Fate/Zexal Order (鳳凰白蓮)
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予告&注意書き

FGOを始めたら面白くてその日の夜にアイデアが浮かんで書き始めました(笑)
もし皆さんが思ったこと、ご指摘やアイデアがあったらどんどん言ってください。


『Fate/Zexal Order』

 

世界の命運をかけた戦いが終わり、蘇った仲間たちと共に平和な時を過ごしていた九十九遊馬。

 

ある日遊馬が目覚めた場所、そこはハートランドではなく人類史の観測と保持を使命とする『人理継続保証機関』のカルデアだった。

 

そこで遊馬は一人の少女と運命の出会いを果たす。

 

「俺は九十九遊馬!よろしくな!」

 

「私はマシュ・キリエライトです。よろしくお願いします、先輩……じゃなくて、遊馬君!」

 

遊馬は訳が分からずに突如として異なる世界の全人類を守るため、人類史に立ち向かう運命との戦いに巻き込まれる。

 

「かっとビングだ!俺はレベル4のモンスター2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

異世界での戦いの中、遊馬は新たな力を生み出す。

 

「現れよ!FNo.(フェイトナンバーズ)0!人理の守り人 マシュ!」

 

「行きましょう、遊馬君!」

 

それは遊馬の作り出す新たなナンバーズ。

 

英霊と絆を結び、運命を切り開く希望の力、『FNo.(フェイトナンバーズ)』。

 

「勝つぞ、遊馬!」

 

「おう!行くぜ、アストラル!」

 

遊馬の危機に駆けつける異世界に降臨した最高の相棒。

 

アストラル世界の使者、最強のデュエリスト・アストラル。

 

遊馬とアストラル、二人が揃う時、世界の未来を守る希望の皇が降臨する。

 

「「現れよ、No.(ナンバーズ)39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、希望皇ホープ!!」」

 

そして、人類と世界が終焉に向かい、闇に覆われる時、希望の光が未来を照らす。

 

「俺は俺自身と!!」

 

「私で!!」

 

「「オーバーレイ!!!」」

 

「俺たち二人でオーバーレイネットワークを構築!」

 

「遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!」

 

絆を紡ぎ、奇跡をその手に掴む希望の英雄。

 

「「エクシーズチェンジ!ZEXAL(ゼアル)!!」」

 

人理と世界の未来を守るために遊馬とアストラルとマシュは異なる歴史を英霊と共に駆け抜ける。

 

 

 

 

※この話は以下のいくつかの内容が含まれます。

 

・作者はまだFateの知識が乏しく勉強中ですので至らない部分があります、何か言いたいことがあればご指摘やアドバイスなどお願いします。

・オリジナル設定を加えますので御都合主義はご了承ください。

・色々問題の多い(?)英霊たちに我らが遊馬先生のカウンセリングが向けられます(笑)。

・アストラルが若干遊馬への愛が強い時があります。

・年齢上仕方ないのでマシュが遊馬を弟のように可愛がります(遊馬は十三歳、マシュは十六歳ですので)。

・ゲームは始めたばかりで勉強中ですので更新は遅めです。

 

 

 

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第1話は今月中に投稿するようにしますのでよろしくお願いします。


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設定『フェイトナンバーズ』(2021/08/22更新)

以前から要望があったフェイトナンバーズの一覧を載せます。

また、フェイトナンバーズのみならずフェイトナンバーズ専用カードや関連カードも載せています。

ネタバレになるのでまだ本編を見たことない方は先に本編から見ることをオススメします。

一覧に書かれているフェイトナンバーズは最新話時点でカルデアに召喚されているサーヴァントのみを掲載させていただきます。

大半のフェイトナンバーズは効果をまだ考えてないので名前だけになってしまいますがご了承ください。

一応フェイトナンバーズは元のナンバーズの設定などを元に数字とかを考えていますが、もしも掲載されているのより適しているナンバーズの数字があれば遠慮なくご指摘ください。



『フェイトナンバーズ』

 

異世界からの来訪者で三つの世界を救ったデュエリスト『九十九遊馬』と英霊の絆を結んだ事で現れる契約と力の証。

 

更に遊馬の相棒にしてアストラル世界からの使者『アストラル』が再び遊馬と絆を結んだ事でアストラルの持つ膨大なエネルギーとアストラルの記憶の欠片である『ナンバーズ』のエネルギーがフェイトナンバーズを伝わって契約した英霊・サーヴァントに流れ込む。

 

サーヴァントに流れ込まれたナンバーズのエネルギーはサーヴァントの存在や力の源である魔力の代用となる。

 

フェイトナンバーズは遊馬と英霊・サーヴァントが握手を交わす事で誕生する。

 

また、ナンバーズかフェイトナンバーズと契約し、ナンバーズのエネルギーを得ているサーヴァントが敵サーヴァントを攻撃して倒す事でも誕生する。

 

契約したサーヴァントと遊馬の間に時空を超えた不可視の絆が結ばれ、フェイトナンバーズを触媒にカルデアの英霊召喚システム・フェイトで高確率で召喚する事が出来る。

 

契約をしたサーヴァントを粒子化させてフェイトナンバーズに取り込むことで遊馬がデュエルディスクを使用して召喚する事ができる。

 

ただし、契約を交わしてもフェイトナンバーズが覚醒をしなければ召喚することは出来ない。

 

覚醒する条件は遊馬との間に強い絆が結ばれた、遊馬との性格の相性がとてもいいなど様々ある。

 

フェイトナンバーズとして召喚された場合は自由に宝具やスキルを使用することは出来ないが、遊馬とアストラルのデュエルモンスターズのカードの力とのコンボを最大限に生かせる。

 

フェイトナンバーズの効果はサーヴァントのスキルや宝具、そして刻まれた刻印の数字と対応したナンバーズの効果を元に作られる。

 

緊急時の撤退・避難する為にマスターである遊馬もしくはアストラルの呼び声で半強制的にサーヴァントをフェイトナンバーズに入れる事ができる。

 

遊馬とサーヴァントの絆が強く深まったり、サーヴァントの心が成長することでフェイトナンバーズの専用カードが生まれることもある。

 

そして、フェイトナンバーズ同士でオーバーレイを行い、エクシーズ召喚する事で誕生する『クロスフェイトナンバーズ』が存在する。

 

 

『FNo.0 人理の守り人 マシュ』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻1500/守3000

レベル4モンスター×2

自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

そのモンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

その後、自分のデッキから魔法カードを1枚選び、デッキの一番上に置く。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

『FNo.0 希望の守護者 マシュ・ホープライト』

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/戦士族/攻2500/守3000

レベル5モンスター×3体以上

①このカードが特殊召喚に成功したターンに1度、エクストラデッキから「希望皇ホープ」モンスター、または「未来皇ホープ」モンスター1体をX召喚扱いで特殊召喚し、その後自分の手札・墓地のモンスター2体までを選択し、そのモンスターのX素材にする事が出来る。

②このカードが「FNo.0 人理の守り人 マシュ」をX素材としている場合、以下の効果を得る。

●自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動出来る。そのモンスターの攻撃を無効にする。

●モンスターの効果・魔法・罠が発動した時、X素材を1つ取り除いて発動出来る。その発動を無効にして破壊する。この効果は相手ターンでも発動することが出来る。この効果は1ターンに1度しか発動出来ない。

 

 

『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/炎属性/戦士族/攻2500/守2000

魔法使い族レベル4モンスター×1+戦士族レベル4モンスター×1

このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキ・手札・墓地からフィールド魔法を1枚選択し、自分フィールドに発動することが出来る。

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。このカードが相手モンスターを攻撃したダメージ計算後に発動する。その相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

 

『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000

光属性レベル4×3

このカードは手札のカードを1枚除外し、自分フィールドの『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』の上に重ねてエクシーズ召喚する事が出来る。

このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキ・手札・墓地からフィールド魔法を1枚選択し、自分フィールドに発動することが出来る。

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。相手モンスターを1体選択し、そのモンスターの元々の攻撃力分の数値分、ライフポイントを回復する。

 

 

『FNo.0 未来へ歩む者 ジャック・ザ・リッパー』

 

 

『FNo.0 星天の魔法少女(スターライト・マジシャン・ガール) イリヤ』

 

 

『FNo.0 朔月の魔法少女(ムーンライト・マジシャン・ガール) 美遊』

 

 

『FNo.5 天雷の神秘殺し 源頼光』

 

 

『FNo.6 建国神祖 ロムルス』

 

 

『FNo.6 小さき巨人 ポール・バニヤン』

 

 

『FNo.7 光の魔槍術士 クー・フーリン』

『FNo.7 神秘の魔術師 クー・フーリン』

ランク7/光属性/魔法使い族/攻2300/守2000

レベル7モンスター×2

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスターを1体破壊する。

この効果で対象のモンスターを破壊出来なかった場合、そのモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に攻撃力が0になる。

 

 

『FNo.7 光の魔槍術士 クー・フーリン』

『FNo.7 光の御子 クー・フーリン』

ランク7/光属性/戦士族/攻2700/守2400

レベル7モンスター×3

このカードは自分フィールドの「FNo.7 神秘の魔術師 クー・フーリン」の上に重ねてX召喚する事もできる。

このカードが特殊召喚に成功した時、サイコロを3回振る。

このカードの攻撃力と守備力は出た目の合計×100ポイントアップする。

1ターンに1度、エクシーズ素材と一つ取り除き、相手モンスター1体の効果を無効にして破壊する。

また、この効果で破壊したモンスターは除外する事ができる。

この効果は無効にする事ができず、このカードの発動に対して相手はモンスター・魔法・罠のカード効果を発動出来ない。

 

 

『FNo.7 狂王 クー・フーリン・オルタ』

 

 

『FNo.8 堅琴の聖王 ダビデ』

 

 

『FNo.9 金星の女神 イシュタル』

 

 

『FNo.10 白百合の騎士 シュヴァリエ・デオン』

 

 

『FNo.11 神代の魔女 メディア』

 

 

『FNo.11 恋の支配者 女王メイヴ』

 

 

『FNo.12 風魔忍者 風魔小太郎』

 

 

『FNo.12 絡繰忍者 加藤段蔵』

 

 

『FNo.15 舞台の怪人 ファントム・オブ・ジ・オペラ』

 

 

『FNo.16 絶世の巫女狐 玉藻の前』

 

 

『FNo.16 虹霓の魔剣 フェルグス・マック・ロイ』

 

 

『FNo.20 戦象闘王 ダレイオス三世』

 

 

『FNo.20 輝く貌 ディルムッド』

 

 

『FNo.21 白百合の王妃 マリー・アントワネット』

 

 

『FNo.21 氷雪の女神 シトナイ』

 

 

『FNo.22 無垢なる花嫁 フランケンシュタイン』

 

 

『FNo.23 黒鎧の少女騎士 サクラ』

 

 

『FNo.24 竜血王鬼 ヴラド三世』

 

 

『FNo.27 拳銃王 ビリー・ザ・キッド』

 

 

『FNo.28 森の守り手 ロビンフッド』

 

 

『FNo.29 狂愛の守護獣 タマモキャット』

 

 

『FNo.30 神狂の大英雄 ヘラクレス』

 

 

『FNo.31 鮮血魔嬢 カーミラ』

 

 

『FNo.32 黄金の嵐 フランシス・ドレイク』

 

 

『FNo.33 元素の魔術師 パラケルスス』

 

 

『FNo.37 比翼連理の女海賊 アン&メアリー』

 

 

『FNo.38 鋼鉄の天使 ナイチンゲール』

 

 

『FNo.39 円卓の騎士王 アルトリア』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000

レベル4モンスター×2

このカードのX素材を2つ取り除き、手札を3枚除外して発動できる。

ターン終了時までこのカードの攻撃力を2倍にし、相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃できる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

『FNo.39 漆黒の騎士王 アルトリア・オルタ』

 

 

『FNo.39 桜花の天狼 沖田総司』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守500

戦士族レベル4モンスター×2

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。このターン、このカードは相手に直接攻撃することができる。

このカードが相手プレイヤーに直接攻撃が成功した時、相手フィールドのモンスター1体を選択して破壊することが出来る。

このカードがエクシーズ素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。このカードの攻撃力は0となり、攻撃が出来なくなる。

 

 

『FNo.39 天元百花 宮本武蔵』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000

レベル4モンスター×3体以上

このカードの属性は「地」「水」「炎」「風」としても扱う。

このモンスターはエクシーズ素材の数+1回、相手モンスターに攻撃出来る。

1ターンに1度、エクシーズ素材を取り除き、デッキ・手札からモンスターを墓地に送る。墓地に送ったモンスターの属性によって以下の効果を発動する。この効果は相手ターンでも使用することが出来る。

・『地』このカードを守備表示に変更し、ターン終了時まで戦闘で破壊されなくなる。

・『水』自分の墓地の魔法カードを1枚選択し、手札に加える。

・『炎』このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

・『風』フィールド上の魔法・罠カードを1枚選択し、手札に戻す。

・『光』ターン終了時までこのカードの攻撃力は元々の2倍となる。この効果を使用したターン、相手の全てのダメージは半分となる。

 

 

 

『FNo.40 魔曲の奏者 アマデウス』

 

 

『FNo.41 不還の暗殺者 荊軻』

 

 

『FNo.41 鬼の頭領 酒呑童子』

 

 

『FNo.44 天馬の女神 メドゥーサ』

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/戦士族/攻1900/守1700

レベル3モンスター×2

1ターンに1度、エクシーズ素材を一つ取り除き、以下の①②の効果を一度ずつ発動できる。

①相手フィールドのモンスターを全て裏守備表示にする。相手は表示形式を変更出来ない。

②このカードが守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。更に破壊したモンスターの元々の守備力分のダメージを相手に与える。

 

 

『FNo.44 微笑の女神 ステンノ』

 

 

『FNo.44 魅惑の女神 エウリュアレ』

 

 

『FNo.45 神智の叡智 エレナ・ブラヴァツキー』

 

 

『FNo.46 施しの英雄 カルナ』

 

 

『FNo.48 百貌のハサン』

 

 

『FNo.49 癒しの魔女 メディア・リリィ』

 

 

『FNo.49 天の杯 アイリスフィール』

 

 

『FNo.50 黒髭 エドワード・ティーチ』

 

 

『FNo.51 雷光の迷宮 アステリオス』

 

 

『FNo.52 不毀の知将 ヘクトール』

 

 

『FNo.54 反逆の闘士 スパルタクス』

 

 

『FNo.54 拳闘王 ベオウルフ』

 

 

『FNo.56 金色の皇帝 カエサル』

 

 

『FNo.56 黄金武士 坂田金時』

 

 

『FNo.56 黄金疾走 坂田金時』

 

 

『FNo.57 清廉炎蛇 清姫』

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/炎属性/爬虫類族/攻1800/守1500

レベル3モンスター×2

エクシーズ素材を2つ使い、相手フィールド全てのモンスターに白蛇カウンターを乗せる。

白蛇カウンターが乗るモンスターの攻撃力が1000ポイントダウンする。

更にこのカードがフィールド上に存在する限り、お互いのスタンバイフェイズ時に白蛇カウンターが乗ったモンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

このカードの効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される。

 

 

『FNo.58 炎門の守護者 レオニダス一世』

 

 

『FNo.58 業火の鬼 茨木童子』

 

 

『FNo.59 無限の剣 エミヤ』

 

 

『FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2500

レベル4モンスター×2

エクシーズ素材を1つ取り除いて①②の効果を1ターンにそれぞれ1回ずつ発動する事が出来る。

①次の相手ターンのエンドフェイズ時まで自分フィールドのモンスターは相手のカードの効果を受けず、自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値となる。

②このカードの攻撃力をこのターンのエンドフェイズ時までこのカード以外の自分フィールドのモンスターの数×500ポイントアップする。

 

 

『FNo.62 竜皇の魔女 ジャンヌ・オルタ』

『FNo.62 竜皇の巫女 レティシア』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/戦士族/攻2000/守2500

レベル4モンスター×2

このカード名はルール上「FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク」としても扱う。

このカードがエクシーズ召喚に成功した時、エクストラデッキからドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターエクシーズを3枚選んでランダムに1枚選択し、このカードの装備カードにする。

このカードの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップし、エンドフェイズ時までこのカードは装備したモンスターの効果を得る。

 

 

『FNo.62 竜皇の天后 レティシア・ドラゴニックエンプレス』

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/戦士族/攻3000/守2500

レベル5モンスター×3体

このカードはルール上、「ジャンヌ」モンスター、光属性としても扱う。

このカードは装備したモンスターエクシーズの攻撃力の半分アップする。

このカードが「FNo.62 竜皇の巫女 レティシア」をX素材としている場合、以下の効果を得る。

1ターンに1度、X素材を1つ取り除き、墓地・エクストラデッキからドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターエクシーズを2枚まで選択し、このカードの装備カードにする。エンドフェイズ時までこのカードはこのターンに装備したモンスターエクシーズの名前と効果を得る。また、X素材を使用した効果をX素材を使用しないでそれぞれ1度ずつ発動することが出来る。この効果は相手ターンでも発動出来る。

お互いのエンドフェイズ終了時に発動する。このカードに装備したモンスターエクシーズを1枚を除外する。

 

 

『FNo.63 第六天魔王 織田信長』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/戦士族/攻2100/守1800

戦士族レベル4モンスター×2

このカードがエクシーズ召喚に成功した時、エクシーズ素材を2つ取り除き、ライフを半分払って発動出来る。

デッキ・手札から『ノブ』もしくは『ノッブ』と名のついたモンスターを可能な限り自分フィールドに特殊召喚する事が出来る。

この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターンに効果を発動することが出来ず、攻撃することが出来ない。

この効果はデュエル中に1度しか発動することが出来ない。

 

 

『FNo.65 断罪処刑者 シャルル』

 

 

『FNo.65 正義の暗殺者 キリツグ』

 

 

『FNo.68 冥界の女主人 エレシュキガル』

 

 

『FNo.69 軍神王 アルテラ』

 

 

『FNo.70 聖なる怪物 ジル・ド・レェ』

 

 

『FNo.70 永遠の愛と絆 ラーマ&シータ』

 

 

『FNo.72 疾風繚乱 佐々木小次郎』

 

 

『FNo.72 絶招神槍 李書文』

 

 

『FNo.73 フィオナ騎士団長 フィン・マックール』

 

 

『FNo.74 守護聖人 ゲオルギウス』

 

 

『FNo.75 精霊戦士 ジェロニモ』

 

 

『FNo.77 巌窟王 エドモン・ダンテス』

 

 

『FNo.78 陣形軍師 諸葛孔明』

 

 

『FNo.78 童話創作者 アンデルセン』

 

 

『FNo.78 偉大なる文豪 シェイクスピア』

 

 

『FNo.78 誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)

 

 

『FNo.78 文と詞の想い人 紫式部』

 

 

『FNo.79 聖拳竜破 マルタ』

 

 

『FNo.80 暴星武神 呂布』

 

 

『FNo.80 血斧王 エイリーク』

 

 

『FNo.81 蒸気王 チャールズ・バベッジ』

 

 

『FNo.82 理性蒸発の騎士 アストルフォ』

 

 

『FNo.83 勝利と愛の女王 ブーディカ』

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/戦士族/攻2700/守2400

レベル5モンスター×2

このカードがエクシーズ召喚に成功した場合に発動出来る。デッキから1枚ドローし、それが魔法カードなら手札に加え、それ以外ならデッキトップに戻す。

このカードがフィールドに存在する限り、自分フィールドのモンスターは守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター全てにチャリオットカウンターを一つ乗せる。チャリオットカウンターが乗ったモンスターは守備表示となり、表示形式を変更出来ない。チャリオットカウンターは効果を発動したターンのエンドフェイズ時に一つ取り除かれる。この効果は相手ターンでも使用出来る。

 

 

『FNo.85 堕落の悪魔 メフィストフェレス』

 

 

『FNo.86 漆黒の聖槍 ランサー・アルトリア・オルタ』

 

 

『FNo.87 月狂の皇帝 カリギュラ』

 

 

『FNo.87 月女神の射手 アルテミス&オリオン』

 

 

『FNo.88 大統王 トーマス・エジソン』

 

 

『FNo.89 少年覇王 アレキサンダー』

 

 

『FNo.89 征服王 イスカンダル』

 

 

『FNo.90 奇跡の聖者 天草四郎』

 

 

『FNo.91 雷竜魔嬢 エリザベート』

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1500

レベル3モンスター×2

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。

次の自分のスタンバイフェイズ時まで、相手フィールド上の全てのモンスターは効果を発動出来ず、攻撃することが出来ない。

この効果の発動に対して相手はカード効果を発動出来ない。

 

 

『FNo.91 雷電博士 ニコラ・テスラ』

 

 

『FNo.92 魔竜剣士 ジークフリート』

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/戦士族/攻2900/守2500

ドラゴン族レベル8モンスター×1+戦士族レベル8モンスター×1

このカードの攻撃力・守備力は相手のフィールド・墓地のドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターの数×500ポイントアップする。

エクシーズ素材を1つ取り除いて①②の効果を1ターンに1回ずつ発動出来る。

①このターン、相手フィールド上のドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターの効果を無効にし、そのモンスター全てに攻撃することができる。

②このターンのエンドフェイズ時まで、このカード以外の効果を受けず、戦闘で破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

『FNo.94 恋と愛の女神 パールヴァティー』

 

 

『FNo.95 邪竜と聖女 ジーク&ルーラー』

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/戦士族/攻4000/守4000

闇属性レベル8モンスター×1+光属性レベル8モンスター×1

このカードはルール上、属性は『闇』、種族を『ドラゴン族』としても扱う。

①1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。デッキからモンスターを5枚まで選んで墓地に送る。このターン、墓地に送ったカードの枚数分だけ、相手フィールドのモンスターに可能な限り攻撃する事が出来る。

②1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのカード効果を無効にして破壊する。この効果に対して相手はカード効果を発動出来ず、無効に出来ない。この効果は相手ターンにも使用する事ができる。この効果を使用した後、このモンスターの攻撃力と守備力は0となり、エンドフェイズ時にこのカードを破壊する。

 

 

『FNo.96 この世全ての悪 アンリマユ』

 

 

『FNo.96 黄昏の魔法少女(トワイライト・マジシャン・ガール) クロエ』

 

 

『FNo.97 授かりの英雄 アルジュナ』

 

 

『FNo.98 叛逆の赤雷騎士 モードレッド』

 

 

『FNo.100 空の境界 両儀式』

エクシーズ・効果モンスター

ランク1/光属性/戦士族/攻0/守0

レベル1×5

このカードは手札の「RDM」魔法カード1枚を捨て、自分フィールドの「FNo.103 直死の魔眼 両儀式」の上に重ねてX召喚する事もできる。

このカードは相手のカード効果を受けず、リリースすることは出来ない。

このモンスターの攻撃力・守備力はX素材となっているモンスターエクシーズのランクの合計×500ポイントアップする。

このカードの①②③の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用出来ない。

①X素材を2つ取り除いて発動出来る。自分のフィールド・墓地・除外のXモンスターを1枚選択し、このカードのX素材にする。

②X素材を1つ取り除いて発動出来る。自分の墓地、もしくは除外されている魔法・罠カードを1枚選んで自分フィールドにセットする。この効果でセットしたカードはこのターンに発動出来る。この効果は相手ターンでも使用出来る。

③X素材を1つ取り除いて発動出来る。このカードは相手フィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃出来る。このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時までモンスター・魔法・罠の効果は無効化され、カード効果を発動できない。

 

 

『FNo.101 影の国の女王 スカサハ』

 

 

『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2000

光属性レベル4モンスター×2

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、このカードはこのターンに相手モンスター全てに攻撃する事が出来る。

また、破壊されたモンスターはエンドフェイズ時まで効果を発動する事ができない。

この効果を使用したターン、相手が受ける戦闘ダメージは0となる。

 

 

『FNo.102 神罰の魔人 アタランテ・オルタ』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/獣戦士族/攻2500/守2000

闇属性レベル4モンスター×3

このカードは手札の闇属性モンスターを1枚を墓地に送り、 自分フィールドの『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』をエクシーズ素材として、エクシーズ召喚することが出来る。

このカードが特殊召喚に成功した場合、墓地の闇属性モンスター1枚を選択し、このカードのエクシーズ素材にすることが出来る。

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、相手モンスターを全てを裏側守備表示に変更する。

この効果を使用したターン、このカードが守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

 

 

『FNo.103 直死の魔眼 両儀式』

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/戦士族/攻2300/守1800

光属性レベル4モンスター×1+闇属性レベル4モンスター×1

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。相手フィールド上のモンスター1体を選択し、裏側表示で除外する。この効果を使用したターン、このモンスターは攻撃できない。

 

 

『FNo.104 二重存在者 ジキル&ハイド』

 

 

『XFNo.0 運命の終焉者 魔神セイバー』

エクシーズ・効果モンスター

ランク0/光属性/戦士族/攻?/守?

同じランクの「沖田総司」Xモンスター×1+「織田信長」Xモンスター×1

このカードは上記のモンスターを素材にしたエクシーズ召喚でしかエクストラデッキから特殊召喚することが出来ず、デュエル中に1度しか特殊召喚することが出来ない。

ルール上、このカードはランク1として扱う。

このカードがフィールド・墓地に存在する限り、このカードの属性は『闇』としても扱う。

1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。種族を1つ宣言し、このカードの攻撃力・守備力は宣言した種族のモンスターが相手フィールドに存在する限り、その種族の相手モンスターの攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力+1000の数値になる。この効果は相手ターンでも発動出来る。この効果を発動したターン、このカードは他のカード効果を受けない。

このカードがフィールドから離れた場合に発動出来る。墓地から「沖田総司」Xモンスターと「織田信長」Xモンスターを1体ずつ特殊召喚する。

 

 

『FNo.XX 伝説の決闘者 遊戯王』

 

 

『招き蕩う黄金劇場』

アエストゥス・ドムス・アウレア

フィールド魔法

このカードは自分フィールドに『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』がいる時に発動出来る。

自分フィールドに『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』がモンスターゾーンに存在する限り、 相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

1ターンに1度、自分フィールドの『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』を対象に発動出来る。手札のカード1枚を除外する度に対象モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

 

『招き蕩う結婚式場』

ヌプティアエ・ドムス・アウレア

フィールド魔法

このカードは自分フィールドに『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』がいる時に発動出来る。

自分フィールドに『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』がモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならず、相手モンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

1ターンに1度、自分フィールドの『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』を対象に発動出来る。自分のライフポイントを好きな数値だけ支払い、支払った分の数値分を対象モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時までアップする。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

 

『宝具 - 約束された勝利の剣 -』

通常魔法

自分フィールドに『アルトリア』Xモンスターがいる時に発動可能。

このターン、自分フィールドの全ての『アルトリア』Xモンスターはエンドフェイズ時まで攻撃力と守備力が二倍となり、エクシーズ素材を取り除いて使用する効果を発動条件を全て無視してそれぞれ一度ずつ発動することが出来る。

このカードはデュエル中、一度しか使用出来ない。

 

 

『女神アンドラスタの祝福』

通常魔法

自分フィールドに『FNo.』モンスターがいる時に発動可能。

自分フィールド上のモンスター全ての攻撃力と守備力を次のターンのエンドフェイズまで1000ポイントアップし、自分フィールドのモンスターの数×500のライフポイントを回復する。

また自分フィールドに『ブーディカ』Xモンスターがいる場合、以下の効果も適用する。

エクストラデッキから『CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』をエクシーズ召喚扱いで特殊召喚することが出来る。

 

 

『ジョイント・リサイタル』

フィールド魔法

このカードは自分フィールドに『ネロ』Xモンスター及び『エリザベート』Xモンスターがいる時に発動出来る。

自分フィールドに『ネロ』Xモンスター及び『エリザベート』Xモンスターがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのモンスターは戦闘・効果では破壊されず、相手モンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を選択して発動出来る。自分のエクストラデッキから『魔人』Xモンスターを任意の数だけ墓地に送り、対象モンスターはその数×500ポイントの攻撃力をアップし、相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃する事が出来る。この効果を使用したエンドフェイズ終了時、自分はこの効果で除外したカードの数×500ポイントのライフを失う。

自分フィールドに『ネロ』Xモンスターもしくは『エリザベート』Xモンスターがフィールドから離れた場合、このカードは墓地に送る。

 

 

『ちびノブ』

通常モンスター

レベル4/地属性/戦士族/攻2000/守1800

帝都聖杯を爆弾にしようとした織田信長が落ちてしまい、その際に誕生した正体不明のナマモノ。

可愛い見た目に反して戦闘力が非常に高い。

 

 

『銀ノブ』

通常モンスター

レベル5/光属性/戦士族/攻2500/守2000

ちびノブが進化して銀色に輝いた姿。

銀色になった以外見た目に変化はない。

 

 

『金ノブ』

通常モンスター

レベル6/光属性/戦士族/攻2600/守2100

銀よりも更にレアな進化を遂げ、眩い金色に輝いたちびノブ。

しかし、やはりその見た目には金色になった以外変化はない。

 

 

『でかノブ』

レベル7/地属性/戦士族/攻2490/守2050

ちびノブが巨大化した姿。

可愛い見た目はそのままだが声が野太くなっている。

巨大化したことにより、ちびノブよりもかなり強くなったが、古代の黒き魔術師には一歩及ばない。

 

 

『金銀でかノブ』

レベル8/光属性/戦士族/攻2990/守2450

金ノブと銀ノブが巨大化した姿。

二体が共に戦うことで圧倒的な力を発揮するが、伝説の白き龍には一歩及ばない。

 

 

『RUM - リミテッド・フェイト・フォース』

速攻魔法

自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体を選択して発動できる。選択したモンスターよりランクが1つ高い「FNo.」と名のついたモンスター1体を選択した自分のモンスターエクシーズの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

『希望の守護獣 フォウ』

効果モンスター

星4/光属性/獣族/攻2000/守1500

このカード名はルール上「ズババ」、「ガガガ」、「ゴゴゴ」、「ドドド」カードとしても扱う。

フィールドに「マーリン」が存在しない時は攻撃できない。

①1ターンに1度、自分フィールド上の「ズババ」、「ガガガ」、「ゴゴゴ」、「ドドド」と名のついたモンスター1体を選択して発動出来る。このカードは選択したモンスターと同じレベル、もしくはこのカードと選択したモンスターはそれぞれのレベルを合計したレベルになる。

②フィールドに「マーリン」と名のついたモンスターが存在する限り、「マーリン」と名のついたモンスターの効果は無効化され、攻撃力と守備力は半分となり、このカードの攻撃力と守備力は元々の倍となる。

③このカードを素材として持っている「FNo.」Xモンスターは以下の効果を得る。

● この効果は1ターンに1度しか発動出来ない。自分のメインフェイズに発動出来る。自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札1枚墓地に送る。

 

 

 




こうして見るとカルデアのフェイトナンバーズはかなりの数になりましたね。

フェイトナンバーズがあればそのサーヴァントをカルデアに高確率で召喚出来るので羨ましいですね。

特異点を超える度にフェイトナンバーズが増えるので考えるのも大変ですが、頑張って書いていきます。


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特異点F 炎上汚染都市 冬木
ナンバーズ1 少年と少女、運命の出会い!


お待たせしました!
ありそうでなかったFGOとZEXALのクロスです。
私はまだFGOを始めたばかりなので至らない部分がありますが、よろしくお願いします。


暗い闇の中、光が少しずつ差し込んで行く。

 

すると、顔にちろちろと何か不思議な感触が伝わる。

 

「ん……?何だよ……?」

 

ちろちろと、まるで犬か猫に舐められているみたいだった。

 

そんな感触に、目を開け、ぼやける視界の中で、少女の姿を視界が捉えた。

 

どうやら何処かで寝ているらしく、冷たい床の感触が返ってくる。

 

「……あの。朝でも夜でもありませんから、起きてください」

 

眼鏡をかけたその少女と視線が合い、可愛らしく首を傾げている。

 

「うわぁ!?」

 

少年は思わず反射的に飛び上がってからバク転をして下がり、少女も驚いた。

 

「あ、あんた、誰だよ?」

 

少年は名前を尋ねると少女は顎に手をやり、それからぼそりと呟いた。

 

「名乗る程の者ではありません」

 

「はぁ?」

 

「いえ、名前はあるのですが、あまり名乗る機会がなかった為にこう、印象的な自己紹介ができないと言うか……」

 

少女は再び首を傾げると少年の頭に頭痛が走った。

 

「痛っ……ここは、一体……?って、おわっ!?」

 

すると突然小さな犬とも、リスとも言えない可愛らしいがとても不思議な白い生き物が少年の頭に飛び乗った。

 

「何だこれ!?こんな生き物、見たことないぞ!?」

 

「こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権動物です。私はフォウさんにここまで誘導され、お休み中のあなたを発見したんです」

 

少女の言葉に応じる様に、「フォウ」という鳴き声が上がり、少年の頭から降りてそのまま何処かへ行ってしまう。

 

「またどこに行ってしまいました。あの様に、特に法則性もなく散歩しています」

 

「自由だな……」

 

「私以外にはあまり近寄らないんですが、あなたは気に入られたようです。おめでとうございます。カルデアで二人目のフォウさんのお世話係の誕生です」

 

「へぇー……って、気に入られた?お世話係って何!?」

 

よく分からない得体の知れない生き物に気に入られ、更にはお世話係に任命され訳が分からなくなる少年だった

 

しかしそれよりも少年は気になることがあった。

 

「ここは、何処なんだ?」

 

窓の外には大雪が吹雪いており、しかも見たことない建物の中にいる少年は周囲をキョロキョロしながら尋ねた。

 

「ここは人理継続保障機関『カルデア』です」

 

「カルデア?ハートランドじゃないのか?」

 

「ハート、ランド?聞いたことないですね、どこかの国の名前ですか?それにあなたはマスター適性者ではないのですか?」

 

「マスター……?ごめん、何の事だかさっぱり分からないんだけど」

 

「あなたは一体……?」

 

少女の問いに、少年は元気よく名乗る。

 

「俺は九十九遊馬だ!あんたの名前は?早く教えてくれよ!」

 

その少年の名は九十九遊馬。

 

そして、遊馬に急かされて少女も名乗る。

 

「私はマシュ……マシュ・キリエライトです」

 

少女の名はマシュ・キリエライト。

 

遊馬とマシュ、これが二人の運命の出会いだった。

 

そこに一人の男性が近づく。

 

「マシュ、マシュ・キリエライト。そこにいたのか」

 

それは緑のスーツを着た男性で穏やかな表情を浮かべていた。

 

「レフ教授」

 

「そろそろ、マスター適性者のブリーフィングが始まる。急いで中央管制室に……おや、君は?」

 

「俺は九十九遊馬。なあ、おっちゃん。ここは一体どこなんだよ?」

 

「お、おっちゃん?そんな風に言われたのは初めてだよ。マシュ、この子は?」

 

おっちゃんと呼ばれてレフは苦笑を浮かべるが、遊馬を不思議に思い、マシュに尋ねた。

 

「私も分かりません。カルデアの事を知らないみたいで……マスター候補生じゃないみたいです」

 

「マスター候補生じゃない?ふむ……」

 

「なぁ、俺一つ思いついたことがあるんだけど……」

 

「何かね?」

 

「俺、もしかしたらこことは違う異世界から来たのかもしれない」

 

「えっ?」

 

「何……?」

 

突然の遊馬の言葉にマシュとレフは動揺の表情を浮かべる。

 

「俺の故郷、ハートランドは世界的に有名な都市なんだ。それをさっきマシュに聞いたら知らないって言ったんだ。それに俺もカルデアとか知らないし、だから異世界に来ちまったんだと思うんだ」

 

「……あまりにも突飛過ぎる話だが、それにしては随分君は落ち着いているな」

 

「俺、ちょっと前に異世界をあちこち移動していたからな」

 

三つの世界を巻き込んだ世界滅亡の危機に立ち向かったとは流石に言えず、苦笑いを浮かべる遊馬。

 

遊馬は異世界から来た証拠に遊馬の世界で広く普及している携帯端末であるD・パッドとD・ゲイザーをレフに見せた。

 

技師であるレフは初めて見るD・パッドとD・ゲイザーに興味を持ち、更には見た事ない技術で作られているとすぐに分かり、遊馬が異世界から来たと信じざるを得なかった。

 

レフは何も知らない遊馬にこのカルデアの必要最低限の事を教えた。

 

人理継続保障機関・カルデア。

 

それは魔術だけでは見えない世界、科学だけでは計れない『世界』を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために設立された特務機関。

 

ある日、何の前触れもなく、カルデアで観測を継続していた未来領域が消失し、人類は2017年で絶滅することが証明されてしまった。

 

カルデアは時空の特異点を探し出し、解明あるいは破壊し、人類滅亡を阻止するために動き出していた。

 

カルデアは守護英霊召喚システム「フェイト」を使い、英霊と呼ばれる強力な力を持った過去の英雄たちをサーヴァントとして召喚して契約を結び、共に戦う。

 

その英霊を召喚し、契約を結ぶために48人のマスター候補生が集められ、マシュもその一人である。

 

人類滅亡とそれに立ち向かう戦いが始まるというとんでもない話に遊馬は首にかけた遊馬の胸に掛けている『皇』の形をした不思議な金色のペンダント、『皇の鍵』を握りながら顔を少し青くする。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ!大丈夫だ!」

 

「しかし、本当に何も知らないようだ……それに、なぜ君がここで倒れていたのかも不明だ。さて、どうするか……」

 

突然カルデアに現れた遊馬をどうするかレフは悩んでいると遊馬はある提案をする。

 

「なあ、おっちゃ……じゃなくて、レフさん!俺も、そのレイシフトに参加してもいいか?」

 

「何だって……?」

 

「何で俺がここにいるのか分からないけど、ここでマシュと出会ったことに何か意味があると思うんだ。それに、異世界とは言え人類滅亡なんて話を黙って見ていられないんだ。だから、頼むよ!」

 

「まだ十三歳なのに随分と逞しい心を持っているね。一応、適性のあるマスターは四八人と決められているがあくまでもそれは適性があると認められた人々で、上限はない。もしも君にマスターとしての適性があるならば、レイシフトに参加できるかもしれない」

 

「本当か!?」

 

「ああ、私からも話を通してみるよ。ただ……もうすぐブリーフィングが始まる。遅れたら大変だ。ウチの所長は、結構根に持つタイプだからね」

 

「え!?遅れただけで根に持つの!?」

 

ハートランド学園の中学校で遅刻常習犯である遊馬にとってはある意味相性最悪と思われるその所長に顔を真っ青にする遊馬だった。

 

そんな遊馬にマシュは手を握って急かすように走り出す。

 

「遊馬君、こっちです。急ぎましょう」

 

「え?あ、ああ!」

 

「ほぅ、マシュが自分から人が関わるとはね。マシュ、彼の何処に興味を惹かれたんだい?」

 

「遊馬君は今まで出会った人達とは違うんです」

 

「違う?」

 

「とても純粋で心優しく、でもとても強い……そんな感じがするです」

 

「え?いやー、その、照れるなぁ〜」

 

遊馬はマシュに褒められて歳相応に照れるとカルデアの中央管制室に到着した。

 

「よっしゃあ!行くぜ!」

 

遊馬は異世界の人類救済の第一歩を踏み出すべく、中央管制室のドアを開いた。

 

ところが……。

 

「どわあっ!?」

 

遊馬は思い切り突き飛ばされ、廊下に転がり出された。

 

「ここは子供の来るところじゃありません!」

 

「ええっ!?ちょっとぉ!?」

 

厳しい女性の声が響くと既に中央管制室の扉は閉じられ、完全に自分が閉め出された事を悟り、愕然とする遊馬だった。

 

「何でだよ……」

 

「遊馬君は、ファーストミッションから外されてしまったみたいです」

 

「え!?」

 

「個室に案内します」

 

あまり感情を表に出さないマシュも、少しばかり遊馬に同情している様子だった。

 

数分前に遊馬は意気揚々と中央管制室に入ったのはいいが、幼さが抜けない……悪く言えばガキっぽい十三歳の子供が来たことに所長のオルガマリーは気に入らず、問答無用に叩き出されてしまったのだ。

 

「……俺、あの所長に嫌われたかな?」

 

「はい。所長から目の敵にされると思います」

 

マシュは遊馬に残酷な事実が突きつけ、遊馬は思わず大きな溜め息をついてしまう。

 

これでは遊馬の今後のミッション参加は絶望的かもしれない。

 

「魔術の世界は実力は勿論の事、家柄がものを言います。所長は魔術の名門の出で、血筋に強いこだわりを持っているんです。試験段階のレイシフトを成功させる為には多くのマスター適性者が必要です。しかし、その候補者も一握りしかおらず……」

 

「じゃあ、俺は最初から出来ないかもしれなかったのか?」

 

「はい、そういう事になります」

 

「そっか……見ず知らずの俺じゃダメなのか……でも、これぐらいのことじゃ諦めないぜ!落ち着いたら所長の所に行って認めてもらうしかないぜ!かっとビングだ!」

 

諦めることをしない遊馬の元気な姿にマシュは微笑みながら遊馬の部屋を案内する。

 

「ここが遊馬君の部屋です。レフ教授が急いで空き部屋を探してくれました」

 

「おお!ここが俺の部屋!マシュ、レフさんにありがとうって伝えてくれないか?」

 

「構いませんよ」

 

「サンキュー!マシュはこれからミッションか?」

 

「ええ。この後すぐにです」

 

「そっか。頑張れよな……うわっ!?」

 

マシュに激励をしようとした遊馬だがまだ体が本調子ではなく、眩暈がしてそのまま尻餅をついてしまった。

 

尻餅をした際に腰に取り付けられている赤いデッキケースが開いてしまい、中に入っている大量のカードが床に散らばってしまった。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「いって……まだ体が本調子じゃねえな。あっ、やべっ!カードが!?」

 

「大変です、一緒に拾います」

 

「サンキュー、マシュ!」

 

遊馬とマシュは二人で床に散らばったカードを集める。

 

「見たことないカードですね……遊馬君、これは?」

 

「これはデュエルモンスターズ!カードに描かれたモンスターと一緒に戦うカードゲームなんだ!」

 

「カードゲーム、これが……!」

 

マシュは初めて見るカードに目を瞬かせながら見ていると、不思議なカードを見つけた。

 

「FNo.0……未来皇、ホープ……?」

 

それは黒い枠のカードに二つの剣と翼を持った戦士のような姿をしたモンスターが描かれていた。

 

そして、そのカードはとても不思議で尚且つ魅力的で描かれていたモンスターはどことなく遊馬に似ていた。

 

「マシュ、それで最後だな……どうかしたのか?」

 

「いえ、このカードが遊馬君に似ているなって思って……」

 

未来皇ホープが遊馬に似ていると言われ、遊馬は得意げに笑みを浮かべる。

 

「へへっ、かっこいいだろ!こいつは俺にとって特別なカードだからな!」

 

「ええ。とてもかっこいいです」

 

マシュは残りのカードと未来皇ホープのカードを遊馬に渡し、これでばら撒いてしまったカードを全て回収できた。

 

「よし!これで全部だ、サンキューな、マシュ!」

 

カードをデッキケースにしまい、遊馬はマシュにお礼を言う。

 

「いいえ、大したことはしてません。では行ってきます」

 

「ああ!頑張れよ!」

 

「はい」

 

マシュは中央管制室へ向かおうとしたその時、遊馬はそうだ!とある事を思いついてデッキケースから一枚のカードを取り出す。

 

「マシュ!」

 

「えっ?」

 

遊馬に呼ばれてマシュは振り向くと遊馬から何かが投げ渡され、慌てて受け取ったマシュの手には一枚のカードがあった。

 

「このカードは……!?」

 

それは先ほどマシュが手にした遊馬にとって特別なカード、『FNo.0 未来皇ホープ』だった。

 

「ラッキーカード、お守りとして持ってくれ!」

 

「でもこれは遊馬君の大切な……」

 

「レイシフトが終わって帰ってきたら返してくれ!マシュ、約束だからな!」

 

遊馬はレイシフトに向かうマシュとまた会うために未来皇ホープのカードを渡して再び会う約束をした。

 

マシュは遊馬の優しさに触れて心が温かくなり、未来皇ホープのカードを優しく握りながら笑みを浮かべた。

 

「はい!必ず、終わったら返します!」

 

未来皇ホープのカードを上着の内ポケットに仕舞い、管制室に向かって走り出した。

 

「さぁて、とりあえず俺は一眠りするか。色々考えるのは後だ!」

 

まずは本調子じゃない体を整えるために一眠りしようと部屋のドアを開いた、次の瞬間呆気に取られてしまった。

 

誰もいないはずの自分の部屋のベッドには、白衣を着た青年が鎮座し、美味しそうにケーキを頬張っているのだ。

 

「誰だよあんた……?」

 

「ふぁーい、入ってまーす……って!?誰だね君は!」

 

「いや、それは俺のセリフだから」

 

青年がフォークを遊馬に突きつけるが、遊馬は冷静にツッコミを入れる。

 

「ここは僕専用のサボり場だよ?誰の許可を得て入ってきたんだね!」

 

「サボり場って……えっと、マシュにこの部屋が俺のだって聞いたんだけど」

 

「え!?マシュに!?だって、マスターは48人なんじゃあ!?ここに来て、一人追加!?」

 

「よくわかんねえけど、多分そういう事になってる。それで、あんたは?」

 

「ん?ああ、紹介が遅れたね。僕は、ロマニ・アーキマン。医療部門のトップで、カルデアの皆からはドクターロマンって呼ばれてるよ」

 

「ドクター?ってことは、お医者さんなのか?」

 

「そうだよ。でも、もうすぐレイシフトが始まるのに、どうして君はここに?カルデアに来たという事は、マスターなんだろう?」

 

遊馬は所長とのいざこざを説明すると、ロマニは苦笑いをしてケーキを頬張る。

 

「成程、幼いが故に所長の逆鱗に触れ、ファーストミッションから外された、と。僕と一緒だね」

 

「え?一緒?」

 

「所長に、『ロマニがいると現場の雰囲気が緩む』と言われて、追い出されてね。だからここで拗ねてたって訳さ」

 

「そっか。でも、俺は先生みたいな明るい人は大好きだぜ!堅苦しい人ばっか集まったら心が沈んじまうからな!」

 

「おお!僕のことを理解してくれる人がいるとは、僕は遊馬君の様な人間を待っていたんだ!所在ない者同士、仲良くしようじゃないか!」

 

ロマニは遊馬を気に入り、遊馬の頭を優しく撫でた。

 

「よろしくな、ロマン先生!あ、そうだ。色々聞きたいことがあるんだけど、いいかな?俺、ここのこと、全然知らなくて」

 

「ああ、良いだろう。ではまず最初にカルデアとは……」

 

ロマニが遊馬へカルデアに関する講義を始めるために口を開こうとしたその時、ロマニの手首に巻き付いている腕輪が音を鳴らした。

 

聞こえてきたのはレフの声で通話機能が備わっていた。

 

「うん?レフ、どうしたんだい?」

 

『もうすぐレイシフトが始まるんだが、Aチームは良好、しかしBチームの何名かに微かな変調が見られる。来てくれるか?』

 

「分かった、麻酔をかけに行こう。すぐに向かう」

 

『そこからなら二分で到着するはずだ。頼むぞ』

 

「OK」

 

通話を切ったロマニに遊馬はあることに気づく。

 

「あれ?ここは医務室じゃないよな?」

 

「……まぁ、言い訳は考えるさ。今の彼は……」

 

「レフさん、だったよな?確か、技師の一人って言ってたぞ」

 

「控えめに言ったなぁ。レフはね、『カルデアス』の大事な部分を設計した魔術師なんだよ?」

 

「へぇ……あの人が……」

 

「それじゃあ、僕はこれで行くね。楽しかったよ、遊馬君。もし暇だったら医務室に来てくれ。美味しいケーキでも……」

 

その時、ロマニの言葉を謎の爆発音が遮った。

 

直後に不気味な音が続いて響き、部屋の天井の照明が切れた。

 

「えっ?停電?」

 

「まさか。カルデアで停電なんて……」

 

『緊急事態発生、緊急事態発生』

 

緊急のアナウンスが流れ、カルデア内の発電所から火災が起きている事が知らされる。

 

「火災だって……!?」

 

突然訪れた緊急事態に遊馬は現状がとても危険な状態にある事を知る。

 

そして、脳裏に先ほど別れたマシュの姿が浮かんだ。

 

「はっ!?マシュ!!」

 

遊馬はマシュの身を案じ、部屋を飛び出した。

 

「あっ!待ちなさい、遊馬君!」

 

ロマンの制止を振り切り、マシュの無事を確認する為に中央管制室へ向かった。

 

 

 

.




早速遊馬君がマシュちゃんにフラグを立ててます(笑)
流石は遊戯王主人公です。
ここではマシュちゃんは遊馬君を弟のように可愛がります。
次回から遊馬の戦いが始まります。


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ナンバーズ2 長き旅と戦いの幕開け!

遊戯王ARC-V最終回記念に速攻書き上げて投稿しました。
遊戯王ZEXAL最終回を思い出しますね、未来皇ホープとホープドラグーンの戦い、胸熱なのを今でも思い出します。



遊馬はマシュを探してカルデアの廊下を走り続けていた。

 

先程まで同じ部屋にいたロマンは発電所に向かっており、遊馬に避難するよう大声で叫んだが、マシュを探すためにそれを無視した。

 

マシュを含めたマスター適性者たちが集まっている場所は地下の管制室で遊馬は災害時のエレベーターは危険だと思い、乗らずに非常階段で一気に下まで降りた。

 

しかし途中で道が分からなくなり、迷いそうになったが遊馬は目を閉じてある気配を探した。

 

「……こっちか!!」

 

それはマシュに渡した『FNo.0 未来皇ホープ』のカードの気配だ。

 

そのカードは遊馬自身が作り出したものなので、その気配を察知することができる。

 

遊馬は全力で廊下を駆け抜け、遂にレイシフトをする管制室に到着した。

 

「マシュ!!」

 

遊馬は扉を開けて部屋の中に入った瞬間、言葉を失った。

 

部屋は見るも無残に破壊され、瓦礫の山と火の海が広がる人がいられないような地獄と化していた。

 

「……くっそぉっ!!マシュ!何処だ!何処にいるんだ!!」

 

早くマシュを見つけないといけないと遊馬は自分を奮い立たせて大声で叫んだ。

 

「フォウ!フォウー!」

 

「っ!?この声はフォウか!?」

 

それは少し前に出会った不思議な生物、フォウの鳴き声だった。

 

ただ、最初に聞いた鳴き声とは違って、泣いている様な声だった。

 

遊馬はマシュを気に入っているフォウがいる場所にきっとマシュもいるはずだ、と考えてフォウを探して走り出す。

 

「何処にいるんだ、フォウ!」

 

フォウの鳴き声と未来皇ホープのカードの気配を頼りにマシュを探す。

 

そして、灼熱の火の海を潜り抜けて、遂にマシュを見つけた。

 

「マシュ!!フォウ!!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

マシュは倒壊した瓦礫に下半身を下敷きにされており、フォウはマシュの顔を舐めたりして意識を呼び起こそうとしていた。

 

マシュは辛うじて意識はあるのか、その瞼が薄く開かれていた。

 

「マシュ!」

 

「遊馬君……!?」

 

どうしてここにいるのかと困惑しているマシュに遊馬は急いで駆け寄った。

 

「待ってろ、今、コイツをどかしてやる!」

 

「遊馬君、私の事は、構わないで……すぐに待避してください……私は、助かりません」

 

息も絶え絶えに、マシュは自分の下半身に目をやる。

 

瓦礫に押し潰されているのか、おびただしい量の血が溢れていた。

 

これでは下半身が潰れてもおかしくなく、この状態で生きているのは単に運がいいだけではなかった。

 

マシュに渡した未来皇ホープのカード……そのカードが持つ理解不能なエネルギーがマシュの命を繋ぎとめていたのだ。

 

「遊馬君……フォウさんを連れて、逃げてください……せめてあなただけでも……」

 

マシュは出会ったばかりとはいえ弟のように思っている遊馬と仲の良いフォウと共に逃げて生き延びて欲しいのだ。

 

しかしそれを聞いて素直に頷く遊馬ではなかった。

 

「諦めるんじゃねえ!!!」

 

遊馬は瓦礫を持ち上げようと、瓦礫に手を潜り込ませる。

 

しかし、火災で人が触れられないほどの強い熱を持っている瓦礫に触れただけで、遊馬の手から焼けるような音が鳴る。

 

「ぐあっ!?」

 

「や、やめてください!!私の事は構わないでと言ったじゃないですか!?」

 

「絶対に嫌だ!俺はもう、目の前で大切な仲間が死ぬのをただ黙って見ているなんて出来ねえ!!」

 

「仲間……?私が、ですか?」

 

遊馬がマシュを仲間と呼び、目を丸くして呆然とした。

 

「そうだ!マシュ、お前は俺の大切な仲間だ!俺は絶対に仲間を見捨てない!必ず助ける!!」

 

「遊馬君と私は会ったばかりなのに……」

 

「時間なんて関係ない!マシュは俺の大切な仲間だ!だから、絶対に諦めない!見捨てない!それが俺の、かっとビングだぁっ!!」

 

それは父から教えてもらった遊馬の信条にして格言、そして精神……絶対に諦めない心……かっとビングが遊馬に力を与え、僅かに瓦礫が浮き上がる。

 

「かっと、ビング……?」

 

その時、マシュの胸ポケットに仕舞われていた一枚のカードが光り輝き、勝手に動き出して遊馬の前に出てきた。

 

「未来皇ホープ……!?」

 

それは遊馬がマシュに渡した未来皇ホープのカード、遊馬はその名を叫んだ。

 

「頼む、力を貸してくれ!現れよ、FNo.0!未来皇ホープ!!」

 

遊馬の背後の空間が歪み、そこからカードに描かれたモンスター……遊馬に似た姿をした翼を持つ戦士が現れる。

 

それは無限の可能性を持つ遊馬が作り出したモンスター、未来皇ホープだった。

 

「カードに描かれた未来皇ホープが具現化した……!?」

 

魔術を使わずにカードに描かれたモンスター……魔物を召喚した遊馬にマシュは目を疑った。

 

「ホープ……頼む、マシュの上の瓦礫を斬ってくれ!」

 

『ホォープ!!』

 

遊馬の指示に従い、未来皇ホープは腰に取り付けられた二振りの剣を構える。

 

「ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!!!」

 

未来皇ホープは二振りの剣でマシュの上にある瓦礫を一瞬で細切れに斬り裂き、遊馬は一気にマシュを引き上げる。

 

「マシュ!!」

 

マシュの下半身は血塗れだったが遊馬は目を瞑って反らし、とにかく一刻も早く助けるために部屋から脱出しようとする。

 

「遊馬君……」

 

「マシュ!すぐに先生の元に連れてってやる!もう少し頑張れ!」

 

遊馬はマシュをロマンの元へ連れて行こうとしたがマシュは何かを悟ったかのような安らかな表情を浮かべて遊馬の頰に手を添えた。

 

「遊馬君、あなたに会えてよかった……」

 

「ば、馬鹿野郎!こんな時にそんな事を言うんじゃねえ!!」

 

「最後にお願いがあります……手を、握ってくれませんか?」

 

「マシュ……くっ……あ、ああ……」

 

遊馬は最後のマシュの願いに応え、自分の頰とに添えられたマシュの右手を自分の右手で強く握りしめた。

 

すると、遊馬が入室してから聞こえていたが無視していたアナウンスが終わると周囲に無数の光の粒子が溢れた。

 

そして、未来皇ホープは遊馬とマシュを守るように翼を広げて優しく抱きしめた。

 

まばゆい、全てを包み込もうとする光に遊馬が瞼を閉じた時……機械的な音声が響く。

 

『レイシフト開始まで、3、2、1、0。全行程完了。ファーストオーダー、実証を開始します』

 

光に包まれた遊馬とマシュはカルデアから姿を消してしまった……。

 

 

また生暖かい何かが頬を舐めている。

 

遊馬はそれがフォウの舌である事に気付き、瞼を開いた。

 

まるで初めて会った時の様にマシュが自分を見つめていた。

 

「遊馬君!しっかりしてください、遊馬君!」

 

「えっ……マシュ!?」

 

遊馬はすぐに起き上がってマシュの全身を眺める。

 

服装は最初に出会った時とは打って変わり、眼鏡を外し、黒いライダースーツの様なモノを身に着けていた。

 

「マシュ、お前、体は……!?」

 

瀕死の重傷だった体がまるで生まれ変わったかのように怪我がなく綺麗だった。

 

「大丈夫です、ちゃんと生きてますよ」

 

「あっ、あぁ……マシュ!」

 

「きゃっ!?」

 

遊馬は喜びのあまり、涙を流しながらマシュへと抱きついた。

 

「ゆ、遊馬君……?」

 

「良かった、本当に本当に良かった……!」

 

自分の為に本当に心配し、涙を流して喜んでいる遊馬にマシュは微笑みながら自分も涙を浮かべる。

 

「遊馬君、ありがとうございます……」

 

マシュは遊馬を優しく抱きしめ、まるで姉か母のように頭を優しく撫でた。

 

少しして泣き止んだ遊馬は状況を整理する為に一つずつマシュに質問する。

 

「なあ、マシュ。その大きな盾とその服装は何だ?」

 

マシュの手には普通の人が持つ事は出来なさそうな大きな十字の形をした盾を軽々と片手で持っている。

 

しかも見たことない服装を着て、何より怪我が治っていることが遊馬には不思議で仕方なかった。

 

「……それについては後ほど説明します。その前に、今は周りをご覧ください」

 

「え?」

 

遊馬が振り向くとそこには骨で作られた人型の形をした骸骨のモンスターが何十体も蠢いていた。

 

「あれはモンスターか!?」

 

「言語による意思の疎通は不可能、敵性生物と判断します。任せてください、私が戦います」

 

「マシュ、戦えるのか!?」

 

「はい。今この身には英霊の力が宿っていますから」

 

「英霊……?」

 

盾を構えるマシュに遊馬も何かできないのかと焦りだす。

 

「くっ!どうしたら……」

 

遊馬の焦る気持ちに応えるかのように胸元と腰から金色の光が溢れる。

 

「これは!?」

 

「遊馬君のペンダントとデッキケースが光ってる……?」

 

それは遊馬の胸元に煌めく皇の鍵とデッキが収められたデッキケースから強い光を放っていた。

 

「まさか……よぉし、かっとビングだ!俺!」

 

遊馬は今までの経験からこの場を乗り切る遊馬だけの戦いの力を顕現させる。

 

ポケットからD・パッドとD・ゲイザーを取り出して自分の頭上に向けて投げ飛ばす。

 

「行くぜ、デュエルディスク、セット!D・ゲイザー、セット!」

 

D・パッドが変形し、小型のデュエルディスクへと変形して左手首に装着され、D・ゲイザーはバイザーとイヤホンマイクが合体したような形に変形し、遊馬の左目に装着する。

 

「遊馬君、何を……!?」

 

マシュが呆然と見守る中、遊馬はデッキをデュエルディスクにセットしてから5枚のカードをドローして手札にするとその中から1枚のモンスターを選んだ。

 

「見てなって!俺はガガガマジシャンを召喚!」

 

遊馬の前の空間が歪み、中から目つきが悪く、まるで不良の格好をした魔法使いが現れた。

 

それは遊馬が幼少期よりデュエルを始めてから一番長く使っているフェイバリットモンスター、自身のレベルという名の星を操る魔法使い・ガガガマジシャン。

 

「モンスターが実体化した!?それに、この魔力は……!?」

 

カード自体はただの紙で作られ、何の力も感じられなかったがデュエルディスクに置いた瞬間から魔力が発生し、ガガガマジシャンが実体化していた。

 

「行っけぇ!ガガガマジシャン!ガガガマジック!」

 

『ガガガッ!!』

 

ガガガマジシャンは拳に魔力を込めて放出し、骸骨を粉砕した。

 

「よし!ここは異世界だからデュエルモンスターズの力で戦える!」

 

「凄い……これなら行けます。遊馬君、一気に行きましょう!」

 

「ああ!このまま突っ切るぜ!」

 

遊馬は愛するモンスターの力、マシュはその身に宿した英霊の力で異変が起きている地……『冬木』を駆ける。

 

遊馬とマシュ……二人の運命の戦いが始まった。

 

数多の世界の歴史を巡り、そこに現れる英霊と出会い、戦いながら異変を解決する長い旅の幕開けだった。

 

 

 

.




さあ、始まりました!
遊馬とマシュのファーストオーダー!
本格的なバトルは次回からです。

ちなみに、遊馬がマシュに抱きついたときにマシュの胸がもちろん当たっていますが・・・・・・もちろん遊馬にはやましい気持ちはありません(笑)
過去にも明理姉ちゃんにぶつかったときや生け贄になりかけた璃緒を助けたときにも胸が当たってましたからね。
おのれハーレム系ラッキースケベ主人公め・・・・・・(爆)
遊馬は遊戯王主人公の中で一番女性に囲まれている主人公だと思います。


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ナンバーズ3 闇の眷属との戦い

昨日新しいナンバーズ1、No.41泥睡魔獣バグースカが判明しましたがまさかのスキドレ内蔵で笑いました。
ナンバーズコレクターとして新しいナンバーズが来るのは幸福の極みで他にも収録を期待してます。
コンプリートまで残り17枚……期待してますよ、KONAMIさん。


遊馬とマシュは骸骨の敵と交戦し、何とか全滅させてその場を乗り切れた。

 

遊馬はガガガマジシャンに続き、遊馬のデッキの特攻隊長でもあるゴゴゴゴーレムを召喚してその強靭な腕で粉砕した。

 

マシュも不慣れながら盾を振り回して骸骨を倒し、戦闘が終了するとマシュは遊馬に無事を確かめる。

 

「遊馬君、大丈夫ですか?」

 

「ああ!それにしてもあのモンスターは何なんだ?」

 

「わかりません、あれが特異点の原因……のようなもの、と言っても差し違えはないような、あるような」

 

「情報がないからなぁ……」

 

情報が足りなすぎて困ったその時、遊馬のポケットから電子音が鳴った。

 

「何だこれ?」

 

それは見たことない機械の腕輪で遊馬はとりあえず腕輪の光っているボタンを押すと光が放たれて宙にホログラムが映った。

 

『ああ、やっと繋がった!もしもし、こちらカルデア管制室だ、聞こえるかい?』

 

ホログラムに映ったのはロマニだった。

 

その腕輪は通信機で部屋でロマニと話していた時にもしもの時のためにと貰っていたものを遊馬はすっかり忘れていた。

 

「ロマニ先生!」

 

「ドクター!」

 

『マシュ、マシュなのかい?それに、遊馬君!?僕は待避しろと言ったじゃないか!』

 

「こちらAチーム、マシュ・キリエライトです。特異点『F』にシフト完了しました。同伴者は九十九遊馬君一名で心身共に問題ありません」

 

『遊馬君が!?それと、マシュ……君、その姿はどういうコトなんだい!?ハレンチすぎる!ボクはそんな子に育てた覚えはないぞ!?』

 

ロマンの反応にお父さんか!?と思わずツッコミたくなった遊馬だがそこはグッとこらえて飲み込んだ。

 

「違います。遊馬君を守るために私は『デミ・サーヴァント』として変身したんです」

 

「デミ・サーヴァント?」

 

「今回の特異点Fの調査と解決のためにカルデアで事前にサーヴァントを用意していました。そのサーヴァントも先ほどの爆破でマスターを失い、消滅する運命にありましたが、彼は私に契約を持ちかけて英霊としての能力と宝具を譲り渡す代わりにこの特異点の原因を排除して欲しいと……」

 

『英霊と人間の融合……デミ・サーヴァント。カルデアの六つ目の実験だ……』

 

「英霊と人間の融合……?」

 

遊馬はマシュとロマンの話を聞いて皇の鍵を握りながら脳裏に一人の精霊の姿と二つの力が一つとなった金色の英雄の姿が思い浮かんだ。

 

マシュは英霊の力を託されたものの、英霊の名を知らないので能力や宝具の力も分からずじまいだった。

 

するとカルデア側の電力が安定がまだなのか通信が乱れてしまい、 2キロ先の霊脈と呼ばれる場所へ向かうようにとロマンの指示を受けたその直後に通信が途絶してしまった。

 

「れいみゃ……何だ?」

 

「霊脈の事です。そこへ行けば、今よりは通信がしやすくなるでしょう。とにかく今は、ドクターとの連絡手段を確保するのが第一かと」

 

「分かった、行こう。今はとにかく情報が必要だな」

 

「はい」

 

「キュー!フォウー!」

 

「うわっ!?」

 

今さっきまで隠れていたフォウが再び遊馬の頭に飛び乗って自分もいると主張するように鳴く。

 

「どうやらフォウさんも一緒にレイシフトしてしまったようですね」

 

「みたいだな。フォウ、危ないから俺のフードの中に入ってな」

 

「キャーウ!」

 

フォウは遊馬の言う通り上着のフードの中に入り、遊馬はデュエルディスクを構えてマシュと向き合う。

 

「よし!それじゃあ、その霊脈に向けて行こうぜ!」

 

「はい、遊馬君」

 

「ガガガマジシャン、ゴゴゴゴーレム、護衛頼むぜ!」

 

『ガガガッ!』

 

『ゴゴゴーッ!』

 

遊馬とマシュは霊脈のある場所に向かって走り出した。

 

 

「何なの、何なのコイツら!? なんだって私ばっかりこんな目に逢わなくちゃいけないの!?もうイヤ、来て、助けてよレフ! いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」

 

カルデアの所長……オルガマリーは叫び、今にも泣きそうな勢いで骸骨の群れから逃げ回っていた。

 

突然この世界に巻き込まれて訳がわからないまま逃げ、助けを呼んでも誰も助けてはくれない。

 

そして、骸骨の剣は無情にもオルガマリーへと降りかかる。

 

その時だった。

 

「行っけー!ガガガマジシャン!」

 

『ガガガッ!』

 

骸骨の体が魔力弾を受けてバラバラに吹き飛んだ。

 

そしてオルガマリーの前に現れたのは小さな背中とそれに仕える二つの影だった。

 

「あ……」

 

「所長、無事みたいだな!」

 

それは突然現れた小さな子供、幼過ぎて自ら追い出した子供……九十九遊馬だった。

 

「貴方どうして…… ?」

 

「話は後だ!まずはこいつらを片付ける!頼むぜ、ガガガマジシャン!ゴゴゴゴーレム!」

 

遊馬は側にいる不良風の魔術師と丸みを帯びたゴーレムに指示を出して骸骨を攻撃させる。

 

二体のモンスターに続いてオルガマリーの頭上を飛び越え、骸骨たちの前に降り立った一人の見慣れた少女。

 

「マシュ……!?」

 

「オルガマリー所長、ご無事で何よりです」

 

マシュは盾を武器に骸骨たちを次々に蹴散らしていった。

 

それはオルガマリーの知る彼女の姿ではなく、勇猛に戦う一人の戦士だった。

 

遊馬のモンスターたちとマシュによって骸骨たちは反撃をすることもなく全て消滅させられてしまった。

 

突然の事態にオルガマリーは目を点とさせている。

 

「……どういう事?」

 

「所長。信じがたい事だと思いますが、私はサーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントになってしまいました」

 

「あ…… わ、わかってるわよ、そんなこと! サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァント。見れば直ぐにわかるわ!」

 

「いや、忘れていた感じに聞こえてるけど?」

 

「うるさいわね!それより、何であなたがいるのよ!何故この子が貴方のマスターに!?サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!まさか、あなたマシュを無理矢理……」

 

「え?マスター?マシュを無理矢理って何のことだ?」

 

オルガマリーは訝しげな目で遊馬を強く睨んだが何のことかわからず遊馬は頭に疑問符を浮かべる。

 

「所長……遊馬君がそんなことをするわけありません。まだ十三歳の男の子です、邪推しすぎです。経緯を説明します……」

 

マシュはオルガマリーに現時点の状況を説明した。

 

その際に、マシュはデミ・サーヴァントになった際、一緒に巻き込まれた遊馬をマスターとして選び、契約を結んだことを話した。

 

「よくわかんねえけど、マスターって何の話だよ?」

 

「……その手の甲に刻まれた令呪がサーヴァントと契約した何よりの証拠よ!全く、なんであなたみたいな子供が……」

 

「令呪……?って、何だよこの刺青は!?やっべー!こんなの姉ちゃんとばあちゃんに見られたら怒られるー!!?」

 

オルガマリーに言われ右手の甲を見てみると赤い謎の刻印が刻まれていた。

 

遊馬は刺青と勘違いしてこんなのを家族に見られたら雷どころか大噴火並みのお叱りを受けると混乱してしまう。

 

「落ち着いてください、遊馬君。それは刺青ではありません。三回使用すると消えます」

 

「え?消えるの?」

 

令呪は契約したサーヴァントへの絶対命令権で三回まで使用できる。

 

ある程度の命令やサーヴァントに魔法に近い奇跡の力を使ったり、サーヴァントの力を高めるブーストスキルなどにも使用できる。

 

「そうなんだ!じゃあこれは大切に使わないとな!」

 

「それにしても、遊馬君の令呪は不思議な形をしてますね。そのペンダントの形をしてますし」

 

遊馬の右手の甲に刻まれた令呪は大きな『X』に似た紋章に皇の鍵が重なった形となっており、いかにも遊馬らしい令呪だった。

 

一通り話が終わるとオルガマリーは霊脈のある場所でベースキャンプを作ることを指示し、マシュの盾を触媒にして召喚サークルを設置した。

 

すると、周囲の空間がカルデアにあった召喚実験場と同じ電脳空間に似たものへと変化した。

 

『シーキュー、シーキュー。もしもーし!よし、通信が戻ったぞ!』

 

腕輪を使い、先ほどよりも安定してロマニと連絡を取ることができた。

 

「はあ!?何であなたが仕切っているの、ロマニ!レフは!?レフはどこ!?レフを出しなさい!」

 

『うひゃああっ!? しょ、所長、生きていらしたんですか!?あの爆発の中で!?しかも無傷!?どんだけ!?』

 

「どういう意味ですかっ!いいからレフはどこ!? 医療セクションのトップがなぜその席にいるの!?」

 

オルガマリーはロマニが映っていることに腹を立ててレフを出すように言ったが、ロマニは現在生き残ったカルデアの正規スタッフは二十人にも満たないことや作戦指揮を任されているのは人間がロマニしかいないことを告げた。

 

そして、レフも死亡していることにオルガマリーを更に絶望に追いやる。

 

オルガマリーは顔を青白くさせ、ロマニに詰め寄る。

 

「ちょっと待ちなさい! 二十人にも満たないって…… それじゃあマスター適正者たちはどうなったのよ!」

 

『…… 47人、全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助ける事ができても、全員は……』

 

「ふざけないで!すぐに凍結保存に移行しなさい!蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」

 

『ああ!そうか、コフィンにはその機能がありました!至急手配します!」

 

ロマニは慌てて生き残っている数少ないスタッフたちに所長の命令を伝え、マスターたちの冷凍保存を始める。

 

「……驚きました。凍結保存を本人の許可なく行う事は犯罪行為に当たりますが」

 

「死んでさえいなければ後でいくらでも弁明できる!47人の命を私一人で背負いきれるわけないじゃない……!」

 

オルガマリーの声は微かに震えていた。どれだけ威厳を保とうとしていても彼女はまだ人の上にたてるほどの器を持ち合わせていない。

 

その後、オルガマリーとロマニな今後の対応策を話し合い、オルガマリーは遊馬とマシュと共に特異点の調査を行うこととした。

 

遊馬は何故この地が特異点になったのか疑問に思うとオルガマリーはこの冬木の地ではかつて『聖杯戦争』と呼ばれる戦いが行われていたことを話した。

 

聖杯とは所有者の願いを叶える万能の力、あらゆる魔術の根底にあるとされる魔法の釜、その起動のために七騎の英霊を召喚した。

 

そして、七人のマスターがサーヴァントと共に殺し合い、最後に残った者が聖杯を手にするという戦いだ。

 

カルデアの英霊召喚システム・フェイトはそれを元に作られたのだ。

 

「聖杯……英霊……英霊の座……聖杯戦争か……」

 

「遊馬君?」

 

遊馬はこの世界の重要なキーワードを聞いて妙な親近感を抱き、呟いていた。

 

「似ているな……ヌメロン・コードとアストラル世界とバリアン世界、それにバリアン七皇との戦いに……」

 

「ヌメロン、コード……?何ですかそれは?」

 

マシュにとって意味が分からない単語にきょとんとし、遊馬は慌てて話をそらした。

 

「い、いや!何でもない何でもない!あはははは!」

 

「???」

 

マシュは疑問符を浮かべて可愛らしく首を傾げる。

 

遊馬が口にした『ヌメロン・コード』……それは願望器である聖杯以上の力を秘めたとんでもないカードと言うことを今のマシュたちが知る由もなかったのだ。

 

「なあ、所長。俺も話すことがあるんだけど……」

 

遊馬はオルガマリーとロマニにマシュに話したように自分が異世界から来たと説明した。

 

最初はもちろん信じてもらえなかったが、遊馬は展開しているデュエルディスクとそれによって出現しているモンスターを見てロマニは別世界の技術によって作られたものだと納得してくれたが、オルガマリーだけはまだ納得出来ていないところがあった。

 

「あなたが異世界から来たのは認めます……信じたくないけど。でも、どうして平然としていられるの!?」

 

「え?」

 

「こんな状況なのよ!こんな事になって何故そんな風に平然といられるの!?私だって、不安でいっぱいなのに……あなたはまだ十三歳でしょ!?」

 

十三歳にしては落ち着きがありすぎる遊馬にオルガマリーが睨みつけるように聞くと、遊馬は暗い表情を浮かべながら口を開く。

 

「俺……少し前に世界滅亡の危機に立ち向かったからな」

 

「えっ……?」

 

「はっ……!?」

 

『なっ……!?』

 

世界滅亡の危機……それはカルデアと同じように遊馬が人類滅亡の危機に立ち向かったことにマシュたちは驚愕した。

 

「信じられないかもしれないけど、俺は相棒と幼馴染、そして頼れるたくさんの仲間と一緒に世界を滅ぼそうとした邪悪な神と運命を捻じ曲げられて操られた七人の皇と戦ったんだ。いっぱい戦って、傷ついて、そして失って来たからさ……」

 

遊馬は仲間たちから世界と未来を救うための最後の希望として想いを託され、心が折れそうになりながらも、今は遠く離れた相棒と共に何度も立ち上がって戦い続けた。

 

「所長、何かを背負う重圧は俺にも分かるよ。俺はカルデアの人間じゃないから、一緒には背負えないけど……俺が必ず守るからさ、頑張ろうぜ!」

 

遊馬の無垢な優しい笑顔にオルガマリーは目を見開いた。

 

この絶望的な状況で恐怖もなくそんな台詞を言えるのはそれ相応の経験をして来たことを意味する。

 

こんな小さな子供が頑張っているのに大人である自分が頼りない姿をこれ以上見せるわけにはいかないとオルガマリーも自分を奮い立たせた。

 

「まさか……子供に励まされるとはね。分かったわよ、やってやろうじゃない!このまま黙ってるなんてできないわ!」

 

「その意気だぜ、所長!かっとビングだ!」

 

遊馬のお陰で所長も元気を取り戻し、早速調査に乗り出そうとしたその時だった。

 

「はっ!?来る!」

 

「これは……サーヴァントの気配です!」

 

遊馬とマシュは邪悪な力……サーヴァントの気配に気づいてすぐに戦闘態勢に入った。

 

オルガマリーはすぐに物陰に隠れると、遊馬とマシュの前に一つの影が現れた。

 

それはスレンダーな体型の髪の長く、両目を布で覆った女性で手には短剣と鎖が繋がれた武器を持っていた。

 

「まだ生き残りがいましたか……今すぐに眠らせてあげましょう、永遠に」

 

「遊馬君に手出しはさせません!」

 

マシュは盾を構えてサーヴァントに攻撃を仕掛ける。

 

「今までの敵とは違う、それなら俺はレベル4のガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!!」

 

ガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムが光となって絡み合いながら地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「何だ……!?」

 

サーヴァントは何が起きているのか驚くと、光の爆発から同じレベルのモンスターを重ねる事で誕生する異次元の力を持つモンスターが現れる。

 

「二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れよ、ランク4、ガガガガンマン!」

 

光の爆発から現れたのは西部劇を思わせる格好をしたガンマンでその体を回るかのように茶色の球体が二つ浮いていた。

 

その球体はエクシーズ召喚する際に素材となったガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムの魂そのものでモンスターエクシーズであるガガガガンマンの力の源でもある。

 

見たことない異次元の召喚法に驚愕するライダー。

 

「何だ、この召喚獣は……?」

 

「これが俺の力だ!マシュ、交代だ!」

 

「は、はい!」

 

「ガガガガンマンの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ガガガガンマンが攻撃する時に攻撃力を1000ポイントアップして相手の攻撃力を500ポイントダウンさせる!」

 

ガガガガンマンのオーバーレイ・ユニットを一つ自分の体に取り込み、ホルスターに納められた二丁拳銃を構えて連射する。

 

サーヴァントはとっさに回避するが、弾丸が体に掠ると力が僅かに抜けて行く。

 

「力が……抜ける……!?」

 

「今だ!ガガガガンマン!」

 

『ガガガーッ!』

 

「くっ、舐めるな!!」

 

サーヴァントは目を覆っていた布を外して不気味な赤い光を放つとガガガガンマンの体がピタリと止まり、一瞬で石になってしまった。

 

「ガガガガンマンが石に!?」

 

「石化の魔眼……まさか!マズイです、遊馬君!そのサーヴァントはギリシャ神話のメドゥーサです!」

 

「メドゥーサだと!?」

 

それはギリシャ神話の有名な怪物で神の呪いで化け物となってしまった女神である。

 

「そのままお前達も石になれ!!」

 

メドゥーサは遊馬とマシュも石にしようとして石化の魔眼を輝かせ、まともに魔眼を見てしまった遊馬とマシュは石化を覚悟したが……。

 

「くっ!?あ、あれ!?」

 

「石に……なってない……?」

 

何故か遊馬とマシュは石になっておらず、体に変化が起きていなかった。

 

「馬鹿な……私の魔眼が効いていない!?」

 

強力な石化の魔眼が二人に効かないことに驚きを隠せないメドゥーサだった。

 

石化の魔眼は魔力の耐性があれば石にならずにすむが、それは魔力の耐性の能力が高くなければならない。

 

つまり、遊馬とマシュは石化の魔眼が効かないほどの高度な対魔力の能力を持っている事となる。

 

マシュは融合した謎の英霊の力で対魔力の能力が備わっていたが、遊馬は英霊の力も無ければ魔術を使えない。

 

しかし、遊馬のその身に宿る大いなる前世の魂と数々の戦いによって築き上げてきた希望の光が対魔力に近い能力を発現していた。

 

もはや石化の魔眼が効かないとメドゥーサは悟ると次の標的を初めに石化したガガガガンマンに定めて短剣を振り下ろして破壊した。

 

「しまった、ガガガガンマン!?ぐあっ!?」

 

ガガガガンマンが破壊され、その衝撃が遊馬にも与えられてその場から吹き飛ばされてしまう。

 

どうやら召喚したモンスターが相手に破壊されると遊馬に大きなダメージが受けるというシステムになっているようで痛みが体全身に走る。

 

「遊馬君!」

 

「魔眼は効きませんが、未熟なマスターを潰すことは簡単、終わりです……諦めなさい」

 

「諦めるかよ……」

 

遊馬は駆け寄ったマシュの肩を借りて起き上がり、闘志を宿した瞳でメデューサを見つめる。

 

「こんなところで、諦めるかよ……」

 

マシュから離れ、デッキトップに指を添える。

 

「俺はマシュを、所長を……みんなを守る。だから、倒れてたまるかよ!かっとビングだ、俺!!ドロー!!」

 

ドローしたカードを見てニヤリと笑みを浮かべるとそのままデュエルディスクに置いて召喚する。

 

「俺はゴゴゴジャイアントを召喚!効果で墓地からゴゴゴゴーレムを復活!」

 

岩から作られた巨人、ゴゴゴジャイアントは墓地に眠るゴゴゴゴーレムを復活させて共に守りの態勢に入る。

 

「そして、レベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!来い、ガガガザムライ!!」

 

二体のゴゴゴモンスターがエクシーズ召喚され、現れたのは二振りの刀を持つ侍の姿をしたガガガガンマンに続く二体目のモンスターエクシーズだ。

 

「また新しい召喚獣……その程度の力で私を倒せると思いますか?」

 

「まだだ!俺は装備魔法、ガガガリベンジを発動!墓地のガガガモンスターを復活させる、甦れ!ガガガガンマン!!」

 

紫色の魔法陣が地面に浮かび、中から先ほど破壊されたガガガガンマンが出てきて復活した。

 

「破壊した召喚獣が蘇った?数で押し切るつもりのようですが、無駄ですよ」

 

「違うぜ。見せてやるぜ、メドゥーサ!俺の力を!」

 

遊馬の体から眩い金色の光が輝き出した。

 

それは闇を照らす希望の光……未来をその手に掴む遊馬の輝きだった。

 

遊馬の手には一枚のカードが指で挟まれており、そのカードに反応するかのようにマシュの右手の甲が疼いた。

 

「な、何……?」

 

まるで共鳴するかのようにマシュの右手の甲に数字の『00』に似た形の翡翠色に輝く刻印が現れた。

 

「この刻印は……?」

 

マシュはその刻印を左手で抑えながら遊馬を見つめた。

 

そして、遊馬は指に挟んだそのカードを召喚するために二体のガガガのモンスターエクシーズの力を借りる。

 

「力を借りるぜ、ガガガガンマン、ガガガザムライ!俺は二体のモンスターエクシーズでオーバーレイ!!」

 

『『ガガガッ!!』』

 

二体のガガガモンスターエクシーズは黒と茶の光となって地面に現れた黒い穴に吸い込まれ、強烈な光が爆発した。

 

「今こそ現れろ、FNo.0!」

 

遊馬は指に挟んだカードをデュエルディスクに置き、右腕を天高く掲げた。

 

「天馬、今ここに解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る。これが俺の、天地開闢!俺の未来!かっとビングだ!俺!」

 

遥かなる次元の果てから美しい双翼を羽ばたかせ、未来を切り開く二振りの剣を携え、遊馬の前に降臨した。

 

「『未来皇ホープ』!!!」

 

『ホォープッ!!!』

 

無限の可能性、無限の未来を象徴する遊馬が作り出したモンスターエクシーズ。

 

その名は未来皇ホープ。

 

「未来皇ホープ……」

 

「な、何よこれ……?」

 

未来皇ホープの出現に見惚れるマシュだが、隠れて見ていたオルガマリーは困惑していた。

 

何故なら未来皇ホープには今まで遊馬が召喚してきたモンスターとは大きく異なり、魔力とは異なる不可思議な力が宿っていると感じられたからだ。

 

「天馬、ですって……?」

 

天馬という単語にメドゥーサは耳を疑った。

 

ギリシャ神話の女神であるメドゥーサは天馬……ペガサスと強い繋がりがあるのだがそれはさて置き、メドゥーサは遊馬が召喚した未来皇ホープに身震いをする。

 

今まで多くの神々や怪物、そして英雄と対峙してきたが、未来皇ホープはそれらとは異なる大きな力を秘めているのを感じた。

 

あれは危険だ、そう直感したメドゥーサはすぐさま破壊するために鎖を投げて攻撃する。

 

「迎え撃て!ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!!」

 

未来皇ホープは腰に携えた二振りの剣を構えてメドゥーサの鎖をかわしてそのまま剣でメドゥーサの体を斬り裂く……とマシュとオルガマリーは思ったが、剣で斬ったはずのメドゥーサの体には傷一つついてなかった。

 

すると次の瞬間、メドゥーサが膝をつきその身に宿っていた闇が薄れていった。

 

「くっ……私は、一体何を……?」

 

「遊馬君、何をしたんですか?」

 

「未来皇ホープは攻撃力が0。つまり、相手にダメージは与えられない。その代わり、バトルした相手を一時的に俺のコントロールに置くことが出来るんだ」

 

「そ、それって洗脳ってこと!?」

 

「微妙に違うけどな……メドゥーサ、話せるか?」

 

正気を取り戻したメドゥーサは遊馬に急いで話した。

 

「少年……時間がないから要点だけ話します。セイバーを倒しなさい」

 

「セイバー?」

 

「セイバーを倒せば全てが終わる……ぐぁあああっ!?」

 

再びメドゥーサに闇が襲いかかり、意識がおかしくなっていく。

 

「メドゥーサ!?」

 

「少年……私を倒しなさい、早く!!」

 

「メドゥーサ……」

 

遊馬はメドゥーサが操られている、本当はこんなことをしたくないと感じた。

 

助けられないことに拳を強く握りしめて唇を噛み締めるとオルガマリーとマシュから喝が入る。

 

「何をしているのよ!そいつを倒さないとみんな守れないのよ!?」

 

「遊馬君!メドゥーサを解放するには倒すしかありません!」

 

オルガマリーとマシュの言葉を受け、遊馬は拳を強く握りしめて覚悟を決めた。

 

未来皇ホープには攻撃力はゼロで単体ではメドゥーサを倒すことはできない。

 

しかし、メドゥーサを倒すための勝利の方程式は既に完成されており、その鍵は遊馬の手札に存在していた。

 

「俺はカードを一枚伏せる……」

 

遊馬は静かに手札にあるカードを一枚伏せた。

 

そして再び闇を纏って暴走し、メドゥーサは未来皇ホープに攻撃を仕掛けてきた。

 

遊馬はメドゥーサの囚われた闇を打ち砕くためにそれに相応しいカードを発動した。

 

「罠カード、『聖なる鎧 -ミラーメール-』!発動!!」

 

オープンされた赤い枠のカード・罠カードから現れたのは鏡で作られた光り輝く美しい鎧だった。

 

その鎧を光となって未来皇ホープの体に取り込まれた。

 

未来皇ホープの姿が銀色に輝き、その身に纏う鎧が鏡のように変化してメドゥーサの姿を映し出した。

 

「っ!?鏡の鎧!!?」

 

「ミラーメールの効果で、未来皇ホープの攻撃力は攻撃してきたメドゥーサと同じとなる」

 

本来なら攻撃力が0の未来皇ホープに鏡に映ったメドゥーサと同じと攻撃力を得る。

 

剣を構えた未来皇ホープは空高く飛翔してから急降下してメドゥーサに斬りかかる。

 

「ホープ剣・ミラー・スラッシュ!!」

 

未来皇ホープの斬撃がメドゥーサの鎖ごと斬り裂き、メドゥーサはあまりの衝撃に吹き飛ばされて地面に転げ落ちた。

 

奇しくも神話の時代に神の呪いで怪物となり、鏡の盾を使って退治した勇者ペルセウスと同じようにメドゥーサは鏡の鎧を使った遊馬に倒されたのだった。

 

「メデューサ!」

 

遊馬は倒れたメドゥーサの元へ駆け寄った。

 

「遊馬君!危ないです!」

 

マシュも慌てて後を追い、いつでもメドゥーサに攻撃できるように盾を構える。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

遊馬は倒れているメドゥーサを起こした。

 

メドゥーサの闇は完全に祓われ、正気を取り戻すと遊馬に厳しい言葉を送る。

 

「まさか敵だった私に情けをかけるなんて……甘いですよ、少年」

 

「そんなことはどうでもいい!メドゥーサ、あんたは本当はこんなことしたくないんだよな!そうだよな!?」

 

「……ええ、そうです。私はセイバーに倒されてから謎の力に操られて暴れていた。でも、これで消えることが出来る……」

 

するとメドゥーサの体が光の粒子となって消滅していく。

 

「お、おい!?メドゥーサ!」

 

「少年……あなたの名前は?」

 

「遊馬、九十九遊馬だ!!」

 

「ユウマ……よく聞きなさい、あなたの戦いは始まったばかり。これから想像を超える災難や恐怖が降りかかる。それでもあなたは戦えますか?」

 

「ああ……戦うさ」

 

幼いながらも決意の篭った目でそう宣言する遊馬にメドゥーサはまるで自分の息子を見守る母のように微笑んだ。

 

「そうですか……もし、また会うことになったらその時はゆっくり話をしましょう、ユウマ」

 

メドゥーサは満足そうな表情を浮かべ、遊馬とマシュに見守られながら光の粒子となって消滅した。

 

そして、メドゥーサが消滅した跡に一つのものが残っていた。

 

「これは……モンスターエクシーズのカード……?」

 

それはメドゥーサが残したモンスターエクシーズのカード。

 

しかしそのカードにはモンスターの絵が無く真っ白で、名前も効果も書かれていない……正体不明の白紙のカードだった。

 

どうしてメドゥーサが消滅した後にこのカードが残ったのか?

 

理由が不明なまま遊馬はそのカードをデッキケースにしまい、メドゥーサの言葉を胸に刻みながら顔を上げた。

 

「行こうぜ、マシュ、所長」

 

「はい……」

 

「ええ……」

 

遊馬たちはひとまず安全な場所に向かおうとしたその時だった。

 

「はっはっは!サーヴァント相手に見た事ねぇ魔物と魔術を使って果敢に攻めるたぁ、見応えのあるマスターじゃねえか!」

 

「っ!?誰だ!?」

 

遊馬たちが振り向き、未来皇ホープが剣を構えた先には青いローブを身に纏い、長い杖を持った魔法使いの姿をした男性がいた。

 

ただの人間ではない、サーヴァントだとすぐに察した遊馬とマシュは戦闘態勢に入ろうとしたが、この直後に驚くべき言葉を口にする。

 

「気に入ったぜ、坊主。俺はキャスターだ。お前、俺のマスターになってくれよ」

 

「えっ!?」

 

それは奇跡的にメドゥーサのように操られておらずにこの冬木で影から暗躍していたサーヴァントだった。

 

そして、突然のキャスターの申し出に困惑する遊馬だった。

 

 

 

.

 




メドゥーサとの戦いで未来皇ホープを出そうと思ったのはやはり遊馬と未来皇ホープには天馬の要素があるので是非とも戦わせたいなと思いました。
ミラーメールはメドゥーサとの戦いで丁度いいトラップだったので採用しました。
メドゥーサが残したカードは後にその意味が判明しますのでお楽しみに。
次回はキャスターとの契約とアーチャーとバトルを書ければいいなと思います。


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ナンバーズ4 希望皇、降臨!

お待たせしました、ついに遊馬の力が全盛期状態のフルパワーとなります!
やっぱり遊馬君は彼がいないとですね!


遊馬達の前に姿を現したサーヴァント、長身の魔法使いの姿をした男……キャスター。

 

本来ならメドゥーサと対峙した遊馬たちに加勢するはずだったが、遊馬の使う見たことない魔術の力を見てみたいという理由で傍観していた。

 

そして、見事に遊馬の未来皇ホープがライダーを打ち倒し、こうして姿を現したのだ。

 

キャスターはデミ・サーヴァントであるマシュに興味を持ち、体をジロジロみながら早速とんでも無いことをしてきた。

 

「ひゃん……!?」

 

キャスターは突然マシュの体をペタペタと触るセクハラを行い、マシュは顔を真っ赤にしながら慌ててキャスターから離れた。

 

「おう、いい体してるじゃねえか!役得役得っと……」

 

ヒュン!グサッ!!

 

「……あだぁあああっ!?な、何だ!?手にカードが刺さった!?」

 

キャスターの左手の甲にグサリとカードが突き刺さり、激痛が走って大慌てをする。

 

「マシュ、大丈夫か?」

 

それは遊馬のカードでデッキトップからドローする勢いと手首のスナップを効かせた空を切り裂くようなスピードでカードがキャスターの左手の甲に突き刺さったのだ。

 

「は、はい。ありがとうございます、遊馬君。凄いですね、カードを投げ飛ばすなんて」

 

「へへっ、デュエリストなら当然だぜ」

 

「何が当然だ!?カードを暗器のように投げるたぁ、どんな技術だ!?」

 

「あんたさぁ……女の子の嫌がることすんじゃねえよ。それでも大人かよ」

 

「うぐっ!?」

 

ジト目で睨みつけている遊馬に正論を言われキャスターの心にグサリと刺さる。

 

「英霊とはいえ立派な大人なんだからさ、そういう事は恋人か奥さんにしろよ」

 

「う、うるせぇ!お前だってあのお嬢ちゃんのいい体を見たら触りたくと思わないのか!?」

 

「はぁ?触って何になるんだよ。今度マシュが嫌がる事をしたら今度は頭に投げるぜ」

 

再びデッキトップに手を添える遊馬にキャスターの悲痛な声が響く。

 

「やめろぉ!なんかそれ地味に痛いんだよ!?本当にそれはただのカードか!?」

 

「ただのカードだよ。そんじゃ、止めることだな」

 

「あだっ!?」

 

遊馬はキャスターの手に刺さったカードを引き抜いてデッキに戻す。

 

するとマシュは遊馬のカードの投擲術に感動して目を輝かせた。

 

「遊馬君、是非ともそのカードの投擲術を教えてください!」

 

「ああ、良いぜ!後で詳しく教えるけど、カードを投げる時は手首のスナップがポイントだぜ!」

 

「なるほど、手首のスナップで勢いをつけるのですね!」

 

「そうそう!」

 

楽しそうに話し出す遊馬とマシュにオルガマリーは年長者として咳払いをしてこの場をまとめる。

 

「あの、そろそろ良いかしら?キャスター、あなたの話を聞かせてちょうだい」

 

「お、おう……」

 

キャスターはオルガマリーと通信機で話すロマニとの情報交換を行う。

 

キャスター曰く、突然この冬木の街が一夜にして炎に覆われ、人がいなくなって残ったのがサーヴァントだけだった。

 

するとセイバーが暴れ出してキャスター以外の全てのサーヴァントが倒されてしまったが、先ほどのメドゥーサのように闇に侵食されて暴走していた。

 

生き残ったサーヴァントはセイバーとキャスターのみでセイバーを倒せばこの聖杯戦争が終わるとキャスターは睨んでいた。

 

しかし、キャスターだけではセイバーに勝つことは出来ないので遊馬達と協力関係を結ぶことにした。

 

遊馬はマシュと契約を結んでいるのでキャスターはオルガマリーと契約しようと思ったが、オルガマリーにはマスターの適性が無く、キャスターと契約することが出来ない。

 

オルガマリーはマスターの適性が無いことにかなりの劣等感を抱いていたが……。

 

「私はカルデアの所長です!マシュと遊馬、二人を指示し、導くのは私の役目です!!上に立つ人間としてやる事を全力でやるだけよ!!」

 

「おお!燃えてるな、所長!かっとビングだぜ!」

 

「こんな所長、初めて見ました……」

 

遊馬の諦めない心、かっとビングに触発され、劣等感を捨て去って心を奮い立たせていた。

 

キャスターは早速遊馬と契約を結ぼうとしたが、その前にマシュが気になるものを見せた。

 

「遊馬君……あの、私の右手の甲を見てください」

 

「えっ?お、おい!これって、ナンバーズの刻印じゃないか!?」

 

遊馬はマシュの右手の甲に刻まれた独特な形をした『00』の刻印に目を疑った。

 

「しかもこれって未来皇ホープの……何で……?」

 

すると今度は遊馬の右手が金色に輝き、令呪も強い真紅の輝きを放った。

 

「令呪が……遊馬君、私の手を握ってください」

 

マシュは遊馬に右手を差し出す。

 

「手を……?」

 

遊馬は恐る恐るマシュと手を握ると『00』の刻印が翡翠色から鮮やかな蒼色に変わり、次の瞬間……マシュの体が光に包まれるとモンスターエクシーズのカードになってしまった。

 

「……えぇええええっ!?マシュがカードになったぁ!?」

 

「ちょ、ちょっと!?どういう事よ!?マシュが何でカードになるのよ!?」

 

『マシュ!大丈夫なのかい、マシュ!!』

 

マシュがカードになってしまい、困惑して大騒ぎをする遊馬達。

 

すると、カードが勝手に動き出して遊馬の手に収まると白紙のカードに絵柄が浮かび上がった。

 

それはマシュが左手で盾を構え、右手を差し出している姿のかっこよく、なおかつ可愛くて綺麗な絵だった。

 

すると、カードから光の粒子が現れるとマシュが姿を現した。

 

「マ、マシュ!大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫です、心身共に問題ありません。どうやらそのカードが私と……サーヴァントとマスターである遊馬君との契約を交わした結晶のようなものです」

 

「このカードが俺とマシュの契約の結晶?」

 

「私も詳しくはまだ分かりませんが、そのカードは遊馬君のデュエルモンスターズと言う戦いの力と、私のサーヴァントとしての力が合わさって生み出されたと思います。先ほどのメドゥーサのカードも何か意味があると思います」

 

カードになったことで遊馬自身の力とサーヴァントの力が合わさったものだと推測するマシュ。

 

それを見たキャスターが面白いと思いながら自分の右手を開いた。

 

「ふーん……なるほどな。おい、小僧。俺と手を握れ」

 

「えっ?あ、おい!」

 

キャスターは無理やり遊馬の手を握ると、右手の甲に『07』の赤い刻印が刻まれてマシュと同じようにカードになった。

 

カードにはキャスターが左手には杖、そして右手には見た事ない赤い槍を持った姿が描かれており、マシュの時と同じく名前と効果は書かれていなかった。

 

カードからキャスターが出てきて体を伸ばしながら納得したように頷いた。

 

「これで俺と小僧……マスターとの契約は完了だな。どうやら、このマスターとの契約は長ったるい詠唱とかいらねぇみたいだな。まあ、そのカードが真の力を発揮する条件は分かんねえけどな」

 

本来ならサーヴァントと契約する為には専用の詠唱をマスターが唱えなければならないが、何故か遊馬との契約にはそれが必要が無いらしく、更には謎の力を秘めたモンスターエクシーズのカードが現れる。

 

これには魔術やサーヴァントなどの専門の知識を持つオルガマリーとロマニも頭を悩ませる予想外の事態となり、ひとまずそのカードの解析はこの特異点の調査が終了し、カルデアに戻った後に行われることとなった。

 

遊馬が色々試した結果、謎のカードには契約したサーヴァントの緊急避難みたいな効果が付与されていた。

 

それは遊馬が来いと念ずるとそのサーヴァントが光の粒子となって一瞬で肉体と魂がそのままカードに入り込むもので、撤退などもしもの時に使える効果だった。

 

その後、遊馬達はセイバーがいる大聖杯と呼ばれるものがある場所、柳洞寺へ向かった。

 

山奥の寺にある大きな洞窟、遊馬達は警戒しながら進んだ。

 

そして、セイバーを守る門番のように赤い外套を纏ったサーヴァント、アーチャーが佇んでいた。

 

「ふむ……未熟だな、歳は十五には達して無いながこれほど幼いマスターは初めてだ。そして、キャスター……今までこそこそ逃げていたお前がやってくるとはな」

 

「永遠に終わらないゲームなんざ退屈だろう?この面白え小僧と一緒にお前らを倒しに来た」

 

「本気か……それにしても、そのマスターは幼いながら覚悟を秘めた目をしているな」

 

「当たり前だろ、あんた達を倒して世界の未来を守るんだ!ゴゴゴゴーレムを召喚!攻撃だ!」

 

遊馬は先手必勝とばかりにゴゴゴゴーレムを呼び出し、背中のブースターを放出しながら攻撃する。

 

「これが未知の召喚法か……面白い。だが!」

 

アーチャーは持っていた黒弓を捨てて白と黒の二色の夫婦剣、干将・莫耶を出現させた。

 

干将・莫耶を振るい、ゴゴゴゴーレムを細切れにして破壊した。

 

ゴゴゴゴーレムが破壊され、衝撃波を受けてダメージを受けた遊馬は目を見開いた。

 

「ぐあっ!?ア、アーチャーが剣を!?」

 

「弓兵でも剣を使うぞ!」

 

「お嬢ちゃん、行くぜ!」

 

「は、はい!」

 

「させん!」

 

アーチャーは大量の剣をどこからともなく出現し、矢のように一斉発射してマシュとキャスターの動きを封じた。

 

「マシュ!キャスター!ぐあっ!」

 

アーチャーは遊馬の懐に入って拳を叩きつけて壁に激突させる。

 

「遊馬君!!」

 

「ちっ!マスター!」

 

マシュとキャスターは剣を退けようとするがアーチャーは更に剣を出現させて発射し、二人の動きを封じる。

 

そして体に痛みが走り、すぐに動くことができない遊馬に対し、アーチャーは何かを試すように静かに問う。

 

「少年よ、何故戦う?」

 

「決まってるだろ!この世界の未来を守るためだ!!」

 

アーチャーは目を細めて更に問う。

 

「……貴様は正義の味方にでもなったつもりか?全ての人間を救うつもりか?」

 

「正義の味方とか、そんなつもりはない!全ての人間を救うことは俺一人では出来ないし、それは不可能なことかもしれない……だけど!俺は目の前で起きていることから逃げたくないだけだ!その為に仲間を守る!この世界の人類の未来を守る!!」

 

アーチャーの問いに対し、遊馬の純粋で揺らぐことのない真っ直ぐな思い。

 

しかしその思いがアーチャーの癇に障った。

 

「まるで私に対する当てつけのような言葉だな……だが少年、力無き想いは無力と知れ!理想を抱いて、溺死しろ!」

 

アーチャーの干将・莫耶が振り下ろされ、遊馬の命が絶たれようとした……その時だった。

 

ガギィン!!

 

「何!?」

 

振り下ろされたアーチャーの干将・莫耶を遊馬がデュエルディスクを盾にして受け止めていた。

 

遊馬は諦めを知らぬかのような強い意志を秘めた瞳でアーチャーを睨みつけていた。

 

「死ねるかよ……こんな事で死んだらあいつに、みんなに顔向け出来ないだろ!!」

 

遊馬の諦めない想い……希望を信じる心が奇跡を起こす。

 

皇の鍵から煌めく金色の光が放たれ、謎の衝撃波によってアーチャーを吹き飛ばした。

 

「くっ!何だこの光は!?」

 

「遊馬君の皇の鍵が、光ってる……!?」

 

「おいおい、何が起きるんだ?」

 

サーヴァントたちが驚いて見ていると、皇の鍵の先端から光線のようなものが天井に向けて放たれると空間に歪みが発生して大きな穴が開き、そこから異世界への扉を開いた。

 

空間の穴から青白い光の塊が現れて飛来し、遊馬の前に激突して美しい光の粒子が溢れ出す。

 

そして、遊馬の前に現れたのは青白く光り輝く体を持ち、体中に不思議な文様が刻んでいる少年の姿をした謎の生命体だった。

 

何だ、あれは……?

 

敵味方関係なくこの場にいた誰もがそう思った。

 

見たことのない謎の生命体……精霊のようにも見える謎の存在に呆然としている中、遊馬は顔を歪めていた。

 

「お前……何で……?」

 

今にも泣きそうな顔でくしゃくしゃになっている遊馬を謎の生命体は優しく微笑んだ。

 

「君の危機に、私が駆けつけない訳がないだろう?君と私は一心同体の存在だ……遊馬」

 

「アストラル!!!」

 

遊馬は謎の生命体……アストラルに抱きついた。

 

アストラル、それは運命に導かれて遊馬の元にやって来た異世界のデュエリスト。

 

ぶつかり合いながらも絆を深め、共に多くの敵と戦い続けた遊馬の最高の相棒である。

 

一方、まるで離れ離れになった恋人同士が再会したような光景に敵であるアーチャーすら軽く思考停止をしていた。

 

「遊馬……私も再会を喜びたいが、今は目の前の敵を倒そう」

 

「あっ、そ、そうだな!悪い、アストラル!」

 

遊馬は慌ててアストラルから離れてデュエルディスクを構える。

 

「敵はあの男か?どうやらこれはデュエリスト同士の戦いでは無いな。しかも、あれは普通の人間ではない……」

 

「詳しいことは後で話す。だけど、今の俺のモンスターじゃアーチャーには敵わない」

 

「そうか。だが、『我々のモンスター』なら話は別だな。勝つぞ、遊馬!!!」

 

アストラルが手を伸ばすと遊馬のデッキケースが輝き、エクストラデッキに新たなカードが宿る。

 

「久しぶりにやろうぜ、アストラル!」

 

「ああ!行け、遊馬!」

 

「おう!俺のターン、ドロー!!」

 

遊馬は戦いの最中だが、アストラルと共に戦えることを心の中で喜びながらドローをする。

 

「来た!俺は魔法カード、『ガガガ学園の緊急連絡網』を発動!効果でデッキからガガガモンスターを特殊召喚出来る!来い、『ガガガマジシャン』!」

 

『ガガガッ!』

 

ガガガモンスター達を象徴する校章でもある『我』と大きく描かれた魔法カードの効果により、デッキからガガガマジシャンが特殊召喚され、続いて手札のモンスターを呼ぶ。

 

「更に、『ガンバラナイト』を通常召喚!」

 

『ガンバァ!』

 

両手に大きな盾を持った攻撃力を持たない守りの戦士を呼び出し、これで全ての条件は揃った。

 

「かっとビングだ、俺!レベル4のガガガマジシャンとガンバラナイトでオーバーレイ!二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとガンバラナイトが光となって地面に吸い込まれ、遊馬とアストラルの始まりのモンスターエクシーズを呼び出す。

 

「「現れよ、No.39!」」

 

空中に独特な形をした『39』の赤い数字が一瞬だけ描かれる。

 

そして、今までのモンスターエクシーズとは大きく異なり、地面から中心に青い円の水晶のようなものが見える白い塔が、二つの金色のオーバーレイ・ユニットを纏いながら出現した。

 

「「我が戦いはここより始まる!」」

 

白い塔がまるでロボットのように人型に変形していく。

 

「「白き翼に望みを託せ!」」

 

白の双翼に黄と白の鎧、左肩のプロテクターには先ほど空中に浮かんだ『39』の赤い数字が刻まれ、胸には遊馬の皇の鍵に似た翡翠色の球体が埋め込まれている。

 

腰には二振りの剣が携えられ、凛々しくも逞しい顔が現れると遊馬と同じ赤い瞳を輝かせている。

 

そして、全ての変形が完了すると遊馬とアストラルの希望の戦士が現れた。

 

「「光の使者、『希望皇ホープ』!!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

希望の名を持つ遊馬とアストラルの絆の象徴であり、未来を守るために共に数々の敵と戦い続けて来た歴戦のエースモンスター、希望皇ホープ。

 

今までとは大きく異なるオーラを放つ希望皇ホープにこの場にいる誰もが驚愕する。

 

「な、何よあれ……どうしてあの子がこれほどの力を……!?」

 

『す、凄いエネルギー値だ!英霊に匹敵するパワーを秘めているぞ!?』

 

オルガマリーは遊馬が希望皇ホープを何の障害もなく召喚していることに信じられないと言わんばかりに驚き、ロマニは希望皇ホープから放たれるエネルギー値に目を疑うほどに驚愕している。

 

「はははっ!なんか知んねえけどやるじゃねえか、マスター!」

 

キャスターは遊馬とアストラルの二人で召喚した希望皇ホープを見て戦いたいと体をうずうずさせていた。

 

「綺麗……希望皇ホープ。それに、未来皇ホープに似ている……」

 

マシュは希望皇ホープと未来皇ホープが似ていると思ったがそれもそのはず。

 

未来皇ホープは希望皇ホープの未来の姿であり、希望皇ホープは幾つものの進化を秘めたモンスターエクシーズで始まりの姿でもあるのだ。

 

「何だこれは……!?」

 

そして、希望皇ホープと対峙しているアーチャーはその美しい輝きに目を奪われ、敵だということを思わず忘れるほどに魅了されてしまった。

 

まるで世界を救う為に現れた『英雄(ヒーロー)』に対峙したような気分だった。

 

「マシュ!キャスター!後は俺たちに任せてくれ!」

 

「遊馬君……」

 

「今までと違って強気になりやがって。良いぜ、お前達の力を見せてもらうぜ」

 

マシュとキャスターは遊馬の強気で自信満々の思いを信じていつでも対応できるように警戒しながら下がった。

 

遊馬とアストラルは二人同時にアーチャーを指差しながら希望皇ホープに攻撃の指示を出す。

 

「「行け、希望皇ホープ!アーチャーに攻撃!!」」

 

希望皇ホープは左腰に携えられた剣の柄を持ち、アーチャーに向けてブーメランのように勢いよく投げ飛ばす。

 

「くっ!熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

アーチャーは光で出来た七枚の花弁の盾を投影し、投げ飛ばした剣を受け止めて花弁の一枚を破壊した。

 

剣は盾に弾き飛ばされて宙に舞うが希望皇ホープは剣をキャッチしながら勢いよく振り下ろす。

 

「「ホープ剣・スラッシュ!!!」」

 

投擲からの剣撃への連続攻撃にアーチャーの盾に大きな衝撃を与えて七枚あった花弁が次々と破壊されて三枚までとなってしまった。

 

「ふっ、残念だったな。貴様らの希望の剣は私には届かないぞ!!」

 

アーチャーは攻撃が終わった希望皇ホープを倒すために武器を投影しようとしたが、遊馬とアストラルは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「「それはどうかな?」」

 

「何!?」

 

「「手札から速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』を発動!!」」

 

遊馬は手札から大量のコインを放出しているスロットマシンが描かれた魔法カードを発動した。

 

それは遊馬とアストラルが数々のデュエルで繰り出してきた希望皇ホープの必殺のカードといっても過言でもないものだった。

 

「ダブルアップ、チャンス!?」

 

「「モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にして、もう一度攻撃が出来る!!!」」

 

希望皇ホープの攻撃がアーチャーの盾で防がれた事で攻撃を無効になったとして扱われ、ダブル・アップ・チャンスの発動条件を満たしたのだ。

 

希望皇ホープは右腰に携えられたもう一つの剣を左手で抜いて構え、ダブル・アップ・チャンスの効果を受けて二つの剣の刃が眩い金色の光を放つ。

 

「攻撃力を二倍だと!?」

 

デュエルモンスターズでは数あるモンスターの中でも元々の攻撃力で最大の数値は5000である。

 

希望皇ホープの攻撃力は2500、つまりダブル・アップ・チャンスで攻撃力は2500の二倍の5000まで上昇しているのだ。

 

「「希望の光よ、闇を斬り裂け!!」」

 

ただでさえ強力な攻撃を放つ希望皇ホープの攻撃力が二倍になることは凄まじいもので希望皇ホープの体から闇を照らすような金色の光を放っていた。

 

「「希望皇ホープ!!ホープ剣・ダブル・スラッシュ!!!」」

 

希望皇ホープは二つの剣をばつ印を描くように全力で振り下ろし、熾天覆う七つの円環の全ての花弁を破壊した。

 

アーチャーは再び干将・莫耶を出現させて希望皇ホープの双剣を真正面から受け止めた。

 

しかし、攻撃力が二倍となった希望の剣の前に干将・莫耶が耐えきれなくなって砕け散り、希望皇ホープはそのままアーチャーを叩き斬った。

 

アーチャーは胸に大きな十字傷を受け、そのまま吹き飛ばされながら壁に大きく激突した。

 

遊馬とアストラルの思いが込められた希望皇ホープの全力の攻撃を受けて無事でいられるわけがなく、アーチャーの体が光の粒子となっていく。

 

「見事だ、少年……」

 

アーチャーは立ち上がり、遊馬とアストラルを見つめて二人の力を認めて称賛した。

 

「貴様の信じる道を歩む為の力、それはその精霊と二人で一つの力のようだな……ふっ、私の完敗だ」

 

「アーチャー……」

 

「少年、そして精霊よ……二人の名を問おう」

 

「俺は九十九遊馬だ!」

 

「我が名はアストラル!」

 

遊馬とアストラルは堂々と名乗り、その二つの名を心に刻んだアーチャーは微笑みながら静かに目を閉じた。

 

「遊馬、アストラル……幼いながらも強く、優しいその希望の光は私には眩しく見える。その心の輝きを失わないでくれ……」

 

アーチャーは光の粒子となって完全に消滅した。

 

そして、メドゥーサと同じように白紙のモンスターエクシーズのカードが残され、遊馬は静かにカードを拾った。

 

「遊馬、そのカードは……?」

 

「分からない。ただ今みたいにサーヴァントを倒したらモンスターエクシーズのカードが残るんだ。それから俺と契約したサーヴァントからも同じカードが……」

 

「サーヴァント……?どうやら君は新たな戦いの運命に巻き込まれたようだな。遊馬、今君が知っていることを全て教えてくれ、情報を整理しよう」

 

「ああ。だけど、その前に一言だけ言わせてくれ」

 

「何だ?」

 

遊馬は右手を差し出してとびっきりの笑顔を向けた。

 

「おかえり、アストラル」

 

「……ただいま、遊馬」

 

アストラルはその言葉に嬉しさが込み上げて遊馬の手を握り、同じように笑顔を向けた。

 

遥か昔に別れた二つの魂が出会いと別れを繰り返した。

 

そして、再び果てしない戦いの運命に飛び込む為、世界を越えて再会を果たした。

 

「あの、遊馬君……そちらの精霊さんはどちら様ですか?」

 

「マシュ、アストラルが見えるのか?それならちょうどいいぜ!アストラル、紹介するぜ、俺の新しい仲間のマシュだ!」

 

「え?あ、は、はい!初めまして!マシュ・キリエライトです!」

 

「マシュ・キリエライト……記憶した、私はアストラル。遊馬の相棒だ」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「よろしく頼む」

 

遊馬はマシュにアストラルを紹介し、互いに自己紹介をする。

 

ここから、全てが始まる。

 

異世界の希望と未来を司る二人で一人の絆の英雄と運命に導かれた少女。

 

三人の出会いが人類の未来を救い、英霊と絆を結ぶ、長き旅の物語が幕を開ける。

 

 

 

.

 




満足したぜ……。
やっぱり希望皇ホープはかっこいいですな、私の使っているデッキもホープデッキなので。
次回は騎士王様との対決ですがやっぱり騎士王様なので、あの聖剣の名を持つモンスターエクシーズの活躍も見せたいなと思います。


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ナンバーズ5 激突!希望皇VS騎士王!!

希望皇ホープとアルトリアの夢の対決が書けました。
もっともちょっと違う展開になってしまいましたが。
そして今回からマシュの新たな力が発現します。


アーチャーを倒した遊馬達は最後の敵であるセイバーとの戦いに向けて休息を取っていた。

 

異世界からの来訪者……遊馬の相棒であるアストラルはオルガマリーとロマニからカルデアや英霊に関すること、そしてこれまでの現状を全て聞き、記憶していく。

 

「なるほど、そして異世界からやって来てしまった遊馬がカルデアの最後のマスターとして戦うことになったと……」

 

「ええ、情けないことにね……」

 

『遊馬君とマシュ、二人にこの世界の未来がかかっているんだ』

 

「ならばこの世界の未来、私も背負わせてもらおう」

 

「なっ!?あなた何を言って……」

 

「遊馬は私の一番大切な人だ。その遊馬がこの世界の未来を救うために戦うというなら、私も共に戦おう」

 

アストラルの迷いのない決意に遊馬は少し不安そうに尋ねた。

 

「アストラル、良いのかよ……?」

 

「本音を言うなら、君を今すぐに連れ戻して小鳥達の元へ送り届けたい。だが、君はここにいるマシュ達のために最後まで戦おうとするだろう。それなら、私も力を共にして戦おう。私は君の相棒なのだから」

 

「アストラル……サンキュー!お前がいれば百人力、いや、千人力だぜ!!」

 

遊馬はアストラルがまた共にいてくれること、そしてまた共に戦えることを心の底から喜んだ。

 

するとマシュは自分の手の甲に刻まれた『00』の刻印を見つめながらアストラルに質問した。

 

「あの、アストラルさん。一つよろしいですか?」

 

「何だ?マシュ」

 

「ナンバーズって、一体何なんですか?未来皇ホープや希望皇ホープ、凄い力を秘めていますが……」

 

「そうそう、俺もそれを聞きたかったんだ。お前さん達の宝具……いや、切り札と言ったほうがいいか?あれは俺も見たことない力だぜ?」

 

マシュとキャスターは遊馬の未来皇ホープ、そしてアストラルの希望皇ホープ……未知なる力を秘めたモンスターを疑問に思った。

 

それをアストラルは手から真っ白に輝くカードを出しながら静かに語り出した。

 

「ナンバーズ……それは私の記憶の欠片から作り出された100枚の特別なモンスターエクシーズだ」

 

「アストラルさんの、記憶!?」

 

「ナンバーズは私以外の人間が持つ場合、持ち主に大きな力を与えるが、心の闇が増幅されて暴走することもある危険なカードでもある。だが、私と遊馬はナンバーズに取り憑かれずに自由自在に操ることができる」

 

「かつてアストラルの記憶がナンバーズとなって世界中に飛び散って、俺たちはナンバーズを集めるために戦っていたんだ」

 

ただでさえ強大な力を持つ希望皇ホープ以外にも能力やパワー、姿形が異なるナンバーズがあと99枚も存在することにオルガマリーは頭痛を覚える。

 

「はぁ……ちょっと聞いただけでも頭が痛くなる。そのナンバーズってカード、とんでもない代物よ……」

 

『ええ。この事は絶対に外部に漏れないようにしないとですね』

 

オルガマリーとロマニは遊馬とアストラルを守るためにもナンバーズの秘密を守っていこうと心に誓った。

 

下手をすれば未来を守った後に頭の狂った魔術師達に捕らえられる可能性があるからだ。

 

「さて、情報交換はそれぐらいにして次の戦いの作戦会議といきましょう。私達の最後の敵、セイバーを倒せばこの異変は解決されるでしょう」

 

「セイバーの正体なら俺は知ってるぜ」

 

キャスターは何度もセイバーと戦っているのでその正体や宝具を知っていた。

 

聖杯戦争で召喚される英霊はクラス名で呼ばれる。

 

何故なら真名を敵に知られれば弱点や宝具を知るアドバンテージになるからだ。

 

「他のサーヴァントたちがやられたのはセイバーの宝具が強力だったからだ」

 

そして、キャスターの口からセイバーの驚くべき正体を口にした。

 

「王を選定する岩の剣のふた振り目。お前さんたちの時代においてもっとも有名な聖剣、その名は……『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。騎士の王と誉れ高い、アーサー王の持つ剣だ」

 

世界的にも有名な騎士と聖剣……約束された勝利の剣とアーサー王の名に遊馬とアストラルは耳を疑った。

 

「はぁ!?エクスカリバーだと!!?」

 

「円卓の騎士王、アーサー・ペンドラゴン。だが彼は伝説……物語の登場人物のはずだが、まさか本当に実在するとはな」

 

「確かにセイバーの約束された勝利の剣は強力だが、嬢ちゃんの盾が役に立つ。ドンと構えてろよ?」

 

「は、はい!」

 

最後の敵、セイバーがアーサー王と知り遊馬とアストラルはデッキとエクストラデッキを地面に広げて二人で独自の作戦会議を始める。

 

「英霊の攻撃を防ぐならやっぱり希望皇ホープが適任だな。後はアーサー王のエクスカリバーに対抗するパワー勝負か……」

 

「遊馬、ここに来る前に君の家から交換用のカードを持ってきた。これでデッキ調整をしよう」

 

「おっ、流石はアストラル!早速デッキの再構築だ!」

 

アストラルは人間界の九十九家の遊馬の部屋からカードを持ってきており、二人で対セイバー用のデッキ調整を始める。

 

マシュは隣で興味津々に遊馬のデッキを見る。

 

遊馬のデッキはアストラルと出会い、希望皇ホープをエースモンスターにしてから基本的に希望皇ホープを出しやすいデッキに構築している。

 

後はいかに早く希望皇ホープを始めとするモンスターエクシーズを出しやするモンスターや英霊対策に攻撃力重視や防御関係の魔法と罠を組み込んでいく。

 

そして、デッキ調整がほぼ終わるとアストラルは手から数枚の特別なカードを出現させ、遊馬に贈った。

 

「遊馬、これを受け取ってくれ」

 

「これって……?」

 

「このカードは君と私、そしてアストラル世界を繋ぐカードだ。アストラル世界に新たな未来を示した君にエリファスとエナからの贈り物だ」

 

アストラル世界を統べる代表者兼守護神であるエリファスとアストラル世界の住人達をまとめる中心人物であるエナ。

 

そのエリファスとエナが異世界で新たな戦いに挑む遊馬に新たなカードを授けた。

 

「サンキュー、エリファス、エナ。二人の思いを受け取ったぜ!」

 

遊馬はそのカード達をデッキに入れて嬉しそうに掲げる。

 

そのカード達は遊馬のデッキを格段に強くするものなので新しいカードが入ることはデュエリストとして嬉しいことである。

 

新しく構築したデッキをデュエルディスクにセットし、D・ゲイザーを左目に装着し、身なりを整えて気合いを入れる。

 

「ふぅ……よしっ!いつでも準備オッケーだぜ!!」

 

「はい、私も準備完了です」

 

「フォウフォウ!」

 

「そんじゃ、行くか」

 

「私が戦うわけじゃないけど緊張するわね……」

 

『みんな、気をつけて……』

 

洞窟内を進み、静かに最奥地には『大聖杯』と呼ばれる超抜級の魔術炉心があった。

 

オルガマリーとロマニは大聖杯の存在に驚愕し、魔術の知識がない遊馬とアストラルでさえ危険なものだと察知した。

 

そして、その近くに漆黒の剣を構え、鎧を身に纏った闇のオーラを纏った少女が立っていた。

 

「あれがアーサー王……?」

 

「どうやら女性のようだな……」

 

アストラルは一目でセイバー……アーサー王が男性ではなく女性だと見抜いた。

 

「え!?アーサー王は男のはずじゃ……」

 

「大昔の王位継承権は男性のみ与えられている。女性だと都合が悪いから男装したのではないか?」

 

「そう言うことか!でも騎士王ということはやっぱり強いよな!!」

 

「そうだ、気を抜くなよマスター!」

 

「遊馬君、行きましょう!」

 

マシュとキャスターは戦闘態勢に入り、フォウは遊馬のフードから出てオルガマリーと共に下がった。

 

「ああ!一緒に行くぜ、マシュ!キャスター!俺のターン、ドロー!『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

赤い飛行機に乗ったゴブリンが召喚され、その背後に小さな飛行機が三機現れるとそこに吊るしたコンテナが現れる。

 

「効果で手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る!来い、『ゴゴゴゴーレム』!」

 

コンテナが落下すると中からゴゴゴゴーレムが出現する。

 

「レベル4のゴブリンドバーグとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

ゴブリンドバーグとゴゴゴゴーレムが光となって地面に現れた黒い穴に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

最初から遊馬とアストラルの全力全開を見せるため、エースモンスターが登場する。

 

地面から現れた白い塔が変形し、希望の名を持つ戦士が姿を現わす。

 

「「現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

『ホォオオオオオープ!!』

 

「希望皇、ホープ……?」

 

闇に囚われし騎士王と光を導く希望皇が遂に対峙した。

 

「カードを一枚セットする!」

 

下手に攻撃すればセイバーのカウンターが来る恐れがあるのでまずは出方を待つ。

 

「来ないのか?それなら見せてやる、我が聖剣を……」

 

セイバーの手にある漆黒に染まった剣……それこそが世界に名を馳せる聖剣、『約束された勝利の剣』だった。

 

「卑王鉄槌……極光は反転する。光を呑め……!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!」

 

聖剣から放たれた黒く染まった極光が遊馬たちに襲いかかる。

 

しかし、遊馬とアストラルには数々の強敵の攻撃を防いで来た最強の盾がある。

 

「「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!ムーンバリア!!」」

 

オーバーレイ・ユニットが希望皇ホープの胸の翡翠の宝玉に取り込まれると、左翼が大きく開いて半月を描くように変形してセイバーの強力な闇の極光を防いだ。

 

「何!?」

 

「す、凄い……あの聖剣の攻撃を防ぎきった!?」

 

「はははっ!すげえ、やるじゃねえか!希望皇ホープよぉっ!!」

 

多くのサーヴァントを葬った約束された勝利の剣の極光を防ぎ切り、マシュとキャスターは思わずテンションが上がる。

 

「ならば、何度でも攻撃するだけだ!『約束された勝利の剣』!!」

 

再び聖剣から闇の極光が放たれて遊馬たちに襲いかかり、もう一度ホープの効果を使う。

 

「「更にオーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!ムーンバリア!!」」

 

二度目の光を防ぎ切り、ならばとセイバーは自身の剣技でホープを倒そうとしたが、次の瞬間驚くべき事態となった。

 

突然、ホープの体にヒビが入って粉々に砕けて破壊されてしまった。

 

「ホープ!?」

 

「何故ホープが……はっ!?遊馬、ホープのテキストを見ろ!」

 

「えっ!?こ、これは!?」

 

今まで気付かなかったが、希望皇ホープのカードのテキストが変化していた。

 

それは『このカードは「No.」と名のついたモンスター以外との戦闘では破壊されない』が削除され、『このカードがX素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。このカードを破壊する』が追加されていた。

 

遊馬とアストラルの最後のデュエルまで希望皇ホープは他のナンバーズでしか戦闘破壊出来ず、攻撃対象になったら自壊する効果など無かった。

 

「まさか我々が異世界に来たことでナンバーズの効果が変化したということか!?」

 

「よくわかんねえけど、今は目の前に集中するしかないぜ!」

 

予想外の出来事にアストラルは冷静さを失うが、遊馬は焦らずにセイバーを見つめる。

 

「何が起きたか知らないが、まあ良いだろう……先に数を減らすか」

 

セイバーは狙いをキャスターに定めて攻撃を仕掛ける。

 

「しまった!キャスター逃げろ!」

 

「逃げられるわけねえだろ!?」

 

キャスターはすぐに発動出来るルーン魔術を使ってセイバーに攻撃するが軽々と回避してキャスターの間合いに入り、腹を蹴飛ばして壁に叩きつけた。

 

「チッ、ゲイ・ボルグさえあれば……」

 

完全に倒せはされなかったが、キャスターはしばらく動けなくなってしまった。

 

「これでキャスターは虫の息……後で倒せば問題はない。次は何かされる前に面倒なマスターを消すだけだ!!約束された勝利の剣!!」

 

セイバーは今度こそ遊馬を倒すために闇の極光を放った。

 

遊馬達には希望皇ホープはいない、この極光を防げるものはいないとセイバーは思ったがそれは違った。

 

「させません!!!」

 

遊馬の前にマシュが立ち、盾を構えて正面から闇の極光に立ち向かった。

 

「マシュ!?」

 

「ぐぅうううっ!?」

 

マシュは全身の力を振り絞って盾を構えて極光を受け止める。

 

(遊馬君だけは、遊馬君だけはなんとしてでも守る……私の命をーー)

 

マシュが自分の命を捨てででも遊馬だけは必ず守ると誓おうとしたその時、ふわりと温かい手が重なった。

 

「負けるんじゃねえぞ、マシュ!」

 

「遊馬、君!?」

 

遊馬はマシュの隣に立って、一緒に盾を握って闇の極光を受け止める。

 

「心配するな、マシュ!俺が側にいる!」

 

「ふっ、私も忘れてもらっては困るな」

 

アストラルも遊馬と一緒に手を重ねてマシュと一緒に闇の極光を受け止める。

 

遊馬は盾を支えながら右手の甲に刻まれた令呪を見てその使い方を思い出し、今こそ使う時だと大声で叫んだ。

 

「令呪によって命ずる!マシュ、絶対に負けるな!かっとビングだぁっ!!」

 

遊馬が側に居てくれる、共に戦ってくれる……大きな勇気をくれたマシュは遊馬と同じように笑みを浮かべて叫んだ。

 

「遊馬君……はい、かっとビングです!!!私ぃっ!!!」

 

マスターとサーヴァント、遊馬とマシュの二人の強い絆が大きな力を与える。

 

三画ある令呪の一つが消滅し、マシュに膨大な魔力が与えられ、十字架の盾が光り輝く。

 

その時、マシュの盾から光の壁が形成され、それが巨大な城壁の形となって現れた。

 

その壁はどんなものでも防ぐと言わんばかりに闇の極光を防ぎきった。

 

「防いだ……!!」

 

「やったな、マシュ!」

 

「これがマシュの力……むっ!?遊馬、マシュのカードが!」

 

デッキケースが勝手に開き、中からマシュのカードが飛び出して遊馬の前で止まると、マシュの絵しか描かれていなかったカードにカード名と効果が刻まれた。

 

「えっ!?あっ、マシュのカードに名前と効果が!」

 

今まで名前と効果が現れなかったマシュのカード……しかし、それが遊馬と強い絆で結ばれたことで真の力が目覚めたのだ。

 

「これが遊馬とマシュの絆のカード……遊馬、今こそ新たなナンバーズを召喚するんだ!」

 

「よぉし!来い、マシュ!!」

 

「はい!」

 

マシュが光の粒子となってカードの中に入り、遊馬はデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!よし、ゴゴゴジャイアントを召喚!効果で墓地のゴゴゴゴーレムを復活!」

 

二体の同レベルのゴーレムが並び、新たなナンバーズを召喚する条件が揃った。

 

「かっとビングだ!俺はレベル4のゴゴゴモンスター2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

二体のモンスターが地面に吸い込まれ、光の爆発と共に新たに誕生したナンバーズがその姿を現わす。

 

「心優しき乙女よ、神秘の盾をその手に未来を守る最後の希望となれ!」

 

マシュが黒のライダースーツに似た衣装をそのままに両腕両足に赤いプロテクターが装着され、胸元には翡翠の宝玉が輝き、十字架の盾に大きな『00』の刻印が刻まれている。

 

「『FNo.(フェイトナンバーズ)0 人理の守り人 マシュ』!!!」

 

それはマシュが遊馬自身のナンバーズである未来皇ホープに似たプロテクターを装着した姿だった。

 

マシュは新たな存在……英霊とナンバーズの力が一つとなって誕生した『FNo.』として召喚され、身体中に迸る魔力にマシュは振り返って遊馬に笑みを浮かべる。

 

「行きましょう、遊馬君!」

 

「おう!いっけー、マシュ!」

 

「ならば……我が剣でお前から先に倒す!」

 

セイバーは剣技を使って先にマシュを倒そうと地を駆け、高く飛んでから約束された勝利の剣を振り下ろすが遊馬はマシュの効果を発動する。

 

「マシュの効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手の攻撃を無効にする!フルムーン・バリア!!」

 

オーバーレイ・ユニットが盾に取り込まれると先ほどの城壁のような守護城壁とは異なり、満月のような金色の円形を描いた守護障壁を作り出した。

 

「何!?くっ!?」

 

攻撃をしようとしたセイバーだがマシュの守護障壁によって攻撃を防がれ、更にはその場から大きく吹き飛ばされて後退させられる。

 

「そして、この効果の後にバトルを強制終了させる。凄まじい効果だ……」

 

「更に、追加効果で遊馬君のデッキから魔法カードを一枚選んでデッキトップに置きます!遊馬君!受け取ってください!」

 

マシュの盾から光の玉が現れて遊馬のデッキに光が宿り、遊馬が望んだ魔法カードをデッキトップに置く。

 

「サンキュー、マシュ!」

 

「遊馬!このターンで決着をつけるぞ!」

 

「おう!俺のターン、ドロー!」

 

マシュの効果によってデッキトップに置かれたカード、それは遊馬がアストラル世界から贈られた新たなカードである。

 

「来たぜ!俺はフィールド魔法、『希望郷(きぼうきょう) − オノマトピア –』を発動!!」

 

次の瞬間、遊馬を中心に洞窟内が一瞬で空に無数の星々が輝き、細長い塔のようなたくさんの建物が天を貫くようにそびえ立つ幻想的な不思議な空間へと姿を変えた。

 

「これは……!?」

 

「な、何よこれ、まさか、固有結界なの!?」

 

セイバーとオルガマリーは遊馬が発動したフィールド魔法を魔術の到達点の一つと言われている術者の心象風景を具現化させる『固有結界』と勘違いしてしまう。

 

このフィールド魔法はエリファスとエナから譲り受けたカードの一枚で、ある意味遊馬とアストラルの二人にとっての固有結界と言っても遜色無いものである。

 

何故ならアストラル世界はアストラル、そして遊馬の『魂』の故郷でもあり、新たな未来を歩み、希望に満ち溢れた世界となったからだ。

 

「綺麗……」

 

マシュは幻想的なアストラル世界に思わず見惚れてしまった。

 

そして、このフィールド魔法は遊馬とアストラルのエースモンスターとデッキに眠る仲間達を繋ぐ事が出来る力を持つ。

 

「遊馬、罠カードだ!」

 

「罠カード発動!『エクシーズ・リボーン』!」

 

最初に伏せていたカードをオープンすると地面に光の魔法陣が浮かび上がる。

 

「エクシーズ・リボーンは墓地のモンスターエクシーズを特殊召喚し、このカードをそのモンスターのオーバーレイ・ユニットにする!」

 

「蘇れ、希望皇ホープ!」

 

魔法陣の中から希望皇ホープが復活し、エクシーズ・リボーンのカードがホープの新たなオーバーレイ・ユニットとなる。

 

「この瞬間、希望郷 − オノマトピア –の効果発動!」

 

「希望皇ホープが特殊召喚される度にこのカードに『かっとビングカウンター』を一つ置く!そして、かっとビングカウンターの数かける、自分のモンスターの攻撃力は200アップする!」

 

希望皇ホープから光の玉が空高く打ち上がり、それが太陽のように照らし出し、希望皇ホープとマシュの攻撃力が200アップする。

 

しかしこれではまだセイバーを倒すための方程式が完成していない。

 

「再び現れたか、希望皇。だが私に敗れたことを忘れたのか?」

 

「まだだ!ホープの力はこんなもんじゃねえ!」

 

「大切な仲間を守るために生まれたホープの進化した姿を見せてやろう!」

 

幾つにも存在する一番最初に誕生した希望皇ホープの進化形態が姿を現わす。

 

「「希望皇ホープ、カオス・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

希望皇ホープが戦士から元の塔の形へと変形して地面に吸い込まれ、光の爆発と共に新たな姿へ進化する。

 

「「現れよ、CNo.(カオスナンバーズ)39!」」

 

空中に赤黒い『39』の刻印が浮かび上がる。

 

「「希望の力、混沌を光に変える使者!」」

 

そして、地中から現れたのは白い塔ではなく、漆黒の巨大な大剣を模したもので二つのオーバーレイ・ユニットを纏いながら出現した。

 

そこから希望皇ホープと同じように人型に変形していき、黒と灰の鎧に黒と金の翼、両腰には双剣、背中には巨大な大剣が備えられている戦士が現れた。

 

左肩のプロテクターには赤黒い『39』の刻印が刻まれ、守りに特化した希望皇ホープとは異なり、攻めに特化した存在へと進化した。

 

「「『希望皇ホープレイ』!!!」」

 

それはアストラルが遊馬を信じ、仲間達を救いたいと言う思いが芽生えた事で誕生した『カオス』の力である。

 

「カオス……!?何だ、この力は……!?」

 

セイバーは希望皇ホープとは全く異なる姿と異なる力に生まれ変わった希望皇ホープレイに目を疑った。

 

更に光と闇の力が混ざり合ったかのような力がホープレイの中から感じ取っていた。

 

「希望皇ホープレイ……」

 

「この瞬間、オノマトピアの効果により、かっとビングカウンターがもう一つ乗る!」

 

オノマトピアに二つ目のかっとビングカウンターが乗り、空に二つ目の光が登る。

 

「そして、オノマトピアのもう一つの効果発動!かっとビングカウンターを二つ取り除き、デッキから『ズババ』、『ガガガ』、『ゴゴゴ』、『ドドド』の名を持つモンスターを一体、特殊召喚する!来い、『ガガガマジシャン』!!」

 

遊馬のデッキはガガガマジシャンを始めとする洒落な名前を持つカテゴリーモンスターを多く使用しており、オノマトピア はその四種類のカテゴリーモンスターをデッキから呼び出す力を持つ。

 

「ガガガマジシャンに装備魔法、『ワンダー・ワンド』を装備!装備した魔法使い族の攻撃力を500アップする!」

 

呼び出したガガガマジシャンに大きな翡翠の水晶が埋め込まれた髑髏の杖を持たせる。

 

「更に、ワンダー・ワンドを装備したモンスターをリリースする事でデッキからカードを二枚ドローする!」

 

「ガガガマジシャン、お前の力を借りるぜ!」

 

ガガガマジシャンは頷くとワンダー・ワンドと共に光となってデッキトップの二枚に光を灯す。

 

「行くぜ……ドロォーッ!!」

 

ドローした二枚のカード、それにより遊馬とアストラルの勝利の方程式が全て完成した。

 

「遊馬、勝利の方程式が揃ったぞ!」

 

「ああ、アストラル!俺は『ガガガカイザー』を召喚!更に自分フィールドにガガガモンスターがいる時、手札から『ガガガクラーク』を特殊召喚出来る!」

 

ガガガマジシャンによって導かれ、杖を持った派手な貴族のような青年の姿をしたモンスターと書記のような振る舞いの可愛らしい少女の二人の仲間が立ち並ぶ。

 

「ガガガカイザーの効果発動!自分フィールドにガガガモンスターがいる時、墓地のモンスターを除外して自分フィールドのガガガモンスターをそのモンスターのレベルと同じにする!墓地のガガガマジシャンを除外し、ガガガカイザーとガガガクラークのレベルを4にする!」

 

ガガガカイザーの杖が輝き、墓地のガガガマジシャンの持つレベルの力を得て自身とガガガクラークのレベルが4に変化する。

 

「行くぜ、戦士族レベル4のガガガカイザーとガガガクラークでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

二体のガガガモンスターが地面に吸い込まれて光の爆発の後に黒雲が浮かび上がる。

 

黒雲の中から現れたのは真紅の鎧に白銀に輝く大剣を携えて現れた戦士だった。

 

「光纏いて現れろ!闇を切り裂くまばゆき王者!!『H – C エクスカリバー』!!!」

 

奇しくもそれはセイバーの持つ聖剣と同じ名を持つモンスターだった。

 

「何!?馬鹿な、約束された勝利の剣と同じ名を持つ戦士だと!?」

 

「こいつは俺の仲間から譲り受けた大切なモンスターだ!俺はエクスカリバーの効果発動!オーバーレイ・ユニットを二つ使い、エクスカリバーの攻撃力を二倍にする!」

 

二つのオーバーレイ・ユニットがエクスカリバーの体内に取り込まれると、剣が光り輝き、エクスカリバーの背後に巨大なオーラが現れる。

 

「魔力が上がった!?」

 

「更に魔法カード、『オーバーレイ・リジェネレート』を発動!このカードは自分のモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットにする!対象は希望皇ホープレイ!」

 

オーバーレイ・リジェネレート自身がオーバーレイ・ユニットとなり、これでホープレイのオーバーレイ・ユニットが三つとなり、ホープレイの能力をフルパワーで使用することが出来る。

 

「「希望皇ホープレイの効果発動!オーバーレイ・ユニットを使い、ホープレイの攻撃力を500ポイントアップする!」」

 

ホープレイの両肩のプロテクターが開くと中から第三と第四の機械の腕が現れ、背中の大剣を引き抜いて天に向かって構える。

 

「「三つ全てのオーバーレイ・ユニットを使い、ホープレイの攻撃力を1500ポイントアップする!オーバーレイ・チャージ!!!」」

 

大剣に三つのオーバーレイ・ユニットが取り込まれ、ホープレイと大剣が大きな力を得て鎧と大剣が漆黒から純白へと光り輝いた。

 

「「そして、使用したオーバーレイ・ユニット一つにつき、相手の攻撃力を1000ポイントダウンする!」」

 

ホープレイの能力により突然セイバーの力が一気に下がり、膝をついてしまう。

 

「ば、馬鹿な……私の力が抜ける!?」

 

「まずはエクスカリバーだ!セイバーに攻撃!一刀両断!必殺神剣!!」

 

エクスカリバーは剣を構えてセイバーに向かって駆け抜ける。

 

「ふざけるな、そのような紛い物が聖剣の名を口にするな!約束された勝利の剣!!!」

 

力が落ちたとはいえ、闇の極光は強力でエクスカリバーは剣を振り下ろしながら真正面から受け止める。

 

しかし、純粋な剣技を放つエクスカリバーの剣では膨大な闇の光を受け止めきれずに押し戻されてしまう。

 

「紛い物なんかじゃねえ!!たくさんの子供達の想いと希望を背負うゴーシュから譲り受けたエクスカリバーが負けるはずがねぇっ!!!」

 

遊馬の熱い想いに応えるかのようにエクスカリバーの青い瞳が輝き、約束された勝利の剣の闇の極光を切り分ける。

 

「何だと!?」

 

エクスカリバーは自身の体が壊れながらも闇の極光を切り分け、遂にセイバーの間合いに入った。

 

「いっけぇ!エクスカリバァアアアッ!!必殺神剣!!!」

 

そして、最後の剣撃で約束された勝利の剣を絡め取ってセイバーの手から無理やり剥がし取った。

 

希望の光が宿った聖剣が闇に染まった聖剣に打ち勝ったのだ。

 

「しまった!?」

 

約束された勝利の剣はセイバーから遠く離れて地面に突き刺さり、エクスカリバーは闇の極光を受け続けて耐えきれなくなって破壊された。

 

「サンキュー、エクスカリバー……」

 

エクスカリバーの全身全霊の攻撃に今まで魔力を温存していた一つの影が飛び出した。

 

「最高のタイミングだぜ!」

 

「キャスター!」

 

「焼き尽くせ木々の巨人、『焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!!」

 

それは遊馬達の活躍に立ち上がったキャスターの宝具、無数の細木の枝で構成された巨人が炎を纏いながら出現し、セイバーの足止めをする。

 

「マスター!トドメだ!」

 

「遊馬君!アストラルさん!今です!」

 

キャスターがとっておきのルーン魔術でセイバーの動きを封じ、マシュは地面に突き刺さった約束された勝利の剣の前に立ってセイバーが使えないようにした。

 

「遊馬、今だ!」

 

「おう!」

 

「行け、希望皇ホープレイ!」

 

「セイバーをぶった切れ!!」

 

ホープレイは両腰に添えられた双剣の鞘が弾け飛び、腰から引き抜いた。

 

大剣と双剣の三刀流という凄まじい姿となり、翼を広げて滑空しながらセイバーに向かう。

 

キャスターはウィッカーマンを消し、動揺するセイバーの瞳には大剣と双剣を持った純白に輝く戦士の姿が映った。

 

「「ホープ剣・カオス・スラッシュ!!!」」

 

双剣で十字に切った後に振り上げた大剣を振り下ろし、セイバーの鎧を破壊しながらぶっ飛ばした。

 

特異点の最後の敵、セイバーを倒すことに成功した遊馬は腕を高く上げて勝利を喜んだ。

 

「やった……勝ったぜ!勝ったビングだ!!」

 

マシュたちも喜びを分かち合おうと遊馬に駆け寄る。

 

しかし、その喜びを打ち砕くかのように邪悪なる眷属が近づいていることを遊馬たちはまだ気づいていなかった。

 

 

 

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ホープよりエクスカリバーの方が目立っちゃいましたね(笑)
そして遊馬とマシュの新たな力、FNo.がついに発現しました。
一応マシュがカード化した場合の効果やステータスを考えました。

FNo.0 人理の守り人 マシュ
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻1500/守3000
レベル4モンスター×2
自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
そのモンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
その後、自分のデッキから魔法カードを1枚選び、デッキの一番上に置く。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

攻撃を無効にした後にバトルフェイズを終了にしますが、遊馬お得意のダブル・アップ・チャンスコンボが使えないのが難点です。
シールダーで守りに特化しているので攻撃力は低めですが、守備力は高いです。
強みはバトルフェイズの強制終了と魔法カードをデッキトップに置くところですね。
仲間を守り、マスターである遊馬に有利な一手を導くマシュらしいFNo.です。
いかがでしょうか?


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ナンバーズ6 終わりの始まり、果てしない旅へ

セイバー戦の後のもう一波乱です。
さあ、皆さんお待ちかねの遊馬先生の救済入ります!
え?誰にですって?
もちろん決まってます、彼女にです!
彼?知りませんね〜(笑)


騎士王・アーサー王に勝利した遊馬とアストラル、マシュとキャスター。

 

そして、騎士王に最後の一撃を与えたホープレイは大剣と双剣をしまい、腕を組んで威風堂々と立っていた。

 

すると、オルガマリーは目の前の激闘を見て興奮気味になりながら遊馬達に駆け寄る。

 

「マシュ、遊馬!大丈夫!?」

 

「はい、所長」

 

「へへっ!問題ないぜ!」

 

「良かった。それより、マシュが出したあの盾とその姿は一体……」

 

「あの盾はお嬢ちゃんの宝具だぜ」

 

「そして、この力は遊馬君と私の絆の力です」

 

フェイトナンバーズ、英霊に遊馬とアストラルの力が混じって誕生した新たな存在。

 

そして、令呪の力でその力の一端を解き放つことができた十字架の盾。

 

「新たなサーヴァントの力って事ね……マシュ、盾の宝具の名前、分かる?」

 

「残念ながら、力及ばず……私に力を託してくれた英雄の事は分からなくて」

 

「そう、宝具の名前も真名も分からないとなると……よし、それじゃあ私が名前をつけてあげるわ!貴女にとって意味があるカルデアの名前を取って、『仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』よ!」

 

「ロード・カルデアス……!」

 

「おおっ!すっげぇかっこいいじゃん!所長、ネーミングセンスバッチリじゃん!」

 

「少なくとも遊馬よりは断然あるな」

 

「なっ!?う、うるせぇよアストラル!俺だってネーミングセンスぐらい……」

 

「私が知る限り、君のネーミングセンスはかなり絶望的だと思うが?何なら今までの酷いものを一つずつ……」

 

「お、お前っ!?」

 

常に遊馬と行動していたアストラルだからそこ知る遊馬のネーミングセンスの酷さを暴露しようとし、周りが面白くて笑みを浮かべているとキャスターはキョロキョロと周りを見渡す。

 

「さて、と。無事にセイバーを倒したのはいいとして、お前さん方の言う特異点ってのはどれだい?」

 

キャスターが注意深く見渡すが、ここにあるのは不気味な大聖杯だけで、特異点と思われるモノは見当たらない。

 

「見事だ……少年」

 

その声に遊馬達は一点に目を向ける。

 

そこには立ち上がったセイバーの姿があった。

 

「私と同じ王の聖剣の名を持つ戦士に、希望の名を持つ皇……なるほど、どうやら少年も人の上に立つ『王』のようだな……」

 

ホープレイの攻撃を受けて鎧はおろか、体はボロボロになっており、するとセイバーの体は少しずつ金色の光となって消えつつある。

 

「あっ、あれ見て!」

 

オルガマリーがセイバーの傍らを指差す。

 

セイバーのすぐ近くに輝きを放つ金色の水晶体が落ちている。

 

「もしかしたら、特異点かも……!」

 

セイバーは暗い大空洞の天井を見つめ続けながら遊馬たちに向けて言葉を紡ぐ。

 

「少年たちよ……これはまだ始まりにしか過ぎない」

 

「始まり……?」

 

「人理修正、『冠位指定(グランドオーダー)』は始まったばかりだ」

 

「グランド、オーダー……!?」

 

その言葉を最後にし、セイバーは足元から金色の粒子となり、消滅するとまたしてもモンスターエクシーズのカードが残った。

 

アストラルが手を伸ばすと、そのモンスターエクシーズのカードが宙に浮かび上がらせ、そのまま遊馬の元に引寄せてキャッチさせる。

 

相変わらず白紙のカードを遊馬はデッキケースにしまうとキャスターの体が光となり始める。

 

「キャスター!?」

 

「チィッ!ここで強制送還かよ、マスター!次一緒に戦う時はランサーで呼び出してくれよ?」

 

「また、会えるか?」

 

「おうよ、お前さんの運が良ければな。じゃあな!!」

 

「ああ!また一緒に戦おうぜ!!」

 

キャスターは拳を突き出し、遊馬は頷いて再会を誓い合うと自分も拳を突き出して拳同士をぶつけ、楽しそうに笑みを浮かべたキャスターも消滅する。

 

「キャスター……」

 

キャスターの消滅を見届ける余韻に浸る間も無く、突然大空洞に拍手の音が響く。

 

ゆっくりと、あざ笑うかの様な調子のその音は大聖杯から聞こえた。

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。偶然迷い込んだ子供だと思って放っておいた私の失態だよ。まさか君みたいな小さな子供が謎の召喚獣を操り、セイバーを討つとは」

 

大聖杯に立ち、その男は微笑んでいた。

 

人間とは思えない不気味な嘲笑を浮かべたその男の顔を、遊馬は見た事がある。

 

カルデアに訪れ、そしてマシュと話していたところに現れ、技師の一人だと名乗っていた紳士のような男……。

 

「レフ、さん?」

 

レフ・ライノールだった。

 

『レフ!?レフ教授だって!?彼がそこにいるのかい!?』

 

腕輪からロマニの声が響くと、レフはその声を聞いて不気味な笑みを更に深めた。

 

「うん?その声はロマニ君かな?君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てくれと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね、まったく。どいつもこいつも統率の取れてないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

とても初めて会った時のレフとは思えないほどその口調は冷たく、まるで遊馬達を人とも認めていないかの様だ。

 

困惑する遊馬たちだが、一人だけレフの出現に歓喜の表情を浮かべる人間がいた。

 

「レフ……ああ、レフ、生きていたのね、レフ!」

 

「やあ、オルガ。元気そうで何よりだよ」

 

「ああ、ああ!レフー!」

 

レフへと駆け寄ろうとしていくオルガマリー。

 

彼女だけがレフの変貌に気付いていない様だった。

 

「ダメだ所長、そいつに近づくな!」

 

遊馬はオルガマリーの手を握ってそのまま後ろに下がらせる。

 

「ゆ、遊馬!?何を……」

 

「遊馬の言う通りだ、オルガマリー!その男は人間ではない!邪悪なる存在だ!」

 

遊馬とアストラルはレフから感じる邪悪な気配に目を鋭くする。

 

「ほう、私の気配に気づくとは。しかし、変だね……オルガよ、爆弾は君の足元に設置して君は木っ端微塵になる予定だったのに。どうして生きているのかな?」

 

本当に分からない、どうしてだろう、とレフは考え込む人の様に軽々と恐るべき事実を言い放った。

 

レフ以外のその場にいた全員が絶句した。

 

「何だと……!?」

 

「な、何、言ってるのレフ?あの、それ、どういう意味?」

 

「いや。生きているとは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね。肉体という枷に縛られ、マスターとしての適性がなかった君は残留思念だけとなってようやくレイシフト出来たという事か」

 

「な、え……?」

 

「君は死んだことで初めて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ。だからカルデアにも戻れない、だってカルデアに戻った時点で、君のその意識は消滅するんだから」

 

「そんな……」

 

キャスターもオルガマリーにはマスター適性がないと言っており、本来ならレイシフトも出来ないはずなのだ。

 

抗えない現実にオルガマリーは言葉を失う。

 

「レフ……てめえがカルデアを爆破した元凶なのか!!」

 

遊馬は強い怒りを抱いてレフを睨みつけた。

 

「その通りだ、最後にカルデアの状況を見せてやろう」

 

全員が動揺している隙を突き、レフが水晶体を魔術を用いたのか引き寄せて手中に収めた。

 

そして、 空間を歪めて空中に赤く輝く球体……カルデアスを出現させた。

 

「な、何よあれ。カルデアスが、真っ赤になってる!?」

 

「本物だよ、聖杯があれば時空を繋げることができる。そしてこれこそ人理が焼却した証だ!」

 

『焼却だって!?』

 

ロマニの驚愕の声に頷いたレフ。

 

微かに恍惚の表情が浮かぶその顔は、既に初めて会った時の原型を留めてはおらず、もはや歪な怪物そのものだった。

 

「カルデアが無事なのはカルデアスの磁場で守られていたからだが、カルデアの外はこの冬木と同じ末路になっているだろう」

 

『外部と通信がとれないのは故障ではなく、受け取る相手が既に存在していないからか……!』

 

「ふん、やはり貴様は賢しいな。オルガよりも君を優先して殺すべきだったよ。まぁ、まずは死に損ないから」

 

レフが指をオルガマリーへと向けた途端、その体がふわりと宙に浮いた。

 

「どうせカルデアに戻ったら君は消滅するんだ。それなら、君の宝物に触れさせてあげようじゃないか」

 

「や、やめてよ!だって、カルデアスよ!?」

 

「そうだとも。ブラックホール、いや太陽かな。何にせよ、触れるモノは全て分子レベルで分解される。君もそうなるって訳さ」

 

オルガマリーはカルデアスに取り込まれてしまい、その精神が崩壊しかける。

 

大切だと思っていた人に殺され、そしてカルデアスに取り込まれて消滅する。

 

絶望に叩き落とされるオルガマリーに一筋の光が差し込んだ。

 

「かっとビングだ!俺ぇっ!!」

 

「遊馬!?」

 

「遊馬君!?」

 

遊馬はカルデアスに取り込まれたオルガマリーを救うために自らもカルデアスの中に飛び込んでその手を掴んだ。

 

「うくっ、遊馬……!?」

 

「ぐああああぁっ!?くっ、しっかりしろ、所長!!」

 

カルデアスの内部は灼熱の炎の如く熱が帯びており、遊馬とオルガマリーは体に激痛が走る。

 

「あ、あなた、何をしてるの!?」

 

「決まってるだろ!あんたを助ける!」

 

「ほう、カルデアスの中に勇敢……いや、無謀にも飛び込むとは……しかし、いつまで続けるんだい?そのままだと君もオルガと共にカルデアスに呑み込まれてしまうぞ?ふふふ……」

 

レフの嘲笑を受けながらも、遊馬は決してオルガマリーの手を離そうとはしなかった。

 

余りにも愚かな行為を面白おかしく見ていたレフだが背後に忍び寄る影に気づいていなかった。

 

「よそ見をするとは油断大敵だぞ。やれ、ホープレイ!」

 

「何!?」

 

嘲笑していたレフの背後に冷静なアストラルの指示でホープレイがアサシンの如く気配を消して忍び寄り、双剣と大剣を振りかざしていた。

 

「ホープ剣・カオス・スラッシュ!!」

 

「くっ!?」

 

レフはとっさに右手を前に突き出して魔術で障壁を作り出すが、ホープレイの強烈な三連続の剣撃の前にあっさりと障壁は破壊され、そのまま右腕を容赦なくぶった切られた。

 

「ぐぎゃあああああああっ!?」

 

右腕が細切れとなって吹き飛び、肩から大量の血が流れて思わぬ激痛に顔が歪み、絶叫するレフ。

 

その際に左手に持っていた結晶を手放してしまい、ホープレイはその結晶を手にしてアストラルの元に戻る。

 

「ぐっ!しまった!」

 

「貴様の目的のモノはこれのようだな。これは私が回収させてもらう」

 

アストラルはホープレイから結晶を回収すると宙に浮いてカルデアスに向かって飛んだ。

 

遊馬はオルガマリーの手を強く握り、カルデアスに取り込まれないようにしていた。

 

「諦めるな!俺はまだ所長と一緒にいたいんだ!俺には、俺たちには所長が必要なんだ!」

 

「私なんかに構わないで!遊馬、あなたはカルデアの最後のマスター、人類の最後の希望なのよ!私なんかの為に、命を捨てないで!!」

 

オルガマリーは最後の希望である遊馬を何としてでもカルデアスから脱出させようと魔力を放出しようとしたが……。

 

「オルガマリー!!」

 

「っ!?」

 

遊馬はオルガマリーを抱き寄せて名を呼び、真剣な眼差しで約束した。

 

「俺が必ず守る!」

 

十三歳とは思えない決意の篭った目で見つめられ、オルガマリーは呆気にとられてしまう。

 

すると、アストラルもカルデアスの中に飛び込み、激痛に耐えながら遊馬に向けて手を伸ばす。

 

「くっ……遊馬!行くぞ!」

 

「アストラル!おうっ!!」

 

「私と!」

 

「俺で!」

 

「「オーバーレイ!!」」

 

遊馬とアストラルが手を重ねた瞬間、二人の体が赤と青の光となって一つに合体した。

 

「な、何……!?」

 

オルガマリーは目の前で何が起きているのか理解できず、遊馬とアストラルが一つになった存在は金色に輝いてその姿を目視することができなかった。

 

「オルガマリー、今助ける!」

 

「私たちには君が必要だ。私たちの奇跡で君を助ける!」

 

二人はデッキからカードをドローし、ドローしたカードをすぐさま発動させる。

 

「「魔法カード!『死者蘇生』!!」」

 

それは墓地に眠るモンスターを復活させる、あらゆるデッキにも入る万能の魔法カード。

 

その力をオルガマリーに付与させる為にカルデアスの膨大なエネルギーと遊馬とアストラルが持つ奇跡の力を使う。

 

「「うぉおおおおおおおっ!!!かっとビングだぁっ!!!」」

 

二人の金色の光が更に輝きを増すとカルデアスから赤と青の二つの光が弾け飛び、赤い光は遊馬で青い光はアストラルでマシュの側で転がる。

 

「遊馬君!アストラルさん!」

 

マシュが遊馬とアストラルに駆け寄ると、遊馬の胸の中にはオルガマリーが眠っていた。

 

「オルガマリー所長は……?」

 

不安そうなマシュの言葉に遊馬は起き上がると、ニッと笑みを浮かべてグッドサインをする。

 

「心配するな!所長は無事だ!生き返ったぜ!」

 

「ええっ!?」

 

「私たちの力とカルデアスと大聖杯の膨大なエネルギーを利用してオルガマリーの肉体を再生させ、魂を定着させた。これでもう彼女は大丈夫だ」

 

それは遊馬とアストラルの二つの絆の力によって起こした奇跡の力である。

 

「所長……!!」

 

マシュは遊馬からオルガマリーを受け取り、生き返ったことに喜んでぎゅっと抱き締めた。

 

遊馬達はオルガマリーが復活した事を喜ぶが、それに対して激怒する者が一人いた。

 

「ふざけるな!!!」

 

「レフ……」

 

「よくも、よくも私の理想を打ち砕いてくれたな!!」

 

ホープレイに右腕を斬られ、目的の結晶を奪われ、更には消滅させようとしたが遊馬とアストラルの力で肉体を再生させたオルガマリー……ことごとく邪魔をされ、思惑を打ち破られ、その顔はもはや人間とは思えないほどに怒りで歪んでいた。

 

「レフ!所長の想いを踏みにじり、カルデアの人達のたくさんの命を奪ったてめえを絶対に許さねえ!!てめえの身勝手な野望は俺たちが必ず打ち砕いてやる!!」

 

「私と遊馬がいる限り、貴様のような邪悪な存在の思い通りには絶対にさせない!覚悟しておけ!!」

 

威風堂々とした態度でレフを指差す遊馬とアストラル。

 

レフは今すぐにでも遊馬とアストラルを殺そうとしたが、ホープレイが剣を構えた臨戦状態だったので下手に手が出せなかった。

 

すると、大空洞が音を立て始め、地響きに続いて、天井から破片が降り注ぎ始めた。

 

『まずい、空間が不安定に崩壊し始めている!すぐにレイシフトを開始する!』

 

「ドクター、急いでください!」

 

「チッ!次会うときは必ず貴様らをこの手で殺す!!首を洗って待っていろ、九十九遊馬!アストラル!!」

 

指を鳴らす音に続いて、レフは恨みの言葉を残しながらカルデアスと共に光に包まれ、姿を消した。

 

大空洞が今にも崩壊しかねない不吉な音を鳴らし続ける。

 

「遊馬!オルガマリーを皇の鍵の中に避難させる!」

 

「頼んだぜ!アストラルも早く皇の鍵に入れ!」

 

「遊馬、君は!?」

 

「俺は大丈夫だ、ここに来た時と同じ方法で帰るから!」

 

「わかった!」

 

もしもの時に備えて眠っているオルガマリーをアストラルの力で量子化させて皇の鍵の中に避難させる。

 

皇の鍵の中には巨大な異空間が広がり、アストラルは一人になる時などに使用している。

 

アストラルはホープレイも戻し、自らも皇の鍵の中へと入った。

 

「キュウ!」

 

「フォウさん!さあ、私のところへ!」

 

今まで避難していたフォウはマシュに抱きついた。

 

『よし、準備出来た!レイシフトを開始する!』

 

「遊馬君、手を!」

 

「ああ!」

 

最後に遊馬とマシュは離れないように手を握り、洞窟が崩壊する中、レイシフトの光に包まれて二人は目を閉じた。

 

 

遊馬が目覚めると、そこにはカルデアの白い天井が広がっていた。

 

「ここは……?」

 

「ここはカルデアの君の部屋だよ、九十九遊馬君」

 

遊馬の顔を覗き込んだのは派手な装飾を身に纏った黒髪の綺麗な女性だった。

 

「あんたは……?」

 

「私は希代の天才発明家にして芸術家!レオナルド・ダ・ヴィンチ!気軽に、ダヴィンチちゃんと呼んでくれても良いのよ?」

 

「ダ・ヴィンチ……?って、あのレオナルド・ダ・ヴィンチ!?え?でもダ・ヴィンチって男じゃ……あれ!?」

 

勉強な苦手な遊馬でも知っているレオナルド・ダ・ヴィンチだが、遊馬が知る限りダ・ヴィンチは男のはずである。

 

その疑問の答えを出すのは遊馬の隣にずっといたアストラルだった。

 

「遊馬。彼……いや、彼女と言うべきか。名画『モナ・リザ』の美しさに心酔してわざわざその姿でカルデアに現界したようだ」

 

「アストラル!って、ダ・ヴィンチさん、そんなのありかよ……」

 

歴史に名を馳せる天才発明家のはっちゃけた現界の理由に遊馬は軽く頭痛を覚えた。

 

「ダ・ヴィンチさんなんて言わないで、私の事はダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ!いいね?」

 

「は、はい……」

 

ダ・ヴィンチの有無を言わせない笑みと迫力に遊馬は素直に頷くしかなかった。

 

「フォーウ!」

 

「あ、フォウ。元気そうだな」

 

遊馬のベッドに潜り込んでいたフォウは遊馬が目覚めると体をよじ登って肩に乗る。

 

「遊馬……そのリスみたいな生物は何だ?」

 

「わかんねぇ。どうやらこの世界の特別な生き物っぽいぞ、名前はフォウだ」

 

「フォウ!」

 

「異世界には私の知らない生物がたくさんいるようだな……」

 

「さて、遊馬君が起きたのならまずはロマニに診せないとね」

 

ダ・ヴィンチは通信機ですぐにロマニを呼んで遊馬の身体検査をさせる。

 

無謀にも生身でカルデアスの中に飛び込んだのだ、何か異常があってからでは遅いのでロマニは時間をかけて遊馬の体をチェックする。

 

「よし……検査終了。どこも異常無しの健康体だ。しかし、マリーを助けるためとはいえ、カルデアスに飛び込むなんて無茶なことを……」

 

「あの時は所長を助けなくちゃと思って無我夢中で……」

 

「君、本当に十三歳かい?でもあまり無茶のし過ぎは禁物だよ、君が大怪我したら悲しむ者がいるからね。例えば……」

 

「遊馬君、目が覚めたんですね!」

 

「彼女とかね」

 

部屋に勢いよく入ってきたのは初めて会った時と同じ眼鏡とパーカー姿をしたマシュだった。

 

「マシュ!元気そうだな!」

 

「ええ。問題ありません。それより、お腹空きましたよね?軽食にサンドイッチを持ってきたので食べてください」

 

「おおっ!サンキュー、マシュ!ちょうど腹減っていたんだ!」

 

遊馬はマシュが持ってきたサンドイッチとジュースを食べて空腹を満たし、着替えなどの支度が終わるとマシュ達と一緒にレイシフトの管制室に向かった。

 

管制室は爆発と火災の爪痕がかなり残っており、その中ではカルデアの生き残った職員が慌ただしく働いていた。

 

その中でキビキビと指示を出している女性の声が響いた。

 

「まず瓦礫を早急に退かしなさい!それが終わったら全てのコフィンの点検とレイシフトの為のデータ復旧と修復を急ぎなさい!」

 

それは遊馬とアストラルの奇跡によって肉体が蘇ったオルガマリーだった。

 

「所長!」

 

「遊馬!目が覚めたのね」

 

「おう!所長、体は大丈夫か?」

 

一度体が爆弾で木っ端微塵となり、遊馬とアストラルの力で肉体を再生させたので不調がないか心配する。

 

「ええ。あなた達が蘇らせてくれたからね……寧ろ死ぬ前よりも調子がいいわよ。酷かった肩凝りとか無いからね」

 

オルガマリーは苦笑を浮かべながら膝を折って遊馬とアストラルに視線を合わせた。

 

気が張った表情ではなく少し穏やかな笑みを浮かべて遊馬の頭を撫でる。

 

「遊馬、アストラル。まずはお礼を言わせてもらうわ。ありがとう……私にもう一度生きるチャンスを与えてくれて」

 

「えへへ。所長を無事に助けられてよかったぜ」

 

「あの時は運と条件、そして魂がしっかり残っていたから君を助けることが出来た」

 

「そうね……本当に運が良かったわ。だからこそ、あなた達にもらったこの命……人類の未来を守るために、そしてあなた達に捧げるわ」

 

「所長……?」

 

オルガマリーの真剣な表情をしてカルデア所長としての今の思いを打ち明ける。

 

「遊馬……今この世界はここにいる人間以外は全て滅んでしまった。英霊……サーヴァントと契約できるマスターはあなたしかいない。本当ならあなたのような小さな子供にこんなことを頼みたくない」

 

すると作業をしていたカルデアの職員達の手が止まり、その視線が遊馬とアストラルに集まっていた。

 

「だけど、この世界の未来を守るためにはあなた達に頼むしかない。遊馬、アストラル、私たちカルデアの職員は全力であなた達をバックアップする。だから、お願い……世界の未来を守るために戦って欲しい……」

 

初めて会った時とは違うまるで生まれ変わったかのような雰囲気だった。

 

それは色々なことが重なり、精神が追い込まれていたことから解き放たれたオルガマリーの言葉だった。

 

遊馬とアストラルは互いに視線を合わせ、二人は最高の相棒として何も語らずとも一瞬でアイコンタクトを取り、頷いて改めて決意を固めた。

 

「ああ……戦うさ。もうこの世界とは無関係の人間じゃないからな。マシュを、所長を、先生を、みんなを守るために俺は戦う!」

 

「この世界の人理を焼却した者、恐らくはレフの背後にいる巨大な力を持つ黒幕がいるはずだ。もしそれらを放っておけば私たちの世界にも危害を加える可能性がある。遊馬と大切な人たちを守るために共に戦おう!」

 

遊馬とアストラルの決意にオルガマリーは微笑んで頷き、カルデアの職員達は二人の勇気と決意に賞賛して拍手を送った。

 

「遊馬君、アストラルさん、最後まで共に戦います。一緒に未来を守りましょう!」

 

マシュは遊馬とアストラルの言葉に勇気をもらい、一緒に戦うことを改めて誓った。

 

「ああ!俺たちは絶対に負けない!必ず未来を救うんだ!」

 

「かっとビングだ、遊馬!」

 

「おう!かっとビングだぜ、俺!」

 

「では、これより全カルデア職員に通達します。ここに、カルデアの最後にして原初の任務、人理守護指定『グランドオーダー』を発令します!!魔術世界における最高位の任務を以て、我々は人類と未来を救済します!!」

 

オルガマリーの発令に遊馬達とカルデア職員達は一斉に声を揃えて『はい!』と返事をした。

 

ここから遊馬とアストラルとマシュ、そして共に戦う英霊達と世界中の様々な時代の様々な場所にある、七つの特異点を巡る旅が始まるのだった。

 

 

 

.




これにてファーストオーダー完結です!
オルガマリーは遊馬とアストラルの力で肉体を蘇生させました。
やっぱり救えなくちゃ遊馬じゃないなと思ったので。
そしてレフはザマァと言わんばかりにホープレイでぶった切りました。
次は第1章、第一特異点が始まります。
ジャンヌちゃん大好きなので書くのが楽しみです。
ジャンヌちゃんと黒ジャンヌちゃん……二人とも遊馬のヒロイン候補にしようと考えています。


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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
ナンバーズ7 第一特異点へ!グランドオーダー開始!


今回は特異点向かう前の準備回みたいなものです。
フランスへのレイシフトは次回になります。


遊馬とアストラルがカルデアに来てから数日が経過した。

 

すぐにでも特異点に突入しようと思ったが、爆破と火災で機能が大幅にダウンしたカルデアの復旧が最優先に行われ、カルデアの職員達が寝る間も惜しんで復旧を急いでいる。

 

遊馬も復旧を率先して手伝い、ガガガマジシャンを始めとするモンスター達を召喚して一緒に瓦礫撤去や荷物運びを行っていた。

 

復旧がある程度完了するとダ・ヴィンチが遊馬達を集めて英霊を召喚するための部屋に向かった。

 

ダ・ヴィンチは遊馬から預かった5枚のカードを返した。

 

そのカードは特異点『F』で手に入れたサーヴァントのモンスターエクシーズのカード。

 

契約して真の能力が覚醒したマシュ、契約したが真名と能力が不明なキャスター、戦闘したサーヴァントを倒した後に現れたメドゥーサ、アーチャー、そして、アーサー王のカード。

 

このカード……『フェイトナンバーズ』を解析して、遊馬達の話を聞いて色々なことが分かった。

 

・遊馬が出会ったサーヴァントと握手を交わすことで契約が結ばれ、フェイトナンバーズのカードが誕生する。

 

・契約したカードの真名と能力が判明する条件は様々だが、一番有効なのはマスターである遊馬とサーヴァントの間に絆が結ばれた時に覚醒する。

 

・契約したサーヴァントの右手の甲に現れる刻印の数字はアストラルが持つオリジナルのナンバーズと相性が良いか、何らかの関係性を持つものである。

 

・敵サーヴァントはナンバーズ、もしくはフェイトナンバーズで傷を与え、倒すことで消滅後にその欠片から白紙のフェイトナンバーズカードが誕生する。

 

・フェイトナンバーズは英霊召喚の触媒の代用として活用でき、守護英霊召喚システム・フェイトを使えば触媒元となった英霊を高確率で召喚できる可能性が高い。

 

・フェイトナンバーズの効果は英霊の能力や宝具、そして番号に対応したオリジナルのナンバーズの効果を元に強力な効果が反映される。

 

・フェイトナンバーズはサーヴァント時の強力な能力や宝具を自由に使用できないが、その代わり遊馬の繰り出す他のモンスターの効果付与、魔法と罠の効果を受けることが出来る。

 

「という訳だから、遊馬君。早速マシュ以外のフェイトナンバーズの英霊をこの聖晶石を使って呼び出して!」

 

聖晶石とは英霊を召喚するのに必要な特別な星の形をした石でそれをダ・ヴィンチから受け取った遊馬はとりあえず召喚サークルに4枚のフェイトナンバーズのカードを置いた。

 

「えっと……この石を砕けば良いのか?」

 

「ええ。力を込めれば砕けますので」

 

「よし、それじゃあやるか!」

 

聖晶石を手の中で砕き、ばら撒くようにフェイトナンバーズの上に振りかける。

 

すると、召喚が始まり、爆発的な魔力が集束して、英霊召喚システムとカルデアの電力が唸りを上げてまばゆい光を放った。

 

遊馬達がまばゆい光に目を閉じてゆっくり開くと四つの声が静かに響いた。

 

「問おう、あなたが私のマスターか?」

 

「まさかこんなにも早く君に呼ばれるとはね」

 

「早速約束を果たせそうですね、ユウマ」

 

「よぅ、早速呼んでくれて嬉しいぜ、マスター」

 

それは闇から解き放たれたアーサー王、アーチャー、メドゥーサ、そして共に戦ったキャスターだった。

 

「アーサー王、アーチャー、メドゥーサ、キャスター……!」

 

「おう、マスター!今度はちゃんとランサー枠で呼び出してくれて嬉しいぜ!」

 

キャスター……否、ランサーの手には赤い槍があり、嬉しそうに遊馬の髪をくしゃくしゃにした。

 

「へへっ、キャスターは槍があればって嘆いてたからな」

 

「……キャスター、一ついいか?」

 

アストラルはランサーの隣に立ち、召喚サークルの近くを指差しながら尋ねた。

 

「あ?何だよ?」

 

「あれは君の杖じゃないか?」

 

「はぁ?何言ってんだ?ここにゲイ・ボルグがあるのに杖なんか……」

 

ランサーがチラッと自分が召喚された場所を見るとそこには特異点『F』で使っていた杖が転がっていた。

 

「……何でだぁあああああっ!!?何でゲイ・ボルグがあるのにここに杖があるんだよぉっ!!?」

 

愛槍と共に召喚されてテンションが上がったランサーだが、何故か杖も一緒に召喚されて頭を抱えて絶叫した。

 

「おーい、キャスター?」

 

「あの男は放っておけ、少年」

 

「アーチャー!」

 

嘆いているランサーを無視し、アーチャーとメドゥーサとアーサー王は遊馬の前に立つ。

 

「さて、私とセイバーとライダーは一度は君の敵として立ち塞がったが、こうして君の召喚に応えた」

 

「色々思うところはあると思いますが、私達はあなたの味方です」

 

「私達はあなたと共に戦います、未来を守るために」

 

三人は遊馬と共に戦うことを約束し、遊馬は嬉しそうに笑顔を見せた。

 

「おう!一緒に戦ってくれ!俺たちは仲間だぜ!」

 

「では早速、遊馬と握手をするんだ。それで契約が完了する」

 

「「「握手?」」」

 

三人はアストラルの言葉に疑問符を浮かべたが、ダ・ヴィンチが詳しく説明をするとすぐに納得し、遊馬と握手をする。

 

すると、三人はすぐに体が光となって白紙のカードに入り込み、キャスターも杖を担ぎながらついでに自分もカードに入り込んだ。

 

そして、四人がカードから出ると右手の甲に刻印が刻まれ、早くも四枚のカードが覚醒した。

 

アーサー王のフェイトナンバーズは特異点の時とは異なる金色に光り輝くエクスカリバーを天に掲げた姿が描かれていた。

 

真名は『FNo.39 円卓の騎士王 アルトリア』。

 

アルトリアとはアーサー王の幼名にして本当の名前で遊馬は綺麗な名前だなと言うとアルトリアはありがとうと返事した。

 

アーチャーのフェイトナンバーズは干将・莫耶を持ち、背景には巨大な歯車と夕焼けの荒野に突き刺さる無数の剣が描かれていた。

 

真名は『FNo.59 無限の剣 エミヤ』。

 

エミヤはアーチャーの真名で遊馬は日本人みたいな苗字だなと呟くとエミヤはビクッと体が震えた。

 

ランサーは特異点の時に契約した時とは絵と同じで、槍と杖を構え、青タイツのような衣装と魔法使いのフードを合わせたような姿が描かれていた。

 

真名は『FNo.7 光の魔槍術士 クー・フーリン』。

 

クー・フーリンとは遊馬にはあまり馴染みがないがアイルランドの有名な英雄で魔槍の使い手である。

 

メドゥーサのフェイトナンバーズは短剣と鎖を持ち、綺麗なペガサスに跨って天を駆ける姿が描かれていた。

 

真名は『FNo.44 天馬の女神 メドゥーサ』。

 

天馬……ペガサスはメドゥーサが死後に流れた血から産まれたのでメドゥーサにとっては天馬は自分の子供同然の存在である。

 

意外にも四枚のフェイトナンバーズはすぐに覚醒して真名と効果が判明した。

 

これは特異点『F』の戦いで遊馬の未来と仲間を守るために戦うと言う強い思いが四人のサーヴァントが共に戦いたいと強く願ったのだ。

 

有名な伝説や神話の登場人物であるアーサー王とクー・フーリンとメドゥーサが一気に来たことでカルデアにも活気が出て来た。

 

ちなみに自称、無銘の英雄であるエミヤだが彼はカルデアで人気者だった。

 

何故なら……。

 

「もぐもぐもぐ!うんめぇ!エミヤ、おかわり!!」

 

「シロウ!こちらもおかわりです!」

 

「はいはい、分かったから落ち着いて食べるんだぞ」

 

エミヤの作る料理がとても美味しいからである。

 

英霊の召喚後に空腹から遊馬の腹の虫が鳴り、食堂で食事をしようとして料理を作ると名乗り出たのがエミヤだった。

 

エミヤは見事な手際で次々と料理を作っていき、その料理は家庭的だがとても美味しかった。

 

直ぐに食堂の料理長に抜擢され、カルデアのオカンみたいな感じが早くも定着している。

 

ちなみに今一番食べているのは成長期である遊馬と意外にもアルトリアだった。

 

アルトリアは食いしん坊で、その当時の料理が美味しくないと言う事もあって美味しそうに食べている。

 

そして、エミヤを何故か『シロウ』と親しく呼ぶアルトリアはどうやら以前から繋がりがあるようだが遊馬とアストラルは個人的な事なのでまだ聞かないことにした。

 

遊馬とアストラルは自室で休みも兼ねて新たに手に入れた四枚のフェイトナンバーズを元に次の特異点に向けてデッキ構築を始める。

 

デュエリストは常に自分にとっての最強のデッキを作るためにデッキ構築を怠らない。

 

特にこれからの特異点は冬木の時より激しい戦いになることは必至、そこでアストラルは新たなカードを取り出した。

 

「遊馬、君にこれを」

 

しかも数枚ではなく大量のカードの山だった。

 

「これって……えっ!?このカード達は!?」

 

そのカードの山は遊馬のカードではなかった。

 

一枚一枚見ていくと種族や属性やカテゴリー、多種様々なモンスターと魔法と罠のカードだった。

 

そしてそのカード達を遊馬はよく知っていた。

 

「そう……シャークやカイト、君のたくさんの仲間達から預かったものだ。君の力になれるように」

 

それは元の世界にいる遊馬と絆を結んだたくさんの仲間達から預かったカードだった。

 

中にはその仲間達の持つ強力なエースモンスターも入っており、カードを触れるたびに遊馬はその想いが伝わってくる。

 

「みんな、ありがとう……よっしゃあ!アストラル、早速これで最強のデッキを作るぜ!」

 

「ああ!」

 

遊馬とアストラルは今後戦うであろう歴史に名を残す多くの英霊、そして人理焼却を企てたレフとその背後にいる黒幕と戦うために仲間達の力を結集させた最強デッキを構築する。

 

そして、数日後……遂に第一特異点に向かう日となった。

 

管制室には既にマシュ達が準備を終えており、支度が少し遅れた遊馬とアストラルは最後に到着となった。

 

するとダ・ヴィンチは遊馬にあるものを渡した。

 

「はい、遊馬君。ダ・ヴィンチちゃんの特別改造完了したよ♪」

 

「おっ!来た来た!サンキュー、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

それは遊馬のD・パッドとD・ゲイザーで特異点に向かうための改造をダ・ヴィンチが行なっていた。

 

異世界の技術に興奮したダ・ヴィンチはD・パッドとD・ゲイザーのシステムをそのままに改造するのが色々楽しくなっていき、最終的にはダ・ヴィンチの持つ天才的な技術をふんだんにこれでもかと言わんばかりに詰め込んでしまい、以前よりも格段にグレードアップしてしまった。

 

D・パッドにはデュエルディスク状態で遊馬がアーチャーの剣を受け止めたことを知り、更に頑丈になるよう、マシュの盾に近い強度の特殊なコーティングを施した。

 

更に特異点で役に立つ世界中の歴史や文化、そして数多の英霊に関する神話や伝承などの膨大なデータベースがダウンロードされている。

 

D・ゲイザーには特異点先とカルデアを繋ぐ通信機能、敵サーヴァントとの戦いや今後の作戦のための超高画質な録画機能、遠くを拡大して見ることができる赤外線望遠鏡機能など……どうやって加えたのか不明だがかなりの機能が追加された。

 

「マシュにも遊馬君と同じ形のD・ゲイザーだよ!」

 

「はい!ありがとうございます、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

ダ・ヴィンチはD・ゲイザーを複製して遊馬のと同じ機能を加えたものをマシュに与えた。

 

形は遊馬のと同じで色は女の子で可愛らしくピンク色に塗られていた。

 

マシュはD・ゲイザーを展開して左目にセットする。

 

「遊馬君、どうですか?」

 

「似合ってるぜ。じゃあ俺もセットだ!」

 

遊馬もD・ゲイザーを左目にセットし、すぐに戦闘が始まる事も考えてD・パッドをデュエルディスクに展開して左手首に装着する。

 

今回レイシフトで向かうのは遊馬とアストラルとマシュ、そして同行するサーヴァントはアルトリアとエミヤである。

 

アルトリアとエミヤは対英霊戦の強力な戦力とマスターである遊馬の護衛として同行する。

 

何故クー・フーリンとメドゥーサが同行しないのかと言うと、カルデアの守護の為に残したからだ。

 

カルデアは人類の未来を守る最後の砦であり、最後の希望でもある。

 

カルデア崩壊の危機を起こした犯人であるレフが再び現れて更なる大打撃を与え、オルガマリーを今度こそ抹殺しようとする可能性がある。

 

そこでクー・フーリンとメドゥーサの二人を残して侵入者撃退することをアストラルが提案し、オルガマリーはそれを了承して二人に頼んだ。

 

クー・フーリンはせっかくゲイ・ボルグで暴れようと思っていたので少々不機嫌になり、対するメドゥーサはすぐに頷いて了承してくれた。

 

「よっしゃあ!これで準備オッケーだぜ!」

 

「いよいよ過去の世界を巡るのか……その時代にいる英霊との嘗てない激しい戦いが始まるな……」

 

「何があろうともこの盾にかけて遊馬君を守ります」

 

「未来を守るためとはいえ、聖杯を探す旅に出るとは少し不思議な感じです」

 

「もっとも、私達の時のように闇に囚われたサーヴァントと戦うことになるだろう。楽な旅ではないがな」

 

遊馬達の準備が整い、いよいよ第一特異点へのレイシフトを開始する。

 

遊馬はマシュとアルトリアとエミヤの二人をナンバーズカードの中に入れてデッキケースに収め、アストラルを皇の鍵の中に入れて遊馬一人でコフィンの中に入る。

 

遊馬が目を閉じるとコフィンの中で体が分解されていく感覚が走る。

 

普通なら慣れなくて嫌な気分になるが、遊馬は似たような経験を何度もしたことがあるので特にそう言ったものはなかった。

 

遊馬の体が光に包まれるとコフィンの中から消えて第一特異点へとレイシフトした。

 

人類救済の戦い……遊馬とアストラルとマシュのグランドオーダーが始まるのだった。

 

そしてそこで、炎に焼かれ、再臨した聖女と復讐の炎を宿す魔女と出会うことになるのだった。

 

 

 

.




遊馬のデッキがどんどん魔改造されていきます。
特にカイトとシャークのカードを入れたらもう……前に個人的に銀河眼とシャークカードを入れた三勇士デッキを作ったことがあるので思いつきました。
意外に動けるんですよね(笑)
一応設定としてはセイバーたちはSNの時の記憶ありです。
セイバーはアーチャー(士郎)が大好きでもはや嫁ですな(笑)
基本この二人はセットとなります。
そして次回は大人気キャラのジャンヌちゃんの登場です。


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ナンバーズ8 聖処女との出会い

みなさんの沢山の感想に勇気をもらい、頑張って続きを書きました!

書いていてふと思った事……なーんか遊馬と女性サーヴァントは必然的におねショタ風になるなーと思いました。

まあ英霊のほとんどが遊馬より年上がほとんどなので仕方ないですが(笑)


レイシフトが完了し、遊馬が目を開くとそこには青空と野原が広がっていた。

 

皇の鍵からアストラルが現れ、デッキケースが開いて三枚のフェイトナンバーズが宙に浮くとマシュ、アルトリア、エミヤの三人が現れる。

 

「レイシフト、完了ですね。ここは1431年のフランスです」

 

「フランスか……」

 

「フィーウ!フォーウ、フォーウ!」

 

可愛らしい声が響くと遊馬の上着のポケットからフォウが出て来た。

 

「えっ!?フォウ!?何故ここに!?」

 

「どうやら遊馬くんと一緒にコフィンの中に入ってレイシフトしたみたいですね……遊馬君に固定されているのですから、私たちが帰れば自動的に帰還出来ます」

 

「全くお前は……まあ、付いて来ちまったもんは仕方ないな。戦いの時は大人しく隠れていろよ?」

 

「フォ、キュー!」

 

フォウは遊馬の言葉を理解したのか頷いてそのままフードの中に入った。

 

「さて……その年代だとフランスの百年戦争、当時の有名な英雄だとジャンヌ・ダルクがいた時代だな」

 

人間界の歴史の知識を持つアストラルの言葉に遊馬でも知っている英雄の名前にテンションが上がった。

 

「ジャンヌ・ダルク!?あのフランスの聖女か!小鳥が前に言っていたな、勇敢に戦った少女で憧れているって!会ってみたいな〜!」

 

特に遊馬の『大切な幼馴染』が話していた英雄がこの時代にいることに会ってみたいと年相応な反応を見せた。

 

「遊馬、君の興奮を打ち砕いて悪いが、その年代だとジャンヌ・ダルクは既に火刑で処刑されている可能性が高い」

 

「マジで!?あ、そうか……最後は異端の烙印を押されたんだっけ?ひでぇよな、フランスを救うために戦ったのによ……」

 

実際にその当時の世界に来る事でジャンヌにした仕打ちに心を痛める遊馬にアーチャーは優しく諭した。

 

「マスター、君はまだ幼いからあまり強くは言わんが覚えておくといい。戦争は必ず憎しみを生む。そして、最後まで戦い続けてきた英雄たちは、悲劇的な最期を迎える事が多い。それを踏まえた上でこれから出会うであろう英霊たちと向き合うことだ」

 

エミヤの言葉に遊馬はハッと気がつき、脳裏には最大の敵であった七人の前世を思い出した。

 

どれも元凶である邪悪な神によって運命を捻じ曲げられ、悲劇的な最期を迎えていた。

 

その事を思い出し、胸に強く刻んだ遊馬は強く頷いた。

 

「……そうだよな。ありがとう、エミヤ」

 

「うむ。頑張るのだぞ、我らの小さなマスターよ」

 

「みんな、話はその辺にしてください。何やら不穏な気配を感じます。戦の風とも違う、邪悪な気配を遠くで感じます。それに……上を見上げてください」

 

セイバーが周囲を警戒しながら険しい表情で上を見上げていた。

 

「上……って何じゃありゃあ!?」

 

「空が……ドクター!あれは!?」

 

マシュがD・ゲイザーの通信機能で早速カルデアのロマニと繋ぐ。

 

空には青空と雲が広がっているわけでなく、巨大な光の輪が浮かんでいた。

 

『これは……衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か!?何にせよとんでもない大きさだ。下手すると北米大陸と同じサイズか!?』

 

『みんな、あれはこちらで調べるからあなた達は現地の調査をお願い。何か分かったら連絡をお願いね』

 

「わかりました、ドクター、所長。ではこれより特異点の調査に入ります」

 

一旦カルデアと通信を切り、まずはどこを調査するか相談しようとした時、エミヤが少し目を細めて話す。

 

「マスター、この先に小さな砦がある。しかもかなりのボロボロだ、何かあったと思われる」

 

「エミヤ、目がいいのか?」

 

「私には鷹の目と呼ばれる視覚能力のスキルがある。大したものではないがそこそこ遠くを見渡せる」

 

「すっげー!それじゃあ早速その砦に行って話を聞こうぜ。現地の人に聞いた方が早いからな」

 

遊馬の提案に賛同し、早速その砦に向かったがそこはかなり悲惨な状態となっていた。

 

砦はかなりボロボロで負傷兵が多く、本来ならこの年代は百年戦争の途中とはいえ今は休戦条約を結んでおり、戦は起きてないはずだった。

 

話を聞くためにエミヤが代表して近くにいた兵士に話しかけた。

 

兵士は最初は警戒したが旅のものだと言うとすぐに信じ、それほどまでに萎えきっている様子だった。

 

すると兵士の口からとんでもない事実を聞かされた。

 

「王なら死んだよ。魔女の炎に焼かれた」

 

「魔女?誰のことだ?」

 

「『ジャンヌ・ダルク』だ。あの方は『竜の魔女』となって蘇ったんだ」

 

その言葉に遊馬達のみならず話をしていたエミヤも驚愕した。

 

「何だと……!?馬鹿な、ジャンヌ・ダルクは処刑されたはずでは!?」

 

「だから竜の魔女になって蘇ったんだ!!そして……ッ!来た!奴らが来たぞ!」

 

兵士達が騒ぎ出し、アルトリアはキリッと目を鋭くして約束された勝利の剣を構える。

 

「魔力反応です!マスター、戦闘準備を!」

 

「分かった!エミヤ!」

 

「うむ!」

 

「目視しました!あれはまさか!?」

 

空から近づいた魔力反応……その正体は数多の竜、ワイバーンだった。

 

竜の亜種体と呼ばれる幻獣で間違っても十五世紀のフランスに存在していい生物ではなかった。

 

「ワイバーンかよ!?」

 

「どうやらこれも異変によるものだな……」

 

遊馬は急いでデッキからカードを五枚ドローするとそこに一つの影が近づいて声をかけた。

 

「そこの方々、武器を取ってください!私と共に!続いて下さい!」

 

遊馬達が振り返り、そこにいたのは何と、アルトリアと顔立ちが似ており、長い金髪を三つ編みに纏め、その身には軽装の鎧を装着し、大きな旗を持った可憐な乙女だった。

 

「まさか……」

 

その少女に心当たりがあるアルトリアはそう呟いていた。

 

少女は兵士を引き連れてワイバーンに立ち向かおうとし、アストラルは急いで自分たちも行動に移そうと遊馬に指示を出す。

 

「遊馬!ただの人間にワイバーンを倒すのは困難だ!我々で対処するぞ!」

 

「ああ、みんな!行くぜ!!」

 

「アルトリアは前衛、エミヤは弓矢で後方支援、マシュは遊馬の護衛を頼む」

 

カルデアで戦術や戦略を学んでおいたアストラルが瞬時にアルトリアたちに指示を出す。

 

「お任せ下さい」

 

「承知した」

 

「はいっ!」

 

「遊馬、ホープだ!」

 

「おう!俺のターン、ドロー!『ガガガマジシャン』を召喚!更にレベル4のモンスターが召喚に成功した時、手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚!レベル4のガガガマジシャンとカゲトカゲでオーバーレイ!」

 

ガガガマジシャンを召喚した後に影から生まれた黒いトカゲが続いて現れ、共に光となって地面に吸い込まれる。

 

「エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」

 

光の爆発と共にオーバーレイ・ユニットを纏った白い塔が現れ、瞬時に変形して希望皇ホープとなる。

 

「アルトリア、ホープに乗れ!空を飛んでワイバーンを倒すんだ!」

 

「わかりました。ホープ、お願いします!」

 

アルトリアは希望皇ホープの肩に乗り、白い翼を広げて空を飛ぶ。

 

ワイバーンと同じ高さまで飛ぶとアルトリアはホープを足場にしてジャンプし、約束された勝利の剣でワイバーンを斬り倒し、斬り倒したワイバーンを足場にして次のワイバーンに向かってジャンプする。

 

アルトリアはまるで蝶のように空を舞い、蜂のようにワイバーンを仕留めていく。

 

希望皇ホープもアルトリアに続いて双剣でワイバーンを切り裂いていき、黒弓と矢を投影したエミヤがアーチャーのクラス名に相応しい弓の腕で正確にワイバーンを打ち落としていく。

 

「凄い……」

 

一度は敵として対峙していたアルトリアとエミヤと共に見事な連携でワイバーンを倒していき、頼れる英霊の仲間と共に戦える事をマシュは感動していた。

 

更に謎の少女の指揮で動かしていた兵士達の援護もあり、僅か数分で襲いかかってきたワイバーンを全て倒し遊馬とマシュは勝利を喜んだ。

 

するとアルトリアは倒したワイバーンの山を凝視してエミヤに尋ねた。

 

「シロウ……」

 

「何だね?」

 

「ワイバーンの肉は焼いて塩をかければ美味しいのでしょうか?」

 

「勘弁してくれ……」

 

じゅるりとヨダレを垂らすアルトリアにエミヤは頭痛を覚え、カルデアに帰ったら好きなものを作る事を条件にワイバーンの調理を諦めさせた。

 

遊馬は兵士を指揮していた謎の少女にお礼を言いに行った。

 

「おーい、誰だか知らないけどありがとな!」

 

「いいえ、とんでもありません。それよりあなたはーー」

 

「逃げろ!魔女が、魔女が出たぞ!!」

 

突然、兵士が少女を魔女呼ばわりして騒ぎ出した。

 

「えっ?」

 

「魔女だと……?」

 

魔女と呼ばれ悲しそうな表情を浮かべる少女。

 

兵士達が動揺と恐怖の表情を浮かべており、これ以上ここにいたら危険だと察した遊馬は少女の手を取る。

 

「こっちに来い!」

 

「えっ!?」

 

「みんな、ここから離れるぞ!!」

 

マシュ達も遊馬の考えを察して頷き、急いでその場から退散する。

 

まだ現状を把握できていないがあのままだと少女が兵士達に襲われる可能性もあったため、砦から遠く離れた森の中へ逃げ込んだ。

 

落ち着ける場所で座ると少女はまず自分の名前を名乗った。

 

「ルーラー。私のサーヴァントクラスはルーラーです。真名を『ジャンヌ・ダルク』と申します」

 

「ええっ!?ジャンヌ・ダルク!?」

 

遊馬は会いたいと思っていたジャンヌといきなり出会えて驚いていた。

 

「それで、あなた達は?見た所マスターとサーヴァントのようですが」

 

「俺は九十九遊馬!一応マスターをやってる!」

 

「私の名はアストラル。私はサーヴァントではない、言うなれば遊馬と共に戦う精霊と思ってくれ」

 

「私はマシュ・キリエライト、デミ・サーヴァントです」

 

「私はアルトリアと申します、サーヴァントクラスはセイバーです」

 

「私はエミヤ。クラスはアーチャーだ」

 

互いの自己紹介が終わると早速遊馬達とジャンヌの間で情報交換をする。

 

遊馬達はカルデアの事とこの世界の異変を調査と解決しに来たことを話した。

 

そしてジャンヌはルーラーとして召喚されたが本来与えられるべき聖杯戦争の知識がほとんどなく、ステータスもランクダウンしていた。

 

数時間前に現界したばかりで情報が少ないが、一つ確かなことがあった。

 

「どうやら、こちらの世界にはもう一人、ジャンヌ・ダルクがいるようです。あのフランス王シャルル七世を殺し、オルレアンにて大虐殺を行ったというジャンヌが……」

 

「同時代に同じサーヴァントが二体召喚された、ということでしょうか……?」

 

つまりここにいるジャンヌとは別の、残虐なジャンヌが暴れているということだ。

 

そして、竜の召喚は最上級の魔術であり、この時代の魔術でも困難なレベル。つまりこの異変を起こしているもう一人のジャンヌが、特異点である聖杯を持っている可能性があるということだ。

 

「私はオルレアンに向かい、都市を奪還する。そのための障害であるジャンヌ・ダルクを排除する」

 

フランスを救うため再臨したジャンヌの想いに感動した遊馬は、立ち上がってマスターとしての自分の思いを話す。

 

「ジャンヌ!俺も協力するぜ!俺たちの目的は聖杯だけど、目指すものは同じだ!!この世界と生きる人たちを守る。その為に力を合わせよう!」

 

「はい!こちらこそ、お願いします。どれほど感謝しても足りないほどです。ありがとう!」

 

こうして遊馬達はジャンヌと協力することになり、早速マスターである遊馬とサーヴァントのジャンヌで契約を結んだ。

 

握手を交わし、ジャンヌのフェイトナンバーズのカードが誕生する。しかし、ランクダウンの影響もあってか真名と効果は判明せず、廃墟を背後に風に靡く巨大な旗を構える凛々しいジャンヌの姿が描かれるのみにとどまった。

 

今日は森の中で野宿をすることになり、その夜はアルトリアとエミヤとジャンヌが周囲の警戒をし、人間である遊馬とマシュは明日に備えて休んでいた。

 

マシュはフォウと一緒にスヤスヤと眠っており、ジャンヌはアルトリアとエミヤの計らいで休むことになり、焚き火の元へ行くと遊馬がまだ起きていてD・パッドを操作していた。

 

「遊馬君……何をしているのですか……?」

 

「えっ!?あっ、その……」

 

ジャンヌが遊馬の隣に座り、D・パッドを覗いた。

 

遊馬がD・パッドで見ていた画像……それはこの時代のこと、百年戦争、そして……ジャンヌ・ダルクの文献だった。

 

「これは……もしかして、私のことですか?」

 

「そ、そうだ……悪いな、盗み見る感じで……」

 

「いいえ、大丈夫です。それにしても凄いですね、これが未来の道具ですか?」

 

遊馬はジャンヌにD・パッドを渡して一緒に操作する。

 

「未来というか、これは俺たちの世界のものだけどな」

 

「マシュさんから話は聞きました。遊馬君がこことは違う世界で全ての人類と世界の未来を守るために戦っていたと……」

 

「俺はジャンヌやアルトリア達とは違ってそんな大した存在じゃないよ。俺はただの中学生だし、勉強が特に苦手でこの時代のことをほとんど知らないからさ、百年戦争も、ジャンヌのことも……だからこれで調べていたんだ」

 

学校で習っても教科書程度のことしか分からないが、ダ・ヴィンチがダウンロードしたデータを見て今の時代のことを勉強している。

 

「なぁ、ジャンヌ。ジャンヌはフランスの為に戦って最後はあんなことになったけど、辛くはなかったのか?」

 

「そうですね、でも今まで自分に起きた事に憎しみを抱いていません」

 

「強いんだな……」

 

「いいえ、ただ神への信心が強いだけなので。それだけを信じて進んでいたので」

 

「そっか……」

 

「そういう遊馬君こそ、辛くはないんですか?僅か十三歳で国どころか、全人類と世界の未来の為に戦うなんて……」

 

ジャンヌが戦い始めたのは十七歳、対する遊馬は十三歳。

 

まだ幼さが残る少年が戦いの渦に飛び込むことをジャンヌは心配に思った。

 

遊馬は腕を組んで少し唸って考えながらその時のことを思い出した。

 

「うーん……俺はジャンヌみたいに辛くない、って言えないな。元の世界にいた時、俺を守る為に、俺に希望を託す為に、沢山の友達や仲間が戦って消えてしまったんだ。最後には全部取り戻すことが出来たけど、その時は数え切れないほどに悲しんで、嘆いて、涙を流したから……もうあんな思いはしたくないぜ」

 

「そうでしたか……」

 

暗く、不安そうな表情をする遊馬の頭をジャンヌは優しく撫で、まるで姉のようにその小さな体をそっと抱き寄せた。

 

「この小さな背中に世界の命運と沢山の人達の願いを背負っていたんですね」

 

「俺にはアストラルと幼馴染みが最後までいてくれたから戦えたんだ。もし俺一人だったら、心が壊れていたかもしれないな……」

 

「だったら、あなたの心が壊れないように私が……サーヴァントとして、共に戦うマスターを守ります」

 

「ありがとう。なら俺もジャンヌを守るよ、それにもう一人のジャンヌを必ず止める。約束だ」

 

遊馬は拳を作ってジャンヌに見せるとジャンヌは微笑みながら自分も拳を作った。

 

「はい、約束です」

 

「ああ!」

 

二人は拳を軽くぶつけながら約束を交わすと年上として遊馬に寝るよう促した。

 

「ふふっ。さて、もう遅いですから遊馬君は寝てください。マスターであるとはいえ、まだまだ子供なんだから」

 

「わかった、じゃあそろそろ寝るか。ふわぁ〜……」

 

「あ、良かったら膝を貸しましょうか?そのまま寝るよりはいいですよ」

 

ジャンヌは自分の膝をポンポンと手を置いて膝を貸すこと……膝枕を提案した。

 

「えっ?いいの?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「えっと、それじゃあ失礼します……」

 

遊馬はジャンヌの膝を借りて膝枕をしてもらい、そのまま瞼を閉じると疲れたのかすぐに眠ってしまった。

 

「お休みなさい、良い夢を」

 

ジャンヌは遊馬の顔を撫でながら自分も静かに目を閉じた。

 

まるで仲睦まじい姉弟みたいなその微笑ましい光景を高いところからフランスを眺めていたアストラルは微笑んで見守っていた。

 

翌朝、カルデアから送られて来た食料物資を元にエミヤが料理を作り、遊馬達は一時の英気を養って森を出てオルレアンへ向かうこととなった。

 

まずはオルレアン周辺の街や砦で情報収集をして次の目的を決めるためだ。

 

早朝に遊馬を起こそうと目を覚ましたマシュが、ジャンヌに膝枕されている遊馬を目の当たりにしてから少し不機嫌になっていた。

 

「ジャンヌさん……」

 

「はい?」

 

「あなたは味方ですが……ズルいです」

 

「何がですか!?」

 

頬を膨らませた不機嫌なマシュのよく分からない発言に混乱するジャンヌだった。

 

「マシュ、何で機嫌が悪いんだ?」

 

その理由が不明な遊馬は首を傾げるとアルトリアは軽く苦笑いを浮かべた。

 

「マスター……一応言っておきますが、シロウのようにならないでください。女性関係で大変な事になります」

 

「待ちたまえ、アルトリア。君は何のことを言っているんだ?」

 

するとアルトリアはジロリとエミヤを睨みつけ、いつもの甘えるような態度から一転して鋭い言葉を放った。

 

「無自覚なところがまた酷い。この女誑しのハーレム系主人公め」

 

「だから何の話だ!?」

 

まるで夫婦の痴話喧嘩が始まり、遊馬はその場から少し離れて歩き隣にいるアストラルに話しかける。

 

「アストラル、何か感じるのか?」

 

「人々の負の感情が広がってる……これはワイバーンに襲われる恐怖から来ているのは間違いないだろう」

 

「そうだよな。早くなんとかしないとな」

 

「もう一人のジャンヌ……竜の魔女はワイバーンを大量に召喚出来る。下手をしたらそれよりもランクの高い竜を召喚出来るはずだ」

 

「竜の魔女が操るランクの高い竜か……でも俺たちには仲間達から預かったカードがある。それに、このデッキには『最強のドラゴン』がいるだろ?」

 

遊馬が得意げにデュエルディスクをアストラルに見せると一瞬だけ青白く輝くドラゴンの幻影が現れた。

 

アストラルはフッと笑みを浮かべると遊馬に即発されて得意げになる。

 

「そうだな……我々には共に戦う仲間の想いがある。敢えて言うなら負ける要素が1パーセントも無いな」

 

「ああ!俺たちは負けないぜ!」

 

遊馬とアストラルは改めて竜の魔女と戦う決意を固めてハイタッチをする。

 

未だに痴話喧嘩をしていたアルトリアとエミヤだが、何かに気付いた様にふとエミヤが遠くを見渡すと、目を見開いて声を荒げた。

 

「あれは……火事、街が燃えているぞ!」

 

今度はD・ゲイザーから通信が入るとサーヴァントの探知をしていたロマニからだった。

 

『みんな!そこの近くにサーヴァントが探知された!だけどそこからどんどん離れていって……あ、ロストした!』

 

どうやらサーヴァントが街を襲撃し、また何処かへ行ってしまったようだった。

 

「急ぎましょう!」

 

ジャンヌは焦るように走り出し、遊馬達もその後をついていった。

 

情報収集の為の目的地であるラ・シャリテは既に破壊され、そこに住んでいた全ての人間がワイバーンに食い殺されていた。

 

遊馬は無残な光景に顔が真っ青になり怯え、アルトリアとエミヤはそんな遊馬をアストラルとマシュとジャンヌに任せて二人でワイバーンの駆除を始めた。

 

「やはり……マスターとはいえ、まだ幼いですね……」

 

「これを十三歳の少年に慣れろと言うのが酷だ。汚れ仕事は私達の役目だ」

 

「そうですね……」

 

幼いマスターを守る為にアルトリアとエミヤは見事な連携でワイバーンを全て倒した。

 

遊馬達の所に戻ると、アストラル達のお陰か遊馬は何とか立ち上がり、皇の鍵を握り締めながら必死に耐えていた。

 

「何でこんなことを……」

 

「恐らく、これをやったのはもう一人の私なのでしょうね……」

 

ジャンヌは遊馬以上に心を痛めて暗い表情を浮かべていたが、それと同時にわからないことがあった。

 

「どれほど人を憎めば、このような所業を行えるのでしょう……」

 

同じジャンヌであるが全く別の存在……竜の魔女は一体何者なのか?

 

その疑問に対する答えが見つからないまま事態が悪化する事となる。

 

遂に竜の魔女と対峙する時がやってきたのだ。

 

 

 

.




次回遂に黒ジャンヌちゃん登場です。
遊馬とのファーストコンタクトがどうなるか見ものです。

そして早くもジャンヌと急接近の遊馬君!
聖処女の膝枕とか羨ましすぎるぜ……。


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ナンバーズ9 竜の魔女、ジャンヌ・オルタ

ジャンヌ・オルタちゃん登場!
遊馬先生、あのツンデレをはよ攻略を(笑)
今回からホープ以外の色々なナンバーズを呼び出す予定です。


竜の魔女が近づく気配を感じ、遊馬達はここで迎え撃つ事にした。

 

敵サーヴァントの数は五体でこちらはランクダウンしているジャンヌを含めて四体だが、遊馬とアストラルのナンバーズがあるので戦力差を埋めることが出来る。

 

「遊馬君!今のうちに私をフェイトナンバーズで召喚してください!」

 

マシュはシールダーでアルトリアとエミヤに比べるまでもなく戦闘力は低いがフェイトナンバーズになれば遊馬のサポートにもなれる。

 

「あ、ああ!わかった!マシュ、来い!」

 

「はい!」

 

マシュの体が光の粒子となってフェイトナンバーズのカードに入り込み、遊馬が五枚の手札を見て頷いた。

 

「この手札なら行ける!鉄男、行くぜ『ブリキンギョ』を召喚!」

 

遊馬がまず呼び出したのは金魚の形をしたブリキのおもちゃみたいなモンスター。

 

それは遊馬のカードではなく、小学校からの友人である武田鉄男のカードである。

 

「このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4のモンスターを特殊召喚できる。効果で『ガガガマジシャン』を特殊召喚!

 

ブリキンギョの効果でガガガマジシャンが特殊召喚される。

 

「レベル4のブリキンギョとガガガマジシャンでオーバーレイ!エクシーズ召喚!『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!!」

 

未来皇ホープのプロテクターを装着したマシュがオーバーレイ・ユニットを纏いながら召喚され、いつでも遊馬を完璧に守れる状態となった。

 

「これがサーヴァントの新しい力……フェイトナンバーズ……」

 

フェイトナンバーズの召喚を間近に見たジャンヌはルーラーとして英霊の力とは異なる『異質』な力の波動を感じ、目を見開いて驚く。

 

迎え撃つ準備が完了すると大量のワイバーンが襲来。そのワイバーンの上には五体のサーヴァントが乗っていた。

 

五体のサーヴァントはワイバーンから降りて遊馬達と対峙する。

 

そして、何よりも目につくのがこの特異点の元凶と思われる存在……もう一人のジャンヌ・ダルクだった。

 

アルトリアが冬木の時の黒い姿のようにジャンヌが金髪が白髪になり、鎧が黒く染まったもう一人のジャンヌ・ダルク……ジャンヌ・オルタが四人のサーヴァントを引き連れてやって来た。

 

ジャンヌ・オルタはジャンヌを見て嘲笑うかのように一人で語り出した。

 

「あんな哀れな小娘にすがるしか無かった国とかネズミの国にも劣っていたのね」

 

「貴女は……貴女は、誰ですか!?」

 

「私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ、もう一人の私」

 

「おい!黒ジャンヌ!!」

 

耐えきれなくなった遊馬はジャンヌ・オルタを黒ジャンヌと呼んだ。

 

「黒、ジャンヌ……!?子供……口の聞き方に注意しなさい。楽に殺してあげませんよ?」

 

「うるせぇ、お前なんて怒った姉ちゃんに比べたら全然怖くねぇよ!そんな事より、どうしてこんな事をした!ジャンヌはフランスを救うために戦っていたのに!」

 

「そんなものは明白じゃないですか。この国に救う価値なんてない、だから全部壊すんですよ」

 

「それは……裏切られて処刑されたからか?」

 

「あんな愚者を救ったところで未来はありません。もう騙されない、裏切りを許さない……そもそも主の声も聞こえない。主の声が聞こえないということは、主はこの国に愛想をつかした、という事です」

 

「騙されることや裏切られる痛みや苦しみは俺にも分かる。でも、神様の声が聞こえないからといって、国を滅ぼす理由にはならない。神様関係無しに最後は自分の心で決めることだ」

 

「子供がわかったようなことを言わないでください」

 

「分かるさ。俺とここにいるアストラルや異世界にいる大勢の仲間達と一緒に人類と世界の未来を守るために戦った。だけど、守る為に、救う為に戦う決断をしたのは俺たち自身の心で選んだことだ!!」

 

「そんな嘘を……どちらにしても、人類種が存続する限りこの憎悪は収まらない。このフランスを沈黙する死者の国に作り変える。それが私、それが死を迎えて成長し、新しい私になったジャンヌ・ダルクの救国方法です」

 

「それで……?」

 

「何?」

 

「救国と言いながら、全部滅ぼしたらどうするんだ?周りには誰もいない、あんたがかつて守ろうとした人々の声も心も何もない、あるのは血と屍しか残らない光のない世界でお前は幸せになれるのか?」

 

「私の幸せだと?そんなものは必要ない!私はこのフランスに復讐さえできればーー」

 

「そんなことをしても失うだけだ。復讐は憎しみしか生まない。復讐の先に本当の未来はないんだ!」

 

遊馬の思いがこもった言葉の数々ににマシュたちは驚いた。

 

とても十三歳とは思えない少し大人びた表情と落ち着いた雰囲気……一体この少年はどれほどのものを見てきたのかと言葉を失う。

 

サーヴァントでもないただの十三歳の少年に諭され調子が狂うジャンヌ・オルタは、苛立ちを覚えながら声を荒げていく。

 

「うるさい……うるさいうるさい!何も知らないくせに、どれだけ私が苦しんだか知らないくせに勝手なことを言うな!!」

 

「ああそうさ、俺はジャンヌがどんな思いを過ごして戦い、最後を迎え、そして再び現れて今のあんたみたいな復讐者になったのかを知らない。だから、お前の本当の思いを聞きたいんだ。その上で、俺は俺自身の答えを出す」

 

「答え、だと?そんなものは必要ない!お前達はそこの聖女と共にここで消える運命だ!やりなさい、バーサーク・ランサー!バーサーク・アサシン!」

 

「その程度の運命は何度も乗り越えてきた!行くぜ、アストラル!」

 

「ああ!行くぞ、遊馬!」

 

「俺のターン、ドロー!『トイナイト』を召喚!効果で手札から『トイナイト』を特殊召喚!」

 

召喚されたのはオモチャの兵隊みたいなモンスターでそれが自身の効果で同名モンスターをであるトイナイトをもう一体呼び出す。

 

「俺はレベル4のトイナイト二体でオーバーレイ!二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

二体のトイナイトが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「「現れよ、No.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、『希望皇ホープ』!!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

光の爆発と共に既に変形が完了した希望皇ホープが現れ、気合の雄叫びをあげる。

 

数多の闇を斬り裂いてきた光の使者の異名を持つ希望皇ホープにジャンヌ・オルタだけでなく、他の四人のサーヴァントも本能的に恐れた。

 

「な、何よこれ……!?希望皇ホープ……!?気に入らない……希望の光なんて打ち砕いてやる、サーヴァント!!」

 

「よろしい。では私は血を戴こう」

 

「私はそこの女騎士と盾の女、そして聖女の肉と血を戴きたいわ」

 

ジャンヌ・オルタの前に出てきたのは貴族風の姿をした男性、バーサーク・ランサーと多くの拷問器具を持った不気味な女性、バーサーク・アサシンだった。

 

「私たちも行きますよ、シロウ!」

 

「ああ、行こう」

 

アルトリアは約束された勝利の剣、エミヤは干将・莫耶を構えてバーサーク・ランサーとバーサーク・アサシンと対峙する。

 

「あのホープとかいう下らないものは私がやる……行きなさい、ワイバーン!」

 

ジャンヌ・オルタはワイバーンを操り、一斉に希望皇ホープに襲いかかる。

 

希望皇ホープは双剣を構えてワイバーンを斬り倒していくが、あまりにも大量のワイバーンに対処できなくなる。

 

遂には囲まれて纏わり付かれてその強靭な牙で喰らわれていく。

 

「ホープ!」

 

「ははははっ!光の使者かなんか知らないけど、数で押し切って喰らってやるわ!!」

 

希望皇ホープはワイバーンに包まれ、物理的に身動きが取れなくなっている。

 

このままでは希望皇ホープがワイバーンに喰い殺されるが、ナンバーズは希望皇ホープだけではない。

 

「ナンバーズはホープだけじゃない!俺のターン、ドロー!『ズババナイト』を召喚!更に『影無茶ナイト』を特殊召喚!レベル3のズババナイトと影無茶ナイトでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

二刀流の騎士の隣に同じ姿をした影の騎士が現れ、光となって地面に吸い込まれる。

 

光の爆発が起きると『17』の数字が空中に浮かぶと地面から霧を漂わせながら不気味な髑髏が姿を現した。

 

「現れよ、『No.17 リバイス・ドラゴン』!」

 

髑髏から変形すると、青と藍色の体を持ち、六つの翼を携え、六つある角の一つに『17』の刻印が刻まれた翼竜が現れた。

 

リバイス・ドラゴン、それは遊馬とアストラルのナンバーズをかけた戦いの幕開けを告げ、希望皇ホープが初めて戦ったナンバーズでもある。

 

「翼竜だと!?貴様も竜使いなのか!?」

 

ジャンヌ・オルタが操るワイバーンよりも比べ物にならないほどの力を持つリバイス・ドラゴン。

 

ワイバーン達は格上のリバイス・ドラゴンに恐れて本能的に下がっていた。

 

「リバイス・ドラゴンのモンスター効果!一ターンに一度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、リバイス・ドラゴンの攻撃力を500ポイントアップする!アクア・オービタル・ゲイン!」

 

リバイス・ドラゴンがオーバーレイ・ユニットを一つ喰らうと攻撃力が上昇し、希望皇ホープと同等となる。

 

「リバイス・ドラゴンの攻撃!バイス・ストリーム!!」

 

リバイス・ドラゴンの口から旋風が放たれ、希望皇ホープにまとわりついていたワイバーンを全て吹き飛ばした。

 

初めて見るドラゴンであるリバイス・ドラゴンの力を目の当たりにしたジャンヌ・オルタはまるでおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせると、ジャンヌの持つ白い旗と異なる黒い竜の刻印が描かれた旗を掲げた。

 

「素晴らしい……その力、竜の魔女である私に相応しい!蒼き水の竜、リバイス・ドラゴンよ、私に従いなさい!!」

 

『ギュオッ!?……ギュオオオオオオオーッ!!』

 

リバイス・ドラゴンの赤い瞳が紫色に不気味に輝くと遊馬のコントロールを離れてジャンヌ・オルタのコントロール下に入った。

 

「リバイス・ドラゴンが操られた!?」

 

「まさか……あのジャンヌは竜を……ドラゴンをコントロールする力があるのか!?」

 

強力な竜を召喚するだけでなく他の竜を操ることが出来るジャンヌ・オルタのスキルに戦慄する。

 

「ふははははっ!力が、力が溢れてくる!!」

 

不気味な笑みを浮かべるジャンヌ・オルタの右手の甲に『17』の刻印が刻まれ、その身から邪悪な闇のオーラを纏っていた。

 

ナンバーズは一枚でも遊馬とアストラルや特別な力を持つ人間以外が持つと心の闇が増幅して快楽に似た快感を得る。

 

特に復讐の心しかないジャンヌ・オルタにナンバーズの心の闇の増幅は彼女の復讐心を簡単に高めている。

 

「まずい……リバイス・ドラゴンが彼女に取り憑いたことで心の闇が増幅されている」

 

「やれ!リバイス・ドラゴン!攻撃だ!」

 

ジャンヌ・オルタは意気揚々と笑みを浮かべながらリバイス・ドラゴンに指示を出し、口から旋風を放つ。

 

「くっ、マシュ!」

 

「はい!フルムーンバリア!」

 

マシュがオーバーレイ・ユニットを使い、盾を展開して金色のバリアを張る。

 

満月のようなバリアがリバイス・ドラゴンの攻撃を防ぎ、バトルを強制終了させて遊馬のデッキトップに好きな魔法カードを置かせる。

 

「遊馬君!」

 

「助かったぜ、マシュ!俺のターン、ドロー!魔法カード、『所有者の刻印』を発動!全てのモンスターのコントロールを元に戻す!戻って来い、リバイス・ドラゴン!!」

 

マシュの力でデッキトップに置いた魔法カードは洗脳されたモンスターのコントロールを取り戻す効果がある。

 

遊馬は数々のデュエルで自分のモンスターやナンバーズのコントロールを相手に奪われることが多々あった。

 

そのためのコントロール奪取の魔法カードを入れてあるのだ。

 

リバイス・ドラゴンのコントロールが遊馬の元に戻り、ジャンヌ・オルタの手に刻まれた刻印が消えると脱力感からか軽く体がふらついた。

 

「ぐっ!おのれ……私のドラゴンを……」

 

「リバイスはお前のじゃない!魔法カード、『エクシーズ・ギフト』を発動!自分フィールド上にエクシーズモンスターが2体以上存在する場合、オーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、デッキからカードを2枚ドローする!」

 

希望皇ホープとリバイス・ドラゴンのオーバーレイ・ユニットを一つずつ墓地に送り、デッキから二枚カードをドローする。

 

「来たぜ、リバイス・ドラゴンをリリースし、アドバンス召喚!『ドドドウォリアー』!」

 

これ以上リバイス・ドラゴンを洗脳されないようにその魂を生贄に捧げ、高レベルのモンスターを召喚し、現れたのはヴァイキングの姿をした戦士。

 

「更に魔法カード、『死者蘇生』!蘇れ、ガガガマジシャン!ガガガマジシャンの効果!一ターンに一度、自身のレベルを1から8に変更できる!ガガガマジシャンのレベルを6にする!」

 

墓地から復活したガガガマジシャンの腰につけたバックルの星が4から6に輝き、レベルが4から6へと変化した。

 

「III……ミハエル!力を借りるぜ、レベル6のガガガマジシャンとドドドウォリアーでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとドドドウォリアーが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

希望皇ホープ、リバイス・ドラゴンに続き次はどんなモンスターが現れるのかマシュとジャンヌは密かに期待する。

 

アルトリアとエミヤは何かやばいものが来ると直感し、戦闘を中断して遊馬の元へ戻った。

 

その直後に大地が揺れてまともに立てなくなるほどの巨大な地震が発生し、とんでもないモンスターが現れる。

 

「現れよ!『No.6 先史遺産(オーパーツ)アトランタル』!!」

 

空中に『06』の数字が浮かび上がり、地震の後に遊馬の前に地割れが起きて中から現れたのは上半身には大地と火山、下半身にはマグマで構成されたまるで古の大陸が巨人の姿となったような巨大なモンスターだった。

 

それはかつて遊馬の敵だったが、家族の絆を取り戻した遊馬に深い感謝の気持ちを抱き、遊馬の為に命を懸けて戦う剣と盾になることを誓った少年、III……ミハエル・アークライトのエースモンスター。

 

「お、大きい……」

 

「まさかナンバーズにはこれほど巨大なものがいるとは……」

 

「もはやモンスターと言うより古代兵器だな……」

 

「すみません、私夢でも見ているのでしょうか……?」

 

希望皇ホープやリバイス・ドラゴンとはまた違う巨大なモンスターにマシュ達は驚愕で開いた口が閉じなかった。

 

「なっ、何よこれ……?」

 

「馬鹿な、これほどの力をあの少年が!?」

 

「ありえない……あんな未熟な子供が!?」

 

「これは……!?」

 

「どうやらただの少年ではないようですね……」

 

ジャンヌ・オルタ達はアトランタルのあまりの巨大さとその身に秘めた膨大な力とそれを自由自在に操る遊馬に驚いて目を疑った。

 

「アトランタルの効果!エクシーズ召喚に成功した時、墓地のナンバーズをアトランタルに装備してその攻撃力の半分を得る!墓地に眠るリバイス・ドラゴンをアトランタルに装備!」

 

墓地からリバイス・ドラゴンが現れ、ベルトみたいにアトランタルの腰に巻きついてその力を高める。

 

「アトランタル!ワイバーンに攻撃だ!ディヴァイン・パニッシュメント!」

 

「続け、希望皇ホープ!ホープ剣・スラッシュ!」

 

アトランタルの左肩の火山が噴火し、天に昇ると神の怒りが地上に落ちるかの如く、竜巻と雷が降り注いで大量のワイバーンを一気に粉砕する。

 

そして、希望皇ホープも続いて双剣でワイバーンを斬り裂いていく。

 

一気にワイバーンを倒され、ジャンヌは唇を噛み締めながら追加でワイバーンを召喚していく。

 

「遊馬、アトランタルの効果であのジャンヌを追い詰めるんだ」

 

「分かった、俺のターン、ドロー!アトランタルのもう一つの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、装備したナンバーズを墓地に送り、相手のライフを半分にする!オリハルコン・ゲート!!」

 

オーバーレイ・ユニットと装備したリバイス・ドラゴンを墓地に送り、アトランタルが灼熱の炎を宿した右腕を高く振り上げると金色の波動が降り注ぎ、その効果がジャンヌ・オルタにのみ与えられる。

 

「な、何!?私の、魔力が……!?」

 

ジャンヌ・オルタは膝をつき、謎の脱力感と苦痛に襲われて胸を強く抑える。

 

アトランタルの強力な効果、オリハルコン・ゲートは相手のライフポイントを半分にする……それがサーヴァントに適応されると力の源である魔力を半分にすることとなる。

 

魔力はそう簡単に回復できるものではない。ジャンヌ・オルタは旗を杖代わりにして無理やり立ち上がることしかできなかった。

 

「ジャンヌ……アトランタルの効果であんたのライフを半分にした。これで全力を出せない、諦めて降伏しろ!」

 

「ふざけるな……誰が降伏なんか……!くっ、竜召喚と竜操作が……」

 

度重なる魔力の消費とオリハルコン・ゲートの魔力半減によりまともに動けなくなり、ジャンヌ・オルタはこの場にいる誰よりも弱い存在になってしまった。

 

それに加え、魔力がかなり減った事で竜の魔女としての竜召喚と竜操作のスキルがまともに使えなくなっている。

 

「このままではいけない……撤退しましょう」

 

「あなたがそんな状態じゃ私達の勝ち目がなくなりますわ」

 

「チッ……仕方ない、戻ってジルに魔力を回復してもらわないと……ワイバーン!」

 

ジャンヌ・オルタはワイバーンを呼び、自身の魔力を回復させる為に急いでオルレアンに撤退することを決めた。

 

「子供……貴様、ユウマと言いましたね?覚えておきなさい、そこの聖女の前に必ず貴様を亡き者してやるわ」

 

「俺は絶対に死なない。いつでもかかって来い。全力で相手をしてやるぜ!」

 

「減らず口を……感じるぞ、リバイス・ドラゴン以外にまだ強力なドラゴンを隠し持っていることを!必ず貴様の全てのドラゴンを頂いて誰も倒すことのできない最強の竜の魔女として君臨するわ!!」

 

竜の魔女として遊馬のデッキとエクストラデッキに眠る数々のドラゴンの気配を感じ、全て奪うと宣言するが遊馬は鋭い眼差しで反論する。

 

「絶対に渡さない。このデッキに眠るドラゴン達は俺とアストラル、そして大切な仲間達との絆の結晶だからな!」

 

「ふん……良い気になるのも今のうちです」

 

そして、ジャンヌ・オルタ達はワイバーンに乗り、その場から離脱した。

 

深追いは禁物だとアルトリアとエミヤも下手に手を出さずに剣を納めた。

 

ジャンヌ・オルタの標的の最優先がジャンヌから遊馬へと変更され、ジャンヌは心配そうに遊馬を見つめる。それに気付いた遊馬は笑みを浮かべた。

 

「心配するなって!みんなはマスターである俺を守るために戦ってくれるんだろ?だったら俺はみんなを守るために全力で戦う!へへっ、単純明快で分かりやすいだろ?」

 

ポジティブと言うか単純と言うか、単なる馬鹿なのか分からないが遊馬らしい言葉にジャンヌは苦笑を浮かべる。

 

「全く君という子は……」

 

「それが遊馬という人間だ、ジャンヌ。ところで……そこに隠れている二人、出てきたらどうだ?」

 

アストラルが目を鋭くして破壊された街の物陰を睨み付けると二つの影が動いた。

 

「あらー、見つかっちゃったわね」

 

「まあ仕方ないさ。どのみち出て行くタイミングを逃したからちょうど良いさ」

 

物陰から現れたのは二人の男女だった。

 

一人はマシュやアルトリアやジャンヌとは違うタイプの天真爛漫なアイドルみたいな可愛さを持つ少女でもう一人は派手な装飾に身を包んだ青年だった。

 

気配を隠していたが、二人ともサーヴァントでジャンヌ・オルタが従えているサーヴァントでは無かった。

 

「お待ちになって!私たちはあなた達の味方よ!」

 

「え?」

 

遊馬達はひとまずその街から離れて近くの森へ向かった。

 

話を聞くと二人は騒ぎを聞きつけてこの街にやってきて遊馬達の援護をしようと思っていたが、アトランタルの凄まじさに驚いてタイミングを完全に逃してしまった。

 

「って事は、二人は俺たちに協力してくれるのか?」

 

「ええそうよ!初めまして、私はマリー・アントワネット。クラスはライダーよ!」

 

マリー・アントワネット。

 

フランス革命期に消えた王妃、ヴェルサイユの華と謳われた少女である。

 

「マリー・アントワネット……ってええっ!?」

 

アイドルのような美少女がマリー・アントワネットと知り、遊馬は目を見開いて驚愕した。

 

「あら?私をご存知で?」

 

「知ってるも何も前に小鳥と一緒に『マリー・アントワネット展』という展示会に付き合わされたことがあって……俺たちの世界であんたはけっこう女性に人気があるから……」

 

「あら?そうなの!?それは嬉しいわね!しかも私の展示会が行われるなんて素敵だわ!」

 

「流石はマリーだ。では次は僕だ。僕はアマデウス、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトだ」

 

「……何ぃいいいっ!?マリーの次は天才音楽家のモーツァルト!!?」

 

世界的に有名な天才音楽家のモーツァルトこと、アマデウスに遊馬は学校で習ったことのある英霊と次々と会えて興奮が上がっていく。

 

「おやおや、そこまで興奮するとはどうしたんだい?僕は芸術家の一人に過ぎないのだが……」

 

するとエミヤが自分も知っているようにアマデウスに興奮している理由を話す。

 

「モーツァルト……いや、アマデウス。君の作曲した音楽は遠い未来の世界で世界中に普及していて人気は衰えていない」

 

「そうなのかい?それは名誉なことだね」

 

「すごーい!流石は天才音楽家のアマデウスね!ところで、あなたはここにいるサーヴァントのマスターかしら?」

 

「ああ!俺は九十九遊馬!マスターをやっている、よろしくな、マリー!アマデウス!」

 

「私はアストラル、遊馬の相棒の精霊だ」

 

「私はマシュ・キリエライトです」

 

「セイバーのサーヴァント、アルトリアです」

 

「アーチャーのサーヴァント、エミヤだ」

 

「私はルーラー……ジャンヌ・ダルクです」

 

互いに自己紹介が終わり、ジャンヌ・オルタ達を打倒するためにマリー・アントワネットとアマデウスは遊馬達と共に戦うことを約束し、行動を共にすることとなった。

 

そして、その矢先に竜に跨る『もう一人の聖女』が遊馬達に近づいていた。

 

 

 

.




次回はあの鉄拳聖女様とバトルしたり、サーヴァント探しをします。

今回の黒ジャンヌちゃんと遊馬先生の対話はどうでしたでしょうか?

やっぱりカウンセラーの遊馬先生の言葉を再現するのは難しいですが、頑張って考えて行きます。


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ナンバーズ10 竜殺しを探せ!

日間ランキングで29位に入っていてビックリしました。
これも皆さんのお陰です、ありがとうございます!
これを励みに頑張りますのでよろしくお願いします!


新たなサーヴァント、マリーとアマデウスが仲間になり、遊馬達は森の中で休んでいた。

 

マリーとアマデウスも遊馬と契約を交わし、フェイトナンバーズのカードを作り出した。

 

マリーの絵はアイドルみたいに可愛らしく背後に優美な宮殿とガラスの馬が描かれており、アマデウスの絵は指揮棒を構えて背後に音符が描かれている。

 

マリーは生前にジャンヌを尊敬しており、こうして会えたことを心から喜んでいてマシュと一緒に楽しそうなガールズトークをしていた。

 

遊馬はフランスの聖女と王妃の夢の対話?を少し興味深そうに聞いていると静かな影が近づき、気配を察したアルトリアとエミヤが武器を構えた。

 

座っていた遊馬達も立ち上がって近づく影に対して構えた。

 

そして、現れたのは儚い雰囲気を出していた綺麗な女性だった。

 

「こんにちは、皆さま。寂しい夜ね」

 

遊馬達の前に現れたのはジャンヌ・オルタの後ろに控えていたサーヴァントの一人、バーサーク・ライダーだった。

 

「それを言うならこんばんはじゃないか?」

 

「遊馬君、突っ込むところはそこですか……?」

 

「……君はあの時もう一人のジャンヌと一緒にいたサーヴァントだな?何しに来た?」

 

遊馬とマシュが軽い漫才を始めそうだったのでアストラルが代わりにバーサーク・ライダーに質問をする。

 

「私は壊れた聖女……彼女のせいで理性が消し飛んで凶暴化してるのよ。今も衝動を抑えるのも必死。監視が役割だったけど、最後に残った理性が、貴方たちを試すべきだと囁いている」

 

「俺たちを、試す?」

 

「貴方たちの前に立ちはだかるのは竜の魔女。『究極の竜種』に騎乗する、災厄の結晶。私ごときを乗り越えられなければ、彼女を打ち倒せるはずがない」

 

究極の竜種と聞き、遊馬とアストラルはピクッと反応した。

 

バーサーク・ライダーは遊馬達の味方になることは出来ないが、越えるべき大きな壁として立ちはだかる。

 

「だから、私を倒しなさい。我が真名はマルタ。さあ出番よ、大手甲竜タラスク!」

 

マルタ、悪竜タラスクを鎮めた一世紀の聖女である。

 

そんなマルタの隣にはかつて彼女が退治したリヴァイアサンの子である大きな亀のような姿をした竜が召喚される。

 

タラスクは高速回転しながらいきなり襲いかかってくるが瞬時に遊馬が対処する。

 

「させるか!!手札の『虹クリボー』の効果!攻撃してきたモンスターに虹クリボーを装備する!装備されたモンスターは攻撃できない!!」

 

手札から七色に輝くボールみたいな可愛いモンスターが現れ、タラスクの体に纏うと体が固まって動けなくなる。

 

虹クリボーは遊馬の父が持っていたカードで数々の強敵のモンスターの動きを封じ、遊馬を守る盾となり、遊馬の危機を何度も救って来たモンスターである。

 

「タラスク!?」

 

「みんな、早く下がれ!」

 

「は、はい!」

 

「こうも簡単にタラスクを封じるとは。仕方ありません。さあ、来なさい……あなた達の力を見せなさい!」

 

タラスクが動かないと知るとマルタは主力武器かと思われた十字の槍を木に立てかけ、手甲を装着した両手で拳を作ってファイティングポーズを取った。

 

「聖女が武器でなく拳で戦うのか……?」

 

「拳で戦う聖女か……熱い、熱いじゃねえか!みんな、俺にやらせてくれ!この聖女さんの相手に相応しいとっておきの奴がいるぜ!」

 

ジャンヌとは異なり、聖女マルタの武器が拳なことに困惑するアストラルだが、基本的に熱血漢の部類に入る遊馬は逆に心が燃え上がり、マルタの相手に相応しいモンスターを呼ぶ。

 

「俺のターン、ドロー!『ガガガマジシャン』を召喚!ガガガマジシャンの効果でレベルを1にする!更に魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!手札のモンスターを墓地に送り、デッキからレベル1のモンスターを特殊召喚する!来い、『クリボルト』!」

 

『クリー!』

 

ガガガマジシャンの後にデッキから虹クリボーに似た電気を発生させる黒いボールみたいな可愛らしいモンスターが現れる。

 

「更にもう一丁!魔法カード、『死者蘇生』!さっきワン・フォー・ワンで墓地に送った『ダークロン』を墓地から特殊召喚!」

 

墓地から毛むくじゃらの小さな妖怪みたいなモンスターが現れ、これでレベル1のモンスターが三体揃った。

 

「かっとビングだ!レベル1のガガガマジシャン、クリボルト、ダークロンの三体でオーバーレイ!三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

光の爆発と共に『54』の数字が空中に浮かび上がり、地面から現れたのは上部に血管がついた鼓動を弾ませる心臓のような物体が現れた。

 

心臓が変形すると屈強な肉体を持ち、獅子のような仮面と左胸に『54』の刻印が刻まれた赤い鎧を身につけた戦士が降臨する。

 

「現れろ、No.54!熱き闘志の雄叫びが眠れる魂すらも震わせる!『反骨の闘士ライオンハート』!!」

 

それは大昔に熱き拳を持ち、人々に希望を与えていた伝説の剣闘士が所有していた魂のナンバーズ。

 

「なるほど、拳で戦う聖女マルタに相応しい剣闘士みたいなナンバーズですね」

 

「それとマスターの虹クリボーは凄いですね、あの竜種を完全に動きを止めるとは」

 

「可愛らしい見た目に反して素晴らしい力を持っているな」

 

「それにしても、遊馬君って意外に熱いんですね……」

 

「マスター!頑張ってー!」

 

「聖なる拳を振るう聖女と熱き拳を振るう獅子の剣闘士か……よし、良い曲が浮かんだ」

 

「行け、ライオンハート!マルタに攻撃だ!」

 

ライオンハートは目を輝かせて拳を作り、マルタに向かって攻撃する。

 

「面白い……その勝負、受けて立ちます!!」

 

「あれ?ま、待ってください!あのナンバーズ、希望皇ホープと違って攻撃力は極端にありません!」

 

「「「えっ!?」」」

 

マシュはフェイトナンバーズの恩恵で何となくだがナンバーズの大体の攻撃力の数値を知ることが出来るが、ライオンハートのその勇ましい姿に反して攻撃力が低い事に驚いた。

 

モンスター・エクシーズはランクによって攻撃力の幅があり、ランクが高ければ高いほどそれに比例して攻撃力や能力も高くなる。

 

逆にランクが低いとそれに比例して攻撃力も低くなってしまい、ライオンハートの攻撃力は僅か100しかない。

 

剣闘士のナンバーズと一世紀の聖女……ライオンハートとマルタは拳と蹴りでストリートファイトのような激しい攻防をする。

 

マルタは一旦離れて右拳に聖なる光を込め、足に力を込めてライオンハートに近づいて全力で振るう。

 

「鉄拳聖裁!!!」

 

ライオンハートは希望皇ホープやリバイス・ドラゴンと違ってその召喚の難しさに見合った強力な効果を有している。

 

「ライオンハートの効果!戦闘では破壊されない!オーバーレイ・ユニットを使い、この戦闘のダメージは代わりに相手が受ける、バーニング・クロスカウンター!!」

 

ライオンハートはオーバーレイ・ユニットをその身に取り込むと左拳に炎を纏い、真正面からマルタと打ち合う。

 

マルタの拳とライオンハートの拳が交差し、互いの頬を強く殴り合った。

 

しかし、僅かにマルタの拳は届かず、ライオンハートの拳がマルタの頰に届いた。

 

本来マルタがライオンハートにぶつけるはずだった聖なる拳のダメージがライオンハートの効果によってそのまま自分に跳ね返った。

 

「ぐあっ!!?」

 

マルタは後ろに大きく吹き飛ばされ、木が何本も薙ぎ倒されるほどの衝撃を受けた。

 

それほどまでにマルタの本気の攻撃が凄まじいことを物語っていた。

 

ライオンハートの攻撃力はデュエルモンスターズの中でも最低ランクだが、カウンターを得意とした前の所有者である剣闘士の影響もあってか相手の攻撃力分のダメージをほぼそのまま跳ね返すカウンター攻撃の能力を持つ。

 

実質自分が放った攻撃力分のダメージをまともに喰らい、マルタの体が光の粒子となって消滅していく。

 

同時にマルタと一緒に動けなかったタラスクも消滅して行く。

 

「見事な攻撃、いや……いい拳だったわ。久々にいいのを貰ったわ」

 

聖女というよりもまるでヤンキーみたいに一瞬だけ笑みを浮かべながら殴られた頰を軽く摩ると、立てかけた十字の槍を持つ。

 

「……最後に一つだけ教えてあげる。竜の魔女が操る竜に、貴方達は絶対勝てない」

 

「……黒ジャンヌの『究極の竜種』ってことは、ようするに『地上最強のドラゴン』だよな?」

 

「そうよ。だから……」

 

「でも、俺が『宇宙最強のドラゴン』を操っているなら話は別だろ?」

 

「え?」

 

遊馬の発言に唖然とするマルタに遊馬はデッキからドローした光り輝くカードを掲げると背後に青白く輝く巨大な竜の幻影が現れる。

 

勇ましい咆哮を轟かせるその竜の幻影にマルタだけでなく後ろにいたマシュ達も驚愕していた。

 

その竜の幻影の全貌を見ることはできなかったが、光り輝く二つの瞳には無数の星々のような煌めく輝きが宿っていた。

 

「な、何ですかその竜は……?あなたは、一体……?」

 

タラスクよりも格上の強大なドラゴンを操る遊馬にマルタは動揺を隠せなかった。

 

「このドラゴンは自分の命よりも大切な弟を助けるために己を犠牲にしてまで戦った俺のライバルで、憧れの人から託された魂のドラゴンだ。俺たちは負けない、必ず黒ジャンヌのドラゴンを打ち破ってみせる」

 

「確かに……その竜なら可能性はありますね。でも、確実に超えるためにリヨンに行きなさい」

 

「リヨン?」

 

「そこに竜を倒す存在、『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』がいるわ」

 

「ドラゴンスレイヤーか……なるほど、戦力になるなら仲間に引き入れた方がこちらとしてもメリットが大きいな」

 

「タラスク、ごめん。次は真っ当に召喚されたいものね」

 

ジャンヌ・オルタに無理矢理狂化属性を与えられ、戦わされていたマルタは悲しそうな表情を浮かべるが遊馬が近づいて元気付けた。

 

「心配するな、次は俺が召喚してやるよ!」

 

「えっ……?」

 

「その代わり、人類の未来を守るための戦いに協力してほしい!頼む、マルタ!タラスク!」

 

無垢な笑みを浮かべ、先ほどまでは敵だったのに既に仲間として扱うような遊馬の言葉にマルタの心が安らいだ。

 

「……あなた、名前は?もう一度聞かせて」

 

「遊馬!九十九遊馬だ!」

 

「分かったわ、ユウマ……もしあなたが今度私を召喚出来たら、あなたのためにこの拳を振るうわ」

 

「ああ、待ってろ。必ず召喚するぜ!」

 

遊馬が拳を前に突き出して笑みを浮かべる。

 

「待ってるわ、私の未来のマスター」

 

マルタも自分の拳を突き出して遊馬の拳とぶつけると最後にウインクをして笑みを浮かべながらタラスクと共に消滅した。

 

最後に残ったマルタのフェイトナンバーズのカードを回収すると、マルタの助言を頼りにドラゴンスレイヤーがいるリヨンの街へ向かうことにした。

 

 

翌朝の早朝に遊馬達はリヨンに向けて出発し、その道中にあった街でエミヤとマリーの二人で街の人から色々な情報を聞き出した。

 

リヨンには大剣を持った騎士がワイバーンや骸骨兵を蹴散らして守り神として守っていたが、複数のサーヴァントが襲撃して行方不明となっていた。

 

遊馬達は急いでリヨンに向かい、竜殺しの騎士を探そうとしたが……街には生きる屍、リビングデッドがうろついているだげだった。

 

恐らくその街に住んでいた住人でもはや救うことができないだろう。

 

「何だよ、何だよこれ……?」

 

死体の次は生きる屍……遊馬はまたしても恐怖で体が震えてしまった。

 

マシュは遊馬を抱き寄せて目隠しをさせ、エミヤは干将・莫耶を構えて前に出る。

 

「……マスター、少しだけ目を閉じていろ。すぐに終わらせる」

 

エミヤは一刻も早く楽にさせるために干将・莫耶を振るい、リビングデッド達を切り倒していく。

 

全てのリビングデッドを倒し、ジャンヌが祈りを捧げる。

 

するとそこに一つの不気味な影が現れた。

 

それは顔の右側を髑髏の仮面で隠し、皮を剥いだように不気味な両手に鋭い爪を付けた男だった。

 

「人は私をオペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)と呼ぶ。竜の魔女の命により、この街は私の絶対的支配下に」

 

それは十九世紀を舞台とした小説、オペラ座の怪人に登場した怪人のモデルとなった男だった。

 

ファントムは敵である遊馬達を死者にするために宝具を展開する。

 

「唄え、唄え、我が天使……『地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)』」

 

ファントムの背後に無数の死骸で作成されたパイプオルガンが現れた。

 

そしてファントムの口から発された異様な歌声が、不可視の魔力放射をしてアルトリア達にダメージを与える。

 

ファントムの攻撃に対抗するために前に出たのはアマデウスだった。

 

「私に任せたまえ。聴くがいい!魔の響きを!『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 

それはアマデウスが生前に死神に葬送曲の作成を依頼されたという伝説の魔曲であった。その魔曲はファントムのステータスを下げた。

 

「外道が……」

 

「奴を許す訳にはいかない……」

 

アマデウスのお陰でパイプオルガンの魔力ダメージを抑え、アルトリアは約束された勝利の剣を構え、エミヤは弓矢と無数の剣を投影して一気に決めようとした。しかし背後からいきなり発せられた怒気に思わず振り向いた。

 

それは先ほどまで動けなかった遊馬だった。

 

遊馬はこれほどまでに外道な行いをしたファントムに強い怒りを覚え、アストラルと共に静かな怒りを発していた。

 

「許せねぇ!……こんな酷いことをしたてめぇを絶対に許せねぇ!!」

 

「死者を弄ぶ貴様を私達は決して許さない!!……」

 

「俺のターン、ドロー。『ガガガマジシャン』を召喚。ガガガマジシャンの効果でレベルを5にする。自分フィールドにガガガモンスターがいる時、手札から『ガガガキッド』を特殊召喚し、その効果でガガガマジシャンと同じレベルとなる」

 

ガガガマジシャンの隣に弟分である少年が現れ、アイスを食べてアイス棒に描かれた五つの星と同じく自身のレベルが5となる。

 

「レベル5のガガガマジシャンとガガガキッドでオーバーレイ、エクシーズ召喚……」

 

ガガガマジシャンとガガガキッドは光となって地面に吸い込み、光の爆発が起きる。

 

「「現れよ、『No.61 ヴォルカザウルス』」」

 

地面から『61』の数字が浮かぶと大きな溶岩の突起を持つ球体の火山岩が出現し、高熱の炎を放出しながら変形し、灼熱の炎を纏う恐竜へと変形した。

 

ヴォルカザウルスから漂う炎の気は周囲にいる死体を静かに焼き尽くし、二度と外道の魔の手に触れないように灰にしていく。

 

「アルトリア、エミヤ。あのオルガンは俺がぶっ壊す。そしたら一気にファントムを倒せ」

 

「了解しました」

 

「頼むぞ、マスター」

 

「ヴォルカザウルスの効果、オーバーレイ・ユニットを使い、相手フィールドのモンスターを破壊する!……パイプオルガンを焼き尽くせ、マグマックス!!」

 

ヴォルカザウルスがオーバーレイ・ユニットを喰らい、両肩の突起部分のカバーが開くと高熱の火炎が発射されてファントムのパイプオルガンを焼き尽くした。

 

ファントムはオルガンを無残に焼失され、更に破壊されたダメージをくらい、絶望に打ちひしがれる。

 

「あぁ……私の、クリスティーヌがぁ……」

 

「今だ、アルトリア、エミヤ」

 

アルトリアの約束された勝利の剣は既に刃に金色の輝きを湛え、エミヤは黒弓を構えて周囲に投影した剣の切っ先を全てファントムに向ける。

 

「あなたに慈悲は与えません」

 

「貴様は心優しいマスターを怒らせた、何も言わずに消えろ」

 

矢を放つと同時に剣が一斉に発射され、ファントムの体に突き刺さった。

 

そして、アルトリアの約束された勝利の剣の放った極光でファントムは断末魔の叫びもあげずに一瞬で消滅した。

 

消滅したファントムのフェイトナンバーズのカードがあり、回収しながら遊馬はヴォルカザウルスに命令した。

 

「ヴォルカザウルス、お前の炎でここにいる人たちを弔ってくれ」

 

ヴォルカザウルスは遊馬の命令に頷き、口から静かに炎を出して死者を灰にして弔う。

 

全ての死者の弔いを終えると、ロマニが街の奥の城から微弱なサーヴァントの気配をキャッチし、すぐに城に入った。

 

城の奥に光が見え、そこには焚き火の側で休んでいる騎士がいた。

 

「……いた!おーい、あんたは竜殺しの騎士か?」

 

「くっ……子供?それにサーヴァント……?」

 

騎士は酷い怪我を負っており、遊馬達はすぐに駆け寄った。

 

「ひでぇ怪我だ……大丈夫だ、俺たちは味方だ!」

 

「君は……?」

 

「遊馬だ!しっかりしろ!」

 

「これは……遊馬、『No.49』を使うんだ」

 

アストラルの助言を聞き、一瞬ぽかんとした遊馬だったがそのナンバーズの効果を思い出して頷いた。

 

「『No.49』……?あ、そうか!わかったぜ!『ズババナイト』を召喚!更に『影無茶ナイト』を特殊召喚!レベル3のモンスター二体でオーバーレイレイ、エクシーズ召喚!」

 

ズババナイトと影無茶ナイトを急いで呼び、オーバーレイして地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「来い、『No.49 秘鳥フォーチュンチュン』!」

 

地面から現れたのは『49』の飾りがある棒を口に咥えた小さな青い鳥のモンスターである。

 

「鳥……?」

 

フォーチュンチュンは小さな羽を羽ばたかせながら騎士の腕にちょこんと乗ると体からエメラルドグリーンの光を放って騎士の傷を癒していく。

 

「傷が治っていく……遊馬くん、これは癒しのモンスターですか?」

 

「ああ。フォーチュンチュンは僅かだけど自分のターン毎にライフを回復してくれる優しい力を持つナンバーズなんだ」

 

癒しのナンバーズ、フォーチュンチュンのお陰で騎士の傷を癒すことが出来たが、どうしても治らない傷があった。

 

それは呪いの傷で、その傷によって騎士はまともに動くことが出来ずにいた。

 

呪いを解くことができるのは『洗礼詠唱』が出来るジャンヌのような聖女か聖人のサーヴァントだけだった。

 

ジャンヌはランクダウンの影響で力が足りず、もう一人の聖人がいないと無理だった。

 

どうすればいいかと悩んでいるとロマニから連絡が入った。

 

聖杯を持っているのが竜の魔女、ジャンヌ・オルタならその反動で抑止力として聖人が召喚されている可能性がある。

 

サーヴァントの情報が無いのなら急いで探すしかない、今までと同様に街で情報を得るしかない。

 

手分けして探そうと意見が出たが、下手に戦力を分断するとジャンヌ・オルタたちの差し向けたサーヴァントに倒される可能性がある。

 

それを回避する方法をアストラルは瞬時に思いついた。

 

「遊馬、提案がある」

 

「何だ?アストラル」

 

「急ぐのならば皇の鍵に眠っている『アレ』を使うといい」

 

「アレ……?あっ!もしかしてまた使えるのか!?」

 

「当たり前だ。起動に必要な『No.66』がここにあるから問題なく使える」

 

「よっしゃあ!それがあれば快適だぜ!」

 

アストラルは皇の鍵の中に入ると遊馬は皇の鍵を首から外した。

 

「みんな!城の外に出てくれ!」

 

遊馬とアストラルが何か画期的な方法を思いついたのか、ひとまずマシュ達は騎士と一緒に城の外に出た。

 

遊馬は皇の鍵を空に向かって掲げた。

 

「行くぜ、『かっとび遊馬号』!起動!」

 

「「「かっとび遊馬号???」」」

 

マシュ達は何それ?と言わんばかりに首を大きく傾げると、皇の鍵が光り輝いて先端から金色の光線が空に向かって放たれた。

 

すると、光線を放った上空の空間が歪み出し、黒雲が広がった。

 

そして、歪んだ空間の中から現れたのは……巨大な飛行船だった。

 

しかし、普通の飛行船とはかなり異なり、船体が無数の大きな歯車が重なって作られ、そこからワイヤーのようなものでゴンドラが吊るされていた。

 

一体どんな物質で作られてどんな原理で動いているのか全く理解不能な飛行船だった。

 

「ゆ、遊馬君……あれは一体……?」

 

マシュが顔を引きつらせながら代表して尋ねると遊馬は得意げに答える。

 

「あれか?あれは皇の鍵に眠っている飛行船だ!」

 

それはアストラル世界で遊馬の父、九十九一馬が遊馬とアストラルの世界の命運をかけた戦いのために造った代物で異世界を渡ることができる。

 

思わぬ移動用の巨大船に遊馬はもしかしてサーヴァントなのか?とマシュ達は思わず思い込んでしまうのだった。

 

 

 

.




マルタさんは姐さんみたいなキャラなので再登場させようと思います。
ファントムは……うん、遊馬先生が慈悲を与える相手だと思わなかったので瞬殺しました。

そして、かっとび遊馬号こと皇の鍵の飛行船登場です。
これでマリーの死亡フラグが折れました。


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ナンバーズ11 決戦の地、オルレアンへ!

コレクターズパックでNo.29 マネキンキャット収録!
これでコレクターズパックでナンバーズ五枚収録で嬉しいです!
あと数年で全部揃ってくれれば幸いです。

※10話のライオンハートの効果を勘違いしたので訂正しました、大変申し訳ありませんでした。


遊馬とアストラルが呼び出した皇の鍵の飛行船こと、『かっとび遊馬号』。

 

元々は回収したナンバーズをアストラルが納める謎の建造物であったが、『No.66』が鍵となり、皇の鍵内の異空間から現実世界に召喚させて動かすことができる。

 

飛行船として空を航空することはもちろん、異次元ゲートを使って異世界に渡ることが出来る。

 

「シロウ……昔冬木で見た飛行船とはあんなものでしたっけ?」

 

「アルトリア、あれはもはや人智を超えたよくわからない代物だ。あまり深く考えないほうがいい……」

 

飛行船というものを一応知っているアルトリアとエミヤは頭が痛くなった。

 

「遊馬君……あなたには本当に驚かされますね……」

 

「キャー!マスター素敵!こんなすごい宝具を持っているなんて!」

 

「素晴らしい……こんな美しいものは初めて見たぞ!」

 

ジャンヌは遊馬の凄さに呆然とし、マリーとアマデウスは興奮していた。

 

「何者なのだ……?」

 

ただの子供ではない遊馬に出会ったばかりの竜殺しの騎士は困惑していた。

 

「みんな、飛行船に!乗り込むぜ!」

 

飛行船のゴンドラから円形の光が発射され、遊馬達を包むと一瞬で船内にワープされる。

 

船内のブリッジはまるで戦艦のようなハイテクな機材が並んでおり、中央には飛行船を操作する舵が設置されている。

 

「ようこそ、皇の鍵の飛行船へ」

 

舵の前にアストラルが立っており、飛行船の起動準備をしていた。

 

「す、凄い……カルデアの最新設備並みの機材です……」

 

カルデアの機材に触れていたマシュは飛行船の設備に驚いているとD・ゲイザーからダ・ヴィンチが連絡を入れてきた。

 

『ちょっとちょっと!遊馬君何だいこれは!?こんな凄いものがあるなんて聞いてないよ!』

 

未知なる科学技術で作られた飛行船に興奮気味のダ・ヴィンチに遊馬は苦笑いを浮かべた。

 

「悪い悪い、使えると思ってなかったから忘れていたんだよ」

 

『カルデアに戻ったら絶対に調べさせて、約束だから!!』

 

「はいはい、わかったよ。よし……」

 

ダ・ヴィンチと通信を切り、遊馬は舵に手を添えて出発準備をする。

 

「これからフランスの街へ移動して聖人のサーヴァントを探し出すぜ!」

 

「遊馬、出発だ!」

 

「おう!かっとび遊馬号、発進!」

 

かっとび遊馬号が発進し、フランスの街へ向かった。

 

数分後……。

 

「よし、到着!」

 

「「「早っ!!?」」」

 

最初の目的地であるティエールという街に到着した。

 

ロマニに確認してもらったところ、ティエールには二騎のサーヴァントの気配があり、遊馬とアストラルとマシュが飛行船から降りた。

 

その時、街から空に向けて炎が登り、遊馬達は一瞬思考が停止した。

 

「……今、炎が上がらなかった?」

 

「上がったな……」

 

「急ぎましょう!」

 

遊馬達は急いで街の中に入るとそこに二人の少女の姿をしたサーヴァントがいた。

 

一人は淡い緑色の髪に着物を着た少女でもう一人はゴスロリ風の衣装を着たマイクを持つ少女で何故か言い争って激しい攻撃をする。

 

「このっ!この、この、このっ!ナマイキ!なのよ!極東のド田舎リスが!」

 

「うふふふふ。生意気なのはさて、どちらでしょう。出来損ないが真の竜であるこの私に勝てるとお思いで。エリザベートさん?」

 

「うーーっ!ムカつくったらありゃしないわ!カーミラの前にまずはアンタを血祭りにしてあげる!この泥沼ストーカー!」

 

「ストーカーではありません。『隠密的にすら見える献身的な後方警備』です。この清姫、愛に生きる女です故」

 

「アンタの愛は人権侵害なのよ!」

 

「血液拷問フェチのド変態に言われたくありませんね」

 

ヒートアップしていく二人に遊馬は慌ててデッキからカードを引き、喧嘩を止めるためのカードを発動する。

 

「やめろって!魔法カード、『光の護封剣』!!」

 

天空から聖なる光の剣が降臨して二人の周りに突き刺さり、聖なる力で動けなくした。

 

「う、動けない……!?」

 

「な、何よこの剣は……!?」

 

「お前ら……こんなところで喧嘩はやめろ」

 

「な、何ですかあなたは……?」

 

「魔術師なの……?」

 

「九十九遊馬、こっちは相棒のアストラル。そしてデミ・サーヴァントのマシュ。お前らはサーヴァントだよな?」

 

遊馬は呆れ顔で自己紹介するがそんなことよりも二人は喧嘩を優先して光の護封剣で封じられながらも口喧嘩をする。

 

アストラルとマシュも喧嘩する二人に呆れていると遊馬は両手を握りしめて軽く息をかけた。

 

「ゆ、遊馬君……?」

 

「いい加減に……しろ!!!」

 

ガキィン!!

