転生した時の特典がおあつらえ向きだったんだけど (けし)
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転生





 

 

 

 

 

ーーーーーん?

 

 

 

 

ーーーここは…どこ…だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっと気付きおったか。もしかしてやっちまったかと思ったわい』

 

 

 

 

 

ーーーーー誰だよ。

 

 

 

 

 

 

 

『神じゃ。まあ、正確にはオーディンと言ったほうがわかるかの?お主たしか神話には少々詳しかったはずじゃな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーオーディン?…と言うと、北欧神話の神の?全知の力を自らの眼と引き換えに得たっていうあの。

 

 

 

 

 

 

『その通りじゃ。さて、今お主は《どこだここは?何でこんなとこに?何で目の前にオーディンが?》とかいうことを考えとるじゃろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー言うまでもなく。分かってんならさっさと説明はよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『まあそう急かすでない。まずは1つ言っておこう。ここは神の世界。天国ともいうがの。ここにきたと言うことはどう言うことかもうわかるじゃろ?』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーつまりは、死んだということっすか。

 

 

 

 

 

 

 

『うむ。死因は…事故死というとこかの。テンプレじゃのお』

 

 

 

 

 

ーーーーーうるせえ。で、俺はどうなるんだよ。

 

 

 

 

 

『《転生》してもらう。転生先とオマケの特典のいくつかはほとんど決まっておるが、1つ特典を決めてもよいぞ。因みにすでに決まっているのは、高度情報解析能力、わかりやすく言えば一方通行(アクセラレータ)とほぼ同じじゃな。あとは人外のような身体。これには五感や第六感、身体能力や生命力といったものも含まれる。さて、あと1つ何か好きなものを決めるとよい』

 

 

 

 

 

ーーーーーそうだな……俺が今の今まで読んでいたやつだったら……。そうだ、【全反撃(フルカウンター)】。できるなら物理・魔法関係なく弾き飛ばせて勿論応用が利く形で。可能なら一方通行(アクセラレータ)みたいな感じにしたい。

 

 

 

 

『ふむ……、よかろう。ただし一方通行(アクセラレータ)のようにといっても、膜にしても打ち消すだけで、跳ね返したあとの操作はできない、つまりは反射角度の操作のみにしておく。』

 

 

 

 

 

 

ーーーーー構わない。めんどくさい注文して悪かったな。

 

 

 

 

 

 

『構わんよ。ーーーそろそろじゃな。もう会うことはないと思うが、まあ頑張ってくるとよい。特典でそうそう死ぬことはなかろうて」

 

 

 

 

 

ーーーーーああ。行ってくる。ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、1人の人間が転生を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ついでになんかオマケつけとこ。言うの忘れたわい。まあなんとかなるじゃろ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生を果たしてから十数年。転生した男ーーー黒崎真一(くろさきしんいち)ーーーは、風谷 碧(かぜたにみどり)と名前を変え過ごしていた。特典のおかげで、生活にはあまり苦労せずに、順風満帆といえばそれなりにすごしており、前世で恵まれているとはあまり言い難い生活をした碧にとっては、十分以上に満足した生活だった。仕事でほとんど家に親がいない為に、ほとんど一人暮らし同然だったが。

転生して、歩けるようになり、ほぼ完璧に他者との意思疎通ができるようになってからは、この世界の情報をあつめた。長い間集めてきた結果、数年前にこの世界が何の世界かを知ったのだ。あ、因みに現在、碧は現在15歳な。東京都在住なう。

 

 

 

(この世界は……『ソードアート・オンライン』とは、神さんには恐れ入ったよ、ったく。特典がおあつらえ向きすぎじゃねえか?)

 

 

 

そう、この世界はソードアート・オンラインの世界。前世ではある程度であるが読んでいたがそれもたしかALO(アルヴヘイム・オンライン)までだった…はず。ゲーム内にまで特典が効果が及ぶなら特典様々だが。この世界に転生したからにはどうせSAOはやることになるだろうし、なるようになるだろ。とか考えながら日常を過ごしていた。

 

 

「それにしても、俺のいた時代と3年くらいしか変わんねーのになぁ。何をどうしたらこんなハイテクになるのやら」

 

「なにがハイテクになるって?」

 

「おっと、いきなり声かけんなよ。おれ小心者だからさー、心臓飛び出すかと思「何言ってんのよ」……(・ω・)」

 

「お化け屋敷を笑顔で通っていくのは、私の知る限り貴方くらいよ」

 

 

今碧と話しているのは朝田詩乃という女の子。彼女は実は転校生(中学生)だが、ある事件をきっかけに碧と親しくなっている。ここで、碧の周囲のことに触れておくと、碧は特典のおかげで成績優秀、運動神経抜群、さらに神のおまけかなんかしらんけど容姿端麗(無気力系のサッパリ型イケメン。色白)。うらやまsゲフンゲフン……、だから、女子からの人気が結構高い。本人はあまり興味ないのだけれどバレンタインは下駄箱にチョコがたくさん入っているのはお約束で、一部の男子から敵視されている。あと、護身術用にと剣術を我流で学んでいる。

 

「そういや、もう直ぐSAOの発売日だよな。いやー10,000本しかないから諦めてたんだけど当たるとは、考えもしなかった。俺の運は仕事しないからな」

 

「碧って変な言い回しするわよね。ところで、そのゲームって面白いの?スレでも噂になってるけど」

 

「さあな。やってみてのお楽しみってやつかな」

 

「相変わらず適当ね。ま、そこが貴方らしいといえばそうなのだけど」

 

「その通り!」

 

「便乗しない(ドガッ)「うっ」…調子にのると直ぐこうなるんだから」

 

こうして碧は充実(?)した高校生活を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAOの正式サービス開始の日。13時開始だったので、それまで何をやっていたかというと、

 

 

「身体は問題なし、剣の腕もオーケーっと。うし、準備完了。ゴミ捨てやって、掃除して、家片付けて、鍵かけてと。抜かりなしだなよし。一応今日を見越して冷蔵庫のものは使い切ったから電源切ってもよし、家のあらゆる電化製品は電源オフって、エアコンは…まぁ切っとこう。そういやSAOの中で特典使えるなら、()()()があってほしいよなぁ。たぶん無い物ねだりだろうけど。」

 

原作知識から今日この日がSAOと言う名のデスゲームが始まるのを知っていた碧は、自分がいない間の節約のためにあらゆる電化製品を切り、掃除してた。ケチ…なのか?まぁいいや。とりあえず確認できる限りやることはやった碧は、横になってナーヴギアを被り、SAOを起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンク・スタート!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





主人公はシノンの過去を知った上でこう言う付き合いをしてます。

一応ヒロインだし。


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ソードアート・オンライン編
ジョブ決定、パーティ結成



なんかこっちの方が書いててしっくりくる気がする。

気のせいではない、うん。






【Welcome to Sowrd Art Online】

 

 

 

「ここが………アインクラッド第一層…【はじまりの街】…」

 

 

前世ではこの世界で冒険する事を幾度となく想像していた碧は、実際目の当たりにした光景に心を打たれていた。足元に生える草花、頭上の太陽と雲、自らが吸っている空気、目の前を流れる川、これらが全て仮想の物とは思えないクオリティで存在している。碧のアバターは灰色のショートヘアに碧眼、全体的に中性的なイメージを持っている。プレイヤーネームは『カエデ』。何気なく名付けた名前だったが、アバターを見てから考えてみると前世で遊んだゲームのキャラクターに似ていらような気がしてならない。碧はそんな事を考えていた。

 

「………今はともかく、仲間を作らないと。フレンドを何人か作っておきたいけどなぁ」

 

原作知識があるとは言え、一方的に知っているだけのまったく面識の無い相手にいきなり名前で呼ばれたら警戒されるのは自明の理。とりあえず、近くをレベリングついでに散策していくことにしたのだった。

 

そうしているうちに、2人の人物に出会った。『キリト』と『クライン』を名乗るその2人は、カエデが何よりも望んでいた出会いだった。この機を逃すまいと決めたカエデは2人とフレンド登録し、ベータテスターであるキリトから、この世界最大の特徴である【ソードスキル】に関する手解きを受けていた。その結果、来たばかりと比べて格段にスキルの扱いが上達した。そしてクラインがログアウトボタンが無いことに気づいたその瞬間、3人の身体は光に包まれ、転移した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まった……か」

 

デスゲーム開始宣言。GM(ゲームマスター)たる茅場晶彦の手によりプレイヤー10,000人の自発的ログアウトは不可能となり、この仮想世界アインクラッドに閉じ込められた。クリアには100層に到達し、このゲームをクリアすることが必須。全てを知っていたカエデは大したパニックを起こさなかったが、周りの人々は大変なパニックを起こしていた。カエデはその後キリトやクラインと別れ、はじまりの街を散策していた。レベリングも必要だが、今のカエデはそれよりも優先されるべき大事な事をしているようだった。

 

「はじまりの街にある…かな?」

 

何かを探していたカエデはふと裏路地に構えていたとある店に入った。そこは何の変哲も無い道具屋だったのだが、カエデの勘がなにかを感じた。そこでカエデはダメ元である言葉を店主に向け言った。

 

「ここに……武器はおいてあるか」

 

「武器…か。無いこともないが、いいのかい?」

 

店主の口振りから察するにただの武器ではない事をカエデは悟った。だが聞かずにはいられなかった。

 

「この武器は未だ誰にも扱えない剣だ。売れない剣なんて置いておくのももうイヤなんだ。君に売るのは構わないがこれの返品は受け付けないよ。それでもいいかい」

 

一体どのような剣だというのか。期待が膨らむカエデ。それが、今の自分が望む剣なのなら、彼は喜んで買うだろう。

 

「片手片刃の短剣、『ロストヴェイン』。これでいいのかい?」

 

「!?……ああ。これをくれ。俺には必要な剣だ」

 

「値段は300コルだ。僕としては買ってくれるだけでも満足だからね」

 

「分かった」

 

店主に300コルを支払い、片手剣【ロストヴェイン】を手に入れる。この剣こそ、カエデが欲していた剣だった。実はカエデははじまりの街の広場で、特典【全反撃(フルカウンター)】がこの世界においてユニークスキルに分類されているのを知った。GMの制御さえも受け付けないと思われる力。それを完璧に扱うにはこの剣が必要だったのだ。前世の知識から、彼はこの武器の特性を知っている。故に、扱いには困らない。流石に第一層で手に入るとは考えていなかったようだが。

 

「これで俺のジョブ(戦闘方法)が決まったな。【盾なし片手剣士】ってとこか。二刀流使う前のキリトと同じようなスタイルだな」

 

アイテム《手鏡》によって現実の容姿となった自らの髪を弄りつつ、急ぎレベリングへ向かったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に第一層攻略の日がやって来た。この日まで休む事なくレベリングし続けたカエデのレベルは現在15。周囲のプレイヤーとは大きな差が出来ていた。今日は攻略会議があるという。それに行くためカエデは街を歩き、目的地ーー古い劇場のようだーーに到着すると、キリトの顔を見つけ、彼の隣に座った。

 

「会議、どうなったんだキリト。めんどいことにはなってないよな?」

 

「はは…それがだな....」

 

ベータテスターを恨むキバオウと名乗るプレイヤーが、ベータテスターに対し謝罪等諸々を要求したという。まあベータテスターでないカエデには関係のない話なのだが、当のキリト本人はベータテスターの中でもトップクラスの実力者だ。だからか、キバオウの言葉が気になっているらしい。その場はエギルと名乗る大柄な斧使いによって収められたのだが、小さな軋轢が早くも生まれてしまったことに憂いを感じているようだった。

 

「ふーん、そいつはこの世界には適応できんのかね。ま、なんとかなるだろ。ところでよ、お前何やってんの?他はみんなパーティつくっちゃってるけど?」

 

「い、いや〜あぶれちゃってー...orz。カエデがここに居るってことはお前も参加するんだろ?パーティ組もうぜ!!」

「そいつはいいんだけどよ、ほかにはいねーのか?流石に2人でパーティは悲しすぎると思うんだ」

 

「そうはいってもなぁ」

 

あたりを見る限り、カエデ達のようにあぶれた人はおらずパーティが出来上がっていたが、キリトが1人、フードを被ったプレイヤーを見つけた。

 

「あいつはどうだ?見た所細剣使いのようだけど」

 

「お前がいいってえなら構わねえよ」

 

「そいつはどうも」

 

とりあえず、ここはこいつに任せよう。あいつの妻(確定)だし。少ーしボーッとしてると話がまとまったようだった。キリトは親指を立てて言うことには、

 

「うまくいったゼ☆」

「キモっ」

 

「「…………」」

 

微妙な空気が流れたのは言うまでもない。

 

 

 

 






感想こいっ!よろしくお願いしますっ!


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攻略への一歩

お気に入り登録が増えています!ありがとうございます!

こっちの方を先に進めてます。なんかノってるので。

『どんどん描きたい!!』的なアレですね( ̄Д ̄)ノ

次回の話をどうしようか検討中です。具体的にはこのまま進めるか、現実世界の話(シノンさんや碧くんの状況とか)を書くかです。

さてどちらがいいですか!?ご意見をお聞かせ下さい!


 

その後はディアベルと名乗る剣士がリーダーとして話し合いをまとめ解散した。曰く「明日は朝9時にここに集合だ!」とのこと。その後やることがなかったカエデはとりあえずキリトと宿に戻ろうとしたのだが、

 

「悪いカエデ、俺どうしてもあの子が心配だから少し探してみるよ」

「あの子って、フードの女の子のことか?名前は確か…」

 

「アスナ。無茶してそうだったからなぁ」

 

「お前が言うか」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぜカエデ。お前のレベル見たけどなんだよ15って。無茶しすぎだろ」

 

「しゃーないじゃんよ。何もやることがなかったんだからさ。娯楽があればいいんだがな」

 

仮想世界に娯楽などがあるのか。それは知らんけど。キリトはアスナを探しに駆け出しカエデは宿に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう」

 

宿に戻ったカエデはベッドに座り自らが手に入れた剣を眺めていた。

 

カエデが手に入れた剣【ロストヴェイン】。刀身に龍の意匠と5つの穴を持つ片手短剣だ。前世の知識でこれの扱い方を知るカエデにとって、自らの力に相性が抜群すぎる剣だった。

この剣が持つ力は『実像分身生成』。つまりは影分身を最大4体作り出し、自分を含めた計5人での行動が出来るということだ。分身体のスペックは分身の数に反比例するが、それはレベルやこの世界でパラメータ化されたもののみで、その他の部分ーーー例えば五感の鋭さや反射神経ーーーは本体と同じ。要約するとパワーやスピードは劣るが感覚的部分は一緒。そしてこの【全反撃(フルカウンター)】にはパワーやスピードは不要。ここがこの剣と全反撃の相性の良さの理由である。どういうことかと言うと、タイミングさえ見切って発動出来ればあらゆる攻撃を倍以上の威力にして跳ね返せるのだ。10の力を返すのに1以下の力しかいらないのが【全反撃(フルカウンター)】。故にパワーやスピードが劣っていても一切の問題にならない。さらに言うとこの剣のスペックもまたオーバーなものだった。具体的にはほぼ全てのパラメータがカンストしてるといった感じだ。カテゴライズは【神器・魔剣】。神器と言うのはこのSAOの世界において片手の指で数えられる程しか存在しない最強の武器。武器のカテゴリーの最上位がこの【神器】に分類されるという。魔剣も似たようなもので、剣に分類される物の中でも特に異質な力や性質を持つものの総称だ。とどのつまり【ロストヴェイン】はこの世界で最強の剣と言っていいだろう。そんな物が第一層で手に入るというのだからGMや製作者の頭はどうなっているのだろうか?空っぽなのかもしれない。

 

「一層攻略か…、まだ全反撃は使えない…。やっぱ熟練度によるのか?とにかく、いろんな実戦で【相殺(バニッシュ)】まではできるようになったし、それとなく使ってバレないようにしよう。うんそれがいい」

 

カエデは1人呟き明日の行動方針を固めたところで、睡魔にその身と意識を委ねた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで皆さんは目覚まし時計というのを使うだろうか。中にはスヌーズ機能で何度も使わないと起きれないとか、自分で勝手に起きれるとか、最早役に立たないとかいう人達がいるはずだ。かく言う筆者は3つ目だったり2つ目だったりするのだが。さて、当のカエデさんはというと…

 

[8:50]

 

「………………………あ」

 

早速寝坊をかましていた。

 

「のわぁぁぁぁ!?やっちまったァァァァァ!!!!」

 

カエデの泊まっている宿から集合場所まではどんなに頑張っても15分はかかる。ご飯を食べて着替えた辺りでそのことに気づいたカエデは諦めの境地に達したのだった。

 

(もう間に合わない?…逆に考えるんだ。ーー間に合わなくったっていいさと考えるんだ)

 

これこのように天啓(?)が降りたカエデは、足取りも軽く鼻歌でも歌いそうな感じで集合場所へ行った。

 

「間に合ってはいないんだけど、間に合ったのか…?」

 

この台詞が矛盾してると思った人、あなたは正しい。どういう状況かというと、集合時間を過ぎてるけどまだ出発してなかったという状況だ。宿を出るときに舞い降りた天啓(?)に従い普通に歩いてきたのだが、集まりには合流できたらしい。とりあえずパーティを探そうと周りを見渡すのだが予想外に人がいたせいか、探すのに存外苦労したのだった。というわけで見つけた頃には到着から10分経っていた。

 

「よっ、探したぜ」

 

「ちゃんと来たんだな、てっきり寝坊したかと思ったよ」

 

「まあいいじゃあないか、ところでもう時間になってるぜ。なんで出発しねーんだ?」

 

「分からない。だけど多分そろそろ出ると思うぞ。ーーホラ」

 

『待たせたなみんな!!それでは今から第一層ボス攻略に出発する!』

 

「「「「「「オオオォォッ!!」」」」」」

 

「気合が入ってるなー皆。第一層だからそんなやばい敵は出ないと思うんだけどさ、こうして見るとなんとなくやな予感がするんだよなあ」

 

「そいつは同感だ。だけど今気にしたってどうにもなんねえだろ?」

「そいつもそうだな、んじゃあ一丁敵さんにぶつかって来ますか」

 

「ああ!」

 

第一層の攻略に向けて、自らの現実に帰るため、彼らは遂にその一歩を踏み出した。

 

 





剣の世界で全反撃はチートやと思うんや。10の力を1以下の力で倍以上にして跳ね返せるってなんつーことやと思う。チートすぎるからまだ使わせないことに!



