殺したい彼女 (あーふぁ)
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1.死亡思考

「人は、生きている一生のうちに一人だけ人を殺すことが許されているんだ」

 

 それは幼い記憶に残り、忘れることはなかった。あれは祖父自身の言葉か、どこかの神様なのはか未だにわからないあの言葉を。

 あの言葉をぞっとするような、あっさりとした、どこか遠くを見ている曾祖父の言葉を聞いたのは小学2年生の夏の頃だった。

 日本家屋の縁側で祖父とお揃いの浴衣を着て、肩を並べて暑い夏の日のなか、スイカを夢中になって食べている時だった。

 唐突に何の前触れもなく言った。お互い、うまそうにスイカを食べては種を庭へと向けて口から発射している時に。

 その時の僕はまだ幼かったからか、「じいちゃんはせんそーにいって、人をたくさんうったんでしょ? じいちゃんはゆるされない?」

 と無邪気に残酷なことを聞いてしまっただろうか、と思い出す。

 

「はは、そうだなぁ。たくさんじゃないが、じいちゃんは四人の人を鉄砲でばーんってやっちまってなぁ」

 

 じいちゃんは苦笑いをしてちょっぴり寂しげに言う。僕は何が寂しいのかわからなかった。

 

「ゆるされるの?」

「んー、じいちゃんは許されないだろうなぁ。自分が死ぬからこそ、一人だけ殺してもいいという話だったしなぁ」

「ふーん……」

 

 そして他にも色々と死に関することを話してくれた記憶がぼんやりとある。

 それは雲ひとつない、真っ青で綺麗な空を見上げたのを覚えている。

 記憶に強く残っていたそれは、少し前まではちょっとした戯れで言ったか、戦争を憎んでいると考えていた。

 当時の僕のような小さい子供に、本当の事を言ったとしても信じてもらえないとか、すぐに忘れるとでも考えていたかもしれない。だから僕に言って懺悔のようなことをしたんだろう。

 その曾祖父が亡くなったのは僕が中学生になったばかりの頃だった。

 

 

 『生きている一生のうちに一人だけ人を殺すことが許されているんだ』その言葉だけ妙に意識に残り、段々と曾祖父の他の記憶が薄れていくなか、僕は友達と馬鹿なことばかりやっていたり、部活に明け暮れていたあの楽しかった中学の学ランを脱ぎ、高校の落ち着いた緑のブレザーに袖を通した。

 今月の春に僕、伊藤竜は高校一年生となった。

 中学の上級生から一転し、下級生になるのは新鮮と感じる。

 新しい学校、新しい教室、新しいクラスメイト。

 その新しいクラスのなかに、ちょっと気になる一人の女の子がいた。

 その子はブレザーが良く似合い、スカートの長さは普通よりも長く感じる。

 身長は170cmの僕より頭ひとつ分小さいけれど、とても綺麗でまっすぐで色っぽさがある黒髪を腰まで伸ばし、顔立ちはうっすらと雪のような白い肌に、モデルと同じぐらいに目鼻立ちがはっきりとして整っていた。

 このクラスで一人、異質な存在感を放つ女の子。名前は三浦愛。

 自己紹介で彼女は自分の名前と挨拶を、僕があまり好きではない鈴が鳴るような美しい声で楽しそうに言った。

 こう言ってはなんだけど、名前と雰囲気が全然合っていない。名前がそこらにある平凡なものに感じられた。

 彼女にもっといい名前をつけてもよかったのに、と思った。

 新一年生となって一週間も経つと、彼女の人気はすぐに高まっていた。

 休み時間になると彼女と会話しようとする人が男女問わずやってくる。

 黒板近くにある彼女の席から、真後ろに四個ほど離れた自分の席から僕は眺めている。

 どうやら時折、上級生の人たちもやってくるようだ。

 わけ隔てなく、誰とも楽しそうに会話をしてくれるのがいいんだろうな。無愛想なんてよく言われる僕とは大違いだ。

 噂だと、『すげー美人』『あれこそ大和撫子だね』『礼儀正しい模範生徒だ』『日本人も捨てたもんじゃねぇな』と彼女の控え目な性格もあってか人気みたいだ。上級生からも入学早々に告白されたとかなんとか。

 『三浦愛』の持つ雰囲気は高校生にしては珍しいと僕も思う。

 けど、憧れるとか好きになるとか会話したいとか、そういう感情は湧いてこない。

 そもそも今までに好きという恋愛感情を持ったことがない。でもそれは僕が素敵な人と出会えていないだけなんだろう。

 ――高校生活が始まって二週間。

 きちんと授業を受け、友達もできて外見や頭の良さも平凡な僕はそれなりの日常を送っていた。

 部活は特に興味を引くものもなかったが、放課後には仲良くなった一人の男友達、鈴木を連れて部活見学なんかをした。

 そんなある日の朝、変わったことが起きた。

 それは学校の裏門で咲いている桜の木が折れ、花がほとんどなくなっていた。

 奇妙なことをするのは教師や用務員の人が切ったのではないだろう。事前にこんなことするとも言っていなかったし、なにか行事があるわけでもない。

 桜の枝は折られた様子もなく、花を摘み取られただけ。と、いっても花を取るというのはいったいどういうことだろうか。目的なしの愉快犯かとも思う。

 小さな事件は朝のホームルームで、担任の教師は桜の花を取った人がいたら名乗り出なさいと言った。

 わざわざ自分から名乗り出るのはいないだろう。黙っていたらこのまま逃げ切れる状況だ。

 ふと、なんとなく三浦愛を見ると、彼女は不安げに担任の話を聞いていた。それをどこか僕は不思議に思った。

 教室では今日一日、その桜の話題で持ちきりとなった。教師たちが躍起になって犯人探しをしていることから、うちの生徒か外の人間か誰があんな大胆なことをしたかの話題が中心となった。いつもの三浦愛の話題とは違うのをクラスから聞けてどこか安心する。

 が、美人で性格もいい三浦さんのところには今日も変わらず人がよく来る。そしていつもと似たようなことを。

 桜ごときじゃ、三浦さんにはさっぱり対抗できないといったところだろうか。

 桜も頑張って綺麗に咲かせた花を取られたっていうのに、美人には勝てないのか。美人は三日で飽きるっていう言葉があるのに。

 彼女、三浦愛は二週間経ってもさっぱり飽きられていない様子だ。なんで皆、そんなに彼女に対して熱心になれるんだろう?

 自分の恋人にして自慢?

 高嶺の花みたいな彼女を手に入れて浮かばれたい?

 綺麗な人と話したい?

 ……わからない。

 そんなことを考えながら学校の授業を淡々と終えて放課後。

 今日も部活を探すために放課後の校内をうろつく。

 せっかくの高校生活なんだから、何かに入って思い出にでもしたいじゃないか。

 仲良くなった友達の鈴木を連れて先日は運動部に行ったから、今日は文科系の茶道部だ。

 茶道部の部室へ向かうと、そこにはざっと見て、20人ぐらいの長い行列が出来ていた。男子8割、女子2割といったところか。

 なんでこんなにいるんだ? 