 

「「フニャア!!?」」

 

「「あ……」」

 

遊馬の怒りの鉄拳が二人の頭に直撃し、猫みたいな奇声を放った。

 

魔力も込められてないただの拳だが二人には何故か脳裏に響くようなダメージが与えられ、涙目になりながら遊馬を睨みつける。

 

「い、痛い……です」

 

「何するのよもう!」

 

「さっきから聞いていればガミガミとやかましいんだよ。お前らサーヴァントだろ?そんな子供みたいな喧嘩をして恥ずかしくないのかよ?それに喧嘩するなら街中じゃなくて外でやってろよ、街の人に迷惑じゃねえか」

 

まるで親に叱られている子供のようになった二人だった。

 

「し、しかし……この女が……」

 

「だ、だってこいつが……」

 

「まだ言う?俺の世界では……喧嘩両成敗と言う言葉があるけど、もう一度拳骨喰らいたい?」

 

「「ひうっ!?ご、ごめんなさい……」」

 

遊馬の拳骨に既に恐怖を抱いた二人は大人しく引き下がった。

 

謝ったので遊馬は光の護封剣を解除し、二人に質問する。

 

「わかったならいいんだよ。それで二人に聞きたいことがあるんだ。俺たちの仲間が呪いで苦しんでいて、呪いを解くために聖人のサーヴァントを探してるんだ。知らないか?」

 

「聖人?この国に広く根付いた教えの聖人ならば、一人心当たりがありますが」

 

「本当か!?」

 

「ええ。彼の真名はゲオルギウス、西側に向かいました」

 

「西か……ありがとう!えっと……あ、悪い。二人の名前を教えてくれ」

 

「私の名は清姫と申します」

 

「私はエリザベートよ、それにしてもアンタ、変な力を感じるわね」

 

清姫は安珍清姫伝説という和歌山県に伝わる伝説の童女で、エリザベートは血の伯爵夫人と言われたエキセントリックな少女である。

 

「そうか?それよりも一つ提案があるんだけど、これからフランスを黒ジャンヌから解放するために戦っているんだけど、一緒に来ないか?」

 

遊馬は清姫とエリザベートに共に戦う仲間にならないかと誘うと……。

 

「わかりました、喜んで力をお貸しします」

 

清姫は先程とは全く違う反応で、遊馬の顔を見て頰を少し赤く染めて、即答した。

 

「決断早っ!?」

 

「ふん、そういう事なら手伝ってもいいわよ」

 

エリザベートもなんだかんだで了承し、二人は遊馬と早速契約を結んだ。

 

清姫との契約は何故か指切りで嘘をついたら針千本を呑ませるというよくわからない約束をされた。

 

エリザベートとはいつも通り握手を交わして契約し、二人のフェイトナンバーズのカードが作成された。

 

清姫の絵は扇子を広げて舞うような姿に背後に白い大蛇が描かれており、エリザベートはマイクを片手に持ち、背後にはアイドルのライブみたいな巨大アンプが描かれていた。

 

「まあ、素敵なカード。ありがとうございます、『旦那様(ますたぁ)』♪」

 

「……アンタいま、とんでもない変換しなかった……?気をつけなさいよ、マスター。こいつとんでもないストーカーだから」

 

「え?ストーカー?」

 

どういう事?と首を傾げる遊馬だったが、ひとまず清姫が会った聖人に会いに飛行船に再び乗って今度は西へ向かった。

 

今度は飛行船から全員降りて街を捜索するとひときわ目を惹く鎧を纏った長い髪の男性がいた。

 

「あんた、ゲオルギウスか!?」

 

「君は?それに……サーヴァント!?これほど沢山!?」

 

ゲオルギウス。

 

聖ジョージとも呼ばれ、聖剣アスカロンを手にドラゴンを退治した伝説の聖人である。

 

遊馬と一緒にいる大勢のサーヴァントに警戒するが、警戒を解く為に遊馬はすぐに用件を言う。

 

「俺たちは敵じゃない!仲間が呪いにかけられて聖人であるあんたの力が必要なんだ!頼む、力を貸してくれ!!」

 

頭を深く下げて頼む遊馬の姿にゲオルギウスと竜殺しの騎士は驚いた。

 

他人の為に、仲間の為に迷うことなく頭を下げて頼み込むその姿にゲオルギウスは腰を下ろして遊馬の視線に合わせて肩に手を置いた。

 

「分かった。私の力でよければ君に貸そう」

 

「本当か!?」

 

「だが、この街の人間を避難させないといけない。それが終わってからで良いか?」

 

「もちろんだ!それなら俺たちも手伝うぜ!」

 

遊馬達も街の人の避難を手伝おうとした……その時だった。

 

「はっ!?この気配……遊馬君!ワイバーンが来ます!」

 

「何ぃっ!?」

 

ジャンヌがワイバーンが来る気配を察知し、空を見上げると小さな黒い無数の点が近づくのが見えた。

 

それらは全部ワイバーンであまりの数に街の人たちは混乱して行く。

 

「ったく、黒ジャンヌも懲りないな……」

 

「遊馬、人々を守るために一気に決めるぞ!『No.91』だ!」

 

「ああ!俺のターン、ドロー!自分フィールドにモンスターがいない時、『ドドドバスター』を特殊召喚出来る!この時、ドドドバスターのレベルが6から4になる!」

 

ドドドウォリアーに似たモーニングスターを持つヴァイキング風の戦士が降り立ち、レベルが6から4となる。

 

「更に『ゴブリンドバーグ』を通常召喚!効果で手札から『ゴゴゴゴーレム』を特殊召喚する!」

 

ゴブリンドバーグが召喚され、その効果でコンテナからゴゴゴゴーレムが特殊召喚され、レベル4のモンスターが三体揃った。

 

「レベル4のドドドバスター、ゴブリンドバーグ、ゴゴゴゴーレムの三体でオーバーレイ!三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

三体のモンスターが地面に吸い込まれ、光の爆発が起きると青白い光が天に昇った。

 

「現れよ、『No.91 サンダー・スパーク・ドラゴン』!!!」

 

空に『91』の数字が浮かぶと雷雲が空いっぱいに広がり、雷電の中から青白い蛇の姿をした巨大な雷の竜が現れた。

 

「まさか、旦那様が竜使いだったなんて……」

 

「な、な、何よあれ!?私よりも格上のあんな竜を操るなんて……マスターは一体何者よ!?」

 

清姫は竜種に転身することができ、エリザベートは竜種であり、二人よりもランクの高いサンダー・スパーク・ドラゴンを召喚した遊馬に驚いている。

 

「みんな、巻き込まれたくなかったら手を出すなよ。俺の後ろに下がっててくれ!」

 

サンダー・スパーク・ドラゴンは強力な効果を有して降り、下手をすれば味方をも巻き込みかねないほどのものであるため、遊馬はマシュ達を後ろに下がらせた。

 

「行くぜ……サンダー・スパーク・ドラゴンの効果!オーバーレイ・ユニットを三つ使い、サンダー・スパーク・ドラゴン以外の全てのモンスターを破壊する!!」

 

サンダー・スパーク・ドラゴンは全てのオーバーレイ・ユニットを喰らい、体から膨大な電気を放出する。

 

空に浮かぶ雷雲が共鳴し、ワイバーンは人を襲うどころではなく混乱するが時は既に遅かった。

 

「行け、サンダー・スパーク・ドラゴン!ワイバーンを全てぶっ飛ばせ!!サンダー・スパーク・ボルトォォォッ!!!」

 

『ギュオオオオオオオーッ!!!』

 

サンダー・スパーク・ドラゴンの赤い目が輝き、その身に宿る全ての電気を放出し、雷雲からも数多の落雷が降り注いでワイバーンを全て撃ち落とす。

 

降り注いだ雷電は遊馬の味方のサーヴァントや避難していた街の人間には一切落ちず、ワイバーンのみ撃ち落とした。

 

ワイバーンは雷に打たれて丸焦げになり、地面にボトボトと地面に落ちていく。

 

まるでワイバーンから人々を守るために天から舞い降りた守り神が現れたかのように人々は震え上がって歓声を送った。

 

「へへっ……これで街は、守れたぜ……」

 

遊馬は街と人々を守れたことを嬉しく思いながら拳を高く掲げたが、その直後に意識が朦朧して体が崩れ落ちる。

 

「遊馬!?」

 

「「遊馬君!?」」

 

「旦那様!?」

 

「「「マスター!?」」」

 

遊馬が突然倒れたことにアストラルとマシュ達は驚いてすぐに駆け寄った。

 

その後、ゲオルギウスが街の市長に頼んで空き家を借り、そこで遊馬を休ませてもらった。

 

街をワイバーンから救い、守ってくれた遊馬を街の人たちは勇者と崇め、心の底から感謝して遊馬の為に栄養がつくよう大量の食料を贈った。

 

ベッドで眠っている遊馬を映像越しでロマニがチェックしたところ、度重なるサーヴァント達との戦いの疲れと死体やリビングデッドを見たことによるストレスが重なったことによる疲労困憊だった。

 

特に遊馬はまだ十三歳で自ら率先してモンスターを召喚して戦っていたので精神的にも肉体的にも限界が来てしまったのだ。

 

マシュ達はサーヴァントは遊馬に頼り過ぎてしまったのではないかと自責の念を抱いて深く反省し、今それぞれに自分ができることをする。

 

街の警護やジャンヌ・オルタ達の情報収集を行い、マシュは遊馬の看病に専念した。

 

清姫も遊馬の看病をしたかったが、任せると何かやばい予感がしたのでアルトリアとエリザベートが無理やり連れ出した。

 

マシュはスヤスヤと眠る遊馬を見守りながら悲しそうな表情を浮かべていた。

 

「私……遊馬君のサーヴァント失格です……」

 

マシュは誰よりも遊馬に近いサーヴァントなのに遊馬に大きな負担をかけてしまったことに誰よりも責任を感じていた。

 

そんなマシュを励ますかのように皇の鍵の中で休んでいたアストラルが現れた。

 

「マシュ、君が責任を感じる事はない」

 

「アストラルさん……でも……」

 

「……遊馬と私には師匠のある教えがあるんだ」

 

「師匠……?」

 

「名は三沢六十郎。遊馬のデュエルの師匠で、私達が道に迷った時、壁にぶち当たった時に大切なことを教えてくれた大切な恩師だ」

 

「それって、どんな事ですか……?」

 

マシュが尋ねるとアストラルはフッと笑みを浮かべて窓から夜空を見上げ、その時のことを思い出す。

 

「仲間を守り、共に戦う事だ」

 

それは遊馬とアストラルが初めて強大な相手と対峙し、敗北の恐怖で道に迷った時にその教えを説いた。

 

自分達は一人ではない、共に戦う大切な仲間がいればどんな強大な敵にも立ち向かうことができる。

 

それはこの世界で共に戦うマシュ達サーヴァントも同じである。

 

「遊馬はこれからも君達を守り、そして共に戦う為に自分の身を犠牲にするだろう。しかし、それをマシュ達が背負う事はない。それが遊馬が信じ、進む道だから……」

 

遊馬の事を誰よりも理解しているアストラルの言葉にマシュは頷き、新たな覚悟を決めた。

 

壁に立てかけた盾を手に取り、片手で胸に手を置いて自身に宿る英霊の魂に今の自分の覚悟を話す。

 

「この盾に掛けて、遊馬君を守り抜き、共に戦います!遊馬君が無茶を貫き通すなら、私が支えます!!」

 

遊馬のデミ・サーヴァントとして、シールダーとして守るだけじゃない、支える存在になると誓った。

 

マシュの中にいる英霊はその誓いを聞き入れ、頑張れと応援するかのように十字架の盾が淡く光った。

 

マシュの誓いを聞いたアストラルは優しい笑みを浮かべて頷いた。

 

翌朝、遊馬は無事に目を覚まし、エミヤが街の住人から貰った食材を元に作った豪華な料理を食べて英気を養った。

 

竜殺しの騎士は昨夜のうちにジャンヌとゲオルギウスの力で無事に呪いは解け、本来の力を取り戻すことが出来た。

 

竜殺しの騎士はジャンヌとゲオルギウスに感謝すると同時に自分の為に精一杯動いてくれた遊馬に深い感謝の念を抱き、無事に回復した遊馬の前で跪いた。

 

「我が真名はジークフリート。あなたには感謝しきれないほどの恩を受けた。この剣と命……マスターであるあなたに捧げることをここに誓う」

 

ジークフリート。

 

真竜ファブニールを倒した竜殺しの大英雄である。

 

すると遊馬は笑みを浮かべて手を差し伸べた。

 

「そんな堅苦しいのは良いって。俺たちはもう仲間だろ?だから、一緒に戦ってくれ!ジークフリート!」

 

「はっ……!」

 

ジークフリートはマスターである遊馬と握手をしてサーヴァントの契約を交わし、フェイトナンバーズのカードが現れる。

 

そしてもう一人、遊馬と契約を望むサーヴァントがいた。

 

「少年……君の事は皆から話を聞きました。勇敢なるあなたを守る為に、私も共に戦います」

 

「ゲオルギウス……ありがとう!一緒にフランスを守ろうぜ!」

 

「はい!」

 

ゲオルギウスも遊馬とサーヴァントの契約を交わし、もう一枚のフェイトナンバーズのカードが現れる。

 

ジークフリートの絵は鎧姿で大剣を担いだ騎士らしい姿が描かれて降り、ゲオルギウスは白馬に跨り剣を掲げた姿が描かれている。

 

無事にドラゴンに対して最強と言っても過言ではないジークフリートが回復し、ここでジャンヌは遊馬に提案する。

 

「遊馬君。いえ、マスター。私達の陣営の戦力は最大限まで揃ったはずです。今こそ、オルレアンへ向かいましょう」

 

「へへっ、俺もちょうどそう思っていたところだぜ。仲間も集まった、俺も全快だ。黒ジャンヌと決着をつけようぜ!!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

フランスにレイシフトしてから早数日、七人のサーヴァントが仲間となり……。

 

遊馬とアストラル。

 

マシュとジャンヌ。

 

アルトリアとエミヤ。

 

マリーとアマデウス。

 

清姫とエリザベート。

 

ジークフリートとゲオルギウス。

 

合計で十二人のパーティーとなり、かなりの大所帯となったがジャンヌ・オルタの陣営の戦力がまだ不明な点があるので味方が多いに越した事はない。

 

アルトリアとエミヤの二人を中心に作戦を考えるが遊馬は手を上げて意見を言う。

 

「みんな、黒ジャンヌは俺に任せてくれないか?」

 

「任せるとは、どう言う事ですか?」

 

ジャンヌが眉を寄せて尋ねると遊馬は手を握りしめて真剣な眼差しをする。

 

「あいつと真正面でぶつかりたいんだ。 俺とアストラルの持てる力の全てをぶつけてあいつの憎しみと悲しみを曝け出す」

 

「憎しみと悲しみ、ですか?」

 

「ああ。黒ジャンヌをただ倒すだけじゃダメな気がして……」

 

遊馬は初めて会った時からジャンヌ・オルタの事を気になっていた。

 

どうしてジャンヌ・オルタはあそこまで歪んでしまったのか?

 

その事をずっと考えていてジャンヌから生まれた負の感情の存在がジャンヌ・オルタであるならば全てを曝け出してぶつかりたいと遊馬は強く望んだ。

 

これは戦いである為、遊馬の考えは甘いと思われるがそれが遊馬の持つ強みだと理解しているアルトリア達は反論せずにそれに従った。

 

「遊馬君、よろしければ私も彼女との戦いに同行してもよろしいですか?彼女にはどうしても聞かなければならないことがあるので……」

 

ジャンヌも遊馬と同じようにジャンヌ・オルタの事をずっと考えていて遊馬と同行して確かめたいことがあった。

 

「ああ。良いぜ、ジャンヌ。一緒に黒ジャンヌのところへ行こうぜ!」

 

「はいっ!」

 

遊馬達の考えがまとまり、いよいよジャンヌ・オルタ達との決戦の時が近づく。

 

希望の未来を信じる者と絶望の未来を望む者……二人の想いが遂に激突する。

 

 

 

.




次回はいよいよ黒ジャンヌとの対決です。
まずは黒ジャンヌ以外のサーヴァントたちとバトルです。

原作ならここでマリー様がジャンヌ達を守るために消滅してしまいましたが、全員揃っていたので死亡フラグを回避しました。
ちなみに黒ジャンヌはアトランタルで魔力がかなり無くなっていたので回復に専念していました。


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ナンバーズ12 騎士王出陣!

今回は騎士王こと、アルトリアがメインです。
相手があの男ですからね……黒ジャンヌは次回に持ち越しです。


第一特異点で遊馬は味方となる全てのサーヴァントを集め、遂にジャンヌ・オルタたちと決着を付けるためにオルレアンへ向かう。

 

案の定、ワイバーンが空をうようよ飛んでおり、ここまで大量にいるとどこから召喚しているのか疑問に思うほどだった。

 

そして、先兵として二人のサーヴァントが襲来してきた。

 

「……フォウフォウ!」

 

「早速来たか!」

 

「フォウ、隠れてろよ!」

 

「フォキュー!」

 

「一人はアーチャー、もう一人はセイバー……いや、バーサーカーみたいだな」

 

一人は猫のような耳と尻尾が生えた獣人のような弓矢を待つ少女でジャンヌ・オルタによって凶化されたバーサーク・アーチャー。

 

もう一人は漆黒の鎧に赤黒い剣を持った騎士で他のバーサーク・サーヴァントとは違い、最初から狂化属性を与えられて召喚されたバーサーカーだった。

 

バーサーカーはアルトリアを見つめると文字通り狂ったかのように襲いかかる。

 

「Aurrrrrrr!!!」

 

「バーサーカーの相手は私が!!」

 

「アルトリア!?」

 

アルトリアはバーサーカーを引き連れて遊馬達から離れる。

 

「エミヤ、アルトリアの元へ行け!」

 

「マスター。しかし……」

 

「嫁を助けるのは旦那の役目だろ?」

 

「なっ!?わ、私はアルトリアの旦那ではない!!」

 

「あ、もしかして逆?アルトリアはアーサー王として男装していたし、エミヤはカルデアのオカンだから」

 

「ええい!どうしてそうなる!?」

 

「ああ、もう!いいから早く行け!令呪で命令するぞ!!」

 

「くっ……承知した!」

 

エミヤは顔を少し赤くしながらアルトリアの元へ向かった。

 

一方、バーサーク・アーチャーはマルタとは違って狂って頭が可笑しくなったかのように言葉を重ねている。

 

「……殺してやる……殺してやるぞ!誰も、彼も、この矢の前で散るがいい!」

 

バーサーク・アーチャーが構えた弓から二本の矢が空に放たれると空から大量の矢が雨のように降り注いで遊馬達を攻撃して来る。

 

遊馬は急いで希望皇ホープを召喚しようとしたが、それよりも早くゲオルギウスが剣を構えた。

 

「させません!『力屠る祝福の剣(アスカロン)』!!」

 

ゲオルギウスを中心にバリアのようなものが張られ、矢の雨が全て弾かれた。

 

それはゲオルギウスの剣、アスカロンの能力。

 

あらゆる害意と悪意から持ち主を遠ざける無敵の剣であり、敵を倒す意味の無敵でなく如何なる敵からも守る意味での無敵を意味している。

 

「さあ、マスター!」

 

「サンキュー、ゲオルギウス!俺のターン、ドロー!魔法カード、『ガガガ学園の緊急連絡網』を発動!デッキから『ガガガマジシャン』を特殊召喚!更に、ガガガマジシャンの効果でレベルを5にする!」

 

デッキからガガガマジシャンが呼び出され、腰のバックルの星が5に変化する。

 

「『ゴゴゴゴーレム』を通常召喚!そして速攻魔法、『スター・チェンジャー』を発動!フィールドのモンスターを選択し、レベルを一つ上下させる。ゴゴゴゴーレムのレベルを5にする!」

 

ゴゴゴゴーレムのレベルが5になり、レベル5のモンスターが二体揃った。

 

「俺はレベル5のガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

ガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「昏き王よ、疾く現れよ!『No.12 機甲忍者クリムゾン・シャドー』!!!」

 

空中に『12』の文字が浮かび上がると、地面から回転する大きな赤い手裏剣が現れ、変形すると忍者刀を逆手に持ち、左胸に『12』の刻印が刻まれた真紅の鎧を纏った忍者が見参した。

 

それは遊馬の兄弟子で忍者デッキの使い手である闇川がかつて所持していたナンバーズである。

 

「クリムゾン・シャドー、攻撃だ!」

 

クリムゾン・シャドーはアサシンのように素早い走りでバーサーク・アーチャーに一気に近付いて忍者刀を構える。

 

バーサーク・アーチャーは再び弓を構えて矢を連射してクリムゾン・シャドーを狙うが、遊馬が何の策も無くモンスターを特攻させる訳がなかった。

 

「クリムゾン・シャドーの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、このターン自分フィールドの忍者モンスターは戦闘と効果で破壊されない!!」

 

クリムゾン・シャドーがオーバーレイ・ユニットを体内に取り込んだその直後にバーサーク・アーチャーが放った矢が体に突き刺さった。

 

しかし、クリムゾン・シャドーは一切怯まず、しかも足の速度を緩めず一直線にバーサーク・アーチャーの元へ向かう。

 

「な、何で止まらない!?」

 

アーチャーのクラスに恥じない凄まじい矢の連射を繰り返すバーサーク・アーチャーだが、どれだけ矢が体に突き刺さろうともクリムゾン・シャドーは決して倒れない。

 

「クリムゾン・シャドー自体が忍者モンスター。つまり、どれだけその身に矢に打たれようとも破壊されない!」

 

自身と仲間である忍者モンスターに無敵の肉体を与える、それがクリムゾン・シャドーの能力である。

 

「行けぇっ!クリムゾン・シャドー!月影紅斬り!!」

 

矢の雨を掻い潜り、遂にバーサーク・アーチャーを補足したクリムゾン・シャドーの忍者刀の一閃が煌めいた。

 

忍者刀がバーサーク・アーチャーの体を斬りつけ、体から血が流れると、ようやくと言った様子で穏やかな表情をする。

 

「……これでいい、これでいい。まったく、厄介でどうしようもなく損な役回りだった。それにしてもあなた、面白い力を使うマスターね……頑張りなさい」

 

「おい、あんたの名前は!?」

 

「私の名はーーーー」

 

バーサーク・アーチャーは遊馬に名を告げる前に消滅してしまい、フェイトナンバーズだけが残ってしまう。

 

遊馬はバーサーク・アーチャーの名前を聞けなかったことを後悔しながらフェイトナンバーズのカードを回収し、急いでアルトリアの元へ急いだ。

 

一方、アルトリアとバーサーカーの戦いは嵐のような剣戟を繰り広げていた。

 

エミヤも弓矢を投影して援護に回っていたが、バーサーカーの剣技は凄まじく二人相手でも互角に渡り合っていた。

 

遊馬達が駆けつけ、アルトリアは目の前で戦っているバーサーカーに哀れみの表情を浮かべながら呟いた。

 

「……ランスロット、あなたはまだ……」

 

ランスロット。

 

それはアルトリアの配下で円卓の騎士の一人。

 

湖の騎士にして裏切りの騎士である。

 

その名前が耳に届いた遊馬達はまさかバーサーカーがランスロットとは夢にも思わず目を見開いて驚いた。

 

「おいおい!まさかの円卓の騎士の身内かよ!?」

 

「ランス、ロット……?」

 

マシュはランスロットを見つめると何故だが胸がざわついて胸元で強く手を握りしめた。

 

遊馬はアルトリアの動きがいつもと違い、ランスロットの事で迷いがあるのではないかと気付いた。

 

「アルトリア!詳しくは知らないけど、ランスロットをどうしたいんだ!?」

 

「マスター、私は……」

 

「お前にとって大切な仲間だったんだろ!?辛いことがあっただろうけど、今のお前は昔のアーサー王とは違うはずだ!自分の今の気持ちを正直になるんだ!!」

 

「今の気持ち……」

 

アルトリアは一度バーサーカーとなったランスロットと対峙した事がある。

 

あの時は答えを見つけられず倒す事しか出来なかったが、今は違う。

 

大切な人との出会いが自分を変えた。

 

だからこそ、ランスロットと向き合って答えを出す。

 

「ランスロット、私はあなたを許します」

 

それが今のアルトリアの出した答えでこれ以上苦しませないように一刻も早く倒す事を決意する。

 

「マスター!私をフェイトナンバーズで召喚してください!ランスロットとここにいる全てのワイバーンを倒します!」

 

「おう!行くぜ、アルトリア!俺のターン、ドロー!トイナイトを通常召喚!相手フィールドに敵が存在し、自分フィールドにレベル4のモンスターのみ存在する時、手札からトラブル・ダイバーを特殊召喚!」

 

トイナイトが現れ、その隣にダイバーの格好をした小さな虎のようなモンスターが現れる。

 

「来い、アルトリア!」

 

「はい!」

 

アルトリアは遊馬の元へ戻ろうとするが、アルトリアに執着するランスロットの前にエミヤが立ち向かう。

 

「Aurrrrrthrrrrr!!」

 

「アルトリアの邪魔はさせない。しばらく付き合ってもらおう!」

 

「エミヤよ!」

 

「私達も助太刀します!」

 

ジークフリートとゲオルギウスも助太刀をし、三人がかりでランスロットを止める。

 

その間に遊馬がデッキケースからアルトリアのフェイトナンバーズを取り出し、アルトリアは光の粒子となってカードの中に入る。

 

「レベル4のトイナイトとトラブル・ダイバーでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

トイナイトとトラブル・ダイバーが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「誇り高き騎士の王よ、聖なる星の輝きを秘めた剣で常闇の未来を切り開け!!」

 

光の爆発と共に金色の光が天に昇り、アルトリアの新たな姿が顕現する。

 

「現れよ!『FNo.39 円卓の騎士王 アルトリア』!!」

 

金色の光が弾け、アルトリアが戦闘時に装着している鎧に加え、両肩には希望皇ホープと同じ白のプロテクターに空を自由に飛ぶことができる双翼が装着されていた。

 

アルトリアの右手には約束された勝利の剣、そして左手には驚くべきことにもう一つの聖剣が握られていた。

 

「あの剣は、まさか……!?」

 

その剣の事を知っていたエミヤはアルトリアの手にそれがある事を信じられなかった。

 

何故ならその剣は『失われて』、アルトリアが二度と手にすることが出来ないからだ。

 

アルトリアも左手にある聖剣に目を疑ってその名を呟いた。

 

「『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』……?」

 

それはアルトリアが王になるために石から引き抜いた選定の剣で、過去に失われた聖剣だった。

 

サーヴァントとして召喚されながらも宝具として使うことが出来なかった勝利すべき黄金の剣がアルトリアの手にある理由……それはフェイトナンバーズの力によるものだ。

 

ナンバーズは人の希望を写す鏡、それは想いや欲望や願い……触れた人の心が写される。

 

そして、フェイトナンバーズは遊馬と英霊たちの力が合わさった結晶……契約した英霊の心に映された力を具現化する事ができる。

 

アルトリアにとって勝利すべき黄金の剣は馴染みのある大切な剣で二度と触れることが出来ないと思っていたので思わず一瞬だけ笑みを浮かべ、すぐにキリッと真剣な表情となる。

 

「マスター!いきます!」

 

「ああ!かっとビングだ、アルトリア!アルトリアの効果発動!オーバーレイ・ユニットを二つ使い、俺の手札を三枚除外する!」

 

アルトリアの周りにあるオーバーレイ・ユニットが一つずつ約束された勝利の剣と勝利すべき黄金の剣に取り込まれ、刀身に美しい黄金の輝きを宿す。

 

そして、遊馬の手札が三枚除外されて使えなくなるが、その代わりアルトリアの持つ強力な効果を発動出来る。

 

「アルトリアの攻撃力を二倍にし、敵全てに攻撃することができる!!!」

 

双つの聖剣……約束された勝利の剣と勝利すべき黄金の剣の黄金の輝きが増していき、その光は夜空に輝く星の如き閃光を放っていた。

 

ランスロットはエミヤ達を退けて高く飛び上がり、ワイバーンを足場代わりにしてアルトリアに近づいて漆黒の剣を振り下ろした。

 

アルトリアは強い意志が込められた瞳で見開き、聖剣を持つ両腕を大きく振り上げた。

 

「未来を切り開く、双つの輝ける星の剣!!」

 

そして、双つの聖剣を十字に交差させるように振り下ろした。

 

「『双星煌めく勝利と黄金の剣(ダブル・エクス・カリバー)』!!!」

 

交差させるように振り下ろした聖剣の輝き。

 

それはアルトリアの目の前から半径数百メートルにも渡る巨大な極光となり、ランスロットを含む全てのワイバーンを一瞬にして光の濁流に呑み込まれた。

 

ランスロットの身を包んだ漆黒の鎧が砕け散り、消滅しながらアルトリアに向けて手を伸ばした。

 

「王、よ……私、は……」

 

消滅していくランスロットにアルトリアは微笑みながら言葉を送る。

 

「ランスロット、もう良いのです。あなたは十分苦しんだ……あなたの罪を、許します」

 

その言葉にランスロットは一筋の涙を流し、静かに消滅した。

 

光の濁流が消えると、ワイバーンの残骸は一切無く、最後に残ったのはランスロットのフェイトナンバーズのカードだけだった。

 

アルトリアはそのカードを静かに抱き寄せながら遊馬たちの元へと降りる。

 

「マスター、ありがとうございます」

 

ランスロットのフェイトナンバーズのカードを遊馬に渡す。

 

「アルトリア、少しは吹っ切れたか?」

 

「そうですね……もし、次彼に会った時はちゃんと面と面で向かって話し合い……いえ、殴り合います!」

 

爽やかな笑顔で拳を作るアルトリアに遊馬達は耳を疑って目を見開いた。

 

「な、殴り合うの!?」

 

「ええ、きっと殴り合ったほうがお互いスッキリするので!」

 

「君がそれで良いならいいが……」

 

「全く本当に君は変わったなぁ……」

 

アストラルとエミヤは苦笑いを浮かべ、マシュ達も思わず笑いがこぼれた。

 

二人のサーヴァントを倒し、その直後にオルレアンから複数の生体反応を感知し、遊馬達は身構える。

 

そして、遊馬達の前に現れたのはジャンヌ・オルタと四人のサーヴァントである。

 

そして、四人のサーヴァントの正体はエミヤ達の情報収集や事前にその存在を知っていた清姫とエリザベートによって判明していた。

 

可憐な騎士の姿をしたバーサーク・セイバーはマリーのフランス王家に仕えていた文武両道の剣士、シュヴァリエ・デオン。

 

ダンディな貴族風の男性のバーサーク・ランサーは吸血鬼ドラキュラのモデルと言われているヴラド三世。

 

青年のアサシンはパリの死刑執行を務める家の当主でかつてマリーを処刑した張本人であるサンソン。

 

そして、バーサーク・アサシンは驚くべきことにエリザベートの未来の存在であり、暗黒面を司る存在のカーミラ。

 

ちなみにカーミラがエリザベートの未来の存在と聞いて遊馬は「お前に何があったんだ!?」と本気で心配し、余計なお世話だとエリザベートに殴られた。

 

そして、遊馬陣営のサーヴァントとジャンヌ・オルタ陣営のサーヴァントがそれぞれの相手をする。

 

アルトリアとエミヤはシュヴァリエ。

 

マリーとアマデウスはサンソン。

 

清姫とエリザベートはカーミラ。

 

ジークフリートとゲオルギウスはウラド三世。

 

因縁や相性などでお互いの相手を決め、最後に残ったのはジャンヌ・オルタの相手は……。

 

「決着をつけようぜ、黒ジャンヌ」

 

「君が望む絶望の未来を打ち砕く!」

 

「これ以上、誰かを死なせたりしません」

 

「あなたをここで止めます!」

 

遊馬とアストラル、マシュとジャンヌの四人である。

 

「来なさい……今度こそ、全てに決着をつけますわ」

 

竜の魔女……ジャンヌ・オルタとの最後の戦いが始まる。

 

ジャンヌ・オルタが召喚する災厄の結晶である究極の竜種。

 

それに対抗するのは遊馬のデッキに眠る銀河の輝きを秘めた宇宙最強の竜。

 

今、フランスの地で究極の竜対決が繰り広げられようとしていた。

 

 

 

.




次回、いよいよ黒ジャンヌちゃんと全面対決です!
皆さんお待ちかねの最強のドラゴン対決です!
今更ですが私のやりたい放題で行きます!(笑)


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ナンバーズ13 頂上決戦!銀河究極龍VS邪竜!!

ふぃー!
お待たせしました、皆さんお待ちかねの最強のドラゴン対決です!

いよいよスタートした遊戯王VRAINS、デュエルは来週ですが掴みは良かったと思います。
謎が多いので無事に回収してくれればと思います。
主人公の遊作がクールでカッコよく、個人的に好きなキャラです。
遊馬みたいな弟キャラもいいですが、遊星と同じクールキャラも良いですよね。
興味ないと言いながら葵ちゃんことブルーエンジェルを助けたことは好感を持てました。
次回に期待です。


ジャンヌ・オルタとの最後の戦い。

 

遊馬とアストラル、ジャンヌとマシュの四人が対峙する。

 

「こんにちは、私の残り滓。そして……ユウマ、今日こそあなたのドラゴンを全ていただくわ」

 

「俺たちのドラゴンは渡さねえよ、黒ジャンヌ!」

 

「いいえ、私は残骸でもないし、そもそも貴女でもありませんよ、竜の魔女」

 

ジャンヌはジャンヌ・オルタに対して哀れみを持った表情で見つめていた。

 

「貴女は私でしょう?何を言っているのです?」

 

「これまでの貴女の行いを見てずっと不思議に思っていました。そして、貴女に一つだけ伺いたいことがあります……」

 

ジャンヌは真実を問いただすために極めて簡単な質問をする。

 

「貴女は、自分の家族を覚えていますか?」

 

「…………え?」

 

あまりにも単純な質問、記憶喪失にでもならない限りすぐにでも答えられる質問である。

 

しかし、ジャンヌ・オルタは答えることが出来ずに言葉を失っていた。

 

「ジャンヌ、さん……?」

 

「ジャンヌ、何だよそんな質問……?」

 

ジャンヌ・オルタへの意味不明な質問に疑問を抱くマシュと遊馬。

 

そして、顎に手を添えて考えていたアストラルはその質問に全ての答えが判明した。

 

「なるほど、これで全てのピースが揃った……もう一人のジャンヌよ、私は君の正体を突き止めた」

 

「正体?何を言い出すの?私は本物のジャンヌ・ダルクよ」

 

「……私は君に会った時から一つの仮説を立てた」

 

「仮説?」

 

「そう、この世界はジャンヌ・ダルクが処刑されてからまだ僅かな時しか経過していない。それなのに、何故ジャンヌが二人も存在するのか?」

 

同じく後の時代のフランスで処刑されたマリーの話やアストラル自身にも起きた『心の闇』……それが原因ではないかと最初に仮定を考えた。

 

「最初は処刑された経験があるマリーが考えたように聖女のようなジャンヌにも僅かながら憎しみの心があったからもう一人のジャンヌが生まれたのかと考えた。しかし、それは違う……何故ならジャンヌ自身が処刑されて死ぬまで『恨んでいない』と証言したからだ」

 

信仰心の強いジャンヌは鋼の心といっても過言ではなく、拷問を受け、火刑で処刑されてもその事を一度も恨んではいない。

 

「アストラル、何が言いたいんだよ?」

 

「……私はジャンヌの先ほどの質問で確信した。仮に本当に彼女がジャンヌの心の闇から生まれたのなら、生前の同じ記憶があるのは当然の事だ」

 

「記憶……?」

 

「しかし、彼女は『大切な家族との記憶が一切ない』。これは明らかな矛盾だ」

 

アストラルは仮説を元に推理していき、ジャンヌの心やジャンヌ・オルタの矛盾点、そして全ての元凶である聖杯の存在から一つの答えを導いた。

 

アストラルはジャンヌ・オルタをビシッと指差し、その正体を突き止めた。

 

「君はジャンヌから生まれたもう一人の存在ではない……君の正体は『聖杯によって生み出され、憎しみの心を植え付けられたジャンヌ・ダルクと言う名の虚像な存在』だ!」

 

ジャンヌ・オルタ……それはもう一人のジャンヌ・ダルクではなく聖杯によって生み出された存在。

 

つまり、ジャンヌの名を持つ偽物である。

 

その真実を告げられ、ジャンヌ・オルタは旗を地面に落として自分の手を見つめる。

 

「私が、虚像……?う、嘘だ……私が偽物のはずがない、偽物はそっちだ!私が、私が本物のジャンヌ・ダルクよ!!」

 

動揺して体が震えているジャンヌ・オルタ。

 

「だったら、あなたが本物なら家族の名前を言ってください!私のお父さんとお母さんの名前を!!例え戦場の記憶が強烈であろうとただの田舎娘としての記憶の方が遥かに多いのです!!忘れるわけがない、あの牧歌的な生活を!!」

 

ジャンヌが両親の名前を改めて問うがジャンヌ・オルタは幾ら思い出そうとしても思い出せない。

 

否、思い出せるわけがなかった。

 

何故ならジャンヌ・オルタには戦争で戦い、処刑された以前の記憶が存在しないからだ。

 

「あっ、あぁ……何で?何でわからないの?私は、私は……うわぁああああああっ!!!」

 

ジャンヌ・オルタは頭を抱えて心が壊れるように絶叫した。

 

自分が偽物だった、フランスに復讐するために作られた存在だった。

 

絶望を与える存在である自分が絶望に打ちひしがれたその時。

 

「別に偽物でもいいんじゃねえの?」

 

遊馬が臆することなくいつの間にかジャンヌ・オルタに近づいていた。

 

「な、何……!?何をしに来たんですか!?」

 

「いや、ちょっと触りに」

 

遊馬はポンポンとジャンヌ・オルタの頭に触れて感触を確かめる。

 

「きゃっ!?は、離れろ!!」

 

ジャンヌ・オルタは地面に落ちた旗を拾って振り払い、遊馬はその場でバク転をして回避する。

 

「よっと!何だ、偽物でもちゃんと触れるし体温があるじゃん。それに、心があるじゃん」

 

「だからどうした!?私は……」

 

「ジャンヌじゃなかったからって別に悲観する必要ないだろ?」

 

「何……?」

 

「せっかく肉体と魂がこうしてちゃんとあるんだから、もう一人のジャンヌ・ダルクじゃなくて、別の新しい自分になればいいじゃん」

 

「新しい、自分……?」

 

それは遊馬がジャンヌ・オルタをジャンヌの偽物ではなく、一人の少女として見ていた。

 

遊馬は優しい笑みを浮かべて手を差し伸べる。

 

「なあ、フランスの復讐をやめて俺たちと一緒に未来を守るために戦おうぜ」

 

敵に手を差し伸べる遊馬にジャンヌ・オルタは困惑する。

 

「て、敵だった私がお前の仲間になれと言うのか!?」

 

「うん」

 

「あっさり言うな!」

 

「お前さ、復讐以外何も知らないだろ?だからそんなに歪んでいるんだよな。あ、そうだ!黒ジャンヌ、俺とデュエルしようぜ!!」

 

「デュエル……だと!?」

 

遊馬は思いついたようにデュエルディスクからデッキを外してジャンヌに見せる。

 

「ああ!俺のカードを貸してやるからさ、一緒にデュエルをしようぜ!デュエルをすれば誰とでも仲良くなって仲間になれる!!」

 

デュエルをすれば誰とでも仲間になれる。

 

それは遊馬の信じる道で実現してきた答えだった。

 

「ふざけるな!そんなことで私に宿る憎しみの炎が消えると思うのか!?」

 

「だったら、俺が受け止めるよ」

 

遊馬はデュエルディスクにデッキをセットし直すと、拳で自分の胸を軽く叩いて掛かってこいと主張する。

 

「お前の憎しみや悲しみ、負の感情を全て俺にぶつけてこい。俺が全部受け止めてやる」

 

憎しみや悲しみを受け止める……そんな事を言われたのは先ほど言った仲間になろうと同じく初めてだった。

 

この子供が本当に自分の負の感情を本当に受け止められるのか、ジャンヌ・オルタは地面に落ちた旗を取って立ち上がる。

 

「やってみなさい……受け止めるものなら受け止めてみなさい!!!私の全てを!!!」

 

その答えは戦いの果てに分かる。

 

ジャンヌ・オルタの体から邪悪なオーラが吹き荒れ、竜の紋章が描かれた旗を広げる。

 

背後に旗と同じ竜の紋章が描かれた巨大な魔法陣が展開され、ジャンヌ・オルタは自身が信じる最強の竜の名を呼んだ。

 

「現れよ、我が最強の竜!!邪竜・ファヴニール!!!」

 

『グォオオオオオオオオオッ!!!』

 

魔法陣から現れたのはこの世界において最強の存在、破壊の象徴である竜種。

 

これまで召喚して来たワイバーンとは比べ物にならないほどの巨体に睨みつけるだけで敵を殺せそうな恐ろしい相貌に獲物を一瞬で喰いちぎる鋭い牙。

 

ファヴニール……元々は人間であったが、北欧神話の神、オーディン・トール・ロキを捕えた際に彼らから莫大な黄金をせしめるものの、黄金を独り占めした父を兄弟で謀殺した後、弟を追放して財宝を手に納め、誰にも渡さないように竜に返じて巣籠りしたとされている。

 

神話の邪竜が目の前で召喚され、マシュとジャンヌはその恐ろしさに体が震えていたが、遊馬とアストラルは平然としていた。

 

「あれがジャンヌの憎しみのドラゴンか……」

 

「しかも北欧神話の宝を守る邪竜、ファヴニール……高名なドラゴンだな」

 

むしろドラゴンに対する敗北の恐怖を何度も味わっているので慣れてしまっていた。

 

簡単に言えば慣れてしまえば怖いもの無しである。

 

「遊馬、こちらも全力で行くぞ!!」

 

「ああ!ドラゴン対決と行こうぜ!俺のターン、ドロー!魔法カード、『フォトン・サンクチュアリ』を発動!自分フィールドに攻撃力2000、守備力0のフォトントークン二体を守備表示で特殊召喚する!」

 

遊馬の前にふわふわと宙に浮く光の球体みたいな生き物が二体召喚される。

 

高い攻撃力だがデメリットで攻撃できない制約を持つが、それは遊馬の新たな力を召喚する為の布石である。

 

「そして、攻撃力2000以上のモンスター二体をリリースし、手札から特殊召喚!」

 

二体のフォトントークンが生贄に捧げられると中央に宝石が埋め込まれた赤い十字架を形取った物体が出現し、遊馬はそれを手にする。

 

「カイト、力を借りるぜ!闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ!」

 

十字架を空に向かって投げ飛ばし、回転しながら中央の宝石に銀河の星々の輝きが収束される。

 

「光の化身、ここに降臨!!」

 

回転する十字架から光が漏れ出し、それが両手両足、胴体と翼と尻尾、そして頭部が形成される。

 

遊馬達の前に現れたのは白く輝く体に藍色の装甲を身につけた光の竜。

 

「現れろ、『銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)』!!!」

 

『グォアアアアアアアッ!!!』

 

体は光の粒子で構成され、敵を睨みつける二つの眼には無数の星々が集う銀河の輝きが宿っている。

 

それは遊馬のライバルにして仲間である天城カイトのエースモンスター。

 

「綺麗……」

 

「これが遊馬くんのドラゴン……」

 

マシュとジャンヌは銀河眼の光子竜の美しさに見惚れて言葉が全く出ないほどだった。

 

そして、ジャンヌ・オルタはリバイス・ドラゴンやファヴニールとは異なる姿と力を宿す銀河眼の光子竜に目を見開き、呆然としていた。

 

「美しい……こんな竜が存在するなんて……」

 

そもそも銀河眼の光子竜はジャンヌ・オルタたちから見ても異質なドラゴンである。

 

ドラゴンは西洋では恐怖や力の象徴であり、邪悪な存在で闇や炎などの属性を持つのがほとんどである。

 

しかし、銀河眼の光子竜は地球から遠く離れた宇宙に輝く銀河の煌めきをその目に秘め、異世界の力によって誕生した正に異次元のドラゴンである。

 

ファヴニールは最強のドラゴンは自分だけだと言わんばかりに翼を広げて低空で飛び、銀河眼の光子竜に襲い掛かる。

 

銀河眼の光子竜は光り輝く翼を広げて空へと飛翔し、ファヴニールはその後を追いかける。

 

いち早く空に飛び上がった銀河眼の光子竜は太陽を背にしてファヴニールの視界を一瞬だけ遮り、口を大きく開ける。

 

「行け!銀河眼の光子竜の攻撃!破滅のフォトン・ストリーム!!」

 

口に光の粒子を溜め、一気に放出して光の竜の咆哮を放つ。

 

光の竜の咆哮がファヴニールの腹部に直撃し、強烈な咆哮のダメージを受けて地面にそのまま撃墜される。

 

ファヴニールが動けない隙に遊馬は勝利への布石を整える。

 

「魔法カード、『銀河遠征(ギャラクシー・エクスペディション)』!自分フィールドにフォトン、もしくはギャラクシーと名のついたモンスターがいる時、デッキからレベル5以上のフォトン、もしくはギャラクシーと名のついたモンスターを守備表示で特殊召喚する!来い、『銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)』!!」

 

デッキからサーフボードに似た乗り物に乗った騎士が銀河から飛来し、銀河眼の光子竜の隣に立つ。

 

「そして、カードを二枚伏せてターンエンドだ!」

 

「ふふふっ……私の憎しみを受け止めるために竜を繰り出したけど、私の力を忘れていたようね!!」

 

ジャンヌ・オルタの異名である竜の魔女と同じ名のスキル、『竜の魔女』は竜を召喚し、操る力を持つ。

 

このままでは銀河眼の光子竜はジャンヌ・オルタに洗脳されてしまう。

 

遊馬は伏せていた二枚のカードに突破口があった。

 

「罠カード!『ワンダー・エクシーズ』!自分フィールドのモンスターを素材にエクシーズ召喚する!俺はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ!」

 

「銀河眼の光子竜でエクシーズ!?」

 

銀河眼の光子竜と銀河騎士が光となって地面ではなく、天に昇る。

 

「二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

今まで遊馬が行ってきたエクシーズ召喚とは異なり、モンスターエクシーズがすぐに召喚されるのではなかった。

 

遊馬の目の前に突如として青白い宝玉が埋め込まれ、不思議な赤い文字が刻まれた十字の剣が現れた。

 

遊馬が剣の柄を握ると、遊馬の体が青く輝く。

 

「カイト、もう一度行くぜ!うぉおおおおおおおおおっ!かっとビングだ、俺!!」

 

バク転から高く跳び上がり、剣を思いっきり投げ飛ばして地面に突き刺した。

 

「現れろ!銀河究極龍、No.62!!」

 

空中に『62』の数字が浮かび、地面に突き刺した剣が周囲に向けて閃光を放つ。

 

「宇宙にさまよう光と闇。その狭間に眠りし、哀しきドラゴンたちよ……」

 

異次元に向かった銀河眼の光子竜の体がひび割れて弾け飛び、宇宙に眠る数多のドラゴン達の輝きが一斉に集まる。

 

「その力を集わせ、真実の扉を開け!!」

 

そして、新たな装甲と翼を得て銀河眼の光子竜が究極の姿へと進化する。

 

「『銀 河 眼 の(ギャラクシーアイズ・)光子竜皇(プライム・フォトン・ドラゴン)』!!!」

 

それは銀河眼の光子竜がアストラル世界の力によって究極の竜として生まれ変わった姿。

 

人類の未来を救う最後の希望を守るために顕現させたカイトの最強のドラゴンである。

 

「美しい……」

 

ジャンヌ・オルタは今までのドラゴンとはかけ離れたこの世のものとは思えないほどの美しさに見惚れてしまう。

 

「これが宇宙最強のドラゴンの真の姿……」

 

「かっこいい……」

 

銀河眼の光子竜が更なる進化を遂げて勇ましさと美しさが高まり、まるで救世の神が降臨したかのような錯覚が見られるほどだった。

 

銀河眼の光子竜皇の降臨に四方に散った敵味方関係なしに全てのサーヴァント達は目を疑い、驚愕した。

 

「シロウ、あれを!」

 

「おぉ……まさかこれほどまでに美しいドラゴンを……ははっ、全くうちのマスターには驚かされるよ!」

 

「そんな……竜の魔女が繰り出すファブニールよりも……一体あの子供は何者なんですか!?」

 

「私達の自慢のマスターですよ!」

 

「そうさ。マスターには無限の可能性がある!」

 

アルトリアとエミヤはまだ見ぬ力を宿した遊馬とアストラルに無限の可能性を抱き、

 

「見て見てアマデウス!マスターが凄いドラゴンを呼び出したわ!」

 

「見ているよ、マリー。銀河の竜か……よし、マスターに敬意を評して再び召喚された時に曲を作ろう!」

 

「二人で仲睦まじく話し合うな!!」

 

「全くうるさい奴だ、早く倒してもっとあの竜の姿をこの目に焼き付けよう!」

 

「ええ!行きますわよ、アマデウス!」

 

マリーとアマデウスは神々しい輝きに感動し、

 

「旦那様……素敵です、やはり私の目に狂いはありませんでした」

 

「全く、ただの子供じゃないと思っていたけどあんな竜を召喚出来るなんて規格外過ぎるわよ!?」

 

「何よあれ……あんなの反則じゃない……」

 

清姫とエリザベートは全く逆の反応をしながらその美しさにうっとりし、

 

「ははは……この戦、竜の魔女がいる限り負けることはないと思っていたが、そうでもないらしいな」

 

「ファブニールをも超える力を持つ竜か……底が知れないな、我々のマスターは」

 

「早く片付けましょう、私たちのマスターの戦いを見届けましょう!」

 

ジークフリートとゲオルギウスは共に戦えることを喜んだ。

 

「欲しい……これほどまでにドラゴンを望み、欲したことはないわ!!」

 

竜の魔女の名にかけて銀河眼の光子竜皇を手に入れようとしたが、遊馬が更なる手を打つ。

 

「させるか!罠カード、『エクシーズ・ヴェール』!」

 

伏せていた二枚目の罠カード、それはリバイス・ドラゴンが描かれたカードで銀河眼の光子竜皇に光の膜が張られる。

 

「無駄だ!その星の如き美しい竜は私のものだ!さあ、銀河眼の光子竜皇……私に従いなさい!!私のものになりなさい!!」

 

『……グォアアアアアアアッ!!!』

 

ジャンヌ・オルタは手を伸ばして銀河眼の光子竜皇を自分の元に引きよせようとしたが、

銀河眼の光子竜皇は咆哮を上げて威嚇する。

 

「な、何で……何で竜の魔女のスキルが効かないの!?リバイス・ドラゴンには効いたのに!?」

 

銀河眼の光子竜皇が操れないことにジャンヌ・オルタは困惑するが、その理由は遊馬が発動した二枚目の罠カードに秘密がある。

 

「エクシーズ・ヴェールがフィールドに存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する、オーバーレイ・ユニットを持ったモンスターエクシーズは効果の対象にならない!」

 

「つまり、これで黒ジャンヌが俺たちのドラゴンを洗脳する能力を封じたってことだ!」

 

「そんな事が……くっ、それなら力付くで奪うまで!やりなさい、ファブニール!」

 

ようやく起き上がったファヴニールは口に炎を蓄え、炎の竜の咆哮を放った。

 

特大の火炎放射のような竜の咆哮に銀河眼の光子竜皇は呑み込まれようとしていた。

 

「迎え撃て!エタニティ・フォトン・ストリーム!!」

 

先ほどの光の竜の咆哮とは異なり、まるで闇を貫くレーザービームのような竜の咆哮が煌めいた。

 

炎の竜の咆哮を真正面から撃ち貫いてファヴニールを逆に呑み込んだ。

 

「ファヴニール!?」

 

光の竜の咆哮に呑み込まれたファヴニールの体はたった一撃で体全身がボロボロになってしまう。

 

鱗は焼け焦げ、翼は折れ、もはや立つのもやっとだった。

 

「そんな、ファヴニールがこうも簡単に……?」

 

一方的にファヴニールを痛めつけるほどの力を持つ銀河眼の光子竜皇にジャンヌは恐怖よりも興奮の方が強く感じた。

 

銀河眼の光子竜皇がファヴニールよりも遥かに強い理由はその起源や誕生理由にあった。

 

銀河眼の光子竜皇は遊馬とアストラルのいた世界……宇宙の創造神である一匹のドラゴンが三つに分かれたうちの一匹であり、月で誕生した特別なドラゴンなのである。

 

そして、遊馬はジャンヌ・オルタとの決着をつけるために銀河眼の光子竜皇に最後の攻撃命令を下す。

 

「これで決める……俺のターン、ドロー!行くぜ、銀河眼の光子竜皇でファブニールに攻撃!!!」

 

『グォアアアアアアアッ!!!』

 

銀河眼の光子竜皇の銀河の眼が輝きを増し、咆哮を轟かせる。

 

「この瞬間、銀河眼の光子竜皇の効果発動!戦闘を行うダメージ計算時にオーバーレイ・ユニットを一つ使い、銀河眼の光子竜皇の攻撃力をフィールドのモンスターエクシーズのランクの合計×200ポイントアップする!」

 

銀河眼の光子竜皇はオーバーレイ・ユニットを一つ喰らい、自身の体から強烈な光を放っていく。

 

銀河眼の光子竜皇の攻撃力は4000、ランクは8。

 

効果により8×200ポイント……銀河眼の光子竜皇の攻撃力が1600ポイントアップし、合計攻撃力が驚異の5600となる。

 

「行け!銀河眼の光子竜皇!」

 

「ジャンヌの憎しみを打ち砕け!!」

 

遊馬とアストラルは拳を握りしめ、二人で一緒に攻撃を命令する。

 

「「エタニティ・フォトン・ストリーム!!!」」

 

全力全開の竜の咆哮を轟かせ、膨大な光の濁流が放たれる。

 

過去を打ち破り、未来を切り開く希望の光。

 

ファヴニールは炎の竜の咆哮を放つが、咆哮ごと光に全てを呑み込まれた。

 

光に呑み込まれたファヴニールは命を絶たれ、ジャンヌ・オルタの前で倒れる。

 

フランスの地で起きたドラゴン対決……憎しみの邪竜を打ち砕き、希望を宿す光の竜皇に軍配が上がった。

 

「ファヴニール……」

 

ジャンヌ・オルタは目の前で倒れているファヴニールの姿を見て呆然としながら手を差し伸べた。

 

指が触れた瞬間、ファヴニールの体は光の粒子となってジャンヌ・オルタの前から消滅した。

 

「まさか……竜殺しでもないのに、ファヴニール以上の竜を出されて倒すなんて……」

 

自分の憎しみの象徴でもあるファヴニール。

 

それが完膚なきまで倒され、ジャンヌ・オルタは憎しみや悲しみの負の感情が静かに消えていく。

 

それは燃え盛る炎が雨に打たれて消えゆくように……。

 

「ジャンヌ」

 

自分の名を呼ばれてハッと見上げるとそこには遊馬がいた。

 

「ユウマ……」

 

「来いよ、俺たちのところへ」

 

もう一度近づいた遊馬は改めて手を差し伸べた。

 

ジャンヌ・オルタはこの世界に神は存在しないと思っていた。

 

だけど、今だけは少しだけ違っていた。

 

自分よりも年下の少年が差し伸べたその手は一瞬だけ救いの神が差し伸べた手に見えた。

 

戦いの武器である旗を手放し、震える手で遊馬の手を取ろうとした。

 

ジャンヌ・オルタの敗退と和解……邪竜百年戦争に終わりが近付こうとしていた。

 

しかし、遊馬達にはまだ戦うべき最後の敵が残っているのだった。

 

 

 

.




次回、第1章最終回です。
ジャンヌ・オルタを遊馬が救うことができるのか楽しみに待っていてください。

前回登場したアルトリアのFNo.の効果詳細を載せます。

FNo.39 円卓の騎士王 アルトリア
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000
レベル4モンスター×2
このカードのX素材を2つ取り除き、手札を3枚除外して発動できる。
ターン終了時までこのカードの攻撃力を2倍にし、相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃できる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

どうですか?
大人気セイバーでコストが重い感じを出して見ました。
強いですが罠にもちろん弱いです(笑)


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ナンバーズ14 竜の魔女を救え!希望と絆の英雄、降臨!!

先週発売したコレパで何とか新規ナンバーズを揃えました。
マネキンキャット当たらなすぎてヤバかったですが友人に譲ってもらえて幸いでした。
ヴレインズ第2話、デコード・トーカーがカッコよくて震えました。
無事にスターターを買えて良かったです。
まだ遊作は謎の生命体を人質だから信頼感ゼロですね。
そのうち遊馬とアストラルみたいな関係になってくれればいいですね。
今回はゼアルの色々な要素が盛りだくさんです。



ジャンヌ・オルタの憎しみの象徴であるファヴニールを銀河眼の光子皇竜で打ち倒した遊馬は座り込むジャンヌ・オルタに対して手を差し伸べた。

 

仲間になろうと差し伸べたその手はジャンヌ・オルタにとって救いの神が現れたのだと錯覚し、震えながら手を伸ばした。

 

その時、ジャンヌ・オルタの背後に闇が現れた。

 

「私の聖女に触れるな!!」

 

不気味な声と共に闇の中から魔力弾が放たれ、とっさに両腕でガードした遊馬を吹き飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

「遊馬!」

 

「遊馬君、大丈夫ですか!?」

 

「この声は……まさか!?」

 

ジャンヌはその声に聞き覚えがあり、闇から一つの影が現れた。

 

それは幾重にも重ねたローブと貴金属に身を包み、眼を広く剝いた異相をした長身の男性だった。

 

「ジル……」

 

ジャンヌ・オルタは長身の男性の名を呟いた。

 

「ジル……?ジャンヌと共にオルレアン奪還を果たした『ジル・ド・レェ』か!?」

 

ジル・ド・レェ。

 

フランスの貴族軍人でジャンヌと共にオルレアン奪回を果たした英雄だが、ジャンヌの処刑により絶望し、自分の領地に住む近隣の少年を拉致して殺害した殺人鬼である。

 

「まさか、聖杯で黒ジャンヌさんを作り出したのは……!?」

 

「ジル、あなたどうして……?」

 

「まさかファヴニールを倒すとは……しかし、ジャンヌに触れさせませぬぞ!」

 

「ジル、待って。私は……」

 

「さあ、行きましょう。今は逃げるべきです」

 

「ま、待って!!」

 

ジャンヌ・オルタの制止を聞かず、ジルは再び闇を纏ってジャンヌ・オルタと共に何処かへ消えてしまった。

 

「消えた!?」

 

「いえ、恐らく二人はオルレアンの城へ向かったはずです!すぐに追いかけましょう!」

 

ジャンヌ・オルタはオルレアンを支配してからフランスの各地を攻撃し始めたので、そこが拠点なのは間違いがない。

 

「嫌な予感がする……すぐに行くぞ!」

 

「でもアルトリアさん達は……」

 

アルトリア達を置いて先に向かうわけにはいかないと思ったが、それは杞憂に終わる。

 

「問題ありませんよ、マシュ。全て片が付きました」

 

アルトリア達、八人のサーヴァントは無事に四人の敵サーヴァントを倒しており、その手には四枚のフェイトナンバーズのカードが握られていた。

 

四枚のフェイトナンバーズを遊馬は受け取り、すぐに城へ向かう準備をする。

 

「流石だぜ、みんな!」

 

「遊馬、飛行船ですぐにオルレアンへ向かおう!」

 

「おう!来い、かっとび遊馬号!プライム・フォトンは一緒についてきてくれ!」

 

皇の鍵から飛行船を呼び出して全員を乗せ、急いでオルレアンへ向かい、銀河眼の光子竜皇は後を追う。

 

 

ジルはジャンヌ・オルタを連れて拠点であるオルレアンの城に到着した。

 

すぐにでも敵である遊馬達を迎え撃つためにジャンヌ・オルタに提案する。

 

「ファヴニールは滅び、ワイバーンも数が少ない、そして召喚したサーヴァントは全滅……ジャンヌよ、新たなサーヴァントを召喚するのです!」

 

「ジル……私はもう戦えません」

 

すっかり戦意を失ったジャンヌ・オルタの姿にジルは嘆くように驚いた。

 

「なんと……!?そうですか……分かりました、後は私一人で戦います」

 

「無理よ……ジルも見たでしょう?ファヴニールを倒すことができるドラゴンを操るマスターに大勢のサーヴァント、勝ち目はないわ」

 

「ご心配なく、私にはこれがあります……!」

 

ジルが懐から取り出したのは金色に輝く杯だった。

 

それこそがこの特異点の元凶であり、ジャンヌ・オルタを生み出したものである願望器……聖杯である。

 

そして、ジルの宝具である不気味な魔本……『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』を開いて不気味な魔力を漂わせる。

 

「ジ、ジル?何をするの……?」

 

「大丈夫です、ジャンヌ。私にお任せください。私がずっとお守りします……」

 

魔力が漂うと床中に無数の不気味なモンスターが召喚され、それがジャンヌ・オルタに近づいていく。

 

ジャンヌ・オルタは動けずモンスターが近づいていく。

 

「や、やめて……嫌ぁあああああっ!!」

 

希望の光が照らされかけていたジャンヌ・オルタに絶望の闇が襲いかかった。

 

 

飛行船でジャンヌ・オルタとジルを追い、当初の目的地であるオルレアンに向かう。

 

オルレアンには人の影が一つもなく、まるで廃墟みたいだった。

 

そして、そびえ立つ城の中にジャンヌ・オルタとジルがいるはすだが、このままでは銀河眼の光子竜皇は中に入ることはできない。

 

「あの城、多少ぶっ壊しても構わないよな!?」

 

「え、ええ……特異点で聖杯を回収すれば歴史が修正されて大丈夫なので……」

 

「よし!プライム・フォトン!お前が入れる程度に城の一部を壊せ!」

 

緊急事態なので仕方ないことと、城にはジャンヌ・オルタとジル以外は『既に始末された』のでそこは目を瞑り、銀河眼の光子竜皇は尻尾で城の一部を破壊して大きな穴を開ける。

 

飛行船から降りた遊馬達は続々と破壊した城の穴に突入していく。

 

しかし、城に入った瞬間……遊馬達は言葉を失った。

 

何故なら見るも気色の悪すぎる現状に鉢合わせてしまったからだ。

 

「何……これ……?」

 

マシュは目を見開いて目の前の現状に頭が真っ白になった。

 

それは巨大な蛸と海星を組み合わせたような不気味な生物……海魔は無数の触手を出現させてジャンヌ・オルタの体を縛り、取り込もうとしていたからだ。

 

「ジャンヌ!!!」

 

遊馬はとっさに体が動き、触手を回避しながらジャンヌ・オルタを助け出そうとした。

 

「ジャンヌに近づくな、小僧!!!」

 

「ぐはっ!?」

 

触手で近づく遊馬を弾き返し、ジルの声が聞こえたのでどこにいるのか周りを見渡すが何処にもいなかった。

 

そして、更に驚くべき光景が遊馬達の目に映る。

 

一番大きな海魔の体から植物が生えるように現れたのは……ジルの上半身だった。

 

遊馬とアストラルは瞬時にそれが何を意味するのか理解した。

 

「自分の体をモンスターと合体させたのか!?」

 

「なんて男だ……正気の沙汰ではないとなると、かなりの精神が狂っているな……」

 

「私は聖杯戦争でキャスターと戦いましたが、彼には海魔と合体する力は持ち合わせていません。となるとやはり……」

 

アルトリアは人理が消滅する過去の世界の聖杯戦争でジルと戦ったことがある。

 

戦ったことでジルの宝具を詳しく知っていたが、今ほど強力なものではなく、明らかに変化していた。

 

そこから導き出される答えは一つ。

 

「聖杯の力か……」

 

一人の人物を作り出せるほどの力を持つ聖杯なら宝具に甚大な力を与えるのは簡単なことである。

 

遊馬はジャンヌ・オルタを触手で縛って捕らえていることに怒りを覚え、ジルに向かって怒号を放つ。

 

「てめぇ……ジル!ジャンヌを離せぇっ!!」

 

「ジャンヌは私のものだぁ!貴様らに渡さぬぞぉおおおおお!!」

 

ジルは闇に堕ちてから他人の言う事をまともに聞かなくなっている。

 

更にバーサーク・キャスターとして狂化属性が付与されて自分勝手な行動に拝借がかかっている。

 

ジャンヌ・オルタを取り戻すには力付くしかなかった。

 

「サーヴァントたちに指示を出す!マシュとジャンヌと清姫とエリザベートとゲオルギウスは遊馬を守れ!エミヤは弓矢、マリーとアマデウスは宝具で後方支援!アルトリアとジークフリートは剣で海魔を斬れ!」

 

アストラルの指示でマシュたちサーヴァントはすぐに陣形を作り、マシュとジャンヌと清姫とエリザベートとゲオルギウスの五人体制で近づく大量の海魔から遊馬を守る。

 

前衛はセイバーであるアルトリアとジークフリートが剣を振るって海魔を次々と切り、後衛でエミヤが黒弓や複数の剣を投影して正確に海魔を狙い撃つ。

 

「聴くがいい!魔の響きを!『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 

「さんざめく花のように、陽のように!咲き誇るのよ、踊り続けるの!『百合の王冠に栄光あれ(ギロチンブレイカー)』」

 

そして、マリーとアマデウスは同時に大軍宝具を発動する。

 

マリーの宝具は栄光のフランス王権を象徴した宝具でフランス王家の紋章が入ったガラスで構成させている美しき馬。

 

馬からきらきらと輝く光の粒子を撒きながら戦場を駆け抜け、海魔にダメージを与えて同時に味方の体力や魔力を回復させる。

 

そして、マリーの動作に合わせてアマデウスは『死神のための埋葬曲』でレクイエムの演奏を奏でていき、海魔のランクをダウンさせていく。

 

銀河眼の光子竜皇では威力が強すぎて城が崩壊しかねないので、遊馬は新たなナンバーズを召喚する。

 

「俺たちの全力を尽くしてジャンヌを取り戻す!俺のターン、ドロー!魔法カード、『銀河の施し』を発動!自分フィールドにギャラクシーと名のついたモンスターエクシーズがいる時、手札を一枚墓地に送り、デッキから二枚ドローする!」

 

銀河眼の光子竜皇が存在するので条件が満たされ、遊馬は手札を一枚墓地に送ってデッキから二枚ドローする。

 

「よし!行くぜ!魔法カード、『オノマト連携(ペア)』発動!手札を一枚墓地に送り、デッキから『ズババ』、『ガガガ』、『ゴゴゴ』、『ドドド』と名のついたモンスターを一体ずつ合計二枚を手札に加える!!」

 

それは希望郷と同じくアストラル世界からの贈り物のカードの一枚で遊馬のモンスター達を繋ぐカード。

 

「手札を一枚墓地に送り、デッキから『ゴゴゴジャイアント』と『ドドドウィッチ』を手札に加える!!そして、ゴゴゴジャイアントを通常召喚!」

 

ゴゴゴジャイアントが通常召喚され、墓地の仲間を復活させる効果が発動する。

 

「ゴゴゴジャイアントの効果で墓地からゴゴゴモンスターを特殊召喚出来る!甦れ、『ゴゴゴゴースト』!更に、ゴゴゴゴーストの効果で墓地からゴゴゴゴーレムを特殊召喚出来る!来い、『ゴゴゴゴーレム』!!」

 

ゴゴゴジャイアントの効果で墓地に送った鎧を纏った幽霊のようなモンスターが現れ、更にゴゴゴゴーレムが特殊召喚され、一気にレベル4のモンスターが三体揃った。

 

「シャーク、お前の力を貸してくれ!レベル4のモンスター三体でオーバーレイ!三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

空中に『32』の数字が浮かび、地面から巨大な魚の尾びれを象ったものが現れた。

 

「最強最大の力を持つ深海の帝王!その牙で全てのものを噛み砕け!!」

 

魚の尾びれが変形し、赤紫色の二枚のヒレのような翼に二枚の五本の鋭い指爪を持つ二枚のヒレが現れ、 左胸に32の数字が刻まれ、額には赤い水晶が埋め込まれた鮫のような顔をした竜が現れる。

 

「『No.32 海咬龍(かいこうりゅう)シャーク・ドレイク』!!!」

 

宇宙最強の銀河眼の光子竜と対を成す無限に広がる深海を支配する鮫の姿をした龍王。

 

それは遊馬のもう一人のライバルにして仲間、神代凌牙がかつて使用していたエースモンスターである。

 

「宇宙の竜だけでなく深海の竜まで……」

 

「行け、シャーク・ドレイク!デプス・バイト!!」

 

シャーク・ドレイクが口を開くと鮫のオーラが放たれ、海魔を次々次々と食い殺していくが、海魔は聖杯の魔力によって無限に増殖されていく。

 

アルトリアの約束された勝利の剣や銀河眼の光子皇竜の攻撃なら海魔を一掃することは簡単かもしれない。

 

しかし、ジャンヌ・オルタを狙わずに海魔だけを一斉に倒すのは困難を極めるが、遊馬は決して諦めたりはしない。

 

海魔の数を減らし続けていけばまだジャンヌ・オルタを助けられる可能性があると信じている。

 

「まだだ!俺のターン、ドロー!シャーク、もう一度行くぜ!海咬龍シャーク・ドレイクをエクシーズ素材とし、カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

「シャーク・ドレイクがカオスに!?」

 

マシュは同じくカオス化するホープを間近で見ていたのでシャーク・ドレイクもカオス化する事に驚いていた。

 

シャーク・ドレイクは変形前の鮫の尾びれに戻り、地面に吸い込まれて光の爆発が起きると新たな姿へと進化する。

 

「現れよ、CNo.32!暗黒の淵より目覚めし最強の牙!!」

 

空中に赤黒く輝く『32』の数字が浮かび、地面から紫色の宝石に七枚の白いヒレがついた物質が現れる。

 

変形していくと漆黒のホープレイと対比するような純白の装甲、両腕には刃物のような鋭い爪を持つ深海の竜王が降臨する。

 

「『海咬龍シャーク・ドレイク・バイス』!!!」

 

シャーク・ドレイクの真の姿にして、かつて凌牙が自分の命以上に大切な妹の仇と対峙した時に発現したカオスの力である。

 

「海魔の数は多い!遊馬、今のうちにホープを呼ぶんだ!」

 

「おう!『ドドドウィッチ』を召喚!その効果で手札からドドドモンスターを特殊召喚する!来い、『ドドドドライバー』!!」

 

ヴァイキングの格好をした魔女とその隣にリアカーを引きずる戦士が並び立つ。

 

「レベル4のドドドウィッチとドドドドライバーでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

二体のモンスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発と共に光の使者が駆けつける。

 

「「現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

遊馬とアストラルのエースモンスターである希望皇ホープが呼び出され、そこからカオスの力を解き放つ。

 

「「希望皇ホープ!カオス・エクシーズ・チェンジ!」」

 

希望皇ホープが変形前の白い塔の姿に戻り、地面に吸い込まれ、爆発を起こして希望皇ホープの真の姿となる。

 

「「混沌を光に変える使者!『CNo.39 希望皇ホープレイ』!!」」

 

純白から漆黒の戦士……守りから攻めに特化した姿へと姿を変わる。

 

希望皇ホープレイ、シャーク・ドレイク・バイス、銀河眼の光子竜皇……遊馬とアストラル、凌牙、カイト……四人の代表するエースモンスターが揃い踏みとなった。

 

「シャーク!カイト!俺たちの力でジャンヌを助けるぜ!」

 

そして、マシュ達の瞳には一瞬、遊馬とアストラルの隣に二人の男性の幻影の姿が映った。

 

一人は鋭い青い瞳を持ち、尖った藍色の髪をした少年で遊馬が持つデュエルディスクとD・ゲイザーと同じタイプの青いデュエルディスクと赤いD・ゲイザーを付けている。

 

もう一人は右目は青く、左目が赤く、左目の周りを覆うような青い刺青のようなものが刻まれ、白を基調とした服を着た青年で三日月の形をしたデュエルディスクを付けている。

 

それは世界を救うために集った三人の勇者……『三勇士』の力がこの場に揃うのだった。

 

「シャーク・ドレイク・バイスで攻撃!デプス・カオス・バイト!!!」

 

シャーク・ドレイク・バイスの口から先ほどの鮫のオーラとは異なり、レーザービームのような無数のエネルギーが放たれ、海魔を狙い撃ちにして一気に粉砕する。

 

「銀河眼の光子竜皇!エタニティ・フォトン・ストリーム!!」

 

光の竜の咆哮が放たれ、城を崩壊させないように海魔を薙ぎ払う。

 

「よっしゃあ!一気に減ったぜ!」

 

「続け、ホープレイ!!」

 

ホープレイは両肩のプロテクターから第三と第四の機械の腕が現れ、背中の大剣を掲げ、両手で腰の双剣を抜いて海魔に一気に近づく。

 

「「ホープ剣・カオス・スラッシュ!!」」

 

双剣と大剣の三刀流で海魔を斬り払い、海魔に取り込まれたジャンヌ・オルタの姿が露わになる。

 

「ジャンヌ!!」

 

「ユウ、マ……?」

 

「ジャンヌ、すぐに助ける!待ってろ!」

 

ホープレイが手を伸ばしてジャンヌ・オルタを引き上げようとしたが、すぐさま増殖した海魔によって押し戻されてしまった。

 

「……いい。このまま私ごと全てを消して」

 

ジャンヌ・オルタは全てを諦めた表情を浮かべていた。

 

それは自分の死期……運命を悟ったからである。

 

「なっ!?お前、何を言ってるんだ!?」

 

「私は、聖杯で生み出されたジャンヌ・ダルクの偽物……だから、ジルが倒されれば当然私も消える……」

 

元々サーヴァントは死んだ英雄が英霊の座と呼ばれる場所から聖杯の力で仮初めの肉体を得て召喚されるが、ジャンヌ・オルタはジルが聖杯の力で生み出したサーヴァントとは全く別の存在である。

 

「私は正規の英霊じゃないから、英霊の座に向かうことができない……それなら、いっそのこと消えて無くなりたい……そうだ、せめて銀河眼の光子竜皇の光で……」

 

竜の魔女である自分が美しいと惚れ込んだ銀河眼の光子竜皇の竜の咆哮で消えるなら本望だと遊馬にそう願おうとしたが……。

 

「ジャンヌ、お前の本当の願いを言え!」

 

遊馬がそれに応えるわけがなかった。

 

「本当の願い……?」

 

「お前は作られた存在でもちゃんと肉体と魂がある!心があるんだ!俺が必ずお前を消させはしない!!だから、希望を持て!」

 

何が何でもジャンヌ・オルタを救おうとする遊馬の強い想い。

 

ここまで自分の事を想ってくれる人は聖杯で生み出されてから初めてのことだった。

 

「ユウマ……おねがい……」

 

ジャンヌ・オルタは願った。

 

本来のジャンヌ・ダルクは神の声を聞き、処刑されるその時までそれまでのことは『罰と救済』だと全て受け入れていた。

 

しかし、このジャンヌ・オルタはジャンヌであってジャンヌではない。

 

だからこそ、彼女自身は違う思いを抱き、その心を言葉で紡ぐ。

 

「たす、けて……」

 

ジャンヌ・オルタの言葉と共に瞳から流れた光……それは植え付けられた憎しみではなく、遊馬と出会ったことで生まれつつある『心』から流した涙だった。

 

「ジャンヌ……!ああ、必ず助ける!!もう少しだけ待ってろ!!」

 

「うん……!」

 

そして、ジャンヌ・オルタは再び海魔の中に取り込まれ、遊馬はギロリと怒りを込めた眼差しでジルを睨みつけた。

 

「聞こえたか、ジル……ジャンヌは今、助けてって言ったぞ。それなのにまだこんな事を続けるのか!?」

 

「ジャンヌを助ける方法は一つ!貴様らを殺し、フランスを死の世界に変える事だ!!」

 

「ふざけんなぁ!! ジャンヌはもうそんな事を望んでねぇ!ジャンヌはてめぇの操り人形じゃねえ!!てめぇの身勝手な思いで、二人のジャンヌを苦しめるんじゃねぇ!!!」

 

「貴様ァアアアアッ!!私のジャンヌへの想いを愚弄するつもりかぁ!!?」

 

「てめぇ自身の復讐に誰かを巻き込むな!大切な誰かを失う悲しみは俺にだって分かる!だけど、だからと言って憎しみに支配されて復讐するのは間違ってる!戦うなら、その人の想いを背負って、生きて正しい道を進むべきなんだ!!」

 

遊馬は一度、アストラルを失ってナンバーズを託された。

 

失ったアストラルの影を追いながらも、自分にできることを精一杯行い、必死に仲間を守るために戦った。

 

だからこそ、ジルの間違った考えや思いが許せなかった。

 

「そんな間違った思いなんか打ち砕いてやる!そして、ジャンヌを必ず助ける!!」

 

「無駄だぁ!私には聖杯がある!聖杯がある限り私は無敵なのだぁ!!」

 

「ジル・ド・レェよ、奇跡を起こせるのは貴様だけではない!」

 

「アストラル……!」

 

「遊馬、あそこで囚われているジャンヌは憎しみを植え付けられて多くの人を殺めた。しかし、君と出会った事でその憎しみの心は変わりつつある……彼女はまだやり直せる!」

 

アストラルもかつては使命のために合理的に動く機械のような存在に過ぎなかった。

 

しかし、遊馬と出会えたことで今のジャンヌ・オルタのように心が生まれ、感情が芽生えた。

 

だからこそアストラルも遊馬によって変わりつつあるジャンヌ・オルタを助けたいと強く思った。

 

「……力を貸してくれ、アストラル。俺はあいつを……ジャンヌを助けたい!」

 

「行こう、遊馬。『私たちの仲間』を救おう!!」

 

「ああ!!」

 

遊馬がジャンヌ・オルタを救おうと前に出ようとした瞬間、ジャンヌが遊馬の手を握った。

 

「……遊馬君」

 

「ジャンヌ?」

 

「あの、実は私、妹が欲しかったんです」

 

「……は?」

 

突然のジャンヌの言葉に遊馬は唖然として思わず言葉を漏らしてしまう。

 

慌ててジャンヌは分かりやすいようにその言葉の意味を伝える。

 

「そ、それでですね、竜の魔女が私の闇ではないと知って、もし出来れば仲良くなりたいと思っているんです。血とかは繋がってないけど、あの子を私の妹として、大切にしたいんです。だから……」

 

今のジャンヌには囚われたジャンヌ・オルタを救う力はない。

 

遊馬に託してしまう形で大変申し訳ない気持ちでジャンヌは頭を深く下げてお願いした。

 

「お願いします……あの子を、助けてください」

 

「おう!任された!あいつを助けたら強く抱きしめてやってくれよ!」

 

「後は私達に任せろ」

 

遊馬とアストラルはジャンヌ・オルタを救うために静かに前に出る。

 

決意を固めた二人の雰囲気がガラリと変わり、マシュたちは今まで何度も遊馬とアストラルに驚かされてきたので、何をするのかと密かに期待してしまう。

 

新たなナンバーズを召喚するのか?と思うが、その予想は大きく裏切られることとなる。

 

遊馬は右手を、アストラルは左手を伸ばして高く掲げる。

 

「かっとビングだ!俺は俺自身と!!」

 

「私で!!」

 

「「オーバーレイ!!!」」

 

遊馬が赤い光、アストラルが青い光となって宙を飛ぶ。

 

予想外すぎる行動にマシュ達は目を疑う。

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

「はぁあああああっ!!」

 

二つの光が近づき、離れるように飛び、やがて螺旋状に絡み合う軌道を描いていく。

 

「俺たち二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

絡み合っていた二つの光が一つに重なり、金色の光となりながら地面に降り立つ。

 

「遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!」

 

金色の光の中で遊馬の肉体がアストラルと合体したことで再構築され、その姿が大きく変化する。

 

白いタイツスーツのような肉体に両手両足、胸と両肩を覆う赤いプロテクター、腰には白いベルトが装着されている。

 

左腕には赤い盾のような形をしたデュエルディスクが装着され、ホープレイとシャーク・ドレイク・バイスと銀河眼の光子皇竜の三枚のカードが置いてある。

 

「「強き絆が光を導く!!」」

 

遊馬の独特な髪が金色と赤色に変色し、両頬に緑色の刺青のようなマーカーが刻まれ、右目が金色、左目が赤色のオッドアイとなり、左目に顔の上部を覆うような緑色のDゲイザーが装着され、全ての変身が完了する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!『ZEXAL(ゼアル)』!!」」

 

それは絆を紡ぎ、奇跡をその手に掴む希望の英雄。

 

遊馬とアストラルが合体した姿にして、二人の真の姿……ZEXAL。

 

数々の強敵を打ち倒し、世界を救った究極にして奇跡の力である。

 

「どういう……事だ……!?」

 

狂っているジルでさえ遊馬とアストラルが合体したことに度肝を抜かれて驚愕しており、間近にいるマシュ達も同様だった。

 

「この光……まさか、カルデアス内でオルガマリー所長を助けた時の……!?」

 

「遊馬君、アストラルさん……あなた達は一体……!?」

 

「シロウ……どうやら私たちは魔術師を遥かに凌駕した方がマスターになったみたいですね」

 

「そうだな。どうやらマスターは私たちと同じかそれ以上の過酷な運命を背負って戦ってきたようだな……」

 

「とっても綺麗な光……これは人々を救う希望の光なのね……」

 

「人と精霊の融合か……本当に面白いな!マスター!」

 

「旦那様がアストラルさんと合体……?妬ましいですが、何と美しいお姿……!」

 

「も、もう驚くのが疲れてきたわよ……竜を操って精霊と合体するなんて本当に人間なの!?」

 

「既に人間を超える存在であるな……しかもまだ力を隠している」

 

「ここには聖人や王など多くの英霊がいるが、まさかマスターも聖人……否、英霊になりうる存在とは……」

 

一方、マシュのD・ゲイザーで目の前の光景を映像で見ていたカルデアに残っている者たちも驚愕していた。

 

「私を助けたのはあなた達……ううん、あなただったのね」

 

一度肉体が滅んだオルガマリーをカルデアスの中で救ったのがZEXALであるとようやく気付いた。

 

「な、何だこれは!?今の遊馬君はサーヴァントに匹敵するエネルギーを叩き出しているぞ!?って、何なんだこの魔力値!?凄すぎるぞ!!本当に人間なのかい!?」

 

「遊馬君とアストラル君には驚かされてばかりだったけど、まさか合体するとは……しかもこれはマシュの英霊と融合したデミ・サーヴァントとはまた違う……」

 

マシュのように人間にサーヴァントを憑依させるデミ・サーヴァントとは異なり、遊馬とアストラルの肉体と精神と魂が一つに合体していることにダ・ヴィンチは推測する。

 

「はははっ!面白ぇ、本当に面白ぇマスターじゃねえか!まさかあの精霊と合体するとは驚きだぜ!!」

 

「流石は私達が見込んだマスターですね……」

 

クー・フーリンとメドゥーサは遊馬が優秀で無限の可能性があるマスターであることに喜びを感じた。

 

ZEXALは静かに右手を挙げ、遊馬とアストラルの二人が重なった声が響く。

 

「「最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードさえもデュエリストが創造する!!」」

 

カードを創造すると発言したZEXALにマシュ達は今度は耳を疑った。

 

デュエルディスクにセットされているデッキは既に予め構築されており、戦いの間に新たにカードを追加することはできない。

 

そこから新たなカードを創造することはとんでもない事である。

 

「行くぜ、アストラル!」

 

「このドローに全てを賭ける!」

 

ZEXALの右手が光り輝き、頭上に右手を掲げる。

 

「「全ての光よ!力よ!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!」」

 

右手に光の粒子が集い、デッキトップに手を置くとカードが奇跡の光を宿す。

 

「「シャイニング・ドロー!!」」

 

勢いよくドローしたカードはZEXALの力によって『デッキに存在しなかったカード』が『創造』され、そのカードは遊馬とアストラルが最も信頼するモンスター……希望皇ホープに新たな力を授ける。

 

すぐさま創造した奇跡のカードをデュエルディスクに挿入し、右手から光を天に向かって放ち、光と共にその姿を現わす。

 

「「現れよ!『ZW(ゼアルウェポン) - 一角獣皇槍(ユニコーン・キング・スピア)』!!」」

 

それは光る角に金色の双翼、そして黄金と白銀の装甲を持つ一角獣だった。

 

「あれは……ユニコーン!?」

 

「ば、馬鹿な!?聖処女にしか懐かないと言われる一角獣が何故あんな小僧が!!?」

 

聖処女を象徴する存在でもある一角獣を呼び出したことにジルは信じられないと言った様子で目が飛び出そうになる。

 

一角獣皇槍が宙を駆けながらホープレイに近づき、ZEXALは不敵の笑みを浮かべる。

 

「ユニコーン・キングはホープレイの装備カードとなり、攻撃力を1900アップさせる!」

 

ホープレイは大剣を掲げて大振りで振り回し、一角獣皇槍に向かって投げ飛ばす。

 

「「チェンジ!ユニコーン・スピア!!」」

 

一角獣皇槍と大剣が激突しながら合体し、双翼が先端となり、脚が持ち手となった巨大な一角獣の槍へと姿を変えた。

 

ホープレイは大剣を持つ第三と第四の腕で槍を担ぐように持ち、一角獣皇槍の聖なる力をその身に宿す。

 

ZWはZEXALの力で創造された聖獣などをモチーフにしたモンスターで希望皇ホープの専用の装備カードとなり、サーヴァント達の宝具に匹敵する強力な武器へと変形する。

 

「頼むぜ、ホープレイ!」

 

ZEXALはジャンプして槍に変形した一角獣皇槍の上に乗る。

 

そして、一角獣皇槍で確実に終わらせるためにホープレイの左右にいるシャーク・ドレイク・バイスと銀河眼の光子竜皇に最後の攻撃命令を下す。

 

「「海魔を薙ぎ払え!シャーク・ドレイク・バイス!銀河眼の光子竜皇!!」」

 

シャーク・ドレイク・バイスの無数のレーザービームと銀河眼の光子竜皇の光の竜の咆哮が轟き、海魔を一気に薙ぎ払い、勝利への道標を作る。

 

「「行け、ホープレイ!!ユニコーン・スラッシュ!!!」」

 

ホープレイの全力の槍投げで一角獣皇槍を投げ飛ばした。

 

一角獣皇槍の上に乗ったZEXALは余りの勢いに投げ出されそうになったが必死に踏ん張った。

 

「無駄だぁ!聖杯に敵う力などーー」

 

ジルは聖杯の力で障壁を作り出して一角獣皇槍を止めようとしたが、それは無駄である。

 

「「ユニコーン・キングを装備したホープレイの効果で、お前の効果は無効となっている!!」」

 

障壁は呆気なく破壊され、その槍の速度が止まることない。

 

「何ぃっ!?馬鹿な、馬鹿なぁあああああっ!?」

 

「「これで終わりだ!ジル!!」」

 

一角獣皇槍はジルごと海魔に突き刺さり、槍に込められた聖なる力が一気に解き放たれ、光の大爆発を起こす。

 

海魔は一瞬にして全て消滅し、眩い光が辺りを覆い尽くす。

 

すると、眩い光の中から一筋の金色の光が飛び出した。

 

それは爆発の瞬間に大剣と合体を解除して元の一角獣の姿に戻った一角獣皇槍でその背中にはZEXALが乗っていた。

 

そして……その胸の中には海魔の中から救い出したジャンヌ・オルタが静かに眠っていた。

 

この特異点の戦い、その全ての元凶であるジルを打ち倒し、邪竜百年戦争は終わりを告げた。

 

しかし遊馬とアストラルにはまだやるべきことが残っていた。

 

目の前の眠っている少女を消滅させないため、ZEXALは再び奇跡を起こす。

 

 

 

.




今回の話で自分の全てを出し切った気がします。
満足したぜ……。
やっぱりZEXALはいいですね。
サーヴァントの皆さん、驚くのはまだ早いですよ。
ZEXALにはまだ二段階進化を残していますかね(笑)
次回はエピローグで第1章は完結です。
ジャンヌ・オルタの運命はZEXALの手に掛かってます。


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ナンバーズ15 第一特異点終結!魔女に新たな未来を!

今回で第一特異点終結です!
ジャンヌ・オルタがどうなるか……遊馬とアストラルの奇跡に期待です!


奇跡の力、ZEXALでジャンヌ・オルタを救い、ユニコーンである一角獣皇槍に跨ってマシュ達の元へ戻る。

 

ZEXALは一角獣皇槍から降り、真っ先に駆け寄ったジャンヌにジャンヌ・オルタを託した。

 

「ほら、お姉さん。妹さんだよ」

 

「遊馬君、ありがとうございます!」

 

ジャンヌ・オルタは竜の魔女とは思えないまるで生まれたばかりの赤子のような穏やかな表情をしていた。

 

「エンジェルスマイルですね」

 

「エンジェルスマイル?天使の……微笑み?」

 

マシュが呟いた言葉に遊馬が首を傾げるとアストラルが説明する。

 

「生まれたばかりの赤子の笑顔が天使のように可愛らしいからそう呼ばれるらしい。このジャンヌは聖杯によって生み出された。まだ生まれて間もない存在だから間違ってないな」

 

「そっか……大人だけど生まれたばっかの赤ちゃんみたいなもんか」

 

「無事で良かったです……」

 

ジャンヌはジャンヌ・オルタに姉が妹を愛しむような優しい笑みを浮かべてギュッと抱きしめる。

 

敵であったがこうして助けられたことを喜ぶ一同。

 

すると、周囲の声にジャンヌ・オルタは気がついて目を覚ます。

 

「んっ……あなた、どうして……?」

 

「お姉ちゃんが妹を心配しちゃダメですか?」

 

「……はぁ!?な、何であなたがお姉ちゃんなのですか!?」

 

ジャンヌのお姉ちゃん発言にジャンヌ・オルタは一気に意識が覚醒してジャンヌから勢いよく離れた。

 

「私はずっと妹が欲しかったんです!だからあなたは私の妹です!」

 

「ふ、ふざけんじゃないわよ!?嫌よ、あんたが私の姉なんか!」

 

「良いじゃねえか、ジャンヌ。家族は良いもんだぜ」

 

「そう言われても憎んでいた相手を姉なんて……って、誰ですか!?」

 

馴れ馴れしく話しかける謎の少年……ZEXALにジャンヌ・オルタは驚愕した。

 

突然見たこともない異様な姿をした不思議な少年に話しかけたら誰でも驚くだろう。

 

「あ、そっか。この姿じゃ分からないか。俺だよ、遊馬だ。アストラルと合体してこの姿になったんだ」

 

「……どうして精霊と合体したらそんな姿になるんですか!?魔術師でもそんなこと出来ませんよ!!?」

 

「いやー、何で出来るのかも俺にも分からないな。何か変な扉に飛び込んだら合体出来るようになった」

 

「訳がわからないですよ!?人間が精霊と合体してそんな姿になるって事がありえませんから!!」

 

(((よくぞ言ってくれた……!!)))

 

サーヴァント達の言葉を代弁してくれたジャンヌ・オルタに心の中から感謝した。

 

人間と精霊が何の儀式もなく肉体と魂が合体し、新たなカード……モンスターを創造する能力を持つ存在は滅多にいないだろう。

 

「まあ、その話は取りあえず後にしてくれ。今のうちにお前が消えないようにするからさ」

 

「どうやって……?私は聖杯で作り出されたジャンヌの偽物なのよ……?」

 

「奇跡を起こすだけさ。ジャンヌ、俺の手を握ってくれ」

 

「……わかったわ」

 

ジャンヌ・オルタは半信半疑でZEXALの手を握った。

 

するとジャンヌ・オルタの体が光の粒子となってフェイトナンバーズのカードとなり、黒い旗を構えるジャンヌ・オルタの絵が浮かんだ。

 

カードからジャンヌ・オルタが現れ、カード化する不思議な感覚に自分の体をペタペタと触る。

 

「これで何とかなるの……?」

 

「これからだ!ZEXALと令呪の力でお前を助ける!!」

 

ZEXALは遊馬の右手に刻まれている令呪を輝かせ、ジャンヌ・オルタのフェイトナンバーズのカードを右手の指に挟んで掲げる。

 

「「令呪によって命ずる!もう一人のジャンヌよ、消滅するな!!その虚ろな存在を確立しろ!!!」」

 

「んっ……!?」

 

ジャンヌ・オルタの体に白い光に覆われ、体中に魔力が駆け巡って迸る。

 

それに伴い、フェイトナンバーズのカードに名前と効果が刻まれていく。

 

そして、ZEXALの体から金色の輝きが放たれ、今度はジャンヌ・オルタの絵に変化が起き始める。

 

「「かっとビングだ!!俺/私!!!」」

 

フェイトナンバーズから金色の輝きを放ち、新たなカードへと姿を変えた。

 

先ほどのジャンヌ・オルタが旗を構える絵ではなく、銀河眼の光子皇竜を召喚する際に現れる赤い宝玉が埋め込まれた青い十字の剣を構えた絵となった。

 

その名は『FNo.62 竜皇の魔女 ジャンヌ・オルタ』。

 

光が収まったジャンヌ・オルタの右手の甲に『62』の数字が刻まれ、その体に違和感があった。

 

「これって……?」

 

「もしかして、ドクター!」

 

マシュはD・ゲイザーでロマニに連絡し、すぐにジャンヌ・オルタの体をサーチしてもらう。

 

『こ、これは!?こんなことがあり得るのか!?そのジャンヌの体が受肉しているぞ!』

 

受肉。

 

サーヴァントはマスターがいなければ存在を保つことができないが、何らかの方法で人間の肉体を得ることができ、現世に留まることができる。

 

本来ならサーヴァントの受肉は聖杯の力で可能になるが、令呪とZEXALの奇跡の力でジャンヌ・オルタの存在を確立させ、同時に受肉させたのだ。


 

「私が受肉するなんて……これで消えることは無いですね……」

 

「へへっ、良かったな!ジャンヌ!」

 

ZEXALの合体が解除され、遊馬とアストラルの二人に分離される。

 

「……ありがとう、ユウマ。それに、アストラル」

 

ジャンヌ・オルタは目線を逸らしながら遊馬とアストラルにお礼を言う。

 

「おう!」

 

「これで君が消える心配はなくなった。後は……」

 

アストラルが目を細めて振り向くとそこには海魔を失って今にも消滅しかけているジルが倒れていた。

 

ジルの側には目的の品である聖杯が転がっており、遊馬はそれを静かに拾うとマシュに投げ渡す。

 

「マシュ、頼んだ」

 

「は、はい!」

 

マシュの盾は回収した聖杯を入れるように改造しており、聖杯を盾の中に入れる。

 

遊馬はジルを見下ろし、その場で膝を折るとジルは最後の力を振り絞って遊馬に話しかける。

 

「何故だ、小僧……何故、そこまで命をかけてジャンヌを助けた……?」

 

「助けたかったからだけど?」

 

「そんな訳ない!そこまでして二人の聖女が欲しかったのか!?その手で聖女を穢したかったのか!?」

 

「欲しいとか、穢したいとか訳分かんねぇよ。俺は大切な仲間を守りたい、目の前で助けを求める人に手を伸ばしたい。別に損得でやってる訳じゃないし、自分の心に正直に動いているだけだ」

 

「そんな事で……!?何と無責任な!受肉して助けたジャンヌは一人になるのだぞ!?」

 

「ジャンヌは正式なサーヴァントじゃないからな……なぁ、ジャンヌ」

 

「な、何?」

 

「確か、英霊の座だっけ?そこに帰れないなら……俺んちでもに来るか?」

 

突然の遊馬の発言にジャンヌ・オルタだけでなく、マシュ達も耳を疑った。

 

「俺んちって、まさか……遊馬の家に!?」

 

「おう。といってもこことは違う異世界のハートランドってところだから、すぐには行けねえけどな」

 

「い、異世界……?」

 

「遊馬、仮に連れて行くとしても大丈夫なのか?」

 

アストラルはジャンヌ・オルタをハートランドに連れて行くことを心配する。

 

普通に考えて見知らぬ人を突然自宅に連れて行くのは混乱の元になるだろうが遊馬は大丈夫だろうと楽天的だった。

 

「何とかなるんじゃね?まあ、家族のみんなには俺が土下座して頼めば……服とかはスタイル的に姉ちゃんの借りれば良さそうだし、戸籍とか住民票は……カイト達に頼んで偽造してもらうか」

 

「まあそれくらいなら彼らにとって朝飯前だろう……」

 

カイトの父、Dr.フェイカーは実質ハートランドの支配者であるので一人の人間の戸籍と住民票を偽造するのは簡単なことである。

 

「オボミがオービタルのところに嫁に行ってから姉ちゃんと婆ちゃんが少し寂しがってたからちょうどいいや」

 

オボミとはハートランドシティに無数に配置されているお掃除ロボット『オボット』の一体であるが、 とある強盗団によって犯罪に使用されていたが、ひょんなことから九十九家に転がり込み、家族同然として一緒に暮らしていた。

 


ところが、カイトが作成したオービタル7という人工知能搭載型ロボットと結婚して二児(二機?)の母となり、そのまま嫁に行ってしまった。

 

「ま、待ちなさい!何を勝手にどんどん決めているのですか!?」

 

「いやだって、助けたし……ねぇ?」

 

「ねぇ、じゃありません!復讐に生きていた私に未来なんて……」

 

「なぁ、ジャンヌ。お前はまだ生まれたばかりだ。赤ちゃん……ってな訳じゃないけど、お前は生きてる。未来が決まってない、無限の可能性があるんだ。だから、もう一人のジャンヌ・ダルクじゃなくて、一人の女の子として生きてみろよ?」

 

「一人の女の子として……?」

 

「どんな未来を歩むかお前次第だけど、もう復讐なんかさせねえよ?もし道を外れそうになったら無理矢理でも連れ戻すからな?」

 

「……全く、お節介な少年ですね。よっぽど人気者なのでしょうね」

 

「人気者?全然、俺なんかより仲間達の方が人気だぜ」

 

「どうだか……」

 

ジャンヌ・オルタが若干ジト目で睨んでいるがその予想は大いに当たっている。

 

遊馬は鈍感ゆえに気づいてないが、男女関係無く多くの仲間達から好意を寄せられているのだった。

 

「旦那様……でしたら私も是非……」

 

「あんたは黙ってなさい!」

 

清姫が遊馬に滲み寄ろうとしていたが空気を読んでエリザベートを筆頭にサーヴァント達で一斉に清姫を捕えてしばらく動けなくした。

 

そんなことを知らない遊馬は苦笑を浮かべながらジャンヌ・オルタにどうするか聞く。

 

「ま、とにかく……もし行くところないなら俺んちに来いよ。嫌なら無理には言わないけどな」

 

「……行くわ」

 

意外にもジャンヌ・オルタは即答した。

 

「本当か!?」

 

「か、勘違いしないでくださいね!私はあなたの世界でえっと……デュ、デュエルを学ぶためです!」

 

「デュエルを?」

 

「そうです!あなたがもつ銀河眼の光子竜皇を手に入れるために!」

 

ファヴニールよりも既に銀河眼の光子竜皇に心移りしてしまったが、それをジャンヌ・オルタに渡せるわけがなかった。

 

「いや、やらねえよ?これはアストラルの記憶の欠片でもあるから」

 

「き、記憶の欠片!?くっ!?じゃあ銀河眼の光子竜を!」

 

「これは俺の仲間のカイトから託されたものだから絶対にダメ」

 

「じゃあ他の竜を!!」

 

「ダーメ。でも俺の世界に来れば見たことないドラゴンは沢山いるぜ。だからさ、ジャンヌだけのドラゴンを見つければいいんじゃねえか?」

 

「自分だけのドラゴン……わかったわ!必ず自分だけの最高のドラゴンを見つけるわ!」

 

フランスの復讐ではなく、一人の少女として新たな道を見つけることができた。

 

一先ずジャンヌ・オルタの進路が決まり、ジルに報告する。

 

「という訳だから、ジャンヌはうちで預かるぜ」

 

「何と豪胆な少年だ……まさか聖女に新たな未来を与えるとは……」

 

遊馬には勝てない、戦う力もそうだが敵を含め、全てを包み込む聖人の如き心の広さにジルは敗北を感じた。

 

「少年よ、最後に言っておくことがある……」

 

「何だ?」

 

「ジャンヌを……ジャンヌを絶対に裏切るな!!」

 

「裏切る……?」

 

「ジャンヌはフランスに裏切られた……もしも貴様がジャンヌを裏切ったら、私が貴様を嬲り殺してやる!!!」

 

ジルが憎しみを込めた瞳で遊馬を脅すように睨みつけるが、遊馬は一切臆せずに真剣な表情を浮かべ、ジルに約束する。

 

「俺は仲間を、大切な人たちを何があっても裏切らない。全力で守る」

 

「ジルよ、遊馬の言葉は本当だ。かつて遊馬は親友になるふりをして嘲笑うように裏切った敵が危機に陥った時、道連れにされる覚悟で助けたことがあるからな」

 

アストラルの言う事は本当で、ある男は何度も遊馬を裏切り、葬るためにあらゆる手を使って追い詰めようとした。

 

しかし、それでも遊馬はその男を信じて己の命をかけ、一緒に地獄に落ちても構わない、必ず守る……それほどの思いで助けた。

 

そんな遊馬が助けたジャンヌ・オルタを裏切るわけがない。

 

「それからこんなことを言ったら後ろにいるジャンヌに怒られちまうかもしれねえけど、もしジャンヌが生きていることを神が許さないと言って裁こうとするなら……俺の全てを賭けてでもその神をぶっ飛ばしてやるよ」

 

それを聞いたジルはありえないと声を張り上げようとしたが、遊馬の背後にいる三つのモンスター達の威風堂々とした姿を目の当たりにし、遊馬なら本当に神をも退けるのでは?と感じ取った。

 

「もう二度と、ジャンヌ……いや、『ジャンヌ達』に地獄の業火をその身に浴びさせたりはしない!!例え二人を裁こうとする何かが来ても俺が全て薙ぎ払い、守ってみせる!」

 

例えどんな敵が相手でもジャンヌとジャンヌ・オルタを必ず守り抜くと誓う遊馬の決意。

 

その決意を受け取ったジルはまるで狂気が解かれたかのように安らかな表情を浮かべる。

 

「少年よ……ユウマと言いましたね?もしも、もしもあなたがあの戦争の時にジャンヌの側に居てくれたら……」

 

ジルは涙を流し、もしも遊馬が百年戦争の時にジャンヌと一緒だったら、ジャンヌは処刑されることなく幸せになれたのだろうかと強く思った。

 

「ジャンヌを、頼みます……」

 

ジルは遊馬にジャンヌを託して消滅した。

 

そして、消滅したジルの後にフェイトナンバーズのカードが置かれ、遊馬は静かに拾う。

 

「任せてくれ、ジル」

 

ジルのカードをデッキケースにしまい、振り向くとジャンヌが怒ったような表情で睨んでいた。

 

「ジャ、ジャンヌさん……?どうしたんですか……?」

 

「遊馬君……幾ら何でも私たちが信じる神をぶっ飛ばすとか言ってはいけませんよ?」

 

信仰者であるジャンヌにとって先ほどの遊馬の発言を聞き流すことはできなかった。

 

「いや、あの、言葉の綾といいますか……」

 

「全く、これはお説教が必要ですかね?」

 

「嫌だ!お説教は絶対に嫌だー!」

 

お説教から逃れるために遊馬は脱兎の如くジャンヌの前から逃げる。

 

「あ、待ちなさーい!」

 

ジャンヌは追いかけようと手を伸ばしたが、突然ジャンヌの体が透けて来た。

 

「えっ……?」

 

立ち止まって自分の手を見つめると体から光の粒子となって静かに消滅していく。

 

ジャンヌだけでなくマリー達も消滅し始めた。

 

消滅してないのはマシュとアルトリアとエミヤ、そしてジャンヌ・オルタの四人である。

 

倒されてないのにサーヴァント達が消滅し始めるということは、この特異点となった世界の修正が始まったのだ。

 

「……お別れの時が来ちまったみたいだ」

 

「そうですか……もう行ってしまうのですね?」

 

「心配するな!必ずみんなをカルデアで召喚するぜ!みんなとの絆の結晶……フェイトナンバーズがある限り、俺たちの絆は消えないからな!」

 

「絆……それが遊馬君の力でしたね。必ず、私たちを召喚してくださいね。私たちのマスター」

 

「おう!」

 

「それから……」

 

ジャンヌはジャンヌ・オルタに顔を向けて最後に愛しい家族を見つめる優しい笑みを浮かべて遊馬に託す。

 

「彼女を……妹をお願いします」

 

「ああ、任せておけ」

 

「ありがとう……」

 

ジャンヌ達は一斉に消滅し、遊馬達だけが残った。

 

「フォーウ!」

 

そこに今まで戦いを見守っていたフォウがやって来てマシュの体をよじ登って頬ずりする。

 

「フォウさん、帰りますから遊馬君のフードの中に入ってください」

 

「フォウフォウ!」

 

フォウはマシュから遊馬の体に移動してフードの中に入る。

 

聖杯を回収し、歴史が修正されていき、遊馬達のこの時代の役目が終わった。

 

「みんな!カードの中に!カルデアへ帰ろう!」

 

「はい!」

 

「まず一つ……まだ道は長いですね」

 

「だが、私たちは何も失うことなく戦いに勝利した。まずはそれを誇ろう」

 

マシュ、アルトリア、エミヤの三人は光の粒子となってフェイトナンバーズのカードの中に入る。

 

そして、呆然としているジャンヌ・オルタに対し、遊馬は手を差し伸べた。

 

「来いよ、ジャンヌ。俺たちと」

 

再び差し伸べられた手をジャンヌ・オルタは今度こそ握りしめた。

 

「……うん」

 

ジャンヌ・オルタの体が光の粒子となり、新たなフェイトナンバーズの『FNo.62 竜皇の魔女 ジャンヌ・オルタ』の中に入り、四枚のフェイトナンバーズをデッキケースにしまう。

 

「よくやった、遊馬。君はフランスを救ったんだ」

 

「お前とみんながいてくれたからさ」

 

「まだ私たちが人類の未来を救う旅は始まったばかりだが私たちならやり遂げられる」

 

「当たり前だぜ!俺とアストラルがいれば無敵だからな!」

 

「フッ。そうだな、さて……我々も戻ろうか」

 

「そうだな。ロマン先生、頼むぜ!」

 

アストラルは皇の鍵の中に入り、その際にホープレイ達も姿が消えて皇の鍵の中に入り込み、カルデアのロマニに連絡をする。

 

『ああ!遊馬君、お疲れ様!すぐにレイシフトをするよ!』

 

カルデアからレイシフトが開始され、遊馬の体に光が覆い、フランスでの戦いを思い出しながら瞼を閉じた。

 

「じゃあな……フランス」

 

そして、遊馬達はフランスの地から消えてカルデアへ戻った。

 

コフィンが開く音が鳴り、遊馬が瞼を開けて目を開くとそこにはオルガマリーとロマニとダ・ヴィンチ、そしてクー・フーリンとメドゥーサが出迎えた。

 

「ただいま!」

 

コフィンから勢いよく飛び出し、デッキケースを開けてカードからマシュ達を出した。

 

そして、ジャンヌ・オルタがカードから出るとカルデアの近未来的な施設の内装に戸惑いを隠せず、不安そうにキョロキョロしてしまう。

 

緊張を少しでもほぐすためにオルガマリー達は自己紹介をするが……。

 

「え、えっと……ジャンヌよ、よろしく……?」

 

強気な性格のジャンヌ・オルタも弱々しく自己紹介をした。

 

短い時間の間に色々ありすぎて心の整理がつかないのだ。

 

そんなジャンヌ・オルタに遊馬は笑みを浮かべて手を繋ぐ。

 

「ジャンヌ、来いよ!」

 

「えっ!?あっ、ちょっ!?」

 

「ゆ、遊馬君!?」

 

「ロマン先生!サーヴァントの召喚の準備をしてくれ!フランスで出会ったみんなを呼び出す!!」

 

「ええっ!?ゆ、遊馬君!?でも連戦で疲れているはずじゃ……」

 

「こんな疲れなんて勉強に比べれば何ともないぜ!早く早く!!」

 

「ああもう、君と言う子は!!」

 

「やれやれ、小さなカルデア最後のマスターのために行こうではないか」

 

遊馬のワガママを聞き、ロマニとダ・ヴィンチはすぐに英霊召喚の準備を行う。

 

「それからエミヤ!これからたくさん仲間を呼ぶ予定だから、食堂で歓迎会の準備をしてくれ!」

 

「シロウ!歓迎会なら美味しいご馳走は必要です!是非ともお願いします!」

 

「アルトリア……君はただ料理を食べたいだけだろう?仕方ない、オルガマリー所長……いいだろうか?」

 

「……まあ、良いわ。無事に特異点を解決した祝勝会も兼ねてやりましょう」

 

「彼一人では大変ですね、クー・フーリン。手伝いましょう」

 

「はぁ?俺もかよ、仕方ねぇな」

 

ピョコピョコとアホ毛を動かして期待するアルトリアにエミヤとオルガマリーは苦笑を浮かべ、メドゥーサとクー・フーリンも一緒に食堂へ向かって歓迎会と祝勝会の準備を行う。

 

遊馬はジャンヌ・オルタとマシュを連れ、英霊を召喚する部屋に向かうのだった。

 

召喚サークルにフランスで手に入れた計十六枚のフェイトナンバーズのカードを置く。

 

「……聖杯の力で八騎のサーヴァントを召喚した私が言うのもなんだけど、これで一気に呼び出せるの?しかも敵味方関係なしに」

 

「呼べるんですよ、遊馬君が作り出したフェイトナンバーズなら……」

 

遊馬だけが使える英霊召喚の媒体……特異点『F』の四枚から実に四倍のカードが並び、遊馬は少し多めに持った聖晶石を手の中で砕く。

 

「よっしゃあ!かっとビングだぜ、俺!!英霊召喚!!!」

 

聖晶石を砕いて振りまくと召喚が始まり、二度目となる爆発的な魔力が集束する。

 

そして、英霊召喚システムとカルデアの電力が唸りを上げて眩い光を放ち、光の中から一人の少女が飛び出した。

 

「また会えましたね、遊馬君。アストラルさん、マシュ。そして……私の妹さん♪」

 

最初に先ほど別れたばかりのジャンヌの笑顔が迎えた。

 

そして、ジャンヌに続いて次々と英霊が召喚され、カルデアが賑やかになるのだった。

 

 

 

.




ジャンヌ・オルタちゃんを受肉させて遊馬君の家に居候することになりました(笑)
漫画版のコロンちゃんを見て思いつきました。
次回から数話はカルデアの話でジャンヌ・オルタの話や遊馬の過去とかの話を書くつもりです。


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ナンバーズ16 宇宙創造のカード

今回は遊馬とアストラルの戦いの過去をみんなに話します。
何故遊馬達が世界の命運をかけた戦いを繰り広げたのか……。

それからお知らせで皆さんにお願いがあります。
ZEXALのヒロイン、観月小鳥ちゃんを作品に登場させようかなと密かに考え、この度アンケートをとって決めようと思います。
活動報告に投票をお願いします。
登場期間は第二特異点の始まる直前か、終了後を予定しており、その点を踏まえてよろしくお願いします。
アンケートの期限は2017年6月10日までです、よろしくお願いします。
それからZEXALを見返したらやっぱり遊馬の応援&精神安定剤として小鳥ちゃんの存在は欠かせないと思いました。
もし仮にカルデアに来たら聖杯戦争ならぬ修羅場確定の正妻戦争勃発ですね(笑)


第一特異点を解決し、早速遊馬の思いに応えてサーヴァントが召喚され、出てきたのはジャンヌだった。

 

「また会えましたね、遊馬君。アストラルさん、マシュ。そして……私の妹さん♪」

 

ジャンヌのフェイトナンバーズは旗を広げている姿が描かれている。

 

真名は『FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク』。

 

驚くことにジャンヌ・オルタと同じナンバーズの番号で何故銀河眼の光子竜皇に選ばれたのかどうか不明だった。

 

「はぁい♪マスター、ごきげんよう」

 

次に召喚されたのはマリー・アントワネットだった。

 

マリーのフェイトナンバーズは水晶の馬に跨り、背後には豪華な宮殿が描かれており、真名は『FNo.21 白百合の王妃 マリー・アントワネット』。

 

「ほぅ、ここがカルデアか。なかなか面白そうな場所だな」

 

マリーの次はアマデウスでフェイトナンバーズは指揮棒を持って無数の楽譜と音符が描かれており、真名は『FNo.40 魔曲の奏者 アマデウス』。

 

「旦那様、清姫が参りましたわ♪」

 

アマデウスの次は清姫でフェイトナンバーズは扇子を持って舞うような姿に炎を纏う白い蛇を纏っており、真名は『FNo.57 清廉炎蛇 清姫』。

 

「またこいつと一緒に召喚されちゃったわね……マスターの運どんだけよ」

 

清姫の次はエリザベートでフェイトナンバーズはマイクを手にアイドルのライブ会場で楽しそうに歌っている姿で、真名は『FNo.91 雷竜魔嬢 エリザベート』。

 

「マスター、あなたとまた共に戦えることを光栄に思う」

 

エリザベートの次はジークフリートでフェイトナンバーズは剣を構えた騎士の姿で背後にはファヴニールの影が浮かんでおり、真名は『FNo.92 魔竜剣士 ジークフリート』。

 

「マスター、マシュと共にあなたを守る盾となりましょう」

 

ジークフリートの次はゲオルギウスでフェイトナンバーズは白馬に跨る騎士の姿が描かれており、真名は『FNo.74 守護聖人 ゲオルギウス』。

 

「約束……守ってくれてありがとう、ユウマ」

 

ゲオルギウスの次はマルタでタラスクと一緒に召喚され、フェイトナンバーズはタラスクと共にファイティングポーズを決めている姿で、真名は『FNo.79 聖拳竜破 マルタ』。

 

「ユウマ……ジャンヌと共に私を召喚してくれるとは……感謝します」

 

マルタの次はジルでフェイトナンバーズは魔本を手に無数の海魔を従えており、真名は『FNo.70 聖なる怪物 ジル・ド・レェ』。

 

「全く……まさか昔の私と一緒に召喚されるなんてね……」

 

ジルの次はカーミラでフェイトナンバーズはエリザベートとは真逆の不気味な城をバックに血を纏ってアイアンメイデンを持っており、真名は『FNo.31 鮮血魔嬢 カーミラ』。

 

「ほぅ、まさかこれほど小さな少年がたくさんのサーヴァントを呼び出すとは驚きだ」

 

カーミラの次はウラド三世でフェイトナンバーズは無数の蝙蝠血の杭を持ち、真名は『FNo.24 竜血王鬼 ウラド三世』。

 

「……敵だった僕が召喚されるなんて複雑な気分だよ」

 

ウラド三世の次はシャルルでフェイトナンバーズはギロチンをバッグに処刑者としての姿が描かれ、真名は『FNo.65 断罪処刑者 シャルル』。

 

「今一度、マリー王妃にお仕え出来る事に感謝します」

 

シャルルの次はデオンでフェイトナンバーズは剣を構えたデオンがフランス王権を象徴する無数の白百合に囲まれており、真名は『FNo.10 白百合の騎士 シュヴァリエ・デオン』。

 

味方陣営からはジャンヌ、マリー、アマデウス、清姫、エリザベート、ジークフリート、ゲオルギウスの七人。

 

敵陣営からはジル、マルタ、カーミラ、ウラド三世、シャルル、デオンの六人。

 

計十三人の英霊がサーヴァントとしてカルデアに召喚されたが、召喚に応じなかったのはランスロット、ファントム、そしてバーサーク・アーチャーの三人である。

 

ファントムは協力する意思は低そうだが、ランスロットとバーサーク・アーチャーに関しては遊馬はその内に会える気がすると直感した。

 

遊馬とアストラルは契約したサーヴァントを連れて食堂へ向かった。

 

テーブルには既にエミヤ達が作った古今東西の色々な料理が並び、とても美味しそうだった。

 

カルデアの所長はオルガマリーだが、マスターとして遊馬が代表して乾杯の音頭を取る。

 

「みんな!ついさっきまでフランスで敵同士だったけど、そんなことは関係ない!ここに集まったからには俺と一緒に人類の未来を守るために戦ってくれ!」

 

遊馬の人類の未来を守るという願いによって召喚されているので、基本的に共に戦うことに協力してくれる。

 

しかし、英霊といっても元は人間でそれぞれの性格は異なるし、相性もある。

 

そこでマスターとして遊馬からの注意点を話す。

 

「みんなにはマスターとして言わせてもらうけど、ここにいる英霊のみんなが生きていた時代や国が違うし、性格や価値観の違いはもちろんあるから、喧嘩するのは構わない。だけどな、殺し合いは絶対にダメだ!俺たちは仲間だから、そんな事をしたらフェイトナンバーズのカードの中に封印して謹慎させるからな」

 

フェイトナンバーズはサーヴァント達を有無を言わせずにカードの中に閉じ込めることができるという契約したサーヴァント達からしたら恐ろしい能力である。

 

更に追い詰めるかのようにアストラルが補足説明する。

 

「封印して皇の鍵の中に閉じ込めれば出ることは不可能だ。もし戦うならトレーニングルームで模擬戦でも行ってストレスを発散すればいい」

 

「俺はさ、せっかくこうして時空を超えて出会えたんだから、みんなとちゃんと絆を結んで仲良くなりたいんだ!だからみんな、これからよろしくな!!」

 

遊馬は満面の笑みを浮かべ、サーヴァントたちも思わず笑みがこぼれた。

 

幾ら英霊と同じような歴戦の戦いを繰り広げた者だとしても遊馬はまだ幼い少年。

 

その幼いマスターの意志を尊重し、サーヴァント達は出来るだけ争わないようにし、せいぜい喧嘩程度に収める心に決めるのだった。

 

「とまあ、色々言ったけど、とにかく今は騒ごうぜ!かんぱーい!」

 

「「「乾杯!」」」

 

遊馬たちはグラスを掲げて乾杯し、祝勝会兼歓迎会が始まった。

 

エミヤが作った色々な料理はとても絶品で遊馬たちは舌鼓を打ち、新たに召喚されたサーヴァントたちはすぐに気に入った。

 

それぞれが話をする中、モキュモキュと料理を沢山食べているのは遊馬とアルトリア、そして……ジャンヌだった。

 

「あぁ……美味しいです、こんな美味しい料理は生まれて初めてです〜」

 

ジャンヌはアルトリアに負けず劣らずの大食いで三人は次々とエミヤの料理を攻略していく。

 

アストラルは目を閉じ、羨ましいと思いながら料理を見ないようにして遊馬の背中に寄りかかる。

 

すると、酒を飲んでいい気分になっていたクー・フーリンが遊馬に話しかける。

 

「よぉ、マスター!楽しくやってるか?」

 

「おう!こんなに楽しいパーティーは久々だぜ!」

 

「そいつは良かったな。ところでよ、マスター。なんか願いはないのか?」

 

「願い?」

 

「特異点で聖杯を手に入れたんだからよ、何か願いとかねえのかよ?もしかしたら叶えられるかもしれねぇぞ?」

 

聖杯は願望器としての力があるが遊馬は真顔で即答した。

 

「そんなもんねぇよ」

 

「答え早いな!?にしても無いのかよ、ガキにしちゃ珍しいじゃねえか」

 

「願いは自分で叶えるもんだと思うからな。それに、俺の願いは叶っちゃったからな」

 

「叶った?へぇー、マスターの願いってなんだったんだ?」

 

「俺の願いはデュエルチャンピオンになる事だったんだ!」

 

「デュエルチャンピオン?何だそれ?」

 

「……チャンピオンってどういう事よ?」

 

そこにジャンヌ・オルタがグラスを持って遊馬の隣に座る。

 

「チャンピオンって事は何かの大会で優勝したの?街とかの?」

 

流石にそこまで大きな大会で優勝出来ないだろうと思っていたが遊馬はニッと笑みを浮かべる。

 

「いいや、世界クラスだぜ!」

 

「……はぁ!?せ、世界クラス!?」

 

ジャンヌ・オルタの驚きの声に周囲にいたみんなの視線が集中する。

 

「せ、世界クラスってどういう事よ!?」

 

「WDC、ワールドデュエルカーニバル!ハートランドに世界中から強豪デュエリストたちが集まって競うんだ!一般からプロまで関係無しにデュエルで優勝を目指すんだ!」

 

「さ、参加人数は……?」

 

「参加人数?詳しくは覚えてないけど、デュエリストなら誰でも手軽に参加できるらしいから、数千人……いや、数万人はいたんじゃないか?」

 

「す、数万人……?え?え?まさか遊馬はその大会で……?」

 

「おう!アストラルと一緒だけど優勝したぜ!!」

 

「凄いじゃない……」

 

ジャンヌ・オルタの呟きはマシュ達も同様の思いだった。

 

デュエルがどんなものか詳しくは知らないが、世界中のデュエリストが一同に集まる世界大会で優勝したことは名誉なことである。

 

「まあ、色々大会の裏で陰謀や野望があったからかなり大変だったけどな……」

 

元々WDCは主催者達が世界中に散らばったナンバーズを集めるために開催したものだった為、様々な陰謀や野望が渦巻いていた。

 

遊馬とアストラルが優勝し、数ある問題を無事に全てを解決したので大団円で迎えることが出来た。

 

「ま、そんな訳だから俺の願いは無いな。強いて言うなら、『何も失わず』にみんなと一緒に残り全ての特異点を解決して、人理消失を企てた黒幕をぶっ飛ばして未来を救う……それだけだ」

 

未来を救う事は今の遊馬を含めるカルデアの目標でもあるが、『何も失わず』……それが遊馬の強い願いだとマシュや数人のサーヴァントはすぐに気づいた。

 

戦いで何も失わずに勝利を得ることはほぼ不可能なことかもしれない。

 

しかし、ホープをはじめとする数多のナンバーズにオルレアンで見せた遊馬とアストラルの奇跡の力、ZEXAL。

 

それを見せられては本当に何も失わずに勝ち抜けられるのではないかとマシュ達は淡い期待を抱いた。

 

その後、遊馬達は遅くまで騒いでサーヴァントにも与えられた自室でそれぞれ眠りについた。

 

その夜……サーヴァント達は一斉に夢を見た。

 

サーヴァントは夢を見ることはないが、契約しているマスターの記憶を夢で見ることがある。

 

そして、マスターである遊馬の記憶の断片がサーヴァント達の脳裏に映し出される。

 

遊馬は何処にでもいる元気な男の子だった。

 

しかし、遊馬の両親は謎の失踪により行方不明となっていた。

 

それでも遊馬は大好きな父と母から受けた勇気と愛を胸に毎日を全力で過ごしていた。

 

そんなある日、遊馬の前に謎の扉が現れ、皇の鍵で扉を開けると異世界からアストラルが出現した。

 

世界に散った強大な力を秘めたアストラルの記憶の欠片……ナンバーズと己の命を賭けた戦いへと巻き込まれていく。

 

その戦いの中で遊馬とアストラルは様々な人たちと出会い、戦っていく。

 

それぞれの思いを受け止め、遊馬はその絆を繋ぐために守り、救う事を誓った。

 

そして、遊馬とアストラルは二人の力を重ね、ZEXALとなって数々の強敵を倒して戦って来た者達を守り、救うことが出来た。

 

しかし遊馬とアストラルは新たな戦いに巻き込まれる事となった。

 

それは強大な力を持つモンスターを従える異世界の襲来者。

 

遂に現れたアストラルの真の敵である七人の皇。

 

七人の皇を影で操る強大な闇……それはすべての世界を滅ぼそうとする邪悪な神。

 

そして、暗闇の中に青く輝く一枚のカードのような形をし、複雑なパズルのように分解と構築を繰り返して静かに浮いていた。

 

そこでサーヴァント達の夢は途切れた。

 

その瞬間、サーヴァント達は一斉に目を覚まして直感した。

 

夢の最後に現れたパズルのようなカード……あれは『聖杯と同等かそれ以上に危険なモノ』……だと。

 

サーヴァントそれぞれが持つ宝具や目にしたことのある様々な神秘の道具とは比べものにならないほどの力を秘めたカード。

 

あれは何だ?

 

サーヴァント達はそう疑問に思うのだった。

 

遊馬とアストラルは何を求めるために戦っていたのか……それを聞くために遊馬が目を覚ますのを待った。

 

翌朝、遊馬はマシュに起こされてから食堂でエミヤのご飯を美味しそうに食べ、満足しているとマシュから話を持ちかける。

 

「あの……遊馬君、一つお聞きしたい事があります」

 

「何だ?」

 

「宙に浮かぶパズルみたいな青いカード……ご存知ですか?」

 

それを聞いた瞬間、遊馬とアストラルの表情が固まり、目を見開きながら尋ねる。

 

「……どうしてそれを?」

 

「あ、その……ごめんなさい。実はマスターとサーヴァントは夢で記憶を共有する事があるんです」

 

「記憶の共有?もしかしてそれで俺の記憶を?」

 

「はい……ごめんなさい。恐らくは他の皆さんも……」

 

遊馬とアストラルは周りを見渡すと気まずそうな顔をするサーヴァントが何人かいた。

 

「そっか……もしかしたらいつかバレるんじゃないかなと思ってたんだよな。アストラル、良いよな?」

 

「そうだな。マシュ、会議室にサーヴァント全員とオルガマリー所長たちを集めてくれ。話す事がある」

 

「は、はい!すぐに召集します!」

 

マシュは急いでカルデアにいる全サーヴァントとオルガマリーとロマニを連れて来て会議室に集めた。

 

「さて……まずは私たちの世界について説明しよう」

 

アストラルは手の中から白く輝くカードを取り出すと、会議室の風景が一変し宇宙空間が広がった。

 

アストラルによる記憶やイメージを映し出す幻だがとても高度なものでサーヴァント達は感心した。

 

「私たちの世界は三つの世界で構成されていた。一つ目は遊馬たちが住む人間界と呼ばれる地球……」

 

それはこの世界と同じ青い星とも呼ばれる地球でそれは異世界でも変わらない美しさだった。

 

次に地球よりも更に青い世界で空に無数の星々が輝き、細長い塔のような建物が連なる幻想的な世界だった。

 

「これは、遊馬君がアルトリアさんと戦った時の希望郷……?」

 

マシュは特異点『F』の大聖杯でアルトリアと戦った時に遊馬が発動した『希望郷 − オノマトピア –』を思い出した。

 

「二つ目は私の故郷……アストラル世界。実体の存在しない、エネルギー世界でランクアップした魂だけが行き着ける場所だ」

 

「ランクアップした魂?」

 

「ランクアップした魂は例えるなら歴史で名を残した者たちや誇り高き者たち……つまり、ここにいる英霊のような存在だ。アストラル世界はこの世界の英霊の座に似たようなものだと思ってくれれば良い」

 

アストラルの説明にサーヴァント達は目を見開きながら驚愕した。

 

まさかこれほどまでに幻想的で美しい世界がランクアップした魂の行き着く先だとは思いもよらず、もしも自分達が異世界で生きていたら死後にアストラル世界に流れ着いたかもしれないと思いながら、その光景を目に焼き付けていく。

 

そして、アストラル世界の次は青い世界とは正反対の夕焼けや血を連想させるような赤い世界が広がる。

 

アストラル世界とは違った美しさを感じるがそれとは別に不気味さを感じる世界だった。

 

「バリアン世界……アストラル世界と同じ実体のないエネルギー世界だが、ここにはかつて一人の神がいた……」

 

バリアン世界から現れたのは灰色の体に金髪の長髪、青と赤のオッドアイ、胸には赤い宝石を中心に六つの宝石が埋め込まれた紋章……一見するとアストラルに似てなくもない姿をしているがそのオーラは人でも精霊でもない邪悪な存在だった。

 

サーヴァント達はそれぞれ異なる道を過ごしていたが、あれほどまでに強大過ぎる邪悪な存在を見た事がなく、本能的に戦闘態勢を取って宝具を構えてしまった。

 

「その名は『ドン・サウザンド』。バリアン世界の創造神で全ての世界を滅亡させようとしていた」

 

アストラルが映し出した幻であるが、それすらも忘れるほどの威圧感だった。

 

「……何故私たちがドン・サウザンドと戦うことになったのか……それはあるモノを手に入れるための争奪戦だ」

 

「あるモノ……?」

 

そして、それはサーヴァントたちが夢で見たパズルのような青く輝くカード……遊馬とアストラルは謎のカードの名前を静かに語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ヌメロン・コード」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞きなれない不思議な名前のカード……しかし、それはあまりにも強大な力を持つカードだった。

 

「それは世界の全てを記したカード。このカードの中には世界がどうやって出来たのか、そして何処へ向かうのかその過去と未来が全て記されている」

 

「過去と未来……!?」

 

「そして、このカードは3つの世界の過去・現在・未来のあらゆる運命を全てを書き換え決める力がある……それが神のカード、ヌメロン・コード」

 

「俺たちはヌメロン・コードを手に入れて世界を滅亡させようとするドン・サウザンドと戦ったんだ」

 

遊馬とアストラルがドン・サウザンドから世界を守るために何を求めて戦ったのか……ヌメロン・コードの持つ力の恐ろしさにマシュ達は血の気が引いた。

 

すると自身が願望器である聖杯から生まれた存在であるジャンヌ・オルタがヌメロン・コードについて異議を申し立てた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!そのヌメロン・コードがとんでもないものだと分かったけど、一体誰が作ったのよ!?そんな過去と未来を自由自在に決めるとんでもアイテムなんてありえないわよ!」

 

聖杯とは元々キリストがワインを振る舞った杯から始まり、それを後世の魔術師達が作ったものだが、ヌメロン・コードが誰が作ったのか想像できない。

 

「ヌメロン・コードは世界が誕生した時に同時に生まれたんだ」

 

「世界が誕生したと同時に……!?」

 

「みんなは世界がどうして誕生したか知っているか?」

 

遊馬にそう言われ、サーヴァント達は固まってしまう。

 

この世界はどうやって誕生したのか……様々な説が言われているが、その真実は分からない。

 

しかし、遊馬達の世界では世界誕生の真実が明らかとなっている。

 

「世界は神が創造した、ビックバンや隕石の衝突で誕生したなど色々な説があるが、私たちの世界では違う……世界は一匹のドラゴンが創造した」

 

「…………はぁ!!??」

 

ジャンヌ・オルタは数秒間思考が停止した後に驚愕の声を上げた。

 

マシュ達も本日数度目となる目を見開きながら驚愕した。

 

「世界を作ったというドラゴンは、元々一匹だけでどこかの時空に存在した」

 

アストラルは金色のカードを取り出すと、そこから一匹のドラゴンが現れた。

 

それは金色に輝く体に両眼が美しい青色を持つ巨大なドラゴンだった。

 

「ドラゴンは自身以外の他のものが存在しない孤独から全ての力を使い、世界を創造した」

 

それはビックバンのような計り知れない膨大な爆発で宇宙とそれを彩る数多の銀河と星々が誕生した。

 

「しかし、それによってドラゴンは力を使い果たし、命を終えようとしていた……」

 

「ドラゴンは、自らが創造した世界を見守れないことを憂えて、最後の力を振り絞って一粒の涙を流した……」

 

ドラゴンが瞼を閉じると青い瞳から一粒の涙が零れ落ちた。

 

「ドラゴンの思いと真実を宿したその涙は長い間、果てしない宇宙を彷徨った末に、遥か昔の地球へと衝突した」

 

「その衝撃によって地球は青の星となり、同時に月が生まれた」

 

まだ地球が一つの生命も生きてない灼熱の星にドラゴンの涙が衝突し、全ての生命を生み出した根源とも言える海が誕生し、それと同時に地球に大きな影響を与える月が誕生した。

 

「そして、この時にヌメロン・コードは地球の何処かへと封印され……その鍵は月へ置いた」

 

「将来ヌメロン・コードが悪用されることを見越し、ドラゴンはナンバーズに自らを秘めた……」

 

「ナンバーズに!?じゃあ……!」

 

既に竜の魔女と言うよりもドラゴン大好き少女へと変貌したジャンヌ・オルタにアストラルは苦笑を浮かべながら金色に輝くカードの光を消した。

 

それが世界を創造したドラゴンがナンバーズに転生した姿でヌメロン・コードの鍵……『No.100 ヌメロン・ドラゴン』。

 

ジャンヌ・オルタはつい手を伸ばしてヌメロン・ドラゴンを手に取ろうとしたが、その前にアストラルが自分の中に仕舞ってしまったので軽くいじけてしまった。

 

慌ててジャンヌとジルがジャンヌ・オルタを慰める中、オルガマリーは体を震わせながらアストラルに尋ねた。

 

「ね、ねぇ……アストラル。こんな事、頼むべきじゃないと分かっているけど、そのヌメロン・コードを使えば……」

 

ヌメロン・コードを使えばこの世界の人理焼失を食い止めることができる。

 

この場にいる誰もが考えたことだが、アストラルは首を左右に振る。

 

「残念だがオルガマリー、ヌメロン・コードを使うのは得策ではない」

 

「ど、どうしてよ!?」

 

「理由は三つある。一つ、ヌメロン・コードは二度と悪用されないようにアストラル世界で厳重に封印されているため使用することは許されない。二つ、ヌメロン・コードの力がこの世界に通用するかどうか分からない。三つ、仮にヌメロン・コードが通用するとしても、使用した際に人理焼却の黒幕に奪われるリスクがある。もしも黒幕にヌメロン・コードを奪われたら……」

 

その先をアストラルが言わなくても直ぐに理解できた。

 

人理焼却の黒幕がヌメロン・コードを手に入れたら人理焼却どころの話じゃない。

 

もはや誰にも手を出せないほどの強大な力を持つ最悪な存在になることは間違いなく、世界滅亡は免れないだろう。

 

オルガマリーの気持ちも理解できるがあまりにもリスクが大き過ぎる。

 

「ごめんなさい……軽はずみな発言をして。忘れてちょうだい……」

 

「いや、君の気持ちは理解できる。だが、周りを見るんだ」

 

「周り……?」

 

オルガマリーが周りを見渡すとそこには遊馬が絆を結んで召喚されたサーヴァント達の姿が目に映る。

 

「このカルデアには未来を救うためにこれだけの英霊が召喚に応じてくれた」

 

「心配するな、所長!俺たちで黒幕たちをぶっ飛ばして未来を救うからさ!!」

 

アストラルと遊馬の励ましにオルガマリーは私もまだまだね……と思いながら苦笑を浮かべる。

 

「そうね。こんなにも頼もしいマスターとサーヴァントがいるのだから心配はいらないわね。さて、話が終わったところで仕事に戻るわよ!ロマニ、次のレイシフトの為にやることをちゃっちゃとやるわよ!!」

 

「え?でも僕はもう少し二人の話を……」

 

「そんな事は後にしなさい!行くわよ!」

 

「あ〜れ〜!!?」

 

やる気満々なオルガマリーはロマニの首根っこを掴んで会議室を飛び出して行き、次のレイシフトの為の仕事に入った。

 

「じゃあ私も次のレイシフトで役に立つ発明をしようか。その為に……遊馬君!約束通り、飛行船を見せてくれ!」

 

ダ・ヴィンチはノートとペンを取り出し、目を輝かせながら遊馬に詰め寄る。

 

「え?かっとび遊馬号を?あー、そう言えば約束していたな。とりあえずカルデアの上に出現させればいいか?」

 

「もちろんだとも!さあ早く!異世界の未知なる技術を私に見せてくれ!!」

 

「分かった。じゃあ、今回の話はここでお開きにするぜ」

 

「何か私たちに質問があったら時間が空いている時に来てくれ」

 

遊馬たちの世界にドン・サウザンド、そしてヌメロン・コード……あまりにも凄まじいとんでも世界にサーヴァント達はこれ以上聞くと頭がパンクしかけるので、一旦解散して遊馬とアストラルの話を整理していく。

 

その夜……皆が寝静まった頃、ジャンヌ・オルタは自室から出て廊下の窓に寄りかかっていた。

 

窓から見える景色は暗闇に染まった雪景色でカルデアが雪山の上に建てられたことを思い出させる。

 

「ふぅ……」

 

ジャンヌ・オルタは大きくため息をついていると一つの小さな影が近づく。

 

「あれ?ジャンヌ、何やってんだ?」

 

「遊馬……?」

 

それは真夜中に夜更かしをして起きていた遊馬だった。

 

遊馬は相向かいに座り、遊馬とジャンヌ・オルタの真夜中の対話が始まる。

 

 

 

.




次回は遊馬とジャンヌ・オルタちゃんのお話です。
ジャンヌ・オルタちゃんが本格的に遊馬に攻略されちゃうかもしれません(笑)


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ナンバーズ17 竜皇の巫女

今回はジャンヌ・オルタちゃん回です。

ヌメロン・コードやバリアン七皇の話も含めています。

先週からお願いした小鳥ちゃん登場のアンケートですが、現在の投票結果は賛成12票、反対5票です。

小鳥ちゃん達の正妻戦争を見たい反面、マシュ達ヒロインが影になりやすいと思う意見もあったので賛否両論がありました。

6月10日までなので残り4日、よろしくお願いします。


廊下で外の雪景色を眺めているジャンヌ・オルタに遊馬が通りがかって一緒に外の風景を見る。

 

「遊馬、何をしているのよ。子供はもう寝る時間よ?」

 

「仕方ねえじゃねえか。ダ・ヴィンチちゃんに夜遅くまでかっとび遊馬号の調査に付き合わされたんだからよ……」

 

げっそりとした様子で遊馬は大きなため息をついた。

 

「あの天才に付き合わされたらめんどくさそうね……アストラルは?」

 

「アストラルは皇の鍵の中で休んでる。ダ・ヴィンチちゃんに遊馬号についてかなり質問攻めを受けて疲れていたからな」

 

ダ・ヴィンチにとって皇の鍵の飛行船……かっとび遊馬号は人間界とアストラル世界の叡智の結晶とも言える、異世界の未知なる技術で作られた飛行船。

 

天才発明家でもあるダ・ヴィンチが遊馬達に役に立つであろう新たな発明を思いつくために、そして自分の探究心のために遊馬とアストラルを巻き込んだ。

 

「二人ともお疲れ様……」

 

「おう、サンキュー……あ、そうだ。ジャンヌ、これ飲むか?」

 

遊馬は両手に持っていた円柱の形をしたアルミ製の物……ジャンヌ・オルタからしたら未来の物である缶ジュースを見せる。

 

「何それ……?」

 

「さっき、ロマン先生から貰った差し入れの缶コーラ。ジャンヌにとって未知なる飲み物だけどな」

 

「コーラ……良いわ、飲んでみようじゃない。って、どうやって開けるのよ?」

 

「待ってろ、すぐに開けてやるから」

 

缶コーラのプルタブを開け、炭酸が溢れる音が鳴り、ジャンヌ・オルタに渡して遊馬も自分の缶コーラを開けた。

 

「はい、乾杯」

 

「乾杯」

 

缶コーラを軽くぶつけ、二人同時に口をつけて喉に流す。

 

しかし、炭酸飲料を初めて飲むジャンヌ・オルタは驚いてコーラを吹き出しそうになった。

 

「ぶはっ!?な、何これ!?口の中が痺れる!?」

 

「はははっ!これが炭酸飲料って奴だ。飲み慣れれば癖になるだろ?」

 

「炭酸ね……ゴクッ!んっ、確かにこれは癖になりそうね……」

 

「コーラは未来で結構人気だからな、すんげぇ美味いんだ!」

 

「そう……良いわね、雪を見ながらこうして飲むなんて」

 

「そうだな。でも雪が晴れていれば山の上だから綺麗な星が見えていただろうな……そしたらもっと美味いだろうな」

 

「綺麗な星を見ながらね……中々のロマンチストね」

 

「そうか?そうだ、俺んちの家の屋根の上から見る景色も結構良いんだぜ。俺の部屋が屋根裏部屋だから安全に行けるし」

 

「へぇー。あなたの家、屋根の上に乗れるのね。楽しみにしているわ」

 

「おう!」

 

少し前までは敵同士だった二人だが、まるで姉弟のような楽しい話をする。

 

ジャンヌ・オルタはコーラを飲み干し、空き缶を置いて息を吐くと話を切り替えた。

 

「……ねえ、遊馬」

 

「ん?」

 

「あなた……過去を変えたいと思わないの?」

 

「……えっ?」

 

唐突なジャンヌ・オルタの問いに遊馬は目を見開く。

 

ジャンヌ・オルタはヌメロン・コードの話を聞いてからずっとその事を考えており、遊馬の答えを聞く前に更に問い続けた。

 

「だって、あなたの両親が行方不明になったり、普通に生きていたのに突然命を賭けた戦いの中に巻き込まれて……いっぱい傷ついて涙を流して……本当なら暖かい家族と幸せな生活を送っていたんじゃないの?」

 

遊馬は普通の少年だったが、両親が行方不明となりアストラルと出会ったことで壮絶なる戦いに巻き込まれた。

 

「ドン・サウザンドを倒した後にヌメロン・コードを使って遊馬の人生をやり直せば……」

 

「俺は過去を変えるつもりはない」

 

遊馬はキッパリと答えた。

 

遊馬ならそう言うと思っていたがあまりにも早い即答だったのでジャンヌ・オルタは目を丸くした。

 

「人には誰だって辛い過去を持っている。例え持ってなくてもいつかは辛い現実にぶち当たり、それが過去になる……過去があるから現在があり、未来へ繋がる」

 

「辛かったんじゃないの……?」

 

「確かに戦いは辛かったけど、俺はアストラルと出会って本当に幸せなんだ。アストラルと言う最高の相棒ができて、希望皇ホープと言う最高の切り札ができて、シャークにカイト……沢山の最高の仲間達を作ることができた。あの戦いがあったからこそ俺は掛け替えのない沢山の宝物ができたんだ」

 

「……それはあなたにとって価値のあるものをたくさん得られた戦いだったからじゃないの?私やジャンヌにはそんなもの……」

 

「確かにジャンヌは聖杯で作り出されて、姉ちゃんは火炙りで処刑されて……本当に辛かったと思う。だけどさ、これだけは言える」

 

「何……?」

 

「俺たちに出会えたじゃないか」

 

遊馬の言葉にジャンヌは目をパチクリさせる。

 

まさか遊馬がそんな言葉を言うとは思いもよらなかった。

 

確かにジャンヌ・オルタは遊馬と出会えたことでその運命が大きく変わっている。

 

「遊馬……」

 

「別にジャンヌが処刑されて良かったとは絶対に言わないけど、あの時の戦いがあったから俺たちは出会えて仲間になれた。違うか?」

 

「そうね……」

 

ジャンヌ・オルタは遊馬とアストラルによって受肉と言う新たな命を授かり、一人の少女として歩くきっかけをくれた。

 

そして……カルデアのサーヴァントの一人、遊馬達の仲間となった。

 

すると遊馬はドン・サウザンドと同じく敵だった七人の男女について話し始めた。

 

「実はドン・サウザンドに運命を狂わされた七人の皇……バリアン七皇がいたんだ」

 

「バリアン七皇?」

 

遊馬はD・パッドを取り出して操作し、そこに一枚の写真を見せた。

 

それは六人の男性と一人の女性が並ぶ写真で服装や顔つきもかなり異なっている。

 

「ドン・サウザンドがバリアン世界の為に戦う七人の皇を選んで人生を狂わせて、この七人の前世は異なる時代の英雄だったんだ」

 

「英雄……?もしかして英霊なの?」

 

「みたいなものかな?まず一人目、俺の仲間でライバル、神代凌牙ことシャーク……ナッシュ。前世はとある国の王様でバリアン七皇のリーダーだった」

 

「……仲間だったけど敵だったの?」

 

「まぁな。大切な仲間だったけど最初からアストラルと敵対する運命だったんだ」

 

「そう……どんだけ邪悪なのよ、そのドン・サウザンドは……」

 

復讐していた頃は自分は邪悪な存在だと思っていたが、ドン・サウザンドという邪神に自分の復讐がどれだけ小さかったかと思い、ため息をついてしまう。

 

「それで、二人目はシャークの妹でいもシャ……」

 

『その名で呼ぶな!!』

 

「はうっ!?は、はいっ!!?」」

 

遊馬は凛とした鋭い声が耳に響き、冷や汗をかいて周りを見渡すがこの場には遊馬とジャンヌ・オルタにしかいない。

 

「どうしたの?」

 

「い、今、恐ろしい幻聴が……え、えっと……名前は神代璃緒ことメラグ。シャークの双子の妹で前世は国王だったシャークの国の巫女をしていたんだ」

 

「へぇー、双子の兄妹なのね。兄妹にしてはかなりベタベタしている……あら?この二人、同じ指輪をしているわね……怪しいわね」

 

璃緒は凌牙の腕に抱きついており、更に二人の指には同じ指輪がはめており、ジャンヌ・オルタから見て兄妹には見えないほど仲が良かった。

 

「そうか?シャークと璃緒は両親がいないから仲が良いんだよ。三人目はドルベ。前世はペガサスに跨る騎士でシャークと仲が良くて、真面目だけどちょっと天然なんだ」

 

「ペガサスの騎士ね……メドゥーサに話したら?きっと食いつくわよ」

 

「メドゥーサもペガサスに跨るし、そうだな……後でメドゥーサには話すよ。四人目はギラグ。前世は日本で伝説の武将だったんだ」

 

「伝説の武将ね……鍛え抜いた肉体にかなり奇抜な髪型……面白そうな男ね」

 

「でもとってもいい奴だぜ。それで、ギラグの親友で五人目はアリト。カウンターが得意な熱いデュエルをして、前世は最高の剣闘士だったんだ」

 

「剣闘士か……本当にこの世界だったら英霊の座に呼ばれて、下手したらサーヴァントで召喚出来そうね」

 

「そうだな……六人目はミザエル。こいつはジャンヌと気が合うかもしれないぜ。銀河眼の光子竜と異なる銀河眼使いで、前世は竜と心を通わす少年だったんだ」

 

「え?もう一人の銀河眼使い!?しかも竜と心を通わしていた!?それは是非とも会って見たいわ!」

 

「ミザエルは根っからのドラゴン好きだからな。そして、七人目は真月零……ベクター。前世はとある国の王子で、いい奴だったけど残虐な父親に母親を殺されて、心が壊れちまって狂気の王子になっちまったんだ」

 

「……ジルと同じね。大切な人を殺されて狂っちゃったのね」

 

ジルもジャンヌが処刑されてからおかしくなり、真月に対して妙な親近感を抱いた。

 

「ああ。特にベクターから敵として酷いことを沢山されてきたけど、あいつとは親友として一緒にいた時期があったからな。裏切られても俺はあいつを信じ続けた」

 

ベクター……真月は何度も遊馬を陥れようとしたが、遊馬は真月に宿る優しい心を信じ続けた。

 

「信じるか……敵だった私ですら助けたんだもの。このベクターも救われたでしょうね……それで、バリアン七皇は遊馬達と敵として戦って……その後はどうなったの?」

 

「バリアン七皇は戦いの後に全員消滅しちまったんだ。だけど、アストラルがヌメロン・コードを使って人間として転生させたんだ」

 

「ヌメロン・コードで人間として転生させた……?凄い、消滅した存在を人間として転生させるなんて」

 

ヌメロン・コードで消滅した存在を人間として転生させる力がある事に驚き、D・パッドには遊馬とシャーク達の楽しそうな日常風景の写真が次々と映される。

 

「ヌメロン・コードを使えばドン・サウザンドに狂わされた七皇の過去の運命を正すことは出来たかもしれないけど、アストラルは過去を変えずに七皇……シャーク達に新しい未来を与えたんだ。そして、今度こそ俺たちの仲間として過ごし、今は一緒に同じ学校にいるんだ」

 

「アストラルはヌメロン・コードで下手に過去を変えずに、戦いで失った全てを取り戻したのね。そして、二度と悪用されないように封印か……きっと遊馬がいたからこそ、そう決断したのね」

 

過去を変えてしまったら今まで積み上げてきたモノが全て消えてしまう。

 

だからこそ共に生きる未来をアストラルは与えたのだ。

 

バリアン七皇の話がひと段落すると、遊馬は前々から思ったことを聞く。

 

「なぁ、ジャンヌ。いつまでも姉ちゃんと同じ名前だと不便だよな?いっそのこと、新しい名前でもつけるか?」

 

ジャンヌもジャンヌ・オルタも同じ名前で今のままだと呼ぶ時とかに不便で仕方ないので遊馬が新しい名前をつけようと提案した。

 

「私はあいつが姉とは認めてないけど……大丈夫?あなた、名付けが下手みたいじゃない。変な名前なら却下よ」

 

「だ、大丈夫だって!そうだな……えっと……」

 

遊馬が腕を組んでジャンヌ・オルタの名前を考えようと唸る。

 

その時、遊馬の脳裏に不思議な光景が広がる。

 

綺麗な青空と草原の風景にジャンヌに良く似た女子高生風の格好した少女が口を開いて何かを呟く。

 

そして、遊馬はその少女の呟きをそのまま口にした。

 

「……『レティシア』」

 

「え?」

 

「いや、頭にジャンヌに似た女の子の姿が思い浮かんで、その名前が……」

 

何故遊馬にその少女と名前が浮かんだのか分からないが、その綺麗な名前をジャンヌ・オルタは呟く。

 

「レティシア。レティシアね……うん、良い名前じゃない。気に入ったわ」

 

「本当か!?」

 

ジャンヌ・オルタは立ち上がり、黒い旗を取り出して広げ、改めて自己紹介をする。

 

「今から私の名前はレティシアよ。よろしくね、マスター」

 

「ああ!よろしくな、レティシア!」

 

ジャンヌ・オルタ……聖杯から生まれたジャンヌの偽物ではない一人の少女として付けられた新たな名前……レティシア。

 

遊馬とレティシアがハイタッチを交わすとデッキケースから光が漏れる。

 

「え?こいつは……」

 

デッキケースを開けてカードを取り出すと『FNo.62 竜皇の魔女 ジャンヌ・オルタ』の真名が変化していた。

 

「見ろよ、ジャンヌ・オルタのカード名が……」

 

「これって、名前が変わった?」

 

それは遊馬がジャンヌ・オルタに新たな名前を与え、レティシアが遊馬との間で強い絆で結ばれたことによりフェイトナンバーズに変化が起きた。

 

「『FNo.62 竜皇の巫女 レティシア』……?」

 

竜皇の魔女 ジャンヌ・オルタから竜皇の巫女 レティシアに真名が変化し、効果も一部追加されており、遊馬とレティシアは困惑する。

 

フェイトナンバーズにはまだ未知なる力が秘められている事を物語っていた。

 

「魔女から巫女に変わった……?どう言うことよ?」

 

「分かんねえ。でも、ジャンヌ……レティシアが新しい道を歩き出した証じゃねえか?」

 

復讐の魔女という鎖から解き放たれ、竜皇に仕える巫女として生まれ変わった瞬間だった。

 

「竜皇の巫女ね……本当に遊馬は面白いわ。こんなに面白いマスターは何処にもいないんじゃないかしら?」

 

「そうか?過去にも聖杯戦争があってたくさんのマスターがいたらしいけどな」

 

「イレギュラーがあったとしても、あなたみたいにサーヴァントをカード化させて新たな力を与えたり、私やジルみたいに敵を救ったりしないわよ」

 

「あはは……サーヴァントのカード化は俺も驚いたよ。もしかしたら俺自身に何かあるかもしれないな……」

 

遊馬は自分の右手を見つめると一瞬だけ金色に輝く。

 

戦いを重ねる毎に薄々自分が『普通の人間』ではないと勘付いていたが、自分が何者だろうと関係ない。

 

「ま、だとしても俺は俺だ。九十九遊馬という一人の人間には変わりないんだ。かっとビングだぜ!」

 

「それは良いんだけど……かっとビングって何よ?今まで特に気にしてなかったけど変な言葉よね?」

 

「かっとビングは父ちゃんから教わったんだ!」

 

「遊馬のお父さんから?」

 

「そう!かっとビング、それは勇気をもって一歩踏み出すこと!かっとビング、それはどんなピンチでも決して諦めないこと!かっとビング、それはあらゆる困難にチャレンジすること!」

 

かっとビングと言う遊馬の不屈の精神があったからこそ、遊馬はどんなに辛い戦いでも最後まで戦い抜くことが出来たと言っても過言ではない。

 

かっとビングこそが遊馬の根源だと理解したレティシアは納得したように頷く。

 

「勇気、諦めない、挑戦……なるほど、人間の正の心ってことね。確かに言いやすいし、力が湧きそうね」

 

「だろだろ!?レティシアも是非言ってくれ!」

 

「……考えておくわ。叫ぶのはちょっと恥ずかしいから」

 

かっとビングは確かに叫ぶのは少し恥ずかしいが、徐々に周りに浸透していく不思議な魅力があるのをレティシアは知らない。

 

実際に遊馬の仲間達はかっとビングを心に秘めて生きているのだ。

 

そして、マシュを始めとするカルデアのサーヴァント達にも徐々にかっとビングが浸透していってる。

 

「さて……そろそろ寝るかしらね」

 

「そうだな……ふわぁ……おやすみ、レティシア」

 

「ええ、おやすみ。遊馬」

 

遊馬とレティシアはその場で別れ、それぞれの自室へ戻る。

 

翌朝、レティシアが遊馬に名付けてもらったと自慢そうにみんなに話すとそれに嫉妬した清姫が喧嘩を売り、トレーニングルームで激しいバトルを繰り広げるのだった……。

 

 

 

.




ジャンヌ・オルタちゃんがレティシアに改名されました!

最初はオリジナルの名前を考えようと思いましたが、やはりジャンヌのもう一つの名前はレティシアしかないなと思ってそちらにしました。

次回は遊馬のカルデアでの1日みたいな話を書いていきます。

遊馬がカルデアでどんな1日を過ごすのかサーヴァントたちとどんな触れ合いをするのか楽しんでもらえたら幸いです。

第2章はもう少々お待ちください、私も早くネロちゃんに会いたいので(><)


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ナンバーズ18 カルデアの一日

今回は遊馬とアストラルのカルデアで過ごす一日の話です。

さて、先日募集したアンケートですが小鳥ちゃんがFate/Zexal Orderに参加することとなりました!

賛成は16票、反対は6票でした!

投票してくれた皆さん、ありがとうございます!

遊馬×小鳥前提ですが、やはりFate伝統?の正妻戦争や修羅場を書いていきたいと思います。



これは遊馬とアストラルのカルデアの一日である。

 

午前7時・起床。

 

遊馬はマイルームのベッドでイビキをかきながら豪快に寝ており、またアストラルは遊馬の上でフワフワと浮いて腕を組みながら寝ていた。

 

そこに毎朝遊馬とアストラルを起こしに来ているのがマシュだった。

 

マシュは可愛い寝顔をする遊馬を微笑んで見ながら起こす。

 

「遊馬君、朝ですよ、起きてください」

 

「んぁ?……ふわぁ、おはよう。マシュ……」

 

「おはようございます。ところで……またみたいですね」

 

マシュはベッドの近くの床を見ながら苦笑を浮かべ、遊馬も苦笑を浮かべる。

 

「ああ……またみたいだな。アストラル、解放してやってくれ」

 

「……分かった」

 

アストラルは目を覚まし、ジト目で床で転がっている人を睨みつけた。

 

「むー!むーっ!?」

 

「……清姫、君はいい加減にしたらどうだ?」

 

それは先日遊馬に召喚された清姫で口や体に鎖で巻かれて動きを完全に動けなくなっていた。

 

それはアストラルが発動した罠カードだった。

 

「相変わらずよく効くな……『デモンズ・チェーン』」

 

それは対象モンスターの効果を無効化し、攻撃を封じる強力なモンスター封じの罠カード、デモンズ・チェーンだった。

 

何故デモンズ・チェーンで清姫を封じているのかと言うと、それは遊馬の貞操を守るためだった。

 

清姫は遊馬に心底惚れており、夜這いをかけようとしていた。

 

その前にエリザベートに清姫は危ないから気をつけろとアストラルに忠告していた。

 

その忠告通り、清姫は深夜に遊馬の部屋に忍び込んで夜這いをかけようとしたがアストラルはセットしておいたデモンズ・チェーンを発動して清姫を動けなくして遊馬の貞操を守った。

 

それが数日連続で続き、アストラルも呆れ果てていた。

 

「うぅ……アストラルさん、どうして邪魔するんですか?」

 

「当たり前だ。寧ろ邪魔しない方がありえない」

 

清姫とアストラルは互いを強く睨みつけて火花を散らせる。

 

一方は遊馬と添い遂げたい、もう一方は遊馬の貞操を頑固として守る……遊馬を想う相反する二人が反発しているのだった。

 

「あはは……清姫、朝飯食いに行こうぜ?」

 

「はい!是非っ!」

 

清姫はすぐに元気になり、遊馬の腕に抱きついて一緒に食堂へ向かう。

 

「いつもお疲れ様です、アストラルさん」

 

「ふっ、遊馬を清姫に渡すつもりはないからな」

 

「まるで娘のお付き合いを許可しないお父さんみたいですね……」

 

マシュとアストラルは遊馬と清姫の後を追い、食堂へ向かう。

 

 

午前7時15分・朝食。

 

カルデアの食事はエミヤが担当しており、エミヤの作った料理を遊馬たちはいつも美味しそうに食べている。

 

ちなみにいつも大量の食事を食べているアルトリアはカルデアの食糧確保の為に何故か釣りが好きなクー・フーリンを連れて共にフランスにレイシフトを行い、ダ・ヴィンチ特製の収納袋を手に作物や野生動物や魚などの食糧を大量に確保している。

 

「うぉおおおっ!シロウのご飯のために!」

 

「よっしゃあ!釣りまくるぜ!魚ぁっ!!」

 

これでなんとかカルデアの食糧危機を回避しているのだった。

 

 

午前8時・勉強会。

 

食事の後に一休みをした遊馬は勉強会を受けていた。

 

教師はマシュとオルガマリーの二人で遊馬の中学生レベルの基本的な教養、そして魔術やサーヴァントの基礎知識を教える。

 

そして、この勉強会では遊馬は珍しく真剣に勉強をしていた。

 

勉強が苦手な遊馬はハートランド学園でいつも授業で寝ており、最初の勉強会で睡魔に襲われて寝かけたら……。

 

「この私自ら勉強を教えているのに寝るとはいい度胸ね……?遊馬ぁっ!!」

 

「は、はいっ!!??」

 

オルガマリーの激昂が轟き、姉・九十九明里を彷彿とさせる恐ろしさに遊馬に強いトラウマを与えて真面目に勉強するようになった。

 

オルガマリーは遊馬に教えるのに苦労すると思われたが、意外にも遊馬は理解力があり、次々と知識を蓄えていった。

 

それもそのはず、遊馬の父・九十九一馬は冒険家であると同時に大学の教授をしており、更には百年に一人の天才と言われるDr.フェイカーも唸らせるほどの知識と発想力を持つ学者でもあり、その息子である遊馬にもなんだかんだで素質があるのだった。

 

つまりやる気さえあればできる子だった。

 

そんな遊馬に休憩を挟みながらみっちり勉強を教え、午前中が終わる。

 

 

午後0時・昼食。

 

約4時間の濃厚な勉強会を終えた遊馬は口から魂が抜けかけながら食堂へ向かい、エミヤ特製の昼食を頂く。

 

軽く死にかけていたが美味しそうな昼食を見た瞬間元気になり、モリモリと食べていく。

 

 

午後1時・鍛錬。

 

午後からは体力などを鍛えるトレーニングを行うのだが、遊馬にはあまり必要がなかった。

 

遊馬は幼い頃から冒険家の父に世界中の色々な場所に連れられ、時には断崖絶壁の山を小学生で一緒に崖登りをした事もあり、体育の時間では無理難題なチャレンジを繰り返して来たので身体能力は中学生レベルを大幅に超えていた。

 

あまり下手に鍛えると成長期の遊馬の体が壊れる可能性があるので遊馬の自主トレに任せた。

 

ある日、遊馬はトレーニングルームで激しい攻防をしているサーヴァント達の光景を目の当たりにした。

 

サーヴァント……英霊は歴史に名を残した英雄や偉人であるが、時代が古ければ古いほどその英霊は武人であることが多い。

 

その代表格が騎士王のアルトリアやケルトのクー・フーリンなどが挙げられ、時代を超えた奇跡の出会いという事もあって武人のサーヴァント達は己の武を磨き、伝説の英雄と手合わせをする為にと互いに武器である宝具を振るって模擬戦をする。

 

男の子である遊馬はサーヴァント同士の激しい模擬戦に目を輝かせた。

 

「すっげー!俺もみんなみたいにビュンって宝具を出して戦えたらーー」

 

そう思ってパッと両手を広げた次の瞬間、遊馬の手に二振りの剣が現れた。

 

「……え?」

 

「何……?」

 

二振りの剣は遊馬が柄を握ってないのでそのまま床に落ち、刃が床に突き刺さった。

 

片刃で唾がない代わりに刀身に円形の穴が空いているシンプルだが少し不思議な形をした双剣……それは遊馬にとって見慣れたものでもあった。

 

「未来皇ホープの双剣……?」

 

それは遊馬が生み出した未来皇ホープが両手に持つ双剣そのものであり、サーヴァント達は遊馬が双剣を出現させたことに目を見開くほど驚いた。

 

遊馬は恐る恐るその双剣を持ち上げるとまるでずっと前から持っていたかのように手に吸い付き、とても軽く感じられた。

 

「まさか……遊馬が英霊と契約を結んだことで遊馬自身に何か影響を……?」

 

アストラルは遊馬が英霊と契約を結び、不可視な強い絆で結ばれたことで遊馬自身に大きな影響を与えているのではないかと推測した。

 

するとそこに赤い影が遊馬に近づく。

 

「ほぅ……流石は無限の可能性を持つマスターだ」

 

「エミヤ!」

 

「マスター、良かったら私が双剣の使い方を教えてやろう。英霊の中で双剣……二刀流を操れるのは私だけだからな」

 

エミヤは干将・莫耶を投影して両手に構える。

 

確かにカルデアにいるサーヴァントで双剣……二刀流を扱えるのはエミヤしかいない。

 

これからの戦い、遊馬がモンスターを召喚する前に真っ先に敵に狙われる可能性が十分にある。

 

護身術として学ぶ為にエミヤに師事を請う。

 

「よっし!頼むぜ、エミヤ!」

 

「手加減はせぬぞ。来たまえ、マスター!」

 

遊馬はエミヤから二刀流の使い方を学び、他には徒手空拳をマルタから学び、その後はアルトリア達が手合わせをして護身術としての技術がグングン上がっていく。

 

伝説の英雄から武術の師事を得て遊馬はデュエリストだけでなくリアルバトルを行うリアリストとしての道も開けたのだった。

 

 

午後4時・手伝い。

 

鍛錬の後、遊馬とアストラルはダ・ヴィンチの工房に向かった。

 

ダ・ヴィンチは新しい発明を日夜行い、特に皇の鍵の飛行船を調べてからインスピレーションを得て色々な発明をしていく。

 

その発明は主に遊馬が特異点で使う為に利用するので遊馬は進んでダ・ヴィンチの手伝いを行い、試作品の試運転と調整をする。

 

 

午後6時・夕食。

 

勉強会と鍛錬と手伝いを終え、ヘトヘトになった遊馬はアルトリアとジャンヌと共にモキュモキュとエミヤ特製の夕食を食べる。

 

しかし、成長期と大食い二人にやはりカルデアの食糧がジワジワと減っているのでアルトリアは再びレイシフトをして食糧確保に向かうことになるのだった。

 

 

午後7時・自由時間。

 

一日の遊馬のやるべきことが終わり、後は忙しい遊馬の心を穏やかにするための自由時間となる。

 

「よし!レティシア、デュエルだ!」

 

「ええ!今日こそは勝つわよ!」

 

夕食を終えたその後にそのまま食堂でデュエルをする。

 

遊馬の世界で発展しているデュエルモンスターズを知ろうとサーヴァントだけでなくカルデアの職人も共に見ている。

 

デュエリストを目指すレティシアがルールなどを覚えるために遊馬とアストラルが持つカードを使い、デッキを半分にしたハーフデッキで簡易的なデュエルをする。

 

ただのカードゲームと思ったら侮るなかれと言わんばかりにデュエルモンスターズのルールは単純そうで実は複雑……一朝一夕で覚えるものではないので一緒にやりながら遊馬とアストラルが教えていく。

 

デュエルだけでなくデッキ構築やカードの組み合わせやコンボを考えるだけでも時間はあっという間に過ぎていく。

 

 

午後9時・トークタイム。

 

自由時間を終えると遊馬はサーヴァント達と話をする。

 

サーヴァント達と絆を深めるためのトークタイムだ。

 

カルデアに召喚されたサーヴァント達の大半は遊馬をマスターとして、遊馬よりも年上のサーヴァントからは可愛い弟分として、そして……一部の女性サーヴァントからは想い人として慕われている。

 

しかし、特異点の戦いで敵であった者や生前に起きた事柄から遊馬に心を開いていないサーヴァントも少なからずいる。

 

現状で遊馬にまだ心を開いてないのはカーミラとシャルルだった。

 

遊馬はカーミラとシャルルの生前の出来事を調べ、それを全て受け入れながら二人それぞれと話し合う。

 

「カーミラ、歳を取るって別に悪いことじゃないと思うぜ?まあ、俺は男だから女の辛さはよく分からないけど……でも、俺の婆ちゃんは言ってた。人生を長く生きて歳を取って失ったものは沢山あるけど、同時に掛け替えのない大切なものが沢山できたから後悔は無いってさ。生きることは何かを得て失うことの繰り返しなんだよ。カーミラもさ、せっかくこうして召喚されたんだから自分にとって大切なものを見つけてみろよ、そうしたら考えが変わるかもしれないぜ」

 

カーミラには自分にとって大切なものを見つけて新しい価値観を見つけることを勧めた。

 

「シャルル。大切な人をその手にかけてしまったのは辛いよ。俺もさ、似たようなことを経験したからさ……でも、いつまでも俯いたままじゃダメだと思う。マリーは今カルデアにいるんだ。もう誰かに罰せられることはないけど、これからの戦いで何かが起こるか分からない。マリーはもうお前の事をとっくに許しているんだから、今度は裁くんじゃなくてマリーを守るためにその力を使えば良いじゃないか」

 

一方、シャルルには処刑人ではなく、マリーを守る一人の男として戦えばいいと諭した。

 

まだ二人は仲間として絆が芽生えてないが、遊馬の話を聞いて僅かに心が動いたのだった。

 

 

午後11時・就寝。

 

トークタイムが終わり、シャワーを浴びて体を綺麗にし、ジャージを着る。

 

そのままベッドに横になるがやはりなかなか寝付けない。

 

家ではベッドや布団ではなくハンモックで寝ていたので近々ダ・ヴィンチに頼んでハンモックを作ってもらい、遊馬のマイルームに設置する予定だ。

 

遊馬は寝付けなくても勉強や鍛錬で疲れており、だんだん睡魔に襲われて眠りについた。

 

眠りについた遊馬を見たアストラルはまた清姫が侵入する事を想定してデモンズ・チェーンや色々な捕縛用の罠カードを取り出してマイルーム中に設置する。

 

アストラルも腕を組んで遊馬の上で浮きながら眠りにつき、遊馬とアストラルの一日が終わりを告げる。

 

そして、数時間後には相変わらずと言うか懲りない清姫がマイルームに侵入して遊馬に夜這いをかけようとするが、また罠に引っかかるのだった……。

 

 

遊馬とアストラル、そしてサーヴァント達は穏やかな日々が続いていく。

 

しかしそんな日々も続かず、新たな特異点が発見される。

 

第二特異点……遊馬とアストラルとマシュの新たな戦いが始まる。

 

舞台は古代ローマ。

 

平和だったローマの地で過去のローマ皇帝達が敵として立ち塞がり、人類史焼却の黒幕が姿を現わす。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遊馬」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアに遊馬とアストラルに続く、もう一人の異世界の来訪者が現れるのだった。

 

 

 

.




次回から第二章、第二特異点・永続狂気帝国セプテムです!
大人気、赤セイバーことネロ皇帝の登場です!
そして……遊戯王ヒロインで破格の扱いを受けていた彼女が参戦です!


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ナンバーズ19 戦いの運命に巻き込まれた少女

遊戯王シリーズで優遇されたヒロインの登場です!
遊馬にはやっぱり彼女が必要だと思うので登場させました。


新たな特異点が見つかり、遊馬とマシュはそれぞれの部屋で準備をする。

 

デュエルディスクとD・ゲイザーをセットし、腰にデッキケースを装着するが、それは遊馬がいつも使っている赤いデッキケースではなかった。

 

赤いデッキケースには変わりなかったが妙に豪華な装飾が施されており、遊馬の令呪と同じ模様が描かれていた。

 

そのデッキケースはダ・ヴィンチの新しい発明で名前は『ディメンション・デッキケース』。

 

遊馬がサーヴァントと契約することで誕生するフェイトナンバーズ。

 

しかしフェイトナンバーズはカードにサーヴァントが宿ってないと使用できないデメリットがある。

 

そこで特異点で戦っている遊馬とアストラルからその戦闘で必要なフェイトナンバーズをD・ゲイザーを使ってカルデアに連絡し、フェイトナンバーズにサーヴァントを宿してすぐにカルデアからディメンション・デッキケースに転送するというシステムである。

 

「なぁ、アストラル。次の特異点でどんな英霊と会えるかな?」

 

「そうだな……フランスはもう無いだろうから別の場所だろう。国が一つ違うだけでも多くの英霊がいるからな。不謹慎だが私自身も楽しみだ」

 

「へへっ、俺もだぜ」

 

遊馬とアストラルは密かに特異点で新しい英霊と出会えることを楽しみにしていた。

 

英霊と出会えることは新しい仲間が集う可能性が高まるので不謹慎であるが楽しみであった。

 

「遊馬君、アストラルさん、おはようございます」

 

そこにデミ・サーヴァントとしての戦闘服に着替えて盾を持つマシュが入室して遊馬とアストラルを迎えに来た。

 

「おはよう、マシュ!」

 

「おはよう。フォウはいないみたいだが、どうしたんだ?」

 

「フォウさんはいませんが多分そのうち出て来るはず……」

 

「フォウフォーウ!」

 

「あ、フォウ。どうしたんだ?」

 

フォウは突然出て来ると遊馬のズボンの裾を軽く噛んで引っ張り、そのまま遊馬のマイルームを出て行った。

 

「ついて来てと言ってるみたいですね……」

 

「とりあえず行ってみるか!」

 

遊馬とマシュは急いでフォウの後を追う。

 

カルデアの廊下を走り、マシュは前にも似たようなことがあった事を思い出す。

 

「そう言えば初めて遊馬君を見つけた時もこんな風にフォウさんについて来てと言ってましたね……」

 

いつも気ままで自由なフォウが呼び出すとは何かあったに違いないと遊馬とマシュは歩く足を早くする。

 

丁度そこは遊馬がいつのまにかカルデアに迷い込んで倒れていた場所のすぐ側だった。

 

「あっ!誰かが倒れています!」

 

「あれは……まさか!?」

 

「馬鹿な、どうして君がここに……!?」

 

遊馬とアストラルは廊下で倒れている人物を見て目を疑った。

 

それは緑色の髪に赤いリボンを付け、可愛らしい服装をした遊馬と同じくらいの年齢の少女だった。

 

その少女は遊馬とアストラルにとって大切な人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「小鳥!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊馬は倒れている少女を抱き上げ、アストラルは心配そうに見つめる。

 

少女の名は観月小鳥。

 

遊馬の幼馴染で遊馬とアストラルのナンバーズを賭けたデュエルから世界の命運を賭けたデュエルまで、数多くのデュエルを最後まで見届けてきた少女である。

 

そして小鳥は特に外傷はなく、ちゃんと呼吸はしていたが意識を失っていた。

 

「小鳥……さん?遊馬君、お知り合いですか?」

 

「俺の大切な幼馴染だ!マシュ、医務室に運ぶからロマン先生を呼んでくれ!!」

 

「は、はい!了解しました!」

 

遊馬は小鳥を抱き上げたまま急いで医務室へ向かい、アストラルも共に向かう。

 

「でも、遊馬君の幼馴染さんがどうしてカルデアに……?」

 

「キュー?」

 

マシュはその事に疑問を抱きながらD・ゲイザーを取り出してロマニと連絡を取る。

 

 

カルデアではとある異常事態で話が持ちきりだった。

 

第二特異点が発見されたのもつかの間、何と遊馬と同じ異世界から来た少女……しかも可愛い幼馴染が来たという事でサーヴァント達はこぞって廊下から医務室の様子を伺っている。

 

医務室には遊馬とアストラル、ベッドの上には寝ている小鳥と診察しているロマニだった。

 

「先生、小鳥は……?」

 

「心配ないよ、意識を失っているだけだからすぐに目を覚ますだろう」

 

「よかったぁ……」

 

「でもどうして遊馬君の幼馴染が?もしかしてこの子にも君のような特別な力が?」

 

「いや、小鳥はそんな力を持ってないぜ。せいぜい普通の人間には見えないアストラルが見えるぐらいで……」

 

小鳥は一応デュエリストではあるが、あくまで初心者レベルで特別な能力やカードを有していない。

 

遊馬とアストラルは何故ここにいるのか不思議で仕方がなかった。

 

遊馬は小鳥を心配して手に触れた瞬間、ナンバーズの49の刻印が空中に浮かぶ。

 

小鳥の体に淡い緑色の光が纏うとピクッと体が動いた。

 

「んっ……ん……?」

 

「小鳥……?小鳥!」

 

小鳥は意識を取り戻し、ゆっくり瞼を開いて虚ろな目で遊馬を見つめる。

 

「……遊馬……?」

 

「小鳥!よかった……目を覚ましたんだな!」

 

「小鳥、無事で何よりだ」

 

「アストラル……良かった、遊馬に会えたのね……」

 

「ああ。だが、どうして君がここに……?」

 

「それは……」

 

「その話は私にも聞かせてもらえないかしら?」

 

医務室の扉が開くとオルガマリーが入室して小鳥に視線を向ける。

 

「初めまして。人理継続保障機関・カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィアです」

 

「人理継続……?カルデア……?」

 

「少々複雑な話になるけど、落ち着いて聞きなさい。その後にあなたの話を聞かせてもらうわ。何せあなたは遊馬と同じ異世界からの来訪者なんだから」

 

「は、はい!」

 

オルガマリーは人理継続保障機関・カルデアの役目とこの世界に起きた人理焼却、そして遊馬とアストラルとサーヴァント達がこの世界の未来を守る為に過去の世界の特異点を巡り、解決する使命を伝えた。

 

遊馬とアストラルが再び危険な戦いに飛び込んでいる事に驚愕と同時に呆れ果てて大きなため息をついた。

 

「遊馬……」

 

「何だ?」

 

「あなたね……どれだけ人を心配させれば気が済むのよ!!!」

 

そして、遊馬を睨みつけながら大声で怒鳴りつけた。

 

「はひっ!?」

 

「一緒に出かけようとした途端に急に目の前から消えて心配したんだからね!!アストラルが行ってくれたけど、無事なら無事で連絡をしなさいよ!!」

 

「出かける……?あ、そうか……あの日、小鳥と買い物を行くときに俺は……」

 

遊馬はどうしてカルデアに来たのか記憶の混乱で思い出せなかったが、小鳥の言葉でようやく思い出した。

 

ある日遊馬と小鳥は買い物で街に出かけようとしていたが、突然起きた空間の歪みの中に吸い込まれてしまい、気が付いた時にはカルデアの廊下に倒れていたのだ。

 

「本当にもう、遊馬はいつもいつも心配ばっかりかけて……」

 

小鳥は遊馬と再会できた喜びと遊馬がいなくなってしまった不安が一度に溢れ出して大粒の涙を流した。

 

突然の涙に遊馬達は驚き、慌てて遊馬が小鳥をあやす。

 

「わ、悪かったって小鳥。ああ、もう泣くなって……」

 

「うるさいうるさい!遊馬のバカバカバーカ!!」

 

「逆ギレ!?」

 

遊馬と小鳥の微笑ましい光景にアストラルとロマニとオルガマリーはその場からそっと離れる。

 

「意外ね、遊馬にあんな可愛いガールフレンドがいたなんて」

 

「しかも小さい頃からの幼馴染……うん、羨ましいの一言に限るね!」

 

「ふっ……小鳥はほぼ遊馬と毎日一緒にいるからな」

 

心なしか小鳥がそばにいる事で遊馬の表情に安らぎが現れていた。

 

「そ、それよりも、小鳥はどうやってカルデアに!?」

 

「カイト達のお陰よ!遊馬が消えたところを解析して、大急ぎで異次元ゲートを作って私を送ってもらったのよ!」

 

「異次元ゲート!?流石はカイト達だぜ!って!何でそんな危ないことをするんだ!?おばさんが心配するし、俺に会えなかったらどうするんだよ!?」

 

「お母さんにはちゃんと説明して行ってらっしゃいと背中を押してもらったわ!それに……私の居場所は遊馬のいる場所だから絶対に会えるって信じてた!」

 

「何だよその自信……」

 

小鳥も遊馬の影響か無茶苦茶な行動が少々目立って来た。

 

呆れ顔をする遊馬だったが、心の中では小鳥が側にいてとても嬉しかった。

 

遊馬にとってアストラルと小鳥がヌメロン・コードを賭けた激しく、厳しい戦いの中で唯一の心の支えだったから余計に嬉しかった。

 

二人の仲が少しずつ縮まろうとしたその時だった。

 

突然ドアが開き、一気に部屋の温度が上がり悍ましい声が響く。

 

「もう我慢出来ません……旦那様とそんなに熱々なんて……」

 

それは遊馬のことを病むほど愛してやまないサーヴァント……清姫だった。

 

廊下にいたサーヴァント達は清姫の病んでいるヤバイ精神状態に無理無理!と首を激しく左右に振っていて止められないと訴えていた。

 

「き、清姫!?」

 

「ちょっと遊馬……旦那様ってどういう事よ?」

 

遊馬を旦那様呼ばわりする清姫に小鳥は冷たい目で睨みつけ、遊馬の耳を引っ張った。

 

「いててててっ!?いや、その、俺もよくわかんねえんだよ!?清姫の昔の恋人の生まれ変わりが俺とか言ってて……」

 

「はぁ?何よそれ……清姫、さん?その話は本当ですか?」

 

「ええ、本当ですよ。旦那様……遊馬様は安珍様の生まれ変わりです」

 

「遊馬は心当たりがなくて、全く知らないみたいですけど?」

 

「そんな事は関係ありませんよ?それよりも突然来て図々しくありませんか?」

 

「図々しい?私は遊馬と赤ちゃんの頃からの付き合いですよ?遊馬とはほぼ毎日一緒にいるんですから、今更図々しいとかありえませんから」

 

遊馬の祖母と小鳥の祖母が学校の同級生で仲良しと言うこともあって、九十九家と観月家の間で交流があり、遊馬と小鳥は幼馴染の関係となった。

 

バチバチと火花を散らせる小鳥と清姫……小鳥の背後には天使、清姫の背後には大きな白蛇の幻影が見えるほどの威圧的な態度を取る。

 

そんな二人を見て物陰から覗いているエリザベートはボソッと呟いた。

 

「凄いわね、あの子……魔術師でも何でもないのに病んでる清姫と面と向かって言い合えるなんて……」

 

誰よりも清姫の心の病みを知っているエリザベートは小鳥の精神……心の強さに驚いた。

 

そんな修羅場となった医務室に対し臆する事なく一人の少女が入り、小鳥と清姫の間に旗を割り込ませた。

 

「やめなさい、ヤンデレ蛇姫。相手は普通の女の子よ?」

 

それはレティシアで、今さっき医務室に到着したばかりだった。

 

「レティシアさん……邪魔しないでください」

 

「はぁ……アストラル、このままだとカルデアが血の海になりかねないから、あれをやりなさい」

 

「そうだな……清姫、しばらく頭を冷やしてもらう!」

 

アストラルは清姫のフェイトナンバーズを取り出すと強制的に粒子化させる。

 

「え!?ちょっと、待ってくださ……きゃあああああっ!?」

 

粒子化された清姫はフェイトナンバーズの中に封印され、そのまま皇の鍵の中に入って飛行船にあるナンバーズを収める場所に一時的に収納する。

 

「これでよし……あなたが遊馬の幼馴染の小鳥ね。ふーん、なかなか可愛いわね……でもあまり無茶したらダメよ。サーヴァントにはマトモな奴もいれば逆に危ないのもいるから」

 

「あなたは……?」

 

「私はレティシア。遊馬からあなたのことはよく聞いているわ。そう言えば……ちょっと、ジャンヌとマリー、出て来なさい」

 

レティシアは物陰に隠れていたジャンヌとマリーを呼んだ。

 

ジャンヌとマリーの名前に小鳥は目を見開いて驚く。

 

「ジャンヌ?マリー?えっ?えっ?」

 

「ジャンヌ・ダルクとマリー・アントワネット。遊馬から聞いてたけど、確か二人のファンだったわね?」

 

遊馬は以前第一特異点で小鳥がジャンヌとマリーに憧れていることを話しており、レティシアは先日遊馬からそのことを聞いていた。

 

ジャンヌとマリーはニッコリと笑みを浮かべながら小鳥に自己紹介する。

 

「初めまして、ジャンヌ・ダルクです。マスターの幼馴染に会えて嬉しいです」

 

「ごきげんよう、フランス王妃のマリー・アントワネットですわ。よろしく、小鳥さん」

 

憧れのジャンヌとマリーに会えてまるで大好きなアイドルに会えたような気持ちになり興奮する小鳥だった。

 

「キャー!本物のジャンヌさんとマリー王妃!まさか会えるなんて感激です!ってあれ!?ジャンヌさんとレティシアさん……似ている……?」

 

「あー、そのことはちょっと面倒だから後で話すわ。とりあえず、遊馬。せっかくだからサーヴァント達を紹介したら?」

 

「そ、そうだな!サンキュー、レティシア!行こうぜ、小鳥!」

 

「うん!あ、ちょっと待って!その前に荷物を持ってこないと!」

 

「荷物?」

 

「うん。大きなリュックサックなんだけど……」

 

「それなら持って来たわよ。廊下にあるわ」

 

レティシアがそう言うと遊馬と小鳥は急いで医務室から廊下に出た。

 

廊下には大きい……と言うかデカすぎるリュックサックがあり、それを担いでいたマシュが軽く息切れをしていた。

 

それは遊馬が師匠、六十郎の決闘庵に向かう時に野菜などの食材を詰める時に使うリュックサックだった。

 

「こ、小鳥さんの近くにありましたので、レティシアさんと一緒に持って来ました……」

 

「あれは重かったわよ。ってかデカすぎるわよ。一体何が入ってるのよ?」

 

「遊馬の祖母、春おばあちゃんから貰った大量の食材と遊馬と私の服の着替えやその他生活に必要な雑貨です。後は……」

 

小鳥はガサゴソとリュックサックの中を漁ると目的のものを遊馬に渡す。

 

「はいこれ」

 

「これは、デッキケース?妙に厳重に閉じられているな」

 

それは鋼鉄製のデッキケースで結構な重量があり、簡単に開けられないように厳重なロックが掛かっていた。

 

「カイト達が作った特別製で遊馬の指紋認証が無いと開けられないの。そうじゃないと中のカオスの力が他人に影響を与えるから」

 

「カオスの力だって!?」

 

「まさかこのデッキケースの中には……」

 

デッキケースの中央のカバーを開くと指紋認証のスキャナがあり、遊馬の人差し指を添えると指紋を確認してデッキケースがゆっくり開いた。

 

次の瞬間、デッキケース内から真紅の光が漏れ出して十数枚の紅いカードが飛び出した。

 

「うわっ!?こ、これは!?」

 

「カオスの光……これはバリアンの力!?」

 

それは蒼き世界と対をなす紅き世界……バリアン世界の力だった。

 

バリアン世界の力を宿したカードは遊馬の周りを踊るかのように舞い、遊馬が恐る恐る右手を差し出す。

 

すると、カード達が遊馬の右手に次々と乗っていき、紅い光が収まった。

 

バリアン……カオスの力は人の欲望を増幅させて心を暴走させてしまうが、遊馬には何の変化がなかった。

 

バリアンのカードを見ていくと遊馬とアストラルは目を見開くほど驚いた。

 

何故ならそれは驚異的な力を秘めたバリアンのカードだからである。

 

「これは……シャーク達の『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』に『カオス・オーバーハンドレッド・ナンバーズ』!?」

 

「それにバリアン世界の『ランクアップマジック』!?」

 

「カイトのもう一枚の銀河眼があるぜ!?」

 

「しかもトロン一家のカオスナンバーズにランクアップマジックまで!?」

 

「ん?これって……真月に前に貰った失われたバリアンカード!?おいおいこれはどう言うことだよ小鳥!」

 

「カイト達が遊馬の為に急いで作ったのよ。シャーク達の中にある残り少ないバリアンの力とカイト達の異世界研究の全てを結集させて、かつての戦いのカオスのカードを復元と複製を成功させたのよ」

 

今、遊馬の手にある力は異次元の力と科学の力が結集して誕生したハイブリッドのカードである。

 

「シャークとカイト達、それにトロン一家の力の結晶……?」

 

遊馬はカードを額にあてるとカードに込められた声が聞こえた。

 

『とっとと敵をぶっ潰してカタをつけて帰って来い、バカ』

 

『俺たちの力を託したんだ、負けたら絶対に許さないぞ』

 

「シャーク、カイト……」

 

『遊馬、あなたの身と小鳥さんを必ず守り抜きなさい!』

 

『我ら七皇の力、遊馬とアストラルに託すぞ!』

 

『遊馬!俺とお前の熱い拳でどんな敵もぶっ飛ばしてやれ!』

 

『絶対に負けんじゃねえぞ、遊馬!』

 

『我が銀河眼の力で敵を粉砕せよ!』

 

「璃緒、ドルベ、アリト、ギラグ、ミザエル……」

 

『君が留守の間、この世界は僕達で守るから安心して戦ってくれ』

 

『遊馬!僕は君の無事を祈って、帰りを待っているからね!』

 

『どんな敵が相手か知らねえが、俺達のカードでお前のファンサービスを喰らわせてやれ!』

 

『私達の作り出した力で君が求める道を進みたまえ』

 

「トロン、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ……」

 

『遊馬……君にとっては嫌な思い出だろうけど、今度こそ俺様との友情の証として使ってくれ』

 

「真月……ああ、もちろんだぜ」

 

仲間達の強い想いを受け取り、一筋の涙を流す遊馬。

 

その後、遊馬とアストラルは小鳥にカルデアのサーヴァント達を紹介した。

 

小鳥はオルガマリーのご好意でカルデアで働くことになり、主に遊馬のサポートや雑用、後は食堂でのエミヤの料理の手伝いをすることとなった。

 

そして、小鳥のカルデア来訪から一夜明け、気を取り直して新たな特異点にレイシフトする事となった。

 

「そんじゃ、行ってくるぜ!小鳥!」

 

「頑張って、気をつけて帰ってきてね」

 

「おう!」

 

「アストラルも遊馬みたいに無茶しないでね」

 

「ああ」

 

「それから、元気の源よ」

 

小鳥は遊馬に布に包まれた小さなプラスチックケースを渡す。

 

確かな重みと一番大好きな香りに遊馬の目がキラキラと輝く。

 

「おおっ!?これってもしかして!?」

 

「そうよ、デュエル飯。お腹が空いたら食べてね」

 

デュエル飯とは遊馬の祖母の春が作る丸型のおにぎりで遊馬の大好物である。

 

ナンバーズを賭けた戦いが始まってからは小鳥も作るようになり、アストラルも実はデュエル飯が大好物で密かに目をキラキラと輝かせた。

 

「サンキュー!小鳥!これで元気マックスだぜ!」

 

遊馬はデュエル飯の入ったケースを上着の内ポケットに入れて意気揚々と管制室に向かい、アストラルも一緒に行く。

 

「もう……本当にいつも全力で走っていくんだから……」

 

相変わらずどんなことでも全力で向かう遊馬の姿に苦笑を浮かべていると後ろから話しかけられる。

 

「小鳥さん、おはようございます」

 

「マシュさん!おはようございます!」

 

「フォウ!」

 

「フォウ君もおはよう」

 

戦闘服に着替えて盾を持つマシュとフォウは小鳥に挨拶をする。

 

一緒に遊馬とアストラルの後を追うように管制室に向かいながら話をする。

 

「小鳥さんもデュエルをするのですか?」

 

「一応ですが、最近はデュエルがとっても上手い璃緒さんに教えてもらっていたのでメキメキ上達しています!」

 

「良かったら時間がある時にでも教えてくれませんか?私もデュエルに興味があるので」

 

「私で良ければいつでも大丈夫です!」

 

「ありがとうございます、小鳥さん」

 

同性で歳も近いこともあってか楽しそうに話をする小鳥とマシュ。

 

今までマシュはこうして歳の近い同性と楽しい雑談をしたことが無かったので本当に嬉しいのだ。

 

「マシュさん。遊馬の事、よろしくお願いしますね。遊馬は無茶ばかりするから」

 

「小鳥さん……はい、お任せください。私は遊馬君のサーヴァントでもう一人の相棒ですから!」

 

遊馬を大切に想う者同士でとても気が合うのだった。

 

そして、いよいよ第二特異点に向けてレイシフトをする。

 

今回は遊馬とアストラルとマシュだけでレイシフトを行い、アストラルは皇の鍵の中に、マシュはフェイトナンバーズの中に入って遊馬だけでコフィンの中に入る。

 

遊馬は目を閉じる前に小鳥にグッドサインを見せる。

 

「行って来るぜ!」

 

「行ってらっしゃい」

 

小鳥は笑顔で遊馬を見送り、レイシフトが始まる。

 

コフィンの中で目を閉じた遊馬の体が粒子となり、第二特異点へレイシフトする。

 

そこで薔薇の皇帝と呼ばれる少女と出会い、ローマの命運をかけた戦争に巻き込まれるのだった。

 

 

 

.




ようやく次回から第二章開幕です。
ネロ皇帝やブーディカ姉さんの登場は楽しみです。
個人的にブーディカ姉さんの復讐の気持ちを遊馬が諭す話を書くつもりです。


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第二特異点 永続狂気帝国 セプテム
ナンバーズ20 第二特異点へ!薔薇の皇帝との出会い!


お待たせしました、第二特異点・永続狂気帝国セプテムの始まりです!

エクストラはやってないですが、ネロ皇帝は可愛いですね。

可愛いので遊馬の新たな嫁候補にしようかな(笑)

でもそれだとエクストラの奏者との関係もあるし難しいですね。

もっとも第二特異点のネロ皇帝はサーヴァント前の存在ですが、そこはおいおい考えていきます。



小鳥がカルデアに来訪し、ドタバタから一夜明け遊馬とアストラルとマシュ、そしてちゃっかり付いてきたフォウと共に第二特異点へレイシフトを行う。

 

舞台は1世紀のヨーロッパ、古代ローマ。

 

遊馬のレイシフトが完了し、目を開けるとそこには綺麗な青空と白い雲、そして草原が広がっていた。

 

皇の鍵からアストラル、フェイトナンバーズからマシュが出てくると目の前に広がる風景に声を漏らす。

 

「爽やかな風を感じるな……」

 

「風の感触、土の匂い、どこまでも広くて青い空。不思議です、映像で何度も見たものなのに、こうして大地に立っているだけで鮮明度が違うなんて」

 

「ん……?マシュは外に出たことがないのか?」

 

「いえ、その……そうですね、あまり昔の記憶がないといいますか……」

 

遊馬の問いに曖昧な答えを出すマシュであったが、出会った当初から記憶を失った相棒がいるので特に気にしなかった。

 

「じゃあさ、戦いが終わったらマシュもハートランドに来いよ!」

 

「ハートランド……遊馬君の故郷にですか?」

 

「ああ!楽しい記憶とかあまり無いならこれから作っていけばいいからさ。ハートランド以外にも世界中の色んなところにも連れてってやるよ!かっとび遊馬号を使えばあっという間だからさ!」

 

「ありがとうございます。あれ?でもそれは不法入国になるのでは……?」

 

「「フホウ、ニュウコク……?」」

 

マシュにそう指摘され石のように固まる遊馬とアストラル。

 

かつて遊馬とアストラル、更には小鳥と凌牙と璃緒の五人で世界各地にある七つの遺跡にある七枚の特別なナンバーズを回収する為に起動したばかりの皇の鍵の飛行船で世界各地に向かった。

 

よくよく考えると他国に勝手に入国したことになり、不法入国になるので歴とした犯罪である。

 

「…………アハハ、キニシナイキニシナイ。バレテナイシ、ナンバーズサガシタダケダカラ……」

 

遊馬は汗を大量にかいて片言のように話し、特に提案者であるアストラルは目線を大きくそらして空を見上げていた。

 

「え、えっと……ところで、この時代の空にも『あれ』が見えていますね」

 

マシュは苦笑を浮かべながら話題を変える為に空の上を指差した。

 

それは第一特異点のフランスの空にも見えていた謎の大きな光の輪が浮かんでいた。

 

相変わらず不明な謎の光の輪に若干の不安を抱きながらD・ゲイザーでカルデアと連絡を取る。

 

気になる現象だが現状ではまだ不明なので引き続き調査を続けていく。

 

すると、ロマニは遊馬達が首都ローマではなく丘陵地にいることに疑問を抱いた。

 

首都ローマに転送するはずだったが、ローマ郊外に来てしまったようだった。

 

繁栄を築いたローマで周囲を見渡して耳を澄ませると……この時代ではありえない異常を検知した。

 

「沢山の声……まさか戦闘か!?」

 

この歴史で戦争が行われているはずがない。

 

つまりこの時代に異常が起きていることを意味し、遊馬達は急いで向かうと片方は大部隊でもう片方はきわめて少数の舞台で戦っていた。

 

そして、少数の部隊を率いているのは若い少女で一人で大部隊の敵と戦っており、サーヴァントかと思われたがその気配は感じられない。

 

目を凝らしてよくみるとその少女に驚くべき特徴があった。

 

「あれ!?あいつ、アルトリアに似てね!?」

 

「確かに……顔つきや髪が似ています!」

 

「アルトリアの血縁……じゃ無さそうだが、ただのそっくりな人間ということか」

 

その少女は遠くから見てもカルデアにいるアルトリアによく似ており、血縁関係があると思うほどだったがただのそっくりさんなだけのようである。

 

「状況は分からないけど、とりあえずあのアルトリア似の女の子を助けよう!」

 

「はい!」

 

遊馬とマシュはアルトリアに良く似た少女を助ける為に走り出し、遊馬はデッキからカードをドローしてモンスターを召喚する。

 

「『ガガガマジシャン』を召喚!一緒に行くぜ!」

 

『ガガガッ!』

 

ガガガマジシャンを召喚し、更に両手にホープ剣を呼び出して構えてマシュと一緒に戦場に飛び込む。

 

遊馬はエミヤを筆頭とする英霊から鍛えられた剣技でホープ剣を振るい、マシュは最近になって慣れてきた十字の盾を振るい、ガガガマジシャンは魔力の拳と鎖を振り回していく。

 

あくまで少女を助ける為なので殺生はせずに気絶させる程度で兵士を倒し、少女と合流して大部隊を退けた。

 

「剣を納めよ、勝負あった!そして貴公たち、もしや首都からの援軍か?すっかり首都は封鎖されていると思ったが……まあ良い、褒めてつかわすぞ」

 

「俺たちはただの通りすがりだよ」

 

「通りすがりだと?通りすがりにしては妙な力を使うな……もしや魔術師か!?」

 

「まあそんなところだな」

 

デュエルモンスターズの起源は様々な説が唱えられているが、『魔術の札』とも呼ばれているのであながち遊馬が魔術師と言われても間違いではない。

 

「ともあれ、この勝利は余とお前たちのもの。たっぷりと褒美を与えよう!あ、いや、すまぬ。つい勢いで約束してしまった……報奨はしばし待つがよい。今はこの通り剣しか持っておらぬ故な」

 

「別にいいよ、俺たちはそんな事のために戦っているわけじゃないし」

 

「ならぬ!それでは余の気が済まぬ!全ては首都ローマへ戻ってからのこと!では、遠慮なく付いてくるがいい!」

 

謎の少女に仕切られながらも一緒についていくことになり、首都ローマに向かうことになった。

 

「……にしても本当にアルトリアに似ているな」

 

もっとも身に纏っている衣装が赤を基調にしてとても派手なもので清楚な感じのアルトリアには似ても似つかないものであるが。

 

「アルトリア?無礼な!余はアルトリアなどではないぞ!」

 

「あ、悪い悪い。あんたによく似た仲間がいるからさ」

 

「余に似ている?ほう、そこまで似ているのか?」

 

「そりゃあもう、双子といっても違和感ないぐらいに。あ、これ見てくれよ」

 

遊馬はアルトリアのフェイトナンバーズを見せ、描かれたアルトリアの姿と少女が似ていることを証明する。

 

「おお!確かに余とよく似ている!顔の形や髪や目の形など特に!目の色は違うが確かに見間違えても無理はないな!」

 

他にも決定的に違う点があるのだが、幸いにも遊馬はそれには一切気付いておらず、仮にその事を口にしたら誰であろうとアルトリア怒りの約束された勝利の剣の極光が襲いかかるだろう。

 

余談だが後にカルデアでその事をうっかり口にしたクー・フーリンがアルトリアの約束された勝利の剣による制裁を受けることになるのだった。

 

少女は遊馬たちがどこから来たのか尋ね、正直に未来からと答えると、信じられない様子で階段から転げ落ちたか?と心配されてしまい、遊馬のデュエルディスクなど未知の道具を見せてとりあえず納得させる。

 

すると敵の第二波が来て遊馬たちは戦闘態勢をとって迎え撃ち、少女が先陣を切って戦っていた。

 

少女の剣技はもとより、炎とのような形をした真紅の剣は素晴らしいものだった。

 

「『ゴゴゴゴーレム』を召喚!」

 

遊馬も負けじとゴゴゴゴーレムを召喚してガガガマジシャンと共に戦場を駆け抜ける。

 

未知なる召喚術を使う遊馬に敵も恐れて逃げ出していき、戦局は一気に有利となる。

 

しかし、それはあくまで普通の人間が相手ならそうなるが、別の存在なら話が違う。

 

「遊馬くん!サーヴァントです!」

 

「遂に来やがったか!」

 

そして、現れたのは両目が黒く染まった屈強な男でそれを見た少女は驚いたように目を見開いた。

 

「我が、愛しき、妹の子、よ」

 

「伯父上……!?」

 

「伯父上って、あいつが!?」

 

驚くことにそのサーヴァントと少女が血縁関係であり、その直後に少女が言ったサーヴァントの名にマシュは驚いた。

 

「いや、いいや、今は敢えてこう呼ぼう。如何なる理由かさ迷い出でて、連合に与する愚か者!カリギュラ!!」

 

「カリギュラ!?そんなまさか!?」

 

「カリギュラ……あれ?どこかで聞いたような……」

 

遊馬はカリギュラという名に覚えがあったが思い出せずにいる。

 

「遊馬!とにかく今は目の前の戦いに集中だ!」

 

「お、おう!あんたは下がってろ、ここは俺がやる!」

 

遊馬は少女を下がらせてデュエルディスクを構える。

 

「待て!お主のような子供が伯父上に敵うはずが……」

 

「誰か分からねえけど、あいつがあんたの伯父さんなんだろ?姪っ子が伯父さんを倒すなんて、そんな悲しい事をさせねえよ。行くぜ、アストラル!」

 

「ああ!」

 

事情は不明だが家族同士で戦うという悲しいことをさせないために遊馬とアストラルが代わりに戦う。

 

「俺はレベル4のガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「「現れよ、No.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、『希望皇ホープ』!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

異次元から希望の名を持つ光の巨人が姿を現し、少女は目を疑う。

 

「な、何なのだこれは!?魔術師の使い魔にしては何て強力な力なのだ!?」

 

「ホープは使い魔じゃねえよ、俺とアストラルの希望の戦士だ!」

 

「行くぞ、遊馬!」

 

遊馬とアストラルはカリギュラを指差して攻撃宣言をする。

 

「「希望皇ホープで攻撃!ホープ剣・スラッシュ!!」」

 

「ぐぅうううっ!?うぉおおおっ!!」

 

上段から勢いよく剣を振り下ろした希望皇ホープだが、カリギュラはホープの剣をギリギリで受け止めてそのまま弾き返した。

 

「弾き返した!?」

 

「だがそう長くは持たないはずだ、一気に決めるぞ!」

 

「おうっ!」

 

遊馬は希望皇ホープで一気に攻めようとしたが、突然空が暗くなり、綺麗な月が浮かんだ。

 

「女神よ、おお……女神が見える!『我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)』!!」

 

「何だ!?月が!?」

 

月の光がカリギュラに降り注ぐとその体が邪悪なオーラが一気に広範囲に散布されていく。

 

「まさか、広範囲型の宝具か!?」

 

「何っ!?やべえ、みんなが!」

 

その邪悪なオーラの正体はカリギュラの狂気でその狂気に触れた希望皇ホープの体がひび割れていき、更にマシュや少女や仲間の兵士たちが強い苦しみを抱いていく。

 

それに乗じてカリギュラが攻撃して来るが、すぐさま遊馬は希望皇ホープの効果を使う。

 

「くっ、ホープの効果!ムーンバリア!攻撃を無効にする!」

 

希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットを使い、カリギュラの攻撃を防ぐが希望皇ホープの攻撃力が低下して行き、膝をつく。

 

「遊馬、ジャンヌを呼ぶんだ!彼女の力なら守れる!」

 

「そ、そうか!カルデア管制室!今すぐジャンヌを頼む!」

 

D・ゲイザーでカルデア管制室に連絡し、ロマニがすぐに出て対応する。

 

『了解!ジャンヌなら側にいるからすぐに送るよ!』

 

ディメンション・デッキケースが光り輝き、パカっとケースが開くとジャンヌのフェイトナンバーズが飛び出て遊馬の手の中に収まる。

 

『遊馬くん!みんなを守りましょう!』

 

「ああ!頼むぜ、ジャンヌ!俺のターン、ドロー!『ゴゴゴジャイアント』を召喚!効果で墓地のゴゴゴゴーレムを特殊召喚!そしてレベル4のゴゴゴゴーレムとゴゴゴジャイアントでオーバーレイ!!」

 

ゴゴゴゴーレムとゴゴゴジャイアントが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「全てを慈しむ聖女よ、革命の旗の元に仲間を守る光となれ!エクシーズ召喚!!」

 

爆発の後に燃え盛る炎の中から現れたのはフランス百年戦争の革命の証とも言える兵士を鼓舞した旗だった。

 

「現れよ、『FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク』!!!」

 

炎を旗で蹴散らしながら現れた聖女、ジャンヌ・ダルク……その身には軽装の鎧に加えて銀河眼の光子竜皇を模した装甲を装着させていた。

 

「行くぜ、ジャンヌ!」

 

「はい!」

 

「ジャンヌの効果!1ターンに一度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、次の相手ターンのエンドフェイズ時まで自分フィールドのモンスターは相手のカードの効果を受けず、自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値となる!!」

 

「我が旗よ、我が仲間を守りたまえ!『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!」

 

ジャンヌが旗を広げて見事で華麗な旗振りをすると希望皇ホープやマシュ達に天から祝福を与えるかのような金色の光が降り注いでカリギュラが振りまいた狂気の力を打ち消した。

 

そして、攻撃力が大幅にダウンしていた希望皇ホープの攻撃力が元に戻り、キラリと赤い瞳が輝いて立ち上がる。

 

「更にジャンヌのもう一つの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ジャンヌの攻撃力をこのカード以外の自分フィールドのモンスター数×500ポイントアップする!」

 

ジャンヌは旗を地面に突き刺すと生前使わなかったという聖カトリーヌの剣……ではなく、銀河眼の光子竜皇を召喚する際に現れる十字の剣を呼び出す。

 

フェイトナンバーズの恩恵でジャンヌは銀河眼の光子竜皇の力の一部を受け継ぎ、戦う事が出来る。

 

「希望皇ホープ……私と共に!!」

 

『ホォープ!!』

 

希望皇ホープの雄叫びが響くとジャンヌの体に金色のオーラを纏い、背後に銀河眼の光子竜皇の幻影が現れながらジャンヌの攻撃力が上昇する。

 

「行け、希望皇ホープ!ホープ剣・スラッシュ!」

 

「ジャンヌ!エタニティ・フォトン・スラッシュ!!」

 

希望皇ホープは宙を駆け、ジャンヌは地を駆け、カリギュラに向けて同時に剣を振り下ろす。

 

しかし、希望皇ホープとジャンヌの攻撃が当たる直前でカリギュラが消えてしまった。

 

「なっ!?」

 

「消えた!?」

 

カリギュラは霊体化して逃げたのか不明だが、ジャンヌは目を閉じてサーヴァントの気配を辿るが、カリギュラの気配が完全に消えた。

 

敵勢力の部隊も引き上げていき、この地から戦う相手がいなくなるのを確認するとジャンヌはフェイトナンバーズの力を解いていつもの鎧姿となる。

 

「ジャンヌ、サンキュー!助かったぜ!」

 

「いえ、皆さんを守れてよかったです」

 

遊馬とジャンヌは勝利のハイタッチを交わす。

 

すると、少女がジャンヌに駆け寄って嬉しそうに感謝の言葉を述べた。

 

「助かったぞ、麗しき乙女よ!」

 

「え?あ、どうも……」

 

「希望の皇帝を操るそなたもよくやった!見事な働きであった。褒めてつかわす!!氏素性を訪ねる前に、まずは、余からだ。余こそ真のローマを守護する者。まさしくローマそのものである者。必ずや帝国を再建してみせる。そう、神々・神祖・自身、そして民に誓った者!」

 

遂に少女の名前が明らかになるが、その名前を聞いた瞬間、遊馬とアストラルとマシュは驚くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余こそ、ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスであるーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えぇえええええーーっ!!?」

 

「彼女がネロ皇帝、だと……!?」

 

「……皇帝、ネロ……」

 

ネロ・クラウディウス。

 

暴君ネロとも呼ばれた歴史上で最悪な皇帝の一人と呼ばれている。

 

ネロが女の子でとても可愛く、しかも暴君には見えない事にD・ゲイザーの中継で見ていたカルデアも衝撃が走っていた。

 

「……マシュ」

 

「はい」

 

「俺の記憶が正しければ歴史の勉強で習ったネロ皇帝は男のはずだよな?」

 

「そのはずです」

 

「暴君のはずだけど、結構いい子に見えるのは気のせい?」

 

「気のせいじゃないと思われます」

 

歴史の事実とはまるで違い過ぎるネロの姿や性格などに遊馬はガクッと項垂れる。

 

「歴史って何……?史実って何だ……?真実ってなんなんだぁあああっ!?」

 

バンバンと地面を叩き、違い過ぎる歴史にむしゃくしゃした怒りをぶつける。

 

アーサー王こと、アルトリアが実は少女だったが、王位継承問題で男装していたのでそれに関してはまだ許せる。

 

しかし、目の前にいるネロが男ではなくアルトリア似の可愛い女の子であることを踏まえて、あまりにも歴史の本やテレビで見たことある歴史番組の内容とはあまりにも違いすぎていた。

 

「ゆ、遊馬君!?気をしっかり持ってください!!」

 

「ああっ!カルデアでの勉強が遊馬君に精神的な痛手を!?」

 

「ふむ……せっかく勉強したが、事実が違っていたことに嘆いているようだな……」

 

遊馬がカルデアで勉強をして知識を増やしていった矢先に歴史の本が間違っていることに嘆くのだった。

 

『遊馬がそこまで勉強に興味を持ってくれるなんて……これは帰ったら右京先生に報告しなくちゃね』

 

カルデアにいる小鳥は遊馬が勉強に興味を持ってくれたことに驚きよりも嬉しさがこみ上げてそっと涙をハンカチで拭いていた。

 

ちなみに右京先生とは遊馬と小鳥が通うハートランド学園での担任の先生であり、もしも遊馬が勉強に興味を持ってハートランド学園でも真剣に勉強を続ければ小鳥のように嬉しくて涙を流すこと間違いないだろう。

 

「えっと……よく分からぬが、これは余が悪いのか……?」

 

遊馬達のよく分からない光景を見てそう思うネロだった。

 

 

 

.

 




マシュ、アルトリアに続く三人目のフェイトナンバーズ、ジャンヌが活躍しました。
ジャンヌの効果はこんな感じです。

FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2500
レベル4モンスター×2
エクシーズ素材を一つ取り除いて以下の効果を1ターンに1回ずつ発動する事が出来る。
①次の相手ターンのエンドフェイズ時まで自分フィールドのモンスターは相手のカードの効果を受けず、自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値となる。
②このカードの攻撃力をこのターンのエンドフェイズ時までこのカード以外の自分フィールドのモンスターの数×500ポイントアップする。

強すぎますかね(笑)
効果はジャンヌの旗を参考にして、攻撃力アップは仲間の力を合わせるイメージで考えました。

次回は……多分ブーディカ姉さんを出せると思います。
復讐者であるブーディカと復讐者を見てきてその心を変えてきた遊馬との対話をかけたらいいなと思います。



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ナンバーズ21 勝利の女王、母の温もり

今回はカルデアのママことブーディカ姉さんの登場です。
エミヤとブーディカが揃えばカルデア食堂は安泰ですね。


サーヴァント・カリギュラを退け、アルトリア似の少女の正体がローマのネロ皇帝と知り、驚愕する遊馬たち。

 

遊馬たちはネロの案内で永遠の都……ローマに案内された。

 

「見るがよい、しかして感動に打ち震えるのだっ!これが余の都、童女でさえ讃える華の帝政である!」

 

「ここがローマか……!」

 

ローマの街の賑わいに心を弾ませながら遊馬はデッキケースから反骨の闘士ライオンハートと青い拳闘士の姿をしたナンバーズを取り出した。

 

「前世のアリトはこんな世界で過ごしていたのかな……」

 

アリトの前世は最高の剣闘士として戦っており、特に古代ローマでは剣闘士は特に有名だった。

 

「可能性は十分にあるな。この世界と私たちの世界の歴史に差はあるが、歴史の流れはほぼ同じだろう」

 

「だよな……アリトにこの風景を見せてやりたかったな」

 

「何をボソボソと言っておる。ほれ、それを食うのだ」

 

物思いに耽っていた遊馬に対しネロは果物を売っている店から貰った林檎を投げ渡した。

 

「ローマ時代の林檎か……ネロ皇帝、おっちゃん、いただくぜ!ムシャムシャ……美味え!最高だぜ!」

 

「甘くて美味しいです〜!」

 

遊馬は林檎を皮ごとかぶりつき、ジャンヌも同じ様に林檎を頬張るように食べていた。

 

「おお、なかなか見事な食べっぷり。うむ。改めて、余はその方らが気に入った。実のところ、言ってることはよくわからぬが……お主も少女達も正直者である事はわかるのだ」

 

「ま、確かにあまりにもおかしすぎて理解は難しいよな」

 

「私達は未来から来た魔術師で、この世界に起きている異常を解決するためにネロ皇帝の手助けをする……それだけ分かれば問題ない」

 

「ひとまずは理解出来たが……それにしてもまさかこの眼で精霊を目の当たりにするとは思わなかったぞ……」

 

ネロはアストラルをまじまじと興味深く見つめる。

 

サーヴァントではない人間が普通にアストラルを見られるという事は魂がランクアップしている証拠であり、それは歴史に名を残すネロ皇帝なら英霊としてサーヴァントになりゆる存在とも言える。

 

ちなみにカルデアではサーヴァント召喚に使用する特別な機械や環境などがあるのでアストラルを目視することができる。

 

「よし、まずは共に来るが良い。我が館にて、ゆっくり話すとしよう」

 

ネロは遊馬達を宮殿に案内して現状を整理していく。

 

平和なローマに突如、ネロ以外の複数の『皇帝』が現れた連合軍……『連合ローマ帝国』がこのローマ帝国の半分を奪った。

 

特に先ほど現れたカリギュラはネロの伯父……サーヴァントであるということは既に死んでいる人間である。

 

フランスでの特異点のように誰かが聖杯を手にして皇帝をサーヴァントとして召喚している可能性が高い。

 

しかし、連合軍を防ごうにもネロの今ある軍を総動員しても抑えきれていない。

 

「口惜しいが……思い知らされた。最早、余一人の力では事態を打破することは出来ない。故に、だ。貴公たちに命じる、いや、頼むっ!余の客将となるがよい!ならば聖杯とやらを入手するその目的、余とローマは後援しよう!」

 

「客将……?」

 

「客将とは一国の軍で客として待遇されている将軍のことだ。この場合は私たちの力をネロ皇帝に貸し、連合軍と戦う将になる代わりに私たちの聖杯探索を手伝ってくれるということだ」

 

ネロの古風な話し方と少々難しい言葉に首をかしげる遊馬にアストラルが分かりやすく説明する。

 

「そういうことか!サンキュー、アストラル。良いぜ、俺たちの力をネロ皇帝に貸してやるぜ!」

 

「おお、そうかそうか!快諾とはな!貴公たちのうち一名に総督の位を与えるぞ。それと、先ほどの働きへの報奨もな。今夜はゆっくり休むがよい。それぞれに、総督に相応しい私室を用意させよう」

 

「悪いな、ネロ皇帝。あ、そうだ……一つ聞きたい事があるんだけど、レフ・ライノールって言うもじゃもじゃした髪をしたおっさんを知らないか?」

 

遊馬はこの戦いの元凶と思われる男……カルデアを裏切り、多くの人を殺したレフ・ライノールについて聞いた。

 

「……れふ?いや、とんと聞かぬ。何者だ?」

 

「私たちの時代の魔術師です。カルデアと、人類の全てを彼は裏切りました。この時代にもいる可能性もあります。もっとも、姿を見せて活動しているかはわかりません」

 

「だが、レフが魔術師……人間ではない可能性も充分にある」

 

「アストラルさん、それはどういう事ですか!?」

 

「レフ・ライノールと初めて対峙した時から彼からは人間のエネルギーを全く感じられなかった。文字通り人の皮を被った化け物……そんな気がしてならなかったんだ」

 

異世界人であるアストラルはレフが少なくとも人間ではない別の存在だとすぐに気付いた。

 

そもそも人理焼失を企む存在が魔術師とはいえ、ただの人間ではないことは確かだが。

 

「……連合には巨大な魔術を操る輩がいると聞いた。兵たちの噂ではあるが、最前線で姿を見かけたとか」

 

「もしそれがレフなら俺たちで必ずぶっ飛ばす。再起不能になるまでぶっ飛ばして自分のやったことを懺悔させてやる」

 

「……はい。レフ・ライノールは私たちの敵です」

 

レフはカルデアを崩壊直前まで追い込み、オルガマリーを爆死させ、マスター候補生を仮死状態に追い込み、大勢のカルデアの職員の命を奪った。

 

その大きすぎる罪を償わせなければならないと遊馬とマシュはレフを倒すことに密かな闘志を燃やす。

 

その後遊馬達は首都に攻めてくる連合軍の残党を倒し、休息を取りながら時間が経過するとネロがガリアへ向かうことになり、遊馬達も同行することとなった。

 

ガリアはこの戦争の重要な最前線であるので敵サーヴァントがいる可能性が充分に考えられ、必然的に遊馬達の力が必要となる。

 

遊馬達は改めて気合を入れてガリアへ向かう。

 

 

首都から馬を使ってガリアの遠征地に到着した遊馬達。

 

ネロは皇帝として兵士たちに言葉を送って鼓舞し、兵士たちの士気を高める。

 

皇帝ネロのカリスマに驚きながら初めて見る野営地を眺めているとアストラルは近づいてくる気配に察知して遊馬に警告する。

 

「遊馬!サーヴァントだ!」

 

「何!?」

 

遊馬は瞬時にデッキからカードをドローして身構えると、近づいてきた二人のサーヴァントを目視する。

 

一人は赤い髪をした綺麗な女性のサーヴァントで、もう一人は灰色の屈強で大きな肉体を持つ男性のサーヴァントだった。

 

「君は……その令呪、君がマスターでその後ろにいる二人の女の子がサーヴァントだね。大丈夫、あたしたちは味方だよ。あたしはブーディカ。ガリア遠征軍の将軍を努めてる」

 

「ブーディカ?」

 

女性のサーヴァント、ブーディカの名前を聞いてマシュは目を見開いて驚いた。

 

「そう。ブーディカ、ブリタニアの元女王ってヤツ。で、こっちのでっかい男が……」

 

「戦場に招かれた闘士がまたひとり。喜ぶがいい、此処は無数の圧殺者に見ちた戦いの園だ。あまねく強者、圧制者が集う巨大な悪逆が迫っている。反逆の時だ。さあ共に戦おう。比類なき圧政に抗う者よ」

 

よくわからない古風な言葉を並べる男性サーヴァントに遊馬たちは頭に疑問符をたくさん浮かべるほど理解ができなかった。

 

「色々省略するが、彼は共に戦うことを喜んでいるようだ」

 

アストラルが通訳し、ブーディカはアストラルの姿を見て驚いた。

 

「うわぁ、本当に精霊だ……こんなに綺麗な人は初めて見たよ。おっと、彼はスパルタクスだよ」

 

「スパルタクス……すげぇ筋肉だな……どうやったらあんなになれるんだ?」

 

スパルタクスの屈強で大きな肉体……見事な筋肉に感心していると、自己紹介するのを忘れてすぐに遊馬たちは名乗る。

 

「俺は九十九遊馬だ!遊馬って呼んでくれ」

 

「私の名はアストラル」

 

「マシュ・キリエライトです」

 

「私はジャンヌ・ダルクと申します」

 

自己紹介が終わり、遊馬たちはブーディカとスパルタクスにカルデアと聖杯について話した。

 

ブーディカは協力してくれるが、スパルタクスはバーサーカークラス故に反応がよくわからなかった。

 

協力してくれることになり、ホッとする遊馬たちだが、ブーディカはまだ遊馬たちの力を知らないので力試しで勝負することになった。

 

遊馬は敵サーヴァントと対峙するような気持ちで一気にマシュとジャンヌをフェイトナンバーズで呼び出す。

 

「エクシーズ召喚!現れよ、『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!『FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク』!!」

 

遊馬はフェイトナンバーズとなったマシュとジャンヌをサポートするために魔法と罠を駆使してブーディカとスパルタクスの二人と攻防を繰り広げるのだった。

 

そして、充分な力試しとなり、ブーディカとスパルタクスは遊馬たちの実力に満足した。

 

特にブーディカはマシュを気に入り、満足そうに笑みを浮かべながらマシュをジッと見ると何かに気付いた。

 

「よく見たら、何だそうか。そーいうことか。あんた、それならそうって言ってくれればいいのに!」

 

「はい??」

 

「色々複雑なコトになってるんだねぇ。こっちだって……あ、それによく見たらめんこいねえ!」

 

「え?」

 

「こっちおいで、ほら。よしよし」

 

ブーディカは満面の笑み浮かべながらマシュを抱き寄せてまるで自分の子供をあやすように頭を撫でていく。

 

「あっーーな、なんでしょうかブーディカ、その、わぷっ……どうしてこういった……」

 

「あたしにはあんたは妹みたいなもんだ。『あんたたち』は、かな。よしよし」

 

ブーディカはマシュにある『何か』の正体に気付いて愛おしそうに抱きしめており、マシュはブーディカの温もりに力が抜けてそのまま甘えるようにギュッと抱きしめる。

 

「まるで親戚の姉ちゃんだな」

 

「それか子煩悩な母親だな」

 

「あはは……マシュの顔が真っ赤ですね」

 

マシュとブーディカの光景に微笑ましく思う遊馬たちだったが、ブーディカの魔の手が更に伸びることになる。

 

「ほら、ジャンヌもおいで〜」

 

「はいっ!?」

 

「いいからいいから」

 

「わぷっ!?」

 

ブーディカによってジャンヌも抱きしめられてマシュと一緒に頭を撫でられ、いいこいいこされる。

 

久しく人の温もりに触れていなかったジャンヌもマシュと同様にブーディカの温もりに陥落していくのだった。

 

(これはまずい……)

 

そう直感した遊馬はそろりと抜き足でその場から立ち去ろうとしたが、それは無駄なことだった。

 

マシュとジャンヌを目一杯甘やかしたブーディカの次の標的は言うまでもなく遊馬で逃げようとした遊馬の背後に一瞬で回り込んだ。

 

「うおっ、速っ!??」

 

「逃げることないじゃないか、ほーら。よしよーし」

 

「や、やめ……うぷっ!?」

 

哀れ、遊馬もブーディカに抱きしめられて頭を撫でられてしまう。

 

ブーディカはとても綺麗でスタイル抜群、普通の男ならこれはあまりにも嬉しい事だが、十三歳の思春期の男子には辛い。

 

遊馬は顔を真っ赤にしてジタバタと暴れようとするがブーディカの温もりやあふれんばかりの母性にマシュやジャンヌと同じように陥没しかけたその時だった。

 

「っ!?」

 

遊馬の脳裏に一人の女性の姿が思い浮かんだ。

 

その女性は遊馬にとって、ある意味小鳥よりも近い存在でその女性との記憶が次々と蘇ると遊馬の中で込み上げるものがあった。

 

そして……。

 

ポタン……!

 

何かが落ちる音が鳴り、その音を耳にしたブーディカは遊馬をゆっくり離すと目を見開いて驚いた。

 

「えっ?えっ?ユウマ、どうしたの!?」

 

ブーディカが驚くのも無理は無かった。

 

何故なら遊馬の両眼の瞳から大粒の涙が溢れていたからだ。

 

「あ、あれ……?俺……?」

 

遊馬は何故自分が涙を流しているのか分からず困惑してしまい、思わずブーディカを突き放した。

 

「ユウマ……?」

 

「ご、ごめん!」

 

「あっ!」

 

遊馬はブーディカから逃げるようにその場から立ち去り、ブーディカは突然なことに追いかけることは出来なかった。

 

マシュ達も遊馬が突然涙を流して立ち去ったことに驚いてその場で立ち止まってしまい、どうすることも出来なかった。

 

「私……何かユウマにいけないことをしたかな……?」

 

「いや、ブーディカ。君の責任ではない」

 

「アストラル……」

 

アストラルがブーディカの前に降り、遊馬が何故逃げ出したのか代わりに説明する。

 

「遊馬はおそらく君を母に……九十九未来さんの面影を重ねたのだろう……」

 

「私にユウマの母を……?」

 

「遊馬の家庭環境は少々特殊だ……何があったのか話そう」

 

アストラルは遊馬の家族、九十九家に起きた過去の出来事について語り始めた。

 

 

ブーディカから逃げた遊馬は野営地から少し離れた丘で寝転んでいた。

 

首にかけていた皇の鍵を手に持ち、見つめながら呟いた。

 

「慣れたと思ったけどなぁ……」

 

D・パッドを取り出して電源を入れ、軽く操作して一枚の写真を映す。

 

それは何処かの遺跡を背後に探検の時に着用するサファリジャケットを着た遊馬に顔つきがよく似た男性と遊馬の優しい風貌と同じ赤い眼を持つ優しそうな女性が映っており、女性の手には遊馬が持っている皇の鍵が握られていた。

 

「ホームシックってやつか……はぁ、まだまだ子供だな……」

 

自分はもう子供じゃないと何度も言い聞かせてきたが、自分はまだまだ子供だと思い知らされる。

 

「父ちゃん……母ちゃん……」

 

それは遊馬の両親で九十九一馬と九十九未来である。

 

皇の鍵を握りしめてそのまま眠りにつこうと目を閉じると、一つの影が遊馬に重なった。

 

「こんなところで寝ているという風邪ひいちゃうよ?」

 

「んぁ……?うわぁあああっ!?ブ、ブーディカ!?」

 

遊馬の顔を覗くように現れたのはブーディカだった。

 

「あ、ごめん。驚かせちゃった?」

 

「い、いや、大丈夫だ……」

 

「隣、いい?」

 

「あ、ああ……」

 

ブーディカは遊馬の隣に座り、遊馬は驚いた事と妙な緊張感で心臓がドキドキしていた。

 

数秒間の沈黙の後、話を切り出したのはブーディカだった。

 

「聞いたよ、君の家族のこと……」

 

「……そっか、アストラルが話したんだな。自分で話すより気が楽で良かったよ……」

 

「辛かったよね、大好きなお父さんとお母さんが急にいなくなって……」

 

「そうだな、俺には姉ちゃんと婆ちゃんがいたけど、やっぱり寂しかったな……」

 

「……ねえ、ユウマ。アストラルが言ってたけど、お父さんを儀式の生贄にした相手……そいつを許したんだって?」

 

遊馬は父・一馬が行方不明になった犯人……異世界の扉を開くために一馬を騙して生贄にしたDr.フェイカーを復讐せずに許したのだ。

 

「ああ……Dr.フェイカーは自分の息子、ハルトって言うんだけど、重い病気で生死をさまよっていたハルトを救う為に異世界の力が必要だった。そして、異世界の扉を開くために父ちゃんを……」

 

「そして、そのお父さんを探しに行ったお母さんも異世界に……憎くはなかったの?そいつに復讐したいとは思わなかったの?」

 

「確かに憎かったさ、Dr.フェイカーが儀式をしなかったら俺や姉ちゃんや婆ちゃんは悲しい思いをしないで家族みんなで仲良く暮らしていたかもしれなかった……でも、復讐する気にはなれなかった」

 

「……どうして?」

 

「Dr.フェイカーはハルトを一生懸命生かそうとしていた……悪魔に自分の魂を捧げても、自分がどうなっても構わない覚悟で必死に戦っていた。それに、きっと父ちゃんなら仕方ないって笑うと思うからさ……そう思ったら憎しみの心は消えちまったよ」

 

遊馬はDr.フェイカーを許した時と同じように笑みを浮かべる。

 

「ユウマ……ああ、もう!どうしてこんなに良い子なんだい!!」

 

ブーディカは遊馬の復讐の相手すら深く思うその優しい心に心を打たれ、耐えきれなくなって再び抱き寄せてぎゅっと抱きしめた。

 

「ちょっ!?ブーディカ!?や、やめろって!?」

 

「照れない照れない。良い子だね、よしよーし」

 

ブーディカは抱きしめながら頭を優しく撫でて遊馬の羞恥心の抵抗力を一気に削ぎ落としていく。

 

「母、ちゃん……」

 

まるで幼い頃に母に抱きしめられた記憶を呼び起こされた気持ちとなり、遊馬はギュッとブーディカに抱きつく。

 

しばらく遊馬を抱きしめていたブーディカは静かに自分の過去を話し出す。

 

「私もさ、娘が二人いたんだけどローマに酷い目にあわされて死んじゃったんだ……」

 

「娘さんを……ローマに……?」

 

「そして、怒りや憎しみで我を忘れて、大勢のローマ人を殺しつくしたんだ……」

 

「それほどまでにブーディカの憎悪が強かったんだな……」

 

遊馬はブーディカの言葉からどれほど辛く苦しかったのか、そしてどれほど強い怨みがあったのか感じられた。

 

ブーディカが憎悪を宿して戦い、それを踏まえて遊馬は自分が経験してきた出来事から答えを出す。

 

「……ブーディカ、俺は元いた世界で色々な復讐者を見て来たんだ。たった一人の妹を意識不明の重体に追い込まれた兄、親友に裏切られた男、変わり果てた父親の為に戦う三兄弟……そいつらと出会い、戦った。俺も父ちゃん達の事とは別に親友を殺されたと思わされて敵に復讐しようとした……だけど、気付いたんだ。復讐は新しい憎しみしか生まない、周りの誰かを不幸にしてしまう。復讐の連鎖を断ち切らない限り、憎しみの連鎖は永遠に続いていくんだ……」

 

遊馬もかつて復讐に取り憑かれて危うく大切な仲間の命と大切な相棒との絆を失いかけた。

 

ブーディカも大勢のローマ人を殺し、復讐してからその事にやっと気付いた。

 

「……そう、だね。憎しみは憎しみしか生まないからね」

 

「だから、ブーディカ!もしも、もしもまたあんたに誰かを憎む復讐の心が芽生えた時、誰かを手にかけようとしたら俺が必ず止める!」

 

ブーディカはとても優しい心を持つ女性だと心と肌で感じた遊馬は仲間として守ることを誓う。

 

「ユウマ……」

 

「俺が……ブーディカの憎しみを全て受け止めるからな、約束だ!」

 

まさか自分の娘ぐらいの年齢の子供からそんなことを言われるとは予想外で呆然とするが、すぐに笑みを浮かべてもう一度遊馬の頭を撫でる。

 

「そうね……その時はお願いしちゃおうかな。よろしくね、小さな勇者君」

 

「おう!」

 

マスターとサーヴァントではなく、一人の少年と女性として約束を交わす遊馬とブーディカ。

 

すると……。

 

ぐぅ〜っ!

 

「あっ、やべぇ……腹減ったぁ……」

 

遊馬が空腹で腹の虫が豪快に鳴り、力が抜けてしまう。

 

「ぷっ、あはははは!豪快な腹の虫だね。いいよいいよ、野営地に戻ってご飯にしようか」

 

「おう!美味い飯を頼むぜ!」

 

「うん、任せて!」

 

遊馬とブーディカは一緒に野営地まで歩いて帰る。

 

元気よく歩いていく遊馬の後ろ姿を見てブーディカは呟いた。

 

「敵わないなぁ……」

 

遊馬の幼いながら、とても大きく見える背中にそう思った。

 

ブーディカはアストラルから遊馬とDr.フェイカーの顛末を聞いていた。

 

遊馬はDr.フェイカーとの対決の後、復讐せずに許すことにした。

 

しかもそれだけでなく遊馬はある望みを宣言した。

 

それはWDCの優勝者の特典であり、主催者がどんな望みも叶えるものだったが、主催者は行方不明になってそれは不可能となった。

 

しかし、遊馬の叶えたい望みは自分の私利私欲ではなかった。

 

『俺の望みはカイト達親子が仲良く暮らすことだ!』

 

遊馬は何と自分の憎かった相手の家族の幸せを望んだのだった。

 

憎しみを止めるだけでなく幸せを望む……遊馬とブーディカとは憎しみの方向は異なるがそれでも充分凄いことだった。

 

「全く、まだ子供だけど、もう少し大人だったら惚れちゃいそうだよ……ああ、でも娘達のお婿さんになって義理の息子も捨て難いなぁ……」

 

マシュ達やカルデアにいる小鳥や清姫達が聞いたら発狂しそうな言葉を呟くのだった……。

 

「あ、そうだ!ブーディカって確か、『勝利の女王』って呼ばれているんだよな?」

 

「ええ、そうだよ。それがどうかしたの?」

 

「実はさ、俺とアストラルには『勝利』の名を持つモンスターがいるんだぜ!」

 

ブーディカは『勝利』の英名の由来とも言われている。

 

希望皇ホープには希望皇ホープレイ以外にも多くの進化形態があり、その中で勝利の名を持つ希望皇ホープの進化形態がある。

 

「勝利の名を持つモンスターか……じゃあ、いつか強敵が現れた時に見せてね」

 

「おう!そいつはすっげえかっこいいから期待しててくれ!」

 

「うん♪楽しみにしているよ、ユウマ」

 

まるで息子と母の親子のような雰囲気を漂わせながら楽しそうな会話をする遊馬とブーディカ。

 

そして、その夜にブーディカは遊馬とサーヴァントの契約を結び、ブーディカのフェイトナンバーズを誕生させた。

 

意外にもブーディカと相性がよほど良かったのか、すぐにイラストと真名が判明した。

 

綺麗な赤い髪が腰まで伸びてその手にはアルトリアの持つ約束された勝利の剣に似た剣を持ち、馬二頭が引く戦車に乗る姿が描かれており、真名は『FNo.83 勝利と愛の女王 ブーディカ』。

 

またここに一つ遊馬の新たなサーヴァントとの絆が紡がれたのだった。

 

 

 

.




ブーディカ姉さんのあふれんばかりの母性はもはや狂気レベルですね(笑)
早くも遊馬先生がフラグを立てました(笑)
次回はカエサルとの戦いになると思います。


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ナンバーズ22 ガリア奪還!竜皇の巫女、初陣!!

遂にレティシアのフェイトナンバーズが登場します。
色々考えてそれらしい能力にしました。



ブーディカと絆を深めて新たなフェイトナンバーズを誕生させた遊馬はスパルタクスとも契約を交わした。

 

相変わらず古風な言葉で何を言っているのか不明だったがとりあえず契約を了承してくれたので良しとした。

 

それから数日後、ローマ軍は占領されたガリアを取り戻すために連合軍と戦を開始した。

 

連合軍からマシュとジャンヌはサーヴァントの気配を察知し、連合軍の兵士はローマ軍の兵士に任せ、遊馬達はサーヴァントの相手をするために戦場を駆け抜ける。

 

遊馬とアストラルは下手に人を傷つけないように少々卑怯な禁じ手であるがモンスターで脅して連合軍の兵士達が撤退するよう促す。

 

「エクシーズ召喚!現れよ、『No.17 リバイス・ドラゴン』!!」

 

遊馬とアストラルの戦いを告げる始まりの水竜、リバイス・ドラゴンを召喚して咆哮を轟かせ、その恐ろしい姿に怯えて連合軍の兵士が逃げ出していく。

 

命を奪わずに戦わずして勝つのならそれに越したことはない。

 

途中、連合軍のサーヴァントか魔術師が繰り出してきた魔物などが現れたがオーバーレイ・ユニットを二つ喰らって攻撃力を最大値まで上昇しているリバイス・ドラゴンの敵でない。

 

ブーディカとスパルタクスが露払いをしてくれているお陰でカードを伏せ、ドローで手札を補充しながら戦力を温存し、無事に目的のサーヴァントの元へ辿り着いた。

 

そして、そのサーヴァントの姿を見た瞬間、遊馬達は目を疑った。

 

何故なら色んな意味で驚愕な姿をしていたからだ。

 

(人を見た目で判断するのはよくないけど、肥り過ぎじゃないか!?)

 

ローマ皇帝のサーヴァントは男性で装飾や服装はネロに近いものではあったが……一番の特徴はその体が肥っていたのだ。

 

いわゆる肥満体質なサーヴァントであるが、煌びやかな十字の剣を構えているのでおそらくサーヴァントクラスはセイバーだろう。

 

しかし、そのサーヴァントからはネロと同じく皇帝として人の上に立つ人間としてのカリスマが溢れていた。

 

「待ちくたびれたぞ。一体、いつまで待たせるつもりか。しかし、だ。どうやら私が退屈をするだけの価値はあったぞ。その美しさ、美しいな。美しい。実に美しい、その美しさは世界の至宝でありローマに相応しい。我らの愛しきローマを継ぐ者よ。名前は何と言ったかな?」

 

「ーーーーっ」

 

ネロはそのサーヴァントの前で緊張していた。

 

誰かは不明だが歴代のローマ皇帝に位置する人物なので、ネロにとって先祖と対峙するので緊張するのは当然だった。

 

「沈黙するな。戦場であっても雄弁であれ。それとも、貴様は名乗りもせずに私と刃を交えるか。それが当代のローマ皇帝の在りようか?さあ、語れ。貴様は誰だ。この私に剣を執らせる、貴様の名は」

 

敵であるがネロにローマ皇帝としての誇りや心構えを教えていた。

 

ネロはその言葉を胸に覚悟を決めて堂々と名乗りをあげる。

 

「ーーネロ。余は、ローマ帝国第五大皇帝。ネロ・クラウディウスこそが余の名である。貴様を討つ者だ!」

 

「良い、名乗りだ。そうでなくては面白くもない。そこの客将よ。遠い異国からよく参った。貴様達も名乗るがいい」

 

サーヴァントの視線がネロから遊馬達に向けられ、名乗りをあげることになった遊馬はいつものように名乗るのはつまらないと思い、少し趣向を変えて名乗ることにした。

 

「俺の名は遊馬、九十九遊馬。またの名を……無限の未来を切り開く者、『未来皇ホープ』だ!!」

 

遊馬は未来皇ホープのカードを掲げて背後にその幻影を見せながら堂々と名乗りを上げた。

 

いつもと違う遊馬の名乗りにマシュとジャンヌは驚いたが、瞬時にその趣向を理解したアストラルは小さく笑みを浮かべて遊馬の隣に立ち、同様に一枚のカードを掲げる。

 

「我が名はアストラル!またの名を、絶望の闇を切り裂く数多の希望を宿す者、『希望皇ホープ』!!」

 

アストラルはカードを掲げると、希望皇ホープの幻影が現れて未来皇ホープと並び立つ。

 

遊馬は未来皇ホープ、アストラルは希望皇ホープを生み出しているので……遊馬が未来皇ホープ、アストラルが希望皇ホープと名乗っても間違いではない。

 

未来と希望、二つの皇が威風堂々と立ち並び、マシュとジャンヌは緊張しながら自分たちも遊馬とアストラルに恥じない名乗りをあげる。

 

「マシュ・キリエライト!未来皇ホープの力を宿す、マスター・遊馬のサーヴァントです!」

 

「同じく、ジャンヌ・ダルク!銀河眼の光子竜皇の力を宿す、マスター・遊馬のサーヴァント!」

 

二人の右手に刻まれた『00』と『62』のナンバーズの刻印を見せながら堂々と名乗る。

 

予想外な名乗りに敵サーヴァントは満足そうに笑いをこぼす。

 

「ふははははっ!未来皇と希望皇か!これは驚いた、まさかそんな皇帝が存在するとはな!」

 

「あんた、連合軍のサーヴァントなら知っているよな?聖杯について教えてもらおうか!」

 

「聖杯……それについては私を倒せたら教えてやろう。だがその前に、ここまで来られた褒美だ。我が黄金剣、黄の死(クロケア・モース)を味わえ!」

 

敵サーヴァントの十字の黄金剣が輝き、勢いよく振り降ろすと黄金の斬撃がリバイス・ドラゴンに向けられた。

 

「迎え撃て!バイス・ストリーム!」

 

リバイス・ドラゴンは水の竜巻を模した竜の咆哮を放つが、黄金の斬撃が竜巻を切り裂き、リバイス・ドラゴンを真っ二つにして破壊した。

 

「リバイス・ドラゴン!?」

 

「くっ、遊馬!罠カードだ!」

 

「分かってる!罠カード、『ガード・ブロック』!戦闘ダメージをゼロにしてデッキからカードを一枚ドローする!」

 

あらかじめセットしておいた罠カードのお陰でダメージはゼロになったが、最大パワーを上げていたリバイス・ドラゴンが破壊された。

 

それほどまでに黄金剣の威力が高いということだ。

 

「見た目で判断するのは危険みたいだな……」

 

「遊馬君!ここは私の守護の力で!」

 

「私も行きます!」

 

「頼むぜ、マシュ!俺のターン、ドロー!自分フィールドにモンスターがいないとき、『ドドドバスター』をレベル4で特殊召喚!『ゴゴゴゴースト』を通常召喚!レベル4のモンスターの召喚に成功した時、手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚!そして、自分フィールドにレベル4モンスターのみの場合、手札から『トラブル・ダイバー』を特殊召喚!」

 

一気に手札から四体のモンスターを召喚し、これで条件が揃った。

 

「レベル4のドドドバスターとゴゴゴゴーストでオーバーレイ!」

 

「更にレベル4のカゲトカゲとトラブル・ダイバーでオーバーレイ!」

 

遊馬とアストラルは四体のモンスターを二体ずつオーバーレイを行い、マシュとジャンヌをフェイトナンバーズのカードに入れてエクシーズ召喚をする。

 

「エクシーズ召喚!現れよ、『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!『FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク』!!」

 

未来皇ホープと銀河眼の光子竜皇の力を宿したマシュとジャンヌがエクシーズ召喚され、サーヴァントの新たな可能性の力に敵サーヴァントは興味深く見つめる。

 

「ほぅ!これがマスターとサーヴァントの……いいや、それとは別の力。なるほど、未来皇と希望皇の二人の力ということか!ならばもう一度喰らえ、黄の死!!!」

 

「させません!遊馬君!」

 

「マシュの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にしてバトルを終了させる!」

 

「フルムーンバリア!!!」

 

再び振り下ろされた黄金の斬撃だが、マシュのフェイトナンバーズの効果で無効にし、更に遊馬のデッキトップに好きな魔法カードを置かせる。

 

「やべぇ、強いな……」

 

「貴様らの美しさと勇気に応えて我が名を言おう。私はカエサル。ガイウス・ユリウス・カエサル、それが私だ!」

 

敵サーヴァントの真名が判明し、遊馬たちは驚いた。

 

カエサル、それは初代皇帝以前のローマの支配者の名前であり、古代ローマ最大の英雄の一人である。

 

ネロは目の前にいる男がカエサルと知って困惑するが、叔父であるカリギュラと既に出会っているので信じるしか無かった。

 

「しっかりしろ!ネロ!ローマを救うにはまずはあいつを倒さなきゃならないんだからな」

 

「ほう、子供とばかり少し侮っていたがどうやらかなりの場を超えているようだな。美しい少女たちを従えているお前の勇気と強さに感嘆したぞ」

 

「マシュとジャンヌは従えてねぇよ。二人は俺の大切な仲間だ!!」

 

「仲間か。よかろう、褒美に一つ教えてやろう。聖杯なるものは、我が連合帝国首都の城にある。正確には宮廷魔術師を務める男が所有しているな」

 

「宮廷魔術師?誰だそいつは!?」

 

「できんな、貴様への褒美は終わりだ。これ以上くれてやる道理はない」

 

「けっ、ケチな支配者様だな。だったらぶっ倒して聞き出す!」

 

「その意気だ。さてと。では、次は本気だ!」

 

カエサルは魔力を……抑えていた力を解き放った。

 

今まで本気では無かったとはいえ、リバイス・ドラゴンを倒した……ますます油断できなくなる。

 

「調子に乗る前に早いとこ倒さなきゃな!」

 

「私は来た。私は見た。ならば、次は勝つだけだ……!」

 

カエサルは一気に終わらせようと黄金剣を振り上げた……その時だった。

 

「それはどうかしらね?」

 

遊馬のデッキケースが開き、中から黒い影が飛び出すとカエサルを蹴り飛ばし、高く飛び上がってから静かに降り立った。

 

「全く、揃いも揃ってだらし無いわね。あんな奴に手間取っていたらこの先が思いやられるわね」

 

それは聖杯によって生み出され、新たな道を歩み始めた少女……ジャンヌ・オルタことレティシアだった。

 

「レティシア!」

 

「レティシアさん!」

 

「レティシア、どうして……?」

 

「どうしてって、あなた達が不甲斐なくて見てられないから来ただけよ。さて……マスター、早速だけど私を召喚してもらえるかしら?」

 

「レティシア……」

 

「私の初陣、派手にやらしてもらえる?」

 

「……いいぜ、行こうぜ!レティシア!」

 

「ええ!それから、ついでに名乗っておきましょうか?私はレティシア!銀河眼の光子竜皇の力を宿す、マスター・遊馬のサーヴァントよ!」

 

レティシアは光の粒子となってフェイトナンバーズの中に入り込み、遊馬はこのターンで決める気持ちでドローする。

 

「俺のターン、ドロー!手札から『ゴゴゴジャイアント』を召喚!効果で墓地のゴゴゴゴーストを特殊召喚!行くぜ、レティシア!俺はゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーストでオーバーレイ!」

 

ゴゴゴジャイアントが召喚され、先ほどマシュの効果で墓地に送られたオーバーレイ・ユニットだったゴゴゴゴーストを蘇生させ、ゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーストが光となって地面に吸い込まれて爆発すると、漆黒の炎が吹き荒れる。

 

「新たな生を受けし黒き炎を纏いし乙女よ、数多の竜の加護をその身に受け、未知なる未来を突き進め!」

 

それは偽物として生まれた存在が新たな未来を進み、少年との絆が一人の少女として新たな存在となって確立した。

 

「エクシーズ召喚!現れよ、『FNo.62 竜皇の巫女 レティシア』!!」

 

漆黒の炎を蹴散らす無数の竜の幻影と共に光と闇の狭間からジャンヌと同じ趣向の銀河眼の光子竜皇を模した鎧を装着したレティシアが現れる。

 

レティシアは旗を広げるとそこにはかつてファブニールを模した竜の紋章が描かれていたが、竜の魔女ではなくなったレティシアの新たな旗には遊馬を象徴する皇の鍵が大きく描かれていた。

 

「レティシアの効果!エクシーズ召喚に成功した時、エクストラデッキからドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターエクシーズを3枚選択する!」

 

遊馬のエクストラデッキから三枚のカードが飛び出してレティシアの前で踊るようにクルクルと舞う。

 

「レティシア!」

 

「さあ、来なさい。私を勝利に導く選ばれし竜の輝きよ!!」

 

レティシアは自分の直感で三枚の中から一枚を選んでキャッチし、そのカードを掲げた。

 

そして……選ばれたそのカードはレティシアの憎しみの象徴を打ち砕き、最も惚れ込んでいるドラゴン……銀河眼の光子竜皇だった。

 

「流石は私ね♪」

 

「ランダムに1枚選択したカードをレティシアの装備カードにする!銀河眼の光子竜皇、レティシアの力となれ!」

 

銀河眼の光子竜皇は咆哮を上げながら光の粒子となってレティシアの体に纏うと鎧が一瞬で大きく変化した。

 

それはまるで銀河眼の光子竜皇自体が鎧に変化したかのようにレティシアの全身を覆い、その力を高めた。

 

さながら竜人のような姿となったレティシアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「レティシアの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップし、エンドフェイズ時まで装備したモンスター……つまり、レティシアは銀河眼の光子竜皇の効果を得る!」

 

「力が、溢れてくる!さあ、派手にぶちかましましょうか!!」

 

「慌てんなって!その前にマシュとジャンヌのパワーを高めるぜ。装備魔法『最強の盾』をマシュに装備!攻撃表示の時、守備力の数値分攻撃力をアップさせる!」

 

歪んだ形をした赤い盾が現れ、マシュの十字の盾に取り込まれた。

 

「凄い……私の高い守護の力が攻撃力に加算されている……!?」

 

十字の盾は鈍色から真紅に輝き、マシュの力が高まる。

 

マシュの守備力は3000、低い攻撃力である1500に加算され……合計攻撃力は4500となる。

 

「更にジャンヌの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、自分以外のモンスター×500ポイントの攻撃力をアップする!」

 

「レティシア、マシュ……あなた達と共に!」

 

ジャンヌは旗を地面に突き刺し、銀河眼の光子竜皇の十字剣を呼び出してオーバーレイ・ユニットを取り込んで攻撃力を1000ポイントアップさせる。

 

これでマシュ、ジャンヌ、レティシアの三人の強化が完了した。

 

「バトル!マシュの攻撃!」

 

「はいっ!」

 

マシュは盾を手放すと静かに宙に浮く。

 

盾はフェイトナンバーズとなったマシュの意思で自由自在に動くようになり、風車のように高速回転させ、風が吹く。

 

「ロード・カルデアス・ストライク!!」

 

高速回転した盾を地面に思いっきり叩きつけ、地面から強力な衝撃波がカエサルに向けて放たれた。

 

地面を抉るような衝撃波は一気にカエサルの足元まで及び、カエサルを宙に投げ出す。

 

「ぐおっ!?なんて力だ!」

 

「まだだ、ジャンヌ!!」

 

ジャンヌは抉られた地面を足場にして蝶のように軽やかに飛び、カエサルの間合いに入る。

 

「エタニティ・フォトン・スラッシュ!!」

 

振り下ろされた十字剣がカエサルの黄金剣と交差した瞬間、十字剣から無数の光の波動が放たれ、あまりの衝撃にカエサルは地面に叩きつけられる。

 

「ぐごぉっ!!?」

 

「レティシア!!」

 

「これで決めるわ!!」

 

レティシアはジャンヌと同じ銀河眼の光子竜皇の十字剣を呼び出す。

 

ジャンヌの十字剣が青い宝玉に対し、レティシアの十字剣は赤い宝玉が埋め込まれていた。

 

「銀河眼の光子竜皇を装備したレティシアの効果!戦闘を行うダメージ計算時にオーバーレイ・ユニットを一つ使い、レティシアの攻撃力をフィールドのモンスターエクシーズのランクの合計×200ポイントアップする!」

 

レティシアがオーバーレイ・ユニットを十字剣に取り込ませると、自身とマシュとジャンヌのランクの合計、4×3×200で攻撃力が2400ポイントアップする。

 

十字剣の刃が純白に輝き、レティシアは切っ先をカエサルに向ける。

 

「エタニティ・フォトン・ブレイカー!!」

 

十字剣に込められた魔力を一気に解放し、銀河眼の光子竜皇と同じ膨大なエネルギーを解き放った。

 

カエサルは解放した魔力を黄金剣に込め、盾にして防ごうとしたがあまりにも膨大なエネルギーに防ぎれるわけがなく、濁流に飲み込まれるように吹き飛ばされてしまう。

 

「こ、これが……お前たちの力なのか!?」

 

あれだけの連続攻撃を受けてもまだ消滅しなかったが、一つの赤い影が間合いに入っていた。

 

「お、お前は!?」

 

それは真紅の剣、『原初の火(アエストゥス・エストゥス)』を構えたネロだった。

 

ネロは自身で決着をつけるためにずっとその時を待っていたのだ。

 

「余は、ローマを守る!!」

 

ローマを守るために仇なす皇帝を倒すために原初の火を振り払う。

 

原初の火の真紅の一閃が煌めき、カエサルを斬る。

 

「見事だ……それでこそ、ローマ皇帝だ!」

 

トドメの一撃を受け、カエサルは満足そうに頷いた。

 

「美しい女たちに負けるのも悪くない。そも、俺が一卒兵の真似事をするのは無理がある。まったく、あの御方には困ったものだ」

 

「あの御方?」

 

「そうだ。当代の正しき皇帝よ。連合首都であの御方は貴様の訪れを待っているだろう。正確には皇帝ではない私だが、まあ、死した歴代皇帝さえも逆らえん御方だ。その名と姿を目にした時、貴様はどんな顔をするだろうか。楽しみだ」

 

カエサルが言う『あの御方』はネロにとって深い関わりのある人物らしい。

 

それが敵にいることにネロは不安な表情を浮かべるが、ネロを守るように遊馬が前に立つ。

 

「例え敵にどんな奴がいたとしても、ネロは俺が必ず守る。そして、そいつらをぶっ飛ばして、聖杯を取り戻してこの世界の未来を守る!!」

 

「ユウマ……」

 

「ふははははっ!勇ましい、なんと勇ましい男よ!貴様が何処まで戦えるのか楽しみにしておるぞ!」

 

そして、カエサルは多くの謎を残しながら消滅し、白紙のフェイトナンバーズのカードを残した。

 

「消えた……」

 

「この前話したよな?倒されたサーヴァントは英霊の座に帰る。カエサルは元いた場所に帰ったんだ」

 

「そうか……」

 

「……ネロ、これを持っててくれ」

 

遊馬は拾ったカエサルのフェイトナンバーズのカードをネロに手渡す。

 

「これは……?」

 

「カエサルの欠片から生まれたカード。カエサルはネロにとって血の繋がった先祖なんだろ?カエサルは敵として戦ったけど、憎み合ってないし、少なくともネロの事を大切に思っているはずだ。余程のことがなければ子孫を嫌いになるわけないからな」

 

「そうだな……ではこれはユウマたちが戦いを終えるまで余が持っておくことで良いか?」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「ありがとう……」

 

ネロはカエサルのフェイトナンバーズを大切に持つ。

 

こうしてガリアは解放され、大きな戦いが一つ終わるのだった。

 

一方、そこから少し離れた地で美しい少女の姿をした謎の存在が遊馬が持つ小さな力に気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この気配……メドゥーサ?あなた……この世界にいるの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはメドゥーサに深い関わりがあり、最も苦手とする存在であり、遊馬たちに新たな試練を与えるのだった。

 

 

 

.




レティシアのフェイトナンバーズが登場しました!
能力はこんな感じです。

FNo.62 竜皇の巫女 レティシア
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/戦士族/攻2000/守2500
レベル4モンスター×2
このカード名はルール上「FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク」としても扱う。
このカードがエクシーズ召喚に成功した時、エクストラデッキからドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターエクシーズを3枚選んでランダムに1枚選択し、このカードの装備カードにする。
このカードの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップし、エンドフェイズ時までこのカードは装備したモンスターの効果を得る。

ギャンブル性がありますが、超銀河眼の時空龍とかを装備できればかなり強いと思います。
次回はメドゥーサのお姉ちゃん、ステンノの登場です。
メドゥーサを出してギャグを展開しようと思います。
ごめんね、メドゥーサ(笑)


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ナンバーズ23 古き神の試練

今回は古き神の登場です。

そしてまた遊馬のフラグ被害者が増えます(笑)


カエサルを倒してガリアを解放した遊馬たちは凱旋するために首都に戻ろうとしたが、気になることを耳にした。

 

「古き神が現れた、か。本当であろうか?」

 

「古き神ねぇ、俺が出会った神は最悪な奴だったけどな……」

 

「一応、エリファスもアストラル世界の守護神だが……彼は頑固なだけで、私達に未来を託してくれたからな」

 

遊馬はドン・サウザンド、アストラルはアストラル世界の代表にして守護神のエリファスを思い出しながら呟く。

 

古き神……どうやらそれはただの嘘ではなさそうでここ数日で何人も言っており、地中海のある島で現れたらしい。

 

「なあ、ネロ。気になるし、ちょっと行ってみるか?」

 

「しかし、ローマの帰還途中だというのに……」

 

「大丈夫だって、俺の船を使えばすぐに着くからさ。ちょっと行ったらすぐに戻れば良いからさ」

 

「ユウマの船?何処にあるのだ?」

 

「ここにあるぜ。かっとび遊馬号、起動!」

 

遊馬は皇の鍵を掲げると、上空の空間が歪み、皇の鍵の飛行船こと、かっとび遊馬号が姿を現わす。

 

「ぬぉおおおおっ!?な、何なのだあれは!?」

 

「簡単に言えば空飛ぶ船だ!あれがあれば島なんてすぐに到着するぜ!」

 

「なるほど、空飛ぶ船か!これは見事!!分かった、兵はブーディカ達に任せて行こうではないか!!」

 

「おう!」

 

妙にブーディカとは違った意味で相性が良いのか、遊馬とネロはテンションを上げながら古き神がいる島に向かう準備をし、アストラルとマシュ達は幼き姉弟を見守る気持ちで苦笑を浮かべていた。

 

その後、兵をブーディカに任せてかっとび遊馬号に遊馬、アストラル、マシュ、ジャンヌ、レティシア、そしてネロを乗せて地中海に向かった。

 

ネロとついでにレティシアは人生初の飛行船に興奮しながら僅かな時間の船旅を楽しんだ。

 

あっという間に島に到着した遊馬達は砂浜に降り立つと、海から吹く気持ちの良い潮風に心地よい気持ちになったのもつかの間……目的の古き神が近づいて来た。

 

念のため戦闘準備をすぐに整えると、そこにいたのはどこかで見た面影のある顔立ちに紫色の髪のツインテールをした遊馬と同い年か少し年下の風貌の可愛らしい少女だった。

 

「ご機嫌よう、勇者のみなさま。当代に於ける私のささやかな仮住まい、形ある島へ」

 

「あんたがみんなが言ってた古き神か?」

 

「ふふ、あら、あら。どんなに立派な勇者の到来かと思ったのだけれど、まだ子供じゃない。しかもサーヴァントが混ざっているなんて」

 

「うるせえ!子供でも場数は潜ってるんだよ!」

 

「遊馬、挑発するな。感じる、相手は紛れもない神……女神だ!」

 

アストラルはキリッと目を鋭くして遊馬を諌め、場の緊張感を高める。

 

遊馬のD・ゲイザー越しにカルデアの管制室でその女神を調べたが、何と驚くことにサーヴァントでしかも本物の神であったのだ。

 

「精霊……?見たことない姿に、とても強い力を感じますね。その少年に取り憑いていると言うことは……なるほど、場数を潜っているのは本当らしいですね。ところで……」

 

穏やかな表情を浮かべていた女神は遊馬のデッキケースの方を見つめると目を細めて睨みつける。

 

「一つ聞きたいことがありますが……どうしてあなたから……メドゥーサの気配を感じるの?」

 

「メドゥーサ?あんたメドゥーサを知ってるのか?」

 

メドゥーサを親しそうに話す女神にその容姿からアストラルは考えられる関係者を思いつく。

 

「……もしかしてあなたは、ゴルゴン三姉妹……メドゥーサの姉君のステンノ、もしくはエウリュアレでは?」

 

「正解よ、私は女神。名は、ステンノ。ゴルゴンの三姉妹が一柱よ」

 

目の前にいる女神のサーヴァントがメドゥーサの姉である事に驚きながら遊馬は興味深そうに見つめる。

 

「あんた、メドゥーサの姉ちゃんだったのか。よく見れば確かに似ているな。あっ、そうそう、あんたが感じた力の正体はこれだよ」

 

遊馬はデッキケースからメドゥーサのフェイトナンバーズをステンノに見せる。

 

「何それ……?」

 

「メドゥーサとの契約の証だ。メドゥーサはここにはいねえよ」

 

「メドゥーサと契約ね……でも、あなたはそこにいる三人のサーヴァントと契約しているのでは?」

 

「そうだけど、まあ色々あるんだよ。メドゥーサをここに呼び出そうか?」

 

「え?メドゥーサを呼び出せるの……?」

 

メドゥーサをここに呼び出せるとステンノは聞いて目を丸くした。

 

「ああ。ちょっと待ってて。あーあー、もしもし?カルデア管制室、今すぐメドゥーサを呼んできてくれ。姉ちゃんのステンノがいるって」

 

D・ゲイザーでカルデアの管制室に連絡すると小鳥が出た。

 

『もしもし遊馬。分かったわ。少し待ってて、今すぐメドゥーサさんを呼んでくるわ』

 

「おう小鳥!サンキュー!」

 

『あ、メドゥーサさん!ちょうどよかった。実はあなたのお姉さんが……って、何で全力疾走で逃げるんですか!?』

 

小鳥はメドゥーサを見つけたのもつかの間、姉がいることを知るなり全力疾走で廊下を走り出す。

 

『す、すみません、ちょっと用事を思い出しまして……』

 

『あ、クー・フーリンさん!メドゥーサさんを捕まえてください!お姉さんがいるのに会おうとしないんです!』

 

『あー?メドゥーサの姉ちゃんだと?そういえばあいつ……はっ、良いだろう。最速のランサーの名にかけて捕まえてやるぜ!おい、カルデアのサーヴァント共!手の空いている奴は今すぐメドゥーサを捕まえろ!いつもクールぶっているメドゥーサの化けの皮を剥がそうぜ!!』

 

『ちょっ!?クー・フーリン!?くっ、後で覚えておきなさーーイヤァアアアアアッ!?どうして皆さん一斉に追いかけてくるんですか!?』

 

『まあ君が姉君と会ってどんな反応するか見てみたいからな』

 

『過去と向き合いなさい、メドゥーサ。私も頑張って向き合っているのですから!』

 

『助けてください!!サクラァアアアアアッ!!!』

 

何やら色々と騒がしい音声が聞こえ、数分後には無事にメドゥーサを捕獲して準備ができ、遊馬はデッキケースにメドゥーサのフェイトナンバーズを仕舞う。

 

そして、数秒後にデッキケーキから紫色の光が飛び出て、若干衣類や髪がボロボロになったメドゥーサが現れた。

 

「う、上姉様……お久しぶりでございます……」

 

「うふふ……駄メドゥーサ……会いたかったわ……」

 

ステンノはまるで自分のおもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべてメドゥーサに近づこうとした。

 

メドゥーサは眼帯で顔の半分近くを隠しているが、体が震えており明らかに怯えていた。

 

バッ!