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閑話 現実世界と仮想世界


色々考えた結果閑話を投稿します。

ただ作者の文章力では現実世界のみで文字数を埋められなかったのでちょっと強引に仮想世界内の3人(カエデ、キリト、アスナ)の様子も入れました。

シリアスの難しさを知った今日この頃。

少々改稿しました。ご指摘ありがとうございます。


SAOーーソードアート・オンラインがデスゲームとなってから一ヶ月がたった。ゲーム内でプレイヤーが現実世界に帰るためにゲームクリアを目指し動き始めた中、現実世界では様々な事が起こった。

 

まず、仮想課と呼ばれる新たな部署が総務省に設立されSAO被害者たちの身体の維持を一任した。ダイブ中の彼らは自らの意思で現実世界の身体を動かさないため放っておくと餓死してしまう。故にSAO被害者を病院へと移し、生命維持を行なっている。

また、SAOを運営する会社である『アーガス』に対する非難が集中したものの、これらの事はほぼ全てが開発者たる茅場晶彦の独断で行われた事であるため、アーガスはどうすることもできなかった。そのためアーガスは今できることとして、SAOを動かすサーバーやカーディナルシステムの維持を全力で行うこととした。

さて、そんな事が起こった中で碧の身体は例に漏れず病院に移送された。もとより身寄りも殆ど居ないため見舞いに来る人はほとんどいなかったが、今彼の病室にいるのは数少ない碧と交流があった者の1人だった。

 

(…………何してるのよ、バカ)

 

彼のベッドの横に椅子を寄せて座っている彼女ーー朝田詩乃はSAOがデスゲームと化して、碧が病院に運ばれてからほぼ毎日見舞いに来ていた。詩乃は本気で心配していたのだ。今までで唯一と言っていい、自らの過去を知った上で自分を受け入れてくれた彼を。当の本人はゲーム内で呑気な事を考えているだろうけれども。初回ロット10,000本に当選したことを喜び、楽しみにしていたゲームが彼の命を賭けたゲームとなった事を知った時、彼女は心の底から絶望した。何故なら彼女の中で《風谷 碧》という人の存在は、自分を支えてくれる大事な人だったから。今迄の辛い出来事に耐えられたのも、彼が傍で支えてくれたから。そんな人が突然いなくなってしまったのだから、彼女の精神は今とても不安定になっていた。

 

(早く…早く帰って来て…!)

 

涙ながらにそう願うしか、彼女にできる事はなかった。

 

(私は…弱い。こうして誰かを助けることもできなくて、ただ待つだけだなんて…。……フフ、碧がいないと私っててんでダメね)

 

未だ目覚めぬ碧の顔を見ながら、詩乃はそっと笑った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

碧と詩乃が初めて会ったのは大分前だった。詩乃は宮城の生まれなのだが、彼女が幼稚園の時に転入してきた男の子が碧だった。当時の碧は今のようにあまり口数は多くなく、どちらかといえば寡黙な方だったが遊ぶ時はみんなと一緒にワイワイ騒いでいたものだ。一方の詩乃は、今のように寡黙で友達と言える人も少なかった。そんな2人はたまたま家が近くだったため、帰り道がよく一緒になったりした。幼い時から端正な顔で大人びた性格をしていた碧はみんなの注目の的で、そんな碧と一緒だった詩乃も「付き合ってるの?」とかいう感じてからかわれて、顔を赤くして言い返すのが常だった。碧のそばにいたから良くも悪くも目立っていたのだ。

そんな日々が続いたある日、詩乃の心に深い傷をつけたあの事件が起きた。それ以来、詩乃は碧と一緒で少なからず目立っていたために執拗ないじめを受けたのだ。碧はそんな彼女を守り続けた。それで自分もいじめられることになると分かっていても。碧には分かっていた。当時の『状況』から判断できるほどの能力は転生者であるため、子供とはいえ持っていたからだ。だが周囲の子供達は、果てはその親たちは、当時の『行動』からしか判断しなかった。だから碧は詩乃を庇った。

そういったことがあってから数年後、碧が引っ越すことになった。その頃はいじめも下火になっていて、ひどくはなかったもののなくなる事はなかった。中学卒業までその生活に耐え続け、高校進学を機に碧のいる東京へ引っ越したのだ。高校が近くだったのは本当に偶々だっのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘックションッ!!」

 

「ゲームの中で風邪か?」

 

「んな訳あるかい!誰か俺の噂してんのかな」

 

「だったらそいつは悪い噂だろうな」

 

「勝手に決めつけんなオイコラ」

 

 

カエデとキリトは第一層の迷宮区にいた。第一層のボスモンスター攻略がついに始まったのだ。…今は休憩時間だけど。第一層とはいえ初のボス戦に挑むのだ。身体的にはもとより、精神的にも万全の状態で挑みたいと言う事だろう。とは言えカエデ達には全く必要の無いものだったが。暇だったからあんなお喋りに興じたわけだけれども。ちなみに今の彼らのステータスはというと、

 

カエデ Lv17 AGI型のステ振り 武装 片手剣【ロストヴェイン】

キリト Lv15 STR型のステ振り 武装 片手剣【アニールブレード】

アスナ Lv14 AGI型のステ振り 武装 細剣(名称不明)

 

安全マージンとっくに越してるよこの3人。てか3人だけで攻略いけるよな?まあその辺りは(作者)の采配次第だな。

 

「そういやアスナは?昨日色々話した(やった)んだろ?」

 

「すげー誤解のある言い方をされた気がするんだが。とりあえず無茶するのはやめてくれとは言った。多分分かってくれると思ったんだけど…」

 

「今は大丈夫だな。これからすごいことになると思うけどそいつはこれからのお楽しみだな」

 

「??どう言うことだよ」

 

「気にすんな」

 

「意味深すぎるだろ。まるで未来予知みたいなことしやがって」

 

「ま、頭の片隅にでも置いとくといいさ」

 

「2人とも、随分余裕なのね」

 

「「アスナ…」」

 

すっかり失念していたアスナが突然会話に入ってきてちょっと気まずくなる。まあパーティメンバーなのに1人はぶられるってのは流石にキツイよな。

 

「「ごめんすっかり忘れてた」」←全力の土下座

 

「そんなに息ぴったりに謝らなくても…。気にしなくていいよ。ところで、あなた達って現実でも友達なの?」

 

「いや、このゲームで知り合った。デスゲームになる前に偶々会ってそっからの付き合いだ」

 

「たしか、ソードスキルってどんなして使うんだ?とか聞いてきたっけな。そういやお前、現実でもその髪の色なのか?」

 

「ん、これか?まあそうだな」

 

カエデの髪の色は黒みがかった灰色。アスナの髪の色だって十分目立つと思うけど、明るい茶髪と言っても通りそうだからいい。だがカエデのそれは髪を染めたってこうなるだろうか、ってくらい不思議な色だった。

 

「言っとくけど、地毛だからな。……生まれつきなんだよ。何がどうなってんのかはわからんけど」

 

「へぇー。そういえばあなたって肌の色も白いわね。線も細いし、顔立ちも女の子といえばそれっぽいし」

 

「それもそうだな。アルビノ系って感じか?」

 

「女顔とは言われないな。あとキリト、お前も人の事言えねえから。お前も女顔っちゃあ女顔だから」

 

「!マジで?」

 

「…確かに、キリトくんも線細いし、女の子っぽいわね」

 

「そうだったのか……」

 

キリトはショックだったのかorzよろしく打ちひしがれうなだれる。アスナはキリトに先日説得されたからか、以前から纏っていた殺伐とした雰囲気と言うか殺気はなくなり、少しづつではあるが笑顔を見せ、いくらか余裕を持てるようになったらしい。流石夫婦wとかカエデは思ってた。こんな風景がいつまでも続けば良いのに…。思わずそう願ってしまうくらい今の場所は居心地が良かった。

 

 

 

だけどカエデは今の光景がもう続かないことを、知っていた。

 

 




カエデ君の二つ名どうしようか悩む。黒の剣士と対をなす感じがいいですかね。

AGI……敏捷特化。言っちゃえばスピードタイプ。
STR……筋力特化。言っちゃえばパワータイプ。

レベルは大体こんなもんだったでしょうか?違和感があったら教えてください!


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攻略、そして…


ご指摘を頂いてから大急ぎで設定を再び組み立てています!ガバガバな所が多々あるけどね☆

全反撃はしばらく出しません。その代わり周りにバレないようにロストヴェインの分身生成を使うかもしれません。ロストヴェインのすごい所はパラメータや分身生成以外にもありますよちゃんと。SAOならではのね。

さて、本文をお読みください!で、感想ください!

作者になんかこう、ぐっとくるシーンというかそういうシーンを描く才能が皆無であるのを知った今日この頃。


第一層のボス扉前に来た。データによるとボス名は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》で斧とバックルを使って戦うらしい。さらにキリトによると、HPが残り少なくなると武器を持ち替えて攻撃パターンが変わるという。さすがにベータテスターだけあって持っている情報量やこの状況での判断力は眼を見張るものがある。カエデ達のパーティは後方支援で取りこぼしたボスモンスターの取り巻き《ルイン・コボルド・センチネル》を確実に倒すという小さい仕事を割り振られた。ベータテスターを恨むビギナープレイヤーの気持ちは分からなくもないが、これほどになるとは考えてなかったようだ。

「じゃあみんな!俺から言いたい事はたった一つだ。

 

 

勝とうぜ!!」

 

 

「「「「「「「ウオォォォォッ!!!」」」」」」」

 

全員の士気はMAX。万端の状態で初めてのボス攻略に、挑んだ。

 

 

 

 

 

 

たららった〜ん♪

 

 

 

 

 

ボス《イルファング・ザ・コボルド・ロード》が 現れた!

《ルイン・コボルド・センチネル》が 3体 現れた!

▶︎たたかう

ぼうぎょ

にげる

アイテム

 

カエデ は たたかう を 選んだ!

キリト は たたかう を 選んだ!

アスナ は たたかう を 選んだ!

 

ドガッ! ドガッ!ドゴッ!

 

《ルイン・コボルド・センチネル》 に 408 のダメージ!

 

 

 

 

 

 

 

………と、ドラ○エのパクリは置いといて、カエデ達の一撃は取り巻きに結構なダメージに与えた。安全マージンを超えてるレベルの一撃だから当たり前だけど。とりあえず3人で取り巻きを軽く退けてボスとの戦いを見ていた。全員の連携攻撃のおかげでボスのHPは残り1割となった時、ボスに変化が起きた。

 

(…!!なんだ!?すごい違和感を感じたぞ)

 

キリトの勘がボスの行動に対して違和感を感じた。そしてその違和感の正体をすぐに知ることとなる。

 

「!!あれは…!?まずい、避けろぉぉ!!」

 

その違和感の正体はボスが持ち替えた武器、情報では曲刀だったのだが実際に手にしたのはカタナ『ノダチ』だったのだ。それに気づかないのか突進したリーダーのディアベルはそのまま攻撃を加える。そして……

「避けろぉぉ!!」

 

「!!?なっ!」

 

もう、間に合わない。誰もがそう思った。キリトも、ディアベルも。だが。

 

ガギィィィィン!!

 

「……お前ら…!クッ…もうちょい周り見てから動けよっ!」

 

カエデが片手剣でボスの巨大なノダチを受け止めていたのだ。その光景には誰もが驚いた。片手剣であの一撃を防いでいるのだから。だがカエデからしてみれば当然のことだ。カエデの武器【ロストヴェイン】は神器・魔剣とも言われる最強クラスの剣なのだ。それにカエデ自身のレベルも他と比べるまでもなく高い。たかが第一層のボスの攻撃くらい、受け止められない道理はない。

 

「何やってんだ早くしろ!長くは続かないぞ!」

 

その言葉に瞬時にキリトが反応する。ボスが硬直した隙に片手剣ソードスキル『ホリゾンダル』を叩き込む。

 

「アスナ、スイッチ!」

 

「はあっ!」

 

そしてキリトの背後からアスナが細剣ソードスキル『リニアー』で攻撃し、

 

「キリト君!」

 

「うおお!!」

 

キリトがソードスキル『バーチカル』でトドメを刺した。

 

ボスがポリゴン片となり消滅する。数秒の間を置いて皆から歓声が上がる。だが。

 

「なんでや…なんでや!!」

 

ベータテスターに恨みを持つプレイヤーのキバオウが声をあげた。

 

「お前ら、LA(ラストアタック)狙っとったやろ!せやなきゃ、ディアベルはんの窮地にあないタイミング良く入れるわけあらへん!そいに、お前らボスが武器持ち替えた時、なんか知っとったろ!?なんでや!なんでおまいらが……!」

 

「もしかして、あいつらベータテスターじゃないか?」

 

「そうだ」「そうに決まってる」「ふざけやがって」「よくもぬけぬけと…!」

 

さっきまでの歓声が嘘のようにカエデ達のパーティを非難する声が上がる。カエデとアスナはどうしたものかと顔を見合わせていたが、キリトは…。

 

「くっくっ、ああそうだよ。俺はベータテスターだ。だがそこいらのベータテスターと一緒にされちゃ困るなあ」

 

「どういうことや!」

 

「キリト…!」

 

カエデはこれからキリトがやることを知っている。だがここで口を挟むことは、キリトの決意を無駄にすることになる。口をはさむことはできなった。

 

「俺はベータテストの時、他の奴らが登ったことがないところまで登ったんだぜ?」

 

「なんだよそれ…!そんなのチーターじゃねぇか…!」

 

「そうだよ、それにあいつはベータテスター…」

 

「ビーター、ビーターだよ!」

 

「ビーター…いい名前だ。今日から俺はビーターだ」

 

キリトはウィンドウを開き、この層のボスのLAボーナスである【コート・オブ・ミッドナイト(真夜中の外套)】をオブジェクト化し身に纏う。これによりキリトの姿はカエデが知るキリト…《黒の剣士》に近くなった。キリトのその瞳には、何も映っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト君!」

 

「…アスナ、ごめんな。でも、これしか方法がなかったんだ」

 

「そんな…」

 

「俺の事は大丈夫だ、心配するな。それよりも自分の事を考えろ」

 

「…これからキリト君はどうするの!?」

 

「…俺はソロで活動する。こういう立場になったからには誰かと組むというのは無理だろうな。だけど君は違う。アスナ、君は強い。だから次にギルドに誘われたら断らない事だ」

 

「………やっぱり優しいね、キリト君」

 

キリトは振り返る事なく眼前の階段を登っていく……のだが。

 

「待てよキリト」

 

「なんだよ、カエデ。お前だって十分強いのは見てるだけでわかったよ、だから俺なんかについてこなくたっていいだろ」

 

「別に、お前を止めようとも、ついていこうとも思わねえよ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「…………死ぬなよ」

 

「……ああ、分かったよ」

 

キリトはウィンドウからパーティの解散をした。だがその顔にはさっきまでとは違う、新たな、固い決意が見えた。

 

「寂しくなったらいつでも連絡しろよ!俺は病気と死と厄介事以外なら貰えるもんはなんでももらってやるぜ!」

 

「タダでやる気はねえよ!」

 

 

第二層への扉が開き、キリトのみがその中へと歩みを進めて行く。

 

 

 

カエデはその背中から目を離さなかった。

 

 

 

互いに歩む道を違えても、進むべき目的は一緒。

 

 

 

 

ならば、いつかまた。そう遠くないうちに出会う。

 

 

 

 

その時まで自分達が変わらずにいられるかは分からない。でも。

 

 

 

 

 

「「また…な」」

 

 

 

 

呟くように、いつか再会する事を決意した2人は

 

 

 

 

 

それぞれの道を歩き出す。

 

 

 

 





カエデ「え?全反撃使わないの?」
作者「うん、強すぎてね。つーわけでガンバ。その代わり武器だけは強いの与えてあるじゃん。あとステータスの一部も」
カエデ「………………」
キリト「諦めろカエデ」
カエデ「なんでお前そっち側なの!?ねえ!?」
キリト「強い方に従っただけだ」
カエデ「くそ、理不尽すぎる…!」
キリト「これから強くなるんだからいいじゃん」
作者「というわけで全反撃はしばらく登場しません!すんません!」


作者「3月も終わりかあ。新しい年が…「感傷に浸んなコラ」ちっ」

更新ペースを落とさぬよう努力します!

注)ドラク○のダメージ量はイメージです


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月夜の黒猫団



間が空いてしまいましたね。学生というのが理由です。お察しくださいorz


今回はとても短いです。次話は少し長めにしたいです。

お気に入り登録ありがとうございます!


