

にしてもあいつは無意識のうちにハーレムを形成したな。リアスもアーシアも、

朱乃もゼノヴィアもあいつに惚れているしな。

ほんと、俺も若い時は……やってるやってる。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

そんな音声が聞こえた直後、上空からすさまじい爆音が鳴り響き、

周りの木々が強すぎる爆風によってギシギシと音をたてた。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

上空の方で緑色の魔法陣が展開され、

そこからタンニーンにめがけてドラゴンの形を模した雷の塊が放たれた。

タンニーンも負けじと火球を放ち、それらが直撃しあった瞬間、

先ほどよりも強い衝撃波が地上に降り注いできた。

「相変わらずの魔力量……それに、

既存の魔法を超える威力……ヴァーリがあいつの正体を秘密にしておくのも分かるわ」

以前、奴が召喚したドラゴンを見て確信した。

召喚された際の姿は以前、見た姿とは程遠く、力も大幅に制限されているようだが確実に、

あれは俺が今まで探し求めていたウェルシュ・ドラゴン―――――ドライグ。

そして、奴の中に眠るセイグリッドギアはトウワイス・クリティカルではなく、

ロンギヌスが一つ、ヴァーリのディバイン・ディバインディングとは対極に位置する力。

赤龍帝の籠手――――――ブーステッドギア。

奴が龍の魔法(ドラゴンズマジック)と名付けたのも頷ける。

それに、次も奴はイッセーと戦いたいがためにあいつの正体は出さず、

ただのおかしな魔法使いとして置いておくつもりか。

戦いにひと段落がつき、息も途切れ途切れの二人が地上に降りてきた。

「どうだ? 調子は」

「はぁ、はぁ。中々のものだ。なんせ、数日間、俺とやりあったんだ」

タンニーンは大きく呼吸し、

それに対しイッセーは背中をつけて寝転がって大きく息を吸っていた。

流石にこいつといえど、最上級悪魔と数日間戦えば魔力も尽きるか。

「ひとまず……飯食うか?」

イッセーの呼吸が整ってからそう言うと、何も言わずに弁当が入った袋を手にとって、

そのままガツガツ食いはじめた。

おぉ、食う速度早ぇぇ~。

「で? 何故、お前が来た」

「ああ、そうだった。イッセー、いったん戻ってこい。小猫がオーバーワークで倒れた」

「それのケアをしろと?」

「それもあるがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、そこでターン」

グレモリー本邸からそこそこ離れた位置にある別館の一室で俺は正装に着替えさせられ、

部長と社交界で踊るようなダンスの練習を行っていた。

ずっと考えているんだが何故俺だけがこんな教育をされているのかがさっぱり理解できなかった。

木場やギャスパーなんかは受けていない様子。

「そこで休憩しましょう」

部長のお母様に言われ、俺たちはいったん別々の場所へと分かれた。

部長はビデオの続きを、俺は部屋で休憩をする。

それとなく、本邸の方へ魔力探知をしてみると若干、

弱った塔城の魔力、そして同じ場所に朱乃の魔力を感じた。

だが若干、塔城の魔力が変質しているように感じる。

「イッセーさんは小猫さんが心配なのですね」

微笑を浮かべた部長のお母様がそう言う。

「……何故、そう感じるのですか」

「貴方の視線がずっと本邸の方を見ていましたから……彼女もまた

己の存在を受け入れなければならないのです」

己の存在を受け入れる……あいつも堕天使の血が体に流れている朱乃と同じように、

転生以前は別種族だったという訳か……人間以外の。

「彼女の過去を聞きますか?」

「……いえ、止めておきます」

そう言うと、部長のお母様は少し驚いたような表情を浮かべた。

てっきり、仲間の話は聞くものと思っていたらしい。

「過去が何であれ俺はあいつらの前で言いました……全員を俺が支えてやる。

心が崩れ、絶望したとき。俺はあいつらの支えになる」

そう言うと部長のお母様は笑みを浮かべ、急にポケットから手帳を取り出した。

「今日の二時間の練習を明日に回して今日は終わりにしましょう」

「……感謝します」

正直、感謝できるか微妙だったがとりあえずそう言っておいて、

塔城の魔力を感じるところを転移先へと決定し、魔法陣で転移した。

「イッセー君」

「よう……なるほど、それがお前か」

ベッドの上に頭から猫耳、そしてお尻のあたりから尻尾を生やした塔城がひどく、

落ち込んだ様子で俺の方を見てきた。

怪我自体はアーシアに治してもらったようだが……魔力と心の問題はそう回復することはないか。

俺は何かを話そうとする朱乃を止め、彼女の傍に腰を下ろした。

「……何か用ですか」

いつもよりも棘のある言い方だ。

「そこまで俺が羨ましいか」

そう言うと、肩をビクつかせ、俺から目線を反らした。

今の返答で分かった……こいつのコンプレックスは戦いに関する力。

朱乃と同じように自分の中に流れる血を、力を拒否して全力で戦うことのできない状態か。

「バタバタ敵を倒す強さを持ってる俺がそこまで羨ましいか」

「……強くなりたいです」

彼女は小さな眼から涙をぽろぽろ流しながら、シーツを強く握った。

「強くなって、皆のお役に立ちたい……何よりイッセーさんの隣で戦いたい。

護ってられるばっかりじゃ……嫌なんです」

「なら、その解決方法はもう見えているはずだ」

そう言うが、彼女は眼から涙を流したまま下に俯き、俺とは目を合わせなくなった。

そこまでして自らの血を否定するのか……もしくは、そこまで否定したい理由があるのか。

どのみち、こいつの過去を聞いていない俺にとってはここが限界か。

「血を受け入れたら…………あの人と同じになる気がするんです」

それから彼女の口から自らが血を、力を否定するわけを聞いた。

彼女は猫又―――――その中で最も強い種族の猫しょうと呼ばれる妖怪の生き残り。

彼女はもともとは姉とともに暮らしていたがその姉が上級悪魔に才能を見いだされ、

悪魔となり、共に過ごすこととなった。

だが、転生がきっかけとなり今まで姉の中にあった才能があふれ出し、

どんどん力をつけていき、最終的には力に飲み込まれ、主を殺し、妹から去った。

その後、姉と同じ力を持っていると推測した上層部によって殺されるところを、

リアスの下僕になることで回避した。

話し終える頃には嗚咽が聞こえるくらい、彼女は泣いていた。

姉の力に飲み込まれた姿がトラウマとなり、

自らの力を開放することに戸惑いが生じた……か。

「例え強くなってもあの人と同じになったら意味がないんです!」

俺は何も言わず、白い髪が生えている彼女の頭の後ろを軽く押して俺の胸に当てさせた。

「先……輩?」

「前に言ったな。心の支えになると……お前が絶望しかかっているなら俺は、

お前に手を差し伸べる。力に溺れそうになったのなら俺が引きずり上げてやる。

小猫。自分の力を否定するな。お前の姉が溺れたからと言って、

お前が100%溺れるというわけじゃない。受け入れろ、

そして前を見ろ。力に目を向けなければお前が望むことは達成されない」

「……助けて……くれますか?」

「ああ、助けてやる。お前がどんな存在になろうとも、俺はお前を助ける」

そう言いながら彼女の頭を優しく撫でてやると彼女は少し、

顔を赤らめ下から俺を見てきた。

「俺はそろそろ行く。今度のゲームでお前の本当の姿を見せてくれ。

それと朱乃。お前の本当の姿もな」

そう言い残して、俺は部屋から去った。

 




これからISの二次を書くぜ!


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第三十五話

鍛錬最終日の前日の夜、俺はタンニーンから過去の話を聞いていた。

俺の中に眠るドラゴン―――――ドライグの話もそうだが、戦争中の冥界の話などを。

その遥か昔、まだ三種族が戦争を続けている時代、

ドラゴンは我関せずというスタンスを取っている個体が大多数を占めていたらしいが、

どちらかの種族に手を貸す連中もいたらしい。

そんなとき、ドライグとアルビオンが三種族が争っているど真ん中で戦いをはじめ、

三種族は戦争どころではなくなり、協力して二体のドラゴンを撃破した。

それがきっかけで戦争は休戦となったらしい。

「ドライグは相当、倒されたのを恨んでいるらしい。

ドラゴンはその巨体、その強大な力ゆえに下を見下すところがある。

ドライグはその性格を巨体規模の物を持っていたのさ。

だから、魂だけになっても奴は憎んでいる。人を、悪魔を、天使を。

その鬱憤をアルビオンとの戦いで発散しているのさ。その点、お前は不思議だ」

「何がだ」

「自然とドライグを宿したものはブーステッド・ギアという比類なき力のみ使用して、

または頼って闘ってきた。だが、お前はギアではなくドライグの体を、技を利用している。

まあ、流石に雷やら冷気やら重力やらはなかったがな」

ただのドラゴンがそんなものを使えるのならば少なくとも三種族に倒されて、

魂だけにされることはなかったさ。

だが、この魔法を作ったのも奴の魔力で作った。

つまり今は俺のものでもあり、奴の物でもあるということか。

「兵藤一誠。お前は白いのと決着をつけるのか」

「ああ……だが、運命とかそんなのはなしだ。俺はただ単に一度、

味わさせられた屈辱は何千倍にもして返す主義だ。次は確実に奴を倒す」

だが、その為にはあの魔法を完成させなければならない。

ドラゴン単体の魔法では奴を追い詰めることはできても完全に地に付すまで出来ない。

全てのドラゴンを……四種類のドラゴンを一つにまとめる必要がある。

そうすれば奴を倒すことができる……あくまで理論上はだがな。

何せ、反発がひどい。

炎、水、風、地。四つの基本属性が一つにまとまるということは森羅万象など目ではない。

だから、反発し、一つになることを拒む。ゆえに合わされば絶大な力が手に入る。

木を燃やし、辺りを明るく照らしている炎に魔法で生み出した炎を加え、

弱りかかっていた炎を強くする。

「いつの時代も争いはあり、その中で白と赤は戦い続けてきた。

今は小さな争いはあれど、昔のような大戦はない。その中でどう、

白と赤が決着をつけるのか、楽しみでもある」

タンニーンは口角を少し上げて、笑うと大きないびきを上げて眠りについた。

「……決着をつけないという場合は考えないんだな」

そう呟き、魔力で生み出した水を炎にかけて消火してから俺も眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

鍛錬の期間も終了し、

数日の休息期間の最終日にある魔王主催のパーティーの準備を俺たちはしていた。

とはいっても俺は学園の制服で済ましたのだが他の奴らが、

パーティー用の服装を着るらしく準備に時間がかかっていた。

「あら、兵藤君」

「会長」

ソファの背もたれに項垂れていると声をかけられ、

そちらへ目を向けるとパーティー用のドレスに身を包み、

若干の化粧を済ませた会長がやってきて、そのまま俺の隣に座りこんだ。

「今日はちゃんと着ているのですね。普段は少し、緩い感じでしたから」

「部長のお母様にこっぴどく叱られましてね」

会長はあぁ、とだけ言って黙った。

「……以前は匙が貴方に迷惑をかけました」

その話しに該当する出来事はすぐに思い出した。

俺が挨拶をしようとしたときに無理やり潰すように割り込んできたときのことだ。

どうも俺は奴に嫌われているらしい。

「彼は本当にあなたのことが嫌いらしくて……何度、

あの子を説得しても変わらない状態なんです」

恐らく会長は俺の事情を話していない……あの反応はいたしかたないのかもしれない。

そりゃ、そうだ。全部のテストで満点を出す代わりとして、

登校義務を免除する高校なんざ俺が通っている高校しかない。

一年前、会長もその制度をなくそうと動いたのだが上から圧力がかかり、

止めざるを得なかったらしい。そんな噂が去年は蔓延っていた。

「匙は今度のゲームにかなり気合が入っています」

「そうですか……気合いを入れようが入れまいが叩き潰す。

ゾンビのように何度も立ち上がろうが強制的に転移されるまで叩き潰す」

そう宣言した時に奥の方から部長達の魔力がこちらに向かって近づいてくるのを感じた。

その中には会長の卷属も含まれていた。

……アーシアにちょっかい出せば、この場で叩き潰してやる。

「お待たせ、イッ……どうしたの? そんな顔して」

「アーシア、なにもされていないか?」

「へ? ずっと、部長さんと一緒にいましたけど」

「なら良い。外でタンニーンが待っている。俺達を運んでくれるそうだ」

既に外で待機しているタンニーンのもとへ、

両卷属を案内するとタンニーンの卷属ドラゴンが外で待機しており、

待たせ過ぎだと叱られてしまった。

とりあえず、それぞれ何人かに分かれてドラゴンの背中に乗り、

パーティー会場へと向かった。

「ねえ、イッセー」

夜空を飛び、気持ちのいい風が俺達の頬を撫でる中、

後ろから部長が俺の腹に腕を回して抱きついてきた。

「……なんだ」

「さっき、ソーナに言われたわ。絶対に負けないって」

「そうか……なら俺たちも負けない」

「うん……この戦いは絶対に勝ってみせる」

その言葉には部長の強い意志が現れていた。

もう二度と負けたくない……そんな意志が今の言葉には感じ取られた。

安心しろ。二度とお前に負けを寄越す気はない―――――そんな言葉を口から言葉としては吐かず、

ただ部長の手に手を重ねた。

「良い雰囲気だが着いたぞ」

風がやみ、タンニーンが地上へ降り立った。

タンニーンの背中から降りると遠くに豪勢な作りのホテルがそびえたっていた。

そこはグレモリー領の端の方にある大きな森の中にぽっかりと存在しており、

辺りは木に覆われてホテルの方へと向かっていく毎に明るくなっていた。

「おれたちは大型の悪魔用のスペースに行く。兵藤一誠、あまり主を妬かせない方がいいぞ」

そう言い残して、タンニーンは自らの下僕とともに夜空へと消えた。

妬かせる……いまいち分からん。

それから俺達を迎えに来ていたホテルの従業員に連れられ、

高級そうなリムジンに乗せられ、ホテルへと向かった。

窓の外にはやたらと貴金属が光っており、どいつも高そうなドレスを着ていた。

……どうも、ここら辺は金の嫌な部分が凝縮されてそうだ。

「ひぃぃぃぃ! 今日は段ボール箱はないんですか?」

「ない。段ボール箱も紙袋もない。修行の成果見せてみろよ」

「よ、よぉぉぉし! 今日一日がんばりますぅぅ!」

ギャスパーの気合いとは裏腹に、

俺は『たぶん、数秒で涙目になって五分も経てばガタガタ震え始めるだろう』と考えていた。

その後、リムジンはホテルの入り口の前で止まり、

従業員の先導のもと会場になっている大きな部屋に案内され、

中に入ると一斉に視線が注がれた。

「……おい、足を震わすな」

「だ、だってぇぇぇぇぇ」

右足がやけに震えると思い、

下を向くと涙目でガタガタふるわせたギャスパーが俺の脚を共振させるほどにまで、

ガタガタさせていた。

まだ、泣き叫ばなくなった時点で成長したというべきか。

「さて、イッセー。あいさつ回りするわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

疲れから思わず、息を大きく吐きながら壁に設置されている大きなソファに座りこんだ。

両隣りにはギャスパーとアーシア、木場が座っており二人とも疲れた様子であり、

ギャスパーにいたっては寝ている。

「色々と取ってきたぞ」

「悪いな」

ゼノヴィアに持ってきてもらった何種類かの食事に手をつけようとしたとき、

視界の端にドレスの裾が見え、

そちらを向くとそこには金色の髪を両方でドリルのようにセットした女が立っていた。

「お、お久しぶりですわ」

「……誰だっけ」

「ラ、ライザーフェニックスの妹のレイヴェル・フェニックスですわ!

まったく、下級悪魔はこれだから」

ああ、思い出した。

確かライザーの妹で、戦いにも参加していなかったビショップだ。

なるほど、フェニックスといえば悪魔の家の中でも上位の貴族だ。

こんなパーティーなんかには参加しないとおかしいか。

「まさか兄貴の仇撃ちか?」

「いいえ……貴方に敗れて以来、兄は変わりましたわ。

過去のゲームの映像を見るなり、

山へ行ってくると言って修行みたいなことを卷属でするようになりましたわ」

ほぅ。あの調子乗りのボンボンでいかにも坊ちゃんみたいな奴が、

山に籠ってまで修行をするまでになったのか。

今まで金持ちで上位で質のいい生活をしてきた奴は質は上げることができれど、

下げることはできないといわれていたが、

どうやら全員がそれに当てはまるわけではないらしいな。

「母も父も嬉しそうにしていますわ……家があれほど明るくなったのも久しぶりに見ました。

全ては貴方のおかげです……あ、ありがとうございました」

「……それだけを言いに来たのか?」

「なっ! こ、この私がお礼を申しておりますのよ!?」

「顔を見るからにそれ以外にもあるように思うんだがな」

図星なのか、顔を真っ赤にして悔しそうに服の裾を握っていた。

「あ、貴方という人はぁぁぁ! ……んん! わ、私とお茶でもしませんこと?」

「最初からそう言え。お茶くらいいつでもしてやる」

そう言いながら軽く凸ピンをしてやるとレイヴェルは顔を真っ赤にしてお凸を抑えながら、

驚いた様子でこちらを見てきた。

「よ、よろしいんですの?」

「構わん。お茶会ならむしろ行かせてもらう。静かなところが好きなもんでね」

「レイヴェル。旦那様の友人がお呼びだ」

レイヴェルの背後に立って、彼女に話しかけたのは仮面で半分、

顔を隠している女……イザベラだったと思う。

「わかりましたわ。では兵藤様」

「イッセーで構わん」

「で、ではイッセーさんまた」

上品そうな雰囲気を出しながらスカートを少し摘まんで、

広げて向こうの方へと走っていった。

「やあ、久しいね」

「そうだな」

「君も本当に強くなったものだね。あの時の一発はまだ記憶に新しい。

私の話も有名になるかな?」

「さあな」

「よい宴を」

そう言って、イザベラもレイヴェルが走っていった方向へと向かって歩いていった。

そこで、ようやく食事に手をつけようとしたときにまたもや視界の端に、

何かに集中した小猫が走っていき、エレベーターに乗り込んだ。

「……少し、席をはずす」

木場にそう言って、エレベーターに乗り込むと部長までもが入ってきた。

「……行くぞ」

「ええ」




怒涛の更新!


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第三十六話

『クゥゥゥ!』

「そうか。案内しろ」

小猫を捜索させていたガルーダから見つけたとの報告を受け、

ガルーダについていくと小さな広場のようなところに出た。

その広場の中心に小猫と黒色の着物を着た女が向かい合って立っていた。

「一匹の黒猫を入れるだけでお姉ちゃんの所に来てくれるなんて感動だにゃん」

よく見ると女の頭に猫耳、そして尻尾が生えているのが確認できた。

そうか、奴が小猫の話していた力に呑まれた姉という訳か……あまり、

雰囲気では狂っているようには見えないんだがな。

「悪魔になって少し経ったから様子を見に来たけど、随分と悩んでいるようにゃん」

姉だから分かるのか、はたまた同族だからかは知らんがどうやら、

彼女が抱えているコンプレックスを全て見通しているらしい。

「何の用ですか」

「にゃにゃ。悪魔がこんなところでパーチーを行っているって聞いたから、

それに参加しようかにゃ~って。私も悪魔だにゃん」

「ハハハハ! そりゃ無理っしょ」

上空から聞き覚えのある声が聞こえ、上を見上げると金色の雲に乗った猿のような風貌で、

背中に棒を背負った奴が小猫の姉の隣に降り立った。

たしか、やつはフェニックスとヴァーリを迎えにきた……美猴だったか?

「その量の魔力を消せるなんてすげえな。出て来いよ」

その声を聞き、安心しながら俺は奴らの前に姿を現した。

「安心した。気づかれなかったらどうしようかってな」

「話は聞いてるぜ? 龍の魔法(ドラゴンズマジック)なるもんを使うんだってな? 

フェニックスもヴァーリもお前にメロメロだったぜ?」

「それは困る。そんな奴らに襲われたらうっかり殺すかもな」

冗談のような内容を言い合ってはいるが、互いに牽制の眼差しは忘れず、ジッと睨みあった。

「いっやほぉぉぉぉぉぉう!」

「「「「っっっっっ!」」」」

突然の方向にこの場にいる全員が驚き、

上を見上げると背中に炎で作られた翼を生やした存在が地面に降り立った。

この魔力、この炎……やつか。

「兵藤一誠! 魔力も回復したし戦うぞ!」

「う、裏切りのフェニックス!? どうして」

「教えろ、こいつは何だ」

「私も文献でしか読んだことはないけど、彼はお兄様と同期の悪魔よ。

ライザー達とは兄弟だったんだけどまだ、

戦争真っ只中の時に消息が分からなくなって……死んだって言われていたけど」

そうか、確かこいつはフェニックスが俺に砕かれてからグラウンドに来たんだったな。

こいつを知らないで当り前か。

フェニックスの登場に肝心の敵側までも驚いていた。

「また、あんた命令違反して」

「はぁ? あんな私恨の塊の奴らに命令されて動くと思うか?」

フェニックスが二人にそう問うと、

二人はすぐに首を左右に振ってフェニックスの質問を否定した。

そこまで、奴の性格は知られているという訳か。

『フレイム・ドラゴン。ボー・ボー・ボーボーボー!』

魔法陣を展開すると、そこから炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、

俺の周りを数周旋回すると消え去り、俺は鎧を身に纏っていた。

奴が全身から炎をあふれ出すとそれに呼応してか鎧からも炎が噴き出した。

「部長。下がれ」

「え、ええ」

小猫を部長に任せ、後ろに下がらせた。

奴と戦う際に手を抜けば、一瞬で俺が殺されてしまう。

「ひゃあ!」

狂ったような叫びを発し、腕を前に向けたと同時に俺も腕を前に向けると、

そこから炎が火炎放射のようにまっすぐ放射され、二つの炎がぶつかり合い、爆発した。

その爆発時の爆風で周囲の木々の枝がバキバキと、

折れるんじゃないかと思うくらいの悲鳴を上げた。

「やるじゃねえか。一度、お前に倒されてから復活して強くなったんだが、

お前も強くなったらしいな。面白いぜ!」

『コネクト、プリーズ』

奴は手に炎を集め、真っ赤な剣を出現させ、

俺は魔法陣からアスカロンが保管されている空間へとつなげ、

そこから取り出し、同時に駆け出して真っ赤な剣とアスカロンがぶつかり合った。

ぶつかり合ったことにより、熱風と聖なるオーラがあふれ出し、

辺りの地面を大きくえぐる。

「てめえと戦って以来よ。他の奴らをぶっ殺しても楽しくねえんだよ。

だから、俺はてめえをぶち殺す! うらぁぁぁぁぁ!」

「ぐぉぁ!」

ゼロ距離で奴が放出した炎を喰らい、そのまま大きく吹き飛ばされた俺は空中で態勢を整え、

木を蹴って奴にアスカロンで切りかかるが奴の周りから炎が展開され、

壁のように立ちはだかり、俺がアスカロンで切り裂こうと振り下ろし、

刃が炎の壁に当たった瞬間、炎の壁が爆散した。

「ぐっ!」

『バインド、プリーズ』

「あ? こんなもん!」

俺は奴の周りの地面に四つの魔法陣を展開させ、

鎖を放出して拘束するが奴はそれを炎を吹き出しながら、無理やり引きちぎった。

ちっ! 一度、死んだあとの復活して強化された状態は厄介だな!

『ウォーター・ドラゴン。ジャバジャババッシャーン、ザブンザブン!』

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

青い魔法陣を展開し、そこへ手を置くと冷気が放出され奴に放たれるが奴は、

全身から炎を最大にまで放出し、それに抗った。

「フェニックスの俺に二度も同じ技は通用しねえ!」

「それはどうかな?」

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

足に水の魔力を集中させ、魔法陣へ突撃するように跳躍して飛行し、

魔法陣を通過した瞬間に、足に纏っていた水が一瞬にして凍りつき、

まるで巨大な足にでもなったかのような状態に変化した。

「だぁぁぁぁぁ!」

奴の最大の炎と氷の蹴りが直撃し、辺りに凄まじい爆風と冷気と熱風が放出された。

『ドリル、プリーズ』

「ぐぅぅぅ! 回転まで加えやがって!」

さらにドリルの魔法を発動させ、文字通りドリルのように回転するが、

それでも少し、奴の最大の炎の壁に食い込んだだけで未だに俺の蹴りと炎は拮抗していた。

「はぁぁ!」

「ごっ!」

「っ! 小猫!」

突然、フェニックスが息を吐きだし、魔力を大きく減らしたかと思うと、

奴の背後で拳を握り締めて殴った後のポーズを取っている小猫がいた。

「私は…………私はイッセーさんの傍に居たいんです!」

「ガキがぁ! 俺の魔力を削りやがって!」

魔力が大きく減った今の奴なら行ける!

「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐぁぉぁぁ!」

力が弱まった炎の壁を完全に打ち砕き、そのまま氷の蹴りを加え、

奴を蹴り飛ばすとそのままアスカロンの刃に手を添えた。

『ウォーター・スラッシュストライク。ジャバジャババッシャーン!』

「だらぁ!」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

水の斬撃が放たれ、奴を真っ二つに切り裂くと大爆発を上げた。

例え、今倒しても奴はまた強くなって蘇る……だが、完全に復活するまで時間がかかる。

その間に強くなればいいだけのこと。だが、今はこの状況だな。

「ひゅ~。ヴァーリの言う通り、魔法使いだね~。セイグリッドギアの力も、

イーヴィルピースとやらの力も使わねえ。こりゃ、手ごわいねえ~」

だが、そう言う奴の表情には楽しそうなものが見えた。

「フェニックスは後で蘇るから放っておくとして………美猴。帰るにゃん」

「良いのか? お前、妹さん持って帰るんじゃなかったのか?」

「興が削がれたにゃん。それにいつでも持って帰れるし」

ふと、小猫の姉は俺と視線を合わせ、口パクにも等しいくらいの小さな声で俺に、

『妹を頼むにゃん』と言ってきた。

恐らく、後ろの二人にも聞こえはしないほどの小さな声。

何故、俺にだけ聞こえたのか……偶然か、はたまた奴の力か……だが、

どちらにしろあいつは俺を選んだ。妹を任せる相手として。

だから、俺も言い返した。二人には聞こえない声量で。

『任された』と。




まさかのこの作品が原作に追いついたし。(書きためがね)


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第三十七話

慌ただしく悪魔たちが動く中、俺――――アザゼルと、

副総督のシェムハザは用意された一室で待機していた。

裏切りのフェニックスが再び、こちらにやってきたそうだが……十中八九、

目的はイッセーだろう。

だから俺は敢えてサーゼクスに援軍を寄越すのを待たせ、

爆発なんかが収まってから援軍を送らせた。

サーゼクスはすぐにでも援軍を送らせたかったらしいがな。

だが、帰ってきたイッセーからの報告によれば、

他のカオス・ブリゲードのメンバーも来ていたらしい。

が、奴は頑なにそのメンバーの名前を明かさなかった。

それに小猫の呼び方も名字から名前に代わっていたし。

「まったく、悪魔の警備はどうなっているのやら」

俺は隣で小言を言うシェムハザを宥めながらも、今はすでに爆発が収まっている方向を見た。

なあ、イッセー。最近気づいたんだがお前は何か隠し事をしていると必ず、

いつも以上に寡黙になるんだよ。

俺が小猫に何かあったのかと聞くと、奴は『何も』とだけ言ってその後の質問には答えなかった。

血を受け入れたんだなと聞いても同じ反応。

恐らく、受け入れたんだろうとは思うが……ほかに奴を頑なにしゃべらせない何かが、

あったのか……それは奴しか知らないことか。

その時、部屋の中に異様な雰囲気が流れた。

入口の方へ視線を向けるとそこには、杖を持ち、質素なローブを着て、

白いひげを床につくくらいにまで伸ばしている爺がいた。

「……オーディン」

「ふん。老体のわしをもう少し労われんかのぅ」

「はっ。アースガルズの主神様は冗談がうまいこった」

アースガルズの主神―――――オーディン。

神の中でもトップクラスの実力を持つ爺。見た目は爺だがその力は絶大なもので、

若い頃は多方の組織から恐れられていたらしい。

「さっき、そこで魔法の小僧に会ったぞ。なんじゃあの雰囲気は。

下級悪魔とは思えんものを放っていたぞ」

オーディンのおっさんが言うんだ。奴の雰囲気、

実力ともに下級の中では異常っていうことか。

「あ奴も貴様が育てたのか?」

「いいや、すでに奴は完成している。基本的に俺は傍観だ」

「そうか。なら、主神として忠告しておこう。気をつけろ。

被害をこうむるのはお主たち自身じゃぞ」

ここまでまじめな雰囲気を放つ爺を見たのは初めてだ。

一体、あいつに……イッセーに何を見たって言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シトリー卷族との決戦前夜、翌日のゲームのミーティングを終えた俺は、

夜風に当たろうと本邸の外に出た。

冥界の夜の風はあんがい気持ち良く、風呂から上がった時などが一番心地いい。

ミーティング中、アザゼルからゲーム時、どのタイプなのかについて話された。

パワー、スピード、テクニック、ウィザード。

基本的にギャスパー、アーシア以外はパワーの要素が入っている。

無論、俺も入っているわけだがアザゼル曰く、

俺は全てのタイプを戦闘時に発揮できるタイプらしい。

「先輩」

後ろから声をかけられ、振り向くとそこには色取り取りの水玉模様が描かれたパジャマを、

着ている小猫が立っていた。無論、本来の姿で。

「そこ良いですか?」

「ああ、座れよ」

そう言うと、隣に座るのではなく何故か俺の膝の上に座ってきた。

そのまま小猫はリラックスしたように俺の胸を背もたれにしてもたれかかってきた。

「やはり、落ち着きます」

「何故、膝に座る」

「さっき、先輩が良いって言いました」

ふつう、さっきの質問文を聞いたら隣に座っていいですかっていう風に、

解釈するのが普通だと思うんだがな。

そんなことを思いながらも俺は小猫を膝に乗せたままにした。

夜風に当てられ、小猫の白い毛なみの尻尾が右に左に揺れ、彼女の白い髪の毛も揺れる。

「先輩は……猫は好きですか?」

「猫か……残念ながら動物にはあまり興味はない……が、

今膝の上にのっている猫なら興味大ありだ」

そう言い、俺は彼女の両脇に手を入れ、持ち上げ、

そのまま肩車をして立ち上がった。

「どうだ?」

「高いです……向こうの景色まで見えます」

「俺はお前の最後の希望であり、さらなる高みへとお前を補助する。

明日のゲーム、楽しみにしているぞ」

「はい」

肩車をしているせいで、彼女の表情は見えないが雰囲気から、

満面の笑みを浮かべているのだろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の日、グレモリーの居城地下にゲーム会場へと転移される魔法陣が出現し、

辺りを明るく照らした。

俺達の背後には見送りとして部長のご両親、ミリキャス様、アザゼルが来ていた。

この場に居ないグレイフィアさんとサーゼクス様はすでに要人席へと移動し、

会場で待っているとのこと。

「取り敢えず、行って来い」

「頑張ってください! リアス姉様!」

ミリキャス様の応援の声が聞こえたと同時に魔法陣がその輝きを増し、

直に転移することを俺たちに知らせてきた。

その輝きは徐々に強くなっていく――――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほぅ」

輝きが消え、目を開けた先には見慣れた光景が広がっていた。

テーブルだらけのフードコート、周りには本屋、

文房具屋など幅広い種類のものの店が並んでいた。

少し、外へ出て回りを見てみるとやはり俺の記憶の中にある光景とズレ一つなく、

合致する光景が広がっている。

「学園近くのデパートが舞台とはね」

部長も今回のゲームの会場に関して驚いていた。

『皆様。今回、このゲームのアビター役を務めさせていただきますルシファー卷族、

女王のグレイフィアでございます』

店内アナウンスからグレイフィアさんの声がショッピングモール全体に広がり、こだました。

『両者の本陣はそれぞれの転移先となります。リアス様が二階東側。

ソーナ様が一階西側となります。なお、今回は特殊ルールとしまして両陣営に、

フェニックスの涙を一つずつ支給しております。陣営近くに置いてありますのでお確かめ下さい。

そして、作戦を練る時間は三十分です。

この間の両者の接触を禁じます。それでは作戦時間です』

部長は転送されてきた用紙に目を通し、時折眉間にしわを寄せたりした。

「特殊ルールとしてデパートは破壊しつくさないこと。若干は許してくれるでしょうけどね」

つまり、ゼノヴィア、部長、副部長なんかの全力の攻撃はまず、

屋内では防がれたということか。

俺に関しては景観にあたりそうになったらコネクトで、

外に空間をつなげて外部に放出すればいい。

「それと……ギャスパーのセイグリッドギア使用禁止。

理由は単純。暴走の危険性があるからよ」

その後、十五分ほど作戦会議が行われ、残りの十五分のうち、

十分間、各々の自由時間に当てられた。

特にやることもない俺は、

最初の本陣のフードコートでのんびりしていると隣に朱乃が座ってきた。

「……イッセー君。今日、貴方の前で力を使います」

なるほど……覚悟を決めたという訳か。

「そうか。楽しみにしている。お前の本当の姿を見せてくれ」

「はい♪」

朱乃は笑みを浮かべながら俺の腕に抱きついてきた。

直後、朱乃とは逆の方向に部長が座り込んできて、

無言のまま俺の空いているもう一方の腕に抱きついてきた。

「あらあら、嫉妬ですの?」

「ち、違うわ! こ、これは……イ、イッセー成分を貰っているのよ!」

とてつもなく言い訳にならないような言い訳を言っているな。

まあ……これで二人が落ち着くというのであれば俺は何も言わん。

ふと、時計を見てみると定刻の数分前になっていた。

「時間だ。さあ、相手方に見せてやろうじゃねえか。俺達の力を」

「ええ」

「もちろんですわ」

俺たちは立ち上がった。

数分後、全員が集合し、時計が試合開始時刻になった瞬間――――――。

『それでは開始です』

ゲーム開始の合図が響いた。




今日のスーパーヒーロー大戦見ました?
テレビ版だからカットされていましたけどやはり良かったです!
それだけに次作のZが残念でした。


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第三十八話

「さあ、仕事の時間だ」

耳につけたイヤホンマイクから進めという合図が入り、

小猫と一緒にショッピングモールのある区画へと向かっている。

既に空は暗く、それに従ってモールの中も暗く、静かなものだった。

「……真正面からとわな」

歩いていると目の前に二人の人影が見え、立ち止った。

一人は陰からでも分かる男、もう一人は小猫と同じか少し大きい背丈の女。

「仁村。小猫ちゃんは頼んだ」

「まかせて下さい」

俺は何も言わず、小猫の方を見ると彼女は一度だけ首を縦に振って相手と一緒に、

離れた場所へと向かった。

「兵藤……俺はお前が嫌いだ」

「奇遇だな。俺もお前が嫌いだ」

「……頭が良いからってあまり調子に乗るなよ!」

そう言い、俺に向かって拳を突き出す格好をすると一本の黒い何かが、

俺に向かって伸びてきた。

『コネクト、プリーズ』

しかし、黒い線は魔法陣を貫通するとまったく別の方向へと向かい、

どっかの壁にぺたっとくっついた。

「ちっ! またそれかよ!」

プチンと音が聞こえ、魔法陣が消滅すると黒い線も強制的に切断されて、

壁にくっついていた先端は消滅した。

「俺はセイグリッドギアを持ってんだよ……でも、使わねえ」

「……」

「この体でてめえを倒す!」

そう言い、相手は俺に向かって殴りかかってくるが相手の拳を掴み、

そのまま俺自身が回転すると、相手も回転し、地面にたたき落とした。

「ぐっ! まだだ!」

相手は地面に倒れた体制のまま足払いをかけてくるが、

それを軽く飛んでかわしながら相手の顔面に蹴りを入れると男は鼻を押さえながらも、

俺に対する睨みだけはなくさず、いったん立ち上がって俺から距離を取った。

「魔法だけしか使えねえ奴かと思ったのに……くそ!」

相手は毒づきながら俺に殴りかかってくるが、

それを手のひらで別の方向で流すようにいなし、

そのまま相手の腹に一発、拳を打ち込んだ。

「げほっ! がっ! ごぼ!」

蹲った相手の後頭部に打撃を一発くらわし、

さらに下に落ちてきた相手の顔めがけてひざ蹴りを加え、

上を向いた瞬間に頭突きをかました。

ちょうど、相手のあごに俺の凸がぶつかり、相手は二三歩、後ずさった。

「どうして魔法を使わねえ!」

相手は叫びながら俺に蹴りを加えてきた。

それを片腕で防ぎながら相手の目を見た。

「お前が自身の力を使わないのなら俺も使わない。俺も体で貴様を倒す。それだけだ」

「ふざけるな!」

相手は連続で蹴りを加えてくるが、それらは全部、

ヤンキーが喧嘩なんかでやるような蹴りで、全て足と手で防いだ。

「俺が学校へ行かない理由知ってるか?」

「どうせ、頭良いから行かないんだろ!」

相手の蹴りを避け、俺は少し距離を取った。

「違う。俺の母親は車いす生活なんだよ。誰かの補助がないとダメなんだ。

ヘルパーさんを頼めばそれだけ金がかかる。だから、

俺は学校の制度を利用して朝から晩までバイトしてたんだ」

俺の話を聞いた生徒会の男は顔に驚きの表情を浮かべた。

「嘘じゃない。そう思うならこの戦いの後、会長に聞いてみろよ」

「そんな……そんな冗談で俺が迷うと思ったのかよぉぉぉぉぉ!」

その一言を聞いた瞬間、一瞬で頭に血が上り、

感情に任せたまま相手の顔面を殴り飛ばした。

「ぎゃ!」

思いのほかうまい具合に入ったらしく、相手は数秒痛みにのたうち回った。

「冗談だと……お前は徹底的に俺が潰す」

『ウォーター・ドラゴン。ジャバジャババッシャーン、ザブンザブン!』

「な、なんだ!?」

「かかってこい」

相手は俺の突然の変化に驚きを隠せないながらも殴りかかってくるが、

俺は相手の拳を手で弾き、相手の顔面に一発、拳を入れた後に蹴りを入れ、

さらに数歩後ずさった相手の後ろに転移し、水の魔力を纏わせた蹴りを背中に叩きこんで、

壁を突き破らない程度に吹き飛ばした。

「がっ! 兵藤…………兵藤ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

奴が叫ぶと同時に全身から黒いチューブのようなものが大量に出現し、

一気に俺に向かって飛んできた。

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

目の前に青い魔法陣を出現させ、そこに手を置いて魔力を注入すると冷気が放たれ、

俺に向かってくる黒いチューブどもを凍らせていった。

大量の黒いものは数分で、全て氷漬けにされ、さらに根元の奴の腕も凍りつき、

足も凍りついて動けなくなった。

「っ! こんの!」

必死に奴が手元の氷を砕こうと叩くのを見た俺はすぐさま、魔法陣を消失させて、

氷の塊を殴りつけ、砕いていきながら徐々に奴の元へと向かう。

砕くたびに周りに氷がばら撒かれていく。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「兵藤ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

奴は凍り付いた腕のまま、俺の鎧の顔の部分を殴りつけるのと、

俺の蹴りが奴の脇腹を蹴るのは同時だった。

「ぐっ!」

奴が口から血反吐を吐いた瞬間、奴の腕にあった黒い何かが消え去り、

徐々に奴の身体が光に包まれて、転移された

『ソーナ・シトリー様のポーン二名、リタイア』

俺が倒したのと同時に小猫の戦いも決着がついたのか、

放送で案内されたポーンは二名だった。

「イッセー先輩。行きましょう」

「…………ああ、行こうか」

俺は小猫とともに先へと急いだ。

少し走ると前方に集団が見えた。

俺達が走っている最中に木場達も集合し、その集団がいる場所で止まった。

あの集団がいる場所……実はショッピングモールの中には少し広い広間があり、

その広間には小さな子どもたちが遊べる場所になり、

さらに保護者は広間を囲う円形のベンチに座り、子供を見られる。

安心と安全を……そんなモットーで作られたのがこの広間だった。

ギャスパーとゼノヴィアがいないということはやられたか。

今、目の前には俺達の人数と同じ数の敵が並んでいた。

「それが噂の龍の魔法(ドラゴンズマジック)……凄まじいオーラですね」

会長がメガネ越しに俺の鎧を見てくる。

「ソーナらしくないわね。全員集合させるなんて。

それともこれも貴方の作戦のうちなのかしら?」

「いいえ、リアス。これは作戦ではありません。私の予想通りです。

私の作戦で倒せるのは多くても三人、下手すれば誰も倒せないと踏んでいましたから」

その作戦に俺たちはまんまとはまり、二人の駒を失ったわけか。

「兵藤君。匙はどうでしたか」

「……俺とはま逆の熱血野郎。そんな感じだった」

そう言うと、会長はうっすらと笑みを浮かべた。

「そうですか……ここからは乱戦。リアス、私たちは屋上でやりあいましょう」

「ええ」

そう言い、部長と会長は翼を広げて、屋上へと向かっていった。

キングが抜け、残りは下僕……この広間は下僕同士での乱戦会場になるって言う訳か。

「アーシア。下がっていろ」

「は、はい」

アーシアを下がらせ、一触即発の空気が流れる中、

長刀を持った副会長が一歩前に出た。

「兵藤一誠君。私はあなたに勝負を申し込みます」

「てっきり木場かと思ったんですが……いいか?」

木場の方を向き、そう尋ねると木場は何も言わずに首を縦に振った。

『ハリケーン・ドラゴン。ビュー! ビュー! ビュービュービュー!』

辺りに強風が吹き荒れるなか、音声が響き渡り、

青色だった鎧が風を纏ったドラゴンの幻影が消え去ったと同時に緑色へと変わった。

『コネクト、プリーズ』

『コピー、プリーズ』

アスカロンを呼び出し、それにコピーの魔法をかけると俺の手元にも、

う一本のアスカロンが現れ、それぞれを逆手に持って構えた。

「さあ、ショータイムだ」

その一言で俺と副会長が駆け出し、金属音を響かせた瞬間、

それが乱戦の開始の合図となった。




こんにちわ


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第三十九話

「はぁ!」

振るわれる長刀の一撃をアスカロンで防ぎ、

もう一本で斬ろうとするが相手は悪魔の翼を羽ばたかせ、距離を取って避ける。

既に広場は乱戦と化しており、あちらこちらから爆音、金属音などが響き渡っていた。

その中でも最も調子が良かったのは小猫と朱乃だった。

今までコンプレックスで使うのを拒んでいた力を俺の前で、

存分に発揮して相手を倒さんとしていた。

会長の下僕たちもこちらを倒そうと必死だ。

「はぁ!」

両手を広げ、風を身に纏いながら高速回転して副会長を切り刻もうとするが、

相手は長刀で俺の高速回転からの斬撃を防いでいた。

斬撃が長刀にぶつかるたびにギギィィ! という金属音と火花が散り、耳をつんざく。

「流石ですね! 魔法に関しては私たちを遥かに超えている!」

今の状況に楽しみを感じているのか、副会長は笑みを浮かべながら俺に斬りかかってくる。

『ソーナ・シトリー様のルーク一名、ナイト一名リタイア!』

二名の脱落がコールされるとともに副会長の斬撃にも熱がこもり、

さらに強くなってくる。

「はぁぁぁぁぁ!」

上空で雷撃が迸り、地面に大きな穴があく―――――拳の一撃で地面に大きな穴があく。

「喰らいなさい!」

副会長は全身から魔力を迸らせ、それを斬撃に乗せて俺に放った。

「おっ」

態勢を横にずらし、それを避けると壁にでも当たったのかピシィ! という音が耳に入り、

瓦礫がガラガラと落ちてゆく。

「きゃっ!」

「っ!?」

後ろ方アーシアの小さな叫び声が聞こえ、振り返ると瓦礫が落ちていく下に、

頭を抱えて伏せているアーシアがいた。

「はっ!」

体を一回転させると小さな竜巻が起こり、

それが上から降ってくる瓦礫を全て空の彼方へと吹き飛ばした。

ここでは危険すぎるか。

「木場。アーシアを」

そう言うと木場は首を縦に振り、アーシアを抱えてどこかへと消え去った。

数的には俺達の方が上、一人抜けても大丈夫か。

「ううぇぁ!」

「くっぅ!」

俺の蹴りを長刀で防いだ副会長だがそのまま力づくで蹴り飛ばすとちょうど朱乃の攻撃を避け、

下に降りてきた生徒会メンバーとぶつかり、一瞬動きが止まった。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

緑色の魔法陣を展開し、そこへ手を置いて魔力を注入するとドラゴンの形をした雷撃が放たれ、

さらに二人の上空から朱乃の雷光が同時の落ちてきた。

「副会長!」

上から降りてきた女子が副会長を押し飛ばし、俺と朱乃の放った雷撃に飲み込まれた。

「巴柄!」

二つに飲み込まれた女子は体からプスプスと煙をあげ、光に包まれ、転移された。

「はぁ!」

「がっ!」

小猫の声が聞こえ、

そちらを振り向くと打ち込まれた拳によって魔力が拡散した女子が蹲っていた。

『ソーナ・シトリー様のナイト一名、ビショップ一名リタイア』

これで残るは会長、副会長のみ。

屋上では先ほどから二人の魔力がぶつかり合っていた。

「流石はグレモリー卷族ですね。策を張ってもそれを超える力で策すら打ち壊してくる。

とても同期とは思えません」

まあ、そこらの同期よりも強い奴らと戦ってきたせいもあるがな。

「そろそろゲームも終わり……私は会長が負けない限り戦い続けます!」

長刀を握り締め、俺と朱乃、そして小猫を睨みつけながら立ち上がった。

「……決着をつけましょう。副会長」

二振りの剣を手に持ち、構えると副会長も両手で長刀を握り締め、

俺を強く睨みつけてきた。

屋上からの爆音が鳴り響く中、その爆音が消えた瞬間―――――俺達は同時に走り出した。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

副会長は今もてる全ての魔力を斬撃に乗せ、

先ほどよりも数倍大きい斬撃を俺に向かってはなってきた。

副会長の会長に対する想い――――驚くばかりだ……だが、俺たちとて主である部長に、

勝利を届けたいという思いはおなじ!

『ハリケーン、スラッシュストライク! ビュービュービュー!』

「はぁ!」

二本同時に発動させ、魔力を剣に纏わせて、二つを交差させて放たれた斬撃にぶつけると、

凄まじい爆音を響かせながら、副会長の斬撃が霧となって消滅した。

そのまま俺は刀二本を握り締め、副会長へとかけだし、そして―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

辺りに静けさが戻る中、ピチャピチャと地面に水滴が滴り落ちるような音が聞こえてくる。

『ソーナ・シトリー様のクイーン一名。リタイア!』

『リザインを確認。リアス・グレモリー様の勝利です』

クイーンが脱落したことを知らせる放送の後、ゲームの勝敗がついたことを知らせる放送が流れ、

俺達の勝利が確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームが終わってから数時間後、

俺は自販機で飲み物を購入して設置されているベンチに座り、飲んでいた。

今回のゲーム、結果は俺達の勝ちだが評価の上がり幅でいえば会長の方が大きかった。

というよりも、お偉い方は最後の乱戦で盛り上がったらしく、

評価云々のことはすっかり忘れていたらしい。

さっき、アザゼルから聞いた話によるとだが。

「……どうした?」

目の前に誰かの足が見え、顔を上げずにそのまま尋ねると突然、

そいつは床にデコを付ける勢いで土下座をした。

「すまない! お前のおふくろさんのことを冗談なんて言って!」

そうか……会長から聞いたか。

根は悪くはないんだろうが……本質を見抜けないようじゃまだまだだな。

「俺の事情を知らないということを踏まえればお前の態度は至極当然のこと……それに、

謝ってくれればそれでいい」

「い、良いのか? 俺は」

「良いと言っている……そう言えばまだ、自己紹介していないな。

リアス・グレモリー卷族属ポーンの兵藤一誠だ」

「……ソーナ・シトリー卷属のポーン! 匙元士郎だ! 

いつか必ずお前を倒してみせる!」

そう言い放って匙はそのままどこかへと走り去った。

その直後、俺の隣に凄まじい何かを持った人物が座りこんだ。

「今回のゲーム、なかなか面白かったぞ。坊主」

「……アースガルズの主神様が一人でいいんですか?」

俺の隣に座りこんだ人物はアースガルズ主神、オーディンだった。

「構わんよ。今頃、ロスヴァイセは探しておるじゃろうがな。

さて、話を戻そうかの。先ほどのゲーム、見ておったが中々じゃったぞ」

「それはどうも」

「お主の中に眠るドラゴンとも仲良くな」

「……何故、それ……」

何故、知っているのか聞こうと振り向くが既に俺の隣には主神様はおらず、

あったのは飲みかけの紙コップだけだった。

「イッセー! そろそろ行くわよー!」

遠くから部長の声が聞こえ、紙コップをグシャッと潰してゴミ箱に入れてから、

部長のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八月も後半に入り、俺達はグレモリー邸の前で列車が来るのを待っていた。

「あっという間だったわね、イッセー」

「ほんと。イッセー君とデートしたかったですわ」

とりあえず、俺の両腕に抱きついている二人は放っておくことにしよう。

そんなことを思っていると遠くの方から列車が来る音が聞こえ、

数分後に列車が俺達の前に止まり、停車した。

「また来てくれ。ここを我が家だと思って構わんからね」

「はい。また来ます」

荷物の搬入も終わり、列車に乗り込むと発車を知らせるベルが鳴り響き、

ドアが閉まって列車は動きだした。

ふと、窓の外を見るとグレイフィアさんとサーゼクス様、

そしてミリキャス様が集まっているのが見え、

その光景が俺の頭の中にある昔の幸せな映像とぴったりと一致した。

……なるほど。

俺は窓を閉めて、その光景から視線を外すと膝の上に猫耳、

尻尾のフル装備の小猫が乗っかってきた。

「にゃん♪」

満面の笑みを浮かべ、小猫は俺に抱きついてきた。

俺としては力を超えたことに嬉しさを感じるんだが周りの視線が痛いのでとりあえず、

俺の隣の席に座らせた。

「イッセーさん」

「ん?」

アーシアに呼ばれ、振り返るとそこには真剣そのものの表情をした彼女が立っていた。

めったに見せない彼女の真剣な表情に周りにいた全員が表情を硬くして、見守った。

「どうかしたのか」

「……わ、私はイッセーさんから卒業しようと思います!」

その瞬間、俺の中にある時間という時間がすべて停止した。

……そ、卒業…………お、俺から? つ、つまりアーシアは俺を頼らなくなる……のか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー君。イッセー君、着いたよ」

「あ、ああ」

木場に呼ばれ、ボーっとする頭で何とか列車から降りるとアーシアが、

見知らぬ男に絡まれているのが見えた。

男は胸の部分をアーシアに見せると、

アーシアは何かを思い出したかのように表情をはっとさせてその傷を見た。

「思いだしてくれたかい? あの時は迎えに行けなくてごめん。

アーシア、もう君の傍から離れない。僕と結婚しよう」

今度は時間が止まるどころか、全ての時間が粉砕されたような気がした。




連投です!


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第四十話

気づけば俺は和室にいた。

外からは鳥のさえずりが聞こえ、カコーンという竹がぶつかる音が聞こえる。

辺りを見渡してみると晴れ着姿の部員達、

そして眼前には改まった座り方の白無垢姿のアーシアがいた。

「イッセーさん。今まで本当にっ……お世話になりましたっ!」

アーシアは言葉の途中で詰まりながらも挨拶をする。

「アーシアちゃん! 綺麗よ!」

車いすに座った母さんが涙を流しながらアーシアに手を振る。

他の部員達も目に涙を浮かべて白無垢姿のアーシアの晴れの日をお祝いしていた。

ど、どうなっている。お、俺はアーシアの結婚なんか聞いてないぞ。

すると、勢いよくふすまが開かれ、そこからイケメンの男が現れた。

「お兄さん。今までアーシアを育ててくれて感謝します。

貴方のおかげで私はアーシアという一生の女性に出会えました」

お、おいおいおいおい! お、俺はアーシアの結婚を許したわけじゃない!

そ、それにア、アーシアからも結婚するって聞いてない!

そんなことを思っていると二人は手を取り合い、ふすまから外へと出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーさん?」

……心配そうな表情でパジャマ姿のアーシアが俺を覗き込んでいた。

どうやら、さっきのは夢らしい。

ハァ……ドラゴンに食われる夢なんかよりも何百倍も応えた。

「にゃ~」

足もとから声が聞こえ、

慌てて布団をはぐと俺に脚に抱きついて小猫が猫フル装備の状態で眠っていた。

さっきから足に嫌な汗をかくと思ったらお前のせいか。

「夢か」

「夢にしたいわね」

ドサッという音とともに不機嫌面の部長がピンクやら綺麗な色をした封筒の数々を置いて、

ベッドに座りこんだ。

試しに一通とって開けてみると、その中には手紙と二枚のチケットが入っており、

文面を読んでみた。

『愛するアーシアへ』

『フレイム・ドラゴン。ボー! ボー! ボーボーボー!』

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

「バ、バカ! こんなところでドラゴンズマジック使ったらこの部屋が火事になるでしょうが! 

この手紙なら私が私が消すから!」

そう言い、部長は手のひらに滅びの力を終結させ、

小さな球体を出現させて手紙にぶつけると俺が持っていた手紙が消滅した。

消滅したのを見て俺は鎧を解除した。

「送り主はディアドロ・アスタロト。手紙はラブレターでチケットやら食事のお誘いやら。

玄関にはおくりものだってあるわ」

そう、ここ数日ディアドラ・アスタロトとかいう俺達の同期の若手悪魔からアーシアに向けて、

痛烈なまでのラブコールが送られ続けている。

最初の方は俺も無視し続けてきたんだがだんだん、

イライラしてきて最近ではスペシャルで消したりしている。

「はぁ」

部長はため息をつきながら呆れていた。

絶対にアーシアは渡さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二学期が始まり、俺は学校へある目的のために来ていた。

「…………お前、教師の前で堂々と盗撮するなよ」

アザゼルの呆れ声が聞こえてくるが俺はそれを無視して、

ガルーダから送られてくる映像に目を光らせていた。

いつ、どんな時にディアドラ・アスタロトがアーシアに襲いかかってくるか分からないので、

二十四時間、ガルーダ、ユニコーン、クラーケンにアーシアを見張らせていた。

……ん。問題なしだな。

「リアス。どうにかしろよ」

「無理ね。どうにか出来たらもうしているわ」

何やら外野が話しているが俺はそれを無視し、ひたすら映像に目を向けていた。

授業が終わり、アーシアは機嫌がいいのか鼻歌を歌いながらスキップも交えつつ、

一人で旧校舎の部室まで来ていた。

あぁもう! 木場はどうした! 一人で歩いていたらまた面倒な奴らに絡まれるだろ!

「百十一回目」

「二百五十五回目」

何やら小猫とゼノヴィアが両手に数を図る機械を持ち、

ひたすら数をカウントしていた。

「こんにちわ~」

アーシアの声が部室に響き渡り、俺はようやくそこで一息つけた。

「貧乏ゆすり、百五十一回」

「足を組んだ回数、二百五十九回」

「まあ良いわ。アーシア、少し頼まれてくれるかしら?」

「はい!」

部長から書類を教師に渡されるようにお願いされたから、

俺は付いていこうとするとアーシアに『私一人で大丈夫です』と言われ、

無理やり気味に部員にイスに座らされた。

……アーシアが職員室に行く途中で絡まれたりしないか……。

「まだか」

「まだ三十秒しか経ってませんわ。イッセー君」

く、くそ! 今までの三十秒が一時間にも二時間にも長く感じられる!

「お、遅くありませんか?」

「まだ一分よ」

「はぁ」

俺はため息をつきながらソファの背もたれにもたれかかった。

「アーシアがイッセーからの卒業を宣言してから二週間とちょっと。

依存していたのはイッセーの方かもな」

アザゼルの言葉を聞き、俺は反論したくなったが扉が開く音が聞こえ、

そっちを向くとアーシアが帰ってきた。

「アーシア。だ、大丈夫か?」

「何がですか?」

「い、いや、だから変な奴に絡まれたり」

「もう、イッセーさん! 私だって断るときは断れます!」

「絡まれたのか?」

「もう!」

アーシアは怒ったように頬を膨らませながら俺の隣ではなく、

俺から離れた位置にあるソファに座った。

その光景に部員の全員がニヤニヤと笑みを浮かべて俺を見てきた。

「ほんと、イッセー君ってアーシアちゃんに依存してるわね」

「…………イリナ」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると後ろには頭に天使の輪を浮かべ、

純白の翼を生やしたイリナが立っていた。

その表情は少し、怒っているようにも見える。

「さっきからずっといたのに。イッセー君たらいけずね」

そう言いながら笑みを浮かべて俺に抱きついてきた。

「言い忘れてたがイリナは転生天使だ。

ミカエル達がイーヴィルピースを元に天使Verを作ったんだとよ。第一号がイリナだ」

イリナは満面の笑みを浮かべて俺に抱きつきながら首を縦に振った。

ここに来ているということは神の消失を知っているのか……となると、

今のこいつの中の主はミカエルさまか。

「紫藤イリナさん。私たちは歓迎するわ」

その一言からイリナの歓迎パーティーが行われた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、俺は学校へ行く部長から運動会というものがあるということを聞かされた。

母さんからもたまには参加してみたら? と言われ、

アーシアからも一緒に参加して下さいと言われ、少し時間を貰い、考えた結果、

今の状況を楽しむために俺は高校で初めての運動会に参加することにした。

「イッセーさん!」

珍しく制服を着たまま教室に入るとアーシアが俺に気づき、

声をかけるがすぐにハッとしたような顔をして、黒板の方を向いた。

なるほど、今の状況から考えるにアーシアが出る二人三脚の相手を、

男子どもがジャンケン合戦しているのか。

「俺も参加させろ」

「イッセーさん! 絶対に勝って下さいね!」

クラスの奴は渋々と言った表情を浮かべながらも俺を輪の中に入れた。

どうもアーシアと一緒に出るこの競技を希望したのはこのクラスの男子全員らしく、

総勢十名近いじゃんけん大会となった。

結果は―――――珍しく俺がひとり勝ちした。

……な、何かこの後最悪なことでも起きるんじゃないのか。

「よろしくお願いしますね。イッセーさん」

「………ああ」

教室の雰囲気に馴染めず、俺はすぐに旧校舎の部室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、部員全員が集まったところで部長が大事な話があると言い、

全員を集めた。

「私たちの次の相手が決まったわ」

若手悪魔同士で行われるレーティングゲームの次の相手が決まったか。

「相手は……ディオドラ・アスタロトよ」

その一言に全員、何も言わなかった。

このタイミングをちょうど良いとみるか、

それとも最悪のタイミングと捉えるかで価値は違ってくる。




もう、この物語の書きため凄いことになってるよ。


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第四十一話

次の日から俺とアーシアは二人三脚の練習を始めた。

だが、やはり身長差、力の差に大きな壁があり、最初は中々、

うまくいかなかったが何回も回数を重ねていく毎に彼女もコツをつかんだのか、

徐々に長い距離を走れるようになっていった。

五十メートルを走り終え、休憩をしているとアーシアは表情を陰らせたまま、

俺の隣に座りこんだ。

「アーシア、思っていることを言ってみろ」

「……あの時、彼を救ったことを後悔していません」

以前、部長から彼女の過去を聞いたことがある。

アーシアは身に宿しているセイグリッドギアにより教会内では聖女と崇められていたが、

ある日、傷ついた悪魔を癒したことから彼女の人生は百八十度変化した。

教会からは魔女の烙印を押され、彼女は追放処分となった。

「もし……もしも、元の生活に戻れたらどうする」

「――――――――っ」

彼女は声を詰まらせ、難しい表情を浮かべ、考えた。

仮に彼女が今、天界へ行ったとしても協力体制となった今では彼女の待遇は良いだろう。

傷を癒す力を持ち、さらに元来彼女が持っている明るさで知らずと癒される……俺もそうだ。

知らず知らずのうちに俺はアーシアを……実の妹のように過保護と言われるくらいにまで、

護ってしまうくらいにのめり込んでしまった。

「戻りません」

彼女は笑みを浮かべ、そう言った。

「私はずっと、イッセーさんの傍にいます。前に言ったように私は、

イッセーさんから卒業します。でも、それは傍から離れるわけではありません。

イッセーさんに頼らずに自分で生きていく意思表示なんです」

俺は別に頼っていいんだぞと言おうとしたがすぐにやめた。

彼女の真剣な表情に俺は押し負けたんだ。そのまま俺達は練習を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、俺は小猫と将棋、アーシアとオセロ、

そして木場とチェスを同時に行っていた。

三人が同時に申し込んできたから一手に引き受けてやった。

「チェックメイト、王手、パーフェクトゲーム」

チェス盤には倒れたキングの駒、将棋盤の上には四方八方を囲まれた王、

オセロ盤には俺の持ち色の白色しかなかった。

三人とも今の状況にありえないと言いたげな表情を浮かべていた。

「凄いわね。ソーナとも対等に戦えるんじゃないかしら」

まだ、会長とは戦ったことはないがおそらく今の俺の頭脳じゃ追いこむことはできても、

止めを刺すことはできないだろうな。

それほど、会長の頭脳は凄い。

伊達に三年の中で一番の頭脳を持っているわけじゃない。

「しかも、三つの種類も考え方も違うゲームを同時進行するなんて。

もう、イッセー君の頭は三つの脳でもあるんじゃないでしょうか」

それだと俺は研究機関に連れて行かれるな。

ま、これでも伊達に登校義務免除生じゃありませんからね。

「んじゃ、全員集まれ。若手悪魔のゲームのビデオを見るぞ」

アザゼルの一声で全員がテレビの前に集まり、流れる映像に目を向けた。

俺たち以外にも若手悪魔はゲームを行っていると聞いた。

バアル家とグラシャラボラス家、アスタロト家とアガレス家、

そして先日行われたグレモリー家とシトリー家。

映像が流れ、最初は和気あいあいとした雰囲気だったのが一気に変わった。

雰囲気が変化した地点がバアル家とグラシャラボラス家とのゲーム映像だった。

「狂児……奴はそう呼ばれていた。が、結果はこれだ。

奴はもう終わりだ。精神に恐怖を植え付けられちまった」

画面の端っこでグラシャラボラス家の次期当首がガタガタと、

全身を震わせながらリザインの旨を申し出た。

そこで映像は終わった。

「面白いものを見せてやるよ」

そう言い、アザゼルが魔法陣を発動すると宙にグラフが表示された。

そこには俺、サイラオーグ、部長などのそれぞれのルーキーの主の名前が表示されていたが、

何故ただの下僕である俺の名前が表示されているのかはわからない。

「上が今、注目を集めているやつのパラメータを作ったんだ。

サイラオーグ、ソーナ、リアス、ディアドラ、そしてお前だイッセー。

上役はグラシャラボラスよりもお前に注目している」

そう言うと、グラフから赤い線が天井に向かって伸びていき、

俺とサイラオーグの線が天井に届いてもなお伸び続けていた。

「サイラオーグはパワー、お前はウィザードの部分がこれだ。

リアスはパワーよりのウィザード。ソーナはテクニックの部分が秀でている」

グラフを見ていると突然、

俺達の背後で光り輝く魔法陣が出現し、部室がその輝きで照らされた。

振り返ると見覚えのない文様の転移用魔法陣が展開されていた。

「アスタロトですわ」

朱乃がそう言ったとたん、魔法陣が消え去りそこから笑みを浮かべた男が現れた。

「ごきげんよう、ディアドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

……相変わらずこのニコニコ顔が鬱陶しくて仕方がない。

俺は今すぐにでもぶっ飛ばしたい衝動を何とか抑えて、急遽、

行われることになった話し合いの準備を行い、それを終えると俺たち下僕は部長の後ろで待機し、

部長はディアドラと対面する形で座った。

「単刀直入に言います。ビショップのトレードを申し込みます」

トレード……キング同士で了解が取れた場合にのみ可能な契約であり、

互いの同じ駒を交換するという。

今の場合、向こう側のビショップと俺達側のビショップ――――つまり、

アーシアかギャスパーをトレードするということになる。

「ぼ、僕ですか!?」

「取り敢えず、ギャー君は段ボール箱に」

小猫が片腕でギャスパーを持ち上げ、段ボール箱の中に放り込んだ。

今、この状況でいえば当てはまるのはアーシアか。

「僕が望むのはアーシア・アルジェント」

その瞬間、アーシアが俺の手を握ってきた。

その手からは嫌だという明確な意志が俺に流れてきた。

「こちらが用意するのは」

「ごめんなさい。先に言っておくわ、

私はトレードを呑んだわけじゃないしトレードをするつもりもないわ」

きっぱりそう言うとディオドラは驚いたように顔をキョトンとさせた。

ほらな。部長が早々、アーシアを手放すはずはない。

「それは能力? それとも彼女自身の魅力?」

「すべて。彼女は私の卷属悪魔であり、私の大事な家族よ」

「部長さん!」

アーシアは部長の家族という言葉を聞き、グリーンの瞳を涙で潤わせた。

部長だけじゃない。

この部室にいる全員がアーシアをあいつに渡すことに賛成する奴など誰一人としていない。

「そうですか。今日のところは帰りますが、諦めませんよ。また会おう、アーシア」

そう言い、彼女の手のひらにキスをしようとしたところで俺はすぐさま、

奴のもとへと歩いていき、奴の胸倉を掴んでアーシアから離した。

「何かな?」

「わからないのか? アーシアに触れるな」

「君に命令されることはないな。退きなよ」

「俺もお前に命令されることはない。消えろ」

二人の間に一触即発の空気が流れ始める。

「薄汚いドラゴンが触れるな」

俺が奴に手を出そうとするよりも早く、アーシアがディオドラの頬をはたき、

キッと強く睨みつけた。

「イッセーさんを悪く云わないでください!」

奴はアーシアにはたかれながらも薄らと笑みを浮かべていた。

ここまで来たらもう、驚きどころか不気味さを感じる。

その時、アザゼルの携帯に連絡が入り、奴が通話に出ていくつか返答をしてポケットに直し、

俺達の方を見てきた。

「ゲームの開始日が決まった。五日後だ」

「なら、僕はゲームで兵藤一誠を倒そう。そうしたら僕の愛を――――」

「遺書を書いておけよ。少し、

手がすべってお前の頭を凍らせて砕いちまうかもしれないからな」

その日はそこで終わり、ディオドラは帰っていった。

部員達が帰る中、俺はアザゼルに話があると言って全員が部室から離れるまで待ち、

話し始めた。

「何かあるのか?」

「アザゼル。俺の中に宿るドラゴンを知っているのは」

「俺、ヴァーリ、オーディン、タンニーン……その位だろう」

「……奴は俺のことを薄汚いドラゴンと言った」

そう言うと、アザゼルもそのことについて疑問を感じていたらしく奴は首を縦に振った。

「やつは裏でつながっているかもしれない」




毎日三話更新しても夏休みは持つくらいにありますよ。
良く、書きあげたな……やっぱり、二次創作のほうしか書けないのかね。


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第四十二話

数日後の晩、ゲームの日が近いこともありトレーニングをしていた俺は大浴場で汗を流し、

部屋へと戻ろうとしたときにふと、トレーニング室の明かりがついていることに気付き、

のぞいてみるとゼノヴィアが木刀を振っていた。

その表情は今まで見たことがないくらいに思いつめたような顔をしていた。

……先日のゲームの影響か。

「イッセーか?」

「邪魔したな」

そのまま部屋から離れようとすると彼女に腕を掴まれ、

そのまま部屋に無理やり気味に引きこまれた。

「少し喋らないか?」

「……そうしよう」

ゼノヴィアの申し出を受け入れ、中に入り、

地べたに座るとその隣にゼノヴィアが座りこんだ。

が、互いに何を話せばいいのか分からないようで時計の針が動く音が聞こえるほど、

部屋の中には沈黙が流れていた。

「イッセーは魔王になるのか?」

沈黙が流れる中、最初に沈黙を破ったのはゼノヴィアだった。

「いや。今のところ、夢はない」

「そうか……なら、将来上級悪魔になればどうする」

「独立だろうな」

「な、ならば」

ゼノヴィアは急に声を上ずらせ、顔を紅潮させて俺の手を握ってきた。

「わ、私もつれていってはくれないだろうか。

アーシアもおそらく、お前についていくだろう」

予想外の頼みに俺は少し驚いてしまった。

まさか、連れて行ってくれとお願いするとはな。

「考えておこう。そろそろ寝た方が良い」

「ああ、そうする。じゃあな、イッセー。お休み」

そう言って、ゼノヴィアは去り際に俺の頬にキスをして去っていった。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ時間ね」

部長の一言で俺たちは立ち上がった。

決戦当日、俺達は旧校舎にあるオカルト研究部の部室に集まっていた。

既に舞台へと俺達を転送する魔法陣は展開されており、

俺たちはその中央に乗って転送のその時を待っていた。

相手は現ベルゼブブを輩出したアスタロト家。

二度とアーシアに近づけないほどにボコボコにしてやる。

そんなことを思っていると魔法陣が輝き、転送の準備が行われはじめると俺は、

アーシアの手を優しく握りしめ、転送の時を待った。

数秒後、輝きが最大になり視界が光に埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

転移された場所はところどころ古びれた様子を見せる神殿だった。

「おかしいわね」

部長は怪訝そうな顔を浮かべ、周りを見渡す。

いつまでたってもアービターからの放送が入らないことも疑念を増幅させる要因の一つだった。

すると、眼前に次々と魔法陣が展開されていき、ローブに身を包みこみ、

俺たちに明らかな殺気を放ってくる悪魔が大量に目の前に現れた。

「偽りの魔王の妹君。ここで散れ」

今の一言で全ての状況を理解した。

今、眼前にいる悪魔たちは旧魔王派に傾倒した奴らか。

「キャッ!」

叫び声が聞こえ、

慌てて振り返ると先ほどまでアーシアがいた場所に彼女の姿がなかった。

上を見上げてみると醜悪な笑みを浮かべているディオドラと、

拘束されているアーシアが宙にいた。

「お前、最初からこれが目的か」

「まあね。君たちはここでカオス・ブリゲードのエージェントに

やられてお終いさ。いくら君たちでもこの数の中級、上級悪魔には勝てない。

じゃあね~。僕は一足先にアーシアと契りを交わすよ」

「させるか」

『バインド、プリーズ』

四つの魔法陣が展開され、そこから鎖が放たれて奴に向かっていくが鎖が、

拘束する前に奴は消え去った。

あの野郎……塵になるまで叩き潰す。

「待ちなさい、イッセー。憎しみに囚われたらそれこそ止まらなくなるわ」

「よう言った。リアス嬢よ」

「オ、オーディン様!? 何故、ここに」

突然のオーディンの出現に部員全員が驚いた。

なんせ、アースガルズの主神さまだ。驚くのはいたしかたない。

「魔法使いの坊主。憎しみに囚われたまま魔法を使えば後に残るのは“無”だけじゃぞ」

残るものは何もない……。

俺は一度、深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。

「ん、それで良い。アザゼルからの贈り物じゃ」

それぞれ、オーディン様が放り投げたものを受け取るとそれはいつも、

ゲームで耳につけているイヤホンマイクだった。

なるほど、奴はこれを見越していたという訳か。

「ここはワシに任せてはよう行かんかい」

「ここは任せます! 皆行くわよ!」

大量の悪魔をオーディン様に任せ、

俺達はイヤホンマイクをつけながら神殿に向かって走り出すと、

イヤホンからアザゼルの声が流れてきた。

『俺だ。聞こえるか』

「ああ、聞こえる」

『端的に話す。旧魔王派がゲームを乗っ取り、現政権関係者を殺しに来ている。

今、俺はレヴィアタンとサーゼクスと一緒にVip席を護っている。

それに、他の組織の奴らも来ているからすぐにこの戦いは終わる』

「他の組織にも秘密裏に示唆したのか……この戦いをあえて引き起こしたのか?」

『……あぁ』

数秒間の空白の後にアザゼルは申し訳なさそうにそう呟いた。

『すでにイッセーからの報告で感づいていた。俺はこれをチャンスだと考えている。

旧魔王派は今後、世界に悪影響を与えかねない存在だ。

その存在を一網打尽に出来るまたとないチャンスはおそらくもうない』

「仮にあえて引き起こした戦いで俺達が死ねばどうする」

『……俺の首で事足りるなら喜んで差し出した』

自らの命を差し出すまでの覚悟か……それほどまでにこの戦いで、

悪影響を与える因子を一掃するつもりか。

そこまでしてこいつは今後、

俺たち若い世代が生きるであろう平和な世界を作ろうとしている。

大戦を戦った故の考えか……。

『戦いは直に終わる。神殿の地下に広い空間がある。

そこで戦いが終わるまで待っていてくれ』

「……アザゼル、一つ言っておいてやる。その頼みを俺達が聞く前提で、

話しているなら見くびり過ぎだ。

ここにいる奴らは仲間を攫われておきながら避難するようなやつはいない』

『…………だな。悪かった。アーシアに関しては聞いている。

お前達の手で助け出してこい! 神殿が吹っ飛ぶくらいに暴れて来い! 責任は俺が取る!』

そこでアザゼルの声は途切れ、通信は切れた。

神殿の奥へと向かって進んでいると広い空間に出た。

その空間に既にディアドラの下僕と思わしきフードを被った十人の悪魔が立っていた。

『やあ、よく来たね』

何処からともなくディオドラの声が聞こえてくる。

どうやら魔力で声をこちらにまで飛ばしてきているらしい。

『破断になったゲームをしよう。君たちが使った駒は僕の所に

来るまで二度と使えない。これで行こう。

ちなみにそこにいる十人のうち八人は既にクイーンにプロモーションしているから』

そこで奴の声は消えた。

「こちらはイッセー、ゼノヴィアを出すわ。好きにやってちょうだい」

部長に言われ、ゼノヴィアとともに一歩前に出る。

「イッセー。すまないがアスカロンを貸してくれないか?」

『コネクト、プリーズ』

彼女の要望通り、魔法陣に手を突っ込んでアスカロンを取り出し、

彼女に渡すと俺は木場からひと振りの魔剣を借りた。

『ハリケーン、プリーズ。フー・フー・フーフーフー!』

魔法を発動し、籠手を緑色へと変えると辺りに風が吹き荒れ、

俺の身体が少し地面から離れた位置にまで浮かび上がった。

「ゼノヴィア、そっちの二人はくれてやる」

「ああ」

「「さあ、ショータイムだ」」

二人同時にその言葉を言い放ち、相手に向かっていった。

「私には友はいなかった」

ゼノヴィアは相手の攻撃を二本の剣でいなしながら独り語りを始めた。

無論、俺も風に身を任せ、

高速で回転しながら相手を切りつけたりしながら彼女の話に耳を傾けた。

「神の愛さえあれば生きていける……だが、それは間違っていた。

神などいなくても生きては行けるが友なしには生きていけない!

貴様らは私の無二の親友を攫った! アスカロン! デュランダル!

この愚かな者たちを! 私の親友を奪った者たちを倒すために力を!」

二つの強大な聖剣が互いに強力な聖なるオーラを放ち、

共振させていくと辺りの地面に大きな穴をあけていく。

その共振はさらに大きくなっていく!

ゼノヴィアは二本の剣を逆手に持ち、

相手の二人に向けて下から上へ勢い良く上げると同時に放たれた聖なる波動が一つとなって、

大きな波となり、相手を飲み込むと一本の白い光を天にまで伸ばした。

『ハリケーン・ドラゴン。ビュー! ビュー! ビュービュービュー!』

ゼノヴィアの決着がついたのを見届けた俺は龍の魔法を発動させた。

「フィナーレだ」

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

自身の頭上に緑色の魔法陣を展開し、己に向けて最大威力のドラゴンの雷撃をぶつけると、

雷撃が俺を包み込み、ドラゴンの翼がバチバチと雷撃を纏った形になり、

その大きさを徐々に大きくしていく。

『ドリル、プリーズ』

魔法を発動させ、雷撃を纏った状態の翼のままで高速回転するとさらにバチバチ! と、

強い放電がおこり、回転を止めると雷撃を纏った巨大な竜巻が放たれ、相手八人を飲み込んだ。

竜巻は相手を飲み込み、数秒間、回転を続けた後、

一気にそのサイズを小さくして溜めこんだ雷撃を放出するかのように大爆発を上げた。

 




ていうか、今日祝日じゃないっぽいのにジャンプが
本日発売のところになかった……自分のミスか?


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第四十三話

十人の刺客を倒し、奥を進んでいる俺達の前に三人の刺客が現れた。

一人はブロンドの髪をした女性、あとの二人は性別は今一、

分からないが敵であることは間違いはなかった。

「そうね。フードをしている二人は祐斗に。残りは私が」

「あらあら、私が行きますわよ?」

「朱乃。貴方は確かに雷光に目覚めて調子がいいわ。でも、

その調子が油断になり、隙を生む。私が行くわ」

そこから二人のちいさな口論が生まれてしまった。

喧嘩が多ければ仲は良いと言うが、流石にこの状況で口論されては非常に困る。

既に木場なんかは戦いを始めている。

そんなことを思っていると俺の肩を叩かれ、振り返ると俺の身体をよじ登っている小猫だった。

「先輩。二人にこれを言ってみてください。先輩の魔法を超える最強の魔法ですので」

耳元でボソッと小猫が言った言葉はあまり最強とは思えない魔法の言葉だった。

よく分からんが……行ってみるか。

「先に相手を倒したら俺と一日、デート。しかも手もつないでやる」

直後、どちらともなく一気に魔力を増大させた。

「喰らいなさい! きゃっ!」

朱乃が雷光を放とうと手を翳した瞬間、

部長がわざとらしくよろけて朱乃にぶつかり、押し倒した。

「あらあら、ごめんあそばせ。ちょっと貧血が。さあ、私の滅びの魔力をきゃっ!」

今度は立ち上がった朱乃が部長を突き飛ばし、

手を翳すがすぐに部長が朱乃を突き飛ばし……それらがループしてしまった。

突き飛ばしては突き飛ばされの無限ループ。

「貴方達いい加減に!」

「「ごめんあそばせ! 貧血でよろけちゃったわ――――――――!」」

同時にその言葉を言い放ち、同時に手をかざし、同時にそれぞれの能力をはなって、

相手にぶつけると滅びの魔力と雷光が相手に襲いかかり、地面と壁に大きな穴をあけた。

……既に相手の姿は魔力も、服の端っこさえ見えなかった。

「ちょっと貧血が!」

「ちょっと足を挫いて!」

未だに二人は無限ループの押し倒しを続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、イッセー君が二人とデートをするという約条を取りつけたことにより、

なんとか無限ループは壊され、次のステージを進むことが出来た。

だが、次のステージへ行ってもフードを被った奴はおらず、逆に見知った顔が立っていた。

「ちゃっす! おらフリード!」

そこに立っていたのは白髪神父だった。

あいつは僕が倒してヴァーリにグリゴリに連れていかれたはず。

「……その人、人間じゃないです」

小猫ちゃんは鼻を押さえてそう言った。

確かに、彼から感じられる魔力は人でも悪魔でも何でもなかった。

白髪神父はペッと何かを吐きだすとそれは指だった。

「ちみ達が遅くてお腹が減っちゃったから食っちゃった♪」

……確かに、彼は人をやめているらしい。

すると彼の身体が異様なまでに膨らみ、腕は逆を向き、足は人の何倍も太くなっていた。

「ヒャハハハハハハッハハハハハ! ゴミヴァーリに連れて行かれ、

腐れアザゼルに首にされるわ、

カオス・ブリゲードに拾われて気がついたらキメラになっちゃったわけよ!」

両腕は以前イッセー君が戦ったキマイラのように鋭い刃を持ち、下半身は太く、

背中からはコウモリのような翼が生えていた。

どうやら、完全に人間としての誇りも、何もかもを捨てたらしい。

「にしてもディオドラの坊ちゃんの話はドキがムネムネしちゃったZE!」

突然、ディオドラの話を出した白髪神父はうっすらと微笑を浮かべる。

「あの坊ちゃんの卷族ってさ! 教会の元シスターやら女エクソシストなんかの

元教会関係者なんだよね! 教会内での地位を落とした後に助ける振りして心を奪って、

シスターたちを抱きまくっちゃったんだZE!」

「…………まさか」

僕も含めたこの場にいる全員がある一つの答えにたどり着いた。

先ほどの話を信じればディオドラは……ディオドラはアーシアちゃんの地位を落とすために、

わざと近づいて傷を癒させたんだ!

「そう! あの坊ちゃんはアーシアちゃんに惚れちゃったからわざと、

地位を落としてから自分の手駒にしちゃう計画だったんだぜ! 爆笑ものだろ!? 

まったく、アーシアたんも……」

そこでフリードは突然、しゃべるのを止めた。

何か恐ろしいものでも見るかのような目で僕達を……いや、

イッセー君の方を見ていたから僕もそっちへ視線を動かした。

「っっ!」

そこにいたのはイッセー君ではなく、血のように赤い体色に両方のこめかみのあたりから、

二本の角が前を向く感じで生え、目の色は真っ黒な仮面を被っている存在だった。

僕は一度、目をこすり、もう一度彼を見てみるといつもの彼だった。

彼のディオドラに対する殺気が生んだ幻影なのか、それとも何かを知らせる報せなのか。

「木場、とっととあいつに止めを刺せ」

「もちろん。すぐにあの口をふさごう」

僕は魔剣を創造し、握り締めた。

「たっく、てめえのおかげで俺はこんな姿だよぉぉぉぉぉぉ!」

フリードはその巨大な翼で僕に殴りかかってくるが――――――。

僕はそれを超える速度で移動し、一回ならずなんども彼を切り刻んだ。

両腕、両足、両翼が塵になるくらいまでひたすら切り刻んだ。

「―――――――んだよ。あり得ねえ。でも、ディオドラの裏にいる」

僕は彼の言葉を最後まで効かず、彼の頭に魔剣を突き刺した。

「喋らないでくれないかな? 耳が腐っちゃうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺――――アザゼルはある程度、旧魔王派の奴らを片づけた後、後始末をシェムハザ達に任せ、

ファーブニルの宝玉の輝きに沿って道を歩いていた。

ここへ来てすぐにファーブニルの宝玉が光り出した。

宝玉が光るということは同族が近くにいるということを示す。

フィールドの一番端っこの隅にその目的の人物を見つける。

そいつは黒髪を腰のあたりまで伸ばし、黒いワンピースを身につけて細い四肢を見せていた。

あり得ない。最初はそう思った。

一組織の頭がこんな前線に出てくることはないと高をくくっていた部分もある。

だが、今俺の目の前にいる奴は世界そのものを単独でつぶすことだってできる奴だ。

そいつはジッと、イッセー達がいるであろう神殿の方に視線を向けていた。

「オーフィス」

少女は無限の龍神(ウロボロスドラゴン)

オーフィス。ある存在をのぞいて最強のドラゴン。

だが、オーフィスはこちらを振り向かずただじっと神殿を見ていた。

「おい、オーフィス!」

怒気を含ませて叫ぶがオーフィスは無視をした。

効かないとは分かっていても俺はその手に光の槍を作り出し、

奴に向かって投げつけると奴は腕だけをこちらに向けて槍に軽くデコピンをすると、

俺が投げた槍は消え去った。

「アザゼル、いつの間に」

「さっきからいたっつうの。で? 向こうに何がある」

「魔の王」

魔の王……サーゼクスのことか? あいつなら旧魔王派の奴らを叩き潰しているはずだ。

向こうにはいってないはず。

となると別の“魔”という訳か。

「魔法の王……ウィザードというわけか」

この世界では最も優れた魔法を扱う者の称号としてウィザードと呼ばれる称号を与えられる。

この称号を得た魔法使いは一生を遊んで暮らせると言われている。

その時、オーフィスの隣に一つの魔法陣が展開され、

そこから貴族服を来た男が出てきた。

「お初にお目にかかる。俺は真のアスモデウスの血を継ぐもの。

クルゼレイ・アスモデウス。堕天使の総督殿に決闘を申し込む」

なるほど。オーフィスは旧魔王派の奴らに蛇を与えて元の力を増大させて、

自身の目的を果たそうってわけか。

「良いぜ。受けて立つ、ファーブニル。付き合え! バランス」

その時、俺の隣にグレモリー家の文様が刻まれた魔法陣が現れ、

そこからサーゼクスが出てきた。

おいおい、魔王がなんで出てくるんだよ。

「出たな! 偽者の王め! 貴様さえいなければ俺たちはっ!」

「クルゼレイ。矛を下げてくれないか。君と話がしたい」

「貴様と今更話をする気などない!」

サーゼクス。お前がいくら説得しようともこいつらは耳を貸さないぞ。

サーゼクスは目を閉じ、空を仰ぎ、もう一度目を開いてクルゼレイを見た。

「わかった……魔王として消す」

「偽りの魔王が!」

クルゼレイは両手に巨大な魔力の塊を作り出し、サーゼクスに向けて放つが、

サーゼクスは一歩も動かず、手のひらに消滅の魔力を纏わせ、触れた。

たったそれだけの行為でクルゼレイが放った巨大な魔力の塊は消滅した。

「ッッ! 偽物がぁ!」

クルゼレイが叫んだ瞬間! サーゼクスの指から小さな消滅の魔力の弾が放たれ、

奴の口の中へと入り、一瞬、

クルゼレイの腹部が膨れ上がったかと思うと先ほどまでの絶大な魔力が消滅した。

「バ、バカな! こんなバカなことがあるかぁ!」

サーゼクスはクルゼレイの叫びを無視し、ソフトボールサイズの消滅の玉を、

奴の腹部に向けて放つと腹部がきれいさっぱり消滅した。

「本物がっ! 何故、にせ……物に」

クルゼレイは血反吐を吐きながら地面に倒れ伏した。




八月も最後の週に入りましたね……あぁ、夏休みが終わりに近づいていく。


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第四十四話

木場がフリードを倒したことにより、俺たちは最終ステージへと進んだ。

そこは今までの空間よりも倍ほども大きい場所で、奥には巨大な装置が設置されており、

壁には魔法陣が描かれており、その魔法陣の中央にアーシアが貼り付けにされていた。

「やあ、やっと来たんだね」

装置の奥から笑みを絶やさないディオドラが出てきた。

奴さえ……奴さえいなければ…………アーシアは。

「……イッセーさん?」

彼女の声が聞こえ、そちらを向くと目を真っ赤にはらしたアーシアが俺を見ていた。

「ディオドラ……話したのか」

「ああ、彼女の泣き叫ぶ声はどんな音楽よりも素晴らしかった!

録音して一生、聞きたいくらいだよ!」

「お前のせいで……アーシアは魔女なんて呼ばれたんだぞ」

「ああ、それも僕の計画の一つだった。だが、君が来たせいで破断だ。

君さえいなければ彼女も悲しむことはなかった」

直後、俺の周りの地面に大きな穴があき、

その穴から無数の小さなひびが放射線状に放たれていく。

俺は手と手を合わせ、四種類のドラゴンの魔法を一つに重ねていた。

それによる反発がこれだ。持って数分。普通に戦えば奴をリスクなしに倒せるだろう……だが、

それじゃダメだ。奴の精神を断ち切るほどの圧倒的な力でつぶさなければ。

「君の前で無理やり、アーシアを犯すのも」

『スペシャルラッシュ! フレイム・ウォーター・ハリケーン・ランド』

「ん?」

俺の背後に赤、青、黄、緑の魔法陣が現れ、

そこからそれぞれのエレメントを纏ったドラゴンの幻影が現れ、赤と青、

緑が俺の背後から、黄色が俺の周りを旋回し、

消滅すると赤い鎧を基調としてそれぞれのドラゴンスタイルでのスペシャルで、

発現する装備が全身に装備された。

だが、所々からバチバチと放電しており今にも崩壊しかかっていた。

「これが最後の希望だ!」

ディオドラは俺の姿を見て、六つの連続した魔法陣を真正面に展開させるが―――――――。

「がっ!」

展開された全ての魔法陣は体当たりで砕け、奴の腹部に俺の両方のクローが突き刺さり、

そのまま胸のドラゴンの頭部から炎を放ち、吹き飛ばした。

「ありえない……僕は旧ベルゼブブと同じ力を持っているのに!」

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

「今度こそ!」

青い魔法陣が出現し、冷気が放出されてディオドラが展開した魔法陣を全て一瞬で凍らし、

そこにドラゴンのクローから爪の形をした魔力の一撃を放って、

全ての凍り付いた魔法陣を粉砕した。

「こ、こんな」

奴が今の現状を逃避している間に翼を羽ばたかせ、奴が反応する前に至近距離まで近づいて、

ドラゴンの頭部から炎を噴射した。

「ぎゃぁ! 熱! ぁがぁ!」

至近距離で炎を喰らったディオドラは焼け焦げた部分を押さえて痛みにのたうち回った。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

奴の頭上に緑色の魔法陣を展開し、そこからドラゴンの形をした雷撃を放った。

雷撃はディオドラを飲み込み、奴の周りの地面を大きく抉り、奴の全身に人間が喰らえば即死、

悪魔でも意識は保てないほどの電撃を広げていく。

『チョーイイネ! グラビティ! サイコー!』

「があぁぁぁぁぁ!」

今度は黄色の魔法陣に入れ替え、奴の重力を何十倍にも変化させて地面にめり込ませ、

今度は体が浮くくらいにまで重力をなくし、一瞬で重力を何十倍にも跳ね上げ、

地面にたたきつけた。

これを数回やってやった……奴が叫びをあげようとも。

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

「あ、あぁ足が!」

重力を元の状態に戻し、奴が立ち上がったところに冷気をぶちこみ、

奴の両足を地面ごと凍らせた。

一歩ずつ奴へ近づいていくと、奴は表情をこわばらせ、

体をガタガタと小さく振るわせ始めた。

今頃、絶望し始めたか……もう少し、

貴様の自信と余裕が続いていればもっと面白いことになったんだがな。

「ディオドラ・アスタロト」

「ひっ!」

「知ってるか? 人間ってな、徐々に四肢を凍らされたら痛みを感じるんだが、

一瞬で四肢が凍った場合は神経が脳に伝えないんだよ。両足の感覚がないだろ?」

ディオドラは目に涙を一杯、溜めながら俺の質問に首を振った。

「んじゃ……砕くか」

「ま、待ってくれ! 二度と彼女には近づかない! 君の前にも近づかない!