 一年生以外の上級生が並んでいるのもおかしい。

 と、悩んでいると一緒に並んでいる鈴木が、茶道部に入った三浦愛が見学者にお茶を振るまう、という噂があると教えてくれた。

 それでこの騒ぎか。

 

 

 僕の順番がきて靴を脱ぎ、和室へと入る。

 茶室の畳の上に正座やあぐらで座る見学者たち。その向かいで茶道部の人がお茶を点てる音だけが響いている。

 突然、廊下から聞こえてきたざわめきと共に一人の女子がスカートを翻してやってきた。

 三浦さんだ。

 彼女はやけにふくらんだ大きなトートバッグを持って、ずかずかと畳の上にあがりこんで、部屋の真ん中で立ち止まった。

 突然のことに固まる空気、彼女が来たのを喜ぶ空気のふたつができた。

 その空気の中でいったい何を始めるつもりなんだろうか、三浦さんは。

 彼女は部員と見学者の僕たちを見渡し、息をつく。

 

「多くの方々がわざわざここへと足を運んでくださったので、私は美しい春をみなさんに味わっていただきたいのです」

 

 無表情で、抑揚のない声で、トートバッグの中から桜の花を部屋に撒きはじめた。

 桜の花をバッグの中で握り、宙で手を離す。

 開いた手から、淡いピンク色の花びらが宙をひらひらと漂い、畳の上へ舞い落ちてくる。

 それがたくさんと。

 見学者の僕たちとお茶を点てる女子さんと、部屋の中心にいる三浦さんの服にも舞い上がった桜の花がやってくる。

 桜の花を取ったのは三浦さんなんだな、と思うよりも僕の三浦さんに対する、激しく強い妙な感情が僕を襲った。

 ……これはなんだ?

 今まで感じたことのない感情が僕を支配しようとしてくる。

 突如、湧き上がったこの感情。それがわからないまま僕は三浦さんを見上げる。

 三浦さんはちょうど全部の桜をまき終えたらしく、来たときと同じ無表情で帰っていった。

 あとに残された僕たちは、呆然とし対処に困った。

 暴風のようにやってきて、美しい三浦愛は桜の花をまき、そして嵐が去ったあとの穏やかな風のように去っていった。

 別れていた空気がひとつになり、どうすればいいのかという雰囲気になった。

 そこに部長さんが、「……これ、どうしよっか」と戸惑いながら言ったのを聞いて、僕は「こんなにも綺麗ですし、せっかくなので少しだけ残しましょう」となぜか口に出してしまった。

 三浦さんが置いていった桜の花びら。それが全部片付けられるのは惜しいと思った。

 桜の花はほんの少しだけ茶室の隅に残り、そのまま部活を続けた。

 結局、なぜ彼女が桜の花を撒いたのかは誰もわからなかった。

 

 

 この日から僕は三浦さんにより強い興味を持った。

 彼女がどう喋るか、どう会話するか。それらが気になり、よく目で追うようになった。

 鈴木が、綺麗な女性を見るとストーキングしてしまう癖があるとのことなので、彼の助力も得て放課後も彼女を見ることにした。

 一人で帰っているときは寂しそうに、宝石や高い服を扱っている店に行く。

 友達と帰っているときは楽しそうに、百均や安い服を扱っている店に行く。

 どちらが本当の彼女だろうか。どちらとも彼女なんだろうか?

 寂しげなのも楽しげなのも彼女は確かに綺麗で、友達に対する心配りも何もかもがすばらしかった。人気が出るだけのことはある。

 ただ少しだけ気になることが。彼女は人を見ているとき、その人を通してどこか遠くを見ているように感じる。

 僕は話したことがないので、それをはっきりとは確認できないけれど。

 小耳に挟んだ噂だと、多くの人に告白されてOKして数分後とか、数時間後に別れているらしい。どっちが振ったか、または振った理由はわからないが。

 彼女について知れば知るほど、僕を突き動かしている感情はさらにわからなくなっている気がする。けど、恋愛感情ではないはずだ。

 ……僕は彼女の何が気になるんだろう?

 それがわからないまま、まだ彼女と一度も話すこともなく5月になった。

 桜の件で彼女はひどく教師たちに怒られたが、毅然とした態度で説教を受けていたと聞く。

 その一件で彼女の周りはさらに人が増えて華やかになっていき、茶道部で起こしたような奇怪な行動はあれ以来やっていない。

 噂になったのか他の学校の生徒からの告白が出てきた。いまどき、そうはいない女の子らしさがうけているらしく、それでも告白されることは絶えない。

 僕はというと。ただ、普通に穏やかに静かに日々を過ごしていた。

 その間も彼女を見てきたけれどここまでまぶしくなっていると、平凡な僕の彼女に対する感情を探究するのも諦めるようになった。

 鈴木は完璧とも言われる彼女に飽きて、スーツのよく似合う女教師を追いかけはじめた。

 僕も彼女を追うのはそろそろやめ時か。これ以上やりすぎると、警察に突き出されかねない。

 もう見るのをやめよう。

 僕とは違う世界にいる彼女を見るのはやめよう。

 そう、心に決めたその日。

 三浦愛はいつもと違う行動をした。

 放課後の教室で、彼女は女友達に遊びに行こうと誘われたのを強く断った。

 今まで見てきたなかで初めてそんな強気な態度を見た。彼女が場の雰囲気を壊すような行動に出るのは、これで2度目だろうか。

 呆気に取られる女友達を置いて彼女は教室の外へと足早に出て行った。

 そこまで断って何をするんだろう?

 強い興味がわき行動に移す。不自然にならないように、距離を離して僕は彼女を追いかける。

 挨拶してくる人たちに愛想よく挨拶を返し、上へと、恐らくは5階の屋上を目指していると思う。けど、屋上には鍵がかかっている。一度、行ってみては諦めた場所。

 彼女が扉の前に立つ。手に持っていた鞄から鍵を取り出し、錆びた鍵穴に入れ、金属のこすれる鈍い音と共に扉を開け、屋上へと彼女は出て行った。

 扉は同じように音を出し、ゆっくりと閉まった。

 ……彼女のような美人だと鍵すら手に入れることができるのか。

 一瞬、呆れてしまう。それでも僕は彼女を追うようにドアノブを掴み、扉を開ける。その向こうで彼女に嫌そうに見られることを覚悟で。嫌われたら嫌われたで彼女に対する興味がなくなるだろう。

 そして、初めて足を入れる学校の屋上。転落防止用の柵すらなく、別段驚くようなことは何もない、夕日がよく見える広い屋上。

 彼女は屋上の壁の高さが30cmのところに乗り、風に背中を押されただけですぐにでも落ちそうな、ぎりぎりの場所に立っていた。そこでは遠くの、少しだけ海が見える方向を向いている。

 不意に背筋が冷たくなり、心臓の鼓動が速くなる。

 淡いオレンジ色の光に照らされ、見慣れない新しい場所。どこか目に見えない遠くを見ているような、虚ろな目。

 その彼女が美しい黒髪を風になびかせながら、ゆっくりと僕のほうへと振り向く。

 

「こんなところに来る人がいるのね」

 