一層ボス攻略から4ヶ月が経ったある日。カエデはある店にいた。

 

 

「【月夜の黒猫団】にーー乾杯!」

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

第11層のフィールドで危ないところになっていた【月夜の黒猫団】を名乗る少年少女を助けたカエデはそのお礼として、こうしたパーティに参加していた。

 

「いやぁー、カエデさんがいなかったら危なかったですよ」

 

「そうそう、本当にありがとうございました」

 

「別にそんな大した事はしてないよ。ところで君たちはリアルでも知り合いなのか?」

 

「ええ、同じ学校の同じクラブに所属してるんですよ。それで【月夜の黒猫団】なんてギルドを結成して、今はこうしてレベリングしてるんですけど、いずれは攻略組の仲間入りをしたいなぁ、なんて考えてますよ」

 

「いいんじゃあねえか?そういう目標があるのはやる気出ると思うぜ」

 

「そうですよね。じゃあ、一つお願いしてもいいですか?」

「ん?なんだ言ってみんしゃい」

 

「俺たち【月夜の黒猫団】に入ってくれませんか?」

 

「それでみんなはいいのか?」

 

「「「「もちろん」」」」

 

「んじゃあ俺が拒否る理由はねえな。これからよろしくな」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「お前らは前衛役が少ないから俺がそっちに回ることになるのかな」

 

「ああ。てか今ちょうど前衛にしようと思ってさ、サチを盾持ち片手剣士にしようと思ってるんだけどどうだ?」

 

「いいと思うぜ。ただサチがどう思ってるかによるけどな。無理にしようとは思わねえことだ。前衛なら俺とテツオがいるし、今ならそれで十分だからな。よ〜く考えてくれよサチさん」

 

「分かった。ありがとう、カエデ」

 

「おk。さてお前ら、これからどうするよ」

 

「これからって?」

 

「レベリング、するだろ?」

 

「「「「「もちろん」」」」」

 

「よし、じゃあ明日からやってみっか。後でメッセージ飛ばすから今日は解散ってことで」

 

この時、サチだけが頷かなかったのがカエデには妙に気になったが、さしあたっては問題ないだろうと棚上げした。

 

 

 

 

 

 

解散した後、カエデは1人でフィールドを歩いていた。時刻もすっかり夜更けになっていた。仮想世界の月は現実と同じように、何もない平原を照らしていた。

時折出てくる雑魚モンスターを狩りながら考えていたのは昼間に出会った少年少女達の事だった。

 

「月夜の黒猫団……ね」

 

原作知識を持つカエデだが、その知識は実はあまり十分とは言いがたいものだった。SAOの原作はさっと流し読みして、アニメ見て終わりだったのだから当然だろう。だから彼ら月夜の黒猫団がこれからどう動くかはあまり知らない。

 

「いいじゃん。思い通りに動く世界なんて面白くねえからな。何かのハプニングとか俺の力を存分に使える機会があればグッドだぜ、茅場さんよォ」

 

とは言うものの、カエデの能力【全反撃(フルカウンター)】をカエデ自身は完全に把握できておらず、存分にとは言えない。だがカエデ自身は、この能力にはまだ奥が、自分にも分からない事があると思っている。それが何をキッカケに開花するのかは分からないが楽しみではあった。

 

(さてさてと、これからどうなるのかねェ。楽しみなことで)

 

月明かりが照らす草原に佇み、カエデは口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の日、カエデを仲間に加えた月夜の黒猫団はレベリングとサチの片手剣士習熟の為に第20層《ひだまりの森》にいた。レベル的にはそれなりに余裕があるのだが、モンスターとの戦いが命のやり取りとイコールで繋がるこの世界においては、常に死と隣り合わせの戦いなどとは縁遠い唯の人間には精神的にも肉体的にも重すぎるものがあった。

 

「サチ!スイッチだ!」

 

「う、うん!」

 

この非常識な世界に置かれてからおよそ半年たった。時間的なものがいくらかの余裕が持てているようだ。気丈にも声を出してはいるのだが、それでもやはり恐怖は振り払えないらしい。ほんのわずかに片手剣の間合いから遠い。

 

(やっぱしサチには気が重いか…?いざとなれば俺がやりゃいいだけなんだけどなぁ。ま、もうちょいばかし様子をみるとしようか)

 

攻撃から逃れたモンスターを横からテツオが殴り、ポリゴンの破片を散らせる。とりあえず周囲の安全を確保したところで一息休憩を入れることにした。

 

「連携はうまくいってるんだ。もう少しだサチ」

 

「そうそう、頑張れサチ」

 

「う、うん…ありがとうみんな」

 

テツオ達が励ますなか、サチは消え入るように小さな声で返事をする。その光景を一歩離れたところから見ていたカエデは、フィールドに出る前に買っておいたドリンクを飲みながら目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、カエデのメッセージボックスにサチが家出したとの知らせがあった。








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月夜の黒猫団②



さて、ようやくオリ展開に持っていくことが出来た。

え?フラグが、立ってる?

気にしてはいけない。


サチの家出。それを知ったカエデは慌てる…事はなかった。少なくともこういう事にはなるかもしれないと思っていたのだ。現在カエデは黒猫団のみんなとは別に自分が泊まっている宿で横になっていたところだ。

 

「さてさてさーて、サチのやつを探すとしますかね」

 

月が登る真夜中。第28層の主街区は寝静まり、人はほとんど出歩いていない。背中に武器を背負ったカエデはそんな中を悠然と歩いてサチを探していた。

と言ってもカエデは、この状況をある程度予想していたのでサチが隠れていそうな場所の目星をいくつかにつけていた。さすがに一発であたりというわけにはいかなかったが、それでも見つけるまでにそう時間はかからなかった。

 

「なんだ、こんなところにいたのかよ」

 

「!…カエデ…。私を探しに来たの?」

 

サチの目を見たカエデは、その深い黒の瞳を見ていまのサチの気持ちをある程度察した。その感情には、恐怖があった。

 

「ねえカエデ。一緒に逃げよう?この街を出て、フィールドも出て、この世界から…そう、死ぬのもいいかもね」

 

「…わたしね、怖いんだ。ほんとは攻略なんてしたくない。はじまりの街から外に行かずにずっと暮らしたかったの」

 

カエデは何も言わなかった。誰にも言えなかった彼女の本心を黙って聞いていた。かける言葉を思いつかなかった。

 

「死にたくない、カエデ、私死にたくないよ…」

 

「そうだな…」

 

サチだってこのゲームがデスゲームにならなければ普通にフィールドに出て戦っていたかもしれない。いまみたいに死ぬことを恐れずに、勇敢に武器をふるっていたかもしれない。こうなったのは誰のせいだろうか。真っ先に茅場晶彦の名が浮かんだ。だが不思議と怒りも憎しみも湧いてこなかった。時間があれば自問自答したい気分だった。だが今はサチだ。ただでさえ精神が不安定になっているのだ。かける言葉を選んでサチを家に返すことにした。

 

「…みんなが待ってる。帰ろうぜ」

 

そういうとサチはカエデに寄りかかって来た。その眼は、彼女がまとっていた哀しい雰囲気は、まるで何かに縋りたがっているようだった。そうでもしないと心が壊れてしまうとでも言ってるように。それを何となく察したカエデは無言でその場に座った。

 

「勝手に逃げ出したこと…怒らないの?」

 

「…別に。何で怒らなきゃならないんだ?…実を言うと、昼間のお前を見てた時から、こうなるかもしれないって思ってたんだ。お前が家出したって聞いた時も、特に慌てることもなかった。正直な話、お前の反応の方が正しいと思う。ケイタたちも、俺も含めてみんなは強がっているだけなんだ。攻略組の奴らっていうのは、『死』の恐怖をどうにかして乗り越えた奴らなんだよ」

 

「カエデ……」

 

「だからお前の気持ちはみんな分かるよ。俺だって死ぬのは怖い。だけど俺には運良く、戦う力があった。確かにサチには、悪いが戦う力はないかもしれない。でもだからと言って、自分で死ぬなんてことを考えないでくれ。生きていれば、まだ希望はある。いつか攻略組がこのゲームをクリアするかも知れないだろ?」

 

「…そうだよね。でも私が嫌なのはそれだけじゃないんだ。私だってみんなの役に立ちたいの。さっきも言った通り、私には戦う力なんてない。それでもみんなと一緒にいたい。1人は嫌なの」

 

「その…『役に立つ』方法ってのは…別に一緒に戦う事だけじゃねえだろ。みんなの食事作ったり、情報集めたりすんのも立派に役に立ってると思わねえか?戦う力はなくとも、他の方法があるとおもわないか?」

 

「あっ!…やっぱり優しいね…カエデって」

 

「この際、元の世界に帰るのは他人任せでいい。表に出るのは俺や攻略組だけでいい。お前は影から支えてくれりゃいい。それだけでも俺らは随分楽になるんだぜ」

 

「カエデ今『俺ら』って…カエデも攻略組だったの?」

 

「少し前の話だ。今は少しこの世界を満喫しようって思ってな」

 

「この世界を満喫…か…。ねえカエデ?1つお願いしてもいいかな?」

 

「?どうした?」

 

「カエデと一緒に…この世界を満喫してみたいなって」

 

「…構わないけど。俺と一緒に行動するなら、それなりの覚悟がいるかもだけど」

 

「その時はカエデが守ってね」

 

「勝手に決めやがって…。わーっだよ守ってやろうじゃねえか」

 

「カエデ…少しそのままでいてね」

 

そう言ってサチは横からカエデに手を回す。横から抱きついた形だ。そして声をあげて泣いた。恐らく色々自分で溜め込んでたものを話すことができて、箍が外れたのだろう。堰を切ったように涙が溢れている。雲ひとつない夜空から仮想の月が照らす夜。月の光がとある大きな橋を照らしてできた影。人1人いない夜中に、彼女は恐怖を乗り越えた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

サチを説得して家に帰した次の日。

 

 

「おまっ!本気かサチ!?」

 

「うん。もう決めたよ」

 

「その決心は変わらないんだな?その、『()()()()()()()生きる』っていうその決意は」

 

「変わらない。昨日わかったんだ。戦う力はなくても戦えるって。ケイタたちには迷惑かも知れないけど、私は決めたよ」

 

「そうか…。俺たちも謝らなくちゃな」

 

「?なにを?」

 

「その…だな、お前にいろいろ無茶なこと言って悪かった。すまない。正直、お前に抜けられるのは戦力的にキツい。『月夜の黒猫団』は解散かもな…」

 

「!…ごめんなさい」

 

「別に謝ることじゃないさ。今まで内気だったサチが自分で決めたことだ。そうと決まれば全力で祝福しなくちゃな!そうだろ!みんな!」

 

「「「イェーーーイ!!!」」」

 

「でもみんなはこれから…」

 

「確かに『月夜の黒猫団』の存続はもう無理だろうな。でもそのくらいお前のことに比べたらどうってことないさ。それに俺たちはこれで終わりじゃない。そうだろ?」

 

「そうだね。みんなとはまた会えるよね」

 

「願わくば全員で、『リアルで』、会えたらいいな。じゃあサチ、今日の夜8時くらいにいつもの集まる場所に来てくれ。もちろんカエデも連れてな!じゃ後でな!」

 

「うん!」

 

その時のサチの顔はみていたケイタたち曰く「現実でも見たことがないくらいに輝いていた」そうだ。

 

 

 






テツオ達『月夜の黒猫団も解散か〜』
サチ「なんかごめんね」
ケイタ「いいって。サチのためだよ」
テツオ「気にしないでいいって」
他「もともと俺らが戦おうってのが無理があったんだよ」

神「よく考えたらお前らパソコン部とか言ってたな」

黒猫団(元)「そだね」

神「とどのつまり陰キャラの集まり……?」

黒猫団(元)「グハッ(吐血)!!」

カエデ「やめたげて?!神様!」


勢いで書いて気づいたらフラグのような何かが立っていた。恋愛フラグにする予定はない(恋愛フラグにしないと入ってない)。


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こぼれ話 アインクラッドのクリスマス①



えー大体1ヶ月くらいの間が空いてますが、大体いつも通りです。

この文字数で?とか思ったやつ。ほんっとすんません。

あまりうまく書けなかったので、完全に時期外れのネタを投稿します。ゲーム内では会ってると思うけど。

オーストラリアに行ったつもりで見てくださいなm(_ _)m


「もうすぐクリスマスの時期だなあ」

 

「そだね」

 

「暇だからちょっと散歩してくる」

 

 現在攻略最前線は40層の半ばほど。そんな中、カエデは35層くらいのところにホームを置いてサチと2人で暮らしていた。字面だけ見たら夫婦に見えなくもないが、見た限りサチの一方通行のようだった。

 

 この日は12月10日。クリスマスまで2週間くらいになっていた。

 

 黒猫団を抜けたサチはカエデの予想を裏切り、カエデとともについていくと言う道を選んだ。さすがに断るのもかわいそうなので承諾したのだけど、そのままじゃ速攻キルされてしまうと思ったカエデはまずはじめにサチのレベルアップから始めた。某超絶ブラコン娘と中の人が同じなのか知らないけど、サチには相当な才能があったらしい。槍と片手剣スキルは粗方マスターした。と言うわけで、戦力は以前よりアップし、戦うことへの恐怖も和らいできている。いい傾向と言えた。

 

 まあ、サチ的にはカエデと一緒に居たかっただけなので必死だっただけなのだけど。

 

 アインクラッドは仮想世界だけど、ある程度は現実と同じ気温や生活感は再現されている。まあ申し訳程度だったので気にするほどでもないのだが、周りの人達はそういった雰囲気を醸し出している。ある露店ではクリスマスセールとかやっている。茅場晶彦は結構物好きなのだろうか。太陽が出て時間が経った午前10時、カエデは街の中を1人でぶらつきながらそんなことを考えていた。

 

 今のところカエデは攻略とかには特に参加せず、自分とサチのレベル上げに勤しんでいた。結果的には2人とも50階層までくらいなら余裕を持って戦えるほどのマージンは獲得し、カエデに至ってはユニークスキル【全反撃】の熟練度アップも成功している。まあ願ったり叶ったりだろう。

 

 カエデの【全反撃】についてだが、専用ソードスキルがいくつか発現した。《フルカウンター》と《バニシングスラッシュ》である。

 

 前者は前方からのあらゆる攻撃を倍以上の威力にして跳ね返すもの、後者は前方からのあらゆる攻撃を強制的に打ち消すものだ。最上位ソードスキルはまだ発現していなかったように思えた。まあこれからゆっくりやっていけばいいさと思うカエデだった。

 

 とまあこんな事を考えているカエデだが、街に来たのには散歩以外の、というか本来の目的がちゃんとある。それは勿論、

 

「プレゼント……どーすっかなあ」

 

 2週間後までに迫ったクリスマス。ゲームの中とは言えあの時から支えて来てくれたパートナーに何もしないわけにはいかない。とは言うものの、そのパートナーが何を欲しがっているのかとか、そういうものは一切聞かなかった。から、何を買おうかというのをずーっと悩んでいた。

 

「アイツ、自分から欲しいとか言わないもんなー。さてさて、何を贈ってやろーかな(汗)」

 

 セリフは軽いが本人的には死活問題なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、サチの方もまたカエデへのプレゼントの中身を考えていた。カエデについて来たのも最初は憧れていて、尊敬していただけだったのだが、ここまで一緒にいるとそれが恋に変わっても仕方ないと思う。今はゲーム中で自分たちの身体はアバターとは言え、その容姿は茅場の送りつけたアイテム『手鏡』の効力で現実と同じになっている。その点だけ、サチはほんの少しだけ、ほんっっの少しだけ茅場に感謝した。

 

 カエデの容姿は、本人の自己評価は低い。というか変だと思っている。だが、他人から見れば中性的とも取れる顔形や灰色の髪、そして黄緑の瞳。纏めるととにかく整っている容姿をしている。それこそ、髪の色や瞳の色の不自然さを忘れさせるほどに。また、戦闘能力も高くいつも自分を守ってくれる。し、悩みの相談なんかにものってくれる。多大なる恩をこの機会に返したいと思っているのだ。

 

 とはいうものの、カエデは今のところ欲しいものはないらしく、部屋では寝てばっかりだ。そんなカエデの寝顔も愛しく思えてしまうからそれはそれでいいと思っていたが、プレゼントをするとなると情報が何もないのは辛い。

 

「どうしよう……」

 

 思わず頭を抱えたくなるサチだった。

 

 

 

 

 明日の事は明日の自分に任せようとという事にして今日は帰ろう。そう思ったカエデはとりあえずホームに帰る事に、サチもまたホームに戻る事にした。最近互いの思考がなんとなくわかるようになったそうだが、最早それは夫婦と呼ばれるものではなかろうか。本人たちはなんとも思っていないようだが。まあこの世界にはもっとイチャラブするバカップルがいる事だし、まだ健全なのだろう(無自覚)。というかサチの一方通行なのだし、夫婦でもカップルでもない。本人評価は。

 

 周りはカップル認定しているんだよ?早くくっついちゃいなよー?