そ、そうだ! これでも僕はアスタロト家の次期当首なんだ! お金だって大量にある! 

流石に全部は無理だが半分くらいなら君に」

「ディオドラ。男がそんな真似をするな……死ね」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

体を反転させ、その勢いで尻尾をディオドラへと向かわせる。

凄まじい速度で近づいてくるドラゴンの尻尾にディオドラは眼から涙を流しながら、

死という恐怖により絶望し、狂ったように叫びを上げ始めた。

『私は彼を救ったことを後悔していません』

その時、ふとアーシアの声が頭の中に響いてきた。

もう尻尾は奴の脚に近くに向かっている……止めることはできないが方向を、

変えることくらいはできる……だが……それでいいのか。

俺は…………俺は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その時、何かが砕け散ったような音が聞こえた。

―――――氷が砕ければ小さな氷の粒が空気中にばら撒かれ、キラキラと光を浴びて輝く。

だが、砕け散った際に飛び散ったものは光が当たっても光も、何も反射なかった。

「い、生きてる? 生きてる! あ、足もなおってる!」

ディオドラが生きていることに喜びの声を上げながら飛び跳ねている最中、

俺はいまにも目の前の奴をクローでズタズタにしようとしていた。

だが、そのたびにアーシアの悲しそうな顔が思い浮かぶ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

俺はかなりの魔力をこめた両方のクローを地面にぶっ刺すと地面が黄色に輝きだし、

神殿全体を大きく揺らした。

クロー自体、ぶっ刺した瞬間に砕け散り、

それに伴って崩壊しかかっていた全ての武装が完全に崩壊し、元の姿に戻った。

ディオドラは大きな揺れに腰を抜かして、地面にへたり込んでいた。

「もし、今度アーシアに近づいたら……さっきのをお前の身体に流し込んでやる……いいな」

俺の質問にディオドラは首を上下に振り、恐怖に顔を歪めながら承諾した。

俺はディオドラを放置してアーシアのもとへと駆け寄った。

「イッセーさん!」

「終わった……すべて終わったんだ。帰ろう」

そう言いながらアーシアの頭を一度、

優しく撫でた後に彼女を拘束している器具をはずそうとするが―――――――。

「……外せない」

「そんなバカな」

後ろからゼノヴィアも参戦して二人同時に拘束具をガチャガチャと動かすが一向に、

外れる気配を見せなかった。

どんなに強く殴ったり、剣で切っても傷一つつかなかった。

「それは外れないよ。設計上、発動すれば一度しか使えないが逆を言えば、

一度発動すれば条件を満たすまで解除されない」

「その条件は」

木場が怒気を含ませ、ディオドラに尋ねた。

「アーシアのセイグリッドギア……トワイライト・ヒーリングを発動すること。

ついでに言えば効力はこの空間にいる全ての存在に効果をリバースし、

何十倍にも高めたものを広げる」

もともと、俺たちごと現政権の重役達を消す算段か!

俺はすぐさま、壁に展開されている魔法陣に手を置き、

目を瞑ると魔法陣の情報が流れてくる。

結界にはどこか必ず、効力が薄い部分がある。そこへ、

外部から魔力を加えてやればどんなものでも…………ない。

ひと通り、魔法陣の情報を探ってみたが一切、綻びという点が存在しない

完璧な結界だった。どこの点も面も効力は均一。

本当に解除する方法は……発動するだけか。

「……全員、俺から離れてくれ」

「イ、イッセー君? 何を」

「木場。できるだけ、全員を俺から離れさせろ。

今からこの魔法陣に俺が今、持っている全ての魔力を注ぎ込んで破壊する。

その際に衝撃波が放出されることが予想される」

「わかった」

木場の先導のもと全員が俺から離れ始めるが、

部長だけはジッと俺を見るだけで離れようとしなかった。

「イッセー……本当のことを言って頂戴。貴方は今から何をするの」

「ですからこの結界を」

「貴方が目を瞑りながら喋っているときは嘘をついている……貴方のお母様から聞いたわ」

なるほど……母さんからの情報を知っていた部長だけが残ったという訳か。

「きゃっ!」

少々、手荒な方法だが俺は全身から魔の波動を放出して部長を軽く吹き飛ばすと俺とアーシア、

そして彼女を拘束している結界を覆うように俺特製の見えない結界を張った。

既存の結界に、外からの攻撃と同じ威力の衝撃を外へ放出する一品だ。

無論、外部からの音も遮断する。

だから、外で部長達が結界を叩きながら叫んでも一切、

その内容は入ってこないし音も聞こえない。

「イッセー……さん」

「さて、アーシア……使うんだ」

「嫌です! そんなことをしたらイッセーさんが」

「俺のことは良い。使うんだ」

それでもアーシアはセイグリッドギアを使おうとしなかった。

まったく……こいつの性格が今となっては憎いよ。

「アーシア……お前、俺から卒業したいって言っていたな」

「……はい」

「だったら卒業課題を出す。セイグリッドギアを今ここで使うんだ」

「ひどい……です! イッセーさんはひどすぎます!」

「ひどいのが俺だ。アーシア、お前は傷を癒せる。

使った後でまた俺を治してくれ。お前は俺の希望だ」

「イッセーさん…………イッセーさん!」

刹那、彼女の全身から優しい光が溢れ出てきた。

それの伴い、彼女の後ろに展開されている魔法陣が怪しい輝きを放ち始めた。

 

 

 

 

 

 

―――――そこで俺の意識はなくなった。




こんにちわ


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第四十五話

私―――アーシア・アルジェントの前に大量の血飛沫が舞った。

私を拘束していた器具も外れ、眼前にいるイッセーさんに抱きついて部長や、

副部長さん達に少し怒られて一緒に帰る……そう思っていたのに。

「イッセェェェェェェェェェェェェェ!」

今、神殿の中に響いているのは悲しみに満ちた叫び声だけでした。

眼前にはいつものように仏頂面のイッセーさん……ではなく、

神殿の石造りの床を真っ赤な血で汚したイッセーさんがいました。

すぐに、私はイッセーさんの近くに駆け寄って、

彼に触れて傷を癒そうとした……だけど――――――。

「どうしたの!? 早くしないとイッセーが!」

「出ないんです……いつもの光が」

いつもの感じで願ったのに……両手から光が溢れてこなかった。

こんなこと今まで生きてきた中で一度もなかったのに。

その時、ふと視界に誰かが奥から歩いてくるのが見えた。

軽鎧を身にまとい、マントを羽織っている男性だった。

目の前の人がこちらへと一歩、

近づくたびに私達を押しつぶさんとする重圧のようなものが徐々に強くなっていく。

「誰?」

「お初にお目にかかる。偽物の王の妹君よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。

旧ベルゼブブの血を受け継ぐ真の魔王だ。ディオドラ。貴様はやはり使えなかったな。

最後は貴族の誇りを捨ててまで命乞いをするとは……貴様はいらん」

刹那、シャルバさんが私たちへと拳を向けたかと思うとそこから一瞬、

パッ! と光が発せられた。

何かを放ったわけでもなく、ただたんに一瞬だけ光っただけ……そう思ったのもつかの間、

突然、ディオドラさんが倒れ伏してしまいました。

「ディオドラさん?」

彼の体に触れようとした瞬間、塵となって消滅した。

さっきの消え方はまだ、私が教会にいたころに何度か見たことがあった。

邪悪な存在の悪魔が聖なる力を受けた際にその身を塵と化して、

完全に消滅する――――その時の光景と似ていました。

「ここへ何の用かしら」

「私はある計画を推し進めているのだが……どうも、そこのガキが障害になっていてね。

障害は小さいうちに取り除くに限る」

直後、シャルバさんが消え去ったかと思うと目の前に聖魔剣を握りしめた木場さんが現れ、

光の槍と剣がぶつかり合った。

「ほぅ。聖魔剣の少年、私の動きを見切ったか」

「アーシアちゃん! イッセー君を!」

木場さんはシャルバさんを押し込み、私から少し離した。

それを期に皆さんが一斉に、シャルバさんに向けて攻撃を開始した。

それを見計らって私は血だらけのイッセ―さんを抱えて戦いの影響を受けない場所まで引きずり、

傷を治そうと思っても光は一向にでないまま。

「なんで……どうして光が」

「教えてやろうか」

向こうから声が聞こえ、顔をあげると皆さんに囲まれながらも余裕の表情を、

浮かべているシャルバさんがこちらを見ていました。

「貴様が持つセイグリッドギア、トワイライトヒーリングは確かに絶大な癒しを与え、

その傷を治す……だが、それは生きているものに限ってだ。

死しているものを回復しても意味がない。

貴様がその魔法使いのガキを癒すことができないということは……セイグリッドギアは、

そいつを死しているものと判断」

直後、それ以上の言葉を言わせないと言わんばかりに上空から神殿の屋根を突き破って、

シャルバさんめがけて落雷が降り注ぎますがそれは相手の翼によって全て弾かれてしまった。

「……イッセーさん。ねえ、イッセーさん」

動かないイッセーさんを何度も揺さぶって名前を呼んでも一向にいつもの、

不機嫌そうな声は聞こえてこなかった。

「わ、私イッセーさんの魔法覚えてるんですよ。いつもイッセーさん、

音を出して使うから。ビッグとかスリープとかフレイムとか、ウォーターとか」

今喋っている私の声が押しつぶされるくらいに爆音が鳴り響いているのにイッセーさんは一切、

動かず目を閉じて眠っていた。

「イッ」

その時、ブゥン! という空間が震えるような音が聞こえ、

私とイッセーさんの上に影が覆いかぶさったので顔を上げてみるとそこには皆さんと、

戦っていたはずのシャルバさんが立っていた。

「あ………ぁ」

「邪魔だ」

「きゃぁ!」

顔に痛みが走り、

そのまま強い勢いを与えられた私はいとも簡単にイッセーさんから遠ざけられた。

「シャルバぁ!」

痛みを我慢して顔をあげると木場さんが握り締めていた聖魔剣をシャルバさんめがけて、

投げつけたけど、それはいとも簡単に悪魔の翼で砕かれてしまった。

木場さんも相当強いのに……相手にならないなんて。

シャルバさんは血だらけのイッセーさんの首を掴み、片腕で持ち上げ、

翼を羽ばたかせて数メートルほどの高さまで浮かび上がった。

「さあ、その目に焼き付けろ! 貴様たちが頼った男の最後を!」

右腕に魔力を集め、五本の指をすべて鋭利な鍵爪のようにして纏わせ、

肘を後ろへともっていった。

「止めてください! それ以上したらイッセーさんが!」

私が神殿内に響く音量でそう叫んだ直後、神殿内に聞きたくない深い音が鳴り響き、

ポタポタと数メートル上から赤いしずくが垂れてきた。

シャルバさんの腕は手首の辺りまでイッセーさんの胸に深く沈んでいた。

「ア…………ァ」

「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

上から落ちてくるイッセーさんにこれ以上、苦しみを与えまいと涙で曇る視界のなか、

必死に走ってイッセーさんのもとへ行こうとしたとき、突然、目の前に障害物が現れ、

私は止まらざるを得なかった。

直後、ドシャッと嫌な音が響いた。

「やめておけ。もうあいつは助からん」

「そ、そんなことわかりません!」

「いいや、奴は死んだ! 胸を貫かれて生きる悪魔などおらん! 

ついでだ。貴様も奴がいる場所へ」

聖魔剣の狂乱(ビトレイヤーオブフレイシー)!」

突如、上空に木場さんが現れ、魔法陣が一つ展開されたかと思うとそこから、

大量の聖魔剣が放出され、その全てがシャルバさんめがけて落とされていく。

「アーシアちゃん! イッセー君を!」

木場さんに言われ、すぐさまイッセーさんのもとへ行くと既に、

イッセーさんの肌の色が白くなりかけていた。

触れてみると今までの温かさが嘘のように消え、

もう温かみはほとんどなく、あるのはまるで死人のように冷たい温度だけ。

「がぁ!」

「木場さん!」

血だらけになって飛んできた木場さんの傷を癒そうとするけど、

木場さんは笑みを浮かべて私を静止させた。

「僕は大丈夫。だからイッセー君を!」

どうしよう――――――これ以上、皆さんが傷つくのは見てられない――――でも、

私にはどうすることもできない。

ふと、イッセーさんが以前に言っていたことが頭の中で再生された。

『もし、お前がどうしようも出来ないことに出くわしたら俺を呼べ。

どんな所からでもお前の所に行って助けてやる』

「イッセーさん…………助けて! イッセーさぁぁぁぁん!」

その時、私の背後でまがまがしい莫大な魔力を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼ん………………でる。

『助けて! イッセーさぁぁぁん!』

あいつが……アーシアが呼んでる。

呼んでるんだ……助けに行かなきゃ……ならないんだ。

立て……立て……立て立て立て立て立て!

アーシアを傷つけるものは全て―――――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――殺す!




あぁぁぁぁぁぁ! 夏休みが終わるぅぅぅぅ!


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第四十六話

「あ……あ」

突然、吐き気がするくらいの禍々しさを放つ魔力を感じ、

さらに後ろから低いうなり声のような音が聞こえ、私を覆うように大きな影が出来た。

振り返ってみればそこには顔と仮面が一体化し、

仮面のこめかみから二本の角が前を向くように生え、全身の体の色は血のように赤く、

髪色も体色と同じように血のように赤い色をしていた。

その姿をパッと見ただけではそれが誰なのかは分からなかった。

右腕を見てみると真っ黒に染まった宝玉のようなものが手の甲に埋め込まれ、

上の服は先ほどの禍々しい魔力で飛び散ったのかほとんど原形はなく、

下のズボンだけが完全な形で残っていた。

この服を着ていたのは私が知る限りではただ一人。

「イッセー……さん?」

「バカな」

後ろからシャルバさんの声が響く。

「胸に穴をあけられて生きているはずがない。

報告によれば貴様のセイグリッドギアは暴走を引き起こすものでもなく、

何かしらの特異な姿へと変えるものでもない。貴様はいったいなんだ」

シャルバさんは視界に異形の姿をしたイッセーさんをとらえながら、

ゆっくりと横へ数歩進んだ。

「お前は誰だ」

『コネクト、プリーズ』

刹那、くぐもった聞き覚えのある音声が神殿内に響き渡り、

真っ黒な色をした魔法陣が展開され、そこから一本の剣が出現し、

それを掴んだイッセーさんが勢い良く降り下げた瞬間!

「きゃぁぁぁ!」

「アーシア!」

凄まじい爆風が吹き荒れ、神殿内の地面は砕け散り、

近くにいた私はあっけなく飛ばされながらも、部長に抱きかかえられ、

地面にたたきつけられることはなかった。

「答えろ! 貴様は何だ!」

『オオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

神殿内に異形の姿をしたイッセーさんの咆哮が響き渡る。

その咆哮は衝撃波となり、周囲の神殿の床や壁に激突して大きなヒビを埋め込んでいく!

「ちっ! 頭までも化け物か!」

そう言い、シャルバさんは先ほどのように腕を前に向けた瞬間、

イッセーさんも姿勢を低くして角をシャルバさんに向けると両方の角の間に血のように赤い、

魔力が集められ、光の線が放たれたと同時に地面を砕きながら凄まじい速度で放たれ、

シャルバさんの光とぶつかった。

「くっ!」

シャルバさんはすさまじい爆風に驚きながらも、

翼を羽ばたかせて数メートル上に飛びあがった。

「っ!?」

突然、耳にブゥン! という空間が震えるような音が聞こえ、

その方向に向いてみればいつの間にか背後に移動したイッセーさんが再び、

先ほどの攻撃をしようとしていた。

「なめるなよ!」

シャルバさんは最大の光を右腕に取り付けた装置から放つけど、

いとも簡単にイッセーさんの攻撃にかき消された。

「くっ! またしても光をっっ!?」

突然、シャルバさんが動きを止めたかと思うと彼の右腕に魔法陣が展開されており、

ひじから先が真っ黒な魔法陣の奥に消えていて、イッセーさんの眼前にある魔法陣から、

装置をつけた彼の腕が見えていた。

「ぎゅぁぁぁぁぁぁぁ!」

魔法陣が消えた瞬間、ブチィンン! という気味の悪い音が聞こえ、

シャルバさんのひじから先が綺麗に切断され、鮮血が舞い、

そのまま地面にたたきつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘ですよ……あれがイッセーさん?」

僕―――木場祐斗は目の前の状況に驚きを隠せないでいた。

今、目の前で見たことのない姿をした怪物が自分たちが束でかかってもかなわなかった相手を、

たった一人で圧倒している。

その怪物の正体は魔法を使った瞬間に悟ったが誰も受け入れようとはしなかった―――否。

受け入れたくはなかった。

「ぐっ……あ」

シャルバが切断された右腕を抑えながらフラフラと立ち上がるが、

すぐに何かを殴りつけたような音が聞こえ、シャルバの姿が怪物の姿へと入れ替わり、

逆にシャルバは壁に大きな穴をあけて神殿の外へと吹き飛んでいった。

それを追うように怪物も外へと向かった。

誰も何も言わず、

壁に開いた穴から外へと出ると二人が空中で激しい斬り合いを繰り広げていた。

だが、その詳細をハッキリとは見ることはできなかった。

それ程までに二人の動きは素早く、さらに言えばシャルバの姿は時折、

確認出来るがイッセー君の姿は一切、確認できなかった。

「あれではまるで本物の怪物じゃな」

背後から声が聞こえ、全員が振り返るとそこには旧魔王派の上級、

中級悪魔を片付けていたオーディン様が立っていた。

振り返るもつかの間、突然、地面に何かをたたきつけたような音が聞こえ、

視線を元に戻すと地上に降り立ったイッセー君と、

地面に埋め込まれているシャルバの姿があった。

「シャルバ様!」

旧魔王派の構成員だろうか。ローブを着た男性が数人、シャルバに近寄り、

目の前に立っているイッセーの姿を目に捉え、それぞれの得物を構えた。

すると、突然、一人の男の顔の前に黒い魔法陣が展開された。

「な、なんだこ」

その瞬間、男性は喋らなくなった―――――否、喋ることができなくなった。

魔法陣から先ほど、光を飲み込んだ血のように赤い破壊の魔力弾が放たれ、

男性の顔は消滅していた。

「ひっ!」

余りのショッキングな光景にギャスパー君は部長の背中に隠れてしまった。

『コネクトコネクトコネクトコネクコネクコネクコネコネコネコネ』

くぐもった音声が連続で鳴り響き、ついにはハッキリと音声の内容が、

聞こえなくなるほどの速さにまで達し、

シャルバの近くにいた男の全身に小さな黒い魔法陣が展開された。

ま、まさか!

「や、止めてくれ! お、俺には妻も子供もいるんだ! や、止めてくれ!」

必死に懇願するがイッセー君は一切、反応しなかった。

「怪物め! 死ね!」

一人の悪魔がイッセー君に向かって魔力弾を放とうとするが、

それよりも早くイッセー君が男性の懐に潜り込んで、アスカロンで上と下に切断した。

「ぎゃっ」

男性は痛みに叫ぶことなく絶命した。

「ひいぃぃぃぃぃぃぃ!」

小さな魔法陣を大量につけられた男性は死への恐怖から絶望し、

狂ったように叫んだ瞬間、ブシャッ! と嫌な音が鳴り響き、男性の姿が消え去った。

その代り、地面に大量の血とみじん切りにでもしたかのような肉片が残っていた。

イッセー君が残っている悪魔に手を翳すと、そこに若干青色が見えるどす黒い魔法陣が展開され、

そこから冷気が大量に放出され、悪魔が動き出す前に全身氷漬けにした瞬間、砕け散った。

「くぅぅぅ! 私は死ぬわけにはいがぁ!」

シャルバが何かをしようとした瞬間、イッセー君は奴の胸をふんづけ、

無理やり動けないようにすると角をシャルバに向け、

先ほどの全てを破壊する魔力弾を生成し始めた。

っっ! あんな至近距離であれだけの威力のものを放てば死ぬどころか肉片さえ残らない!

チャージが済み、いまにも放たれようとした瞬間! 

オーディン様が突然、イッセー君のわきに現れ、

強烈な両手による拳打を叩きこんで、殴り飛ばした。

「済まぬがアザゼルにはこやつを生きたまま、持ってこいと言われておってな。

小童に殺させるわけには……む」

シャルバはオーディン様がイッセー君を吹き飛ばした瞬間に転移魔法陣を使って、

どこかへと転移してしまった。

「むぅ。消えたか……今は貴様を止めねばならんようじゃな」

オーディン様の前方に先ほどの攻撃による傷を一つもついていないイッセー君がいた。

「グレモリーの娘! 少しばかりこやつを痛めつける! 構わんな」

「……はい。イッセーを止めてください!」

部長は苦しい表情を浮かべながらも、涙ながらにオーディン様に頼みこむと、

オーディン様は纏っていた服を脱ぎ捨てた。

そこには歴戦による傷が深く刻まれた肉体があった。

「いったい、いつ以来じゃ? わしが肉体で戦うなんぞ……かかってこい小童。

わしはさっきの奴らとは少し違うぞ?」

アースガルズの主神、オーディンと最怖の怪物の戦いが今始まる。




この作品の評価も最初は7くらいだったのに今じゃ
6前半……僕の作品は評価が落ちるという呪いにでも掛けられているのか。
調子良く行っておいて最後にドーン! そんな感じが
人生で何回かあったような……ま、いいか!


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第四十七話

「――――グングニル」

オーディン様の左手に槍が出現し、それを持ってイッセー君めがけて斬りかかるが、

イッセー君はそれをアスカロンで防ぎ、先ほどの全てを破壊する魔力弾を放つが、

オーディン様は寸前のところで首を傾けることでかわし、右手にもう一本の槍を生み出し、

それを握り締めてイッセー君めがけて放とうとする――――――。

「むっ!?」

オーディン様は突然、放つのをやめ、上空へ上がるとオーディン様がいたところに、

さきほど避けられた魔力弾が通過し、地面に着弾して巨大な穴をあけた。

慌ててオーディン様の周りの空を見てみると離れた所に空間を繋げる魔法陣が展開されていた。

避けられた魔力弾を空間を繋げることでもう一度、オーディン様に向けたのか!

そこからイッセー君の姿が消え、オーディン様が徐に槍を交差させたものを後ろへ、

とブーメランのように投げつけるとそこへイッセー君が現れ、

槍が直撃し、地面にたたきつけた。

「ふむ。中々の強さじゃったがいかんせん、魔力が禍々しすぎた。

それでは自分の位置を教えているようなものじゃぞ」

そう言いながらオーディン様は地面に足をつけ、地上に降り立った。

たった、数分の出来事だった。

これがアースガルズの主神の力っっっ!?

突然、凄まじい圧が僕たちに襲いかかった! す、すごい圧だ!

「……あれを直撃してまだ立ち上がるか」

オーディン様の驚いた声が聞こえ、何とかして顔をあげるとそこには左の脇腹か、

ら円状に抉られたイッセー君が立っていた。

さらにそこから何かグジュグジュと音を立てながら排出され、

穴をふさぐように動き出し、最終的に元の状態に戻った。

「―――――グングニル」

オーディン様はもう一度、槍を投げつけた……が。イッセー君は避けようともせず、

先ほどと同じ個所に直撃する――――が、あっけなく槍は砕け散った。

「超回復か」

オーディン様は小さく呟いた。

筋力トレーニング後に二十四~四十八時間くらいの休息をとることによって、

起こる現象で休息の間に筋肉の総量がトレーニング前よりも増加することを指す。

それをイッセー君は怪物級の規模に拡大して行っているということか。

刹那、イッセー君から凄まじい明かりが放たれた!

くっっ! こ、この光はイッセー君の魔法!

さらにそこからギュゥゥゥゥ! という魔力が凝縮される際に聞こえる音が響いた!

ま、またあの破壊弾を放つつもりなのか!?

そう思い、目が見えないなりにも力を入れて衝撃に耐えようとした瞬間、

僕たちの目の前に感じたことのある魔力が四つ現れた。

「なんだありゃ。俺の予想では覇龍を発動したと思ったんだがな」

声から察するにアザゼル先生らしく、目の機能が回復してから前を向くとそこには、

レヴィアタン様、サーゼクス様、アザゼル先生、そしてヴァーリが立っていた。

す、すごいメンツだ。さっきの魔力弾もあの四人の誰かがはじいたのか……。

「おい爺。ちょいと向こうから帰還命令が来てるぜ? 

なんでもバカがいざこざを起こしているらしい」

「ふん。そうか……気をつけろ。奴は相当じゃぞ」

そう言い残して、オーディン様は姿を消した。

「さて、アルビオン。どう見る」

『そうだな……結論からいえば覇龍だ。

奴はヴァーリと同じように莫大な量の魔力を代償として発動している。

だが、ヴァーリとは少し違う……覇龍を発動すればドラゴンらしさが出るが、

奴にはそれが感じられない。言い表すならば……覇人』

アルビオンが僕たちにも聞こえるように宝玉から声を響かせてそう話した。

「そうか。では、未確認の力と見た方がいいか」

「私もサーゼクスちゃんに賛成♪」

頼もしい。四代魔王のうち、二人も来て下さり、

さらには堕天使総督の先生、それに白龍皇のヴァーリが来てくれた。

ここにオーディン様も加われば本当にすごかった。

「それにしても凄まじく禍々しい魔力だ。アザゼル」

「なん」

そこで一瞬、全ての音が消失した。

一筋の光がアザゼル先生の耳の近くを通った。

なん……今何が……。

慌てて周りを見渡すと僕たちが集まっている場所よりも、

ほんの少し離れた所に深いひび割れが走っており、

そこからはすでに異次元の狭間の無のオーラらしきものが出ていた。

アザゼル先生は耳を押えながら、イッセー君から離れた。

先生ですら反応できない速度で移動するなんて!

「みんな! ここから脱出するんだ! ここは直に崩壊する!」

サーゼクス様の言葉に全員が同時に転移用魔法陣を展開させ、

転移の準備を始めた。無論、僕たちも準備を始めている。

「イッセーさん!」

「アーシア! もう転移が始まるわ!」

「でも、イッセーさんが!」

アーシアさんが部長に止められ、イッセー君に手を伸ばした瞬間に魔法陣の輝きが、

最大となってゲーム会場であった空間から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッテ~」

「大丈夫かアザゼル」

僕たちは冥界のはずれにある未開発の更地へと転移し終わり、

今はアーシアさんがアザゼル先生の耳を治療していた。

どうやら至近距離での爆音のせいで鼓膜が破れたらしい。

「サーゼクスが俺を呼んでなかったら今頃、

耳の鼓膜じゃ済まなかったぞ……来たか」

突如、空間にビキビキと音をたててヒビが無数に放射線状に走り、

バキィィン! とガラスが砕けたような音が響き渡ると、

そこから禍々しいオーラを放ちながらアスカロンを持ったイッセー君が現れた。

「まさか次元の狭間を直接通って出てくるとはな……次元の狭間の“無”すらも、

防ぐほどの魔力か……面白い。それでこそ俺のライバル」

イッセー君がこちらへと一歩一歩、

歩いてくる毎に体の芯が凍え、体全体がガタガタ震えてくる。

ギャスパー君にいたってはすでに泣いている。

「んじゃ、開戦の合図は俺がしてやる!」

そう言い、先生は手に極太の光の槍を生み出すとイッセー君めがけて放つが、

突然、彼の背後から炎が吹き荒れ、槍を飲み込み、燃やしつくした。

離れている僕たちのところにまで熱風が届いた。

なんて火力なんだ……フェニックスを倒したのも分かる。

『DividDividDivid!』

「ちっ。ほとんど変化なしか」

ヴァーリは上空へ飛びながらセイグリッドギアの能力を発動するが、

ほとんどイッセー君の魔力量が変化しないことから諦め、すぐさま

吸収した分の魔力で巨大な魔力弾をイッセー君めがけて叩きつけるが、

彼はそれを片腕で抑え込んだ。

例え半分にされてもそれを上回る速度で回復しているのか?

「そのままにしておいてくれ!」

サーゼクス様が掌に滅びの魔力を凝縮したものを球状に変化させ、

そのままイッセー君の腹部に押し込もうとするけどそれは、

彼の足蹴りで腕を別方向に向けられたことで不発となった。

「ていやぁ!」

今度はレヴィアタン様が細長い氷の槍をいくつもの作り出して、

イッセー君めがけて放つが、彼の前に魔法陣が展開され、そこから冷気が放出された。

「はっは~ん。冷気ならお姉さん負けないぞ♪」

そう言い、レヴィアタン様も目の前に青い魔法陣を展開させて冷気を放出し、

冷気と冷気がぶつかり合ったことで周囲の温度がガクンと下がり、

僕が吐く息が白くなって見えた。

それに周囲の地面は凍りついている……凄い。これが魔王の力か。

「うぉ!」

イッセー君は今まで支えていたヴァーリの巨大魔力弾を向こうの方へ投げ、

同時に飛びかかってきたサーゼクス様と先生を相手取った。

サーゼクス様の滅びの魔力の球を態勢を崩してかわし、先生の槍での攻撃をアスカロンで防ぎ、

背後から迫ってくるヴァーリの魔力弾を足蹴りで違う方向へと受け流した。

……もう、正直僕たちとは異次元の戦いだ。

「っ! イッセーから離れろ!」

先生の掛け声に従い、全員がいっせいに彼から離れた直後! 

彼の足もとから巨大なドラゴンの形をした雷撃が放出され、

四人を睨みつけるように四体の雷撃のドラゴンが生まれた。

「もぅ! 魔法使いちゃんは手品が上手なんだから♪」

そう言い、ドラゴンに向けてレヴィアタン様が手のひらを向けたとたん、

ピキピキとドラゴンが音をたてて凍っていき、最終的に完全に凍り付いた。

ぶ、物質だけじゃなくて魔法すらも凍らせることはできるのか!

すると、イッセー君は標的を先生に定めたらしく、先生に斬りかかった。

「はっ! お前の考えはあってるぜ! この中じゃ俺が一番、

倒しやすいからな! だが、教え子には負けねえぞ!」

先生はイッセー君のアスカロンの剣撃を全て光の槍でいなしながら彼の脇腹に、

足蹴りを加えて蹴り飛ばした。

「三人とも手を出すなよ。今は俺がやる……うぉ。力持ち」

イッセー君は飛ばされた場所の地面を大きくくりぬいた、巨大な岩石を片腕で持ち上げると、

宙に浮かびあがってから先生めがけて思いっきり投げてきた。

「こんな程度じゃ俺の注意は引けねえぞ!」

叫びながら先生は光の槍を岩石にぶつけた瞬間! イッセー君が凄まじい速度で、

拡散する破片から姿を現わし、アスカロンでいまにも先生を切り裂かんとしていた!

「先生!」

「ぅぬぅぉぉ!」

ギリギリのとことでかわした先生はすぐさま、距離を取り、

光の力を最大限にまで注入した極太の光の槍をイッセー君めがけて投げようとするが、

高速で先生の所にまで移動したイッセー君が素手で先生の槍を掴んだ!

辺りにはバジバジィと音が鳴り響く! 

う、嘘だ! 遠くにいる僕たちでもチクチクとした痛みを感じるのに、

あれを素手で受け止めるなんて!

直後、彼はそのまま光の槍を握りつぶし、爆発が起きた。

『グゥゥゥゥゥ』

「っっ!」

「アザゼル!」

サーゼクス様がアザゼル先生のもとへ駆け寄ろうとした瞬間!

アスカロンが振り下ろされ、先生を切り裂いた。




眠いぜ! ていうか夏休みもあと二十日くらいしかない!


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第四十八話

アスカロンで切られた先生はそのまま血をあふれ出し、

地面に倒れ伏して動かなくなってしまった。

まだ、先生の魔力は感じられるから死んではいないだろうけど、

それでも危険な状態には変わりなかった。

さらにイッセー君は先生の息の根を止めようと首元にアスカロンを降ろしていく。

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!」

先生を斬られて激高したヴァーリが籠手の先から凄まじい大きさの魔力弾を生成しながら、

高速でイッセー君へと突っ込んでいく!

それに対抗してイッセー君は先ほどの破壊の魔力弾を生成し、

ヴァーリに向けて放った!

「はぁぁぁ!」

ヴァーリがそのすさまじい大きさの魔力弾をイッセー君が放ったものにぶつけようとした瞬間! 

彼の破壊の魔力弾の先とヴァーリの上空に魔法陣が展開され、

そこを通過した魔力弾がヴァーリの上空から放出された!

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

不意に破壊の魔力弾を直撃したヴァーリは地面にめり込み、

鎧が光の粒子となって消失し、動かなくなった。

ヴァーリが動かなくなったのを確認したイッセー君は再び、

先生の喉元にアスカロンを降ろしていく。

「もう良いんだ」

僕はイッセー君に近づき、その腕を掴んでアスカロンを止めようとするけど、

あまりの力にそのスピードを遅くするだけにとどまった。

くっ! 凄い力だ。

「イッセー君。もうアーシアちゃんを傷つけるものは何もないんだ。

もうやめよう…………帰ろうよ」

だが、イッセー君はアスカロンを先生の首元へと降ろすのをやめない。

「今、君が殺そうとしているのは先生なんだ! もう良いんだよ!

これ以上、すれば君は戻ってこれなくなる!」

大声で叫び散らしてもイッセー君は見向きすらしない。

完全に彼の意識はないっていうことなのか。

「聞こえてるのか! イッセー君!」

突然、僕の身体が後ろに引っ張られるような感じがした。

視界の下の方にアスカロンの持ち手が見え、イッセー君の手が僕の方に向いて、

血も飛び散っているのが見えた。

「がっ!」

切り立った岩にぶつかってようやく、

僕は自分の腹にアスカロンが突き刺されたことに気づいた。

ドラゴンスレイヤーといえどもアスカロンも聖剣。

放たれる聖なるオーラが僕の身体を突き刺した部分から焼き焦がしていく。

「もうやめてイッセー! あなたがこれ以上誰かを傷つけるところなんて見たくない!」

横から部長が僕に向かって歩いてくるイッセー君を止めようと腕に抱きつく。

「あっがぁ!」

「部長、ぐっ!」

イッセー君は腕に抱きついてきた部長の首を掴んで、無理やり腕から離し、

二本の角の間から先ほどの全てを破壊する血の色をした魔力の塊が溜められていった。

「イッセー君! もうやめてください!」

朱乃さんが、部員の皆がイッセー君に叫ぶけど彼はやめようとせず、

魔力を球状にして溜めていく。

溜めが完全に終わり、いまにも部長めがけて放たれようとした瞬間! 

突然、彼の後ろに誰かが抱きついた。

「ごめんね」

そう呟きが聞こえたかと思うと、徐々にピキピキとイッセー君が凍りついていく。

この場で氷を使うのはレヴィアタン様しかいない。

数秒も経たないうちにイッセー君の全身が凍りついて、大きな氷の彫刻となった。

部長はレヴィアタン様に助けられ、怪我はなかったみたい……だけど、

重症なのは僕の方かな?

どうにかしてアスカロンを引き抜いたのは良いけど、

流血した量が多かったのかさっきから意識が朦朧としてくる。

今はアーシアちゃんに傷は治してもらっているものの血液の量は回復することはなく、

完全な復調は数日くらいかかると思う。

「大丈夫かリアス!」

「は、はい」

部長は目に涙をため、手を小さく震わしながらサーゼクス様に抱かれていた。

無理もない。あんな目の前で魔力の塊を放たれると思ったら僕だって、

恐怖のあまり体を震わす。

「今は魔法使い君は仮死状態だけどそう、この状態は続かない」

「ああ、分かっている。セラフォルーの効力が続く……セラフォルー!」

サーゼクス様がレヴィアタン様の名を叫んだ瞬間、氷の彫刻が砕け、

そこから腕が飛び出し、振り向いたレヴィアタン様の顔を鷲掴みにした。

氷が砕かれ、姿があらわになっていくごとに、

僕達を押しつぶそうとする凄まじい圧力がその強さを増していく。

『…………ケル…………タス…………アー………を』

ボソボソと彼の口から紡がれる言葉は僕たちには理解ができなかったけど、

アーシアさんには理解できたのか突然、

彼女が眼からポロポロと涙を流しながら地面に膝をついた。

「私のせいです…………私がイッセーさんに助けてって言ったから!

イッセーさんから卒業するって言ったのに!」

やがて、その圧はすべてを破壊する魔力の塊へと変化し、先ほど、

部長に放たれかけたものの大きさよりも倍は大きいものが生成されていく。

「もうやめてくださいイッセーさん! 私は大丈夫ですから! 

私なら大丈夫ですからもうやめてください!」

それでも、イッセー君はやめない―――――全てを破壊する行動を。

アーシアさんの涙の叫びも今の彼には届かないのか!

「セラフォルー!」

サーゼクス様がイッセー君に近づこうとした瞬間!

「っ! アザゼル!」

イッセー君の背後に金色の鎧を身に纏った先生が現れ、極太の光の槍を全力で振り下ろした。

それにより、イッセー君の仮面のこめかみの部分から生えていた一本の角が綺麗に切断され、

彼の魔力が大きく乱れ始めた!

「全員伏せろ!」

先生がレヴィアタン様を抱きかかえ、地面に伏せてそう叫び、

僕たちも急いでそれに従った瞬間! 

先ほど、集められていた魔力弾が爆発し、辺りに凄まじい爆風が吹き荒れた!

凄まじい爆風で地面に飛ばされないようにしがみついていても今にも吹き飛ばされそうだ!

「イッセーさん!」

爆風がやみ、先ほどの仮面が音をたてて砕け散り、

イッセー君の顔を久しぶりに見たアーシアさんは誰よりも早く、

倒れた彼のもとへと走りはじめた。

あの姿になった影響なのか、シャルバに開けられた胸の穴はすでに治っていた。

「イッセーさん! イッセーさん!」

「くぅっ……はっ……はっ」

苦しそうな声をあげ、小さな呼吸を何度か繰り返してようやく、

僕たちの知っているイッセー君が意識を覚ました。

アーシアさんに肩を借りて、

立ち上がったイッセー君は今の現状に驚きを露わにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア……アザゼル」

「なんだ」

「お前を斬ったのは……俺か」

「違う」

先生はイッセー君の問いに真っ向から否定をした。

「木場を傷つけたのは……俺か」

「……違うよ。これは敵に」

「嘘つくなよ!」

辺りにイッセー君の怒鳴り声が響いた。

彼がオカルト研究部の部員になってから初めて、

彼の感情のこもった声を聞いたような気がする。

「お前の腹から! アザゼルの傷からアスカロンのオーラを感じる!

アスカロンが使えるのは俺だけだ! だから……俺が…………みん……なを」

「イッセーさん!」

喋っている途中でイッセー君は意識を失ってその場に倒れた。

…………僕は正直、彼が意識を失ったことに一安心していた。

彼が意識を意識を取り戻したことは分かっている……でも、

またあの全てを破壊しようとする姿に戻れば……今の、

この状況じゃアーシアさん以外、全員無残に殺されてしまう。

そんな恐怖が心の奥底にあった。

その後、サーゼクス様の伝令を受けてやってきた援軍に僕たちは救助された。

この戦いは魔王派との戦いに終止符を打ち、

そして僕たちの心に僅かばかりの恐怖を植え付けたものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふん♪」

今、人間界の都心部から遠く離れ、人が全く寄り付かない場所に占いなどで使う水晶を持ち、

大きな槍を壁に立て掛けた少年が水晶から表示される映像を鼻歌を歌いながら見ていた。

「またその画像? さっきから何回見てるのよ。“曹操”」

曹操と呼ばれた少年は画像を消し、振り向いた。

「良いじゃないか。ジャンヌ、あぁ、早くこの姿の彼と戦いたいよ」

「あんたもヴァーリと変わらないバトルマニアだと思うけど」

「良いじゃないか。戦いを求めるのは英雄の性質ともいえる」

彼が手にしている水晶にはあの姿のイッセーが映し出されていた。




うにゃ~


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第四十九話

「兵藤さん。そろそろ限界が近いかと」

「……そうですか」

「息子さんには」

「…………あの子が家を出るまで頑張る気だったんですけど……限界ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん。検査は終了だ」

体中に取り付けられた検査機のようなものを堕天使のスタッフが一つ一つ、

丁寧に取り除いていく。

俺―――――兵藤一誠はあの暴走によるダメージを検査するために、

堕天使の中枢ともいえる組織、グリゴリに出向いていた。

「…………」

「まだ気にしているのか」

アザゼルの問いには俺は何も反応しなかった。

以前の暴走により、俺の推測ではあるがあの場にシャルバがいなかったことから、

シャルバは俺が片づけ、さらにあの場にいた奴らの中でアザゼル、木場に重傷を負わせた。

二人は頑なに否定しているがそれ以外に理由が思い当たらず、

さらに部員達の接し方からも容易にそれが事実であることを叩きつけられた。

俺を見る目に……恐怖の色を感じるようになった。

それが顕著なのはギャスパーで他の奴らとの接し方はいつもの通りなんだが、

俺と喋っているときだけ、若干、違っていた。

本人は出ていないと思っているみたいだが……俺と目を合わそうとしなかった。

要するに朱乃とアーシア以外の雰囲気が変わっていた。

逆にアーシアは以前にも増して俺から離れないようになった。

限度を超えているとは思わないが、俺が教室に入ればクラスメイトと話しているのも途中で、

切り上げ、俺の方に走ってくる。

「あれはお前じゃない」

「……逆にそういう態度が怪しいと思うんだよ」

『テレポート、プリーズ』

俺はそう言い残して、転移先を自宅へと設定した魔法陣を展開して自宅へと転移した。

「ただいま……誰も居ないのか……というよりまだ学校か」

転移が完了し、自室から一階へと降りながらそう言うが誰の声も聞こえてこなかった。

俺が家についた時間はまだ二時半。普通、

十七ならば高校に行っているか行っていなくても何かしらの理由をつけて家を出ているだろ。

それに今日は母さんが俺に話があると言っていた。

「母さん?」

母さんを呼んでみるが声が返ってこなかった。

二階へ上がろうとしたとき、ふと視界に車いすが移った。

「母……母さん!」

台所へと視線を移した先には口から血を流して車いすから落ちて、

床に倒れている母さんの姿だった!

「母さん! 母さん!」

何度も声をかけて体をゆすってみるが全く応答がなかったのを見て、

俺はすぐさま119番をして、救急車を呼んだ。

幸いにもすぐに受け入れ先の病院が見つかり、

母さんはすぐさまその病院へ運び込まれて緊急に検査が行われた。

検査室の前で待っていた俺は部員のみんなに連絡するようにガルーダたちに云いつけて、

外へと飛ばした。

十五分ほどで慌てたように部員達が集まった。

「イッセー君!」

「お母さんは!?」

朱乃とアーシアが俺に駆け寄ってそう言うが、

俺が首を左右に振ったのを見て設置されているベンチに座った。

その後、生きている心地がしない時間を三十分ほど体感したところで扉が開き、

白衣を着た医者が出てきた。

「兵藤一誠さんは」

「俺です」

先生は手招きをして母さんが運び込まれた場所の向かいにある部屋に俺を入れた。

部屋に入ると、簡易的なベッドと明かりに照らされたレントゲン写真、

そして体内の内臓模型が置かれた机があった。

「あ、あの母さんは」

「…………その様子だと本当に何も聞いてないのですね」

先生の言い放った言葉に俺は一瞬、頭が真っ白になった。

「な、何か母さんは」

「貴方のお母様は…………癌です」

「…………」

もう頭が真っ白になるどころか言葉を失った。

癌? ……あんなに元気そうな母さんが?

「貴方のお母様は数年前から癌を患っていました。発見した時には既に、

手術ができないほど進行していましたので薬での延命治療をずっと続けてきたんです。

その時は持って半年と診断したのですが……正直、末期のがんで、

ここまで生きられた方は初めてです」

そう言われ、思い当たる節が頭の中に浮かんできた。

そう言えば数年前、母さんは長くのばしていた髪を急にバッサリと切ってきたことがあった。

まさか、副作用で髪が抜けるのを悟らせないために?

リハビリステーションに行く回数が増えたのも通院を悟らせないため?

あれよこれよと頭の中に母さんが闘病を続けてきたことの、

証拠になる出来事が浮かび上がってきた。

「じゃ、じゃあ母さんは」

「…………今日が限界かと」

その後のことはよく覚えていない。

部屋から出てきた俺に部員達が詰め寄ってくるが、

それらを全部無視して母さんが眠っている病室へと足を運んだ……気がする。

かれこれ三時間くらいか……母さんの手を握って隣にずっといる。

以前のように俺のことを優しく呼んでくれる母さんの声は聞こえてこなかった。

……俺が……俺が頼りなかったから母さんは俺に話そうとしなかったんだ。

俺がもっと大人だったら……。

「イッ……セー」

「母さん? 母さん!?」

小さく母さんの声が聞こえ、母さんを呼び続けると目を開き、視界に俺を写した。

でも、その瞳は非常に弱弱しかった。

俺の手を握り締める力も、以前の力強さが嘘のように弱くなっている。

もう、母さんは長くは続かない―――――そう思わせるような事実が、

俺に次々と叩きつけられていく。

「見て……イッ……セー」

母さんに言われ、外を見てみると季節違いにも程があるだろうと思わざるを得ない、

雪がチラチラと降っていた。

俺は母さんの顔を見て何を言わんとしているかを理解して、母さんを車いすに乗せ、

なるべく温かい格好をさせて屋上へと向かった。

思ったとおり雪は自然界の物ではなかった……でも、

部長達が何かをしたわけじゃない。屋上にだけ雪が降っていた。

「綺麗ね……」

母さんは雪を拾おうと手を上げようとする……しかし、

もう腕にも力が入らないのか腕が力なくだらんと垂れさがった。

「………母さん……俺は」

俺は隠していた悪魔の翼を広げると母さんは今にも落ちそうな手で手を後ろにやり、

俺の悪魔の翼に軽く触れた。

「知って……た。正確に……は知らなかっ……たけど」

少しづつ、母さんの声が小さくなっていく。

俺は母さんの声が小さくなっていくたびに目から涙が溢れて来て、

母さんを強く抱きしめた。

「母さん! 離れたくない!」

「イッセー…………母さん……ずっと、貴方の……こと見て……るから。

……………………リアスさん達……と仲良…………く…………………」

俺の翼に触れていた母さんの手が唐突に下にだらんと落ちた。

「母さんっっ……母さんっっ!」

俺の心を支えていたものが無くなり、俺の心がガラガラと崩壊していく。

どんなに強く母さんを抱きしめてもあの優しい声は聞こえず、

ただ俺はひたすらに涙を流し、母さんが死んだという事実に目を向けず、

逃避し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや~悪いね~。ドライグ君!』

イッセーの精神世界――――――ドライグが普段、住んでいる階層と魔力が生産されている階層の間に、

位置する階層にフードを被った人物が誰も居ないところで楽しそうに声を上げていた。

ドライグのようにセイグリッドギアに魂が封印されているものを宿している人間の魔力は、

それ自身が生産している……だが、それ自身に肉体は存在しないため正確には、

それ自身が封印されているセイグリッドギアが魔力を生産している。

イッセーを白と表すならばフードを被っている人物は黒。

彼の黒い部分が集合し、出来上がった人格が黒。

黒が一時的に表の世界へ出たのが以前の暴走。

『こいつが絶望した今! こいつの身体は俺が貰う。

てめえは永遠にも長い時間、俺の奴隷だ』

そう言いながらフードを取った人物の顔は―――――兵藤一誠そのものだった。

『さあ、始まるぜ。俺のショータイムが』




今日はいつも以上に更新します!


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第五十話

イッセー君のお母様がお亡くなりになってから二週間ほど経った。

あれ以来、イッセーは部屋から出てこず、私――――リアス・グレモリーが、

彼を呼んでも一切応答せず、

ドアの前に置いているご飯にも手をつけていない日がかれこれ一週間は続いている。

「イッセー? 起きてる?」

ドアを軽くノックして、彼に呼び掛けるけど部屋からは物音すら聞こえてこなかった。

鍵自体は開いている……でも、全員が彼の部屋の中に入ることをしなかった。

「イッセー……入るわね」

私は意を決して彼の部屋の中に入ると彼はベッドの上で頭を抱えた状態で座っていた。

以前は頼もしいくらいに魔力のオーラを感じたのに今は、

嘘のように魔力のオーラが感じられない。

「イッセー?」

彼の手に軽く触れて呼びかけると少し顔を浮かせて眼だけを私に見せてきた。

「ねえ、イッんんんん!?」

突然、彼に手で口を塞がれて押し倒された。

驚きながらも彼の顔を見てみると醜悪な笑みを浮かべたイッセーが……いや、

イッセーの顔を借りた何かがいた。

「たっく、なんでこんないい女を抱かないかね~」

「んんんんん!」

「喋るな。斬るぞ」

魔法陣からアスカロンの刃を少しだけ出して私の首筋に軽く当てると、

聖なるオーラで皮膚に痛みが走った。

だ、誰!? 誰なの!?

「誰だって顔してるな。俺だよ。兵藤一誠。

お前が愛してやまない男だよ。分からねえか?」

そう言いながら彼は私の服に手をかけて胸の部分を無理やり、露出させた。

「騒ぐなよ? 首飛ぶぞ?」

本来なら愛している彼に押し倒されて嬉しいはずなのに……今は、

嫌悪感しかなかった。全身を嫌悪感が駆け巡り、鳥肌が立っている。

彼が私の胸を揉んでも、

気持ち良くなんかなくて吐くくらいに気持ち悪くて仕方がなかった。

「はは。俺に恐怖を抱いているか」

私は必死に首を左右の振ってそれを否定しようとした。

「いいや違うね。もし恐怖を抱いているなら……下にいる仲間が、

気づくくらいに魔力を開放したりしないよな?」

「部長!」

ドアを蹴飛ばしながら聖魔剣を握り締めた祐斗に続いて続々と皆が部屋の中に入って来て、

祐斗が彼に剣を振るうけどイッセーはそれをヒョイッと交わしてベッドの上に立った。

「お前は誰だ!」

「誰……そう聞かれたら難しいな。俺は俺であり、俺ではない」

そう言って、イッセーは目を瞑った。

「…………な、何をしてんだよ。お前ら」

「それはこっちのセリフです……どうして部長を」

突然、目の前に立っているイッセーの姿をした何かは周りを見渡してオドオドしだした。

「待って下さい! 彼はいつもの」

「下がっていてください朱乃さん!」

「まっ」

朱乃が祐斗の腕に抱きついて剣を降ろさせようとしたけど、

彼はそれを振り切ってイッセーの首筋の辺りに振り下ろすけどイッセーは、

戸惑いの表情を浮かべながらそれを避けた。

い、今の彼は本物の―――――――。

私が止めようとしたときに、

ゼノヴィアが割り込んで木刀をイッセーに向かって振り下ろす。

「っっ! な、なんで」

待ってみんな! 今の彼はイッセーなの! 

あの禍々しいオーラは違うイッセーが出していて!

「……ハハ」

そのことをみんなに叫ぼうとしたとき、

突然イッセーが額を押さえて軽く笑いだした。

「……そうか……全員、俺が怖いんだな……俺が怖いから!

皆、俺を殺そうとするぶっ!」

イッセーが叫んだかと思うと、突然彼の口から赤い血のようなものが吐き出され、

床に付着するかと思えば、意志があるかのようにウネウネト動き出し、

イッセーの体に付着すると徐々に彼の身体を、以前の暴走体に変えていく。

血のように赤い体色、徐々に出来上がりつつある仮面。

「ぐおあぁぁぁ!」

イッセーは顔を抑えつけて苦しみだし、そこでようやく皆が気付いた。

彼はいつも見ているイッセーだということに。

すると、床に魔法陣が展開され、

そこからアザゼルが現れてイッセーの服の首のところを掴んだ。

アザゼルは一瞬、私達の方を見て申し訳なさそうな表情を浮かべ、

そのままイッセーを連れて魔法陣の輝きの中へと消えていった。

「イッセー君!」

「朱乃!」

イッセーの後を追って魔法陣の輝きの中に消えた朱乃を追いかけ、

私たちも輝きの中に突っ込むと、

先ほどの魔法陣は転移用らしく私たちは見たこともない広い場所に出た。

建物も何もない未開発の土地。

「シェムハザ! 術式を起動させろ!」

アザゼルの怒鳴り声がきこたかと思えば、イッセーを挟み込むように上と下に魔法陣が展開され、

地面にある魔法陣から光輝く帯のようなものが幾重にも重なって排出され、

その帯がイッセーを雁字搦めに拘束していく。

「くそ! くそ!」

イッセーは必死に抵抗して帯を引きちぎろうとするけど、

その前に上から赤色の光の十字架が彼の肩を貫通して、地面に突き刺さった。

「すまん。イッセー…………今度、暴走されたら止められるか分からない。

だから…………お前を封印する」

悲しそうな表情を浮かべたアザゼルが地面に手を置いた瞬間、

イッセーの上に展開されていた魔法陣が下の魔法陣の磁力で引き寄せられるように近づいていき、

彼の頭に触れた瞬間、視界を潰すほどの輝きを放った。

「イッセー君! イッセー君!」

視界が輝きによってつぶされているのにもかかわらず、

必死に彼の名を呼びながら朱乃がイッセーのもとへ行こうとするのを祐斗と小猫、

ゼノヴィアが三人がかりで押さえた。

次第に輝きは消え、目が開けられるようになったので目を開くとそこには、

石柱が一本立っており、その石柱には大量の魔術的な言葉らしきものが刻まれていた。

「朱乃さん!」

「離して! あいつはイッセー君を! イッセー君を! 結局貴方もあの人と同じなのよ!」

騒ぎを聞き、振り返ると眼から涙を流し、鬼のような形相でアザゼルの睨みつけて、

いまにも襲いかかろうとしている朱乃の姿があった。

私は……怒りよりも一安心の感情があった。

私は…………私は!

彼を愛しているのに恐怖している―――――そんな矛盾した感情を抱えた私は涙を流して、

地面に膝をついた。

今、グレモリー卷族は―――――――バラバラだ。




るらら~


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第五十一話

イッセー君が封印されてから数日後、イッセー君の自宅に思わぬ来訪者が来た。

「来たぞい」

「朝早くから申し訳ありません」

その思わぬ来訪者とはアースガルズの主神、オーディン様とその付き人らしき女性だった。

凄い人の来訪に口をあけて驚いている僕の後ろから先生が不意に、顔を出してきた。

「お、来たか爺。木場、全員を集めてくれ」

「わかりました」

全員が集まるか分からないという不安を抱えながら僕は先生の言う通り、

各部屋にバラバラにいた皆を最上階に設けられているVipルームに集合させた。

中でも一番苦労したのが朱乃さんだ。まるで死んだように虚ろな表情をして、

どこを見ているか分からなかった。

どうにかして朱乃さんを連れてVipルームに入るとオーディン様と、

御つきの人以外にもう一人、来客がいた。

その来客を朱乃さんが見た瞬間、

今までの死んだような顔が嘘のように鬼のような形相に変化した。

どうやら先生も朱乃さんと対面させる気はなかったのか、

しまったっと言いたげな顔をしていた。

「え、えっとはじめまして。私はオーディン様の付き人を

していますロスヴァイセと申します」

今、僕達の状況を全く理解できていない付き人の女性――――ロスヴァイセさんの自己紹介を、

聞いても、誰も顔すら向けずにただただ、悲しい表情を浮かべていた。

僕は動けない皆を代表してそれぞれの紹介をしていくけど……正直、

僕もかなりギリギリの精神状態だ。

今こうやって動けている事態が凄いと思う。

「なんじゃなんじゃ? まるで通夜のようじゃな」

「爺。そんなことを話しに来たんじゃないだろ。皆、聞いてくれ。

今、爺は日本の神々と会談をすることになっててな。

日本にいる間、爺を俺達で護衛することになった」

だから、オーディン様が僕たちを訪れたのか……ただ、

時期的に最悪なタイミングなのは間違いない。

恐らく先生もイッセー君を入れた前提で計画を練っていたに違いない。

もう、彼は―――――――。

「最近、英雄派はどうじゃ?」

「困ったもんだ。やっていることはどの派閥よりも残酷だよ」

その後も最近のカオス・ブリゲードの動向などについて話され、

オーディン様が日本の街を下見に行くと言って出ていったことで小さな会議は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱乃。話が」

台所で水を飲んで、部屋へと帰ろうとしたときにふと曲がり角の向こうから、

バラキエルさんの声が聞こえてきた。

バラキエル……アザゼル先生がトップを務める堕天使の中枢組織であるグリゴリの幹部で、

朱乃さんの父親でもある。

朱乃さんが雷の巫女と言われる起因はバラキエルさんが非常に、

強力な雷を使えるところから来ていると思う。

朱乃さんの才能もあったかもしれないけど……9割以上が、

バラキエルさんの遺伝子を持っているからだ。

少し顔を出して窺って見るといまにも襲いかかりそうな目つきをした朱乃さんが、

バラキエルさんを睨みつけていた。

「何か用」

「お前と話がしたい」

「笑わせないで。今更な貴方と話をする気なんてないわ。

こんな会話をしているのも嫌なんだから」

そう言って、朱乃さんはそのまま自分の部屋に入ってしまった。

やっぱり…………イッセー君を心の支えにしていた人のほとんどが荒れてしまっている。

アーシアさんと部長、朱乃さんがそれが顕著に表れている。

ゼノヴィアや小猫ちゃんも表には出ていないけどいつもとは違う。

「貴殿は兵藤一誠のことはどう思う」

っっ…………気づかれていたのか。

僕はバラキエルさんの前に出た。

「彼は……イッセー君はこの卷族の最後の希望でした」

「最後の希望?」

「はい。皆、彼を心の支えとしていました。ですがその支えが今はなくなり、

皆の心はグラグラに揺れています」

これがグラグラに揺れているだけでもまだマシな方だ。

心が完全に崩れ去ったら今度こそ本当に、グレモリー卷族は機能を失って瓦解していく。

「そうか……すまない、時間を取らせた」

「いえ」

そう言って、バラキエルさんはアザゼル先生がいる最上階へと上っていった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、僕たちは日本上空にいた。

僕たちは今、バラキエルさん、部長、アーシアさん、小猫ちゃん、オーディン様、

御つきのヴァルキリーであるロスヴァイセさんが乗っているスレイブニルという

軍馬の馬車を飛行しながら警護していた。

一時は機能しないと思っていたグレモリー卷族だけど今はなんとか機能している。

でも、朱乃さんは先生の言うことを聞かない、部長も時折ボーっとしている。

「――――っ!」

その時、背筋を何か冷たいものが走り、動きを止めて上空を見上げると空高くからローブを、

身に纏った人物がゆっくりと僕達の目の前に降りてきた。

若く、目つきが少々悪い男だった。

突然のことに驚いて停止したスレイブニルの馬車から続々と乗っていた人たちが出てくる。

ロスヴァイセさんがその男性を確認すると驚きに顔を染めた。

「やあやあ! 我こそは悪神ロキ!」

男性はマントをバット広げ、声高々に叫んだ。

ロキ! なんでこんなところに神が! いや、

それよりもこの馬車には主神が乗っているということを知っての行動なのか!?

「これはこれは、ロキ殿。何かご」

直後! 空から雷撃が降り注いでロキに直撃した!

っっ! この雷撃は朱乃さんのだ!

僕は慌てて朱乃さんの方を向くと鬼のような形相で、

にらみつけている朱乃さんが手をロキの方へ向けていた。

「ハハハハ! なかなか好戦的な女だ!」

雷撃を直撃したにもかかわらず、ロキは無傷だった。

これが神か!

「ここに俺がいるということはもう分かっているな?」

その一言で全員が戦闘態勢に入った。

この人は間違ってここに来たんじゃない! 

他の神話体系と和平を結ぼうとしているオーディン様を殺しに来たんだ!

「ロキ様! このような行為は重罪です! 反論するならば公正な場でしてください!」

「一介の戦乙女が俺に指図か。偉くなったものだ……まあ良い。

どうせ、貴様らはわが息子に喰い殺される運命だ」

そう言いながら腕を広げたロキの背後の空間が歪んでいく!

な、何が起きているんだ。何がここに来るっていうんだ!

「来い! わが息子! フェンリル!」

ロキの背後の空間のゆがみから現われたのは大きな灰色の狼だった!

しかも、奴はさっきフェンリルって言っていた! 

もし、それが本当なら僕たちはとんでもない存在と対面していることになる。

神喰狼―――――その牙は神をも殺すと言われている。

「おいおいおい! これはどんな冗談だ!?」

先生は手の光の槍を握り締めながら、目の前の存在に驚いていた。

「さて、どいつから殺す? フェンリルよ」

『Half Dimension!』

そんな音声が聞こえ、フェンリルを中心として辺りの空間が歪んでいく!

だが、フェンリルは噛みちぎるようにその空間から脱出した。

「やれやれ。最近の神はかなりバカのようだ」

上からの声に顔をあげるとそこには白い鎧を着た男性、

そしてその背後には仲間らしき数人の人物が待機していた。

そのうちの二人は以前、三種族の会議の時に来たやつともう一人は、

小猫ちゃんのお姉さんであり、冥界ではSS級の犯罪者として手配されている黒歌だった。

「ヴァーリ! てめえなんでここにいるんだ!」

「ほう、白龍皇か。それにその背後の人物たちもなかなかできる存在のようだ……。

オーディンもいることを考えれば少し分が悪いな。フェンリル、引くぞ」

そう言い、マントを翻すとフェンリルとともにロキは消え去った。

フェンリルが消えて、ようやく剣を握り締める腕の震えが止まった。

「ヴァーリ、てめえのチーム引きつれてまで何の用だ」

「アザゼル、安心しろ。お前たちと戦う気はない。

俺達はお前たちに提案を示しに来たんだ」

「提案?」

「フェンリルとロキ。これらを倒すために共同戦線を張ろうじゃないか」




ワッフル~


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第五十二話

最上階に設置されているVipルームにヴァーリチーム、グレモリー卷族、

シトリー卷属、バラキエルさん、紫藤さんが集まっていた。

ヴァーリが言った共同戦線――――目的はフェンリルと戦うことらしい。

先生は一定の疑念を抱きながらも話を先に進めた。

「フェンリルとロキの対策に関しては奴に聞く」

「スリーピングドラゴン――――ミドガルズオルムか」

ヴァーリの言った言葉に聞き覚えがあった。

確か五大龍王の一角で、

海の深い奥底で世界の終末まで眠っていると言われているドラゴンだったはず。

「ですが、どうやって呼ぶんですか?」

「アルビオン、ヴリトラ、タンニーン、

ファーブニルの力を使ってミドガルズオルムの意識をこちらへ呼ぶ」

そう言い、先生はヴァーリ、匙君と一緒に魔法陣でどこかへと転移してしまった。

どうやらミドガルズオルムの意識をこちらへ呼ぶには特別な場所で行わなければならないらしい。

取り残された僕たちは一言も話さず、部屋には沈黙が流れ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バイバ~イ』

ミドガルズオルムからフェンリルとロキに対する対策を聞いた俺達は、

ミドガルズオルムの意識と別れた。

本来ならここにイッセーも居ればもっと長い間、話す事も出来たんだがな。

流石にあいつが居ない状態で発動した術では長く話せても三十分ほどしか話せないし、

まだ匙は悪魔になりたてだ。

「アザゼル。兵藤一誠はどうした」

タンニーンも匙も気になっていたのかヴァーリの一言に頷きながら、

俺の方を見てきた。

共同戦線を張る以上、このまま隠しているわけにはいかないか。

俺はヴァーリ達をイッセーが封印されている石柱がある場所へと案内した。

「…………まさか、封印したのか」

ヴァーリの言葉に俺は静かに頷いた。

その声には少し、怒りも含まれているように感じた。

そりゃ、当然か。あれほど、自分が倒すと息巻いていた奴を他人に封印されたんだ……しかも、

内部からは永遠に封印が解けないような方法で。

「ふ、封印? なんで兵藤がそんな」

「匙。イッセーは以前、ディオドラとのレーティングゲームに参加した際、

瀕死の重傷を負った。そして、旧魔王派のシャルバとの戦いに際にアーシアの叫びに、

呼応する形で暴走。俺、サーゼクス、レヴィアタン、

ヴァーリがいてもイッセーを止めることができなかったんだ。

ただでさえ、サーゼクスとレヴィアタンは旧魔王派以外の仕事もある。

もう一度、暴走を起こせば……今度こそ世界は終わる。そう判断した俺は封印したんだ」

話し終える頃には既に辺りには沈黙が流れていた。

ヴァーリはイッセーが封印されている石柱に近づき、ジッとそれを眺めていた。

二天龍という闘うことを宿命づけられた奴にしか分からない何か、

特別な感情でもあるのか。

「アザゼル。確か、奴は最後の希望だったな?」

「ああ」

そう言うと、ヴァーリはニンマリと口角を上げた。

「なら問題はない。奴は来る」

そう言い残して、ヴァーリは一足先に転移魔法陣を使って、

一時的な家になっているイッセーの自宅へと戻った。

二天龍としての感なのか、それともただ単にあいつ自身が直感で、

感じ取った曖昧なものなのか―――――――それは分からない。

だが……おそらくもう一度、アーシアがイッセーを呼べば確実にイッセーはあの姿となって、

アーシア以外をすべて破壊しつくすまで……動き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木場祐斗。少し話がある」

帰ってきたヴァーリに呼ばれた僕は彼と二人っきりになれる場所へ、

案内してそこで話を聞くことにした。

ヴァーリは部屋に置かれているソファに座り込んで、僕の方を見てくる。

「お前にとって兵藤一誠はなんだ?」

卷属にとって彼は最後の希望……でも、

僕のとって彼は何なのかということは今の今まで考えたこともなかった。

戦いをくぐる抜けてきた戦友? それとも下僕仲間? 同姓の友人?

そのどれもがしっくりこない中、唯一、一つだけしっくりくるものがあった。

「彼は僕の親友だ」

戦友でも仲間でもない。彼は僕の親友だ。

「ならば一つ聞く。もしも、ロキとの戦いの最中に暴走した奴が来ればどうする」

「……止める。何が何でも」

そう言うとヴァーリは微笑を浮かべた。

「なら良い。もしも、奴が来たときは俺も命をかけて止めよう。

奴が覇人ならば俺は覇龍として奴を止めて見せよう」

その時だけは僕は彼をテロリストだとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後の夜。僕たちはオーディン様が会談をしているホテルの屋上にいた。

このホテルの下には一般用の玄関口があるので真正面から来れば確実に止められて、

僕たちにすぐに連絡が行く。

それにロキはフェンリルという大きな存在まで持ってくるはず。

それら全ての可能性を考えて導き出されて結論はロキは屋上から侵入し、

オーディン様を狙うということで屋上に待機していた。

すると、ふと本を読んでいたヴァーリが本を捨てて立ち上がった。

「……奴風にいえばショータイムか」

直後、バジッ! バジッ! という音が聞こえ、振り返ってみれば空間が歪んでいた。

部長も立ち上がり、会長たちも転移の準備をしていた。

作戦は会長たちがロキ達を僕たち含めて今は使われていない広くて、

頑丈な採掘現場跡地に転移させ、そこでフェンリルをグレイプニルという鎖で拘束、

撃破した後にロキを撃破。こう言う内容だった。

「ふむ。準備は整っているのか」

ロキとフェンリルが空間のゆがみから出てきた瞬間、

会長たちが準備していたホテルを覆うほどの大きな魔法陣が光輝き、

この場にいた関係者全員をフィールドへと転移した。

「フェンリル……殺せ」

ロキがフェンリルに指示を出した瞬間、黒歌さんが手を上げ、

フェンリルの周りに魔法陣を展開すると、そこからグレイプニルが射出されて、

フェンリルを拘束した。

『オォォォォォォォォォォォン!』

「ほぅ。グレイプニルを強化したか」

僕はロキの表情に疑問を抱かざるを得なかった。

何故、フェンリルを封じられても焦り一つでないのかと。

「スペックは落ちるが…………貴殿達には地獄を見てもらう」

そう言った瞬間、ロキの左右の空間が歪んでいく。

そこから現われたのは月光に照らされ、

見えたのは灰色の毛なみに鋭い牙を持った二匹の狼。

「フェ、フェンリル!? でも、ここに!」

部長はかなり驚いていた。

部長以外の人達だって驚きている! フェンリルという存在は世界に一体しか存在していない! 

となるとあの二匹はフェンリルの子供なのか!

「「バランスブレイク」」

『Vasnishing Dragon Balance Breaker!』

僕とヴァーリが同時にバランスブレイクを発動し、僕は聖魔剣を、

ヴァーリは白い鎧を身に纏った。

「やれ! スコルッ! ハティッ!」

二匹の狼が姿が消えるほどの速度で一匹はヴァーリチームに、

もう一匹は僕達の方に襲いかかってくる!

「犬風情が!」

タンニーンさんが狼に向かって巨大な火球をぶつける!

でも、狼はダメージは喰らえど少ししか喰らっていないらしく、

速度を落とさずに僕たちに向かってくる!

タンニーンさんの炎を真正面から直撃してもちょっとの、

ダメージに抑えるなんてどういう体をしていたらそんな芸当ができるんだ。

「ちっ!」

「ハハハハハ! どうした白龍皇!」

ロキの笑い声が聞こえ、目の前の狼から注意を消さないように視線をそちらに向けると、

拘束されていたはずのフェンリルがヴァーリの腕をその牙で貫いていた!

強化したグレイプニルなのに……まさかそれををちぎるくらいにまで成長したのか!

まだ戦い始めてから三十分もたっていないのに!

「くっ!」

狼の脚の鋭い爪の攻撃を受け流しながらもなんとか、

ヴァーリの方へ行こうとするけど狼の攻撃が強く、そして重く、

早すぎるので自分のことで手いっぱいになってしまっている。

「仕方がないな……木場祐斗。俺は少し、俺の計画に従って動く。

ロキは頼んだ。黒歌!」

ヴァーリが叫んだかと思えばフェンリルと彼の足もとに大きな魔法陣が出現し、

そこから布のようなものが放出されて、二人を包み込むと同時に消え去った。

「はぁ!」

僕は氷の聖魔剣を生み出してから地面に突き刺し、周囲の地面を氷結していき、

二匹の足を凍らせようとするけど二匹は凄まじい速度でその場から消え去った。

凄い速度だ……でも、フェンリルのようにまったく見えないわけじゃない!

「そこだ!」

僕が聖魔剣を投げた場所に一匹が出現し、

聖魔剣が直撃するも薄らと血が滲みでるだけだった。

「ふむ。なかなか粘るな。なら、こいつらもだそう」

そんな中、さっきまで余裕の表情を浮かべていたロキが突然、

腕を上げると彼の影が伸びておき、そこから細長いドラゴンが……で、でか過ぎる!

タンニーンさんよりも数倍大きいドラゴンが五体も現れた!

「ミドガルズオルムまでも量産していたのか!」

五体のドラゴンが口から火を噴く!

「その程度で!」

タンニーンさんは口から大きな火球を一発吐き出し、全ての火球を飲み込んで、

一瞬にして辺りを炎の海に変えてしまった!

こ、これが元龍王の炎か!

「きゃっ!」

「ア、アーシア!」

ゼノヴィアの叫びが聞こえ、

振り返ってみると僕が戦っている一匹とは違うもう一匹がアーシアさんのすぐそばにいた。

ロキめ! アーシアさんが僕達の生命線だってことをしって狼にアーシアさんを!

「うおらぁぁ!」

美猴が大きな棒を狼に叩き落とそうとするけど、

狼は爆音ともいえる凄まじい咆哮を上げて近くにいたみんなを一気に吹き飛ばした!

咆哮だけでここまで威力が出るなんて!

「アーシアさん!」

狼がアーシアさんを切り裂こうとした瞬間!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャァアン!』

突然、夜空を切り裂いて流星のようなものが狼の横っ腹に直撃して大きく吹き飛ばした!

な、なんだ……隕石でも落ちてきたのか?

「ハァ……ハァ……」

「イ、イッセーさん!」

夜空を切り裂いて落ちてきたのは封印されたはずのイッセー君だった。




こんにちわ~


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第五十三話

『ハロハロ~♪元気~?』

耳障りな音が辺りに響く。

この状態で元気と答えたら俺は是非、精神科に行きたいね。

『絶望の気分はどうかな?』

……あぁ、最悪だよ。でも、絶望して分かった……俺は脆い存在だ。

心を母さんに支え続けもらいながら今まで生きてきた……だが、

もう一つ分かったことがある。俺には仲間がいる。

絶望しても支えてくれる仲間が……。

『お前に恐怖を抱いているやつらが希望か?』

あぁ。恐怖を抱いているならばその恐怖を俺が取り除けばいいだけだ……。

お前という恐怖を取り除けばいい話だ。

俺はみんなの最後の希望であり続けると誓った……同時に、

俺の最後の希望は皆だ。

『……俺のこと憎いか?』

確かに……俺がこんな状態になっているのも全ての始まりは今、

俺の目の前に立っているやつだ……だが、今はそんな気持ちはさらさらない。

確かに俺はこいつのせいで全員に剣を向けられた……でも、

よくよく考えてみればそれは致し方がないこと。

姿かたちは同じであり、精神が入れ替わっているなんて言うものは、

表面を見ただけでは百%分からない。

『成程ね。今はそんなに恨んでいないと……だからてめえは弱いんだよ!

何故、今お前が持つ力を破壊に使わない! 何故、弱者を護るために使うんだ!

力っていうのはな! 弱者を圧し、強者をぶち殺すためにある!』

……違う。俺が持つ力は皆の希望を護るためにある。

『分かってねえ! 俺がそれを証明してやる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ」

「イ、イッセーさん!」

駆け寄ってくるアーシアをジェスチャーで来るなと言い、

状況を把握するために今にもあいつに奪われそうな意識の中で周りを見渡す。

ヴァーリチームの面々は見えるがヴァーリ自身が見えないな……狼が二匹、皆……そして、

あいつが敵か。

「朱乃!」

その時、男性の野太い声が聞こえ、直後に不快音が鳴り響いた。そちらのほうを向くと、

朱乃を敵からの攻撃をかばった黒い翼を十枚ほど生やした男が血を流しながら倒れていた。

俺はすぐさまその男の魔力を感じると朱乃の魔力とかなり似ていた。

そうか……あいつが朱乃の父親の堕天使……バラキエルか。

『テレポート、プリーズ』

今にも暴走を起こしそうな状態の影響で不安定な魔法を使って、

アーシアの近くに朱乃と男性を転移させた。

「イ、イッセー君」

「朱乃。お前の心の中に一瞬だけでも芽生えた気持ちを出せ」

「え?」

「親が子を忘れることはない。いつだって親は子のことを心配し、

考えている。それなのに朱乃が親父さんを忘れたらだめだ。

憎むなとは言わない。だが、忘れるな。

親を憎んだ状態で親を亡くしてしまえば……後に残るのは何もない」

刹那―――――視界の端に白い何かが落ちてきたのが見えた。

顔を上げてみると季節は夏にもかかわらず、夜空からしんしんと雪が降っていた。

この雪を俺は見たことがある。

母さんが死んだときに振ってきた自然界の物じゃない雪だ。

『聞こえますか』

突然、頭の中に美しい声が響いた。

誰だあんたは。

『私はあなた方の世界とは異なる世界で雪の神をしております』

誰もが今の状況に驚き、戦いの動きを止めていた。

その時、夜空から降ってくる雪が弾けて、

何枚もの白い枠でおおわれたモニターのようなものが現れた。

『ねえ、母様~。お父様は私のこと好き?』

モニターに映し出されるのは着物を着た幼いころの朱乃……そして、

幼い彼女を膝に乗せている朱乃によく似た女性だった。

『もちろん。あの人は朱乃ことだ~い好きよ』

「なんだこれは……いったい何が起きているんだ!」

ロキの叫びを無視し、先ほどのモニターが消え、

今度は別の視点からのモニターが展開され、映像が映し出された。

『ア、アザゼル』

『あ?』

『じ、実は今度娘の誕生日なんだが……何が良いだろうか』

『知らねえよ! リア充のやつが非リア充の俺に聞くなー!』

『だ、だが皆がお前に聞けというのだ』

『うがぁぁぁぁぁぁ! 四、五歳の娘なんだったら親父が近くにいて、

一緒に遊んでくれるだけでうれしいんじゃねえのぉぉぉぉぉ!?』

アザゼルの涙ながらの主張が終わり、そこでまたモニターが閉じられ、

再び新たなモニターが出現した。

『朱璃。朱乃は喜んでくれるだろうか?』

彼女の誕生日なのか、綺麗に包装された箱を持って男性が、

その姿に合わないくらいに狼狽していた。

その様子を見て彼女の母親は笑みをこぼしている。

『大丈夫ですよ。朱乃は貴方が好きですから』

そこで映像は途切れ、降っていた雪は消え去った。

朱乃は先ほどの映像を見て、

過去の想いが溢れてきたのは眼から大粒の涙を流して、父親に近寄っていた。

少しづつ――――――血を流し、アーシアに治療されている男性のもとへ。

「うっ! ぐあぁぁぁ!」

そんな光景のさなか、籠手から噴出した血のように赤い魔力が全身を徐々に覆っていき、

それに伴って意識がいまにも消えようとしている。

あの野郎……また、覇龍を発動させて俺を暴走させるつもりか!

「イッセーさん!」

朱乃の父親の治療が一通り済んだのかアーシアが俺を癒そうと駆け寄ってくる。

だが、それを遮るようにして敵らしく男が高速で移動してきて、

彼女が通ろうとする通路を遮った。

「貴様は邪魔だ。消えろ」

「きゃっ!」

男性がアーシアを叩いた。

直後、俺の中に殺意というものが現れたのか先ほど以上の速度で、

籠手から血が流れるようにドバドバと赤い魔力がこぼれ出てくる。

ダメだ……殺意じゃない! 俺は!

あいつを殺意じゃない気持ちで……大切な物を護るためにあいつを倒す!

「さあ来い! 貴様を殺し、この場にいる全てを殺してオーディンを殺す!」

先ほどの何倍も速い速度で血のような赤い魔力が俺の全身を覆っていく。

「イッセーさん!」

その時、アーシアの叫びが聞こえた。

「もう……もうあの姿にならないでください! 私は大丈夫ですから!

だからそれ以上イッセーさんが傷つかないでください!」

「あぁぁぁぁぁ!」

アーシアの叫びを聞き、若干俺の意識がクリアになった瞬間、

俺は固形化して俺の身体を覆っている赤い魔力を握りつぶして、

無理やりからだから引き剥がした。

だが、引き剥がしてもまたそれを上回る速度で赤い魔力が俺を覆っていく。

何度も、何度も引き剥がしても俺の心の奥底から溢れ出てくるように赤い魔力は止まらない。

「何故だ……何故、拒絶する!」

「俺は! ……もうあの姿には……ならない!」

顔に出来かけていた仮面の一部を握りつぶし、それを地面にたたきつけるが、

空中で再び形を形成し、俺の顔めがけて飛んできたのを殴ってまた潰す。

「あの姿になれば! 皆の心に! 絶望を与える! 俺は!

誓ったんだ! あいつらの全てを! あいつらの心を支える! 最後の希望になると!」

「なぜ貴様がそれになる必要がある!」

「それが俺だからだ!」

どうにかして全身の赤い魔力を吹き飛ばした矢先、突然俺の視界が薄暗くなった。

「イッセーさん!」

上を見上げれば俺を押しつぶさんと、大きな何かが落ちてくる。

「イッセーさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」




ぬるっほ


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第五十四話

押しつぶされた―――――そう思っていた俺だが目を開けてみれば状況は違っていた。

先ほどのように俺の全身にまとわりついてくる――――――だが、

それは暴走を引き起こす血のような赤い魔力ではなく、黄金に輝く金色の魔力だった。

黄金に輝く魔力は空間の歪みから排出されているのもあれば、そこら辺で

タンニーンと戦っていた奴らや俺の真上の奴が黄金に輝く金色の魔力に変換されて、

俺へと流れ込んでいた。

『今だけ、貴様に力を貸してやる。あいつに使われるくらいなら貴様がマシだ』

『僕も今だけ貸してあげる』

その声が頭の中に響き、黄金に輝く金色の魔力に絡まるように全身から、

紅色の魔力が噴き出し、俺の全身にまとわりつく。

それらの魔力はやがて物質に変化し、赤色の鎧に金色の装飾が施された鎧へと変化した。

右腕に装着されている籠手は金と赤を混ぜたような色に変わり、

宝玉は金色一色に変化していた。

……体の奥底から力が溢れてくる。

「なんだその姿は!」

「ロキ……神々はラグナロクを望んでいるのか?」

「なに?」

「神々は平和を望んでいるやつもいる。反対派の意見を貴様が勝手に代表し、

ラグナロクを起こしていいのか?」

全ての情報が頭の中に入ってくる。

こいつが使う魔法、その魔法の短所、長所、こいつの名前、使う魔法の詳細事項。

今、どのような状況なのかも全ての情報が俺の中に入ってくる。

「見えるかよ。てめえがてめえの手で作った龍王の一角が、

一介の下級悪魔の俺に力を貸してでもてめえにラグナロクは起こさせねえってよ!」

直後、鎧の金色の部分に光が走り、金色に輝き始めた。

それに伴って魔力も倍々に増えていき、辺りの地面に大きな穴をあけていく。

「バ、バカな……た、ただの一介の下級悪魔に龍王が力を貸すなど!

そんなことが……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

ロキが目の前に北欧の魔術を発動する際に展開される魔法陣を何枚も広げ、

俺に向かって凄まじい数の魔法の一撃を放ってくる。

だが、その全ての一つ一つの魔法の情報が頭の中に入ってくる。

それらを全て一つ一つよけたり、手や足などで弾いたりしながらロキへと近づいていく。

「人間崩れの転生悪魔がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ロキは上空に上がり、巨大な魔法陣を展開させてそこへ膨大な量の魔力を集め始めた。

鎧が光輝き、今、ロキが発動しようとしている魔法の情報がすべて入ってくる。

ほぅ……北欧魔術最強の魔法を全ての魔力を使ってまでこの俺を殺しに来るか。

「その魔法に最も効果的な魔法だ」

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

音声が鳴り響き、地面にロキの物と同じくらいに大きな魔法陣が展開され、

さらにそこに金色の魔法陣が上にかぶさるような形で展開され、莫大な魔力がつぎ込まれ、

凄まじい量の黄金に輝く冷気がロキめがけて放たれた。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

ロキは全ての魔力をつぎ込み、巨大な魔法陣から扉のようなものを出現させ、

その扉が開こうとした時に俺が放った黄金に輝く冷気が到達し、

今にも開こうとした扉がパキパキと音をたてて凍りついていく。

『チョーイイネ! ファイナルストライク! サイコー!』

俺を中心として、全てのエレメントの魔法が発動し、四つの魔法陣が現ると、

そこから魔力が放出されて混ざり合い、七色となった魔力が俺の脚にまとわりつき、

さらに俺の背中を押すように極太の七色の輝きの魔力が放たれて、

それに押し出される形でロキへと向かっていく。

「ゼェ! くそ!」

先ほどの魔法に全ての魔力を使ったらしく、ロキは肩で息をしており、

魔法は発動できない状態らしかった。

「ハティっ! スコルっ!」

ロキはその二つの名を叫ぶが、何も起こらなかった。

「な、何故だ! 父である俺の言う事が……ま、まさか」

「だぁぁぁぁぁ!」

七色の蹴りがロキに直撃した瞬間! 七色に輝く魔力が放射線状に地上に降り注ぎ、

ロキを中心として空中で大爆発を起こした!

 

 

 

 

 

 

 

俺が地上に降り立ったと同時にロキが上空から落下してきて地上に大きな穴をあけて落ちた。

戦いが終わったと二匹は感じたらしく、赤色の鎧はすぐに魔力に戻って俺の中へと戻り、

黄金に輝く金色の魔力は俺から排出されて少し離れたところで

凄まじく大きなドラゴンの変わった。

「ふわぁぁぁぁぁん。僕が外に出たのいつ以来だろ~」

「感謝する。ミドガルズオルム」

「別にいいよ~。楽しかったしね~。ねえねえ」

『テレポート、プリーズ』

ミドガルズオルムを余裕で超える大きさの魔法陣が地面に現れ、

転移の準備が一瞬で整った。

「ありがと~。あ~そう言えばアルビオンがわんわんと一緒にどっかに行っちゃったよ~」

ヴァーリがフェンリルと……奴は奴で考えていることがあるんだろう。

「構わん。放っておけ」

「おっけ~。バイバ~イ」

その言葉を最後に、ミドガルズオルムは再び海の底で眠りについた。

「イッセーさん!」

「うぉぉ」

前を向いた瞬間、腹部に衝撃が走ってそのまま地面に倒れ込んだ。

何事かと思い、体を起こして見ると腹の所にアーシアやら、

小猫やらギャスパーやらが抱きついていた。

「よ、よがったでずぅぅぅぅぅ!」

「イッゼーぜんばぁぁぁぁぁい!」

「……良かったです」

号泣しながら喜ぶアーシア、鼻水を垂らして号泣するギャスパー、

目に涙を溜めている小猫……他にも木場や、朱乃。みんな俺の仲間だ。

『くぅぅぅん』

ふと、後ろから鳴き声が聞こえ、振り返ってみると戦場にいた二匹の狼が猫なで声のような、

声を発しながら俺にすり寄ってきた。

一瞬、全員が戦闘態勢を取ろうとするが殺気が感じられないので、

俺は全員に武器を降ろさせた。

「……お座り」

『『きゃん!』』

俺がそう呟くと、尻尾をわさわさと横に振りながら地面に座った。

まさか、あの戦いの中で主だったロキよりも強い存在を見つけ、

それを新たな主として俺を選んだのか?

「兵藤……一誠」

後ろから声をかけられ、振り返ると朱乃と木場に肩を抱かれた男性がこちらに近寄っていた。

「朱乃の父のバラキエルと申す。貴殿は」

「安心しろ。あんたの娘は俺が護る。約束する。もしも、

今度朱乃を泣かせたら好きなだけ殴ってもらって構わない」

「…………君に朱乃を……娘を託す」

朱乃の父であるバラキエルさんは眼から涙を流しながらそう言った。

これで朱乃の過去は終わった。

まだ、親と子として真正面から対面はできないとしてもいずれ、

また親子という形で二人が笑いあうことができる……そう信じて気長に待つとしよう。

悪魔の寿命は長いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………もしかして俺って用なし?」

数時間後、俺達がせっせとフィールドの破損を治している最中に魔法陣を通して、

会長のポーンである匙元士朗が転移してきた。

話を聞くにアザゼルに暗闇から闇打ちされて気がついたらまるで、

どこかの特撮ものに出てくるかのような黒服を被った奴らに拘束されて、

白衣姿のアザゼルが前にいたとか。

ちなみにそいつらは『イーッ!』とか言っていたらしい。

「匙か……一言いえば時すでに遅し」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……うぁ」

よっぽどの地獄を見たのか、それとも疲労がたまっていたのかは知らないが、

匙は叫んだ直後に意識を失って倒れ込んでしまった。

アザゼル……お前はいったい何をしたっていうんだ。

「部長、それ持ちますよ」

重たそうなものを持っていた部長の手に触れた瞬間、

突然部長は手を引いてしまい、大きな瓦礫が地面に落ちた。

瓦礫を拾いつつも部長の顔をのぞきこむと、どこかオドオドしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。今回はヤバかったな」

「まあ、神とフェンリル。さらにその力を受け継いだ二匹でしたから」

「でも、フェンリルちゃんがチームに入って嬉しいです!」

「ところで、ヴァーリ。あいつにはあいさつしなくていいのか?」

「ああ、良いさ。いつだって赤と白はどこにいても必ず出会うものさ」

「にゃ~♪でも、聞くとことによるとあのフェンリルの血を引いた二匹は、

兵藤一誠になついちゃったみたいニャ」

「それもまたよし。俺が決着をつけるのは兵藤一誠だからな……だが」

「だが……なんです? ヴァーリ」

「いやな……あいつは……兵藤一誠は少しこの先、苦労すると思ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通信越しで悪いな、サーゼクス」

『いや、良いさ。だが、今回も彼に助けてもらったな』

「ああ……あいつさ、俺が封印したことを謝罪したら仕方がない。

あそこではあれが妥当だったつったんだぜ?」

『彼のお母様が亡くなったのは彼にとって大きな転換期になったということか』

「ああ。俺が思うにこの世界で一番強いのは」

『母だな』

「ああ……ところであれ来てるんだろ?」

『ああ。イッセー君、木場君、姫島君に中級悪魔昇格の話が出ている。

コカビエル襲来、和平会談テロ、パーティテロを未然に防いでくれたうえに、

今回のロキ戦のことで彼ら……特にイッセー君に熱烈のラブコールが送られているよ』

「まあな。聖魔剣、雷光の巫女、そしてドラゴンズマジック。

来ない方がおかしい。だが、世界はひどいものだな」

『ああ、彼らをまるで潰すかのように変容してきている。セイグリッドギアも、テロも』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーさん! 京都の修学旅行は一緒に組みませんか!? ゼノヴィアさんも!」

「ああ、良いぞ」

「アーシア! 早速明日に買い物に行こう!」

あの激しい戦いから数日。俺達はようやく普通の日常に戻ることが出来た。

オーディン様も日本の神々との会談を十分に成功させて、

満足げ気に帰っていった……一つの忘れ物をして。

「うわぁぁぁぁぁぁん! オーディン様のバカぁぁぁぁぁ!」

『くぅぅぅん』

『くぅん』

「うぅ! スコル! ハティ! あなた達は優しいのね! この前はごめんねぇぇ!」

今、部室には新しい仲間が一人と二匹増えた。

まず一人は元ヴァルキリーで今は悪魔であるロスヴァイセ。

オーディン様がそのまま彼女を放置して帰ったのでそこへすかさず部長が入り込んできて、

まるで保険屋のようにあれやこれやと話を進めていき最後のルークの駒で転生した。

そしてもう二匹はスコルとハティ。

以前は巨大だったが今は大型犬の同じくらいの大きさにまで縮んでおり、

部室のペットと化している。

そして、こいつらは俺の使い魔。どうせなら契約してみろとアザゼルに言われ、

二匹を俺の使い魔にした。

「イッセーさん?」

「ん?」

「今、笑いました?」

「…………さあな」

少なくとも、今の環境を楽しいと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ」

俺――――アザゼルはグリゴリの部下たちに日本で、

買ってきてほしいものを買っている途中の休憩時に弁当をバラキエルに渡した。

バラキエルは弁当箱を開けて、中を見ると入っていたのは肉じゃがだった。

震える手で箸を掴んで、肉じゃがを一口分、

口の中に入れるとポロポロと涙を流しながらガツガツと口に運んでいく。

「朱璃の味だ」

もう二度と味わうことのできないと思っていた味を再び味わう。

イッセー……やっぱり、お前は最後の希望だ。




Yes!