 一瞬、天使でも見たんじゃないか、とそう思うほど夕日を背景にした彼女を綺麗に感じる。

 途端、呼吸が苦しくなる。茶道部で感じたあの時の感情が強く蘇る。幻想的とも言えるこの状況で、今まで襲ってきてた感情がなんだったのか気づいた。

 壊したい。

 そう、それだ。

 こんなにも美しく。

 こんなにも儚げで。

 ……儚いものは美しい。

 もっと彼女の美しさを見たい。

 マッチの火は消えるときが美しい。映画などでも人は死ぬからこそ美しく見える。

 この美しさを自分の物だけにしたい。今この瞬間から自分だけのものに。強くそう思う。

 彼女と僕。お互い、静かに見つめあう。

 

「クラスメイトの伊藤竜君ですよね」

 

 何も感じない平坦な声で彼女は聞いてくる。

 

「ああ」

 

 僕はこれを自分のものにしたい。

 

「散るからこそ花は美しい。桜の花はなんかは特に」

 

 彼女は低く抑えた声で自分自身へ言い聞かせるように言う。

 

「そうですね」

「僕は美しいものが好きみたいだ。だから、もしも君を殺してしまったらそれはとても美しくなるんじゃないかと考えたんだ」

「そうですか」

 恐ろしく変なことを言っているのは自覚している。でも、衝動のままに出てくる言葉は抑えられない。

「でもこんなところじゃなく、他にもっと美しい、例えば綺麗な風景の場所。もしかしたら、ここ以外のどこかで殺したら、三浦さんはもっと美しくなると思う」

「そうかもしれませんね」

「君を僕の望むところに連れていきたい」

「それは愛の告白ですか?」

 

 一瞬、何を言われたかわからなかった。

 なんで僕が愛の告白なんてしなきゃいけないだ、とそう思うが、告白は秘密にしていたこと、心のなかで思ったことを打ち明けるという意味がある言葉。

 なら、確かにそのとおり。

 

「恋愛の告白じゃないけどね」

「私には同じものです」

 

 彼女が僕の目の前まで静かに近づいてくる。

 

「では私を美しくしてください。あなたのことは少しもわかりませんが、どうか私とつきあってください」

「こちらこそ。よろしく、三浦愛さん」

 

 殺したい人を見つけ、彼女はさらに美しくなる手段を見つけた。

 ごく平凡で男らしくない僕、伊藤竜。

 皆の人気もので美しい彼女、三浦愛。

 僕たちは殺して死ぬための恋人関係となった。



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2.自殺思考

 色気や愛情がカケラすらない『告白』をしたあと、お互いすぐに学校から出た日の翌日。火曜日。

 僕は普段通りに学校へと行き、授業を受けた。

 恋人関係になったからといって普段の生活が劇的に変わるというわけでもない。

 彼女、三浦愛も僕のことをまったく気にせず、いつも通りの日常を過ごしていた。

 その日の昼休みに突然、彼女が僕のところへとやってきた。

 ざわめきたつ教室。

 それもそうだ。今まで教室では一度も話したことがなかったし、地味な僕に用があるとは思わないだろう。

 

「お弁当持参であの場所に」

 

 彼女はささやくような小声で言うと、自分の席へと戻っていった。

 入学してから昨日まで一度も会話すらしたことがなかった僕たちだ。

 その途端、好奇心旺盛なクラスメイトたちが僕を囲って質問攻めにしてくる。

 何を話した、何をした、脅迫なのか、ストーカーの成果や盗撮か等々。まるで僕が一方的に悪いかのようだ。。

 僕はそれから逃げるようにカバンを掴むと、クラスメイトたちがついてこられないように大幅に迂回してて走り回って屋上へとたどり着く。

 荒くなった息を整え周囲を見回し、誰もいないのを確認してからドアノブを回す。ただ、それだけなのに昨日以上に僕の鼓動が速くなる。緊張する。

 昨日と同じ鈍い音を鳴らしながらドアが開く。

 そこには雲ひとつない青空のした、三浦愛が屋上内側の端に腰かけていて、扉を開けた僕と正面で目が合う。

 

「遅いわ。ノロマなのね」

 

 若干不満げな口調でそう言われながら 彼女と同じように隣に座り、カバンを下へと置く。

 すると彼女は言い訳をしようとする僕に古びた細長い鍵を手渡す。

 

「ふたつあるから、それあげる」

 

 と言っては彼女は屋上の扉を指で指し示す。

 閉めてこいってことか。

 今ままでの、昨日との儚げな印象とは違い、ずいぶんと傲慢さを感じさせる。

 鍵をかけて戻ってくると彼女は一人先にピンク色の小さな可愛らしい弁当箱を持って待っていた。

 なぜ鍵をふたつ持っているか、とこっちが口を開くより先に「食べながら昨日の続きを」と言って彼女は食べ始める。

 それには同感だ。時間の節約にもなる。

 僕はカバンからコロッケパンを取り出して食べ始める。

 

「あなた、携帯電話を持ってるかしら?」

「恥ずかしながら電話は持ってないな」

「あるなら連絡しやすいと思ったけど残念ね。ちなみに私もないわ」

「へぇ……」

 

 三浦さんは二台ぐらい持っているイメージがあったけれど、ないのか。金銭的なのか家庭の事情か。うちの場合は親が金がないと言うからだけど。

 しばらくの間、黙々と互いに食事を取り、彼女がぼそりと言う。

 

「私を綺麗にする、普通じゃない方法は考えてある?」

「具体的なのはすぐに思いつかないよ」

「じゃあ、なに? 昨日のはただ私と恋愛感情を持って付き合いたいと言っただけなの?」

 

 怒り気味に、箸でパンに挟まっているコロッケを下へと落とされた。

 落ちたコロッケを見てもったいなく思いながらも彼女へと顔を向ける。

 

「違う。違うって。三浦さんと話し合ってでやらないとどっちも不満でしょ」

「そう。それならいいわ。あと、二人だけの時は愛って下の名前で呼んで。私、名字で呼ばれるのが大嫌いなの。でも私だけ名字じゃないってのは不公平だから私は伊藤くんのことを竜って呼ぶわ。どう?」

 

 どうって言われてもこの場合、美人な人と名前で呼んで呼ばれる関係は喜ぶべきなのか、そうでないのか。悩む。

 

「竜は素直じゃないわね。こんな美少女に言われているのに」

 

 悩んでいると楽しそうに微笑みを向けてくる。

 

「素直だったら、殺したいとかしょっちゅう言うことになるよ」

 

 名前の件に関しては、普段からそうするとかなり周りがうるさくなるので、二人きりの時はそう呼びあうと決めた。

 本題の殺したい相手、三浦愛の最も綺麗な瞬間である死にかたは決まらなかった。

 お互いの呼び方を決めたのと、一緒に食事をした。それだけのこと。

 でも、何にでも事を急ぎすぎると良くないと聞くから別に今日のようなことがあってもいいだろう。

 昼休みはこのくらいの話で終わり、放課後もここでまた話すことに決まった。あと、コロッケを落としたお詫びとしてタコさんウインナーをもらった。恋人らしい『あーん』ではなかったけれど。

 

 