 

遊馬はとっさにメドゥーサの前に立ってステンノを近づこうとするステンノを遮る。

 

「あら?何をするのかしら?せっかくの姉妹の感動の再会に水を差すのですか?」

 

「……普通の姉妹なら良いけど、あんたから恐ろしい気配を感じてな。俺も姉ちゃんいるし……」

 

過去に姉の明里から受けた恐ろしい経験を何度も受けた嫌な経験感が働き、遊馬はステンノのドSな性格に気づいたのだ。

 

こいつ本当に女神かよ?と思いながら遊馬はステンノと睨み合いを続ける。

 

「はぁ……まあいいわ。駄メドゥーサとは後でじっくり話しますわ」

 

遊馬の根気に負けたステンノは一旦メドゥーサと話をするのを止め、話題を変える。

 

「さて……話が変わりますけど、あなたに一つ質問があります」

 

「質問……?」

 

女神が何の質問をするのか緊張する遊馬だったが、ステンノの質問な驚くべき内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたはメドゥーサを化け物だと知ってて契約してるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりの予想外の質問に遊馬達は一瞬言葉を失った。

 

「っ!?てめぇ……妹に向かってなんてことを言ってるんだ!!」

 

メドゥーサを化け物呼ばわりするステンノに遊馬は一瞬で頭に血が上って激昂し、思わず殴りかかろうとした。

 

「いいんです、ユウマ!」

 

メドゥーサは遊馬の肩を掴んで止め、悲しそうな表情を浮かべて首を左右に振る。

 

「メドゥーサ……」

 

「今はこの姿でも、私は昔、醜い化け物となって……その結果、姉様たちを喰い殺してしまいましたから……私は所詮、反英雄……倒されるべき怪物ですから」

 

ギリシャ神話ではステンノともう一人の姉、エウリュアレは逃げたと記されているが真実は違う。

 

英雄殺しの魔獣『ゴルゴーン』となってしまい、理性を失って喰い殺してしまったのだ。

 

メドゥーサは死後に英霊の座に着いた時からずっとその事がトラウマとなっているのだ。

 

遊馬はメドゥーサの悲しそうな表情を見ると覚悟の紅い瞳でステンノを見つめ、自分の思いを話す。

 

「ステンノ。この際だからはっきり言わせてもらう……メドゥーサが化け物だろうが何だろうがそんなのは関係ない!!」

 

「ユウマ……?」

 

「関係ない……ですって?」

 

メドゥーサは呆然とし、ステンノは目を見開いて驚いた。

 

「メドゥーサがどんな存在だったのか、どんな生き方をしていたのか、それはカルデアで見たギリシャ神話の本でしか見たことないし、メドゥーサの口から聞いたことないからそれが真実かどうか分からねえよ。だけど、これだけは言える……メドゥーサは俺の大切な仲間だ!!」

 

メドゥーサとの絆の証である『FNo.44 天馬の女神 メドゥーサ』を見せながら強く宣言する。

 

「本性が化け物だろうが何だろうが構わない!メドゥーサが俺をマスターとして、仲間として認めてくれて、俺と一緒に戦ってくれるなら俺は最後までメドゥーサを信じる!そして、必ず守る!!それが俺の覚悟だ!!」

 

マスターとして、仲間としてメドゥーサを信じ、そして必ず守る覚悟。

 

本来なら倒すべき存在であるメドゥーサを仲間にするだけでなく守ると宣言した勇者……そんな人間を見るのは女神であるステンノ自身も初めてだった。

 

しかも勇者と呼ぶにはまだ幼い子供……そんな遊馬を見て興味が出てきた。

 

「面白いじゃない……そこまで言うなら一つ、あなたを試してあげるわ」

 

「試す?」

 

「この島の洞窟に勇者を出迎えるための催しを作ったのよ。そこには私が用意した魔獣がいるわ。それをあなたとメドゥーサで攻略しなさい」

 

「魔獣?」

 

「魔獣を倒した後に宝箱があるわ。それをどうするかあなた達次第だけど……」

 

「ふーん……女神が用意した試練ってことか」

 

「しかし、女神ステンノよ。それを遊馬とメドゥーサが攻略したとして、我々に何のメリットがある?」

 

アストラルの言うことももっともであり、わざわざ女神が用意した恐らくかなり危険な場所に踏み込む理由などはない。

 

「そうね……それなら、私をあげるわ」

 

「上姉様!!?」

 

「私はサーヴァントとしてはメドゥーサに比べたら弱いけど、この身全てをあなたに捧げるわ」

 

「つまり、仲間になるってことか?分かった!約束は守れよ?」

 

洞窟の試練をクリアすればステンノが仲間になると聞いて遊馬はやる気を出した。

 

「ユ、ユウマ!洞窟に何があるのかわからないのに……」

 

「でも、クリアすればステンノのフェイトナンバーズを手に入れればカルデアで召喚しやすくなる!そうしたら、カルデアの中限定だけど、また姉妹で一緒に暮らせるだろ?」

 

「えっ!?まさか、それが理由で……!?」

 

「うん、そうだけど?」

 

あっけらかんに答える遊馬にメドゥーサはぽかーんと口を開けて唖然とする。

 

対してアストラルは相変わらずだなと嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

マシュ達は驚きの後に先日アストラルが語った遊馬の過去を思い出して遊馬らしい考えだとアストラルと同様に笑みを浮かべた。

 

ネロは遊馬の他人のために全力を尽くして戦えることに感動して称賛した。

 

「変な子ね……いいえ、だからこそメドゥーサや複数のサーヴァントと契約出来ている……何か他人を惹きつける力を持っているのかしらね」

 

そして、ステンノはそんな遊馬を見て呟いた。

 

「よっしゃあ!早速行こうぜ、メドゥーサ!」

 

「わかりました。ユウマ、行きましょう!」

 

遊馬とメドゥーサはステンノが用意した試練である洞窟へと向かう。

 

アストラルは遊馬とは離れられないのでステンノが特例で認めてそのまま洞窟へ向かう。

 

 

入った洞窟はジメジメとしてとても暗く、心地の良い場所ではなかった。

 

入った矢先に先兵と思われる骸骨兵がいたが、そこはカルデアの英霊達に鍛えられている遊馬とかつて多くの英雄と戦ったメドゥーサの敵ではなくあっさりと片がついた。

 

問題はそれではなく洞窟の奥にいる敵……簡単に言えばダンジョンのボスである。

 

『グオオオオオオオ!!!』

 

現れたのは古代ギリシャに伝わる怪物、キメラ。

 

複数の動物のパーツが組み合わさっている存在で魔術による合成生物ではなく、正真正銘の伝説の幻獣である。

 

「ははっ、宝箱を守る番犬と言ったところか!」

 

「ワイバーン、ファヴニールに続いてキメラか……英霊だけでなくこれほど有名な伝説のモンスターと戦うことになるとはな」

 

遊馬はホープ剣を消すとデッキからカードを引き、手札を見てどう動かすか一瞬で考える。

 

「時間はないから一気に決めるぞ。この手札なら……メドゥーサ、出番だぜ!」

 

「わかりました。行きますよ、ユウマ……マスター!」

 

「おう!かっとビングだ、俺!俺のターン、ドロー!魔法カード『おろかな埋葬』を発動!デッキからモンスターカードを墓地に送る!俺はデッキから『ズババナイト』を墓地に送る!更に『クレーンクレーン』を召喚!効果で墓地のレベル3モンスターを一体特殊召喚出来る!来い、ズババナイト!!」

 

鳩の形をしたクレーンのモンスターが墓地に送られたズババナイトを引っ張りあげて特殊召喚する。

 

クレーンクレーンとズババナイトのレベルは共に3、これで条件は成立した。

 

「派手にぶちかまそうぜ、メドゥーサ!」

 

「ええ!」

 

「俺はレベル3のズババナイトとクレーンクレーンでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

ズババナイトとクレーンクレーンが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「儚く美しき女神よ!魔眼と天馬の力で仇なす敵を討て!」

 

それは遊馬にとって初めて対峙した英霊の敵……そして、サーヴァントとの絆の象徴フェイトナンバーズの始まりのカードである。

 

「現れよ、『FNo.44 天馬の女神 メドゥーサ』!!」

 

光の中から天馬……ペガサスが現れ、その背には白い軽装の鎧を纏うメドゥーサが乗っている。

 

そして、驚くことにそのペガサスはメドゥーサが召喚する純白のペガサスではなく、『No.44 白天馬スカイ・ペガサス』だった。

 

スカイ・ペガサスがメドゥーサと共に現れたことに驚きながら遊馬は早速効果を発動する。

 

「メドゥーサの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスターを裏守備表示にする!更に、相手はこの表示形式を変更出来ない!!」

 

「キュベレイ!!」

 

メドゥーサはオーバーレイ・ユニットを一つ手で握りしめ、両眼の魔眼を封印している眼帯を外し、真紅の両眼が怪しく輝くとキメラの体が一瞬で動かなくなる。

 

石化の魔眼によってキメラが動けなくなったのだ。

 

「おっしゃあ!これでキメラの動きを封じたぜ!」

 

「ユウマ、トドメです!」

 

「おうっ!メドゥーサのもう一つの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、このカードが守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する!」

 

スカイ・ペガサスはもう一つのオーバーレイ・ユニットを喰らい、メドゥーサのもう一つの効果を発動する。

 

メドゥーサは自身の宝具であり、ライダーのクラスに相応しい騎乗できるものなら幻想種すらも制御し、更にその能力を向上させる黄金の鞭と手綱……『騎英の手綱』を呼び出してスカイ・ペガサスに手綱を掛ける。

 

「優しく蹴散らしてあげましょう!『騎英の手綱(ベルレフォーン)』!!」

 

スカイ・ペガサスの目が力を宿したように鋭く輝き、洞窟の天井の目一杯まで高く飛び、一気に急降下する。

 

そして、スカイ・ペガサスは自身とメドゥーサを包み込むように白銀の光を纏い、暗い洞窟の中ということもあってそれは夜空に輝く流星のように美しい光だった。

 

「いっけー!ペガサス・シューティング・ブレイク!!」

 

「これで終わりです!!」

 

流星と化したメドゥーサとスカイ・ペガサスの一撃は動けないキメラの体を貫いた。

 

強力な一撃を喰らったキメラは声を上げずに倒れ、死体が残ることなく消滅した。

 

遊馬とメドゥーサはハイタッチを交わし、勝利を喜ぶ。

 

「やったな、メドゥーサ!」

 

「ええ。それにしても、この子は良い子ですね。ありがとうございました」

 

メドゥーサはスカイ・ペガサスの頭を優しく撫でた。

 

役目を終えたスカイ・ペガサスはメドゥーサの白い装甲と共に静かに消えた。

 

「さてと、これでステンノの試練は終わったな」

 

「後は宝箱だけか……」

 

洞窟の奥にある宝箱を見つけ、早速開けようと思ったその時だった。

 

「ん?おわっ!?」

 

デッキケースが開き、中から翡翠色の光が飛び出すと突然清姫が現れた。

 

「旦那様、ご機嫌よう」

 

「清姫!?どうしたんだよ!?」

 

「実は……エリザベートさんがいないのです」

 

「エリザベートがいない?部屋にも食堂にもか?」

 

「はい。ちょっと暇なのでちょっかい……ではなく、お話をしようと思ったんですが……どうやら皆さんも見てないらしくて」

 

ちょっかい……と言う言葉は置いておいて、エリザベートが行方不明になったことを遊馬は心配する。

 

「マジかよ……でも急にいなくなるなんてエリザベートらしくないな。どこ行きやがったんだ……?」

 

「……遊馬、気のせいではないと思いたいが、あの宝箱の中からサーヴァントの気配がする」

 

「「「えっ???」」」

 

アストラルの指摘で一斉に宝箱を見つめる。

 

よくよく見て冷静に考えると不自然な点があった。

 

「あの宝箱、結構でかいな。それも人が余裕に入れるぐらいに……」

 

「あれは上姉様が用意した宝箱ですから、もしかして……」

 

「うーん……微かですが、エリザベートさんの気配を感じますね。まさか……」

 

遊馬達は一つの可能性に辿り着き、どうするか迷った。

 

キメラを洞窟に仕掛けるステンノが素直に宝箱に宝物を入れるわけがない。

 

ドッキリで宝物に何か罠を仕掛けている可能性も十分にある。

 

それこそ、例えば宝箱に潜むモンスターの代名詞であるミミックのように生き物が入っているとか……。

 

「旦那様、私の炎で燃やしますか?」

 

「それだともし本当に中にエリザベートがいたら火傷して傷つくし、そうだな……」

 

遊馬はどうするか悩んでいると、アストラルは手札に握られていたカードを見て思いついた。

 

「遊馬、ちょっとしたイタズラでこれを使って見たらどうだ?」

 

「え?このカードを?でもこれ使ったら危ないんじゃないか?」

 

「いいや、あくまでちょっと脅かすだけだ。本当に使うわけじゃないから安心するんだ」

 

「そっか、じゃあいっちょやるか!」

 

遊馬は残る手札でモンスターを召喚し、エクシーズ召喚をする。

 

「エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」

 

希望皇ホープがエクシーズ召喚され、遊馬達の前に現れる。

 

すると遊馬はD・ゲイザーとデュエルディスクのボタンを押して色々操作するとD・ゲイザーのイヤホンマイクに手を添える。

 

「あーあー!マイクのテスト中、マイクのテスト中!」

 

遊馬はD・ゲイザーのマイクで話すと、デュエルディスクのスピーカーから音量が倍増された音声が出ていることを確認する。

 

ダ・ヴィンチの改造でデュエルディスクに小型スピーカーが内蔵され、拡声器の機能が入っている。

 

D・ゲイザーと連動してスピーカーから遊馬の音声が大きくなった音が洞窟内に響く。

 

「えー、宝箱の中にいるエリザベートに告ぐ!ミミックみたいな悪ふざけなんかやめて今すぐ出て来い!出てこないと『ホープ・バスター』を発動して宝箱を破壊するぞ!」

 

ホープ・バスターは希望皇ホープがいる時に相手フィールド上の攻撃力が一番低いモンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える……と言うモンスター破壊とバーンを兼ね備えた魔法カードであり、希望皇ホープがロケットランチャーを発射するイラストが描かれている。

 

つまり、このまま発動してしまうと希望皇ホープがロケットランチャーを装備し、容赦なく宝箱が爆破されてしまう。

 

「……いないようだな。でももしかしたら罠の可能性もあるし、一応破壊しておこう」

 

「そうだな。よーし、カウントダウンだ。3、2、1……」

 

遊馬がホープ・バスターをデュエルディスクにセットして発動しようとしたその時。

 

「ちょっと待ちなさぁあああああいっ!?」

 

「あはははははは!!」

 

宝箱から勢いよく飛び出してきたのは……どうしてここにいるのか疑問で仕方ないエリザベート。

 

「ちょっと!あんた達、私を殺す気!??」

 

「あはははははは!!」

 

さらにもう一人、猫耳と猫の手と猫の尻尾を体に付け、そしてメイド服を着て、何故か手にはオムライスが乗った皿を持つ女性で、もはや何の英霊かさっぱり分からない謎のサーヴァントだった。

 

焦る二人を見た遊馬達はジト目で睨みつけ、無言で踵を返した。

 

「アストラル、メドゥーサ、清姫。帰るか」

 

「帰ろう」

 

「帰りますか」

 

「帰りましょう」

 

スタスタスタとその場から洞窟の出口に向けて歩き出す。

 

自分たちは何の関わりもない赤の他人と言わんばかりの態度であるが、仕方ないことである。

 

「ま、待ちなさいって!コラッ!無視しないでよ!!」

 

「あはははははは!」

 

遊馬達の後を慌ててエリザベートとメイド?のサーヴァントが追いかけるのだった。

 

 

 

.




メドゥーサが遊馬に対する好感度が一気に上昇しました(笑)

遊馬ならメドゥーサでもちゃんと全て受け入れられると思うので。

今回登場したメドゥーサのフェイトナンバーズはこんな感じです。

FNo.44 天馬の女神 メドゥーサ
ランク3/闇属性/戦士族/攻1900/守1700
レベル3モンスター×2
1ターンに1度ずつ、エクシーズ素材を一つ取り除き、以下の①②の効果を発動できる。
①相手フィールドのモンスターを全て裏守備表示にする。相手は表示形式を変更出来ない。
②このカードが守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。更に破壊したモンスターの元々の守備力分のダメージを相手に与える。

メドゥーサの魔眼と天馬をイメージした効果で、相手モンスター突破型にしてみました。

初のランク3フェイトナンバーズです。

そろそろ他のランクも出さないとやばいと思ったので(−_−;)


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ナンバーズ24 遊馬とデュエット!?エリザベート、ステージオン!!

今回はエリザベート回です。

同時並行でぐだぐた本能寺の構想を練っていますが、とんでもない展開や新しいオリカとか考えたので書くのが楽しみです(笑)


ステンノの試練で洞窟にいるキメラをメドゥーサと共に倒したのは良いのだが……。

 

「ところで、何でエリザベートがここにいるんだよ?」

 

「知らないわよ、カルデアの私の部屋で新しい歌の歌詞を考えていて、気がついたらこの島にいたのよ。そしたら、女神様に手伝わされたのよ」

 

カルデアにいたはずのエリザベートだが、いつの間にかこの島で召喚されてステンノの手伝いをされたようだった。

 

「あははははは!」

 

「それで、このメイド服を着た猫耳の女の子は誰なんだ?」

 

「あははははは!では自己紹介とあいなろう!我はタマモナインのひとつ、タマモキャット!語尾はワン。趣味は喫茶店経営。好きなものはニンジンときた。うむ。我ながらブレブレなのだな。だ、ワン」

 

「タマモナイン……?他にもいるのか?」

 

「ってか、キャラ定まってないじゃん……」

 

タマモナインのよく分からないキャラに呆然とする遊馬達。

 

どうやらステンノと同じ敵サーヴァントでは無いが、どうするか悩んでいるとステンノが話しかける。

 

「お見事です、勇者よ。無事に私の試練を潜り抜けたようね」

 

「とりあえずこれで約束通り俺たちの仲間になってくれよ?」

 

「分かったわ。役にはあまり立てないけど、妹共々使ってちょうだい」

 

「サンキュー。あ、タマモキャットはどうするか?一緒に来るか?」

 

「報酬はニンジンをいただこう!」

 

「別に構わないそうよ」

 

ステンノは何故かタマモキャットの言葉が分かるそうで遊馬は苦笑を浮かべる。

 

「そ、そうか……サンキューな。じゃあ俺と握手してくれ、そうすれば契約が完了するから」

 

遊馬はステンノとタマモキャットと握手を交わして二人のフェイトナンバーズを誕生させて契約を完了した。

 

しかし、現代に近いメイド喫茶のメイド服を着ていて尚且つキャラが定まらないタマモキャットは一体何の英霊だ?……と言うか何者だ?と大きく首を傾げた。

 

エミヤのような謎の英霊もいるが、それでも武器を操り、まだマトモ?な英霊なのでまだ納得出来る。

 

たが、それでも共に戦ってくれる仲間になってくれたので下手な詮索はしないことにした。

 

「我はタマモナインの一つ、タマモキャット!ネコ言葉でイイカ?」

 

「え?あの……」

 

「そうか。イヌ言葉でイイカ?」

 

「……アストラル先生!!通訳、通訳をお願いします!!」

 

タマモキャットの訳がわからない言葉に遂に耐えきれなくなった遊馬はアストラルに泣きつくように最後の望みを託す。

 

しかし、アストラルは珍しく困惑した様子で首を左右に振って大きなため息を吐いた。

 

「…………無理だ、スパルタクスの時と違って話している意味が一つも理解できない」

 

スパルタクスは古風な話し方で何とか通訳出来たが、タマモキャットは言っていることが無茶苦茶で意味不明である。

 

何故ステンノに意味が分かるのか不明である。

 

「ちくしょう!せめてキャットちゃんかドッグちゃんがいてくれたら!!」

 

「あの、誰ですか?そのキャットちゃんとドッグちゃんとは?」

 

「キャットちゃんは俺のクラスメイトで大切な仲間なんだ。ネコとお喋りができるんだぜ。それで、ドッグちゃんは何と、犬とお喋りができるんだ」

 

「……その二人、魔術師じゃないですよね?」

 

「え?普通の中学生と小学生の女の子だけど?」

 

「普通の中学生と小学生の女の子が動物とお話はできないと思います……」

 

魔術師でも無いのに規格外な人間が多すぎる遊馬の世界の人間はどうなっているんだと本気で考えてしまいそうになったマシュだった。

 

一方、エリザベートはネロをマジマジと見つめていた。

 

「ん?魔力感じない……え、人間?アンタが?」

 

「何を驚いている。無礼かつ無粋なヤツめ。その姿が美少女ベースでなければ叩き斬っているぞ?余は当代の皇帝ネロ・クラウディウスである!……むう、何故そう親しみのある視線を向けるのだ?」

 

「うっそ、生ネロ!?」

 

「何が生か!?」

 

エリザベートは何故かネロに対して親しみを込めた視線をしながら驚いていた。

 

対するネロはエリザベートの言ってることが何のことがわからずに困惑していた。

 

「生……?どういうことだ?」

 

「……遊馬、ちょっといいか?」

 

「アストラル?ああ、分かった」

 

アストラルは遊馬を呼んで少し離れた場所で話す。

 

「エリザベートだが、もしかしたらネロ皇帝と顔なじみの可能性がある」

 

「え?でもネロはエリザベートを知らないみたいだぜ?それに二人の生きている時代と場所がかなり違うし……」

 

「あくまでも可能性だが、ネロ皇帝とエリザベートは後の世の聖杯戦争で会っていたのではないか?」

 

「あ、そっか!その可能性があったか!」

 

ここにいるネロはこの時代に生きている生者でエリザベートはサーヴァント。

 

つまりネロは死後に英霊の座に呼ばれ、後の時代の聖杯戦争でサーヴァントとして召喚され、エリザベートと出会った。

 

エリザベートの反応からしてその可能性がとても高い。

 

「エリザベートは喜怒哀楽がはっきりしている。あの様子だと、ネロ皇帝と気が合っていたのではないか?」

 

「なるほどな。あれ?そう言えば、エリザベートはカルデアにいたのに何でこの世界に召喚されたんだ?」

 

「……これはあくまで仮説だが、もしかしたら聖杯は特異点の中心人物の関係者や近い存在を召喚するのかもしれないな。そして、選ばれた英霊は英霊の座以外の場所でも強制的に召喚されるかもしれない」

 

「中心人物の関係者や近い存在?」

 

「まずはフランスのジャンヌを例にあげよう。彼女は聖女……神の祝福などを受けた聖女と聖人のサーヴァント、マルタやゲオルギウスが呼ばれている」

 

「なるほど……そうなると、もう一人の中心人物とも言える竜の魔女だったレティシア関連だったら、竜種になれる清姫とエリザベート、後はファヴニールを倒した竜殺しのジークフリートも呼ばれているな。あ、マルタも竜種のタラスクを呼べるし、こうして考えると共通点多いな」

 

「特異点の聖杯が呼び出すサーヴァントはその土地に関連する人物を呼び出すこともある。事実、後のフランス王妃のマリーと天才音楽家のアマデウスもそうだからな」

 

「つまり、特異点の聖杯は召喚する土地の過去や未来の英霊、それに中心人物の関係者や近い存在を呼び出しやすい……って事か?」

 

「そうだな。そして、英霊召喚は触媒が無いとランダムでサーヴァントを召喚されるらしいから、本来なら確率があまりにも低い神霊のステンノが偶然この島に召喚されたのだろう」

 

「うーん、こうして考えると聖杯ってある意味ヌメロン・コードよりもよく分かんねえな……カルデアにいるサーヴァントすら強制的に召喚できるとか、サーヴァント召喚の基準が意味不明だぜ」

 

「同感だ……」

 

どこの誰が作り始めたのか不明だが聖杯の意味不明な力を持つ代物に頭を悩ます二人だった。

 

すると、アストラルは目線を海に向けると目を細めて声を鋭くする。

 

「どうやら、その聖杯が呼び出した敵が現れたそうだ」

 

「何!?」

 

海から飛沫をあげながら飛び出して来たのはこの時代で初めて戦闘した敵サーヴァント、ネロの伯父のカリギュラだった。

 

「ネロォオオオオオッ!!」

 

「お、伯父上……!?」

 

「うぉいっ!?ネロ大好きおっちゃんのカリギュラかよ!?」

 

遊馬は急いでデッキからカードをドローしていつでもデュエル出来るよう準備を整えた。

 

「え、誰?ネロの伯父さん?」

 

「まあ、随分と絡め取られているようね。サーヴァントの扱いとは、そういうものでしょうけれどーーけれど、趣味のよろしくないこと」

 

「伯父上……今度こそ、討ち取る!!」

 

既に覚悟を決めているネロは自らカリギュラを討ち取る為に前に出る。

 

すると、前に出たネロの隣にエリザベートが並んだ。

 

「手伝うわよ、ネロ」

 

「待て、これは余の戦いだ!余が……」

 

「そんなの知らないわよ、私があんたを助けたいから戦うだけよ」

 

エリザベートは誰かの為に戦うことに珍しくやる気を出していた。

 

「エリザベート……ふっ、勝手にせい!」

 

「勝手にするわよ。マスター!初の野外ライブよ、とっとと私をフェイトナンバーズで召喚しなさい!」

 

エリザベートは遊馬にフェイトナンバーズで召喚するよう促す。

 

「オッケー、任せろ!俺のターン、ドロー!魔法カード、『増援』!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える!デッキから『影無茶ナイト』を手札に加え、『スターフィッシュ』を召喚!更にレベル3モンスターが召喚された時、影無茶ナイトを特殊召喚!」

 

海から赤いヒトデが飛び出し、その影から影無茶ナイトが現れる。

 

「かっとビングだ!俺はレベル3のスターフィッシュと影無茶ナイトでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

スターフィッシュと影無茶ナイトが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「轟け、雷鳴!響け、歌声!魅惑の音色で暗き世界を明るく照らせ!」

 

空から落雷が降り注ぎ、砂浜に巨大なアンプがいくつもある少々不気味な城が現れ、その中心から真紅の光が飛び出す。

 

「現れよ、『FNo.91 雷竜魔嬢 エリザベート』!!!」

 

ステージから派手に飛び出したエリザベートはいつも以上に派手なゴスロリ衣装を身に纏い、その手には『No.91 サンダー・スパーク・ドラゴン』の姿形を模したエレキギターが握られていた。

 

「イェイ!さあ、盛り上げていきましょうか!!」

 

ノリノリで召喚されたエリザベートだが……それはマシュたちにとっては悪夢の始まりだった。

 

「た、退避ぃっ〜!!」

 

「フォウ〜ッ!?」

 

マシュはフォウを連れて大量の汗をかきながらその場から全力疾走をし、

 

「は、早くしないと耳が……耳が……」

 

「悪夢が、悪夢が蘇る……」

 

ジャンヌとレティシアは顔を真っ青にし、

 

「まずい、上姉様!早く行きましょう!」

 

「あら?どうして?これから面白くなりそうなのに」

 

メドゥーサはステンノを抱き上げて走り、

 

「あぁ……このままだとエリザベートさんの歌で死人が出そうですね……」

 

「あははははははっ!面白そうなことが起きそうだ!」

 

清姫は口元を開いた扇子で隠し、気分が悪くなりながら呑気なタマモキャットを引っ張った。

 

何故マシュたちが恐怖を抱いているのかというと……それはエリザベートの歌に秘密があった。

 

エリザベートは何故かアイドルを志しており、たまにカルデアでも歌うのだが……その歌があまりにも酷すぎる。

 

音痴とかそんな次元を遥かに超え、聞いた者の耳を破壊するかの如きの超絶音痴。

 

エリザベートの超絶音痴を聞いた者……それは人間を超えた存在であるサーヴァントですら耐えきれずに悶絶するほどである。

 

ロマン達カルデア管制室はすぐに全ての通信の音声を切り、ホッと一安心した。

 

しかし遊馬はそれを気にせずに寧ろエリザベートの舞台に上がった。

 

「エリザベート、一緒に歌わないか?」

 

遊馬は何故かエリザベートの歌を気に入っており、ノリノリでステージに置いてあるマイクを取る。

 

「マスターが?何を言っているのよ、ここは私のステージよ!」

 

「チッチッチ、甘いな。今時は男女のデュエットが流行ってんだぜ?」

 

「デュエット!?なるほど、盲点だったわ……じゃあ、マスター!一緒に歌いましょうか!」

 

意外に少し騙されやすいエリザベートは遊馬の言葉で一緒に歌うことを了承した。

 

「おう!行くぜ、エリザベート!エリザベートの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、次の自分のスタンバイフェイズ時まで、相手フィールド上の全てのモンスターは効果を発動出来ず、攻撃することが出来ない!」

 

エリザベートはオーバーレイ・ユニットを一つ食べ、口から電気がビリビリと少しずつ溢れていく。

 

竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)……さあ、魅惑的な私の声の準備万端よ!」

 

「行くぜ!曲は『マスターピース』!!」

 

アンプから軽快な音楽が流れ、エリザベートはエレキギターをピックで弾き始める。

 

エリザベートはスタンドマイクで遊馬はマイクで歌い始めた。

 

デュエットだが、メインはエリザベートが歌い、サビなどは遊馬も一緒に歌う。

 

そして、驚くことに二人の歌はとてつもなく上手だった。

 

とても早口な歌詞などもあり、少々歌い辛い歌ではあったが、見事なハーモニーを奏でていた。

 

しかし、一つだけ問題があるとするなら……。

 

「う、歌は驚くほど上手ですが……お、音が……」

 

「フ、フォウ……」

 

「こんなにも離れているのに頭に直接響いて痛いです……」

 

「歌が上手いから余計に苛立つわ……」

 

「くっ……上姉様、大丈夫ですか……?」

 

「どうしてこんな酷い音を出せるのか理解に苦しむわ……」

 

「エリザベートさん、旦那様と一緒に歌うなんて……あぁ、妬ましい……でも頭が痛い……」

 

「あははは……わぅん……頭が……」

 

歌自体が強力な不快音となり、遠くに退避していたマシュたちにもダメージを与えていた。

 

そして、ステージに最も近くにいるネロとカリギュラは……。

 

「うむ!良き歌だ!!」

 

「グガァアアアアアッ!??」

 

ネロには心地よく聞こえており、その歌に思わずうっとりしてしまったが、カリギュラには大ダメージを与えており、耳を塞いで絶叫している。

 

バーサーカークラスで理性が大幅に失われても不快音の音楽が効いている事はそれほど恐ろしいものだということを物語っていた。

 

「ネロ!!ネロォオオオオオ!!」

 

「伯父上……」

 

「ネロ!早くやりなさい!」

 

「エリザベート……」

 

「事情は知らないけど、その伯父さんはアンタを大切に思ってるんでしょ!?だったら早くこんな戦いを終わらせなさい!」

 

「……分かっておる!伯父上、覚悟!!」

 

ネロは真紅の剣、原初の火を手にカリギュラに近づき、華麗な剣技で斬りつけた。

 

「ネロ……ネロ……」

 

しかし、まだカリギュラは倒れず、血を流しながらネロに近づく。

 

「くっ、まだ息が……」

 

カリギュラにトドメを刺そうと原初の火を再び構えるが、そんなネロの前にステージから降りたエリザベートが前に出た。

 

「もういいわ、後は私がやる」

 

「エリザベート!?」

 

「さっきはちょっと今のアンタの覚悟を知りたかっただけよ。トドメは私がやる……マスター!」

 

「エリザベート……分かった!エリザベートで攻撃!更に速攻魔法『虚栄巨影』を発動!モンスターの攻撃宣言時に、フィールドのモンスター一体の攻撃力をバトル終了まで1000ポイントアップする!」

 

「これで終わりよ……静かに眠りなさい」

 

エリザベートの口の中が電撃で一杯となり、背後にサンダー・スパーク・ドラゴンの幻影が現れる。

 

「サンダー・スパーク・ボイス!!」

 

サンダー・スパーク・ドラゴンの幻影と共にエリザベートは口から雷の竜の咆哮を放つ。

 

竜の血が混ざっているエリザベートだからこそ可能な攻撃で、特大の雷撃をカリギュラは呑み込まれ、ネロに手を伸ばしながら消滅した。

 

電撃が飛び散り、消滅したカリギュラからフェイトナンバーズが砂浜に落ち、エリザベートはそれを拾うと遊馬とアイコンタクトを交わす。

 

微笑んで遊馬が頷くとエリザベートはカリギュラのフェイトナンバーズをネロに差し出す。

 

「ほら、持ってなさいよ」

 

「えっ……?」

 

「マスターは持ってていいって。伯父さんは狂化しててもアンタを大切に想っていたんだから……ね?」

 

「……感謝する」

 

エリザベートからカリギュラのフェイトナンバーズを大事そうに受け取り、そっと抱きしめる。

 

「……ねえ、暗いままなんてネロらしくないわよ?あ、そうだ!これからローマ軍の前で凱旋ライブをしない?私とネロの二人で!」

 

「凱旋ライブ……うむ。良い響きだ!余とエリザベートで歌うのだな?」

 

「そうよ!私達の歌で盛り上げるわよ!!」

 

エリザベートとネロの(悪夢)のコラボが始まろうとしたが、それを止めるためにマシュたちが乱入する。

 

「待って!?そんな事をしたらローマ軍が戦わずして崩壊します!!?」

 

「フォウフォーウ!!?」

 

「あぁ、神よ……これはあまりにも過酷な試練です……」

 

「やめなさい、このド派手コンビ!!あんた達の歌で味方を全滅させる気!?」

 

「くっ、こうなったら私の威力を弱めたキュベレイで止めるしかないのですか!?」

 

「なら、私の炎で焼き尽くしましょう……エリザベートさんだけ」

 

「聞こえているわよ、このヤンデレストーカー女!焼き尽くされる前に私の雷でビリビリにしてやるわ!!」

 

エリザベートは未だにフェイトナンバーズが解除されてない状態で清姫に宣戦布告をする。

 

「ふふふ、いい気にならないでくださいね……旦那様とデュエットした怨みを晴らします」

 

「そんな怨みを晴らされる為に燃やされるなんて嫌よ!?返り討ちにしてやるわ!」

 

「お、おい!清姫もエリザベートもやめろって!」

 

「やれやれ……」

 

遊馬とアストラルは今にもフランスの時のように殺し合いを始めようとする清姫とエリザベートを慌てて止めに入る。

 

慌ただしく、騒がしい光景にステンノは笑みをこぼして口元を手で抑える。

 

「ふふふっ……」

 

「ん?どうしたぁ?」

 

キョトンとしているタマモキャットにステンノは優しく頭を撫でながら言う。

 

「何だかこれから楽しくなりそうな気がしてね……退屈はしなくて済みそうね」

 

ステンノはこれから巻き起こる戦い、そして遊馬と英霊達が繰り広げる愉快な騒動に傍観者として見守る事を楽しみにするのだった。

 

ステンノとタマモキャット、二人の新たな仲間を得て遊馬達はかっとび遊馬号で島から出てブーディカ達のいるローマ軍と合流した。

 

 

 

.

 




遊戯王のボーカルベストで遊馬がマイクを持っている画像を見てエリザベートとデュエットさせてみました。
声優の畠中祐さんも歌がとても上手いのでちょうどイイかなと思いまして。
カルデアでカラオケ大会とかやったら面白そうですね。
エミヤが酷いことになりそうですが(笑)

それから、皆さんが疑問に思っていると思いますが、エリザベートは遊馬の事をマスターと呼ぶ理由は子イヌとは呼べないほどに大きな力を持っているので敬いと好意と畏れを込めてマスターと呼んでいます。

そして、今回のエリザベートのフェイトナンバーズの効果はこちらです。

FNo.91 雷竜魔嬢 エリザベート
エクシーズ・効果モンスター
ランク3/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1500
レベル3モンスター×2
1ターンに1度、エクシーズ素材を一つ取り除いて発動出来る。
次の自分のスタンバイフェイズ時まで、相手フィールド上の全てのモンスターは効果を発動出来ず、攻撃することが出来ない。
この効果の発動に対して相手はカード効果を発動出来ない。

エリザベートの絶体音痴の恐ろしさを表してみました。
相手モンスターはエリザベートの歌に魅了されて動けなくなります(笑)
最初は魔法使い族にしようと思いましたが、エリザベートは竜種なのでドラゴン族にしました。
ドラゴン族のニューアイドル登場ですね。


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ナンバーズ25 灼熱の炎と呪いの朱槍

FGOのアーケード情報が来ましたね。
グラフィックが綺麗なので期待ですね。
まだまだ可能性が広がりますね〜。


神の島でステンノとタマモキャットを仲間に加え、カリギュラを倒した遊馬達はローマ軍と合流し、戦の勝利の凱旋のために首都ローマへ戻る。

 

「もうすぐですね。首都ローマには間も無く到着します」

 

「おお、やっとか……それにしても馬に乗るのは大変だぜ」

 

遊馬の高い運動神経でなんとか馬に乗れているが、流石に馬の長距離移動は疲れるものだった。

 

「現代人は馬に乗る機会はほとんどありませんからね」

 

「マシュは融合している英霊が騎乗スキルを持ってたから難なく乗れるんだよな」

 

「はい。馬に乗れるってなんかかっこよくて良いですね」

 

「もしかしたらマシュと融合している英霊って騎士かもしれないな」

 

「ええ。でも、私の中にいる方がまだ誰なのか分かりませんが……」

 

「わからなくても、マシュの命を繋いで力になってくれたんだ。きっと良い奴に決まってるぜ!」

 

「そうですね。もし話が出来たら沢山お礼を言って、話がしたいです」

 

謎が多いがマシュと一つになり、その力を貸した英霊。

 

いつか話せる時が来ることを願う二人……そんな矢先だった。

 

「……遊馬、サーヴァントの気配だ」

 

「うおっ!?マジか!すぐに戦闘態勢だ!」

 

アストラルが新たなサーヴァントの気配を察知し、すぐに遊馬はネロとサーヴァント達と一緒に向かった。

 

すると、不思議な事態が起こっていた。

 

向かってきた兵士たちは今まで戦ってきた人間ではなくサーヴァントのような気配を感じられた。

 

それが数百も存在し、何が起きているのか困惑し始めるとアストラルはあることを思い出した。

 

「そう言えば以前アルトリアが言っていたな。サーヴァントの宝具には部下や仲間を召喚して共に戦う人海戦術に特化したものがあると」

 

「つまりこれはサーヴァントが展開した宝具による戦士ってことか!?」

 

「その可能性が高い」

 

「……旦那様、ここは私の出番ですね」

 

この状況を打破する役を買って出たのは清姫だった。

 

「私のフェイトナンバーズなら全ての敵を焼き尽くせます。さあ、旦那様!」

 

「清姫……よっしゃあ!頼むぜ!」

 

「はい!」

 

清姫は光の粒子となってデッキケースから取り出したフェイトナンバーズの中に入り、遊馬はデュエルディスクにセットしたデッキからドローし、瞬時に展開する。

 

「行くぜ、魔法カード『ガガガ学園の緊急連絡網』!デッキからガガガモンスターを特殊召喚する。『ガガガマジシャン』を特殊召喚!更に『ズババナイト』を通常召喚!」

 

ガガガマジシャンとズババナイトが並ぶがこのままではエクシーズ召喚は出来ないが、ガガガマジシャンの効果がある。

 

「ガガガマジシャンの効果!レベルを4から3にする!俺はレベル3のガガガマジシャンとズババナイトでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

ガガガマジシャンとズババナイトが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「嘘つきには針千本、大嘘つきには灼熱の炎を浴びせましょう!」

 

灼熱の炎が燃え上がり、その中から巨大な白蛇が現れてその顔が女性の姿へと変化する。

 

「現れよ、『FNo.57 清廉白蛇 清姫』!!」

 

炎が舞い散ると中から現れたのは下半身が巨大な白蛇となった清姫だった。

 

それはギリシャ神話の怪物で上半身が女性で下半身が蛇のラミアそのものだった。

 

清姫の伝説は知っていたが、まさかの姿に遊馬は口をあんぐりと開けて驚いてしまった。

 

「あの、旦那様……醜いですか?私の姿……」

 

清姫は自分の姿を晒して遊馬に醜いと思われたのかと暗い表情を浮かべる。

 

しかし、遊馬は口を閉じて首を左右に振る。

 

「いいや、ちょっと驚いたけど……なーんだ、綺麗じゃないか」

 

「き、綺麗!?」

 

「いやー、もっと怖いものを想像してたけど、なんか神秘的で綺麗だと思うぜ」

 

お世辞でも何でもない遊馬の本音に清姫は『57』の数字が書かれた扇子を開いて顔を隠した。

 

清姫は他人が嘘をついているかどうか瞬時にわかるため、遊馬は一切の嘘をつかずに清姫を綺麗と言った。

 

その事があまりにも嬉しくて顔を真っ赤にしてとても遊馬に見せられなかったからだ。

 

その光景にエリザベートは信じられないと言った表情で呟いた。

 

「うわぁ、あのストーカー……恋する乙女みたいに顔が真っ赤じゃない。うちのマスターは相変わらずの天然ジゴロね……」

 

エリザベートのその言葉にマシュ達は心の中で何度も頷いた。

 

「清姫の効果!オーバーレイ・ユニットを二つ使い、相手フィールド全てのモンスターに白蛇カウンターを乗せる!」

 

清姫は扇子にオーバーレイ・ユニットを取り込ませて舞うように振るうとサーヴァントの気配がする全ての敵兵士に白蛇の姿を模した刻印を刻ませた。

 

「白蛇カウンターが乗ったモンスターの攻撃力は1000ポイントダウンする!更に清姫がフィールド上に存在する限り、お互いのスタンバイフェイズ時に白蛇カウンターが乗ったモンスターは更に攻撃力を500ポイントダウンさせる!」

 

白蛇の刻印が敵兵士の力を下げ、糸が切れた人形のように次々と膝をついて行く。

 

しかし、清姫の効果はこれだけではなくここからが真骨頂である。

 

「清姫のもう一つの効果!このカードの効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される!!」

 

清姫の体から青白い炎が燃え上がり、敵兵士に刻まれた数多の白蛇の刻印と共鳴して更に炎の威力が増していく。

 

「旦那様の為、私の炎で燃やし尽くしましょう。転身火生三昧!!!」

 

振り下ろして風を起こす扇子に乗って炎が広範囲に一気に広がり、白蛇の刻印が刻まれた敵兵士を全て焼き尽くした。

 

そして……焼け野原に一人、炎を振り払いながら一人の男が近づいてきた。

 

それは顔を兜で隠し、鍛え抜かれた肉体を晒し、その上から赤いマントを羽織っていた。

 

堂々たるその振る舞いはまさに武人で右手には槍、左手に円形の盾を装備しており、どうやらランサークラスのサーヴァントだった。

 

「我が兵士達を一瞬で焼き払うとは見事……だが、我は倒れぬぞ!覚悟、蛇女!!」

 

敵サーヴァントは敵討ちと言わんばかりに鍛え抜かれた肉体で一気に駆け抜け、清姫に襲いかかる。

 

「させるか!相手モンスターの攻撃宣言時、手札から『ジェントルーパー』を特殊召喚!ジェントルーパーがいる限り、相手は他のモンスターを攻撃できない!」

 

空から紳士服を着たウーパールーパーのモンスタが傘を落下傘のように使用して上空から出現し、敵サーヴァントの攻撃を引き受けた。

 

ジェントルーパーは自前のティーカップにミルクティーを注ぎ、一杯を嗜みつつ敵サーヴァントの槍の一撃を受けて粉砕され、清姫を守った。

 

「旦那様……私を守るために……」

 

「清姫を……俺の大切な仲間をやらせるわけにはいかないからな!!」

 

「旦那様……!!」

 

清姫は自分を守ってくれた遊馬にときめいて更に惚れるのだった。

 

「仲間を守るか!その心意気は見事!だが、我とてこのままやれるわけにはいかぬぞ!」

 

「望むところだ!!」

 

その時、デッキケーキから青い光が飛び出し、遊馬と清姫の前に一つの影が現れた。

 

「ははははっ!やっとまともなランサークラスのサーヴァントが出てきたじゃねえか!」

 

笑い声と共に現れたのは赤い槍を携えたクー・フーリンだった。

 

「クー・フーリン!」

 

「おう、マスター!こいつは俺にやらせろ。ずっとカルデアで退屈してたからな!」

 

クー・フーリンはフランスで暴れられなかった分、ようやくこの世界でランサークラスの敵サーヴァントが出てきたことに歓喜して現れたのだ。

 

「よっし、任せたぜ!」

 

「おうよ、任された!」

 

クー・フーリンは敵サーヴァントと対峙し、戦いの前の会話を交わす。

 

「我はサーヴァント、ランサー。真名をレオニダス!スパルタの王にして、炎門の守護者!!」

 

レオニダス。

 

スパルタ教育の語源となった国、スパルタの王で十万人のペルシャ軍をわずか三百人で立ち向かった英雄たちを束ねた王である。

 

「スパルタの王、レオニダスか!相手にとって不足はねえ!それなら、俺も名乗ろうか!クランの猛犬、赤枝の騎士、クー・フーリン!!」

 

互いに槍を構えてい名乗りを上げ、遊馬はクー・フーリンのフェイトナンバーズをデッキケースから取り出すと不思議な事が起きた。

 

カードが光り輝くと、一枚から二枚に増えてそれぞれが新たなカードとなった。

 

「これは……!?」

 

「なるほど、これが遊馬とクー・フーリンの新たな力だ!」

 

「そういう事か!行くぜ、クー・フーリン!俺のターン、ドロー!魔法カード『おろかな副葬』!デッキから魔法・罠カードを墓地に送る!俺は『シャッフル・リボーン』を墓地に送り、墓地のこのカードの効果発動!墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚をデッキに戻して一枚ドローする。清姫、戻れ!」

 

「はい。クー・フーリンさん、後は任せます」

 

「任せな、嬢ちゃん」

 

清姫はエクストラデッキに戻り、フェイトナンバーズが解除されて遊馬の隣に現れる。

 

「行くぜ、ドロー!よし!俺は新しい仲間を呼び出すぜ!『ガガガシスター』を召喚!」

 

鍵の形をした杖を持ち、フリルがついた魔法使いのローブを着た可愛らしい幼女が現れる。

 

『えへへ、ガガガッ♪』

 

それはガガガの未来を繋ぐ希望の光。

 

アストラル世界の住人のまとめ役、エナが遊馬のために生み出したカードの一枚である。

 

「ガガガシスターの効果!召喚に成功した時、デッキからガガガの名をついた魔法・罠を手札に加える。デッキから『ガガガリベンジ』を手札に加え、発動!墓地からガガガマジシャンを特殊召喚してこのカードを装備する!」

 

ガガガシスターが鍵の杖を振るうと遊馬のデッキに宿るガガガモンスターのサポートカードを遊馬の手札に加えさせる。

 

「ガガガマジシャンの効果、ガガガマジシャンのレベルを5にする!」

 

ガガガマジシャンのレベルが4から5にし、ガガガシスターのもう一つの効果を発動する。

 

「そして、ガガガシスターのもう一つの効果!ガガガモンスター1体を選択し、そのモンスターとガガガシスターのレベルはエンドフェイズ時までそれぞれのレベルを合計したレベルになる!ガガガマジシャンはレベル5、ガガガシスターは2、二体のガガガモンスターのレベルは7となる!」

 

レベルを操り、様々なランクのエクシーズ召喚を行うガガガの力を100パーセント以上の力を発揮させることができる。

 

ガガガマジシャンと組み合わせればレベル2から10まで操る事ができ、ランク2から10までのモンスターエクシーズを召喚する事ができる、それがガガガシスターである。

 

遊馬はクー・フーリンをフェイトナンバーズの中に取り込ませ、すぐさまエクシーズ召喚を行う。

 

「レベル7のガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとガガガシスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「神秘の魔術を操りし戦士よ、戦況を切り開く一手を決めろ!」

 

地面から幾つもののルーン文字が現れ、その中心にフードを被った魔法使いが姿を現わす。

 

「現れよ、『FNo.7 神秘の魔術師(ルーン・マジシャン) クー・フーリン』!!」

 

本来なら戦士であるが、古代のルーン魔術を扱えるために魔術に特化した存在となり、『07』の飾りが施された杖を持つクー・フーリンが現れる。

 

「ルーン魔術の真髄を見せてやるぜ!」

 

「クー・フーリンの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスターを破壊する!!」

 

焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

 

杖を振るい、無数のルーン文字が現れて宙を舞うと特異点Fで使った炎を纏う枝の巨人が現れ、レオニダスを清姫に負けない炎で一気に燃やす。

 

「ぐぉおおおおっ!まだまだぁああああっ!!」

 

しかし、レオニダスはウィッカーマンの炎をその身に受けても見事に耐えきった。

 

「おいおい、マシュの嬢ちゃん並みの耐久力だな!あいつ、ランサーだけじゃなくてシールダーとしてもやれるな!」

 

「だが俺たちにはもう一枚のカードがある!」

 

遊馬が掲げたカード、それはクー・フーリンの真の力を解放させるフェイトナンバーズ。

 

「このカードはクー・フーリンをエクシーズ素材としてエクシーズ召喚する事ができる!!」

 

遊馬は『FNo.7 神秘の魔術師 クー・フーリン』の上に光り輝くフェイトナンバーズを上に重ねる。

 

「おっしゃあ!来たぜ来たぜ来たぜぇっ!!」

 

気合で燃え上がるクー・フーリンが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「クラス・コンバート・エクシーズ・チェンジ!!」

 

それはクー・フーリンのように複数のクラスの適性を持つ英霊の力を変化させる遊馬と英霊の新たな力。

 

ルーン魔術を操る魔術師(キャスター)から魔槍を操る槍兵(ランサー)へとその力と姿を変える。

 

「信念と義の武人よ、戦地を駆け抜け、朱槍を煌めかせろ!!」

 

光の爆発と共に青い影が飛び出し、朱色に輝く槍を携えた槍兵が姿を現わす。

 

「現れよ、『FNo.7 光の御子 クー・フーリン』!!!」

 

アルスター伝説の大英雄、半神半人の騎士が見参した。

 

基本的にランサーとしてのクー・フーリンの姿そのものだったが、左胸には『07』の刻印が刻まれ、左手には三つのダイスが握られていた。

 

「マスター!」

 

クー・フーリンは遊馬に3つのダイスを投げ渡す。

 

ダイスを受け取った遊馬はフェイトナンバーズとなったクー・フーリンの効果を発動する。

 

「クー・フーリンの効果!このカードが特殊召喚に成功した時、3つのダイスを振る!そして、出た目の合計×100ポイント、攻撃力と守備力を上げる!」

 

遊馬は願いを込めるように3つのダイスを握った手を額に軽く持って行くと、ダイスを思いっきり高く投げた。

 

そして、宙からコロンと地面に落ちて転がった3つダイスが出した目は全て『6』だった。

 

「出た目は3つとも6!よってクー・フーリンの攻撃力と守備力は3×6×100で1800ポイント上げる!!」

 

クー・フーリンの周りに激しい魔力が風となって吹き荒れ、その力を高める。

 

「ははっ、いいねぇ。流石はマスター。俺には無い、いい運だぜ!!」

 

「よし!クー・フーリンでレオニダスに攻撃!!」

 

「行くぜ、スパルタの王!!」

 

「来いぃぃいっ!クランの猛犬よ!!」

 

全く異なる槍と戦法を使う二人の戦いはほぼ互角だった。

 

突き、そして薙ぎ払う……激しい槍の攻防。

 

英霊二人は敵同士と言うことを一時だけ忘れ、槍兵としての戦いを楽しんでいた。

 

「へへっ、あんたとはもっと戦いたいが、そろそろ潮時だ。さぁ……呪いの朱槍をご所望かい?」

 

クー・フーリンは高く飛び上がって後ろに下がり、魔槍を構えなおした。

 

「クー・フーリンの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、相手モンスターの効果を無効にして破壊する!」

 

クー・フーリンの宝具にしてランサーの名に相応しい魔槍ゲイ・ボルクにオーバーレイ・ユニットを取り込ませると、禍々しい真紅の輝きを放つ。

 

「その心臓、貰い受ける!」

 

クー・フーリンは高く飛び上がり、ゲイ・ボルグを槍投げの構えをする。

 

それはクー・フーリンが生み出した放てば必ず相手の心臓に命中する刺突技。

 

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』!!!」

 

槍の持つ因果逆転の呪いにより、「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」事で必殺必中の一撃を放つ。

 

放たれたゲイ・ボルグは一瞬にしてレオニダスの胸に突き刺さり、その瞬間に敗北が決定した。

 

「グゴォッ!?み、見事……!もしまたどこかで会えたら手合わせをお願いしよう……!」

 

「おう。少ししたらうちのマスターが必ず呼んでくれるさ。そしたら手合わせしようぜ」

 

レオニダスは心臓を貫かれながらも武人として堂々たる振る舞いで倒れずに立ち続けながら消滅した。

 

地面に落ちたゲイ・ボルグの隣にレオニダスのフェイトナンバーズがあり、クー・フーリンはゲイ・ボルグとフェイトナンバーズを拾った。

 

「ほれ、マスター」

 

クー・フーリンは遊馬にフェイトナンバーズを渡す。

 

「ああ。お疲れ、クー・フーリン」

 

「おう!久々に暴れられてスッキリしたぜ!」

 

「それは良かった。さて、この戦いも終わりみたいだな……」

 

レオニダスを倒した事でこの戦いの敵将を打ち倒した事になるので、自然と戦況がローマ軍の流れとなる。

 

そして、あまり黙視したくないが遠くで敵味方関係なく人が倒れている。

 

これは戦争……人と人が争い、殺しあう戦いである。

 

遊馬は手を強く握りしめ、爪を食い込ませながらその現実を受け止めながら耐える。

 

「……あまり無理すんじゃねえよ」

 

クー・フーリンは大きな手で遊馬の顔を隠す。

 

「クー・フーリン……」

 

「マスター。お前さんは輝き続けろ」

 

「輝き……?」

 

「この前言ってたろ?お前さんとアストラルは未来皇と希望皇だ。人類と未来と希望は二人の手に託されてるんだ。だからこそ、絶望が続く闇夜を照らす綺麗な光のように輝き続けなければならねえ」

 

クー・フーリン……否、カルデアにいるサーヴァント達は知っている。

 

遊馬はヌメロン・コードを賭けた世界の命運を賭けた壮大な戦いを経験している。

 

それこそ人生経験が豊富な英霊達も驚くような壮絶な戦いである。

 

普通なら人として何か大きなものを失い、または大きく心が成長してしまうことが殆どだ。

 

しかし遊馬は誰かを照らす光のような純粋で幼い心を失わずにいる。

 

それこそが遊馬の大切な力の源……かっとビングがあったからこそ、こうして特異点を巡る戦いで多くの英霊達と絆を結んで戦って来ている。

 

「俺たちは沢山嫌なものを見て来たし、経験して来たから、汚れ役は俺たちが全部引き受ける。だからよ、マスターとアストラルは迷わずに進み続けろ。自分が信じる道を、自分の為すべきことをさ」

 

遊馬が遊馬自身であるために、そして未来を救う最後の希望となるために絆を結んだ英霊達は喜んで遊馬とアストラルを守り抜くと決めたのだ。

 

クー・フーリンの想いを受け取った遊馬は自分の顔に重なった手をゆっくり外して、にっと笑みを浮かべる。

 

「サンキュー、クー・フーリン。俺頑張るぜ!」

 

「おう、その意気だぜ!」

 

まるで弟の成長を見守る兄のようにクー・フーリンは遊馬の頭を撫でる。

 

遊馬が成長したことにアストラルは満足そうに頷き、周囲を見渡す。

 

戦いは終わりを迎え、ローマ軍の勝利となる。

 

すると少し下がっていた清姫は遊馬に近づいて話しかける。

 

「あの、旦那様……」

 

「ん?あ、清姫!お疲れ様。怪我とかはしてないか?」

 

「私は大丈夫です。あの……旦那様にお願いが……」

 

「お願い?」

 

「私、頑張ったから何か旦那様からご褒美を頂きたいのですが……」

 

「ご褒美?ご褒美って言ってもな……あ。じゃあ、この後に首都に戻るから街で買い物するか?ネロから報酬でお金貰ってるし、好きなものを買ってやるよ」

 

遊馬は意識してないが、要するにこれはデートである。

 

思いがけずデートをすることになった清姫は嬉しくて頰が緩んでしまい、慌てて扇子で口元を隠した。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「おう!」

 

ローマの街でデートの約束をする遊馬と清姫だが、それを良しとしない影が近づいていた。

 

「なーに、遊馬を独占しようとしているのよこの蛇女が……」

 

それはレティシアで二人がデートをすると聞いて黒い炎を纏って憤怒しながらゆっくり近づく。

 

「あら?何をおっしゃっているのですか?これは私のご褒美なのですから、レティシアさんは大人しく黙っていてくださいな」

 

「たまたま役に立っただけでご褒美なんて甘いわ。だったら私達もご褒美をもらう権利ぐらいあるわ!」

 

レティシアの言葉に同意するかのようにマシュとジャンヌがダッシュで一気に近づいた。

 

「そ、そうです!清姫さんだけズルいです!」

 

「私達もその……何かご褒美が欲しいです!」

 

バチバチと火花が散り、一触即発の雰囲気だが遊馬はその事に気付かずにある提案をする。

 

「じゃあ、みんなで一緒に行こうぜ!」

 

「「「「え?」」」」

 

「みんなで買い物すれば楽しいと思うからさ。な?良いだろ?」

 

恋愛に関して鈍感過ぎる遊馬に四人は呆れてしまう。

 

しかし、まだ幼く恋愛について理解してないので仕方ないといえば仕方ないことである。

 

いつもの笑みを浮かべている遊馬の顔を見て四人は了承するしかなかった。

 

「むぅ……旦那様ったら……」

 

「はぁ……全くうちの鈍感マスターは……」

 

「仕方ないですね……」

 

「まぁ、みんなで仲良くしましょう……」

 

こうして遊馬は四人と一緒にローマの街をデートする事になるのだった。

 

ちなみに面白そうだとネロも参戦したりともはや名物となりつつある遊馬を中心としたドタバタ劇が繰り広げられるのであった。

 

一方、その遊馬とマシュ達のハーレムな光景を見守っていたクー・フーリンは大笑いをしていた。

 

「がははははっ!いやー、マスターはなかなかの女ったらしだな!こりゃあ、アルトリアの嬢ちゃんが言ってた意味がわかるぜ。無自覚に女をたらすところはあの弓兵そっくりじゃねえか!」

 

クー・フーリンは複数の女性を無自覚でたらしこんでいるエミヤと遊馬を重ねて大笑いをする。

 

そんなクー・フーリンに対し、遊馬から離れていたアストラルは目を細めてジト目で見つめながら話す。

 

「……生前に多くの女性と関係を持ち、そして一人の女性の所為で破滅に追い込まれた君が言っても説得力が無いぞ?」

 

「ぐごはっ!?くっ、流石は冷静沈着なアストラル……鋭いツッコミだぜ……」

 

アストラルの鋭いツッコミでクー・フーリンに精神的ダメージを与えるのだった。

 

事実クー・フーリンは惚れたと言って多くの女性と関係を持ち、更には一人の女性の因縁の所為で破滅に追い込まれたのだ。

 

余談だが、その女性の歪んでいるようで純粋な思いが後に新たな特異点を生むことになるとは誰も知る由がなかった。

 

「全く……私は恋愛についてあまり詳しくは無いが、妻を持ちながら師にも手を出すとはどれだけ君は見境がないのだ?」

 

「うごおっ!?正論が更に胸に突き刺さる!仕方ねえだろ、『スカサハ』も俺好みのいい女なんだからさ!!」

 

スカサハ。

 

影の国の女王でクー・フーリンの師匠。

 

彼女から武術と魔術を学び、ゲイ・ボルグを授けたのだ。

 

「スカサハ……影の国の女王か。少し会ってみたいな」

 

「あー、それは無理だな。あいつは神殺しで不老不死になっちまったからな。死なねえから英霊の座に行ってないだろうからな……」

 

「不老不死か……私も少し似たようなものだからな。ますます会って話がしてみたい」

 

「話すのはいいが、マスターに会わせるのだけはやめとけ」

 

「遊馬に?何故だ?」

 

「あの人は根っからの教師気質だからよ、武人の素質があるマスターを見つけた日には徹底的に鍛え上げようとするからさ……下手したらデュエリストじゃなくて俺と同じケルト戦士にされちまうぞ」

 

遊馬には未来皇ホープの影響や高い身体能力もあってか武術の才能があるらしく、エミヤの指導のもと双剣の使い方がメキメキと上達している。

 

もし遊馬にスカサハが師匠になった日には……遊馬のケルト戦士育成ロードまっしぐらである。

 

あの純粋な遊馬がケルト戦士になった日には恐ろしい未来が待っているとクー・フーリンは本能的に恐れているのだ。

 

それを聞いたアストラルも青白い体の顔が更に真っ青になり、遊馬にスカサハを会わせてはいけないと察した。

 

「そ、それは確かに困るな……遊馬は遊馬のままでいてほしいからな……」

 

「だろ?俺もマスターには純粋なままでいて欲しいぜ……」

 

アストラルとクー・フーリンはおそらく出会うことは無いだろうが、遊馬とスカサハを絶対に会わせてはいけないと心に誓うのだった。

 

しかし、そんな二人の想いも虚しく……後に発生する特異点で遊馬とスカサハが出会うことになる。

 

そして、遊馬とスカサハはマスターとサーヴァントとして、師弟として強い絆で結ばれることを今のアストラルとクー・フーリンが知る由もなかった。

 

 

 

.




今回で一気に三枚のフェイトナンバーズを出しました。

クー・フーリンはやっと出せたので満足しました。

FNo.57 清廉白蛇 清姫
ランク3/炎属性/爬虫類族/攻1800/守1500
レベル3モンスター×2
エクシーズ素材を二つ使い、相手フィールド全てのモンスターに白蛇カウンターを乗せる。
白蛇カウンターが乗るモンスターの攻撃力が1000ポイントダウンする。
更にこのカードがフィールド上に存在する限り、お互いのスタンバイフェイズ時に白蛇カウンターが乗ったモンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。
このカードの効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される。

きよひーは焼き尽くすイメージでオシリスみたいな効果になってしまいましたね。

やっぱり蛇ということもあるので珍しく爬虫類族のエクシーズにしました。

FNo.7 神秘の魔術師 クー・フーリン
ランク7/光属性/魔法使い族/攻2300/守2000
レベル7モンスター×2
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスターを1体破壊する。
この効果でモンスターを破壊出来なかった場合、そのモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に攻撃力が0になる。

FNo.7 光の御子 クー・フーリン
ランク7/光属性/戦士族/攻2700/守2400
レベル7モンスター×3
このカードは自分フィールドの「FNo.7 神秘の魔術師 クー・フーリン」の上に重ねてX召喚する事もできる。
このカードが特殊召喚に成功した時、サイコロを3回振る。
このカードの攻撃力と守備力は出た目の合計×100ポイントアップする。
1ターンに1度、エクシーズ素材と一つ取り除き、相手モンスター1体の効果を無効にして破壊する。
また、この効果で破壊したモンスターは除外する事ができる。
この効果は無効にする事ができず、このカードの発動に対して相手はモンスター・魔法・罠のカード効果を発動出来ない。

キャスニキとランサー兄貴はホープシリーズみたいに重ねてエクシーズ召喚する感じで出しました。

他のクラスが異なるサーヴァント、特にアルトリアにも同様に出していくと思います。

流石にクー・フーリンには自害効果をつけるわけにはいけませんでした(笑)


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ナンバーズ26 変わり行く戦況

活動報告に書きましたが、今後イベントの話も書いていこうと思うのですが何を書けばいいのかぶっちゃけ迷っています。


一応予定で書きたいのはぐだぐだ本能寺、Zero、プリヤ、鬼ヶ島などです。

これはイベントキャラとか出したいので書きたいと思ってます。

例えば、アサシンのエミヤ、アイリママ、イリヤ、クロエを揃えてエミヤ一家を出したい気持ちなどあります。

ぐだぐだ本能寺はノッブと沖田さんが好きなのと、ちびノブが面白そうなので書きたいです。

そして、鬼ヶ島は頼光さんや金時なども出るので是非書きたいです。

後は今年は書けそうにありませんが、水着イベントの話やクリスマスは書きたいですね。

アルトリアの水着アーチャーやサンタのレティシアリリィも出したいので。


皆さんから見てFGOでこれは外せないイベントのストーリーを是非とも教えてください。

あと、どの章の間に入れるべきか教えていただければ幸いです。

現在の第2章が終了したらぐだぐだ本能寺を書く予定ですので、皆さんよろしくお願いします。




スパルタの王、レオニダスと激闘を繰り広げた遊馬たちはネロと共にローマを凱旋して大勢のローマ市民から歓声を受けた。

 

悪い気はしなかったが妙に疲れてしまい、休もうとした矢先だった。

 

ネロが雇った二人の客将が連合軍の大攻勢にあって足止めを受けていると連絡があった。

 

遊馬たちは皇の鍵の飛行船を使ってすぐに助けに向かうと大勢の敵兵が二人の男女……おそらくサーヴァントを囲んでいた。

 

一人は白い着物を着た女性でもう一人は屈強な肉体に鎧を着た武将の男性でアジア系のサーヴァントだった。

 

遊馬は敵兵の中に敵サーヴァントがいないので敵兵だけを追い払うためにナンバーズを呼び出す。

 

「現れよ、『No.61 ヴォルカザウルス』!」

 

ヴォルカザウルス……灼熱の恐竜を呼び出し、人から見ればぱっと見は恐ろしい化け物が登場して敵兵たちは恐れてその場から逃げ出した。

 

「君たちは……」

 

「俺たちはネロの仲間だ!援軍に来たぜ!こいつがいるから敵兵も逃げていくはずだ!」

 

「ありがとう。預かり物の兵たちを失わずに済んだようだ。私はアサシン、荊軻。君たちと同じくネロ・クラウディウスの客将をしている。それにしても話には聞いていたがまさか本当に魔物を呼び出すとは……」

 

荊軻。

 

中国始皇帝を暗殺を企むが、あと一歩のところで果たせなかった刺客である。

 

そしてもう一人は……。

 

「って、おおいっ!?あんた何処に行くんだ!?」

 

武将のサーヴァントは敵を追ったのか何処かへと走り去ってしまった。

 

「彼は呂布、まあそのうち戻って来るだろう」

 

呂布。

 

中国の三国志に名高く、最強の武将とも言われている。

 

「へぇ、あいつ呂布って……呂布!!?あの三国志の呂布ぅっ!!?」

 

日本では三国志の物語は人気があり、あまり内容を知らなくてもその名前は知っているぐらい有名なので遊馬は呂布が召喚されてることに驚愕した。

 

そして、遊馬とアストラルとマシュは荊軻に自分たちの目的を話すと意外にもすんなりと受け入れた。

 

「なるほど、君たちは異なる時代からの来訪者か。そちらの事情は概ね把握した。さりとて、こちらのやることは特に変わらない。群がる「皇帝」どもを屠るだけだ。私も、呂布も。既に、サーヴァントの「皇帝」を三体は殺している。君たちとは競争だな」

 

「競争だと……?」

 

「そうだ、競争だ。敵将たる「皇帝」の首の数。私たちと君たちのどちらがより多く手にするか。ああ、少し、楽しみができた」

 

荊軻は生前始皇帝を暗殺できなかったことから、この時代でサーヴァントとして現れた皇帝を殺すことを楽しんでいた。

 

しかし、その言葉が遊馬の逆鱗に触れることになる。

 

「ふざけるな!!」

 

遊馬は激怒して荊軻の胸ぐらを掴んだ。

 

「な、何を……!?」

 

突然の事態に荊軻は呆然とし、マシュたちは遊馬の豹変に驚いた。

 

唯一アストラルは驚かなかったが、それは遊馬の性格をこの場にいる誰よりも理解しているからだ。

 

「あんたが生前どんな人生を送ったか知らないけどよ、人を殺すことを競争とか言って楽しむのはやめろ!!」

 

遊馬は荊軻の皇帝を殺す競争をする考えを許せなかった。

 

「人を殺したことのないような子供が甘いね……」

 

荊軻は遊馬が人を殺したことのない子供で戦いはみんなモンスターやサーヴァント任せだと思ってそう言った。

 

しかし、遊馬は苦い戦いの記憶が頭の中に過ぎり、辛い表情を浮かべてそれを言葉にする。

 

「……武器で直接やったことは無いけど、人を殺したことはあるさ」

 

「何……!?」

 

「お前に分かるか……?大切な仲間達が俺たちを生かすために自ら犠牲となって戦い、消滅したり、死んでいく姿を遠くから見守ることしか出来ないその時の悲しみを……道を違えた仲間との最後の戦いで一緒に生きる道を探そうとしても消滅してしまったその時の悲しみを……」

 

バリアン七皇との戦いで多くの仲間が遊馬とアストラルを守るために戦い、消滅していった。

 

そして……仲間であり兄貴分だった神代凌牙……ナッシュとの戦いで遊馬は犠牲にならない未来を見つけるまで戦い続けると誓った。

 

しかし、その戦いでは遊馬の思いに反して結果的にナッシュを失ってしまった。

 

遊馬は戦いの辛さや虚しさ……そして、失う怖さをよく知っている。

 

「この戦いでは大勢の人の命が消えているんだ……それぞれの事情があるからあまりとやかく言うつもりはないし、俺たちにもやらなきゃならない事がある。戦いで死んだ人たちの死を背負えとは言わない……だけど、二度とそんなことを言うんじゃねえよ」

 

命の重さと大切さを深く知っている遊馬の言葉は荊軻の胸に深く突き刺さり、先ほどまでの考えを改めた。

 

「すまない……不謹慎だったね。先ほどの言葉は訂正するよ」

 

「ああ……俺も乱暴なことをして悪かったよ……」

 

遊馬は荊軻を離し、互いに謝罪をした。

 

その後遊馬は仲直りをした荊軻と戻って来た呂布と契約を交わした。

 

何かあった時の手数があった方がいいので二人と契約を交わし、二人のフェイトナンバーズを誕生させた。

 

新たな仲間が出来、遊馬達はネロと共に連合軍の首都へと進軍した。

 

 

一方……連合軍にも大きな動きが出ていた。

 

それは新たに召喚された二人のサーヴァント。

 

一人は赤い髪をした遊馬と歳の近い少年でもう一人はサーヴァントとしては不可解な点が多いスーツ姿の長い黒髪をした男性だった。

 

その二人は生まれた時代は異なるが妙な繋がりのあるサーヴァント同士だった。

 

そして、黒髪の男性のサーヴァントは奇しくもカルデアにいるアルトリアとエミヤにも繋がりのある存在だった……。

 

 

連合帝国に向けて進軍し、早速遊馬達は連合軍の兵士達と戦闘を繰り広げるが士気はとても高く、次々と襲い掛かってくる。

 

そして、妙なことに兵士達はサーヴァントではなく……遊馬を狙っていた。

 

連合軍側はローマ軍の戦いの要が遊馬だということに気づき、集中攻撃をし始めた。

 

「ちっ!数が多すぎる!!」

 

「敵は遊馬を狙いに来たか……サーヴァントたちよ、遊馬を頼む!」

 

「言われなくても、遊馬くんは必ず守ります!!」

 

シールダーとしてマシュは自らを鼓舞させて遊馬に近づく敵兵を倒して守っていき、他のサーヴァントたちも同様に遊馬を守っていく。

 

すると……。

 

「◾️◾️◾️◾️ーーッ!!」

 

獣のような咆哮が轟き、現れたのは三只眼に全身を禍々しい刺青と黄金で彩った漆黒の巨人のサーヴァントだった。

 

「何だあの真っ黒黒助なでっけぇおっさんは!?」

 

「あれは……ウジャトの眼……?エジプト関係のサーヴァントか?」

 

その敵サーヴァントの刺青は古代エジプトで見られるホルスの眼とも言われる独特な形をした眼の紋章が刻まれていた。

 

アストラルは敵サーヴァント……恐らくバーサーカーがエジプト関係のサーヴァントだと推測する。

 

しかしその矢先にバーサーカーが再び咆哮を轟かせると動く死体や歩く骸骨と化した大量の兵が出現した。

 

それはレオニダスが使った同じ人海戦術系の宝具だった。

 

「今度はアンデッドの軍団か!」

 

「旦那様!再び私をフェイトナンバーズで!」

 

レオニダスの宝具を突破した清姫は遊馬に降りかかる敵を排除するために前に立つ。

 

「清姫、頼んだぜ!!」

 

「はい!!」

 

清姫をフェイトナンバーズのカードに入れ、遊馬はすぐさまフィールドを整えたエクシーズ召喚する。

 

「現れよ、『FNo.57 清廉白蛇 清姫』!!」

 

「滅びゆく屍たち……私の炎で燃やし尽くします!」

 

「清姫の効果!オーバーレイ・ユニットを二つ使い、相手フィールド全てのモンスターに白蛇カウンターを乗せ、白蛇カウンターが乗ったモンスターの攻撃力は1000ポイントダウン!更に清姫がフィールド上に存在する限り、お互いのスタンバイフェイズ時に白蛇カウンターが乗ったモンスターは更に攻撃力を500ポイントダウンさせる!」

 

清姫は扇子にオーバーレイ・ユニットを取り込ませて舞うように振るい、屍の兵全てに白蛇の姿を模した刻印を刻ませ、その力を奪った。

 

「更に、このカードの効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される!!」

 

「転身火生三昧!!!」

 

清姫の体から燃え上がる青白い炎で全ての屍の兵に炎を喰らわせて一気に焼き尽くした……はずだった。

 

「そ、そんな……!?私の炎が効かない!?」

 

清姫が放った炎で全ての屍の兵を焼き尽くせるはずが、何と全く焼けていなかった。

 

力が下がっていてまともに動けてはいないが、それでも少しずつ歩いていた。

 

するとクー・フーリンは屍の兵のあることに気づいて声を荒げた。

 

「おい!マスター、嬢ちゃん!あの屍軍団、どうやら不死の属性を持っているみたいだぞ!」

 

「不死の属性!?つまり破壊されないということか!?」

 

「それで私の炎が効かないのですね……」

 

「だが、清姫の効果であの大元のサーヴァントの攻撃力は十分に下がった。遊馬、ホープで一気に決めるぞ!!」

 

「おう!行くぜ、アストラル!俺のターン、ドロー!魔法カード『オノマト連携』を発動!手札を一枚墓地に送り、デッキから『ガガガマジシャン』と『ゴゴゴゴーレム』を手札に!更に魔法カード『二重召喚』!このターン、通常召喚を二回行える!ガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムを通常召喚!!」

 

ガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムが立ち並び、遊馬とアストラルは腕を上げて高々と叫ぶ。

 

「「レベル4のガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!現れよ、No.39!!」」

 

ガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムが光となって地中で光の爆発が起きると空中に独特な形をした『39』の赤い数字が一瞬だけ描かれ、オーバーレイ・ユニットを纏いながら白い塔が姿を現わす。

 

「「我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!!光の使者、『希望皇ホープ』!!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

白い塔から戦士の姿へと変形し、遊馬とアストラルののエースモンスター、希望皇ホープがエクシーズ召喚される。

 

「「行け、希望皇ホープで攻撃!!」」

 

希望皇ホープは左腰に携えられた剣の柄を持ち、勢いよく引き抜いて敵サーヴァントに向かって飛翔する。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーッ!!」

 

バーサーカーは二本の戦斧を両手に持ち、希望皇ホープを破壊するために高く飛び上がって戦斧を振り下ろした。

 

「「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、モンスターの攻撃を無効にする!!ムーン・バリア!!!」」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶の中に取り込むと左翼を半月のように展開させて自身の攻撃を無効にし、同時にバーサーカーの攻撃を無効にした。

 

「これは、まさか!」

 

マシュは希望皇ホープの使用した効果に遊馬とアストラルの狙いをすぐに察した。

 

それは、遊馬とアストラル……希望皇ホープの必殺技を放つためだ。

 

「「手札から速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』を発動!!モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にして、もう一度攻撃が出来る!!!」」

 

ダブル・アップ・チャンスは本来なら敵が攻撃を防いだ時に発動することが前提の魔法カードだが、自らの攻撃を無効に出来る希望皇ホープと相性は抜群で希望皇ホープは右腰に携えられたもう一つの剣を左手で抜いて構え、その力を二倍に高める。

 

「「希望皇ホープ!!ホープ剣・ダブル・スラッシュ!!!」」

 

双剣の刃が金色に輝き、 希望皇ホープはばつ印を描くように全力で振り下ろし、バーサーカーを戦斧ごと斬り裂いた。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーッ!!!」

 

バーサーカーは断末魔の絶叫を上げながら消滅し、同時に大量の屍の兵も消滅した。

 

バーサーカーと屍の兵が消滅したことで連合軍の兵士達も撤退し、ひとまず危機が去って遊馬は緊張の糸が解けてその場に座り込んだ。

 

「やべぇ、あのおっさん超怖かったぜ……絶対あいつバーサーカークラスだよな!?今まで出会ったバーサーカーで一番怖かったんだけど!!?」

 

「確かにそれは否定しない……しかし、無事に戦闘が終わって何よりだ」

 

アストラルはバーサーカーの消滅した後に残ったフェイトナンバーズを回収して遊馬に渡す。

 

「ユウマ!大変だぞ!」

 

「ネロ?どうしたんだ?」

 

大慌てをしてやって来たネロの口からとんでもない事が発覚した。

 

「今さっき兵から連絡があって連合が部隊を複数動かしていたようで、その際にブーディカが連合軍に囚われてしまった!」

 

「ブーディカが捕まった……?」

 

遊馬は目を見開き、体が震えると脳裏にある光景が浮かんだ。

 

それはかつて親友が敵に捕まり、連れ去られて死んだと思わされた最悪な光景だった。

 

あの戦いで遊馬は自分を見失い、大切なものを一度にたくさん失いかけた……その事が頭の中に過ぎり、恐怖で体が震えそうになった。

 

すると、遊馬の目の前に青白い光が広がり、気がつくとアストラルがそっと遊馬を抱きしめていた。

 

「遊馬、まずは冷静になるんだ」

 

「アストラル……」

 

そんな遊馬の恐怖を落ち着かせたのはアストラルだった。

 

実際には触れられないが、アストラルの優しさが遊馬の心を癒す。

 

「ブーディカは無事だ。彼女は強い人だからな……。遊馬、君が恐怖を抱くのは分かる。だが、まずは落ち着いて行動する事が大事だ。大切なもの、全てを守る……それが私たちの誓いだろ?」

 

「……サンキュー、アストラル。お陰で頭が冷えたぜ。みんな!ブーディカを助けるぞ!!」

 

囚われたブーディカを助けるために早速行動を移そうとする遊馬達だった。

 

すると、突然デッキケースが輝くと二つの光が飛び出した。

 

「マスター!ブーディカ女王を救出しに向かいましょう!!」

 

現れたのは何とアルトリアだった。

 

「え!?アルトリア!?」

 

「なっ!?余そっくりの騎士だと!?」

 

ネロは自分と顔がそっくりなアルトリアの登場に驚愕した。

 

「むっ……あ、本当に私とそっくりですね……」

 

アルトリアもネロが自分と本当にそっくりで驚いたが、それよりも大切な事があるので急いで遊馬の元へ駆け寄る。

 

「マスター!ブーディカ女王をすぐに救出しましょう!!さあ、今すぐに!!!」

 

「落ち着け、アルトリア。マスターが困っているだろう」

 

アルトリアと一緒にカルデアから来たのはエミヤだった。

 

「エミヤまで!?」

 

いつもより俄然やる気なアルトリアにため息を吐くエミヤだった。

 

「さあ今すぐ行きましょう!マスター、飛行船をお願いします!」

 

アルトリアは遊馬の肩を掴んでブンブンと体を揺らして皇の鍵の飛行船を出すように急かした。

 

そんなアルトリアにエミヤはハリセンを取り出して頭を思いっきり叩いた。

 

「痛ぁっ!?何をするのですかシロウ!?」

 

「だから落ち着け!そんなことではブーディカ女王を救えないぞ!」

 

「ううっ……」

 

まるでお母さんに怒られた子供のようにアルトリアは涙目になっている。

 

「アルトリア、どうしてブーディカをそんなに心配するんだ?何か関係者なのか?」

 

「決まっています!ブーディカ女王は私にとっては偉大な王、簡単に言えば大先輩です!」

 

「だ、大先輩!?」

 

ブーディカは一世紀の古代ブリタニアの女王……そして、同じ国で後の時代にアルトリアはブリテンの騎士王・アーサー王として君臨していた。

 

ブーディカはブリテンで『勝利の女神』の伝説となっており、アルトリアは大先輩の女王として敬っているのだ。

 

「最初はブーディカ女王がいると聞いてすぐに会いたいと思いましたが、運命のいたずらか、因果かどうかは知りませんがそこにいるローマ皇帝と何故か同じ顔をしているので、下手に混乱させないように自重してしましたが……ブーディカ女王が囚われたと聞いて、我慢出来なくなって出てきました」

 

「私はアルトリアのブレーキ役としてオルガマリー所長から直々に命を受けて来たのだ……」

 

「エミヤ、お疲れさん……」

 

オルガマリー、と言うかカルデア内ではもはやアルトリアとエミヤは既に離れられないセットになってしまっているので今後アルトリアが戦場に出陣際にはもれなくエミヤも出陣することになることはほぼ確定となるのだった。

 

「さて、アルトリアよ。君が大先輩を助けたい気持ちは察するが、わざわざ敵の策に乗る必要も無かろう。ここは一つ、マスターの力で何とかできるだろう」

 

「え?俺?」

 

エミヤは打開策を見出しており、それは遊馬が握っていた。

 

「マスター、君はブーディカ女王と契約を結んでいたな?しかもフェイトナンバーズも開花しているとか」

 

「あ、ああ。相性がいいのかすぐに真名やテキストが出て来たぜ」

 

遊馬はデッキケースからブーディカとの絆と契約の証である『FNo.83 勝利と愛の女王 ブーディカ』を取り出した。

 

「よし。マスターとブーディカ女王との間に強い絆が結ばれているならば話は早い。今こそ令呪を使う時だ」

 

「令呪を?」

 

右手の甲に刻まれている皇の鍵と大きなXが重なった赤い刻印・令呪を見て遊馬は首を傾げる。

 

「令呪を使えば契約したサーヴァントをある程度距離が離れた場所からでも空間を超えて自分の元に呼び出す事ができる。そうすればブーディカ女王をリスクを犯す事なく助ける事ができる」

 

令呪のサーヴァントへの命令権やブーストなどに使う事しか知らなかった遊馬は意外な使用方法に驚きながらすぐに実行する。

 

「そうか!それなら早速行くぜ!」

 

遊馬は右手の人差し指と中指にブーディカのフェイトナンバーズを挟みながら天に向かって高く上げ、令呪の一画を輝かせる。

 

「令呪をもって命ずる!!」

 

目を閉じて心の中から溢れんばかりの思いを込め、強く、強く願った。

 

大切な仲間で忘れかけていた母の温もりを与えてくれたブーディカを遊馬は三画の令呪を全て使ってでも取り戻す気持ちで叫んだ。

 

「ブーディカ!敵に囚われし縛の鎖を解き放ち、空間を飛び越えて……俺の、俺たちの元に戻って来い!!!」

 

遊馬の強い願いに令呪の一画が消えると目の前に金色の光が現れて中から人影が見えた。

 

そして、光の中から出てきたのは唖然とした表情を浮かべたブーディカだった。

 

「……えっ?って、うわぁあああああっ!?」

 

ブーディカはバランスを崩してその場から思いっきり前屈みに転びそうになった。

 

「あっ、危ねえっ!!」

 

遊馬はとっさにブーディカの前に滑り込んで受け止めようとしたが、ブーディカはモデル体型と言わんばかりの高身長なので支えきれずにそのまま一緒に倒れこんでしまった。

 

「イタタタ……あれ?私は……」

 

「むぐっ、むぐぅっ!?」

 

「え?あ、ごめん!ユウマ、大丈夫!?」

 

ブーディカの豊満な胸の間に偶然にも遊馬の顔が埋まってしまい、息ができなくなったので急いで起き上がって遊馬を解放する。

 

ちなみに男であるエミヤとクー・フーリンは羨ましいと思ったが、そんなことを考えればこの場にいる女性陣の鋭い視線や痛い言葉をかけられ、下手をすればアルトリアの約束された勝利の剣が飛んでくることは必至なので一瞬でその考えを消し去った。

 

「お、おう……ブーディカ、怪我してないか?」

 

「私は大丈夫だよ。でも何でここに?私は捕まったはず……」

 

「マスターが令呪であなたをここへ呼び出したのですよ」

 

アルトリアが微笑みながら話しかけるとブーディカは目を見開いて驚いた。

 

「えっ!?ネ、ネロが二人いる!?まさか双子の姉妹!?」

 

アルトリアとネロがあまりにも顔が似ているので思わず双子だと勘違いしてしまう。

 

アルトリアは首を振って否定するとブーディカに敬意を込めながら名乗る。

 

「違います。私の名はアルトリア・ペンドラゴン。この時代から後の時代のブリテンの王……またの名を、騎士王・アーサー王と申します」

 

「アルトリア……ブリテンの王……?」

 

「はい、あなたの後輩の王ですよ」

 

ブーディカは自分と同じ国で生まれ、活躍した英霊かどうか察知することができ、アルトリアが後の時代の王と理解すると満面の笑みで抱き寄せた。

 

「ブ、ブーディカ女王!?」

 

「あぁ……こんなにも頼れる後輩が来てくれたなんて、嬉しくて涙が出て来そうだよ」

 

「ありがとうございます。私も尊敬する先輩のあなたと出会えてとても光栄です」

 

「ユウマもありがとう!私なんかの為に令呪を使って助けてくれて!」

 

ブーディカは遊馬を抱き寄せてアルトリアと一緒に抱きしめる。

 

抱きしめられて遊馬は恥ずかしかったが、逃げられないのは分かっているので大人しくブーディカに可愛がられることにした。

 

「大切な仲間を助ける為なら何でもやるぜ!」

 

「本当にありがとう……あなたがマスターで私は幸せよ……」

 

ブーディカは自分を大切に想ってくれる存在がいてくれることに心から感動し、涙を流した。

 

ブーディカを助けたところですぐに反撃のための作戦会議を開く。

 

「よし……囚われたブーディカは無事に助けた事だし、今度はこっちから攻める番だ!!」

 

遊馬の提案にみんなは頷き、どう連合軍に仕掛けるか意見を出し合う。

 

連合軍が今までとは異なる戦術を変えたことから新たな敵サーヴァントの仕業が高い。

 

真っ先に遊馬を狙うところからその敵サーヴァントはかなり頭が冴える、軍師のように頭脳明晰のは明白。

 

遊馬はアストラルからナンバーズを見せてもらいながら何かいい手がないか考える。

 

すると、一枚のナンバーズが目に留まり、目をパチクリとさせながら凝視する。

 

それは遊馬の仲間である一人の少女が使うデッキのカテゴリーのナンバーズだった。

 

何でこのナンバーズがあるのか不明だが、そのナンバーズを見て遊馬はナイスなアイデアを思いついた。

 

「アストラル!こいつを使ったらどうだ?」

 

「このナンバーズを……?なるほど、これを使えば……遊馬!」

 

アストラルは遊馬にそのナンバーズを渡し、遊馬はデッキからカードをドローする。

 

「おう!行くぜ!俺のターン、ドロー!来たぜ……『ガガガシスター』を召喚!ガガガシスターの効果!召喚に成功した時、デッキからガガガの名をついた魔法・罠を手札に加える。デッキから『ガガガウィンド』を手札に加え、発動!手札からガガガモンスターを特殊召喚してそのモンスターのレベルを4にする。手札からガガガマジシャンを特殊召喚!」

 

ガガガシスターが鍵の杖を振るうと遊馬のデッキに宿るガガガのサポートカードを遊馬の手札に加え、発動するとガガガマジシャンが現れる。

 

ガガガウィンドは特殊召喚したガガガモンスターをレベル4にする効果があるが、ガガガマジシャンは元々レベル4で自身の効果でレベルを変更できる。

 

「ガガガマジシャンの効果、ガガガマジシャンのレベルを8にする!」

 

ガガガマジシャンのレベルが4から変更できる最高レベルの8にし、ガガガシスターのもう一つの効果を発動する。

 

「そして、ガガガシスターのもう一つの効果!ガガガモンスター1体を選択し、そのモンスターとガガガシスターのレベルはエンドフェイズ時までそれぞれのレベルを合計したレベルになる!ガガガマジシャンはレベル8、ガガガシスターは2、2体のガガガモンスターのレベルは10となる!」

 

ガガガマジシャンとガガガシスターの効果を最大限に使用し、本来なら出しづらいランク10をエクシーズ召喚する。

 

「レベル10のガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとガガガシスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「現れよ!『No.81 超弩級砲塔列車(ちょうどきゅうほうとうれっしゃ)スペリオル・ドーラ』!!」

 

光の爆発と『81』の刻印と共に現れたのは四つの列車が連なり、その上に巨大な大砲を持つロボットが合体しているモンスターが現れた。

 

銀河眼の光子竜皇よりも大きなモンスター……というかとんでもない移動式の巨大マシンにマシュたちは口を大きく開けてあんぐりとして驚愕していた。

 

そして、列車という存在を知っているアルトリア、エミヤ、クー・フーリン、メドゥーサは汗を流しながら困惑していた。

 

「シ、シロウ……私が見た列車、いや電車で したっけ?あれとは比べ物にならないほど大きいのですが……」

 

「いや待て、あれはもはや列車と言えるものではない。列車とは人や物を運ぶためのものだ……決して大砲は積んではいないぞ!?」

 

「すげぇな、コレ。もはや未来の軍隊が使うような近代兵器じゃねえか……」

 

「これがモンスター……?私が言うのもなんですが……魔物や怪物の定義がおかしくなりそうですね」

 

デュエルモンスターズの主役とも言えるモンスター……魔物の定義が意味不明で思わず頭痛を覚えるのだった。

 

何故遊馬がこのナンバーズを召喚したのか、それは戦場でも使える『圧倒的な兵器』だからである。

 

遊馬はカルデアで歴史の勉強をしていくうちに人類の長い歴史は数え切れない戦争によって積み上がっていることを改めて学んだ。

 

そして、戦争の歴史を変えていったのは様々な要因がある。

 

例えば軍師による軍隊を動かすための戦術、アルトリアたちのような一騎当千の英雄たち、そして……最も効果的とも言えるのが戦況を一気に覆す事ができる強力な兵器である。

 

スペリオル・ドーラは偶然かどうか不明だが、遊馬の仲間の一人である少女、神月アンナが持つ『列車』モンスターと同じカテゴリーのモンスターである。

 

列車モンスターは高レベルのド派手な戦法が特徴でスペリオル・ドーラも例に漏れず強力なモンスターである。

 

そして、このモンスターは一応列車なので遊馬たちはスペリオル・ドーラに乗り込みと遊馬はメドゥーサにあることを頼んだ。

 

「あ、メドゥーサ。これ操縦してくれるか?」

 

「は!?私がですか!?」

 

「うん。メドゥーサはライダークラスだし、なんでも操縦できる金の紐があったろ?それで頼むぜ!」

 

「騎英の手綱ですか……?確かに乗り物にも対応してますが……いけますかね……?」

 

「大丈夫じゃね?これモンスターだし」

 

「だからユウマのモンスターの定義がおかしいですから……まあ一応やってみますが」

 

メドゥーサの宝具、騎英の手綱。

 

あらゆる乗り物を御する黄金の鞭と手綱で『高い騎乗スキル』と『強力な乗り物』があることで真価を発揮する。

 

また、乗ったものの全ての能力を1ランク向上させる効果も持つ。

 

メドゥーサ自身がライダークラスの為に騎乗スキルがA+、そしてスペリオル・ドーラ自身が巨大で屈強……条件が見事に合致しているのだ。

 

メドゥーサは黄金の鞭と手綱を取り出して運転席からスペリオル・ドーラ上部のロボットへジャンプして登る。

 

「さて、やってみますか……」

 

そして、半信半疑でロボットの首に手綱をかけて鞭を振るった。

 

次の瞬間。

 

ゴォオオオオオオオ!!!

 

スペリオル・ドーラの目がキラリと輝き、ボディ全体から轟音が鳴り響くと、列車を走らせるための線路が地面に現れ、メドゥーサの思い通りに動き始めた。

 

「わぁ……すごいですね……」

 

まさか本当に操作できるとは思いもよらなかったので感嘆の声が漏れだす。

 

遊馬はスペリオル・ドーラ内に何故かあった車掌マイクを手に取りノリノリでアナウンスをする。

 

「ローマ特別運行、超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ、これより発車致します!目的地は敵拠点砦!!」

 

「了解、マスター!」

 

メドゥーサは騎英の手綱の鞭を振るい、スペリオル・ドーラを発進させ、先程のお返しにと今度はこちらから連合軍に仕掛けるのだった。

 

 

 

.




荊軻姉さんとの会話は遊馬ならこういうだろうなと思って真っ向から競争を否定しました。
あくまでもこれは戦争、殺し合いなので……。
特に遊馬は目の前で仲間が消滅したり、カイトに関してはガチで死んだ光景を見て来たのでトラウマになってるはずなので。

今回はアルトリアが少しぶっちゃけた感じになりました。
アポカリファのモーくんの回想を見て、こうして変化したアルトリアを見ると士郎との出会いは大きかったなと思います。

ほとんど語られていないブーディカとアルトリアの関係はこんな感じかなと思って書きました。
王としては先輩後輩の関係で、ブーディカはイギリスのサーヴァントはみんな弟や妹のように思っているので。

ラストのスペリオル・ドーラは完全にネタに走っちゃいました(笑)
展開をどうしょうかなと思ってナンバーズを眺めていたら目に留まりました。
メドゥーサもまさかこんなものを運転するとは夢にも思わなかったでしょうね。

次回は彼らとのバトルです。
特に長髪の彼はアルトリア達と面識があるので書くのが楽しみです。

それから前書きにも書きましたが、もしよろしければ活動報告に特異点のイベントで重要なのをよろしくお願いします。
m(._.)m



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ナンバーズ27 因縁の再会と出会い

なんか今回もやりすぎた感がハンパないです。
いつものことだと突っ込まれそうですが(笑)

とりあえず遊馬くんを下手に刺激させないでくださいと言いたい(笑)

最近ちびちゅきと衛宮さんちの今日のごはんにハマってます。
平和やギャグの話は好物なのでカルデア内での日常の話はそれを目指したいです。



遊馬は連合軍の砦に向かうために『No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ』を召喚し、メドゥーサに騎乗してもらい英騎の手綱でランクを上げて運転している。

 

連合軍の兵士たちはスペリオル・ドーラという超巨大移動兵器に恐れて次々と逃げ出し、勇気を持つ者は弓などの遠距離武器で攻撃をするが、スペリオル・ドーラの装甲には傷一つ付かなかった。

 

それもそのはず、スペリオル・ドーラの守備力は驚異の4000でそのモンスター効果から鉄壁の守りが売りのナンバーズだからである。

 

「案外悪くないですね……」

 

メドゥーサはライダーとして天馬や自転車などを運転したことがあるが、まさかこれほど巨大な乗り物を乗ったことがないので新鮮な気持ちだった。

 

そして、あっという間に砦に到着し、メドゥーサはスペリオル・ドーラを停止させて大砲を向けるが遊馬が止めた。

 

「メドゥーサ、待ってくれ。砦の中にいるサーヴァントを誘き出す」

 

「構いませんが、このまま砲撃したほうがいいのでは?」

 

「砦の中にも兵士はいるはずだ。下手に死人を増やしたくないからな」

 

「相変わらずお優しい……それで、どうやって誘き出すのですか?」

 

「考えがある。まあ、見てなって」

 

遊馬は車掌マイクを手に乗り、コホンと咳払いをして大きく息を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハ!レフに召喚された哀れな連合軍のサーヴァントよ、この列車に驚いたか?驚いたでしょうねぇ〜?さあ、このモンスターの大砲で砲撃して砦を破壊してあげましょう。砲撃して欲しくなかったら今すぐ出て来なさい。ご心配なく、正々堂々とサーヴァント同士で勝負しましょう。おっと、人質を使おうとは思わないでくださいね?あなたたちが捕らえた仲間はとっくに救出しましたからね!悔しいでしょうねぇ〜?フハハハハハッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりの予想外すぎる聞いた敵側がイラっとするであろうムカつく言葉を発する遊馬に驚愕するマシュたちだった。

 

すると遊馬は車掌マイクの電源を切ると緊張の糸が解けたようにため息を吐いた。

 

「ふぃ〜、緊張したぜぇ〜。これで出て来てくればいいけど……」

 

「遊馬、その言葉はまさか……」

 

「ああ。ちょっと前にⅣ……トーマスから教えてもらったんだ。外道な敵がいた時、挑発に使えって」

 

Ⅳことトーマス・アークライトは遊馬の仲間でⅢ……ミハエルの兄で家族のために外道や汚れ役を背負う優しい男なのだが……ぶっちゃけかなりドSな性格なのである。

 

「二度とⅣのその言葉を使うな……禁止令だ」

 

「そうだよ、ユウマ。君みたいに優しい子がそんな汚い言葉を使っちゃダメ」

 

アストラルとブーディカは保護者のように注意をし、遊馬は素直に頷いた。

 

「うん、俺も言ってかなり疲れた。二度と言わないぜ」

 

試しに言ってみたが遊馬の優しい性格上、合わないのは明白で二度と言わない事を誓った。

 

「ユウマよ……見事な挑発だったがそれだけで出てくるわけが……」

 

ネロは流石に出てこないだろうと思ったが……。

 

「貴様らぁっ!!上等だ、今すぐ出てこい!!俺が直々に相手をしてやる!!!」

 

砦の門から勢いよく敵サーヴァントが出て来た。

 

「って、見事に挑発に乗って来たぞ!?」

 

「お、おう、意外と敵の沸点低いな……」

 

予想以上に挑発の効果があり、言った本人の遊馬が一番驚いた。

 

砦から出てきたサーヴァントは今まで出会ったサーヴァントとはかなり異なり、現代風のスーツ姿をして煙草を咥えていた男性だった。

 

「彼はまさか……すいません、マスター。私が行きます」

 

アルトリアは出て来たスーツ姿のサーヴァントに心当たりがあるのか一足先にスペリオル・ドーラから出る。

 

「アルトリア?よし、エミヤも行くぞ!」

 

「やれやれ。だが、私も少し気になることがある……行こうか」

 

遊馬はアルトリアとエミヤと共にアルトリアの後を追う。

 

「待て!余も行くぞ!」

 

「ま、待ってください!」

 

ネロとマシュも後を追い、他のサーヴァントたちはすぐに動けるように準備をしている。

 

そして、アルトリアと敵サーヴァントが対峙すると、敵サーヴァントは目を見開いたように驚いた。

 

「貴様は……セイバー!?」

 

「やはり……まさかと思いましたが、ずいぶん成長しましたね。ウェイバー……」

 

「今はロード・エルメロイII世だ!」

 

そのサーヴァント、名はロード・エルメロイII世……アルトリアの知り合いだった。

 

「エルメロイ?それはランサーの……?」

 

「貴様には関係ないことだ!それより貴様、聖杯が欲しくて召喚されたのか!?」

 

「聖杯?そんなものは必要ありません。私が欲しいのはシロウです」

 

「シロウ……?」

 

「アルトリア!」

 

「エミヤ、あのサーヴァントはセイバーを知ってるみたいだな!」

 

エルメロイII世はその名前に聞き覚えがあり、その直後に遊馬とアストラルとエミヤが降り立つ。

 

そして、エミヤの姿を見てエルメロイII世は目を見開いて声を荒げた。

 

「シロウ……エミヤ……?まさか、お前は衛宮士郎(エミヤシロウ)なのか!?」

 

「……久しぶりだな。エルメロイII世……時計塔で話して以来だな」

 

エミヤ……衛宮士郎は仕方ないと言った表情でエルメロイII世と話すと、思わぬところで真名を知った遊馬とアストラルは目を丸くした。

 

「衛宮士郎……?それがエミヤの本当の名前か?」

 

「つまり君は日本人ということか……」

 

「そういう事だ。マスター、アストラル。出来れば過去はあまり聞かないで欲しいが」

 

「別にいいぜ、人には言いたくない過去の一つや二つはあるし」

 

「エミヤ、君が我々に話しても良いと決心した時にでも話して欲しい……」

 

「……分かった、感謝するよ。マスター、アストラル」

 

エミヤは遊馬の頭をポンポンと叩き、遊馬の前に出て干将・莫耶を投影して構える。

 

「その子供がマスターだと!?しかも隣には精霊!?一体どんな魔術師なんだ!?」

 

「ウェイバーよ、マスターは魔術師ではありません。しかも、あなたが聖杯戦争を参加した時よりも幼い十三歳ですよ」

 

「十三歳!?しかも魔術師じゃないだと!!?」

 

エルメロイII世は遊馬が魔術師ではない事と十三歳という事実に驚愕する。

 

「ところでアルトリア、そいつと知り合いなのか?」

 

「彼はウェイバー。私が経験した聖杯戦争のライダーのマスターでした。もっとも、私が知っている彼は少々頼りない見習いの魔術師の少年でしたが……」

 

「黙れ!!それ以上言うんじゃない!!!」

 

「驚きましたよ。ライダーに引っ張られていた少年がこれほどまでに逞ましく堂々とした風格を出すとは……」

 

「アルトリアよ、一応付け加えておくが彼は時計塔で『プロフェッサー・カリスマ』、『マスター・V』、『グレートビッグベン☆ロンドンスター』、『女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男』……と言う数々の異名を持つ名物講師だぞ」

 

「言うなっ!それ以上言うなぁあああああっ!!」

 

「何と!?それは素晴らしいですね……良かったですね、ライダーもきっと喜んでますよ」

 

「貴様らは俺の親戚の兄姉か!?と言うか、アーサー王!貴様は本当にあの時のアーサー王か!?性格変わりすぎだろ!?」

 

「あの戦い以来、色々ありましたからね……ぶっちゃけ言うと王ではなく女に目覚めました」

 

「聖杯問答の時の話はどうなった!?貴様はあの時……」

 

「確かにあの時は聖杯を使って過去を変えようと思いましたが、シロウや多くの人との出会いでその考えは変わりました。私はもう過去を変えるつもりはありません。そして、今の私の願いはシロウを私の嫁にする事とシロウのご飯をいつまでも食べることです」

 

「嫁だと!?婿ではなく!?ってか飯だと!?何故に飯!??」

 

昔のアルトリアはどんな性格なのか分からないが、カルデアでの普段のアルトリアを見ている遊馬たちはもっともな願いだと感じた。

 

しかし、アルトリアの願いはそれだけではなかった。

 

「シロウは私の嫁です。それから……円卓の騎士のみんなと仲直り……とまではいかないと思いますが、ちゃんと話し合いたいです」

 

「アルトリア……」

 

アーサー王物語で円卓の騎士は様々な人と人との繋がりの亀裂で内部分裂が起きてしまい、それが国の崩壊へと繋がった。

 

アルトリアは絆を誰よりも大切にする今のマスターである遊馬の姿を見て、円卓の騎士の騎士ともう一度絆を繋ぎたいと思った。

 

しかし、大きく壊れた絆を直すことは不可能かもしれない……だがせめて円卓の騎士のみんなともう一度しっかり話し合って分かりあいたい……そう願うようになった。

 

「彼らに許してもらえないかもしれない、拒絶されるかもしれない……。それでも、私は逃げずに過去と向き合います」

 

過去と向き合うこと……それが今のアルトリアが見つけた答えだった。

 

その願いを聞いたエルメロイII世は小さく笑みを浮かべて納得したように頷いた。

 

「過去と向き合うか……確かにあの時とは違う答えだ。まるで別人のようだ……今の貴様なら『王』も喜んでいるだろうな……」

 

「そうですね。ところで、最初から気になってましたが、どうしてここに?それから、あなたからサーヴァントの気配がするのですが……」

 

「私は縁のゆかりもない英霊の依り代にされて過去に飛ばされた……」

 

「英霊の依り代?」

 

「諸葛孔明……それが私に宿る英霊の名だ。今の私は『擬似サーヴァント』と言ったところだな……」

 

「諸葛孔明って、呂布と同じ三国志で出て来る天才軍師じゃねえか!?」

 

「人間の肉体を依り代として英霊の魂を宿らせる……マシュのデミ・サーヴァントと同じと言うことか……?」

 

エルメロイII世には呂布と並ぶ三国志の天才軍師、諸葛孔明がマシュのデミ・サーヴァントのようにその英霊の魂が宿っていた。

 

何故エルメロイII世が選ばれたのか、どうしてこの世界に召喚されたのか本人も分からずに不明である。

 

「私と、同じ……?」

 

マシュは胸に手を置き、自分に似た存在に妙な親近感を抱いていた。

 

「それはさて置き、私はある人の軍師としてここにいる……そろそろ出てきたらどうだ?」

 

「ごめんごめん、あの大きなものに見惚れていたよ」

 

エルメロイII世に呼ばれて砦から出てきたのは遊馬と歳が近そうな赤い髪をした少年だった。

 

その少年を見た瞬間、セイバーは再び驚いたように目を見開いた。

 

「彼はまさか!?ウェイバー……これは数奇な運命ですね……まさか『征服王』の幼き姿とは……」

 

「そうだな……私も驚いているよ」

 

エルメロイII世とその少年には深い関わりがあるのか複雑な心境をした表情を浮かべていた。

 

「僕はアレキサンダー。正確にはアレキサンダー三世だ」

 

アレキサンダー。

 

紀元前4世紀のマケドニア王国の若き王子であり、後に様々な名で呼ばれる多くの可能性を持つ者である。

 

美少年と言っても過言ではないアレキサンダーの姿を見てアルトリアは額に手を当てて大きなため息を吐いた。

 

「どうしてこんな美少年があんなムキムキマッチョな大男になるのでしょうか……」

 

そしてアルトリアはアレキサンダーについて何かを知っている様子でそう呟くのだった。

 

アレキサンダーはネロを見つめ、嬉しそうに話し出す。

 

「ようやく会えたね。待っていたんだ、君が来るのを」

 

「余の……ことを?待っていた?」

 

「うん。ちょっと、興味が湧いたからね。あれこれとちょっかいをかけたのは、そのためだ。話がしたかったんだ。君とね」

 

アレキサンダーの目的に遊馬は疑問を抱き、声を荒げながら問うた。

 

「おい、待てよ。ネロと話がしたかったんならどうして兵を使ったんだ?話をするのに兵を使って、それで両軍のたくさんの兵が死んだんだぞ!?」

 

「そうだね。僕もそれが本意じゃないんだけど、仕方なくね……」

 

「まさか、ブーディカを捕らえようとして兵を送り出したことは全て、あんたがネロと話をするためだけにか!?」

 

「そうだよ。色々あったけど、君たちの方から来てくれたから良かったけど」

 

アレキサンダーの回りくどいやり方にネロと遊馬は激怒する。

 

「それを、ただの話一つが目的というのか!」

 

「ふざけるな!だったらてめぇ一人で最初から来いよ!」

 

「うん。人間の命は尊いものだと思うよ。それは、僕だってそう思う。でもね、そうするのが一番だと思ったんだ。君の、いや……君たちのことが気にかかったから。ローマ皇帝第五代皇帝、ネロ・グラウディウス。そして、未来皇ホープ、ツクモ・ユウマ」

 

アレキサンダーの目的はネロだけでなく遊馬も含まれていた。

 

そして、アレキサンダーはゆっくりと二人に問う。

 

それは皇帝としての意味、戦いの意味を問うていた。

 

「さて、ネロ。君は何故、何故、戦うんだい?なぜ、連合帝国に恭順せずに。そうやって、いいや、こうやって戦い続ける?連なる『皇帝』の一人として在ることを選べば、無用の争いを生むことなどないだろうに」

 

「無用……無用といったのか、この戦いを。貴様は……」

 

「言ったよ。なら、どうする?」

 

ネロはこれまでの戦いを否定されたことに激怒し、ローマ皇帝としての、己の考える『皇帝の道』を宣言した。

 

「許さぬ……死から蘇った血縁であろうと、過去の名君であろうと、古代の猛将であろうと、伝説に名高き、大王その人であろうとも……今!この時に皇帝として立つ者は、ネロ・グラウディウスただ一人である!民に愛され、民を愛することを許され、望まれ、そう在るのはただ独り!ただ一つの王聖だ!ただ一つだからこそ輝く星!ただ一人だからこそ、全てを背負う傲慢が赦される!たとえローマの神々全てが降臨せしめて連合へ降れと言葉を告げようとも、決して退かぬ!退くものか……!そう信じて踏破するよが我が人生!我が運命!退かず、君臨し、華々しく栄えてみせよう!余こそが!紛うことなきこの世界である!」

 

「はははっ!すげぇや、ネロ。今の言葉、かっこよかったぜ!」

 

ネロの宣言に遊馬は感銘を受けてグッドサインを向けた。

 

アレキサンダーはネロの次に遊馬に質問をする。

 

「次は未来皇、君だ。君はどうしてネロに付き添い、共に戦うんだい?君はこの戦いをどう思う?」

 

アレキサンダーの問いに遊馬は目を閉じて数秒間考えて頭を整理しながら静かにそれを言葉にする。

 

「……確かにあんたの言う通り、ネロが連合帝国で皇帝の一人になれば無用な戦いは避けられる。だけどな……仮にネロがその決断を下せば真っ先に消され、ローマの民も……いや、この世界の全ての人間が消されるかもしれない!それはつまり、この時代とこれから先に生きる人たちの全ての未来が奪われるんだ!お前の言い分も正しいし、ネロの皇帝としての心は堂々としてかっこいいと思う。だから、次は俺の答えだ!」

 

遊馬は右手にホープ剣を一本作り出してネロを守るように前に出て、剣の切っ先をアレキサンダーに向ける。

 

「俺は、俺たちはこの世界の未来を守るためにここにいるんだ!ネロは俺の大切な仲間だ!ネロは俺が必ず守る!そして、人類を滅ぼそうと言う大馬鹿な災厄の元凶をぶっ倒して、ネロも、この世界も守る!!」

 

遊馬はネロを皇帝ではなく仲間として、守ることを誓う。

 

「ユウマ……」

 

ネロは自分を守ると誓う遊馬の小さくも大きな背中に心臓の鼓動が高まっていく。

 

「ネロだけでなく、世界も守る……でも君は知っているかい?世界は広くて巨大だ。世界を守ると言うことは全ての人を守ると言うことにも繋がるよ?それほど大きなものを君は背負えるのかい?」

 

「生憎だが、俺は背負うことには慣れっこなんだよ。俺が戦う時はいつも何かを背負ってるからな。それに……一度俺たちの世界の滅亡の危機をアストラルや仲間たちと一緒に救ったんだ。今更臆することはない!!それが俺の、かっとビングだ!!!」

 

遊馬の戦いはいつも何かを背負って戦ってきた。

 

その全てを守るために遊馬とアストラルは何度挫けそうになってもその度に立ち上がり、戦い続けてきたのだ。

 

ネロが目指す『皇帝の道』と遊馬が目指す『かっとビングの道』……二人の答えを聞いてアレキサンダーは拍手をして称賛した。

 

「素晴らしい!君たちは間違いなく皇帝だ!いや、ユウマは勇者と言うべきかな?そして、ネロ!君は『魔王』にだってなれるよ!」

 

「アレキサンダー、貴様はこの手で倒す!」

 

「付き合うぜ、ネロ。アレキサンダー!あんたが避けられない敵として立ち向かうのなら、俺たちはあんたを越えるぜ!」

 

「その意気だ、さあ来るんだ!ローマ皇帝、そして未来皇!!『始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)』!!!」

 

アレキサンダーは自身の宝具であり、愛馬である黒毛の屈強な馬、ブケファラスを呼び出して騎乗し、スパタと呼ばれる片手剣を持つ。

 

「あちらはマスターとマシュとネロが相手をしますか。さて、ウェイバー。あなたはどうしますか?」

 

「……私の目的は彼をネロに会わせることだ。私自身は戦うつもりはない」

 

エルメロイII世は特に戦う理由はないのでその場で煙草を吸い、一応警戒のためにアルトリアとエミヤが見張る。

 

「アストラル!頼む!」

 

遊馬はアレキサンダーが出したあの黒い馬はヤバイと察すると、デッキケースから一枚のカードを取り出してアストラルに投げ渡す。

 

「分かった。少々出しずらいが、私がなんとかしよう!!」

 

アストラルが左手を掲げると左手首に藍色のデュエルディスクが現れ、デッキがセットされる。

 

アストラルもデュエルをすることが出来、アストラル自身のデッキがあるのだが、遊馬のデュエルディスクにセットされたデッキをそのまま反映させて構築して使用する。

 

「私のターン、ドロー!『セイバー・シャーク』を召喚!更に、自分フィールドに水属性モンスターがいる時、『サイレント・アングラー』を特殊召喚!私は水属性レベル4のモンスター2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!力を借りるぞ、シャーク!」

 

アストラルは凌牙の持つ額に刃を持つ鮫と提灯あんこうのようなモンスターを召喚し、二体が光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「吠えろ未知なる轟き!深淵の闇より姿を現わせ!エクシーズ召喚!現れよ、『バハムート・シャーク』!!」

 

現れたのは凌牙から受け取った鮫のような姿をしたドラゴンに似たモンスターエクシーズでその効果はとても強力なもので仲間の水属性モンスターエクシーズを呼び出せる。

 

「バハムート・シャークの効果!ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、水属性・ランク3以下のモンスターエクシーズをエクストラデッキから特殊召喚する!ゴッド・ソウル!!」

 

『グォオオオオオオッ!!』

 

バハムート・シャークがオーバーレイ・ユニットを一つ喰らい、咆哮を轟かせると目の前に大きな水の渦が現れる。

 

「現れよ、『牙鮫帝シャーク・カイゼル』!」

 

そして、水の渦の中から堂々とした風格を持つ巨大な鮫の皇帝が姿を現わすが、正規のエクシーズ召喚ではないのでシャーク・カイゼルにはオーバーレイ・ユニットが存在しない。

 

しかし、アストラルには更なる一手が握られていた。

 

「そして、このカードはランク3の水属性モンスターエクシーズを素材としてエクシーズ召喚することが出来る!私はシャーク・カイゼルをエクシーズ素材にし、フルアーマード・エクシーズ・チェンジ!」

 

それは希望皇ホープレイと同じく、モンスターエクシーズを素材として重ねてエクシーズ召喚できるモンスターエクシーズであり、シャーク・カイゼルがエクシーズ素材となり、新たなモンスターエクシーズを呼び出す。

 

「現れよ!『FA(フルアーマード)-ブラック・レイ・ランサー』!!」

 

それはシャークのエースモンスターである漆黒の槍を持つ海の戦士、『ブラック・レイ・ランサー』が仲間の力を得て新たな装備を身につけた姿である。

 

バハムート・シャークとFA-ブラック・レイ・ランサー、この2体だけでも十分戦えるのだがアストラルの目的は遊馬が戦えるようにお膳立てをすることである。

 

「行くぞ、遊馬!私はランク4のバハムート・シャークとブラック・レイ・ランサーでオーバーレイ!!」

 

バハムート・シャークとブラック・レイ・ランサーが光に吸い込まれ、強烈な光が爆発した。

 

二体のエクシーズモンスターを素材にして呼び出す特殊なエクシーズモンスター……それは遊馬だけが持つ無限の可能性を秘めたナンバーズである。

 

「現れろ、FNo.0!天馬、解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る!これが我が『半身』の天地開闢!無限の未来!!かっとビングだ、遊馬!『未来皇ホープ』!!」


 

遥かなる次元の果てから美しい双翼を羽ばたかせ、未来を切り開く二振りの剣を携え、遊馬の化身とも言える未来皇ホープが召喚された。

 

『ホォープッ!!!』

 

未来皇ホープの登場にアレキサンダーは年相応の表情と目を輝かせた。

 

「凄い!これが君の本当の力……未来皇ホープなんだね!」

 

「よっしゃあ!流石はアストラル!来い!未来皇ホープ!」

 

遊馬はアレキサンダーから離れ、双剣を消してバク転をして大きく下がると同時に未来皇ホープが金色の光となる。

 

そして、光となった未来皇ホープはなんとそのまま遊馬に激突して一体化するのだった。

 

「遊馬君と未来皇ホープが一体化した!?」

 

マシュたちが驚くのも無理はなく、遊馬は未来皇ホープの中に入り、文字通り一体化した。

 

未来皇ホープの胸にある0の紋章が大きな皇の鍵へ変化し、遊馬の意思で動くことになる。

 

「更に私は装備魔法『月鏡の盾』を未来皇ホープに装備する!バトルする時、装備モンスターの攻守は相手の攻守の高い数値+100ポイントとなる!」

 

アストラルは大きな満月が映し出された鏡を呼び出し、未来皇ホープの中に取り込ませてアレキサンダーと戦えるようにする。

 

「サンキュー、アストラル!行くぜ、ネロ!マシュ!」

 

「うむ!行くぞ、ユウマよ!」

 

「はい!!」

 

遊馬とネロとマシュはアレキサンダーと戦闘を開始するが、アレキサンダーが操るブケファラスは雄叫びを上げ、雷撃を撒き散らしながら突撃してきた。

 

遊馬は未来皇ホープの翼を広げて空を翔けながらアレキサンダーに攻撃する。

 

「ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!」

 

「ふっ!やるね!!」

 

アレキサンダーはスパタで遊馬のホープ剣を受け止め、激しい剣戟をしていくとネロが別の方向から駆け抜けて原初の火を振り下ろす。

 

ネロの攻撃に気づいたブケファラスはその身から雷撃を撒き散らしてネロの攻撃を中断させた。

 

「くっ!?」

 

「行け、ブケファラス!!」

 

「ネロさん!させません!!」

 

ブケファラスの凄まじい走りを止めるためにマシュがネロの前に出て盾で受け止める。

 

「マ、マシュ!?」

 

「くっ!!?」

 

その恐るべき猛烈な突撃と雷撃にマシュは負けそうになる。

 

しかし、シールダーの名にかけて、自分に戦う力をくれた名を知らぬ英霊のために、大切な人達を守ると誓ったマシュは自分を奮い立てて強く叫ぶ。

 

「私は、負け、ません!!はぁあああああっ!!!」

 

マシュは魔力を解放して全身の力を込め、その想いに反応して十字の盾が強く輝きを放つ。

 

「はあっ!!!」

 

そして、盾で押し返して屈強なブケファラスのバランスを崩し、予想外の事態にアレキサンダーは驚いた。

 

「おおっ!?」

 

「今です!遊馬君!ネロさん!!」

 

「おうっ!」

 

「感謝するぞ、マシュ!!」

 

マシュが作ってくれたアレキサンダーの大きな隙に遊馬とネロは一気に攻め立てる。

 

遊馬は未来皇ホープの双剣を構えて刃を金色に輝かせ、ネロは原初の火に真紅のオーラを纏わせて振り上げる。

 

「ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!!」

 

「これで終わりだ!!!」

 

三つの刃が煌めき、同時にアレキサンダーに斬りつけた。

 

それが致命傷となり、アレキサンダーとブケファラスは消滅していく。

 

「もう一つ、言葉を残しておくよ。可愛い皇帝さん。その誇り高さ……咲き誇る花の如き輝きは尊いものだろう。けれど、きっと危険なものでもあるはずだ。どうか……」

 

それはアレキサンダーからネロへの忠告であった。

 

ネロの美しくも危険が宿っているその心を危険視していたのだ。

 

その言葉を残しながらアレキサンダーは静かに消滅した。

 

「余は、間違ってなどいない。何一つ……余は、ただ一人の……皇帝だ……」

 

「……ネロ、何が本当に正しいのかどうかは分からない。一つの選択でいい意味でも悪い意味でも未来は大きく変わるからさ。だけど、ネロがローマを守るために戦うのは決して間違いじゃないはずだ。ネロが戦ってくれたから、この世界の未来は守られているんだ」

 

「ユウマ……ありがとう……」

 

アレキサンダーの問いに迷いが出ていたネロだったが遊馬の言葉に救われた。

 

ネロはローマ皇帝として戦い続けること……そして、連合軍の魔の手から守るために遊馬達と共に戦うと改めて誓うのだった。

 

一方、アレキサンダーとの戦いを見守ったアルトリアはエルメロイII世にどうするか尋ねた。

 

「さて、向こうの戦いが終わりましたが、ウェイバーはどうなさいますか?」

 

「好きにしろ。私では勝てぬ。たとえ貴様らを退けたとしてもまだ後ろに控えている大量のサーヴァントにやられるのがオチだ。元々私ははぐれサーヴァントで戦う意味もない……やるならさっさとやれ」

 

「では……捕虜として私たちについてきてください。ご心配なく、マスターはとても優しいお方ですから悪いようにはしません」

 

「ちっ……甘い奴か。子供なら当然か……」

 

エルメロイII世は一応遊馬たちの捕虜となり、一緒について行くことになった。

 

周囲の意見もあり、念の為にエルメロイII世と契約を交わしてフェイトナンバーズを誕生させて何かあった時に令呪で命令を下せるようにする。

 

その後砦はローマ軍が無事に占拠し、次こそはいよいよ連合軍の本部がある連合帝国首都に向かうことになった。

 

このままライダーが騎乗したスペリオル・ドーラで向かうのもありだが、何かもう一つ手が無いか考えていると遊馬は再びニヤリと笑みを浮かべた。

 

「遊馬……何を考えている?」

 

何か嫌な予感がしたアストラルは恐る恐る遊馬に尋ねる。

 

「いやー、俺はさ、今まで……というかこれからも特異点を巡る度に驚かされると思うんだよね。だから……敵をもっと驚かせてやるんだよ……」

 

(((いや、こっちも十分驚かされているのですが……)))

 

摩訶不思議なモンスターを召喚、サーヴァントも驚くような無茶な行動、中学生が実は世界を救った英雄、そしてトドメは精霊のアストラルと合体してサーヴァントに匹敵する存在に変身……マシュたちも今まで何度も遊馬とアストラルに驚かされたのか数え切れないほどだった。

 

遊馬は考えたことを実行するためにデュエルディスクを構えてカードをドローする。

 

「行くぜ、俺のターン、ドロー!ふふふ……流石は俺たちのデッキ、ちゃんと思いに応えてくれるぜ。魔法カード『おろかな埋葬』。デッキからモンスターを墓地に送る。俺はデッキから『銀河眼の光子竜』を墓地に送る。装備魔法『銀河零式(ギャラクシー・ゼロ)』を発動。墓地のフォトン、またはギャラクシーモンスターを蘇生させてこのカードを装備する。蘇れ、銀河眼の光子竜!」

 

遊馬は不気味な笑みを浮かべて銀河眼の光子竜を呼び出した。

 

しかし、銀河眼の光子竜は銀河零式のデメリット効果で攻撃は出来なくなり、効果も発動出来ない。

 

「そして、『フォトン・サテライト』を召喚。フォトン・サテライトの効果、自分のフォトンモンスターを一体選択し、選択したモンスターとこのカードのレベルは合計したレベルとなる。フォトン・サテライトはレベル1、銀河眼の光子竜はレベル8、よって2体のレベルはそれぞれ9となる!」

 

小さな人工衛星が現れ、銀河眼の光子竜に光を当てて二体のレベルを合わせる。

 

「銀河眼の光子竜皇じゃない?遊馬、何を召喚する気……?」

 

レティシアは銀河眼の光子竜を出したのならば、銀河究極龍の銀河眼の光子竜皇を出すのかと思ったが、遊馬の目的は全くの別だった。

 

「行くぜ、アストラル!」

 

「やれやれ……分かった、君の好きにすればいい」

 

アストラルは遊馬の目的を察すると自身からカードを取り出すと遊馬に渡し、そのカードを掲げる。

 

「俺はレベル9となった銀河眼の光子竜とフォトン・サテライトでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

銀河眼の光子竜とフォトン・サテライトが光となって地面ではなく天に登っていき、光の爆発が起きる。

 

「星雲の王者にして機構の覇者よ、日輪を覆え!」

 

空に『09』の刻印が浮かび、遊馬は堂々とその名を叫んだ。

 

「現れよ、『No.9 天蓋星(てんがいせい)ダイソン・スフィア』!!」

 

マシュたちは新たなナンバーズに何が来るのかと期待するが、周りを見渡してもそれらしいモンスターがいなかった。

 

すると。

 

ゴォオオオオオオオ……!!!

 

まだ日が明るいうちなのに地上が暗くなり、不思議な轟音が鳴り響いて雷雲が出てきたのかとマシュ達が空を見上げると……そこには目を疑うものがあった。

 

「「「な、何あれ!!??」」」

 

「「「何だあれは!!??」」」

 

ネロを含むサーヴァントたちは空に現れた謎の物体に驚愕し、マシュは首を大きく傾げて呟いた。

 

「宇宙ステーション……?」

 

それはまるで空や太陽を覆い尽くすように巨大な建造物……花びらのような形をした宇宙ステーションのようなものだった。

 

以前マシュが興味本位で宇宙関連の本を読んだときに見た、まだ仮説の域である恒星のエネルギーを効率よく利用するための宇宙空間建造物……ようするにとんでもなく巨大な宇宙ステーション、『ダイソン球』を思い出した。

 

そして、その宇宙ステーションにはナンバーズの証である『09』の刻印がしっかりと刻まれており、それがナンバーズだとマシュたちは思い知らされた。

 

そのナンバーズの登場に遊馬は大きな笑い声を上げながら説明した。

 

「ふははは!これこそデュエルモンスターズ史上最大の大きさを誇るモンスター……太陽よりも大きい、超巨大宇宙衛星兵器!!ダイソン・スフィアだ!!!」

 

「「「大きすぎる!!??」」」

 

もはやこれがモンスターと呼んでいいのだろうかと思うほどの巨大過ぎる存在にマシュたちは頭を悩ませるのだった。

 

「よっしゃあ!地上のスペリオル・ドーラに天空のダイソン・スフィアで連合軍本部に乗り込むぜ!!」

 

「「「お、おー……」」」

 

ハイテンションな遊馬に引っ張られてマシュたちは再びスペリオル・ドーラに乗り込み、連合帝国首都へ向かう。

 

この時、マシュ達は遊馬は基本的に常識人だが下手に刺激させると他人の想像を超えるとんでも無いことをやらかすと悟ったのだった。

 

「な、なんだこの子供は……?これほどの大きな力を操るマスターなんて聞いたこともないぞ……それにあの精霊も……なんて危うい存在なんだ……」

 

エルメロイII世は遊馬とアストラルが聖杯戦争において余りにも異例すぎる存在であることに戦慄した。

 

子供の年相応の幼さに反し、戦いに堂々と向かう度胸、大切な何かを守る不屈の精神……世界を救ったと言っていたが、一体どれほどのものをその目に映して来たのだろうか。

 

エルメロイII世にとって最も大切な存在が真っ先に気に入りそうなその少年が進む道の行く末をこの目で見て見たくなり、サーヴァントになって悪くないなと思いながら煙草を咥える。

 

 

 

.




ウェイバー君ことエルメロイII世が捕虜となりました。
セイバーことアルトリアのぶっちゃけた姿にはそりゃあ驚くことでしょう。
滅んだ国を救いたい、過去を変えたい→シロウを嫁に!美味しいご飯を毎日モグモグ!
うん、これは酷い(笑)

そして……ラストには皆さんお待ちかねのデュエルモンスターズ最大のビッグモンスター、ダイソン・スフィア登場(爆)

ついやりたくなっちゃいました♪

天空のダイソン・スフィアに地上のスペリオル・ドーラが手を組めば二大巨大兵器、夢の最強の布陣です!

そろそろ第2章もクライマックスに入ります。

次回も大暴れします!!


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ナンバーズ28 人間の欲望の力、三大カオス・エクシーズ集結!

今回はお盆休みでじっくり書くことが出来ました。

いよいよレフとの決戦が始まります。

そして、遊馬に新たなチート技が使えるようになります。

それから、活動報告を見た方もいると思いますが、驚くことにこの小説を一時期内容をパクられて投稿されていました。

単なるコピペをした後に加筆したものでしたが、すぐに運営に通報して今は既に削除されています。

とあるユーザーさんから教えてもらいましたがまさか私ごときの小説をパクられるとは思いもよらず、複雑な気分でした。


スペリオル・ドーラのみならず超巨大衛星兵器、ダイソン・スフィアを召喚した遊馬達は連合帝国に向かった。

 

当然と言うか予想通りと言うか、連合帝国は大混乱に陥っていた。

 

この時代から遥か未来の巨大兵器に連合軍の兵士たちはまともに軍を動かせずにいた。

 

スペリオル・ドーラを連合帝国首都から約10キロほど離れた場所に停止させ、車両から上に登ったエミヤは遠くを見つめる。

 

「エミヤ、どうだ?見えるかー?」

 

エミヤはスキルの鷹の目でスペリオル・ドーラから連合帝国首都の城を見ている。

 

「何とかな。今城を覗いているがやはり中までは……あ」

 

「何か見つけたのか!?」

 

「城から男が慌てて出てきてる。間違いない……カルデアで見た写真と同じ、レフ・ライノールだ!!」

 

遊馬もD・ゲイザーの望遠鏡モードで城を見るとそこには深緑色のスーツと帽子をかぶった紳士風の男……カルデアの裏切り者、レフ・ライノールだった。

 

「ようやく見つけたぜ、レフ……」

 

遊馬はレフが行ってきた悪行を思い出し、沸沸と静かに怒りを燃やしていた。

 

そこにカルデアから連絡があり、通信してきたのは……。

 

『遊馬、レフを見つけたのね』

 

「所長……ああ、見つけたぜ」

 

それは誰よりもレフを信頼して好意を寄せていたが、一度無残に爆弾で殺されたが遊馬とアストラルのゼアルの力で肉体を取り戻して復活したオルガマリーだった。

 

『遊馬、判断はあなたに任せる。だけど彼は……あの男はカルデアを裏切り、多くの人たちの命を奪った。それだけは分かってるわね?』

 

「分かってるさ。あいつを完膚なきまでに倒して、みんなの前に突き出して懺悔させるさ」

 

『その意気よ……それから、どんな事を言われても冷静でね』

 

「サンキュー、所長。それから、戦いが終わったらまたサーヴァントを呼び出すからさ。祝勝会と歓迎会の準備を頼むぜ」

 

『はいはい、分かったわ。頑張ってね』

 

「ああ!」

 

カルデアとの通信を切り、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

そして、キリッと目を開いた遊馬たちはネロとマシュたちを見つめる。

 

「みんな、行くぜ。おそらくこれが長かった連合軍との最後の戦いだ。気合を入れて行くぞ!!」

 

「「「はいっ!」」」

 

「「「ええっ!」」」

 

「「「おうっ!」」」

 

遊馬たちは気合を入れ、連合軍との最後の戦いに挑む。

 

そして、事前に決めた作戦に従いそれぞれが行動に移す。

 

 

連合帝国首都の城にいた宮廷魔術師こと、カルデアの裏切り者……レフ・ライノールは予想外の事態に冷静さを失いつつあった。

 

「な、何なのだあれは!?カルデアやサーヴァントであんなものは……まさか、あの子供が出したというのか!?」

 

二体の巨大ナンバーズ、スペリオル・ドーラとダイソン・スフィアを遊馬が出現させた事に驚きを隠せなかった。

 

「ありえない……あんな子供が……何かの間違いだ。そうか、きっとあれは幻の類……」

 

あまりの状況に幻と信じたくなったのも束の間だった。

 

ドォン!!

 

「な、何だ!?」

 

ドガァアアアアアン!!!

 

爆音が響くと館に巨大な砲弾が直撃し、館が一気に半壊した。

 

それはスペリオル・ドーラに搭載している巨大砲の砲弾だった。

 

「ま、まさか、あの距離から撃ってきたのか!?」

 

ドォン!ドォン!!ドォン!!!

 

次々と巨大砲から砲弾が発射され、館だけでなく近くにいるレフを狙うように飛んできた。

 

「くっ、狙いは私か!?」

 

スペリオル・ドーラは自動狙撃でピンポイントでレフを狙っていた。

 

「おのれ、舐めた真似を!!」

 

レフは降り注ぐような砲弾の雨を魔術の障壁で防ごうとするが、今までの悪行を捌くかのような天空からの鉄槌が振り下ろされる。

 

ビュオオオオオオオオ……!

 

天から轟音が鳴り響き、レフは恐る恐る見上げた。

 

「ま、まさか……」

 

それはダイソン・スフィアの攻撃の予備動作であり、その機械のボディ全体に魔術師の持つ魔術回路のような無数の光が伸びる。

 

そして、中央の球体から無数の青白い光線が発射され、豪雨のようにレフに降り注いだ。

 

「ぐぉおおおおおおおっ!!??おのれぇええええええええっ!!!」

 

レフはこの世界の特異点……聖杯を取り出してスペリオル・ドーラとダイソン・スフィアの猛攻を防ぐための障壁を作り出す。

 

ただの砲弾と光線なら十分防げたかもしれないが、スペリオル・ドーラとダイソン・スフィアは世界を滅ぼすほどの力を秘めたナンバーズの一角、その攻撃は聖杯を使っているレフにすら大きな衝撃を与えている。

 

そこにゆっくりと歩きながら一団がレフに近づいた。

 

「どうだ、レフ?砲弾とレーザーの雨のお味は?」

 

それはレフにとって目障りな存在……遊馬たちだった。

 

「き、貴様らぁ……」

 

「連合軍の兵はここには来ないぜ。兵はスパルタクスと呂布が引きつけてくれている。お陰で侵入しやすかったぜ」

 

ダイソン・スフィアとスペリオル・ドーラがレフを攻撃している間にスパルタクスと呂布が城門近くで暴れて連合軍の兵を引きつけ、その隙に予め侵入経路を確保していた荊軻の案内で難なくここまで来たのだ。

 

城まで少し距離があったが、2体の大型モンスターに目が向いている隙にネロとサーヴァントたちを連れてかっとび遊馬号で一気に近づいたのだ。

 

「ようやく会えたな、レフ……」

 

「ふっ、ご丁寧にネロまで連れてきたか。都合がいい……ネロに絶望を与えるサーヴァントで消し去ってやる!!」

 

レフは聖杯を取り出して輝かせると、奥から一つの影が歩いてきた。

 

ゆっくりと歩みながら現れたのは煌びやかな装飾に身を包んだ赤い瞳が怪しく輝く巨躯の男性のサーヴァントだった。

 

その手には朱色の槍が握られており、恐らくランサークラスだった。

 

「勇ましき者よ。実に、勇ましい。それでこそ、当代のローマを統べる者である」

 

「なっ……!??」

 

その巨躯のサーヴァントはネロに向かって親しげに話しかけ、ネロは目を見開いて言葉を失っていた。

 

「お前がネロか。何と愛らしく、何と美しく、何と絢爛たることか。その細腕でローマを支えてみせたのも大いに頷ける。私はお前を愛しておるぞ」

 

「ま、ま、まさか……あなたは、始祖ロムルス!?」

 

「お、おい!始祖ロムルスって言えば、確かローマ帝国を作った王様じゃねえか!?」

 

ローマ帝国の父、ロムルス。

 

ネロの御先祖であり、ローマ建国の王である。

 

カエサルが言っていた『あの方』とはロムルスの事だったのだ。

 

ネロが……否、歴代ローマ皇帝が最も敬愛する存在であるロムルスが敵であることにショックを受けていた。

 

しかし、ネロは既に覚悟を決めており、心を奮い立たせながら原初の火を構える。

 

「例え、ローマ建国の王、始祖ロムルスが余の敵だろうと関係ない。余こそが、ローマ帝国第五代皇帝に他ならぬ!ローマを守るために、あなた様を倒す!!余の……大切な仲間と共に!!!」

 

ネロのローマ皇帝としての威風堂々とした様に続き、遊馬やマシュ達も戦闘態勢を取る。

 

「さあ、行け!ロムルス!奴らを……」

 

レフは聖杯を輝かせてロムルスに命令を下そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はローマだ。そして、彼らもローマだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロムルスは一瞬で振り返り、その手にある朱色の槍でレフを薙ぎ払った。

 

「ウゴァッ!?」

 

油断していたレフはまともにロムルスの一撃で薙ぎ払われ、城の残骸に激突した。

 

「「「えっ!!??」」」

 

「「「なっ!!??」」」

 

突然の事態に遊馬たちは目を疑った。

 

レフに召喚され、本来なら遊馬達の敵であるはずのロムルスがマスターであるレフを攻撃したのだ。

 

ロムルスは追撃でレフに近づいて攻撃しようとした。

 

「おのれ、やはり裏切ったか!!ならば消えろ!!!」

 

レフの右手から無数の触手が現れ、その触手の先端が刃物のように鋭くなり、一斉にロムルスの体を貫いた。

 

「うぐっ!?」

 

「始祖ロムルス!!?」

 

「やめろぉおおおおおっ!!!」

 

遊馬はホープ剣を呼び出して投げ飛ばし、ブーメランの要領で触手を切り裂いた。

 

倒れるロムルスを遊馬は受け止め、マシュは盾で警戒しながら前に出て、ネロは涙を浮かべながらロムルスに駆け寄る。

 

「始祖ロムルス、どうして……!?」

 

「我が愛しき子、ネロよ……最初はお前に立ち塞がる壁として戦うつもりだったが、その必要は無くなった……」

 

「えっ……?」

 

ロムルスはネロの涙をその逞しい指で拭い、優しく頭を撫でた。

 

「ネロ、お前は多くの友と共に試練を越えてきた……そして、見事私の想像を越えた立派なローマ皇帝となった」

 

ロムルスは最初からネロを立派なローマ皇帝として鍛えるためにわざと敵のふりをしていたのだ。

 

まるで娘の成長を促し、見守る父親のように……。

 

「行け、ネロ。お前の友と共にローマを救うのだ!忘れるな、ローマは永遠だ!」

 

「はいっ……!!」

 

「少年よ……ネロを頼む……」

 

「ああ、任せろ!」

 

遊馬はロムルスと強く手を握って約束を交わした。

 

遊馬はそのまま契約を交わしてロムルスを助けようとするが既に手遅れでロムルスは消滅してしまった。

 

ロムルスのフェイトナンバーズが辛うじて残り、遊馬はそれを静かに拾うとネロに渡した。

 

「始祖ロムルス……」

 

ネロはロムルスのフェイトナンバーズを抱きしめながら涙を流した。

 

「かっこいいじゃねえか、ネロのご先祖様……」

 

ロムルスの想いを受け取った遊馬はネロを立ち上がらせてサーヴァントたちに指示を出す。

 

「マシュ、みんな。ネロを頼む。あいつは……俺が倒す」

 

遊馬はダイソン・スフィアとスペリオル・ドーラを戻して一度リセットし、全てのカードをデッキとエクストラデッキに戻す。

 

そして、デュエルディスクの機能でデッキを自動でシャッフルし、新たにデッキトップから5枚を手札にする。

 

「レフ、お前は俺たちの力で倒す!」

 

「今度は腕一本では済まないと思え!」

 

遊馬とアストラルはキリッと視線を鋭くし、デュエルディスクを構えてデュエリストとしての戦闘態勢を取る。

 

レフは立ち上がり、スーツに着いた砂埃を手で払う。

 

「ちっ……やはり所詮はサーヴァント。使えぬ存在だな」

 

「人の心はそう簡単に曲げられねぇんだよ」

 

「言うじゃないか、小僧……そう言えばフランスでは大活躍だったみたいじゃないか。まったく、おかげで私は大目玉さ!」

 

「大目玉……つまり、貴様の背後にいる黒幕に怒られたと言うことだな?」

 

アストラルはレフの話から背後に黒幕が存在することを確かめた。

 

「そうさ。本来ならとっくに神殿に帰還していると言うのにら子供の使いさえできないのかと追い返された!結果、こんな時代で後始末だ。聖杯を相応しい愚者に与え、その顛末を見物にする愉しみも台無しだよ」

 

「そう言うことか。その時代に関係する人物に聖杯を与えれば時代が勝手に狂うと言うわけか……フランスではジルが滅亡を望んでいた。しかし……」

 

「ロムルスは違っていたみたいだな。だからてめえが介入するしかなかったんだな」

 

「ほざけカス共。人間なんぞ初めから期待していない。君もだよ、九十九遊馬君。凡百のサーヴァントを掻き集めた程度で、このレフ・ライノールを阻めるとでも?」

 

「……スペリオル・ドーラとダイソン・スフィアの攻撃に追い詰められて焦っていたのはどこのどいつだっけ?カッコ悪かったぜ、さっきのてめえの姿。このD・ゲイザーで録画してあるから後でカルデアで見直すぜ」

 

遊馬らしからぬ口の悪い発言にアストラルは脳裏に結構普段から口が悪い凌牙とカイトを思い出した。

 

しかし、遊馬が口の悪い発言をしたのは大切な仲間であるマシュ達サーヴァントのみんなを馬鹿にしたことを許せなかったからである。

 

オルガマリーに冷静で言われたが流石の遊馬も堪忍袋の尾は既に引き千切られていた。

 

頭は冷静だったが、その心は静かな怒りの炎で燃えていた。

 

「黙れ!今さっきのは油断していただけだ!貴様もいつまでこんな無駄なことを続けるつもりだ?」

 

「どう言う意味だよ?」

 

「お前達は思い違いをしている。聖杯を回収し、特異点を修復し、人類を、人理を守るぅ?バカめ、貴様達は既にどうにもならない。抵抗しても何の意味もない。終末は確定している。貴様たちは無意味、無能!」

 

「馬鹿なのはてめえだ、レフ」

 

レフの言葉に遊馬は真っ向から否定する。

 

「何だと?」

 

「未来は無限の可能性があるんだ。例えてめえらが未来を消し去っても、絶望の中には必ず、一筋の希望の光がある。その希望を掴み、未来を守る為に俺たちはここにいる!」

 

遊馬はどれほどレフに未来を否定されようが絶対に諦めない。

 

この程度の絶望は既に経験しているからである。

 

そして、絶望から希望を掴む為のすべを遊馬は誰よりも知っている。

 

「俺が一人だったら未来を守れないかもしれない。だけど、俺は一人じゃない!相棒、友、仲間……大切な人たちがいる!この絆がある限り、俺たちは決して負けない!それを証明してやるぜ!!」

 

「ならば、哀れにも消えゆく貴様たちに!今!私が!我らが王の寵愛を見せてやろう!!」

 

そして、レフが光に包まれるとそこに現れたのは信じられないものだった。

 

もはや人ではない、無数の不気味な目が集まり、巨大な肉の柱のような形をした出来たモンスターだった。

 

レフの正体が不気味なモンスターという衝撃的な真実にマシュ達は目を疑った。

 

D・ゲイザーで見ていたカルデアでもこれは衝撃的過ぎで急いでデータを取って情報収集をしていた。

 

「改めて、自己紹介をしよう。私はレフ・ライノール・フラウロス。七十二柱の魔神が一柱!魔神フラウロス!これが、王の寵愛そのもの!」

 

レフの真名、フラウロスにアストラルは耳を疑って顎に手を添える。

 

「フラウロス……七十二柱……まさか、彼の言う王とは……」

 

アストラルが持つ知識を総動員させて仮説を立てていくが、まだあまりにも敵側の知識が足りない。

 

一旦考えるのを止めてレフに視線を向ける。

 

「アストラルの言ってた通りだな……本物のモンスター、化け物だったわけだな!」

 

「……これほど醜いモンスターとは。まるで貴様の心をそのまま表しているな、レフ!!」

 

「敵が人間じゃなくてモンスターなら、容赦は一切いらないな!!」

 

レフが人間ではなく本物の悪魔だと知り、遊馬とアストラルは一切の迷いなく倒すことができる。

 

するとレフは自分の体の一部を切り落とすと、聖杯の影響か肉片が分裂して無数に増える人型のゴーレムみたいなモンスターを大量に作り出してネロに向かって襲わせる。

 

「みんな、ネロを守れ!!」

 

「私と遊馬でレフを倒す!!」

 

「遊馬君、頑張ってください!」

 

「ユウマ、頼むぞ!」

 

「おう!任せろ!!」

 

マシュとネロの声援を受け、遊馬はガッツポーズを見せてレフと対峙する。

 

マシュ達サーヴァントはネロを守るためにそれぞれのクラスに適した陣形を取ってゴーレムと戦闘を開始した。

 

遊馬がレフと戦う前にアストラルはどうしても言っておきたいことがあった。

 

「レフよ、始めに言っておく。人間は確かに愚かな存在かもしれない……だが、貴様は見落としている。人間には無限の可能性を秘めているということを!!」

 

「アストラル……」

 

「そして、人間の持つ欲望の力……『カオス』は私たちの想像を超える力を秘めている!」

 

カオス、それは生命の持つ欲望の力。

 

生きる力であり、生きとし生けるもの全てに必要なものであるが同時に破滅を招く力になりうるものである。

 

遊馬とアストラルはヌメロン・コードを賭けた戦いの中でカオスは決して悪いものではない、生きるために必要な力だと学んだ。

 

「遊馬、あの男に見せてやれ!そのデッキに眠る、君と仲間たちのカオスの力を!君たちが自分の意思で歩いてきた欲望と言う名の強い心の力を!!」

 

「おう!!行くぜ、俺のターン!!」

 

遊馬がシャッフルし直したデッキのトップに右手が触れようとしたその時、遊馬の右手が真紅に輝いた。

 

「これは……!?」

 

「この紅い光……感じるぜ、みんなの熱い想いが!」

 

それは人間の生きるための欲望の力……カオスの力。

 

かつて遊馬とアストラルの敵として対峙した七人の皇、バリアン七皇の強大なカオスの力である。

 

「行くぜ!ナッシュ!メラグ!ドルベ!ベクター!アリト!ギラグ!ミザエル!バリアン七皇の力をあいつに見せてやろうぜ!!!」

 

遊馬の左右に七人……否、七人の人を超えた存在の幻影が現れた。

 

それはかつてバリアン世界を守護するためにドン・サウザンドが選び、呪いをかけた七人の皇である。

 

そして、ドローをする遊馬と七つの幻影が重なり、声を揃えて叫んだ。

 

「バリアンズ・カオス・ドロー!!!」

 

それはバリアン七皇のリーダー、ナッシュが他の七皇に与えた力。

 

バリアンの強大な力を秘めたカードやその他のデッキのカードをデッキトップに置く事ができ、シャイニング・ドローと対を成す力である。

 

「来たぜ、みんな!俺はドローしたこのカード、『RUM(ランクアップマジック) - 七皇の剣(ザ・セブンス・ワン)』を発動!!」

 

「ランクアップ、マジック!?」

 

それは北斗七星を模した七つの星にバリアンの紋章が描かれた魔法カードで遊馬が今まで使った魔法カードとは異なる力を持っている。

 

ランクアップマジックとはモンスターエクシーズをランクアップさせ、更なる力を持つ上級のモンスターエクシーズを特殊召喚する特別な魔法カードである。

 

「このカードは通常ドローをした時に発動する事が出来る!エクストラデッキ、または墓地から『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』を特殊召喚して、そのモンスターをカオス化させる!」

 

「はぁ!?ノーコストで正規召喚をすっ飛ばしてモンスターエクシーズを召喚ですって!!?」

 

絶賛デュエルモンスターズを勉強中のレティシアは七皇の剣の驚異的な能力に驚愕していた。

 

本来ならモンスターエクシーズは指定のレベルや種族のモンスターを素材にしてエクシーズ召喚を行うが、七皇の剣はそれを無視して一気にバリアン七皇の強力な切札である『オーバーハンドレッド・カオスナンバーズ』を特殊召喚できる。

 

「行くぜ、シャーク!現れろ、No.101!」

 

空中に水色の『101』の刻印が浮かび、フィールドが一時的に海となってそこから巨大な何かが浮上する。

 

「満たされぬ魂を乗せた方舟よ、光届かぬ深淵より浮上せよ!『S・H・Ark Knight(サイレント・オナーズ・アーク・ナイト)』!!」

 

現れたのは白を基調とした巨大な戦艦の姿をしたモンスター。

 

それはバリアン世界を守るため、そしてバリアン世界に行き着いた魂を宿す巨大な箱舟である。

 

そして、S・H・Ark Knightの中心部に封印されている漆黒の守護者が目を覚ます。

 

「そして、S・H・Ark Knightでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

S・H・Ark Knightが光となって地面に吸い込まれ、真の力を解き放つ。

 

「現れろ、CNo.101!」

 

異次元にてS・H・Ark Knightの中心部に眠る漆黒の守護者の封印が解かれ、戦場へ赴くために発射され、遊馬の前に召喚される。

 

「満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け!!『S・H・Dark Knight(サイレント・オナーズ・ダーク・ナイト)』!!!」

 

漆黒の装甲に身を包み、混沌の深淵をその身に宿し、仇なす敵を滅ぼす三俣の槍を操る槍術士である。

 

「おいおい、まじかよ……これはスカサハ並みの強ぇオーラを持ってるじゃねえか……!!」

 

同じ槍兵であるS・H・Dark Knightを目の当たりにしたクー・フーリンはその身から沸き起こる強者のオーラに師であるスカサハを連想させる。

 

「な、何だそれは!?その身から溢れる魔力は何だ!?」

 

レフはS・H・Dark Knightから溢れるカオスの力に本能的に恐れた。

 

「このモンスターはな、一つの世界を背負って戦った俺の仲間の真のエースモンスターだ!」

 

オーバーハンドレッド・ナンバーズ。

 

それは本来アストラルの記憶で1から100までしかないナンバーズを越えた101から107の7つの数字を持つドン・サウザンドが作り上げたバリアン七皇を操る呪いのナンバーズ。

 

しかし、人間として転生して新たな生を受けたバリアン七皇が遊馬の為に新たに作り上げた正しき力を持つオーバーハンドレッド・ナンバーズである。

 

「カードを1枚セットして、S・H・Dark Knightの効果!1ターンに1度、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターをこのモンスターのカオス・オーバーレイ・ユニットにする!ダーク・ソウル・ローバー!!」

 

S・H・Dark Knightは槍をレフに向けて光線を放つと悪魔の肉体の一部を取り込み、赤い菱形の結晶体であるカオス・オーバーレイ・ユニットへと変化した。

 

「ば、馬鹿な!?私の体の一部を消し去っただと!?」

 

「ちっ!取り込めたのは体の一部だけかよ!」

 

「全て取り込めればよかったのだが、そう簡単に行かないようだ。だが、レフの力の一部を奪えたことには変わりない。行け、遊馬!」

 

「おう!S・H・Dark Knightで攻撃!!ダーク・ナイト・スピア!!!」

 

S・H・Dark Knightは槍を振り回し、見事な槍投げをしてレフの体に突き刺さり、爆発が起きる。

 

投げた槍はS・H・Dark Knightの手元に戻り、レフは激怒しながら触手を伸ばす。

 

「よくも……!やってくれたなぁっ!消えろぉっ!!」

 

触手がS・H・Dark Knightの体を貫き、爆発を起こして破壊された。

 

「ダーク・ナイトが!?」

 

「心配するな、マシュ!この瞬間、S・H・Dark Knightの効果発動!リターン・フロム・リンボ!!」

 

目の前の空間がヒビ割れ、中から破壊されたS・H・Dark Knightが現れて復活した。

 

「な、何だと!?」

 

「カオス・オーバーレイ・ユニットを持っているS・H・Dark Knightが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地にS・H・Ark Knightが存在する場合、このカードを墓地から特殊召喚できる!更に、自分はこのカードの元々の攻撃力分のライフを回復する!」

 

S・H・Dark Knightが槍を掲げると癒しの光が遊馬に降り注ぎ、元々の攻撃力分のライフ……2800ポイントも回復する。

 

「朽ちる事を知らず、何度でも立ち上がる不死身の槍術士……それがS・H・Dark Knightだ!!!」

 

「流石はシャークの真のエースモンスター。敵にすると恐ろしいが、味方だとこれほど頼もしいことはない!」

 

かつては敵として対峙していたS・H・Dark Knightだが、今は遊馬とアストラルと共に戦う仲間としてその力を振るう。

 

「やべぇ……不死身とか本当に師匠みたいじゃねえか」

 

クー・フーリンはS・H・Dark Knightが益々スカサハに似ていることに戦慄するのだった。

 

「俺のターン、ドロー!S・H・Dark Knightの効果!ダーク・ソウル・ローバー!!」

 

「ぐぉおおおっ!?」

 

S・H・Dark Knightは再びレフの体の一部を吸収してカオス・オーバーレイ・ユニットに変換する。

 

「まだまだ行くぜ!魔法カード『フォトン・サンクチュアリ』を発動!フィールドにフォトントークン2体を生成し、リリースして『フォトン・カイザー』をアドバンス召喚!フォトン・カイザーの効果でデッキからもう1体のフォトン・カイザーを特殊召喚!」

 

2体のフォトントークンをリリースして召喚されたのは剣と盾を持つ騎士の姿をしたモンスターで、その効果で同名モンスターをもう一体呼び出す。

 

「更に魔法カード『銀河遠征』でデッキから『銀河眼の光子竜』を守備表示で特殊召喚!これで条件は整った。レティシア!」

 

「な、何!?」

 

突然呼ばれてビクッと震えたレティシアに遊馬はニッと笑みを浮かべた。

 

「今から見せてやるよ、銀河眼の光子竜のもう一つの進化形態を!!」

 

「え!?本当に!?」

 

レティシアは銀河眼の光子竜皇以外の銀河眼の光子竜のもう一つの進化形態が見られると聞いて戦いの最中だということを忘れて目を輝かせてしまう。

 

遊馬がそのカードを持った瞬間、先ほどの右手と同じ真紅に輝くカオスの光が体を覆うように纏った。

 

「行くぜ!俺はレベル8の銀河眼の光子竜とフォトン・カイザー2体でオーバーレイ!!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

銀河眼の光子竜とフォトン・カイザーが光となって天に昇り、大きな光の爆発を放つと、遊馬の手に藍色の大きな槍の形をした物が現れる。

 

「カイト、ハルト、行くぜ!逆巻く銀河よ、今こそ怒涛の光となりて、その姿を現すがいい!」

 

遊馬はその槍をクー・フーリンを思い出しながら天に向けて投げ飛ばす。

 

天に投げ飛ばされた槍は超新星の如き巨大な光の爆発を生む。

 

「降臨せよ、強き絆で結ばれし兄弟の魂!」

 

それはモンスターエクシーズキラーである銀河眼の光子竜の力を更に高めたカイトの切り札。

 

「『超銀河眼の(ネオ・ギャラクシーアイズ・)光子龍(フォトン・ドラゴン)』!!!」

 

『ギュオアアアアアアアアッ!!!』

 

それは銀河眼の光子竜よりも一回り大きく、その体は今の遊馬と同じく真紅に輝き、藍色の装甲に身を包み、両肩には第二と第三の顔がある三つ首の龍が降臨した。

 

超銀河眼の光子龍は兄のカイトと弟のハルト、二人の互いを強く想いやる兄弟の絆で誕生した奇跡のモンスターである。

 

「綺麗……」

 

レティシアは銀河眼の光子竜皇とはまた違う、美しさと勇ましさを持つ超銀河眼の光子龍に目を奪われてしまった。

 

「超銀河眼の光子龍の効果!フォトン・ハウリング!!」

 

『グォオオオオオン!!!』

 

超銀河眼の光子龍の三つの首から咆哮が轟き、S・H・Dark Knightが少し項垂れてしまい、更にそれはレフにも影響を与える。

 

「うがぁっ!?な、何だ!?私の、悪魔の力が、消える!?」

 

悪魔となったレフはその強大な力が消えてしまった。

 

それは超銀河眼の光子龍の持つ強力な効果に秘密がある。

 

「超銀河眼の光子龍は『銀河眼の光子竜』を素材にしてエクシーズ召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上の表側表示で存在する効果を全て無効にする!!」

 

銀河眼の光子竜を使った正規のエクシーズ召喚をすることで表側カードの効果を無効にする。

 

本来ならオーバーレイ・ユニットを使って相手フィールドのモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットを全て墓地送り、その数×500ポイント攻撃力が上昇し、更にその数だけ攻撃できるのだがそれは使えない。

 

しかし、レフの効果を無効にしただけでも十分である。

 

「レフ!てめえがどんな悪魔か知らねえけど、その力が消えたら弱体化するよな!」

 

「おのれ、よくもぉおおおおおっ!!」

 

「行け、遊馬!」

 

「おうっ!超銀河眼の光子龍の攻撃!!アルティメット・フォトン・ストリーム!!!」

 

超銀河眼の光子龍の三つ首の口に真紅の光を溜め、一気に解き放ち、悪しき力を破壊する竜の咆哮を轟かせた。

 

三つの竜の咆哮はレフの体を一気に破壊した。

 

「ぐぁああああああっ!!?」

 

「続け、S・H・Dark Knight!ダーク・ナイト・スピア!!」

 

S・H・Dark Knightは槍を投げてレフの体を貫き、爆発させて手元に戻る。

 

「おのれ、ならばせめてその槍兵だけでも破壊してやる!」

 

実は超銀河眼の光子龍の効果でS・H・Dark Knightの効果が無効になっており、今のうちに破壊しようとレフは光線を放つが遊馬は既に最初から対策をしていた。

 

「罠発動!『亜空間物質転送装置』!自分フィールドのモンスターをエンドフェイズまで除外する!S・H・Dark Knightを亜空間に転送する!」

 

S・H・Dark Knightが光線に貫かれる直前に亜空間に転送し、レフの攻撃を回避した。

 

「くっ!?」

 

「超銀河眼の光子龍には攻撃出来ないよな、今のてめえじゃ返り討ちにあうからな!エンドフェイズ時にS・H・Dark Knightが亜空間から帰還!亜空間に転送されて戻ったことでその効果は復活したぜ!」

 

超銀河眼の光子龍の効果で無効になっていたS・H・Dark Knightは再びその効果を使用することができる。

 

「俺のターン、ドロー!っ!?こいつは……」

 

遊馬はドローしたそのカードに目を見開いた。

 

「彼のカードか……この布陣なら適しているな」

 

「ああ……行くぜ!魔法カード、『エクシーズ・ギフト』を発動!モンスターエクシーズが2体以上いる時、オーバーレイ・ユニットを2つ取り除いてデッキから2枚ドローする。俺は超銀河眼の光子龍のオーバーレイ・ユニットを取り除いて2枚ドロー!!」

 

超銀河眼の光子龍の3つあるオーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、デッキから2枚ドローしてそこから一気にエースモンスターを呼び出す。

 

「『ゴゴゴゴーレム』を召喚!更に手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚!俺はレベル4のゴゴゴゴーレムとカゲトカゲでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

遊馬とアストラルのエースモンスター、希望皇ホープがエクシーズ召喚され、二人の前に降臨する。

 

そして遊馬は願いを込めるようにドローしたカードを額に持っていき、そのカードを掲げて発動する。

 

「行くぜ、真月!俺は『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!!」

 

「2枚目のランクアップマジック!?」

 

それは最初に使用した七皇の剣に描かれたバリアンの紋章の周囲に装飾がされている魔法カードで遊馬が使用出来るように本来の力を制限されたバリアンのRUMである。

 

「このカードは自分フィールド上のランク4のモンスターエクシーズを1体選択して発動!選択したモンスターよりランクが1つ高い『CNo.』を選択したモンスターの上に重ねて、エクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する!俺はランク4の希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!!カオス・エクシーズ・チェンジ!!!」

 

希望皇ホープが赤い光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「現れよ、CNo.39!」

 

空中に赤黒い『39』の刻印が浮かび、周囲の空間が薄暗くなる。

 

「混沌を統べる赤き覇王!悠久の戒め解き放ち、赫焉となりて闇を打ち払え!!」

 

地面から現れたのはホープレイの時とはまた違うシャープした形の漆黒の剣を模したものだった。

 

そこから人型へと変形し今までのホープとはまるで異なる姿と力を有した破壊の戦士が現れる。

 

「降臨せよ!『希望皇ホープレイV』!!」

 

漆黒の鎧に真紅のラインが体中に伝い、3つのカオス・オーバーレイ・ユニットを携えた闇の希望皇が降臨した。

 

それは同じCNo.39である希望皇ホープレイとは異なり、光の力ではなく純粋な闇の力を持つ存在だった。

 

「希望皇ホープが……なんて禍々しい……」

 

希望皇ホープを何度も間近で見ていたマシュは今の希望皇ホープはとても禍々しく見えていた。

 

何故遊馬が敵であったバリアンの力を使えるのか?

 

それは遊馬が歩み、培ってきた長い戦いがそれを可能にしたのだ。

 

まず遊馬は人間であることから、欲望であるカオスの力を少なからず秘めている。

 

次に遊馬はかつてIIIとのデュエルで消滅したアストラルを救うために『紋章』と呼ばれるバリアン世界由来の力をその身に取り込み、激痛に蝕まれながらもそれに耐えて掌握する事ができた。

 

そして、友……真月から譲り受けた眠るバリアンの力を制限させたランクアップマジックとサポートモンスター……それを見事に使いこなせた遊馬にはバリアンの力を使うための耐性が出来ているのだ。

 

「希望皇ホープレイVの効果!カオス・オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスターを破壊してその攻撃力分のダメージを与える!Vブレードシュート!!」

 

カオス・オーバーレイ・ユニットを1つ取り込んだ希望皇ホープレイVはシャープに変化した双剣のホープ剣を柄同士で接続させ、投げ飛ばすと回転しながら飛び、レフの体に直撃すると大爆発を起こす。

 

「続け、S・H・Dark Knight!ダーク・ソウル・ローバー!!」

 

無効になっていたが亜空間に飛んだことでその効果が復活したS・H・Dark Knightはレフの体の一部を取り込んで新たなカオス・オーバーレイ・ユニットを作り出す。

 

爆撃と吸収の連続攻撃で大打撃を受けたレフは既に肉体の半分近くが失われ、肉片が飛び散って大量の血が流れていた。

 

「馬鹿な、私が……この私が何故……!?」

 

レフは何故自分がここまで追い込まれているのか理解できなかった。

 

その答えを知っているアストラルは堂々と説明した。

 

「見たかレフ。ここには三人のカオスの力を集結させたモンスターエクシーズが揃っている!」

 

「三人の、カオスだと……!?」

 

希望皇ホープレイV、S・H・Dark Knight、超銀河眼の光子龍はそれぞれの所有者たちのカオスの力が込められている。

 

「一人目は歪められた自分の運命を呪いながらも皇として世界の為、愛する民の為、共に戦う仲間の為、儚き光を掴もうと戦い続けてきた『冀望(きぼう)』!」

 

S・H・Dark Knightの前にシャークこと神代凌牙……バリアン世界を守護するバリアン七皇のリーダー、ナッシュの幻影が現れる。

 

「二人目は愛する者を救う為に己の全てを捧げ、例え世界の全てを敵に回しても、自分がどれだけ傷ついても、愛する者を必ず救おうと戦い続けてきた儚き『願い』!」

 

超銀河眼の光子龍の前に紅い光を纏う天城カイトの幻影が現れる。

 

「三人目……それは多くの人の冀望と願い、そして想いを背負い、どんなに辛く険しい道でもその全てを救い、守る為に自分の信じるたった一つの道を歩き続け、それを見事に成し遂げた揺るぎなき『信念』!」

 

そして、遊馬が静かに歩いて希望皇ホープレイVの前に立つ。

 

遊馬、ナッシュ、カイト……三勇士が持つ欲望……カオスの力が勢揃いした。

 

ナッシュとカイトの幻影が静かに消えると遊馬はレフを指差して叫んだ。

 

「レフ……てめえは人間を舐めすぎだ。ここにいる三体のモンスターは俺とシャークとカイト、三人のそれぞれの強い欲望の力……カオスが秘められているんだ!人間を見下しているてめえなんかに負けたりしない!!」

 

冀望、願い、信念。

 

純粋でありながらも大きな欲望。

 

欲望が大きな力となって悪魔となったレフをも遥かに凌駕する。

 

(何故だ!?何故こんな子供とあの精霊がこれほどまでに強大な力を!?これではまるで、”王”と並び立っているではないか!?)

 

レフは遊馬とアストラルが持つ強大な力に戦慄した。

 

「俺たちのカオスの力で、てめえをぶっ飛ばす!!レフ、カルデアのみんなへの懺悔の用意は出来ているか!!」

 

『ホォオオオオープッ!!』

 

『ウォオオオオオオッ!!』

 

『ギュオアアアアアッ!!』

 

遊馬の強い思いに応え、希望皇ホープレイVとS・H・Dark Knightと超銀河眼の光子龍が咆哮を轟かせる。

 

遊馬とレフ、因縁の対決が遂に終幕を迎える。

 

 

 

.




ホープレイV、S・H・Dark Knight、超銀河眼の光子龍、バリアン世界の力が集結しました。
バリアンズカオスドローも出来る遊馬の進化が止まりませんね。
まあこれはナッシュ達、バリアン七皇の力添えもありますが、
そして次回はレフ終了のお知らせです。
この布陣に勝てるわけないですなぁ。

今後執筆予定の話を一覧でまとめました。
☆第二特異点
★ぐだぐだ本能寺
☆第三特異点
★Zero
☆第四特異点
★空の境界
★監獄塔
☆第五特異点
★プリズマイリヤ
★サマーメモリー
★羅生門
★鬼ヶ島
☆第六特異点
★セイバーウォーズ
☆第七特異点

こんな感じで書こうと思います。
先が長すぎる……(^_^;)


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ナンバーズ29 二つの予想外な英霊召喚

早めに書けたので投稿します。

ようやく第2章も終わりが近づいてきました。

多分次回で第2章が終わると思います。

そしたらぐだぐだ本能寺を早速執筆します。


遊馬と凌牙とカイト……三勇士のカオス・エクシーズを呼び出した遊馬はレフとの決着に臨んだ。

 

「行くぜ!カードを二枚伏せ、希望皇ホープレイVで攻撃!ホープ剣・Vの字斬り!」

 

希望皇ホープレイVは双剣を構えて飛翔し、急降下しながら『V』を描くように双剣を振い、レフを切り裂く。

 

「続け、S・H・Dark Knight!超銀河眼の光子龍!!」

 

「ダーク・ナイト・スピア!アルティメット・フォトン・ストリーム!!」

 

黒槍の槍投げと三首龍の咆哮がレフの体を更に破壊した。

 

肉体の九割近くを失い、もはや虫の息だったがレフはまだ諦めていなかった。

 

「まだだ、まだ私には聖杯の力がある!!聖杯よ、私に力ぉおおおおおっ!!」

 

レフが持っていた聖杯は今悪魔となった体内に隠されており、最後の手段として願望器である聖杯の力を使う。

 

聖杯の力で失った肉体を再生され、その力を何倍にも上昇させた。

 

「聖杯の力で強化したのか!?」

 

「遊馬、来るぞ!」

 

「消えろぉおおおおおおおおっ!!」

 

レフは全身から触手と光線を放ち、三体を破壊……もしくは吸収するために聖杯の力を使った最も強力な攻撃を放つ。

 

三体のモンスター……否、遊馬とアストラルだけはここでなんとしてでも倒す、ここで倒さなければ後々面倒なことになる……レフはその気持ちで攻撃を放った。

 

しかし、遊馬とアストラルのデュエルは強力なモンスターで攻撃するだけが取り柄ではない、徹底した防御策も設置済みであった。

 

「永続罠カード、発動!『ナンバーズ・ウォール』!!更にチェーンして超銀河眼の光子龍を対象に永続罠カード『安全地帯』!!」

 

空中に『39』と『101』の刻印が浮かび上がり、更に眩い閃光が放たれた。

 

触手と光線が希望皇ホープレイVとS・H・Dark Knightと超銀河眼の光子龍に直撃するが三体とも破壊されなかった。

 

「破壊できない……!?何故だ、何故だぁああああっ!!??」

 

レフは三体のモンスターを破壊できなかった事に目の前の現実を疑った。

 

その理由は今発動した二枚の罠カードに大きな秘密がある。

 

「ナンバーズ・ウォールは自分フィールド上に『No.』と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。このカードがフィールド上に存在する限り、『No.』と名のついたモンスターは効果では破壊されず、更に『No.』と名のついたモンスター以外との戦闘では破壊されない!」

 

「これにより、ナンバーズであるホープレイVとS・H・Dark Knightは破壊されない!」

 

元々ナンバーズはアストラルの記憶の欠片であり、その亜種でもあるオーバーハンドレッド・ナンバーズは全て遊馬とアストラルの元にある。

 

つまり、ナンバーズ・ウォールが発動している限りフィールドに召喚されたナンバーズはかつてレティシアがリバイス・ドラゴンを洗脳して奪った時のように攻撃しない限り、ほぼ無敵の存在になったということだ。

 

「更に、超銀河眼の光子龍を対象にして発動した安全地帯。これは選択したモンスターは相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されない!!」

 

超銀河眼の光子龍はその罠カードの名前の通り、敵の攻撃を受けない場所にいるかのように守られている。

 

「つまり、これで私たちのフィールドの三体のモンスターは貴様に破壊されることはない!」

 

ただし、攻撃力が超過されていたのでその分のダメージを遊馬は受けたが、S・H・Dark Knightの復活効果でライフが回復していたので大した問題ではない。

 

尽くレフの出していく手を潰していき、確実に追い詰めていく。

 

「何故だ、何故私がこんな小僧に!?何故人間如きに私が追い詰められているんだ!!?」

 

目の前で起きている信じ難い現実にレフの表情はわからないが、人間の姿だったら明らかに動揺した表情を浮かべていると簡単に予測できるほどだった。

 

そんなレフに遊馬は静かに語りかけた。

 

「……レフ、お前は今まで何も思わなかったのか?」

 

「何をだ!?」

 

遊馬はずっと考えていた。

 

特異点『F』で最後に会った時からずっとレフが何を思ってカルデアにいたのかを。

 

最初から悪魔としてカルデアを裏切るつもりだったにしてもいくつか腑に落ちない点が多かった。

 

「少なくともお前はカルデアで長く過ごして、色々な人間と触れ合ってきたはずだ。カルデアの重要な装置のシバを開発して、オルガマリー所長はあんたを信頼していたし、ロマン先生は事件が起こる前には親しそうにお前の事を話していた。それに……」

 

遊馬はチラッとすぐ近くで遊馬とネロを守るために必死に盾を振るうマシュに視線を向けた。

 

「お前はマシュに親身になって魔術指導をしていたらしいじゃないか。それなのに、お前は本当に人間に対して何も思わなかったのか……?」

 

レフがカルデアにいた時、マシュに魔術指導をしていた。

 

それこそオルガマリーが嫉妬するくらい親身になって教えていた。

 

その事から口ではレフは敵だと言っていたマシュだが、心の底からは憎み切れてはいなかった。

 

遊馬の言葉に逆撫でされたのか、悪魔の姿となってしまったためにその表情は全く分からないがレフは苛立つように声を荒げた。

 

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇっ!私はレフ・ライノール・フラウロス!!七十二柱の魔神が一柱、魔神フラウロスだ!!人間の命をゴミ屑同然だ!人類の未来はもう終わっているんだ!!!」

 

レフは遊馬に本音を言う事なく悪魔だと言い張り、人類の未来を否定した。

 

遊馬はこれ以上何を言ってもレフは何も語らないと悟り、デッキに指を添える。

 

「終わってねえよ。俺たちがいる限り、人類の未来は必ず取り戻す。俺のターン、ドロー!!」

 

そのドローはレフとの因縁を終わらせるカードとなり、遊馬は勝利の方程式が導き出す答えを出す。

 

「来たぜ、アストラル……勝利の方程式は全て揃ったぜ!!」

 

「遊馬、このターンで決めるんだ!」

 

「おうっ!レフ、悪魔のお前を地獄の業火で焼き尽くしてやる!俺は『Vサラマンダー』を召喚!」

 

遊馬のフィールドに四つの首を持つ炎のモンスターが姿を現わす。

 

それは真月から遊馬に託されたモンスターで希望皇ホープレイVに強力な力を与える。

 

「Vサラマンダーは希望皇ホープレイVに装備できる!サラマンダー・クロス!!」

 

Vサラマンダーは赤い炎となって希望皇ホープレイVの双翼と合体した。

 

Vサラマンダーの四つの首が大きな銃口となり、希望皇ホープレイVが背中に巨大な銃器を背負った姿となった。

 

「Vサラマンダーを装備したホープレイVは1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、ホープレイVの効果を無効にする代わりに相手フィールド上のモンスターを全て破壊し、その数×1000ポイントダメージを相手に与える!!」

 

「な、何だと!??」

 

ホープレイVはオーバーレイ・ユニットを一つ取り込むとVサラマンダーの持つ地獄の炎の力が燃え上がり、そのまま四つの銃口に地獄の炎が宿る。

 

あの炎はまずい、そう思ったレフだがもう既に遅かった。

 

「レフ、これで終わりだ。悪しき力の全てを焼き尽くせ……Vサラマンダー・インフェルノ!!!」

 

四つの銃口から地獄の炎が解き放たれ、火炎放射となってレフの体を焼き尽くす。

 

「グギャアアアアアアッ!??」

 

「これで終わりだ……三体でトドメだ!!」

 

希望皇ホープレイV、S・H・Dark Knight、超銀河眼の光子龍は同時に攻撃し、地獄の炎で焼かれて苦しんでいるレフにトドメを刺した。

 

レフの体から光が漏れ出して爆発を起こした。

 

爆発と煙が止むと、そこにいたのはスーツがボロボロだがまだ生きているレフがフラフラになりながら立っていた。

 

「あれだけの攻撃を受けて、倒れないだと!?」

 

「流石は本物の悪魔、その生命力には驚かされるな……」

 

「まだだ、まだ、私は負けたりはしてない……人間ごときに……!!」

 

悪魔としてだけでなくその手に握られた聖杯の力もあり、辛うじてあれだけの攻撃を受けても生きていたのだ。

 

「レフ、もう諦めるんだ!これ以上私たちと戦っても無意味だ!」

 

「いい加減諦めて降伏しろ!そして、カルデアで所長たちの前で懺悔をさせてやる!!」

 

「黙れぇええええっ!私は未来焼却の一端を任された男だ、万が一の事態を想定してないと思ったか!?」

 

レフは聖杯を掲げて何かをしようとした。

 

特異点の聖杯が出来ること……それはサーヴァントの召喚である。

 

レフはこの場を切り抜けるための強力なサーヴァントを呼び出そうとしていると遊馬は咄嗟にそれを理解し、それを止めるために走り出した。

 

「させるかぁあああっ!!」

 

遊馬がレフを止めようと走り出した……その時だった。

 

「……I am the bone of my sword. (我が骨子は捻じれ狂う)

 

何かの呪文が聞こえ、走りながら振り向くとそこには黒弓を構えてドリルのように捻じ曲がった剣を矢のようにつがえているエミヤがいた。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

 

放たれた剣は遊馬の横を一瞬で通り過ぎ、目にも留まらぬ速さでレフの聖杯を持つ右腕を吹っ飛ばした。

 

「グギャアアアアアアッ!??」

 

腕を貫かれ、聖杯はレフから離れて地面に転がる。

 

「行け、マスター!!」

 

「よっしゃあぁあああああっ!!!」

 

遊馬は腕を思いっきり振って聖杯に向かって全力疾走で走った。

 

エミヤはそのまま遊馬が聖杯を確保してくれると思ったが……遊馬は予想外の行動に出た。

 

遊馬は聖杯……ではなく、レフに向かって走っていた。

 

腕を射抜かれて苦しんでいるレフの間合いに入り、ファイティングポーズを取って右手を強く握りしめた。

 

「歯を食いしばれ、レフ……これが、てめえに裏切られたカルデアのみんなの怒りだぁっ!!」

 

遊馬の右拳が金色に輝き、足を大きく踏み込んで全身の力を右拳に込めて放つ。

 

「マルタ直伝!!鉄拳聖裁!!!」

 

金色の右拳がレフの左頬を捉え、とても十三歳の少年が放つものではない強力なパンチとなり、レフは顔が歪むほど殴り飛ばされて城の瓦礫に激突した。

 

それは拳でリヴァイアサンの子である悪竜タラスクを説教した聖女、マルタから教わった一撃必殺のパンチである。

 

カルデアでエミヤに双剣を教わるついでにマルタから無手でも戦えるように教わっていた。

 

マルタは戦い方や技を教えながら遊馬の右手に『光の力』が宿っていることに気づき、悪を裁く正義の鉄拳である『鉄拳聖裁』を教えたのだ。

 

鉄拳聖裁は悪魔であるレフに大打撃を与え、体が痙攣して動く気配がなかった。

 

悪魔すら一撃で殴り倒す遊馬にアストラルとサーヴァントたちは戦慄した。

 

あの素直で可愛らしい少年が恐るべきスピードでどんどん逞しくなっていく。

 

ドウシテコウナッタ……?

 

アストラルとサーヴァントたちの心は一つになってそう思った。

 

遊馬はレフを殴り飛ばした直後に転がった聖杯の元へ走り、スライディングで地面を滑ってそのままキャッチして聖杯を確保した。

 

「聖杯ゲット!サンキュー、エミヤ!」

 

「……あ、ああ。ずっと奴の隙を伺っていた甲斐があったというものだ」

 

「シロウ、お見事です!」

 

エミヤは特異点『F』での出来事を忘れておらず、ずっと元凶であるレフに文字通り一矢報いる時を密かに伺っていたのだ。

 

だがまさか遊馬がマルタ直伝の鉄拳でレフを殴り飛ばすとは思いもよらなかったが……。

 

「レフ!この世界の特異点、聖杯は俺たちが手に入れた!大人しく降伏しろ!!」

 

聖杯をレフに向けてそう叫んだ……その時だった。

 

突然、聖杯が金色に輝き出し、膨大な魔力が迸る。

 

「な、何だ!?」

 

聖杯から四つの光が現れて地面に魔法陣を刻み込んだ。

 

そして、魔法陣が光り輝くと中から人の影が現れる。

 

「セイバー見参!あれ?へぇー、君結構かわいい顔をしているね。これは当たりのマスターかな?」

 

一人目は派手な和服と思われる衣装を着た綺麗な女性で刀を担いでおり、遊馬を見ると嬉しそうな表情をする。

 

「やっほー!ボクはライダーだよ!」

 

二人目は槍を持ったピンクの髪をした恐らく女性と思われる可愛らしい姿をしていた。

 

「キャスターよ。あなたがマスター……って、小さっ!?まだ子供じゃない!?」

 

三人目は薄い紫の髪や衣装をした耳の尖った儚い美しさを持つ女性だった。

 

「アサシン、参上。ほう、これはまた幼い少年がマスターとはな」

 

四人目は一人目の女性と同じく刀を持っていたが落ち着いた雰囲気をした和服を着たとても顔が整った男性だった。

 

その四人は驚くことにサーヴァントであり、しかも遊馬とパスが繋がっていた。

 

そして、四人のサーヴァントの内、キャスターとアサシンを知っている者がいた。

 

「「キャスター!?」」

 

「「アサシン!?」」

 

それはアルトリアとエミヤ、クー・フーリンとメドゥーサだった。

 

「あら……?キャー!セイバーじゃない!どうしてここに!?って、何でアーチャーにランサーにライダーもいるのよ!?」

 

「これはこれは、何と懐かしい顔ぶれだ。もしや今回は第五次聖杯戦争同窓会でも開かれるのかな?」

 

キャスターとアサシンもアルトリア達を知っているようだった。

 

カルデアのフェイトも使わず、一気に四人のサーヴァントが召喚されたことに遊馬は何が起きたのか全く理解できなかった。

 

「えぇえええええっ!?な、何でサーヴァントが四人も召喚されてるの!?何が起きたんだ!??」

 

「遊馬……その聖杯を持った時、何を思った?」

 

アストラルに質問され、遊馬はその時のことを思い出しながら頭を傾げる。

 

「え?そうだな……その時はレフにサーヴァントを召喚されるぐらいだったら、『俺の仲間になってくれるサーヴァントを呼び出してやろう』と思って……まさか!!?」

 

「どうやら聖杯はその願いを聞き入れて四人のサーヴァントを召喚してしまったようだな……」

 

「嘘ぉん!?」

 

遊馬の強い想いに聖杯が応えてしまい、四人のサーヴァントが同時に召喚されてしまったようだった。

 

結果的に仲間が増えたことを喜べばいいと思った矢先、アストラルは聖杯を見て目の色を変えた。

 

「遊馬!今すぐ聖杯を掴んでいるレフの手を払え!」

 

「えっ?うわぁっ!?」

 

聖杯をずっと掴んでいたエミヤの偽・螺旋剣で引き裂かれたレフの右手が突然強い閃光を放つと、遊馬の手から聖杯が消えてしまった。

 

そして、レフの左手に聖杯が現れ、見たことないような狂った表情を浮かべていた。

 

レフが魔術か悪魔の力を使って引き裂かれた右手が握っていた聖杯を手元に呼び戻したのだ。

 

「やべぇ、聖杯が……」

 

「この聖杯は、私のものだ……これで今度こそ、呼び出してやる……喜ぶがいい、皇帝ネロ・クラウディウス。真にローマの終焉に相応しい存在を呼び出してやろう!!」

 

レフが左手で聖杯を掲げると、魔力が再び迸り、魔法陣が現れてサーヴァントを召喚する。

 

「さあ人類の底を抜いてやろう!七つの定礎、その一つを完全に破壊してやろう!我らが王の、尊き御言葉のままに!来たれ!破壊の大英雄アルテラよ!!!」

 

魔法陣から召喚されたサーヴァント……それは儚い雰囲気を漂わせる少女の英霊だった。

 

褐色の肌に白い衣服を着た銀髪の少女……その手には未来的な形をした光の剣が握られており、恐らくはセイバークラスのサーヴァントだった。

 

「さあ、殺せ。破壊せよ。焼却せよりその力で以て、特異点もろともローマを焼き尽くせ!残念だったな、九十九遊馬!貴様がどれほど強力な召喚獣を呼ぼうとも、この究極の蹂躙者であるアルテラの前ではーー」

 

「ーー黙れ」

 

「え?」

 

スパン!!

 

レフが大喜びで召喚したアルテラを自慢しようとした矢先、そのアルテラによって頭から体を真っ二つに切り裂かれてしまった。

 

真っ二つに切り裂かれたレフは死体を残さずに消滅してしまった。

 

突然の事態に遊馬たちは騒然とし、フォウとマシュはその光景に顔を歪ませた。

 

「フォウ……!!」

 

「レフ、教授……!!」

 

裏切り者の敵とは言え、短い間でも一緒にいた存在が無惨に殺されてしまった姿を見てマシュは胸が苦しくなった。

 

「レフ……何でだよ……」

 

レフの最期がこんなにも呆気なく、無惨なものになってしまい、遊馬は呆気にとられてしまった。

 

しかし、レフの死を気にしている場合ではなく、アルテラはレフが残した聖杯を呼び込んでその身に取り込んでしまった。

 

「聖杯が!?」

 

「私は、フンヌの戦士である。そして、大王である。この西方世界を滅ぼす、破壊の大王。破壊の……」

 

アルテラの持つ光の剣が眩い閃光を放ち始めた。

 

あれは危険だと瞬時に判断した遊馬は全員が生き残るために一時撤退の道を選択した。

 

「全サーヴァント、フェイトナンバーズに戻れ!!」

 

遊馬はデッキケースを開いて掲げると契約を交わしてフェイトナンバーズを発現しているマシュ達全サーヴァントをフェイトナンバーズの中に入れる。

 

「遊馬君!?」

 

マシュは遊馬に手を伸ばすがそれよりも早く体が光の粒子となって強制的に全てのサーヴァントがフェイトナンバーズの中に入った。

 

先ほど召喚された四人のサーヴァントはまだ正式に遊馬と契約してないのでフェイトナンバーズがないのでそのままである。

 

「ちょっと!?セイバー達をどこにやったのよ!?」

 

セイバー達が消えたことに何が起きているのか理解できてないキャスターは遊馬に詰め寄る。

 

「この場から離脱するんだよ!」

 

「はぁ!?」

 

「キャスター!マスターの判断は正しいぞ!早くしないと全滅だ!!」

 

「あのサーヴァント、かなり危険だよ!」

 

アサシンがセイバーと共に刀を構えてアルテアと対峙するが、アルテラの持つ宝具からとんでもない光を放っていた。

 

「逃げるってどうするんだよ!?ボクの宝具じゃ定員オーバーだよ!」

 

ライダーには当然移動するための宝具があるが、この人数を運べるだけの大きさではなかった。

 

「逃げる船ならここにある!ネロ、側に来い!!」

 

「分かった!」

 

既に遊馬の元に近づきあるネロを呼び出すと、遊馬は皇の鍵に触れながら叫んだ。

 

「間に合え、かっとび遊馬号!!!」

 

瞬時に上空に皇の鍵の飛行船が現れて遊馬の意思に従って急降下し、遊馬とネロと四人のサーヴァントを艦内に緊急転送をした。

 

それに伴い、希望皇ホープレイVとS・H・Dark Knightと超銀河眼の光子龍も飛行船の後を追って飛び、その場にはアルテラだけが残った。

 

「破壊する。文明を、破壊する……!!」

 

アルテラは目の前の敵がいなくなり、一旦宝具の光を鎮めると、次は文明を破壊するために連合帝国に標的を向けた。

 

 

遊馬達は皇の鍵の飛行船に乗るとアストラルはすぐに操作して連合帝国から緊急脱出した。

 

アルテラの持つ謎の強力な宝具の範囲外へ脱出し、一安心すると遊馬はその場に座り込んでデッキケースを開いてマシュ達をフェイトナンバーズから出す。

 

「遊馬君、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、大丈夫だ……何とか撤退した……」

 

「だが、これは一時凌ぎにしかならない。早く作戦を考えないと……」

 

アストラルはサーヴァント達と共に作戦を立てようとしたが、状況を全く理解していない四人のサーヴァントの内、気が強いキャスターが口を挟む。

 

「ちょっと!あなた達、何がおきているのか説明しなさい!!ってかここは何よ!?」

 

「……マシュ、すまないが説明をお願い出来ないか?」

 

「は、はい!アストラルさん、わかりました!あの、私がちゃんと説明するので落ち着いて聞いてください」

 

アストラルに頼まれ、マシュは四人のサーヴァントにカルデアや特異点、そして遊馬とアストラルのことなどを簡潔に説明した。

 

まさか人理消失を阻止するための聖杯戦争に巻き込まれることになるとは思いもよらず、四人は困惑した。

 

「四人とも、偶然とはいえ呼び出して悪い。だけど、力を貸して欲しい。このままだとローマがアルテアに破壊されてしまうんだ!頼む!」

 

遊馬は頭を下げて四人のサーヴァントに力を貸してもらうように頼んだ。

 

「ああ、分かったよ!」

 

「うん、もちろん!」

 

「ま、良いわよ」

 

「承知した」

 

この少年になら力を貸しても良い、そう思った四人のサーヴァントは信頼の証としてそれぞれの真名を名乗る。

 

「じゃあ私からだ。セイバーで真名は新免武蔵守藤原玄信……あー、長いから宮本武蔵でよろしく」

 

「ええっ!?宮本武蔵って、二天一流の大剣豪の!??」

 

「そうだよ、よく知っているね〜」

 

宮本武蔵が女性という事に遊馬は驚いたが、ネロの件もあり今更そこに驚くことはなかった。

 

「是非とも後でサインください!!」

 

「さいん?よく分からないけど、私に出来ることならいいよ」

 

「よっしゃあ!!」

 

遊馬は日本男子なら憧れる存在であろう宮本武蔵からサインを貰えることに感動した。

 

宮本武蔵が女性という事は目を瞑って……。

 

「次はボクだね!ボクの名はアストルフォ!イングランド王の子にして、シャルルマーニュ十二勇士の一人だよ!」

 

「えっと、アストラル。シャルルマーシュ十二勇士って……何?」

 

「シャルルマーシュとはシャルル大王の事で、十二勇士は大王に仕える騎士たちの事だ。確か内容がアーサー王物語に似ている物語のはずだが……すまない、私もよくは知らない」

 

日本人にとってマイナー過ぎる物語にアストラルですら知らないことにアストルフォはショックを受ける。

 

「ガビーン!?マスターはボクのことは知らないの!??ううっ、ショックだよぉ……」

 

「わ、悪い!俺、歴史や神話の勉強はしてるけどそこらへんの物語はあんまり……」

 

「そんなぁ、しょぼぉーん……」

 

アストルフォはさらなるショックを受けてしまい、部屋の隅っこでいじけてしまった。

 

初対面のはずだが、何故かほっとけないジャンヌは慌ててアストルフォを宥めに向かった。

 

「次は私ね。私の名前はメディアよ……」

 

「メディアって、ギリシャ神話の?」

 

「裏切りの魔女、メディアか……」

 

アストラルが呟いた異名にそう呼ばれることを嫌うメディアはキレそうになったが、その前に遊馬が思い出したように呟いた。

 

「でもあれってアフロディテとイアソンの所為じゃ無かったっけ?ったくよぉ、あくまで神話だから本当かどうか知らないけど、どうしょうもない愛の女神と英雄だよなぁ……」

 

裏切りの魔女と呼ばれるメディアを庇護し、しかも有名なギリシャ神話の女神と英雄を臆することなく批判する発言をした遊馬に感銘したメディアは腰を下ろして視線を合わせた。

 

そして、メディアは何かを思い出しながら遊馬の頭を撫でた。

 

「ありがとう、坊や。そう言ってくれて嬉しいわ」

 

「え?お、おう。どういたしまして?」

 

何で感謝されたのか分からず遊馬はとりあえず頷いた。

 

((((あのキャスターがあの男以外にデレた!!??))))

 

その光景にアルトリアとエミヤとクー・フーリンとメドゥーサは雷を受けたような衝撃を受けた。

 

メディアはとある男性を心の底から愛しており、その男性以外には心を開いていなかった。

 

しかし、遊馬の他人を思いやる心で少しだけメディアは心を開いたのだ。

 

「次は拙者だな。我が名は佐々木小次郎だ。ちなみに隣にいるこの魔女とは腐れ縁だ」

 

「佐々木小次郎?あれ?と言うことは武蔵と……」

 

「残念だが、拙者は宮本武蔵には会ったことはない」

 

「同じく。私の知っている佐々木小次郎とは別人だね」

 

「……え???」

 

宮本武蔵と佐々木小次郎は日本人ならほとんど知っているライバル同士……のはずなのだが、ここにいる二人には面識がないようだった。

 

「ま、まあ、とりあえずはいいや!みんな、すぐに作戦を立てて行こう!」

 

「承知!こんなに可愛いマスターのためなら喜んで力を貸すよ!」

 

「呼び出されたからには全力を尽くすよ!」

 

「仕方ないわね……手伝ってあげるわよ」

 

「ふっ……我が秘剣を見せてやろう」

 

「よし!じゃあまず俺と握手をしてくれ。そうすれば契約が完了する!」

 

握手と言われ、四人のサーヴァントはキョトンとしたが遊馬の言う通り握手を交わすと四人のフェイトナンバーズが誕生し、遊馬の手元に現れる。

 

「まだ俺の名前を言ってなかったな。俺の名前は九十九遊馬!異世界から来た決闘者(デュエリスト)でカルデアの最後のマスターだ!」

 

「我が名はアストラル!遊馬の相棒で異世界、アストラル世界の使者だ!」

 

遊馬とアストラルが自己紹介を終えると、遊馬はネロとマシュ、そしてこの場にいる全てのサーヴァントを見ながら宣言する。

 

「さぁて!この世界を無茶苦茶にした元凶は倒されちゃったけど、俺たちはこの世界を破壊しようとしているアルテラを止めて聖杯を手にいれなくちゃならない!アルテラの力は未知数だけど、俺たちの絆の力で絶対に勝つ!!みんな、行くぜ!!」

 

ネロとマシュ、そしてサーヴァントたちは戦う者としての決意を固めた表情で頷き、遊馬はかっとび遊馬号の操舵輪を握る。

 

「行くぜ、かっとビングだ!」

 

遊馬たちはこの世界の特異点を解決するため、聖杯を取り込んだアルテラと最後の戦いに挑む。

 

 

 

.

 




レフとの戦いはもうフルボッコでしたね。
ナンバーズウォールやVサラマンダーは少しやりすぎた感がありますが、レフのムカつく顔を見たらつい……テヘッ♪

遊馬が聖杯で武蔵、アストルフォ、メディア、小次郎を召喚してしまいました。

武蔵とアストルフォは第1部では出ないのが残念で勿体無いので、せっかくだから出しちゃえと思いまして。

二人は遊馬と相性良さそうなので尚更出したくなりました。

おねショタと男の娘の友情が美味しいです(笑)

メディアと小次郎もこの先カルデアにいたら楽しそうだし、ストーリー的にもステイナイト勢が揃って欲しいなと思ってこちらも出しました。

次回は第2章最終回を予定しております。

アルテラとどんな戦いが待っているのかお楽しみに!


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ナンバーズ30 軍神を超えろ!希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!!

今回で長かった第2章が終わりです。

まあタイトルで内容はバレバレですが(笑)



ローマを救うため、聖杯を取り込んだアルテラと最後の戦いに挑む。

 

アルテラのレフを切り裂いた光の剣で連合帝国は既に壊滅していた。

 

遊馬たちはアルテラにサーヴァントの中でも強力な宝具やスキルで先手を打った。

 

「キュベレイ!」

 

かっとび遊馬号から降りて先陣を切ったのはメドゥーサで石化の魔眼であるキュベレイを発動するが、アルテラにはあまり効果がなかった。

 

「石化しませんか……クー・フーリン!」

 

「任せな!その心臓、貰い受ける!刺し穿つ死棘の槍!!」

 

すぐさまクー・フーリンと交代をし、呪いの朱槍であるゲイ・ボルグを放ち、アルテラの心臓を貫く。

 

しかし、取り込んだ聖杯の力で急速な回復と再生を行い、胸に刺さったゲイ・ボルグを抜いて捨てた。

 

「ちっ!聖杯を取り込んだサーヴァントは面倒だな!こりゃあ、力づくでやらねえと倒せねえぞ、マスター!」

 

ゲイ・ボルグを回収したクー・フーリンはメドゥーサと共にかっとび遊馬号から遊馬とアストラル、そしてネロとマシュ達が降りる。

 

「ローマを破壊させないぞ、アルテラ!」

 

「私は、破壊する……文明を!」

 

すると、アルテラの中にある聖杯の魔力が活発化し、空間を歪めると第一特異点でフランスの空を覆ったワイバーンが無数に現れた。

 

「ワ、ワイバーン!?まさか、レティシア!??」

 

第一特異点の戦いを知っている遊馬たちは一斉にレティシアを見るが、レティシアはブンブンと激しく顔を左右に振って否定する。

 

「私じゃ無いわよ!?あんなショボいワイバーンを出すぐらいならでかいドラゴンを出しているわよ!」

 

「……おそらく、聖杯の力で呼び出されたのだろう。レティシア、君の力でワイバーンを大人しくさせることはできるか?」

 

レティシアは第一特異点では竜の魔女として竜召喚と竜操作で猛威を振るっていた。

 

しかし、レティシアは再び首を左右に振った。

 

「無理よ。私は遊馬に新しい名前をもらってから竜の魔女としての力を失ったの。あの時みたいに竜を操れないわ」

 

過去との決別を意味しているのか、遊馬にレティシアと言う大切な名前をもらった時から竜の魔女、ジャンヌ・オルタとしての力を失っていた。

 

「そうか……仕方ないな」

 

「今は竜皇の巫女だもんな!みんな、ワイバーンを頼む!」

 

遊馬はワイバーンをマシュたちに頼み、静かに前に出てアルテラと対峙する。

 

そして、デュエルディスクを構えると戦いを中断したことで一時的に姿が消えていた希望皇ホープレイV達が現れる。

 

「……神にも匹敵するその魔物達は何だ?そして、それを操るお前は人間か……?」

 

「当たり前だ!こことは違う世界の住人なだけでちゃんとした人間だ!」

 

「アルテラ、君を止めてみせる。私たちの力で!」

 

そして、遊馬はこっそりとデュエルディスクにカードをセットし、アルテラの行動を伺う。

 

アルテラは剣を左手で構えながら静かに語る。

 

「私は文明を破壊する……次はローマだ」

 

連合帝国を破壊した次はローマを破壊するべく行動していた。

 

文明を破壊することを目的とするアルテラに遊馬は納得出来ないように首を傾げながら呟く。

 

「……あのさ、文明を破壊するって言うけど、別にそんな必要はないと思うぜ?」

 

「何だと……?」

 

アルテラにとって衝撃的すぎる遊馬の言葉にピクッと体が震える。

 

「あー、考古学者の父ちゃんの受け売りや俺の考えから言わせてもらうぜ。それから……ネロやアルトリアみたいに皇帝や王様をしていたみんなにとって腹立つことを言うかもしれないけど、文句や反論は全部後で聞くから黙って聞いててくれ」

 

サーヴァント……英霊にはアルトリアやブーディカのように王や皇帝など国を支配、統治していた者も多い。

 

遊馬は父の話や歴史の勉強をして考えたあくまで一人の人間の意見としてアルテラに話しかける。

 

「文明ってさ、幾ら栄えててもいつかは滅ぶもんなんだよ。例えば、その土地の資源が無くなって作りたいものが作れなくなった、疫病が蔓延して治療法が見つからずに多くの人が病死した、天変地異の大災害や異常気象にによる災害事故死、そして……戦争や侵略によって国が、文明が滅ぶ。世界の歴史はその繰り返しなんだよ」

 

歴史とは文明の滅びと繁栄が重なって作られていく。

 

数千年の時をかけて人類は数え切れないほどの文明を作ったのだ。

 

「仮に文明が滅ばなくても何らかの形で終わりを迎えて新たな文明が始まる。それに、文明が滅んでも過去から培ったものが現在、そして未来に繋がるんだ。俺の父ちゃんは世界中の遺跡とかを見て行って、過去にどんな文明があったか調べる仕事をしていたからな。それに父ちゃん以外にも世界中には沢山の人が滅びた文明を調べているし、滅んだはずの文明を受け継いで生きている人たちもいるんだ」

 

文明とは過去から現在、現在から未来へと繋がる、数え切れないほどの人が作り上げてきたモノ。

 

それは文明を破壊するというアルテラの剣でも全てを破壊して完全な無にすることはできない。

 

「ここにいるネロや多くのサーヴァント達は沢山の文明の一端を担っていたんだ。文明は例え滅んでも築き上げて来たモノは様々な形で未来に受け継がれていくんだ!」

 

「じゃあ……私は、私の存在は無意味だと言うのか!?」

 

アルテラは文明を破壊すると言う自分の存在意義を否定されたように聞こえ、声を荒げるが遊馬はその力が本当に破壊しか使えないのかどうかと疑問が出た。

 

「無意味かどうかは知らないけどさ、その破壊の力を別の使い方を変えれば良いんじゃないか?」

 

「使い方を、変える……?」

 

「その剣で破壊するためじゃなくて、例えばあんたが守りたいものを守るために使えれば……それで良いんじゃないのか?」

 

「守りたいもの……?私には、そんなものは無い!!」

 

アルテラは遊馬に色々言われて悩みすぎたせいか、取り込んだ聖杯が暴走して魔力が爆発的に放出された。

 

そして、光の剣にその放出された魔力が込められると眩い光を放つ。

 

「まずい!遊馬、宝具の真名解放だ!!」

 

「分かってる!」

 

サーヴァントの持つ多くの宝具は真名を詠唱する『真名解放』によりその能力を発揮し、伝説における力を再現することが出来る。

 

遊馬とアストラルはカルデアで偶然発見した対サーヴァント用の捕縛罠を使用する。

 

「罠発動!『デモンズ・チェーン』!!」

 

発動した罠カードから無数の鎖がまるで竜が空を駆けるように勢い良く飛び出し、アルテラの体を縛り上げた。

 

これまで、デモンズ・チェーンはカルデアで遊馬に毎晩夜這いをかけようとした清姫や時折暴れるサーヴァントを縛って捕縛した確かな実績がある。

 

「くっ!?」

 

アルテラは必死にデモンズ・チェーンを外そうと必死にもがくが、鎖はなかなか外れなかった。

 

「よっし!これでアルテラの攻撃を封じたぜ!」

 

「だが彼女には聖杯の力がある。いつまで持つか分からない、次で一気に決めるぞ!」

 

「おうっ!」

 

アルテラを一時的に封じ、遊馬とアストラルは一気に決めようと意気込む。

 

「……あの鎖、どっかの趣味の悪い慢心金ピカ王を連想しますね」

 

「確かに……あの慢心王を思い出すな……」

 

「うわぁ、嫌な思い出が蘇るじゃねえか……」

 

「こっちは神霊だけでなくどんなサーヴァントにも効くのが厄介ですけどね……」

 

「何よそれ、あの坊やの魔術はどうなってるのよ……機会があったら調べさせてもらいましょう」

 

「確かにあの魔術は凄い。ここからどう切り返すのか楽しみだな」

 

一方、アルトリア達はデモンズ・チェーンを見て嫌な思い出が蘇ったのか少々顔色が悪くなったり、興味深そうに見る。

 

「行くぜ!俺のターン、ドロー!カードを一枚伏せ、Vサラマンダーを装備したホープレイVの効果!カオス・オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手フィールドのモンスター全てを破壊する!Vサラマンダー・インフェルノ!!」

 

カオス・オーバーレイ・ユニットを取り込んだ希望皇ホープレイVは背中に背負ったVサラマンダーをアルテラに向け、地獄の業火を放った。

 

アルテラに地獄の業火が直撃した瞬間、大爆発が起きたが……。

 

「破壊、する……」

 

炎の中からデモンズ・チェーンを引き千切って脱出したアルテラが現れた。

 

地獄の業火を受けて多少の痛手を受けていたが戦闘には問題なく、光の剣を構える。

 

「デモンズ・チェーンが!?」

 

「まずい!遊馬、サーヴァント達を後ろに!」

 

「分かった!令呪によって命ずる!我と契約を結びし全ての英霊よ、我の後ろに集まれ!!」

 

遊馬は右手を掲げ、本日二度目の令呪の使用で令呪の二画目が消え、ワイバーンを倒すために四方に散った全てのサーヴァントが遊馬の背後に一斉に現れ、その直後にアルテラは剣を振り下ろした。

 

「罠カード発動!『和睦の使者』!!」

 

発動した罠カードが遊馬達を優しい光で包み込む。

 

「命は壊さない、その文明を粉砕する。軍神の剣(フォトン・レイ)!!!」

 

その剣から放たれた光は『あらゆる存在』の全てを破壊する。

 

眩い光が辺りを包み込み、アルテラは目標の全てを破壊した。

 

そう思った直後だった。

 

「あ、危なかったぜ……みんな無事だな!」

 

「私たちのモンスターは全て破壊されてしまったな……」

 

希望皇ホープレイV、S・H・Dark Knight、超銀河眼の光子龍の三体のモンスターはアルテラの軍神の剣でナンバーズ・ウォールと安全地帯ごと全て破壊されてしまった。

 

しかし、遊馬とアストラル、そしてマシュとネロ達は全員無事だった。

 

「馬鹿な……何故全て破壊されていない……!?」

 

アルテラは遊馬達も破壊するつもりだったが、モンスター以外全て無事という事態に困惑する。

 

その答えは遊馬が発動した罠カードである。

 

「罠カード、『和睦の使者』。このターン、相手から受ける戦闘ダメージは全てゼロとなり、モンスターは戦闘破壊されなくなる。もっとも、その剣の宝具でホープレイVたちとナンバーズ・ウォールと安全地帯も全部破壊されて、耐性がなくなって破壊されたけどな」

 

和睦の使者により遊馬とその後ろにいるマシュ達はこのターンダメージを受けることがなくなったが、アルテラの軍神の剣により攻めの要であった希望皇ホープレイVたちが全て破壊されてしまった。

 

「だが、我々はまだ生きている。今ある手札と次のドローカードがある限り、勝機はまだある!」

 

「そんな……私の、この軍神の剣はあらゆる存在を破壊するのに……」

 

「どれほどの力があろうとも、デュエルモンスターズにはたった1枚のカードで戦局を大きく変えちまう力を持っているんだ!」

 

「1枚のカードには無限の可能性が秘められている!遊馬、今こそZEXALだ!」

 

「待ってたぜ、アストラル!」

 

遊馬は右手を、アストラルは左手を伸ばして高く掲げる。

 

「行くぜ、俺は俺自身と!!」

 

「私で!!」

 

「「オーバーレイ!!!」」

 

遊馬が赤い光、アストラルが青い光となって宙を飛ぶ。

 

マシュやアルトリア達にとってはこの光景は2回目だが、ネロやブーディカ達にとっては初めての光景だった。

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

「はぁあああああっ!!」

 

二つの光が近づき、離れるように飛び、やがて螺旋状に絡み合う軌道を描いていく。

 

「何をする気……くっ!?」

 

「二人の邪魔をさせぬぞ!」

 

アルテラは遊馬とアストラルが何かをする前に撃墜しようと軍神の剣を掲げるが、アーチャーであるエミヤを筆頭に攻撃してアルテラの行動を阻害する。

 

その間に絡み合っていた二つの光が一つに重なる。

 

「俺たち二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

「遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!」

 

金色の光となりながら地面に降り立つと遊馬とアストラルの肉体と魂が一つに重なり、その姿が大きく変化する。

 

「「強き絆が光を導く!エクシーズ・チェンジ!『ZEXAL(ゼアル)』!!」」

 

遊馬とアストラル、二人の全力を解放するための奇跡の姿。

 

そして、希望の英雄、ZEXAL。

 

「人間が精霊と合体した……!?」

 

ZEXALのその力、その異様な姿にアルテラは目を疑う。

 

「な、何と!?遊馬とアストラルが一つになるとは!!?」

 

「あはは……凄すぎて……言葉が思い浮かばないよ」

 

ネロやブーディカを始めとするこの世界で出会った者たち例外なくZEXALに驚いた。

 

そして、中でも一番驚いたのはエルメロイII世だった。

 

「馬鹿な、人間と精霊の合体だと!?しかもこの溢れんばかりの魔力は何だ!?」

 

人間に精霊が憑依する……ならばまだ理解できるが、肉体と魂が完全に一体化していることとその身から溢れる魔力は魔術師を凌駕するものだとエルメロイII世は汗を流しながら感じ取った。

 

ZEXALは右手を挙げ、遊馬とアストラルの二人が重なった声が響く。

 

「「全ての光よ!力よ!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!」」

 

右手に光の粒子が集い、デッキトップに手を置くとカードが奇跡の光を宿す。

 

「「シャイニング・ドロー!!」」

 

シャイニング・ドローによってドローしたカードはZEXALの力で『デッキに存在しなかったカードを創造』が出来る。

 

そして、もう一つ……『デッキに眠るカードをデッキトップに入れ替える』事ができる。

 

今回ZEXALはカードを創造ではなくデッキトップを操作する戦法を選んでドローした。

 

「行くぜ!俺は魔法カード『貪欲な壺』を発動!墓地のモンスターを5枚選択してデッキに戻し、デッキからカードを2枚ドローする!俺は、希望皇ホープ、希望皇ホープレイV、S・H・Ark Knight、S・H・Dark Knight、超銀河眼の光子龍を選択してエクストラデッキに戻す!」

 

貪欲な壺は墓地のエクストラデッキのモンスターも戻す効果があり、モンスターやエクストラモンスターを多用に使用するデッキには有難いカードである。

 

特に遊馬のデッキはその傾向が強いので貪欲な壺は非常に強力なドローソースのカードである。

 

今回はエクストラモンスターのみを戻したので、デュエルモンスターズの禁止カードでもある強力なドローカード、デッキからカードを2枚ドローする『強欲な壺』を使用したのと同じ状況となった。

 

「「そして、デッキからカードを2枚ドローする!これが、勝利への希望の光!シャイニング・ドロー!!」」

 

再びシャイニング・ドローで2枚のカードをドローし、これでZEXALの勝利の方程式が全て揃った。

 

「「『ゴゴゴジャイアント』を召喚!その効果で墓地からゴゴゴゴーレムを特殊召喚!レベル4のゴゴゴゴーレムとゴゴゴジャイアントでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」」

 

二体のモンスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発と共に再び光の使者が駆けつける。

 

「「現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

貪欲な壺によって戻された希望皇ホープが再び召喚され、ZEXALはすぐさま攻撃命令を出す。

 

「「行け、希望皇ホープでアルテラに攻撃!!」」

 

希望皇ホープは左腰に携えられた剣の柄を持って勢いよく引き抜き、双翼を羽ばたかせてアルテラに向かって飛翔する。

 

アルテラは軍神の剣で迎え撃とうとしたが、それよりも早く希望皇ホープの効果が発動する。

 

「「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、モンスターの攻撃を無効にする!!ムーン・バリア!!!」」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶の中に取り込むと左翼を半月のように展開させて自身の攻撃を無効にし、同時にアルテラの攻撃を無効にした。

 

「何!?」

 

「「手札から速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』を発動!!モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にして、もう一度攻撃が出来る!!!」」

 

希望皇ホープの必殺コンボ、ダブル・アップ・チャンスで右腰に携えられたもう一つの剣を左手で抜いて構え、その力を二倍に高めてもう一度アルテラを攻撃する。

 

「「希望皇ホープ!!ホープ剣・ダブル・スラッシュ!!!」」

 

双剣の刃が金色に輝き、 希望皇ホープはばつ印を描くように全力で振り下ろした。

 

「力が高まった!?はぁああああっ!!」

 

希望皇ホープの力が高まるのを驚きながら軍神の剣を振り下ろした。

 

そして……希望皇ホープが一瞬早く双剣で左腕を深く切りつけた。

 

「あぐっ……くっ、まだだ!今度は私の番だ!」

 

アルテラは左腕が動けなくなってしまったが、まだ右腕が残っており、軍神の剣を右手で構えた。

 

アルテラは軍神の剣を輝かせて希望皇ホープを破壊しようとしていたが……。

 

「アルテラ、何を勘違いしている?」

 

「何だと……?」

 

「まだ俺たちの……」

 

「私たちの……」

 

「「バトルフェイズは終了していない!」」

 

ZEXALのバトルフェイズは終了しておらず、勝利の方程式を導く最後の1枚のカードを掲げた。

 

そして、ZEXALの中の遊馬はブーディカに向けて言葉を放った。

 

「ブーディカ!あの時の約束、今こそ果たすぜ!」

 

「約束……?もしかして……!」

 

それは遊馬がブーディカと初めてあった日に交わした約束。

 

勝利の女王と呼ばれたブーディカ。

 

勝利の語源であるその名を受け継ぐ、ホープ、ホープレイ、ホープレイVに続く『第四の希望皇』がその姿を現わす。

 

「「手札から速攻魔法!『RUM - クイック・カオス』を発動!!」」

 

「さ、3枚目のランクアップマジック!?」

 

ランクアップマジックは大半が通常魔法でメインフェイズにしか発動できないが、クイック・カオスは速攻魔法であるためバトルフェイズでも使用することが出来る。

 

「「このカードはCNo.以外のNo.を1体を選び、そのモンスターよりもランクが1つ高く、同じNo.の数字を持つCNo.へとランクアップさせる!ランク4の希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!!カオス・エクシーズ・チェンジ!!!」」

 

希望皇ホープが光となって天に昇り、光の爆発が起きる。

 

「「現れろ、CNo.39!!」」

 

赤黒い『39』の刻印が空中で輝き、希望皇ホープの周りに白を基調に赤と黄色を用いた数多のパーツが現れる。

 

「「未来に輝く勝利を掴む!」」

 

数多のパーツが希望皇ホープの新たなボディを形成し、次々と合体していく。

 

まるで騎士が鎧を装着するかのように両腕から両足、腹部から胸部へと次々とパーツが装着され、内部の希望皇ホープの構造も変形していた。

 

「「重なる思い、繋がる心が世界を変える!」」

 

全身に鎧のパーツが装着が完了し、最後に頭部を覆い隠す兜が装着される。

 

その兜が希望皇ホープの新たな顔となり、その奥にある両眼の赤い瞳が強い意志と輝きを放つ。

 

「「『希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

黒のカラーリングが特徴のホープレイやホープレイVとは異なる正に希望皇ホープの正統進化系とも言える希望皇。

 

その勇ましい姿にマシュ達はもちろん、ブーディカは見惚れてしまう。

 

「綺麗……それに、何と神々しい姿……私の名前が受け継がれた希望皇……」

 

ブーディカ……ヴィクトリーの名を受け継ぐ希望皇ホープレイ・ヴィクトリー。

 

その能力は敵を倒し、勝利を掴む強力な力である。

 

「「希望皇ホープレイ・ヴィクトリーでアルテラに攻撃!!この瞬間、希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力は相手の攻撃力分アップする!ヴィクトリー・チャージ!!」」

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込むと両腕の内側から第三と第四の腕が現れ、背中に装着されている新たな四つのホープ剣を引き抜き、自分の力にアルテラの力を加え、軍神の力を遥かに凌駕する。

 

「馬鹿な!?私の……軍神の力を、超えると言うのか!?」

 

「これが、俺たちの絆の力だ!!」

 

「「行け、ホープレイ・ヴィクトリー!!」」

 

「アルテラを、ぶった斬れ!!!」

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの真紅の眼が輝き、四つのホープ剣が炎を纏わせながら飛翔する。

 

アルテラは今度こそ迎え撃つために軍神の剣を発動させる。

 

「軍神の剣!!!」

 

「「ホープ剣・ダブルヴィクトリー・スラッシュ!!!」」

 

アルテラは軍神の剣を振り下ろしたが、その刀身からは光は放たれなかった。

 

そして、希望皇ホープレイ・ヴィクトリーは四つの剣で重なる二つの『V』を描くように振るい、アルテラの体を斬りつけられ、地面に激突する。

 

希望皇ホープ・ヴィクトリーにはもう一つ効果があり、希望皇ホープが素材になっていると攻撃時に相手モンスターの効果は無効化される。

 

それにより、アルテラが軍神の剣を発動する事ができず、敗れてしまった。

 

二つのVが体に刻み込まれ、体から力が抜けていき、静かに軍神の剣を手放した。

 

「ふっ……私でも、壊せないものが存在したのか……」

 

アルテラは敗北したが満足そうな表情を浮かべながら静かに消滅した。

 

そして、跡にはこの世界の特異点である聖杯とアルテラのフェイトナンバーズが残った。

 

ZEXALは合体を解除して元の遊馬とアストラルの二人に別れる。

 

「アルテラ……」

 

遊馬は聖杯とアルテラのフェイトナンバーズを静かに拾う。

 

「もしもカルデアで召喚したら、今度は仲間として一緒に戦ってくれ……」

 

文明を破壊をすることしか意味を見出せないアルテラと今度は仲間と一緒に戦ってくれることを祈りながらフェイトナンバーズをデッキケースにしまう。

 

レフは消滅し、アルテラを倒した遊馬達はこの世界の特異点を解決する事ができた。

 

しかしそれはこの世界とネロとの別れの時を意味していた……。

 

 

 

.




ホープ・ザ・ライトニングの存在で埋もれてますが、ホープレイ・ヴィクトリーは強いんですよね。

私のホープデッキ全盛期の時はヌメロン・フォースと阿修羅副腕でワンキルしまくりましたし。

ホープレイ・ヴィクトリーはブーディカ姉さんの存在もあるので是非とも出したいと思って出しました。

次回で第2章のエピローグとぐだぐだ本能寺が開始します。

ぐだぐだ本能寺は個人的に書きたかった話なので楽しみです。

沖田さん可愛いし、ノブは弄りがいがあっていいですよね。


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ナンバーズ31 第二特異点終結!皇帝の約束と謎の侵略者!?

これにて第二特異点終結です。
内容は……夢で見てしまった妄想が爆発してしまいました。
短めですが楽しんでいただければ幸いです。


聖杯を取り込んだアルテラを希望皇ホープレイ・ヴィクトリーで撃破し、聖杯とアルテラのフェイトナンバーズを回収した遊馬とアストラル。

 

「マシュ、聖杯を頼む」

 

「はい!」

 

遊馬はマシュに聖杯を託し、盾の中に聖杯をしまう。

 

これでもう聖杯を奪われる心配がなくなる。

 

「これで、この世界の特異点も無事に解決ですね」

 

「ああ。これで三つ目だな」

 

今カルデアで回収したのは冬木の聖杯と二つの特異点の聖杯、残るは五つの特異点の聖杯。

 

まだまだ先は長いが一歩一歩着実に進んでいる。

 

すると、遊馬を後ろからブーディカが嬉しそうに抱きついて来た。

 

「ブ、ブーディカ!?」

 

「ユウマ、お疲れ様!凄かったよ、ホープレイ・ヴィクトリー!あんなに興奮しちゃったのは久しぶりだよ!」

 

ブーディカはアルテラを倒したホープレイ・ヴィクトリーに興奮していた。

 

自分の名前……後の勝利・ヴィクトリーが名づけられているホープレイ・ヴィクトリーにブーディカが喜ばないわけが無かった。

 

自分の生きた証と存在が世界を越えて希望皇ホープに刻まれているようで、ブーディカは嬉しくて遊馬を後ろから抱きしめながら頭を何度も何度も撫でていた。

 

すると、ブーディカの体から光の粒子が溢れて徐々に体が透明になっていく。

 

それはこの世界の特異点を解決した事で、召喚されたサーヴァント達が消えて英霊の座に帰る時が来たのだ。

 

「……もう別れの時みたいだね。ユウマ、必ず私を召喚してね」

 

「ブーディカ……任せてくれ。カルデアで召喚したらブーディカの美味い飯をたらふく食わせてくれ!」

 

「うん!約束だよ」

 

「おう!」

 

ブーディカは必ず召喚してもらえることを信じながら遊馬の頭をもう一度撫でて他のサーヴァント達と共に消滅した。

 

残ったサーヴァントはマシュ、アルトリア、エミヤ、クー・フーリン、メドゥーサ、清姫、エリザベート。

 

そして、偶然だが遊馬が聖杯で召喚した武蔵、アストルフォ、メディア、小次郎の十一人だった。

 

「みんな、カルデアに帰ろうぜ」

 

遊馬はデッキケースを掲げるとマシュ達が光の粒子となってフェイトナンバーズに入り、カルデアに転送される。

 

「カルデア……どんなところか楽しみだね」

 

「うんうん!ボクは楽しみで仕方ないよ!」

 

「まあセイバーとかがいるなら良いかしらね」

 

「カルデアには多くのサーヴァントがいる。手合わせするだけでも心が震えるものだな」

 

武蔵たちは遊馬たちの拠点であるカルデアがどんなところなのか楽しみにしながらフェイトナンバーズに入り、カルデアに転送される。

 

「もう、行くのか……?」

 

ネロは不安そうな表情で遊馬を見つめる。

 

「悪いな、俺たちがこの世界でやることを果たしたからさ。ここでお別れだ……」

 

「まだ大した礼も出来てないのに……」

 

「別に良いよ。この戦いで俺にとっても得るものが大きかったからな」

 

「もう会えないのか……?」

 

「分からねえ……会えるって保証がないな」

 

ネロがサーヴァントだったらフェイトナンバーズを触媒に呼び出すことが出来るかもしれないが、ここにいるネロは生者で英霊ではない。

 

「……あ、そうだ。ユウマ、これを返すぞ」

 

「ああ、サンキュー……」

 

ネロは遊馬から預かっていたカリギュラ、カエサル、ロムルスのフェイトナンバーズを遊馬に返した。

 

「……遊馬、皇の鍵で休んでいる。戻ったら呼んでくれ」

 

アストラルは空気を読み、遊馬とネロの二人きりにさせるために皇の鍵の中に入った。

 

ほんの少し出来た二人だけの僅かな時間……それを無駄にしないためにネロは自分の手元にあるものに気づいて強く頷いた。

 

「ユウマ、今までの褒美の代わりに……これを受け取れ!!」

 

ネロが遊馬に押しつけるように渡したのはネロ自ら鍛えた真紅の剣、原初の火だった。

 

「こ、これ、お前の大事な剣じゃないか!?」

 

「構わない。ユウマになら原初の火を託せる。それに、剣ならまた余が作ればいい話だ!」

 

「ネロ……」

 

「それに、余なら死後に確実に英霊の座に呼ばれるであろう。そうしたら、それを触媒にして余をサーヴァントとして呼び出せる……そうであろう?」

 

サーヴァントを召喚する際には召喚したい英霊の生前の所縁のある持ち物などを触媒として利用することでその英霊を特定して召喚しやすくなる。

 

ネロ自らが鍛え、愛用していた原初の火ならそれを触媒にほぼ確実にネロをサーヴァントとして呼び出すことが出来るであろう。

 

「……分かった。その代わり、ちゃんと召喚に応じてくれよ?」

 

「うむ!もちろんだ!それから……」

 

ネロは今の自分に渡せるものがもう一つだけあり、それを遊馬に渡すために少しずつ距離を縮めた。

 

「ネロ?」

 

首を傾げる遊馬にネロはゴクリと唾を飲み込んだ。

 

両手で遊馬の両頬に手を添えて顔をそっと近づけた。

 

「んっ……」

 

「……んんっ!!?」

 

そして、ネロは自分の唇と遊馬の唇を重ね、口付け……キスをしたのだ。

 

遊馬は突然のキスに驚き、体が動かなくなって何も出来ずにいると、ネロは静かに唇を離した。

 

「ネ、ネロ……?」

 

遊馬はトマトのように顔が真っ赤に染まったいた。

 

対するネロは遊馬ほどではないが頰が真っ赤に染まり、ビシッと遊馬を指差しながら強く宣言した。

 

「ユウマ、そなたのことを愛しておるぞ!今度、再会したらそなたを絶対に余の夫にする!忘れるで無いぞ!!」

 

それはネロから遊馬への婚約の告白……所謂プロポーズであり、それが最後の言葉となる。

 

そして……遊馬の体が光となり、ローマの地から静かに消えていった。

 

 

遊馬は目を覚ますと人差し指で自分の唇に触れた。

 

「ネロ……」

 

まさかネロに告白……いわゆるプロポーズをされ、しかもキスもされるは思いもよらず、恋愛に関して鈍感な遊馬でさえもその事に顔を真っ赤にする。

 

遊馬はコフィンから出るとオルガマリー、ロマニ、ダ・ヴィンチが出迎える。

 

「お帰りなさい、遊馬。お疲れ様」

 

「これで第二特異点も無事に修正完了だよ!」

 

「今回も見事な戦いだったよ。後で映像の戦闘記録を編集しておくからね」

 

「あ、ああ。ありがとう……」

 

ネロのプロポーズとキスが衝撃的過ぎてあまり喜べない遊馬にオルガマリーは苦笑いを浮かべながら言う。

 

「それから、遊馬……今すぐ逃げたほうがいいわよ」

 

「え?逃げるって何から?」

 

オルガマリー達が同時に指差した方を見ると、そこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊馬ぁ……良かったわねぇ……可愛いネロ皇帝からキスをされて、プロポーズを受けて……」

 

「とりあえず、何も聞かないで……私たちに大人しくぶちのめされなさい……」

 

「ふふふ……旦那様、私と言う妻がいながら他の女から求婚されるとは許せませんね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、嫉妬に狂う三人の恋する乙女達だった。

 

「こ、小鳥……レティシア……清姫……さ、三人共どうしたんだ……?」

 

小鳥、レティシア、清姫の三人の背後には黒い炎を纏いながらそれぞれ天使とドラゴンと大蛇の幻影が見えていた。

 

小鳥の手には元の人間界で度々登場していたバリアンの力で洗脳された人の頭を何度も殴り倒していたフライパンが握られており、レティシアは旗を仕舞って槍のように構えていた。

 

「ま、まて、落ち着け……どうしてその事を……」

 

どうしてネロにキスとプロポーズをされたことを知ったのか疑問に思うと、チラッと見た液晶画面の一つに先ほどの遊馬とネロの光景がガッツリと映っており、何度も巻き戻しで再生されていた。

 

どうやらカルデアの職員達が録画していたようだった。

 

目の前にはどうして怒っているのか分からない三人の乙女達。

 

その近くには乙女達の迫力に圧倒され、無理無理と首を左右に激しく振って困っているオルガマリー達。

 

そして、遊馬は一瞬で悟った。

 

これ、逃げなきゃ死ぬ……と。

 

「うぉおおおおおっ!かっとビングだ、俺ぇっ!!」

 

遊馬はその場からいきなりトップスピードで走り、管制室から飛び出した。

 

「こんなことでかっとビング言わないでよ、遊馬のバカァッ!」

 

「逃げるなんて男らしくないわよ!旗で刺さないから、大人しくぶん殴らせなさい!」

 

「旦那様……覚悟してくださいな」

 

小鳥達三人も遊馬を制裁を下すために捕獲に向かった。

 

ちなみに、遊馬を守るために戦うと誓ったマシュとジャンヌはと言うと……。

 

「遊馬くんなんて知りません。今日はシールダーはお休みです」

 

「何故か心がムカムカします……私も今日はルーラーをお休みしましょう」

 

無自覚の嫉妬でまさかのシールダーとルーラーのお休み宣言をしてしまった。

 

「フォウ……」

 

遊馬からちゃっかり脱出していたフォウは一番安心なマシュのところでため息をついていた。

 

そして、今の小鳥達があまりにも恐ろしく、勝てる気がしないと他のサーヴァント達も助けるのは無理と判断し、マスターである遊馬の無事を祈るしか出来なかった。

 

一方、そんな遊馬達を見送ったアルトリアは大きなため息を吐いた。

 

「あぁ、なんて事……恐れていたことが現実になるとは。やはりマスターはシロウと同じでしたね……」

 

アルトリアは遊馬とエミヤが『同じ』だと確信すると頭を悩ませた。

 

「待て。だから私とマスターが何が同じなのだ?」

 

エミヤのその一言にアルトリアはギロリと睨みつける。

 

「言わせますか、この私に……シロウの女誑し!天然ジゴロ!!第一級フラグ建築士!!!」

 

色々な思いをぶちまけるようにアルトリアは叫ぶのだった。

 

「だからどうしてそうなるのだ!?」

 

「もう我慢出来ません!シロウ!あなたは私と『リン』と『サクラ』以外に誰を落としましたか!?もしやあなたを召喚したマスターと『魔力供給』などそう言う関係には発展してませんよね!!??」

 

「リンとサクラはともかく、どうしてそんな質問をするのだ!?私は誰も落としているつもりはない!」

 

「……はっ!?まさか、男性を落としているのですか!?」

 

「何故に男になるのだ!?」

 

アルトリアの妄想がだんだん暴走していき、エミヤは頭痛を悩ませながら反論していく。

 

そんなアルトリアの話を聞き、メディアは思い出したかのように呟いた。

 

「そう言えばあなた、一成とも仲良かったわよね?それもかなり親しく。もしかしてあなた達……」

 

「ええい!メディア!余計なことを言うな!一成はただの仲の良い友人でそれ以上でもないわ!」

 

一成とはエミヤの英霊になる前の生前の友人でメディアとは不思議な繋がりがあった。

 

「くっ、やはりイッセイもシロウの誑しに……ハッ!?」

 

その時、アルトリアの脳裏に一瞬だけ不思議な光景が浮かんだ。

 

それはエミヤが可愛らしい茶髪のセーラー服を着た少女と向かい合って微笑んでいる光景だった。

 

「……シロウ、セーラー服を着た茶髪で髪の先端がカールした少女を知りませんか?」

 

「セーラー服を着た茶髪の少女……?いや、記憶に無いが……」

 

「記憶がない……つまり磨耗しているのですね。よし……」

 

アルトリアはゆっくりと約束された勝利の剣を取り出して構えた。

 

「何がよしで、約束された勝利の剣を取り出している!?」

 

「前にロマニから聞きました。記憶喪失は頭を思いっきりぶっ叩けばいいと……」

 

「私の場合は喪失ではなく磨耗だ!くっ、これ以上君に付き合いきれん!極光が来る前に退散させてもらう!!」

 

エミヤも遊馬と同じで危機を感じ取って一目散に逃げていく。

 

だがそれを見逃すアルトリアではなかった。

 

「逃がしませんよ、シロウ!ちゃんとあなたの女性関係を全て話しなさい!!生前と英霊の全てを!」

 

「だから君と凛と桜以外はいないと言っているだろう!?」

 

「私の直感が訴えてます!シロウは私達以外に多くの女性を落としていると!後ついでに男性も少々!!」

 

「君の直感は宝具か何かなのか!?」

 

「とにかく、大人しく私の約束された勝利の剣を喰らいなさい!!そうすれば思い出すでしょう!!!」

 

「なんでさぁあああああっ!!?」

 

エミヤは魔力を使って脚を中心に強化して速力を上げ、カルデアの廊下を駆ける。

 

やがて、カルデアの廊下を走り回っていた遊馬とエミヤが偶然合流した。

 

「エ、エミヤ!?なんでお前まで走ってるんだ!?」

 

「これはマスターの所為だ!マスターが女誑し属性を持っているから私までアルトリアに追いかけられているのだ!」

 

「女誑し属性って何!?訳分かんないことを言うんじゃねえ……ってうわぁああああっ!?アルトリアが怒ったうちの姉ちゃんみたいに恐ぇえええええっ!!??エミヤなんとかしろよ、あんたの嫁だろ!?」

 

「その言葉、そっくりそのままマスターに返すぞ!レティシアと清姫はともかく、小鳥嬢のあの恐ろしい迫力はなんだ!?本当にただの一般人なのか!!?」

 

エミヤの目から見て今の小鳥は一般人とは思えない覇気を纏っていた。

 

そしてその武器がフライパンなのがある意味恐ろしさを増していた。

 

「知らねえよ!あんな小鳥はバリアンに洗脳されてた時より恐ぇよ!!」

 

「とにかく、トレーニングルームに行くぞ!このままだと余計な被害が出る!」

 

「そうだな!だけど、その後はどうする!?向こうは四人、こっちは二人で援軍は来ないし……」

 

「覚悟を決めるしかない……マスター、背中を預けるぞ!」

 

「お、おう!」

 

遊馬とエミヤはトレーニングルームに向かい、そこで四人を迎え撃つことにした。

 

最も、そこに向かっても二人にとって恐ろしい未来しか見えないが……。

 

皇の鍵が光り、アストラルが遊馬の上に現れると大きなため息を吐いた。

 

「……異世界観察結果、その1。遊馬とエミヤはこれからも女性関係で苦労するだろう。やれやれ……」

 

アストラルはこれからも度々起こるであろう女性関係のトラブルに頭を悩ませるのであった。

 

 

第二特異点を無事に解決し、再び訪れたカルデアの一時の平穏。

 

しかし、人理焼却の特異点とは異なる、新たな特異点が現れる事となる。

 

そして、その特異点の影響がカルデアにも現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ノブノブー!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時の平穏を遮るかのように遊馬達に謎の侵略者が迫る。

 

「ほらほら、早くしてください!あなたのせいで大変なことになっているんですから!!」

 

「分かっておるわ!しかしここの奴らは役に立つのかの……」

 

「馬鹿をやらかして力を失っているあなたよりは頼りになりますよ」

 

「酷っ!?是非もないよネ!?」

 

そして、二人の新たな……とても愉快なサーヴァントとの出会いが待ち受けているのだった。

 

 

 

.

 




ネロが遊馬にキス&プロポーズやってしまいました(笑)
エクストラじゃない生前なのでやってもいいかなと思ってぶっちゃけました。
ネロは遊馬に助けられ、心を救われて共に戦ってくれましたからね。
これで惚れない方がおかしいですし、流石は天然ジゴロの遊馬先生です(笑)
いやー、これでネロがカルデアに召喚されたら正妻戦争勃発不可避ですね。

アルトリアはここではかなり嫉妬深い性格です。
その理由の一つだカルデアには魅力的な女性サーヴァントが多いので女誑しスキル(笑)持ちのエミヤがやってしまうのではないかと気が気で仕方ないのです。

そして、次回は待ちに待ったぐだぐだ本能寺です!
ネロやブーディカの召喚はぐだぐだ本能寺後に行い、そこから日常編を書いて第三特異点に突入予定です。


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ぐだぐだ本能寺
ナンバーズ32 カルデア異常事態発生!人斬りと魔王とナマモノ!?


お待たせしました、ぐだぐだ本能寺始まりです!
書きたいとずっと思っていたので書けて嬉しいです。
さあ、ギャグパートの始まりです!




「あー、死ぬかと思ったぜ……」

 

「久々に死を覚悟してしまったぞ……」

 

遊馬とエミヤはグッタリした様子で廊下を歩いていた。

 

嫉妬心に駆られた小鳥、レティシア、清姫、アルトリアの四人によって遊馬とエミヤはトレーニングルームで激闘……ではなく、ほとんど乙女達による一方的な攻撃を受けていた。

 

遊馬とエミヤは攻撃出来ないので必死に防御に徹したが……最後には小鳥が遊馬の、アルトリアがエミヤの頭にそれぞれフライパンと約束された勝利の剣を叩き込んで撃沈させた。

 

撃沈した遊馬とエミヤに落ち着いた小鳥達はこれで勘弁してあげるという事でひとまず制裁は終了となった。

 

「ちくしょう。小鳥の奴、いつの間にあんなに強くなったんだよ……」

 

「もしかしたら、カルデアで待機しているサーヴァントから何かを教わっていたかもしれないな……」

 

「マジかよ……」

 

小鳥は素直な性格で人当たりも良いのでカルデアにいるサーヴァントから何か武術を教わっている可能性が高い。

 

「エミヤ、女の子を怒らせると恐いな……」

 

「そうだな……女の子は怖いぞ。それは生前でも英霊になっても変わらぬ答えだな」

 

遊馬とエミヤは苦い表情を浮かべながら大きなため息を吐いた。

 

遊馬はローマの戦いなどでかなり疲れたのでサーヴァント召喚は後日に行うことになり、ひとまず疲れを癒すために食堂で食事を取ろうとした。

 

その時だった。

 

ブォオオオン!ブォオオオン!!

 

突如、カルデア内全域に警報が鳴り響いた。

 

「け、警報!?」

 

「何が起きたんだ!?マスター、警戒して私から離れるな!」

 

「あ、ああ!すぐに所長たちと連絡を取る!」

 

遊馬はD・ゲイザーを取り出してオルガマリーたちと連絡を取る。

 

「所長!何が起きたんだ!?」

 

『遊馬、カルデアに侵入者よ!ダ・ヴィンチによると別位相から直接侵入してきたみたい。レフみたいな悪魔の反応はないらしいけど、第一級警戒体制を敷いてるわ。急いでカルデア内のサーヴァントたちと合流して侵入者を排除して。やり方は任せるわ!』

 

「了解!」

 

遊馬は通信を切るとすぐにD・ゲイザーとD・パッドを展開して左目と左腕に装着する。

 

すると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ノブノブー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如現れたのは体長数十センチの人型?と思われる軍服を着た妙に可愛い謎の生き物……否、ナマモノだった。

 

「な、なんだあれ!!?」

 

「あんな意味不明な生物……見たことも聞いたこともないぞ。デュエルモンスターズでもあそこまでふざけた存在は……ああ、結構いるな」

 

「いるんじゃん!?」

 

「サーヴァント……ではないな、マスター構えろ!あの見た目に反してかなり力はあるようだ!」

 

エミヤは干将・莫耶を出して構え、遊馬はデッキからカードをドローする。

 

「「「ノッブー!!」」」

 

謎のナマモノは一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 

「そこまでです!」

 

「「「ノブッ!?」」」

 

凛とした声が響くと、ナマモノは顔を真っ青にした。

 

そこに現れたのはアルトリアやジャンヌと面影が似ているピンクの着物を着た和服美人の少女だった。

 

少女は見事な波紋を描いた刀を構えており、その刀を見たエミヤは目を疑った。

 

「むっ!?あの刀……まさか……!?」

 

「初めまして、私は新選……じゃない、えーと……そうですね、桜セイバーとでも呼んでください」

 

真名を伏せるためか、自ら桜セイバーと名乗る少女はサーヴァントだった。

 

「桜セイバー?」

 

「はい、実は私はあの謎の生き物を追ってこちらの世界に現界したのですが……」

 

「まてまて人斬り!わしを置いていくではないわ!」

 

そこにもう一人のサーヴァントが現れた。

 

妙に謎のナマモノとよく似た軍服に赤いマントを羽織った少女だった。

 

「誰だお前?」

 

「ん?わしか、わしは第六天魔王ことノブ……じゃない、魔人、そう魔人アーチャーじゃ!!」

 

「「第六天魔王……?」」

 

魔人アーチャーの第六天魔王と言う名前に日本人である遊馬とエミヤはとてつもなく心当たりがあった。

 

「「「ノ、ノブー!?」」」

 

ナマモノは桜セイバーと魔人アーチャーの登場に恐れをなしたのかその場から撤退した。

 

深追いは禁物でひとまずは放っておき、遊馬とアストラルとエミヤは二人を警戒しながら話し合う。

 

「アストラル、エミヤ。俺、魔人アーチャーの真名分かったぜ」

 

「私もだ。桜セイバーは恐らく日本人だが、真名は分からないな……」

 

「心配無用だ、マスター、アストラル。桜セイバーの真名は分かったぞ」

 

「ええっ!?」

 

「何ぃっ!?」

 

桜セイバーと魔人アーチャーの真名があっさり判明してしまい、驚愕する。

 

まずはじめにエミヤが桜セイバーの真名を判明させる。

 

「桜セイバー。君が持っている刀は名刀、加州清光……その刀を使う者は歴史上二人いる。そして、君のその格好からして考えられる存在はただ一人……」

 

探偵ばりにビシッと桜セイバーを指差してその真名を看破する。

 

「幕末最強の剣客集団……新選組一番隊組長、沖田総司!」

 

沖田総司。

 

日本の江戸時代後期の幕末、京都の治安を守るために結成された最強の剣客集団と恐れられ、天才剣士と謳われた武士である。

 

「ゴハァッ!?バ、バレてしまいました!??」

 

桜セイバーは真名を看破されたショックを受けると同時に口から大量の血が出てきて吐血してしまい、その場に崩れ落ちてしまう。

 

「うわぁあああっ!?く、口から血が!?そ、そう言えば沖田総司さんは肺に病を抱えてていたんだ、大丈夫か沖田さん!!?」

 

遊馬は慌てて桜セイバー……沖田に駆け寄り、背中をさすってあげた。

 

「は、はい……ありがとうございます。吐血は私のスキルのようなものなので。

 

「スキル!?吐血がスキルなのか!??」

 

「と、ところで、何で私の刀の銘が分かったんですか!?」

 

「私には刀や剣を解析する力がある。それでその刀の銘、そして使い手を知ることができる」

 

「な、なんと……そのような力があなたにあるとは……」

 

沖田は加州清光を見つめながら呟き、次に遊馬がエミヤに習って魔人アーチャーの真名を看破する。

 

「そして、魔人アーチャー!お前の正体もわかったぜ!」

 

「何と!?わしの真名もか!?」

 

「おうよ!日本の戦国時代の風雲児、戦国天下統一の三英傑の一人……織田信長!」

 

織田信長。

 

戦国大名で天下統一の志半ばで倒れてしまったが、その破天荒な生き様は日本で一番人気で有名な存在と言っても過言ではない。

 

「ぬぉおおおおおっ!?何故じゃ、何故バレたのだ!?」

 

「自分のことを第六天魔王と言う英霊なんて……日本の歴史上、織田信長しかいないんだよ!」

 

「確かにな……むしろ日本人である私達に対して第六天魔王と名乗った時点で真名をバラしているようなものだが」

 

「しっかし、沖田総司と織田信長が女の子だったとはなぁ……」

 

「ふっ……その気持ち、私にも理解できるぞ。アルトリアと出会って、彼女の正体を知った時は特にな……」

 

遊馬とエミヤが知る史実では沖田総司と織田信長は男のはずだが、何故か女である。

 

だが、アルトリアとネロの件で既に男だろうが女だろうがそんなことは既に些細なことである。

 

すると遊馬はナマモノと信長が似ていることに気づいた。

 

「ところで、このノブノブ言う奴ら……織田信長に似てね?」

 

「確かに……デフォルメ、と言うのか?そんな感じだが……」

 

「織田信長……君の力が隣にいる沖田総司よりも力がかなり低い。何か隠しているな……?」

 

「ギクッ!?」

 

信長はビクッと体が震え、体中から冷や汗をかいて目線を必死に逸らしていた。

 

見るからに絶対に何かを隠している様子で遊馬達は信長を問いただそうとしたその時。

 

「ユウマ!エミヤ!」

 

そこにエプロンを着用したマルタが焦った様子で走ってきた。

 

「マルタ?」

 

「どうしたのだ?」

 

「そ、それが……アルトリアが大変なの!」

 

「アルトリアに何かあったのか!?」

 

なんだかんだでアルトリアのことが大切なエミヤは血相を変え、マルタは静かに何があったか話した。

 

「アルトリアが……頭のアホ毛を抜いて……」

 

「……はぁ?アホ毛……?」

 

「アルトリアの頭にある、あのピョンとした毛のことか……と言うか、あれは抜けるのか?」

 

アホ毛を抜いて何になるんだと首を傾げる遊馬とアストラルだが、それに反してエミヤは顔が真っ青となり、ガタガタと体が震えて冷や汗をかいていた。

 

「ア、アルトリアが、アホ毛を抜いた、だと……!!?」

 

「エミヤ、どうしたんだよ?」

 

震えるエミヤの口から衝撃の事実が判明する。

 

「アルトリアは……頭のアホ毛を抜くと黒化……オルタナティブになってしてしまうのだ!!」

 

「く、黒化?」

 

「オルタナティブ……?別の存在という事か?」

 

「最初の特異点の時に君達が出会ったアルトリアの黒い姿になってしまうのだ!マルタ、何故アルトリアがアホ毛を抜いたんだ!?一体何があった!?」

 

「奇妙な生き物が食堂に押し寄せて、私が作った料理を全て食べてしまって……」

 

「まさか……怒りのあまりアホ毛を……」

 

「ええ……」

 

マルタは家庭料理を作るのが得意で、アルトリアはエミヤに制裁を下した後にお腹が減って食堂に向かい、そこでマルタの料理をたらふく食べようとした。

 

しかし、そこにナマモノ軍団が現れて料理とを全て食べられてしまい……。

 

「あっ、あぁ……せっかくマルタが作ってくれた料理が……うわぁあああああっ!!ふんっ!!」

 

怒りが大爆発して自らアホ毛を抜き、漆黒の闇を纏うと一瞬で黒化してしまった。

 

「それで、アルトリアは……?」

 

「今、他のサーヴァントに命令を下してあの生き物をトレーニングルームに追い込む作戦を決行しています……」

 

「くっ!どうしたらいいんだ、一度黒化したアルトリアはなかなか元に戻らないと言うのに……」

 

黒化したアルトリアをどう戻そうと考えるエミヤだが、そこに悍ましい声が響いた。

 

「シロウ……ここにいたのか」

 

ビクッ!?

 

エミヤが恐る恐る振り向くとそこには清楚な雰囲気から一変し、漆黒の闇を纏ったかのような姿をしたオルタナティブと成り果てたアルトリア。

 

通称……『アルトリア・オルタ』が静かに現れた。

 

「ア、アルトリア……」

 

「何を呆けておる。早くあのナマモノを全てトレーニングルームに追い込んで捕らえるぞ。マスターも力を貸せ」

 

「しょ、承知した……」

 

「お、おう……分かったぜ」

 

今のアルトリア・オルタには逆らわない方がいい……そう察した遊馬とエミヤは大人しく従った。

 

アルトリア・オルタは沖田と信長を見ると問答無用で来させる。

 

「誰だか知らんが、貴様らも来い」

 

「「は、はいっ!」」

 

二人もアルトリア・オルタに大人しく従い、トレーニングルームに向かった。

 

トレーニングルームにはカルデアの全サーヴァントやオルガマリーたちが集まっており、その中心には……。

 

「「「ノ、ノブゥ……」」」

 

捕縛されて涙目で震えているナマモノたちがいた。

 

まだ数は少ないが歴史や物語で名を残す一騎当千のサーヴァントや化け物じみた宝具の前では戦闘力が意外に高いナマモノたちでも勝てるわけがなく、カルデア内から根こそぎ集められた。

 

「さて……このナマモノをどう裁いてくれようか……」

 

漆黒に染まった約束された勝利の剣を構えるアルトリアにマスターである遊馬が待ったをかけた。

 

「まあ、待て待て。とりあえずこいつらが何なのか判明してからでも処遇は遅くはないだろ?な、所長」

 

「そうね。それで……沖田総司と織田信長、だっけ?あなた達、知っていることを全て話しなさい。下手に隠していると黒化した騎士王様に消されるわよ……」

 

オルガマリーのそれはただの脅しではなく、本当に今のアルトリア・オルタがやりかねないので二人を助ける意味でも自白を促す。

 

「じ、実は……」

 

「待て人斬り!あっさり話すのか!?」

 

「うるさいですよ!元はと言えば、あなたの所為なんですから!」

 

「沖田さん、信長の所為ってどういう事なんだ?」

 

「実は……」

 

沖田は静かにこれまでの経緯を説明した。

 

沖田と信長がいる世界はカルデアのあるこの世界や、遊馬たちの住む人間界とは異なる別の世界であり、そこで聖杯戦争が行われていた。

 

しかし、本来願望機である聖杯だが、願望機としての力がない事を信長が見抜いた。

 

そこで信長が超兵器として帝都聖杯に火薬を詰めて爆弾にしようとした結果、聖杯が暴走してしまった。

 

挙げ句の果てに再構成中の聖杯に信長が落ちてしまい、殆どの力が失われて同時に大量のナマモノが発生してしまった。

 

そして、それにより二人がいた世界とカルデアが繋がってしまい、ナマモノが流れ込んでしまったのだ。

 

つまり、此度の事件の元凶は織田信長によるものだった。

 

「聖杯に火薬を詰めて爆弾だと……!?」

 

聖杯を爆弾にすると言う誰も考えないような暴挙に出た信長にエミヤは体から怒気が溢れていた。

 

「な、何じゃ……エミヤ、と言ったか?何故怒って……」

 

「聖杯を爆弾にするとは何やらかしているんだこの大馬鹿者がっ!!!」

 

ゴチィン!!!

 

エミヤは信長を拳骨で頭を思いっきり殴り、信長の頭に大きなたんこぶができた。

 

「プギャア!?な、何をするのじゃ!??」

 

「織田信長!貴様、聖杯が危険なものだと知りながら何故そんな事をした!?下手したら大勢の人間が犠牲になると言うことがわからんのか!!?」

 

「いや、これは日本を救うために……」

 

「そんなものが起爆したら救うどころか、日本が吹き飛ぶだろ!?どんだけうつけなのだ貴様は!!?馬鹿はやはり馬鹿なのか!?」

 

「いくらなんでも酷くないか!??」

 

なんだかんだで優しいエミヤが珍しく怒っていることに周りはとても驚いていたが、アルトリア・オルタは納得したように頷いた。

 

「当然だな……」

 

エミヤの過去を知っているからこそ、オルタになってもアルトリアのエミヤを想う気持ちは変わらないのである。

 

「さて……この愚者をどう裁くか本人に選ばせよう。おい、ノッブ。この趣味の悪い串刺しの拷問器具か、歴史のある首を切断する処刑道具か、私の聖剣……好きな死に方を選ばせてやる」

 

カーミラのアイアンメイデン、シャルルのギロチン、そしてアルトリア・オルタの約束された勝利の剣を見せて信長……ノッブに死に方を選ばせる。

 

「待てぇい!?何じゃその悍ましく禍々しい道具は!?そんなものを使われたら儂が死ぬじゃろ!?」

 

「ノッブ……さようなら、あなたとのバカバカしい思い出は忘れません……多分」

 

「多分って何じゃ多分って!?人斬り、儂を助ける気ゼロか!?」

 

「だって、今回の騒動の元凶はあなたじゃないですか。私は尻拭いを手伝ってあげただけなんですから。あの、騎士王様、私は……助かりますか?もしダメなら……せめて武士らしく切腹させてください」

 

「ふん、良いだろう。貴様は特別に許してやろう」

 

潔い沖田は特に馬鹿な事をしてないのでアルトリア・オルタは何のお咎めも無く許してあげた。

 

「やったー!騎士王様ありがとう!邪魔なノッブも消えるから、沖田さん大勝利!」

 

「おのれ人斬りぃいいいいいっ!!呪ってやる、地獄から……いや、英霊の座から貴様を呪ってやるぅうううううっ!!!」

 

ノッブの呪いをこめた叫びがトレーニングルームに木霊する。

 

ノッブの絶体絶命の危機に苦笑いを浮かべながら遊馬が手を差し伸べる。

 

「まあまあ、落ち着けってアルトリア。料理ならまたマルタやエミヤが作ってくれるって」

 

「確かにそうだが……分かった。シロウ、私はハンバーガーとプリンが食べたい。そうしたら勘弁してやる」

 

「分かった……君のために作ってやるか」

 

ひとまずアルトリア・オルタは好物の料理をエミヤが作ってくれるので引き下がってくれた。

 

遊馬はアストラルやオルガマリーたちと話し合い、ノッブとナマモノの処遇を決めた。

 

「じゃあ、信長が……ノッブで良いか。あんたは今回の責任を取ってこの異変を解決するために全力を尽くすこと。もちろん俺たちも手伝うからさ」

 

「わ、わかった……こうなったのも儂が原因じゃしな」

 

「それで……こいつらは何て呼べば良いんだ?」

 

「「「ノ、ノブ?」」」

 

帝都聖杯とノッブによって生まれた謎のナマモノ……特に固有の名前がないので何と呼べば良いか悩む。

 

そこにすっかり嫉妬の怒りが収まった小鳥が名前の提案した。

 

「ねえ、遊馬。この子たち、小さい信長さんでノブノブ言うから……『ちびノブ』で良いんじゃない?」

 

「ちびノブか……うん、良いな。じゃあこいつらの名前は今からちびノブだ!」

 

「「「ノブ!?」」」

 

謎のナマモノこと、命名『ちびノブ』。

 

そして、このちびノブ達の処遇をカルデア所長のオルガマリーが言い渡す。

 

「さて、ちびノブ達。あなた達の行為はカルデアに対する侵略行為と捉えました。本来なら厳しい処罰を下すところですが、あなた達は完全なる悪ではない……そこで!」

 

ビシッとちびノブ達を指差しながらオルガマリーは堂々と宣言した。

 

「あなた達をカルデアの雑用係に任命します!」

 

「「「ノ、ノノブー?」」」

 

「簡単に言えばカルデアの仕事の手伝い、掃除洗濯、大勢のサーヴァントのお世話、その他諸々……後は、レイシフトをして貰って食材の確保ね。あなた達、力があるし、戦闘力が高いから楽勝でしょう?あー、でも別に断っても良いわよ?その代わり……あなた達に食べ物を食べられた怨みがある騎士王様に消されるけどね」

 

「「「ノブゥー!!?」」」

 

オルガマリーのエゲツない宣告にちびノブ達は衝撃を受けた。

 

つまり、奴隷……とまではいかないが、こき使われるかアルトリア・オルタに消されるか……生か死か、まさにデッドオアアライブの選択だった。

 

「まあ、働きに応じて休みなどの待遇も考えますし、食料が十分集まればあなた達にも料理を提供しますから」

 

オルガマリーも鬼ではないのでちびノブ達の待遇もしっかり考えていた。

 

ちびノブ達は考えた。

 

このまま消されてしまうよりここで働いた方が良いのではないかと?

 

サーヴァント達のマスターである遊馬は優しそうだし、それに何だか楽しそうな職場なので退屈せずに済みそうだ。

 

「「「ノブノブゥ〜!!」」」

 

ちびノブ達は遊馬達の前でひれ伏し、カルデアで働く意思を見せた。

 

「あはは。よろしくな、ちびノブ」

 

「「「ノッブノブ!」」」

 

手を差し伸べた遊馬にちびノブ達は手を握ると目の前に一枚のカードが現れた。

 

「何だこれ?フェイトナンバーズ……じゃないな。ノーマルモンスター?」

 

「ちびノブのモンスターカードか。まさかちびノブ達のカードが出るとは。さて、ステータスは……」

 

「えっと、地属性、レベル4、戦士族。攻撃力2000、守備力1800……って何だこのステータスは!??レベル4なのに高すぎだろ!??」

 

デュエルモンスターズのレベル4の最高攻撃力は2400で最高守備力は2700。

 

しかし、効果モンスターならデメリット効果が内蔵しているのがほとんど。

 

逆にノーマルモンスターなら攻撃力と守備力に大きな偏りが出る。

 

攻撃力が高ければ守備力は極端に低くなり、逆に守備力が高ければ攻撃力が0になる事もある。

 

そんな中、ちびノブのステータスはまさに破格といっても過言ではない。

 

「ちびノブ、お前らすげえな!」

 

「「「ノッブノブー!」」」

 

褒められたちびノブ達は喜び、少しずつカルデアに馴染み始めた。

 

遊馬はちびノブのカードをデッキに入れ、立ち上がった。

 

「さて!この異変を解決しに行くか!所長、レイシフト先は定まったのか?」

 

「ええ。今回の異変の特異点のレイシフト先の座標は既に見つけたからいつでも行けるわ」

 

「おっしゃあ!それじゃあ、沖田さん!ノッブ!この異変を解決しに行こうぜ!!」

 

「はい!私たちも同行します!もちろんノッブも来ますよね?」

 

「も、もちろんじゃ!儂等の問題じゃからの!それに……断ったら儂の命が風前のともし火じゃ……」

 

アルトリア・オルタの目がギラリと輝いており、ノッブはガクガクと震えながら頷いた。

 

こうして遊馬達は異変を解決するために沖田とノッブと共に新たな世界へレイシフトする。

 

しかし……その世界は今までのレイシフトした特異点とは異なり、とてつもなく残念な世界となっていた。

 

遊馬達はまだローマでの激しい戦いの疲れが癒えていないので一刻も早い解決に挑むのだった。

 

 

 

.




ギャグ全開で書きました。
ギャグは書いてて楽しいです。
アルトリア・オルタはアルトリアがアホ毛を抜いて覚醒しました。
これはホロウやカニファンなどで思いつきました(笑)

あまり話は長めにしないので3話ぐらいで終わらせようと思います。
戦闘シーンはラストバトルぐらいだと思います。

そして、ちびノブのカードのステータスはこれです。
ちびノブ
通常モンスター
レベル4/地属性/戦士族/攻2000/守1800
帝都聖杯を爆弾にしようとした織田信長が落ちてしまい、その際に誕生した正体不明のナマモノ。
可愛い見た目に反して戦闘力が非常に高い。

ノーマルカード最強モンスターです(笑)
ネタとしてどうかなと思って出しました。
これがどう使えるか今後に期待してください!


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ナンバーズ33 ナマモノ軍団と残念サーヴァント!?