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第五十五話

ロキとの戦闘から数日経ち、

駆王学園の二年生たちの頭の中は全て修学旅行になっているある日。

俺はアザゼルとともに最上階のVipルームに居座っていた。

「で? 俺に相談があるなんざ珍しいじゃねえか」

「まあな……アザゼル。

どうやれば四属性のドラゴンの魔法をつなぎ合わせることができる」

一瞬、呆けたようなアザゼルだったがすぐに表情を変えた。

「前に言っていたヴァーリ対策の魔法か」

「ああ。以前、ディオドラ戦で試しにやってみたが反発が強すぎるし、

今にも崩壊しそうなほど脆かった」

「なるほどね。炎、水、風、土の魔法を重ねれば反発が起こると……」

アザゼルは腕を組んで、何かを考えているようだ。

正直、俺もかなり考えてみたが全く策が見つからなかった。

やはり、あの魔法はあのまま脆い状態で行くべきか……だが、

そんな状態で行けば確実にヴァーリの攻撃を受ければ一撃で砕け散るし、

魔力もほとんどを消失する。

すると、アザゼルは何かを思いついたかのように突然、目を開けた。

「お前、その四つの魔法をどんな感じで合わせた」

「こんな感じか」

俺は近くにあった紙を数枚取り、上から合わせるような感じで重ね合わせた。

「だったら、逆にしてみろよ」

「逆?」

アザゼルはおもむろに俺の紙を取ると、横に四枚の紙を並べた。

そうか……縦に合わせたらダメなら横に合わせてみろということか。

俺はすぐさま、四つの小さな魔法陣を出現させて、

横一列に並べてみると反発は一切起こらなかった。

「同じ軸に串ざしで並べるんじゃなくて同じ線上に横に並べるのか」

「……イッセー。コピーの魔法を使ってみろ」

「なぜかは知らんが……分かった」

『コピー、プリーズ』

コピーの魔法を使うと俺の隣に魔法陣が出現し、

そこからもう一人の俺がおなじ恰好で床に座っている状態で現れた。

その現れた方の俺をぺたぺたと何度か触り、何かを確かめたかったらしい。

「こいつは魔法を使って分身体を作った。だが、こいつにはお前の魔力はない。

仮にこいつにお前の魔力を付加することができれば……自らの意思で、

動く分身体ができるんじゃねえのか?」

「…………四つのドラゴンの魔法を独立した状態で使えるのか」

「ああ、恐らくな。イッセー、俺がそれを出来るような機械を作ってやる」

「出来るのか?」

「ふん。この俺を誰だと思っているんだ?」

自信満々な表情を浮かべてアザゼルはそう言った。

確かに……アザゼルなら出来るかもな。

「頼む」

「まかせやがれ!」

そう言ってアザゼルは転移用魔法陣を開いて、そのままどこかへと転移してしまった。

どうやらあいつの研究者気質がすぐに作れとあいつに問いかけたらしい。

四つのドラゴンの魔法が独立して動くか……つまり、

ドラゴンの魔法のバーゲンセールって感じか。

「だが、それよりも制する必要があるものがあるな」

俺は自分の手を見てそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

普通の人なら既に寝静まっている時間帯に僕――――木場祐斗は部員の皆と一緒に、

オカルト研究部室でいろいろと仕事をしていた。

悪魔に欲望をかなえて欲しい人のもとへと行き、

その欲望をかなえ代価を貰う。

一通りの仕事を終え、部室に帰ってきたときには朱乃さんと部長、

スコルとハティ、そしてイッセー君がいた。

どうやらほかのみんなはまだ、仕事中らしい。

「部長」

「っ! ど、どうかした?」

最近、疑問に感じていることがある。

あのロキ戦以降、イッセー君が部長に話しかければ部長は肩をビクつかせている。

それに部長がイッセー君と話しているときの部長の表情もどこか、

彼を恐れているように感じる時もある。

イッセー君もそれに気づいているようで、時折悲しそうな眼を見せる。

でも、それはいたしかたない部分もある。

以前、イッセー君が暴走した際に殺されかけ、

そしてイッセー君の姿をした違うものに襲われ……普通の人だったら、

ひきこもったっておかしくない。

「え、ええ。じゃあ、そんな感じでお願い」

「はい……部長」

「な、なに?」

「俺が怖いですか?」

「な、何を言ってるの? イッセー」

……部長の態度でこれから先の二人の関係が決まる。

僕はそう思いながら敢えて二人の会話に口を挟まないようにした。

「俺が……怖いですか?」

イッセー君が部長の手に触れるか触れないかの距離まで近づくと、

無意識か知らないが部長は数歩、後ずさった。

「イ、イッ」

「仕方がないですよ。俺は部長に恐がられるようなことをしましたから」

そう言って、イッセー君は部室から出ていった。

「木場君。イッセー君を」

「了解です」

僕は朱乃さんに言われ、イッセー君を追って外に出ると外はポツポツと雨が降っていた。

校門を少し出た先にイッセー君の姿が見え、小走りで彼に近づいた。

「……木場か」

「うん。僕も帰ろうと思って」

彼の隣で歩く。

その間に互いに言葉は発さず、ただただ黙って家までの道のりを歩き続けた。

最初のころと比べてイッセー君はかなり、感情が表に出てくるようになったと僕は思う。

入りたての頃は本当に何を思っているのか分からなかったけど、

今は彼が悲しいって感じているのが感じられる。

「イッセー君は部長に恐れられて悲しい?」

「…………さあな」

夜空を眺めながらそう言う彼の横顔はかなり悲しそうなものだった。

……徐々に彼の心が部長に近づいているのかな……そうじゃなかったら、

そんな悲しそうな顔はしないよ。イッセー君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、朱乃。今なんて」

「聞こえませんでしたの? このままだとイッセー君は私が貰いますわ」

私――――姫島朱乃がそう言うと、

リアスは全身から怒りのオーラをにじませながら睨みつけてきた。

「だって、イッセー君だって貴方みたいに自分を怖がっている人よりも、

自分を愛してくれている人の方に行きますわ」

「わ、私は」

「イッセーを怖がっていない? じゃあ、なんでさっきイッセー君が近づいてきたら、

後ろに下がりましたの?」

そう言うとリアスは痛いところを突かれたのか、何も言えずにそのままうつむいた。

「イ、イッセーは私の」

「イッセー君は貴方の物じゃないの!」

そのまま感情に任せてリアスの頬を叩くと、

不意に受けたからかうまく足で保てずに、そのままソファに寝転ぶ形で倒れ込んだ。

「貴方はいつだってそう! 自分の物に触れられただけで不機嫌になる!

自分のものが盗られるからってダダこねているだけよ!

今までは見逃されてきたのかもしれないけど、私はそれを見逃す気はない!

確かにあなたは恐ろしい経験をしたかもしれないけど、

あれは彼自身がそれを望んでしたことじゃないことくらいわかってるでしょ!」

初めてリアスに怒なった。

向こうも向こうで友人に怒鳴られたことに驚きを感じているのか、

目を見開いて怒鳴っている私のことをただただ見ていた。

「イッセー君が好きだって言うなら! 

あの人を愛しているって言うならもっと彼のことを信じてみなさいよ!」

そう言うと今まで呆けたような顔をしていたリアスの顔が変わり、

私を放って部室から出ていった。

「…………親友に敵なし……ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

以前までならこんな感じはしなかった。

誰かに嫌われても何も思わなかったし、実際に学校の奴らに嫌われようが何も思わなかった……。

なのに、部長に嫌われたと思った瞬間、胸が締め付けられるような感覚に陥ってしまった。

「どうぞ」

その時、ドアをノックする音が聞こえ、

了承の意を示す返事をすると息を切らした部長が入ってきた。

会いたくないと思っている人程、

出会う確率が高くなるって言うのはガセネタでも何でもないんだな。

「ハァ……んなさい」

部長の声がよく聞こえず、顔を近づけた時、

うつむいている彼女から幾つもの水滴が落ちるのが見えた。

「ごめんなさい……私は貴方が怖かった」

……面向かって本人に言われるとかなり悲しいもんだな。

「貴方を見るとあの時の光景が見えるの……そのたびに体が震えて…………。

許してくれなくても良い……私のことを無視してくれたっていい……でも……でも、

私のことだけは忘れないで。

それだけでいい……貴方の頭の中に私の名前さえあれば私はんん!?」

気づいたら俺は部長にキスをしていた。

彼女が涙を流している様を見ているとずっと胸が締め付けられるような感覚になって、

彼女が泣いているのは見たくないと思った。

甘いかもしれない……キチガイだって言われるかもしれない。

それでも俺は……彼女が泣いているのは見たくなかった。

顔を離すと驚いた表情をした部長が俺を見ていた。

もう一度、彼女にキスをすると彼女は俺の手をギュッと握ってきた。

「部長」

「……名前で呼んで」

「リアス……俺は貴方に恐怖を植え付けた奴を倒しに行く」

俺の中にいる俺じゃないもの……放置しておくと、

今度こそ俺が取り返しのつかないことをすると思う。

「うん……イッセー」

リアスは目を瞑って、顔を近づけてきた。

だから俺も顔を近づけた。




ども


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第五十六話

翌日、俺たちに特別に割り当てられた鍛錬専用の空間に部員全員がいた。

『くぅん』

俺の使い魔となったスコルとハティが心配そうなオーラを醸し出しながら近づいてきた。

どうやら俺達の言葉を理解できるくらいの知能を持っているらしい。

「安心しろ……すぐに戻る」

そう言うと待ってる! と言わんばかりにその場でお座りをした。

「……二度と皆を傷つけないために……俺はあいつを制する」

皆の方を向きながらそう一言言うと、

俺は地面に座禅を組んで俺の精神の奥深いところへと海へ潜るような感じで意識を落とした。

今まで明るかった景色が真っ暗になり、下へ下へと行く感覚が俺を包み込んだ。

俺は必ず――――――奴を倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が潜り込んでから五分。突然、彼の顔に仮面の一部らしきものが作られ始めた。

それを見ただけで私――――リアス・グレモリーはそれが、

彼が彼であることの制限時間であると感じた。

仮面が完全に生成されたとき……彼は居なくなる。

「……イッセー」

私は神にも祈る気持ちで彼の名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潜ること数分、速度が徐々に遅くなっていき、

感覚がなくなったと同時に地に足がついたが周りはまるで、

どこかの町のような作りをしており、いくつもの高いビルばかりが立ち並んでいた。

その中のうちの一つのビルの屋上に太陽を背にして立っている人の影が見えた。

直後にその影は数十メートルはあるであろう屋上から身を投げ、

地面へと落ちていくが地面に黄色い魔法陣が出現し、

徐々に落ちる人間の速度が落ちていき、やがてはゆっくりと地面へと降り立った。

『よう。もう来るころだと思ってたぜ』

俺が探し求めていた存在が目の前にいた。

「お前を倒しにきた」

『その前に。お前、俺の力を破壊のために使う気は?』

「さらさらない」

ハッキリとそう言い、いつものように魔法陣を展開しようと、

手を翳すが……ライザーの時と同じように魔法陣が出現しなかった。

っっ! どうなってんだ……何故、魔法が使えない!

『この階層はドライグの魂が住む階層と魔力を生産する階層の間にある部分だ。

魔力からは遠く、魂からも遠いこの場所でお前は魔法を使えない。俺以外はな』

直後、全身に鳥肌が一気に立ち、何も考えずに反射的にその場から立ち退いた瞬間!

空から爆音を響かせながらドラゴンの形をした雷がさっきまで、

俺がいた場所に容赦なく降り注ぎ、地面に大きな穴をあけ、突風で俺を吹き飛ばした!

「くっ!」

突風に吹き飛ばされながらもどうにかして受け身を取り、

衝撃を受け流しながら地面に落ちるが、最悪な状況だった。

相手は魔法を使える、俺はなにも使えない。

この状況でどうやって俺がこいつに勝つって言うんだよ。

『ほらほら! 俺を倒すんだろ!?』

次々と空からドラゴンの形をした落雷が落ちてくる。

ビルを盾にしても一撃で大きな穴を開けるし、

奴に近づこうとしてもドラゴンのせいで遠ざかることを強制されてしまう。

「ぅぉ!」

ドラゴンの雷撃を避けようとした瞬間に突然、

全身に重りをいくつも付けている時のような感覚に陥った。

まさかと思い、上を見上げれば俺の頭上に黄色の魔法陣が展開されていた。

グラビティ!

『よそ見してていいのか?』

「っ!」

奴の声を聞き、重い体をどうにかして動かそうとした瞬間!

ドラゴンに飲み込まれ、全身に凄まじい強さの電流が流れ込んできて、

いたるところの感覚が一瞬飛び、四肢が一瞬だけ大きく痙攣した。

「がっ」

動けなくなり、そのまま地面に倒れ込んだ。

『おいおい。お前がいつも使っているサンダーよりもだいぶ弱めたんだぜ?』

これで弱めたのか……全力でやられたら確実に即死……。

精神が死ねば俺の意識はなくなり……奴に乗っ取られる。

『お? 立つか』

「当たり前だ……俺が死んだらお前が俺になるだろ」

そう言い、奴に向かって一直線に駆け出す!

『もう、うざい』

奴が俺に手を翳した瞬間、俺はその場から前に飛びこむと、

さっきまでいた場所の地面がベコッ! と音をたてて大きく凹んだ。

あいつが使っている魔法は俺だって使ってんだ。

その時の状況なんかであいつがなんの魔法を使ってくるか判断できる。

『やるねぇ』

もう一度、奴が魔法陣を展開したのを見て、跳躍するとちょうどその下を通り抜けるように、

ドラゴンが通過していき、ビルをいくつも破壊しながら向こうの方へと飛んでいった。

「ぅうぁ!」

高い所から落ちる勢いを利用して、

奴に強烈な踵落としを喰らわそうとするが魔法陣に阻まれた。

俺はすぐさま次の攻撃を警戒し、その場から離れていったん距離を取った。

『なかなか必死にやるねえ。弱いくせに』

「弱いから必死にやるんだよ」

『ふぅん……うざいから死ね』

再び奴は目の前に魔法陣を展開し、そこから雷のドラゴンを放った。

俺はすぐに姿勢を低くして、ドラゴンを避けて奴に殴りかかろうとしたときに、

俺を囲むようにして赤い魔法陣が展開された。

直後、一つの魔法陣から炎が噴き出された!

「っつ!」

かすりながらもどうにかして避けるが、

次は後ろにあった魔法陣から先ほどの炎が噴き出された。

こいつ、まさか周りにある魔法陣それぞれに攻撃が行くように空間を繋げて!

よく見れば、奴の右横に大きな赤色の魔法陣が二枚重なっていた。

大本の魔法陣はあれか!

根元の魔法陣を破壊すべく奴のとことに駆け出そうとするが、

周りから次々と放出されてくる炎によって徐々に行き場がなくなっていく。

『倍にしたらどうなるかな~?』

奴は悪魔のような笑みを浮かべながら魔法陣を倍に増やした。

必死に奴に手を伸ばそうとしたときに、視界が完全に炎に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーが精神世界に潜り込んでから十五分。

その十五分の間に彼の顔に生成されていく仮面は徐々にその形を露わにしてきていた。

さっきまであごの部分しかなかったのがもう、耳のあたりまで出来ている。

それに彼が戦っているせいか、さっきから彼の全身から魔の波動が最大出力で放たれていて、

ずっと私たちに重くのしかかっていた。

アーシアにいたってはもう顔色が悪くなっている。

「アーシア、少し休憩した方が」

「大丈夫です、部長。イッセーさんが帰ってくるまでずっといます」

笑顔を浮かべながらアーシアは額から落ちてくる汗を拭いてそう言った。

ギャスパーも小猫も朱乃もゼノヴィアも祐斗もロスヴェイセもスコルもハティも、

誰一人として動かない。

そんな中でキングたる私が動いていいはずがない……私も、

彼が帰ってくるまでずっと待っている。

「イッセー」

私は彼の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界で一番使えないのって魔法が使えない魔法使いだよな』

奴は笑みを浮かべながらそう言う……全身から夥しい量の血を出しているせいで、

頭まで酸素が回っていないのか意識が朦朧としてくる。

鉄くさい匂いをさっきから何分間感じているだろうか……さっきから、

何分間この場に横たわっているだろうか。

「ぐっ……ぶっ!」

痛みを我慢しながら立ち上がろうとすると腹の底から何かが逆流してきて、

そのまま口から吐き出したら、それは血だった。

『イッセー。なんで、てめえが俺に負けるか分かるか?』

奴は手に持っているアスカロンを器用に手首の辺りでくるくる回しながら俺に尋ねてきた。

……俺が……負ける理由…………。

『俺が魔法を使えるだとか、アスカロンを持っているとかじゃねえぞ?

答えは一つ――――――――殺意だ!』

殺……意……だと?

『相手をグチャグチャにして殺すという殺意! ズタズタにして殺すという殺意!

てめえにはそれが足りねえ! ただ単にてめえは頭で考えてこいつが、

悪だから倒そうとか考えてるから白いのに負けるんだよ! 全身で! 

目で! 鼻で! 血液で! 骨で! 

自分という存在を作りだしているすべての細胞で相手に、

殺意を持たなきゃ勝てる戦いも勝てねえんだよ! なあ! イッセー!』

腹にズン! と重い衝撃が走った――――――さっきから、

ボタボタと血は滴り落ちていたがそれよりも多く、ポタポタと音がした。

 

 

 

 

 

 

アスカロンが―――――――腹部を貫いていた。




夏休みが終わってしまうぅぅぅx!


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第五十七話

『俺は嫌だぜ? せっかく赤龍帝とかいう伝説級の力があるのに、

一切使わずに魔法だけ使ってみっともねえ負けをするのは。だから』

奴が俺の腹に突き刺さっているアスカロンの持ち手に手を置いた。

『俺がてめえになり変って全てを殺す』

徐々に腹からアスカロンが引き抜かれていく―――――肉が引き裂かれ、

全身が激痛という悲鳴をあげ、血という涙を流していく。

アスカロンを引き抜いた時、不意に奴が俺の右腕の肩の辺りに手を置いた。

『ついでにこの腕も貰うぜ? ここにはブーステッドギアが宿ってるからな。

いや、正確には力が集中しているからか。ま、どっちでもいいか』

そう言いながら俺の血液で刃が真っ赤に染まっているアスカロンを、

ゆっくりと俺の肩の上らへんに置いた。

このまま……俺の腕を切るつもりか……俺が死ねば……奴が俺となり……暴れる………。

……………そうなれば………………ダメだ…………ダメだ。

『じゃあな』

こいつに体は渡せねえ! 皆を二度と絶望させない

ために――――――大切なものを護るためにも!

『あ?』

俺はいまにも振り下ろそうとしていた奴の手首を掴んで、振り下ろさせなかった。

直後、下からゴゴゴゴ! という地鳴りのような音が響き、

さらにそれに連動して横に大きく揺れ始め、辺りに立っているビルが大きく揺れ始めた。

『な、なんだ。何が起きている』

「悪いが…………この体は渡せねえ」

『ちっ!』

俺と奴の間にピシッ! とヒビが入り、さらにそのヒビは徐々に大きくなっていき、

奴がその場から飛び退いた瞬間、

一体のドラゴンが下からこちらの階層へと壁を突き破って現れた。

そのドラゴンは真っ赤な鱗を持ち、鋭い爪、大きな翼、長い尻尾、

全てをかみ砕かんばかりに鋭い牙を生やした俺の中に宿る赤いドラゴン。

『バカな……この階層にドライグが!』

「バランス……ブレイク」

その単語を呟いた瞬間、空中で旋回していたドラゴンが赤色の魔力となり、

俺めがけて落下してきて俺を包み込んだ。

『くっ!』

辺りに赤色の閃光がまき散らされ、

今までこの場に俺の血液しか赤色がなかったこの空間を赤一色にした。

それほど、輝きが強かった。

輝きが晴れた時、俺は鎧を身に纏っていた。

いつものドラゴンスタイルの時に身に纏う鎧とは似ているが少し違う……これは、

あのドラゴンの鎧。赤龍帝の鎧―――――ブーステッドギア・スケイルメイル。

奴は今自分の目の前で起きている状況に理解できないのか、

さっきまでの余裕の表情が消え去り、焦りの色に染まりあがっていた。

『コネクト、プリーズ』

空間をつなげ、そこからアスカロンを取り出すと奴が持っていたアスカロンが砕け散り、

塵となって消滅した。

『BoostBoostBoost!』

『Transfer!』

三度、倍加が行われ、何が起きているのかは知らんがアスカロンの刀身が赤色に輝きだし、

聖なるオーラが凄まじい勢いで大量に放出され始めた。

『Jet!』

その音声の直後、ガシャガシャと背中で音を立てながら鎧が変形していき、

直後にそこから魔力が凄まじい勢いで放出され、莫大な推進力を得て、

奴に向かって突っ込んでいく。

そして、そのまま奴が行動を起こすよりも前に奴の胸に―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカロンを突き刺した。

奴は俺とは違うのか刺し傷からも血液は出ず、どこからも真っ赤な液体は出てこなかった。

直後、奴の足が徐々に塵となって消え始める。

『ちっ……どうやらお前は……殺意を持たずして……戦う方が良いらしい』

そう言い、奴は俺を睨みつけながら自分に突き刺さっている刃に手を置く。

『だが気をつけろよ。俺を倒し、制したとしてもてめえの心に隙があれば俺は、

すぐさまてめえを暴走させてやる。そして、俺がてめえとなる』

「安心しろ。お前は俺だ。お前が持つ力も、感情もすべて受け入れる。

スキなどはもう二度と生まれない」

『けっ……それとこいつは忠告だ。てめえが思っているほど、

世界はてめえを認めてるわけじゃねえぞぉぉぉぉ!』

そう叫びながら奴は塵となっていき、最終的にその体、

全てを塵と化して完全に俺の前から消滅した。

もうこれで二度と暴走することはない……奴は俺の中へ戻った。

心に隙は二度と生ませない。

『Reset』

その音声が響いた直後に鎧が赤く光ると、徐々に全てが魔力に変換されていき、

その魔力は形を先ほどのドラゴンへと変化していく。

ものの数分で先ほどまで鎧の形をしていたものが巨大なドラゴンと化した。

「ドラゴン……一つ聞く。何故、俺が絶望したとき体を奪わなかった」

あの時―――――母さんが死んだとき、俺は間違いなく絶望していた。

『……さあな』

そう言ってドラゴンは、自分が出てきた穴へとその巨体をゆっくりと、

動かしながら向かっていく。

『ただ……貴様の心に最後の希望とやらが残っていたんじゃないのか?』

そう言い残してドラゴンは、自分が開けた穴へと飛び込み、

自らが住む階層へと戻っていき、穴もドラゴンが落ちた瞬間に一瞬でとじた。

最後の希望……俺にとっての最後の希望は……みんな……か。

すると、外への出口なのか何もない空間に突然、長方形に光が走って一つの扉が出来た。

「帰るか……向こうに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を潜り抜け、目を開けると景色は潜り込む前のものとなり全員が俺のことを見ていた。

この場でいちばん言うにふさわしいと思う言葉はすぐに見つかった。

「ただいま」

「「「「「おかえり!」」」」」

『『ワン!』』

五人と二匹がいっせいに俺に抱きついて来て、

結構な重みが俺の身体に不意にのしかかってきたものだから、

俺は踏ん張りきれずにそのまま倒れ込んだ。

アーシア、小猫、朱乃、リアス、ゼノヴィア、スコル、ハティ、木場、イリナ、

アザゼル……それだけじゃない。

冥界で知り合った奴ら、全員が―――――――――。

「俺の最後の希望だ」

すると、急に全員が驚いたような表情を浮かべて俺を見ていた。

あの木場でさえ、驚きの余り口がポカンと開いている。

それに対し、女子たちはどこか嬉しそうな表情をしながらも驚きを露わにしていた。

「イッセーが笑った」

リアスのその一言に全員が頷いた。

どうやら、今まで顔に感情が出てこなかった俺もこいつらと、

すごしていくにつれて徐々にだが……取り戻しつつあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――笑顔という奴を。




ふぅ


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第五十八話

このお話は作者オリジナルのお話です。
超絶に茶番ですがお楽しみください。それでは


「ふぅ」

悪魔稼業を終わらせ、一息つきながらふかふかのソファに俺――――兵藤一誠は座りこんだ。

俺の自重でソファが変形するも、素晴らしい座り心地を維持している。

一体どこで作られているのか知りたいものだがそれを知るとなんか、

ある部分が麻痺しそうで本人には聞けていない。

部室にある物は地味に値段が張るものが結構たくさんある。

「……眠」

そんな話は置いておくとして。

つい先日、精神を極端に疲労したためなのか最近、

昼夜を問わずに眠気が凄まじく、時折、意識が飛んでいることが多くなった。

アザゼル曰く、数日もすれば治るというらしいが今日でもう一週間だ。

「少し……休むか」

ソファに横になって目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

眩しさを感じ、目を開けると俺の顔にカーテンから漏れている太陽の光が直撃していた。

あぁ……そう言えば俺、昨日部室のソファに寝たんだっけ……結局、

あのまま部室で一日を過ごしたの……な、なんだあれ。

肩を回しているとふと、視界に何か大きなものが空を飛んでいるのが目に入り、

カーテンを開けて窓を見てみるとなんと、人が箒に乗って空中を飛んでいた!

ここがまだ、冥界ならば話は理解できよう。一人、

魔王様の中で魔法に大変ご興味のあるお方がいるからな……だが、

ここは俺が生まれ育った人間界。

「あら、早いのね。イッセー」

「リア……」

「どうしたの? そんな素っ頓狂な顔して」

後ろからリアスの声が聞こえ、振り返るとそこには何故かトンガリ帽子に、

よく絵本などで出てくる魔女が着ているような真っ黒なローブを着ていた。

「な、な、なんだその恰好」

「何って、いつもの服じゃない。貴方も着ているじゃない」

そう言われ、慌てて自分の服を見てみると昨日来ていた制服じゃなくて、

リアスが来ているのと似たようなデザインのものを俺も着ていた。

リアスはいつもと調子がおかしい俺を不思議がりながらも指先からポッと小さな火を出して、

壁に立てかけてあったろうそくに火をつけた。

今気づいたんだがよく見れば近代的なものが一切ない。

冷蔵庫も、俺がソファだと思っていたのも良く見ればソファじゃないし、

ペン立てに入っているのもペンではなく、羽ペンだった。

しかもペン立てでもないし。

壁に掛けてあった時計もない……なんなんだこの世界は!

「おはようございま~す」

部室のドアが開けられ、

続々とリアスと似たような格好をしている部員達が部室に入ってくる!

全員揃いも揃ってとんがり帽子かよ。しかも箒までみんな持ってる。

『わん!』

「おっ……ス、スコル? ハティ?」

犬の鳴き声が聞き得、下に視線を向けるとそこには、

小型犬サイズの二匹が俺の足もとにすり寄って来ていた。

幻かと思い、試しに二匹を抱きかかえてみると幻ではなく重みもある。

しかも二匹も全員と似たような服に、とんがり帽子だった。

流石に箒はなかったが…………。

「それじゃ、皆集まったみたいだしマジック研究部の活動を始めるわ」

部活の名前までもが変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

三十分ほど、部活のことに関しての話をした後、

全員が揃いも揃って窓を開けて箒に乗って身を乗り出していた。

「どうかしたの? イッセー君」

「え、あ、いやな……」

「もしかしてまた忘れたの?」

部長が呆れ気味にそう言った。

どうやらこの世界の俺はよく箒を忘れるらしい。

仕方がないということで部長の後ろに乗せられ、

窓から降りると不思議なことに箒が浮いてそのまま一定の速度を保ったまま動き始めた。

感覚としては自転車をこいでいる感じと同じだ。

部長につかまりながら、周りを見渡せば当然のように一般人らしき人まで箒に乗っており、

違いを言うならば俺たち学生が黒の衣服、大人が青色の衣服を着ていることくらいだった。

「おはよう、リアス」

「おはよ、ソーナ」

……まさか、あの会長までもが箒に乗っているとは。

会長の後ろを追いかけるようにシトリー卷族が箒に乗ってこちらに向かっており、

その後ろからも続々と生徒らしき人物たちが箒に乗っていた。

「また、兵藤君は箒を忘れたのですか」

「そうみたいなの。この子、龍の魔法(ドラゴンズマジック)を扱うのは良いんだけど

基本的な魔法は面倒臭がってやらないのよ」

まるで自転車に乗りながら友達を話しているかのように、

会長とリアスは楽しそうに談笑を始めた。

試しに頬を強く抓ってみるが、痛かった。夢じゃなくて……現実かよ。

すると、風が弱くなったので周りを見渡してみると前方に学校の校舎らしき、

大きな建物がそびえ立っていた。

壁にはいくつもの大きな窓が全開にされており、

そこから生徒達が校舎の中に入り込んでいた。

それに周りの風景も住宅とかではなく、自然あふれ、

森があったり高い木々などが学校の周りには生えていた。

無論、近所のおっちゃんの家も見えることは見えるのだが……。

全開になっている大きな窓に入り込み、

停止したのを見て箒から降りるともう中の作りからして違う。

コンクリート製だったのにまるで大理石のように反射する綺麗な石で作られており、

言うならば洋風の校舎だ。

「じゃ、また放課後ね」

そう言い、リアスと朱乃、会長、副会長が俺達とは反対の方向へと歩いていった。

「じゃあ、私たちも行きましょう。イッセーさん」

「あ、ああ……な、なあアーシア」

「はい?」

「俺とお前って一緒のクラスか?」

「そうですけど……どうしたんですか?」

「い、いや別に」

とりあえず、それ以上は何も言わずにアーシアについていくと元浜、

松田も何故かトンガリ帽子を被っており、やはり机の上にはエロビデオ。

だが、決定的に違うのは素っ裸ではなく、

ノースリーブ型の服を着ているお姉さんが映っているパッケージだった。

「いやぁ~。いい肌してるよな~」

「そうそう! 特にこの肩の辺りのがね~」

「そう言えば隣のクラスの奴、おっぱい見て退学なったらしいぞ」

「マジかよ! よくあんなもん見れるな」

俺は自分の耳を疑った。

あの変態二人組と言われている二人がまさか、

女性の象徴ともいえる男性のお楽しみとしても使えるだけでなく、

赤ん坊を育てることもできるまさに神秘の物を“あんなもん”と言った。

このセリフから推測するに、この世界のエロという価値観は少し、

元の世界とは違うらしい。

よく外国では女性は肌を出してはいけないから、

肌を隠すような衣服をしているような国もあると聞く。

つまり、エロイのは胸ではなく肩のあたりという訳か。

……意味が分からん。

「ねえ、見てよ。またあの二人肩のところ見てる」

「キモ! 最近、肩を盗撮する魔法が出来たっていうけどまさか」

周りからそんな声が聞こえてくる。

肩=エロイ……理解が出来ない。

思い出してみればリアス達も肩は出ておらず、肩どころか普段は見えている太ももの部分さえ、

完全に見えなくなるくらいの長さの服を着ていた。

この教室にいる奴らもそうだ。

「た、大変だ!」

すると、一人の男性生徒が息を上げながら教室に入ってくる。

「そ、外に魔物を連れたアザゼールが来てる!」

その名前が出された瞬間、教室は騒然となった。

周りは『あの悪の大魔法使いと名高いアザゼールが!?』などと言っており、

女子の中には友人と抱き合っているものもいた。

「アザゼールか。今日こそ、私のマジックブレイド、デュランダルで切り刻んでやる」

俺の隣で息巻いているゼノヴィア。

どうやらこの世界には聖剣というものは存在していないらしく、

マジックブレイドというものが代わりにあるらしい。

「それで先生が男は全員、戦闘部隊に! 女子たちは回復部隊にまわれってうわぁ!」

突然、校舎の大きな穴が開いた!

 



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第五十九話

「ガッハハハハハハハハ! 俺こそが何百ものハーレムを作った、

悪の大魔法使い! アザゼールだ!」

豪華けんらんな装飾を施したローブを身に纏い、背中から大きな翼を出している非常に、

見覚えのある大きくて赤いドラゴンが校舎の上空で滞空していた。

どうやらこの世界ではアザゼルは悪役らしいが……めちゃくちゃ似合っているのはこの際、

どうでもいいとして、既に外に出た生徒たちによる魔法による攻撃が行われるが、

非常に見覚えのある赤くて大きいドラゴンがその巨体からは想像もできないほどの、

俊敏さを発揮して攻撃を避けていく。

「どうしたどうした!? こんな程度の魔法じゃ俺はおろか、

タンノーンすら落とすことすらできないぞ! なあ、タンノーン!」

タンノーン(タンニーン)は非常に嫌そうな顔をしながらアザゼールを、

背中に乗せて俊敏に動き回っていた。

にしてもアザゼールにタンノーンって……あの顔から察するに相当不機嫌なようだが。

「くそ! なんて素早い動きをするドラゴンなんだ! 

こうなったらうちの龍使い(ドラゴンテイカー)を出すしかない!」

生徒の中でリーダー格の男子生徒がそう叫んだ。

ドラゴンテイカー……どっかのゲームとかで出てきそうな設定だな。

まあ、ここは普通の世界じゃないからそんなのもあってもおかしくはないか……でも、

そうなるとめちゃくちゃなものまである可能性が出てくるな。

すると、校舎の中から一人の男子生徒……というよりも生徒会下僕ポーンの匙元士朗が、

アザゼールよりもちょっと控え目だが豪華な装飾をしたローブを身に纏い、

ゆっくりと歩いてきた。

おぉ、あいつがドラゴンテイカーなるものか。

生徒会ではあんなに女子に尻にひかれていたあいつが、

あんな豪華な衣装を着るとはな……出世したもんだ。

「匙様! お願いします!」

「うむ。不遇なる俺の扱い。今ここでその恨みを晴らすぞ! なあ、ヴリトラよ!」

すると、奴の足もとの影がウネウネと動き出すとともに全身から、

黒い蛇のようなものがどこからともなくわき出てきてそれが奴を覆い尽くすと奴を、

中心として黒い炎の柱が天に向かって噴き出し、

それらが腕、足、などに形を変えていき黒いドラゴンと化した。

……何故かは知らんが、これは向こうの世界でもこんなのになっているような気がする。

名づけるならば……ヴリトラ・プロモーション。ヴリトラの姿に昇格するという意味で、

つけてみたんだが……いまいちだな。

「ほぅ。数々の不遇な伝説を残しているヴリトラの宿主か。

なんでもヴリトラを宿したせいで今まで不遇な扱いだったらしいな」

「そうだ! 今まで俺は百回ガラガラ回してもティッシュだったりバナナの皮をふんづけて、

一回転どころかヤクザの車に踵落としを落として修理費請求されたり、

痴漢冤罪をかけられたり俺が箒に乗ろうとしたらボキっておれるし! 

しかも空中でだぞ! しかもテストの答案用紙の欄を一段間違えて、

0点なんてもう……うぅ!」

……それはある意味、ヴリトラを恨んでもいいと思う。

不遇な伝説とか言っていたが不遇じゃなくて不運な伝説じゃねえのか?

「はっ! まあ良いぜ、タンノーン! やっちまえ!」

そう言われタンノーンは嫌々ながらもその大きな口をガパッと開いて、

大きな火球を吐きだすと、

ヴリトラプロモーションを行った黒いドラゴンと化した匙も口から黒い火球を吐きだし、

黒い炎と赤い炎がぶつかりあった。

ぶつかり合った火球は威力が同じものなのか、爆風を上げながら両方が同時に消滅した。

なるほど……流石は龍王を張っているだけある。威力は本物だな。

悪魔に転生したことで力が増したタンニーン……タンノーンの火球を正面から、

掻き消すとは……ていうか、この世界でも向こうの世界の設定は通じるのか?

「やるじゃねえか!」

『ふん、我が分身よ。我らの力はこの程度ではないな!?』

「ああ、そうだ。見せてやるぜ! ヴリトラの真のおぉぉ!?」

匙が気合い十分に一歩、前に出た瞬間、何故かグラウンドに大きな穴があき、

その大きな穴に黒いドラゴンと化した匙が腹の辺りにまで落ちてしまった。

さらに、そこへカラスの大群が突然飛来してきて、

ボタボタと白い固形のような固形じゃないようなものを……つまり、

糞を次々と落としていく。

まるで、ヴリトラが鳥専門のトイレかのように。

現実でも扱いはあれだったが……どうやらこっちの方の扱いはもう最悪レベルのものらしい。

「ハハハハハハ! 新たな不遇な伝説を作ってしまったようだな!」

『い、一生の恥だ!』

未だにカラスは糞をしている……仕方ない。

俺はいつものように手を翳すと魔法陣が出現し……何故か、

俺の方に近寄ってきて俺を通過すると、服が全て真っ赤になってしまった。

…………なんだこれ。

とりあえず今の恰好は放っておき、宙に浮いているタンノーンの真下に向かった。

「えっと、アザゼールだっけ?」

「あ? なんだてめえは!?」

「取り敢えずさ、うるさいからお前倒すわ」

最後に心の中で恨みがないがと付け足し、両腕をタンノーンに向けると、

そこから火球が二つ生成され、程よい大きさになったところで奴らに向かって放った。

「はっ! タンノーン!」

『悪いが、貴様の茶番につきあう気はない』

「タ、タンノーン!? な、何をうぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

タンノーンは大きく体をゆすってアザゼールを落とし、

大きな両足でそいつを挟み込むと、俺が放った火球二つに向けて放り投げた。

アザゼールと火球がぶつかり合った瞬間!

「バイバイゼール!」

大爆発が起き、聞き覚えのあるセリフを吐きながら、

アザゼールは遠くの方へと吹き飛んでいった。

「さすがイッセーさんです!」

「うっぐふっ!」

アーシアが俺の腹に突っ込んできた瞬間、彼女の拳が思いっきり俺の鳩尾に入り、

俺はそこで意識が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

「あ、やっと起きた」

次に目を覚ますと、目の前に心配そうな表情を浮かべたリアスとスコルとハティがいた。

どうやら散歩をしていたらしく、二匹の首にはリードのようなものがついていた。

周りを見渡すとカーテンの隙間から日光がこぼれている。

まさかと思い、慌ててカーテンの外を見てみるが普通に車が道を走っており、

運動場には制服を着た生徒達が遊んでいた。

俺の格好も、部長の格好も普通の姿……夢か。

「変な夢でも見たの? さっきからアザゼールとか、タンノーンとか言っていたけど」

「いや……ただの寝言でしょう」

そう言いながら、スコルの頭を撫でようとした瞬間!

日光で照らされている床に、箒に乗った人が通り過ぎた影が写りこんだ。

「っ!」

俺は慌てて、後ろを向いて窓の外を見てみるが箒などとんでいなかった。

「…………き、気のせいか」

「本当に大丈夫? なんだか汗だくだけど」

「え、ええ大丈夫です」

「これからこの子たちの運動をしようと思うんだけど」

リアスの誘いに俺は快く承諾し、人気が少ない場所で二匹と遊んだ。



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第六十話

「ストーリーメイカー?」

俺――――兵藤一誠の質問に女子たちが首を縦に振った。

昨日、冥界にちょっとした用事が出来たと言いリアスが向こうから帰ってくると、

手にミニチュアサイズの小さな家を抱えていた。

「設定とかを入力するとその人の望む将来の生活が作られて壁に映像が映し出されるの」

話だけを聞けばなかなか面白そうだが……このメンツでやれば戦争になると思う、

俺の不安はあながち間違ってはいないだろう。だがまあ、面白そうなのは確かだ。

「やってみるか」

「じゃあ、私が最初に」

「いえ、私ですわ」

「違いますぅ! 私です!」

「……私です」

「むっ! ここは私に任せてもらおうか」

『『ワンワン!』』

リアス、朱乃、アーシア、小猫、ゼノヴィア達が一番を取ろうと必死にじゃんけんを始めた。

その中にスコルとハティが入っているのは放っておこう。

「よし! 私からよ!」

いつの間にかジャンケンに入っていたイリナが一番、次に朱乃、

小猫、リアス、アーシア、ゼノヴィアという順番になった。

流石にあの二匹は除外したみたいだが。

イリナは笑みを浮かべながらあ~でもない、

こうでもないと言いながらミニチュアの家の側面に設置されているタッチパネルを押していき、

思い描く将来の設定を作っていく。

まあ、頭のねじ二本も三本も外れているような設定は作らないと思うが。

「出来たわ」

イリナがそう言うとともにストーリーメイカーが光輝き、

壁に画像が映し出されて物語が始まった。

『パパー!』

「ぶっ!」

映像に映し出された子供が発した言葉を聞き、

俺は口に含んでいたコーヒーを思いっきり噴き出してしまった。

た、確かにイリナの面影がある女の子だが……まさか、子供だとは。

『どうした? イルマ』

『あのねあのね! 今日、ミカエルさまに会ってきたの!』

女の子はミカエルさまがどれほど神々しかったかを身ぶり手ぶりで表現しながら、

父親らしき俺に抱きかかえられて、小さな庭のベンチで座っていた。

家の造りはそこまで洋風化したわけじゃないが、所々洋風化しているな。

まさか、子供までもがミカエル教に入信してしまうとはな……まあ、

母親が母親なだけに仕方がないか。

というよりも悪魔と天使の夫婦ってなかなかないな……イルマは、

悪魔と天使のハーフということか……面白そうだな。

『もう、イルマったらこんなところにいたの?』

『ママー!』

大人びたイリナがお盆にのせられている食事を運び込んできた。

髪の毛は今と同じ茶色名だが髪長さが短くなっており、

肩の所に当たるか当たらないかの長さにまで短くなっている。

『じゃ、ご飯にしましょうか。その前に』

そう言うと、イリナとイルマは胸から十字架を取り出して

『『今日も』』

その言葉が始まった時点で俺はストーリーメイカーの停止ボタンを押して、

ホーム画面にまで戻らせた。

「あー! これからいいところなのにー!」

「悪魔の旦那の前で儀式をするな。あれ、結構痛いんだぞ」

つい先日、教会メンバーが空いている部屋で聖書を読んでいるところに偶然、

俺が入ってしまい三人は気付かずに読み続けた。

そのおかげで本来の三倍の頭痛を体感してしまったわけだ。

「ちぇ~」

「次は私ですわ」

不貞腐れるイリナと入れ替わりで入ってきた朱乃がストーリメイカーに設定を入力していき、

数秒後に壁に映像が表示された。

どうやら場所は以前、行ったことのある朱乃が住んでいた神社の奥の方にある居住区だった。

ほぅ。朱乃と俺が神社の奥の居住区で住んでいて、

一緒に神社を切り盛りしているという設定か。

映像が表示され始めて数秒後、畳に大量のコスプレ衣装が転がっているのが見えた。

……おい。

『ふふ、今日はどんなプレ』

そこで俺はムービーメイカーを強制終了した。

「あぁ~。いいところでしたのに」

「悪いが俺はSでもMでもない」

「でしたら新たな属性を」

「作る気はない」

一言そう言うと、

不貞腐れながらも可愛く頬を膨らませて部屋から出て入れ替わりに小猫が入ってきた。

「次は私です」

小猫は器用にポチポチとボタンを押して設定をしていき今までで設定に長く時間を費やし、

壁に映像を表示させた。

今度こそ平和的で普通の映像を見せて欲しいな。

『にゃ~』

壁に表示された映像に俺の膝にリラックスしたように顔を緩ませ、

猫耳、尻尾を出した小猫が横になっていた。

膝枕ならぬ膝ベッドか……まあ、小猫サイズなら俺の両ひざでベッド代わりに、

できるかもしれないが……まあ、見よう。

『ニィー』

何処からか猫が何匹も入って来て、合計で三匹の猫が俺と小猫の周りに集まって来て、

同じように俺の膝の上に乗っかった。

ほぅ、なかなか平和なお話しじゃないか。

アニマルセラピーという治療法が存在するように、

動物と一緒に暮らしていると精神がかなり癒されると聞く。

こう言うのを俺は待っていたんだ。

『ニャー!』

「「ぶふっ!」」

画面に突然、黒髪に浴衣を着た猫又の女性……つまり、黒歌がドアップで現れた!

それを見た俺たちは同時に飲んでいたものを噴き出し、

同時にストーリーメイカーを強制停止させた。

慌てて内包されている説明書を見てみるとどうやら設定を作る際、

自動的に自らの魔力がメイカーに吸収されているらしく機械がそれを感知、

解析してお話を作るらしい……どこまで正確に読み取るんだこの機械は。

「お、お姉さま……どこまでも私を邪魔するのですね……」

堕ち込みながらもどこか怒っている子猫を俺は少し、

頭をなでなでしてから彼女を部屋の外に出し、次の奴を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約三十分後、ようやく全てのお話が終わった。

だが、最後まで見たのは誰ひとりとしてなかった……何故か。

それはあまりにもお話が現実とはかけ離れていたからだ。

リアスはまともだったものの途中から話しのスケールが一般人では考えられないほどにまで、

大きくなりすぎたために途中でストップし、ゼノヴィアは何故か俺までもが、

ヴァンパイアハントしているため……付け加えれば何故か、

宇宙にまで行って宇宙人と戦っているために。

アーシアが一番平和だったもののいろんな男に言い寄られていたので、

イラついた俺が途中終了。

誰もアーシアの肌を触らすわけにはいかん。

全員、プンスカと不機嫌そうに頬を膨らませながら、

それぞれのやるべきことをやりに行っているため、今は自室には俺一人。

二匹はベッドの近くで気持ちよさそうに寝ている。

今、俺はイスに座りながらコーヒーを飲みつつ、

俺が十五分ほどかけて設定をこまめに作った壁に表示されている映像を眺めていた。

……やはり、俺はこんな感じの将来が良い。

「やあ、イッセー君……それは?」

何も知らない木場が部屋に入ってくるなり、

壁に表示されている映像を見てそう言った。

そこに表示されているのは全員が笑顔を浮かべながら一つの部屋で楽しそうに、

会話をしている映像……全ての戦いが終わった時、この映像が二次元ではなく、

俺がいる次元にやってくる……そんな願いを込めながら俺は、

ストーリーメイカーの電源をOFFにして皆がいる部屋へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにこのストーリーメイカーはなかなか評判が良かったらしく、

冥界、天界でも大ヒット商品となったらしい。




とりあえず、オリジナルストーリーはここで休憩。
次回はグレモリーの試練のお話です。
ちなみにインフィニティーは曹操戦の後のオリジナルのお話で出します。


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第六十一話

「えっと、これはここで」

ある日の休日、やけに忙しそうに部屋の中をうろうろしているリアスが、

さっきも掃除した場所を二度三度、掃除するくらいに焦っていた。

「どうしたんでしょうか」

俺の隣に座っているアーシアが不安そうな声を出しながらリアスをジッと見ていた。

さっきから俺の部屋と一階を行き来しながらリアスはあ~だ、

こ~だ言いながら往復している。その数、五十ほど。

どこぞのクラブよりも運動しているな。意外と昇降運動ってエネルギーを使う。

さらにうちの家の階段は結構な段数があるからな。

「リアス、どうした」

「お義姉様が来るのよ」

彼女がお義姉様と呼ぶ女性はただ一人……サーゼクス様のクイーンで、

グレモリー家のメイドさんのグレイフィアさん。

最強のクイーンと恐れられているあの人が来るということで、

リアスはやたらと慌てているのか。

だが、何故あんなにも慌てる必要がある。

「グレイフィア様はふだんは主と従者という関係ですが、

OFFの日は普通の姉と妹という関係に戻るんです」

「OFFの時のグレイフィアさんはチェックがとても、

細かいらしくて……リアスはOFFの時のグレイフィアさんが苦手らしいのです」

朱乃はリアスの今の状況を薄らと黒さを感じる笑みを浮かべて、

小猫は羊羹をもぐもぐと食べながらそう言った。

ほぅ、あの恐れるものは何もないと言ったような感じのリアスでもやはり、

恐れ戦く者はあるという訳か……来たか。

外から感じたことのある魔力を感じた直後、来客を告げるインターホンが鳴り響いて、

リアスはものすごい速度で階段を下りていった。

俺達は面倒なのでテレポートで玄関先まで転移すると、

既にドアが開いておりそこにメイドの格好ではなくセレブな衣装に、

身を包んだグレイフィアさんと見たこともない全身赤い鱗だらけの生物がいた。

「ごきげんよう、リアス」

「ご、ごきげんよう。お、お義姉様」

グレイフィアさんは余裕の表情で笑みを浮かべるが、リアスは表情の至る所に、

緊張という色をにじませながら笑みを浮かべて返答した。

「姫さま、お久しゅうございます」

全身紅の鱗の生物がリアスに挨拶をする。

その生物は俺の視線に気づいたのか俺の方へと向いた。

「これはウィザード殿。お初にお目にかかりますな。

私はサーゼクス様のポーンである炎駒と申す」

「彼は伝説の麒麟と呼ばれる生物でね。久し振りね、炎駒」

リアスはそう言いながら炎駒という生物の頬を撫でた。

サーゼクス様の卷属は全員が伝説級の人物だと聞いてはいるが……まさか、

伝説上の生き物まで卷属にしているとは。

「炎駒。私だけでも良かったのですが」

「いえいえ、サーゼクス様の奥方様でもあり、

クイーンのグレイフィア様が訪問されるというならば、

護衛の一つは……と言いたいところですがまあ、

私も久しぶりに姫様の顔も見たかったですし、何より一度、

ウィザード殿を間近で見たかったものですから。それでは」

炎駒はそう言うと、紅の霧となって消え去った。

「私が冥界にいた頃はよく背中に乗せてもらったわ」

リアスは懐かしさにそういいながら微笑んだ。

「挨拶はこれくらいにしまして。それではお家に上がらせてもよろしいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。リアスは迷惑をかけていないようでよかったわ」

微笑みながらグレイフィアさんはリビングでアーシアと話していた。

今は成りを潜めてはいるが、彼女の中にある近くにいても分かるくらいの凄まじい圧力。

最強のクイーンの名前は伊達ではないのが分かる。

「よい後輩、良い友達に恵まれているようですね……後は殿方ですか」

その一言でリビングの空気が一気にピリピリしたものに変化した。

全員はらはらした表情を浮かべながら何かブツブツと呟いている。

「リアスは一度、婚約を破断しています。その評価は古くからの慣習が根強く、

残っている上の階層の皆様の間では最悪に近いものです。

下の階層の評価も上と比べればまだマシですがそれでもマイナスなことは変わりません」

古くからの慣習を重んじている上の奴らにとって、

純血同士の悪魔の婚約はもうそれこそ重要な儀式だろう。

今の悪魔は種の存続自体が危ぶまれており、先の大戦で純血の悪魔は大部分が死亡、

もしくはフェニックスのようにカオス・ブリゲートの一員となっている可能性もある。

これらのことから連中は純血の悪魔の数を増やしたい……だが、

貴重なそのチャンスをリアスは……いや、正確には俺が潰した。

ふぅ、と一息ついたグレイフィアさんは表情を緩和させた。

「なんだかんだいって、私もあの一件に手を出しているのよね。

それに私たちも何気に自由な恋愛をしたわけだし」

「お二人のラブロマンスは女性悪魔にとって伝説ですわ!」

「劇にもなっています」

朱乃も小猫もどこか興奮した様子だった。

「私達の一件もあるからあなたには立派な上級悪魔のレディになってほしいのよ。

そのためにはまず、我儘な性格を治さなきゃダメね。

これは若干、治ったみたいだけどまだまだね。

それに何でもお金で解決できると思っている節があるし自分のものが誰かに手を出されたら、

すぐ怒る部分もなさなきゃいけない。即決即断な部分も改善して欲しいわね。

将来進む道は即決即断で行けば身を滅ぼす世界。だからあなたには――――――――――――」

それから非常に長ったらしいマシンガントークがさく裂した。

まるで恨みを何年も溜めこんだ奴が恨みを抱いているやつにここがダメ、

あれがダメとかを大人になってから吐き出すような感じだ。

そのマシンガンにリアスは避けられずに全てくらい、

流血を顔を赤くすると言う行動で表している。

「ふむ、グレイフィアのマシンガンは誰も避けられないものだよ」

「……時々、貴方が魔王だということを忘れてしまいます」

突然、聞こえた声に振り向きながらそう言うと、

いつの間に近づいたのか知らないが俺の背後にサーゼクス様が立っていた。

魔力検知器の俺でさえ、検知できないのか……これが魔王と俺の格の差。

「サーゼクス。貴方今日は魔王の会議があったはずでは」

「ここからリアルタイムで私の映像を流せば―――イタイイタイ。イタヒヨ。グレウフィア」

「まったく、私がメイドじゃなくなるとすぐにこうなってしまう。

今からでもメイドに戻ろうかしら」

怒った様子でそんなことを言っているグレイフィアさんの余所で、

設置されているテーブルに三つの小さな魔法陣が出現した。

確か、あの魔法陣は映像と音声を伝えるもの……まさか。

『――――――スちゃん! ―――――ゼクスちゃん! サーゼクスちゃん!

聞こえる!? サーゼクスちゃん!』

ノイズが入り混じっていたものが次第に綺麗なものになっていき、

数秒も経てばハッキリと相手の声と顔が分かった。

『まったく! 時間になっても来ないからと思えばリアスちゃんのところに行ってるなんて! 

言ってくれたら私も行ったのに!』

『お前が会議を抜けてまで人間界に行くのは事件か、

それとも何か面白いことが起きるかだ』

『僕は働きたくないぞ~』

レヴィアタン様の発言に続くように聞き覚えのない男性の声が聞こえ、

映像に二人の顔が映し出された。

アジュカ様とファルビウム様か。

「まだ兵藤君には紹介していなかったね。あやしい雰囲気を出しているのが技術総督と、

言っても良いアジュカ・ベルゼブブだ」

『あやしいのは悪魔には必要だろ? 初めまして、ウィザード殿』

「ウィザードというのは?」

言葉だけを見れば魔法使いという意味だがこの人はもっと、

別の存在を云い現わしているような感じがする。

『世界でもっとも強力な魔法を扱うもののことさ』

「そして、面倒くさそうにしているのがファルビウム・アスモデウスだ」

『ども。ファルビウムです』

映像には非常にめんどうくさそうな表情を浮かべ、頬づえをついている男性が映っている。

噂ではアスモデウス様は冥界切っての戦略家というのを以前

聞いたことがあるが……人を見た目で判断してはいけないといういい例か。

『ところでなぜ、そっちにいる』

「ああ、兵藤君とリアスに例の儀礼をしてもらおうと思ってね」

サーゼクス様がそう言うと、全員が驚いたような表情を浮かべた。

例の儀礼……意味は分からないが、

ともかく俺は再びリアスと俺しか受けないことをさせられるみたいだ。

 




恐らく時系列は狂っていないはず……たぶん。


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第六十二話

そんなわけで翌日、朝早くに転移魔法陣で冥界まで飛んだ俺はリアスの先導のもと、

その例の儀式とやらが行われるグレモリー領のはずれにある遺跡にいた。

その遺跡は例え、グレモリー卷属であったとしても立ちいることは許されておらず唯一、

俺とリアスだけが立ち入ることを許された。

眼前には岩肌があらわになり、石柱が何本も立っている。

その石柱の一本一本の間には、

これまでのグレモリー家の人間を模した石像が何体も置かれている。

「き、緊張するわ」

珍しくあのリアスがかなり緊張した面持ちで何度も鏡を見ながら身だしなみを整えている。

まあ、その手鏡が上下さかさまだということは何も言わないでおこう。

「とう!」

突然の声が聞こえ、空を見上げてみれば五人の人影がこちらに向かっているのが見え、

その影達は地面にスタッと降り立った。

何故か、その五人は赤、青、黄色、ピンク、グリーンのスーツとマスクを被っており、

その光景はどこかの特撮戦隊を思い出させる。

「誰?」

「我らこそ、かの魔王戦隊サタンレンジャー! 私はサタンレッド!」

「同じくブルー!」

「……めんどくさいけどグリーン」

「私はピンクよ♪」

「……わ、私はイエローです」

声と魔力で分かったがレッドがサーゼクス様、ブルーがアジュカ様、

グリーンがアスモデウス様、ピンクがレヴィアタン様、イエローがグレイフィアさんか。

現魔王は非常にノリが軽いとは聞いていたが……まさかここまで軽いとは。

「ハハハハ! 昨日、息子と一緒にポージングも考えたのだよ!」

どうやらミリキャス様もこの一件に噛んでいるらしい。

この中で一番、まともな反応を示しているのはイエローのグレイフィアさんだろう。

「魔王戦隊……魔王クラスが五人集まったとでもいうの!?」

俺は開いた口がふさがらないのと同時に呆れた。

時々、こいつは抜けている部分があるとは思っていたがまさか、

ここまで抜けているとは……というよりも声だけで分からないものか?

「我々はグレモリーに雇われた! この奥の神殿で三つの儀式をクリアし、

我々のもとに来るがいい!」

そう言うと、ボフン! という七色の煙がどこからともなく噴き出して彼らを包み込み、

数秒経つと何処からともなく風が吹き、煙が晴れるがその時にはすでに彼らの姿はなかった。

周囲を見渡して見るとほんの一瞬だけだが扇風機のようなものが見えたような気がしたが、

とりあえず放っておくことにした。

……随分と金のかかったセットを用意したもんだ。

「行くわよイッセー! 私たちがどれだけ深い仲かを彼らに見せつけるわよ!」

「…………はいはい」

俺は呆れながらもリアスについていき、遺跡の中へとはいっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

石造りの道を歩いていくと広い空間に出て、その空間に大きな装置が設置され、

その近くにピンク(レヴィアタン様)が立っていた。

チラッとリアスの方を見てみるが、

まだ気づいていないらしくその顔からはかなりの気合いが入っていることがうかがえる。

こいつも上級悪魔の中では強い部類なんだがな……戦いの中でしか、

発揮されない力もあるという訳か。

「さあさあ! 私の試練はダンスよ! 踊ってちょうだい!」

パチンとピンクが指を鳴らすと大きな装置から、

社交界でよく聞く優雅なクラシックが流れ始めた。

俺は仕方なくリアスの手を取り、ダンスを始めた。

夏休みに部長のお母様に徹底的に仕込まれたおかげか、

幼いころからダンスを学んでいるリアスにも余裕で付いていくことが出来た。

そして曲が終わり、ダンスを終える時のあいさつをすると俺たちに拍手が送られてきた。

「うんうん! 心配して損しちゃった♪ ささ! 奥へ行って!」

賛辞を貰うと、ゴゴゴと重い音を立てながら石の扉が開いて奥へと行く

道が示された。

俺たちは何も言わずに、その扉を潜り抜けて奥へと進んでいく。

少し歩いた先に開けた空間があるのか、俺達の歩く少し先が明るくなっていた。

「……ようこそ」

二度目の開けた空間の到着と同時にグリーンのだるそうな声が聞こえてくる。

その先にはメイド服を着た卷属らしき女性二人とアスモデウス様がおり、

テーブル一つとイス二つが用意されていた。

……あれが魔界一の戦略家といわれているアスモデウス様か……雰囲気を見る限りでは、

そんなに頭が切れる人とは思えないんだがな。

「ここではテーブルマナーを見るんだ。メイド達に観察されながら食事をしていってね。

後、採点方法は減点方式だから。じゃ、レッツゴー」

アスモデウス様のやる気のない声を合図として俺たちは食事を始めた。

夏休みの間にリアスのお母様からダンスだけではなく、

食事マナーなども徹底的に叩きこまれたからな。

……まさか、リアスのお母様はこのことを踏まえて、

俺に社交界のありとあらゆることを教えて下さったのか?

何ら困ることもなく食事を進めていき、俺が食べ終わるのと同時にリアスも食べ終わった。

「以上で終了でございます。第二の試練、無事合格でございます」

当たり前だ、俺を誰だと思ってんだ。

この程度の試練で不合格を言い渡されるようなやつが、

ウィザードなんて呼ばれる資格はないからな。

「おめおめ~。じゃあ、次に行っちゃいな~」

だるそうな声とともにゴゴ! という重い音が響いて次の試練へと向かう扉が開かれた。

「イッセー! この調子で行くわよ!」

「もちろん」

俺達は開かれた扉を潜り抜けて次のステージへと向かう。

今までの試練は社交ダンス、テーブルマナー……となると次の試練は知識でも問われるか?

「…………ねえ、イッセー。貴方は私をどう見てる?」

次なる場所へと向かっている最中、先ほどと比べて少し、

声のトーンを落としたリアスがそう尋ねてきた。

「どういう意味だ」

「良いから答えて」

「……皆を纏めている主だ。俺が集まったのも、ゼノヴィア、アーシアがここに集まったのは、

偶然かもしれない。だが、その偶然を引き当てたのはお前だ」

俺は褒め言葉としてそう言ったのだが何故か、リアスはあまり良い顔はしなかった。

……ま、無理もないか。こいつの兄は全ての悪魔の頂点に立っている男であり、

義理の姉は最強のクイーンとしてたたえられている。

自分の評価を気にするのも致し方がないか。

「そう……時々ね、考えるの。もしも、イッセーが他の高校の生徒だったら?

祐斗とあの時出会っていなかったら…………私は今、この場にはいないんじゃないかって。

イッセーは魔法の才能が、祐斗には剣の才能が……じゃあ、私には何の才能があるのかって」

「…………ふぅ」

「イッセー?」

俺は呆れ気味にため息をつきながら、リアスを後ろから抱き締めた。

才能がないと考えるか……違うな。確かにこいつには俺みたいに、

魔法の才能はないかもしれないし、木場のように剣の才能がないかもしれない――――だが。

「お前には俺達が持っていない才能があるだろ」

「私だけの……才能?」

「ああ。お前には運命を引き寄せる才能がある。俺に出会うという運命、

アーシアに、ゼノヴィアに、ロスヴァイセに、小猫に……下僕のみんなに出会う運命を、

お前は一度に、この時代に、この世界に引き寄せたんだ。

それは才能じゃないかもしれない……だがなリアス。サーゼクス様も、

グレイフィアさんも引当てず、お前だけが引き当てた。それも立派な才能だと思うがな」

「イッセー………ありがとう。最後の試練に行きましょ」

リアスに手をひかれ、最後の試練の部屋へと一緒に足を踏み入れた。

「やあ、待っていたよ」

最後の部屋に入るとそこには二組の机、そしてベルゼブブ様が待っていた。

「君たちにはテストを解いてもらうよ」

やはりか……問題的には悪魔関連の知識を確かめるものだな。

机に置かれているプリントを見てみると悪魔の言語で書かれた問題用紙と解答用紙だった。

「それじゃ、始めるよ」

俺達が座ったところでベルゼブブ様が魔力で生み出した大きな時計の針が動き出した。

毎日毎日、暇なだけあって本を読む時間は大量にあった。

そのおかげか悪魔関連の知識は純血の悪魔と大差ない。

ペンを走らせていき、全ての答えを埋めたところで時計を見てみると、

まだ時間的には四十分ほど余裕があった。

チラッと隣を見てみると既に部長も出来た様子だった。

「優秀だね。もう採点して欲しいのかい?」

その言葉に俺たちは同時に答案を差し出した。

「ん~。優秀なことは良いんだが……問題作成者としては、

もう少し悩んで欲しかったものだね」

ベルゼブブ様は苦笑いしながらも俺たちから答案を受け取り、

二つの答案を横にならべながら視線を交互に動かしていく。

「ん、二人とも満点合格だ。

まさか赤ペンも持たずにこれを言うとは思っていなかったよ。

さ、奥にレッドがいる。行きたまえ」

そう言われ、俺達はベルゼブブ様がいた部屋を後にして、

サーゼクス様がいるという奥の方へと歩いていき、

大きな扉を開けると太陽の光が差し込んできて視界に冥界の空が入った。

辺りを見渡してみると周りはまるで観客席のようになっており、

俺達がいるフィールドのような場所を囲うように観客席があった。

……なるほど、知識、マナーを調べた後は強さという訳か。

「とう!」

突然の声に頭を上げてみると観客席から赤いスーツを着た人物が、

俺達がいるフィールドへと降り立った。

「よくぞここまで来た! 最終試練としてこの私を倒してみろ!」

……魔王と戦えるのか……俺がどこまでの強さを持っているのか、

知ることのできる千載一遇のチャンスだな。

「リアス、下がれ」

「ええ、頑張って」

『フレイム・ドラゴン。ボー・ボー・ボーボーボー!』

赤色の魔法陣を展開すると、そこから炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、

俺の周りを旋回し、幻影が消えるとともに俺を鎧が包み込んでいた。

『コネクト、プリーズ』

俺は魔法陣に手を突っ込み、そこからアスカロンを取り出し、レッドに向けた。

「さあ、ショータイムだ」




もうすぐ学校だわいな


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第六十三話

『フレイム・スラッシュストライク! ボーボーボー!』

アスカロンの刃に手を翳すと炎が、刃を包み込むようにして放出され、

横に振るうと炎を纏った斬撃がレッドめがけて放たれる。

だが、その斬撃はレッドの手から放たれたどす黒いオーラによって包み込まれると、

一瞬にして消滅した。

魔法すらも消滅させる滅びの魔力……なら。

『チョーイイネ! スペシャル、サイコー!』

アスカロンを投げ捨てて、手を翳すと赤色の魔法陣が背後に展開され、

そこから炎を纏ったドラゴンの幻影が現れ、

俺に突っ込んでくると鎧の胸にドラゴンの頭部が現れた。

「むっ!」

「はっ!」

ドラゴンの口から火炎が放射されると同時にレッドがその場から跳躍して上空に上がり、

地面に直撃した瞬間! 爆音とともに大量の砂埃が空中に舞い上がり、

レッドを包み込むようにして拡散した。

偶然だがこれもチャンス!

『ハリケーン・ドラゴン。ビュービュー! ビュービュービュー!』

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

フレイムからハリケーンへとエレメントを変えると鎧の色が赤から緑に変化し、

さらに俺の背中に二対の龍の翼が生えた。

「はぁぁぁ!」

翼を羽ばたかせ、宙へと舞って砂埃に視界を潰されているレッドめがけて、

風のエレメントを纏った蹴りを打ち込む!

直後に鈍い音が聞こえた!

「良いキックだ」

「っ! まさか俺の蹴りを腕だけで受け止めるとは」

蹴りが当たったことによって発生した暴風により砂埃が払われ、

視界がクリアになると俺の蹴りを十字に交差させた腕で防いだレッドの姿が現れた。

「ぬぅぅんん!」

足を掴まれ、ハンマー投げのように振り回されて投げ飛ばされるが翼を全開で羽ばたかせて、

俺の背後に風を生み出して、何とか勢いを殺して、態勢を立て直した。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

目の前に緑色の魔法陣を展開してそこに手を置いて魔力を注入すると、

ドラゴンの形をした雷が放たれて、レッドめがけて飛んでいく!

「素晴らしい魔法だ! だが!」

レッドがドラゴンの形を模した雷を滅びの魔力を手に纏わせた状態で片腕だけで受け止めた!

さらに、腕にあった滅びの魔力がドラゴンへと伝っていき徐々に雷の威力が消滅されていく!

魔法の攻撃すら滅びの魔力は喰らうか!

「今度は私から行くぞ!」

悪魔の翼を羽ばたかせ、ものすごい速度でサーゼクス様が俺に向かってくる。

俺も龍の翼を羽ばたかせて、サーゼクス様の攻撃を避けていくがどれも、

ギリギリかわせるような攻撃ばかり。

さらに、サーゼクス様から放たれた球体状の滅びも魔力は、

例え避けても俺を追いかけ続けてくる。

さっきの攻防で分かった。

恐らく、あの攻撃を防いでも逆に食われるだけだ……炎や、

雷が喰われるのであれば氷結させるだけだ!

『ウォーター・ドラゴン。ジャバジャババッシャーン、ザブーンザブーン!』

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

今まで俺を追いかけてきた滅びの魔力の球体が一つとなり、

その大きさを巨大に変えた直後に俺は地上に降りたって、ウォーターへとエレメントを変えて、

ブリザードを発動し、球体めがけて冷気を放っていく!

だが、そう簡単に凍りつくはずもなくところどころ凍りつかせながらも、

球体は俺めがけて落ちてくる!

「一発でダメならばもう一発だ!」

『コピー・プリーズ』

俺はブリザードを放つ魔法陣をコピーでもう一つ生み出し、

二つで球体へと冷気を放ち続けた結果、ようやく球体が完全に凍りついて地面へと落下し、

砕け散った。

「ハァ……ハァ」

だが、その代償もかなり大きく、かなり魔力を消費してしまった。

「素晴らしい。私の滅びの魔力を防ぐとは」

だが、レッドは一切、息も乱れず、未だに余裕のようだった。

…………まだだ、最後の希望は残っている!

『スペシャルラッシュ! フレイム・ウォーター・ハリケーン・ランド』

俺は前回よりも改良を重ねたスペシャル・ラッシュを発動し、

背後に四色の魔法陣が出現すると、俺の身体が勝手に浮かび上がり、

魔法陣から出てきたドラゴンの幻影が俺の身体を包み込んでいく。

だが、改良を加えたとはいえ、今にも崩壊しそうなのは前回となんら変わりはない。

「これが最後の希望だ! はっ!」

「受けて立つぞ!」

レッドも背中から翼を生やし、空中へと上がった。

「はぁ!」

クローでの攻撃をレッドにぶつけようとするが、レッドは上空へと上がり、

それを回避する。すぐさま、レッドの上空に黄色の魔法陣を展開させて、

グラビティを発動する。

「むぅぅ! これが重力を操る魔法か!」

「はぁぁぁぁ!」

クローに魔力を集め、クローを二度三度振ると爪から細長い線のようなものが何本も、

レッドに向かって放たれる!

全て滅びの魔力の壁によって防がれるが消滅する際の衝撃で少しずつ、

レッドを地面へと押し込んでいく!

「だぁぁぁぁ!」

全力で振るうとさっきの倍はあろう巨大なものが放たれ、

一気にレッドを地面へと叩きつけた!

今だ!

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

「むっ! 足が凍ったか!」

レッドが足に地面をつけた瞬間に彼の足もとに青色の魔法陣を出現させ、

足を地面に縫い付けるとともに重力をさらに重くし、レッドを拘束した。

この状態ももう長くはもたない……これが最後の一撃。

ドラゴンの頭部に今持っている全ての魔力を注ぎ込む。

『ビッグ・プリーズ』

さらに胸の頭部にビッグを発動し、頭部を倍ほどの大きさへと巨大化させた。

「はぁぁ!」

倍ほどの大きさになった頭部から火炎をレッドめがけて放つ!

放たれた巨大な火炎は地面を抉りながらレッドめがけて突き進んでいく!

火炎がいまにもレッドに直撃するかと思った次の瞬間!

レッドの全身から膨大な量の滅びの魔力が放出され、頭上にあったグラビティ、

足もとにあったブリザード、そして火炎が一瞬にしてかき消された。

……バカな…………あれを一瞬にしてかき消すなんて……。

直後、パリンとはかない音が響き渡って鎧が消え去った。

「兵藤君。その若さでこれほどの戦闘力は素晴らしい。だが、まだ若い。

若いゆえに攻撃にもまだ未熟さを感じる」

「…………負けました」

俺は初めて自ら降伏宣言をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~凄かったよ。まさか、この神殿が半分吹き飛ぶとわね」

ベルゼブブ様は腕を組みながら、周りを見渡し、そう言った。

既にレッドの姿は見当たらず、

今この場にいるのは魔王様がたとグレイフィアさん、そして俺とリアスだった。

「今回の世代は十年、二十年すれば化けるというのもあながち間違ってはいないな。

今から何十年後が楽しみだよ。サイラオーグ・バアル、兵藤一誠。リアス・グレモリー、

ソーナ・シトリーは若手四強だね」

「うぅぅ~。眠いから僕は帰るね」

そう言って、アスモデウス様は転移魔法陣を使ってどこかへと転移された。

あれが冥界一の戦略家……人も悪魔も、

外見だけで判断してはいけないという良い例かもしれないな。

「もう! ファルビーったら。私もお仕事があるから帰ろっと!

またね! サーゼクスちゃん! そんでもってウィザードちゃん!」

相変わらずテンションの高いお方だ……。

「アジュカ。君は帰らなくていいのか?」

「そうだな。俺がいなくなるとゲームの運営に支障をきたすからな。

ウィザード君。身内の件、礼を言うよ。それではまた会おう」

そう言い、レヴィアタン様に続いてアジュカ様も転移した。

身内の件……ディオドラのことか。確かアジュカ様もアスタロト家の出身だったはず。

ディオドラの一件もあり、アスタロト家は魔王排出権利をはく奪されたと聞く。

あの様子では恨んではないようだが……まあ、良いか。

「邸でパーティーを開く予定なんだがまだ準備ができていなくてね。

我々は先に帰るが君たちはゆっくり帰ってきてくれたまえ。それと、

パーティーで発表することなんだが……サイラオーグとのゲームが決まったよ」

……そうか。若手四強は決まった……だが、まだ若手最強は決まっていない。

その最強の存在を決めるゲームが決まったのか……面白い。

 

 

 

 

 

 

 

 

御ふた方が転移された後、俺とリアスはトボトボと歩いていた。

別にスコルとハティを呼ぼうと思えば呼べるのだが、

なんとなく二人で歩きたかったから呼ばなかった。

「イッセー」

「どうした」

「…………ううん。なんでもない」

そう言いながらも、リアスは満面の笑みを浮かべ、俺の手を握ってきた。

俺も、何も言わずに彼女の手を握り返した。




最近、携帯がおかしい。アラームは設定した時間にならないし
通話中に相手の声は聞こえるのに僕の声が聞こえないという事態。
電波が悪いだけなのかな?


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第六十四話

「そんな……イッセーさんが行けないなんて」

アーシアは玄関で今にも泣きそうな顔をしながら俺――――兵藤一誠に向かってそう言った。

今日から三泊四日の京都の修学旅行……だったのだが決められた日までに、

旅行金なるものを納めていなかったために学校側も新幹線の席やらなんやらを、

俺を除いた生徒分だけしかとっていなかった。

だから、俺は京都には行けないということになったのだ。

「アーシア、我慢するんだ。私だって寂しい。だが、これは主……いや、

ミカエルさまからの試練かもしれない」

「試練?」

「そうだ。私たちの心の強さを試しておられるのだ」

何故、そんな思考に至ったのかのプロセスを知りたいのだが生憎、

時間が差し迫っているためにアーシア達二年生メンバーが渋々、駅へと向かった。

ちなみに二年生メンバー(イリナ以外)が知らないだけで実は俺も……まあ、

そんなことよりも準備を始めますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕――――木場祐斗は新幹線の座席で静かに本を読んで過ごしていた。

アーシアさんやゼノヴィアはどこか悲しそうだったけどまあ、どうにかして納得して今に至る。

新幹線は静かだっていうのをたびたび聞いていたけど、実際に静かだった。

でも中の静けさからは考えられないくらいの速度で、

窓の外の景色はすごいスピードで動いている。

「うぅ、木場さんは悲しくないんですか?」

「ん~まあ、悲しいことは悲しいけど仕方がないよ」

僕の前の座席にはアーシアさんとゼノヴィアがいた。

もともと、アーシアさんとゼノヴィア、紫藤さん達とはクラスは違うんだけど、

新幹線は自由席なこともあり、生徒達は先生に内緒で席を交代していた。

まあ、修学旅行だということもあり先生たちの中でも数人、

気づいていたようだけど黙認している。

そう言えば僕の隣の席は空いているけど欠席なのかな?

「す、すごいカッコイイ」

「げ、芸能人かな?」

すると、突然周りの席に座っていた女の子達が黄色い声を上げたのが聞こえた。

僕はそれを無視して本を読んでいると視界にジーパンの下の部分が入った。

「すいません、通してくれます?」

「あ、は…………」

僕は席を動こうとふと顔をあげるとそこには非常に見知った顔があった。

サングラスをかけ、ワックスか何かで髪も今テレビなんかでよく見る形にし、

下はジーパン、上は濃い青色の半そでを着てその上から、

黒い薄い上着を羽織っている男性……というよりも兵藤一誠その人だった。

イッセー君は僕の隣に開いている座席に何事もなく座った。

「え、えっとイッセー君?」

「……あ、私のことですか?」

「イッセーさんですよね?」

「イッセーだな」

アーシアさんとゼノヴィアからもそう言われ、観念したのかイッセー君らしき男性は、

サングラスをちょっと上に上ると確かに彼だった。

「ま、元々来る気はなかったんだがリアスにせっかくだから行って来いと言われてな。

慌てて新幹線の切符を買ったら偶然、この座席だ」

すると、今まで悲しそうな雰囲気だった二人が一気に明るいものに変わり、

今にも飛び跳ねそうなくらいのテンションにまで上がった。

「イ、イッセーさん! よかったら私達の班と一緒に行動しませんか?」

「そうしたいんだが生憎、この格好だからな。アザゼル達には通じるだろうが、

他の教員にはなぁ……ちなみにホテルもお前達が泊まるホテルと同じだ。

夜、俺の部屋に来い」

「はい!」

……彼の止まる階と僕たちは泊まる階は一緒なのか? というよりも仮に、

一緒だとしても先生達が見張っているだろうし、今の彼の恰好は一般人だから……まあ、

イッセー君の魔法なら気づかれることもないかな。

「スコルとハティはどうしたの?」

「あいつらは冥界の部長のお家にお泊まりだ」

まあ、流石にあの二匹を連れてくることは無理か。

京都につくまでの間、僕たちはいろいろと話を進めた。

有事の際の行動なんかを話し合っているとイッセー君は何やら、

銀色のグローブの手の甲の部分にタイマーのようなものをつけ、

さらにレバーのようなものが側面についた物を手に持って見ているのに気づいた。

「それは?」

「ドラゴタイマー。アザゼル曰くそう言うらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、ようやく着いたか。

「イッセーさんもホテルに行くんですか?」

「ああ、まあ一緒に行くか」

そう言うとアーシアは嬉しそうに笑みを浮かべた。

いやはや、サーゼクス様の息のかかったホテルの一室を取れて良かった。

アーシア、ゼノヴィア達と一緒に歩いているとメガネをかけた女子と松田、

浜本が俺のことをジーッと不思議そうに見てきた。

「アーシア、この人だれ?」

「実は外人さんで私たちと同じホテルに泊まるんですけど道が分からないらしくて」

「あ、そうなんだ」

そう言って、三人は俺のことを疑念を含ませた視線を送りながら歩き始めた。

いやはや、あの純真無垢で嘘をつくことを出来ないアーシアが、

人に誤魔化すことが出来るようになっているとは……やっぱり成長ってすごいな。

京都の駅から歩いて数分、駆王学園が宿泊することになっているホテルが見えてきた。

壁には遠くからでも見えるようにでかくサーゼクスホテル、

そしてそのホテルから少し離れた所にセラフォルーホテルもある。

アーシア達は入口のスタッフに生徒章を見せて中に入り、

俺は顔を少し見られるだけで入ることが出来た。

中に入ればそれはもう豪華絢爛な作りのホールが目に入った。

「す、すげえ。よく俺達の高校、金持ってたな」

そんなことを聞きながら、

俺は荷物を持ってチェックインをすまそうとしたときに急に後ろから両肩を掴まれ、

振り向かされた。

「イッセー、てめえ何してやがんだ」

「ひょ、兵藤君? 君は確かこれないはずでは」

「一般客として来ている。安心しろ、何もしない」

「いや、そういう問題じゃ……まあ、良いか。どうせ、

アーシアの傍にしかいないんだろうし。ところでお前、パスはあるのか?」

そう言われ、行く前にリアスから貰った一枚のカードを見せるとアザゼルは納得したようで、

そのままロスヴェイセとともに生徒達が集まっている場所へと戻った。

京都は強力なパワースポットでもあるが、

その管轄は妖怪なるものが担当しているので悪魔はパスが必要らしい。

チェックインも済ませ、部屋に荷物を置き、

ロビーにもどると既に準備が整った様子のアーシア達が立っていた。

「お前ら行かないのか?」

「元浜さんと松田さんがまだ来てなくて」

「そうか……夜、来いよ」

耳元でコソッと俺の部屋番号を言って、ホテルを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんでそのまま平和に京都旅行を満喫した――――――その予定だったんだが……。

「京のものではないな」

伏見山の伏見稲荷へ行こうとしたんだが、何故か途中から道が何かしらの術で切り取られ、

この空間に閉じ込められてしまい、周りを妖怪たちに取り囲まれていた。

「ああ、京都の人間ではないが観光に来た。ちなみに悪魔だけどパスもちゃんとある。

何ら違法なことはしていないんだが」

「黙れ! 母様を返してもらうぞ!」

頭から獣耳を生やした金髪少女がそう言った瞬間に、

周りに待機していた妖怪たちが一斉に襲いかかってくる。

『グラビティ』

「うぐぉぉ! か、身体が!」

以前までの俺ならグラビティやブリザードなんかは、

それに対応したドラゴンのエレメントのスタイルにならなきゃ使えなかったんだが、

俺も成長したもんだ。

まあ、威力はドラゴンスタイル時に比べれば格段に小さくなるが。

「あれ? イッセー君何してるの?」

上から声が聞こえ、顔を上げてみれば白い翼を生やしたイリナが、

そして奥の方からはゼノヴィアとアーシアがこっちへ来ていた。

「あ! 妖怪さんです! 私初めて見ました!」

「う、うむ。だが、今は非常事態にも見えるが」

「くっ!」

状況が不利と感じたらしく金髪獣耳少女はかなり顔を歪めた。

それを見た俺は魔法を解除すると、

すぐさま金髪少女の指示で妖怪たちが奥の方へと消えていった。




あぁ、学校が始まるぜ。


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第六十五話

その日の夜、俺は畳六畳分のスペースがある和室で、

横になりながら今朝の襲撃について考えていた。

京都に入る際に必要なパスも持っているし、

なにも京都の外観を壊すようなことはしていない……それに母を返せ……また、

面倒なことが起きているのか。

そんなことを考えていると突然、部屋の角に魔法陣が現れ、

そこからアーシア、ゼノヴィア、イリナたちが転移してきた。

「イッセーさん!」

「おぉ」

俺の顔を見るや否や笑みを浮かべたアーシアが抱きついてきた。

「むっ! アーシアに先行を取られた!」

「私たちも突撃ー!」

ゼノヴィア、イリナが間髪入れずに俺に突っ込んできた。

女の子とはいえ、流石に人間三人に突撃されたら男の俺でも一人で受け止めるのはきつい。

「イッセーさん! なにしますか!?」

満面の笑みを浮かべるアーシアの両手にはトランプ、ウノが握りしめられていた。

ま、まさか……俺が超絶に運がないことを逆手に取ってカードゲームを提案してきたか。

「ああ、良いだろう。俺も負ける気はない」

そう言ったものの、俺はひたすら負け続けた。

ババ抜きをすれば一枚も同じカードを引くことはなく、

さらにウノに関してはドロー系のカードを連続で使われ、凄まじい手札になったり。

「お、やっぱりここにいたか」

「アザゼルが天使に見える」

「何言ってんだお前。お呼び出しだ、魔法少女から」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー! こっちこっち!」

アザゼルに連れられ、ホテルの近くにある料亭の個室に入ると着物姿のレヴィアタン、

会長の卷族たちが座っていた。

魔王クラスがここに派遣されたとなると……また、厄介なことが起きたのか。

「簡潔に今起きていることを言っちゃえば、

妖怪さんのトップが誘拐されちゃったみたいでね」

これまためんどくさいことをやる輩がいるもんだ。

「帝釈天は知ってる?」

「ええ、若干は」

「その帝釈天と会談を行うために妖怪のトップである九尾が行方不明になったの」

なるほど。外で起きたことだから外交担当のレヴィアタン様が、

こっちに派遣されてきたってわけか。

となると、今朝襲ってきた獣耳少女は外からやってきた俺達を、

犯人だと勘違いして襲ったという訳か。

「また、すごいことに首を突っ込んでんのか、兵藤」

「好きで突っ込んでいるわけじゃないが……何をすればいい、アザゼル」

「取り敢えず、大人に任せてお前たちは旅行を楽しめ。最近、

何かとごたごたが多くて碌な休息がとれてないしな。安心しろ、

堕天使総督と魔王がいるんだぜ? お前達の力は最後の方で借りるさ」

……なるほど。顧問としての責任を果たすのか。

その後も俺たちはいくつか話しあった後、ホテルへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺はアーシア達に付いていき、清水寺を観光していた。

松本達がまた、こいつかよっていう目をしていたか何とかアーシアに説得してもらい、

俺も観光に同行させてもらうことになった。

その後も銀閣寺を見に行けばゼノヴィアが『銀じゃない!』と軽く絶望したり、

金閣寺を見ると『金だ! ゴールデンテンプルだ!』とはしゃいだりと俺も、

その光景を楽しみながら、休憩として和菓子屋さんによった。

「……苦いです」

抹茶初体験のアーシアは顔をしかめながらチビチビと抹茶を飲んでいく。

俺も初めて飲んだ時はかなり苦いと感じた記憶がある。

それに加えて今まで外国で過ごしてきたアーシアには少し厳しい味…………まさか、

ここまで襲ってくるとはな。

突然、あたりの空気が一気にガラッと変わり、

バタバタと松本達がテーブルに突っ伏し、眠りについた。

そして、店員さんの方を向けばそこには獣耳を生やした女性がいた。

「ここまで来るとはな」

「待って下さい」

魔法を発動しようとしたときに突然、

声が聞こえそちらのほうを向くとロスヴァイセが立っていた。

「停戦です。というよりも誤解が解けました。九尾のご息女があいたいそうです」

ロスヴェイセの話を聞き、獣耳女の方を向くと俺たちに頭を深々と下げていた。

「私は九尾に仕える狐の妖怪です。先日のご無礼、申し訳ありませんでした。

九尾のご息女である九重様のもとへとご案内いたします」

雰囲気的にも先日のような敵意は感じられないし、

ロスヴァイセの反応を見る限りでは奴が言ったこともあっているようだな。

俺達は狐の妖怪の先導のもと、妖怪たちがすみかとしている場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が入り込んだ場所はまさに異界と呼べる場所だった。

童話などでよく見る妖怪や、歩くタヌキなど多種多様の妖怪がそこには住んでおり皆、

部外者の俺達を好奇の視線で見ていた。

歩くこと数分、目の前に振るい大きなたたずまいの家屋が見え、

そこの前にある広い大きな広場にレヴィアタン様とアザゼル、そして以前、

襲撃された際に見た金髪の獣耳少女がいた。

少女は俺達を見るや否や、申し訳なさそうな顔をした。

「先日は申し訳なかった。お主たちの事情も知らずに……私は妖怪の主、

九尾の娘の九重と申す」

「良いさ。今度からはもう少し冷静にな」

そう言うと、彼女は素っ頓狂な表情を浮かべ、俺を見てきた。

なんだ……もっと、怒られるのかと思っていたのか。まあ、

本人はそうなるくらいのことをしでかしたと思っているんだろうが。

「話は聞いた。母親が目の前に居なくなったって状況なら俺も同じだ。

急にいなくなれば冷静じゃいられなくなる……俺も、みんなもお前を許すさ」

「……あ、ありがとう」

九重は頬を少し赤らめながらそう言い、頭を下げた。

「おぉ、早速最後の希望っぷりを見せてるな~。流石はイッセーだ」

アザゼルの小突きはまあ、無視するとして―――――。

「咎がある身なのは重々承知しておる……頼む! 母上を救ってくだされ!」

それから今起きている事態の詳細な話を聞いた。

須弥山の帝釈天からの使者と会談を行うためにこの屋敷を出た九尾だったが、

向こうサイドからまだ、来ていないとの連絡が入り、辺りをくまなく捜査すると、

瀕死の状態の九尾の御つきの妖怪が発見され、

九尾がさらわれたとの言葉を残して死んだらしい。

九尾は京都の中心であるため、長い時間、

離れていると京都が異変をきたすらしいがその兆候が見られないことから、

九尾とその犯人はまだ、京都にいる――――それがアザゼルの見解だった。

「カオス・ブリゲードか」

「おそらく、英雄派だろう」

最近、その動きを活発化させているカオス・ブリゲードの旧魔王派に次ぐ、

もう一つの大きな派伐、それが英雄の子孫である人間で構成された英雄派。

やっていることだけを見ればまだバカ正直に真正面から挑んできている旧魔王派の方がまだ、

優しいと感じるくらいのことをやってのけているらしい。

「頼む……母上を救うために力を貸してください。お願いします」

……娘に限ったことじゃないが、

子供から母親を取り上げるっていう行為は許せない……英雄派か……潰す。

「まかせろ」

俺は九重の頭にポンと手を置いた。

「お前の母親は必ず俺達が救いだしてみせる。俺が最後の希望だ」

「……よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、俺達がホテルから出て観光に向かおうとしたときに背後から呼ばれ、

振り返ってみると九重がいた。

「九重。どうした」

「う、うむ。京都を案内しようと思うてな。

京都のことは端から端まですべて網羅しておる!」

そう豪語する九重の提案を松本達にも話し、

承諾を得たところで彼女先導のもと京都の観光が始まった。

天竜寺、大方丈裏の庭園、などなど。京都に存在しているメジャーなスポットから、

現地の人間しか知らないようなマメ知識などを教えてもらいながら俺達は京都観光を続けた。

俺たちに誰かから習った知識を和気あいあいと話す九重の姿を見ていると、

どこか癒されるような気分になった。

「では、これからお勧めの湯豆腐屋へ行くぞ!」

九重がそう言い、歩き出そうとした瞬間――――――俺達をぬるりと生暖かい感触が包み込んだ。




最近は毎日更新ですが学校が始まれば土日更新になります。


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第六十六話

まさか、俺が兆候に気づけないとはな……これもロンギヌスの力の一端か。

魔力を完全に消しさるこの霧……面倒なセイグリッドギアを亡き神も作ったもんだな。

周りを見渡すとイリナ、九重、アーシア、ゼノヴィア、

そして遠くの方に木場の姿も見えた。

「無事か」

上を見上げると翼を生やしたアザゼルと、

それに抱きかかえられたロスヴァイセが地上に降り立った。

聞かなくてもロスヴァイセの状況は彼女から発せられている匂いで分かったが……教師が、

修学旅行の場所で酔ったら面目丸つぶれだろ。

「ディメンション・ロストか。まさか、

上位クラスのロンギヌスを敵として戦う日が来るとはな」

ディメンション・ロスト―――――ロンギヌスの中でも上位にあるセイグリッドギアで

その霧に包みこまれた者は二度と姿を現すことなく、消え去る。

攻撃力自体は皆無だが使い手によれば一国をも、

一人で破滅に導くことが可能なセイグリッドギアだったはず。

「……どうやらお客さんだ」

霧の向こうに複数の魔力を感じ、そちらを向くと霧の中に複数人、

こちらへと向かう様が見えた。

霧から完全に出てきたのは槍を持った男、白髪で剣を持った男、

幼い少年、残りは女性だった。

あれが英雄派とかいう派閥か……英雄の子孫が、

幹部を務めているらしいが所詮、そんなものはいくらでも偽造できる。

「俺の名前は曹操。その名の通り曹操の子孫であり、英雄派を纏めている。よろしく頼む」

「あいつが持っている槍には気をつけろよ」

珍しくアザゼルが冷や汗をかいていた。

無理はないか……なんせ、目の前には最強と詠われているセイグリッドギア、

トゥルー・ロンギヌスがあるからな。

イエスを貫いたとされている槍……まさか、

こうも早くに最強のセイグリッドギアにご対面する日が来るとはな。

俺はアーシアの視界を隠すように彼女の前に立った。

信仰心を持つ者があの槍をジッと見続ければその心を奪われると聞く。

ゼノヴィアはいけるだろうが信仰心が篤いアーシアが見れば心を奪われるだろう。

「ま、余計な話はめんどくさいから止めよう。どのみち、

君たちは俺達を犯人だと思っているだろうしね」

「そう思われることをしてきたんだろ」

「やあやあ、ウィザード。お会いできて光栄だ。

本当はあの姿の君と戦いたかったんだけどな。残念だよ」

こいつ、どこまで俺達の情報を掴んでいるんだ。

あの姿を知っているのはあの場にいた奴らだけだと思っていたんだがな。

「九尾で何をする気だ」

「少し、俺達の実験に使うだけさ。な~に、実験が終わればすぐに返す。

まあ、その時にまともな状態で居ればの話だけど」

「一つ言っておこう……子供から母親を取り上げてんじゃねえぞ」

「イッセー。とりあえず、曹操は俺に任せてもらいたい。あそこの他の奴らを頼むぞ。

曹操、俺と戦おうじゃねえか!」

一番手は金色の鎧を身に纏ったアザゼルで、

極太の光の槍を握り締めながら曹操とともに別の場所へと移動していった。

「すまないがイッセー。アスカロンを貸してくれ」

『コネクト、プリーズ』

魔法陣からアスカロンを取り出し、ゼノヴィアへと渡す。

「じゃ、僕たちも始めようか。レオナルド」

白髪の男がそう言った瞬間、幼い少年の影がウネウネと動き出し、

そこから大量の異形の姿をしたモンスターが現れた。

なるほど、アナイアレイションメーカーか。まさか、

四つの上位ロンギヌスのうち三つもテロリストが所有しているとはな……世界も、

物騒になったもんだ。

だが……この場では俺はあまり最前線で戦わない方が無難か。

俺が指示を飛ばして木場達を動かそう。

「木場、ゼノヴィア、イリナ。俺が指示を飛ばす」

「「了解!」」

二人はそう言い、一気に駆け出した。

まずは、後ろの奴を片付けるか……チマチマ片付けていくよりも、

一気に片付けた方が戦況にとっては良いか。

「ゼノヴィア、お前のお得意の破壊でそいつらを蹴散らせ」

「まかせろ! ハァァァァ!」

ゼノヴィアが気合いの叫びをあげながらアスカロンを振るうと刃から、

すさまじい量の聖なるオーラの衝撃波が放たれ、

大きなモンスターどもを複数体、同時に片付けていく。

相変わらずのパワーバカだ。

木場はもう少しテクニックの部分を鍛えて欲しいらしいがな。

「イッセー君、私は」

『ビッグ・プリーズ』

「魔法陣にとびっきりの槍を打ち込め」

俺はイリナの目の前にビッグの魔法陣を展開した。

イリナはそこへ、とびっきりの槍を打ち込むと、

槍がその大きさの一瞬にして倍ほどの大きさとなり、

モンスターどもの腹を貫通していく。

『ギャァッ!』

『ディフェンド・プリーズ』

モンスターの口から光が放たれ、魔法陣で防いだ。

そうか……こいつら、対悪魔用のモンスターか。となると、

一気に片付ける必要が出てきたな。あいつらがいっせいに光の攻撃をすれば、

いくら俺でも全員は防ぎきれない。

それに、少年の影から続々とモンスターは増えていく。

「木場、光を喰らう魔剣をゼノヴィアとアーシアに作れ」

「わかった!」

木場は剣を持った男と斬り合いながらも光を喰らう魔剣を創造し、ゼノヴィアに投げつけ、

アーシアには俺の魔法陣に放り投げることで渡した。

「アーシア、お前はこの剣を持って九重の前に立っておいてくれ」

「は、はい!」

九重はアーシアに任せて……俺も前線に行きますか。

「魔法使いは私達が!」

そこへ、武装をした女性達が俺に向かって何人もやってきた。

なるほど、あいつらも何かしらの理由で英雄派に入った人間か……となると、

あんまりサンダーはしない方が良いか。

『グラビティ』

「か、体が! 重く!」

あいつらが悪魔なら本気のグラビティを喰らわせるんだが相手は人間。

どれだけ鍛えていようが突然、自分たちの重力をかえられて、

体重を何倍にもされればあっという間に動けなくなってしまう。

「気絶で済ませてやる」

『サンダー』

黄色の魔法陣の真下に緑色の魔法陣が出現し、そこから電撃を纏ったドラゴンの幻影が、

黄色い魔法陣めがけて飛びだし、黄色い魔法陣にぶつかると同時に爆散した。

英雄派の少女たちは高圧電流が全身に流れたことによりバタバタと気を失って倒れていく。

……何故、奴が後ろに。

「あ~あ。だから、言ったのに」

後ろから声が聞こえ、

振り返るとそこにはアザゼルと戦っていたはずの曹操が俺の後ろに立っていた。

「総督殿ならモンスターに任せてきたよ。なんせ、

ここに来た理由は君と話すことが大部分を占めていたしね」

「闘う意思はないとでも言いたいのか?」

「もちろん」

どこまでが真意かは知らんが……こいつの情報を手に入れるチャンスではある。

「にしても君は末恐ろしいよ。戦闘面だけが逸脱していると思いきや状況を瞬時に把握、

そして仲間に的確な指示を送る。戦争で最も恐れられるものを知っているかい? 