 最後の授業も終え、昼休みと同じように、お互い友達に理由をつけ、カバンを持って屋上で合流する。

 僕と三浦愛さん……ではなく、愛と屋上の中心で薄汚れたコンクリートの上へハンカチを二枚敷いて横に並んで座っている。ハンカチを持たない僕だから、ハンカチは二枚とも愛のものだ。

 まず、なぜ僕が人を殺してみたいかの理由を言う。夕日に照らされた彼女を見たら、殺してみたいと。

 そう言ったその時、今まで忘れていた曾祖父のことを思い出す。

 

「人は、生きている一生のうちに一人だけ、一人だけ人を殺すことが許されているんだ」

「なにそれ?」

 

 彼女がおかしそうに小さく笑う。

 

「僕が小さい頃にじいちゃんがそんなことを言っていたのを思い出してね」

「軽い気持ちで人を殺していいって意味?」

「そんなのじゃないさ。本当に人を殺したいと思うのは一生に一度あるかないか。で、殺した場合は一人だけ許される。自分も一度は死ぬから。記憶が曖昧だけど、そんな意味を持っていたようなのを今では思うよ」

「それが竜の殺したい理由?」

「それも理由のひとつだね。君を見て、綺麗なまま殺したいという感情が僕には来たんだ」

 

 次に彼女が死んででもとにかく綺麗になりたい理由は、世界に自分がいた証拠を残したいから、と強気で言ったけど、なぜかそれが本音のようには聞こえない。

 僕は彼女を殺したい。

 彼女は綺麗になるならば、殺されるのもいいかも、と考えているはず。

 その後、本来の目的。美しく死ぬ方法について、僕と愛は一冊のノートにそれぞれ文字や図形を書きこんでいる。

 今回は自殺をする場合の美しい死にかたについてだ。

 どういうやり方が人の印象に美しく残り、愛も満足し、僕も自殺の手助けができるか。

 実際の自殺のニュースを思い出す。電車の前に飛び出す。縄をどこかに吊るしての首つり。部屋を密閉して窒息の練炭自殺。高いところからの飛び降り。どれも綺麗ではなく、人の印象に強く残らない。

 彼女が望むのは綺麗で、人の印象に残る死にかた。

 二人で自殺方法を考えるも知っているのは多くの人が使ったやり方。どれも手軽に、強い決意でなくても死ねる方法。

 では強い決意で死ぬ自殺方法。薬の大量服用は?

 簡単でゆるやかにおだやかに死ぬ方法。

 彼女にこう言うと「そんな死に方は誰の気も引かないし、なにより見てくれる人がいてこそ『私が綺麗だった』という記憶が残るのよ」

 そんなことを怒って言い返された。

 そして薬以外じゃあ、美しくもなんともないんじゃないんだろうか?

 お互いに悩んだ結果、本日の会議を終わることになった。

 家や図書館で調べ、その結果をこれから毎日放課後会議をしようということになった。

 屋上から降りて行く階段の途中、周りの生徒をいないのを確認してから愛は突然なんでもないことののように言った。

 

「恋人関係になったんだから、駅まで送ってくれない?」

「なんで急に?」

「私の彼氏は竜だからでしょう。その証拠にあの日から告白は全部断っているわ。……そういえば竜は何で通学していたかしら」

「僕は自転車だよ。それで断っているってことは僕と付き合うことでも言った?」

「言わないわ。そうすると私や竜をストーカーする人が出て邪魔になるもの。私にとっていいことなんて何もないし」

 

 なんという自分中心思考。一応とはいえ、僕は愛と付き合えているんだろうか。

 しかし教室と違い、猫を被っていないとやりたい放題だ。この女は。

 これぞ、綺麗なバラにはトゲがあるの典型だな。

 階段で立ち止まって呆れるため息をつくと、先に降りていた彼女から急かされる。

 その後、自転車を押して歩きながら愛を駅まで送っていった。

 同じ学校の生徒から好奇の目を向けられたけど、気にしない。

 ……明日、友達や色んな人に何かを言われるんだろうな、と気が重くなった。

 

 

 自殺方法を考え、彼女を駅まで送った二日後の木曜日。

 今日も天気がよく、皆、気分がいいはずなのに教室に入ったら恨みと好奇の混ざった視線が男女とも双方から感じられる。

 男友達の鈴木が言うには、美人で三浦愛と地味男の伊藤竜が放課後、仲良く自転車下校するのを見たという噂が広まっているらしい。

 噂が広がる速度はどれくらい早いんだ。これでも遅いほうか?

 自分の席につき、彼女、三浦愛の姿を探すが見当たらない。

 おかしい。いつもなら早く来て、友達と楽しげに会話しているはずなのに。

 その時、彼女が少々疲れが見えるような顔で教室へと入ってきて、好奇の視線が僕から彼女へと集まる。

 静かになる教室。

 席についた彼女は僕のほうを一瞬見たが、その表情は無表情。 何を言いたいかわからない。 

 そういえば彼女はほとんど僕に対して無表情だよな、と思った。始業の鐘の音がなり、いつもどおりの学校が始まる。

 授業を終え、昼休み。今日も鈴木と一緒に売店へ行く。

 今日は豪華に鈴木も一緒にも五百円弁当を買って、売店内にある4人掛けのテーブルに座り食べようとしていると、三浦愛がやってきて当然かのように座り、買ってきたらしい菓子パンをテーブルの上に広げる。

 

「お話し中のところ、お邪魔しますね?」

 

 僕も鈴木もその行動に一瞬、呆然するも鈴木は笑顔で歓迎。僕は、むっすりと不満げ顔。

 彼女がそばに来ると、他の生徒からの怨念を感じる視線が痛くなって辛くなるから嫌なんだ。

 

「ここに来るとは思わなかったな」

「パンを食べたい気分でしたので」

 

 二人きりの時とは違い、お上品モードで答えるがそれは答えになっていない気がする。

 

「ね、ね、三浦さん。こいつ、竜と付き合っている噂があるんだけど、本当?」

 

 鈴木が、二人が付き合っている噂を確認しようと話しかけた。

 

「本当ですよ。今までの人と違って、今回は本気ですから」

 

 意味ありげな笑顔で僕と鈴木を見る。

 テーブルの周囲からはなんともいえないざわめきが。

 

「へぇ、こんな地味な竜とつきあうなんてねぇ。驚きだな!」

「静かにしてくれ、鈴木」

 

 愛と鈴木が色々と話をしているなか、僕は黙ってその光景を眺めつつ弁当を食べた。

 放課後まで色んな人から質問攻めをされ、ぐったりと疲れ切るも今日も行くべきところがある。

 彼女の席を見ると既にいなかった。今日も同じく、学校内をうろついて屋上への扉にたどりつくが、今日は鍵がかかってある。

 仕方なく、もらった鍵を使い、鉄のこすれる鈍い音と共に扉を開ける。

 鍵を閉め、屋上の端を見ると今日も彼女はいた。屋上端の外側に腰かけていて、風に髪をゆるやかになびかせながら今にも落ちそうに見える。

 

「僕に内緒で転落死でもするつもり?」

 

 近づき声をかけると、彼女は身をひるがえし、端の内側へと戻る。

 その顔はいつも見ている無表情なんかではなく、気力がそげ落ちているような……。例の噂で気疲れしてるのかな。

 