 

 これがまわりの本音だ。ちゃんとしたものだろう?これが正しい。彼が鈍感なだけなんだ。

 

 閑話休題。

 

 とにかく、クリスマスに何するかを考えてたらホームに着いた2人。たまたまそのタイミングがばったりかぶって、なんとなく気まずい感じになる。

 

「…とりあえず中に入ろうか?」

 

「………うん」

 

 さて、この2人はこれからどうなることやら。






続く。

作者の文才じゃこれが限界だったりする。




キリト「やっと俺の出番だな」
アスナ「ほんとだよお。私たちずっと待ってたんだから」
作者「まあ正直言ってお前らの話は甘いし。ややこしいし。許せ」
カエデ「俺が主人公なんだぜ?そのくらいいいだろ」
サチ「…………」
サチ以外『空気になっとる……!』
カエデ「なんか喋らせろよお!作者ァ!!」
作者「ハハハハハ」
キリト「あ!逃げやがった」



ほんっとくだらねえ。ひたすら平謝りするわ。


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こぼれ話 アインクラッドのクリスマス②


1ヶ月ぶりです。文章力低下が危ぶまれるけしです。

昨今暑くなってきました体調不良をこじらせています。

なんとか書き上げましたが、とても辛い。

やっぱり季節からズレている。早く本編に戻りたい。


 さて、クリスマスまで残り3日に迫ったのだが、件の2人は未だ同じ事で悩んでいた。

 

 

「「プレゼントどうしよう……」」

 

 

 無意識に声を出していたのだが、あまりに落ち込んでいるためか聞こえていない。茅場晶彦が手がけたこのSAO内では、現実世界となんら変わらないクリスマスバーゲンが行われていたりする。このぶんじゃ除夜の鐘までなるんじゃね?とカエデは思う。このままじゃカエデに何もできない…!とサチは思う。やっぱ一方通行だわ、うん。

 

 余談だが、カエデは戦闘スキルもさることながら、その家事スキルも高い。極端に簡略化されているとは言え現実で慣れているものはやはりどこへ言っても手早かった。もはやオカンとでも呼んでくれ。サチにはそう聞こえていた。カエデとしてはただ一人暮らしの時に培ったスキルをフル稼働させているだけだが、サチとしては結構ショックだった。少なくとも自分よりはできているわけなのだから。

 

 と言うわけでサチも料理スキルのカンストを目指して修行を始めた。勿論、その他家事スキルも並行して完全習得を目指している。あれ?これってもはや花嫁修業じゃね?バーチャル花嫁修業とはこれいかに。

 

 閑話休題。そんな2人は今日もまた、クリスマスプレゼントを探しに出かけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《カエデの場合》

 

 

 カエデはメニューを呼び出し、登録してあるフレンドの1人にメッセージを飛ばした。

 

 from:Kaede

 

 今暇?

 

 帰ってきたメッセージの内容は「おう」だったので、カエデはとりあえずその後指定した待合場所に向かった。

 

 

 

 

 

「よっ」

 

「久しぶり」

 

 待っていたカエデの前に現れたのは、アインクラッド内で知るものはいないであろう【黒の剣士】ことキリトだった。基本ソロで活動しているキリトもこの時期くらいは流石にのんびりするだろうと思ってカエデはメッセージを飛ばしたのだが、案の定キリトは暇してたので、こうして買い物に付き合ってもらうことにしたのだ。何を買うか?そんなの決まってるだろ?

 

「んで、確かクリスマスプレゼントだっけ?何か買いたいものとか決まってんのか?」

 

「それすら決まってねえからお前に助言を求めました」

 

「そこで何故おれなんだ……」

 

 キリト的には、そこは俺なんかよりエギルやアスナの方がセンスあって向いてるんじゃないかと思ったりしてるのだが、この世界での"親友"に頼まれたのだから無下にはできない。

 

 カエデ的には、あと一歩でリア充になりそうな(本人主観)キリ×アスのカップリングの本人さんであるキリトのセンスをミジンコ10匹分くらい信用してメッセージを飛ばした。

 

「なんか今バカにされた気がする」

 

「気のせいだ」

 

 と言うか、全身黒で染めてるキリトだから、センスもへったくれもないとカエデは思っている。

 

「やっぱバカにされてるよなあ?」

 

「とにかく、まずは見に行かねえとな」

 

「あ、無視ですか?おーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトは暇してると言ったがそれは訂正しよう。いや、確かに暇といえばそうなのだが、それが一周回って逆にモンスターを狩りに迷宮区に暇つぶしに出掛けていたのだ。暇をつぶすために己の命をかけるようなものである。結局そこでも「暇だ……」と愚痴をこぼすのだからもはや手のつけようがない。と言ってもここは35階層。キリトのレベルでは余裕も余裕だったのだろうが。

 

 なので、今日はたまたまこう言う買い物に来ていたのだ。そして一緒に買い物してみて分かったのだが、現実世界でもネトゲ三昧の生活をしているようなキリトくんには、ミジンコ10匹分の信頼も無に帰すほどのセンスしかなかった。ただしアクセサリー系の小物には何故かセンスが垣間見えたらしい。

 

(誘って正解…だったとはいえなかったがまあ収穫はあったってことにしとこう。…男同士の買い物って誰得描写なんだろ)

 

 ともかく、サチに買うものについてある程度の目星をつけたカエデはキリトに礼を言って帰った。その際、キリトが口角を上げて、

 

「これで貸しひとつ……」

 

 と言ったのは全く聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《サチの場合》

 

 

 サチも同じく、1人で選ぼうとするのは無理だと思い、助言を求めた。だがサチの場合は相手が悪かった。

 

 まずは月夜の黒猫団のメンバー。少しためらったもの相談してみるとその返答はまあ壊滅的だった。食べ物ばっかりなんだからそれもそうだろう。まともな答えは、テツオの『ブレスレットなら…』くらいなものだった。

 

 そんな彼らに溜息をひとつ、大きく吐いてから次のフレンド、もとい相談相手を探し始めた。

 

 …………………

 

 

 

「うぅ…どうしよう…」

 

 相談相手がいない。こんな事ならコミュニケーション力もっと上げとくんだった、と思うサチ。生憎SAOにはそんなスキルはない。あったとしても使う人はいない。はず。

 

「はあ……。もう、1人でなんとかしよう」

 

 人知れず、サチの戦いが幕を切った。

 

 

 

 

 

 まずは近くのNPCや話しかけやすそうなプレイヤーから情報を集める。割といい情報が集まったので、それを基にいくつか厳選した。武装は今の階層や前線に行っても余裕があるものだからパス。だったら小物類しかない。と言う思考の下で選んだのは

 

「どっちがいいかな……………」

 

 現在のカエデの武装は、胸に軽いライトアーマーくらいでほとんどつけていない。基本AGI振りをしているカエデは攻撃にあたる事なく、カウンターの要領で切り倒していく戦術を得意としている。武装の色合いは普通に銀色。まあそれほどゴツくはないから、アクセサリーならなんでも似合いそうだ。

 

 そんな中でサチが選んだのが、ネックレスかブレスレット。やっぱり思考が似ている気がする。カエデに合った…と思う効果もついている。

 

 ネックレスの方は「アクア・ネックレス」。AGIの上昇と隠密スキルの上昇効果がある。それほど大きくはないからよく動くカエデにはぴったりだと思ったのだ。水色がかった真珠のようなものをつないで作られいて、光を反射しないような加工が施されている。真珠なんだから輝いてナンボやと思ったが、これは仕様だと思うことにした。現実逃避することが最近多くなった気がする。主に茅場晶彦のセンスとカエデの鈍感さについて。

 

 ブレスレットの方は「オムニトリックス」。灰色と白で構成されたブレスレットで、その効果は『装備する毎にステータスポイント10を与える』と言うもの。ただし、装備を外すとステータスは装備する前のものに戻るというものだ。とても変則的な効果だ。あったとしても誰が使う?サチは茅場晶彦のセンスに多大なる疑問を抱く。今更に。しかしまあ見た目も効果も悪くはないと思ったので、ここぞという時に使えるのでは思って選択肢にあげてみたものだ。

 

 どっちとも買うという選択肢も無くはないのだが、どちらか一方に決めたいのがサチの本音だ。なぜか?なんとなくでいいです。女心とは複雑なのだ。

 

 

 

 クリスマスまで3日。





アクア・ネックレスはジョジョ4部から。水と同化するタイプのようなので、隠れたり素早く移動したりできるかなというのが効果の由来です。

オムニトリックスはベン10というアニメから。10体のそれぞれ別の特殊能力を持つエイリアンに任意で選んで変身するという設定に由来します。

夏にこんな話考えるのって辛いんですよねえ。


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こぼれ話 アインクラッドのクリスマス③


これでクリスマスは終わり。書いてて楽しかったです。

さあ本編に戻ろうかなあ。それともこの流れで正月ネタやっちゃう?

本編で。(多分)

注)一部改稿しました。


 今日は12月25日。待ちに待った(一部例外あり)クリスマスイブ当日になった。

 

 仮想世界であるアインクラッドは現在雪が降っている。しかもシンシンという感じの雪。ここだけ妙にリアルなのは茅場晶彦のこだわりなのだろうか。地面をうっすらと白く染めはじめた雪を見ながらサチはため息を吐く。隣を歩くカエデは生まれて初めてのホワイトクリスマスだがそれが仮想世界なのがなんかなあ、とか思っていた。もしかしたら茅場晶彦も初めてなのかもしれない。原作でも見た目は若かった。まだ20代くらいだとカエデは思っている。ほんとかどうかは知らない。

 

 今は丁度日が沈み、町の街灯が灯って何処と無くいい雰囲気になってきた頃だ。街灯の色はオレンジ。どこまで凝ってんだよ茅場晶彦。それは置いといて、あの2人は今日はクリスマスイブということでレストランの予約を取ってある。普段は宿でカエデが作っているが今日くらいは、という話のようだ。

 

 今日やってきたレストランはフレンチ形式のもの。ちなみにレストラン名は「アルゴン」。現実では希ガスとして知られる、"怠け者"の意味を持つ言葉だ。なぜこんな名前なのかは突っ込まないでおこう。余談だがこのレストランは週2〜3でしかオープンしない。しかし絶品という話だ。

 

 閑話休題(それは置いといて)

 

「んじゃあ、食べるとしようかな」

 

「そうだね。でもこういうのってまずは前菜とかから来るんでしょ?」

 

「そうらしいけど、まあとにかく出されたものから食えばいいんだよ。行儀よく」

 

「ぎ、行儀よく…ね」

 

 ちなみにこの時、キリトはアスナと別のレストランで一緒に飯食ってたりする。彼らの場合はそこらのファミレスのような感じのご飯で、それのクリスマスの時期限定の特別メニューなんだとか。

 

 なぜサチの言葉が震えてるのかというと、今まで引きこもり的生活を送ってきたサチはこういう時の行儀を全く知らないからだ。

 

「そう震えんなよ。別に怒られたりはしねえって。音立てないとかそんなの気にすりゃ良いんだよ」

 

「う……うん」

 

 早速前菜がやってきた。ボリュームは無いし、時間制限もないから落ち着いて食べたら問題はないはずだ。2人はゆっくりと食べはじめた。が、やはりサチは落ち着きがない。さっきからちょこちょこと口についたりしている。見かねたカエデはナプキンを手に取った。

 

「おいおい落ち着けって。口についてる」

 

「え……っ!」

 

 咄嗟に身を引くサチ。その顔は真っ赤だ。カエデは少し呆然としたがすぐに持ち直した。

 

「あー、悪りぃ。大丈夫か?」

 

「う、うん!ごめん……」

 

 遅れて顔が熱いのを自覚したサチはカエデの顔から目を背ける。恥ずかしいという気持ちとカエデに拭いてもらったという嬉しさに板挟みにされて咄嗟に取った行動だった。

 

 もちろんそんな事を全く知らないカエデは普通に食べすすめていく。サチも逆に落ち着きはじめたのかようやく普通に食べはじめた。やはりカエデと目は合わせられないが。

 

 そろそろ食べ終わる頃に、タイミングを見計らったのか店員が本菜を持ってきた。そもそもこのSAOというゲームでは食事というものは必要ない。だがこのレストランはNPCが営んでいる。一見矛盾しているようだが、それはこのゲームが普通のゲームだった場合だ。知っての通りこのゲームはデスゲームとなっている。どこまでいっても結局食事は要らないのだが、精神的には大事なのだ。全てが非日常であるこのSAOで唯一と言っても良い日常。それがこの食事だ。ちなみにこの世界には調味料と呼べるものはほとんど存在しない。だから基本料理は丸焼きなどが多かったりするのだが、実は特定のエキスなどを一定の割合で調合する事で、現実に存在する調味料と同じものを再現できることが分かっている。ちなみに見た目は無視。入れてしまえば全て同じという考えである。その見た目はというと、例えばマヨネーズは、紫色の液体だとかそんなものだ。あまり想像したくはない。

 

 ただ、SAOでは全て簡略化されているため、正しい料理の手順を踏めばそんなものをぶち込んでも見た目麗しい料理が出来上がる。カエデは料理を食べながらNPCの料理光景が見て見たいと思った。サチも同じ。お!同じことを考えている!ついに心が通じたか!?

 

(もう少し研究の余地がありそうだな…)←カエデ

 

(カエデも普段からこんな料理食べられたら喜ぶかな…)←サチ

 

 残念、まだ一方通行(片想い)

 

 

 こんな話をしている間に最後のデザートまで食べてしまったカエデ達。

 

「ふう、思った以上にお腹膨れたなあ」

 

「う、うん」

 

(なにどもってんだろ?)

 

 良い加減気付こうぜカエデさん。俺はお前をそんな子に育てたつもりはない!

 

「全部お前のせいだ!」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「あ、いや、なんかそう言い返さなくちゃいけない気がして…」

 

「…………」

 

 路肩には雪が積もりはじめていた。街灯の光を雪が反射して、仮想世界の街をどことなく幻想的にする。

 

「そろそろかな…」

 

「なにが…?」

 

 カエデが漏らした言葉にサチが反応した。なんのことかは分からなかった。

 

「サチ」

 

「なに?」

 

「これ…。俺が選んだものだけどさ、こんな俺に今までついてきてくれてありがとな」

 

「カ…エデ?カエデが選んでくれたの?」

 

「ああ。何か不満だったか?」

 

「ううん…!嬉しい!」

 

「そりゃ良かった」

 

 嬉しさで思わず涙を流すサチ。バレないようにと顔を背けるが隠せるはずもない。同じくカエデも涙流すくらいに嬉しいなんてなあ、と考えている。もう少し敏感になろうぜ☆

 

「あー、もう突っ込まないからな」

 

 あら残念。

 

「ん…じゃあ、私からも…プレゼント…」

 

 そう言ってサチが取り出したのは青い箱に赤いリボンがラッピングされたものだった。

 

「マジで!?」

 

「う…うん」

 

 カエデはジーンと感動していた。前世ではプレゼントなんてもらまたことがなかったから、こうして女の子から直接渡されることにかつてない感動を覚えているのだ。ちなみに現実でも同じ。こっちの場合、女子にとってカエデが近寄り難かったことに由来する。

 

「開けて良いか?」

 

「うん」

 

 とにかく中身を確認するため手早く箱をオープン。

 

「これは…ネックレス?…えーと、『アクア・ネックレス』っていうのか…」

 

「もう一つと迷ったけど、こっちにしたの。…どう?」

 

「どうって……」

 

 サチはカエデががっかりしているのだと思った。なにも感想がなかったからてっきりそう思ってしまった。

 

「やっぱり……」

 

「最高だ…最っ高に嬉しいよサチ!本当にありがとな!」

 

「!!……よかった…」

 

 こうして、お互いに最高の時間を過ごして、アインクラッドのクリスマスは過ぎていった。

 

 

 

 

 

 





ちなみにカエデのプレゼントは黒いブレスレットだったりする。


余談 その頃のキリアス

キ「雪まで降ってきやがった」
ア「良いじゃない。ほらもうすぐ頼んでたのくるよ」
キ「楽しそうだな」
ア「もっちろんだよ♪」

〜食事中〜

キ「そういやカエデ達なにしてんだろ」
ア「サチちゃんと一緒にご飯でも食べてるんじゃない?」
キ「プレゼントとか渡せたかな…」ボソ
ア「プレゼント!?」ガタン!
キ「うおっ!?落ち着けアスナ!」
ア「はわわ…!ごめんなさい…」シュン
キ「はぁ…ったく。ホラ」
ア「キリト君…これって私に…?」
キ「お前以外誰がいるんだよ」
ア「……嬉しいっ!」

この後アスナがなにをあげたかはご想像にお任せ☆

キリトのプレゼントは髪留めとイヤリング。小物にはセンスがあるキリトくんでした。




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真夜中のクリスマスクエスト

本来予定はなかったですが、なんとなく戦闘させて見ます。

ただし、戦闘シーンはもうちょっと先( ̄∀ ̄)

では、どうぞ。


*)ニコラス出現の条件を確認したら日付が書いてあってあったことに気づいて、修正しました。


 12月24日。

 

 現実世界においては今頃、クリスマスパーティーでパーリナイしてるパリピがいるだろう。

 

 いまは日付が変わる数時間前。サチとの食事を早めに切り上げたカエデはサチをホームに寝かせて、35層の中にある森に急いでいた。その目的はクリスマス特殊クエスト。カエデの原作知識では『背教者ニコラス』との戦闘である。何が落ちるかはよく覚えていないが多分貴重なアイテムだったはず。そう思って日付か変わる前に倒そうと目的地までダッシュしていた。

 

「!お前ら……」

 

「お!よお、久しぶりじゃねえか!たまには連絡よこせってんだこのヤロー!」

 

 陽気に話しかけて来たのは、SAOが正式サービスを始める前にキリトと同じく出会ったクラインという男性。今では攻略最前線に名を連ねるギルド『風林火山』のリーダーを務める刀使いだ。

 

「お前ら、何でここに?」

 

 聞かなくても分かっていたが問いかけた。

 

「んなの決まってんだろ!クリスマス限定クエストをクリアするんだよ!」

 

「だよなあ〜」

 

 荒い息を整えようとしていたが、1つため息を漏らす。やはり狙っているやつはいた。しかしまだ終わってないかもしれない。

 

「んで、その結果は?」

 

「いや、だから今から行くんだよ」

 