ぐだぐだ本能寺は書いてて面白いです。
ちびノブノーマルモンスターが意外に反響が多くてビックリしました(笑)
なかなかオリカでノーマルモンスターは無いですからね。


織田信長こと、ノッブが聖杯を爆弾にしようとして暴走した結果、変な世界が生まれてしまった。

 

異変を解決するために遊馬はアストラルとマシュ、そして沖田とノッブと共にレイシフトした。

 

「あれ?フォウは?」

 

「コフィンに入る前までは一緒でしたが……」

 

「あいつ……まさか逃げたな?」

 

「まあ、賢明だろう……」

 

フォウは今までの特異点とは異なり、色んな意味で嫌な予感がしたのか今回は付いてこなかった。

 

「とりあえずちゃちゃっと片付けるか。移動はかっとび遊馬号で時間短縮で良いよな?」

 

「そうだな。その方が楽だろう」

 

「よっしゃ!かっとび遊馬号!」

 

遊馬が早速かっとび遊馬号を空中に呼び出すと沖田とノッブは目を丸くして驚いた。

 

「な、何ですかあれは!?」

 

「何じゃあれは!?空飛ぶ船じゃと?」

 

「遊馬君、一体君は何者なんですか!?ただの魔術師じゃありませんよね!?」

 

「あ、そっか。二人には俺たちのことを話してなかったな。ちょうど良いや、中で話すよ」

 

遊馬達は沖田とノッブをかっとび遊馬号に乗せると、遊馬とアストラルが異世界から来たデュエリストだということを簡潔に説明した。

 

「なるほどのぉ、道理で儂が知ってるサーヴァントを使役する魔術師のマスターとは違ったわけじゃな」

 

「凄いですね。まさか十三歳の元服もしてない男の子が世界を救うなんて……」

 

「世界を救う少年と精霊か……よし、気に入った!遊馬とアストラルよ、儂の配下にならないか!?共に天下を統一しようぞ!」

 

ノッブは遊馬とアストラルの強大な力に目をつけて配下にしようとしたが、遊馬とアストラルは手を振って拒否の反応を示す。

 

「天下なんて興味ないからパス」

 

「私も同意見だ」

 

「即答!?」

 

「あ。じゃあ、遊馬君。新選組に入りませんか?遊馬君は不殺でも構わないですよ〜」

 

次に沖田が遊馬を新選組にスカウトして来た。

 

「ふん!そんな殺伐とした人斬り集団なんかにーー」

 

「えっ!?本当に俺が新選組に!?」

 

「って食いついたじゃと!??」

 

遊馬は目をキラキラさせながら沖田の新選組のスカウトの話に食いつき、ノッブは驚いた。

 

「新選組は日本男子なら一度は憧れる存在なんだ!前に婆ちゃんと一緒に新選組の時代劇を見たことあるし、浅葱色の羽織や赤い誠の旗とか、最高にかっこいいよな!!」

 

「でしょでしょう?羽織は用意できませんが、今なら私の一番隊に入れてあげましょう!」

 

「おおおおおっ!?沖田さん、是非とも新選組に入隊させてください!!」

 

「はい、喜んで!!」

 

ノッブの時とは反対にあっさりと遊馬は新選組に入隊を喜んだ。

 

日本男子の大半は新選組を憧れたことは一度でもあるので尚更だった。

 

「やったー!可愛い弟分の部下が出来て沖田さん大勝利ー!」

 

「うわっ!?」

 

沖田は新選組局長と副局長の近藤勇と土方歳三とは幼馴染で弟分……否、妹分(?)だったので、かなり年下である遊馬を部下にできて嬉しくなって遊馬に抱きついた。

 

「ああっ!?沖田さん、どさくさに紛れて遊馬君に抱きつかないでください!」

 

マシュは堂々と遊馬に抱きつく沖田に抗議する。

 

「えー?良いじゃないですかー、私は一番隊隊長で、部下に抱きつくぐらい当然の権利ですよー?」

 

「まだ遊馬君は正式な入隊はしてないから無効です!良いから離れてください!」

 

マシュは無理矢理遊馬を沖田から引き離した。

 

「もー!何するんですかマシュさん!」

 

「問答無用です!遊馬君のシールダーとして破廉恥なことはさせません!」

 

遊馬がネロにキスとプロポーズされた時とは異なり、マシュの心に少し変化が起きていた。

 

そして、遊馬を挟んでマシュと沖田の言い争いが始まる。

 

間にいる遊馬はどうしたら良いのかわからずオロオロしてしまう。

 

そんな光景を目の当たりにしたノッブは隣にいるアストラルに話しかける。

 

「おい精霊」

 

「何だね?」

 

「お主の相棒はもしかしなくても、とんでもない女誑しか?」

 

「そうだな、天然の女誑しだな」

 

人間界や特異点での遊馬の男女関係ない誑しにアストラルは苦笑を浮かべる。

 

「色々大変そうじゃな……」

 

「全くだ……」

 

「まあ、頑張るのじゃ……」

 

遊馬が女誑しだと気付いたノッブはため息をつくアストラルの肩を触れないがポンと叩くように置いて同情するのだった。

 

かっとび遊馬号を発進する前に遊馬は沖田とノッブの二人と契約することを提案した。

 

遊馬だけが持つサーヴァントをカード化して新たな力を生むフェイトナンバーズ。

 

その話を二人にすると面白そうということで早速遊馬と握手をして契約を交わし、フェイトナンバーズを発現させた。

 

フェイトナンバーズはまだその力が目覚めていないのでそのままデッキケースにしまった。

 

「よし、話も終わったところでエネルギーの強いところをしらみ潰しに向かって行くぞ!」

 

遊馬達はエネルギーの強い場所に向かい、そこで敵と交戦する。

 

その敵と言うのは……。

 

「「「ノッブノブー!!」」」

 

この世界にも予想通りにちびノブが現れた。

 

ちびノブは遊馬達の話を聞かずに問答無用で襲いかかってきて、仕方なく倒すことにした。

 

すると、倒すとカルデアで手に入れた有能なノーマルカード、ちびノブのカードが現れてあっという間にデッキに入れられる三枚まで回収できた。

 

それどころか……。

 

「いやいや、流石にこんなにいらねえよ」

 

「流石にこれは多すぎるな……」

 

ちびノブを倒すごとにカードが何故か出てしまい、その数は30枚近くになってしまった。

 

あまりにも数が多くなってデッキケースには収まりきらないのでディメンション・デッキケースの転送機能でカルデアに送った。

 

「まあ、結構強いノーマルモンスターだし、人間界に帰る時のみんなのお土産にするか?」

 

「そうだな。いらないという者も少なからず多いと思うが……」

 

レベル4のノーマルモンスターとしては破格のステータスだが、そのイラストがどうにも万人受けするかと言われれば微妙なので特に凌牙やカイトは「いらん!」と拒否するだろう。

 

するとマシュはカード以外にもちびノブが消えた後から不思議なものを見つけた。

 

それはマシュにはあまり見慣れない極東独特の茶器の数々だった。

 

「おおっ!?どれもいい茶器じゃねえか!これ、貰っていいかな?婆ちゃんへのお土産にしよっと!」

 

日本人特有のセンスなのかヨーロッパのティーカップなどとはまるで異なる渋い茶器に遊馬は良い品だと感心して大好きな祖母のお春に贈ろうと考えた。

 

「どうやら聖杯から漏れた魔力がわしの意識にあった価値あるものを複製しておる様じゃな」

 

「価値あるものですか?黒いお釜に小さい壺に古ぼけたお椀……あまり価値がある様には見えませんが……」

 

茶器をマジマジと見たアストラルは人間界の知識をフル稼働させ、静かに遊馬とマシュに告げた。

 

「遊馬、マシュ……この茶器は日本では国宝級の品物だぞ?」

 

「え?国宝級??マジで!??」

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

「平蜘蛛に九十九髪茄子に曜変天目茶碗……下手したらどれも数十億はくだらないぞ?」

 

「嘘だろ!?それは凄え!絶対に婆ちゃんのお土産に贈ろうっと!」

 

「凄い……何というか極東の文化は渋いですね。あれ?この茶器の九十九……遊馬君の名字も九十九でしたよね?」

 

「確かにそうですね。九十九って名字は珍しいです」

 

「九十九ってどんな意味があるんじゃっけ?」

 

遊馬の苗字に興味を持ったマシュ達の疑問に答えるべくアストラルは九十九の起源を伝える。

 

「『つくも』とは『つつも』のなまったもので、『つつ』は古語での『足りない』、『も』は『百』を意味する。つまり……『百に一つ足りない』という意で『九十九』を『つつも』と読んだという説がある。また、白髪の意味を持つ『九十九髪』を『つくもがみ』と読ませたのが始まりとされる。

 

「「へぇ〜」」

 

「なるほど、日本語も奥深いですね……」

 

「百の一つ足りない九十九か。へへっ、未来皇の俺らしいじゃねえか!」

 

「君らしい答えだな。さて……どうやらちびノブがまだまだ出てきた様だな」

 

「「「ノブノブー!」」」

 

「よし!この調子でバンバン倒すぜ!」

 

勢いが出たのは良かったのだが、敵はちびノブだけでは無かった。

 

「何だあれ!?レア!?レアなのか!?金と銀のちびノブが出たぞ!?」

 

「あっ!見てください!ちびノブの大きいのが……で、でかノブです!」

 

「うおっ!?こっちには金と銀のでかノブです!どれだけいるんですか!?目立ちたいからとはいえ自重してくださいよ、ノッブ!!」

 

「んなこと知らんわボケェッ!こんな目立ち方などしたくはないぞ!!」

 

ちびノブの亜種なのか全くの別個体なのか不明だが、その体が金色と銀色に輝く『金ちびノブ』と『銀ちびノブ』。

 

ちびノブがそのまま巨大化したちびではない『でかノブ』。

 

そして、そのでかノブが金色と銀色に輝いた『金でかノブ』と『銀でかノブ』

 

そして、倒すとそれぞれのノーマルカードが現れた。

 

ちびノブはレベル4だが、他のノブはレベルやステータスが異なっていた。

 

銀ノブ・レベル5・攻2500・守2000。

 

金ノブ・レベル6・攻2600・守2100。

 

でかノブ・レベル7・攻2490・守2050。

 

金銀でかノブ・レベル8・攻2990・守2450。

 

レベル8の金銀でかノブは金ノブと銀ノブのでかバージョンで二体が一緒のモンスターになっていた。

 

ちびノブを含めてこれでレベル4、レベル5、レベル6、レベル7、レベル8のノーマルモンスターが揃うのだった。

 

ちなみにでかノブと金銀でかノブのステータスが微妙な数値となっているのはそれぞれのフレーバーテキストを見た遊馬とアストラルは察するのだった。

 

「なるほどな……こいつらのレベルであの伝説のモンスターより強かったら複雑だからな……空気を読んでくれたな」

 

「確かにな。伝説の『レベル7の黒き魔術師』と『レベル8の白きドラゴン』……そのラインは絶対に超えてはならないな」

 

デュエリストにしかわからない話をする遊馬とアストラルにマシュ達は何のことかわからず首を傾げるのだった。

 

とりあえずちびノブ以外のカードは遊馬のデッキで今のところ使い道がないのでカルデアに転送した。

 

「ふふふ!調子いいですね、このままどんどん行きましょーーガハッ!」

 

調子に乗った沖田の口から大量の血が吐かれ、その場で崩れてしまう。

 

「うわぁあああああっ!?沖田さんがまた吐血!?」

 

「そう言えば、その吐血はスキルと言っていたな?マシュ、サーヴァントのスキルとは英霊の生前の活躍や、生前に所持した技術等が特殊能力として具現化する……と言った認識だが?」

 

「はい、その筈ですが……」

 

「あー、その人斬りは生前の病に加えて、後世の民衆が抱いた心象を塗り込まれたことでもはや呪いのようなスキルが刻まれたのじゃ」

 

沖田が肺に病を患ってしまって吐血したという話はあまりにも有名なのでそれが呪いとなってスキルとして定着してしまったのだ。

 

「あ!なあ、マシュ!カルデアにある聖杯で沖田さんの病気を直せないか!?」

 

万能の願望器、聖杯……それで沖田の吐血を直そうと遊馬は思いついたがマシュは首を左右に振る。

 

「遊馬君。それは無理な話です……」

 

「ええっ!?何で!?」

 

「聖杯ではサーヴァントのスキルを消すことは出来ないのです……」

 

「マジかよ……ああもう!聖杯のバーカ!全然使えない役立たずの願望器!悔しかったら沖田さんの病気を治しやがれ!」

 

サーヴァントのスキルすら何とか出来ない聖杯に対して遊馬は空に向かってそう叫ぶのだった。

 

結局は聖杯は碌でもないモノだと考えつき、遊馬はやはり願いは自分自身の力で何とかすべきだと改めてそう思うのだった。

 

「なんとまあ、優しい男じゃな……良かったの、人斬り」

 

「ええ。それだけでとても癒されます」

 

遊馬の優しさにノッブと沖田は微笑むのだった。

 

沖田は吐血しても少し休めば戦えるので引き続きエネルギーの強い場所へ向かう。

 

その後、遊馬達はちびノブ達以外にもサーヴァントと思われる敵と戦ったのだが……。

 

「どう見てもカルデアにいるみんなと思えるサーヴァントがいるんだけど……」

 

「先ほど確認しましたが、エリザベートさんの時みたいに召喚されていないようです。自室やトレーニングルームなどで姿が確認されています」

 

「じゃあ誰なんだよあいつら!?フェイトナンバーズも反応しないし、倒してもフェイトナンバーズが出てこないし、しかもなんかもの凄く残念な性格になってるしどうなってんだこの世界は!?」

 

確認出来るだけでもアルトリア、エミヤ、クー・フーリン、メドゥーサ、メディア、ダレイオス……などなどカルデアにいる遊馬のサーヴァントや一度対峙した敵サーヴァントなどが現れてよくわからない名前を名乗っていた。

 

「何故日本の歴史に名を馳せる戦国武将が時代と国が異なるサーヴァントの姿を借りて変な名前を名乗っているのだろうか?本人が出てきてもいいと思うのだが……」

 

アストラルの言うことはもっともな意見であり、何故サーヴァントが可笑しくなっているのか……その答えを遊馬は思い浮かんだ。

 

「待てよ、サーヴァントを呼び出す力を持つのは聖杯……つまり、聖杯を爆弾にしようとして暴走させたノッブのせいか!」

 

「全く、ノッブはどれだけ迷惑をかけているんですか。こんなんだとあなたが生きてた頃の家臣の皆さんに同情しますよ」

 

やれやれと行った様子で呆れる遊馬と沖田にノッブは遂にブチ切れた。

 

「やかましいわ!わしだってこんなことになるとは思ってなかったのじゃ!それなのに小姑みたいにネチネチネチネチ……もうお前らとはやっていけん!バーカバーカ!ちびノブにやられちまえ!!」

 

まるで子供のようにいじけたノッブは全力疾走で逃げ出してしまった。

 

「あっ!ノッブ!?」

 

「あーあ、私たちよりも年上なのにいじけちゃいましたね。まあ子供じゃないんだし、そのうち帰ってくるから大丈夫でしょう」

 

「そうですね。それじゃあ、先に食事にして休憩しましょう」

 

仮にもノッブ……織田信長は家庭を持ち、更には姪もいたので、このメンバーの中では一応最年長でもある。

 

それなので特に心配せずにカルデアからエミヤと小鳥が作った特製の弁当を転送してもらって昼食にするのだった。

 

昼食の美味しいお弁当に舌鼓をしていると、ノッブが帰ってきた。

 

「いやー、さっきはすまなかったな!おっ、美味しそうな弁当じゃないか!わしにもくれ!」

 

「はいはい、ノッブの分もありますよ」

 

沖田はノッブにお弁当を渡し、何事もなかったかの様に食べ始めた。

 

そんなノッブの姿を見てアストラルは何かに気づいて遊馬を小声で呼ぶ。

 

「遊馬……」

 

「アストラル?あー、悪い。ちょっと失礼するぜ」

 

遊馬はアストラルのアイコンタクトに気付くとトイレに行くフリをしてその場から離れて物陰に隠れてアストラルと話す。

 

「どうしたんだよ、アストラル」

 

「遊馬、聞いてくれ。あのノッブはーーーー」

 

アストラルからの話を聞き、遊馬は耳を疑って驚いた。

 

「……すぐに作戦を立てよう。マシュと沖田さんには黙っておこう」

 

「敵を騙すにはまずは味方からとはよく言ったものだな……そうだな。とりあえずこっちのは泳がせて……」

 

遊馬とアストラルはこの特異点を潤滑に攻略するために作戦を立て、すぐにマシュ達の元に戻った。

 

その後、ちびノブ達や残念サーヴァント達と戦闘を繰り広げ、ラスボス?と思われる黄金の鎧を纏ったサーヴァントも難なく倒し、最後に茶釜が残った。

 

「うむ、この茶釜が変質した聖杯の核のようじゃな。これでわしの力も戻るし一件落着じゃな……」

 

ノッブが茶釜を手に取るとその身から赤黒いオーラが放たれ、様子が変わって行く。

 

「え?ノッブ……さん?」

 

「ノッブ……まさか!?」

 

「そう。全て我の思うがままよ……ふはははは!今までご苦労だったなお前達!全てわしの思惑通りに事が運んだわ!此度の騒動は全てわしの計画!」

 

ノッブが典型的な悪役のセリフを言うと遊馬とアストラルは既に分かりきっていたかのように落ち着いていた。

 

「まあ予想通りの展開だな」

 

「これ以上こんなぐだぐだな戦いは必要ない。遊馬、行くぞ!」

 

「おう!」

 

遊馬とアストラルはこのぐだぐだな戦いを終わらせる為にノッブとの最後の戦いに挑む。

 

 

 

.




多分次回でぐだぐだ本能寺最終回です!
沖田さんとノッブのフェイトナンバーズにご期待ください!

そして、今回登場したちびノブ以外のカードを紹介します!

銀ノブ
通常モンスター
レベル5/光属性/戦士族/攻2500/守2000
ちびノブが進化して銀色に輝いた姿。
銀色になった以外見た目に変化はない。

金ノブ
通常モンスター
レベル6/光属性/戦士族/攻2600/守2100
銀よりも更にレアな進化を遂げ、眩い金色に輝いたちびノブ。
しかし、やはりその見た目には金色になった以外変化はない。

でかノブ
レベル7/地属性/戦士族/攻2490/守2050
ちびノブが巨大化した姿。
可愛い見た目はそのままだが声が野太くなっている。
巨大化したことにより、ちびノブよりもかなり強くなったが、古代の黒き魔術師には一歩及ばない。

金銀でかノブ
レベル8/光属性/戦士族/攻2990/守2450
金ノブと銀ノブが巨大化した姿。
二体が共に戦うことで圧倒的な力を発揮するが、伝説の白き龍には一歩及ばない。

でかノブと金銀でかノブはブラマジとブルーアイズよりも10低いです(笑)

やはりレベル7と8のノーマルモンスターの誇りがありますのでこのようなステータスにしました(笑)


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ナンバーズ34 ぐだぐだ本能寺終結、第六天魔王を討て!

これにてぐだぐだ本能寺は終わりです。
驚愕のキャラが登場しますのでお楽しみに!


ノッブが典型的な悪役のセリフを吐き、マシュと沖田が驚いていたが遊馬とアストラルは落ち着いていた。

 

「ふはははは!む?おいお主ら、何故驚かんのじゃ?」

 

「分かっているんだよ。お前が『ノッブの半身』だってことに」

 

「えっ!?」

 

「ノッブの半身!?」

 

遊馬の衝撃的な言葉に全員が驚く。

 

「な、何のことだ!?わしは本物の織田信長じゃぞ!?」

 

「ふーん、これ見てもそんなことを言える?」

 

遊馬が指パッチンをすると二つの影が現れる。

 

「やっと本性を現しましたね」

 

「おのれ、わしの半身め!!許さんぞ!!」

 

それはジャンヌと目の前にいるノッブと瓜二つの一人のノッブだった。

 

「ジャンヌさん!?それに信長さん!?」

 

「これはどういうことですか!?」

 

「ば、馬鹿な!貴様は我が捕らえて動かないように縛って隠していたはずなのに!?」

 

「アストラル、説明よろしく!」

 

「貴様が昼食の時に現れた時から我々と一緒にいたノッブでは無いとすぐに分かった。それは貴様の体にナンバーズのエネルギーが流れていないからだ!」

 

「ナンバーズのエネルギーじゃと!?」

 

遊馬はデッキケースからマシュ達のフェイトナンバーズを見せ、アストラルは自身の体からナンバーズを取り出してその秘密を語る。

 

「遊馬が契約したサーヴァントにはマスターからの魔力の代わりに微弱だが私のナンバーズのエネルギーが流れ込んでいる。しかし、貴様にはナンバーズのエネルギーが流れていなかった。そこから考えられる結論は一つ、貴様がノッブが聖杯に落ちた時に二つに分かれた半身だということだ!」

 

「俺たちは敢えてあんたを泳がせていたんだよ。あんたの目的を知るためにな。そして、多分動けなくなったと思われるノッブをルーラーであるジャンヌに頼んで探してもらったんだよ」

 

「いやー、本当に助かったぞ。改めて感謝するぞ、ジャンヌ」

 

「いいえ、仲間なら当然です」

 

「じゃ、じゃが、わしの目的の聖杯はここにある!貴様らの思惑も無駄だったの!」

 

ノッブ……否、もう一人のノッブである信長の手には聖杯の核である茶釜があり、状況は信長が有利である。

 

「それは……どうかな!」

 

遊馬はデッキケースから一枚のカードを取り出すと手首のスナップをきかせて手裏剣のように投げて信長の足元に刺さる。

 

何をするのかと信長は思ったが、次の瞬間カードが輝いて中から黒炎が吹き荒れながら一つの影が現れる。

 

「なっ!?」

 

「はあっ!!」

 

凛とした声が響き、振り払った旗によって信長の手が弾かれ持っていた茶釜が宙を舞う。

 

そして、黒炎を振り払うと中からレティシアが現れ、宙に舞う茶釜をゲットしてそのまま遊馬の元に戻る。

 

「し、しまった!?」

 

「レティシア、ナイス!」

 

「不意打ち成功ね。私アサシンでもやっていけるかしら?」

 

レティシアは得意げな笑みを浮かべて遊馬に茶釜を渡し、ハイタッチをする。

 

アストラルは手を伸ばしてレティシアのフェイトナンバーズを回収し、遊馬のデッキケースにしまい、茶釜をマシュの盾の中にしまう。

 

フェイトナンバーズは契約したサーヴァントを粒子化させてカードの中に入れることができる。

 

その特性を利用して信長の足元に投げてからレティシアが不意打ちで飛び出して攻撃したのだ。

 

「おのれぇえええええっ!じゃが、まだじゃ!わしの体には聖杯に落ちた時に取り込んだ欠片の力が残っておる!!」

 

「聖杯の欠片だと!?」

 

「貴様の手にある核ほどでは無いが、貴様らを葬るには充分じゃ!!いざ、三界神仏灰燼と帰せ!我が名は第六天魔王波旬、織田信長なり!!」

 

信長の体内にある聖杯の欠片の力を使い、フィールドを燃え盛るどこかの寺院へと変えた。

 

その寺院は遊馬に心当たりがあった。

 

「ここってまさか、織田信長終焉の地……京都の本能寺か!?」

 

本能寺とは織田信長が生前に家臣明智光秀の謀反によって襲撃された場所である。

 

燃え盛る本能寺の中で自害した織田信長の終焉の地とも言われている。

 

「さて、戦いの前に……おい小僧、わしの家臣となれ!共に天下を統一しようではないか!」

 

信長はノッブと同様に遊馬の力に目をつけるが、遊馬は二回目ともなれば冷めた目で拒否の反応を示す。

 

「それノッブに言われて二回目だけどそんなの興味ないんだけど」

 

「ならばお主の望む物をくれてやろう!金か?いや、金では駄目だな……よし!女か!美少女から熟女まで揃えてやろう!それでハーレムを築くーーぬぉおおおおおっ!??」

 

ズドォーン!!!

 

突如、炎が灯された瓦礫が飛んできて信長は全力で回避した。

 

「ちっ……外したか」

 

それは近くにあった燃えている建物を破壊してフルスイングで信長に投げたレティシアだった。

 

その恐ろしい光景にマシュ達はガクガクと震えていた。

 

「うぉおおおおおい!?そこの黒女!人が交渉している時に燃えている瓦礫を投げ飛ばすとは何事じゃ!?」

 

「うるさいわね!遊馬にあんたが与えるハーレムなんて必要無いわよ!これ以上戯言を言うなら……!!」

 

ゴゴゴゴゴォオオオオオッ!!

 

そしてレティシアは自分の背丈以上の燃えた瓦礫を持ち上げるのだった。

 

「おいいいいいっ!?どうしてそんなに大きな瓦礫を持ち上げられるのじゃ!?それに炎が熱くないのか!?」

 

「私の筋力はAよ!それに、地獄の業火に比べたらこんな炎はぬるま湯よ!!」

 

「貴様はバーサーカーか!?のぉおおおおおっ!??」

 

燃え盛る巨大な瓦礫を投げ飛ばし、信長は命辛々に全力回避をする。

 

本来ならサーヴァントは神秘が無ければダメージが与えられないのだが、レティシアが放った瓦礫は避けなきゃ危ないと信長は本能で察したのだ。

 

「レティシア落ち着けって。あんな交渉に乗るわけないだろ?」

 

「だ、だって……」

 

「心配するなって。言っただろ、俺は何があってもお前を絶対に裏切らないからさ」

 

「……分かったわよ」

 

遊馬の優しく頼れる言葉にレティシアは頰を赤く染めながら後ろに下がると、遊馬は改めて信長と対峙する。

 

「悪いけど俺にそんな交渉は無意味だ。俺の望みや願いはとっくの昔に叶ってるからな。まあ強いて言うなら……人類と世界の未来を救うって事だけど、そんなことはあんたには無理だからな」

 

「交渉は決裂だ、信長。私たちにはやるべきことがまだまだ残っている。その為にも、貴様を倒してノッブの中に戻ってもらうぞ!!」

 

「その通りじゃ!悪いノッブめ、とっととわしの中に戻ってもらうぞ!」

 

「ええ、これが最後の戦いです。こんなぐだぐだな戦いはとっとと終わらせましょう!」

 

遊馬とアストラル、そしてノッブと沖田の心が一つになったその時、デッキケースが勝手に開いて中から光り輝く二枚のカードが遊馬の手元に飛び出す。

 

「これは!?」

 

「こいつは……ノッブと沖田さんのフェイトナンバーズ!カードに真名とイラストと効果が!」

 

「わしの新しい力か!」

 

「遊馬君、今こそ力を集結する時です!」

 

「よし!行くぜ!ノッブ、沖田さん!フェイトナンバーズに!」

 

ノッブと沖田は光の粒子となってその力が解放されたフェイトナンバーズの中に入り、遊馬はデッキからカードをドローして手札にする。

 

「ならば力付くでお前らを倒すだけじゃ!来い、ちびノブ達よ!!」

 

「「「ノッブノブー!!」」」

 

「一斉攻撃じゃ!」

 

信長はちびノブを始めとする様々なナマモノたちを召喚し、一斉に進軍して攻撃して来た。

 

遊馬たちの邪魔をさせないためにマシュ、ジャンヌ、レティシアが前に出てちびノブ達と交戦する。

 

「遊馬君、私達で時間を稼ぎます!」

 

「その間に新しいフェイトナンバーズを!」

 

「とっととあいつを倒しちゃいなさい!」

 

「サンキュー、みんな!行くぜ、俺のターン、ドロー!魔法カード『予想GUY』!自分フィールドにモンスターがいない時、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる!さあ出番だぜ!来い、『ちびノブ』!」

 

『ノッブノブー!』

 

デッキから元気よくちびノブが出てきてシャキーン!と腕を斜め上に上げた本人はおそらくかっこいいと思っているポーズを決める。

 

「さらにタスケナイトを召喚!俺は戦士族レベル4のちびノブとタスケナイトでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

赤茶色の鎧に全身に身を包んだ戦士が降り立ち、ちびノブと共に光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「戦国の世にその名を轟かせし魔王よ!己が信念を突き進み、天下布武を目指せ!」

 

光から灼熱の炎が吹き荒れ、中から天下統一を目指し、邪魔する全てを正面から排除してきた魔王が現れる。

 

「現れよ!『FNo.63 第六天魔王 織田信長』!!」

 

大きな『63』の刻印が刻まれたマントを翻し、ノッブは意気揚々と笑い上げる。

 

「ふはははは!さあ行くぞ、わしの三千世界が火を噴くぞ!」

 

ノッブは火縄銃を取り出して攻撃を行おうとしたが……。

 

「いや、ノッブのフェイトナンバーズ……そんな派手な攻撃をする効果じゃ無いぞ」

 

「えっ!??」

 

「第六天魔王 織田信長がエクシーズ召喚に成功した時、エクシーズ素材を2つ取り除き、俺のライフを半分払って発動!」

 

ノッブの刀にオーバーレイ・ユニットを取り込み、遊馬のライフポイントを半分支払うことで強力な効果を発動する。

 

「デッキ・手札から『ノブ』もしくは『ノッブ』と名のついたモンスターを可能な限り自分フィールドに特殊召喚する事が出来る。来い!デッキに眠る2体のちびノブ!!」

 

『『ノブノッブー!』』

 

デッキからもう2体のちびノブが現れ、ノッブは驚いて目を皿のように丸くした。

 

「おいいいいいっ!?これがわしの効果なのか!??全然わしの持つ宝具やスキルと関係ないじゃ無いか!?」

 

「気にするな!デュエルモンスターズ的には強いんだぜ!」

 

「気にするわ!!」

 

「是非もないよな!」

 

「わしの台詞を取るなぁあああっ!」

 

「限定的だがこれは強力な効果だ」

 

デッキからモンスターを大量に召喚出来るのは強力な効果であり、今回はちびノブだけだがもしもデッキに他のノブモンスターを入れていたらあっという間にフィールドが埋まるだろう。

 

恐らく、ちびノブと言うナマモノが誕生してしまった所為でノッブのフェイトナンバーズがこんな効果になってしまったのだろう。

 

そして、このちびノブ2体で新たなもう一枚のフェイトナンバーズを呼ぶ。

 

「更にレベル4戦士族のちびノブ2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

『『ノッブノブー!』』

 

2体のちびノブが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「桜纏し剣士よ、再び立ち上がれ!悪を断ち切る天剣となれ!」

 

桜吹雪が美しく吹き荒れてその中から幕末の天才剣士が再臨する。

 

「現れよ!『FNo.39 桜花の天狼 沖田総司』!!」

 

失われた新選組の浅葱色の羽織を纏い、その手には沖田が最も愛した刀である菊一文字則宗が握られており、そして両腕両肩には希望皇ホープのプロテクターが沖田の動きを邪魔しない程度に装着されていた。

 

「力が湧いてくる……それに新選組の羽織と旗、それに菊一文字……ははっ、今の私は全盛期並に動けますよ!!」

 

今の沖田は幕末のまだ肺の病に苦しんでいない全盛期並に動けるほど力が沸き起こっていた。

 

「さあ、その力を見せてもらうぜ。沖田さん!」

 

「ええ!沖田さんにお任せください!」

 

「桜花の天狼 沖田総司の効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、このターン、このカードは相手に直接攻撃することができる!」

 

オーバーレイ・ユニットを菊一文字を刀に取り込ませると沖田の金色の瞳が輝きを増し、

 

「我が秘剣の煌めき、受けるが良い!縮地!!!」

 

沖田を中心に桜吹雪が吹き荒れ、桜吹雪が沖田の姿を覆い隠す。

 

「なっ!!?」

 

そして、桜吹雪と共に一瞬で信長の前に現れた。

 

「無明三段突き!!!」

 

沖田総司の代名詞とも言える実現不可能と言われた伝説の剣技、三段突き。

 

「くうっ!!?なめるなぁっ!!」」

 

信長は沖田の三段突きを知っていたので最初から全力で体を反らして回避する。

 

沖田の菊一文字は信長の頰と肩と脇腹を貫き、即死は免れたが体から大量の血が流れるが体に宿る聖杯の力で瞬時に再生し、宝具を発動して反撃する。

 

三千世界(さんだんうち)!!!」

 

信長の宝具である三千世界は三千丁の火縄銃を呼び出して一斉発射する。

 

沖田は無数の弾丸を切り裂き、縮地で移動しながら下がる。

 

「ちっ、流石にノッブの半身だけあって、記憶を持ってたから全力で私の三段突きを回避してきましたね」

 

「更に!沖田さんが相手に直接攻撃が成功した時、相手フィールドのモンスター1体を選択して破壊することが出来る!金でかノブ1体を破壊する!」

 

「切り捨て御免!」

 

「ノブー!?」

 

沖田はちびノブたちで一番強い金でかノブの背後に現れて切り捨て、遊馬の元に戻る。

 

「ちょっと待て!ズルイではないか!人斬りは宝具やスキルを最大限に生かした効果ではないか!」

 

「これも遊馬くんのエースナンバーズの希望皇ホープに選ばれたからですよ!ところでノッブのナンバーズは何ですかねー?」

 

「むむむ……確かにそうじゃな、おいマスター!わしに力を与えているナンバーズはどんな奴じゃ!」

 

「どんな奴って、ええっと……」

 

「まあ、その、あれだな……」

 

遊馬とアストラルはノッブの問いに答えることができずに目を反らしてしまう。

 

「おいっ!?何じゃその反応は!??No.63とは一体何なのじゃ!?」

 

ノッブに与えられた力である『63』のナンバーズの刻印。

 

その元となる『No.63』はと言うと……ぶっちゃけ戦う力のない、ある意味デュエルモンスターズの中でも特異な優しい力を持つモンスターである。

 

もしもノッブの力が全てあれば他のナンバーズに選ばれたかもしれないが、不幸にもノッブの力の大半が失った事とちびノブたちの影響で『No.63』に選ばれてしまったのかもしれない……。

 

「貴様ら……わしをコケにしよって……こうなったらわしも本気を出すしか無いようだな!!三界神仏灰燼と帰せ!第六天魔王波旬!!」

 

フィールドの炎が全て信長に集まり、軍服の衣装が焼けて裸になっていき、ノッブは驚いて声を震わせた。

 

「あっ!ヤバっ!?」

 

「どうしたノッブ!」

 

「あれはわしの切り札とも言える宝具、第六天魔王波旬じゃ!神秘や神性を持つ者に対して絶対なる力を発揮する!」

 

「でもノッブと沖田さん、マシュたちには神秘や神聖は……」

 

「うがあっ!?」

 

「アストラル!?」

 

第六天魔王波旬の炎がアストラルに襲いかかり、その体が少しずつ焼けていく。

 

「やべえ!アストラルは精霊だ!皇の鍵の中に逃げろ!」

 

「くっ、すまない、遊馬……」

 

精霊であるアストラルはもろに第六天魔王波旬を受けてしまい、粒子化して皇の鍵の中に避難して、焼かれた傷を癒す。

 

「てめえ、よくもアストラルを!!」

 

「次は人斬りだ……わしの炎で焼き尽くしてやる!!」

 

信長は沖田を狙って炎を放とうとしたが遊馬は冷静に手札にあるカードを発動させる。

 

「そうはさせるか!手札から『虹クリボー』の効果発動!!」

 

『クリクリ〜!』

 

額が虹色に輝く丸い妖精のような姿をしたモンスターが飛び出し、信長の体に光の輪を出現させて攻撃を止めた。

 

「うぐっ!?う、動けない!??」

 

「虹クリボーは攻撃した相手の装備カードとなり、装備された相手は攻撃できなくなる!」

 

「邪魔をするな!わしには世界を支配すると言う目的がーー」

 

「そんなの織田信長じゃねえ!!」

 

「っ!?」

 

遊馬は毅然とした態度で信長を否定した。

 

「わしが、織田信長じゃないだと!?わしは正真正銘の織田信長だ!何を言う!??」

 

「俺の知っている織田信長は破天荒で人々から恐れられていたけど、天下布武……天下を統一して争いのない国を作ろうとしていた!だけど、今のあんたにはその思いが感じられない!聖杯で二つに分かれて、その力で心が暴走しているんだ!!」

 

直接ノッブから聞いた話ではないが遊馬が知っている歴史では織田信長は天下布武を目指していた。

 

だが、今の信長はノッブの元々の半分以上の力を持つと言っているが、聖杯の力で心が歪んで暴走しているのは明確だった。

 

「織田信長を憧れている全ての日本人のためにも、今ここであんたを止める!!」

 

同じ日本人として、日本人なら誰もが知る有名な英霊である織田信長の暴走を止める為にも遊馬はカードをドローする。

 

遊馬のその思いにノッブはパンパン!と拍手をする。

 

「その心意気見事なり!」

 

「ノッブ?」

 

「遊馬よ、そこまで言われたらわしもサーヴァントとして全力を尽くさねばならないな!さあ、指示を出すのだ、マスターよ!」

 

「ノッブ……」

 

「やれやれ。こうなったら私も頑張らなくちゃいけませんね!隊長の意地を見せる時です!!」

 

「沖田さん……」

 

ノッブと沖田は遊馬の思いに心打たれ、周りを火に囲まれながらも迷いを断ち切る目で信長を見つめる。

 

「勝つぞ……ノッブ!沖田さん!」

 

「当たり前じゃ!」

 

「遊馬君、サーヴァントとしてマスターのあなたの指示に任せます!」

 

「おう!まずはこの熱々のフィールドを冷ましてやるぜ!フィールド魔法、『希望郷 - オノマトピア -』を発動!!」

 

炎の世界を貫くように遊馬の周りに無数の円錐の建物が出現し、空に無数の星々が輝く幻想的な世界となった。

 

「わしの第六天魔王波旬を侵食したじゃと!??」

 

第六天魔王波旬は固有結界の一つである。

 

固有結界とは高度な魔術の一つで心象風景で現実世界を塗りつぶし、内部の世界そのものを変えてしまう結界である。

 

そこに遊馬の魂の故郷であるアストラル世界を模したフィールド魔法、オノマトピアを発動したことで第六天魔王波旬を半分侵食したのだった。

 

そして、アストラル世界の力が溢れるオノマトピアが発動されたことにより、皇の鍵で傷を癒していたアストラルが復活する。

 

「アストラル!」

 

「心配かけたな。勝つぞ、遊馬!」

 

「おうっ!」

 

「アストラルさん……良かった……えっ?」

 

突如、マシュの持つ盾の中にしまった茶釜が光を帯びて飛び出した。

 

「せ、聖杯が……キャッ!?」

 

茶釜……聖杯は自ら意思を持つように流星のように飛んで遊馬の前で止まった。

 

聖杯は光の粒子を放つと遊馬の右手に注いだ。

 

「な、何だ!?」

 

「聖杯が……遊馬に力を?」

 

聖杯から遊馬の右手に力を注ぐと1枚のカードを創り出した。

 

それはモンスターエクシーズのカードで名前もイラストも効果もステータスも書かれてない白紙のカードだった。

 

「何でモンスターエクシーズが……?」

 

謎のモンスターエクシーズを握ったその時、遊馬の脳裏にイメージが浮かんだ。

 

それは褐色の肌に長い白髪、その瞳は金色に輝き、その身を黒と赤の衣装に身を包み、その手には黒い刀を持つ少女だった。

 

「今のイメージは……?」

 

遊馬は自分の手札を見るが今の手札ではモンスターエクシーズをエクシーズ召喚をすることが出来ない。

 

フィールドにはノッブと沖田の2体のフェイトナンバーズとフィールド魔法のオノマトピアと信長に装備した虹クリボー。

 

「……まさか」

 

遊馬はある一つの可能性を思いつき、その可能性にかけることにした。

 

遊馬はモンスターエクシーズを掲げて思いを込めながら叫ぶ。

 

「かっとビングだ!俺!俺はノッブと沖田さん、2体のフェイトナンバーズでオーバーレイ!!」

 

「「えっ!!??」」

 

ノッブと沖田は一瞬で首を後ろに向けるほど驚くと二人は光を纏って宙を舞う。

 

「何じゃこれはぁあああああっ!?」

 

「えぇえええええっ!?な、何ですか!?」

 

二人にはどうすることもできずにいると、遊馬の手の中にあるモンスターエクシーズに名前とイラストと効果とステータスが判明した。

 

一瞬でテキストを読破した遊馬は笑みを浮かべ、自分の直感は間違っていなかったと確信しながらそのカードをデュエルディスクに置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今こそ現れよ、XFNo.(クロスフェイトナンバーズ)0 !!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中に金色に輝く『0』の刻印が現れる。

 

「クロスフェイトナンバーズ!??」

 

ナンバーズでも、フューチャーナンバーズでも、フェイトナンバーズでもない新たなナンバーズが産声を上げる。

 

光となったノッブと沖田が地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「時を越えて出会いし天狼と魔王よ!二つの魂を一つに重ね、絶対なる運命を斬り裂く混沌の黒き刃となれ!クロスオーバー・エクシーズ召喚!!」

 

光の爆発が更に幾重にも発生し、二人のサーヴァントが一つに交わる奇跡のサーヴァントが誕生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『運命の終焉者 魔神セイバー』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の中から現れたのは先程遊馬のイメージに出てきた少女で赤と黒の衣装に加え、マシュのフェイトナンバーズと似た未来皇ホープのプロテクターを装着していた。

 

ノッブと沖田が合体したことにこの場にいた誰もが驚愕した。

 

「ど、どういう事じゃ!??」

 

「信長さんと沖田さんが合体した……!?」

 

「えっ?えっ??な、何が起きているんですか!?」

 

「サーヴァント同士が合体するってどういうことよ!?」

 

サーヴァント……英霊は星の数ほど多く、様々な英霊が存在するがサーヴァント同士が一つに合体することなど前代未聞である。

 

魔神セイバーは漆黒の刀、煉獄剣を信長に向ける。

 

「我は……運命を終らせる者。貴様の運命をここで終らせる!」

 

「ふ、ふざけるな……わしが負けるはずがないのだ!!」

 

「マスター。頼む」

 

魔神セイバーの鋭く静かな声が響き、遊馬は頷きながら効果を発動する。

 

「おうっ!魔神セイバーの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、種族を1つ宣言する!俺は戦士族を宣言!」

 

「このカードの攻撃力・守備力は宣言した種族のモンスターが相手フィールドに存在する限り、その種族の相手モンスターの攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力+1000の数値になる!織田信長は紛れも無い戦士族!よって、魔神セイバーの攻撃力は貴様を凌駕する!」

 

信長の力を遥かに凌駕し、魔神セイバーの持つ煉獄刀が光を帯びる。

 

魔神セイバーに向けて信長は炎を放ち、津波のように襲わせるが、魔神セイバーには火傷一つ負っていなかった。

 

「な、何故わしの炎で焼かれない!?」

 

「魔神セイバーのさらなる効果!この効果を発動したターン、このカードは他のカード効果を受けない!!」

 

二人のサーヴァントが一つになったことで戦闘において魔神セイバーは必ず敵を倒すと言うほぼ無敵の効果を持つのだ。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「行けっ!魔神セイバー、運命を斬り裂け!!」

 

「必殺剣……無穹三段!!!」

 

三段突きを進化させた突きを出す毎に特大のレーザービームを放つ。

 

信長は炎を繰り出すがレーザービームの前では無力でそのまま光に飲み込まれた。

 

「お、おのれ……だがわしは貴様らに負けたわけではないぞ。わしの心の中にあるノッブに敗れたのじゃ、それに、わしはまた必ず現れる……そう……お前達が大地への感謝を忘れた時とかにな!」

 

信長は光に飲み込まれたままラスボスの最後みたいな台詞を言って消滅した。

 

魔神セイバーは合体が解除されて元のノッブと沖田に戻る。

 

信長のノッブの本来の力が光となって漂い、ノッブが手を伸ばすとそれが体の中に取り込まれて本来の力を完全に取り戻した。

 

更に取り込んでいた聖杯の欠片が残り、光の粒子となって茶釜の中に入った。

 

「これで終わったな」

 

特異点の元凶であった信長が消え、この世界の崩壊が始まり、遊馬達の姿が消えていく。

 

「うむ、わしの力もようやく完全に戻ったようじゃ。ふはははは!これで貴様らも本当の本当に用済み……」

 

「そういうのもういいですから」

 

「懲りないなぁ……」

 

「全くだ……」

 

ノッブの悪ノリに沖田がツッコミを入れ、遊馬とアストラルは苦笑を浮かべた。

 

沖田とノッブは最後の別れとあって遊馬達に感謝と挨拶をする。

 

「皆さん、今回はお世話になりました。今度は是非私たちの世界にも遊びに来てください。大戦真っ最中ですけど」

 

「うむ、本来交わることのない世界じゃったが、お前達は気に入ったのじゃ!」

 

「沖田さん、ノッブ。もしも俺が二人を召喚できたら、その時は共に戦ってくれるか?」

 

「もちろんです!可愛い部下のために一肌脱ぎましょう!」

 

「喜んで第六天魔王の力、存分にふるってやろう!」

 

「ありがとう!じゃあな!」

 

「はい!それではまたどこかで逢いましょう!」

 

「さらばじゃ!」

 

沖田とノッブは消滅し、再び異世界の聖杯戦争へ向かった。

 

遊馬達もカルデアへ戻るためにマシュ達をフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまい、アストラルは皇の鍵に入る。

 

そして、カルデアへレイシフトをしてこの世界と別れを告げた。

 

カルデアに戻ると体力バカな遊馬でも流石に限界が来てしまい、事後報告などは全て後回しにしてすぐに休むことにした。

 

マシュも同様に疲れてしまい、自室で同じように休むのだった。

 

ローマと日本、続けて二つの特異点を巡る戦いに疲れた遊馬とマシュは夢を見ることなく眠りにつくのだった。

 

そして、翌日にはフェイトナンバーズを元に戦力強化のためのサーヴァント召喚の儀式が始まる。

 

しかし……その召喚でカルデアに修羅場を引き起こす事となるのだった。

 

それはダ・ヴィンチちゃんがささっと作って用意した剣を立てかけるソードラックにかけてある燃える炎を模した剣……『原初の火』。

 

その剣の本来の所有者が現れた時……遊馬に再び女難が襲いかかるのだった。

 

 

 

.




琥珀ちゃん「また合体したぁああああっ!??」

秋葉様「お前ネタキャラじゃなかったのかよぉ!??」

ライダー「FGOにも出ていないチートキャラを何出しているんですか作者ぁああああっ!!」

はい、出しちゃいました(笑)

魔神セイバーは沖田さんとノッブをネットで検索して調べている時に見つけて可愛いなと思いましたが、沖田さんとノッブが合体した存在と知り驚きました。

あれ?遊馬とアストラルが合体したんだからいけるんじゃね?と思って出しました。

ネタキャラなので多分FGO小説で魔神セイバーを出しているのはここぐらいだと思います。

それでは今回のフェイトナンバーズを紹介します。

FNo.63 第六天魔王 織田信長
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/戦士族/攻2100/守1800
戦士族レベル4モンスター×2
このカードがエクシーズ召喚に成功した時、エクシーズ素材を2つ取り除き、ライフを半分払って発動出来る。
デッキ・手札から『ノブ』もしくは『ノッブ』と名のついたモンスターを可能な限り自分フィールドに特殊召喚する事が出来る。
この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターンに効果を発動することが出来ず、攻撃することが出来ない。
この効果はデュエル中に1度しか発動することが出来ない。

三千世界や第六天魔王とは関係ないですが強いですね。
ぐだぐだ明治維新になればさらなるノブモンスターが来るのでノブデッキ環境来るか!?(笑)

FNo.39 桜花の天狼 沖田総司
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守500
戦士族レベル4モンスター×2
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。このターン、このカードは相手に直接攻撃することができる。
このカードが相手プレイヤーに直接攻撃が成功した時、相手フィールドのモンスター1体を選択して破壊することが出来る。
このカードがエクシーズ素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。このカードの攻撃力は0となり、攻撃が出来なくなる。

最初は呪いのナンバーズのアシッドゴーレムにしようかなと思いましたが、それは可哀想なのでデメリット効果で自壊するホープを選びました。

XFNo.0 運命の終焉者 魔神セイバー
エクシーズ・効果モンスター
ランク0/光属性/戦士族/攻?/守?
同じランクの「沖田総司」Xモンスター+「織田信長」Xモンスター1体ずつ
このカードは上記のモンスターを素材にしたエクシーズ召喚でしかエクストラデッキから特殊召喚することが出来ず、デュエル中に1度しか特殊召喚することが出来ない。
ルール上、このカードはランク1として扱う。
このカードがフィールド・墓地に存在する限り、このカードの属性は『闇』としても扱う。
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。種族を1つ宣言し、このカードの攻撃力・守備力は宣言した種族のモンスターが相手フィールドに存在する限り、その種族の相手モンスターの攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力+1000の数値になる。この効果は相手ターンでも発動出来る。この効果を発動したターン、このカードは他のカード効果を受けない。
このカードがフィールドから離れた場合に発動出来る。墓地から「沖田総司」Xモンスターと「織田信長」Xモンスターを1体ずつ特殊召喚する。

本来の設定がかなり曖昧なのでオリジナル感が出ましたが、絶対に敵を倒す的なイメージでこうなりました。
そこそこ強い感じに仕上がったと思います。

そして、次回はいよいよローマ組&ぐだぐだ組召喚です。
皆さんお楽しみの修羅場が待ち受けてます(笑)


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ナンバーズ35 愛しき者との再会

今回はサーヴァント召喚回です。
次回のために少し短めです。
相変わらず遊馬のガチャ運は最強です(笑)


ローマと日本の特異点を解決した翌朝、遊馬はいつもより少し遅めに起きた。

 

目が覚めると皇の鍵からアストラルが出てきて遊馬は私服に着替え、自室を出て食堂に向かうとマシュと合流する。

 

「おはようございます、遊馬君、アストラルさん」

 

「おはよう、マシュ」

 

「おはよう。君も寝坊かな?」

 

「は、はい。色々あり過ぎて疲れちゃったので」

 

「ははは、仕方ねえよ。連続で休む暇もなく特異点二つも巡ったからな。寝坊してもバチは当たらないさ」

 

「そうですね。さあ、朝食を食べたらサーヴァント召喚ですね」

 

「ああ。楽しみだぜ!」

 

「フォウフォーウ!」

 

「あ!フォウ!お前、日本の特異点では逃げやがって、お仕置きだー!」

 

「フォ、フォウー!?」

 

遊馬はマシュの肩に乗っていたフォウを見つけるなり両手でガッチリと確保し、十本の指を駆使してくすぐりをする。

 

数分間のくすぐりでフォウは悶えてピクピク震えており、マシュは苦笑を浮かべながら両手で持ち上げていた。

 

サーヴァント召喚の前にまずは腹ごしらえをするため、朝食を食べに食堂に入ると……。

 

「「「……えっ!??」」」

 

異様な光景に目を疑ってしまった。

 

モキュモキュモキュモキュ。

 

「あ、おはようございます。マスター、マシュ、アストラル」

 

「む?おはよう、マスター、マシュ、アストラル」

 

それは美味しそうにエミヤ特製の朝食を食べているアルトリアとアルトリア・オルタの二人だった。

 

「ちょっ!?な、なんでアルトリア・オルタがいるんだよ!?」

 

「お二人は同一人物のはずでは……!?」

 

「何故こんなことに……エミヤ!何があった!?」

 

アストラルは厨房から二人のアルトリアのための追加の料理を持ってきたエミヤを呼ぶ。

 

心なしかエミヤの表情に疲れが見えていた。

 

「ああ……おはよう。マスター、マシュ、アストラル……いや、実はな。君たちが特異点に行っている間にアルトリアにハンバーガーとプリンを満足するまで食べさせてあげたのだが……」

 

「もぐもぐ……ごくん。本来なら青いほうの中に戻るはずだったのだが、何故か二人に別れてしまったのだ」

 

「はあ!?そんなことがあり得るのかよ!?」

 

「アルトリアとアルトリア・オルタは言うなれば光と闇、コインの裏表みたいな関係だ。それが二人に分かれて存在している……まさか、カルデアの特殊な環境がそれを可能にしたのか?」

 

アストラルは顎に手を添えて冷静に推理するが、サーヴァントという存在が摩訶不思議過ぎて明確な答えが見つけることができない。

 

アルトリア・オルタは立ち上がると遊馬の前で立つ。

 

「まあ、色々思うところはあるが私はこうして存在している。よろしく頼むぞ、マスター」

 

「そ、そうだな。よろしく頼むぜ、アルトリア!」

 

「オルタと呼べ。アルトリアだけだと青王と混乱してしまう」

 

「分かった!オルタ!」

 

「うむ」

 

アルトリア・オルタは遊馬と握手をするとサーヴァントの契約を交わし、フェイトナンバーズが誕生する。

 

そして、真名とイラストと効果とステータスが判明し、イラストにはアルトリアのフェイトナンバーズと左右が逆の漆黒に染まった約束された勝利の剣を構える姿が描かれていた。

 

真名は『FNo.39 漆黒の騎士王 アルトリア・オルタ』。

 

「これが私のフェイトナンバーズか。いい絵だ。よし、気分がいいうちに朝食をもっと食べよう。シロウ、もっと飯を寄越せ!」

 

「シロウ!私もおかわりです!」

 

「分かったから落ち着いて食べなさい……」

 

エミヤは二人の大きな子供を持つお母さんのような心境でため息をつきながらテーブルに新しい料理を置く。

 

ただでさえアルトリア一人に苦労しているエミヤに更にもう一人のアルトリアが追加され、遊馬達は思った。

 

「エミヤ……過労死しないよな?」

 

「サーヴァントなので過労死は無いと思いますが……」

 

「エミヤの精神的ダメージがかなり大きそうだな……胃に穴が開かなければいいが……」

 

後で何からの形でエミヤを労ろうと思った遊馬達だった。

 

しかし、この時のエミヤはまだ知らなかった。

 

アルトリアにはオルタ以外にも様々な可能性を持つ全く別の存在であるアルトリアが何人もおり、全員がエミヤに好意を持つことになるとは……。

 

 

朝食を食べ終えた遊馬達はサーヴァント召喚の儀式を見たいと小鳥が頼んできたので一緒に向かうことにした。

 

「ノブノブー!」

 

「お、ちびノブ!頑張ってるな!」

 

ちびノブたちは先ほどレイシフトから帰って来たのか大量の食材をせっせと運んでいた。

 

カルデアで働くことになったちびノブたちは予想以上の働きを見せて職員たちは大助かりだった。

 

荷物運びから食料確保まで疲れを知らないちびノブたちはもはやカルデアには無くてならない存在となり、みんなからとても感謝されている。

 

特に暴食の化身と言っても過言ではないアルトリアにアルトリア・オルタが加わってしまったので食料の大量確保にエミヤは軽く涙を流して感謝するほどだった。

 

「頑張れよ、ちびノブ!」

 

「ノッブー!」

 

ちびノブと別れて召喚ルームに到着する直前、遊馬は忘れ物に気づいてすぐに自室に戻った。

 

「こいつを忘れるわけにはいかないよな……」

 

「もしも忘れたらネロが英霊の座から無理やり来そうだな……」

 

「ネロならやりかねないから笑えねぇ冗談だよ」

 

それはネロから譲り受けた真紅の剣、『原初の火』。

 

原初の火をソードラックから持ち上げて肩に担ぎ、急いで召喚ルームへ向かう。

 

召喚ルームでは既にサーヴァント召喚の準備ができており、遊馬はデッキケースからローマと日本の特異点で手に入れたフェイトナンバーズを取り出して召喚サークルに並べる。

 

そして、原初の火をフェイトナンバーズの隣に置く。

 

「遊馬君、どうぞ」

 

「おう。サンキュー、マシュ」

 

マシュから聖晶石を貰い、額に持っていって願いを込めながら砕く。

 

「さあ、行くぜ!かっとビングだ!」

 

砕いた聖晶石を振りまくと三度目のサーヴァント召喚が始まり、爆発的な魔力が集束する。

 

英霊召喚システムとカルデアの電力が唸りを上げて眩い光を放ち、光の中から次々とサーヴァントが召喚される。

 

「ユウマ、約束通りにちゃんと召喚してくれたね」

 

最初に召喚されたのはブーディカだった。

 

ブーディカのフェイトナンバーズは既に判明しており、『FNo.83 勝利と愛の女王 ブーディカ』である。

 

「ふはははは!マスターよ!さあ、圧制者を蹴散らそうぞ!」

 

ブーディカの次に召喚されたのはスパルタクスだった。

 

スパルタクスのフェイトナンバーズは無数の傷を受けて血を流しながらも堂々と剣を掲げる姿が描かれており、真名は『FNo.54 反乱の剣闘士 スパルタクス』。

 

「あら?ふふふ、本当に召喚してくれたのね?さあ、メドゥーサに会いに行きましょう」

 

スパルタクスの次に召喚されたのはステンノ。

 

ステンノのフェイトナンバーズはローマの神の島を背景に砂浜を可愛らしく歩いている姿が描かれており、真名は『FNo.44 微笑の女神 ステンノ』。

 

「あははははは!タマモキャット、参上なのだ!」

 

ステンノの次に召喚されたのはタマモキャット。

 

タマモキャットのフェイトナンバーズはメイド喫茶で忙しそうに動きながらも楽しそうにしている姿が描かれており、真名は『FNo.29 狂愛の守護獣 タマモキャット』。

 

「たいして役には立てないけど。君の力になれるよう頑張るよ」

 

タマモキャットの次に召喚されたのは荊軻。

 

荊軻のフェイトナンバーズは短剣の匕首を構え、その周りを巻物の地図が舞う姿が描かれており、真名は『FNo.41 不還の暗殺者 荊軻』。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」

 

荊軻の次に召喚されたのは呂布。

 

呂布のフェイトナンバーズは方天画戟を構え、愛馬である赤兎馬を乗り、戦場をかける姿が描かれており、真名は『FNo.80 暴星武神 呂布』。

 

「スパルタ王、レオニダス!ここに推参!!」

 

呂布の次はレオニダス。

 

レオニダスのフェイトナンバーズは槍と盾を構え、三百人の戦友と共に歩く姿が描かれており、真名は『FNo.58 炎門の守護者 レオニダス一世』。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」

 

レオニダスの次はダレイオス三世。

 

ダレイオス三世のフェイトナンバーズは巨大な像に跨り、不死の兵士を引き連れる姿が描かれており、真名は『FNo.20 戦象闘王 ダレイオス三世』。

 

「本当に私を召喚するとはな……恐れ入ったよ」

 

ダレイオス三世の次は諸葛孔明こと、エルメロイII世。

 

エルメロイII世のフェイトナンバーズは不機嫌そうに煙草を咥え、無数の本に囲まれている姿が描かれており、真名は『FNo.78 陣形軍師 諸葛孔明』。

 

「やあ、未来皇。今度は味方として君に力を貸すよ」

 

エルメロイII世の次はアレキサンダー。

 

アレキサンダーのフェイトナンバーズは愛馬のブケファラスを跨り、輝かしい光をバックにして剣を構えた姿が描かれており、真名は『FNo.89 少年覇王 アレキサンダー』。

 

「ネロは……ネロはいるかぁあああああっ!!」

 

アレキサンダーの次はカリギュラ。

 

カリギュラのフェイトナンバーズは巨大な月に狂った様子が描かれており、真名は『FNo.87 月狂の皇帝 カリギュラ』。

 

「敵味方問わず召喚するとは本当に面白い男だ!!」

 

カリギュラの次はカエサル。

 

カエサルのフェイトナンバーズは黄金の剣を掲げている姿が描かれており、真名は『FNo.56 金色の皇帝 カエサル』。

 

「私はローマだ!そして、そなたもローマだ!!」

 

カエサルの次はロムルス。

 

ロムルスのフェイトナンバーズは光り輝く都市を背景に勇ましい立ち姿が描かれており、真名は『FNo.6 建国神祖 ロムルス』。

 

「……私を倒した相手に召喚されるなんて……」

 

ロムルスの次はアルテラ。

 

アルテラのフェイトナンバーズは滅びた都市を背後に軍神の剣を構えた姿が描かれており、真名は『FNo.69 軍神王 アルテラ』。

 

「ふははははっ!第六天魔王、織田信長……降臨じゃ!!」

 

「新選組一番隊組長、沖田総司!見参!遊馬くん、約束通りにあなたの力になりに来ました!!」

 

アルテラの次に織田信長と沖田総司が同時に召喚された。

 

全てのフェイトナンバーズを媒体に十六人のサーヴァントが召喚された。

 

そして、最後の媒体である原初の火……それが宙に浮くと眩い光が放たれた。

 

その光は原初の火を抱きしめ、光が静かに消えながらゆっくり遊馬に近づいて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと……やっと、余を召喚してくれたな。ユウマ」

 

「ネロ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に現れたのは純白の花嫁を連想させる衣装を纏ったネロだった。

 

それは赤のイメージが強かったネロだったが美しいその純白の衣装はネロの可憐な雰囲気を更に高めていた。

 

ネロは原初の火を媒体にサーヴァントとして無事にカルデアには召喚されたのだった。

 

「ユウマ!!!」

 

「おうっ!?」

 

ネロは涙を浮かべながら遊馬に抱きついた。

 

遊馬はバランスを崩しそうになりながらもネロをしっかりと受け止めた。

 

「遅いぞ、馬鹿者……どれだけ余を待たせておるのだ……」

 

ネロは強く強く……遊馬を愛おしく抱きしめた。

 

「ご、ごめん……待たせちゃったみたいだな……」

 

涙を流すネロに対し遊馬は頭と背中を優しく撫でた。

 

第二特異点でのローマの命運をかけた戦いから別れてからネロは遊馬と再会する時を夢見ていた。

 

そして、死後に英霊の座に呼ばれ、サーヴァントとして召喚されるのをずっと待っていたのだ。

 

そんな二人を見てアストラルは目を閉じて皇の鍵の中に入り、マシュと小鳥は今回は譲ってあげようと思い、召喚したサーヴァント達を連れてカルデアを案内しようとしたが……。

 

「うぉおおおおお!ネロ!ネロォオオオオオッ!!」

 

ネロが大好きで仕方ない叔父のカリギュラが暴走して突撃しようとしていた。

 

しかし……。

 

「こんな時に邪魔しない!!あんたは眠ってなさい!!!」

 

「グボァッ!?」

 

ブーディカ渾身の拳骨でカリギュラの顔面が練り込むぐらいに強く打ち込み、一撃で意識を奪って撃沈させた。

 

「全く……ネロは気に入らないけど、ユウマに会った時のあんな嬉しそうな涙を見たらね……」

 

色々思うところがあるのか複雑な表情を見せたブーディカは気絶したカリギュラの首根っこを掴んで引きずる。

 

バーサーカークラスのサーヴァントを宝具やスキルを使わずに拳骨一撃で撃沈させたその恐るべきパワーにマシュ達は軽く引きながら一緒に召喚ルームを出た。

 

しばらくしてネロは泣き止むと遊馬は笑みを浮かべネロの手を握る。

 

「行こうぜ、ネロ。サーヴァント達の歓迎会を企画しているんだ」

 

「おお!余たちの歓迎会か!」

 

「ああ!食堂でエミヤ達がご馳走を用意してくれてるんだ。たくさん食べて、みんなと仲良くなろうぜ!」

 

「うむ!」

 

遊馬はネロを連れて召喚ルームから出て食堂へ向かった。

 

 

 

.




ネロは嫁王ことネロ・ブライドで召喚されました。
フェイトナンバーズについては次回か後に判明します。
次回は遊馬とネロの話を中心に書こうと思います。


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ナンバーズ36 遊馬とネロ、二人の世界

今回はネロ回です。

前半は少し違いますが、後半は完全にネロちゃま無双です(笑)

活動報告に書きましたが、今とあることで悩んでいるのでもし良ければアンケートに答えてくれると嬉しいです。


遊馬が召喚したばかりのネロを連れて食堂に入るとテーブルにはエミヤやマルタが作った大量のご馳走が並び、我慢して歓迎会を待っているアルトリアとアルトリア・オルタは涎を垂らし、まるでご馳走を目の前に待てをされている犬のような様子だった。

 

この二人は本当に世界に名高いあのアーサー王なのだろうかと疑問に思ってしまう。

 

王ではなく、ただの食事大好きな女の子にしか見えなかった。

 

それから少しした後に食堂にはカルデア職員全員と今回召喚されたのも含むサーヴァント全員が集まり、歓迎会が始まった。

 

ちびノブ達のお陰で食材だけでなく酒類も確保しているので少しずつみんなのテンションが上がっていた。

 

そんな中、一番酒に酔っていたのは……。

 

「ヒック……男なんて、男なんてぇええええっ!!」

 

オルガマリーだった。

 

オルガマリーは酒に酔った所為で積もりに積もった思いが爆発してしまった。

 

その内容はかつて愛した男……レフのことだった。

 

レフはカルデアや人類の裏切り者ではあるが裏切り者どころの話ではなく、実は人間ではなく本物の悪魔だった。

 

愛した男が最低最悪の敵でしかも人間ではなく化け物という事実にオルガマリーの心は踏んだり蹴ったりである。

 

「裏切り者どころか本物の悪魔の化け物よ……返してよ、私が恋い焦がれていた心を返してよぉ……」

 

オルガマリーは今夜だけは全てを忘れるために飲み慣れてない酒をがぶ飲みしていく。

 

ヤバすぎるオルガマリーの状態にロマニやダ・ヴィンチちゃんやカルデア職員たちも怖くて近づけなかった。

 

そんな中、オルガマリーを心配して一人の少女が勇気を出して近づく。

 

「オルガマリー所長!そんなにお酒を飲んだら急性アルコール中毒で死んでしまいます!お水を飲んで落ち着いてください!」

 

「マシュ……」

 

それは心優しいマシュでコップに水を注いで持ってきたのだ。

 

マシュから水を受け取り一気に飲み干すとオルガマリーはトロンとした目で見つめる。

 

「マシュ……あなた、可愛いわね」

 

「えっ?」

 

「可愛いし、スタイル良いし、とても優しいし……もう目覚めてもいいわね」

 

「えっ?えっ?」

 

「マシュ……私を癒して〜!私の初めてをあげるからあなたの初めてを頂戴!!」

 

何を血迷ったのか男を信じられなくなったオルガマリーは酒の影響もあってレズビアンに目覚めてしまい、マシュに襲いかかってキスしようとした。

 

「えっ、あっ、きゃああああああ!??」

 

「カルデア全職員、オルガマリー所長を止めろぉおおおおおっ!!!」

 

マシュの貞操を守るためにロマニの叫び声にカルデア職員たちは一斉にオルガマリーを拘束する。

 

「マシュ!大丈夫かい!?」

 

「は、はい!」

 

「ここは僕たちがなんとかするから退避するんだ!」

 

「わかりました!」

 

マシュはオルガマリーをロマニたちに任せてその場から退避した。

 

貞操の危機を免れたマシュはふと目に入った風景に頬を膨らませていた。

 

それは遊馬を囲むように先ほど召喚したネロを含む複数の女性がいる光景だった。

 

「むぅ……」

 

「あらあら、嫉妬しているのかな?」

 

「ふわっ!?ブーディカさん!?」

 

背後にブーディカが現れ、そのままマシュを愛おしそうに後ろから抱きしめていた。

 

「大丈夫、マシュにもチャンスはたくさんあるから。ネロや他の女の子に負けないぐらいユウマを魅了するテクニックを教えてあげるから」

 

「あ、ありがとうございます。でもどうしてそこまで私に……」

 

「あなたは私の妹みたいな存在だからよ……まあ、弟でもあるけど」

 

「あの……それってもしかして、私の中にいる……」

 

「おっと、それ以上はダメだよ。その答えはこれからの旅で自分で見つけていくんだよ」

 

「自分で……?」

 

「そうそう。あなたとユウマで特異点を巡る旅でその答えを見つけるんだよ」

 

「フォウフォウ!」

 

するとフォウがマシュの体をよじ登り、「僕もいるよ!」とアピールする。

 

「あはは、そうだった。フォウもいたんだね。みんなでゆっくり答えを見つけ合うんだよ」

 

「はい……!」

 

マシュは今日はブーディカに甘える事にした。

 

まるで母親に甘える娘のように……。

 

 

一方、遊馬は歓迎会の最中だというのに今までにないくらいタジタジだった。

 

右にはネロ、左には小鳥、前の席にはジャンヌとレティシアと清姫の三人がいて全員笑顔だったがギロリと互いを牽制するように睨み合っていた。

 

「ユウマよ、あーんなのじゃ!」

 

「ねえ、遊馬。デュエル飯よ、こっちを食べるでしょ?」

 

「遊馬君、こちらのお菓子を一緒に食べましょう?」

 

「遊馬、こっちに美味しそうなお肉があるわよ」

 

「旦那様、こちらもとても美味しそうですよ」

 

「み、みんな、落ち着けって……」

 

「お主ら!余の邪魔をするな!」

 

「ネロさん、それはこっちのセリフです!」

 

「独り占めなんてダメです!」

 

「来たばかりのあんたの好きにはさせないわ!」

 

「私と旦那様との大切な時間を邪魔しないでください」

 

五人はいつしか互いを睨みつけて火花を激しく散らし、遊馬は頭を抱える。

 

遊馬が大変な時、アストラルはその場からそっと離れて一人の少女の元へ向かった。

 

それは食堂の一番端のテーブルで黙々と食事をしているアルテラだった。

 

「みんなと一緒に食べないのか?」

 

「……私の勝手だ。それに、私はお前たちの敵だったんだぞ?今更……」

 

アルテラはどうみんなに接したらいいのかわからずにうずくまっている状態だった。

 

本来なら遊馬と話をさせるべきだが、あいにく遊馬は女性たちに囲まれてとても大変であり、代わりにアストラルが話す。

 

「アルテラ、君は昔の私に似ているな」

 

アストラルは微笑みながらアルテラに昔の自分を重ねた。

 

「私が、お前に……?」

 

「私は遊馬と出会った当初は失われた記憶を取り戻す事だけにしか目がいってなかった。しかし、遊馬や多くの人たちと出会った事で記憶のない私に『心』が生まれたんだ」

 

「心……」

 

「アルテラ、君が文明の破壊者と名乗るならそれはそれでいい。だが、このカルデアには様々な時代の英霊たちが集っている。これからも遊馬は多くの英霊と絆を結び、このカルデアに召喚するだろう。だから、君はその目で見て少しずつ学べばいい。自分がどのような道を進むのか、その手にある力をどう振るうのか……」

 

「見て、学ぶ……」

 

「君に大切な人ができることを私は祈っているよ」

 

アストラルは遊馬の元へ向かうとすると、アルテラは静かに口を開いた。

 

「アストラル……」

 

「何かな?」

 

「その……感謝する……あり、がとう……」

 

アルテラからの感謝の言葉にアストラルは笑みを浮かべた。

 

「ああ。また話そう、アルテラ」

 

アストラルは遊馬を囲っている乙女たちを抑えるために向かう。

 

 

ものすごく慌しい歓迎会が終わり、その後はサーヴァント達に色々説明してあっという間に夜となり、遊馬は自室のベッドに倒れこむ。

 

「疲れた……」

 

「そうだな。夜更かしはしないで早めに寝るといい」

 

「はーい……」

 

遊馬はシャワーを浴びて寝る支度をしようとしたその時。

 

コンコン。

 

「ユウマ、いるか?」

 

「ネロ?鍵開いてるから入っていいぜ」

 

ドアの前にいたのはネロで遊馬の許可を得て開くとゆっくり部屋の中に入る。

 

「どうしたんだ?」

 

「その……夜遅くにすまないが、ユウマと余で二人っきりで話がしたいのだが……」

 

「二人っきりで?別に構わないけど、場所がな……下手すれば何処からともなく清姫が現れるし」

 

「あやつ……アサシンの適性でもあるのか?」

 

「かもな。カルデアにはサーヴァントもかなり増えて来たし、何処かないかな……」

 

二人っきりで話せる場所がないか考えているとアストラルが仕方ないといった様子で提案した。

 

「遊馬、一つだけいい場所がある。誰にも邪魔されず、清姫や他のサーヴァントでも絶対に入ることができない場所だ」

 

「本当か!?」

 

「それはどこなのだ?」

 

「そこだ」

 

アストラルが指差したのは遊馬の胸元……皇の鍵だった。

 

「皇の鍵?」

 

「遊馬、君は知っていると思うが皇の鍵の中には亜空間が広がっており、飛行船が収納されている。本来なら私しか入れないが、私の力で二人を今夜一晩だけ入れてやろう」

 

「いいのか?」

 

「今夜だけ特別だ。ネロ、ゆっくり遊馬と話し合うといい」

 

アストラルが手を伸ばすと光り輝き、遊馬とネロの体が粒子となり、皇の鍵の中に吸い込まれた。

 

皇の鍵は床に落下する前にアストラルは宙に浮かせ、静かにベッドの上に置く。

 

アストラルは腕を組んで目を閉じ、二人の話が終わるまで待つ。

 

 

皇の鍵の中にある亜空間は薄暗くも仄かに明るい粒子が漂う世界が広がっており、そこに皇の鍵の飛行船ことかっとび遊馬号が収納されている。

 

そして、下には一面の砂漠が広がっており、遊馬とネロはゆっくり降りるとネロは不思議な皇の鍵の中の世界にはしゃぎ始めた。

 

「おおっ!何と不思議な世界ではないか!まさか遊馬の首飾りにこれほど広大な世界が広がっていたとは!」

 

「俺も何回かここに来たことあるけど、その時は緊急事態のデュエルだったからな。ゆっくり見たことなかったぜ」

 

しばらく歩いていると二人は砂漠の上で座り、不思議な空を見上げる。

 

決して人間界では見ることのできない不思議な風景に不思議と心が安らいでいく。

 

「ユウマよ、あのローマの戦いで余と別れてどれぐらいの時間が経過してから余を召喚した?」

 

「え?そうだな、実はあの後にすぐ次の特異点の戦いがあったから、三日ってところだ」

 

「三日か……余はあの後、何年も経過していた。余は遊馬達との出会いを胸に秘めて国を発展し、ローマ市民を幸せにしようと努力したがこれがうまくいかなくてな……暴君と呼ばれるようになってしまってな……」

 

「暴君……」

 

遊馬はネロが暴君と呼ばれる事と同時に『歴史の修正力』というものを思い出した。

 

既に起きている過去を改変しようとしてもそれが失敗し、もしくは成功してもその後に成功を打ち消してしまう出来事が起きる事だ。

 

レフやその背後にいる黒幕は歴史の修正力が効かないほど大きな歴史の改変をして人理を崩壊させようとしており、遊馬達はそれを食い止めるために特異点を巡っている。

 

結果的に特異点を解決する事で歴史は狂わずに済んでいるが、遊馬達が関わった事で僅かに歴史が変わっているのだ。

 

実際にここにいるネロは遊馬を愛した事で国を良くしようと、ローマ市民を幸せにしようと努力したが、結果的に歴史に記された通りに暴君と呼ばれ、最後は帝位を追われて自決した。

 

どれだけネロが行動しようとも暴君と呼ばれ、自決するという決められた歴史の運命は変えることができないという事だ。

 

「余はローマ市民と心を通じ合うことができなかった……余りにも身勝手な皇帝だったのだ……」

 

「ネロは精一杯頑張ったんだよ。だけど、側にちゃんと向き合ってくれる奴がいなかったから、道に迷ったんだよ、きっと……」

 

「そうかもしれないな……あぁ、遊馬があれからずっと側にいてくれたら、ローマ帝国は素晴らしい国になって、誰もが幸せになれる理想郷になっていたかもしれないな……」

 

「理想郷か……でもそれを作るのは難しいんだよな。アストラル世界も試行錯誤や四苦八苦をして大変だったからな……」

 

遊馬は実際にアストラル世界に向かい、そこで様々な現状や問題を見て、遥かなる理想を目指す難しさを目の当たりにした。

 

「でも、カルデアには沢山のサーヴァントがいる。みんなの話や意見を聞いていけば、いつか理想郷への答えが見つかるかもしれないな」

 

「そうか!なるほど、その手があったな!よし、いつか絶対に理想郷を作るぞ!」

 

「え?どこに作るの?」

 

「決まっておる!ユウマの住む世界にじゃ!」

 

「ああ、俺の世界……ってえええっ!?ネロ、それどういう意味だよ!?」

 

「決まっておる!人理を救う戦いが終わった後に受肉をしてユウマと共に異世界に向かい、そこで理想郷を作るのだ!」

 

「えっ!?ネロも俺の世界に住むの!??」

 

まさかネロが人間界について行きそのまま移住するとは思いもよらず驚いているとネロは涙目で遊馬の顔を下から覗き込む。

 

「ダメか……余はユウマの側にいたいのじゃ……」

 

遊馬は可愛い女の子が涙目でこれほど必死で訴えているのにそれを拒否するほど心が鬼にはなれない。

 

「わ、わかったよ……連れてってやるから泣かないでくれ」

 

「本当か!ユウマ、愛しておるぞ!!」

 

「どわあっ!?」

 

ネロは余りにも嬉しい遊馬の答えに感動して遊馬に抱きついた。

 

遊馬は抱きつかれて顔を真っ赤にし、話題を変えるために今まで思ったことを口にする。

 

「そ、そう言えば……ネロ、その衣装はどうしたんだ?」

 

「これか?これは余が自ら作った花嫁衣装だぞ!」

 

「は、花嫁衣装!?」

 

「もしかして、似合わないか……?」

 

「いや、とっても似合ってるぜ。ただ、俺的にはネロの赤い衣装が好きだったからさ。ほら、俺のイメージカラーが赤だし」

 

「そうか、ユウマはあの服が好きなのか。それならば!」

 

ネロは立ち上がって遊馬から離れると踊るように回転すると、ネロの姿が花嫁衣装から元の赤い衣装へ変わった。

 

「ええっ!?衣装が変わった!?」

 

「コスチュームチェンジだ!いつでも好きな衣装にチェンジ出来る!ちなみに衣装が違うとスキルや宝具も変化する仕様だ!」

 

「何それ便利すぎる!?」

 

クラスチェンジならキャスターとランサーを持つクー・フーリンがいるが、衣装が変わるだけでスキルや宝具などが変わるという謎仕様にサーヴァントの謎が更に深まった。

 

「さあ、ユウマよ!そろそろ余と契約しようではないか!余のフェイトナンバーズを見せてくれ!」

 

「そうだな、俺もどんなカードになるか見て見たいからな。よし!行くぜ、ネロ!」

 

「うむ!」

 

遊馬は手を伸ばし、その手をネロが差し伸べた。

 

その時、ネロはニヤリと悪い笑みを浮かべると遊馬の右手を掴むとそのまま無理やり抱き寄せて唇を重ねた。

 

「んむぅっ!!?」

 

二人の唇が重なったままネロとの契約が始まり、ネロの体が粒子化してフェイトナンバーズが現れる。

 

フェイトナンバーズからネロが現れると遊馬はキスをされたショックから復活してすぐに抗議する。

 

「な、何するんだよネロ!!」

 

「良いではないか、ユウマを余の夫にすると言ったではないか」

 

「い、言ってたけどまだ俺は結婚とかよくわかんねえし……」

 

「まあお主はそういう事に疎いみたいそうだからな……そんな事より、余のフェイトナンバーズを見せてくれ!」

 

遊馬の手にあるフェイトナンバーズをネロが触れた瞬間……。

 

パァン!

 

叩くような音が鳴ると、フェイトナンバーズが二枚に増えて宙に浮く。

 

「な、何と……」

 

「フェイトナンバーズが二枚に……これは……!?」

 

光り輝くカードが徐々に光が消えてその真の姿が判明した。

 

一枚目は黄金に輝く劇場に立ち、薔薇の花が舞う中に原初の火を構えるネロの姿が描かれ、真名は『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』。

 

二枚目は黄金の劇場が結婚式のような形となり、白い薔薇の花が舞う中で白銀に輝く原初の火とブーケを持つネロの姿が描かれ、真名は『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』。

 

ネロが二つの姿に変身出来ることが二枚のフェイトナンバーズを生み出す事になるのだった。

 

「おおっ!これが余のフェイトナンバーズか!何と素晴らしい、まさしく余とユウマの愛の結晶!」

 

「愛の結晶言うな!それにしても0か……マシュと同じ数字だな」

 

「むむっ、マシュもそう言えば0だったな……やはりマシュもライバルか。ところで、ユウマよ。コトリとはどのような関係なのか?」

 

突然ネロは小鳥の事を聞き始め、遊馬はキョトンとしながら首を傾げる。

 

「え?小鳥?小鳥は小さい頃からずっといる幼馴染だけど?」

 

「幼馴染か……さて、ユウマ。一つ聞くが、コトリの事を愛しておるのか?」

 

「……はぁ!?な、何言ってるんだよネロ!?」

 

「正直に答えよ、ユウマ!ユウマがコトリを見ている時の雰囲気は余やマシュとはまるで違う!さあ、包み隠さずコトリの事を全て答えよ!妻に隠し事は許さぬぞ!!」

 

「な、何の話だ!?ちょっ、落ち着けって!!」

 

ネロの鬼気迫る表情に恐れた遊馬はその場から少しずつ遠ざかる。

 

「待たぬか、ユウマ!待たぬと更に大胆な事をして愛を深めることとなるぞ!!」

 

「勘弁してくれ!助けてくれ、アストラルゥウウウウッ!!!」

 

唐突に始まった遊馬とネロの追いかけっこ。

 

周りには遮るものは無い砂漠が広がるだけで誰も邪魔できない。

 

遊馬はアストラルが迎えに来てくれるまで必死に逃げるのだった。

 

 

 

.




と言うわけでネロとネロブライドは同じ存在にしました。

FGOだと別々の存在らしいですが、これ一緒でもよくないか?と思ってこうなりました。

次回は遊馬のカルデアの一日のパート2です。

新たなサーヴァントがカルデアに増えたことで遊馬のカルデアでの日常がまた変わりますのでそれを書いていきます。

第一次正妻戦争も是非とも書きたいので楽しみながら書きます。


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ナンバーズ37 カルデアの一日 その2

今回は第二特異点とぐだぐだ本能寺を乗り越えた遊馬達の新たな日常です。

色々やらかした感がまたありますが楽しんでくれれば幸いです。


第二特異点と本能寺の戦いを終えた遊馬とアストラルの新たなカルデアの一日。

 

午前7時・起床。

 

朝寝坊が多かった遊馬だが規則正しい生活に体が順応して一人でも起きられるようになり、目を覚ましてベッドから起き上がるといつもと違う風景が広がっていた。

 

「何してんだよお前ら……」

 

「むむーむっ!?」

 

「むぐむぐむぐーっ!?」

 

毎晩懲りずに遊馬に夜這いをかけようとしている清姫に加えて先日召喚したばかりのネロも一緒に鎖で縛られて動けなくなっていた。

 

「……アストラル」

 

「ああ……」

 

遊馬のすぐ後に目覚めたアストラルは二人をジト目で見つめながらセットしてある恒例のデモンズ・チェーンを外すと二人が抗議して来た。

 

「アストラルさん!いい加減に旦那様と私の関係を認めてください!」

 

「ダメだ、清姫。君はまだ遊馬の嫁に認められるほどの合格ラインには遥かに届いていない」

 

「話には聞いていたがお主は娘を嫁に出したくない父親か!?ユウマは余の夫であるのだぞ!夜這いをしても良いではないか!」

 

「それは君が勝手に決めたことだ、私には関係ない」

 

英霊と精霊の争いが始まり、遊馬は頭痛を覚えながらベッドから降りる。

 

「二人共、着替えるから部屋から出てくれないか?」

 

「あ、よろしければお着替えをお手伝いします」

 

「ユウマの裸は眼福だぞ!」

 

「うん、いいから出てけ。令呪を使うぞ?」

 

遊馬は令呪をチラつかせながら二人を有無を言わせずに部屋から出て行かせ、大きなため息をつく。

 

「これから毎日あれが続くのか……」

 

「遊馬、負けるな……」

 

アストラルは気を落とす遊馬の肩をポンと手を置いた。

 

 

午前7時15分・朝食。

 

着替えて部屋を出た遊馬は清姫とネロ、そして途中で合流したマシュとフォウと一緒に食堂へ向かう。

 

食堂に入るとそこには信じられない光景が広がった。

 

「いらっしゃいませ。マスター、マシュ、アストラル、清姫、ネロ」

 

「いらっしゃいませ、ご主人様。今日のおすすめメニューはタマモキャットの特製オムライスだ」

 

食堂の入り口に立っていたのはメイド服に身を包んだアルトリアとアルトリア・オルタだった。

 

「「「「「はいっ!??」」」」」

 

「フォウッ!?」

 

世界にその名を轟かせる伝説の騎士王がメイドをやっている事に遊馬達は驚きを隠せなかった。

 

「騎士王様、あんたら何してるの!!?」

 

あまりにも異様な光景に遊馬は反射的にツッコミを入れた。

 

「シ、シロウのお手伝いです。サーヴァントも増えて来ましたし、ただ毎日食べるだけではいけないと思いまして……」

 

「メディアに頼んで作ってもらった。あの魔女、可愛い服を作るのが得意だからな」

 

アルトリアは少し恥ずかしながら言い、アルトリア・オルタは堂々と言った。

 

メディアにそんな特技がある事に驚きだが、アルトリア二人のメイド姿はとても似合っていた。

 

アルトリアはイメージカラーでもある青を基調とした清楚な雰囲気のメイド服。

 

対するアルトリア・オルタはイメージカラーの黒を基調としたゴスロリ風のメイド服。

 

二人のメイド姿のクオリティは高く、仮に本場のメイドカフェにいれば盛況間違い無いだろう。

 

調理場には料理長のエミヤを筆頭に小鳥とマルタ、そして新しく担当になったブーディカとタマモキャット。

 

そしてホールにはアルトリアとアルトリア・オルタが担当した事で、サーヴァントがかなり増えて来たがエミヤの負担がかなり減った。

 

「あの二人……本当にあの騎士王アーサー・ペンドラゴンなのか?」

 

「あんな姿を見たら円卓の騎士たちが発狂しそうだな」

 

「そ、そうですね……騎士王様がホールの手伝いをするなんて想像つきませんからね……」

 

せっせとオーダーを取ったり料理を運んでいる二人のアルトリアの姿を見て遊馬達は苦笑を浮かべた。

 

余談ではあるが本日のおすすめメニューのタマモキャットのオムライスは絶品だった。

 

 

午前8時・勉強会。

 

朝食の後の勉強会は遊馬だけでなく小鳥も参加する事になった。

 

少しずつ勉強が上達して来た遊馬と元々真面目な小鳥の生徒二人に教師のマシュとオルガマリーも嬉しく思うのだった。

 

サーヴァントが増えてきたところでアストラルはある特別授業を設けることを提案した。

 

それは歴史の授業でサーヴァント本人から直接話を聞くことである。

 

歴史の本を読むのもいいが、史実が本当に起きたことなのか定かではなく特に第二特異点ではネロが実は女性という驚愕の事実が判明した事で遊馬が歴史の本を信じられなくなった事態に陥っている。

 

そこでサーヴァント本人からその当時の歴史や文化を学ぶことをアストラルは思いついたのだ。

 

そして、今回の特別講師は……。

 

「それではこのボク、シャルルマーニュ十二勇士の一人、アストルフォが先生を務めるよー!」

 

イングランド王の息子、アストルフォが特別講師を務める。

 

日本人である遊馬と小鳥にとってシャルルマーニュ伝説は全くといっていいほど馴染み無いのでそれを学んでいく。

 

シャルルマーニュ伝説を学んでいくと遊馬はある事に気づく。

 

「あれ……?なあ、アストルフォ」

 

「ん?なぁに?マスター」

 

「お前……男なのか?」

 

「うんそうだよ?」

 

遊馬の問いにあっさり答えたアストルフォに小鳥達はピシッと石のように固まる。

 

「えっ?えっ?えっ?ア、アストルフォさんが男……!??」

 

「で、でも、アストルフォさんが女装しているのは友人のローランさんの狂乱を沈めるためでは……?」

 

「ま、まさかね……そ、そうよ!アストルフォは実は女の子だったのよ!アーサー王が女性だったし……」

 

アストルフォが男だという事に信じられない小鳥達は実は女だということを言い聞かせる。

 

遊馬は本当にアストルフォが男なのか確かめるために行動に移す。

 

「アストルフォ、ちょっといいか?」

 

「うん、いいよー」

 

遊馬はアストラルとアストルフォを連れて部屋を出た。

 

数分後、遊馬達が戻ると……。

 

「アストルフォは紛れもない男だ……間違いない」

 

「ああ……それは私が証明する」

 

「いやー、流石にちょっと恥ずかしかったかな?あはははは!」

 

アストルフォが男……それを確かめる方法は一つしかない。

 

それは同じ男である遊馬にしかできない事だった。

 

その驚愕の事実に小鳥達は衝撃を受けてその場でうなだれた。

 

「可愛い顔、高い声、ピンク髪、三つ編み、細い体……羨ましすぎる」

 

「あまり気にしてませんでしたがこれは大きな敗北感を感じざるをえません……」

 

「どうして男なのに私より可愛いのよ……顔だけじゃなくて性格も男受けするし、何なの?何なのよこの不公平は……」

 

もはや神から授けられたと言っても過言ではないその体に敗北感を与えられた小鳥達。

 

そんな小鳥達を見てアストルフォは首を傾げた。

 

「あれ?みんなどうしたの?」

 

「アストルフォ……今回は……」

 

「全て君の所為だな……」

 

「ええっ!!?」

 

遊馬とアストラルの宣告にアストルフォはガビーン!とショックを受けるのだった。

 

 

午後0時・昼食。

 

勉強会を終えた遊馬達は午後の鍛錬のためにしっかり昼食を食べる。

 

ちなみにアルトリアとアルトリア・オルタのメイドとしての働く姿がかなり板についており、メイド服を制作したメディアは大興奮しながらカメラを構えて激写していた。

 

 

午後1時・鍛錬。

 

トレーニングルームで午後の鍛錬が始まり、遊馬はいつものように自主練をしようとしたら……。

 

「むっ!マスターよ!」

 

「ん?レオニダス、どうしたんだ?」

 

スパルタの王、レオニダスが遊馬に話しかけてきた。

 

「失礼ですが、服を脱いでいただけませんか?」

 

「は?服?」

 

「おっと失礼、マスターの筋肉を見たいのです」

 

「筋肉を?」

 

「もしよろしければ、私が考えたトレーニングメニューでマスターの筋肉を増量して差し上げましょう!」

 

「おっ、マジで!?分かった!」

 

見事な筋肉を見せながらマッスルポーズを決めるレオニダスの言葉は説得力があり、遊馬は上着とTシャツを脱いでレオニダスに上半身の筋肉を見せるとレオニダスは目を輝かせた。

 

「おおっ!何と見事な筋肉!しなやかで強靭な筋肉……十三歳でこれなら私の考えたトレーニングで筋肉は3倍、いや、5倍に!」

 

「マジか!?頼むぜレオニダス!」

 

「承知!ところで、マスターよ。以前何か訓練でもされたのですか?」

 

「訓練?別にこれと言ったことは何もしてないけど……」

 

「しかし、その筋肉は素晴らしい……幼い頃から何か鍛えてたのでは?」

 

「鍛えたって……そう言えば昔から父ちゃんに連れられて色々な場所に向かったからな……」

 

「色々な場所?それはどう言ったところに?」

 

「俺の父ちゃんは冒険家だからな。そんな中一番キツかったのは崖登りだったなぁ」

 

「崖登り?ほう、中々やりますな」

 

「でも命綱無しは辛かったなぁ……」

 

「命綱無し!??」

 

命綱無しの崖登りを僅か十歳程度の少年が行うという事にレオニダスも驚いた。

 

「崖登りの後、高度数千メートルの山の上でキャンプしたな。父ちゃんは悩み事があった俺と男同士の話をするために連れて行ってくれたんだ」

 

楽しそうに話しをする遊馬に近くで模擬戦をしているサーヴァント達はその話を聞いて耳を疑った。

 

十歳の少年と父親が男同士の話をするために命懸けの崖登りをするとはどれだけスパルタなのだと……。

 

幸い遊馬は父親を嫌っておらず、むしろ誇らしげに話しているので親子関係が良好なことである。

 

「す、素晴らしい!何と強い絆で結ばれた親子なのでしょう!でしたら、このレオニダス、マスターの為に理想的な肉体作りをお手伝いしましょう!」

 

「おっしゃあ!頼むぜ、レオニダス!」

 

レオニダスは遊馬の肉体作り専門のトレーナーとなり、過酷なトレーニングが始まるが遊馬はいつものかっとビングでそれを乗り越えることとなるのだった。

 

 

午後3時・剣術修行。

 

レオニダスのトレーニングが終わると遊馬の護身術の一つとして双剣の剣術修行が始まる。

 

いつもは同じ双剣使いのエミヤが指導していたが、エミヤの代わりに新たな先生が担当する。

 

「やあ、マスター。君の二刀流を私、宮本武蔵が鍛えてあげるよ」

 

「おおっ!?武蔵が俺の二刀流の先生!?最高だぜ!!」

 

エミヤの懇願で日本を代表する最強の二刀流剣士である宮本武蔵が先生となり、遊馬のテンションも自然に上がる。

 

「あー、その前に……マスターにお願いがあるんだけど……」

 

「お願い?何だ?」

 

珍しいなと思う遊馬に対し、武蔵は照れ臭そうにしながらそのお願いを口にする。

 

「その……私のこと、『姉上』って呼んでくれないかなぁ……?」

 

「……は?」

 

「い、いや!嫌なら別に今まで通り名前でいいからね!あはははは!」

 

「武蔵って、もしかして弟が欲しかったのか?」

 

遊馬の無垢な表情をした質問に武蔵は流れを掴んだと確信して頷きながら答える。

 

「そ、そうなんだよ!私、一緒に剣術修行ができる弟が欲しかったんだよ。だから弟がずっと欲しいなと思ってて……」

 

「そういうことなら良いぜ。俺姉ちゃんがいるし」

 

「ほ、本当に!?」

 

キラキラと目を輝かせる武蔵に遊馬は笑みを浮かべて応える。

 

「おう!もちろんだぜ、姉上!!」

 

「…………ゴハァッ!!」

 

突然武蔵は幸せそうな満面の笑みを浮かべながら鼻血と吐血を同時に行うという沖田の吐血よりも酷いことして倒れた。

 

武蔵は大剣豪であるが実は美少年が好きなのである。

 

遊馬はアストルフォのような美少年ではないが、母に似た顔の優しい雰囲気や弟キャラであることが武蔵の心にヒットしてしまったのだった。

 

「あ、姉上っ!?大丈夫か!??」

 

「だ、大丈夫……ちょっとじゃなくて、かなり嬉しすぎただけだから。さあ、早速剣術修行を始めようか!」

 

「お、おう……」

 

武蔵は鼻血と吐血を拭いて何事もなかったかのようにスッと立ち上がり、大刀と小刀を構える。

 

遊馬も両手にホープ剣を作り出して構え、早速二刀流の修行が始まった。

 

剣術の修行が始まると武蔵は先程のおかしな血まみれの姿が嘘のように真剣となり、遊馬にとって有意義な修行となった。

 

ちなみに……この後、カルデアの女性サーヴァント、特に遊馬から見て年上系の女性サーヴァント達が挙って遊馬に『姉』と呼ばれたい要望が多発した。

 

数多くの聖杯戦争のマスターの中でも遊馬はかなり幼いので母性本能がくすぐられた多くの女性サーヴァントが遊馬に姉と呼ばれたく要望するのだった。

 

遊馬は武蔵のように弟が欲しかったのか、もしくは自分に生前の頃に一緒にいた弟を重ねているのかと思い込み、それを断らずに快く了承していった。

 

マルタは姉御、マリーは姉様、沖田は姉さん……などと、姉と呼ばれたい女性サーヴァントが遊馬にそう呼ぶよう頼んだ。

 

そして……その中で特に一番酷かったのはジャンヌだった。

 

ジャンヌはお姉さんになりたい願望が特に強く、物凄く恥ずかしがりながら遊馬に姉と呼んで欲しいとお願いした。

 

「ゆ、遊馬君!私、実は弟も欲しかったんです!だから、姉と呼んでくれませんか!?」

 

「おう!良いぜ、ジャンヌお姉ちゃん!」

 

遊馬的にジャンヌはお姉ちゃんという呼び方がしっくり来たのでそう呼んだ。

 

しかし……その瞬間、ジャンヌの中で硬く守られた城壁のような『何か』が一気に崩壊してしまった。

 

「ああっ、主よ、申し訳ありません……何かに……何かに目覚めそうになってしまいます!!」

 

ジャンヌは頭を抱えながら自分の信じる主に必死に謝罪するのだった。

 

歴史上でかなり有名なフランスの聖女の残念すぎる姿に妹(仮)のレティシアは呆れ果てた。

 

「ダメだ、あのバカ姉……早く何とかしないと本格的にショタコンになるわ……歴史上一番有名な聖女様がショタコンだなんて笑えないわ」

 

レティシアはジャンヌの姿をコピーしたのも同然なので肉体的には遊馬より年上だが精神年齢的には生まれてからまだ一ヶ月程度しか経っておらず、ある意味遊馬よりも年下でもあるので対象には入らなかった。

 

ショタコン聖女に敵対し、嫉妬していた自分がバカバカしく思えて仕方がなかった。

 

「ねぇアストラル……大丈夫なの?このカルデアの女サーヴァント達……」

 

「……色々な意味でダメかもしれないな……」

 

女性サーヴァントのショタコン増殖にレティシアとアストラルは色々な意味で危機感を覚えるのだった。

 

そんな異様な光景を見たエミヤは額に手を当ててため息を吐いた。

 

「……姉と呼ばれたい為に女性達が集まるか……何だか物凄いデジャヴを感じるのは何故だ……?」

 

エミヤの脳裏には記憶が磨耗しているが二人の『姉』の姿が鮮明に思い出されるのであった。

 

 

午後5時・相談。

 

修行を終えた遊馬はダ・ヴィンチちゃんの工房に向かい、相談をした。

 

相談の内容は第二特異点のローマで苦労した馬術だった。

 

持ち前の運動神経で何とか乗れたが下半身が疲れてしまい今後ももしかしたら移動に馬に乗る機会が出てくるかもしれない。

 

そこで遊馬はダ・ヴィンチちゃんに何か移動用の発明をお願いした。

 

「移動用の発明ね……そうだね、今3つ程アイデアが浮かんだからすぐに作ってあげよう」

 

「本当か!?ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

「君には飛行船やD・パッドを見せてくれたからね。これぐらいお安い御用だよ」

 

ダ・ヴィンチちゃんは遊馬の移動用の発明を始めた。

 

何が出来るのか心待ちにしながら遊馬はダ・ヴィンチちゃんの工房を出た。

 

 

午後6時・夕食。

 

夕食時はカルデアで一番賑やかな時間となり、食堂では大賑わいで楽しく夕食を食べていた。

 

そして、夕食時のピークが過ぎるとメイドとして食堂の手伝いをしていたアルトリアとアルトリア・オルタは元の服に戻るとエミヤの料理に舌鼓を打っていた。

 

一日中働いた後の食事は格別でいつも以上に食べてしまうのだった。

 

 

午後7時・自由時間。

 

食堂で夕食を食べた後、レティシアと小鳥が互いにデュエルディスクを構えて対峙していた。

 

「それじゃあ、小鳥。相手を頼むわ」

 

レティシアの左手首には黒いデュエルディスク、左目には黒いD・ゲイザーが装着されていた。

 

これはダ・ヴィンチちゃんが遊馬のデュエルディスクとD・ゲイザーを解析して作った完全完璧にコピーしたものであり、流石は天才ダ・ヴィンチである。

 

「はい!レティシアさん、こちらこそお願いします」

 

小鳥もデュエルディスクとD・ゲイザーを装着してレティシアのデュエルの相手をする。

 

デュエルを覚えて来たレティシアは早速デッキを作ってデュエルディスクでの初デュエルである。

 

「私のターン、ドロー!私はアレキサンドライトドラゴンを……召喚!」

 

レティシアは別名宝石ドラゴンと呼ばれる美しい宝石の体を持つ通常モンスターの一体であるアレキサンドライトの鱗を持つ美しいドラゴン、アレキサンドライトドラゴンを召喚する。

 

デュエルディスクのカードに描かれたモンスターを立体映像で出現させるソリッドヴィジョンシステムとD・ゲイザーのモンスターとのバトルなどの臨場感を増幅させるARシステムにより立体的にモンスターを感じる。

 

「凄い……本当にカードに描かれたモンスターを召喚出来た。私がやった竜召喚とはまた違う感じね」

 

レティシアが竜の魔女としてかつて行った竜召喚とは違うカードに描かれたモンスターを召喚する行為に不思議な感動を得る。

 

そんなデュエルの風景を見て興味を持つもの達も自然に現れる。

 

「これは面白い!未来皇、是非とも僕にもやらせてくれ!」

 

「はいはーい!ボクもボクも!ねぇねぇ、良いでしょ?マスター!」

 

「おう!良いぜ、俺が教えてやるぜ!」

 

それはアレキサンダーとアストルフォだった。

 

遊馬は椅子に座ってレティシアと小鳥のデュエルを見ていたが、そこにアレキサンダーとアストルフォが通りがかってデュエルに目をキラキラと輝かせていた。

 

デュエルモンスターズは元々はテーブルなどで行うカードゲームだったがソリッドヴィジョンシステムが開発され、技術の進歩と共にデュエルディスクによるデュエルが発展され、ある意味未来の優れたカードゲームでもある。

 

すると、一人の通りがかりがその光景に不機嫌な表情を浮かべながらテーブルに置いてあるD・パッドを見て興味深そうに見つめる。

 

「ん?ウェイバー先生、これに興味あるのか?」

 

「ロード・エルメロイII世だ!」

 

それは諸葛孔明ことエルメロイII世だった。

 

遊馬がウェイバー先生と呼ぶのはエルメロイII世が呼びにくいことと、魔術の先生ということもあってウェイバー先生と呼んでいる。

 

「まぁいい。これはお前の世界のものだと聞いたが……これが、今あの二人の手首に付いているものになるのか?」

 

「ああ!D・パッドは俺たちの世界の人間なら誰でも持ってるぜ。これがデュエルディスクに変形出来るし、色々な事が出来るからな!」

 

「デュエルモンスターズは元々はゲーム……何だよな?」

 

「そうだぜ。あ、もしかして……ウェイバー先生はゲームが好きなのか?」

 

「う、うむ……ゲームは趣味だ。特に日本のゲームは好きだ」

 

「そっか。じゃあ、デュエルモンスターズをやらないか?結構奥が深いし、デュエルディスクを使えばカードに描かれたモンスターを召喚出来るし」

 

「そうか……なら少しだけ……」

 

エルメロイII世は遊馬の勧めであまり馴染みがないカードゲームに手を伸ばす。

 

遊馬の『デュエルをしたらみんな仲間』という信条が少しずつカルデアのサーヴァント達にも影響を与えているのだった。

 

 

午後9時・トークタイム。

 

遊馬はまだ絆があまり結ばれていないサーヴァントと話をするのだが……。

 

「それでね、それでね、『宗一郎様』は本当に素敵な男性なのよ!」

 

「そ、そうすか……」

 

偶然廊下で会ったメディアと話をすることになり、メディアはかつて参加した聖杯戦争のマスターで……しかもまさかの夫である葛木宗一郎の話をこれでもかと遊馬にしていた。

 

マスターとサーヴァントの関係は基本的にその名の通り主従の関係であるが、まさか夫婦関係というものがあることに遊馬とアストラルは驚いていた。

 

「メディアは本当にその人の事が大好きなんだな」

 

宗一郎の事を熱く語るメディアに対しての遊馬の感想だった。

 

「そうね……もう会うことは出来ないけど、あの人の思いは私の中に刻まれているわ」

 

「そっか……マスターとサーヴァントの関係も色々あるんだな」

 

「それは本当に色々よ?性格や相性もあるからね。それより……とっととあなたも好意を寄せているサーヴァントを早く嫁に貰ったら?」

 

「……おいっ!?どうしてそんな話になるんだよ!??」

 

突然のメディアの爆弾発言に遊馬は一瞬思考が停止してからツッコミを入れた。

 

「だってマスターはいつまで経ってもあなたに明確な好意を寄せているサーヴァントにはっきり答えを出さないじゃない。だったら全員娶って結婚しちゃえば?まあ、ハーレムで下手したらギスギスした修羅場がもれなく待ち受けるけどね♪」

 

メディアは自分に被害がないことから遊馬とそれを囲む恋する乙女サーヴァント達の修羅場を楽しそうに見ているのだった。

 

「あんた性格悪いな!?」

 

「ははは!何とでもいいなさいな!」

 

メディアはカルデアでマスターという楽しいおもちゃを眺めながら、面白おかしく自分の好きなように過ごすのだった……。

 

 

午後11時・就寝。

 

長い一日が終わり、シャワーを浴びて後は寝るだけだが……。

 

「「……はぁ」」

 

遊馬とアストラルは脱衣所の中に二つの気配があることに気づき、遊馬はスッと右手を掲げる。

 

「……令呪を持って命ずる。清姫とネロ、今すぐに俺の部屋から出て自分たちの部屋で大人しく寝てろ!!」

 

令呪の一画が静かに消えた次の瞬間、脱衣所の中に隠れていた清姫とネロは令呪の力によって強制的に動かされて遊馬の部屋から出て行く。

 

「旦那さまぁあああああっ!!後生です!後生ですから!!」

 

「ユウマのいけず!そしてアストラルよ、貴様だけユウマの裸を見られるとは許さないぞぉおおおおおっ!!」

 

清姫とネロの悲痛な叫び声が木霊し、遊馬は本日数度目のため息をつく。

 

「これも毎日続くかな……?」

 

「心配するな、遊馬。君は私が守る」

 

「ありがとうよ、アストラル……」

 

遊馬とアストラルは日々接近する愛の強い英霊達の相手に神経を使うことになるのだった。

 

そして明日の朝もまた同じ風景が繰り返されるのだった……。

 

 

 

.




女性サーヴァント、ショタコン増加中(笑)

遊馬って可愛い弟キャラなのでありかなと思ってやらかしました。

基本聖杯戦争のマスターって高校生以上が多いので13歳の遊馬は幼さが抜けてないので女性サーヴァントからしたら母性本能がくすぐられると思いましてこんなことになりました(笑)

そしてネロちゃまが清姫と同じ変態に……。

うん、これは仕方ないですね!

次回は第一次正妻戦争開幕です。

誰が遊馬の嫁に相応しいか小鳥たちが勝負します!


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ナンバーズ38 第一次正妻戦争開幕!!!

※注意!注意!!注意!!!
今回の話はキャラ崩壊が今までで一番特に酷いです。
ギャグとイチャラブが混ざり、自分でもおかしなテンションで書いてしまったと少し後悔しています。
それから読む際は苦いコーヒーを用意することをお勧めします。
私は書いた後見直したら無性にコーヒーが飲みたくなりました(笑)


次の特異点が判明するまで遊馬とサーヴァント達は一時の平和な日常を過ごしていた。

 

しかし、カルデアで今後の任務に支障が起きるかもしれない事態が起きている。

 

それは……カルデアの最後のマスター、遊馬とそれを囲む恋する乙女達の関係である。

 

遊馬は異世界にて人類と三つの世界の命運をかけた戦いで見事に勝ち抜き、世界を救った勇者である。

 

しかし、遊馬の美徳というか困った性質と言うべきか、遊馬は天然の人誑しである。

 

遊馬は信念を曲げることないその真っ直ぐな心は敵であった者ですら自然に惹きつけることが出来る上に立つ人間にとって必要なスキルの一つを持っている。

 

ただ、その人誑しに女誑しも含まれており、それが大変な事態を引き起こしている。

 

カルデア内に人間や英霊関係無しに遊馬に恋している乙女達が増えているのだ。

 

一人目は観月小鳥。

 

遊馬の幼馴染で遊馬とアストラルの長きに渡る戦いをずっと側で見守り続けてきた。

 

失い、傷つく事が多かった戦いの中、遊馬とアストラルが最後まで諦めずに戦い続けてきたのも小鳥の存在があったお陰でもある。

 

そんな小鳥を遊馬は大切に想っており、小鳥も遊馬のために危険を犯してまで世界を超えてカルデアまで来た。

 

カルデア内にて遊馬のお嫁さん候補筆頭と言われている。

 

二人目はマシュ。

 

遊馬のもう一人の相棒であり初めて契約したサーヴァントで数々の奇跡を起こした。

 

最初マシュは遊馬を弟のように想っていたが、一緒に時を重ね、共に戦う内に徐々にその心に恋心を宿している。

 

三人目は清姫。

 

遊馬を清姫の前世の恋人である安珍であると思い込んでおり、その愛が強すぎて世間でいうヤンデレのストーカーとなっていた。

 

遊馬に想いを寄せる女性サーヴァントの中で一番危ない存在である。

 

四人目はジャンヌ。

 

聖女として特定の男性に好意を寄せてはいけないと思っていたが、自分を聖女ではなく一人の少女として、仲間として扱ってくれてどんな災厄からも必ず守ると誓った遊馬の姿に惹かれていった。

 

更には遊馬に『ジャンヌお姉ちゃん』と呼ばれて目覚めてはいけないショタコンの道に走り出してしまった残念聖女である。

 

五人目はレティシア。

 

竜の魔女としてフランスを復讐し、人間全てを滅ぼそうとしていたが敵であった遊馬と何度も言葉を交わし、憎しみの象徴であるファヴニールを真正面から受け止め、打ち砕いた。

 

そして、暴走するジルから救い出され、虚ろな存在だったレティシアに居場所と名前を与えた遊馬に惚れないわけがない。

 

ちなみに同じく遊馬に救われたジルはジャンヌとレティシアを神に裁かれないように是非とも遊馬に嫁に貰って連れて欲しいと願っている。

 

六人目はネロ。

 

特異点でのローマの戦いで仲間として守ると誓った遊馬に好意を寄せ、別れの時にはキスとプロポーズをしたネロ。

 

それから死ぬ時まで遊馬を想い続けたネロは花嫁姿で召喚された。

 

遊馬への想いが強すぎるネロはある意味清姫と同等かそれ以上に行動力がある。

 

余談だがネロを愛してやまないカリギュラが遊馬の命を密かに狙っているのだった。

 

そんな遊馬と六人の恋する乙女達の修羅場に一つの決着をつけるべく、カルデアであるイベントが開催された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではこれより、マスター遊馬の嫁は一体誰だ!?」

 

「『第一次正妻戦争』……開幕ですわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争ならぬ正妻戦争……それは遊馬の嫁を決めるためのイベントであり、エリザベートとマリーがマイクを持って堂々と宣言した。

 

「司会は私、みんなのアイドル!最強無敵のエリザベート!」

 

「そして、フランス王妃のマリー・アントワネットがお送りしますわ」

 

「ちょっと待てぇえええええっ!??」

 

突如始まった謎のイベントに遊馬の悲痛な叫びが食堂に響き渡る。

 

午後の鍛錬と剣術修行が終わって疲れた体に栄養を補給するため、美味しい夕食を食べようと思った矢先にエリザベートとマリーに拉致され、体をロープで縛られて食堂の椅子に座らされた。

 

「何だよ正妻戦争って!?エリザベート、マリー姉様、どういう事だ!?」

 

サーヴァントの中では比較的友人関係として親しいエリザベートと先日から姉様と呼ぶようになったマリーが突然起こした謎のイベントに遊馬は大混乱だった。

 

「どういう事って、マスターがいつまで経ってもハッキリと正妻を決めないから……」

 

「せっかくなので、誰が一番マスターのお嫁さんに相応しいか一度勝負をしたらどうかと勧めたんですわ」

 

「な、何だよそれ!?くっ、アストラル!助けてくれ!!」

 

遊馬は自分の最大の理解者であるアストラルに助けを求め、皇の鍵が輝くとアストラルが現れる。

 

「遊馬……大人しくこのイベントに大人しく参加するんだ」

 

「何でぇっ!??」

 

「遊馬。君は無茶ばかりするし、将来が少し不安だ。そこで君が必ず帰って来られるような場所を作ってくれる伴侶が必要だと思った。簡単に言えば早く嫁を作って私を安心させてくれ」

 

「お前は自分の息子の婚期を心配する親か!??」

 

「さあ、司会者達よ!早速始めてくれ!」

 

「聞けよ!?」

 

遊馬の発言を見事にスルーされてしまった

 

ちなみに遊馬に味方をしてくれる人間やサーヴァントは誰もおらず、特に危険がないので遠くの席から食事をしながら楽しんでおり、酷い者達は夕食のデザートを賭けて誰が正妻戦争の勝者になるか賭け事をし始める始末だった。

 

早速第一次正妻戦争の内容が発表される。

 

「それでは、第一次正妻戦争のお題を発表します!」

 

「そのお題は……」

 

何処からともなくドラムロールが鳴り響き、エリザベートとマリーは同時に発表する。

 

「「料理です!」」

 

「りょ、料理?」

 

「これはとある某騎士王様からのお話ですが……」

 

「それ、アルトリアだよな?」

 

「えっと……『私は嫁に出会った当初から沢山の美味しいご飯をご馳走してくれました。あまりにも美味しくはしたないと思いながらもお代わりをたくさんしてしまいました。今思えばあの時から私の心は嫁に向いていました。やはり異性の心を掴むのは胃袋も重要な要素であると認識しています』……だそうです!」

 

エリザベートがメモを取り出して読み上げるが某騎士王……バレバレだがアルトリアのエミヤに惚れた要因を聞かされた遊馬は苦笑いを浮かべる。

 

「腹ペコ王の全ての原因はある意味エミヤの所為だったのか……」

 

「と言うわけで今回の正妻戦争の参加者六人にマスターの大好物であるデュエル飯を作ってもらいました!!」

 

「えっ!?」

 

そこに厨房から六人の少女がそれぞれが作ったデュエル飯を持って出てきた。

 

「こ、小鳥!?それに、マシュ、清姫、ジャンヌお姉ちゃん、レティシア、ネロ!??」

 

出てきたのは今回の正妻戦争の参加者、小鳥、マシュ、清姫、ジャンヌ、レティシア、ネロの六人だった。

 

しかし、遊馬が大好きなデュエル飯は握り拳よりも大きな丸い塩おにぎりであるが、六つのデュエル飯はどれも独特のアレンジした調理がされていた。

 

「えー、今回はカルデアのオカンことカルデア食堂の総料理長のエミヤさんの提案で特別ルールを設けました!」

 

「それではエミヤさん、説明をどうぞ!」

 

そこに後から続いてエミヤが登場し、咳払いをしてルール説明をする。

 

「だからオカンはやめろ……コホン。今回はマスターの大好物であるデュエル飯もとい、おにぎりを参加者達に作ってもらった。しかしいつもマスターが食べている塩味のおにぎりでは審査のしようが無いので、参加者それぞれがマスターを想い、自分の好みを込めたオリジナルのおにぎりを作ってもらった!ちなみに料理が苦手や初めての者もいるので、公平を考えて私が指導させてもらった」

 

よくみると六つのおにぎりは大きな丸型だがどれも見た目の色などが違っており、美味しそうな香りが漂っていた。

 

エミヤが指導しているので味の保証はされている。

 

「この六つのおにぎりを全て食し、どれが一番美味しかったのか最終的に決めてもらい、それがこの正妻戦争の勝利者となる!」

 

「えっと……つまり、俺が一番美味いと思ったおにぎりを選べばいいの?」

 

「なるほど、遊馬は食事が大好きだ。そこで一番の好物であるデュエル飯を誰が遊馬好みのを作れるかと言う勝負だな?」

 

「そう言うことだ。さあ、マスター。実食だ!」

 

「お、おう……」

 

「待った!その前に一つ良いかな?」

 

アストラルは遊馬が実食する前にあるお願いをする。

 

「すまないがその実食、私も参加しても良いかな?」

 

「「「…………はい???」」」

 

突然のお願いに小鳥達だけでなくこの場にいた全員が唖然とした。

 

アストラルは精霊で遊馬以外が触れようとしてもその体に触れることはできない。

 

そもそもアストラルには人間やサーヴァントと違い肉体というものが存在しないため、食事をすることが出来ない。

 

「あの……別に構わないけど、アストラルはどうやって食べるの?」

 

小鳥の言う通りどうやって食事をするのだと疑問が出るとアストラルは手を掲げた。

 

「こうするのだ!私は私自身と遊馬でオーバーレイ・ネットワークを再構築!!」

 

「はぁっ!?どわぁあっ!?」

 

遊馬とアストラルが赤と青の光となって絡み合い一つに重なり、奇跡の姿へと変身する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!」」

 

それは特異点の戦いの最終局面で度々見せた遊馬とアストラルが一つに合体した希望の英雄、ZEXALである。

 

「「「…………えぇえええええっ!??」」」

 

まさかのZEXALの合体に小鳥達は驚愕の絶叫を響かせた。

 

「ZEXALになることで人間の体を持つ遊馬と私の魂が一体化する。そうすれば私と遊馬の五感全て感覚も共有できる。つまり、食事の感覚も余すことなく共有できるのだ!」

 

「あっ!そう言えばWDCの決勝戦でZEXALは私のデュエル飯を食べていたけど、あの時にアストラルも食べていたのね!」

 

「そうだ……あの時、初めて食事をした時、デュエルは絶望的な状況だったが体の底から再び闘志が湧き上がって来た。あれが生きると言う実感を初めて感じたのだ!!」

 

食事という生まれて初めての経験がアストラルに生きるという実感を与えた。

 

沸き起こる生きる力がそれが絶望的なデュエルを乗り越えるための新たなシャイニングドローを生み出すことが出来たのだ。

 

「冷静的な判断ができるアストラルがいるなら審査はより公平に出来そうだな……ではマスター……いや、ZEXAL。実食を頼む」

 

「おう!いただきます!」

 

「いただきます」

 

ZEXALは手を合わせて食材と作ってくれた小鳥達に感謝しながらデュエル飯を食べる。

 

食べる順番はあらかじめ小鳥達がくじ引きをして決まっており、まずは清姫の焼きおにぎりだった。

 

見事な狐色の焼き色に味噌が塗られており、ザクザクした食感が食欲を掻き立てる。

 

「これが食感というものか……この歯で噛む音が楽しいのか!」

 

「美味えな!焼きおにぎりは作るのが難しいんだよなぁ!」

 

「ありがとうございます!これは私の炎で焼きましたの。上手に焼けて良かったですわ」

 

「「……え?」」

 

ZEXALは清姫の言葉に固まった。

 

清姫は生前に安珍を自らの炎で焼き殺した経歴がある……その炎で焼いた焼きおにぎりは色々と重いものが込められていた。

 

美味しく特に体に悪影響は無さそうなのでZEXALは苦笑いを浮かべながら食べた。

 

次はマシュのおにぎりは見た目が可愛らしいものだった。

 

「これってフォウのキャラ弁?」

 

「そうです。フォウさんを海苔で表現してみました」

 

「フォウ〜!」

 

それは丸いおにぎりにカットされた海苔を使ってカルデアのマスコットキャラでもあるフォウを表現した。

 

いわゆるキャラ弁でフォウおにぎりはあまりにも上手で食べるのも勿体無いと思うぐらいでZEXALは一気に食べた。

 

「ん?あ、これ海苔の佃煮だ!」

 

おにぎりの中には優しい味の海苔の佃煮が具材として入っていた。

 

「遊馬くんと同じ日本人のエミヤさんから教わって作ってみました。海苔の佃煮は日本人の多くが好んで食べるというので……」

 

「これは美味いな。エミヤに和食のメニューに追加してもらおうっと!」

 

遊馬は懐かしい日本の味を楽しみながら一気におにぎりを食べた。次はレティシアで少し無骨な形だが大きめのおにぎりで中に何か具材が入っているようだった。

 

ZEXALは何が入っているのかワクワクしながら食べる。

 

「もぐもぐ……ん!?何だこれ!?美味え肉だ!」

 

「口の中に広がるこの旨味……最高だ!」

 

おにぎりの中身は大きな肉の塊が入っており、食べたことのない旨味と肉汁が口の中に広がる。

 

美味しいのは美味しいのだが、食べたことのない肉に遊馬は疑問に思う。

 

「レティシア、これ何の肉だ?牛でも豚でも鳥でもないし……羊や山羊も違うな……」

 

食感や味など一般的に食べられる肉とはまるで違うのでレティシアに何の肉が尋ねた。

 

すると……。

 

「えっと……それは……」

 

何故かレティシアは言いづらそうに声が詰まった。

 

「それは?」

 

「ワ……」

 

「ワ?」

 

「ワイバーンの肉よ……」

 

「「……はぁ!??」」

 

レティシアが気まずそうに言った衝撃の事実にZEXALは驚愕した。

 

「ワ、ワイバーンの肉って何だよ!?どっから調達したんだよ!?」

 

「ちびノブよ。ちびノブが食料調達でレイシフトした先で偶然現れたワイバーンを狩って持ってきたのよ。大丈夫、毒とかないしちゃんと食べれるから。それに……騎士王様達がステーキ食べてるし」

 

「「えっ???」」

 

食堂の一角にはアルトリアとアルトリア・オルタが縦だか横だか全く分からない巨大で美味しそうな肉汁を出すステーキをモキュモキュと食べていた。

 

「あれ……ワイバーンのステーキか」

 

「しかもかなり大きい……アルトリア達が食べて問題ないなら大丈夫だろう……」

 

第一特異点でアルトリアがワイバーンを食べたそうにしていたのである意味望みが一つ叶ったようなものだった。

 

ワイバーンの肉というインパクトのあるおにぎりの次はジャンヌだった。

 

ジャンヌのおにぎりは米の白色はなく代わりにクリーム色に輝いていた。

 

「この香り……チーズか?」

 

「はい!私は農家の出なのでチーズを使ってみました!米は水でなく牛乳で炊いてみました!」

 

ジャンヌは実は農家の出なので米に牛乳とチーズが合うことを思いつき、エミヤの指導のもと、米を牛乳で炊いてからチーズと混ぜたチーズおにぎりを作った。

 

「へぇ、面白いな!味も独創的で美味いし、やっぱ乳製品は美味い!」

 

「チーズの酸味と米と牛乳の甘みが程よいバランスを出しているな」

 

エミヤの指導のお陰でもあるが、チーズおにぎりはある意味リゾットの味に近いので美味しく食べることができた。

 

変わり種のおにぎりが続々と登場していき、ここで更なる変わり種のおにぎりをネロが出した。

 

「さあ、ユウマよ!余のデュエル飯を食すのじゃ!」

 

「ん……?すげぇ甘い香りがするな。林檎……?」

 

「覚えておるか?ローマの街で林檎を食べた時の事を……」

 

「勿論だぜ。あの時の林檎の味は覚えてるぜ」

 

「だから、今回は林檎を使った甘いおにぎりを作ってみたぞ!」

 

米はデンプンが豊富で人間の唾液と結合すると糖質となって甘みが出てくる。

 

米を使ったデザートもたくさんあるので相性は悪くない。

 

今回ネロは林檎を砂糖など使って甘く煮て、それをご飯と混ぜ合わせておにぎりを作ったのだ。

 

「まるでデュエル飯じゃない全く別の料理を食べている気分だぜ。でも、程よい甘さが最高だぜ!」

 

「流石はネロだ。主食である米をデザート感覚にする観点には驚かされる」

 

「当然だ!余はローマ皇帝であるからな!」

 

いつものように自信満々にポーズを決めると……いよいよ最後は小鳥の番である。

 

小鳥の作ったおにぎりは他の参加者に比べるとインパクトの無い、いつもの丸いデュエル飯だった。

 

「それじゃあ、これが最後だな……改めて、いただきます!」

 

「いただきます!」

 

「はい、どうぞ」

 

ZEXALは手を合わせて改めて挨拶をすると小鳥は笑顔で返した。

 

今日最後の食事となるデュエル飯にかぶりつくとその中身に驚いた。

 

「これ……鳥の唐揚げと卵焼き?」

 

大きめのデュエル飯に一口サイズの鳥の唐揚げと卵焼きが一緒に入っており、おにぎりと鳥の唐揚げと卵焼きは正にお弁当の定番メニューでもある。

 

「うん。お春おばあちゃんに教えてもらった特製唐揚げと卵焼きよ」

 

「ばあちゃんの……?」

 

遊馬にデュエル飯を作っていたのは祖母のお春だった。

 

母の未来が行方不明となり、遊馬の毎日のご飯とお弁当であるデュエル飯を作っていたのはお春……遊馬はお春のデュエル飯が一番の大好物で元気の源だった。

 

やがて小鳥もお春の代わりにデュエル飯を作るようになり、頻繁に九十九家に出入りするようになってお春から料理を教わっていたのだ。

 

お春のデュエル飯や料理は遊馬にとって故郷であるハートランドを思い出すおふくろの味でもあり、まだ帰ることが出来ないハートランドを思い出しながら更にデュエル飯にかぶりつく。

 

「やべぇ……美味い、美味すぎるぜ……」

 

おふくろの味が遊馬の記憶を刺激し、懐かしさや寂しさが溢れ出し、両目から大量の涙を流しながら一気にデュエル飯を平らげた。

 

「これがおふくろの味というものか……とても心に染みる。ハートランドでの遊馬やみんなとの思い出が鮮明に蘇ってくる……」

 

アストラルも小鳥のデュエル飯でハートランドでの懐かしい日々が蘇っていく。

 

六人の参加者全員のデュエル飯を全て食し、ZEXALは遊馬とアストラルの二人に分かれる。

 

「……遊馬、決まったな?」

 

「ああ。もちろん、決まったぜ」

 

遊馬とアストラルの答えは既に決まり、いよいよ正妻戦争の勝利者が決まる。

 

「さあ、お二人の実食が終わり、審査発表に入ります!」

 

「マスター、一番美味しかったのはどなたの料理かしら?」

 

エリザベートとマリーから答えを問われ、遊馬は息を吐いてゆっくり口を開く。

 

「みんなのデュエル飯、どれも美味かった。ごちそうさまでした。それで、今回一番美味いのは正直決められなかった……」

 

それはどれが一番美味いか選べないというある意味最悪の答えだった。

 

その答えに食堂はざわめく。

 

「だけど……」

 

遊馬の言葉はそこで終わりではなかった。

 

「これが正妻戦争って言うなら、これから先……ずっとその人の料理を食べていきたいって意味もあるよな?だったらその答えは決まった……」

 

遊馬は席から立ち、ゆっくり一人の少女の元へ歩いた。

 

そして、その少女の前で静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がこの先、死ぬまで食べていたいのは……小鳥、お前のデュエル飯だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊馬が選んだ答え……それは小鳥のデュエル飯だった。

 

「遊馬……!!」

 

小鳥は遊馬が選んでくれたことに嬉しさがこみ上げ、涙が溢れそうになった。

 

「遂に決着!第一次正妻戦争の勝者は観月小鳥!!」

 

「これはマスターの正妻に向けて大きく一歩リードですわ!おめでとうございます!!」

 

エリザベートとマリーが高らかに小鳥の勝利を宣言し、食堂が拍手喝采で沸き起こった。

 

なかなかの接戦だったが、最後の遊馬とアストラルの記憶を刺激するデュエル飯が勝敗を分けたのだ。

 

「それでは、勝者の小鳥さんには豪華商品を贈呈します!!」

 

「嬉しすぎて気絶しないでくださいね♪」

 

正妻戦争には勝者が必ず喜ぶ豪華商品が贈呈される事となり、エリザベートとマリーはニヤニヤしながらその豪華商品を発表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「勝者の小鳥さんにはマスター遊馬からの熱いラブラブキッスをプレゼント!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、食堂は呆然の沈黙に包まれた。

 

そして……。

 

「「「えぇえええええーっ!??」」」

 

「「「何ぃいいいいいっ!??」」」

 

「「「キャアアアアアアッ!?」」」

 

「「「オォオオオオオオッ!!」

 

食堂に驚愕や興奮などの絶叫が轟いた。

 

「ま、待ってください!幾ら何でもそれは……」

 

「狡いですわ!旦那様からなんて羨ましすぎます!」

 

「そ、そうです!そんなハレンチな豪華商品は認められません!」

 

「ふざけないでよ!そんなの聞いてないわよ!?」

 

「ユウマからキスなんてそれこそ嬉しすぎて昇天してしまうぐらいではないか!」

 

マシュ達は予想外の豪華商品に断固反対するが、アストラルはそれよりも早く手を打つ。

 

遊馬のデッキケースを開き、五枚のフェイトナンバーズを取り出す。

 

「邪魔をさせない。フェイトナンバーズに入ってもらう!」

 

アストラルの手が輝くとマシュ達が粒子となってフェイトナンバーズの中に封印された。

 

フェイトナンバーズの中にいるマシュ達はカードから出ようと必死に暴れており、アストラルの手の中で跳ねていた。

 

「さあ!遊馬よ、今のうちに!!」

 

「えっ!?ちょっ、アストラル!??」

 

「さあさあ、マスター!」

 

「お早くお早く♪」

 

エリザベートとマリーは遊馬を無理矢理立ち上がらせて固まる小鳥の前まで連れて行く。

 

小鳥は顔を真っ赤にして俯き、遊馬も小鳥を前にして顔を真っ赤にする。

 

「ゆ、遊馬……」

 

「良いのかよ、その……」

 

「バカ……本当に鈍感なんだから……」

 

小鳥は今まで伝えられなかった思いを言葉に乗せて全て打ち明ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きじゃなかったら……あなたとアストラルの危険な戦いをずっと見守ってないわよ……好きじゃなかったら、あなたにデュエル飯を作ってないわよ……好きじゃなかったら、危険を顧みず世界を越えたりしないわよ……」

 

「小鳥……」

 

「私は……私は……遊馬が、大好きー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後は自分の全てをさらけ出すように大声で遊馬に大好きと告白した。

 

いつも側にいてくれた小鳥から告白されて顔を真っ赤にする遊馬。

 

小鳥は静かに目を閉じると遊馬は意を決し、小鳥の頬に手を添えて自分の顔を近づける。

 

「んっ……」

 

「んくぅ……」

 

そして、遊馬は自分の唇と小鳥の唇を優しく重ねてキスをする。

 

既に何度もネロからキスを奪われている遊馬は複雑は心境だがキスのやり方は知っており、遊馬は角度を変えながら小鳥に何度もキスをする。

 

一分弱で二人は唇を離すが、その一分弱が何時間にも感じられるキスとなった。

 

「えへへ……しちゃったね、キス」

 

「お、おう……そうだな……」

 

「不思議だね……小さい頃からずっといる幼馴染とこんな事をするなんて……」

 

「お、俺だって考えたことなかったぜ……」

 

「でも、凄く嬉しかった……」

 

「そ、そうか……」

 

十三歳の少年少女の初々しい恋模様にエリザベートとマリー達は微笑ましく見守っていた。

 

「いやー、初々しくて逆にこっちが恥ずかしくなっちゃったわね」

 

「うふふ、良いですわね。可愛らしい二人の慣れないこの初々しさは胸がキュンとなりますわ!」

 

「ふっ……良かったな、小鳥」

 

アストラルは満足そうに頷くが……手元にある五枚のフェイトナンバーズが震えだす。

 

「何だ?うおっ!??」

 

フェイトナンバーズから五つの光が飛び出すと、何とマシュ達がフェイトナンバーズ状態で現れるのだった。

 

フェイトナンバーズは遊馬がデュエルディスクを通してエクシーズ召喚しなければならないのだが、それを無視してマシュ達はフェイトナンバーズ化して戦闘態勢に入っていたのだ。

 

まだ一度も召喚してないネロはマシュと同じ未来皇ホープのプロテクターを装着し、原初の火を担いでいた。

 

全員からとてつもない魔力が放出されており、遊馬は直感しなくてもやばいと思って急いで小鳥の手を握って食堂から出る。

 

「に、逃げるぞ、小鳥!」

 

「え?あ、きゃっ!?」

 

「逃がしませんよ、遊馬君、小鳥さん……」

 

「逃げるなんて許しませんよ、旦那様……」

 

「あはははは……こんな気持ちは初めてですね……」

 

「ユウマ……取り敢えず一発全力で殴らせて……」

 

「ユウマよ……浮気は大罪だぞ……?」

 

遊馬と小鳥の後を目のハイライトがなくなっているマシュ達が追いかける。

 

「ねえ、マリー……あれ、ヤバくない?」

 

「ええ、危険ですわね……」

 

エリザベートとマリーだけでなくこの場にいたサーヴァント達とカルデアの職員達は同時に思った。

 

このままだと遊馬と小鳥の身が危ない……と。

 

裁定者のサーヴァントであり比較的まともなジャンヌですら完全に暴走しており、バーサーカークラスの清姫もいつも以上に狂化属性が上がっている。

 

「皆の者!行くわよ!!」

 

「マスターと小鳥さんを助けましょう!!」

 

戦闘能力が高いサーヴァントを中心に急いで遊馬達の後を追い、暴走するマシュ達を止めに向かうのだった。

 

「今回は小鳥が勝利したがまだまだ油断ならないな……小鳥、これからも頑張るんだぞ」

 

実はアストラルは遊馬のお嫁さんは小鳥が相応しいと思っており、今回の結果に満足していた。

 

しかし、アストラルは今後も遊馬に思いを寄せる女性が増えると確信し、再び正妻戦争が起きるのを危惧した。

 

そして……後に第二次、第三次と続々と正妻戦争が起きるのはそう遠くない未来である。

 

 

 

.




小鳥ちゃん大勝利!
小鳥ちゃんのデュエル飯をずっと食べていたいと遊馬はデュエルカーニバルのゲームで言っていたのでほぼ公式ですよね?
よくよく考えるとヒロインといい関係の主人公って遊馬がダントツですよね?
正妻戦争はまだ始まったばかりですが、どうなるかまだ未定です。
次回は通常運転で第三特異点前の準備回です。
ダ・ヴィンチちゃんの移動用メカのお披露目です。


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ナンバーズ39 遊馬の新たな装備

今回は第三特異点前の準備回です。

遊馬に新たなマシンが贈られます。


第三特異点前の座標が定まる中、遊馬達はカルデアでの日々を過ごしていた。

 

そんな中、遊馬がトレーニングルームで午後の訓練を始めようとするとダ・ヴィンチちゃんがやって来た。

 

「待たせたね、遊馬君!遂に完成したよ!」

 

「えっ?完成って……あっ!」

 

「職員のみんな、頼むよ!」

 

カルデア職員が大きな台車を使って布に被されたダ・ヴィンチちゃんが開発した三つの発明品が運ばれる。

 

「これで遊馬君の移動手段が格段に向上するよ。今回は三種類用意したよ」

 

「おおっ!?流石はダ・ヴィンチちゃんだぜ!」

 

「でば、まず一つ目は初級クラス!『ジェットローラー』!」

 

一つ目の発明の布を外すとそれは赤と黒のカラーリングのローラーブレードだった。

 

「おー!ローラーブレードだ!でも……何が違うんだ?」

 

「ふふふ、この私がただのローラーブレードを作ると思ったのかい?とりあえず持って見てくれ」

 

「おう。あれ!?すげぇ軽い!」

 

ローラーブレードは普通の靴と変わらないぐらい重量がとても軽く、早速いつもの靴を脱いで履いてみるとあらかじめ遊馬の足のサイズに合わせて作ったので履き心地がとても良かった。

 

「遊馬君、ノーマルモードって言ってみて」

 

「えっ?ノーマルモード?」

 

すると、ジェットローラーのラインが赤色に輝くと地面を走るためのローラーが二つに分解され、足の甲や踵に収納され、歩くことが出来る普通の靴となった。

 

遊馬専用とあってジェットローラーには遊馬の音声入力がすでに完了していた。

 

「うおっ!?普通の靴になった!?」

 

「通常はそのノーマルモードで歩くことが出来て、ローラーモードでローラーが現れて走ることが出来るよ」

 

「よし!ローラーモード!」

 

ジェットローラーのラインが再び赤く輝くと収納されていたローラーが展開されて元のローラーブレードに変形した。

 

遊馬はジェットローラーをローラーブレードのように走らせようとしたが、勝手にローラーが高速回転して一気に地面を走り抜ける。

 

「うぉおおおおおっ!?ははっ、自分じゃなくてこいつが走らせるのか!早くていいじゃねえか!!」

 

最初はバランスを崩しかけたが持ち前の運動神経で軽快に走り、トレーニングルームを一周するとダ・ヴィンチちゃんの前で再びノーマルモードになって地面に降り立つ。

 

「流石は遊馬君。もうジェットローラーを自分のものにするとはね」

 

「ジェットローラー、最高だぜ!これで街中とかも軽快に走れそうだ!」

 

「もう少し調整が必要かもしれないから、今日の訓練はお休みしてこれらの試運転をお願いしたいな」

 

「わかった!みんなに話してくる!」

 

遊馬は自分を鍛えてくれるサーヴァント達に事情を話し、今日の鍛錬はダ・ヴィンチちゃん特製マシンの試運転の時間にしてもらった。

 

「さあどんどん行こうか!二つ目は中級クラス!『ウィンドボード』!」

 

次は皇の鍵の絵が描かれたサーフボードみたいなマシンだった。

 

「これ……サーフボード?」

 

「ははは!私が海のボードを作るわけないじゃないか。これは皇の鍵の飛行船にあった反重力装置を元に作った宙に浮くボードさ!」

 

「反重力……?」

 

「とにかく乗ってみて!」

 

遊馬はウィンドボードに乗るとボードが静かに浮き、ジェットローラーよりも少し遅いスピードで前に飛び始めた。

 

「うおっと!?すげぇ!SF映画で見たことあるボードだ!」

 

遊馬は体の重心を左や右に傾けるとそのまま左や右に方向転換する。

 

遊馬の友達である鉄男は学校へ毎日スケボーを使って登校していて少し羨ましかったが、それよりも高性能なボードを貰えてテンションが上がる。

 

「ジェットローラーに続いてウィンドボードも乗りこなしたね。さあ、三つ目最後は上級クラス!『ストリームバイク』!!」

 

そして、遊馬と同じくテンションが上がったダ・ヴィンチちゃんが見せたのは真紅のボディが輝くSSバイク……スーパースポーツバイクだった。

 

「うおおおおっ!?バ、バイクまで!?」

 

「いやー、色々作って行くうちにハイテンションになってね。まあ流石の遊馬君でもバイクは無理だからライダークラスのサーヴァントに乗り方を教えてもらって……」

 

「俺バイク乗れるぜ!」

 

「……えっ?」

 

ダ・ヴィンチちゃんが呆然としている間に遊馬はストリームバイクの座席の中に収納してあるヘルメットを取り出して頭につけ、キーを回してエンジンをかける。

 

「ちょっ!?遊馬君危ないよ!?」

 

「平気平気、ストリームバイク……発進!」

 

遊馬はダ・ヴィンチちゃんの制止を振り切り、エンジンフルスロットルでストリームバイクを走らせる。

 

ダ・ヴィンチちゃんはすぐにバイクが横転して遊馬が大怪我をすると危惧したが……。

 

「イェーイ!最高だぜ!」

 

普通に問題なく走れていた。

 

「あれぇっ!??」

 

流石のダ・ヴィンチちゃんもこの事態に困惑してしまう。

 

バイクの免許は種類など色々あり、原付や小型などの5種類は16歳から、大型二輪は18歳から取得できる。

 

しかし、遊馬はまだ13歳の中学生……とてもバイクを乗れるほどの知識と経験が無いはずである。

 

遊馬はトレーニングルームを一周して戻り、ダ・ヴィンチちゃんの前で停車すると……。

 

「ま、まさか、遊馬君!君は実は不良で、盗んだバイクで夜の街をブイブイ言わせてたのかな!!?」

 

よくわからない妄想を膨らませたダ・ヴィンチちゃんの発言に遊馬はきょとんとするのだった。

 

「え、えっと……何を言ってるか分からないけど、バイクを運転出来るのは明里姉ちゃんのお陰かな?」

 

「明里姉ちゃん?それは君の実の姉の事かな?」

 

「ああ。姉ちゃんは若い頃……毎日俺をバイクに乗せて高速をぶっ飛ばしてたからなぁ……」

 

遊馬は遠い目をしてその時のことを思い出していた。

 

あまりの恐怖に涙を流しながら必死に明里に掴まり、夜の街と高速道路をバイクでぶっ飛ばす光景が遊馬の脳裏に浮かぶ。

 

「そうか……そのお姉さんのお陰でバイクの知識と運転に必要なバランス感覚を得ていたんだね……」

 

「ああ……姉ちゃんは色々恐ろしいからな……暴走するモノレールにバイクをぶつけて無理やり止めた事あるし……」

 

遊馬の口から語られた衝撃的な発言にダ・ヴィンチちゃんは一瞬真っ白になった。

 

「……え、えっと……君のお姉さんはアクション映画のスタントマンか何かかな……?」

 

「え?普通の在宅の新聞記者だけど?」

 

「し、新聞記者……?」

 

ダ・ヴィンチちゃんは遊馬の言葉に絶句してしまう。

 

遊馬の家族……九十九家の人間は本当に何者なのだろうか?

 

遊馬は世界を救った勇者、姉の明里は遊馬が最も恐れる存在である意味遊馬以上の破茶滅茶な行動力を持ち、父の一馬は冒険家で謎の技術を使って皇の鍵の飛行船を開発、母の未来も冒険家で一馬を探すために自力で異世界に向かった……。

 

九十九家の人間は英霊に負けず劣らずの化け物一家なのか?

 

ダ・ヴィンチちゃんは九十九家の凄さに頭を悩ませながら三大マシンの調整をした。

 

ジェットローラーは遊馬の常時装備となり、ウィンドボードとストリームバイクは転送装置で必要な時にカルデアから送るシステムになった。

 

ジェットローラーは小回りが利く機動力、ウィンドボードは水陸両用の万能力、ストリームバイクは長距離移動の速力……これらの特性を生かし、今後の作戦に生かしていく。

 

そして……遂に新たな特異点、第三特異点の座標が特定し、遊馬の新たな戦いが始まる。

 

 

遊馬は久しぶりに夢を見た。

 

それは淡い紫色のポニーテールをした可愛らしい魔法使いの姿をした少女が強大な『何か』と対峙していた。

 

少女は必死に杖を振るい、魔術と思われる攻撃でその何かと必死に戦うが強大な力に敗れてしまった。

 

そして……何かは少女に手をかけようとした。

 

「止めろぉおおおおっ!!!」

 

遊馬は必死に手を伸ばし、その少女を助けようとするがいくら伸ばしても届かない。

 

少女は消滅し、闇が全てを飲み込むように広がり、遊馬の夢の中の意識が薄れていく。

 

「遊馬、大丈夫か!?」

 

「旦那様!旦那様!目を覚ましてください!」

 

「ユウマ!目を覚ますのじゃ!!」

 

「うっ……うわぁっ!?」

 

遊馬は目を覚ますとそこにはアストラルと清姫とネロの顔があった。

 

「みん、な……?」

 

「大丈夫か?うなされていたが……」

 

遊馬はネロに体を起こされ、清姫はコップに水を注いで持ってきた。

 

「サンキュー……」

 

「旦那様、何か悪夢でも見たのですか?」

 

「ゴクッゴクッ……はぁ。悪夢、と言うか……変な夢だった。俺と同じ歳ぐらいの女の子が強大な何かと戦って敗れる夢だったんだ」

 

「女の子……?」

 

「強大な何か……?」

 

遊馬は自分の腕を掴んで震える体を抑えていた。

 

「すげぇ恐かった……あの闇はドン・サウザンド並みの恐怖を感じた……」

 

「ドン・サウザンド並みの闇だと……!?」

 

アストラルは遊馬が見た夢……その闇がドン・サウザンドと変わらぬほどの強大な存在と言うことに驚きを隠せなかった。

 

「遊馬、他に何を見たんだ?」

 

「いいや、それ以外は何も見てないぜ。でも、あの女の子……誰かに似てる気がするんだよなぁ……」

 

首を傾げながら夢に出た少女の顔を思い出そうとするが夢で見たことは忘れやすくなかなか思い出せなかった。

 

「少々その夢が気になるが、今日は次の特異点に向かう日だ。今はその事を忘れて朝食を食べに行こうぞ!」

 

「そうです。旦那様には大切なお仕事がありますのでそちらに集中してください」

 

今日は第三特異点にレイシフトする日でネロと清姫は遊馬の不安を少しでも消そうと励ました。

 

「ありがとう、ネロ、清姫。でも一つ言わせてくれ……部屋に忍び込むのはやめような?」

 

「「……てへっ♪」」

 

「てへっじゃない!!」

 

「「きゃー♪」」

 

ネロと清姫は可愛らしく言い、そのまま遊馬の部屋から急いで飛び出していった。

 

遊馬はため息をつきながらジャージから私服に着替え、両足にノーマルモードのジェットローラーを着用する。

 

「さて……朝食を食べて、特異点に行くぞ!」

 

「行こう、遊馬!」

 

「ああ!」

 

遊馬とアストラルは気合いを入れて自室を出た。

 

食堂で遊馬は小鳥特製のデュエル飯をたらふく食べ、元気いっぱいになる。

 

朝食を食べて食堂を出ようとするとダ・ヴィンチちゃんが走って来た。

 

「おっと、遊馬君。良かった、間に合って!」

 

「ダ・ヴィンチちゃん?どうしたんだ?」

 

「特異点に向かう前にこれを渡しに来たんだよ」

 

それは肩から背中にかけられる大きな黒いベルトだった。

 

「ソードホルダー。これで君の原初の火を背負えるよ」

 

ソードホルダーとは剣を付けるためのベルトで腰などに付けられるがダ・ヴィンチちゃんが作ったのは背中に装着するものだった。

 

「ソードホルダーか!いいね!原初の火は鞘がないから運びにくいからな。よし、これで原初の火を持っていけるぜ!サンキュー、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

「うん、頑張ってね!」

 

「おうっ!」

 

遊馬はソードホルダーを装着し、自室に戻ってソードラックに立てかけた原初の火を手に取る。

 

原初の火を軽やかに振るうと背中のソードラックに仕舞う。

 

パチパチパチ!

 

「うむ!見事な振る舞い、流石は余の夫だ!」

 

「……ネロ。お前さ……アサシンの隠密スキルでもあるのかよ?」

 

いつのまにか部屋に侵入して遊馬の姿を目に焼き付けているネロに遊馬はツッコミを入れる。

 

「あるとしたらお主限定じゃ!」

 

「あー、そうすか……」

 

ツッコミに疲れた遊馬はネロと共に部屋を出て管制室に向かうと廊下でメディアと行き会う。

 

「あら、マスター。もう行くのね?」

 

「メディア!……ん?」

 

遊馬はメディアを見ると頭の中で何かが引っかかり首を傾げた。

 

「何よ?顔に何かついてる?」

 

「ううん。何でもない。行ってくるぜ!」

 

「ええ。行ってらっしゃい。私の力を借りたかったら呼びなさいね」

 

「ああ!」

 

遊馬はメディアと別れ、管制室へ入室する。

 

管制室にはマシュ達が既に集まっており、遊馬が来たところでオルガマリーが説明を始める。

 

「さて……遊馬、マシュ。次の特異点が判明しました。今回は1573年、場所は見渡す限りの大海原。今までのフランスとローマの二つの特異点と異なり、具体的な地域が決まってないのよ」

 

「海……15世紀……なあ、もしかして今回の特異点は大航海時代じゃないのか?」

 

大航海時代とは15世紀から17世紀前半にかけて、ヨーロッパ諸国が新大陸を目指して世界規模の大航海を行った時代である。

 

冒険家の息子である遊馬は海と十五世紀に大航海時代を直感して思いついた。

 

「流石は冒険家の息子ね……その可能性は十分に考えられるわ」

 

「あ、あの……転送する時、いきなり海の上に落とされたら困るのですが。私は水泳のトレーニングを受けていません」

 

マシュは海に落ちてしまった時のことを想像してしまう。

 

「大丈夫だって、マシュ。俺は泳げるし、水辺に適したモンスターがいるから問題ないよ。それにいざとなったらかっとび遊馬号を使うからさ!」

 

幸いなことにナンバーズの中には海などの水辺に適したモンスターがいくつもいる。

 

仮に海に落ちたとしても特に問題なくマシュは一安心する。

 

「大航海時代か……ん?待てよ……あ!そうだ!悪い、ちょっと取りに行ってくる!」

 

遊馬は大航海時代というキーワードに思いつき、急いで管制室から食堂へ再び赴いた。

 

「おや?マスター、どうしたのだ?」

 

「えっと、あったあった!エミヤ、これをくれ!」

 

遊馬はテーブルに置かれたあるものを手にとり、総料理長のエミヤに許可をもらう。

 

「それを……?何に使うんだ?」

 

「次のレイシフト先が大航海時代なんだよ!料理上手なエミヤなら大航海時代の『こいつ』の価値はわかるだろ?」

 

「……はっ!?なるほど……流石は冒険家の息子だな。良いだろう、持って行きなさい」

 

「おう、サンキュー!」

 

遊馬はエミヤの許可をもらって食堂のあるものをポケットに入れて管制室に戻る。

 

「何を取りに行ってきたのよ?」

 

「これさ。大航海時代ならこれが使えるだろ?」

 

「あっ!なるほど……確かにそれは使えるわね」

 

オルガマリーも遊馬が持ってきたものに納得し、深く感心した。

 

特異点の説明などが終わると次にオルガマリーが新しい発表をする。

 

「それでは今回の護衛サーヴァントを発表します」

 

「護衛サーヴァント?所長、何それ?」

 

「遊馬は普通の魔術師のサーヴァントとは異なりデュエリストは無防備になることが多い。そこでシールダーのマシュに加えて二人、遊馬の護衛としてサーヴァントを付けることにしました。ただ、その護衛サーヴァントは希望者がとても多いので特異点毎にくじ引きで決めさせてもらったわ」

 

今までは遊馬の要請やサーヴァントが勝手にやってくるなど色々あった。

 

今後は人数調整などを考えていき、バランスの良い戦力を考えてゆく。

 

「まず一人目はネロ皇帝!」

 

「うむ!万事余に任せるが良い!」

 

「二人目はアストルフォ!」

 

「うん!よろしくね!」

 

原初の火による近接戦闘が可能なセイバークラスのネロに幻獣に跨り、様々な宝具を操るライダークラスのアストルフォ。

 

シールダーのマシュとバランスのとれた布陣である。

 

ネロは遊馬と一緒に行けることを嬉しそうにしており、アストルフォは新しい冒険が出来ることを喜んでいた。

 

全ての準備が完了し、いよいよ第三特異点へ向かう。

 

「さぁて、気合いを入れていくぜ!」

 

「油断せずに行こう!」

 

「はい!頑張りましょう!」

 

「ユウマと一緒なら恐れるものは何もないぞ!」

 

「新しい冒険がボク達を待っているね!」

 

遊馬、アストラル、マシュ、ネロ、アストルフォは出発前の気合いを入れる。

 

遊馬はマシュ、ネロ、アストルフォの三人をフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまい、アストラルは皇の鍵の中に入る。

 

「フォウ〜!」

 

遊馬がコフィンの中に入ろうとするといつものようにフォウが現れて遊馬の体をよじ登り、上着のフードの中に入る。

 

遊馬はコフィンの中に入り、静かに目を閉じるとコフィンの中で遊馬の体が粒子となり、第三特異点へレイシフトする。

 

壮大な海を舞台とした特異点……遊馬達は限界を超えた戦いを繰り広げるのである。

 

 

 

.




次回からいよいよ第三特異点開幕です!

三大マシンの元ネタは遊戯王ファンの皆さんならお分かりかと思います。

ジェットローラー→遊矢のローラースケート。

ウィンドボード→Dボード。

ストリームバイク→Dホイール。

遊戯王シリーズのマシンを出してみました。

基本はジェットローラーを使うことになると思います。

そして、遊馬の装備一式は……デュエルディスク、D・ゲイザー、原初の火、ジェットローラー……中々の装備が整えられていますね。

後は衣類の魔術礼装を用意するべきですかね?

ネロとアストルフォをメンバーに参加させようと思ったのはネロとアストルフォが第三特異点の冒険に参加させたら面白そうだと思ったので。

特にアストルフォは色々な爆弾になると思ったので(笑)


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第三特異点 封鎖終局四海 オケアノス
ナンバーズ40 第三特異点へ!果てしなき海と伝説の航海者!


さあ、始まりました第三特異点!封鎖終局四海オケアノス!

このストーリーで極限の戦いや様々なことが判明しますので楽しみです。

やはり海といえば遊戯王屈指の水属性使いのシャークさんや璃緒のカードが輝きますのでどんどん出していきたいです。


第三特異点となる海……そこにレイシフトをし、遊馬は鼻に届く潮の香りに目を覚ました。

 

幸いにもそこは海では無かったが……。

 

「船の上っ!?」

 

まさかの船の上で遊馬は驚いてキョロキョロと周りを見渡す。

 

デッキケースが開き、マシュ達が出てくると遊馬と同じ反応をする。

 

マシュはD・ゲイザーを起動させてカルデアと通信する。

 

「所長、ドクター……何か弁明はありますか?」

 

『ごめんなさい、無人島にでもレイシフトしようとしたけど……どうしてこうなったのか……』

 

『ま、まあ良いじゃないか!すぐに使える船の上で!あはははは!』

 

オルガマリーとロマニもまさか船の上でレイシフトするとは予想外だったらしい。

 

「よくわからねえが……野郎共やっちまえ!」

 

気がつくといつの間にか遊馬達は海賊に囲まれていた。

 

「え!?リアル海賊!?ってことは海賊船!?」

 

「所長!ドクター!後で覚えておいてくださいね!!」

 

『ご、ごめんなさいっ!』

 

『ごめんよ、悪気はなかったんだよぅ!』

 

最近は成長してきたのか遊馬の影響か少し気が強くなったマシュにオルガマリーとロマニは必死に謝った。

 

「早速、こいつの出番だな!」

 

遊馬はソードホルダーから原初の火を引き抜いて右手に持ち、更に左手にホープ剣を作り出して二刀流で構える。

 

「マシュ、ネロ、アストルフォ、行くぜ!」

 

「はい!」

 

「うむ、行くぞ!」

 

「うん!任せて!」

 

マシュは盾を、ネロは生前に遊馬に託した後に改めて隕鉄を打って作ったもう一つの原初の火を、アストルフォは宝具でない細身の剣を構える。

 

「みんな、分かってると思うけど殺すなよ」

 

遊馬の意思に全員が頷き、海賊達と戦闘を開始する。

 

相手は海賊とはいえただの人間、サーヴァント達であるマシュ達の敵ではない。

 

更には大剣豪、宮本武蔵やその他のサーヴァントから日々修行を受けている遊馬のホープ剣と原初の火の二刀流は凄まじいもので海賊たちをあっという間に倒した。

 

海賊達を倒すと強者である遊馬達にひれ伏し、大人しく言うことを聞くようになった。

 

話を聞くと海賊達はいつのまにかこの謎の海域に漂流していたらしく、羅針盤も地図も役に立たない。

 

海賊達は食料と水を確保するために海賊島に向かう予定だった。

 

遊馬達は勝者の特権として海賊島に一緒に連れて行ってもらうことにした。

 

それから少し時間が経過し海賊島に到着すると美少女のマシュとネロ……ついでに見て目が完全に美少女のアストルフォを狙って海賊達が次々と襲ってきた。

 

その海賊達もあっけなく蹴散らすとこの状況を把握している人間がいるかどうか尋ねると海賊の一人が自慢げに話し出した。

 

「聞いて驚け……我らが栄光の大海賊、フランシス・ドレイク様だ!」

 

「フランシス・ドレイク……!?」

 

フランシス・ドレイク。

 

世界一周を成し遂げた偉大な航海者であり、大航海時代最強のスペイン軍の無敵艦隊を沈めた私掠船艦長及び艦隊司令官である。

 

遊馬達は海賊の一人に頼んでフランシス・ドレイクの元へ案内してもらう。

 

そして……海賊達が仮拠点としてキャンプをしているところに誰よりも男らしい人物がいた。

 

「こりゃまた、ずいぶんキテレツだね……しかも女子供ばかりじゃないか」

 

それは顔に大きな傷を持つ見るからに姉御肌を感じさせる綺麗な女性だった。

 

驚くことにその女性ことフランシス・ドレイクだった。

 

歴史ではドレイクは男と言われていたが、目の前にいるドレイクは紛れも無い女であり、アルトリア、ネロに続き実は女性だった人物の登場にマシュ達は驚いた。

 

すると遊馬は前に出てドレイクに話しかける。

 

「あんたがフランシス・ドレイク船長だな!」

 

「あぁ?そうだけど、アンタは?」

 

遊馬は自分の胸を軽く叩き堂々と自己紹介をする。

 

「俺は遊馬!異世界から来た世界一の冒険家夫婦の息子だ!!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

いつもと違う自己紹介にマシュ達は驚き、ドレイクはピクッと肩を震わせる。

 

「世界一の冒険家夫婦の息子だと……?」

 

ドレイクは遊馬を睨みつけて立ち上がった。

 

そして……。

 

「あははははっ!いやー、中々の冒険をするじゃないか、アンタの両親!」

 

「ドレイク船長こそすげぇじゃねえか!やっぱり本物の冒険譚は本より本人の口から聞いた方が百倍おもしれえや!」

 

「言うじゃないか。だが、アンタの冒険譚も過激じゃないか。十三でそれだけの冒険が出来れば大したもんじゃないか!」

 

「へへっ、ドレイク船長にそう言ってもらえて嬉しいぜ!」

 

遊馬とドレイクがめちゃくちゃ意気投合していた。

 

実は遊馬は人類で初めて世界一周を成し遂げたドレイクのファンで冒険について話し合いたかったのだ。

 

ドレイクは遊馬が異世界から来たことをあっさり信じると遊馬は自身と両親、ドレイクは海の冒険などの冒険譚を互いに語り合い、いつしか海賊達と交えて大宴会が始まってしまった。

 

話に入り込めないマシュ達は大人しく食事をするしかなかった。

 

「ん……?面白い形の首飾りをしているじゃないか」

 

ドレイクは遊馬の首にかかっている皇の鍵に興味を持って指で持ち上げ、太陽の光に当てて輝かせる。

 

今まで数多くの財宝を見て来たが皇の鍵のような形をしたペンダントを見たことなかった。

 

「これか?これは皇の鍵って言って、父ちゃんから貰ったんだ!」

 

「へぇ、綺麗じゃないか。金にエメラルドが埋め込まれてるのかね?」

 

皇の鍵は金で作られたものではなく、異世界の摩訶不思議な鉱物で作られたものなのだがドレイクがそれを知る由もない。

 

黄金に輝く皇の鍵にドレイクが触れた瞬間、皇の鍵が輝き、中にいたアストラルが出て来た。

 

「アストラル、どうしたんだ?なかなか出てこなかったじゃないか」

 

「遊馬、大変だ。皇の鍵の飛行船が使えない」

 

「ええっ!?何でだよ!?」

 

「この特異点は今までの特異点と異なり空間の歪みが特に強い。そのせいで飛行船を安定して動かせないんだ」

 

「マジかよ!?」

 

アストラルはこの特異点に来てからなかなか出てこなかったのは飛行船に異常が出たのを察知して調べていたのだ。

 

「うーん、海だらけのこの世界でかっとび遊馬号が使えないのは痛いな……」

 

「ここは船で移動するしかないようだな。む?ところで遊馬、彼女は何者だ?」

 

「紹介するぜ。フランシス・ドレイク船長だ」

 

「何だと!?人類初の世界一周の航海者、フランシス・ドレイク!?まさか女性だとは……」

 

アストラルもドレイクが女性だということに驚きながら早速話をしようとしたが……。

 

「イ……」

 

「「い?」」

 

「イヤァアアアアアアアッ!!ゆゆゆ、幽霊ぃっ!??」

 

ドレイクは顔を真っ青にして絶叫した。

 

アストラルを幽霊と勘違いするなりドレイクは懐にしまってある銃を乱射してアストラルを追い払おうとする。

 

しかしアストラルは実体のない精霊なのでただの銃の弾丸が通用する訳がなく、弾丸は体をすり抜けて宙を舞う。

 

アストラルはグイッとドレイクに顔を近づけた。

 

「フランシス・ドレイクよ。私は幽霊などではない、精霊だ」

 

間近に近づいたアストラルにドレイクは顔を真っ青にして更に精神が追い込まれる。

 

「ギャアアアアアッ!?来るな来るな来るなぁっ!!」

 

「アストラル!ドレイク船長を怖がらせるなって!ほらこっちに戻れ!」

 

「私は幽霊ではないのだが……」

 

アストラルは自分が幽霊と言われていることにムッとしながら遊馬の元へ戻る。

 

怖いもの知らずの姉御肌のドレイクがまさか幽霊が苦手なことに遊馬達は驚いた。

 

部下の海賊達はそんなドレイクの姿にがっかりすると思ったが、寧ろ女性らしい一面が見られてほっこりしていた。

 

「ななな、何なんだよお前は!?」

 

「我が名はアストラル。遊馬の相棒だ」

 

「えっと、簡単に言えばアストラル世界っていう異世界の住人なんだ。幽霊みたいだけど幽霊じゃないから安心してくれ」

 

「で、出来れば私の前ではいないで欲しい……」

 

「……仕方ない。遊馬、彼女がいないときに呼んでくれ」

 

「すまねえ、アストラル……」

 

アストラルは完全にドレイクに嫌がられていることにショックを受け、大きなため息をついて粒子化して皇の鍵の中に入る。

 

「アストラルは真面目で天然でとってもいい奴なんだ。だから悪霊とかと勘違いしないでくれよ?」

 

「なら良いんだけど……」

 

「えっと……それでドレイク船長に頼みがあるんだ。この世界を救うために力を貸してくれ」

 

「世界を救うねぇ、海賊の柄じゃねえんだけど」

 

「でもこのままだとこの世界は必ず滅びる。そうしたら航海も、冒険も、宴会も全部出来なくなるんだ。海賊は自由でいるからこそ海賊だろ?その海賊の自由が奪われても良いのか?」

 

遊馬に諭され、ドレイクは目をパチクリとさせる。

 

「確かにそれもそうだが……」

 

「気分が乗らないって言うなら……俺がドレイク船長を雇うって言うのはどうだ?報酬はちゃんと払う、それでどうだ?」

 

考えの違いからなかなか重い腰を上げないドレイクに対し遊馬は説得ではなく交渉に乗り出した。

 

アストラルなら多分こう言うだろうと確信を持ちながら不敵の笑みを浮かべた。

 

「私を雇うだと?でも私は高いよ?アンタ、払えるのかい?」

 

「んー、とりあえずこれで足りる?」

 

遊馬はポケットからあるものを取り出してドレイクに投げ渡した。

 

「……え?こ、これは……!?」

 

投げ渡されて受け取ったドレイクはそれを見て目を見開いていた。

 

「うん、胡椒だぜ」

 

それはカルデアの食堂からエミヤに許可を貰って持ってきた胡椒瓶だった。

 

20センチ弱の胡椒瓶の中には挽く前の胡椒の粒がぎっしり詰まっていた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジでぇええええええええええええええええええええっ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更なるドレイクの絶叫が響き、胡椒瓶を握りしめながら失神してしまった。

 

大航海時代、胡椒は非常に高い価値があり、同じ重さを金銀で取引されていた。

 

遊馬が渡した胡椒瓶を仮にこの時代で取引すれば豪華な家一軒が余裕で立ち、一生遊んで暮らせるほどの価値があるのだ。

 

海賊達もあっさりと胡椒を出した遊馬に恐れをなして軽くその場から下がっていた。

 

そして、数分後に復活したドレイクは平然を装いながら震えた手で胡椒瓶を持っていた。

 

「い、いいだろう……これだけあれば充分だ。アンタに私たちの命と船を預けよう」

 

「頼むぜ、ドレイク船長!」

 

ドレイクはジョッキにラム酒を注いで遊馬に渡す。

 

「よぉし、契約の証だ……一杯飲め!」

 

「え!?でも俺はまだ子供……」

 

「私の酒を飲めないなら、契約の話は無しだぜ?」

 

すると、ドレイクの胸元が金色に輝くと中から見事な装飾が施された金の杯が現れた。

 

その金の杯から酒が溢れるほど勝手に注がれ、遊馬達はその杯に目を疑った。

 

「えっ!?ドレイク船長、それって……」

 

「ま、まさか……」

 

「フォウ!??」

 

「聖杯、なのか……!?」

 

「えっ?えっ!?どう言うこと!?」

 

ドレイクの手にある金の杯……それは紛れも無い聖杯だった。

 

すると聖杯はドレイクの手から宙に浮くと何故か遊馬とドレイクの間を八の字を描くように行ったり来たりし始めた。

 

まるで聖杯自らが主人を選ぶかのように……。

 

 

 

.




遊馬はやはり冒険家の息子で自身も大冒険を繰り広げているのでドレイク船長と話が盛り上がると思うのでこうしました。

そして早速秘密兵器の胡椒でドレイク船長を雇いました。

アストラルを幽霊と思って慌てふためくところは書いてて笑いましたよ(笑)

次回は遊馬達のいよいよ大航海の始まりです。

新たなサーヴァントとの出会いを楽しみに!


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ナンバーズ41 未知なる大海原へ!黄金の鹿号、出港!!

第三特異点は色々面倒な展開になるのでどう書いて行くか悩みますね。

まあ基本味方陣営は救済方針ですが。


ドレイクの中から現れた金の杯……それは紛れもなく聖杯だった。

 

「ド、ドレイク船長!その聖杯どうしたんだよ!?」

 

「こいつかい?こいつに目をつけるとはお目が高い。金で出来たジョッキなんて悪趣味だが、こいつは別さ。汲めども汲めども尽きない酒だけじゃない。テーブルに置けばあら不思議、肉と魚がドカドカ盛られていきやがる。たまたま拾ったもんだけど、こんなご機嫌なお宝は他にないんじゃないかねぇ?」

 

「何言ってんですか姐さん、たまたまじゃねえ、とんでもない大冒険だったっスよ!」

 

部下の海賊の一人がその聖杯を手に入れた経緯を話した。

 

明けない七つの夜に海に破滅の大渦が現れた。

 

メイルシュトルムと呼ばれる大渦から海底に沈んだ伝説の古代都市であるアトランティスが現れた。

 

『時は来た。オリンポス十二神の名の下に、今一度大洪水を起こし文明を一掃する也……!』

 

と、騒いでいた巨人を相手に大立ち回りしてその聖杯を奪い取ったのだ。

 

海賊たちはよくわからないがドレイクは世界を救った英雄なのではないかと思っている。

 

「あぁあ〜?そんな大層な話だったかぁ、アレ?つーかむかついたから邪魔しただけさね。あのデカブツ、海神(ポセイドン)を名乗りやがって。船乗りとして許せないじゃないか。だから邪魔した。お宝もこうして奪ってやった。最後に都市ごと渦に沈めてやった!最っっ高!」

 

「ポ、ポセイドン!?ギリシャ神話の海と地震を司る神じゃねえか!?」

 

ギリシャ神話の最高神ゼウスの兄であり、それに次ぐ圧倒的な強さを誇る海神・ポセイドン。

 

ドレイクの持つ聖杯は魔術師たちが作った聖杯戦争の聖杯とは異なるポセイドンのオリジナルの聖杯である。

 

それを英霊でもない生身の人間でポセイドンをしばいて聖杯を奪い、アトランティスを海に沈めた……とんでもない人物にマシュたちやカルデアのみんなは驚き、開いた口が塞がらなかった。

 

つまりこの時代は遊馬たちが来る前にポセイドンによって人理定礎が崩壊しかけていた。

 

それをその場のノリと勢いでドレイクがこの時代を救ってしまい、聖杯に選ばれてしまった本当の意味での聖杯の所有者になってしまったのだ。

 

ところが……。

 

「あん?なんでこいつ、私とユウマを行き来してるんだ?」

 

聖杯は何故か遊馬とドレイクの間を八の字を描くように行き来していた。

 

「ほう、そういうことか……ユウマ!私と戦え!」

 

「はぁ!?な、何で!?」

 

「こいつは私かユウマ、どちらが相応しいか迷ってんだよ。だったら勝負して決めさせればいいだろ?」

 

「ええっ!?」

 

「お前の力……見せてみろ、ユウマ!!」

 

ドレイクは二丁拳銃を構えてまずは空に向かって威嚇射撃のように弾丸を放ち、海賊たちは邪魔にならないようにその場から引き下がる。

 

「ちっ!仕方ねえな!ジェットモード!」

 

遊馬は覚悟を決めてジェットローラーを起動し、ローラーを展開させて森の中を走り抜ける。

 

「遊馬君!?」

 

「マシュ!みんな!これはドレイク船長と俺の戦いだ!手出しは無用!」

 

ドレイクの性格から一対一の決闘を望んでいると遊馬は考えた。

 

聖杯はドレイクの体内に戻り、聖杯の力で英霊とまともに戦える力を宿したドレイクは遊馬の後を追いかける。

 

遊馬はジェットローラーで走りながらD・パッドとD・ゲイザーを投げ飛ばして変形させる。

 

「デュエルディスク、セット!D・ゲイザー、セット!」

 

デッキからカードを5枚ドローするとドレイクは走りながら銃を構える。

 

「オラオラ!逃げてばかりじゃ私に勝てないよ!」

 

銃から次々と弾丸を発射するドレイクだが遊馬は守りの手を打つ。

 

「相手の攻撃宣言時、手札から『ガガガガードナー』を特殊召喚する!」

 

遊馬の背後に大きな盾を持つ戦士が現れ、ドレイクの放つ弾丸を盾で受け止める。

 

「何だぁ!?突然男が現れた!?」

 

「こいつは俺と共に戦う仲間たちだ!」

 

遊馬はガガガガードナーと共に森を駆け抜け、砂浜に出る。

 

ジェットローラーをノーマルモードにして砂浜に立ち、デッキトップに指を置く。

 

「俺のターン、ドロー!ブリキンギョを召喚!効果で手札からゴゴゴゴーレムを特殊召喚!」

 

遊馬の前にレベル4のモンスターが三体揃い、ドレイクの相手に相応しいナンバーズを呼び出す。

 

「かっとビングだ、俺!レベル4のガガガガードナー、ブリキンギョ、ゴゴゴゴーレムの三体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

三体のモンスターが光となって地面ではなく海に潜り込むと光の爆発が発生する。

 

「現れよ、No.32!最強最大の力を持つ深海の帝王!その牙で全てのものを噛み砕け!『海咬龍シャーク・ドレイク』!!」

 

海中に『32』の数字が浮かび、巨大な魚の尾びれが変形して鮫を模した竜王が召喚される。

 

シャーク・ドレイクは海から飛び上がるとドレイクを睨みつけて咆哮を轟かせる。

 

偶然にもドレイクとシャーク・ドレイクに同じドレイクの名前を持っていた。

 

「シャーク・ドレイク……!?ははっ、私と同じ名前を持つ鮫か。生意気じゃないか!」

 

ドレイクは聖杯の力で自動装填された二丁拳銃を発砲する。

 

「迎え撃て!デプス・バイト!」

 

シャーク・ドレイクの口から鮫のオーラが放たれ、ドレイクの動きを封じ、怪我させないためにわざと外させながら攻撃する。

 

「派手にやってくれるじゃないか!だがな、どんなに凶悪な生き物でも!!」

 

ドレイクは普通に撃っても効果はないと判断すると大半の生き物の弱点を狙い撃った。

 

『グォオオオオオオッ!?』

 

銃弾はシャーク・ドレイクの目を撃ち抜いた。

 

「シャーク・ドレイク!?」

 

「目は弱点だよな!!」

 

シャーク・ドレイクは目を撃たれて悶え苦しみそうになるが、その身に宿る闘争心からまだ倒れなかった。

 

「まだ行けるか、シャーク・ドレイク!」

 

『ギュオオオオオオン!!』

 

「よっしゃあ!行くぜ、俺のターン、ドロー!シャーク・ドレイクをエクシーズ素材とし、カオス・エクシーズ・チェンジ!」

 

シャーク・ドレイクが元の魚の尾びれに戻り、海の中に潜ると更なる光の爆発が起きる。

 

「現れよ、CNo.32!暗黒の淵より目覚めし最強の牙よ!『海咬龍シャーク・ドレイク・バイス』!!」

 

シャーク・ドレイクの進化形態にして真の姿……刃物のような鋭い指爪を携え、純白の装甲に身を包んだ深海の竜王が降臨する。

 

肉体を再構築したことで両眼の傷は無くなり、シャーク・ドレイク・バイスはドレイクを強く睨みつける。

 

「何ぃっ!?今度は白くなっただと!?」

 

「これで決めるぜ!シャーク・ドレイク・バイスの攻撃!デプス・カオス・バイト!!」

 

シャーク・ドレイク・バイスの口から無数のレーザービームが放たれ、ドレイクが避けられない軌道で飛ぶ。

 

「くっ!?」

 

レーザービームは砂浜の砂を強く巻き上げ、ドレイクは両腕で顔を覆う。

 

砂で周りが見えなくなり動けなくなった次の瞬間。

 

チャキ!

 

「なっ……!?」

 

ドレイクの首に何かが突きつけられる感触が伝わる。

 

砂が全て落ちて視界が開けるとシャーク・ドレイク・バイスの爪がドレイクの首に当てられていた。

 

「ちっ……私の負けか」

 

ドレイクは二丁拳銃を落として両手を上げて降伏する。

 

遊馬はシャーク・ドレイク・バイスを消してデッキケースにしまい、ドレイクと共にキャンプ地へ戻る。

 

すると、聖杯はドレイクの中から出てくると遊馬の前で静かに止まった。

 

「お、おう……?」

 

「ははっ、そいつはユウマを主人と認めたようだな。ま、私に勝ったんだ。持ってけ持ってけ」

 

「え、えぇー……」

 

遊馬は複雑な心境で聖杯を持ち、マシュの盾の中にしまうが……。

 

「何も起こらないな……」

 

「変化ありませんね……」

 

聖杯を手に入れたが特異点の空間に変化が起こらなかった。

 

そこから考える結論は一つ、この時代には『聖杯が二つ存在』している。

 

一つはドレイクが手に入れたポセイドンの聖杯でもう一つはこの特異点を作りあげたレフが配置した聖杯。

 

レフの聖杯を手に入れない限りこの特異点を解決することはできないということだ。

 

遊馬は聖杯を眺めながらD・ゲイザーでカルデアのオルガマリーと話す。

 

「これが本物の聖杯か……所長、いいよな?」

 

『あなたの好きにしなさい』

 

遊馬はオルガマリーの意見を聞き、自分の意思で聖杯をドレイクに投げ渡した。

 

「いいのか……?私から勝ち取ったんだぞ?」

 

「聖杯はいらないよ。持ち主の願いを叶える願望器は俺には必要ない。自分の願いは自分で叶えるもんだ……この手で未来を掴むと誓ったからな!だから、その聖杯は船長が持っていてくれ」

 

「お宝をあっさり返す変な奴かと思ったが、なるほど……私好みの良い答えじゃないか。ユウマ、お前の事をますます気に入ったよ!よーし、お前ら!宴の再開だ!!」

 

遊馬の答えに満足げに頷いたドレイクは聖杯から大量の料理を出して楽しい宴会を再開する。

 

そして、遊馬はドレイクとの契約のためにラム酒を飲むことになった。

 

「本当に飲まなきゃダメか……?」

 

「飲め飲め!グイッといけ!」

 

「うっ……わ、分かったよ!!」

 

遊馬はジョッキを持ち、覚悟を決めてラム酒を飲む。

 

今まで味わったことのない味と衝撃が口の中に広がり、遊馬はそれを耐えながらジョッキのラム酒を飲み干すが慣れない味などで咳き込んでしまう。

 

「うげぇっ……コホッコホッ……!」

 

まだまだ子供である遊馬は初めて飲んだ酒……しかも海賊達が飲むアルコールが高いラム酒を飲んだことで一気に体が熱くなる。

 

「体が熱い……」

 

「ゆ、遊馬君、大丈夫ですか!?」

 

マシュは遊馬が倒れないか心配するが……。

 

「マシュ……」

 

遊馬は目がトロンとし、顔が真っ赤に染まって熱を帯びていた。

 

「ふにゃあ……」

 

「……えっ!?」

 

そして……遊馬はマシュの膝に自ら頭を乗せるのだった。

 

「えへへ……マシュの膝、あったかくて柔らかい……」

 

「ゆゆゆ、遊馬君!!?」

 

遊馬はマシュに甘えるように膝に頭を乗せて腰に抱きついた。

 

どうやら酒を飲んだことで遊馬の奥底に隠してある本性……誰かに甘える一面が出てしまったようだ。

 

「……のぉおおおおおっ!?何をしているのだユウマは!??」

 

「ありゃりゃ、マスターが酔っちゃったね!」

 

酔ってしまった遊馬の大胆な行動にネロは大慌てをし、アストルフォはケラケラと面白そうに笑う。

 

「いい匂い……何だか、落ち、着く……」

 

遊馬はマシュの腰に抱きつきながら急激な睡魔に襲われてそのまま眠りについてしまった。

 

「マ、マシュ!膝枕、余と代わってくれ!」

 

「しぃーっ。ダメです、遊馬君が眠っているんだから静かにしてください」

 

「そうだよ、ネロ。マスターを起こしちゃ可哀想だよ。いつも大変なんだから少しでもゆっくり寝させてあげなきゃ」

 

アストルフォの言うことはもっともであり、遊馬のことを想うと何も言えなくなりネロは嫉妬の眼差しをマシュに向けながらジョッキを持つ。

 

「むうっ……おのれぇ……羨ましすぎるぞ、マシュよ……」

 

遊馬に膝枕出来なかった悔しさから海賊達と共にやけ酒し始めるネロだった。

 

マシュは思わぬ幸運に心が弾み、笑みを浮かべる。

 

「フォウ……」

 

フォウもマシュの膝を借りて遊馬の顔の隣で眠りにつく。

 

「遊馬君、フォウさん。おやすみなさい、良い夢を……」

 

マシュは遊馬とフォウの顔を撫でながら自分も後ろの木に寄りかかりながら眠りについた。

 

ちなみにネロは海賊達と共に歌おうとしたが、ネロが音痴なのはカルデアでは周知の事実なのでアストルフォが頑張って抑えているのだった。

 

一方、カルデアでは……。

 

「お願いです!行かせてください!」

 

「ちょっとあんた達退きなさいよ!」

 

「旦那様に私が膝枕を!!」

 

遊馬が酔って甘えん坊状態になっていると知り、ジャンヌとレティシアと清姫がカルデアからレイシフトしようとしていた。

 

「戦闘でもなんでもないのに行かせる訳無いじゃない!みんな、頼むわよ!!」

 

そんな三人を止めるためにオルガマリーはマスターではないが比較的協力的なサーヴァント達にお願いして全力で三人を抑えてもらっている。

 

そして……。

 

「うぉおおおおおっ!退きなさい、小次郎!姉として酔っている遊馬の元に向かわないと!!」

 

「やめないか!宮本武蔵が若い燕の遊馬殿を襲う光景なんか誰も見たくないぞ!」

 

「襲わないよ!?姉として弟の遊馬をとにかく愛でるだけだから!」

 

「それが特に不安なのだ!今の貴様は特に!」

 

カルデアに遊馬へのショタコンを流行らせた張本人である武蔵が色々と危ない目をして息を荒げながら遊馬の元へ向かおうとしたが、宿命のライバル?である小次郎に全力で止められていた。

 

「はぁ、この先色々不安ね……」

 

既に遊馬に何度も膝枕をしてあげている小鳥は特に慌てることなかったが、四人の姿を見てこの先の作戦に色々な意味で不安を感じて大きなため息をつくのだった。

 

 

翌朝、ドレイク達海賊は宴会で酒をたらふく飲んでも酔わずに出航の準備を整えた。

 

遊馬は幸い二日酔いにならずにいつも通りの体調でマシュ達と共に海賊達の手伝いをしようとする。

 

しかし、遊馬達が雇い主なので海賊達はそんなことをさせるわけにはいかないと言われて大人しく休んでいた。

 

そして……。

 

「よし、出港だ!側を掲げろ、黄金の鹿号(ゴールデンハインド)、出撃だ!」

 

遂にドレイクの船、黄金の鹿号が出港し、この世界の特異点を解決するための大航海が始まった。

 

航海日和の晴天に穏やかな海に遊馬はあることを思いつく。

 

「いい天気で荒波もない!よっしゃあ、アレを試してみるか!カルデアのダ・ヴィンチちゃん!ボードを頼むぜ!」

 

遊馬はD・ゲイザーでカルデアのダ・ヴィンチと連絡を取る。

 

『そうか、海で試すんだね。いいよ、思いっきり楽しむといい!』

 

すぐに遊馬の足元にカルデアからウィンドボードが転送される。

 

意気揚々とボードに乗り、起動すると宙に浮き始める。

 

「行くぜ!ウィンドボード、発進!」

 

遊馬はウィンドボードを発進させ、船から飛び出して海の上に走らせる。

 

ウィンドボードは陸だけでなく水の上でも宙に浮いて走れる水陸両用の万能型の移動マシン。

 

遊馬はウィンドボードをサーフボードのように乗り、その身に疾走感と心地よい海風を受ける。

 

「イヤッッホォォォオオオオウ!!!」

 

自然にテンションが上がり、遊馬が喉の奥から高らかに叫ぶと、皇の鍵が輝いてアストラルが隣に現れて一緒に飛ぶ。

 

「遊馬、こうして共に走るのも良いものだな」

 

「アストラル!おうっ!」

 

遊馬とアストラルの楽しい光景を見てアストルフォはピョンピョンと跳ねながら手を挙げる。

 

「いいねいいね!じゃあ、ボクも!おいで、『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』!」

 

アストルフォの隣に上半身は鷲、下半身は馬の幻獣であるヒポグリフが召喚される。

 

それはライダークラスであるアストルフォを象徴する代表的な宝具である。

 

アストルフォはヒポグリフに跨り、ヒポグリフは翼を羽ばたかせて空を飛び、遊馬とアストラルの隣に平行して飛ぶ。

 

「やっほー!マスター!アストラル!」

 

「アストルフォ!すっげー!それがお前の自慢のヒポグリフか!」

 

「素晴らしい、とても勇ましい幻獣だな」

 

「うん!それじゃあ、次の島まで競争だ!!」

 

「おうっ!!」

 

「ああ!」

 

遊馬はウィンドボード、アストラルは飛び、アストルフォはヒポグリフで次の島まで競争する。

 

ドレイクは対抗心から部下の海賊達に指示を出す。

 

「野郎ども!あいつらに負けるな!黄金の鹿号、全速前進だ!!」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

ドレイクは遊馬とアストルフォの後を追い、黄金の鹿号を全速前進で進ませる。

 

 

 

.




次回はいよいよ下姉様の登場です!
メドゥーサちゃん、ファイトです!(笑)
早いところ桜ちゃんを呼ばないとメドゥーサちゃんのメンタルがやばくなりそうですね。


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ナンバーズ42 ゴルゴン三姉妹最後の女神

早くもゴルゴン三姉妹が揃います。
メドゥーサさんに是非とも胃薬と桜ちゃんを提供したいと思うお話です(笑)


ドレイクの黄金の鹿号が出港し、遊馬達は情報を集めるためにまずはカルデアでサーヴァントの気配を感知した近くの無人島へ向かった。

 

途中、海賊の姿を模した無限に現れる敵を倒していき、遂にこの世界で初めてのサーヴァントと遭遇した。

 

それは血の斧を持つバイキングの王、エイリーク・ブラッドアクス。

 

九世紀にノルウェーを支配した残虐な王でバーサーカークラスで召喚されて遊馬に襲いかかってきた。

 

しかし、既に多くのバーサーカーと戦ってきた遊馬達の相手ではない。

 

「希望皇ホープの攻撃!ホープ剣・スラッシュ!!」

 

「グォオオオオオオッ!??」

 

すぐさま希望皇ホープをエクシーズ召喚し、ホープ剣の一刀でエイリークを斬り倒した。

 

エイリークは消滅したが、サーヴァントを倒した後に残るフェイトナンバーズのカードが現れなかった。

 

考えられる可能性は倒される前に霊体化して逃げた事であり、また戦うことになるだろう。

 

ここに来て無駄骨かと思われたが、ドレイクは海賊としての感でエイリークや海賊達が乗っていた船を見つけた。

 

船の中にはヴァイキングが書いた本があり、中には出発地点から到着地点までのあらゆるものが絵と文字で記録されていた。

 

そして、この島と周囲一帯の海図が描かれており、情報が無い遊馬達にとっては大きなお宝となった。

 

ヴァイキングの海図を元に次の島へ向かうが、航海途中で見たことない海賊旗を掲げる海賊船と戦闘を繰り返し、謎の海賊旗はカルデアで調べてもらうことにした。

 

次の島に到着すると早速遊馬達は島を歩いて調べていくと……。

 

ゴォオオオオオ!!!

 

「じ、地震!?」

 

「キャッ!?」

 

突然大きな地震が発生して無人島全体が揺れた。

 

遊馬達はドレイクの部下と船が心配で一旦船に戻り、部下達の安全は確認できたが、何故か船が動かなくなってしまった。

 

しかもカルデアとの通信が遮断されてしまった。

 

「何か大きな力を感じるぜ……これは、結界か?」

 

「そうだと思います。どうやら島全体に結界が張り巡らされているようです」

 

「むぅ、これでは船が出港できないか。カルデアと繋がれないし、困ったな」

 

「ボクの魔術を無効にできる魔導書が使えればこの結界ぐらい簡単に破れるけど、真名を忘れちゃったからなぁ……」

 

アストルフォには全ての魔術を打ち破れるといわれる魔導書を宝具として所持しているのだが、残念なことに真名を忘れてその真の力を発揮できなくなっている。

 

「仕方ないな。この結界を作った奴をなんとかするしかないな。アストルフォ、ヒポグリフで空から何かないか見てくれないか?」

 

「うん、了解!ボクに任せてよ!」

 

「よし!俺たちは地上を探索して何か変なものがないか探そう!」

 

「はい!」

 

「うむ!」

 

「おう!」

 

カルデアのマスターとして貫禄が出てきた遊馬は的確な指示を出して無人島の調査に乗り出す。

 

無人島だと思っていたが人工的な建物がけっこうあり、その中を調べて見たが誰も住んでいなかった。

 

そんな中、遊馬達は不思議な魔力を発する岩穴を見つけた。

 

その岩穴に入るとそこには見事な装飾などが施された広大な迷宮が広がっていた。

 

「うおっ!?なんだこれ!?迷路か!?」

 

「地下迷宮ってやつかい?いいねぇ、海賊の血が滾る!」

 

「地下迷宮か。こういうのには番人や罠があるのは普通だからな……あ、そうだ!アストラル!」

 

遊馬は皇の鍵の中にいるアストラルに呼びかけるとすぐに出てきた。

 

「遊馬、出番か?」

 

「ああ!地下迷宮なんだけど、お前なら迷路でどこを通ったか記憶出来るだろ?頼むぜ!」

 

以前遊馬とアストラルは2枚のナンバーズを探すために海の底にある迷宮に挑んだことがある。

 

アストラルは一度見たものは必ず忘れないのでアストラルの記憶力を使えば迷宮を攻略することが出来る。

 

「分かった。私が遊馬達を導こう。ところで……ドレイクよ、いい加減慣れたらどうだ?」

 

アストラルが出て来たことで幽霊が大嫌いなドレイクは体を震わせながらマシュにしがみついて隠れていた。

 

「し、仕方ないだろ!?苦手なものは苦手なんだよ!」

 

「やれやれ……豪快かと思えば繊細とはな……」

 

「よっしゃあ!地下迷宮、突撃だ!」

 

アストラルはため息をつき、遊馬は意気揚々と地下迷宮に突撃しようとしたその時。

 

「ユウマ、待ってください!」

 

「お待ちになって、マスター」

 

デッキケースが開くと中から二つの紫色の光が出てきてメドゥーサとステンノが目の前に現れ、遊馬は急ブレーキをかけて止まる。

 

「メドゥーサ!?ステンノ!?どうしたんだよ!?」

 

カルデアとの通信が未だに悪い状況で二人が出てきたことに驚く。

 

「実は……上姉様が……」

 

ステンノがメドゥーサを連れて来たらしく、ステンノは地下迷宮の奥を見ながら静かに口を開いた。

 

「私……(エウリュアレ)がここにいるのよ」

 

「エウリュアレ……?エウリュアレって確か……ゴルゴン三姉妹の次女で、ステンノの妹でメドゥーサの姉ちゃんじゃねえか!?え、ここに!?」

 

「まさかこんなにも早く……!?」

 

ゴルゴン三姉妹、最後の一柱……次女・エウリュアレ。

 

こんなにも早く離れ離れになった姉妹が再会できるとあって遊馬は驚きを隠せなかった。

 

「私はエウリュアレと心が繋がっているの。だからここにいることを察知したの。だからカルデアの皆さんに無理を言って転送してもらったのです」

 

「そっか、この地下迷宮にいるのか……それなら、会いに行こうぜ!二人の家族、エウリュアレに!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

この地下迷宮の奥にいると思われるエウリュアレに会いに行くため、心で繋がっていると言うステンノの道案内で進んでいく。

 

途中、地下迷宮の定番とも言える雑魚敵を倒しながら奥に進むと……。

 

「遊馬君!サーヴァントの気配です!」

 

「エウリュアレじゃない……邪悪な力を感じますわ」

 

奥から出て来たのは仮面をつけた全身傷だらけの大男だった。

 

「しね……このあすてりおすが、みな、ごろしに、する……」

 

「あすてりおす……アステリオス!?ギリシャ神話のミノス王の妻、パシパエの妻とオス牛の間に生まれた子……ミノタウロスだ!」

 

「ミノタウロス!?くっ、こいつを倒さなきゃエウリュアレの元に行けないってことか!」

 

遊馬達はバーサーカークラスであるアステリオスと戦闘を開始しようとしたその時だった。

 

「アステリオス、待ちなさい!!」

 

最奥の部屋から可愛らしくも凛とした声が響き、斧を振るおうとしたアステリオスが止まった。

 

そして、アステリオスの殺気が鎮まると部屋から現れたのはステンノと瓜二つの美少女だった。

 

その美少女こそ、ゴルゴン三姉妹の次女、エウリュアレだった。

 

そのエウリュアレはステンノとメドゥーサを見ると目を見開いて口を手で抑えた。

 

(ステンノ)……駄妹(メドゥーサ)……?」

 

「エウリュアレ!」

 

ステンノはエウリュアレに近づき、二人は嬉しそうに手を取り合った。

 

こうして見るとステンノとエウリュアレは双子の姉妹にしか見えなかった。

 

「下姉様、お久しぶりです」

 

「あらメドゥーサ。相変わらず大きいわね。私を見下ろすなんて生意気だわ」

 

エウリュアレはメドゥーサに対して酷いことを言っているが、本人の表情はとても嬉しそうだった。

 

メドゥーサもそのことを理解しているのか苦笑を浮かべていた。

 

「良かったな、やっと家族が揃って」

 

遊馬とアストラルが嬉しそうに三人に近づくとエウリュアレは目を鋭くして警戒する。

 

「あなた誰……?人間の子供?それに精霊?どんな組み合わせよ……」

 

「俺は九十九遊馬!メドゥーサとステンノのマスターだ」

 

「私の名はアストラル、遊馬の相棒だ」

 

「あなたが二人のマスターですって!?しかもそこにいるサーヴァントたちもそうよね、一体何人と契約しているのよ!?」

 

既に10人単位で遊馬と契約しているサーヴァントがいるので数えるのも一苦労である。

 

「ところで、あのアステリオスとエウリュアレはどう言う関係なんだ?」

 

「アステリオスは私を守ってくれているのよ」

 

「守る?誰かに狙われているのか?」

 

「あなたには関係ないでしょう?」

 

「関係あるさ。あんたがメドゥーサとステンノの大切な家族だからさ」

 

「……は?」

 

「俺はメドゥーサとステンノのマスターだ。二人の大切な家族が狙われているなら一緒に守らせてくれよ」

 

「……そこまでして私が欲しいの?」

 

「違うって。でも、できたら俺とサーヴァントの契約してくれ。そうしたら、この世界の戦いが終わった後にカルデアって組織の拠点でエウリュアレを召喚出来るんだ。そうしたら、短い間だけかもしれないけど、メドゥーサとステンノと一緒に三姉妹で一緒に暮らせるからさ」

 

「また、二人と一緒に……?でも、あなたがそこまでする理由は何なの?」

 

「理由か……家族は一緒の方がいいだろ?離れ離れになったなら尚更だ。俺さ、小さい頃に父ちゃんと母ちゃんが行方不明になってすごく寂しい思いをしたからさ。だから、嬉しいんだ!大切な仲間のメドゥーサとステンノがエウリュアレと再会できてさ!」

 

まるで遊馬に得が全く無いその理由にエウリュアレはポカーンと呆然としてしまった。

 

生前に会った人間達は美しい女神である自分たちとお近づきになりたい、手に入れたいなどと邪な気持ちで近づくのがほとんどだったが遊馬からがそれを一欠片も感じられない。

 

エウリュアレはそのことが信じられなかった。

 

「こういう人間なんですよ、ユウマは。大丈夫です、下姉様。信頼に値するマスターですから」

 

遊馬を信頼しているメドゥーサの言葉を聞き、エウリュアレは遊馬を睨みつけながら忠告する。

 

「分かった……ひとまずは信じるけど、もし少しでも変なことをしたら宝具を打ち込むからね!」

 

「おう!よろしくな、エウリュアレ!」

 

全く怯まない遊馬にエウリュアレは調子を狂わされる。

 

「そ、それから、アステリオスも連れて行きなさい!この子も一緒じゃないと嫌だからね!」

 

「え?もちろん連れて行くぜ。なぁ、ドレイク船長?」

 

「当たり前さ!これだけの人材を逃したらそれこそ笑い者になっちまう!」

「さーて、船長の許可ももらったところで……」

 

遊馬は大人しくしているアステリオスの元に向かうと、敵ではない遊馬たちに対してアステリオスは仮面を外した。

 

牛の頭蓋骨から作られた仮面の奥には少年のような優しい素顔だった。

 

「だれ……?」

 

「俺は遊馬だ!」

 

「ゆ、う……?」

 

「ユ、ウ、マ!お前はアステリオスで良いんだよな?」

 

「ユウマ……おまえ、こわく、ない、のか?」

 

「え?怖い?何が?それよりこの仮面カッコいいな!牛から作ったのか?」

 

「う、うん……」

 

遊馬は怪物であるアステリオスを怖がるどころか自分から積極的に話しかけており、アステリオスも戸惑いながらそれに答える。

 

本来なら英雄が倒すべき存在であるアステリオス、そしてメドゥーサ……それをあんなにも親しそうに話す人間をあり得ないとエウリュアレは思うのだった。

 

ふとエウリュアレは遊馬がステンノに魅了されてない事に気付いた。

 

「ねえ、ステンノ。あの子……あなたの魅了が効いているの?」

 

本来ならステンノの女神の力で男はイチコロなのだが、遊馬は魅了されておらず普通に接している。

 

「マスターには効いてないわ。不思議なことにね」

 

「私の石化の魔眼もユウマには効きませんでした」

 

「ステンノの魅了もメドゥーサの魔眼も効かない……?あの子、本当に人間なの……?」

 

「人間だけど……人間じゃないわね」

 

「かと言って神でも化け物でもない……誰よりも優しく、誰よりも勇ましい子供……それがユウマですよ」

 

メドゥーサとステンノが信頼しているマスターの遊馬……エウリュアレはそれを見極めるために観察しながら一緒に行動することにした。

 

エウリュアレとアステリオスは遊馬と契約し、二枚のフェイトナンバーズを誕生させる。

 

すぐにでもアステリオスに宝具による結界を解いてもらおうと思ったが、その前にアストラルが助言をする。

 

「もうすぐ夕暮れ時だ。仮にエウリュアレを狙う敵が夜に現れた時、海上での夜の戦闘はとても危険だ。ここはこのままアステリオスの宝具で結界を張りつつ、明日に備えて英気を養おう」

 

「それもそうだな。ドレイク船長、どう思う?」

 

「確かに一理あるな。よし!今夜は新しい仲間のエウリュアレとアステリオスの歓迎を祝して宴会だ!!」

 

「ま、また宴会ですか!?」

 

「海賊は騒がしいことが大好きだからな!よし、船に戻って宴会の準備だ!」

 

ドレイクは魅力的な新しい仲間が二人も増えたことに興奮しながら遊馬達を引き連れて共に地下迷宮を出る。

 

船に戻るとドレイク達は宴会の準備をし、エウリュアレはメドゥーサとステンノと共に船の客室で休んだ。

 

夕暮れから夜になり宴会の準備が完了すると、遊馬とアストラルはメドゥーサ達を呼びに船に入った。

 

「おーい、メドゥーサ、ステンノ、エウリュアレ。宴会の時間ーー」

 

部屋に入った瞬間、遊馬とアストラルは衝撃的な光景を目の当たりにした。

 

それはステンノとエウリュアレがメドゥーサを左右に挟んで首を噛んでいた。

 

ステンノとエウリュアレの口から血が垂れており、遊馬とアストラルは一瞬頭が真っ白になる。

 

「ユ、ユウマ!?アストラル!?」

 

「あらマスター。レディの部屋にノックもなしは無礼ですわよ?」

 

「せっかくの姉妹水入らずの時間を邪魔しないでね」

 

「う、うん……悪い……お邪魔しました……」

 

「すまない……」

 

何とか復活した遊馬とアストラルはとりあえず謝り、くるっと踵を返した。

 

「邪魔じゃないですから、ユウマ助けてぇ〜……」

 

メドゥーサの助けを求める悲痛な声に呆然としていた遊馬の意識が回復した。

 

「って!危うく去るところだったぜ!何やってんだお前ら!?何でメドゥーサの首を噛んで血を吸ってんだよ!?お前ら吸血鬼か!??」

 

「誤解しないでよ、これは駄メドゥーサへの躾」

 

「私とステンノはメドゥーサの血が大好物なのよ。はぁっ……久しぶりのメドゥーサの血は最高ね……」

 

「あうっ……ユウマ、助けてくださぃっ……」

 

「躾で妹の血を飲むな!メドゥーサが嫌がってるじゃ無いか!いい加減にしないと令呪で止めさせるぞ!」

 

「もう、マスターのいけず……」

 

「もう少し飲みたかったのに……」

 

遊馬は令呪をちらつかせ、仕方なくステンノとエウリュアレはメドゥーサを解放した。

 

ステンノとエウリュアレはメドゥーサをほったらかしにして部屋を出た。

 

解放されたメドゥーサはかなりげっそりとしており、ふらふらになりながら立ち上がるがすぐにバランスを崩してしまう。

 

「メドゥーサ!?大丈夫か!?」

 

遊馬は慌ててメドゥーサを抱きとめて支える。

 

「は、はい……」

 

「具合悪そうだな……横になるか?」

 

「そ、それよりもお願いが……」

 

「お願い?」

 

「その……ユウマの血を吸わせてもらえますか……?血が足りなくて……」

 

「メドゥーサも血を吸えるのかよ。別に若いから血ぐらいいくらでもあげるけど……なあ、俺吸血鬼になったりしないか?」

 

「そこは大丈夫です。元々私の時代と吸血鬼が誕生した時代は異なりますし、私が噛んでも特に影響はありません……」

 

「じゃあ分かった。いいぜ、吸っても」

 

遊馬はTシャツの襟をひっぱり、首元を見せる。

 

「え……?いや、その……」

 

「ん?どうした?早くしろよ」

 

遊馬は血を吸うなら首元が良いだろうと思ったのだが、メドゥーサはジッと遊馬の首元を見た。

 

健康な肌に柔らかそうな首元……メドゥーサはよだれが垂れそうになって一気に飲み込んだ。

 

「ごくっ……す、すいません……腕で結構です。何かに目覚めそうになりそうなので……」

 

「目覚める?何が?」

 

「メドゥーサ……まさか……」

 

遊馬は何のことかわからず首を傾げ、アストラルはジト目でメドゥーサを睨みつける。

 

遊馬は左腕をメドゥーサに向けると、メドゥーサはゆっくりと左腕に噛み付いて血を吸って飲み込んでいく。

 

「んっ……」

 

多少の痛さは感じられたが耐えられないほどではないので遊馬は静かにメドゥーサが飲み終えるのを待った。

 

そして、メドゥーサが最後に遊馬の腕の傷を舌で舐めたりながら血を飲み込むと先程までぐったりしていた様子が嘘のように元気よく立ち上がった。

 

「んくっ、んくっ……ごくんっ!ぷはぁ!はうっ、美味しい……力も湧いてくる……今なら宝具やスキル連発がいけます!」

 

「それは良かった」

 

「ユウマの血はとても美味しいです。毎日飲みたいぐらいです」

 

「いやー、毎日は流石に勘弁してくれ。たまになら良いけど……」

 

「ふふふっ、冗談です。あ……多分ないとは思いますが姉様達には教えないほうがいいですね。下手をすれば極限まで吸われますから……」

 

「嫌だなそれは……俺、あの二人ちょっと苦手だからな。気が強いところや、姉ちゃんみたいに無理難題押し付けるところとか」

 

「そう言えばユウマの姉君は無茶苦茶なお方らしいですね」

 

「ああ……母ちゃんが行方不明になって母親代わりとして育ててくれたのはありがたいけど……関係ない怒りの矛先を向けられた時の恐ろしさは逃げるしかないからな……」

 

「お互い、姉で苦労してますね……」

 

「そうだな……メドゥーサ、もしも姉関係で辛いことがあったらいつでも言ってくれ。相談に乗るぜ……」

 

「ありがとうございます、ユウマ……」

 

姉で苦労している者同士、遊馬とメドゥーサはこういうところもあって相性がとても良い。

 

「さて、俺たちも早く行こうぜ!明日は多分戦闘があるから英気を養わないとな」

 

「下姉様を守るために全力を尽くします!」

 

「守ろうぜ、メドゥーサの大切な家族を!」

 

「はい!!」

 

エウリュアレを守る決意を新たに固め、遊馬とメドゥーサは宴会会場へ向かう。

 

エウリュアレを守るために遊馬達は明日に向けて英気を養う。

 

そして……エウリュアレを狙う忍び寄る最強最悪の海賊との戦いが始まる。

 

 

 

.




エイリークはまた後で戦うことになるので省略しました。
そして早速メドゥーサさんは姉二人に血を吸われて大変(笑)
同じ姉に苦労している点でさらに遊馬と絆を深めました。
人間を蔑んでいるエウリュアレが遊馬をどう見るのか今後期待してください。
そして……次回はついに奴の登場です。


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ナンバーズ43 衝撃、伝説の大海賊!

ある意味衝撃的なサーヴァントの登場です(笑)
まさかこんな性格のサーヴァントがいるとは誰も予想しなかったですよね。

そして遂に遊馬のアイドルカードが登場です!
実はこの時のために登場を取っておいたんです(笑)


エウリュアレとアステリオスを仲間に加えた遊馬たちは早朝、アステリオスが展開した宝具の結界を解いて無人島を出た。

 

穏やかな風を受けて船を動かしているとアストラルは気配を察知して皇の鍵から現れる。

 

「遊馬、サーヴァントの気配だ。今回は複数だ」

 

「エウリュアレを狙っている野郎のお出ましか。みんな、気をつけてくれ!」

 

ドレイク達海賊も敵船を発見して警戒態勢を取り、先日遭遇した海賊旗と同じ旗を掲げた海賊船だった。

 

「例の旗……そうだ!カルデア管制室!」

 

『やっと繋がったわ。マシュ!そちらの状況は……って、マズイわ!あの海賊旗はかなりのビッグネームよ!』

 

「ビッグネームって誰だよ!」

 

『伝説の海賊……史上最高の知名度を誇る海賊よ!』

 

「史上最高の知名度……まさか!?」

 

『通称、黒髭!エドワード・ティーチ!みんな、気をつけなさい!!』

 

遊馬達は目を凝らして敵船を見つめると、敵船にコートを羽織った見事な黒い髭を生やした男……おそらく黒髭と思われる海賊が立っていた。

 

「あー!アイツ!アイツだ!あたしの船を追い回してた海賊!ここで会ったが百年目だ。水平線の彼方まで吹き飛ばしてやる!」

 

ドレイクは黒髭に対して怒りを込めながら挑発するが……。

 

「はぁ?BBAの声など、一向に聞えませぬが?」

 

「ーーーーは?おまえ、今、何、言った?」

 

あまりにも衝撃的な言葉にドレイクは真っ白になった。

 

「だーかーらー!BBAはお呼びじゃないんですっ?何その無駄乳、ふざけてるの?まあ傷はいいよ?イイよね刀傷。そういう属性はアリ。でもね、ちょっと年齢がね、困るよね。せめて半分くらいなら、拙者許容範囲でござるけどねえ。ドゥルフフフ!」

 

「…………」

 

「姉御?姉御ー。死んでる……(精神的に)」

 

「ドレイク船長ーー!?」

 

ドレイクは黒髭からの容赦ない酷すぎる言葉の数々に灰のように真っ白に燃え尽きてしまった。

 

「ひ、酷え……女の人に対してあそこまで言うなんて……」

 

「あそこまで言うとは……逆に恐ろしい」

 

女性に対して悪口を言わない遊馬とアストラルは黒髭の酷すぎる言葉に戦慄した。

 

「ダメね、凍ってるわ。無理もないわね、私も最初に遭遇した時、こうなったもの……よく生き延びたわね、私」

 

「エウリュアレ……あなた、あんなのに追いかけられていたの……?」

 

「何というか……ご愁傷様です……」

 

流石にあんなのに追いかけらたと知り、ステンノとメドゥーサはこれまでにないほど激しくエウリュアレに同情した。

 

「んっほおおおおおおおおおお!やっぱりいたじゃないですか、エウリュアレちゃん!ってあれ!?なんか二人に増えてる!??まさかの双子!?二人に増えて可愛さ倍増!いや、二乗!!かわいい!kawaii!!ペロペロしたい!されたい!主に脇と鼠蹊部を!!あ、踏まれるのもいいよ!素足で!素足で踏んで、ゴキブリを見るように蔑んでいただきたい!!」

 

エウリュアレと双子といっても過言ではない瓜二つのステンノも黒髭の瞳にロックオンされてしまった。

 

「しまった!?エウリュアレと瓜二つのステンノまでロックオンされた!?」

 

「メドゥーサ、アステリオス!二人を頼むぜ!!」

 

「はい!!」

 

「うん……!」

 

「うぅ……やだこれ……」

 

「流石にあれはキツイですわね……」

 

エウリュアレとステンノは気分が悪くなりながらメドゥーサとアステリオスの後ろに隠れる。

 

「ああん?そこの!デカイの!邪魔でおじゃるよ!?むっ!?いや、隣の眼帯のお嬢さん、いい!眼帯キャラで際どい衣装!エウリュアレちゃんと双子のお嬢さんとセットで是非ともいただきたいでござる!」

 

「……すいません、アステリオス。私も隠れていいですか?」

 

「……いいよ」

 

「ありがとうございます」

 

メドゥーサもまさか自分がロックオンされると思わず、アステリオスの後ろに隠れる。

 

一方、マシュは黒髭のあまりのキャラの濃さに呆然として意識が遠のいていた。

 

「……は!?すいません、意識が遠のいてました」

 

「うん、無理もない……」

 

「流石にあれは予想外すぎる……」

 

「何とも摩訶不思議な男よの……」

 

「あはははは!面白いおじさんだと思うけどねー!」

 

「んんっ!?おおっ、知らない可愛い子達がたくさーん!○!ごーかーく!てれれれってれー!片目メカクレ系の子に、煌びやかな赤い子に、ピンク髪の萌え萌え……良いデスなぁ。可愛いですなぁ。ともかくそこの鯖達、名前を聞かせるでござる!さもないと……今日は拙者、眠る時に君達の夢を見ちゃうゾ♪」

 

黒髭は今度はマシュに目を付けて名前を知るためにもはや脅迫まがいな尋ねかたをし、マシュは慌てて名乗り、ネロとアストルフォも続けて名乗る。

 

「マシュ・キリエライトと言います!デミ・サーヴァントです!」

 

「聞かれたのなら答えてやろう!余こそ、ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスであるーー!!!」

 

「僕はシャルルマーニュ十二勇士の一人、アストルフォだぁ!!!あ、ところでおじさーん!」

 

アストルフォは自己紹介をしながら黒ひげに向かって大声で呼んだ。

 

「んん?何かな、アストルフォきゅん!」

 

黒髭はアストルフォに呼ばれて気分が良くなったが、この直後絶望に叩き落される。

 

「さっき僕のこと可愛い女の子って言ってたけど、僕は男だよー」

 

「はっはっは!何をおっしゃる、君みたいな子が男の訳ないじゃないか!そんな見え透いた嘘を……」

 

「嘘じゃないよ?ほら」

 

アストルフォは自身が男だと証明するためにスカートをチラッとめくった。

 

スカートの中にある男性を象徴するモノ……それを見た瞬間黒髭はこの世の恐怖を全て見たような表情を浮かべた。

 

「ノォオオオオオオオオオオオッ!??◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーー!??」

 

その場で崩れ落ち、アストルフォが女ではなく男という事実に絶望し、バーサーカーのように聞き取れない叫び声を発しながら倒れた。

 

「アストルフォが男という事実は彼にとってかなりの大ダメージのようだな」

 

「このまま行けば勝手に消滅するんじゃね?」

 

すると……。

 

「いや、待てよ……男の子なのに女の子のように可愛い子……はっ!?こ、これが奇跡の男の娘!??うぉおおおおおっ!拙者の新たな扉が開いたでござるよ!!」

 

黒髭は立ち上がり、アストルフォが男でも関係ない、可愛ければ問題なしと面倒な自己解決して復活した。

 

「……ん?」

 

遊馬の足に何かがぶつかる感触がして足元を見るとそこには無人島で水分補給として取ったヤシの実だった。

 

遊馬はそのヤシの実を持つと未だにマシュ達にメロメロな黒髭を睨み付け、ヤシの実を高く投げた。

 

「遊馬?」

 

アストラルが何をするのかと疑問に思うと遊馬は高くジャンプして落ちてきたヤシの実を思いっきり蹴飛ばした。

 

「あ」

 

アストラルの最も短い言葉のすぐ後にヤシの実はものすごいスピードで黒髭に向けて飛んで行った。

 

ビュン!!

 

「ん?何だこの音ーーゴファッ!??」

 

見惚れている間に完全に反応が遅れ、豪速球で飛んできたヤシの実が見事黒髭の顔面に直撃した。

 

ヤシの実は強烈な遊馬のシュートで粉々に砕け、中に入っていた水分が黒髭の顔に思いっきりかかり、そのまま倒れた。

 

「「「……え?」」」

 

「「「えっ……?」」」

 

突然の事態にマシュ達と黒髭の船に乗っていたサーヴァント達、敵味方関係なく呆然としてしまった。

 

「ふぅ、ゴール……まさかカケルとのサッカーデュエルがこんな形で役に立つとはな」

 

カケルとは遊馬がWDCで最初に戦ったデュエリストでサッカーをモチーフにしたデッキを使った。

 

カケルは非凡なサッカーの才能を持つ選手で遊馬とは白熱したサッカーデュエルを繰り広げ、仲間の大切さを感じたのだ。

 

そして、カルデアでのレオニダスによる筋肉増量マッスルボディ計画(仮)により、強力なシュートを放つことができた。

 

「小僧……何をするでござるか!?せっかくマシュマロちゃん達の姿を目に焼き付けていたのに!」

 

「うるせえよ……」

 

「何?」

 

「うるせえよ!最低最悪な形でイメージをぶっ壊しやがって!返せよ、最恐最悪な海賊の黒髭のイメージを返しやがれコンニャロ!!」

 

ブチ切れた遊馬の言葉に敵味方関係なく騒然とする。

 

「おい、黒髭のおっさん!海賊に一度は憧れたことのある全ての少年の夢を返せ!責任取れ!」

 

「えっ?いや、その……」

 

「帰れ!今すぐ帰れ!」

 

「いや、帰れってここは拙者の船……」

 

「英霊の座に帰って出直してこい!!」

 

「いや、あの、その……ごめんなさい」

 

遊馬の全世界の海賊に憧れる少年を代表した熱い怒りの言葉に流石の黒髭も思わず謝ってしまった。

 

「って、何で拙者が謝るのでござるか!?そんなことより、エウリュアレ氏とBBAの聖杯を寄越すでござる!」

 

「寄越せだと……?ふざけるな、俺は絶対に仲間を渡さない!せっかく再会できた三姉妹の絆をてめえなんかに引き裂かせたりはしない!!」

 

ドレイクの聖杯よりも遊馬はエウリュアレを寄越せという言葉に反論した。

 

「エウリュアレはエウリュアレ自身のものだ!エウリュアレはメドゥーサとステンノと一緒に暮らすことを望んでいた。俺はエウリュアレのマスターで仲間だ!だから、エウリュアレの望みを叶えるため、メドゥーサとステンノの大切な家族を守るために戦う!!」

 

アステリオスの後ろから聞いていたエウリュアレは遊馬の言葉に驚いた。

 

確かにエウリュアレはメドゥーサとステンノと一緒に神話の時代で暮らしていた島でまた過ごすことを望んでいた。

 

その島に戻ることは出来ないが、カルデアに召喚されればまた三姉妹で一緒に暮らすことは可能である。

 

しかし、マスターがサーヴァントの願いを叶えて守るために戦うなどあり得ないことだ。

 

「そんなことをしてお前に何の意味がある!?まさか、エウリュアレちゃんをーー」

 

黒髭は遊馬がエウリュアレに気に入られて手に入れようと思うが、遊馬がそんなことをするわけがなかった。

 

「俺は小さい頃に父ちゃんと母ちゃんが消えてずっと寂しい思いをした、辛い思いをした!だからこそ……俺の大切な仲間が家族で仲良く一緒にいることが俺にとって守る価値のある大切なものなんだ!!」

 

「ユウマ……」

 

自分じゃない誰かの為に損得関係無しに力を振るう……エウリュアレの瞳に映る遊馬の印象が少しずつ変わり始めていく。

 

遊馬はデュエルディスクとD・ゲイザーを装着し、カルデアからウィンドボードを転送してもらって乗る。

 

船から飛び出しウィンドボードに乗りながらモンスターを召喚する。

 

「俺は仲間を守るために戦う!俺のターン、ドロー!カードを一枚伏せ、魔法カード『二重召喚』!このターン通常召喚を二回行える!俺は『ガガガシスター』を召喚!」

 

可愛らしい魔法使いの少女、ガガガシスターが現れて遊馬の横に現れて空を飛ぶ。

 

「うひょおおおおっ!ロリ魔法少女キター!!愛でたい!撫で撫でしたい!」

 

『ガッ!?ガガ……』

 

ガガガシスターは黒髭の気持ち悪い視線に怖がり、遊馬の後ろに隠れてしまった。

 

「ガ、ガガガシスターの効果でガガガと名のついた魔法・罠をデッキから手札に加える。俺は魔法カード『ガガガリベンジ』を手札に加える!そして……」

 

遊馬はこのターンもう一度通常召喚するモンスターを見るが、正直黒髭を相手にこのモンスターを召喚して良いものか迷ってしまう。

 

しかし、手札にあるその他のカードを駆使すればこのターンに強力なエクシーズモンスターを呼び出せ、相手を威圧できる。

 

遊馬は意を決してそのモンスターを召喚する。

 

「俺は『ガガガガール』を召喚!!」

 

カラフルでキラキラな召喚エフェクトと共に現れたのは体にピッタリした黒いレオタードのような衣装にフリフリの大きなピンク色のリボンで飾り付け、骸骨のキーホルダーを付けたスライド式の携帯電話を持つギャルのような魔法少女だった。

 

『ふふっ……はっ!』

 

綺麗な金髪と赤い瞳、そしてマシュに負けず劣らずのスタイルに魅了される男たちが大勢だった。

 

「うぉおおおおおおっ!??ピチピチのギャル魔法少女キター!?」

 

『……べぇーっ』

 

黒髭は二人の魔法少女姉妹にメロメロになるがガガガガールは蔑むような目で睨みつけてあっかんべーをする。

 

遊馬は黒髭に対して衝撃的な発言をする。

 

「あー、おっさん。悪いけど……ガガガシスターとガガガガール、この二人には彼氏いるぜ」

 

ガビーン!!!

 

「な、何だってぇっ!!?」

 

「今見せてやるよ。自分フィールドにガガガモンスターがいる時、手札から『ガガガキッド』を特殊召喚出来る!」

 

『ガガッ!』

 

ガガガシスターと背丈が同じの魔法使いの少年が現れる。

 

『キッド君!えへへっ♪』

 

ガガガシスターはガガガキッドが現れると嬉しそうに手を握る。

 

『ふ、ふんっ!』

 

ガガガキッドは恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

魔法使いの少年少女の微笑ましい光景に場の空気が和み、黒髭ですらほっこりとしてしまった。

 

「くうっ、悔しいが何故かほっこりして微笑ましいでござるよ……」

 

「更に俺は魔法カード『おろかな埋葬』!デッキからモンスターを一体墓地に送る。俺はデッキから『ガガガマジシャン』を墓地に送り、更に俺はガガガシスターの効果で手札に加えたガガガリベンジを発動!墓地のガガガマジシャンを特殊召喚してこのカードを装備する!!」

 

墓地から棺桶が現れ、中から蹴り破って不良魔法使いのガガガマジシャンが現れるとガガガガールは嬉しそうに抱きついた。

 

『ガガガ先輩!』

 

『フンッ……』

 

マシュに匹敵するスタイルの良いガガガガールに抱きつかれ、ガガガマジシャンは顔の下半分を布で隠していたが恥ずかしそうにしていた。

 

「チィクショォオオオオオウ!羨ましいほどにイチャイチャしやがって、リア充爆発しろ!!」

 

ガガガマジシャンとガガガガールの先輩後輩コンビに黒髭は血の涙を流して絶叫した。

 

「行くぜ、みんな!」

 

『『『『ガガガッ!』』』』

 

ガガガモンスターが4体立ち並び、遊馬の呼び声に声を揃えて気合を入れた。

 

「まずはガガガシスターの効果!自分フィールド上のガガガモンスター1体を選択して発動!選択したガガガモンスターとガガガシスターは、エンドフェイズ時までそれぞれのレベルを合計したレベルになる。俺はガガガキッドを選択!ガガガシスターとガガガキッドのレベルは共に2!合計レベルは4となる!」

 

ガガガシスターが鍵の杖を掲げるとガガガキッドのレベルと合わさり、2体ともレベル4となる。

 

「レベル4となったガガガシスターとガガガキッドでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

ガガガシスターとガガガキッドが光となって海に入り込み、光の爆発が起きる。

 

「現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!」

 

海の中から希望皇ホープが海水を撒き散らしながら派手に登場する。

 

「これがブラッドアクス・キングさんを退けた希望皇ホープ……くっ、何という神々しいオーラ!」

 

「次はガガガマジシャンの効果、1ターンに1度、1から8までレベルを変更出来る!俺はガガガマジシャンのレベルを5にする!」

 

ガガガマジシャンのバックルの星が五個輝く。

 

ガガガマジシャンとガガガガール、先輩後輩コンビの強い絆が新たなモンスターエクシーズを呼び覚ます。

 

「ガガガガールの効果、自分フィールド上の『ガガガマジシャン』を選択して発動できる!ガガガガールはガガガマジシャンと同じレベルになる!」

 

『ガガガァッ!』

 

ガガガガールの体が淡く輝き、ガガガマジシャンとレベルが同じとなる。

 

「俺はレベル5のガガガマジシャンとガガガガールでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

『先輩っ!』

 

『おうっ!』

 

ガガガマジシャンとガガガガールが光となって天に昇って行き、無数の光の爆発が起きる。

 

「行くぜ、III……ミハエル!現れよ、『No.33 先史遺産(オーパーツ)超兵器(ちょうへいき)マシュ=マック』!!」

 

空に雲が覆われ、中から轟音が響くと空に浮かぶ巨大な城が姿を現した。

 

それは超古代文明の力によって地上から宙に浮いた天空の城であり、IIIのアトランタルと並ぶエースモンスターである。

 

「マシュ=マック……マシュ?」

アストルフォがマシュ=マックの名前に呟くと全員の視線がマシュに向けられる。

 

「わ、私とは関係ありません!」

 

「まあ、名前はたまたまでしょう。ところで、あんな巨大な天空の城がモンスターってどういう事でしょうか……?」

 

かつて巨大な列車であるスペリオル・ドーラを運転したことがあるメドゥーサはどう見てもマシュ=マックがモンスターに見えなかった。

 

デュエルモンスターズのモンスターの定義がますます分からなくなるのだった。

 

「行くぜ、マシュ=マックのオーバーレイ・ユニットとなったガガガガールの効果!ガガガモンスターと共にエクシーズ素材となった時、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択し、選択したモンスターの攻撃力を0にする!ゼロゼロコール!」

 

マシュ=マックの隣にガガガガールの幻影が現れ、スライド式の携帯電話に早打ちでコードを入力する。

 

ガガガガールは携帯電話をエドワードに向け、携帯電話から波動が放たれる。

 

「え?ま、まさか……ぬぉおおおおおおっ!??」

 

ゼロゼロコールの波動は黒髭に直撃し、その場に崩れ落ちて倒れてしまう。

 

「ち、力が……力が出ないでござるよ……」

 

ガガガガールの効果で黒髭の攻撃力がゼロとなり、力が出せなくなっている。

 

「更に、墓地に送られたガガガリベンジの効果で俺のフィールドの全てのモンスターエクシーズの攻撃力を300ポイントアップする!」

 

ガガガリベンジはガガガ限定の蘇生カードであると同時にモンスターエクシーズの攻撃力を強化する優秀な装備魔法であり、希望皇ホープとマシュ=マックの攻撃力が上昇する。

 

「まだまだ行くぜ!マシュ=マックの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃力と、その元々の攻撃力の差分のダメージを相手ライフに与える!黒髭、ガガガガールの効果で攻撃力がゼロになった差分のダメージをお前に与えるぜ!!」

 

マシュ=マックの壁面から無数の大砲が現れ、黒髭に狙いを定める。

 

「ちょっ、おまっ……」

 

「インフィニティ・キャノン!!」

 

「ギャアアアアアアアッ!??」

 

大砲から一斉に砲弾が黒髭に向かって降り注ぎ、黒髭は命からがら回避していく。

 

ちなみに敵サーヴァント達は黒髭を助けずに最初から全力で逃げていた。

 

「おっしゃあ!撃て撃て!今のうちに大砲をありったけ撃ちなっ!」

 

「「「ア、アイアイ姉御!」」」

 

その間に怒りを爆発させたドレイクが大砲の発射を部下の海賊に命じながら敵船を攻撃して行く。

 

「更に、与えたダメージの数値分だけこのマシュ=マックの攻撃力をアップする!」

 

マシュ=マックは城全体が赤い光を纏い、その力を増幅させる。

 

「ガガガガールの効果が変化したことでマシュ=マックの効果を最大限に活用できるこのコンボが誕生した。うまく行けばデュエルで1ターンキルも狙える凄まじいコンボだ」

 

「すげぇぜ、ガガガガール!マシュ=マック!」

 

ガガガガールは本来ガガガマジシャンとレベルを統一する効果は持ってなかったが、遊馬が異世界に来たことで新たな効果が追加され、マシュ=マックとのコンボが完成した。

 

このガガガガールとマシュ=マックを使えばデュエルで1ターンキルも可能である。

 

「おのれぇ……こうなったら、ブラッドアクス・キングさーん!あのBBAの船を止めてエウリュアレちゃんを奪ってくだされ!!」

 

「ウォオォオオオオオウ!!」

 

敵船から現れたのは倒したと思われたエイリークだった。

 

「あん時のバーサーカー!?黒髭のサーヴァントだったのか!?」

 

エイリークが黒髭に従っているということは黒髭がサーヴァントを召喚するための聖杯を所持している可能性が非常に高かった。

 

エイリークは黄金の鹿号に侵入してエウリュアレを強奪しようとしたが、それを阻むように盾を構えたマシュが斧を受け止めた。

 

「くっ!アストルフォさん!」

 

「任せて!」

 

マシュがエイリークの攻撃を防いだ瞬間にアストルフォが黄金の馬上槍を呼び出して構え、足に力を込めて駆ける。

 

「行くよ、『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』」

 

黄金の馬上槍がエイリークの体に掠るように当たった瞬間、エイリークの足が粒子となって消えて大きくバランスを崩して動けなくなった。

 

「ナ、ナンダ!?イッタイ、ナニガ……!?」

 

「残念だけど、君はしばらく立ち上がれないよ!」

 

アストルフォの宝具、トラップ・オブ・アルガリアは槍がサーヴァントの肉体に触れると膝から下が一時的に霊体化して立ち上がれなくなるという強力な宝具である。

 

特にバーサーカーであるエイリークのような驚異的なタフネスを持つ敵には非常に有効な宝具でまともに動くことが出来ない。

 

「アステリオス!今だ!!派手に打ち上げろ!!」

 

「うぉおおおおおおおっ!!!」

 

「グボァッ!?」

 

アステリオスはフルパワーで動けないエイリークのボディに強烈なアッパーを食らわせて空高く打ち上げた。

 

「マスター!決めちゃえ!」

 

「おうっ!マシュ=マックでエイリークに攻撃!ヴリルの火!!」

 

マシュ=マックから天に向かって光線を放ち、発生した巨大な火球がエイリークに直撃し、その体が火に包まれる。

 

「決めろ!希望皇ホープ!ホープ剣・スラッシュ!!」

 

そして、希望皇ホープが今度こそエイリークを倒すために天に登ってから一気に降下し、ホープ剣を振り下ろした。

 

今度こそホープ剣がエイリークを斬りつけ、その体が粒子となって消滅する。

 

「……コロ、ス……コロス……チクショウ……セイハイ……テニイレ……ウガァアアアアア!」

 

エイリークは敗北の屈辱から恨み言を残し、最後の悪あがきで斧を投げ飛ばした。

 

投げ飛ばされた斧はエイリークが狙ったのか、黄金の鹿号の船体の船底に直撃した。

 

「しまった、船が!?」

 

「遊馬、船に穴が空いたら沈没するぞ!ホープに支えてもらうんだ!」

 

「頼む、ホープ!」

 

希望皇ホープはホープ剣をしまい、海に入って黄金の鹿号を底から支える。

 

エイリークは完全に消滅してフェイトナンバーズを残し、アストラルはフェイトナンバーズを回収する。

 

「ドレイク船長!撤退だ!船がこのままじゃまともな戦闘ができない!」

 

「ちっ、仕方ないね……野郎ども、撤退だ!」

 

「フォオオオオオオ!?待つでおじゃる!こちらも撃て撃て!あの船を止めるのじゃ!!」

 

黒髭はエウリュアレと聖杯を手に入れる為に黄金の鹿号を沈没させる為にありったけの砲弾を打ち込む。

 

しかし、それを遊馬とアストラルが立ち塞がる。

 

攻撃を無効にする希望皇ホープは黄金の鹿号を支えていて動けないが、遊馬があらかじめセットしておいた罠が発動する。

 

「遊馬!」

 

「おうっ!罠カードオープン!『聖なるバリア ーミラーフォースー』!!』

 

遊馬が発動したミラーフォース……それはデュエルモンスターズを代表する罠カードといっても過言でない知名度を誇る。

 

その効果は相手の攻撃宣言時に相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

今回の場合だと……。

 

「砲弾を全てお返しするぜ!!」

 

黒髭の船から放たれた無数の砲弾が遊馬の前に現れたキラキラと輝く美しい巨大な壁に衝突した瞬間、鏡に反射された光のようにそのまま跳ね返した。

 

「な、何ですと!?どわぁあああああっ!?」

 

砲弾が船に降り注ぎ、頑丈な装甲を持つ黒髭の船でもかなりの損傷を与えた。

 

「遊馬、我々も撤退だ!」

 

「ああ!じゃあな、おっさん!今回は痛みわけだ、次は必ず俺たちが勝つからな!!」

 

遊馬はウィンドボードで水しぶきをあげながら先行して行く黄金の鹿号の後を追う。

 

「おのれぇっ!主人公体質の憎っくき小僧めぇえええええええっ!!」

 

エウリュアレと聖杯を奪うことができず船を損傷させた遊馬に対して黒髭は怒りの絶叫を上げるのだった。

 

そんな黒髭の船にいる残り三人のサーヴァントは立ち去る遊馬を興味深そうに見つめる。

 

「やるね、あの子……面白い」

 

「ええ、やりますわね。それに……真っ直ぐで優しい心を持ってますね」

 

「本当に面白い力を使うね。おじさん次戦うのが楽しみだね〜」

 

まだ遊馬達が面識してない3人のサーヴァント……黒髭海賊団との戦いはまだ始まったばかりである。

 

 

 

.




ガガガガール可愛いですねー。
デュエルモンスターズではブラマジガールと同じく大好きなアイドルカードです。
漫画版でもとても可愛いし最高です。

黒髭のセリフが難しい……あってるかどうか微妙ですので違和感を感じたら是非とも指摘をお願いします。
アストルフォは黒髭との関わりを面白くするために用意しました(笑)
あんなにも可愛い子が男の子なんて世界は非情だ……。

次回はあのスィートな女神様の登場です。
遊馬とアストラルは真っ白になること確定です(笑)


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ナンバーズ44 サーヴァント界一のカップル?月の女神とクマのぬいぐるみ!?

スイートな女神様の登場です(笑)

いやー、女神様とぬいぐるみの夫婦漫才は面白いので書いてて楽しかったです。



黒髭海賊団との戦闘によって黄金の鹿号は船体にダメージを受けてまともに航海ができなくなってしまった。

 

黒髭の追撃を逃れるためにかなり離れた無人島に希望皇ホープで運んでもらった。

 

幸い島には大量の樹木が自生しており、それを木材に加工して破損した船の修復材に使えることが出来る。

 

しかし、森には魔物が大量に住んでおり、遊馬達は安全を確保するために一掃する。

 

無人島を探索しながら先ほど戦った黒髭について情報を整理していく。

 

カルデアで戦闘中の魔力の波動を計測していた際、黒髭が乗っていた船が一番大きく、黒髭が発動した宝具の可能性が非常に高かった。

 

しかし、計測中に船の魔力値が下がっていたのだ。

 

それは遊馬達のコンビネーションにより敵サーヴァントの一人、エイリークを倒した時だった。

 

そこから考えられる結論は黒髭の宝具、『女王アンの復讐号(クイーン・アンズ・リベンジ)』は部下が強ければ強いほど宝具である船の強さが上がるものかもしれないということだ。

 

つまり、サーヴァントを乗せれば乗せるほど強くなる特殊な効果を持つ宝具であり、黒髭がエウリュアレを狙っていたのはサーヴァントであり女神であるその力を求めていたからである。

 

最も、黒髭本人の趣味がほとんどだと思われるが……。

 

「なるほどね、じゃあ先に黒髭の部下のサーヴァントをぶっ倒すか、あわよくばこっちの仲間に引き込めば行けるってことだよな?」

 

「仲間に引き込むか、君らしいな……むっ?」

 

「どうした、アストラル?」

 

「遊馬……サーヴァントの気配がする」

 

「マジか!?仕方ない、こっちから出向いてやるか!」

 

遊馬は味方か敵かわからないが会わないことには何も始まらないのでサーヴァントの気配がする方向へ向かった。

 

すると途中でこの世界の歪みによって出現したワイバーンが現れ、それを倒していくとマシュは竜種であるワイバーンの鱗を使って黄金の鹿号を強化することを思いついた。

 

鱗の加工は難しいが怪力を持つアステリオスならそれが可能なので彼に任せ、鱗の素材集めをしながらサーヴァントを探しに向かう。

 

生い茂る森の奥へ進むと段々と気配が強くなり、警戒しながら進んでいくと……。

 

「あ〜れ〜!」

 

何かが森の奥から飛んできて遊馬はそれを見事キャッチすると……。

 

「なんだこれ?クマのぬいぐるみか?」

 

それは小さな棍棒を持った服を着たクマのようなぬいぐるみだった。

 

「遊馬!それからサーヴァントの気配がする!すぐに捨てるんだ!」

 

「何!?」

 

アストラルの警告に遊馬はすぐにクマのぬいぐるみを捨ててデュエルディスクを構える。

 

「どわっ!?何するんだテメェ!って、なんで精霊が人間といるんだ!?どんな関係!?」

 

クマのぬいぐるみは低い声で喋り出し、遊馬達はとても驚いた。

 

「ぬいぐるみが喋った!?」

 

「いや、ぬいぐるみじゃないからね?ぬいぐるみっぽいけど、それは認めるけど」

 

「貴様は敵か?味方か?敵なら……」

 

アストラルはぬいぐるみを睨みつける。

 

「フッ、それはこっちの台詞だな……すいません、味方だと思います。危害を加える気は毛頭ありません」

 

「腰低すぎだろお前」

 

あっさり涙目になってひれ伏すぬいぐるみに遊馬はツッコミを入れる。

 

「あーーーーー!!」

 

そこに、森の奥から真っ白な髪をしたメドゥーサよりもかなり際どい衣装を身に纏い、大きな弓を持った美女が現れた。

 

「待て、こいつらは敵じゃない……ぷぎゅる?!」

 

「また浮気したの、ダーリン!?」

 

美女はクマのぬいぐるみを掴んで衝撃的な発言をし、遊馬達は更に驚いた。

 

「ダ、ダーリンって、ぬいぐるみとあの人が結婚してんの!??」

 

「一体どう言う関係なんだ……?」

 

「私と!言うものが!ありながら!もう我慢の限界です!さあ、お仕置きの時間よ!」

 

「え、この状況で真っ先に殴られるの俺なの!?ちょ、待って、待って、誤解、誤解よ!胸とか足とかガン見したのは確かだけど!ごめんなさ……ぷぎゅる!」

 

美女はクマのぬいぐるみにお仕置きと言う名の制裁を加えるために何度も殴り、完全に蚊帳の外の遊馬とマシュは恐る恐る話しかける。

 

「おーい、ちょっとそこのお二人さーん」

 

「あ、あの……」

 

「なに!?男女の問題に口を挟まないで!民事の事案よ、民事の!」

 

「遊馬君、どうしましょう……私、こんなに途方に暮れるの初めてです。あ、いえ。さっきの黒何とかと会った時も途方に暮れました。暮れっぱなしです。今回の時代は、全体的にネジが緩んでいると今気づきました!」

 

「とりあえず……あの人のぬいぐるみへのお仕置きが終わるまで待ってるか」

 

「そうですね、待ちましょう」

 

遊馬達は美女のぬいぐるみへのお仕置きが終わるまでしばし待ち、落ち着いた頃に美女は遊馬が人間であることにようやく気付いた。

 

「ん?あれ、貴方、人間?マスターなの?」

 

「ああ。俺は九十九遊馬、遊馬って呼んでくれ。そして、隣にいる精霊は相棒の……」

 

「アストラルだ」

 

「精霊……?そこにいるサーヴァント達はともかく、どうして精霊が人間の子供と一緒にいるの?」

 

美女はアストラルが遊馬と一緒に行動していることに大きな疑問を持っていた。

 

「私と遊馬は一心同体で共に戦う……言わば運命共同体のような存在だ。遊馬は私にとって一番大切な人だからだ」

 

「一心同体……運命共同体……まあ、素敵ね!人間と精霊……種族は違えど、二人はそれほど強い繋がりで結ばれているのね!」

 

美女はアストラルの答えが自分好みだったのか、満足したように頷いた。

 

「こっちの色ボケは放置しておいて、ユウマか……やっとまともなサーヴァント達と出会えたな。さて、と。今回の召喚は聖杯戦争なんだよな。俺たちは敵か味方か?胸のおっきな娘さんは独身?」

 

「さりげなく質問を混ぜちゃダメ!」

 

「はぁ……俺たちはーー」

 

夫婦漫才をするぬいぐるみと美女に対し、遊馬は頭痛を覚えながら人類と世界の未来を守る戦いをしていることを話し始めた。

 

「……なるほどねえ。おおまかな事情はわかったよ」

 

「ふーん、じゃあこの世界って永遠?えたーなる?」

 

「……仮にこの時代はそうであってもいえ、外枠がなくなれば消滅すると思われます。そうなってしまえば、我々の敗北であり、人類史の終焉です」

 

「……ちぇー」

 

「お前、この世界で永遠に暮らしたいとかそういうことを考えていただろう」

 

「やだ、私の思っていることを言い当てるなんて、相思相愛っぽい……素敵……」

 

「永遠の世界で生きるくらいなら地獄で死んだほうが何ぼかマシだ」

 

遊馬達はこのクマのぬいぐるみと美女の関係が分からなかった。

 

側から見ればぬいぐるみに語りかけているちょっと痛い女性にしか見えなかった。

 

「それで……二人は俺たちに協力してくれるのか?」

 

「ん〜む。ねえ、どうするダーリン?」

 

「どうするも何もなぁ、人類史が滅ぶ時点で協力する以外の選択肢があるか、バカ!」

 

「バカじゃないもん!女神様だもん!」

 

「……え?女神様……??」

 

美女のその発言に遊馬達は耳を疑った。

 

確かに美女の服装やその身から溢れる力の波動で人間から英霊となった存在とは別の言わばメドゥーサ達のような存在だとは思っていたが、まさか女神だとは予想外過ぎた。

 

「ええい、駄女神めが……!ぺちぺちぺちぺちぺちぺちっ!」

 

「あう、DVだっ!DV事案って言うんだよね、これ!」

 

「……夫婦喧嘩なら後にしてくれないか?それで、君たちは何者なんだ?」

 

頭にひどい頭痛を覚えたアストラルはこめかみを抑えながら美女とクマのぬいぐるみに何者か尋ねた。

 

「え?アルテミスだけど?」

 

「…………何、だと!??」

 

「はぁ!?」

 

「アルテミスって言えばオリンポス十二神の一柱で月の女神じゃないか!?」

 

遊馬達はその美女の真名に衝撃を受けて驚愕した。

 

アルテミス。

 

ギリシャ神話で名高いオリンポス十二神の一柱で狩猟や純潔、そして月を司る女神である。

 

「あれ?そのアルテミスがダーリンと呼ぶこのクマはもしかして……」

 

そして、純潔の女神であるアルテミスが愛した男性は神話の中ではたった一人しかいない。

 

「こっちは私の恋人、オリオンよ」

 

「やっぱり……」

 

オリオンは海神ポセイドンの息子で名高い狩人であり、アルテミスと恋に落ちたと言われている。

 

しかし、アルテミスの双子の弟の太陽神アポロンの策略で誤ってアルテミスがオリオンを殺めてしまったと言う悲しい物語がギリシャ神話で語られている。

 

「ダーリンが召喚されるって聞いて、不安になったから私が変わってあげることにしたの!」

 

サーヴァントの召喚には色々な制限などが起きてしまうが、今回の場合は神霊のランクダウンによる代理英霊召喚によってかなり特殊なケースであるが、アルテミスがサーヴァントとしての役割を果たし、本来召喚されるはずのオリオンはクマのぬいぐるみになってしまった。

 

「オリオンです。聖杯戦争に召喚されたら、ヘンな生き物になってしまいました……ヘンな生き物に……ヘンな……」

 

「やべぇ、なんか泣けてくる……」

 

「これは哀れとしか言葉が見つからない……」

 

オリオンは逞しく、背が高い美少年と言われていたが何故かクマのぬいぐるみとなってしまい、遊馬とアストラルは思わず涙を誘ってしまった。

 

「あ、ちなみに俺は限りなく役立たずなので。彼女に超依存しなければ生きていけないので」

 

「うふふ。もっと依存してくれていいのよ、ダーリン」

 

「自立したいなァ……」

 

オリオンは大きな溜息を吐き、アルテミスは人形のオリオンを軽く抱きしめている。

 

そんな二人を見て遊馬は呟いた。

 

「これも……一つの夫婦の形なのかなぁ……?」

 

「遊馬、これはかなり特殊な例だ。そこは気にしないほうがいい」

 

「そうだな……ところで、アストラル」

 

「何だ?」

 

「俺さ……エリファスが真面目な神様でマジで良かったと思う……」

 

アストラル世界の守護神、エリファスはアストラル世界の為にランクアップをひたすら目指していて一言で言えば頑固で真面目な男であった。

 

しかし、未来を信じた遊馬のデュエルによって考えが変わり、遊馬とアストラルを見守る存在となったのだ。

 

「そうか……確かに彼女を見たらな……」

 

純潔の女神なのに愛に忠実なアルテミスにエリファスがアストラル世界の神で本当に良かったと思う遊馬とアストラルだった。

 

「あら……?じぃーっ……」

 

「ん?どうかしたか?」

 

アルテミスは何かに気づくと遊馬をジッと見つめだした。

 

「おいおい何やってるんだよお前。はっ!?ま、まさかこんな小さな子供に欲情したのか!?よっしゃあ、これで心置きなく麗しい女性の皆さんに話しかけられるぜ!!」

 

「そんなわけないでしょう!?私は永遠にダーリン一筋よ!」

 

オリオンのアホな台詞にアルテミスはすぐさま制裁を加える。

 

「ぷぎゅる!?じゃ、じゃあなんで見つめていたんだよ!?」

 

「この子から私とよく似た月の力を感じたからよ!」

 

「はぁ?月の力?おいおい、魔術師でも、ましてや神霊の類でもない普通の人間のガキが月の力を持ってるわけないだろ?」

 

「月の力……?あっ、もしかしてこれのことか?」

 

遊馬はデッキケースを開き、一枚のカードをアルテミスに見せた。

 

遊馬が見せたのは美しくも勇ましい銀河の輝きを秘めた眼を持つ究極の龍、『No.62 銀河眼の光子竜皇』のカードだった。

 

「何よこのドラゴン……こんなドラゴンは見たこと無いわ」

 

「おいおい、カードからとんでもない魔力が込められているじゃないか。まさか、この小さなカードの中にこいつが宿っているのか?どう言うことだよ?」

 

「どう言うことって、こいつは月で生まれたモンスターだからな……何なら間近で見せてやろうか?これからワイバーンを倒さなきゃならないし」

 

「ワイバーンなら近くに竜の巣があるぜ」

 

「よし、じゃあ案内してくれ、オリオン」

 

「おう、とりあえずよろしく頼むぜ、マスター」

 

「よろしくね♪」

 

オリオンとアルテミスは遊馬と契約を結び、二人で一枚のフェイトナンバーズが生まれた。

 

オリオンの案内でこの島で一番ワイバーンが多くいる竜の巣である荒野へ向かった。

 

その時、アストルフォは何かを思い出したように遊馬に駆け寄った。

 

「ねえねえ、マスター!ワイバーンがたくさんいるならあいつを呼ぼうよ!」

 

「あいつ?」

 

「うん!最強の竜殺し、ジークフリート!」

 

「ジークフリートか……確かにあいつならいけるかもな。よし、カルデア管制室!ジークフリートを頼むぜ!」

 

カルデアにすぐに連絡し、数分後にはカードケースから灰色の光が飛び出してジークフリートが現れた。

 

「マスター……我が剣で勝利を捧げよう」

 

「頼むぜ、ジークフリート!」

 

「ジークフリート!君の竜殺しの力、見せてもらうよ!」

 

「アストルフォ……ああ、見ていてくれ」

 

ジークフリートは無邪気に笑うアストルフォに笑みを浮かべると、竜の巣から沢山のワイバーンたちが次々と現れた。

 

ワイバーンの一体が急降下して遊馬に襲いかかり、遊馬は急いでデッキからカードをドローしてその内の一枚をデュエルディスクに置く。

 

「相手モンスターの直接攻撃の時、手札から『護封剣の剣士』を特殊召喚出来る!」

 

敵の攻撃を封じる光の護封剣を操る青い鎧を着た戦士が現れ、ワイバーンの突撃を受け止める。

 

「更に、このカードの守備力がそのモンスターの攻撃力より高い場合、そのモンスターを破壊する!」

 

兜の奥の瞳が輝き、ワイバーンを一瞬で切り倒した。

 

その隙に遊馬はカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!よし、これなら!ジークフリート、頼むぜ!」

 

「承知!」

 

ジークフリートをフェイトナンバーズに入れ、遊馬はすぐさまジークフリートを召喚する手はずを整える。

 

「行くぜ、カイト!ミザエル!これが銀河眼の新たな力!『銀河眼の雲篭(ギャラクシーアイズ・クラウドラゴン)』を召喚!」

 

遊馬が召喚したのは銀河眼の光子竜が幼い姿となった可愛らしい小さなドラゴンだった。

 

「あれはもしかして……銀河眼の光子竜の幼体!?」

 

銀河眼を何度も間近で見てきたマシュはその小さなドラゴンに驚いた。

 

銀河眼の雲篭は銀河眼の名を持つドラゴンを導き、力を与える。

 

「銀河眼の雲篭の効果!このカードをリリースし、このカード以外の手札・墓地からギャラクシーアイズモンスターを特殊召喚する!銀河眼の雲篭をリリースし、手札から特殊召喚!!」

 

銀河眼の雲篭の体が無数の光の粒子となり、空に登ると遊馬の手に宝石が埋め込まれた赤い十字架の剣が現れる。

 

十字架を空に向かって投げ飛ばすと銀河の星々の輝きが集まり、銀河の輝きをその眼と身に宿した美しきドラゴンが姿を現わす。

 

「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!現れろ、『銀河眼の光子竜』!!」

 

『グォアアアアアッ!!』

 

咆哮を轟かせながら現れた銀河眼の光子竜にその姿を初めて見るドレイクとエウリュアレ達は驚きを隠せなかった。

 

「はっはは……まるで宝石のように美しいじゃないか……」

 

「な、何よあれ!?あんなドラゴン見たことないわよ!?」

 

「うっ、すごい……」

 

「マジかよ……あんなのギリシャの英雄達でもそう簡単に勝てないぞ……」

 

「凄い……あのドラゴンから星の力が溢れている……!?」

 

銀河眼の光子竜に特にギリシャ神話のサーヴァント達はこれほど強く、そして美しいドラゴンを見たことないので見惚れると同時に大きな畏れを抱いた。

 

「俺はレベル8のドラゴン族の銀河眼の光子竜とレベル8の戦士族の護封剣の剣士でオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

銀河眼の光子竜と護封剣の剣士が光となって地面に吸い込まれる。

 

「魔竜の力を受け継ぎし英雄よ、黄昏の剣を手に数多の竜を討て!!」

 

ドラゴンと戦士の力が一つに合わさり、最強の竜殺しを呼び出す。

 

「現れよ、『FNo.92 魔竜剣士 ジークフリート』!!」

 

光の中から現れたのはジークフリートが最凶のナンバーズと謳われた黒と紫の龍、『No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon』を模した鎧を纏った姿である。

 

そして、ジークフリートの胸の辺りにある心臓のような模様とこの場にいる全てのドラゴンと光のラインで繋がっている。

 

「ジークフリートの攻撃力・守備力は相手のフィールド・墓地のドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターの数×500ポイントアップする!って、さっき倒したワイバーンを含めると……全部で何体になるんだ?」

 

アストラル全体を見通し、ワイバーンの数を一瞬で数えた。

 

「護封剣の剣士で倒したワイバーンが1体、現在いるワイバーンは29体。合計30体だ」

 

「30体……えっと、ジークフリートの元の攻撃力は2900だから、攻撃力上昇値を加えると……」

 

「2900+500×30……合計攻撃力は17900ポイントだ」

 

アストラルは瞬時に攻撃力の合計を計算し、そのあまりの攻撃力の高さに遊馬は頭が一瞬真っ白になった。

 

通常のデュエルでモンスター1体の効果でここまでの高い攻撃力は出すことはなかなかできない。

 

竜種の敵が多いことがジークフリートの力を高めているのだ。

 

「……おいっ!?なんかとんでもない攻撃力になってないか!?これだと伝説の竜破壊の剣士とガチでやり合えるだろ!?」

 

「そうだな。流石は伝説の竜殺し、ジークフリートだ。遊馬、ジークフリートの効果でワイバーンを一掃するんだ!」

 

「おう!ジークフリートの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、このターンジークフリートは相手フィールド上のドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターの効果を無効にし、そのモンスター全てに攻撃することができる!!」

 

ジークフリートは聖剣と魔剣の二つの属性を持つ黄昏の剣、バルムンクにオーバーレイ・ユニットを取り込み、その刃から光り輝く黄昏の剣気が迸る。

 

「「ジークフリートで全てのワイバーンを攻撃!!」

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。魔竜の力を持って全てを撃ち落とす……『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク・オーバーブレイカー)』!!!」

 

一瞬だけジークフリートの背後にHeart-eartH Dragonの幻影が現れ、バルムンクを全力で振り下ろした。

 

バルムンクから黄昏の輝きが無数の剣撃となり、全てのワイバーンに追尾するように解き放たれた。

 

数秒にも満たない短い時間であっという間にワイバーンを全て撃ち落とした。

 

しかし、その直後にワイバーンの親玉である一回りも二回りも巨大なドラゴンが姿を現した。

 

ドラゴンが炎を吐き、ジークフリートに攻撃するがその身に傷一つ付いていない。

 

「護封剣の剣士をエクシーズ召喚の素材となったモンスターは1ターンに1度、戦闘では破壊されないぜ!俺のターン、ドロー!魔法カード、『死者蘇生』!墓地からモンスターを特殊召喚する!蘇れ、銀河眼の光子竜!更にガガガマジシャンを召喚!」

 

死者蘇生で先程ジークフリートの効果を使用する際に墓地に送ったオーバーレイ・ユニットだった銀河眼の光子竜を蘇生させ、その隣にガガガマジシャンが並び立つ。

 

「ガガガマジシャンの効果!レベルを4から8に変更する!アルテミス!見せてやるぜ、俺たちの世界の月で生まれた最強のドラゴンの姿を!!」

 

遊馬が掲げたそのカードから光が溢れ、月の女神であるアルテミスと同じ月の波動が鼓動を広げる。

 

「レベル8の銀河眼の光子竜とガガガマジシャンでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れろ!銀河究極龍、No.62!!」

 

銀河眼の光子竜とガガガマジシャンが光となって空に登り、光の爆発が起こると空中に『62』の数字が浮かぶ。

 

遊馬の前に十字の剣が現れ、柄を握ると遊馬の体が青色に輝き、見事なバク転から高く飛び上がって剣を投げ飛ばし、地面に突き刺さった剣が周囲に向けて閃光を放つ。

 

異次元に向かった銀河眼の光子竜の体がひび割れて弾け飛び、宇宙に眠る数多のドラゴン達の輝きが一斉に集まる。

 

「宇宙にさまよう光と闇!その狭間に眠りし、哀しきドラゴンたちよ、その力を集わせ、真実の扉を開け!!」

 

そして、新たな装甲と翼を得て銀河眼の光子竜が究極の姿へと進化する。

 

「『銀河眼の光子竜皇』!!!」

 

銀河眼の光子竜が月面にてカイトが未来に希望を託したことで進化し、究極の力を手にした最強の姿である。

 

「おおっ……さっきのドラゴンが更に進化するなんて……」

 

「何よこの魔力……私たちとは比べ物にならないじゃない……」

 

「あっ、あぁ……す、すごい……」

 

「本当に召喚しやがった……あいつ本当に人間かよ……」

 

「嘘ぉ……本当に私と同じ月の力を感じるわ……」

 

銀河眼の光子竜皇の体から溢れる光の粒子、そこからアルテミスと同じ月の魔力が含まれていた。

 

ジークフリートは隣に立つ銀河眼の光子竜皇を見てフッと笑みを浮かべる。

 

「まさかファヴニールを倒した竜皇とこうして並び立つとはな……」

 

フランスの特異点でジャンヌ・オルタ……後のレティシアの憎しみの象徴である邪竜・ファヴニールを倒した銀河眼の光子竜皇。

 

奇しくも同じ強大な力を持つ邪竜を倒した最強の竜殺しと銀河究極龍がこうして同じ戦場に並び立ったのだった。

 

「これで決めるぜ、ジークフリートと銀河眼の光子竜皇で攻撃!」

 

銀河眼の光子竜皇はオーバーレイ・ユニットを一つ喰らい、自身の体から強烈な星の光を放っていく。

 

「銀河眼の光子竜皇の効果!バトルのダメージ計算時、フィールドのモンスターエクシーズのランク×200ポイントアップする!銀河眼の光子竜皇とジークフリートのランクは共に8、合計ランクは16。よって攻撃力の合計は7200となる!!」

 

ジークフリートに劣るが、銀河眼の光子竜皇は高ランクのモンスターエクシーズの存在によって攻撃力はかなり高まる。

 

銀河眼の光子竜皇は口に光を溜め、ジークフリートはバルムンクを構えて黄昏の光を輝かせる。

 

「「エタニティ・フォトン・ストリーム!!!」」

 

「幻想大剣・天魔失墜!!!」

 

銀河の輝きを秘めた竜の咆哮と竜殺しの最強の黄昏の剣気が解き放たれ、二つの光がドラゴンを呑み込み、天から堕ちるように倒れた。

 

「よっしゃあ!勝ったぜ!」

 

「これで終わりだな、遊馬」

 

「見事だ、マスター」

 

遊馬はガッツポーズを掲げ、アストラルは銀河眼の光子竜皇を戻し、ジークフリートはフェイトナンバーズを解除して元の姿に戻る。

 

「凄い凄い!さっすがは、最強の竜殺しのジークフリートだ!」

 

アストルフォは嬉しそうにジークフリートの腕に抱きついてピョンピョンと飛んだ。

 

「よーし、ワイバーンを倒したところで素材を加工しようか!アステリオス、頼んだよ!」

 

「うん、わかった……」

 

ドレイクはアステリオスを連れて倒したワイバーンとドラゴンの素材を取って加工に向かう。

 

マシュ達も手伝いに向かい、残ったエウリュアレとオリオンとアルテミスは遊馬の背中を見つめた。

 

「何なのよ、あの子は……」

 

「あいつ実は神なんじゃねえか?それか俺と同じく神の血を受け継いでいるとか?」

 

「むぅ……でもあの子から神の力は感じられないよ?」

 

ただの子供ではないと思っていたが、神すら驚く強大な力を持つドラゴンを難なく操る遊馬にエウリュアレ達は疑惑を深めるのだった。

 

その後、遊馬達はワイバーンとドラゴンから素材を取り出して持ち帰り、黄金の鹿号の修理と強化の工事を始めるのだった。

 

 

 

.

 




遊馬は一体何者なんだ……?
そんな疑問がエウリュアレたちに広がります。
確かに神すら驚くモンスターを自由自在に操る遊馬を間近で見たら驚きますよね。
銀河眼の光子竜皇なんて月で生まれたとんでもないモンスターですし。

今回のジークフリートのフェイトナンバーズの効果はこちらです。

FNo.92 魔竜剣士 ジークフリート
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/戦士族/攻2900/守2500
ドラゴン族レベル8モンスター+戦士族レベル8モンスター1体ずつ
このカードの攻撃力・守備力は相手のフィールド・墓地のドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターの数×500ポイントアップする。
エクシーズ素材を1つ取り除いて1ターンに1回ずつ発動出来る。
①このターン、相手フィールド上のドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターの効果を無効にし、そのモンスター全てに攻撃することができる。
②このターンのエンドフェイズ時まで、このカード以外の効果を受けず、戦闘で破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。

初のランク8のフェイトナンバーズでジークフリートの能力が元々高いのでそれに比例してこちらもかなり強くしました。
バスター・ブレイダーを超えちゃいましたね(笑)

次回は黒髭との再戦になります。
アンとメアリーをどうするか悩みどころです。
別に操られてもいないし、個人的に好きなキャラなので遊馬先生にここは一つかっとビングでなんとかしてもらいます!


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ナンバーズ45 希望の双身VS比翼連理の女海賊

ちょっと体調が悪い中書いたのでおかしな点があるかもしれないのであったら指摘をお願いします。

今回は私個人的に好きなサーヴァントのアンとメアリーの登場です!


破損した黄金の鹿号を大量の木材で修復し、ワイバーンとドラゴンの鱗で強化工事を行う。

 

アステリオスの怪力で鱗を加工し、原初の火を自ら鍛えた芸術家でもあるネロが現場監督となり、黄金の鹿号をより美しく、より強固にしていく。

 

出港前にすぐに戦うであろう黒髭海賊団との対決に向けて作戦会議を行う。

 

海の上では天候が変わらない限り何も障害はなく、見つかればたちまち黒髭の船の砲弾が放たれてしまう。

 

そこで考えたのは先に黒髭の船に乗り込んで暴れ、黒髭たちを引きつけてその間にドレイク達が黄金の鹿号で乗り込む……という作戦である。

 

「だったら僕の出番だね。僕のヒポグリフで空から一気に近づいて乗り込めるよ!」

 

マシュ達をフェイトナンバーズに入れ、アストルフォが操るヒポグリフで後ろに遊馬が乗り、そのまま空から黒髭の船に奇襲で乗り込む……次は人選である。

 

「敵サーヴァントは気配を感じただけで黒髭を含めて4人……こちらの布陣はマシュ、ネロ、アストルフォ、メドゥーサ、ステンノ、エウリュアレ、アステリオス、オリオンとアルテミス、ジークフリート……シールダー1人、セイバー2人、アーチャー2人、ライダー2人、バーサーカー1人、アサシン1人か……」

 

オリオンはアルテミスが代わりに戦うので実質1人扱いとし、ランサー以外のサーヴァントがそこそこ揃っていた。

 

他のサーヴァントをカルデアから呼ぶことも考えたが、あまり呼びすぎで人数が多くなるとただでさえ狭い船での戦闘になるので今回はこのメンバーで行くことにした。

 

「黒髭の目的であるエウリュアレを守るためにメドゥーサとステンノとアステリオスは船に残るとして、残るは遊馬と共に敵地に乗り込もう」

 

黒髭の船に乗り込むのはマシュ、ネロ、アストルフォ、オリオンとアルテミス、ジークフリートの5人に決まった。

 

「だが敵はサーヴァントだけではない、黒髭の部下の海賊達がいる」

 

「あ、それなら私に任せてくれる?雑魚を倒しながらアーチャークラスの名に恥じない援護射撃をするわ」

 

「俺は……俺は……」

 

「さーて、オリオン、あんたに頼みたいことがあるんだけどさぁ」

 

「ワーオ、何だか嫌な予感でワクワクしてきたぞぅ……」

 

ドレイクは何かを策が思いついたのか笑みを浮かべてグッドサインを向けてオリオンを見つめるが、オリオンは嫌な予感しかしなかった。

 

「あとは俺とアストラルでモンスターを召喚して戦力を更に高めるか」

 

「それで行こう。ドレイクよ、船は頼むぞ」

 

「お、おう!まま、任せてくれ!」

 

ドレイクはまだアストラルに慣れておらずガタガタと震えながら頷いた。

 

「よし!今度こそ黒髭を止めるぜ。カルデア海賊団……出撃だ!!」

 

「黄金の鹿号、出航!!!」

 

黒髭との決着をつけるため……遊馬達は最後の戦いに向かう。

 

 

一方、黒髭達は船の上でのんびりと航海をしていた。

 

黒髭の側には三人のサーヴァントがおり、黒髭のオタクっぷりに飽き飽きしていると……。

 

「ん?あれは何でござるか?鳥……?」

 

空から海鳥か渡り鳥のようなものが飛来してくるのかと目を凝らすが、だんだんその影が大きくなっていく。

 

そして、海賊船の船員達を吹き飛ばしながら大きな影が降り立った。

 

「な、何でござるか!?」

 

「空からダイナミックで邪魔するぜ!!」

 

「こんにちわー、おじさーん!」

 

それは黄金の鹿号からグリフォンに乗って作戦通り先行した遊馬とアストルフォだった。

 

「げぇっ!?主人公体質の小僧!?それにアストルフォきゅん!?」

 

遊馬が来たことに黒髭は嫌悪感を露わにしたが、その直後にアストルフォが見えたので嬉しそうに目がキラキラと輝く。

 

「みんな、行くぜ!」

 

遊馬がデッキケースを開くと中から4枚のフェイトナンバーズが出てきてサーヴァントが姿を現わす。

 

「行きます!」

 

「いざ、参る!」

 

「どうもー、オリオンでーす!」

 

「いきなり真名を言うなこのバカ!」

 

「行くぞ……!!」

 

マシュとネロ、そしてアルテミスの登場に黒髭は感動の涙を流していた。

 

「マシュマロちゃんにネロちゃん!そして天使がいる……」

 

「黒髭、ここでてめぇを倒させてもらうぜ!」

 

「おのれ小僧!しかし、のこのこやってきたのも運の尽き!野郎ども、やっちまえ!そして、我が黒髭海賊団が誇るサーヴァントの皆さん、お願いします!」

 

船から続々と部下の海賊達が出てきて戦闘が始まり、遊馬達の戦力を分散させるために一気に押し寄せる。

 

すると、遊馬の前に二人のサーヴァントが現れる。

 

「お待ちになって、坊や」

 

「僕たちが相手になるよ」

 

遊馬の前に現れたのは長身で抜群なスタイルの美女と顔に大きな傷がある小柄で男装をした麗人だった。

 

美女には海賊のシンボルである髑髏の装飾がついた服を着ており、どうやら海賊のようである。

 

「サーヴァント二人掛かりで遊馬を狙いに来たか……」

 

「正確には私たちは二人で一組のサーヴァントですけどね」

 

「黒髭の命令で君を抑えに来た……君は女性に優しそうだから僕たちに手荒な真似をしないと睨んでね」

 

「ちっ、あのおっさんめんどくさい事を……あっ!?」

 

そして遊馬は『二人組』と『女性』、そして『海賊』のキーワードでサーヴァントの正体がわかってしまった。

 

「もしかして……あんた達は伝説の女海賊、アンとメアリーなのか!?」

 

「あら?わかってしまいましたか?その通り、私はアン・ボニーですわ」

 

「僕はメアリー・リード……よく分かったね」

 

アン・ボニー&メアリー・リード。

 

大海賊時代に存在した二人一組の伝説の女海賊である。

 

「怨みはありませんけど、あの船長に命令されましたからね」

 

「君を止めさせてもらうよ……」

 

「すげぇ……」

 

「「え?」」

 

「すげぇ、すげぇ!!伝説の女海賊、アンとメアリーに会えるなんて最高だぜ!!」

 

遊馬は目を輝かせながらはしゃぎ、アンとメアリーはまさかの反応にたじろいでしまう。

 

黒髭があまりにも残念だったので、逆にアンとメアリーが想像以上にカッコよかったので更に遊馬は興奮した。

 

「え、えっと……あ、ありがとうございます……」

 

「その……うん、ありがとう……」

 

敵とはいえ自分たちに憧れを抱いている純粋無垢な子供の眼差しにアンとメアリーは心苦しくなってしまう。

 

「遊馬君、今行きます!」

 

マシュはシールダーとして遊馬の元に行こうとしたが……。

 

「マシュ、俺は大丈夫だ!この二人は俺が、いや……俺とアストラルでやらせてくれ!」

 

「ふっ、君ならそう言うと思っていたよ」

 

「伝説の女海賊……しかも最高のコンビと言われた二人……燃えないわけがないぜ!!」

 

イメージ通りというかイメージ以上のアンとメアリーに遊馬のやる気が燃え上がってくる。

 

「わ、私たちを憧れていることには感謝しますが、ここは戦場!子供とはいえ容赦はしませんわ!」

 

「僕たちのコンビネーションを見せてあげるよ……!」

 

「最強のコンビネーションなら俺たちだって負けないぜ!行くぜ、アストラル!」

 

「当然だ。一心同体の私たちが負けるわけにはいかない!」

 

遊馬はデュエルディスクを構えるとアストラルもデュエルディスクを左手首に出現させ、遊馬のデッキを投影してセットする。

 

一方、マシュ達は黒髭ともう一人のサーヴァントと対峙していた。

 

そのもう一人のサーヴァントは槍を持つ緑色を基調とした衣装を纏ったランサーと思われる男性のサーヴァントだった。

 

「それで、オジサンは誰の相手をすればいいのかなぁ?」

 

飄々としているがただならぬ雰囲気を漂わせるランサーに対し、ジークフリートとアストルフォが前に出る。

 

「俺が相手をしよう……」

 

「おっと、僕も一緒だよ。黒のセイバーとライダーコンビの復活だね!」

 

アストルフォは馬上槍のトラップ・オブ・アルガリアを構える。

 

「ああ、そうだな……」

 

ジークフリートは何かを思い出したのか一瞬だけ笑みを浮かべるとすぐに真剣な表情となり、バルムンクを構える。

 

「へぇー、なかなか面白い二人じゃないか……オジサン燃えるねぇ!」

 

ランサーは槍を構えてジークフリートとアストルフォに向かって床を蹴る。

 

そして、黒髭はマシュとネロが対応する。

 

「黒髭、私たちが相手をします」

 

「光栄に思うがいい!」

 

「うひょおおおおっ!マシュマロちゃんとネロちゃんがお相手するとは感激ですぞ!もし勝ったら僕ちんの側においてーー」

 

「ごめんなさい、私は遊馬くんのこと……」

 

「残念だが余は既に我がマスターにして夫の遊馬の妻だからな!!」

 

「チクショォオオオオオウ!!またしてもあの小僧か!!おのれハーレム系主人公め!!」

 

マシュは遊馬に好意、そしてネロが遊馬の自称妻の発言に対して黒髭は血の涙を流して絶叫し、遊馬への恨みを募らすのだった。

 

「ハ、ハーレム……?」

 

「ふむ、ハーレムか……しかし、それを考えるのはあとだ。行くぞ、マシュ!」

 

「は、はい!」

 

ネロは原初の火を構え、マシュは盾を構えてネロのフォローに入る。

 

遊馬とアストラルはデッキからカードを5枚ドローし、二人同時にモンスターを展開する。

 

「俺のターン、ドロー!『セイバー・シャーク』を召喚!自分フィールドに水属性モンスターが存在する時、手札から『サイレント・アングラー』を特殊召喚出来る!」

 

「私のターン、ドロー!『ゴゴゴゴーレム』を召喚!自分フィールドにレベル4のモンスターが召喚された時、手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚できる!」

 

遊馬とアストラルは背中合わせでモンスターを一気にフィールドに揃えてエクシーズ召喚の準備を整えた。

 

「俺は水属性レベル4のセイバー・シャークとサイレント・アングラーでオーバーレイ!」

 

「私はレベル4のゴゴゴゴーレムとカゲトカゲでオーバーレイ!」

 

「「エクシーズ召喚!!」」

 

それぞれのモンスターが光となって海の中へと潜り、二つの光の爆発が起きる。

 

「眠りし大地と海の力が紡がれし時、新たな命の光が噴出する!」

 

「我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!」

 

遊馬は海が織りなす大いなる生命の力を秘めた希望の鮫、アストラルは希望を司る皇を呼び出す。

 

「目覚めよ、『No.37 希望織竜スパイダー・シャーク』!!」

 

「光の使者、『No.39 希望皇ホープ』!!」

 

海から現れたのはシャーク・ドレイク・バイスと細部がよく似た蜘蛛の姿を象った巨大な白い鮫と希望皇ホープ。

 

「あの精霊も魔物を出せるの!?」

 

「あの子だけじゃないなんて……ますます油断できないね。アン、一気に決めよう!僕から行く!」

 

メアリーは大航海時代に中南米で使われていた鉈をサーベルを手本にして作られた片手剣のカトラスで遊馬に斬りかかる。

 

キィン!!