それは凶悪な武器でもなく毒ガスでもない……強くて指示が飛ばせる人間だ。

最前線の状況を知り、それに合った作戦を立てる」

戦争はきっかけ一つで状況が一変する。

そんな戦争の中で大体の司令官は遠くから指示を飛ばす。

だが、最前線の状況を知らずに飛ばされたその指示は時には戦況を優勢から劣勢へと、

変えてしまうこともある。

最前線で戦いながらも指示を飛ばす……確かにある意味では恐ろしい存在だ。

「シャルバは君をただの障害としか思っていないようだが俺は君を、

組織全体の障害だと思っている。いずれ君はどの存在よりも厄介なものへと、

なりうる可能性を秘めている。未熟なうちに潰すに限る」

曹操が俺に槍を向けた瞬間、俺達の間を割るようにして、

見覚えのない文様が描かれた魔法陣が出現し、

そこからトンガリ帽子を被り、マントをはおった中学生ほどの少女が転移してきた。

「初めまして。ヴァーリチームの魔法使い、ルフェイ・ペンドラゴンです」

自己紹介をするや否や、ルフェイと名乗った少女はこちらを振り向き、

目をキラキラと輝かせながら俺に近寄って来て、勝手に握手してきた。

「はぁぁぁあ! ずっと会いたかったんです! 

あなたがドラゴンズマジックの兵藤一誠さんですよね!? お会いできて光栄です!」

……な、なんだこいつ。

「ヴァーリチームの魔法使いが何の用かな?」

「んっふん! ヴァーリ様からの伝言をお伝えに来たんです。

邪魔だけはするなと言ったはずだ、そうです」

そう言い、少女が指をパチンと鳴らした直後、

俺達のいる空間が突然、大きな揺れに襲われた。

直後、背後からバゴン! という何かが抜けるような音が聞こえるとともに、

俺を優に覆い尽くすほどの巨大な影が出来た。

俺の目線では大きな二つの意志があるように見えるが視線を上に持っていくと、

一体の巨大な人型の意志が立っていた。

「さあ、ゴッくん! 私たちに監視者を送った罰を英雄派の皆さまにやっちゃって! 

ゴッくんハンドクラッシャー!」

楽しそうに少女がそう言うと巨大な何かはその大きな腕を振り上げ、

英雄派がいる場所へとぶつけると巨大な揺れとともに嵐山名物の渡月橋が一瞬にして崩壊し、

ゼノヴィア達が片づけていたモンスターどもを一瞬にして叩き潰した。

さらに巨大な石の怪物は腕を振り子のように振り名がら地面を指で抉るように動かしていく。

英雄派の幹部どもは悠々と避けたが下っ端どもとまだ残っていた怪物たちが、

餌食となった。

「ちっ! ゴグマゴクか! 流石にこの空間でそいつの攻撃を、

何度も受けるわけにはいかないな……一旦引くとしようか!」

曹操は槍を巨大な何かに向けると、

槍の先端が一気に伸びて巨人の肩に突き刺さるとそのまま押し倒した。

『ビッグ・プリーズ』

俺はこちらに倒れてくる巨人を魔法で大きくした腕で止めて、

曹操達を見るがすでにそこにはいなかった。

『我々は二条城にて大きな実験をする』

何処からともなく声が聞こえてくるが、どこにも奴らの姿は見当たらない。

『君たちは特別に招待してあげるよ。それと、直にこの空間は元に戻る。

武装などを解除しておくことをお勧めしよう』

癪だが曹操の指示に従い、武装を解除したと同時に目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたのは良いが……本当に厄介なことになりやがった。クソったれ」




明日、気弱を一気に更新しようかな。


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第六十七話

その日の晩、アザゼルからの作戦を聞き終わった俺はホテルのロビーで一人、

物思いにふけていた。

作戦は匙を除くシトリー卷属が京都駅周辺を警護し、あやしい輩を片っ端から捉えていく。

そして俺たちとイリナ、そして匙が直接二条城へと向かい、

九重の母親である九尾を奪還する。

既に京都周辺には妖怪、悪魔、堕天使などの精鋭体によって囲まれてはいるらしい……が。

周りに人がいないのを確認し、コネクトを使ってそこからドラゴタイマーを取り出す。

出来ればこれを使わずに戦いを終わらせたいが……最強のロンギヌス相手に、

それはできない望みか……。

「実戦でそれは使わざるを得ないと思うぞ、俺は」

後ろから声が聞こえたが振り向かなくても誰なのかは分かった。

「そいつは今までの俺の発明の中で最高傑作と言っても良い代物だ。

お前専用となっているから微妙な部分はあるがな……」

「いつだって発明は戦いに流れるものだな」

「それが真理ってやつだろ。人も悪魔も天使も、俺達堕天使も新たな技術を生み出せば、

まずは戦いにどう生かすかを考える。

戦争がなくなった今は今じゃ戦争の代わりがテロだ」

アザゼルの表情はどこか、悲しそうな顔をしていた。

和平を結んだのは三種族……他の種族とも和平を結ぼうとはしているもののその間に、

戦争を起こされちゃたまらないからな。

「人間相手に戦えるか? イッセー」

「当たり前だ。テロリスト相手に手加減すると思うか?」

そう言うと、アザゼルは一つため息をついて笑った。

「そうだな。だがアーシア達は割り切れない部分もあるだろう。

お前が突き進めばあいつらも付いてくるはずだ。頼むぞ」

「まかせろ」

そう言い、立ち上がって後ろを振り返るとちょうどロビーに降りてきた奴らと目が合った。

 

 

 

 

 

「元ちゃん。気を付けてよ」

「おう、任せろ」

匙が仲間たちから激励を受けている中、

ボーっと突っ立っていると木場がこちらへ向かって歩いてきた。

「イッセー君。今、部長が不在の中、臨時のキングは君に任せる」

そう来ると思っていたさ……任せられたからにはキングの役目を全力で全うしよう。

みんなの命を預かるものとして。

仲間から激励を貰った匙が気合いの入った表情でこちらへと歩いてくる。

「気合は十分のようだな……行くぞ」

「わ、私も行くぞ」

いざ、二条城の近くへ転移しようとしたときに突然、九重が俺の肩に乗っかってきた。

アザゼルに待っていろと言われたはずなんだがな……ま、良いか。

九尾を助けるうえではこいつの力も必要になるかもしれないしな。

「行くぞ」

『テレポート、プリーズ』

テレポートを発動させると足もとに展開されていた魔法陣が輝きだし、

その輝きは俺達を包み込んだ。

輝きが消え去り、目を開けると曹操達の魔力を感じる空間へと転移が完了し、

二条城へとつながる大きな門の前に着いた。

既に大きくて重そうなその扉は開いており、

まるで俺達を最初から招待しているかのようだった。

どうやら曹操達がいる空間は霧使いの力で別に生み出した別空間のようだ。

ただひたすらに歩き続けると古い日本家屋が建ち並ぶ広い場所にたどり着き、

そこに英雄派の構成員と思わしき奴らが立っていた。

そして、そこには目的の存在もいた。

「やあやあ、よく来てくれた!」

「貴様! 母上に何をした!」

「少し、実験に手伝ってもらうだけですよ」

そう言い、曹操が槍の先端で地面をコンコンと二度たたくと九尾が突然、

苦しそうに叫びだし、その姿を徐々に変えていき、

九つの尾を持った狐の妖怪へと姿を変貌させた。

妖怪の最高位に君臨する最強の妖怪という訳か……。

「匙。ヴリトラプロモーションで奴を倒せ」

「おう! て、なんでお前知ってんだ」

しまった……ヴリトラプロモーションを実際に見たのは、

あの妙な夢の時だけだったな……アザゼルに聞いたということにしておくか。

「アザゼルに聞いたんだよ。九尾は任せた」

「まあ、よく分からねえけどまかせろ! ヴリトラ・プロモーション!」

全身から黒い炎を放出し、匙は巨大な一体の漆黒のドラゴン、ヴリトラへと変化した。

力はほかの龍王に比べて低いが多彩な能力が、

その低い力を補っていると聞く……どんな力があるのか、見せてくれよ。

「じゃあ、私はエクス・デュランダルを試すか」

「それが新しいやつか……木場、ゼノヴィアはあの白髪を。

ロスヴァイセはあのガタイがでかいやつを、イリナはあの女を。頭は俺が叩く」

『了解!』

俺の指示を受け、仲間たちが英雄派の連中とともに他の場所へと向かった。

ヴリトラもすでに九尾と戦闘を行っており、赤色の炎と黒色の炎がぶつかり合っていた。

『フレイム・ドラゴン。ボー・ボー・ボーボーボー!』

赤色の鎧を着るとともに魔法陣からアスカロンを取り出し、

曹操にアスカロンの刃を向けると、楽しそうな笑みを浮かべ、

曹操は槍を握って俺のもとへと駈け出してきた。

「行くぞ、ウィザード!」

最強の槍とドラゴンスレイヤーがぶつかり合い、

周囲に聖なるオーラがブチまかれ、地面を抉っていく。

それを何度も行うために開始早々で俺達の周囲の地面は瓦礫が大量に生み出された。

「九尾を使って何をする気だ」

曹操と鍔迫り合いを行いながらも俺は奴に質問した。

「この京都と九尾を使い、グレートレッドを呼びだすのさ! 

幸いにも龍王、天龍がいる! 俺達が作り上げた方法と組み合わせれば、

直にグレートレッドはこちらに来るだろうさ!」

曹操はいったん、距離を取ると槍の先端を俺めがけて伸ばしてくるがそれをアスカロンで弾き、

手に生み出した炎を奴めがけて放つがそれは簡単に避けられる。

最強のセイグリッドギアを使っていう影響なのか、

身体能力は人間のそれを大幅に超えているようだな。

本当にどこからこいつらは情報を得ているんだ。

俺の中に眠るドラゴンが二天龍の一匹であることも。

「はぁ!」

槍を大きく振るったかと思えば、

ゼノヴィアのような破壊力満点の聖なるオーラの衝撃波が俺めがけて飛んでくる。

『ディフェンド・プリーズ』

『フレイム・スラッシュストライク! ボーボーボー!』

「ぬぉぉ!?」

破壊力満点の衝撃波をディフェンドで防ぎ、その直後に上空へと跳躍して、

アスカロンの刃に手を置いて、炎で刃を包み込ませ、炎の斬撃を飛ばすが、

槍とぶつかりあい、爆発を起こして消滅した。

直撃はしなかったものの、爆風でいくらかは傷はおったか。

「むぅ、案外気に行っていた服だったんだがな」

「安心しろ。あの世で思う存」

そこまで言いかけた時に、背後に魔力を感じ、

そこから飛び退くとさっきまでいた場所に拳が叩きつけられると同時に爆発が起きた。

あいつは確か、ロスヴァイセとやっていたはずだろ。

「チッ! 外したか」

「下手くそね。あたしなら傷は負わせたわよ」

「無理だよ。君たちじゃバランスブレイクした状態で束になっても傷一つ負わせられないさ。

曹操じゃないと彼とは互角にはやれないだろうね」

次々と俺の仲間たちと戦っていた奴らが俺と曹操が戦っている場所へと集まっていく。

周囲を見渡してみると傷を負った木場達が地面に突っ伏したのが見えた。

…………なるほど、英雄の魂を受け継いだというのはガセでもなく本物……なのかは、

未だに疑問が残るが最強のトップのお仲間さんはお強いという訳ですか。

「んじゃあ、バランスブレイクで行くぜ!」

直後、ガタイのでかいやつの魔力が大幅に上がり、

全身から突起物が次々とその姿を現していく。

「俺の名はヘラクレス! そしてセイグリッドギアはバリアントデトネイション! 

バランスブレイクはめんどくさいから実際に見やがれ!」

ヘラクレスと名乗った男からすさまじい数のミサイルのようなものが飛んでくる!

炎を集め、ドラゴンの形を模した火炎を放ち、

こちらへ向かってくるミサイルのような爆発物を一気に破壊していく。

「っ!? ちっ!」

爆発によって生み出された煙から真っ白な姿をしたドラゴンのようなものが、

俺めがけて飛んで来た!

どうにかアスカロンで受けたものの徐々に俺を後ろへと引きずっていく!

よく見たらこいつ、刀で出来ているな。おそらくあの女の力だな。

「聖剣の集まりか。砕けろ」

『フレイム・スラッシュストライク! ボーボーボー!』

ゼロ距離から炎の斬撃を直撃させ、聖剣の集まりのドラゴンを叩き潰すが今度は上から、

魔力を感じ、上を見上げると六本の腕を生やした白髪神父が腕と、

同じ数の剣を持って急降下してくる!

『コピー・プリーズ』

アスカロンをコピーで二つに増やし、防ぐが流石に数が三倍も違うのはヤバい。

『ライト・プリーズ』

「うっ!」

間近で強い光を受けた白髪の目が回復する間に俺はいったん、奴らから距離を取った。

ちっ! どいつもこいつもバランスブレイクを好き放題にやりやがって。

ここはバーゲンセールをしているスーパーじゃないんだぞ。

「流石にウィザードと言ってもバランスブレイク状態の三人と、

最強の槍を持つ俺と戦えばどうなることやら」

「けっ! ウィザードとか聞いたから期待したのによ!」

「ほんと、それよ。てんで弱いじゃない」

「雑魚はペラペラと喋る…………あまり、有頂天にならない方が良い。

後で恥ずかしくなって黒歴史になるかもしれないからな」

『コネクト・プリーズ』

俺は傍に魔法陣を展開させ、そこへ手を突っ込んで目当ての物を取り出した。

『ドラゴタイム・セットアップ』

それを手に装着し、タイマーを一回転させるととそんな音声が辺りに鳴り響いた。

「さあ、ショータイムだ!」

『スタート!』




お久しぶりですねん。新しい時間割が凄いでんねん。
火曜日フルタイムとか(笑)


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第六十八話

「何をするかは知らないが」

白髪の男の斬撃を受け止めると、タイマーからドラゴンの咆哮が聞こえ、

手の形をしたレバーを押した。

『ウォーター・ドラゴン!』

「なに!?」

その直後に白髪の背後から水色の魔法陣が出現し、

そこから水色の鎧を身に纏ったもう一人の俺が姿を現わし、

二人同時に剣を叩きこんでいく。

だが、腕の数が根本から違うために刃をあてることはできない。

「まかせた」

「ああ」

俺は水色の俺に白髪を任せ、残りの三人のところへ駆け出すと同時にドラゴンの咆哮が聞こえ、

レバーを押す――――――。

『ハリケーン・ドラゴン!』

「さ、三人!? 嘘でしょ!」

女の頭上に緑色の魔法陣が出現し、そこから風を纏った三人目の緑色の鎧を纏った俺が出現し、

逆手に持った剣を叩きこんでいく。

俺もそれに加勢しながらもガタイのでかい男と曹操に注意を向けている。

「あぁもう! めんどくさいから俺のミサイルで死ね!」

『ランド・ドラゴン!』

ヘラクレスが全身から突起物を生やし、爆発物を俺めがけて凄まじい数を放ってくるが、

レバーをもう一度押すと、俺達の前に黄色の魔法陣が地面に現れ、

そこから地面が壁のようになって盛り上がり、

爆発を防ぐと同時に黄色の鎧を身に纏った俺が出現した。

「俺もいたりして。はぁ!」

俺が曹操を、ウォーターが白髪野郎を、ハリケーンが女を、

ランドがヘラクレスを担当し、それぞれ乱戦を始めた。

「はっ!」

「うおっ!」

ウォーターが魔法陣から大量の水を放出し、

白髪を吹き飛ばすと同時に水浸しにし、ブリザードを発動させる。

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

「ジークフリート!」

水浸しになったせいもあり、普段よりも早い速度で全身が凍てついていき、

あっという間に氷の彫刻と化した。

これで残りは三人だ。

「はっ!」

「きゃぁ! な、なによこれ!」

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

その場で一回転して巨大な竜巻を生み出し、それで女を捕らえた直後にサンダーを発動させて、

その竜巻へとぶち込むとドラゴンは竜巻の回転に合わせて回転していき、、

その速度が最大にまで上がった瞬間! 竜巻が一気に伸縮し、大爆発を起こした!

残りは二人だ。

『チョーイイネ! グラビティ! サイコー!』

「おぉぉ! か、体が!」

「ヘラクレス!」

「おっと、どこへ行く」

仲間を助けに行こうとした曹操を、俺自身が壁となって立ちはだかり、

その場で通行止めをしてやった。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「だぁ!」

「がっ!」

何倍にも膨れ上がった重力により、動けないでいるヘラクレスの腹部に、

エレメントを纏わせた鋭い蹴りをぶちこむと、鈍い音が響き渡り、

口から血反吐を吐いてヘラクレスは地面に突っ伏した。

「ちっ! まさか一人で三人を倒すとは」

『ファイナルタイム!』

その音声が聞こえ、四人同時に曹操に斬りかかっていく。

曹操も槍で四人分の剣を防いではいるが、徐々に余裕の表情は消え、

焦りが見え始めた頃には体にも傷はいくつも付いていた。

「悪いがこれで終わらせる」

『ドラゴン・フォーメーション!』

曹操が距離を取った直後にもう一度、

レバーを押すとそれぞれの俺の背後にエレメントに合った魔法陣が出現し、

そこからドラゴンの幻影が現れて俺達のスペシャルでの武装となった。

スペシャルフィナーレだ。

「はっ!」

胸のドラゴンの頭部の口から炎を吐きだすが奴は槍をぶつけて炎を聖なるオーラの爆発で、

かき消す……が、そこからウォーターの龍の尻尾の払いを受けて態勢を崩し、

そこに翼を生やしたハリケーンの暴風により吹き飛ばされた。

「ちっ! めんどく、ぐあぁ!」

曹操が喋ろうとしたときに地面からランドが出現し、クローで曹操を切り裂いた。

「「「「フィナーレだ」」」」

『フレイム』『ウォーター』『ハリケーン』『ランド』

『スラッシュストライク!』

「はぁ!」

四人全員集合し、同時にスラッシュストライクを発動させて、

四人分の属性を纏った斬撃を一気に飛ばした。

「ぐあぁぁ!」

曹操も槍で防ごうとするが、四人分全ての攻撃を完全に防げるはずもなく、

二発ほどその身に受けた。

一発は腹部に、そしてもう一発は奴の目にあたり目を潰した。

「曹操!」

「兵藤一誠っ! ぐあぁ!」

霧使いの男らしき人物が痛みと憎しみで暴れる曹操を何とか抑えつけていた。

「さて、向こうはと……」

匙の方を見ると九つの尾に首を絞められ、苦しそうにもがいていた。

『我が分身、力を入れろ』

『つっても、この状態じゃ!』

「はぁ……気合い入れろ匙!」

数年ぶりに声を張り上げ、叫ぶと匙は首を絞められながら眼だけをこちらに向けた。

「そんな、腰引けた状態で勝てるか! 

会長の卷族だって言うんだったらもっと気合い入れて戦え!」

『…………あぁ、そうさ! 俺はシトリー卷族のポーン! 匙元仕朗だ! ぬおぉ!』

黒い龍の全身から漆黒の炎が放出され、九尾の尾に引火し、

メラメラと炎を上げて燃え始めた。

ただの炎ではないらしく九尾の皮膚に何かしらの傷が付いているわけではないが、

徐々に首を締めあげていた尾の力が弱まっているのか拘束が緩くなっているように見える。

なるほど……力を奪うのか。

『喰らいやがれぇぇぇぇ!』

ドラゴンの口が大きく開かれ、そこから漆黒の炎の球体が放たれて九尾に直撃すると、

九尾の全身が漆黒の炎に覆われた。

『どうだ! これが俺の気合いの一撃! 名づけてヴリトラ砲だ!』

もう少しましなネーミングはなかったのかと言いたいところだが、

まあ本人が納得しているのであればよしとするか。

漆黒の炎に包まれた九尾は最初は激しく抵抗してはいたものの徐々に炎に力を奪われていき、

最終的には力が尽きたのか炎が消えると同時に地面に突っ伏して動かなくなってしまった。

「ぐっ! 九尾がやられたか……くそっ! 時間的にもうここにはいられない。ゲオルク!」

霧使いの男性が曹操の怒鳴り声にうなづくと俺が倒した奴らに霧をかぶせ、

己と曹操にも同じものを被せた。

曹操は霧に包まれながら鬼のような形相で俺を睨みつけてくる。

「兵藤一誠っ! 次に合う時を覚えていろ。その時は……必ず君を殺す!」

その言葉を残して曹操率いる英雄派のメンバーはこの場所から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしたものか」

「母上! 母上!」

曹操達の束縛から解放されたはずの九尾だが戦いが終わってから十分ほど、

経っても意識を取り戻す気配なかった。

必死に九重が呼びかけるも反応は無し…………一度、

九尾の中に入って原因自体を取り除くしかないか。

「九重。おれと一緒に九尾の中へ入るぞ」

「じゃ、じゃがどうやって」

『エンゲージ・プリーズ』

俺は九尾の手を握ると九尾の腹部の上に大きな魔法陣が展開された。

九尾と同じように寝ている匙を木場達に任せ、

九重を抱きかかえて俺はその魔法陣へと飛びこむと、下へと落ちていく。

真っ暗で何も見えない中落ちていくこと数分、突然景色が白に変わったかと思えば、

速度が失われ、地面に着地した。

すると突然、地面から黒い煙が噴き出し、

うめき声とともに大量の黒い人の形をしたものが作り上げられて、こっちへと歩いてきた。

「成程、あれが原因か」

近づいてきた一体をアスカロンで切り裂くと黒色だったものが消え去り、

狐の妖怪が一瞬だけ姿を現して消え去った。

……つまり、あの中に九尾がいると。

「九重。あの中に九尾がいる。探しだせるか」

「……やってみせる!」

俺は九重が母親ではないと判断した奴らを切り裂いていく。

それらはタヌキだったりカラスだったりするが、

数ではあっちが圧倒的に上なほかにドラゴタイマーで魔力を消費したために、

あまり魔法を連発できない状態にあった。

「母上! どこですか!」

「九重! 伏せろ!」

『ビッグ・プリーズ』

「はぁぁぁ!」

ビッグでアスカロンの刀身を巨大化させて、

大きく振るうと九重に襲いかかろうとした奴らを一気に切り裂いた。

「九重! どうした!」

突然、九重が母を呼ばなくなってしまった。

「……もう、無理じゃ。母上の姿は見えない……」

「あきらめるな!」

切り裂きながら、本日二度目の怒声を上げて九重に喝を入れる。

「あきらめるのは簡単だがな! 母親を失ったときに取り戻そうとするのは無理なんだ! 

ここで諦めたら二度と九尾は! 母親は戻ってこない! 

母親が大好きだって言うんだったら! 取り戻してみろよ! その手で!」

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「だぁぁぁ!」

足に炎を纏わせ、一体を蹴り飛ばして奥の方へと吹き飛ばして、

その爆発で複数体を道連れにした。

「俺にはもう母親はいねえんだ」

「え?」

「この前、病気でな。俺も最初は絶望した……毎日毎日母さんのこと考えてた。

でも、俺には仲間がいた。絶望から救ってくれた希望が。

九重、お前にだって仲間はいるはずだ。その仲間まで絶望させていいのか」

「…………母上」

「聞こえない」

「母上! どこですか! 母上―――――――!」

九重の叫びが頂点にまで達したとき、

一体だけ他の奴らとは雰囲気が違う奴がこちらへと歩いてきた。

「あ、あれじゃ! あれから母上の声が聞こえる!」

「走れ九重! 俺が護ってやる!」

魔力……持つといいんだけどな。

『ハリケーン・ドラゴン。ビュー・ビュー・ビュービュービュー!』

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

走っている九重を避けて周りにいる黒い奴らをサンダーで一掃していく。

そして、九重が母親と言い張る黒い奴の目の前に立ち、その手を握った。

「母上! 見つけましたぞ!」

直後、その黒い奴が光輝き、徐々に黒いものがポロポロと落ちていき、

背後から九つの尻尾が生えた。

それに伴い、周りにいた黒い奴らも消滅していく。

『九……重』

「母上!」

母とようやく再開できた喜びからか、九重は涙を流しながら母親に抱きついた。

『九重……先に行っているぞ』

そう言って、九重の母親は光となってこの空間から消え去った。

そろそろ、この空間も用済みか。

「九重、帰るぞ」

「うむ!」

俺は九重を抱きかかえて傍に展開した魔法陣を通った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、全てが解決した俺達は京都駅へと向かって歩き始めていた。

その後、九尾は順調に回復し、アザゼルの検査でも問題なしと判断された。

京都周辺を警戒していた部隊と交戦していた英雄派も曹操がやられたことを知れば、

速攻で帰っていったらしく、捕らえる事が出来たのは下っ端の奴らだけらしい。

「イッセー君。帰ってから鍛錬の相手を頼んでいいかな」

「良いぞ。徹底的に苛めてやる」

そう言うと、木場は苦笑いを浮かべながら一足先に京都駅へと向かった。

「ウィザード殿。京都を救ってくれたこと、感謝いたす」

「いえ。そんな大層なことは」

「そうじゃぞ! お主は京都の英雄じゃ! もっと胸を張れ!」

「そうだな……でも、母親を救ったのはお前だ。お前も胸張れよ」

「も、もちろんじゃ!」

九重が顔を赤くしたところで新幹線が発車するベルが鳴った。

「じゃあな、九重」

「うむ! また京都に来てくれるか!?」

「ああ、必ず」

そう言うと、九重は満面の笑みを浮かべた。

京都の英雄か…………一組の親子を救った英雄……の方が、

しっくりくると思うのは俺だけかもな。

俺はドアの窓から一瞬だけ見えた景色を見てそう考え、席へと向かった。




今回は区切り良く二話更新です。それでは。


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第六十九話

「あ! イッセー様!」

『『わんわん!』』

スコルとハティを迎えに行くために久しぶりにリアスとともに冥界に来た俺。

俺と再会できたのがそんなにうれしいのか、二匹は俺に飛びかかってくるとペロペロと、

凄い勢いで顔を舐めてくる。

「あらあら、すごいことになってるわね。イッセー」

「そうだな……ま、ミリキャスとも仲良くやれてるみたいで良かったがな」

リアスから受け取ったタオルで顔を拭きながら向こうを見ると、

ミリキャスを背に乗せたスコルが屋敷の庭を走り回っている様があった。

ちなみにハティはさっきからずっと、俺にベッタリくっついている。

卷属たちには懐いたこいつらが他の奴らには懐くか心配だったんだが

それは杞憂に終わったらしい。

もしくはあの二匹には善悪が判断できるのか……ま、良いか。

「あら、イッセーさんも来ていたんですね」

「お、お母様!」

後ろから声が聞こえ、振り返ってみるとそこには亜麻色の髪をした部長のお母様が立っていた。

「やけに庭がにぎやかだから来てみたら、イッセーさんが来ていたんですね」

「お邪魔しています。部長、俺は少し」

「ストップ」

リアスに話しかけている最中に部長のお義母さまから止められた。

「イッセーさん。これからは私の前ではリアスと呼んでいただいて結構です。

あと、私のこともお義母さまと呼ぶように」

……なんか、もう俺グレモリー家の婿養子に来たような扱いだな……まさか、

まさかのそれがリアルになることは……。

「リアス、教育がなっていないのではなくて?」

「も、申し訳ありません。しかし」

「そこで『しかし』が入るのですか? 伴う男子を入れるのですから、

そこはしっかりとしなくてはならないのでは? 

朱乃さんやアーシアさんは少なくともそうなのでしょう? 

強くてかっこいい男性に女性が集まるのは自明の理。

それを管理するのも当主であるあなたの役目ではないの?」

リアスは母親のマシンガントークに顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにしながらも、

頭を何度も下げて聞いていた。

何か俺には理解できないでかいことがグレモリー家の内部で着々と進行しているような……。

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、俺は一年生の教室の前にいた。

無事に中間テストも、その後に行われた全国模試でもすべて満点を取ったので、

登校義務免除生は継続されることとなったのだが、

大事なお客さんが一年生に転入してきたというので様子を見に来たわけである。

「もしかしてあの人が例の」

教室を見るや否やヒソヒソと声が聞こえてくる。

今更、噂はどんなふうに流れているのかは知ったことではないがな。

教室を見てみるとひたすら無心に羊羹を食べている子猫と端っこの方で段ボール箱を、

ジーッと見ているギャスパー、

そして多くの生徒に囲まれて困惑状態の転入生―――――レイヴェルがいた。

小猫とレイヴェルは良いとして、ギャスパーよ。お前はなんで段ボール箱をジッと見てるんだ。

「あ、イッセー先輩。どうかしたんですか?」

俺に気づいたギャスパーがトコトコと俺のもとへ歩み寄ってきた。

「様子を見に来ただけなんだが……なんでお前は段ボール箱をジッと見ているんだ」

「えっと、品定めならぬ箱定め?」

「まさか、周辺のスーパーから良さそうなものを取ってきたんじゃないだろうな」

そう言うとギャスパーは数秒、間を開けた後にニコッと笑みを浮かべた。

どうやらそうらしい。

はぁ。息子の将来を心配する母親の気持ちはこんな感じか……まあ、

完全なる一人ぼっちじゃないみたいだから良いが。

「おはようございます。イッセー先輩」

「ああ、お前はなんで無心で羊羹を食べ続けている」

「荒ぶる精神を抑えるためです」

小猫の視線が向いている方向を見るとそこにはレイヴェルが……なるほど、

どんな感情を抱いているかは知らんがレヴェルが気に食わんと。

肝心のレイヴェルは外国の転入生というもの珍しいものに群がってくる女子生徒の裁きに少々、

戸惑っているようだった。

「何が気に食わないかは知らないがあいつが友達に困らなくなる程度になるまで、

学校とかのことを教えてやってくれないか」

「……まあ、先輩が言うのであれば」

「悪いな。俺がやっても良かったんだが……いろいろと、

めんどくさい輩が絡んでくるだろうからな」

そう言うと、小猫はどこか悲しそうな表情をして俺を見てきた。

「先輩は……悲しくはないんですか?」

「……別に。弱い奴はそう言う噂を茶化したいんだよ。

それに少なからず、俺にも友人はいるしオカルト研究部の奴らがいればそれで十分だ。

じゃあ、また放課後な」

小猫の頭を二度、三度撫でてから俺は部室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、作業を始めるわよ!」

その一声から女性陣は旧校舎の清掃兼飾り付け、男どもは文化祭で使用する際に必要な、

物資などの買い出し、および木材の切断が役目としてあてられている。

買い出しはギャスパーとスコルに任せ、俺と木場、

そしてハティは旧校舎の近くでノコギリで木材を切断していく。

ちなみにハティは出来上がった木材を持っていってくれる運搬役。

「イッセー君。ディハウザー・ベリアルを知っているかい」

「ああ。不動のランキング一位で本物の怪物。ベリアル家始まって以来の化け物で、

長期間最強の座に座っているやつだろ?」

「そう。ランキングは二十位以上が別次元とされ、トップテン内に入れば英雄とさえ、

称される中でベスト3は本物の化け物と称されている最強集団だよ。

1位、2位、3位は大規模な戦闘が起きない限り動かないとされているけどね」

3位のアバドン、2位のベルフェゴール、そして1位のベリアル。

最上級悪魔の中の最上級悪魔と称され、その力は4大魔王にさえ、

匹敵すると言われている悪魔の最強クラスの10人。

上級悪魔になって独立した場合はこいつらが壁となるのか。

「それよりも今はサイラオーグだろ」

「そうだね。若手の最強を決める戦い。

ここで勝てば大きなアドバンテージになることは間違いないよ」

木場はハティの頭に出来上がった木材を乗せながら言う。

「あちらも鍛錬をするタイプだからグラシャラボラス戦時のビデオはあてにならないね」

「そうだな。まあ、戦いに勝てばいいだけの話だ」

俺はハティの頭に出来上がった木材を乗せながらそう言う。

木場もそれに頷きながら、出来上がった木材をハティの頭に乗せた瞬間、

突然、『グヒャ!』という声が聞こえ、

何事かと振り向いて見ると出来上がった木材に埋もれているハティがあった。

『ワン!』

「ごめんごめん」「悪い」

人生で初めて動物に叱られた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あくる日の朝、俺はリアスに連れられて冥界のシトリー領にあるとある病院に向かって、

リムジンで向かっていた。

どうやらリアスは誰かの見舞いに行くらしく、俺はその付添らしいのだが、

誰の見舞いなのかについてはかたくなに話そうとしなかった。

やがてリムジンが停止し、リアスについていってある病室へと入る際にチラッと、

ネームプレートを見たときに書かれていたのは『ミスラ・バアル』

「ごきげんよう。おばさま」

悲哀に満ちた声で話しかける先には人工呼吸器のようなものを取りつけられ、

ベッドの上で眠り続けている女性だった。

バアルということはまさか……サイラオーグの親族。

「この方はミスラ・バアル様。サイラオーグ様の母です」

後ろから声が聞こえ振り返るとそこには執事服を着た中年男性。

「サイラオーグは生まれたころから消滅の魔力を持たなかったの。

それでバアル家は汚点だとしてサイラオーグを監禁にも近い状態で外には出さず、

おばさまとも引き離す……その条件をバアル家から叩きつけられたおばさまはそれを拒絶し、

サイラオーグを引きつれてバアル家の辺境へと下がったの」

「ですが、サイラオーグ様が中級の悪魔にも闘えるようになった年頃に、

眠りの病を発病なさったのです」

何か込み上げるものがあるのか中年男性は眼から涙を流しながら、

震える手でどうにかして花束を持っていた。

「お二人をお呼びしましたのはほかでもありません! 

ミスラ様の治療にお力を借りたいのです! 

兵藤様は未知の魔法を使うとうわさを聞いております」

なるほどね。未知の魔法を使う俺ならば眠りの鎖から、

解き放つすべも持っているのではないかと……。

「残念ながら病気を治すことはできませんが……ミスラ様の中に、

入って心を覗くことは可能です」

「構いません!」

その言葉を聞き、俺はミスラ様の手を握り締め、魔法を発動した。

『エンゲージ・プリーズ』

「少し行ってくるぞ」

「ええ」

そう一言言ってから俺は魔法陣に飛び込んだ。



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第七十話

エンゲージを発動し、彼女の心の中へはいりこむと以前の九尾とは打って変わり、

心の中は自然が溢れる場所だった。

綺麗な花や大きな木などが辺り一面に生い茂っていた。

ここがサイラオーグが幼少期を過ごした場所か。

だが、俺はあることに気づく。

「自然が動いていない」

少し歩いていくがどこもかしこも全ての時間が停止した状態にあった。

雲も、川の水も、この世界に存在している全ての存在がその動きをまるで、

何かに止められているかのように止まっていた。

『眠っていれば時は止まる。だからこうなってんのさ』

俺以外の声が聞こえ、後ろを振り返るとそこにはフードを深くかぶった人物……いや、

俺自身がそこに立っていた。

『そう不思議そうな顔をするな。俺はお前の負の感情があれば何度でも復活する。

別に憎しみじゃなくていいんだよ。少しのイライラで良い。

ま、あの時みたいにお前の中で暴れるほどはないがな。

あの時は特別、お前が憎しみを持ったから暴れられただけだ』

「そうか……お前はどう見る」

『さあな』

俺はフードを被った奴と共に少し歩いていくと一つのボロイ家屋の前にたどり着き、

中に入るとそこには誰の姿もなく、蛇口から出ている水が空中で停止していた。

バアル家は魔王を除けば、

最上級の家系……その豪勢な暮らしぶりからの落下具合は想像以上のものだったろう。

人は生活の質は上げられるが質を下げることはできない。

出来たとしても不憫に感じるだけだ。

ふと、視線を動かすと全てが停止しているこの空間の中で唯一、

動いているものを見つけた。

それは本当にちっぽけなものだが息子の状態を知ることができるもの。

そして、その状態を知ることのできる物の前にミスラ様が横になって眠りについていた。

「…………どうやら俺達の入る領域はここまでのようだ。俺は戻る」

『そうかい。んじゃ、俺も消えますかね』

俺が魔法陣を抜けると同時にフードを被った奴も消滅した。

 

 

 

 

 

 

「イッセー」

外の世界へ出るとリアス、執事さんのほかにサイラオーグもいた。

俺が中に入っている間にサイラオーグも来たってわけか。

「ごめんなさい、サイラオーグ。ゲーム前だというのに」

「いや、構わん。来てくれただけで十分だ」

病室の中で話すのもあれなので病室から出てすぐのところにある、

大きなソファに座りながら話をしていた。

権力争いは上流階級の家ならばどこでも、

存在するものだと考えていたが……想像以上のものだった。

奴自身は軽いことのようにふるまってはいるがな。

「俺には体しかなかったんでな。ある意味、今回の戦いは最後の試練だと考えている。

魔力を持たない俺と膨大に魔力を持つ兵藤一誠」

正反対の位置に存在する者同士が戦うゲームか……最強を決めるだけではなく、

ある意味では奴にとって最後の試練か……あながち間違いではないな。

それにこの試練が終わればおそらくは……。

「リアス、帰るぞ」

「ええ、じゃあまた」

「ああ、手加減は無用だぞ」

そう、一言言いあって俺たちは病院から出て、

外で待機していたリムジンに乗り込んだ。

「イッセー。おばさまの様子は」

「俺達が手を出していい領域じゃない。まあ、見てろ」

俺はそれだけ言って後は何を聞かれても答えなかった。

あれは息子と母だけしか入ることが許されていない領域……ミスラ様の中で、

“あれ”だけが動いているのであれば、恐らく今回のゲームの状況も映し出されるはずだ。

そうなればきっと。

「……貴方はどんどん、遠くへ行くのね」

「何か言ったか」

「いえ……なんでもないわ」

ふと、ボソボソと聞こえ、尋ねるが彼女はそれだけ言って外の景色に視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウォータードラゴン!』

その日の夕方、俺はドラゴタイマーを利用して二人に別れると木場と、

ゼノヴィアとの同時戦闘を行っていた。

一人づつやる予定だったんだがそれでは効率が悪いと考えたので、

俺がこの方法を考案した。

「はぁ!」

『ディフェーンド・プリーズ』

ゼノヴィアが放ってきたエクス・デュランダルからの破壊力満点の衝撃波を、

膨大な水を集めて作った分厚い壁で防ぎ、斬りかかるが剣の刀身で防がれた。

木場の方は俺自身が担当し、

コピーで二つに分けたアスカロンを振るいながら木場の斬撃をいなしていく。

「これならどうだ!」

木場が地面に剣を突き刺したかと思えば、

そこから地面が凍っていき俺の両方の足が地面に縫い付けられた。

さらにそこから、電流を放っている聖魔剣を作り出し、

地面に突き刺して内部から俺を攻撃しようとしてくる。

「甘いな。はっ!」

俺は全身から炎を吹き出し、凍りついていた足を解凍して、

いまにも地面に剣を突き刺そうとしていた木場に斬りかかるが、

ナイトの特性の高速移動で距離を取られたことにより、剣は空を切り裂いた。

『ファイナルタイム!』

「さあ、締めに入るぞ」

『ドラゴンフォーメーション!』

レバーを弾くと、俺達の背後にそれぞれのエレメントの色をした魔法陣が出現し、

そこから炎を纏ったドラゴンの幻影と水を纏った幻影が現れ、

スペシャルの武装へと変化する。

「はっ!」

空中に浮き、そこからドラゴンの炎を放射するが木場が作り上げた水の聖魔剣により、

若干炎の威力が下げられたことにより決定的なダメージは与えられずじまいに終わった。

さらに、ウォーターのドラゴンの尻尾による攻撃はエクス・デュランダルの衝撃波と、

ぶつかりあうが、そのまま時間切れとなりウォーターが消滅。

そこで鍛錬が終了となった。

「し、死ぬかと思った」

珍しくゼノヴィアが額に汗をかきながらそう言った。

木場も似たような感情を抱いているらしく、

苦笑いを浮かべながらもゼノヴィアの言ったことに頷いていた。

「そこまでのことか?」

「まあね。イッセー君って鍛錬の時も全力で来るから」

「まあ、その分臨場感は味わえるしより一層、鍛錬には集中できる」

昔、母さんにたとえ本番だろうが練習だろうがいつ何時も、

自分が出せる力の全てを出しなさいって教育されたからだな……教育のたまものというか。

「むしろ、私はイッセーの魔力が尽きないところが不思議で仕方がない」

「これでも疲れてるんだよ。こいつはかなり魔力消費するからな」

まだ二人くらいに分かれるならばまだしも、四人に別れ、

なおかつドラゴンフォーメーションをした時の魔力消費は半端なものではなく、

こいつで四人出したときは絶対に仕留めるか、

その間に何らかの方法で魔力を回復させるかだな。

あまり、乱発はしない方が身のためという訳か。

「イッセー。セイグリッドギアは使わないのか?」

「…………俺の魔法だけじゃ倒せない相手に遭遇した時はこいつも併用することにしている」

恐らくその時はヴァーリとの決着をつける時くらいか……いや、

サイラオーグや曹操との戦いのときにも使うかもしれないな。

「よし、もう一本」

「といきたいけど今日はここまでよ」

ゼノヴィアが立ち上がろうとしたときに背後から声が聞こえ、

振りかえってみるとそこにはリアスが立っていた。

「今日は会見よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

鍛錬を切り上げ、俺達はグレモリー領にある高級ホテルの待合室的なところで、

記者会見が行われるのを待っていた。

なんでも、注目度ナンバーワンのゲームの前の意気込みを聞く会見らしい。

女性陣は鏡の前で化粧、男性陣は制服に着替えて記者会見が始まるのを待っていた。

で、その女性陣の中で何故か小猫は俺の膝に座っていた。

「今日は荒ぶる精神を抑える羊羹は良いのか?」

「はい。今日は焼き鳥がいないので……ある意味、荒ぶってはいますが」

どうやら俺は羊羹代わりらしい。

と、ドアがノックされ、スタッフらしき男が入ってきた。

「お時間でございます」

スタッフの先導のもと、

会見場へと入った俺達に襲いかかってきたのはピリッとした空気と多くの視線だった。

既に用意された座席にはバアル卷族が座っており、その隣に設置された座席の中央にリアス、

その左に朱乃、右側に俺が座った。

進行役によって改めてゲームの開催日、およびその概要などが伝えられ、

記者達の質問がリアスやサイラオーグなどに向けられる。

二人とも次期当首としてか真剣な面持ちだった。

『では、ここでウィザード候補の兵藤一誠さんにも質問をしたいと思います。

やはり、今回のゲームでも未知の魔法を使われるのでしょうか』

「使わざるを得ないでしょうね。なんせナンバーワンを決める戦いで、

手を抜いて勝つことなど不可能ですから。相手は若手ナンバーワンと名高い相手。

俺もすべてを出し切って戦いに挑みます」

そう言うと、記者達は先ほどよりもペンを動かしてメモ帳に書き記していく。

そこまで俺の魔法に興味があるのか……。

そんな感じで記者会見は進んでいった。



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第七十一話

翌日の夕方、俺達はサイラオーグとのゲームについての話をしていた。

「サイラオーグはポーンを滅多なことで使わないらしい。

噂ではそいつはポーンの駒を六つか、七つは消費している」

アザゼルの発言に部員達は各々、驚きの意を示していた。

ロンギヌスを宿している俺が八つ消費したということは、それに追いつくほどの才能、

もしくは強さを持った奴が転生していることになる。

ロンギヌスを宿した奴なのか、またはそいつが生来持っている可能性があまりにでかいのか。

「当日は気をつけろよ。どんなどんでん返しが待っているか分からねえからな。

それにこのゲームはどの勢力も注目している。会談テロ、悪神ロキ、

京都での事件を解決してきたお前たちと同じくテロリストを追い払っているチームの戦いだ。

現トップランカーも将来の敵となりうるお前達を観察に来ているからな」

そこでミーティングは切り上げられ、アザゼルとロスヴァイセは。

まだ教師としてやるべきことが残っているらしく、職員室へと向かった。

残った俺達は文化祭の準備をする―――――ふと、視線を向けるとちょうどリアスと目が合うが、

彼女はすぐに目を反らして書類に目を落とした。

以前までなら微笑んでいたんだがな……何か思いつめているのか?

「リアス、何を思いつめているんだ」

俺は作業を中断させ、彼女のもとへと歩いていき、そう尋ねるが

彼女は何もないと言い張る。

「そんな顔で何もないってか」

「ええ、何もないわ……私なら大丈夫」

「大丈夫ならそんな顔は」

「私は大丈夫なの!」

突然、リアスは机をたたいて叫んだかと思えば、急に眼から涙を流し始めた。

突然の彼女の叫びに作業をしていた奴らは中断せざるを得なくなり、

全員が俺とリアスに視線を集中させていた。

「貴方はいつも全てを見透かすわ…………私が今考えていることも何もかも。

戦いが起きればいつもあなたが敵を倒していく…………イッセー。

……距離が…………遠すぎる」

そう言って、リアスは俺の傍を通り過ぎていく。

俺は振り返りながら彼女の手を掴もうとするが、もう少しのところで手が届かず、

そのままリアスは部室の外に走り去っていったしまった。

…………俺は…………。

 

 

 

 

 

 

 

その後、いったんすべての作業が中止され、俺以外の部員達がリアスを探しに出ていった。

一人残った部室でずっと考えていた。

距離が遠すぎる…………確かに最近、俺は彼女に何かあっても言わなくなっていた。

京都での事件も俺からは一切連絡は入れず、アザゼルからの連絡で向こうは現状を知った。

戦いが終わった時も俺からは彼女に何一つ話さず、ただ単に結果報告を書類に任せていた。

ミスラ様の時も俺だけがあの人の状態を知り、何も言わなかった。

「…………俺はバカだよ」

自嘲気味にそう言った言葉がよく、響いた。

俺は何も言わなくても付いてくると思っていたんだ……何もせずとも、

向こうの方から来ると……でも、そうじゃないんだ。

俺は……リアスを放置していたんだ。

何がウィザードだ……たった一人の女のことすら気づけていない俺がウィザードなんか、

呼ばれる資格はねえよ。

『クゥゥン』

「ハティ」

後ろからハティの声が聞こえ、振り返ると同時にハティが、

俺の服の裾を軽く噛んで引っ張り出した。

まるで、こっちへ来いと言わんばかりに。

俺はそれに従い、ハティに付いていくと部室を出て、

旧校舎から外へと出る玄関にリアスが立っていた。

彼女の足もとにはスコルが伏せた状態で俺達を待っていた。

『『ワン!』』

どうやら二匹はどうしても俺とリアスの二人で散歩に行かせてほしいらしい。

「……行きましょうか」

「……あぁ」

気まずい雰囲気の中、二匹の散歩が始まった。

普段の散歩ルートを歩いていく最中に一言もしゃべることはなく、

ただただ気まずい雰囲気を互いに出しながら歩いていく。

「……悪かったな、リアス」

「え?」

散歩ルートの折り返し地点に到達したところで俺はようやく、

その言葉を口から出すことが出来た。

「お前が遠いと言ったのは間違ってはいなかった……俺はお前を置いてけぼりにして、

自分だけ先に進んでいた……本来なら隣にリアスを置いた状態じゃないと、

いけなかったにもかかわらず」

「……ううん。あのときは感情のままに吐き出したけど……それは当然のことだったの。

貴方が強くなる速度と私が強くなる速度は違う……ただ単にさっきのは私の我儘だった。

本当なら主として喜ばないといけないところだったのに」

リアスは両目から涙をぽろぽろと流し、必死に流れてくるそれを手で拭いていくが、

それを追い越す形で涙は次々に流れ出てくる。

俺はリアスを胸に押し付けた。

「…………悪い」

「……イッセー…………大好き……愛してる」

突然の告白……俺はそれを聞いて特に驚かなかった。

どこか、彼女が俺に対して抱いている気持ちを気付いていたのかもしれない……それを、

敢えて気付かないふりをしていただけであって……俺は。

「闘いが終わった後に……」

「それでいい……楽しみは後に置いておくものだもの」

そう言い、彼女は満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ゲーム開始日となり俺達は冥界の中をリムジンで走っていた。

ここへ来る途中にもジャーナリストやらファンやらなんやらによって、

若干の遅れは出たものの、試合に影響が出るほどのものではなかった。

リムジンが止まり、ボーイの先導のもと会場となる巨大なドームの隣にある、

高級ホテルの一室に案内された。

俺は飲み物を買おうと部屋から出て自販機へと向かっている最中に、

奥の方から骸骨の集団がこちらに向かって歩いて来ていた。

……骸骨集団の後ろに自販機があるんだがな。

互いに立ち止まったまま譲ろうとはしない。

「退けよ。俺は後ろの自販機に用があるんだ」

そう言うと、骸骨の集団からピリピリとした圧力が送られてきた。

《ファファファ……十数年しか生きておらんガキに言われるとはな》

骸骨といえば思いつくのは……冥府の神、ハーデスか。

骸骨の集団に囲まれている中央の奴がハーデス……なるほど、

凄まじい魔力、それに死線を感じる。

《ファファファファ。魔力の量だけは一品物じゃな。プルートは優に、

超えていると見る……もう百年も経てば私も追い越されるか》

つまり、まだ今の段階では奴の方が強いと……確かに、

奴を見ている限り、俺が勝てると思わないがな。

《ファファファファファ……力の差を自覚しているのならば結構。

今回はただの観客として来ておる。何もする気はさらさらない。

その証拠に死神の鎌はすべて、向こうに置いてきたのだからな》

暴れる意思はないと俺に示した後に骸骨の集団はそのままスタスタと歩いていった。

……斬られれば寿命が削られるという例の奴を冥府に全て置いてきたのか……本当に、

ただの観客としてここに来たみたいだな。

「まったく、貴様の言動と行動には冷や冷やさせられる」

「タンニーンか……サイズは小さいが」

後ろから声をかけられ、振り返ると普段よりも遥かにサイズを小さくしたミニタンニーンが、

パタパタと小さな翼を羽ばたかせて宙に浮いていた。

「兵藤一誠。奴とは対峙しない方が良い」

「ハーデスか」

「ああ、奴は恐ろしく強い。おそらくサーゼクス、

アザゼルが二人がかりで闘ってもそれを退けるかもしれぬ力を持っている」

魔王と堕天使総督を相手にして退けるほどの実力か……確かに今の俺じゃ勝てないわけだ。

「今回のゲーム。お前達が劣っているとも思っていない。どちらが最強なのか、

白黒はっきりつける良いチャンスだ。武運を祈る」

そう言い、タンニーンは小さな翼をパタパタと羽ばたかせてゆっくりと、

観客席にでも行くのか、向こうの方へと向かっていった。

先ほど、案内された部屋に戻るとリアスと誰かが話しこんでいた。

「よう、兵藤一誠」

「ライザーか」

リアスと話しこんでいたのはライザーだった。

以前、リアスの婚約を潰した際に戦ったフェニックス家の……レイヴェルの顔を、

見に来たのが半分、それ以外が半分と言ったところか。

それにしても、大分雰囲気が変わった。

以前は金持ちのボンボンと言った様子がにじみ出ていたんだが今はその感じも、

覗かせながらも野生を感じさせる雰囲気も纏っていた。

「レイヴェルの顔を見に来たのもあるし、今回のゲームのこともある。

今回のゲームはプロの好カードと何ら変わりないほどの注目度だ。

さっき見てきたが観客席は満席になる勢いだ。実践とは違う部分が多く、

戸惑うかもしれんが……お前達の実力を出せばそれでいい」

なるほどね……成熟している悪魔としてのいわば大人のアドバイスという奴を、

未熟な俺たちに教えに来たという訳か。

「ええ、もちろんそのつもりよ……今日の試合は私達が勝つわ」

「……応援してるぞ。それとレイヴェルはリアス並みに我儘だからな。

燃やされないように気をつけろよ、兵藤一誠」

そう言って、ライザーは部屋から出ていった。

その後、ボーイが部屋にやって来て時間であることを俺たちに告げた。

 

 

 

 

 

『さあ、世紀の一戦が間もなく開かれようとしています! まずは、

若手ナンバーワンと称されているサイラオーグ・バアル卷族の入場です!』

直後、観客席からの声援、歓声がこちらにまでビリビリと伝わってきた。

確かにライザーの言っていた通り、観客席はすでに満員に近い状態らしいな。

『お次は何度もテロリストから冥界を救った英雄! リアス・グレモリー卷族です!』

「皆行くわよ!」

リアスの声を合図に俺たちは歩き始めた。

さあ、ショータイムだ。




最近、黒歌かけてない(泣)


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第七十二話

大歓声の中、俺達が見たのは広大な楕円形の会場の上空に浮かぶ、二つの浮島だった。

まさか、あんな狭い島の上で戦うのか……いや、

別に特別ルールか何かがあるんだろ。

『リアス卷族も陣地に上がってください』

そう言われ、目の前のらせん階段を上って浮島に立つと、

向こうのもう一つの島にサイラオーグ卷族が既に座って待っていた。

陣地には人数分の椅子と円卓テーブルが一つ、

そして移動用の魔法陣が常時展開されている状態であった。

『さてさて、今夜の司会を務めさせていただくのは、

元七十二柱のガウジン家のナウド・ガミジンがお送りいたしたいと思います! 

さらに今夜のゲームの審判を務めるのはリュディガー・ローゼンクロイツ!』

宙に魔法陣が現れ、そこから銀髪に長髪、そして正装という出で立ちのイケメンが現れた。

すると、観客席から女性の叫びにも似た歓声が聞こえてくる。

確かあいつは転生悪魔で最上級悪魔にまで上り詰め、

ランキング七位の男だったはず……立志伝的人物という訳か。

『そして解説役として堕天使総督のアザゼルさんとレーティングゲームの王者!

エンペラーことディハウザー・ベリアル氏に来ていただいております!』

画面に映し出された総督と王者。

……あれが将来、俺達がぶつかる最強の存在という訳か。

『では、ルール説明の前にフェニックスの涙についての説明です。

今回、フェニックス家のご厚意と両家からの声援により、

両チームに一つづつ支給されます!』

よく、カオス・ブリゲードのテロが発生している中でフェニックスの涙を、

こんなゲームのために用意してくれたもんだ……いや、逆にこの試合だからこそ用意したのか。

『では、ルール説明に参りましょう。両チームのキングに専用の設置台へと登っていただき、

そこでダイスを振っていただきます。そのダイスで出た目の数を足し合わせた数字の分の価値を、

含んでいる駒を出すことができます。例を挙げると御二方が振った、

ダイスの目が合計で八の場合は駒価値五のルークを一人、

駒価値三のナイトを一名出すことができます。

他にもいきなりポーンを八名出すことも可能です!』

なるほど……つまり、ダイスの目の数の合計によってこちらが有利にもなれば、

向こうが有利にもなることがあるというわけか。

だが、俺がポーン全てを消費しているから俺を出す場合は少なくともダイスの目は八以上。

10や最大目の12ならば俺以外にもう一人くらいは出すことができるが、

8や9になってしまえば俺が単独で出るしかないということか。

まあ、多対一でも俺は構わんが。

『さらにキングの駒価値は委員会の皆様によって決められております!

それがこちらとなります!』

画面に表示されたのはサイラオーグが十二、リアスが八だった。

なるほど、委員会はサイラオーグを高めに評価したわけか……まあ、

逆にいえば向こうが出てくることはほとんどないということだ。

『では、両キング。設置台へ』

審判の言葉に従い、両キングが設置台へと足を運び、

そこでダイスを振った結果が画面に表示された。

二と一……つまり、駒価値三か。

『では、これより五分間の作戦タイムといたします。

その間は観客からも、相手選手からも見えないように設定をいたします』

話し合いの場所へ座ると同時にチラッと大きな画面を見てみるがそこにはただいま準備中、

という文字が表示されて何も映っていない。

「駒価値三となると……ここはゼノヴィアか祐斗に行ってもらうしかないわね」

「単独での出場だとカウンターを受けると速攻で負けてしまうからな……木場。

ここはお前に任せたい」

「もちろん。勝ってくるよ」

そう言い、木場は部長から受け取ったイヤホンマイクを受け取って魔法陣の上に立つと、

魔法陣が光輝きだし、木場をバトルフィールドへと送りこんだ。

俺達は宙に展開された一番大きな画面へと視線を移すと、

広い平原に木場と青白い炎を放っている馬に跨った甲冑騎士の姿があった。

『私は主君、サイラオーグ・バアル様に仕えるナイトが一人! ベルーガ・フルーカス!』

『第一試合! 始めてください!』

審判の声が空間に広がった瞬間、馬が甲高い声を上げてその場から消え去った。

木場は眼だけを周囲に動かし、その場から一歩も動かないまま魔剣を右手に作り出し、

後ろを振り向くと同時に剣を振り下ろすとその場にランスを持った馬とフルーカスが現れた。

『眼だけで我がアルトブラウの速度を見切るかッ!』

馬が消えると同時に木場も足を動かし、その場から消え去る。

直後、空間に金属同士がぶつかり合う金属音が鳴り響き、

平原に大きな穴が次々に生まれていく。

二人は鍔迫り合いをした状態でようやく停止した。

『そこまでの速度をどうやって!』

『僕の仲間のウィザードの攻撃を避けないと死んでしまうものばかりでしてね。

早く避けないとと考えているといつの間にかこのような速度になったんです!』

『ならば、これはどうだ!』

馬が距離を取ったかと思えば、

フルーカスと馬が幾重にも残像を作って木場に向かって突進してきた。

ちょうど良いじゃねえか……今までの成果、見せてやれよ。

木場はバランスブレイクを無言で発動し、

手に聖魔剣を握り締めてそっと目を瞑った。

―――――――――――刹那、木場の姿が消え、

それと同時にフルカースの幻影の一体が姿を消した。

――――――鎮まる会場。

直後、全ての幻影が消えて本物のフルーカスは傷口から煙を上げながら

転移の際に見る光に包まれていた。

『見事』

そう一言言い残して、フルーカスは消え去った。

『第一試合終了! 勝者木場祐斗!』

会場は歓声に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、第一戦を制したグレモリー卷族! このまま勝ち続けるのか!

それともバアル卷族の逆襲が始まるのか!』

司会者が観客を煽っている最中に魔法陣から木場が帰ってきた。

「よく見破れたな。あの幻影」

「まあね……幻影どころか実体が二つにも三つにもなる状況を、

肌で感じていたらすぐに分かったよ」

ま、それもそうか。

京都からかえった日の翌日にドラゴ・タイマーで四体に分裂して徹底的に、

木場をいじめつくしたからな……もう、増えるのはこりごりってか。

リアスとサイラオーグが何も言わずに設置台へと向かい、

用意されている大きなダイスを振るうと目の合計は十。

これは大きいな……チームで行くものか。

「ここは小猫とロスヴァイセに行ってもらうわ」

なるほど……まだ、ロスヴァイセの攻撃は見たことはないがまあ、

ルークの駒によって大幅に強化された魔法の攻撃……一回の魔法で戦場が変わるかもな。

そして小猫は仙術がある。相手の魔力を散らしながら、

一発が大きいロスヴァイセで決める……そんなところだな。

二人が魔法陣でフィールドへと転移された先は崩れかかった古い神殿のような場所だった。

古い神殿……あまり、思い出したくはない場所だな。

その相手はというと軽鎧に帯剣という出で立ちの金髪男、

そして三メートルはあろう巨体を誇っている巨人。

『俺はナイトのリーバン・クロセル。

こっちはルークのガンドマ・バラム。このお二人で相手する』

『第二試合開始!』

審判の声が響くと同時に小猫は全身に闘気を巡らせ、猫耳、

そして二つに分かれた猫の尻尾を出した。

言うならば猫又モードレベル2。

暴走という危険性を排除した純粋なパワーアップを図ったのがあれ。

『全力です』

巨人の顔面に小猫の重い一撃が入り辺りに鈍い音が響き渡るが巨人は意に介さず、

小さな小猫を叩き落とそうと腕を振るうが横から加えられた魔法の連続攻撃によって態勢を崩し、

腕は小猫に当たらなかった。

『魔法砲台です。彼ほど単発の魔法は強くはありませんが、

束で彼の威力を再現してみましたが……まだまだのようです』

そう簡単に超えられては困る……そう思った直後に映像にノイズが走り、

ロスヴァイセがしゃがみ込んだ……いや、重力で膝をついたか。

ナイトの男を見ると両眼が怪しく輝いていた。

セイグリッドギアを人間に血の部分で手に入れたか。

『なるほど……ですが、彼の重力に比べれば!』

『お、おいおい! 五倍の重力下で立ち上がるのか!』

『なんとでも言いなさい! どうせ、オーディンのくそ爺も見てるんでしょうしね!

もう何でもやけっぱちです! 喰らいなさい! 三百六十度砲台フルバースト!』

ロスヴァイセの周囲にいくつもの魔法陣が展開され、

そこからすさまじい数の魔方が放たれていき、バアル卷族の相手に向かって飛んでいく。

だが、相手もそう簡単にくたばるわけもなくナイトは剣で、

巨人はその太い腕で魔法の攻撃を払っていく。

『悪いけど俺も魔法をたしなんでいてね!』

ナイトが剣を地面に刺すとそこが凍りつき、大きな氷の壁が出来上がる……が、

魔法の嵐の中、小猫がその怪力で氷の壁を砕いた!

『今です!』

『うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

ロスヴァイセの気合いの叫び声とともにもう一段階、

激しさを増した魔法の嵐が辺りに吹き荒れ、

隙だらけの二人に直撃し、大爆発を上げた!

…………オーディン様、あんたのおかげで有能なルークができましたよ。

『ぬぅぅぅぅぅ!』

『がっ!』

勝利したと思った直後、全身から血を流している巨人の腕が小猫に突き刺さった。

『小猫さん!』

転移の光に包まれていくバアルの二人と……小猫。

『……先に行ってます』

小猫は満足そうな笑みを浮かべて消え去った。




初回のガイムはなかなか良かったです。


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第七十三話

ロスヴァイセがフィールドから帰ってきた後も俺達の陣地はまるで、

通夜のように静かな状態だった。

仲間たちとのつながりが強い……それは俺達の武器でもあるが、

逆にたった一人でも抜けるとボロボロとそこから瓦解していく。

俺達の悪いところだ。

「……たかが一人脱落しただけで下を向くな。向こうを見てみろよ」

「……この場でも冷静だね。イッセー君は」

既にダイスは振られ、合計の目の数は八。

既に相手の出場選手は決まっている……というよりもサイラオーグ曰く、

俺と戦いたい奴がいるらしい。

さっき、司会進行を務めている奴から放送で言われた。

相手はビショップのコリアナとか言う奴らしい。

俺と戦いたいって言っているということは相当、魔力関連に自信があるらしい。

「俺が行く。異論は聞かないぞ」

「ええ、行ってらっしゃい」

リアスからその言葉を貰い、転移魔法陣の上に立ってフィールドへと向かうと、

そこは一面が花に覆われているお花畑だった。

向こうにはウェーブのかかった金髪の女。

「では、第三試合! 始めてください!」

審判の声が響いたと同時に相手が両手に魔力を纏わせ、こちらへと突進してくる。

ビショップだけに魔力を操るのが得意だと……まあ、魔力だけを見れば悪くはない……が。

「はぁぁ!」

女が放ってきた両手の一撃を俺は魔法陣を展開させて、それを防いだ。

相手の全力の一撃だったのか、

相手は開き過ぎている差に驚きを隠せない風に目を見開いて俺を見ていた。

「俺と魔力で戦いたければあと数百年は魔法の勉強してこい」

魔法陣を軽く弾くと、さきほど女から吸収した魔力を使って魔力弾を、

俺の魔力も上乗せしてゼロ距離で広範囲に放射した。

先ほど綺麗に咲き誇っていた花は一瞬にして消え去り、ただの地面と化した。

『第三試合終了!』

『こ、これがウィザードの力かぁぁぁぁぁぁぁ!』

司会者のその一言に観客席から大歓声が放たれた。

魔法陣に乗り、陣地へと戻るとさきほどの不抜けた様子の奴らはおらず、

気合いが満ちていた。

出来るなら最初からやってろよ。

俺とすれ違いでリアスがダイスへと向かっていき、

両者同時にダイスを振るうと画面に表示されたダイスの合計の目は8。

画面に表示された数字は八……また八か。

「ここは祐斗とゼノヴィアかしら」

だが、その中で恐る恐る手を挙げる存在がいた。

「ぼ、僕が行きます! 祐斗先輩は強いですから……それに僕は、

最後まで残っても手伝いにはならないと思うんです……だから、

中盤の今に僕が行きます!」

「……そうね。ギャスパー。ゼノヴィアをサポートしてあげてね」

「はい! 頑張りますぅ!」

やけに気合いの入ったギャスパーとゼノヴィアが魔法陣に乗り、

転移された場所はごつごつとした岩だらけで足場の悪い場所だった。

確かにギャスパーを行かせたのは正解だったかもな……コウモリに変化し、

攪乱することもできる。

それに対して相手はひょろ長い体格の男性と不気味な杖を持った美少年。

『第四試合始めてください!』

『ラードラ! 先にナイトだ!』

不気味な杖を持っていた奴が後方に下がり、衣服を破り捨てたひょろ長い男が前に立った瞬間、

ひょろ長い体格の男の身体が徐々に変化を起こしていき、

その体を巨大なものへと変化させていく。

『ド、ドラゴン!?』

男はドラゴンへと変化した。

セイグリッドギアではないな……まさか、

あいつも断絶した御家の子孫でその力を覚醒させたのか。

『ギャスパー! 時間稼ぎを』

『そうはさせるか!』

不気味な杖を持った男性が叫びながら杖をゼノヴィアに向けた瞬間、

エクス・デュランダルの刀身に不気味な文様が浮かび上がり、

聖なるオーラが弱々しくなった。

『トリックバニッシュ! それが僕のセイグリッドギアだ!』

何もできなくなったゼノヴィアを押しつぶさんとドラゴンが、

その大きな足で踏みつぶそうとする!

が、コウモリとなったギャスパーが彼女を包み込むとその場から消え去った。

『すまない、ギャスパー』

『大丈夫です……この呪いなら僕の手持ちで何とかなります』

そう言い、ギャスパーは地面にいくつか魔法陣を展開していき、

チョークで地面に魔法陣を描いていく。

『あとは呪いが解くのを待てばいいんですが……僕が時間を稼ぎます!』

『無茶はよせ!』

『無茶ですけど……ここで勝たないとイッセー先輩にも部長にも迷惑がかかるんです!』

そう言い、ギャスパーはコウモリへと変化して、

歩いているドラゴンのもとへと向かっていく。

俺はいまにも隣でギャスパーを止めようと、

指示を飛ばそうとしているリアスの腕を掴んでやめさせた。

「何もするな。それがあいつの決意なら受け止めろ」

『うわぁぁぁぁぁ!』

ギャスパーの叫び声が聞こえ、振り向くとドラゴンの火炎によって、

吹き飛ばされたギャスパーが火傷を負いながらもドラゴンの目に、

へばり付いて視界を奪っていた。

ドラゴンが何度も剥がして地面にたたきつけてもギャスパーは何度も立ちあがって、

ドラゴンに向かっていく。

『すぐに倒せるお前に手間取っている場合ではないのだ!』

『ギャァァァァァ!』

ドラゴンの巨大な足に踏みつぶされ、断末魔を挙げるギャスパー。

何度も蹴られようが火をぶつけられようが立ち上がってドラゴンに立ち向かい続けた。

ゼノヴィアの解呪の時間を稼ぐために……そして、この戦いに勝つために。

直後、岩陰から極太の聖なるオーラの柱が立った。

エクス・デュランダルの形が変わる音が聞こえる中、

鬼の形相をしたゼノヴィアが相手の二人にエクス・デュランダル向ける。

『ギャスパーの思いは無駄にはしない!』

『ならば今度は命を消費してでも』

突然、杖を持った男が動きを止めた。

向こうに視線を向けると二つの目を赤く輝かせたギャスパーが転移の光に包まれながらも、

男のほうを見ていた。

……最後の最後で暴発ではなく、己の意思で力を発動させたか。

『消えろ!』

エクス・デュランダルから放たれた大質量の聖なるオーラが二人を飲み込み、

フィールドの地面を大きく抉った。

『第四試合終了!』

その一言で、その試合は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四試合を終えて残っているのは木場、ゼノヴィア、ロスヴァイセ、俺、

アーシア、リアス、朱乃の七人。

向こうはクイーンとサイラオーグ、そして謎のポーンを残していた。

両キングがダイスを振る―――――画面に表示された数字は九。

「相手はおそらくポーンは出してこない……となると相手はクイーン」

「私が行きますわ」

「相手はアバドン。相当の手練れよ」

朱乃はふっと笑みを浮かべながらも、そのまま魔法陣へと乗り込み、

フィールドへと転送された。

映像へと視線を移すと相手は予想通りの金髪でポニーテールのクイーン。

『第五試合始めてください!』

審判のその声の直後、いきなり朱乃は大量で大質量の雷光を相手めがけて叩き落とすが、

空間に穴があき、まったく別の方向に移されていた。

あれが相手のクイーンの能力……エキストラデーモンの一つのアバドン家の特色ともいえる能力、

それが(ホール)

『そこですわ!』

相手がホールで雷光を吸収している間にさらなる雷光を叩き落とすが、

突然、先ほどまで放った莫大な雷光が消え去った。

『私のホールは分解も可能です。このように』

別に開かれた穴から先ほど分解したのか光だけを朱乃めがけて放ち、

彼女は光に包まれていく。

『第五試合終了!』

あっという間の出来事だった。




続きですがガイムのOPでまさか、全ての仮面ライダーの
変身者まで写すとは思いませんでした。
まあWik見たら全部のってましたけど


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第七十四話

第六試合に出る選手を決めるべく、両キングが設置台へと向かい、

ダイスを振る―――――表示された目はマックスの十二。

その目に観客が大歓声を送るとともに向こうの陣地でサイラオーグが上着を脱ぎ、

戦闘服に着替えた。

……サイラオーグが出るか……面白い。

俺が立ち上がろうとしたときに突然、

後ろから三つの手に腕を掴まれてイスに無理やり、座らされた。

後ろを振り返ればゼノヴィア、木場、ロスヴァイセが立っていた。

「イッセー。お前が出るにはまだ早い」

「私たちが彼の体力を削ります」

「君には最高のショータイムをしてもらわないと困る……ここは僕達が出る」

リアスの方を向くが、すでに彼女は承認したのか目を瞑ったままだった。

「……そうかよ」

「君は僕たちの最後の希望だ。まだ、最後の希望が出るほど僕たちは傷ついてはいない」

そう言い残して、三人は魔法陣へと向かい、フィールドへと転送された。

相手はもちろん、サイラオーグ。

『お前達が相手か……ならば、俺も全力で行かせてもらおう』

サイラオーグの全身には奇妙な文様があり、

それが消滅すると同時にフィールド内に風が吹き荒れ、

さらに奴からのプレッシャーからか湖の水面が大きく揺れていた。

『第六試合開始!』

審判からのその言葉の直後、サイラオーグはその場から地面が砕けるほどの勢いで飛びだし、

あっという間に木場達の目の前から姿を消した。

キングでありながらナイト並み……いや、それ以上の速度を出すか。

『そっちです!』

奴が消えたと同時に木場は周囲に視線を巡らせ、居場所を見つけると、

聖魔剣の切っ先を奴がいる方向へと向け、ロスヴァイセに教えた。

それを受けて既に展開していた魔法陣から、

魔法陣のフルバーストをサイラオーグ向けて放つ。

『ふん!』

姿を現したサイラオーグは三人に向かっていきながら、

拳で魔法を次々に叩き落としていく。

『ぬぅん!』

防御用に展開した魔法陣を砕き、そのままロスヴァイセのヴァルキリーの鎧を、

無残に砕きながら、腹部に拳を突き刺し、湖の奥の方へと殴り飛ばした。

それは見たゼノヴィアはすぐさま、エクス・デュランダルをふるって、

大質量の聖なるオーラ奴めがけて放つが、サイラオーグは腕を交差させてそれが己の体に、

当たった瞬間に腕を広げて衝撃波を掻き消した。

『ならば奥の手だ! バランスブレイク!』

木場は聖魔剣を聖剣へと切り替え、

それを発動させると白い甲冑の騎士団が何十体も現れた。

俺との修行の末に生み出した魔剣ではなく聖剣を生み出す力のバランスブレイク。

『説明は後だ! 行け!』

木場の指示に従い、何十体もの騎士団がサイラオーグ目がけて突っ込んでいくが、

全てが奴の拳によって簡単に砕かれていく。

『数もあり、早さもあるが硬さがない!』

騎士団を壊滅させた勢いのまま、ゼノヴィアの腹を殴りつけ、

木場の脇腹に回し蹴りを加える。

『グッ!』

木場とゼノヴィアは血を吐きだしながらもサイラオーグの腕をつかんだ瞬間、

奴の背後から吹き飛んだはずのロスヴァイセが姿を現わし、

ゼロ距離からサイラオーグの背中に魔法のフルバーストを放っていく!

「ゼノヴィアの許可をもらえれば短時間だけ聖剣を使える点に着目したの。

恐らく、最初のフルバーストの最中にゼノヴィアから聖剣を受け取っていたのね」

それで本物は姿を消し、聖剣の能力でダミーを作った上にリタイアの光を魔法で演出し、

消し去ったという訳か。

映像に視線を戻すと、体の表面に血をにじませたサイラオーグが立っていた。

あの近くで喰らってもにじむだけか。

『素晴らしい。流石は時に聞くリアスの卷族だ。敬意を払うとともにこれを送ろう』

サイラオーグが腕を後ろに引くとともにその腕に空間が、

歪んでみえるほどの膨大な量の闘気が集中されていく。

三人がヤバいと感じ、それぞれ距離を取った瞬間!

映像が大きく揺れるとともに放たれた衝撃波にロスヴァイセが巻きこまれ、

映像に映らないほど遠くへと吹き飛ばされた。

今度こそ終わったな。

『ゼノヴィア!』

サイラオーグが上を向くとそこにエクス・デュランダルを、

二人で持った状態で右腕に振り下ろした。

だが、聖なるオーラはサイラオーグの闘気によって相殺されていく。

『終わりにする!』

サイラオーグは一番近い距離にいたゼノヴィアの腹部に痛烈な蹴りを入れて、

一撃で意識を刈り取るとそれに驚き、距離を取った木場の顔を両手でわしづかみにして、

そこにひざ蹴りを加え、さらに宙に投げつけて悪魔の翼を羽ばたかせて自身も宙へと飛び、

そこに両手による先ほどの絶大な威力の衝撃波を木場に叩きつけ、地面に埋め込ませた。

ゼノヴィア、木場、ロスヴァイセ……後は任せろ。

『第六試合終了!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六試合が終了し、私は宙に表示されている映像に釘つけになっていた。

あの三人を傷を軽く負うだけで叩き潰したサイラオーグ……イッセーでも勝てるのかどうか、

分からないような状況だった。

ふと、イッセーの方に視線を向けると彼は椅子をトントン指で叩き、

足を組んだ状態だった。

……あくまで冷静でいるのね。

私は設置台へと向かい、ダイスを振る―――――出た目は五。

相手が出した目は四……サイラオーグは今回の勝負で必ずクイーンを出してくる。

私が後ろを振り返り、イッセーを呼ぼうとしたときにはすでに、

彼は魔法陣によってフィールドに転送された後だった。

「きゃっ!」

突然の悲鳴にそちらのほうを向くと円卓テーブルが炎を上げて燃えていた。

いや、それだけじゃないわ! テーブルの脚は凍っているしさっき、

イッセーに渡したイヤホンマイクはあり得ない形になっていた。

今の彼は……簡単に人をも殺すかもしれない。

『冷静なのですね。もっと、怒りをあらわにしているかと』

『………少し黙れ……耳障りだ』

『第七試合開始!』

イッセーはいつものように赤い鎧を装着し、胸の部分からドラゴンの頭部を出現させ、

相手に向かって炎を放った。

でも、その炎は空間に開いた穴に吸い込まれる。

『喰らいなさい!』

イッセーの周囲に無数の穴があき、その一つからさっきの炎が吐き出されるも、

彼もまた空間をつなげ、炎をどこかへと移した。

『貴方も私と似たような力を!』

『貴様と同じにするな』

イッセーがそう言った直後、聞き取ることができないほどの速度で籠手から音声が流れていき、

相手の周囲に無数の……そ、そんな生易しいものじゃない!

相手の周囲を埋めていくように魔法陣が展開されていき、

少しの隙間も見えなくなりまるで一つのドームのようになった。

あ、相手が見えなくなるほどの量の魔法陣で覆うなんて!

『消えろ』

イッセーが指をパチンと鳴らした直後、ドームの中で大きな爆発が起きた!

ま、まさかあれほどの魔法陣から一斉に炎を放出したとでも言うの!?

じゃあ、あの中にいたアバドンは!

『クイーシャは俺が強制的にリタイアさせた。

そうしないと今頃、燃えカスになっていたからな』

イッセーは鎧を解除し、映し出されているサイラオーグを睨みつけた。

『殺意のこもった目を向けてくれる! 委員会よ! もう細かいルールは無しだ!

俺はこの男と戦いたい! こちらのすべてとあちらの全てをぶつけあいたい!』

『おっと! ここでまさかのサイラオーグ選手からの提案が出ました!』

『確かにそうだな。どのみち、イッセーとサイラオーグが戦うのは自明の理。

その間の戦いは観客からすれば消費試合に見えてしまって、

せっかくのテンションが下がるってわけか』

『確かに。このまま一拍あけるよりもこのままのテンションで行けば盛り上がりますね』

司会者が慌ててどこかへと向かい、画面から消えた。

その間に俺は陣地へと戻ってくるとアーシアとリアスが俺の方をジッと見てきた。

「……安心しろ。もう、あんな攻撃はしない。あれっきりだ」

『たった今委員会の皆様から回答をいただきました! 

サイラオーグ選手の提案を認めるということです!』

その発言に観客の大歓声が響き渡った。




なんか、ガイムを見ていると新鮮さが半端なく感じるのは自分だけ?
ていうかOPがなかなかいい。ただ挿入歌がバイクの音でほとんど聞こえなかった。
来週は早くも三人目、四人目のライダー。
噂によると五話までにOPに出ているライダーは全て登場するとか。


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第七十五話

サイラオーグの提案が認められ、俺たちは広い平原の地に立ってサイラオーグと、

試合が始まる時刻を待っていた。

相手はサイラオーグ、そしてポーンの駒を七つ消費したという謎の人物。

俺がサイラオーグと戦うのは決まっているが……どうしても心配になってしまう。

才能なのか、それともまた別の要因で七個も消費したのか。

そう考えているさなか、向こうの方に二つの魔法陣が展開され、

そこからサイラオーグと謎のポーンが現れた。

『さあ、若手最強を決めるこの試合もラストバトルです!

獅子王サイラオーグ選手・謎のポーンが勝つのか! 

それともリアス・グレモリー・ウィザードが勝つのか! 今、戦いが始まります!』

魔力が俺のように大量にあるわけでもない……どちらかと言えば魔力量は平均並みだ……。

『最終試合開始!』

「リアス。戦う前に言っておく。お前が集めた卷属は最高の奴らばかりだった。

それゆえに強敵でもあった。正直、俺は羨ましい。俺の卷属も最高の奴らだと思っているが、

それを超える奴らを集めたお前が羨ましい。だが、勝つのは俺たちだ」

「何を言ってんだ。勝つのは……俺たちだ」

『ランド・ドラゴン。ドッデンドゴッドン・ドッデンドゴーン!』

魔法を発動させ、土のエレメントを纏ったドラゴンの幻影を出現させて俺の周囲を旋回させ、

幻影が消えると同時に黄色い鎧を身に纏っていた。

パワー最強王子と戦うにはこのスタイルしかない。

「行くぞ」

「来い!」

互いに同時に走り出し、そして互いに拳を繰り出すと互いの身体に拳が突き刺さり、

衝撃波が辺りに放たれると同時に血液が辺りに散った。

鎧越しでこの威力! だが、動けなくなるほどではない!

「うぉぉぉ!」

振り下ろされてくる奴の拳を避け、回し蹴りを相手のあごに加えて蹴り飛ばす。

『ビッグ・プリーズ』

「ふぅぅん!」

「ぐっ!」

魔法陣の手を突っ込み、腕を巨大化させて大きく横に振るって、

サイラオーグを大きく吹き飛ばし、結界に叩きつけた。

「ハハハッ! これが実戦で練り上げられた魔法か! 拳か!」

奴は血を流しながらも嬉しそうにそう叫ぶ。

ふと、視線をポーンに向けると奴は仮面を外した。

そこにあったのは俺とあまり変わらない年齢の顔……しかし、

少年の身体から快音が次々となっていき体が変化していく。

体の変化がし終わった時にいたのは全身からは金の毛が生え、

額には大きな宝玉が埋め込まれており、顔の周りには雄大なたてがみがある獅子だった。

「そいつはロンギヌスが一つのレグルス・ネメア。既に所有者は死んでいるが俺が、

こいつと出会った時にはレグルスはすでにひとりでに動き、

所有者を殺した集団を壊滅させていた。その時に俺はこいつを卷族にした」

セイグリッドギアが独立した存在として独りで活動をしているのか……つまり、

奴はセイグリッドギア自体を悪魔に転生させたのと同じか。

「ロンギヌスが相手……相手としては充分!」

獅子に向かっていくリアスを背に俺もサイラオーグへと向かっていき、

奴が拳を突き出そうとした瞬間。

『バインド・プリーズ』

バインドを発動させ、腕を固定した。

「無駄だ!」

しかし、呆気なく全ての鎖が奴の怪力によって一瞬で引きちぎられた。

やはり、この程度の鎖では引きちぎられるか。バインドは無しだな。

「うぉあ!」

「ごっ!」

まあ、別に何もサイラオーグの動きを拘束するために鎖を使ったんじゃない。

奴の動きを少しだけ遅くしてこっちの攻撃が先に通るようにした……だが、

それでも俺と奴の攻撃は同時にそれぞれの身体に通った。

互いに血を吐きながら、睨みあう。

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

駆け出しながらスペシャルでクローを装備し、

奴へとクローを振り下ろすが腕に阻まれた。

このクローを生身の腕で阻むか! やはり、

こいつの闘気はどんな装甲よりも硬くて丈夫って言う訳か!

「だったら!」

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「だぁぁぁ!」

俺の蹴りと奴が繰り出した拳とが同時にぶつかりあい、辺りの地面にヒビが、

いくつも入っていき、さらに大きな穴がいくつも開いていく!

拳と俺の技が互角か! 奴の一発のパンチは必殺技並みってことだな。

「ぬっぁぁぁ!」

「おぉ!」

腕を振るわれ、弾き飛ばされながらもどうにかして空中で体勢を立て直して、

地面に着地したと同時に奴の腕を見ると足にあった土のエレメントが絡まっていた。

……あれだけ、土のエレメントが絡まっていれば十分!

『チョーイイネ! グラビティ! サイコー!』

「ぐっ! こ、これは!」

奴の上空に黄色い魔法陣を展開させ、何倍にも増大させた重力を当てると、

奴の腕に絡まっていた土のエレメントが重力によって奴の腕に押し付けられ、

次々と奴の腕に突き刺さっていく!

「魔法だけではなく頭脳も最高か! ならば!」

サイラオーグは地面を足で踏み抜き、大量の砂を宙へ巻き上げると黄色い魔法陣の重力によって、

次々と大小様々の瓦礫が凄い速度で落ちてくる!