 あ、そういう感じか。少し肩透かしを食らった気がしたがそれは置いといて、カエデは更にクラインに言った。

 

「じゃあ俺も行こうっと」

 

「マジかよ!?」

 

「何驚いてんだよ。別に珍しかねえだろ」

 

「いやな、カエデってこういうのに興味ない感じだからよお、少しばかし驚いちまった」

 

「なんだよそれ。俺だって立派な人間だってんだ」

 

「ハハハ。ちょっとしたジョークだよ、ジョーク」

 

 意図せず場が和んだところで、カエデは振り返り、闇に包まれた森の奥に鋭い視線を投げかける。特に何かがいるとかは感じなかったが、ふと()()()()()()ような気がしていた。

 

(……なにかいたか?気のせいだといいが)

 

 感じた視線の事は無視することにして、気持ちを切り替え、今はクリスマスクエスト攻略に頭を回す。

 

(1人で行くのがいいな。それなら俺のスキルの実験台にもなるし、見られる心配もない。問題は敵の強さだ。単純に考えてこの階層レベルなら問題はないんだが、今回はスペシャルクエストだからな…。強さを弄られていてもおかしくはない。さて、生憎俺の原作知識にはそこらへんが載ってねえなあ。どうしたものか……)

 

 1人顎に手を添えて考えるカエデ。本人は知らないがそれはカエデの容姿と今立っている景色と相まって、そこにいたクライン以下『風林火山』のメンバーの全員の目を奪ってしまっていた。残念ながら『風林火山』のメンバーは全員男なので、惚れるなんて事はなかったがそれでも下手したら新たな扉を開くやつがいるのではないかと思うほど、その光景は幻想的であった。

 

「「「「………………」」」」

 

「……ん、なんだよ?」

 

「あ、いや、……なんでもねえ」

 

「??まあいいか」

 

 クライン達的に男であるカエデがただ考え込んでる姿に見ほれてたなんて口が裂けても言えなかった。もしうっかり口にしようものなら、それを餌に今後色々な事を要求されるだろう。口が悪い、腹黒い、ずる賢いと三拍子揃ったカエデのことだ。要求されることもそれこそ黒歴史確定の死んでもやりたくないものだ。

 

「…俺は1人で行って見る。お前らはついてくんなよ」

 

「な、1人って!お前なあ!!」

 

「なあに、気にする事はないさ。引き際くらいは弁えて戻ってくるよ」

 

「そこまで言うなら……まあ許してやらんこともないが…」

 

「てかそもそもなんでお前の許可なんているんだ?」

 

 もっともである。

 

 クライン的にはカエデやキリトよりも年上なのでみんなの面倒を見ているつもりだ。実際、ギルドのリーダーを務めているわけで、その包容力というか手腕は馬鹿にできない。ただし、それはいざという時のみであることが多く、基本的にはカエデ達より子供な面が多い。生きた年数で言えば前世も含めてカエデもそこそこ長いのだが。

 

 カエデからしてみれば、自分達はこの世界(現実世界)ではまだまだ子供だと分かっているが、この世界(仮想世界)において、年功序列などというものは存在しない。存在しても意味がない。なぜなら、この世界はそもそも年齢層が薄い上に、生きた年月ではなく、強いか否かで全てが決まるからだ。それこそ、ギルド内での序列や、生死までも。

 

 そういう世界であるがゆえに、カエデやキリト達も、自分達を見守る存在などというものがわかりにくく、曖昧になっている。だから、クラインのような存在が身近にいることの有り難みというか、そういうものが分からない。

 

 まあしかし、カエデ的には自らの能力を把握し、更にレベルアップするためのある種絶好の機会な訳だから、能力を秘匿している身としてはぶっちゃけいない方がありがたい。

 

「とにかく、俺は1人で行ってくるぞ。ああ、一応聞いておくけどさ、……倒してしまってもいいだろ?」

 

「けっ!倒せなかったら代わりに俺たちがぶっ倒してやるよ!」

 

 その返事が耳に入る時にはすでにカエデは森の奥へ駆け出していた。

 




さて、次は戦闘回(予定)。

あまり期待しないでね?|Д・)ノ ピョコ


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VS 背教者ニコラス

久々に戦闘シーンを書いた。うまく書けたかどうかは不安だけどね。

夏休みなんてあってないようなものだと、今更ながらに気付いた今日この頃。

ではどうぞ。


 クリスマスクエスト。それは文字通りその日限定のクエストであり、スペシャルな報酬がもらえる特別なもの。また、カエデにとっては別の意味で特別なものであった。

 

「うおっと!このっ!」

 

 カエデにとっての意味とは、ほかでもない自らのユニークスキル『全反撃(フルカウンター)』の性能実験、経験値獲得である。その意味では、ある程度格上の相手と戦うことは必須と考えていた。もっとも、カエデ本人のレベルは攻略最前線でも通用する程度には鍛えているので格上と戦いたいのなら最前線に行けという話である。

 

 というわけで、このクエストのボスキャラ『背教者ニコラス』はカエデにとってたいして格上というわけではなく、苦戦しているわけではなかった。SAOにおいてはすべてのエネミーモンスター、とくにボスモンスターは基本的に初見攻略になる。やられてしまえばそれがすべての世界において永久退場(ゲームオーバー)になるこの世界では、その『初見攻略』は非常に厳しい。ゆえに『行動パターンの完璧な把握』というのは生きていくのに不可欠だ。

 

「があっ!くそ!」

 

 斧による下段からの振り上げになんとか対応したカエデだったが、斧特有の大きな動きで2連撃をおこなう事は予想できなかったらしく、2段目の攻撃に反応できず、もろにその攻撃を食らうカエデ。斧での攻撃は一発の攻撃がほかの武器よりも高く設定されている分、その隙も大きめに設定されており、斧を十全に扱うには、それなりのSTRが要求される。そのため、カエデは斧使いというのを第一層で出会って以来の付き合いであるエギル以外に知らない。そのエギルも普段は店の営業に専念している為、滅多に前線には出てこない。そういう事情があって、カエデは斧での攻撃に連撃というパターンを失念していたのだ。

 

 とてつもなく重い斧での一撃にカエデのHPは大幅に減り、3分の1ほど削られてしまった。カエデはあまりアーマーの類を装備しないため、よりダメージが重くなってしまったのだ。

 

 サチからのクリスマスプレゼントである『アクア・ネックレス』がもたらしたいわゆる努力値は、すべてAGIに振って、今のカエデは極端にスピードが速くなっている。それを利用してダメージを受けた状態で何とかニコラスの攻撃をかわしていき、わずかずつパターンの把握を進めていく。

 

 いくら情報解析能力が神がかっていても、それに生死がかかっていて、体の動きまで合わせなければならないとなると、特典をもってしても時間がかかってしまわざるを得ない。さらに、予想以上に雪が深いことやボスのニコラスの3メートルほどの巨躯からくりだされる圧倒的贅力の斧の一撃が、カエデのパターン把握にさらなる時間を必要とせざるを得なくしていた。神様製の人外の身体まで仮想世界では再現されなかったのが、分かっていたけど惜しいな。カエデは心の中でそう愚痴をこぼす。

 

 とはいえ、その程度の余裕はあるということでもある。

 

「おらっ!【相殺(バニッシュ)】!」

 

 たとえ相手が想像の及ばないほどのとてつもないパワーを持っていようとも、彼のユニークスキルの前では意味をなさない。

 

 ニコラスの武器は、なんの飾り気もないただの斧。なんの特殊な力も持たない代わりに、シンプルゆえの破壊力がニコラスの腕力をもってカエデに襲い掛かる。それに対してカエデはただ武器をもつ腕を左から右へ軽くふるう。

 

 カエデがこれまでのニコラスの攻撃を計算して、最適なタイミングをはかって振るった武器《ロストヴェイン》が紫に縁どられた真っ白なライトエフェクトを纏って、ニコラスの斧に重い音を響いてぶつかる。その結果、ニコラスの動きが一瞬止まる。しかし、カエデは何もなかったかのようにすぐさま攻勢へと転じ、片手剣の3連撃ソードスキル《シャープネイル》で攻撃し、その後()()のソードスキル《ラピッドバイト》による突きを放って一旦距離を置く。

 

 そのままニコラスの視界から外れ、木の陰に隠れる。そこで一旦息を吐く。いままではそこら辺の雑魚キャラしか相手にしていなかったので、ここまで緊張感がある、文字通り命をかけた戦いというものを久方ぶりにやって、長い間最前線から遠ざかっていたブランクが大きかったことを確認したカエデは、最初に行動パターンを把握することよりも戦闘のカンというものを取り戻すことを優先した。戦いの経験というのが存外馬鹿にできないことをここまでの戦いで悟っているカエデはとりあえず時間というものを一旦度外視して、いざというときに生命を救うことすらあるそれを取り戻すことで、行動パターンの把握をスムーズに行うことを考えた。昔から『二兎を追う者は一兎をも得ず』という(ことわざ)もあるように、二つのことを同時に行おうとすると碌なことにはならないのである。もっとも、カエデは本能的にそれを避けたわけだが。

 

 そして、カエデにとって朗報となる事実も判明した。それは、カエデがもつ武器《ロストヴェイン》の持つもう一つの性質。それは『片手短剣』というこのロストヴェインが分類される武器のジャンル。これは他のプレイヤーが聞いたら、仰天するような力である。その性質は、一つの武器で『片手剣』と『短剣』のソードスキルを扱うことができるというのだ。この性質ゆえに先ほどのようなソードスキルの使い方ができるのだ。短剣のスキルは威力よりスピード重視のものが多いので、これから先も重宝しそうだ、と少し笑みを浮かべた。

 

『グオオォォォォォォォァァァ!』

 

 その瞬間に耳に入るニコラスの叫び。その声に目の前のモンスターの意識を移す。カエデとしては、そろそろ自らの全力をぶつけたくてウズウズしていた。心の中で「決して戦いを楽しんでいる訳じゃないんだからね!」とプイッという効果音が聞こえてきそうなツンデレの台詞をつぶやいて木の陰から飛び出す。

 

「サンタの格好してんだから、もうちっとサンタっぽくしてやがれ!!」

 

 そう声を張って、《ロストヴェイン》を左下に構えてニコラスへと突進する。対するニコラスはライトエフェクトを纏う斧を上段に大きく振りかぶり、さらに飛び上がってその勢いのまま振り下ろす。

 

 振りかぶった《ロストヴェイン》が先ほどと同じ色の、それでいてより強く輝くライトエフェクトを纏う。

 

 その輝かしさにわずかに目を細めながらも、一番最初に見たニコラスの攻撃に、身体が覚えたタイミングで剣を振るう。

 

「『全反撃(フルカウンター)』!!」

 

『ガアァァァァァッ!!』

 

 お互いの今出せるであろう全身全霊の一撃が、激しくぶつかり合った。

 

 





いろいろオリ設定が追加されています。

『片手短剣』は『片手の短剣』ではなく、『片手剣』と『短剣』という単語をくっつけた結果こうなってしまいました。

もともとロストヴェインが『片手で扱う片刃の短剣』ということだったのですが、アニメの絵を比べたら、大きさはSAO世界での片手剣に近いかなと思ったのがきっかけです。

つまり、短剣として扱うには大きすぎて、片手剣としては小さい。その中途半端さが、こういう形で有利に働いたという事でもある。

分身がいまだ出てくる機会が・・・ない。もう少しなんだが・・。

あと『相殺』は発動後の硬直が存在しないと勘違いするくらいに硬直時間が短いです。

ニコラスの動きはメモリー・デフラグを参考にしています。斧を主武器にするサンタ……。


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VSサチ……??






結論から言うと、カエデはあのクエストをクリアした。

 

ニコラスの一撃は、カエデの全反撃(フルカウンター)を破ることは出来ず、倍以上の威力で跳ね返ってきて、それを直接食らって、HPバーを完全に0にした。カエデは改めてフルカウンターの威力を目の当たりにして、驚嘆していた。

 

だが知っての通り、全反撃は相手の攻撃を倍以上の威力にして跳ね返すスキル。ある意味で攻防一体ともいえるスキルだが、跳ね返すという性質上、自ら攻撃するようなスキルではなく、どうしても相手の攻撃に対する自らのアクションが受動的になってしまう。つまるところ後手に回ってしまうしかないこの能力の積極的な活用方法をこの戦いで考えてみようと思っていたのだが、結果は見事に空回り。どう頑張ってもやはり後手にまわるしかなかった。

 

もちろん、防御に回ってしまえば無敵ともいえるのだが、カエデの性格上、というか盾無し片手剣士(自称)という自らのジョブの関係上、防御に回ってしまうという考えはありえなかった。

 

というわけで、ここまで考えてカエデは「じゃあ逆に開きなおっちゃおう」という発想に至った。至ってしまった。

 

弱点がないわけではないが、そんなもんどうにかなる、という最早諦めというか自棄(?)な考えのもと、クエストクリア報酬を回収したカエデは、日付が変わったことを開いたメニューで確認して、サチになんていわれるかなあ、などと想像しながら森を出る道を急いだ。

 

今回、このクエストで回収した報酬は『還魂の聖晶石』。プレイヤー専用の蘇生アイテムで、このクエストでしか手に入らない超がつくレアアイテムである。ゆえに競争率が異常に高く、今回カエデはクライン達にチャンスを譲ってもらったというのもあってたまたまゲットできた。

 

『蘇生』。文字通り蘇らせること。これさえあれば、死んでしまったプレイヤーを復活させることができる。このアイテムに関する噂を聞いていた者たちはそう思っていた。

 

だが、すこし考えてほしい。このゲームが何と呼ばれているかを。茅場晶彦がその手で作り上げたゲーム【ソードアート・オンライン】は現実でも、そして仮想世界でも共通するその名は、『デスゲーム』。文字通り死のゲームである。そんなゲームで簡単に蘇生-死人を蘇らせる-ことが許されるだろうか。否。そんなことは創造主たる茅場が許すはずがない。

 

「…チッ。あの野郎、手の込んだことしやがって。……でも、無駄じゃないかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…遅い……」

 

「すみませんでしたホント許してくださいこの通り」

 

森を出たその後、クライン達と会って少し話をした後に、少し散歩も兼ねてあたりをぶらりとして来てからホームに戻ってきたカエデを待っていたのは、仁王立ちしたサチのお説教だった。

 

「なにしてたの」

 

「昔の知り合いに会って一緒に狩ってましたハイ」

 

サチの表情を見て、自分でも状況をよく理解できないまま本能に従って、これ以上ないほど綺麗なスライディング☆土下座を披露したカエデは、クリスマスクエストをやってきた事だけでもどうにか隠し通そうと頭を回転させて舌を動かす。もうすぐ日の出にもなろうかという時間帯になる。東の方角から、日光を思わせる光が差してくる。

 

「かくかくしかじか、こういうわけなのですがサチさん」

 

「ちゃんと省略しないで話す。嘘もつかない」

 

「あれぇ!?こういうときはあの『ご都合主義』ってやつじゃないの!?ねえねえちょっと!?ていうかさりげなく俺の嘘見抜いちゃってるし。サチさんあなたは俺の奥さんか何かなの?」

 

あっさりと嘘を見抜かれたことに驚愕して、こんなことを口走るカエデ。

 

「え・・///。そ、そんなぁ、『奥さん』だなんて///」

 

真っ赤になった頬に手をあてて、顔がゆるゆるになるサチ。

 

「え…っと、サチさん?どしたの?」

 

「あ…。な、なんでもない!」

 

そういって部屋に戻っていった。ガチャン!と鍵をかけて。土下座の体勢のまま外に一人残されたカエデは頭をぽりぽり掻いて溜め息を吐く。

 

「はあ。なんだってんだろうな。つーかとにかく、ごはん食べたい」

 

現在時刻はアインクラッド標準時で6:00。レストランもこの時間帯ではどこもオープンしていない。個人営業のお店も、この階層ではまだ開いていない。さしあたっては、自らの空腹をどうにかするためにサチにドア越しに必死の懇願をするのだった。

 

「サ、サチ!頼むから、頼むからここ開けてぇぇ!」

 

『ふ、ふん!イブの日の夜にパートナーを置いていくカエデなんて、知らない!」

 

「そんな!?た、頼むサチ!後生だから!ほんっとにカエデさんの一生のお願いですからぁ!なんでも言うこと聞くから!」

 

『…ホントに?今言ったこと、ホントなの?』

 

ほんとは「なんでもするとは言ってない」という言葉がその後につくのだけど、とは今更言えないカエデ。謎の罪悪感と後悔が渦巻く。

 

『カエデ?』

 

「…と、とにかく!サチの料理でいいから食べさせてくださいお願いします!」

 

ガチャ。カエデが望んでいた開錠の音。一切の軋みなく開く扉の隙間からサチが赤くなった顔を覗かせる。

 

「…上がって」

 

「はい」

 

東から朝日が差してきた通りに、まばらながらも人がでてくる。そんな中まるで夫婦漫才のようなやり取りをした二人は、ようやく家に入った。

 

 

ちなみにこの時カエデは、あれ?これって一応俺の家になるんだよな?とか、なんでサチの顔が赤いんだろう?とか考えたが、その一瞬後には今日の朝食について考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






あれ?予定じゃサチはこんな子になるはずじゃ……。

どうしてだ?