「転落死は見た目が綺麗じゃないからやめておくわ」

「じゃあ、何が綺麗なんだ?」

 

「それは竜がわかるんでしょ?」

 

 愛の隣にゆっくりと腰かけ、答える。

 

「まだわからないね。……そういえば、今日は学校来るの遅かったけど、例の噂のせい?」

「今日は自殺未遂者が出たわ」

 

 彼女は僕の質問を無視し話し始める。

 

「駅のホームにやってくる電車に飛び出した若い女性がいたの。幸いというべきか、わからないけど彼女は軽傷だったの。でもね、それなりに人に迷惑がかかるものなのね。これが血が出て色々とばらばらで潰された自殺になっていたら。そういう死ぬ瞬間を見たらトラウマになる人がいる。電車は長時間止まり、仕事や学校に行けない人も大勢出る。ひとりが死ぬっていうだけで大迷惑ね」

 

 自殺への美しい幻想が少しなくなったのか、がっかりしたようにため息をつく。

 

「そんなことを考えると、ああいう自殺は綺麗になれそうになかったわ。全然ね。死んで綺麗になる、というのは死ぬ過程ではなく死んだあとが重要だと思うの。死体になったあとの姿。そしてその姿を見た人の心情。それが大事なんじゃないかって私は気付いたの。あなたも自殺では美しくなれないんじゃないかって気付いたんじゃ?」

 

 愛のほうを見ると、彼女は僕へと急接近していた。彼女の吐息を口元に感じる。そっと手を伸ばし、僕の制服の襟元を力強く掴む。

 

「気付いていたよ」

 

 すると彼女は僕の正面へ素早く回り、押し倒す。

 腰から背中が宙に浮くが僕はまだ死ぬわけにはいかず、両足で屋上の端に力を入れ踏ん張り、両手は彼女の腕を全力で掴む。

 

「私を馬鹿にしていたの?」

 

 彼女は僕の体にのしかかるようにし、だんだんと彼女の顔が僕の顔へと近づいてくる。

 体重を支えるのに怖さで手足が少し震え始める。本当に落ちそうだ。

 それでも冷静さを保っていられるのはこの状況を楽しんでいるからだ。

 彼女が僕を校舎の屋上から落とそうとするのは、彼女のプライドを傷つけたのと死ぬほど綺麗になりたいという思いが本気だと確認できたからだ。

 

「いいや、違うさ。けど君が本気なのを知って僕は嬉しいよ」

 

 笑うのも辛い態勢だけど、自然に口の端が釣り上がり笑顔になる。

 

「やっぱり美しい死は誰かによる殺し。殺人だ」

 

 そう告げると彼女は体を起こし、僕を屋上の内側へと力いっぱいに引き上げてくれた。

 その拍子にお互い、屋上へと倒れる。

 仰向けに態勢を変えると、目にうつる空の太陽がまぶしい。

 

「無理心中でもされるのかと焦ったよ」

「心中は愛する人とするものよ」

「僕たちは付き合っている関係なんだけどね」

 

 今頃になって冷や汗が出てきたのを同じく隣に倒れているいる彼女がハンカチで拭ってくれる。

 少しの沈黙のあと、彼女は静かに言う。

 

「こんなことをしてしまったけど、それでも竜は私に付き合ってくれるの? 私が綺麗になる方法について」

「付き合うよ」

「どうして」

「君に対する感情が抑えられないから」

「恋愛感情?」

「違う。君を殺したあとの美しい姿が見たいから」

 

 その瞬間、僕と愛は一緒に小さく笑う。

 

「私たち、狂ってる?」

「他の人から見ればね、僕たちは」

「ふふ、じゃあ殺してくれるまでよろしくね、竜」

「ああ、殺すまでよろしく、愛」

 

 お互い、死んで殺す覚悟を確認した僕たち。

 僕が彼女を殺す日は近くなった。 



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3.他殺思考

 週をまたぎ、月曜日となった。

 美人の三浦愛と平凡な僕、伊藤竜は恋人関係として付き合っている。

 だけれど僕たちはお互い、家の電話番号さえも知らないことに休日になってから気づいた。

 住所も知らないし、彼女の電話番号を知っていそうな知人もいない。

 彼女、三浦愛とは連絡を取ろうにも取れなくて当然なはずだ。

 重さを感じそうな曇り空の下、校門で彼女は無表情な顔で僕を待っていた。

 

「調べた?」

 

 きっと殺人のことだろう。休みのあいだ、僕は参考になりそうな本や映画を見ていた。それとどこが殺しの似合う場所か。

 そう考えると気分が高揚していたのを思い出すがそれを抑えていう。

「ちゃんと調べていたよ」

 

 ぶっきらぼうに言うと彼女は不機嫌そうに頷き、僕と一緒に教室へと向かって歩いて行く。

 天気が悪いせいかはわからないけど、彼女の気分はどうやらよくないみたいだ。

 授業の合間に女友達と会話しているけど、なにか輝きを感じられない。

 ……まぁ、誰にだって調子の良い悪いときはあるものか。

 

「なぁ、お前ら本当に付き合っている?」

 

 彼女の後ろ姿をぼーっと見ていた僕に鈴木が横からつまんなさげに声をかけてくる。

 

「付き合っているよ」

 

 ただし、恋愛感情としてでなければと注意書きが入るけど。

 僕と彼女の関係は、ただ綺麗に死ぬこと。それが目的の付き合いだ。どちらも愛情なんてものはない。

 

「そうは見えないけど、竜が三浦愛と付き合い始めてから気力が張ってきたからそうなんだろうな」

「気力が張ってきた?」

 

「そう。今までのやる気は三浦愛のおかげで出てきたんだろ?」

 

 にやにやと笑って僕を小突いてくる。

 

「まぁ、うん、そうなんだろうなぁ……」

 

 三浦愛を殺すために日々張り切っているなんて言えない。頭がおかしい奴認定どころか、冗談で言っただけでも三浦愛ファンの人から恨まれてしまう。

 

「しかし、なんで三浦愛は竜と付き合っているんだろうなぁ。あ、いや。その単純に不思議に思っただけだからな?」

「わかってるよ。付き合う理由はおもしろおかしく想像してくれ」

 

 本当の理由を知ったら、教師に説教どころか親に精神科行きを進められるかもしれない。

 

 

 クラスメイトたちに追われた日以来、昼休みの時間に鍵がかかっている屋上へと今日もやってくる。

 鍵がかかった扉を開けると彼女は、人ひとりぶんぐらいの長さのあるバスタオル敷いてその上に倒れている。見ている先は黒っぽい色の曇り空。

 その何かを諦めているような表情を僕は見ると気分が高揚する。

 彼女を殺してみたい、と。

 けれど、本当にそんな感情がある? 間違いはない? 誰かに植えつけられたわけでもなく自分自身の感情?