「ちっ!」

俺はその場から横に飛んで、離れるとさっきまでいた場所にドスドスっと、

音を立てながら地面にめり込んでいく。

あの一瞬で魔法の特性を理解し、逆活用して俺にダメージを与えようとするか……お前も、

ただの破壊力満点王子じゃないらしいな。

「きゃっ!」

突然の悲鳴にそちらを向くと至る所から血を流したリアスとダメージを受けながらも、

リアスの前に立ちはだかる獅子がいた。

『このまま行くとリアス・グレモリーは出血多量で死ぬぞ』

……なるほど、それで俺たちにフェニックスの涙を使わせようというのか。

『エクステンド・プリーズ』

傍に魔法陣を展開し、そこに手を入れると腕がゴムのように伸び、

彼女の腹部の辺りにからみつき、そのまま引くとこちらへ彼女が引っ張られてきた。

「悪いがここで使うぞ」

「……ごめんなさい。私が貴方の枷に」

俺は彼女のポケットから小瓶に入ったフェニックスの涙を取り出し彼女に振りかけると、

傷口から煙が立ち上り、見る見るうちに傷が治っていく。

これで俺達が羽の涙はなくなったが奴にはまだある。

『主よ! バランスブレイクをお使い下さい! 

そうすればウィザードを圧倒することができます!』

「ダメだ! あれは冥界の危機の時にしか使わんと決めたはずだ!」

「ほぅ。上があるのか……使えよ。生憎、俺にもまだ一段階上がある」

『コネクト・プリーズ』

『ドラゴタイム』

魔法陣を展開し、そこに腕を突っ込んでからひっこ抜くと腕に、

ドラゴ・タイマーがセットされた状態で姿を見せた。

「……すまない。俺は全力無しで貴様と戦っていた! 

この戦いが終生に一度しかないことを想像できなかった自分が腹立たしい! レグルス!」

『はっ!』

サイラオーグの声とともに獅子が金色に輝きだし、

光の粒子となって奴へと降り注いでいく。

『ドラゴタイム・セットアップ』

「バランスブレイク!」

『スタート!』

俺がレバーを押したと同時に奴の全身に黄金の鎧が装着された!

俺は取り出したアスカロンで奴に斬りかかるが腕で防がれ、さらに奴の全身から、

発せられた先ほどとは比べ物にならない闘気によって吹き飛ばされた。

「行くぞ、兵藤一誠っ!」

『ウォーター・ドラゴン!』

ドラゴンの咆哮がタイマーから聞こえ、レバーを一回押すと俺の隣に青色の魔法陣が出現し、

そこから青い鎧を身に纏った俺が出てきた。

「分身か!? だが、それをも俺は砕く!」

奴が振り下ろした腕をかわした瞬間! 地面が砕け散り、

辺りに凄まじい衝撃波といくつものが大小様々な瓦礫が飛んでくる!

鎧を身に纏った一撃がここまで上がるものなのか!

『ハリケーン・ドラゴン!』

凄まじい衝撃波をハリケーン・ドラゴンの風でキャンセルし、

三人同時に斬りかかっていくがその全てを腕や足に受け止められ、

斬ることすらできない。

元々の体術の上に恐ろしいほど丈夫な鎧を着られちゃ、

例えアスカロンでも斬れないな!

「ぬあぁぁ!」

『ランド・ドラゴン!』

俺の仲間の三人を葬った以上の威力の衝撃波が拳から放たれ、

ランドの石の壁で防ぐが呆気なく壁が砕け散り、

衝撃波をまともに食らい、血を吐きだしながら吹き飛んだ!

ちっ! なんつう衝撃波だ。

『チョーイイネ! グラビティ! サイコー!』

「ぐっ!」

『チョーイイネ! サンダー!』

『チョーイイネ! ブリザード!』

『『サイコー』』

サイラオーグを最大にまで上げた重力でその場に留まらせ、

動きを止めた直後にブリザードとサンダーを放って攻撃をする!

冷気で凍り付いたサイラオーグに最大威力のサンダーをぶつける!

サイラオーグは二つの魔法を直撃し、全身から赤い血を流しながらも耐え抜くと、

俺に向かって駆け出してきた。

この時点で奴が今まで戦ってきたどの敵よりも強いということが確定した。

『ファイナルタイム!』

「ぺっ! おおおぉぉぉぉ!」

「うぬらあぁあぁぁ!」

音声が聞こえ、血反吐を口から吐きだして奴に斬りかかるが奴は、

全ての拘束を受けているにも関わらず、普段と同じように動き、

アスカロンを手で弾いて飛ばすと顔を殴り、腹部に蹴りを入れ、頭突きをしてきた。

「がっ! げほっ!」

「はぁぁぁぁ!」

殴り飛ばされた瞬間に奴の両手からさっきの衝撃波が放たれ、

四人ともロクに防御もできないままもろに喰らい、四人一緒に吹き飛ばされた。

くそっ! 四人に分かれているせいで俺だけが避けても意味がない!

それに少なからず、分裂体が受けたダメージもこっちに跳ね返ってくる!

「どうした? これで終わりか?」

「そうだな……覚えておけ。生憎、俺は諦めが悪くてね」

『セットアップ! スタート!』

血反吐を吐きながらもう一度、タイマーを回す。

先ほどのダメージで両足が震えてくるのを我慢しながら、立ち上がる。

『ファイナルタイム』

その音声が聞こえた時に俺はタイマーにつけられているレバーを二回連続で押し込むと、

タイマーが光輝き、時間を指し示す短い針が凄まじい速度で回転し始め、

俺の中にある魔力もそれに反応してか、籠手からオーラとして出てきた。

『オールドラゴン・プリーズ』




久しぶりに生で見てみたいと思うライダーです。
てっきり、パイン・アームズの音声は必殺技の時に流すと思っていたのに。
『粉砕・デストロイ』が必殺キックと同時に流れたらかっこいいと思うのは自分だけ?


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第七十六話

『オールドラゴン・プリーズ』

「「「「はぁ!」」」」

四人の背後にそれぞれのエレメントにあった色の魔法陣が出現し、

それに貼り付けられたような格好で宙に浮かびあがると、分裂体がドラゴンの幻影となって、

俺の周囲を旋回し、それぞれが赤の鎧を纏っている俺を中心として、

クロー、テイル、ウイングと変化し、俺に装備された。

その姿はまさしく人の形をしたドラゴン。

「なに!?」

「すべての魔力を一つに。これが最後の希望だ! はっ!」

サイラオーグも背中から悪魔の翼を生やして羽ばたかせ、宙へと舞い、

俺のクローと拳をぶつけながら、広い空を飛びまわっていく。

金属音を鳴らしながら何度もぶつかっていき、時には奴の身体から血が飛び散り、

時には俺の口から大量の血反吐が吐かれる。

「はっ!」

「ぬぅぅ! どうらぁぁぁ!」

ドラゴンの頭部からの火炎を奴は拳で無理やりかき消し、

連続で拳を振るって先ほどの衝撃波を俺に向かって放ってくる。

空気が震えるほどの衝撃波を俺はドラゴンの翼を羽ばたかせて、

右に左に体を傾けることで避けていく。

「はぁぁ!」

クローに魔力を注ぎ込んで、黄色い色をした魔力の斬撃を奴に向けて放つが拳により、

それは空中で拡散していく……が、それと同時に奴の拳に傷がつき、

血の霧が空中に撒かれる。

「でぃぃぃや!」

「かっ!」

横に一回転してドラゴンの尻尾で奴を切り裂くと、

装甲に薄い線が入るとともに血が噴き出した。

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

サイラオーグは叫びをあげながら俺に向かって突進してくる。

俺もそれに応えて、魔力を注いでクローの先端を輝かせて奴に斬りかかる。

「はぁ!」

「だぁぁぁ!」

奴の拳と俺のクローが同時に互いの身体に突き刺さり、

俺の鎧にはいくつものヒビが走り、

奴の黄金の鎧には斜めに大きなヒビが走るとともにそこから血が滲みでてくる。

互いに回転しながら地上へと叩きつけ合い、

そして同時に再び己の武器を相手の身体に突き刺す。

既に鎧にもクローにもヒビが入っている……だが、それは奴も同じ!

「だぁぁぁ!」

「がはっ!」

俺の蹴りがうまい具合に奴の鳩尾に入り、そのまま結界にぶつかるまで蹴り飛ばし、

その間にありったけの魔力をクローに注ぎ込み、倍、四倍とクローの長さを伸ばしていく。

「うえあぁぁぁぁぁ!」

四倍以上に伸びたクローを右に左に動かすと、

奴の黄金の鎧に十字の形にヒビが入り、血が噴き出す!

「げぼっ!」

腹の底から何かが吐き気を伴って上がってきて、

それを口から吐き出すと床に大量の血がこぼれて地面が赤く汚れた。

もう……限界か……。

既に奴の脚はがたがたと震え、いまにも地面に倒れそうな状態だった。

互いの身体も限界、纏っている鎧も限界に近い。

「まだだっ! 俺は! 誰よりも強くなると誓った! 

こんなところで! 負けるわけにはいかんのだっ!」

「そうか……なら、この一撃でお終いにしよう」

翼を羽ばたかせ、ゆっくりと宙に浮かび、俺の背後に四色の魔法陣を展開した。

それに対し、サイラオーグは右腕に全ての闘気を注ぎ込んでいるのか、

右腕の周りの空気がゴゴゴゴゴと震えているように見えた。

サイラオーグ・バアル……お前は俺が倒すべき相手だ。

「フィナーレだ」

『チョーイイネ! ファイナルストライク! サイコー!』

そんな音声が流れた瞬間! 背後の四色の魔法陣が一つに合わさり、

そこから虹色に輝くものが放出されて俺の背中を押した!

「だぁぁぁぁぁぁ!」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

俺の蹴りとサイラオーグの全力の拳がぶつかり合った瞬間、

凄まじい衝撃波が辺りにブチまかれ、地面を大きく抉っていく!

その時、サイラオーグの背後に一瞬だけだが女性の姿が見えた。

その女性は小さな笑みを浮かべながらサイラオーグの肩に手を置いており、

俺はその女性の顔に見覚えがあった。

……なるほどな! 親子での最後の攻撃という訳か!

羨ましいよお前は! 親と一緒に何かをできることが心の底から羨ましく思う!

だがな! 俺にも家族の代わりになる奴がたくさんある!

そいつらと一緒に俺は登っていく! 最強へと!

「っっっっっっ! だぁぁぁぁぁぁぁ!」

「っっ!」

サイラオーグの全力の拳を押し切り、奴の胸に蹴りを入れ、

このあたりを囲んでいる結界をぶち破る勢いで蹴り飛ばした!

地上に足をつけたと同時に俺が身に纏っていた鎧がはかなく散った。

「ハァ……ハァ……」

地面に伏したまま動かないサイラオーグ…………これで終わりか?

「ぐぅぅぅぅぅ……おぉ……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

血をボタボタと滴らせながらサイラオーグは立ち上がり、

天に向かって高々と叫びをあげた。

誰に向かって叫んでいるのかは知らない、何のために叫んでいるのかは知らない……だが、

一つ言えることは……奴はまだ終わってはいない!

立ちあがって拳を握る…………だが。

『……もう良い……ウィザード』

突然、サイラオーグの胸にある獅子の飾りが言葉を発した。

『……サイラオーグ様はもう……もう、意識はない』

意識がないにも拘らず、そこまで満足そうな笑みを浮かべて、

その腕を俺に向けるのか……サイラオーグ・バアル!

「訂正しよう……お前にフィナーレはない。全てが……ショータイムだ」

『最終試合終了! 勝者! 兵藤一誠!』

俺が背中を向けて陣地へと戻ろうとした瞬間に歓声が聞こえ、

それを聞いた直後に突然、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚め、一番最初に入ってきた景色は白い天井だった。

起き上がって体を見るといたるところに包帯が巻かれている状態、

さらに魔力を消費しすぎたせいかうまく足や腕も動かせない。

……俺の膨大な魔力を持ってしてもオールドラゴンはここまで魔力を消費するのか……そりゃ、

そうだな。四人に分かれた直後にあれだ。

簡単にいえドラゴンフォーメーションの状態で合体したようなものだからな。

ここまで消費するのも納得がいく。

「起きたか」

隣から声が聞こえたが振り向かずとも分かった。

「良い試合だった。負けた後にここまで満足しているのは初めてだ」

「そうか……」

沈黙が数秒流れた時にドアがノックされ、誰かが中に入ってきた。

「やあ、二人とも目が覚めたんだね」

「サーゼクス様」

体全体があまり言うことを聞かない状態なので視線だけを動かして、

中に入ってきた人物を見てみると俺の隣にいたのは紅髪の魔王――――サーゼクス様だった。

「二人の戦いには私だけでなく上役もご満悦の様子だった。

将来が楽しみだよ……それともう一つ。兵藤一誠君、

君に中級昇格の推薦が来ているんだ」

悪魔には三つのクラスがあり下級、中級、上級。さらにその上に最上級があるが、

それは特別なものなので除外するとして……まさか、この速度で来るとはな。

まだ悪魔に転生してから一年も経っていないぞ。

「大戦がなくなった昨今では異例のスピード昇格だ。受けてくれるかい?」

「兵藤一誠、受けろ。お前はいずれ、ウィザードを名乗る男だ。

その男が下級のままでは示しがつかんだろう」

「……喜んで、その御誘いをお受けいたします。サーゼクス様」

「それは良かった。早速、準備をしよう。色々と承認することがあるのでね。

あ、それとだ。妹のこと、よろしく頼んだよ、義弟君」

笑みを浮かべながらサーゼクス様は病室から出ていった。

義弟君……おいおい、それはまだ二歩三歩早いだろ。

「おい、何をニヤニヤしている」

「いいや別に…………お前が俺の家に来た時は慰めのコーヒーを出すとしよう」

俺は傍にあった枕をサイラオーグの顔面めがけて投げつけるが、

奴は余裕の笑みを浮かべながらそれを避けた。

人をおちょくるのも人におちょくられるのも大嫌いだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一列で願いしま――す!」

ウェイトレス姿のアーシアが人で溢れかえる廊下を少しでも整理しようと二列にしたり、

三列にしたりしながらいろいろと調整を行っていた。

「はーい。こちらは皆のマスコットの塔城小猫ちゃんと、

皆のおねえさまの姫島朱乃さんの占いアンドお祓いコーナーでーす」

同じくウェイトレス姿のイリナは、

占いコーナーの案内役兼お祓いコーナーの案内役も引き受けてくれ、催しは大盛況だ。

本来なら俺も隣の区画でやっているお化け屋敷に配属されるのだが

感情が顔に出ない俺がしても微妙なので入口であやしい奴がいないかのチェック係をしていた。

「悪いがカメラはこちらで用意しているものを使用するので、

自前のカメラは使わないでください。撮影した後にご本人様に直接お渡しいたしますので」

「は~い」

無いとは思うが改造カメラで撮った写真を、

ばら撒くなんてことも考えられる以上、こんな対策を取ったわけだ。

今の若い奴らが考えていることは分からんからな。

「新しいチケットですわ。さあ、どうぞ」

レイヴェルも人間界での生活に慣れたようで時折、

楽しそうに笑みを見せる時もある。

まあ、相変わらず猫VS鳥の戦いは終わってはいないが。

あのレーティングゲーム以来、

サイラオーグについていた大王家の奴らはすぐさま消えたらしい。

これによって上とのパイプを失ったわけだが本人いわく、

また組み立てていけば良いとのことらしく、

サイラオーグにつくやもしれぬと噂される家もチラホラと出てきているらしい。

古き慣習しか目に見えていない悪玉菌はサイラオーグから消え去り、

これからの未来を見ようとする善玉菌がついたわけか……これから、

大王家が変わればいいんだがな。

俺達がこれから進んでいく道は勝った者は上に進み、

敗北した者は全てを失ったうえで下に行く……それが悪魔業界。

「よー兵藤! スゲエ人だな!」

「匙か……良いのか、本校舎はどうした」

「ああ、向こうは会長たちの担当で俺は旧校舎の担当なんだ。

にしても相変わらずの木場は女子に人気だな~……ヴリトラの悪運で呪ってやろうか」

五大龍王の中であまり良い伝説を残していないヴリトラ……それを宿した匙が、

あまり良い伝説を残さないことを切実に願うよ……あの夢のようにならないことをな。

「今更、妬んだところで仕方がないだろ……そっちはどうだったんだ」

それを聞くや否や急に匙の周りのオーラがシュンと小さくなった。

「俺、龍王になって暴走しちまってさ……評価は最低かもしれないって」

京都での龍王化もあれは不安定な状態だったという訳か……。

「いずれ兵藤に勝たなきゃいけないし! 今は龍王の制御だ!

今に見てろよ! 龍王ヴリトラの名をとどろかせてやるからな!」

そう言って、匙は見回りの為に人だかりの中を歩いていった……が、

何故か床に落ちていたバナナの皮をふんづけて、転んだ。

……今度、怨念なんかを取り除く魔法で作るか……オハライ・プリーズとかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文化祭終了後、俺は旧校舎の部室にいた。

今頃、校庭でキャンプファイヤーを焚いて踊っているだろうな……でも、

俺はやらなければならないことがあった。

「イッセー」

後ろから声がかかり、振り向くとそこには制服姿のリアスがいた。

以前の告白の返事だ……。

リアスは緊張したような面持ちで俺の隣に座った。

「この前の返事をしよう」

そう言うとリアスは体をビクつかせ、俺の方を向いた。

「……一回しか言わない…………好きだ」

直後、唇に柔らかい感触が伝わってきた。

俺はそれを受け入れ、彼女の背中に腕を回して強く抱きしめた。

母さん…………俺は幸せに生きています。

 

 

 

 

 

 

 

「おっす、打撃王」

俺――――――アザゼルはシトリー領にある大きな病院に来ていた。

中に入ってすぐのところにある売店でサイラオーグが見えたので、

話しかけてみるとその手には花束があった。

冥界にいくつか用事があったからついでに来たのと、

こいつにイッセーからの伝言を言わなきゃいけなかった。

「これからまた、土台作りだな」

「ええ。もう慣れっこです」

「これはあいつからの伝言なんだが」

「サイラオーグ様!」

俺がイッセーの伝言を言おうとしたときに息を途切れさせた執事が、

眼から涙を流しながらこちらに走ってきた。

「ミ、ミスラ様が!」

その言葉に慌てて病室へ向かったサイラオーグを追いかけ、俺も病室へ行くとそこには、

ありえないと言った表情で立っている医者たちが大勢いた。

中には神の奇跡とまで口づさんでいる奴もいた。

サイラオーグはその医者をかき分けて病室の中に入ると、

そこには外の景色を見ている女性。

あいつは言っていた……彼女の中は全てが止まっていたが唯一、動いていた物があったと。

それは唯一、息子の状態を知ることができるもので……それはテレビだった。

テレビだけが動き続け、サイラオーグの様子を映し出していたらしい。

恐らく、それを見ていた彼女は息子が最大限に活躍した様子を見たとき、

目を覚ます…………と。

「母上……分かりますか?」

「ええ……愛しのサイラオーグ……」

愛する息子の頬を撫でようと震える手をサイラオーグは大きな手でそれを掴んだ。

「ずっと、貴方を見ていました…………強くなったのですね」

その一言の後、サイラオーグは眼から一筋の涙を流した。

「帰りましょう……あの日、あの約束をしたあの家に」

俺はその時点で病室から立ち去った。

なあ、イッセー…………もしも、サイラオーグとのゲームが決まっていなかったら、

ミスラ様は目覚めなかった。

お前と戦ったからこそ起きた奇跡だ…………やっぱり、お前は最後の希望だよ。




こんにちわ~Kueです。
最近、黒歌の方を更新できていませんが……すみません。スランプです。
年内には必ず書きあげて行進するのですが……。
さて話は変わり、ガイム!
やっぱりなんか分からないけど新鮮さを感じるんですよね~。
あと何で今回は一話更新かというと区切りが良かったからです。
それでは!


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第七十七話

「正気か」

学園祭が終わってから数日経ったある日の朝、俺の部屋でゲームをしていると突然、

テレビの画面の前に魔法陣が展開され、俺はブチギレながらもその連絡を取って、

その声を聞いた瞬間にあまりの驚きに怒りを忘れてしまった。

プライベートの回線で連絡を寄越してきた人物……それはヴァーリだった。

それだけでも十分驚くのだがそれ以上に驚くことを奴から提案を受けた。

『彼……今は彼女か。彼女も会いたがっていてね。

面白そうだから便宜を図りたいんだ』

「それ以外にあるんだろ?」

『あると言えばある……彼女を狙うものがいてね。

そいつが敵か、味方かを判断するだけさ。この世の中も面倒になったものだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイラオーグとの決戦から数日経ったある日の朝、俺――――兵藤一誠は心地よく、

眠っていたところを甲高い言い合いで目を強制的に覚まさせられた。

起きてみるとやはりいつもの通り、リアスと朱乃がにらみ合っていた……が、

リアスは余裕の笑みを浮かべた。

「私のイッセーに手を出して……と言いたいところだけど昨日はたっぷり、

甘えさせてもらったから今日は見逃してあげるわ」

「あらあら。随分な余裕ですこと」

「ふふ。イッセー、朝ごはんだから下に降りてきなさい」

そう言い、俺の頬にキスを一つ落としてから一階へと降りていった。

……どこか、あいつに焦りを感じるのは俺の勘違いか?

「ふふ、やっぱりイッセー君は全てを見透かしますわね」

朱乃は俺の隣に座って、肩に頭を乗せてきた。

「この前のゲームで貴方の枷になってしまったことがリアスの中で、

トラウマに近いものになっているようですの」

レグルスとの戦いでフェニックスの涙を、

あいつに使ったことか……ゲームの状況からすればそれは普通のことなんだが。

「やはり、いつまでも貴方に頼っていられない……そんな気持ちが、

どこかにあるんでしょうね」

俺が最後の希望となって支えると言った以上、頼っては欲しいんだが……今は何も言わずに、

そっとしておくのが良いのか。

「そう言うお前も焦っているんじゃないのか?」

「あら。やっぱりばれてましたか」

朱乃は悪戯がバレた幼い子供のように楽しそうな笑みを浮かべながらも、

雰囲気はどこか、重いものになっていた。

アバドンとの試合……朱乃は自身の雷光で勝負をかけたものの、

相手の能力によって光と雷を分けられ、光だけを返された……。

「私も必殺技のようなものが必要になってくる頃ですわね。

目標としてはイッセー君のサンダーと同じくらいの威力ですわ」

「そうか……いつでも呼べよ。徹底的に苛めてやるから」

「ふふ」

朱乃は軽く笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜、VIPルームに二人のお客様がおこしになった。

サーゼクス様とその奥方様であり、リアスの義理の姉であるグレイフィアさん。

「イッセー君、朱乃君、木場君にそれぞれ昇格推薦が正式に決定した。それを伝えたくてね」

和平会談時のテロリストを追い払い、さらにパーティー時のテロを未然に防ぎ、

悪神ロキとの戦いなどの功績が認められた結果らしい。

俺たちも最初に聞いたのはサイラオーグとの戦いが終わってからすぐのことだった。

他の奴らと比べて異様に俺達は強敵と遭遇する確率が高い……まあ、

それも俺の中に宿るドラゴンが全て引き寄せたのかもしれないが。

「勲章から考えれば中級を通り越して上級が最適なんだがいくら君たちでも、

例外は認められないと上層部が譲らなくてね。

君たちにはまず、中級の試験を受けてもらうことになる」

どんな悪魔も昇格の機会は平等でなければならない……それが、

悪魔の掲げている大原則らしいんだがやはり、

まだ古い慣習が残っているせいでそれが完全にあてはめられていることはないらしい。

「ま、そりゃ妥当だな。特にイッセーは昇格とともにウィザードの称号も、

与えられても良いくらいなんだが、それだと色々と問題が起きるんでな。

物事には順番を、その言葉のもと考えられたのがこの結果ってわけだ」

酒が入ったグラスを傾けながらアザゼルはそう言う。

「サーゼクス様」

「ん? なんだい?」

「一つお聞きしたいのですが」

「なんでも言ってくれ」

「……裏切りのフェニックスはいったいどんな存在なんですか」

その言葉にサーゼクス様の顔から笑顔が消え、アザゼルの顔からも、

そしてフェニックスの関係者であるレイヴェルの顔からも、

嬉しそうな表情が消えて真顔に変わった。

何度か聞きたいと思っていたんだがタイミングが合わなかったからな。

「サーゼクス。言ってもいいんじゃねえか?」

「…………そうだな。レイヴェル、良いかい?」

「はい。イッセー様も何度か戦われていますので」

「そうだな……彼の話をするにはまず、三種族が戦争を行っている時代にさかのぼる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵藤一誠という存在が生まれるよりも遥か昔のこと。

天使、堕天使、悪魔の三種族はそれぞれ戦争を行っていた。

その中で悪魔の陣営にはとくに武勲が優れているとされている二人の若者がいた。

一人はサーゼクス・グレモリー。グレモリー家に生まれ、

滅びの魔力を受けついだ存在であり、その強さは他とは一線を越えていた。

そしてもう一人がヴァベル・フェニックス。

殺されても何度も復活するフェニックス家の長男にして次期当主候補だった。

二人は互いに切磋琢磨し、その力を増大させていった。

しかし、ある時、戦闘中に仲間を庇ったヴァベルが相手の攻撃を受け、

絶命した……いつもの通り炎とともに復活するかと思われたその時、

以前よりも遥かに強い炎を発しながらフェニックスは蘇り、

その戦闘をたった一人で終結させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それからその当時の魔王達は殺されても以前よりも強くなって生き返る、

ヴァベルの特性を使おうとした。もちろん、私は反対したのだがその時は私は一人の戦士だ。

魔王に口答えできるはずもなかった。それからというもの、

ヴァベルは以前、会った時よりも遥かに強くなっていた。

だが、その優しかった性格は一変し、なによりも殺しを楽しむ性格に代わっていたんだ。

その後、戦争が停戦となった日を境にヴァベルは姿を消した」

サーゼクス様の話に部屋の空気は最初とは大きく変わっていた。

裏切りのフェニックスは…………戦争が生んだ存在だと言う訳か……。

「その後、フェニックス家ではヴァベル氏の名前を出すことは禁忌とし、

また暗殺候補として挙げられています。私もそのことを聞いたのはほんの数年前です」

「顔は見たことはあるのか?」

俺の質問にレイヴェルは首を横に振った。

「いいえ、戦争が停戦された時にはまだ私は生まれていませんから」

「はいはい! 冷たい話はそこまでだ! 三人は来週の試験を受けてもらうからな! 

悪魔歴の浅いイッセーは過去問でも見てれば十分だろ」

アザゼルが両手を叩き、雰囲気を変えるために、

俺達が浮ける昇格試験の話題へとシフトさせる。

確かにいつまでもこんな湿っぽい空気は、

これからテストを受けるっていうのにはふさわしくない。

「そうだな。レイヴェル、例の件。頼めるかい?」

「もちろんですわ! サーゼクス様!」

「レイヴェルにはイッセーのマネージャーを担当してもらうことになった。

お前はこれからいろいろと忙しくなるからな」

アザゼルからの話を整理すれば俺にはレイヴェルが専属のマネージャーとして、

つくらしい……いつの間にそんな話を進めたんだか。

ま、レイヴェルならば俺も文句はない。

「頼むぞ、レイヴェル」

「もちろんですわ! ではさっそく過去問を取り寄せてきますわ!」

そう言って、レイヴェルは書庫室へと走っていった。

レイヴェルはかなり張り切っているようだな……今、

気になることといえば小猫の反応のなさか。

さっきから小猫は心ここにあらずといった状態でポケーとしていた。

特に具合が悪そうには見えないが……。




今日は土曜授業だから大学がないのだ!


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第七十八話

翌日、俺はなんとなく校内をウロチョロしているといつの間にか生徒会室にたどり着き、

なんとなくだが中に入ってみると会長以外誰もいなかった。

「これは珍しいお客さんですね」

「それは遠まわしに不登校と言っているんですか?」

「ふふ」

そう言うと、会長は小さな笑みを浮かべながらお茶を出してくれた。

「貴方も変わりましたね。以前は顔に感情が全くなくて、

何を考えているのかも分からなくて苦労したんですけどね」

「リアスも言っていますよ。出会った当初は何を考えているのか分からないと」

「本当に変わりました……あなただけじゃない。

リアスも、他のみんなも貴方に変えられました」

そう言う会長の表情はどこか悲しそうなものだった。

「会長はリアスと付き合いは長いんですよね?」

「ええ。最初は家同士で会っていたのが徐々に、

プライベートでも会うようになって今に至ります」

この学校で最もリアスのことを知っているのは会長だな……俺達が知らないことを、

そして会長にしか伝えられていないことも。

「最近は通信魔法陣越しに惚気られて困っています」

どうやら、そう言うプライベートだけでは同じ同姓として、

そして親友ということも含めてリアスは会長のことを心の底から信頼している。

「でも……今のリアスも貴方が創ったのよね」

「と、いいますと?」

「上級悪魔だから、悪魔のしきたりだからと私は何もしなかった。

でも、そういう重いものを次々と貴方はその魔法で粉砕していき、

リアスの持っていたものを軽くしたんです。

それに比べて私は友人として何もしてあげられなかった」

次々とリアスを助けていく俺を羨ましいとも思い、素晴らしいとも思い、

妬ましいとも感じた……そんな感じか。

でも、俺でも出来ないことを会長はしているんですよ。

「リアスが惚気を出しているのは会長だけです……会長も、

リアスを支えている人物の一人なんですよ」

「……そうだといいけどね……昇格推薦の件、おめでとう」

サイラオーグ曰く、ウィザードの称号を貰う奴が下級のままでは、

周りに示しがつかんだろうということらしく、

聞くところによると悪魔の社会ではどんな魔法よりも地位が勝ることもあるらしい。

取っておいて損はない……そんな感じらしい。

「悪魔の社会ではどんなに強くても時には地位を見られることもありますから。

今後とも、リアスをよろしくお願いします」

会長が俺にこんな笑顔を見せると言うことは徐々に打ち解けあったということかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、そんな話を」

その日の晩、中級昇格試験の過去問集をパラパラと読み漁りながら、

今日あったことをリアスに話していた。。

集められるだけの過去問を集めてくれたレイヴェルにも感謝だな。

「ああ。今だに会長に頭で勝てる気がしない。大公家にも戦術の面で勝利したんだろ?」

「ええ、評論家の間では隠れた名勝負とされているわ。

今、ソーナとチェスをしても圧倒的大差で負けるでしょうね」

伊達に学年一位、全国学力順位でも十八歳の部門で一位を取っているわけじゃないな。

今度、暇なときに会長にチェスの勝負でも申し込んでみるか。

今の俺がどのレベルにあるのかも知りたいしな。

「お前もお疲れ様。レイヴェル」

疲れた様子でスコルをまくら代わりにして、

ジュースを飲んでいるレイヴェルにそう言うと、

彼女は笑みを浮かべながらこれくらい当然だと言わんばかりに胸を張った。

「…………後は小猫くらいか」

部屋もぐるっと見渡して見てもほとんどの部員が集まっている中、

小猫の姿だけが見当たらなかった。

ロスヴァイセもいないんだがあいつは今は北欧に、

魔法の再修業なるものを行っていると聞いているし……やはり、

何かしらの調子が悪いのか。

精神的なものか、それとも猫又にしかないことなのか。

「イ、イッセ~。国語を教えてくれ~」

ゼノヴィアとアーシアが涙目で教員から出された課題を持ってきた。

まあ、今まで教会にいて、なおかつ外国で過ごしていたから、

国語を理解するのも時間がかかるか……まあ、こいつらはそのレベルじゃないんだが。

「こ、このままいくと確実に私は赤点だ!」

「良いだろう。今度のテストで赤点を取らないようにしてやる」

俺はパタンと昇格試験集を閉じ、ゼノヴィアとアーシアに国語を教えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃぁぁ~」

今、俺はベッドの上で小猫に迫られていた。

何故こうなったと言えば国語ダメダメガールズに教えた後、

一眠りをしようと自室のベッドに横になった時に、

小猫が俺の胸にちょこんと乗っかってきた。

どうもおかしい……顔はいつもよりも赤いし、息も荒い。

それにさっきから甲高い声で泣き続けている……まさか、発情期か?

「切ないです…………先輩」

その時、バタンとドアが開けられた。

その方向を見ると予想通り、リアスが立っていた。

リアスは小猫の頬を触るとすぐさまポケットから携帯を取り出して、

誰かと連絡を取り始めると、その数分後にアザゼルと俺の知らない人物がやって来て、。

薬で彼女を眠らせるとそのまま医療室へと運びいれた。

「発情期だな。小猫はレアな猫しょうだ。

種族を残そうとするのは良いんだが……まだ、心身ともに成熟していない」

俺の予想は当たっていたらしい。

「小猫が発情期に入るのは少し早い……が。

この家にいる女であればそれは仕方がないことかもな」

「……私とイッセーの影響を?」

リアスの質問にアザゼルは首を縦に振った。

「次は私だ……そう考えたかもしれないですわね」

「とにかく、今は薬で落ち着かせてはいるがもう薬は使えない。

将来、成熟した時に発情期が来なくなる可能性もあるからな……イッセー。

今は小猫が治るまで何があっても」

「わかっている。仮に襲ってきたら眠らせればいい」

未成熟のまま子を宿し、

出産すれば高い確率で母子ともに死ぬ……そんなことは絶対にさせない。

小猫……俺はお前も支えると言ったが今回は、

少しばかりきつめに対応をさせてもらう。

「それと……明日訪問者が来る。何があっても騒がないでほしい」

その質問を聞いた瞬間、何故かあいつの顔が脳裏によぎった。

「…………お前のことだ。ショック死するくらいの奴なんだろ」

「ああ……下手すれば俺の首がリアルに飛ぶ」

そこまでの来客者か……いったい、どんな奴を呼べばそんな状況に陥るんだ。

考えられる可能性は…………テロリストの重役、

もしくはそれ以上の存在とかか。

その日はそこで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワンワン!』

翌朝、気持ち良く眠っているところにスコルとハティの鳴き声が聞こえ、

起きると二匹は周りにはおらず、どうやら下にいるらしかった。

俺は眠気を我慢しながらも階段を降り、一階の二匹の声が聞こえる場所へと行くと、

玄関で二匹の上にのっている黒髪にゴスロリ衣装を着た少女がいた。

……二匹が見知らぬ奴を自分の背中に乗せるのは珍しいな。

「……魔の王、ドライグ。久しい」

ゴスロリ少女は俺と目が合うとそう言って、二匹から離れて俺の近くまで歩いてくると、

そいつは俺の右腕をペタペタと叩き始めた。

何回か叩いた時点で不すぎそうに頭を右に傾けた。

「……ドライグ、出てこない……機嫌悪い」

「どうしたのイ……」

二匹の声に続々と皆が降りて来て、そして同じように全員がゴスロリ少女を見た瞬間に、

目を見開いて、動かなくなってしまった。

どうやら俺以外の奴らはこいつを知っているらしい。

「……アザゼル。本当にショック死しかけたわ」

「だろ?」

「こいつはなんなんだ」

「そう言えばお前はまだ知らなかったな。そいつはウロボロス・ドラゴン、

オーフィス。この世界で最強の存在でカオス・ブリゲードのトップだ」

「我、オーフィス」

どうやら俺の家にやってきたのは凄まじい奴らしい。

そんなことを思っていると突然、玄関先に転移用の魔法陣が出現し、

そこからトンガリ帽子を被った少女と白い狼、そして黒い浴衣を着た奴らが出てきた。

「お久しぶりです。ヴァーリチームのルフェイです」

「黒歌にゃ~」

『ワフン』

……いや、本当に俺の家はいったいどうなるんだ。




ブレイドの二次創作もなんとなく書きたかったので書いてみました。


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第七十九話

「ニャー!」

『『ワン!』』

狼と猫が向かい合って吠えあっている……俺は人生で初めて猫が、

狼に吠えるところを見た気がする。

他にもVIPルームにはやけに俺のことを見てくるオーフィスとルフェイ、

我関せずと言った態度の二匹の親でもあるフェンリルが横になって寝ていた。

「魔の王。我、魔法見たい」

「わ、私もみたいです!」

片方からは無言の期待を当てられ、もう片方は両目をキラキラさせて、

あからさまな期待を当ててくる。

……別に何も隠すほどのことじゃないから、

良いことは良いんだが……あいつを使わせてもらおう。

『コネクト・プリーズ』

寝ているフェンリルの頭上に魔法陣を展開し、後頭部に軽く凸ピンをして素早く、

魔法陣を消すと、フェンリルは何事かと起き上がって、周囲を見渡した。

「はぁぁ~! 凄いです!」

ルフェイは大層満、足そうな笑みを浮かべて喜びを全身で露わにしていたが、

オーフィスとやらは無表情でジッと俺を……というよりも俺じゃない何かを見つめていた。

「今代の赤龍帝、力使わない。ドライグ、天龍止める?」

その時、ドラゴンの声が俺の頭の中に直接、響いてきた。

“俺を外に出せと”

『ドラゴラーイズ・プリーズ』

俺はその声に従い、普段よりも遥かに小さい状態でドライグを……というよりも、

奴の魂を持った別のドラゴンを呼び出した。

「むっ。ドライグ、小さくなった」

『放っておけ。さっきの質問だが俺は天龍をやめる気はない』

「何故、力使わせない。ドライグ、過去の所有者に力使わせた。

でも今の赤龍帝。魔法使ってる。ドライグ、それ怒らない」

『さあな。俺の力を使うも使わないもこいつが決めること。

それにこいつは俺の力を別の方面から使用している。俺の力を使っているのと大差ない。

もともと、こいつの魔力は俺が生産したものだ』

「これまでの赤龍帝、ドライグの力で覇を求めた。

でも今の赤龍帝、魔法で覇を求めている」

『覇を求めているわけじゃない。こいつが勝手にそう呼ばれているだけだ。

それに俺は今もこいつは気に食わない。こいつが俺の力を使わないのであれば、

俺もこいつには力を貸さないだけだ。話は以上だ』

そう言ってドラゴンは魔法陣の中に入り込み、俺の中へと戻った。

気に食わないか……本当にそう思っているならば二度も、

俺に力を貸さないとは思うんだがな。

オーフィスもそれで満足したのか急に立ち上がって、

部屋の端で三角座りをしてボーっとどこかを見始めた。

「まあ、とにかくこいつらのことに関して頼めるか。イッセー、リアス」

「私はイッセーが良いと言うならばそれでいいわ」

「……別に構わん。こいつらが何もしないならな」

「悪いな、毎度毎度」

本当にな。毎度毎度、

面倒事が引き寄せられるかのようにいくつもやってくる。

だが……一番気になるのはあいつだな……前回の戦いから、

既に復調はしているだろうが……もう一度会ったときにどんな化け物に化けているか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後、俺たちは試験当日の日を迎え、

家の地下にある巨大な転移用魔法陣のもとに集まっていた。

恰好は学校の制服、持ち物は数年ぶりに使うこととなった高校のかばん。

その中には受験票やら筆記用具やらが入って入るが……まさか、

このかばんを押入れの奥から再び出すとはな。使わなすぎて埃だらけになっていたがな。

試験の会場となるセンターまで行くのが受験者の三人とマネージャーのレイヴェル、

他の奴らは一足先にお祝いパーティーをするというホテルへ、

転移してパーティーの準備を行うらしい。

「にしてもイッセーの制服姿もなかなかいいものね」

「ゲームのときに何度も見てるだろ」

「見るたびに変わっていくのよ……これは御呪いよ」

そう言い、俺の頬にキスを一つした。

「大丈夫だとは思うけど気は抜かないようにね」

「あぁ……行ってくる」

「いってらっしゃい」

リアス達の応援のもと、俺達は試験会場である場所へと転移するために、

まばゆい光を放ち始めた。

本来なら俺のテレポートでも行けると思うんだがそれだと色々と、

手続きが面倒なことになるらしいので公式のもので飛ぶことになった。

一応、サーゼクス様も俺のテレポートは認めてくれているとは思うが念のためだ。

輝きが収まると、俺達がいた場所は家の地下ではなくどこかの広いホールだった。

……市民センターのような場所だな。

すると俺達の姿を見つけたスーツを着た奴が早歩きで近寄ってきた。

「ようこそおいで下さいました。

お話は伺っておりますが何か証明できるものをご提示ください」

近づいてきた事務員らしき女性悪魔にそう言われ、

リアスから貰ったグレモリー家の文様が描かれたものと、

推薦状を担当者に渡すと確認が済んだのか、受付へと案内され始めた。

案内されている途中に気がついたんだがセンターにいる悪魔は数人程度。

戦争が勃発していた時代は勲章を上げることは、

そう難しくないことだったが三種族の間で和平を結ばれた今は、

なかなか勲章をあげるのはつらい。

「こちらで受付を済ませた後、上階の試験会場へ向かっていただいて結構です。

レポートもそこで担当のもにお渡しください。では、よい結果を期待しております」

そう言って、俺達を案内した悪魔はそのまま自分の持ち場へと帰っていった。

「受付用紙を取ってきますわ」

俺達が動くまでにレイヴェルが動き出し、受付まで取りに行った。

「イッセー君。ここまでこれたのは君のおかげだよ」

突然、木場が真剣な表情をしてそう言ってきた。

何を言ってんだか急に。

「…………俺は何もしていない。

ここまで来たのはお前自身がやってきたことが評価された結果だ」

「そうだね。でも、僕がやってきたことには必ずと言っていいほど、

君がその場所にいた。僕は君とともに戦ってきたからこそ、

今この場にいる。本当にありがとう……それとこれからもよろしく」

そう言い、木場は笑みを浮かべながら手を差し出してきた。

俺は何も言わず、その手を軽く握るとその上から朱乃も手を重ねてきた。

「ふふ、一緒に合格しましょう」

「皆さーん! 用紙を取ってきましたのであちらで記入しましょう!」

レイヴェルから用紙を受け取り、諸々のことを記入していく。

 

 

 

 

 

 

 

その後、レイヴェルとは別れて俺たちは試験会場へと向かった。

二階に上がるとすぐに悪魔の文字で『中級悪魔昇格試験会場』と、

書かれた立札が壁に立て掛けられているのが見え、

その部屋に入ると中は大きな講義室のような作りをしており、

ちらほらと座席が埋まっていた。

俺達の指定された座席へ座ると周囲からヒソヒソと声が聞こえてくる。

「あれが雷光の巫女、聖魔剣、そしてウィザード候補か」

「噂ではすでにウィザード確定らしいぞ」

「間近で未知の魔法を見れるのか!」

そんな声を聞きながらも周囲を見渡すと元人間の悪魔のほかに、獣人の悪魔、

魔物の姿をした悪魔など人間以外の転生者が四十名ほどいた。

大勢いる下級悪魔の中で推薦を貰ったのはたった四十名か……中級悪魔に上がる門は、

狭いものだとは聞いていたが……ここまでとはな。

サイラオーグは魔王になった暁には才能がある全ての悪魔に……地位など関係なしに、

このテストを受けさせてやりたいといっていたな。

その数分後、試験官らしき人物が入室してきてレポートの提出を促した。

俺たちは指示に従いながらレポートを提出し、

注意事項などを聞きながらも配られた試験用紙を見ていた。

ほんと、高校受験を思い出すな……いや、

あの時はかなり軽く考えていたからな。

それよりも、毎月の収入や家賃のことなどを考えていたっけ。

「では、始めてください」

その一言とともに試験が始められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「屈辱だ……一生の屈辱だ」

試験はすでに終了し、第二部の実技試験を待機しているが……第一部の筆記試験で、

一つだけ空白があった。それは社会学というところで何故かは分からない……もしかしたら、

出題者の意図なのか、レヴィアタン様が主人公の番組、

『マジカル・レヴィアたん』という幼児向けの番組の敵幹部を書け、

とかいう問題だけが書けなかった。

「ま、まあまあ。イッセー君は転生してからまだ期間が浅いから」

「ふふ、私もあの問題はビックリしましたわ」

これまでどんなテストも満点を取ってきた俺からすれば圧倒的な敗北感だ。

「イッセー様が解けなかった問題ですか……いったいどんなものなんでしょう」

「かなり難しいよ……オタクなら一発でかける問題だ」

人間風にいえば小学生は解けるが大学生が解けない問題みたいな感じだ。

……今度から冥界で放送されている番組を随時チェックしていくか?

「次は実技だね」

「イッセー君は力を抜いていかないと」

「何故だ」

「何故って…………下手をすればこのセンターを凍りつかせたり、

燃やして会場をとかしてしまったり、

重力で会場をぺしゃんこにしちゃうかもしれませんもの」

流石に俺でも全力でやる場面と手を抜かないといけない場面が、

あることくらいわきまえている。

そうこうしているうちに実技試験の時間となり、

レイヴェルの見送りを受けながら更衣室でジャージに着替え、

第二部の会場である広いグラウンドで開始まで軽く体を動かすことにした。

とはいっても、俺が使うのは魔法。そうそう、体を動かすことはない。

ストレッチをしていると試験官から集合をかけられ、受験者が集まる。

「では、これより説明をいたします。まず、今から配りますバッジを皆さまには、

つけていただきます。バッジには番号が書かれており、

こちらの抽選によって選ばれた二人に戦ってもらいます。

勝ったから絶対に受かるという訳ではございませんので」

担当者から配られるバッジを受け取り、胸に貼り付ける。

「では、発表いたします。一番と二番、三番と四番の方。前に」

いきなり俺か……二人は二十六番と三十二番だから後半か……。

「頑張って」

「イッセー君ならできますわ」

二人の声援を受け、魔力で円形形作られているフィールドへと入る。

「尚、ポーンの方はプロモーションは可能です」

……おいおい、そんな話一度も聞いたことないぞ。

なんだよプロモーションって……別に今更、大きな影響があるとも思えんが。

「では……始めてください」

さてと……最近、ドラゴンスタイルばかり使っていたから久しぶりに、

下位互換の奴らを使ってみるか。

『ハリケーン・プリーズ。フー・フー・フーフーフー!』

「はっ!」

相手が手元に魔力を集め、そこから小さな火球をいくつも放ってきた。

それを風を纏って宙に浮かび、避けていく。

いつものようにアスカロンは使えないしな……とはいっても。

「勝たなくちゃいけないしな」

その時、相手の全身から冷気が放出され、宙に大きな鳥が出来上がった。

セイグリッドギア所有者か……面白い。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

「鳥には龍だ」

普段よりかは威力が下がったサンダーを放ち、

相手の巨大な鳥にぶつけると相手の氷の鳥が一瞬で砕け、

そのままサンダーが相手に向かっていく。

「くぅ!」

相手は防御用の魔法陣を展開するもサンダーが、

それを貫通して相手に直撃し、大爆発を上げた。

…………ま、まあ相手の魔力は感じられるから死んではいない。

やはり、普段からテロリストや上位の強さの奴らと戦ってきたせいか、

全力で出す癖がついてしまったらしい。

もしもハリケーンのドラゴンスタイルでサンダーを使っていれば……もしかしたら、

俺はヤバいことになっていたかもしれんな。

「四番! 兵藤一誠選手の勝利です!」

試験は呆気なく終わった。




とりあえず、今日はキリのいい三連投です。


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第八十話

難なく実技試験を終えた俺達はアザゼル向けに通信魔法陣を展開していた。

『今は酒の真っ盛りだ! で? どうだった?』

「圧倒的――――そんな言葉が似合う」

そう言うとアザゼルはニンマリと口角を上げた……と思う。

『そりゃそうだ。中級悪魔の試験を受ける奴らは強くて中級の上クラス。

でも、お前達は上級悪魔並みだ。加えてイッセーは裏切りのフェニックス、

ロキ、ヴァーリ、曹操なんかを撃退しているんだ。圧倒的じゃない方がおかしい。

木場、朱乃、ロスヴァイセはすでに上位の悪魔と遜色ないし、

仙術の使い方を覚え始めている小猫も直に上位クラスだ』

小猫は今は悩んでいるらしい。姉に仙術や妖術を習うか習わないか。

まあ、あいつの心の奥底ではおそらく決まっているだろうがな。

話は戻るが神をも屠ると言われているロンギヌスの中でも最強のロンギヌスと戦い、

自律稼働しているロンギヌスを持つ男と戦い、

神とも戦い……正直、普通の卷属だったら全滅だっあり得る話だ。

それを全員一人もかけずにここまで来れた時点で俺達は異常だな。

「俺の女が引き寄せたものは凄まじいメンツという訳か」

『そうだな……にしても公言したな』

「何をだ」

『リアス! イッセーがお前を俺の女って言ったぞー!』

向こうから何やら騒ぎ声が聞こえてくるが……まあ、この際どうでもいいだろう。

『ハハハハハ! リアスの奴顔真っ赤にしやがった! 畜生! 

お前が魔法の王を目指すなら俺は独り身の王になってやる! チクショ――――!』

独り身の哀れな叫び声が聞こえたところで回線が切れた。

「ふふふ。やっぱりイッセー様の傍にいると、

面白いことがいっぱい起こりますわ」

「そうですわね」

「じゃあ、帰ろうか。みんなも待ってるしね」

その一言で俺達は転移魔法陣でリアス達が待つホテルへと転移した。

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ! リアスとイッセーが恋人同士になった……おいおい!

そんな物騒なもん見せるんじゃねえよ! ゴホン! 

改めて今までお疲れ様! 今日はパーっと楽しみやがれ若人よ!」

並々と注がれたグラスを仰ぎながら既に出来上がっているアザゼルの大きな声で、

パーティーらしきものが行われた。

無論、あの三人もいるが三人とも黒歌の仙術で気配を消しているらしく、

端の方で甘いものを食べている。フェンリルはルフェイの影に潜んでいるらしい……。

もしかしたらあの二匹も俺の影に潜むことができるのかもな。

このホテルは残念ながらペット禁止のため、

二匹は今頃ミリキャスとともに楽しく遊んでいるだろう。

「これとこれも食べてください」

「…………別にそんな指示なくても」

「今、小猫さんは体調が不安定ですから。バランスよく食べて栄養を摂取しないと、

また体調不良を起こしてイッセーさんが心配しますわよ」

「……分かった」

どうやら、レイヴェルと小猫も仲良くやれている様子だった。

「どうだった? イッセー」

「一言で言うならば楽勝……だが、あまり思い出したくないな」

リアスはよく分からないといった様子だったが再び食事に向かった。

あの日以来、俺はリアスに尋ねられた際はできる限りのことを話すようにした。

恋人関係になったこともあり、俺も気兼ねなく全てのことを話せるようにはなったが……まあ、

月日を重ねていけばもっと深いことも話せるようにはなるだろう。

こればっかりは時が経つのに任せるしかないな。

「ところでイッセー。お前、ウィザードの件はどうする」

この世界でもっともすぐれた魔法を扱うものに対して贈られる最上の称号。

全ての魔法使いが一度はそれに憧れると言われている最も名誉あるもの。

正直、俺は称号や地位などにはあまり興味はないんだがな……。

「今はまだな。俺とてまだ未熟だ。ウィザードの件はもっと先の話だ」

「そうか……だが、魔法使いには気をつけろよ」

「……どういう意味だ」

「簡単な話さ。外の存在が自分たちの最も名誉ある称号を取られたら嫉妬、

憎しみなんかの感情を持つってことだよ。

過激な奴らなら襲いかかってくるかもしれん」

なるほどね……まだ、生まれて十数年しか経っていない、

ガキに取られたくはないという訳か。

「あぁ。心…………」

そこまで言いかけた時に俺はナイフとスプーンを置き、

立ち上がって周囲を見渡した。

どうやらアザゼルや他の連中も気づいたらしく、

同じように周囲を見渡した。

「どうやら俺達は…………熱狂的なファンに追われているらしい」

その直後に京都で感じたあの感覚が俺達を包み込んだ。

風景などは一切変わっていないがさっきの感覚からすれば……あの霧使いが、

作った空間に俺達が強制的に転移されたとみていいだろう。

俺はその人物を探しまわったがそれはすぐに見つかった。

京都で俺達を襲撃した派伐の頭と学生服の上からローブを着こんだ青年。

「曹操。またお前か」

「やあ、ウィザード。京都以来だな。サイラオーグ・バアルとの試合はなかなか良かったよ。

また、新たな力を使って新しい姿にもなったみたいだしね」

奴の片目は眼帯で覆われて見えなくなっていた。

……眼帯の下から何か別の存在の魔力を感じるが……今はどうでもいいだろう。

「用件は」

「俺達の用件は君たちが保護しているオーフィスの回収。

そしてこれは私事だが君たちにひと泡吹かせようと言う訳だ。

にしても面倒なことをしてくれたよ、ヴァーリも。

ただ単にオーフィスをさしだしてくれれば…………素晴らしい、

才能を持った人間が死なずに済んだものを」

ほぅ。俺達の中で誰かがお前に殺されると言う訳か……面白い。

京都戦からどれほどパワーアップを図ったかは知らんが、

ここでこいつを行動不能にしておかないと後々に影響が出るな。

そんなことを考えていると黒歌の目の前に一つの転移魔法陣が開かれた。

「べらべら喋ってくれたおかげで繋がったにゃ」

その魔法陣の中央にルフェイの影から出てきたフェンリルが位置すると、

光に包まれてフェンリルの姿が消え、

代わりにダークカラーが強めの銀髪の男が転移してきた。

「ふぅ。随分と舐めた真似をしてくれるな。曹操」

「やあ、ヴァーリ。俺は俺の魂に従って動くだけだ。

君に止められる権利なんかないよ……そろそろ時間だ。

ウィザード、白龍皇がいる。ゲオルク。喰らうぞ」

「ああ、無限はこれにて終了だ」

ローブを着た青年が曹操の指示により、手を合わせると床に大きな魔法陣が展開され、

そこからドブのような黒い液体がドバドバと吐きだされて、

綺麗だった床を真っ黒に汚していく。

その疑似的なドブから徐々に何かが姿を現していく。

その姿は十字架に貼り付けられ、体の至る所を拘束具によってしめられており、

尾、鱗、翼とかなりおかしな構図をしている。

例えるならば上半身が堕天使、下半身がドラゴン。

「おいおいおい、ふざけんなよっ! なんでこいつがこんなところにいやがるんだ! 

コキュートスの深い場所に封印されていたはず!

オリュンポスのハーデスはいったい何を…………まさか」

「流石は総督。そうさ、こいつはハーデスからレンタルしたものだ。

レンタル期間はたったの数分。延滞料金は凄まじい額になると思うけどな」

曹操は軽そうに言うがそんな軽い存在ではない。

俺も書物でしか見たことがないが……その昔、

アダムとイブに知恵の果実を与えたことにより、

存在をなかったことにされた最強にして最凶の存在!

「こいつの名前はサマエル。究極にして絶対のドラゴンイーターだ。

ウィザードの言葉を借りるならば……ショータイムだ。サマエル!」

曹操の叫びとともに拘束具から黒い何かが俺たちに向かって吐きだされた!

「ヴァーリとイッセーは絶対に避けろ!」

魔法で防ごうとしたときにアザゼルの怒号が聞こえ、

慌ててそれを避けるがその黒い何かはオーフィスを飲み込み、

ドクンドクンと鼓動を打つように動きだした。

「…………アーシア、レイヴェル、ルフェイ。一番後ろに下がれ。

リアス、朱乃、ゼノヴィアは三人に被害が出ないようにしてくれ」

「無茶よ! 私たちも」

「良いからそうしろ!」

俺の怒号を聞き、こっちへ来ようとしたリアスは驚きの余り動きを止めた。

こいつは本当にやばい……そんなヤバい奴と戦わせるはずがないだろ。

「ヴァーリ。とりあえず曹操を潰すぞ」

「ああ、相当ヤバい状況だ。バランスブレイク」

『フレイム・ドラゴン。ボー・ボー・ボーボーボー!』

ヴァーリが白い鎧を身に纏うと同時に俺も赤い鎧を身に纏い、

コネクトを用いて別空間に収納してあったアスカロンを手に持ち、戦闘態勢を取る。

「ウィザードと天龍の一匹……いや、纏めれば天龍二匹か。

これらを退けるには俺もそれ相応の力で行く」

「サマエルの制御は任せておけ」

「ああ。思う存分やらせてもらうさ……バランスブレイク」

その時、槍から輝きが発せられ、

その輝きが消えたと同時に奴の周囲に七つの球体が姿をあらわした。

まさか、最強のバランスブレイクと戦うとはな。

「以前確認したものと違うな。亜種か」

「そうさ。名前は覚えるのも億劫になるくらいに長いから省略だ。行くぞ」




はたしてD×Dは何巻で完結するのやら。


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第八十一話

七つの球体を浮かべている曹操とそれぞれ鎧を身に纏った俺、

ヴァーリ、アザゼルの間に沈黙が流れる。

奴の魔力量が大幅に変化したわけじゃない……あの七つの球体から、

凄まじい魔力を感じるし、それぞれの全く異なる魔力だ。

まさか一つ一つがそれぞれ異なる存在か。

「七宝が一つ……輪宝」

その呟きの後、球体の一つが消え、

俺は反射的にディフェンドで炎を目の前に大きく展開するが、

直後に凄まじい衝撃波が俺を襲い、そのまま壁に当たるまで吹き飛ばされた。

「がっ!」

「流石だな。反射的に防いだが……だが、凄まじい威力だろ?

君の魔法をも打ち砕く矢だ。本来の能力は武器破壊なんだけどね。

通常の技としても使える」

「ヴァーリ!」

アザゼルの掛け声と同時にヴァーリが動きだし、曹操に向かっていく。

だが、二人が同時にしかける高速の攻撃を曹操は寸でのところで全てを避けていく。

バランスブレイクを発動した影響で奴自身の身体能力も上がったのか!

一旦、曹操は二人から距離を取り、

付けていた眼帯を外すとその奥にあった眼は金色の輝きを放っていた。

あれは人間の目じゃないな……俺が違う魔力を感じたのもそれが原因か。

俺はバインドを発動し、奴の動きを止めようとするが七つの球体が鎖に衝突し、

鎖が一瞬にして砕かれた。

それと同時に曹操は視線を下に向ける。

刹那、アザゼルの足もとが徐々に石化していき始めた!

「メデューサの眼か!」

「正解だ」

アザゼルが動けなくなった所に奴の腹部に槍が突き刺され、

鮮血をまき散らしながらアザゼルは地面に倒れ伏した。

俺の攻撃で失った目をあんなもので補っていたのか。

「曹操ぉぉぉぉぉぉぉ!」

アザゼルをやられたことからの怒りからかヴァーリは莫大な量の魔力を、

籠手の先に集中させ、それを巨大な弾丸として曹操めがけて放った。

バカ野郎! まだあの七つの球体の能力も分かっていない時に遠距離からの攻撃を!

「珠宝!」

その叫びとともにヴァーリが放った巨大な弾丸の目の前に球体が出現し、

そこに小さな時空の穴が開いて、それを吸収してから消え去った。

「こいつの能力は相手の攻撃を他者に受け流す」

俺はその説明を聞いて後ろを振り返った瞬間!

すさまじい爆音と爆風が発生した!

「……何ちんたら……してんのよ」

「姉様!」

小猫の前に立ち、放たれてくる攻撃から庇ったのか黒歌は全身から煙をあげ、

鮮血を流しながら地面に倒れ伏した。

「アハハハハハハ! 君は本当に仲間想いだ! 

だがその仲間想いが君の弱点でもある!」

ヴァーリは全身から怒りのオーラを滲ませながら、

鬼の形相でヴァーリを睨みつける。

「貴様のその癪に障る笑みごと吹き飛ばす!」

「覇龍か! ゲオルク!」

ヴァーリが覇龍を発動させようとした瞬間、曹操の叫びが響き渡り、

青年が腕を突き出して魔法陣を展開させると、

サマエルから一つ、黒い球体が眼で追いきれないほどの速度で飛んできて、

ヴァーリを一瞬で飲み込んだ。

「ヴァーリ!」

「ハハハッハ! 天龍も呆気ないな!」

黒い塊が弾けたと同時に全身から鮮血を噴き出したヴァーリが倒れ伏し、

鎧も倒れた際の衝撃であっけなく砕け散ってしまった。

あれが究極のドラゴンスレイヤーの力か……俺も、

あれを受けないように注意しないとな。

あのヴァーリが反応できないほどの速度で触手が伸びてくる……曹操と、

戦いながらあの触手に気を配ることができるのは……。

「君は冷静だね。仲間たちが次々とやられていく中で、

どうすれば俺を倒せるのかと策を練っている…………やはり君は危険な存在だ。

時がたてばたつほど危なくなる」

曹操が槍を握り締め、俺に突撃してくる。

俺は球体にも注意を払いながら振るわれる槍の攻撃をアスカロンで往なしていく。

いつもの感じで攻撃をすれば攻撃自体を後ろの奴らに受け流され、

逆に何もしなければこちらが殺される……本当にめんどうな力だ。

だが、力を出し惜しんでいてもこいつは倒せない!

俺は曹操との鍔迫り合いを打ち切り、距離を取って傍に魔法陣を展開し、

そこからドラゴタイマーを取り出し、腕につけた。

『ドラゴタイム・セットアップ』

「これで決める」

「面白い。やってみなよ」

『スタート!』

レバーを押し、タイマーをスタートさせると同時に曹操が先ほどの槍を放ってくるが、

それを避け、アスカロンを曹操に振りかざしたときに、

タイマーからドラゴンの咆哮が聞こえてくる。

『ウォーター・ドラゴン!』

レバーを押し、奴の背後に青色をした魔法陣が展開されると、

そこから青色の鎧をまとった俺が出現し、斬りかかるが球体によって阻まれた。

「さあ、ドンドン来なよ!」

『ハリケーン・ドラゴン!』

『ランド・ドラゴン!』

俺達が曹操から離れた直後に奴の上と下から緑色と黄色の鎧を身に纏った二人の俺が出現し、

攻撃をかけるがそれらは全て球体によって防がれ、肝心の曹操に届かなかった。

四人同時の攻撃を仕掛けていくが曹操は球体で防いだり、

槍で防いだりしながら全ての攻撃を防いでいく。

これ以上ちんたら攻撃しても無駄だな……四人で攻撃を、

当てることさえ無理ならばオールドラゴンで……いや、

ダメだ。あれは魔力を消費し過ぎる力だ。この後にも何が起こるか分からない。

『ファイナルタイム!』

「どうやら終わりのときらしいが?」

「甘く見るなよ」

『ドラゴンフォーメーション!』

レバーを叩くとそれぞれの背後に魔法陣が出現し、

そこからドラゴンの幻影が現れて、それぞれの専用の武装へと変化する。

「はっ!」

『チョーイイネ! サンダー!』

『チョーイイネ! グラビティ!』

『『サイコー!』』

ウォーター・ドラゴンのドラゴンの尻尾の攻撃を曹操が球体で防いだ瞬間、

グラビティで曹操の動きを封じ込め、

間髪入れずにサンダーを発動し、奴に向かって放った。

「言っただろう! 攻撃は全て他者に受け流せると!」

曹操が自らの前に球体を持ってきた瞬間、テレポートを発動し、

球体の目の前に移動し、後ろから迫ってくるサンダーをコネクトを使って、

いったん別の場所へと保存し、そこから奴の頭上にコネクトを繋げる!

「消えろ! 曹操!」

頭上の魔法陣から先ほどのサンダーが排出され、曹操に直撃し、

爆音を上げながら地面を抉り、周囲に大小様々の瓦礫を生み出していく。

「ハァ……ハァ」

その直後に分裂体が姿を消した。

確かに攻撃を他者へと受け流す球体は厄介だ……だが、それを操っているのは人間。

人間が反応できない場所からの攻撃ならば効くは…………っっっ!

煙の中から槍を持ったシルエットが浮かび上がり、

ガシャガシャと何かが落ちていく音が続けざまに聞こえてくる。

「いや、今のはヤバかった。直撃していれば死んでいたな……だが、

最強のロンギヌスの力を舐めてもらっては困るし、

それを扱う俺を舐めてもらっても困る」

曹操の頭上を護るかのように人型の存在が積み重なるように宙に浮いており、

次々に砕け散っていく。

「居士宝。光輝く人型の存在を生み出し、従わせる。

木場祐斗の聖剣のバランスブレイクに似た力だ。

でも、まだ未完成でね。調整が必要な能力の一つだ」

奴を倒すことができる最初で最後のチャンスを俺は逃してしまった。

もう魔力もほとんど残っていない……セイグリッドギアの力を使って、

魔力を倍々にしていってもいいがあくまで一時的だ。

それにセイグリッドギアと魔法が同時に扱えるかも分からない状況だ……絶体絶命だな。

「そろそろ終わりにしようか」

そう言い、飛びかかってきた曹操の攻撃をアスカロンで防ごうとするが、

俺の手に矢が直撃し、鮮血が舞い、力が緩んでしまい、そのまま地面に落ちた。

「がっ! ぐあ!」

槍の連続攻撃をまともに受け、

さらに腹部を蹴り飛ばされてリアス達がいる近くにまで吹き飛んだ。

「イッセー!」

「させませんわ!」

「女宝!」

リアスと朱乃が同時に能力を発動し、

曹操を攻撃しようとしたときに球体が彼女たちのもとへと飛んでいき、

弾けて凄まじい輝きを放って、彼女達を包み込んだ。

「ち、力がでない」

「女宝の能力は女性の異能を封じる。

さあ、グランドフィナーレと行こうじゃないか。輪宝!」

曹操の目の前に球体が現れ、そこから先ほどの矢が何本も飛んできた。

俺が避ければ後ろに!

「がっ! あぁぁぁぁ!」

「イッセー!」

放たれた全ての矢が俺に直撃し、鎧は完全に砕かれ、

全身から夥しい量の鮮血が吹き出した。

ク……ソ…………。

「曹操」

「ん? ……なるほど、旧魔王は恩をこんな形で返すのか」

青年からメモ用紙を受け取り、それを読んだ曹操は七つの球体を消し去り、

青年とともに外へ消えていった。

…………俺達を殺すまでもないってか!

「あ、そうだ。もうすぐここにグリムリッパーの集団が来る。

俺達はオーフィスの力が目的だがハーデスは絞りカスのオーフィスが必要らしい。

生きてここから脱出できたらまた会おう」

そう言い、曹操は外へと出ていった。




早く冬休みにな~れ


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第八十二話

「外に相当な数のグリムリッパーの姿が見られました。

さらにジークフリートさま、ゲオルク様。両名の姿も確認できました」

外の様子を見に行ったルフェイからの報告を聞き、アザゼルは表情を歪ませた。

何もしないと思っていた死神がこんな形で俺たちに手を出してきたんだ……。

曹操達にあれを貸し出したのも気まぐれか。それとも何らかの因縁か。

「本格的に動き出したか、あの骸骨爺!」

アザゼルは憎々しげにそう吐きだした。

今、俺達は六十階あるホテルの中間の階層の三十階に陣取っており、

三十階の階層丸丸をルフェイの強靭な結界で覆っている。

既にけが人の傷はアーシアにより完治しており、黒歌は大事を取って休息を、

ヴァーリも傷は癒えているもののサマエルの毒に苦しんでいる。

「さて、どうするかね……帰ってきたか、オーフィス」

アザゼルの言葉を聞き、顔を向けると何か用事があると言って別の階層へと、

出かけていたオーフィスがこちらの階層に帰って来ていた。

「我、回収してきた。サマエルに奪われる前に我の力、

蛇にして別空間に逃がした。今の我の力、

全盛期のドライグよりもふたまわり強い」

「そうか。大分弱まったな」

あんまりわからないが、無限の存在が有限になり、

さらにその力が全世紀のドラゴンよりもふたまわりしか強くないということは、

オーフィスにとって大幅に弱体化したことらしい。

「今やるべきことは二つ。一つはオーフィスの死守。

やつらはこっちのオーフィスを何が何でも奪いに来る。

もう一つは今の状況を外に伝えることだ。ルフェイは空間の魔術に秀でていたな」

「はい。ですが、私だけでは限界があります」

「そうか……イリナ。お前が外に向かってくれ。

護衛としてゼノヴィア、お前がついてくれ」

アザゼルの言葉に二人とも何か言いたげな様子だったが、

それを我慢して二人は首を縦に振った。

するとルフェイが鞘に入った一本の刀をゼノヴィアに渡した。

「こ、これは!」

「兄が持っていた最後のエクスカリバーです。天界で最後の一本を、

纏めることができれば今よりも力が上がると思います。

これも持っていって下さい」

「よし。リアス、俺と一緒に作戦会議だ。

その間、お前らは休息を取っていろ」

そう言われ、俺はヴァーリが休息を取っている部屋へと向かい、

中に入ると上半身だけを起こしたヴァーリがいた。

かなり顔色が悪く、呼吸も苦しそうにしていた。

「兵藤一誠か……随分と魔力を消費したな」

「あぁ……調子はどうなんだ」

「君がそんなことを聞くとはな……まあ、今のところは大丈夫さ。

ギリギリのところはあるけどね……おそらく、

このあとグリムリッパーとの大規模な戦闘が始まる。

その前に黒歌のところに行っておけ。彼女なら仙術で魔力を回復できるだろう」

「そうか…………」

俺はヴァーリの部屋を出ていき、

黒歌の部屋に入るともう復調しかけているのかベッドに座っている黒歌がいた。

「にゃ~。用件は分かっているにゃ。さっさと座るにゃ」

黒歌の指示通り、彼女の前に座ると背中の辺りに手を置かれ、

そこから温かい感覚が全身に広がっていくのを感じた。

「にゃにゃ? かなり魔力が多いにゃ……これじゃ、

吸い取られ過ぎて干からびちゃうかもしれないにゃ」

「そこまでは吸わない…………黒歌。お前は小猫をどう思っている」

曹操との戦いの際、こいつは小猫を攻撃から自分を犠牲にしてまでも護った。

そして以前、初めてこいつと出会った時のことを併せて考えると、

どう考えても俺はこいつが力に呑まれ、主を殺したとは思えなかった。

「私は野良猫。自由気ままに生きていけるけどあの子は……白音は飼い猫。

自由気ままに動くことなんてできない。だから、

あんたに任せた……そして、あの子を良い方向に導いてくれた」

なら悪魔を裏切った時、何故小猫もつれていかなかったんだ……そんな野暮な質問は、

止めておくことにした。

こいつは連れて行かなかったんじゃない……連れていくことが、

できなかったんだ。

小猫も一緒に連れていけば彼女までが自分と、

同じ道へと走ってしまう……そうなってほしくはなかったという心情からなのか。

「にゃん。満タンにゃ。ほんと、干からびる一歩手前にゃ」

そう言う割にはさっきよりもほくほく顔をしているのは俺の勘違いか。

「これからのあの子の支えになってほしいにゃ。ウィザード」

「……約束したからな。あの時」

俺はそう言って、黒歌の部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルの一室から外にいるグリムリッパーどもを見てみると顔はローブに隠れていて、

分からないが奴らから殺気、敵意などが向けられている。

あいつらがそれぞれ持っている鎌は対象を斬ると傷を与えるだけではなく、

寿命までも削るもの。

既に作戦は俺たちに伝えられていた。

ルフェイが魔術を使い、このホテル周辺を探索した結果、駐車場、ホテルの屋上、

そしてホテル内部の二階ホール会場に一つ設置されていることを突き止めた。

そして作戦は非常に簡単なもので、ホテルの屋上とホテル内部の装置は幸いなことに、

一直線上に設置されている。

そこで俺がコネクトで装置近くに攻撃を転移させる。それにより、

二つを破壊することで弱まった結界からルフェイの力で、

ゼノヴィアとイリナを外の世界へと逃がす。

既に準備は整っており、

俺は赤い鎧にドラゴンの頭部を装備した状態で作戦の決行を待っていた。

「イッセー先輩」

「小猫か」

ホテル内部はせまく、ドラゴンの頭部を装着した状態では、

ろくに動くことができないが声で小猫と分かった。

「……私は正直に言って姉さまが嫌いです。大嫌いです……でも、

ここを抜けるまでの間だけは信じてみようと思います」

「それでいい。何かあれば俺に言え。吹き飛ばしてやる」

「はい……大好きです、先輩。大きくなったら……お嫁さんにしてください」

…………人はその状況によっては突拍子のない行動や、

発言をするというが……まさか、人生で初めて逆プロポーズをされるとはな。

その突拍子のない小猫の発言に周りの奴らはかなり驚いていた。

「んじゃ、作戦決行だ。イッセー」

『コピー・プリーズ』

『ビッグ・プリーズ』

コピーで二人に分身した後にビッグが先に発動するようにコネクトに重ね、

そこへドラゴンの頭部を突っ込んだ。

「さあ、ショータイムだ」

そう言った直後、ドラゴンの頭部から炎を放出し、

そのままの状態で数秒経つと上と下の方から爆音が響いてきた。

魔術で様子を確認していたルフェイが叫ぶ。

「二つの装置の破壊を確認しました! いつでも飛べます!」

刹那、ルフェイが発動していた転移用魔法陣が輝きを最大にし、

ゼノヴィア、イリナ達をその輝きで包み込んでいた。

「死ぬなよイッセー!」

「絶対に天界と冥界の皆様に伝えてくるから!」

その言葉を最後に三人は外の世界へと飛んだ。

「さてと外の奴らだが」

「面白いものを見せてやる。ここで見ていろ」

俺はそうとだけ言って、窓を割りながら外へと飛び出し、

地面に着地すると同時にドラゴタイマーを発動させ、四人に分裂した。

こいつらは俺とは別の存在だが考えは共有することができる……つまり、

こんなことも可能という訳だ。

「たった一人で何ができるんだい?」

「見ていろよ、ジークフリート」

『『『『コピー・プリーズ』』』』

四人がそれぞれコピーを発動させ、人数を倍の八人に増やすが、

目の前の死神の軍勢を絶滅させるにはまだまだ足りない。

さらにコピーを発動し、数を八人からさらに多い十二人、さらにもう一度コピーを発動し、

十六人、ドンドンドンドン分裂していき、最終的に三十二人にまで分裂した。

「ハハハッハ! こりゃすげえ! 

たった一人で三十二人もの戦力を作り出しやがった!」

上から面白そうなものを見ているかのような声を上げるアザゼル、

それとは対照的に口をあんぐりと開けて驚きのあまり、

何も言えないでいるジークフリートと死神ども。

『さあ、フィナーレだ』

それぞれ、アスカロンを手に持ち、

刃に手を翳すとそれぞれのエレメントが刃を覆っていく。

『はぁぁ!』

三十二人が同時にアスカロンを振るうと総数三十二もの属性を纏った斬撃が放たれ、

大勢のグリムリッパーどもを一気に屠っていく。

さらにサンダーを八人で同時に発動し、

上からドラゴンの形をした雷をひとり何発も落としていく。

ブリザードもスペシャルも全員、同時で放っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト。英雄派」

この場に残ったのはジークフリート、ゲオルク、

そしていまにも壊れそうな結界発生装置らしきものだけだった。

辺りの地面には大きな穴がいくつも開いており、

とてもじゃないがホテルとしてはやってはいけない状況になっている。

まあ、ここはあのゲオルクとか言う奴がセイグリッドギアで作った空間だから、

何とも思わないが……流石にもうあれはダメだ。卑怯過ぎる。

それに反して魔力も差ほど消費はしないしな。

どうやら四人に分裂した際はそれほど魔力は消費しないが、

ドラゴンフォーメーションを発動すれば魔力を大幅に消費するらしい。

「チートだよ。四人に分裂したと思えば三十二人に分裂だなんて」

まさしくその通りだ。二度としない戦法だがな。

その時、どこかからバジバジッ! という音が聞こえてきた。

例えるなら放電時に聞こえる音に似ている。

空間に穴があき、そこから幼い少年を肩に担ぎ、

軽鎧をつけた出で立ちの男が現れた。

「シャルバ。何故、君がここにいる」

「ふん。貴様らに話すことはない……」

そう言うとシャルバと呼ばれた男は俺と後ろの方にいるヴァーリをまるで、

汚いものでも見るかのような目をしながらも憎しみを全身からにじませた。

「この世界を終わらせる!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

そう言い、シャルバは目の前に魔法陣を展開させてそれを少年に押し付けた瞬間、

少年は頭を抱えて絶叫し始めた。

さらに少年の影が大きくなっていき、ホテルをも飲み込むほどの大きさとなった影から、

すさまじいデカさの化け物が生み出され、空に向かって咆哮を上げた。

「さあ、行くのだ! この私を除外した冥界に住む穢れた者どもを喰らうのだ!」

次々と影からはい出てくる百メートルはある怪物の足もとに、

いくつも転移用の魔法陣が出現し、輝き始める。

まさか、あいつ怪物を転移させる気か!

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

火炎を放ち、怪物どもを転移する前に一掃しようとするが上から巨大な魔力弾が、

次々と隕石のように落下し、それを避けている間に怪物どもは全て転移が終了した。

「ハハハハハハハ! 死ね死ね死ね! 私を認めない奴らは全員、死刑だ!」

俺は後ろにいた動けないでいるヴァーリとそれを護ろうとしているやつらの前に転移し、

火炎で全ての魔力を撃ち落としていく。

「また貴様か! まあ良い! 私の目的はすでに果たされた!」

そう叫ぶ奴の腕にはオーフィスがいた。

ちっ! 無限から有限になり下がった影響であの程度の拘束すら解けないのか!

さらに次々とフィールドの至る所から大規模な爆発が起きていき、

空間に穴があき、ホテルなどの建造物が吸い込まれていく。

本格的にこのフィールドが崩壊し始めたか。

「冥界などもういらん! 偽物の奴らは直に怪物によって絶滅される!

そこでもう一度創りなおすのだ! 私の理想の世界を!」

そう叫び、オーフィスを抱えたままシャルバは翼を羽ばたかせて飛んでいった。

「もうこのフィールドはもたないにゃ! さっさとおさらばするわよ!」

黒歌が展開した転移の魔法陣に次々と乗り込んでいく。

……本当に奴を放って転移していいのか? 確かに先に向こうに転移してから傷を癒し、

奴を倒せば結果は同じだ……だが…………。

『ドラゴタイム・セットアップ。スタート!』

「イッセー! 何をしているの!?」

『ウォーター・ドラゴン!』

次々と俺の分裂体が現れていく中、俺は後ろを振り返った。

「悪いなリアス……先に行っていてくれ。俺は奴を倒す」

『オールドラゴン! プリーズ!』

全ての分裂体が出現した瞬間にレバーを二回連続で叩き、

全ての魔力を一つにした今の俺の最強の姿へと変化する。

「待って!」

俺がいまにも羽ばたこうとしたときにリアスによって腕を掴まれた。

今、俺の腕にある温かさは俺を変えてくれた…………。

「リアス……必ず戻る」

「待ってる……ずっと待ってる!」

その言葉を残し、俺は優しく彼女の手を振り払い、シャルバのもとへと向かった。




なろうの活動報告で出しましたがガイムアンドウィザードを見てきましたよ。
結論から言うとやっぱり仮面ライダーの映画は良いな!


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第八十三話

「ドラゴン……俺が気に食わないか」

猛スピードでシャルバを追いかける中、俺は宿るドラゴンに声をかけると、

装着している籠手に埋め込まれている宝玉が淡く、輝きだした。

『ああ、気に食わない。俺は三種族を恨んでいる。俺をこんな惨めな姿にしたことを。

だから俺は宿ってきた主どもを使ってそれを晴らしてきた……だが、貴様は何だ!

三種族の和平のために戦い、挙句の果てには悪魔の女を愛した! 何故だ!

何故貴様は悪魔を! 堕天使を! 天使を受け入れる!』

タンニーンの言うとおりだな……ドラゴンはその巨体、強大な力ゆえに、

下の存在を見下す傾向があると……こいつは巨体サイズの傲慢さを持っていたんだな。

ならばその感情を俺の答えで完璧に消そう。

「ならば俺も問おう。何故、貴様は俺に力を貸す。何故、

俺が絶望した時にセイグリッドギアの力を使わせた。

お前なら使わせなかったことも可能だったはずだ」

その質問にドラゴンは答えなかった。

「好きなだけ俺にあたればいいさ。それでお前の鬱憤が晴れるのならそれで良い。

それと俺は悪魔の女を愛したんじゃない……リアス・グレモリーという一人の女を、

心の底から愛しただけだ。そこらの人間が女を愛するのと同じだ」

ドラゴンへの話はそこまでにし、

体を大きく回転させて追いついたシャルバを翼でたたき落とし、

その際に離れたオーフィスを屋上の屋上へと転移させた。

「貴様!」

「俺は覚えていないんだがお前をボコボコにしたらしいな」

それを言うとシャルバは全身から魔力を迸らせ、表情を更に憤怒の色に染めた。

どうやらそのことはこいつからすれば屈辱的なことらしい。

「旧魔王派の奴らと戦って分かったことがある……どいつもこいつも、

自分が魔王になれる器だと思っている」

「そうだ! 我らこそがこの世界を統べる存在! 偽物の王が存在してはいかんのだ!」

「一つ言っておいてやる。確かに今の魔王様がたはお前たちからすれば偽物で、

気に食わないかもしれないがな……あのお方がただからこそ和平が成り立った。

たとえ、お前達が旧魔王の血を継いでいるとしても戦争を続けようとしたお前たちに、

魔王になる資格があるどころか悪魔と名乗っていい資格などない!」

「人間がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

シャルバは激昂し、目の前に魔法陣を展開しようとするがそれよりも早く、

奴に近づき、両腕のクローで体を十字に切り裂いた。

「今の一撃で分かった……お前はやはり魔王の器ではない」

「ふざけるなぁぁぁぁぁ! 俺こそが魔王! 

俺こそがこの世界を統べる真の魔王なのだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

シャルバが両手から放ってくるいくつもの魔力弾を俺は避けずにあえて受けていく。

調子に乗ったシャルバはそのまま次々と魔力を消費して、

魔力弾を俺に向かって放っていく。

「ハハハハハハハ! 何がウィザードだ! 何が最後の希望だ!

所詮、貴様は汚物同然の汚らわしき転生悪魔! 純血の悪魔こそ絶対!

この世界に転生悪魔など存在っっっ!」

死んだと思っていた相手が煙の中から無傷で現れたことに調子良く叫んでいた

シャルバは叫びをやめ、口を大きく開けてかたまった。

魔力の質も……量も……器も……全てが屑以下だ。

改めて今の四代魔王様が世論から素晴らしいと言われるのを理解できた。

……シャルバを生かすことはできない。

「ごっばぁ!」

高速で近づき、奴の腹に蹴りを加え、蹲ったところに上から一回転して、

ドラゴンの尻尾を叩きつけ、さらにもう一発蹴りを加えて地面にたたきつけた。

「どうした? 自称真の魔王さん」

「うごあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

獣のような叫びをあげながらシャルバはその手に持った矢を俺に突き刺してきた。

「ごぶっ!」

突如、体全身に形容しがたい激痛が走っていく!

オールドラゴンも安定していたのが嘘のように不安定になり、

いまにも崩壊しそうなレベルにまで落ちぶれてしまった。

グアァ……まさか…………サマエルの毒か!

「ハァ……ハハハハハハハ! どうだ! 辛いだろう! 

さっきの矢の先端にはサマエルの毒が塗り込んである! ハーデスから借りたものだ!」

至近距離から魔力弾をぶち当てられ、ドラゴンの鎧が砕け散っていきながら俺は、

地面にたたきつけられ、シャルバに頭を何度も踏まれる。

「どうしたどうした!? ウィザードと呼ばれる男が情けないものだなぁ!」

ク……ソ…………意識が…………遠のいて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――必ず帰って来て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!』

「うおあぁぁ!」

いまにも意識が切れそうになった時、愛する女の声が聞こえ、

最後の最後に使うはずだった力を今、発動し、

赤龍帝の赤い鎧を身に纏い、立ち上がる。

俺は何度でも立ち上がる! 俺が最後の希望だ!

「おぁおぁおぁおぁおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「バ、バカな! ウェ、ウェルシュドラゴンと言えば二天龍が一つの赤龍帝!

き、貴様その力を隠して!」

「うおおあぁぁぁ!」

「ごあぁ!」

背中から魔力を噴射し、奴に猛スピードで接近し、奴の顔面に深く拳を突き刺し、

殴り飛ばした相手に向かってもう一度、猛スピードで近づき、空中へ蹴りあげ、

何度も倍加して得た魔力を籠手の先から巨大な球状にして、

奴に思いっきり叩きつける!

「おあぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」

空間の崩壊を手伝っているのではないかと考えるくらいの爆音と爆発が何度も発生し、

シャルバは全身血みどろに塗れながらも立ち上がった。

だが、すでに奴の魔力はかなり少なくなっている。

「げぼぉ! うぅぅぅ! おおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

背中からドラゴンの翼が生え、奴に向かって二つの翼が伸びていき、

その体に二つの穴を開けたと同時に腹を殴り、建物の屋上まで殴り飛ばした。

「オ、オーフィス! へ、蛇を! そうすれば再び、

前魔王クラスにまで力が上がり、奴を倒せる!」

だが、オーフィスは首を左右に振る。

「我、もう汝たちに蛇作らない。それに我の力、

曹操によって削がれた。今、蛇作ることができない」

オーフィスの告白にシャルバは表情を絶望に染める。

今、目の前に絶望した奴がいるか…………どんなに、

金を積まれてもこいつの最後の希望になるのはごめんだ。

俺は奴の頭を鷲掴みにし、空中へと放り投げると鎧を解除し、

フレイムの赤い鎧を身に纏い、ビッグの魔法を三回連続で使い、

そこへドラゴンの頭部を突っ込むと数倍にまで巨大化したドラゴンの頭部が現れ、

その口から大量の炎がちらりと見えた。

もてよ…………俺の身体。

「消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! シャルバぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

その叫びとともに膨大な量の炎が火炎放射の方にまっすぐ伸びていき、

シャルバを包み込む!

「ぎゅおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! わ、我こそ真の魔王!

シャルバ・ベルゼブブぅぅぅぅぅぅぅ!ぎょぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

炎が大爆発を起こし、奴は完全に塵となってこの世から消え去った。

体が限界を迎えたのかドラゴンの頭部が砕け散り、鎧も呆気なく砕け散った。

俺はすでに感覚がなくなりかけている体を動かしながら、

オーフィスへと手を伸ばす。

「……何故、我助けた」

「さあ……な……げぼっ! ただ……お前が……悪の親……玉には見えなかった」

「我、静寂を得たい。だからグレートレッドを退かす。曹操達そう約束した」

そうか……ただ単にこいつは静寂を得るために、

曹操の口車に乗せられ勝手にテロリストの親玉にされただけの存在。

俺は彼女の手を握り、歩き出そうとしたときについに足の感覚がなくなり、

ホテルの屋上からオーフィスとともに落ちた。

「げほぅ!」

背中に強い衝撃が走り、口から大量の血反吐が吐きだされる。

「ハァ………………終わ……りか」

霞む視界――――――――先ほどまで聞こえていた爆発音も聞こえない――――――。

…………悪い…………そっちに…………帰………れな………い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ドライグ……話を聞きたい」

『なんだ』

「この者の話が聞きたい」

『ふん。随分と変容したようだな…………良いだろう。教えてやる。

この男が生まれ、ウィザードと呼ばれるまでに至った軌跡を話してやる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕―――――木場祐斗の目の前でイッセー君を強制召喚するための用意がたった今、完了した。

元龍王のタンニーン様、サマエルの毒で傷ついているヴァーリにも協力してもらった。

シャルバが暴走させ、生み出した怪物たちは冥界を蹂躙し、

町や村などを次々と破壊しだしていると聞いた。

無論、魔王様も動くと思われたけど敵サイドには神をも屠る槍がある。

それがネックとなって魔王様がたは動けないでいる。

だから力のある若い悪魔たちに指令が下されている。

イッセー君…………冥界の危機に君の力が必要なんだ!

僕たちだけの最後の希望じゃなく、この冥界の最後の希望になってほしいんだ!

「開くぞ!」

先生の声の直後、眩い光が僕の視界を塗りつぶしていく。

数秒くらい経つと眩い光が消え、視界が元に戻った。

そこにはイッセー君がいる―――――――――はずだった。

目の前にあるのはただ単にイーヴィルピースが八つ。

…………嘘だ。

「バカ野郎っ!」

「…………兵藤一誠」

周りのみんなも今の状況が分かったのか、各々の反応を示していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日この日、僕たちの最後の希望は……消えた。




今日ゴッドフェスだね。


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第八十四話

中級悪魔の昇格試験から数日が経った日、

僕たちグレモリー卷族は部長のお家に集合していた。

少年のセイグリッドギアによって生み出された怪物たちは冥界の土を粉砕していきながら、

人々を恐怖のどん底に落としていた。

無論、他の勢力からも援軍は来ているものの怪物自体の巨体さと独自で、

生み出され続けているアンチモンスターに手を焼いているようだった。

さらに言えば各地で旧魔王派の悪魔たちがクーデターを起こし、

それに冥界の戦士達が当てられている影響もあった。

テレビのどのチャンネルも怪物の様子を中継していた。

「イッセー君……」

僕はポケットから魔法陣が描かれた二枚の紙を取り出した。

これは以前に彼が渡してくれたもので彼が居なくなり、

絶望した時にこれを使えと言われた…………まだ、

僕は絶望はしていない……でも、絶望してもおかしくはないんだ。

「怪物どもの撃退についに魔王様がたが出ることが決定した」

後ろを振り返るとそこにはライザー・フェニックスがいた。

「状況が状況だ……察するぜ、木場祐斗」

既にこの人にもイッセー君の死は伝えられているらしかった。

彼の死を知っているのはほんの一握りの人たちだけだろう。

……でも、アザゼル先生は……あの人だけは彼の死に疑問を抱いていた。

それはドラゴンゲートからオーフィスが出てこなかったこと。

彼はシャルバによってサマエルの毒を注入されたと思われるのだがそれならばなぜ、

オーフィスも一緒にゲートを通ってこなかったのか。

イッセー君が戻ってこなかったとしてもオーフィスだけは帰って来てもおかしくはなかった。

広間を見渡すとまるでお通夜の場にいるかのような静けさと悲しみが広まっていた。

「良いね、レイヴェル。しっかり気を持つんだ」

レイヴェルさんを慰めている男性を僕は見覚えがあった。

ルヴァル・フェニックス氏……フェニックス家の次期当首にして、

フェニックスの四兄弟の長男であり、

最上級悪魔にも上がるんじゃないかと噂されている方だった。

そうか……ライザーはこの人の付き添いで。

「君が木場君だね」

「はい」

「この状況だ。これを君に」

そう言い、ルヴァルしが僕の手渡してきたのは数個の小瓶に入ったフェニックスの涙だった。

「私はこの愚弟とともに怪物の討伐に行く。討伐部隊にほとんど涙が出回ってしまってね。

これだけしか用意できなかったんだ……リアスさんもリアスさんのクイーンも、

彼の死で落ち込んでいる」

家の帰って来て以来、二人は部屋にこもりっぱなしだった。

最後の希望の彼がいない今、僕がこの卷属の最後の希望にならなくちゃいけないんだ……。

ほんと、いっぱいいっぱいだけどね。

「では、これで失礼するよ。ライザー、お前が変わったところを冥界に見せつけてみろ」

「もちろんですよ、兄者。木場、レイヴェルを頼んだぞ」

二人はそう言い残してここから去っていった。

「やっと……やっと敬愛できる殿方に近づけたというのに……」

悲しみに染まっているレイヴェルさんの声が聞こえてきた。

彼女は時折、彼をヒーローを見るかのような視線で見ていたからね……。

「…………私はなんとなくは覚悟していたよ…………いくら、

先輩が強くても……限界が来るって」

レイヴェルさんの隣に座った小猫ちゃんがポツポツと言葉を吐きだしていく。

そうか……彼女はもう覚悟をきめて。

「割りきりですわよ!」

いつもの無表情が崩壊していき、眼から悲しみの涙があふれ出してきた。

「私だってっ! 私だって限界だよ! やっと……やっと想いを打ち明けたのにっ!」

ダメだ……こんなところで僕まで泣いたら本当にこの卷属は崩壊してしまう!