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大晦日 仮想世界と現実世界



投稿間隔が短くなったかな?でも今回はいつもより少し長めかも知れません。

進行スピードが亀すぎて申し訳ないです。

文化祭って何が楽しいのだろうかと考える今日この頃。


「プレイヤーキル?」

 

「ああ。カエデ、お前『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』って名前、聞いた事ないか?」

 

「なんか前線とかの街で噂されてるらしいな。俺は最近ここから動いてねえからよく知らないんだが」

 

年も明けようとする12月の末。前線より少々下の階層にホームを構えるカエデ達のもとに、キリトやアスナ達が大晦日を共に過ごそうと訪れていた。

 

アスナやサチ、そして最近キリトとよく行動するというシリカと言う名の少女はリビングで、いわゆるガールズトークに興じていた。

 

一方で、最前線で【黒の剣士】と二つ名を冠するトッププレイヤーのキリトと、戦闘能力は最前線クラス(無自覚)であるカエデはとあることを話していた。

 

「じゃあそこから話すぞ。『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』ってのは、プレイヤーキル専門の殺人ギルドだ」

 

「…マジでか」

 

「こんな事冗談で言うかよ。とにかく今度こいつらを殲滅するための作戦を決行するんだとさ。つーわけで色々頼んで回ってるんだけど、お前この話、受けてくれないか?」

 

「即答はできない。まあ考えとくよ」

 

「そりゃそうだよな」

 

「それはそうと、お前アスナとどこまでいったんだよ」

 

「は?なんでアスナ?まあ、最近は一緒に行動することが多いな」

 

「……わかった。聞いた俺が悪かった」

 

「??まあいいけど、とにかく飯食おうぜ。腹減っちまった」

 

「だな」

 

先ほどまでの重い雰囲気は霧散し、とりあえずは楽しむことにした2人だった。

 

 

 

 

 

 

「11時20分……。さて、詩乃のやつは一体何してんのかな」

 

カエデは1人外に出て夜風に当たっていた。ホームのすぐ前にある川に架かる橋の上で物思いに耽っていた。

 

キリトから聞いた『笑う棺桶』というギルド。そして前線のプレイヤーで組んだパーティで行う掃討作戦。リスクとメリット、その他を天秤にかけていた。

 

(これからのことを考えると、潰しておいた方がいいのかもな)

 

眼の前のデメリットと長い目で見るメリット。それらを考えて、どちらを取るか。カエデの中で、答えは既に決まっていた。

 

(潰しちまおう。俺のユニークスキルなら、大きな危険はないはず)

 

一旦決めてしまえば、心がいくらか楽になる。それがカエデだ。そんな心境でふと思い出したのは、幼い頃から共に過ごした詩乃のことだった。

 

1人残したことに罪悪感を感じないわけではないが、正直なところ連れてこなくてよかったとも思っている。剣で戦うこの世界は詩乃には決定的に向いていないことを、なんとなく悟っていたのだ。

 

弓矢があるなら似合ったかもな。そんな事を思いながら、仮想世界の満月を眺めていた。

 

 

 

 

それから眠気覚ましに辺りをぶらついてから自分のホームに帰ってくると、爆睡しているキリト達がいた。アスナは口の端からよだれを垂らし、なぜか顔をニヤつかせてキリトのそばで寝息をたてていた。

 

サチもソファの上で毛布にくるまって寝ていた。

 

「たく、はっちゃけすぎだろ…」

 

思わず苦笑いを浮かべ、キリトとアスナに落ちていた毛布を被せる。そして食器や残り物の片付け、掃除を済ませて、自分の部屋に戻った。カエデの家事力は高かった。

 

35層にあるカエデのホームは、木製の二階建てだ。一階が吹き抜けの広いリビングダイニングと、襖で仕切られた和室で、階段を上った二階にはいくつかの個室がある。カエデの要望で屋根裏部屋と地下室も作ってあった。

 

屋根裏部屋の存在はサチには話していないが、こちらは主にカエデの趣味用。何が趣味かは言わない。そして地下室は主に特訓用だ。

 

ここまで作るのには少なくない金をはたいたが、長い目で見ればいい買い物をしたと思っている。

 

カエデは二階の自分の個室で横になっていた。

 

「SAOがスタートしてから1年と少し……か…。はは、なんとかやっていけてるみたいだな」

 

天井を見上げて、これまでの事を思い出していた。

 

「なんで今日はこんな感傷的な気分なんだろうな…」

 

仮想世界でこんな大晦日を過ごすことになったからかな、とカエデは考えた。実はここで大晦日を迎えるのは2回目だったりするのだが、当時はゲームスタートからわずか3カ月も経っておらず、カエデを含む全プレイヤーに大晦日を楽しむような余裕がなかった。思い返してもあの頃に何をしてたかさえも曖昧だ。

 

始まった当初は、知っていたとはいえ少なくない困惑を覚えた。「知っている」と「やったことがある」というのは大きな違いだ。だが、知っていることでこうして生き延びてきた。前世では気弱で根暗だったカエデからしてみれば驚くべきことかもしれない。

 

ふと、現実の事を考えた。

 

「詩乃は何してるんだろうか…。あいつのことだから、実家に帰るなんてしないんだろうなあ。てか、下手したら俺の部屋で年越してるかも知んねーわ」

 

カエデの現実での家は、詩乃と同じアパートだ。詩乃が二階、カエデが一階に住んでいる。合鍵は渡した覚えはないが、たまに部屋に押し入ってきた時にちゃっかり取っているかもしれなかった。そういうところは抜かりない。無駄に。

 

そんな事を考えながら、カエデは睡魔に身を任せた。

 

遠くから、仮想世界の除夜の鐘が聞こえた。

 

 

(だからお前は凝りすぎだってんだよ!茅場晶彦ォォ!!)

 

 

カエデの茅場に対する評価はきっと、いつまで経っても変わらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズルルルっ。ズルルルルっ。

 

 

麺をすする音が響く。自分1人で過ごす大晦日は、こんなにも寂しいものなのだろうか。何もない部屋で、詩乃は1人、年越しそばを食べていた。見事に碧の予想通り彼の部屋で、だ。

 

「はあ。なにか、寂しいというか、悲しくなってくるわ」

 

テレビで紅白を見ながら、碧の部屋で年末を過ごしていた詩乃は、蕎麦を食べた後、やることがなくなって手持ち無沙汰になっていた。ちなみに碧本人の身体は少し離れた病院にある。

 

碧がいなくなってから1年以上経つ。初めは毎日のように、彼のことを思い出しては泣いていたが、半年も経つと慣れてしまったからか泣くことは無くなった。だがその代わり、彼のことが恋しくなった時は、こうして彼の部屋に行き、いつまでも入り浸るのが習慣になっていた。以前、大家にもこう言われた。

 

『こうなっちまったらいっそのこと、同室にしたらどうだい?』

 

激しい動揺を覚えて、その時は慌てて拒否したものの、後から考えてみればむしろそっちの方が良かったのではないかと思うようになった。

 

そして、詩乃にはある疑念があった。

 

「やっぱり碧って、()()()()んじゃないのかしら」

 

その疑念とはつまり、SAOがデスゲームとなること。そう思った理由は割と些細なことだが、パラメータ化するとCかBくらいはあるであろう詩乃の直感がそう囁いているのだ。

 

(あまりにも用意が良すぎるわ。仮に彼があまり物を買わないと言っても、冷蔵庫とかが空っぽというのはおかしな話だわ。それに電化製品のほとんどがコンセントを抜いてあった。…ここまでくると確信犯としか思えないわね…)

 

実際その通りだったりするのだが、まだ詩乃には真実のほどは分からない。詩乃としてはそのことも確かに問い詰めなければいけないと思っている。だがやはり彼が生きて帰ってくる事が最優先事項だ。

 

「やっぱり、貴方がいないと物足りない……」

 

1年経って、悲しみは乗り越えた。だが、それでも喪失感を克服することはできなかった。胸に大きな穴が空いたような、そんな気分は、いつでもどこでも詩乃につきまとって離れない。

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、彼と過ごす普通の日々。学校まで一緒に行って、帰る時もまた一緒に帰る……ただそれだけ。

 

「貴方さえ無事なら…他の人なんてどうでもいい。だから、…早く帰ってきて…」

 

テレビから聞こえる除夜の鐘の音に、詩乃はそんな願いを込めた。

 

 

 



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年は明け。彼らはラフコフ討伐へ動き出す。


やっと本編に乗り出す。時間軸が色々ずれているのは許してください。

カエデの前線復帰なるか?(フラグ?)

家にいても外にいても冷え込んできたなあと思う今日この頃。


『明けましておめでとうございます』

 

 

大晦日を過ぎて、新年を迎えたアインクラッド。その第35層にあるカエデのホームでカエデやキリト達は新年の挨拶を交わした。昨晩はしゃぎ過ぎたのか、全員揃って挨拶をしたのは午前8時を回った今だ。

 

自業自得とは言え、初日の出を見れなかったと嘆いたカエデ以外の面々。勿論カエデはバッチリ見た。日付を回ってから寝床に入ったとは言え、体内時計はしっかり働いていたらしく起床したのは朝の5時。ストレージからパンを引っ張り出して来てそれを胃の中に入れ、未だ起きる気配の無いキリト達を放置して、AGI振りしたステータスをフル活用して、家の近くで1番高い場所に行って見たのだ。

 

「なんで起こしてくれなかったんだよ!」

 

「いやだって寝てたし」

 

「初日の出くらい見せてくれよ!」

 

「あー分かった分かった!悪かったよ!だからアスナもサチもそんな殺気のこもった視線を俺に向けないでくださいお願いします」

 

キリトに肩を掴まれ前後に激しく揺らされるカエデ。仮想世界で初日の出見てどーするんだ、と思った。

 

「…初日の出は日本人の一大イベント」

 

「ナチュラルに心読まないでくれサチ」

 

何度でも言うがこの2人は夫婦なんかでは無い。

 

「代わりと言ってはなんだが写真くらいは撮ってきてやったが」

 

「写真のシステムなんてあったか?」

 

「知らん。なんか使えた」

 

茅場の考える事はやはり分からない。何回思った事だろう。

 

「過ぎた事をとやかく言ってもしょうがないわよ。前向きになりましょ」

 

「1番落ち込んでたやつが何か言ってるぞ」

 

この中で初日の出を見逃して1番落胆していたのはアスナだった。しかし彼女はキリトのように引きずる事なく立ち直ってみせた。そこでカエデはキリトに対して悪い笑みを浮かべて言う。

 

「おいキリト。お前もアスナ見習って立ち直れはよ」

 

「あいつの切り替えの早さ早く無いか?なんかこう女っぽく無いって言うkイタタタッ!やめっ!すいません俺が悪うございました!!謝るから耳をこれ以上引っ張らないで!」

 

「分かれば良いのよ」

 

流石夫婦。こんなくだらないやり取りにも互いへの愛情を感じることができる。

 

「私もいつか……!」

 

「何燃えてるのかなサチさんや」

 

その光景を見て過去最高のやる気を出して眼を輝かせるサチに、少し危機感を覚えたカエデ。しかし、今日は新年1日目の元日。このようなのほほんとした日常を過ごすことに対してバチが当たることはない。

 

(初詣なんてできるかな?)

 

だがやはりと言うか、現実逃避することは避けられないカエデだった。

 

一方、シリカはと言うと。

 

「ピィ……」

 

「ピナ…これがボッチって言うのかなあ」

 

カエデ達より遅く起きてきたのが災いして、襖の隙間から眺めるだけになっていた。腕に抱かれたピナが主を心配するように鳴く。

 

その後、シリカの存在を思い出したアスナが何とかしてシリカを会話に参加させた。その時のシリカの目はずーっとキリトに向いていたとかいないとか。カエデはピナに妙に懐かれて、自分の頭の上が(シリカがいない時の)定位置となりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼。朝を現実逃避しながらものんべんだらりと過ごしたカエデ達は。

 

「今攻略の最前線って何層になるんだ?」

 

「もう50は超えたもんなあ。まだ60層は行ってないんじゃないか?」

 

「ふーん。まだ俺が戦えるくらいのマージンは残ってるな」

 

「何だ?まさかお前、前線に戻ってくるのか?」

 

「まあ、な。流石にそろそろ戻らないとなとは思ってるんだが」

 

カエデは前線から離れて既に半年にもなる。その間、前線で戦い抜いてきたキリトやアスナは、アインクラッドでも【黒の剣士】とか【閃光】とか言う二つ名を持つほどに有名になっていた。因みに当時のカエデの二つ名は【白の魔王】だったり【狂戦士(バーサーカー)】だった。思い出すと小っ恥ずかしい黒歴史なのだとか。当時の彼はひたすら戦い続けていたから強ち間違ってはない。

 

一方のカエデは、何もしていなかったと言うわけではないがそれでもキリト達と比べて今の時点で劣るのは当然だ。キリトは背に二本の片手剣を背負っていることから既にユニークスキル【二刀流】を習得していると推測したカエデは、本格的に前線復帰を考え始めた。

 

思考の海に落ち始めていたカエデを引き上げたのはキリトの意外そうな視線だった。驚愕やその類の表情をあまり見せないキリトのそんな顔は珍しく、思わずカエデもその顔を見ていた。

 

「何だよキリト。なんか驚くことあったか?」

 

「あぁ、いや何、カエデが戻ってくれるなら心強いなと」

 

前線を退く前はカエデも強力なプレイヤーとして名を馳せていた。レベルにそれほど差がなかった当時、『神器・魔剣』という未だよく分からないジャンルに分類されるチート武器を振るっていたのだから必然といえよう。それをキチンと扱っている方も少しおかしいかもしれないが。

 

「それに、この前言ってた、何だっけかほら、『マフィン何ちゃら』ってやつとの戦いにも準備しとかないといけないしな」

 

「『ラフィン・コフィン』だよ。お前がそう苦戦するほどでもないと思うが…」

 

「いかんせん情報が少ないしな…。あ、そういえばだけど、その『ラフィン・コフィン』のリーダー格ってどんな奴何だ?」

 

「それが、よく分からないんだ。なんか人づてに聞いた話だと、フード被ってて顔が分かんなかっただとか、包丁を振り回してたとかいうのは聞いたな」

 

「そいつにストーカー的な噂は無かったか?」

 

「ストーカー?さあ、そんな噂は聞いたことないな」

 

「そうか……」

 

カエデが思い出したのはつい先日のクリスマスクエスト。あの時、『誰かに見られていた』気がしたのを思い出していた。

 

(あの気配の隠し方なんかは素人じゃない。手練れの動きだった。でもわずかに殺気も感じたんだよなあ。思い過ごしならいいが…)

 

心のどこかに引っかかるものを感じながらも、当面の目標たる『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐』に向けて、キリトと共に準備を進めるのだった。

 

 

 





シリカの存在が原作の時間軸を超越してることに気づく。しかしもういいやと投げる。

別にいいでしょ?

そろそろ七つの大罪要素を登場させねば!(使命感)←謎


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第74層〜前編〜


間が空いてしまい、大変申し訳ありません。

テストなどで忙殺されましたm(_ _)m


 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』討伐の計画が本格的に立てられ始めた。しかしまだ、彼らに対する情報が非常に少ないために、今はまだ情報集めの段階だ。もちろん、100層攻略も進めなければならないため、情報集めはアルゴら情報屋に任せていた。

 

今日、キリトたちは現在の攻略最前線である74層のマッピングを行なっていた。アスナやクラインたちと共に、迷宮区を進んでいた。クラインは自身が率いるギルド『風林火山』の方で忙しく、またアスナは、所属している『血盟騎士団』での活動で時間に忙殺されていたが、この日は珍しく3人とも暇ができたのだ。

 

「そういえば、クラインは最近落ち着いてきて時間できたからとか言ってたが、アスナってそんな余裕作れたのか?」

 

モンスターの出現しない安全圏で休憩を取っていた時、カエデがふと疑問に思ったことを口にする。

 

「あはは…、それがね…」

 

苦笑いと共にアスナが語ったのは、カエデに少なくない驚きをもたらした。

 

「マジか…。キリトお前、よく生きてたな」

 

「いやホント、あの時アスナが来てくれなかったら死んでたな」

 

「「アハハハハ」」

 

「もう!のんきに笑わないの!」

 

「ハハ、キリの字もカエデも変わんねーな」

 

クラインが少し前を思い出すように言う。その言葉にアスナやキリト、カエデも思わす笑みをこぼす。

 

「カエデ、そういえばシリカのやつはどうしたんだ?」

 

「家で寝てるんじゃないか?まあサチがいるから大丈夫だろ」

 

クラインは昼食としてアスナが作ってきたサンドイッチを頬張っている。多めに作ってあるので文句はないのだが、恋する乙女アスナとしては、想い人であるキリトに食べてもらいたい。

 

「さて、キリト、飯食おうぜ」

 

「ああ、流石に疲れたよ」

 

キリトもカエデも、バスケットに入ったサンドイッチを手に取る。キリトは迷わずに口に放り込み、カエデはすこし眺めてから一切れ口に入れた。

 

「おお!すごい美味いなコレ!やっぱアスナに作ってもらって正解だな」

 

「結構イケるな。成る程、料理スキルMAXにしたクチか」

 

キリトは大絶賛し、カエデも褒めた。料理スキルを上げれば誰でも作れるようになるとはいえ、そんなプレイヤーがほとんどいない以上、料理が上手いと言うことは現実世界同様に、大きく褒められるのだ。

 

特に、キリトに褒められた事が、今のアスナの機嫌を良くしていた。

 

「えへへ……。ね、キリト君。また作ってきてあげようか?」

 

「そうだな、また機会があったら頼むよ」

 

にへへ、という満面の笑みを見せるアスナ。カエデはすこし引いた。

 

こんな、迷宮区でありながら日常のテンションで展開されていた日々に、唐突に終わりが訪れた。

 

ガシャン、ガシャンという、あまり馴染みのない音が聞こえてきたのだ。カエデやクラインたちは首を傾げたが、アスナとキリトは音の正体に気が付いた。

 