 

遊馬はソードホルダーから原初の火を抜いてカトラスを受け止める。

 

「へぇ……面白い形をしているけど、いい剣だね」

 

「とあるローマ皇帝が作った剣だよ!!」

 

遊馬はメアリーを弾き返し、戦場での剣戟が始まる。

 

片や伝説の女海賊で数多の敵を斬り伏せてきたメアリー。

 

そして、カルデアにて二刀流剣術の達人から指導を受け、多くの武術の達人から相手をしてもらって武術の実力が上達している遊馬。

 

その若さ溢れる波の勢いにメアリーが徐々に追い詰められる。

 

このままだとやられると思ったメアリーは一旦下がるとアンとアイコンタクトを交わして二人の宝具を発動させる。

 

「行きますわよ、メアリー!」

 

「行くよ、アン!」

 

「「比翼にして連理(カリビアン・フリーバード)!!」」

 

それは二人が捕縛する寸前まで無数の兵士を相手に戦い抜いた逸話から生まれた宝具である。

 

「遊馬!」

 

「分かってる!希望織竜スパイダー・シャークの効果!相手の攻撃宣言時、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手フィールドのモンスター全ての攻撃力がターン終了時まで1000ポイントダウンする!!」

 

スパイダー・シャークがオーバーレイ・ユニットを喰らうとその純白の体から光の波動を放つ。

 

光の波動を受けたメアリーとアンは全身の力が一気に抜ける様にガクッと倒れそうになる。

 

「くっ!?ぼ、僕たちの力が……!?」

 

「まさか、能力のランクダウン!?」

 

「でも、このまま行くよ!」

 

メアリーは遊馬に突撃し、先ほどよりも速く、そして強烈なカトラスの斬撃が放たれる。

 

軽くて振りが速いカトラスに遊馬は原初の火では対応できなくなり、メアリーはその隙を逃さずに一気に攻め立てる。

 

「もらった!」

 

ガキィン!!

 

「っと!危ねえ危ねえ!」

 

遊馬が左手から出現させたホープ剣でギリギリのところでカトラスを受け止めた。

 

「っ!?二本目の剣!?」

 

「あいにく俺は最強の二刀流剣士の姉上から、指導してもらってるんだよ!」

 

遊馬の剣術の真骨頂であるホープ剣と原初の火の二刀流によって今度は逆にメアリーが攻められる。

 

「さ、捌き切れない……!」

 

スパイダー・シャークの効果による一時的なランクダウンに加え、鉈程度の大きさしかないカトラスでは大剣と剣の二刀流を捌くことができなくなる。

 

「メアリー、下がって!」

 

「……アン!あとはお願い!」

 

メアリーが下がると次にアンが構えたマスケット銃が遊馬を狙う。

 

「それでは狙い撃ちますわよ!シュート!!」

 

アンが持つマスケット銃で遊馬を狙い撃ち、弾丸が放たれる。

 

敵ではあるが、遊馬が子供であることと自分たちに憧れを抱いていると言う点を含めた最大限の情を込めて足を掠るように撃って動けなくするようにした。

 

しかし、遊馬にはアンとメアリーが互いを支えて戦うように強い絆で結ばれた相棒がいる。

 

「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手の攻撃を無効にする!!ムーンバリア!!」

 

遊馬の前に希望皇ホープが空から降り立ち、背中の翼で半月を描くように展開してアンの弾丸を受け止めて消滅させる。

 

「なっ!?」

 

「私がいることを忘れていたようだな。行け、遊馬!」

 

「おうっ!俺のターン、ドロー!希望織竜スパイダー・シャークで攻撃だ!スパイダー・トルネード!!」

 

スパイダー・シャークは海から海水を取り込んで力を貯めると口から竜巻を放つ。

 

竜巻は船内で吹き荒れ、敵の動きを防ぐつもりで命令したのだが……。

 

「うわぁっ!?」

 

運悪く竜巻の一番近くにいたメアリーが空高く吹き飛ばされてしまった。

 

「メアリー!!?」

 

「しまった!?」

 

メアリーは船から投げ出され、そのまま海に向かって真っ逆さまに落ちて行く。

 

アンは手を伸ばそうとしたがあまりにも距離が離れていてどうする事が出来なかった。

 

すると遊馬は反射的にデュエルディスクとD・ゲイザーを投げ捨てて大声で叫んだ。

 

「ジェットローラー!フルドライブ!!」

 

次の瞬間、ジェットローラーから派手なエンジン音が鳴り響いて膨大な熱が発生し、ローラーが今までにないほどの高速回転をして走り出した。

 

ジェットローラー・フルドライブとはエンジンを強制的に最大限まで動かして瞬間的に限界を超えたスピードを出すシステムである。

 

遊馬はジェットローラーで助走をつけて一気に船から飛び出した。

 

「かっとビングだ、俺!!!」

 

「えっ!?」

 

「遊馬!?」

 

アンとアストラルが驚く中、遊馬は一直線に落下するメアリーの元へ飛んだ。

 

遊馬はメアリーの手を掴むとそのまま抱き寄せて自分の背中を海に向けた。

 

「えっ……?」

 

メアリーが呆然とする中、遊馬とメアリーはそのまま海へと落ちてしまい、大きな水柱を上げた。

 

「メアリー!!!」

 

「遊馬!!くっ!?」

 

アストラルはすぐにスパイダー・シャークに二人の救援を向かわせようとしたが、スパイダー・シャークの手はシャーク・ドレイク・バイスの様に鋭い刃の様な爪を持っており、二人が大怪我をする恐れがある。

 

瞬時にアストラルは自身の体から別のナンバーズを取り出してデッキからカードをドローする。

 

「私のターン、ドロー!ゴゴゴジャイアントを召喚!効果で墓地からゴゴゴゴーレムを特殊召喚!レベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

ゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムは光となって海に飛び込み、そのまま海の奥深くへと潜り込んだ。

 

「あなた、何をしたの……!?」

 

「私と君の相棒たちを助けるためだ。浮上せよ!!」

 

ゴォオオオオオオオオオッ!!!

 

突如、海が大きく震えるほどの振動と轟音が鳴り響き、海底から大きな黒い影が浮上していく。

 

「『No.50 ブラック・コーン号』!!」

 

バシャアアアアン!!!

 

そして、海から現れたのは帆に『50』の刻印が描かれ、船体が黒いトウモロコシを縦に半分に割った様な形をした船だった。

 

「う、海から船が!?あっ!?」

 

船の上には海水に濡れて目を閉じて倒れている遊馬とその上に乗って同じく目を閉じているメアリーの姿があった。

 

「メアリー!」

 

「アン・ボニー、ホープの手に乗れ!二人の元に行くぞ!」

 

「っ!は、はい!」

 

アンは手を差し出すホープに乗り、そのままアストラルと共にブラック・コーン号に乗る。

 

アンは急いでメアリーの元に行き、倒れているメアリーを抱き上げて必死に名前を呼ぶ。

 

「メアリー!メアリー!!」

 

「んぅ……あれ?アン……?」

 

「メアリー、良かった!気がついたのね!」

 

メアリーが目を覚まし、アンは安心するとその直後に遊馬が目を冷ます。

 

「……あれ……?船の上……?」

 

「ここはブラック・コーン号の中だ、遊馬」

 

「アストラル……そうか、ブラック・コーン号をエクシーズ召喚して海から助けてくれたのか。サンキュー、アストラル」

 

「全く君は……あまり心配をかけさせないでくれ。こういう時、人は寿命が縮むと言うものだな……」

 

「悪い悪い、本当にごめんな。でも……アストラル、お前寿命あるのか?」

 

「……そういえば無かったな」

 

「おいっ!寿命無いんじゃん!」

 

アストラルは数千年前にアストラル世界で生まれ、ドン・サウザンドとの戦いで遊馬と出会うまでに一度眠りについており、更には高エネルギーの精神体による生命体なので寿命と言うものは存在しない。

 

遊馬とアストラルの話に助けられたメアリーは恐る恐る話に割り込む。

 

「ねぇ、君……」

 

「ん?」

 

「どうして、僕を助けたの……?」

 

「どうしてって、危ないと思ったから助けただけだぜ?」

 

それがどうした?と言わんばかりの表情で首をかしげる遊馬にメアリーは目を見開いた。

 

「敵なのに……?それに、僕が水面に打たない様に庇ってくれて……」

 

「敵とかそんなの考えても無かったぜ。ま、確かに背中はすげぇ痛いけどな。何せ派手に水面に打ち付けちゃったからな。あははははっ!」

 

「君は馬鹿なのか……?」

 

「うむ、遊馬は大馬鹿ものだ」

 

メアリーの発言にアストラルは同意の頷きをする。

 

「アストラル、てめぇ!?お前まで俺を馬鹿と言うのか!?」

 

「敵味方関係なく助けられる命があるならどんな危険なところでも全力で無茶をする君は英霊でも驚く大馬鹿ものだ。遊馬の馬は馬鹿じゃないかと最近思い始めている」

 

「ひ、酷えよ!?俺はただ自分の気持ちに正直に動いているだけなのに!」

 

「だから、君はもう少し考えてから行動したまえ。せっかく勉強も出来てきたというのに……」

 

「そ、それとこれとは話は別だろ!?」

 

まるで仲の良い兄弟のように話す二人にメアリーはなんだか可笑しくなり、口元を必死に抑えた。

 

「ぷっ、ははっ……あはははははっ!」

 

「メ、メアリー?」

 

しかし、抑えきれずに大笑いをしてしまい、無愛想だったメアリーの表情に笑顔が出てきた。

 

「アン、こんなに面白い子供は初めてだよ。とても気に入った。これ以上……この子に武器は向けられない。降伏するよ」

 

「そうですね……私の大切なメアリーを助けてくれた可愛い恩人さんに銃は向けられませんわ。私も降伏します」

 

メアリーはカトラスを床に置くとメアリーも自分も同意してマスケット銃を取り出して床に置く。

 

「本当か?じゃあさ、俺と契約して仲間になってくれるか!?」

 

「私たちが属している組織、カルデアで共に戦ってくれるなら福利厚生と衣食住……いや、サーヴァントなら衣は必要ないな。とにかく、それらが充実している」

 

「ねえ、坊や。一つ約束してくれるかしら?」

 

「僕たちは海賊だ。束縛されるのは嫌いだ……」

 

「海賊は自由な存在だからな。別にそこまで悪いことをしなければ遊ぶなり寝るなり、冒険するなり好きにしてくれていいぜ?ただ、敵と戦う時に仲間として力を貸してくれ。あっ、あと……これは個人的だけど、二人の冒険譚を聞かせてくれ!!」

 

二人の自由を尊重し、尚且つ遊馬のマスターとしての責任と子供らしさが表れた願いにアンとメアリーは納得したように頷いた。

 

「分かりましたわ。新たなマスター、いえ。小さな船長にこの力を託しますわ!」

 

「これからよろしくね……マスター」

 

「おう!それじゃあ、俺と握手してくれ。そうすれば契約出来るぜ!」

 

アンとメアリーは頷き、遊馬の手を握る。

 

すると二人の体が光となって一枚のフェイトナンバーズとなる。

 

「二人で一枚か……二人揃って初めて使えるフェイトナンバーズか」

 

「面白いな。よし、二人とも出てきてくれ」

 

フェイトナンバーズからアンとメアリーが出てきて黒髭との契約が切れて遊馬との間にマスターとサーヴァントの契約のパスが繋がった。

 

「よし!アストラル、ブラック・コーン号を黒髭の船に!」

 

「分かった。行け、ブラック・コーン号!」

 

ブラック・コーン号は静かに発進し、黒髭の船に向かう。

 

一方、マシュとネロが戦っている黒髭は自身の宝具がパワーダウンしたことに気づいた。

 

「はっ!?ま、まさかアンちゃんとメアリーちゃんが!?」

 

黒髭はアンとメアリーが倒され、消滅したことで宝具の力がパワーダウンしたと思ったが、その直後に見たことない船が接近していた。

 

「な、何でござるかあの船は!?」

 

「あの帆の刻印はまさか……ナンバーズ!?」

 

「おーい、みんなー!」

 

遊馬はブラック・コーン号からマシュ達に向けて手を振りながら呼ぶ。

 

その隣にアンとメアリーがいることに驚きを隠せなかった。

 

「な、何で二人がその小僧と!?ま、まさか!?」

 

「ごめんなさい、船長。いいえ、元船長。私たち、この子のサーヴァントになりましたの」

 

「短い間だけ世話になった……それだけは感謝しておくよ」

 

「黒髭のおっさん!アンとメアリーは俺たち、カルデア海賊団が貰ったぜ!!」

 

「まさか本当に敵サーヴァントを仲間にして黒髭の宝具の力を弱めるなんて……」

 

マシュは遊馬の言った通りに敵サーヴァントであるアンとメアリーを仲間にしたことに苦笑を浮かべた。

 

「イヤァアアアアアッ!?そ、そんな、我が黒髭海賊団の可憐なる二つの花があの小僧に奪われた!?」

 

黒髭はアンとメアリーを遊馬に奪われたことに大きなショックを受けるが……。

 

「ハッ!?ま、まさかこれが寝取り……NTRでござるか!??あんな小さな小僧にアンちゃんとメアリーちゃんを……ああっ、拙者のまた新たな扉が開いちゃうでござる!!」

 

黒髭の意味不明な発言に遊馬達は一気にテンションが下がり、気味が悪い以前に大丈夫か?と逆に心配をしてしまう。

 

「……意味が全く分かんねぇけど、あいつ大丈夫か?」

 

「精神科医を勧めて、カウンセリングさせたほうが良いのではないか……?」

 

「彼はその、生前に色々ありましたし……」

 

「そこだけは同情するけどね……」

 

四人は黒髭の発言に頭痛を起こし、こめかみを抑えた。

 

アンとメアリーを遊馬達……カルデア海賊団に引き入れ、形成は一気に逆転した。

 

黒髭が内心焦る中……その隙を密かに狙う者が静かに近づくのだった。

 

 

 




相変わらず遊馬くんのかっとビングは最強無敵ですね(笑)

と言うわけでアンとメアリーを仲間にしちゃいました♪

メアリーは既に遊馬とフラグを立ててます……羨ましいぜ。

そして、次回は黒髭との決着ですが遊馬くんらしい決着をつけさせたいと思います。


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ナンバーズ46 連なる三つの希望

本当はクリスマスイベントとか書きたいですけどストーリーの流れ的に来年になりそうですね。
特にレティシア・サンタ・リリィを登場させたいですね。


黒髭海賊団から二人のサーヴァント、アンとメアリーと契約した遊馬。

 

黒髭は味方のサーヴァントが減ったことで宝具『アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)』のランクがダウンしてしまった。

 

貴重なサーヴァントが二人も失ったことで黒髭にも焦りが見せ始めた直後、更なる追い打ちが黒髭を襲う。

 

「アルテミス!準備できたと伝えろ!」

 

それはいつのまにかアルテミスの側を離れていたオリオンであり、息切れしながらアルテミスの肩に乗る。

 

「ダーリン!わかったわ、船長さーん!」

 

「よっしゃ!操舵手、取舵一杯!角度をつけて、衝角で土手っ腹食い破るよ!」

 

「あいよ、姐御!取舵いっぱああああい!」

 

アルテミスは大声で叫ぶと近くまで来ていた黄金の鹿号に乗っているドレイク船長が部下に命令してアン女王の復讐号に向かって突撃する。

 

「何ですかな、あの小さいの。……あの小さいの……オー、マイ、ガッ!全員、衝撃に備えなさい!爆発するですぞおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

黒髭はオリオンの存在にこれから何が起きるのか直ぐに察知し、大声で叫んだ。

 

次の瞬間。

 

ドカァアアアアアアン!!!

 

アン女王の復讐号の船内が大爆発を起こし、船が大きく揺れた。

 

それは火薬庫が大爆発を起こしたのだった。

 

「上手くいったわね、ダーリン!」

 

「し、死ぬかと思った!火薬庫で!導火線に!火をつけて!全力で!走るとか!」

 

それはドレイクが考えた作戦でオリオンがその小さな体を生かしてこっそりと火薬庫に侵入し、導火線に火をつけて大爆発を起こしてアン女王の復讐号に大ダメージを与えるものだった。

 

「総員。対ショック態勢ー!ドゥフフフ、いっぺん言ってみたかったでござる!」

 

黒髭はこの場から離脱することを考えたがそれは無駄だった。

 

何故なら……。

 

「さあて、掠奪開始だ。乗り込むよ、私の頼れるアホウども!!」

 

黄金の鹿号に乗るドレイク達が突撃したからだ。

 

「俺たちも行くぜ!」

 

「行くぞ、遊馬!」

 

「メアリー、私達も!」

 

「そうだね、アン!」

 

遊馬達もブラック・コーン号をアン女王の復讐号の横に着くとそのままドレイク達に続いて乗り込む。

 

既に黒髭の部下はアルテミスの弓で全て倒され、残るは黒髭とランサーのみ。

 

「黒髭のおっさん、これで終わりだ!」

 

「諦めて投降するんだ!」

 

「まだまだ!この黒髭、例え一人でも負けることはーー」

 

グサッ!!

 

「ゴガッ……!?」

 

「えっ……!?」

 

「何……!?」

 

突然黒髭に起きた信じられない事態に遊馬達は目を疑った。

 

それは黒髭の仲間であるはずのランサーが背後から槍で黒髭を貫いたからである。

 

「おっさん!!」

 

「ティーチ!?クソ、テメエ仲間を……!」

 

「いやあ……やっと隙ができたよな、船長。まったく、油断ブッこいてる振りして、どこだろうと用心深く銃を握りしめているんだからねえ。オジサン、まったく関心したぜ。天才を自称するバカより、バカを演じる天才がそりゃ厄介だわ」

 

ランサーは初めから黒髭を狙うつもりで共に行動していたらしく、黒髭もそんなランサーを警戒していた。

 

「何言ってるんだお前は!!スパイダー・シャーク!!」

 

遊馬は激怒して原初の火を構えて走りながらスパイダー・シャークに攻撃命令を下した。

 

スパイダー・シャークはランサーに向けて竜巻を放つとそれよりも早く黒髭の体に手を突っ込むと臓器ではなく……金色に輝く杯を取り出した。

 

「あれは聖杯!?エドワード・ティーチがこの時代の特異点だったんですか!?」

 

マシュは黒髭が特異点の元凶に驚き、スパイダー・シャークの竜巻がランサーに当たる瞬間に聖杯が輝き、その竜巻を打ち消した。

 

「いやー、やっぱり凄いね聖杯は」

 

「くっ、ぬかった……ヘクトール……」

 

「ヘクトール!?遊馬、その男は危険だ!ギリシャ神話の英雄、トロイヤ軍最強の戦士だ!」

 

ヘクトール。

 

それはトロイヤ戦争において、トロイヤ防衛の総大将を務めた大英雄。

 

「そんなこと知るか!てめえの目的はなんだ!!」

 

遊馬はホープ剣を出して二刀流にしながら全力で走り、乱れ斬りを放つ。

 

しかし、ヘクトールはそれをあっさり避けると品定めするように遊馬を見る。

 

「おっと!いやー、その歳でそれだけの剣が使えるなんて将来有望だな。だけど、オジサンは君を相手にしている暇はないんでね!」

 

ヘクトールは軽やかに飛ぶと黄金の鹿号に侵入した。

 

「狙いはエウリュアレか!アストラル!」

 

「ああ!私のターン、ドロー!」

 

アストラルはデッキからカードをドローし、大英雄である強力なサーヴァントであるヘクトールを止めるための方程式を瞬時に組み立てた。

 

ヘクトールは黄金の鹿号にいたエウリュアレを見つけるとすぐに連れ去ろうとするがメドゥーサとアステリオスとステンノが守るために立ち塞がる。

 

「下姉様には手出しさせません!」

 

「私の妹に近づかないでもらえるかしら?」

 

「エウリュアレ……まもる!」

 

「名高きメドゥーサと女神ステンノ、そしてミノタウルスか……だがなぁ、あんたら如きに遅れを取るほど、オジサン落ちぶれちゃいねえがな!」

 

ヘクトールがメドゥーサとステンノとアステリオスに槍を向けたその時。

 

「「レベル8のガガガマジシャンとガガガキッドでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」」

 

遊馬とアストラルの重なる声が響くと、アストラルが召喚した2体のモンスターが光となってヘクトールを阻むように間に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「な、何だ!?」

 

「「我が記憶に眠る二つの希望!その希望を隔てし闇の大河を貫き、今その力が一つとなる!!」」

 

大気が震え、空中に『38』の数字が浮かび上がると空間に大きなヒビが入る。

 

「「現れよ!『No.38 希望魁竜(きぼうかいりゅう)タイタニック・ギャラクシー』!!」」

 

『グォアアアアアッ!!!』

 

空間を突き破り、咆哮を轟かせながら現れたのは銀河眼の光子竜に似ており、その身に鎧を身に纏った巨大な竜である。

 

「馬鹿な!?幻想種……しかもドラゴンだと!??」

 

さまざまな魔物……モンスターを操ることは知っていたが、まさか数ある幻想種の中でも最上位であるドラゴンを召喚するとはヘクトールも予想外で焦りの表情を見せる。

 

「ちっ、オジサンでもこんなドラゴンの相手をするわけにはいかないな。先に目的のものを手に入れますか!」

 

ヘクトールはエウリュアレを最短で手に入れようと動こうとしたが、その瞬間にタイタニック・ギャラクシーの効果が発動する。

 

「「タイタニック・ギャラクシーの効果!相手モンスターの攻撃宣言時、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃対象をこのカードに移し替えてバトルを行う!!」」

 

「うわっ!?か、体が勝手に!?」

 

ヘクトールの体がエウリュアレからまるで自ら動くようにタイタニック・ギャラクシーに向けて飛んだ。

 

「「迎え撃て、タイタニック・ギャラクシー!破滅のタイタニック・バースト!!」」

 

「ぐああっ!??」

 

タイタニック・ギャラクシーから銀河眼の光子竜と同等の光の竜の咆哮を轟かせ、ヘクトールはとっさに宝具を発動して竜の咆哮の威力を削った。

 

しかしそれでもまだタイタニック・ギャラクシーの方が上でその身に竜の咆哮を受けてしまい、体のあちこちが焼け焦げながら船の上で倒れる。

 

「ちっ……まさか強制的に戦わせるスキルか……」

 

別のものに狙いを定めてもタイタニック・ギャラクシーの前では強制的に引き寄せられてバトルを行わなければならない。

 

遊馬とアストラルはエウリュアレを守るためにヘクトールの前に現れ、その上に希望皇ホープ、希望織竜スパイダー・シャーク、希望魁竜タイタニック・ギャラクシーが集まる。

 

ここに希望の名を持つ『37』、『38』、『39』の連なる数字の三体のナンバーズが揃い、ヘクトールを睨みつける。

 

エウリュアレを狙おうにもこれでは自分の身がもたないと判断したヘクトールは手に入れた聖杯を見ながら撤退の道を決めた。

 

「仕方ない……だが、目的は達した。悪いな、海賊諸君!」

 

ヘクトールは予め用意した脱走手段である小型の船に乗って逃げようとしたが、遊馬とアストラルがそう簡単に逃すことをしない。

 

「逃すか!ジークフリート、アルテミス、頼む!!」

 

遊馬が今いるサーヴァントの中で強力な遠距離攻撃が出来るジークフリートとアルテミスに指示を出すと二人はバルムンクと弓を構えた。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

「さあダーリン、愛を放つわよ!月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)!!」

 

「冷静に考えろ!お前どこ出身!?」

 

ジークフリートのバルムンクから黄昏の剣気が飛び、アルテミスの弓からはオリオンに対する愛の力を込めた矢を放つ。

 

「ホープ!スパイダー・シャーク!タイタニック・ギャラクシー!一斉攻撃だ!!」

 

アストラルは希望皇ホープ、スパイダー・シャーク、タイタニック・ギャラクシーに指示を出して撤退するヘクトールの前に現れて一斉攻撃をする。

 

挟み撃ちの同時攻撃にヘクトールも宝具やスキルでは無理だと判断し、最後の手段を使う。

 

「おいおいおい、流石にこれは厳しいね……こいつを使わせてもらいますか!」

 

ヘクトールは手に入れた聖杯を掲げると攻撃が当たる直前に消え、攻撃対象が無くなり、宝具とナンバーズの攻撃が激突して大きな爆発を起こした。

 

「聖杯の力で逃げ延びたようだな……」

 

「くそっ!逃げられたか……!」

 

「だが彼の目的は何なんだ?黒髭から聖杯を手に入れながら、何故エウリュアレも……」

 

「あっ、そうだ……おっさん!黒髭のおっさん!」

 

遊馬は倒れている黒髭の元へ向かった。

 

黒髭はヘクトールに刺され、更には聖杯を失っていつ消滅してもおかしくない状況だった。

 

遊馬はデッキからカードをドローし、そのカードに小さく頷くと静かにセットした。

 

黒髭はマシュやドレイク達に見守られながら最後の時を迎えていた。

 

「さあて、そろそろさよならのお時間ですな!BBA、そして小僧!これで勝ったと思うなよでござるよ!?」

 

「ああ、はいはい。もう何言われても負け犬の遠吠えだから」

 

黒髭は消滅しかけているといるのに非常に元気でドレイクに対して敵味方関係ない話を楽しんでいた。

 

なんだかんだで世界一周を成し遂げたドレイクのことをリスペクトしていたのだ。

 

そして、ドレイクと話をして満足した黒髭は高らかに叫んだ。

 

「黒髭が誰より尊敬した女が!誰より焦がれた海賊が!黒髭の死を看取ってくれる上に、この首をそのまま残してくれるなんてな!それじゃあ、さらばだ人類!さらばだ海賊!黒髭は死ぬぞ!くっ、はははははははははははははは!!」

 

黒髭が目を閉じて静かに消滅しようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「罠カード発動。『ギフトカード』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒髭の前にハネクリボーと呼ばれる可愛らしいモンスターが描かれたカードが現れ、光の粒子を振りまくと消滅しかけた黒髭に膨大な魔力を与えた消滅を止めた。

 

「な、何故……?」

 

黒髭は自らの消滅を受け入れていたが、その消滅を止めた人物に視線を向ける。

 

「何故、拙者を……助けた……小僧」

 

黒髭はずっと敵視していた遊馬を見つめる。

 

黒髭を救ったカード、ギフトカードとは相手ライフを3000ポイントも回復させる罠カードであり、ライフダメージを与えるデッキで他のカードと組み合わせる時に使われるが、それ以外のデッキでは殆ど使用されないカードである。

 

遊馬はダメージを受けた契約していないサーヴァントを回復する為にデッキに入れていたのだ。

 

遊馬は黒髭を見下ろしながら静かに口を開いた。

 

「黒髭……あんたの命、俺が預かる」

 

「な、何だと……!??」

 

その発言に遊馬だけでなく周りにいたマシュ達も驚いた。

 

「おっさん、あんたこのままでいいのかよ?伝説の大海賊が聖杯というでっかいお宝を奪われてこのまま消えるなんて無様としか言えないぜ?」

 

「ふっ……拙者は負け犬。負け犬は消えるだけでござるよ……」

 

黒髭は大人しく消滅することを望んでいたが、遊馬は首を左右に振ってそれを否定した。

 

「負けたからって終わりじゃない。俺は昔、デュエルで勝てなくて負けまくった。特にエースモンスターもいなくて、デッキもまだまだだったのもあるけど、酷い時なんて勝てなくて50連敗もした事がある……」

 

今ではデュエルチャンピオンであり世界最高峰のデュエリストであるが、アストラルと出会う前は全く勝つことができなかった。

 

しかし、遊馬はそれを諦めなかった。

 

それは父・一馬との幼き日の大切な約束があったからこそ諦めずに挑戦し続けたのだ。

 

「でもその度に俺は何度も立ち上がって来た!人は何度でも立ち上がることができる!昨日より今日、今日より明日……立ち上がる度に強くなれるんだ!!」

 

遊馬は沢山の敗北を知っている、死の直前となる敗北しかけた事も何度もあった。

 

だが、敗北を知る度に立ち上がり、強くなることが出来た。

 

そして……厳しい戦いをくぐり抜け、ここまでやってくることが出来、これから先も歩き続けることができる。

 

遊馬は黒髭の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

「黒髭……最恐最悪と恐れられた大海賊、その伝説を壊すなよ……悪いけど、これはガキである俺のわがままだ。黒髭と呼ばれたなら、恐くてカッコいいとこを見せろよ!!海賊を夢見た、全ての少年の夢をもう一度見せろよ!!」

 

遊馬は黒髭が消滅する寸前に見せた海賊としての一面。

 

海賊を夢見た全ての少年を代表して遊馬はもっと黒髭のかっこいい姿を見てみたいと思った。

 

「小僧……」

 

「黒髭、エドワード・ティーチ。あんたは俺のサーヴァントになってもらう!そして、もう一度立ち上がって戦え!あんたから聖杯を奪ったヘクトールのおっさんと、その背後にいる黒幕に一泡ふかせようぜ!!」

 

遊馬は黒髭を離すと笑みを浮かべてグッドサインを見せる。

 

「かっとビングだ、黒髭!!!」

 

黒髭にはかっとビングの意味が分からなかったが、それが前に進む言葉だと感じ取った。

 

黒髭は今まで見たことないタイプであるこの少年に付いてこれから何をするのか、何をやって見せるのか、それを間近で見てみたいと興味が湧いてきた。

 

「ガハハハハッ!いやはや、ここまで来るとおかしくて仕方ないでござるな。まさか、拙者まで誑して仲間に引き入れようとするとは……確かに、海賊が宝を奪われたままじゃ格好がつきませぬな……良かろう!!」

 

黒髭は立ち上がると遊馬を見下ろしながらニヤッと笑みを浮かべる。

 

「小僧、いや……拙者の新たなマスターよ!共にヘクトール氏とその背後にいる無礼な奴らから聖杯を奪おうではないか!!」

 

「ああ!あんたの活躍を期待しているぜ。黒髭のおっさん!!」

 

遊馬と黒髭は固い握手を交わすと契約が始まり、黒髭が光の粒子となって新たなフェイトナンバーズが誕生する。

 

フェイトナンバーズから黒髭が出て来ると元のオタクのような雰囲気に戻ると早速エウリュアレに視線を向けた。

 

「では、マスターの仲間になったところで……改めてよろしくお願いするでござるよ、エウリュアレちゃぁあああん!!」

 

「イヤァアアアアアッ!?」

 

「ーー令呪によって命ずる。黒髭、お前は俺の許可なしに女の子に近づくことを絶対に禁ずる」

 

黒髭がエウリュアレに近づこうとした瞬間、遊馬は分かりきったように令呪を使って黒髭に対して絶対命令を下した。

 

「グボアッ!?マ、マスター!??」

 

黒髭はエウリュアレに近づこうとした瞬間に石化したように固まり、一歩も近づくことができなくなった。

 

「黒髭、伝説の海賊らしく誇り高く戦えよな?それに、エウリュアレや女の子みんなに迷惑かけるな。もしそれを破ったら更なる令呪を掛けるからな……」

 

遊馬は有無を言わさない不敵な笑みを浮かべて黒髭に宣告する。

 

「ま、待つでござる!令呪は三画しか無いのにそんなことに……」

 

「大丈夫大丈夫。俺の令呪は特別で一日毎に一画回復するから」

 

「な、何ですとぉおおおおおおっ!??」

 

カルデアのシステムにより遊馬の令呪は1日毎に回復する。

 

これで黒髭が女の子に対してのセクハラなどの暴走する危険が無くなった。

 

「エウリュアレ、これで黒髭のセクハラは来ないから大丈夫だぞ」

 

「ありがとう、マスター。感謝するわ」

 

「おのれぇ!マスターの鬼!悪魔!外道!正に鬼畜の所業!」

 

「……黒髭、重ねて令ーー」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!拙者が悪かったからこれ以上はやめてください!!」

 

遊馬の目を閉じて令呪が刻まれた右手の甲を見せた瞬間、黒髭は土下座をしてあっさりとひれ伏すのだった。

 

これ以上何かしたら令呪によって黒髭は更なる圧力が掛かるのは間違いなく、しばらくはマスターの遊馬の言うことを聞くしか無い。

 

もっとも遊馬は聖杯戦争の数あるマスターの中でもまだサーヴァントを道具と見ずに仲間として友好関係を深められる貴重な存在なのが唯一の救いであるが。

 

「さて……準備を整えて、聖杯を奪ったヘクトールを追いかけようぜ!」

 

「ぶっ、あはははははっ!!全く、ユウマ。あんたって子は本当に私たちの予想もつかないことを平気でやるね……いいぜ、こうなったらとことん付き合おうじゃないか!!」

 

ドレイクも遊馬の行動に大笑いをしながら黒髭と同じく遊馬がこれからどんなことをやり遂げるのが見て見たくなった。

 

そして、黒髭を傘下に入れたカルデア海賊団は黄金の鹿号とアン女王の復讐号の二つの船でヘクトールの元まで向かうのだった。

 

 

黄金の鹿号とアン女王の復讐号から遠く離れた海の上に浮かぶ船にて……。

 

「くっ!はぁ、はぁ……ただいま戻ったぜ……」

 

ヘクトールは聖杯の力で空間を転移し、とある船に帰還した。

 

「おお、帰ってきたか!どうした?ずいぶん汗をかいているじゃないか?」

 

そこに金髪の美男子が嬉しそうに迎えた。

 

「いやもう、オジサン、久々に死を覚悟しちゃったよ。アキレウスと対峙した時と同じぐらいやばかったよ……」

 

「まさか、向こうにアキレウスと同等の力を持つサーヴァントが?」

 

「いいや、サーヴァントじゃない。向こうのサーヴァントも中々たったが、一番ヤバいのはそのマスターだ。見たことない魔術の札で見たことない魔物を何体も召喚して、しかも幻想種のドラゴンも呼んできた……」

 

「馬鹿な、そんな無茶苦茶な魔術は聞いたことないぞ。君はどう思う?『メディア』」

 

金髪の美少年に呼ばれて出てきたのは奇しくもカルデアにいる一人のサーヴァントと同じ名前で面影が残っている可憐な美少女だった。

 

「そうですね……先ほど遠い場所から強い魔力の波動を感じましたので、恐らくその召喚獣によるものでしょう。そして、今の話から察するに、私の知らない……しかも強力な魔術の一種のようです。どうやら、あちらのマスターは相当強力な魔術師のようですね」

 

「そうか……しかし、こちらには『最強の大英雄』がいる!例えどんなサーヴァントでも、正体不明の召喚術を使うマスターでも、勝つことはできない!!」

 

「ええ。その通りですわ、マスター……『イアソン様』」

 

メディアはその男……イアソンに優しい笑みを浮かべるのだった。

 

そして……時空を超えたギリシャ神話の一つの因縁の対決が始まろうとしている。

 

 

 

.




ホープ、スパイダー・シャーク、タイタニック・ギャラクシーが揃いました!
この三体が揃うと圧巻ですね。
黒髭は活躍させたいと思ったので助けちゃいました。
そこは遊馬くんのかっとビングで仲間に引き入れました。
かっとビング最強説(笑)

次回は今年最後の投稿になります。
遂にあのゲス野郎の登場ですね。
もちろんカルデアからあの魔女さんが飛んできますので。
それから遊馬くんが久々にブチ切れますね。
まあ仕方ないっすね。


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ナンバーズ47 憎悪と愛の再会

今年最後の更新となります。
いやー、一年は本当に早いですね。
来年も更新を頑張りますのでゼアルオーダー、よろしくお願いします!


黒髭から聖杯を奪ったヘクトールをカルデア海賊団が後を追う。

 

カルデアとアストラルでサーヴァントの気配を察知し、その方角に向けてひたすら船を走らせる。

 

そして、遂にヘクトールが乗っていると思われる船を発見したが……。

 

「なんだよあの舟は!?」

 

「この時代の船よりもかなり昔の船……なんだあの船は!?」

 

それは巨大な船でこの時代の船とは構造や特徴がかなり異なる異質な船だった。

 

そして、その船の正体を知っている者がいた。

 

「ふぅん。あれって、もしかしてアルゴー号?」

 

ギリシャ神話の月の女神、アルテミスだった。

 

「アルゴー号……?まさか……!」

 

「アルゴー船の事か!?」

 

「オリオン、本当なのか!?」

 

「はい、ご名答だコン畜生!ありゃ、正真正銘『アルゴノーツ』だ!金羊の毛皮を求めて旅立った、冒険者たちの船。人類最古の海賊団と言っても過言じゃねえ」

 

「あれが、アルゴー船……」

 

遊馬は人類最古の海賊団……金羊の毛皮を求めて旅立った冒険者たち・アルゴノーツを乗せた船、アルゴー船に冒険者の息子として一瞬だけ心が震えた。

 

しかし、アルゴノーツのリーダーはカルデアにいる一人のサーヴァントを裏切り、不幸のどん底に叩き落とした人物であるため、感動の心が一気に静まってしまった。

 

それは船頭にヘクトールと共に現れた一人の金髪の男……アルゴノーツのリーダーにして船長、イアソンである。

 

「やあ、君たちがヘクトールを追い詰めた海賊団かな?ほぅ、話に聞いていたが精霊と共にいる少年……君がマスターかね?」

 

「あんたがイアソンか……」

 

「そうさ!そして、紹介しよう!私の愛しき妻……メディアを!」

 

「えっ!?」

 

「今、メディアって……」

 

遊馬とマシュが驚く中、イアソンの隣に杖を持った遊馬と同い年ぐらいと思われる可憐な紫髪の少女が現れた。

 

「はい。お呼びですか、マスター?」

 

「っ!?あの子は……!?」

 

遊馬はその紫髪の少女見て驚いた。

 

その少女はこの特異点に訪れる前の日に夢で見た強大な闇と戦い、消滅させられた少女そのものだった。

 

「馬鹿な……あれがメディア……いや、私達の仲間のメディアの幼き姿だというのが!?」

 

アストラルはあの少女がカルデアにいるメディアの昔の姿だと推測するが、そもそも成長している存在がカルデアに既に召喚されながら幼き姿の存在が別の存在として召喚されることがあり得るのかと考え込んでしまう。

 

「一体何がどうなってるんだよ……」

 

イアソンが裏切ったメディアが側にいることやそのメディアがイアソンの側を嫌とも思わずに側にいる事、そしてあの夢で見た謎の光景……訳がわからないことが重なり、遊馬は頭の中がパンクしそうになった。

 

その時、カルデアから小鳥の緊急通信が入った。

 

『大変よ!遊馬!今、メディアさんがそっちに向かってるわ!』

 

「ええっ!?うわっ!!?」

 

デッキケースが開き、中から紫色の光が飛び出して現れたのは……。

 

「イアソン……イアソン!!!」

 

それは憎しみや怒り、様々な負の感情に顔を歪めたメディアだった。

 

生前からの憎い相手が現れたと聞いて皆の制止を振り切って無理やりカルデアから転送して現れたのだ。

 

メディアの登場にイアソンは驚愕し、目を見開いて若干体が震えていた。

 

「ば、馬鹿な!?ここに幼きメディアがいるのに、何故君が!??」

 

「この恨み、晴らさでおくべきか!!死に去らせ!!!」

 

メディアは杖を掲げると周囲に数多の魔法陣が現れ、魔力砲撃を放つ。

 

「うわぁああああっ!?」

 

「イアソン様!」

 

迫り来る魔力砲撃にイアソンはだらしない声を上げるが、そこに幼きメディア……メディア・リリィが前に出て魔力障壁を展開して魔力砲撃を受け止めた。

 

「っ!?あなたは昔の私!?どうしてよ……どうしてその男を守るのよ!!」

 

「私はイアソン様を愛しているからですわ!」

 

「ふざけないでよ……その男は……私に何をしたと思っているのよ!!」

 

「はっはっは!な、なんて醜い姿だ!まさしく君は『裏切りの魔女』に相応しい!!」

 

イアソンのその一言にメディアは正気を失い、復讐者と成り果てながら再び杖を構えて魔力砲撃を発動する。

 

「黙れ……黙れ黙れ黙えっ!!イアソン、貴様だけは……貴様だけはこの手でーー」

 

「メディア!!」

 

遊馬はメディアの前に出て肩を掴んだ。

 

そして……。

 

パシッ!

 

暴走するメディアの頬を軽く叩いた。

 

突然の事にメディアは呆然とし、魔術の発動を止めて魔力が空中に霧散した。

 

「マス、ター……?」

 

「メディア、憎しみに囚われるな。憎しみで力を振るったら自分も、自分の大切なものを失うことになる」

 

遊馬は憎しみに囚われたメディアを止めるために頬を叩いたのだ。

 

「でも、あいつは……あいつは!!」

 

「メディアの気持ちは俺にだってわかるよ。いや、下手したら俺が味わった苦しみよりも辛かったのかもしれない……」

 

遊馬は親友だと思っていた男は実は敵で裏切られて心に大きな傷を負った事がある。

 

信頼していた相手に裏切られた……それは遊馬とメディアも同じ思いをした。

 

「でも、仮に憎しみの心であいつを倒したらメディアと『あの人』との大切な思い出が壊れちゃうかもしれない……」

 

「あの、人……?」

 

「あんたを愛し、全てを捧げてくれた葛木先生だ。葛木先生がいたからこそ、あんたは夫婦の本当の愛情を知ることができたんだろ?」

 

「宗一郎、様……」

 

メディアはかつてのマスターであり、自分の為に戦い愛してくれた夫……葛木宗一郎を思い出し、涙が溢れた。

 

メディアはその場で崩れ落ち、両手で涙を抑えるために目を覆った。

 

「おい、イアソン……てめぇは何がしたいんだよ?」

 

遊馬はメディアにこれほどの憎しみを与えたイアソンを睨みつけた。

 

「ハッ、君のような頭の悪そうなガキに私の考えが分かるわけがない!」

 

「……遊馬、イアソンは自分の国を作り、王になりたいのではないか?」

 

アストラルはギリシャ神話のイアソンの物語から目的を推測した。

 

「王に?」

 

「イアソンはギリシャ神話で王座を追われ、最終的には国を追われた……だからこそ自分の国を作り、王になろうと思っているのではないか?」

 

「おおっ!まさか私の考えをこうも簡単に見抜くとは、君はとても頭脳明晰で聡明だね!うむ、気に入った!そこの精霊君、私の部下にならないか?」

 

イアソンはアストラルから感じ取れる神聖さやその頭の良さから部下にならないかとスカウトした。

 

「断る」

 

アストラルは考える間もなく即答で断った。

 

「はははっ、そう言わずに。僕の国が完成し、王になった暁にはメディアと一緒に側においてあげよう!!」

 

「……イアソンよ、この際だからはっきり言おう。『貴様如き』がこの私と釣り合うと思っているのか?」

 

他人を見下しているイアソンに今度はアストラルがイアソンを睨みつけながら見下す発言をする。

 

「なっ!?貴様、如きだと!??私はイアソン、ギリシャ神話の英雄でアルゴー船の船長だぞ!?」

 

「私は遥かなるランクアップの高みを目指すアストラル世界の使者。その私が貴様如きの隣に置くだと?身の程知らずもほどほどにしておけ」

 

「ふ、ふざけるな!では何故君がそのガキの隣にいる!?そのガキがこの私より優れていると言うのか!??」

 

「遊馬は私にとってこの命よりも大切な掛け替えのない存在だ。そして、私と隣に立つに相応しい無限の可能性を持つ最高にして唯一無二の存在だ!!」

 

「へへっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか、アストラル。照れるぜ」

 

アストラルの遊馬への熱い想いに一同は驚いており、言われた遊馬本人は少し照れながらアストラルに笑顔を見せた。

 

そして、静かに目を閉じてからゆっくり開くと真剣な表情になりながらイアソンに宣言する。

 

「イアソン、俺からも一言言わせてもらうぜ。王になりたいみたいだけど……あんたが王になっても誰も幸せにならない」

 

「な、なんだと!?貴様も私を否定するのか!?」

 

「……あんたの為に沢山の罪を重ねて背負ってきたメディアを平気で裏切り、見捨て、不幸せにした。何でだよ?何でお前はそう簡単にメディアを裏切ったんだよ……」

 

「ふ、ふん!貴様には分からないだろう!メディアの内に潜む本当の恐ろしさを!!」

 

「恐ろしさ?メディアにどんな恐ろしさがあるか知らねえけどな、そんなの怒ったうちの姉ちゃんや世界を滅ぼそうとした邪神に比べたらなんて事ねえよ。俺の知っているメディアはちょっと意地悪なところがあるけど、本当は優しいお姉さんみたいな人だ。つうか、お前の言うその恐ろしさはお前がメディアを裏切ったり酷い事をしたせいじゃないのか!?」

 

「ぐっ!??」

 

遊馬の指摘は的中しており、イアソンは心臓が大きく跳ねて跳ねてたじろいでしまう。

 

「どうやら図星のようだな」

 

「イアソン、てめぇは少なくとも、自分を献身的に支えてくれたたった一人の女性を裏切り、不幸のどん底に落とした。そんなことをするような奴が国民を幸せに出来るはずがない!!」

 

「あ、あの時のことは反省している!今度は間違いなくここにいる妻のメディアを幸せにするさ!!そして、私の国に住む国民を幸せする!!」

 

「……無理ね」

 

「何!?」

 

メディアは涙を拭い、フードを脱いでイアソンを真っ直ぐ見つけて指差す。

 

「イアソン……あなたは平和を願う心が本物でも、魂が絶望的にねじれているので決して理想の王にはなれないわ」

 

「メディア……君まで私を否定するのか!?」

 

「あれだけ私を裏切っておきながらよく言えるわね。と言うかもう私の名を呼ばないでもらえる?私はあなたの元妻、メディアじゃない……我が最愛の夫、葛木宗一郎様の妻、『葛木メディア』よ!!そして、ここにいるマスターの為に、世界の未来を守る為にあなたを倒す!!」

 

メディアは遊馬のお陰で復讐心を鎮め、カルデアのサーヴァントの一人として復讐ではなく、人類の未来を守る為にイアソンを倒す決意を固めた。

 

「その意気だぜ、メディア!かっとビングだ!」

 

遊馬とメディアの絆が深まり、気持ちが高まったその時、デッキケースにしまったメディアのフェイトナンバーズが紫色の輝きを放ちながら宙に浮いた。

 

「これは……?」

 

遊馬がフェイトナンバーズを持った瞬間、もう一枚のカードが現れた。

 

それは灰色の枠のカードでそこには1人の男性の姿が描かれていた。

 

「もしかして……」

 

遊馬はある一つの可能性を思い浮かべながらその灰色の枠のカードをデュエルディスクに置いた。

 

次の瞬間、メディアの前に紫色の魔法陣が現れ、中から一人の人間が現れた。

 

それは渋い雰囲気を漂わせる眼鏡をかけたスーツ姿の男性だった。

 

「ここは……何だ……キャスター……?」

 

男性は呆然としながら周りを見渡し、メディアが目に映ると驚いたように目を大きく見開いた。

 

そして、メディアは再び瞳に涙を浮かべながら口を手で抑えた。

 

「そ……宗一郎様……!?」

 

その男はメディアの元マスターにして最愛の夫、葛木宗一郎だった。

 

「嘘っ!?宗一郎って……本当に!?」

 

「馬鹿な!?彼はメディアの元マスターなのか!?」

 

遊馬とアストラルはサーヴァントでもない、メディア曰く体術が得意な高校の先生である葛木宗一郎が召喚されたことに驚いた。

 

先程遊馬がデュエルディスクに置いたカード、それはカードの効果によって特殊召喚される特別なモンスター、『トークンモンスター』のカードであり、どうやらメディアのフェイトナンバーズの効果を見る限りその効果で呼び出されるトークンらしい。

 

「キャスター……お前、なのか……?」

 

「宗、一、郎……様……」

 

メディアは怒りや憎しみではなく心の底から湧き上がる喜びの涙を流しながら宗一郎に抱きついた。

 

宗一郎はメディアを抱きしめながら頭を優しく撫でた。

 

「キャスターよ、死んだはずの私がどうしてここに……?」

 

「宗一郎様……今の現状など話したいことは山ほどありますが、今はそれどころではありません。私たちが戦わなければならない敵があそこにいます!」

 

「あの男か……むっ?隣にいる娘……お前によく似ているな」

 

「そ、それについては戦いながら話します。一番の敵はあの金髪の男ですわ」

 

「……お前の知り合いか?キャスター」

 

何となくメディアの知り合いなのではと察した宗一郎にメディアは口ごもってしまう。

 

「えっと、その……」

 

「あいつはイアソン。メディアの元夫で散々メディアに酷いことをして裏切った最低の男だ」

 

メディアが言いにくい事を遊馬が代わりに言った。

 

「君は……?」

 

「俺は九十九遊馬。メディアのマスターだ」

 

「君がキャスターの……?」

 

「詳しい話はこの戦いが終わったらちゃんとする。だから、葛木先生はメディアの旦那さんとしてやるべきことがあるだろ?」

 

「そうだな……」

 

遊馬に諭され宗一郎はメディアの最愛の夫としてイアソンと対峙する。

 

「貴様がキャスター……いや、メディアの元夫か」

 

「だ、誰だ貴様は!?」

 

「私の名は葛木宗一郎。高校で教鞭を振るっている。そして……メディアは私の妻だ」

 

「はっ!君がその女の夫?君も大変だろうね、その女と付き合わされて!」

 

「何を言っている……?私はメディアの為にこの力を、この命の全てを捧げると決めた。そして……私の『愛する妻』を悲しませた貴様をこの手で屠らせてもらおう」

 

「ヒイッ!??」

 

宗一郎は手の関節を鳴らしながら強く握りしめ、獲物を狙う蛇のような鋭い殺気を放ちながらイアソンを睨み付けると、人間とは思えないその恐ろしい殺気にイアソンは怯んでしまった。

 

「すげぇ、あれがメディアの旦那さんか……」

 

「そうよ、あれが私の旦那様……宗一郎様よ。ありがとう、マスター」

 

何故宗一郎が召喚されたのか不明な点が多いが、二度と会えないと思っていたメディアは嬉しく思い、遊馬の頭を撫でて感謝の気持ちを伝えた。

 

するとイアソンはその光景に驚くと面白おかしく笑い始めた。

 

「そうか……そうだったのか!メディアよ、君はなんとも哀れな女だ!まさかその小僧に自ら殺めた弟の姿を重ねるとは!」

 

「っ!?」

 

「弟を、殺めた……?はっ!?」

 

遊馬はカルデアで見たギリシャ神話で思い出した。

 

女神ヘラと女神アフロディテの呪いでイアソンに惚れさせられたメディアは逃走中に故郷から追いかけてきた実の弟を殺めてしまったのだ。

 

メディアは無意識のうちに遊馬をその弟と重ねてしまい、正常ではない自分の意思とはいえ自らの手で弟を殺してしまった事が頭の中でトラウマとして蘇り、頭を抱えながら苦しみ始める。

 

「あぁ……あっ、あぁ……」

 

「メディア……!」

 

宗一郎はメディアに駆け寄りながら抱きしめた。

 

「ははははは!見ているだけで笑いがこみ上げてくるよ。自ら罪を犯しながら今は亡き弟の影を追いかけるとは!」

 

イアソンの卑劣極まりない言葉に黙っていたマシュ達も怒りがこみ上げてきた。

 

そして、遊馬とアストラルは俯きながら静かに言葉を重ねて発した。

 

「「黙れ……」」

 

「はぁ?」

 

「黙れって言ってるんだよ!!!てめえ!!!」

 

「貴様のような卑劣な男を断じて許すわけにはいかない!!!」

 

怒りが爆発した瞬間、遊馬とアストラルの背後に銀河眼の光子竜の幻影が現れた。

 

銀河眼の光子竜はカイトが弟のハルトの命を守るために共に戦い続けてきたエースモンスター。

 

弟を殺める事になってしまった元凶とそれを何とも思わずに嘲笑うイアソンに対し、数々の戦いの中で家族の大切さを知った遊馬とアストラルの怒りに銀河眼の光子竜が共鳴したのだ。

 

「弟を、殺めた……?マスターは時々、妙な事を仰るのですね」

 

一方、イアソンが言った言葉に理解が出来ないと言わんばかりにメディア・リリィは首を傾げる。

 

自ら弟を殺した記憶が無いのか、欠落しているのか分からないがメディア・リリィはその事を気にしなかった。

 

「それで、キャプテン。このまま押しつぶしますか?『大英雄様』と共に」

 

「そ、そうだな!……よし、遂に君の出番だ!来たまえ!!」

 

イアソンが呼ぶとアルゴー船の中から新たなサーヴァントが現れる。

 

しかし、そのサーヴァントに遊馬たちは戦慄する。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーー!!!」

 

それは巨人と見紛うほどの巨躯を持った巌のような男だった。

 

その男の正体をメディアとメドゥーサは知っていた。

 

「っ!?ま、まずいわ、マスター!あれはギリシャ神話の大英雄、ヘラクレスよ!」

 

「ヘラクレス!??」

 

ギリシャ神話の二大英雄の一人、神々の王ゼウスと人間の娘の間に生まれた半神半人の英雄。

 

数多の冒険と試練を繰り広げ、その全てを乗り越えた大英雄である。

 

「ギリシャ神話で一番有名と言っても過言ではない大英雄・ヘラクレス……しかし、彼から感じるこの気配はまさか……」

 

「ええ。あのヘラクレスはバーサーカークラスで呼ばれています」

 

狂戦士であるバーサーカーとして召喚されたヘラクレスは大英雄と言うよりも恐ろしい神のような敵を相手にしているような気分となる。

 

「勝てないさ!勝てるものか!このヘラクレスは、あらゆる場所であらゆる怪物と戦った。敗北などなく、最後には神まで至った男!それがヘラクレスだ!君達のような二流三流とは訳が違う。無造作に引き千切られるか、雑魚敵としての宿命だ!」

 

イアソンはまるで自分の事のようにヘラクレスを自慢する。

 

しかし、イアソンは英雄らしく最後の慈悲なのか遊馬たちに選択を与えた。

 

「さて、君達。そこのアーチャー、エウリュアレを引き渡せ。そうすれば、ヘラクレスをけしかけることだけは止めておいてやってもいい」

 

「エウリュアレを……仲間を渡せだと……?」

 

「そうだ。どうかな?悪い条件じゃ無いと思うけど?」

 

イアソンはそう言うが、遊馬の答えは初めから決まっている。

 

「ふざけんじゃねえ!!エウリュアレは俺の大切な仲間だ!エウリュアレを絶対に渡さない!ヘラクレスもヘクトールもぶっ倒して、最後にはてめえもぶっ飛ばす!!」

 

「マスター……」

 

エウリュアレは自分を差し出せば助かるかもしれないのにそれを拒否してまた守ると宣言した遊馬に心が打たれた。

 

「よく言った、遊馬!行くぞ!!」

 

アストラルはデュエルディスクを構えてデッキからカードをドローする。

 

「おう!行くぜ、アストラル!!」

 

「私のターン、ドロー!『ゴゴゴゴーレムを召喚!更に『トラブル・ダイバー』を特殊召喚!レベル4のゴゴゴゴーレムとトラブル・ダイバーでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ゴゴゴゴーレムとトラブル・ダイバーが光となって海に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「「現れよ、No.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、『希望皇ホープ』!!」

 

『ホォオオオオオオープ!!!』

 

ヘラクレスと同じように数多の強大な敵を倒して来た光の英雄……希望皇ホープが現れた。

 

「な、何だあれは!?これがヘクトールが言っていた召喚獣なのか!!?」

 

遊馬とアストラルが召喚した希望皇ホープから溢れる神性の力にイアソンは驚きを隠せなかった。

 

「まさかこれ程とは……しかし、マスター。例えどのような敵が相手でもヘラクレス様には敵いません」

 

「そうだ、そうだったな!例え君が強力な召喚獣を呼んでも、どれだけサーヴァントを束にかかろうともヘラクレスには勝てないのさ!」

 

イアソンはヘラクレスに勝てるものは存在しないと自信満々に言うが、メドゥーサはそれを真っ向から否定する。

 

「イアソン、メディア。あなた達は一つ見誤っています。他のクラスならともかく、バーサーカークラスのヘラクレスの命を奪う事ができるサーヴァントがいます」

 

「な、何だと!?馬鹿な、最強の英雄のヘラクレスの命を奪えるサーヴァントが存在するはずがない!嘘だ!嘘に決まっている!」

 

「私は嘘を言いません。マスター、アルトリアとエミヤを呼んでーー」

 

メドゥーサの言葉を遮るように再び遊馬のデッキケースが開くと中から二人のサーヴァントが現れる。

 

「セイバー見参!!」

 

「ふっ……アーチャー、推参」

 

「アルトリア!?エミヤ!?」

 

アルトリアとエミヤ、ちょうどメドゥーサが呼んでもらおうと思った二人のサーヴァントだった。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!?」

 

ヘラクレスはアルトリアとエミヤを見た瞬間に僅かながら驚いた表情を見せた。

 

「久しいですね、バーサーカー。いえ、ヘラクレス!」

 

アルトリアは約束された勝利の剣を構え、キリッと凛とした表情をする。

 

「まさか、貴様が『あの子』以外にバーサーカークラスで呼ばれるとはな……」

 

一方、エミヤはヘラクレスを呼んだイアソンを一瞬だけ睨みつけて干将・莫耶を構える。

 

「貴様が命を賭して守り抜こうとし、敬愛したあの子のためにも……貴様を止める!!」

 

エミヤは誰かの事を脳裏に思い出しながらアルトリアと共にヘラクレスに向かって突撃する。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

そして、ヘラクレスは咆哮を轟かせて自身の武器であるその巨大な躰に見合った大きさの斧剣を振りかざした。

 

「お、おい!アルトリア、エミヤ!」

 

「どうやらあの二人はヘラクレスと戦ったことがあるようだな。さて……これからどうするか……」

 

アストラルは数秒だけ目を閉じて思考すると瞬時にこの場を乗り切る作戦を構築して遊馬に伝える。

 

「……よし、遊馬。君はネロと共にヘクトールを頼む。私たちでヘラクレスを抑える」

 

アストラルの考えた作戦に遊馬は目を見開いて驚いた。

 

「俺とネロで?」

 

「君とネロ……二人の力ならヘクトールを倒せるはずだ。先にヘクトールを倒して敵の戦力を大幅に削る」

 

アストラルはネロと契約したことで現れたフェイトナンバーズの力でヘクトールを倒せると確信を持ってその作戦を考えたのだ。

 

「だけど、あのヘラクレス相手に大丈夫なのか?」

 

「アルトリアとエミヤはどうやらあのヘラクレスと因縁があるようだ。二人が必ず全力で止めてくれる。それから、マシュのフェイトナンバーズを貸してくれ。今の状況ではあのヘラクレスを相手ではこのフィールドが悪い。攻めを捨ててホープとマシュの力で守りに全てを込める。私を……私たちを信じろ、遊馬」

 

「アストラル……分かった、頼むぜ!」

 

「ああ!」

 

遊馬はデッキケースからマシュのフェイトナンバーズをアストラルに投げ渡す。

 

「ネロ、行くぜ!俺たちでヘクトールを倒す!!」

 

「おお、ユウマ!遂に余の出番か!!二人の愛の力をあの男に見せてやろうではないか!!」

 

ネロはフェイトナンバーズでの初陣とあってテンションが一気に高まる。

 

「いやいや、戦いに愛の力は関係ないと思うけど……」

 

「さあ行くぞ、ユウマよ!余のフェイトナンバーズと共に顕現した二枚の魔法の札……それで彼奴を封殺するぞ!!」

 

二枚の魔法の札……それは日を重ねる毎に遊馬とネロの絆が深まることでネロのフェイトナンバーズから専用のサポートカードが誕生したのだ。

 

「みんなはヘラクレスを頼む!その間に俺とネロでヘクトールを必ず倒す!!」

 

「さあ、正々堂々と真正面から勝負しようではないか……トロイヤ最強の戦士、ヘクトールよ!ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスが貴様に引導をくれてやろう!!」

 

テンションが高まりつつあるネロは原初の火を構えて切っ先をヘクトールに向けて挑発する。

 

「はっ、オジサンも舐められたものだね。そう簡単にやられると思わないでもらいたいね!!」

 

挑発され、英雄らしく前に出て遊馬とネロの前に出て来て槍を構える。

 

「ふっ、貴様こそ余と余の夫を甘く見るでないぞ?三つの世界とそこに住む全ての人類の未来を救った真の英雄……ユウマは勝利への必然の奇跡を起こす!」

 

「ああ。行くぜ、ネロ!俺のターン!ドロー!!」

 

遊馬はギリシャ神話の名高き英雄の一人を倒すため、デッキからカードをドローする。

 

 

 

.




宗一郎様降臨!
カニファンや衛宮さんちの今日のごはんを見ていたらメディアさんを幸せにしたいなと思って出しちゃいました(笑)
存分にカルデアで夫婦生活を楽しんでくださいねー!

ヘラクレスはやっぱりアルトリアとエミヤが止めなきゃと思って二人を出しました。
その背景にはヘラクレスを慕った一人の少女の願いが込められております。

次回は遊馬&ネロVSヘクトールです。
来年もよろしくお願いします。
皆さん、良いお年をお迎えください!


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ナンバーズ48 真紅の薔薇と純白の白薔薇

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
いやー、FGOの第2部が始まりましたけど、ヤバすぎて怖いですね。
まあ、こっちには遊馬くんとアストラルがいますからなんとかなりそうですけど。
やばくなったらカイト達やエリファスを呼んで奴らを殲滅しましょう(笑)
衛宮さんちの今日のごはんが私の癒しです。
さて、今回はネロちゃま大活躍のお話です!


イアソン率いるアルゴノーツの強大な力を持つ二大英雄、ヘクトールとヘラクレスを対処するために、まずは遊馬とネロの二人でヘクトールを討つ。

 

ネロは遊馬が無事に自身をフェイトナンバーズで召喚するためにヘクトールを相手にして時間を稼ぐ。

 

「よし!俺は『ガガガマジシャン』を召喚!更に魔法カード『二重召喚』!もう一度通常召喚権を得る!『ガガガガードナー』を召喚!!」

 

魔法使い族のガガガマジシャンと戦士族のガガガガードナーが並び立ち、これで召喚条件が揃った。

 

「行くぜ、ネロ!来い!」

 

「うむ!」

 

ネロがヘクトールから離れると光の粒子となってフェイトナンバーズの中に入る。

 

「かっとビングだ、俺!レベル4魔法使い族のガガガマジシャンとレベル4戦士族のガガガガードナーでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとガガガガードナーが光となって床に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「炎のようにその心を熱く燃やし、真紅の薔薇の如く、絢爛豪華の舞台に舞い降りろ!!!」

 

光の爆発の後に戦場を彩るように無数の美しい薔薇の花弁が舞い、真紅に輝く『0』の刻印が宙に描かれる。

 

「現れよ!『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』!!」

 

そして、舞う薔薇の花弁の中から未来皇ホープのプロテクターを装着したネロが現れた。

 

ネロの右手には原初の火、左手にはホープ剣が握られており、遊馬と同じバトルスタイルである二本の剣による二刀流となった。

 

「ネロの効果!このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキからフィールド魔法を1枚選択して発動できる!俺が発動するフィールド魔法はこれだ!!」

 

「レグナム カエロラム エト ジェヘナーー築かれよ我が摩天、ここに至高の光を示せ!」

 

デッキから真紅に輝くカードを手札に加えてそのままフィールドに発動する。

 

「我が才を見よ!万雷の喝采を聞け!座して称えるがよい…… 黄金の劇場を!! 」

 

「フィールド魔法、発動!!」

 

ネロが一輪の薔薇を取り出して上に投げ、原初の火を床に突き刺すと巨大な魔法陣が展開され、周囲が光に包まれる。

 

「「『招き蕩う黄金劇場(アエストゥム・ドムス・アウレア)』!!!」」

 

ネロと遊馬とヘクトールを閉じ込めるように空中に黄金と真紅に輝く巨大な劇場が一瞬で建築された。

 

「な、何だこれは!?まさか、固有結界か!?」

 

ヘクトールは船の上から突然見たことない劇場の中に閉じ込められて困惑する。

 

それはネロの願望を達成させる絶対皇帝圏。

 

生前のネロ自らが設計しローマに建設した劇場『ドムス・アウレア』をフィールド魔法の効力とネロの魔力によって再現したものである。

 

本来はネロの魔力で作り出すものであり、自分の心象風景を具現した異界を一時的に世界に上書きして作り出す『固有結界』とは似て非なる大魔術である。

 

そしてこの劇場の主役はネロ……つまり、ネロにとって有利に働く戦場となるのだ。

 

「フィールド魔法、招き蕩う黄金劇場の効果!自分フィールドに『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』がモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる!!」

 

「美しく可憐な紫の花を狙う無粋なる輩よ、我が力にひれ伏せ!!」

 

「何!?ぐがぁっ!?」

 

ヘクトールは黄金劇場の効力によってネロに敵対する存在の力を大幅に削ぐ。

 

「行くぜ、ネロの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除いて発動!ネロが相手モンスターを攻撃したダメージ計算後にその相手の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!!」

 

ネロがオーバーレイ・ユニットを原初の火に取り込ませると、原初の火とホープ剣から膨大な炎が吹き荒れる。

 

「更に招き蕩う黄金劇場のもう一つの効果!1ターンに1度、自分フィールドの『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』を対象に発動出来る!手札のカード1枚を除外する度に対象モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする!!俺は手札1枚を除外!よって、ネロの攻撃力は1000ポイントアップする!!」

 

遊馬は次の一手を考えながら3枚の手札の内、1枚の手札を除外してネロに力を与える。

 

ネロの身に宿る魔力が爆発するように膨れ上がり、赤い光を纏いながら原初の火とホープ剣を構える。

 

「行くぜ、ネロでヘクトールを攻撃!!」

 

ネロは滑るように床を走り、炎を纏う原初の火とホープ剣を振り下ろした。

 

「『童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)』!!!」

 

振り下ろされた二つの剣は十字の炎刃となり、ヘクトールは槍で防御の態勢を取る。

 

炎刃が巨大な炎の竜巻と化し、ヘクトールを呑み込んで焼き尽くす。

 

「ぐぁああああああっ!!?」

 

ネロの攻撃と効果が同時にヘクトールに襲いかかり、大ダメージを与える。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド!!」

 

2枚のカードを伏せ、ヘクトールの攻撃に備える。

 

「いやー、やるじゃないの……小僧と小娘相手にここまでやられたら……オジサン、本気を出さなければならないよな!!」

 

ヘクトールの魔力が爆発し、手に持つ槍……ドゥリンダナの柄を短くして剣のような形にし、その刃から眩い光が放たれる。

 

宝具が解放され、トロイヤ軍伝説の英雄の力が放たれる。

 

「喰らいな!『不毀の極剣(ドゥリンダナ・スパーダ)』!!!」

 

振り下ろされたドゥリンダナから巨大な斬撃の光が放たれ、ネロに襲いかかる。

 

ネロの後ろにいた遊馬は咄嗟に走り、ネロの隣に立ちながらそのままネロを抱き寄せて左手を前に出す。

 

「ユ、ユウマ!?」

 

「任せろ!罠カード発動!『ドレインシールド』!!」

 

円形の盾が現れ、ドゥリンダナの斬撃を正面から受け止めてその膨大なエネルギーを吸収して攻撃を無効にした。

 

「なっ!?馬鹿な!?」

 

「ドレインシールドの効果!相手の攻撃を無効にし、その攻撃力分だけ俺のライフを回復する!!」

 

盾に吸収した膨大なエネルギーを変換し、遊馬のライフポイントを大幅に回復させる。

 

「これを防ぐか……!それなら、これならどうかい!!」

 

更にヘクトールの魔力が爆発し、ドゥリンダナの柄を伸ばして槍にする。

 

ギリシャ神話の伝説ではヘクトールの槍は世界のあらゆる物を貫くと讃えられており、それがヘクトールのもう一つの宝具にして切り札である。

 

「標的確認、方位各固定……『不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)』!!!吹き飛びなぁ!!!」

 

ヘクトールが投擲の構えに入ると同時に籠手を着けた右腕から噴射炎のようなものが発生し、そこからドゥリンダナをミサイルのように放つ。

 

「まだだ!罠カード発動!『ナンバーズ・ウォール』!!ネロ、踏ん張れ!!」

 

「うむ!!」

 

空中に真紅の『0』の刻印が浮かび、ネロの背後に未来皇ホープの幻影が浮かぶ。

 

遊馬はネロと共に原初の火を持ち、飛んでくるドゥリンダナを受け止める。

 

「「うぉおおおおおおっ!!!」」

 

ドゥリンダナを受け止める原初の火から火花が派手に散り、その大きな衝撃に耐える。

 

「「はあっ!!!」」

 

そして、ドゥリンダナを弾き返してヘクトールの切り札である宝具を打ち破った。

 

弾き返されたドゥリンダナを回収したヘクトールは飄々とした態度から一変して僅かに恐怖の表情をする。

 

「ば、馬鹿な……ドゥリンダナが破られた!?」

 

本来なら不毀の極槍を防ぐにはギリシャ神話の大英雄・アキレウスの『蒼天囲みし小世界』かエミヤも使用しているアイアスの『ロー・アイアス』……あるいはそれらに匹敵する防御宝具を使うしかない。

 

「ナンバーズ・ウォールは自分フィールド上にナンバーズがいる時に発動出来る!このカードがフィールド上に存在する限り、ナンバーズは効果では破壊されず、ナンバーズと名のついたモンスター以外との戦闘では破壊されない!!つまり……こいつのお陰でネロは破壊されないんだ!!」

 

ナンバーズは異次元の力を持つ特別なモンスターでナンバーズ・ウォールはそのナンバーズに強固な耐性を与える。

 

その特別なモンスターの力の恩恵を受けた英霊……フェイトナンバーズもナンバーズ・ウォールの効果の対象となり、ネロの破壊を防いだのだ。

 

「おいおい、マジかよ……オジサンの本気の宝具を全て止められるなんて……」

 

ヘクトールは二つの宝具を全て真正面から打ち破られてかなりのショックを受けていた。

 

「ネロ、これで決めるぜ!」

 

「さあ、劇の終焉……余の新たな劇場を見せようではないか!」

 

「俺のターン、ドロー!かっとビングだぜ、俺!!」

 

遊馬はエクストラデッキからもう一枚のフェイトナンバーズのカードを取り出してデッキからカードをドローする。

 

「このカードは手札1枚を除外し、自分フィールドの『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』をエクシーズ素材として、エクシーズ召喚することができる!!」

 

ドローしたカードを除外し、『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』の上に光り輝くフェイトナンバーズを重ねる。

 

ネロは祈るように手を組み、光となって地面に吸い込まれる。

 

「アナザー・コスチューム・エクシーズ・チェンジ!!!」

 

光の爆発が起きると純白に輝く白薔薇の花吹雪が吹き荒れる。

 

「孤高なる魂の皇帝よ、純真無垢な白薔薇の美しき光を纏いて夢と願いの式場に舞い降りろ!!」

 

そして、真紅の『0』の刻印が純白に輝き、白薔薇の花吹雪の中から美しき花嫁が姿を現す。

 

「現れよ!『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』!!」

 

ローマ帝国第五皇帝・ネロ……たった一人の愛する男、遊馬と結ばれるために純潔を守り、自ら作った花嫁衣装を纏った姿である。

 

その手には真紅から純白に輝く原初の火とホープ剣を構え、未来皇ホープのプロテクターに加えて背中に双翼が装着されており、その姿はまるで戦う天使のように美しく、そしてとても勇ましかった。

 

「ネロの効果!このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキからフィールド魔法を1枚選択して発動できる!」

 

「更なるフィールドを展開するのか!?」

 

現在発動している『招き蕩う黄金劇場』は『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』がいないとその効果を発動出来ない。

 

しかし、ネロ・ブライドがいる事で発動できるもう一枚の専用のフィールド魔法がある。

 

デッキから白銀に輝く一枚のカードを手にして発動する。

 

「春の陽射し、花の乱舞。皐月の風は頬を撫で、祝福はステラの彼方まで !開け!!」

 

ネロが今度は白薔薇を取り出して上に投げ、原初の火を床に突き刺すと巨大な魔法陣が再び展開され、招き蕩う黄金劇場が純白に、そして華やかに彩る。

 

「「『招き蕩う結婚式場(ヌプティアエ・ドムス・アウレア)』!!!」」

 

それは招き蕩う黄金劇場が遊馬との結婚を望むネロが思い描いた結婚式場である。

 

更にこの結婚式場は元となった黄金劇場と同じくネロがいる限り、相手モンスターの攻撃力・守備力は半分になる効果を持つ。

 

「さあ、ユウマよ!そなたもコスチュームチェンジだ!」

 

「は?」

 

ネロが白薔薇の花吹雪を操ると遊馬の体を包み込むと、お気に入りの私服姿であるTシャツと白ズボンと赤い上着が結婚式で新郎が着用する白いタキシード姿となった。

 

「うわっ!?俺の服が白タキシードに!?」

 

「似合っておるぞ、ユウマ!」

 

白タキシード姿の遊馬にネロ自ら考えて着用したウェディングドレス姿。

 

ネロは戦いの最中だというのに遊馬への想いを抑えきれずに堂々と高らかに宣言した。

 

「さあ、しばし私情を語ろう……改めて、告白するぞ!!余はユウマが、大好きだっ!!!世界で一番、そなたを愛しているぞ!!!」

 

「ええっ!?いや、知ってるけど……まあ、その、ありがとう……」

 

遊馬はネロの熱烈な告白に顔を真っ赤にする。

 

「……何だこれ……?」

 

ヘクトールは何故戦闘中に敵のマスターとサーヴァントの告白劇を見なければならないのかと頭を悩ませる。

 

遊馬は気を取り直して進化したネロの効果を使用する。

 

「ネロの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスター1体を選択し、その元々の攻撃力分、俺のライフポイントを回復する!」

 

ネロが純白の原初の火にオーバーレイ・ユニットを取り込み、ヘクトールの攻撃力分の数値、遊馬のライフポイントを回復させる。

 

「ユウマ、余の愛を受け取るのだ!」

 

ネロは投げキッスをして小さなハートが遊馬の胸に当たるとドレインシールドに加えてライフポイントが更に大幅に回復する。

 

遊馬は顔を赤くしながら発動したフィールド魔法の効果を使う。

 

「招き蕩う結婚式場の効果!1ターンに1度、自分フィールドの『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』を対象に発動出来る!自分のライフポイントを好きな数値だけ支払い、支払った分の数値分だけ、ネロはエンドフェイズ時までを攻撃力をアップする!俺は……俺のライフを100まで残して全てのライフを支払い、ネロの攻撃力を高める!!ネロ、受け取れ!!!」

 

遊馬が胸を強く握り締めるとドレイン・シールドとネロの効果で回復した分を含めたほぼ全てのライフポイントをネロに捧げた。

 

それにより、先ほどの招き蕩う黄金劇場よりもネロの攻撃力が何倍にも上昇した。

 

「感じる……感じるぞ。ユウマの命の輝きを。今、余とユウマの命が一つに合わさってる……」

 

ネロから白い魔力の光が迸り、遊馬のライフポイント……命の輝きを受け取った事で溢れんばかりの大きな力を得る。

 

今のネロは令呪でサーヴァントのランクをブーストで強化されたように力が沸き起こり、今なら誰にも負ける気がしなかった。

 

「覚悟は良いな……ヘクトールよ!!!」

 

「オジサンも覚悟を決めようか……無駄だと思うが、何もしないよりはましだよな!!」

 

再びドゥリンダナの真名を再び解放し、最後の一撃を放つために魔力が迸る。

 

ネロは遊馬のライフポイントによって強化された命の輝きを純白に輝く原初の火とホープ剣が注ぐとアルトリアの約束された勝利の剣と同等の美しい星の光を放つ。

 

そして、ネロとヘクトールは同時に床を蹴り、互いに全力で宝具を解き放つ。

 

「『不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)』!!!」

 

「謳え!!『星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)』!!!」

 

ネロは白薔薇の花吹雪を纏いながら突撃する。

 

ヘクトールが投擲したドゥリンダナをネロは横に回転しながら勢いよく振り上げたホープ剣で弾いた。

 

そして、一気にヘクトールの間合いに入ったネロは原初の火を振り払う。

 

「はあっ!!!」

 

ヘクトールに全力の斬撃を撃ち込み、その衝撃にヘクトールは式場の壁に叩きつけられた。

 

「はぁ〜……ここまで派手にやられたのはアキレウスの時以来だよ。いやー、お強いね。お二人さん……」

 

ヘクトールは遊馬とネロに賞賛を送りながらその体が消滅していく。

 

「ヘクトール、もし答えられるなら教えてくれ。イアソンがエウリュアレを狙う理由はなんだ?聖杯を手にしながら何故エウリュアレも狙う?」

 

遊馬はイアソンの目的は分かっているが何故エウリュアレを狙うのかまだ分かっていない。

 

「……いいさ、教えてやろう」

 

ヘクトールは消滅する前に自分を倒した遊馬とネロに褒美としてエウリュアレを狙う理由を教えた。

 

「エウリュアレを……『神を生贄に捧げる』……それが目的だ」

 

「神を生贄に!?」

 

「エウリュアレは女神としての神性はあるが……だが、一体何にだ!?聖杯には必要ないとしたら、何にエウリュアレを生贄に捧げるのだ!?」

 

「『契約の箱(アーク)』。それが目的さ……」

 

「アーク……?」

 

「それは……いや、まさか……」

 

「それから最後に一つ……メディア王女に気をつけろ」

 

「メディア?もしかして、イアソンのところにいる幼いメディアか?どういうことだ!!?」

 

遊馬は謎が解けるどころか、謎が深まるばかりでもっとヘクトールに話を聞こうとしたが、既にタイムリミットとなっていた。

 

「悪いな、もう時間だ……敵だが、これだけは言わせてくれ……頑張れよ……お前さん達なら何とかできるかもしれねぇな……」

 

ヘクトールは敵ながらも遊馬達に大きな可能性を見つけ、最後にエールを送りながら静かに消滅した。

 

消滅した後に残ったヘクトールはフェイトナンバーズを取り、最後に忠告されたメディア・リリィがイアソンにも隠している何かを抱えている可能性が出てきた。

 

そして、遊馬が夢で見たあの光景……この戦いには裏があり、それをメディア・リリィが何かを握っていると遊馬は直感した。

 

「あの幼いメディアはイアソンに何かを隠している……!?」

 

「ユウマよ、早く皆の元へ戻るぞ!」

 

「ああ!!」

 

遊馬は結婚式場のフィールド魔法を解除してネロと共に黄金の鹿号に戻る。

 

しかしそこは想像を絶する壮絶な戦場と化していた。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

斧剣を手にバーサーカークラスに相応しく狂乱に暴れまわるヘラクレスはアルトリアとエミヤ、そしてアストラルが召喚した希望皇ホープとフェイトナンバーズのマシュを中心に全力で抑えていた。

 

「アストラル!」

 

「遊馬、ネロ!どうやらそっちは片付いたようだな!」

 

「ああ!ばっちりだ!」

 

「うむ!アストラルよ、そちらはどうだ!」

 

「ヘラクレスの方は見たままだ。竜牙兵はメディア達でなんとかなってる!!」

 

一方、アルゴー船の上ではメディア・リリィが召喚した骨の兵隊・竜牙兵が黄金の鹿号に進軍しようとするが、それをメディアの魔術と宗一郎の体術で破壊していった。

 

「宗一郎様!行きます!!」

 

「……分かった!」

 

宗一郎が下がるとメディアは展開した魔法陣から一気に魔力砲撃を放ち、竜牙兵を一掃した。

 

「今です、宗一郎様!!」

 

「……行くぞ」

 

宗一郎は鍛え抜かれた肉体で一気にイアソンに近づき、拳を強く握りしめる。

 

「ひいっ!?来るな、来るなぁあああああっ!!」

 

イアソンは船を操る航海技術だけは超一流だが、戦闘能力は皆無であるため逃げようとするが、船の上で逃げ場がある訳がない。

 

「貴様に恨みはない……だが、貴様はメディアに数え切れないほどの悲しみの涙を流させた……その罪は重い!」

 

限定的な状況下ならサーヴァントを凌駕する

その蛇のような動きをする軌道の拳を使う不思議な体術でイアソンをこれでもかと言わんばかりに徹底的に体中をボコボコに殴り、そして最後に頬殴り飛ばした。

 

「グボラァッ!?」

 

イアソンは壁に叩きつけられ、全身があざとタンコブだらけになり、美男子が台無しになるほど見るも無残な姿となった。

 

「終わりだ……」

 

宗一郎がイアソンにトドメを刺そうと手を手刀にして振り下ろそうとした……その時だった。

 

「だめぇっ!!!」

 

メディア・リリィがイアソンを庇うように宗一郎の前に立ち塞がった。

 

「っ!??」

 

宗一郎の目にメディア・リリィの姿が映った瞬間、振り下ろした手を止めてしまった。

 

メディア・リリィは魔法陣を展開して近距離で魔力砲撃を放った。

 

「うがっ……!?」

 

魔力砲撃を近距離で受けてしまい、大きなダメージを受けながら吹き飛んだ。

 

「宗一郎様!!」

 

メディアは吹き飛んだ宗一郎を受け止めた。

 

「宗一郎様、大丈夫ですか!?小娘……よくも!!」

 

メディアは宗一郎を攻撃したメディア・リリィを睨みつけた。

 

宗一郎を傷つけられた怒りから自分の過去の存在とはいえ、メディア・リリィを今にも殺しそうな勢いだった。

 

メディア・リリィは竜牙兵を繰り出してメディアと宗一郎を襲わせる。

 

すると、遊馬のデッキケースから藍色の光が飛び出してメディアと宗一郎の前に現れた。

 

「アサシン……参上!」

 

それはメディアと何故か関わりがある佐々木小次郎だった。

 

「秘剣……燕返し!!!」

 

背中の太刀を抜いて構えると、小次郎だけが使える唯一無二の秘剣を放つ。

 

円弧を描く三つの軌跡と、愛用する太刀の長さが生み出す不可避の剣技……その宝具に匹敵する秘剣で竜牙兵を斬り裂いた。

 

「佐々木!?」

 

「アサ、シン……?」

 

「久しいな、宗一郎。魔女よ、今はこれ以上力を振るう必要はない。そうであろう、マスター!!」

 

「小次郎……アストラル!!」

 

「ああ!出番だ、アストルフォ!アステリオス!!」

 

アストラルが叫ぶと、予め上空でピポグリフに乗って待機していたアストルフォが一気に急降下してものすごいスピードでヘラクレスの間合いに入った。

 

「うぉおおおおっ!!触れれば転倒!!!」

 

黄金の馬上槍がヘラクレスの体に触れた瞬間、その効果でヘラクレスの膝から下が強制的に霊体化してバランスを崩した。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!?」

 

いかに世界にその名を轟かせる大英雄のヘラクレスとはいえ、その嵐のように激しい攻撃を生む動きの起点である足を封じればパワーダウンは免れない。

 

「アステリオス!!!」

 

「うぉおおおおおおっ!!!」

 

エイリークの時と同じように強烈なアッパーでヘラクレスを打ち上げてアルゴー船に送り返した。

 

「ドレイク船長!!」

 

「あいよ!野郎ども、面舵いっぱい!全速前進!!この場から撤退するよ!!」

 

「「「アイアイ姉御!!」」」

 

敵が全てアルゴー船に戻り、現状でほぼ戦闘不能に追い込んだので撤退するためにドレイク達は全力で黄金の鹿号を操作する。

 

アストラルは安全に逃げられるようにマシュのフェイトナンバーズの効果で選んだ魔法カードを一枚デッキトップに置いており、そのカードをドローしてすぐに発動する。

 

「私のターン、ドロー!魔法カード発動!『光の護封剣』!!」

 

敵の攻撃を封ずる聖なる光の剣城がアルゴー船の周囲に現れ、イアソンたちの行動を封ずる。

 

「遊馬!」

 

「おう!メディア!葛木先生!小次郎!戻れ!!」

 

遊馬がメディアと宗一郎と小次郎のカードを掲げると三人は光の粒子となってアルゴー船からカードの中に入る。

 

そして、黄金の鹿号は全速力でアルゴー船から離れて撤退した。

 

イアソンは勝てると思っていた戦いだが、大事な戦力であるヘクトールをあっさり失い、自分はこれだけ痛めつけられ、実質大敗したことにかなり苛立っていた。

 

「くそっ、くそっ、あいつら……よくも……!!」

 

「大丈夫です、マスターが聖杯を持ってる限り、彼らは必ずまたやって来ます。今治療しますのでジッとしてください……」

 

メディアはすぐにイアソンの治療を行うために宝具を発動する。

 

「ーーーーーーーー……」

 

一方、いまだに足が元に戻らないヘラクレスは座りながら静かに黄金の鹿号が撤退した方角を静かに見つめていた。

 

 

余談だが、カルデアでは……。

 

「あ、あんなに大胆に告白するなんて許しません!!ハレンチです!!」

 

「あんの、色ボケ皇帝がぁあああああっ!!」

 

「許しません許しません許しません……ふふふ、私の炎で燃やしてあげましょうか……!?」

 

ジャンヌ達が再び暴走して戦闘でもないのに出向こうとしていた。

 

「そう言う色恋は遊馬達が帰ってからにしなさい!!」

 

オルガマリーは引き続きサーヴァント達に頼んでジャンヌ達を抑えてもらっていた。

 

「むぅ、ネロさん良いなぁ……私も遊馬が帰って来たら頑張らなきゃ!!」

 

小鳥は嫉妬にかられないよう我慢しながら遊馬が帰って来たらイチャイチャ出来るように頑張ろうと誓った。

 

 

 

.




あの万能英雄のアキレウスが苦戦したヘクトールですが……ぶっちゃけやりすぎたぐらい遊馬&ネロちゃまコンビの前に倒れました(笑)

今回の登場カードはこちらです。

FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/炎属性/戦士族/攻2500/守2000
魔法使い族レベル4モンスター+戦士族レベル4モンスター1体ずつ
このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキ・手札・墓地からフィールド魔法を1枚選択し、自分フィールドに発動することが出来る。
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。このカードが相手モンスターを攻撃したダメージ計算後に発動する。その相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。



招き蕩う黄金劇場
アエストゥス・ドムス・アウレア
フィールド魔法
このカードは自分フィールドに『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』がいる時に発動出来る。
自分フィールドに『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』がモンスターゾーンに存在する限り、 相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。
1ターンに1度、自分フィールドの『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』を対象に発動出来る。手札のカード1枚を除外する度に対象モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。この効果は相手ターンでも使用できる。



FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000
光属性レベル4×3
このカードは手札のカードを1枚除外し、自分フィールドの『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』の上に重ねてエクシーズ召喚する事が出来る。
このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキ・手札・墓地からフィールド魔法を1枚選択し、自分フィールドに発動することが出来る。
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。相手モンスターを1体選択し、そのモンスターの元々の攻撃力分の数値分、ライフポイントを回復する。



招き蕩う結婚式場
ヌプティアエ・ドムス・アウレア
フィールド魔法
このカードは自分フィールドに『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』がいる時に発動出来る。
自分フィールドに『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』がモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならず、相手モンスターの攻撃力・守備力は半分になる。
1ターンに1度、自分フィールドの『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』を対象に発動出来る。自分のライフポイントを好きな数値だけ支払い、支払った分の数値分を対象モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時までアップする。この効果は相手ターンでも使用できる。

ヤバイ強すぎた(笑)
ネロちゃまの遊馬への愛が強すぎてこんなカードになってしまいました。
EXTRAのアニメもスタートするので良い感じの効果を詰め込みました。
やっぱり一番の目玉はフィールド魔法をどこでも発動出来るところですね。
黄金劇場と結婚式場もいいですけど、他のフィールド魔法でも使えるのがいいですね。
ヘラクレスなどのバーサーカーにとって一番辛いアストルフォのお陰でアステリオスの死亡イベントは回避されました。
次回はアタランテちゃんの登場です!
やっと出せます、子供の守護者である彼女が13歳の遊馬を見てどう感じるか見ものです。


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ナンバーズ49 集まる真実の欠片

アタランテ姐さんの登場です!
やっと彼女を出せました!
アポクリファを見てから出すのを楽しみにしていたので!


アルゴー船から撤退した黄金の鹿号は態勢を整えるために全速力で走らせる。

 

海賊達が慌ただしく働く中、メディアは再会した最愛の夫……葛木宗一郎の治療を行っていた。

 

「大丈夫ですか?宗一郎様……」

 

「心配ない……ところで、あの娘は幼い頃のお前と聞いたが、本当なのか?」

 

「え、えぇ……お恥ずかしながら、あれは私が生きていた頃の幼き日の姿ですわ……あの小娘、よくも宗一郎様を……しかし、宗一郎様。何故あの時、小娘ごとイアソンを攻撃しなかったのですか?」

 

「……出来るわけがなかろう。例え敵でも、幼き日のお前を攻撃する事など……私には出来ない……」

 

「宗一郎様……」

 

宗一郎はメディアの事を愛しており、自分の全てを捧げても構わないと思うほど大切にしている。

 

それ故に敵であろうとも別の存在であろうともメディアの幼き姿のメディア・リリィが相手では攻撃することができなかった。

 

「はっはっは!惚れた女には刃を向けられないか!なるほど、宗一郎殿の最大の弱点が一番身近にあったということか?良かったな、魔女よ」

 

小次郎はメディアと宗一郎の夫婦仲睦まじい光景に笑いながら茶々を入れた。

 

「だ、黙りなさい、佐々木!!はっ倒すわよ!!」

 

「小次郎、あまりメディアを弄るなよ」

 

そこにドレイクの手伝いを終えた遊馬とアストラルとマシュがやって来た。

 

「おや、マスター。いやはや、この恋する乙女な魔女を弄るのが拙者の楽しみでな。ついついやってしまうのだよ」

 

「佐々木ぃっ!!そこに直りなさい!!強烈な魔術を打ち込むわよ!!!」

 

「おっと、あまり怒るととシワが増えるぞ?はっはっは!!」

 

小次郎は軽くブチギレるメディアを弄って満足するとその場からササっと離れるのだった。

 

メディアは弄られた怒りから魔力が溢れ出すが、宗一郎がすぐそばにいるので慌てて心を落ち着かせた。

 

「あはは、小次郎の奴……さてと、葛木先生。改めてこんにちわ。俺は九十九遊馬。さっきも言ったけど、メディアのマスターをやってる。こっちの二人は俺の相棒の……」

 

「私はアストラル。アストラル世界と呼ばれる異世界から来た」

 

「初めまして、私はマシュ・キリエライト。デミ・サーヴァントです」

 

改めて遊馬は自己紹介をし、アストラルとマシュも続いて自己紹介をすると宗一郎も軽く会釈をして挨拶をする。

 

「葛木宗一郎。穂群原学園で教師をしている……正直今何が起きているのか理解出来ていない」

 

「そうか……今から俺たちがちゃんと説明する。落ち着いて聞いてくれ」

 

「うむ……」

 

遊馬達はカルデアや人理修復の事など今起きている事を説明した。

 

宗一郎は頭の中で一つ一つを整理しながら理解して言ったが、本人の性質か性格なのか分からないがあまりピンと来ていなかった。

 

「……正直、人類の未来を救うという私個人ではあまり大きすぎる案件に掴みきれない……」

 

「そりゃあそうだよな。それで、葛木先生はどうしたいんだ?」

 

「……出来る事なら、叶うのならば、メディアの側にいたい……それは可能か?」

 

「宗一郎様……!」

 

「もちろん!二人は夫婦だもんな。この世界の戦いが終わったら先生をカルデアの施設に連れて行くぜ。その施設からは外に出られないけど……」

 

「構わない。メディアが側にいるならそれでいい」

 

「オッケー!それじゃあ、よろしくな。葛木先生!」

 

「うむ、よろしく頼む……九十九」

 

遊馬と宗一郎は固い握手を交わした。

 

一方、カルデアでは突然現れた宗一郎について調べていた。

 

マシュのデミ・サーヴァントやエルメロイII世の諸葛孔明が依代にした特殊なサーヴァントとは異なり、サーヴァントでは無かったが仮初めの肉体を有していた。

 

何故英霊でもない存在である宗一郎が召喚されたのか不明だが、現状分かっているのは宗一郎がメディアと不可視の絆で結ばれており、似た存在ではアンとメアリーのように二人で一騎のサーヴァントのような扱いとなっていることだった。

 

それはメディアの宗一郎に会いたいという願いか、遊馬が無意識に起こした奇跡かどうか分からないことだらけだった。

 

しかし、愛する夫と再会しただけでなくしばらくの間、一緒にいることが確定したメディアはカルデアで見たことがないほど幸せそうに笑顔をして笑っているのだった。

 

「あのメディアがあんなに幸せそうに笑うなんて……羨ましい!ダーリン、お願い!私をギュッと抱きしめて!そして耳元で愛を囁いて!!」

 

「ぬいぐるみに無茶言うなぁ!!」

 

度重なる不幸が重なり、更には裏切りの魔女と呼ばれたメディアが再婚した旦那の宗一郎と羨むほどの幸せそうな表情にアルテミスは軽く嫉妬してオリオンに愛のハグを欲しいと願ったが、ぬいぐるみのオリオンには不可能だった。

 

「……ところで遊馬」

 

アストラルはまるで何か言いにくそうなことを勇気を出すように遊馬に話を切り出した。

 

「何だ?アストラル」

 

「君はいつまでその格好でいるつもりだ?」

 

「えっ?……おわっ!?まだタキシードのまま!?」

 

戦闘中だったことも含め、色々忙しかったので遊馬が白タキシード姿の事を誰もツッコミを入れていなかった。

 

「ネロ!いい加減俺の元の格好に戻せよ!」

 

遊馬の白タキシード姿はネロの力によって変身させられており、まだその解除をしていなかった。

 

「む?良いではないか、ユウマよ。似合っておるぞ?なあ、マシュよ!」

 

「そ、そうですね、とっても似合っていますよ」

 

「よし!とっととこの特異点を片付けたらカルデアで結婚式を開こうではないか!!」

 

ネロの衝撃的な宣言に遊馬とマシュは驚愕する。

 

「何で!?どうして!?そうなるんだ!?」

 

「そうですよ!ネロさんだけずるいですよ!!」

 

「勘違いするではない、マシュよ!そなたもウェディングドレスを着るのだ!」

 

「……ええっ!?どういうことですか!?」

 

「マシュだけではない!カルデアにいるコトリ!ジャンヌ!レティシア!清姫もだ!遊馬を中心にハーレムを築くのだ!!そうすればユウマに恋する者、皆が幸せになれる!!」

 

実はネロは黒髭とのファーストコンタクトの時に黒髭が言っていた『ハーレム』の言葉に思いついたのだ。

 

遊馬に好意を寄せる女性は多い、しかも今後も増える可能性が高い。

 

どうせなら遊馬を中心にハーレムを築いて皆で幸せになろうとネロは考えたのだ。

 

「ハ、ハーレム!?それって重婚、一夫多妻じゃねえか!?でもダメだ!そんなの俺の国じゃ認められてないんだ!!」

 

遊馬の住む国・日本では重婚・一夫多妻が認められていない。

 

現代の世界ではほとんどの国で重婚・一夫多妻が認められておらず、限られた国でしか認められていない。

 

「言うたであろう?ユウマの住む異世界で新しいローマ帝国をユウマと築くと!その国でなら法律は皇帝である余が作る!一夫多妻なんて余裕だぞ!」

 

「いくらなんでも無茶苦茶すぎるだろ!?」

 

遊馬はネロの思い描く未来に頭を悩ませた。

 

そんな様子を見てアストラルはため息をついて呟いた。

 

「異世界観察結果その2……ネロは遊馬の女性関係の大きな着火剤になる……何と恐ろしいことだ……」

 

アストラルはネロの行動力や発想力に感服し、その評価を改めるのだった。

 

ひとまず遊馬はこのままだと動き辛いのでネロに頼み込んで元の服装に戻してもらった。

 

すると、新しい無人島を発見してそこに船を止めようとしたその時だった。

 

「伏せろ!何かが飛んでくる!!」

 

何かが飛来するのを確認したエミヤは大声で注意喚起をし、遊馬達が伏せたその直後。

 

ヒュン!グサッ!

 

「ひゃぅ!?」

 

「ダーリンの頭に矢が!?大当たり!」

 

オリオンの眉間に矢が突き刺さり、敵襲かと思い戦闘態勢を取ろうとしたが……。

 

「遊馬、その矢に何かが括り付けてあるぞ」

 

「あ、本当だ。これは矢文?って、オリオン大丈夫か?」

 

矢には手紙と思われる紙が括り付けられており、遅れたが眉間に矢が刺さってアワアワしているオリオンを心配する。

 

「めっちゃ痛ぇわボケェ!と、とにかく抜かなくては!このっ、このっ……あ、今気づいたけど、俺って自分の頭に手が届かないわ!?抜いてくれ!ほら、早く!」

 

「わ、わかった。アルテミス、頑張る!せーの、ぐーりぐーり!」

 

「痛い痛い痛い!一気に引き抜けよ!何でもったいぶるんだよ!」

 

「あ、私、頼られたことってあまりないから嬉しくって……つい」

 

「眉間に矢が刺さってるのに痛いで済むのかよ……」

 

「ぬいぐるみの体が人間としての仮初めの肉体よりも不思議な耐久力を与えているのだろうか……?」

 

普通サーヴァントでも額に矢が当たれば即死は免れないが、オリオンはぬいぐるみの肉体となっているためか妙にタフな耐久力を持っている。

 

アルテミスはオリオンの眉間から矢を抜くと括り付けられていた紙を外して早速中に書かれた文章を見た瞬間、アルテミスは笑顔になった。

 

「どれどれ……あ!」

 

「アルテミス、どうしたんだ?」

 

「うふふ、知り合いだったわ。相変わらず堅苦しいわね。やっぱり愛を知らない純潔少女だからかしら」

 

「ま、待ってください、アルテミス様。その純潔少女ってまさか……!」

 

メディアはアルテミスが語る知り合いの純潔少女に心当たりがあった。

 

「ええ、そうね。あなたも面識はあるわよね。この娘はーー」

 

それはアルテミスとメディアの共通する知り合いでギリシャ神話で有名な英霊の一人であった。

 

 

遊馬達は無人島に上陸すると矢文を放った者を探しに森の中に入る。

 

周囲を警戒しながら森の中を進んでいくと……。

 

「待て!」

 

凛とした声が森の中から響くように聞こえる。

 

「矢文を寄越したのは、アンタかい!?」

 

「その通りだ……汝らはアルゴノーツを敵とするものか!?それとも既にあきらめ、屈した者か!?」

 

「諦めるもんか!諦めてるなら、ヘクトールのおっさんを倒してねえよ!!」

 

「もう、いい加減に姿を見せたら?相変わらず真面目な子ね、あなたは!」

 

メディアが大声で呼ぶと森から響くその声の主は同様の声を響かせた。

 

「っ!?その声はまさか!?」

 

「心配しなくてもいいわよ、私達はイアソン達を倒すためにここに来たのだから……出て来なさい、アタランテ!!」

 

メディアに呼ばれて森の中から現れたのはフランスの特異点で出会った猫のような耳と尻尾が生えた獣人のような女性だった。

 

アタランテ。

 

ギリシャ神話最高の狩人であり、その技術は超一流にして神域の弓術の使い手。

 

かつてアルゴノーツのメンバーとしてメディアと共に冒険したこともある。

 

「お前……本当にメディア、なのか?」

 

「ええ、久しぶりね。アタランテ。アルゴー船の冒険以来かしら」

 

「そうだな……いや、だがイアソンの隣に……」

 

「あれは昔の私、ここにいるのは……裏切りの魔女と呼ばれるようになった大人の私よ」

 

「そうだったか……それにしても、随分顔色がいいな。もしかして、イアソンを殴り飛ばしたのか?」

 

「そうね、でもそれは私の旦那様がやってくれたわ♪」

 

「だ、旦那様だと……?」

 

きょとんと呆然とするアタランテにメディアは宗一郎の腕に抱きついてイチャイチャしながら紹介した。

 

「ええ!紹介するわ、私の最愛の旦那様……宗一郎様よ!宗一郎様、紹介します。彼女はアタランテ、私の古き友ですわ」

 

「メディアの友か……私は葛木宗一郎。妻が世話になった」

 

イアソンと性格が正反対の真面目で誠実そうな男性である宗一郎にアタランテは顔を引きつらせた。

 

「あ、ああ……よろしく。メディア、とても誠実そうな人でよかったな……」

 

「そうよ!宗一郎様は最高の旦那様よ!かっこよくて渋くて、私を愛してくれてるの!」

 

「そ、そうか……」

 

メディアが昔とはかなり違う……と言うか、もはや別人の領域のキャラで宗一郎と幸せそうにいる姿に戸惑っていた。

 

「ふふふ、アタランテ。愛は偉大なのよ♪」

 

そんなアタランテにアルテミスは優しく語りかけた。

 

「…………え???」

 

アタランテはアルテミスを見て固まった。

 

「はぁい♪お久しぶりね、アタランテ。あなたとは赤ちゃんの時に拾った時以来ね」

 

「…………アルテミス様?」

 

「ええ、そうよ」

 

「いやいや、冗談だろう。アルテミス様は狩猟と純潔の女神であり、間違えてもサーヴァントとして召喚されることはないはずだ」

 

「ねえ、ダーリン?アタランテが信じてくれないの。別にいいじゃない。純潔の女神が愛に生きたって。ねえ?」

 

「はっはっは。ノーコメント、ノーコメントです!」

 

今だに信じられないアタランテにアストラルが何故アルテミスが召喚されたのか説明した。

 

「アタランテ、補足説明させてもらうがアルテミスはこのぬいぐるみ……恋人のオリオンが心配で自身の神霊としてのランクダウンによる代理英霊召喚でこの世界に召喚された。彼女は間違いなく赤子の時の君を救った恩人だ」

 

アタランテはアルカディアの王女として生まれたが、男児を望んでいた父親は森に捨ててしまった。

 

それを哀れに思ったアルテミスが救い、聖獣である雌熊に託して育ててもらったのだ。

 

「……え?本当?」

 

「本当よ、アタランテ。愛に生きる狩猟の女神、それがこの私ーーアルテミス、よ。うふっ」

 

「……(くらっ)」

 

アタランテは信仰して敬っていたアルテミスがまさかこんな恋愛脳(スイーツ)な女神だとは思いも寄らずに立ちくらみをしてしまう。

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫だ。大海の聖杯戦争で、私の精神も少しは鍛えられた……い、今さら自分が信仰していた女神が恋愛脳系だからって頽れたりしない……!!」

 

「分かるぜ、あんたの気持ち……」

 

「確かお前はフランスの時の……」

 

「イメージを押し付けるのはよくないけど、最低限のイメージがぶっ壊れるって……辛いよな……」

 

「分かってくれるか、私の気持ちが……!!」

 

「ああ!分かるぜ!」

 

遊馬とアタランテは英霊や神霊のイメージとは違いすぎる姿に驚愕や落胆し、そこに共感してガシッと握手を交わした。

 

「改めて名を語ろう。我が名はアタランテ。純潔の狩人だ」

 

「俺は遊馬!九十九遊馬だ!」

 

「ユウマか……ところで、ユウマは歳はいくつだ?」

 

「歳?十三だけど?」

 

遊馬の年齢を聞いてアタランテは目を見開いて驚いた。

 

「じゅ、十三だと!!?まだ子供じゃないか!?」

 

「うん、まぁみんなに比べたら子供だけどな」

 

「いけない……」

 

「ん?」

 

「お前のような子供がーー」

 

「待ちなさい、アタランテ」

 

「むぐっ!?」

 

メディアはアタランテの口を押さえてこれから言おうとしていた言葉を塞いだ。

 

「あなたの言いたいことは予想できるけど、今言うことじゃないわ。それは後にしなさい。私達にはやるべきことや話すべきことがあるんじゃない?」

 

アタランテが何を言おうとしたのか友であるメディアにはよく分かっており、今やらなければならないことを考えさせた。

 

アタランテは自分の口を塞いだメディアの手を退けて静かに頷いた。

 

「……分かった。すまない、メディア」

 

「別にいいわよ」

 

メディアはポンポンとアタランテの肩を叩くとアストルフォがジークフリートと共に元気良く挨拶してきた。

 

「やっほー!久しぶりだね、『赤のアーチャー』!」

 

「久方ぶり……と言っておこうか」

 

「っ!?お、お前達は『黒のライダー』に『黒のセイバー』!??」

 

アストルフォとジークフリートの登場にアタランテは困惑した。

 

「いやー、あの時は敵同士だったけど今度は味方みたいでよかったよかった!」

 

「君は素晴らしい弓の使い手だ。共に戦えることを誇りに思う……」

 

どうやらどこかの聖杯戦争で戦ったらしく、特にアタランテは気まずい表情を浮かべていた。

 

「あ、あぁ……そうだな……こほん……では、少し遅れたが紹介したいサーヴァントがいる。『契約の箱』を持つサーヴァント。要するに、アルゴノーツが求める男だ。出てこい!」

 

「全く、忘れられたのかと思ったよ」

 

森の奥から出て来たのは杖を持った緑髪の青年だった。

 

「この海域において、最初に召喚されたサーヴァント……ダビデだ」

 

「ダビデって、あのイスラエルの王!?」

 

「神の子、イエス・キリストの祖か……!」

 

ダビデ。

 

旧約聖書に登場するイスラエルの王で巨人ゴリアテをたった一人で倒したと言われている。

 

ダビデはこの特異点において重要なキーアイテム……契約の箱について説明した。

 

契約の箱はダビデの宝具であり、モーゼから授かった十戒が刻まれた石版を収めた木箱であるが、この箱に触れさせれば相手が死ぬ効果を持つ。

 

本人曰く宝具としては三流で霊体化することができず、ダビデと共に現物として召喚されるのだ。

 

仮にダビデが倒されて消滅されても誰かが所有していれば残り続ける。

 

イアソンが契約の箱を狙っているとアタランテから聞かされて、遊馬達のように正しく召喚されたもの達が現れるのを待っていたのだ。

 

しかしここで一つ大きな疑問が出てくる。

 

遊馬とネロはヘクトールからイアソンの目的が契約の箱にエウリュアレを生贄に捧げると聞いていた。

 

契約の箱は王であるダビデが神に捧げた聖遺物であり、イアソンの望む王の資格でも何でも無いのだ。

 

仮に神霊であるエウリュアレが契約の箱に生贄に捧げれば、それに伴い世界が『死ぬ』。

 

特に不安定な世界であるこの特異点が消え去ってしまうのだ。

 

「もしかして、イアソンは誰かに踊らされているのかも……」

 

「踊らされている?」

 

「ご存知だと思うけど、イアソンは生前の様々な境遇から王になりたかった……だからこそ契約の箱にエウリュアレを捧げれば王になれると……そう『誰か』が入れ知恵したのかもしれないわ」

 

イアソンのことを一番理解しているメディアはそう推測する。

 

「契約の箱か……アストラル、ヌメロン・コードとどっちがヤバイかな?」

 

「ふむ……神から授かれた石板が収められた箱……世界が消滅する力も秘めているから比べるのも難しいな」

 

「何だい?そのヌメロン・コードは?」

 

「ん?ああ。過去・現在・未来……世界のあらゆる運命を決めることができる神のカードだ」

 

ダビデの質問にあっさり答えた遊馬にヌメロン・コードのことを始めた者達は衝撃を受けた。

 

「……な、何だと!?そんなカードは聞いたこともないぞ!?」

 

「当たり前だよ、多分俺の世界にしかないものだからな」

 

遊馬とアストラルはヌメロン・コードの事やそれを賭けた戦いについて簡潔に話し、ただの子供のマスターではないと思ったがとんでもない英雄であることにこの特異点の世界で出会った者達は驚いた。

 

「ヌメロン・コード、か……もしそれがあれば……」

 

そんな中、アタランテはヌメロン・コードの話を誰よりも真剣に聞いて何かを考える仕草をしていた。

 

「あ、そうだ。あの幼いメディアは契約の箱の知ってるのかな……?」

 

「それは分からないわ。でも……」

 

「でも?」

 

「私が言うのも何だけど、あの幼い私……なんか変なのよね……なんて言うか、何かに諦めていると言うか……」

 

メディア・リリィに対して違和感を覚えるメディアの言葉に遊馬は脳裏にあの光景が浮かんだ。

 

それはこの特異点に来る前に見たメディア・リリィが強大な闇に敗れ去る夢の光景……。

 

遊馬は隠しておかないほうがいいと思い、正直に話し始める。

 

「みんな、聞いてくれ。実はーー」

 

遊馬の口から語られた夢の内容を話すと、その内容に驚いた。

 

まだその時は会ったこともないメディア・リリィが夢に出て来るのは普通ならありえないからだ。

 

「マスター……まさかあなた、『予知夢』が見えるの?」

 

人が寝ている時に見る夢には古来から何かしらの意味があり、神のお告げや未来が見えるなどの不思議な力があると言われている。

 

「わからねえ……でも、不思議な夢は今まで何回も見たことがあるんだ」

 

遊馬は過去数回、アストラルとの出会いや新たな戦いなどそれを予兆する不思議な夢を何度も見てきたのだ。

 

「異世界の英雄であるマスターが見たなら何か意味があるのかも……でも、私の過去にそんな闇と戦った記憶はないわ。もしかしたら、あの小娘に何かあったのかも……」

 

メディア・リリィに更なる謎が深まり、まだ謎を解明するためのピースが不足している。

 

アストラルはエウリュアレを守り、契約の箱を奪われないためにまず考えなければならないことに向けて話を変える。

 

「今は幼いメディアの事は一先ず置いておこう。我々が考えなければならないのはヘラクレスをどうするかだ。ヘラクレスを倒さない限り我々の勝利はない」

 

ヘラクレスこそ遊馬達にとってこの世界における最大の壁とも言っても過言ではない。

 

「それならご心配ありません。ここにヘラクレスの十二の命の大半を奪ったサーヴァントがいますから。ですよね?アルトリア、エミヤ」

 

「ええ、お任せください」

 

「ヘラクレスは私達に任せたまえ」

 

メドゥーサはアルトリアとエミヤに視線を向けると頼もしく二人は頷いた。

 

「しかし、ヘラクレスは何とかなるにしても、一つ気になる点があります」

 

アルトリアはヘラクレスと戦闘し、戦った時の感想や直感で違和感を覚えていた。

 

「気になる点?」

 

「彼はバーサーカークラスの狂化スキルで理性は失ってますが、私とシロウが出て来たときに僅かながら驚いていました。あの様子だと少なくとも、ヘラクレスは私達とかつて戦った聖杯戦争の時の出会った記憶が残っている可能性があります。それに、彼はあちらが欲しているエウリュアレを奪うどころか何故か殺しそうな勢いでした……もしかしたら、ヘラクレスは契約の箱にエウリュアレを捧げたらこの世界が崩壊すると分かっているのでは無いでしょうか?」

 

「なるほど……私達があの聖杯戦争で戦った時と何か違和感を感じると思ったらそう言うことか……」

 

ヘラクレスは契約の箱にエウリュアレを捧げないようにイアソンの命令を無視してエウリュアレを殺そうとしているかもしれない……つまり本当の意味では敵では無いことに遊馬は何かヘラクレスを助けることができないから悩み始める。

 

「……ヘラクレスを何とかできないかな……」

 

「一応手はあるわよ」

 

メディアは懐から歪な形をした不思議な短剣を取り出した。

 

「何だその剣?随分変な形をしてるけど……」

 

「私の宝具、『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。あらゆる魔術を初期化することが出来る最強の対魔術宝具よ」

 

「マジで!?」

 

それは裏切りの魔女と呼ばれるメディアの伝説が具現化した宝具である。

 

「こいつがあればマスターとサーヴァントの契約を打ち消すことが出来るわ。これでヘラクレスとイアソンの契約を切れればいいけど……あのバーサーカーのヘラクレス相手にこれを突き刺す隙は無いと思うわ。それに……」

 

「それに?」

 

「仮にヘラクレスの契約を消したとしても、なんだかんだでイアソンとは友の関係だったからね……もしかしたら、あくまで可能性だけどヘラクレスはイアソンを裏切らないかもしれないわ……」

 

「それじゃあ、倒すしか無いってことか……」

 

「それなら私とシロウに任せてください。私の約束された勝利の剣とシロウの切り札で必ずヘラクレスの十二の命を奪ってみせましょう」

 

「ふっ……大役だが、何度もヘラクレスと刃を交えている我々が適任だろう」

 

アルトリアとエミヤはヘラクレスを倒すことに意気込むが、遊馬は目を閉じて静かに考えるとある決意をする。

 

「……アルトリア、エミヤ、みんな。頼みがある」

 

それは誰もが驚く内容であり、特にアタランテが激昂して止めるように必死に説得したが遊馬の決意は変わらなかった。

 

そして、遊馬がこの場で唯一言うことを聞く存在であろうアストラルが止めてくれると期待したが……。

 

「……分かった、遊馬。私も覚悟を決めよう。共に行くぞ!」

 

「アストラル……!そう言ってくれると信じてたぜ!!」

 

アストラルも遊馬の意向に賛成して二人はハイタッチを交わす。

 

遊馬とアストラルの意見が合致した時にはもはや誰も止めることは出来ない。

 

「はぁ……仕方ないわね。こうなったマスターは止められそうに無いから、やるしか無いわね。アステリオス、手伝いなさい」

 

「ぼく……?」

 

「あなた、宝具で島全体を覆うほどの結界を作れるでしょ?そこに私がこの島を神殿にして、最低でも明日の明朝まであいつらが来れないようにしてやるわ」

 

メディアにはキャスターとしてのスキル、陣地形成があり、魔術師として自らに有利な陣地『工房』を作る能力。

 

陣地形成のスキルはAランクでメディアにかかれば『工房』を上回る『神殿』レベルの陣地が作成可能である。

 

そこにアステリオスの宝具、『万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)』を島の地下に生成し、一定範囲内の侵入及び脱出を阻害する結界の効果を利用してイアソン達が島には入れないようにする。

 

「あのヘラクレスが相手ですもの。今日は準備と休養を取らなければならないわ。それから、そこにいるカルデアのオカンは食事の用意をよろしくね」

 

「誰がオカンだ!?」

 

そう言いながらもエミヤはエプロンと調理器具を無意識に投影するあたりがカルデアのおかんの異名に箔をつけているのだった。

 

「……メディアよ」

 

「何でしょう?宗一郎様」

 

「私は何も手伝えないが……お前を見守ろう。頑張れ」

 

宗一郎に応援された瞬間、リミットが外れたかのようにメディアの魔力が爆発した。

 

杖を構えたメディアは満面の笑みで頷いた。

 

「はい!見ていてください、宗一郎様!!」

 

この時、メディアの陣地形成のスキルのランクが愛の力によってAから上のランクに跳ね上がるのだった。

 

「古き友と敬愛する女神が恋愛脳系に……どうしてこうなった……?」

 

純潔の狩人であるアタランテは友と女神が凄まじい恋愛脳に卒倒しかけるのだった。

 

そして、アステリオスが万古不易の迷宮を発動して島全体に結界を覆うとメディアはすぐさま島を自らの魔術工房……神殿に作り変えてイアソン達が侵入できないようにするのだった。

 

遊馬達は明日の壮絶な戦いに向けて島で英気を養うのだった。

 

その夜、皆が寝静まった頃……遊馬は明日の戦いに興奮して目が覚めてしまい、森を出て砂浜に向かった。

 

砂浜を歩いていると近くにあった岩の上に一人の女性が座っていた。

 

「あれ?アタランテ?」

 

「ユウマか……」

 

一度は敵対し、戦った遊馬とアタランテ……二人の対話が始まるのだった。

 

 

 

.




次回は遊馬とアタランテの対話です!
子供の守護者であるアタランテと遊馬先生の対話は前から書きたかったので楽しみです!
ちなみにこちらのアタランテはアポクリファの記憶ありです。
アルテミスだけでなく再婚したメディアの恋愛脳には心労が倍増しそうですね(笑)


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ナンバーズ50 アタランテの願いと遊馬の思い

今回は仕事が忙しくてかなり短めです、すいません。
遊馬とアタランテの話です。


遊馬はヘラクレスとの決戦前夜に海辺で散歩をしていると岩の上で座るアタランテを見つけると、軽やかに岩に登ってアタランテの隣に座る。

 

「随分鍛えているようだな……十三とは思えないな」

 

「はっはっは!見事なマッスルボディのサーヴァントに鍛えてもらってるからな!」

 

「いやいや、子供のうちからそんなに鍛えてどうする……」

 

きっと暑苦しいサーヴァントから教わっているのだろうとか想像しながらアタランテがツッコミを入れるが、まさにその通りである。

 

「うーん、せっかくだから大人になるぐらいには父ちゃんぐらいの肉体になりたいな!」

 

「……どうやらお前は父に愛されているようだな」

 

「ああ。父ちゃんは俺を大切にしてくれてーーあっ!?アタランテ、ごめん……!」

 

アタランテが父親に捨てられたことを思い出し、自分が父に大切にされていることを口にしたことをすぐに謝った。

 

申し訳なさそうな表情をする遊馬にアタランテは優しい笑みを浮かべて頭を撫でた。

 

「気にするな。お前が父から……両親から愛されているのなら私はそれが嬉しい」

 

「えっと……どうして?」

 

「……私の願いは『この世全ての子供たちが愛される世界』だからだ。例え世界が異なる子でも、その気持ちは同じだ」

 

それはこの世に生を受けた子供は皆、両親からも周囲の人々からも愛され、そうして育った子供たちが新たに生まれた命を愛するという世界の循環……それがアタランテの思い描く願いである。

 

「全ての子供が愛される世界か……うん、素敵な願いだと思うぜ」

 

「そうか……わかってくれるか……ユウマ!頼みがある!」

 

アタランテは何かを決心したような様子で遊馬の肩を掴んでグイッと顔を近づけた。

 

「え?な、何?」

 

「頼む、私に……私にヌメロン・コードを貸してくれ!!」

 

「…………はぁ!?ヌメロン・コードを!?」

 

「私に出来ることなら何でもする!!この身を……いや、この存在の全てを捧げても構わない!!だから!!」

 

あまりにも必死に頼むアタランテに遊馬は戸惑いや疑問から圧倒されている。

 

「いやいや、ちょっと待てよ!なんでヌメロン・コードが必要なんだよ!?」

 

「私は……全ての子供を幸せにしたい。だから、ヌメロン・コードを使って過去から現在、そして未来の全ての子供を幸せにする!」

 

それは自身の父親から捨てられた経験から導き出したアタランテの願い。

 

全てを創造し、世界の全ての命運を決めることができるヌメロン・コードなら聖杯よりも確実に行えると確信して遊馬に頼み込んでいる。

 

「だから、頼む……私に、ヌメロン・コードを……!!」

 

「アタランテ……」

 

アタランテの必死な気持ちは遊馬によく伝わった。

 

遊馬自身も幼い頃に両親が行方不明となり、寂しく辛い日々を送った。

 

そして世界には遊馬よりも辛い日々を送った子供達が数えきれないほどたくさんいる。

 

それをとても理解し、その気持ちに賛同したいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタランテ……ダメだ。ヌメロン・コードは絶対に貸せない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、遊馬はその気持ちに応えなかった。

 

遊馬に断られ、アタランテは絶望したように酷く悲しい表情した。

 

「な、何故だ……お前なら分かってくれると……」

 

「アタランテの気持ちは痛いほどよくわかるよ。でも、世界はそう簡単じゃねえよ。前になんかで聞いたことあるけど、世界は……誰かの幸福が、誰かの不幸で出来てるって……」

 

「私はそんなことを認めない!!」

 

遊馬の悲しい言葉にアタランテは真っ向から否定したが、それは遊馬自身が経験したからこそそう言えたのだ。

 

「……俺は実際にそういう経験をしたからさ。俺の不幸が誰かの幸福になったから……」

 

「何……!?それはどういうことだ!?」

 

「……俺の父ちゃんは異世界の研究をしているDr.フェイカーって男に協力していたけど……異世界の扉を開くために父ちゃんと友人のトロンを生贄にされたんだ」

 

あまりにも衝撃的な内容にアタランテは耳を疑い、思わず遊馬の両肩を掴んでしまった

 

「い、異世界の扉を……?何故だ!?何故そんなことにユウマの父が!?」

 

「Dr.フェイカーには病気で生死をさまよっていたハルトって息子がいたんだ。ハルトを救うためには異世界の力が必要だったんだ……結果、異世界の力を手に入れたDr.フェイカーはハルトを治すことはできなかったが、延命は出来た……」

 

「自分の子供を救うために……異世界の力を……だがそれでユウマの父とそのトロンという者が……」

 

「トロンには三人の子供がいたんだ。でもトロンが行方不明になり、三人は辛い人生を送ることになったんだ。でも、辛いのはその後だった。トロンは異世界から帰ってきたけど、その姿が子供になって顔の半分を失ってしまったんだ……」

 

「そ、そんな……」

 

「トロンは復讐者になり、三人の子供と共にDr.フェイカー達に復讐しようとしたんだ」

 

「子供と共に復讐だと……!?」

 

自ら復讐者になるだけでなく自分の子供まで巻き込んだことにアタランテは怒りを爆発させそうになった。

 

しかし、遊馬はアタランテを安心させるように笑顔を見せた。

 

「でも心配するな。俺とアストラル、そしてシャークとカイトって言う頼もしい仲間のお陰でDr.フェイカーとトロンを倒して優しい心を取り戻してやったからさ。Dr.フェイカーの方はハルトの病気も無事に治ったし、トロンは家族の絆を取り戻して仲良く暮らしているからさ!」

 

一見、解決したかに思えた話だったが、それでも遊馬の父は帰っていないことにアタランテは声を震わせる。

 

「ユウマは……」

 

「ん?」

 

「ユウマは……復讐しなかったのか?父は行方不明のままだったのだろ……?」

 

似たような質問を第二特異点のローマでブーディカに尋ねられた時と同じように遊馬は語る。

 

「……前にブーディカって言う俺の仲間のサーヴァントにも言ったんだけど、Dr.フェイカーの事は確かに憎いさ。でも、Dr.フェイカーは自分を犠牲にしてでもハルトを助けたかったんだ。多分父ちゃんなら、仕方ないって笑うと思うからさ。そう思ったら、憎しみの心も復讐の心も消えちまったよ……」

 

「受け入れたと言うのか……?己の不幸を……他人の幸福のために……」

 

結果的に遊馬が不幸を受け入れた事でハルトは救われ、幸福となった。

 

もし仮にハルトが異世界の力で延命しなかったらハルトは病に伏し、Dr.フェイカーとカイトは不幸となり、遊馬は父と離れ離れにならずに家族と幸福な日々を過ごしていたことになっただろう。

 

正しく誰かの幸福が誰かの不幸と言う言葉の通りだった。

 

「世界は簡単じゃないんだよ。人の心は複雑だし……『運命』は……『未来』は何が起こるか分からない。人は誰しもいつも幸福じゃないし、不幸な事ばかり起きることもある。ヌメロン・コードは使った事はないけど、すげぇ力が秘められているのは分かってる。でも、仮にヌメロン・コードの力を使ってもアタランテの望む世界は実現するとは限らない……もしかしたら、別の形で子供達が不幸になるかもしれない」

 

「だが、だからと言って子供が不幸になっていい理由にならない!!」

 

「……確かに世界には子供を平気で傷つけたり、その命を奪う奴らは沢山いる。だけどな、そんな世界にも子供達のために必死で戦っている人たちは沢山いるんだ。俺の仲間にも子供達のために戦う人たちがいるからさ……」

 

それは遊馬の敵だったが、遊馬のデュエルに惹かれて仲間になった二人、ゴーシュとドロワである。

 

ゴーシュはプロデュエリスト、ドロワはゴーシュのマネージャーとして世界を飛び回り、デュエルで子供達の希望の光となるために戦い続けているのだ。

 

「アタランテの願いは確かに正しいのかもしれないけど、仮にその願いを叶えようとしたら子供達の為に必死に戦っている全ての人たちの想いが無駄になるかもしれないんだ……」

 

「私の願いはヌメロン・コードでも叶わないのか……」

 

アタランテの願いはヌメロン・コードの力を使っても叶う事はない。

 

遊馬に諭され、アタランテに宿る希望の光が打ち砕かれて項垂れてしまう。

 

「それもそうか……目の前にいる一人の子供が不幸にいるのに、何も出来ない私が何をしても無駄ということか……」

 

子供の幸せを願いながらも目の前にいる子供である遊馬に対して何も出来ないことにアタランテは更なる自責の念を抱いた。

 

「誰が不幸なんだ?」

 

「決まっているだろ……ユウマ、お前の事だ……」

 

「俺、別に不幸と思ってないけど……」

 

「嘘をつくな……邪神を倒して平和になった世界で日常を取り戻したと言うのに異世界の未来を守る戦いに巻き込まれて不幸以外に何がある……」

 

大人でも震えるであろう人類と世界の未来を救う旅を小さな子供がやらなければならないことは不幸と考えるのが普通である。

 

「不幸か……確かにカルデアのマスターとして、人類と世界の未来を救う最後の希望として俺は戦うことになった……」

 

遊馬は自分の令呪とデッキケースからフェイトナンバーズを見てそう呟く。

 

しかし、遊馬は令呪とフェイトナンバーズを愛おしそうに自分の額に持っていくと今の気持ちを正直に話した。

 

「でも、俺は今結構幸せなんだぜ?こいつのおかげでたくさんの大切なものが出来たからさ」

 

「大切なもの……?」

 

「ああ。マシュ、フォウ、オルガマリー所長、ロマン先生、ダ・ヴィンチちゃん、カルデアの職員のみんな……そして、特異点で出会い、俺の仲間になってくれた全てのサーヴァント達……みんなに出会えて本当に幸せなんだ」

 

「出会えたことが幸せなのか……?」

 

「もちろん!マシュは俺のもう一人の大切な相棒だし、フォウは俺たちを癒やしてくれるし、オルガマリー所長は姉ちゃんみたいに厳しいけど意外に優しいし、ロマン先生は楽しくて面白いし、ダ・ヴィンチちゃんはいつも凄い発明をしてくれる!それに……サーヴァントのみんなは歴史に名を残す人物、神話や物語の登場人物なんだぜ?興奮するし、最高に嬉しいに決まってるじゃないか!」

 

冒険家の両親を持つ遊馬にとって英霊に出会える事は最高に嬉しいことである。

 

歴史に存在した人物のみならず空想と思われた神話や物語の人物まで出会えるのなら、なお嬉しさが倍増である。

 

「もちろん、アタランテにも出会えたことは嬉しいぜ!」

 

「私、もか……?」

 

「ああ!だってギリシャ神話最高峰の狩人だぜ!弓矢を使うところとかカッコいいし、鮮やかで綺麗だったからさ!」

 

アーチャーのクラスにふさわしいアタランテの弓矢の扱いに遊馬は感動し、共に戦えることを誇りに思った。

 

アタランテは月と星の光で輝く遊馬の目を見て思った。

 

なんて純粋で心優しい子供なのだろう……と。

 

人は成長すれば色々なものを目にして純粋な心が少しずつ穢れていくものだ。

 

しかし、遊馬は数多の生死を賭けた戦いを潜り抜け、人々には知られていないが、人類と三つの世界を救った英雄となった。

 

そんな遊馬の心は穢れず、他人を思いやるほどの優しく純粋でいられている。

 

アタランテはそんな遊馬を見てあることを決めた。

 

(守りたい。マスターを守るサーヴァントとしてではなく、一人の英霊として……この子の歩む未来を守るために戦う……!!この子の未来が、全ての人の未来に繋がると信じて……!!!)

 

未来を守るため、人類を守るためにアタランテは遊馬を守ると決めた。

 

「ユウマ……私は決めた。お前を守るために全力で戦おう。お前……いや、あなたの望む未来を信じる」

 

「おう!よろしくな、アタランテ!!」

 

「ああ。よろしく頼む、ユウマ」

 

遊馬はアタランテと握手を交わし、契約を結んだ。

 

二人の結ばれた強い絆で第一特異点のフランスでアタランテを倒した時に残したフェイトナンバーズに絵と真名が浮かび上がった。

 

太陽と月をバックに『天穹の弓』を構えたアルテミスが描かれている。

 

真名は『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』。

 

ここにまた新たなフェイトナンバーズが誕生し、明朝……遂にギリシャ神話最高にして最強の大英雄・ヘラクレスとの決戦が待ち構えるのだった。

 

それは遊馬とアストラル、限界を超えた新たな境地へと向かう戦いとなる。

 

 

 

.




ヌメロン・コードならアタランテの願いも叶えられそうな気がしますが、やっぱり難しいと思いますよね。

そもそもヌメロン・コードは異世界で使えるかわからないし、アストラル世界で封印されているので物理的に使えないかもしれないですが、遊馬はあえてそれを話さずにアタランテに諦めて欲しかったわけです。

アタランテが102なのは……察してください(笑)

次回はいよいよヘラクレスとの対決です。
遊馬とアストラルの限界を超えた戦いが始まります!


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ナンバーズ51 限界を越えた極限の戦い

最近血界戦線にハマってしまい、漫画全巻を大人買いしてしまいました(笑)

あれは面白い作品です。

レアリティコレクション、思わぬフラゲがありましたが竜騎士ブラック・マジシャンが一番欲しいですね。

私のブラマジデッキが更なるランクアップに向かえます。


特異点に来てから何度目かの朝……朝日が昇り、遊馬達はエミヤが作った朝食を食べ、それぞれが戦いの前の準備に入る。

 

遊馬は気合いを入れるために元気の源であるデュエル飯をカルデアにいる小鳥から送ってもらい、一気に食べて呑み込んだ。

 

「美味え……やっぱり小鳥のデュエル飯は最高だぜ」

 

「遊馬」

 

「ん?アストラル、お前も食うか?」

 

「いや、今はいい。昨夜、よくアタランテを説得したな」

 

「聞いてたのか?眠っていたと思ってたぜ」

 

ヌメロン・コードを使うことを願ったアタランテを遊馬は自身の思いの全てを語り、アタランテを諦めさせた。

 

もしもの時はアストラルが出て無理矢理でもアタランテを説き伏せようと思ったが、それは杞憂に終わった。

 

「遊馬、私は君を誇りに思う。君は本当に優しく、強い男だ」

 

「よせよ、照れるじゃねえか」

 

「照れる必要はない。では、そろそろ行こうか」

 

「ああ、そうだな」

 

遊馬は指をぺろっと舐めるとデュエルディスクとD・ゲイザー、そして原初の火が収められたソードホルダーを装着する。

 

「遊馬くん、準備いいですか?」

 

「良いぜ、マシュ」

 

しっかり睡眠と食事をとって絶好調のマシュは盾を持ってやって来た。

 

「フォウフォーウ!」

 

マシュの肩に乗っていたフォウは頑張れと応援するように鳴き声をあげた。

 

「サンキュー、フォウ。お前は危ないからエウリュアレ達の元にいてくれ」

 

「フォウさん、見守っていてくださいね」

 

「フォウ!」

 

これから起きる戦いは今までで一番激しいものになることは間違いない。

 

フォウは安全のためにエウリュアレの元で避難することになっており、近くにいるエウリュアレの元へ走った。

 

そして、共に戦うサーヴァント達と共に森を出て浜辺に集まる。

 

アステリオスの宝具とメディアの魔術による結界を解くとアルゴー船が静かに近づいてくる。

 

大まかな作戦としてはアーチャーを中心としたサーヴァントで遠距離攻撃を繰り出してアルゴー船にいるイアソンを狙い、必ず出てくるであろうヘラクレスを無人島に引きつけて遊馬達で戦闘を行う。

 

アーチャーの名に相応しいサーヴァントであるアタランテを筆頭にこの特異点に召喚されたアーチャークラスのサーヴァントで一斉射撃を行う。

 

「さて、遠慮なく宝具の大盤振る舞いをさせて貰おうか。太陽神と月女神に捧ぐ。『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!!」

 

「あらやだ、捧げられちゃった♪ふふ。それじゃ、私も行っくよ〜!宝具展開!愛を唄うわ!『月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)』!!」

 

「あんな最低男に私の宝具をやるのはもったいないかもだけど。ま、いいわ。遠慮なく、贈ってあげる。宝具ーー『女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)』!!」

 

「いやあ、モテモテで羨ましいなイアソン君。これはそんな僕からのお裾分け。宝具ーー『五つの石(ハメシュ・アヴァニム)』!!」

 

怒涛のアーチャー四連続遠距離宝具は的確にイアソンを狙って飛んだ。

 

そして、宙に浮いたメディアの背後に数多の魔法陣が現れ、そこから大きな魔力の塊が現れる。

 

「受けなさい、イアソン!『灰の花嫁(ヘカティック・グライアー)』!!」

 

杖を振り下ろすと全ての魔法陣から同時に全力全壊の魔力弾が連射される。

 

ヘカテリック・グライアーはメディアの最強魔術であり、本来なら相手を呪詛で束縛した上で放つのだが、今回はイアソンを遠距離攻撃出来るアーチャー組で狙い撃ちをするので特に問題ない。

 

宝具や魔術の遠距離攻撃でひたすらイアソンを狙い、イアソンはビクビクと震えながらメディア・リリィに守ってもらっている。

 

「なんかさ、こうしてみると一種の集団暴行だよな……」

 

「うっ……そう考えると心が痛みます……」

 

「イアソンは戦闘能力が皆無らしいからな……だがこれは確かに酷い」

 

イアソンは契約の箱を使ってエウリュアレを生贄にしようとしており、おそらく騙されているとは言え王になるためにこの世界を滅ぼそうとしている。

 

そのことに一番腹を立てているのはメドゥーサであり、何だかんだ弄られても姉を大切に思っているのでイアソンを倒すために遊馬にある頼みをする。

 

「ユウマ」

 

「ん?どうした、メドゥーサ」

 

「スペリオル・ドーラを出してもらえますか?下姉様を狙うあの金髪馬鹿を撃ち抜きます」

 

「メドゥーサ、お前もか!?」

 

スペリオル・ドーラの巨大砲弾を使ってイアソンどころかアルゴー船を完膚なきまでに吹き飛ばそうとしていた。

 

「あ。なんならダイソン・スフィアでも。天の裁きを下します」

 

「ちょっとメドゥーサさん!?作戦忘れてませんか!?イアソンを葬ることだけ考えてないか!?」

 

「えー……では拷問系や処刑系のナンバーズはありますか?それでイアソンを滅します。メディアもノリノリで賛同するでしょう」

 

「そんなものあるわけーーやべぇ、あるよ、そう言えば……」

 

遊馬は使ったことはないがナンバーズには拷問や処刑をイメージした凶悪な姿や効果を持つモンスターがいる。

 

仮にそのナンバーズをイアソンに対して使ったら……。

 

「ダメダメダメ!!絶対にダメだ!!あんなの使ったらトラウマになる!俺だけじゃなくてマシュもトラウマになるから!!」

 

「あぁ、あれはマズイ……以前ホープが一度犠牲になったが、あれはショッキングだな。モンスターが別なら下手をすれば……映画でいうならR18Gものの映像になるな」

 

「待ってください!一体ホープに何があったんですか!?」

 

ナンバーズはただ勇ましくカッコいいモンスターだけでなく多種多様の様々な姿を持っているのでとても奥が深い。

 

そうこうしているうちに作戦通り、ヘラクレスが出てきて無人島に向けて海を走ってきた。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

「来やがったぜ、エミヤ!!」

 

「任せてもらおう!アルトリア、マシュ、ジークフリード!時間稼ぎを頼む!!」

 

「マシュ、ジークフリード、頼みますよ」

 

「はい!全力で守ります!」

 

「私も微力ながら全力を尽くそう」

 

エミヤが目を閉じて『切り札』を出す準備をするとヘラクレスを足止めして時間稼ぎをする為にアルトリアとマシュとジークフリードの三人で立ち向かう。

 

そして、エミヤから膨大な魔力が迸り、カルデアからの魔力供給とナンバーズのエネルギーを使い、切り札を発動させる。

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.) 血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

それはエミヤの生き様を示すような詠唱だった。

 

弓兵のアーチャーでありながら刀剣を扱う異質なサーヴァント……エミヤ。

 

それはエミヤの体に宿るアルトリアと繋ぐあるものが起源である。

 

幾たびの戦場を越えて不敗。(I have created over a thousand blades.) ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death.)ただの一度も理解されない(Nor known to Life.)

 

まだ遊馬達に話してないが、エミヤは理想を追い求めるためにその人生は戦いそのものだった。

 

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons.)

 

その理想には明確な答えはない。

 

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything.)

 

そもそも、答えなど最初から存在しないのかもしれない。

 

それでも彼は歩き続けた。

 

その体は(So as I pray,)

 

それはエミヤの大切な人とのたった一つの約束から全ては始まった。

 

きっと剣で出来ていた(UNLIMITED BLADE WORKS.)

 

詠唱が完了した瞬間、青い海と空が広がる世界は炎に包まれた。

 

生命の源である海に満ち溢れた世界は一転し、果てしない地平線が広がる荒野だった。

 

空には雲に代わり、巨大な歯車が動きながら浮かんでいた。

 

そして……一番最初に目につき、印象に残るのはまるで墓標のように荒野に無数に突き刺さる数多の刀剣が悲しげに輝いていた。

 

「これが、エミヤの切り札……!」

 

「これは、間違いありません!固有結界です……!」

 

「固有結界……術者の心象風景の具現化……魔術の到達点の一つと言われている大魔術か。しかし、この世界は……」

 

アストラルはこの異様な光景に目を疑う

 

墓標のように荒野に突き刺さる刀剣は名のある有名な武器もあれば、無名の武器もある。

 

この世界にはありとあらゆる古今東西の刀剣が満ちていた。

 

「剣を作るのではない、無限に剣を内包した世界を創る。これが、この私……『エミヤシロウ』に許された魔術!!」

 

エミヤは荒野に突き刺さった剣を一本抜きながら静かに構える。

 

「『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)』!!!」

 

これこそがエミヤの唯一無二の宝具にして切り札……無限の剣製。

 

それを知るアルトリアとヘラクレス以外の誰もが驚愕していた。

 

「ヘラクレスよ、貴様がこの世界を見るのは二度目だな。あの時の己を越えるために……今度こそ貴様を倒させてもらう!」

 

エミヤは一度、無限の剣製を使いながらヘラクレスに敗れていた。

 

しかし、今度こそ倒すためにエミヤは改めて覚悟を決めた。

 

「やるじゃねえか、エミヤ。今度は俺たちの番だな。アストラル!」

 

「ああ!行こう、遊馬!」

 

エミヤの無限の剣製に戦いに必ず勝つという強い意志に感化され、遊馬とアストラルは静かに前に出た。

 

ヘラクレスは自身を恐れない遊馬とアストラルを静かに見つめた。

 

「俺の名は九十九遊馬!」

 

「我が名はアストラル!」

 

「ヘラクレス、人類と世界の未来を守るためにあんたを越えさせてもらう!!!」

 

「大英雄よ……あなたと言う巨大な壁を乗り越え、我々の今ある限界を越える!!!」

 

遊馬とアストラルは世界的に有名な大英雄・ヘラクレスを乗り越えるためにエミヤと共に戦うことにした。

 

それはこれからの特異点の未知なる戦いで今の力では勝つことができない相手が現れるかもしれない。

 

世界的に有名で上位のサーヴァントであるヘラクレスを倒し、更なる高みへのランクアップを目指すために挑戦するのだ。

 

「行くぜ、アストラル!」

 

「ああ、遊馬!」

 

遊馬とアストラルは手を高く掲げた。

 

「俺と!!」

 

「私で!!」

 

「「オーバーレイ!!!」

 

遊馬とアストラルは赤と青の光となって天に昇る。

 

荒野を天翔ける遊馬とアストラルの姿にヘラクレスのみならずその力を知らない全ての者が驚愕した。

 

「「俺達/私達、二人でオーバーレイ・ネットワークを再構築!!!」」

 

天に高く登った遊馬とアストラルが一つに交差し、空に巨大な金色の『X』の光が現れると地面に垂直落下する。

 

「「遠き魂が交わる時、語り継ぐべき力が現れる!!!」」

 

遊馬とアストラルの肉体と魂が一つに交わり、究極の力が姿を現わす。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

ギリシャの大英雄を越えるため、希望と絆の力を宿した勇者が降臨する。

 

「「ヘラクレス、必ずお前/あなたを倒す!!」」

 

ZEXALは右手を掲げると、周囲に無数の光が現れて右手に収束される。

 

ヘラクレスはZEXALが何かをする前にバーサーカーとして攻撃すべきであるが、ヘラクレスは狂化されながら残された僅かな理性でそれを抑えた。

 

それは何故か?

 

大英雄を前にして恐れずに堂々と立ち向かう幼い少年とその相棒の精霊が戦いの為の力を呼び出そうとしている。

 

サーヴァントの前に一人の戦う者としての礼儀としてそれを邪魔することは出来なかった。

 

「「俺/私のターン!最強デュエリストのデュエルは全ては必然!ドローカードさえも、デュエリストが創造する!全ての光よ!力よ!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!」」

 

デッキトップが光り輝き、ZEXALの力で思い描き、その場で創造したカードを勢いよくドローする。

 

「「シャイニング・ドロー!!!」」

 

シャイニング・ドローで創造したカードを見てZEXALは笑みを浮かべ、初期手札の5枚のカードの内の1枚を召喚する。

 

「「『レスキューラビット』を召喚!」」

 

ゴーグルとトランシーバーを持った可愛らしい兎が召喚される。

 

しかし、その可愛らしい姿と裏腹に強力な効果を持つ。

 

「「レスキューラビットの効果!フィールドのこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚する!この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される!デッキから2体の『ちびノブ』を特殊召喚!!」」

 

『『ノッブノブー!』』

 

レスキューラビットが光となってZEXALのデッキに飛び込むと、デッキからレベル4の通常モンスターである2体のちびノブが現れる。

 

「「レベル4のちびノブ2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!!」」

 

ちびノブ2体が光となって地面に吸い込まれ、数多の敵……数多の神を倒してきた希望の戦士……希望皇ホープが降臨する。

 

そして、希望皇ホープを攻撃に特化した真の姿へと変える。

 

「「希望皇ホープ!カオス・エクシーズ・チェンジ!!現れよ、希望の力!混沌を光に変える使者!!『CNo.39 希望皇ホープレイ』!!!」」

 

希望皇ホープが光となって地面に吸い込まれ、その身を純白から漆黒に染め上げ、巨大な大剣を背負いながらZEXALの前に降臨した。

 

『ホォオオオオオーープ!!!』

 

ZEXALの高まる想いに応え、希望皇ホープレイの咆哮が轟く。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!」

 

ギリシャ神話の十二の試練を潜り抜けたヘラクレスは今まで見たことないかつてないほど強大な敵を相手にし、斧剣を掲げて雄叫びを上げる。

 

ZEXALとエミヤの限界を越えた極限の戦いが始まる。

 

 

 

 




遂に始まりました、VSヘラクレス戦。

ZEXALとエミヤで立ち向かいます。

ZEXALはホープレイで戦い、エミヤはステイナイトでヘラクレスに敗れてますのでリベンジマッチですね。


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ナンバーズ52 極限を超えた境地へ!ファイナル・シャイニング・ドロー!

VSヘラクレス戦です。

もう今回は私がやりたかったことをとにかく書き詰めました。

ぶっちゃけかなりオーバーキルな気がしますが(笑)


人類と三つの世界を救った遊馬とアストラルの真の姿、ZEXALの降臨。

 

この特異点で出会い、仲間になった者たちは初めて見るその姿に驚愕した。

 

「おいおいおい、世界を救ったと言っていたがまさかこんな姿になるとはな。だが、面白いじゃねえか!」

 

ドレイクは子供でもなく只者ではないと思っていたので予想以上の存在に面白がった。

 

「嘘っ……何よあの姿、この力の大きさ……あんな勇者は見たことないわ……」

 

「マス、ター……かっこいい……」

 

エウリュアレとアステリオスはギリシャ神話では存在しない異世界の勇者であるZEXALに呆然とした。

 

「なな、何と!マスターがアストラル殿と文字通り合体!??これは拙者も予想外すぎるでござるよ!!?」

 

黒髭は目が飛び出すほど驚愕した。

 

「本当に二人は強い絆で結ばれた相棒なんですね……」

 

「正に一心同体……かっこいい……」

 

アンとメアリーはZEXALになった遊馬とアストラルの絆が予想以上に強いことに納得してしまった。

 

「マスターとアストラルが合体した!?よし!ダーリン、私たちも合体しよう!」

 

「出来るかボケェッ!だが何だよあの神性の高さは!?人間と精霊が合体しただけで神に等しい存在になれるのか!?」

 

アルテミスは遊馬とアストラルが合体したZEXALに思わず混乱し、オリオンはツッコミを入れながらZEXALから感じられる神性の力に困惑する。

 

「ユウマ……アストラル……本当にお前たちは二人で世界を救ってきたのだな……」

 

「これは興味深いな……機会があればじっくり語り合いたいね」

 

アタランテは遊馬とアストラルが世界を救った英雄だと実感し、ダビデはとても興味津々だった。

 

ZEXALはシャイニング・ドローで創造したカードを発動する。

 

「「『ZW(ゼアルウェポン) - 一角獣皇槍(ユニコーン・キング・スピア)』をホープレイに装備!現れよ、一角獣皇槍!!」」

 

それはフランスの特異点でレティシアを救う時に創造した黄金と白銀の一角獣、一角獣皇槍だった。

 

ホープレイが両肩にある第三と第四の腕を展開して背中の大剣を掲げ、投げ飛ばすと一角獣皇槍と合体して巨大な槍となる。

 

「槍か……それなら!」

 

エミヤは剣ではなくクーフーリンの魔槍、ゲイ・ボルグを投影した。

 

「ランクは落ちるが、ヘラクレスの足止め程度にはなろう……マスター、私が放った後に一角獣の槍を放て!」

 

「おう!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!」

 

ヘラクレスは荒野を駆け、最初の標的をエミヤに向ける。

 

エミヤは飛んでゲイ・ボルグを軽やかに振り回して構える。

 

「その心臓、貰い受ける!『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』!!」

 

投げ飛ばしたゲイ・ボルグがヘラクレスの心臓に突き刺さり、僅かに足を止めた。

 

その瞬間、ZEXALはホープレイに指示を下す。

 

「行け、ホープレイ!!ユニコーン・スラッシュ!!!」

 

ホープレイの赤い瞳が輝き、一角獣皇槍を全力で投げ飛ばした。

 

超高速で投げ飛ばされた一角獣皇槍はヘラクレスの胸に突き刺さり、無数の光の波動が解き放たれた。

 

ヘラクレスに突き刺さった一角獣皇槍はホープレイの元に戻る。

 

一角獣皇槍は確かにヘラクレスの命を奪った。

 

しかし、ヘラクレスはすぐに起き上がってその胸には傷が付いていない。

 

「これで、一つか……」

 

「ゴッドハンド……大英雄に相応しい宝具だな」

 

ヘラクレスの持つ宝具、『十二の試練(ゴッドハンド)』。

 

それはヘラクレスが生前に成した十二の偉業の具現化であり、ランクB以下の攻撃をシャットアウトし、11の代替生命がある。

 

更に一度受けた殺害方法にある程度の耐性を身につけ、同じ方法では二度と殺せなくしてしまう。

 

つまりヘラクレスを完全に倒すには最大十二通りの威力Aランク以上の攻撃を叩き込まねばならない。

 

まずホープレイの一角獣皇槍で一つの命を奪った。

 

残るは十一……まだ始まったばかりだが確かな一歩である。

 

「「カードを一枚伏せる!」」

 

ZEXALは一枚のカードを伏せるとヘラクレスは一気にホープレイに近づく。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

ヘラクレスは最優先をエミヤからホープレイに標的を定めた。

 

先程放った一角獣皇槍、その身に受けたヘラクレスは戦慄していた。

 

あれほど強力な槍はまさに神槍に相応しい一撃、それをいとも簡単に呼び出して放つZEXALは強大な存在である。

 

だからこそまずはホープレイを倒さなければならないとヘラクレスは斧剣を振り下ろす。

 

「「罠カード発動!『ナンバーズ・ウォール』!この効果により、ナンバーズはナンバーズ以外の戦闘で破壊されなくなる!」」

 

ナンバーズと名のついた全ての存在に強力な守りを与えるナンバーズ・ウォールにより、ホープレイは破壊されなくなる。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!」

 

しかし、ヘラクレスの力はホープレイを上回り、その装甲のような体に大きな傷を与えて行く。

 

「「くっ、うわぁああああっ!?」」

 

ヘラクレスのまるで吹き荒れる嵐のような激しい攻撃はホープレイに襲いかかり、超過したダメージがZEXALにも与える。

 

ZEXALはダメージを受けてその場から後ろに吹き飛ばされる。

 

「遊馬君!アストラルさん!」

 

とっさにマシュが背後に回ってZEXALを受け止めた。

 

あまりの威力にマシュも一緒に吹き飛ばされそうになったが、足腰に力を込めて何とかZEXALを受け止めた。

 

「サンキュー、マシュ」

 

「ありがとう」

 

「まだ、行けますか?」

 

「あったり前だぜ!」

 

「我らのかっとビングはまだ始まったばかりだからな!」

 

ZEXALはこの程度で屈するほどやわではない。

 

マシュの肩を借りて立ち上がり、ZEXALは再び右手に光を収束させる。

 

「全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!」

 

再びシャイニング・ドローでデッキトップを金色に輝かせてカードを創造する。

 

カードをデュエルディスクに挿入し、右手に宿る赤い光を空に向かって放つ。

 

「「現れよ!『ZW - 不死鳥弩弓(フェニックス・ボウ)』!!」」

 

空の果てから飛翔して現れたのは一角獣に並ぶ伝説の幻獣、紅と橙に美しく輝く死と再生を司る不死鳥だった。

 

「ふふ、不死鳥ですか!?」

 

「「不死鳥弩弓はホープレイの装備カードとなり、攻撃力を1100ポイントアップする!」」

 

先に装備していた一角獣皇槍は巨大な槍となった大剣から分離してホープレイの中に入り、ホープレイの漆黒の翼が金色と白銀に輝く。

 

大剣を掲げたホープレイに不死鳥弩弓が突撃すると足で支えて両腕で弦を引く巨大な弓・弩弓へと変形し、ホープレイは全身の力を全て使いながら弦を引く。

 

「なんで巨大な弓なんだ……あれで射つというのか!?」

 

熟練の射手であるアタランテでも初めて見る弩弓に驚きを隠せなかった。

 

そして、その弩弓で射つ矢は大剣が巨大な矢へと変化し、第三と第四の腕で持ち上げる。

 

「「エミヤ!不死鳥弩弓の矢に合わせて射て!!」」

 

「承知!!」

 

エミヤは黒弓を投影して荒野に突き刺さった剣を浮かせて切っ先をヘラクレスに向ける。

 

剣をまるで雨のように一斉に発射してヘラクレスの動きを止める。

 

そして、エミヤは黒弓に螺旋に捻れた剣を番えて弦を引き、ホープレイは不死鳥弩弓に大剣の矢を番える。

 

ホープレイとエミヤはヘラクレスに狙いを定め、呼吸を合わせて同時に放つ。

 

「「不死鳥炎舞撃(フェニックス・フィニッシュ)!!!」」

 

「I am the bone my swordーー『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』!!」

 

同時に放たれた二つの矢は空間を抉るように瞬く間にヘラクレスを貫き、その瞬間に雨の如く降り注いだ剣がヘラクレスの体中に突き刺さった。

 

その瞬間、エミヤが放った偽・螺旋剣から光が溢れ出した。

 

「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』!!!」

 

偽・螺旋剣を構築する魔力が大爆発を起こしてヘラクレスの命を奪った瞬間、更に不死鳥弩弓の効果がチェーンで発動する。

 

「「不死鳥弩弓の効果でヘラクレスに1000ポイントのダメージを与える!!!」」

 

相手を破壊した際に1000ポイントのバーンダメージを与える不死鳥弩弓の効果が上乗せされ、ヘラクレスの命を追加でもう二つ奪った。

 

ヘラクレスの十二の試練は十二通りの攻撃を叩き込まなければならないが、余りにも大きな攻撃では一度で複数の命を失うこともある。

 

これにより一角獣皇槍に加えて不死鳥弩弓を装備したホープレイの攻撃とエミヤの渾身の偽・螺旋剣からの壊れた幻想のコンボで一度に三つの命を奪うことに成功した。

 

「おっしゃあ!このまま押し切るぜ!!」

 

「いや、油断するな、遊馬!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

ヘラクレスはすぐに十二の試練で復活してホープレイに突撃する。

 

ホープレイは足にかけた不死鳥弩弓を一角獣皇槍と同じように自分の体内に取り込み、背中に紅と橙に輝く双翼を展開させる。

 

ヘラクレスは斧剣を振り下ろしてホープレイが受け止めるが、その直後にヘラクレスは斧剣を手放して強靭な拳で殴りつける。

 

ホープレイの装甲にヒビが入り、ZEXALは更に大きなダメージが与えられる。

 

「ぐぁあああっ!?くっ、今のホープレイは一角獣皇槍と不死鳥弩弓を同時に装備しているのにヘラクレスの攻撃力は更にそれを超えるのかよ!?」

 

「攻撃の瞬間、爆発的な攻撃力でホープレイを圧倒しているのか……ヘラクレスの武芸は使えないがバーサーカークラスとしての荒々しい攻撃は凄まじいな」

 

今のホープレイは一角獣皇槍と不死鳥弩弓を同時に装備している。

 

その攻撃力は2500+1900+1100で合計5500。

 

これだけでもホープレイはほぼ全てのモンスターを戦闘破壊することが出来るが、ヘラクレスの大英雄の名は伊達ではない。

 

「……アストラル、確かヘラクレスは神にまで登りつめたんだよな」

 

「ああ。十二の偉業を成し遂げた後、オリンポスの神々として迎えられた」

 

「神を倒すなら……ホープレイの『あの力』を使うしかないよな」

 

ホープレイには神を倒すに相応しい強大な力が存在する。

 

それを呼び出すには遊馬とアストラル……ZEXALの力を全力全開で解放しなければならない。

 

「行くぜ、アストラル!」

 

「ああ!」

 

遊馬とアストラルは次のターンで決着をつけるために気合いを入れる。

 

「「俺/私のターン!全ての光よ、力よ、我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!!」」

 

三度目となるシャイニング・ドローでドローしたのはホープレイを最強にするための布陣を整える下準備となる魔法カード。

 

「「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外し、デッキから2枚ドローする!」」

 

デッキの上から10枚を除外して2枚ドローする強力なドローソース。

 

除外した10枚は使用できなくなるが、ZEXALのドローは常に勝利の必然を手にするシャイニング・ドロー。

 

ZEXALは今までよりも強い光を右手に輝かせる。

 

それは勝利を導き、希望を手にする究極の光である。

 

「「全ての力よ!光よ!我が右腕に宿り、再び希望の道筋を照らせ!ファイナル・シャイニング・ドロー!!」」

 

ファイナル・シャイニング・ドローでドローしたカードでZEXALが思い描く勝利の方程式は全て揃った。

 

「来たぜ、アストラル!」

 

「当然だ!」

 

「「魔法カード『二重召喚』!その効果で通常召喚を二度行える!『ガガガマジシャン』と『ガガガガール』を召喚!」

 

『『ガガガッ!!』』

 

ZEXALの左右にガガガマジシャンとガガガガールが立ち並ぶ。

 

「「ガガガマジシャンの効果でレベルを5に変更し、ガガガガールの効果でガガガマジシャンと同じレベルになる!」」

 

これでレベル5となったガガガマジシャンとガガガガールをオーバーレイすれば黒髭の戦いで見せたマシュ=マックをエクシーズ召喚してガガガガールとの強力なコンボを発動出来るが、ガガガガールの効果がヘラクレスに通用するか分からない。

 

ZEXALは勝利を導く奇跡のモンスターエクシーズを呼び出す。

 

「「レベル5のガガガマジシャンとガガガガールでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」」

 

『先輩っ!』

 

『おうっ!』

 

ガガガマジシャンとガガガガールは光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

ZEXALは右手を輝かせて新たなカードを創造し、デュエルディスクに置く。

 

『ゴォオオオオオッ!!!』

 

荒野の果てから雄叫びが響く。

 

それは獣の雄叫び、勇ましい王の咆哮である。

 

「「現れよ!『ZW - 獣王獅子武装(ライオ・アームズ)』!!」」

 

荒野の果てから空を駆けて現れたのはZEXALと同じカラーリングをした獅子だった。

 

「ゼアルウェポンのモンスターエクシーズ!?」

 

『ガォオオオオオウ!!』

 

獣王獅子武装はホープレイを殴り続けるヘラクレスに突撃し、ヘラクレスをぶっ飛ばす。

 

「「更に手札から速攻魔法『サイクロン』!フィールドの魔法・罠を一枚破壊する!ナンバーズ・ウォールを破壊する!」」

 

ホープレイに鉄壁の守りを与えたナンバーズ・ウォールを破壊したことでヘラクレスからの攻撃を防ぐことができず、大きなリスクを背負うことになってしまった。

 

しかし、ZEXALはナンバーズ・ウォールで埋まった魔法・罠ゾーンを解放し、このターンでヘラクレスに決着を付けるためにこの選択をした。

 

「「獣王獅子武装の効果!」」

 

獣王獅子武装がオーバーレイ・ユニットを一つ食べるとデッキトップが金色に輝く。

 

「「オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキからZWを一枚手札に加える!」」

 

ZEXALはデッキからZWのカードを創造しながらサーチして手札に加える。

 

究極のゼアルウェポンにしてゼアルウェポンを導く王、それが獣王獅子武装。

 

これでZEXALの勝利への全ての準備が整った。

 

「「ホープレイにこのゼアルウェポンを装備する!」」

 

ファイナル・シャイニング・ドローと獣王獅子武装の効果で手札に加えたゼアルウェポンをホープレイに装備する。

 

「「『ZW - 雷神猛虎剣(ライトニング・ブレード)』!!」」

 

『ゴォオオオオオン!!」

 

空に雷雲が浮かび、その中から雷を発しながら大きな虎が現れた。

 

ホープレイは左腰に添えられたホープ剣を右手で抜いて掲げ、雷神猛虎剣がホープ剣に突撃すると鍔に虎の装飾が施された剣へと変化した。

 

そして、雷神猛虎剣と対を成すもう一つのゼアルウェポンを呼び出す。

 

「「『ZW - 風神雲龍剣(トルネード・ブリンガー)』!!」」

 

『グォオオオオオン!!』

 

雷雲の後に風が巻き起こり、その中から真紅の龍が現れた。

 

ホープレイは右腰に添えられたホープ剣を掲げると、風神雲龍剣が雷神猛虎剣と同じようにホープ剣に突撃すると龍の顔の装飾が施された剣へと変化した。

 

雷神と風神、虎と龍

 

古より日本で対を成す存在として描かれた風神と雷神、龍と虎。

 

それぞれが合わさり、二刀一対のゼアルウェポンとして創造された。

 

「ゼアルウェポンの二刀流……!!」

 

マシュはゼアルウェポンの二刀流に感動して目を輝かせた。

 

雷神猛虎剣と風神雲龍剣。

 

この二つのゼアルウェポンを同時に装備することによって互いにその効果を補い合い、ホープレイに強力な力を与える。

 

これだけでもホープレイの力は更に高まったが、ZEXALは最後にして最高の仕上げをする。

 

「「そして……ホープレイに獣王獅子武装を装備!!」」

 

獣王獅子武装の体が輝き、その体が無数のパーツに分離し、ホープレイの体に次々と装着して合体する。

 

「「闘志が纏しその衣!轟く咆哮、大地を揺るがし!迸る迅雷、神をも打ち砕く!獣装合体!!」」

 

両腕、両足、胸部、第三と第四の腕、双翼……そして、大剣。

 

それら全てに獣王獅子武装のパーツが装着される。

 

「「『ライオ・ホープレイ』!!」」

 

これこそ、ホープレイが獣王獅子武装と合体した最強の姿。

 

しかし、このライオ・ホープレイはかつてのデュエルで出した時よりも更にその上の境地に達していた。

 

「五体のゼアルウェポンを装備し、極限を越えた究極の刃!」

 

「これが、ホープレイの最強無敵の姿!」

 

一角獣皇槍、不死鳥弩弓、雷神猛虎剣、風神雲龍剣、そして獣王獅子武装。

 

五体のゼアルウェポンを同時に装備したことでその全ての攻撃力と効果を集結させたホープレイの史上最強の力を得た極限を越えた姿。

 

「「『アンリミテッド・ライオ・ホープレイ』!!!」」

 

今ここに、神を打ち砕くホープレイが降臨し、ZEXALは共に戦うエミヤに力を与える。

 

「「令呪によって命ずる!!」」

 

「マスター!?」

 

ZEXALの右手の甲に輝く三画の令呪の一つを消費させる。

 

「「己の信じる最強の剣で過去の敗北を乗り越え、その手に勝利を掴め!!」」

 

エミヤの力を解放するためにZEXALは令呪の力によってブーストさせる。

 

「「重ねて令呪によって命ずる!!」」

 

一画目を使ったその直後に二画目の令呪を消費させる。

 

「「エミヤよ、今こそ!その限界を超えて新たな境地を切り開け!!」」

 

令呪は元々使える数は三画と少ないが、カルデアで供給される令呪は一日一画回復するので重ねて使用することでサーヴァントに更なる力を与える。

 

「感謝する……マスター!ーーーー投影、開始(トレース、オン)!!」

 

エミヤはその身から溢れ出る魔力にZEXALに感謝しながら投影魔術を開始し、両手に異なる剣を投影する。

 

右手には黄金に輝く剣、左手にはヘラクレスが持つものと同じ巨大な斧剣だった。

 

「シロウ……あなた、まさか!?」

 

アルトリアはこれからエミヤが行おうとしている攻撃を直感で気づいた。

 

「ーーーー投影、装填(トリガー、オフ)

 

黄金の剣と斧剣の柄を握りしめたエミヤは自身が思い描く最強の剣と最強の剣技を持ってヘラクレスに挑む。

 

全工程投影完了(セット)

 

全ての投影を終えたエミヤは黄金の剣と斧剣を持ちながら荒野を駆け、ヘラクレスに向かって突進する。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!」

 

ヘラクレスはエミヤを向かい撃つために走り出して斧剣を振り下ろす。

 

その瞬間、エミヤの脳裏に思い浮かんだのは雪の妖精のような可愛らしい少女。

 

その少女はエミヤとヘラクレスの共通する大切な人である。

 

ヘラクレスはその記憶を持っているかわからないが、エミヤはその少女の為に力を振るう。

 

「『是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)』!!!」

 

エミヤは斧剣で攻撃が一つに重なる程の九連続の高速の斬撃を放つ。

 

エミヤの放った攻撃にアタランテを始めとするギリシャ神話のサーヴァント達は驚愕した。

 

射殺す百頭とはヘラクレスの持つ万能攻撃宝具。

 

生前の偉業の一つ、ヒュドラ殺しで編み出した、攻撃が一つに重なる程の高速の連撃である。

 

今のヘラクレスはバーサーカーの狂化によってそれを使うことができず、射殺す百頭は人体にある九つの急所を一息で狙い撃ち、炸裂させる宝具である。

 

エミヤの無限の剣製……投影魔術はただ剣を複製するだけの魔術ではない。

 

刀剣に宿る『使い手の経験・記憶』ごと解析・複製している。

 

これにより、斧剣に宿るヘラクレスの武芸である射殺す百頭を使用することが可能となったのだ。

 

そして、射殺す百頭を放ち終え、斧剣を手放したエミヤは右手の黄金の剣を両手で強く握りしめてその刀身から輝く黄金の光を最高潮にまで煌めかせる。

 

「『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』!!!」

 

黄金に輝く刀身から闇を打ち払うかの如き、聖なる光の輝きがヘラクレスの巨体を呑み込む。

 

それはアルトリアがかつて所有し、愛用していた選定の剣。

 

エミヤにとって原点ともいうべき最高の宝剣である。

 

本来なら射殺す百頭と勝利すべき黄金の剣を同時に投影することはエミヤのスペックでは不可能であるが、ZEXALの二画を使用した令呪によって過去の限界を超えて使用することができた。

 

「今だ、マスター!決めろ!!」

 

エミヤは全力を出し尽くし、最後のトドメをマスターであるZEXALに託した。

 

「「行けっ!!アンリミテッド・ライオ・ホープレイでヘラクレスに攻撃!!!」」

 

エミヤから想いを受け取ったZEXALはアンリミテッド・ライオ・ホープレイに最後の攻撃命令を下す。

 

アンリミテッド・ライオ・ホープレイは真紅の瞳を輝かせ、大剣と雷神猛虎剣と風神雲龍剣を構える。

 

すると、アンリミテッド・ライオ・ホープレイの周囲に装備された五体のゼアルウェポンの幻影が現れ、共にヘラクレスに向かって突撃する。

 

エミヤの怒涛の連続攻撃を受け、辛うじて十二の試練で回復して立ち上がったヘラクレスの目にアンリミテッド・ライオ・ホープレイの姿が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ホープ剣・アンリミテッド・カオス・スラッシュ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷神猛虎剣と風神雲龍剣で十字に斬り開き、第三と第四の腕で持ち上げた大剣を縦に振り下ろす。

 

そして、五体のゼアルウェポンの幻影がヘラクレスの体を貫く。

 

この瞬間、ヘラクレスの十二の試練が持つ十一の命を打ち砕き、最後の命にトドメを刺した。

 

大英雄との壮大な戦いはZEXALとエミヤの勝利となるのだった。

 

 

 

.




ホープレイのゼアルウェポン五体乗せ(笑)

実際に私がデュエルでやったことがあるので出してみました。

いやー、ゼアルウェポン五体乗せは圧巻ですね。
今回は2500+1900+1100+1200+1300+3000=11000……やりすぎましたね(笑)

更にゼアルウェポン五つの効果が付与されてますから更にヤバいですね。

エミヤの射殺す百頭と勝利すべき黄金の剣は実際にヘラクレスの命を奪ったもので過去の自分に勝利するという点を踏まえて同時に出してみました。

普通なら絶対に無理ですが、ZEXALの令呪でそれが可能になったと納得していただければ幸いです。

次回はオケアノス編最終回となります。


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ナンバーズ53 第三特異点終結!絶望を斬り裂く希望の光!

これにて第三特異点、オケアノス編は完結です。
相変わらずの遊馬先生のカウンセリングが行われます(笑)


ギリシャ神話の大英雄・ヘラクレスを倒したZEXALとエミヤ。

 

十二の命を散らし、静かに消滅するヘラクレスは口を開く。

 

「見事だ……」

 

「えっ……!?」

 

「ヘラクレスが喋った……?」

 

ヘラクレスは狂化で話すことが出来ないはずが、消滅の間近で理性を取り戻した。

 

「異世界の勇者よ……貴様が操るその魔物、我ら英霊に匹敵する力を持つ。しかし、貴様と魔物……まだその力を隠しているな?」

 

「……ああ、そうだぜ」

 

「我々とホープにはまだ上の次元の進化が残している……」

 

力を隠している?

 

その事実にマシュ達は驚愕した。

 

サーヴァントとして上位クラスに入るヘラクレスと同等以上に戦うZEXALとホープレイ、それだけでも十分凄まじいのにまだ大きな力を隠していることに言葉を失うほど驚愕した。

 

「末恐ろしいな……これが異世界を救った勇者の持つ力か。貴様が成し遂げた偉業は我の成し遂げてきたこと以上のものだろうな。素晴らしい二人だ」

 

「大英雄のヘラクレスに褒められるなんて嬉しいぜ」

 

「そうだな……」

 

ヘラクレスに褒められ、素直に嬉しく思うZEXAL。

 

すると今度はヘラクレスを討ったもう一人の英雄へと視線を向ける。

 

「そして、我を討ち取ったもう一人の英雄、衛宮士郎よ」

 

「ヘラクレス、貴様……やはり記憶が……」

 

「覚えている。この肩に『お嬢様』を乗せ、冬木の地を駆けた事。貴様とセイバーと命を削った戦いを繰り広げたことを……」

 

ヘラクレスにはアルトリアやエミヤが経験した聖杯戦争の記憶を同じく持っていた。

 

ヘラクレスはイアソンのサーヴァントでありながらこの世界の身を案じていた。

 

「私は……この世界を守る最善の手と思ってエウリュアレ嬢の命を狙った。しかし、貴様らはその命を守るために全力で我と戦い抜き、勝利を掴んだ」

 

「エウリュアレは俺たちが必ず守り抜く。だから、後は俺たちに任せてくれ!」

 

「イアソンの野望を打ち砕き、必ず聖杯を手に入れてこの時代の特異点を修正する!」

 

ZEXALの中にいる遊馬とアストラルから伝わる確固たる決意にヘラクレスは満足そうな表情をして頷いた。

 

「ZEXALよ……人類と世界の命運をその小さな背に背負う誇り高き勇者よ。貴公と戦えた事、誇りに思う。後の事、任せたぞ」

 

「「ああ!!」」

 

「最後に一つ……イアソンと幼き日のメディア王女を救ってくれ……」

 

「ヘラクレス……分かった!」

 

ヘラクレスの最後の願いを聞き入れたZEXALの中の遊馬は強く頷いて拳をヘラクレスに向けた。

 

心強いその姿にヘラクレスは満足し、ゆっくりと目を閉じて消滅した。

 

ヘラクレスのフェイトナンバーズが静かに荒野に落ち、ZEXALはそれを回収する。

 

「マスター、固有結界を解除するぞ」

 

「ああ。そしたら、全員でアルゴー船に突撃だ!!」

 

エミヤは無限の剣製を解除すると、元の青い海と空が目の前に広がる。

 

無限の剣製を解除した瞬間、エミヤは力が抜けたように倒れる。

 

「シロウ!」

 

疲労の表情を浮かべ、倒れるエミヤをアルトリアが受け止めた。

 

「すまない……魔力を使いすぎたようだ……」

 

「無理もありません、あれだけの力を使えば倒れるのも仕方ありません。後はマスターたちに任せて、あなたは休んでください」

 

「ああ、そうさせてもらおう」

 

エミヤは目を閉じ、アルトリアは微笑みながらシロウをお姫様抱っこで抱き上げた。

 

「お疲れ様です、シロウ」

 

アルトリアはエミヤを愛おしそうに額を合わせながら黄金の鹿号まで運んだ。

 

ZEXALは一足先にアンリミテッド・ライオ・ホープレイの肩に乗り、アルゴー船に向かって飛翔する。

 

マシュ達は黄金の鹿号や黒髭の女王アンの復讐号に乗ってアルゴー船に向かう。

 

アンリミテッド・ライオ・ホープレイでアルゴー船の上空まで飛び、ZEXALはアルゴー船に飛び乗るとイアソンとメディア・リリィはその存在に驚いた。

 

「なっ!?な、何者だ貴様は!?」

 

「この気配……まさか、敵側のマスターと精霊!??」

 

「「我は絆と希望の英雄、ZEXAL!ヘラクレスは俺/私たちが倒した!!」」

 

「う、嘘だ!ヘラクレスが負けるはずがない!」

 

「こいつを見てもか?」

 

「来い、ホープレイ!」

 

ZEXALが呼ぶと上空から大剣と雷神猛虎剣と風神雲龍剣を仕舞ったアンリミテッド・ライオ・ホープレイが腕を組んで威風堂々と降りてきた。

 

そのヘラクレス以上の力の波動を放ち、神をも打ち倒すその姿に戦う力を持たないイアソンは震え上がった。

 

「ばば、馬鹿な……こんな事、ありえない!」

 

「イアソン様、どうなさいますか?降伏は不可能、撤退も不可能、私は治癒と防御しか能のない魔術師。さあ、いかがいたしましょう?」

 

「うるさい、黙れッ!妻なら妻らしく、夫の身を守ることを考えろ!」

 

いや、普通逆じゃね?夫が妻を守るもんだろうと、ZEXALの中の遊馬はそう言いたかったがグッと押し黙った。

 

「ええ。もちろん考えています、マスター。だってそれがサーヴァントですものね」

 

「っ……なんだその顔は。なんだってまだ笑っている!お前、この状況がわかっていないのか……!?」

 

「あー、イアソン。夫婦喧嘩をしている時に悪いんだけどさ、エウリュアレを契約の箱に捧げるとこの世界が滅びるって知ってるのか?」

 

遊馬はイアソンに契約の箱について知っているのかと尋ねるとイアソンは衝撃を受けたように表情が固まった。

 

「ーーなんだと?そんな馬鹿な!?あれは私に無限の力を与えてくれるもののはずだ!」

 

「嘘じゃねえよ。契約の箱を持つサーヴァント、ダビデから直接聞いたんだ。何ならもうすぐここに来るダビデから聞いてみるか?だいたい、そんなデタラメな情報は誰から聞いたんだ?」

 

「……メディア?今の話は……嘘だよな?神霊を契約の箱に捧げれば無限の力が与えられるのだろう?だって、あの御方はそう言って……」

 

「「……あの御方?」」

 

ZEXALはイアソンの言う『あの御方』に今は亡きレフと同様の存在がいるのかと推測する。

 

すると今度はメディア・リリィが衝撃的な発言をする。

 

「はい、嘘ではありません。だって、時代が死ねば世界が滅ぶ。世界が滅ぶということは、敵が存在しなくなる。ほらーー無敵でしょう?」

 

いとも簡単にあっさりと恐ろしいことを言うメディア・リリィに言われた本人のイアソンだけでなくZEXALやアルゴー船に近づいたマシュ達も驚く。

 

「お、お前。お前たち、俺に、嘘をついたのか?それじゃあ何の意味もない!俺は今度こそ理想の国を作るんだ!誰もが俺を敬い!誰もが満ち足りて、争いのない、本当の理想郷を!これはそのための試練じゃなかったのか!?俺に与えられた、二度目のチャンスじゃなかったのか!?」

 

「……それは叶わない夢なのです、イアソン様。だってアナタなかさ為し得ない。アナタは理想の王にはなれない。人々の平和を願う心が本物でも、それを動かす魂が絶望的に捻れている。アナタは、アナタが望む形で夢を叶えてはいけないのです。本当に欲しかったものを手にした途端、自分の手で壊してしまう運命を思い知るだけだから」

 

メディア・リリィは成長したメディアと同じくイアソンの事を熟知しており、決して理想の王になれないと同じ答えを出した。

 

「なに……何を言う、魔女め!鄙びた神殿にこもっていただけの女に何が分かる!王の子として生まれながら叔父にその座を奪われ、ケンタウロスの馬蔵なんぞに押し込まれた!その屈辱に甘んじながら才気を養い、アルゴー船を組み上げ、英霊たちをまとめ上げた!この俺のどこが!どこに!王の資格がないと言うのだ!?俺は自分の国を取り戻したかっただけだ!自分だけの国が欲しかっただけだ!それの何が悪いと言うのだ、この裏切り者がーー!」

 

結果、二人のメディアに否定されたイアソンは癇癪を起こしたように自分の気持ちの全てを吐き出した。

 

イアソンは本当に王になりたかったのだと必死さが伝わるが、メディア・リリィは淡い笑みを浮かべて静かに近づく。

 

「……残念です。私は召喚されて以来、ずっと本当のことしか言っていませんでした。私は裏切られる前の王女メディア。外に連れ出してくれた人を盲目的に信じる魔女。だから彼の王に選ばれてしまったアナタを、こうしてお守りしてきました。全て本当です、全て真実です……多少の誤解は、あったかもしれまさんけど。例えば、今しがた守ると言ったでしょう?どうやって守るかと言うとーー」

 

そして、メディア・リリィはイアソンの胸に手を突っ込んだ。

 

「えっ?」

 

「こうやって、です」

 

イアソンの体から聖杯を無理矢理取り出し、メディア・リリィの持つ願いを叶え始めた。

 

「なっ!おま、お前!?やめろ!何する!ひっ、やだっ、からだ、とけるっ……!!」

 

イアソンの美男子の姿が歪みだし、まるで火で炙った人形のように溶け出した。

 

「何をしているんだ!!?」

 

「メディア!止めろおっ!!」

 

ZEXALやサーヴァント達がメディア・リリィを止めようとしたが、イアソンの体から無数の衝撃波が放たれ、近づくことができなかった。

 

そして、メディア・リリィの強い願いが聖杯を使って何かの召喚の呪文を唱えた。

 

「聖杯よ。我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり」

 

「が、ぎ、が、あ、ぎいいいいいいいいいいいいい!!」

 

イアソンの体が完全に崩れ、闇の波動が解き放たれた。

 

「戦う力を与えましょう。抗う力を与えましょう。共に、滅びるために戦いましょう。さあ、序列三十。海魔フォルネウス。その力を以て、アナタの旅を終わらせなさい」

 

そして、現れたのは……第二特異点でレフが変化した無数の目が集まった大きな柱のモンスターと全く同じ姿の存在だった。

 

「フォルネウス!?フラウロスに続くソロモン七十二柱の魔物だと!??」

 

アストラルはレフのフラウロスに続いてフォルネウスが召喚されたことに驚愕した。

 

そして、イアソンがフォルネウスの依代にされたことにメディアは口を押さえて震えていた。

 

「なんてことを……」

 

メディアはイアソンの事を憎んでいたが、まさか幼き日の自分が魔神の依代にしてしまうとは思いもよらなかった。

 

「……止めなければ」

 

自分の過去の存在とはいえ自分自身には間違いない。

 

メディアはメディア・リリィの暴走を止めるために魔力砲撃を放ち、フォルネウスを攻撃する。

 

メディアの攻撃にサーヴァント達も攻撃を開始し、ZEXALもデッキからカードをドローする。

 

「「俺/私のターン、ドロー!モンスターをセットし、アンリミテッド・ライオ・ホープレイで攻撃!」」

 

アンリミテッド・ライオ・ホープレイは大剣と雷神猛虎剣と風神雲龍剣を構えてフォルネウスに向かって突撃する。

 

しかし、フォルネウスの体から無数の小さな魔物が現れ、アンリミテッド・ライオ・ホープレイの行動を止められてしまった。

 

そして、裏守備でセットされていたモンスターが攻撃され、表側にリバースされると不気味な顔が中に宿る壺のモンスターだった。

 

「「メタモルポットのリバース効果!このカードがリバースした場合、手札を全て捨ててデッキからカードを5枚ドローする!」」

 

それはデッキから一気にカードを5枚ドローすることが出来る貴重なドロー効果を持つメタモルポットであり、ZEXALの手が金色に輝く。

 

「「クインタプル・シャイニング・ドロー!」」

 

シャイニング・ドローで手札に加えた5枚のカード、それはこの海が広がる世界で最も適した2枚のナンバーズを召喚する。

 

「「俺/私のターン、ドロー!『セイバー・シャーク』を召喚!更に手札から『サイレント・アングラー』を特殊召喚!セイバー・シャークの効果、フィールドの魚族モンスターを選択し、レベルを一つ上げるか下がることが出来る!この効果を二度使い、魚族のセイバー・シャークとサイレント・アングラーを共にレベル4から5にする!」」

 

海から飛び出すように現れたセイバー・シャークとサイレント・アングラーのレベルが5となり、ZEXALは右腕を高く上げて叫ぶ。

 

「「水属性レベル5のセイバー・シャークとサイレント・アングラーでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」」

 

セイバー・シャークとサイレント・アングラーが光となって再び海の中に潜り、光の爆発を発生させる。

 

「行くぜ、シャーク!」

 

「君の大いなる海の力と共に!」

 

「「現れろ!No.73!カオスに落ちた聖なる滴よ、その力を示し、混沌を浄化せよ!」」

 

海が大きく震え、真っ二つに割れると海底から海を司る巨神が姿を現した。

 

「「『激瀧神(げきろうしん)アビス・スプラッシュ』!!!」」

 

それはバリアン七皇の記憶に関する世界各地の七つの遺跡に眠るナンバーズの一枚で凌牙の真の記憶を呼び覚ますモンスターである。

 

「えっ!?嘘!?父上!??」

 

「いえ、オリオン、あれはポセイドンではありませんよ。少し似ていますが……」

 

アビス・スプラッシュの姿にギリシャ神話の海神・ポセイドンだと実の子であるオリオンは見間違えてしまい、メドゥーサは違うと否定した。

 

事実、アビス・スプラッシュは海の神でもあるので同じ海神であるポセイドンと見間違えても無理はない。

 

「「アビス・スプラッシュで攻撃!ファイナル・フォール!!」」

 

アビス・スプラッシュの持つ鉾を掲げ、海を操るとそのまま大きな津波を発生させてフォルネウスが作り出した魔物を一掃するように押し潰して海の藻屑と化した。

 

諦めずに次々と新たな手を打ち、フォルネウスに立ち向かうZEXALにメディア・リリィは静かに問う。

 

「……どうしてですか?」

 

「ん?何がだ!?」

 

「どうして、あなたたちは抗うのですか?」

 

「決まってるだろう!人類と世界の未来を救うためだ!」

 

「私たちのこの手に全ての未来がかかっている!」

 

「諦めないのですか……?」

 

「諦めているのは、お前の方じゃないか!!」

 

メディア・リリィの問いに対し、ZEXALは指差しながら指摘する。

 

「な、何の話をしているのですか……?」

 

「俺はお前が何かに敗れる夢を見た……その何かは分からないけど、とてつもない大きな闇の力を感じた。お前はそれに敗れて絶望したんじゃないか?だから、イアソンを嗾けて一緒に世界ごと消えようとしたんじゃないのか?」

 

「っ!それは……あなたが彼と対峙してないからそう言えるのです……」

 

メディア・リリィはその時のことを思い出すように体が震えていた。

 

それほどメディア・リリィにとって強大な敵だったと感じ取ったがZEXALだが、ZEXALも似たような経験を何度もして来た。

 

だからこそ、断言して言えることがある。

 

「俺たちはメディアと戦ったそれを直接見た事ないから何とも言えない。だけどな、そんな俺たちにも断言できることはある!!」

 

「例え敵があまりにも恐ろしく、強大で、私たちに絶望的な状況を作り出そうとも、その中にある1%にも満たない奇跡と希望……それが私たちに勝利をもたらして来た!」

 

「絶望に叩き落とされても、俺たちは何度だって諦めずに立ち上がる!それが俺たちの世界と人類の未来を救うために示して来た答えだ!」

 

絶望を与える敵が現れても希望という名の光をその手に掴んできた。

 

ZEXALはその言葉を叫ぶようにメディア・リリィに言い放つ。

 

「「それが俺/私の、かっとビングだ!!!」」

 

希望の光を司るZEXALの体から眩い聖なる光が溢れる。

 

「かっと、ビング……?」

 

その光を浴びたメディア・リリィはその言葉を呟いた。

 

「「俺/私のターン、ドロー!相手フィールドにモンスターが2体以上いる時、『パンサー・シャーク』をリリース無しで召喚!更にパンサー・シャークがフィールドに存在する場合、手札から『イーグル・シャーク』を特殊召喚出来る!」」

 

海から二頭一対の黄色と赤色の二頭の鮫、パンサー・シャークとイーグル・シャークが現れる。

 

そして、レベル5である2体の水属性モンスターを使い、アビス・スプラッシュと対をなすナンバーズを呼び出す。

 

「「水属性レベル5のパンサー・シャークとイーグル・シャークでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」」

 

パンサー・シャークとイーグル・シャークが光となって海底に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「兄貴のシャークに続いて妹のイモシャも一緒に……行くぜ、璃緒!」

 

「神代兄妹の力を今ここに集結させる!」

 

ZEXALの左右に強い絆で結ばれた双子の兄妹、凌牙と璃緒の二人の幻影が現れる。

 

二人は微笑みかけながらポンとZEXALの肩に手を乗せて静かに消えた。

 

「「現れろ、No.94!氷の心纏し霊界の巫女、澄明なる魂を現せ!」」

 

海が氷河のように一気に凍り出し、大きなヒビが割れると中からアビス・スプラッシュと同じ大きさの巨人が姿を現わす。

 

「「『極氷姫(きょくひょうき)クリスタル・ゼロ』!!」」

 

それは氷のドレスを身に纏った怪しくも美しい麗しの美女だった。

 

「うひょー!?でっかいけど素敵な美女キター!?」

 

「い、いやいや、確かに美しいが流石に大きすぎやしないか……?」

 

黒髭はクリスタル・ゼロの美しさに一目惚れしたが、ダビデはあまりの大きさに顔が引きつっていた。

 

「「このターンで決める!アビス・スプラッシュの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、アビス・スプラッシュの攻撃力を二倍にする!!」」

 

アビス・スプラッシュはオーバーレイ・ユニットを鉾に取り込むと、自身の力を二倍に高めた。

 

「「続いてクリスタル・ゼロの効果!オーバーレイ・ユニットを使い、フィールドのモンスター1体の攻撃力を半分にする!クリスタル・ゼロのオーバーレイ・ユニットを二つ使い、フォルネウスの攻撃力を四分の一にする!クリスタル・イレイザー!!」」

 

クリスタル・ゼロは二つのオーバーレイ・ユニットを剣に取り込ませて波動を放つと、フォルネウスの攻撃力を半分の更に半分、四分の一まで低下してしまった。

 

「「最後に希望皇ホープレイの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ホープレイの攻撃力を500ポイントアップする!オーバーレイ・チャージ!!」」

 

ホープレイの三つのオーバーレイ・ユニットを大剣に取り込むと、ホープレイの装甲が純白に輝き、攻撃力が更に1500ポイントアップする。

 

「「そして、オーバーレイ・ユニット一つにつき、相手モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンさせる!!」」

 

クリスタル・ゼロの効果で四分の一まで下がり、そこにホープレイの効果で一気にフォルネウスの攻撃力が下がった。

 

それにより、フォルネウスの攻撃力がほぼゼロにまで下がってしまった。

 

「そんな、海魔フォルネウスの力が……!?」

 

フォルネウスは攻撃力がほぼゼロになったことで力を失ったようにヘナヘナになってしまった。

 

「アビス・スプラッシュの攻撃!ファイナル・フォール!」

 

「続け、クリスタル・ゼロ!!!」

 

アビス・スプラッシュが津波を発生させ、クリスタル・ゼロは全てを凍らせる吹雪を起こしてフォルネウスの周囲にいる全ての魔物を破壊した。

 

残るはフォルネウス一体だけとなり、ZEXALは最後のトドメの一撃を命ずる。

 

「「これで終わりだ!アンリミテッド・ライオ・ホープレイで攻撃!!」」

 

アンリミテッド・ライオ・ホープレイの真紅の瞳が輝き、両腕を左右に開くと装備されていた五体のゼアルウェポンが解除されてホープレイの周囲を軽やかに舞う。

 

第三と第四の腕で天に向かって構えた大剣に五体のゼアルウェポンが光となって取り込まれる。

 

「「魔神を斬り裂け!絶望の闇を希望の光に変えろ!!」」

 

ホープレイとゼアルウェポンの全ての力を大剣に込め、大剣の刀身の大きさが何倍にも膨れ上がる。

 

天地を斬り裂くかの如き巨大な大剣と化し、ホープレイは空高く飛んで第三と第四の腕を使って限界まで振り上げる。

 

「「ホープ剣・ファイナル・カオス・スラッシュ!!!」」

 

振り下ろした大剣がファルネウスを一刀両断で真っ二つで叩き切った。

 

ファルネウスは断末魔の叫びを上げる事なく消滅し、依代にされたイアソンが元の姿で現れた。

 

イアソンは消滅間近で息絶え絶えにしながらメディア・リリィを睨みつけた。

 

「メディア……メディア!!」

 

イアソンはまだフォルネウスの力が僅かに残っていたのか、手の中から触手を作り出して伸ばし、メディア・リリィの首を絞めた。

 

「あっ、がっ、かはっ……」

 

「殺してやる……お前だけは、この俺の手で……!!」

 

消滅する前にイアソンは自分の手でメディア・リリィを殺そうとした。

 

そんなメディア・リリィは抵抗もせずに大人しくイアソンの手で殺されることを望んだのか杖を手放して目を閉じた。

 

次の瞬間。

 

ザンッ!!!

 

触手が細切れに斬り裂かれ、解放されたメディア・リリィはその場に座り込みながら目を開けるとそこには……。

 

「あ、あなた……どうして……?」

 

「無事か?メディア」

 

それは両手に雷神猛虎剣と風神雲龍剣を顕現させたZEXALだった。

 

ZEXALはゼアルウェポンをホープだけでなく自らの武器として顕現させることが出来る。

 

雷神猛虎剣と風神雲龍剣で触手を斬り裂き、ZEXALはイアソンを静かに見つめると、イアソンは恐怖で体が震えながら触手を伸ばす。

 

「く、来るな来るなぁっ!」

 

ZEXALは見事な二刀流剣術で雷神猛虎剣と風神雲龍剣を振るい、触手を斬り裂きながらイアソンに近づく。

 

イアソンは後ろに下がり、アルゴー船の船の端に引っかかって海に落ちそうになる。

 

「うっ、うわぁあああああっ!?」

 

ガシッ!

 

間一髪のところで海に落ちそうになったイアソンをZEXALは腕を掴んだ。

 

「大丈夫か?」

 

「別にお前を斬るつもりなんて無いぜ」

 

ZEXALはイアソンを一気に引き上げた。

 

そして、ZEXALは遊馬とアストラルに分かれ、ファルネウスの力を完全に消えて消滅間近で息絶え絶えのイアソンを遊馬が支える。

 

「イアソン、俺さ……お前の事すげえ奴だと思うぜ」

 

「何……?」

 

敵だったはずの遊馬から突然賞賛され、戸惑うイアソン。

 

「最初はメディアを裏切った最低の夫だということしか頭になかったけど、お前のギリシャ神話の物語を見て見方が変わったぜ」

 

昨夜、イアソンの物語をD・パッドで閲覧して遊馬はイアソンの見る印象が変わった。

 

「王座を追われて、アルゴノーツを組織して大冒険を繰り広げて必死に王になろうと努力した。何度もどん底に叩き落とされても立ち上がって前に進もうとしていた」

 

「だが、私は王になれなかった……私はイオルコスの王の子、王になるべき存在だったのに……」

 

「……イアソン、俺には小さい頃から大きな夢があったんだ。デュエルチャンピオン……簡単に言えばこいつを使った戦いの世界王者だよ。でもそんなのなれっこないってみんなからバカにされて来た。応援してくれたのは父ちゃんと幼馴染の小鳥だけだった」

 

遊馬はデュエルディスクとデッキを見せながら説明した。

 

デュエルチャンピオンになろうと幼い頃から努力してきたが、努力が空回りしたり、自分の実力やカードの弱さなどもあり、夢に向かって一歩を踏み出すことができなかった。

 

「だけど、異世界からアストラルが俺のところに来てから全てが変わった。俺は沢山の試練を乗り越えて夢だったデュエルチャンピオンになれたんだ」

 

「それは……その精霊の力が強力だっただけじゃないのか……?」

 

「イアソンよ、それは違う」

 

アストラルはイアソンの言葉を否定して静かに語る。

 

「確かに全てのきっかけは私だ。私のアドバイスや力添えもあるが、遊馬はどれだけ絶望に立たされても何度も立ち上がって全力で立ち向かって来た。そうやって未来を切り開いて来たんだ」

 

「イアソン、人間は誰でも一人で生きることは出来ないんだよ。俺にはアストラルと小鳥……大切な友達、仲間、家族、師匠……沢山の人達のおかげで夢を叶えることができたんだ」

 

「何が言いたいんだ……?」

 

「分からないのか?お前は側にいてくれる人を大切にしなくちゃいけなかったんだ」

 

遊馬は後ろを振り返り、杖を握りしめながら立っているメディア・リリィに目線を向けた。

 

「人と人との繋がり、目に見えないけど絆はとっても強い。だけど、同時にとっても脆いものなんだ。強く結ばれた絆は大きな力を発揮するけど、一度壊れた絆は直すことは難しいんだ……」

 

遊馬は戦いの中で大切な人達の絆の大切さやその有り難さを知っていった。

 

しかし、敵の策略により遊馬とアストラルとの絆が一度壊れかけしまった時、深き闇に呑み込まれてしまった。

 

「お前はメディアとの絆を蔑ろにした。その所為で全てを失った」

 

故郷を追われたイアソンはコリントスという国で王に娘・グライアとの婚姻を持ちかけられ、イアソンは迷いもなくメディアと2人の子供を捨て、グライアと結婚することを決める。

 

泣き縋るメディアにイアソンは今までの悲劇を全てメディアを所為にし、更に愛していないと切り捨てた。

 

そして、裏切られたメディアは魔女と呼ばれ、コリントスの全てを滅ぼしてしまった。

 

「お前は知るべきだった、理解するべきだったんだ。絆の大切さを、自分の強さと弱さを。そして……自分の側にいてくれたメディアの事を……」

 

遊馬の言葉はイアソンの心に深く突き刺さった。

 

イアソンは目を閉じて生前の行いを思い出す。

 

走馬灯のように脳裏に次々と流れていく記憶。

 

あの時こうしていれば、ああしていればと後悔が溢れてくる。

 

「全く……君はお節介にもほどがある。私に説法するなんてな……」

 

「俺はそんなつもりは……」

 

「だが、もう遅い……何もかも遅いんだ……私は一度死に、この世界でも王になれない……あとは消えるだけだ」

 

「なあ、イアソン。そんなに未練があるなら、俺たちの世界に来るか?」

 

「君の、世界……?」

 

「ああ。俺は異世界から来たんだけど、そこで世界を冒険したらどうか?人生に迷っているなら、見聞を広めれば何か答えが見つかるかもしれないぜ?その時は俺も冒険に同行するからさ」

 

遊馬はイアソンと一緒に冒険をしてみたくなった。

 

イアソンは船を操る航海技術は超一流と謳われており、イアソンの力があれば世界一周も七つの海も航海も可能である。

 

「異世界か……それも面白そうだ」

 

「じゃあ……」

 

「だけど、遠慮しておくよ」

 

「えっ!?」

 

イアソンは静かに立ち上がり、遊馬から離れるように下がった。

 

「敗者は静かに消えるだけだ……君の隣に私は似合わない……」

 

「お、おい!イアソン!」

 

「さらばだ、異世界の勇者……」

 

イアソンはアルゴー船を背中から飛び降りると光の粒子となって消滅していった。

 

フェイトナンバーズが海に落ちる寸前にアストラルが回収する。

 

「イアソン……」

 

「マスター、あなたの所為じゃないわ……」

 

メディアは遊馬の隣に降り立ち、遊馬を慰めるように頭を撫でた。

 

「メディア。だけど……」

 

「イアソンにとって、マスターは眩しすぎたのよ……あなたは太陽のように光り輝いているから……」

 

遊馬の心は太陽のように輝いており、他人を照らすことが出来る。

 

しかし、イアソンにとって遊馬は眩しすぎたのだ。

 

遊馬は自分の手を強く握りしめ、悔しさに耐えると次にメディア・リリィに視線を向けて話しかける。

 

「メディア、お前に何があったんだ?お前を倒した『アレ』は何だったんだ?」

 

「……それを口にする自由を私は剥奪されています。魔術師として私は彼に敗北していますから」

 

メディア・リリィの言葉にメディアは耳を疑った。

 

「ちょっと待ちなさい。サーヴァントとしてではなく、魔術師としてのあなたが負けた……!?成長した私より力が劣るとはいえ、神代の魔術師が負けるなんて……」

 

サーヴァントでは生前よりも力が抑えられているが、メディア・リリィは魔術師としての力が100パーセントの状態で戦っていた。

 

神代の魔術師であるメディアは相当強力な魔術を使うことが出来るが、そのメディア・リリィが対峙した相手はそれ以上の存在ということだ。

 

メディア・リリィは遊馬に忠告と助言を与える。

 

「ええ。どうか覚悟を決めておきなさい、遠い時代の、最新にして最後の魔術師たち。アナタたちでは彼には敵わない。魔術師では、あの方には絶対に及ばないのです。だから……星を集めなさい。いくつもの輝く星を」

 

「星……英霊、サーヴァントの事か?」

 

「どんな人間の欲望にも、どんな人々の獣性にも負けない、嵐の中でさえ消えない、宙を照らす輝く星を……」

 

それは遊馬がこの先、様々な特異点で出会うサーヴァント達と絆を結び、強大な敵に立ち向かうための輝く星を集めるという事である。

 

「じゃあ、その星の一つにあんたもなってくれるか?」

 

遊馬はその星の内の一つを集めるためにメディア・リリィを誘う。

 

「私を、ですか……?敵としてアナタ達に刃を向けた私を……?」

 

「お前は負けて絶望したんだよな?だったら、メディア。俺がお前の希望の光になる」

 

「あなたが……私の希望の光に……?」

 

「俺は、いや……俺達は必ずそいつに勝つ!勝って人類と世界の未来をこの手に取り戻す!」

 

「自信があるのですか、本当に出来るのですか?アナタ方に……」

 

「出来るさ!俺達には無限の可能性がある。今までだって絶望的な状況を何度も潜り抜けてきた。例えどんな絶望が襲い掛かってこようとも、俺達は必ず立ち上がって前に進む。だから、もう二度とお前に絶望なんかさせない。約束だ!」

 

遊馬はメディア・リリィに手を差し伸べて満面の笑みを浮かべる。

 

「私は……裏切られるのは嫌です。だから、裏切らないでくださいね……」

 

「俺は絶対に仲間を裏切らない。だけど、もしも万が一に俺が裏切ることがあったら、俺を容赦なく魔神にしてもいいぜ」

 

裏切ったら自分を化け物にしても構わないと誓い、メディア・リリィは遊馬のその言葉を信じて手を伸ばした。

 

「成長した私が共に戦う理由が少しだけ、分かった気がします……」

 

メディア・リリィは遊馬の手を取り、二人は契約を交わしてフェイトナンバーズを生み出す。

 

その直後にメディア・リリィは最後に笑みを浮かべながら消滅し、聖杯を残して行った。

 

こうして……この世界の特異点の戦いが終わりを迎えるのだった。

 

新たな謎を抱えながら遊馬達はこの世界に別れを告げる時が来た。

 

 

 

.




イアソン綺麗すぎましたかね?
一応ベクターの最後の時をオマージュしてみたんですが。
メディア・リリィさんは遊馬先生に攻略されました(笑)
年齢も近いし良いかなと思いまして。
ヤンデレにサイコパス・・・・・・遊馬先生も大変です。

次回はエピローグと空の境界イベントの開幕です!
あの式さんをどう表現するか難しいんですよね。
あの人、ツンツンして素直じゃないから天真爛漫な遊馬と色々起こりそう(笑)


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空の境界 the Garden of Order
ナンバーズ54 夢の中の出会い、サーヴァント行方不明事件発生!


空の境界編スタートです。
ぐだぐだ本能寺と同じく出来るだけ短めにまとめて早めにZERO編に突入させます。


メディア・リリィの消滅と共にこの世界の特異点となる聖杯が転げ落ち、遊馬はそれを拾い上げてマシュに渡す。

 

「聖杯の回収、完了しました」

 

聖杯を盾の中にしまい、無事に聖杯の回収が完了した。

 

これでこの特異点での戦いがようやく終わりを迎えたことになる。

 

「ここでお別れだ、ドレイク船長」

 

「そっか……いつかは終わりが来るとは思っていたが意外に早かったな。もっとお前と冒険したかったぜ、ユウマ」

 

「俺もだよ。たった数日だけど、本当に楽しかったぜ!」

 

「私もだよ。それに、希望皇ホープやナンバーズ、そしてZEXAL。たくさんのいいもんを見せてもらった」

 

ドレイクは懐から二丁拳銃を取り出すとその片割れを遊馬に差し出した。

 

「えっ?船長?」

 

「持ってけ。ユウマ、私からの餞別だ。それにこいつがあれば私を召喚出来るだろ?」

 

遊馬は恐る恐るドレイクからフリントロック式の拳銃を受け取り、その歴戦の重みを感じる。

 

「ネロから聞いた。生前持っていたものを媒体にサーヴァントを呼び出せるんだろ?そいつで英霊となった私を呼び出してくれよ」

 

「サーヴァントとして俺と一緒に戦ってくれるのか?」

 

「ああ、もちろんさ!あんたのこれから進む果て無き冒険を共にするためにさ!」

 

「ありがとう、ドレイク船長!」

 

「それから、こいつを今度こそ受け取ってもらうぞ!」

 

ドレイクは自分の体から聖杯を取り出して遊馬に差し出す。

 

「だから俺は聖杯は……」

 

「ごちゃごちゃ言うんじゃないよ!お前は未来を救うんだろ!」

 

「っ!?」

 

「それにあの小さいメディアと約束したんだろ?必ず勝つ、希望の光になるって。お前の背にはたくさんの人の思いを背負ってる。だったら、勝つための手数は多い方がいい。こいつがどう役に立つかは分からないが、無いよりはずっとマシだ」

 

「船長……」

 

「ユウマ!何があっても絶対に負けるんじゃ無いよ!そして、私とお前の両親を越える世界最高の冒険者になりな!!」

 

それはドレイクからの激励の言葉だった。

 

星の開拓者であり冒険者の大先輩であるドレイクは世界と人類の未来の全てをその背中に背負っている遊馬の助けになるために拳銃と聖杯を渡すのだ。

 

「本当にいいのか……?」

 

「ああ。お前ならこいつを正しく使えるはずさ」

 

遊馬は恐る恐るドレイクから聖杯を受け取る。

 

すると、聖杯が金色に輝いて遊馬の中に静かに入り込んだ。

 

「聖杯が俺の中に……」

 

「これで正式に聖杯はお前のものだ。私のお宝の一つをやったんだ。負けるんじゃないよ?」

 

「……ああ。約束する、俺は負けない!」

 

遊馬は聖杯が体の中にあるのを感じながら決意の拳を突き出す。

 

「おう、またな。ユウマ!」

 

ドレイクも拳を作って遊馬の拳とぶつけあう。

 

「マスター、必ず私を召喚してね。ステンノとメドゥーサを召喚したのに私だけ召喚しないのは無しよ?」

 

「ユウマ、お前なら必ず私を召喚できる。待っているぞ」

 

「エウリュアレ……アタランテ……ああ、必ず召喚してやるから少し待っててくれ」

 

特に召喚してもらいたいと願うエウリュアレとアタランテの思いに遊馬は強く頷く。

 

そして、この世界で召喚されたサーヴァント達が役目を終えて静かに消滅していく。

 

残ったのはカルデアに属するサーヴァント、そしてメディアと強い絆で召喚された宗一郎だった。

 

「行きましょう、宗一郎様。共に……」

 

「ああ……」

 

メディアは宗一郎と手を取り合い、遊馬が全員のフェイトナンバーズと宗一郎のトークンカードを掲げると体が粒子化してカードの中に入る。

 

全員をデッキケースにしまい、遊馬はアストラルを見上げる。

 

アストラルは顎に手を添えていつもの何かを熟考する姿勢をしていた。

 

「アストラル、どうしたんだ?」

 

「いや……聖杯を無事に回収出来たのは良いが、二つの特異点に現れた二つの魔神が気になってな……」

 

レフのフラウロスにフォルネウス、どちらもかの有名なソロモン王が使役したとされる七十二の悪魔のうちの2体だった。

 

アストラルはその事が気になっていた。

 

今回の人理を崩壊させた黒幕、それがソロモン王に関係する何かではないかとアストラルは推測する。

 

「確かに気になるけど、でもあんまり考えすぎるのも良くないと思うぜ?お前の悪い癖だ」

 

「遊馬……」

 

「俺たちのやることは変わらない。特異点を巡り、英霊と絆を結んで聖杯を回収する。黒幕が出てきたんなら、俺たちの全力を持ってぶっ飛ばす」

 

「だが、それでは後手に回ってしまうのではないか?」

 

「考えてみろよ、ドン・サウザンドの戦いでも俺たちはかなり後手だったじゃないか。敵は強大すぎる。世界を既に滅ぼしかけている奴だぜ?」

 

ドン・サウザンドは強大な力を持ちながら頭脳明晰で用意周到で忍耐強く、アストラル世界を滅ぼしてヌメロン・コードを手に入れるために人間界で数千年単位の時間も影で行動していた。

 

人理焼失の黒幕もドン・サウザンド並みにかなりの力を持っていることは間違いない。

 

下手に先手を取ろうとしても空回りして逆効果になってしまう恐れがある。

 

「だからさ、俺たちは目の前のことを全力でやるしかねえんじゃねえの?」

 

目の前のことを一つ一つ確実に解決していく。

 

それが結果として遊馬達の大きな力へと繋がると信じて。

 

「目の前のことを全力でか……君らしいな。そうだな、確かに私は少し考えすぎだな。かっとビングだな、遊馬!」

 

「ああ!かっとビングだぜ、アストラル!」

 

アストラルの迷いを遊馬の言葉で断ち切り、二人はハイタッチを交わす。

 

そして、世界が修正され、周りの景色が消えていく中、遊馬はアストラルを皇の鍵の中に入れて静かにカルデアへ帰還する。

 

 

カルデアに帰還すると遊馬は戦いの疲れを忘れるようにコフィンから飛び出して召喚ルームに向かう。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、召喚の準備よろしく!」

 

「え!?今から!?わ、分かった、すぐに準備するよ!」

 

ダ・ヴィンチちゃんは相変わらずだなと苦笑を浮かべながら英霊召喚の準備をする。

 

元気良く走る遊馬の背中を見てオルガマリーとロマニは笑みを浮かべた。

 

「全く、あれだけの激戦を潜り抜けながら元気なものね」

 

「いやー、若いって良いねぇ!」

 

「ロマニ、それは自分が老けてることを言っているものよ」

 

「酷いよ、所長!?」

 

「ほら、あなたも遊馬とマシュのメディカルチェックの準備をしなさい」

 

「アイアイ姉御!」

 

「誰が姉御よ!?」

 

ロマニは特異点の海賊の真似をしながらオルガマリーからダッシュで逃げるように立ち去る。

 

召喚ルームで英霊召喚の準備を整えると、召喚サークルに銃とフェイトナンバーズを並べる。

 

「遊馬くん、準備完了です。はい、聖晶石です」

 

「ああ!かっとビングだ、俺!!」

 

手の中で握り潰して砕いた聖晶石を振り撒き、四度目のサーヴァント召喚が始まり、爆発的な魔力が集束する。

 

英霊召喚システムとカルデアの電力が唸りを上げて眩い光を放ち、光の中から第三特異点で出会ったサーヴァントが召喚される。

 

最初に召喚されたのは触媒である銃の所有者であるドレイクだった。

 

「約束通り、私を呼んでくれたね。これからはこう呼ばさせてもらうよ、マスター!」

 

ドレイクのフェイトナンバーズは黄金の鹿号に搭乗し、大砲を打ち鳴らしている姿が描かれており、真名は『FNo.32 黄金の嵐 フランシス・ドレイク』。

 

「ありがとう、本当にステンノとメドゥーサと一緒に過ごせるのね」

 

ドレイクの次に召喚されたのはエウリュアレ。

 

エウリュアレのフェイトナンバーズは美しい後光と星空をバックにエウリュアレがウィンクして可愛らしい姿が描かれており、真名は『FNo.44 魅惑の女神 エウリュアレ』。

 

「ます、たー……これからも、よろしく……」

 

エウリュアレの次に召喚されたのはアステリオス。

 

アステリオスのフェイトナンバーズは迷宮をバッグに半分に割れた牛の頭蓋骨の仮面を被りながら歩く姿が描かれており、真名は『FNo.51 雷光の迷宮 アステリオス』。

 

「はーい♪オリオンでーす!ダーリンと一緒に呼ばれなんて嬉しいわ!」

 

「あー、全くもって役に立てないけど、とりあえずよろしくな」

 

アステリオスの次に召喚されたのはアルテミスとオリオン。

 

アルテミスとオリオンのフェイトナンバーズは美しい満月をバックにクマのぬいぐるみと化したオリオンをギュッとアルテミスが嬉しそうに抱きしめている姿が描かれており、真名は『FNo.87 月女神の射手 アルテミス&オリオン』。

 

「デュフフ……マスター、改めてよろしくでござるよ!」

 

アルテミスとオリオンの次に召喚されたのは黒髭。

 

黒髭のフェイトナンバーズはアン女王の復讐号に搭乗し、幽霊の部下を引き連れて大海賊の名に相応しい暴れまわる姿が描かれており、真名は『FNo.50 黒髭 エドワード・ティーチ』。

 

「約束通り、参りましたわ」

 

「たくさん冒険の話をしてあげるね」

 

黒髭の次に召喚されたのはアンとメアリー。

 

アンとメアリーのフェイトナンバーズは二人が背中合わせにそれぞれが銃とカトラスを持って勇ましく戦う姿が描かれており、真名は『FNo.37 比翼連理の女海賊 アン&メアリー』。

 

「ウガァアアアアアッ!」

 

アンとメアリーの次に召喚されたのはエイリーク。

 

エイリークのフェイトナンバーズは血の雨をバッグに斧を掲げながら戦う姿が描かれており、真名は『FNo.80 血斧王 エイリーク』。

 

「おっと、今度はまともなマスターみたいだな。いやー、良かった」

 

エイリークの次に召喚されたのはヘクトール。

 

ヘクトールのフェイトナンバーズはトロイの街をバックにドゥリンダナを構えた姿が描かれており、真名は『FNo.52 不毀の知将 ヘクトール』。

 

「やあ、マスター。君の歩む英雄譚を見せてもらうよ」

 

ヘクトールの次に召喚されたのはダビデ。

 

ダビデのフェイトナンバーズは羊達に囲まれながら優雅に堅琴を奏でる姿が描かれており、真名は『FNo.8 堅琴の聖王 ダビデ』。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!」

 

ダビデの次に召喚されたのはヘラクレス。

 

ヘラクレスのフェイトナンバーズは雪原の中、斧剣を構えて雄叫びを上げる姿が描かれており、真名は『FNo.30 神狂の大英雄 ヘラクレス』。

 

「未来を救う数多の煌めく星……その一つになれるよう、私の全てを捧げます」

 

ヘラクレスの次に召喚されたのはメディア・リリィ。

 

メディア・リリィのフェイトナンバーズは綺麗な星空の下、杖を構えて微笑む姿が描かれており、真名は『FNo.49 癒しの魔女 メディア・リリィ』。

 

「ユウマ……あの時の誓いを必ず果たす。あなたを必ず守る!」

 

最後に召喚されたのはアタランテ。

 

アタランテのフェイトナンバーズは既に判明しており、『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』。

 

しかし、残念ながらイアソンは召喚に応えずフェイトナンバーズは何も反応しなかった。

 

遊馬が太陽のように眩しすぎて一緒にいるのが辛いと思ったのか、ただ単に自分が役立たずでいない方がいいと思ったのか……真相は分からないが遊馬はイアソンと会えない事を残念に思った。

 

しかし、いつまで落ち込んでても意味はないので新たに召喚したサーヴァントを引き連れて食堂に向かう。

 

「よし、今からみんなの歓迎会だ!思いっきり騒ごうぜ!!」

 

既に食堂では小鳥とブーディカとマルタが宴会の準備をしており、エミヤはカルデアに帰還してから水を得た魚のようにすぐに美味な料理を作る。

 

出来た料理をメイド服にコスチューム・チェンジしたアルトリアとアルトリア・オルタがテーブルに運ぶ。

 

そして、第三特異点の終結と新たなサーヴァント達を祝う歓迎会が行われる。

 

特に宴会好きな海賊のドレイクが酒の入ったジョッキ片手に派手に楽しんでいた。

 

それから時間が過ぎ、歓迎会は無事に終わり、遊馬はオルガマリーの勧めで一足先に部屋に戻った。

 

ベッドに座ると連戦と歓迎会の疲れが体に一気に来て、そのままベッドに倒れ込んだ。

 

人間は本当に疲れているときは夢を見ずに体を休めるために熟睡するものである。

 

遊馬も例外ではなくそのまま夢を見ずに熟睡する……はずだった。

 

気がつくと遊馬は花畑にいるような不思議な夢の中にいた。

 

「なんだここ?また俺、変な夢を見てるのか?」

 

しかし、今までの夢とは違い自分の意識がはっきりしていた。

 

するとそこに優しい声が響いた。

 

「あら。ここにお客様が来るなんて、どんな間違いかしら?」

 

「え?」

 

遊馬が振り向くとそこには優雅な花の模様の刺繍がとても綺麗な着物を着て刀を持った青い瞳の女性が立っていた。

 

まるで遊馬の故郷である日本の古き良き日本人女性の名称、大和撫子を体現したかのような美しい女性だった。

 

「夢を見ているのなら、元の場所にお帰りなさい。ここは境界のない場所。名前を持つアナタが居てはいけない世界よ?」

 

女性は優しく遊馬に話しかける。

 

「境界……?うーん、そう言われても俺は気がついたらここにいたから……」

 

「求めて来た訳ではないの?ならーーふふ、ごめんなさい。縁を結んでしまったのはこちらの方みたい。今のうちに謝っておくわ、遊馬君」

 

「何で、俺の名前を……?」

 

女性は遊馬が名乗ってないのに何故か名前を知っており、遊馬は首を傾げる。

 

「私は眠っているから外のコトは分からないけれど、何が起きたのか予想できる。どうせまた斬った張ったの、ロマンスの欠片もない事件でしょう。災難ね、気の多いマスターさん。でもやれる事、やるべき事があるのはいい事だわ」

 

「あんた、さっきから何の話をしているんだ?」

 

まるで全てを見通すかのような話をしているようで遊馬は少し不気味に思いながら女性を見つめる。

 

「それにしても……」

 

女性は静かに近づくと遊馬の特徴的な赤い前髪を指でチョンチョンと突っつく。

 

「とっても面白い髪。どうしたらこんな髪になるのかしら?」

 

「別にセットしてないぜ?この髪は父ちゃんの遺伝だぜ」

 

遊馬の特徴的な髪は父親の一馬譲りで遺伝として受け継がれた。

 

「そうなの?へぇ……これ、抜けるかしら?」

 

女性の目が怪しくキラーンと輝き、獲物を狙う野獣のような視線で遊馬の前髪を掴もうとしたが、間一髪で遊馬は後ろに全力で下がる。

 

「抜くなぁっ!?前髪は抜けないし、抜いても黒化して変身もしないぞ!??」

 

本気で前髪を引き抜こうとした女性に遊馬は恐怖を抱く。

 

「うふふ、冗談よ。あら?アナタ、一つじゃなくて複数の名前を持っているのね?」

 

女性は遊馬が『九十九遊馬』という名前だけでなく様々な名前を持つことに気付いた。

 

「複数の名前?」

 

「面白い子ね。異名とは違う、複数の名前を持つ子なんて」

 

「何言ってんだよ。俺は九十九遊馬、父ちゃんからもらった大事な名前が俺の名前だぜ?」

 

「ふふふ、あなたは気付いてないだけね。でも、その内に理由がわかる時が来るわ」

 

「はぁ……?ってか、あんた誰だよ?」

 

「私?私は……あぁ、あなたのことを色々とお喋りしてみたいところだけれどーー」

 

だんだんと女性の姿が薄れて来て周りの風景も明るくなっていく。

 

「お、おい!?」

 

「残念。もう夜が明けてしまいそう。夢が終わる頃みたい。もしまた会えることになったら、その時は、どうか私の名前を口にしてね?」

 

女性は最後に寂しそうな淡い笑みを浮かべながら遊馬の夢の中から消えて行った。

 

「んっ……変な夢……」

 

遊馬は目を覚まし、欠伸をしようと右手を口元に持っていこうとしたら右手で何かを握っていることに気づいた。

 

「……モンスターエクシーズのカード……?」

 

何故か右手にモンスターエクシーズのカードが握られていた。

 

真名と効果は書かれていなかったが、イラストだけがしっかり描かれていた。

 

「これ、夢で会った女の人……?」

 

それは夢の中で出会った着物の女性で花吹雪が舞う中で刀を構えて微笑んでいる姿が描かれていた。

 

「フェイトナンバーズ……あの人、英霊だったのかな?」

 

恐らくは見た目からして日本人だが何の英霊なのか判断することができなかった。

 

最も、歴史や神話に名を残す英霊達の性別が実は違っていたという事案が多すぎて、見た目ではほとんど判断ができなくなっているので、真名を特定するための決定的なものがない限り考察はほぼ不可能に等しいが。

 

「ま、縁があったら会えるだろう」

 

遊馬は敵ではないのでとりあえずはあまり深く考えないでいいかと思い、そのフェイトナンバーズをデッキケースにしまう。

 

「さて、着替えて飯食うか……あれ?」

 

部屋を見渡すがいつもと違う光景だった。

 

いつもなら勝手に部屋に侵入してアストラルが設置したデモンズ・チェーンで縛られて動かなくなっているはずのネロと清姫の姿が見当たらなかった。

 

いや、そもそも部屋に自分以外の人間が許可していないのに勝手に入ること自体がおかしいのであるが。

 

「あれおかしいな?二人とも体調悪いのか?」

 

遊馬は二人に何かあったのかと逆に心配になって部屋を出ると……。

 

「おお、ユウマよ。起きたか、おはよう」

 

「えっ?ア、アタランテ?」

 

部屋の前には何故か少しボロボロになっていたアタランテが笑顔で挨拶して来た。

 

「えっと、おはよう。どうしたんだよ、そんなボロボロで……」

 

「ああ。あれを一晩中相手をしていたらからな」

 

「あれ……?うわぁっ!??」

 

アタランテの先には同じくボロボロのネロと清姫が立っていた。

 

「くっ、ユウマの寝顔を見る事ができなかった……!」

 

「旦那様の寝顔を一晩中見る事ができないなんて、不覚です……!」

 

「えっ!?もしかして、アタランテはネロと清姫を相手に一晩中戦っていたのか!??」

 

「もちろん。子供の健やかな睡眠を妨げる無粋な奴らを野放しにはできないからな」

 

セイバーのネロとバーサーカーの清姫を相手に遊馬が起きないように細心の注意を払いながら戦っていたアタランテの子供への想いの強さが勝利したのだった。

 

「見事だ、アタランテ。君がよければこれからも遊馬の貞操を守って欲しい」

 

皇の鍵からアストラルが現れ、アタランテの活躍を賞賛した。

 

実はアストラルがカルデアの遊馬の女性関係の実情を教え、それを聞いたアタランテがまだ幼い遊馬の貞操を守るために立ち上がった。

 

「喜んで。純粋な子供であるマスターの純潔と心身を守れるならこの身を砕く所存だ」

 

「ありがとう、これからも共に遊馬を守ろう」

 

二人はガシッと固い握手を交わし、ここにアストラルとアタランテの『遊馬の純潔を守ろう同盟(仮)』が誕生した。

 

「ははは……サーヴァントが増えたからまたカルデアが賑やかになるな」

 

カルデアに新たなサーヴァントが召喚される度に常に変化する楽しく、賑やかな日常を送る事ができる。

 

遊馬はそれがとても楽しく、次の特異点が見つかるまでの束の間の安らぎとも言える時間を楽しもうとした矢先だった。

 

「遊馬〜っ!」

 

「ん?小鳥、どうしたんだよそんなに慌てて……」

 

小鳥が汗だくになりながら必死に走ってきた。

 

「た、大変なの……」

 

「大変って、何が?」

 

カルデアの緊急警報が鳴ってないので大変と言ってもそこまで重要なものではないと楽観していたが、小鳥は衝撃的な発言をする。

 

「ブーディカさんが、私の目の前から突然消えちゃった!!」

 

「……はぁ!??」

 

それはカルデアからサーヴァント達が次々と行方不明となる怪事件の始まりだった。

 

その元凶である謎の特異点が出現し、そこで一人の女性と新たな運命の出会いをする。

 

そして、無辺の闇が全てを覆うその時、遊馬とアストラルが新たなランクアップの境地を切り開く事となる。

 

 

 




今回はプロローグで式さんは次回登場です。

遂に今まで触れなかった遊馬の特徴的な前髪を突っ込まれました(笑)
「 」さんが頭のアンテナを色々言ってたので遊馬の前髪を突っ込むと思いましたので。

ちなみに復刻で浅上藤乃が出るらしいですが、シナリオにも出ないので登場させるか未定です。
多分出さないと思いますが。


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ナンバーズ55 死を視る魔眼の少女

遂にツンギレ少女である式さんの登場です。
空の境界、原作を見たことありますけど、まあ難しくて読むのが大変でした。


小鳥の口からブーディカが突然消えたと聞き、遊馬達は急いでオルガマリーの元に行き、管制室に集まる。

 

数十分前、小鳥は食堂でブーディカから料理を教わっていた。

 

まるで親子のように楽しく料理をしていた突如、ブーディカの姿が消えてしまったのだ。

 

サーヴァントが突然消える現象、それは過去にも一度起きていた。

 

それは第二特異点でエリザベートがカルデアからステンノがいる神の島へと召喚されてしまったことだ。

 

恐らく、ブーディカも特異点に召喚されてしまった可能性がある。

 

第三特異点の聖杯を回収して解決したばかりだと言うのにもう新たな特異点が現れたのかと疑問に思うが、実は新たな特異点が発見されていた。

 

それは遊馬とマシュにとって戦いの始まりを告げる最初の特異点『F』。

 

特異点Fの聖杯は回収したが、その隣に妙な揺らぎが現れており、小さいが新たな特異点が発生していた。

 

しかも生命反応があり、どれだけ調べても分からずレイシフトしないと何が起きているのか判明すらできない状況だった。

 

すぐに行方不明になったサーヴァントをリストアップするためにちびノブ達を使って人海戦術で一気に調べ上げた。

 

そして、行方不明になったサーヴァントはブーディカ、クー・フーリン、エリザベート、呂布、レオニダス、黒髭、アン&メアリー、ノッブ、沖田。

 

何故みんなが一斉にその小さな特異点に召喚されたのか不明だが、このままではカルデアに帰還することは出来ないのですぐに遊馬とマシュが立ち上がる。

 

「こうしちゃいられない!行方不明のサーヴァントを迎えに行くぞ!そんでもって、特異点をついでに解決だ!」

 

「はい!皆さんに何があったか分かりませんが、必ず連れ戻します!」

 

遊馬とマシュはすぐに特異点に向かう準備をし、カルデア職員は急いでコフィンの最終点検を行う。

 

「オルガマリー所長」

 

「何かしら、アストラル」

 

特異点に向かう前にアストラルはオルガマリーに話をする。

 

「今回は極力サーヴァントを呼ばないようにしようと思う」

 

「どうしてかしら?」

 

「今回の特異点は何かがおかしい気がする。サーヴァント達がカルデアに戻ってこれないのも、サーヴァント達に何らかの悪影響を与えている可能性が考えられる」

 

「そうね……下手にカルデアからサーヴァントを出したら何かが起きるかもしれないわね。でも、大丈夫かしら?」

 

「心配するな。ヘラクレスとの戦いを経て私と遊馬は強くなった。そしてマシュも頼もしくなった」

 

「そうね……あなた達はカルデアの最後の希望として頼もしくなって来たわね。わかったわ、あなた達を信じます。でも、必ず帰って来なさいね」

 

「もちろんだ」

 

アストラルとオルガマリーは頷き、レイシフトの準備が完了する。

 

遊馬はデュエルディスクとD・ゲイザーと原初の火をセットし、マシュをフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまい、アストラルは皇の鍵の中に入る。

 

そして、遊馬はコフィンの中に入り、謎の特異点に向けてレイシフトをする……行方不明となったサーヴァントを探しに、そして謎の特異点を解決するために。

 

 

レイシフトが完了し、遊馬が目を開け、マシュがフェイトナンバーズから出て来て、アストラルが皇の鍵から出るとそこは今までの特異点とは全く違う風景が広がっていた。

 

灯りが灯された立ち並ぶビル、夜空に浮かぶ三日月……それは日本の都会を思わせる風景で遊馬とアストラルにとってハートランドシティでも見慣れたものだった。

 

「アスファルトで舗装された車道……壁のようにそびえる高層建築……これは……これは……!間違いありません!ここは二十一世紀の日本の都市部です、遊馬君!」

 

「そうだな。ってか、マシュ。テンション上がりすぎじゃないか?」

 

マシュは今までにないほどテンションが上がっており、まるで田舎から都心に来た人みたいにはしゃぎまくっていた。

 

「そう言えばマシュはカルデアから出たことがないって言ってたな……」

 

「カルデアから……ふむ、それは少し気になるが、あそこまで喜んでいるとハートランドに連れて行きたくなるな」

 

「ああ。ハートランドは少なくともこの世界よりかなり発展してるからな。マシュもきっと喜ぶだろ」

 

「そうだな。ハートランドだけでなく他の国にも連れて行こう。かつて私たちが皇の鍵の飛行船で世界を飛び回ったように」

 

「もちろんだぜ。カルデアのみんなで世界旅行……なんて言うのもありかな?」

 

「それは……色々みんなをまとめないと大変そうだな」

 

「引率の先生の気分になるな。さてと……」

 

話を終わらせ、遊馬とアストラルはこの特異点で不気味な気配を感じた方角に視線を向けた。

 

視線の先には円形の形をした塔のような奇妙なビルが建っており、そこからサーヴァントの気配が感じられる。

 

「あそこか……」

 

「そうだ。あそこからサーヴァントの気配が感じられるが、同時に邪悪な気配も感じる。気を引き締めろ……」

 

「当たり前だ。中で何が起きているか分からないもんな」

 

「遊馬君!入り口付近に人影があります!」

 

ビルの入り口付近でゴーストが多数いて、その中心にサーヴァントと思われる者が戦闘を行っていた。

 

遊馬達は急いで加勢するために向かうが、ゴーストが一斉に消失し、その中心にいたサーヴァントの姿が目視出来た。

 

「あの人……えっ?」

 

「女性……?」

 

「着物に赤い革ジャン、そして……ナイフ?」

 

それは黒髪に黒い瞳のまさにクール美人というに相応しいマシュより少し年上の少女だったが、着物に赤い革ジャンという謎のファッションに身を包み、その手には鋭いナイフが握られていた。

 

「……はあ、やっすい夢。いつもの悪夢にしては質が悪いな、これ。シャレコウベの地縛霊とか時代を考えろ。今時は売りの一つもないとやっていけないぞ」

 

「……似てるけど、違うな」

 

遊馬はその着物の少女が夢で見た女性かと思ったが、雰囲気がまるで違うので別人だと判断した。

 

まずは会話からしようと近づくと……。

 

「何だ?敵か?悪人にしろ善人にしろ、頭にナイフを打ち込めばこんな現実とはおさらばだ。厄介ごとに首を突っ込んだのはその頭だろ?綺麗さっぱり、元いた場所に返してやるよ」

 

そう言うと女サーヴァントはナイフを振りかざして突然襲いかかってきた。

 

「ちょっ!?まさかの通り魔かよ!??」

 

「誰が通り魔だ!!」

 

「遊馬君、下がっててください!」

 

マシュは盾を構えて謎の女サーヴァントと交戦をする。

 

女サーヴァントはナイフを振るい、マシュはそれを盾で受け止めるがナイフは小回りが利くので大きな盾を持つマシュには不利な相手だった。

 

「マシュ!待ってろ!俺のターン、ドロー!よし!」

 

遊馬は急いでデッキからカードを5枚を手札にしてドローし、すぐさま手札にあったカードを発動する。

 

「相手の攻撃時、手札から『虹クリボー』の効果発動!虹クリボーを相手に装備し、攻撃をさせなくする!」

 

『クリクリ〜!』

 

額が七色の虹に輝く虹クリボーが現れ、ナイフを振り回す女サーヴァントの装備カードとなり、虹クリボーから作られた体を覆うリングとなって動かなくなった。

 

「な、何だこれは……動けない……!?」

 

女サーヴァントは突然体が動けなくなり、ナイフすら動かせない状態に困惑する。

 

『クリリ!』

 

虹クリボーが女サーヴァントの目の前に現れると、女サーヴァントは目を丸くして驚いた。

 

「…………何だこれ?」

 

虹クリボーを見た瞬間、女サーヴァントから発せられた殺気が静まった。

 

『クリ?』

 

「お前…………何?」

 

女サーヴァントは虹クリボーをマジマジと見つめる。

 

愛らしくつぶらな瞳、滑らかな表皮、ゴムボールのように柔らかそうな体……女サーヴァントの体がピクッと震えている。

 

『……信じられないわ』

 

突然、オルガマリーが信じられないと言った様子で通信して来た。

 

「所長?」

 

『そのサーヴァントの眼、ただの眼じゃないわ。魔眼よ!魔眼!まだこれほどの魔眼の使い手がいたなんて……』

 

「魔眼?メドゥーサの石化のと同じあれか?」

 

よく視ると女サーヴァントの目が黒から青赤く輝いており、不思議な色となっていた。

 

『ええ。魔術世界において魔を帯びた眼は転じて神秘を視る眼は魔眼と称される。魔術式や詠唱を必要なしにただ視るだけで神秘を映す。あなたのは魔眼の最上位、死の概念をカタチとして捉え、干渉する虹の瞳……直死の魔眼ね』

 

「よくご存知だな。そういうお前は魔術師だな?まあオレに出来るのは死を視る事だけ。死にやすい線……えーと、要はモノの結末か。いつか死ぬことと決まっている要因、死の結果をなぞっているだけって言えば、分かるか?」

 

「直死の魔眼か……」

 

「死を視る魔眼……まさかそんな使い手が存在したとは。ならば、私の死も見えるのか?」

 

「当たり前だ。生きているのなら、神様だって殺してみせるからな……ん?」

 

女サーヴァントは直死の魔眼でアストラルを視るがその体にある『死』に驚いたような表情を浮かべた。

 

「お前……少し信じられないが、一度死んでいるな?」

 

「えっ!?」

 

「お前の『死の線』……胸に大きな跡が見えるまるで、一度開いたものを塞いだみたいに見える……」

 

「……ああ。私は一度死んでいる。だが、遊馬のお陰で生き返ることができた」

 

アストラルが一度死んだが遊馬のお陰で生き返ることが出来たという事実に女サーヴァントは少し興味が出てきた。

 

「へぇ……生き返ったね……」

 

すると、遊馬の上着のフードの中からフォウが飛び出した。

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「!?」

 

「フォウさん!?またくっついて来たんですか!?」

 

「…………なにその毛玉。ふざけてるの?」

 

虹クリボーとフォウの登場に明らかに雰囲気が柔らかくなったのを遊馬とアストラルは逃さず気付き、遊馬は女サーヴァントから虹クリボーを解除して動けるようにする。

 

遊馬は虹クリボーとフォウを抱き上げて女サーヴァントに見せるように近付く。

 

「触る?」

 

「別に」

 

「本当に?」

 

「触らない」

 

「こんなに可愛いのに……」

 

『クリー?』

 

「フォウ?」

 

ズキューン!!

 

虹クリボーとフォウのつぶらな瞳が女サーヴァントの心を狙い撃ち、ナイフを静かに仕舞う。

 

「し、仕方ないな……ちょっとだけだぞ?」

 

女サーヴァントは遊馬から虹クリボーとフォウを受け取ってその滑らかな肌触りとふかふかの毛皮をこれでもかと言うぐらい堪能した。

 

意外に女の子らしいなと遊馬達は思ったが、それを口にせずに大人しく黙っていた。

 

数分後、遊馬達への殺意がなくなった女サーヴァントは改めて話し合うことにした。

 

「……両儀式」

 

両儀式。

 

それが女サーヴァントの名前でもちろん日本人だった。

 

「両儀、式?へぇー、珍しい名前だな。俺は九十九遊馬!」

 

「私はアストラル。アストラル世界と呼ばれる異世界から来た精霊だ」

 

「私はマシュ・キリエライト。デミ・サーヴァントです」

 

「九十九遊馬……?お前、日本人か?」

 

「そうだけど?」

 

「それにしては変な髪型だな……セットしてるのか?」

 

式は夢で見た女性と同じように遊馬の髪型を気になって尋ねた。

 

「この髪は遺伝だぜ」

 

「嘘つくな。どうして遺伝でそんな髪型になるんだ」

 

「嘘じゃねえって。ほら、これが俺の父ちゃん」

 

遊馬はデュエルディスクをD・パッドに変形して遊馬の両親が写っている写真の画像を式に見せる。

 

「本当だ……隣に写っているのは母親か?」

 

「おう」

 

「何で母親の髪型はまともで父親がこんなに奇抜なんだ!?いったいどんな遺伝子だ!??」

 

式は遊馬の母親の未来が綺麗なロングヘアーの女性で父親の一馬が奇抜な髪型な事に突っ込みを入れられずにいた。

 

「そんなことを言われてもな……」

 

「まあいい。なんかお前達のことをものすごく気になり始めた。変な髪のガキに見たことない霊、そしてデミ・サーヴァント……お前達は何者だ?」

 

式は遊馬達のことが気になり、遊馬達の目的やカルデアについて話した。

 

「ふーん、つまりお前と契約しているサーヴァントを探しに来たと……ならあのマンションにいる。サーヴァント達がマンションに住み着いている。おかげでここもお祭り騒ぎだ。ちなみにオレは今、擬似サーヴァント状態でここにいる。大方、この建物に因縁があるから引き寄せられたんだろ。ホント、いい迷惑」

 

式の話からして式自身は名のある英霊がサーヴァントとして召喚されたのではなく、この不気味なマンションと因縁がある所為でイレギュラーだが擬似サーヴァントとして召喚されたらしい。

 

「やっぱりあそこか……サンキュー、式。なあ、擬似サーヴァントなら俺と一緒に来るか?」

 

「断る。別に消えるなら消えるで清々するよ。余計な苦労をしなくて済むしな」

 

「そっか……分かった。じゃあ、早速行こうぜ、アストラル、マシュ」

 

「いいのか、遊馬」

 

「そうですよ、せっかく出会えたのに……」

 

「本人が嫌なら無理に誘う必要は無いだろ?それに……今はサーヴァント達を一刻も早く探して連れ戻すことが先決だ」

 

いつもなら遊馬は少し強引にでも敵ではないサーヴァントを仲間に引き入れようとするが、今回はサーヴァントが謎の行方不明事件に巻き込まれているのでそちらの解決が最優先である。

 

「話してくれてありがとうな。じゃあ、そういうことで」

 

遊馬は式に軽く手を振ってマシュとアストラルを連れてマンションに向かう。

 

「……おい」

 

「ん?何?」

 

式は遊馬を呼び止めて気になったことを質問する。

 

「聞かせろ……マスターとサーヴァントは単純に言えば主従関係だろ?従者のために主人がそこまでするのか?」

 

「俺にとってサーヴァントは従者じゃない。大切な仲間だ」

 

「だけど、家族や恋人でもない。それなのにわざわざ子どもが危険をおかしてまで行くのか?」

 

「……俺にとって仲間は家族同然の大切な存在なんだ。小さい頃に父ちゃんと母ちゃんが行方不明になった事と、今は異世界で向こうにいる家族や仲間と離れ離れになって戦っているから、なおさら仲間は大切なんだ」

 

「家族同然……」

 

「俺はもう、仲間が勝手に消えるのは二度と嫌だ。必ず、大切な仲間を取り戻す」

 

子供とは思えない確固たる決意に式は僅かに目を見開いて驚かされる。

 

遊馬は恐れずにしっかりとした足取りでマンションに向かい、その背中を見て式はある人物を重ねてしまった。

 

「チッ……あの頑固なところ、あの莫迦にそっくりじゃないか」

 

それは式にとってとても大切な存在であり、あまりにも遊馬に似てないがどこか似ている。

 

そして、中学生の子供にしては肝が据わっており、自分の意思を曲げない所は式のもう一人の大切な存在が重なる。

 

「ああもう、なんでこう重なるんだ……!」

 

髪の毛をワシャワシャと掻き乱し、遊馬の後ろ姿に式の大切な人の影が重なり、心が乱されて行き、出会ったばかりの遊馬を放って置けなかった。

 

「待て」

 

「今度は何だよ……」

 

「手伝ってやる」

 

「え?」

 

式が突然手伝うと言い出して遊馬達はキョトンとしてしまう。

 

「このマンションはかつて死を蒐集しようとした、ある魔術師の墓標。太極と地獄を融合させた伽藍の堂だ」

 

「死を……?何でそんなことを……」

 

「詳しく説明すると面倒だが、とにかくそこは子供が入るには危険な場所だ。中には敵がうようよいる。だから、手伝ってやるよ」

 

「嬉しいけど、どういう風の吹き回しだ?」

 

「大したことない話だ。お前が『あの二人』に似ていただけだ」

 

「あの二人?」

 

「とにかく、オレが道案内と護衛をする。だから、お前達はさっさと仲間のサーヴァントを連れ戻しな」

 

「分かった。頼りにしているぜ、式!」

 

「では改めてーー奉納殿六十四層、オガワハイムにようこそ、新米のマスターさん」

 

式は遊馬を試すような不敵な笑みを浮かべ、遊馬達はサーヴァントを連れ戻すために全ての元凶……オガワハイムに突入する。

 

 

 




式さんの乙女な部分と姐さん的な感じを出せたか不安でいっぱいでした。
虹クリボー、可愛いからフォウ君と一緒にいけるかなと思って。
虹クリボーは私もムニムニしたいです(笑)
抱き枕やぬいぐるみのグッズ化希望です!

式さんが遊馬を見て重なった姿はご想像の通り、式の大切な家族です。
18歳の全盛期の姿で召喚されてますが、彼女は間違いなく人妻で子持ちですからね。

次回はオガワハイム突入で、空の境界編のシリアスパートである『彼女』との戦いです。
『復讐』というキーワードでは遊馬が最も適した相手だなと思います。

それから、第四特異点で出演する彼らの下りはカットしようと思います。
理由としては第四特異点で出すのでここで出したくないのと、空の境界編の話を短めにまとめるためです。
ご了承くださいませ。


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ナンバーズ56 憎悪の闇を照らす未来の光

空の境界編のシリアスパートです。
遊馬の光で彼女を救えるのか!?
今回は時間がなくて大変でしたがなんとか書けました。


遊馬達は謎のサーヴァント・両儀式の道案内でカルデアのサーヴァント達がいると思われる謎のマンション、オガワハイムに突入した。

 

オガワハイムは死を蒐集しようとしたとある魔術師が作り出した建物。

 

あらゆる『死に方』を求めて飾った展覧会と称され、このマンションの元住人が死んでゾンビとして徘徊していた。

 

アストラルがサーヴァントの気配を辿りながら遊馬達は静かに進む。

 

「ちっ……何だよこのマンション……何でこんなもんを作ったんだよ……」

 

遊馬はこのマンションを作った魔術師に対して強い怒りを抱いた。

 

「オレも詳しくは知らないが、奴は死を……人という存在を知ろうとしていた。そして、こいつを使って『何か』を手に入れようとしていた」

 

「何だよ、その何かって……」

 

「知るか。だが安心しろ、その魔術師はもうこの世にはいない。オレが『殺した』」

 

「……そうか」

 

「両儀式よ。その魔術師が今回の主犯の可能性は無いか?」

 

「……無いと思う。あいつと戦ったが、サーヴァントを引き寄せる力は無いはずだ」

 

「では誰がみんなを……」

 

アストラルはこのマンションを作った魔術師が今回の事件の主犯かと考えたがまだ情報が少なすぎる。

 

「なぁ、式。ここのゾンビのみんな……ちゃんと成仏してるのかな……」

 

「さぁな。流石にこの眼で魂を見ることはできないからな」

 

「……分かった」

 

遊馬は背中にある原初の火をソードホルダーから引き抜いて持つ。

 

「アストラル、マシュ……悪い。一緒に背負ってもらうことになるけど、良いか?」

 

「当たり前だ。私は君と一心同体。君の罪も一緒に背負おう」

 

「私もです。遊馬君と共にどこまでも行きます」

 

遊馬は原初の火を構え、マシュは盾を構え、アストラルは左手首にデュエルディスクを展開する。

 

「悪いな……理不尽な死を迎え、尚動き続ける亡者達。俺たちの大切なものを取り戻すために、そこを押し通らせてもらう!!」

 

遊馬達は廊下を駆け抜け、徘徊して襲いかかるゾンビ達を倒して先に進む。

 

その姿を見て式はナイフでゾンビを斬り裂きながら驚いた。

 

「相当な場数を潜ってきたみたいだな……覚悟がガキのものとはまるで違う」

 

十三歳の少年とは思えないその強き覚悟に式は思わずニヤリと笑みを浮かべた。

 

「面白い……もっとお前という存在を見せてくれよ」

 

式は九十九遊馬という存在に興味を抱いていくのだった。

 

 

遊馬達はゾンビ達を退き、シラミ潰しに部屋を開けて中を確認して行く。

 

中には知らないサーヴァントが何故か住み着いており、この不気味なマンションの影響なのか……何処か性格がおかしくなっていた。

 

それはノッブの異変の時に召喚された謎のサーヴァント達が性格がおかしくなっていたのと似た状況になっていた。

 

「行くぜ……アストラル!マシュ!」

 

「ああ!!」

 

「はいっ!」

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

遊馬はアストラルとマシュと共にサーヴァント達を倒して行く。

 

希望皇ホープを始めとするナンバーズにマシュのフェイトナンバーズを駆使してサーヴァント達を倒していく。

 

「なんだこれは……」

 

式は遊馬の繰り出すモンスター達を見て今までにないほど困惑した。

 

今まで直死の魔眼で多くのものを見てきたが、どれも例外はなく死の線を見てきた。

 

しかし、モンスターたちには死の線が存在していなかった。

 

何故死の線が無いのか式には理解できなかったが……そもそもモンスターは生きているのか?

 

モンスターはここには存在しないものなのか?

 

そんな考えを巡らせるが答えは一向に見つからない。

 

「考えても仕方ないか……」

 

式は頭を振って考えるのをやめて遊馬たちの後を追う。

 

「遊馬、次はこの部屋だ!」

 

「おっしゃあ!どんどん行くぜ!お邪魔しまーす!!」

 

遊馬は次の部屋を勢いよく開けて中に入るとそこには……。

 

「や。こんばんは、遊馬、マシュ、アストラル。私の部屋にようこそ」

 

「ブーディカ……?」

 

部屋には行方不明だったブーディカがおり、今まで見た部屋とは違い、とても綺麗だった。

 

「もしかして迎えに来てくれたの?それはありがとう。でも、もう、ダメだよ、呼び鈴も押さずに入ってくるなんて。そこはちゃんと叱っておくからね、お姉さんとして」

 

ブーディカはいつものように大人の女性として、お姉さん代わりとして遊馬達を叱るのだった。

 

「え?あ、その……ごめんなさい……」

 

「遊馬くん、良かったです!ブーディカさんは変質していません!いつもの、頼りになって、優しくて、それで、抱きしめられるとほわっとするブーディカさんでした!」

 

マシュはブーディカの性格が変わっておらず、いつものように優しい姿でとても喜んだ。

 

「え?なに、やだなあマシュったら。私、そんなにハグばっかりするハグ魔だった?」

 

「いやいや、少なくともマシュに会う度にハグしているじゃん」

 

「私の知る限り、マシュがカルデアにいる時は一日一回、必ずハグをしているな」

 

マシュにこれでもかと沢山ハグをする自覚がないブーディカに遊馬とアストラルが冷静にツッコミを入れた。

 

「そ、そうかな?まあいいや。ちょうどシチューを作ってたところなんだ。みんな食べて行って」

 

「おう!それじゃあ、シチューを食ったらカルデアに帰ろうぜ。みんな心配しているからさ」

 

「ええ!なんならブーディカさんを送るため、一旦帰還してーー」

 

無事にブーディカをカルデアに帰せると思ったその時だった。

 

「ーー帰る?何を言っているの?」

 

ブーディカの口から予想外の言葉が発せられ、今さっきまでの優しい雰囲気が一変した。

 

「っ!アストラル……」

 

「ああ。気をつけろ、遊馬……」

 

遊馬とアストラルはブーディカの豹変にいち早く気づいてマシュと式と一緒に後ろに下がる。

 

すると、ブーディカの姿が光に包まれると今までと違う姿へと変わっていた。

 

赤い髪が綺麗に伸びてその頭には王を象徴する王冠が被っており、更にはマントを羽織って盾が左手に装着されていた。

 

「ブーディカの姿がめちゃくちゃ変わってる!?髪が伸びてるし、服装も違う!?」

 

「もしかしてあれはブーディカの全盛期の姿なのでは……?」

 

「勝利の女王……ブーディカさん……」

 

ブーディカの姿がおそらく全盛期の姿へと変わり、そんなブーディカの体から漆黒の闇が漂っていた。

 

「ふざけた事を言わないで。帰る、ですって?私は帰らない。私に帰る場所なんてない。だってーー全部、お前達が奪ったんだ!あの人の親族は私達だけだった。王には、私と娘しかいなかった!だから私は後を継いだのにーー女には相続権がないと言ってーーお前達が!ローマ(お前達)が、私から奪ったんだ!!」

 

それは……ブーディカの心に抱いた深い闇だった。

 

ローマ帝国はブーディカが治めていたブリタニアの全てを奪い、ブーディカと娘二人にあまりにも酷い仕打ちをしたのだ。

 

それによりブーディカはローマへの深い憎悪を抱いており、オガワハイムに囚われた影響で一人の『復讐者』へと成り代わっていた。

 

ブーディカの事を知らない式は何のことだと疑問に思うがそんなことは関係ないとナイフを構える。

 

「相当あの女の闇は深そうだな……何があったか知らないが、斬るしかないな」

 

式は自分がブーディカの相手になろうと遊馬達の前に出ようとしたその時だった。

 

「待て、式」

 

遊馬はホープ剣を作り出して式を遮った。

 

「何のつもりだ?」

 

「悪いけど、ブーディカは俺がやる」

 

「良いのかよ。あいつはお前の仲間で、しかもかなりの手練れだ。お前が太刀打ちできるのか?」

 

「俺はブーディカを斬るつもりはない。ただ、約束したからさ」

 

「約束?」

 

「ああ。ブーディカに再び復讐の心が芽生えたら俺が止めるってね。だから……俺が止める」

 

右手に原初の火、左手にホープ剣を持って静かに前に出る。

 

原初の火を見た瞬間、ブーディカの憎しみの込もった瞳が更に鋭くなる。

 

「それはネロの剣……許さない……ローマを、ネロを……絶対に許せない!!!」

 

ブーディカは遊馬の持つ原初の火が元々ネロの所有していた剣だということもあり、更に憎悪と闇がこみ上げる。

 

「私は忘れていた。人類史を守る、なんて大義名分で誤魔化していた。この怒りを。憎しみを。この復讐をーー!」

 

「ブーディカ、今こそ約束を果たす……俺が必ず、あんたを止める!」

 

「邪魔するな……私の邪魔をするものは誰だろうと許さない。勝利の女王の名の下に、その首を晒すがいい……!」

 

ブーディカはカルデアのサーヴァントではなく、かつてローマ帝国を震撼させた勝利の女王として遊馬に襲いかかる。

 

「はぁっ……ふっ!」

 

遊馬はブーディカの怒気に圧倒されないように冷静で心を強く持ちながら二本の形の異なる剣を振るい、ブーディカの剣を受け止める。

 

ブーディカはアルトリアの約束された勝利の剣と細部が似ている片手剣の『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)』で荒々しい剣を振るう。

 

そんなブーディカの剣を見て式は呟いた。

 

「あの女……相当な数の人を殺しているな」

 

「式、さん……?」

 

「分かるのか……?」

 

「ああ。あの怒り狂った剣は復讐で全てを斬りふせる……そんな風に感じ取れる。おい、もしもの時は俺が相手をする。お前達はあいつを守る準備だけしておけ」

 

式はナイフを持っていつでも前に出られるようにする。

 

しかし、いつまで経ってもブーディカは遊馬に傷一つ付けることができなかった。

 

遊馬は見事な二刀流でブーディカの剣を受け止め、更には受け流していた。

 

「それにしても……あいつ、扱いが難しい二刀流をよくもあそこまで使えるな」

 

「当たり前だ。遊馬は日本最強の二刀流剣豪、宮本武蔵から指導を受けているからな」

 

「っ!?宮本武蔵だと!?カルデアにはそんなビックネームなサーヴァントがいるのか!?」

 

式は日本人なら誰もが知っている二刀流の大剣豪、宮本武蔵がカルデアにいてしかも遊馬が武蔵直々に二刀流を教わっていることに驚愕した。

 

遊馬はブーディカを攻撃せず、ひたすら守りに徹底していた。

 

しかし、いつまでも守っていたのではブーディカの怒涛の攻めに必ず負けてしまう。

 

何かブーディカを取り戻すための方法がないかと必死に頭の中で考え続ける。

 

「これで終わらせる!『約束されざる勝利の剣』!!」

 

ブーディカが約束されざる勝利の剣を輝かせると、刃から魔力塊が放たれて次々と連射していく。

 

「ヤベッ!?」

 

遊馬は必死に魔力塊を斬り落としていくが、間に合わず全身にまるで無数のボールを叩きつけられたように魔力塊が襲い掛かった。

 

「くっ……」

 

「これで終わりだ!!」

 

「遊馬くん!」

 

「遊馬!」

 

「くっ、させるか!!」

 

マシュとアストラルと式が剣を振り下ろしたブーディカを止めるために駆けたーーその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めよ、ブーディカ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊馬の目の前に赤い影が現れ、ブーディカの剣をその身に受けた。

 

その影を見て遊馬は目を見開いて驚愕した。

 

「ネ、ネロ……?」

 

それはカルデアにいるはずのネロだった。

 

ネロは真正面からブーディカの剣をその身に受け、肩から腹部にかけて大きく斬られて大量の血を流す。

 

そして、斬られて全身の力を失ったネロはそのまま後ろに倒れこんで遊馬が受け止める。

 

「お、おいっ!?ネロ!ネロ!!?」

 

「ネロ……?なんで、あんたがここに……?」

 

ブーディカも宿敵であるネロが突然現れて自ら斬られたことに驚いてそのまま呆然としてしまった。

 

ネロはブーディカの豹変に居ても立っても居られず、みんなの制止を振り切って現れたのだ。

 

ネロは致命傷の傷を負いながらもギリギリ意識を保ち、ブーディカに話しかける。

 

「ブーディカよ……もう止めるのだ。余の首をくれてやる……だから、ユウマたちを傷つけるな……」

 

「ネロ、お前、何を言ってるんだ!?」

 

「余が……余が不甲斐ないばかりにブーディカ達を傷つけてしまった……」

 

ブーディカ達の全てを奪った者たちは皇帝であるネロの意思ではなく、その領土を納めていた者たちによる独断で行われていた。

 

それはローマ帝国が強大で更には伝統的な支配体制の所為でこのような悲劇が起きてしまった。

 

そして、ネロは反乱の鎮圧後にその真実を知り、激怒して彼らの行いを容赦なく処断した。

 

仮にネロとブーディカが生前にあっていれば悲劇が起こらなかったかもしれないのだ。

 

「それに……我が愛しの夫のユウマと、友のマシュが心から慕っているブーディカのそんな姿をこれ以上見せたくないのだ……」

 

ネロは立ち上がって両腕を大きく開いて全てを受け入れるように目を閉じる。

 

「さあ、余の首をその剣で斬るがいい!そしたら、必ずユウマ達の元に戻ってくるのだぞ!」

 

「あ、あっ……あぁあああああああああっ!!!」

 

己の死を覚悟したネロにブーディカは剣の柄が壊れるほど強く握りしめ、首を斬り落とすために振り下ろした。

 

ガキィン!!

 

「っ!?お前……」

 

ネロの首を斬り落とそうとしたブーディカの剣を原初の火とホープ剣で受け止めたのは遊馬だった。

 

「もうたくさんだ……」

 

遊馬はブーディカの剣を弾き返してそう呟く。

 

「誰かが誰かを憎み、争い傷つける……いい加減にしろよ。そんな事をしても誰も幸せにならない。必ず誰かが傷つき、誰かが不幸になる……」

 

遊馬の瞳から涙が溢れ、今までの戦いで経験してきた思いを吐き出す。

 

「それが、俺の大切な仲間なら尚更それは嫌だ!もうブーディカにこれ以上、ネロを憎ませない、傷つきさせない!俺のこの手で、ブーディカを取り戻す!!」

 

「邪魔するな!ネロの首を寄越せ!!」

 

ブーディカは剣を振り下ろすが、遊馬はホープ剣と原初の火で受け止めて剣を床に押さえつける。

 

そして、ブーディカの間合いに入って胸倉を掴んで頭を振り上げる。

 

「少しは頭を……冷やせ!!」

 

ゴチィン!!