 そんな疑問が僕の心をひやりとさせる。

 

「来るなら早く来てよ。あ、きちんと鍵を閉めてね」

 

 こちらを見もせず、抑揚のない声で言った。

 僕は扉の鍵を閉め、彼女の隣に腰を下ろす。

 

「何か見えたりする?」

「低く狭い空。気分が鬱々としてしまうわ」

 

 彼女と同じく重そうな曇り空を見上げる。

 

「青い空ばかりよりもこういう天気があってもいいと思うけどね」

「私は澄み切った青い空が好きだわ。特に雨上がりなんてとても綺麗よ」

「結局は雨が降りそうな雲も好きってことになるんじゃ?」

「それとは別よ。……虹をバックに刺殺?」

 

 殺人方法を軽い口調で言ってきた。

 僕は考えてきた方法を彼女に返す。

 

「窒息死で死んだ愛がウェディングドレスを着て、椅子の上に座って口のなかいっぱいに花、そして周りにも同じ花が散らばっている」

「昔、ドラマでそんなのがあったわね」

「四肢と頭を切断。綺麗に血を拭き取り、流れ出ない状態。裸で」

「それはただ不気味だけじゃないの?」

「じゃあ、まわりに何かの花を思い切り散らす」

「それでもうまく想像できないわ」

「桜の花をまき散らしたことがあるくせに」

 

 そういうと彼女は勢いよく起き上がると僕に文句を言う。

 

「あれは茶道部の部長が美についてわかってなかったからよ! わび・さびだなんて今の若い人に合わないわ。何事も美しくあるべきよ」

「ずいぶんと綺麗なものにこだわっているんだね」

「綺麗なものは誰だって目をひきつけられるからよ」

 

 確かにそうだけど、それは一瞬とか短いあいだだけであって、長いあいだは目を引き付けられないかと思う。

 例えば、恋愛にしても美形や美少女とつきあうよりも平凡な人のほうが楽しくて長続きすると、ストーカー好きの鈴木も言っていたし。

 

「それにしてもこんな私と付き合ってくれる竜は本当に優しいね」

「お互いの利害が一致しているからいるだけだよ」

「それでも私の話をしっかり聞いてくれるのは竜だけよ」

 

 彼女は今まで見たことのない寂しげな表情で言ったかと思うと、ころっと自信に満ちた表情に変わる。

 

「でね、私が思う美しい死というのは表情も大事なのよ。私が苦しい表情をしたのは良くないわ。だから竜が……」

 

 僕が愛を毒殺していかに花や植物、光を使って殺してもらうかの愛の話を聞き、第一回他殺相談会は終了した。

 

 

 翌日の火曜日は、しとしとと雨が降る朝だった。

 僕は自転車をやめ、普段からカバンに入っている折りたたみ傘を使って、しばらくぶりの電車に乗り学校へと向かう。

 雲を見ているよりも雨のほうが鬱々とした気分になる。

 教室につき、中はいつもより静かな雰囲気。

 雨はあまりいい気分になれない。

 今日の天気予報では明日からずっと雨。梅雨の時期が本格到来といったところ。

 愛のほうはと機嫌がいい。昨日は雨が降りそうな曇り空は嫌っていたのに雨はいいのか。

 上機嫌で一日を過ごした愛と、不機嫌で過ごした僕。

 ホームルームが終わり、放課後会議の時間がやってきたが外は雨。

 屋上はもちろん雨が落ちてきて、雨よけになるような場所なんてない。

 今日も会議をするんだろうかと、愛のほうをうかがうと彼女は小さく頷く。

 僕はため息をつき、折りたたみ傘を持つと教室の外で待っていた彼女と一緒に屋上へ行き、傘を差す。

 

「冷たい雨だ」

「雨の色、音、それに続く空気。雨はいいわね。汚いのを流してくれるって思うわ」

「ずいぶんと深い理由がありそうなことを言うね?」

「聞きたい?」

 

 彼女がにんまりと誘うような笑みをする。

 その不気味さを一瞬感じて怯えるが、好奇心に負けて頷く。

 

「私、人に愛されたかったの。それで考えてね、そのためには死ぬしかないかなぁって思って」

 

 愛されたいのに死ぬ? 彼女は充分周りの人に愛されているのでは? 恋愛感情もいろんな人に持たれているし。

 僕が考えている表情を見て彼女は寂しげに首を振る。

 

「違うわ。そういうのじゃないの。彼らは私の中を知らないわ。外だけよ。美しくなろうとして、美しくなった蝶の私に群がるだけ。美しくなったから、その中身も見て欲しいのに誰も考えてはくれないし」

「親友や親がいるじゃないか。それに親はいつだって子供のことを心配す――」

 

 言いかけた言葉は彼女が拳で軽く腹を叩いてきたことで中断する。

 

「親といっても人よ。親友もそう。人は常に自分のことしか考えないわ。どうやったら自分に都合よくなるか、利益を得るか、損をかぶらないか。……子供のことなんてどうでもいい親ってのも結構いるものよ」

「うちの親や親友とはずいぶん違うね」

「私の親はそうよ。授業参観も運動会もどんなときでも私を見てくれない。成績がよくなっても美人になってもダメ。高校で何か変わるかと思ったけど、期待した分激しく落ち込んだわ」

 

 彼女がため息を大きくついて、沈黙が流れる。

 

「自分っていったいどういうものかしらね。……帰りましょうか」

 

 気分が落ち込んだ愛は僕を置いていなくなり、他殺相談会は開かれず玄関へと向かって帰ることになる。

 帰る前に、と彼女が教室へ寄って行こうと僕を誘って暗く誰ひとりいない教室へと入っていく。

 彼女は自分の椅子へと座り、机の中に手を入れると手紙が一通入っていた。

 

「ラブレター?」

 

 彼女は手紙の中身を見ると小さくため息をつく。

 

「私には彼氏がいるはずなんだけど」

「僕たちは仮の恋人関係だけどね」

「返事は書かないの?」

「……そうね。書いておこうかしら」

 

 カバンから可愛らしい便せんを出して、こちらを見る。

 

「何?」

「見ないでくれる?」

 

 言われて僕は自分の席へと行き、カバンを置いて彼女の後ろ姿を眺める。

 あまりにも暗く書きづらいだろうと思い、部屋の照明をつけに行き、その帰りに呼び止められる。

 

「できたわ」

「早いね」

 

 可愛らしい便せんを渡してくるので、とりあえず受け取る。鈴木にでも渡せと?

 

「鈴木宛てか?」

「見て」

「いいのかよ、僕が見て」

「あなただからいいのよ」

 

 疑問に思いつつも封を切り、手紙を取り出す。

 中に書いてあった文章は、

『私、三浦愛は伊藤竜のことが大好きです』

 と、それだけが書いてあった。

 顔を上げ彼女を見ると、両腕が僕の首に回され、彼女の顔が目をつむり近づいてくる。

 

「好きよ」

 

 僕は驚きに目を見開いたまま、されるがままになる。

 唇と唇がそっと軽く重なりあう。

 その瞬間、僕はその行動が嫌になって彼女を突き放す。

 

「私を受けれてくれないのかしら?」

「いや、だって僕たちは……」

「恋人でしょう? これで本当の。あなたの気持ちはどうなのかしら?」

 

 彼女は本当に満足げに微笑むが、僕にはそれがとてもとても怖い。

 なぜだろう。

 殺される?