「鎧の音……?アスナ、今日ここを攻略するようなギルドはないよな?」

 

「私の知る限りは…。でもこの音は相当重装備だよ?」

 

音が段々と大きくなる。十数秒後、そこに鎧を着込んだ一団が現れた。

 

「我々はアインクラッド解放軍である!お前達、この辺りのマッピングは終わっているのか?」

 

リーダーと思わしき男がそう言った。

 

「あ、ああ」

 

その必死さにおされ、キリトはすこし曖昧な返事を返す。

 

「ならば、そのデータを寄越せ」

 

だが、そのリーダーの口から出てきた言葉は、あまりにも傍若無人と言えるものだった。

 

「手前!その言葉の意味が分かってんのか!?」

 

クラインが、その男の胸倉を摑みかかる勢いで言う。当然のことと言えた。いくら最前線で活躍するキリト達とは言え、未踏破の迷宮区のマッピングは死と隣り合わせの危険をはらんでいる。そんな危険を冒してまで行ったものを、我が物顔で奪おうとしているのだ。

 

「クライン!」

 

カエデが肩を抑えて止める。クラインの右手は固く握られていて、今にも殴りかかりそうなほど熱くなっていた。

 

「だ、だけどよぉカエデ!」

 

「今は落ち着け。殴ったところで面倒になるだけだ」

 

そう言って、クラインを一歩引かせる。そうして、カエデは話を切り出した。

 

「その体たらくで、この先に進もうってのか?」

 

「ふん!私の兵はこの程度で弱音を吐くほどヤワではない!」

 

「へぇ…、とてもそうは見えないがな…」

 

「これ以上口出しするのなら、今ここで貴様を切り捨てるのも吝かではないぞ」

 

「はっ、そりゃ焦りすぎだぜおっさん。手前ごときに俺は殺せないな。兎に角、ここで引き返すか、休んで行くことを勧める。それでも行くなら、勝手に死ね」

 

「その舌、二度と回らんようにしてやろうか?」

 

「やる気か?俺はいいが?」

 

「カエデ!お前が熱くなってどうするんだよ!」

 

キリトがすこし焦った声で言う。

 

「キリト。どうせお前、こいつらにデータ渡す気だったろ?」

 

「そりゃ…まあ」

 

「そいつは甘いぜ。見てみろよ。こいつら、ボス部屋入ったら1分以内に死ぬぜ」

 

「だが…」

 

「この手のバカにはちゃんと言い聞かせねえとダメなんだよ」

 

「それでも、俺はデータをやるぞ。どうせ公開する訳だしな」

 

カエデはキリトの目を数秒見つめ、諦めたように息を吐く。

 

「はあ。…チッ、その言葉は変わんないみたいだな。とてつもなく不本意だが、今回はお前の顔を立ててやるよ。だがキリト。お前のこの判断がどんな結末をもたらそうが、目を背けるなよ」

 

「………分かってるよ」

 

そう言ってキリトはデータを渡した。コーバッツと名乗ったリーダーの男は、ぶっきらぼうに感謝の意を述べたのち、疲労困憊で重い足を引きずる部下達を叱咤しながら、奥の方は消えていった。

 

カエデは彼らが消えていった方向を見つめながら、大きな不安に囚われていた。

 

 

 

数分後、彼らの悲鳴が聞こえてきた時、カエデは真っ先にボス部屋に飛んでいった。

 

 





コーバッツさんとデュエルさせてみようかと思ったけど戦闘スタイル不明だから却下。

グリームアイズ戦は書きたかったところの1つですね。はい。


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第74層〜中編〜


モンスト×電撃文庫(≧∀≦)ヒャッホ---!!  

やばい嬉しすぎるぅ!

と、言うわけで本編どうぞ。

テスト本気で取り組まないとやばい今日この頃。


突然の悲鳴にカエデは、その声の方向に向かって走り出した。条件反射と言っても差し支えないその行動速度は、キリトたちが呆然としていたわずか一瞬の間に起こっていた。

 

キリトたちが現実に戻ってきた時、カエデはすでに先を走っていた。元々AGI振りのステータス持つカエデはとにかく早く、どちらかと言えばSTR振りであるキリトでは追いつくことができない。今のカエデに追いつけるとしたら、アスナくらいだと思われる。

 

しかし、カエデの向かう先はボス部屋だと分かっている。なら、無理して追う必要はない。キリトたちは道中湧き出てくるモンスターを一撃で消しながら、急いでボス部屋に向かっていた。

 

 

 

 

 

その数分後、カエデはボス部屋にたどり着いていた。悪魔と思しき彫刻が彫られたその門は、非常に重厚で、重い雰囲気を滲ませていた。あたりにモンスターは出てきていない。カエデは右手に《ロストヴェイン》を握り、左手で門を開けた。

 

扉を開けたそこにあったのは、理不尽とか、そういうものだったと、後にカエデは言った。先ほどよりも数が減っている兵士と、ボスの攻撃を受け止めていたリーダーことコーバッツ。だが、それにも限界がきているようだった。ボスは青い山羊の悪魔とでも呼べるだろう。《ザ・グリームアイズ》。74層でこの強さならば、クォーターポイントである75層はどのくらいの強さを持つのか、一瞬カエデは現実逃避気味にそんなことを考えた。

 

頭を振って余計な思考を追い出して、カエデはコーバッツの下に突っ込んだ。耐久値が限界に来ているだろうコーバッツの武器が消える前に、カエデがボスの一撃に対して《全反撃(フルカウンター)》を合わせた。数歩下がったボス。いくらか間合いに余裕ができたカエデはコーバッツに怒鳴った。

 

「負傷したやつ連れてさっさと帰れ!転移結晶でも回廊結晶でもいい!じゃないと死ぬぞ!」

 

それに反応したのはコーバッツでは無く、比較的数の浅い兵士の一人だった。

 

「そ、それが、この部屋、結晶アイテムの類が使えないんです!」

 

「!?それはホントなのか?」

 

「は、はいっ!」

 

ここで倒すしかない…と?カエデはそう考える。予め逃げ場のないステージを用意するなど、これは茅場の考えた事なのか?そのような疑問が脳裏をよぎる。時間にしてほんの僅かでしかないその気の緩みすら、この場では生死を分ける。

 

横からのボスの一撃に対して、咄嗟に反応したのは、奇跡だったのかもしれない。ユニークスキルすら使わずに、直接受けた攻撃。人外の存在からの圧力に足を踏ん張って耐えきる。カエデの事を脅威と認めたのか、ボスは大きく飛んで部屋の端へ移動した。

 

「くそ……、今のやつを確実に倒す手段が………ない」

 

《全反撃》は相手の攻撃を倍以上にして跳ね返す強力なスキルだが、隙もまた比較的大きい。性質上受動的にしか行動できないのも一つの欠点だろう。と、そこまで考えていた時に、ボス部屋の扉が開いた。

 

「カエデ!」

 

「カエデ、てめぇ、大丈夫なのかよ!ん?あそこにいるのはコーバッツの野郎か!一発殴って」

 

「クラインさん!?少し落ち着きましょう!…ねぇカエデ君、これどういう状況かな?」

 

「あいつらが死にかけてるのを見て俺が乱入した。まあ、乱暴にすぎる要約だが、こんな感じかな」

 

「大体そんなことだろうと思ったよ。たがカエデ。勝算はあるのか?」

 

「ない事はない。が、絶望的に低いな」

 

《全反撃》で耐えていれば向こうがやられてくれるのではないか、という安易すぎる考えが浮かんでいた。だがカエデは、うまくいくかと言われれば、上手くいかないと考えていた。

 

《全反撃》とて、なんのリスクが無いわけではない。受動的にしか発動できない事もそうだが、それ以外にも、連発ができない事、つまりは技発動後の硬直時間が少し長めに作られているのだ。その硬直時間は、跳ね返す攻撃の威力が大きいほど長くなる。目の前のボス《ザ・グリームアイズ》の攻撃力は相当である事は身をもって体験したばかりだ。

 

(おいそれとスキル発動すると、やられちまうなコレ)

 

ボスを倒す手段を思考していたカエデ。手に持つ《ロストヴェイン》を見た時、ふと閃いた。

 

(!……これなら……いけるかも…!)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

カエデがだんまりと考え込んでしまったので、攻勢に出て来たボスの相手をする事となったキリトたち。ソードスキルやスイッチ等を活用して攻め立てるが、ボスの防御が硬く、目立ったダメージが与えられない。クラインはコーバッツたちを離脱させる為にキリトたちとは別に行動している。その為、ボスはキリトとアスナで相手していた。

 

敵の防御が硬いので、アスナの細剣のソードスキルでは高いダメージが期待できない。しかし片手剣でも似たようなことが言えた。システム外スキルの《スキルコネクト》を利用しながら攻めているが、決め手がない。

 

そこで、キリトは一瞬悩んだ末に、自らの切り札を切ることを決意した。

 

「アスナ!一旦下がってくれ!」

 

こっちを向いたキリトの眼を見て、頷いて下がるアスナ。これでキリトとグリームアイズの一騎討ちの状態になる。

 

キリトは手に持つ片手剣《エリュシデータ》を一瞥した後、メニューを開いて何かを操作する。次の瞬間、キリトの剣を持たないもう一方の手には、青白い剣が現れた。見た目で片手剣とわかるそれを両手で一本ずつ手に持ち、構えた。本来あり得ないその構えに、アスナが驚愕する。ちょうど戻って来たクラインも同じように眼を見張る。ただ一人、カエデだけがその光景を見て表情を変えずにいた。

 

キリトが駆け出した。そのスピードはアスナが知る限り彼の全力だった。ここで決めるつもりなのだと、そう感じとった。

 

《エリュシデータ》がライトエフェクトを纏う。そのままの勢いでグリームアイズに斬りかかる。それを後方へステップして避けたのを確認する間も無く、もう片方の剣がライトエフェクトを纏って襲いかかる。

 

「な、なんだよ…あのスキル…。硬直時間がねえぞ……!?」

 

クラインがそう口にした。そう、キリトはソードスキルを硬直時間なしで2回使ったのだ。だが、本来、片手剣スキルは一本でしか使えない。両手に持って使う事はできない。システムが許さない。

 

だが、そんな事は知らんと言わんばかりに攻撃を重ねるキリト。その乱撃数は10を越えようとしていた。

 

キリトもグリームアイズの隙をついた反撃にダメージを受ける。このままでは相討ちになってしまう。それは出来ない。

 

(まだだ……。もっと、もっと早く………!!)

 

キリトが大きく振りかぶる。黒い剣と白い剣がボスを切り裂く。

 

「《スターバースト・ストリーム》…!!」

 

誰も知らない未知のソードスキルが火を噴いた。






スキルコネクトとか二刀流の設定が曖昧なのは許して下さい。


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第74層〜後編〜

出来上がりました!七つの大罪要素をついに入れて見ました!

さて、テストとは一体なんぞや(哲学)


「《スターバースト・ストリーム》……!」

 

キリトの持つ2振りの剣がグリームアイズを切り裂いた。

 

キリトのHPバーは半分より少ない程度、被ダメージはこれ以上なく抑えられた形で決まった。倒したと思い、安堵した。身体の力を抜いた。

 

だが、ここは戦場だ。ゲームといえどそれは変わらない。ならば、終わったと分かってもないのに、気をぬくことがどう言う結末に至るか、想像はできるだろう。

 

「があっ…!」

 

キリトは身体の力を抜いた瞬間、真正面からぶん殴られた。武器を持たない手での一撃。殴るという原始的攻撃でありながら、ボスが振るえば相応の威力を持つ。一発でレッドゾーンに突入するHPバー。キリトは殴られた勢いで転がり続け、ステージの端まで吹っ飛ばされた。

 

アスナが呆然としながらも、駆けつける。その手には回復アイテムがあった。結晶系のアイテムは使えずとも、普通のアイテムは使えるようだ。

 

キリトに回復アイテムを与え、HPバーが3分の2ほどに回復したのを確認すると、立ち上がり、ボスと対峙した。

 

「やらせない…キリト君は私が守る…!」

 

手に持つ武器を振りかぶる。瞬間、グリームアイズの腕の筋肉が隆起し、その力でもって、武器が振り下ろされた。

 

自分が真っ二つになる瞬間を思い描き、咄嗟に眼を瞑るアスナ。

 

ギィン!!

 

だが、いつまで経っても衝撃が来ないことを不思議に思い、目を開けた。そこにいたのは、

 

「…悪かったな。待たせちまった。あとはゆっくりしといてくれ。キリト…ありがとな」

 

振り下ろされた武器を受け止めたカエデが立っていた。彼は立ち尽くすアスナと目を開けないキリトに視線をやってそういったのち、叫ぶ。

 

「さてさてさーて、いっちょやって見るか」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

カエデは右手に握った《ロストヴェイン》を顔と同じ高さまで上げて水平に構え、刃先に左手を添える。同時に、ある言葉を口にする。

 

「神器、発動」

 

その瞬間、《ロストヴェイン》から光が溢れ、カエデを包み込む。その光は眩しくも神々しく感じられた。アスナやクラインは思わず目を閉じる。そして光が収まって、目を開けた。そこには、驚くほどすごい光景があった。

 

「「「「「一人じゃなくても、5人なら、なんとかなるよな」」」」」

 

5人に増えたカエデがいた。

 

姿形が全く同じ。声もその手の武器も同じ。魔法などあるはずのないこの世界ではあり得ない光景。誰もが絶句した。

 

「さて、やることはわかってるな?」

 

「「「「ああ!」」」」

 

「んー、ちょいテンションが高すぎね?」

 

少し苛立った口調でボソッと口にするカエデ。おそらくは指揮を取っている一体が本体だろう。直後、カエデたち5人はグリームアイズを囲むように散開する。

 

「よし、じゃあ行ってこい」

 

本体と思われる一体を残して全てのカエデが突っ込んでいく。

 

分身体のカエデたちの能力はアスナたちが見る限り本体よりも劣っている。だが、それでも十分すぎるほどの力を持っている。

 

全員での時間差攻撃や一体が仕掛けている間にほかのカエデが別の箇所を攻撃するなど、人数差によるメリットを活かした攻撃を繰り出す。その練度は戦いながら話し合ってるのではと思わせるほどだ。

 

そうして群がってくるカエデたちに苛立ちを覚えたのか、グリームアイズが手に持った武器を、体を大きく捻って水平に振り回した。二体が吹っ飛ばされ、光の粒子となった消えた。どうやら、カエデの分身はボスクラスの強力な攻撃を受けると消えるようだ。消えなかった残りの二体が、グリームアイズの足を斬りつけ、その場に留める。最後に、《ロストヴェイン》をグリームアイズの爪先に突き刺して動きを止め、全速でその場を離脱する。アスナはその瞬間、今まで動かなかった本体のカエデが、弾かれたように突っ込んで行ったのを見た。

 

「ダメよ!あいつには普通のソードスキルじゃダメージが与えられないわ!」

 

そう、アスナの全力の一撃でも、僅かしかダメージを受けなかったボスだ。キリトの切り札であろう謎のソードスキルを以ってしても削りきれなかったほどの頑丈さ。そのことが咄嗟にアスナの脳裏によぎり、叫んだ。

 

しかし、カエデは止まらない。そして、またもやアスナは目を見開く。この戦いだけで、何度驚いたのだろうか。そろそろ驚き疲れてきたと、内心そう思った。

 

《ロストヴェイン》が()()ライトエフェクトを纏う。

 

「《リベリオン(反逆剣)》!」

 

グリームアイズの手前で大きく跳び上がり、胸ほどの高さまで跳ぶと、アスナがやっと視認できる程の速度で剣を振った。

 

一撃目。

 

「俺は、キリトを凄い奴だと思ってる」

 

二撃目。

 

「あいつはこの世界を、俺たちを助けるために動いている」

 

三撃目。

 

「今だって、ここまでお前にダメージを与えてくれた!」

 

四撃目。

 

「俺は、あいつに負けたくない。…だから!」

 

五撃目。

 

「あいつと戦う前に、こんな所でやられるわけにはいかない!」

 

六撃目。

 

「だから、お前はここで終わりだ!」

 

そして最後に弓を引き絞るようにして上体を捻り、今までよりも強力な突きをグリームアイズの身体に突き刺した。

 

アスナは刮目した。グリームアイズの体力ゲージがなくなっている。たったの7連撃でそれだけのダメージを与えた。キリトと同じ、新たなスキル。そうとしか思えなかった。

 

様々な疑問を残して、ここに、第74層は攻略された。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、意識を取り戻したキリトと共に迷宮区を出て、74層主街区『カームデット』に戻ったキリト達。そこで、キリトとカエデは先のボス戦で使用したスキルについて問い詰められた。

 

「おいキリの字!何だよあのスキル!見たことねえぞ!カエデもだ!」

「そうよ!私も知らなかったわ!」

「ああ…誰にも言ってなかったしな。でも、情報は公開してるぞ」

「なに?……ホントじゃねえか!でもコレ、お前以外持ち主がいないってことは…」

「ああ、恐らくはエクストラスキル……いや、ユニークスキルだろうな」

「マジかよ…」

「ユニークスキル《二刀流》。片手剣を2本同時に扱うことのできるスキルだ」

「すごい……。というか、カエデくんは!?」

「俺のも同じだ。公開はしてないがな」

「お前のはキリの字よりもよくわからねえぞ」

「同じくユニークスキル《全反撃》。自分に向けられた攻撃を倍以上にして跳ね返すスキルだ。……使ってる本人が言うのも何だが、魔法みたいでチートじみてるぞコレ」

「全くだ」

 

スキルについて一通り談義したのち、キリト達の関心はカエデの武器に移り変わった。相当あっさりした性格してるなとカエデは思った。竹を割ったような、とも言うが、そうでなければカエデやキリトとは付き合っていけないのだろう。

 

「カエデくんの武器って何?どこで手に入れたの?キリトくんのは50層のLAと、リズのプレイヤーメイドだけど、カエデくんのそれは見たこともないよ」

「だろうな。こいつは《はじまりの街》のNPCの店で買ったもんだしな」

 

その言葉はユニークスキルの時よりも大きな衝撃だった。

 

「それ、ホントかよ…!?」

「ああ。片手短剣《ロストヴェイン》。俺の相棒だな」

「あの分身って…」

「この武器の特殊能力だな。こいつ、【神器・魔剣】とか言うアホみたいなジャンルの武器でさ。諸々のステータスも高い上に、《実像分身生成》とかいう力を持ってる。ま、使ったのは初めてだったが」

 

やはりカエデは、キリトよりもチートじみていた。

 

「「「さすが、【白の魔王】だな」」」

「やめろ吹っ飛ばすぞ」

 

全員の心が一致した瞬間だった。

 

「そういえば、LAって何だったのかしら?」

「たしか、カエデがボーナス獲得したのか?」

 

アスナとクラインが目を輝かせてそう聞いた。とっさに身を引くが、この場では意味をなさない。冷や汗が頬を伝った。

 

「…LA……か。ちょっと待ってろ…」

 

右手を振ってメニューを開き、アイテム欄に目を通していく。

 

少しして、カエデはメニューを動かす手を止め、顔を引きつらせた。

 

(ま、マジかよ………!?)