 

遊馬はブーディカの額に強烈な頭突きをかましてその衝撃で二人は同時にふらつく。

 

「っ、小癪な……」

 

「へへっ、どうだ……頭の血が抜けて少しは落ち着いたかよ?」

 

強い頭突きの衝撃で遊馬とブーディカの額から血が流れる。

 

「アストラル!今のうちにネロの傷を治してくれ!」

 

「あ、ああ!」

 

アストラルは回復系のカードを使用して傷ついたネロを癒していく。

 

「何でこんな回りくどい事をする……お前の魔物を使えば楽に戦えるはずなのに……」

 

遊馬のフィールドには希望皇ホープがいるが、今は希望皇ホープの姿は見えない。

 

それは遊馬が下がらせているからであり、ブーディカはそれを疑問に思う。

 

「バーカ、大切な仲間に向かって本気で刃を向ける訳がないだろ。これは俺の大切な仲間を取り戻す戦いなんだからさ」

 

「だから、私はもう……」

 

「ブーディカに居場所が無いんだったら俺が居場所になる」

 

「えっ……?」

 

闇に囚われたブーディカは遊馬の言葉に呆然とした。

 

遊馬は涙と血を拭い、強い意志を秘めた瞳でブーディカを見つめる。

 

自分を真剣に真っ直ぐ見つめる遊馬の瞳にブーディカはたじろいでしまう。

 

「ブーディカの心にまだ闇が潜んでいるなら、俺がブーディカの闇を照らす光になる!必ず、俺が守ってやる!!」

 

「ひ、必要ない……私にはもう大切なものは何もない……!」

 

「俺にとって、仲間は家族同然の存在だからな。それに……俺さ、強がってるけど家族にすげえ会いたいんだ。アストラルと小鳥がいるけど、やっぱり父ちゃんと母ちゃん、姉ちゃんと婆ちゃん……みんなと一緒にいたい、抱き締めてもらいたいって思ってる」

 

遊馬はこれまで特異点で数多の戦いを繰り広げて来たがそれでもまだ十三歳の少年である。

 

両親が行方不明となり、親に甘えたい年頃でもある遊馬が突然異世界で壮大な戦いに巻き込まれている。

 

どんなに強がっていても不安になるのは仕方のない事である。

 

「だけど、ブーディカのお陰でその寂しさがいつも埋まってるんだ。ブーディカといると心が温かくなって、すげえ安心するんだ。迷惑かもしれないけど、ブーディカは俺にとってもう一人の母ちゃんみたいな大切な人なんだ!!」

 

遊馬はブーディカを母のように想っていた。

 

母性溢れるブーディカの優しい雰囲気が遊馬の母、未来にそっくりだったからである。

 

しかしブーディカを慕っていたのは遊馬だけではなかった。

 

「私もです!」

 

「マシュ……」

 

マシュは遊馬の隣に立ってブーディカを見つめる。

 

自分の胸元を握りしめてブーディカへの気持ちを全て話す。

 

「私には両親と呼べる存在はいません。親しい人はドクターだけしかいませんでした。だから、初めてでした……ブーディカさんに抱き締められて、心が温かくなって嬉しかったんです。もしも、私に一緒にいてくれるお母さんがいたらこんな気持ちなのかなと思っています……」

 

「マシュ……あなた……」

 

「私は、ブーディカさんが大好きです!だから、お願いです!私たちの元に戻って来てください!!」

 

遊馬とマシュの光のように温かい言葉……それはブーディカの心を優しく照らしていた。

 

「遊馬……マシュ……ぐっ、あっ、あぁああああああっ!??」

 

しかし、ブーディカに宿る闇が再び精神を侵食して復讐者へと引き戻していく。

 

「ブーディカ!?」

 

「ブーディカさん!!」

 

「オガワハイムの闇がブーディカに侵食している……ハッ!!」

 

このままではブーディカの心が壊れてしまう、そう危惧したアストラルは頭をフル回転させて打開策を見つける。

 

「そうか!遊馬、すぐにこのフィールドを無効にするんだ!!」

 

「フィールドを!?」

 

「オガワハイムは死を蒐集する為に作られた。人を死へと促す為に、人の心を負へと促す力が働いているとしたら!」

 

「そうか!それなら、あのカードをドローするしかない!!」

 

遊馬は原初の火とホープ剣を床に突き刺してデュエルディスクを構え、希望皇ホープが現れると同時に右手を掲げる。

 

「このドローに……全てを賭ける!!」

 

遊馬の右手から眩い聖なる光が輝き、その光に誰もが一瞬目を瞑ってしまう。

 

「この光は……まさか!?」

 

「ちっ、何だよこの光は……」

 

マシュはこの光の正体に気付き、式は突然遊馬の右手が輝くことに困惑する。

 

遊馬の右手の輝き、それは……希望を引き寄せ、未来をその手に掴む光である。

 

「行くぜ、ブーディカ!最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードさえも、デュエリストが創造する!シャイニング・ドロー!!」

 

遊馬はデッキトップを輝かせ、思いっきり力強くカードをドローして天に掲げる。

 

それは遊馬とアストラルの融合体・ZEXALが使える究極の力、シャイニング・ドローだった。

 

「来たぜ、俺は『RUM(ランクアップマジック) - ヌメロン・フォース』を発動!」

 

「ヌメロン、フォース!?」

 

それは遊馬が使用するマシュ達も見たことない新たなランクアップマジックで、そのイラストには過去・現在・未来の運命を決める神のカード……ヌメロン・コードが描かれていた。

 

「このカードは自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体を選択して発動!選んだモンスターと同じ種族でランクが1つ高い『CNo.』と名のついたモンスターエクシーズ1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねて、エクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する!俺はランク4の希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

希望皇ホープが光に包まれ、光の爆発が起きると同時に赤黒い『39』の刻印が輝き、数多のパーツが現れる。

 

「現れろ、CNo.39!希望に輝く魂よ!森羅万象を網羅し、未来を導く力となれ!」

 

数多のパーツが希望皇ホープに装着され、勝利をその手に掴む希望皇が降臨する。

 

「『希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』!」

 

『ホォオオオオオオープ!!!』

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの召喚にブーディカは目を見開く。

 

「希望皇、ホープレイ・ヴィクトリー……」

 

ブーディカは自分の名前が受け継がれている希望皇ホープに自ら信仰している女神・アンドラスタをこの目で見ているような気持ちになっていた。

 

そして遊馬はブーディカを取り戻すためにヌメロン・フォースのもう一つの効果を使う。

 

「ヌメロン・フォースの更なる効果!ヌメロン・フォースの効果で特殊召喚したモンスター以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を全て無効にする!俺はオガワハイムの力を無効化する!!」

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの体から青い光の波動が解き放たれ、全ての力を零に戻すようにオガワハイムの邪悪なる闇の力を全て無効にする。

 

「消え去れ、人の心を蝕むオガワハイムの邪悪なる闇よ!!」

 

人とサーヴァントを狂わせるオガワハイムの闇を全て消し去り、そしてその闇に囚われていたブーディカに潜む闇も消滅する。

 

闇から解放されたブーディカはその場に座り込み、正気に戻って自分がしてきたことを深く悔んだ。

 

「……ああ……私……何を……そっか……恥ずかしいところ、見せちゃったな……ユウマとマシュに……いっぱい迷惑をかけて……それに、ネロも……」

 

「……何言ってるんだよ。迷惑かけたぐらいが何だって言うんだ」

 

「私は遊馬やマシュ、それにネロを……ごめんなさい……」

 

ブーディカは仲間であるはずの遊馬達をこの手で傷つけてしまったことを深く自分を責める。

 

そんなブーディカに遊馬はポンと頭に手を乗せて笑みを浮かべる。

 

「仲間は迷惑をかけてなんぼだろ?俺だって、沢山みんなに迷惑かけちまってるからさ。それに……俺は仲間のことを家族同然のように大切に思ってるからさ、迷惑ぐらいなんてことないさ!」

 

「その通りだ!元はと言えば、余がもっとしっかりしていれば……すまない、ブーディカ……」

 

ネロはブーディカに謝罪をしたが、謝罪されてブーディカはどう返したらいいかわからなかった。

 

「ネロ……」

 

「……なぁ、ブーディカ。誰でも心のなかじゃ、良い心と悪い心が戦ってるんだ。でも、そっから逃げ出さなきゃ、きっとどんな事だってやり直せる。誰とだって、分かり合えるんだ」

 

それは遊馬がかつてアストラル世界でエリファスと対決した時に言った言葉だった。

 

やり直せる、誰とでも分かり合える……それは遊馬が目指す理想の未来でもある。

 

「良い心と悪い心……ねえ、遊馬。私……ネロと、分かり合える事ができるのかな……?」

 

ブーディカは気まずそうにネロを見る。

 

そんなブーディカに遊馬は諭すように答えた。

 

「ブーディカ、あくまで俺の目線だけどネロは悪い奴じゃない。ただ、ブーディカの事を考えると、色々不幸が重なっちまったんだと思う。だから、時間はあるんだから、逃げ出さずにしっかりと向き合って、二人でゆっくり話していけば良いと思うんだ」

 

「ねぇ、遊馬……君って本当に十三歳?娘達もこんなに大人びてなかったよ?」

 

遊馬と同じ年頃の娘を持っていたブーディカは思わずそう尋ねてしまった。

 

親子ほどの年の差があるブーディカですらそう思ってしまうほど遊馬が大人びて、そして輝いて見えてしまうのだった。

 

遊馬はそう言われて苦笑を浮かべながら手を差し伸べる。

 

「ブーディカ。今度こそ、帰ろうぜ」

 

「帰りましょう、ブーディカさん。小鳥さんが心配しています。それに、約束したじゃないですか。ブリタニア料理を教えてくれるって」

 

「ブーディカよ、戻ろうではないか……やはり、ブーディカがいないと物足りないからな……」

 

傷がようやく塞がって回復したネロは原初の火を杖代わりにして立ち上がるが、まだ回復し切っていないのでフラついてしまう。

 

倒れかけたネロをブーディカが受け止めた。

 

「……すまぬ」

 

「いいよ……」

 

まだぎこちなさが二人にあるが、遊馬のお陰で少しずつだが距離が縮まっていた。

 

「帰ろっか……カルデアに……」

 

「うむ……」

 

「遊馬、お願い」

 

「ああ」

 

遊馬はブーディカとネロのフェイトナンバーズを出して二人を粒子化させてデッキケースに入れてカルデアに送る。

 

『OK、大丈夫よ。ブーディカとネロは無事に帰ってきたわ。今、ブーディカに異常が無いかロマニとダ・ヴィンチに頼んで検査してもらうから後は任せて』

 

「サンキュー、所長」

 

ブーディカとネロをカルデアにいるオルガマリー達に任せ、遊馬は床に突き刺した原初の火とホープ剣を引き抜く。

 

「何とか、約束を果たせたかな……」

 

「無茶しすぎだ、バカ」

 

ポカン。

 

「痛っ!?」

 

式は無茶をする遊馬の頭を拳骨で軽く殴った。

 

「ったく……一休みしたら次行くぞ」

 

「はーい」

 

「はぁ……ガキのお守りは大変だな。まあ、未那はまだマシな方か……」

 

式は大切な誰かを思い出しながら髪をかき、床に座り込んで休むのだった。

 

 

一方、カルデアの医務室ではブーディカとネロがベッドで休んでいた。

 

治療も検査も無事に終わり、後は休むだけなので二人はベッドで休んでいた。

 

暇なので二人は適当な話をしていると、マスターである遊馬の話となった。

 

「ネロ……」

 

「何だ?」

 

「遊馬って、本当に凄いマスターだよね……」

 

「当たり前だ。余が認め、夫にする男だぞ?」

 

「そうだったね。ねぇ、ネロ……あのさ……」

 

「ん?」

 

ブーディカは毛布で顔を隠しながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私が……遊馬を、その……本気になっちゃったら、どうしたらいいかな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブーディカが恥ずかしそうに告白した。

 

「そんなの自分の好きにーー何?今何と?」

 

ネロは自分の耳を疑い、バッとブーディカの方を向く。

 

ブーディカは顔を毛布で隠していたが、見えていた顔の一部が真っ赤に染まっており、それに気付いたネロは顔を真っ青にした。

 

「ま、待て、ブーディカ……お主、正気か……?答えよ、ブーディカ!ブーディカァアアアアアアア!!?」

 

ネロは頭を抱えながらブーディカの心境の変化に絶叫するのだった。

 

遊馬のお陰で二人が分かり合える日も近いのかもしれない。

 

 

 




遂にブーディカさんも遊馬先生によって攻略されました(笑)

すいません、ブーディカ姉さんが本当に好きなのでやっちまいました!
でも悔いはありません!

本来ならネロとの対話は最終章に行われますが、ここでは早めに行われます。
遊馬先生の「誰でも心のなかじゃ、良い心と悪い心が戦ってるんだ。でも、そっから逃げ出さなきゃ、きっとどんな事だってやり直せる。誰とだって、分かり合えるんだ」……これは遊戯王ZEXALの名言ですね。

ここのブーディカとネロは遊馬先生のお陰でいつか分かり合えると思います。
というかそれ以前に恋のライバルになりそうですが(笑)

次回は残りのサーヴァント捜索になります。
多分ギャグになると思いますのでよろしくお願いします。


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ナンバーズ57 闇に蠢く地獄の影

今回は三分の一がシリアスで残る三分の二がギャグになっています。
ギャグは色々とキャラ崩壊が酷いので注意です。


闇に囚われたブーディカとの絆を取り戻し、遊馬達は他のサーヴァント達を探すために他の部屋を次々と突撃する。

 

エリザベート、呂布、レオニダスの三人を見つける。

 

しかし、やはり性格がおかしくなっているのでマシュが盾で抑えている間に遊馬が鉄拳聖裁を叩きつけて撃沈させてその間にフェイトナンバーズに入れてカルデアに送った。

 

「マルタの姉御の修行のお陰で何とか撃沈出来たぜ!」

 

「遊馬……一応聞くが、お前は人間だよな?」

 

式は遊馬の右手が光り輝き、それがサーヴァントにダメージを与えていることに疑問を持って思わずそう尋ねてしまった。

 

「当たり前だろ?俺はただの人間だぜ?」

 

「そうか……」

 

ニッコリと笑ってそう答える遊馬に式は聞くのも馬鹿らしくなって考えるのをやめた。

 

部屋を出て次の部屋に向かおうとしたその時、遊馬とアストラルと式は同時に何かに気づいた。

 

「っ!みんな、外に出るぞ!」

 

「えっ?ゆ、遊馬君!?」

 

「マシュ、外から奇妙な気配を感じるんだ」

 

「今まで感じたことない不気味な殺気だ……気を引き締めろ」

 

遊馬達は急いでオガワハイムから出て外に飛び出すと、突然周囲が真っ暗に染まっていく。

 

夜空の月と星、街の街頭などの明かりを遮り、遊馬達を強大な闇が覆っていく。

 

「何だこの闇は!?何も見えないぜ!」

 

その時、闇の中から雑音のような不気味な声が響き渡る。

 

「光を持つ者達よ、オレはお前達に憤怒を抱いている」

 

「……サ、サーヴァント!?でも……見えない……見えません、遊馬君!サーヴァントの残留霊基であるシャドウサーヴァントとも違います!それにサーヴァントの七つのクラス、どれにも該当しません!」

 

マシュは闇の中にいるサーヴァントが七つのクラスに当てはまらない規格外の存在であると察知する。

 

七つのクラス以外にあるサーヴァントのエクストラクラス、それは遊馬達は一つしか知らない。

 

「じゃあお前はルーラーなのか!?」

 

ジャンヌとレティシアと同じ裁定者のサーヴァントかと思ったが、闇の中のサーヴァントはその推測にさらなる憤怒を露わにする。

 

「調停はオレから最も遠い言葉だ。その推測、挑戦と解釈した」

 

「どんな解釈だよ!?間違ってるならお前のクラスを教えやがれ!」

 

「断る。わざわざクラスを教えるサーヴァントがいるわけ無いだろう。そんな事より、貴様達は何だ?死霊どもを殺して回るなど、非常識にも程がある。彼らは生ある時は報われず、無念から死を迎える事も叶わず、安寧を捨て、無を選んだ敗北者。生に見捨てられ、死から置いていかれたもの。そう、名前もなく姿もない怪物ども。彼岸にすら行き場のない魂に、安息を。地獄が彼らを拒否するのなら、『新しい地獄を作る』。この塔は怨嗟に満ちねばならん」

 

「新しい地獄……!?」

 

「塔……?」

 

遊馬はオガワハイムにいる怪物達のために新しい地獄を作り出そうとしている事に、アストラルは塔という単語に疑問を抱く。

 

「それが我が信仰にして存在意義。光よーーオレの仕事の、邪魔をするな」

 

「断る!!!」

 

遊馬は闇の中のサーヴァントの言葉を即答で断った。

 

「俺たちは人類と世界の未来を守るために戦っている!そして、囚われた仲間を救い出すためにここにいるんだ!だから、俺たちは前に進む!!」

 

仲間を必ず取り戻す、その強い意志が遊馬の中で光となって輝き、遊馬の体から光が溢れ出す。

 

「行くぜ、アストラル!」

 

「ああ!」

 

「「現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

遊馬とアストラルはすぐさま希望皇ホープをエクシーズ召喚をして呼び出し、その体から放出される光で闇を打ち払った。

 

しかし、その直後に周囲に無数のゴーストが出現した。

 

「フォウ、フォウ、フォーーーーウ!」

 

「な、何だこいつらは!?」

 

「フォウさんがかつてないほど興奮しています!あのゴーストはただのゴーストではないようです!」

 

「今までの相手とは違う!あれからは憎しみなどの負の集合体のようなものだ!」

 

今までとは次元の違う相手に緊張感が増す遊馬達……その時。

 

「心配しないで、みんな。私が全部斬ってあげる」

 

優しく柔らかい声が響き、遊馬達が振り向くとそこには驚くべき人物がいた。

 

「本物のガイアの怪物が相手なら仕方ないけれど、相手はアラヤの怪物の劣化品。相手が死に狂った末の幽霊なら、こっちも死に物狂いで戦えばいいだけの話ですもの」

 

「式さん?え、え!?」

 

「両儀式……?」

 

マシュとアストラルが驚くのも無理はなかった。

 

何故ならそこにいたのは式であって式ではないような人だからだ。

 

「はじめまして、マシュさん、アストラルさん。こんばんは、遊馬君」

 

それは昨夜……遊馬が見た夢の中で出てきた式にそっくりの綺麗な着物姿の女性だった。

 

女性は式が持っていたナイフの代わりに日本刀を持っており、鞘から抜いて構えていた。

 

「あんた、もしかして夢の……」

 

「そうよ。極力出てこないつもりだったけど、相手が相手だから出てきちゃった。少しの間だけど、あなたに力を貸すわ」

 

「よく分かんねえけど、戦ってくれるならありがたいぜ!一緒に行くぜ!式!」

 

「ええ!」

 

「ゆ、遊馬君!?今の式さんに他に言うことがあるのでは!?」

 

「まるで人格が入れ替わったかのようなこの雰囲気……一体これは……!?」

 

「話は後だ!」

 

「さあ、軽くやっつけてしまいましょう。ここに地獄を作ると言っていたけれど、それは閻魔の管轄です。恨み言だけの蓄音機なんて地獄の鬼も願い下げ、見果てぬ夢ごと、両儀の狭間に消えなさい」

 

「行け、希望皇ホープ!!亡霊たちを斬り裂け!!!」

 

式と希望皇ホープは同時に地を駆け、亡霊を斬り裂いていく。

 

式は両眼に妖しく輝く直死の魔眼で亡霊の死の線を見ながら刀で一撃必殺の元、問答無用に斬り伏せる。

 

希望皇ホープは自身の属性でもある光の力を宿したホープ剣で亡霊を浄化するように斬り倒していく。

 

まるで舞うように亡霊を斬るその美しい姿に遊馬とマシュとアストラルは心を奪われるのだった。

 

そして、見事に全ての亡霊を倒し、マシュは喜びの声を上げる。

 

「敵ゴースト、消滅しました!やりました、ありがとうございます、式さ……ん?」

 

「あいたた……木の根っこにつまずいて転ぶなんて、何やってんだオレ……」

 

先程まで綺麗な着物姿だった式が藍色の着物に革ジャン姿になっていた。

 

「ん?なんだ、オレが馬鹿やってるうちに片付けたのか。お疲れさん、遊馬、マシュ」

 

「……マシュ、アストラル。集合」

 

遊馬はマシュとアストラルを呼んで式から少し離れて話を聞かれないように小声でひそひそ話をする。

 

「二人共、もしかしたら式は多重人格かもしれない」

 

「え!?た、たしかに……そう考えれば先程の姿も……」

 

「何か深い事情がありそうだから、あちらから話してくれるまでは我々はあまり深く追求しない方が良いだろう。二人共、その方向で行こう」

 

今まで見た多種多様のサーヴァントを見て、多重人格のサーヴァントがいてもおかしくないのでそう納得した。

 

三人はうんうんと頷いて話を簡潔にまとめると、隠れていたフォウが何かを見つけた。

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「お。なんだよフォウ、お前も褒めて欲しいのか?……ってなんだそれ。鍵じゃないか」

 

それはどこかに隠されていた鍵のようで何かに使えるかもしれない。

 

オガワハイムのどこかに繋がる鍵かもしれないのでそれを大事に保管し、引き続きサーヴァントを探すためにオガワハイムの探索を再開した。

 

 

部屋の捜索も半分以上が終わり、サーヴァントの気配が集まる部屋に突入するとそこには……。

 

「ふう。やっと来たね、待ちくたびれたよ。君たちはシルバーソーサー?それともオセロピザ。ま、どっちでもいいや。いつも通り、ブツを置いて出て行ってね。命だけは取らないであげるから」

 

「何してんだよ、メアリー……」

 

出迎えたのはメアリーだったが、部屋の惨状を見てあきれ果ててしまった。

 

キッチンを埋めるレーションの空容器、ジェンガのように積み上げられたヒザの段ボール……掃除が全くされてない汚部屋となっていた。

 

そして、その部屋のデスクにパソコンが置かれており、そこにはメアリーの他に二人の人物がいた。

 

「あら。通販のお兄さんではありませんのね。ではチェンジで」

 

「うほぉっ♪マシュマロちゃんに謎の和服美女!?これは嬉しいサプライズでござるな!」

 

それはメアリーの相方のアンと最恐最悪の海賊の黒髭だった。

 

「……お前たちは一体何してるんだよ?」

 

遊馬のその言葉がマシュたちにとって、この場で最も言いたかった言葉だった。

 

「デュフフ……アンちゃんとメアリーちゃんは拙者が教えたインターネットにドハマりしたのでござる!その結果、通販でグッズを買ってピザを取り寄せては配達員を落としてお金を巻き上げるというダメ人間となったのでござる!!」

 

「ええっ……?」

 

黒髭のオタクの影響が最悪の形でアンとメアリーに侵食されてしまい、遊馬は口をあんぐりと開けて呆然としてしまった。

 

「アンさん!メアリーさん!お二人とも、海賊の矜持はどうしたんですか!?財宝を探すのが楽しい、聖杯に求めるものは宝ではなく宝の地図と微笑んだお二人はどこに行ったんです!」

 

「それはネットの海に捨てちゃったというか……」

 

「これがとても便利で……深淵で……刺激的で……あと楽で……」

 

「「気がついたら、こんな生活になっていたのさ!でもいいよね、私たち海賊なんだし!」」

 

ダメ人間と化したアンとメアリーは最悪にも開き直ってしまい、比翼連理の女海賊としてのプライドが完全に崩壊していた。

 

そんな二人を見た遊馬はゆらりと黒髭に静かに近づいた。

 

「……黒髭」

 

「むっ?何ですかな、マスター?良かったらマスターも一緒にネトゲなんかーー」

 

遊馬は黒髭の側に寄り、黒髭は一緒にネットゲームをしようと勧めたとその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「懺悔の用意は出来ているか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒髭への断罪が始まる。

 

「へっ?な、何を……グピャア!?」

 

黒髭が唖然としたその直後、遊馬は右手で黒髭の頭を掴んでイスから引きずり出す。

 

「え?マ、マスター……?」

 

「ど、どうしたの……?」

 

突然の暴挙に思わずアンとメアリーはパソコンから目線を遊馬に向ける。

 

遊馬はいわゆるプロレスのアイアンクローと呼ばれる技で黒髭の頭を掴み、レオニダスのトレーニングによって鍛えている手の握力で握りしめる。

 

「ノォオオオオオオオオオオオ!??あ、頭が、拙者の頭が割れるぅううううううっ!?!?」

 

ミシミシと黒髭の頭がひび割れるような音を鳴らしながら遊馬は黒髭を持ち上げる。

 

「黒髭……お前さぁ、何やってるんだよ……?」

 

「な、何とは……?」

 

「なぁに……俺が憧れている女海賊のアンとメアリーをパソコン中毒の引きこもりにしているんだよ!!?」

 

「いや、その……お二人ともっとお近づきになれる方法が無いかなと思って、試しにインターネットを勧めたら、これが二人に見事ドハマりで……」

 

「その所為で誇り高き女海賊がダメ人間になっちまったじゃねえか!!どうしてくれるんだ!!!」

 

ミシミシミシ……!!

 

遊馬は更に指に力を込めて黒髭の頭を締め上げる。

 

遊馬は憧れの英霊をダメ人間にされたことへの怒りがこみ上げ、マスターとして黒髭への制裁を下す。

 

「ギャアアアアアア!?痛い痛い痛いっ!?マスター、ストップ!ヘルプミー!!本当に拙者の頭が割れちゃうでござるよぉおおおおおおおおっ!??」

 

まるで悪魔が蹂躙するようなその姿に間近にいたアンとメアリーはガタガタと震え上がっていた。

 

「マ、マスター……恐すぎですわ……」

 

「普段温厚な人ほど怒ると恐いって本当だね……」

 

そして、扉の近くで比較的安全なところにいるアストラル達は口を開けて唖然としていた。

 

「あれは間違いなく明里の血だな……」

 

アストラルは遠い目をして遊馬の姉の明里を思い出した。

 

明里は遊馬の母親代わりとして厳しくしていたが、不機嫌だったりして怒り狂うと鬼のように恐ろしく、遊馬の最大の恐怖といっても過言ではない。

 

そんな遊馬が明里を彷彿とさせるその恐ろしい姿にアストラルはやはり姉弟だなと思った。

 

「……おい、マシュ。サーヴァントは確か神秘が無いとダメージを与えられないんだよな?」

 

「はい。その、はずです……」

 

「右手の光の力を使ってないのにアイアンクローで頭蓋骨がひび割れるほどのダメージを普通は与えられないよな?」

 

「そのはず、なんですが……」

 

魔力も込められてないただの物理攻撃で黒髭を追い詰めていることにマシュと式は疑問しか思い浮かばなかった。

 

「黒髭……お前、大人しく帰るか?」

 

鬼の形相から笑みを浮かべた遊馬に黒髭はガクガクと震えながら即答する。

 

「は、はいぃいいいっ!帰るでござる帰るでござる!!だから助けてください!!」

 

「じゃあ、カルデアに送るぜ」

 

遊馬は黒髭のフェイトナンバーズを取り出して黒髭を取り込んでカルデアに送る。

 

黒髭を送り、次に遊馬が顔を向けた先はもちろんアンとメアリーだった。

 

「「ヒイッ!?」」

 

情けないことに今のアンとメアリーは伝説の女海賊としての誇りを置いてきてしまい、遊馬を恐れて二人で抱きしめあって震えていた。

 

静かに近づく遊馬……アンとメアリーは黒髭と同じようにアイアンクローをされるのかと目を閉じたその直後。

 

パチッ!パチッ!

 

「いたっ!?」

 

「あたっ!?」

 

アンとメアリーの額に軽い痛みが走り、二人は額を抑えて目を開くとそこには呆れた表情を浮かべた遊馬が右手の中指を親指で抑えたデコピンの態勢を取っていた。

 

「全く……いい大人で俺みたいなガキじゃ無いんだから、あまり心配させるなよな?」

 

「あうっ!?」

 

「ふにゃ!?」

 

遊馬は二人にもう一度デコピンを喰らわせてポンポンと頭を撫でる。

 

「ほら、ここにあるものは全部カルデアに送ってやるからさっさと帰ろうぜ?」

 

「え?パソコンも……良いんですの?」

 

「あんなに黒髭に怒ってたのに……」

 

「別にパソコンやインターネットを悪いとは言ってねえよ。俺の姉ちゃんはこいつで仕事をして俺を養ってくれていたからな」

 

明里は自分の部屋に複数のモニターが設置されたパソコンを操作して情報を集めてそこから新聞を毎日作っていた。

 

遊馬はアンとメアリーの新しい趣味を否定はせずにパソコンの電源を落として周辺機器を片付ける。

 

「でも、やるならほどほどにしておけよ?二人は俺の憧れる偉大な海賊だからさ」

 

苦笑いを浮かべる遊馬にアンとメアリーは胸が苦しくなった。

 

こんなにも自分達を慕って憧れてくれるマスターに申し訳ない気持ちになり、頭を下げて謝罪した。

 

「すみませんでした、マスター……」

 

「ごめん、マスター……迷惑と心配をかけて……」

 

「もういいって。ほら、二人はカルデアに帰ってドクターから検査を受けてくれ。ここのものはちびノブ達に運んでもらうから」

 

「はい」

 

「うん」

 

アンとメアリーのフェイトナンバーズを取り出し、二人を一緒に入れてカルデアに送る。

 

カルデアからちびノブ達を派遣してもらい、部屋の片付けと三人が集めたモノをまとめてカルデアに送ってもらった。

 

そして、ちびノブ達に感謝をしてその部屋を後にした。

 

 

部屋を片付けて次の部屋に入るとそこには行方不明となったサーヴァントの中で特に強い力を持つ存在、クー・フーリンがいた。

 

クー・フーリンはランサーではなくキャスターの姿でいて遊馬は呆れ顔で話しかける。

 

「それで、クー・フーリンの兄貴。お前はここで何してるんだ?」

 

「おう、マスターに嬢ちゃんにアストラル、それに……初めて見る着物の嬢ちゃんも座れよ。ご所望のゲームはなんだ?」

 

「……遊馬、ここは……」

 

「ああ、そうみたいだな。クー・フーリン、賭博はご法度だぞ」

 

「と、賭博!?」

 

遊馬とアストラルはクー・フーリンがいるこの部屋が違法賭博で使われていることにすぐに気づいた。

 

実際に二人は見たことはないが、遊馬達の世界ではデュエルモンスターズを使った違法賭博が裏の世界で行われている。

 

悲しいことに勝負事には必ず賭博という裏の世界が関わるものである。

 

「深夜になるとゾンビが集まってうるさい、裸に剥かれたゾンビが泣いて出てくる苦情はこれだな……ま、典型的なマンション賭博だな。問答無用で逮捕案件だ」

 

「クー・フーリン……こんな馬鹿げたカジノなんかやめて、カルデアに帰ろうぜ?」

 

「おいおい、せっかく稼いでるのにそれはないだろ?もっと稼ぎたいぜ!せっかくキャスタークラスにもなれるから、この杖持ってるとダイス操作が楽で楽で……」

 

「イカサマをした違法ギャンブルじゃないですか!?色々台無しですよ!!」

 

「……どうしたら帰ってくれるんだよ?」

 

「ここはカジノだぜ?一つ賭けで決めようぜ?」

 

「賭け?」

 

「おう。マスターが勝ったら大人しくカルデアに帰るぜ」

 

「もし俺が負けたら?」

 

「そうだな……その時は……マシュの嬢ちゃんの体に触れさせてもらおうかな♪」

 

「アストラル、ホープレイVかヴォルカザウルスを召喚してクー・フーリンを焼き尽くそう」

 

「承知した」

 

遊馬とアストラルはクー・フーリンの馬鹿らしいセクハラ発言に息のあったコンビネーションでモンスター爆殺能力を持つホープレイVかヴォルカザウルスを呼び出そうとした。

 

「ちょっ!?冗談が過ぎるぞ、マスター!?」

 

流石のクー・フーリンもホープレイVとヴォルカザウルスの恐ろしさをよく知っているので冷や汗を流した。

 

「全く、いい加減にしろよな……お前さ、かつて愛した人たちに申し訳ないと思わないのか?」

 

相変わらずの女好きのクー・フーリンに蔑むような目で睨みつける遊馬の子供の視線がクー・フーリンの心に突き刺さる。

 

「うぐっ、う、うるせえ!だからいい体つきの女がいるとついやっちまうんだよ!おっ?そこにいる嬢ちゃんもなかなか良い体をしてるね!胸はマシュの嬢ちゃんには劣るが、スラッとしてて……」

 

次の瞬間、式は無言でクー・フーリンに近づいてナイフを振り下ろす。

 

「のわぁっ!?危ねぇっ!?」

 

「おい、遊馬。こいつを斬らせろ、つーか殺させろ」

 

式は直死の魔眼を発動して殺す気満々でクー・フーリンを睨みつける。

 

「式、とりあえず落ち着こう。一応こんな奴でも大切な仲間だから」

 

「あー、尻は良さそうだけどやっぱり胸がなぁ……」

 

ブチッ!

 

「うるせえ!胸は娘を身ごもった時に勝手にでかくなったわ!そんなことより、てめえなんかがオレの体が触れるな!オレに触れていい男はオレの旦那だけだ!!」

 

ブチ切れた式の衝撃的な発言に遊馬とマシュは驚愕した。

 

「えっ!?し、式さん、娘さんがいらっしゃったんですか!?」

 

「それに、旦那さんとも仲が良さそうだな……意外だぜ」

 

失礼だが式は結婚しないタイプの女性だと思っていたので結婚してしかも娘がいるとは予想外すぎた。

 

「う、うるせぇ……オレが結婚して子供産んじゃ悪いかよ……」

 

発言して恥ずかしくなり、顔を赤く染めた式の意外な一面が見れて遊馬達はほっこりと心が温かくなった。

 

「ゴホン……ともかく、マスターだって女の体とかそういうの興味あるよな?なっ?なっ?」

 

遊馬は十三歳の思春期の男子。

 

女性の体に興味を持って当然であり、クー・フーリンも同意を求めたが……。

 

「……考えたことない」

 

「な、何ぃっ!??」

 

「いやー、俺は馬鹿でデュエルチャンピオンを目指したり、色んなことにチャレンジをしていたからさ。女の子のそういうの、考えたことなかったぜ」

 

「おう、マジかよ……よし、今度男どもを集めて色々話し合おうか」

 

クー・フーリンは今後の遊馬の成長も考えて真面目にカルデアにいる男性陣を集めて女について語り合おうと心に誓った。

 

「そういうのは良いから……分かった、クー・フーリンの望み通りにカジノらしくゲームで勝負だ。だけど、ゲームは俺が決める」

 

遊馬はデュエルディスクからデッキを外し、シャッフルしてテーブルに置く。

 

「おいおい、流石にデュエルモンスターズの世界チャンピオンが相手だと、素人の俺じゃ相手にすらならないぜ?」

 

「心配するな、デュエルじゃない。ルールは簡単。お互いにデッキからカードを一枚引いて攻撃力が高いモンスターを引いた方が勝ち。ただし、デッキには魔法と罠が入っているから、それを引いたらデッキの一番下においてモンスターを引くまでそれを続ける」

 

「ははっ、なるほど。こりゃあ、俺の魔術のイカサマも出来ない一発勝負ってことか!」

 

「そういう事。先攻か後攻はそっちで決めて良いぜ」

 

「それなら、先攻行かせてもらうぜ!ドロー!ふはははは!来たぜ、攻撃力2000の『ゴゴゴジャイアント』だ!!」

 

クー・フーリンが引いたカードは遊馬のデッキの中でも高い攻撃力を持つゴゴゴジャイアント。

 

「マズイです……遊馬くんのデッキはエクシーズ召喚専用に構築されたデッキですから攻撃力が低いモンスターがほとんどです……」

 

「心配するな、マシュ。行くぜ……」

 

遊馬は静かに右手を挙げると金色に輝き出す。

 

「え?ちょっ、マスター?その右手の輝きはもしかして……」

 

クー・フーリンは顔を真っ青にし、遊馬は金色に輝いた右手でデッキトップに触れる。

 

「最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードさえも、デュエリストが創造する!」

 

「おぃいいいいいっ!??」

 

「シャイニング・ドロー!!」

 

遊馬はシャイニング・ドローでデッキトップを操作し、引いたカードを見て笑みを浮かべる。

 

「来たぜ、俺が引いたのは攻撃力3000!『銀河眼の光子竜』!俺の勝ちだ!!」

 

銀河眼の光子竜は遊馬のデッキにあるモンスターで最高の攻撃力を持つ。

 

しかし遊馬がシャイニング・ドローで銀河眼の光子竜をドローしたことにクー・フーリンは納得できないでいた。

 

「何が俺の勝ちだ!?俺よりも酷いイカサマしてるじゃねえか!?」

 

「イカサマ?何を言うんだ?シャイニング・ドローは最強デュエリストだけが使える最強のスキルだ!イカサマじゃない!」

 

「こんな勝負認められるか!!次は俺がゲームを決めてーー」

 

「見苦しいぞ、クー・フーリン」

 

遊馬のデッキケースが開くと中からエミヤが現れた。

 

「げっ、弓兵!?」

 

「エミヤ!」

 

「エミヤ先輩!」

 

「クー・フーリン、一度受けた勝負に負けたからと言って駄々をこねるとは何と情けない。大人しくカルデアに帰れ。さもないと……」

 

エミヤの左手にはお盆があり、フランス料理でメインディッシュに被せる釣鐘型の蓋、クロッシュに覆われた料理を見せる。

 

「そ、それは!?」

 

クー・フーリンはその料理を見た瞬間、絶望を間近に見たような表情を浮かべた。

 

「そうさ、貴様もよく知っている最恐のマーボー……『外道マーボー』だ」

 

それは四川料理の一つで有名な中華料理でもあり、ひき肉と赤唐辛子と花椒豆板醤などを炒め、鶏がらスープを加えて、豆腐を煮た料理である。

 

しかし……エミヤが出した外道マーボーは血のように真っ赤で少し離れた遊馬達もそこから漂う辛味の香りが鼻に突き刺さっていた。

 

「げ、外道マーボー……?エミヤ、まさか毒でも入ってるのか?」

 

「まさか、私は料理にそんなことはしない。基本的な食材は普通のマーボーと同じくラー油と唐辛子だ」

 

「それをどう調理したら、こんな地獄の釜みたいな感じになってるんだよ……」

 

美味しそうに見えるが、何故か恐ろしく禍々しいオーラが見えてしまい、食べたら絶対に無事では済まないと直感で訴えていた。

 

「これはラー油と唐辛子を百年間ぐらい煮込んで合体事故をしたあげく……『オレ外道マーボー今後トモヨロシク』と主張しているみたいだろう?ちなみにこれはあまりの辛さにとても常人が食える代物ではない。さあ、マシュ。君がクー・フーリンに渡すんだ。そうすれば全てが終わる」

 

「え?でもエミヤ先輩、ただ辛いだけではサーヴァントにはダメージは与えられないのでは……」

 

「心配するな、私を信じろ」

 

「は、はい!分かりました、エミヤ先輩を信じます!」

 

マシュはエミヤを信じて外道マーボーが乗ったお盆を受け取り、クー・フーリンに近づく。

 

「ま、待て!嬢ちゃん、それだけは勘弁してくれ!さっきのは無しにするから、それだけは!!?」

 

クー・フーリンは逃げようとしたが、出入り口は既に式が立っていており、窓から逃げようにもエミヤが黒弓を構えているので逃げ場が完全に絶たれている。

 

「はい、クー・フーリンさん。残さず全部食べてくださいね♪」

 

マシュは満面の笑みを浮かべてクー・フーリンに外道マーボーを差し出した。

 

「ち、ちくしょぉおおおおおおおっ!!!」

 

クー・フーリンは器に添えられた蓮華を取り、嫌がる意思に反して一心不乱に外道マーボーを食べ始めた。

 

クー・フーリンをはじめとするケルト神話の戦士が各々の戒めを行う習慣で、誓約を破った戦士には呪いがかかったという。

 

クー・フーリンの場合はその名の由来でもある『生涯犬は食べない』の他に『詩人の言葉に逆らわない』がある。

 

そして……『自分より身分の低いものからの食事の誘いを断らない』と言うものがある。

 

エミヤはこれを利用してクー・フーリンよりも身分が低いと仮定したマシュに外道マーボーを渡してクー・フーリンに食べさせるよう仕向けたのだ。

 

外道マーボーを食べているクー・フーリンの唇は辛さで晴れ上がり、顔どころか体中から異常なまでの大量の汗が流れている。

 

「辛ぇ……でも美味ぇ……!!」

 

外道マーボーは唯々辛いだけではなく、しっかり旨味も存在する。

 

その旨味を見出すのに、異常な辛さと格闘しなければならない……という負の連鎖が続くよくわからない料理なのである。

 

そして、クー・フーリンの生死をかけた外道マーボーとの戦いが終わりを告げる。

 

「ご、ごちそうさん……ゴハァッ!?」

 

クー・フーリンは外道マーボーを食べ終えた瞬間に意識を失い、白目を剥きながらその場に倒れた。

 

「ランサーが死んだ!」

 

「こ、このひとでなしー!」

 

「いえいえ、ただ意識を失っているだけです!信じられませんけど!」

 

「これは見事に意識を失っているな……」

 

「辛さで意識が飛ぶってどんだけだよ……」

 

毒でもないひたすら辛いものを食べて戦闘不能になるという阿呆らしい光景にアストラルと式は唖然とした。

 

先ほどの遊馬の黒髭へのアイアンクローと同じく本来ならサーヴァントは神秘が無いとダメージを与えられない。

 

しかし、特別な食材を使っているわけでも無いただ辛いだけの外道マーボーで歴戦のランサーであるクー・フーリンがあっさりと戦闘不能になってしまったことにサーヴァントに対してまた色々な疑問が浮かぶのであった。

 

「さて、マスター。私はクー・フーリンの面白いところも見れたので満足だ。意識を失っているうちにカルデアに連れて帰ろう」

 

「あ、ああ。あとはよろしくな」

 

遊馬はエミヤとクー・フーリンのフェイトナンバーズを取り出して二人を入れてカルデアに送る。

 

「これでほとんどのサーヴァントがカルデアに帰ったな。後は……」

 

「後は二人、ノッブと沖田だ」

 

「あぁ、あの二人ですか……」

 

サーヴァント達の中で何処かズレていると言うか別次元の何かと言われているノッブと沖田が残りと聞いてマシュはため息を吐く。

 

「なんかあの二人が何かやらかしそうですね……」

 

「だからと言って放っておくわけにはいかないからな」

 

「残る部屋は少ない。もう一踏ん張りだ」

 

「やれやれ。この阿呆らしい戦いも、もうすぐ終わりだな」

 

遊馬達がノッブと沖田を探しに部屋を出ようとしたその時。

 

「甘ぁい!やっぱり体が熱くなった後の冷たいものは最高ですね!」

 

「わしの部屋はめちゃくちゃ暑くなってしまったからの。早くなんとかならんかの〜」

 

廊下から聞き覚えのある声が響く。

 

「この声は!?」

 

急いで部屋から出るとそこにいたのは。

 

「あれ?遊馬くんじゃないですか!」

 

「おぉ、マスター。お主達も来たのか?」

 

探そうと思っていた沖田とノッブだった。

 

しかし、何故かアイスクリームを食べながら歩いていた。

 

「姉上!ノッブ!大丈夫だったか!?」

 

「もしかして探しに来てくれたんですか?」

 

「うむ!ご苦労!褒美に下のコンビニで買ったアイスじゃ!」

 

「ア、アイス?何で?」

 

「いやー、それがのぉ。わしの部屋が炎上した本能寺みたいなよく分からん異界と化してしまっての……いるだけでめちゃくちゃ熱いのじゃよ」

 

「それなので下のコンビニでアイスを買って来たんです。遊馬君は何を食べますか?」

 

「えっと……食べ終えたらカルデアに帰ってくれるか?みんな心配しているから……」

 

「はい、もちろんです。こちらからカルデアに向かう方法が見つからなかったので」

 

「これでやっとあの熱苦しい部屋から解放されるの〜。マシュと……あー、そこの女もアイス食うか?」

 

「え?えっと……」

 

「ストロベリーはあるか?」

 

式はアイスと聞いて食いつくようにノッブに一瞬で近づいた。

 

「あ、あるぞ……?」

 

「くれ」

 

「は、はい……」

 

そして、ストロベリーアイスを受け取ると好物なのか思い入れのあるものなのかわからないが、ストロベリーアイスをスプーンですくって黙々と食べ始める。

 

遊馬とマシュもアイスを受け取って一緒に食べると、この中で唯一食事ができないアストラルは天井を見上げながら口を開く。

 

「遊馬、アイスを食べて一休みしたら屋上に行ってみよう」

 

「屋上?」

 

「この上から不気味な気配を感じる。もしかしたら先ほど出会った謎の影がそこにいるかもしれない……」

 

森で出会った正体不明の不気味なサーヴァント……今回の事件の元凶かもしれないその存在が屋上にいるかもしれないとアストラルは推理する。

 

「なるほどな……そいつを何とかしない限りまたカルデアのサーヴァントが囚われるかもしれないからな。よし……気合いを入れていくか!」

 

遊馬は気合いを入れ直し、アイスを食べてゆっくりと休息を取る。

 

 

 

.




黒髭に関してはあいつが全て悪いですね(笑)
クー・フーリンにはあの外道マーボーをいつか喰わせようと思っていたのでそれが叶いました。
シャイニングドローは最強デュエリストのスキルだから仕方ないよね!(笑)

そして次回はいよいよ、空の境界編最終回です!
それが終わったらすぐにZero編のスタートです!


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ナンバーズ58 一欠片の希望の光

今回で空の境界編、最終回です。
何とか終わることができました。
しかし次も更なるコラボ……第4章を早く書きたいっす。


行方不明となったサーヴァント達を無事に全員連れ戻し、後は特異点の元凶と思われる闇のサーヴァントと対峙するだけとなり、遊馬達は戦いの前の一休みをしていた。

 

「遊馬、戦いの前に一つ頼みがある」

 

「頼み?何だ?」

 

「オレをお前のサーヴァントにしてくれないか?」

 

それは遊馬とのマスターとサーヴァントの契約を結ぶものであり、全く契約する気がなかった式の頼みに遊馬達は驚いた。

 

「えっ?良いのか、式。それってこの戦いが終わってもカルデアに来てもらうことになるけど……」

 

「構わない。戦いが終われば夢が覚めると思っていたが、そうでもないらしい。それに、お前達の話が真実なら、人理焼却でオレは一度死んだ。擬似サーヴァントになった理由はわからないけどな」

 

式はナイフを鏡にして自分の顔を見る。

 

「人理焼却をしたのが誰かは知らないが、勝手に人類を滅ぼした奴……特に人様の大事なものを消した奴にケジメをつけなきゃいけない。オレも遊馬に触発されたのかもな……」

 

「俺に?」

 

「オレに旦那と娘がいるのは知っているな?オレは旦那と娘を取り戻す……大切な人を取り戻したいその気持ちを遊馬、お前が気付かせてくれた」

 

式の大切な旦那と娘……その二人は人理焼却で恐らくは死んでいる。

 

しかし、人理を修復すればその二人を取り戻すことができる。

 

遊馬が仲間を……特にブーディカを救うために全力で立ち向かう姿を見て、二人を取り戻すために遊馬と契約を交わす決心をついた。

 

「分かった。俺達とこれからも一緒に戦ってくれ、そして……式の大切な人たちを必ず取り戻そう!よろしくな、式!」

 

「ああ……よろしくな、マスター」

 

遊馬と式は握手を交わし、式が光の粒子となって新たなフェイトナンバーズが誕生する。

 

それは夢の後で手に入れた式のもう一つの人格?と思われる存在とは別のフェイトナンバーズだった。

 

「式さん、これからもよろしくお願いします!」

 

「よろしく頼む、両儀式。いや……式」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「ああ、改めてよろしくな。マシュ、アストラル、フォウ」

 

式が遊馬達の仲間となり、テンションを高めながらオガワハイムの最後の戦いに挑む。

 

それは最上階へと続く扉……今までの扉には鍵がかかってなかったのにこの扉だけは鍵がかけられていて開けられなかった。

 

そこでフォウが見つけた鍵を取り出して試しに差し込んで見ると……。

 

ガチャ!

 

「開いた!」

 

「ようやく、黒幕とご対面か」

 

「恐らくはあの闇のサーヴァント……」

 

「では、仕事とやらを邪魔しに行こうか」

 

どのクラスにも属さない謎の闇のサーヴァント……遊馬達は決着をつけるために戦場への扉を開いた。

 

遊馬達が出た場所はオガワハイムの屋上。

 

見上げると空がとても近く、静かに輝く月に手が届きそうなほどの高さだった。

 

「よくできてる。まるで巫条ビルの屋上だ。明け方が近いな。おい、仕事とやらは終わったのか、そこの黒いの」

 

式が何もないところを睨み付けるとそこから闇が溢れ出して中から例のサーヴァントが現れる。

 

「終わるものか。我が恩讐が晴れることはない。永遠に。確かに、この塔は消え去るだろう。お前達の手によって無に帰すだろう。だがオレの仕事は終わらない。絶望の島。監獄の塔。財宝の城。それらの姿を思い出すまでは、決して」

 

「絶望の島、監獄の塔、財宝の城……?」

 

闇のサーヴァントの口から語られる重要なキーワードだと思われるものをアストラルはしっかりと記憶していく。

 

「遊馬君、戦闘準備を!敵サーヴァント、確認しました!アレはーーこの世にいてはいけない英霊です!」

 

「ーークッ。はは、ははははははははは!この世にいてはいけない英霊とは!舌を焼かれるぞ、デミ・サーヴァント!死霊も英霊も同じものだといずれ知れ。我らは共に、この世に陰を落とす呪いなのだと」

 

死霊も英霊も確かに人間が死んだ魂の存在……しかし遊馬は首を傾げてその言葉に違和感を感じた。

 

「……俺はそうは思わないけどな。死霊も英霊も、みんなが呪いの存在とは思わないけど」

 

「相変わらず光ばかりを見つめるな、貴様は……ならば、これが相手だ」

 

闇のサーヴァントは地上で対峙した強力な力を秘めた亡霊を呼び出した。

 

「あれは以前の巨大ゴースト!?まだいたんですね……」

 

「いたのではない。消えないのだ。消えないのだよ、呪いというヤツは。これはすでに完成された呪いの循環(システム)だ。魔術の王がオレに押しつけた人間(オマエタチ)の負債だ。他人がいる限り、殺し、その犠牲者の憎しみが次の糧を生み出す。つまり永遠だ。無限、無間に生きる地獄だ。敬虔深いものならばこう祈るだろう。決して殺せない不滅の現象ーーいと深き場所の神、と」

 

神は決して殺せない、そう断言する闇のサーヴァント。

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー殺すよ。生きているのなら殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死の線を見通すことができる直死の魔眼を発動させ、瞳を赤青く輝かせた式はナイフを構える。

 

「ーーほう。不滅の現象を、オマエは殺せると言うのか」

 

「一万年か一億年か、それ以上の年月在るとしても、それが人間には不老不死に見えるだけの話だ。万物には綻びがある。未来永劫に不変のものなんて、この宙には有り得ない。消えろ復讐鬼。どれほど長く、偉大な命であろうとーーそれに終わりがあるのなら、オレは神様だって殺してみせるーー!」

 

それは自分の中に存在していた大切なものを失い、直死の魔眼を手に入れた式の決意と覚悟。

 

その強い決意と覚悟に遊馬も感化され、アストラルと共に行く。

 

「かっこいいな、式。俺たちも負けられないな、アストラル!俺たちだって、神を何度もぶっ飛ばしてきたからな!」

 

「ああ、行くぞ!遊馬!」

 

「俺のターン、ドロー!相手にモンスターが存在し、自分にモンスターが存在しない場合、手札から『ドドドバスター』を特殊召喚し、レベルを4にする!更に『ガガガマジシャン』を召喚!レベル4のドドドバスターとガガガマジシャンでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ドドドバスターとガガガマジシャンが遊馬とアストラルの前に現れ、2体が光となって床に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「「我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!現れよ、光の使者!『No.39 希望皇ホープ』!!!」」

 

『ホォオオオオオープ!』

 

大切なものと世界を守るため、数多の神々をその剣で斬り裂いて来た光の使者……希望皇ホープが現れ、その身から輝く光に闇のサーヴァントはギロリと睨み付ける。

 

「この力……やはりその魔物は神殺しを宿しているな、忌々しい」

 

「神殺し……ほぅ、ホープは神を殺したことがあるのか?」

 

希望皇ホープに神殺しの力を宿したと言う闇のサーヴァントの言葉に式が興味を持つ。

 

「殺したと言うか、倒したんだけど、まあ何度か」

 

「神を倒すとは恐れ入ったよ。遊馬、それでこそお前はオレのマスターに相応しいな!」

 

式が改めてサーヴァントである自分にとって遊馬が相応しいと言葉にしたその時、デッキケースが開いて中から純白に輝くカードが現れる。

 

「これ、式のフェイトナンバーズ……」

 

それは先ほど契約した式のフェイトナンバーズで白紙のカードに真名とイラストと効果が判明した。

 

「ふーん、オレのカードか。遊馬、召喚してみろ!」

 

「式、分かった!」

 

遊馬は式をフェイトナンバーズに入れてすぐに召喚する手はずを整える。

 

「魔法カード『二重召喚』!通常召喚権を増やし、『フォトン・クラッシャー』を召喚!更に『カゲトカゲ』を特殊召喚!かっとビングだ、俺!レベル4光属性のフォトン・クラッシャーとレベル4闇属性のカゲトカゲでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

光と闇……二つの相反する属性を持つモンスターが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「闇の中に煌めけ、全ての死をその眼に映す直死の魔眼!全てを……未来を斬り開く刃となれ!」

 

光の爆発の後に光と闇が混ざり合うような不気味な霧が立ち上り、『103』の刻印が描かれると同時に一瞬で霧が切り裂かれる。

 

「現れよ、『FNo.103 直死の魔眼 両儀式』!」

 

そして、霧の中からドレスと和服を折衷したかのような妖艶で美しい衣装を身に纏い、その手に透明な水晶のような刃を持つナイフを構えた式が現れた。

 

「……何だこれ?」

 

式は自分の姿を見てそう呟いた。

 

「何だこれって言われても……」

 

「ふざけるな、何だこの衣装は?こんなのをあいつらに見られたら……死ねる、恥ずかしすぎて死ねる」

 

フェイトナンバーズ時に衣装や武装などの姿が変わることを知らなかった式は激しく後悔した。

 

「とんでもありません、式さん!とっても素敵です!」

 

「うんうん、むしろ旦那さんと娘さんに見せたら?」

 

マシュと遊馬は式のフェイトナンバーズの姿に似合っていると褒めるが逆にそれが式を追い詰める。

 

「夢なら覚めてくれ、頼む……」

 

「意外なところでメンタル弱いな……まあいいや。とりあえず、式の効果!」

 

「仕方ない……行くか」

 

式はナイフでオーバーレイ・ユニットを斬って取り込む。

 

「オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスター1体を裏側表示で除外する!」

 

式は直死の魔眼で亡霊の死の線を視て一番確実に殺せる線を見つけて走り出す。

 

亡霊は巨大な大きな腕を振り下ろして式を攻撃するが、式は軽やかな動きで回避すると同時に腕に乗り、そのまま登っていく。

 

そして、亡霊の肩に乗った瞬間に足に力を込めて高くジャンプしてナイフを振り上げる。

 

「浮世は終わりだーー先に逝ってろ」

 

振り下ろしたナイフで亡霊の死の線を的確に斬り裂いた。

 

次の瞬間、亡霊は絶叫すら上げる暇もなく一瞬で消滅していった。

 

「おっしゃあ、亡霊撃破!」

 

「これで終わりだ、行け!希望皇ホープ!」

 

亡霊を倒し、残る敵は闇のサーヴァントのみ。

 

希望皇ホープは赤い瞳を輝かせて腰のホープ剣を引き抜いて滑空する。

 

「「ホープ剣・スラッシュ!!!」」

 

これが最後の攻撃……そう思ったその時だった。

 

「ふっ、甘い……甘いぞ!光の者達よ!」

 

闇のサーヴァントが不気味な笑みを浮かべると、突然屋上全体が闇に覆われた。

 

「な、何だ!?」

 

「まずい、この闇は危険だ!」

 

アストラルが警告するが、それよりも闇の方が早く中から無数の亡霊が現れて遊馬達を捕まえるようにまとわりつく。

 

遊馬達だけでなく闇のサーヴァントに攻撃しようとした希望皇ホープも亡霊に捕まってしまう。

 

「う、動けねぇ……」

 

「なんて事だ……」

 

「ち、力が奪われて……」

 

「フォ、フォウ……」

 

「くっ……数が、多すぎる……」

 

遊馬達は亡霊達によって力を徐々に奪われて動けなくなっていく。

 

更に亡霊達に宿る人間の様々な負の力が精神に負荷をかけていく。

 

「ははははははははっ!これこそが、永遠に消えない人間の持つ心……人の悪の力だ!」

 

闇のサーヴァントは嘲笑うかのような悪の声が空に向かって木霊する。

 

人の悪は永遠に不滅なのか。

 

闇の力の前に光は屈してしまうのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが諦めかける中……一人だけ、光を信じていた。

 

「何?」

 

「俺は……人間の心にある光を信じている」

 

それは亡霊に体を押さえつけられながらも一切諦めていない心を持つ少年……遊馬だった。

 

「確かに、人間は負の心、悪に負けちまうほど弱い存在なのかもしんねぇ……だけど、俺は知っている。自分以外の誰かの為に命をかけて戦う人を、弱くても大切な人達を守ろうとする強い心を持つ人を……」

 

遊馬の脳裏に浮かぶのは大切な仲間達、戦ってきたライバル達……彼らは心の中で必死に戦いながらも自分の守りたいものを必死に守ってきた。

 

「人間は誰でも心の中じゃ、良い心と悪い心が戦ってるんだ。でも、そこから逃げ出さなきゃ、きっとどんな事だってやり直せる。誰とだって、分かり合えるんだ!」

 

「遊、馬……」

 

遊馬の言葉に隣にいたアストラルはしっかりと耳を傾ける。

 

そして、遊馬の言葉に闇のサーヴァントはそれは戯言だと切り捨てるように反論する。

 

「分かり合えるものか!人間は全て身勝手で欲深い存在だ……この永遠の地獄は決して終わることはない!!」

 

「俺は、信じている!人間の心に宿る光を!!そして、誰もが分かり合える未来を!!!」

 

人間の光を信じる遊馬の想い。

 

その想いがアストラルの心に響き、遊馬とアストラルの体が光り輝く。

 

「ア、アストラル!?」

 

「遊馬……君が人の持つ光を信じる心が私を、いや……私達の魂を更なるランクアップへと導いた!遊馬、これを!」

 

アストラルの右手から光り輝くカードが生まれ、それを遊馬に手渡す。

 

「えっ!?こいつは!?」

 

「我々の新たな力……未来を導く新たな光だ!」

 

「未来を……よっしゃあ!行くぜ、アストラル!」

 

「ああ!」

 

遊馬とアストラルは光り輝くカードを一緒に持って掲げる。

 

「「このカードは自分フィールド上の希望皇ホープの上に重ねてエクシーズ召喚する事ができる!」」

 

「ホープレイと同じ召喚方法!?」

 

それは希望皇ホープレイと同じ、対象のモンスターエクシーズの上に重ねてエクシーズ召喚をする方法だった。

 

「「希望皇ホープ!!シャイニング・エクシーズ・チェンジ!!!」」

 

「シャイニング・エクシーズ・チェンジ!?」

 

それはカオスの力でナンバーズを真の姿へと進化させるカオス・エクシーズ・チェンジとは異なる新たなエクシーズ・チェンジだった。

 

光り輝くカードを希望皇ホープの上に重ねると希望皇ホープは自身を囲む亡霊達をホープ剣と双翼で勢いよく吹き飛ばすと、その体が光に包まれて空高く登り、光の爆発を起こす。

 

「「宇宙の秩序乱されし時、混沌を照らす一筋の希望が降臨する!」」

 

光の爆発の中から金色の光が垂直落下して遊馬達の前に降り、金色から真紅に輝く『39』の刻印が空中に浮かぶ。

 

「「見参!SNo.(シャイニングナンバーズ)39!!」」

 

金色の光が弾け飛ぶと新たな黄金と白銀の装甲と菱形の八つの翼、そして両刃の大剣を背負う希望の戦士が現れる。

 

「「『希望皇ホープONE』!!!」」

 

それは一欠片の僅かな光から希望へと導く新たな希望皇。

 

カオスナンバーズと異なる道のシャイニングナンバーズという新たなランクアップの象徴だった。

 

「な、何だ!?何だこの光は!??」

 

闇のサーヴァントは新たな光の力を得た希望皇ホープONEに驚愕の声を上げた。

 

全ての闇を打ち払うかのようなその輝きに闇のサーヴァントは驚愕と同時に恐怖を抱く。

 

「綺麗……光の希望皇ホープ……」

 

「フォウ……」

 

「闇を照らす希望の光、か……」

 

希望皇ホープONEのその美しく、神々しい姿にマシュ達は見惚れてしまう。

 

「「希望皇ホープONEの効果!オーバーレイ・ユニットを三つを使い、ライフポイントを10ポイントになるように払って発動!」」

 

希望皇ホープONEは三つのオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込み、遊馬のライフポイントを僅か10になるように支払い、その効果を発動する。

 

「「相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、ゲームから除外する!パンドラーズ・フォース!!」」

 

背中の八枚の翼から眩い光を放ち、取り込んだ三つのオーバーレイ・ユニットと遊馬が支払ったライフポイントの力を余すことなく全て解放する。

 

闇を打ち払う黄金と白銀の二色の混ざり合う眩い光。

 

その光でこの場にいた全ての亡霊を破壊し、二度と蘇らないようにした。

 

それにより、マシュ達にまとわりついていた亡霊から解放された。

 

「す、凄いです!あれだけの大量のゴーストを一瞬で全て消し去るなんて……!」

 

「フォ、フォーウ!」

 

「やるな、希望皇ホープONE……」

 

「「そして、この効果で除外したモンスターの数×300ポイントのダメージを相手に与える!!」」

 

「な、何!?ぐぁああああああっ!?」

 

破壊した亡霊の数のダメージが希望皇ホープONEから放たれる光の波動となって闇のサーヴァントに襲いかかり、膝をついてしまう。

 

「これで決めるぜ!!」

 

「行け、希望皇ホープONE!!」

 

希望皇ホープONEは背中のホープ剣を引き抜いて両手で持って構え、闇のサーヴァントに向かって飛翔する。

 

「「ホープ剣・シャイニング・スラッシュ!!!」」

 

振り下ろした大剣が闇のサーヴァントを捉える。

 

しかし、振り下ろした大剣が触れるか触れないかの瀬戸際で闇のサーヴァントが霧となって消えた。

 

「消えた!?」

 

「何処だ、何処にいる!?」

 

闇のサーヴァントの姿が消え、遊馬とアストラルは必死に周りを見渡すがその姿が何処にもない。

 

「少年よ、今回はお前の勝ちだ。だが、次は必ずオレが勝つ」

 

闇のサーヴァントは自らの敗北を認めて撤退したのだ。

 

「じゃあ次戦うときはその姿をちゃんと見せて名前を教えてもらうぞ!!」

 

「オレの元までたどり着けたらな……だが、名を名乗る代わりにこう答えようーー待て。しかして希望せよ」

 

「っ!?その言葉は……」

 

闇のサーヴァントが答えたその言葉にアストラルは耳を疑った。

 

「フッ……待っているぞ、光の者達よ」

 

「俺は遊馬、九十九遊馬だ!この名前を覚えておけ!!」

 

「……我が名はアストラル!」

 

「わ、私はマシュ・キリエライトです!」

 

「フォウ、フォウ!!」

 

「……両儀式だ」

 

遊馬達は闇のサーヴァントに向けて名を名乗る。

 

闇のサーヴァントはそれらの名前を自らの魂に刻み込むと静かにこの特異点から消えていった。

 

特異点の元凶である闇のサーヴァントが消えるとオガワハイムも消滅していく。

 

長い夜が夜明けを迎えるのだ。

 

「よっしゃ、それじゃあ帰ろうぜ!」

 

「そうだな」

 

「はい!」

 

「フォウ!」

 

「カルデアか……退屈しないといいな」

 

事件が解決したので遊馬はアストラルを皇の鍵へ、マシュと式をフェイトナンバーズに入れてデッキケースへ、フォウをフードにしまうと所長に頼んでカルデアに帰還する。

 

オガワハイムからカルデアに戻り、遊馬がコフィンを出るとマシュ達も出て来る。

 

「ふぃー、疲れたぜ……」

 

「お帰りなさい、みんな。そして、ようこそ両儀式さん」

 

「おう、ただいま!所長!」

 

「ただいま帰りました!」

 

「ここがカルデアか……まるで昔見たSF映画みたいな感じだな……」

 

オルガマリーは遊馬達を出迎え、式はカルデアの近未来的な施設にSF映画を思い浮かべながらキョロキョロと見渡す。

 

「遊馬、アストラル、お帰り!すごくカッコよかったわ、新しいホープ!希望皇ホープONE!」

 

小鳥は新しいホープ……希望皇ホープONEに興奮していた。

 

「おう!やっぱホープはカッコいいよな!」

 

「シャイニングナンバーズ……ホープがまだまだ未知の進化を持っているようだ」

 

ぐぅ〜っ。

 

「あー、やべぇ……腹減った。小鳥、デュエル飯を頼む〜」

 

遊馬は戦いの連戦の疲れと緊張が解けてしまい、腹の虫が大きく鳴った。

 

「あははっ、分かったわ。ブーディカさんも戻ったし、たくさんご飯を作るわ!」

 

「おう!式も来いよ、カルデアの食事は美味いんだぜ!」

 

「ふーん……そうか。まあ、行ってやるよ。だが、私の舌を満足させられるかな?」

 

遊馬達は食堂に向かって食事を取ろうと思った……その時だった。

 

ブオーン!ブオーン!!ブオーン!!!

 

突如、警告音が管制室に鳴り響いた。

 

「今度は何だ!?所長!」

 

「待ってて、今調べる……これは、そんな、ありえない!」

 

オルガマリーは急いでパソコンを操作して何が起きているのか調べると予想外の事態が起きた。

 

「こんなにも早く新たな特異点!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「しかも私達が初めてレイシフトをした特異点『F』と同じ場所……冬木市よ!」

 

カルデアの初めての戦い、特異点『F』と同じ冬木市で起きる新たな特異点。

 

そこで行われた聖杯を巡るサーヴァントとマスター達が行った聖杯戦争。

 

その結末に起こる最悪のバッドエンド。

 

バッドエンドを回避する為、その聖杯戦争に因縁を持つカルデアのサーヴァント達が立ち上がる。

 

 

 

 




これにて空の境界編は終了です。
次回はZero編です!
あの最悪な展開が続くZero世界をとにかくブレイクします(笑)

そして、やっと出せました!
SNo.39希望皇ホープONE!
人を信じる遊馬の心が生み出すならここかなと思って、出せて嬉しいです。

今回登場したフェイトナンバーズはこちらです。

FNo.103 直死の魔眼 両儀式
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/戦士族/攻2300/守1800
光属性レベル4モンスター+闇属性レベル4モンスター1体ずつ
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除いて発動出来る。相手フィールド上のモンスター1体を選択し、裏側表示で除外する。この効果を使用したターン、このモンスターは攻撃できない。

直死の魔眼を使って殺すからこんな感じかなと思ってやりました。
裏側除外が強すぎですね……遊戯王的にほぼ帰還が不可能になりますので。
103は元ネタの神葬零嬢から思いつきました。
神を殺す、あとお嬢なのでピーンと来ました。
「両儀式」さんのフェイトナンバーズは今後判明しますのでお楽しみに。


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Accel Zero Order
ナンバーズ59 十年前の冬木へ!数多の悲劇を打ち破れ!


気付けばこの作品も一周年です。
これも皆さんの応援のお陰です、ありがとうございます。
これからも頑張っていきます!

さて、今回からFate/Accel Zero Order編のスタートです。
Fate/Zeroは悲劇が多いので遊馬くん達に救ってもらいましょう!


オガワハイムの事件が解決したその直後に新たな特異点が現れた。

 

それはカルデア最初のレイシフト先である冬木市だった。

 

オルガマリー達は急いでコフィンの再点検やレイシフト先を調べ、その間に遊馬達は食堂で食事を取っていた。

 

「ムシャムシャムシャ……ガツガツガツ!!」

 

遊馬は時間が無いのを含め、急いで小鳥が作ったデュエル飯とエミヤが作ったおかずを食べていた。

 

「よく食うなぁ……」

 

新たにカルデアのサーヴァントとして共に戦う式は遊馬の食べっぷりにおかずをつまみながら呆然としていた。

 

「へへっ、まだ成長期だからな!それに腹が減ったら戦はできないからな!まだまだ食えるぜ!小鳥、おかわり!」

 

「はーい!」

 

小鳥はもはや慣れた手つきでデュエル飯をどんどん作って遊馬の前に置く。

 

「可愛い子じゃないか。ガールフレンドって奴か……やるじゃないか、マスター」

 

「式さん、今何か言いましたか?」

 

「いや、何も……」

 

式の呟いた言葉にマシュの目がギラリと輝き、式は余計なことを言ってしまったと後悔して目線を逸らした。

 

(どうやらマスターはうちの旦那以上の誑しみたいだな。しかも無自覚とは将来が恐ろしい……ま、オレには関係ないから色々楽しませてもらうか)

 

遊馬が天然の人誑しであることを見抜き、これから起きるであろう修羅場を楽しもうと思った。

 

そこにオルガマリーからD・ゲイザーに連絡が入り、食事が終わったら管制室に来てくれと連絡が来た。

 

遊馬、アストラル、マシュ、フォウは管制室に向かい、オルガマリーから早速説明を受ける。

 

「今回の特異点は私達がレイシフトをした冬木市の十年前よ」

 

「十年前?」

 

何故十年前の冬木市なのか?

 

そう疑問に思うとそこに一人のサーヴァントが入ってくる。

 

「大変だ、マスター」

 

それはアルトリアの反転した存在、アルトリア・オルタだった。

 

「オルタ?どうしたんだ?」

 

「青い私が何処にもいない」

 

「えっ!?アルトリアが!?」

 

「試しにシロウにご飯の時間だと呼んでもらったが現れない。シロウのご飯が大好きなあいつが現れないのは有り得ない」

 

アルトリアが消えている……その事実に驚く中、更なる事態が起きていた。

 

「た、大変です!遊馬君!」

 

「遊馬、ジルが……ジルが消えた!」

 

ジャンヌとレティシアが管制室に突撃し、ジルが消えたと伝えた。

 

「ジルまで!?また特異点に召喚されたってことか!」

 

アルトリアとジルが新たな特異点に召喚された。

 

その事実に驚くと煙草の煙を吐きながら一人の男が入室する。

 

「話は聞かせてもらった……十年前の冬木市でアーサー王とジルが召喚されたようだな」

 

「ウェイバー先生!」

 

「ロード・エルメロイII世だ!」

 

それは諸葛孔明の霊基が宿った擬似サーヴァント、エルメロイII世だった。

 

普段自室で引きこもっているエルメロイII世が出てきたのには理由があった。

 

それは特異点である十年前の冬木市、それに大きな関わりがあったからだ。

 

人類史が焼却されてしまった後、カルデアスにおける観測に様々な可能性が入り乱れている。

 

エルメロイII世がいた人類史ではカルデアスは無かった可能性があり、そしてその十年前の冬木市では何と聖杯戦争が行われていた。

 

こちらの世界では2004年の冬木市で最初の聖杯戦争が行われたが、エルメロイII世のいた世界の冬木市では計5回も聖杯戦争が行われており、今回の冬木市では4回目……第四次聖杯戦争が行われていたのだ。

 

何故5回も聖杯戦争が行われたのか、それは聖杯が一度も具現化せず、しかも第三次聖杯戦争以降、とある事故のせいで聖杯が汚染されて万能の願望機からどんな願いも悪意のある願いとなって世界を滅ぼす大量殺戮装置になってしまったのだ。

 

エルメロイII世は実際にその汚れた聖杯を解体して冬木の聖杯戦争を終わらせたらしく、その知識は豊富だった。

 

「じゃあ、聖杯を完成させずになんとか処理しなくちゃいけねえな。ウェイバー先生、力を貸してくれるか?」

 

「ロード・エルメロイII世だ!全く……第四次聖杯戦争は私にとっても少なからず因縁のある出来事だ。それが今まさに行われようとしているんだ。当然行くさ」

 

「サンキュー!先生!」

 

エルメロイII世の知識という大きなアドバンテージを得て冬木の特異点に向かうこととなる。

 

すると……。

 

「マスター!!」

 

突然、メドゥーサは血相を変えた表情で会議室に入って遊馬の元へ走った。

 

「メドゥーサ、どうしたんだ!?」

 

「あの、今回の特異点に、私も連れて行ってください!お願いです!!」

 

メドゥーサは遊馬の肩を掴んで必死に頼み込んだ。

 

その様子に遊馬は様子がおかしい、十年前の冬木市に何かあるのかと察知する。

 

「特異点に……冬木市に何かあるのか?」

 

「サクラを……サクラを助けたいんです!!」

 

「サクラ……?メドゥーサの大切な人なのか?」

 

「私の元マスターで、妹同然の大切な人です。実はまだ十にも満たない幼い時から……拷問に近い魔術の調練を受けていたんです」

 

メドゥーサの告白に遊馬達は衝撃を受けた。

 

「ご、拷問だと!?メドゥーサ、どういう事だ!?」

 

「それは私も一緒に説明しよう……」

 

「エミヤ!」

 

険しい表情を浮かべて入って来たのはエミヤでメドゥーサと共に『サクラ』と呼ばれる人間に何が起きたのか説明する。

 

サクラ……間桐桜はエミヤが生前に家族同然の存在として一緒にいた大切な少女だ。

 

しかし、桜は幼少期に間桐家に養子に出されたが、間桐家当主の間桐臓硯は桜の素質に合わない魔術修行や体質改変の為に無数の不気味な蟲を使った肉体と精神に大きな苦痛を与える調練を行なった。

 

それはもはや拷問に近いもので、更には義理の兄から虐待を受けていたのだ。

 

しかも間桐臓硯は既に体を人から蟲に置き換えた化け物で、魂も心も腐り果てた外道の存在である。

 

その驚愕の事実に遊馬達は衝撃を受けた。

 

そして、誰よりも怒りに震えていたのは遊馬だった。

 

ゴォン!!!

 

「ふざけるな……」

 

遊馬はテーブルが凹むほど拳で強く殴りつけ、体から赤いカオスの光が漏れ出していた。

 

「何でそんな事が出来るんだ……魔術師って何なんだよ!!」

 

「オルガマリーよ、一つ聞く……魔術師は何のために魔術を学ぶ?魔術師は何をしようとしているのだ?」

 

アストラルも冷静を保ちながら内心は遊馬と同じように怒りに震えていた。

 

オルガマリーは今まで遊馬達に魔術や魔術師についての説明を行なっていなかった。

 

簡単な説明だけでその実態を意図的に説明しなかった。

 

「分かったわ……説明する。全ての魔術師がそうとは限らないけど、そのほとんどの目的は『根源』に至るためなのよ」

 

「「根源……?」」

 

根源。

 

それは全ての始まりであり、全ての終わりであり、全てがあるとされる場所。

 

あらゆるものの原因、始まりであるが故に、その終わりまでも内包する。

 

根源に到達することは全ての事象に関する知識を得ることなのだ。

 

「それって、ヌメロン・コードと同じじゃねえか……」

 

世界の運命、過去・現在・未来を変えることができる宇宙創造の力を秘めた神のカード、ヌメロン・コードは確かに根源とほぼ同じものだった。

 

「それだけの為に魔術師たちは……まさか、人の道に外れたことも平気でするというのか!?」

 

「……ええ。魔術師は人間性に関して一般的な価値観からかけ離れた人が多いの。一般人の命を平気で実験材料にする奴もいるわ……」

 

今まで知らなかった魔術師の実態に遊馬とアストラルは怒りに燃え上がる。

 

「そんな下らない、自分勝手な事のために平気で人の命を奪う奴らを俺は許さない!!」

 

「ああ……そのような外道を許すわけにはいかない!!」

 

遊馬とアストラルの中にある正義感が刺激される中、オルガマリーはマシュをチラッと見ると唇を噛み締めて胸を強く押さえた。

 

「……マスター、一つ付け加えておくが、魔術師にもまともな奴がいる」

 

エミヤの追加説明に遊馬は目を丸くした。

 

「本当か……?」

 

「ああ。例えば、私の師でもあるそいつは魔術師としてはとても優秀なのだが、どうにもうっかりさんでな。それに、お人好しで非道になれない……そういう女だよ」

 

「そうか……魔術師にもそういう奴がいるんだな……」

 

「しかし、魔術師は基本的に性格破綻していると思っていいだろう……遊馬、対峙することになったら警戒を高めよう」

 

「そうだな……おっと、話が逸れちまったけど、メドゥーサ!桜ちゃんを助けよう!協力するぜ!!」

 

「必ず救おう、君の大切な人を!」

 

桜救出に全面協力すると遊馬とアストラルはメドゥーサに誓い、メドゥーサは感謝のあまり頭を深く下げた。

 

「っ!マスター、アストラル、ありがとうございます!!」

 

「ついでに桜ちゃんに酷いことをした蟲ジジイと、桜ちゃんをそんな地獄に突き出した父親もぶっ飛ばす!!」

 

遊馬の右手が紅く輝き、強く握りしめて高く掲げた。

 

この時、この場にいた魔術師や魔術使いの者たちは全員思った。

 

(((この二人を本気で怒らせたら、外道な魔術師や時計塔が全て滅ぼされそう……)))

 

遊馬とアストラル、異世界の英雄を本気で怒らせたらそれが現実になりそうで考えるだけでぞくっと体が震えるのだった。

 

その後、ウェイバーは自分が知っている第四次聖杯戦争の知識を大まかに伝えてそれをもとに、聖杯を完成させずに出来るだけ犠牲者を出さないための要点をまとめた。

 

・冬木の聖杯を完成させないためにサーヴァントを一人も脱落させない。

 

・マスターたちに協力を求めるがほぼ全員が非協力的な者たちなので、マスターの意識を奪って令呪を奪うなり、サーヴァントを拘束するなどの対策をとる。

 

・第四次聖杯戦争で危険で一般人に多大な被害を出す存在であるキャスターのジルとそのマスターをいち早く拘束する。

 

・第四次聖杯戦争の中でもジルとは別のベクトルで特に危険な存在……アサシンのマスターである言峰綺礼をたとえ過剰戦力を使っても撃退して拘束しなければならない。

 

・聖杯完成阻止には関係ないが、間桐桜を救出する。

 

・サーヴァントを一人も脱落させない状態で魔術を無効化することができるメディアの宝具『破戒すべき全ての符』を使用して聖杯を解体する。

 

「これはここにいる我々……いや、カルデアにいる多くのサーヴァントの力を借りなければ成し遂げることは出来ない」

 

「ああ!やってやろうぜ、ウェイバー先生!」

 

「多数のサーヴァントを同時に出撃させての作戦か。これは今後の作戦や戦略に役に立ちそうだ」

 

今後、遊馬が中心に進むだけでなく複数の部隊を編成して同時に出撃させて作戦行動をすることもあり得る。

 

今回の特異点はそんな戦略と戦術の強化にもうってつけだった。

 

特異点突入の作戦開始まで遊馬たちは急いで準備を整える。

 

特に忙しかったのはダ・ヴィンチちゃんで前々からコツコツと作っていた通信端末の遊馬の持つD・ゲイザーの色違いの最終調整を行い、複数個を遊馬に渡した。

 

これで別行動をするサーヴァントにD・ゲイザーを渡すことで遠くに離れても連絡が可能になった。

 

遊馬とアストラルはウェイバーの情報を元に事態の解決策となるカードを探して片っ端からデッキケースにしまう。

 

「……遊馬」

 

「んー?」

 

「冷静に考えたが、今回の特異点はウェイバー達が歩んできた世界の過去ではない。それに、例え特異点で救える命を救ったとしても未来が変わるわけがない……」

 

この世界はウェイバー達が歩んできた世界とは別の可能性があり、仮にこの特異点を無事に解決しても未来が変わるわけではない。

 

言わば虚ろな泡沫な夢のようなものである。

 

「分かってるさ。この特異点を解決しても未来が変わるわけじゃない。幻みたいなものみたいだけど、目の前に救える命があるなら俺は救いたい。それに、メドゥーサとエミヤのあんな顔を見たらさ……」

 

「メドゥーサの必死さが伝わり、エミヤも辛い表情を浮かべていたことから、かなり薄幸な少女なのだろう……」

 

「俺たちは人類と世界を救うために戦ってる。そんな中、大切な仲間が大切に想っている少女が地獄の中にいる。一人の少女を救い出せない奴に人理なんて救えねえよ」

 

「ふっ……それもそうだな。必ず救おう、間桐桜を。そして、起こりうる第四次聖杯戦争の悲劇を喰い止めよう」

 

「やり遂げようぜ、アストラル!」

 

二人はハイタッチを交わし、カードを選び終わると遊馬はデュエルディスク、D・ゲイザー、デッキケース、原初の火が納められたソードホルダー、ジェットローラーを装着する。

 

そして……ドレイクから譲り受けたフリントロック・ピストルをダ・ヴィンチちゃんに頼んで作ってもらったホルスターに入れてをベルトに新たに装着する。

 

準備が完了し、アストラルと共に管制室に向かうとマシュとエルメロイII世、そしてたくさんのサーヴァントが既に待っていた。

 

「行こうぜ、みんな」

 

「はい!」

 

「ああ」

 

遊馬はマシュ達をフェイトナンバーズに入れ、アストラルを皇の鍵に入れ、フォウをフードに入れてコフィンの中に入る。

 

目標座標は1994年、日本の冬木市……第四次聖杯戦争の舞台へとレイシフトする。

 

無事にレイシフトが完了し、遊馬が目を開くとそこには特異点『F』の時とは違う燃える前の夜の冬木市が広がった。

 

「ここが十年前の冬木市……みんな、頼む!」

 

デッキケースが開くと中からマシュとウェイバー、そしてたくさんのサーヴァントが現れる。

 

「じゃあ、打ち合わせ通り……チームAのジャンヌ達はジルとそのマスターの拘束!」

 

「はい!」

 

「あの馬鹿を捕まえて吊るし上げてやるわ」

 

「うん、任せて!」

 

「子供を殺める者は絶対に許さない」

 

ジルとそのマスターを拘束する為、ジャンヌとレティシア、アストルフォとアタランテの四人が向かうこととなる。

 

「ジャンヌ、レティシア!」

 

遊馬はジャンヌとレティシアにそれぞれD・ゲイザーを渡し、二人は展開して左眼に装着する。

 

ルーラーのサーヴァント探知スキルとエルメロイII世の事前情報を元にジルが魔術工房を構えていると思われる場所へ向かう。

 

「チームBはえっと……外道神父?とそのサーヴァントの捕獲!」

 

「おうよ!覚悟しろよ、言峰ぇ……行くぜ、レオニダス!嬢ちゃん達!!」

 

「いざ、戦場へ!!」

 

「うむ!遊馬よ、任務が完了したら褒美を頼むぞ!」

 

「私たちの歌でみんなを魅了してあげるわ!」

 

通称・外道神父と言われている第四次聖杯戦争で最も警戒すべき男、言峰綺礼を拘束する為に言峰綺礼に何故か個人的な恨み?を持つクー・フーリン、そしてそのサーヴァントであるアサシンを拘束する為にレオニダスとネロとエリザベートが向かうこととなる。

 

「ネロ、エリザベート!」

 

遊馬はマイクも兼用したD・ゲイザーを二人に渡し、二人とも左眼に装着すると言峰綺礼がいると思われるところへ向かい早速行動を開始した。

 

二つのチームがそれぞれ作戦行動を開始し、遊馬達も行動を開始する。

 

「さて、時間もない。すぐに行くぞ」

 

エルメロイII世は遊馬達を連れて第四次聖杯戦争の最初の戦いの舞台へ案内する。

 

「……サクラ」

 

メドゥーサは一刻も早く地獄にいる桜を助けたい気持ちでいっぱいだったが、桜を助ける為にはまず桜と関係があると思われる第四次聖杯戦争のマスターの一人と接触しなければならない。

 

「メドゥーサ、辛いが今は我慢しろ。サーヴァント達との最初の戦闘が終わり、桜の関係者のマスターと接触したらすぐに間桐邸に突入だ……」

 

エミヤはメドゥーサを落ち着かせる為に肩に手を置いて静かに諭した。

 

「すいません、シロウ……ありがとう」

 

「気にするな。私も同じ気持ちだ……」

 

桜を大切に想う者同士、互いに支えあうように言葉を交わす。

 

遊馬、マシュ、アストラル、エルメロイII世、エミヤ、メドゥーサの六人は第四次聖杯戦争の始まりを告げた戦いの舞台へ向かった。

 

 

 




遊馬くん達による桜ちゃんを救い隊結成されました(笑)
メドゥーサの願いが叶い、蟲ジジイに死亡フラグが立ちました。
あと、あの優雅貴族にも色々フラグが……子供の守護者、アタランテ姐さんがいるので……。
((((;゚Д゚)))))))


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ナンバーズ60 第四次聖杯戦争最初の夜、薄幸の少女を救え!!

第四次聖杯戦争の最初の夜、そして……桜ちゃん救出作戦開始です!
やっぱりZero関係の小説だと桜ちゃんを何としてでも救出したいですよね。


十年前の冬木市にやって来た遊馬達はエルメロイII世の案内でコンテナが積み上げられた場所である倉庫街へ来た。

 

深夜で静寂が広がるはずだが、激しい剣戟の音が響いていた。

 

「既に始まっていたか!マスター、いつでも攻撃を中断させるモンスターの準備をしておけ!」

 

「おう!俺のターン、ドロー!ゴブリンドバーグを召喚!効果で手札からガンバラナイトを特殊召喚してこのカードを守備表示にする!更にカードを一枚セット!」

 

遊馬はレベル4のモンスターを二体並べていつでもエクシーズ召喚が出来るように準備する。

 

「それから、エミヤとメドゥーサはバーサーカーのマスターを探せ!この近くにいるはずだ!奴は急拵えのマスターで体をまともに動かせない!」

 

「承知した。では見つけ次第、マスターに連絡する」

 

「そちらも頑張ってください」

 

エミヤとメドゥーサはバーサーカーのマスターを探しに一旦遊馬達の元から離れる。

 

そして、遊馬達が激しい剣戟の音がする方へ向かうとそこには……。

 

「「アルトリア!」」

 

「アルトリアさん!」

 

そこにはカルデアから消失していたアルトリアがおり、サーヴァントと戦闘をしていた。

 

それは右目の下に泣き黒子のある美男子で二刀流ならぬ二本の槍で戦う二槍流の戦士、ランサークラスのサーヴァントだった。

 

「マシュ!」

 

「はい!」

 

遊馬はマシュのフェイトナンバーズを出すとマシュが粒子となって入り、遊馬はすぐさまエクシーズ召喚をする。

 

「レベル4のゴブリンドバーグとガンバラナイトでオーバーレイ!心優しき乙女よ、神秘の盾をその手に未来を守る最後の希望となれ!エクシーズ召喚!現れよ、『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!!」

 

ゴブリンドバーグとガンバラナイトが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きると未来皇ホープのプロテクターを装着し、身体能力が向上したマシュが高いジャンプをしてアルトリアの元へ飛ぶ。

 

「アルトリアさん!」

 

「はっ!?マシュ!来てくれたのですね!」

 

約束された勝利の剣を振るいながらチラッと見たアルトリアは幸いにもカルデアの記憶を持っており、マシュが来たことに笑みを浮かべた。

 

「マシュの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手の攻撃を無効にしてバトルを終了させる!」

 

マシュは自分の周りを舞うオーバーレイ・ユニットを盾に取り込んでアルトリアとランサーの間に入り、金色に輝く盾を構える。

 

「フルムーン・バリア!!!」

 

満月を模した金色のバリアが展開され、攻撃しようとしたランサーが遠くに弾かれる。

 

「ば、馬鹿な!?私の槍が効かないだと!?」

 

ランサーの持つ槍は魔を打ち消す力を持っており、それをマシュの防御を打ち破れなかったことに驚きを隠せなかった。

 

そして、エルメロイII世は不敵の笑みを浮かべながらランサーに向かって話しかける。

 

「落ち着かれよフィオナ騎士団の一番槍。我々はアーチボルト陣営の敵ではない」

 

「なっ!?私の真名を……」

 

「ふむ、どうやら只者ではないようだな。なぜランサーのマスターが私だと気付いた?」

 

すると何処からか男性の声が響き、どうやら魔術迷彩と呼ばれる姿を消す術で近くにいるようだった。

 

「ケイネス卿、我々は御身の支援にはせ参じた者です」

 

エルメロイII世は近くにいるランサーのマスター・ケイネスが興味を持つように交渉を始めた。

 

自分がケイネスの姪の名代という事を切っ掛けに明日の夜に対談の場を設けることを提案した。

 

エルメロイII世の礼を弁えた対応にケイネスは悪い気を起こさずに魔術迷彩を解いて姿を現した。

 

「私は逃げも隠れもしない。何を企んでいるのか、聞き出すのが愉しみだよ」

 

現れたのは優雅ながらも堂々とした雰囲気を漂わせる男性でエルメロイII世とその後ろにいた遊馬とアストラルを見る。

 

「ほぅ……」

 

ケイネスは遊馬を最初はただの子供かと思ったが、右手の甲に刻まれた令呪と隣に精霊であるアストラルが見えた事で魔術師とは違う別の存在と断定し、考えを改めた。

 

「では、今夜は失礼する」

 

ケイネスはランサーを引き連れて倉庫街から静かに立ち去った。

 

「よろしいのですか?マスター」

 

「逸るなランサー。確かに怪しい連中ではあるが、ここまで得体が知れぬとなると様子見が得策だ。私と交渉した男とお前の攻撃を止めた少女……あれはサーヴァントだ」

 

「た、確かにサーヴァントの気配を感じられましたが、あの二人は我らと何かが違うような……」

 

「そうだ。普通のサーヴァントとは何かが違う。しかも、その二人とあそこにいた奇抜な髪をした少年と契約している。魔術師とは思えぬ出で立ち、そして隣にいる精霊。あそこまで美しい姿をした精霊は初めて見た。精霊が人間に取り憑くことはまずありえない。きっと、何かが起ころうとしている」

 

天才魔術師であるケイネスは僅かな時間で遊馬達の違和感を感じて冷静に分析し、この聖杯戦争の本来の参加者ではないと確信した。

 

そして、詳しい話を聞くためにエルメロイII世の交渉に乗ったのだ。

 

ケイネスは少々不安な心境で自分たちの拠点へと戻っていった。

 

ランサーが立ち去り、アルトリアはため息を吐いて遊馬達に駆け寄る。

 

「助かりました、あのランサーは厄介でしたので」

 

「アルトリア、俺たちは……」

 

「分かっています。私もこの第四次聖杯戦争の経験者です。これから起きる悲劇を食い止めるために全力を尽くします。ただ……」

 

「ただ?」

 

「実は一つ、私が経験した第四次聖杯戦争と大きな違いがありまして。それはーー」

 

アルトリアがかつての第四次聖杯戦争と違う点を口にしようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怨念が入り混じったような雄叫びが響き、遊馬達はすぐに戦闘態勢を取る。

 

そして、遊馬達の前に現れたのは漆黒の鎧に全身を包み込んだ騎士だった。

 

「ランスロット……」

 

「第一特異点でレティシアが召喚したバーサーカー!?」

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

それは第一特異点でレティシアが召喚したサーヴァントのバーサーカー……円卓の騎士の一人、ランスロットだった。

 

ランスロットは剣を構えて走りだし、一直線にアルトリアに向かって剣を振るう。

 

「くっ、ランスロット!」

 

ランスロットは円卓の騎士最強と謳われ、その凄まじい剣技でアルトリアを攻める。

 

しかし、アルトリアは第四次聖杯戦争の結末を『知っている』ので、ランスロットをここで倒すことは出来ないと分かっており、攻めに転じずに守りに徹していた。

 

「やれやれ、情けないぞ。青いの」

 

すると、遊馬のデッキケースが開くと中から黒い光が飛び出してアルトリアを攻めるランスロットを吹き飛ばした。

 

「オルタ!?」

 

それはアルトリアの反転した存在、アルトリア・オルタだった。

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!??」

 

ランスロットもまさか自分が仕えていた偉大なる王が突然二人に増えたことにバーサーカークラスで狂化スキルを与えられても驚きを隠せなかった。

 

「オ、オルタ!?どうしてあなたが!?」

 

「無様な姿をしたダメスロットを叩き直しに来た」

 

「わかりました。とりあえず、ランスロットを抑えましょう」

 

「それから……マシュ!お前も一緒だ。この三人ならランスロットを完封できる」

 

「は、はい!分かりました!」

 

突然のオーダーにマシュは戸惑ったが、自分が力になれるならばとアルトリアとアルトリア・オルタの横に並び立ち、一緒にランスロットに立ち向かう。

 

元々同じ存在であるアルトリアとアルトリア・オルタは即興とは思えない見事なコンビネーションでランスロットを攻める。

 

マシュも盾を振るって攻撃に参加し、三人がかりで攻められて大きな隙が出来た時に遊馬はマシュの効果を使う。

 

「マシュ!」

 

「はい!」

 

「フルムーン・バリア!!」

 

マシュはオーバーレイ・ユニットを盾に取り込み、満月のバリアを張ってランスロットをそのまま強く後方へと弾き飛ばす。

 

「はあっ!!!」

 

そして、マシュは地を蹴り、よろけたランスロットの頭に思いっきり盾を叩き込んだ。

 

歴戦の騎士であるランスロットに大きな一撃を与えたことにマシュは自分が強くなっていることに内心喜んでいた。

 

しかし、その直後にランスロットは剣を手放して静かにマシュを見つめて呟いた。

 

「Gala……had……?」

 

「え?」

 

ランスロットはマシュの攻撃に何かに気づいたのかそう呟いた。

 

アルトリア・オルタはそんなランスロットの様子を見て今しかないと遊馬に向かって大きく叫んだ。

 

「よし……マスター、今だ!」

 

「罠カード!『デモンズ・チェーン』!!」

 

初めからセットしていたデモンズ・チェーンを発動し、ランスロットが抵抗する間もなく全ての力を封じる鎖で縛られてしまった。

 

「ランスロット……あなたとの決着はまた別の機会にします」

 

アルトリアはランスロットとの生前の決着をつけたいのを我慢し、今やるべきことを行うために遊馬と話し合う。

 

「マスター、これからの予定は?」

 

「今から桜ちゃんを助けに行く。その後は二手に分かれたチームの連絡次第だ」

 

「サクラを……分かりました。サクラは私にとっても大切な人です。私は召喚してくれたマスターを守らなければなりません。サクラを必ず助けてください」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「……マスター、悪いが青いのとしばらく一緒に行動させてもらう」

 

アルトリア・オルタの突然の申し出に遊馬達だけでなくアルトリアも驚いた。

 

「こいつ一人より私も一緒にいれば『アイリスフィール』を守りやすい。そうだろ?」

 

「……ええ、そうですね。あなたの力が借りられるなら心強いです。それに、アイリスフィールは私達にとって大切な方ですから」

 

どうやらアイリスフィールという人物がアルトリアを召喚したマスターらしく、そのマスターを守るためにアルトリア・オルタも一緒に行動を共にすると決めたのだ。

 

「分かった。そういう事なら、問題ないぜ。いつでも連絡が取れるようにD・ゲイザーを持っててくれ」

 

通信用の最後の二つのD・ゲイザーをアルトリアとアルトリア・オルタに渡し、二人はそれを持って近くに隠れているアイリスフィールの元へ向かった。

 

それからすぐにエミヤとメドゥーサからランスロットのマスターを発見した連絡があり、急いで向かうことにした。

 

ランスロットをデモンズ・チェーンで縛られたまま連れて行こうとし、暴れるかと思ったが、マシュがデモンズ・チェーンの鎖を持って引っ張ると何故かランスロットは大人しくマシュの後を付いていった。

 

倉庫街の近くにランスロットのマスターが壁を背にして苦しそうに座っていた。

 

体調が悪そうで顔の左半分が歪んでいる男性……それこそがランスロットのマスター、間桐雁夜だった。

 

「バー、サーカー……くっ!」

 

バーサーカーを捕縛され、雁夜は令呪を使ってこの場を切り抜けようとしたがそれよりも早く遊馬が駆け寄った。

 

「あんたが間桐雁夜さんだな!?」

 

「そ、そうだが……君は……?」

 

「俺は九十九遊馬。詳しいことは後で話す!それよりも早く行くぞ!」

 

「い、行くって……?」

 

「決まってるだろ!桜ちゃんを地獄から救い出すんだ!」

 

桜を救うと聞いて雁夜は驚愕し、目を見開きながら尋ねた。

 

「な、何でだ!?何で君が桜ちゃんを……」

 

「ここにいる二人のサーヴァント……エミヤとメドゥーサは桜ちゃんを大切に想っているんだ!二人に頼まれた、桜を救いたいと……だから助けに行くんだ!!」

 

遊馬の背後にエミヤとメドゥーサが現れ、突然の事態に酷く困惑していた。

 

「え、あっ、えっ……?」

 

「間桐雁夜よ。急なことで動揺しているのは分かるが、我々は一刻も早く桜を地獄から救い出す……君はどうしたいんだ?」

 

アストラルにそう問われ、雁夜は動揺しながらも胸を押さえながら必死に考えた。

 

これは自分を陥れる罠かもしれない。

 

しかし、本当に敵ならランスロットを捕らえている時点ですぐにでも令呪を奪うなりして自分を殺してもおかしくはない。

 

そして何より、遊馬の言葉から桜を救いたいと言う強い気持ちが心に響いていた。

 

雁夜の答えは決まった。

 

「頼む……桜ちゃんを救う為に、力を貸してくれ……」

 

「おっし!それじゃあ、間桐邸に突撃だ!!ダ・ヴィンチちゃん、ストリームバイクを頼む!」

 

『了解、安全運転でね!』

 

遊馬はカルデアからSSバイクのストリームバイクを転送してもらい、予備のヘルメットを雁夜に渡す。

 

「えっ?えっ?バ、バイクって運転は……」

 

「俺が運転する!雁夜さんは後ろに乗って掴まってくれ!」

 

ストリームバイクに跨り、キーを回してエンジンをかける。

 

「き、君が!?いや、君はまだ子供だろ!?」

 

「心配するな、バイクの運転は問題なくできる!」

 

「ええっ!?」

 

「マシュと先生はフェイトナンバーズへ!エミヤとメドゥーサとランスロットは霊体化して付いてきてくれ!」

 

遊馬はマシュとエルメロイII世をフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまい、ランスロットのデモンズ・チェーンを解除して動けるようにし、雁夜はオロオロしながら遊馬の後ろに乗る。

 

「で、出来ればゆっくりで……」

 

「飛ばすぜ!!!」

 

「ちょっ、うぉおおおおおおっ!??」

 

遊馬はストリームバイクをハイスピードで走らせて雁夜は遊馬の体に掴まり、エミヤとメドゥーサとランスロットは護衛の為に霊体化して一緒に走り、アストラルは遊馬の上空を飛んで行く。

 

 

約十数分の時間をかけ、遊馬達は大きく立派な洋館である間桐邸に到着した。

 

「遊馬、作戦通りにあのカードをセットするんだ!」

 

「おう!俺のターン、ドロー!よし、これで揃った!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!更にカードをセット!」

 

遊馬はすぐさま希望皇ホープをエクシーズ召喚してカードを一枚伏せた。

 

デッキケースから待機していたマシュとエルメロイII世が現れ、最後に霊体化していたエミヤとメドゥーサとランスロットが現れる。

 

「行くぞ!」

 

「マスター、私とメドゥーサで先陣を切る!マシュとエルメロイはマスター達の守りを頼む!」

 

「行きますよ、シロウ!」

 

「ああ!!」

 

エミヤは干将・莫耶を投影して両手に構え、メドゥーサは鎖付き短剣を取り出して間桐邸に突入する。

 

やはり二人はこの家の構造を把握しているのか、一直線に桜がいると思われる蟲蔵へ突入した。

 

そこには想像を絶する光景が広がっていた。

 

無数に広がる不気味な蟲……その中心には鎖に繋がれた裸の幼き少女、間桐桜に群がっていた。

 

そして、その近くには深い皺が刻まれた小さな老人がいた。

 

その老人こそ諸悪の根源、間桐臓硯だった。

 

「何じゃ、貴様らは……桜は魔術の調練の途中だ。それとも、貴様らがわしの蟲たちの餌になるのか?」

 

この世のものと思えない地獄のような光景に遊馬達の怒りが爆発した。

 

「行け!!エミヤ!!!メドゥーサ!!!」

 

メドゥーサは眼帯を外し、魔力を大量に使って石化の魔眼を発動する。

 

「キュベレイ!!!」

 

石化の魔眼により蟲と臓硯に重圧をかけて動けなくした。

 

「ぐおっ!?ま、まさか……魔眼だと!??」

 

「桜を、返してもらうぞ!!!」

 

エミヤとメドゥーサは床を蹴り、一気に桜の元へ飛んで干将・莫耶と短剣を振るい、桜に群がっていた蟲を切り裂いた。

 

「サクラ!!」

 

そして、桜を縛っていた鎖を破壊するとメドゥーサは桜を抱き寄せ、そのまま遊馬達の元へと下がる。

 

「桜ちゃん!!」

 

雁夜は桜の頭を撫でると桜は目を開き、虚ろな目で雁夜を見る。

 

「おじ、さん……?」

 

そして、雁夜の次に映ったメドゥーサ達を見て桜は初めて見る人たちに疑問を抱く。

 

「あなた、たち……だぁれ……?」

 

「俺たちか?俺たちは正義の……いや、違うな」

 

遊馬がデュエルディスクを構えると希望皇ホープが現れ、桜に向かって堂々と宣言する。

 

「俺たちは、君の……桜ちゃんの味方だ!!!」

 

「わたし、の……?」

 

桜の虚ろな目には見た事ない人たちの後ろ姿が映っていた。

 

しかしその後ろ姿は今の桜には幼い子供達が夢見る弱き人を助け、悪を倒す存在……『英雄(ヒーロー)』に見えた。

 

「何が桜の味方じゃ……桜はわしの、間桐のものだ!誰にも渡さんぞ!!」

 

臓硯は更なる無数の蟲達を呼び出して桜を奪い返し、遊馬達を喰らうために放った。

 

しかし、それよりも早く遊馬はデッキケースから取り出した光り輝くカードを希望皇ホープの上に重ねる。

 

「「希望皇ホープ、シャイニング・エクシーズ・チェンジ!!!」」

 

希望皇ホープから金色の聖なる光が放たれ、その光に蟲たちはビクッと恐れるように止まってしまい、動かなくなってしまった。

 

「な、何じゃ!?この光は!?」

 

「「宇宙の秩序乱されし時、混沌を照らす一筋の希望が降臨する!見参!SNo39!!」」

 

金色の光が希望皇ホープを包み込むとその体が変化し、新たな装甲と八つの翼と両刃の大剣を携えた希望皇が降臨する。

 

「「『希望皇ホープONE』!!!」」

 

「ぐぁあああっ……な、何じゃ、何なのだこの光は……!?」

 

希望皇ホープONEの聖なる光は臓硯と蟲たちを苦しめた。

 

臓硯と蟲は太陽の光が苦手で、闇を払う聖なる光を放つ希望皇ホープONEの光は弱点になりうる。

 

「「希望皇ホープONEの効果!オーバーレイ・ユニットを三つを使い、ライフポイントを10ポイントになるように払って発動!相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、ゲームから除外する!破壊したモンスターの数×300ポイントのダメージを与える!パンドラーズ・フォース!!」」

 

希望皇ホープONEは三つのオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込み、遊馬のライフポイントを得て闇を払う聖なる光を解き放つ。

 

数多の蟲たちは希望皇ホープONEの光で一瞬で灰となり、更にそのダメージが臓硯を襲う。

 

「ば、馬鹿な……こんな事が……だが、わしは死なぬぞ……!!」

 

生に執着して人を捨てた臓硯にはこの場を生き残れる切り札があった。

 

しかし、その切り札を打ち砕くカードは既に遊馬のフィールドにセットされていた。

 

「いいや、間桐臓硯。あんたは既に負けている」

 

「な、何じゃと!?」

 

「罠カード!『力の集約』!!」

 

この罠カードこそ、臓硯を倒し、桜を地獄から救い出す希望のカード。

 

「フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する!フィールド上に存在する全ての装備カードを選択したモンスターに装備する!俺が選ぶのは希望皇ホープONE!!」

 

力の集約のカードが希望皇ホープONEの中に取り込まれると、この場にいた二人の人間に変化が起きた。

 

「がぁっ!?くっ、あがっ!?な、何だ!?」

 

すると、雁夜が苦しみ出して膝をつくと身体中から大量の蟲が現れて引き寄せられるように希望皇ホープONEにまとわりつく。

 

「あっ、くぅっ……」

 

そして、少し苦しそうにした桜の胸から光が漏れだすとその中から親指大の蟲が現れた。

 

「そ、それは!わしの核!?」

 

「こいつがあんたの核とも言える蟲なんだってな……話には聞いていたが、血が繋がってないとはいえ、自分の孫娘の心臓に埋め込むなんて最低だぜ……」

 

臓硯は自分の命とも言える核の蟲を桜の心臓に埋め込んでいた。

 

これがある限り、桜の心臓に宿っていたことで臓硯は不死身で桜に親しいもの達は手出しはできないはずだった。

 

核の蟲は雁夜の中にいた蟲と同じように希望皇ホープONEにまとわりつく。

 

遊馬が発動した力の集約で桜の心臓に宿っていた核と雁夜の体を蝕む蟲を装備カード扱いにして全て取り出し、希望皇ホープONEに装備させたのだ。

 

「だがそれはもう終わりだ。あなたの命に終わりの時が来たんだ……」

 

「や、やめろ!わしはまだ、まだ生きたいのじゃ!!」

 

「命が限りあるものだからこそ美しいんだ。限りあるものだからこそ、生命は必死に生きて行くんだ。それなのに、他者を平気で喰らい、傷つけてきたあんたは許されない罪を犯し続けた!!」

 

「その通りだ。覚悟するんだな、間桐臓硯。力の集約のもう一つの効果……対象モンスターである希望皇ホープONEに対象が正しくない装備カードは破壊する……よって、この蟲たちは破壊される」

 

希望皇ホープONEは背中のホープ剣を引き抜いて構え、臓硯の核と蟲を自分の前に持って行ってホープ剣を大きく振り上げる。

 

臓硯の核と蟲は人間にしか宿すことが出来ない。

 

希望皇ホープONEは当然人間ではなく高次元の存在であるアストラルの分身、力の集約の効果で臓硯の核と蟲は破壊される。

 

「ヤメロ!!ヤメロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「「ホープ剣・シャイニング・スラッシュ」」

 

希望皇ホープONEは目にも留まらぬ速さのスピードで臓硯の核と蟲を細切れに斬り裂いた。

 

「ア、ア、アァ……」

 

臓硯は核を失い、その蟲の体が砂となって消滅した。

 

数百年……生に執着して生きてきた妖怪の最期だった。

 

「てんし、さま……?」

 

金色と白銀に光り輝き、威風堂々と立つ希望皇ホープONEのその姿に桜はそう呟いた。

 

暗闇の中に輝くその神々しく美しい姿は天使に見えるだろう。

 

「終わったよ、桜ちゃん」

 

「これで君は地獄から解放された」

 

遊馬とアストラルは桜を安心させるように振り向いて微笑む。

 

「俺は九十九遊馬だ、よろしくな」

 

「私はアストラルだ」

 

「ゆうま……?あすとらる……?」

 

自分を地獄から救ってくれた人……その名前を呟きながら、色々なものから解放されて安心したのか桜はメドゥーサの胸の中で静かに眠りについた。

 

慌ただしい戦闘と交渉、そして一人の薄幸の少女を地獄から救い出した冬木の最初の夜が終わるのだった。

 

 

 




桜ちゃん救出成功!
これにはエミヤとメドゥーサも喜んでるでしょう。
特にメドゥーサは舞い上がってますね。

今回、桜ちゃんを救った罠カードはアテムさんがバクラ戦で使った、力の集約ですが蟲ジジイの核を装備カード扱いにして破壊しました。
遊戯王の相手モンスターの装備カードになれる寄生虫パラサイドを見て思いつきました。
これなら問題なく蟲ジジイを倒せるんじゃないかなと思って決めました。

次回は書けたら優雅貴族の家にカチコミします。


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ナンバーズ61 壊れた心の癒し

えー、今回は再投稿です。
今日の0時に投稿した話で皆様の貴重な意見で遊馬の行動が遊馬らしく無いという事で書き直しました。
個人的に桜ちゃんが大好きでFate/Zeroを見て時臣は許せないなと思ってかなり暴走してしまいました。
今回は遊馬くんらしく書けてるかなぁ?と思って冷静に書きました。
今後ともよろしくお願いします。


外道の魔術師……間桐臓硯の最期を見届け、遊馬は大きく息を吐いて自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。

 

「ふぅ……よし!次だ次!時間がないから次の行動だ!」

 

「遊馬、メディアとメディア・リリィを呼んですぐに桜と間桐雁夜の治療だ。エミヤとメドゥーサは二人のサポートを頼む」

 

アストラルが的確な指示を出し、エミヤとメドゥーサはすぐに頷いて行動する。

 

「カルデア管制室、メディアとメディア・リリィ!この二人を頼む!」

 

遊馬がカルデアと連絡を取るとギリシャ神話の過去と未来の二人の魔女、メディアとメディア・リリィが現れる。

 

「桜さん……ほら、さっさとやるわよ、小娘!」

 

「は、はい!って、昔の自分に小娘ってやめてもらえませんか!?」

 

「うるさい!サイコパスなあんたは小娘で十分よ!」

 

「ひ、酷いですよ!」

 

メディアとメディア・リリィはまるで姉妹のように言い争いながら早速桜と雁夜の治療を始める。

 

エルメロイII世はわずか数時間で目的の一つを終えて煙草に火をつけて一服した。

 

「一応これで間桐雁夜の協力が得られそうだな。それに、間桐邸という拠点を手に入れた……今夜は及第点だな」

 

雁夜は聖杯戦争で勝ち抜き、桜を救う事が目的だった。

 

その桜は救われ、間桐家の当主である臓硯が消滅したことで間桐邸を拠点として使用する事ができる。

 

後はこの間桐邸をキャスタークラスのサーヴァントの力を使って強固な結界を張って難攻不落の拠点へと改造させる。

 

「一応アルトリアに連絡しなくちゃな」

 

「そうですね。それからチームAとチームBの皆さん、無事に作戦がうまく行ってるといいのですが……」

 

遊馬とマシュはチームAのジャンヌ達とチームBのクー・フーリン達の身を案じた。

 

するとタイミングよく遊馬とマシュのD・ゲイザーにチームAから連絡が入り、すぐに遊馬は連絡に出る。

 

「ジャンヌ、そっちは大丈夫か!?」

 

『はい、遊馬君。こちらは大丈夫です。ジルと無事に合流出来ました。幸い、カルデアの記憶を持っていたので特に何もせずに私たちが来るまで待機していました』

 

「そうか、良かった」

 

『ただ……』

 

「ただ?」

 

『ジルを召喚したマスターが連続殺人鬼で、その中には幼い子供も含まれていて……アタランテが我を忘れてその男を半殺しにしてしまって……』

 

子供を愛する守護者であるアタランテが子供を殺める連続殺人鬼の男を半殺しどころか本当に殺してもおかしくはない話だった。

 

「だ、大丈夫なのかよ……そいつ」

 

『手足を容赦なく叩き折り、体中が血みどろになるまで殴り続けて……正直とても怖かったです。一応、生きていますが……アタランテはレティシアとアストルフォが必死に抑えています』

 

『離せ……そいつにまだ痛みを与えなくてはならない!全身の骨が砕けるまで殴り続ける!!』

 

『落ち着きなさい、このバカ!これ以上やったら本当に死ぬわよ!!?』

 

『殺しちゃダメだよ!こいつは人間として最低だけど、殺すのはマスターが許さないよ!』

 

『おぉ……リュウノスケ……何と惨たらしい……』

 

ジャンヌのD・ゲイザーから響くジルを召喚したマスターをアタランテが半殺しにする修羅場が聞こえてくる。

 

「わ、分かった……すぐにそっちに行く」

 

今すぐ向かわないとジルのマスターがアタランテの怒りの拳で死んでしまう。

 

いくら連続殺人鬼でも殺してしまうのはまずい、この国の法で裁かれるべきだと遊馬は考える。

 

ジャンヌと一旦連絡を切り、マシュと共にストリームバイクで向かおうするとD・ゲイザーに次の連絡が入る。

 

『おう!マスター!こっちは終わったぜ!』

 

クー・フーリンから晴れ晴れとした表情で連絡してきた。

 

「クー・フーリン!みんな無事か!?」

 

『おうよ!言峰とアサシン達はぶっ倒したぜ!ネロ嬢ちゃんとエリザベート嬢ちゃんの歌声にノックダウンだぜ!』

 

クー・フーリンたちBチームは第四次聖杯戦争で危険な存在である言峰綺礼とアサシンを捕縛するために向かった。

 

言峰綺礼は卓越した武人であり、クー・フーリンでも全力で殺す気で向かわないと勝てないレベルである。

 

心臓を穿つゲイ・ボルグを使うわけにはいかず、ゲイ・ボルグの槍術とルーン魔術を使って戦うが、言峰綺礼はそれと対等に渡り合えるほどの力を持っていた。

 

言峰綺礼はこのままでは敗北すると直感し、念話でアサシンを呼び出した。

 

言峰綺礼が召喚したアサシンは1個体で複数の存在となれる『百貌のハサン』で圧倒的な数でクー・フーリンを抑えようとしたが、そこでレオニダスの出番である。

 

レオニダスの宝具・炎門の守護者を使い、三百人のスパルタ兵士を召喚して応戦する。

 

百貌のハサンは自分達以上の数倍以上の数を持つ屈強なスパルタ兵の前に取り押さえられてしまう。

 

全ての百貌のハサンが集まったその時、Bチームの切り札……ネロとエリザベートの出番である。

 

ネロはすぐさま魔力を解放して招き蕩う黄金劇場を発動して言峰綺礼と百貌のハサンを劇場に閉じ込め、更にエリザベートが生前住んでいた居城を巨大アンプに改造した宝具『鮮血魔嬢』を同時に発動させた。

 

ネロとエリザベートはD・ゲイザーをマイクモードにする。

 

そして……カルデアにいる全てのサーヴァントすら恐れる悪夢のコラボレーションリサイタル……『ジョイント・リサイタル』が開幕する。

 

「余たちの歌を聴かせてやろう!」

 

「サーヴァント界最大のヒットナンバーよ!」

 

「「ミュージック、スタート!!」」

 

アンプから軽快な音楽と共にネロとエリザベートは音楽に合わせて楽しそうに口を開いた次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ボエ〜〜〜〜〜!!!」」

 

「「「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!??」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世のものとは思えない地獄のような音が言峰と百貌のハサン達を襲った。

 

超音痴破壊兵器と謳われているネロとエリザベートの歌は言峰と百貌のハサン達を一気に追い込み、戦闘不能状態にまで追い込んだ。

 

それもそのはず、ネロの招き蕩う黄金劇場で言峰と百貌のハサンの能力をダウンさせ、エリザベートの鮮血魔嬢は敵全体に強力攻撃防御無視と呪いを付与させる。

 

つまり……言峰と百貌のハサンは対抗する手段すらなく撃沈されたのだ。

 

エルメロイII世やエミヤが特に危険視していた言峰綺礼……それが二人の美少女サーヴァントの『声』にやられたのだった。

 

ちなみにクー・フーリンとレオニダスはダ・ヴィンチちゃんから貰っていた特製耳栓で何とか事なきを得て言峰と百貌のハサンの捕縛に成功したのだった。

 

『つー訳だから、マスター。早くこっちに来てくれ』

 

「分かった。バイクですぐに行くから待っててくれ」

 

『おう!じゃあな!』

 

D・ゲイザーの連絡を切り、上着にD・ゲイザーとD・パッドをしまう。

 

「よし……マシュ、急いで行くぞ!」

 

「はい!」

 

遊馬とマシュはAチームとBチームと急いで合理する為にストリームバイクで冬木の街を疾走する。

 

 

翌朝。

 

冬木に来て最初の朝、地獄から救われた少女、桜は優しい温もりに包まれたまま目を覚ました。

 

「ライダー……?」

 

大きなベッドで桜を優しく抱きしめながら眠っていたのはメドゥーサだった。

 

何故桜がメドゥーサをライダーと呼ぶのかというと、桜には自身に思い入れのあるクラス名であるライダーと呼ばれたいと言い、桜は素直に頷いてメドゥーサをライダーと呼ぶようになった。

 

「んんっ……おや?サクラ、目が覚めましたか?」

 

メドゥーサは桜の頭を優しく撫でながらベッドから降りてカーテンを開ける。

 

窓から眩しい太陽の光が部屋に差し込み、桜は瞼をこすりながらベッドから起き上がる。

 

「さあ、着替えて食堂に行きましょう。美味しい朝食が待ってます」

 

「だれが作っているの……?」

 

間桐の使用人は昨夜のうちに安全のため、暗示をかけて追い出してしまい、今この屋敷にいるのは桜と雁夜、そして遊馬達である。

 

「ご心配なく、カルデアには腕のいいシェフがいますので」

 

ライダーは笑みを浮かべ、桜をパジャマから私服へと着替えさせた。

 

桜を抱き上げてライダーは食堂へと向かった。

 

食堂に入ると既に誰かが食事をしていた。

 

「おっ、桜ちゃん。おはよう」

 

「おはよう、桜ちゃん!先に食ってるぜ!」

 

「おはようございます、桜ちゃん」

 

食堂のテーブルで食事を取っていたのは雁夜、遊馬、マシュだった。

 

雁夜は体の体調が万全ではないので消化のいいお粥で遊馬とマシュはオムライスを食べていた。

 

「お、おはよう……」

 

「おはようございます。オムライス……ということは、彼女が来ているのですね?」

 

「にゃはは!タマモキャット、参上なのだ!」

 

キッチンから颯爽と登場したのはタマモキャットだった。

 

「だれ……?」

 

ハイテンションに登場したタマモキャットに桜は首を傾げる。

 

「おお、これは可愛い天使!我が名はタマモキャット!以後、お見知り置きを!」

 

「キャット?」

 

キャットは猫だと分かる桜だが、タマモキャットにどこに猫要素があるのか分からず頭に大量のハテナマークを浮かべる桜だった。

 

「タマモキャットの作るオムライスは絶品ですよ。サクラも食べますか?」

 

「オムライス……食べる!」

 

「了解!疾風怒涛の如く作るのだ!!」

 

タマモキャットはビュー!と風の如くキッチンに突撃してオムライス作りに取り掛かる。

 

数分後には出来立て熱々のタマモキャット特製のオムライスが桜の前に置かれ、子供の好きな料理の上位に入るであろうオムライスに桜は目を輝かせ、スプーンを持って食べ始める。

 

「はむっ……もぐもぐ。おいしい!!」

 

「では報酬にニンジンをいただこう!」

 

「ニンジン?」

 

「あー、彼女の言動は気にしないでください。ほとんどの人は理解していませんので。さあ、冷めないうちに食べてください」

 

「うん!」

 

間桐に心を壊された桜に笑顔が戻ってきてメドゥーサは幸せそうな笑みを浮かべながら桜の頭を撫でるのだった。

 

朝食を食べた後、桜に会うために複数のサーヴァントが現れる。

 

「あらあら、随分と薄幸な女の子ね……」

 

「女神でさえ吐き気がする死ぬより辛い目にあったのに、よく頑張ったわね……」

 

「う、上姉様!?下姉様!?」

 

それはメドゥーサの姉のステンノとエウリュアレだった。

 

「ライダーのお姉さん……?」

 

「そうよ。ふふふ……これは可愛がりがある子ね……」

 

「メドゥーサが妹のように大切に思っている子なら、私たちにとっても妹同然の存在でしょう?サクラ、だっけ?今から私たちのことをお姉様と呼びなさい」

 

「お姉様……?」

 

「そうそう、素直な子ね。気に入ったわ」

 

「私たち好みに育ててあげる♪」

 

ステンノとエウリュアレが桜を自分好みに育てようとしてメドゥーサの顔が真っ青になる。

 

あの面倒極まりない女神が直々に桜を育てたらとんでもないことになること間違いなしである。

 

「ね、姉様!?そ、それだけは……それだけは勘弁してください!!」

 

「待てい!幼き美少女を愛でるのは余の務めであるぞ!」

 

「待て。女神と皇帝には荷が重いだろう子供の相手なら私が変わろう」

 

そこに更に美少女が好きなネロと子供の守護者のアタランテが乱入し、誰が桜を可愛がるかで揉め始めた。

 

「えっと……」

 

桜は何で自分のために争っているのかわからずにキョトンとしていると、ふわっと優しい香りが後ろからするとぎゅっと誰かに抱きしめられる。

 

「ああもう、可愛すぎるよ〜!」

 

「え、えっと……?」

 

「私はブーディカ、お姉さんと遊びましょうね」

 

「ちょっ!ブーディカ!?抜け駆けはいけませんよ!!」

 

いつの間にか女性サーヴァント達による桜争奪戦が始まってしまった。

 

桜の地獄の体験を知り、女性サーヴァントの母性本能が刺激された。

 

壊れた桜の心を癒せるようにと女性サーヴァント達が桜と遊んであげるのだった。

 

「……ふふっ、あははっ……」

 

桜は自然な笑みを浮かべて少しずつだが心が癒されて行くのだった。

 

「良かった……桜ちゃんに笑顔が戻って……」

 

雁夜は桜に笑顔が戻ってきたことに涙ぐんでいた。

 

「さて、とりあえず現状についてまとめよう」

 

エルメロイII世がまとめ役を名乗り出てホワイトボードに現状をまとめた。

 

・アルトリアはカルデアの記憶持ちで第四次聖杯戦争の悲劇を食い止めることに協力する意志あり。

 

・ジルも同じく記憶持ちで召喚したマスターである雨生龍之介はアタランテに半殺しにされた状態で警察に突き出され、現在は警察病院で全治数ヶ月の入院中。メディアの魔術で暗示が掛けられてるので退院後大人しく服役予定。

 

・ジルは龍之介との契約は解除され、現在は遊馬と再契約を交わしており、間桐邸で待機中。

 

・言峰綺礼はメディアの魔術で間桐邸の一室で眠っており、少なくともこの特異点である第四次聖杯戦争まで眠ってもらう予定。

 

・百貌のハサンは遊馬と契約を交わし、現在は間桐邸で待機中(本人達は何の命令もされずに、寧ろ大変だったから休んでいてと言われて困惑している)。

 

・間桐雁夜は間桐桜救出と間桐臓硯消滅により聖杯戦争へ参加する目的が消滅。

 

・ランスロットは今は大人しいがいつアルトリア関連で暴走してマスターである雁夜の少ない魔力を根こそぎ奪いかねないので遊馬に託して再契約を結ぶ予定。

 

「間桐雁夜。我々の目的と聖杯戦争の真実を教えよう」

 

エルメロイII世は雁夜に聖杯が汚染されていることを教え、遊馬達の目的を話した。

 

聖杯が汚染されていることに雁夜は当然ショックを受けていたが、そもそもの目的が桜を助けることだったのでそこまで大きくはなかった。

 

「みんな……桜ちゃんを助けてくれて本当にありがとう。でも……時臣だけは、時臣だけはこの手で……!!」

 

雁夜は手を握りしめると、その瞳に黒い意志が宿るのを遊馬とアストラルは見逃さなかった。

 

それは遊馬とアストラルが何度も見てきた大切なものを傷つけられた者が宿す復讐者の瞳だった。

 

「……雁夜さん。時臣って桜ちゃんの本当の……」

 

「そうだ!あいつの、あいつのせいで桜ちゃんは……だから!!」

 

復讐に取り憑かれた雁夜の爪が食い込むほど握りしめた手を遊馬は両手で優しく包み込んだ。

 

「ダメだ、雁夜さん。あんたの手をそんなことで穢したらダメだよ」

 

「遊馬、君……?」

 

「確かに時臣は俺たちも許せない。だけど、実の父親を倒したら桜ちゃんが自分のせいだと思って自分を責めると思うし、確か桜ちゃんには姉ちゃんがいるんだよな?その子も悲しむし、雁夜さんを一生恨むと思う」

 

「だけど、あいつがいる限り桜ちゃんはまた……」

 

「俺たちは桜ちゃんの味方だ。桜ちゃんは俺たちが必ず守る。それに、そんな体じゃ時臣を殴ることすら出来ないだろ?だから、俺たちに任せてくれ」

 

遊馬の心の闇を照らす光のような笑みに雁夜は静かに目を閉じて小さく笑みを浮かべる。

 

この子になら任せられる……雁夜は根拠がなかったが、そう思えた。

 

「……託しても、いいのか……?」

 

「ああ。俺たちに任せてくれ」

 

「それに……雁夜が手を出さなくても遠坂時臣の命が危ういと思うが……」

 

「え?」

 

アストラルが気まずそうに指差し、その方向を見ると……。

 

「サクラを不幸にした元凶ですか……サクラの為に、私の手で八つ裂きにしてくれましょう。今宵は神話の怪物として一人の男に絶望と恐怖を見せてあげましょう」

 

「メドゥーサよ、私も力を貸すぞ。この身には悪しき獣の力が宿っているからな……その力を解放してサクラを不幸にした償いをしてもらおうか……」

 

メドゥーサとアタランテが体からドス黒いオーラを放ってマジで時臣を抹殺しようと模索していた。

 

メドゥーサは綺麗な紫色の髪が蛇に変化していき、アタランテは紫のオーラを纏って衣装が変わろうとしていた。

 

桜への想いと時臣への強い怒りで明らかに二人のサーヴァントとしてのクラスや属性が変化しかけていた。

 

「おいいぃっ!?二人共超怖ぇよ!?メドゥーサ、髪が蛇になってるから!アタランテ、何かオルタ化してね!?と、とにかく落ち着いてくれ、二人共!!」

 

遊馬達は暴走しかける二人を慌てて止めに入った。

 

雁夜は顔を引きつりながらその光景を見て呟いた。

 

「時臣……俺が手を出すまでもなく死が迫ってるな……」

 

憎むべき相手ではあるがギリシャ神話の怪物と狩人にターゲットをロックされている時点で憎しみどころか哀れみが出てしまうのだった。

 

 

遊馬達が会議をしている最中、エミヤは間桐邸の掃除をしていた。

 

すると、食堂のテーブルに遊馬が忘れていったD・ゲイザーが置いてあり、届けようとしたら通信が入った。

 

通信相手はアルトリアでエミヤは自然とD・ゲイザーにスイッチを入れた。

 

「もしもし、私だ」

 

『シロウですか?マスターは?』

 

「今会議中だ。要件なら私が話そう」

 

『分かりました。サクラは大丈夫ですか?』

 

「心配ない、桜はみんなで可愛がってくれているよ」

 

『そうですか、それなら安心です。実は……シロウにどうしても伝えておきたいことがあります』

 

「私に?」

 

『ええ、落ち着いて聞いてください。実はーー』

 

「ーー何だと……?」

 

アルトリアからの連絡にエミヤは頭が真っ白になるほどの衝撃を受けた。

 

それは第四次聖杯戦争の最大のキーパーソンであるとある人物。

 

エミヤとアルトリアに共通する縁のある人物である。

 

エミヤはアルトリアとの通話を終えると静かにD・ゲイザーのスイッチを切り、呆然と立ち尽くす。

 

「どういう事なんだ……?」

 

この特異点はエミヤ達の過去ではないと理解はしていたが、たった一人……その一人が存在しないというあまりにも大きな違いにエミヤは困惑するのだった。

 

 

夕日が沈み、街が暗く染まる頃……遠坂邸に複数の影が近づく。

 

「さーて、それじゃあ遠坂さん家にカチコミするか……」

 

遊馬は原初の火を引き抜いて肩に担ぐと雁夜は顔を引きつらせながら尋ねる。

 

「あの、遊馬君……そのカチコミって言葉は何処で習ったのかな……?」

 

「ん?先日入ったばかりの両儀式っていう女性サーヴァントから教えてもらったけど?敵対する者のアジトとかに殴り込みに行く時とかに使うらしいぜ」

 

雁夜はカチコミと言う言葉を日本の極道が使うものだと知っており、両儀式がどんな人かは知らないがもしかしたらそちら側の人間なのでは?と思うが口にしないでそのまま飲み込むことにした。

 

ちなみに遠坂邸に突撃して時臣を抹殺しようとしたメドューサとアタランテは間桐邸に残ってもらった。

 

あくまで話し合いなので本当に抹殺したらまずいので桜の面倒を見てもらっている。

 

「ところで、エミヤ先輩はどちらに向かわれたのでしょうか……?」

 

エミヤは遊馬達が出発する前にカルデアから予備のD・パッドを転送してもらい、何処かへと出かけてしまった。

 

D・パッドを使い、エミヤが何か策を講じているのかもしれない。

 

「まずは雁夜さん。時臣に何を言われても冷静でね」

 

「ああ……頑張るよ」

 

「行きましょう……」

 

遊馬は左手にホープ剣を出現させ、遠坂邸に突撃する。

 

遠坂邸に設置してある侵入者を排除するための結界や罠の魔術……それを遊馬はホープ剣と原初の火で斬り裂いていく。

 

「現れよ!『No.39 希望皇ホープ』!」

 

アストラルは希望皇ホープを召喚して遊馬と共に遠坂邸の結界や罠の魔術を斬り裂く。

 

そして、遠坂邸の結界と罠の魔術を全て斬り裂いて使用不能にすると、遊馬は玄関の扉を飛び蹴りでぶち上げる。

 

遠坂邸に突入すると遊馬は大きく息を吸い込んで叫ぶ。

 

「出て来いや!!遠坂時臣!!!屋敷をぶっ壊されたくなかったら大人しく話に応じやがれ!!!」

 

もはや脅迫まがいの遊馬の轟く怒号に貴族風の男性が静かに現れた。

 

その男こそ桜の実父、遠坂時臣である。

 

「やれやれ、随分と野蛮なことをするね……それ相応の覚悟があるのかな?」

 

「覚悟がなかったら最初からカチコミなんかしてねえよ」

 

「……来なさい。話なら客間で行おう」

 

時臣は冷静に、そして優雅に遊馬達を客間に案内した。

 

客間のソファーに遊馬達が座り、テーブル越しには向かい合うように時臣が座っている。

 

「久しぶりだね、雁夜。まさか落伍者の君がこんな小さな協力者を得てまでこの聖杯戦争に参加していたとは……それで、我が屋敷に殴り込みに来て何の用かな?」

 

時臣の蔑むような眼に雁夜はフルフルと震えて今にも殴りかかりそうな感じだったが、遊馬は雁夜の肩に手を乗せて落ち着かせる。

 

「遠坂時臣……あんたはなんで桜ちゃんを間桐に養子に出した?」

 

「決まっている。愛する娘……桜の未来を思ってのことだ」

 

桜の持つ『架空元素・虚数』。

 

それは魔術の世界においてとても貴重な才能で、将来は稀代の魔術師として大成することを約束されるほどの力である。

 

しかし、既に遠坂家には長女が生まれており、その子も桜に負けず劣らずの素晴らしい才能を持っていた。

 

だが、原則として魔術は一子相伝。

 

桜を凡俗に落とすくらいなら、貴重な実験体としてホルマリン漬けにされるなら……桜の未来の為に間桐へ養子に出したのだと時臣は語った。

 

「じゃあ、あんたは桜ちゃんが魔術師として大成する為に間桐に養子に出したのか……?」

 

「そうだ。そして臓硯殿は約束してくれた。桜を間桐の当主にしてくれると。だから私は……」

 

「残念だが間桐臓硯は私達が倒した。もうこの世にはいない」

 

アストラルの突然の宣告に時臣は優雅な雰囲気が崩れるように立ち上がった。

 

「な、何だと!?何故だ!?何故臓硯殿を殺めた!??これでは桜が魔術の修行を受けられないではないか!!」

 

「下らない……」

 

「下らない……?何が下らないと言うのだ!?」

 

「遠坂時臣、貴様も根源という下らないものを目指しているのか?」

 

「根源こそ魔術師が目指す到達点だ!私たち一族は根源を目指す為に魔術を追求し、それを次の世代に子供達に託して来た!桜と凛は素晴らしい才能を持っている、きっと私以上の素晴らしい魔術師になれる!」

 

「根源か……正直、あんなものに価値があるとは思えないがな」

 

「あんなもの……!?ま、まさか……根源に接続したというのか!?」

 

根源に至ることは魔術師の最大の目標、目の前にいる精霊がそこに至ったということに時臣は興奮していた。

 

「貴様達が目指しているものとは少し違うが私は似たような物に触れてその力を使ったことがある。だが、あんなものを目指す価値は無い」

 

「価値が無いだと……!?価値があるに決まっている!そのために私は、遠坂家を元より……凛と桜が魔術師として成功し、二人が幸せになるために考えてーー」

 

「いい加減にしろよ!!!」

 

時臣の言い分に遊馬は立ち上がって声を荒げた。

 

「……時臣、あんたは娘の幸せを願っていると言ったけど、それは違う」

 

「違うとは何だ!?私は考えに考え抜いてーー」

 

「魔術師になりたいなんて桜ちゃんは望んだのかよ……魔術師として成功したいって一言でも言ったのかよ!?あんたの思いはただの押し付けだ!!」

 

「魔術師の家系に生まれた者ならそう思うのが普通だ!だからこそ間桐に養子に出して臓硯殿に託したのだ!」

 

「これを見ても、そう言えるのかよ……これがあんたが望んだ答えなのかよ!?」

 

遊馬はD・パッドを起動して動画閲覧モードにしてある動画を流した。

 

それは昨夜、遊馬達が間桐邸に突入して桜が蟲に調練されている場面をD・ゲイザーで録画していたものだった。

 

桜に何が起きたのかを時臣に見せつけるために。

 

「な、何だこれは!?何故桜がこんなことに……!??」

 

間桐の異様にして大人でも吐き気が出るほどの不気味な魔術に時臣は目を疑った。

 

何故だ?

 

何故桜があんな目にあっている?

 

私はこんなのを望んでいない……何なのだこの魔術は!?

 

時臣は間桐の魔術の恐ろしさに体が震えていた。

 

「これが間桐の魔術だよ、時臣……」

 

雁夜はマシュに体を支えてもらいながら立ち上がり、時臣に近づく。

 

「俺が何で間桐を去ったのかその理由が分かったか……?間桐は人を喰らう不気味な蟲を使った外道の魔術だ。ジジイは蟲を使って俺の両親や大勢の人間を喰らってきた……それにな、ジジイは桜ちゃんを間桐の当主にするつもりは初めからなかったんだよ。優秀な間桐の魔術師を産むための胎盤にするつもりだった……」

 

「そ、そんな……それじゃ、私と臓硯殿との約束は……」

 

「そんなの、最初から守る気なんてないに決まってるだろ……お前は騙されていたんだよ。お前は……桜ちゃんを幸せにするどころか自ら地獄に叩き落としたんだ!!!遊馬君達が桜ちゃんを救うために臓硯を倒したんだ!!!」

 

雁夜が声を荒げて少ない力を振り絞って胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

「わ、私は……何て事を……」

 

時臣は自分がしてきたことが裏目に出て桜が不幸な目にあった事実に打ちひしがれ、その場に崩れ落ちた。

 

その時。

 

バァン!!!

 

「お父様!!」

 

扉が勢いよく開いて部屋に入ってきたのはツインテールで髪をまとめた赤い服を着た可愛らしい少女だった。

 

「り、凛……」

 

「凛ちゃん……」

 

その少女は時臣の娘で桜の実姉、遠坂凛である。

 

雁夜は時臣から離れると凛は目に涙を浮かべながら時臣に近づいた。

 

凛は幼いその小さな手で拳を作って時臣を何度も叩く。

 

「お父様のバカバカ!桜が幸せになる為に、寂しいのを我慢してきたのに……あんなの、あんなの酷いよ!!」

 

「凛ちゃん、まさか君は……」

 

「すまない、私が桜の間桐の仕打ちを凛に話させてもらった」

 

雁夜の隣に別行動をしていたエミヤが現れた。

 

「エミヤ!お前、まさか、凛ちゃんにあの映像を見せたのか!?」

 

雁夜がエミヤに突っかかり、エミヤは静かに頷いた。

 

エミヤはD・パッドで桜の姉である凛に先ほど遊馬が見せたのと同じ映像を見せたのだ。

 

桜に間桐で何が起きたのかを知ってもらう為に。

 

そして、凛ともう一人の女性にも見てもらった。

 

「凛だけではない。彼女にも見せてもらった。そうした方が良いと思ったからな……」

 

「彼女……?ま、まさか!」

 

雁夜が顔を真っ青にすると部屋に一人の女性が体をふらつかせながら入って来た。

 

「葵……」

 

「あ、葵さん!」

 

それは桜と凛の母親で時臣の妻である女性、遠坂葵である。

 

エミヤは葵の実家にいた凛と葵の元に向かい、桜の映像を見せて何が起きたのか説明したのだ。

 

「雁夜君……ごめんなさい……桜の為にそんな体になって……」

 

葵は雁夜が自分の体を犠牲にしてまで桜を助けようとした事を聞き、涙を浮かべながら雁夜に謝罪した。

 

「お、俺は良いんだ……俺は何も出来なかったから。桜ちゃんはこの子達が助けてくれて今は無事だ。間桐邸でサーヴァント達が一緒に遊んでくれている」

 

「そう……ありがとう……」

 

葵は時臣の元に行くと座り込んで嘆いた。

 

「時臣さん……どうして桜があんな目に……?桜が幸せになると思って間桐に養子に出したのに……」

 

「すまない、私も……私も騙されていたんだ……」

 

「……あんた達は魔術師という概念に囚われすぎなんだよ」

 

遊馬は時臣と葵に向かって怒りを抑えながら自分の気持ちを話す。

 

「桜ちゃんが魔術師として凄い才能があるのは分かったよ。でも、桜ちゃんが一言でも魔術師になりたいなんて言ったのかよ?まだ桜ちゃんは六歳だぞ?それなのに勝手に家族を引き離すなんておかしいぜ」

 

魔術師だから仕方ない……そう言う固定概念が強すぎた故に起きた今回の悲劇。

 

時臣と葵は何も言えずに黙り込んでしまう。

 

「親なら子供の成長を願い、子供の行く道を見守るのが務めじゃねえのかよ。俺の父ちゃんは俺の夢を応援してくれた、背中を押してくれた……だからこそ俺は周りから無理と言われたデカイ夢を叶えることができた。あんたらは桜ちゃんが成長し、自分の意思を持ってから魔術の道か人の道かを選択させりゃ良かったんじゃねえのかよ……?」

 

桜はまだ六歳で幼く、言われるがままに間桐の家に養子に出された。

 

その所為で桜の心は壊され、未来への夢も希望も無くしてしまった。

 

「桜ちゃんは心が壊されて夢も希望の無くしちまったんだ……自分は実の親に捨てられた、いらない子だと思ってるんじゃねえのか……?」

 

今はメドゥーサ達のお陰で少しずつ心が癒されているがそれでもまだ心に深い闇が残っている。

 

桜が辛い目にあってる……桜を誰よりも大切に思っている凛はすぐ近くにいた遊馬の右手の甲に令呪が刻まれるのを見つけると少し信じられなかったが桜を救った存在であると気付いた。

 

「あ、あなた!桜を救ってくれた人!?」

 

「え?あ、ああ……そうだけど……」

 

「お願い!桜を返して!!桜は私の妹なのよ!?」

 

凛は遊馬に駆け寄って上着を握り、桜を返してもらえるよう強く懇願した。

 

遊馬が口を開こうとする前にアストラルが凛の前に現れた。

 

「遠坂凛……と言ったか?残念だが、桜を返すことは出来ない」

 

「な、何でよ!?桜にあんなひどい目に合わせた間桐の当主は倒したんでしょう!?だったら桜を返しても良いじゃない!!」

 

「確かに家族は一緒にいるのが一番だろう。しかし、桜は間桐で絶望して心は壊され、今の精神状態は一番危うい状態だ。もしかしたら君や両親を拒絶するかもしれない……」

 

アストラルの厳しい言葉に凛は絶望し、大粒の涙を流す。

 

「そんな……嫌だ嫌だ!!桜は私の妹よ!!桜に会えないなんて嫌だ!!」

 

桜を返してもらえないことから凛は泣きじゃくりながら今度は遊馬を叩いた。

 

腹部に痛みが走りながら遊馬は右手で優しく凛の頭を撫でて声をかけた。

 

「……君は桜ちゃんのこと、本当に大切に思っているんだな。でも今行っても拒絶されるかもしれないぜ?」

 

「それでも桜に会いたい!桜を抱きしめたい!桜にごめんなさいって謝りたい!だって、だって私は、桜のお姉ちゃんだもん!桜は……私が必ず守る!!」

 

凛は姉として妹の桜を守ると言う強い心を持って宣言した。

 

その姿に遊馬は弟や妹の為に命をかけて戦うカイトと凌牙の姿が重なった。

 

「……分かった!桜ちゃんに会いに行こうぜ。諦めずにちゃんと謝って抱きしめてやってくれよ、かっとビングだ!凛ちゃん!!」

 

「うん!行く!桜に会いに行く!!」

 

「オッケー!それじゃあ、エミヤ。凛ちゃんのエスコートを頼むぜ」

 

「喜んで。では参ろうか、凛」

 

「ありがとう、エミヤさん……じゃなくて、アーチャー!!」

 

凛はエミヤの事をアーチャーと呼ぶと、エミヤは珍しく優しい笑みを浮かべて頷いた。

 

エミヤは凛にアーチャーと呼んでもらいたいとあらかじめ言っていたらしく、どうやら二人には桜とメドューサと同じく縁が結ばれているようだった。

 

「あっ、あの……ごめんなさい。お腹を思いっきり叩いちゃって……」

 

「別に良いよ。桜ちゃんに会ったら抱きしめてやってくれよ」

 

「うん!えっと……あなたの名前は?」

 

「俺は九十九遊馬だ!そんで、こいつは相棒のアストラル!」

 

「私はアストラル。遊馬と共に戦う精霊と思ってくれれば良い。先ほどはすまなかった、君に厳しい言葉をかけてしまった」

 

「大丈夫……あれは桜を思って言ってくれたんだよね?精霊は初めて見るけど、あなたとても優しいのね」

 

「ふっ……さあ、どうかな……?」

 

アストラルは目を閉じて笑みを浮かべると皇の鍵に入ってしまった。

 

「ったく、あいつは……」

 

「それから、本当は最初に言うべきだったけど……桜を助けてくれてありがとう!」

 

凛は満面の笑みで遊馬に感謝した。

 

凛は桜をそれほどまでに大切に思っていると遊馬は実感し、凛の頭を撫でた。

 

「おう!どういたしまして!エミヤ、凛ちゃんを頼むぜ」

 

「では、行こうか。凛」

 

「ええ!」

 

エミヤは凛を手慣れた様子で抱き上げて遠坂邸を後にした。

 

遊馬達も遠坂邸を後にして間桐邸に向かおうとし、座り込んでいる二人に向かって話しかける。

 

「あんた達はどうする?桜に会いに来るか?」

 

「……今の私に、桜に会う資格は無い……桜を、凛を頼む……」

 

「私もです……私は魔術師の家に嫁いだから仕方ないと諦めていた……私は母親失格です……私達はこれからのことを考えなければなりません……」

 

時臣と葵は桜を地獄に突き出してしまったことに酷く落ち込み、更に遊馬の言葉によほど応えたのか自分たちが親として桜に会うことは出来ないと責めた。

 

二人が桜に会いに行く決心がつくのは話し合って考えるしか無い。

 

「そうか……でも、今度は道を間違えるんじゃねえぞ。親として子供を見守ってやれよ……子供は親が知らない間にすげぇ成長するんだからよ。それから……」

 

遊馬はまだ時臣と葵を許し切れていない。

 

それは二人を許す時は桜が二人を許した時であると思っているからだ。

 

「桜ちゃんに会う決心がついたら、ちゃんと謝って抱きしめてやってくれよ。親子の縁を切っても、あんた達は桜ちゃんの両親なんだからさ……」

 

遊馬の言葉が更に二人の心に突き刺さり、遊馬達は遠坂邸を後にして間桐邸に戻る。

 

そして、今夜……エルメロイII世が待ち望んでいたケイネスとの対談が始まる。

 

 

 

.




次回はケイネス先生との対談です。
ソラウさんの為にディルムッドのスキルを何とかしたいなと思いますね。


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ナンバーズ62 二人の魔術師の会談

前回は本当に皆さんに不快な思いをさせてすいませんでした。
改めて今後もよろしくお願いします。

今回はケイネス先生との会談です。


遠坂家次期当主にして将来有望な天才魔術師、遠坂凛。

 

凛は離れ離れになってしまった愛する妹、桜に会いに間桐邸に来たのだが、最大の敵と対峙している。

 

「ううっ……くぅっ……」

 

その敵に凛は心身共に大きなダメージを受け、今にも泣きそうな様子だった。

 

「うふふ、はいこれで上がり♪」

 

「これで10連勝、あなたは10連敗のビリね♪」

 

「がぁあああああっ!!?どうして勝てないのよぉっ!??」

 

凛はカードを放り投げて床に転げ落ち、頭を抱えてぐるぐると回る。

 

凛が対峙している相手……それは双子といっても過言では無いほどそっくりな可愛らしい二柱の女神、ステンノとエウリュアレである。

 

そして、床に倒れる凛の周りにトランプのカードが舞う。

 

何故凛がステンノとエウリュアレとトランプで勝負しているのかと言うと、それは間桐邸に来た凛に対するステンノとエウリュアレからの試練だった。

 

凛が間桐邸に到着し、桜に会いに行こうとしたがそこにステンノとエウリュアレが立ち塞がった。

 

桜は遠坂家から間桐家に養子に出され、拷問に近い魔術の調練を受けさせられた。

 

そんな桜をステンノとエウリュアレはメドゥーサと重ねて可愛がり、自分たち好みに育てようとしていた。

 

そこに凛が現れて桜に会おうとするので基本的に性格が悪いステンノとエウリュアレは凛に桜を会わせないと突き放した。

 

凛は頑固として桜に会いたいと言い、そこでステンノとエウリュアレは凛に試練を出した。

 

それは遊馬達が昼間に買い物をした時にみんなで遊べるようにと異世界でも共通であるカードゲームであるトランプを使った試練だった。

 

流石に桜にはデュエルを教えるには早すぎるのと時間がないので分かりやすいトランプを選んだのだ。

 

そして、二人が出した試練は凛とステンノとエウリュアレの三人でババ抜きをするものだった。

 

ルールは簡単でババ抜きで凛が一抜けすれば勝利でたとえ負けても何回でも挑戦することができる。

 

だが、その代償にビリで負ける毎にステンノとエウリュアレから血を少量だが吸われてしまうのだ。

 

血を吸われる恐怖があるが、これなら何回かやれば運が悪くても一抜けで勝つことができる……凛はそう思っていた。

 

しかし、現実は甘くなかった。

 

現在凛は10連敗で敗北しており、二人から10回も首から血を吸われ続けているのだ。

 

「うふふ、穢れなき乙女の血は美味しいわね♪」

 

「そうね。特にこの子は将来有望な魔術師だから特に濃いわね♪」

 

幼き少女の血がとても美味しいのかステンノとエウリュアレは血を飲む度にとても生き生きしていた。

 

「もう、なんで勝てないのよぉ……」

 

凛は血を吸われてフラフラになりながら頭を抱える。

 

それもそのはず、この勝負は初めから凛に勝ち目などなかったのだ。

 

サーヴァントには共通するステータスがあり、その中に『幸運』がある。

 

ステンノとエウリュアレは他のサーヴァントに比べて身体能力などは低いがその代わり、幸運が『EX』なのだ。

 

これは二人が女神であることが由縁であり、愛される存在であるので二人の幸運は規格外なのだ。

 

仮に遊馬ならステンノとエウリュアレと互角に渡り合える事ができるが、魔術師という点を除けば普通の少女である凛が勝てる可能性はほぼゼロである。

 

「諦めなさい。これ以上血を吸われたら死ぬわよ?」

 

「あまり虐めるとマスター達が怒るからそろそろ諦めて欲しいのだけど」

 

チラッと扉の方を見るとアタランテが暴れようとしてみんなから抑えられている姿が見られた。

 

子供の守護者であるアタランテがこれ以上凛が痛めつけられるのを黙っていられないが、メドゥーサがみんなに手を出さないでもらうよう頼んでいた。

 

ステンノとエウリュアレはメドゥーサをいつも弄っているが何だかんだで妹として大切に想っている。

 

同じ姉として凛に覚悟があるのか試すために試練を出したのだ。

 

そして、何度も挫ける凛の出した答えは……。

 

「私は……諦め、ない!!」

 

凛は頬を叩いて気合いを入れて立ち上がり、ステンノとエウリュアレを睨みつける。

 

「あら?勝てる見込みがないのにまだ立ち上がるの?」

 

「諦めた方が楽よ?」

 

「絶対に嫌だ!私は桜に会いに来たの!桜が辛い目にあったのを私は何も知らなかった……だから、ちゃんと謝りたい!この手で抱きしめたい!そして……またもう一度姉妹に戻りたいの!!」

 

凛の桜への強い想いを秘めた言葉で叫んだ。

 

それは妹を想う姉の願い。

 

その願いに小さな少女が突き動かされた。

 

キィッ……。

 

扉がゆっくり開き、凛が振り向くとそこには……。

 

「お姉ちゃん……」

 

それは最後に別れた時から髪の色が変化してしまい、瞳に光が無くなってしまった……変わり果てた妹の姿だった。

 

「桜……桜ぁっ!!」

 

凛は堪えきれずに走り出し、桜に飛びつくように抱きついた。

 

「ごめんね、ごめんね、桜……」

 

凛は桜を撫でながら強く、強く抱きしめる。

 

「お姉、ちゃん……」

 

「もう離さないから、私があなたを守るからね……桜、大好きだよ」

 

引き裂かれ、壊れてしまった家族への愛情。

 

もう二度と取り戻すことができないと思っていたその心が桜の中にまた芽生え始めた。

 

桜はギュッと凛を抱きしめてその瞳から涙が零れ落ちる。

 

「お姉ちゃん……会いたかったよ……」

 

夢と希望を失った少女に光が差し込んだ瞬間だった。

 

姉妹の感動の再会にステンノとエウリュアレは静かに部屋を立ち去って廊下に出る。

 

「この勝負はあの子の粘り勝ちってところかしら?」

 

「偶にはいいわね、こう言う役回りも。もう二度とやらないけど」

 

女神らしくないと自覚しながらステンノとエウリュアレはやれやれと言った様子だった。

 

「疲れたわ。執事さん、お茶の用意……いえ、この時間なら夕食ね。用意をしてもらえるかしら?」

 

「豪華で最高な食事を頼むわよ」

 

「私は執事ではないのだが、喜んで用意させてもらうよ」

 

エミヤは執事と呼ばれて苦笑を浮かべるが、慣れたように二人に会釈してキッチンに向かった。

 

「頑張った甲斐があったかな……?」

 

「遊馬君、君のお陰だよ……俺が望んでいた光景だよ……」

 

雁夜は無事に桜と凛が再会して歓喜のあまり涙を流していた。

 

「マスター、時間だ。ランサーのマスターと交渉に向かおう」

 

エルメロイII世は時計を見ながら今日のもう一つの目的であるケイネスとの対談の時間を伝えた。

 

「分かったぜ、ウェイバー先生。メドゥーサ、桜ちゃんと凛ちゃんを頼んだぜ」

 

「はい、お任せください」

 

遊馬はエルメロイII世とマシュと共にケイネスの元へ向かう。

 

「……あらかじめ言っておくが、ランサーのマスターの前ではウェイバーもエルメロイの名を口にするな。先生だけにしておけ」

 

「……それは君の正体をランサーのマスターにバラしたくないからか?」

 

アストラルの鋭い指摘でエルメロイII世は軽くため息をつく。

 

「流石は頭脳明晰な精霊だな。その通りだ。だから、くれぐれも頼むよ」

 

「オッケー」

 

「ああ」

 

「分かりました」

 

「それから、交渉は私に一任してもらいたい。一応念話は繋げておくが、余計なことを言うなよ。いいな?」

 

「はーい」

 

エルメロイII世に何度も念を押されながら遊馬達はランサーのマスターが拠点としている場所……冬木ハイアットホテルに向かった。

 

ランサーのマスターがいるのはハイアットホテルのスイートルームで、エレベーターで一気に上の階に登り、初めて見る豪華な宿泊施設に遊馬とマシュは少し興奮しながら進むと、昨夜戦ったランサーが不機嫌なまま戦闘態勢で迎えた。

 

そして、部屋に案内されると目的の人物……ケイネスが出迎え、早速ソファーに座ると交渉が始まる。

 

「昨夜のうちにアーチゾルデに問い合わせた。ライネスの名代などと、よくも根も葉もない法螺を吹いてくれたものだ」

 

「それでもなお我々との会見に応じてくださった……それは何故ですかな?」

 

「……単刀直入に聞こう。一つ目に貴様達は何者だ?まずは君とそこの少女、君たちの気配からサーヴァントだが私のランサーとは根本的に何かが違う。雰囲気から英霊と言うよりも今を生きている人間に近い気がする」

 

ケイネスはエルメロイII世とマシュが英霊として召喚されたサーヴァントとは異なる存在だと見抜いた。

 

「二つ目はそこの精霊だ。そこまではっきりとした姿をした精霊は初めて見る。いや、そのような精霊がいる事すら本来ならば有り得ないし、マスターである少年に取り憑くことが余りにも異常だ」

 

熟練した魔術師でもアストラルほどの高エネルギーを秘めた精霊を見たことはなくケイネスはそこも指摘した。

 

「そして、三つ目はマスターである少年、君だ。私は機械に疎いが、その左目と手首につけている道具は見たことない……ましてや魔術礼装とも違う、君は何者だ?」

 

天才魔術師として魔術世界にその名を轟かせるケイネス、その慧眼は素晴らしく様々な指摘をしていく。

 

エルメロイII世は仕方ないと言った様子で静かに口を開く。

 

「正直に答えましょう……我々は未来から来た存在なのです。そして、この少年と精霊はこの世界とは異なる異世界から来たのです」

 

「何だと……?」

 

エルメロイII世はケイネスだけが知る事実を答え、遊馬とアストラルが異世界から来たことを教えた。

 

魔術世界には時間渡航者や異世界について研究している者がいるのでケイネスはそこまで驚いていなかった。

 

そして、カルデアのカルデアスやレイシフトについても説明するのだが……。

 

「それら全ての魔術的偉業が、アーチボルト門閥によって達成されることになります」

 

「…………ん?」

 

エルメロイII世の話に遊馬は違和感を感じて首を傾げた。

 

(あれ?カルデアって所長の家の……確かアニムスフィア家が運営してるんじゃ……)

 

(遊馬、これはウェイバーの嘘だ。ポーカーフェイスを保て)

 

(そうです!ポーカーフェイスで乗り切るのです!)

 

(フォウフォウフォウ……)

 

アストラルとマシュはエルメロイII世の考えに瞬時に察知して遊馬に耳打ちし、フォウはため息をついた。

 

エルメロイII世はケイネスがカルデアを創設したと言う偉業をなしたと嘘をついて騙し、ケイネスの調子を乗らせているのだ。

 

(うわぁ……幾ら何でも所長や所長の家で頑張った事をこの先生の偉業だと嘘をついて言うなんて……所長、怒ってるんじゃねえかな……)

 

遊馬はケイネスに対して嘘をついていることに罪悪感を感じると同時にカルデアにいるオルガマリーが激怒してるのではないかと危惧した。

 

一方、カルデアでは……。

 

「あんの野郎ぉおおおおおっ!いけしゃあしゃあと嘘をついて!しかも私達の家の功績を嘘で捻じ曲げて、あのでこっぱち男の偉業と言いやがってぇっ!!」

 

オルガマリーが今までに無いほどの怒りを爆発させて燃え上がる炎のような怒気のオーラを纏っており、いつもとは考えられないほどの荒れ狂った口調となった。

 

「ロマニ!今すぐレイシフトの準備をしなさい!」

 

「ええっ!?しょ、所長!?君は何をする気だい!?」

 

「決まってるでしょ!あの長髪野郎をとっちめに行くのよ!!」

 

「いやいやいや!言っちゃ悪いけど、君はレイシフトが出来ない……」

 

「あー、それなんだけどね、どうやらオルガマリーは遊馬君とアストラル君が復活させた時に同時にマスター適性が備わった肉体が作られたみたいだからレイシフトが出来るんだよねー」

 

「な、何だってー!?全く、どこまで規格外なんだ、彼らは!?」

 

ダ・ヴィンチちゃんがケラケラと笑いながら話す事実にロマニは衝撃を受けた。

 

オルガマリーは元々はマスター候補生だったが、何故かマスター適性がなくレイシフトが出来なかった。

 

しかし、一度死んで魂となって肉体を失い、魂だけの存在になり、カルデアス内で遊馬とアストラルが膨大な魔力と奇跡の力で新たな肉体を作り上げた事で偶然にもオルガマリーにマスター適性が備わったのだ。

 

「待ってなさい、私の魔弾であいつの顔をボコボコにしてやるわ!!」

 

「み、みんなー!オルガマリー所長を抑えるんだ!!」

 

ロマニ達カルデア職員と応援要請をしたサーヴァント達の助けを得てオルガマリーをレイシフトさせない為に抑え込むのだった。

 

そして、エルメロイII世と対談しているケイネスは……。

 

「ふ、ふふふ。そうかー、うん、まああり得ぬ話ではないな!いやぁ、そろそろ降霊科と鉱石科だけでは派閥争いの切り札には足りないかな、とは思っていたのだよ。何か別口の研究にも手を付ける頃合いかもね。うむ、しかしまさかそんな方向にも才能あったとはなぁ私。そうかー、歳食ってからも大人げなく本気出しちゃうかー」

 

ケイネスはすっかりエルメロイII世の話を信じ込んで自分自身の才能に惚れ惚れして気分が最高潮にまで高まっていた。

 

「流石です!ええ、このディルムッドめは信じておりました。マスターは今でこそ色々危なっかしいものの、将来は必ずや大事を成し遂げられるお方だと!」

 

「無論、技術的成果だけでなく、ソフィアリ家の経済的援助によるところも大です。カルデアの施設構築に至る莫大な経費が賄えたことも、貴方と未来の奥方様の仲睦まじい私生活があってのことで」

 

ランサー……ディルムッドが褒め称え、更にはエルメロイII世がケイネスの婚約者と上手くいっていると嘘をつき、ケイネスは更に高揚して歓喜の笑いを上げるのだった。

 

(……マシュ。時計塔のロードって、よくわかんないけど、とにかく魔術師として偉い人なんだよね?)

 

(そうなんですけど……)

 

(もしかしてこの人……めちゃくちゃ、チョロい?)

 

(そうですね、チョロいですね……)

 

(そうだな、学校でチヤホヤされた遊馬並にチョロいな……)

 

(アストラルうるせぇ!)

 

遊馬達はその場から離れて部屋の隅で小声で話し、ケイネスのイメージがぶっ壊れた事に驚きを隠せなかった。

 

その後、ケイネスはすっかりエルメロイII世を信じこみ、次は遊馬とアストラルの力を見せて欲しいと頼んだ。

 

最初は嫌がったが、ケイネスを味方に引きつけるために最小限でも良いからやれとエルメロイII世に小声で言われ、遊馬は仕方なくマシュをフェイトナンバーズで召喚した。

 

「ほぅ、これがサーヴァントと異世界の力が混ざり合った存在か。なるほど、そのカード型の魔術礼装に近いものがその力の根源と言うものか……実に興味深い、調べてみたいものだ」

 

「ケイネス卿、少しお耳を」

 

「何かね?」

 

エルメロイII世はケイネスに耳打ちをして話す。

 

「あまり彼らを刺激しない方が良いです。彼らは魔術師という存在を嫌っているのです」

 

「嫌っている?カルデアに所属しているのにか?」

 

「具体的には非人道的な行いをする者達が嫌いなのです。正義感といいますか、人の道を外れたものには怒りを爆発させます。下手をすれば時計塔や外道な魔術師を全て滅ぼされます……」

 

「な、何!?まさか……それほどの力を持っているのか?」

 

「ええ……彼らが本気を出せば間違いなく。私も彼らの力をこの目で見ましたので……」

 

「そうか……」

 

ケイネスはにわかに信じられなかったがサーヴァントの力と異世界の力をいとも簡単に融合させてそれを具現化する遊馬とアストラルならそれもあながち間違いではないと確信する。

 

是非ともフェイトナンバーズや降霊科の魔術師としてアストラルも調べたいと思ったが、二人の逆鱗に触れれば魔術世界が大混乱に陥る事を危惧し、下手に踏み込まないようにした。

 

「あー、コホン。だいたい君たちの話は理解した。それで、君たちはこれからどうしたいんだ?」

 

「実は私達はーー」

 

エルメロイII世は聖杯が穢れている事を伝え、この聖杯戦争を止める事を伝えようとしたその時だった。

 

ビィー!ビィー!!ビィー!!!

 

遊馬のD・ゲイザーから突然、緊急連絡のコールが鳴り、遊馬が出るとアルトリアから連絡が入った。

 

『すいません、マスター!こちらアルトリアです!』

 

「アルトリア?どうしたんだ!?」

 

『謎のサーヴァントが襲撃し、私のマスターであるアイリスフィールが狙われています!』

 

「謎のサーヴァントが襲撃してきた!?」

 

『すいません、援軍をお願いします!アイリスフィールはこの聖杯戦争の聖杯の器なのです!奪われたら一大事です!』

 

「はぁ!?アルトリアのマスターが聖杯の器!??」

 

遊馬の大声にエルメロイII世とケイネスがガタッと立ち上がった。

 

「聖杯の器が謎のサーヴァントに狙われているだと!?」

 

「馬鹿な!この聖杯戦争の七騎のサーヴァントと我々以外に謎のサーヴァントが召喚されているのか!?」

 

第四次聖杯戦争の七騎のサーヴァントは既に召喚されており、それがどんなサーヴァントなのかはエルメロイII世は既に把握しており、もちろん同じ経験者であるアルトリアも知っている。

 

しかし、遊馬達カルデア陣営とは異なるサーヴァントが召喚されているかもしれないという事態に遊馬達はすぐに動かなければならない。

 

「ケイネス卿、申し訳ありません!我々はすぐに向かわなければなりません!お話はまた後日お願いします」

 

「良いだろう、追ってまた連絡をくれたまえ」

 

「それから、ここの魔術工房から急いで離れた方が良いかもしれません。もしかしたらここを襲撃される恐れや奥様を人質にされる可能性も考えられます」

 

「それは困るな……よし、急いで別の拠点に移そう。ランサー、護衛をしっかり頼むぞ」

 

「はっ!!」

 

遊馬達はケイネス達の部屋からすぐに退出してホテルから出る。

 

「マスター、アインツベルンの森はここから少し遠いぞ!」

 

「バイクじゃ間に合わねえか……」

 

「遊馬、仕方ない……飛行船で向かおう」

 

「バレねえかな……」

 

「バレますよね……」

 

「ええい、緊急事態だ!仕方ない!!」

 

本来ならこんな街中で皇の鍵の飛行船を飛ばせるわけにはいかないが、聖杯の器であるアイリスフィールを奪われるわけにはいかない。

 

謎のサーヴァントにアイリスフィールを奪われない為に遊馬は皇の鍵の飛行船を呼び出し、アインツベルンの森へ向かった。

 

 

 




無事に凛ちゃんが桜ちゃんと再会できました。
ステンノとエウリュアレは妹のメドゥーサを愛し、死ぬ最後まで一緒にいたので凛を試しました。

ディルムッドのスキルはまた後日何とかします。

そして、次回はいよいよ謎のサーヴァント、登場です。


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ナンバーズ63 因果の暗殺者

今回は遂にあのサーヴァントの登場です。
ここから物語は大きく動き出します。


遊馬達は聖杯の器である存在、アルトリアのマスター・アイリスフィールが謎のサーヴァントが狙われている連絡を受け、遊馬達は苦渋の決断で街中で皇の鍵の飛行船を使用した。

 

皇の鍵の飛行船で冬木の西側にある広大な森林、『アインツベルンの森』へ向かった。

 

飛行船を使えばあっという間に到着するので遊馬はその間にモンスターを展開する。

 

そして、森の中で光が激しく散り、遊馬達は急いで飛行船から出ると同時に遊馬はエクシーズ召喚をする。

 

「現れよ!『No.39 希望皇ホープ』!」

 

地上に降りて森の中で輝く光の元へ走るとそこにはアルトリアとオルタが謎の黒い影と戦っていた。

 

あまりにも早い高速移動で動きながら英霊とは思えない銃とナイフを使った攻撃でアルトリアとオルタを追い詰める。

 

「希望皇ホープの効果!ムーン・バリア!!」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを一つ取り込み、アルトリアとオルタの前に出て翼を半月に展開して謎のサーヴァントの攻撃を防いだ。

 

「何……!?」

 

「希望皇ホープ!」

 

「来てくれましたか、マスター!」

 

「悪い、遅れた!!」

 

「あのサーヴァントは一体……!?」

 

「銃とナイフを使うサーヴァントなんて……」

 

「あの姿からはアサシンクラスだと推測出来るが、あんなサーヴァントは第四次聖杯戦争にはいなかったぞ!」

 

エルメロイII世は経験してきた第四次聖杯戦争では存在していなかった謎のサーヴァントに困惑していた。

 

「この聖杯戦争を荒らす存在か……邪魔するなら、容赦しない」

 

アサシンは遊馬に狙いを定めた。

 

「遊馬!」

 

「分かってる!」

 

「さぁ、ついてこれるか?」

 

アサシンは宝具を展開した瞬間、遊馬は手札からカードを墓地に捨てる。

 

「手札から『クリフォトン』を捨てて効果発動!」

 

「『時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)』!!」

 

高速移動で目にも留まらぬスピードで遊馬の背後に回り込み、銃を構える。

 

「終わりだ……」

 

アサシンが引き金を引き、遊馬に銃弾が撃ち込まれようとしたその時。

 

「それはどうかな?」

 

遊馬は不敵な笑みを浮かべると放たれた銃弾が消滅した。

 

「何!?」

 

「遊馬君!!」

 

あまりのスピードに反応が遅れたマシュは盾を振るい、呆然としたアサシンをぶっ飛ばした。

 

「ぐあっ!?」

 

アサシンは盾の直撃を受けてぶっ飛ばされ、何が起きたのか理解出来なかった。

 

「何をした……?この弾丸を喰らえば確実にダメージを受けるはず……」

 

「こいつのお陰さ!」

 

『クリクリ〜!』

 

遊馬がデュエルディスクを構えると墓地から藍色の丸く可愛らしいぬいぐるみみたいなモンスターが現れる。

 

「クリフォトンの効果!このカードを手札から墓地へ送り、2000のライフポイントを払って発動できる!このターン自分が受ける全てのダメージは0になる!」

 

「何だその力は……魔術では無いのか?」

 

「似た力だ!俺のターン、ドロー!希望皇ホープで攻撃!」

 

希望皇ホープはホープ剣を引き抜いてアサシンに向かって攻撃する。

 

「くっ!?」

 

アサシンは高速移動で動いて希望皇ホープの攻撃を回避し、アルトリアとオルタは希望皇ホープに続いて聖剣を振るい、追撃する。

 

「あなたの目的は何だ!?」

 

「何故、アイリスフィールを狙う!」

 

「聖杯を破壊する……その為に、召喚された!!」

 

アサシンのその一言にアルトリアとオルタは強い意志を込めた瞳で睨みつけて二つの聖剣を輝かせる。

 

「そんな事は、絶対にさせない!!」

 

「アイリスフィールを……今度こそ守る!!」

 

守ることが出来なかったアルトリアにとって大切な姫……その姫を今度こそ守る為に決意を込めた聖剣を二人同時に振り下ろす。

 

「「約束された勝利の剣!!!」」

 

「っ!?」

 

光と闇の聖なる濁流がアサシンに襲いかかる。

 

濁流がアサシンを呑み込む寸前、謎の金色の光が放たれ、それがアサシンを守る盾となって膨大な光の濁流を防いだ。

 

アサシンは濁流に呑まれる寸前に高速移動でギリギリ回避するがあまりの風圧に顔を隠していたフードが外れる。

 

そして、その隠れていた素顔を見た瞬間、アルトリアとオルタの目は見開き、同時に呟く。

 

「「キリ、ツグ……?」」

 

それは冷たい目をした褐色の肌と白髪を持つ男性でどこかエミヤによく似ていた。

 

「馬鹿な、あの男は……!?」

 

エルメロイII世もその男を知っており、アルトリアと同じく困惑した様子だった。

 

「っ……!」

 

アサシンは慌ててフードを被るが、アルトリアとオルタは声を荒げた。

 

「キリツグ!あなた……何故こんな事を!?」

 

「答えろ……答えろ、キリツグ!!」

 

怒りを込めた瞳で睨みつけ、再び聖剣を輝かせる。

 

その時、天から雷が轟いた。

 

「この雷は!??」

 

その雷にエルメロイII世は嬉しさと困惑が入り混じった複雑な声をあげた。

 

そして、緋色のマントをたなびかせ、高らかに威風堂々と声をあげた。

 

「三方、武器を収めよ。王の御前である!」

 

それは二匹の勇猛な牛が牽引する戦車に乗る髭面の勇ましい巨漢だった。

 

「な、何だぁ!?」

 

「ライダークラスのサーヴァントか……」

 

「凄いオーラです……」

 

その巨漢のオーラに圧倒されながら呆然としていると……。

 

「我が名は征服王イスカンダル!此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!!」

 

そう名乗りを上げたライダー……イスカンダルに遊馬たちは驚愕した。

 

「征服王イスカンダルだと!?あれ?と言うことは……」

 

イスカンダル、彼には幾つも名があり、その名を持つサーヴァントがカルデアにいる。

 

「……すまない、イスカンダル王よ。失礼だが貴殿の少年時代の昔の名はアレキサンダーで間違いないだろうか?」

 

「ほう!精霊も我が名を知っていたか!その通り、余の昔の名はアレキサンダーで間違い無いぞ!」

 

((えぇええええええっ!??))

 

(な、何だと……!?)

 

筋肉ムキムキの髭面の男性がカルデアにいる美少年のアレキサンダーの未来の姿だと知り、遊馬とマシュは叫ぶのを堪えて心の中で驚愕した。

 

(いやいやいや、どうして、ああなった!?)

 

(アレキサンダーさんに一体何があったんですか!?)

 

(あまりにも変わりすぎている……面影すらないじゃ無いか)

 

遊馬とマシュだけでなくアストラルも同じ気持ちだった。

 

「何を考えてやがりますかっ!このバカはーーって!?」

 

すると、イスカンダルの戦車の荷台に乗った気の弱そうな恐らくマスターと思われる少年が、イスカンダルのデコピンを食らい、派手な音が鳴った。

 

エルメロイII世は何故か額をさすって痛そうな表情を浮かべていた。

 

「ほう、貴様がこの聖杯戦争をかき乱している謎のマスターか!」

 

「俺は九十九遊馬だ!訳あってこの聖杯戦争に介入させてもらってる!」

 

「気に食わん……と思ったが、なかなか良い面構えでは無いか!ウェイバーよ、お前より年下なのに堂々としてるではないか!」

 

「う、うるさい!勝手に比べるな!」

 

「「「ウェイバー……???」」」

 

遊馬達の視線が一気にエルメロイII世に向かった。

 

その時、全ての方程式の答えが解けた。

 

エルメロイII世は第四次聖杯戦争の関係者。

 

第二特異点のエルメロイII世はアレキサンダーと一緒に行動を共にしていた。

 

そして、エルメロイII世の本名はウェイバー。

 

「「「ああ……なるほど」」」

 

「うるさい、黙れ、静かにしろ」

 

エルメロイII世は顔を赤く染めながら顔を背けると、イスカンダルは遊馬を見て強く頷いた。

 

「よし、気に入った!小僧、ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?」

 

「……はぁ?」

 

いきなり何を言いだすんだと遊馬は首を傾げるとイスカンダルは大笑いをしながら交渉をする。

 

「さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる!」

 

「いやいやいや。征服なんて興味ねえよ。自分の願いは自分の手で何とかしなくちゃいけねえし、そもそも俺自身の願いはとっくに叶ってるから」

 

遊馬は征服も興味はなく、誰かに仕えるつもりは無い、そもそも願いは叶っているのでイスカンダルの交渉など最初から無意味である。

 

「こりゃー交渉決裂かぁ。勿体ないなぁ。残念だなぁ……いや、まぁ、『ものは試し』と言うではないか……」

 

「やかましい」

 

未練タラタラなイスカンダルに遊馬は一声で斬りふせる。

 

「……はっ!?しまった、マスター!キリツグに逃げられました!」

 

「あっ!?いつの間に……」

 

イスカンダルが現れて隙が出来たのを狙ったのかアサシンがいつの間にか消えていた。

 

恐らくは次々と現れるサーヴァントに無勢では分が悪いと判断して撤退したのだろう。

 

「ああもう!あんたのせいでアサシンに逃げられちまったじゃねえか!!」

 

「いい加減にしてください!イスカンダル!あなたは何しに来たんですか!?邪魔しに来たのならここで叩き斬りますよ!?」

 

遊馬とアルトリアの怒号が飛び交い、その迫力にイスカンダルも少したじろいだ。

 

「そ、それはすまなかったな……実はそこのセイバーの城で酒宴を催そうと思ってな。誘いに来たわけだ」

 

「しゅえん?」

 

「酒盛り、宴という意味だ。しかしイスカンダル王よ、何故そんな事を?」

 

「なーに、王同士、問答を持ってお互いの格を競い合おうと思ってな!アーチャーも呼んでおる、では明日の夜に頼むぞ!」

 

イスカンダルは言いたい事を言い終えると手綱を持って牛を操り、戦車を動かす。

 

「お、おいっ!?」

 

遊馬の制止も効かずにイスカンダルはマスターの少年と共に何処かへ飛んで行ってしまった。

 

「自由すぎる奴だな……」

 

「そうですね……」

 

「どうやらかなり苦労したようだな、ウェイバーよ」

 

「ロード・エルメロイII世だ……」

 

エルメロイII世はいつもの訂正を言いながら目頭を押さえていた。

 

それは大切な人に会いたいと思っていた人の感極まった表情をしており、遊馬達はその思いを汲んでそっとしておいた。

 

遊馬達はアルトリアの元に向かうと二人は大きなため息を吐いていた。

 

「あぁ……アーチャーも来てしまうのですね……」

 

「最悪だ……あの金ピカ王め……」

 

アルトリアとオルタは第四次聖杯戦争で召喚されたアーチャーに苦手意識を持っているようで、話題を変えるために謎のアサシンについて尋ねた。

 

「アルトリア、オルタ。ところであのアサシンのことを知っているのか?」

 

「アルトリアさん、彼が誰なのかご存じなのですか?」

 

「これも因果という奴なのか……シロウには酷な事だ……」

 

「オルタ、あいつはエミヤの知り合いなのか?」

 

アルトリアとオルタは頭を抱え、どうしたら良いのかと悩む。

 

「知り合いとごろの話では無いぞ……」

 

「彼はキリツグ……名はエミヤキリツグです。彼はシロウの……シロウのたった一人の家族で父親なのです」

 

アルトリアから語られた衝撃的な事実に遊馬達は驚愕した。

 

「エミヤの父ちゃん!?」

 

「エミヤ先輩のお父さんがサーヴァントなのですか!?」

 

「ところで、そのエミヤの父が狙っていたアイリスフィールというマスターは?」

 

「近くで隠れています。アイリスフィール!もう大丈夫です!出て来てください!」

 

アルトリアが呼ぶと森の奥から一人の女性が出て来た。

 

それは白い防寒着に身を包んだ綺麗な白い髪に赤い瞳を持つまるでお姫様のような美しい女性だった。

 

「セイバー、彼は誰なの……?」

 

アイリスフィールは遊馬達を警戒していた。

 

「ご心配なく、アイリスフィール。彼らは私たちの味方、信頼における方々です」

 

「本当に……?彼らが、私を解放してくれるの……?」

 

「ええ、本当です。あなたの聖杯の器としての運命を解放してくれます」

 

「聖杯の器の運命……?」

 

アルトリアの言葉に遊馬達は引っかかった。

 

「アイリスフィール、またあのサーヴァントが襲ってくるかもしれません。ここでなく別の場所に移動しましょう。マスター、マトウ邸にお邪魔してもよろしいですか?」

 

「間桐邸に?ああ、良いぜ。歓迎するぜ、えっと……」

 

遊馬はアイリスフィールを見ると、アイリスフィールは軽く睨みつけて問う。

 

「あなた、本当に聖杯を要らないの?聖杯を完成させないために戦っているってセイバーから聞いたけど……」

 

「おう。聖杯を完成させないために俺たちはここにいるんだ。あんたが聖杯とどんな関係か分からないけど、アルトリアが大切に想っている人なら俺たちが必ず守る!」

 

笑みを浮かべて自分の胸を叩く遊馬のその眼が嘘をついてないとアイリスフィールは分かると、アイリスフィールも頷いて笑みを浮かべた。

 

「……分かったわ、あなた達を信じるわ。早速、あなた達の拠点に連れてってくれる?」

 

「オッケー!それじゃあ、行こうぜ!あ、それから俺は九十九遊馬!遊馬が名前だぜ!」

 

「ユウマね、私はアイリスフィールよ。アイリでも良いわ」

 

「おう!よろしくな、アイリさん!」

 

遊馬達はアイリスフィールを守る為にアルトリアとオルタと共に間桐邸に向かった。

 

間桐邸では桜と凛は既に眠っており、絆を取り戻した姉妹は仲良く二人並んでベッドで眠っていた。

 

遊馬達の帰宅にエミヤが出迎えるとアイリスフィールの姿に目を見開いて驚愕した。

 

「イリヤ……?」

 

「えっ?」

 

「あ、いや、何でもない……ミス・アイリスフィール、ようこそ間桐邸へ。よろしければ紅茶とお菓子はどうですか?」

 

「サーヴァントがお茶を淹れるの?でも、私を満足出来るかしら?」

 

「満足出来なかったらお茶を私にかけてもらっても構わないですよ」

 

「あらあら?随分強気ね、それじゃあ案内してもらえるかしら?」

 

「喜んで」

 

アイリスフィールは手を差し出すとエミヤはまるで執事のように慣れた手つきでその手を取り、優雅に客間へ案内した。

 

エミヤはアイリスフィールを客間へ案内すると、昼間作っていたスコーンとジャムを出し、そして紅茶を見事な手際で淹れた。

 

まるでその姿は一流の執事でアイリスフィールは紅茶を飲み、スコーンを食べると驚くように声を上げた。

 

「美味しい……!こんなに美味しい紅茶とスコーンは初めてだわ!」

 

「喜んでもらえて光栄だ。よろしければ、あなたにピッタリの話し相手を連れて来ましょうか?」

 

「私にピッタリ?ええ、頼むわ」

 

「では、少々お待ちを」

 

エミヤは数分部屋を出て誰かを呼んでくると……。

 

「ご機嫌よう、私はフランス王妃のマリー・アントワネットですわ」

 

「ええっ!?あ、あのマリー・アントワネット王妃!?」

 

「はい。よろしければ私があなたの話し相手になりますわ」

 

「まぁ、素敵……!」

 

アイリスフィールはマリーと二人で優雅なお茶会を始め、役目を終えたエミヤは静かに客間を後にした。

 

一方、遊馬達は別室で謎のアサシンについて話し合っていた。

 

「彼……エミヤキリツグは本来ならこの時代の人間です。魔術師殺しと呼ばれる傭兵のような魔術使いで銃器やナイフを使った殺しのプロです。そして……私が経験した第四次聖杯戦争での私のマスターです」

 

「アルトリアの元マスターだって!?」

 

「ええ。私は彼は第四次聖杯戦争で聖杯を勝ち取るために非道な手を使って多くの敵を屠って来ました……正直、私は彼を嫌っていました。彼も私を嫌ってましたが」

 

「なんで、そのキリツグさんはそこまでして聖杯を手に入れようとしたんだ?」

 

「……世界の恒久的平和。それがキリツグの願いでした」

 

「世界の恒久的平和か……昔、なんかあったんかな?」

 

「そこまでは分かりません。しかし、願いを叶えようとしてもキリツグは聖杯が穢れていることを知り、私に聖杯を破壊するように命令したんです。しかし、聖杯を破壊しても結果的に冬木に大災害が起きてしまい、大勢の人が亡くなってしまいました」

 

「……その大災害でたった一人、生き残りがいた。それが……」

 

オルタがその生き残りの名前を口にしようとした時、扉が開いて静かに入室した。

 

「私だ」

 

「シロウ……」

 

「エミヤ……」

 

エミヤは暗い表情をしながら壁に寄りかかる。

 

静かに目を閉じて遠い昔の記憶を蘇らせながら語る。

 

「私は大災害が起きる前の家族との記憶は無い。あるのは大災害の地獄のような風景だけだ。そして、切嗣……爺さんが俺を助け、養子にして私を息子として育ててくれた。一緒に過ごせた時間は僅かだが、爺さんは俺にとって大切な家族だ。何故爺さんがサーヴァントになったのか分からない……爺さんが何故、よりにもよって彼女を襲ったのか……」

 

「……キリツグとアイリさんはどんな関係なんだ?」

 

「……この世界では違いますが、キリツグとアイリスフィールは夫婦なのです」

 

「はぁ!?夫婦だって!?」

 

「ええ。キリツグとアイリスフィールは夫婦で娘が一人いました。少なくとも二人は愛し合ってたはずです……」

 

「……何故、キリツグはアイリスフィールを殺そうとしているのか……彼は何を考えているのか……」

 

「分からない……爺さんは何か意味があって行動をしていると思われるが……」

 

アルトリア達は何故切嗣がアイリスフィールの命を狙っているのか分からず困惑している。

 

すると遊馬は腕を組んで考えていると、ある事に気づく。

 

「……あれ?って事は、世界は違うけどアイリさんはエミヤの母ちゃんって事になるのか?」

 

エミヤはアイリスフィールが母と言われて戸惑いの表情を見せた。

 

「い、いや、確かにそうだったが、私は生前に彼女に会ったことがない……二人の娘である姉さんとは暮らしたことがあるが……」

 

母という存在に慣れていないのかエミヤの態度に遊馬は首を傾げてキョトンとしながら言う。

 

「でも、母ちゃんには変わりねえんだろ?恥ずかしがる事はねえじゃん。例え、エミヤが会ったことが無くても、世界が違くても、家族なら守ってやるべきなんじゃねえか?」

 

「……マスターならそうするか?別世界で例え自分を知らない存在である家族を守るのか?」

 

「当たり前じゃん!例えその人達が俺を知らなくても、俺にとっては大切な人だ。その人達が命を狙われているなら全力で守る!」

 

遊馬の言葉にエミヤは目を閉じて考え込む。

 

この世界はエミヤが生きた過去では無い、幻のような世界。

 

しかし、この世界には、もしも何かが変わっていたら自分の義母になっていたかもしれない女性がいる。

 

関係無いかもしれない、だがエミヤの脳裏には忘れられない笑顔が浮かんでいた。

 

『シロウ!』

 

雪の妖精のように可愛らしい少女……そして、その面影はアイリスフィールとほぼ同じで重なってしまう。

 

「……そうだな、ここで『母さん』を守り抜かなければ姉さんに怒られてしまうな。そして、母さんを狙っている爺さんを姉さんの代わりに叩き直さないとな」

 

「その意気だぜ!エミヤ!」

 

「ああ、かっとビングだな。マスター」

 

「おう!かっとビングだ、エミヤ!」

 

平行世界の母であるアイリスフィールを守る為の決意を固めたエミヤは窓際に立ち、夜空を見上げて月を見つめる。

 

「爺さん……あんたに母さんを、家族を殺させない……必ず、止める!!」

 

「ええ、止めましょう……シロウ」

 

「アイリスフィールを守るぞ、シロウ」

 

アルトリアとオルタもエミヤと同じく決意を固めて共に月を見つめる。

 

「聖杯の器、アイリスフィールか……」

 

そして、エルメロイII世は煙草を吸いながらこの世界の相違点である存在を呟き、考えるのだった。

 

 

 




アサシンの弾丸はメチャクチャやばいシロモノでしたが、クリフォトンの効果で何とか回避しました。
全てのダメージがゼロなら何とかなるかと思って。

次回は書けたら聖杯問答の始まりまで書きたいですね。
その前に遊馬と凛ちゃんと桜ちゃんの話を書きたいですね。


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ナンバーズ64 再び一つとなる家族

コレクターズパックで次々と新しいナンバーズが来て嬉しい反面、悔しい気持ちが出て来ます。
第3章でNo.27 弩級戦艦-ドレッドノイドを出したかったです……!!
ブラック・コーン号の古い船も良いですが戦艦もカッコいいですからね。
まだナンバーズが全てOCG化してないのでそこがこの小説の最大の弱点ですね。


翌朝、朝早くからエルメロイII世にこれからどうするか話し合った。

 

今日の夜にイスカンダルが主催する酒宴は参加しなければ色々面倒なので参加する方向で考え、その間の昼間に片付けておく事がある。

 

「ケイネス先生と時臣さんを呼んで対談?」

 

「そうだ。ケイネス卿と遠坂時臣を呼んで我々の目的を伝えて交渉する。ケイネス卿は昨日話を中断してしまったから気になっているはずだ。遠坂時臣は娘の事もあり話に応じるだろう」

 

「……なあ、時臣さんだけでなく二人の母ちゃんの葵さんも呼んでもいいか?」

 

「そこは好きにしろ」

 

「サンキュー」

 

「そして問題なのは時臣のサーヴァント、アーチャーだ。奴の正体はーー」

 

エルメロイII世の口から語られたアーチャーの正体とその恐るべき宝具……遊馬とアストラルは共に腕を組んで考える。

 

「うーん、そんなにヤベェ奴か……」

 

「その宝具の力なら最強のサーヴァントと言うのも頷ける。だが、付け入る隙は必ずあるはずだ」

 

「だけど、ミラーフォース系の罠とか効きそうに無いからな……」

 

「むしろ罠ごと破壊されそうだからな……」

 

「やるなら全力で完封するぐらいの手でやらないとな……」

 

「完封……」

 

完封と言う言葉に遊馬とアストラルが考えてふと壁に掛けられた古時計を見た。

 

時計……時間……時……。

 

「「あっ!」」

 

二人の閃きの豆電球が点灯し、ポンと手を叩く。

 

「そうだ、あれだよ!あいつを使えばいいんだよ!」

 

「あの力があればいける。だが、勝負は一瞬で決まる……タイミングが重要だぞ」

 

「ああ!」

 

遊馬とアストラルはカードをテーブルに並べて最強のサーヴァントであるアーチャー対策を練る。

 

「おいおい、まさかそんなあっさりとあのサーヴァントの対抗策が見つかったのか……?」

 

恐らく全てのサーヴァントが苦戦し、相性次第では瞬殺される相手であろうアーチャー。

 

その対抗策が遊馬とアストラルがあっさりと見つけてしまったことにエルメロイII世は戦慄するのだった。

 

遊馬とアストラルは対抗策を見つけてデッキ編集を終え、上機嫌で食堂に向かうと桜と凛と鉢会う。

 

「おはよう、桜ちゃん、凛ちゃん。よく眠れたか?」

 

「うん、眠れたよ……」

 

「久しぶりに桜と寝られてよかったわ!」

 

昨夜二人は一緒のベッドで仲良く寝ており、特に凛は満足していた。

 

「そりゃあ、良かった。それじゃあ飯食おうぜ。俺も腹ペコだからさ」

 

「あっ、あの……」

 

「ん?」

 

桜は恥ずかしそうにしながら遊馬に近づき、ギュッと遊馬の服を掴みながら上目遣いで見つめる。

 

「ずっと、言えなかったけど……私を助けてくれて、ありがとう……」

 

「ああ、その事か。どういたしまして。桜ちゃんが元気になって良かったよ」

 

「うん。本当にありがとう……」

 

そして、桜は可愛らしい満面の笑みを浮かべる。

 

「遊馬お兄ちゃん」

 

桜からさらりと口にした呼び方に遊馬の思考が一瞬停止した。

 

「…………は?お兄ちゃん?」

 

「うん……ダメ?」

 

その時、遊馬の中で何かのスイッチが入った。

 

遊馬は九十九家の長男であるが長女の明里がいて周りの仲間たちも年上が多く、カルデアでも年上がほとんどなのでいわゆる『弟キャラ』が定着していた。

 

昔から弟が欲しく、仲間のカイトとハルトの天城兄弟をとても羨ましく思っていた。

 

しかし、桜から『遊馬お兄ちゃん』と呼ばれてその呼び方が遊馬の心に深く突き刺さった。

 

「いや、ダメじゃない。俺さ、弟や妹とかいなかったからずっと欲しかったんだよな。むしろ、ウェルカム、オッケーだぜ」

 

「じゃあ、せっかくだから私も呼ぼうかな♪」

 

桜の姉である凛も何故か乗り気になり、周りは大人ばかりで遊馬ぐらいの歳の少し離れた人がいなかったので凛も呼び方を変えることにした。

 

「よろしくね、遊馬お兄様!」

 

予想外過ぎる呼び方に遊馬の心が更に突き刺さった。

 

遊馬はカイトがハルトをどれだけ大切に想っていたのか更に理解を深め、隣にいるアストラルに今の気持ちを打ち明けた。

 

「アストラル……」

 

「どうした?」

 

「お兄ちゃんとお兄様って、いい響きだな。妹って良いなぁ……!」

 

「良かったな……」

 

念願の妹が出来た遊馬は感動の涙を流し、何故遊馬が涙を流しているのか桜と凛は理解出来なかった。

 

その後、桜と凛はマシュのことを姉と慕ってそれぞれ『マシュお姉ちゃん』と『マシュお姉様』と呼ぶようになった。

 

「や、やりました!私に可愛い妹が二人も出来ました!」

 

マシュも妹いう存在に憧れていたのか今まで見たことないほどの嬉しさを爆発させたぐらいのはしゃぎっぷりで二人を抱き締めるのだった。

 

遊馬とマシュに可愛い妹分が出来て喜ぶが、それもつかの間だった。

 

朝食を食べてしばらくするとメディアが使い魔を出して時臣とケイネスに対談の連絡をすると、二人共対談に応じた。

 

そして、すぐに間桐邸に訪れたのは遠坂時臣と遠坂葵だった。

 

対談も目的であるが、真の目的は桜に会うためである。

 

親として桜にしてしまった過ちを謝る為、そして……この手で抱き締める為にだ。

 

しかし……。

 

「いや!来ないで!!」

 

桜は遊馬とマシュにしがみついて近づいて来た時臣と葵を拒絶した。

 

桜の拒絶に時臣と葵は絶句し、衝撃を受けて動けなくなってしまった。

 

凛と雁夜は慌てて桜を説得を試みる。

 

「さ、桜!そんなことを言わないでよ!お父様とお母様が可哀想だよ!」

 

「そ、そうだよ!桜ちゃん ジジイも消えたんだから君はもう自由だから……」

 

桜は瞳に涙を浮かべ、震えながら声を吐き出すように出す。

 

「私が苦しかった時、辛かった時、あなた達は助けてくれなかった……」

 

桜はまだ幼い少女であり、臓硯が与えた傷はあまりにも大きすぎた。

 

そんな地獄の中、助けてくれたのは遊馬達だった。

 

桜にとって遊馬達は自分を救ってくれた英雄であり、闇を照らしてくれた光である。

 

「私を助けてくれたのは遊馬お兄ちゃん達だけ……私を捨てたあなた達なんて……大嫌い!!!」

 

それ故に桜は遊馬達に強く依存しており、自分を遠坂から間桐に送り出した時臣と葵を拒絶した。

 

「桜……」

 

「そんな……」

 

幼い子供から拒絶され、親である二人はこれまでにないほどに絶望してその場に崩れ落ちた。

 

心の底から拒絶している今の桜にマシュ達は何も言えなかった。

 

当然の話である。

 

大人でも発狂する蟲による拷問に近い魔術の調練を桜は心を壊しながら耐えていた。

 

その地獄から解放され、自分を救い、守り、そして優しくして可愛がってもらった遊馬達には心は開いたが、地獄に叩き落とす原因である両親を拒絶するのは当たり前である。

 

「桜ちゃん……」

 

遊馬は腰を下ろして桜ちゃんの目線に合わせ、頭を撫でながら優しく諭す。

 

「桜ちゃん、君の気持ちはよく分かるぜ。あんな目にあったなら嫌がるのも当然だよな。でもさ、今日二人が来たのは覚悟があってのことなんだぜ?」

 

「かくご……?」

 

「昨日、遠坂の屋敷で桜ちゃんに何かあったのか説明したら二人はとても落ち込んだんだ。元々は桜ちゃんが持つ魔術の才能で不幸にならないように間桐の養子に出したんだ」

 

「私は……離れたくなかった……家族と、お姉ちゃんと離れたくなかった……こんな力なんていらない!魔術なんて大嫌い!!」

 

「分かってる。急がずにもっとゆっくり考えるべきだったけど、多分焦ったんだと思う。だから、今度こそはちゃんと考えてくれると思う」

 

「でも、私は……」

 

「……じゃあ、これをあげるよ」

 

遊馬はデッキケースから一枚のカードを取り出して桜に渡した。

 

「これ……天使様……?」

 

それはあの日の夜に桜が目に焼き付いている光景で今まで見て来たものの中で特に美しい姿であった闇を斬り裂いた光の使者……希望皇ホープONEのカードだった。

 

「お守りのラッキーカードだ。このカードを桜ちゃんにあげるよ」

 

「もらっていいの……?」

 

「ああ。その代わり、桜ちゃんは一歩前に踏み出すんだ」

 

「えっ……?」

 

「本当は家族と一緒に居たかったんだろ?帰りたかったんだろ?確かに桜ちゃんの境遇を考えれば逃げたくなる気持ちも避ける気持ちも分かる。でも、いつまでもそれじゃいけないんだ」

 

本来なら時間をかけて桜の気持ちの整理をしていくのが一番良いのだが、遊馬達には時間がない。

 

少々荒療治だがお守りのカードと遊馬の説得で桜が一歩前に踏み出す勇気を起こさせる。

 

「君はもう自由だ、また家族と一緒にいていいんだ。大丈夫、もう二度とあんな辛い目には二度と合わせないから。もしも、桜ちゃんに何かあれば俺達はいつでも駆けつけるからさ。俺達は桜ちゃんの味方だからさ」

 

「……私、幸せになれるのかな……?」

 

「ああ。桜ちゃんを不幸にする存在がいたら俺達がぶっ飛ばすからさ。安心してくれ」

 

「……うん、分かった。頑張る……」

 

桜は希望皇ホープONEのカードを握りしめてゆっくりと時臣と葵の元へ歩く。

 

体を震わせながら桜は静かに口を開いた。

 

「お父さん……お母さん……」

 

「っ!桜っ!!」

 

葵は堪らず桜を抱き寄せて強く抱きしめた。

 

「桜、ごめんね、ごめんね……私達のせいで辛い目にあって……」

 

葵は大粒の涙を流して桜に必死に謝った。

 

そして、時臣も桜を抱きしめて謝罪をする。

 

「桜……すまなかった……私が不甲斐ない所為で、お前に深い傷をつけてしまった…全て私の所為だ……本当にすまなかった……」

 

父として魔術師として桜の幸せを願って間桐に養子に出した。

 

しかしそれは大きな間違いで桜を地獄に叩き落としてしまった。

 

どれほど謝罪しても桜が受けた傷は大きすぎる、決して償えるものではない。

 

「お父さん……お母さん……」

 

桜は記憶の中に眠る家族との思い出が蘇り、目を閉じて葵と時臣をギュッと抱き締める。

 

「桜……桜!」

 

凛はやっと桜が両親と再会が出来たことを喜び、走り出して桜を後ろから抱きしめた。

 

ようやく再会し、一つになった家族……その光景に雁夜は自分の目を強く押さえながら涙を流した。

 

「良いんだ……良いんだこれで……遊馬君、本当にありがとう……」

 

桜の幸せを願っていた雁夜はこれで良いのだと言い聞かせ、遊馬に感謝した。

 

遊馬はこれで少しは桜も未来に向かえると思い、皇の鍵を握り締めながら自分の家族の事を思い出す。

 

「家族か……ちゃんと生きて帰らなきゃな……」

 

まだ未来を取り戻す戦いは終わらない。

 

それは家族との再会を先伸ばすことになる。

 

するとマシュは耳打ちで遊馬に話しかける。

 

「あの……遊馬君、さっきのホープONEのカードは……?」

 

「あれはダ・ヴィンチちゃんに作ってもらったレプリカだ」

 

「レプリカ?」

 

「ダ・ヴィンチちゃん、何かオリジナルのデュエルモンスターズのカードを作るらしくてさ。手始めにナンバーズのレプリカを何枚か試作品で作っていてさ、ホープONEの作ってもらっていたんだ。桜ちゃん、ホープONEをすごく気に入っていたからさ」

 

ダ・ヴィンチちゃんは前々から遊馬とアストラルに役立てるサポートカードを作れないかとデュエルモンスターズのカードを研究していた。

 

試作品にナンバーズや遊馬の持っているカードのレプリカを作成していたのだ。

 

「そうだったんですか。私も未来皇ホープのカードを作ってもらいます!」

 

マシュは未来皇ホープが自分にとってのラッキーカードであるのでダ・ヴィンチちゃんに作ってもらおうと思った。

 

 

遠坂一家を間桐邸の客間に案内してから少ししてからケイネスとディルムッド、そして品格が漂う美女がやって来た。

 

「おっ、ケイネス先生!待ってたぜ」

 

「やあ、少年」

 

「ディルムッドとえっと……」

 

「……私の婚約者のソラウだ」

 

「ケイネス、この子がそうなの?私にはただの子供にしか……」

 

「そう言えばケイネス先生。ディルムッドのスキルでソラウさんが魅了されてるんだっけ?」

 

ディルムッドには愛の黒子と呼ばれる対峙した女性は彼に対する強烈な恋愛感情を懐くと言う呪いのようなスキルを持っており、対魔力スキルで回避することができる。

 

「うぐっ……そ、そうだが……スキル故に消すことが……」

 

「じゃあ、この屋敷にいる間だけそのスキルを消してやろうか?」

 

「何!?サーヴァントのスキルは例え聖杯でも消すことができないのだぞ!?」

 

「そんな事が可能なのか!?」

 

ケイネスとディルムッドはスキルを消せると聞いて目を見開くほど驚いて遊馬に駆け寄る。

 

「おう。それじゃあ行くぜ。罠カードオープン。『スキルドレイン』!」

 

遊馬がデュエルディスクを構えてセットしていたカードをオープンする。

 

次の瞬間、間桐邸を中心に巨大な魔法陣が描かれ、ディルムッドの黒子から光が漏れて静かに消えた。

 

「あ、主……俺のスキルが消えました!!」

 

「ほ、本当か!?少年、何をした!?」

 

「スキルドレイン。俺のライフを1000ポイント支払い、フィールドの全てのモンスターの効果を無効にする。こいつがある限り、この屋敷にいる全てのサーヴァントのスキルは無効になるんだ」

 

「まさか……限定的とは言え、サーヴァントのスキルを無効にするなんて……凄い魔術師だな、君は……感謝するよ」

 

ディルムッドは黒子のスキルでずっと悩んでおり、そのスキルを無効にした遊馬に感謝して頭を撫でた。

 

「ソ、ソラウ……気分はどうかな?」

 

「ええ……何か、胸の中がスッキリした感じよ……」

 

「そ、そうか……」

 

ソラウがディルムッドの魅了から解き放たれ、ケイネスはホッとすると遊馬はソラウにある提案をする。

 

「えっと、ソラウさん。ケイネス先生達との話が終わるまでテラスでお茶でもどうだ?お茶菓子も用意してるぜ」

 

「お茶ね……でも、この私に相応しいお茶は淹れられるの?」

 

「んー?お茶を淹れるエミヤは昔どっかの家で執事みたいな事をしてたらしいぜ。それに、ソラウさんの話し相手はフランス王妃のマリー・アントワネットと勝利の女王のブーディカなんだけど……」

 

「……可笑しいわね、マリー・アントワネットとブーディカって聞こえたんだけど……まさか、あなたはその二人のマスターなの?」

 

フランスで最も有名な王妃であるマリー・アントワネットとイギリスで偉大な女王であるブーディカの名前を聞いてソラウは耳を疑う。

 

「おう、二人共俺のサーヴァントだぜ?契約しているサーヴァントはもっとたくさんいるけど」

 

「……頭が痛くなるわね。まあ良いわ。私を不満にさせたら許さないからね」

 

「へーい」

 

遊馬は先にソラウをテラスに案内し、エミヤとマリーとブーディカに後を頼み、ケイネスとディルムッドを客間に案内する。

 

客間には遊馬とアストラルとマシュとエルメロイII世、アイリスフィールと時臣とケイネス、アルトリアとディルムッドが集まる。

 

「さて……今日は対談に来ていただき誠にありがとうございます。早速ですが、この聖杯戦争に起きている異常と我々の目的を話させていただきます」

 

エルメロイII世が話を切り出し、早速第四次聖杯戦争の異常と遊馬達の目的を話した。

 

聖杯が汚染されて世界を滅ぼす大量殺戮装置になってしまったこと、遊馬達が未来から来て冬木に起きる大災害の悲劇を食い止めるためにやって来て行動をしていた事など……エルメロイII世は話すと時臣とケイネスは衝撃を受けた。

 

「そ、そんな……まさか聖杯が汚染されていたとは……」

 

「聖杯には興味はなかったが、まさかそれほどの大災害が起きるとは……」

 

「まてよ……まさか、君達!綺礼を連れ去ったのか!?」

 

時臣と綺礼は魔術の師弟関係にあり、綺礼が行方不明だったことを心配していた。

 

「言峰綺礼さんなら間桐邸の一室で眠ってもらってるぜ。大丈夫、無事だよ」

 

「だが何故綺礼を!?」

 

「言峰綺礼は第四次聖杯戦争で聖杯の泥を被り、人を殺戮する化け物となってしまったのです。私達は言峰綺礼が化け物にならないように保護したのです。眠ってもらったのが彼は代行者であることを知っていたので、下手にこちらの動きを阻害してもらいたくなかったからです。申し訳ありません」

 

言峰綺礼についての事は半分以上は嘘であるが遊馬達を信頼している時臣はあっさりと信じた。

 

「そうだったのか……綺礼は本当に無事なのかい?」

 

「ええ。後でご案内しますよ」

 

「そうか……」

 

「遠坂時臣。あなたのサーヴァント、アーチャーはどうしてる?」

 

エルメロイII世が警戒しているアーチャー、そのマスターは時臣なのだ。

 

「……王は今どうされているのか私には分からない。こちらからいくら呼びかけても応答してくれない……」

 

時臣とアーチャーはマスターとサーヴァントとして契約を結んでいるが、アーチャーの英霊としての力が強すぎて時臣では制御しきれていないのだ。

 

「……今夜、アインツベルンの城でライダーが主催する酒宴にマスター遊馬とセイバーとアーチャーが呼ばれています。もしかしたらアーチャーはそこに現れるかもしれない」

 

「時臣さん、そのアーチャーなんだけどさ……倒さないけど俺たちで捕縛させてもらうぜ」

 

「なっ!?王を捕縛!?馬鹿な、王は最強の英霊……勝てる訳が……」

 

アーチャーは最強の英霊で勝てる英霊はいないと信じているが、遊馬とアストラルは一切恐れずに自信満々に答える。

 

「心配ご無用、俺たちには秘策があるからさ」

 

「必ずアーチャーを止める。遠坂時臣、君はアーチャーに殺されないように気をつけてくれ。アーチャーは我が強く、力のあるサーヴァントと聞いている。マスターとは言え、令呪を持つ君に何をするか分からない」

 

「時臣さん、あんたは生きなくちゃならない。分かってるだろう?」

 

時臣はこれからの未来……凛と桜の為に全力を尽くさなければならない。

 

二人が本当の意味で幸せになる為に、二度と選択を間違えないように。

 

その為に聖杯への望みを捨てて生き延びらなければならない。

 

「分かった……君達に後のことを託す」

 

「おう!任せてくれ!」

 

「ケイネス卿、あなたは……」

 

「私はこの聖杯戦争の参加者として出来る限り見届けたいと思う。もはや戦う意味が無くなってしまったからな……せめて少年の戦いをこの目で焼き付けておきたい」

 

ケイネスは聖杯戦争で戦歴の箔をつける為に参加しており、エルメロイII世の口から語られた輝かしい未来のために聖杯戦争から手を引くことにした。

 

しかし、それだけでは冬木に来た意味がないので異世界のマスターである遊馬の力を目に焼き付けて新たな魔術を広げたいと考えたのだ。

 

「ケイネス先生、付いてくるのは良いけど……死ぬんじゃねえよ?」

 

「はっ、まさか子供に心配されるとは……だが私は死ぬつもりはない。ソラウとの結婚が控え、私には大きな偉業を達成しなければならないからな!ハッハッハッハ!!」

 

「そ、そうすか……」

 

前向きと言うか楽天的と言うか、夢見る輝かしい未来を想像するケイネスに遊馬は苦笑を浮かべた。

 

こうして対談は無事に終わり、ほぼ全ての陣営を味方につけることが出来た。

 

第四次聖杯戦争を無事に終わらせる為に一つ一つ確実に問題を解決していく。

 

そして、遊馬達は今夜……イスカンダル主催の酒宴に参加する事となる。

 

 

 

 




桜ちゃんと凛ちゃんが遊馬とマシュの妹分になりました。
あんなに可愛い妹ならウェルカムですね、遊馬とマシュがシスコンに目覚めるかも(笑)

ディルムッドのスキルは遊戯王で有名かつ多くのデュエリストを苦しませて来たスキルドレインで無効にしました。
文字通りスキルをなんとかするならこれしかないなと思いまして。

次回は皆さんも楽しみにしていると思われる聖杯問答です。
それぞれの王道、そして遊馬とアストラルが歩んできたかっとビング道を見せる時です。
これは時間がかかるかもしれないので、もしかしたら投稿が遅れるかもしれません。
その時はご了承くださいませ。


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ナンバーズ65 聖杯問答

何とか書き終えることができました。
聖杯問答の話はアルトリアが可哀想でしたが、ここでははっちゃけているのでまとも?な答えを出しています。
そして、遊馬の未来皇としての答えを出します。
もしも違和感があったらすぐに指摘してください、すぐに訂正します。


対談が終わり、お昼を終えると遊馬達は一足先にアインツベルン城に到着していた。

 

今夜の酒宴にイスカンダルは盗んだワイン樽しか持ってこないと思われるのでアルトリアはエミヤに酒のツマミに豪華な料理を用意して欲しいと頼んだ。

 

間桐邸で食べたエミヤの料理を気に入ったアイリスフィールがアインツベルンの財産を使って冬木から大量の食材を買いこんだ。

 

「エミヤ、美味しい料理をお願いね♪」

 

「シロウ!お願いします!」

 

「私たちを満足させてくれ!!」

 

アイリスフィール、アルトリア、オルタの三人は目を輝かせてエミヤを見つめていた。

 

「仕方ない……姫様達の為に腕を振るおう……!」

 

エミヤは調理器具を投影し、その身に宿る生前から蓄えて来た無限のレシピを躍らせる。

 

遊馬達はエミヤが料理をしている間は暇なのでテーブルや椅子、皿などの食器の準備を手伝った。

 

そして、夕暮れ時になり、遊馬はカルデアから送られてきた新品の私服に着替える。

 

「せっかくだから服装もちゃんとしないとな」

 

「まあいつもの服だが小鳥が新品を持ってきて良かったな」

 

「ああ!」

 

「ところで、遊馬君はその服に何か思い入れがあるんですか?」

 

小鳥が持ってきた遊馬の私服は同じものでマシュはそれを気になった。

 

物によっては傷んでいるものや穴を塞いでいるものもあった。

 

「思い入れって言うか、この服は小さい頃から着ているのと同じデザインで気に入ってるのもあるけど、デュエルカーニバルやバリアンとの戦いやドン・サウザンドの時にも着ていたから俺にとっては戦いに向かう大切な服なんだ」

 

「そうだったんですか?」

 

「ああ。だからこれを着ると気合いが入るんだよ」

 

「確かに今夜は気合いを入れないとですね……」

 

今夜の酒宴に参加するのは征服王イスカンダルと騎士王アルトリア、そして最強の英霊・アーチャー。

 

気合いを入れないとプレッシャーに押し潰されるかもしれない。

 

「マシュ、酒宴の時……一緒にいてくれるか?」

 

「えっ?い、良いんですか?その、私で……ここは王や皇帝のブーディカさんやネロさんとかが一緒の方が……」

 

「良いんだよそんなことを気にしなくても。俺にとって一番信頼して側にいると安心できるサーヴァントはマシュなんだからさ」

 

遊馬が最初に契約を交わし、それからずっと一緒に戦って来たサーヴァントはマシュである。

 

そのマシュは遊馬にとってはアストラルと同じくらい大切な相棒となっていた。

 

遊馬からのその言葉にマシュは心がとても温かくなった。

 

「遊馬君……はい!!」

 

マシュは満面の笑みを浮かべて頷いた。

 

 

その夜、城の中庭に遊馬とアストラルとマシュ、アルトリアとアイリスフィールが待っている。

 

城の中にはエルメロイII世を初めとする多くのサーヴァントがいつでも遊馬達を守れるように待機している。

 

美しい月が優しく照らし、静かな時間が流れ、その時が来た。

 

雷鳴が轟き、戦車に乗ったイスカンダルとウェイバーが降り立つ。

 

「ほう!酒宴のために色々用意してくれたようだな!」

 

テーブルと椅子、テーブルに乗る食器などを見てイスカンダルは感心したように何度も頷いた。

 

イスカンダルの服装が初めてあった時の姿ではなく、何故かよく分からないゲームかアニメのタイトルのTシャツを着たラフな私服姿なのはツッコミを入れたかったが、遊馬達はグッと我慢した。

 

イスカンダルは冬木のとある店から盗んだワイン樽を担ぐとエミヤが静かに近づく。

 

「イスカンダルよ、そのワイン樽を寄越せ」

 

「何?これは余が持って来たものだぞ?」

 

「黙れ、盗人が。ワインはこちらで良いものを用意した。だからそのワインは元あった場所に返す」

 

「イスカンダル。王ともあろう者が己のため、そして家族のために必死に働いている民の物を勝手に盗むのは果たして王であるのか?いいから早く渡しなさい」

 

エミヤとアルトリアの凄まじい威圧感と正論、そして遊馬達のジト目に流石のイスカンダルもこれはマズイと仕方なくワイン樽を渡す。

 

「し、仕方ない……そこまで言われたのなら渡すしかないな……」

 

「やれやれ……」

 

エミヤがワイン樽を城の中に運び、イスカンダルとウェイバーが席に座ると、突然強烈なオーラが中庭に現れた。

 

霊体化を解除して静かに現れたのは金色の鎧に身を包み、金髪と赤い瞳を持つ英霊だった。

 

「我を置いて勝手に宴を始めるつもりか?雑種」

 

その一言からでも分かる、まさに天上天下唯我独尊と言う言葉が相応しい存在。

 

最古にして最強の英霊と謳われる時臣が召喚したサーヴァント。

 

その名も、英雄王ギルガメッシュ。

 

その凄まじいオーラに遊馬とアストラルは一瞬、ドン・サウザンドを脳裏に浮かんだが既に覚悟を決めている二人は堂々としながら名乗る。

 

「……あんたが、英雄王ギルガメッシュか。俺は九十九遊馬だ!」

 

「我が名はアストラル!偉大なる英雄であるあなたに会えたことを光栄に思う!」

 

「我の名前を口にするとは恐れ知らずだな、雑種よ。だが、その精霊に免じて許してやろう」

 

ギルガメッシュはアストラルの言葉でなんとか気分を害さずにそのまま椅子に座った。

 

遊馬達も椅子に座るとエミヤが作った料理をワゴンに乗せて持ってくるとテーブルに並べるとイスカンダルは目を輝かせた。

 

「おお!何という旨そうな料理だ!」

 

「すげぇ……誰が作ったんだ?」

 

「私だ。口に合うか分からないがな」

 

エミヤが作ったと聞き、イスカンダルとウェイバーが驚く中、ギルガメッシュは行儀悪くフォークで並べられた料理の一つを刺して口に入れた。

 

ギルガメッシュはもしも自分の口に合わなければ即刻エミヤを抹殺しようと思ったが、料理を口に入れた瞬間、目を見開いた。

 

「こ、これは……!?何ということだ……」

 

「如何かな?英雄王」

 

「フッ……この場に自信を持って出す度胸があるな。まさか、この我にこの言葉を言わせるとはな……美味いぞ、雑種よ。褒めてつかわそう」

 

エミヤの料理はギルガメッシュの舌をも唸らせるほどだった。

 

「当然です、シロウの料理は最高ですからね!」

 

まるで自分のことのように喜ぶアルトリアは胸を張って自信満々に答え、いつの間にかモキュモキュと料理を食べていた。

 

「ははははっ!良い、実に良いぞ!この美味なる料理には最高の酒が合う。見よ、これが王の酒というものだ!」

 

気分が良くなったギルガメッシュは手の上を金色に輝かせると、空間が歪んで中から金の酒器を取り出した。

 

その酒器の中には神代の酒が入っており、それを奪い合うために戦争が起きたほどの美酒であり、アルトリアとイスカンダル、そして……料理を作ったエミヤにも特別に振る舞った。

 

エミヤは少々複雑な表情をしながら飲んでいたが。

 

酒が飲めない遊馬達はエミヤが用意したジュースを飲み、エミヤの料理を感動しながら食べる。

 

しばらくすると、イスカンダルはこの酒宴の最大の目的を語り出す。

 

「さて、美味い酒と肴で身も心も満たしたところで、話そうではないか……聖杯は相応しき者の手に渡る運命にあると言う。英霊同士、お互いの格を競おうではないか。言わばこれは、聖杯戦争ならぬ『聖杯問答』。誰が聖杯の王に相応しい器か」

 

「戯れはそこまでにしておけ。酒も剣も我が宝物庫には至高の財しかあり得ない。これで王としての格付けは決まったようなものであろう?」

 

「ふん、アーチャーよ。貴様の極上の酒は、まさしく、至宝の杯に相応しいが、生憎聖杯と酒器は違う。まず貴様がどれほどの大望を聖杯に託すのか、それを聞かせてもらわねば始まらん」

 

「仕切るな雑種。第一、聖杯を奪い合う前提からして、理を外しているのだぞ。そもそもにおいて、あれは我の所有物だ。世界の宝物は一つ残らずその起源を我が蔵に遡る」

 

「じゃあ、貴様。昔、聖杯を持っていたことがあるのか?どんなもんか正体も知っていると?」

 

「知らぬ、雑種の尺度で測るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だが宝であると言う時点で我が財宝であることは明白だ。それを勝手に持ち出そうなどと、盗人猛々しいにも程があるぞ」

 

ギルガメッシュの聖杯戦争に参加する理由を聞いた遊馬は自分の胸に手を置く。

 

(うーん、聖杯はここにあるんだけどね……)

 

ドレイクがポセイドンをしばいて手に入れたオリジナルの聖杯が今は遊馬の胸の中に宿っており、アストラルとマシュはそっと耳打ちをする。

 

(遊馬、黙っておいた方が賢明だぞ)

 

(そうですね……遊馬君、聖杯は最後の切り札として黙っておくべきです)

 

(オッケー)

 

下手に混乱させるわけにもいかないので遊馬の中に聖杯があるのを黙っておく。

 

「つまり、ギルガメッシュ王はこの世の全ての財が自分のものだから他人に奪われるのは嫌って訳か。じゃあ、イスカンダルは何が目的なんだ?」

 

遊馬がイスカンダルに聖杯に託す願いを聞くと、イスカンダルは少し恥ずかしそうに答えた。

 

「受肉だ」

 

「受肉?」

 

「はぁ!?お、お前!望みは世界征服だったーーぐへぁっ!?」

 

ウェイバーがイスカンダルに駆け寄った瞬間にイスカンダルのデコピンが炸裂し、ウェイバーは宙を飛んで倒れた。

 

あれは痛いと思いながらイスカンダルの話を聞いていく。

 

「馬鹿者、たかが杯なんぞに世界を取らせてどうする。征服は己自身に託す夢。聖杯に託すのはあくまでも……そのための第一歩だ」

 

「なるほどね、聖杯で受肉してもう一度生を受けて、この世界でイスカンダルとしての新たな人生を歩みだすって事か?」

 

「そうだ!その通りだ、分かってるじゃないか、坊主!!」

 

「遊馬だ。まあ、俺もサーヴァントの一人を受肉させたからよく分かるぜ」

 

自分のサーヴァントを受肉させたと聞き、イスカンダルは聞き捨てならぬ表情で驚いた。

 

「何ぃっ!?お前のサーヴァントを受肉させただと!?」

 

「ん?ああ。レティシアって言う女の子のサーヴァントなんだけど、生まれが特殊で英霊の座に戻ることができない存在だったんだ。レティシアは虚ろな存在だけど、生きたいと強く願ったんだ。そこで俺とアストラルの力で受肉させてその存在を確立させたんだ。あとはこっちのいざこざが終わったら、俺のうちに連れてって一緒に暮らすんだ」

 

聖杯によってもう一人のジャンヌとして生み出されたレティシアは遊馬の言葉を聞いて生きたいと願った。

 

今では遊馬達と心を通わせて人間らしくなり、サーヴァントであると同時に人間として生きる決意をした。

 

「そうかそうか、なあ坊主。是非とも後でそのレティシアに話を聞かせてもらえないか?受肉した感想とかを聞きたい」

 

「まあ話ぐらいなら大丈夫だと思うぜ」

 

「よし!いい話を聞けた。さあ、次は騎士王、お前だ!お前は聖杯に何を望む?」

 

ギルガメッシュ、イスカンダルに続いて今度はアルトリアが語る番である。

 

「私は、滅びた故郷の救済、王の選定のやり直し……と言うのが前の願いでした」

 

「前だと?今は違うというのか?」

 

「はい。私は過去を変えることをやめました。願いはありますが、聖杯で叶えられるものでは無いので……」

 

「ふっ、聖杯では叶わぬ願いか……それはどんな願いを所望なのだ?ほら、言うてみよ」

 

ギルガメッシュが試すように聞くとアルトリアは酒を飲み、息を静かに吐いて語る。

 

「まず一つ……シロウを世界から奪い取り、永遠に一緒にいることです」

 

「シロウ?それはこの肴を作った先ほどの赤いサーヴァントか?」

 

「世界から奪い取るだと……?」

 

永遠に一緒にいるはともかく、世界から奪い取るという言葉にイスカンダルとギルガメッシュは不審に思う。

 

「彼はとある事情で世界に縛られています。詳しくは話せませんが、私は彼を解放して一緒にいたいのです……」

 

「ほぅ……あやつはお前と同じ時代の英霊か?いや、違うな……こんな美味い飯をその時代で作れるはずがないな、そもそも何者なのだ?」

 

「そこは私個人のプライベートなのでお話できませんが、彼は私の大切な人です」

 

世界にその名を馳せる騎士王アーサー・ペンドラゴンではなく一人の少女としての大切な願い。

 

その願いにギルガメッシュは杯を置くと腹を抱えた。

 

「ぷっ……ふはははははっ!何を願うかと思えば男を手に入れたいなど、それでは王ではなくただの恋する乙女ではないか!これは傑作だな!!」

 

アルトリアが騎士王ではなく、その辺にいるただの恋する乙女のような願いにギルガメッシュは大笑いをする。

 

アルトリアの願いを馬鹿にしたギルガメッシュに遊馬とマシュは怒りを募らせて思わず立ち上がろうとしたがアストラルが静かに静止した。

 

ギルガメッシュの態度にアルトリアは苛立つことなく、静かにもう一つの願いを言う。

 

「もう一つは……円卓の騎士のみんなともう一度ちゃんと向き合って話がしたい……それだけです……」

 

アルトリアの二つの願い、ギルガメッシュは大笑いをしているがイスカンダルは静かに尋ねる。

 

「……騎士王よ。お前さんや国を破滅に追い込んだ元凶である息子と妻を寝取った配下の騎士、そいつらとも話すつもりか?」

 

「……ええ。私は逃げずに過去を向き合います。全ては私がいけないのですから。その二人とは特に決着をつけなければなりません。もしもの時には……」

 

「再び刃を交えるつもりか?」

 

「いいえ、剣ではなく拳で語り合います。こう見えても腕っ節はかなりありますからね」

 

拳を構えて無垢な笑みを浮かべるアルトリアにイスカンダルは楽しそうに大笑いをした。

 

「ふははははっ!いやー、王としての願いではなく一人の少女としての願いを語るとは思わなかったが、前を向いてしっかりと歩むその心意気は気に入った!」

 

「ありがとうございます。ただ、シロウへの願いに関しては私一人では難しいので同盟者を募っていますが……」

 

エミヤを世界から奪い取る、それがどういう意味なのかは遊馬達にはまだ理解できてないが、アルトリアの同盟者の一人が己の反転した存在であるアルトリア・オルタだとすぐに気付いた。

 

反転した存在でもエミヤを大切に思う気持ちは同じなので同盟者として共に戦うのだろう。

 

「さて、征服王。次はもう一人の『皇』から話を聞いたらどうですか?」

 

「何?ここにもう一人王がいるのか?」

 

「未来皇……そこにいる少年ですよ」

 

アルトリアはイスカンダルに次に遊馬に語ってもらうことを勧めた。

 

「未来皇だと……?中々の名を持つようだな。では問おう!お前は聖杯に何を願う!?」

 

「俺?俺は聖杯にかける願いなんて無えよ」

 

聖杯にかける願いはないと即答する遊馬にイスカンダルは拍子抜けした。

 

「無いだと?子どものくせに願いが無いのか?」

 

「願いは自分の手で叶えるから意味があるんだろ?それに、俺の願いは……アストラルと出会った事で全て叶ったんだ」

 

「その精霊が叶えたのか?」

 

イスカンダルの言葉にアストラルは首を左右に振って応えた。

 

「それは違う。私は遊馬の願いに間接的に関わっただけで直接叶えたのは遊馬自身の力だ」

 

「……アストラルと出会った事で俺は大きく一歩前に踏み出すことができた。父ちゃんとの約束だったデュエルチャンピオンになれて、沢山の大切な仲間、友達、そしてライバルが出来た。聖杯じゃなくて自分自身の手で掴んだからこそ願いは意味のあるものなんだ」

 

遊馬の夢や願いは大きなものから小さなものまでたくさんあった。

 

応援してくれる人もいれば、その夢や願いを馬鹿にして否定する人も大勢いた。

 

しかし、それを自分自身が歩んで来た道と信念……全ては遊馬の信じる『道』があったからこそ叶えられた。

 

「願いは勇気を持って踏み出し、どんなピンチでも諦めずに最後までチャレンジすれば、きっと叶えられる!それが、父ちゃんから教わった俺のかっとビング!!俺の信じる道だ!!!」

 

幼き日の父からの約束を胸に長い年月をかけて悩み、苦しみながら遊馬自身が築き上げてきた『かっとビング』と言う名の光り輝く道。

 

それは三人の偉大なる王道に劣らない素晴らしい道である。

 

「己の願いを全て自分の手で掴み取ったからこそ、聖杯の力を無用とするか……うむ、何と立派な心意気よ!敵ながら気に入ったぞ、坊主!」

 

イスカンダルは遊馬の幼いながらも立派な心意気に感銘を受けた。

 

そして、そんな遊馬達が聖杯戦争に介入して聖杯完成を阻止する理由を尋ねる。

 

「ではこの聖杯戦争に介入した目的は何だ?」

 

ようやく遊馬達が語る本題に入る時が来た。

 

この第四次聖杯戦争の残る二騎のサーヴァントであるイスカンダルとギルガメッシュに話すことができる。

 

「俺たちの目的……それは、人類と世界の未来を取り戻す。その一つとして、この聖杯戦争の聖杯完成を阻止する事だ」

 

「人類と世界の未来を取り戻すだと?」

 

「そ、それってどう言う事だよ!?」

 

「ふん……」

 

「それじゃあ、こっからは俺たちの本題だ。俺たち……カルデアの任務、グランドオーダーを!」

 

遊馬は未来から来た事、人理継続保障機関・カルデアの目的、そして……人類と世界の未来を取り戻す最初で最後の任務、グランドオーダー……その全てを話した。

 

「まさか……未来が、人類の全てが消滅していたなんて……それじゃあ、爺ちゃんも婆ちゃんも……」

 

ウェイバーは頭を抱えて大切な家族同然の存在である祖父と祖母の事を想い、涙を浮かべて苦悩していた。

 

狼狽えているウェイバーに対し、イスカンダルは何も出来なかった。

 

イスカンダルにとってもウェイバーの祖父と祖母は大切な人であるので先ほどのようにデコピンなど出来なかった。

 

「征服する世界が滅びてしまうのか……それはちと困るな」

 

「それから、この冬木にある聖杯は前回の第三次聖杯戦争の時に汚染されて世界を滅ぼす大量殺戮装置になっちまったんだ。例えば、イスカンダルが受肉を望んだ時は受肉したイスカンダル自身が世界を滅ぼす災厄の存在になっちまうんだ!」

 

「な、何と……!?ぬぉお……それは困ったな……」

 

征服する世界が滅び、更には受肉するための聖杯が汚染されて使い物にならないと知り、イスカンダルは額に手を置いて困り果てた。

 

すると、ギルガメッシュはニヤリと笑みを浮かべて遊馬に話しかけた。

 

「雑種よ、我が力を貸してやっても構わぬぞ?」

 

「本当か?」

 

「だが、条件が一つある。貴様の持つ光の剣士……その力を寄越せ」

 

ギルガメッシュはこの世界に召喚されて最も欲しいものを見つけた。

 

それはこの世界で聖杯戦争に介入し、サーヴァント同士の戦いを止めて来た光の剣士……それは十中八九あれしかなかった。

 

「それって……まさか、希望皇ホープの事か!?」

 

「そうだ!そして、その剣士は確かNo.39と言っていたな?もしかして他にもあるのか?」

 

「ああ……ナンバーズは1から100まである……」

 

「1から100までのカードか……良い、実に良い!雑種よ、その100枚のカードを全て我に献上しろ。そうすれば我の力を貸してやっても構わぬぞ!!」

 

あらゆる財をその手に納めて来たギルガメッシュだが、ナンバーズは見たこともない未知なる力を秘めたカード。

 

ギルガメッシュは遠目から初めて希望皇ホープの姿を見た時からそのカードを欲しいと思った。

 

収集癖のあるギルガメッシュが是非とも手に入れたいと思うのも当然でナンバーズを全て捧げればは力を貸しても構わぬと言うが、遊馬はギリっと睨みつけて叫ぶ。

 

「ふざけるな、絶対に嫌だ!!!」

 

「ほぅ、この我の最大限の譲歩を断ると言うのか……?」

 

ギルガメッシュはピクッと顔を引きつく。

 

遊馬は椅子から立ち上がり、アストラルを守るように腕を横に出す。

 

「ナンバーズはアストラルの大切な記憶の欠片だ!それに、ナンバーズ1枚1枚にはそれを手にしたものたちの心や願い、そして俺たちの長い戦いの記憶が刻まれているんだ!!」

 

ナンバーズはただの強大な力を持つカードではない。

 

アストラルの記憶の欠片であると同時に遊馬とアストラル……そして数多くのライバルや敵と熱く厳しい戦って来た戦いの記憶の象徴でもある。

 

「ギルガメッシュ!あんたがどれだけ偉い王様だろうとも、誰かの大切な記憶を奪う権利なんか絶対にない!!」

 

遊馬がナンバーズを……アストラルを絶対に守ろうとする強い意志にアストラルはフッと笑みを浮かべて遊馬の隣に立つ。

 

「ギルガメッシュ王よ、あなたにナンバーズを渡すわけにはいかない。ナンバーズは『私と遊馬のモノ』だ。そしてこの力は未来を斬り開く為にある……それをあなたのような人に渡すわけにはいかない!!」

 

「俺たちの邪魔をするって言うなら……ここであんたを止める!!」

 

遊馬とアストラルの挑戦的な態度にギルガメッシュは怒りに震える。

 

「雑種共が……この我を愚弄するか!!我のモノにならないのなら、奪うまでだ!!!」

 

「上等だ!!行くぜ、アストラル!!!」

 

「ああ!!」

 

遊馬はバク転をしてその場から大きく下がり、D・パッドとD・ゲイザーを懐から取り出して上に投げ飛ばす。

 

「デュエルディスク、セット!」

 

D・パッドをデュエルディスクに変形させて左手首に装着する。

 

「D・ゲイザー、セット!」

 

D・ゲイザーを展開して左眼に装着する。

 

デッキからカードを5枚ドローして手札にする。

 

「遊馬君……!」

 

「マシュ、俺たちの後ろに来てくれ!」

 

「はい!」

 

マシュは急いで走って遊馬の後ろに立つ。

 

「下がるぞ、ウェイバー!」

 

「お、おう!ぐえっ!?」

 

イスカンダルはワイン樽を持ち、ウェイバーの首根っこを掴んで後ろに下がる。

 

「アイリスフィール、私の後ろに!」

 

「え、ええ……」

 

アルトリアはアイリスフィールの手を取り、エミヤ達がいる方へ向かった。

 

「行くぜ、俺のターン!」

 

遊馬が右手を握りしめて掲げると真紅に輝き、カオスの強い光が放たれる。

 

「な、何だあれは!?」

 

「あの力、魔力ではなさそうだな。何をするか楽しみだな!」

 

突然右手に輝く真紅のカオスの光にウェイバーは驚き、イスカンダルは興味深く見つめる。

 

「ほぅ……」

 

ギルガメッシュは目を細めて余裕の表情でその力を見つめる。

 

遊馬とアストラルの両側に七人の皇、バリアン七皇の幻影が現れる。

 

「行くぜ!ナッシュ!メラグ!ドルベ!ベクター!アリト!ギラグ!ミザエル!人類最古の英霊、英雄王ギルガメッシュにバリアン七皇の力を見せてやろうぜ!!!」

 

そして、ドローをする遊馬と七皇の七つの幻影が一つに重なり、声を揃えて叫んだ。

 

「バリアンズ・カオス・ドロー!!!」

 

必然のドローにて遊馬が望んだカードを引き、そのカードを発動させる。

 

「来たぜ、みんな!俺はドローしたこのカード、『RUM - 七皇の剣』を発動!!このカードは通常ドローをした時に発動する事が出来る!エクストラデッキ、または墓地から『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』を特殊召喚して、そのモンスターをカオス化させる!」

 

バリアン七皇の切り札である七皇の剣を発動し、七体のオーバーハンドレッド・ナンバーズの中でも最強にして最大クラスのモンスターを呼び出す。

 

「行くぜ、ミザエル!お前の力を貸してくれ!!」

 

ゴォオオオオオオオ……!!

 

突如、空間が震え、遠い宇宙の果てから誕生した強大なる光が飛来する。

 

「宇宙を貫く雄叫びよ!遥かなる時を遡り、銀河の源より蘇れ!」

 

遊馬の前に渦巻きのような空間の亀裂が浮かぶと中から巨大な菱型の物体が現れた。

 

「顕現せよ、そして我を勝利へと導け!」

 

菱型の物体がまるでロボットのように変形すると体全体が鋭利な刃のような形をした赤黒いドラゴンが顕現した。

 

「『No.107 銀河眼の時空竜(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)』!!!」

 

光を司る銀河眼の光子竜と対をなす時を司るドラゴン。

 

それは遊馬とアストラルが数少ない勝利を挙げることが出来なかった存在である最強のドラゴンの一角でもある。

 

「そして、銀河眼の時空竜でオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

七皇の剣の効果により銀河眼の時空竜が赤い光に包まれながら天に昇る。

 

異空間にて銀河眼の時空竜は最強の存在へと進化する。

 

「逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ!永遠を超える竜の星!顕現せよ!!」

 

銀河の光が夜空に輝くと、過去を遡り、現在を支配する時を司る究極の存在が姿を現わす。

 

「『CNo.107 超銀河眼の(ネオ・ギャラクシーアイズ・)時空龍(タキオン・ドラゴン)』!!!」

 

『グォアアアアアアアッ!!!』

 

巨大な菱形の物体が変形し、現れたのは三つの長い首を持ち、巨大でずっしりとした胴体と大きく長い翼と尾を持つ金色の龍。

 

それはカイトの『銀河眼の光子竜』……否、アストラル世界の力を得た真の姿である『銀河眼の光子竜皇』と月面にて最強のドラゴン決戦を繰り広げたドラゴンである。

 

「これは……!?」

 

世界最古の英雄であるギルガメッシュでも見たことがない未知なるドラゴンに目を見開くほど驚いた。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド!さあ、行くぜ、英雄王!!」

 

「我々は必ず、あなたに勝つ!!」

 

遊馬とアストラルは考えうる限りの最強の布陣で世界最古にして最強の英霊に挑む。

 

 

 




遂に出ました、超銀河眼の時空龍!
これが私が考えに考え抜いたギルガメッシュ攻略の最強の切り札です!
次回は超銀河眼の時空龍VSギルガメッシュです。
最強の金ピカはどっちだ!?(笑)


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ナンバーズ66 最強対決!時空龍VS英雄王!!

超銀河眼の時空龍VSギルガメッシュです!
最強の金ピカ決戦です!(笑)
ぶっちゃけ、ギル様が可哀想だと思うぐらいやり過ぎました。
始めに言っておきます。
ごめんなさい、ギル様……決してあなたのことが嫌いじゃないんです!!(涙)



遊馬が召喚したオーバーハンドレッド・カオスナンバーズ……CNo.107 超銀河眼の時空龍。

 

その攻撃力は全てのナンバーズの中でもトップクラスで、その出生や由縁から神にも等しい力を持っている。

 

城に待機していたサーヴァント達が驚愕する中で超銀河眼の時空龍の召喚に心を弾ませたのはレティシアだった。

 

「あんなドラゴンがいるなんて……光の銀河眼とは全く違う姿をした時の銀河眼、カッコよすぎるわよ!」

 

銀河眼の光子竜、超銀河眼の光子龍、銀河眼の光子竜皇とは全く異なる姿をした時を司る新たな銀河眼。

 

ドラゴン好きなレティシアは時の銀河眼に魅了されるのだった。

 

一方、アイリスフィールとウェイバーは驚愕と同時に恐れを抱いた。

 

「竜種……!?そんな馬鹿な、幻想種はこの世界から消えたはずなのに……」

 

「幻想種の頂点に君臨する竜種をあんな簡単に、しかも何の代償も無しに召喚したのか……!?」

 

この世界から幻想種は何処かに消えてしまった。

 

竜種は幻想種の頂点に君臨する存在でそれを簡単に召喚し、更には召喚者である遊馬に何の代償も無しで平然としている遊馬にアイリスフィールとウェイバーは戦慄するのだった。

 

「やるなぁ、坊主と精霊!これが世界を救う男の力って奴か!」

 

イスカンダルはその強大な力を扱う遊馬とアストラルの堂々とした覚悟に嬉しそうに頷いた。

 

「雑種よ……ナンバーズは1から100まででは無かったのか?何だその竜は?」

 

「こいつはオーバーハンドレッド・ナンバーズ。アストラルの記憶の欠片のナンバーズとは違う、バリアン七皇の持つ101から107の特別な7枚のナンバーズだ」

 

「バリアン七皇……?ふっ、まあ良い。その竜の力も我が手にしてやる!まずはその竜を滅してくれるわ!!」

 

ギルガメッシュの周囲の空間が歪み、金色に輝きだす。

 

「『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』」

 

かつて、世界の全てを手中に収めたとされるギルガメッシュが有する宝物庫には、ありとあらゆる伝説の原典となった宝具が財宝として収められている。

 

ギルガメッシュはその宝物庫から自ら望んだ宝具を取り出すことができ、無数の剣の宝具を呼び出して切っ先を超銀河眼の時空龍に向ける。

 

「ふはははは!強力な竜種を呼び出したことは褒めてやろう。だが、我が宝物庫には竜殺しの伝説の原点となった宝具がある。これで始末してくれる!」

 

それはジークフリートのバルムンクと同じ竜殺しの宝具であり、たとえ神に等しい力を持つ超銀河眼の時空龍でも喰らえばひとたまりもない。

 

敵に合わせて様々な宝具を状況に応じて持ち出して使う、これこそがギルガメッシュが最強の英霊と言われる所以である。

 

「雑種よ、我でも見たことない竜を呼んだが、我の敵ではない。早々に消えろ」

 

ギルガメッシュは竜殺しの宝具をまるで矢のように一斉に発射し、一直線に超銀河眼の時空龍に向かう。

 

このままでは超銀河眼の時空龍は竜殺しの宝具の前に敗れてしまう。

 

「遊馬!」

 

「おう!永続罠!『安全地帯』!超銀河眼の時空龍を対象に発動!!」

 

超銀河眼の時空龍に薄い膜のような光が纏われた。

 

すると、ギルガメッシュが射出した竜殺しの宝具が勝手に軌道を変えて超銀河眼の時空龍の横を通り過ぎて地面に突き刺さった。

 

「何ぃっ!?」

 

ギルガメッシュは竜殺しの宝具を次々と射出するが、超銀河眼の時空龍には一切当たらなかった。

 

「ば、馬鹿な!?我が竜殺しの宝具が当たらないだと!??雑種、何をした!??」

 

ギルガメッシュは自分でも予想がつかない事態に困惑していた。

 

射出した宝具を回避や防御をして直撃を受けないように防ぐならまだわかる。

 

しかし、宝具がどれほど射出しても一切当たらないことに理解が出来なかった。

 

「安全地帯は対象モンスターは相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されない!」

 

「ギルガメッシュ王が放った竜殺しの宝具は超銀河眼の時空龍に当たれば確実に倒されるだろう。だが、当たらなければその効力を発揮することはできない!」

 

「何、だと……!?馬鹿な、たかが紙で作られたカード如きがそれほどの力を有していると言うのか!?」

 

ナンバーズなどの膨大な力を宿したカードならまだしも、魔力など一切感じない紙で出来たカードに宝具をも凌ぐ力を持つ事にギルガメッシュは信じられなかった。

 

「デュエルモンスターズを舐めんじゃねぇ!こいつで世界の命運を賭けた戦いを何度もしているからな!!」

 

遊馬とアストラルは世界の命運を賭けた戦いを繰り広げるほどの重要な役割を持つ『デュエルモンスターズ』と言う名の闘いの儀式が持つルールや制約により、強大な力を持つ英霊達と対等に渡り合うことができるのだ。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『フォトン・サンクチュアリ』!自分フィールドにフォトントークンを2体を特殊召喚!」

 

超銀河眼の時空龍の左右に光の玉であるフォトントークンが特殊召喚される。

 

「超銀河眼の時空龍の効果!自分フィールドのモンスター2体をリリース!」

 

フォトントークンが光の粒子となり、超銀河眼の時空龍が口を開けて吸収する。

 

「バトルだ!超銀河眼の時空龍でギルガメッシュに攻撃!!」

 

遊馬の命令に超銀河眼の時空龍は真紅の瞳を輝かせると、その美しい金色の体が光り輝いていき、口に膨大なエネルギーを秘めた閃光を蓄えた。

 

「「アルティメット・タキオン・スパイラル!!!」」

 

三つの首から金色の竜の咆哮が同時に放たれ、絡み合いながら光は一つに重なってギルガメッシュに襲いかかる。

 

「させるか!!」

 

ギルガメッシュは王の財宝を開き、巨大な花弁の様な形状をした大盾を出した。

 

王の財宝には盾などの攻撃を防御するための宝具があり、鉄壁の防御力を誇る盾だが、超銀河眼の時空龍の強烈な竜の咆哮と相殺されて粉々に破壊されてしまった。

 

「ふっ、良い攻撃だがこの我には届かないぞ!」

 

「「2回目のバトル!!」」

 

「何!??」

 

超銀河眼の時空龍は既に口にエネルギーを込めてすぐに竜の咆哮を放てる準備が出来ていた。

 

超銀河眼の時空龍の竜の咆哮は英霊の持つ高ランクの放出系の宝具に相当する一撃だった。

 

それを連続で放てることにギルガメッシュは驚いていた。

 

「超銀河眼の時空龍の効果、モンスターを2体リリースすることでモンスターに3回攻撃をすることが出来る!!」

 

「ギルガメッシュ、この連続攻撃を耐えきれるかな!」

 

「「セカンド・アルティメット・タキオン・スパイラル!!!」」

 

超銀河眼の時空龍は二回目の竜の咆哮を放つ。

 

「くっ、おのれぇっ!」

 

ギルガメッシュは先ほど壊された盾とは別の様々な時代・国の紋章が描かれた盾を次々と出して超銀河眼の時空龍の猛攻を防ぐ。

 

しかし、それらも半壊していき、もはや使い物にならなくなって来ている。

 

既に超銀河眼の時空龍は口にエネルギーを溜めていた。

 

「「3回目のバトル!!!サード・アルティメット・タキオン・スパイラル!!!」」

 

「ぬぉおおおおおおっ!??」

 

三回の怒涛の連続攻撃で盾の宝具は全て破壊されてしまう。

 

何とかギルガメッシュ自身にはダメージは受けてないが、ギルガメッシュはこのまま黙っているわけがなかった。

 

「雑種が……よくも我に恥をかかせたな……」

 

すると、王の財宝から先ほどよりも大量の剣や槍、数え切れないほどの無数の宝具を取り出してその切っ先を超銀河眼の時空龍ではなく遊馬とアストラルに向けた。

 

「その重罪、貴様らの命で償ってもらうぞ!!」

 

「っ!?遊馬君、下がってください!私が……」

 

「マシュ、心配するな!」

 

「後ろにいてくれ。心配するな、我々は絶対に負けない!!」

 

「ふははははっ!その儚い命を散らせ!そして、ナンバーズを全て我が手に収めてくれよう!」

 

ギルガメッシュの放つ無数の宝具。

 

それが降り注がれる大雨のように遊馬とアストラルに迫る。

 

ギルガメッシュは自分の勝利を確信し、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「それはどうかな?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊馬は手札から一枚のカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「「手札からカウンター罠!『タキオン・トランスミグレイション』を発動!!」」

 

次の瞬間、放たれた宝具が遊馬とアストラルの前でピタリと停止した。

 

「何……?」

 

「えっ……?」

 

ギルガメッシュとマシュは宝具が通り抜けた訳でもなく止まった光景に驚愕した。

 

まるで……『時間が停止』したかのような光景で、更なる驚きの展開が起こる。

 

『グォアアアアアアン!!!』

 

遊馬とアストラルの真上に超銀河眼の時空龍の進化前である『No.107 銀河眼の時空竜』の幻影が現れ、咆哮を轟かせた。

 

「「自分フィールド上に『ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン』と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から発動できる!」」

 

本来なら罠カードは一度フィールドにセットし、次の相手ターンからでしか使えない。

 

しかし、カードによっては特定の条件を満たす事でフィールド以外から瞬時に発動して相手の意表を突くことが出来る。

 

そして、銀河眼の時空竜の目が輝き、その身体が変形して最初に召喚された時の待機状態である大きな菱型の『ニュートラル体』となり、その体から膨大な虹色の光を解き放った。

 

「「このカードの発動時に積まれていたチェーン上の全ての相手の効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし、この効果で発動を無効にしたフィールド上のカードを全て持ち主のデッキに戻す!」」

 

すると、停止していた宝具がまるで映像の逆再生をしたかのようにギルガメッシュの元に戻り、宝具の主人であるギルガメッシュの意思に反して勝手に王の財宝が開いて宝具が全て仕舞われてしまった。

 

「ば、馬鹿な……!?」

 

ギルガメッシュは射出した宝具が勝手に王の財宝の中に収納されてしまった事に驚愕した。

 

しかも再び宝具を射出しようとしても王の財宝が反応しなかった。

 

「雑種共……何をした……一体貴様らは何をしたと言うのだ!??」

 

ギルガメッシュは今までに無い攻撃を仕掛けてくる遊馬とアストラルにそう叫ばずにはいられなかった。

 

「銀河眼の時空竜は時を司る。僅かだが、過去へ向かうことが出来るんだ」

 

「過去に戻って自分に有利な未来を選択する事が出来る……これこそが、時を司る銀河眼の時空竜の真骨頂だ」

 

遊馬とアストラルは銀河眼の時空竜の所有者であるミザエルと一度だけデュエルをした事があるが、銀河眼の時空竜の過去へ向かう能力に希望皇ホープは力を失い、結果としてデュエルが出来なくなるほどのダメージを受けた。

 

「ま、まさか……そのドラゴンが『時を戻し』、我が宝具を封じたと言うのか!??」

 

「すごい……」

 

王の財宝で射出された宝具はどれも強力な力を秘めているが、防御ではなく『時を戻し』、射出前の元の宝物庫に戻して仕舞えばその力は無力となる。

 

「ふざけるな……たかが、子供がそれほどの力を扱えると言うのか!?」

 

「これは俺の力じゃない。大切な仲間が託してくれた、未来を取り戻す為の力だ!俺のターン、ドロー!!」

 

「おのれぇっ!この我の前で、このまま好きにさせてたまるか!!」

 

ギルガメッシュは右手に不思議な形をした大きな黄金の鍵のような物を取り出した。

 

それは王の財宝の最奥に封印されているのはギルガメッシュだけの唯一無二の最強宝具を取り出すために必要な鍵である。

 

しかし、ここで超銀河眼の時空龍のもう一つの効果を発動する。

 

「「超銀河眼の時空龍の効果発動!カオス・オーバーレイ・ユニットを一つ使い、超銀河眼の時空龍以外のフィールド上に表側表示で存在する全てのカードの効果はターン終了時まで無効になる!更にこのターン、相手はフィールド上のカードの効果を発動できない!」」

 

「何!?」

 

「「超銀河眼の時空龍よ、全ての時を封じろ!タイム・タイラント!!」」

 

超銀河眼の時空龍から暗い虹色の輝きを放つと、手に持っていた鍵が金色の輝きを失い、王の財宝の最奥の封印を開けることが出来なくなった。

 

「何だと!??」

 

「ギルガメッシュ、これでファイナルだ!」

 

「行け、超銀河眼の時空龍!」

 

超銀河眼の時空龍は最後の一撃を放つために口にエネルギーを蓄えた。

 

「「アルティメット・タキオン・スパイラル!!!」」

 

そして、解き放った竜の咆哮は全ての手を完封されたギルガメッシュに襲いかかる。

 

「おのれ!……雑種の分際で!……」

 

ギルガメッシュはそう呟き、超銀河眼の時空龍の竜の咆哮はギルガメッシュではなく、すぐ側の地面に直撃した。

 

ギルガメッシュは空中に投げ出され、地面に激突する寸前に遊馬は最初にセットしていたカードを発動する。

 

「罠カード!『デモンズ・チェーン』!!」

 

サーヴァント封じの鎖が飛び交い、ギルガメッシュを縛り付け、そのまま宙に浮かせる。

 

「……ギルガメッシュ?」

 

ギルガメッシュはまるで深い眠りについたように意識を失っていた。

 

デモンズ・チェーンで縛り、後はメディアなどキャスタークラスのサーヴァントに頼んでギルガメッシュが暴れないようにするだけだ。

 

「サンキュー、超銀河眼の時空龍。お前のお陰で助かったぜ」

 

遊馬は超銀河眼の時空龍に礼を言うと、超銀河眼の時空龍は静かに頷いて消えていった。

 

ギルガメッシュの対決が終わると城に待機していたアルトリアたちが出てきた。

 

「まさか本当にギルガメッシュに勝つとは……」

 

ギルガメッシュの恐ろしさを知るアルトリアは完封して勝利した遊馬とアストラルに感服するのだった。

 

「もしもの時は私が介入しようと思っていたが……そんな心配はいらなかったな」

 

エミヤの投影魔術や無限の剣製はギルガメッシュの王の財宝にとって天敵とも言えるので、遊馬とアストラルがピンチなら代わりに戦おうと思っていたが杞憂に終わった。

 

すると、レティシアが風のように走って遊馬のもとに駆け寄った。

 

「ねえねえ!遊馬!銀河眼の時空竜と超銀河眼の時空龍のカードを見せて!早く早く!」

 

時を司る銀河眼の時空竜と超銀河眼の時空龍の美しさと迫力と能力に感動し、目をキラキラと輝かせていた。

 

「わ、分かった分かった!本当にレティシアはドラゴンが好きだな……」

 

「誰がドラゴン好きにさせたのよ!」

 

「えっと……誰だっけ?」

 

「あんたでしょ!?」

 

「あ、そっか!あははははっ!」

 

遊馬とレティシアが笑いあって話をしていると、アストラルは静かにギルガメッシュを見つめていた。

 

「すまない、ギルガメッシュ王よ……」

 

今回の戦いはあらかじめギルガメッシュの宝具や戦法を聞いて対策に対策を練り、超銀河眼の時空龍で封殺する戦術を使った。

 

ある意味遊馬とアストラルらしくない戦術で、本人たちは偉大なる王であるギルガメッシュとは自分たちの化身でもある希望皇ホープで戦いたかった。

 

しかし今回は倒すのではなく聖杯を完成させないためにギルガメッシュを封じなければならなかった。

 

「もしも、次にあなたと戦う時が来たら……その時は私と遊馬自身の力であなたに挑もう」

 

アストラルはギルガメッシュと戦う時が再び来たら遊馬と共に全力で挑むと誓った。

 

「これでギルガメッシュ王も何とかなりましたね。後は……彼だけですね」

 

「……マシュ、どうやら来たようだ」

 

「えっ?」

 

アストラルがサーヴァントの気配を感じ取り、アルトリアがアイリスフィールの前に立つとその男が現れた。

 

赤いフードで顔を隠した謎のアサシン。

 

またしてもアイリスフィールを狙いに現れ、遊馬達は警戒して戦闘態勢を取る。

 

「少し目を離した隙にまた仲間を増やしたか。全く、厄介な連中だ。決着がつくより先に、どうあってもそこのホムンクルスは抹殺させてもらう」

 

「そうはさせない」

 

ナイフを構えるアサシンに対し、干将・莫耶を投影したエミヤが立ち塞がる。

 

「……何者だ?貴様は……」

 

「あんたの夢を受け継いだ者だよ、爺さん」

 

エミヤは敵ながらとても懐かしそうな表情でアサシンを見つめる。

 

「爺さんだと?悪いが僕はそこまで老けてない。第一、僕の夢を受け継いだなど戯言を──っ!??」

 

アサシンはエミヤの言葉と風貌に冷静だった雰囲気が一気に崩れた。

 

まるで自ら置いていってしまった大切なものと再会したかのような様子だった。

 

「馬鹿な……そんなはずはない……何かの、何かの間違いだ……!」

 

狼狽えるアサシンにエミヤは干将・莫耶を消して静かに語り出す。

 

「……子供の頃、あんたは正義の味方に憧れていた。それを今日みたいな綺麗な星空の下、とある屋敷の縁側で一人の少年に話したよな……?」

 

「それ、は……!?」

 

アサシンはカタカタと体が震え出し、フードの奥で僅かに見える瞳が真っ直ぐとエミヤに向けられていた。

 

そして、エミヤは大きく深呼吸をして、目を閉じながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は──俺が、ちゃんと形にしてやるから』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはエミヤが生前の少年時代に過ごした全ての始まりの夜、『運命の夜』へと至る誓いの言葉である。

 

その言葉にアサシンは力を失ったかのように手をぶらりと下げ、ナイフを手から落としてしまった。

 

「士郎……?」

 

アサシン──『衛宮切嗣(エミヤキリツグ)』は微かな声で、確かに自分の息子──『衛宮士郎(エミヤシロウ)』の名を呼ぶのだった。

 

時空を越え、正義の味方を目指した親子が再会した瞬間だった。

 

 

 




ぶっちゃけやり過ぎたと思うぐらいの完封でした。
これぐらいしないとギル様に勝てないと思ったので……。
いや、マジですいません……だから、王の財宝をこっちに向けないでください!!
アルトリアグッズあげますから!!

さて、ラストで遂に衛宮親子が再会しました。
ここでのキリツグは記憶持ちです。
理由は……アルトリアとキリツグの婿と姑対決を見たいからです(笑)
自分がいない間に大嫌いな騎士王に大事な息子を取られたことをお父さんがご立腹な光景を見たいので。
次回はいよいよ大聖杯に向かいます!
なんとかZero編も終わりが見えて来ました。


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ナンバーズ67 父と息子

仕事が忙しくて投稿が遅れて話も少し短めです、すいません。
Zero編も6月中には終わらせたいですね。
そして7月に第4章のロンドン編を始めたいです。


遊馬たちの前に現れたアサシン……キリツグは息子のエミヤを前にして動揺を隠せないでいた。

 

「何故だ、士郎……何故お前がサーヴァント……英霊に……?」

 

「その言葉をそっくりそのまま返すよ、爺さん。何があったかはお互い、じっくり語ろう。だから……アイリスフィールを狙うのはやめてくれ」

 

「……それは出来ない。彼女を消すのが僕がこの世界に召喚された役目だからだ」

 

「……例え世界が違くても、アイリスフィールを愛していたんじゃないのか!?姉さんは……イリヤは二人の愛から生まれたんじゃないのか!?」

 

「愛しているからこそ……僕自身の手でやるしかないんだ……!」

 

キリツグは銃を取り出して銃口をアイリスフィールに向けようとする。

 

「ふざけるな……!!」

 

エミヤは怒りを露わにしてキリツグを睨みつけた。

 

それは敵に対する怒りではなく、愚かな行為をしようとする『家族』に対する怒りである。

 

「これ以上、イリヤを悲しませることをするな!!」

 

「すまない……例え、イリヤと士郎に恨まれても、これしか道が無いんだ……」

 

キリツグは感情を押し殺してフードのわずかな隙間から悲しそうな表情が見えた。

 

「そんな事は絶対にさせない……爺さんにアイリスフィールを殺させない……!イリヤに代わって、あんたを必ず止める!!」

 

エミヤの口調もだんだんいつもと違う感情的な感じになり、消した干将・莫耶を再び投影して全力でキリツグを止めようとした。

 

その時。

 

「現れよ、『No.41 泥睡魔獣バグースカ』」

 

二人の間に酒瓶を持ち、腹に『41』の刻印が刻まれた灰色のバクの姿をしたモンスターが現れた。

 

眠りこけているバクの口から紫色の吐息が放たれ、とっさに鼻と口元を押さえたキリツグだったが、何も吸わないように呼吸を止めたはずなのにその場に崩れ落ちる。

 

「なん、だ……!?」

 

「バグースカの能力。このカードが守備表示で存在する限り、フィールドの表側表示モンスターは守備表示になり、フィールドの守備表示モンスターが発動した効果は無効化される」

 

「つまり、バグースカのアルコールを含んだ吐息でみんな酔っちまうって事だよ。エミヤ、大丈夫か?」

 

「あ、ああ……何とかな……」

 

エミヤも酔った気分となり、立ちくらみがしてその場に膝をついていた。

 

「悪いけど、キリツグさん?あんたを拘束させてもらう」

 

「どうするつもりだ……?」

 

「あなたを説得する。あのままだとヒートアップして二人が戦いそうだったからな」

 

「あんたとエミヤは親子なんだろ?どんな事情だろうと、親子が争うなんて間違ってると思うし、悲しいからさ」

 

「エミヤキリツグ。一つ聞くが、あなたの目的は聖杯の器であるアイリスフィールを消して聖杯完成を阻止するためでは?」

 

アストラルの指摘にキリツグは静かに尋ねる。

 

「何故そう思う……?」

 

「……あなたの先ほどの雰囲気がとても辛そうに見えた。それは聖杯が完成する事で起こる災厄の事、そしてその恐ろしさを『誰よりも理解』しているからこそ全力で阻止しようとした……違うか?」

 

「……厳密には少し違う。僕は世界と契約しているサーヴァントだ」

 

「世界?」

 

「僕は人類を継続させるために世界から遣わされる『守護者』だ。この世界で聖杯が完成され、世界が破滅するのを防ぐために聖杯の器……アインツベルンのホムンクルスの破壊を命じられた。だが……」

 

「だが?」

 

「君達の持つ力……あの戦士と触れた時から、僕に様々な記憶が溢れてきた」

 

戦士とは希望皇ホープのことである。

 

「記憶?」

 

「本来契約した僕には無い別世界の『衛宮切嗣』としての記憶……戦いの記憶、愛する人の記憶……それが混ざり合ってきた……」

 

「まさか、ナンバーズに触れた事で記憶が……?」

 

ナンバーズはアストラルの記憶の欠片であると同時に人の心の闇を増幅し、その心を写す鏡でもある。

 

サーヴァントの記憶は召喚される毎にリセットされてしまうが、遊馬が召喚したサーヴァントは様々な記憶を持っている。

 

特異点での記憶、参加したことのある聖杯戦争の記憶など個人差はあるがそれぞれのサーヴァントの大切な記憶が宿っている。

 

それは遊馬とアストラルの絆や誰かとの大切な記憶を大事にしたいという願いから起こした『奇跡』なのかもしれない。

 

そして、戦闘中の僅かな時に希望皇ホープと交戦し、そしてアルトリアがキリツグの名前を呟いたことでキリツグに『エミヤキリツグ』としての記憶が入り込んだのだ。

 

「キリツグさん。あんたは一人で災厄を防ごうとしたんだよな。すげえよ、一人で全部やろうとするなんてさ」

 

「だが、我々と目的は一緒だ。アイリスフィールを殺すことなく災厄を防ぐことが出来る」

 

「……それは確実で容易な方法なのか?」

 

「簡単かどうかは分かんねえよ。何が起きるか、何が待ち構えているか分からないからな。でも、他に方法があるなら、犠牲が無い道があるならそれに賭けるべきなんじゃ無いのか?」

 

「……甘いな、君は。虫唾が走るほどに……」

 

キリツグは遊馬の考え方を『甘い』と言うが、それを否定するかのようにエミヤが立ち上がった。

 

「爺さん、確かにうちのマスターは甘いさ。だがな、マスターはその甘さを貫く為の強い信念と力を持っている。そして、有り得ない、無謀だと思われてもそれをぶち壊す数々の奇跡を起こしてきた」

 

「士郎……」

 

「俺はアイリスフィールを守りたい。爺さんだって本当は殺したく無いのは分かってる。だったら、別の道があるなら俺もそれに賭けたい。頼む、俺を、俺たちを信じてくれ……」

 

エミヤの必死の懇願は別世界の義母を救いたい、姉を悲しませたく無い、そして……大切な父に手をかけて欲しく無いと言う家族としての強い願いが込められていた。

 

「……困ったな、士郎にそこまで言われたら断れるわけがないじゃ無いか。アイリを救える道があるなら僕もそれに賭けてみるか……」

 

遂にキリツグも根負けし、アイリスフィールを犠牲にする事なく災厄を防ぐ道を選んだ。

 

こうして酒盛りからの聖杯問答、ギルガメッシュとの対決、そしてキリツグとの対話と言う短い時間で濃密な夜が終わりを迎えた。

 

その後、ウェイバーとイスカンダルは今後どうするか一晩考えてから答えを出すと言い残して遊馬達と別れた。

 

拘束したギルガメッシュはメディア達キャスター陣による封印魔術で厳重に拘束されてそのまま間桐邸に連れて行った。

 

遊馬達はこの世界でのあらかたの問題が片付いたところで、明日の夜に大聖杯に向かい、いよいよ大聖杯の解体作業を行う事となった。

 

そして、それはこの世界……特異点との別れが近づいていることを意味し、次の日に遊馬達が大聖杯に向かおう話し合いをしたその時だった。

 

「やっ!ぜったいに行かせないもん!!」

 

「「桜ちゃん……」」

 

「サクラ……」

 

桜がメドゥーサに抱きつき、小さな手で遊馬の服を握り締めながら離さないと言わんばかりの様子だった。

 

桜は子供の直感か遊馬達の雰囲気からもう二度と会えないかもしれないと察知したのだ。

 

「お願い……私を置いて行かないで……」

 

桜は涙目になってメドゥーサを見上げ、そのウルウルとした幼女の上目遣いにメドゥーサの心に大ダメージを与えた。

 

「はうっ!?ああっ、マスター!いけません、サクラのあまりの可愛さに私の理性が崩壊しそうです!!」

 

「落ち着け!!メドゥーサ!!?」

 

一体どうしたらいいのだろうか。

 

拒絶することもできないこの幼き少女のワガママはある意味遊馬達にとって現状最大の脅威といっても過言ではなかった。

 

「だったら連れて行ったらいいじゃない!」

 

そこに堂々と現れたのは凛だった。

 

「つ、連れて行くって、桜ちゃんを大聖杯に!?」

 

「もちろん私もよ!」

 

「はぁ!??」

 

「だって、大聖杯は遠坂家と間桐家にとっても関係大有りなものなのよ!私はまだ子供だけど次期遠坂家の当主として見届ける義務があるのよ!私達が次に進むためにも大聖杯の終わりを見届けたいの!」

 

凛の言う事には筋が通っていた。

 

もともと大聖杯は始まりの御三家と言われる二百年前のアインツベルン、間桐、遠坂の者達が作ったとされる。

 

その子孫であり、次期当主である凛にもそれを見届ける義務と権利がある。

 

「何かあったらすぐに逃げればいいし、それに守ってくれるでしょ?ね、アーチャー?」

 

凛は近くにいるエミヤに有無を言わせない満面の笑みを浮かべると頭を抱えながらその場に崩れた。

 

どうやらエミヤにとって凛は大きな悩みの種でもあるようだった。

 

「……はぁ、遊馬。仕方ない、連れて行こう」

 

「アストラル、マジかよ……」

 

「下手に禁止して勝手に行動されるよりは許可を出してこちらの保護の下で動いた方が安全だ。以前、小鳥達が勝手に行動して色々大変だったからな」

 

「あー、そう言えばそうだったな……」

 

小鳥や遊馬の仲間達は少しでも遊馬の役に立とうと行動したものの、逆にそれが仇となって敵に捕まったことが何度もあった。

 

勝手に行動されるよりも一緒に行動していつでも逃がせるようにしておけばまだ安全である。

 

「仕方ないか。分かった、二人共連れてくよ」

 

「「やったー!」」

 

「エミヤ、メドゥーサ、アタランテ。二人を頼む」

 

「承知した」

 

「お任せ下さい」

 

「私の命に変えても二人を守り抜く」

 

こうして桜と凛も遊馬達と共に大聖杯に向かう事となった。

 

大聖杯の解体という大きな試練に遊馬達は入念な準備とシミュレーションを行なっていく一方……。

 

「もきゅもきゅ……シロウ、とても美味しいです!」

 

「最高のプリンアラモードだ。流石は私のシロウだ」

 

アルトリアとオルタはエミヤが作ったプリンアラモードを美味しそうに食べており、エミヤは紅茶を飲みながら微笑んで見ていた。

 

「むむっ!私のシロウでもありますからね!」

 

「分かってる。いちいち突っかかるな」

 

「二人共、おかわりはどうかな?」

 

「いただきます/いただくぞ!!」

 

カルデアでは見慣れたエミヤとアルトリアとオルタの光景であるがそれを面白くないと思う者がいた。

 

「……………………チッ」

 

それはキリツグだった。

 

何故かキリツグはアルトリアを毛嫌いしており、息子であるエミヤと仲良くしている光景に苛立っていた。

 

「ん?爺さん、どうした?」

 

「い、いや……何でも……」

 

「お汁粉、お代わりはどうだ?」

 

「え、あ、じゃあ……いただくよ」

 

エミヤの優しい息子としての微笑みや行動にキリツグも思わず唖然となってしまい負けてしまう。

 

手間を掛けて作る時間がなかったので即席で作ったお汁粉をキリツグに出した。

 

生前からの好物なのかお汁粉を食べると、とてもホッとした様子を見せる。

 

しかし、この直後にその心の安らぎが崩壊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、お代わりのプリンアラモードだ」

 

「はい!シロウ、大好きです!!」

 

「流石は私たちの嫁だ。愛しているぞ、シロウ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ!!!