 いや、殺す役は僕だろう。殺されるわけがない。

 じゃあ、何が怖い。何が怖いんだ。

 

「どうしたの、竜。私をどんなときも見てくれたのは竜、あなただけなのよ?」

 

 落ち着いた言葉が表情が妙に怖く、慌てて席へ戻りカバンを取り、急いで教室を出る。

 今は、彼女の言葉をこれ以上聞きたくない。これ以上聞くとやっかいなことになる!

 学校を出て、傘を差しながら走って駅へと着いたころにはもう制服が濡れていた。

 電車が来るまであと14分。

 彼女が追いかけてきそうで怖い。いや、彼女も電車を使って帰るから会ってしまうだろう。

 落ち着け。別になんとも怖くない。

 ただ、好きと言われただけだ。俺が殺そうとし、死にたいと願った彼女、三浦愛から。

 電車が来るまで悩んでいるあいだ、彼女は来なかった。

 ホームに電車が入ってくると急いで乗り込むが、ひんやりとする視線を感じて振り返る。

 そこには肩で荒い息をつき、雨に濡れた三浦愛がいた。

 

「また明日ね」

 

 愛が微笑んでそういうと、電車のドアが閉まる。

 いつの日か言った冗談を思い出す。

『無理心中でもされるのかと焦ったよ』『心中は愛する人とするものよ』

 心中というのも、ひとつの死に方として美しい形だと言うのを知っている。

 ……僕は彼女と心中してしまうのだろうか。  




若干のヤンデレ要素。


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4.恋愛心中

 水曜日。

 昨日とは変わって雨はやんだが、黒い雲が重く感じる。

 空と同じように僕の気持ちも重い。

 僕に好きだと告白し、キスをしてきた愛。彼女は『また明日』と告げて僕と別れた。

 正直、今日は彼女に会いたくない。

 僕は何をしたかったんだ。彼女を見て、殺したいと思ったはずだ。

 それが今では殺される側。いや、そうじゃなく一緒に死ぬ側になっているはず。

 心中。それは共に愛するものが一緒に死ぬ、ひとつの方法。

 『人は、生きている一生のうちに一人だけ、一人だけ人を殺すことが許されているんだ』

 じいちゃんに言われ、僕が彼女に言った言葉。

 彼女が心中を考えているとすれば、まさしくこの言葉が見事に合うだろう。心中のための言葉と言ってもいいかもしれない。

 違う。何か違う。

 彼女が僕と心中しようとするかもしれないし、死んででも綺麗になることを諦めて、もしかしたら普通の女の子になりたがっているのかも。

 僕は暗い気持ちで自転車を漕ぎ、学校へと行った。

 

 教室に行くと愛がクラスメイトの皆の前で挨拶をし、僕の名前を呼んだ。

 そして、今日の天気や授業がどうとかの明るい話を振ってくる。

 昨日の不気味さを感じる愛とはまったく違う。むしろ、好感を受ける。

 愛は僕の腕を取って、僕の席へと一緒に行き、会話をする。

 彼女は恋愛をして普通の女の子に目覚めた?

 死んででも綺麗になりたがってた愛が、自分がここにいたという証拠が欲しくて親に見捨てられたと言っていた愛が。

 さっきから挨拶も何の反応もしない僕を不思議がる愛。

 

「どうしたの?」

 

 言葉も僕と会話する普段通りになっている。

 

「別になんでも」

「キスをした間柄なんだから恥ずかしがらなくてもいいのに」

 

 恥ずかしそうに照れると教室が驚きにわめき立つ。

 普段の上品な言葉が砕けた言葉に変わっているのも情愛の証。

 色々な人に僕たちが恋人同士という関係を見せつけているってことは……。

 

「三浦さん、大胆になったねぇ。恋は女を変えるってか!」

 

 思考の途中に、鈴木が大笑いしつつ強く背中を叩いてきた。

 恋は女を良い方向に変えるだけじゃないとも思えるけど。

 先生が来るまで、愛は僕にべったりと張り付いていた。

 

 

 昼休みになり、あまりにもべたついてくる愛に恐怖を感じ、鈴木を連れて逃げようとするがそれよりも早く三浦愛が僕の席へとやってくる。

 可愛らしい弁当箱ひとつと、僕用のだろう大きな弁当箱がひとつ。合計ふたつを持ってやってきた。

 

「一緒に食べよ」

 

 僕の机にふたつを置くと、にっこりと笑顔で言ってくる。それは僕が一度も見たことのない笑顔で。

 周りの嫉妬と鈴木から見放されたこともあっておとなしくその弁当を食べることにした。

 

「それ、手作り弁当?」

「そうよ。うちの親たちは何もしないからね。これ、全部作ったのよ。偉いでしょ」

 

 と、また明るい笑顔。いったい今日はなんなんだ。

 

「愛、ちょっと」

「あら、やっとクラスでも名前で呼んでくれるようになったのね」

 

 僕は愛の手を強く掴み、屋上へと連れていく。誰も来ないようにしっかりと扉に鍵をかけて。

 

「いきなり、何のつもり」

「彼氏彼女がああいうことやって悪いの?」

 

 戸惑う愛。でも、その表情は嘘だ。彼女は別なことを狙っている。

 

「悪くはないけど、愛。君の行動は急ぎすぎてないか? 時間に追われているような」

「別に急いでないわ。今までやっていなかったことを、恋人気分というのを知りたかっただけよ」

 

 言葉に違和感を感じる。恋人気分を知りたかった? 今までそれが必要なかったのに?

 

「でももう最低限の準備は整ったかしら。私たちの愛情は学校の人々の間に知られ、死ぬ過程も結果も綺麗なものに。死ねば親もメディアも日本中の人々も知る。私がここにいたということとわずかでも知ってもらえる。覚えてもらえる」

「愛、君の目的は前に言っていた世界に自分いた証拠を残したい、と確かにそう言っていたけど本当にそうなのか?」

 

 愛はくすり、と笑う。

 

「今だから言うけど少し違うわ。私がいた証拠を残したいのは本当よ。そして、両親に反抗したいのよ。私を愛せず、見てくれず、ケンカばかりしているあの二人に! 愛と名付けられたのに愛されない私は! 私は、綺麗になって、死んでこそ親に振り向かれる。いえ、振り向かせるのよ!」

 

 一息に言った愛は恍惚とした表情をし、僕の手を掴む。

 

「僕と一緒に死んでしまおうと?」

「人は生きている一生のうちに一人だけ人を殺すことが許されているんだ。……竜が言ったのよ。おじいさんからそう言われたって。それを実行すべき時じゃないかしら?」

 

 確かにそう言った。けれど、心中しろとそういう意味ではないはずだ。

 彼女は僕の耳元に唇を近付け、かすれるような小さな声でいう

 

「一緒に死んで。美しい死のために」

 

 僕の目的は彼女を美しく殺すこと。その点では彼女と死ぬことが美しいかもしれない。

 けれど、僕が死ぬ理由はなんだ。彼女が死ぬ瞬間を最後まで見れて満足するから?