「木場君」

後ろから声をかけられ、

振り返るとそこには朱乃さんのお父様のバラキエルさんが立っていた。

僕は彼女の今の状況を説明しながら朱乃さんがいるゲストルームへと案内していく。

部長と同じくらいに彼に依存していた彼女もまた、再起不能状態に陥りかけてた。

「ここです」

朱乃さんがいるゲストルームのドアを開けると真っ暗中、

虚ろな目をしている彼女がいた。

「朱乃」

「……父様……」

「話は聞いている……今は泣いても良いんだ」

「……父様っ!」

僕はこれ以上、ここにいても邪魔だと感じ、

ゲストルームの外に出るとちょうどそこを通りかかった二人に出会った。

「匙君」

会長と匙君の二人だった。

二人の表情を見る限り、部長には会えなかったんだろう。

「木場、兵藤を殺した奴は」

「もうこの世にはいないよ。彼が倒したんだ」

「そうか……あいつは勝ってん死んだんだな……許せねえ!

俺の目標の男を殺した奴を俺は許さねえ!」

匙君は憎しみがこもった眼から涙を流しながらそう言った。

「その憎しみを暴走させるなよ」

後ろから声が掛けられ、振り返るとそこにはサイラオーグさんがいた。

「私が呼びました。リアスにと。匙、行きますよ」

「はい!」

彼らもまた、魔王様からの指令で都市部の一般市民を避難させるために動くのだろう。

魔王様達は怪物の処理に追われているから有能な若者たちが動かされている。

僕はサイラオーグさんを部長が閉じこもっている部屋へ案内し、

彼が扉をたたこうとしたその時だった。

「リアス……」

扉が開き、目を真っ赤にはらした部長が出てきた。

「祐斗。みんなを客間に集めて」

「は、はい」

僕は驚きを隠せないまま、皆を客間に集めるべく走りまわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、客間に集められた全員の前に部長は立った。

「みんな聞いて…………あの人は……イッセーはもう……いない」

僕は部長の言葉を聞いて驚いた。

ま、まさか部長の口からそんな言葉を聞くとは思っていなかった。

「でも、あの人は前に言ったの! 俺がいなくなっても立ち止まるなって!

立ちあがって、前に進めって! 私達の最後の希望は目の前には居ない!

でも、私達の心にはまだ最後の希望が残っている! 動くわよみんな!」

部長は涙を流しながら必死に皆に訴えかける。

もっとも彼の傍にいたのは恋人の部長だ……彼はもう今の状況を見越して、

彼女の心に最後の希望を残したのだろうか。

さっきまで悲しみに浸っていたみんなの目に少しだけ、光が宿った気がした。

「やはり、奴はすごいな」

サイラオーグ・バアルは腕を組みながらそう言う。

「やつがたとえ、いなくなっても動けるように、

奴らに魔法をかけた……奴は本物の最後の希望だ」

そうだ……僕たちは動かなきゃいけないんだ!

この冥界を救うために!

「グレイフィア様から預かりものだ。俺も行ってくるとしよう」

サイラオーグ・バアルから受け取ったメモ用紙を見るとそこには悪魔の文字で、

アジュカ様のもとへ行けという文章と簡単な地図が描かれていた。

まだ、彼の死には多くの謎が残っている……アジュカ様なら。

僕は部長にそれを見せ、僕たちはすぐさまその場所へと向かった。



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第八十五話

深夜、僕、部長、朱乃さん、小猫ちゃん、レイヴェルさん、ア

ーシアさんの六人で地図に書かれている場所へと向かった。

そこは僕達が住んでいる人間界の場所から電車で、

八駅ほど離れた場所にあるアジュカ様の隠れ家の一つの廃ビルだった。

そこの一階に入るとそこで悪魔の女性がいた。

「お待ちしておりました、主は最上階にいます」

その言葉通り、エレベーターで最上階へ行くと、

イスに座ったアジュカ様がそこにいた……でも、僕たち以外のお客さんもいた。

暗闇の中、ハッキリとは見えないけど恐らく旧魔王派の構成員と思われる悪魔が数人、

そしてジークフリートが立っていた。

「リアス君。少し、待っていてくれないかな? ……すぐに片付ける」

その一言が発されたあと、ジークフリート以外の人物がいっせいに動き出し、

一人はその場から動かずに大質量の魔力の塊を、

もう一人は空中から同じように大質量の魔力弾を放つ。

近くでイッセー君の魔法を見てきたからかあまり派手には感じなかったが、

威力は十分にあるように見えた。

「ふむ……」

しかし、突然アジュカ様に当たろうとしていた魔力の塊が、

方向を変えて構成員へと向かっていく!

方向を転換した魔力弾は次々に構成員の身体を突き破っていく!

う、動かずに圧倒するのか……これがアジュカ様のカンカラーフォーミュラ。

「俺の能力を理解した上で来たと思っていたんだがね…………君たちが蔑んでいた、

ウィザード君なら立ち上がったんだけどな」

「あんな奴と一緒にするな!」

残った構成員が腕を突き出し、魔法陣を展開してそこからアジュカ様めがけて攻撃を放った瞬間、

構成員に向かって攻撃が放たれ、塵となって消滅した。

「ベクトルを逆にさせてもらったよ……さて、残りは君だ」

「なるほど。これが魔王の力というものか」

ジークフリート…………彼は僕が倒す。

「どうやら君の相手は後ろの剣士君のようだよ」

アジュカ様は椅子を動かし、邪魔にならないところへと移動し、

ジークフリートの相手を僕に譲ってくださった。

感謝します、アジュカ様。

僕は聖魔剣をひと振り作り出すと彼はバランスブレイクを発動し、

全身から龍の腕が四本現れて帯剣している伝説級の魔剣を全ての腕で抜き取る。

グラム、バルムンク、ノートゥング、ディルヴィング、

ダインスレイブ……彼が扱う魔剣は全て伝説級のもの。

そして僕たちは同時に走り出す――――――。

「「はぁぁぁ!」」

僕の聖魔剣による突きと彼の五本の魔剣と一本の光輝く剣による突きが衝突し、

辺りに凄まじい衝撃波がまき散らし、屋上の床を抉っていく。

僕の聖魔剣の突きでは勝てない!

僕は衝突した直後に聖魔剣を消失させ、高速でジークフリートの背後へと周り、

目の前に魔法陣を展開してそこから大量の聖魔剣を放出する!

「よっと!」

ジークフリートは射出された剣をいくつか魔剣で砕きながら、

その場から離れて距離を取ろうとするが僕はそれを許さず、

すぐさま二振り創造して高速で移動しながらジークフリートに斬りかかる!

「ふん!」

グラムとディルヴィングの最強の破壊力を持つ魔剣によって僕の二振りの魔剣は、

あっという間に砕け散る……でも僕はすぐさま創造し、再び斬りかかっていく。

「はぁぁぁぁぁ!」

何本砕かれようともすぐさま創造し、

隙を作らないように連続で剣をジークフリートに叩きこんでいく!

「バルムンク!」

彼が叫びながらつきだすと剣から渦を巻くように衝撃波が発せられ、

僕に向かってくる。

渦を消すには逆回転だ!

「はぁ!」

僕はそれぞれの手に四本の聖魔剣を作り出し、迫ってくる渦とは逆向きの回転になるように、

剣を振るい、渦を作り出してそれにぶつけて一瞬で相殺させ、再び彼に斬りかかる!

「やるねえ! ならこれはどうかな!?」

振るわれた剣から巨大な氷の柱が大量に生み出された。

ダインスレイブの能力か!

僕は手にある四本の刀に炎を生み出す能力を付加させると同時に、

ドラゴンスレイヤーの力も付加させて同時に振るうとドラゴンの形をした炎の塊が放たれ、

全ての氷が一瞬で溶かされ、そのまま炎はジークフリートへと向かっていく。

「この程度」

ジークフリートが六本の刀を振るおうとした瞬間! ドラゴンが次々に分裂していき、

小型のドラゴンになって彼の攻撃を意志があるかのように避けると、

背後で再び一つのドラゴンとなりぶつかる!

「ぐっ!」

「今だ!」

僕は八本の聖魔剣の能力を全てドラゴンスレイヤーに集中させ、

隙だらけのジークフリートの身体を一閃する!

「ぐっ!」

血をまき散らしながらジークフリートは距離を取り、

その場から跳躍して給水塔の上に立った。

「ハァ……なるほど。君たちの成長速度は凄まじいようだね。

あの空間での戦闘は全く本気じゃなかったという訳か……マズイね……悪いが、

奥の手を使わせてもらうとするよ」

ジークフリートは背に月の光を受けながらポケットからピストル型の注射器を取り出し、

首筋へ突き刺してその中身を注入していく。

途端に彼の魔力が跳ね上がり、四本の龍の腕がバクバクと鼓動をうちながら、

肥大化していき、四本の伝説級の魔剣と融合していく。

さらに彼の顔に血管が浮き彫りになり、筋肉が肥大していき英雄派の制服が破ける。

彼のシルエットが人間から……例えるなら蜘蛛の化け物のシルエットへと変化した。

な、なんだこれは…………さっきの物はドーピング剤のようなものか。

『君の考えていることであっているよ。さっきのはシャルバの血液だよ。

僕達の研究はある一つの結果を生み出した。旧魔王の血は、

セイグリッドギアを大幅に強化させるんだ。

これを僕たちはカオス・ドライブと呼んでいる』

カオス……混沌……いや、この場合は魔人と意訳した方が良いかもしれない。

『さあ、行くよ!』

彼の姿が消え去り、僕は聖魔剣を束に纏めて楯のように展開する――――が、

それはあっけなく五本の魔剣と一本の光輝く剣が僕の身体に突き刺さる!

「がっ!」

鮮血をまき散らしながら僕は飛んでいく。

「……き、木場さんまで死んでしまう」

アーシアさんの弱々しい声が聞こえた後、一瞬淡い光が見えた。

……セイグリッドギアは人の気持ちに応える……今の彼女の精神状態では、

本来の回復力は発動できないのか。

体が動かない……伝説級の魔剣の一撃を五本同時に、

受けたんだ……即死でもおかしくない。

『木場祐斗。これで終わりかい? 呆気ないね』

呆気ないか……そうだ。もう、僕の体は動かない。

僕が……僕が……みんなの最後の希望に……ならないといけないのにっ!

……イッセー君。

ポケットから落ちた彼から貰った魔法陣が書かれた紙を、僕が手に取った瞬間、

魔法陣が輝きだし、突然、周りが真っ暗になった。

「こ、ここは」

「エンゲージ・リバース。使用者の精神をある場所へと飛ばす」

今まで普段から聞いていた声が聞こえ、

振り返るとそこには赤色の鎧を来た人物が立っていた。

……イ、イッセー君?

「な、なんで」

「その魔法陣には俺の残留思念の含ませた魔力を入れてある」

僕は痛む体を動かし、彼の足もとで頭を下げる体勢を取った。

「イッセー君……ごめん! 僕は……僕はみんなの最後の希望になれなかった!」

両眼から涙があふれる……それは悔し涙だった。

彼が居なくなった今、僕が皆の最後の希望になってみんなを、

引っ張って行かなきゃならないのに皆の目の前で今にも死にそうになっている。

「はぁ……木場」

彼は一つため息をつくと僕の頭を鷲掴みにして顔を無理やり上げさせた。

「俺がいつお前にあいつらの最後の希望になれって言った?」

「え?」

「あいつらの最後の希望は俺だ。お前は最後の希望にはなれない……でも、

お前でもあいつらの心の支えとなり、あいつらの希望にはなれる」

「みんなの……希望」

「そうだ。俺はあくまで最後の壁だ……お前はちゃんと、

あいつらの希望になっている」

僕は彼の言い分に涙でぐしゃぐしゃになっているであろう顔を、

左右に振って否定した。

「違う……違うんだ」

「違うことはない。現にお前は皆が泣いている中、泣かなかった。

その姿に皆は影響を受けたはずだ。それがたとえどんな小さい影響であったとしても、

あいつらは絶望しなかった。お前も泣いていれば例え、

リアスの言葉を聞いてもあいつらは動かなかったはずだ」

そこまで言った時、彼の手が赤色の光へと徐々に変わり始めた。

「っ……時間らしい」

「イ、イッセー君!」

「木場……まだお前は立てる。振るう剣がなければあれを使え……………。

お前だけに…………許す」

その言葉を最後に彼は消滅した。

…………ありがとう、イッセー君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その魔法陣は……何をする気だ』

低いジークフリートの声が聞こえ、意識を取り戻したとき、

僕のポケットに入っていたもう一枚の紙が魔法陣となり、目の前に浮いていた。

立つんだ……絶望なんかしない……僕は最後の希望ではない……でも、

皆が絶望しないように護ることはできる……行こう。共に!

僕が魔法陣に手を入れた瞬間、赤色の輝きが発せられ、

深夜の屋上を赤く照らし出していく。

拳を握る……そこにはあれが握られている。

『まさか!』

徐々にその姿を見せるあれ。

僕だけに使用の許可を出してくれた世界で一番強い剣だ。

「ドラゴンスレイヤー・アスカロン。さあ、ショータイムだ!」



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クリスマス特別編 超ミニストーリー

『メリークリスマス!』

そんな宣言からリアスが改装してくれた俺の家で、

大層豪勢なクリスマスパーティー(若者は、クリパとか略しているらしい)が始まり、

各々、テーブルの上に置かれたこんがり焼いた、

七面鳥らしき焼鳥、ゴンタッキーフライドチキンのスペシャルクリスマスセット、

ドーナツ専門店のドーナツ君で買ったクリスマスセットにかぶりついていく。

そもそもクリスマスパーティーを行うきっかけは、

リアスがクリスマスパーティーがしたい、という要望からだった。

そんなわけで一週間前―――――つまり、12月17日から準備を始めた。

部屋の飾りつけは女子陣が担当し、男子陣およびペット二匹は買い出し担当となった。

俺達が寒空の中、自宅とお店を何往復もしながら女子陣が必要だと言った物を、

買ってきたおかげで今、客間は凄い状態になっている。

もちろんクリスマスツリーも飾られているし、

部屋の壁には紙で作られた星やらなんやらが大量に貼り付けられてる。

よくあそこまでデコレーションをしたものだと感心するレベルだよ本当に……。

そんな俺は母さんの遺影が置いてある部屋でコーヒーを飲んでいた。

以前までならば母さんと一緒に祝っていたクリスマスも今や大所帯となった……まあ、

その大所帯のおかげで俺はここまでこれたし、強くなることもできたし一生をかけて、

護っていきたいと、思える存在も手に入れることができた……以前までの俺とは、

比べ物にならないくらいに強くなったと、俺自身は思うが……母さんは、どう思う?

俺はコーヒーを飲みながら母さんの写真を見ると、突然腕に籠手が勝手に出現した。

『メリークリスマス・プリーズ』

普段の音声ではなく、優しさを感じさせるような柔らかい女性の声の音声が流れた直後、

籠手から魔法陣が出現し、その魔法陣が遺影の前に飛んでいき、

写真の前で停止すると魔法陣から一つの箱が出現して、魔法陣は消え去った。

俺はその箱に近づき、開けてみると中にあった物は――――――――

「2セットのマフラーと手袋……」

「イッセー。どうしたの?」

そんなとき、部屋にリアスがやってきた。

その瞬間に箱の中身の役目が理解でき、俺はすかさず彼女にマフラーをかけ、

自分自身にもマフラーをかけた。

「メリークリスマス。リアス」

「メリークリスマス、イッセー」

彼女は不思議そうな表情を浮かべながらも俺の手を引っ張り、

皆のもとへと俺を連れていき始めた。

『末永く幸せにね』

そんな声が気がした。

「……幸せになるよ」

「へ?」

「いいや、何もない」

俺はリアスとともに皆がいる部屋の中へと入った。




書きたかったから書いてみた……な、泣いてなんかないもん!


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第八十七話

『バ、バカな! 奴が死んだことでアスカロンは消えたはずだ!』

僕は彼が叫んでいる間に高速で移動し、

アスカロンを大きく振るって彼の体を斜めに切り裂いた。

彼のセイグリッドギアはドラゴン系セイグリッドギアのトゥワイス・クリティカル。

アスカロンとの相性は最悪だ。その証拠に切り裂かれた傷口からはまるで蛇口から、

水が流れ出ているかのような勢いで血液が流れ出ている。

『ぐぁ! ぐぉぉぉぉ!』

突然、彼の頭上に黄色の魔法陣が出現し、彼の足が地面にめり込むと同時に、

地面が凍りついて彼を動けないように拘束をした。

あれはイッセー君の魔法のグラビティとブリザード!

後ろを振り返るとそれぞれ、青色と黄色の魔法陣を目の前に展開した小猫ちゃんと、

アーシアさんがいた。

「さっき、イッセーさんに会いました……怒られちゃいました。

何してるんだって……お前の役目はみんなの傷を癒すことだろって」

「私もです……お前の役目は相手を粉砕することだろって」

『こ、この程度の魔法』

直後、凄まじい爆音とともに目の前に視界がつぶれるほどの閃光が発生し、

バチバチという耳をつんざく音が何度も木霊した。

上を向くと深夜の夜に浮かぶ――――朱乃さんの姿があった。

その背中には堕天使の翼が、そして目の前には緑色の魔法陣。

「これが私の奥の手、堕天使化です。彼が受け止めてくれたこの翼を、

この力を彼のサンダーに混ぜ合わせて落としました」

直後、後ろからゴォォォォ! という音ともに皮膚を焼くような熱風が吹き荒れ、

慌てて後ろを振り返ると目の前に赤色の魔法陣を展開した

レイヴェルさんとそこから放たれている炎と滅びの魔力を合わせている部長がいた。

「何が進もうよ……あの人の声を聞いてやっと私も進むことが出来た。

例え目の前から私達の最後の希望が消えても!」

「私たちの心の中に最後の希望は輝き続けていますわ! リアスさん!」

レイヴェルさんの声とともに部長の手から炎と滅びの魔力が合わさったものが、

ジークフリートめがけて放たれ、数秒経った後に夜の空に向かって赤と紅が、

合わさった炎が柱となって立ち上った!

『グァァァ! バカな……バカな! 奴は……兵藤一誠は死んでもなお、

お前達の最後の希望であり続けるというのかぁぁぁぁぁぁ! ぐあぁ!』

突然、ジークフリートが炎に包まれながら苦悶の声を上げたかと思うと彼との融合を、

解除して五本の魔剣が僕の所へと飛んできて目の前の地面に突き刺さった。

『バカな……木場祐斗を僕以上の使い手だと判断したのか!』

「……僕に従うというのならば……力を何かを護るもののために使え!」

僕はグラムを引き抜き、アスカロンを右手に持ち、グラムを左手に持ち、二つを構える。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

そして、一気に走りだす!

――――――見ているかい、イッセー君。みんなは……再び立ち上がった!

「だぁぁぁ!」

二つの剣をジークフリートに突き刺した瞬間!

彼の全身に生えていたドラゴンの腕が塵となって、消え去った。

グラムはアスカロンと並ぶ強大なドラゴンスレイヤーの力を持つ……。

彼の龍の力を殺したんだろう。

直後、彼の顔に、全身にヒビが走っていく。

『ハ……ハハハハ。そうか……負けたか』

「フェニックスの涙は使わないのかい?」

『カオス・ドライブ発動中はどうも使えなくてね……理由は不明だけど』

ヒビが生まれていく速度が速くなっている……本当にこれで終わったんだ。

『フリードと言い、教会の戦士育成機関出身の……奴らは……ろくな死に方をしない』

彼はそう言い、砂となって消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジークフリートを撃破した僕たちはすぐさまイッセー君のポーンの八つの駒を、

アジュカ様に渡して調べてもらっている。

アジュカ様はチェス盤の初期位置にポーンの駒を置き、魔法陣をチェス盤に展開し、

時折興味深そうに眼を見開いたりしていた。

「これはこれは。八つのうち四つもイーヴィルピースがミューテーションピースに変化している。

彼のウィザードととしての才能が駒を変容させたのか」

半分以上が変化するなんて……やはり彼は想像を遥かに超えていく!

「アジュカ様。駒から何か分かったことは」

部長の言葉にアジュカ様は少し、笑みを浮かべる。

「俺から言えることはこうだ。この駒の最後の記録は死ではない。

つまり、彼は次元の狭間でセイグリッドギアとともに生存している可能性が十分高い。

駒の機能もまだ停止していない……この駒はまだ彼限定に使うことができる……いや、

兵藤一誠に復元できると言った方が良い」

その言葉を聞き、僕の中に言葉にならない感情が走っていく。

「結論を言おう。彼はまだ生存している可能性が高い」

「うえぇぇぇぇっぇん! イッセーさァァァァァん!」

その言葉を聞くと同時に皆が声を上げて泣き始めた!

僕も声はあげなかったけど眼から涙がとめどなく流れてくる!

「イッセー……そうよ! あの人が簡単に死ぬはずないもの!」

「次元の狭間については俺のつてで調べるようにしよう。

ファルビウムの卷属にそれ関連の詳しい奴がいたはずだ」

そう言い、アジュカ様は目の前に転移用の魔法陣を出現させた。

「行くんだ。作戦は俺が立てよう。だが、冥界を救うのは君たち若い悪魔とサーゼクス卷属だ。

君たちの言葉でいえば……冥界の最後の希望だ」

「はい! 皆行くわよ!」

部長のその一言で転移用魔法陣へと乗り込んでいく!

もう、皆の顔に悲しい感情なんかない!

イッセー君! 先に冥界で僕たちは戦っているから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ……やったか』

木場達に渡したエンゲージ・リバースの影響で四つのエレメントに分割した意思が、

元の一つに合わさり、俺――――兵藤一誠の意識が完全に回復した。

今の俺の状況はよくは分からない……だが、一つ言えることは俺とは別の奴とドラゴンが、

力を尽くしてくれたことだけは分かる。

今の俺は鎧に魂をひっつけただけの簡単な存在。

そして俺は今、目の前のオーフィスとともに次元の狭間を凄い速度で移動している最中だった。

『まさか、こいつに助けられるとはな……なあ、赤龍神帝グレートレッド』

俺が乗っているもの……それは次元の狭間を泳ぎ続けていると言われているグレートレッド。

「魔の王。これからどうする」

『龍神と赤龍神帝の力と体の一部を使って復活する俺の肉体を使って、

最高のショータイムを行う』

「……我も行く」

『好きにしろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーナ!」

いったん、部長の家に帰宅した僕たちはそこでイリナさん、ゼノヴィア、

ロスヴァイセさん達と合流し、魔王領にあるリリスという町で英雄派と

会長たちが戦闘を始めたという連絡を受けて現場へ行き、そこでギャスパー君とも

合流し、現場へ向かうと血だらけの匙君と会長、

そして副会長が子供たちが乗っているバスを護りながら戦っていた。

『『ウォアァ!』』

「うぉ! 邪魔なんだよ犬っころが!」

僕たちと一緒に来ていたスコルとハティがバスを攻撃しようとしていたヘラクレスを攻撃し、

攻撃を未然に防いだ。

二匹もイッセー君の死を理解しているようで僕たちと戦った時以上に殺気を放っている。

「アーシア、匙君とソーナの傷を」

「はい!」

二人をアーシアさんに任せ、僕たちは英雄派と対峙した。

「たっく、ジークフリートの奴こんなやつらに負けたのかよ」

「でも、まさかこんなかわいいペットまで連れていたなんてね……どこまで、

ウィザードはバカだったんだか」

負け犬の遠吠え……彼らにはこの言葉がぴったりのようだ。

僕は新たに手に入れたグラムに手をかけようとしたとき突然、

道路にピシッとひびが入る音を聞いた。

グラムはまだ出していない……いったい誰が。

『『グルルルルルルル!』』

スコルとハティの二匹だった。

毛が逆立つほどの殺気を二匹は放ち、徐々にその体を大きくしていく。

彼が使い魔にするときに巨体さを魔法で小さくしていたけど……まさか、

それを自分で解除したのか……フェンリルの血を継ぐ二匹が進化する!

『『ウォォアオァオォアォォォン!』』

二匹が僕たちと戦った時と同じ大きさにまで巨大化した瞬間! 二匹が英雄派に向かって、

遠吠えをあげるとそれが凄まじい威力の衝撃波となり地面を、

抉りながら英雄派に向かって飛んでいく!

「うぉぉ!?」

慌てて避けた英雄派。

もともと彼らがいた場所はもちろん、見ただけで数キロ先の方まで衝撃波が飛んでいき、

地面を抉っていくのが見えた。

と、遠吠えだけであそこまでの威力を出すのか!

『『ワフン』』

二匹は力を使い果たしたのか体勢を低くした。

「ハハハ! てめえらみたいな危険な動物は駆除しねえとな!」

醜悪な笑みを浮かべながらヘラクレスが二匹に向かった瞬間!

「ごぁ!」

それを遮る形で誰かが飛び込み、ヘラクレスを殴り飛ばした!

「て、てめえ!」

「英雄が聞いて呆れるな」




遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
本年もKueをよろしくお願いいたします。


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第八十八話

「サイラオーグ!?」

「少し離れたところで旧魔王派の連中を一通り葬ったところで黒い炎が見えてな。

ここに来たところだ……奴は俺に任せてもらおう」

そう言い、サイラオーグさんは上着を脱ぎ棄て、ヘラクレスと対峙する。

「では、我々はあの女をやるとしよう。行くぞ、イリナ、ロスヴァイセ」

さらなる改良を加えられ、さらに力が上がったエクス・デュランダルを持ったゼノヴィアと、

天界の進めていた研究の結果が形となった剣を持つイリナさん。

そして魔法を一から学んだロスヴァイセさん……今の彼女たちなら、

カオスドライブを使われても大丈夫だろう。

「てめえ、ウィザードにやられたやつじゃねえか。そんな奴がおれに勝てるわけねえだろ!」

ヘラクレスの煽りにもサイラオーグさんは一切、表情を変えずに肩を二度三度回す。

凄い余裕のオーラだ……イッセー君と戦う時と比べたら明らかに違う。

「戯言は良い。英雄の魂を受け継ぐ者よ、貴様を倒そう」

「はっ! 魔力を持たねえてめえがおれに勝てるか!」

ヘラクレスはそう叫びながら走りだし、

両手でサイラオーグさんの腕をつかむとセイグリッドギアでの爆発を起こした。

「おれのセイグリッドギアは触れたところを爆発させんだ!」

体の表面だけだがサイラオーグさんにダメージを与えた!

さらに向こうの方でも爆煙が起きてるのが見えた。

ゼノヴィアたちもジャンヌと戦闘を開始したんだ!

「ふむ……この程度か」

サイラオーグさんのその一言にヘラクレスは額に青筋を立てる。

「ッッ! だったらこれでどうだ!?」

ヘラクレスが地面に手をつくと、連続した爆発が起こりサイラオーグさんを包み込んだ。

「アハハハハハ! 魔力が使えねえてめえが俺に勝てるなんて」

そこまでいってヘラクレスの口が止まった―――――炎の中に、

サイラオーグさんの姿を見たからだろう。

体から軽度の傷を負っても、どんなに火傷を負ってもサイラオーグさんは、

余裕の表情のまま腕を組んだまま立っていた。

「もう終わりか……ウィザードの炎はこれ以上だったぞ」

「そんなに死にたけりゃバランスブレイクで死ねぇぇぇぇっぇ!」

突然、ヘラクレスの全身からミサイルのような突起物が生え、

サイラオーグさんめがけて凄い数が放たれる!

「…………これ以上は時間の無駄だな。終わらそう」

サイラオーグさんはそう呟くと、腕に力を入れて……そして―――――。

「はぁぁぁぁぁ!」

僕達をあれだけ苦しめた拳の衝撃波がことごとく飛んでくるミサイルを破壊していき、

ヘラクレスを巻きこんで大爆発を起こした!

い、以前よりも明らかに威力が上がっている!

イッセー君に敗れてからさらに鍛錬を積み重ねたのか!

「悪いな。冥界に生きる悪魔として……俺はテロリストに負けるわけにはいかんのだ」

そう言い、サイラオーグさんは脱ぎ捨てた上着を再び着た。

衝撃波に呑まれたヘラクレスは全身から血を流し、あり得ないと言った表情を浮かべながら、

地面に倒れ伏して動かなくなってしまった。

まだ魔力はあるから生きてはいるんだろうけど……つくづく彼が味方でよかったと思うよ。

サイラオーグさんがヘラクレスを打倒して残ったのはゲオルクだけだった。

ビルの向こうでは色取り取りの輝きと、

聖なるオーラが高層ビルの向こうで暴れているのが見える。

「こんな短時間で成長するのか……ッッ! グレモリー卷属は! 

となるとそこの猫又とヴァンパイアもそうなのか……末恐ろしいな」

ゲオルクは倒れているヘラクレスを一瞥しながら、二人を見ていた。

あの疑似空間での戦いから、小猫ちゃんの力が上がったわけではない。

先生曰く、これからだということらしい。

「今は亡きウィザードの与えた影響は大きすぎる」

その一言を聞いて、ギャスパー君はあたりをキョロキョロと見まわしていた。

「あ、あのイッセー先輩は」

まだ、真相を知らないギャスパー君に部長が真実を言いかけようとしたけど、

サイラオーグさんの顔を見て、口を閉じた。

「そうか、まだ知らなかったのか。教えてあげよう。

奴はすでに死んでいるのだよ。サマエルの毒でね。

彼は確かに強かったよ……だが、サマエルの毒の前では無力だったのさ」

その話を聞いていくにつれて、ギャスパー君の顔が死んでいく。

……後輩が絶望していく姿を見るのは耐え難い……でも、

部長たちが考えているのは……おそらく。

「イッセー先輩が……死んだ?」

彼の眼から一筋の涙がこぼれた瞬間、

≪死ね……≫

普段のギャスパー君からは考えられないほどの冷たい声が聞こえ、

彼の体から黒い何かが放出されてあたりの区域を全て闇に変えた。

「な、なんだこれは」

魔法……いや、ゲオルクの焦りようから見るにこれは魔法じゃない!

「バランスブレイクでも、魔法でも暴走でもない! これは」

魔法に詳しいはずのゲオルクですら今の状況に驚きを隠せないでいた。

辺りの建造物がまるで幻想だったかのようにユラユラと消えていく。

≪オマエラミンナコロシテヤル!≫

闇からヒト型の何かが生み出されていき、少しづつ霧使いに近づいていく!

黒い化身となったギャスパー君が手……のようなものを突き出した。

それに反応してゲオルクも魔法陣を展開する……しかし、一瞬にして消え去った。

「くそ! こんなことが!」

ゲオルクは数々の魔法のフルバーストをギャスパー君に放つがそれらは全て、

闇に飲み込まれて消えた。

≪クッテヤル……ミンナ、ボクガクッテヤル≫

「バ、バカな!」

ゲオルクは目の前の光景に信じられないといった表情を、

浮かべながらも転移魔法陣を足もとに一つ展開した。

ジャンプする気か!

しかし、ゲオルクの体に黒い炎がからみつき魔法陣が消え去った。

「させねえよ……てめえは俺のダチをやった仲間だ。逃がさねえよ!」

匙君だった。

ヴリトラの炎がゲオルクを捕まえたんだ!

「……くそ!」

そのままゲオルクは静かに闇に食われた。

まるで咀嚼するようにゲオルクを飲み込んだ闇が数回、動くと闇は消え去った。

それと同時に辺りに放出されていた全ての闇も消え去り、

ギャスパー君は地面に眠るように倒れ伏した。

「この子についてヴラディ家に聞かないといけないことがたくさんできたわね」

部長はギャスパー君を抱き上げ、彼の頭を撫でてそう言った。

彼はただのヴァンパイアなんかじゃない……おそらく、世界でもまだ見たことのない存在だ。

「あれ? ゲオルクまでやられちゃった感じ?」

「っ! ジャンヌ!」

後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには傷だらけのジャンヌが幼い子供を抱えて立っていた。

「卑怯よ! 子供を人質に取るなんて!」

上空からゼノヴィア達が降りてきた。

「あら? これも立派な戦術よ。曹操が来るまでの間、こうやっておくわ」

くっ! なんて卑怯な!

もしもこの場に曹操が来られたらいくら強くなった僕たちでも、

最強のセイグリッドギアを相手にするのは難しい。

「っっ!」

そんなことを思っていた時、突然、

向こうの空から渦を巻くようにして天に昇っていく竜巻が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレートレッドの頭から飛び降りて、次元の裂け目から現実の世界へ、

と戻ってきた俺の目の前に巨大な怪物の姿が映った。

あそこにいるのは……グレイフィアさんと……まだ感じたことにない魔力だな。

「オーフィス。とりあえず、ここにいろ」

「我、承諾」

『ハリケーン・ドラゴン。ビュー! ビュー! ビュービュービュー!』

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

肩車をしていたオーフィスを降ろし、ハリケーン・ドラゴンの魔法を発動して、

緑色の鎧を身に纏うと、同時にスペシャルでドラゴンの翼を装備して巨大な怪物めがけて、

それ相応の大きさの竜巻を発生させて、ぶつける。

『ゴアァァァ!』

竜巻に巻きこまれた怪物は回転しながら宙へと浮き、そのまま空高く上げられ、

その後に竜巻を操作して地面に叩きつけた。

ふむ……やはり、体自体がドラゴンになったせいか

今までよりも威力が上がったように感じるな。まあ、僅かながらだが。

「イッセーさん!」

翼を広げたグレイフィアさんと見知らぬ人物たちが俺のもとまで近づいてきた。

「良かった……リアス達も向こうにいます」

「ええ、魔力でわかります。その前に奴を倒しましょう。

俺が奴を倒しますのでグレイフィアさんは奴を上げてくれませんか」

「わかりました。総司さん」

グレイフィアさんに総司と呼ばれた男は刀を持ち、

その場からすさまじい速度で目の前から消えると、

一瞬のうちに怪物の四つの足を一瞬で切り裂いた。

ほぅ……ナイトの速度はあそこまで出るのか。

「イッセーさん! 上げますよ!」

『コピー・プリーズ』

俺はコピーを発動し、さらにもう一度コピーを発動して四人に分かれると同時に、

ビッグを発動して目の前に展開し、キックストライクを発動する。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「行きます!」

魔法が発動した瞬間、怪物の真下に巨大な魔法陣が出現し、

そこから凄まじい威力の魔力弾が放たれて怪物を一気に上にまで上げた!

「さあ、復帰一発目だ!」

四人同時に飛びあがり、風のエレメントを足に纏わせた状態で魔法陣に足を突っ込むと、

右足が巨大化して四つの巨大な足が怪物へと同時に突き刺さる!

『ゴアァァァァァ!』

「だぁぁぁぁぁ!」

怪物が叫びをあげた瞬間! 怪物の身体が爆発四散した。

「ふぅ」

地面に着地すると同時に四人が消え去った。



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第八十九話

「な、なによあれ」

ジャンヌが向こうの方で先ほどの爆発に驚きを隠せないでいた。

……今だ!

僕はジャンヌの意識が別の方向へ向いている間に高速で移動してジャンヌの手から、

囚われていた少年を取り返した。

「あっ!」

「形勢逆転ね」

「それはどうかな?」

部長が勝ち誇った様子でそういった瞬間、それを否定する声が上から聞こえてきた。

最強のロンギヌスを持った少年。

「曹操!」

僕は叫びながら彼を睨みつけた。

この一連の騒動を引いていた主犯格!

「遅かったじゃない。曹」

ジャンヌが安心しきった表情で彼に近づいた瞬間、

その腹部をトウルー・ロンギヌスで貫かれ、倒れ伏した。

「君はもういらないよ」

僕たちはその光景に言葉を失った。仲間を……今までともに行動をしてきた仲間を、

あんなにもいとも簡単に槍を突き刺すなんて!

すぐさま、アーシアさんが倒れ伏したジャンヌの傍に行き、

セイグリッドギアの力で傷を癒していく。

「敵を癒すのかい?」

「敵であっても彼女が癒すことを邪魔する権利は君にはないよ」

そう言うと、曹操は両肩を軽く上げて呆れていた。

「おいおい、そんな顔で見ないでくれ。要らない物を始末するのは普通だろ? なあ、プルート」

≪その通りですね≫

曹操がつぶやいた瞬間、彼の隣の空間がゆがみ、そこから死神が現れた。

プ、プルートと言えば聖書にも載っている最上級の死神じゃないか!

流石にこの状況はちょっとキツイね。

最上級に死神に最強のロンギヌス。しかもバランスブレイク済みのものだ。

「やれやれ、英雄は要らない物を救ったからこそ英雄と言われたんじゃないのか?」

さらに上から疑問の声が聞こえ、見上げるとそこには白い鎧を着た者がいた。

「ヴァーリ……そうか、サマエルの毒から復調したんだね」

曹操は驚いたような表情を浮かべて彼を見ていた。

まだ僕達がイッセー君の死に悲しんでいるとき、部長の家に匿われていたヴァーリチーム。

そこへ初代孫悟空様が美候の連絡を受けたのか、

おいでになってヴァーリの身体からサマエルの毒を抽出した。

そのおかげでヴァーリは復調したんだ。

……にしても、彼の顔はある感情に支配されているね。

「あぁ、お前のおかげでイライラが頂点を超えそうだ」

≪この状況でそう言えるのはあなただけですよ。

曹操、彼は私が始末してもよろしいですね?≫

プルートの質問に曹操は勝手にしろと言わんばかりに無視した。

「お前が相手か……まあいい。兵藤一誠は魔法を、

極めるみたいだが……俺はセイグリッドギアの力を究めよう」

彼がそう言いながら地面に降り立った瞬間、

ヴァーリが纏うオーラが特大なものに変化しあたりを震わし始めた。

す、凄い魔力の圧力だ。

「俺は力で歴代所有者どもをひれ伏した。見ろ! これがもう一つの覇龍だ!

我、目覚めるは 律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり」

彼の宝玉から歴代所有者と思しき声が辺りに響く。

『極めるは、天龍の高み!』

『往くは、白龍の覇道なり!』

『我らは、無限を制し夢幻をも喰らう!』

そのものたちの声からは怨念のたぐいのものは感じられない……戦いの中でわかりあったのか?

「無限の破滅を黎明の夢を穿ちて覇道を往く 我、無垢なる龍の皇帝と成りて」

ヴァーリの鎧が徐々にその形を変えつつ、光を放つ。

『汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう!』

そこに現れたのは純白の鎧に身を包みし、異次元の存在だった。

何もしていないのにもかかわらず彼の周囲にある建造物や車などが

ぺしゃんこにつぶれていく!

「覇龍とは少し違う白銀の極覇龍。とくとその身に刻め!」

そう言い放つヴァーリにプルートは刀身が赤い鎌をヴァーリに降り落とす!

しかし、何かが砕ける音が僕たちの耳に入ってきた。

≪ッ!≫

あの不気味な雰囲気を放っている鎌を一撃で、しかもただ単に防いだだけなのに、

鎌が勝手に砕けた!

なんて魔力だ……あの死神の鎌が耐えられないくらいに濃度が濃い魔力なんて。

プルートもそのことに驚きを隠せないでいたがそのまま、

ヴァーリに顎を思いっきり殴りつけられて、空中へと吹き飛んだ。

「―――――圧縮だ!」

『compression divider!』

『DividDividDividDividDividDivid』

空中に放り投げだされたプルートの身体が縦に、横に圧縮されていく!

こんな事が起こり得るのか!?

≪こんな事が……ッ! ありえない……ッッッ!≫

「滅びの時だ」

ヴァーリが呟きながら、開いていた掌を閉じると完全にプルートの姿は完全に消滅した。

その直後、自動的にヴァーリの鎧が普段のバランスブレイク時の鎧に戻っていく。

ヴァーリは相当量の魔力を消費しているらしく、肩で息をしていた。

「俺の白銀の極覇龍は通常の覇龍に比べて、

自身に対する負担や暴走の危険を可能な限り排除したものだ。

それにより、破壊力は奴のオールドラゴンよりも見劣りするが特殊な力を手に入れた」

そうか………負担を減らしたことで発生した魔力の過剰なほどの消費を受け入れたことで、

さっきのような特殊な力を手に入れたのか。

「……恐ろしいものだな。二天」

そこで曹操を含めた僕たちの視線が突然の砕け散る音がした方へと向けられた。

「よう、曹操」

そこには僕達が待ちわびた存在がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……兵頭一誠か」

ヴァーリも、曹操も、サイラオーグも突然の僕の登場に驚きを隠せないでいた。

どうやらこいつらは完全に俺が死んだと思っていたらしい。

「イ、イッセー?」

俺の名を呼ぶ声に反応し、振り返るとそこには俺が愛した女が、

今にも泣きそうな様子で近づいて来ていた。

俺は何も言わずに彼女の腕を引っ張って抱きしめた。

「待たせて悪かったな、リアス」

「……うん!」

彼女は肩を震わせ、俺の胸の中で涙を流し始めた。

鎧越しからでも分かる……彼女の温かさが……彼女だけじゃない。

俺達の様子を見ている仲間たちの温かさも感じる。

「イッセー、これ」

リアスがイーヴィルピースを俺に渡そうとしてきたところで俺はその手を握り、

イーヴィルピースが俺に中に入るのを防いだ。

「リアス、感動の再会はここまでにしよう。悪魔になるのは……奴を倒してからだ」

視線を曹操の方へと向けると奴は驚いた表情を浮かべながらもどこか、

この結末を見透かしているような雰囲気だった。

「曹操。この騒乱が人間であるお前の手によって、

引き起こされたのなら……この騒乱の幕は、人間である俺の手によって下ろす」

厳密にいえば人の形をしたドラゴンだがな……そういう細かいところは良いだろう。

『フレイム・ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!』

『コネクト・プリーズ』

『ドラゴタイム・セットアップ』

緑色の鎧から赤色の鎧に変えて、さらに傍にコネクトを展開してそこへ手を突っ込んでから、

ひっこ抜くとタイマーが腕に付いた状態ででてきた。

この戦いで冥界の全てが決まるといっても過言じゃない……俺が再び、

あの世へと送られるか。それとも俺が勝利し、冥界に平和が再び訪れるか。

「さあ……運命を決めるショータイムの幕開けだ!」

『スタート!』

レバーを押し、タイマーを作動させて木場の手元に展開したコネクトから、

アスカロンを取り出し、曹操に斬りかかっていく。

既にバランスブレイクをした状態の奴は余裕の表情でアスカロンを槍で、

受け止めるがその直後に表情を硬くした。

「何が人間だ……以前よりもドラゴンの力が強くなっているよ」

「まあな」

『ウォーター・ドラゴン!』

ドラゴンの咆哮が聞こえ、レバーを押しこむと曹操の背後から青色の魔法陣が出現し、

そこから青い鎧を身に纏っている俺が現れ、斬りかかるが奴の周りに浮いている、

七つの球体に阻まれる。

「輪宝!」

球体の一つから二つの矢が生み出され、俺に向かって飛んでくる。

『ハリケーン・ドラゴン!』

レバーを押し込み、俺の前に緑の俺の呼びだし、

出現と同時に吹き荒れる暴風で三人の俺を上空へと押し上げ、上空へ一度あがって避けた。

「はぁぁ!」

「っっ!」

『フレイム・スラッシュストライク! ボーボーボー!』

青と緑が落下と同時に斬りかかり、二つの球体がそれで曹操から外れた時に、

スラッシュストライクを発動させ、放つが空間に小さな穴があき、

炎を飲み込んで遠くの方で大爆発が起きた。

珠宝の力か……あいつらのところに受け流さなかったところを見るとまだ未完成で、

好きな場所へ受け流せる場所じゃないみたいだな。

『ランド・ドラゴン!』

最後の一体を呼び出すと曹操は己の前に大量の人型の存在を生み出し、

俺たちに向けて進軍させてきた。

面倒だ。一気に砕く!

『チョーイイネ! ブリザード!』

『チョーイイネ! サンダー!』

『サイコー!』

冷気が全ての人型の存在を氷結させ、さらにそこへ、

ドラゴンの形をした雷を通過させて、砕いていく。

威力が底上げされた影響か雷撃が曹操のところまでも伸びていく。

「はぁ!」

曹操は槍から聖なるオーラを爆発させて、雷を粉砕した。

「まだ七宝の多くは未完成のようだな。曹操」

「それを見抜くか……ああ、まだ未完成だ。だが、俺はこれで一度君に勝った。

今度も勝ってもう一度……いや今度こそ冥府へと落としてあげよう。輪宝!」

『オールドラゴン! プリーズ!』

曹操から矢が放たれた時にレバーを二回連続で押し込むと全ての分裂体が、

俺の身体へと入り込み、クロー、ヘッド、テイル、

ウイングが俺本体を基調にして同時に装備された。

「これが最後の希望だ!」

曹操も球体を己の足もとに置き、飛行能力を得て空中へと上がっていく。

最後の戦いだ!



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第九十話

上空で最後の姿をしているイッセー君と曹操がぶつかり合う度に、

地上にいる僕たちめがけて衝撃波が、何度も叩き落とされてくる。

そのたびに体が悲鳴を上げるように痛みを発するけど僕たちは誰も弱音を吐かず、

頭上を見続けた。

誰も祈っている人はいない……僕を含めた誰もが彼の勝利を信じて疑わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!」

ドラゴンの頭部から火炎放射のように炎を吐きだし、

曹操へと放つが空間のゆがみが生まれてそこに炎が吸い込まれていく。

だが、俺は攻撃の手を緩めずに炎の威力をさらに上げて空間のゆがみへと放っていくと、

吸収しきれなくなったのか勝手にゆがみが消え去り、

遠くの方で爆発が起きるとともに放っていた炎が曹操へと直撃する!

「ぐあぁ! まだだ!」

火傷を負いながらも曹操は矢を何本も作りだして俺めがけて放ってくる。

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

冷気を矢めがけて放つと徐々に矢が凍りついていき、その速度が遅くなっていく。

俺はすぐさま魔法陣をくぐってクローで凍りついている矢を、

粉砕しながら曹操へと向かっていき、クローを振り下ろすが槍に阻まれる。

「兵藤一誠! なぜ君は戦い続ける!」

「愚問だな。俺達の前にお前が立ちはだかれば俺はそれを潰す」

「何故、君は悪魔や天使に手を差し伸べる! 君は怖くないのか!

悪魔も天使も堕天使も皆、人間の敵だ!」

曹操は叫び散らしながら距離を取って矢を放つが、俺は全てをクローで粉砕する。

「おとぎ話に囚われた狭い考えの持つ奴が言う言葉だな。曹操」

「兵藤一誠ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

俺の言ったことに額に青筋を立て、曹操は球体を直接俺めがけて動かしてきた。

それを身をよじることで避けると地上に巨大なクレーターが生み出された。

なるほど……だが、曖昧だな。ただ単に地上に穴をあけるほどの威力重視の攻撃ならば、

この程度ではないはず。それ以外の能力があればこれほどの穴は開かないだろう……。

球体は地面から抜け出て、再び俺を追尾してくる。

「これで終わりにしよう……曹操」

『チョーイイネ! ファイナルストライク! サイコー!』

球体から大きく距離を取り、全てのエレメントが合わさった七色の魔法陣を、

俺の目前に展開した後に、体勢を変えて魔法陣に背を向けると、

その魔法陣を両足で強く蹴って放たれる七色の光を背に受けながら球体へと迫っていく。

木場、アーシア、小猫、レイヴェル、ロスヴェイセ、朱乃、ギャスパー、

スコル、ハティ、サイラオーグ、ヴァーリ……そしてリアス、見ておけ。

―――――――――これが。

「最後の希望だ!」

七色に輝く俺の蹴りと球体がぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃波が辺りに放たれ、

辺りのビルはもちろん、地面が吹き飛んでいく。

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

曹操……お前は確かに英雄の魂を受けついでいた男だ。

英雄派に属していた人間はすべて、例外もなくお前を信奉していただろう……だが、

運が悪かったな。お前が生きた時代に俺という存在がいた。

「うおぉぉ!」

体を回転させ、ドリルのように球体へ蹴りを与え続けると、

ビシッという音が一度聞こえたかと思えば、何度も連続して聞こえてきた。

「だぁぁぁぁ!」

バキィィン! という砕けた音ともに俺の蹴りが曹操にまで到達し、

七色の輝きが空を支配した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺でさえ視界が潰される輝きが収まったのを確認し、目をあけるが曹操の姿は見当たらない。

数秒経ったところで輝きが晴れ、辺りを見渡すとコンクリートに穴があく音が聞こえ、

瓦礫が落ちる音が聞こえた。

「あそこか」

俺は翼を羽ばたかせて、その音が聞こえた場所へと向かうと血を辺りに散らばらせた曹操が、

床に背を向けて倒れていた。

死んじゃいないだろう……死なないように直撃はさせなかった。

「ガハッ……ハァ……」

「よう。死にかけだな」

俺は全ての装備を解除して偶然なのか、残っていた椅子に腰を下ろした。

「負け……か」

「トゥルース・イデアは使わないのか」

最強のロンギヌスだけに許された覇龍でもない、バランスブレイクでもないまったく別の力。

その力を使えばこの状況を一気に逆転させることは可能だと思うが。

「あの力は今は亡き神の意志に左右される。おそらく今、

使ってもトゥルース・イデアは発動されないだろう……神は君を選んだんだ。

でないとあんな状況から生還はしない」

「あの時、殺しておけばと後悔しているか」

俺達が以外の声が聞こえ、振り返るとそこには顔だけをだした鎧を、

纏っているヴァーリが立っていた。

ここへ来る途中に感じた強大な力はこいつか……また、新たな力を手に入れたか。

「ヴァーリか……いいや、俺は後悔はしていない」

その顔は敗北者が浮かべる顔ではなかった。

こいつはこいつで、この戦いを楽しんでいたということか……。

「これからお前はどうするんだ。曹操」

「そうだな……メデューサの眼も今は休息中。この傷を癒すのにも

かなりの年月がかかるだろう……もしくは、いないかもしれない」

どういう意味だ――――――そのような質問は俺もヴァーリもしなかった。

この先の道を決めるのはこいつ自身……己にふりかかることは、

覚悟を決めたうえで被るつもりだろう。

その時、曹操を霧が包み込みんだ。

数秒後、その中から片腕、片目を失っている魔法使いの青年が、

曹操の肩を持ちった状態で現れた。

「ゲオルクか……お互い重症だな」

「あぁ……帰ろう。曹操」

二人を霧が包み込み始めたところで皆が到着した。

すぐさま、サイラオーグが逃がさんと追撃をかけようとするが俺はそれを腕を上げて遮った。

「兵藤一誠。一つ言っておこう。カオス・ブリゲードの中には今まで旧魔王派や、

英雄派という大きな派閥に隠れている小さな派閥がある……そいつらに気をつけろ」

……曹操がそう言わざるを得ないほど驚く人物が、

カオス・ブリゲードの中に紛れ込んでいるというのか。

「曹操。またかかってこい……今度はテロなんか起こさずに一対一でな」

そう言うと曹操はふっと乾いた笑みを一瞬だけ浮かべた後、青年とともに消え去った。

「ふぅ……俺は帰るとしよう」

「ヴァーリ、お前はどうする」

「俺は戦いを求めるだけだ。世界を歩き回って強いものと戦っていく……。

いずれ、君との戦いもケリをつけよう。その時まで一時休戦だ」

そう言い、ヴァーリは空へと浮かび上がり、そのまま速度を上げて冥界の空へと消えていった。

どの戦いを刺しているかは知らないが……いずれは決着をつける。

「イッセー」

「あぁ、そうだったな」

リアスからイーヴィルピースを受け取ると駒が赤色に輝きだして八つの駒、

全てが体内に入り、背中から悪魔の翼が生えた。

これで人型のドラゴン転生悪魔の完成だな。

「それじゃ、帰るぞ。みんな」

そう言いながら全員を顔を見るように視線を動かすとサイラオーグを含めた、

この場にいる全員が驚きに顔を染め上げていた。

今、ようやく思い出した気がする……俺があの日以来失っていたものを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当の……心の底からの笑顔ってやつを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃ~。今回は疲れたにゃ」

「そうだな……俺っちもかなり疲れたぜ」

「貴方は初代にこってり絞られたからでしょう」

「う、うるせえ!」

「ヴァーリ様。次はどこに行きますか?」

「決まっているだろ……強者がいるところだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々の仕事もこれでひと段落だな」

「久しぶりに魔王の仕事をしたよ」

「もう、僕は働きたくないぞ~」

「もう、ファルビーったら! 今回のように毎日動いたら?

そうしたらすぐに綺麗な女性が捕まるわよ☆」

「そりゃ、無理があるだろ。レヴィアタン……サーゼクス。あいつが帰ってきたぜ」

「ああ。よく帰って来てくれたよ……そろそろ世代交代かな?」

「ハハハハハハハハ! 何百年先の話をしてんだよ!

まあ、徐々に世代交代が始まるのは確実だな。冥界は変わるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄派との激しい戦いが終結してから数日が経ったある日。

俺たちオカルト研究部は旧校舎にある部室に全員集合していた。

アザゼルは勿論のこと、小猫、ギャスパー、ロスヴェイセ、俺、木場、

朱乃、リアス、ゼノヴィア、イリナ、アーシア。

「結果が来たぜ。簡潔に言えば……全員中級悪魔だ」

アザゼルがそう言った瞬間、どこからともなくパンパン!

とクラッカーの音が部室に鳴り響き、

台車に載せられたケーキがレイヴェルの手で運ばれてきた。

「にしてもお前らはほんと、すげえよ。全員帰ってきたんだからよ」

まあ、俺は一度消滅はしたがな。帰ってきたという点ではあっているな。

「当面、私たちはヴラディ家との対話を実現させることに向かっていくわ」

俺は知らないんだがゲオルクを片づけたのはギャスパーらしく、

その時のギャスパーは誰も見たことがないような能力を使ったらしい。

吸血鬼の世界は現状でいえばかなりもめているらしく、なおかつ閉鎖された世界らしい。

「ま、そういうことは後々な。それじゃ、全員帰ってきたし。三人の昇格をお祝いして」

『カンパーイ!』

カツン! というグラスが軽くぶつけられた音が部室内に響き渡った。




マジで一気に三、四話くらい投稿できる機能って実現できないかな?


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第九十一話

「フェニックス。あまり自分勝手な行動はしないでください」

「けっ! 俺が勝手に行動して何か迷惑でもあるか?」

「ええ、大迷惑です。今、カオス・ブリゲードは再編作業に入っています。

直に貴方に幹部になるようにと指示があるでしょう。新たな組織に貴方は必要な戦力です」

「ざけんな! 俺は俺の好きにやる!」

「……兵藤一誠ですか。彼は今や組織全体共通の敵です。貴方個人が好き勝手に、

相手にしていい相手ではありません。ともかく、これ以上は独断行動は止めてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・ブリゲード――――英雄派との戦いが終わり、騒乱の事後処理も着々と進んでいるなか、

私――――リアス・グレモリーはイッセーの生還などの報告をするために冥界の実家へと帰っていた。

「そうか。一時はどうなるかと思ったが良かったな、リアス」

父様も母様もイッセーの生還を喜んでくれた……まあ、私とは方面が違う喜びなのだろうけど、

大きく見ればイッセーが戻ってきたことを喜んでくれているのは同じね。

「今日はもう帰るのですか? 義姉様」

「少し町の方を見に行こうと思っているわ」

「僕も行っていいですか?」

「これこれ、ミリキャス。今日くらいはゆっくりさせてあげなさい」

母様に言われ、可愛く頬を膨らませて不機嫌な様子を表わすミリキャスの視線に合わせて、

しゃがんで彼の頭を軽く撫でてあげた。

「今度はイッセーと一緒に来るから」

「はい!」

私はそう言い、実家を出て町の方を見に行くと魔獣の進軍を受けた村や町にはまだ、

痛々しい傷跡が残っていたけど着々と街の復旧作業は進んでいた。

この調子でいけば数か月もすれば街はまた活気を……あれは。

ふと、人ごみの中に見覚えのある後ろ姿を見かけ、

私は気付かれないように人込みをかき分けて追いかけていくと、その人物はすぐに分かった。

「裏切りのフェニックス……っ!」

カオス・ブリゲードに在籍し、何度もイッセーと、

激しい多々繰り広げている裏切りのフェニックスだった。

彼は黒歌のようにSS級の犯罪者として指名手配をされているわけじゃないし、

お兄様と同期なためにほとんどの人は彼の名を聞いたことはあれど、顔はあまり見たことはないし、

彼が行方不明になったことは大々的には報道されていない。

報道されたことはされたけど小さい記事の端の方に書かれていただけだった。

「すぐにイッセーを」

イッセーを呼ぼうとしたときにふと私は考えた。

裏切りのフェニックスがこの街にいるのに何も起こっていない……彼はただ単に、

殺しを楽しんでいるわけじゃないのかもしれない……。

もしかしたら私の話を聞いてくれるかもしれない――――。

「フェニックス!」

「あ?」

人気が少なくなった通りに出たところで私はフェニックスに声をかけた。

「お前、確かサーゼクスの妹だっけ?」

「ええ……あなたと話がしたいの」

ここで断られたら私は……。

「良いぜ。どうせ、暇だし」

「…………」

「なんだよ。てめえが誘ったんだろうが」

フェニックスの言うとおり私が誘った……でも、まさか快く承諾してくれるとは思ってもみなかった。

私たちは少し離れたところにある大きな岩の近くにより、フェニックスはその岩の上に座り、

私は警戒しながらも少し離れたところに立った。

「とりあえず、旧魔王派、英雄派との戦いお疲れさん。

お前らは組織全体共通の敵として認定されたぜ」

「そう……フェニックス。あなたはどうしてカオス・ブリゲードに入ったの」

「あんまり覚えてねえんだけどよ。フラフラと歩いてて強い奴に出会ったら闘って殺してたら、

旧魔王派とかいう奴らに声かけられてよ。確か名前は……シャバ?」

「シャルバ・ベルゼブブ」

「そうそう。そんな奴に誘われて入った」

じゃあ、カオス・ブリゲードは大戦が休戦に入り、旧魔王派が遠方に追放されたころから既に、

結成されて活動をしていた……いや、どちらかと言えば旧魔王派は遠方に追放された時点で、

すでに完成していたのかもしれないし、追放される前から前身の組織があったのかもしれないわね。

「つってもよぉ。戦うのはチマチマした雑魚ばっかりでよ。暇で暇で仕方がなかったんだが……。

あいつに出会ってから最高に楽しくなった」

そう言う、フェニックスの顔には笑みが浮かんでいた。

「で、サーゼクスは何してんだ」

「お兄様は騒乱の事後処理をしているわ」

「なるほど…………今、レーティングゲームっていうやつが流行ってるらしいな」

“ええ、そうよ”―――――そう言おうとしたときにふと気づいた。

フェニックスはイッセーと戦うことが好きになった……もしもフェニックスが、

レーティングゲームに興味を抱いているとしたら……こっちに戻せるかもしれない。

「組織にいるせいで面倒な奴には絡まれるわ、好き勝手に暴れられないわ……そっちに行けば、

そのレーティングゲームとか言うので自由に戦えるんだろ?」

私の予想は確信に変わった。

彼は殺しを求めて組織に入ったのではなく、ただたんに強い存在と戦いたいがために入った。

「ええ。でも、好き勝手に戦えるわけじゃないわ。色々とルールはあるし、

卷属を集めないといけない……仮に貴方が冥界に帰ってきたとしても今まで犯した罪は、

償わないといけないかもしれない……でも、今の貴方を生んだのは旧政権。

現政権の方々ならきっと、あなたのことを考えてくれる」

「でも、サーゼクスがいるからな~。あいつ、なんかグチグチ口突っ込んできそうだし」

「教えて、フェニックス。戦争のときいったい何があったのか」

「別に。俺の能力に目をつけたクズどもが俺を殺し続けただけの話だ」

フェニックスは死ねば死ぬほどそのたびに生き返り、強くなる。

戦争でフェニックスの能力に目をつけない方がおかしい……だから、フェニックスを殺し続け、

強くしていく過程でフェニックスは……今の状態になった。

「貴方の好きにしたらいいと思う……カオス・ブリゲードに従うのが嫌なら抜け出せばいい。

きっと冥界は貴方を受け入れてくれる。そしてお兄様も」

「……俺の好きにか……そういえばそうだな。何もあんな奴らに従う必要なんかねえんだ」

そう言い、フェニックスは岩の上に立ちあがった。

「じゃあ」

「俺は……今日から俺の好きなように暴れる!」

そう言い、フェニックスは全身から炎を噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「んん~」

「あ、あのイッセー様」

「ん?」

俺――――兵藤一誠は自室にレイヴェルを呼んで、彼女の膝に頭を乗せて横になって休息を取っていた。

生憎リアスは朝から実家に報告をしに行っているし。

ただ単に膝枕をしてもらっているだけなんだが……そこまで顔を赤くするほどの恥ずかしいことか?

「い、いえ別に……変わりましたわね」

「そうだな」

俺は変わった。

リアスと出会い、木場と、朱乃、小猫、ロスヴェイセ、ギャスパー、スコルとハティ、

レイヴェル達と出会って俺は別の存在へと変わることが出来た。

もしも、リアス達よりもレイナーレに早く出会って仲間になっていれば俺は、

確実にウィザードと呼ばれることはなかっただろう。

「レイヴェル。少し聞きたい」

「はい、なんでも」

「フェニックスの家での裏切りのフェニックスはどういう扱いなんだ」

「……フェニックス家では抹殺対象となっていますわ。

旧、現関係なしに魔王様のご意思を裏切った罪は重いものです」

「だが、奴は殺せば殺すほど強くなる変異体なんだろ」

本来のフェニックスの能力は単なる不死だが奴は少し、その能力が何らかの原因か、

それともそれが本来のフェニックスの能力なのかは知らないが死ねば死ぬほど強さを増していく存在。

どうやって抹殺をするんだ。

「はい。ですから仮にフェニックスの家から犯罪者が出た時のことを考えて、

フェニックスの鎖というものがあるんです」

「フェニックスの鎖?」

俺の言葉にレイヴェルは深く頷いた。

「フェニックスの鎖とはただの鎖ではなく、フェニックスの不死の能力を縛ることができる唯一の道具。

その鎖に拘束されたフェニックスは拘束されている間は不死ではなくなるんです」

なるほど。死なない体から死ぬ体に存在を落とすことができる世界で唯一の道具という訳か……。

確かに裏切りのフェニックスは不死の能力と死ねば死ぬほど強くなる能力がうまい具合に、

重なっているわけだがその片一方をなくすことができれば抹殺できる訳か。

「本当ならこのことはフェニックスの者と、

魔王様にしか話してはいけないのですが……イッセーさんは特別です」

無論、仲間にも他の奴らにもさっきの話を話す気はさらさらない。

「イッセー様は……上級悪魔になられた時はどうなさるのですか」

「そうだな…………今のところは独立か。ゼノヴィアとアーシアは俺に付いてくると言っていたな」

「で、でしたら……そ、その時は」

「レイヴェル」

俺は彼女の話を途中で強制的に終わらせた。

「俺が上級悪魔になって独立した時、かなりの悪魔が俺になんらかのアプローチをしてくる……その時、

俺がお前を手に入れたいと思うほどの存在になっておけ……その時は俺の卷族に迎え入れる」

そう言うとレイヴェルは嬉しいのか恥ずかしいのか、顔を最上に赤くしながらも満面の笑みを浮かべた。

「はい!」

「イッセー君!」

突然、ドアを乱暴に開けて息を乱した木場が部屋に乱入してきた。

「どうした」

「部長がっ!」



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第九十二話

「ルヴァル、ライザー。二人を呼んだのはほかでもない」

「あいつですか。父様」

「あぁ、私も行きたいのだが前線から引いて何年も経った。お前達の枷にしかならん。

すまないが二人で奴を討伐してくれるか」

「もちろん。なあ、兄者」

「もちろんだ。行くぞ、ライザー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木場からリアスが行方不明になった話を聞いた俺――――兵藤一誠はすぐさま冥界へ、

テレポートで転移しようとするが後ろからレイヴェルに腕を掴まれた。

「わ、私も連れて行って下さい」

本当ならレイヴェルはこの家に置いて、木場と一緒に

行こうとしたんだが……裏切りのフェニックスが相手ならば、

フェニックス家の人間が動くのは確実か……。

「分かった。木場、お前は皆を連れて後から来てくれ」

「わかった。すぐに呼んでくる」

仲間は木場に任せ、俺はレイヴェルと一緒に冥界へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あいつが来る前にお前達が来るか」

俺――――ライザーと兄者は冥界の端の方にある既に使われなくなった建物の中で、

フェニックス家が討伐対象としている裏切りのフェニックスと対峙していた。

俺が生まれたころから親父たちから話を聞かされてきた。

裏切りのフェニックス……本名はヴァヴェル・フェニックスでフェニックス家の長男で、

次期当首候補だった男……顔を生で観たのは今が初めてだ。

俺が奴の存在を聞かされたのは俺が成熟してレーティングゲームに参加し始めたころだったな。

「裏切りのフェニックス……いや、兄上。お久しぶりですな」

「そんなあいさつをしに来たんじゃないんだろ? フェニックスの鎖で俺を、

死ぬ体にして殺すんだろ? まどろっこしいことはなしにしてかかってこいや!」

直後、奴の全身から炎が放出され、その炎が何本もの槍になって俺たちめがけて飛んできやがった!

俺たちも同じように炎を全身から放出し、二人で炎の壁を作り出すと次々に矢が突き刺さっていく。

すげえ力だ! これが死ねば死ぬほど強くなるフェニックスの変異体の炎か!

「はぁ!」

兄者がいまにも砕けようとしていた炎に手を置き、魔力を注いだ瞬間、

壁から炎の柱が射出されて、奴へと向かって飛んでいく。

だが、奴の背後から突然噴き出した炎が柱を飲み込み、

爆発を上げて柱を消滅させた。

兄者の炎を掻き消すのかよ!

「これでも喰らってろ!」

俺もこの場にいるフェニックスとして大きめのサイズの火球を両手から放つが、

奴にとってすれば避ける価値もないのか、何も行動を起こさずに奴に直撃し、

爆発する……が、煙が晴れてそこにいたのは無傷の奴だった。

「けっ! 生温い炎してやがんな。フェニックスの炎はこういうもんだろうが!」

奴の全身から炎が新たにはきだされる……が、その炎はまるで水面が波打つように大きく、

波打ちながら俺達のところへと向かってくる!

スゲエ範囲の炎だな!

俺も兄者も炎の翼を出して、空中へと飛んで炎の波を避ける。

だが、炎の波は壁にぶつかった途端にその高さを大きくして俺たちへと向かってくる!

っっ! あいつはこれを計算して炎で波をつくって壁にぶつけたのか!

「くそっ!」

「ライザー! 上だ!」

さらに高くなった炎の波を避けようと高度を上げようとしたとき、兄者の声が聞こえると同時に、

俺の頭に何かで殴られたような痛みが伝わり、

俺はそのまま地面めがけてまっさかさまに落ちていった。

「ぐっ!」

手を地面に向けてそこから炎を噴射してどうにかして、

地面に激突というシナリオは避けられたが……なんて力だ。意識が一瞬飛びかけたぞ。

「ライザー、大丈夫か」

「まあ」

「ライザー。あれを使うぞ」

そうか……鎖を使う時か。

兄者とここへ来る前に作戦は練ってきたんだ……俺がしくじらない様にしねえと。

俺と兄者は魔法陣を展開し、手元に鎖を転移させた。

作戦は本物の鎖を俺が持ち、本物そっくりに作った偽物の鎖を兄者が持つ。

ふつう、こういう重要な局面では強い奴が偽物を持って、弱い奴が本物の鎖を持って、

相手の隙を作るんだが……それを逆にしたんだ。

「行くぞ!」

その声とともに奴から放たれた火球がいくつも飛んでくるが、

俺たちはそれを鎖に当たらない様に全てかわしながら奴に近づいていく。

鎖はかなり脆いもんだ! 攻撃を一発でも喰らえば鎖は砕け散って……お、おい!

「待ってくれ兄者!」

「どうしたライザー!」

一瞬だけ奴の後ろの方にある壁に誰かが横たえられていたのが見えた。

俺はジッと目を凝らして奴の後ろの方にある壁を見ると横たわっているのは女で、

紅色の髪で……リ、リアス!

「リアスだ! 奴の後ろにリアスがいる!」

「そんなバカな!」

兄者は信じられないと言いたげな顔でそちらを見るが、すぐに顔が変わった。

くそ! 鎖を使った時には周囲に膨大な炎が排出される!

俺たちフェニックスならその炎に耐えられるんだがそうじゃない奴が、

排出される炎を喰らったら即効で溶けちまう!

「てめえ、リアスに何しやがった!」

「別に。そろそろ」

『ウォーター・ドラゴン。ジャバジャババッシャーン、ザブーンザブーン!』

そんな音声が聞こえた直後、天井に大きな穴があくと同時に大量の水が建物の中に入って来て、

まだ残っていた炎を全て一瞬で鎮火させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、やっと来たな! 魔法使い!」

『コネクト・プリーズ』

俺は魔法陣に手を突っ込み、そこからアスカロンを引き抜いてフェニックスに斬りかかるが、

奴も炎で生み出した自分の剣でアスカロンを防ぐ。

ふと、後ろを見ると傷ついたリアスが横たわっていた。

……待ってろ、リアス。すぐにこいつを片付けてお前を助ける。

「はぁ!」

奴の腹部を蹴飛ばしてその勢いを使って距離を取り、魔法を発動する。

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

「ぬらぁぁ!」

魔法陣から冷気が奴に向けて放たれた瞬間、凄まじい熱風をふきあらす炎が生み出され、

冷気とぶつかりあう。

っっ! 以前よりも八の魔力も炎も質が上がっている! まさか、

こいつ自分の命を自分で絶って魔力を上げ続けたのか!

「この俺に、同じ魔法は効かねえ!」

炎がさらに勢いを増して外部へと放出され、冷気を完全に押し返して魔法陣を破壊すると同時に、

俺にも炎が襲いかかってくるが、両脇に展開した魔法陣から水を噴き出してその炎を鎮火する。

……以前戦った時よりも炎を消す時間が長くなっている……あいつ、

いったい何回自分で命を絶って、魔力を上げたんだ。

「うらぁ!」

『ディフェーンド・プリーズ』

小型の炎で出来た鳥がいくつも生み出され、奴の背後から俺めがけて飛んでくるが、

それらはすべて俺の目の前に展開された水の壁によって全て消え去る。

リアスにことも考えればあまり時間はかけていられない!

『ハリケーン・ドラゴン。ビュー、ビュー、ビュービュービュー!』

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

『ビッグ・プリーズ』

黄色の魔法陣からドラゴンの形をした雷撃が放たれ、さらにビッグの魔法陣を通ることで、

倍の大きさにまで膨れ上がったサンダーがフェニックスの炎の壁を突き破って奴に直撃した!

「ぐぉぉぉ!」

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「だぁ!」

相手にサンダーが直撃した瞬間にキックストライクを発動させ、

奴を遠くにまで蹴り飛ばすと俺はアスカロンの刃に手を翳した。

「また魔力を上げたな!」

『ハリケーン・スラッシュストライク! ビュービュービュー!』

「終わりだ!」

逆手に持ったアスカロンを下から上に振り上げるとともに、

後ろを向くとそれと同時に大爆発が起きた。

「ハァ……ハァ。今のうちにリアスぐぁ! ぐあぁぁ!」

「イッセー様!」

フェニックスを倒し、奴が再生する間にリアスを助けに行こうとしたときに突然、

目の前に火の粉が集まっていき、それが一気に爆発して俺を衝撃波で吹き飛ばした。

ぐっ! あの火の粉は! あいつはまだ時間がかかるはずだろ!

火の粉がどんどん集まっていき、次の瞬間に先ほどよりも強力な炎を、

吐きだしながらフェニックスへと変貌を遂げた。

「再生し続けたおかげでよ、再生の時間が数秒で済むようになったんだよ」

再生にかかる時間が数秒だと……ふざけるなよ。しかも、魔力が空だったのがもう、

絶対量が増えた状態で満タンになってやがる。

『ランド・ドラゴン。ドッデンドゴッドゴーン! ドッデンドッゴドーン!』

『チョーイイネ! グラビティ! サイコー!』

「うぉぉ! 今の俺には効かねえよ!」

「なっ!」

ランドドラゴンにスタイルを変え、グラビティで奴の重力を何倍にもはね上げて、

その間にリアスを救おうと考えていたんだがフェニックスの死からの強化は、

重力などものにもせずに、全身から炎を柱上に立ち昇らせて、グラビティの魔法陣を破壊した。

直接、魔法陣を破壊して中断しに来たか!

「さあ、よく見やがれ!」

直後、奴の背中から炎が噴き出し、その炎は形を変えて二対の翼に姿を変えた。

さらに翼は炎を纏い、その長さをどんどん大きくしていく。

「うらぁ!」

「がぁぁぁぁぁぁぁ!」




なんとなく最近、思いついたD×Dの設定。
イッセーは何の因果か生まれた瞬間から不幸だった。
高校生になった頃には壮絶ないじめを受け、それが原因で殺された。
しかし、リアス(このリアスはめちゃくちゃクール。エロ要素なし)によって、
何の因果か駒を貰って転生する。
そんで、このイッセーはかなりネガティブな性格……しかし、実は……。
的なお話。
まあ、ネガティブ主人公は嫌われる傾向があるからね~……とりあえず、
書くか書かないかは黒猫を終わらせてから考えよう。
それでは!


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第九十三話

「がぁぁぁぁぁぁ! がっ!」

巨大になった炎の翼が俺を挟み込むようにして動き、

それをまともに受けた俺は全身を焼かれるような痛みを感じながら壁に激突した。

以前じゃ考えられないほどに強い! いったい何回死んだんだ!

「イッセー様!」

「死んだあとの強化も幅がでかくなってきている。

このまま死に続けたら俺がこの世界の全ての戦士を殺すかもな」

「はぁ!」

突然、横から木場が聖魔剣をフェニックスの突き刺そうとするがそれは避けられる……だが、

フェニックスが避けて、移動した場所に魔法陣が出現し、そこから天井に向かって雷が立ち上った。

木場とあの雷……来たか!

「ごめん、遅くなって! 小猫ちゃん!」

「部長は確保済みです」

小猫が傷ついたリアスを肩に担いだ状態で俺の隣にやってきた。

ここはいったん、退却するとしよう。

「一旦引こうか。イッセー君」

「あぁ、そのつもりだ」

「逃がすかよ! 魔法使い!」

フェニックスが火球をこちらに向けて放ってきた瞬間に、

リアスの家に転移先を設定したテレポートが発動し、

俺達はフェニックスの火球を受けずにリアスの自宅に転移出来た。

危なかったな……もう少し遅かったからあの火球を受けて魔法が中断された。

「アーシア、取り敢えずリアスを頼む」

「はい! すぐにイッセーさんも治療します!」

そう言い、アーシアはすぐさまセイグリッドギアを発動させて手から癒しの光を出して、

リアスの傷を癒していく。

成長した今のアーシアならそう時間もかからずにリアスを傷を完治させるだろ。

俺は火傷の痛みを我慢しながら、朱乃と小猫の肩を借りて壁にもたれかかった。

ふぅ……どこまで奴は強くなるんだ……魔法を中断させるほどの力を手に入れた以上、

俺が奴を倒すことができる可能性があるのは最後の手のオールドラゴンのみ。

だが、それで倒すことが出来たとしても奴は再び蘇る。下手をすれば、

今の俺を大きく上回る力を手に入れるかもしれない。そうなれば魔王様がたが動かなければならないが、

ただでさえ英雄派の後始末で忙しい身だ……どうすればいい。

「兵藤一誠」

その時、フェニックスの兄弟が俺に近づいてきた。

「どうした」

「やつに関しては俺たちに任せてほしい」

「……ふざけっっ!」

ライザーに掴みかかろうとしたときに火傷の部分が痛み、

倒れかけたところで朱乃に支えられてどうにかして立つことが出来た。

「兵藤君。君がそう言うのも分かる。だが、奴はフェニックスの者が倒さなければならないんだ……頼む。

今回は私たちに譲ってくれないか」

「確かにフェニックスの言い分は分かる……だが、

こっちは恋人を傷つけられたんだ。黙っていられるわけがねえだろ」

「……イッセー様。必ず裏切りのフェニックスは私達が倒します……もしも、

私達が倒せなかったときは……イッセーさんが倒してください」

そう言い、レイヴェルは俺に頭を下げた。

それを見た二人もレイヴェルと同じように頭を下げてきた。

フェニックスの言い分と俺の言い分……どちらが、重いと言われれば……即答でフェニックスだと答える。

奴らは一族総出で裏切りのフェニックスを倒そうとしている……だが、

俺は私怨で奴を倒そうとしている…………。

「…………分かった。レイヴェルの条件を飲む」

そう言うとレイヴェルは俺に笑みを浮かべて礼を言い、兄たちとともに別室へと向かった。

ふと、横を見てみると小さく笑みを浮かべている朱乃がいた。

「なんだ、その笑みは」

「いえ。貴方がフェニックスの方々に譲ったことが意外で」

「ふん…………」

その後、リアスの治療を終えたアーシアによって俺も傷が癒された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ。フェニックスが組織を抜けると」

「はい。一応、説得のために何名か送ったのですが全員、殺されて逆にこちらに送り返されてきました」

「……やはり、頭の中までも炎で出来た馬鹿でしたか。仕方がありません。

彼が抜ければ組織にとっては痛手です。彼を封印から時に行きましょう」

「やつ……ま、まさか奴をですか!?」

「ええ、彼が入ればフェニックスの不足分どころかお釣りが帰ってきます」

「し、しかし奴は旧魔王が四人がかりでやっと封印が出来た存在です。大人しくこちらに下るかは」

「別に下らなくてもいいのですよ」

「は?」

「彼が……ファントムが兵藤一誠の魔力を喰らってくれれば御の字です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシアの治療を受け、俺はベッドで眠っているリアスの手を握りながらかれこれ三十分ほどそばにいた。

一応、医者にも見せたんだがアーシアの回復もあってか火傷の痕も綺麗に消えており、

命に別条はないので一時間もすれば目を覚ますという。

十分前にはフェニックスの三人が討伐へと出かけた……一応、

魔力を探知はしているからどこで戦っているかなどは大まかな位置は分かる。

不死身でなおかつ復活する度に力を増していく奴を倒すにはオールドラゴンしかない。

だが、それでいったとしてもまた奴は復活する……いったい、どうすれば。

ふと見ると、太陽の光がリアスにあたりそうだったのでカーテンを閉めようとしたときだった。

「…………あるじゃないか。奴専用の牢屋が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ。今度は女連れかよ」

レイヴェル、兄者、そして俺は不死身のフェニックスと対峙していた。

ただ、あの時と違うのは場所は広い場所で草木は雑草しか見当たらず、

立っている木も建物の見当たらない。

こいつは兵藤一誠と戦うフィールドを選んだんだろうが……俺たちにとってすれば最高にいい場所だった。

ここから半径百キロ圏内に人が住んでいる場所はない……つまり、

奴にフェニックスの鎖を使った際に放出される炎の心配をしなくていいってことだ。

「レイヴェル。君はサポートを頼む、行くぞ! ライザー!」

「はい!」

俺と兄者は背中から同時に炎を噴き出して翼を作り出し、炎を噴き出して推進力を得て、

そのまま猛スピードで奴に突っ込んでいく。

「ま、良いか。魔法使いとの戦いの前のウォーミングアップだ」

そう言い、奴も背中から翼を出して、空中へと上がった。

俺たちも奴に付いていき、空中へ上がると上空から数メートル規模の大きな炎の鳥が、

大量に俺たちめがけて降り注いできた。

「避けるぞ、ライザー!」

俺は翼を羽ばたかせながら数メートル規模の炎の鳥を避けていき、

兄者は炎を目の前に円状にして放出し、数匹纏めて鳥を消し去っていく。

下にはレイヴェルがいるが、あいつもフェニックスだ。

俺はレイヴェルを信じ、そのまま奴のもとへと向かっていく。

「おぉぉぉぉ!」

炎を纏わせた拳を振るうが片腕で防がれた。

「弾けろ!」

その声とともに俺の手首から先が爆発を起こし、奴を炎が飲み込んだ。

飛び散った手首に炎が集まっていき、数秒足らずで手首が蘇った。

炎から奴が出てこない……この程度で殺せるような相手じゃ―――――。

「ごぁ!」

突然、炎から火柱が出てきたと思えばそれは姿をフェニックスへと変えて、

奴の痛烈なパンチが俺の腹に突き刺さり、そのまま地面へと叩きつけられた。

「兄さま!」

「大丈夫だ!」

くそ……あいつ、自分を自由に炎に変換できる術まで身につけやがった。

これからあまり、奴を炎で囲むような攻撃はやめた方が良いな……俺達が使った炎があいつになって、

今の攻撃をくらっちまう。

俺は翼を羽ばたかして、兄者のもとへと飛んでいく。

「ライザー。行くぞ」

兄者のその声で駆け出すと同時にフェニックスの鎖を取り出す。

俺達は奴を左右からはさみこむ形でそれぞれに分かれる。

「はっ! どっちが本物かは知らねえが壊せばいいんだよ! うらぁ!」

奴の全身からボボボボボ! と小さな火球が無数に生み出され、

それが一気に弾けるとマシンガンのように俺たちめがけて放たれ、

空を覆い尽くすほどの小さな火球が隕石のように降り注ぐ!

こ、ここまでの力を出せるのかよ!

「そうだ、奴は……いない!?」

すぐさま奴がいたところへと視線を向けるが奴の姿がなかった。

「ちっ! 一旦よけ」

「うらぁぁ!」

向かってきた一発の火球を避けようとしたとき、突然その火球がフェニックスへと姿を変え、

奴が放った巨大な火球の一撃を受けて鎖が木っ端微塵に砕け散った!

「っ! ちっ! 偽物か!」

「隙ありだ!」

兄者がフェニックスが偽物だと判断した一瞬の隙に鎖を投げ、奴に巻きつかせようとする。

鎖はどこかに触れればその時点から効力が発動する!

逆にいえば鎖に触れている間は俺たちも死ぬ体になっちまう!

だが、この鎖が作られたのは遥か昔だ! 親父曰く鎖の詳しい詳細はまだ、

こいつには話していないと言っていた!

「ふざけんな!」

フェニックスの翼から膨大な量の炎が鎖めがけて放たれ、鎖に直撃する!

バリィィン! という最悪の結果を告げる音が響いた。

「ハハハハハ! 残念だったな! 鎖は砕けた! もう俺を殺すことは」

「やぁぁぁ!」

突然、レイヴェルが空から降って来てフェニックスの腰回りに鎖を巻きつけた!

「なっ! く、鎖!?」

フェニックスの腰回りに鎖が巻かれた瞬間、奴からすさまじい量の炎が放出された!

俺達はすぐさま、その場から離れ、地上に降り立った。

「よくやったなレイヴェル!」

本物を持っていたのはレイヴェルだ。

兵藤一誠から受け取った魔法を一度だけ使える紙を受け取ったレイヴェルが隙をついて、

奴の頭上に転移して巻きつける……作戦成功だ!

「これで……終わったんですのよね」

「あぁ、私達の使命もこれで」

「終わりだったらよかったのにな」

「「「っっ!」」」

上から声が聞こえ、振り返るとそこには腰回りに鎖を巻きつかせたフェニックスがいた。

待てよ……なんで、あいつ鎖を巻かれた状態で動けているんだよ!

兄者だって持っただけでフラフラになったのになんで、

あいつは平然とした様子で俺達を見ているんだよ!

「確かにこいつは俺を死ぬ体にする……けどよ。よく考えろよ……こんなもん、

今の俺を永遠に括りつけられるほど強いわけがねえだろぉぉぉぉぉぉ!」

奴が叫びをあげた瞬間! 奴の背中からすさまじい量の炎が噴き出され、

無理やりフェニックスの鎖を破壊するとその炎は二対の赤い翼となった。

ま、まさかフェニックスの鎖が封印することができる魔力の量を大きく超えてたってのかよ!

「俺の名は! 不死身のフェニックス様だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……イッ……セー」

「リアス……良かった」

彼女がこの家に運ばれてから三十分とちょっと、ようやく目を覚ました。

俺は安どのあまり、リアスの手をかなり強めに握っていた。

すると、突然リアスが両眼から大粒の涙を流しながら俺の手を握り締め、

謝罪の言葉を連呼し始めた。

「ごめんなさい…………ごめんなさい。イッセー……私が身勝手なことをしてみんなに迷惑を……。

フェニックスも話をしたら分かってくれるんじゃないかって……そう考えて」

リアス……お前はフェニックスと出会って奴に何を見たのかは知らないが、

冥界に戻せるかもしれないと考えたのか。俺は泣く彼女の頭を優しく撫でた。

「気にするな……と言いたいところだが今回は少し、怒るぞ」

そう言い、俺は強めに彼女のデコに凸ピンをかましてやった。

相手を説得しようとするのは止めはしない……だが、

もう少し説得する相手を考えて説得して欲しかったな。

「イッセー……私はもう大丈夫だから……フェニックスを倒してきて」

「あぁ……行ってくる」

俺はもう一度、彼女の頭を撫でてからアーシアを連れてフェニックスのもとへと転移した。

転移した先はかなり暑く、所々の地面に炎があった。

「兄様! 兄様!」

レイヴェルの声が聞こえ、そちらのほうを向くと着ている服の背中の部分が焼き焦げ、

皮膚にも火傷のあとが見えるルヴァル氏の姿があった。

今もフェニックスの能力で傷は治っていってはいるんだろうが……追いついていないな。

ルヴァル氏の治療をアーシアに任せ、上空で戦っているライザーを見た。

血を流しながら裏切りのフェニックスと戦うライザーの姿は、

初めて見た時と比べればかなり違っていた。

もう、前のようにチャラチャラしたようなライザーの姿はどこにも見当たらない。

「がっ!」

フェニックスの蹴りを喰らい、地面に叩きつけられたライザーは俺の姿を捉えると眼から涙を流し始めた。

「フェニックスじゃないお前に頼むのは間違っているってわかってる!

でも、今の俺たちじゃあいつを倒せねえ! ……あいつを倒してくれ! 兵藤一誠!」

「ああ、任せろ」



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第九十四話

「来たな、魔法使い!」

「フェニックス。場所を移すぞ」

『テレポート・プリーズ』

自分の足もととフェニックスの足もとにテレポートを発動する魔法陣を

展開させ、魔法を発動させて人間界のある場所へと転移した。

そこは以前、悪神ロキと戦闘を行った今は使われていない鉱石採取場だった。

一応のことを考えてアザゼルにはこの土地一帯を覆う巨大な結界を展開してもらっている。

ライザー達の傷はアーシアに任せればいい……後は俺がこいつを倒すだけだ。

『フレイム・ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!』

魔法を発動させると俺の背後から炎を纏ったドラゴンの幻影が

現れ、俺の周りを何周か旋回した後に消え去る。

そこには赤い鎧を身に纏った俺がいた。

鎧が出現したと同時にコネクトを発動させ、そこからアスカロンを

取り出す。

それを見たフェニックスも自分の剣を炎を放出して作り出した。

……これがこいつとの最後の戦いになる。

数秒、たがいを見つめた後に俺達は同時に駆け出し、そして同時に

己の剣をぶつけあった。

「うらぁ!」

横から蹴りあげてきた奴の足を片腕で防ぎ、奴の腹部にひざ蹴りを入れて

一瞬だけ怯ますと全力でアスカロンをフェニックスの剣に叩きつけ、

その衝撃で横にずらし、奴に斜めにアスカロンで切り裂き、今度は

突きで相手に腹部に突き刺そうととするがもう少しというところで

鷲掴みにされて受け止められた。

「うらぁ!」

「ぐっ!」

腹部に蹴りを入れられ、手からアスカロンを離して少し、奴から離れた時に

前にコネクトの魔法陣を出して、そこからドラゴタイマーを取り出した。

『ドラゴタイム。セットアップ・スタート!』

タイマーをスタートさせ、アスカロンを取りながらフェニックスに斬りかかると

それが防がれると同時にドラゴンの咆哮がタイマーから聞こえ、レバーを押す。

『ウォーター・ドラゴン!』

俺の隣に水を放ちながら青色の魔法陣が出現し、そこから青い鎧を着た

俺が現れて二人同時にフェニックスに斬りかかる。

「二人に増えようが同じだ!」

『ハリケーン・ドラゴン!』

フェニックスが剣に炎を纏わせ、横一直線に炎を飛ばすと同時に咆哮が聞こえ、レバーを押すと

俺達の前に風を吹き出しながら緑色の魔法陣が出現し、そこからアスカロンを

逆手に持った状態で緑色の鎧を身に纏う俺が現れ、一回転して竜巻を

発生させて炎とぶつかり、二つとも消え去った。

「「「はぁ!」」」

三人同時に斬りかかっていくがそれでもフェニックスは全ての

斬撃を己の剣で防いいた。

やはり、何回も蘇っているから想像以上に強い!