 

バキッ!!!

 

キリツグの堪忍袋の尾が引き千切られ、持っていた箸を握り締めて割ってしまった。

 

「……セイバー、うちの士郎とどんな関係かな……?」

 

キリツグはできるだけ笑顔でセイバーの元マスターとして息子との関係を聞こうとした。

 

しかし……。

 

「……オルタ、何か聞こえましたか?」

 

「いいや?何も」

 

二人はキリツグの問いを無視した。

 

「貴様ら……!!」

 

キリツグは席から立ち上がろうとしたがとっさにエミヤが肩に手を置いて抑えた。

 

「まあまあ、爺さん落ち着け……セイバーもオルタもやめないか」

 

エミヤは仲を取り持とうとしたが、セイバーはプリンアラモードを食べながら知らん顔をした。

 

「……英霊大嫌いで自分のサーヴァントとまともにコミュニケーションも取れず、結局三回の令呪の時しか言葉を発しないコミュ障な元マスターなんて知りませんねぇ」

 

アルトリアのキリツグに対する鬱憤を晴らすかのような言葉攻めにキリツグはプルプルと体を震わせていた。

 

「それに比べて息子のシロウは寧ろ自ら飛び込んでコミュニケーションを取りまくって好感度が上がりまくったからな」

 

「ええ。女を捨てた私の女を目覚めさせましたからね……あ、そうです。シロウ、もし良ければこのあと少し街を散策……いいえ、デートに行きませんか?」

 

「狡いぞ、青いの。もちろん私も行くぞ、両手に花で嬉しいだろ、シロウ」

 

「……レディ二人に誘われたんじゃ断れないな」

 

エミヤはデートに誘われて嬉しいのと断ったら恐ろしいのが混ざり合った複雑な心境だったが、一番恐ろしいのは目の前にいる養父だった。

 

「セイバァアアアアア!!よくもうちの士郎を誑かしやがって!!!貴様らには渡さんぞ、今すぐ表に出ろ!!!」

 

「上等です!積年の恨みを晴らすチャンス到来です!!行きますよ、オルタ!!!」

 

「やはりこの時が来たか!お手柔らかに頼むぞ、お・義・父・さ・ん♪」

 

「誰がお義父さんだ!!??」

 

せっかく協力関係になったと言うのに最悪な関係であるアルトリアとキリツグにエミヤは頭を悩ませた。

 

「なんでさ……」

 

時々無意識に口にする口癖を呟きながらエミヤはアルトリア達を止めに入るのだった。

 

 




この小説の独自設定ですがナンバーズに触れるか遊馬達と契約を交わすとサーヴァントに様々な記憶が流れ込むと言うことにしました。
元々サーヴァントの記憶はさじ加減で色々変わるから面倒なんですよね。
ちなみにジャンヌとネロはアポカリファやエクストラの彼女達とは別人で特異点と遊馬達との記憶しかないのでそう考えてもらえれば幸いです。

そして始まりましたアルトリア達とキリツグの婿舅対決(笑)
これからも頻繁に起こると思います(笑)

次回は大聖杯での対決が書ければいいなと思います。
虫ジジィは倒されていないので別の敵を出す予定ですのでお楽しみに。


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ナンバーズ68 復活の黒霧

ZEXALを知っている方ならもうタイトルでバレバレですね(笑)


深夜……いよいよこの特異点の戦いも大詰めとなり、遊馬たちは大聖杯に向かう。

 

遊馬とアストラルとマシュ達のカルデア陣営と共に行くのはアイリスフィールとキリツグ、雁夜とランスロット、時臣、ケイネスとディルムッド、そして、桜と凛である。

 

百貌のハサンは冬木市に何か異常がないか監視のために散り、ギルガメッシュは間桐邸にて眠らされている。

 

ソラウは葵と共に間桐邸を離れて安全な場所に避難している。

 

遊馬達はカルデアから呼んだサーヴァントを何人か帰還してもらい、出来るだけ人数を絞ったがそれでもかなりの大所帯になりながら冬木市で有名な寺である柳洞寺に向かった。

 

柳洞寺に向かうにつれ、メディアは懐かしそうに語り出した。

 

「懐かしいわ……私、宗一郎様と柳洞寺に住んでいたのよ」

 

「そうなのか?でもギリシャ神話の魔女が寺に住むって意外だな」

 

「でも柳洞寺はいい霊脈があるからキャスタークラスの私にとっては最高の拠点だったのよ」

 

「へぇー」

 

「難点といえば小姑がちょっとうるさかったけど……」

 

「小姑?」

 

「まあ、あれよりはマシだけど……」

 

「ああ、あれはな……」

 

メディアと遊馬の目線の先にはとても戦闘前とは思えない光景が広がっていた。

 

「シロウ、この道も懐かしいですね……」

 

「夜の道はやはり昔を思い出すな……」

 

「あ、あぁ……」

 

アルトリアとオルタはメディアのように懐かしみながらエミヤと仲良く話しをしていた。

 

ちなみにアルトリアとオルタはそれぞれエミヤの腕に抱きつきながら満面の笑みで一緒に歩いており、エミヤは苦笑を浮かべながら二人の足を踏まないように気をつけながら歩いている。

 

そして、その光景を全身から殺気がダダ漏れのキリツグが銃とナイフを持ってプルプルと震えながら睨みつけていた。

 

「おのれ、ダブルセイバー共め……よくもシロウとイチャイチャしやがって……士郎よ、一般人ならともかく、よりにもよってどうしてセイバーなんかと……」

 

どうやらキリツグはエミヤが騎士王であるアルトリア達とお付き合い(?)していることが許せないらしい。

 

もっともエミヤも既に英霊なので一般人と付き合うなど無理なのだがキリツグはそこに全く気がついていない。

 

「セイバーめ、まさかシロウが僕の息子だと知って当て付けのために……!?いや、流石に誇り高き騎士王がそんなことを……だが昔の色恋沙汰が酷かった円卓の騎士のいざこざで性格が歪んでも……!!」

 

勝手な被害妄想を膨らませるキリツグに対し、これ以上関係がごちゃごちゃしない前に止めに入った方が良いのではないかと思ったその時、キリツグの側に一人の女性が近づいた。

 

「ダメよ、そんなことを言っては。少しは彼らを信じたら?」

 

「ア、アイリ……」

 

それはアイリスフィールで本来なら暗殺者とターゲットという関係でありながらアイリスフィールは臆せずにキリツグの隣に立った。

 

いくら狙われる心配がなくなったとはいえ突然の行動にキリツグも動揺を隠せなかった。

 

「セイバー、彼のことを自慢げに話していたわよ。私に大切なことを気付かせてくれた。私の心を満たしてくれた、私に人を愛することを教えてくれたって……セイバーは彼の事を本気なの。認めてあげたら?」

 

「だ、だが騎士王は戦うしかできない……シロウの嫁になるなら家事は──」

 

「シロウ君、家事が上手でしょう?料理もお菓子も美味しいし、まるで執事みたいに有能だし、寧ろシロウ君がお嫁さんじゃない?」

 

「うぐっ……た、確かにそうだが……」

 

「セイバーは騎士王、アーサー王で強いのは当然だからお嫁さんのシロウ君を守るお婿さんの役目を担っているし……ほら、バッチリじゃない!最近は専業主夫もあるみたいだから別に変じゃないわよ」

 

「セイバーの強さは認める……だが、だが……!!」

 

「ふふふ、あなた……恐いと思ったら意外と親バカなのね。ねぇ、聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

「何だ……?」

 

「……イリヤって、どんな女の子?」

 

「っ!?そ、それは……」

 

イリヤ。

 

それはエミヤの義理の姉でこの特異点では別世界のキリツグとアイリスフィールの娘である。

 

この特異点では生まれていないまだ見ぬ娘……エミヤとキリツグの対話の時に断片的に聞かされたその存在をアイリスフィールはどうしても知りたかった。

 

「……どうしても知りたいのか?」

 

「ええ、知りたいわ。こんな私でも人と同じように娘を持つ事ができるなんて夢のようだから……」

 

「……分かった」

 

キリツグは諦めたのかのようにため息をつき、夜空の星を見上げながら覚悟を決める。

 

どうせ断ってもアイリスフィールはしつこく聞いてくるだろう、それならばとキリツグは目を閉じてその瞼に映る愛娘を語る。

 

「イリヤは君にそっくりな可愛い女の子だ。アインツベルンの森で雪の中、元気よく遊んでいたよ。親としての贔屓目かもしれないけど、雪の妖精のような本当に可愛い女の子だったよ……」

 

「そう……叶うのなら会って見たいわね……」

 

「……僕もだよ」

 

いつしか二人の間にわだかまりが無くなり、まるで夫婦のような穏やかな空気が流れていた。

 

この二人が直接結婚しているわけではないが、ある意味では時空を超えた再会とも言えなくない光景だった。

 

しばらくのんびりとしながら歩いていると、桜と凛が遊馬の両側に立ちながら話しかける。

 

「遊馬お兄ちゃん、ハートランドってどんなところ?」

 

「ハートランド?」

 

「そう!この冬木市とは全然違うんでしょう?せっかくだから教えてよ、遊馬お兄様!」

 

異世界から遊馬がどんなところから来たのか、桜と凛はどうしても聞きたかった。

 

遊馬は腕を組み、夜空を見上げながら話し始める。

 

「そうだな、ハートランドはこの冬木市とは全然違うところだ。まずは──……」

 

この冬木市とは全く違う近未来的な街である遊馬の故郷、ハートランドについて話した。

 

この世界にはどこにもない未知なる世界……その話に桜と凛は興味津々で聞くのだった。

 

話をしていくうちに柳洞寺に到着し、大聖杯のある円蔵山へ入山した。

 

そして、大聖杯のある洞窟に近づくとアストラルは飛来するサーヴァントの気配を察知した。

 

「……遊馬、サーヴァントだ。この気配は……」

 

「来たのか?」

 

雷鳴を轟かせながら現れたのは赤い戦闘装束に身を包んだイスカンダルだった。

 

「おおう、良し良し。まだ間に合ったようだな」

 

「まさかまだ聖杯戦争を継続するつもりか?大聖杯が呪詛に満ちたものだと言ったではないか。アレは貴方がたが求めていた願望機などではない!いい加減、騙されていたと気付け!」

 

エルメロイII世が声を荒げながらイスカンダルに向けるが、イスカンダルはケロっとした様子だった。

 

「うん?いやそんな事はどうでも良いのだ」

 

「いいのかよ!?」

 

すっかり自分のサーヴァントを制御できていないウェイバーのツッコミが響く。

 

「ああ。余はただ貴様らの勝ち逃げを阻みに来ただけのことさ」

 

「勝ち逃げって、これはそんな話じゃねえぞ!」

 

「世界を救うために全てを背負った勇者よ。余は貴様らの力と余の力をぶつけたい、ただそれだけだ!」

 

「戦いたいだけかよ……」

 

「遊馬、相手は偉大なる征服王だ。そう簡単に通してもらえないぞ」

 

「分かってるって……あ!」

 

イスカンダルをどう抑えようか悩むが、遊馬はすぐにいい方法を思いついた。

 

すぐにD・ゲイザーでカルデアに連絡し、その鍵となるサーヴァントを呼び出してもらい、フェイトナンバーズに入れてデッキケースに送ってもらった。

 

「イスカンダル!悪いけど、あんたに構っている暇はない……だけど!!」

 

デッキケースが開き、そのカードを取り出して前に突き出す。

 

「あんたに相応しい最高の相手を用意させてもらった!!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎──ッッ!!」

 

そのカードが黒く輝くと中から飛び出したのは不気味な翡翠の炎を纏いながら二振りの斧を携えた漆黒の巨人──ダレイオス三世である。

 

「何っ!?ダレイオス、貴様なのか!?」

 

ダレイオスはイスカンダルをその目に写すとニヤリと笑みを浮かべて息を思いっきり吸い込んだ。

 

「イスカンダルゥゥッッ──ッ!!!」

 

それは夜の闇に轟く歓喜の咆哮だった。

 

遊馬は耳を抑えてダレイオスの隣に立ち、マスターとして命令を出す。

 

「ダレイオスのおっさん、俺たちは今からこの奥の大聖杯に向かわなきゃならない。だから……それを邪魔するイスカンダルを全力で止めてくれ。行けるよな?だって、イスカンダルの再戦はおっさんの願いだからな!」

 

ダレイオスが聖杯にかける願いはイスカンダルとの再戦。

 

以前遊馬がトレーニングルームでダレイオスがそう言っていたのを思い出してここに呼んだのだ。

 

イスカンダルを止めるため、そして……ダレイオスの願いを叶えるため。

 

ダレイオスは見下ろす形で遊馬を見ると再びニヤリと笑みを浮かべた。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎──!」

 

バーサーカークラスの影響で言語をほとんど話せないので、何を言っているのか分からないが、少なくとも遊馬への感謝の気持ちが込められていた。

 

「マスターの俺は側にはいないけど、代わりにこいつを残しておく!」

 

遊馬は右手の令呪を輝かせてダレイオスに向ける。

 

「令呪によって命ずる!ダレイオス、イスカンダルに絶対に負けるな!お前の全ての力を解き放ってぶつかって必ず戻って来い!!」

 

令呪によってダレイオスに膨大な魔力が宿り、万全な状態で戦えるようになった。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎──!!!」

 

ダレイオスは再び咆哮を轟かせてイスカンダルを挑発する。

 

すると、イスカンダルは先程までとは違い、遊馬たちに向けられた意識を全てダレイオスに向けた。

 

「ふははは……ふはははははっ!!こいつはとんだどんでん返しだ!!まさか余の相手が万夫不当の巨王!アケメネス最後の将たるダレイオス三世!!お主を倒すのは──やはり、この征服王イスカンダルでなくてはな!!!」

 

イスカンダルも宿命のライバルとも言えるダレイオスの登場に喜びを隠せずにいた。

 

「すまないな、ウェイバーよ!余のこの聖杯戦争最後の相手はあやつになる!」

 

「あれがダレイオス三世……ああもう、仕方ないな!ライダー、お前は言ったら聞かない奴だからな……分かったよ、最後までお前に付き合ってやるよ!!」

 

ウェイバーは色々諦めて吹っ切れたのか、マスターとしてイスカンダルと共にダレイオス三世に挑む決意を固めた。

 

「ふははは!それでこそ、余を呼んだマスターだ!行くぞ、ダレイオス王!我が生涯最大なりし好敵手!!存分に暴れようではないか!!!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎──ッッ!!!」

 

「おっさん、後は頼んだぜ!」

 

「あなたの武運を祈る!」

 

遊馬とアストラルはダレイオスに後を任せてマシュ達と共に大聖杯に向かう。

 

そして、その直後……ダレイオスとイスカンダルとウェイバーの姿が消え、壮大な戦いを繰り広げるための戦場へと舞台を変え、熱闘を繰り広げるのだった。

 

 

遊馬たちはかつて特異点Fでアルトリアと戦った大聖杯へ到着した。

 

大聖杯から放たれる魔力が明らかに邪悪で呪われたものへと変質していた。

 

これではどのような願いも捻じ曲げられ、この世界を破滅するほどの力を秘めていた。

 

大聖杯の汚染は紛れもない事実にアイリスフィール達、第四次聖杯戦争の参加者のマスターたちは動揺を隠しきれずにいた。

 

「さて、私の出番ね」

 

大聖杯解体の切り札……メディアは魔術を打ち消す力を持つ宝具、破戒すべき全ての符を取り出す。

 

「アーチャー、念の為にあなたも投影しておきなさい。可能でしょう?」

 

「ああ、任せろ」

 

エミヤは破戒すべき全ての符を投影してそれを持つ。

 

破戒すべき全ての符を大聖杯に突き刺して大聖杯を破戒して打ち消せればこの特異点が無事に解決する。

 

メディアはゆっくりと歩き、アルトリア達が宝具を構えて周囲を警戒しながらその時を待つ。

 

そして、大聖杯に落ちないギリギリの距離まで近づき、メディアは破戒すべき全ての符を逆手に構えて振り上げる。

 

「行くわよ、破戒すべき──」

 

破戒すべき全ての符を大聖杯に突き刺そうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはさせないぜ、その力は俺のモノだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、不気味な声が洞窟の中に響き渡り、全員の緊張感が一気に増した。

 

そして、その声の直後に異変が起きた。

 

「ぐぁあああああっ!??」

 

「アストラル!?」

 

アストラルが胸を押さえて苦しみ出し、胸から漆黒の闇が間欠泉のように勢いよく噴き出した。

 

メディアは杖を呼び出してから宙を飛んで大聖杯から離れ、大聖杯の前に漆黒の闇が集まった。

 

漆黒の闇は大聖杯から膨大な魔力を吸収し、人の形を成してその姿を現した。

 

「久しぶりだな……アストラル!遊馬!」

 

「馬鹿な……!?貴様はあの時に消滅したはず……!?」

 

「てめぇ、どうして……!?」

 

アストラルと遊馬は現れた闇に驚愕していた。

 

「黒い、アストラルさん!?」

 

それは青白く輝くアストラルがまるで漆黒に染まったような姿をしており、神秘的で清らかな姿をするアストラルとは真逆で邪悪なイメージを持つ姿だった。

 

「『No.96』……まさか貴様が蘇るとはな!」

 

アストラルは息を整えながら立ち上がり、怒りを込めた瞳で『No.96』を見つめた。

 

No.96。

 

それはアストラルの記憶の欠片であるナンバーズの一片でありながら強大な邪悪な存在である。

 

遊馬とアストラルと何度も戦い、最後には完全に消滅したはずだったが……。

 

「この時を、この時をずっと待っていた……!少しずつ魔力と言う名のエネルギーを吸収して蓄え、俺が復活するこの時をな!!」

 

No.96はニヤリと笑みを浮かべながら大聖杯からどんどん魔力を吸収して失われた力を取り戻すかのようにどんどん邪悪な力の波動が広がっていく。

 

「アストラル!遊馬!今度こそお前達を倒し、この俺が神となる!!現れろ、我が分身!『ブラック・ミスト』!!」

 

No.96が自身の右手から取り出したカードを掲げると、左手から膨大な闇が溢れて霧状に散布される。

 

闇の霧が収束して固まり、大きな黒い骸骨のような形となり、目から火のようなオーラを灯され、両手両足と尾を生やし、化け物の姿となって現れた。

 

これがナンバーズの中でも特に闇を象徴する邪悪なる闇の化身、ブラック・ミスト。

 

そのブラック・ミストを前にし、アストラルと遊馬はそれぞれデュエルディスクを構えて堂々と立ち向かう。

 

「No.96!今度こそ貴様を倒す!」

 

「もう二度と、アストラルとあんな悲しすぎる別れ方をしてたまるか!!」

 

二人にとってNo.96とは大きな因縁があり、今度こそ決着をつけるために今まで培った力を解き放つ。

 

 

 




と言うわけで登場しました、ブラック・ミストことNo.96!
名前が相変わらずめんどいな(笑)
蟲ジジィの代わりに敵をどうするか悩んでいた時に思いつきました。
一応言いますが、デュエルはやりません。
もうすでに決着は付いてますし、仮に勝ってもまた道連れしそうなので。
まあ遊馬くんらしい決着をつけますが。

イスカンダルはダレイオスのおっさんと戦わせます。
個人的にコラボCMのイメージが強いのでぶつけてみました。

次回はNo.96との決着になると思います。


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ナンバーズ69 時空を越えた再会

な、なんとか書けた……。
今回は何ヶ月も前から私がやりたかったことをふんだんに詰め込みました。


生前の好敵手であるイスカンダルとダレイオスが対峙し、聖杯戦争関係なしの因縁の対決を始める。

 

「行くぞ、ダレイオス王よ!まずは我らの決着の舞台を整えてやろう!集えよ、我が同胞!今宵、我らは因縁の好敵手と再び刃を交える!!」

 

イスカンダルは剣を掲げる、森が生い茂る円蔵山から光が周囲に広がる。

 

ウェイバーはその光に思わず目を閉じてゆっくりと目を開くとそこに広がったのは森ではなく、晴れ渡る蒼穹に熱風吹き抜ける広大な荒野と大砂漠の世界だった。

 

「これは……ライダー、まさか固有結界なのか!?」

 

「ああ、そうだ。これが余の切札だ」

 

「でもお前、魔術師じゃないはず……」

 

「この固有結界は余一人で行っているわけでない。余と配下たち全員が心象風景を共有する事で展開が可能となっておる」

 

「配下……?ええっ!?」

 

ウェイバーは背後からゆっくりと近づく気配に気づいて振り向くとそこには数千、否、数万に及ぶ武装した兵士達が歩いて来た。

 

「こいつら、一騎一騎がサーヴァントだ……」

 

その兵士達は全員がサーヴァントであり、イスカンダルの呼びかけに応え、この固有結界限定であるが英霊の座から召喚されたのだ。

 

そこに黒い大きな馬が近づくとイスカンダルは嬉しそうに顔を撫でた。

 

「久しいな、相棒!」

 

その馬は馬の身でありながら英霊の座に招かれるほどの名馬であり、イスカンダルの愛馬・ブケファラス。

 

「見よ、我が無双の軍勢を!肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。時空を越えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち!」

 

全員が独立したサーヴァントであるが、宝具を持っておらず、正規のサーヴァントには及ばないものの高い戦闘能力を持つ。

 

「彼らとの絆こそ我が至宝!我が王道!イスカンダルたる余が誇る最強宝具――『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり!!」

 

これこそが征服王イスカンダルの最強宝具、王の軍勢。

 

これほどの固有結界と大軍を少ない魔力で呼び出せるサーヴァントは中々いない。

 

しかし、ライバルであるダレイオスにもそれに匹敵した宝具を有している。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎──ッッ!!!」

 

ダレイオスは遊馬の令呪によって得た魔力で宝具を発動する。

 

すると、次の瞬間、ダレイオスの周囲が暗くなり、空に暗雲が立ち上るとダレイオスの背後から動く死体や歩く骸骨と化した一万の兵が出現した。

 

それは不死者達であり、いくつかの部隊が一つに組み合わさると巨大な牙を持つ黒い象──『死の戦象』へと変化した。

 

これこそが不死の軍隊を呼び出すダレイオスの宝具──不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)

 

王の軍勢と不死の一万騎兵。

 

共に対軍宝具であり、これはもはやサーヴァント同士の一対一の対決ではなく、時空を超えたイスカンダル軍とダレイオス軍の戦争となった。

 

「ウェイバー、そこで見ておれ!余の戦いを!」

 

「あ、ああ!見せてくれ、ライダー!お前の力を!」

 

「おう!行くぞ、ダレイオス王!!」

 

「イスカンダルゥゥッッ──ッ!!!」

 

イスカンダルとダレイオスは共に右拳を作りながら走り出す。

 

「ウォオオオオオオオオオッ!!!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!!」

 

二人の屈強で強靭な体から放たれる拳が激突し、周囲に空気が震えるほどの衝撃波が放たれ、それが開戦の合図となる。

 

イスカンダル軍とダレイオス軍が昔の戦のように共に走り出し、武器を振るい、激突するのだった。

 

「すげぇ……」

 

そして、この戦争の唯一の見届け役であるウェイバーは瞬きを忘れるほどに夢中になり、目に焼き付けていくのだった。

 

 

一方、大聖杯の前では遊馬とアストラルの因縁の相手であるNo.96が自身の分身であるブラック・ミストを召喚した。

 

「ブラック・ミスト……」

 

「戦闘ではほぼ無敵のモンスターだからまともにやり合うのは危険だな。みんな、下手に手を出すな!攻撃すれば確実にやられる!」

 

「それはどういう事ですか?」

 

「No.96 ブラック・ミスト。このカードが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に1度、

オーバーレイ・ユニットを1つ取り除いてその相手モンスターの攻撃力を半分にし、このカードの攻撃力はその数値分アップする……つまり、ブラック・ミストかこちら側から攻撃すれば攻撃力を半減され、それがブラック・ミストの攻撃力に追加される」

 

「しかもあれを見ろよ……どうやってるのかわかんねえけど、膨大な魔力をオーバーレイ・ユニットにしているぜ。あれじゃあ戦闘では絶対に勝てないぜ」

 

No.96は大聖杯から魔力を吸収し、それを無数のオーバーレイ・ユニットに変換して次々と生み出していく。

 

これでブラック・ミストは無限にその効果を使用することが出来る。

 

「まだだ、この魔力があれば俺は無敵だぁ!!」

 

No.96は自身の体から邪悪な黒い霧を生み出すとブラック・ミストだけでなく、漆黒の姿をしたモンスターを次々と召喚した。

 

そのモンスターは様々な姿をしており、それはアストラルのナンバーズの姿を模していた。

 

「これは……!?」

 

「まさかあれって、俺たちがアストラル世界にいた時に人間界にばらまかれた偽ナンバーズ達!?」

 

それは真月ことベクターがドン・サウザンドと協力し、遊馬とアストラルのデュエルで敗北して力を失ったNo.96を元に作られた偽物のナンバーズで約100万枚が世界中にばら撒かれた。

 

そして、それを手にした人間は粒子化してバリアン世界に取り込まれ、人間世界とバリアン世界を融合する役割を持っていた。

 

しかし、No.96が出したこのモンスター達はアストラルのオリジナルのナンバーズを模したもの、言わば劣化した偽物でそれほど強い力はない。

 

「遊馬、敵が多すぎる」

 

「ああ。だがどれもナンバーズや英霊ほどの力はないよな?」

 

「遊馬、全て焼き尽くせ!!マシュ達は時間を稼ぐために、守りに徹してくれ!」

 

「はい!」

 

「遊馬!」

 

「ああ!俺のターン、ドロー!」

 

マシュ達が守ってくれている間に遊馬は敵を一掃する布陣を整える。

 

「行くぜ、魔法カード!『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』を発動!」

 

それは希望皇ホープの展開前の姿が描かれたカードであり、アストラル世界から遊馬に渡されたカードの1枚である。

 

「相手フィールド上のモンスターの数が自分フィールド上のモンスターの数より多い場合、『トイナイト』を手札から特殊召喚できる。更に、このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、手札から『トイナイト』1体を特殊召喚できる!来い、もう1体のトイナイト!」

 

オモチャの兵隊のモンスターが2体現れる。

 

「レベル4のトイナイト2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!」

 

地面に2体のトイナイトが吸いこまれ、希望皇ホープが現れる。

 

「現れたか、希望皇ホープ!」

 

希望皇ホープがエクシーズ召喚されたことで発動していたエクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果が発動する。

 

「この瞬間、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果発動!自分フィールド上に『希望皇ホープ』と名のついたモンスターがエクシーズ召喚された時、ライフを500を支払い、デッキからカードを1枚ドローする!俺はライフを500支払い、カードをドロー!」

 

エクシーズ・チェンジ・タクティクスは希望皇ホープに絶大な信頼を置く遊馬とアストラルにとって貴重なドローソースである。

 

「よし、次だ!希望皇ホープ!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れよ、『CNo.39 希望皇ホープレイ』!!」

 

希望皇ホープがカオス・エクシーズ・チェンジにより、希望皇ホープレイへと進化した。

 

それにより、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果がもう一度発動する。

 

「ホープレイのエクシーズ召喚に成功したのでもう一度、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果を発動してもう1枚ドロー!おっしゃあ!来たぜ!俺は『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!!」

 

「リミテッド・バリアンズ・フォースだと!?」

 

No.96は遊馬が失われていたはずのリミテッド・バリアンズ・フォースを再び使ったことに驚愕した。

 

「俺はランク4の希望皇ホープレイでオーバーレイ・ネットワークを再構築!!カオス・エクシーズ・チェンジ!!!降臨せよ!『希望皇ホープレイV』!!」

 

希望皇ホープレイが更に進化してランクアップし、バリアン世界の力を宿した闇の希望皇、希望皇ホープレイVが現れる。

 

「ホープレイVのエクシーズ召喚に成功!エクシーズ・チェンジ・タクティクスでさらにもう1枚、カードをドロー!」

 

「ホープレイVだと……!?遊馬君よぉ、その力はお前とアストラルの絆に大きな亀裂を生ませたベクターの力じゃねえか。何故その力をまだ使う!?」

 

ベクターに利用されたNo.96としては裏切られたはずの遊馬がその力をまだ使用していることを信じられなかった。

 

「悪いけど、ベクター……真月はもう敵じゃねえ!俺の大切な仲間だ!『Vサラマンダー』を召喚!」

 

遊馬と真月の新たな友情の証の一つであるVサラマンダーを召喚した。

 

「Vサラマンダーは希望皇ホープレイVに装備できる!サラマンダー・クロス!!」

 

Vサラマンダーは赤い炎となって希望皇ホープレイVの双翼と合体し、四つの首が大きな銃口となる。

 

「Vサラマンダーを装備したホープレイVは1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、ホープレイVの効果を無効にする代わりに相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「な、何ぃっ!??」

 

ホープレイVはオーバーレイ・ユニットを一つ体に取り込むと、Vサラマンダーの持つ地獄の炎の力が燃え上がり、背中に背負った四つの銃口に地獄の炎が宿る。

 

「ターゲット、ロックオン!」

 

ホープレイVの赤い瞳はこの場にいるブラック・ミストを含む全ての敵をロックオンする。

 

「Vサラマンダー・インフェルノ!!!」

 

四つの銃口から地獄の炎が解き放たれ、それが無数の弾丸となってブラック・ミスト達を撃ち抜いて焼き尽くした。

 

「ば、馬鹿な……大聖杯の力で生み出した俺の分身が……!?」

 

「そして、この効果で破壊したモンスターの数×1000ポイントダメージを相手に与える!!喰らえっ!!!」

 

No.96の足元から地獄の炎が柱のように燃え上がり、大量のモンスターを破壊した追加ダメージのバーンが襲いかかる。

 

「ぐぁあああああっ!??」

 

バーンの大ダメージがNo.96を焼いたが、倒しきれずにその体から焼け焦げた煙が上がる。

 

「こんな、事で……負けて、たまるか……お前達を倒して……」

 

「No.96、もう諦めろ。私達に勝つことは不可能だ」

 

「それに、そもそも俺たちが争う理由はねえじゃねえか。ドン・サウザンドはもう倒して、アストラルがヌメロン・コードでアストラル世界とバリアン世界を一つにして新しい未来を築き始めたんだ」

 

「嫌だ……封印されてたまるか、俺はもう、あんな惨めな思いは……」

 

No.96は何かに争うように立ち上がる。

 

それと同時に何かに怯えるようにも見えた。

 

それを見た遊馬はNo.96が何を望んでいるのか察した。

 

「お前、もしかして……」

 

「黙れ!俺はまだ負けてない、必ずお前達を葬って──」

 

No.96が諦めずに大聖杯から魔力を吸収して次の手を打とうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だが、貴様はもう終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ!!

 

「ガハッ!??」

 

突如、No.96の胸が背後から貫かれた。

 

遊馬達はNo.96の背後に現れた人物に驚愕した。

 

「アイリさん……!?」

 

それはすぐ側にいるアイリスフィールと瓜二つでが黒と赤の際どい艶やかな衣装を身に纏った謎の女性だった。

 

「よくも散々我が力を使って無様に負けたな……だが、貴様の争う姿は滑稽であったぞ!」

 

「き、貴様ぁ……」

 

「ユスティーツァ・リズライヒ……いいや違う、この世の全ての悪に汚染された聖杯の、成れの果て!」

 

ユスティーツァ・リズライヒとは二百年前のアインツベルンの当主であり、アイリスフィールの先代のホムンクルスのような存在である。

 

しかし、そこにいるのは外見をユスティーツァを模しただけでその中身は黒い聖杯そのものである。

 

No.96が無理矢理大聖杯の力を手に入れようと魔力を弄った所為で現れてしまったのだ。

 

「おお?我が末裔にあるまじき妄言を。我こそは天の杯。根元に至り全ての悪を根絶する、第三魔法の具現であるぞ」

 

「──そんなもんに興味無えよ」

 

パァン!!

 

突如、洞窟内に銃声が響き渡った。

 

「あがっ……!?な、何が……!?」

 

黒アイリがNo.96を貫いた右手が撃ち抜かれ、そこから血を流す。

 

「その手を離せ。そいつを渡してもらうぜ」

 

黒アイリを撃ったのは遊馬だった。

 

ジェットローラーで走りながらドレイクから貰ったフリントロック式の拳銃を右手に構え、黒アイリの手を撃ち抜いたのだ。

 

「馬鹿な、魔術がこめられてないただの道具で……まさかその力は!?」

 

遊馬の胸元から金色の光が輝き出し、黒アイリはその力の正体に気付いた。

 

ジェットローラーで一気に黒アイリに近づくと遊馬は拳銃をホルスターに仕舞うと同時に両手にホープ剣を作り出して斬りかかる。

 

「くっ!?」

 

黒アイリは邪魔なNo.96を捨てると、遊馬はNo.96の首根っこを掴む。

 

「アストラル!頼んだ!」

 

遊馬はNo.96をアストラルの元へ投げ飛ばした。

 

「遊馬!?っ!」

 

アストラルは右手を輝かせて投げ飛ばされてきたNo.96を宙に浮かせて静かに地面に置いた。

 

それを確認した遊馬は急いで戻ろうとしたがそれよりも早く、黒アイリが撃たれた右手から黒い触手を出して遊馬を縛り上げた。

 

「しまった!?」

 

「餓鬼が……何故あの出来損ないを助ける真似をした?」

 

「……あいつには一度力を貸してもらった借りがある。それを返しただけだ」

 

No.96はサーヴァント達が触れられるかどうかわからない為、アストラルに触れることが出来る遊馬が助けに行ったのだ。

 

「それだけで自らを危険な目に?ふははは!何と愚かな人間の餓鬼だ。だが、そのお陰で良いものが手に入りそうだ……」

 

黒アイリが遊馬の胸元に手を当てると、遊馬の中から金色の杯が静かに現れ、大聖杯の禍々しい魔力とは異なる美しい光を放つ。

 

「おお……!美しい、これが真の聖杯か……!!」

 

真の聖杯と聞き、アイリスフィール達は驚愕した。

 

遊馬が持つそれは魔術師が作った聖杯ではない、海神ポセイドンが所有していたオリジナルの聖杯である。

 

どれだけの力を持っているかどうかは不明だが、本物の聖杯があることに驚愕する者が多数いた。

 

「……聖杯はただ持ってるだけで使った試しはないけどさ……あんたみたいな奴には絶対に渡さない!フルドライブ!!」

 

ジェットローラーを強制的にエンジンを高速回転させ、下半身を縛る触手を無理矢理引き千切って右足を蹴り上げた。

 

「オラァッ!!」

 

蹴り上げた右足で聖杯を握る黒アイリの手を強く蹴り、聖杯が宙に舞う。

 

「しまった!?」

 

聖杯は空中に弧を描きながら落ちていき、そして……。

 

「……あれ?」

 

「さ、桜……?」

 

雁夜達の後ろに隠れていた桜がキャッチしてしまった。

 

「え?え?」

 

聖杯を手にしてしまいどうすればいいか混乱してしまう。

 

「桜ちゃん!聖杯を持って急いで逃げろ!!」

 

「その聖杯を寄越せ!それさえあれば、我が力を存分に満たすことができる!!」

 

黒アイリは聖杯を狙い、大聖杯の泥から無数の呪われた化け物を召喚し、桜の持つ聖杯を狙う。

 

「桜ちゃん!凛ちゃん!早くここから逃げ出すんだ!」

 

「桜!凛!逃げろ!」

 

雁夜と時臣の声が響き、桜と凛を守り、逃がすためにエミヤとメドゥーサとアタランテが動く。

 

「桜!早くその聖杯を持って逃げるわよ!」

 

「お姉ちゃん……聖杯って願いを叶える力があるんだよね……?」

 

「そうだけど、それがどうしたの!?」

 

「だったら!!」

 

桜は聖杯を強く抱き締めて目を閉じた。

 

次の瞬間、聖杯から強い金色の光が煌めいた。

 

「さ、桜!?あんた何をやって──」

 

「遊馬お兄ちゃんを助けてくれるように願っているの!!」

 

桜は遊馬を助けたいために願望機である聖杯に願いを込めた。

 

「あっ、そ、そうか!それなら!」

 

凛は桜を抱き締めて一緒に聖杯を握り締める。

 

「お願い、遊馬お兄ちゃんを……」

 

「遊馬お兄様を……」

 

「「助けて!!!」」

 

初めてできた兄貴分である遊馬を助けたい……その一心で聖杯に強く願った。

 

幼き二人の少女の強き願い……それが聖杯に届き、願いを叶える。

 

聖杯から二つの光が飛び出し、桜と凛の前の地面に沈むと金色と桃色の魔法陣が現れた。

 

そして、魔法陣が光り輝き、二つの魔法陣から同時に中から人の影が現れる。

 

一人は扇情的な服装を身につけ、身の丈の倍もある弓を掲げた長い黒髪の少女。

 

もう一人は藍色のアジア風のドレスを身につけ、三叉戟を手にし、藍色の長髪を持つ少女。

 

それは英霊……サーヴァントであり、目を閉じていた二人は目を開くと同時に名乗りをあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アーチャー。女神イシュタル、召喚に応じ参上したわ」

 

「サーヴァント、ランサー。女神パールヴァティー、召喚に応じ顕現しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イシュタルとパールヴァティー。

 

聞きなれない名前のサーヴァントであるが、それよりも問題なのがその姿だった。

 

誰よりもその二人の召喚に驚いていたのはエミヤとメドゥーサだった。

 

「そ、そんな馬鹿な……ありえない……!?」

 

「何故、あなた方二人が……!?」

 

何故なら二人にとって、掛け替えのない大切な人たちであるからだ。

 

「凛!!!桜!!!」

 

「サクラァッ!!!」

 

エミヤとメドゥーサのその名を呼ぶ強い声にイシュタルとパールヴァティーは振り向くと驚いたように目を皿のように丸くし、名を呟いた。

 

「えっ……?嘘……アーチャー……士郎?」

 

「先輩……?それに、ライダー……?」

 

イシュタルとパールヴァティー。

 

その二人はただのサーヴァントではなかった。

 

この場にいる凛と桜の十年後の成長した存在である『遠坂凛』と『間桐桜』がそれぞれイシュタルとパールヴァティーが寄り代として擬似サーヴァントとして召喚された存在だった。

 

今ここに……大聖杯と大きな因縁を持つ者達が時空を越えて集結するのだった。

 

 

 




イスカンダルVSダレイオス。
話の流れ的に全部を書くのは難しく短めになりましたが、あとはみなさんの想像にお任せします。

助けられたNo.96は遊馬くんが救う予定です。

そして……遂に出ました、イシュタルとパールヴァティー!!!
イシュタルは第7章ですが早く出したくて待ちきれずに出してしまいました。
パールヴァティーさんはZero編で出す予定でしたので一緒に出しました。
一応二人はいつも通り記憶持ちにしました。
やったね、エミヤシロウ君!時空を越えて君の嫁さんがやってきたよ(爆笑)
これぞ愉悦なり……!


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ナンバーズ70 奇跡の開放召喚!

ギリギリ間に合いました……今回もいろいろ詰め込みすぎました。
衝撃的な展開が次々と起こるので期待してくださいませ。

※35話と69話のタイトルが同じでしたので35話の方を変更しました。
どうもすいませんでした。


イスカンダル軍とダレイオス軍の戦争……それは静かに終わりを告げた。

 

「これまでか……」

 

イスカンダルは寂しそうな表情を浮かべると、展開していた王の軍勢が崩壊し始めた。

 

王の軍勢はイスカンダルの配下たち全員の魔力を使って行われるため、展開中はイスカンダル自身の魔力消費は少なく済むため、規模の割に燃費は良い。

 

しかし、軍勢の総数が減るに従って負担が増し、過半数を失えば強制的に結界は崩壊するデメリットがある。

 

イスカンダル軍とダレイオス軍の正面戦争による衝突で両軍共その大半が倒れ、消滅していった。

 

それにより、王の軍勢を展開できなくなり、結界が静かに崩壊していった。

 

イスカンダルも激しい戦いで大幅に魔力を失ってしまう。

 

その一方でダレイオスも遊馬から令呪で供給された魔力もほぼ全て使い切り、不死の一万騎兵が解除されて戦象と不死の軍団が消滅した。

 

互いにもう後が残されてない二人は目を合わせると武器を捨て、身につけた装飾や余分な服を脱ぎ捨てて出来るだけ動きやすい格好にした。

 

「ライダー……?」

 

「ウェイバーよ、見ておれ。ここからは王と王の戦いではない……」

 

イスカンダルはマントをウェイバーに渡すとその大きな拳を握りしめる。

 

イスカンダルとダレイオスはゆっくりと近づくように歩き、そして……。

 

「漢と漢……最後の戦いだ!!!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎──ッッ!!!」

 

二人同時に動き、イスカンダルとダレイオス、二人の拳が互いの左頬を思いっきり殴り付ける。

 

「なっ!??」

 

ウェイバーが驚く中、強靭な肉体から放たれた拳は互いを吹き飛ばし、それぞれの左頬が赤く染まり、血が流れる。

 

「な、殴り合い……?」

 

「そうだ。互いの軍が崩壊し、最後に残ったのは己の体のみ……さすれば、最後の戦いは殴り合いになる!」

 

「む、無茶苦茶な……」

 

「それが漢ってもんだ。最後までしかとその目に焼き付けておけ!!」

 

イスカンダルは歓喜の笑みを浮かべて再びダレイオスに殴りかかった。

 

ウェイバーは手の甲に刻まれた令呪を見てイスカンダルを支援するための命令を下そうと思ったが、ボロボロになりながらも最後まで王として威風堂々と戦い続けるイスカンダルの姿を見て令呪を手で隠した。

 

「っ……ライダー!令呪は、令呪は使わないからな!!」

 

「ウェイバー……?」

 

「お前のことだ、どうせ余計なことをするなと怒鳴り散らすんだろ!?だったら、必ず勝て!!あんたの最高の勝利を僕に見せてくれ!!!」

 

必死に令呪を手で抑え、涙をその目に浮かび上がらせて耐えながらイスカンダルへと声援を送った。

 

イスカンダルは未熟者だが、本当に良きマスターに召喚されたと心の中で感謝した。

 

「おうっ!最後までしっかりと見ておれ!!行くぞ、ダレイオスゥ!!!」

 

「イスカンダルゥッッ──ッ!!!」

 

イスカンダルとダレイオス、己の全てをかけた最後の戦いが繰り広げられる。

 

 

一方、大聖杯では衝撃的な事態となっていた。

 

凛と桜が遊馬の聖杯で十年後の遠坂凛と間桐桜を依り代に擬似サーヴァントとなった存在、イシュタルとパールヴァティーが召喚された。

 

「……って!ここ大聖杯!?どういうことよ!?私たちが解体したはず──」

 

「り、凛!?」

 

「えっ……?」

 

イシュタルが振り向き、時臣の姿を見て目を皿のように丸く見開いて驚愕した。

 

「お、お、お父様!??」

 

「凛、お前なのか!?それに、イシュタルとはギルガメッシュ王の時代にいたメソポタミア神話の美と豊穣と戦の女神……まさか神霊をその身に宿しているのか!?」

 

「えっと、それはその……あれ?お父様が生きているってことは……アーチャー!!」

 

「何だ、凛」

 

「状況を説明しなさい!最重要事項のみを簡潔に!!」

 

「承知した。ここは別世界の第四次聖杯戦争。我々は大聖杯を解体するためにここにいる。君の父君は見ての通りご健在だ。そして、君達を召喚したのは幼い頃の君達だ」

 

「はぁ!?幼い頃の私が召喚した!??」

 

イシュタルは召喚者である凛と桜を見てガーン!と衝撃を受け、固まってしまった。

 

隣にいたパールヴァティーは少し遠くにいる雁夜を見て呆然としながら呟いた。

 

「雁夜、おじさん……?」

 

「桜ちゃん……?本当に君なのかい……?」

 

「は、はい……でもおじさんは……あの時……」

 

「サクラ、落ち着いてください」

 

パールヴァティーは信じられないような様子で頭を抱えながら混乱していき、側にいたメドゥーサが支えて落ち着かせる。

 

そして……聖杯で二人のサーヴァント、しかも自分たちによく似た存在を召喚して呆然としている凛と桜だったが、更なる変化が起きる。

 

聖杯が再び輝きだすと中から金色と黒色の二つの光が飛び出してくると、それが凛と桜の前で止まる。

 

「な、何……?」

 

「えっ……?」

 

そして、二つの光が大きくなるとそのまま凛と桜を包み込む。

 

二人は悲鳴をあげる間も無くその光の中に包み込まれ、意識が遠のいて行く……。

 

 

凛が目を覚ますとそこは全てが真っ白の空間でそこに金色の光が目の前に現れた。

 

金色の光は人の形となり、凛はそれを英霊だとすぐに察した。

 

「あ、あなた……誰?」

 

『……ねえ、あなた。あの男の子、そんなに大切?』

 

その英霊から高い声が響き、口調からも女性だと推測出来た。

 

「遊馬お兄様の事……?当たり前よ!お兄様は私の大切な妹の桜を助けてくれたんだから!それに、私に桜と姉妹に戻るためのきっかけと勇気をくれた。頼り甲斐のあるお兄様だもん!」

 

即答した凛の答えに金色の英霊は静かに頷いた。

 

『……それほど大切な人なら、私の力を貸してあげてもいいわよ』

 

「あなたの力を……?」

 

『ええ。でも、一度私の力をその身に宿せばあなたが本来歩むべきだった道が途絶える事になる』

 

「私が本来歩むべき道……」

 

凛の歩むべき道、それは遠坂家の当主となり、魔術師として大きく成長し、根源を目指す事である。

 

しかし、遊馬が現れ、引き裂かれた姉妹の絆を結び直してくれた事でその運命が大きく変わってしまった。

 

魔術師の道か、未知なる世界への道。

 

幼い凛に突然の選択が迫られた。

 

凛は目を閉じて胸に手を当てながら考えた。

 

しかし、既に答えは出ていた。

 

「お願い、あなたの力を貸して!私は……私の大切な人達を守りたい!」

 

例え魔術師としての道が失われようとも、大切な人たちを守り抜く為の力を願った。

 

『分かったわ。私の力を、貸してあげる……』

 

その答えに金色の英霊の体が粒子となり、それが凛の体の中に入っていく。

 

「ま、待って!あなたの、あなたの名前は!?」

 

『私は冥界の女主人、エレシュキガルよ』

 

「エレシュキガル……?」

 

聞いたことのない英霊の名に凛は首を傾げた。

 

『そうよ。最後に一つ、私の力は強いからその力を使い間違えないでね。下手をしたらあなたの大切な人達を傷つけてしまうから』

 

「あっ……」

 

金色の英霊──エレシュキガルが凛にそう忠告すると、粒子が全て凛の中に完全に入った。

 

凛は再び胸に手を当てると自分の中に強大な力が宿っていることを感じ取った。

 

「ありがとう、エレシュキガル」

 

凛はエレシュキガルに感謝すると、その体が金色に輝き出した。

 

 

一方、桜は凛と同じく真っ白な空間にいた。

 

「ここは……?」

 

『小さいですね……』

 

「……誰?」

 

桜が振り向くとそこにいたのは妖艶で露出度の高い黒い装束を身に纏い、バイザーで顔の上半分を隠した紫髪の女性だった。

 

『……私は別世界のとある女の子の成れの果てよ』

 

「別の世界……?」

 

別の世界がどうこうよりも、あまりにも不気味な姿をしていることに桜は警戒する。

 

「私をどうする気なの……?」

 

『別に私自身が何かをするつもりはありません。ただ、あなたに選んでもらうの』

 

「選ぶ……?」

 

『そう。あなたが私のこの力を使うかどうか』

 

「えっ……?」

 

その女性の纏う力……それは邪悪なる闇のような漆黒に煌めくものだった。

 

その漆黒に桜は暗い蟲蔵で大量の蟲に体を調練された事を思い出して体が震えだす。

 

『怖がるのも無理は無いですね。死んだ魂に狂った力を無理矢理埋め込まれたものですから。だけど、この力はあなたなら使いこなせます』

 

女性は桜を宥めるように頭を撫でた。

 

撫でられて桜は不思議と他人のような気がしなかった。

 

「……その力を入れたら、私はどうなるの?」

 

『私の力を宿せばあなたの運命は大きく捻じ曲げられます。でも、その代わり……その力であなたの一番大切な人を守り、一緒にいられますよ』

 

その言葉を聞いて桜の心はぐらっと揺れ動いた。

 

幼く力が弱すぎる桜が手を伸ばせば遊馬を守れるほどの大きな力を手に入れることができる。

 

しかし、その力は再び自身を闇に堕とすかもしれないという大きな恐怖があった。

 

ふと、ポケットに手を入れるとその中に入っていたものを取り出した。

 

「ホープONE……」

 

それは桜の勇気と希望のカード、希望皇ホープONE。

 

桜はカードを大切に抱きしめながら答えを導き出す。

 

例え闇に堕ちても、今の自分には支えてくれる人がいる、見守ってくれる人がいる、そして……闇を照らしてくれる光のような一番大好きな人がいる。

 

その人たちがいる限り、自分は何度だって立ち上がれる。

 

桜は幼きながらも勇気を振り絞って決意を固めた。

 

「お願い……私の大切な人を守る力を、未来を照らす力を私にちょうだい!!」

 

漆黒の女性はバイザーを外した。

 

『……やっぱり、あなたも欲張りさんですね』

 

そこには桜と同じ目と顔立ちの優しい表情をした女性がいた。

 

「あなた……もしかして……」

 

女性の体が粒子となり、桜の中に入り込んでいく。

 

不思議と嫌な感じはなく、まるで最初から桜自身の為にあるような力が入り込んでいた。

 

『頑張ってください。私は一番大切な人を守ることができませんでした。だけど、あなたは大切な人を守って、必ず幸せになってくださいね……』

 

その女性のその言葉には切なる祈りや願いが込められていた。

 

桜は右手から溢れる漆黒の闇を握り締め、胸に手を置く。

 

「ありがとう……私、頑張る!」

 

桜の感謝と決意の言葉と共に体が漆黒に包まれる。

 

 

聖杯から放たれた謎の光が凛と桜を包み込み、急いでメディアとエミヤが破戒すべき全ての符を使って救出しようとした……その時だった。

 

二人を包んだ光が弾け飛び、中から金色のオーラを纏った凛と漆黒のオーラを纏った桜が静かに出てきた。

 

その時、この場にいた全ての者達が驚愕した。

 

何故なら、その二人の少女に宿る力が魔術師という概念を越え……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「開放召喚(レリーズ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英霊……サーヴァントの力を宿しているからだ。

 

二人が無意識のうちに呟いた言葉が鍵となり、二人の体に大きな変化が起きた。

 

二人の体が大きく成長し、凛は髪が金色に輝いてその身に黒のドレスと赤いマントを羽織った姿となり、桜は妖艶な黒の戦闘装束に軽装の鎧を身に纏った姿となった。

 

それはこの場にいる二人の十年後の姿であるイシュタルとパールヴァティーと変わらぬ年齢の姿となっていた。

 

しかし、その身から溢れるばかりの力は全くの異質なものであった。

 

「もしかして……」

 

マシュは目を見開き、凛と桜の二人に何が起きたのかすぐに察した。

 

「桜ちゃん……?凛ちゃん……?」

 

遊馬は突然起きたことに戸惑いを隠せなかった。

 

「待ってて、お兄様……」

 

「必ず、私達が……」

 

「「助けるから!!」」

 

二人は魔力を解放し、先に動いたのは凛だった。

 

凛の手に歪な形をした槍・発熱神殿メスラムタエアが現れ、電撃を纏いながら風車のように回して高速回転させる。

 

「天に絶海、地に監獄。我が昂こそ冥府の怒り!出でよ、発熱神殿! 」

 

槍を地面に突き刺すと突然大きな地震が発生し、青い炎が燃え盛る。

 

「反省しなさい!『霊峰踏抱く冥府の鞴(クル・キガル・イルカルラ)』!!」

 

紫電の槍が地中から次々と沸き起こり、大聖杯と黒アイリに襲いかかる。

 

「ぐぁああああっ!??」

 

黒アイリは触手で縛っていた遊馬を思わず手放してしまった。

 

「なんて威力だ……凛がこれほどの力を……!?」

 

時臣は凛が大魔術に匹敵する強力な宝具を放ったことに興奮していた。

 

「桜!!!」

 

「うん!!」

 

桜は地を蹴って遊馬の元へ一直線に走り出した。

 

「くっ!?」

 

黒アイリは大聖杯から無数の人型の怪物を呼び出して桜を迎え撃つ。

 

桜は間桐の調練で凛よりも体が不安定でまだ完全に宿した英霊の力をコントロール出来ておらず、宝具を使用することが出来ない。

 

しかし、驚異的な身体能力で人型の怪物の攻撃を次々と躱していき、まるで舞を踊るように軽やかに進んでいき、確実に遊馬の元へ向かう。

 

「桜ちゃん……バーサーカー!桜ちゃんの援護を頼む!!」

 

雁夜は必死に戦う桜のためにバーサーカーを向かわせ、化け物を斬り伏せて行く。

 

その光景を見てイシュタルはフルフルと震えていた。

 

「……アーチャー」

 

「何だ?」

 

「全然状況が理解出来ていないけど、幼い私と桜があそこにいる子供を助けようと必死に戦っている……それを黙っているわけには、いかないわよね!」

 

「当たり前だ。凛、その英霊の力……君に扱えるのか?」

 

「当然、私を誰だと思っているの?でも、流石にここじゃあ宝具は使えないけど、援護射撃ぐらい出来るわ!さぁて、私とアーチャーの最強コンビを見せてあげましょう!」

 

「別に最強コンビという訳でもないが、まあ良いだろう」

 

イシュタルは巨大な弓である『天舟マアンナ』を構え、エミヤは黒弓を投影して次々と矢を放っていく。

 

パールヴァティーは三叉槍を構えて行こうとするとメドゥーサが立ち塞がった。

 

「……サクラ」

 

「ライダー!」

 

「あなたが女神の依り代となり、戦場に現れたことを私は好ましく思っていません。あなたには戦って欲しくない……」

 

「ライダー……でも、私は……」

 

「ええ、分かってます。だからこそ、私はあなたを守る為に共に戦います。行きましょう、サクラ」

 

メドゥーサは短剣を構え、パールヴァティーと横に並び立つ。

 

「ありがとう、ライダー!」

 

「あなたの背中は私が守ります。ですから、思いっきり行ってください」

 

「うん!」

 

パールヴァティーとメドゥーサは共に走り出して化け物を倒していく。

 

他のサーヴァント達もそれに続き、大聖杯から次々と溢れ出てくる化け物を倒していく。

 

そして、黒アイリから解放された遊馬はホープ剣と原初の火で化け物を倒していくが、余の数に突破出来なくなっている。

 

アストラルも遊馬を奪還するためにコントロールを切り替えた希望皇ホープレイVで化け物を焼き尽くしていくが、無限に増殖していく化け物に対処しきれない。

 

やがて、大量の化け物に覆い尽くされ、希望皇ホープレイVが破壊されてしまった。

 

「くっ、数が多すぎる!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「えっ!?」

 

遊馬が呼ばれて振り向くと、数多の化け物を潜り抜け、手を伸ばして飛んできた桜の姿が目に映った。

 

遊馬はホープ剣を消して手を伸ばし、桜がその手をしっかりと握りしめ、そのまま引き上げた。

 

桜は遊馬をお姫様抱っこで抱き上げると再び足に力を込める。

 

「しっかり掴まってて!」

 

「えっ!?あっ、どわぁああっ!??」

 

桜は全力疾走で駆け抜け、風の如きスピードで化け物の大群を一気に潜り抜けてアストラルの元へと運んだ。

 

まるでジェットコースターのような激しい揺れに少し酔いながら遊馬はゆっくりと降ろされた。

 

「さ、桜ちゃん……サンキュー、助かったぜ」

 

「うん!どういたしまして!」

 

「それにしても大きくなったなぁ……妹分が俺よりも大きくなってるって兄貴分としてかなり複雑だぜ」

 

「遊馬、感傷に浸るのは後にしろ。No.96が……」

 

アストラルに言われ、下を見るとNo.96が倒れこみ、体が点滅しながら消滅しかかっていた。

 

「おい!お前、大丈夫か!?」

 

「う、うるせぇ……それよりも、何で、俺を助けた……?」

 

「……そんな口を聞けるならまだ大丈夫だな。アストラル、とりあえずこいつを皇の鍵の中で休ませてやってくれ」

 

「……いいのか?」

 

「ああ。こいつとの決着は後でちゃんと着けるからさ」

 

「……分かった。君の判断に任せよう」

 

アストラルは手を輝かせ、No.96を粒子化して皇の鍵の中へと移動させる。

 

皇の鍵の中なら力を失ったNo.96も徐々に傷を癒せるはずである。

 

「まずはあそこにいる黒アイリを倒さなければ……このままだとジリ貧だ」

 

「大聖杯ごとぶっ倒すってことはできないか?先生!」

 

エルメロイII世に知恵を借り、タバコを吸って紫煙を吹かせながら考えを一瞬でまとめて答えを出す。

 

「聖杯の泥は言わば大樽一杯に貯まったニトログリセリンだ。それなら、樽の中身の爆発力を更に封じ込めるだけの火力で樽ごと一気に吹き飛ばす……荒療治だが、今はこれしかない」

 

「火力、ってことは……」

 

「ここは私にお任せください」

 

「大聖杯を全て消し尽くしてやる」

 

それはアルトリアとオルタの二人だった。

 

二人の聖剣であり、光を打ち出す神造兵器である約束された勝利の剣なら大聖杯を一気に吹き飛ばすことができる。

 

「遊馬、令呪を使って二人をブーストさせるんだ」

 

「オッケー!後は、確実に黒アイリを倒す。その為には……」

 

「分かっている、遊馬。ZEXALだ!」

 

「おう!桜ちゃんと凛ちゃんがあんなに頑張ったんだ。俺たちもかっこいいところを少しは見せないとな!!」

 

「フッ……そうだな」

 

遊馬とアストラルは確実に大聖杯と黒アイリを倒す為、そして幼いながらも命をかけて戦ってくれた凛と桜のために全力を尽くす。

 

「かっとビングだ!俺は俺自身と!!」

 

「私で!!」

 

「「オーバーレイ!!!」

 

遊馬とアストラルは赤と青の光となって天に昇り、その力を知らない全ての者が驚愕した。

 

「「俺達/私達、二人でオーバーレイ・ネットワークを再構築!!!」」

 

二つの光である遊馬とアストラルが一つに交わるように交差し、巨大な金色の『X』の光を放ちながら地面に垂直落下する。

 

「「遠き魂が交わる時、語り継ぐべき力が現れる!!!」」

 

遊馬とアストラルの肉体と魂の全てが一つに交わり、究極の力がその姿を現わす。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

希望と絆の英雄、ZEXAL。

 

その顕現にアイリ達は驚愕し、対峙した黒アイリは困惑した。

 

「な、何が起きている……?お前達は、一体何なのだ!?」

 

「「俺/私は異世界の英雄、ZEXAL!俺/私のターン!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!」」

 

ZEXALは右手を金色に輝かせてシャイニング・ドローをし、更に甲に刻まれた令呪を輝かせる。

 

「「令呪によって命ずる!アルトリア!オルタ!その手に持つ最強の聖剣を持って、大聖杯の全ての呪いを吹き飛ばせ!!」」

 

「「承知!!」」

 

アルトリアとオルタは約束された勝利の剣を構え、その刀身に魔力を込めてそれぞれの聖剣から眩い金色の光と黒色の光を放つ。

 

聖剣に魔力が最高潮に込められるまでの間にZEXALは二人にとっての最強の剣士を呼び出す。

 

「「魔法カード!『グローリアス・ナンバーズ』発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地の『No.』Xモンスター1体を特殊召喚する!蘇れ、希望皇ホープ!!」」

 

空中にナンバーズの独特な数字の刻印を円に並べたものが浮かび上がり、地中から希望皇ホープが這い上がるように蘇った。

 

「「その後、自分はデッキから1枚ドローする!シャイニング・ドロー!!」」

 

更にもう一枚、シャイニング・ドローでカードを創造し、グローリアス・ナンバーズのもう一つの効果を使用する。

 

「「グローリアス・ナンバーズの更なる効果!墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの『No.』Xモンスター1体を対象として発動する!手札1枚をそのモンスターの下に重ねてオーバーレイ・ユニットとする!」」

 

手札1枚を希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットにし、これでZEXALの勝利の方程式が全て揃った。

 

そして、それと同時にアルトリアとオルタの準備が整った。

 

「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。受けるが良い!」

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!」

 

並び立つ二人は呼吸を合わせ、巨大な光を放つ聖剣を振り上げ、二人同時に振り下ろす。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!!」

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!!」

 

二つの聖剣から放たれた二つの極光。

 

それは化け物を一掃し、大聖杯と黒アイリに襲いかかる。

 

「あぁあああああああああっ!!?ま、まだだ……まだ我は消えぬ、消えてなるものかぁああああああっ!!!」

 

黒アイリは大聖杯から更なる膨大な魔力を得て何とか聖剣の極光を防ごうとする。

 

このままでは聖剣の極光が逆に黒アイリに喰われて膨大な魔力を得てしまう。

 

しかし、黒アイリは知らなかった。

 

絶望の中には必ず、希望の光があることを。

 

「「希望皇ホープで攻撃!!!」」

 

「何!?」

 

ZEXALが命じ、希望皇ホープは左腰のホープ剣を抜いて黒アイリに向かって飛翔する。

 

「「この瞬間!希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、攻撃を無効にする!ムーンバリア!!」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込み、振り下ろそうとしたホープ剣を消滅させた。

 

「自ら攻撃を消して、何のつもり!?」

 

「それはこうするんだよ!」

 

「私たちと希望皇ホープの最大パワーを見せてやろう!」

 

ZEXALは手札からカードを1枚デュエルディスクに挿入する。

 

「「手札から速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』を発動!!モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にして、もう一度攻撃が出来る!!!」」

 

希望皇ホープの真紅の目が鋭く輝き、消滅したホープ剣が現れ、左手で右腰のホープ剣を引き抜いて構え、ダブル・アップ・チャンスの効果を受けて二つの剣の刃が眩い金色の光を放つ。

 

「魔力が増加した!?」

 

ダブル・アップ・チャンスの効果で攻撃力が2500の2倍の5000まで上昇した。

 

そして、ZEXALは更なる力でホープの力を高める。

 

「「更に手札から速攻魔法!『ムーンバリア』!!」」

 

それは希望皇ホープがムーンバリアで攻撃を無効にするイラストが描かれていた。

 

「「モンスターの攻撃が無効になった時、自分フィールドの『希望皇ホープ』Xモンスター1体を対象として発動できる!そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる!」」

 

ダブル・アップ・チャンスにチェーンで発動してムーンバリアの効果により希望皇ホープの元々の攻撃力である2500の2倍の5000となり、更にそこからダブル・アップ・チャンスの本来の効果が発動し、5000の2倍の10000へと攻撃力が上昇した。

 

『ホォオオオオオオーープ!!!』

 

希望皇ホープから闇を照らす光の如き聖なる光を放ち、それが真紅の炎のようなオーラを纏う。

 

実に4倍の攻撃力上昇となり、背中に火星の幻影を見せ、二つのホープ剣と背中の双翼を真紅に輝かせながら黒アイリに突撃する。

 

「「希望皇ホープ!!ホープ剣・マーズ・スラッシュ!!!」」

 

振り下ろした真紅の双剣が黒アイリを斬り裂き、その直後に聖剣の極光が濁流のように呑み込んだ。

 

「美しい……」

 

黒アイリは希望皇ホープの姿を最後に目に焼き付けて消滅していった。

 

聖剣の極光は大聖杯の魔力を泥を全てなぎ払った。

 

そして、光が鎮まる頃には僅かな魔力の粒子が湯気のように漂っていた。

 

「終わった、のか……?」

 

「大聖杯から感じる呪いのような邪悪な魔力は感じられない……やったのだろう」

 

大聖杯から世界を破壊する泥の魔力は全て消滅し、一同は安心してホッとため息を吐いたり、その場に座り込んだりしていた。

 

これでこの特異点は解決した──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃははははははは!いやー、まさかあんな無茶苦茶な方法で大聖杯をぶっ壊すとはやるじゃねえか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──はずだった。

 

大聖杯の塵のような魔力が収束し、一つに固まると黒い人型のようなものが現れた。

 

ZEXAL達はすぐに警戒して戦闘態勢を取ると、黒い人型はその姿を露わにしていく。

 

「よう、世界を救う異世界の勇者様よ」

 

そして、現れたのは全身に痛々しい刺青を刻み、赤いスカーフのようなものを巻いた黒髪の少年の姿をしていた。

 

「誰だ、お前……」

 

「あいよー!オレ様は最弱英雄アヴェンジャー!またの名を、『この世の全ての悪』……『アンリマユ』様だぜ!以後お見知り置きを」

 

「「アンリマユ!??」」

 

それは第三次聖杯戦争でアインツベルンの魔術師が召喚したサーヴァント。

 

そして、敗北して大聖杯に取り込まれた際に願望機としての機能を汚染した元凶でもある存在だった。

 

何故アンリマユが現界したのか困惑する中、アンリマユは少年のような笑みを浮かべながらZEXALに向かって口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者様よ、オレ様をお前さんの仲間にしてくれねぇか?」

 

「「…………は???」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも突飛な発言にZEXALは唖然としてしまうのだった。

 

特異点を終結させる最後の対話がZEXALに待ち構えるのだった。

 

 

 




凛ちゃん&桜ちゃん、デミ・サーヴァント化!!!
いやー、これは色々悩んで考えた挙句やってしまいました。
開放召喚はいわゆる変身みたいな感じでプリヤの夢幻召喚みたいなものです。
エレシュキガルをどうしようか悩んでいたところ、凛ちゃんがいるじゃないかと思い、その身に宿しました。
凛ちゃんがデミ・サーヴァント化するので桜ちゃんもしたいなと思い、ふとプリヤでサクランスロットを見つけて思いつきました……。
これはどうしても、どうしても書きたかったんです!
一応バーサーカーのランスロットとは別枠みたいなものです。
プリヤのサクランスロットはもはや別物みたいですからね……。
サクランスロットは怖いですけどここでは妖艶な感じなので大丈夫です!

そして、最後に出てきましたアンリマユ!
アンリマユ君は個人的に好きなキャラですので出しました。
遊馬との対話が実現すればいいなと思います。
次回、いよいよZero編最終回です!


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ナンバーズ71 捻じ曲げられた運命

これにてZero編は終了となります。
色々ありましたが、達成感はありました。


イスカンダルとダレイオスの最後の戦い。

 

それは漢と漢の一対一の決闘、殴り合いである。

 

互いに屈強な肉体から放たれるその拳、その蹴りは一撃一撃に己が全力を……魂を込めてぶつけ合う。

 

二人の体は激しく傷つき、その体は痣だらけになり、皮膚が破けて血が流れ、骨もあちこち折れている。

 

しかし、二人は決して倒れなかった。

 

最後の一瞬まで心が折れることなく、力の限り拳を振るった。

 

そして……。

 

「イス、カン、ダル……」

 

ダレイオスは倒れず、立ったまま力尽きてしまった。

 

しかしその表情はとても満足げで目を閉じながら静かに消滅していった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ダレイオスよ、楽しかったぞ……」

 

この激しい戦いの勝者はイスカンダルとなった。

 

しかし、その代償は大きかった。

 

「ライダー!お前っ……!」

 

「むっ?どうやら……余も限界らしいな……」

 

イスカンダルの体も静かに消滅し始めてしまった。

 

ダレイオスとの戦いで限界まで魔力と肉体を酷使し続けた結果、もはやその体を維持することが出来なくなっていた。

 

「余の願いを叶える事は出来なかったが、ダレイオスと魂を熱くする戦いができた……ひとまずはそれで良しとしようか……」

 

受肉し、世界を征服する願いを叶える事は出来なかったが、生前からの好敵手であるダレイオスと本気の戦いができてイスカンダルは満足していた。

 

「良かったな……」

 

「ああ……」

 

「あの、うまくは言えないけど、その……あんなに凄い戦いは初めて見た。言葉には言い表せないほどに心が……いや、魂が熱くなって震えた!」

 

最後まで戦いを見届けたウェイバーは見ているだけでも体が熱くなり、今でも手が震えるほど興奮していた。

 

「そうか……よくぞ、最後まで見届けてくれた。ウェイバーよ。お前が余のマスターで本当に良かった……」

 

「な、何お前らしくないことを言っているんだ、この馬鹿!消える前に、お前に令呪を使わせてもらう!!」

 

イスカンダルらしくない言葉にウェイバーは涙を浮かべながら手で隠していた令呪を見せる。

 

「ウェイバー……?」

 

まだ一つも使ってない令呪を輝かせながらウェイバーは叫ぶ。

 

「令呪によって命ずる!!ライダー!いつか必ず、受肉して再び世界を征服する願いを叶えろ!」

 

「!?」

 

それはこの聖杯戦争で叶えられなかったイスカンダルの願いを必ず叶えろというウェイバーの願いが込められた。

 

「重ねて命ずる!!未来を救うために戦っているあの子供……ツクモユウマの力に、未来を救う星の一つになれ!!」

 

二つ目の令呪は未来を取り戻すために戦う遊馬の力になって欲しいと言う個人的な願いだが、イスカンダルは征服する世界が滅ぼされるのを黙っているわけにはいかないので深く頷いて了承した。

 

「うむ……承知した!」

 

「更に重ねて命ずる!ライダー、いつかどこかで必ず再会しよう!その時は、とことん語り尽くして、一緒にゲームをしまくろう!」

 

そして、最後の令呪……それはいつの日か奇跡が起きた時、その時は大人になった自分と再会し、イスカンダルがこの時代に召喚されてハマったテレビゲームを一緒にやろうと約束する。

 

イスカンダルはその約束の令呪に満面の笑みを浮かべながらウェイバーの頭を撫でる。

 

「ああ!その時を楽しみにしているぞ、我が友よ!!」

 

イスカンダルはウェイバーを友と認め、最後にウェイバーの肩に手を置きながら静かに消滅した。

 

消滅したイスカンダルからフェイトナンバーズのカードが残り、ウェイバーは歯を噛み締めながら拾う。

 

「ライダー……」

 

ウェイバーは涙を拭いながら寂しさと悲しさに耐えながら大聖杯に向かう。

 

 

大聖杯が崩壊し、大聖杯の汚染の原因であるアンリマユが現れ、遊馬との契約を望んだ。

 

「お前を仲間に……?契約して俺のサーヴァントになるって事か?」

 

「その通り、そんじゃあ早速オレ様と──」

 

「待て」

 

ZEXALに近づこうとするアンリマユにキリツグが立ち塞がり、銃を構えて銃口をアンリマユの額に向ける。

 

「何が目的だ、アンリマユ。聖杯を汚染した元凶であるお前が何故契約をしようとする」

 

「おいおい、そいつは言いがかりだぜ?元はと言えば全部アインツベルンが原因なんだからよ」

 

「アインツベルンが……?アンリマユ、それはどういう意味だ?」

 

聖杯の泥の元凶となったアンリマユだが、その大元の原因がアインツベルンにあると発言し、アストラルは質問をする。

 

「その声は青い精霊ちゃんだな?良いぜ、教えてやるぜ。オレ様を召喚したのは第三次聖杯戦争当時のアインツベルンだ。しかも、7種のサーヴァントのクラスとは別のエクストラクラス、『アヴェンジャー』でな」

 

「エクストラクラス、アヴェンジャー!?」

 

「簡単に言えば復讐者に該当する英霊が召喚される。裁定者のルーラーは知ってるよな?その対極のクラスさ。まあ、説明はこのくらいにしておいて、とにかくアインツベルンがルール違反を犯してオレ様を召喚したんだよ。仮にオレ様を召喚しなかったら聖杯が汚染されることはなかったって事だ。ぶっちゃけアインツベルンのクソジジイが元凶って事だな」

 

「耳が痛い話ね……」

 

聖杯の泥の大元の元凶がアインツベルンと聞き、アイリは辛い表情を浮かべた。

 

すると、崩壊した大聖杯から大量の光の粒子が溢れ、アイリの周囲に集まる。

 

「な、何!?」

 

「アイリ!?アンリマユ、貴様ぁっ!!」

 

キリツグが眼光を光らせてアンリマユを殺す勢いで攻撃しようとする。

 

「ちょっ、待てって!俺は何もしてねえから!ほら、見ろ見ろ!」

 

「何!?」

 

光の粒子がアイリの中に入り込み、その身を光が包むと膨大な魔力が溢れ出る。

 

そして、光が止むとアイリの姿が大きく変化した。

 

白のコート姿から赤いリボンの装飾が施された純白のドレスを身に纏い、その微笑みはまるで聖母のように優しいものだった。

 

「キリツグ……」

 

アイリはキリツグに近付くとそのままギュッと抱きしめた。

 

今までとはまるで違うアイリの行動に皆が驚く中、キリツグは目を見開きながらアイリを見つめる。

 

「アイリ……?」

 

「キリツグ……私の最愛の旦那様、やっと会えたわ……」

 

「っ!?アイリ、君は……!?」

 

「今の私はあなたの妻であり、イリヤの母であり、そして……聖杯でもある」

 

アイリの胸から光り輝く金色の杯……『聖杯』が具現化し、この場にいる全ての者達に光を与えた。

 

光は癒しの力を宿し、戦いで消耗した体力や魔力を回復させた。

 

キリツグは信じられないといった様子でアイリの頬を撫で、声を震わせながら語りかける。

 

「アイリ……君は覚えているのか?その……」

 

「ええ、覚えているわ。あなたと出会った時のこと、深く愛し合った時のこと、イリヤが生まれた時のこと、あなたとイリヤと一緒に家族の時間を過ごした時のこと……全て覚えているわ」

 

「アイリ……すまなかった。僕のせいで……」

 

「謝らなくていいの。こうしてまた、あなたと会えることができたから……」

 

「アイリ……!」

 

キリツグはアイリを強く抱きしめた。

 

側から見ればアイリが壊れてしまうかと思うぐらい強く、強く……そして、愛おしく抱きしめていた。

 

その光景にアルトリアとエミヤは驚愕の一言だった。

 

「シロウ……あれこそが私が知っているアイリスフィールです。キリツグの妻で、イリヤスフィールの母……間違いありません」

 

アルトリアはそこにいるアイリスがかつて共に行動をし、絆を深めたアイリ本人だと確信した。

 

「まさか、爺さんと同じように記憶を宿したのか……!?」

 

キリツグはナンバーズに触れたことで衛宮切嗣としての記憶を宿し、アイリはナンバーズに触れてはいないはずなのに別世界のアイリの記憶を宿している。

 

「……アンリマユ、お前何をした?」

 

「いや、だからオレ様は何もしてねえって。多分、大聖杯の魔力のカケラが聖杯の器であるアイリスフィールに集まって、それが聖杯として覚醒させたんじゃね?よくわかんねえけど、この大聖杯には色んな人物の記憶がごちゃまぜになっていてさ、多分この大聖杯にあるアイリスフィールとしての記憶を全て入り込んだんじゃね?」

 

アンリマユが語ったそれが真実なのか、何が起きたのか理解できていない。

 

「それじゃあ、鬼が妻とイチャイチャしている間に、オレ様と契約タイムにしますか!」

 

「……別に良いけど、どうしてそこまで俺と契約したいんだ?」

 

「……お前さんが捕まってる時にちょいと記憶を覗かせて貰った。いやー、お前さん中々ハードな人生を送ってきたね。そん中でオレ様的に一番驚いたのは裏切った友達や仲間を憎みもせずに救おうとしたところさ。普通の人間なら怒りが爆発したり憎しみを宿したりするところなのによ」

 

アンリマユの言葉にZEXALは頰をかきながら遊馬は自分の思いを話す。

 

「……俺はただ、失いたくないだけだ。俺の大切な人達を。例え、そいつらが敵になったとしても……それが……それが俺のかっとビングだ。俺は大切な人達を守り抜く。ただ、それだけだ」

 

「失いたくない、ねぇ……人間としてごく当たり前の願いだが、お前さんの場合はそれがあまりにも強過ぎる。歳の割には業の深い子供だな」

 

この世の全ての悪と呼ばれるアンリマユは一見、正しい存在であると思われる遊馬を業が深いと称した。

 

「うるせえ。人間は欲望が無いと生きていけない。欲望の力、カオスがあるからこそ前を向いていけるんだ。俺はこのカオスを受け入れているからこそ、常に前を向いて走り続けられるんだ」

 

遊馬の欲望を否定せずにそれを真っ直ぐに受け入れるその姿勢にアンリマユは更に遊馬を気に入った。

 

「良いねぇ!やはりお前さんは面白い人間だ。いいや、下手をしたら『化け物』に匹敵する精神だ」

 

「化け物って……俺は人間だぜ?」

 

「精霊と合体した挙句、よくわかんねえとんでもない姿に変身した野郎が人間って言えるんですかい?」

 

下手をすれば人間という枠を超えた存在であり、英霊たちよりも摩訶不思議な遊馬が本当に人間なのか疑問に思ってしまう。

 

「うん。正真正銘の人間だ。だって父ちゃんと母ちゃんも人間だし」

 

「うん、って……じゃあ何者なんだよあんたは……」

 

「俺は九十九遊馬……いや、今はZEXALだな。ほら、契約するなら手を出せよ」

 

「はいよ!」

 

アンリマユが手を伸ばし、念のためマシュたちが武器を構えて警戒する中、ZEXALはアンリマユの手を取った。

 

アンリマユの体が光に包まれ、何の問題なくフェイトナンバーズが出現した。

 

フェイトナンバーズからアンリマユが出て来ると興味深そうにカードを見つめる。

 

「ほぉー。そいつが契約の証か」

 

「後でこいつを使って俺たちの拠点で召喚するから」

 

「了解!おっと、そろそろ時間切れのようだな……」

 

大聖杯が破壊されたことでアンリマユの体が消滅し始めた。

 

「なぁなぁ、消える前に一ついいか?」

 

アンリマユは馴れ馴れしくZEXALの肩を組んでマシュ達に聞こえないように小声で話しかける。

 

「何?」

 

「カルデアにさ……スタイルの良い子、いる?ほら、あそこの片目が髪で隠れたお嬢ちゃんみたいにさ」

 

スタイルがとてもいいマシュをニヤニヤと性的な目で見るアンリマユにZEXALは冷めた表情をする。

 

「お前は何を言っている」

 

「俺だって男だからさ、それぐらいの性欲はあるさ。なぁ、どうだ?」

 

まるで男子高校生みたいな話をするアンリマユにZEXALはジト目をしてため息をつきながら口を開く。

 

「……いるよ、たくさん。俺ぐらいの歳から年上のお姉さんも……これで満足か?」

 

「バッチリです。遊馬くんよ、後で色々女について語り合わないか?」

 

本当にこいつがこの世の全ての悪なのか疑問に思いながらZEXALは右拳から光を放つ。

 

「アンリマユ、いい加減に……」

 

「え?な、何、その光っている右手は……?何で拳を握りしめているのかなぁ!??」

 

「しやがれっ!!鉄拳聖裁!!」

 

「アパァッ!?」

 

ZEXALはマルタ直伝の聖なる拳でアンリマユをアッパーで殴り飛ばし、宙を舞いながら地面に撃沈する。

 

「ゴフッ……兄ちゃん、いいパンチしてるね……お前さんなら世界を狙えるぜ」

 

アンリマユはいい笑顔をしながらZEXALにグッドサインを見せ、消滅した。

 

「何だったんでしょう、彼は……?」

 

「さぁ?」

 

「私達には分からない」

 

マシュの呆然とした呟きにZEXALは合体を解除し、遊馬とアストラルに戻りながらそう答えた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「お兄様!」

 

アンリマユが消滅し、敵が本当に全ていなくなったところに桜と凛が駆け寄る。

 

凛の手には遊馬の聖杯が握られており、それを遊馬に近づけると光の玉となって遊馬の中に戻った。

 

「サンキュー、それにしても二人とも大きくなったな……」

 

「不思議なお姉さんが力を貸してくれた」

 

「私はエレシュキガル?聞いたことのない英霊が力を貸してくれたわ……ん?」

 

桜と凛の体が光に包まれると成長した姿から元の幼い姿に戻った。

 

「戻った……」

 

「また使えると思うけど……」

 

無我夢中で戦ったため、どうやって英霊の力をあそこまで使ったのか分からなくなってしまい自分の体をペタペタと触る。

 

そこに二人の女性が静かに近づく。

 

「ふーん、その子がアーチャーたちのマスターってことね」

 

「何だか不思議な感じのする男の子ですね」

 

イシュタルとパールヴァティーの二人はエミヤたちサーヴァントのマスターである遊馬を見つめる。

 

「えっと……エミヤ、この桜ちゃんと凛ちゃんによく似た二人はどちら様?」

 

「……すまない、今それを答えられる気力がない」

 

近くにいたエミヤは何故かとても疲れ切った表情をしており、胃のところを手で押さえていた。

 

「何があったんだよ……」

 

「イシュタルとパールヴァティー。君達はこれからどうするつもりだ?特に目的が無いならば、我々と共にカルデアと呼ばれる施設に来ないか?」

 

アストラルが遊馬の代わりに二人をスカウトし、二人は既に答えが決まっていたのかすぐに返事を出す。

 

「そうねぇ、大体のことはさっきアーチャーから聞いて今の事態はわかったからね。流石にこの子達をマスターにできないから良いわ。遊馬君だっけ?かなり良いマスターみたいだから契約しても良いわよ」

 

「私もです。それに、先輩とライダーと一緒にいられるならこちらからお願いしたいくらいです」

 

「分かった、じゃあこれからよろしくな」

 

「ええ。よろしく頼むわよ、小さなマスター君」

 

「よろしくお願いします、マスターさん」

 

イシュタルとパールヴァティーは遊馬と握手を交わして契約し、二枚のフェイトナンバーズが現れる。

 

二人の契約が終わると次はケイネスが近づいてきた。

 

「少年よ」

 

「ん?何だ、ケイネス先生?」

 

「うちのランサーと契約してくれないか?」

 

「あ、主!?」

 

「え?ディルムッドを?」

 

「確か君は一度でも契約したサーヴァントをフェイトナンバーズにすればほぼ確実にカルデアで召喚できるはずだったな?ランサー……ディルムッドは対人戦や対魔戦に秀でた英霊だ。未来を救う戦いに役立てるだろう」

 

ケイネスは真剣な面持ちでディルムッドに視線を向けると、ディルムッドはその場ですぐに跪いた。

 

「ランサー」

 

「はっ!」

 

「此度の聖杯戦争、事情が事情なだけにあまり貴様は役に立てなかった」

 

「も、申し訳ありません……」

 

「その代わり、貴様の全てをかけて少年に忠義を尽くせ。これが私が下す最後の命令だ……その務めを果たせ!!」

 

ケイネスはディルムッドのマスターとしての最後の命令を下し、ディルムッドは自分を部下だと認めてくれたのだと思い、内心喜びながら深く頭を下げた。

 

「はっ!必ずやその務め、果たしてご覧にいれます!!」

 

ディルムッドはケイネスと最後の命令を聞き入れ、遊馬の元へ向かう。

 

「少年……いや、新たな我が主よ。これからよろしくお願いします」

 

「頼りにしてるぜ、ディルムッド。よろしくな」

 

「はっ!」

 

遊馬はディルムッドとも契約を結び、3枚目のフェイトナンバーズを手に入れた。

 

すると、洞窟内に誰かが走ってくる音が響いた。

 

汗だくになりながら必死に走ってきたのはウェイバーだった。

 

「ツクモユウマ!」

 

「ウェイバー?」

 

ウェイバーは息を切らしながら歩き、右手に持っていたものを遊馬に差し出した。

 

「これは、フェイトナンバーズ?」

 

「ライダー……イスカンダル王のものだ。あいつは消えたよ……お前のダレイオス王に勝ったんだ!!」

 

ウェイバーはイスカンダルがダレイオスに勝ったことを誇らしげに話す。

 

「おっさん……負けたのか……」

 

「ツクモユウマ。お前にこいつを渡す」

 

「イスカンダルのフェイトナンバーズを?良いのか?」

 

「これを僕が持っていても意味はない。それに、ライダーに約束してもらった。未来を守るためにお前に協力してもらうって。だから、受け取ってくれ」

 

ウェイバーとイスカンダルの強い絆が生んだ約束。

 

その決意が込められた瞳に遊馬は頷いてイスカンダルのフェイトナンバーズを受け取る。

 

「分かった。あんた達の思い、確かに受け取ったぜ」

 

「ああ!」

 

ウェイバーは晴れ晴れとした表情をして遊馬にフェイトナンバーズを託す。

 

そこにウェイバーの未来の存在……エルメロイII世が近づく。

 

「お前」

 

「な、何だよ……」

 

「一つお前にアドバイスをしてやる。イスカンダル王が歩んできた征服の道を逆走してその足で歩いてみろ。必ずお前の見聞が広がる」

 

「ライダーの歩いてきた征服の道……分かった、そうさせてもらう」

 

ウェイバーは聖杯戦争の次の目的を見つけ、まだ見ぬ未来の道を歩き始めるのだった。

 

その姿にエルメロイII世は「少しはマシになったか……」と小さく呟いて笑みを浮かべた。

 

そして、崩壊した大聖杯が完全に壊れ、サーヴァントを維持する力を失い、第四次聖杯戦争にて召喚されたサーヴァントが消滅し始める。

 

アルトリアとジルは一足先にフェイトナンバーズに入ってカルデアに送られ、それ以外の五騎のサーヴァントは全て消滅していった。

 

今度はこの世界の特異点を解決したことにより、遊馬達にも別れの時がきた。

 

遊馬はマシュ達とイシュタルとパールヴァティーをフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまうと聖杯として覚醒したアイリが近づいてきた。

 

「ねえ、私もあなた達についてきて良いかしら?大聖杯が壊れてアインツベルンに帰れないし……」

 

アインツベルンの悲願である聖杯を手に入れることが出来なくなり、アイリに帰る場所が無くなってしまった。

 

それには遊馬達にも責任があるのでカルデアにいるオルガマリーと連絡を取って許可をもらう。

 

『ええ、良いわよ。そもそも私達カルデアの目的は特異点の聖杯の回収もあるし、彼女を保護するわ』

 

「オッケーだってさ。よろしくな、アイリさん」

 

「ええ。あ!あと、もう一つお願いしたいんだけど……うちのキリツグと契約してくれないかしら?」

 

「アイリ!?」

 

「だってこのままだとまたキリツグと離れ離れになってしまうじゃない。だから、今ここで契約してカルデアですぐに呼んでもらうのよ。それにキリツグだって、シロウ君と少しでも一緒にいたいでしょう?ねっ?お願い」

 

「くっ……」

 

アイリはせっかく再会したキリツグとまたすぐに離れ離れになるのは嫌なので遊馬と契約してもらうことを提案した。

 

キリツグはすぐに断ろうと思ったが、愛する妻と息子とまた一緒にいられるという欲望に惹かれてしまい、心が大きく揺らいでしまう。

 

「なぁ、キリツグさん。確かあんた、正義の味方になりたかったんだっけ?」

 

「……それがどうした?」

 

「俺たちさ、人類の未来を救うために戦っているんだけどさ、それって……言い方を変えれば正義の味方の行動だよな?」

 

「それは……」

 

「キリツグさん、一緒に戦わないか?人類の未来を救うために、そして……大切な家族を守るためにさ」

 

遊馬は無意識にキリツグの心を的確に刺激する誘いをする。

 

正義の味方になりたかったキリツグにとって人類の未来を守るカルデアで共に戦うことは喜ばしいことだ。

 

それに加え、生き別れてしまった愛する妻と息子ともう一度一緒にいられる。

 

これ以上ないほどにキリツグの望むものが揃っていた。

 

「……分かった。僕の力を君に貸そう、小さなマスター君」

 

「よろしくね、違う世界のマスター君」

 

「おう!よろしくな!」

 

遊馬はキリツグとアイリの二人と契約した。

 

アイリは聖杯として覚醒したことでサーヴァントとして扱われ、フェイトナンバーズが誕生した。

 

キリツグはこの世界で抑止力として召喚されたので契約してフェイトナンバーズから出た後にすぐに消滅してしまい、アイリはそのままフェイトナンバーズの中で入っている。

 

これで全てのサーヴァントと契約が完了し、遊馬は最後に別れの挨拶をしようとした……その時だった。

 

「遊馬君!」

 

「へっ?な、何?時臣さん……」

 

時臣は鬼気迫る表情で遊馬に駆け寄り、両肩に手を置いた。

 

「君に……君に頼みがある……」

 

「え?頼みって……?」

 

突然の時臣の頼みに困惑する遊馬。

 

震えている時臣の口から語られたのは驚くべきものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛と桜……二人を君達の世界に連れて行ってもらえないか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その内容に遊馬とアストラルは驚愕した。

 

「はぁ!?何言ってるんだよあんたは!?」

 

「遠坂時臣、何故それを頼むのだ?」

 

「このままでは……凛と桜が危険な目にあってしまうからだ……!」

 

「危険な目!?どういう意味だよ!?」

 

「人間が英霊の力を宿していると魔術協会が知れば二人は『封印指定』されてしまう!そうなったらホルマリン漬けと同等のことをされてしまうんだ!!」

 

封印指定とは魔術協会が奇跡ともいえる希少能力ゆ永遠に保存するために対象の魔術師を『貴重品』として優遇し、『保護』するが、それは名目で一生涯幽閉し、その能力が維持された状態で保存する……言わばホルマリン漬けにされると同じなのだ。

 

「何だよそれ……馬鹿じゃねえのか!?」

 

「ふざけるな……どこまで性根が腐っているのだ、魔術師が……!!」

 

遊馬とアストラルは魔術師世界の更なる闇の一端を知り、強い怒りを抱いた。

 

元々桜と凛は封印指定を受けてもおかしくないほどの希少な素質から二人を守るために間桐家と遠坂家の加護を受けられるようにしたのだ。

 

しかし、それだけに留まらず英霊の力を宿したともなれば、最早魔術師の家門の加護を受けても封印指定が逃れられない。

 

「私達ではもう二人を守ることはできない……頼む、凛と桜を……!!」

 

時臣は深く頭を下げて遊馬に頼み込む。

 

未来を救う最後のマスターであり、異世界の英雄である遊馬なら凛と桜を守ってくれる……時臣は最後の希望を信じて遊馬に託すことを決めた。

 

遊馬はあまりの予想外すぎる事態に悩んでしまう。

 

せっかく親子の絆を取り戻したのに凛と桜は両親と離れ離れにならなければならなくなってしまった。

 

幼い頃に両親が行方不明になった遊馬にとってもそれはあまりにも辛い決断だった。

 

しかし、こうなってしまった原因の一端は遊馬自身にもあった。

 

偶然に偶然が重なってしまった結果だが、遊馬はその事を深く悔み、手を握りしめて耐えながら答えを出す。

 

「分かった……二人は俺が必ず守る。約束する……」

 

遊馬は桜と凛、二人を必ず守る決意をする。

 

「遊馬君……ありがとう……本当にありがとう……」

 

時臣は涙を流しながら遊馬に感謝をした。

 

そして、時臣は呆然とする凛と桜の元に行き、二人を抱きしめながら最後の別れの挨拶をする。

 

「凛、桜……もう二度と私達には会うことは出来ない。だが、これだけは覚えていてくれ。私と葵は二人を愛している」

 

「お父様……」

 

「お父さん……」

 

「私は魔術師になれとは言わない。根源を目指せとも言わない。君たちの望む道を遊馬君と共に進んでくれ……」

 

「はい……!」

 

「うん……!」

 

時臣の父親としての最後の願いの言葉を送られ、凛と桜は涙を流しながら強く頷いた。

 

そして、二人を大切に思っている雁夜は頭を撫でながら最後の言葉を送る。

 

「えっと……俺は時臣みたいに洒落た事は言えないけど、これだけはハッキリ言える。桜ちゃん、凛ちゃん。俺はいつでも君達の幸せを願っている。必ず、幸せになってくれ」

 

「「おじさん……!」」

 

桜と凛は堪らず雁夜に抱きついて涙を流す。

 

雁夜は二人の背中をポンポンと叩き、二人を離して遊馬の元へ行かせる。

 

「遊馬君、約束してくれ。桜ちゃんと凛ちゃんを幸せにしてやってくれ!」

 

「ああ!約束する!」

 

遊馬と雁夜の間で男と男の約束を交わした。

 

そして、遊馬は腰を下ろし二人と視線を合わせる。

 

二人は涙を流したが、既に決意を固めた様子だった。

 

何故ならそれは、初めから分かっていたからだ。

 

光に包まれ、英霊の力を宿す時からこうなるかもしれないと……。

 

しかし、それでも二人は願った。

 

大切な人を守るための力を手にする為に。

 

「行こうか」

 

「「うん」」

 

遊馬は桜と凛の手を取り、英霊の力を宿しているので契約を交わした二人は二枚のフェイトナンバーズへと納められた。

 

そして、遊馬は二人が入ったフェイトナンバーズをデッキケースにしまい、アストラルは皇の鍵の中に入る。

 

カルデアからレイシフトが開始され、遊馬の体が光に包まれ、冬木の地から消えてカルデアへ戻った。

 

 

 




いやー、長かった。
Zero編はイベントの話では一番長い話になりました。
第4章のロンドン編は数話カルデアでの話を挟んでから始まるので7月からになると思います。

アイリさんは大聖杯の魔力を受けて天の杯へと覚醒しました。
これしか思いつかなかったので……。

アンリマユは遊馬の精神力の高さを士郎とはまた違う化け物と称して気に入りました。
遊馬とアンリマユはいい悪友になれそうな感じがします。

そして、桜ちゃんと凛ちゃんをカルデアに迎える事になりました。
これには賛否両論あるかもしれませんが、オリジナルティを出したかったのと私自身の願望もあってこうしました。
これから遊馬の妹分として活躍すると思いますのでよろしくお願いします。

次回はカルデアのドタバタかエミヤの第二次正妻戦争を書こうかなと思います。


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ナンバーズ72 母の企み

今回から数話、カルデアの日常に入ります。
第4章は多分7月末になると思うのでそれまでに書きたいことをまとめたいです。


冬木市の大聖杯の戦いが終わり、カルデアに戻った直後、遊馬とマシュ、そして……桜と凛は鬼気迫る表情をしたオルガマリーが有無を言わせずに医務室へと強制的に連れ去られた。

 

遊馬とマシュは特異点が続き、戦いの連続だったので体に異常がないか徹底的に調べられた。

 

桜と凛は聖杯の力で英霊を呼び出し、その身に宿してその力を使用した……。

 

オルガマリーとロマニの調べにより、二人は人間からある存在へと変化していた。

 

「間違いないわ……この二人はデミ・サーヴァントになっている……」

 

それはマシュと同じデミ・サーヴァント……人間が英霊と憑依融合した半英霊の存在となっていた。

 

オルガマリーはまさか二人がデミ・サーヴァントになるとは思いもよらず、新たな悩みが増えてこめかみを押さえて溜息を吐く。

 

「はぁ……まさかこんな事になるなんて……あなた達、自ら選択したとは言えその体に宿る力はあまりにも危険過ぎます。今後、私の許可なく使用することを固く禁じます」

 

「「ええっ……?」」

 

「ええっ、じゃありません。もしも勝手にその力を使ったら、そうですね……その可愛らしいほっぺが赤く腫れるまで引っ張りましょうか?」

 

「「ヒィッ!?」」

 

桜と凛はにっこりと怖い笑みを浮かべるオルガマリーに恐れて遊馬の後ろに隠れてしまった。

 

「それが嫌なら、やめなさいね」

 

「「はい……」」

 

まるでお母さんが娘を躾けるようなセリフをオルガマリーは言い、二人はお仕置きを恐れてしゅんと落ち込んでしまった。

 

「……さて、話はこれくらいにして、食堂に向かいなさい。これからあなた達の歓迎会が始まるから」

 

オルガマリーは二人の頭を優しく撫でて出来るだけ笑顔を見せた。

 

そんなに怖い人じゃないと分かると二人は笑顔を返して頷き、遊馬達と一緒に医務室を後にした。

 

医務室にはオルガマリーとロマニ、そしてアストラルが残っていた。

 

アストラルは鋭い視線で二人を見つめて口を開く。

 

「二人共……」

 

「分かっているわ。凛さんと桜さん、二人のデータは人理の戦いが終わった後にすぐに抹消するわ。データはあくまであの二人の体に悪影響が出てないか、何かあった時の対策法を確認するためだけに使うわ」

 

デミ・サーヴァントはまだ謎が多い存在なのでマシュを含む三人が今後何が起きるかわからないので人理の戦いが終わるまでの期間限定でデータを取っていく。

 

「聖杯の力で英霊を呼び出してその身に宿す……しかも体に全く悪影響が出ていない……こんな奇跡のような力、魔術協会にバレたら大変なことになるね……」

 

「ますますこの世界の魔術世界に嫌悪感が出てきた……そんな奴らに二人の未来を奪わせたりはしない」

 

「大丈夫……私が必ずそんなことをさせない。私の、命に代えても……」

 

オルガマリーはまるで自らの使命のように命を賭して遊馬達の安全を確保しようとしていた。

 

それは一度死んだ身でZEXALの奇跡で蘇ったこの命を遊馬達のために捧げようという自己犠牲の表れでもあった。

 

「……オルガマリー所長。あなたの気持ちはとても嬉しい。だが、あなたに何かあれば私たちは悲しむ……自分を犠牲にすることだけはやめてくれ」

 

「アストラル……ええ、ありがとう。でも、私に出来ることをやるだけだから」

 

オルガマリーはそう言い残すと医務室を後にして別室へと移動する。

 

アストラルはオルガマリーの自己犠牲の精神状態を危惧し、共に行動することが多いロマニにメンタルケアをするよう頼み、遊馬の元へ戻った。

 

遊馬は桜と凛を迎えに来たメドゥーサとアタランテに預かって先に食堂へ行ってもらい、遊馬達は召喚ルームへ向かった。

 

遊馬は冬木市で手に入れた5枚のフェイトナンバーズ、そして夢の中で出会い何故か手の中にあった謎のフェイトナンバーズをサークルに置いた。

 

既に四度目となる英霊召喚に遊馬は慣れた様子でマシュから渡された聖晶石を砕いてばら撒き、英霊召喚システムから眩い光が輝く。

 

「やあ、小さなマスター君……これからよろしく頼むよ」

 

最初に召喚されたのはキリツグだった。

 

キリツグのフェイトナンバーズは闇の中でナイフを構えて駆ける姿が描かれており、真名は『FNo.65 正義の暗殺者 キリツグ』。

 

「新たなマスターよ……我が槍、あなた様に捧げます」

 

キリツグの次に召喚されたのはディルムッド。

 

ディルムッドのフェイトナンバーズは赤と黄の二つの槍を構える姿が描かれており、真名は『FNo.20 輝く貌 ディルムッド』。

 

「ガハハハハッ!征服王イスカンダル、降臨だ!!」

 

ディルムッドの次に召喚されたのはイスカンダル。

 

イスカンダルのフェイトナンバーズは数万の兵を引き連れ、戦車に乗っている姿が描かれており、名は『FNo.89 征服王 イスカンダル』。

 

「百貌のハサン……我ら影の群れ、あなた様に従います」

 

イスカンダルの次に召喚されたのは百貌のハサン。

 

百貌のハサンのフェイトナンバーズは数多の姿をしたハサン達が深い森の中で座り、立っている姿が描かれており、真名は『FNo.48 百貌のハサン』。

 

「いやっほー!最弱英雄アヴェンジャー、アンリマユ様のご登場だぜ!」

 

百貌のハサンの次に召喚されたのはアンリマユ。

 

アンリマユのフェイトナンバーズは深い闇の中で静かに歩いている姿が描かれており、真名は『FNo.96 この世全ての悪 アンリマユ』。

 

そして……。

 

「こんにちは、遊馬くん。私を呼んでくれるなんて……本当に奇跡ね」

 

アンリマユの次に召喚されたのは……和服姿の式だった。

 

「え?し、式……?」

 

「式さん……?」

 

「いや、違う……君は何者だ?」

 

「私はこのカルデアにいる両儀式とは同じであって異なる存在よ……」

 

「同じであって異なる存在?」

 

「ええ。私は彼女を認識できるけど、彼女は私を認識できないの。詳しいことはあまり話せないけどね」

 

「式には話さない方がいいか?」

 

「そうしてもらえると助かるわ。私は幽霊みたいなものだからね」

 

淡く微笑みながら式は自分の召喚の媒体となったフェイトナンバーズを拾って遊馬に渡す。

 

「これがあんたのフェイトナンバーズか……えっ!?」

 

「これは……!?」

 

遊馬とアストラルは式のフェイトナンバーズを見て驚愕した。

 

両儀式のフェイトナンバーズは真っ白な空間にある花畑の中で刀を構えている姿が描かれており、真名は『FNo.100 空の境界 両儀式』。

 

FNo.100と言う数字……それはナンバーズにとって重要な数字だった。

 

「え?え?ひゃ、100!?」

 

「君は本当に何者なんだ?式……いや、君のことはなんて呼べばいい?」

 

「私?そうね……式はもう既にいるし、名前が被るのも不便だから……『(から)』でいいわ」

 

「空?」

 

「では、空……改めて聞こう。君は何者なんだ?」

 

式……空はアストラルの質問に対し、無垢な笑みを浮かべ、フワリと柔らかく飛んで遊馬の背後に立って後ろから抱きしめた。

 

「空……?」

 

「私は式の幽霊、幻……虚ろのような存在よ。私を召喚してくれた遊馬君には感謝している。だから、これだけは言えるわ。私はあなた達を守るために戦う。何があっても裏切らない……」

 

空の優しく嬉しそうな声から遊馬は空が嘘をついてないと感じ取った。

 

「分かった。よろしく頼むぜ、空!」

 

「ええ。よろしくね」

 

「……あの、空さん。そろそろ遊馬君から離れてもらえませんか?」

 

マシュはいつまでも遊馬を後ろから抱きしめている空に対して顔を引きつらせながら言う。

 

「えー?嫌よ♪遊馬君、抱き心地が良いから」

 

まるで小悪魔のような笑みを浮かべ、遊馬を更にぎゅっと抱きしめる。

 

「い、良いから離れてください!」

 

「空、離れてくれないか?ちょっと苦しい……」

 

「仕方ないわね……分かったわ」

 

空は遊馬を解放すると、そこに二人の男女が召喚ルームに入ってきた。

 

「キリツグ〜!」

 

「王よ!!」

 

それはアイリとエルメロイII世だった。

 

アイリはキリツグを見つけると満面の笑みを浮かべて突撃するようにキリツグに抱きついた。

 

「キリツグ、お帰りなさい」

 

「アイリ……ああ、ただいま……」

 

アイリを受け止めたキリツグは泣きそうな笑みを浮かべながらアイリを優しく抱きしめた。

 

エルメロイII世はイスカンダルに近づくとその場で跪いた。

 

「ライダー……いや、イスカンダル王。お久しぶりです……」

 

「お前……坊主、いや、ウェイバーだな?」

 

イスカンダルはエルメロイII世が自分を召喚したかつてのマスター……ウェイバーだと気付いた。

 

「はっ……」

 

「ハッハッハ!いやはや、あんなひょっこな坊主がデカくなったな!」

 

「あれから十年近く、経ったから……」

 

するとエルメロイII世が震え出し、ポロポロと目から涙が溢れていた。

 

「またあなたに、会えて、本当に……」

 

エルメロイII世はイスカンダルと再会できて本当に嬉しかったのか、歓喜の涙を流していた。

 

「余もまたお前と会えて嬉しいぞ、友よ……」

 

イスカンダルもエルメロイII世に会えて嬉しく思い、エルメロイII世を立ち上がらせて肩を叩いた。

 

「宴の用意ができてます。あれから何が起きたのか話したい事がたくさんあります……」

 

「そうかそうか、それは楽しみだ!」

 

イスカンダルはエルメロイII世の肩を抱いて召喚ルームを出て、遊馬達もそれに続いて食堂へ向かった。

 

食堂に入ろうとするとそこには……。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、カルデア食堂へ……──あ」

 

「……セイバー、君は何をしている?」

 

メイド姿のアルトリアが出迎え、元マスターであるキリツグがツッコミを入れられずにいられなかった。

 

「おい、セイバー。お主……本当に騎士王か?」

 

「何故、騎士王がそんな給仕の真似を……?」

 

イスカンダルとディルムッドは目の前にいるアルトリアが本物なのかと疑ってしまう。

 

後ろに控えている百貌のハサン達も驚いて動揺している。

 

「ギャハハハ!伝説の騎士王様がメイドォ!?ひひひっ……く、苦しくて腹が……」

 

アンリマユはアルトリアのメイド姿に腹を抱えて大笑いをして床に転げていた。

 

「黙ってろ、最弱が」

 

「ゴパァ!?」

 

笑い転げるアンリマユにゴスロリメイドのオルタが現れ、拳骨を喰らわせて撃沈させ、ズルズルと食堂に引きずり込む。

 

初めて見るアルトリアのメイド姿に驚く中、一人だけ興奮していた。

 

「キャー!セイバー、可愛い!あなたがこんな可愛い服を着るなんて素敵だわ!」

 

「あ、ありがとうございます。アイリスフィール……」

 

アイリはアルトリアのメイド姿に興奮して喜んでいた。

 

「でもなんであなたがこの服を?」

 

「え、えっと……日本には働かざる者食うべからずと言う言葉があります。私はシロウのご飯をたくさん食べてしまうので、少しでもお手伝いが出来るようにこの格好で給仕をしています……」

 

「そうなの?うふふ、セイバーはシロウ君が大好きなのね」

 

「は、はい……」

 

真っ赤に顔を染めるアルトリアにキリツグはギロリと睨みつけるが、アルトリアとオルタは無視する。

 

「ははははっ!騎士王よ、あの時と違って張り詰めた空気が無くなってるな。何があったのか話を聞きたいな!」

 

「ええ、良いですよ。その話はまた今度で。今日はウェイバーとお話しください」

 

「おう!」

 

イスカンダルはエルメロイII世と共に食堂に入り、アルトリアは遊馬達を食堂の席に案内する。

 

それから、新たなサーヴァントの歓迎会と二つの特異点解決の祝勝会を兼ねた宴会が始まる。

 

人数も増えて来たので給仕の手もアルトリアとオルタだけでは回らなくなり、急遽新たなサーヴァント……イシュタルにも応援を要請した。

 

イシュタルにはアルトリアが着ているのとデザインが少し異なるメイド服を着てもらい、イシュタルは涙を流しながら文句を言った。

 

「何で私がこんなことを……」

 

文句を言いながらも颯爽とメイドの給仕仕事をこなす姿は見事だった。

 

ちなみにパールヴァティーは自ら率先してキッチンに立ち、エミヤと共に料理に励んだ。

 

大変な仕事だが、エミヤと一緒に料理ができてとても幸せそうな表情をしていた。

 

一方、カルデアでも珍しい夫婦が揃ったサーヴァントであるキリツグとアイリは……。

 

「美味しいわね、キリツグ」

 

「ああ……」

 

キリツグとアイリは生前と同じように夫婦仲良く食事を楽しんでいた。

 

エミヤを始めとする料理上手なサーヴァント達が作る料理は絶品で心が満たされていく。

 

「……キリツグ」

 

そこに何かの料理をトレーに乗せたセイバーがやって来た。

 

「セイバー?」

 

「シロウからあなたへの特別メニューです」

 

「士郎が?」

 

アルトリアがキリツグの前に出したのは熱々の鉄板に乗せられた美味しそうな熱々のハンバーグだった。

 

「ハンバーグ……!」

 

「これはハンブルク?」

 

「シロウ特製のハンバーグ……これはあなたの好物だったんですね……あなたがとても羨ましいですよ、キリツグ」

 

エミヤがキリツグに向ける想いの強さにアルトリアは少し嫉妬しながらその場を離れた。

 

キリツグはフォークとナイフでハンバーグを切り分けて口に入れた。

 

口の中に広がる美味さがキリツグの記憶を刺激した。

 

「あぁ……この味だ……懐かしく、そしてあの時よりも更に美味しさが増している……やっぱり士郎の料理は美味しいな……」

 

生前に何度も食べたエミヤの料理……その懐かしさに思わず涙が出そうになった。

 

「本当にシロウ君は料理が上手なのね……セイバーが惚れるのも頷けるわ」

 

「……残念だけど、僕はセイバーを認めないからね。あんな奴に士郎を渡すわけにはいかない。士郎のお嫁さんになるならそれ相応の人じゃないとね」

 

「もう、キリツグったら頑固なんだから……」

 

子煩悩なところがあるキリツグにセイバーを気に入っているアイリはどうしたらいいかと悩んだ。

 

「うーん、このままじゃダメよね……せっかくセイバーとシロウ君が仲が良さそうなのに……」

 

すると、アイリは直感的にあることを思いつき、ニヤリと小悪魔の笑みを浮かべるのだった。

 

「あ、そうだ……せっかくだから……」

 

アイリはある企みを思いつき、それを実行するためにマスターである遊馬の元へ向かった。

 

翌朝……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルデアのオカンこと、エミヤシロウのお嫁さんになれるのか!?」

 

「本日、エミヤさんに燃える炎のように思い焦がれる乙女達が、己の全てを賭けてこの戦いに挑みますわ!!」

 

「「『第二次正妻戦争』……開幕です!」」

 

「何でさぁああああああああーーっ!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂にて急遽行われた第二次正妻戦争……その司会者であるエリザベートとマリーが堂々と宣言し、何故か巻き込まれて混乱しているエミヤの悲痛の叫びがカルデアに木霊した。

 

そして、アルトリアを始めとするエミヤの謎に満ちた生前からの強い繋がりを持つ女性関係が明るみに出るのだった。

 

 

 




次回、第二次正妻戦争(笑)
遂にシロウの恋愛ターンです!
アルトリア、オルタ、イシュタル、パールヴァティーの四人が結集したので始められます。
シロウの女性関係が白日の下に晒されます(笑)

『両儀式』の名前ですが、こんがらがるので空と言う名前にしました。
空の境界ですからこの名前が個人的にしっくり来ました。

ちなみに今回召喚されたイスカンダル達は第四次聖杯戦争と特異点の二つの記憶持ちにしていますのでご了承ください。


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ナンバーズ73 第二次正妻戦争開幕!!!

エミヤの正妻戦争開幕です(笑)
最近スランプ気味であまり良いものは書けませんが楽しんでもらえれば幸いです。

※第4章のロンドン編で登場するサーヴァントですが、Fate/Apocryphaのサーヴァント達をほぼ全員出したいと思うのですが、皆さんの意見で、賛成か反対かアンケートを実施しています。
活動報告にコメントをお願いします。
期限は2018年7月14日までです。
よろしくお願いします。


エミヤは毎日、みんなが目を覚ますよりも早く朝から目覚め、食堂で食事の準備を始めている。

 

早朝で薄暗く、静まり返るカルデアの廊下を歩き、食堂に足を踏み入れたその時。

 

「「「確保!!!」」」

 

「はっ!?な、何だ!??」

 

突如、複数の黒い影がエミヤを囲み、エミヤが抵抗する間も無く拘束されて頭を麻布で隠されてしまった。

 

そして、魔術で強制的に眠らされてしまい、それから数時間後……。

 

麻布を外され、目を覚ますとそこには……。

 

「カルデアのオカンこと、エミヤシロウのお嫁さんになれるのか!?」

 

「本日、エミヤさんに燃える炎のように思い焦がれる乙女達が、己の全てを賭けてこの戦いに挑みますわ!!」

 

「「『第二次正妻戦争』……開幕です!」」

 

「何でさぁああああああああーーっ!??」

 

エリザベートとマリーがマイクを持って高らかに『第二次正妻戦争』の開幕を宣言し、エミヤは思わず魂の叫びを轟かせた。

 

食堂を見渡すと数多くのサーヴァント達やカルデアの職員達がジュースやお茶などの飲み物を片手にお菓子を摘んで座っていた。

 

そして、正面には審査員席と書かれた場所に三人の男女が座っていた。

 

「今回の正妻戦争は特別に三人の審査員を呼んであります!」

 

「一人目は我らがマスター、九十九遊馬さんですわ!」

 

「どうもー。エミヤ、頑張れよー」

 

遊馬は軽く手を振ってエミヤにエールを送るが、エミヤは縛られた体を必死に動かしながら声を荒げる。

 

「マスター!?何故そこにいる!?」

 

「いやー、昨日アイリさんに頼まれてさ。エミヤの嫁候補をキリツグさんに認めてもらいたいからって……」

 

「何!??」

 

エミヤが視線を変えると『審査員長』と書かれた席札に座る女性……アイリに抗議する。

 

「ミセスアイリ!これはどう言うことだ!?」

 

「慈母の怒りチョップ!」

 

「うぐっ!?」

 

アイリは席を飛び出してエミヤの頭にチョップを叩き込んだ。

 

何故チョップを喰らったのか分からないエミヤに対し、アイリは全身から怒気を纏って見下ろした。

 

「シロウ君……ミセスアイリなんて他人行儀はやめてね。私はあなたのお母さんなんだからね?」

 

アイリがエミヤの母と聞き、食堂がざわめき出す。

 

謎の多いサーヴァントであるエミヤの母親が聖杯の器であるホムンクルスと言う事実に驚きを隠せなかった。

 

「ま、待て……私とあなたは血が繋がっていないし、そもそも生前では面識すら無いだろう……」

 

「そんなことは関係ないわ!あなたは私の夫のキリツグが息子にしたんだから、戸籍上は私の息子でしょう?あなたはイリヤの兄、いえ、弟……?まあそれはどっちでも良いわ。とにかく、あなたは私の息子よ」

 

「いや、だが……」

 

「それとも……私みたいな人間じゃない化け物が母親なのは嫌なの?」

 

「それは違う!!ただ……」

 

「ただ?」

 

「私は……生前、災害の時に実の両親の記憶が失われてしまった……親しい家族はキリツグと私を見守ってくれた姉代わりの人しかいなかった……だから、母親がどんなものなのか分からなかったから……」

 

「つまり……母親という存在とどう接したら良いのか分からなかった、って事?何だ、そんな事だったのね!だったら少しずつ分かれば良いのよ、母親と息子の関係を……だから、まず初めに私を母親として認めて。ね?」

 

アイリの慈母としての優しさに触れ、エミヤは褐色の肌でもわかるほど顔が赤く染まり、自分の気持ちに正直になりながら口を開く。

 

「分かった……か、母さん……」

 

「うん!改めてよろしくね、シロウ君!」

 

エミヤに『母さん』と呼ばれ、満足したアイリは満面の笑みを浮かべて縄を解いた。

 

「……これはエミヤのレアな表情を見られましたね」

 

「母親はいつの時代でも強いのですわ。それでは引き続き審査員をご紹介します!二人目はエミヤさんと同じく食堂を支える母性の塊!カルデアのママこと、ブーディカさんです!」

 

「どうも〜。いつも一緒に料理をするエミヤのいい表情が見れて良かったよ」

 

二人目の審査員はアルトリアたちとは別にエミヤと仲のいいブーディカが選ばれた。

 

「そして、審査員長のアイリスフィールさん!この三人が今回の第二次正妻戦争の審査員になります!」

 

「今回は女性が羨むほどの女子力の塊であるエミヤさんのお嫁さんに相応しい人を決めます!」

 

「ちなみにエミヤのお父さんのキリツグさんは色々暴走しそうなので審査員から外させてもらいましたわ」

 

「アイリの許可をもらって予め捕縛させてもらいました」

 

「認めないぞ……僕は絶対に認めないからな!!」

 

エミヤ以上に椅子に紐でぐるぐる巻きで縛られているキリツグはガタガタと椅子を揺らしていた。

 

キリツグはひとまず置いておき、早速第二次正妻戦争の参加者を紹介する。

 

「エントリーナンバー1!世界にその名を馳せる伝説の騎士王!アルトリア・ペンドラゴンさん!!」

 

「エントリーナンバー2!メソポタミア神話の女神、イシュタルの擬似サーヴァントとして顕現した少女、遠坂凛さん!!」

 

「エントリーナンバー3!インド神話の最高神シヴァの伴侶、パールヴァティーの擬似サーヴァントとして同じく顕現した少女、間桐桜さん!!」

 

アルトリア、イシュタルこと凛、パールヴァティーこと桜の三人がエントリーしている。

 

「ちなみにこの二人はそこにいる二人の少女、凛ちゃんと桜ちゃんの別世界の十年後に成長した存在らしいです」

 

「流石に十年も経つと大人っぽいですわね」

 

「あれ?おーい、エリザベート。オルタは?」

 

オルタも正妻戦争に参加していると思ったが、姿が見られないのでエリザベートに聞いた。

 

「アルトリア・オルタさんは自分はあまりエミヤさんとの思い出が無いのでアルトリアさんに全てを託して今は控えているわ」

 

「特別ルールでアルトリアさんとオルタさんは同じ存在として扱うことにしています」

 

元々アルトリアとオルタは一つのような存在だったのでアイリの許可で同じ存在として扱い、アルトリア一人でアピールする事となっている。

 

「では、今回の第二次正妻戦争はエミヤさんとのエピソードを軽く語ってその愛や絆の深さを評価してもらいます」

 

エミヤと繋がりの深い三人だからこそ、そのエピソードを語り、正妻に相応しいか審査するのだ。

 

「話す順番は事前にクジで決め、桜さん、凛さん、アルトリアさんの順番となっております」

 

「それでは、桜さん!お願いします!」

 

「は、はい!」

 

トップバッターである桜は緊張しながらもエミヤへの想いを語るため、意を決して話を始めた。

 

「先輩とは先輩が高校生の時、同じ部活の兄の紹介で知り合いました。心が壊れた私にとって先輩は私に人としての心と幸せを取り戻してくれた大切な人です」

 

「ちなみに、桜さんはエミヤの家に頻繁に訪れて一緒に過ごしていたようですわね……」

 

「それって……所謂、通い妻じゃないの?」

 

「通い妻なんて、そんな……私はただ、先輩と少しでも一緒にいたかっただけです。先輩と一緒にお料理をしてご飯を食べて、洗濯や掃除をして、そして居間でのんびりと過ごす……それだけで幸せなんです」

 

頬を染めながらエミヤとの幸せな日々を想像する桜だった。

 

「わぁお……この子、とんでもなく乙女で嫁力高いわね……しかもどうやら家事の腕はエミヤ仕込みらしいですね……」

 

「これは最初からエミヤさんのお嫁さん大本命ですわね!審査員の皆さん、いかがでしょうか?」

 

「エミヤへの強い想いを感じたな……何ていうか、隣に居てくれるだけで幸せって何となくわかる気がするな」

 

「そうだね……私も旦那様と一緒になれて幸せだったからね」

 

「うんうん、シロウ君を思うその気持ち、そして依存したくなるほどのその強い愛!良いわね、グッドよ!」

 

アイリから見て桜の評価はとても高い様子で桜は小さくガッツポーズをした。

 

桜のエピソードの次は凛の番である。

 

「次は私ね……私は元々士郎と高校の同級生であまり関わりがなかったんだけど……運が悪いことにサーヴァント同士の戦いを目撃しちゃって、口封じに殺されかけたのよね。それで、私の宝石魔術で助けたのが始まりよ」

 

「口封じで殺されかけただと……!?」

 

「えっと、リンさん……?シロウ君を殺そうとしたサーヴァントは誰?」

 

「え?そこにいる全身青タイツのランサー、クー・フーリンだけど?」

 

凛のあっさりとした告白にクー・フーリンは飲んで居た酒を思わず吐きかけた。

 

「ブッ!?じょ、嬢ちゃん!?何バラしてやがるんだ!?」

 

すると、士郎が殺されかけたと聞き、キリツグは拘束していた縄を引きちぎって立ち上がり、アイリもゆらりと立ち上がる。

 

「貴様……よくも士郎を……」

 

「待て待て待て!あれは言峰に命令されて──」

 

「「言峰?」」

 

言峰の名を聞き、二人の殺気が一気に爆発してギロリとクー・フーリンを睨みつける。

 

「うおっ!?殺気が膨れ上がった!?まさか火に油を注いぢまった!?」

 

キリツグとアイリにとって言峰は一番の最悪の天敵である為、そのサーヴァントだったクー・フーリンがエミヤの命を狙ったことを許せなかった。

 

「言峰綺礼のサーヴァントだったか……」

 

「うふふふふ……大事な息子の落とし前をつけさせてもらおうかしら!??」

 

「ちぃっ!やるしかねえか!」

 

怒りに震える二人にクー・フーリンは意を決してゲイ・ボルグを取り出す。

 

「待て!爺さん、母さん!そいつとの問題はもう昔の話だ、今更落とし前をつける必要は無い!」

 

エミヤは余計な戦闘を控えるために両親を止める。

 

本人が恨んでいないのなら落とし前をつけることは無いので二人は大人しく引き下がった。

 

「礼は言わねえぞ、弓兵」

 

「ふっ……もし何かしたら死ぬまでホットドッグと麻婆を喰わせてやる」

 

「それだけは止めて下さい!!」

 

クー・フーリンにとって外道麻婆とあとは何故かホットドッグはトラウマのようで顔を真っ青にして震えていた。

 

気を取り直して凛の話の続きをする。

 

「……その後、士郎はセイバーを召喚して聖杯戦争を生き抜くために私と同盟関係になったの。士郎は魔術のことを全然知らなかったから、私が師匠となって色々教えることになったの。そして……その後、聖杯戦争が終わってから士郎は色々あって英霊になり、私が聖杯戦争の時に触媒として使った宝石が士郎を助けた時に使った物だったから、アーチャーとして召喚されたのよ」

 

少々ややこしいが、エミヤは生前に凛に命を救われた経緯から英霊になった後にサーヴァントのアーチャーとして凛に召喚されたという事になる。

 

何故エミヤが英霊になったのか……それを凛自身が語るつもりはなかった。

 

何故ならそれをエミヤが望んで無い、仮に語るとしたら自分自身の口から語るべきだと理解しているからだ。

 

「つまり、士郎は私の弟子であると同時に最高の相棒なのよ!この絆は桜やセイバーにだって負けはしないわ!!」

 

「おお……これは桜さんとは違う形の絆ですね。何か、凛さんだとエミヤが尻に敷かれるような気がするわね……」

 

「弟子兼従者ですからね。でも、背中を支え合える中も素敵な愛だと思いますわ。審査員の皆さん、いかがでしょうか?」

 

「弟子で相棒か……なんか親近感湧くな。うん、こっちも良いと思うぜ」

 

「エミヤは少々遠慮なところがあるから、女が引っ張ってバランスが取れているかもしれないね」

 

「うーむ、リンさんも良いわね。妹のサクラさんとは正反対だけど、この感じもまた素敵ね。姉さん女房……って言うのかしら?同い年だけどそんな感じがするわね。こっちも良いわよ!」

 

桜に引き続き、凛もアイリの好感度が良く、凛は大きく深呼吸をしながらも内心喜んでいた。

 

ここまで妹キャラの通い妻である桜と師匠&主の姉さん女房である凛の話が終わり、次はいよいよ大本命とも言うべき存在……アルトリアの番だった。

 

「さあさあ、お待たせしました!お次はカルデアで特に気になっている方が多い、伝説の騎士王、アルトリアさんです!」

 

「いったいどんな物語が語られるのか楽しみです、ではお願いします!」

 

大トリを務めるのはアルトリアで大きく深呼吸をし、緊張しながらゆっくりと語りだす。

 

「……私とシロウが出会ったのは月明かりが照らす夜のことでした。ランサー……クー・フーリンが再びシロウを狙い、その命が危機にあった時……私を召喚しました」

 

アルトリアはチラッとキリツグを見ると、何故エミヤがアルトリアを召喚したのかその理由が分からずに混乱していた。

 

「驚くのも無理はありませんね……しかし、キリツグ。シロウが私を召喚出来たのはあなたのお陰でもありますよ」

 

「何、だと……!?」

 

「キリツグは瀕死だった幼いシロウを救う為に失われた約束された勝利の剣の鞘をその身に埋め込ませました。約束された勝利の剣の鞘がシロウの中にあったからこそ、私を召喚出来たのです。つまり、シロウは私の唯一無二の鞘と呼ぶべき存在なのですよ」

 

「ば、馬鹿な……!?」

 

キリツグはアルトリアの宣告に打ちひしがれてその場に崩れ落ちた。

 

それはキリツグが幼いエミヤを活かすために行った処置であったが、逆に自分が嫌悪するアルトリアを引き合わせる事態へと起こしてしまった事に衝撃を受けるのだった。

 

約束された勝利の剣の鞘は聖剣を納める鞘だけあって非常に優れた力を持っている。

 

その力があったからこそエミヤは生きる力を、そして……己の道を突き進むための力を手に入れたのだ。

 

「私はサーヴァントとしてマスターであるシロウを守ろうとしました。しかし……事もあろうに、シロウは私をサーヴァントではなく、一人の女として見ていたのです。毎日ご飯を用意して、騎士である私を女だと言ったり、私を身を呈して守ろうとしたりと……男として、騎士として育った私の心がシロウの言葉と行動でズタボロにされてしまいました……」

 

その当時のことを思い出し、顔を真っ赤にして話すアルトリア。

 

それを聞いたみんなはこう思った……。

 

(((これ、エミヤがアルトリアに一目惚れしたんじゃ無いのか……?)))

 

エミヤがその当時あまり魔術師としての力や知識があまり無く、サーヴァントへの考えをあまり理解していなかったと言うのもあるが、それを抜きにしてもエミヤがアルトリアに特別な感情を抱いているのは明白だった。

 

「そして、聖杯戦争中にも関わらずシロウは私をデートに誘ったりして、絆の中に愛が芽生えてきたのです……私はシロウのお陰で自分の願いを止める決心がつき、聖杯への願いを断ち切る事が出来たのです。私は、今この場を借りて改めてシロウに伝えたい事があります」

 

気持ちを引き締めるために身に纏った鎧を消し、髪を縛るリボンを解いた。

 

綺麗な金髪が優しく揺れ、アルトリアは今までエミヤ以外には見せたことのない慈愛に溢れた優しい笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウ──あなたを、愛している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはアルトリアがかつてエミヤに贈った別れと愛の言葉。

 

たった一言、とても短く、飾らないアルトリアらしい愛の言葉だったが、その一言にはシロウへの強い愛が秘められていた。

 

「アルトリア……」

 

エミヤはその場で答えを出す事が出来なかったが、赤黒いその肌でもわかるほどに顔に熱がこもって真っ赤にし、思わず手で顔を隠すほどだった。

 

「尊い!とてつもなく尊いです!これには私も胸が熱くなりました!こんな純粋な恋は私も体験したいです!」

 

「素敵ですわ、アルトリアさん!私も昔、アマデウスに愛の告白を受けた時を思い出しますわ!」

 

「やめてくれないか、マリー!?」

 

アルトリアの愛の言葉に食堂が沸き起こり、エリザベートはアイドルを目指していることを一時は忘れ、マリーは生前の幼少期にアマデウスから愛の告白を受けたことを思い出す。

 

「なんか、見てるこっちが恥ずかしくなるほどだったぜ……でも、良い告白だったぜ、アルトリア!」

 

「良いわよー、アルトリア!流石は私の後輩!」

 

「最高よ、セイバー!あなたにこんなにもステキな女性の一面があるなんてビックリだわ!これもみんなシロウ君のおかげなのね。よくやったわ、シロウ君!」

 

審査員達もアルトリアに絶賛するが、愛の告白をするとは予想外だったので凛と桜は抗議した。

 

「ちょっと、セイバー!何勝手に愛の告白してるのよ!ズルイじゃない!」

 

「そ、そうですよ!そんなことをしたら先輩の心がぐらっとセイバーさんに傾くじゃないですか!」

 

「ならば、あなた方も愛の告白をすれば良い!さあ、シロウへの想いをぶちまけるのです!」

 

アルトリアの挑発に通い妻として嫁力がとても高い桜が挙手した。

 

「じゃあ、私から!」

 

「ちょっ、桜!?」

 

「先輩!あなたの事を、誰よりも愛しています!ずっとそばに居させてください!永遠に私と一緒にいてください!!」

 

依存性がある桜の想いが込められた愛の告白に凛も覚悟を決めた。

 

「ああもう!分かったわよ!私も言うわ!私はね、士郎がいないとダメなのよ!私の隣はあんたじゃないとダメなの!あんたは私の弟子で、サーヴァントなんだから、私の側にいる義務があるのよ!!」

 

素直になれない性格であるが故にアルトリアや桜と違って好きや愛してるなどの言葉は一切含まれていないが、凛らしい告白だった。

 

三人からの愛の告白を受け、エミヤはどうしたら良いか悩んだ。

 

もし仮に一人を選んだ場合、以前開催した遊馬の第一次正妻戦争の時のように恋するサーヴァント達が暴走し、カルデア崩壊の危機に直面する。

 

特に騎士王に女神が二柱ともなればその被害は想像を絶するものになるのは容易に想像できる。

 

(どうすればこの場を無事に乗り切れるのか……頼む、志貴さん……俺に知恵を……!!)

 

そう思ったその時だった。

 

「はいみんなー!ちゅーもーく!」

 

アイリが立ち上がり、全員の視線が集中する中……とんでもない発表をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の正妻戦争、私はセイバー達がシロウ君のお嫁さんに相応しいかどうかを確かめるものだったんだけど、私は決めたわ!この勝負──全員シロウ君のお嫁さんに決定します!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の静寂。

 

「「えぇえええええええーっ!??」」

 

「アイリスフィール……あなたならそう言うと思ってましたよ」

 

凛と桜は驚愕して絶叫したが、アルトリアは予想通りと言った様子で冷静だった。

 

アイリの発表に異議を唱えるのはもちろん……。

 

「待つんだ、アイリ!つまり複数の妻を持つ一夫多妻という事か!?士郎にそんなことを……」

 

「良いじゃない、みんなのこと気に入ったんだから。でもあなたにだって、愛人のマイヤがいたんだからそれぐらい構わないじゃない」

 

「うぐっ!?そ、それは……」

 

キリツグには妻のアイリの他に実は愛人がいたのだが、そのことを一切知らなかった士郎は沈んだ真剣な声音でキリツグに尋ねる。

 

「……爺さん。後で話を聞かせてもらえないか?」

 

「士郎!?誤解だ!頼む、誤解だから、士郎ぉおおおおおおおおおっ!!」

 

「衛宮家の決定権は神である私にありまーす!という訳だから、シロウ君と仲良くイチャイチャしてね?」

 

アイリがウィンクしてアルトリア達にエールを送るが、凛と桜は困惑するのだった。

 

「一夫多妻って……そんなのってアリ……?」

 

「でも、みんな一緒なら……あ、でも出来れば第一正妻は私が……」

 

「じゃあ、私は第一正夫の座をいただきます」

 

「第一正夫って何よ!?そんな言葉聞いたことないわ!?」

 

「シロウは私の嫁です。つまり、シロウは私の正妻です。そして、シロウの正妻はあなた達……ほら、これで問題ないでしょう?」

 

「いやいや!意味わかんないから!?」

 

「では、私が第一正妻で姉さんが第二正妻で良いですね!?」

 

「桜ぁっ!?何勝手に自分が一番になってるのよ!?」

 

「私が一番最初に先輩を好きになったんだから第一正妻の座は私のモノです!!姉さんは二番目で我慢してください!!」

 

「嫌よそんなの!第一正妻の座は私に譲りなさい!」

 

「絶対に嫌です!姉さんでもそれだけは譲れません!!」

 

何だか女同士の第一正妻の座をかけた争いが始まり、みんなは巻き込まれないようにとこっそりその場を離れていく。

 

「あれ……?」

 

すると、遊馬はあることに気付き、それをアルトリア達に伝える。

 

「なあなあ、エミヤはどこ行った?」

 

「「「えっ?」」」

 

アルトリア達は周りを見渡すがエミヤの姿がいつの間にか消えていた。

 

「シロウ君ならあそこよ」

 

アイリが指差す先は食堂の出口で、そこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、アイリスフィール……余計なことを!?」

 

頭にタンコブが出来て気絶しているエミヤを簀巻きにし、豪快に担ぎ上げて運んでいるアルトリア・オルタの姿だった。

 

アルトリア達は一瞬呆然としてしまったが、オルタが慌ててエミヤを連れて食堂を出て行く。

 

「「「待てぃ!!!」」」

 

エミヤを連れ去ったオルタをアルトリア達が全力疾走で追いかける。

 

「待ちなさい、オルタ!シロウを誘拐して何をするつもりですか!?」

 

「そ、それはその……私の部屋でその……シロウとニャンニャンを……」

 

「ふざけんじゃないわよ!!自分一人でイチャイチャするなんて許さないわよ!!」

 

「そうですよ!こういうのは平等にするべきです!だから先輩を離しなさい!」

 

「断る!私にはシロウとの思い出がほとんどない!だから、たくさんイチャイチャするのだ!!」

 

「「「ふざけるなぁあああああっ!!」」」

 

オルタがエミヤを独占しようとしてブチ切れたアルトリア達は走るスピードを上げて追いかける。

 

そんなアルトリア達を見送った遊馬は腕を組んで一言。

 

「ま、大丈夫だろ。夫婦はイチャつくもんだからな」

 

自分の両親が仲良いので特に気にしない遊馬はまだ戦いの疲れが残っているので、ゆっくり休むために自室に戻った。

 

翌朝……食堂に現れたエミヤはいつにも増して酷く疲れきった様子で、反対にアルトリア達はツヤツヤと健康的で元気そうなのだった。

 

 

 




第一次エミヤハーレム完成(笑)
アルトリア、第一正夫
アルトリア・オルタ、第二正夫
イシュタル、第一正妻?
パールヴァティー、第一正妻?
まだこれからどんどん増えるから大変だなー(爆笑)
これが愉悦というやつですね。

次回は桜ちゃんと凛ちゃんのカルデアの1日を書こうと思います。


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ナンバーズ74 桜と凛の新たな未来

今回は桜ちゃんと凛ちゃんのお話です。
相変わらずスランプ続きで短いですがどうぞ。

※先週からお願いしたアンケートですが、皆さんの貴重な意見からFate/Apocryphaのほぼ全てのサーヴァントではなく、少し厳選して出そうと思います。
よくよく考えれば監獄島でも彼が出るのでて、ロンドン編でも何人も登場するので数人ぐらいに絞ろうと思います。


間桐桜と遠坂凛。

 

6歳と7歳の幼い少女の姉妹だがその身には強大な力を持つ英霊が宿り、デミ・サーヴァントとなっている。

 

時空を超えてカルデアで保護される事となり、冬木市で暮らしていた時とは違う生活が始まった。

 

二人はまだ幼いので一人部屋は早いと判断し、女性サーヴァントの部屋で世話になっている。

 

桜はメドゥーサ、凛はブーディカが面倒を見ている。

 

メドゥーサは桜を大切にし、桜もサーヴァントの中ではメドゥーサを特に慕っている。

 

ブーディカは娘を二人育てたので年頃の娘である凛の面倒を見るにはうってつけだった。

 

ちなみに子供の守護者であるアタランテは遊馬に夜這いをかけようとするネロや清姫を止めるのに必死なのでその役目を出来なくて軽く落ち込んだらしい。

 

朝……ブーディカは朝から食堂で調理をするので朝早く起床し、必然的に凛も一緒に起きる。

 

「おはよう、凛」

 

「お、おはようございます……ブーディカさん」

 

ブーディカは凛の母、葵とは性格は違うが、母性溢れる性格やスタイル抜群のその姿に少々照れ臭いが凛は珍しく甘えている。

 

着替えた二人は食堂に向かい、そこで既に料理の仕込みをしていたエミヤがいた。

 

ブーディカも料理をはじめ、小鳥やタマモキャットなどもやって来てその姿に凛も料理をしてみたくなった。

 

遠坂家では見たことない最新式の調理器具に調理道具……好奇心旺盛の凛はそれを使って見たいと思った。

 

料理長のエミヤの許可を取り、凛も食堂の手伝いをしながら料理を学ぶ事となった。

 

幸いな事に年が比較的近い小鳥もいるので小鳥が料理の基本的なことを教えていき、凛とそれを少しずつ吸収していく。

 

そして、遊馬達や他のサーヴァント達が続々と食堂に入り、メドゥーサに連れられた桜もやって来た。

 

「お姉ちゃん、おはようー」

 

まだ少し眠いのか、桜は目をこすりながら眠そうな表情をしていた。

 

「おはよう、桜!」

 

「お姉ちゃん、料理をしているの……?」

 

「うん!少しずつ覚えていくわ!」

 

「私も、やってみたいな……」

 

「じゃあ、桜も一緒にやりましょう!きっと楽しいわ!」

 

「うん!」

 

姉妹の絆を引き裂かれ、離れ離れになった時間を少しでも埋めようと凛は桜との時間を作っていくのだった。

 

朝食が終わると凛と桜は一室を使ってマシュが勉強を教えていた。

 

まだ凛と桜は小学低学年の年齢で大切な時期なのでマシュが先生となって勉強を教えていく。

 

先生として勉強を教えるのは初めてなマシュだったが、凛と桜はとても良い子で優秀なのでそこまで苦労する事なく楽しく勉強を教えられている。

 

午前は勉強の時間にし、昼食を挟んだ後、午後は二人の希望もあってトレーニングルームにいた。

 

トレーニングルームでは様々なサーヴァント達が宝具やスキルを駆使して火花を散らして模擬戦を繰り広げていた。

 

凛と桜は自分の中に宿っている英霊の力をまだ完璧に使いこなしていない。

 

少しでも早く使いこなせるようにと、何かきっかけが掴めるようにサーヴァント達の模擬戦を記憶に焼き付けていくのだ。

 

と言ってもたまに刺激が強い光景もあるのでそこはメドゥーサやマシュが目を塞いだりしていく。

 

そして、夕食が終わり、自由時間となった遊馬はいつものように食堂でサーヴァントたちとワイワイ騒いでいると桜がやって来てクイクイと遊馬の服を引っ張る。

 

「桜ちゃん?どうしたんだ」

 

「お兄ちゃん、それかしてー」

 

「それ?デュエルディスクか?」

 

「うん。私もモンスターを召喚してみたい!」

 

「おっ!桜ちゃんもデュエルモンスターズに興味が出たか!良いぜ、貸してやるよ」

 

「あっ!ま、待って!私もやりたい!」

 

「凛ちゃんもか。それじゃあちょっと待っててくれ。ダ・ヴィンチちゃんのところでたしか予備のデュエルディスクとD・ゲイザーがあるはずだから持ってくるぜ」

 

桜と凛がデュエルディスクを使いたいと言い、遊馬はダ・ヴィンチちゃんの工房に行って予備のデュエルディスクとD・ゲイザーを取りに行く。

 

まだ色の付いてない白色のデュエルディスクとD・ゲイザーを桜と凛に装着させる。

 

「まだデュエルは難しいから、デュエルモードをオフにして……よし!これでモンスターを好きなだけ召喚出来るぞ」

 

デュエルディスクでデュエルをする機能を停止させてモンスターを好きなだけ呼べるようにする。

 

「やったー!それじゃあ……でてきて!『虹クリボー』!『クリボルト』!『クリフォトン』!『ベビートラゴン』!」

 

『『『クリクリー!』』』

 

『トラトラ!』

 

「わぁ!可愛い!」

 

桜が呼び出したのは遊馬のデッキの中でも可愛らしいマスコットモンスター達である。

 

「じゃあ私はこれよ!現れなさい!『ガガガマジシャン』!『ゴゴゴゴーレム』!『ズババナイト』!『ドドドウォリアー』!」

 

『ガガガッ!』

 

『ゴゴゴー!』

 

『ズババッ!』

 

『ドドドー!』

 

「おお〜!」

 

実際に自分でモンスター達を召喚出来て凛は目を輝かせて拍手をする。

 

子供らしい微笑ましい光景だが、その光景を不思議そうに見つめる者がいた。

 

「不思議なもんよね……」

 

「何がですか?姉さん」

 

それは遠くの席からエミヤが淹れた紅茶を飲んでいるイシュタルとパールヴァティーだった。

 

「だって……十年前の私達とはいえ、士郎以外の男の子にあんなにも親しげなのがちょっと違和感がね……」

 

イシュタルとパールヴァティーにとってとても親しい男性は士郎ぐらいしかいなかった。

 

しかし、別世界の十年前の自分達とはいえ遊馬をあんなにも慕っているのは驚きだった。

 

「当たり前でしょう。ユウマはサクラを地獄から救ってくれましたから……」

 

パールヴァティーの隣にメドゥーサが座る。

 

「あー、確か間桐臓硯を完膚なきまでに倒したのね。やるわね、あの化け物を倒すなんて……」

 

「光の剣士……でしたっけ?確かそれでお爺様を滅ぼしたと聞きましたが……」

 

まだ遊馬とアストラルの力をよく知らないイシュタルとパールヴァティーは本当に少し信じられなかった。

 

そんな中、遊馬の大声が響いた。

 

「ちょっ!桜ちゃん!そのカードは召喚しちゃダメだ!」

 

「出てきて!『SNo.39 希望皇ホープONE』!」

 

一瞬の眩い閃光と共に桜の前に現れたのは純白に輝く聖なる光の剣士、希望皇ホープONE。

 

「あれが希望皇ホープONE……凄い輝きね」

 

「あの光の剣士があの子を助けたんですね……ところで何か騒いでますね?」

 

「行ってみますか?」

 

イシュタルとパールヴァティーとメドゥーサは遊馬達の元に向かった。

 

「さ、桜ちゃん……何ともないか?」

 

「え?なんともないよ?」

 

「そ、そうか、良かった……」

 

桜は自分にとっての光である希望皇ホープONEを召喚出来てご満悦だったが、何故遊馬が焦っているのか分からず可愛らしく首を傾げる桜。

 

「マスター。なんでそんなに慌ててるのよ?」

 

「あ、えっと……凛さんで良いんだっけ?」

 

「イシュタルで良いわよ。昔の私と名前が被るし」

 

「私もパールヴァティーで良いですよ」

 

過去と未来の存在が同時にいるので分かりやすくする為に未来の凛と桜をそれぞれ擬似サーヴァントとして英霊が宿っているイシュタルとパールヴァティーで呼ぶこととなった。

 

「ところで、ユウマ。何をそんなに慌てていたんですか?」

 

「メドゥーサ……いや、ほらさ。ホープONEのコピーカードで召喚して桜ちゃんに何かあったらと思って……」

 

「それはどういう事ですか……?」

 

「実はさ、デュエルモンスターズには伝説のカード……『三幻神』と呼ばれる三枚の神のカードがあってさ」

 

「三幻神……?」

 

「ああ。今は完全に失われていてもう何処にも無いんだけど、そのカードには色々と恐ろしい噂があったんだ」

 

「恐ろしい噂……?」

 

「本当かどうか分からないけど、三幻神制作に関わった人たちが次々と不審な死を遂げて、その力を恐れたデュエルモンスターズの創造主の会長も封印せざるを得なかったぐらいだし……」

 

「……本当にそのカードに神が宿っていたのでしょうか?」

 

「多分な……あとこんな噂があるぜ。三幻神のカードのコピーカードを使った人間が生死を彷徨ったり、マジで亡くなったらしいからな」

 

「なるほど……先程遊馬が騒いでいたのはそういう訳でしたか。ナンバーズも強力な力を宿していますから」

 

三幻神のカードほどではないが、ナンバーズのコピーカードが召喚されたら何が起こるか分からない、そう危惧した遊馬は桜ちゃんを止めようとしていたのだ。

 

「そうなんだよな。まあ、元々コピーカードでも大丈夫なのか、ダ・ヴィンチちゃんが作ってくれたものだからかよく分かんないけどな」

 

「三幻神……ねえ、遊馬お兄様。デュエルモンスターズは色々な不思議なカードがたくさんあるの?」

 

凛は魔術に匹敵する未知なる可能性を秘めたデュエルモンスターズに対して興味深そうに質問してくる。

 

「ああ。たくさんあるぜ。確か、古代エジプトやアトランティス、宇宙の波動を受けたカードや伝説の宝石の力を秘めたモンスターとか……」

 

「え!?宝石のモンスターがいるの!?」

 

宝石と聞いて凛の目がキラキラと輝いて遊馬にグイッと迫る。

 

「あ、う、うん。『宝玉獣』って言って世界に7種類1枚ずつしかない凄い貴重なレアカードで、後はそれを束ねて召喚される伝説のドラゴンもいるぜ」

 

食いつきのいい凛に対して遊馬は宝玉獣に関する出来るだけの説明をした。

 

「宝玉獣に伝説のドラゴン……!うん、決めたわ!」

 

ガシッ!と強く拳を握りしめて凛は何かを決意した。

 

「決めたって、何が?」

 

頭に疑問符を浮かべる遊馬に対し、凛は胸を張って堂々と宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私……私、魔術師にならないでデュエリストになる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然のデュエリストになると言う宣言に一番に反論したのはイシュタルだった。

 

「ちょっと待ちなさいよ!あんた魔術師にならないの!?遠坂家の悲願は!?根源はどうするのよ!?」

 

「お父様は魔術師にならなくても根源を目指さなくてもいいって言ってたし。それに……桜のあんなの見たら魔術が大嫌いになっちゃって……」

 

「うぐっ!?」

 

間桐の魔術が異端で外道なのもあり、あれを幼い凛が見たら普通にトラウマものなのでそれを言われるとイシュタルも何も言えなくなる。

 

「それに、エレシュキガルが私の中に宿っているから、これじゃあこの世界でまともに魔術の研究が出来るかわからないし、だったら、遊馬お兄様の世界に行ってお兄様みたいな強いデュエリストを目指す!そして、デュエルの色々な事を研究して私だけのデッキを作る!!」

 

「じゃあ……私もデュエリストになる!」

 

凛がデュエリストになると言い、桜も元気よく手を挙げてそう宣言した。

 

「お兄ちゃんの元でステキなデュエリストになる!お兄ちゃん、デュエルをたくさん教えて!」

 

「凛ちゃん、桜ちゃん……よーし、このデュエルチャンピオンの俺にどーんと任せろ!」

 

「「おー!」」

 

遊馬は自分に憧れてデュエリストになると言ってくれた二人に対してとても感動し、少々調子に乗りながら二人を立派なデュエリストに育てると誓うのだった。

 

凛と桜の魔術師への道が完全に途切れた事でイシュタルは石のように固まってしまった。

 

「何よ、こいつ……どんだけ人の運命を変える力を持っているのよ……」

 

「いいじゃないですか、姉さん。あの子達、幸せそうですよ?」

 

「同感です。魔術の道を外れ、デュエリストの道を歩み出すあの子達の行く末、見守りたいです」

 

イシュタルとパールヴァティーとメドゥーサは少しの間、出来る限り二人の行く末を見守ることにした。

 

魔術師としての運命が変わり、デュエリストとしての一歩を踏み出した桜と凛。

 

世界最強クラスのデュエリストである遊馬の元で共に学び、自分だけの最高のデッキを手にし、遠い将来……美少女姉妹デュエリストとして活躍する未来が待っているのかもしれない。

 

 

 




桜ちゃんと凛ちゃんがデュエリストの道を踏み始めました!
桜ちゃんは……何のデッキがいいかな?
名前から森羅とか?
凛ちゃんはジェムナイトか宝玉獣が良いですね。

次回は遊馬のカルデアの1日その三です。


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ナンバーズ75 カルデアの一日 その3

カルデアの一日、パート3です。
何とか時間までにかき終えました。


第三特異点とオガワハイムと冬木市……怒涛の連日の戦いを終えた遊馬とアストラルの新たなカルデアの一日。

 

午前7時・起床。

 

遊馬が目を覚まし、横を向くと……。

 

「おはよう、遊馬君♪」

 

「空……何してるんだよ」

 

ベッドの隣にいるのは自称・両儀式の虚ろな存在である謎のサーヴァント、空。

 

空は満面の笑みで遊馬を見ていた。

 

「私、眠ることがないからこうして君の寝顔を見ているのを日課にしているの」

 

「アストラルに止められなかったのか?」

 

「私はそういう趣味とかないから大丈夫よ。それに何だかその鍵の中を心配してはいったままだからね」

 

「……あいつか」

 

テーブルに置いてある皇の鍵を首にかける。

 

皇の鍵には宿敵とも言える存在が休んでいる……アストラルはそれを見張るために最近はあまり外に出ないで皇の鍵の中に引きこもっている。

 

「さて、今日も多分……」

 

遊馬はジャージ姿のまま部屋を出ると、そこには最早見慣れた凄まじい光景が広がっていた。

 

「あぁ……旦那様、おはようございます」

 

「ユウマよ、気持ちのいい朝だな!」

 

「清姫、ネロ……おはよう。気持ちのいい朝だけど、ボロボロだな」

 

「ユウマ……おはよう」

 

「アタランテ……今日もご苦労様です」

 

「気にするな。私は子供の守護者、これぐらい何ともないさ」

 

清姫とネロは毎度のことだがボロボロになっており、アタランテもサーヴァント二人相手に何とかギリギリで勝利し、労う遊馬の頭を嬉しそうに撫でる。

 

「……はぁ。清姫、ネロ。いい加減アタランテの手を煩わせるなよ。自分の部屋で寝たらどうだ?」

 

「そんな!妻は旦那様の側にいるものですよ!」

 

「その通りだ!ユウマよ、何ならその部屋から余の部屋に移らないか?毎晩可愛がってやるぞ!」

 

「いやいや、俺はまだ結婚してないから」

 

「貴様ら……ユウマの純真無垢な子供の成長を妨げるとはいい度胸だな。その根性を叩き直してやろう」

 

アタランテから黒いオーラが溢れ、清姫とネロを叩き直そうとしたが遊馬がポンとアタランテの肩に手を置いた。

 

「待てって、アタランテ。そんな事をしなくて良いからさ」

 

「ユウマ……」

 

「ほら、早くメシ食いに行こうぜ!腹減っちまったぜ!」

 

遊馬の無垢な笑顔にアタランテの溢れた黒いオーラが静まる。

 

「……分かった」

 

「アタランテさん……ズルイですよ」

 

「流石は純潔の狩人。こういうのをあざといと言うのだな」

 

「どうしてそうなる!?」

 

ジト目で睨みつける清姫とネロに何故自分が責められているのかわからずアタランテは驚愕する。

 

 

午前7時15分・朝食。

 

着替え終わった遊馬はマシュとフォウと合流して食堂に入り、空は何処かへとフラフラといつの間にかいなくなっていた。

 

席に座るとアタランテは少し離れた席を見ながら大きなため息をつく。

 

「アタランテ、どうしたんだ?」

 

「いや……あれを見ると少し頭が痛くなってな……」

 

「あれ?」

 

遊馬がその席を見ると……。

 

「宗一郎様、お待たせしました!」

 

「うむ……」

 

エプロンを着用して新妻感を醸し出したメディアが幸せそうなオーラを出しながら宗一郎に朝食を出していた。

 

宗一郎がカルデアに来てから食事の準備は全てメディアが用意するようになり、メディアは宗一郎に美味しい料理を食べてもらえるようにと日夜料理の勉強をしている。

 

「あれが本当にメディアなのかたまに疑いたくなるほどな甘々な雰囲気で……」

 

アタランテはかつての友人が夫に甘々な雰囲気を出していて頭痛が頭に響いていた。

 

「すげえラブラブなオーラだな。でも良いんじゃね?メディア、幸せそうだし」

 

「確かにメディアの過ごして来た時を考えればな……だが、あれは耐えられない」

 

アタランテが別の席を見ると力が抜けたようにテーブルに撃沈する。

 

「ダーリン、あ〜ん♪」

 

「やや、やめろ!そんなものは食えな──ぎゅる!??」

 

「たくさん食べてねぇ〜」

 

「ふごがごがばぁ!??」

 

アタランテの敬愛する女神……アルテミスが愛しのオリオンにどう見ても失敗した料理を無理やり口に突っ込んでいた。

 

オリオンは白目を向いてピクリとも動かなくなっているが、矢を眉間に受けても死なないので恐らくは大丈夫だろうと周りは気にしていない。

 

古き友人に敬愛する女神が恋愛脳となった光景にアタランテの精神も耐えられなくなっている。

 

「あはは……あ、そうだ。アタランテ、今日の夜の自由時間に桜ちゃんと凛ちゃんと一緒にデュエルの勉強をするんだけど、一緒に参加しないか?」

 

「サクラとリンと……喜んで!」

 

桜と凛と触れ合える機会ができてアタランテは喜びの笑みを浮かべる。

 

アタランテは本当に子供が好きなんだなと感じながら遊馬は朝食を食べる。

 

 

午後8時・勉強会。

 

勉強会で遊馬と小鳥は中学生レベルの勉強をしていき、サーヴァントの話を聞く勉強ではメドゥーサ達……ギリシャ神話関係のサーヴァントからギリシャ神話の話を聞く事にした。

 

ギリシャ神話は世界的にも有名な神話の一つであるが、遊馬と小鳥はあまり知らないのでギリシャ神話の中でも有名な話などを聞いたが……。

 

「なんかさ、昔の奴らって過激で心の狭い奴多くね?」

 

「ゆ、遊馬!?」

 

遊馬の率直なぐさっと突き刺さるような意見にメドゥーサは苦笑を浮かべながら話す。

 

「まあ、ユウマの言う通りですね。時代の価値観と言いますか、確かにそう見えますね」

 

「言っちゃ悪いけど、少しは話し合いとかしないのかよ。感情的になりすぎじゃねえか?」

 

遊馬はギリシャ神話の本をペラペラと捲りながらため息をつく。

 

ギリシャ神話の本に書かれていることが本当に全て事実なのかは不明だが、遊馬はイマイチ理解出来ないことや納得出来ないことが多くあった。

 

どうして話し合いをしないのか?

 

どうして一方的過ぎるのか?

 

どうして身勝手過ぎるのか?

 

どうして分かり合おうとしないのか?

 

相手と話し、理解をし、ぶつかり合い、分かり合おうと戦ってきた遊馬にとっては神話の物語に出てくる登場人物たちの心境は理解や納得出来ないものばかりだったが、メドゥーサはそんな遊馬の頭を撫でる。

 

「ユウマ……あまり深く考えないで下さい。ユウマはそのままのあなたでいて下さい。あなたの輝きが皆を照らすのですから」

 

「メドゥーサ……うん」

 

遊馬はメドゥーサの言う通り、自分を見失わずに今まで通り真っ直ぐ進もうと決めた。

 

 

午前0時・昼食。

 

勉強会が終わり、遊馬たちは昼食を取るが、何やら厨房で色々な騒ぎが起きていた。

 

アルトリアたちは心配しないでと言って厨房に向かい、遊馬たちは疑問符を浮かべながらそのまま昼食を食べていく。

 

 

午後1時・鍛錬。

 

トレーニングルームでは筋力増強を目的としたレオニダスのブードキャンプが始まり、遊馬の体を壊さないように気をつけながら行う。

 

最近ではレオニダス考案の短期間集中トレーニングとして、屈強な肉体の男たちが荒れ狂うマッスルコースと呼ばれるものがあるらしいが、今の遊馬では耐えられないのでそれには参加出来ない。

 

ちなみにマッスルコースは後にサーヴァントの根性を叩き直すための懲罰の一つとなるのだった。

 

 

午後3時・間食。

 

レオニダスのトレーニングが更に厳しくなってきたので一旦休憩を挟むこととなり、食堂で間食を食べにいくと、メディア・リリィがパンケーキを作っていたのでご馳走になる事となった。

 

「あの、どうですか?」

 

「うん!美味い!メディアのパンケーキ、最高だぜ!こんなに美味いパンケーキは初めてだ!」

 

遊馬はメディア・リリィのパンケーキを気に入り、ガツガツと美味しそうに食べる。

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

メディア・リリィは遊馬に喜んでもらえて嬉しそうに笑った。

 

微笑ましい光景だが、その近くでメディアはげっそりとした様子で紅茶を飲んでいた。

 

「危なかった……」

 

メディアが何故こんなにげっそりとしているのかと言うと、それは自分の過去の存在であるメディア・リリィが原因だった。

 

メディア・リリィはマスターである遊馬に美味しいパンケーキを食べてもらおうと頑張って料理していたが、何を血迷ったのか無限に食べられるパンケーキを作ろうとして、とんでもなくヤバい存在を召喚しようとしていた。

 

慌ててメディア達が止めに入り、思いを込めて作れば遊馬が喜ぶと説得し、メディア・リリィは美味しいパンケーキを作る事に成功した。

 

しかし、色々と精神が軽く狂ってサイコパスと称されたメディア・リリィを見逃せなくなり、メディアは大きなため息をつく。

 

「全く……せっかく宗一郎様と再会できたと言うのに余計な仕事を増やすんじゃないわよ、サイコパス小娘……」

 

幸せを掴んだメディアだが、同時に厄介の種が増えてしまった事に再び大きなため息をつくのだった。

 

 

午後3時半・剣術修行。

 

間食で体を休めてエネルギーを補給し、武蔵の二刀流の剣術稽古を行う。

 

武蔵は日に日に成長していく遊馬の二刀流に嬉しく思いながら自然と稽古に熱が入っていく。

 

 

午後5時半・相談。

 

トレーニングと修行が終わると遊馬はダ・ヴィンチちゃんに呼ばれて工房に向かう。

 

そこでダ・ヴィンチちゃんはある相談を遊馬に持ちかける。

 

「え?俺とアストラルの物語を映画にする??」

 

「そう。君達の前の世界の戦いの物語は私の個人的にもとても興味があるし、このカルデアに召喚されたサーヴァント達も興味がある。そこで、マスターとサーヴァントの絆を深めるためにも遊馬君とアストラル君の戦いの物語を映画にしようと考えたのさ」

 

遊馬とアストラルの戦いの物語は断片的に色々と話されているがその全貌は分かっていない。

 

そこでダ・ヴィンチちゃんは他者の記憶を映像化する機械を発明し、遊馬とアストラルの協力の元、二人の映画を作ろうと考えた。

 

予定では三部作にしてそれをカルデアの職員とサーヴァント達に見せ、遊馬とアストラルの戦いを知ってもらい、絆を深めると言う寸法だった。

 

「映画か……まさか俺が映画デビューとはな……よし!協力するぜ、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

「よろしく頼むよ、遊馬くん!」

 

こうして遊馬とアストラルの事を知ってもらうための映画作りが始まるのだった。

 

 

午後6時・夕食。

 

サーヴァント達が増えるにつれて食堂も賑わっていく。

 

遊馬は大所帯になったなと思いながらエミヤ特製のハンバーグを食べるのだった。

 

 

午後7時・自由時間。

 

夕食後、遊馬は桜と凛、そしてサーヴァント達と一緒にデュエルモンスターズの勉強会を始めた。

 

おっちょこちょいな所もあるが、そこはデュエルチャンピオンなのでカードやルールの基本的な説明をしていく。

 

ある程度の説明が終わると遊馬は詰めデュエルを始めた。

 

詰めデュエルとはあるデュエルの局面からそのターン終了時までにデュエルの勝利条件を満たすことを目的とした一人プレイ用のゲームで、詰め将棋や詰め囲碁のようなものである。

 

カードの効果をよく理解する必要があるのでデュエルの流れを学ぶにはうってつけだった。

 

簡単なものから始めていき、みんなは苦戦しながらも少しずつクリアしていき、着実にデュエルへの道を進んでいくのだった。

 

 

午後9時・対話。

 

遊馬はこの時間はサーヴァント達と絆を深めるために話をするのだが、今だけはサーヴァントではなく、ある者と話をする。

 

自室でベッドの上に皇の鍵を置き、念じながら翡翠の宝玉に触れると遊馬の体が粒子化して皇の鍵の中の世界に入った。

 

遊馬は皇の鍵の飛行船に降り立ち、周りを見渡すと目的の人物に会えた。

 

「お、いたいた。おーい、アストラル」

 

「遊馬……来たのか?」

 

「んー、皇の鍵に触れたら来れた」

 

「そうか……」

 

「ところで、こんなにもこいつを厳重に封印してるのか?」

 

アストラルの前にはある者を封印していた。

 

それは漆黒の闇の使者……No.96だった。

 

No.96は青白く輝く鎖で体を縛られており、動くことが出来ずにいた。

 

アストラルは冬木市でNo.96を皇の鍵の中に入れてからこうして封印しているのだ。

 

No.96は遊馬が来ることを察知したのかゆっくりと目を覚まして睨みつけた。

 

「わざわざ俺様の無様な姿を見に来たのか?遊馬君よぉ……」

 

「そんなつもりはないんだけどさ。アストラル、鎖を解いてやったら?」

 

「それは無理だ。遊馬、君も分かっているだろう?No.96は私の中に入り込んだドン・サウザンドの一部だ。何をしでかすか分からない」

 

No.96はアストラルが古の時代にドン・サウザンドと戦った時、ドン・サウザンドの一部がアストラルの中に宿り、それが自我を持った存在である。

 

「……なあ、No.96。って、名前が面倒だな。そうだ、お前の名前は『ミストラル』で良いや」

 

遊馬はNo.96の名前が言いづらいのでミストラルと名付けた。

 

「何だその名前は……ふざけているのか?」

 

「ふざけてねえよ。ブラック・ミストのミストと、アストラルの姿をしているからミストラル。ほら、ピッタリだろ?」

 

「ふざけるな!俺は認めないぞ!!」

 

「なあ、ミストラル」

 

「聞けよ!?」

 

遊馬はNo.96……ミストラルの抗議を無視して話し始める。

 

ミストラルの今までの行動や言動から遊馬の考えを話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前さ、ドン・サウザンドの一部じゃなくて、自分の存在を示したかった……生きたかったんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊馬の言葉にミストラルは固まる。

 

「な、何を言っている……?」

 

「真月から話を聞いたんだけどさ、お前ってアストラルから解放された後、人間に憑依して人間を観察して、色々な事をしてたんだよな?」

 

ミストラルは一度アストラルから解放された時、パーカー議員という人間に憑依し、そこで人間観察をしながら表では慈善活動をする一方で、裏では暗黒街のボスとして君臨していた。

 

「それって、人間のことを知ろうとしてたんだよな?お前、本当は神になりたいんじゃ無かったんだろ?真月がバリアンズ・フォースを渡してそれを使ったから変な考えが出て来たんじゃねえのか?」

 

あくまで推測だが、ミストラルは生きたかったのだと遊馬は考える。

 

最初から世界を滅ぼしたり遊馬とアストラルを倒すのならわざわざ人間に憑依する事もないし、その人間で色々な行動をする必要も無い。

 

バリアンズ・フォースを使ったせいでカオスの力が暴走し、ミストラルの心が歪んでしまった。

 

「そこはどうなんだ?ミストラル」

 

「黙れ……黙れ黙れ黙れ!!俺様の全てを知ったような口を聞くな!貴様の言葉は虫唾が走る!!」

 

ミストラルは体を必死に動かして遊馬に襲い掛かろうとするが、封印されているのでそれが出来ない。

 

遊馬は頭をかきながら今日はこれ以上話すとミストラルに悪いと思い、出ていくことにした。

 

「悪いな、気分を悪くしちゃって。じゃあ、またな〜」

 

「二度と来るな!!」

 

ミストラルの怒声が響く中、遊馬はあることを思い出して振り返る。

 

「あ、そうだ。今まで言えてなかったけど、ミストラルに言いたいことがあったんだ。ミストラル、ありがとう」

 

「な、に……!?」

 

突然の遊馬の感謝の言葉に戸惑うミストラル。

 

何故自分が感謝されるのか分からず困惑すると遊馬は皇の鍵の飛行船を見ながらその感謝の意味を伝える。

 

「ちょうどここだったよな。俺たちが影の巨人と戦ったところは」

 

かつて、遊馬とアストラルは皇の鍵の飛行船の上でアストラルの真の目的のための記憶を見つけるため、影の巨人と呼ばれる存在とデュエルをしたことがある。

 

そのデュエルで遊馬は影の巨人の繰り出すモンスターエクシーズに危機に陥り、ミストラルは自分の力である『No.96 ブラック・ミスト』を使わせる代わりにアストラルに封印を解くよう交渉した。

 

アストラルは遊馬を守るためにその交渉を受け入れ、ミストラルを解放した。

 

ミストラルは遊馬と協力してブラック・ミストをエクシーズ召喚し、まるで初めてとは思えない絶妙なコンビネーションで見事に影の巨人を倒したのだ。

 

「あの時のお礼、まだ言えてなかったからさ。助かったぜ、ミストラル。ありがとうな」

 

遊馬は笑みを浮かべてもう一度ミストラルに感謝の言葉を伝え、そのまま粒子化して皇の鍵の中から出て行った。

 

「何だよ……何なんだよ、あいつは……」

 

初めて他人から感謝の言葉を言われ、ミストラルは生まれて初めて感じる謎の気持ちに苦悩し始めた。

 

「遊馬……ふふっ……」

 

アストラルは遊馬の行動に驚きながらもとても嬉しく思い微笑んでいた。

 

 

午後11時・就寝。

 

清姫とネロが夜這いをかけようと遊馬の部屋に忍び、遊馬は令呪を使おうと思ったがそれではまた同じことの繰り返しなのであることを思いついた。

 

「はぁ……なあ、二人共。今度、一緒に昼寝をするから夜這いは勘弁してくれるか?」

 

遊馬の一言に清姫とネロは衝撃を受けた。

 

「えっ!?だ、旦那様とお、お昼寝ですか!?」

 

「ほ、本当か!?本当にユウマとお昼寝できるのか!?」

 

「流石に変なことは出来ないけど、昼寝ぐらいなら良いぜ?だからそれで勘弁してくれ」

 

「は、はい!分かりました!」

 

「うむ!まずは一歩前進で余も嬉しいぞ!」

 

清姫とネロはルンルン気分で遊馬の部屋を出て行き、遊馬はベッドに寝転がる。

 

昼寝なら夜でも無いし変なことをするつもりもないので大丈夫だろうと思いながら遊馬は眠りについた。

 

こうしてカルデアの一日がまた終わり、また新たな一日が始まるのだった。

 

 

 

 




ミストラルも着実に遊馬くんに攻略されて行きます(笑)
嫌いじゃ無いんですよね、ミストラル君は。

次回はいよいよ第四特異点のロンドン編です!
Fate/Apocryphaのキャラは数名登場させます。
誰が登場するのか楽しみに待っていてください!


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第四特異点 死界魔霧都市 ロンドン
ナンバーズ76 第四特異点へ!霧の都と親子の再会!?


お待たせしました!

第四特異点!死界魔霧都市ロンドン!

先日も話した通り、Fate/Apocryphaのキャラを少し出しますのでお楽しみに!


冬木市の戦いから少しの日にちが経ったある日の夜……遊馬はまた夢を見ていた。

 

今度もまた不思議な世界の中での夢で星が輝くような夜空に光り輝く花畑が広がっていた。

 

「あれは……」

 

花畑の中に静かに佇む大きなモノがおり、遊馬はそれを見たことがあった。

 

「ファヴニール……?」

 

それは第一特異点でレティシアが召喚した漆黒の竜……邪竜・ファヴニールだった。

 

何故ファヴニールが花畑の中にいるのか疑問に思っているとそこに一人の女性が歩いていた。

 

「ジャンヌお姉ちゃん……?」

 

それは白いワンピース姿のジャンヌでファヴニールに嬉しそうに近づくと、ファヴニールは光に包まれて姿を変えると一人の少年となった。

 

ジャンヌと少年は嬉しそうに手を握り、ジャンヌは頬を染めながら少年にある言葉を伝えた。

 

『私はあなたに恋をしています』

 

それは紛れも無い告白の言葉だが遊馬はそれを置いておいて特に気になることを考える。

 

「なんでジャンヌお姉ちゃんとファヴニールが……?」

 

ファヴニールが少年になり何故ジャンヌと一緒にいるのか分からずキョトンとしていると風景が一変し、薄暗い不気味な世界となった。

 

「何だ……?」

 

遊馬は警戒し、周りを見渡すとそこには衝撃的な光景が広がった。

 

多くの幼き子供達が倒れており、遊馬はその子供達に駆け寄った。

 

「おい!お前ら!何だよこれ……」

 

子供達の一人を抱き上げるが、子供達は既に息を引き取っており、亡くなっていた。

 

「わたしたちは……生きたい……」

 

幼い声が聞こえ、振り向くとそこには顔に複数の傷跡が残る儚い雰囲気を出す少女が立っていた。

 

「お前は……?」

 

すると、少女は何も答えずに霧の中へと消えていった。

 

「ま、待て!」

 

遊馬は手を伸ばすがその少女の姿は完全に消えてしまった。

 

そして……。

 

グサッ!

 

「うぐっ!?」

 

気がつくと少女は目の前におり、遊馬の懐に潜り込んで歪な形をしたナイフを遊馬の腹に突き刺していた。

 

「ごめんね……」

 

少女は悲しそうな表情を浮かべていた。

 

そして、周囲が光に包まれて遊馬の夢が終わる。

 

「……うー、目覚めが悪い……」

 

連続して二つの夢を見て、少し頭が疲れた遊馬は頭を抱える。

 

腹に手を添えるが刺された様子がなく少しホッとするとそこに部屋に侵入していた空がコップに水を入れて持ってきた。

 

「おはよう、遊馬君」

 

「あー、おはよう……空。サンキュー」

 

もはや勝手に部屋にいることすらツッコムのも疲れてきたのでコップを受け取って水をグイッと一気飲みする。

 

「ぷはぁ……」

 

「ねえ、またあなた……夢を見ていたの?」

 

「うん。全く違う二つの夢をな……」

 

「……あまり夢に呑み込まれると良くないわよ?」

 

「そう言われても俺自身がどうこうできるもんじゃ無いからな。夢には何か意味があると思うし……」

 

「……深く考えない方が賢明よ。あなたは背負いすぎているから」

 

「背負うなんて、今に始まった事じゃねえよ。もう慣れっこだ。さてと、早く着替えて飯にするか!」

 

遊馬はジャージを脱いで私服に着替えて自室を出る。

 

その小さな背中に空は不安げに見つめた。

 

「本当に重い運命よね……」

 

空はそんな遊馬の背中を今は見ることしかできず、その場から静かに消えた。

 

 

食堂にてマシュ達と朝食を取っているとき、遊馬はジャンヌとレティシアを見かけた。

 

一緒に朝食を食べており、夢が気になったので思い切って二人に色々聞いてみることにした。

 

「おはよう。ジャンヌお姉ちゃん、レティシア」

 

「おはようございます、遊馬君」

 

「おはよー」

 

「早速で悪いんだけどさ、お姉ちゃんは昔、俺より少し年上の茶髪でアレキサンダー並みの美少年と会ったことがあるか?」

 

「……は?い、いえ……生前にはそのような子とは会ったことはありませんし、サーヴァントになってからは遊馬君達と一緒に戦った時の記憶しかありませんから、そのような子と会ったことはないと思います……」

 

「急にどうしたのよ?」

 

「実はさ、夢でジャンヌお姉ちゃんが綺麗な花畑でファヴニールと会ってたんだよ」

 

「ファヴニールと?」

 

「しかもファヴニールがアレキサンダー並みだけど儚い感じの美少年になってさ、ジャンヌお姉ちゃんと嬉しそうに手を取り合っていたんだよ」

 

「……おい、ショタコン聖女。あんた何してるのよ?」

 

ジャンヌのショタコン疑惑が深まり、ギロリと鋭い眼差しで睨みつけるレティシア。

 

身に覚えのない容疑にジャンヌは必死に弁明する。

 

「誰がショタコンですか!?そんな男の子なんて知りませんから!私にとって親しい男の子は遊馬君ぐらいしかいませんから!」

 

「じゃあその遊馬が見たって言う美少年は何者よ!?さあ、ジャンヌ・ダルクよ!正直に自白しなさい、それで罪は軽くなるわ!」

 

「だから知りませんから!?」

 

「そう言えばさ、レティシアが竜の魔女って呼ばれた時にファヴニールを召喚してたよな?何でファヴニールだったんだ?」

 

ファヴニールは元々北欧神話に登場するドラゴンであり、それをジークフリートが討ち倒した伝説がある。

 

しかし、何故ジャンヌの憎しみの存在としてジルが望み、聖杯で生み出されたレティシア……ジャンヌ・オルタがファヴニールを召喚出来たのか?

 

遊馬はそこに疑問を抱いた。

 

「……何でかしら?」

 

レティシアは腕を組んで首を傾げる。

 

あの時は何となく復讐心に任せてされるがままのようにやっていたので疑問に思わなかったが、今更になりながら何故自分がファヴニールを召喚出来たのか疑問に思い始めてきた。

 

「別にファヴニールじゃなくても有名なドラゴンなんて世界中に沢山いるわよね……何でファヴニールだったのかしら?」

 

「オルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルクと北欧神話の財宝を守る邪竜、ファヴニール……接点が無くね?」

 

「ありませんね」

 

「無いわね」

 

ジャンヌとファヴニール……時代や国や種族が異なる二つの存在が繋がったのか分からず悩んでいると、ジャンヌはあることを思いつく。

 

「もしかしたら……私やレティシアとは違う……『別のジャンヌ・ダルク』がファヴニールと接点があるのかもしれません」

 

「別のジャンヌ?」

 

「そう言えば、騎士王様も同じだけど異なる存在のオルタがいたわね……そう考えるなら、その別のジャンヌ・ダルクがファヴニールの少年?みたいな子と、どういう経緯か分からないけど、親しい関係になった。後に特異点で復讐のジャンヌとして生まれた私がドラゴンを召喚した際にその縁からファヴニールを呼び出せた……って事かしらね?」

 

まだ推測の話だが英霊……サーヴァントと言う不可思議な存在が未知なる可能性を秘めていることを改めて考えさせられた。

 

するとそこに急ぎ足で食堂にオルガマリーが入ってきた。

 

「遊馬、マシュ!新たな特異点が見つかったわ」

 

新たな特異点……フランス、ローマ、地中海に続く第四特異点の発見に遊馬達の緊張感が高まる。

 

「来たか……」

 

「分かりました、すぐに準備して管制室に向かいます」

 

「お願いね」

 

遊馬とマシュは急いで食事を終えるとそれぞれの自室に戻って特異点に向かう準備を整える。

 

「アストラル!」

 

遊馬が準備を終えて皇の鍵の中にいるアストラルに向けて呼びかけると、中から話を聞いていたアストラルが現れる。

 

「話は聞こえていた。遊馬、気を引き締めていこう!」

 

「おう!ところで、ミストラルはどうした?」

 

「……彼は最近とても大人しい。ぶつぶつと自問自答をして悩んでいたよ」

 

「そっか。まあ、あいつが考えて悩むようになったのは良いことだと思うぜ」

 

「そうだな……よし、行こう」

 

「おう!」

 

遊馬はアストラルと共に急いで管制室に向かった。

 

管制室にはマシュ達が集まっており、遊馬とアストラルが到着してようやくオルガマリーの口から話が始まる。

 

「さて、今回で四つ目の特異点ですが、いずれかの時代に黒幕が潜んでいる可能性は高いわ。気をつけてね」

 

「おう!」

 

「分かった」

 

「はい!」

 

「今回のオーダー、第四特異点は19世紀。七つの中では最も現代に近い特異点よ。何故ならその時代は文明の発展と隆盛、人類にとって大きな飛躍を遂げる事になる」

 

「19世紀……産業革命か?」

 

「その通りよ、アストラル。産業革命によって、人類史は現代への足がかりを得たのだから」

 

「産業革命っていうと……あ、ロンドンか」

 

遊馬はカルデアでの勉強の成果が出ており、産業革命の発端とも言える都市、ロンドンを答え当てた。

 

「正解よ、珍しい事に第四特異点は首都ロンドンに特定されているの。そして、今回の護衛サーヴァントですが、クジではなく私が指名させてもらいます」

 

「所長が?」

 

「ええ。今回の特異点は珍しい事に具体的な場所が指定されているの……そこでロンドンで特に所縁のあるサーヴァントを護衛に着かせる事にしたわ」

 

「あ、そうか。確かサーヴァントって知名度補正ってのがあるんだっけ?」

 

サーヴァントには召喚された地域においてその英霊が非常に有名だった場合、それだけで信仰心を集める事になり、より強い実力を発揮する。

 

「その通りよ。現在カルデアでロンドンにおいて最も知名度補正を受けられる二人を護衛に就かせるわ。頼むわよ、アルトリア。ブーディカ」

 

ロンドンにて特に有名な王と女王が前に出る。

 

「私たちにお任せください、マスター」

 

「カルデアきっての英国サーヴァントにお任せあれだよ」

 

アルトリアとブーディカの登場にアストラルは納得するように頷いた。

 

「なるほど、円卓の騎士王のアルトリアと勝利の女王のブーディカか……これほどロンドンの特異点に相応しいサーヴァントは中々いないだろう」

 

「頼りにしてるぜ、二人共!」

 

遊馬が二人とハイタッチをし、特異点に向けて気合い十分の中……。

 

「ぬぉおおおおおっ!?いかんぞ、ブーディカとユウマを一緒に行くことは許さないぞ!余も、余も連れて行くのだ!」

 

ネロは珍しく焦りの様子を見せながら自分も連れて行けと言い出した。

 

オガワハイムの一件以来、ブーディカは遊馬に対しての愛情が強くなっていき、ネロにとって未来の夫がブーディカに奪われるのではないかと危惧していた。

 

「はぁ……ネロ。あなたはお呼びじゃありません。ちびノブ、連れて行きなさい」

 

「「「ノッブノブ!」」」

 

オルガマリーに命令されて敬礼をしたちびノブ達は人海戦術でネロを囲んで胴上げするように持ち上げて管制室から運びだす

 

「ぬぉっ!?は、離せ!離すのだ!!」

 

身動きが取れずに連れ出されるネロに対し、ブーディカはみんなに見られないようにしながら悪戯っ子のように可愛らしいあっかんべーを送った。

 

「っ!?お、おのれ、おのれ!ブーディカァアアアアアッ!!?」

 

遊馬と合法的に一緒に居られる特異点の戦いで不謹慎だがとても嬉しく思うブーディカは宿敵であるが徐々に距離が縮まっているネロに対してわざと優越感を出すために珍しく挑発するのだった。

 

そしてネロは管制室から強制的に連れ出され、叫び声が聞こえなくなるとオルガマリーは話を再開する。

 

「こほん。今までとは違い都市部での戦闘になるので気をつけて行動してください」

 

「いいなあ、ロンドン。霧の都。可能なら、ボクも行ってみたかったなあ。シャーロック・ホームズに会ったらサインとか」

 

ロマンはロンドンから生まれた世界一有名な名探偵、シャーロック・ホームズに是非とも会いたいと思ったが、すぐにマシュが訂正する。

 

「ドクター、旅行ではありません。それと、シャーロック・ホームズは架空の人物です。恐らくですが、サインは難しいでしょう。残念ではありますが諦めて下さい」

 

「マシュ、諦めることはないんじゃねえのか?」

 

実はシャーロック・ホームズのファンであるマシュの言葉に遊馬は諦めることはないと反論する。

 

「え?」

 

「だってさ、歴史上にいる人物ならともかく、俺たちにとって神話や物語の登場人物の多くがこのカルデアにいるじゃん」

 

歴史上に実在した英霊の他に遊馬達にとっては空想の神話や物語の登場人物が数多くいる。

 

「可能性が低いかもしれないけど、シャーロック・ホームズがいるかもしれないじゃん。俺も会いたいぜ、世界一の名探偵!」

 

摩訶不思議な存在であるサーヴァント……もしかしたらシャーロック・ホームズが英霊として存在している可能性があるかもしれない。

 

そう考えるだけで自然とワクワクしてくる。

 

「そうですね……私も是非会ってみたいです!」

 

「おう!会ったら必ずサインを貰おうぜ!」

 

「はい!」

 

「あ、ボクの分もお願いね!」

 

シャーロック・ホームズの話で盛り上がる遊馬達にこめかみを抑えたオルガマリーはため息を吐く。

 

「はぁ……あなた達、話は終わりにしてもらえるかしら?」

 

「「「すいません……」」」

 

「では、これより第四特異点のオーダーを開始します。遊馬、マシュ、アストラル、アルトリア、ブーディカ、準備はいいわね?」

 

「もちろんだぜ!」

 

「いつでも行けます!」

 

「次の特異点も必ず攻略する」

 

「行きましょう、ブーディカ女王」

 

「うん、お姉さんに任せてね!」

 

遊馬はマシュ、アルトリア、ブーディカをフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまい、アストラルは皇の鍵の中に入る。

 

「フォウフォウ!」

 

「フォウも頑張ろうぜ!」

 

フォウは遊馬の上着のフードの中に入り、遊馬は意気揚々とコフィンの中に入る。

 

コフィンの中に入った遊馬は目を閉じると体が粒子となり、第四特異点……19世紀ロンドンに向けてレイシフトする。

 

 

第四特異点の19世紀ロンドンにレイシフトが成功した遊馬はデッキケースからマシュ達を出す。

 

「これは……視界が阻害されるほどの霧ですね」

 

「霧と言うよりも煙のような感じですね」

 

「何これ……周りが全く見えないよ……」

 

ロンドンの周囲の建物は辛うじて見えるが、街は霧に覆われてほとんど周りが見えない状態だった。

 

「うわぁ、すげぇ霧……流石は霧の都だな」

 

「遊馬……この霧は吸わない方がいい。これはロンドンスモッグだ」

 

「ロンドンスモッグ?」

 

「19世紀のロンドンで発生した公害の一つだ。産業革命と石炭燃料の利用により、石炭を燃やした後の煙やすすが霧に混じって地表に滞留し、スモッグと呼ばれる現象を起こして呼吸器疾患など多くの健康被害を出していた……結果、1万人以上が死亡した、史上最悪規模の大気汚染による公害事件となった」

 

霧の都と言われているロンドンだが、その背景には暗黒の時代が存在していた。

 

遊馬は思わず口元を抑えるがそれでは意味がない。

 

「ま、マジかよ……でも俺マスクを持ってねえよ」

 

「……仕方ない。遊馬、これを」

 

アストラルは自身の体からカードを一枚取り出して遊馬の懐に入れた。

 

遊馬の胸元に『49』の刻印が浮かび、呼吸がとても楽になった。

 

「癒しのナンバーズ、『No.49 秘鳥フォーチュンチュン』の力で遊馬に悪影響を与える霧を無効化させた」

 

「サンキュー、アストラル!」

 

「文明が発達したのはいいけど、こんなにも汚れているなんてとても複雑ね……」

 

ブーディカは自分が生きていた時代よりも何百年、何千年も経過しているので国が大きく変化しているのは理解出来るが、19世紀のロンドンがここまで酷く汚れているのは納得出来なかった。

 

「ブーディカ、19世紀のロンドンは確かに酷いが、後の時代で公害を無くそうと、自然を取り戻そうと多くの人々が行動を起こしている」

 

「そうだ!ブーディカ、戦いが終わって俺たちの世界に来たらロンドンに連れてってやるぜ!」

 

「ユウマの世界のロンドンに……?」

 

「ああ!前からサーヴァントのみんなと一緒に俺たちの世界に連れて行った時に世界一周旅行を考えているからさ!」

 

「……ありがとう、楽しみにしているよ」

 

ブーディカは遊馬の粋な計らいに感謝をして頭を撫でる。

 

アストラルは周囲を見渡し、霧を凝視する。

 

「……これは!?」

 

その霧はロンドンスモッグとは異なるものだと気付き、その直後にカルデアから連絡が来た。

 

計測によるとこの霧はただの霧ではなく、異常な魔力反応を示していた。

 

どうやら大気の組成そのものに魔力が結びついており、吸い込めば生体に対して有害な影響を与えるものである。

 

遊馬は先程アストラルから『No.49 秘鳥フォーチュンチュン』のカードを受け取り、その恩恵で霧を中和しており、マシュ達は対魔力のスキルと遊馬と契約した際にアストラルから流れるナンバーズのエネルギーで霧を防いでいる。

 

恐らくこの霧でロンドン市民の多くが犠牲になり、建物は全て閉められており、建物内から生体反応があることから生き延びた市民が避難していることは間違いなかった。

 

一刻も早くこの霧を判明しなければならないと遊馬達が行動を起こしたその時だった。

 

「遊馬、サーヴァントの気配だ!」

 

アストラルがサーヴァントの気配を察知し、遊馬達は瞬時に戦闘態勢を取る。

 

コツコツ……と、地面をゆっくり歩いて来て霧の中からその姿が見えて来る。

 

その姿に遊馬達は……特にアルトリアは目を疑う。

 

「あなたは……!?」

 

そして、近づいて来たその者もアルトリアを見て目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父上……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルトリアを父上と呼ぶその者──それはアルトリアと瓜二つの顔をした赤いラインが刻まれた鎧を纏った騎士だった。

 

「えっ!?アルトリアにそっくり!?」

 

「父上……まさか、あのサーヴァントは!?」

 

「も、もしかして……」

 

「なるほどね、そう言うことか……!」

 

遊馬達はそのサーヴァントの正体がすぐに分かり、互いに睨み合う二人にこれからどうなるのかと緊張していると、先に前に出たのはアルトリアだった。

 

アルトリアは約束された勝利の剣を取り出すとその切っ先をサーヴァントに向ける。

 

「っ!父上!?」

 

「あなたに問います、モードレッド」

 

「えっ?」

 

アルトリアには殺気が一切なく、そのサーヴァント──モードレッドに問いかける。

 

モードレッド。

 

円卓の騎士の一人であり、アルトリア……アーサー王の息子。

 

アーサー王物語の伝説に終止符を打った『叛逆の騎士』である。

 

「あなたはこの世界に召喚された。それはこの世界を救うためですか?それとも、滅ぼすためですか?答えなさい、モードレッド」

 

「オ、オレは……」

 

モードレッドは緊張しているのか体が少し震えながらアルトリアを見ていた。

 

上手く答えることはできない、なんて答えればいいのか分からずにいた。

 

「……父上、質問を質問で返して悪いけど、一つだけ教えてくれ。父上は何でここにいる……?」

 

質問を質問で返すのは無粋だが、モードレッドはどうしてもアルトリアが何故ここにいるのか、何のためにここにいるのかを聞きたかった。

 

それを聞き、アルトリアは静かに答える。

 

「私は……私たちは、人類と世界の未来を救う為にここにいます。モードレッド、あなたの正直な心で問いに答えなさい」

 

アルトリアの言葉を聞きモードレッドは自分の正直な心で答えを出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは……オレ以外の奴がブリテンの地を汚すのは許さねえ。父上の愛したブリテンの大地を穢していいのは、このオレだけだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかの予想外の歪んだ答えに遊馬達だけでなくアルトリアも絶句した。

 

どうしてそんな歪んだ答えを出すのか……とこの場にいるモードレッド以外の全てが同時に思った。

 

そして、アルトリアは呆れ果てながら約束された勝利の剣をしまい、モードレッドの発言に頭痛がする頭を抑えながら呟く。

 

「全く……いつか絶対にあの馬鹿姉をこの手でシメなければ。あと、この馬鹿息子は徹底的に教育しなければいけませんね。叛逆精神を叩き直さないと、また刺されそうですから……」

 

アルトリアは内心大きなため息をつきながら少し疲れた表情を見せながらモードレッドに再び話しかける。

 

「モードレッド……この地を守る為に戦う気があるなら、一緒に行きますか?」

 

「えっ!?い、良いのか!?父上!?」

 

モードレッドは目をキラキラと輝かせながらアルトリアに近づく。

 

「良いですよ……ただし、叛逆したら許しませんからね」

 

「おう!オレに任せておけ、父上!!ハッハッハッハ!」

 

堂々と胸を張り、自信満々に答えるモードレッドにアルトリアはまだ戦闘をしてないのにどっと疲れが体に襲いかかる。

 

「子供って難しいです……」

 

モードレッドの登場により生前では体験したことのないアルトリアの親(?)としての苦悩が始まるのだった。

 

 

一方、霧に覆われたロンドンの地で二つの影が地を駆けていた。

 

「こちらに複数のサーヴァントの気配を感じます」

 

「俺たちの敵じゃなければ良いが……」

 

「そうですね……この異常事態は私達だけでは対処出来ません。共に戦える同志がいれば良いのですが……」

 

その二つの影は一組の男女でその美しき容貌から美男美女と言っても過言ではない二人だった。

 

二人は走りながら互いの思いを打ち明けていく。

 

「……今度こそ、君を失わせない。何があっても」

 

「私もです……共に戦い、最後まで共に生き残りましょう」

 

二人が互いを思いやるその気持ちは鋼のようにとても強く、二人の間には深い絆で結ばれていた。

 

そして、二人はまっすぐこのロンドンを救う存在となる光──遊馬の元へと向かっていた。

 

 

 




開始早々、アルトリアとモードレッドの再会です。
歩み寄ろうとした矢先にモードレッドの歪んだ発言にアルトリアも頭を悩ませます。
子育てって難しいですからね……。

そして、ラストに登場した二人はもう皆さんお分かりですよね?
あのカップリングはフェイトシリーズでも好きなので出しました。

あ、一応言っておきますが、カルデアにいる彼女は妹と二人でのんびりお茶をしてますのでご安心を。


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ナンバーズ77 邪竜と聖女

体調不良で日曜日に投稿できなくて申し訳ありませんでした。
皆さんの励ましの感想、ありがとうございました。
皆さんも体調に気をつけてください。
今週の日曜日はちゃんと投稿出来るように頑張ります。


叛逆の騎士……モードレッドと再会し、父親(?)であるアルトリアは疲れた表情を浮かべていた。

 

するとブーディカがニコニコと笑顔でモードレッドに近付いた。

 

「こんにちは、モードレッド♪」

 

「あぁ?何だよ、お前──」

 

「これからよろしくね〜」

 

「わぷっ!?」

 

ブーディカは一瞬でモードレッドの背後に回り込んでギュッと抱き寄せた。

 

突然抱きしめられ、更には豊満な胸に顔を埋められてモードレッドは混乱する。

 

「むぅーっ!?ぷはっ!?な、何だよいきなり!?」

 

「私はブーディカ。あなたの親戚のお姉さんみたいなものだよ」

 

「ブーディカ……?あれ、どこかで聞いたような……」

 

「彼女は私たちの時代よりも前の女王。勝利の女王、ブーディカですよ」

 

「はぁ!??」

 

アルトリアのブーディカの紹介にモードレッドは驚愕した。

 

ブリテンよりも前の時代、ブリタニアの女王……大先輩であるブーディカがいることに驚きを隠せなかった。

 

「お、お前、いや……あなたがあのローマを震撼させた……」

 

「まぁ、最後は結局は負けちゃったけどね。それにしても君がアルトリアの子供かぁ〜。アルトリアにそっくりだね。これからよろしくね」

 

「お、おう!」

 

母性溢れる性格と大先輩であるブーディカにモードレッドはすぐに心を許した。

 

次にマシュが自己紹介する。

 

「あの、初めまして、モードレッドさん。私はマシュ・キリエライトです」

 

「フォウフォウ!」

 

「こちらはフォウさんです」

 

「マシュにフォウね……マシュ、お前はデミ・サーヴァントか?」

 

モードレッドはマシュをデミ・サーヴァントだとすぐに見抜き、マシュは肯定の頷きをする。

 

「はい、私はデミ・サーヴァントです。もっとも、私の中にいる英霊が誰なのか分かりませんが……」

 

「ふーん……で、そこにいるお前、令呪があるってことはお前がマスターか?」

 

モードレッドは遊馬を見定めるように睨みつける。

 

「おう、俺は遊馬。九十九遊馬だ」

 

「私はアストラル、遊馬の相棒だ」

 

するとモードレッドはアストラルを疑惑の目で見つめる。

 

「てめえ、精霊だな?どうして精霊がそいつといるんだよ」

 

「私と遊馬は相棒にして一心同体の関係だからだ」

 

「一緒にいちゃ悪いのか?俺とアストラルはずっと一緒に戦ってきたからさ」

 

「ふん……それにしても小せえな。まだガキじゃねえか」

 

モードレッドは誰かと比べているのか遊馬がまだ幼いことを馬鹿にしてマスターとしてやっていけるのか疑問に思っていた。

 

「ガキで悪かったな。でも俺はマシュ、アルトリア、ブーディカのマスターなんだよ」

 

「こんなガキが父上とブーディカ女王のマスターだぁ?なんか頼りねえな……」

 

「モードレッド」

 

コツン!

 

アルトリアはモードレッドを戒めるために手甲を嵌めた拳で軽く頭を殴った。

 

「痛っ!?何するんだよ、父上!」

 

「私のマスターにそのような口を利くのではありません。それに、マスターはあなたが思っている以上に素晴らしく、そして強い人です。見かけで人を判断するのではありませんよ」

 

「……父上がそこまで言うなら信じてやっても良いけど、オレは自分の目で見たものしか信じられない。お前、オレと契約したかったらオレを満足させる力量を見せてみろ!」

 

「上等だぜ、俺を認めさせてやるよ!」

 

「はっ、期待しないで待ってるぜ」

 

「何だと?絶対に認めさせてやる!!覚悟しておけよ!」

 

「てめえ、生意気だなコラァ!」

 

「けっ、お前もな!!」

 

遊馬とモードレッドの間で軽く火花が散り、まるで喧嘩するような友達みたいな関係になる。

 

モードレッドの暴走っぷりにアルトリアは頭を抱え、マシュとブーディカは苦笑を浮かべていた。

 

「って、こいつと言い争ってる状況じゃねえ。父上、オレがこの地で拠点にしている場所がある。そこにこの事態を解決する為の協力者がいるからそこで話をしないか?」

 

「協力者がいるのですか、それは心強い。早速案内をお願いします」

 

「おう!」

 

モードレッドはアルトリアに頼られて嬉しいのかルンルン気分の軽い足取りで案内する。

 

その姿を見ると、多少荒っぽいところはあるが、どうしてモードレッドが叛逆の騎士としてアルトリアに叛逆したのか疑問に思ってくる。

 

大通りから路地裏を歩き、石造りの建物が並ぶ住宅街を進んでいく

 

「……………………」

 

口を閉ざし、目を閉じて神経を研ぎ澄ませていたアストラルはゆっくりと遊馬に近づく影にいち早く気づいた。

 

「──遊馬、後ろだ!」

 

「おうよ!!」

 

遊馬はアストラルの言葉を瞬時に聞き取ってはホープ剣を呼び出し、背後に現れる影を振り払った。

 

振り払った影は何かでホープ剣を防ぎ、軽やかな動きで後ろに下がった。

 

その影の正体を見た瞬間、遊馬は驚愕することとなる。

 

「お前は……!?」

 

両手にナイフを構え、顔に大きな傷をつけて露出度の高い服を着た少女……それは遊馬が昨夜見た夢に出て着た謎の少女だった。

 

「……あなたは、ねえ、なんだろう。人間?それとも魔術師?」

 

「俺は人間だよ。でも、魔術師なんて下らない存在じゃない。俺はデュエリストだ!!」

 

「デュエ、リスト……?何それ……?でもそれはいいや。それよりも、あなた、美味しそう……?」

 

「──は?」

 

謎の少女の発言に遊馬は思考が停止するほどに驚愕した。

 

何を言いだすんだこいつはと思い、謎の少女はペロリと唇を舐めると物欲しそうな目で見つめて来た。

 

「あなたの魂と心臓……いままで見たことないほどにおいしそうに見える……ねえ、たべさせて?」

 

「お前はアホかぁっ!?そんな事を許すわけねえだろ!??」

 

「気をつけろ、ガキ!こいつは危険なサーヴァントだ!アサシン、ここで倒してやる!」

 

モードレッドが遊馬の首根っこを掴んで無理矢理下がらせて自ら前に出る。

 

「ケチ……でもいいよ、わたしたちがおいしくたべてあげるから!」

 

「遊馬、来るぞ!」

 

「下がってて下さい、遊馬君!」

 

アストラルとマシュが前に出て、謎の少女が地を蹴って襲いかかろうとした──その時。

 

「お待ちなさい!!」

 

「止めろ!!」

 

建物の屋根の上から二つの影が降り立ち、遊馬達の前に現れた。

 

その影の正体に真っ先に気がついたのはモードレッドで驚きの後にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「よぉ、久しぶりじゃねえか。まさか、またお前ら二人とこうして会うとはな……」

 

「……あなたも元気そうですね、赤のセイバー」

 

「今回は初めから俺達は君の敵じゃない。力を合わせよう、赤のセイバー」

 

遊馬達は目を凝らしてモードレッドと話す二つの影を見つめる。

 

一つはどこか儚い雰囲気を出し、現代風のシャツとズボンを着用し、手にはどこかで見たことのある佩剣を構えた美少年。

 

そして、もう一人は……。

 

「ジャンヌ……?」

 

そう、美少年の隣にいたのはまぎれもないオルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルクだった。

 

しかし、そのジャンヌは遊馬達には一言も発せず、ただアサシンと対峙して旗を構えており、明らかに遊馬達の知っているジャンヌとは別人のようだった。

 

「……遊馬、彼女からはナンバーズの力が感じられない」

 

アストラルは手をジャンヌの方にかざしてナンバーズの力の流れを読み取ろうとしたが、ジャンヌからは一切流れていなかった。

 

「じゃあ、俺と契約しているお姉ちゃんじゃないってことか?」

 

「おそらくは……」

 

「どういう事だ?」

 

次から次へと謎の事態が重なり、状況が混沌としていく。

 

すると、アサシンは両手のナイフを消すとその体が霧に包まれて姿が消えていく。

 

「このままじゃ負けそうだから逃げるね……バイバイ」

 

「あっ、待ちやがれ!」

 

モードレッドは手に宝具と思われる美しい剣を取り出して魔力を込めようとするが、肩に手を添えられて中断させられた。

 

「待ちなさい、モードレッド。気配がもう消えています。無駄な魔力を消費するのはいけません」

 

「……分かったよ、父上」

 

モードレッドはアサシンを逃した悔しさを飲み込んで剣を消し、ジャンヌと少年に向かって話しかける。

 

「お前ら二人も来い。色々話し合わなきゃならねえからな」

 

モードレッドの申し出にジャンヌと少年は静かに頷き、遊馬達と共にモードレッドの拠点へと向かう。

 

 

モードレッドが案内したのはマンションタイプのハウジング、アパルトメントでその一室に入る。

 

「おい、戻ったぜ!」

 

「あー、おかえり……って、随分大所帯だね……」

 

出迎えたのは眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の青年だった。

 

「ジキル、紹介するぜ!オレの父上だ!」

 

「へぇ、モードレッドの父上……って、もしかしてアーサー王!??」

 

「当たり前だろ!」

 

青年──ジキルは既にモードレッドの真名を知っていたので、そのモードレッドが父上と呼ぶ存在はアーサー王しかいない。

 

まさか伝説の騎士王であるアーサー王に会えるとは思いもよらなかったのでジキルは反射的に跪いた。

 

「お初にお目にかかります、アーサー王。私はヘンリー・ジキルと申します。偉大なる騎士王である、あなた様にお会いできて光栄です」

 

イギリス人にとっては崇拝すべき王の一人であるアーサー王ことアルトリアに対して失礼のない挨拶をした。

 

「いいえ、私はもう既に大昔の王ですからそこまで畏まらなくても……」

 

「そういうわけにはいきません!」

 

「へへっ、ジキル。聞いて驚けよ、父上の隣にいるのは勝利の女王、ブーディカ女王だぜ!」

 

「ブ、ブーディカ女王!?し、失礼しました!ブーディカ女王陛下、あなた様にもお会いできて光栄です!」

 

「え?あ、良いんだよ、そんなに畏まらなくて……私もアルトリアと同じく大昔の人間だから……」

 

イギリスにその名を馳せる王と女王の突然の登場にジキルは混乱しながらも頭を深く下げて敬意を表する。

 

その光景を見て遊馬は思った。

 

「うーん、アストラル……俺の国だったら大昔の天皇様や将軍様を前にしているようなものか?」

 

「その認識で間違ってはいないだろう」

 

遊馬は多くの英霊……サーヴァントを共に戦う大切な仲間として扱っていたために少し感覚が麻痺していたが、やはり人々にとっては信仰の対象になる偉大な人たちなのだと改めて思い知らされた。

 

「ジキル、シードル貰うぜー」

 

モードレッドはこの時代にはまだなかった冷蔵庫から勝手にリンゴを発酵させたアルコール飲料であるシードルのビンを取り、ソファーに座る。

 

「あ、それは僕のお気に入りのソファー……全く……」

 

ジキルの迷惑を関係なく自分勝手にくつろぎ始めるモードレッド。

 

アルトリアはゆらりとモードレッドの背後に立つ。

 

「……モードレッド、そのビンをテーブルに置きなさい」

 

「ん?なんだ、父上も飲みたいのか?それならその冷蔵庫に──」

 

「いい加減にしなさい」

 

ゴツン!!!

 

アルトリアは鎧を解除し、モードレッドからシードルのビンを奪うと同時に素手で思いっきりモードレッドの頭に拳骨を喰らわせた。

 

「フニャアアアアアッ!??」

 

頭を殴られたモードレッドは猫のような奇声を放つ。

 

魔力がこもってない、ただの腕力から落とされた拳骨にモードレッドは頭を抱えて悶え苦しんでいた。

 

「い、痛ぇ……な、何するんだよ父上!?」

 

モードレッドは涙目になりながらアルトリアを見上げる。

 

しかし、鎧を解除したアルトリアは体から魔力の代わりに怒気を発しており、その背後から獅子のオーラが見えるほどに怒っていた。

 

「ち、父上……?」

 

「モードレッド……あなた、自分勝手にもほどがありますよ……?」

 

アルトリアの『親』としての怒気にモードレッドは今まで感じたことのない恐怖に襲われ、体がガタガタと震えていた。

 

「え、あ、あぅ、だ、だって……」

 

「だってじゃありませんよ?えっと、ジキルでしたっけ?申し訳ありません、うちのバカの所為でご迷惑をおかけしました」

 

「い、いえいえ……いや、あの、頭を上げてください!アーサー王に頭を下げられるなんて恐れ多い……」

 

「そうだぜ、父上!父上が頭を下げるなんて……」

 

「あなたは黙ってなさい」

 

「ひぃっ!?」

 

アルトリアはギロリとモードレッドを睨みつけ、生前でも感じたことのない恐ろしい形相にモードレッドは怯んでしまった。

 

「モードレッド、もう我慢出来ません。これからあなたに説教します。覚悟してください」

 

「せ、説教!?や、ヤダ!そんなの絶対に……」

 

「ジキル、申し訳ありませんが、隣の部屋を借りてもよろしいですか?」

 

「は、はい……ど、どうぞご自由に……」

 

「ありがとうございます。では行きますよ、モードレッド」

 

「い、嫌だぁ!!俺は逃げ──」

 

「逃しませんよ?」

 

アルトリアはモードレッドの頭をアイアンクローで掴んでミシミシと音を立てながら隣の部屋へと引きずる。

 

モードレッドは涙目になりながら近くにいる者達に助けを求める。

 

「ぎゃああああっ!??た、助けてくれ!ブーディカ女王!」

 

「え、えっと……ごめんね?」

 

「ガァン!?」

 

自分の子を叱る親の気持ちがわかるのでアルトリアを止めることができず、モードレッドはショックを受ける。

 

「アルトリア、あまり厳しくしないでね?」

 

「ブーディカ女王、ご心配なさらず。モードレッドには生前構ってやれなかった分、厳しくしないといけません。これは私に課せられた教育です。さあ、行きますよ。モードレッド」

 

「ちくしょおおおおおお!!!??助けてくれぇええええええっ!!獅子劫ぉおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

ズルズルと売られて行く羊のようにモードレッドは隣の部屋に連れて行かれ、扉が閉まると不気味な静けさが漂っていた。

 

「……アルトリアとモードレッドが帰ってくるまで先に話をしておくか」

 

遊馬の提案に一同は頷いた。

 

まず始めにこの部屋の主人であるジキルが自己紹介する。

 

「自己紹介がまだだったね。僕は、ヘンリー・ジキルという。ロンドンで碩学──科学者をしている。正式な魔術師では無いが、霊薬調合の心得があってね」

 

「ヘンリー・ジキル?アストラル……」

 

「ああ……ジキル博士とハイド氏のあのジキルか……」

 

それは二重人格を題材とした代表的な物語の主人公であり、もしかしたらそのモデルとなった人物の可能性が出て来た。

 

「……なあ、ジキル」

 

「なんだい?」

 

「お前……実は別の人格があるんじゃねえか?例えば裏の顔があるのか」

 

ギクッ!?

 

ジキルは遊馬の指摘に体がビクッと震え、汗をかいて必死に隠そうとしていた。

 

「え?あ、い、いや……何のことかなぁ……?どうして、そんな事を……?」

 

「経験から何となく」

 

「な、何となく……?君の人生経験はどうなってるんだ……?」

 

「いやー、こう見えて濃密な人生を送ってきたもんで。まあ、何でも無いなら別に良いぜ」

 

「あ、うん、そ、そうだね……」

 

歳の割に意外に侮れないとジキルは内心思うと、次は先ほど現れたもう一人のジャンヌと謎の少年が自己紹介する。

 

「初めまして、私はジャンヌ・ダルクと申します」

 

「俺はジークだ」

 

「私たちはルーラークラスで二人で一騎のサーヴァントとして召喚されました」

 

「二人で一人のサーヴァント???」

 

カルデアにもアンとメアリーのように二人で一騎のサーヴァントがいるが、それはあくまで二人が生前にコンビとして活躍したからこそ二人一緒に召喚されているのだ。

 

カルデアで朝食にジャンヌと話を聞いた限り、ジークと呼ばれる少年とは生前に縁がなかったはず……。

 

「カルデアにいるあの二人を呼ぶか……」

 

「え!?遊馬くん、あの二人を呼ぶんですか!?」

 

「後で混乱するよりも先に片付けようと思うからさ」

 

遊馬はD・ゲイザーでカルデアと交信し、カルデアにいる二人のサーヴァントを呼んだ。

 

デッキケースが輝き、蓋を開けて二枚のフェイトナンバーズを掲げると白と黒の光がそれぞれ飛び出す。

 

「ジャンヌ・ダルク、参りま──え?」

 

「レティシア、参上よ。遊馬、私の力が必要に──は?」

 

意気揚々とフェイトナンバーズから現れたジャンヌとレティシアは姉妹揃って同じ驚きの表情をして固まった。

 

「……えっ?わ、私……?」

 

ルーラーは突然現れた自分そっくりの二人のサーヴァントに目をパチクリとさせて呆然とする。

 

「ルーラーがもう二人……?」

 

ジークはルーラーと瓜二つのジャンヌとレティシアに困惑していた。

 

対するジャンヌとレティシアは額に手を当てて現実逃避をし始めた。

 

「……どうやら私たちは幻覚を見ているようですね」

 

「疲れているのかしら……?そう言えば最近デッキ調整で寝不足をしすぎたからね。という訳だから遊馬、膝枕をして。一時間ほど昼寝するから」

 

「ちょっとレティシア!?何が、という訳で遊馬くんに膝枕をしてもらうんですか!?」

 

「いいじゃない膝枕ぐらい。ケチケチするんじゃないわよ、ショタコン聖女」

 

「だからその呼び方はやめて下さい!」

 

「おーい、二人共。とりあえず落ち着いてくれ」

 

いつものように言い争いをする二人に遊馬は宥めて落ち着かせる。

 

いち早く落ち着いたジャンヌはルーラーとジークに目線を向けて早速質問をする。

 

「それで、そっちのジャンヌはジークさんですか?彼とどういう関係なのですか?」

 

「……まずは私とジーク君が参加した聖杯戦争……『聖杯大戦』について話さなければいけません」

 

「「「聖杯大戦?」」」

 

聖杯大戦。

 

それはルーマニアで行われた聖杯戦争で通常の聖杯戦争は七騎のサーヴァントで戦うが、この聖杯大戦はその倍の十四騎のサーヴァントが戦いを繰り広げる大規模な聖杯戦争である。

 

十四騎のサーヴァントは『黒』と『赤』の二つの陣営に分かれたチーム戦で戦い、聖杯大戦の管理者としてルーラー……ジャンヌが召喚されたのだ。

 

「なるほど……聖杯大戦ですか。それはかなり大掛かりな聖杯戦争だったんですね」

 

「確かにこっちのジャンヌはその聖杯大戦は参加してないわね。だって死んで英霊になってすぐに召喚されたのがフランスの特異点の戦いで、その後すぐに遊馬が召喚したんだから」

 

「あの、それでそちらの私に似たあなたは一体……?」

 

ルーラーはレティシアを不思議そうに見つめる。

 

「あー、私?私はジルが聖杯で作り出したフランスに復讐するために生み出されたジャンヌ・ダルクの偽物よ」

 

「ジ、ジルが!?」

 

「そうよ。まあ、今はレティシアって名前でやってるからそこんところはよろしくね」

 

レティシアと言う名前にルーラーは不思議そうにその名前を改めて聞いた。

 

「レティシア……?あなた、レティシアという名前なのですか?」

 

「そうだけど、それがどうしたのよ?」

 

「実は、私が聖杯大戦で召喚される際に私と似ているの少女……レティシアに擬似サーヴァントとして憑依したんです。その名前はどなたがつけてくれたんですか?」

 

「この名前は遊馬がつけてくれたのよ……あれ?そう言えば、遊馬はレティシアの名前をつけてくれる時に確か、女子高生みたいなジャンヌが頭に浮かんだって言ってたわよね?」

 

レティシアがまだジャンヌ・オルタだった頃、遊馬が名前を考えた時に脳裏にジャンヌそっくりの少女の姿が映った。

 

「あ、そう言えば。じゃああの子がレティシアだったのかな……?」

 

平行世界のルーラーが憑依した依代である少女・レティシア。

 

彼女とジャンヌ・ダルクと言う縁が名前の無いジャンヌ・オルタに自らの名を遊馬を介して授けたのだろうか?

 

その真意は分からないがレティシアはこの名前をこれからも大切にしようと思った。

 

そんな中レティシアはふと、ルーラーの隣にいるジークと目が合う。

 

「……ん?」

 

レティシアは目を細めてジークを見つめる。

 

「何か……?」

 

「……貴方、何者よ」

 

「何者とは……?」

 

「どうして貴方からファヴニールの気配がするのよ?いや、違うわね……貴方自身がファヴニールね?」

 

レティシアはジークの中にあるもの……それが邪竜・ファヴニールだと気付いた。

 

「っ!?何故それを……!?」

 

「分かるに決まってるじゃない。私は復讐者としてファヴニールを召喚してフランスを滅ぼそうとしたのだから」

 

「「なっ!?」」

 

「私はフランスを復讐するためだけに生まれた。ファヴニールとワイバーンを召喚して全てを壊そうとした。だけど、それを遊馬達に邪魔されて、遊馬のドラゴンでファヴニールを倒されちゃった。その後は何やかんやあって、遊馬に救われたのよ……」

 

「レティシア……」

 

「心配しなくていいわよ、もう復讐するつもりなんてないから。えっと、ルーラーで良いわよね?こっちのジャンヌと被るし」

 

「ええ。私もそちらの方が呼び慣れているので」

 

「それで、話は戻るけど……ジークだっけ?何でファヴニールになってるのよ?あなたに一体何があったのよ」

 

「分かった。少し長くなるが聞いてくれ……」

 

ジークは大きく息を吐いて心を落ち着かせながら静かに語り出す。

 

それは短いながらも壮絶な人生を繰り広げたジークの物語である。

 

ジークの正体は聖杯大戦の参加者達である『黒の陣営』である『ユグドミレニア一族』により作り出されたホムンクルスである。

 

ホムンクルスはかず多く存在し、魔力供給を肩代わりさせられるために生み出された……ただ消費されるだけの自我の無き生命だった。

 

だが、奇跡的な確率で一人のホムンクルスが自我に目覚め、死への恐怖から魔術回路を駆動させ、魔力供給槽からの脱出に成功する。

 

しかし、歩くことすら設計されていない欠陥を抱えた体では城の外までは逃げることはできず、命運が尽きようとしていたその時……黒のライダーに助けられる。

 

その後、ライダーの助けを借りて脱走を試みるも、捕縛に現れた魔術師に暴行を受け、瀕死の重傷を負う。

 

だが、その魔術師のサーヴァント……ジークフリートは本心である心に従い、自らの心臓を抉り出してその心臓を与え、少年の蘇生に成功した。

 

サーヴァントの心臓を取り込んだことで肉体が大きく変化し、錬金術の永い歴史の中でも例のない存在となった。

 

「黒のライダー?ジークフリート?えっと、その二人ならカルデアにいるぜ」

 

「えっ……?い、いるのか!?ライダーとジークフリートがいるのか!?」

 

ジークにとっては大切な恩人である二人がいると聞いて遊馬に駆け寄って肩を掴んだ。

 

「ちょっと待っててくれ。今呼んでやるよ」

 

遊馬は再びカルデアに連絡して更に二人のサーヴァントを呼ぶ。

 

再びデッキケースが輝いて二枚のフェイトナンバーズを取り出す。

 

「やっほー!シャルルマーニュ十二勇士の一人、アストルフォだよ──えっ!?」

 

「ジークフリート……推参──何?」

 

アストルフォとジークフリートがフェイトナンバーズから飛び出し、ジークをその目に写すと、二人共とても驚いた表情を浮かべた。

 

そして、アストルフォは涙を浮かべ、顔を歪ませてジークに飛びかかった。

 

「ジークゥウウウウッ!!!」

 

アストルフォは嬉し涙を流しながらジークに抱き着いた。

 

「ライダー……いや、アストルフォ。久しぶりだな」

 

「うんうん!本当に、本当に久しぶりだね、ジーク!会いたかったよぉ〜!!」

 

スリスリと甘えるようにジークに頬ずりをするアストルフォ。

 

側から見れば再会した恋人同士のようにも見えるが……残念ながらアストルフォは男である。

 

「ア、ア、アストルフォ!!いい加減にジーク君から離れなさい!!」

 

隣にいるルーラーは耐えられなくなり、ジークに抱きついているアストルフォを無理やり引き剥がす。

 

「もう何するんだよ!って、ああ!ルーラーだ!久しぶり!」

 

「お久しぶりです、アストルフォ。それよりも、ジーク君にあまり抱きつかないでください!」

 

「えー!?いいじゃん!せっかくの再会なんだし、この後チューしようと思ったのに!」

 

「なっ!?そんな破廉恥なことはさせません!それ以前にあなたは男でしょう!?男の子同士で接吻なんていけません!」

 

「そんなの気にしない気にしなーい」

 

「気にします!!私がいる限り、ジーク君にそんなことをさせませんからね!」

 

「ぶぅ!ルーラーのケチ!どうせ自分がジークにキスをしたいから独占したいんでしょう?」

 

「ななな!?何を言いだすのですかあなたは!?わ、私は、ジーク君の相方としてそのような行為を防ぎたいだけです!」

 

「ルーラー……嘘が下手になったね。顔が真っ赤だよ?」

 

「はっ!??な、何をいうんですかあなたは!??」

 

「あははー!ルーラーの顔真っ赤ー!」

 

「アストルフォ!!」

 

ジークを巡りルーラーとアストルフォの言い争いが起こる。

 

ルーラーはともかく、何故男であるアストルフォが参加しているのか遊馬達はよく分からなかった。

 

すると、ジークはジークフリートと向き合うと互いに笑みを浮かべながら固い握手を交わした。

 

「ジークフリート……またあなたに会えて本当に嬉しい。改めてお礼を言わせてくれ、ありがとう」

 

「ジーク……礼はいらないさ。だが、お前には辛い運命を背負わせてしまった……許してくれ」

 

「謝らないでくれ。あなたがいたからこそ俺は……ルーラーと一緒にいることが出来たのだから」

 

「そうか……お前も、自分の夢を持てたのだな?」

 

「ああ……」

 

ルーラーとジークがそれぞれの再会を怒ったり喜んだりした。

 

落ち着いたところで今度は遊馬達カルデアの目的を話した。

 

人理修復と特異点の解決……それを聞いたルーラーとジークは互いに目を合わせてアイコンタクトを取るとすぐに頷いた。

 

「分かりました、私達も協力します」

 

「俺たちの力を君たちに貸す、存分に使ってくれ」

 

「サンキュー、ルーラー、ジーク」

 

「では、まずはこの霧を何とかしないと……」

 

アストラルがこのロンドンで発生している異常事態である謎の霧……それを解決するために話し合おうとしたその時。

 

カタカタカタ……!

 

「ん?なんだ?おわっ!?」

 

デッキケースが震え出して蓋が開くと中から緑色の光が飛び出した。

 

その光が遊馬の前で降り立つと、その姿に唖然とした。

 

「え?ア、アタランテ……?」

 

「あ、あなたは……!?」

 

それはアタランテでルーラーはとても驚いていたが、アタランテはルーラーには目を向けずに遊馬の手を取った。

 

「ユウマ……頼みがある」

 

「頼み?」

 

「頼む……私の全てを捧げても構わない、あの子達を……あの子達を救ってくれ……!」

 

「待てって、アタランテ。話が全然見えないぜ、あの子達って誰のことなんだ?」

 

アタランテがそこまでして救いたい子供達……それは想像を絶する存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、私が、聖杯大戦で救うことが出来なかった子供達……『ジャック・ザ・リッパー』だ……!」

 

「ジャック・ザ・リッパー!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは19世紀のロンドンを震撼させた連続殺人鬼。

 

しかし、それは悲しき運命を持つ子供達。

 

誰もその子供達を救うことが出来なかった。

 

そして、一人のサーヴァントの儚き願いが未来を背負う幼きマスターに託される事となる。

 

 

 




ジークとルーラー……二人は一騎のサーヴァントとして扱うことにしました。
元々二人一緒に映る絵とかが多いので良いかなと思いまして。
この二人のカップリングは無自覚なジークと暴走するルーラーが好きです。

モードレッドはアルトリアの説教を受けています(笑)
良かったね、モー君!
父上がちゃんと構っているよ(笑)

次回はアタランテの願いと遊馬の決意を書きます。


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ナンバーズ78 未来皇と無垢なる殺人鬼

早いですが遊馬とジャックちゃんとの対決が実現します。
まあ本格的な対決は次回になりますが。


「さて……どうするかなぁ……」

 

遊馬はそう呟きながら皇の鍵の飛行船の上で寝っ転がっていた。

 

現在遊馬は皇の鍵の中の異空間におり、飛行船の上で寝っ転がって一人静かにいた。

 

その理由はある『子供達』を助けるためにはどうしたら良いかと考えていたのだ。

 

「ジャック・ザ・リッパー……数万以上の子供達の怨霊か……」

 

それはアタランテが救って欲しいと願った存在。

 

日本では切り裂きジャックと呼ばれるほど有名なロンドンの殺人鬼。

 

しかし、ついさっき少女の姿をして遊馬達の前に現れた『それ』がジャック・ザ・リッパーである。

 

ただし、本物のジャック・ザ・リッパーではなく、その正体は数万以上の見捨てられた子供たち、ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨念が集合して生まれた怨霊なのである。

 

正体不明の殺人鬼である『ジャック・ザ・リッパー』という概念は、あらゆる噂と伝聞と推測がない交ぜとなった今、全てが真実で全てが嘘であるために『誰でもあって、誰でもない』、『誰でもなくて、誰でもある』……もはや無限に等しい可能性を組み込まれた存在と化してしまった。

 

そのため、もはや『彼女たち』が『ジャック・ザ・リッパー』の伝説に取り込まれたのか、はたまた伝説を取り込んでしまったのかすら定かではなくなっている。

 

かつてジャックはルーラー達が参加した聖杯大戦の『黒のアサシン』として召喚されるはずだったが、召喚者が生贄にした女性の生きたいという願いに応えてその召喚者を殺め、その女性は一般人だったがジャックのマスターとなった。

 

ジャックはそのマスターと生きるために聖杯大戦に参加し、魔力を得るために多くの人を殺めた。

 

多くの人を殺したジャックとマスターを敵であるアタランテが矢で貫き、倒したのだが……ジャックが子供達の怨霊の集合体だと知り、子供の守護者であるアタランテは救うことが出来ずに絶望してしまう。

 

そして、怨霊の存在であるが故に救うことが出来ないと悟ったジャンヌが聖女の力である洗礼詠唱でジャックを浄化して倒したのだった。

 

しかし……時空を超え、ロンドンの地に再びジャックが召喚され、既に多くの人を殺めている。

 

ルーラーは一刻も早くジャックを倒すべきだと主張するが、アタランテは今度こそジャックを救うべきだと主張する。

 

アタランテは個人的にジャックを救わずに倒したルーラーのことを憎んでおり、その身から邪悪なオーラを出してオルタ化をしてでも倒そうとした。

 

暴走間近のアタランテに遊馬はポンと肩に手を置いた。

 

「アタランテ、少しだけ待っててくれ。俺に考える時間をくれ」

 

そう言うとアタランテはおとなしく従い、遊馬は皇の鍵の中に入って考え込んでいる。

 

「話し合い……をしたいけど、怨霊の集合体だから下手をすればバーサーカー並みに話を聞いてくれなさそうだからな……んで、何か良いアイデアはないか?ミストラル」

 

「てめえ!一人で考えるんじゃなかったのかよ!?」

 

遊馬は皇の鍵の飛行船に封印されているミストラルに向けて話しかけ、ミストラルは思わず声を荒げた。

 

「だって一人で考えようと思ったらちょうど良いところにお前がいるから……」

 

「だったら降りて下の砂漠で考えてろ!」

 

「えー、嫌だ。砂の上で眠るのはちょっとな……いいじゃん、お前暇そうだし」

 

「お前らのせいでここから動けないのを分かっているだろ!?」

 

「それで、どうすりゃいいと思う?お前、少なくとも俺よりも頭いいだろ?」

 

「貴様……!!はっ、まぁ、いい。暇つぶしに付き合ってやる。俺様から言わせるとそんな怨霊のガキは見捨てろ。だいたい、あの有名な聖女様でも救えなかった存在をお前が救えるのか?」

 

なんだかんだで遊馬の話に付き合ってくれるミストラル。

 

世界一有名な聖女であるジャンヌことルーラーでも救えなかった存在……それを遊馬に救えるのかとミストラルは鼻で笑う。

 

「一人ならまだしも、数万のガキの魂の集合体だぞ?そんなカオスをお前が受け止められるわけがない」

 

「やってみなきゃわからないだろ?でもどうやってジャックと話すか。やっぱり、内なる世界に入らなくちゃならないよな……」

 

アタランテがジャックに矢を放ち、命が失われた際にアタランテとルーラーとジークの三人を内的世界に取り込み、自分たちが生まれた『正義も悪も無くただシステムとして生命が消費される地獄』を見せた。

 

「うーん、ジャックを『傷付けず』に『内なる世界に入る』……なんか良い方はないかなぁ……」

 

「そううまく行くわけねえだろ。まあ、攻撃力がゼロで、お前とアストラルみたいに肉体と魂が融合するZEXALみたいになれるなら話は別だけどな」

 

ミストラルの何気ない一言……遊馬はその言葉を頭に思い浮かべる。

 

「攻撃力ゼロ?ZEXALみたいに合体?」

 

するとまるで頭の中で欠けていたピースが一つずつ嵌められていき、遊馬は頭に豆電球が浮かんだように閃いた。

 

「そうか、そうだ!俺だけにしかできない、勝利の方程式が全て揃ったぜ!」

 

「何?」

 

「サンキュー、ミストラル!お陰で答えが見つかったぜ!」

 

遊馬は起き上がって立ち上がり、急いで皇の鍵の中から飛び出す。

 

「全く……台風みたいな奴だな……」

 

ミストラルはやっと静かになりため息をつく。

 

そして、不思議な夜空を見上げる。

 

「見せてもらうぜ、遊馬君。お前が本当にやれるのかどうか……」

 

ミストラルは何かに期待するように呟くのだった。

 

 

遊馬が皇の鍵から戻るとブーディカがカルデアから送られてきた食材を元に食事を作っていた。

 

隣の部屋で説教をしていたアルトリアが餌を待つ犬のように待っており、モードレッドの姿はどこにも無かった。

 

「アストラル、モードレッドは?」

 

「モードレッドはあそこだ」

 

アストラルが指差した方を見ると、約一時間もの間、説教されたモードレッドは酷く落ち込んでおり、負のオーラを纏いながら部屋の隅で体育座りで座っていた。

 

モードレッドは鎧を消しており、活発なモードレッドらしい赤い軽装の鎧みたいな服を着ていたが……。

 

「あれ?モードレッド、お前女だったのか?」

 

モードレッドには明らかに女性特有の胸の膨らみがあり、女だと言う事実に驚いた。

 

アルトリア同様に騎士故に女だと言うことを隠していたのだと考えるが……。

 

「うるせぇ……オレを女って言うんじゃねえ……殺すぞ……」

 

「いや、そんな気力のない声で殺すと言われても……」

 

今のモードレッドは明らかに気持ちが完全に沈んでおり、殺すと言われても怖くも何も無かった。

 

それほどまでにアルトリアの説教が恐ろしかったのか、もしくはショックだったのか分からなかったが、益々モードレッドがブリテンを崩壊させた元凶である叛逆の騎士に見えなかった。

 

「みんな、お待たせ!ブーディカさん特製ランチだよー!」

 

「待ってました、ブーディカ女王!」

 

キラキラと目を輝かせたアルトリアはソファーに座るとモードレッドに目線を向けた。

 

「何をしているんですモードレッド、一緒に食べましょう」

 

「──え!?いいの、父上!?やったー!飯だ、飯だー!」

 

アルトリアに呼ばれたモードレッドは先程までの落胆が嘘のように復活し、早速ランチにありつくのだった。

 

「なあ、アストラル、マシュ。モードレッドって意外にチョロい?」

 

「チョロいな。ケイネス並みにチョロいな……」

 

「そうですね、恐らくはアルトリアさん関係ですがチョロいですね……」

 

既にチョロいサーヴァント認定されてしまったモードレッド。

 

遊馬達も一緒に食事をし、食べながら遊馬が考えたジャックと戦う方法をみんなに伝えた。

 

すると、その方法を聞いて断固反対したのはルーラーだった。

 

「いけません!幾ら何でも危険すぎます!そんな方法、通用するわけがありません!」

 

「でもこれしかないんだ。上手くいけばジャックと話せる」

 

「たとえ話に持ち込めたとしてもジャックは怨霊です!あなたが逆に殺されてしまいます!!死ぬつもりですか!??」

 

「俺は殺されるつもりも死ぬつもりも無えよ」

 

ルーラーの激昂に遊馬は冷静に流した。

 

すると、先程までとは違う真剣な雰囲気をしたモードレッドが遊馬に質問する。

 

「おい、ガキ。なんでお前そこまでやるんだよ?確かにあのアサシンは哀れな奴だとは思う。だけどな、お前がそこまで命を賭ける必要はねえだろ?お前に何のメリットがある?」

 

「……別に、俺自身のメリットは無いよ。ただ、アタランテの願いを叶えてやりたい。それに……夢で見ちまったからな」

 

「夢?」

 

「この特異点に来る前に見たんだ。多分……ジャックの内なる世界を、あいつの声を……」

 

遊馬が夢で見た光景……あれはジャック・ザ・リッパーの数万の子供達の怨霊が映し出した世界。

 

そして、生きたいというジャックの願い……それを聞いた遊馬は見過ごせなくなってしまった。

 

「俺はジャックを救いたい。でも、それはとても難しいことで、甘い考えだと言われるのも仕方ない。だから、アタランテ。一つ聞いてくれ」

 

「何だ……?」

 

「俺は自分の全力を尽くしてジャックを助ける。でも今回は相手が相手なだけに助けることができないかもしれない。そうなった時は……俺が倒す」

 

「ユウマ……!?」

 

それは遊馬が示したジャックと戦う上での『覚悟』だった。

 

今までの相手とは違い、言わば呪いに近い存在との戦いとなる。

 

数々の奇跡を起こした遊馬でも助けることができないかもしれない……。

 

「もしも、ジャックを助けられなかったら、俺を気が済むまで殴ってくれ。それが俺が出来る事だ」

 

「ユウマ……お前、そこまで……」

 

アタランテは遊馬がそこまでの覚悟を持ってジャックと戦うことを決意したことに感謝と同時に強い後悔の念を抱いてしまった。

 

自分が果たせなかった願いと重荷を幼きマスターに託してしまったことにアタランテは自分を恥じ、椅子から降りて遊馬の前で跪いた。

 

「純潔の狩人、アタランテ……たとえ、どんな結果になろうともユウマ……あなたに全てを捧げ、尽くすことをここに誓う……!!」

 

アタランテも覚悟を決め、仮にジャックを救えなくても遊馬には一切手を出さず、未来永劫の忠誠を誓った。

 

「……心配するな、アタランテ。俺を信じてくれ」

 

「はい……!」

 

その後、遊馬の断固たる決意に皆が折れ、昼食の後にすぐに実行されることとなった。

 

ジキルは部屋に残り、それ以外の全員は再び霧の都へと赴く。

 

遊馬は建物が並んでいる場所から離れてある程度の広さがある広場へと向かった。

 

マシュ達サーヴァントは広場から少し離れた場所で待機し、遊馬はデュエルディスクの拡声器モードにして大きく息を吸う。

 

「出て来いや!ジャック・ザ・リッパー!!俺の魂と心臓をかけて一対一で勝負だ!!!」

 

霧の空に響く大音量の声が響き渡り、しばらくすると小さな足音と共に現れた。

 

「へぇー、ほんとうに一人なんだ……ねえ、私たちが勝ったら食べていいの?」

 

ジャックが周りにサーヴァントがいない事を確かめながら遊馬の前に現れた。

 

「おう、良いぜ。でも、俺はそう簡単には食われれねぜ!」

 

遊馬がデュエルディスクを構えると左右に『ガガガガンマン』と『ガガガザムライ』が現れる。

 

それは遊馬があらかじめエクシーズ召喚をしたモンスターエクシーズで、突然現れた二体のモンスターにジャックはナイフを構えて警戒する。

 

「見せてやるぜ、ジャック。俺の力を!」

 

遊馬がデッキケースから取り出した一枚のカードを掲げる。

 

カードは金色の輝きを放ち、その光にジャックは目を見開く。

 

「かっとビングだ、俺!俺はガガガガンマンとガガガザムライ、二体のモンスターエクシーズでオーバーレイ!!」

 

『『ガガガッ!!』』

 

二体のガガガモンスターエクシーズは黒と茶の光となって遊馬の前の地面に現れた黒い穴に吸い込まれ、強烈な光が爆発する。

 

「今こそ現れろ、FNo.0!」

 

遊馬は掲げたカードをデュエルディスクに置き、思いを込めた右手を天高く掲げた。

 

「天馬、今ここに解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る。これが俺の、天地開闢!俺の未来!かっとビングだ!俺!『未来皇ホープ』!!!」

 

『ホォオオオオオープッ!!!』

 

遥かなる次元の果てから天馬の如き美しい双翼を羽ばたかせ、未来を切り開きその手に掴む二振りの希望の剣を携えた『未来皇』が遊馬の前に降臨した。

 

ランク0の未知なる無限の可能性、無限の未来を象徴する遊馬自身と称されるモンスターエクシーズ……『未来皇ホープ』。

 

「みらい、おう……?」

 

ジャックは初めて見る異世界のモンスターに目を丸くして子供のように興味津々で見つめる。

 

「行くぜ、未来皇ホープ!」

 

遊馬は原初の火を地面に突き刺すと未来皇ホープが金色の光となって遊馬と一つになる。

 

そして、遊馬の魂と体が未来皇ホープと完全に一体化し、両腰に携えたホープ剣を引き抜く。

 

「さあ、行くぜ!ジャック・ザ・リッパー!」

 

未来皇ホープ……九十九遊馬。

 

「へぇ……おもしろいね……おもしろいよ!解体したらとっても楽しそう!!」

 

無垢なる殺人鬼……ジャック・ザ・リッパー。

 

光り輝く無限の未来と呪われた歪んだ未来……異なる未来を生きる者達の戦いが始まる。

 

 

 




遊馬は未来皇ホープになってジャックちゃんに挑みます。
ってか未来皇ホープにならないとヤバイ宝具のジャックちゃんとは渡り合えませんからね。
どうやって助けるかは次回にご期待ください。
まあある意味遊馬君らしい助け方になると思います。


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ナンバーズ79 かっとビングの奇跡

ジャックちゃんとの決着がつきます。
救済方法については賛否両論があるかもしれませんが、遊馬君ならこうするかなと思って書きました。


未来皇ホープと合体した遊馬とジャックの戦いが始まり、少し離れた場所に待機していたマシュ達の中で遊馬の力をまだ知らないモードレッドとルーラーとジークはとても驚いていた。

 

「なんだよあいつ……変なものを召喚して一体化するなんてどんな魔術だよ!?」

 

「彼は……あの子は人間のはず、それなのにあの姿から溢れる力の波動は一体……!?」

 

「未来皇ホープ……未来と希望の名を持つ戦士か……」

 

そんな中、遊馬の相棒であるアストラルは遊馬の側から離れてマシュの元にいた。

 

「アストラルさん、遊馬くんの元に行かなくても良いんですか?」

 

「……これは遊馬自身が望んだ戦いだ。それよりも、遊馬の邪魔をしようとする存在を排除しなければならない」

 

アストラルの左手首にデュエルディスクが出現して構えた。

 

すると、広場の周りから続々と謎の存在が現れていく。

 

人形やロボットのような敵が続々と現れ、アストラルだけでなくマシュ達も戦闘態勢に入る。

 

「遊馬の邪魔はさせない……全て排除する!」

 

「はい!行きます!」

 

アストラルとマシュ達は遊馬とジャックの戦いを邪魔させないために謎の敵と交戦を開始した。

 

 

「ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!!!」

 

未来皇ホープと一体化した遊馬はホープ剣で果敢に攻めるが、ジャックの軽やかな動きで刃が当たらない。

 

未来皇ホープの効果を使用するためにはホープ剣による攻撃を確実に相手に当たらなければならない。

 

アサシンであるジャックは機敏な動きで遊馬の攻撃を回避していく。

 

筋力や耐久などがそこまで高くないが、敏捷のランクはかなり高く、ジャックはまともに受けていては負けると判断して回避に専念して切り札である宝具を使うタイミングを見極めていた。

 

「ちくしょう!やりにくいぜ!」

 

相手が全く攻撃せずに回避を徹底しているジャック相手に遊馬が若干の苛立ちを見せ、そのわずかな隙をジャックは見逃さなかった。

 

「此よりは地獄……」

 

ジャックの体から邪悪な魔力が迸り、周囲の空間が闇に染まる。

 

「これは!?」

 

「わたしたちは炎、雨、力────殺戮をここに」

 

それは霧の夜に娼婦を惨殺した『ジャック・ザ・リッパー』の逸話から生まれた宝具。

 

ある条件を揃える事で当時ロンドンの貧民街に8万人いたという娼婦達が生活のために切り捨てた子供たちの怨念が上乗せされ、凶悪な効果を発揮する。

 

「『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』!!!」

 

ジャックは一瞬で間合いを詰め、呪いを込めたナイフで未来皇ホープの胸に突き刺す。

 

「がはっ……!?」

 

「ごめんね……でも、おいしく食べてあげるからね……」

 

ジャックはナイフを深く突き刺し、そのまま遊馬の心臓をえぐり出そうとした。

 

本来ならこの宝具は『時間帯が夜』『対象が女性』『霧が出ている』の三つの条件を満たすと対象を問答無用で解体された死体にする。

 

しかし今は昼で遊馬は男、霧はジャック自身のもう一つの宝具で展開しているので条件が一つしか揃ってない。

 

普通の人間相手なら条件が一つでも致命傷にはなる。

 

しかし……。

 

「──なぁんてな?」

 

「え?」

 

「未来皇ホープの効果!」

 

未来皇ホープの周囲に舞うオーバーレイ・ユニットの一つが胸の水晶に取り込まれると、ジャックが突き刺したナイフが弾け飛んで地面に転がり、胸の傷が無くなる。

 

「解体聖母がきかない……!?」

 

「危ねえ……お前の宝具の能力を知らなかったら死んでいたぜ。ってか痛いんだよこんちくしょう!」

 

未来皇ホープは効果で破壊される場合に代わりにオーバーレイ・ユニットを使って破壊を免れる効果がある。

 

その効果でジャックの解体聖母を無効化したのだ。

 

しかし、胸にナイフが深く突き刺さったので怪我はないが痛みが胸にジワジワと残っている。

 

「これ以上……お前に誰かを殺させたりはしない!」

 

遊馬は左手でジャックの腕を掴むと空いた右手でホープ剣を握り締める。

 

グサッ!!

 

そして……ホープ剣をジャックの胸に突き刺した。

 

「あくっ……!?え、あ、あれ……?いたくない……?」

 

ジャックは胸に来るはずの激痛が来ないことに困惑した。

 

ホープ剣は確かにジャックの胸に突き刺さっている。

 

しかし、胸には傷が無く、血も流れていない、剣が刺さっているようで刺さっていない不思議な状態だった。

 

「未来皇ホープの攻撃力はゼロ。元々こいつじゃ、お前に傷を与えることはできないんだよ」

 

「じゃあ、なんで……?」

 

「こうするためだ!」

 

遊馬はジャックを抱き寄せて手を強く握り締める。

 

「俺とお前で、オーバーレイ!!」

 

「えっ!?」

 

未来皇ホープの中にいる遊馬が赤い光となり、ジャックの中に入り込む。

 

「あっ、あぁ……あぁあああああああああああああ!!!」

 

ジャックは自分以外の何かが体の中に入り込む事に拒絶しようと叫び声を上げるが、遊馬は自分の魂をジャックの中に入ることに集中する。

 

「くっ、集中しろ……ZEXALになる時みたいに俺の魂をこいつの中に……!!」

 

遊馬はZEXALでアストラルと合体する時の応用で自分の魂をジャックの内面世界に入ろうとしている。

 

未来皇ホープでジャックの宝具を防ぎ、そして自らの魂をジャックの内面世界に潜り込ませて対話する……それが遊馬が導き出した方法である。

 

ジャックは必死に遊馬を追い出そうとするが、遊馬は諦めずに手を伸ばす。

 

「かっとビングだぜ、俺ぇっ!!!」

 

遊馬の一歩を踏み出す魂の叫びを轟かせ、自らの魂をジャックの中に入り込み、未来皇ホープが光となって二人を包み込んだ……。

 

 

遊馬の意識がはっきりと覚醒し、目を覚ますとそこは夢で見たのと同じ霧に包まれた不気味な世界だった。

 

「ここがジャックの内なる世界か……」

 

すると霧の空から無数の子供達が真っ逆さまに落ちてきて地面に激突して次々と死んでいった。

 

「これは……」

 

「綺麗は汚い。汚いは綺麗。ここでは子どもはただの餌食に過ぎない」

 

不気味な光景を説明するように現れたのは幼い姿をしたジャックだった。

 

「餌食……」

 

「生まれた子どもも生まれなかった子どもも皆、テムズ川に流してしまう……」

 

「くそっ……分かってはいたけど、胸糞悪いぜ……」

 

「世界はとても醜くて私たちはそのことを知っている。それでもまだ、生きていたい……」

 

遊馬は改めてジャックの深い闇の一片を見てこれほどまでに酷いことをした世界に対して怒りに震えながら拳を強く握りしめた。

 

すると遊馬の隣に一人の女性が現れた。

 

「酷いものを見たのね」

 

「あんたは……」

 

それは緑色の髪をした妖艶な雰囲気の大人の女性で明らかにジャックとは異なる女性だった。

 

その特徴から遊馬はその女性が誰なのかすぐに分かった。

 

「そうか、あんたがジャックの……」

 

「そうよ、私はあの子達の母親よ……」

 

その女性は聖杯大戦でジャックのマスター、六導玲霞だった。

 

元々一般人だったが生きたいという願いからジャックのマスターであると同時に母親となり、ジャックと生きるために大勢の人の命を奪った。

 

既に聖杯大戦で死亡しているはずだが魂の一部がジャックの中に入ったのだろうと推測する。

 

「あなたはどうしてここにいるの?」

 

「……こいつらを救うためだ」

 

「あなたが?でもどうやって?」

 

「まあ見てなって……」

 

遊馬はゆっくりとジャックに近づくと周囲に数え切れないほどのたくさんの子供達が現れた。

 

それは数万以上の見捨てられた子供たち、ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨霊達である。

 

「私たちはこの街が生み出した」

 

「生まれることもできなかった」

 

「でも私たちはここにいる」

 

するとジャック達はすがるように、救いを求めるように遊馬に近づいて手を伸ばす。

 

そのまま同じ子供である遊馬をジャックの一部として取り込もうとしていた。

 

「……ああもう!やかましい!!」

 

遊馬の背中から純白の大きな翼が生え、翼を強く羽ばたかせてジャック達を吹き飛ばした。

 

「……え?」

 

ジャックは遊馬の心が折れなかったことと背中から突然翼が生えたことに驚いた。

 

遊馬は翼を羽ばたかせ、ジャック達を見下ろしながら説教を始める。

 

「暗すぎるんだよお前ら!!お前らの気持ちはよーく伝わった。だけどな、気持ちが暗すぎるんだよ!そんなんで生きたいって言ってもカオスが弱いんだよ!!」

 

「カオス……?」

 

「カオスって言うのはな、俺たちの世界で欲望の力を意味しているんだ。だいたいお前ら、生きたいって言う割にはジャック・ザ・リッパーの伝説に囚われすぎなんだよ。生きたいなら殺人はやめろ!誰かを殺すのは禁止!!」

 

「でも、殺さなきゃ私たちは生きられない……」

 

「魔力が欲しいなら俺と契約しろ!飯が食いたいなら用意してやる!うちには腕のいいシェフがたくさんいるからな!」

 

「そうなの……?」

 

「おう!約束する!お前の好きな食べ物は何だ?あれば頼んで作ってもらうからさ」

 

「好きな食べ物……ハンバーグ」

 

「ハンバーグ?ハンバーグならうちの食堂の人気メニューだぜ。なんなら毎日でも食べられるぜ」

 

「ま、毎日でも……!?」

 

「クッキーとかの甘いお菓子も食えるぜ?」

 

「クッキーも!?」

 

毎日大好きなハンバーグや甘いお菓子が食べられると聞き、ジャックは見た目の年相応の笑顔で輝く。

 

「何だよ、ちゃんと子供のように無邪気に笑えるんじゃねえか。子供なら子供らしく笑うのが一番だよ」

 

遊馬はジャックの本当の笑顔が見れて嬉しくなり、ジャックの頭を撫でる。

 

そして、遊馬はジャックにある提案をする。

 

「なあ、ジャック。生きたいのなら、俺と一緒に来ないか?」

 

「あなたと……?」

 

「ああ。受肉は知ってるよな?受肉して体を得て、怨霊じゃなくて一人の人間として世界で生きてみないか?」

 

「いいの……?でも、どうして……?」

 

「ん?」

 

「どうしてそこまでしてくれるの……?あなたは私たちを消そうとしないの……?」

 

ジャックは怨霊達の集合体……普通なら消そうと考えるだろう。

 

しかし、遊馬はそんなことをせずにジャックを救い、新たな命を与えようとしている。

 

それをジャックは信じられなかった。

 

「別に大した理由じゃねえよ。アタランテに頼まれたのもあるけど、俺もガキだからさ……ジャック・ザ・リッパーに囚われたお前達を見過ごせなかったんだ」

 

「……私たちを救ってくれるの?」

 

「救えるかどうかは最後はお前達次第だ。今のお前達はこの霧の世界みたいに闇に覆われているんだ。だから、今からお前達に世界を光へ照らす最高の言葉を教えるぜ」

 

「ことば?」

 

「そうだ。よく聞けよ……『かっとビング』だ!」

 

聞いたことのない不思議な言葉にジャック達は首を傾げる。

 

「かっと……なに?」

 

「かっとビング。それは俺の父ちゃんから教えてくれたチャレンジ精神だ。かっとビング、それは勇気をもって一歩踏み出すこと!かっとビング、それはどんなピンチでも決して諦めないこと!かっとビング、それはあらゆる困難にチャレンジすること!」

 

「え、えっと……」

 

「かっとビングを舐めるなよ、かっとビングは世界を変えるほどの力が秘められているからな」

 

「そうなの……?」

 

「ああ!だから、今から思いっきり腹から叫んでみろ、かっとビングってな!ほら、みんな一緒に!!せーの!!」

 

遊馬に言われ、ジャック達は恐る恐るその言葉を口にする。

 

「かっと……」

 

「ビング……」

 

「え、えっと……」

 

しかし、数万人もいる怨霊とは言え、勇気を出せずにその言葉を発する事はできずにバラバラで声がとても小さかった。

 

「どうしたどうした!俺一人よりも声が小さいじゃねえか!そんなんじゃ生きたい気持ちが弱くていつまでも怨霊のままだぞ!!かっとビングだ!!」

 

遊馬に言われ、ジャック達はかっとビングを何度も言い続けた。

 

不思議とかっとビングを口にする度にジャック達は不思議と心が暖かくなり、元気が湧いてくる感じがした。

 

やがて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せーの!かっとビングだ!!」

 

「「「かっとビングだ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャック達は遊馬の大声に負けないくらいの大音量でかっとビングを叫ぶようになっていた。

 

暗く冷たい表情から子供のように元気で無邪気な笑顔で右手を高く掲げていた。

 

「良いぜ良いぜ!元気よくみんな揃ってきたじゃねえか!もっともっと思いっきり叫ぼうぜ!ジャック・ザ・リッパーなんかの伝説に負けるんじゃねえ!お前達は今から新しい自分にかっとビングするんだ!!」

 

遊馬はジャック達をジャック・ザ・リッパーと言う名の伝説から解き放ち、新たな未来を進むためにかっとビングを教えた。

 

そのお陰で霧に包まれたジャック達の内面世界に光が差し込み、ジャック達の魂にも光の輝きが溢れてくる。

 

「かっとビングだ!みんな!!」

 

「「「かっとビングだ!!!私たち!!!」」」

 

そして、かっとビングによりジャック達の魂は光へと輝いていく。

 

「まさかこの子達に光を与えるなんて……」

 

玲霞はかっとビングでジャック達の魂が光り輝いていることに驚いていた。

 

ジャック達の笑顔に玲霞も自然と笑顔になっていた。

 

「……あなた、名前は?」

 

「俺は九十九遊馬だ!」

 

「九十九遊馬……あなた日本人?」

 

「おう!」

 

「そう……ねえ、遊馬君。この子達を……お願いできる?」

 

「任せておけ。こいつらを守ってやるからさ」

 

「お願い……ジャックを、私の愛する子供達を幸せにしてね」

 

そう言い残して玲霞は満足そうな笑みを浮かべて姿を消した。

 

そして、内面世界の霧が晴れ、光が照らされていき、遊馬は静かに目を閉じた。

 

 

出現した謎の敵を全て倒し、アストラルとマシュ達は急いで遊馬とジャックの元へ向かった。

 

二人はいまだに光に包まれたままだった。

 

近づこうとすると電気に似た衝撃が襲い、下手に触れることも出来なかった。

 

「ユウマ……」

 

アタランテはいつも以上に不安そうな表情を浮かべて祈るように手を組んだ。

 

「遊馬君……」

 

「心配するな、マシュ。遊馬は必ず帰ってくる」

 

マシュ達も遊馬の無事を祈りながら心配する中……事態が大きく動く。

 

遊馬とジャックを包んでいた光が更に強い光を放ち、マシュ達は目を閉じた。

 

光が鎮まり、目を開くとそこには信じられない光景が広がっていた。

 

「遊馬君……?」

 

光を纏いながら現れたのは背中に純白の大きな双翼が生えた遊馬だった。

 

そして、その手にはスヤスヤと安心したような寝息を立てるジャックが抱きかかえられていた。

 

「「天使……?」」

 

神に仕える信者である同一人物のジャンヌとルーラーは今の遊馬を見てそう呟いた。

 

まるで……天から舞い降りた天使が幼き子供を抱き上げている光景に誰もが信じられないと思わずにいられなかった。

 

「ユ、ユウマ……!ジャックは……?」

 

アタランテは遊馬に駆け寄り、ジャックがどうなったか尋ねた。

 

遊馬はアタランテを安心させるように笑みを浮かべた。

 

「大丈夫、ジャックの魂はもう怨霊じゃない」

 

ジャックの右手の甲にはナンバーズの『0』の刻印が浮かんでおり、遊馬と契約した証だった。

 

「もう二度とこいつらに人殺しをさせない。これからは俺達と新たな未来を歩むんだ!」

 

「あぁ……!!」

 

アタランテは感極まり、顔が崩れるほどの大粒の涙を流して遊馬とジャックを一緒に抱きしめた。

 

「ありがとう……!ユウマ、本当にありがとう……!!」

 

「まだまだこれからだぜ。ジャックに色々な事を教えなきゃならないし、いっぱい色んな事を体験して貰わないといけないからな。アタランテ、協力頼むぜ」

 

「もちろん、私に出来ることは協力させてもらう」

 

ジャックはまだ精神が幼い子供そのものなので、殺人鬼として二度と力を振るわないようにしなければならない。

 

それはジャックを救うと決めた遊馬とアタランテの新しい義務である。

 

「んんっ……おかあさん……?」

 

ジャックが目を覚まし、虚ろな目で遊馬を見ながら『おかあさん』と呼んだ。

 

「起きたか、ジャック」

 

「まだねむいよぉ……」

 

「じゃあもうちょっとこのまま寝ていてくれ。起きたらご飯だからな」

 

「うん……おやすみ……」

 

「ああ。おやすみ」

 

ジャックは小さな手で遊馬の服にしがみつき再び目を閉じて眠りについた。

 

無事に戻ってきた遊馬にアストラルは隣に立ちグッドサインを見せる。

 

「やったな、遊馬」

 

「おう。サンキュー、アストラル」

 

「お疲れ様です、遊馬君。一度、ジキルさんの部屋に戻りましょう」

 

「そうだな、マシュ。みんな、行こうぜ」

 

遊馬は背中の双翼を消し、ジキルの待つアパルトメントへ向かった。

 

ジャックを救い出し、契約して仲間に引き入れてマシュ達は一安心するが、モードレッドとルーラーとジークは不安そうな表情を浮かべながら空を見上げる。

 

「なんであいつは眠ってるのに霧はまだ濃いままなんだ……?」

 

「どうやら今回はジャック・ザ・リッパーの他にもまだ戦わなくてはならない敵がいるかもしれませんね……」

 

「この異常事態……解決にはまだ早いか……」

 

今だに深い霧に覆われたロンドン……その影には未だに未知なる敵が多く潜んでいるのだった。

 

 

 




かっとビングでジャックちゃんを救済しました。
アポカリファでジャックちゃんの内面世界を見た時からこれしかないと思いました。
かっとビングで世界を救い、そして世界を変えた遊馬君なら出来ると思いました。
背中の双翼は未来皇ホープとアリトのイメージから思いつきました。
遊馬君はもはや天使といっても過言ではない子なので。

次回はジャックちゃんの教育と絵本の子を登場させたいと思います。


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ナンバーズ80 作られた無垢なる花嫁

すいません、絵本の子は次回になります!
その前に先に出さなければならないキャラを忘れていました(汗)


ジャックを救い、遊馬達はジキルのアパルトメントに戻った。

 

子供のような穏やかな寝顔で眠っているジャックだが、いつ襲いかかってもおかしくないと信用していないモードレッドはギロリと睨みつけながら、いつでも斬り伏せられるように剣を構えていた。

 

ジャックがハンバーグが好きと遊馬から聞いたブーディカはカルデアの食堂からひき肉などの食材を送ってもらい、エミヤ直伝レシピのハンバーグを作っていく。

 

ハンバーグが出来上がる頃にジャックは目を覚ました。

 

「ふわぁ……おかあさん、おはよう……」

 

「おはよう、ジャック。って、おかあさんって何だよ?」

 

「え?おかあさんはおかあさんだよ?」

 

ジャックは無垢な瞳で遊馬を見つめていた。

 

遊馬を『おかあさん』と信じて疑わないような表情をしており、これは清姫と同じく何を言ってもダメだなと察し、そのままにしておくことにした。

 

それにジャックの元マスターの玲霞からも託されたので、まあいいかと結論付ける。

 

「みんなー!ご飯できたわよー!」

 

「ごはん!?」

 

ブーディカの声が響き、ハンバーグがテーブルに並んだ。

 

ジャックは目を輝かせながら美味しそうにハンバーグを食べる。

 

食事が終わり、ブーディカはジャックの頭を撫でながらハンバーグの感想を聞く。

 

「ジャック、美味しかった?」

 

「うん!とっても美味しかった!」

 

「それは良かった。あ、私はブーディカって言うんだ。このロンドンのずっとずっと昔にいた女王だよ」

 

「じょおうさまー?」

 

「女王様なんて言わなくてもいいよ。そうだね……お姉ちゃんって呼んでくれたら嬉しいかな?」

 

「うん!わかった、おねえちゃん!」

 

ジャックの笑顔とブーディカを『おねえちゃん』と呼び、ズキューン!とその可愛さにブーディカのハートにダイレクトアタックを喰らい、メロメロになって抱きついた。

 

「ああもう!可愛すぎるよこの子は〜!」

 

「わぷっ!?」

 

ブーディカはまるで娘のようにジャックを目一杯可愛がり、それを見た羨ましがりアタランテはもう少し自分も正直に大胆になろうと心に決めた。

 

ブーディカがジャックを解放し、一息いれると遊馬はジャックと向かい合うように座る。

 

「さてと、ジャック。大事な話があるからよく聞いてくれ」

 

「う、うん……」

 

遊馬の真剣な表情にジャックは少し緊張しながら頷いた。

 

「ジャック、お前はこれまでに多くの人を殺めてきた。この罪は絶対に消えることはない」

 

ルーラーたちから聞いた聖杯大戦やこのロンドンでジャックは多くの人を殺めてきた。

 

この大きな罪は決して消えることはない。

 

「だから、お前はその罪を償わなきゃならない」

 

「……やっぱり、私達は消えた方がいいのかな……?」

 

「たとえジャックが消えても死んだ人は蘇らないし、そんなことをしても罪を償えた訳じゃない。だから……生きて償うんだ」

 

「どうやって……?」

 

「ナイフを出してくれるか?」

 

「うん……」

 

ジャックはこれまで多くの人の心臓を抉り出し、殺めてきたナイフを取り出した。

 

ナイフを持つジャックの小さな手を遊馬は優しく重ねた。

 

「ジャック。お前はこれからこの力で誰かを殺めるんじゃなく、誰かを救う為に振るうんだ」

 

「誰かを救う……?」

 

「ああ。ちょっと難しい話だけど、俺たちはこの世界に住む全ての人類の未来を守る為に戦っているんだ。ジャック、その為にお前の力を貸してくれ」

 

「わかった、頑張る!おかあさんを守る!」

 

「でも、ただ償うだけじゃダメだ。お前も幸せにならなきゃならない」

 

「私たちも……?」

 

償うだけでなくジャック自身が幸せになるということに言われた本人が一番疑問に思う。

 

「お前は……いや、お前達は世界に生きることは出来なかった。だからこそ、一人の存在して生きる権利がある。これから沢山、色々な事を学んで、遊んで、成長していくんだ」

 

「生きて、学んで、遊んで、成長……うん!分かった!」

 

「あとは……友達だ。俺とアストラルみたいに泣いたり笑ったり、一緒に喜びや悲しみも共有できて、時には喧嘩も出来る……そんな大切な存在を見つけるんだ」

 

「友達……」

 

「ジャック、これからお前だけが出来る新しい未来を作り出すんだぜ?」

 

「うん!」

 

「よし、いい返事だ。かっとビングだ、ジャック!」

 

「かっとビングだ、私達!」

 

ジャックは元気よく『かっとビング』を叫び、その輝くような幼い子供そのものの可愛らしい笑顔から無垢なる殺人鬼の面影が消えていた。

 

「怨霊ではない、数多の子供達の霊の集合体……ジャック・ザ・リッパーが作り出す新しい未来……」

 

聖杯大戦でジャックを浄化で倒したルーラーは最初はジャックを救うことは不可能だと断言した。

 

例え他の聖人や聖女、聖なる力を持つ英霊たちでも怨霊であり呪いとも言えるジャックを救うことはおそらく不可能であろう。

 

しかし、魔術師でもない異世界の人間とはいえ幼い少年がジャックの中にある数多の怨霊の呪いを打ち破り、尚且つ二度と人殺しをさせない新しい未来を与えた。

 

まだ遊馬のことをあまり知らないルーラーは遊馬を尊敬すると同時に一つの恐れを抱いた。

 

一体この少年はあの優しい笑顔の裏にどれほど辛い人生と戦いを重ねてきたのだろうと……。

 

「話は終わったか?」

 

遊馬の話が終わると次にモードレッドが話し始める。

 

「おい、ジャック。聞かせろ、お前はまだ霧の宝具を展開しているか?」

 

「『暗黒魔都(ザ・ミスト)』?ううん、使ってないよ」

 

暗黒魔都はジャックの結界宝具で硫酸の霧を再現するが、今は遊馬と契約しているので宝具を解いている。

 

しかし、未だにロンドンは謎の霧に包まれたままだった。

 

ジャックが暗黒魔都を使ってないのなら一体誰が霧を起こしているのか。

 

「じゃあ何でまだロンドンが霧に包まれたまんまなんだよ?」

 

「それはね、『P』がやったんだよ」

 

「誰だよ、Pって?」

 

「えっとね、キャスターのサーヴァントで、すごい力を持った魔術師。わたしたちにたくさんの人を殺せって言ってた。そうすればおかあさんに会えるって……」

 

ジャックの発言を聞き、一同は驚愕する。

 

ジャックはただ単に人を殺していたのではなく、ジャックの母に会いたいと言う願いを利用したPが元凶である。

 

「Pって奴がジャックの無垢な心を利用したって事か……絶対に許せねえ!!」

 

ジャックの母親代わりとなった遊馬はジャックを利用したPに強い怒りを抱き、アタランテやブーディカも静かに怒りが燃え上がる。

 

「キャスタークラスのサーヴァントか……真名を伏せるために頭文字を取ってそう名乗っているのだろう。どうやら、今回の事件はそのPが大きく関わってるに違いないな。ジャック、そのPはどんな姿をしていた?」

 

アストラルはPがどんな人物なのかジャックに聞いてそれを記憶していく。

 

「えっと……Pは綺麗な男の人で、髪がとっても長くて、あとは白い服を着ていた!」

 

「そうか、ありがとう。遊馬、いずれPは我々の前に現れるだろう。その時は完膚無きまでに叩きのめして、何を企んでいるのか吐かせよう」

 

「その意見には大賛成だけど……アストラル、お前も怒ってないか?」

 

「ああ。私も少々怒りを抱いている……君のジャックを想う気持ちに触発されたのだろう」

 

「そっか。よし!まずはそのP、もしくは関係者を探し出さないとな!」

 

「待ってくれ、ユウマ。その前に君に頼みたいことがある」

 

「ジキル?頼みたいことって?」

 

「ああ。僕の協力者、スイス人碩学、フランケンシュタイン氏の保護を頼みたい」

 

「フランケンシュタイン!?」

 

「まさか、その名を聞くことになるとは……」

 

フランケンシュタインの名を聞いて遊馬とアストラルは驚愕する。

 

ヴィクター・フランケンシュタインは日本でも有名なフランケンシュタインの怪物の登場人物であるが、ジキルの協力者のその人物はその小説のモデルとなった魔術師の孫だったのだ。

 

事実は小説よりも奇なり……まさに日本の慣用句に当てはまることだ。

 

「今朝から連絡が取れないんだ。急いで向かって欲しい」

 

「それじゃあ、私の宝具で一気に目的地に行こう!」

 

ブーディカはライダークラスとしての宝具を持っているのでそれであまり時間をかけずに移動することができる。

 

「場所は分からないから、モードレッド、道案内できるかな?」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

ブーディカに頼まれ、既に見回りでロンドンの街を知り尽くしているモードレッドは自信満々に頷いた。

 

「……すまない、ユウマ。俺も連れて行ってくれないか?」

 

すると、ジークが手を挙げてフランケンシュタイン氏の保護を名乗り出た。

 

「良いけど、どうしたんだ?」

 

「もしかしたら、そこに俺の命を救ってくれた恩人がいるかもしれないんだ……」

 

「恩人……あ!あの子か!じゃあ僕も僕も行く!」

 

「で、では、私も一緒に行きます!」

 

アストルフォとルーラーもジークに続いて名乗り出た。

 

「おかあさん、私達もいく!」

 

「ジャックが行くなら私も同行しよう」

 

Pやその関係者が現れた時にすぐにわかるようにジャックが同行し、ジャックの守護にアタランテも同行する。

 

「分かった。一緒に行こうぜ。アルトリアとジャンヌとレティシアとジークフリートはここで待機して何かあったら行動してくれ。連絡はD・ゲイザーで頼む」

 

遊馬は連絡用の予備のD・ゲイザーをアルトリアに渡す。

 

「分かりました。モードレッド、しっかりと役目を果たすのですよ」

 

「おう、任せてくれ!父上!」

 

アルトリアからエールを送られてモードレッドは上機嫌で頷いた。

 

ヴィクター・フランケンシュタインの保護に向かうメンバーは遊馬、アストラル、マシュ、ブーディカ、アタランテ、ジーク、ルーラー、アストルフォ、ジャック。

 

残るメンバーのアルトリア、ジャンヌ、レティシア、ジークフリート、ジキルはアパルトメントで待機。

 

遊馬達はすぐに行動に移し、アパルトメントから出るとブーディカは剣を抜き、アストルフォは手を掲げる。

 

「行くよ、『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』!!」

 

「おいで、『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』!」

 

ブーディカの前にブリタニア守護の象徴である名馬による二頭立ての戦車が現れ、アストルフォの前にはピポグリフが現れる。

 

「ジェットローラー!」

 

遊馬はジェットローラーを起動し、マシュとモードレッドとジャックはブーディカのチャリオットに乗り、ルーラーとジークはアストルフォのピポグリフに乗る。

 

「ユウマ、私は警戒のために建物の上を走っていく」

 

「ついてこれるか?」

 

「それぐらい問題ない」

 

「オッケー、それじゃあ行こうぜ!」

 

ブーディカはチャリオットの二頭の馬を操って走らせ、アストルフォはピポグリフを飛翔させ、その後を遊馬とアストラルとアタランテが追う。

 

モードレッドの案内でヴィクターの屋敷へ向かい、途中敵がいたが難なく倒していき、到着したのは大きな屋敷だった。

 

屋敷は魔術によって施された罠が多く、モードレッドも最初に来た時には苦労し、気をつけながら門に行こうとしたその時。

 

「──クソ、遅かったか」

 

門の入り口には背の高い不気味な道化師のような男が立っており、モードレッドは警戒しながら問う。

 

「おい、そこのカカシ。それともリビングスタチューか?どっちでもいいや。お前さ、アホみたいに匂うぞ。血と臓物と炎の匂いだ。後、爺さんの好きだった元素魔術の触媒。ここまでぷんぷん匂ってくる。殺したな、お前。ヴィクター・フランケンシュタインを」

 

モードレッドは直感した、この道化師がヴィクターを殺害したと。

 

奇抜な道化師……この国と時代ではあり得ない存在、即ちサーヴァントである。

 

「ええ、はい──ああいえ、どうでしょうか。少しお待ちくださいませ。確かに、確かに、かの老爺は二度と口を開かず歯を磨かず物を食べず、息をしないでしょうけれど。ええ、ええ。有り体に言えば絶命しているのでしょう。残念なことです。彼は『計画』に参加することを最後まで拒んだ。しかししかし。だな、けれどもしかし。誰がヴィクター・フランケンシュタインを殺したか?それはとても難しい質問かも知れません。何故なら、彼はひとりでに爆発したのですからね!」

 

道化師はまともに答えるつもりがないように回りくどい言葉を並べていく。

 

「──それはあなたの宝具の仕業でしょう?『メフィストフェレス』!!」

 

ルーラーは道化師の真名を瞬時に看破した。

 

メフィストフェレス。

 

ゲーテの戯曲『ファウスト』などに登場する誘惑の悪魔である。

 

「おやおや?私の真名を看破したと言うことはルーラークラスのサーヴァントですかな?うふふふ!何とお美しい、是非とも堕落させてみたいものです!」

 

「お生憎様、私はあなたのような方に堕落させるほど弱くはありません」

 

「そうそう、ルーラーを堕落させるのはジークだからね〜」

 

「アストルフォ!?あなたはこんな時に何を言っているのですか!??」

 

「すまない、ルーラー。俺が君を堕落させているのか?」

 

「ジーク君!?そ、その話は後でお願いします!」

 

緊迫した状況のはずだが、アストルフォの所為でルーラーとジークの夫婦漫才が始まりかけた。

 

「ま、冗談はこのくらいにして……君は敵だね。ジャックがどうやら君を知っていたみたいだから」

 

アストルフォはルーラー弄りからキリッと真剣な表情を見せてジャックの頭にポンと手を乗せると、メフィストフェレスはジャックが遊馬達と一緒にいることに驚いた。

 

「これはこれは、無垢なる殺人鬼のジャック・ザ・リッパー!何故あなたがそこにいる?Pと共に行動をしているのではなかったのですか?」

 

メフィストフェレスは謎の人物Pの関係者でジャックも顔を何度か合わせただけだった。

 

ジャックはナイフを構えてメフィストフェレスに敵意を向ける。

 

「……私達はおかあさんたちと一緒にいる。もう人殺しはしない!」

 

それはジャックがP達との完全なる決別を宣言したことになった。

 

「そうですか……残念ですね。それでは仕方がありません。貴方達を爆発させましょう!我が宝具は既に設置済み!」

 

「設置済みだと!?」

 

「我が真名メフィストフェレスの名に懸けて!皆様を面白可笑しく絶望に叩き込んでくれましょう!」

 

モーションなしで既に宝具を展開して設置した……ジャックもメフィストフェレスの宝具がどんなものかは分からない。

 

「それでは、カウントダウン!」

 

メフィストはカウントダウンを数え、宝具を発動して遊馬達を爆発させようとしたその時、ルーラーが前に出て旗を広げる。

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!!」

 

ルーラーの旗振りと共に聖なる光の加護が自身と遊馬達に与えられ、メフィストの宝具を無効化する。

 

「何と!?」

 

「あなたがどのような宝具を使おうとも私の旗でみんなを守ります!」

 

「アヒャヒャハアアアア!でしたらあなたが耐えきれなくなるまで爆発させましょう!『微睡む爆弾(チクタク・ボム)』!!」

 

メフィストフェレスの宝具は魔術回路やサーヴァントの霊基に意図的なバグを仕込み、衝撃を与えることで破裂させる呪術の一種である。

 

「くっ!?」

 

ルーラーは旗の力でメフィストフェレスの宝具から全員を守っていく。

 

「ルーラー!」

 

「大丈夫です!私が必ずみんなを守ります!」

 

ルーラーの旗はEXランクという規格外の対魔力を物理的霊的問わず、宝具を含むあらゆる種別の攻撃に対する守りに変換する。

 

しかし、攻撃を防いだ代償は旗に損傷となって蓄積され、使い続ければ最終的には使用不能になってしまう。

 

その前にメフィストフェレスを倒さなければならない。

 

「遊馬!今のうちだ!速攻で決めるんだ!」

 

「ああ!待ってろ、ルーラー!俺のターン!!」

 

遊馬の右手が真紅に輝き、バリアン七皇の幻影が現れて一つに重なり、デッキトップに手を置く。

 

「バリアンズ・カオス・ドロー!来たぜ、真月……ベクター!」

 

すると、遊馬を騙すために親友になると偽り、大きな心の傷を与えてきたバリアン七皇の一人、ベクターの幻影が遊馬の隣に現れる。

 

しかし、敵でありながらも最後まで信じ抜いて救おうとした遊馬の心に救われ、本当の親友となった真月零が不敵な笑みを浮かべて遊馬の肩を叩く。

 

「俺はドローしたこのカード、『RUM - 七皇の剣』を発動!!このカードは通常ドローをした時に発動する事が出来る!エクストラデッキ、または墓地から『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』を特殊召喚して、そのモンスターをカオス化させる!」

 

眩い閃光と共に『104』の文字が空中に輝き、遊馬の前に柱のようなものに手が付いた物体が現れる。

 

「出でよ!No.104!その眩き聖なる光で、愚かな虫けら共を跪かせよ!『仮面魔踏士(マスカレード・マジシャン)シャイニング』!!」

 

そこから変形すると複数のリングが繋がったチャイナリングを持ったマジシャンが姿を現れる。

 

「そして、仮面魔踏士シャイニングでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

仮面魔踏士シャイニングが光となって天の赤い雲に吸い込まれると光の爆発を起こし、その力を大きく変えて新たな姿となり、紫色の『104』の文字が空中に描かれ、コウモリを模した赤い翼を持つ球状の物体が現れる。

 

「現れろ、CNo.104!混沌より生まれしバリアンの力が光を覆う時、大いなる闇が舞い踊る!『仮面魔踏士(マスカレード・マジシャン)アンブラル』!!」

 

赤い翼から変形すると真紅の衣装に身を包み、赤い宝石の杖を携えた怪しい雰囲気を漂わせるマジシャンが姿を現わす。

 

「三体目のオーバーハンドレッド・カオス・ナンバーズ……」

 

不死身の槍術士、三つ首の金龍に続き、不気味な闇の魔術師の出現にマシュはヒシヒシと伝わるその力の波動に少し不安げに見つめた。

 

光から闇へとその姿と力を変えた仮面魔踏士……それは真月とベクターの二面性を表したシャイニングとアンブラルの特徴である。

 

「ルーラー!あとは任せろ!」

 

「遊馬さん……はい!」

 

「行け!アンブラル!!」

 

アンブラルは杖を軽やかに回しながら滑空し、メフィストは笑みを浮かべて爆散しようとする。

 

「その魔術師をまずは爆散させてみましょう!!」

 

「そうはさせるか!アンブラルの効果!相手フィールド上で効果モンスターの効果が発動した時、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除いて、その発動を無効にする!ダークプランダー!!」

 

アンブラルはオーバーレイ・ユニットを杖の宝石に取り込むと赤黒い光が放たれ、メフィストが宝具を発動する前に直撃した。

 

メフィストは構わず微睡む爆弾を使おうとしたが、発動しなかった。

 

「ま、まさか……私の宝具を使えなくしたのですか!??」

 

「ああ。これ以上、あんたの道楽の為に誰かの命を奪わせたりはしない!!そのままアンブラルで攻撃だ!!」

 

アンブラルは華麗なステップを踏み、杖を振りかざして闇の電撃を放った。

 

「アギャアアアアア!??」

 

電撃がメフィストの体に直撃し、奇声を放って倒れる。

 

「やるじゃねえか、ガキ!後は任せろ!」

 

モードレッドはアーサー王の武器庫に保管されていた王位継承権を示す剣、『如何なる銀より眩い』と称えられる白銀の剣……『燦然と輝く王剣(クラレント)』を構える。

 

クラレントに荒れ狂う憎悪を刀身に纏わせて振りかぶる。

 

「てめえはヴィクターじいさんを……ブリテンの民を楽しみながら無残に殺した……その罪を償え!!」

 

知人を……そして、愛するブリテンの民を殺した怒りをクラレントに込める。

 

「『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!!」

 

振り下ろしたクラレントの切っ先から直線状の赤雷を放たれる。

 

まるでモードレッド自身の怒りを表しているかのような赤雷がメフィストフェレスに向かう。

 

「あぁ……実に、実に……口惜しい……!」

 

メフィストフェレスは赤雷に呑み込まれ、絶叫を上げられずに消滅した。

 

消滅した跡からフェイトナンバーズが残り、アストラルが回収し、モードレッドは屋敷を見つめる。

 

「ヴィクターのじいさんが何か残してるかもしれねえ。行こうぜ」

 

「ああ……」

 

遊馬達はヴィクターの屋敷に入り、何か情報や手掛かりがないかを探す。

 

メフィストフェレスがヴィクターを殺害した現場には爆発して僅かに残った肉片と血しか残っておらず、無事に魂が天国に行けるようにルーラーは祈りを捧げた。

 

マシュは殺害現場からヴィクターが遺したメモを見つけた。

 

どうやらメモを書いている時に襲われたらしい。

 

「私は一つの計画の存在を突き止めた。名は『魔霧計画』。実態は、未だ不明なままだが計画主導者は『P』『B』『M』の三名。いずれも人知を超えた魔術を操る、恐らくは英霊だ」

 

魔霧計画……霧の宝具を使うジャックが抜けたことでその計画がどれほど影響を与えたかどうかはわからない。

 

しかし、未だに霧が出ていることや三人のサーヴァントが敵としていることから油断ができない。

 

「Pの他にまだ首謀者が二人いるってことかよ」

 

「M……メフィストフェレスの頭文字はMだが恐らくは違う可能性が高い。ジキルにも読んでもらって意見を聞こう」

 

「で、だ。オレも一つ面白いものを見つけたぞ。おい、こっち来い」

 

モードレッドはPの情報とは別のものを発見し、それを呼び寄せた。

 

「……ゥ」

 

「女の子?」

 

それは白いドレスを着た虚ろな目を持つ少女で額に機械の角など頭に色々な機械が埋め込まれていた。

 

その少女の登場に真っ先に飛びついたのはアストルフォだった。

 

「やっほー!フランちゃん!久しぶり!!」

 

アストルフォは少女──フランに抱きついた。

 

嬉しそうにアストルフォは頬ずりするがフランはとても困惑していた。

 

「ウッ……アッ……ゥゥ……?」

 

「あれ?どうしたの?」

 

「アストルフォ、彼女は黒のバーサーカーではありませんよ」

 

ルーラーはフランがサーヴァントではないと断言した。

 

「え?」

 

「何故なら彼女は……サーヴァントではなく、生身ですから」

 

「ええっ!?じゃあ英霊になる前のフランちゃん!??」

 

「そうですね」

 

「そうだったか……」

 

ジークはフランがサーヴァントではなく生前の存在であることに不謹慎だが少し残念に思えた。

 

かつてジークは間接的であるがサーヴァントのフランに命を救われたのだ。

 

「じゃあ知らないのも無理はないか。僕はアストルフォだよ!よろしくね、フランちゃん!」

 

「アストルフォ、その子とはどう言う関係なんだ?」

 

「フランちゃんはね、聖杯大戦で黒のバーサーカーとして召喚されて僕と一緒に戦ったんだよ!」

 

フラン……聖杯大戦で黒の陣営で共に戦ったサーヴァントだが、どうやらここにいるのは英霊になる前の存在らしい。

 

「こいつ、人造人間だぞ?」

 

「は!?人造人間!?」

 

「人造人間ということは、まさか!?」

 

人造人間と聞いて遊馬とアストラルは耳を疑った。

 

フランケンシュタイン、人造人間……そこから導き出される答えは衝撃的なものである。

 

「奥の部屋の棺に入ってたんだけど。説明書きがくっついてたんだよ。ええとな。祖父ヴィクター・フランケンシュタインの制作した一体目の人造人間……だってよ」

 

「まさか、『フランケンシュタインの怪物』とこうして会うことができるとは……!」

 

アストラルは拳をぎゅっと握りしめて感慨深そうに目を閉じた。

 

「あー、お前深夜放送のテレビをかなり見ていたからな……」

 

アストラルは遊馬とまだ人間界にいた頃、遊馬が自室で夜に寝ている間、アストラルは深夜番組のテレビを見ていた。

 

その中にはフランケンシュタインを題材にした番組を見ていたのでアストラルは感動していた。

 

「ゥゥ……ァァ……?」

 

「私の名はアストラルだ。君は……フランで良いかな?君に会えた事をとても光栄に思う」

 

フランは初めて見る存在に手を伸ばしてアストラルに触れるが、手がアストラルの体をすり抜けて触れないことに驚く。

 

「すまない、私は触れることは出来ないんだ」

 

「キ……レ……イ」

 

フランは唸り声や方向ばかりで滅多に言葉を口にしないため、大切なことだけを言葉にする。

 

初めて見る美しい精霊のアストラルに本心からそう感じたのだ。

 

「ありがとう……」

 

「良かったな、アストラル」

 

「ああ。ヴィクター・フランケンシュタインは保護出来なかったが、彼女をこのままにしては置けない。私達で保護しよう」

 

アストラルの意見に一同は頷いた。

 

特にジークにとっては恩人でアストルフォはかつての仲間なので大賛成である。

 

一旦フランを連れてジキルのアパルトメントに戻ろうとしたが、そこにジキルから連絡が入った。

 

ヴィクターとフランの件を話し、ジキルはヴィクターを保護出来なかったのはとても残念がっていたが、悲しんでいる暇はないとジキルは今さっき入った情報を伝えた。

 

『ユウマ、ソーホーエリアに妙な物が現れた。何でも屋内にまで入り込んで来て市民を襲うんだ。しかもそれは人間くらいの大きさの本らしいんだ』

 

「本が人を襲う?」

 

『僕は仮にこれを、魔本、と仮称することにした。すぐに対処してほしい』

 

「分かった!任せてくれ!」

 

遊馬達はジキルからの次の任務で屋敷を後にし、魔本が出現したソーホーエリアへと急いだ。

 

 

 

 




今回はジャックの新しい未来とフランちゃんの登場でした。
ジャックちゃんは無事に遊馬達の仲間となりました。
アストラルのフランケンシュタインのネタは漫画版から採用しました。
アストラルはエスパーロビンとかしっかり見ていたので深夜放送を見まくったと思います(笑)

絵本の子は次回です!