 違う。何かが違う。

 彼女が二枚のハンカチを使って僕の右手首と彼女の左手首にハンカチが結ばれた。一緒に落ちるためだろう。

 このままでいいのか? なにか彼女に言ってやることがあるんじゃないか? 死んでいいのか? 

 僕は愛に連れられて端へと立ち、横に並び立つ。眼下に見える光景は、学生たちが歩きながら楽しげに会話をしている。

 まだ昼休みなため、賑わっている声が聞こえる。

 こんな状況下で落ちて死んだら、それも心中ときたらとても大きな騒ぎになる。

 生徒も先生にも記憶は残る。トラウマになるかもしれない。美しい死とは、過程でも死体の状況でもなく、人々の記憶に残る愛情による死。

 僕と愛の心中による、死。

「心中って綺麗かな」

「綺麗よ。愛情で死ぬのは」

「今日は曇り空。晴れた日や夕焼けのほうが綺麗だと思うけど」

 

 僕の反論に息を詰まらせる愛。

 

「愛の告白の翌日だからよ。お互いに両想いでしょう? 素敵だわ」

「僕は一度も愛のことを好きだと言ってないけど」

 

 愛が僕をきつい目で見てくるが、それに対しまっすぐに視線を返す。

 

「屋上で最初に会ったときに言ったじゃない。『君を僕の望むところに連れて行きたい』と。それを私は告白と受け取って!」

「でも僕は言った。『恋愛の告白じゃないけどね』とそう言った。そして心中なんてのは僕が望む死に方じゃない。なにをそんなに死に急いでいるんだ?」

「私は別に……いえ、急いでいるわ。とってもね。親が離婚届けを明日の水曜に出すのよ」

「それは悲しいことだけど」

「私にはそれ以上に! 親への復讐よ! 新しい生活をしようとするのが許せない! 私に黙ってよ!?」

 

 僕の言葉をさえぎり、叫ぶように言い放つ。

 屋上の下から、慌てるような声が聞こえてくる。僕と彼女が落ちそうだという声と野次馬の姿が見える。

 

「見てよ、竜。今なら皆の記憶に残るわ。愛した者の死を。それを記憶に残し人に伝えるわ。正確に伝わらなさそうなのが唯一残念だけど。誰もが愛情のために死んだ。そう思うわ。それは今の私にとってとても素敵なことよ」

「僕には素敵には思えない。僕には今の愛は殺したくなるような感情がこない。今の愛は……ダメだ」

 

 冷たく、平坦な声で言うと彼女は首を小さく振る。

 

「竜、私と死んでくれないの?」

「僕は死ねない」

「これが最高の綺麗な死に方だと私は……」

「そんな死は望まない」

「私は望む!」

 

 体を前に傾け、ふわりと落ちていこうとする愛の体。

 それを僕は愛の手首を掴み、後ろへと下がる。

 瞬間、愛の体が視界から消えると同時に重みが右手首に伝わり、一緒に落ちそうになるが足を踏んばり、歯を食いしばり左手で端を力強く掴んで耐える。

 そうすると下のざわめきがいっそう大きくなった。

 

「どうして? どうして死んでくれないの!? 私を殺したいんでしょ! なら、一緒に最後まで愛情のために付き合って死ぬというのが綺麗でしょう!?」

「僕は君を愛してはいない! 愛は、ただ愛情が欲しいだけでこんなことをしているんだろ!」

「こんなことってなによ。私にとってこんなことじゃないのよ!」

 

 次第に右手が痺れはじめ、踏ん張る足も震え始めてくる。

 

「こんな偽りの愛、君の名前にもある愛。こんな愛情の死でいいのか? 嫌だろう!」

「これでいいのよ、私にはもうこれしか!」

「なら、僕が愛してやるよ、本当にな! 俺の望む愛を!」

「竜の望む愛……?」

「言ってやるから両手で手を掴んでくれ、こっちまで落ちる! 話を聞いて嫌だったらまた落ちればいいだろう!」

「嫌よ、そんなのはもう綺麗でもなんでもない!」

「なら僕がより綺麗にしてやるからあがってこい!」

 

 右手に彼女の両手が重なる感触がする。僕はなんとしても彼女を引き上げるために力を振り絞る。

 彼女のほうからも僕の両手を掴んでくる。そして、彼女は屋上へと無事戻り、僕と彼女は屋上で重なるように倒れて荒い息をつく。

 それからすぐに、屋上の扉を開けようとする音が聞こえてくる。

 

「ねぇ」

 

 愛は僕の体の上に乗ったまま、すぐ近くまで顔が近づいていた。

 

「竜の望む死は、愛はなに?」

「老衰」

 僕がとびっきりの笑顔で言うと、彼女の間の抜けた顔が見れた。

 

 

「私、やっぱり死ぬわ」

 

 愛は呆れた顔を引き締めて立ちあがろうとするも、僕は体を押さえて続けて言う。

 

「まだ続きがある。僕は儚げで危なげで気が強い女の子。僕は愛を、愛することができる」

 

 彼女の動きが止まり、じっと僕を見つめてくる。

 

「それは……本気?」

 

 僕はいつかの彼女がやったように目をつむり、軽く唇に口づけをしようとしたが愛は僕の頭を抑えてくる。

 せっかくキスをしようとしたのに止められるのは結構ショックが大きいのを理解し、目を開ける。

 

「それで私の綺麗な死はどうやって?」

「『僕と結婚して、一緒に死んでください』ってじいちゃんは言ってたよ。今思い出したんだけどね。最後の一瞬まで生きている瞬間を見届けるのがその人の綺麗な死に方。僕が愛して殺していい人のこと。 それが『人は、生きている一生のうちに一人だけ人を殺すことが許されているんだ』という言葉の答えなんだよ」

「なにそれ」

 

 一瞬の沈黙のあと、軽く笑いあう僕たち。

 

「本当に私を愛してくれる?」

「ああ。好きだよ、愛」

「私は屋上で会ったときから好きだったのよ、竜」

 その時、屋上の扉が勢いよく開かれ先生たちがなだれこんできた。

 

 

 あれから僕たちは両方の親を呼び出され、先生たちと仲悪く面談をした。僕たちは終始無言のまま先生たちの説教で終わり、二人仲よく一カ月の停学処分となった。

 彼女の両親は結局離婚されたけど、母親と一緒に暮らすことになった愛は母親に無視されず、ぎこちなくはあるけど親の愛情をもらえるようになった。

 僕のほうはというと、父親にこっぴどく殴られたあと、泣いてくれた。親に愛されていると感じる瞬間。彼女もこういう愛情を味わえているだろうか。

 こうしてお互いに親の愛情を感じ、一カ月ぶりに学校の屋上で再び会う僕たち。

 僕は初めて会ったときに言った言葉のひとつを思い出し彼女に言う。

 

「君を僕の望むところに連れていきたい」

 

 彼女は愛の告白とも受け取れる僕の言葉を聞いて、微笑んだ。

 

「なら、連れて行ってください。竜が望む場所へ」

 

 僕たちはお互い目をつむり、そっと唇に軽くキスをした。

 ごく平凡で男らしくない僕、伊藤竜。

 皆の人気もので美しい彼女、三浦愛。

 僕たちは死ぬまでの恋愛関係になったのだ。



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