『ランド・ドラゴン!』

奴の下から黄色の魔法陣が出現し、そこから黄色の鎧を身に纏う俺が

出現するが、それを察知したフェニックスが後ろに下がったことで

一撃は与えられなかった。

「うぉぉ!」

奴と鍔迫り合いを繰り広げながら、互いに横に走ると他の三人も付いてくる。

「うらぁ!」

「ぐあぁ!」

ランドが横に切り裂かれ、次にハリケーンに斬りかかってくるが風を纏わせて、

浮力を得て宙に浮かんで、奴の背後に降り立って斬りかかるがそれを防がれ、

腹に蹴りを入れられ、蹴り飛ばされる。

『チョーイイネ! グラビティ! サイコー!』

「うおぉぉ!」

『チョーイイネ! サンダー!』

『チョーイイネ! ブリザード!』

『『サイコー!』』

グラビティで一瞬だけ奴の動きを止めた瞬間にブリザードとサンダーを

同時に発動させて、奴に放つ。

これで終わる相手だとは思わない!

『ファイナルタイム!』

「はぁ!」

「うーらぁぁぁぁ!」

ファイナルタイムの音声が聞こえ、俺本体が飛びあがってアスカロンを奴に

叩きつけようとするが奴は全身から炎を噴き出して、それぞれの魔法を打ち消し、

己の剣で俺の剣を弾くと、二度三度、俺の鎧を切り裂き、蹴り飛ばした後に

背中から二対の炎の翼を出現させた。

「ぐあぁぁ! うぁぁ!」

「うらぁぁぁぁぁぁ!」

二対の翼で俺たち四人全員を何度も挟み込むようにして往復させ、最後に

翼を俺たちにかぶせた状態で爆発させ、四人全員にダメージを与えると同時に

吹き飛ばした。

「手品はこれで終いか? だったらとっとと諦めて、あの世に行きな」

悪いな……俺はライザー達に、リアスにお前を倒すように頼まれているんだよ。

『セットアップ・スタート!』

「最後の希望の俺は諦めが悪くてね。ここで倒す」

『ファイナルタイム』

『オールドラゴン。プリーズ』

もう一度、タイマーをセットしてからファイナルタイムの音声が流れ、レバーを

二回連続でたたくと四人の背後にそれぞれのエレメントに対応した色の

魔法陣が出現し、本体以外がドラゴンの幻影と化し、俺の周囲へ集まってくる。

それぞれが各部に武装として装着されていく。

「あ? なんだ?」

「すべての魔力を一つに……これが最後の希望だ! はぁ!」

俺はドラゴンの翼を、フェニックスは炎の翼を羽ばたかせて宙に舞い、

互いの武器をぶつけあう。

俺達が交差するたびに互いの武器がぶつかり合い、火花と

金属音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!」

「ぬぁ! うぅぅらぁぁぁ!」

ドラゴンの頭部から炎を火炎放射のように噴き出すが、相手の剣に遮られ、

掻き消されると同時に向こうから小型の鳥の形をした炎が

いくつも飛んでくるのを見て、翼を羽ばたかせて避けていく……が、

一発だけ当たってしまった。

「おおあおぉぉぉぉ!」

「ぐあぁ! うわぁぁぁぁぁぁ!」

俺に鳥が当たった際の爆風を煙幕代わりに使い、猛スピードで相手に

突き進み、クローを突き刺し、それと同時に翼を大きく羽ばたかせて相手の

炎の翼を暴風で無理やりかき消した。

「がっ! やるじゃねえか……だが、気をつけろ。俺はまた蘇る」

「……おまえを倒す気はない」

「なに!?」

「不死の身体を呪うんだな。はぁ!」

クローを抜き、一回転してドラゴンの尻尾を相手に叩きつけて空高く上げると、

そのまま地面に着地し、大きい赤い魔法陣を展開し、その周りに四色の

魔法陣を展開させ、翼を羽ばたかせて奴めがけて飛んでいく。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「はぁぁぁぁぁ! だぁぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

大きい魔法陣が奴の全体を拘束し、四つの魔法陣がフェニックスの腹部に

四枚とも重なった。

そして、魔力を足にありったけ注ぎ込んだ蹴りを相手にぶつけるとそのまま

魔法陣が砕け散り、その衝撃と蹴った際の衝撃で相手は大きく飛んでいき、

空に浮かんでいる太陽へと飛んでいく。

そして、フェニックスの魔力が消えた……だが、また奴の魔力が一段大きくなって

復活するが再び、消えた。

その繰り返しで魔力が増えていくが奴がこっちに来ることはなかった。

奴は今、太陽の中……永遠に消えては生まれ、また消えては生まれを

……死の苦しみと生の快感を永遠に繰り返せ。

「お前にフィナーレはない」

地面にたどり着くと同時にオールドラゴンの鎧を解除すると目の前に

転移用の魔法陣が展開され、三人のフェニックスとアーシアが現れた。

「終わったぞ……全てな」

その瞬間にアーシアとレイヴェルは笑みを浮かべ、ライザーとルヴァル氏は

深々と俺に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かあったのか? シークヴァイラ・アガレス。こんなところに呼び出して」

「ええ。貴方に討伐を依頼したいのです。サイラオーグ・バアル」

「俺に討伐か……いったい何をだ」

「旧魔王が四人がかりでようやく封印したと言われている化け物の

封印が解かれた模様です」

「……あれは事実だったのか」

「ええ。おそらく犯人はカオス・ブリゲード。貴方に

その化け物……ファントムの討伐を依頼したいのです」

「……了解した。だが、一人連れて行ってもかまわないか?」

「構いません。ご武運を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁ~……貴様は」

「封印から解かれた感じはどうですか。“ファントム”」




昭和ライダーVS平成ライダーめっちゃ楽しみだぁぁぁ!
ギンガも楽しみだぁぁぁぁぁ!


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第九十五話

「あれから何年たった」

「もう何百年と経っています」

「貴様が俺を開放した理由は」

「貴方の力で魔力を奪ってほしい相手がいるのです」

「ほぅ。そいつはさぞ良いんだろうな」

「ええ、ウィザードと言われているくらいですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏切りのフェニックスを倒してから数日後、俺――――兵藤一誠は自室で、

リアスに膝枕をしてもらった状態で横になっていた。

自室には他の奴らもいるんだが今となっては、

これが日常茶飯事となったのか誰も突っ込まなくなった。

「平和ね」

「そうだな。このまま続けば……ん?」

突然、床に転移用魔法陣が出現し、俺の自室を明るく照らし出した。

「バアル家ですわ」

朱乃が魔法陣に描かれている紋様の家の名前を驚きながらも言ったと、

同時に魔法陣からサイラオーグ・バアルが出てきた。

プライベートで来たのか……そうじゃなさそうだな。

「何か用か?」

「あぁ、少し話がしたい。リアス、借りてもいいか?」

「ええ、良いわよ」

俺は起き上がり、誰もいないVIPルームにサイラオーグを招き入れ、

お茶でも入れようとしたときに構わないと言われ、そのまま何もせずに座ると、

サイラオーグは真剣な面持ちのまま用件を話し始めた。

「数日前、とある場所に封印されていた化け物が解放された」

「その化け物とは?」

「旧魔王がまだ政権を握っている時代、戦争で最も敵を倒し、

さらに最も味方をも殺した最悪の化け物……名はファントム。

そいつを危険と判断した旧魔王が四人がかりでようやく封印出来たほどの奴だ」

ファントム……あの、旧魔王が四人がかりで襲いかかっても、

殺すことはできずになんとか封印するレベルの強さの相手か。

旧魔王といえど魔王をしていたくらいだ。強いのは確かなんだが……。

「そいつの討伐を先日、大公に依頼されてな」

まあ、この前の若手悪魔最強を決める戦いを見て、上の方も任せて良いとふんだんだろう。

「俺を連れていきたいと」

そう言うとサイラオーグは首を縦に振って肯定した。

やれやれ。何故、昔の王どもは厄介なものばかりを生み出してはそのまま放置していたのかね。

カオス・ブリゲードの旧魔王派の奴らしかり、裏切りのフェニックスしかり、

今、聞いたファントムも……自分で解決してろよ。

「……了解した。俺も行こう。だが、その前に」

そう言ってドアの傍まで歩いていき、

ドアを開けるとドサドサっと皆が部屋の中に流れ込んできた。

精度抜群の魔力検知器の俺をなめんじゃねえよ。

「少し、出かけてくる。リアス」

「イッセー……いってらっしゃい」

てっきり、心配でもするかと思ったんだがな……まあ、

それだけ俺を信頼してくれていると思っていいんだろうか。

「サイラオーグ」

「ああ」

俺はサイラオーグが展開した転移用の魔法陣の上に乗ると一気に魔法陣が輝きを増していき、

余りの眩しさに目を瞑った数秒後、光が消えるのを感じ、瞑っていた目を開けると、

目の前には岩肌に直接描かれている大量の魔法陣とちぎれた鎖が大量にあった。

洞窟か……ただの洞窟ではなさそうだが。

「ここは?」

「ここは奴が封印されていた場所だ。厳重な封印がなされていたんだが……それが、

解かれたという訳だ。お前にはここにあるファントムの魔力を追ってもらいたい」

そう言われ、地面に落ちてある目隠しのような布を拾って魔力を探すと、

僅かにだが魔力が感じられた。だが、その魔力はかなり混じっていた。

悪魔、天使、堕天使、さらにはそれ以外の魔力も感じられた。

なんだ、この数は……一体、何種類の種族の魔力を体に宿しているんだ。

「どうだ?」

「あぁ、魔力は感じた。だが、種類が多すぎる」

「過去の文献では様々な魔力を身に宿していたとあった。おそらくそれだろう」

全ての魔力がまじりあっている状態が自然とできるはずがない。おそらく何らかの方法で、

外から人工的に他種族の魔力を取り入れたか、

もしくは魔力を生産する機関を己に取り入れたか……だが、

その分他と違うから探しやすいことは探しやすいがな。

俺は目を瞑り、先ほど感じた魔力を探し出す。

時間がかかると思っていたが、その魔力はすぐに探知出来た。

「見つけた。今からそいつのもとに行く」

「了解した」

『テレポート、プリーズ』

対象の魔力が感じられる場所を転移先に設定し、テレポートを発動させて、

その場所へと転移するとすぐ近くに二つの槍を持ち手の部分で繋げたような武器を持った、

初老の男性を見つけた。

「お前がファントムか」

そう言うとその男性は俺達の方向を向いた。

「如何にも……なるほど。お前がウィザードか」

「話は早い。お前を討伐に来た」

『フレイム・ドラゴン。ボー・ボー・ボーボーボー!』

サイラオーグは全身に施してある拘束を解除し、俺は炎の赤い鎧を身に纏って、

臨戦態勢を取るが目の前の初老の男は一切動じずに俺達のことを見てきた。

「なるほど。右の男は魔力は乏しいが体を極限まで鍛えたか。

そして左の男は未知なる魔法を使うか……面白い。数百年ぶりの運動にはもってこいの相手だ」

そう言い、初老の男性は武器を握り締め、俺たちに斬りかかってくるが俺達は、

同時にその場から飛び去り、相手の攻撃を避けるが相手はサイラオーグを無視して、

俺だけに斬りかかってきた。

『コネクト、プリーズ』

魔法陣からアスカロンを取り出し、相手が振り下ろしてきた武器を防ごうとするが、

槍はアスカロンの刃を素通りして俺に向かってきた。

「っっ!」

『ディフェーンド、プリーズ』

すぐさま炎を集中させて防御すると槍は炎にぶつかった。

「よそ見をするな!」

男性の後ろからサイラオーグが高い場所から落下する勢いを利用したパンチを繰り出すが、

男性は腕を突き出し、片腕でサイラオーグの拳を受け止めた。

受け止めた瞬間、金属音が辺りに鳴り響いた。

……まさか、奴の身体は金属なのか?

試しに相手の腹部に蹴りを入れるがすぐさま相手の膝が上がって来て防がれる……だが、

金属音は聞こえなかった。

「サイラオーグ! 奴は自身の身体を一瞬だけ、

金属レベルにまで硬化できる! 連続で叩きこめ!」

「無論!」

俺は二人から距離を取るとサイラオーグが連続で相手に拳を振り下ろすが、

男性は片腕でサイラオーグの片方の腕を金属レベルにまで硬化させた腕でいなしていくが、

もう一方の拳は体をよじらせながら避けていく。

やはり奴が自身の身体を金属レベルにまで硬化させることができるのはほんの一瞬だけ……そして、

奴の槍は剣などの武器は素通りするらしい。

それらの能力も他種族の魔力から得た能力なのか……まあ良い。

ならば今回はアスカロンの役目はないな。

『コピー、プリーズ』

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「サイラオーグ!」

コピーで二人に分かれた後、キックストライクで足に炎を集めて跳躍し、

同時に蹴りにいった瞬間、サイラオーグは姿勢を低くし、

男性は全身を硬化させているのか腕を交差させる。

「だぁぁぁ!」

「はぁぁ!」

「ぐっ!」

二人分の蹴りが喰らった直後、サイラオーグの拳が奴の腹部に突き刺さり、

そのまま硬化が解けたのか相手は口から血を吐いて、吹き飛んでいった。

だが、背中から悪魔の翼を生やして体勢を整えて再び地面に足をつけた。

「なるほど…………今の冥界では若い悪魔が台頭していると聞いたが、

それは事実らしいな。この俺に血を吐かせた」

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

魔法陣を背後に展開し、そこから炎を纏ったドラゴンの幻影が現れて、

俺の周りを何周か旋回した後に背中に回り込み、

俺にぶつかると鎧の胸の部分からドラゴンの頭部が出現した。

『ビッグ、プリーズ』

『ビッグ、プリーズ』

ビッグを二回発動させ、そこへドラゴンの頭部を突っ込むとビッグの効果を二回受けた、

頭部が巨大になり、その大きな口を開いた。

「フィナーレだ」

その瞬間、体全体が後ろへ軽く吹き飛ぶほどの衝撃が伝わり、

目の前で巨大な爆発が起き、大量の砂が宙に舞いあげられた。

「どうだ」

「あぁ。直撃だ……徐々に奴の魔力も減少している」

やはり、何百年ものブランクはとてつもなく戦闘にマイナスだったという訳だな。

「奴の死体はどうする」

「それに関しては何も聞いてはいないが」

突然、目の前で大きく揺らいでいた炎がある一点に集中していく。

な、なんだ……炎が吸収されているのか……や、奴の魔力が上がっていく!

先ほどまでいまにも消えようとしていた奴の魔力が突然、

息を吹き返したかのように上昇しだした。

ど、どこまで上がっていくんだ……。

「ふぅ。初めて使ってみたが案外成功するものだな」

炎が消え去り、奴の声が聞こえた。



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第九十六話

「バカな。何故、魔力が」

魔力は先ほどの比じゃないほどにまで膨れ上がり、さらに先ほどまで、

初老の男性だった姿がまるで時間が逆行したかのように、

俺たちとそう変わらない年齢を感じさせる好青年の容姿へと変化していた。

じ、時間を逆行させたとでも言うのか!

「ふぅ。この体に戻るのは久しぶりだな」

「何をしたんだ」

サイラオーグの言葉に男性はふっと乾いた笑みを浮かべた。

「俺が死んだときに……いや、正確にいえば俺の身体が死んだとき、

ある魔法を発動するようにしていたのさ。

その魔法は発動者のありとあらゆる時間を逆行させるものだ」

「そんなバカな! 時間を逆行させる魔法など聞いたことがない!」

「当たり前だろ。悪魔の魔術ではなく、これは人間が生み出したのだから」

人間が生み出した……だと。そんなバカな……いや、

ある意味奴の言っていることは正しいのかもしれない。

その昔、人は不老不死を実現しようと様々な実験を繰り返し行っていた時代もあったと聞く。

それに太古の昔は魔法も科学と並ぶ学問だったんだ。

そんな魔術が存在してもおかしくはない……だが、

ノーリスクで時間逆行を発動させるなどあり得ない……なんらかの代償があったはずだ。

「大変だったよ。この魔法を発動させた瞬間から俺は自身が保有している魔力の九割を、

維持費として払ってきたからな。ま、

俺の能力とは相性は差ほど悪くはなかったみたいだがな」

奴の能力……維持費として魔力を一生払って行けるほどの魔力なんぞ、

俺だっておそらく持たない。奴は何かしらの力で魔力を増やしたのか?

もしくは……他種族の魔力を持っていることから何らかの力で相手の魔力を奪ったか。

さまざまな種族の魔力を吸収していく過程で、

そいつが使っていた術などを己の物にしていてもおかしくはない。

「貴様の未知の魔法。頂くぞ」

『ドラゴタイム。セットアップ・スタート!』

俺は本能的にやばいものを感じ、ドラゴタイマーを作動させて三体の分裂体を作り出し、

レバーを二回同時に叩いた。

『オールドラゴン、プリーズ』

全ての分裂体が俺と一体化し、全てのエレメントの武装が全身に装着された。

「サイラオーグ! 全力で行くぞ!」

「あぁ!」

「来い。全て粉砕してやる」

三者ともにそれぞれの翼で空中に浮かびあがる。

「はぁ!」

ドラゴンの頭部から火炎放射のように炎を吐きだすが相手は槍を片手でクルクルと高速で回転させて、

炎を掻き消していく。

「こちらにもいるぞ!」

闘気を拳に集中させ、相手に殴りかかるサイラオーグ。

だが、ファントムはそれを先ほどと同じように硬化させた右腕で防いだ瞬間、

サイラオーグが大きく吹き飛んだ!

まさか、衝撃だけをサイラオーグに返したのか!

「よそ見をするなよウィザード!」

サイラオーグの方を見ていた時に上から声が聞こえ、

無意識でクローを交差させてあげた瞬間、バキィィン! 

という無残な音ともにクローが一瞬で砕かれ、縦にまっすぐ槍で切り裂かれた。

「ぐぁ!」

ギリギリ、頭を横に向けたおかげで頭から真っ二つに切られるということは避けれたが、

鎧が一撃でまっすぐに砕かれてしまった。

ありえない……いったい、何の能力を使って俺の鎧を砕いた!

「兵藤一誠!」

「貴様はいらん」

「ぐぅ! な、なんだ!?」

サイラオーグが俺のところへと突っ込もうとしたときにファントムが奴に、

手のひらを向けると突然、サイラオーグの動きが止まった。

な、何か見えない物で拘束しているというのか。

サイラオーグは必死に千切ろうと腕に力を加えるが全く、

千切れる気配は見えず、逆にさらに強くなっていた。

魔力で作った縄のようなものか! でも、何も感じない!

「くそ!」

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

サイラオーグを護るように立ち、ドラゴンの形をした雷撃を魔法陣から放つが、

奴も同じように魔法陣を展開させてドラゴンの雷撃を受け止めた。

なんだ……次は何が来る。

「知ってるか? この世界には魔法を反射できる術があるんだぜ?」

「っっ!」

気づいた時はすでに遅く、何倍にも強化されたドラゴンの雷撃が俺たちに反射され、

俺達の方へと向かってくる!

「くっ!」

後ろには動けないサイラオーグが……くそ!

『ディフェンド、プリーズ』

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

普段よりも魔力を消費し、大きさを変えたディフェンドの魔法陣を目の前に展開して、

ドラゴンの雷撃を迎え撃つ……が、徐々に魔法陣にひびが入っていく。

「ぐ! ぐぅぅぅぅ!」

魔力をさらに消費し、魔法陣を強化しようとした瞬間、

壁が砕け散り、雷撃が俺達を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げはっ!」

「ほぅ……動けぬ仲間を庇って全ての威力を受け止めたか」

オールドラゴンの鎧は完全に砕け散り、

地面に叩きつけられた際に何かで頭を切ったのか血が流れおちてくる。

未だにサイラオーグは見えない何かで動きを拘束されている。

「やはり貴様の魔力は素晴らしいものだ。頂くぞ」

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」

槍が斜めに振り下ろされ、切り裂かれたかと思いきや血飛沫や痛みが出てくるわけでもなく、

胸に斜めに走る時空のひずみらしきものが現れるとそこへファントムが入り、傷は消滅した。

「がぁ! うあっぁ!」

「バ、バカな! ファントムが兵藤一誠の中に!」

ようやく拘束が解けたのかサイラオーグが俺の傍にまで寄ってきた。

感じる……俺の魔力が徐々に減っている……まさかあいつ、

俺の中に入ったことで魔力を生産している場所へ行って直接魔力を!

『エンゲージ・プリーズ』

「サイラオーグ! 奴を……倒せ!」

「わ、分かった!」

サイラオーグは不審がりながらも俺が展開した魔法陣へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……ファントム!」

「また貴様か! 邪魔をするな!」

兵藤一誠の魔法により見知らぬ空間へと降り立った俺――――サイラオーグ・バアルは目の前で、

何かを吸収していたファントムにすぐさま殴りかかるが槍によって拳が防がれ、

そのまま横に走ると何もなかった場所から突然、

ビルが大量に立っている場所へと移り変わった。

「ふん!」

俺は蹴りを相手の顔めがけて振るうも金属レベルにまで硬度を上げた相手の腕によって、

蹴りが防がれる……が、すぐさま足を降ろし間髪入れずに両拳を連続で何発も叩きこんでいく。

「おおぉぉぉぉぉぉぉお!」

「無駄だと……言っているだろうがぁぁぁ!」

「ぐおぉぉ!」

直後、凄まじい衝撃が俺に襲いかかり、奴からかなり離れた場所まで吹き飛ばされた。

くっ! 俺だけではキツイな……この空間で奴を呼べるかは分からんがっ!

「来い! レグルス!」

目の前に普段、レグルスを呼びよせる魔法陣を展開させると偶然か、

そこから普段どおりにレグルスが姿を現した。

『主。ここはいったい』

「話は後だ! 奴を倒すぞ!」

『わかりました!』

俺はレグルスの頭の上に飛び乗り、レグルスに攻撃の指示を飛ばしていく。

レグルスの大きな両腕がファントムめがけて叩き落とされるが、

ファントムはその場から姿を消して、両腕を避けた。

消えた……姿を消したのか。

「はぁぁぁぁぁ!」

「しまっ!」

上からファントムの声が聞こえ、そのまま切り裂かれると思った瞬間!

突然、横から巨大な火球がファントムに直撃し、

そのまま大きく奴を吹き飛ばした。

『グゥゥゥ!』

レグルスの隣にいくつかの拘束具をつけている真っ赤なドラゴンが降り立った。

……こいつが兵藤に宿っていると言われている噂のドラゴンか。

「今は後だ! 行くぞ!」

『はい!』

俺の掛け声とともにドラゴンとレグルスが同時にファントムへと襲いかかる。

レグルスの拳をファントムが避けた瞬間にドラゴンがその長い尻尾を振りまわし、

レグルスに当てようとするが空高く跳躍され、尻尾は空を切った。

「はぁ!」

レグルスの頭上にファントムが降り立ち、槍を俺に振るってくるがそれを姿勢を低くして避け、

奴の腹部に両方の拳を全力でぶつけるが硬化した体にはダメージは与えられず、

衝撃だけが奴に伝わり、大きく吹き飛ばした。

「レグルス!」

『はい!』

俺の掛け声でレグルスが口から金色に輝く魔力のレーザーを放つと同時に、

ドラゴンの口から七色に輝く球体がファントムに吐き出された!

「ぬおぉぉぉぉぉ! はぁぁぁ!」

それでもファントムは槍を高速で回転させて二つの攻撃を掻き消すと、

空いている手から紫色に輝く不気味な球体を浮かび上がらせ、俺たちに投げつけてきた。

「くっ!」

ドラゴンは翼を羽ばたかせて上空へと上がって球体を避け、レグルスも横に飛んで、

それを避けるがレグルスが激しく動いた揺れでバランスを崩し、地面に降り立った。

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

「しまっ!」

『ゴァァァァァァ!』

「ドラゴン!」

レグルスが俺たちに止めを刺そうと高く飛びあがり、槍を振り下ろそうとした瞬間、

ファントムに大量の冷気が直撃して奴を氷づかせるとドラゴンが横に一回転して、

その勢いを利用して尻尾を叩きつけようとした瞬間!

「の、伸びた!」

突然、氷漬けになった奴から黒い煙が放出されたかと思うとその黒い煙はドラゴンを一瞬で、

包囲すると全身に巻きつき、ドラゴンの背中に奴の半身が現れた。

「消えろ!」

『ゴアァァァァァァ!』

槍から真っ白な輝きが放たれるとともにドラゴンから苦痛に満ちた叫びが響いてきた。

あの輝き……まさか、ドラゴンスレイヤーの力か! やらせるか!

ドラゴンにいくつもの亀裂が走ったと同時に俺は駆け出すが、

その亀裂から白い輝きが漏れだした直後、ドラゴンが大爆発を起こした!

「うああぁぁぁぁぁぁ!」

爆風によって俺とレグルスはそのまま元の世界へと押し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

兵藤一誠の絶叫が聞こえ、痛む傷を我慢しながら顔をあげると奴の右腕に、

装着されていた赤い籠手が無残に砕け散った。

それと同時に奴の胸に紫色に輝く亀裂が現れ、

そこから満足そうな顔をしているファントムが現れた。

「素晴らしかったぞ。貴様の魔力」

そう言い、ファントムは魔法陣の中へと消えた。

「兵藤!」

「俺の……魔力…………が」

その言葉を残し、兵藤は気を失った。



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第九十七話

「…………」

目が覚めるとまず最初に視界に入ってきたのは豪勢な作りの天井だった。

……リアスの実家か。

まだ少し痛む体をどうにかして起き上がらせ、

手に力を込めてみるが籠手は現れず、魔法陣も出てこない。

……あれは夢じゃなかったんだ……俺は本当に全ての魔力を奪われて……。

呆然としながらも皆が集まっているであろう客間に行くと予想通り、

オカルト研究部の皆、アザゼル、イリナがいた。

「イッセー!」

リアスが目に涙をためて俺に抱きついてきた。

途端に全身を言い表せない何かが一瞬で駆け巡った。

この感覚は…………なんだ。何を恐れているんだ俺は……何が怖いんだ。

この卷族の中の俺の立ち位置を考えることで、

その言い表すことのできない何かは言い表すことができた。

―――――――――不安。

俺は今まで未知の魔法を使う魔法使いという立ち位置でこの卷族の中に立ってきた。

だが、今の俺は魔力を全て失い、

今まで当たり前のように使っていた魔法はもう使うことはできない。

俺の居場所は……あるのか?

「イッセー?」

「……少し……出かけてくる」

「イッセー!?」

リアスの叫びを無視して俺は外へと出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「不安を感じているんじゃないのか」

イッセー君が出かけてから少し経った後、

アザゼル先生がそうぽつりとつぶやいた。

「何を不安に思うことが」

「検査して分かった……今、あいつに生命活動に必要な量以外に魔力はない」

部長の言葉を遮ってアザゼル先生が言ったことに、

この客間にいる全員が驚きを露わにしていた。

イッセー君の魔力が……無い?

「二人が討伐に行った奴の名はファントム。大戦時、敵味方問わずに大勢の奴らを、

皆殺しにしてきた悪魔の歴史上で最も残虐非道な男と言われた男だ。

サーゼクスから拝借した旧魔王の文献によればファントムは旧魔王四人がかりで、

なんとかして封印出来たほどの相手だ。さらに厄介なのはこいつの能力。

何らかの方法で相手の中へと入り込み、全ての魔力を根こそぎ奪い去る。

その能力の為にファントムは異種族の能力でさえ、手に入れていたそうだ。

どこまでこれが真実か疑っていたが……まさか、すべて真実だったとはな」

……もしも、アザゼル先生の言っていることが真実だったらファントムはイッセー君の魔力を奪った今、

彼が今まで使ってきた魔法をも扱うことが出来るということになる。

「リアス。貴方はイッセー君に行って」

「……朱乃」

「悔しいけど、今の彼を救えるのは私たちじゃなくてあなただから」

女の子たちの表情はみな、朱乃さんの言っていることに賛同しているような表情だった。

部長は一度頷き、イッセー君を追いかけに行った。

「さ、私たちはファントムを討伐に行きましょう」

「俺も行かせてもらおう」

後ろから声が聞こえ、

振り返るとそこには客室のベッドで寝ていたはずのサイラオーグ様が立っていた。

「サイラオーグ。もう動いて大丈夫なのか」

「ええ。奴が……兵藤一誠が魔力をなくしたのは俺の責任がすべてだ。

だから……ファントムは俺が倒す」

僕は朱乃さんの方を向くと彼女はコクンと縦に頷き、

サイラオーグ様も小さく頷いて、僕たちはファントムの捜索の為に二つに班に分かれて発見次第、

目印を上げて転移してくることを約束し、別れて捜索に向かった。

『『ワン!』』

「……君たちも行こう」

二匹もそれぞれの班に加えて、僕たちは捜索に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『クゥ』

一人でどこへ行くという目的も持たずに歩いていると足もとに何かがぶつかったのを感じ、

下を向くと人間界でいうリスに似ている動物が二匹いた。

どうやら、夫婦らしくお腹が膨れているメスを護ろうとしているのか、

オスが俺の靴にかぶりついていた。

……今までは事前に分かっていたのにな……悪いな。

心の中で謝罪し、すぐさまそこから足を退かすと二匹は安心したのか、

一瞬だけ鳴き声を上げて向こうの方へと消えていった。

さっきから歩いてみた分かったが……突然、魔力を失うと漠然とした恐怖に苛まれる。

今まで傍にあり続けたものが突然無くなる……怖いな。

「イッセー」

「っ! リ、リアスか」

突然、後ろから声をかけられ、

肩をビクつかせながら振り返るとそこにいたのはリアスだった。

今までは魔力という情報が前もって蓄積されていたから……今はその情報が無いから、

誰かに後ろに立たれたらそれだけで俺は……殺されるかもしれない。

「ご、ごめんなさい。驚かす気はなかったの」

「あぁ、良いんだ……どうしたんだ?」

「…………イッセー。デートに行きましょ」

「……は?」

「良いから!」

俺の返答は無視し、リアスは俺の手を握ってそのまま小走りに駆け出し始めた。

俺はそれに従うと人どおりが多いところに出ると急に、

リアスは指をからませてきて腕を組んできた。

……そう言えばまだ、こいつとデートも何もしていなかったな。

それから俺はまだ知らなかったグレモリー領下での民の暮らしを目の前で見ていった。

俺達が出た場所は人間でいえば市場に当たるような場所で活気の良い声が至る所から聞こえてくる。

今まで見たことのなかったものを見れて俺は新鮮さを感じていた。

今まで上流階級の暮らしぶりばかりを見てきたから言葉は悪いが下流階級の暮らしに、

新鮮さを感じながらもどこか、懐かしさを感じていた。

俺はこの感じを経験したことがある……まだ、母さんも父さんも生きているときに、

三人で暮らしていた時に抱いていた感情だ。

俺は……忘れたらいけない物を忘れていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく見つけたぞ。ファントム!」

ファントムの捜索を行ってから十分ほど、悲鳴が聞こえ、

そっちの方へ行くとちょうど朱乃さんグループと合流し、その場所へ行くとそこにはいまにも、

ファントムに斬られようとしている男性がいた。

僕は高速で移動して聖魔剣で防ぐと一気に凄まじい重圧が僕の全身にのしかかった!

す、凄い重圧だ!

「さ、こっちです!」

アーシアさんが斬られようとしていた人を安全な場所まで、

連れていったのを確認して僕はいったん距離を取った。

周りの非難をイリナさん、ギャスパー君、

アーシアさんに任せて残りのメンバーでファントムと対峙した。

「ほぅ。なかなか良質な魔力だ……ちょうどいい。奴の魔法を試すチャンスだな」

僕達が構えたとたんにサイラオーグ様が僕たちの前に一歩、出た。

「ファントム。悪いが……最初から全力で行かせてもらうぞ」

直後、サイラオーグ様の全身からすさまじい闘気が、

あふれ出してきて周囲の地面に放射線状に亀裂が走っていく!

す、凄い! イッセー君と戦った時よりもさらに闘気が増している!

「レグルス! バランスブレイク!」

『バランスブレイク!』

サイラオーグさんの隣にいた金色の獅子が黄金の粒子へと変換され、

一度、高く空に昇ったかと思えばすぐさま方向を転換して、

サイラオーグ様に降り注ぎ、黄金の獅子の鎧となった。

「行くぞ!」

目の前からサイラオーグ様の姿が消え去り、目の前にいたファントムが突然、

後ろへ大きく後退した。

み、見えなかった……あの速度にファントムは対応したのか。

「試すか」

ファントムがサイラオーグ様に腕を突き出した瞬間、緑色の魔法陣が出現し、

ドラゴンの形をした雷撃が放出される。

「させませんわ!」

しかし、サイラオーグ様の盾になるように朱乃さんの雷光が空から何回も降り注ぎ、

完全に相手の雷撃を封殺した。

……そうか! 彼が使っていたサンダーが強力なのは彼の中にドラゴンが宿っているからだ!

英雄派との戦いが終結した後にイッセー君から全てを教えて貰った。

彼の中にはドラゴンが宿っていてその宿っているドラゴンは赤龍帝と、

呼ばれているウェルシュ・ドラゴンであること。

彼はウィザードであると同時に赤龍帝であることを。

ファントムが使ったサンダーは悪魔で再現にしかすぎないんだ!

「ならばこれだ」

ファントムが腕を突き出し、青色の魔法陣を展開した瞬間、

僕は氷の聖魔剣を作り出して青色の魔法陣へやり投げの要領で突き刺すと、

魔法陣が凍りついて砕け散った。

やっぱり! ファントムが使っているのは劣化版! 僕たちでも壊せる!

「はぁぁぁぁぁ!」

サイラオーグ様の全てを砕く衝撃波が突きだされた腕から放たれ、

ファントムを今にも飲み込もうとするが相手が展開した魔法陣に全て防がれ、

消滅してしまった。

今のはディフェンド…………でも、何故衝撃波が全て消滅したんだ。

「……なるほど。まだ、奴は生きているのか」

っっ! まさか、ファントムはイッセー君の正確な魔力検知までもをも、

自分のものにしたというのか!

テレポートで飛ばれる前に止めを差さないと!

「うわっ!」

「きゃぁ!」

突然、僕たちの身体が鉛のように重くなり、

サイラオーグ様以外は全く動けなくなってしまった。

くぅぅぅ! こ、これはグラビティ! 

ファントムに集中しすぎて魔法の発動タイミングを見逃した!

「木場祐斗!」

「よそ見とは余裕だな」

「ぐっ!」

ファントムが×を描くように槍を大きく振るうと、

衝撃波のようなものがサイラオーグ様めがけて放たれた。

一発目は避けたものの二発目を足に喰らってしまい、動けなくなっていた。

あれは……そうか。ファントムがイッセー君から魔力を奪った方法は次元に、

裂け目を作ってそれを通ってイッセー君の魔力を!

エンゲージに似た能力だ!

「それでは当分は動けんだろ。その間に俺は、

兵藤一誠の魔力を一滴残さずに吸収してくるとしよう」

そう言い、ファントムは魔法陣の中へと消え去った。




とりあえず今日は三話更新です。
大学の春休みと夏休みは長くて良い……冬休みも二週間じゃなくて三週間に、
していただけるとなおいいんですが……あぁ、簿記の検定試験、
そして大学の定期試験の結果が怖いぜ


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第九十八話

デートを終えた俺達は市場のすぐ近くにあるという海辺に来ていた。

「……リアス。俺に卷属にいる意味が……俺に存在意義があるのか」

そう言うとリアスは先ほどの笑顔を消して少し、怒りを感じさせる表情を浮かべた。

するとリアスは何も言わずに俺の手を掴んでジャブジャブと靴を履いたまま、

海の中に入っていく。

「お、おいリアス」

「……冷たいでしょ?」

「あ、あぁ」

「海には存在意義がある。空にも存在意義がある……この世界に存在意義が、

無いものなんてないの……それはイッセーも同じ。貴方が……貴方が、

私の傍にいてくれるだけで……いいえ。朱乃の、小猫の、祐斗の、

皆の傍にいるだけであなたには計り知れない存在意義があるの……魔法が使えなくなっても、

サイラオーグのように体を鍛えればいい。周りがなんと言おうとも……私は、

貴方を今までと同じように愛し続けるから」

途中から大粒の涙を流しながら話すリアスを、俺は抱きしめたい衝動に駆られ、

何も言わずにそのまま彼女を抱きしめると彼女も俺の背に腕を回して抱きしめてきた。

……そうだ。何を不安になってんだ……俺に魔法がなくても皆が消えることはない。

皆の最後の希望が俺であると同時に……俺の最後の希望も皆なんだ。

「はっはっは。素晴らしい」

パチパチと気持ちがこもっていない拍手とともにそんな声が聞こえ、

そっちの方向を見るとそこには醜悪な笑みを浮かべているファントムがいた。

「ファントム! どうしてここに!」

「貴様のお仲間は少しの間、ここには来れんようにしたのさ」

リアスが手の滅びの魔力を纏わせ、俺を護るように前に立とうと時、

俺は彼女の肩を掴んで無理やり気味に後ろへと追いやった。

「イ、イッセー?」

「……見ていろ、リアス……………………おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

俺は鎧もなにも使えない状態で叫びをあげながら走り出して奴に拳を叩きつけるが、

相手にダメージを与えるのはおろか、逆に俺の拳が裂けて血が飛び散り、

ダメージを受けた。

「丸腰で何ができる!」

「ぐほっ!」

頭を鷲掴みにされ、そのまま腹に何度も膝蹴りを加えられ、

口から大量の血を吐くも俺は倒れずに奴に蹴りを加えるが少し、相手がよろいだだけだった。

「無駄だと言っているんだ!」

「がっ!」

槍で斜めに切り上げられ、胸から血しぶきをあげながら海に落とされた。

「であぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

海水で傷が染みるのも無視してファントムがこちらに走ってきたのと同時に、

蹴りを加えると相手は尻もちをつくがすぐさま立ち上がり、

俺を蹴り飛ばして槍を振り下ろしてくるが腕を十字にクロスさせて槍を防ぐ。

「俺は……俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」

槍を掴んでそれを捻り、なにも防ぐものがない場所に蹴りを加えようとするが、

それは容易に避けられ、逆に槍での押し出しを喰らって体勢を崩した時に、

相手のパンチを腹部に貰い、そのまま砂浜にまで殴り飛ばされてそのまま踏みつけられた。

「がぁぁぁぁ!」

奴が足で踏みつけるとボキボキ! という嫌な音が聞こえてくる。

「イッセー!」

リアスの声が聞こえると同時に滅びの魔力がファントムを飲み込む……しかし、

魔法陣が盾となってファントム自体は無傷だった。

「なるほど。滅びの魔力を受け継いだものか。確かにそれは俺を一方的に、

殺すことができる可能性を唯一持ったものだ……だが今の俺にそんなものは効かん!」

直後、奴の目の前に赤色の魔法陣が二枚展開され、

リアスの周囲を囲むように八つほどの魔法陣が出現した。

……まさか、あいつ。俺から奪った魔力を使って、

俺の龍の魔法(ドラゴンズマジック)を使っているのか!

つまり今発動した魔法はコネクトとフレイム!

俺の予想通り、一枚目の赤色の魔法陣から膨大な炎が噴き出し、

二枚目の魔法陣の中へと消え去った。

よく見ろ! フレイムをコネクトで相手に繋げた時はその魔法陣から火の粉が少し出る!

「上だリアス! すぐにそこから離れろ!」

リアスの頭上にある魔法陣から火の粉がわずかに見え、

俺が叫ぶとリアスは頷いて後ろへ下がった。

これでフレイムを喰らう心配は…………っっっ!

「そん……な」

リアスの脇腹を何かが貫いていた。

な、なんだあれは……まさか!

俺は首を動かしてファントムを見てみると俺の視界の外でコネクトと思わしき、

魔法陣に槍の先端が埋まっていた。

「うぅぅ! がぁ!」

どうにかして奴の足を退けて立ち上がろうとするが、それと同時に奴からの槍の一撃を、

胸に喰らって血飛沫をあげながら軽く吹き飛ばされた。

俺の傷を無視してリアスの方を見ると既に彼女は地面に倒れていた。

「リアス―――――――――――!」

俺の魔法が彼女を傷つけた―――――そんな考えが頭の中を支配していき、

気づいた時には眼から涙があふれていた。

俺が……俺のせいで。

「終わりだ。諦めろ」

その言葉を聞いた瞬間、俺はサイラオーグとの戦いで言った一言が頭の中で、

一瞬で回りに回り始めた。

前に言ったじゃねえか……魔法使いは諦めが悪い……フェニックスにもそう言ったじゃないか。

俺は手に力を入れ、ファントムの顔を睨みつけた。

「俺は……諦めない。俺の命がある限り……俺は全てを諦めない! リアスの命も! すべてだ!」

「はっ! 言ってろ。ぬあぁぁぁぁぁぁ!」

ファントムが俺に向けて槍を振り下ろそうとした瞬間!

「ぬうぅ!? ぬあぁぁぁ!」

突然、俺を中心として風が巻き起こり、

周囲の地面を吹き飛ばしながらもファントムを大きく吹き飛ばした。

その直後、普段まで当たり前のように感じていたいくつもの魔力を感じ、

その魔力の方向を見ると目の前にファントム、そして血を流して倒れているリアスがいた。

この感じ…………いつも感じていた魔力だ。

「イッセーさん!」

アーシアの声が聞こえ、視線を上げるとサイラオーグに肩を貸している木場と、

朱乃達の姿が向こうに見えた。

……さっき、感じた魔力はあいつらだったのか……ん?

それと同時に手の中に何かがある感じを抱き、俺の涙で濡れている拳を開いてみると、

その中には赤龍帝の鎧の顔の部分を銀色に塗り替えた顔のオブジェが付けられた指輪があった。

その指輪を人差し指にはめた瞬間、周りが突然真っ暗になった。

「……ドラゴン。どうして」

俺の視界の外から目の前を通り過ぎ去るように銀色に輝くドラゴンが空高くに飛びあがった。

今までこんな姿をしているドラゴンを見たことがない……いったい、何が。

『僅かに残った魔力と心の強さで俺を蘇らせたか。相変わらず面白い男だ』

「この指輪は」

『貴様という器にさえ入りきることのない正真正銘の最後の希望だ。

まさか貴様の器に入りきらないほどの力を生むとは思わなかったがな』

「……ドラゴン。改めて俺の最後の希望になれ」

『無論だ。案外、貴様の中は気に入っていてな。改めて貴様の希望になってやろう!』

ドラゴンがそう言い、銀色の輝きを放ちながら俺の中へと入り込んだ瞬間、

景色が元に戻り、さらに俺の中から先ほどの銀色のドラゴンが現実の空を高く、

高く飛びあがった。

俺は人差し指にはめた指輪をすでに出現している赤色の籠手に、

埋め込まれている宝玉に翳した。

『インフィニティー! プリーズ!』

その音声の直後、ドラゴンが空高い場所から一気に俺めがけて急降下してきた。

『ヒー・スイ・フー・ドー! ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』

銀色の魔法陣が俺の足もとに出現し、足から俺を飲み込んでいき、

頭まで通過した瞬間に辺りにダイヤモンドの輝きを放ちながら魔法陣が砕け散ると、

銀色の鎧を身に纏った俺があった。

……これが最後の希望……みんなの心を攻撃する者から全てを受け止める……永遠に。

「イッセーさんが……イッセーさんが魔法使いに戻りました! 戻ったんですよ!」

向こうの方からみんなの喜びの声が聞こえてくる。

心配掛けて悪かったな……リアス。あと少しだけ我慢してくれ……すぐに片付ける。

「俺が最後の希望だ」



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第九十九話

「ハハハハハ! 素晴らしい! 復活したその魔力もいただくぞ!」

ファントムは俺に次元の裂け目を生み出す槍の一撃をくらわす……だが、

一度だけ開いた次元の裂け目はまるで時間を巻き戻しているかのように凄まじい速度で、

その穴をふさいでいき、ほんの数秒足らずで穴が完全に閉じた。

「おおおぉぉぉぉぉぉ!」

ファントムは直接、槍で俺を殺そうとしたのか高く跳躍して、

降下する勢いを利用しての槍の一撃を俺に叩きつけるが、

俺に傷がつくよりも前に槍の方がポキンと折れてしまった。

「バカな!」

「はぁ!」

驚いている相手の腹部を思いっきり殴りつけると一瞬だけ右腕の鎧が輝いて、

相手は遠くにまで吹き飛んだ。

凄いな……そんなに力を加えずにあそこまで飛ぶか。

「この鎧は皆の心を護る鎧。それを破ることはできない。来い、ドラゴン!」

そう言うと俺の中から銀色に輝くドラゴンが出現し、俺の手の上に滞空すると、

そのまま形を変えて剣と斧が一つになった武器が生まれた。

「くそ!」

「はっ!」

相手の折れていない槍での攻撃を斧と剣が一体化した武器で防ぐと

そのまま槍をはじき、剣の部分で相手の身体を二度三度切り刻み、

蹴りを入れてもう一度、遠くにまで飛ばした。

「ぐっ! はぁぁぁ!」

相手の手のひらから紫いろに輝く球体が生み出され、俺に向かって放たれる。

しかし、腕を軽くそれに当てると三つに分断されて俺の背後に飛んでいき、

そのまま着弾して消滅した。

「バカな!」

『インフィニティー・ナイト』

「はぁ!」

指輪を籠手の宝玉にかざすとそんな音声が鳴り響き、体がとても軽くなった感じがし、

走り出すと自分でも分かるくらいの凄まじい速度で移動できるようになった。

そのまま高速で相手に向かって突進し、一度切り裂くとさらに高速で移動して背後へと回って、

切り裂き、再び高速ですれ違いざまに切り刻んで元の場所へと戻った。

『ターン・オン!』

剣の刃を持ち手に変え、斧を相手を切り裂く主要武器に変える。

「はぁ!」

「ぐぉ!」

相手を斧で斜めに切り裂くと火花と鮮血が散った。

金属レベルにまで硬化させた相手の皮膚ですら切り裂く斧か……いいな。

「ふぅん!」

「ぐあぁぁ!」

斧を相手に密着させてから思いっきり下に降ろすと火花が散り、

相手はそのまま吹き飛んで、背中から地面に落ちた。

「これならどうだぁ!」

『インフィニティー・ビショップ』

相手が腕を突き出し、赤色の魔法陣を展開させるのを見て宝玉に指輪を翳すと、

音声が鳴り響き、放たれてきた炎に手を翳すと炎が俺の手のひらに球体として凝縮された。

「バ、バカな!」

「見せてやる。これが本物だ」

「ぐあぁ!」

火球を相手に放り投げるその火球がドラゴンの形に変化し、

そのまま相手の硬化した皮膚ごと奴を軽く吹き飛ばした。

ナイトが残像が残るほどの高速移動、ビショップが相手が使用した魔法を魔力に分解、

もしくはそのまま撃ち返す……この様子じゃクイーン、ルークもあるみたいだが、

それを試すのはもっと後にするとしてそろそろケリをつけよう。

「フィナーレだ」

『ハイタッチ! シャイニングストライク! キラキラ!』

「はぁぁぁぁぁ! えあぁぁぁぁぁぁ!」

「ぬおおぁぁぁぁぁぁ!」

斧の刃と剣の刃の間にある手の形をした部分を指輪をつけた手で軽く叩くと、

斧から銀色の輝きがあふれ出し、徐々にその大きさを大きくしていく。

俺は徐々に大きくなっていく斧を持ったまま、空高く跳躍し、

そのままファントムに叩きつけた!

「こ、こんなことがぁぁぁぁぁぁ!」

その言葉を最後に、ファントムは真っ二つに切り裂かれ、

切り裂かれた部分から銀色の輝きを放ちながら、大爆発を上げてこの世から消え去った。

……全てを取り戻したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はやつの最後を見届けた後、

すぐにリアスを治療しているアーシアのもとへと近寄った。

「アーシア、どうだ」

「はい。もう少しです」

『プリーズ・プリーズ』

アーシアの手を軽く握りながらプリーズの魔法を発動させると俺の魔力が、

アーシアへと流れ込み、癒しの波動がさらに強くなって、

リアスの傷を癒していく速度が上がった。

「ふぅ。完治です」

俺が魔力を渡してから数秒ほどでリアスの脇腹の傷は傷跡も残さずに綺麗に完治された。

すると、リアスの目が徐々に開き、

俺を視界にとらえると目を見開いて今の俺の姿を見ていた。

銀色の鎧を消し、俺もリアスを見つめた。

「イッセー……魔力が」

「あぁ。お前のおかげだ、リアス」

「イッセー!」

近くで抱きついてきたものだからモロに衝撃を受けて、そのまま尻から地面に、

落ちてしまった……が、今はこのくらいの衝撃は心地よく感じる。

もしも、リアスが俺の傍にいなかったら……俺はまだ、魔力を取り戻せずにいた。

「サイラオーグ。お前にも迷惑掛けたな」

「いや……俺の責任だ」

「そうか……ま、このことはもう良いだろう。帰ろうか、皆」

俺がそう言うと全員、笑みを浮かべて首を縦に振った。

…………覗き見している変態に見せつけるのも悪くはないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、申し訳ありません!」

「はぁ。ファントムが兵藤一誠から魔力を奪ったところまでは良かったものの貴方達が、

余裕をかまし過ぎて兵藤一誠を殺すどころか新たな力に覚醒させたと……ふぅ。

戦力増強どころかこちらにダメージを与えられましたね」

「も、もう一度我々で」

「もう結構です。普通の魔法使いの貴方達に兵藤一誠を、

殺せるはずもありません……貴方達には消えてもらいます」

「そ、そん―――」

 

 

 

 

『ギャハハハ! てめえも俺と同じじゃねえか』

「貴方と一緒にしないでください……グレンデル」




更新順間違えた


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第百話 オリジナル

「…………またこの世界か」

目の前には箒に跨って空を飛ぶ人たちが大勢いた。

ファントムを新たな力で倒してから数日経った。

少しひと眠りしようと眠ったらこのザマだ……また、

アザゼールとかタンノーンとか現れるんじゃないだろうな。

……唯一、違うと言えば前の世界は自然溢れていたが今回の世界は、

俺が住んでいる街並みとほとんど変わらないということだ。

つってもここは冥界っぽいから住んでいるのは悪魔なんだろうが……本当にここはどこなんだ。

「イスラ!」

突然、女性の叫びが聞こえ、そちらの方に行くと全身に紫色に光るヒビが走っている少年と、

涙を流しながら少年の肩をゆすっている女性がいた。

「おい、どうした」

「イスラの魔力が暴走して!」

……よくは分からんが魔力ということはこいつの中に入れば何が原因で、

何が起こっているのか分かるか。

「頑張れ。俺がお前の最後の希望だ」

『エンゲージ・プリーズ』

エンゲージを発動させて、展開された魔法陣の中に飛び込むと数秒ほど暗闇が続き、

暗闇が晴れて地面らしき場所にたどり着くとそこには両親と、

思わしき人と楽しそうに話している光景だった。

魔力が暴走したと言っていたが……それらしいことは……。

すると、突然目の前の空間にヒビが大量に入り、そこを砕いて金と銀の体毛をした、

二匹のドラゴンの頭が一つの身体から出ている状態のドラゴンが出現し、

大きな翼を羽ばたかせて宙に浮き、町を破壊していく。

……まさか、この子もセイグリッドギアを身に宿したのか? 

いや、魂をセイグリッドギアに封印されたタイプのものを宿しているならば、

魔力が暴走を起こすことは……まあ良い。

「何が起きているかは知らんが……放っておくわけにもいかない。来い、ドラゴン!」

『ドラゴラーイズ! プリーズ』

頭上に魔法陣を展開するとそこから炎が噴き出し、敵に直撃して吹き飛ばすと、

その炎が一匹のドラゴンへと姿を変えた。

俺はそのドラゴンの頭上に飛び乗った。

もう、前回のように魔力を通す必要はない……行くぞ。

ドラゴンは俺の心の言葉に呼応するかのように咆哮をあげ、

翼を羽ばたかせて敵の攻撃を避けていく。

『ギュアァァ!』

「っ! ドラゴン!」

相手の叫びが聞こえ、俺は慌ててドラゴンの上空へ上がるように伝え、

ドラゴンが上に上がった瞬間、相手の首だけが伸びてきた。

上空で相手を見ると先ほどまで同じ体に二つの首が生えていたものが半分にでも、

体を割ったかのようにそれぞれ、独立していた。

ますます、不思議だな。

『コネクト・プリーズ』

『フレイム・プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

魔法陣からアスカロンを呼び出し、刃に手を翳す。

「ドラゴン! 突っ込め!」

俺の指示通りにドラゴンがこちらに向かってくる金色のドラゴンに向かって突っ込んだ。

『フレイム・スラッシュストライク! ヒーヒーヒー!』

「でやぁ!」

金色の首が放ってきた火球をギリギリのところで体を捩じらせて避け、

そのまま横切るついでにスラッシュストライクを発動した状態のアスカロンで切り裂く。

『ギュオオアァァァァァ!』

断末魔を上げながら大爆発を上げ、金色のドラゴンは消滅した。

「おっと!」

急にドラゴンが動いたかと思えば、俺達がさっきまでいた場所に、

銀色の炎がメラメラと燃え盛っていた。

燃え盛っている個所を見ると地面らしき場所なんだが、

それが陥没したかのように穴が開いていた。

なるほど……あの銀色の炎は着弾した場所をドロドロに溶かす特殊な炎か。

土がドロドロになるなんてのは聞いたことがないが……まあ良い。

「どちらが上か、試してやる」

『プリーズ・プリーズ』

俺はドラゴンにプリーズの魔法で魔力を明け渡すと大きく口を開け、

そこから今までよりも何十倍と大きい、火球が生成されていく。

『ゴバァァ!』

ドラゴンが凄まじくでかい炎を吐きだしたと同時に相手の銀色の炎がぶつかり合い、

辺りに熱風と衝撃が放たれ、地面を大きく抉っていく。

拮抗していたかに見えた両者の炎だが徐々に銀色の炎が赤色へと色を変えていくのが見えた。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

「ドラゴン!」

『グバァアァァ!』

俺がドラゴンの口に飛び降りた瞬間、俺の背中にドラゴンの火球がぶつかり、

その勢いのままキックストライクを叩きこむ!

「はぁぁ!」

ぶつかり合っていた凄まじくでかい炎と俺の脚が融合して巨大なドラゴンの足を象った炎が、

生み出されて銀色の炎を完全に消滅させ、

ドラゴンの顔面に直撃し、断末魔を上げる前に銀色のドラゴンを塵に変えた。

「ふぃ~」

先ほどまで空間にヒビが入っていたが二匹のドラゴンが消えたことにより、

全てのヒビが消失し、元の何もない空間に戻った。

……もう、俺がここにいる理由はないな。

俺は傍に魔法陣を展開し、それを通って元の空間へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます!」

少年の中から出てきた俺にかけられた言葉がそれだった。

少年も先ほどのように苦しんでいる様子はなく、母親と一緒に俺にお礼を言ってきた。

「お兄ちゃん凄いんだね!」

「まあな……ところでここってどこでしょうか」

「ここは魔王様の居住区。ルシファードです」

やはり、ここは冥界なのか……でも、ここまで近代化が進んでいたか?

周りを見渡せばレンガ作りの家屋があちこちに立っており、

前回の世界と同じようにローブを纏って箒で飛んでいるやつらがいっぱいいた。

まだ冥界は未開発だらけで自然がたくさんあったような感じがしたんだが……。

「もしかして旅の人ですか?」

……ここは合わせた方が何かと良いだろう。

「ええ。母とともにここで働いている父に会いに来たのですが逸れてしまいまして」

「でしたら政府に行ってはどうでしょうか」

女性が指さした方向を見るとそこにはまるで城なんじゃないかと思うくらいの豪勢な、

作りをした建物が立っていた。

……どこか、リアスが改築した俺の家に似ている気もしないが……。

「困り事があれば政府の方が対応して下さるんです。

今じゃ解放政府とまで言われているんですよ」

「そうですか……感謝します」

女性と少年に別れを告げて、俺は一キロほど離れている政府へと向かって歩き始めた。

この世界の政府は解放されているのか……つまり、

許可さえあれば魔王にも会うことができるのか?

テロリストが入ったらどうするんだよ……そのテロリストを政府の中へ、

通しても倒すことができるくらいに強い門兵がいるのか?

そんなこんなを考えているうちに十五分ほどで政府の入口らしき大きな門にたどり着いた。

両端にそれぞれ門番が一人づつ。

「少し聞きたいんだが」

「なんでしょう」

「かなり困ったことが起きてしまい、魔王様の判断を仰ぎたいのですが」

そう言うと門番は通信用の魔法陣を耳の所に展開した。

まあ、こんなんで通ることはないだろうから……非常時はスリープで眠らせれば――――――。

「良いぞ、通るがいい」

そう言われ、大きな門が開いた。

……ウソだろ。こんなウソでも通してもらえるなんて……まさか、

偶然にもその面倒なことが起きたのか……まあ良い。

俺は門をくぐると執事服を着た男性が近寄って来た。

「では、私が案内いたします」

そう言われ、男性の先導のもと魔王のもとへと向かう。

解放政府は良いっちゃ良いんだが……流石に開放しすぎだと思うのは俺だけなんだろうか。

少しばかり歩くと先導の男が立ち止まり、俺も立ち止まると目の前には大きな扉が立っていた。

「この先に魔王様がいらっしゃいます」

そう言い、先導の男は転移用の魔法陣を使ってどこかへと転移した。

俺は目の前の大きな扉を両手で押して開くとそこにいたのは―――――。

「朱乃?」

目の前にいたのは朱乃だけじゃなかった。小猫、ギャスパー、リアス、

ゼノヴィア、ロスヴェイセ達卷属の皆がレッドカーペットが引かれている端の方に立っていた。

気のせいか、ギャスパーや小猫の身長が伸びて大人びているような。

各々、驚いた様子も見せずに立っていた。

そしてレッドカーペットの先にはカーテンで覆われている場所があった。

「魔王様。例の者です」

豪勢な刺繍が施されているマントをはおったリアスがカーテンに向かって

そう言うとカーテンが開かれ一人の……う、ウソだろ。なんで……なんで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――インフィニティーの鎧をまとった奴がいるんだ。



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第百一話 オリジナル

俺の目の前には銀色の鎧――――――インフィニティーの鎧を身に纏った人物が立っていた。

バカな……インフィニティーの鎧を纏えるのは俺だけだ。

考えたくはないが小猫やギャスパー達が普段見ている時よりも、

大人びて見えることを考えればたどり着く答えはたった一つ。

「お前は……俺なのか」

そう言うと奴の足もとに銀色の魔法陣が出現し、

その魔法陣が下から上へ上がっていくと鎧が解除されていき、

全てが解除された時にあった顔は俺自身だった。

「正解だ。別世界の俺」

やはり、この世界は俺がいる世界よりも遥か未来の世界でなおかつ、

俺がすんでいる世界とは全く別の世界――――――パラレルワールド。

だが、今の状況はあまり良いとは言えないな……遥か未来、かつパラレルワールドの朱乃達が、

俺の知っている強さなわけがないし、俺が知らない物を持っていることだってある。

全員が異端者である俺に襲いかかってこないという確証は……ん?

そこで俺は一つ気づいたことがあった。

――――――木場がいない。

あいつはナイトだ。こんな重要な場に欠席するような役目じゃないはずだが……。

クイーンの朱乃がいてナイトが居ないのはおかしい。

それにアザゼルも……何故、いない。

「お前がここに来ることはすでに予知していた」

「教えろ。ここはいったいなんだ」

「ここはお前からすればパラレルワールドの遥か未来……四千年後の冥界だ」

四千年……つまり、俺達が今抱えている問題が全て解決され、

時間がたった世界と言う訳か。

「お前が魔王とはな……相当、支持率は悪そうだな」

「バカ言うな。これでも歴代の魔王史上最高の支持率だ。俺が魔王になった瞬間から、

冥界は変わった。今まで争っていた種族との和平は勿論のこと、

技術、生活の質などが一気に上がった。どれもこれも俺のおかげだ。なあ、リアス」

「ええ」

そう言うと感情を極限にまで押し殺したリアスの声が聞こえた。

……何故、お前はそこまで感情を押し殺す……お前はその胸の中に何を隠しているんだ。

「さあ、お話は終わりだ。お前らは消えてろ」

そう言うとリアス達は足もとに魔法陣を展開させ、どこかへと消え去った。

「お前は邪魔だ……俺が消す」

『インフィニティー・プリーズ! 

ヒー・スイ・フー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』

「ちっ!」

奴が指輪を右腕の籠手の宝玉に翳すのを見て、

その場から飛び去ると銀色のドラゴンの幻影が奴の中から出現し、

奴の周りを旋回すると同時に衝撃波を放っていく。

『フレイム・ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!』

『コネクト・プリーズ』

「そんな魔法で勝てると思うのか?」

「最強に頼ってちゃ強くはなれねえよ」

魔法陣からアスカロンを取り出し、奴に斬りかかるが、

アスカロンは斧と剣が一体化した武器に防がれる。

そこから何度もアスカロンを振るうがすべて、

奴の斧と剣が一体化した武器に防がれる。

―――――なぜ、こんな世界になったんだ。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

「うわっ!」

突然、奴の全身から電流が迸ったかと思えば、その電流が一気に質量を増大させ、

俺を吹き飛ばすと奴の頭上に巨大なドラゴンの形をした雷が出現した。

ハリケーン・ドラゴンでなくてもここまでの威力を出すか!

「行け」

その冷たい奴の声とともに雷のドラゴンの口が開き、

そこから小型の雷撃がいくつも飛ばされてくる。

俺は周囲を走り回ってそれを避けていく。

そりゃまあ、四千年も時が経過していれば魔法が強化修正されていても、

疑問はないんだがこれは強化しすぎだろ!

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

壁を蹴って方向を急に転換し、空中でドラゴンの頭部を装備して火炎放射のように炎を、

吐きだすが奴が大きく横に振るった剣から放たれた銀色に輝く衝撃波の一撃で、

炎が掻き消され、俺まで吹き飛ばされた。

「くっ! だったら!」

『ウォーター・ドラゴン。ジャバジャババッシャーン・ザブンザブーン!』

『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』

『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』

俺がブリザードを発動し、奴めがけて冷気を放つと同時に奴の胸にドラゴンの頭部が出現し、

そこから火炎放射のように火炎が放たれて両者がぶつかり合うが一瞬で、

その均衡は崩れ去り、火炎が俺めがけてくる!

『リキッド・プリーズ』

「ふん」

体を水に変えて炎をやり過ごし、奴の背後に移動して水を奴を拘束するように纏わせ、

元に戻すと腕と足がそれと同じように現れ、奴を拘束した。

『エクスプロージョン・プリーズ』

「うわっ!」

奴の全身から突然、爆風が発生して俺を壁に激突するまで吹き飛ばした。

くっ! なんだあの魔法は!

「終わりだ。俺も忙しいんだ」

『ターン・オン』

『ハイタッチ・シャイニングストライク! キラキラ!』

「うおわぁぁぁぁ!」

斧の一撃を喰らい、俺は壁を貫通してそのまま地上めがけてまっさかさまに落ちていった。

こんなところで死ねるかよ!

俺がハリケーン・ドラゴンに鎧を変えようとしたとき急に、

誰かに抱きかかえられた感覚がした。

俺はその顔を見てすぐさま声を上げようとしたがそいつに静かにしろと、

ジェスチャーで伝えられ、俺は黙ったままそいつに抱きかかえられた状態で、

どこかへと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

「終わったの? イッセー」

「あぁ、終わったぞ。さ、通常業務に戻るぞ」

「ええ……」

「どうした? そんな悲しそうな顔をして」

「いえ……なんでもないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だよ。イッセー君」

転移が終了し、俺を助けてくれ奴の住居らしき大きめのテントの中に入ると、

そこには俺が知っている奴よりも結構老けた感じのあいつがいた。

四千年もの時が経てば、例え人間以上に生きる三種族でもこうなるか。

「アザゼル。老けたな」

「うるせぇ。四千年もたちゃこうなるんだよ」

髪の毛を見れば白髪が混じっているのが見え、顔には若干の皺が見えた。

「今じゃ四千十七歳のおっさんだな。木場」

俺を助けてくれたのは木場だった。

こいつも大人びており、髪も黒色ではなくて若干の茶色になっていた。

こいつも変わったんだな……だが、なんでナイトである木場が、

こんなホームレスが住むみたいなテントで住んでいるんだ。

「何故、お前は政府に住んでいないんだ」

「……そこから話そうか。僕とアザゼル先生は今、お尋ね者なんだ」

それを聞いて俺は驚きのあまり、口をあんぐりと開けてしまった。

「あいつが少々、暴走しかけているから止めようとすればこうなったわけだ。

まあ、別に後悔はしてねえさ。今も虎視眈々と狙っているわけだ。イッセー、これをお前に託す」

そう言い、アザゼルは俺に二つの指輪を手渡してきた。

一つは二人の人間らしき絵が描かれている装飾が施された指輪、

そしてもう一つは絵からは判断しにくいがオールドラゴンらしき装飾が施されていた。

指輪ということはインフィニティーの指輪と同じように俺の器に入りきらなかったから、

こういう物に魔法を具現化したものか。

「この世界のお前に言われて作っていたんだが……これはお前に託す。

魔法の内容は俺も知らないが使えば面白いことになるのは間違いない」

「そろそろ、僕は行こうと思うんだけど……君はどうする?」

俺は二つの指輪をポケットに入れ、木場の方を向いた。

「行くに決まってんだろ。こんな世界は一度、俺が潰すさ」

そう言うと木場は壁にかけていた一本の刀を手に持った。

その剣は刀身は真っ黒に染まっているんだが持ち手と刀身を繋げている部分に、

ダイスのようなものが取り付けられていた。

「木場、それは」

「これ? これは古の魔法だよ。僕達が生まれるよりもずっと前にあったね。

アザゼル先生の協力のもと、なんとか復元に成功したんだ。さあ、行こうか」

よく見れば木場の指に三つの指輪がはまっていたがそれについては何も言わなかった。

さあ、これからが本当のショータイムだ。




ようやっとインフィニティー出せたわ……ここまで来るのに、
百話かかりましたね……まあ、オリジナルをやったから仕方ないか。
それでは!


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第百二話 オリジナル

木場とともに魔王が住んでいる場所へと向かうとどうやら連絡を受けていたのか、

バラキエルさんが門番の二人と中にいた兵士たちを拘束してくれていた。

流石は副総督……なのかは知らないがバラキエルさんだ。

「アザゼルから連絡は受けている。他の階の奴らも我々、

グリゴリの幹部達が全員拘束しているだろう。娘を頼む、兵藤君」

「お任せ下さい。行くぞ、木場」

「もちろん」

バラキエルさんと別れ、上の階へ上がる階段を上ろうとしたときに突然、

槍を持ったゾンビのようなやつらが地面から湧きでるように大量に出てきた。

「こいつらはグール。イッセー君が開発した尖兵だよ。ここは僕に任せて」

そう言い、木場は刀を握り締め、刀に付属しているダイスのような部分を横に流すように、

動かすと目が次々と変化し始めた。

「うりゃぁ!」

『シックス・バッファ! セイバーストライク!』

「ふぅん!」

刀からそんな音声が響き、木場が刀をバットのように振った瞬間、

目の前に魔法陣が展開され、そこから闘牛の形をしたオーラが六頭出現し、

目の前のグール達に直撃していき、大爆発を起こした。

……なかなか凄い威力だな。

「なかなかいいでしょ? ちなみにドルフィンとファルコ、

そしてカメレオンがあるんだ。とりあえず、上に行こう!」

木場に言われ、階段を上ろうとした瞬間に突然、

天井が崩落してそこから誰かが地面に降り立った。

「……ここから先は行かせません」

「小猫か」

砂ぼこりの中、聞こえてきた声は小猫の声だった。

「小猫。お前は盲信するあまり本質を忘れていないか」

「忘れていません……私はイッセー様の猫です」

砂ぼこりの中から小猫が俺に拳をぶつけようと飛びかかってくるが俺は拳を掴んで、

そのまま小猫の腹部にひざ蹴りを打ち込んで意識を刈り取った。

……忘れてはいないようだが迷いはしていたみたいだな。

俺は小猫を壁によせて、木場とともに上の階へと向かった。

上の階に向かう途中にも大量のグールどもが尖兵として設置されていたが、

魔力を消費することもなく、素手で圧倒することができた。

やはり、尖兵は尖兵か。

「尖兵でも時間稼ぎは無理のようですね」

前方の床から魔法陣が出現し、そこからロスヴァイセと朱乃が転移してきた。

木場が俺の耳元でぼそぼそと呟く。

「彼女たちはかなり強くなっているよ。ロスヴァイセさんはルークの力と魔法を合わせた完全防御、

朱乃さんは堕天使化でかなり雷の力だけじゃなくて全般的な能力を強化しているよ」

そうか……ルークのロスヴァイセは攻撃ではなく防御面を極限まで魔法と、

イーヴィルピースのルークの駒の特性を合わせて強化したのか。

そして朱乃は自分の中に流れている堕天使の血を覚醒させて悪魔の力と合わせた……ここまで、

彼女達を支えておきながらいったいどこで暴走したんだ。

「朱乃、ロスヴァイセ。退いてくれ」

「……貴方は彼自身」

「ですが、私たちはこの時代の彼に従っています……どくわけにはいきませんわ」

そう言い、両者が魔法陣を前方に展開した瞬間! 突然、

傍の壁にヒビが入ったかと思えばそこから爆発が起き、砂埃が視界を遮った。

「グハハハッハ! アザゼルからの命を受けたアルマロスなり!

そこの勇者たちよ! ここは任せていくがいい!」

「助かりますアルマロスさん! イッセー君行くよ!」

木場に腕を掴まれ、砂埃の中を突っ込んでいき、彼女たちの傍を通過していく。

アザゼルの命を受けたと言っていたからグリゴリの幹部か。

そう思っていると背後から爆音が鳴り響いたが足を留めずに走っていくと突然、

足が何かに沈んだかのような感覚になった。

すぐさま下を見てみると俺の影から黒い手のようなものが俺の脚を掴んでいた。

「ギャスパー君だ!」

「ならこれだ」

『ライト・プリーズ』

「わっ!」

籠手の宝玉を一瞬だけ輝かせると影の腕が消え去り、

コウモリがそこら中から集まっていき、ギャスパーとなった。

……身長は伸びたようだが相変わらず女装趣味は消えずか。

「イッセー君! この先に王宮の間がある! そこに君がいる!」

「こ、ここから先は行かせません!」

『フォー・ファルコ。セイバーストライク!』

木場が魔法陣を剣でたたくとそこから四匹の黄金に輝く鳥のオーラが、

ギャスパーめがけて放たれ、そのまま目くらましのように視界を羽ばたいていく。

「行くんだ! この世界を変えられるのは君だけなんだ!」

「……わかった」

ギャスパーを木場に任せ、すぐそばにある大きな扉を蹴飛ばして中に入ると、

王宮の間と言われている広めの空間に出た。

そこにはリアス、そして相変わらず、

インフィニティーの鎧を纏ったままの俺が玉座に座っていた。

まあ、あの鎧は放出した魔力をまた吸収する無限回路を実現しているから、

魔力は減らないんだが……あの姿が王の証ということか。

「何か用か?」

「お前を倒し、この腐った世界を潰す」

「腐った? 腐ったのは貴様の頭だろう」

「……ならばなぜ、お前は木場とアザゼルを追いだした」

リアスは一瞬だけ顔をしかめるが俺自身は一切、

動揺もせずに玉座の肘置きのところに腕を置いて頬づえをついたままだった。

「あいつらは邪魔をしたからな」

……やはり、でかい権力を得ると俺もああなるのか……いや、

そんなことはあってはならない! 卷属が誰一人、笑っていないようなこの世界は必要ない!

こんな未来は必要ない!

『フレイム・プリーズ。ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー!』

俺はフレイムの魔法を発動させ、腕に炎を纏わせると籠手を出現させ、

掌に炎を集めて、火球を生み出し、奴に向かって投げつけるがそれは奴から、

放たれた鎧の鎧から放たれた衝撃波によってかき消された。

「今更そんな魔法を使って何になる」

「だからさ。今さらだから……無限の幻影に囚われたお前を開放するから使うんだ」

『チョーイイネ! キックトライク! サイコー!』

「はぁ!」

俺は籠手から炎を放出して目の前に大きな火球を生み出すと跳躍して、

俺と一緒に高く上がった火球を蹴り飛ばすとそのまま、

奴めがけて火球が飛んでいく……が、横から入った赤黒い魔力に包まれて火球が消え去った。

……リアスか。

「流石だな、リアス。俺が愛した女だ」

「…………お前はこれを望んでいるのか」

俺は未来の彼女へと語りかける。

「リアス。お前はこれを望んでいたのか? 誰も笑わない、

誰もアザゼルと木場を追いだしたことを悲しまない……そんな奴らになってほしかったのか?

お前達の上に立つそいつは本当にお前が愛した男か!」

「…………」

「お前が望んだ未来はこれなのか! リアス!」

「ふぅ。いい加減にしろよ」

インフィニティーの鎧を身に纏った俺が玉座から立ち上がり、二歩三歩、歩いた瞬間! 

手に滅びの魔力を纏わせたリアスの拳が奴の鎧に直撃し、

銀色の輝きと滅びの魔力が周囲に拡散した。

「……イッセー……お願い。もう止めて……昔の貴方に戻って!」

「…………そうか。ならお前はいらない」

『エクステンド・プリーズ』

奴が剣を振り下ろそうとした瞬間、

エクステンドで伸ばした腕でリアスをこちら側に引き寄せた。

空を切った剣はそのまま床に突き刺さった。

「要らないのはお前だ。愛した女の声でさえ、止まらない

貴様は……最後の希望じゃない。俺はあの時誓った。二度と俺の手で、

こいつらが絶望させることはあってはならないと……それを、

破棄した貴様は俺じゃない! 最後の希望はお前ではない!」

『インフィニティー・プリーズ! ヒー・スイ・フー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』

指輪を籠手の宝玉に翳すと銀色に輝くドラゴンの幻影が出現し、

俺の周囲を旋回しながら足もとに現れた魔法陣が徐々に上にあがっていき、

魔法陣を通過した部分から銀色の鎧が完成していく。

「来い、ドラゴン!」

そう言うとドラゴンの咆哮が部屋に木霊し、先ほどまで周囲を旋回していた幻影が、

剣と斧が一体化した武装へと変化し、手に収まった。

アックスカリバー……そう名付けよう。

「来い。腐った希望など俺が叩き潰す」

「ふん。やれるならやってみろ」

『インフィニティー・ナイト!』

同時に強化されたナイトへと疑似プロモーションを行い、

カリバーモードのアックスカリバーをぶつけあった。




このオリジナルのお話が終わった際には日常編を数話、挟みます。


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第百三話 オリジナル・ラスト

「はぁ!」

高速で移動しながらカリバーモードを叩きつけていくが奴は、

それを超える速度でそれを避けると背後に回り込み、

カリバーモードを叩きつけてくるが俺も高速移動で避けるものの、

何れも掠ってから回避行動をとっていた。

やはり、四千年の間がある状態では圧倒されるのは当り前か!

もう一度、高速移動し、カリバーモードを叩きつけようとするがそれよりも早くに、

奴が俺の目の前から消え去り、背中に衝撃を受けてそのまま地面に叩きつけられた。

「がはっ!」

「やめとけ。四千年の差がある。それは決して埋めることのできない圧倒的な差だ」

「諦めが悪いのが俺だ……まだ最後の希望はある」

そう言い、俺はコネクトの魔法陣を展開し、

そこからアザゼルに貰った二つの指輪を取り出すと奴は焦りはじめた。

もともとは奴の命令で制作していたようだがアザゼルが渡す前に、

御尋ね者になったために俺の手に渡ったという訳らしい……これも運命か。

「何故、お前がその指輪を持っている!」

『バインド・プリーズ』

「ぐぉ!」

奴をバインドで一瞬だけ拘束した時に二つの指輪を人差し指と薬指にはめ、

人差し指の指輪を籠手の宝玉に翳した。

『クローン・プリーズ』

するとインフィニティーの鎧が解除され、さらに俺の体内から魔力が吐きだされ、

その魔力が形を変えていきもう一人の俺へと変化した。

……なるほど、一気に魔力を回復させてから、

ドラゴタイマーの要領でクローンを作り出した訳か。

互いに目を合わせ、頷きあうと俺はインフィニティーの指輪を、

奴はドラゴタイマーを取り出し、次々と鎧を纏った分身体を作り出していく。

「させるか!」

「それはこっちのセリフだ!」

再びインフィニティーの鎧を身に纏い、インフィニティー・ルークにチェンジし、

奴の攻撃を真正面から防ぐが鎧を通り越して、生身の俺の身体にダメージが届き、

口から血反吐を吐いてしまった。

ぐっ! 防御のルークにチェンジしても鎧を貫通するか!

『オールドラゴン・プリーズ』

そんな音声が聞こえ、背後を振り返ると全ての属性のエレメントの魔法陣が一つとなり、

全ての武装を装備したオールドラゴン状態のもう一人の俺が完成した。

それを見た俺は未来の俺から距離をとり、宙に浮いている俺の横についた。

「さあ、今度の指輪はどんな奇跡を起こしてくれるんだ?」

『チョーイイネ! フュージョン! サイコー!』

「うぉ!」

「うおぉ!」

突然、体が引き寄せられ、オールドラゴンの俺とインフィニティーの俺がぶつかり合った瞬間、

俺の視界を潰すほどの輝きが放たれた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほぅ」

輝きが消え、目を開くと俺は今の状態に驚嘆の息を吐いた。

今の状態を簡潔にいえばインフィニティーの鎧にドラゴンスタイルの武装を、

銀色に色を塗り替えられた物と鎧と融合している状態だった。

銀色のクロー、テイル、ウイング、ヘッド。全てが最高にまで強化されている。

「インフィニティー・ドラゴン。究極にして最強。これが全ての希望だ!」

ドラゴンの翼を羽ばたかせて宙へ浮かぶと同時に奴も悪魔の翼を生やして宙へ浮かびあがり、

クローとアックスカリバーをたたきつけあう!

インフィニティーの状態でオールドラゴンの力を、

使っている状態では四千年の差も埋められるってのか!

「はぁ!」

頭部から炎を火炎放射のように吐き出すが相手はナイトの速度で避けるが、

さらに俺は全体に雷撃とブリザードを同時に放っていくと運よく雷撃が一度だけ当たり、

奴の姿が見えた。

「うらぁ!」

「ぐぁ!」

テイルを奴めがけて叩きつけると奴の防御を無視して壁に激突するまで吹き飛ばした。

『ハイタッチ・シャイニングストライク! キラキラ!』

「はぁ!」

奴が姿勢を立て直し、巨大化した斧が振るった瞬間に二人に分離し、

それを避けてからもう一度合体して奴にクローを突き刺した!

「がはぁ!」

インフィニティーの鎧が砕け散り、クローが突き刺さったことにより、

流れ出た血液によって銀色が真っ赤に染まっていく。

「グァ! ま、まだだ!」

傷口を押えながら壁に穴をあけ、外へと出ていった奴を追いかけて俺も、

外へ行くと全身から全ての魔力を放出し、頭上に巨大な魔力の塊を作り出していた。

……そこまでして何に拘る。未来の俺は……認めない。

こんな誰も笑っていない未来など必要はない! 俺の手でこの未来は潰す!

『チョーイイネ! ファイナルストライク! サイコー!』

ドラゴンの口から四つの魔法陣が吐き出され、俺の背後に回って四つが一つとなり、

七色の光を放って俺を一気に押し出す!

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!」

目の前に巨大な魔力の塊が迫ってくる。

お前が忘れた物は…………仲間の最後の希望という意識だ!

「はぁぁぁぁぁぁ!」

一回転して足を塊に向けた瞬間、それらがぶつかり合い衝撃波が辺りに放たれる!

「だぁぁぁぁぁ!」

体を回転させ、さらにドラゴンの頭部を胸から足に移動させてそこから炎を吐きださせながら、

きりもみキックを加えていくと魔力の塊が一気に四散し、そのまま奴の腹部に蹴りを加えた!

直後、奴が纏っていた銀色の鎧が完全に砕け散った。

「がぁぁ!」

「終わりだ……俺の姿をした幻影。だぁぁぁぁぁぁ!」

より一層、足に魔力を加えた瞬間、奴を貫通し、

俺の背後で大爆発を起こして俺の姿をした幻影は姿を消した。

翼を羽ばたかせて王宮の間へと降り立った瞬間に二つの指輪の効力が消えたのか、

インフィニティー・ドラゴンの姿が消え去った。

……ほんの一瞬だけの最後の希望か。

「……イッセー」

リアスが俺に声をかけた瞬間、徐々に俺の身体が光輝き始めた。

「……安心しろ、リアス。お前がそんな顔をするような未来を俺は作らない」

そう言うと同時に木場も合流してきた。

「……木場。お前が古の魔法を見つけないで済むような未来を俺は作る」

「うん……四千年後に」

笑みを浮かべ、そう言った木場の発言を最後に俺の視界が突然、暗闇に染められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

目を開いたときに最初に映り込んできた景色はいつもの天井だった。

……やけに両手が重いな。

そう思い、首を右に、左に向けると俺の腕を枕にした状態でスヤスヤと卷属の仲間が眠っていた。

……一本の腕に三人も頭を乗せて寝ていたら重く感じるわな。

というよりも痺れすぎてもう感覚がない。

「夢か……いや、違うな」

皆を起こさないように腕を抜くと左手の人差し指と薬指に四千年後のアザゼルから貰った、

指輪があったがそれは光の塵となって消え去った。

夢の中の魔法か……不思議なこともあるもんだ。

「……未来は変わったんだ」

そう呟き、俺はもうひと眠りすることにした。




これにてオリジナルはお終い……と、思いきや続いては
オリジナルな日常編なんだな。


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第百四話 オリジナル日常

変な夢の世界での戦いの翌日、俺―――――兵藤一誠は俺たちに特別用意された鍛練用の異常に、

広い別空間で魔剣を持った木場と対峙していた。

今回の鍛錬の目的は新たに覚醒した力――――インフィニティーの力の確認と、

その運用について考えることだった。

「準備は良いよ。イッセー君」

『インフィニティー・プリーズ! ヒー・スイ・フー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』

指輪を籠手に埋め込まれている宝玉にかざすと音声が響き、

足もとに銀色の魔法陣が出現し、俺の足もとから徐々に上へと上がっていきながら、

インフィニティーの鎧を生成し、頭を通過したところでまるでダイヤが、

砕け散ったかのように消滅した。

「……なんというか幻想的だね」

「そうだな。じゃ、まずは」

『インフィニティー・ルーク』

指輪を宝玉にかざすとそんな音声が流れた。

魔力も全く変動していないし、どこか俺の身体が変わったかといえば、

全く変わった部分はないように思えるがこれで凄まじい防御を実現している。

「じゃ、頼む」

「了解!」

そう言うと木場は悪魔の翼を羽ばたかせて高く上がると翼をなくし、

何も抵抗せずにそのまま落下しながら俺に近づいてくる。

木場の魔剣の硬度はバランスブレイクを手に入れてから飛躍的に上昇し、

ジークフリートから頂いた伝説級の魔剣を手に入れてからもなお上昇したと聞く。

俺の鎧が傷つくか、あいつの魔剣が砕けるか。

「はぁぁ!」

木場の全力の魔剣が振り下ろされ、俺の鎧に直撃した瞬間に一瞬だけ鎧が光ったかと思えば、

呆気なく木場の魔剣がバキバキに砕け散り、刀身が完璧に消滅してしまった。

驚きの余り使用者の俺も木場も一言も話せないでいた。

「……驚いたよ。まさかこんなにもたやすく砕けるなんて」

「もとからこの鎧の耐久力が高いのか。それともルークに変化したからなのか」

「取り敢えず他のも試そうよ」

『インフィニティー・ビショップ』

宝玉に指輪を翳してから木場の砕けた魔剣に触れると一瞬にして消滅し、

魔力となって俺に……正確には鎧に吸収された。

「ビショップだと相手の魔力攻撃の反射、もしくは魔力に還元しての吸収みたいだね。

魔力で生成されたものを吸収なんてね……もう、

ほとんどの攻撃に態勢があるのと同じじゃないかな」

「悪魔の攻撃に関してはな。聖なる力に関しては魔力には分解できるだろうが、

残りカスの聖なる力をもろに喰らって終わりだ。悪魔に対しては良いんだろうがな」

「サイラオーグさんみたいに体術で来る相手にはルーク、

魔力重視の攻撃を仕掛けてくる相手にはビショップを……もしもイッセー君が、

ポーンのイーヴィルピースじゃなかったらここまでの強さはなかったと思うよ」

木場の言うとおりだ。

俺がポーンという駒であるが故にこの力が生まれたわけであって、

もしも俺がナイトやらルークやらビショップだった場合は一つの方面しか、

特化されない微妙な存在になっていただろう。

なんにでもなれるポーンだからこそ、あらゆる方向で特化された。

……今までは魔法しか使わなかったが魔法とイーヴィルピースを混ぜれば、

俺はさらに強くなることができる。

「となるとインフィニティーのクイーンは」

「すべての特性の同時発動だろうな」

クイーンになればナイトの高速移動、ビショップの魔力操作、

そしてルークの圧倒的なまでの破壊力、それら全てが同時に発動できる。

まあ、使いどころはかなり限られてくるだろうがな。

それに今の俺にはまだ必要のない魔法だがクローンとフュージョンを使用して発動できる、

究極の姿……インフィニティー・オールドラゴン。

ドラゴンスタイルのそれぞれの武装の力と全ての魔法、そしてインフィニティーの力、

そしてポーンの駒の特性を合わせた姿……できればその姿になることがないといいんだがな。

「ところで今日、イッセー君デートなんでしょ?」

「…………よし、木場。ルークに変えるからとりあえず、そこに立て」

「アハハ! ごめんごめん。じゃあ、続き行こうか」

木場のニヤニヤ顔に一瞬、イラッとしたがまあ冗談という範疇の中なので、

俺も本気でやる気はない。

次に俺はドラゴンを飛び出し、アックスカリバーを手の中におさめた。

「剣と斧が一つになった武器か……凄いね。一つの武器で二つの使いようがあるなんて」

「剣で相手を切り裂き、アックスで相手を叩く。相手が固ければアックスで叩けばいいし、

剣を使ってきたならこいつで対応すればいい」

一度、疑問に思っていたことを実行するべく持ち手の部分にある手の形を模した部分に手を翳し、

コピー、フレイムなどの普段アスカロンに上乗せしている魔法を発動してみるが、

全てエラーという形になってしまい、アックスカリバーには何も変化は起きなかった。

「使いやすさでいえばアスカロンの方が良いな」

「確かに。あっちなら普通の状態でも使えるし、イッセー君の魔方だって上乗せできるしね」

つまりこのアックスカリバーはインフィニティー専用の武器であって、

普段からバンバン使える代物ではないものか。ま、そっちの方が俺にとってはいいがな。

それに放出した魔力を吸収する無限回路も実現しているし、ビショップで魔力を吸収すれば、

使用分を超える魔力も準備できる。

「で、お前の方はどうなんだ」

「ん~まあ、今のところは順調かな。騎士団に持たせて運搬する方法が最善なんだけど、

戦いの最前線でそんなことを言ってられない事態に直面することだってあり得るから」

伝説級の魔剣を手に入れたのはいいものの、使えば自身の肉体に凄まじい付加がかかり、

最悪の場合、寿命をゴッソリ持っていかれるかもしれないからな。

「そろそろ上がろうか。仕事の時間だ」

「そうだな」

インフィニティーの鎧を解き、旧校舎の部室をゴールに設定したテレポートを使用し、

木場と一緒に旧校舎へと飛ぶと既に俺たち以外の連中が集まっていた。

リアスとのデートはこの真夜中の仕事がすんだあと……どうも、

悪魔っていうのは夜というものを好む傾向が強い。

「で、今日の仕事は何だ」

「……アーシアが契約を取ってきた人のお引越しの手伝いよ」

「……何、膨れてんだ」

「別に。行きましょ」

何故か妙に膨れているリアスのことが気になりながらも朱乃が展開した、

転移用魔法陣へと乗り、アーシアの契約者の自宅へとジャンプした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシアが契約を取って来てくれた依頼者の自宅は普通の一軒家だったのだけど、

問題は物置らしく、依頼者曰く『祖父がどこから拾ってきたかも分からない、

骨董品があるらしくそれの整理もお願いしたい』とのこと。

確かに骨董品とはいえど、ごく稀に人間に悪さをする類の存在が憑いていることがある。

「じゃ、片付けましょ」

「そうだな。アーシアとゼノヴィアは倉庫の掃除を頼む」

「了解です」

イッセーの指示でアーシアとゼノヴィアが倉庫の周りや倉庫の壁なんかを、

雑巾がけしたり箒で埃などを掃き始めた。

確かにイッセーの指示は的確で正しいんだけど…………なんでイッセーがするのよ。

私が王なのにこれじゃ、立場が逆転しちゃってるじゃない。

とは思うもののイッセーの指示が間違っているわけではないのに加え、

今、私たちがいるのは依頼者の自宅なわけでここで口論をするわけにはいかない。

倉庫の中へと入っていき、中に入っているあやしい骨董品などを確認していきながら、

外で待っているギャパーとロスヴェイセに骨董品を渡して箱詰めしていってもらう。

それにしても外国のものが多いわね……依頼者の御祖父さんは旅人だったのかしら?

「イッセーさーん。こんなもの見つけちゃいました」

外で掃除をしていたアーシアがイッセーに声をかけるとそのまま、

イッセーは外に出ていってしまった。

……はぁ。いったい何にイライラしてるんだろ。

そう思いながら壺を持ち上げようとした瞬間、後ろからイッセーの声が聞こえると同時に、

突然私の視界が真っ暗になった。




という訳でいったん、本編の更新はストップです。
まあ、そんなに長くはしませんがね。それでは!