 

その様子を見て、クラインとアスナが詰め寄る。

 

そこに書かれていたのは、二つのアイテム。

 

「《スケープゴート》と《リターン・インベイション》……?」

 

クラインとアスナは頭にハテナを浮かべるが、カエデは顔を引きつらせていた。

 

(またまた…。神様ってのはお節介焼きだな……。はは、笑えねえ……)

 

内心では少し喜んでいるのだが、それを表に出さず、カエデはそっとメニューを閉じた。

 

 

 

 





アイテム解説

《スケープゴート》
第74層LAボーナス。えんじ色のマントのアイテム。自身のアイテム一つを身代わりに自分へのタゲやヘイトを外すことができる。また、身代わりにするアイテムのレア度が高いほど、成功確率は上がる。敵の索敵能力が高いと無効化されることがある。

《リターン・インベイション》
投擲用武器。ダガーとしての利用が可能。その際の性能は普通だが、投擲する際に特殊効果を持つ。《強制スタン》。攻撃した相手を確率で数秒〜十数秒の間強制的にスタンさせる。イメージはfateシリーズの黒鍵。能力的にはゴウセルの【悪夢語り(ナイトメア・テラー)】。

さて、こんなもんですかね(・Д・)ノ

てか、白の魔王っ……どこの魔法少女だお前。

魔神じゃないのは、カエデくんはその辺りの力を扱えないからで、強いて言うなら魔神の一歩手前的な感じ。

無茶苦茶ですかね?


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魔王と暗殺者〜討伐計画開始〜


気づいたらもう12月。大晦日になっている。

何ということだ。間が空いてしまったすまない。本当にすまない。

というわけで、何とか投稿できた今年最後のものです。


74層攻略の知らせはすぐに広がった。

 

攻略というのは事実であり、当事者達は特にこれといって言いふらしたりはしなかったはずなのだが、その情報がどこからか漏れたのだろう。まあ、キリトやカエデ達からしてみればそれすらもどうでもいいこととも言えるが。

 

そもそも、彼らは攻略する気などこれっぽっちもなかったのだ。元々は迷宮区のマッピングに訪れていただけなのだから、摩訶不思議である。攻略してしまった事は過ぎた事なので気にはしないが、その過程でキリトとカエデは秘密にしていた自らのユニークスキルを白日の下に晒してしまった。

 

だが、それで注目を集められる事よりも今の彼らにはやっておかねばならないことがあるのだ。

 

「『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』に関してアルゴ達情報屋に出来る限りデータを集めさせたんで、その情報を共有しておこうと思う」

 

それは、SAO内において最悪と称される殺人ギルド『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』の討伐である。その悪名は今生存しているほぼ全てのプレイヤーの知るところであり、その狙いも不明である以上、不特定多数のあらゆる人物が狙われる可能性があるために、戦闘を苦手としていたりするプレイヤーは戦々恐々としながら過ごすことも少なくない。

 

『強者が弱者を守るべき』という考えで、最前線プレイヤーであるキリトやアスナたち、またその考えに賛同したかどうかは別として、前線プレイヤーに準ずるかあるいはそれ以上の実力を隠し持つプレイヤーも召集された。カエデは後者に含まれるプレイヤーであった。

 

そういう訳もあって、たった一つのギルドを潰すには過剰ともとれる戦力がここに集まった。

 

そんな彼らの中には、勧善懲悪を自らの手で行う事に興奮しているのか、鼻息が荒いものも、あるいは殺人ギルドを相手にするのに恐怖しているのか青ざめた顔をした者もいた。

 

それらを取りまとめるリーダー役をかって出たのは、前線で『黒の剣士』としてその名を馳せるキリトだった。この前の74層攻略の件で、ユニークスキル所持者であることが知られてからというもの、その知名度はカリスマスキルでもあるのかというほど、なかには信仰するものもいるほどである。

 

また、キリトの補佐には、血盟騎士団として参加したアスナ、そしてキリトの親友にして、戦闘能力ならば右に出るものはないと噂される『白の魔王』ことカエデがつく事になって()()

 

いた、と過去形になっているのは、カエデがその役を辞退したからだ。

 

というのも、カエデはある事を懸念していたのだが、その事に警鐘を鳴らしていた自分の勘がここに来て、さらに警告を促してきたのだ。この直感スキルと言っても過言ではないレベルの勘で、これまで幾度となく危機を回避する事に成功してきたカエデからしてみれば、ここまで嫌な予感がするのは初めての事だった。

 

よってカエデは補佐を辞退するとともに、有事の際に別行動をとる事に対する許可をキリトに取り付けた。この際キリトがまるでガリレオ(ドラマ)のように手を顔に当てていたのを見て、カエデは内心吹き出しそうになっていたのは秘密である。

 

自分たちを殺すためなら何をすることも厭わない彼らに対して作戦などというものはむしろ足枷になりかねない。と言うことでキリトは特にこれと言った作戦を立案することもなく、むしろ一対一の形で対決して、数的優位を利用して潰すと言う単純この上ない力技で行く事を打診。そもそも寄せ集めのプレイヤーでしかないため、この作戦はすぐに受け入れられ、キリトをリーダーとする即席ギルドは2日後に行動を開始する事にして、この日は解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜sideキリト〜

 

「2日くらいの準備期間を作ったけど、必要なかったか?」

「ううん。回復とかのアイテムは超がつく消耗品だからね。2日あればそれも十分に揃うし、むしろちょうどいいくらいだったと思うよ」

「そっか、なら良いんだ」

 

そう言って安堵の表情を浮かべるキリト。その笑みに思わず顔を赤くするアスナ。ゆでダコのようと言えるほど赤くはないが、ほんのりと上気したような赤みを帯びたその顔を見たキリトは言った。

 

「顔赤いけど大丈夫か?」

 

一瞬で地獄の底まで落ちたアスナのテンション。最近は何があったのか以前にも増してキリトへのアピールが積極的になっている。その様子にキリトは慌てたりしているのをみて、周囲はニヤニヤしたり酒の肴にしたり、何気に女性陣に人気があるために嫉妬の目線が少なからず送られているのだが、本人はどこ吹く風と言わんばかりにスルーし続けている。

 

だが鈍感キャラとしてその名を馳せるキリトは、その積極的アピールにもかかわらず、未だにアスナの行為の真意には気づく様子はない。

 

「……何でもないわよ」

「?…ならいいんだけど」

 

まるでアスナの一方通行である。まるででもなんでも無く、今のところその関係は見たまんまではあるが、果たして彼らの関係がどうなるかは、まだ分からない。

 

キリトの頭の中は、2日後に控えた討伐戦でいっぱいだった。彼らによる被害は相当数確認されていて、そのどれもが快楽を求めるような殺人に感じられた。だからキリトは怒りを禁じ得なかった。彼はゲームをこよなく愛するプレイヤー。それ故のプライドがある。普段はあたり表にでたがらないキリト自身が先陣を切ってリーダーとして動くほどに、彼の内心は怒りで満ちていた。正義感などではない。好きな「ゲーム」というものを汚された怒り。ただそれだけだった。

 

そんな内心をおくびにも出さずに、キリトはアスナと笑って過ごした。新年も明け、デスゲームの舞台である鋼鉄の城に囚われて2年が経っていた。100層というゴールもようやく形になり始めた。デスゲームから生きて帰った時に笑って居られるよう、彼は今のこの世界を楽しもうと、目の前の笑顔を見てそう思った。

 

 

 

 





最後は頭が真っ白になりながら書いたからなんかわけわかんなくなっている。

もうオリ展開ってタグつけようか。

では、良いお年を。


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魔王と暗殺者〜討伐開始〜

※キャラ崩壊注意


討伐作戦決行の日。陽が傾き、真っ赤に燃える西日が目に刺さる。キリトは思わず顔をしかめたが、反対向きに歩き出した事で西日に背を向けた。

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』がいるという情報がもたらされてから僅か1週間と少しで、彼らの討伐に動き出した。いかに彼らが恐れられているか、転じて有名であるかが分かる。

 

奇襲などを得意とするオレンジプレイヤーを相手取ることはわかりきっていたので、今回集まったプレイヤーは前線プレイヤーを始めとする強者揃いだ。血気盛んな雰囲気と、張られた弦のような緊張感を纏って、『笑う棺桶』の元へ向かう。

 

彼ら『笑う棺桶』がいるのは中層のとある洞窟。暗く、見渡しも悪い為に奇襲には絶好とも言える場所だ。情報によればこの奥は光る特殊な鉱石により、仄かに青い広めの空間があるらしい。本格的に戦闘になるならそこしかない。安全かつ最短で潰すにはそれが最適解である事を皆で共有し、作戦(?)も立ててある。

 

途中で1、2度ほど攻撃を受けたものの、それをどうにか無傷で撃退しついに広場へと到達した。

 

「お前らラフコフは、ここで潰してやる」

「威勢がいいな、『黒の剣士』。さあ、どこまでやれるか見せてもらおう」

 

その言葉と共に、キリト達もラフコフのメンバーも一斉に己が武器を構える。呼吸の音さえも聞こえない静寂が横たわる。誰一人微動だにしなかった。

 

「lt’s show time」

 

嘲笑うかのようなその一言で、彼らの戦いは幕を切った。

 

だが、その戦いの中にはラフコフのリーダー、PoHの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

日は沈んだ。あたりに闇の帳が下りた。

 

周りには視界を遮る一切がない。カエデの索敵スキルには、何も引っかからなかった。たった1つ、目の前の敵を除いては。

 

第一層『はじまりの街』。その圏外の草原にカエデは立っていた。

 

白を基調とした服装のカエデ。その姿はまさに【白の魔王】にふさわしい。右手に携えるのは片手短剣《ロストヴェイン》龍の意匠を施されたそれは、月光を反射して白銀の刀身を煌めかせる。

 

対する男は、目深いフードをしている。それは膝下まで覆う漆黒。それは所謂ポンチョの形をしていたが、あるいは絶望を形取っていたかも知れない。その手には《友切包丁(メイト・チョッパー)》──本人曰く魔剣──が、同じく月の光を受けて輝いていた。ただ、わずかな禍々しさを堪えて。

 

カエデの真白な髪が揺れる。その目には、わずかな恐怖が流れる。対するPoHは、喜びがその顔に張り付いていた。全てが真反対の2人。キリトとはまた別の意味で()く染まったPoHが《友切包丁》を揺らす。カエデは《ロストヴェイン》を眼前に、水平に構えた。

 

カエデが目を閉じる。PoHが口角を上げる。

 

一際、大きな風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、上を見上げた。

 

「サチ、どうした?」

「…ううん、何でもないよ」

 

所変わって、ここはカエデのホーム。外見石作り、中は吹き抜けで天井がログハウスのような作りになっている。途中に横たわる梁にはシーリングファンが回っていた。

 

サチはリビングのソファーに座っていた。周りには、暇だと言うと来てくれた黒猫団のメンバーたち。おかげで、弄んでいた時間を楽しく過ごしていた。

 

以前なら怯えていただろう。常に付きまとう命の危険に、心をすり減らしていただろう。でも今は、カエデが、みんながいる。ただそれだけで、絶望に満ちていた(モノクロな)世界に色が戻った。

 

ケイタがたまたまNPCのショップで手に入れたトランプで大富豪をしていた。すでにサチは一抜け。大富豪だ。革命に革命返しをしたり、Q(クィーン)ボンバーで不利なカードを消しとばしたりと、圧倒的運の良さで勝ってしまった。その事に対して少しばかり優越感に浸りながら、淹れたてのコーヒーを飲もうとした時。

 

ピシ──ッ

 

取っ手にヒビが入って割れた。まだ耐久力が残っていたのか、コーヒーが並々入ったカップは消えなかった。

 

(また…)

 

イヤな予感。ふと上を向いた時とは違う。目の前で不吉な現象が起きた。突きつけられた。サチはカエデが何をしに行っているのかを、大まかにしか知らない。

 

「カエデ…」

 

ボソリと溢れたその呟きは、誰の耳にも届かず。水面(みなも)の波面のように広がっては、消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初撃はカエデの振り上げとPoHの振り下ろしだった。

 

刃が交錯する。ギィンと甲高い音を立てて互いに噛みつき合う。膂力ではPoHが上回っている。少しずつ、カエデが押されていた。

 

不利を悟ったカエデは力を抜いて刃を引く。支えを失ってPoHの重心が傾く。一旦離れて、間を置かずに前へ走る。そのまま構えると、《ロストヴェイン》をライトエフェクトが覆う。

 

短剣(ダガー)用の中級ソードスキル『ラピットバイト』。自身のスピードと合わせて、さらに突撃スピードを加速する。

 

PoHは傾いた重心に逆らわずにそのまま勢いで前に転がって立ち上がる。立ち上がった身長はPoHの方が高い。カエデのソードスキルならば、そのまま目の高さで突き出せば心臓を狙える。

 

「ハアァァァッ!!」

 

カエデが声を上げる。PoHはその声を意に介さずに、直撃の直前に大きく飛び上がった。だがその一瞬前に、カエデの剣から光が失われた。PoHは一瞬驚きはしたものの、予定通りにカエデへ魔剣を振り下ろす。

 

カエデは無理矢理身体を捻って、また別の光を覆った剣を、PoHの《友切包丁(メイト・チョッパー)》に叩きつけた。

 

一瞬、派手な光と音を撒き散らして、PoHが大きく吹き飛んだ。

 

「…今のが《全反撃》というやつか」

「ああ」

 

ユニークスキル《全反撃》。攻撃を倍以上の威力で跳ね返す、魔法じみたスキル。

 

「くくっ、流石だ…」

「…おい、1つ答えろ」

「なんだ?」

 

唐突に質問を投げかけられたPoH。笑みを張り付かせたままに声を返す。

 

「オマエ、いつから()()()()()()?」

 

鋭い眼光がPoHを貫く。嘘は許さぬと、そう言っている。

 

「いつだったかな…。最初はお前のことなんて知らなかった…。俺は初め、【黒の剣士】を見ていた」

「キリトを?」

「ああそうだ。絶望に追い込まれながらも、絶対に諦めないあの姿。俺にとっては希望みたいなものだった」

 

うっとりと、そう語った。

 

「だけどある日、そいつが絶望しているのを見た。すこしがっかりしちまったよ。だが、次の日見たら、また希望に満ち足りた顔をしてやがった。なんでだ!?俺はやつに希望を与え、絶望を消したモノを知りたかった。そうしたら、お前がいた」

「俺が…?」

「ああ!お前だけは!!目の前に絶望が転がっているにも関わらず!その先に必ず希望があるかのように歩き続けていた!結末を知っているかのように、笑っていやがった!」

 

まあ確かに、原作ってもんがあるからなあ、とカエデはそんなことを考えていた。それに気づく事なく、PoHは語り続ける。

 

「俺はお前を殺したい!だからこその『完全決着モード』だ!ここでお前を殺して、そして俺を殺す!」

 

狂ったように笑った。否、すでに狂っていた。そう、この決闘(デュエル)は『完全決着モード』で行われている。どちらかが死ぬまでのデスゲームだ。

 

「ああそうかよ。なら──」

 

カエデは再び突進する。走りながら、身体を引きしぼる。突きではなく、回転するために。

 

「──勝手に死んでろ」

 

黒いライトエフェクト。まるで意思を持つ蛇のように、《ロストヴェイン》に絡みつく。

 

「《キリング・ソーサー》──」

 

独楽のように回る。黒い光が伸びて、独楽に刃が付属する。触れれば大ダメージは避けられない。

 

(ッチ!この距離を一瞬で詰めるのか)

 

一瞬にして距離が潰される。先程の《全反撃》でHPの3分の1を持っていかれたPoHは、防ぐなどとは考えず、咄嗟に右にステップして避けた。

 

回転が止まる。回転で視認できなかった風景が認識できるようになった。高めのAGIを活かして一気に攻めるつもりだったカエデはスキルの硬直時間が解けるのを待った。ほんの0.5秒ほど。

 

「がっ…!」

 

その間に、カエデの身体に刃が突き立てられた。

 




遅れて申し訳ない。いやホント、なんの言い訳もないです。


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