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第百五話 オリジナル日常

「……あれ……私」

ふと目を覚ました時、私は何故か公園のベンチに座っていた。

服装を見たけど依頼者の引越しの手伝いをしている時と同じ駆王学園の制服だし、

何も私の身体におかしなことが起きていることはなかった。

普段から使っている滅びの魔力だって普通に出せたし、

転移用の魔法陣も通信用の魔法陣も展開はできた。

でもそこまで。誰かと通信をしたりどこかへと飛ぶことはできなかった。

それに今、私がいる公園だってどこか違和感を抱く……なんというか、

どういっていいか分からないんだけど違和感がある。

大きな絵の中にほんの小さな間違いがあるみたいに……。

この場所にいても何も始まらないので公園から出て道を歩いて行くと、

道路を何台もの車が通り過ぎていく。

そこでようやく先ほど、公園で抱いた感覚の意味が理解できた。

「もしかしてここは……過去の世界なの?」

走っている車も一昔前の車種、公園もところどころ錆びついている古い遊具。

今、私の目の前にいるものすべてが私が本来いた時間の物の過去のものが、

ズラーっと並んでいた。

でも、過去の時間に戻ったからといって本来の時間に戻れないわけじゃない。

私の力が使えているということはこの世界には悪魔も天使も堕天使も存在している。

それから私はひたすら道を歩き続け、ある場所へと向かっていた。

もしかしたらそこへ行けば本来の時間に戻れる手がかりが、

わかるかもしれないと思って。

「っっ!」

そんなことを考えながら歩いていたからか赤信号を渡っていたことに気付き、

道を半分くらいまで渡っていたことに気付き、慌てて戻った瞬間、

車のクラクションが私の耳に鳴り響き、目の前を車が通り過ぎて、

凄まじい粉砕音が周囲に響いた。

慌ててそちらのほうを見てみると電柱に衝突した車が煙をあげて、

停止していた。

乗っている人の安否を確認するために車へ向かおうとした時、

突然視界がぶれたかと思うと全く別の場所に立っていた。

「ここは」

周囲を見渡すと張り紙が大量に張られており、その内容から、

私が今いるところは病院だとわかった。

そして私の横を一人の女性と女性に抱きかかえられた男の子が通り過ぎて行った。

その抱きかかえられている男の子を見た瞬間、なぜかあの人の顔が頭の中に思い浮かんで、

慌てて私もその二人を追いかけていく。

その道中で看護師たちとすれ違ったけどどうやら私の姿が見えていないらしく、

止められないまま二人が入った部屋へと入れた。

『貴方!』

『パパー!』

「う、嘘よ」

私はその光景を見た瞬間、彼から聞いた話が頭の中で何度も再生され始めた。

あの男の子に既視感を覚えた理由は……あの男の子が私が愛しているあの人だったから。

「嘘よ……わ、私がイッセーの」

ここは過去の時間。過去で起きたことは未来に影響が及ぼされる。

つまり、イッセーのお父様を殺したのは……過去に来た私で私が来たせいで、

お父様は交通事故にあわれた。

イッセーを絶望に追いやったのは……私?

『そうだよ。あなたが彼を絶望させたの』

『あなたのせいで彼は自身を閉じ込めた』

聞きたくない声が聞こえ、耳をふさぐけど頭に直接響いているらしく、

声は何度も聞こえてきて徐々に私が座り込んでいる床が真っ黒に染まりだし、

私の体も徐々に真っ黒に染まりだした。

『貴方がいなかったら彼は幸せに生きることができた……死んじゃえ』

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

顔を上げた瞬間、目の前に頭からおびただしい量の血液を流し、

顔の一部が白骨化した男性が現れ、徐々にその手が私へと伸びていく。

その手が私の首を掴もうとした瞬間、突然私の後ろから光輝く腕のようなものが、

伸びてきてその腕を止めた。

そしてもう片方の光輝く腕が私をやさしく抱きしめてくれた。

『闇に惑わされるな、リアス』

「イ……ッセーなの?」

『今の俺にお前を助ける力はない……だが、忘れるな。おまえの心にあるものを』

そう言い残して光輝く両腕は消え去った。

そう……よ。

『邪魔をしおって! もう一度貴様を』

「絶望なんてしない! 私の心に最後の希望がある限り、こんな闇に負けやしない!」

その時、胸ポケットに入れていた紙が光輝きだし、勝手に私の目の前に出てきた。

出てきた紙はイッセーの魔法を一度だけ使用することができる私たちにだけくれた特別な紙。

『フレイム・ドラゴン!』

私はその紙を握りしめ、ありったけの魔力を注ぎ込むと、

どこからともなく音声が鳴り響き、

周囲に赤い魔法陣が出現するとそこから莫大な量の炎が噴き出し、

目の前に一点に集中してきた。

そこに私の滅びの魔力を混ぜ合わせると赤黒い巨大な球体が完成した。

「消えろぉぉぉぉぉぉぉ!」

その巨大な火球を目の前の闇の塊に向けて放った瞬間、

視界が真っ白に染まりあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

目を開けると一番最初に視界に入ってきたものは白い天井で顔を右側に向けると、

安心した表情を浮かべているイッセーが私の手を握っていた。

その顔を見た瞬間、体が勝手に動き、彼に抱きつくと同時に彼にキスをした。

「んっ! んちゅっ!」

私が舌を伸ばした瞬間、彼の口から彼の舌が伸びてきて私の舌をとらえると、

何度も舌を絡ませ、互いの唾液を混ぜ合わせながら初めてのディープキスをした。

どちらかのものとも分からない唾液が私の口と彼の口の接合部分から、

漏れ出し、ベッドの白いシーツに滴り落ちて汚していくけどそんなこと気にも留めず、

何度も舌を絡ませ、イッセーの舌に口内を舐めまわされていく。

「んぷはっ!」

唇が離れたと思えば彼に押し倒された。

「……お前が意識を失って倒れたのは妖怪の一種で最悪な未来を、

対象者に見せ、精神をつぶす一種だった」

「……ごめんなさい」

「良い……お前が何に悩んでいたのか気付けなかった、

俺の責任もある……お前が倒れた時、本気で俺はヤバいと思った。

母さんだけじゃなく、お前まで目の前から消えるのかって」

そう言いながらイッセーは目に涙を浮かべながら私の横に倒れ込んで、

私を横向きに抱きしめた。

「……私ね、嫉妬してた。みんなが頼りにする貴方に……このチームのリーダーは、

私なのにって。それは間違ってた……私が皆に頼られる存在になればいいんだって」

「なれるさ……いや、もうなっているさ」

『コネクト・プリーズ』

そう言い、イッセーはコネクトの魔法を発動して魔法陣を展開すると、

そこに手を突っ込んでドアノブに手を懸け、横にスライドさせると、

扉の奥からみんなが流れ込んできた。

「お前を頼り、信頼していなければここにはいないだろ。

アーシアの依頼を手伝おうと言ったのは俺じゃない……お前の指示だ」

「みんな……これからもよろしくね」

そう言うとみんなして笑みを浮かべて私のベッドに集まってきた。

そう……これなんだ……これが私の最後の希望。




お久しぶりです。大学が忙しかったもんで……。
なんとなくなんですけど初めてですけどISの再構成でも、
やろうかななんて……やめとこ。


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第百六話

『クゥゥン』

「同情は要らない。ハティ、スコル」

俺―――兵藤一誠に起きている状況はスコルとハティにさえ同情されるような状況であった。

俺が寝ているベッドはいつの間にか、女子どもに制圧されており、

ゼノヴィアの寝造の悪さからくる蹴りによって床に落ちた状態で目を覚ました。

俺はスコルをまくら代わりにして横になって考えた。

俺の生死が起きたことにより、あいつらの心は一時は絶望と言ってもおかしくない状態にまで堕ちた。

それを経験してか皆、アーシア以上に無意識のうちに触れ合いを欲するようになった。

朝起きたら床をベッドにしていたなんてことはこれまでに十回以上、

俺を膝枕させようとして戦争状態に陥ること何回あったやら……だが、

俺に腕を組んでくることはなくなった。

どうやら、あいつらの中でもやってはいけない一線はちゃんと設けているらしい。

『ワフゥ』

ハティはベッドの状況を見て呆れ気味に息をはいた。

狼にまで呆れられる卷属……ある意味、若手の中では俺たちだけかもな。

ちなみにスコルとハティは枕にされるのが大好きらしく、寝ている最中でも、

背中に頭を乗せても怒りもしない。まあ、小猫とギャスパーが枕にすれば布団にしか見えないがな。

その時、階段付近からこちらへと近づいてくる魔力を感じた。

「入っていいぞ、レイヴェル」

魔力がドアの前に来た時にそう言うとレイヴェルが部屋に入ってきた。

「相変わらず凄いですわ、イッセー様」

「精度抜群の魔力検知器だ。お買い得だぞ」

「ふふ、天井知らずの値段になりそうですわ……凄い状況ですわね」

レイヴェルもベッドの状況を見て驚いていた。

「で、どうしたんだ?」

「はい。魔法使いの方々との契約と吸血鬼の方の来客ですわ」

俺がまだ、現場に到着していない時にギャスパーは俺が死んだという言葉をトリガーとして、

今まで見たことがない状態に移行して英雄派の魔法使いであるゲオルクを一瞬で倒したらしい。

そんなことからリアスはギャスパーの実家であるヴラディ家に話を聞くべく、

まずは吸血鬼との話し合いの提案を出すとこれまでの頭が固い対応から考えれば、

驚くくらいに呆気なく提案を承諾された……と聞いた。

そしてその来客が家に来ると。

「レイヴェル。マネージャーとして頼りにしているぞ」

「はい! ウィザードのマネージャーとして精進いたしますわ!」

「んん……レイヴェル。おはよう、イッセー」

「あぁ。身だしなみ整えてから下に来い。朝飯だ」

「ちゃおー♪」

ドアが開いた瞬間に俺はドアを蹴飛ばして無理やり閉めるが今度は部屋の中に魔法陣が展開されて、

そこから鼻を抑えて涙目になっている黒歌とルフェイが現れた。

「固定させたか」

「んにゃ。気づいていたかにゃ?」

「俺が消したはずだがな」

「ぬふふ。ウィザードチンが気付いていないだけで固定先はいっぱいあるにゃ」

あの一件が終了してからちょくちょくこの二人が俺の家に遊びに来る。

魔法陣をここへ固定したらしいんだが……とにかく、黒歌は小猫を鍛えるためにここへ来ている……まあ、

それが口実であり実際は冷蔵庫の中身を食いに来ている泥棒猫だ。

「ウィザード様が契約をなされると聞いて少しでもお手伝いをと思いまして」

まあ、現職の魔法使いの話を聞けるのはありがたい。

「あぁ、頼むぞ。ルフェイ」

「は、はい!」

「ま、取り敢えず下に」

そこまで言いかけたところで突然、クローゼットがバン! と勢い良く開かれた。

「我、降臨。満を持して」

俺が買って、彼女――――オーフィスにプレゼントした服を纏った状態で、

クローゼットの中から勢いよく出てきた。

……何故、そこにいるんだ。というよりも何故、感知できなかった。

「取り敢えず、全員降りて来い。朝飯だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、もうこの二人の頭の中覗き込みたいですね」

副会長のそんな声を聞きながらも、生徒会室で俺と会長がチェスで争っていた。

もともと、登校義務のない俺が学校に来る理由もないんだが暇なのでなんとなく来て、

なんとなく生徒会室に来てみると一年のメンツ達が一足先に生徒会室に集まっていた。

どうやら今日は学年によって終わる時間が違う日らしい。

なので一年のメンツと暇つぶしに将棋とオセロをすると僅か数分で両方同時にケリがついた。

それから一時間ほど経って会長たちがやってきたが一年達が涙目で、

会長に敵をうって下さい! とかいうものだから会長と俺という戦いが実現したわけだった。

「チェックメイトです」

「……流石、会長です」

やはり、俺の頭脳ではまだ会長に止めを刺すことはできないらしい。

ちなみに匙ともスクランブル・フラッグというゲームもしたが圧勝した。

「バーカバーカ! 会長なんかに勝てるわけないだろ! バーカ!」

「水を得た魚だな」

そんな止めの一言を言ってやると涙目の匙の目からホロリと、

一筋の涙が歩をつたって床にピチャッと落ちた。

「元ちゃん。床ふいといてね」

「俺の涙ゴミ!?」

「それ以下ですよ。匙」

「ふぐがいじょうまでえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

中々ノリが良い奴だ……俺達とは違う意味で楽しそうなチームだな。

「ふふ、イッセー君も中々のものでした。ですが、まだまだ年下には負けられません」

流石は十八歳部門での全国一位の頭脳の持ち主。

十七歳の部門での全国一位の頭脳ではまだ、足りないか……だが、いつかは会長の頭脳を打倒する。

「そう言えばイッセー君のところも契約期間ですよね」

「ええ」

「兵藤君なら引く手数多ですね」

副会長の言うとおりに物事が動いてくれればそれはそれで簡単なんだがな。

まあ、恐らく俺に契約を申し出てくる魔法使いは数が限られて……いや、

いない可能性の方が高いかもしれないな。

アザゼル曰く、魔法使いでも何でもない俺がウィザード候補と言われて非常に憤慨しているらしい。

ウィザードの称号は魔法を使役するものであるならば一度は、

あこがれの感情を抱くとされている魔法使いの中では最も誉れ高き称号であり、

最強を意味していると言っても過言ではない。

ただの人間がウィザードの称号を取れば本職の奴らからすればウザイこと極まりないからな。

「会長のところもですよね」

「ええ、私はあまり関与しないようにしています」

なるほど。各々各人の自主性に任せているという訳か。

魔法使いの選別から何から何までも自分でするのか……俺達のところよりも自主性を重んじているな。

たとえそれが成功しても失敗しても人生の経験になる言うことか……まあ、

よほど大きな失敗をするようであるならば会長たちもサポートをすると思うが。

「魔法使いとの契約も評価の一部に入っていますからね」

「そうなんだよな~。ヘンテコな奴と契約したら減点の対象だしな。

おかげで毎日、頭痛と戦いながら選定してるぜ」

「そうか……そろそろ時間か。お邪魔しました、会長。匙。次は五分は持つようにしておけよ」

「ウガー!」

匙は口を大きく開けてまるで獣のように俺に飛びかかろうとするが後ろで、

メガネのふちが二つほどキラーンと光ったことに気付き、

額から冷や汗を流しながら俺に手を振った。

匙。お前に幸あらんことを。

 

 

 

 

 

 

 

その晩、俺達グレモリー卷属は旧校舎にあるオカルト研究部の部室に集合していた。

今日から魔法使いたちとの契約期間に入るにあたり、

俺たちと契約をしたいと言っている魔法使いたちの書類……履歴書が送られてくるらしい。

そんなことを思っていると部室の床に魔法陣が出現し、そこから空中に映像が投影された。

『これはリアスちゃん。お久しぶりだねぇ』

映像に映った男性は赤と青が入り混じった髪をピチッと決め、眼は右が赤で左が青のオッドアイ。

この方が魔法使いの教会のトップに君臨しているメフィスト・フェレス。

エキストラデーモンのフェレス家の出身であり、あの旧魔王と同世代だとか言われている伝説の悪魔。

その本人を扱っている書物は世界にあふれるほどある。

俺もそれ関係の書物は何冊か見たことがあるが……想像以上に優しそうな声だな。

『これまた綺麗になったね~。リアスちゃん』

「お久しぶりでございます。メフィスと・フェレス様。

この方はエキストラデーモンであらせられるメフィスト・フェレス様よ」

『そうですよ~。僕のことを知りたかったら書物読んでね……ふむ』

映像に映っているメフィスト様と目線が合った。

『君がウィザードか……アザゼルの言うとおりだ』

「アザゼルはなんと」

『いやね。素晴らしい魔法を使って皆の最後の希望だと聞いた。

その通りだ。君の周りにいる子たちはみんな、君に心を預けているのが分かるよ』

映像越しでもそれを分かるということはメフィスト様の力なのか。

それとも俺達の雰囲気で分かるのか……まあ、どっちでもいいか。

『君の魔法も映像で見たよ。どうやら君はドラゴンの力を派生させることによって、

生み出しているね。魔法使いの中には君と同じような状況の子も何人かはいるけど、

誰も手は出さなかった。まあ、魔法使いがセイグリッドギアを使えば白い目で見られるからね。

それを君は手を出し、未知の魔法を生み出したみたいだ。魔法を一切知らなかった、

ただの人である君だからこそできたものだね』

魔法使いは人間のため、中にはドラゴンの魂が封印されたセイグリッドギアを、

身に宿している奴らもいるだろうが……例え手を出していたとしても、

俺の魔法とは違っていただろう。

つまり、俺がウィザードと呼ばれる起因になったドラゴンズマジックなるものは、

俺が魔法使いの中で最初にセイグリッドギアに宿っている存在の力に手を出したがゆえか。

『ただ、皆が皆。君と同じような手法で魔法は生み出せないだろうね。

いや、もしかしたら君だけかもしれない。ドラゴンと人。

本来は敵対するはずの存在が手を組んだ結果のことかもしれないね』

「お、メフィストじゃねえか」

メフィスト様が話し終えた直後に部屋にアザゼルが入って来てそのまま昔話を始めてしまった。

あの勢力がどうだとか、神話体系がどうだとか。

だが結局のところ、互いに忙しいなということでその話は終わった。

『さて、君たちのもとに履歴書を送るよ』

そう言い、メフィスト様が画面に指を向けると部室に魔法陣が展開され、

そこから膨大な量の紙の束が吐き出されていく。

俺達は分担してその紙を回収していき、誰当てなのかを見ながら履歴書を積み上げていく。

その中で一番、山がでかいのはリアス。

あの魔王を輩出した名のある家の中でも名のある家の次期当主とつながりを持っておけば、

グレモリーの権力を一部ながら扱うことができるというのがほとんどの奴らの魂胆だろ。

次はロスヴェイセ。

奴は元ヴァルキリーであるためにそっち側の情報が欲しい奴らが多いだろうな。

次点にアーシア。おもにその回復をあてにしているんだろうが……変な男が寄ってくれば、

俺が払ってやるからな。

次は木場、朱乃、ゼノヴィア、小猫、ギャスパー、そして俺だった。

「アザゼル……俺の紙がないんだが」

『いや~ごめんね。協会の子たちにもよく話しておいたんだけどね』

「前にも言ったとおり、お前は魔法使いに嫌われているのさ。

ポッと出てきた奴にウィザードの称号を横取りされたようなもんだからな」

『それと嫉妬なんかも含まれているだろうね。新たな魔法を生み出すのは一世紀……いや、

何世紀にに出るかでないかなんてことも言われていたりするからね。

それがただの人間で、しかも悪魔だったら仕方がないかもしれないね』

同じ人間でも魔法使いの家系じゃない奴にウィザードの称号を取られるだけじゃなくて、

悪魔に取られるかもしれない……だから俺のところには契約したいという奴が来ない訳か。

「でも、お前のことだ。あてはあるんだろ?」

「あることはあるが……少々難しいだろうな…………」

「どうした? そんな別の方向を見て」

「いや……なんでもない」

今、この街にいくつかの感じたことのない魔力が入ってきたな……準備はしておくか。

新しい魔法の実験台になってもらうぞ。

『あ、そうそう。最近、フェニックスの関係者が襲撃されているようだよ』

「ああ、グリゴリの方でもその情報に関しては探らせている。なんせ、

崩壊状態に陥ったカオス・ブリゲードの中で一番派手に動いているからな。

それとフェニックス関係者が襲われることはまだ、関係は分からんが……イッセー」

「まかせろ。レイヴェルは俺が護ろう。そう言う風にライザーからも言われたからな」

そう言い、俺はレイヴェルの頭を軽く撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石ですね! この結界を破るなんて」

「あぁ、これで奴らも終わりだ」

「……気づかれていますね」

「まさか。あり得ませんよ」

「そんな風に高をくくったおかげでインフィニティーに覚醒させたバカを私は消しましたがね……」

「あいつらと一緒にしないでくれよ。バレているはずがねえ」




お久しぶりです。いや、なかなか更新できませんでした。
とりあえずギャスパーの故郷編で終了です……それでは!


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第百七話

履歴書を貰った日から数日後の夜、ついにその時がきた。

純血で高位の吸血鬼が特使として派遣され、オカルト研究部の部室へ、

向かっていると連絡を受け、旧校舎でその特使とやらを待っている間、

俺達はオカルト研究部の部室で普段通りの状態で待っていた。

悪魔側からは俺たちと会長、そして副会長が来て堕天使側からはアザゼルが合流し、

そして教会側からも誰かが来るらしいが……。

その時、扉が開く音が聞こえ、そちらへ視線を向かわせるとベールを深くまで、

かぶったシスターが部屋の前で立っていた。

……あれが教会から送られてきたメンバーか。

と、その姿を見るや否やゼノヴィアは俺の背後に隠れるようにして入り込んだが、

ツカツカと静かに歩いてきたシスターは俺の後ろにいるゼノヴィアの耳を引っ張った。

「ゼノヴィア。上司が来るや否や殿方の後ろに隠れるとはどういうことですか?」

「イダダダダ! だ、だってシスター・グリゼルダはしゃべれば小言ばかりだろうし」

……グリゼルダ……聞いたことがある。

名前をグリゼルダ・クァルタ―――――女エクソシストの中でも五指に入るほどの強さを持ち、

ガブリエル様のハートのクイーンでもある人物。

それほどの地位が高い者をこちらへ送ってきたということは教会側も今回の話し合いを、

重く受け止めているということ……今度こそ来たようだな。

その時、部室に冷たい感じが漂った。

木場が立ち上がって迎えに行き、数分ほど経ってからドアが開いて、純血の吸血鬼が入ってきた。

「ごきげんよう。私はエルメンヒルデ・カルンスタイン。ご招待いただき感謝いたしますわ」

御姫様が着るような衣装に身を包んだ少女の背後には二人の男性がスーツを着て立っていた。

曰く、吸血鬼は十字架や聖水に弱く、流水を嫌い、ニンニクも嫌う。

そして鏡に影が映らず、招待されたことのない場所には入ることができず、

己の棺で眠らないと自己回復が出来ない。

「お話をする前に……ウィザード。

この場での発言権が貴方にもあることをお教えいたしましょう」

「珍しいな。何故、発言権を?」

アザゼルはエルメンヒルデを軽く睨みながらそう聞いた。

吸血鬼は地位のない者の発言には一切耳を貸さない……それが奴らの本質ともいえるもの。

「彼はウィザードです。我々は地位がある者の意見は聞きますもの」

「そうか……単刀直入に聞く。一体、何が起きている」

「吸血鬼には二つの勢力があります。カーミラとツェペシュ。

後者のグループに聖杯であるセフィロト・グラールを宿したハーフの吸血鬼が出てきたのです。

彼らはその力により滅びにくい体……吸血鬼の弱点がないに等しい体を手に入れました。

それならば我々も何かしようとも思いませんわ……ですが彼らは私たちに攻撃を仕掛けてきた。

我々の意見は……眠っていた力が目覚めたギャスパー・ヴラディの力を借りたいのです」

ギャスパーの眠っていた力を使って、

吸血鬼サイドで起きている争いを止めたい……それが奴らの意見か。

ハァ。なんで、俺達の代はこんなにも面倒くさい出来事が次々と起きるのかね。

そんなことを思っているとエルメンヒルデがある一枚の紙を目の前のテーブルに静かに置いた。

遠めだが見えた……要約すればカーミラ側の和平だ。

今まで抗争状態が続いていた吸血鬼との和平を結ぶことができれば

それはかなりの手柄になる……だが、面倒なのはそれを拒否した時だ。

せっかくのチャンスを蔑にしたということでリアスだけではなく、

兄のサーゼクス様の信用さえも傷つく恐れがある。

それを見越しての和平か……ずる賢い連中だ。

「……聖杯を持ったのはヴァレリーですか」

ようやく言葉を吐きだしたギャスパーにエルメンヒルデは首を縦に小さく振った。

「……ぼ、僕……僕、行きます! 行って吸血鬼の争いを止めてみせます!」

「……この子を派遣する前に主たる私がヴラディ家とテーブルを囲むわ。

現状をこの目で見ておきたいからね。構わないわよね?」

「構いません。ヴラディ家の橋渡しは私共がいたしましょう。

今回は招待していただき感謝いたしますわ。

この地に従者を置いておきますので用があればそちらに。それでは」

そう言い、エルメンヒルデはこの旧校舎を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後の深夜、兵藤家の地下に常時展開されている巨大な転移魔法陣にリアス、

木場、アザゼルの三人が乗っていた。

ここからルーマニアまで転移魔法陣で転移し、そこから小型ジェット機をチャーター、

さらにそこから車で山道を登っていくらしい。

よほどへんぴなところに奴らの王国はあると聞く。

残った俺達は一時的に俺が主としてグレモリーチームを統括することが決まっており、

会長もサポートしてくれる。

「イッセー、行ってくるわ」

「ああ。お前がいない間のこの街は任せておけ」

「ええ……じゃ」

朱乃が巨大転移魔法陣を発動させ、地下室をまばゆい光が一瞬だけ支配したあと、

三人は転移されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数時間後、朝日が昇り学生たちが教室で勉強をしている時間帯、

俺は駆王学園の屋上にてその時を待っていた。

既にあのことは会長を含めた関係者全員に流しており、

それに対する準備も全て万全。だが、一つ気になることがある。

この街を覆っている結界は相当なものだ……気づく気付かれない以前に、

結界を壊すことができるのはそんなに数はいない……壊すだけでなく俺以外のやつらに、

気づかせないレベルで破ることができるのは相当の実力の奴だ……。

だが俺が知る中ではそいつらは今は死んだか所在不明の状態だ。

曹操の可能性もあったがあれ以来、ヴァーリ達も遭遇していないという報告から何かあったか、

それとも本当にどこかに飛ばされたのか。

フェニックスという選択肢も考えたが太陽の中から出れば俺が反応する……それにあの時、

一瞬だけ感じた魔力はあの人に似ていた。

「来たな」

俺の視界にはグラウンドに入ってきたローブを着こんだ魔法使いが三人。

どうやら俺という存在をかなり甘く見ていたらしい……お仕置きだ。

「さあ、発動だ」

俺がパチンと指を鳴らすと校舎全体を覆うほどの魔法陣が一瞬だけ展開され、

俺とグラウンドに入り込んできた三人の魔法使いがいた場所はまったく関係のない荒れ地になった。

三人は相当、焦っているのか突然変わった景色に驚きながら周囲を見渡していた。

新たな魔法は相手に幻影を見せるイリュージョン。駆王学園の幻影を作り出し、

相手が入ってきたと同時にテレポートを発動させ、戦闘ができる人気がない場所へと転移させた。

今頃、本物の学園は不審者が入ったということで、

不審者に扮した木場が大勢の生徒の前で拘束されているだろう。

それで一般生徒は帰宅させられているはずだ……俺の財布から諭吉さんが何枚か、

飛んだのはいたしかたのない代償だろう。

「てめえ何しやがった!」

「敵に魔法の内容をぺらぺら話す気はないんでね……とりあえずお前たちは俺が潰す」

『フレイム・プリーズ。ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー!』

「さあ、ショータイムだ」

一人の魔法使いが後ろに下がり、それをカバーする形で二人が前に上がって、

二人同時に火球を放ってくるがそれらは俺に当たる前に籠手に吸収され、消滅した。

……どうやら魔法使いの中でも下位のレベルらしい。魔力が上がった感じがしない。

「出来たぞ!」

そんな声が聞こえ、後ろに下がった奴が大きめの魔法陣を展開すると、

そこから真っ白な体毛を生やし、鋭い二つの牙を出しているライオンのような獣が出てきた。

「なるほど。俗に言う召喚魔法か……俺もそう言う類の存在は体の中にいるんだ。遊んでやってくれ」

『ドラゴラーイズ・プリーズ!』

頭上に赤色の魔法陣を出現させるとそこから膨大な量の炎が放出され、

その放出された炎が形を変えていき、一匹のドラゴンが姿を現した。

『あれが相手か』

「あぁ。気楽に行け」

『ふん』

面白くなさそうに息をはいたドラゴン……いや、ドライグは翼を羽ばたかせて近づき、

ライオンの頭を咥えてそのまま上空へと上がった。

「よそ見か」

「ごあぁ!」

あり得ないと言いたげな顔をしている奴に近づき、そのまま腹に炎を纏わせた拳を突き刺し、

殴り飛ばすと距離を取ろうとした二人の魔法使いをバインドで拘束し、

コピーで分裂した後に同様に殴り飛ばして意識を刈り取った。

俺の戦いが終了すると同時に上空から地面に何かが落ちてきた。

それは首のないライオンだった。

「エグイことをする……お疲れさん」

疲れてもないわと言いたげな表情のまま、ドライグは炎に戻って俺の中に帰っていった。

「……ん?」

帰ろうとしたとき、拘束された状態で倒れている魔法使いの耳元に、

連絡用の魔法陣が展開されていた。

『繰り返すぞ。目的は達成された』

目的……レイヴェル達か!

「あ~。もしもし」

『だ、誰だてめえ!』

「一つ言っておく……俺の後輩に手を出したお前たちに作戦成功という四文字は出てこないと思え」

俺は魔法陣を握りつぶし、大至急会長のもとへと転移した。




すみません。更新順番間違えました。


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第百八話

生徒会室へ転移すると既にメンバーが難しい顔をして集合していた。

「すまない、イッセー。急に凄い圧力が渡したちにかかったんだ」

……俺が侵入を察知した奴か。ゼノヴィア達を完全に抑え込める者、

そしてこの学園に来た瞬間に俺はある人と似ている魔力を一瞬だけ感じた。

だが似ているだけで本質は全く違う……まさかな。

「攫われたのは一年生です。そして先ほど、連絡がありました。我々だけで地下に来いと」

地下……悪魔だけが入ることができる列車のホームの周辺か。

「会長。どうしますか」

「イッセー君。彼らのバックにいる存在のことも考えて私と貴方。

この二つの司令塔をたてましょう」

なるほど……バックにいる存在のために俺の魔力を温存し、

ゼノヴィア達の力をうまい具合に混ぜて途中の奴らを潰していく計画か。面白い。

「すげえ! 学校が誇る天才二人が指令だぞ!」

「匙。準備運動をしておきましょう。二人の指令に従うために」

「じゃあ、行きましょうか」

「おれたち若手悪魔に戦いを挑んだ奴らに拳骨だ」

俺達は奴らが指定した場所へと俺の魔法で駅前に転移し、

駅のエレベーターで地下へと向かう。

テレポートで直接地下へ転移できればよかったんだがそれをしてしまうと、

敵の魔力を探知してそこへ飛ぶことになってしまい、敵の中心にいきなり、

転移してしまう可能性があるため、駅前に転移となった。

「……ところでなぜ、ここにグリムリッパーがいるんだ」

≪へっへ。あっしはナイトですぜ≫

「彼女は死神と人間のハーフです」

ここへ来る前からとエレベーターへいる間、ずっと気になっていた。

……死神って確か骸骨じゃなかったか? 

いったいどうすればこのミラクルなハーフっ子が出来上がるんだ。

だが、この様子だと完全にハーデスとはつながりを切ったらしいな。

骸骨の面を被った状態で高速移動されたら俺でもビビると思うが。

「こちらは新たなルークのル・ガールさん。この二人には外でのバックアップ。

私達で敵の中心部分を叩きます」

エレベーターが開き、紹介された二人はバックアップの為に外へと上がっていき、

俺達は中に入っていく。

少し歩くと大きな扉があったのでそれを開くと大きく開いた空間に入り、

目の前にかなりの数の魔法使いがズラーっと並んでおり、

その後ろには百体は超えるであろう獣の姿も見えた。

「よう、悪魔ども。てめえらの後輩には手は出してねえよ……兵藤一誠!

俺達はてめえをウィザードなんて認めねえ!」

どの魔法使いかが上げた叫び声に同調するように魔法使い達が手に魔法陣を展開すると、

そこから様々な属性の魔法が無数の雨のように俺達のもとに降り注いでくる。

『サモン・プリーズ』

俺が二つの魔法陣を展開した瞬間、そこから綺麗な銀の毛並みをした二匹の巨大な狼が出現し、

咆哮だけで全ての魔法を掻き消しただけではなく、何人かの魔法使いを壁に衝突させた。

「俺の可愛いペットだ。ゼノヴィア、スコルとともに前線で暴れろ。

ハティは会長の卷属と一緒にだ。さあ、ショータイムだ」

前衛のスコル、ゼノヴィア、巡、匙が魔法使いどもへと突進していく。

スコルは神速にも近い速度で移動しながら奴らが召喚した獣どもをその鋭い爪と牙で倒していく。

ゼノヴィアは全てのエクスカリバーの欠片がデュランダルと一つとなった、

エクス・デュランダルの破壊の力で魔法ごと魔法使いをなぎ倒していき、

巡は光と闇が混ざった刀で切り倒していく。

アザゼルが渡した人工セイグリッドギアか……なんでも精霊と契約することで、

セイグリッドギアに近い能力を発動すると聞く。

だが、この数は面倒だな……よし。

「匙。シャドウプリズンで囲め。その後、

ミラー・アリスで隙間なく囲まれた範囲を覆い尽くせ」

『『了解!』』

匙と真羅が同時に力を発動させ、大勢の魔法使いを囲んだ直後に鏡が隙間なく立てられていく。

直後、鏡が一斉に砕け散ると同時に衝撃が、

黒いボックスの中にいる魔法使いたちに反射されていく。

「囲まれれば破壊したくなるもんだ」

「真羅。鏡を適当に配置してください。朱乃、

それを破壊しながら上空に展開する鏡を破壊してください」

会長がイヤホンマイクで指示を飛ばした直後、魔法使いたちの周囲に鏡が展開され、

さらにその上空にひときわ大きな鏡が展開されると、

朱乃がドラゴンの形をした雷を魔法陣から放ち、鏡を破壊しながら衝撃を強めていき、

上空の鏡を破壊した直後に降りてきたドラゴンが拡散し、広範囲に電撃を放出した。

「ふふ。ドラゴンの形にするのは完成ですわね」

周囲を見渡せば既に獣たちはスコルとハティによって全て倒されており、

残った魔法使いたちも匙の黒炎で力を完全に奪われつつある。

「な、なんかグレモリーの人たちって加減がないよね。いい意味でも悪い意味でも」

「うん」

会長の卷属が若干、恐れを抱きながらも暴れているゼノヴィアを見てそう言った。

「終わったか」

そんな話をしていると最後の一人の魔法使いが黒炎によって力が奪われ、

地面に倒れ伏した。

俺は気絶した全員を一か所に集め、バインドで何重にも拘束し、

意識を集中させて周囲の魔力を探るとレイヴェルの魔力を感知し、そこへ転移した。

「イッセー様!」

レイヴェルと小猫は無事か……ギャスパー。お前は無理をし過ぎだ。

顔をパンパンにはらしたギャスパーが小猫に抱きかかえられた状態で運ばれてきた。

「吸血鬼の子は我々の過失です」

第三者の声が聞こえ、そちらのほうを見ると顔を隠すまで、

ローブを深く被った人物が前方にいた。

直後に俺は確信した。奴の魔力を感じ、俺が知る中で奴の正体はたった一つ。

「お前はなんだ」

「カオス・ブリゲードですよ。目的はある存在をウィザードとぶつけること。

それとフェニックス家の情報が欲しかったのですよ。魔法使いは所詮、

この状況を作り出すための使い捨ての駒にしかすぎません」

そう言い、男性が指を鳴らすと壁が下に降りていきズラーっと一列に並んだ

培養のカプセルがいくつも現れた。

……そうか。

「フェニックスの涙ですか」

「流石は次期シトリー当主。これらはフェニックスのクローン。

本来なら裏切りのフェニックスで情報を得るはずでしたが、

その前に彼が出ていったあげく貴方に太陽へと封印されてしまいましたからね。

いくらあくまでも太陽には手を出せません」

「ひどい……ひどすぎるよ」

レイヴェルは目の前の惨状に涙を流しながら目を反らした。

フェニックスの涙を裏ルートで手に入れることができなくなった奴らは純血のフェニックスから、

情報を手に入れるためにフェニックスを襲撃していたのか。

フェニックスの涙は特殊な儀礼を済ませた杯と魔法陣を用意し、

盃にたまっている水に心を無にした状態で涙を一滴、垂らすことでフェニックスの涙に変化する。

「その為にレイヴェル・フェニックスを」

そこまで言いかけたところでローブの男の傍の地面に亀裂が走った。

『ハリケーン・ドラゴン。ビュー・ビュー・ビュービュービュー!』

俺を中心として竜巻が発生し、風を……俺の怒りを乗せた風をまき散らし、

地面に、壁に小さな亀裂を次々に走らせていく。

人型のドラゴンとなったことにより、以前よりもさらにドラゴンズマジックの威力は上がった。

「それがドラゴンズ・マジック……ぜひ、あなたと戦わせたい存在がいるのです」

その直後、ローブを着こんだ男性と俺達の間に緑よりも、

さらに深い緑色をした大きな魔法陣が展開された。

ドラゴンゲートか……深緑……な、なぜあの存在を手にしている。

奴は大昔に既に封印に近い形で滅んだはずだ。

魔法陣がはじけ、そこから二本の足で立つ巨大な存在。

大きな両翼を広げ、浅黒い鱗を持つドラゴン。

『いつ以来だ! ドラゴンゲートを通るのはよ!さあ、戦おうぜ! 殺し合おうぜ!』

「クライムフォースドラゴン……グレンデル」

そこにいたのはとっくの昔に滅んだはずの邪龍だった。




この作品のイッセーは才能豊富な主人公でしたが……今度は逆でも書くか?
才能が皆無……ではないけどセイグリッドギア……つまり、
ブーステッドギアの覚醒が原作に比べて大幅に遅れたりとか……まあ、書くかは分かんないけど。


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第百九話

『邪龍はねじが二本も三本も外れたイカれた野郎どもだ。

特にグレンデルは闘いの中で負う傷すらも楽しみとしている』

頭の中にドライグの声が聞こえてくるが今まさにそのイカレタ野郎の激しい攻撃を避けている最中で、

しっかり集中してその話を聞くことなどできない状況にあった。

……ねじが外れているせいか速度も、威力もケタ違いだ。

そのうえ本来のドラゴンのように四足ではなく、人型の体になっているためなのか、

意外と俺の攻撃に反応してよけてくる。

あれが本来のドラゴンの姿ならもう少し楽に戦えたのかもな。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

『おらぁぁ!』

魔法陣から放たれた普段よりも一段階大きな雷のドラゴンと、

グレンデルが吐きだした火球がぶつかり合い、フィールド全体に爆風が広がった。

ドラゴンスレイヤーのアスカロンで何度か斬ってみたが薄らと鱗が斬れるだけだった。

ドラゴンスレイヤーの効果自体は受けてはいるようだが……これほどまで、

硬度を誇る鱗の情報は聞いていないが。

『良いね良いね! てめえの攻撃を受けるたびに生きてるって感覚がジワジワと響いてくるぜ!』

「ちっ!」

振り上げた巨大な拳を見て、その場から飛び去ると先ほどまでいた場所に、

巨大な拳がぶつけられ、放射状にヒビが地面に入り、フィールド全体を大きく揺らす。

あの一撃を受ければ今の俺でも重傷を負うのは明らかだ。

『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』

『ドリル・プリーズ』

『ぬおおぉぉぉぉぉ!』

奴の背後へと回りキックストライクを発動させ、暴風を全身に纏わせた状態で、

ドリルのように回転しながらグレンデルの背後から蹴りを入れるが体を貫通できず、

ただ単に相手の姿勢を少しだけ前のめりにするだけだった。

この硬さは異常と言っていいほどじゃないのか?

いったん、翼を羽ばたかせて奴から距離をとるために皆がいる場所へと降り立ち、

様子を窺うが相も変わらず奴はただただ戦いの中で感じる痛みに顔を緩ませていた。

『ゲヘヘハハハハハ! 良いね良いね! もっと来いよ!』

「相変わらず気味の悪い奴だ……匙。ドデカイ黒炎の球体作れ」

「お、おう!」

匙は全身から黒炎を放ち、それを上空に集めていき今にも高い天井に、

届きそうなくらいのサイズの球体があっという間につくられた。

「それで良い。だぁぁ!」

『うぉ!? ヴリトラの炎か!』

俺はそれを跳躍して回し蹴りで黒炎の球体を蹴り飛ばし、グレンデルへぶつけようとするが、

奴の口からも巨大な火球が放たれ、二つがぶつかり合う。

だが、徐々にヴリトラの炎が奴の炎を侵食し始めた。

『チョーイイネ! サンダー! サイコー!』

さらに球体にドラゴンの雷撃をぶつけると黒い炎とドラゴンが合体して、

黒いドラゴンとなり、火球を蹴散らすとそのままグレンデルに向かって進んでいく。

『こんなもん!』

グレンデルがドラゴンに拳を叩きこもうとした瞬間、ドラゴンが小さく膨大な量の炎に分裂し、

奴に次々と引っ付いていき、

小さな炎の一つ一つが炎を噴き出して姿が見えなくなるほどにまで包み込んだ。

ヴリトラの炎が魔力の細かい部分にまで侵食する性質を持っていたから、

出来た芸当だな……流石に一人ではあれはできない。

「やったか?」

「まだだ。ネジが二本も三本も外れている邪龍がこの程度で死ぬはずがない。

せいぜい、ヴリトラの炎で力を奪うだけだ」

『ガハハハハハハ! ヴリトラの炎か! この程度だったか!?』

両翼を大きく羽ばたかせて暴風を生み出し、黒い炎を無理やりかき消し、

グレンデルが姿を再びあらわした。

……邪龍って言うのはグレンデルみたいにネジが全て外れているドラゴンなのか。

『聞いた話じゃ二天龍もヴリトラも魂を封印されたんだってな!?

ガハハハハハ! まったく弱ぇ奴らだ! 死ね!』

グレンデルは腹を通常の何倍にも膨らませ、

口からすさまじい大きさの火球を俺たちに向けて放ってきた。

……まだ、死ねるかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガハハハハハッハハハ! 何がウィザードだ! 

そんなもん俺の火球と呪いでぶち殺してやんよ!』

「……勝手に殺すな」

『インフィニティー!』

『あ?』

『プリーズ! ヒー・スイ・フー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』

地面で燃え盛っている炎がかき消され、俺の視界に驚いた様子のグレンデルと一切、

オーラを揺らさない男がいた。

あくまで奴は今回の戦いに関しては傍観者という訳か……ならば、気にせずに戦える。

『インフィニティー・ナイト』

『インフィニティー・ルーク』

「うおらぁぁぁぁぁ!」

『うおぉ!? うおぉぉぉぉぉ!』

宝玉に指輪を翳し、インフィニティー・ナイトの速度でグレンデルの足もとへと移動し、

さらに続けざまに駒をルークへと変化させ、グレンデルの太い足を両手でつかんで、

なんとか持ち上げると、そのまま地面に叩きつけた。

インフィニティー・ルークでも持ち上げるのに苦労するくらいの巨体か。

「来い! ドラゴン」

そう言うと、俺の中から銀色の輝くドラゴンの幻影が出現し、

その幻影がアックスカリバーへと変化し、俺の手元に収まった。

『目立つ色してんなぁ!』

『インフィニティー・ナイト』

振り下ろされてきたグレンデルの拳をインフィニティー・ナイトの速度で背後に回りこみ、

カリバーモードで背中を切り裂くが少量の青い血が噴き出すだけだった。

そのまま周囲を何度も回り、何度も切り裂くがやはり決定的な一撃を加えることができず、

小さな傷を全身に与えるだけだった。

……いったい、何がこいつに付加されているんだ。

ドラゴンスレイヤーのアスカロンで斬れない、アックスカリバーでも斬れないほどの硬さ……。

『グハハハハ! イテェ! 超イテェ! でもこれが生きているっていう証だ!

ゲハハハハハハハハハ! 消えろぉぉぉぉぉぉぉ!』

全身から青い血を流しながらグレンデルは不気味な笑みを浮かべ、

腹を今までで一番の大きさにまで膨らませ、口から本日最大の大きさの火球を吐きだした!

悪いがこれでフィナーレだ!

『ターン・オン』

『ハイタッチ・シャイニングストライク! キラキラ!』

「どらぁ!」

『何!?』

「あぁぁぁぁぁ! えぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『ぐおあぁぁぁぁぁ!』

向かってくる火球を巨大化したアックスカリバーのアックスモードで切り裂き、

空高く跳躍して、地上に落ちる勢いも付加させた斧の一撃をグレンデルに叩きつけた!

だが、それを叩きつけてもグレンデルの身体は真っ二つにはならず、

ちょうど体の真ん中に深い傷をつけ、大量の青い血を吐きだし、

膝を地面に付かせながらも不気味な笑みを絶えず、浮かべている。

……こいつ、いったいどんな体をしているんだ。

『グフッ! ハハハハハハハ! 良いね良いね!』

「そこまでです。グレンデル」

さらなる追撃をしようとしたグレンデルの前にローブを着た男性が現れ、攻撃をやめさせた。

『おいおいおい! これから本番だろうがよ!』

「もう一度、あの一撃を受ければあなたは再び骸に戻る可能性がありますよ。

それに白龍皇のほうでも苦戦しているようです。貴方にとっては骸になるよりも、

白龍皇と闘える方がよろしいのでは?」

『……チッ! それ言われちゃお終いだわな。確かにそっちは重要だ』

そう言い、グレンデルはローブの男が開いたドラゴンゲートを通ってどこかへと消え去った。

「流石はウィザード。おかげで素晴らしい結果が出ました」

「その前に。貴方はいったい何者なのですか」

会長が一歩前に出てローブの男に問う。

「ウィザードはすでに勘付いていますよ」

「イッセー君。あの人はいったい」

「…………奴と直接対面して確信した。

奴の魔力は……グレイフィアさんとかなり酷似している」

その言葉に会長、副会長、朱乃は顔を酷く強張らせ、

ローブを着ている男性の方に慌てて向きなおした。

「やつは……ユークリッド・ルキフグス。

戦争時に消息不明になったグレイフィアさんの実弟だ。そうだろ?」

そう言うと男性は顔を隠していたローブを取った。

そこにある顔はグレイフィアさんの面影を感じさせる顔だった。

「正解です。私はユークリッド・ルキフグス。グレモリーの従僕になり下がった姉に伝えてください。

貴方がルキフグスの使命を捨てるなら私も自由に生きると」

そう言い、ルキフグスは転移魔法陣を床に展開させ、

それが放つ輝きに徐々に体を包み込まれ始めていた。

それと時を同じくして俺達がいる空間の至る所にひびが入り、地面が大きく揺れ、

役目を果たしたかのように今いる空間が崩壊し始めた。

「朱乃! すぐにジャンプだ!」

「もう飛べますわ!」

すぐさま朱乃が魔法陣を展開させ、ジャンプの準備を進める中レイヴェルと会長がカプセルに、

小さな魔法陣を付着させているのが見えた。

……次元の狭間に消えても己の魔力で分かるようにマーキングをつけているのか。

会長とレイヴェルが魔法陣に乗ったところで陣の輝きが最大にまで膨らみ、

視界が潰された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五分後、俺達は冥界に向かう列車のホーム上でグッタリとしながら休憩をしていた。

会長と朱乃は上にいる関係者のスタッフに先ほどまでの出来事を伝えに行き、

アーシアがメンバーの治療を行っていた。

俺はそこまで傷は負っていないので缶コーヒーを飲みながらベンチに座っていると、

近くにレイヴェルがやってきた。

「……気になるのか」

「はい……私、許せません。フェニックスの涙を作るためだけに、

クローンを作るだなんて……ですから、私は可能な限りの情報を集めて彼らに一矢報いますわ!」

そう言い、レイヴェルはポケットから魔術文字が書かれた一枚のメモ用紙を取り出した。

「先ほど、カプセルに書かれていた文字ですわ。この私を捕らえたことを、

後悔するくらいにギタンギタンにたたきのめしますわ!」

「……それも良いが俺のマネージャーも頼むぞ。レイヴェル」

「はい! もちろんですわ」

そう言い、レイヴェルは満面の笑みを浮かべた。

……ルキフグス。お前は二つほど失敗を犯した。

一つは俺に挑んできたこと……そしてもう一つは……不死の如く、

強さを増していくレイヴェル・フェニックスに喧嘩を売ったことだ。




先週は更新の順番を間違えてすみませんでした。
書きだめしているとたまにああ言うことが起こりまして……それでは!


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第百十話

邪龍――――クライムフォースドラゴン・グレンデルとルキフグスとの戦いから数日が経ったある日。

俺はオーフィスと何故か対面して座ってじーっと互いを見会っていた。

最初は俺も目を離したんだが目を離せばオーフィスの顔が視界に入ってくるし、

無理やり正面に顔を向けさせられてしまう。

なのでそのままじっと見ていること早三十分。何も起こりやしなかった。

「……イッセー、変わった」

やっと話し出したかと思えばそれか。

「何がどんなふうにだ」

「以前のイッセー、無の魔力。今のイッセー、無茶苦茶の魔力。でも、以前よりも安定している」

……以前は魔力からは何も感じられなかったが今の俺の魔力はいろいろなものが、

入り混じってなおかつ、以前とは違ってかなり安定していると……。

無茶苦茶の中にはもちろんリアスやオカルト研究部の奴らも、

含まれているんだろうが……ドライグと別の俺のも混じっているんだろうな。

「それはお前にとってマイナスなのかプラスなのか、どっちだ」

「わからない。でも変わった」

これ以上話しても意味がないな。

そう思った俺はベッドの側面に背中を預けると静かにオーフィスが俺の膝の上に乗ってきた。

最近、オーフィスは俺達の後ろに引っ付いて俺達がやることなすことをマネしようとしている。

アザゼル曰く、この世界に長くいすぎたせいで本来のオーフィスだったものが変質を起こし、

徐々に変わってきているのだという。

変質する前のオーフィスにも会いたかったが……今以上に変人なんだろうな。

そう思った時、何やら下でアーシアやレイヴェル達の魔力が波打つように揺らいだのを感じた。

何かあったのかと思い、オーフィスを膝から退かそうとしたときに俺の部屋の隅に、

転移用の魔法陣が展開され、そこから天界サイドの人員と会長、副会長が同時に飛んできた。

「何かあったんですか?」

「ええ。大事件のようです」

会長の一言の後にアーシアがおお慌てて部屋に入ってきた。

どうやら本当にやばい事件が起きたことは間違いないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

VIPルームに集められた俺達はそこでアザゼルと通信していた。

『今話した通りだ。ツェペシュ、カーミラの両領地の境界線上が一時混乱状態に陥った。

恐らくツェペシュ側でクーデターが起きたんだろうな……その影響か、

木場とリアスと連絡がつかなくなった』

「……そ、そんな」

『今回の一件でツェペシュ側のリーダーが交代したそうだ』

そのアザゼルの一言にVIPルームにいる俺以外の奴らの顔に驚きの色が一瞬だけでた。

確かツェペシュ側のリーダーは吸血鬼の国の王だったはず……その王を、

クーデターを起こすことで無理やり退陣させ、別の王を就かせたのか。

『今回のような事件が起きたのには奴らの性格も原因だな』

「他の生物からの助けなどなくても崇高な自分たちならばできるといった感じか」

『あぁ、大体あってる。こんな非常事態だ。お前たちにもこっちに来てほしい。

ただ、グリゼルダ、ジョーカー、スラッシュドッグの鳶尾とシトリー卷属は町に残ってもらう。

戦力を集中させて一気に片付けるのも良いんだが以前のような襲撃がないとも考えにくい』

「了解した。俺の魔法で行くが」

『ま、行けるだろ。じゃ』

その言葉を最後にアザゼルとつないでいた通信用の魔法陣が消滅して、通信が終了した。

「イッセー君」

後ろから呼ばれ、振り返ってみると会長を挟むようにベンニーア、ルガールが後ろに立っており、

会長は二人の背中を押して俺の近くに寄せた。

「この二人を連れて行ってほしいのです。まだ悪魔になりたてですが貴方達の助けになります」

片方は死神、そしてもう片方はよく分からない存在……いつかはゲームで戦うことになる存在だ。

ここで情報を手にするのも……おそらくこの瞬間しかないだろうな。

「いいですよ。人数は多い方が良い」

とりあえず各々の戦闘の準備が完了するまでの間、短い自由時間となった。

といっても俺に持っていく道具などないので俺は集合場所に決めた場所でジッと待っていた。

『クゥ』

「お前達はここで家を護るんだ」

二匹の頭を撫でながらそう言うと二匹は俺の横にぴったりとくっついて横になった。

こいつらには意思がある。既にこいつらを制限していた俺の魔法は解いてある……というよりかは、

自然に解けたと言った方が良いか。曹操との戦いの際に進化を遂げたという二匹……もう、

俺が縛る必要はなくなった。

こいつらの意思で善悪を判断し、己の憩いの場を、己を護ってくれる者の協力を、

そして己が最も護りたいと思うものをこいつらの意思で戦って護る。

「イッセーさん。皆さんの準備が整いました」

「そうか……レイヴェル。お前は客だ……本当にヤバいと感じた時は、

仲間を捨ててでも冥界に逃げろ。良いな」

「はい……ですがそう感じるまでの間は私の自由ですわ」

……この前の一件以来、こいつも変わった。

「そうだな……じゃ、行ってくる」

「はい!」

レイヴェルの笑顔を見ながら俺は皆が集まっている場所へと向かい、

そこでテレポートを発動させ、アザゼルのもとへと転移が始まり、

魔法陣から目を覆うほどのまばゆい、光が放たれていき、

数秒経つとその輝きが消えていくのを感じて目を開けると広い空間に俺達はいた。

「よう、来たか」

アザゼルの声が聞こえ、そちらのほうを向くとアザゼルが、

そしてその隣にはエルメンヒルダがやや不機嫌そうな顔をしながら立っていた。

「早速で悪いが車で移動するぞ。詳しいことはその車内で話す」

そう言われ、エルメンヒルダの案内のもと、この広い空間から階段を使って上へと登っていくが、

少ししたところで俺達が吐く息が白くなりはじめた。

それはほんの小さなことだったがそれはやがて、体温という面でも顔を現わし、

外へと出た瞬間にあまりの寒さに体を震わしてしまった。

外に出て視界に入ったのは一面に広がる雪によって、美しくコーティングされた街並みだった。

閉鎖的な国とは思えないほどに近代的な建物が建っており、視線を少し上に持っていくと、

小高い丘の上に一城の城が立っていた。

なるほど。江戸時代の日本にもあった城下町か。

城というものは最も高い位置に立てることによってその城の主の権力の高さを示すという説や、

最も高い位置から自らの下に住んでいる民のことを見護るため、

という説もあるがこの国に当てはまるのは前者の説だろう。

「あれが吸血鬼の本拠地か……教会時代には全く尻尾がつかめなかった」

教会の力すら及ばぬほどの鎖国か……凄いな。

俺達はエルメンヒルダが準備したという車に乗り込み、

アザゼルからこの国で起こったあらましを要約して聞かされた。

クーデターが起こったことによりツェペシュのトップがギャスパーの恩人である、

ハーフヴァンパイアのヴァレリーという少女に変わったことなど。

その話を聞きながら俺達は両方の領土を繋げるという唯一の移動手段を使って、

ツェペシュ側の城へと向かった……が、会長から預けてもらった二人が、

どこかへと消え去ってしまった。

車内での会話も何やら互いの一族について話していた二人だが……まあ、いいか。

奴らは渋々ながら消えた二人よりも俺達を通すことを優先させ、城の中へと案内された。

「イッセー! みんな!」

そこでリアス、そして木場との再会した。

どうやらクーデターによる火の粉は二人にはかかっていなかったらしい。

ホッと一安心した俺達はそのまま、王がいるという謁見の場へと通された。

そこには玉座に座る美しい少女、そしてその隣に若い男の吸血鬼、

そしてこの場にはふさわしくないほどの圧力を持つローブに身を包んだ男がいた。

「皆様はじめまして。私が新たな王のヴァレリー・ツェペシュですわ。どうぞよろしく」

ギャスパーは久しぶりに再会した恩人との再会を一瞬だけ喜ぶも、

その変質しすぎた様子に驚きのあまり、動けないでいた。

「$%&%$&’(’&%%」

ヴァレリーは俺たちとの会話の最中、どこか違う方向を見ながら、

俺たちには聞き取れない言語で何もない場所で話していた。

噂には聞いていた……聖杯にとりつかれたものにしか見えない者。

「こんなになるまでこの少女を使っていったい、お前は何をした」

アザゼルは若い吸血鬼の男を睨みつけると男は笑みを浮かべた。

「初めまして。私は暫定政府の宰相であります王位継承・第五位のマリウスでございます。

まあ、簡単にいますとこの一連の行動は我々が起こしました」

よくもまあ俺達を前にここまでペラペラと話せるものだ。

「どうしても聖杯を好きに使うには状況を整えるしかないんですよ」

「その余裕もお前の隣にいる最強のおかげか」

「ええ……お気づきでしたか。紹介しましょう。彼こそ最強の邪龍であるクロウ・クルワッハです!」

その瞬間、俺達の間に衝撃が走った。

目の前に最強の邪龍が立っていれば無理もない……だが、

今の俺では奴は確実に倒せない。オーラを感じるだけで分かった。

「今日はここまでにしましょう。皆さんにお部屋を用意しておりますので」



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第百十一話

あの謁見から翌日、俺は一人で吸血鬼の街を歩いていた。

アザゼルからは十分、気をつけろという忠告をいただいた上での散歩だった。

庶民の暮らしにはクーデターによって政府が倒れた影響はまったく届いておらず、

水面下でクーデターを成功させたことが窺えた。

……おそらく、邪龍を復活させたのもあの聖杯を宿したヴァレリーを酷使させたからだろう。

そして酷使された聖杯を宿したヴァレリーは異形なものとの出会いを何度も繰り返すうちに、

自らの気づかぬうちに意識を聖杯に飲み込まれてしまった。

ふと、視線を動かした瞬間、俺は今まで見たことがある奴を見つけてしまった。

そいつは露店に置かれている商品をジッと見つめ、店主を困らせている様子だった。

オーフィス……の吸収された力を再びオーフィスとした存在だった。

俺の家に残りカスであるオーフィスが滞在していることは最重要機密であり、

世間的には今俺の目の前にいる奴がオーフィスとなっている。

するとオーフィスは視線を俺に移したかと思えば、露店から離れて、俺に近づいてきた。

「……懐かしい匂い。赤くて大きなドラゴン……」

そんな言葉を呟くとオーフィスは再び、どこかへと消え去った。

その直後、通信用の魔法陣が俺の耳元に展開され、そこへ耳を傾けると、

相手は小猫からでギャスパーとヴァレリーとの対面が許されたらしく、

そこへ急遽、来てほしいという内容だった。

……恐ろしく、あやしい匂いがするがな。

『テレポート・プリーズ』

俺はそう思いながらもテレポートで小猫達の魔力のもとへと転移すると、

既にギャスパーとヴァレリーは何らかの話しをしたらしく、

ギャスパーが嬉しそうな顔をしながら俺のもとへと駆け寄ってきた。

「聞いて下さい先輩! ヴァレリーと一緒に日本に帰ることができますよ!」

……そうか。お前はそこまでして……。

俺は一度、ギャスパーの頭を撫でてからヴァレリーの傍に立っているマリウスを睨みつけた。

恐らくこいつはただでヴァレリーを開放するはずがない……俺はそんな考えのもと、

この対面が終わった直後にアザゼルへと報告し、その日はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、全員で集まっていると突然、天井に魔法陣が展開され、

そこからいなくなっていた二人の会長の下僕とエルメンヒルデが落ちてきた。

もっとましな転移方法はなかったのかよ。

「お知らせがあります。近々、ツェペシュ側はヴァレリーから聖杯を抜きだし、

城下町の吸血鬼達を変えるという密告がありましたわ」

その一言で全ての真相を理解したのかギャスパーは眼から涙を流しながら、

首を左右に振って今聞いたことを否定しようとしていた。

せっかく日本へ一緒に帰れると聞いた中でのこの一言だ……。

―――――その直後だった。

まだ日の出には早い時間帯にもかかわらず、真っ暗な外の景色が光に照らされ、

俺達のいる部屋も明るくなった。

「どうやら先手を打たれたらしいな。このままだと聖杯を抜き取られ、

この国はお終いだ……エルメンヒルデ。お前はそれでも介入を拒むか?」

「……そう言いたいですが我らが王はあなた方の援助をお認めになられました」

俺の一言に目を瞑りながら嫌々、そう言うと各々が同時に己の得物を手に持ち、

戦闘準備は万端というオーラは俺にはなってきた。

アザゼルの方を向くと既に準備はできているらしい表情、会長の下僕たちも言葉には出さないが、

既に戦いの準備は整っている様子だった。

「リアス」

「ええ。みんな! ヴァレリーを助けに行くわよ!」

リアスのその一言の直後、全員が声を上げるとすぐさま木場がこれまでの滞在時間で把握した、

護衛達の位置を地図に示し、木場の先導のもと俺達はヴァレリーがいるであろう、

地下へとつながる階段を下りていった。

どうやらこんな事態も予測していたらしい木場には感謝だな……さて。

階段を下りきるとそこは広い空間があり、その空間に百名ほどの吸血鬼達が俺達を待っていた。

相手は元人間の吸血鬼達だが人間では手も足も出ないほどの力を持ち、

さらに今は聖杯によって弱点がなくなっているだろう。

《ここはあっしたちにお任せあれ!》

そう言うや否やベンニーアが俺達のところから消え去ったかと思えば、

次々と兵士たちが倒れていき、

その周囲を凄まじい速度で分身を生み出しているベンニーアが通過していく。

その手には死神の鎌。あれで切られれば魂に傷が入るというが……聖杯で、

強化済みの兵隊を倒していく実力は本物だ。

そしてルガールは目の前の兵団を見据えながら服を脱ぎ捨てると体が次々と変化していき、

口からは鋭い牙が生え、指からも鋭く、長い爪が生えると同時に全身が銀色の体毛に覆われていく。

その姿に吸血鬼の兵団達はざわめき立った。

ルガールの正体……狼男。

ルガールは凄まじいスピードでその場から消え去ると紙を切り裂くように簡単に、

兵団達をなぎ倒していく。

「まさか死神に狼男を下僕にするなんて……凄いわね、ソーナ」

さらにルガールの両腕に文様が浮かび上がったかと思えば、両腕を覆うほどの炎が発せられ、

炎を纏った腕で豪快に兵団をなぎ倒していく。

《ヘッヘッヘ。高名な魔女と狼男とのハイブリッドなチートガイでっせ》

瞬く間に百人ほどの兵団は倒されていき、物の十分で兵団は全滅した。

「ここは俺たちに任せてリアス殿達は先へ」

リアスはその言葉に頷くと俺達を連れて、さらに下の階へとつなぐ階段を下りていくと、

大きなドアにぶち当たり、それを蹴飛ばして開くと数人の吸血鬼がいた。

さっきの奴らとはオーラが違うな……上役に可愛がられたやつらか。

「ここは私に任せて下さい。姉さま直伝の技を使います」

そう言うと小猫の周囲に淡い城の光が集まっていくと彼女の闘気が漲っていき、

輝きが彼女を覆ったかと思えば、光が突然、消え去った。

『パンパカパーン』

いつもの小猫の声……だが、かなり成長した体つきだ。

『私のオニューな必殺技……火車』

そう言いながら小猫が腕を横の振るうと腕に火の輪が生み出され、

その輪が吸血鬼のもとへと向かっていく。

「こんな輪がいったい」

直後、そう言った吸血鬼が灰になって一瞬で消え去ってしまった。

「あれは全ての悪しきもの浄化する力だ。匙の力とは反対だな」

「バ、バカな! 吸血鬼である我らがこんな下等な種族ごときに!

させぬ…………させぬぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

残りの吸血鬼も火車がかすっただけでそこから灰になっていき、

消滅すると最後に残った奴が激昂しながら直接、

小猫に攻撃を仕掛けるが彼女に触れた瞬間、一瞬で灰になってしまった。

「小猫に触れるものは皆浄化か」

『どうですか先輩? 綺麗ですか?』

「……あぁ」

そう言うとリアスから頬を思いっきり抓られたが小猫は嬉しそうな顔を浮かべながら、

元の姿に戻って意識を失った。

「まだ慣れない力だ。一気に力を使ったんだろう……先へ行くぞ」

小猫はアザゼルに任せ、俺達はさらに下の階へと向かい、

ドアを蹴飛ばして中に入るとそこにいたのは邪龍の一匹――――グレンデル。

『やっと来たのかよぉぉぉぉ! おせぇんだよ!』

「みんな。少しだけ時間を稼いで頂戴……あれをやるわ」

あれ……リアスが編み出した必殺技か。

「ゼノヴィア。行くよ」

「あぁ!」

ゼノヴィアと木場が目の前から消えると若干だがグレンデルの身体から青い血が噴き出した。

『うぉ!? すばっしっこいハエが!』

グレンデルはその巨大な拳で二人を叩き潰そうとするが拳による攻撃は一切、

二人には当たらずに地面にしか当たっていない。

木場はもとい、ゼノヴィアがあそこまでの速度を出せているのは、

エクス・デュランダルの七つの能力の一つで自身を神速で動かしているから。

だが、その速度を出しながらも木場と息のあった攻撃ができているのは、

かなりの間、木場と一緒にあの速度で走りまわっていたということか。

「俺のもくらっときな!」

アザゼルの手元から放たれた太い光の槍は放たれると意思があるように、

グレンデルの攻撃を避け、幾つもの小さな槍に分かれると奴の全身に拡散し、

そのまま全身に突き刺さった。

『イッデェェェェェェ! このくそがぁぁぁぁぁぁ!』

「堅牢なりし壁よ!」

「我らを守護する壁よ!」

グレンデルが腹を膨らませて俺たちに火球を放つがロスヴァイセと朱乃が同時に、

大きな光の壁を作り出すと完全ではないが、奴が放った火球を防ぎ、

残った火球は全て俺のディフェンドで防いだ。

『なんで……なんでこんなクソどもに俺の攻撃が避けられるんだよぉぉぉぉぉぉ!』

グレンデルは目の前でヒュンヒュン動いている二人めがけて何度も腕を振り下ろしたり、

足で踏みつぶそうとするが二人にはまったく掠ることもなく、

ただ単に地面に傷をつけるだけだった。

「物は出来たわ」

そのリアスの一言から全員がグレンデルから離れると、

宙に浮かんだ巨大な滅びの魔力の塊を持ったリアスがグレンデルへと近づいていく。

「消えさりなさい!」

リアスは大きな声を上げながら巨大な塊を放つとその塊はゆっくりとグレンデルへと、

近づいていくとグレンデルを徐々に引きつけはじめた。

『な、なんだこりゃ! か、体ゴガァァァァァァァ!』

グレンデルが固まりに触れた瞬間、すぐさま全身が引きこまれ、

奴を削りながらその塊はサイズを小さくしていく。

「その塊は耐性とかそんなの関係なしに消し去るわ……いわば、

ブラックホールの滅びの力Verね―――――消えなさい!」

『ゴアァァァァァァァァァ!』

奴の断末魔が響き渡るとともにその塊も大きさを縮小していき、塊のサイズが完全に、

小さくなった頃には既にグレンデルは顔を半分残した状態でしか生存していなかった。

滅びの魔力で生み出したブラックホール……やはり、リアスは凄い奴だ。

『グ、グゾ! こ、この俺が……ハハハハッハハハ! こんな状態でも戦って』

グレンデルがそこまで言った瞬間、突然上空からグレンデルを押しつぶすように、

黒いローブを身に纏った男が急降下してきてグレンデルを地面に押し込ませて黙らせた。

「選手交代だ。グレンデル」

その声はあまりにも俺たちからすれば重い声だった。




あぁ、もうすぐこの作品も終わりか。


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第百十二話

「クルワッハか」

グレンデルが転移の光に包まれながら消えていくのを見ながら俺はそう呟くと、

男はローブを振り払い、俺たちに初めて人間の姿を見せた。

俺たちに見せた姿はその圧倒的な圧力とは正反対の印象を抱かせる好青年の姿をしているが、

先ほどから俺たちにぶつけてきているオーラは凄まじく重い。

「ここから先は通すわけにはいかないんでね……それに現赤龍帝が使う、

ドラゴンズマジックとやらも一度、この目で直に見てみたかったんだ」

「それは光栄だな。最強の邪龍にそこまで言われるとは」

『インフィニティー・プリーズ!』

指にはめている指輪を出現した籠手に埋め込まれている宝玉に翳し、

空間にそんな音声が流れた瞬間に俺達が通ってきた道をたどり、

空間につながる扉を破壊して、俺の真横に光の塊がやってきた。

『ヒー・スイ・フー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』

「それが報告にあったインフィニティーか」

光の輝きが消えうせると俺の隣にはヴァーリが立っていた。

「随分と魔力を消費したな……奴か」

「あぁ。仲間たちはカオス・ブリゲートの魔法使い集団と交戦中でね。

ここへ来る途中にそいつと交戦したんだ……悪いが極覇龍は使えん」

まあ、この国に奴がいることはすでに予想済みだ。

このクーデターを背後から支援していたのがカオス・ブリゲートなんだからな……だが、

ちょくちょく感じる別の大きな魔力も感じるんだが……どこかヴァーリに似ている。

始めはこいつ自身かとも思ったがどこか違う……まあ、良い。いずれ分かるだろう。

「正直に言うとお前と全力の状態で組み、奴と戦ったとしても勝てる気はしない。

が、今回は勝利よりもこの先にいるであろう奴に用があるんだ」

この先にいる奴……こいつが顔にまで感情を出すほどの奴がこの先にいるのか。

「かかってこい、二天龍よ」

「来い、ドラゴン!」

手にアックスカリバーを出現させ、まずは俺が一番に駆け出し、

クロワッハにカリバーを叩きつけるが奴はそれを表情一つ変えずに防ぐと、

背中からドラゴンの翼を生やし、自らを覆った直後。

俺のスレスレのところを魔力弾が通過し、クロワッハを奥まで押し込んだ。

しかし、クロワッハはケロッとした様子で翼を元に戻した。

「まさか、ここまでの差があるとは」

「ヴァーリ、隙を作れ」

ヴァーリは仕方ないといった表情を浮かべながら宙へと浮かびあがると籠手から、

魔力弾を一発放つとクロワッハによってそれは弾かれるが、

魔力弾が宙で弧を描きながら奴の背後へと回る。

「無駄だ」

それをも奴は回し蹴りの要領で弾いたが十分だ。

『ターンオン・ハイタッチ・シャイニングストライク! キラキラ!』

「えあぁぁぁぁぁ!」

巨大化した斧を全力で奴めがけて横薙ぎに振るうと奴の翼を人間の皮膚ごと抉り取った。

全力のあの一撃にも拘らず、ドラゴンの翼と人の皮膚しかもぎ取れなかったのか。

するとクロワッハは踵を返し、俺たちに背を向けると数歩歩いて近くにあった、

壁にもたれかかった。

「俺が頼まれたのは十数分の時間稼ぎのみ」

完全に奴から戦闘の意欲が消えた……時間がない。

俺はインフィニティーの鎧を、ヴァーリは白龍皇の鎧を解除して、

その先の扉を蹴飛ばして中へ入ると結界の壁で覆われた空間の中に手術台のようなところに、

乗せられ、生気がなくなった顔をしているヴァレリーと満足そうな顔をしたマリウス、

そして同じような顔をしている吸血鬼の男たちがいた。

「遅かったですね。皆さん」

「……まさか、既に」

「ええ、聖杯は僕の中」

直後、マリウスの腕がリアスの滅びの魔力によって消し飛ぶがまるでトカゲのように、

なくなった部分から腕が復活した。

「これが聖杯の力だ! 僕は何物にも負けない力を」

その瞬間、俺達がいる空間の床がまるで何かに侵食されたかのように真っ黒に変色し、

少し先の場所から形容しがたい姿をした五メートルほどの巨大な生物が、

姿を現わし、その周囲からも同じように様々な獣の姿した存在が出現した。

……報告には聞いていたギャスパーの新たな力か。

「な、なんだその姿は!」

「叔父様方。落ち着いて下さい。今の我々は絶対に死なないのです」

「そ、そうだな。我々は次なる」

そこまで言ったところで貴族服に身を包んでいた男がワニの形をした真っ黒な存在に、

丸のみされて、消え去った。

……ワニの中からも奴の魔力は感じない……消えた……のか?

「あ……ああぁぁぁ!」

目の前の恐怖の状況に額から冷や汗を流し続ける男たちは我先にと出口へと、

向かおうとするが全ての奴らがクロの存在に飲み込まれて、消え去った。

《許さない……よくも……ヴァレリーを傷つけた奴は全部消し去ってやる》

「怒っているようだね。でも無駄だよ、僕は」

直後、地面から大きな口が生み出されてマリウスの左腕をバクン! と一飲みしてしまうが、

マリウスは余裕の表情を絶やさないまま、聖杯を発動した。

「……な、何故だ。何故、腕が復活しない」

が、奴の飲み込まれた左腕が先ほどの用に復活する気配は全く見えず、

マリウスは何度も聖杯を発動させて自らの左腕を復活させようとするが、

一ミリも腕は復活せず、ただ単に奴の魔力が減っていくだけだった。

「あ、あり得ない! 聖杯は完全に僕の」

そこまで言ったところでさらに右足を食われ、尻もちをついてしまい、

もう一度、聖杯を発動させるものの喰われた先からなにも生えてはこなかった。

「兵藤一誠」

「あぁ。お前が考えているのと俺も同じ結論だ……近い、将来。

悪魔の中でも異例の卷属使用制限がかかるだろうな」

それは俺のことではなく、目の前で聖杯をも圧倒している魔物と化したギャスパーだ。

そんなことを考えている最中にも次々と地面から存在が生み出されていき、

恐怖で震えているマリウスを取り囲んでいる。

今の奴に勝てるのは……この世の全てのことを理解している存在だけだ。

《消えろ》

マリウスの断末魔は一瞬にして消え去ると同時に奴の存在も闇が晴れると同じように、

呆気なく消え去った。

《先生。ヴァレリーを》

「あぁ……結論からいえばまたヴァレリーは助かる」

アザゼルの一言にこの場にいる全員が驚いた。

「ここに来るまでに考えていたんだがどうもおかしなことが多くてな。

その理由が今分かった……ヴァレリーの持つセイグリッドギアは二つで一つの亜種だ」

アザゼルはそう言いながらマリウスが消滅し、地面に落ちているセイグリッドギアを拾い、

ヴァレリーへと戻すと彼女に今までなくなっていた魔力が戻っていき、

かなり小さくだが呼吸も始まった。

「ギャスパー……お前は十四番目のロンギヌスかもな」

《君のおかげだ。君がこの子の最後の希望になっていなければ、

僕はセイグリッドギアの一つでしかなかった。君という明かりが僕の希望にもなり、

こうやって復活することができた……僕はこれからも君たちのもとにいたい》

魔物と化したギャスパーだがその傍にリアスが近づいていく。

「いつまでも……貴方は私の卷族よ」

《ありがとう。その言葉が欲しかった》

そう言って、闇は消え去り、元のギャスパーへと戻った。

「…………おかしい」

「どうした、アザゼル」

「ヴァレリーの意識が戻らない。鼓動も呼吸も戻ったのに」

「そりゃ、これがねえからだっちゃ」

まるでいつぞやの白髪神父のような話し方をする声が聞こえ、そっちを向くと、

さっきまで俺が感じていた巨大な魔力の持ち主がいた。

「やっぱりお前が親玉か。リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!」

アザゼルのその一言を聞き、俺を含めたすべての人物が驚きに囚われた。

「うきゃきゃきゃ! はーいそうでーす! ヴァーリきゅん☆のお爺ちゃんで、

前魔王のパパのリゼヴィムたんでーす!」

ふと、ヴァーリの方を向いてみると今までに、見たことがないほどの怒りを顔に露わにしていた。

こいつがさっき言っていたヴァーリが会いたがっていた奴か……。

「ようやく会えたな、リゼヴィム!」

「あらら~。孫にそんな顔で見られたら真っ白な炎が俺のあれから出ちゃうぜ!」

「リゼヴィム! その聖杯で何をしようとしているんだ!」

「特別に君たちだけに教えちゃうよー! 実はねこの聖杯を使って別の世界へ進撃して、

その世界もついでに貰うんだっちゃ! 今までは机上の空論としてしか言われていなかったけど、

それはこの前のロキとの戦いで鮮明なったっちゃ!」

俺は奴のその一言で全てを理解した。

そうか……二回ほど俺の目の前に声だけだが出現した雪の神……それによって、

別の世界というゼロに近い可能性が八割以上の可能性を持ったのか。

「そして邪魔なのがグレートレッド! こいつを倒すにはただ一つ! 666さ!」

「トライ……ヘキサだとっ!」

「そう! 黙示碌にグレートレッドと書かれている怪物さ!

聖杯を使って生命の断りに潜った結果、忘れられた世界の果てで見つけちまったのさ!

神が何千にも封印を施した状態で!」

……そうか。世界の中で最も早く666という怪物を見つけ出した神は、

誰にも悪用されない様にリゼヴィムが言ったように何千にも及ぶ封印術を施し、

過剰ともいえるほどの封印をした直後の疲労状態のまま、三種族との戦争に参加し、

そのまま疲労から消滅した……こういう結末か。

「セイグリッドギア持ちの奴らは奴に攻撃するなよ」

「どういう意味だ、アザゼル」

「やつは……悪魔の中で唯一の異能であるセイグリッドギアキャンセラーの持ち主だ。

セイグリッドギアでの攻撃はすべて当たる前に無効化され、奴には効かないぞ」

つまり……この中で攻撃をしてまともに奴に通るかもしれないのはリアス、朱乃、

アザゼル、ゼノヴィアのデュランダルしかないのか。

そのままリゼヴィムは宙に浮かばしていた聖杯を空間を歪まして作った空間へと収納した。

己が持つ異能のせいで奴自身も聖杯を直接、自分の手で持つことはできない。

「ならば聖剣で消し去るまでだ!」

ゼノヴィアはエクス・デュランダルを思いっきり振り下ろし、

莫大な聖なるオーラを奴めがけて放つが、リゼヴィムを庇う形でどこからともなく、

もう一人のオーフィスが出現して手を横薙ぎに振るっただけでオーラを掻き消した。

力が分けられても無限の存在か。

するとリゼヴィムは憎たらしい笑みを浮かべながら手を一度だけ、勢い良くたたくと、

空間に小気味の良い音が響き、その直後、俺達がいる空間ごと大きく揺れ始めた。

「何をした!」

アザゼルがそう叫ぶとリゼヴィムはその笑みを崩さずにこういった。

「カーミラ側の吸血鬼、そしてツェペシュ側の聖杯で改造されつくした吸血鬼が、

量産型の邪龍に変身しちゃったじょ。その目で確かめてみるといいっちゃ」

リゼヴィムがそう言うと俺達の足もとに転移用の魔法陣が出現し、

俺達をある建物の屋上へと転移させた。

目の前には所々から火の手が上がっている吸血鬼の王国だった。

「どうやら本当らしいな……ヴァーリは奴に集中しっ放しか……上に問題があるとはいえ、

この国の民には何の罪もない! 確か東門に地下シェルターがあったはずだ」

「ええ! アーシアとゼノヴィア、イリナは小猫とギャスパーを抱えてそっちへ行ってちょうだい!

そこを一時的な避難場所とするわ! 他のメンバーはできるだけツーマンセルで行動して頂戴!」

俺はすぐさまハリケーン・ドラゴンへと鎧を変化させると同時にスペシャルで翼を生やし、

量産型の邪龍が暴れているらしき場所へとすぐさま向かった。

……この国を滅ぼさせるわけにはいかない。




どうもっす。この作品が完結したら遊戯王でもやってみます。それでは!


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第百十三話

『ハリケーン・スラッシュストライク! ビュービュービュー!』

宝玉が埋め込まれている籠手をアスカロンの刀身に翳すと刀身に暴風が纏い、

そのまま目の前で住居を破壊している量産型の邪龍をすれ違いざまに真っ二つに切り裂くと、

大きな爆発を上げて消滅した。

……すでに吸血鬼の体は消滅済みか。

「東の門に行け。そこが避難場所だ」

「あ、ありがとうございます!」

逃げ惑っている住民に避難場所を伝えながらも次々と現れてくる邪龍を葬っていくが、

いかんせんその数は凄まじいものでなかなか、殲滅には至らない。

それほどの数の吸血鬼が弱点が数多くあり、いつ滅されるか分からない今の存在よりも、

弱点が全くない完璧な生命へと進化を望んだわけか。

「……高みの見物か。ルキフグス」

空を見上げ、ローブを身に纏って宙に浮いているやつへと視線を動かすと、

奴はローブを脱ぎ捨てその姿のまま俺と対峙した。

「彼らは選択したのですよ。たとえ破滅へと向かう選択だと分かっていながらも、

彼らは完ぺきな生命への進化を選択した……それがこの崩壊した国の結末です」

「どの種族でも完璧な生命を望む……だが、不完全であるがゆえに幸福があり、

また不完全であるがゆえにここまで成長した……全てのピースが当てはまるということは、

その存在は死んだという意味だ」

「貴方も良い理解をしている……では、これは理解できますか」

ルキフグスがそう言った直後、奴の腕に普段、

俺の腕でしか見ていない赤色の籠手――――ブーステッドギアが出現した。

「さらにはこんなことも」

『フレイム・ナウ』

そんな音声が鳴り響き、奴の宝玉から炎が噴き出した。

…………なるほど。そう言うことか。

「お前、消滅する前に俺の肉体から情報を抜き取ったな?」

「ええ。おかげで貴方しか使えないドラゴンズマジックとセイグリッドギアが手に入りました」

聖杯を使うことで生命の理へと潜り込み、魔法とセイグリッドギアの情報を抜きだしたのか。

『フレイム・プリーズ。ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー』

俺も奴が今、使っているのと同じ魔法を発動させ、奴と同じ条件にした。

「かかってこい。今、お前がしていることがどれほど哀れなことか教えてやる」

「……」

奴は俺の言ったことに怒りを抱いたのか、大量の魔力を消費することで、

巨大な炎の火球を生み出すとそのまま何も言わずに俺の方へと投げてくるが、

奴自身の表情はあまり芳しくなかった。

俺は向かってくる巨大な火球に手を触れるとそれだけで火球は姿を消し、

俺の籠手の中へと吸い込まれた。

奴はその光景に驚きを露わにしながらもさらにかなりの魔力を消費したうえで、

巨大な火球を何個も生成し、その全てを俺に向かって放つが結果はどれも最初と同じ。

奴は火球をいくつか生成しただけにも拘らず、肩で息をしていた。

「バ、バカな……何故、これほどまでの魔力を消費するのですか」

「だから言っただろ。お前がしていることは哀れだと」

「黙りなさい!」

『イエス! キックストライク・アンダスタンド?』

『チョーイイネ・キックストライク・サイコー!』

「はぁ!」

「だぁ!」

同時にキックストライクを発動させ、足にを炎を纏った状態で飛びあがって、

同時に互いの足がぶつかり合うが一瞬にして奴の炎が消えさり、

体勢を崩したルキフグスに俺の蹴りが直撃した。

「がぁ!」

「だから言っただろ。お前がやっていることは哀れなことだと」

『インフィニティー・プリーズ! ヒー・スイ・フー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』

指にはめていたインフィニティーの指輪を籠手の宝玉へと翳すと音声が辺りに響き渡るとともに、

足もとに展開された銀色の魔法陣から銀に輝くドラゴンの幻影が出現し、

俺の周囲を旋回するとともに魔法陣が下から上へと上がっていき、鎧が完成したと同時に、

ドラゴンの幻影がアックスカリバーとなって手の中に収まった。

「コピーできたのはそれだけらしいな」

『ハイ・ハイ・ハイ・ハイ・ハイタッチ! プラズマシャイニングストライク!』

『ディフェーンド・ナウ』

五回連続、指輪でタッチするとアックスカリバーが光輝きながら俺の手元から離れると、

俺が横に腕を振るうとアックスカリバーがその動きに従って飛んでいき、

ルキフグスが展開したディフェンドの魔法陣を一瞬にして砕き、

奴の腹部にカリバーが直撃し、さらに今度は左へと腕を動かすとアックスカリバーは、

宙で方向転換し、今度は左の脇腹にめり込み、止めとして腕を上から下へ、

突き降ろすとカリバーはルキフグスの頭に直撃し、俺の手元へと帰ってきた。

「ゲハッ! 何故だ……何故、ドラゴンズマジックが」

『エラー』

もう一度、フレイムの魔法を発動しようとしたのかは分からないが腕を突き出した瞬間、

そんな音声が響き渡ると同時にセイグリッドギアに埋め込まれている宝玉の色がなくなった。

奴は血反吐を吐きながらもあり得ないといった様子で何度も発動するが、

音も何も出てこなかった。

「魔法が……使えないっ!」

木場からの報告では俺の魔力を使ってファントムが魔法を発動したのだが、

俺が使っているよりも遥かに威力は弱かったらしい。

「当たり前だ。ドラゴンズマジックは俺だけの魔法……俺以外の奴が、

使えば魔法はそいつを拒絶し、消え去るだけ」

「はっ……ハハハハハ! 魔法に意思があるとでも言うのですか!?」

そう叫び、ルキフグスは己の力で戦おうと手から魔力弾を放つが俺はそれを、

宙に跳躍して避け、奴を見下ろした。

「あんなことを言っているがお前はどう思う……“ドライグ”」

「っっ!」

突然、奴の顔が一瞬にして驚きに染まりあがった。

まあ、無理もない……俺の背後に奴がいるのだから。

『愚かすぎて言葉も出ないな』

「そうだな……行くぞ、ドライグ!」

『チョーイイネ! ドラゴンパレード! サイコー!』

その魔法を発動した瞬間、インフィニティーの鎧が解除され、

それと同時に俺の真下に大きな銀色の魔法陣が出現し、

その中からそれぞれのエレメントの色をした魔法陣が出現したかと思えば、

さらにそこからそれぞれのエレメントを纏ったドラゴンがルキフグスめがけて放たれていく。

「おぉぉぉぉぉぉ!」

全てのエレメントがルキフグスに直撃した瞬間、銀色の大きな魔法陣を思いっきり蹴り飛ばすと、

ルキフグスに向かっていく道中で魔法陣が銀色の巨大なドラゴンへと形を変え、

ルキフグスへと直撃した瞬間!

俺の視界を塗りつぶすほどにまばゆい銀色の光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発により、大量の砂がまき散らされて視界が閉ざされていたがやがて、

この国に吹く風によって視界がクリアになっていくと向こうの方に、

三つの影が見えた。

「ん~☆Graetest!」

「……眩しい」

完全に砂が消えた時、目の前に現れたのは傷だらけのルキフグスを肩に担いだリゼヴィムと、

片腕を突き出しているオーフィスの姿をしている奴がいた。

……銀色のドラゴンの一撃だけ、オーフィスによってかき消されたか。

「も、申し訳ありません。リゼヴィム様」

「ん~良い良い☆ちみのせいじゃないざんす」

「リゼヴィム!」

上空から奴が光の翼を羽ばたかせながら、凄まじい速度で俺の隣に降り立った。

「なかなかEnjoyしたっちゃ。もうこの国には用はないし、

ドロンしちゃおうぜ。リリスちゃんよ~」

「我、承諾」

「逃がすか!」

怒りに囚われたヴァーリがリゼヴィムに突っ込もうとした瞬間、

リリスと呼ばれた少女が地面に小さな手をつけ、その際に力をほんの少しだけ開放したのか、

大量の砂がまき散らされて再び視界が潰されてしまった。

「待て! リゼヴィム!」

「もうあいつらの魔力はない……お前だって気づいているだろ」

そう言うとヴァーリは舌打ちをして、鎧を元に戻した。

町全体に意識を集中させるともう既に邪龍を感じることはなく、

リアスや木場といった俺の仲間くらいしか、魔力を感じなかった。

あれほどの邪龍を消し去ったのはギャスパーだな……戦いに集中していたが。

「俺は……俺が抱いていた夢は奴と同じだったっ! ……奴とは違う!」

……ここまで感情をあらわにするほど憎しみを抱いているのか……、

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー……危険すぎる男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リゼヴィム達が去り、ようやく静かになったツェペシュの城下町に俺達は集まっていたが、

その被害のあり様は最悪なものだった。

邪龍化した吸血鬼達によってほとんどの住居は破壊され、残っていたとしてももう二度と、

住むことはできないだろうと容易に想像がつくほどの被害だった。

ツェペシュ側、そしてカーミラ側の生き残ったエージェントたちによって、

住民の避難誘導は迅速に行われたものの完全に元に戻るにはかなり時間がいるだろう。

……そして、この少女の精神も。

「そんな……裏切り者がいて…………吸血鬼が祖国を…………」

エージェントに肩を抱かれなければ倒れてしまうほど精気を、

失ってしまったエルメンヒルデが目の前の祖国のあり様にショックを受けていた。

「先生、ヴァレリーは」

「呼吸をしている以上、生存はしているがそれでも医療機器なしじゃ長くはない。

そこら辺はグリゴリで対処しよう……あとはリゼヴィムから奪われた聖杯を、

取り戻せばヴァレリーは完全に復活する」

「……取り戻します。絶対に僕はヴァレリーを取り戻してみます!」

朝日を背に、そう叫ぶギャスパーの姿は今までで見たことがないほど逞しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、日本へと帰ってきた俺たちはつかの間の休日を過ごしていた。

まあ、いろいろと大きな問題が発生したことで休日と言えるかは微妙なものだが、

最近はなかった一日休みの日ができたってわけだ。

あれからギャスパーは決意を胸に秘め、以前よりもいっそう鍛錬に励みだした。

「イッセー♪」

そんなことを考えていると後ろからリアスに抱きつかれたが魔力ですでにわかっていたので、

前のめりになることなく、背中で彼女を受け止めた。

「静かね」

「あぁ」

「この前の戦いがうるさすぎたんだけど」

「そうだな……だがあれ以上の戦いがこれから来るんだぞ」

「ええ。分かってるわ……でも、今はこの静けさを楽しみましょ」

リアスがまわしてきた手を優しく握ろうとした瞬間、俺の自室の扉が開かれた音がし

そちらの方を振り向くと朱乃が扉の近くにいた。

「ふふふ、幸せムード真っ最中ですけど指令ですわ。

この地区にはぐれ悪魔が数体、入ってきたらしいですわ」

「行きましょうか、イッセー」

「あぁ……俺たちが…………最後の希望だ」




これにて完結。


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