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ナンバーズ81 未来を歩む子供達と誰かの為の物語

今回の話の主人公はジャックちゃんです。

かっとビングを得て未来を歩き出したジャックちゃんは強いですねー。


魔本が出現したとされるソーホーエリアに向かい、ジキルから教えられた情報提供者の元へ向かった。

 

そこは古書店でそこに入ると青い髪にメガネをした少年がいた。

 

「遊馬、彼はサーヴァントだ」

 

「え?この子供が?」

 

「……ようやくか。待ちくたびれたぞ馬鹿ども。おかげで読みたくもない小説を一シリーズ、二十冊近く読み潰すハメになった」

 

「いきなり馬鹿どもは失礼じゃないですか?ハンス・クリスチャン・アンデルセン」

 

ルーラーは少年の真名を看破し、その名前に遊馬とマシュは驚いた。

 

「はぁ!?アンデルセンって童話作家の!??」

 

「作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン──すごい……世界三大童話作家の一角ですよ!」

 

「ほう。その様子、隠さなくてもハッキリわかるぞ!さては愛読者だな!」

 

「まあガキの頃たくさん読んだからな」

 

「好きというか、相当数読み直しをした程度で……」

 

ハンス・クリスチャン・アンデルセン。

 

世界にその名の鳴り響く三大童話作家の一人。

 

日本でも翻訳されて代表作である「マッチ売りの少女」「人魚姫」「裸の王様」「雪の女王」「みにくいアヒルの子」等があるほど有名である。

 

「すげえな、まさか童話作家のサーヴァントもいるなんてな……」

 

「アンデルセン、君がここにいるということは魔本のことは?」

 

「……精霊だと?ほう、まさかこの目で本物の精霊を見ることになるとはな。その通りだ、奴はこの古書店二階住居……つまりまだこの階にいる。隣の書斎だ」

 

「隣か……遊馬、この狭い室内での戦闘は危険だ」

 

「それなら外におびき出すしかないな……みんな、魔本と対峙したらすぐに外に出るぞ!」

 

遊馬たちは魔本がいるとされる隣の書斎へとゆっくり向かう。

 

扉をそっと開けて見ると部屋の中にはフワフワと浮く大きな本があり、間違いなくあれが魔本なのだが……。

 

「あれが魔本……あれ?題名が書いてある……」

 

魔本には題名が書かれており、それを読むと衝撃的な事実が判明した。

 

「ALICE IN WONDERLAND……アリスインワンダーランド……不思議の国のアリス!??」

 

「不思議の国のアリス……イギリスの数学者、ルイス・キャロルが書いた児童小説だ」

 

それは世界的に有名な児童小説である不思議の国のアリスだった。

 

「なんで不思議の国のアリスの本が魔本!?どういう事だよ!?」

 

「遊馬君、とにかく外におびき出しましょう!」

 

「そ、そうだな!」

 

遊馬たちは困惑する中、魔本をおびき寄せて無事に古書店から外に出すことに成功した。

 

しかし、魔本を倒そうとしたサーヴァントたちの攻撃が効かなかった。

 

「アンデルセン先生!なんとかならないか?」

 

作家であるアンデルセンに何か出来ないかと期待する遊馬だが、そこに予想外の言葉が飛びだす。

 

「はあ?何を期待しているんだ大間抜け。俺は作家だ、クソ弱いに決まっているだろう」

 

「そこ威張るとこ!?」

 

「人々を襲って回る魔本と遭遇したはいいが、俺一人では倒すことなど不可能もいいところ。そこで、肉体労働に適したサーヴァントが来るのをこうして待っていたというワケさ!さあ戦うがいいサーヴァントたちよ!その一部始終、こぼさずメモにとってやろう!」

 

戦えないが何故か威張るアンデルセンにルーラーは頭を抱えて悩みだす。

 

「どうして作家系のサーヴァントはみんな変な人ばかりなのでしょう……ううっ……あの光景が……」

 

ルーラーは作家のサーヴァントに何かトラウマがあるのか少し震えていた。

 

「……アンデルセン、君は何かあの魔本への対策を持っているのではないか?」

 

アストラルはアンデルセンがこの状況を打破する魔本への対策があることを推測した。

 

「ほう?なぜ分かる?」

 

「君は先ほど、あの魔本と戦える者を待っていたと言っていた。つまり、魔本に攻撃を通すための方法をすでに見つけていると言うことではないか?」

 

「ははは!君は頭脳明晰な精霊のようだな。確かにそうだ、あれを本だと思うからそうなる。違うぞ、あれは一種の固有結界だ」

 

「固有結界?あれ?でも俺が知ってる固有結界とは違うような……」

 

エミヤの無限の剣製とは違う魔本が固有結界に遊馬は首を傾げた。

 

「そうだ。多くは空間に対して働くらしいが、こいつは違う。存在そのものが固有結界だ」

 

「存在そのものが……?」

 

アストラルは顎に手を添えて考える動作をし、固有結界の内容をもう一度思い出して魔本と言う名の方程式の答えを導き出す。

 

「まさか、術者の心象風景を現実世界に塗りつぶすのが固有結界と言うことは、あの魔本は本来ならマスターの精神を映し出すサーヴァントか……?」

 

「正解だ!素晴らしい!俺も一時間考える必要のある答えをすぐに導き出すとは!その通り、あれは『はぐれサーヴァント』だ。だからこそ、ソーホーの人々を襲い眠りに落として夢を見させたのだ。ようはマスター探しさ。夢の顕現として、こいつは擬似サーヴァントとしての実態を得ようとしている」

 

「どうすればいい?」

 

「名前のない本なら、物語に実体を与える方法なんて簡単だ。聞こえるか!お前に名前をつけてやるぞ、魔本、いいや──『誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)』!」

 

魔本に名前をつけた瞬間、魔本から光が溢れ出すとジャックと同じくらいのゴスロリ衣装を着た可愛らしい少女が現れた。

 

「お、女の子!?」

 

「……ナーサリー……ライム……いいえ、ちがうわ。それは名前じゃない。名前は、アリス(あたし)。ありす、どこ?ここには……ありすがいない……」

 

ナーサリーは何かを探しているように不安げな表情を浮かべていた。

 

「アンデルセン……これはまさか……」

 

「ああ……ナーサリー、お前にマスターはいない。いや、正しくはこの時代にいないのだろうな」

 

「どういうことだよ、アストラル」

 

「……あの子は恐らく、違う聖杯戦争で契約したマスターの心を映していたのだろう。だが、この世界に召喚されてもそのマスターへの想いがあの子の心に残っているのかもしれない……」

 

時空を超えたマスターとサーヴァントの絆が今のナーサリーの姿を現していた。

 

「……まさか、名前のない本をここまで愛した誰か(マスター)がいたとはな。見るに忍びないとはこの事だ。悪いが、早々に倒したやってくれ」

 

「実体したならこっちのもんだ!一気に決めてやるぜ!」

 

モードレッドは実体したナーサリーを一刻も早く倒そうとした。

 

すると、小さな影がモードレッドの前に出た。

 

「おい、ジャック!何をしている?」

 

それはジャックで何かを決意した様子でナーサリーを見つめた。

 

「……私達、あの子とお友達になる。だから攻撃しないで」

 

「はぁ!?」

 

「あの子……悲しそうにしていた……助けたい!」

 

「お、おい!?」

 

モードレッドの制止を振り切ってジャックはナーサリーに向かって走り出す。

 

ナーサリーはジャックを敵だと思い込み、手に持つ本を怪しく輝かせた。

 

「来ないで……来ないで!ジャバウォック!!」

 

ジャックの前に体が赤黒く、鋭利な爪を持った巨大な怪物が姿を現わす。

 

「何だあの怪物は!?」

 

「はっ!?危険だ、ジャック!それは鏡の国のアリスのジャバウォックだ!!」

 

それは不思議の国のアリスの続編である『鏡の国のアリス』の『ジャバウォックの詩』に登場する、正体不明の怪物でナーサリーの宝具の一つである。

 

ジャバウォックは鋭利な爪を持つ手を振り上げてジャックを切り裂こうとした。

 

「くっ!?」

 

ジャックはナイフを出してジャバウォックの攻撃を回避しようとしたその時。

 

「ジャック!!」

 

ジャックの前に一つの影が現れ、ジャバウォックの爪を受け止めた。

 

「アタランテ……?」

 

アタランテはジャバウォックの爪をまともに受け、体に爪が何本も突き刺さっていた。

 

「大丈夫か、ジャック……?」

 

「何で……?」

 

「お前が覚えているかは分からないが、私は聖杯大戦でお前の母を殺した……そして、お前を救うことが出来なかった……」

 

アタランテは聖杯大戦でジャックのマスターの玲霞を殺め、ジャックを救えなかったことをずっと後悔していた。

 

「だが、ユウマがお前を救い、新たな未来を作ってくれた……こんな事でしかお前への罪滅びしか出来ないが……」

 

すると、アタランテの体から邪悪な魔力が溢れ、背後に猪に似た魔獣が姿を現わす。

 

「お前の進む未来を見守らせてくれ!『神罰の野猪(アグリオス・メタモローゼ)』!!!」

 

魔獣がアタランテを包み込むと邪悪な魔力が爆発し、ジャバウォックを吹き飛ばした。

 

そして、清楚な雰囲気のアタランテが一転し、綺麗な緑色の髪が白色に近くなり、魔獣の毛皮を両手両足と両肩に纏い、露出度の高い姿へと変貌した。

 

傷は全て癒え、アタランテは邪悪な魔力で力が満ち溢れていた。

 

「まさか……アタランテがオルタ化したのか!?」

 

それはアタランテの宝具によるクラスチェンジが発生してしまい、今ではアーチャーからバーサーカーとなっていた。

 

「行け!ジャック!!私がこいつを食い止める!!」

 

アタランテは両手両足を怪しく輝かせ、文字通り獣のようにジャバウォックに襲い掛かった。

 

「何だあの狩人は、馬鹿なのか?」

 

「ああもう!なんだよちくしょう!さっさと倒せば済む問題だったのによ!!」

 

アンデルセンとモードレッドは事態が悪い方向に向かっていることに頭を悩ませた。

 

「アタランテ……ん?」

 

デッキケースの中から光が溢れ、勝手に開くと緑色に輝くカードが遊馬の前で止まる。

 

「アタランテのフェイトナンバーズ……」

 

それはアタランテのフェイトナンバーズで遊馬が持つともう一枚のフェイトナンバーズが出現した。

 

遊馬がデュエルディスクを構えてジャックの隣に立った。

 

「おかあさん?」

 

「ジャック、お前はあの子と友達になりたいんだな?」

 

「うん……」

 

「それなら喜んで力を貸すぜ。ジャック、友達になるにはまずは自己紹介と友達になりたい意思をしっかり見せるんだ。出来るか?」

 

「やってみる!かっとビングだよ!」

 

「ああ!かっとビングだな!行って来い!」

 

ジャックはジャバウォックをアタランテが相手をしている間にナーサリーの元へ向かおうと走り出した。

 

しかし、

 

「私を守って……トランプ兵!」

 

今度はナーサリーを守るように不思議の国のアリスに登場するトランプの兵士が軍隊として現れた。

 

「トランプの兵士!?しかも多いよ!?」

 

トランプ兵は約40体もおり、路地では場所も狭まれて一気に満杯となりジャックの行く手を塞いだ。

 

槍を構えたトランプ兵は突撃してジャックに襲いかかった。

 

「『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』!!!」

 

凛とした声が響くとジャックの周りに無数の車輪が現れてトランプ兵の攻撃からジャックを守った。

 

「おねえちゃん!」

 

ジャックの後ろに現れたのはブーディカで約束されざる守護の車輪の真の力を解放した。

 

約束されざる守護の車輪はチャリオットとして乗ることができるが、その真の力はケルトの神々の加護を受けたチャリオットで仲間を守る『盾』として運用するのである。

 

「私が蹴散らすわ!!『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディ力)』!!!」

 

ブーディカは勝利の名を冠する剣で魔力弾を放ち、トランプ兵を蹴散らしていく。

 

「手伝います、ブーディカさん!はあっ!!」

 

「ゥゥ……ァァ……!!」

 

マシュとフランも手伝い、盾と戦槌を振るってトランプ兵を薙ぎ払う。

 

しかし、いくらトランプ兵を蹴散らしてもすぐに再生して復活してしまう。

 

「再生するなんてキリがないわね……」

 

ジャバウォックもトランプ兵もナーサリーが魔力を与える限り再生し続ける。

 

「あの子を倒すか、魔力切れを待つかだけど、そんなことは出来ない……!」

 

ジャックをナーサリーに近づかせる為にはジャバウォックとトランプ兵を一気に短時間で倒さなければならない。

 

「アストラル、アタランテの新しいフェイトナンバーズがあればいけるよな?」

 

「ああ。だがアタランテはあのジャバウォックと戦っている。ジャバウォックを誰かが抑えてないといけない」

 

「よし、ここはホープを呼んで……」

 

「その役目、私たちに任せてください」

 

「え?」

 

「ジーク君、アストルフォ、行きますよ!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

ルーラー、ジーク、アストルフォの三人はジャバウォックの元に向かう。

 

ルーラーたちは三人同時にジャバウォックに攻撃してジャバウォックを怯ませた。

 

「ルーラー!?」

 

ルーラーたちの突然の乱入にアタランテは驚愕した。

 

「アタランテ、遊馬さんの元に行ってください。あなたがこの状況を打破できます」

 

「何故、お前が……」

 

「私はかつて、ジャックを浄化して倒しました。それがあの子を救う方法だと信じていました。それしか方法はない、誰にもあの子を救えないと……しかし……」

 

ルーラーは懸命にナーサリーの元へ向かおうとしているジャックの姿を見つめる。

 

「あの子は遊馬さんに救われ、新しい未来を歩き始めています。だからこそ、私はあの子の行く末を見守り、そして私が出来る事をします。それが私に出来る償いです」

 

「ルーラー……」

 

「あなたが私を憎んでいるのは分かります。ですが、今の私の気持ちをあなたに伝えたかった……」

 

「……感謝するつもりはないぞ」

 

「ええ……」

 

アタランテはルーラーの気持ちを受け取り、遊馬の元へと走った。

 

「ユウマ!頼む!」

 

「おう、行くぜ!アタランテ!!」

 

遊馬がフェイトナンバーズを掲げるとアタランテが粒子化してカードの中に入り、遊馬はデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!自分フィールドにモンスターがいない時、手札から『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚出来る!更に手札から『フォトン・クラッシャー』を通常召喚!!」

 

遊馬のフィールドにそれぞれ剣とハンマーを持った光の戦士が二体立ち並ぶ。

 

「かっとビングだ!レベル4の光属性モンスター二体でオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

光の戦士が光となって地面に吸い込まれて、光の爆発を起こす。

 

「月の女神の加護を受けし狩人よ!光り輝く金色の弓矢で子供を守る力となれ!!」

 

金色の月が頭上に現れ、優しい光が降り注がれると光の爆発の中から優しき狩人が姿を現わす。

 

「現れよ!『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』!!」

 

オルタになる前の元のアタランテに戻り、体には緑の装束の上に金色の鎧を装着し、金色の装飾が施された天穹の弓を持っていた。

 

「ユウマ!」

 

「おう!アタランテの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスター全てに攻撃する事が出来る!」

 

アタランテはオーバーレイ・ユニットを一つ握りしめて金色に輝く矢へと変化させて天穹の弓に番える。

 

「攻撃対処はトランプ兵!!」

 

「我が弓と矢を以って太陽神と月女神の加護を願い奉る、この災厄を捧がん──『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!!」

 

天穹の弓から放たれた金色の矢は一瞬で大量に増殖し、トランプ兵全てを射抜いた。

 

トランプ兵はすぐに再生しようとしたが、その前にブーディカはチャリオットを操作してトランプ兵の上にチャリオットを並べてナーサリーに向かう為の道を作った。

 

「行って!ジャック!」

 

「ジャックさん、頑張ってください!」

 

「うん!」

 

ジャックはチャリオットを足場にしてトランプ兵の上を通り抜け、ナーサリーの元へ向かった。

 

ジャックがナーサリーの元へ向かっていることに気づいたジャバウォックはそれを阻止するために襲いかかろうとした。

 

「ちょっ!?流石にこれじゃあ抑えきれないよ!?」

 

「なんて強力な宝具……!!」

 

「流石に街中じゃ派手な宝具は使えない……!!」

 

ジャバウォックを抑えていたアストルフォとルーラーとジークは街中では威力のある宝具を使えないのでジャバウォックの攻撃にただ圧倒されるだけだった。

 

「遊馬!今こそアタランテのもう一つの力を!」

 

「おう!行くぜ、アタランテ!」

 

「ああ!」

 

この状況を打破するためにはアタランテのもう一枚のフェイトナンバーズを使うしかなかった。

 

「俺のターン、ドロー!手札の闇属性モンスターを一枚を墓地に送り、 自分フィールドの『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』をエクシーズ素材として、エクシーズ召喚することができる!!」

 

手札の『ガガガマジシャン』を墓地に送り、『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』の上に光り輝くフェイトナンバーズを重ねる。

 

アタランテの体が闇に包まれながら紫色の光となり地面に吸い込まれる。

 

「クラス・コンバート・エクシーズ・チェンジ!!!」

 

光の爆発が起き、狩人から荒れ狂う狂戦士へとその力を変える。

 

「純潔の狩人よ!邪悪なる魔獣の力を纏いて逆境を打ち砕く光となれ!!」

 

邪悪なる魔獣の毛皮をその身に纏い、仇なすものを全て排除するための魔人が降臨する。

 

「現れよ!『FNo.102 神罰の魔人(メタモローゼ) アタランテ・オルタ』!!」

 

魔獣の毛皮に加え、光から闇に堕ちた堕天使の藍色の装甲をその身に付け、獲物を穿つ巨大な槍を持ったアタランテが姿を現わす。

 

「アタランテ・オルタの効果!特殊召喚に成功した場合、墓地の闇属性モンスターをこのモンスターのオーバーレイ・ユニットにする!」

 

コストとして墓地に送ったガガガマジシャンをオーバーレイ・ユニットにし、その力を解放する。

 

「アタランテ・オルタの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手モンスターを全てを裏側守備表示に変更する!」

 

「正体不明の怪物よ……喰らえ!!」

 

アタランテ・オルタは槍を投げ飛ばしてジャバウォックの胸に突き刺すとその場に崩れ落ちて動けなくなる。

 

「そして、アタランテ・オルタが守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する!行け!アタランテ・オルタで攻撃!!」

 

「燃ゆる影……裏月の矢……我が憎悪を受け入れよ!『闇天蝕射(タウロポロス・スキア・セルモクラスィア)』!!」

 

アタランテ・オルタの体から邪悪な魔力が吹き荒れ、轟く落雷の如く突撃してジャバウォックを貫いた。

 

深い闇に包まれたジャバウォックは再生することが出来ずに静かに消滅する。

 

「後はジャック……お前次第だ」

 

アタランテはジャックの無事を祈った。

 

 

仲間たちの力を借り無事にナーサリーの元へ到着したジャックは怯えているナーサリーに向かって静かに歩み寄る。

 

するとジャックはふと自分が持っているナイフを見た。

 

これから友達になろうとしているのに武器を持っているのはおかしな話だ。

 

ジャックは敵意がないことを示すためにナイフと投擲用の黒い医療用ナイフが入った大股のポーチを捨てた。

 

「え……?」

 

ナーサリーは自分を攻撃すると思っていたので武器を捨てたジャックに呆然とした。

 

「はじめまして。私はジャック・ザ・リッパー。あなたとお友達になりたいの」

 

「私と、お友達に……?」

 

「うん。一緒に遊んで、一緒にお菓子を食べて、一緒にお昼寝をして……今まで出来なかったことをあなたとたくさんやりたいの」

 

ジャック・ザ・リッパーとして囚われ、殺人を繰り返してきたジャックには出来なかった子供としての数多の夢……その一つとしてナーサリーと友達になり、これからたくさんの事をやっていきたい。

 

その願いがナーサリーの心に響くと、ナーサリーは開いていた本を閉じてジャックに歩み寄る。

 

「まずは……この絵本を一緒に読みましょう?」

 

ニコッと微笑みながら本を見せるナーサリーにジャックは喜びながら駆け寄る。

 

「うん!読もう読もう!よろしくね、ナーサリー!」

 

「ええ……よろしくね、ジャック」

 

ジャックはナーサリーとお友達になり、敵意がなくなった事で宝具の使用をやめ、ジャバウォックとトランプ兵が消滅した。

 

ジャックとナーサリーは手を握って笑い合うとそこに遊馬たちがやってくる。

 

「よっ!ジャック、やったじゃねえか」

 

「おかあさん!私達ね、初めてお友達ができたよ!」

 

「良かったな、ジャック!それで、えっと……ナーサリーで良いよな?俺は遊馬だ。悪いんだけど、俺と契約して眠っている人を起こしてくれないか?」

 

「うん……分かった……ジャックのマスターさんなら信用します」

 

遊馬はナーサリーと契約を交わしてフェイトナンバーズを生み出し、ナーサリーは眠らせた人達を全員起こした。

 

眠らされた人たちは特に異常がなく、ナーサリーも悪意を持ってやった事ではないので、これで魔本事件が解決した。

 

「よし!これで魔本事件も解決だな!ナーサリー、俺たちと一緒に行こうぜ!」

 

「ナーサリー、行こう?」

 

「うん!」

 

「アンデルセン先生も来るか?」

 

「良いだろう、あまり協力する気はないが、君の力に興味がある。同行しよう」

 

「サンキュー!それじゃあジキルのアパルトメントへ帰ろうぜ!」

 

遊馬たちはフラン、ナーサリー、アンデルセンを連れて一旦ジキルのアパルトメントへと戻る。

 

 

 

 




久しぶりにFNo.を出せました。

出せるタイミングがやっぱり難しいです(汗)

今回はアタランテで効果はこちらです。

FNo.102 純潔の狩人 アタランテ
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2000
光属性レベル4モンスター×2
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、このカードはこのターンに相手モンスター全てに攻撃する事が出来る。
また、破壊されたモンスターはエンドフェイズ時まで効果を発動する事ができない。
この効果を使用したターン、相手が受ける戦闘ダメージは0となる。

純潔という事もあって光属性限定にしました。
オネストでいけば相手全滅させられますね。

FNo.102 神罰の魔人 アタランテ・オルタ
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/戦士族/攻2500/守2000
闇属性レベル4モンスター×3
このカードは手札の闇属性モンスターを1枚を墓地に送り、 自分フィールドの『FNo.102 純潔の狩人 アタランテ』をエクシーズ素材として、エクシーズ召喚することが出来る。
このカードが特殊召喚に成功した場合、墓地の闇属性モンスター1枚を選択し、このカードのエクシーズ素材にすることが出来る。
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、相手モンスターを全てを裏側守備表示に変更する。
この効果を使用したターン、このカードが守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

光属性から闇属性になり、敵を問答無用で破壊する感じの効果にしました。
やっぱ効果を考えるのって難しいなと感じました。

次回は……もう一人の作家が登場すると思います。
ルーラーとは色々ありましたのでジーク君がどうするかですね……。
とりあえず、悲劇作家さん超逃げて(笑)


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ナンバーズ82 霧の夜

今回はあまりお話が進まない感じです。
いやー、色々話の展開が難しいです。



フランとアンデルセンとナーサリーを連れて遊馬達はアパルトメントに戻る。

 

その途中で装甲に覆われた大型ロボットに襲撃を受け、遊馬達は難なく撃退したが……その構造がとても不思議なものだった。

 

「なぁ、アストラル。ハートランドでロボットはかなり見慣れてるけど、ロボットってこんな蒸気機関で動くものか?」

 

大型ロボット……通称ヘルタースケルターは蒸気機関で動く謎のロボットだった。

 

どうみてもこの時代のものでもなく現代のこの世界でも使われていない謎の技術だった。

 

「……通常だとロボットは電気、もしくはオービタルのように膨大なエネルギーを持つ源が無ければ動くことは出来ない。しかし、蒸気機関でこれほどまでに高度なものを作れるとなると、下手をしたらこれを作った者はDr.フェイカー並みの科学力を有しているぞ」

 

アストラルはヘルタースケルターを製作した謎の存在をハートランドで百年に一人の天才と謳われたDr.フェイカー並みの技術を持つと断定した。

 

「Dr.フェイカー並みの技術者か……一体何者なんだ?」

 

「分からない、だがそれが敵側にいることは戦いは更に厳しくなることは間違いない」

 

「ああ。油断せずにいかないとな!」

 

「その通りだ」

 

謎が謎を呼ぶ敵陣営に遊馬とアストラルはより一層の警戒を高めた。

 

すると再びジキルから連絡があり、今度はロンドン警視庁……スコットランドヤードが襲撃を受けたとの事だった。

 

次から次へと休む間も無く問題が発生し、遊馬達は急いでスコットランドヤードへ向かった。

 

ヴィクターの時と違い、血の匂いは漂っておらず、門のところに一人の男が歩いていた。

 

その男にジャックは思わず声を荒げた。

 

「あっ!おかあさん!あいつだよ、あいつが『P』だよ!!」

 

「何!?」

 

遂に魔霧計画の首謀者であるPと対面することとなった。

 

その男はジャックの言った通りのイメージでキャスターのサーヴァントに相応しい姿をしていた。

 

「おやおや、ジャック……あなたはそちら側についてしまったのですね?残念です、あなたの残虐性に期待していたのですが」

 

「黙れ」

 

Pの一言に既にブチ切れていたアタランテが矢を放ち、Pの長い髪を撃ち抜いた。

 

「それ以上、貴様のその歪んだ心でジャックを弄ぶな……」

 

「あなたの目的は何なんですか……P……いえ、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス!!!」

 

アタランテに即発されたのか少し怒りを出しているルーラーはPの真名を看破した。

 

「パラケルススって、有名な錬金術師じゃねえか!?」

 

「魔術だけでなく医学の発展を貢献した学者が何故こんな事をしている!??」

 

アストラルの質問にP……パラケルススは目を見開きながら驚いた。

 

「これは……私が見つけた五大属性にも属さない未知なる属性の精霊……!?美しい……是非とも研究してみたいものですね……!」

 

「ふざけるな!!アストラルは俺の大切な相棒だ!!勝手に研究されてたまるか!!パラケルスス、てめえは何でこんな事をしているんだ!!」

 

「魔霧計画の完遂……私にも都合と事情がある。スコットランドヤード内部には私が必要としているものがあったので中にいる人たちには犠牲になってもらいました。ですが、必要な事でした。やむなき犠牲……」

 

「てめえらの身勝手な都合で誰かの命を奪っていいはずがねえ!!」

 

「大義の前ではそれは仕方のない事です」

 

「大義だと……?誰かの命を平気で奪うことが何が大義だ!そんな大義、俺がぶち壊してやる!!」

 

遊馬はパラケルススの言う犠牲や大義に、かつて敵として対峙してしまった仲間の背負った覚悟に比べ、あまりにも精神が欠如していることに怒りを抱く。

 

今ここでパラケルススを止めるために遊馬はデッキからカードを引く。

 

「俺のターン、ドロー!『ガガガマジシャン』を召喚!更に手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚!レベル4のガガガマジシャンとカゲトカゲでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!」

 

遊馬は希望皇ホープをエクシーズ召喚し、希望皇ホープは遊馬達の怒りを受けてその赤い瞳を鋭く輝かせていた。

 

「素晴らしい……!これほどまでに強力な使い魔を使役するとは……しかし、私はここで消えるわけにはいきません。退散させていただきます」

 

パラケルススは宝具と思われる短剣を取り出すと刀身を輝かせて眩い閃光を放った。

 

僅かな一瞬、遊馬たちが目を閉じた隙にパラケルススは何らかの魔術を使ってその場から逃走してしまった。

 

アストラルやルーラーはパラケルススの気配を追ったが霧の影響もあり、気配を完全に見失ってしまった。

 

「見失ったか……」

 

「パラケルスス……何を企んでいるのか不明だが必ず阻止しなければ……」

 

世界に名を馳せる魔術師の一人が魔霧計画の首謀者の一人と知り、遊馬たちは不安を抱きながらスコットランドヤードを後にした。

 

 

ジキルのアパルトメントに戻ると短時間で色々な事が起きて心身共に疲れて来たので遊馬たちは休むことにした。

 

横になって眠ったり、飲食をしたりとそれぞれが休んでいる中……アタランテは……。

 

「『アリスは不思議なウサギを追いかけました』……」

 

「ウサギを食べるの?」

 

「食べるんじゃありませんよ!お姉さん、次のページです!」

 

「ああ、分かったよ」

 

アタランテは両側にジャックとナーサリーに挟まれながらナーサリーの不思議の国のアリスの本を読み聞かせていた。

 

ジャックは本を自分で読むよりも誰かに読み聞かせてもらいたかったので遊馬に頼もうとしたが、不思議の国のアリスの本は全て英語で書かれていた。

 

流石に英語では全く読む事ができなかったので、代わりにアタランテが読み聞かせを挙手した。

 

アタランテはジャックとナーサリーに本の読み聞かせを出来て、とても幸せそうにしていた。

 

「良かったですね、アタランテ……」

 

戦いの最中であるが、穏やかで幸せそうなアタランテの姿を見れてルーラーは安心したように笑みを浮かべた。

 

一方、遊馬はテーブルを借りてデッキ構築をしていた。

 

「なあ、これはどうだ?」

 

「ふむ……だとするとこちらのバランスが悪くなるな」

 

「ねえねえ、これも使ったらどうかしら?」

 

レティシアもデッキ構築に参加し、色々な意見を交えながらこれからの戦いに備えていく。

 

すると、モードレッドは何か考え込んでいる様子で遊馬を見つめていた。

 

ソファーから立ち上がるとそのまま玄関の方へ向かう。

 

「……おい、ガキ」

 

「ん?なんだよ、モードレッド」

 

「外を出る。見回りしながら考えたいことがある」

 

「じゃあ俺たちも行くぜ!」

 

「いらねえ。一人にしてくれ」

 

「お、おい!?」

 

モードレッドは不機嫌になりながらアパルトメントを出てそのまま霧の中、一人で出てしまった。

 

 

モードレッドは霧に覆われたロンドンの街を見回りしながら途中現れた敵を倒していく。

 

敵をいくら倒してもモードレッドは霧のように心が晴れず、最後の敵を倒してクラレントを担いでため息を吐く。

 

「そんな曇った剣ではいつか敵にやられますよ?」

 

「っ!?父上……」

 

そこにはD・ゲイザーを装着したアルトリアが立っており、苦笑を浮かべながらモードレッドに近づく。

 

モードレッドの様子がおかしいのでこっそり後をつけていたのだ。

 

「こういう時は一人でいると危険ですよ。さあ、戻りましょう」

 

「……父上、少しだけ話したいんだけど……」

 

「……良いでしょう」

 

アルトリアとモードレッドは周囲を警戒しながら親子としての話を始めた。

 

「父上、オレさ……このロンドンを守る為にたくさんの敵と戦ってきた。民を傷つける奴、向かって来る奴は容赦なく斬り伏せてきた。だけどよ、あいつは……ガキは敵であるはずのジャックとナーサリーを救って仲間にしやがった……」

 

モードレッドの心を曇らせる原因……それは遊馬の行動だった。

 

ジャックとナーサリーは確かにモードレッドから見ても哀れな存在だと思った。

 

しかし、二人はロンドンで人々を襲ったサーヴァント……当然倒すべき存在だとモードレッドは慈悲を捨て、斬り伏せて倒そうと思った。

 

しかし、本来救えない存在であるジャックを遊馬は救い出し、虚ろな存在であるナーサリーを遊馬のかっとビング精神を受け継いだジャックが友達になりたいと気持ちを伝えて仲良くなった。

 

「父上……なんであいつは、ガキはあんなに真っ直ぐなんだよ……それに眩しいくらいに心が光り輝いている……何なんだよあいつは……」

 

モードレッドは人類と世界の未来という余りにも重すぎるモノを背負いながらも迷う事なくまっすぐ自分の道を進んでいる遊馬に苛立ちや疑問を抱いていた。

 

「……モードレッド、確かに相手はサーヴァントですから当然倒すべき敵です。あなたの考えは間違っていません。ただ……」

 

迷うモードレッドに対し、アルトリアは遊馬と共に多くの戦いを過ごして来たサーヴァントとして遊馬の信念を語る。

 

「マスターは元いた世界で多くの仲間と友を失いながら最後まで戦い抜きました。それ故にマスターは仲間を何が何でも守り抜く……救える、助けられる命は救い出す……その強い信念を持って戦っているのですよ」

 

「守る、救う……信念……あいつとは全く違う信念だな……」

 

モードレッドの脳裏には敵として対峙した一人の男の姿が映っていた。

 

その男も人類を救済すると言う確固たる信念の元に戦っていたが、同じ救いでも遊馬とはまるで異なる道である。

 

「あいつ?」

 

「いや、何でもない……そろそろ戻るか。腹減ったしな……」

 

「そうですね、ブーディカ女王が何か作ってくれるでしょうから帰ったら一休みしましょう」

 

「おう!」

 

モードレッドとアルトリアは子と親の絆を少しずつ深めながら帰路につく。

 

すると……。

 

「……父上」

 

「ええ……」

 

二人が振り返りながら剣を構えると、霧の中から魔力が迸る。

 

それは英霊の座から英霊がランダムに呼び出され、サーヴァント召喚の前触れだった。

 

魔力が収束し、人の形を成してサーヴァントが召喚される。

 

しかし、そのサーヴァントの姿を見てモードレッドは思わずクラレントを落としそうになるほどゲンナリする。

 

「……マジかよ」

 

 

アパルトメントにいる遊馬たちは帰りが遅いモードレッドを心配していた。

 

「大丈夫かな、モードレッド」

 

「アルトリアさんが向かったから大丈夫だと思います。色々あった親子ですから二人で話したいこともあると思いますし」

 

何かあればD・ゲイザーで連絡が来るので心配はないだろうと話していると、アルトリアとモードレッドがちょうど帰って来た。

 

「ただいま戻りました、マスター」

 

「戻ったぜ……すまん、面倒な奴を連れて来ちまった……」

 

「面倒な奴?」

 

モードレッドがゲンナリした表情をし、最後に部屋に入って来たのは……中世ヨーロッパ風の洒脱な衣装を身に纏った伊達男だった。

 

「お初にお目にかかれる!キャスター・シェイクスピア、霧の都へ馳せ参じました!」

 

「シェイクスピア!??」

 

「四大悲劇に『ロミオとジュリエット』を執筆した英文学史上の最高作家……!?」

 

アンデルセンに続き世界にその名を轟かせる有名作家がサーヴァントとして召喚され、遊馬たちは驚きを隠せなかった。

 

「おお!貴方がマスターの少年ですね?よろしければ我輩と契約していただけませんかな?」

 

「契約?いいのか?」

 

「もちろん!その代わり、貴方の物語を紡がせて──」

 

「──させませんよ?」

 

ドゴォン!!!

 

「ゴハァ!??」

 

突如、シェイクスピアが何かに叩きつけられて撃沈させられた。

 

「「「……え?」」」

 

一体何が起きたか分からず、この場にいたほとんどの者が呆然としてしまった。

 

すぐに落ち着きを取り戻し、シェイクスピアを叩きつけた者を見つめる。

 

「「「ルーラー……?」」」

 

それは旗を鈍器代わりにしてシェイクスピアの頭を思いっきり叩きつけたルーラーだった。

 

「よし……宝具を展開していない、今のうちにキャスターにトドメを……!!」

 

目が血迷っているように見開いており、もう一度旗を掲げて気絶しているシェイクスピアにトドメを刺そうとしていた。

 

「お、おいっ!?何やってるんだ、ルーラー!!?」

 

「どうしたんですか、ルーラーさん!?」

 

「離してください!このサーヴァントは危険です!早く倒さないと取り返しのつかないことになります!!」

 

遊馬とマシュが慌ててルーラーを抑え込み、ルーラーはジタバタと暴れて一刻も早くシェイクスピアを倒そうとしていた。

 

そんなルーラーを見てアストルフォはすぐさま事態を解決するためにジークに指示する。

 

「あちゃあ……ルーラーが何か錯乱しているね……ジーク、ルーラーを抱きしめるんだ!そして、語りかけるんだ!」

 

「抱きしめて語りかければいいのか?」

 

「うん!それで万事解決だ!」

 

「分かった」

 

疑うことを知らないのかと言わんばかりにジークはアストルフォの言う通りにすぐに行動に移した。

 

「ルーラー!」

 

「ジーク君?」

 

ジークはルーラーの前に立つと、迷う事なくそのまま無理矢理自分の胸へと抱き寄せた。

 

「……あひゃあ!?ジ、ジーク君!?何をしているのですか!??」

 

突然抱き寄せられて混乱するルーラーにジークは顔を静かに近づけながら口を開く。

 

「ルーラー、君がキャスターとの間に何があったのか分からないが落ち着いてくれ。今の君はいつもの君じゃない……頼む、俺が最も美しく、愛おしいと思っている君に戻ってくれ……」

 

儚くも真剣な眼差しでルーラーを見つめるジーク。

 

そんなジークの説得に遊馬たちは思った。

 

(((……これ、愛の告白?)))

 

もはや愛の告白がサラッと混ざった口説きのような説得にルーラーは錯乱どころか思考回路がショートするほどに顔が真っ赤になった。

 

「頼む、ルーラー……」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

呂律がまともに回らないほどにルーラーは頭がボーッとし、そのままジークの胸の中で幸せそうに目を閉じるのだった。

 

「……シェイクスピアを介抱するか」

 

「そうですね……」

 

「遊馬、念の為に契約しておくんだ」

 

「おー」

 

遊馬はシェイクスピアの手を握ってフェイトナンバーズを生み出し、シェイクスピアをソファーに寝かせて起き上がるのを待った。

 

 

 




なんか最後はジーク君とルーラーのイチャイチャになりました。
もう二人はいいから早く結婚しちゃえばと思いたくなります(笑)

次回から本格的に物語が加速するかなと思います。
そう言えばロンドンだから魔術協会の時計塔があるんですよね……桜ちゃんと凛ちゃんのために滅ぼしたいと言う邪な気持ちが……。


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ナンバーズ83 崩壊の魔術協会

遊戯王DMの再放送でドーマ編のクライマックス来ましたね。
モンスターの怒涛の連続召喚に、三幻神とオレイカルコスの神との戦い……デュエル関係なしのノーコスト召喚の戦いは下手したらこの小説で使ったらヤバいんじゃね?と思いました。
例えばホープ一族とか銀河眼一族やオバハンを同時出ししてフルボッコとか……一応ちゃんとしたルールに則った正規召喚をしてますが、ノーコスト召喚やったらパワーバランスがおかしくなりそうですね(笑)


ジークの説得(愛の告白?)でルーラー落ち着きを取り戻した……と言うか嬉し恥ずかしさで一回頭がショートしてからしばらくし、冷静に話せるようになってからシェイクスピアとの間に何があったのか話した。

 

シェイクスピアは聖杯大戦で赤のキャスターとして召喚され、ルーラーと対峙した際に宝具を発動した。

 

シェイクスピアの宝具……『開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)』はかなり特殊な宝具であり、シェイクスピアが描く物語の中に対象者を閉じ込め、その対象者が持つトラウマをシェイクスピアの言葉によって嘲り、弾劾することであらゆる英傑心をへし折るという対心宝具なのだ。

 

ルーラーことジャンヌは生前の事を全て罪と罰だと受け入れていたのだが、シェイクスピアはあまりにも残酷なことをするのだった。

 

それはルーラーにとって最も大切な存在……ジークだった。

 

ジークがルーラーの代わりに火炙りで処刑され、狂っていたジルによって首だけにされた……あまりにも残酷な光景を見せられたのだ。

 

ジークは同胞のホムンクルスを助けるため、聖杯大戦を止めるために自らの意思で戦う事を選んだ。

 

しかし、ルーラーがジークを戦いに巻き込んだ、その所為でただでさえ短い命を散らせる事になる。

 

ルーラーの所為でジークは死ぬ……そう指摘され、ルーラーの心は深く傷ついてしまったのだ……。

 

すると……。

 

「うぅむ……おや?我輩は……」

 

シェイクスピアが目を覚ました次の瞬間。

 

「貴様……覚悟は出来ているか……?」

 

魔力を爆発させたジークが殺気を放ちながらシェイクスピアを睨みつける。

 

「ななな何事でしょうか!?何故我輩が突然命を狙われているのか!??」

 

「貴様はルーラーを傷つけた……絶対に許さない……」

 

「おお!あなたは聖杯大戦に終焉を告げたホムンクルスの少年!またここで相見える事になるとは──うごっ!??」

 

シェイクスピアの言葉を遮るようにジークは右手でシェイクスピアの首を掴んでその場から持ち上げる。

 

「御託はいい……今すぐこの首をへし折ってやる……」

 

ジークの口調が荒々しくなり、右手が黒く変色し始めていた。

 

「遊馬……あいつ、竜化してるわよ」

 

レティシアはジークの持つ『性質』が変化した事に気づいた。

 

「竜化?」

 

「あいつはジークフリートの心臓を継承した。ジークフリートは邪竜・ファヴニールの血を体に受けて不死身の肉体を手に入れた。つまり……」

 

「ジークフリートはファヴニールになりつつある存在だった。つまりジークも同じようにファヴニールに……?」

 

「そう言うことよ」

 

邪竜としての暴力的な性質が暴走しかけているジークはこのままだとシェイクスピアの首をへし折る勢いだった。

 

「落ち着け、ジーク。怒りで我を忘れるな」

 

ジークフリートはジークの腕を掴んで止めようとした。

 

「邪魔をしないでくれ、こいつがルーラーを……!」

 

「そんな事をしてもルーラーの心の傷は癒えないぞ。ジークが真っ先にやることは他にあるぜ」

 

「他に……?」

 

遊馬にシェイクスピアの首をへし折るよりもやることがあると言われ、ピタリと動きが止まる。

 

「ジークさ、ルーラーは大切な人なのか?」

 

「ああ。ルーラーは俺の一番大切な人だ」

 

「お、おう……」

 

あまりの即答に遊馬は圧倒されながらジークの暴走を止めるために諭す。

 

「だったらさ、まずはルーラーの心の傷を直す方が先決じゃねえか?流石にあんな目にあったら俺でも折れそうになるからさ。シェイクスピアはとりあえずマスターになった俺に任せてくれないか?」

 

「……分かった。だが、ルーラーの心の傷を直すにはどうしたら……」

 

「んー、そうだな。とりあえず、優しく抱きしめたり、頭を優しく撫でたり、膝枕をしたらどうだ?小さい時に母ちゃんにやってもらったらすげえ安心したからさ」

 

「なるほど、やってみよう」

 

「え?」

 

ジークはシェイクスピアを離すとソファーに座っているルーラーの元へ直行した。

 

ルーラーは一人になりたいと頼み、隣の部屋で静かに紅茶を飲んでいた。

 

ルーラーは紅茶を飲んで少し落ち着き、ジークが隣に座ると目を丸くした。

 

「ジーク君……?」

 

「ルーラー、今から君の心の傷を直す」

 

「心の傷……?」

 

「まずは、これだ……」

 

ジークはルーラーが持っているティーカップをテーブルに置くと呆然としているルーラーを優しく抱きしめた。

 

「……ひゃあああっ!??ジ、ジーク君!??」

 

突然抱きしめられ、再び思考回路がショートして大混乱になるルーラーは何が起きているのか全く理解できていなかった。

 

「えっと、次は……」

 

対するジークは全く恥ずかしがらずにルーラーの頭を優しく何度も撫でる。

 

「はぅうううっ!??そ、そんな!そんな優しく頭を撫でるなんて!??」

 

抱きしめから頭を優しく撫でられ、防御に定評のあるルーラーが内部から陥没していく。

 

嬉し恥ずかしの心境にもはやシェイクスピアが与えた心の傷が何処かに飛んで行った。

 

「それから……」

 

ジークはルーラーを解放すると肩を掴んで頭を自分の膝へ持って行った。

 

「えっ!?えっ!??こ、これはまさか、ジーク君の膝枕!??」

 

「少し膝が固いかもしれないがどうだ?」

 

「いいえいいえ!とても心地よいです!」

 

「そうか、良かった……」

 

「あっ……」

 

ジークは微笑みながらルーラーの頭を優しく撫でる。

 

幼い頃に過ごした家族との温かい記憶がよみがえり、うっとりとしながらルーラーはジークの頬を撫でた。

 

「ジーク君……」

 

「ルーラー、君の心の傷は癒えたか……?」

 

「私の為に……?ありがとうございます……」

 

「もしもまた心の傷が出たらいつでも言ってくれ。いつでもしてあげても構わない」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ」

 

遊馬に言われた事を実践した結果、心の傷を忘れるほどの幸せな時間を過ごしたルーラー。

 

二人っきりの時間だがそれをドアの隙間からこっそりと覗いている者がいた。

 

「で、別世界の自分を見てどう思う?」

 

「物凄く恥ずかしいです……」

 

それはレティシアとジャンヌだった。

 

レティシアはルーラーとジークのラブラブっぷりにげんなりとし、ジャンヌは別世界の自分のあまりの乙女っぷりに恥ずかしくて顔を真っ赤にした。

 

「ああ言うのをバカップルって言うのよね……」

 

「私もあんな風に誰かに甘えたい一面があるのでしょうか……」

 

「お姉さんを気取ってもポンコツの本質は変わらないからね……」

 

「うっ……」

 

否定したいところだがルーラーのあんな姿を見せつけられてはぐうの音も出ないジャンヌだった。

 

 

遊馬はシェイクスピアと話をした。

 

物語を書くのは自由だが、マスターとして宝具を使用する事を止めてもらうよう頼んだ。

 

「物語はさ、どんな形であれ人に何らかの感動を与えるもんだろ?それを誰かを傷つける為に使うのはなんか違うと思うし」

 

「それに、今後君が暴走しまた誰かを傷つけたら私たちでも抑えられるかわからない、覚悟はしておくんだな」

 

シェイクスピアは髭を撫でながら考えた。

 

自分は自他共に認める戦闘力が皆無のサーヴァント、自分の行動で何度も死にかけたことはある。

 

新たなマスターとなった少年はとても仲間思いで自分の事も大切にしてくれている。

 

ここは大人しく従うが……もしも自分の創作意欲が出る物語が出たら思うがままに物語を描こうと思った。

 

「ふむ、承知しました。それからマスター、是非とも貴方の物語を紡がせて頂けませんか?」

 

「俺の物語?俺の物語はシェイクスピアに適うほど面白くないかもしれないぜ?」

 

「はっはっは!何をご謙遜を、精霊と共に戦う少年の物語がつまらない?そんな訳がないではありませんか!」

 

「まあ機会があったらな」

 

シェイクスピアはまだ遊馬の物語にはそこまで興味が無かったが、まだ彼は知らなかった。

 

遊馬とアストラルが人類と世界の未来を守る為にどれほどたくさんの『絶望』と『悲劇』をその身と心に刻んできたか……。

 

後にシェイクスピアは同じ作家であるアンデルセンと共に遊馬とアストラルの戦いの物語を一冊の本を書くことになるのだった。

 

それから少ししてルーラーが完全復活し、全員が集まって今後どうするか話し合う。

 

今のところパラケルスス達が行動している魔霧計画については何も分からず情報がほとんどない。

 

するとここでアンゼルセンがある事を語り出した。

 

それはアンデルセンとナーサリーは『魔霧』から現界した事だった。

 

本来ならサーヴァントはマスターが召喚の手順を踏まえるなどの条件で召喚するものだが、モードレッドやルーラーとジーク、ジャックに先程現界したばかりのシェイクスピアも同じように魔霧から現界した。

 

「って事は、この魔霧には聖杯が絡んでるって事か?」

 

「だが何故わざわざ魔霧を絡んでいるかは分からない。恐らくはそこがこの特異点の大きな鍵になるはずだ」

 

「その特異点で気になる事がある」

 

アンデルセンは遊馬達から七つの特異点の話を聞き、聖杯戦争と言う名の魔術儀式に引っかかるものがあり、それをずっと考察していた。

 

しかし、あまりにも資料が足らないので行き詰まりかけている。

 

そこでアンデルセンは低迷している事態を打破する為にある提案を持ちかける。

 

「そこでだ、西暦以後、魔術師達にとって中心とも言える巨大学院──魔術協会、時計塔に資料を見に行こうと思う」

 

世界における神秘を解き明かす巨大学府……時計塔。

 

「魔術協会ってあの……」

 

「外道の巣窟か……」

 

遊馬とアストラルは桜と凛が両親と離れ離れになる原因の一つである封印指定を行なっている魔術協会に行く事を露骨に嫌な表情を浮かべた。

 

「ほう、マスターは魔術師が嫌いか?サーヴァント達のマスターなのに?」

 

「全部の魔術師がそうじゃないとは分かってるけど、俺の妹分が魔術の所為であまりにも酷い目にあったから良い印象は無いな……」

 

「私も同じ意見だ。いや、だがそもそも魔術協会は機能しているのか?ジキルから今までその話を聞いていなかったが……」

 

「……話す必要がなかったからね」

 

ジキルは少し暗い表情をしてから事情を説明した。

 

ジキルとモードレッドが出会ってすぐに魔術協会の方に向かって確認した。

 

しかし、入り口は瓦礫の廃墟と化し、そこにあった建物が完膚なきまでに破壊されていたのだ。

 

今思えばパラケルスス達が邪魔になるであろう魔術協会をあらかじめ潰していたのかもしれない。

 

「だが必要なのは資料だ。重要な資料この類なら相当に頑丈な封印なりで守られているのはまず確実だ。そこまで俺を連れて行け」

 

「でしたら我輩も同行いたしましょう。神秘の学府の跡地となれば、閃きの源泉にもなるはず!」

 

「僕も行くよ、資料探しなら知識のあるものが多いに越した事はない」

 

アンデルセンのみならずシェイクスピアとジキルも行くと言い、遊馬は髪を掻きながらため息をつく。

 

「しゃあないな、行くか。魔術協会に」

 

「今は情報が欲しいのは事実だからな……よし、ここは全員で行こう」

 

「ぜ、全員ですか!?」

 

「フォー、キュー!?」

 

メンバーを選別しないで大人数で向かうことにマシュとフォウは驚いた。

 

「パラケルススが私たちに大量のヘルタースケルターやサーヴァントを刺客として向ける可能性が高い。ここは全員で向かって確実に資料を取りに行こう」

 

「そっか、流石はアストラル。よーし、それじゃあまずは俺と契約してないサーヴァントと契約するか!」

 

遊馬は今後の戦闘のためにまだ契約していないサーヴァントと契約してフェイトナンバーズを出現させる。

 

ジークとルーラーは二人で一騎なのでアンとメアリーの時のように二人で一枚のフェイトナンバーズが出現し、アンデルセンも契約してフェイトナンバーズを出現させた。

 

モードレッドはまだ遊馬を認めてないので契約は先送りとなり、支度をしてすぐに魔術協会へと向かう。

 

 

ロンドンの街を歩き、魔術協会の入り口がある場所へと向かった。

 

しかし、そこは見るも無残な惨状が広がっていた。

 

「何だよこれ……ここが、大英博物館……?」

 

大英博物館。

 

世界最大の博物館の一つで古今東西の美術品や書籍などが収蔵されており、魔術協会の入り口もあった。

 

しかし、建物が見るも無残に破壊され、収蔵されていた美術品や書籍も破壊されていた。

 

瓦礫と廃墟……それだけしかない酷い惨状だった。

 

アストラルやマシュ達もこの惨状に心を痛めていた。

 

そんな中、誰よりも心を痛めて怒りに震わせていたのは……。

 

「許せない……この国の人々の象徴の一つだったこの博物館を、そして……そこにいる民を……みんな殺して……」

 

イギリスの古の女王……ブーディカだった。

 

ブーディカは全身から魔力と共にオガワハイムの時のような憎悪が心に宿り、漆黒の闇を纏っていた。

 

「これが、勝利の女王……」

 

それはかつてローマを震撼させた復讐者として、後の時代でも信仰と畏怖を集めているブーディカの姿にモードレッド達は恐怖を抱いた。

 

そんなブーディカに臆する事なく遊馬はポンと肩に手を置いた。

 

「ブーディカ、今怒りを爆発させても何も始まらないぜ。こんな酷え事をした奴らを絶対にぶっ飛ばそうぜ」

 

ブーディカの闇に射す光……遊馬の言葉に憎悪の闇が静まって行った。

 

「……ありがとう、ユウマ。お陰で少し頭が冷えたよ。あーあ、ダメだな私は。あの時を反省して怒りや憎しみを出来るだけ無くそうと思ったのに……」

 

「怒りや憎しみは誰の心にもある。でもそれだけに囚われていたら大切な人が傷つく。でも心配するな、何度ブーディカが我を忘れても俺やマシュが止めるからさ!」

 

「ブーディカさん、私もこんな酷い事をした人達を許せません!必ず倒しましょう!」

 

「ユウマ……マシュ……うん、ありがとう!」

 

ブーディカは怒りと憎しみを抑え、自分の頬を軽く手で叩いて気持ちを入れ替えた。

 

遊馬達は瓦礫を退かして資料がある地下への階段を見つけ、早速地下へと潜っていった。

 

 

 




前半はジクジャンのイチャイチャシーンになってしまいました(笑)
ブラックのアイスコーヒーを飲みながら書きました。
ガムシロ入れてないのに何故か舌に甘さを感じました……。
これからもたまにジクジャンの話を書いていきます。

書いててふと思いましたがブーディカ姉さんをここまで出してる作品ってなかなか無いなと思いました。
ブーディカさんは個人的に好きなキャラでもありますが、ホープの進化系のホープレイ・ヴィクトリーのヴィクトリーの語源で遊馬とは色々相性もいいので結構優遇しちゃいました。
次回はブーディカ姉さん大活躍の話にします。


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ナンバーズ84 勝利の女王と勝利の希望皇

今回はブーディカ姉さん大活躍です!



崩壊した大英博物館の瓦礫を退かし、そこから地下への階段を発見した。

 

階段を下がった先は地下洞窟になっていた。

 

地下洞窟はまるで無限に続く迷路のように広がっており、暗くジメジメと湿っていた。

 

瓦礫で塞がっていない通路を進んでいるが、部屋の入り口はどこも潰れてたり瓦礫で埋まっていたりと念入りに破壊されていた。

 

敵がここに戦力を送り込んでいたのは確かでその証拠にヘルタースケルターが歩いてきて襲いかかってきた。

 

閉鎖空間での戦闘になるので、洞窟が崩れないように宝具を解放せずに白兵戦での戦闘を行う。

 

幸い近接攻撃に優れたサーヴァントが多いので難なく倒していき、更に奥へ進むと魔術で守られた書庫への入り口を発見した。

 

「俺とジキルは中に入って資料を探す。その間に扉を守ってくれ」

 

「任せろ、アンデルセン先生」

 

「遊馬、来たぞ!」

 

アンデルセンとジキルが書庫に入るなりヘルタースケルターを始めとする多くの敵が出現する。

 

しかしここで一つ問題が発生した。

 

書庫にある魔導書を持ち運ぼうとしたが厳重な魔術が仕掛けられていて部屋の外に運べなくなっていたのだ。

 

本を物理的に持ち運ぶことができない……それなら別の方法で持ち運べばいい。

 

「持ち運べないなら記憶すればいいよな!アストラル、お前記憶力良いから、アンデルセン先生と一緒に本を読んでその内容を一語一句完璧に記憶してくれ!」

 

物理的に無理なら内容をアストラルに記憶してもらえばいい、遊馬のアイデアにアストラルは頷いた。

 

「任せろ!遊馬、この閉鎖空間で使えそうなナンバーズを預ける!」

 

「サンキュー!」

 

「片や、神秘の園の深奥にて知識を読耽!片や並み居る強敵を前に扉を守らんとする!片や、知の戦い!片や、武の戦い!なかなかにこれは、そう、まさしく心踊る状況ではありますまいか!!嗚呼、我輩はどちらにて立ち居振る舞うべきか!どちらの様子をこの目にし、本として記し残すべきか!」

 

シェイクスピアはまるで舞台に立っているように声を張り上げて台詞のような言葉を叫んだ。

 

「シェイクスピア!!戦う気が無いのなら書庫の中に入ってアストラル達の手伝いをしなさい!!!」

 

ブーディカの怒号が飛び、普段から想像出来ない恐ろしい表情に流石のシェイクスピアも血の気を引いた。

 

「は、はいっ!?かしこまりました、女王陛下!!」

 

シェイクスピアは脱兎の如く書庫に飛び込んだ。

 

「すげぇ……あのシェイクスピアをビビらせて大人しく言うことを聞かせるなんて……」

 

「流石は勝利の女王ですね……」

 

シェイクスピアの性格を知っているモードレッドとルーラーはブーディカに恐ろしさと同時に頼もしさを感じるのだった。

 

遊馬はデッキからカードを5枚ドローして手札にし、閉鎖空間で戦えそうなナンバーズを呼び出す。

 

「俺のターン、ドロー!力を借りるぜ、ポン太!俺は『子狸ぽんぽこ』を召喚!召喚に成功した時、デッキからこいつ以外の獣族・レベル2モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚できる!来い、『子狸たんたん』!!」

 

可愛らしい太鼓を持った二体の狸が立ち並ぶ。

 

「俺は獣族レベル2の子狸ぽんぽこと子狸たんたんでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

空中に『64』の刻印が浮かぶと大きな茶釜が現れる。

 

「現れろ、No.64!混沌と混迷の世を斬り裂く知恵者よ!世界を化かせ!『古狸三太夫』!!」

 

茶釜から変形すると薙刀を持ち、兜に『64』の前立があしらわれた鎧武者の狸が現れた。

 

「た、狸……?」

 

「古狸三太夫の効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除いて発動!自分フィールド上に影武者狸トークン1体を特殊召喚する!」

 

古狸三太夫が薙刀にオーバーレイ・ユニットを取り込み、狸の置物を模したトークンが現れる。

 

「影武者狸トークンの攻撃力は、このトークンの特殊召喚時にフィールド上に存在する攻撃力が一番高いモンスターと同じ攻撃力になる!」

 

影武者狸トークンの姿が変わり、この場で一番攻撃力の高い存在と同じ姿になるのだが……。

 

「ブ、ブーディカ……?」

 

「あれ?私?」

 

影武者狸トークンはブーディカの姿へと変化し、ブーディカも目をパチクリさせて驚いた。

 

最初遊馬は一番攻撃力が高く、変化するのはアルトリアかジークフリートだと思っていたのだが、何故か影武者狸トークンはブーディカの姿へと変化した。

 

「まさか……ブーディカさんのロンドンを守ろうとする強い想いと知名度補正によってこの場にいるサーヴァントで最強の存在になっているのでは……?」

 

マシュの予測は正しかった。

 

英国の地に古くから語り継がれている古の女王であるブーディカのロンドンを守りたいと言う気持ちは誰よりも強く、そしてサーヴァントの知名度補正によりその力は極限まで高められている。

 

更にはロンドンの民と土地を傷つけた魔霧計画の首謀者たちへの強い怒りがブーディカの力を更に高めており、結果……遊馬のこの場にいるサーヴァントの中で最強クラスの存在になっていた。

 

「とにかく……みんな行くぜ!」

 

遊馬の掛け声に応え、サーヴァントたちは一斉に戦闘を開始した。

 

古狸三太夫も影武者狸トークンを二体に増やし、次々と敵を斬り伏せて行く。

 

しかし、閉鎖空間で宝具をまともに使用できない状況の戦いでは数で押し切られていく。

 

すると書庫から仕方ないといった様子のジキルが出て来た。

 

「は?おい、ジキルお前、何を通路に出て来てんだよ!」

 

「これは出来れば避けておきたかったけど、奥の手を使うよ」

 

「奥の手?」

 

ジキルは懐から何かの液体が入った注射器を出した。

 

そして、その注射器を自分に刺し、中に入った液体を肉体に注ぎ込んだ。

 

すると……。

 

「ははッ──ひひひ、はははははははははははははははッ!ひっさしぶりに表に出たぜェ!俺様ちゃん参上ォ!!」

 

「「「はぁ!??」」」

 

ジキルの英国紳士から一変し、まるで野獣のような豹変ぶりに誰もが驚愕した。

 

「これではまるで小説に在る通りの変貌を……!」

 

「マシュ、それどういうこと!?」

 

ブーディカはジキルの変貌にマシュが何かを知っていると思って尋ねた。

 

「は、はい!怪奇小説に『ジキル博士とハイド氏』と言うものがありまして、ジキル博士は自分のうちに宿る強大な悪を分離しようとして実験しました。しかし、悪を形にしたようなハイド氏の人格が交代するように現れてしまい、『二重人格者』として暴れるようになってしまったんです!」

 

「やっぱりジキルはこのことを隠してたんだな!」

 

「俺は『ハイド』だ!気に入らねえ奴は殺す、邪魔な奴は殺す、殺す殺す殺す!!ひゃッははははははははははははァ!殺してやるぞォォ!ヘルタースケルターよォ──!!」

 

まるでバーサーカーのようにジキル……否、ハイドはヘルタースケルターに突撃して暴れまくる。

 

暴れまくるハイドに遊馬たちも続き、ヘルタースケルターを倒していく。

 

それからハイドの活躍もあり、遂にヘルタースケルター達を全滅させた。

 

「終わった、か……ふう、僕はちょっと……もうこれ以上は無理だな……」

 

ハイドは久しぶりに外に出られて戦いに満足したのか、元のジキルの人格に戻った。

 

「アストラルとアンデルセン先生とシェイクスピアはどうなったかな?」

 

「待たせてすまない、資料は記憶させてもらった」

 

「目当ての資料は概ね解読出来た。あとは考察してまとめるだけだ」

 

「いやはや、本を運ぶ肉体労働は応えましたな!」

 

アストラルたちも無事に目的を完了し、これ以上この場にいる理由が無くなった。

 

「よし!次の敵が来る前に離脱だ!」

 

遊馬達は急いで書庫を後にし、地下洞窟を脱出する。

 

来た道を戻り、何事もなく地上に戻ると……そこには更なる敵がいた。

 

「おやおや、戻って来ましたか……まさかあれだけのヘルタースケルターを突破するとは思いもよりませんでしたよ」

 

「パラケルスス……!!」

 

それは魔霧計画の首謀者の一人、パラケルススだった。

 

「仕方ありません。貴方達をここで倒し、確保しましょう……我等の魔霧計画の為に」

 

「そんなことはさせない!人々を傷つけているてめえらの好きには絶対にさせない!!」

 

「貴方たちを確保できなかった事、本当に、本当に、この私には残念でなりません。きっと、良い友人になれたでしょう。私たちは。お互いに」

 

パラケルススの支離滅裂な発言に遊馬たちは怒りを露わにする。

 

「何言ってるんだよ、てめえは……ふざけるんじゃねえ!!」

 

「──これ以上、あんた達の好きにはさせないよ」

 

そして、ブーディカが再び怒りを爆発させた。

 

剣を構えて切っ先をパラケルススに向ける。

 

「女神アンドラスタに代わり、この地を守る為にあんた達を必ず倒す!ユウマ、あなたの力を貸して!!」

 

「ブーディカ……ああ!一緒にあいつをぶっ倒そうぜ!!」

 

遊馬はデッキケースからブーディカのフェイトナンバーズを取り出して掲げる。

 

「ブーディカ!」

 

「ええ!」

 

ブーディカは光の粒子となり、フェイトナンバーズの中に入り、遊馬はデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『おろかな埋葬』を発動!デッキからモンスターを墓地に送る!デッキから『オーバーレイ・ブースター』を墓地に送る!そして『ガガガマジシャン』を召喚!ガガガマジシャンの効果!レベルを5にする!」

 

ガガガマジシャンを召喚すると同時にレベルを4から5に変更する。

 

「更に手札から魔法カード『死者蘇生』を発動!墓地からオーバーレイ・ブースターを特殊召喚!」

 

墓地からレベル5のモンスターであるオーバーレイ・ブースターが特殊召喚され、これで条件が揃った。

 

「レベル5のガガガマジシャンとオーバーレイ・ブースターでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとオーバーレイ・ブースターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こすと赤い光が天を貫く。

 

「空と大地と絆、大いなる愛の輝きを胸に、勝利をその手に掴め!!」

 

光の中からロンドンの地を守る為、古より伝わる伝説の女王が降臨する。

 

「現れよ、『FNo.83 勝利と愛の女王 ブーディカ』!!」

 

長髪に王冠を被り、白と黒のドレスを身に纏ったブーディカが姿を現わす。

 

「これが、フェイトナンバーズ……感じる……遊馬とアストラルの力を……」

 

ブーディカは目を閉じ、自分の中に流れる遊馬とアストラルの力を感じ取った。

 

「ユウマ!受け取って!」

 

目を開いたブーディカは光の玉を出すと遊馬の元へ投げ、デッキトップに宿る。

 

「ブーディカの効果!エクシーズ召喚に成功した場合、デッキから1枚ドローし、それが魔法カードなら手札に加え、それ以外ならデッキトップに戻す!」

 

遊馬はブーディカの効果でデッキからカードをドローしようとしたその時だった。

 

デッキトップが光り輝き、遊馬の前に一瞬だけ金色に輝く美しい女性が現れた。

 

遊馬はゆっくりカードを引くとそれはデッキに入ってないカードだった。

 

「このカードは……」

 

「どうやら、この国を守る女神の加護が君に与えられたらしいな……」

 

「そうみたいだな。ブーディカ、あんたのこの国を守りたい想いが届いたみたいだぜ!」

 

「えっ?」

 

「魔法カード……『女神アンドラスタの祝福』を発動!!」

 

発動したカードはブーディカが純白のドレスに背中に翼が生えたまるで女神のような姿が描かれていた。

 

そのカードは古代ブリタニアの地で信仰された戦いと勝利の女神……女神アンドラスタが遊馬とブーディカに与えた力だった。

 

「このカードは自分フィールドに『FNo.』モンスターがいる時に発動可能!自分フィールド上のモンスター全ての攻撃力と守備力を次のターンのエンドフェイズまで1000ポイントアップし、自分フィールドのモンスターの数×500のライフポイントを回復する!」

 

ブーディカの攻撃力と守備力が上昇し、遊馬のライフが500ポイント回復した。

 

しかし、効果はそれだけではなかった。

 

この地を……ロンドンを誰よりも守りたいと願いを込めたブーディカの想いが更なる力を呼び寄せる。

 

「女神アンドラスタの祝福の更なる効果!自分フィールドにブーディカがいる場合、エクストラデッキからこいつを呼び出せる!!」

 

「もしかして……」

 

ブーディカの隣に巨大な魔法陣が展開され、その中からブーディカにとって一番思い入れのあるモンスターが姿を現わす。

 

「現れよ!『CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』!!」

 

魔法陣から既に鎧のパーツをその身に装着した希望皇ホープレイ・ヴィクトリーが姿を現わす。

 

「ホープレイ・ヴィクトリー……」

 

ブーディカは希望皇ホープレイ・ヴィクトリーが目の前に現われ、嬉しさに心を弾ませた。

 

「行くよ、ホープレイ・ヴィクトリー!」

 

『ホーォプ!!』

 

今ここにロンドンを守るため、勝利の女王と勝利の希望皇が時空を超えて揃うのだった。

 

「まさかこれほどの力とは……素晴らしい、やはり素晴らしい魔術だ」

 

パラケルススは遊馬の持つデュエルの力に更に興味が湧き、是非とも確保して研究したいという意欲が湧いて来た。

 

「ブーディカの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手フィールドのモンスター全てにチャリオットカウンターを一つ乗せる!チャリオットカウンターが乗ったモンスターは守備表示となり、表示形式を変更出来ない!」

 

「『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』!!」

 

剣にオーバーレイ・ユニットを取り込み、切っ先から無数の光が放たれるとパラケルススやその他の敵達の体に車輪の形をした刻印が刻まれる。

 

敵達は強制的に動かなくなり、その間にパラケルススに攻撃する。

 

「ホープレイ・ヴィクトリーで攻撃!ホープ剣・ダブル・ヴィクトリー・スラッシュ!!」

 

パラケルススは宝具である魔剣を取り出して防御するための魔術を繰り出そうとしたが発動することが出来なかった。

 

「ば、馬鹿な……魔剣が!?」

 

ホープレイ・ヴィクトリーは希望皇ホープをエクシーズ素材としてエクシーズ召喚をしてないのでバトル相手の攻撃力分アップの効果は使えないが、バトル時の相手の魔法・罠を発動出来ない効果はオーバーレイ・ユニットを使わないので使用出来る。

 

パラケルススは咄嗟にヘルタースケルターを身代わりにするが、ホープレイ・ヴィクトリーがヘルタースケルターを破壊した際の余りの威力に衝撃波が放たれて吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぁああああああっ!?」

 

「続け、ブーディカ!」

 

「『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディ力)』!!」

 

ブーディカが剣から魔力弾を出してパラケルススにトドメを刺そうとしたが、それよりも早くパラケルススの持つ魔剣から光が放たれた。

 

「真なるエーテルを導かん──我が妄念、我が想いのかたち。『元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)』!」

 

次の瞬間、魔剣から五つの小さな玉を出してそれを一つに合わせるとまるで閃光弾のように強烈な光を放ち、ブーディカの魔力弾を全て弾き飛ばした。

 

「魔力弾が弾き飛ばされた……!?」

 

「あれがパラケルススの宝具か……?」

 

「あの小さな玉……まさか、この世界の魔術における地、水、火、風、空の五大元素か!」

 

「なんかヤバそうなものだな……魔法カード『強欲で貪欲な壺』を発動!自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外し、デッキから2枚ドローする!よし!このカードを3枚伏せるぜ!」

 

遊馬はデッキから10枚を犠牲に新たに2枚のカードを加え、フィールドにカードを3枚を伏せた。

 

するとここでブーディカが使ったチャリオットカウンターが消滅し、パラケルススは立ち上がった。

 

「これで終わらせます……」

 

パラケルススはこれ以上攻撃を受けたら確実に負けると思い、魔剣の力を最大限に解放する。

 

地、水、火、風、空の五大元素を全力で出して一つに合わせ、神代の真エーテルを擬似構成する。

 

「『元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)』!!!」

 

真エーテルを解放し、対城宝具に比肩する破壊力のある爆撃を放つ。

 

「遊馬!」

 

「分かってる!罠カード、発動!!」

 

遊馬はセットした2枚のカードを発動した。

 

真エーテルは周囲を破壊し尽くし、護衛のヘルタースケルターは全滅し、遊馬達も一緒に全滅した……かに見えた。

 

「ふぅ……危ねえ危ねえ!」

 

「あ、あれ……?何ともない……あれほどの攻撃なのに……」

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーはいなかったが、その代わりに遊馬とアストラルとブーディカは無事で傷一つ付いていなかった。

 

「何故だ……真エーテルの力を受けて傷一つ付かない訳が……」

 

「罠カード、『安全地帯』と『ホーリーライフバリアー』を発動したぜ!」

 

「安全地帯はモンスターを1体選択し、相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊をされなくする。そして、ホーリーライフバリアーは手札を1枚捨てて相手から受ける全てのダメージを0にする!」

 

ホーリーライフバリアーのお陰で遊馬の後ろにいたマシュ達も守られて無事だった。

 

「安全地帯はブーディカに使ったからホープレイ・ヴィクトリーはやられちまったけどな」

 

「ごめん、ユウマ……私の為にホープレイ・ヴィクトリーを……」

 

「心配するな、次のターンに復活させるからよ!」

 

「まさか、異世界の魔術がこれほどまでに強力とは……!!」

 

真エーテルすら防ぐ異世界の魔術にパラケルススは恐怖よりも歓喜が沸き起こって体が震えた。

 

「このターンで決める、俺のターン!ドロー!行くぜ、罠カード『エクシーズ・リボーン』!墓地のモンスターエクシーズを特殊召喚し、このカードをそのモンスターのオーバーレイ・ユニットにする!蘇れ!希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!!」

 

墓地から破壊されたホープレイ・ヴィクトリーが蘇り、遊馬はブーディカに最高の力を与える。

 

「魔法カード『受け継がれる力』!自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送り、他のモンスターにその攻撃力を加える!俺はホープレイ・ヴィクトリーを墓地に送り、ブーディカにホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力を加える!受け取れ、ブーディカ!!」

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの体が粒子化してブーディカの体に纏い、粒子が新たな鎧となってブーディカの体に装着される。

 

「勝利の希望皇よ!勝利の女王にその力を託し、この国を守る光となり、新たな勝利をその手に掴め!!」

 

ブーディカにホープレイ・ヴィクトリーを模した白の鎧が装着され、最後にホープ剣が目の前に現れた。

 

ブーディカは左手の盾を外し、ホープ剣を握りしめて約束されざる勝利の剣と二刀流で構える。

 

「今までに無いほどの大きな力……一緒に行くよ、ホープレイ・ヴィクトリー!!」

 

「ブーディカで攻撃!この瞬間、ブーディカの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手フィールドのモンスター全てにチャリオットカウンターを1つ乗せる!」

 

再びチャリオットカウンターがパラケルススに乗り、ブーディカは新たな鎧で背中に装着された双翼で飛ぶ。

 

「最後の悪あがきをさせてもらいます……元素使いの魔剣!!!」

 

「ダブル・ブーディカ・スラッシュ!!!」

 

パラケルススが放った真エーテルの爆撃……それをブーディカは右手の約束されざる勝利の剣と左手のホープ剣でV字に斬り裂く。

 

真エーテルは光となって霧散し、パラケルススは諦めたかのように魔剣を手放した。

 

「これで終わりだよ……」

 

最後にパラケルススをV字で斬り伏せ、ブーディカは勝利を掴み取った。

 

「……それでこそ、剣を持つ英雄です。ならば、悪逆を成す者が打ち倒されるのは道理でしょう。この世の全ての悪を斃して。この世の全ての欲に抗って。この世全ての明日を拓いて見せる者達よ。貴方達の行く手に……どうか……真なる、光……を……」

 

パラケルススはまるで自ら役目を決められた悪を演じていたかのように、遊馬達にエールを送るようなセリフを言いながら消滅した。

 

「真なる光ね……」

 

「光なら、私たちの光はあなただよ、ユウマ」

 

ブーディカの希望の光である遊馬。

 

そう言われて嬉し恥ずかしい気分となり、えへへと笑いながら頭をかく。

 

「そ、そうかな……あ、そうだ。ブーディカ、とってもカッコいいぜ!」

 

ホープレイ・ヴィクトリーの鎧を纏ったブーディカの今の姿はとても勇ましく、そして美しく輝いていた。

 

「ありがとう。やっと……勝利の女王に相応しい存在になれたと思う」

 

(私はこの地を……ううん、この世界を守る為に最後までユウマと共に戦い続ける。そして、ユウマに最高の勝利を捧げる!)

 

勝利の女王として、未来を取り戻すための勝利を遊馬に捧げる為に ブーディカはホープ剣を見つめ、改めて心に強く誓った。

 

 

 




今回活躍したブーディカ姉さんのフェイトナンバーズはこちらです!

FNo.83 勝利と愛の女王 ブーディカ
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/光属性/戦士族/攻2700/守2400
レベル5モンスター×2
このカードがエクシーズ召喚に成功した場合、デッキから1枚ドローし、それが魔法カードなら手札に加え、それ以外ならデッキトップに戻す。
このカードがフィールドに存在する限り、自分フィールドのモンスターは守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
1ターンに1度、エクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター全てにチャリオットカウンターを一つ乗せる。チャリオットカウンターが乗ったモンスターは守備表示となり、表示形式を変更出来ない。チャリオットカウンターは効果を発動したターンのエンドフェイズ時に一つ取り除かれる。この効果は相手ターンでも使用出来る。

守りの盾がメインのブーディカ姉さんの効果を参考にしました。
そして、守備貫通を付けてみんなで攻撃して勝利を掴む感じにしました。

女神アンドラスタの祝福
通常魔法
自分フィールドに『FNo.』モンスターがいる時に発動可能。
自分フィールド上のモンスター全ての攻撃力と守備力を次のターンのエンドフェイズまで1000ポイントアップし、自分フィールドのモンスターの数×500のライフポイントを回復する。
また自分フィールドに『ブーディカ』Xモンスターがいる場合、以下の効果も適用する。
エクストラデッキから『CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』をエクシーズ召喚扱いで特殊召喚することが出来る。

FNo.専用の魔法カードを出しました。
単純な攻撃力アップとライフ回復、そしてブーディカ姉さんがヴィクトリーの語源なのでホープレイ・ヴィクトリーを特殊召喚する効果も付けました。
クセがありますが私個人としても使ってみたい感じに仕上げました。

次回はマシュの宝具の話と蒸気の話を書けたらいいなと思います。


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ナンバーズ85 ランクアップの可能性

今回はマシュの話です。

今、来月開催の遊戯王チャンピオンシップシリーズの大会の為にデッキ構築に悩んでます。
サイドデッキのないデッキ内容を変更出来ないので悩みまくりますね。
一応コード・トーカーとサイバース・クロック・ドラゴン中心のサイバースデッキで挑みます。


ホープレイ・ヴィクトリーの力を受け継いだブーディカでパラケルススを倒し、消滅した後にフェイトナンバーズが残る。

 

アストラルがフェイトナンバーズを回収し、敵の増援が来ないうちに大英博物館を後にする。

 

ジキルのアパルトメントに戻り、アンデルセンが早速考察を始めた。

 

その内容は『英霊』と『サーヴァント』の関係だった。

 

英霊とは人類史における記録であり成果、それが実在のものであろうとなかろうと人類が存在する限り常に存在し続ける。

 

一方、サーヴァントは英霊を現実に『在る』ものとして扱う。

 

元々在るのか無いのか分からないものにクラスという器を与えて『現実のもの』にした使い魔。

 

しかしそのようなことが人間の、魔術師の力で可能なのか?

 

英霊を使い魔にするのは強力で最強の召喚術である。

 

「そう考えると遊馬君達のデュエルモンスターズもある意味最強の召喚術ですね……」

 

「そうかな?」

 

「我々はそれほど凄いとは感じてないが、異世界では異常なのだろう」

 

遊馬やアストラルの異世界のモンスターを繰り出すデュエルモンスターズは神や幻想種をも簡単に呼び出し、使役することができる強力な召喚術の一つ……改めて考えれば異常過ぎる最強の召喚術である。

 

英霊を召喚する召喚術は人間だけの力で扱える術式ではなく、それを可能にするのは人間以上の存在、世界、あるいは神と呼ばれる超自然的な存在が行う権能である。

 

英霊をサーヴァントとして呼び出す後押しをしたのが……聖杯。

 

事実これまでに聖杯によって多くのサーヴァントが召喚された。

 

英霊召喚を可能とする聖杯戦争は元々冬木市で始まったのがきっかけである。

 

七騎の英霊を戦わせる聖杯戦争……魔術協会の資料の中にはそれを元になった儀式が記されていた。

 

降霊儀式・英霊召喚とは元々七つの力を一つにぶつける儀式らしく、『儀式・英霊召喚』と『儀式・聖杯戦争』は同じシステムであるが別物なのだ。

 

聖杯戦争は元々あった魔術を人間が利己的に使用できるようにアレンジしたものである。

 

そして、英霊召喚は『一つの巨大な敵』に対して、『人類最強の七騎』を投入する用途の儀式だった。

 

英霊召喚の内容を知り、遊馬は腕を組んで首を傾げながらどこかで聞いたことのあるような気がした。

 

「……なんか、ドン・サウザンドがバリアン七皇を選んだみたいな話だな」

 

「確かによく似ているな……」

 

バリアン世界の神、ドン・サウザンドは太古の昔にアストラルとの戦いに敗れた後に国や時代の異なる大いなる魂を持つ七人の人間を選び、バリアン世界に導いた。

 

自身の復活とヌメロン・コードを手にし、世界を滅ぼすために七人の人間を『バリアン七皇』として転生させた。

 

「ドン・サウザンド?バリアン七皇?おい、何の話だ?」

 

「あー、それは色々面倒で長くなるから後で話すよ」

 

「アンデルセン、君が求めた資料はあの書庫に全てあり、しかも一箇所にまとめて置いてあった。まるで我々の訪れを予期していた何者かが置いていったのでは無いか?」

 

「その可能性はある。だがそれが魔術師かサーヴァントか分からないがな」

 

今回の事でヘルタースケルターについてはまだ分からないが、英霊とサーヴァントについて調べられただけでも大きな収穫だった。

 

話は切り替わり、現状の問題であるヘルタースケルターについて話し合う。

 

カルデアから連絡が来てその解析によると、構造は機械だが、魔力で形成されていた。

 

つまり、サーヴァントが展開した宝具によるものだったのだ。

 

ヘルタースケルターを展開しているサーヴァントを倒せば、ロンドン中にいる全てのヘルタースケルターが消滅するはず。

 

「でもさ、そのサーヴァントは何処にいるんだろう?」

 

「情報が無いから流石に分からないな……」

 

「……ゥゥ……」

 

「ん?どうした、フラン」

 

「……ゥ……ゥ、ゥゥ……ァ……」

 

フランが呻き声のような声を必死に発すると、それを聞いたモードレッドとマシュは驚愕した。

 

「な……それ、本当か!?」

 

「驚きました。フランさんに、まさか、そんなことができるなんて……」

 

「ちょっと二人共!?前から気になってたけど、フランの言葉が分かるの!?」

 

女性陣は何故かフランの言葉を理解することができ、男性陣は何を聞いてもちんぷんかんぷんだった。

 

「何となく、です。ジェスチャーもしてくれていますから、ある種の手話を読むような感じで……」

 

「わかるらしいぞ、こいつ。ヘルタースケルターのリモコンの場所」

 

「マジで!??」

 

「それは本当なのか!??」

 

「……ゥ。ゥ」

 

フランは頷くとモードレッドは嬉しそうにはしゃぐ。

 

「ほらな。頷いたら。よし、そうと分かれば話は早い。行動開始だ!」

 

遊馬達はフランの案内でヘルタースケルターのリモコンがある場所へと向かう。

 

霧に包まれたロンドンの街を歩いている間、モードレッドは『マーリン』の話題を出した。

 

「マーリンって、あの魔術師マーリンか?」

 

「人間と夢魔の混血で、アルトリアに選定の剣を抜かせ、王として導いた伝説の魔術師だったな?」

 

「ええ……まあ、そうですね……」

 

アルトリアにとってはマーリンは師であり、魔術師として仕えていた配下だったが……何故か遠い目をして乾いた笑みを浮かべていた。

 

何か触れてはいけない内容だったのか、遊馬達はマーリンの話題をすぐにやめた。

 

ブーディカは同じ英国出身としてマーリンのことを聞いてみたかったがそれよりも大切なことに気づいて遊馬に耳打ちする。

 

「ねえ、ユウマ。マシュの様子がおかしいんだけど……」

 

「マシュの?」

 

霧で表情があまりよく見えていなかったが、よく見るとマシュは暗い表情を浮かべていた。

 

「マシュ、どうしたんだよ?体の具合でも悪いのか?」

 

「……はい。身体面に異常はないのです、けど……精神面に、問題が……」

 

「マシュ、何か悩みでもあるの?お姉さん達に話してみて?」

 

ブーディカはそっとマシュを抱き寄せて頭を優しく撫でる。

 

マシュはブーディカにギュッとしがみつき、今の自分の大きな悩みを打ち明けた。

 

「……戦いはますます激しくなる一方なのに、私……全然成長出来なくて……」

 

「フォウ……?」

 

「何言ってるんだよ、マシュは強くなってるじゃねえか!この前だって、冬木で円卓の騎士最強と謳われたランスロットに良い一撃を喰らわせたじゃねえか!」

 

「その通りだ。バーサーカークラスで狂化されていたとはいえ、歴戦の騎士であるランスロットに大きな一撃を与える存在はそうはいないはずだ」

 

「そうだよ、マシュは私と初めて出会った時よりも強くなっているよ?」

 

マシュは自分が弱く成長出来てないと言うが、マシュの事を見てきた遊馬とアストラルとブーディカは違うと否定する。

 

一方、ランスロットに一撃を与えた話を聞いたモードレッドは隣にいるアルトリアにそれが真実かどうか尋ねる。

 

「……父上、今の話は本当か?」

 

「ええ……私と一緒でしたが、ランスロットの頭にガツンと盾の一撃を叩きつけました」

 

「マジかよ……やるじゃねえか、マシュ」

 

モードレッドはマシュの評価を高くし、うんうんと頷いた。

 

しかし、マシュは首を振って自分が成長出来ていない理由を話した。

 

「違います……宝具の話です。サーヴァントにとって宝具こそ本当の戦力」

 

マシュが悩んでいる理由は宝具である十字の盾の事だった。

 

「今まで多くの宝具を見てきました。どれも英霊の名に恥じない奇跡だったと思います。なのに、私は──まだ、その宝具を使えません。これでは足手まといです。それを分かっているのに、私はまだ真名を思い出せない……」

 

「でもそれはマシュの所為じゃ……」

 

「確かに突発的な事故による融合でした。でも、彼は私に全てを託してくれたのに……肝心の私は、宝具の真価ばかりか、彼の真名すら判らないままなんです……」

 

ヘルタースケルターが宝具と知り、自分に力を託してくれた謎の英霊の真名も分からず、宝具の力を解き放てないことにマシュは深く落ち込んでしまったのだ。

 

そんなマシュにアルトリアは静かに近づいて約束された勝利の剣を抜く。

 

「マシュ、確かにあなたは真名も分からず宝具の力を使えていません。宝具とはその英霊がいた証、誇りのようなものです。しかし、宝具だけがサーヴァントの全てではありません」

 

「アルトリアさん……?」

 

「私の宝具……約束された勝利の剣はとても強力な聖剣です。しかし、私が経験した聖杯戦争では約束された勝利の剣だけでは勝つことは出来ませんでした。純粋な武術、戦術に戦略……そして、信頼するマスターとの連携によって勝利を手にしました」

 

「俺も父上と同じ意見だ。それにな、マシュ……お前はお前だろ?盾ヤロウとも考え方も誇りも違う。確かにお前はその宝具を使いこなしていない。見たところ、三分の一ってところだ。残りの三分の二は眠っている。あるいは、お前がお前である限り百にはならないかもしれない」

 

「……やはり、そうなのですね。デミである部分……人間としての私が、遊馬君の……皆さんの足を引っ張って……」

 

「バーカ。そんな訳あるか。話は最後まで聞けよ。お前は宝具を最大限に発揮できていない。でもな──お前、元の英霊より強いぞ、きっと」

 

「え……?元の英霊って……私に融合してくれた英霊さんの事、ですか?」

 

「ああ、そいつよりメチャクチャ強い。なあ、父上!」

 

「そうですね……私が知る限り、あなたは宝具を抜きにしても強いですよ」

 

モードレッドとアルトリアはブーディカと同じようにマシュに力を託した英霊の正体を知っている。

 

しかし、それはまだマシュに語る時ではないと悟って英霊の正体は話さないでいる。

 

「モードレッドさん……アルトリアさん……!」

 

モードレッドとアルトリアの言葉にマシュが少しずつ自信を取り戻していく。

 

そして、今度は遊馬がマシュの自信を取り戻すためにある提案をする。

 

「なあ、マシュ。宝具の事はまだこれからどうなるか分からないけど……それでもできる事はある。俺たちと一緒に強くなろうぜ!」

 

遊馬の提案にマシュは目をパチクリとさせる。

 

「遊馬君と一緒にですか……?」

 

「ああ。マシュはデミ・サーヴァントだけど、同時に俺と一緒に戦う仲間……デュエルモンスターズの一人だ」

 

遊馬はマシュのフェイトナンバーズのカードを取り出す。

 

「俺たちデュエリストはデッキによるけど、そのほとんどはモンスター達と一緒に戦う。そして、デュエリストは時に……モンスター達を強くし、進化させるんだ」

 

遊馬の仲間やライバル、そして強敵達はそれぞれの持つ力を尽くして自分のモンスター達を進化……ランクアップさせて来た。

 

「我々のエースモンスター、希望皇ホープも数々の戦いの中で進化し続けてきた。この特異点を巡る戦いの中でも希望皇ホープONEへと新たな進化の可能性を切り開き続けている」

 

希望皇ホープにはまだマシュ達には見せてない複数の可能性の力がある。

 

原初の力、希望を超えた遥かなる力、終焉にして頂点の龍の力……そして、真なる皇の力。

 

未来皇ホープの力の一端を宿したマシュにも進化の可能性が充分備わっている。

 

「だから、マシュは自分が強くなれるように、俺もデュエリストとして、もっともっと強くなる!そして、マシュに力を託した英霊に近づく──いいや、違うな。そいつを超えられるぐらいに更なる高みを目指すんだ!」

 

「私の中にいる英霊を……超える?」

 

マシュは自分の胸元を抑えて驚いた。

 

デミ・サーヴァントである以上、完全に英霊の力を使いこなすことは出来ない可能性が非常に高い。

 

しかし、遊馬はマシュが謎の英霊を超えるほどの力を手にすると信じて疑わない笑顔を見せていた。

 

「そうだ!強くなるならそれぐらいの意気込みじゃないとな!」

 

「遊馬の言う通りだ。マシュ、君にはランクアップする可能性が十分に備わっている。共に強くなろう」

 

「マシュ、英霊のみんなも初めから強いわけじゃない。戦いを重ねたり、師匠から教えを受けたり、誰かとの出会いで強くなっていったんだ。だから、1日1日を大切にして、これから強くなればいいんだ。昨日よりも今日、今日よりも明日……一歩ずつ前に進んで、過去の自分から未来へとかっとべばいいんだ!」

 

「過去から未来へ……」

 

「そうだ、『マシュビング』だ!マシュ!!」

 

「マ、マシュビング???」

 

「フォウ!?」

 

「ああ!マシュビングだ!」

 

堂々と新しい単語を生み出した遊馬に困惑するマシュとフォウ。

 

遊馬のかっとビングは静かに周りの仲間達に浸透していき、いつしか自分流にアレンジする者達が増えていった。

 

かっとビングの亜流のようなものだが、勇気を出して一歩前に踏み出す元々の根源は変わっておらず、かっとビングは遊馬を中心に広がっているのだ。

 

今回は自分の力の弱さに悩んでいるマシュに新たな一歩を踏み出してもらうために遊馬が新しいかっとビング……『マシュビング』を命名してマシュに授けたのだ。

 

「マシュビング……フォウさん、どうですか?」

 

肩にいるフォウにどうかと尋ねると、フォウは少し考えた後、「フォーフォウ!」と問題無しと言ったように鳴いた。

 

マシュは盾とフェイトナンバーズを見つめる。

 

自分は一人じゃない、一緒に強くなろう……そう言われてマシュの心は暖かくなる。

 

「はい!私は必ず強くなります!マシュビングです!!」

 

マシュは盾を持ち上げて掲げ、自分の中にいる英霊を超えられるように強くなると強く誓った。

 

マシュの新たな決意に力を託した英霊は笑みを浮かべたように盾が光り輝いた。

 

するとマシュのフェイトナンバーズも光り輝き、盾とフェイトナンバーズからそれぞれ光の線が出てきた。

 

二つの光の線が一つに結ばれ、二人の前に新たなカードが現れた。

 

「これは……マシュの新しいフェイトナンバーズ!」

 

マシュの決意によって生まれた新たなフェイトナンバーズ。

 

真名と効果はまだ覚醒していないので書かれていなかったが、マシュの背後に双剣を構えた未来皇ホープの姿が描かれていた。

 

遊馬はマシュにフェイトナンバーズを見せる。

 

「私の新しいフェイトナンバーズ……!」

 

「どんな効果を持っているかは分からないけど、感じるぜ……このカードから大きな力を!」

 

「あとはこのカードを覚醒させるのは私達次第だな」

 

「頑張ろうぜ、マシュ」

 

「はい、マシュビングです」

 

「フォウフォウー!」

 

遊馬とマシュは拳を作って軽くぶつけ合った。

 

そんな遊馬達の姿を見てモードレッドは呟いた。

 

「一緒に強くなるか……」

 

モードレッドは数少ないが聖杯大戦でマスターとサーヴァントの関係を色々見たが、遊馬とマシュのように一緒に強くなるという関係を不思議だが面白いと思った。

 

 

 




英霊召喚……最強の召喚術ですけど、遊戯王が絡むとなんか色々と価値観が崩壊しますね(笑)
幻想種から神々までなんでも召喚できるとんでもない儀式ですからね。

マシュに新たなフェイトナンバーズが誕生しました。
マシュビングはカイトとのデュエルで遊馬が言ったカイトビングで思いつきました。

次回は蒸気王との対決になると思います。


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ナンバーズ86 二人の人造人間

やっとこの時が来ました。
以外にFateのサーヴァントと共通点の多いナンバーズの中でもトップクラスに相性のいいあのカードが登場します。


ヘルタースケルターのスイッチがあるところへフランの案内の元、向かっているのだが……。

 

「ダメだ……フランの言葉が全然分からねえ……」

 

「私もだ……今度人造人間の言語を勉強しなければ」

 

「いや、どうやって勉強するんだよ?」

 

男性陣にはフランの言葉はちんぷんかんぷんであり、理解できる女性陣のマシュやモードレッドの通訳を聞く。

 

どうやらリモコンはウェストミンスターエリア、国会議事堂があるエリアにあるらしい。

 

そして、ウェストミンスターエリアに到着すると、今までよりも巨大なヘルタースケルターが出現した。

 

そのヘルタースケルターがリモコン……他の個体を操る宝具本体らしく、これを倒せればヘルタースケルターは全て停止する。

 

「こいつを倒せばヘルタースケルターは止まるんだな!」

 

「一気に決めろ、遊馬!」

 

「おう!俺のターン、ドロー!」

 

「遊馬くん、行きます!!」

 

マシュは一緒に強くなって力を託してくれた英霊を超えると言う目標で自信を取り戻し、心の力が体にも影響していつも以上の力を発揮し、見事ヘルタースケルターを倒した。

 

「よし!これでヘルタースケルターは全て止まるな!」

 

「よし、これで厄介事が一つ片付いたか。よくやった、フラン。お前のお陰で助かったぜ!」

 

「……ゥ、ゥ。ァ……」

 

モードレッドはフランを褒めて頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

するとアストラルは倒したヘルタースケルターが今までと違う箇所を見つけた。

 

「これは……遊馬、このヘルタースケルターに製造者の名前があるぞ」

 

「え?本当か!?なんて書いてあるんだ?」

 

「……『Charles Babbage. AD.1888』……チャールズ・バベッジだと!??」

 

「チャールズ・バベッジ?」

 

「誰なの、チャールズ・バベッジって?」

 

チャールズ・バベッジという名に驚愕したアストラルにブーディカは尋ねた。

 

「チャールズ・バベッジは19世紀のイギリスの天才数学者であり、機械設計者だ。蒸気機関を用いた世界初のコンピューターを考案し、『コンピュータの父』と呼ばれている」

 

「コンピュータの父か……すげぇ頭いいんだな」

 

「へぇー、英国にそんな凄い学者がいるなんて私も鼻が高いね」

 

「だが、腑に落ちないことがある。チャールズ・バベッジが亡くなったのは1871年だ。しかしこのヘルタースケルターには1888年と刻まれている……10年前に亡くなったはずだが……」

 

「え?10年前に亡くなってる??」

 

「そうなんだ……帰ったら、ジキルに聞いてみたら?何か分かるかもしれないよ」

 

歴史が間違っているのか記録が間違っているのか不明だが、この時代の人間であるジキルなら何か分かると思い、急いでアパルトメントに戻る。

 

「……ゥゥ……」

 

そして、フランはチャールズ・バベッジの名前を聞いてから酷く落ち着かない様子だった。

 

 

アパルトメントに戻り、ジキルから早速チャールズ・バベッジの話を聞いた。

 

バベッジは公式の記録では1871年に亡くなっているはずだが、この時代ではなんと生きており、初代のヴィクター・フランケンシュタイン博士とは知己の仲だったらしい。

 

しかも今年の王立協会の年鑑に名前が載っており、ヴィクターもジキルに彼の話をしていた。

 

更には去年や今年の新聞にも発明品が載っているほどだった。

 

「どうなってんだこれ?」

 

「考えられる事はいくつかある。まずは歴史的記録が事実と異なっていた。二つ目は事象にズレが生じた……今までの特異点で実際にそれは起きているからな」

 

特異点の影響があらゆる時代に大きな影響を与えている。

 

これでは誰がこの時代の人間なのかそうでないのか判明が難しくなっていく。

 

すると、ジキルが慌てたように遊馬たちに報告をする。

 

「僕の情報網に引っかかったんだけれど、悪い知らせだ。完全に稼動停止していたヘルタースケルターの全てが──再起動した」

 

「何だ、またか。リモコンが他にもあったってことか?」

 

「これ以上、奴らの好きにさせるわけにはいかないぜ!みんな、行くぞ!!」

 

遊馬たちは今度こそヘルタースケルターを停止させるために再び行動を開始した。

 

前回と同じようにフランの案内でリモコンを探索しようとしたが……次々とヘルタースケルターと出くわし、案内する方向がコロコロ変わってしまう。

 

明らかに様子がおかしいフランにモードレッドとブーディカは思い切って尋ねた。

 

「フラン、お前リモコンのところに案内するつもりないだろ?それに何かを迷ってないか?」

 

「もしかして……フラン、あなたはチャールズ・バベッジと面識があるの?」

 

「……ゥッ!?ゥゥ……」

 

ブーディカの指摘にフランはビクッと震え、唇を噛み締めながら静かに語り出した。

 

ブーディカの指摘通り、フランは前にバベッジと会って話したことがあるのだ。

 

魔力を辿ることができるのはバベッジの気配のようなものを辿っているからだ。

 

しかし、フランはバベッジはこんなことをする人ではないと言う。

 

それを聞いたモードレッドはフランの迷いを振り切らせる為に言葉をかけた。

 

「……話は分かった。お前は庇ってる訳だな、フラン。だが、それは矛盾してる。バベッジって奴はこんなことはしないんだろ?」

 

「……ゥ」

 

「じゃあ後は簡単だ。……あのクソガキの言葉を使うのは癪だが、仕方ない。フラン。落ち着いて、想像力ってヤツを働かせてみろ。できるだろ。バベッジはこんな事はしない。なのにヘルタースケルターはうろうろしてやがる。なら、やっこさんは強要されてんだよ。こんなことをするように、な」

 

「……ゥ!」

 

「よし、いい子だ。じゃあ、お前が何をすればいいかもわかったか?」

 

「……ゥ、ゥ!」

 

フランはモードレッドの言葉でバベッジを信じ、そしてヘルタースケルターを止めるために今度こそリモコンの元へと案内する。

 

モードレッドのフランを慰め、そして奮い立たせたその光景にアルトリアは優しく微笑んで呟いた。

 

「モードレッド……あなたは変わりましたね。私がシロウと出会って変わったように、あなたにも良き出会いがあったのですね……」

 

他人を思いやるモードレッドのその姿にアルトリアは自然とうれしく思うのだった。

 

 

今度こそフランは迷うことなくバベッジの気配を辿って進んで行くと、魔霧の中でも分かる魔力の大きな塊が近づいていた。

 

今までとはまるで違う大型の魔力……魔霧の中、大きな足音と共に現れたのは……。

 

「──聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初めとして消え果てた、儚き空想世界の王である」

 

身長が3メートル近くある巨大なヘルタースケルターだった。

 

そのヘルタースケルターこそ、チャールズ・バベッジであり、彼からはサーヴァントの気配があり、どうやらこれが全てのヘルタースケルターを操る本体らしい。

 

「貴様たちには魔術師『B』として知られる者である。この都市を覆う魔霧計画の首魁が一人である。そして──帝都首都の魔霧より現れ出でた、英霊が一騎である」

 

「お前が魔霧計画の首謀者の一人!?」

 

「バベッジ……B……くっ、頭文字は同じだがこの時代の人間と聞いて見落としていた……」

 

バベッジは深紅の目を輝かせ、蒸気を放出しながら語る。

 

「我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共にある者である。我が空想は固有結界へと昇華されたが、足りぬ。足りぬ。これでは、まだ、足りぬ。見よ。我は欲す者である。見よ。我は抗う者である。鋼鉄にて、蒸気満ちる文明を導かんとする者である。想念にて、有り得ざる文明を導かんとする者である。そして──人類と文明、世界と未来の焼却を嘆く一人でもある」

 

バベッジの言葉によりカルデアでは一つの仮説が立てられた。

 

バベッジ自身が既に固有結界となっており、分身としてヘルタースケルターを出し続けていたのだ。

 

バベッジの人理焼却を嘆くのならば対話が出来ると思い、遊馬たちは対話を試みる。

 

「バベッジ!あんたの言葉が本当なら、俺たちも同じだ!」

 

「未来は、焼却されてはならない……!」

 

「御託はいい。いいか、屑鉄。よく聞け。お前の知り合いの娘が、お前を止めに来た。話を聞いてやれ。大層な御託も何もかも、それからだ」

 

「……ゥ、ゥ!……ウ……ゥゥ、ァ……ア、ァ……!」

 

フランはバベッジに近づいて必死に声を出して語りかけた。

 

「──おお、おお。忘れるはずもなきヴィクターの娘。──そこにいるのか。お前は。可憐なる人造人間よ。造物主より愛されず、故に愛を欲す哀れなる者よ」

 

バベッジはまるで親戚の姪に会ったように嬉しそうに声を震わせた。

 

フランのバベッジへの止めて欲しいという必死の説得がバベッジの心に響いていく。

 

「嗚呼、お前の言葉が聞こえる。嗚呼、お前の想いが聞こえる。そう、だ──私は、我らは、碩学たる務めを果たさねば。我らは人々と文明のためにこそ在るはずだ。故にこそ、私は求めた。空想世界を。夢の新時代を。故にこそ……」

 

フランの必死の語りかけにより、想いが伝わり、バベッジの学者として人々と文明のためにあることを思い出した。

 

自分の過ちを認め、戦いを止めようとした……その時だった。

 

「グ……!?……グ……ゥ……ガガ、ガ……ガガ……!?」

 

突然、バベッジが苦しみ出し、深紅の瞳が怪しく輝き出して蒸気を激しく放出していった。

 

「これ、は……何だ……アングルボダ、の、介入か……!組み込んだ、聖杯……!そうか、『M』……か……この、私、さえも……!!」

 

「バベッジ!?何が起きているんだ!?」

 

「もしかして……Mが聖杯を使ってバベッジにサーヴァントの令呪のような絶対命令をしているのではないか!?」

 

令呪はサーヴァントの意思に反して絶対的な命令を下すことも可能であり、それに似た行為がバベッジを狂わせているのだ。

 

「ヴィクターの娘……!逃げ……ろ……!」

 

バベッジは必死に抗いながらフランに逃げろと呼びかける。

 

「……ゥ!」

 

フランは苦しそうなバベッジに駆け寄ろうとしたが、モードレッドに止められた。

 

「──もういい。フラン。お前は言うべきことを言ったし、あいつはあいつで応えた。よくやった。だが、こういうこともある。想いが届かず、刃で決着を付けざるを得ない──そういうことも、な。あるんだよ……」

 

「オオ、ォ……!」

 

バベッジはバーサーカーのように対話不能となって正気を失っている。

 

こうなっては止める方法は一つ……倒すしかなかった。

 

「フラン……うっ、な、何だ……?」

 

アストラルの体が突然輝き、一枚のカードが現れた。

 

そのカードを手に取るとアストラルは目を見開くほど驚いた。

 

「このナンバーズは……なるほど、これも奇縁だな。遊馬、このナンバーズを使うんだ!」

 

アストラルは遊馬にナンバーズを投げ渡し、遊馬はナンバーズを受け取ると同じように目を見開いて驚いた。

 

「こいつは……!なるほどな、フランの想いにこのナンバーズが応えたってことか。行くぜ、俺のターン!ドロー!」

 

遊馬はナンバーズの想いを感じ、その想いに応える為にすぐに召喚する手筈を整える。

 

「魔法カード『オノマト連携』!手札を1枚墓地に送り、デッキから『ガガガシスター』と『ゴゴゴジャイアント』を手札に加える!更に魔法カード『ガガガ学園の緊急連絡網』!フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからガガガモンスターを特殊召喚出来る!来い、『ガガガマジシャン』!!」

 

デッキからガガガマジシャンを呼び出し、更に手札から妹分を呼び出す。

 

「ガガガシスターを召喚!ガガガシスターの効果発動!デッキから『ガガガ』魔法・罠を1枚手札に加える。俺は『ガガガリベンジ』を手札に加える!」

 

レベルを操り、様々なランクのモンスターエクシーズを導くガガガモンスター達の能力を最大限に発揮する。

 

「ガガガマジシャンの効果!1ターンに1度、レベルを1から8に変更できる。ガガガマジシャンのレベルを4から6にする!更にガガガシスターのもう一つの効果!ガガガマジシャンを選択し、2体のモンスターのレベルを合わせた数にする。これでガガガマジシャンとガガガシスターのレベルは共に8!!」

 

ガガガマジシャンのバックルの星が6つに輝き、ガガガシスターが鍵の杖を掲げるとレベルの星が合わさりレベル8となる。

 

「俺は闇属性レベル8のガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

『『ガガガッ!』』

 

ガガガマジシャンとガガガシスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「人の手に作られし愛を求める悲しき者よ、その悲しみと怒りを拳に込め、愛のためにその拳を振り上げろ!!」

 

光の爆発から現れた紫色の光が天に昇り、一つの大きな影が遊馬の前に降り立つ。

 

「現れよ、『No.22 不乱健(フランケン)』!!!」

 

『ウォオオオオオオオオオ!!!』

 

遊馬の前に姿を現したのは屈強な肉体に、『22』の刻印が刻まれた顔を隠すフードを被った巨漢だった。

 

「えっ?ま、まさか……そのナンバーズは……」

 

その名前にマシュは目を丸くして驚く。

 

「そう、このナンバーズは人々に語り継がれて来たフランケンシュタインの怪物の伝説から生まれた精霊の力が宿っている」

 

この世界のフランとは異なり、小説の通りに男性の『フランケンシュタインの怪物』の精霊の力が宿っているナンバーズ。

 

本来ならばナンバーズがこれほどまでに強い自我を出すことは希望皇ホープ以外はほとんどない。

 

しかし、時空を超え、同じフランケンシュタインの怪物であるフランのバベッジへの想いが届いたのだ。

 

「フランのバベッジへの強い想いにこいつが応える為に出て来たんだ。バベッジを止める為に……!」

 

不乱健は首を静かに動かしてフランを見下ろす。

 

「ァ……ゥァ……?」

 

フランは自身と同じフランケンシュタインの怪物である同胞を目にし、呆然として見つめていた。

 

『オォオ……』

 

不乱健は頷き、フランの為にも必ずバベッジを止める決意を固めた。

 

『ウォオオオオオオオオオッ!!!』

 

魂の奥底から吐き出すように気合の咆哮を轟かせ、全てを打ち砕く両手の拳を強く握り締める。

 

 

 

 




次回は不乱健と蒸気王の対決です!

フランケンシュタインの怪物を見直したら怪物は伴侶が欲しいんですよね。
漫画版で健ちゃんもガガガガールに愛の告白をしていましたし。
フランちゃんも聖杯にかける願いは伴侶を得ることですし。

あれ……?つまり、健ちゃんとフランちゃんは……お互いにお互いを……意外なところで願いが叶いそうですね。


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ナンバーズ87 想いよ、打ち抜け!不乱健VS蒸気王!!

すいません、色々あって投稿が少し遅れました。

今回は不乱健とバベッジの戦いです。

※不乱健の効果を全て把握してなかったためにミスが発覚したので一部改定しました、すいませんです。


フランケンシュタインの怪物であるフランと不乱健が時空を超え、ロンドンの地で奇跡の出会いを果たす。

 

不乱健はフランの為に全力でバベッジを止める。

 

『ウォオオオオオオオオオ!!』

 

「燃えてるな、不乱健!カードを2枚セットして、行け!不乱健でバベッジに攻撃!」

 

不乱健は雄叫びを上げ、ズシン!ズシン!と大きな音を立てながら走る。

 

「不乱拳!!!」

 

そして、継ぎ接ぎの肉体と思えないほどの強力な拳の突きを放った。

 

「グォオオッ!?」

 

不乱健の拳はあまりにも重い鎧を身に纏ってるバベッジですら軽々と吹っ飛んで地面に落ちた。

 

「凄い破壊力です……!」

 

「当然だ、不乱健の攻撃力は4500。超銀河眼の時空龍と同じで、ナンバーズ兼アンデット族最強の攻撃力を誇るモンスターだ」

 

「あ、あのギルガメッシュ王と対等に渡り合った超銀河眼の時空龍と同じナンバーズ最強の攻撃力!?」

 

デュエルモンスターズのモンスターの中で元々の最大の攻撃力の数値は5000で、その次点は4500……不乱健は希望皇ホープですら上回る最高クラスの攻撃力を持つ。

 

「ウォオオオオオオオオオ!!」

 

バベッジは立ち上がり、蒸気を放射して魔霧と共鳴するとヘルタースケルターが出現し始めた。

 

「させるか!不乱健の効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、俺の手札を1枚墓地に送る!」

 

不乱健はオーバーレイ・ユニットを一つ握りしめ、遊馬が一枚手札を捨てるとヘルタースケルターが消滅し始めた。

 

「このカードを守備表示にし、選択した相手の効果をエンドフェイズ時まで無効にする!バベッジ、ヘルタースケルターを呼び出せないぜ!!」

 

不乱健が膝をつき、守備表示になったがバベッジのヘルタースケルターの増援を防いだ。

 

しかし、それならばとバベッジは巨大なステッキを手に守備状態となった不乱健に攻撃を仕掛ける。

 

不乱健は4500と言う驚異的な攻撃力を持つが、それに反して守備力は僅か1000しかない。

 

このままでは不乱健は破壊されてしまうが、遊馬は数々のデュエルで使ってきた守りのカードを使う。

 

「罠カード『ハーフ・アンブレイク』!フィールド上のモンスター1体を選択して発動!不乱健を選択!」

 

カードから大きなシャボン玉が出てきて不乱健を包み込み、バベッジの振り下ろされたステッキを防いで弾き飛ばした。

 

「このターン、選択したモンスターは戦闘では破壊されず、そのモンスターの戦闘によって発生する俺への戦闘ダメージは半分になる!」

 

「守備表示なら我々にダメージは無い!」

 

デュエルモンスターズは貫通能力など特殊能力が無い限りモンスターが守備表示ならプレイヤーにダメージは無い。

 

「俺のターン、ドロー!不乱健を攻撃表示に変更!!」

 

不乱健は立ち上がり、アストラルは遊馬の手札を見て瞬時に次の手を考える。

 

「この布陣なら……!遊馬、次はこのナンバーズだ!」

 

アストラルは不乱健を最後まで戦わせるために新たなナンバーズを取り出して遊馬に渡す。

 

「これはアリトが使った……よし、行くぜ!ゴゴゴジャイアントを召喚!その効果で墓地に眠る『ゴゴゴゴーレム』を特殊召喚してゴゴゴジャイアントを守備表示にする!」

 

ゴゴゴジャイアントの効果で墓地からゴゴゴゴーレムが蘇った。

 

最初のオノマト連携の時に手札から墓地に捨てたカードがゴゴゴゴーレムであり、コストを無駄なく次への布石を整えた。

 

「行くぜ!レベル4のゴゴゴゴーレムとゴゴゴジャイアントでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

『『ゴゴゴーッ!!』』

 

ゴゴゴゴーレムとゴゴゴジャイアントが光となって地面に吸い込まれる。

 

「現れよ、猛りし魂に取り憑く、呪縛の鎧!『No.80 狂装覇王(きょうそうはおう)ラプソディ・イン・バーサーク』!!」

 

光の爆発が起きると深い闇の中から紫色のマントを羽織り、大きな手甲と漆黒の鎧をを身に付けた悪魔が現れた。

 

「ラプソディ・イン・バーサークの効果!このモンスターを、攻撃力1200ポイントアップの装備カード扱いとして、自分フィールド上のモンスターエクシーズに装備できる!ラプソディ・イン・バーサークを不乱健に装備!!」

 

ラプソディ・イン・バーサークが紫色の光になり、不乱健に突撃する。

 

不乱健の継ぎ接ぎの屈強な肉体に漆黒の鎧が装着される。

 

ラプソディ・イン・バーサークは不乱健とは真逆で直接的な攻撃や防御の効果を持たないが、モンスターエクシーズの鎧となって力を高める。

 

『ゴォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

不乱健はバーサーカークラスのサーヴァントのように荒々しい雄叫びを上げた。

 

奇しくもフランが聖杯大戦でバーサーカークラスで召喚された。

 

バーサーカーの如く力を高めた不乱健は全身から闇のオーラを放つ。

 

「これで不乱健の攻撃力は4500から5700だぜ!行け、不乱健!!」

 

不乱健はラプソディ・イン・バーサークで強化された肉体を駆使し、一瞬でバベッジの間合いに入り、闇を纏った拳を振り下ろす。

 

「覇王不乱拳!!」

 

先程よりも強烈な不乱健の拳がバベッジの鎧に深く入り込んだ。

 

強固な鎧に大きなヒビが入り、これで決まるかと思ったが、バベッジの鎧から大量の蒸気を放出させて左手で不乱健の首を掴んだ。

 

「まずい、遊馬!」

 

「罠カード『攻撃の無敵化』!このバトルで不乱健は破壊されなくなる!」

 

『ゴォッ!??』

 

突然の反撃に驚く不乱健だが既に遅く、バベッジはステッキを振りかざして不乱健の頭に強烈な一撃を叩き込んだ。

 

頭が地面にめり込むほどの強力な一撃に強化されたナンバーズ最強の攻撃力を持つ不乱健をも超えてきた。

 

しかし、不乱健は攻撃の無敵化で破壊されなかったが、装備されていたラプソディ・イン・バーサークが破壊されてしまった。

 

「不乱健!?ぐあっ!??」

 

「攻撃力を高めた不乱健をも更に超えてくるか……!」

 

不乱健を超える攻撃で遊馬とアストラルに大きなダメージが与えられたが、バベッジも無事ではなかった。

 

「ウォオ……ウォオオ……」

 

バベッジの鎧から考えられないほどの大きな熱を帯びており、噴き出している蒸気も尋常じゃ無いほどの量だった。

 

まるで蒸気機関が暴走してとんでもないパワーを出しているようでバベッジ自身も苦しんでいるようだった。

 

「バベッジ……無理矢理戦わされた影響で暴走しているのか……このままだと彼は……」

 

「絶対に止めてやる……不乱健の魂の火はまだ燃え尽きていない!」

 

遊馬は立ち上がった不乱健のカードから伝わってきている。

 

フランが大切に想っているバベッジを必ず止める、これ以上フランを悲しませたくない……と。

 

その想いに応えるため、遊馬は祈りを込めながらカードを引く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『死者蘇生』!墓地に眠るモンスターを特殊召喚する!蘇れ、ラプソディ・イン・バーサーク!!」

 

万能の蘇生カードで地面に魔法陣が浮かび、ラプソディ・イン・バーサークを墓地から復活させる。

 

「そして、今こそ不乱健に最高の力を与えるぜ!ラプソディ・イン・バーサークにこのカードを使う!『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!!」

 

遊馬は希望皇ホープ以外に初めてリミテッド・バリアンズ・フォースを使用した。

 

「このカードは自分フィールド上のランク4のモンスターエクシーズ1体を選択し、選択したモンスターよりランクが1つ高い『CNo.』に進化させる!俺はランク4のラプソディ・イン・バーサークでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

ラプソディ・イン・バーサークが光となって再び地面に吸い込まれて光の爆発が起きるとカオスの力で進化する。

 

「魂を鎮める旋律が、十全たる神の世界を修復する!現れよ、『CNo.80 葬装覇王(そうそうはおう)レクイエム・イン・バーサーク』!!」

 

光の中から現れたのは漆黒から純白の鎧へと進化した悪魔で不乱健に更なる力を与える。

 

「レクイエム・イン・バーサークの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、フィールド上のカード1枚を選択してゲームから除外する!俺が除外するのは、バベッジのその武器だ!」

 

レクイエム・イン・バーサークはオーバーレイ・ユニットを一つ取り込んで手から光線を放つと、バベッジの武器であるステッキが消滅した。

 

「そして、レクイエム・イン・バーサークのもう一つの効果!このモンスターを、攻撃力2000ポイントアップの装備カード扱いとして自分フィールド上のモンスターエクシーズに装備できる!不乱健に装備だ!!」

 

レクイエム・イン・バーサークは進化前のラプソディ・イン・バーサークと同じ能力を持ち、再び光となって不乱健に激突して新たな鎧となる。

 

今度は漆黒から純白の鎧に身を包んだ不乱健は今までに無いほどのパワーを発揮する。

 

「これで決める!魔法カード『鬼神の連撃』!自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターエクシーズ1体を選択し、オーバーレイ・ユニットを全て取り除いて発動する!不乱健のオーバーレイ・ユニットを全て取り除く!」

 

不乱健のオーバーレイ・ユニットが消滅すると、不乱健の両手の拳に宿ると眩いほどの光を放った。

 

「このターン、選択したモンスターは……不乱健は二回攻撃する事ができる!!」

 

今の不乱健はレクイエム・イン・バーサークを装備したことで攻撃力は6500まで上昇している。

 

6500の二回攻撃は恐ろしいまでの強力な攻撃である。

 

「「行け、不乱健!バベッジの呪縛の鎖を打ち破れ!!」」

 

『ウォオオオオオオオオオーッ!!!』

 

不乱健の瞳が真紅に輝き、雄叫びを上げながらバベッジに最後の攻撃を喰らわせる。

 

「「連撃覇王不乱拳!!!」」

 

強靭にして屈強な両手の拳から放たれる二回攻撃……どころか、不乱健に複数の残像を伴うほどの凄まじい勢いでバベッジに連続パンチを炸裂させる。

 

まさにバーサーカーに相応しい凄まじい攻撃にバベッジは勢いよく地面に叩きつけられてしまった。

 

そして……。

 

「……シティの地下へ、行くがいい……」

 

「っ!?バベッジ!?」

 

「正気を取り戻したのか……」

 

不乱健の最後の攻撃によりバベッジは正気を取り戻すと遊馬達に情報を渡す。

 

「地下鉄の更に、深い、深い、深い、奥底……其処に……『魔霧計画』の主体が、在る……だろう……」

 

「地下鉄の奥に……?」

 

「都市に充ちる……霧の、発生源……すなわち、我が発明……巨大蒸気機関アングルボダ……聖杯はアングルボダの動力源として……設置……」

 

「巨大蒸気機関……?」

 

「アングルボダ……それがこの魔霧を発生させているものか……」

 

魔霧を発生させている元を作っていたのはバベッジの発明だった。

 

そのアングルボダに聖杯を動力源として動かしていることで魔霧の中からサーヴァントが召喚されるようになったのだ。

 

「……………………ゥ、ゥゥ、ァ」

 

フランは泣きそうな辛い声を出しながらバベッジに駆け寄った。

 

もうバベッジは大丈夫だろと思い、モードレッドはフランの好きにさせた。

 

駆け寄ったフランにバベッジは優しい声をかけた。

 

「……すまぬ。ヴィクターの娘。お前の声は聞こえたが……私は、既に、正しき命を有した、人間……ではなく……妄念の……有り得ざるサーヴァント、と、化したのだ……」

 

バベッジは大きな過ち、間違ったことをしてしまった。

 

フランの想いで立ち止まろうとしたが、結局は敵として対峙することとなってしまった。

 

「……私は……私は、嗚呼、私の世界を夢見てしまったが……しかし……それ、とて……私の夢を叶えなかった世界であっても……隣人(あなた)たちの世界を、終わらせよう、とは、思わない……」

 

しかし、最後の最後で自分の本当の想いを取り戻したバベッジは遊馬達に最後の想いを託しながら消滅してしまった。

 

「──次の行き先、決まったな」

 

「はい。地下、と。ミスター・バベッジは確かにそう言い残しました」

 

「まずはフランをジキルのアパルトメントへ戻す。それから、最後の親玉を潰すぞ」

 

バベッジから受け取った情報という名の希望を受け取り、モードレッドとマシュはその想いを無駄にしないために必ず親玉を倒すと決意を固める。

 

そして、フランはバベッジが消滅してしまったことで酷く落ち込んでしまい、その場に座り込んでしまった。

 

「ゥッ……ァッ……」

 

涙腺が繋がっていないフランは涙を流すことが出来ない。

 

モードレッドがフランを励まそうと近づく前に不乱健が先に出て静かに近づいて膝を下ろす。

 

すると不乱健は頭に刺さった釘を一本抜くとフランの前に持っていった。

 

ポン!

 

すると釘がまるでマジックのように綺麗な花束となり、それをフランに渡した。

 

フランは花束を受け取ると、バベッジを止めてくれたことと自分を励ましてくれたことに感謝を示した。

 

「アリ……ガト……」

 

普段は長い前髪で顔の上半分は隠れていて見えない黄色と青色のオッドアイが見え、更にはとても可愛らしい笑顔を見せた

 

『ウッ……アッ、オッ……』

 

フランの笑顔に不乱健は顔を真っ赤にして慌てだした。

 

「そう言えばさ、アストラル。フランケンシュタインの怪物ってヴィクターに……」

 

「ああ。小説によるとフランケンシュタインの怪物は自分の伴侶となる異性の怪物を生み出して欲しいとヴィクターに頼んだがそれは受け入れられなかった」

 

「伴侶が欲しかった……あれ?不乱健は男でフランは女で……つまり……」

 

「そういう事だな……」

 

鈍感な遊馬でも分かったフランと不乱健の奇妙な関係。

 

するとフランは花束を抱きしめながら不乱健に近寄るとそのフードで隠れた顔の頰に……。

 

チュッ。

 

「「「あっ!」」」

 

フランは不乱健の頰にキスを落とし、遊馬達は声を揃えて驚いた。

 

『…………ウガァアアアアアアア!??』

 

突然のキスに不乱健は驚愕して頭を抱え出した。

 

不乱健は小説同様に自分の伴侶を求めており、それが同じフランケンシュタインの怪物でしかもとても可愛い女の子ならピンポイントなら最高のベストマッチである。

 

しかし、慣れてない突然のキスに不乱健は大慌てをして逃げるように自分のカードの中に入ってしまった。

 

「おーい、不乱健?健ちゃーん?」

 

「やれやれ、どうやら彼は照れてしまったようだな……」

 

「みたいだな……」

 

不乱健はカードの中に閉じこもってしまい、遊馬とアストラルは苦笑いを浮かべてしまった。

 

まだまだ不乱健とフランの恋の行方は遠くなりそうだった。

 

「ったくこんな時にラブコメしやがって……しゃあねえ、とりあえずフランを弄るか」

 

突然始まったラブコメにモードレッドは溜息を吐きながらもフランを弄りに向かった。

 

 

 




不乱健とフランちゃんのラブコメ始まりました(笑)

フランちゃんはジーク君も一応候補でしたが、同じフランケンシュタインの怪物同士ならこちらの方が優先されると思って健ちゃんにしました。

フランちゃんは聖杯大戦でバーサーカーだったので不乱健をラプソディとレクイエムでバーサーカーとしてパワーアップして戦わせました。

次回はいよいよ地下へと潜ります。
ロンドン編もクライマックスに近づいてきました。


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ナンバーズ88 輝け!願いと祈りの光!

最近プライベートが忙しくて更新が遅れがちで反省です。

ペースを崩さないように頑張らないといけませんね。


聖杯の場所を教えてくれて消滅したバベッジのフェイトナンバーズを回収し、遊馬達はジキルのアパルトメントに戻って最後の戦いの前の準備をする。

 

遊馬がデッキの最終調整をしているとアストルフォが近づいてきた。

 

「ねえねえ、マスター。これこれ」

 

「ん?何だこれ?」

 

アストルフォは折り畳まれた紙と何かの液体が入った瓶を渡してきた。

 

紙を開くとそこには設計図みたいな人体図が描かれていた。

 

「これ、フランちゃんを呼ぶための触媒だよ〜」

 

「フランの?」

 

「うん。聖杯大戦でフランちゃんのマスター、カウレスって言うんだけどそいつが触媒に使ったのと同じものだよ」

 

「ではこれはヴィクター・フランケンシュタインが書いた……ちょっと待て、アストルフォ。これをどこから持ってきた?」

 

アストラルの表情が固まりながら尋ねた。

 

「ん?ヴィクターの屋敷だよ?」

 

あっけらかんに言うアストルフォに遊馬とアストラルは一瞬唖然としながらこめかみを抑えた。

 

「……お前何勝手に持ってきちゃってんだよ!?」

 

「しかも故人の物を……」

 

「えー?でも僕はフランちゃんとカルデアでも会いたいし……」

 

「あのな……とりあえず、フランに謝ってこい。それからちゃんと事情を説明しろよ?」

 

「はーい」

 

「……アストルフォ、そしてこの薬はジキルの……」

 

「そうだよ?ジキルもきっと英霊になると思ったからついでに……」

 

「アストルフォ、カルデアに帰ったら廊下で正座な?」

 

「ガビーン!?な、何で!?良かれと思ってやったのに!」

 

「当たり前だろうが、このお馬鹿!」

 

ジキルの研究室から勝手にハイドになる薬を勝手に持ってきてしまい、遊馬とアストラルは益々頭痛が頭に響いてくる。

 

その後、遊馬とアストラルはアストルフォに謝罪をさせて、部屋の隅に正座をして首から『僕は人の物を盗んだ悪い子です』と書かれたプラカードをかけてしばらくそのまま放置にした。

 

「うぇえええーん!ジークゥ、助けてよぉ〜」

 

アストルフォは涙目になりながらジークに助けを求めるがルーラーと遊馬がそれを諌めた。

 

「ダメですよ、ジーク君。アストルフォは悪いことをしたのですからちゃんと罰を受けないといけません」

 

「まあ出発までだし、そんなに酷い罰じゃねえからそのままにしてやってくれ」

 

「……分かった。ルーラーとマスターがそう言うならそれに従おう」

 

「ガビーン!?そ、そんなぁ、ルーラーとマスターの鬼畜ぅ〜!」

 

「「少しは反省しろ(しなさい)!!」」

 

「ふぇえ〜ん……」

 

遊馬とルーラーの叱咤にアストルフォはしょぼんと落ち込んで大人しく正座をするのだった。

 

ちなみに設計図と薬はフランとジキルに許可をもらってそのまま遊馬が譲り受けることになった。

 

これでカルデアで英霊となった二人を召喚することが可能となった。

 

フランとジキルは生身の存在なのでここから先の戦いには厳しいと判断してアパルトメントに残ってもらい、準備が整った遊馬達は早速地下へと向かった。

 

地下鉄の更に奥へと進んで行くが……。

 

「……ロンディニウムの地下、か。地面の下に地下鉄があるとは知っていたが、まさか更に『下』があるとはな」

 

魔術協会の地下迷宮ほどではないが、かなり大きな地下道が広がっていた。

 

「誰がこんなもんを作ったんだろ?」

 

「地下道は地下通路、地下街や下水道などに利用されるが、この地下道はかなり古い……大昔の大きな権力者か国家が秘密裏に作った可能性があるな」

 

アストラルはこの地下道は大きな権力によって作られたものだと推察する。

 

するとモードレッドは地下に連想したとある話をする。

 

「こんな話があるぜ。ロンドン塔の地下深くには古きブリテン王ブランってやつの首が埋まってて、ロンディニウムを守護してる、ってな」

 

「ブラン?」

 

聞きなれない名前にアストラルが説明する。

 

「マビノギオンと呼ばれる物語の登場人物だ。確か、アーサー王──アルトリアの先祖らしいな」

 

「ええ、そうですよ」

 

「そっか。じゃあ私の後輩の王なんだ。首だけでもこの地を守っているんだね……」

 

ブーディカは歴代のブリテンの王がロンドンを陰ながら見守っていることを嬉しく思いながら古の女王として必ずロンドンを守ろうと改めて強く思うのだった。

 

地下道を進むにつれて魔霧がだんだん濃度が高くなり、遭遇する敵を倒していき……遂に最下層に到着した。

 

「これ……冬木の大聖杯に似てね?」

 

「ああ……そして凄まじい魔力だ」

 

「魔霧の中にあっても強く感じられるほどの魔力量です。ここまで巨大な魔術炉心、だなんて……」

 

アングルボダは冬木で見た大聖杯によく似ており、とんでもない魔力と魔霧を発していた。

 

「詳しく見てみたいとこだが──どうやら、最後の親玉の登場らしいぜ」

 

モードレッドが気配に気づいて睨みを効かせると、魔霧の中から一人の男が現れた。

 

「──奇しくも、奇しくもパラケルススの言葉通りとなったか。悪逆は、善を成す者によって阻まれなければならぬ、と」

 

藍色の髪をしたスーツを着た男でこの男だった。

 

「巨大蒸気機関アングルボダ。これは我らの悪逆の形ではあるが、希望でもある。ここでお前達の道行きは終わりだ。善は、今、我が悪逆によって駆逐されるだろう」

 

「俺たちは絶対に負けない!」

 

「お前は魔霧計画の最後の一人、『M』だな?」

 

「私はマキリ・ゾォルケン。この魔霧計画に於ける最初の主導者である。この時代──第四の特異点を完全破壊するため、魔霧による英国全土の浸食を目指す、一人の魔術師だ」

 

「英国全土!?」

 

「ロンドンのみの破壊では足りぬ。この時代を完全に破壊することで人理定礎を消去する。それこそが、我らが王の望みであり、我らが諦念の果てに掴むしかなかった行動でもある」

 

マキリの言った『我が王』と言う言葉に第二特異点で消えたレフの姿が過った。

 

「てめえ……レフと同じ魔神か!」

 

「いいや、違う……遊馬、あれはサーヴァントでも魔神でもない人間だ!」

 

「なっ!?あいつが人間だって!?」

 

マキリからはアストラルが今まで感じてきたサーヴァントや魔神の気配を全く感じられず、信じられなかったが人間だと断定した。

 

事実、ジャンヌとレティシアとルーラーでもマキリの真名を見ることが出来なかったのでサーヴァントでは無いのは確かだった。

 

「最早、語やりに及ばず。アングルボダは既に暴走状態へと移行している。都市に充満させた魔霧を真に活性化させるに足る、強力な英霊が、是より現界するだろう。かの英霊の一撃により魔霧は真に勢いを得、世界を覆い尽くす。そして、『すべて』に終焉が充ちる」

 

「そんなことはさせない!てめえを倒してアングルボダをぶっ壊す!」

 

遊馬はデッキからドローしようとした時、カルデアからD・ゲイザーに連絡が入った。

 

『マスター、こちらイシュタルよ!』

 

「っ!?イシュタル!?」

 

突然イシュタルから連絡が入り、ドローする手を止めると驚くべき事実を告げられた。

 

『その男はあなた達が冬木で倒した男……間桐臓硯よ!!』

 

間桐臓硯……聖杯戦争を考案し、始めた者の一人で冬木ではその身を蟲に変えて生き続けてきた化け物である。

 

イシュタル……凛はマキリ・ゾォルケンの名前を聞いて急いでそのことを遊馬に伝えた。

 

「あの男が蟲ジジイの昔の姿!?」

 

「聖杯戦争を築いた最初の一人で桜を地獄に追いやった男……!!」

 

「サクラ……?ああ、あの娘か……」

 

マキリは桜の名前を聞いて知っているような口ぶりをした。

 

「お前、知っているのか……?」

 

「知っている……とは違うが、本当にあれは哀れな娘だ……」

 

「哀れだと……元々はてめえがやったことじゃねえか!何でだよ、あんたには成し遂げたい夢はねえのかよ!あんたには誰かを思いやる気持ちや大切な誰かとかいねえのかよ!!」

 

遊馬は何故そこまでマキリの心が歪んでしまったのか理解できず、人なら誰しも持つ思いを必死に問うた。

 

遊馬の真っ直ぐな熱い言葉にマキリは拳を握りしめて僅かな怒りを出しながら口を開く。

 

「無論。抗おうと試みた。だが、すべては無為と知った。私があまねく人々の救済を望んだとしても、既に人々の生きるはずの世界は焼却されている。過去も、現在も、未来も。我らが王は存在を許さないと決めてしまった──すべては未到達のまま滅びるもうこれ以上の無様を、これ以上の生存を見るのは飽きたと王は賜われた。ならば、最早……」

 

「諦めるんじゃねえ!!!」

 

「っ!?」

 

全てを諦めたマキリに対し、遊馬の怒号が地下空間に響き渡る。

 

「俺たちはこの世界の未来を守るために今まで戦ってきた!人理焼却をした奴の目的がなんだろうと、決して俺たちは最後の最後まで諦めたりはしない!」

 

威風堂々と立ち、絶望を感じさせないその姿。

 

その姿にマキリは希望という名の大きな火が灯されたように見えた。

 

「俺たちは必ずこの世界の未来を取り戻す!そして、この地を愛するアルトリアとブーディカとモードレッド達のためにも必ず、ロンドンを救う!!」

 

遊馬が拳を握りしめて決意を示したその時、デッキケースが勝手に開くと中から金色に輝くカードが出てきた。

 

「これは……アルトリアのフェイトナンバーズ?」

 

それはアルトリアのフェイトナンバーズで遊馬が手に取るとカードの金色の光がそのまま遊馬の右手に移って光を宿した。

 

「これは……」

 

右手に宿った光からヒシヒシと伝わってくる。

 

それは生前から想い続けてきたアルトリアのブリテンを守りたいという強い想い、そしてこの地に住む過去と現在と未来を生きる人たちの願いと祈りが込められていた。

 

「何だ……あの子供は……?」

 

マキリは遊馬のその強い心に困惑する。

 

何故この少年はこれほどまでに心を強くしていられるのだろうか?

 

既に終わっている世界の中でどうして希望の火を灯し続けることができるのだろうか?

 

マキリは困惑しながらも自分の役目を遂行する。

 

「……いいや、これ以上は言うまい。我らが王の力を以てお前達を消去する。破滅の空より来たれ、我らが魔神!!」

 

マキリの体に邪悪な黒い光が集まると、人の形から不気味な無数の目が連なる肉の柱の形をしたモンスターへと変貌した。

 

それは間違いなく遊馬達が特異点で戦ってきた魔神のモンスターだった。

 

「マキリ!?」

 

「七十二柱の魔神が一柱。魔神バルバトス──これが、我が悪逆の形である。我が王は、私の悪を『見出した』。人々を救わんとする私の中に潜む悪逆の醜さを。我が醜悪の極みを以てして──消え去れ、善を敷かんとするかつての私の似姿たち!」

 

マキリは自分にはあまりにも眩しく見える遊馬たちを葬る為に魔神となって襲いかかってきた。

 

すぐさま戦闘が始まるとサーヴァントたちは前に出て魔神バルバトスに攻撃を仕掛ける。

 

すると、アルトリアは遊馬に駆け寄った。

 

「マスター、私にやらせてください」

 

「アルトリア、行けるか?」

 

「はい。それに、桜は私の大切な人です。そして、桜を傷つけ、この地を滅ぼそうとしている奴を許す訳にはいきません!」

 

「わかった、頼むぜ!アルトリア!」

 

「はい!マスター!」

 

遊馬はアルトリアをフェイトナンバーズに入れる。

 

しかし、先程宿った右手の光……人々の願いと祈りが込められた光を力として形にするには遊馬だけでは制御しきる事は出来ないと直感し、アストラルに視線を向ける。

 

「アストラル!頼む、力を貸してくれ!」

 

「承知した。一気に全力で決めるぞ、遊馬!かっとビングだ!」

 

「ああ!かっとビングだぜ、俺!俺と!!」

 

「私で!!」

 

「「オーバーレイ!!!」」

 

遊馬とアストラルは右腕と左腕を交差させてそのまま腕を掲げ、二人は赤と青の光となって地下洞窟を駆け巡る。

 

「「俺達/私達、二人でオーバーレイ・ネットワークを再構築!!遠き魂が交わる時、語り継ぐべき力が現れる!!!」」

 

二つの光である遊馬とアストラルが一つに交わり、巨大な金色の『X』の光を描いてマシュたちの前に降臨する。

 

遊馬とアストラルの肉体と魂の全てが一つに交わり、ロンドンの地を救う希望の光が現れる。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

希望と絆の英雄……ZEXALの降臨にモードレッド達は驚愕する。

 

「はぁあっ!?ガキと精霊が合体したぁ!??」

 

「俺がジークフリートを憑依していた時とは違う……」

 

「人間と精霊が融合して全く違う存在になったのですか……!??」

 

「おかあさんがアストラルと一つになった……?」

 

「かっこいい……まるでお話に出てくる勇者様みたい……」

 

「これが異世界から来た世界を救う男と相棒の精霊の力か……面白い、実に面白いぞ!」

 

「なんと!?異世界から来た勇気ある少年が精霊と一つになるとは!これはまさに驚天動地の極み!!」

 

ZEXALの右手に先ほど宿った光を解き放つと大きな金色の輝きが放たれる。

 

「「ロンドンよ……ブリテンに住む全ての人々の願いよ、思いよ!今こそ無数の光を集め、騎士王に新たな力を授けろ!!」」

 

そして、ZEXALの力で周囲から数多の光の粒子が現れて右手に収束する。

 

「「全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!!」」

 

光り輝くデッキトップのカードを勢い良くドローし、ZEXALは不敵の笑みを浮かべた。

 

「来たぜ、アストラル!」

 

「ロンドンの全ての祈りと願いがこのカードに託された!」

 

「行くぜ、『ゴゴゴゴーレム』を召喚!更に手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚!レベル4のゴゴゴゴーレムとカゲトカゲでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ゴゴゴゴーレムとカゲトカゲが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「「誇り高き騎士の王よ、聖なる星の輝きを秘めた剣で常闇の未来を切り開け!!」」

 

光の爆発と共に金色の光が現れ、ロンドンを守る為に伝説の騎士王が顕現する。

 

「「現れよ!『FNo.39 円卓の騎士王 アルトリア』!!」」

 

金色の光の中から希望皇ホープのプロテクターと翼、そして二つの聖剣を携えたアルトリアが現れた。

 

「アルトリア、行くぜ!」

 

「これが君に与えられた新たな力だ!」

 

そして、ZEXALは先程シャイニング・ドローで手に入れた新たな力を使う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「魔法カード『宝具 - 約束された勝利の剣(エクスカリバー) -』を発動!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは光り輝く伝説の聖剣が描かれた魔法カード。

 

「父上の聖剣のカードだと!?」

 

モードレッドは約束された勝利の剣が描かれたカードと聞いて驚きを隠せない。

 

世界で一番有名な知名度を誇る聖剣……約束された勝利の剣。

 

人々の思いが込められたそのカードはアルトリアに究極の力を与える。

 

「「このカードは自分フィールドにアルトリアモンスターがいる時に発動可能!このターン、アルトリアは攻撃力と守備力を倍にし、オーバーレイ・ユニットを使う効果を発動条件を無視してノーコストで発動出来る!」」

 

全てのモンスターエクシーズの醍醐味であり、力の源でもあるオーバーレイ・ユニット。

 

新たな魔法カード、『宝具 - 約束された勝利の剣 -』はアルトリア限定であるが数多のモンスターエクシーズの強力な力を発揮するための力であるオーバーレイ・ユニットを使用せずに発動条件を無視して発動する。

 

特にアルトリアはオーバーレイ・ユニットを2つに加えて遊馬の手札を3枚も除外して消費するかなり重いコストであるが、このカードの効果によってそれが無くなるのだ。

 

アルトリアの体に膨大な魔力が迸り、モードレッドの眼には懐かしさと同時に畏れを抱いた。

 

「す、すげぇ……生前の、全盛期の父上並みのオーラを感じるぜ……」

 

アーサー王として、孤高の王として生きていた頃の最強の姿を彷彿とさせていた。

 

ZEXALはここで更にアルトリアの効果を発動し、その力を極限まで高める。

 

「「アルトリアの効果!ターン終了時までアルトリアの攻撃力を2倍にし、相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃できる!」」

 

両手に携えられた二つの聖剣……約束された勝利の剣と勝利すべき黄金の剣に膨大な魔力が込められて黄金に輝く極光が闇を照らしていく。

 

「アルトリアと約束された勝利の剣の効果と合わせて、今の攻撃力は2500の4倍だ!!」

 

「マキリ・ゾォルゲン……いや、魔神バルバトスよ!人々の願いが込められた10000の攻撃を受けるがいい!」

 

前に出て戦闘をしていたサーヴァント達は一斉に下がるとアルトリアは聖剣を振るう為に力を込めた。

 

「未来を切り開く、双つの輝ける星の剣!!」

 

強い意志が込められた瞳が輝き、極限までその力を高めた二つの聖剣を十字に交差して振り下ろす。

 

「「「双星煌めく勝利と黄金の剣(ダブル・エクス・カリバー)!!!」」」

 

十字に振り下ろされた二つの聖剣から闇を切り裂く極光が放たれる。

 

初めてアルトリアがフェイトナンバーズで戦った時の何倍にもなるほどの巨大な極光の輝きが地下空間を埋め尽くすほどに広がった。

 

あまりの眩しさにアルトリア以外の誰もが思わず目を覆ってしまうほどだった。

 

そして、眩い光が収まり、目を開くとそこには驚くべき光景が広がった。

 

「すげぇ……」

 

モードレッドは無意識に感嘆の声を出した。

 

アルトリアの放った聖剣の極光は強力な力を持つ魔神ですら一瞬で消滅させてしまった。

 

これが人々の願いと思いが込められた聖剣の力でもある。

 

「これが、父上のフェイトナンバーズ……!そして……」

 

モードレッドはアルトリアからZEXALに視線を変えてその姿を見つめた。

 

「ユウマとアストラル……二人が作り出した力……」

 

アルトリアの力を最大限以上にした遊馬とアストラルの奇跡の力に流石のモードレッドも認めざるをえなかった。

 

 

 

 




まだ第四特異点は終わりではないですよ(笑)
クライマックス感はすごいですがまだまだ続きます。

そして今回初の宝具魔法カードを出しました。
記念すべきはやはりアルトリアの聖剣じゃないといけませんよね。

宝具 - 約束された勝利の剣 -
通常魔法
自分フィールドに『アルトリア』Xモンスターがいる時に発動可能。
このターン、自分フィールドの全ての『アルトリア』Xモンスターはエンドフェイズ時まで攻撃力と守備力が二倍となり、エクシーズ素材を取り除いて使用する効果を発動条件を全て無視してそれぞれ一度ずつ発動することが出来る。
このカードはデュエル中、一度しか使用出来ない。

アルトリア限定ですがオーバーレイ・ユニットなどのコストを無視して発動出来るのは強いと思います。
今後もこう言う感じの宝具魔法カードを出していきたいです。

次回は雷電さんとゴールデンさんとキャス狐さんの登場になると思います。


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ナンバーズ89 轟く雷霆

少しずつ第四特異点なら終わりが近づいてきました。

これが終わったら監獄塔に入ると思います。


アルトリアのロンドンの想いを込めた約束された勝利の剣で魔神バルバトスを撃破し、戦いは終わったかに見えた。

 

後は魔霧の発生源であるアングルボダを破壊して停止させ、聖杯を回収するだけだった。

 

しかし、

 

「……もう、遅い。ロンドンに充ちた魔霧の量は……既に、充分に……」

 

「マキリ!?」

 

「魔神にされながらも生きていたか……だが、お前はもう我々に敗北した!諦めろ!」

 

マキリは魔神になり、約束された勝利の剣の極光を受けながらもなんとか生き延びていた。

 

「後は……さあ来たれ、我らが最後の英霊よ……我が悪逆、完成させるに足る……星の開拓者よ……!」

 

マキリはアングルボダに向けて呪文を詠唱し始め、アストラルは魔力が活性化されていることに気付く。

 

「っ!?遊馬!マキリはサーヴァントを召喚しようとしている!!」

 

「いい加減にしろぉっ!!マキリ!!」

 

ZEXALはジェットローラーを両足に出現させて起動し、右手を輝かせながらマキリに近づく。

 

「……汝、狂乱の檻に囚われし者……我はその鎖を手操る者──汝三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

「目を覚ませ、マキリ!鉄拳聖裁!!!」

 

ZEXALは光の拳でマキリの顔を思いっきり殴ったが、既に英霊召喚の呪文を完全に詠唱が終わってしまっていた。

 

「遊馬君、大変です!先ほどマキリが詠唱していた呪文の中に狂化をもたらす一文が入っていました!!」

 

「狂化だって!?それじゃあ……!」

 

「遊馬!アングルボダの魔霧の力が集中している、それに聖杯の魔力も……まずいぞ、遊馬!!このままだと魔力が爆発する!崩れるぞ!!!」

 

「ちぃっ!みんな、フェイトナンバーズに戻れ!!」

 

「ゆ、遊馬君!?アストラルさん!?」

 

ZEXALはマシュ達契約しているサーヴァントを全てフェイトナンバーズに入れ、デッキケースにしまう。

 

「モードレッド、来い!」

 

「はぁ!??」

 

ZEXALはマキリをモードレッドの元へ投げ飛ばすとデュエルディスクにセットしたデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!『レスキューラビット』召喚!効果で除外してデッキから『ちびノブ』2体を特殊召喚!!ちびのぶ2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

ZEXALは唯一契約していないモードレッドに駆け寄り、一秒よりも一瞬よりも早くエクシーズ召喚をする。

 

そして、英霊召喚により膨大な魔力が爆発し、衝撃波が発生して地下空間が崩れて瓦礫が降り注いだ。

 

そんな中……魔霧の中から新たなサーヴァントが召喚された。

 

弾けるような雷電を放ちながら現れたのは絶世の美男子だった。

 

「──私を、呼んだな。この私を。天才にして雷電たる、このニコラ・テスラを!!」

 

そのサーヴァント……ニコラ・テスラは自ら真名を明かし、まるで操られたように地下から地上に向けて移動した。

 

そして……それから一分後に瓦礫の中から蠢くものがいた。

 

『ホォープ……』

 

「ふぃっ……危なかったぜ。サンキュー、ホープ」

 

ZEXALは希望皇ホープをエクシーズ召喚し、そして希望皇ホープが自らを盾にして魔力爆発と瓦礫から遊馬達を守った。

 

「いてて……あれ?お前なんで合体が解けてるんだよ……?」

 

モードレッドはZEXALが遊馬とアストラルに戻っていることに驚いた。

 

「ZEXALは大きな衝撃を受けると合体が解けるんだ」

 

「それよりもあのサーヴァント……ニコラ・テスラと名乗っていたな。ニコラ・テスラはエジソンに並ぶ天才発明家だぞ……」

 

ニコラ・テスラ。

 

現在の主な電力システムである『交流電流技術』を実用化に導き世界に光をもたらした天才発明家。

 

「だからあんなに電気がバチバチ来てたんだな……とにかく急いで追いかけないと!みんな、行くぜ!」

 

遊馬はデッキケースを開いてマシュ達を出し、アストラルが状況を簡潔に説明する。

 

「その前に、こいつをどうする?斬るか?」

 

モードレッドは一緒に助けたマキリに向けてクラレントを構えていた。

 

マキリは困惑した表情で遊馬を見ていた。

 

「何故だ……何故、敵である私を助けた……?」

 

マキリは敵である自分を助けたことを信じられなかった。

 

普通なら見捨てるかすぐに始末するはずだが遊馬はそうとはしなかった。

 

遊馬はマキリに目線を向けずに静かに口を開いた。

 

「……あんたは自分に負けてアルトリアとモードレッド、そしてブーディカ達が大切にしているロンドンを消そうとした。そして、未来のあんたは俺の大切な妹……桜ちゃんを深く傷付けた。俺はあんたを絶対に許すわけにはいかない。だけどな……」

 

遊馬は真剣な眼差しでマキリを見下ろす。

 

そして、マキリの心を大きく揺さぶる言葉の刃を放つ。

 

「だからと言って、俺があんたを見殺しにする理由にはならない。そして、人はやり直すことができる。未来を変えることが出来る……だから、自分に負けるんじゃねえよ、マキリ」

 

遊馬の言葉にマキリは眼を見開いてその場に崩れ落ちた。

 

「……行こう、みんな」

 

「……おい、てめえ。今回はこいつに免じて見逃してやるが、次おかしな事をしたらその首を叩き斬るから覚悟しておけよ」

 

モードレッドはマキリに睨みを効かせながら今回ばかりは遊馬に免じて見逃し、ニコラ・テスラを追いかける。

 

かつてマキリは悪の根絶を目指し、正義と理想を抱いていた。

 

しかし、未来ではその想いは消え去り、不老不死という生への渇望のみとなってしまった。

 

それが自分よりも一回りも幼い少年……遊馬の持つまるで太陽のような光に照らされ、マキリは己の器の小ささや弱さに慟哭の嘆きを地下に響かせるのだった……。

 

 

地下洞窟から地下通路に向けて走り、遊馬達は地上に出ようとしているニコラ・テスラに追いついた。

 

「待ちやがれ、おっさん!!」

 

「来たか!未来へ手を伸ばす希望の勇者たち!残念ながら私は君たちと戦わねばならん!何せ、今の私という存在はそういう風に出来ている。それに、だ──折角の力ある現界だ。ならば、前々より想った事柄を実行に移そう」

 

ニコラ・テスラは雷電を放つと魔霧と一つになり、魔霧が周囲の魔力を吸収していく。

 

「曰く、これが魔霧の活性というものだ。サーヴァントの魔力際限なく吸い込もう!無論、私は例外だ!接近すれば、活性魔霧は君たちの魔力も吸収する!」

 

「だったら、サーヴァントじゃなくてこいつならどうだ!現れよ、希望皇ホープ!!」

 

遊馬がデュエルディスクを構えると希望皇ホープが姿を現わす。

 

サーヴァントではない魔力を有してない謎の戦士の登場にニコラ・テスラは困惑する。

 

「何だと……!?これはサーヴァントではない、そこの少年よ、君は何者だ!?そして、その隣にいる幽霊のようなものは何だ!?」

 

「俺は九十九遊馬!異世界から来たデュエリストだ!」

 

「我が名はアストラル世界の使者、アストラル!ニコラ・テスラ、あなたの暴走を必ず止める!遊馬!」

 

「おう!俺のターン、ドロー!カードを一枚伏せ、希望皇ホープで攻撃だ!」

 

この中で唯一ニコラ・テスラに接近出来る希望皇ホープはホープ剣を握りしめて斬りかかる。

 

「「ホープ剣・スラッシュ!!」」

 

ホープ剣は活性魔霧を斬り裂いて吹き飛ばした。

 

更にそのままホープ剣はニコラ・テスラの防具を一部破壊するのだった。

 

「……見事!まさか今の私にこれだけの一撃を与えるとは!」

 

ニコラ・テスラは希望皇ホープに賞賛を送ると右手を掲げる。

 

「ならば次は私の番だ……君たちに敬意を表して最初から全力を尽くそう!」

 

ニコラ・テスラかは膨大な雷電が轟き、大きな円環が出現した。

 

それはニコラ・テスラの『電気を人類に対してもたらす』という生前の大きな偉業と数々の超自然的な伝説による神秘が昇華された宝具だった。

 

「神の雷霆は此処にある……さぁ、御覧に入れよう!『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!」

 

円環から放たれた膨大な雷電が希望皇ホープに襲いかかる。

 

「遊馬!」

 

「分かってる!罠カード!『ハーフ・アンブレイク』!ホープを選択し、ダメージを半分にする!!」

 

遊馬はこのままでは希望皇ホープが破壊されると判断して戦闘破壊を防ぎ、ダメージを軽減するハーフ・アンブレイクを使い、シャボン玉が希望皇ホープを覆う。

 

しかし、雷電のあまりの威力に戦闘破壊を防いでいる希望皇ホープとマスターである遊馬とアストラルに大きなダメージを与える。

 

「「ぐぁあああああっ!??」」

 

「遊馬君!アストラルさん!」

 

マシュは遊馬とアストラルに駆け寄り、ふらふらになっている遊馬に肩を貸す。

 

「くっそぉ……ハーフ・アンブレイクでダメージを半分にしてもこんなに喰らうのかよ……」

 

「これが、ニコラ・テスラの……電気を世に広めた男の雷か……!破壊されなかったが、ホープにも雷のダメージが大きい……」

 

希望皇ホープはホープ剣を杖代わりにしてその場に膝をついている。

 

神の雷霆に等しいニコラ・テスラの雷電をその身に受けて装甲のあちこちが焼き焦げていたり破損したりしていた。

 

「ふはははは!よくぞ私の神の一撃を耐え抜いた、しかしもう諦めるがいい。流石に子供を手にかけるのは敵とはいえ気が引けるからな!!」

 

「負けるかよ……」

 

「ああ。我々は、負けない……」

 

「何?」

 

遊馬はマシュから離れ、アストラルは立ち上がる。

 

「この程度の雷がなんだってんだ……」

 

「ああ……神の雷がなんだと言うのだ……」

 

今までにない神の雷を繰り出すニコラ・テスラ相手に臆する事なく睨みつけて声を張り上げる。

 

「「俺達/私達は絶対に負けない!何度でも立ち上がる!!そして、お前/あなたに絶対勝つ!!!」」

 

遊馬とアストラルの諦めないかっとビング魂……その魂が希望皇ホープにも伝わり、真紅の眼を輝かせながら立ち上がる。

 

『ホォオオオオオオープ!!!』

 

未だに雷電が体に帯電しながらも堂々と立ち上がる希望皇ホープ。

 

すると、デッキケースが勝手に開いて先ほどのアルトリアの時と同じく一枚のカードが遊馬の前に飛び出す。

 

「ホープONEのカードが……」

 

それは一筋の光を照らす希望皇ホープの進化系の一つ、希望皇ホープONEのカードだった。

 

遊馬の人の心に宿る光を信じる強い心から生まれたカードから雷を帯びて何かを訴えかけていた。

 

「雷を帯びている……?」

 

すると、希望皇ホープONEのカードから白紙のモンスターエクシーズのカードが現れた。

 

「ホープONEから新しいカードが……」

 

「ニコラ・テスラの雷霆がホープに新たな力を生み出したのか……?」

 

遊馬は眼を閉じ、アストラルも眼を閉じてカードに触れると二人一緒にあるビジョンが映し出される。

 

それは荒れ狂う雷霆の中に輝く真紅の『39』の刻印。

 

両肩に二つの大剣を携えた純白と金色の鎧に身を包んだ戦士。

 

それは間違いなく新たな希望皇だった。

 

「これは……まさか!?」

 

ニコラ・テスラは今起きている現象を分析し、そして信じられないことが起きたのだと推測する。

 

「私の雷電が……あの戦士を倒すどころか、逆に雷神としての力を与えたと言うのか……!??」

 

「はっ、そりゃあ良いや……もっとかかって来い!ニコラのおっさん!幾らでもあんたの相手になるぜ!!」

 

「ふはははははははっ!面白い、何と面白い者達なのだ!このまま戦っていたいが、此度の余興はここまで!この天才は改めてロンドンの空は向かうとしよう。しかし、本来私は人類を愛する英霊でもある。地上へ出た後にこの雷電が向かう先は魔霧の集積地域、およそバッキンガム宮殿の上空だ」

 

「バッキンガム宮殿の上!?」

 

「まさか、そこであなたの雷電を放てばこのロンドンは……」

 

「その通りだ、魔霧は真なる活性状態となって全てを呑み込む──全てだ。そう、正しく言葉通りに万象をだ!不衛生な文明を破壊し、大地の虚飾を剥がし、この島の不可侵の雷電で焼き尽くす!」

 

「ふざけるな!そんなことを絶対にさせない!!」

 

「ならば、私を止めてみせろ!希望の勇者たちよ!新たな神話を以て新時代、新文明を築いたこの私、この新たなる雷の神と相対しようというのだ。ならば!更なる新たな神話の顕現を以て我が身を穿て!」

 

ニコラ・テスラは遊馬達が自分を止めてくれることを期待しながら地上へと出た。

 

「逃してたまるか!!」

 

「みんな、行くぞ!」

 

「遊馬君、大丈夫ですか!?あれだけの電気を受けて……」

 

「俺は大丈夫だ!今は早くニコラのおっさんを追いかけないと!みんなで守るんだ……ロンドンを!!世界の未来を!!」

 

遊馬は雷電と強い意志の影響で体内から大量のアドレナリンが出ており、体の痛みは麻痺されて興奮状態となっている。

 

今の遊馬を止められることはできないと察したマシュ達は一刻も早く戦いを終わらせるために急いで地上に出た。

 

地上に出てバッキンガム宮殿の方角に向かうと空に向けて紫電の階段が出来上がっていた。

 

それはニコラ・テスラが呼び出したもので、その階段を登りきったその時がロンドンの……世界の終焉の時である。

 

マシュ達は活性魔霧を操るニコラ・テスラに近づけばすぐに魔力を奪われて危険なので遊馬とアストラルの二人で向かう。

 

その時、天から金色の雷光が轟いた。

 

「雷電を、受けて輝く黄金(ゴールデン)──誰かがオレを呼びやがる。魔性を屠り、鬼を討てと言いやがる。うるせえなァ──うるせえうるせえ、耳元であれこれ言うんじゃねえ!いつだってオレァ、オレの斧を振るうまで!悪鬼を制し羅刹を殴り!──輝くマサカリ、ゴールデン!」

 

まるでヒーローショーに登場するヒーローの如く現れたのは金髪にサングラスをかけた筋肉ムキムキのヤンキーな青年だった。

 

「何だあのヤンキーな兄ちゃんは!?」

 

「サーヴァントにしてはいささか現代に近いな……何者だ?」

 

遊馬とアストラルはその風貌から現代に近い英霊だと推測するが、それは大きく外れることとなる。

 

「名乗りたくはねえが名乗らせてもらうぜ。英霊・坂田金時──只今ここに見参だ」

 

「「……はぁああああああ!??」」

 

ヤンキー姿のサーヴァントの真名を聞いた瞬間、遊馬とアストラルは驚愕のあまり驚きの絶叫を上げてしまった。

 

何故なら坂田金時は遊馬の故郷である日本出身の英霊である。

 

しかもそれは現代から約千年以上も前の平安時代に存在したとされる伝説の武士である。

 

決して現代風の金髪のヤンキーみたいな青年ではないはずだった。

 

そして、その隣には……。

 

「ここ、ロンドンで合ってますよね?霧の都ロンドン。ですよね?夢の二階建てバスはいずこ?大英博物館、時計塔、セント・ポール大聖堂はいずこ?」

 

呑気な様子をした大きな狐耳と尻尾を持ち、露出度の高い着物風の衣装を身につけた美女が立っていた。

 

「遊馬、あのサーヴァント……タマモキャットに似てないか?」

 

「顔とか確かに良く似てるな……ああもう!色々ツッコミどころ満載だけど今は置いておくぜ!」

 

遊馬はツッコミどころの多い二人のサーヴァントへのツッコミを抑えて駆け寄った。

 

「おいおい、ガキ!危ねえから下がってろ──その令呪、お前マスターか?」

 

金時はサングラスの奥の瞳が遊馬の令呪を見つけた。

 

「俺は九十九遊馬!こいつは相棒のアストラルだ!」

 

「ほう!ってことは俺と同郷か!!なかなか良い眼と髪をしてるじゃねえか!!」

 

金時は遊馬が同郷のマスターと知り、すぐに気に入って遊馬の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

すると、美女は不思議そうに遊馬とアストラルを見ると二人の中にあるものを見ると耳と尻尾をピンと立たせて驚いた。

 

「みみみ、みこーん!?あ、あなた達……!!」

 

「な、何だ……?」

 

「何か……?」

 

美女はうっとりするような顔をして遊馬とアストラルを見つめた。

 

「な、何と言うイケメン魂なのでしょうか!こんなにもイケメン過ぎる魂はご主人様以来です!しかもあれ?何で……えっ?でもこれは……」

 

うっとりからすぐに困惑した表情になりながら遊馬とアストラルを見比べている。

 

美女が見ていたのは顔や体ではなく遊馬とアストラルの中にあるものであり、それが普通では『あり得ない』ことに困惑しているのだ。

 

「……ところで、お姉さんは何者?」

 

「タマモキャットに似ているな……それに狐の耳と尻尾か……もしかしたら、伝説の九尾の妖狐、『玉藻の前』だったりしてな」

 

アストラルが何気なく言った答えだが……。

 

「みこーん!??なな、何故分かってしまったのですか!?私の真名を!??」

 

実はそれが正解だった。

 

玉藻の前。

 

平安時代末期に鳥羽上皇に仕えたとされる伝説の美女であり、白面金毛九尾の狐が化けたものであると言われた日本三大化生の一角である。

 

「嘘だろ!?お姉さんがあの伝説の九尾!??」

 

「まさか平安時代の武士と妖狐が揃うとは……」

 

「と、とにかく!ここに召喚されたならあいつ……ニコラのおっさんを止めに来てくれたんだろ!?」

 

「頼む、二人共。我々に協力してくれ!」

 

「おうよ!ゴールデンに任せてくれ!」

 

「仕方ありませんわ。ステキなイケメン魂のあなた達に免じて私の力をお貸ししますわ」

 

遊馬とアストラルは金時と玉藻の前と共にニコラ・テスラに最後の戦いを挑む。

 

 

 




ゴールデンと玉藻さん登場です!
二人共好きなキャラなので出せて嬉しいです。
それにしてもゴールデンはどうしてああなったのかやっぱり不思議で仕方ありません(笑)

玉藻さんは遊馬とアストラルをイケメン魂と認定しました。
まあ、二人はあれですから当然ですよね。

そして、ホープに新たな進化の兆しが……!
皆さんトラウマのあれですね(笑)

次回はニコラ・テスラとのラストバトルになります。


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ナンバーズ90 雷神降臨!希望皇ホープ・ザ・ライトニング!!

さあさあ!お待たせしました、最強の希望皇の降臨です!

感想欄に皆さんがトラウマを発狂していたのは予想外過ぎました(笑)
確かにこいつは強過ぎますからね。

私もデュエルでお世話になりました。


遊馬とアストラルは金時と玉藻と共に地上に雷電を導いた星の開拓者……ニコラ・テスラとの最終決戦に挑む。

 

「俺のターン、ドロー!来い、希望皇ホープ!!」

 

遊馬がドローし、デュエルディスクを構えると希望皇ホープが姿を現わす。

 

その金色と純白に輝くその姿に金時はテンションが上がった。

 

「おいおい、いいゴールデンじゃねえか!気に入ったぜ!」

 

しかしそれとは反対に希望皇ホープを凝視した玉藻は困惑した様子だった。

 

「これは……神霊にも匹敵する魂を秘めている使い魔……?」

 

希望皇ホープに宿る力に驚愕し、そしてそれを操る遊馬とアストラルは何者なのだろうかと疑問に思うのだった。

 

「それじゃあ俺も派手に暴れるぜ!来やがれ、『黄金喰い(ゴールデンイーター)』!!」

 

金時が出現させたのは雷神の力を宿した大きなマサカリだった。

 

((どうして日本出身なのにカタカナの真名で宝具を使える!??))

 

本来なら宝具は正式な真名を使うことでその能力を発動出来るのだが、明らかに金時の黄金喰いは真名が別にあると思われるのだが、何故か発動出来ている。

 

「オレが先陣を切る、遊馬はそれに続け!!」

 

「わ、分かった!カードを1枚伏せる!」

 

「行くぜ、ニコラ・テスラ!!派手な火花を散らそうぜ!!」

 

雷神の子として伝説がある金時は体から雷電を放出してニコラ・テスラに向かって攻撃する。

 

「人類神話・雷電降臨!!!」

 

ニコラ・テスラは円環を生み出して膨大な雷電を放つ。

 

「しゃらくせえ!黄金喰い!!」

 

金時は黄金喰いを振り上げると、ガコン!と何かを装填する音が響く。

 

黄金喰いの内部に雷を込めた15発のカートリッジが組み込まれており、そのカートリッジを3発使用するとニコラ・テスラの雷電に匹敵する膨大な雷電を纏う。

 

「吹き飛べ、必殺!『黄金衝撃(ゴールデンスパーク)』!!」

 

それは金時の宝具解放による必殺技。

 

黄金喰いから稲妻を放出し、ニコラ・テスラの雷電を全て薙ぎ払い、更に活性魔霧を吹き飛ばした。

 

「ば、馬鹿な!?この私の雷を超え、活性魔霧を吹き飛ばすとは!?」

 

「ぶち込め!!遊馬!!」

 

「おう!希望皇ホープの攻撃!!ホープ剣・スラッシュ!!」

 

厄介だったニコラ・テスラの雷電と活性魔霧を薙ぎ払い、希望皇ホープは眼を輝かせながらホープ剣を握りしめて斬りかかる。

 

「くっ!?ぐぉおおおっ!?」

 

ニコラ・テスラは雷電を放出しながら防御態勢を取り、そのままホープ剣に斬られてぶっ飛ばされてしまった。

 

「まさか……ここまでやるとは……!」

 

すぐに立ち上がったニコラ・テスラだが今度は右腕の手甲が破壊されてしまった。

 

「我が雷電の魔霧に招かれし人の英霊と異世界から訪れた勇者……共に人の希望を背負って立ち向かうか!だが、我が雷電を阻むことはない!!」

 

すると、ロンドン中に広がっている魔霧がニコラ・テスラに集まってきた。

 

「君たちは新たな神話を築かんとするが、哀しいかな不可能だ。何故なら、私は天才だ。何故なら、私は雷電だ。神とは――神とは何だ。そう、雷電だ。遥か古代より多くの人々がそう信じ、実際のところ……主神ゼウスや帝釈天の名を挙げずとも、確かに神ではあるのだろう。雷。空より来たる神なる力」

 

雷神は古来より世界各地で畏怖されてきた偉大なる存在。

 

そして、ニコラ・テスラは人類に電気文明を発達させた偉大なる英霊……人類の文明を発展させたことでその存在は正しく雷神といっても過言ではない。

 

「見るがいい。私が地上へ導いたこの輝きこそ、大いなる力そのものだ!新たなる電気文明、消費文明を導きしエネルギー! 旧き時代と神話に決定的な別れを告げる、我が雷電!其は人類にもたらされた我が光。さあ! 君たちにもご覧に入れよう!──『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!」

 

再び放たれた雷電に金時は黄金喰いを盾代わりにし、自身が雷電の使い手でもあるのでダメージはほとんどない。

 

しかし、雷電は希望皇ホープの効果を使っても防ぎきれないほど強力で遊馬はこの時のためにセットしたカードを使う。

 

「罠カードオープン!『ナンバーズ・ウォール』!ナンバーズは効果、及びナンバーズ以外の戦闘では破壊されない!!」

 

雷電が希望皇ホープに降りかかるが真紅の『39』の刻印が空中に輝き、雷電からの破壊を防ぐ。

 

「破壊は防いだか!だが、その戦士へのダメージは君達にも伝わるのだろう?」

 

「それくらいのダメージ、根性で耐えてやるぜ!!」

 

遊馬は足を開いて踏ん張ろうと体勢をとるが、そこに玉藻が呆れた様子で前に出た。

 

「全く……子供なのに無理しすぎですよ」

 

「玉藻さん?」

 

玉藻は日本の大昔にあるような不思議な鏡を出して光を反射させる。

 

「玉藻で結構ですよ!『水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)』!!」

 

鏡から放たれた光が遊馬とアストラルを包み込むと雷電のダメージを無くした。

 

「ダメージが無くなった?」

 

「玉藻、君の宝具で我々のダメージを打ち消してくれたのか?」

 

「私の宝具、大した使い方は出来ませんけど……今回は出血大サービスです!何やら色々消耗しているようですので回復させましょう!」

 

鏡の光が遊馬とアストラルに降り注がれると連戦に次ぐ連戦で消耗した力を回復した。

 

「すげぇ、体に力が湧いてくる……!」

 

「これは……我々の消耗した魂と生命力が活性化しているのか……!?」

 

「その通り!本来ならば使えない、没にしようかと考えていた宝具ですがお役に立てて光栄です!」

 

「サンキュー、玉藻!」

 

「感謝する」

 

「いえいえ、とんでもありません。でもどうしますか?あのイケメンさんの雷電、どんどん強くなりますし、このままだとジリ貧ですよ?」

 

「私に一つ考えがある」

 

「アストラル、何か思いついたのか?」

 

「ああ。遊馬、ホープONEを使うんだ」

 

「ホープONE?だけど、パンドラーズ・フォースがあいつに通用するか分からねえぜ。しかもあれは使ったら俺達のライフがヤバくなるし……」

 

希望皇ホープONEの効果、パンドラーズ・フォースは大量にいる敵……特に力の弱い敵が相手なら問題なくその力を発揮して全て破壊することが出来るが、その代わりに代償としてライフポイントが10になってしまう。

 

「いいや、ホープONEの効果を使わない。ホープONEでニコラと戦うんだ!」

 

「え?どういう事だ?」

 

「先程、ニコラ・テスラの最初の戦いの時に雷霆を受けて現れたカードはホープONEから現れた。つまりそれはホープONE……その先の更なる進化を意味している」

 

「そうか……じゃあホープONEで攻めて雷を受け続ければ……!」

 

「リスクは高いが我々の新たなランクアップを臨むことができる!」

 

「オッケー!アストラル、その賭けに乗るぜ!行くぜ、ホープ!!」

 

希望皇ホープはマスターである遊馬の声に反応して遊馬の前に降り立つと、デッキケースからランクアップの兆しを見せた光り輝くカードを取り出して希望皇ホープの上に重ねる。

 

「「希望皇ホープ、シャイニング・エクシーズ・チェンジ!!!」」

 

希望皇ホープから金色に輝く聖なる光が放たれ、光の姿へ進化する。

 

「「宇宙の秩序乱されし時、混沌を照らす一筋の希望が降臨する!見参!SNo39!!」」

 

金色の光が希望皇ホープを包み込むと細身の装甲、双翼が八つの翼となり、両刃の大剣を携えた光の戦士が降臨する。

 

「「『希望皇ホープONE』!!!」」

 

希望皇ホープONEが現れ、背中にある大剣を引き抜いて構える。

 

「こいつもまたいいゴールデンな奴じゃねえか!」

 

「姿が変わった!?どういう原理ですの!?」

 

「希望皇ホープONEで攻撃!!ホープ剣・シャイニング・スラッシュ!!」

 

希望皇ホープONEは雷電が降り注ぐ中、ニコラ・テスラに向かって飛翔し、ホープ剣を振り下ろす。

 

しかし、ニコラ・テスラは雷電を障壁のように放出して希望皇ホープONEの攻撃を防いで弾き飛ばす。

 

「先程から何を狙っているのだ、希望の勇者よ!」

 

「決まってるだろ、あんたに勝つためだ!」

 

雷電は着実に希望皇ホープONEに集まっており、アストラルはデッキケースを開いて先程現れたカードを取り出す。

 

白紙のモンスターエクシーズのカードに光が点滅して少しずつ真名やイラストが描かれているが、まだまだ使用できる状態ではなかった。

 

「まだか……」

 

「おい、アストラルって言ったか?よく分かんねえけど、それを使えるようにしたいんだな?」

 

「ああ。その通りだ、金時」

 

「オレのことはゴールデンと呼べ。なるほどな、ようはこいつに雷電を与えればいいんだな……それなら!!」

 

金時は黄金喰いを再び振り上げてカートリッジを装填させる。

 

「金時さん……じゃない、ゴールデン!何をする気だ!?」

 

「まさか……君の雷電を!?」

 

「オレの直感はよく当たるからな。お前たち二人ならなんとかしてくれるってな。だから、くれてやるよ……オレの全力!オレのゴールデンを!!」

 

カートリッジを3発使用した黄金喰いから再び膨大な雷電が迸る。

 

「受け取れ、ホープONE!!黄金衝撃!!!」

 

金時全力の黄金衝撃を希望皇ホープONEに向けて放った。

 

ニコラ・テスラと金時の雷電をその身に受け、希望皇ホープONEは全身に力を込めて吸収していく。

 

「遊馬!」

 

アストラルは右手を輝かせてカードを持ち、遊馬に向ける。

 

その行動の意味に瞬時に気付いた遊馬も右手を輝かせる。

 

「アストラル!」

 

遊馬も一緒にカードを持ち、二人の右手の光をカードに注ぐ。

 

「「かっとビングだ!!俺/私!!!」」

 

かっとビングと共に気合いを入れ、カードに全ての力を込める。

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!!」

 

「はぁああああああああああっ!!!」

 

点滅していたカードに真名とイラストが浮かび上がっていた。

 

『ホォオオオオオオオオープッ!!!』

 

希望皇ホープONEも遊馬とアストラルと同じように雄叫びを上げ、雷電をその身に取り込んで新たな姿へランクアップを目指す。

 

遊馬とアストラル、そして希望皇ホープONEの心が一つになった瞬間……モンスターエクシーズのカードに最高潮の光が輝き、真名とイラストが描かれて1枚のカードとして完成した。

 

「来たぜ……サンキュー。ゴールデン、玉藻。二人のお陰だ!」

 

「行くぞ、遊馬!かっとビングだ!」

 

「ああ!かっとビングだ、俺!!」

 

遊馬とアストラルは瞬時にそのカードのテキストを読み上げて掲げる。

 

「「このカードはランク4の希望皇ホープモンスターの上に重ねて、エクシーズ召喚することが出来る!!」」

 

それは希望皇ホープレイと希望皇ホープONEの召喚条件と同じだが、更に高みのランクへと進化していた。

 

「「希望皇ホープONE、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

希望皇ホープONEは金色の光となって天に昇り、光の爆発を起こして遊馬とアストラルの前に降り立つ。

 

「「一粒の希望よ!今、電光石火の雷となって闇から飛び立て!!」」

 

光の中から現れたのは闇を切り裂く希望の雷。

 

「「現れろ!!『SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング』!!!」」

 

雷電と共に姿を現したのは遊馬とアストラルが見たイメージと同じ、新たな黄金と純白の装甲に身を包み、両肩に二つの大剣を携えた新たな希望皇。

 

「最高にゴールデンだぜ……オレの直感は間違ってなかった!!」

 

「これはまさに雷神の力……!まさかこれほどの力を生み出すなんて……!」

 

金時は更に興奮し、玉藻は目の前で起きた奇跡に驚くしかなかった。

 

「まさか、本当に雷神の力を得て進化するとは……!素晴らしい!流石は希望の勇者、どこまでも私の想像を超えていくのだな!!」

 

ニコラ・テスラは希望皇ホープを雷神として進化させたことに驚きながらもその起こした奇跡に賞賛を送った。

 

「「希望皇ホープ・ザ・ライトニングでニコラ・テスラに攻撃!!」」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングはニコラ・テスラに向けて飛翔する。

 

「「この瞬間、希望皇ホープ・ザ・ライトニングの効果!このモンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない!!」」

 

「何だと!??我が雷電と魔霧を封じたと言うのか!??」

 

雷電と魔霧を封殺され、雷神としての力を発揮できないニコラ・テスラは困惑する。

 

これはデュエルとしてもあまりにも強力な効果だ。

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングが攻撃する時、あらゆるモンスター、魔法、罠を使用できなくなり、一方的な攻撃をすることが出来るのだ。

 

しかし、希望皇ホープ・ザ・ライトニングの効果はこれだけではなかった。

 

雷神の力を宿した希望皇ホープ・ザ・ライトニングは更にもう一つ、強力な効果を持っていた。

 

「「更に!希望皇ホープモンスターがこのカードのオーバーレイ・ユニットとなっている場合、バトル時にオーバーレイ・ユニットを2つ使い、ホープ・ザ・ライトニングの攻撃力を……5000にする!!」」

 

デュエルモンスターズ最強クラスのモンスターの称号とも言える攻撃力5000。

 

攻撃力5000のモンスターはデュエルモンスターズでも指で数えるほどしか存在しておらず、一時的だが希望皇ホープ・ザ・ライトニングはまさに神をも超える最強の攻撃を繰り出すことができる。

 

「「希望皇ホープ・ザ・ライトニング!ライトニング・オーバー・チャージ!!」」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングは両肩の大剣を引き抜いて両手で構えると2つのオーバーレイ・ユニットを刃に取り込ませ、その攻撃力を5000にまで上昇させる。

 

二つの大剣……ホープ剣から雷電が轟き、その輝きは世界を変えるほどの力を有していた。

 

「「希望の雷よ!新たな神話の扉を開き、その手に希望の光を掴み取れ!!」」

 

まさにその姿は世界各地の神話で語り継がれる雷神そのものだった。

 

「我が雷電を超えるか……貴様こそ、本物の雷神だな……」

 

ニコラ・テスラは希望皇ホープ・ザ・ライトニングの雷神としてのランクアップに満足したように手を下ろした。

 

「「ホープ剣・ライトニング・スラッシュ!!!」」

 

そして、希望皇ホープ・ザ・ライトニングの雷神の剣撃が轟き、ニコラ・テスラは撃墜されて地上に落ちる。

 

地上に落ちたニコラ・テスラは静かに立ち上がるが、既に体が光となって消滅し始めていた。

 

「はは……!ははは、はははははははははは……!私は紛うことなき星の開拓者なれば!真に、人類と世界の終焉など望むことはないとも。天と地の英霊は未だ以って邪魔ではあるが──世界の存続は我が雷電の文明の存続に他ならない! 礼を言おう、新たな神話を望む者ども!」

 

ニコラ・テスラは自分を打ち倒した遊馬達に再び賞賛の言葉を送った。

 

「希望の勇者たち!そして、雷神の希望皇よ!現代に於けるゼウスたる我が身をよくも斃した!なれば、素直に私は再び座へ戻るまで──はは!はははははははは!!それでは諸君、さらば!!」

 

マキリによって狂化に近いスキルを付与され人理定礎を破壊しようとした。

 

しかし、その本質は人類の未来を切り開く『星の開拓者』であり、本心から人類と世界の終焉を望むことはなかった。

 

ニコラ・テスラは新たな未来を切り開く希望の勇者たちの勇敢なる戦いの姿を見れて満足しながら消滅し、英霊の座へと帰って行った。

 

そして、ニコラ・テスラの消滅と共に現れたフェイトナンバーズを回収し、遊馬はフルフルと震え……。

 

「よっしゃあ!勝ったぜ、勝ったビングだ!!」

 

強敵、ニコラ・テスラを倒した勝利の雄叫びを上げた。

 

「遊馬君!アストラルさん!」

 

ニコラ・テスラを倒し、待機していたマシュ達が駆け寄って来た。

 

「やりましたね、遊馬君!アストラルさん!」

 

「フォウフォウ!」

 

「ああ!見てくれたか?俺たちの新しいホープ、希望皇ホープ・ザ・ライトニング!!」

 

「はい!とても凄かったです!!まるで神話に出でくる雷神が降臨したみたいで興奮しました!」

 

「ってか、そいつはどんだけ鬼畜効果なのよ!?バトル時に相手の効果を発動できなくて攻撃力を5000って強すぎじゃない!!しかも召喚条件が簡単すぎるし!!」

 

レティシアは希望皇ホープ・ザ・ライトニングの強すぎる効果にツッコミを入れまくった。

 

バトルにおいて最強クラスの能力を持つ新たな希望皇の登場に思わず頭を抱えるほどだった。

 

すると、モードレッドが無言で遊馬に近づくと希望皇ホープ・ザ・ライトニングを見上げ、フッと笑みを浮かべると遊馬の頭に手を置いた。

 

「えっ?モードレッド?」

 

「全くお前はオレの予想を超えすぎだぜ。これはいつまでもガキって言うわけにはいかないな……約束だ、オレと契約しようぜ?」

 

「それって、俺を認めてくれたってことか!?」

 

モードレッドはこの特異点で起こして来た様々な奇跡、そしてその勇敢にして慈愛のある心に遂に遊馬を認めたのだ。

 

「ああ!お前はすげえ奴だって認めてやるよ。遅くなっちまったが、よろしくな。ユウマ!」

 

「こちらこそ!よろしく頼むぜ、モードレッド!」

 

遊馬はモードレッドに認められ、とびっきりの笑顔を見せて握手を交わす。

 

握手を交わしたモードレッドは光となってフェイトナンバーズが現れ、正式に遊馬と契約を交わした。

 

フェイトナンバーズからモードレッドが出て来て空を見上げると、魔霧に異常が起き始めたのを見た。

 

「何だ……?」

 

アストラルも魔霧の異常に気付き、その中から膨大な魔力を感知した。

 

「遊馬、何かが来るぞ!」

 

「何かって……まさか!?」

 

バッキンガム宮殿の上空に集積した魔霧が集まっていき、魔力が迸る。

 

それは魔霧の中から現れるサーヴァント召喚の前触れであり、遊馬達は戦闘態勢を取る。

 

このタイミングで何が来るのか緊張する中……魔霧の中から召喚されたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?ち、父上……!?」

 

「私……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔霧の中から現れたのは漆黒の馬に乗り、その手には禍々しい棘のような長槍を持ち、漆黒の鎧に身を包んだアルトリアそっくりの美女だった。

 

それは『アーサー王伝説』の中であり得たかもしれないアルトリアの一つの姿。

 

万が一の偶然として発生した一つの可能性。

 

「馬鹿な……『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』!?」

 

アルトリアは長槍を見て目を疑う。

 

聖槍・ロンゴミニアド。

 

それはアルトリア……アーサー王の約束された勝利の剣と並ぶ伝説の聖槍。

 

そして、その聖槍を手に現れたのは『嵐の王』として顕現した存在。

 

その名は……『ランサー・アルトリア・オルタナティブ』。

 

ロンドンの地に新たな騎士王が現れるのだった……。

 

 

 




やっぱり希望皇ホープ・ザ・ライトニングは強すぎる!!
普通に神すら薙ぎ払えますからね。
レティシアのツッコミはもっともです(笑)

そして……ラストに登場しました、乳上ことランサー・アルトリア・オルタナティブ。

アルトリアさん……普通に成長すれば魅力的な女性になれたんですね。
これなら難なくエミヤさんを誘惑できますね(笑)

次回はモードレッドの試練となります。
モードレッドとアルトリアの親子の絆を書きたいですね。


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ナンバーズ91 王を討て!モードレッドVSランサー・アルトリア・オルタ!!

今回はモー君の試練です!
なんか個人的に過去作の因縁とか過去を乗り越える戦いって妙に感情移入しますね。
やっぱり燃える感じがビシバシと来ます。


ロンドン中の魔霧が収束して召喚されたのは漆黒の槍を持つアルトリアだった。

 

アルトリアが口にした『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』に聞きなれない名前に遊馬は首を傾げる。

 

「ロンゴミニアド……?」

 

「アーサー王が持っていたとされる槍だ。約束された勝利の剣に並ぶ伝説の武器だ。アーサー王物語では叛逆したモードレッドにアルトリアが約束された勝利の剣の代わりに使用したとされる……」

 

ロンゴミニアドはアーサー王……アルトリア生前最後の戦いで叛逆の騎士・モードレッドとの一騎打ちで使用した。

 

そして、互いに相打ちとなり、アーサー王物語の終焉を迎えたとされる。

 

すると、モードレッドはその時のことを思い出したのか若干体が震えながらも燦然と輝く王剣を構えて漆黒の槍を持つアルトリア……ランサー・アルトリア・オルタを睨みつける。

 

「父上よ……それほどまでにオレがこの国を救うことを許したく無いのか……?」

 

モードレッドは自分がロンドンを守るために戦っていることを許してくれないと思い込んでいた。

 

わざわざ生前の最後に自分を刺し殺した聖槍まで持ち込んで再び殺しに来たのだと思い込みが重なっていく。

 

「オレが憎いならそれでも構わない……だけど、オレはこの地を……ブリテンを守るためにあなたを、倒す!!!」

 

モードレッドはロンドンを守るためにランサー・アルトリア・オルタに戦いを挑もうとしたその時。

 

「──下がりなさい、モードレッド」

 

アルトリアがモードレッドを庇うように前に立ち塞がり、サーヴァント達が一斉にランサー・アルトリア・オルタと戦闘を開始した。

 

「ち、父上!?だけど、あいつはオレが──」

 

「モードレッド。私はもう……あなたを許しています」

 

「えっ……?」

 

アルトリアは生前のモードレッドが行った叛逆を許していた。

 

ブリテン崩壊のきっかけであるモードレッドは許されないことをしてしまった。

 

しかし、ロンドンで再会したモードレッドは叛逆精神……と言うより反抗期なところは残っていたが、騎士として人間として大きく成長していた。

 

「あなたは生前とは違う、人として誰かを思いやる優しい心に目覚めています。サーヴァントとしてではなく、一人の人間としてあの頃よりも大きく成長しています。だからこそ、もう二度とあの槍であなたに貫かせたく無い」

 

アルトリアは優しい目で見つめ、モードレッドの頭を撫でる。

 

それから振り向いて約束された勝利の剣を構える。

 

その後ろ姿にモードレッドは初めて自分を信じ、側に寄り添ってくれて最後まで共に戦ってくれた一人の男の姿が重なった。

 

「ま、待ってくれ父上!!」

 

「モードレッド?」

 

「頼む……オレに、オレに戦わせてくれ……!」

 

「モードレッド、ですからここは私に──」

 

「ここで怖気ついたらあいつに顔向けが出来なくなる!!」

 

「あいつ……?」

 

「オレの……聖杯大戦で共に戦ったマスターだ。そいつは……オレを信じてくれて、悩みを聞いてくれて、死ぬ最期の時まで一緒に戦ってくれた最高のマスターだ。オレにとっては『オヤジ』みたいな存在なんだ……」

 

「オヤジ……ですか……」

 

モードレッドが他人に対して初めて大きな信頼を寄せることができた人間。

 

聖杯を手に入れることは出来なかったが、最後まで戦い続け、二人共納得のできる最後を迎えた。

 

「オレはあいつに……獅子劫にたくさんの大切なものを教えてもらった。あいつのお陰でオレは変わることが出来た!だからこそ、オレは過去の自分を乗り越えたい!そして……ロンドンを守る為に必ずあの父上に勝って、その勝利をみんなに捧げたいんだ!!」

 

歪みのない真っ直ぐで真剣な瞳……その瞳にアルトリアは軽くため息をついて折れた。

 

「……分かりました。ですが、もしもあなたが──」

 

「その必要は無いぜ!必ず勝ってくるからさ!」

 

「モードレッド!」

 

「ユウマ?な、何だ?」

 

遊馬から何かを投げ渡され、キャッチしてそれをよく見るとそれは何かのキーだった。

 

そして、遊馬の隣には一台のバイクが止められていた。

 

「このバイクを使え。相手は馬に乗ってるからな!」

 

それはダ・ヴィンチちゃんが制作した遊馬のバイク、エクストリームバイクだった。

 

「アルトリアが前にバイクに乗ったことがあるって言ってたからさ。もちろん、モードレッドも乗れるよな?」

 

わざと挑発するように尋ねる遊馬にモードレッドはあえてその挑発に乗って不敵の笑みを浮かべた。

 

「ハッ!当然だ、遠慮なく借りるぜ!!」

 

モードレッドはバイクの運転の邪魔になる鎧を消し、露出度のある軽装となってバイクに乗り込み、キーを差し込んでエンジンを掛ける。

 

燦然と輝く王剣を右手に構え、左手でハンドルを握ると遊馬は令呪が刻まれた右手を掲げる。

 

「令呪によって命ずる!モードレッド、過去の己と亡霊を乗り越え、新しい自分へとかっとビングだ!!」

 

令呪によってモードレッドに膨大な魔力が与えられる。

 

遊馬はモードレッドへの信頼の証と勝利を信じて令呪を使った。

 

モードレッドは舌打ちをしそうになったが素直にその気持ちを受け取った。

 

「余計な事を……!だが、その命令……了解した!!行くぜ、アーサー王!!!」

 

モードレッドはフルスロットルでバイクを走らせてランサー・アルトリア・オルタに突撃する。

 

「オラオラ!どけどけどけぇっ!死にたくなかったら下がれやぁっ!!」

 

とても騎士とは思えない荒っぽい台詞にサーヴァント達は一斉に下がり、ランサー・アルトリア・オルタとの生前以降の一騎打ちが始まる。

 

ランサー・アルトリア・オルタは漆黒の愛馬……ラムレイの手綱を操り、ロンドンの地を駆け抜け、その後をバイクに乗るモードレッドが追う。

 

馬とバイクの違いがあるが、騎馬対決となり、あっという間に二人の姿が見えなくなってしまった。

 

「ちょっ!?見えなくなっちまったけど、どうするんだ!??」

 

「遊馬、飛行船だ。魔霧が薄くなった今なら使える!」

 

「よっしゃ!来い、かっとび遊馬号!!」

 

魔霧の影響でかっとび遊馬号を使用することができなかったが、魔霧のほとんどを吸収したランサー・アルトリア・オルタの召喚によってかっとび遊馬号を呼び出すことが出来た。

 

遊馬達はかっとび遊馬号の船内に入り、初めて乗るルーラー達は困惑する中、アストラルは飛行船のコンピュータを操作してロンドンを疾走するモードレッドを探す。

 

バイクで走るモードレッドはすぐに見つかり、アーサー王が乗っていたとされる名馬・ラムレイに乗るランサー・アルトリア・オルタと並列して疾走していた。

 

アーサー王物語の伝説の剣と槍の激しい攻防が繰り広げられ、強い火花と衝撃波が散る。

 

モードレッドは初めて乗るバイクでの戦闘だが、直感スキルで最善の攻撃を常に導いて繰り出していく。

 

しかし、ランサー・アルトリア・オルタが持つ聖槍……最果てにて輝ける槍の加護によって大きな幸運が与えられ、戦況はモードレッドが少しずつ不利になっていく。

 

そして何より問題なのはモードレッドが乗っているバイクが故障しかけていることだった。

 

モードレッドは舌打ちをし、ランサー・アルトリア・オルタから大きく距離を取ってからバイクを止めて向き合う。

 

「チッ……脆いバイクだ。そう長くは走れねえな」

 

バイクのエンジンから黒い煙が出ており、モードレッドの言う通り長くは走れない。

 

そもそもエクストリームバイクはダ・ヴィンチちゃんが遊馬のために作ったもので、レイシフト先のあらゆる過酷な環境下でもしっかり走れるようにと、かなり頑丈に作られている。

 

ちょっとやそっとの派手な運転では壊れることはないのだが……モードレッドの僅か10分近くの運転で既に半壊状態となってしまった。

 

簡単に言えば……モードレッドの運転がおかしいのだ。

 

モードレッドの持つ騎乗スキルはBでかなり高いのだが……運転があまりにも雑で乗り物が耐えきれないのだ。

 

モードレッドの聖杯大戦でのマスターでさえ耐えられる乗り物は戦車しかないと嘆いて言うほどだった。

 

戦いの決着は次の攻防で決まる……モードレッドは燦然と輝く王剣の切っ先を後ろに向ける。

 

「見ていてくれ……獅子劫。あの時の最後の令呪……今再び、もう一度王を討つ!!!」

 

モードレッドの魂、記憶に刻まれた元マスター……獅子劫の令呪が更なる奮い立たせて力を高める。

 

バイクをフルスロットルで走らせると同時に燦然と輝く王剣の切っ先から魔力を放出してジェットエンジンのようにバイクのスピードを限界を超えて高める。

 

ランサー・アルトリア・オルタは漆黒の聖槍……最果てに輝ける槍から眩い閃光を放つ。

 

「突き立て!喰らえ!十三の牙!」

 

召喚されてから終始無言で戦っていたが、宝具の真名解放でようやく言葉を発した。

 

攻撃が来ることを分かっていたモードレッドは臆することなく解除していた鎧の宝具『不貞隠しの兜』を纏う。

 

そして……聖槍を持つランサー・アルトリア・オルタの宝具が解放される。

 

「『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』!!!」

 

漆黒の聖槍から解き放たれた光は敵であるモードレッドを喰らい尽くす為に獣のごとく渦巻いた。

 

竜巻状の光がモードレッドとバイクを呑み込む。

 

聖槍の光を真正面からまともに受け、モードレッドは消滅したとランサー・アルトリア・オルタは勝利を確信した。

 

次の瞬間。

 

グサッ!!

 

「──っ!??」

 

聖槍の光の中から赤黒い光が飛び出し、それがランサー・アルトリア・オルタの右肩に突き刺さり、激痛が走る。

 

何が起きたのか分からないランサー・アルトリア・オルタは自分の右肩に突き刺さったものを凝視した。

 

それは自分が所有していた武器庫の中に保管されていた王位継承権を示す剣、燦然と輝く王剣だった。

 

そして、燦然と輝く王剣に続くように聖槍の光の中から一つの影が飛び出す。

 

「ウォオオオオオオオオオ──ッ!!!」

 

雄叫びを轟かせ、ヒビ割れた鎧が崩壊し、拳を構えたモードレッドが現れる。

 

「喰らえっ!!!」

 

魔力放出によって強化された右拳のパンチがランサー・アルトリア・オルタの左頬を捉え、そのまま殴り飛ばしてラムレイから遠くへ飛ばした。

 

殴り飛ばされたランサー・アルトリア・オルタは最果てに輝ける槍は何とか握りしめていたが、右肩に刺さった燦然と輝く王剣は殴られた時の衝撃で離れて地面に突き刺さる。

 

「どうだぁ!!」

 

モードレッドは限界を超えた加速で突進力を得たバイクと不貞隠しの鎧で防御力を固め、最果てに輝ける槍の光を見事に突き破った。

 

燦然と輝く王剣を投げ飛ばし、そして魔力を込めた拳の一撃でランサー・アルトリア・オルタに大きな痛手を与えた。

 

しかし、バイクも鎧もどちらも大破して使えなくなり、モードレッドに残された武器は燦然と輝く王剣のみとなってしまった。

 

更にモードレッドの魔力も限界に近づいてきており、恐らくは次の一撃で最後となる。

 

モードレッドは地面に突き刺さった燦然と輝く王剣を取り、刀身から赤雷を輝かせて走り出す。

 

モードレッドに付けられた傷から流れる血を拭い、立ち上がったらランサー・アルトリア・オルタは既に距離を縮めているモードレッドに真名解放をする余裕は無いと判断し、同じく走り出して最果てに輝ける槍を突き出す。

 

最果てに輝ける槍の鉾先がモードレッドの心臓に向けられ、モードレッドの脳裏に生前の最期の一時がフラッシュバックする。

 

まさに生前の最期の一騎打ちの再現……あの時は相打ちで倒れた。

 

モードレッドにとっての大きなトラウマが蘇るがそれを埋め尽くすように多くの人たちの姿が脳裏に次々と映し出された。

 

自分を初めて信じてくれた獅子劫、この特異点で出会いと再会した仲間達、その勇敢な生き様を認めた遊馬、そして……生前と違い自分を真っ直ぐに見てくれた最愛なる父上。

 

今のモードレッドは生前のあの時とは違う。

 

多くの人達との出会い、大切な人と重ねた言葉、そして戦ってきた強敵との交えた剣がモードレッドを成長させていた。

 

「オレは、もう負けねえ!!!」

 

自分の為だけでなくこの国と世界を守り、大切な人たちのために戦うモードレッドは絶対に負けない意思を力に変えた。

 

モードレッドは体を捻り、最果てに輝ける槍をギリギリで回避し、露出した肌と服を傷つけながらランサー・アルトリア・オルタの間合いに入る。

 

「ウォオオオオオオオオオッ!!!」

 

雄叫びと共に足を大きく踏み込み、燦然と輝く王剣を切り上げた。

 

「──っ!!???」

 

燦然と輝く王剣は最果てに輝ける槍を持つランサー・アルトリア・オルタの右腕を斬り落とし、最果てに輝ける槍は宙を舞って地面に突き刺さる。

 

モードレッドは燦然と輝く王剣を両手で持ち、持てる全ての魔力を込めて赤雷を轟かせる。

 

「我は王に非ず、その後ろを歩むもの。彼の王の安らぎの為、あらゆる敵を駆逐する!」

 

それはモードレッドが聖杯大戦で辿り着いた自身の本当の望み。

 

愛する王……父・アルトリアの安らぎの為、王の抱える重荷を共に背負わんとする意思の表れ。

 

そして、モードレッドの新たな未来を切り開く一撃!

 

「『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!!」

 

振り下ろされた燦然と輝く王剣から天を貫くほどの赤雷が解き放たれ、為す術のないランサー・アルトリア・オルタは赤雷に呑み込まれて消滅した。

 

戦闘が終わり、今までに無い達成感にモードレッドは呆然とする。

 

「……勝った……?」

 

聖槍を持つアルトリア……ランサー・アルトリア・オルタに勝利した。

 

ロンドンを守ると同時に越えたい存在だったアルトリアに勝利することができ、歓喜で体が震えてきた。

 

「やった……勝てた……聖槍を持つ父上に……!!ウォオオオオオオオオオ──ッ!!!よっしゃあああああああああああ──っ!!!」

 

モードレッドは歓喜の雄叫びを空に向けて轟かせる。

 

ところが、急に体の力が一気に抜けてフラフラとなる。

 

「あ、あれ……?体の力が……?」

 

魔力を極限まで使い、戦いの緊張感の糸が切れ、モードレッドは後ろに倒れてしまう。

 

すると……。

 

「全く、戦いの直後に気を抜くなどまだまだですね……」

 

飛行船から急いで降りたアルトリアは倒れるモードレッドを受け止めてその場に静かに寝かせる。

 

「父、上……」

 

「モードレッド、すぐにマスター達が来ます。あなたの治療と魔力を回復させたら聖杯を取りに行きましょう」

 

「うん……父上、その……」

 

「あなたの戦いは騎士らしくない荒っぽい戦いでしたが……よく勝利しましたね。よくやりましたね、モードレッド」

 

「……おう!」

 

モードレッドはアルトリアに褒められて満面の笑みを浮かべ、遊馬達が回復してくれるまで目を閉じて休む。

 

一方、アルトリアはあるものに静かに近付いた。

 

それはモードレッドがランサー・アルトリア・オルタの右腕を斬り落とした時に飛んで地面に突き刺さった最果てに輝ける槍だった。

 

ランサー・アルトリア・オルタが消滅した事で右腕も消滅し、宝具である最果てに輝ける槍も消滅するが、その前にアルトリアが持ちあげた。

 

「何故、最果てに輝ける槍が……」

 

最果てに輝ける槍を持つ自分が存在したことと、何故漆黒に染まっているのかと深い疑問を持った。

 

アルトリアはセイバークラスであるが最果てに輝ける槍を持って懐かしくなり、思わず生前と同じように構えてその場で軽く振ってみた。

 

「ふぅ……えっ?」

 

最果てに輝ける槍を手放そうとしたその時、闇のように染まっていた漆黒が剥がれていくように少しずつ白くなった。

 

禍々しい棘も消え、槍全体が混じり気のない美しい純白の聖槍へと姿を変えた。

 

「これは……まさに私が使っていた最果てに輝ける槍……!!」

 

それはアルトリアが生前に約束された勝利の剣の代わりに使用していた純白の光を放つ『最果てに輝ける槍』だった。

 

すると、最果てに輝ける槍から聖なる光の粒子が溢れるとそれがアルトリアの中に入っていき、アルトリアが一瞬だけ光を放った。

 

「これは一体……!?」

 

そして、最果てに輝ける槍は静かに消滅し、アルトリアの手から完全に消えてしまった。

 

アルトリアは胸に手を当てて目を閉じると自分の中に最果てに輝ける槍の光が宿っているのを確かに感じた。

 

「聖槍の光が私の中に……」

 

何故最果てに輝ける槍の光が自分の中に宿ったのか不明だが、それは決して自分に悪影響を与えるものではないとアルトリアは直感した。

 

「……信じてますよ、最果てに輝ける槍」

 

アルトリアはかつて共に戦った最果てに輝ける槍を信じ、遊馬達の元へ戻る。

 

最果てに輝ける槍の謎の光をその身に宿したアルトリア。

 

それは……そう遠くない未来にアルトリアに大きな変化を与えるのだった。

 

 

 




モー君、乳上に見事勝利!
ただし遊馬君のバイクが見事に大破(笑)
王を討ては獅子劫さんの最後の令呪などを踏まえてみました。

ラストに起きた最果てに輝ける槍の謎の現象……アルトリアに謎のフラグが!?
オリジナリティを少しでも出すために何かないと思っていたら何かが舞い降りました(笑)

次回はいよいよ黒幕との初めてのエンカウントですね。
ここでは私なりの……と言うかZEXAL?のオリジナリティを出したいと思います。


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ナンバーズ92 魔術王顕現!

遂に来ちゃいました、ラスボス降臨です。
こいつの絶望感半端ないですよね。
ラスボス的にはドン・サウザンド以来の衝撃でした。



ランサー・アルトリア・オルタと激闘を繰り広げ、満身創痍となったモードレッドは駆けつけた遊馬と玉藻が回復系カードと水天日光天照八野鎮石で魔力を回復させていく。

 

アストラルは消滅したランサー・アルトリア・オルタのフェイトナンバーズを回収し、遊馬のデッキケースにしまう。

 

「遊馬君、あれどうしましょう……」

 

「フォウ……」

 

マシュとフォウはランサー・アルトリア・オルタとの戦闘で大破したエクストリームバイクを見て呟く。

 

「あちゃあ……こいつはもうダメだな……」

 

完全に大破してパーツがバラバラで破壊されており、もはや動かすことや修理すら出来ない状態だった。

 

「まぁ貸したのは俺だからな……ダ・ヴィンチちゃんには後でちゃんと謝るか……」

 

貸したのは遊馬自身だったので責任を持って遊馬がダ・ヴィンチちゃんに謝罪することにした。

 

魔力を回復させて動けるようになったモードレッドは晴れ晴れとした笑顔で立ち上がった。

 

「よーし!それじゃあ聖杯を取りに行こうぜ!!」

 

「機嫌良いな、モードレッド」

 

「当然だぜ!俺は聖槍を持つ父上に勝ったんだからな!つまり、俺は父上を超え──」

 

「ほぅ、モードレッド……騎士が調子に乗るとは良い度胸ですね……?ここは一つ教育的指導が必要ですか……?」

 

アルトリアは調子に乗るモードレッドに制裁を下す為に恐ろしい笑みを浮かべながら右手の指をパキポキと鳴らしてアイアンクローの準備をする。

 

「ギャー!?ち、父上ごめんなさい!もう言わないから許してぇ!!」

 

頭がヒビ割れそうになるほどの強力なアイアンクローの恐怖が蘇り、モードレッドは遊馬の後ろに隠れた。

 

「まぁまぁ、アルトリア。モードレッドは頑張ったんだからさ」

 

「いいえ、マスター。この子はすぐに調子に乗りますから徹底的に教育的指導をしないといけません!この子はまだまだですから厳しく行きます!」

 

手をグッと握りしめて決意を固め、これからもどんどんモードレッドに『親』として厳しく接していくつもりのアルトリアの姿に遊馬とモードレッドは戦慄する。

 

「うわぁ……アルトリア、うちの姉ちゃんみたいに怖ぇ……」

 

「ううっ、獅子劫の優しさが恋しくなるぜ……」

 

何だかんだでアルトリアに弱いモードレッドは涙を呑んだ。

 

魔霧が薄れているのでかっとび遊馬号で元の地下通路への入り口まで向かい、そこから再びアングルボダの聖杯を回収しに向かった。

 

地下通路を歩きながら一緒について来た金時と玉藻に人理焼却やカルデアの事情を説明する。

 

二人は未来を救うという大きな重みをその小さな背で背負う遊馬の心意気を認め、契約する事にした。

 

契約した金時と玉藻の現れ、また新たな仲間との絆の証であるフェイトナンバーズが生まれ、遊馬は満足気にデッキケースにしまった。

 

契約したのは良いが、玉藻はアンデルセンを見ると嫌な表情を浮かべ、またアンデルセンも玉藻に対して毒舌を吐きまくる。

 

どうやら二人はどこかの聖杯戦争で面識があるようだった。

 

雑談しながらようやく地下洞窟に到着し、目の前に広がる巨大蒸気機関アングルボダを見て遊馬は当たり前な疑問を投げかける。

 

「これ……どうやって中から聖杯を取り出す?ってかどこに組み込まれてるんだ?」

 

「そうですね……ここは行き当たりばったりで見つけるよりも、カルデア管制室に任せてサーチしてもらった方が良さそうですね」

 

「そうだな、サンキュー、マシュ。あーあー、カルデア管制室、どこに聖杯があるかサーチを頼むぜ」

 

D・ゲイザーでカルデアと連絡をし、管制室にいるオルガマリーから返信が来る。

 

『了解したわ。すぐに解析を始めるわ。もう大きな敵はいないからあなた達は休んでいて……待ちなさい、何よこの反応は……!?』

 

「所長?」

 

『みんな、気をつけて!地下空間の一部が歪んでいるわ!何かがそこへ出現します!サーヴァントの現界とも違う不明の現象よ!警戒して!!』

 

カルデアで感知した謎の反応にオルガマリーは必死の警告をする。

 

D・ゲイザーを装着した遊馬とマシュはその言葉に驚愕し、すぐに仲間達に伝える。

 

「みんな!気をつけろ!何かヤバいのが来るかもしれねえ!」

 

「皆さん、迅速な戦闘準備を!!」

 

遊馬とマシュが大声でサーヴァント達に警告すると一斉に反応して宝具を構え、戦闘態勢を取る。

 

『何よこれ……レイシフトに似ている?そんなはずはない、カルデア以外にこの技術は無いはず……』

 

「……遊馬」

 

「ああ……感じるぜ。場を支配するような大きな気配が……!」

 

遊馬とアストラルは似たような感覚を思い出し、遊馬はすぐにデュエルディスクを構えてデッキから5枚ドローする。

 

そして、空間が開くと中から人影が出て来た。

 

暗くてその姿が見えない中、その人影から声が響く。

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国神祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ 多少は使えるかと思ったが──小間使いすらできぬとは興醒めだ。下らない。実に下らない。やはり人間は、時代を重ねるごとに劣化する」

 

人間を否定するかのような言葉を発し、マシュは全身に寒気が走り、体が震えていた。

 

「マシュ、俺たちの後ろに下がってろ」

 

「この桁違いの魔力量……そして場を支配するかのような気配……まさに神に等しき存在か、もしくは神そのものだな」

 

遊馬とアストラルは精神を強く奮い立たせ、謎の存在から発せられる気に飲み込まれないようにした。

 

『遊馬!マシュ!何があったの!?状況を説明して!』

 

謎の存在により通信が音声だけとなってしまい、オルガマリーは必死に呼びかける。

 

「ほう。私と同じく声だけ届くのか。カルデアは時間軸から外されたが故、誰にも見つけることの出来ない拠点となった。あらゆる未来──全てを見通す我が眼ですら、カルデアを観る事は難しい。だからこそ生き延びている。無様にも。無惨にも。無益にも。決定した滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海にただよう哀れな船だ」

 

そして、人影に光が差し込み、その姿がはっきりと見えて来た。

 

それは王のような気品のある衣装に身を包み、左右の10本の手の指に不思議な金色の指輪をはめた男だった。

 

「それがお前たちカルデアであり、九十九遊馬とアストラルという個体。燃え尽きた人類史に残った染み。私の事業に異なる世界から訪れた、私に逆らう愚者の名前か」

 

あまりの強いオーラにマシュ達は息を飲むが、遊馬は一歩の大きな踏み込みをして指差をする。

 

「──てめえが、人理を焼却した黒幕だな!!」

 

「レフの言っていた王は貴様の事だな。何者だ!」

 

「ん?何だ、既に知り得ている筈だが?そんなことも教わらねば分からぬ猿か?だがよかろう、その無様さが気に入った。聞きたいのならば応えてやろう。我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、王座より人類を滅ぼすもの」

 

そして……遂に人理焼却の黒幕の真名が判明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

「ソロモン……!??」

 

「伝説の魔術師にして古代イスラエルの王……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアで魔神柱の名前からして黒幕がソロモンの名前が挙げられたが、あり得ないとその可能性を捨てたがまさか本当にソロモンだとは思いもよらなかった。

 

「ハッ、そいつはまたビッグネームじゃねえか。するってーと何だ。テメエもサーヴァントな訳か?英霊として召喚され、二度目の生とやらで人類滅亡を始めたってオチか?」

 

モードレッドはソロモンがどこかのマスターに召喚されて人理焼却を行なったのかと推測をした。

 

「それは違うな。ロンディニウムの騎士よ。確かに私は英霊だが、人間に召喚されることは無い。貴様ら無能どもと同じくらいと考えるな。私は死後、自らの力で蘇り、英霊に昇華した」

 

自ら蘇り、英霊となった……それは本来ならあり得ない事態である。

 

英霊とは多大な功績を挙げ、人でありながら精霊の域にまで達した存在。

 

死後は『英霊の座』と呼ばれる場所へと招かれるのだ。

 

「英霊でありながら生者である。それが私だ。故に、私の上に立つマスターなどいない。私は私のまま、私の意思でこの事業を開始した。愚かな歴史を続ける塵芥──この宇宙で唯一にして最大の無駄である、お前たち人類を一掃する為に」

 

「ふざけるな!てめえがどれだけ大きな力を持つ存在でも、そんなことをする権利なんてない!!」

 

「それを言うなら元々貴様も人類の一人に過ぎない筈だ。まるで、その言い方は貴様自身が『人類以外の存在』だったようだな」

 

アストラルの鋭い指摘にソロモンは興味深そうに見つめてニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ほう……異世界の精霊、アストラル。貴様はなかなか優秀だそうだな。貴様に問おう。何故そんな人間の子供の側にいる?人間は死を克服すらできない知性体だ。にも関わらず、死への恐怖心を持ち続けた。死を克服出来ないのであれば、死への恐怖は捨てるべきだったと言うのに。死を恐ろしいと、無惨なものだと認識するのなら、その知性は捨てるべきだったのに!無様だ。あまりにも無様だ!!アストラルよ、こちら側に来い。貴様のような人類を超えた素晴らしい存在なら喜んで迎え入れよう」

 

ソロモンはアストラルを気に入り、仲間へ引き入れようとしていた。

 

アストラルは軽く目を閉じてから静かに開き、鋭い眼差しでソロモンを睨みつけて口を開く。

 

「どうやら、貴様自身が何も知らない愚者のようだな」

 

「何……?」

 

「貴様は人類が、人間が死を克服すら出来ない存在だと言ったが、生きとし生けるものが死を克服出来ないのは当たり前の事だ。命は……小さくても一つの命が次の命へと受け継がれ、それが未来へと繋がっていく。無限に繋がる命と命を結ぶ鎖……それがあったからこそ貴様自身もこの星で一つの命として生を受けた!それすら分からないほど愚かなのか!!」

 

一つの命から無限に広がる命と命の鎖、それが続いたからこそ地球という星に住む人間を含むたくさんの生き物たちが増えていった。

 

かつてソロモンも同じように大昔に一人の人間として生まれ、生きていたはずである。

 

それなのに何故世界を滅ぼそうとするのかアストラルは理解出来ず、一つの仮説を立てた。

 

(恐らくは人間では無い何か別の存在が今のソロモンに人理焼却をさせているに違いない!必ず突き止めてみせる!)

 

アストラルの熱い言葉に触発され、遊馬もソロモンに向かって堂々と思いを乗せた言葉を投げかける。

 

「未来は無限の可能性を秘めているんだ。例えてめえが人類のほとんどを滅ぼしたとしても、まだ俺たちがいる!!俺とアストラル!マシュとフォウ!オルガマリー所長とロマン先生!カルデア職員のみんな!そして……俺たちに力を貸して共に戦ってくれる英霊たち!俺たちが必ず希望と言う名の未来を取り戻す!!」

 

遊馬とアストラルの体から輝く希望の光……その光にソロモンは僅かな苛立ちを見せるとそこにまた一つの影が現れた。

 

「……我が王よ」

 

「マキリ!?」

 

それは遊馬達に敗れ、そして救われたマキリだった。

 

「マキリ……負けておめおめと私の前に顔を出すとは何事だ。もしもまだ戦う気力があるのならまた魔神柱を貸してやろう。それでこいつらと遊んでやれ」

 

「……お断りする」

 

「何?」

 

「私は……この少年に光を見た。例え私の未来が無駄なものだとしても、この少年になら私の願いを託せる。人類の、この世の悪の廃絶を……!」

 

「──下らぬ」

 

次の瞬間、マキリはソロモンの手から放たれた槍のようなもので心臓を貫かれた。

 

マキリの胸から大量の血が流れ、ソロモンは蔑むような目で見つめた。

 

「やはり貴様も同じように無駄な存在だったな」

 

あまりの一瞬だったので遊馬達は反応することが出来ず、マキリがその場に倒れてようやく反応出来た。

 

「──あっ……マキリ!!!」

 

遊馬は急いでマキリに駆け寄って体を抱き起した。

 

「マキリ!おい、マキリ!しっかりしろ!!」

 

遊馬は必死にマキリを呼びかけ、玉藻は水天日光天照八野鎮石で回復させようとしたが、既に手遅れで無言で首を振る。

 

マキリは最後の力を振り絞り、遊馬の手を強く握って口を開く。

 

「ツクモ……ユウマ……頼む、未来を……救ってくれ……!」

 

「マキリ……ああ、任せてくれ!」

 

「それから、サクラに……すま、な、い、と……」

 

遊馬に世界の未来を託し、まだ見ぬ孫である桜に謝罪をすると同時に力尽き……命を落とした。

 

敵とはいえ心変わりをしたマキリに遊馬は目を強く閉じて体が震えた。

 

震える手でマキリの目を閉じ、静かに地面に寝かせると遊馬は目に浮かんだ涙を拭いながら立ち上がる。

 

そして……。

 

「ソロモン……お前だけは、お前だけは絶対に許さねえ!うぉおおおおおおおーっ!!!」

 

怒号を轟かせ、遊馬は悲しみからの怒りを爆発させながらデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!自分フィールドにモンスターがいない時、手札から『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚!更に『ガガガマジシャン』を召喚!!」

 

遊馬のマキリを思うが故の行動にアストラルも覚悟を決めて共に行動する。

 

「遊馬……行くぞ、遊馬!」

 

「おう!レベル4のフォトン・スラッシャーとガガガマジシャンでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

フォトン・スラッシャーとガガガマジシャンが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きると光の剣士が駆けつける。

 

「「現れよ、No.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!『希望皇ホープ』!!」」

 

希望皇ホープが現れると同時に遊馬はデッキケースから手に入れたばかりの新たな力を使う。

 

「「そしてこれが、ホープの新たな力!希望皇ホープ!ランクアップ・シャイニング・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

希望皇ホープは金色の光となって天に昇り、光の爆発を起こし、遊馬とアストラルの前に大きな光の塊が降り立つ。

 

「「一粒の希望よ!今、電光石火の雷となって闇から飛び立て!!」」

 

光の中から現れたのは闇を切り裂く希望の雷。

 

「「現れろ!!『SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング』!!!」」

 

闇を切り裂く雷電を放出しながら現れたのは時代を変える雷神の力をその身に宿した新たな希望皇。

 

「ほぅ……」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングの降臨にソロモンは思わず声を漏らした。

 

雷神へと進化した希望皇ホープにソロモンは腕を組んで静かに見つめていた。

 

「「希望皇ホープ・ザ・ライトニングでソロモンに攻撃!!!」」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングは地を蹴り、ソロモンに向けて飛翔する。

 

「「この瞬間、希望皇ホープ・ザ・ライトニングの効果!このモンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない!!」」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングの体から雷電を放出して地下空間を埋め尽くした。

 

ソロモンは体に違和感を覚え、手をかざすが魔術を使えなくなってしまった。

 

「これは……」

 

強力な魔術師であるソロモンであろうとも希望皇ホープ・ザ・ライトニングが攻撃する間に魔術を使えなくし、これで一方的な攻撃出来る。

 

「「更に!希望皇ホープモンスターがこのカードのオーバーレイ・ユニットとなっている場合、バトル時にオーバーレイ・ユニットを2つ使い、ホープ・ザ・ライトニングの攻撃力を5000にする!ライトニング・オーバー・チャージ!!」」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングは両肩の大剣を引き抜いて両手で構え、2つのオーバーレイ・ユニットをそれぞれの刃に取り込ませてその攻撃力を5000にまで上昇させる。

 

魔術を封じられ、攻撃力5000の強力な攻撃がソロモンに襲いかかる。

 

「「喰らえ、ソロモン!!ホープ剣・ライトニング・スラッシュ!!!」」

 

一瞬でソロモンの間合いに入り、希望皇ホープ・ザ・ライトニングはホープ剣を振り下ろした。

 

これでソロモンを倒せる……マシュ達は期待を抱いた。

 

遊馬とアストラルもこれで決まった……そう確信した。

 

そして、ソロモンは澄ました表情で俯いた。

 

「見事な力だ……だが──」

 

バリィン!!!

 

ホープ剣がソロモンに触れようとした瞬間、刃が粉々に砕かれてしまった。

 

「えっ……?」

 

「何……?」

 

呆然とする遊馬とアストラルに対し、ソロモンは再び凶悪な笑みを浮かべた。

 

「全ては無駄な足掻きだ!!!」

 

次の瞬間、希望皇ホープ・ザ・ライトニングの体全体にヒビが入り、粉々に爆発して破壊された。

 

「ホープ!?ぐぁあああああっ!??」

 

「ば、馬鹿な……ライトニングがあんな簡単に……」

 

神をも打ち倒す事が出来る雷神の希望皇が破壊され、遊馬とアストラルはライフポイントに大ダメージを与えられながら吹き飛ばされる。

 

「遊馬君!アストラルさん!!」

 

「フォウフォーウ!」

 

マシュとフォウは遊馬とアストラルに駆け寄り、マシュは遊馬を支える。

 

「何で……希望皇ホープ・ザ・ライトニングが……」

 

「分からない……一体何が起きたのか……」

 

遊馬とアストラルは希望皇ホープ・ザ・ライトニングに何が起きたのか全く理解出来なかった。

 

それをソロモン自らが答えた。

 

「確かに貴様らの使い魔は見事な力を持つ。だが、攻撃する前に魔術をかけさせてもらった」

 

「魔術を!?し、しかし、そんなモーションは一度も……」

 

魔術を行うには何らかのモーションが必要になる。

 

呪文を詠唱するなり、魔力が込められた媒体を構えるなりと何らかの動きが必要となる。

 

しかし、見たところソロモンは呪文を詠唱する為の口を開かず、ただその場に立っているだけで希望皇ホープ・ザ・ライトニングに攻撃されるまで何もしていなかった。

 

「簡単な話だ……私は『視線を合わせる』だけで魔術を使えるのだ」

 

衝撃の事実に遊馬達は言葉を失う。

 

視線を合わせただけで魔術を使うなどあまりにも規格外過ぎる。

 

つまり、ソロモンは希望皇ホープ・ザ・ライトニングに視線を向けているだけで破壊させるだけの強力な魔術を仕込んでいたという事だ。

 

「くそっ……何て奴だ……!ドン・サウザンドを思い出すぜ……!!」

 

あまりにも圧倒的な力を持つソロモンに遊馬の脳裏に世界を滅亡させかけた邪神、ドン・サウザンドの姿が頭に浮かんだ。

 

「だが、我々は諦めるわけにはいかない……!」

 

「ああ、そうだな……アストラル!」

 

遊馬とアストラルは諦めずにその場で立ち上がる。

 

遊馬が新たな一手を打つ為にデッキからドローしようとしたその瞬間……。

 

「あっ、がっ、ぐぁあああああっ!??」

 

「遊馬!?うっ、ぐっ、あぁああああああっ!??」

 

突如、遊馬とアストラルの体全体に不気味な文字がぎっしりと刻みこまれ、体にとてつもない激痛が走る。

 

あまりの激痛に立ち続ける事ができずに二人はその場に崩れ落ちる。

 

「私を楽しませた礼だ。貴様ら二人に呪いを掛けさせてもらった」

 

「の、呪い!?」

 

「永遠に苦しむがいい。人理が終わるその時まで……無限に続く苦しみがお前達二人を蝕む」

 

「そんな……」

 

「フォウ……」

 

「「あぁああああああああああーっ!!!???」

 

遊馬とアストラルは共に激痛による絶叫を上げると、突如二人の胸から大きな闇が噴き出した。

 

「な、何!?」

 

「フォウ!??」

 

マシュとフォウは困惑し、アルトリア達も何が起きているのか理解できなかった。

 

「……何だ?」

 

そして、ソロモン自身も呆然とした。

 

ソロモンは遊馬とアストラルの魂に直接打ち込むように心身を苦しませる為の呪いの魔術を使ったが、二人から闇が噴き出す謎の事態に少なからず驚いていた。

 

闇が噴き出し、遊馬の首にかけてある皇の鍵の紐が切れ、宙を舞って地面に落ちる。

 

遊馬は体の自由が効かない中、全ての力を左腕に込めて動かし、左腰に装着したデッキケースを外してそのまま投げ飛ばした。

 

「マシュ……頼む、デッキケースを……!」

 

「遊馬君……!」

 

マシュは遊馬の考えをすぐに理解し、デッキケースを回収した。

 

契約した英霊の力と異世界の力が融合して誕生したフェイトナンバーズが入ったデッキケースを失わない為にマシュに託したのだ。

 

「遊馬……くっ!」

 

それを見たアストラルは右手に一枚のカードを取り出して投げ飛ばし、光を帯びながら地面に突き刺さった。

 

そして、噴き出した闇は遊馬とアストラルを包み込むとそれぞれ黒が混ざった赤と青の光となって天に昇る。

 

「まさか!?」

 

それはマシュが何度も見てきた遊馬とアストラルの奇跡の力。

 

本来なら相容れない種族の異なる二人の肉体と魂を一つに合体させ、奇跡の存在へと進化する。

 

しかし、今回のそれは今までとはまるで違い、マシュはこれまでにない程の大きな不安に襲われる。

 

二つの光が一つに重なり、降臨すると光の中から闇の波動が解き放たれる。

 

「「エクシーズ・チェンジ……」」

 

そして……現れたのは邪悪なる漆黒の闇を纏い、残虐な表情を浮かべる……ZEXALだった。

 

「「DARK ZEXAL!!!」」

 

それはZEXALであってZEXALではない、望まれずに生まれてしまった存在である。

 

「DARK……ZEXAL……?」

 

「フォ、フォウ……」

 

それは……絆と希望の英雄が望まぬ力によって闇に堕ちた姿。

 

ひたすらに力を求め、破滅の道を進む闇の存在。

 

DARK ZEXAL。

 

あり得ない……まさかの事態にマシュ達だけでなくカルデアも驚愕して言葉を失っていた。

 

今まで多くの奇跡を起こして人とサーヴァントを救ってきたカルデアの最後の希望であるマスターである遊馬とアストラルが闇に堕ち、絶望の未来がすぐそこまで待ち受けていた。

 

しかし、絶望の中には常に希望の光が存在する。

 

それはアストラルが先程投げ飛ばした一枚のカード。

 

それこそが最後の希望のカードだった。

 

そして、その希望のカードを手にするのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マシュさん、フォウちゃん、それとみんなは下がっていてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界にて希望の戦士の戦いを長い間、見守っていた少女。

 

「え!?あ、あなたは……!」

 

「フォウー!?」

 

戦場に現れたのは遊馬やアストラルのようにデュエリストとしても、マシュ達のように魔術や英霊の力も何も持ってない一人の少女。

 

「こ、小鳥さん!?」

 

「フォフォウ!?」

 

闇に呑み込まれた遊馬とアストラルを救う為……自ら構築したデッキをセットしたデュエルディスクとD・ゲイザーを装着した小鳥が現れた。

 

「遊馬とアストラルは……私が必ず助けます!」

 

世界の未来を救う最後の希望は一人の少女の愛と勇気に託された

 

 

 




遊戯王恒例の主人公闇堕ち……DARK ZEXAL降臨!!
DARK ZEXALはこのタイミングでしか無いと思い出しました。
カルデア最後の希望が闇堕ちとか絶望の未来しか見えませんね。

ちゃっかり爆殺されたホープ・ザ・ライトニング……ごめんよ。

そして……闇に堕ちた遊馬とアストラルを救うため、小鳥ちゃんが登場!
次回は皆さんお待ちかねのデュエルをします!
DARK ZEXAL VS小鳥!
主人公とヒロインのデュエルとなります。
遊馬とアストラルを救う鍵はアストラルが投げ飛ばした一枚のカードとなります。
あまり長いデュエルじゃないですが、頑張って書きます!


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ナンバーズ93 希望の乙女と希望の守り人

初めてのデュエル回です。
と言ってもそこまでたいした内容ではないです。
デュエル描写って難しいです。


ソロモンの呪いの魔術により遊馬とアストラルは暴走する闇の戦士……DARK ZEXALへと合体してしまった。

 

そもそも何故遊馬とアストラルはDARK ZEXALへと合体してしまったのか?

 

元々DARK ZEXALは遊馬とアストラルがベクターとデュエルをした際になった存在だ。

 

遊馬はベクターに騙されていたが、大切なアストラルを守るためとはいえ数々の隠し事や嘘をついていた。

 

その事が逆にアストラルに遊馬への不信感を募らせてしまった。

 

更にベクターはアストラルに対して遊馬を本当に信じているのかと揺さぶりの言葉をかけ、アストラルに『悪の心』を植え付けたのだ。

 

悪の心に支配され、暴走したアストラルは遊馬と強制的に合体し、DARK ZEXALへとなったのだ。

 

今回はソロモンの呪いの魔術によって遊馬とアストラルに宿る『悪の心』と『カオス』が増幅されて強大な『闇』となって暴走してしまった。

 

そして、遊馬とアストラルの意思に反して互いに惹かれ合うように一つとなり、ZEXALではなくDARK ZEXALへと合体してしまった。

 

一方、遊馬とアストラルを救う為にカルデアから小鳥が来たのだが、どうやって来たのかと言うと、その答えは一つ。

 

カルデアにあるコフィンに乗り込んでレイシフトをしたのだ。

 

小鳥は遊馬が特異点でレイシフトをしている間は食堂ではなく管制室にいることが多く、いつもモニター越しに見守っていた。

 

しかし、遊馬とアストラルがDARK ZEXALになってしまい、小鳥は居ても立っても居られずにすぐに行動を起こした。

 

幸いすぐ近くに桜や凛とデュエルするために置いてあったデュエルディスクにデッキをセットし、D・ゲイザーを左眼にセットすると小鳥はオルガマリーに懇願した。

 

「オルガマリー所長、私を遊馬達の元へレイシフトさせてください!」

 

「小鳥さんが!?馬鹿を言ってはいけません、一般人のあなたに危険な真似をさせるわけには行きません!行くならマスター適性がある私が行きます!」

 

オルガマリーは元々レイシフトをする為のマスター適性が無かったが、一度体を失ってからZEXALの力で復活したことでマスター適性を手に入れることができた。

 

カルデアにいるサーヴァントを引き連れてレイシフトを行おうとしたが、小鳥は引き下がらなかった。

 

「私にもマスター適性はあります!」

 

実は小鳥がカルデアに来たばかりの頃に検査を受けた際にマスター適性が備わっていることが判明した。

 

一般人でありながらマスター適性があるのは遊馬とアストラルの戦いを一番側で見続けた数多の力の波動を受けた影響による魂と肉体のランクアップが原因だと思われる。

 

「それに、現状でDARK ZEXALとなった遊馬とアストラルを救えるのは私しかいないんです!他のサーヴァントの皆さんではきっと無理です!お願いします、オルガマリー所長!!」

 

オルガマリーはカルデアの所長として必死に状況を整理し、一番の解決策を模索した。

 

マスター代理として自分が向かうより……誰よりも遊馬とアストラルの事を理解し、そして異世界にて世界の命運を賭けた戦いを二人の側で戦いを見守り続けていた小鳥なら何かを起こせるのではないか?

 

あまりにも分が悪い賭け……下手をすればDARK ZEXAL自身の手で小鳥を殺められる可能性もある。

 

暴走した状態で愛する人を殺める……そんな事が起きれば仮に助かったとしても遊馬とアストラルは絶望してしまう……。

 

しかし、小鳥の眼には恐れは一切存在しておらず、その強い眼にオルガマリーは唇を噛み締める。

 

まただ……また私は、自分ではなくこんなにも幼き子供に重い運命を背負わせてしまう。

 

カルデア所長というあまりにも重い責務がオルガマリーに辛い決断を迫らせる。

 

オルガマリーは爪を手に食い込ませ、カルデア所長としての指示を下す。

 

「わかりました……小鳥、すぐに遊馬とアストラルの元へ、向かいなさい!!」

 

「はい!!」

 

小鳥は強く頷き、決意を固めてコフィンに乗り込んだ。

 

コフィンに乗り込んだ小鳥にカルデア管制室はすぐにレイシフトを始めた。

 

初めてのレイシフトに体調を崩しそうになる小鳥は我慢し、特異点であるロンドンへとレイシフトする。

 

カルデア管制室の尽力により小鳥はロンドンの地下洞窟へとピンポイントにレイシフトを成功させた。

 

小鳥はソロモンの放つ大きな気に呑み込まれそうになったが、それをグッと堪えて堂々と歩いた。

 

「小鳥さん……」

 

「フォウ……」

 

「大丈夫です、マシュさん、フォウちゃん、後は私に任せてください」

 

「待って、小鳥!あなたが戦うなら私たちが──」

 

ブーディカ達がDARK ZEXALを止めようとしたが、小鳥は手を出して静かに制した。

 

「ブーディカさん。今の遊馬とアストラルを止められるのは私しかいません。デュエリストを止められる方法はデュエルしかありません」

 

「デュエルで?」

 

「はい。DARK ZEXAL、私とデュエルよ!」

 

小鳥がデュエルディスクを構えるとDARK ZEXALは静かにデュエルディスクを構える。

 

「「良いだろう……我とデュエルだ!!」」

 

DARK ZEXALは小鳥のデュエルの挑戦に応じた。

 

闇に堕ちたとはいえ、DARK ZEXALも一人のデュエリスト。

 

デュエルを申し込まれたのなら例え神と呼ばれる存在でもデュエリストとしての本能として受けるのは必然である。

 

小鳥は地面に落ちている皇の鍵を拾い、切れた紐を結んで首にかける。

 

そして、もう一つ……地面に突き刺さった紫色に輝くカードを見つける。

 

「これが……アストラルが残したカード……」

 

少なくとも希望皇ホープやフェイトナンバーズではないことはすぐにわかった。

 

もしも希望皇ホープやフェイトナンバーズならあれほどまでに不気味な輝きを放っていないはずだからだ。

 

「もしかして、私が知らないナンバーズ……?」

 

その可能性が特に大きく、アストラルが残したのだから何か大きな意味のあるナンバーズだろうと推測出来る。

 

「これが私に残された最後の希望……」

 

唾を飲み込んだ小鳥は恐る恐るそのカードを手に取った。

 

カードに指先が触れた瞬間……紫色の輝きが小鳥の体に流れ込んだ。

 

「あっ、くっ、あぁあああああっ!??」

 

カードから流れ込む未知なるエネルギーに小鳥は絶叫を上げる。

 

「小鳥さん!?」

 

「こ、来ないでください……私なら、大丈夫……!!」

 

小鳥は胸を強く押さえて体に流れ込むエネルギーに耐える。

 

ナンバーズは持つ者の心の闇を増幅させる力を持つ。

 

遊馬や異世界の力を持つ人間なら問題なく使用することが出来るが、小鳥に耐えられる力はない。

 

ただし、小鳥が首にかけてある皇の鍵はナンバーズの心の闇の増幅を抑えることが出来るのだが、それでも小鳥は心の闇に呑まれそうになっていた。

 

それは小鳥の持つそのナンバーズは特別な意味を持っていたからだ。

 

小鳥の右手の甲にナンバーズの刻印が浮かび上がり、その数字に驚く。

 

「ナンバーズ……98!?」

 

それはナンバーズの中で特に重要で大きな力を持つ『No.100』と『No.99』の次の数字の刻印を持つ『No.98』。

 

もちろん『No.98』のナンバーズは見たことはなく、まだカードは紫色に輝いていてどんなカードなのか判明出来ていない。

 

このままではデュエルで使用することは出来ない、どうすれば良いのかと思っていると皇の鍵がキランと輝く。

 

緑の宝玉から黒い粒子が出てくると小鳥の前に一つの人型へと集まる。

 

「あ、あなたは……No.96!?」

 

「よう、こうして話をするのは初めてだな?小鳥ちゃんよぉ!」

 

それは皇の鍵の中の異空間で封印されているはずのNo.96……ミストラルだった。

 

「あなた……どうして!?アストラルが封印したって……」

 

「そのアストラルがあんな無様な姿になっちまったからな。封印が解かれちまったのさ」

 

アストラルが遊馬と合体してDARK ZEXALになった事で封印の力が解かれてしまい、ミストラルが自由の身となってしまったのだ。

 

「そんな……こんな時に……」

 

小鳥は更に状況が悪化したことに恐怖で体が震え始めた。

 

このままでは遊馬とアストラルを救うことが出来ない……そう思ったが、ミストラルは予想外の行動を取った。

 

「ふん……No.98か……」

 

ミストラルが手を小鳥に向けてかざすと、『No.98』のエネルギーを小鳥から吸収した。

 

エネルギーが軽くなり、皇の鍵の力で更に中和された事で小鳥の心と体が楽になった。

 

「どうして……?」

 

「小鳥、お前はあのDARK ZEXALとデュエルをするつもりか?」

 

「え、ええ……」

 

「それなら俺様が力を貸してやるよ」

 

「ええっ!?」

 

ミストラルが力を貸すと言われ、驚く小鳥。

 

何を企んでいるのかと疑うが、ミストラルはDARK ZEXALを見つめて静かに語り出す。

 

「……今ここであの二人に消えてもらったら困るんだよ。俺様が答えを見つけるためにな」

 

「答え……?」

 

「俺様はまだ答えを見つけていない。自分が何をしたいのか、世界でどう生きるのか……」

 

『お前さ、ドン・サウザンドの一部じゃなくて、自分の存在を示したかった……生きたかったんじゃないのか?』

 

遊馬にその言葉を言われてからずっと考えていたが未だにその答えを見つけられていない。

 

その答えを見つけるためにもミストラルにはまだ遊馬とアストラルの存在が必要なのだ。

 

小鳥はミストラルの言葉に自分を騙そうとしていない、本当に自分に力を貸してくれるのだと感じた。

 

「……分かったわ、あなたの力を貸して!」

 

「ああ。まずはDARK ZEXALに大きな一撃を叩き込め!」

 

「ええ!待たせたわね、DARK ZEXAL!!」

 

小鳥は『No.98』をポケットに入れてデュエルディスクを構えてデッキからカードを5枚ドローして手札にする。

 

DARK ZEXALもデュエルディスクを構え、同じく5枚ドローして手札にする。

 

互いの準備が整い、デュエリストの戦いの宣言をする。

 

「「「デュエル!!!」」」

 

遂に小鳥とDARK ZEXALのデュエルが始まった。

 

「私の先行よ!私のターン!」

 

小鳥は先行を取り、デッキトップに指を置いた。

 

すると、そこからドローする事ができずに指が震えてしまう。

 

それもそのはずである。

 

小鳥は遊馬とアストラルの命を賭けたデュエルをほぼ全て間近で見てきた。

 

一度だけバリアンに洗脳されて意識はほとんどない状態で遊馬とデュエルをした事があるが、本気の命を賭けたデュエルは初めてである。

 

しかも今回は一番大切で大好きな遊馬とアストラルが相手で暴走状態のDARK ZEXALになっているとは言え、世界最強クラスのデュエリスト。

 

デュエルを始めたばかりで初心者に近い小鳥が勝てるかどうかは確率はあまりにも低い。

 

そんな小鳥にミストラルは目を閉じて口を開く。

 

「そんな事で勝てると思っているのか?やらないなら俺様が代わりにやってやろうか?」

 

ミストラルも当然デュエルをする事ができ、恐怖で怯えている小鳥の代わりを名乗り出た。

 

そんなミストラルの言葉は小鳥には励ましの言葉に聞こえ、小鳥は首を左右に振る。

 

「ううん、私がやる。遊馬とアストラルはいつも私を守ってくれた。どんなに恐ろしい敵が相手でも、後ろにいる私を気遣ってくれていた……」

 

小鳥は遊馬とアストラルのデュエルを側で見てきて一般人で力もない少女なので、デュエル中でも遊馬とアストラルは小鳥が傷つかないように気を配っていた。

 

しかし、遊馬とアストラルにとって小鳥は大きな心の支えであり、小鳥がいたからこそ遊馬とアストラルは最後まで戦い続ける事が出来た。

 

「だから……今度は私が遊馬とアストラルを助ける!かっとビングよ、小鳥!ドロー!!」

 

小鳥は決意を固めてドローし、デュエルを始める。

 

6枚となった手札を見て、アストラルが残したカードの召喚条件を確認する。

 

「これなら……行けるわ!」

 

「ほぅ……中々いい手札じゃないか。小鳥!」

 

「まずは永続魔法カード『神の居城 - ヴァルハラ』を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札から天使族一体を特殊召喚出来る!『リトル・フェアリー』を特殊召喚!」

 

小鳥の背後に美しい石造りの神殿が現れ、天の光から可愛らしい小さな妖精が現れる。

 

「リトル・フェアリーの効果!手札を1枚墓地に送り、レベルを1つ上げる!」

 

手札を1枚墓地に送り、リトル・フェアリーのレベルが3から4へと変化する。

 

「そして、『コーリング・ノヴァ』を通常召喚!」

 

リトル・フェアリーの隣に不思議な球体を持つ天使が現れる。

 

「これでレベル4のモンスターが二体。行け、小鳥!」

 

「ええ!」

 

小鳥はアストラルが残したカードを持ち、祈るように額に持っていく。

 

「お願い……私の大切な人を取り戻す為に、あなたの力を貸して!私はレベル4のリトル・フェアリーとコーリング・ノヴァでオーバーレイ!!」

 

リトル・フェアリーとコーリング・ノヴァが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

光の中から現れたのは漆黒に輝く大きな塔で人型に変形していく。

 

「希望の光を喰らう絶望の闇よ、紫電の剣を手に光を斬り裂け!!」

 

ミストラルが口上を高らかに叫んだ。

 

白の双翼に黒と灰の鎧、右肩のプロテクターに『98』の赤い数字が刻まれ、胸には下三角の翡翠色の宝石が埋め込まれ、両肩には漆黒のマントが羽織られ、背中には鞘に納められた大剣を背負っていた。

 

「「現れよ、『No.98 絶望皇(ぜつぼうおう)ホープレス』!」」

 

紫電が嵐のように吹き荒れ、それを纏いながら現れた新たなナンバーズ、絶望皇ホープレス。

 

それは希望皇ホープによく似た姿をしており、絶望皇ホープレスはまるで対を成す存在のように見えた。

 

「希望皇ホープに似ています……でも、絶望皇なんて……」

 

マシュは絶望皇ホープレスを見てとても不安になってしまった。

 

絶望皇、そしたホープレスと言う名前にそのモンスターで本当に遊馬とアストラルを救えるのかと……不安になるのも当然だった。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

小鳥はカードを一枚伏せてターンを終えた。

 

そして、ターンが変わり、DARK ZEXALのターンとなる。

 

DARK ZEXALは右手を掲げると邪悪な闇を宿していく。

 

「「暗き力はドローカードをも闇に染める!」」

 

それはZEXALの奇跡の力であるシャイニング・ドローが闇に堕ちた力である。

 

「「ダーク・ドロー!!」」

 

デッキトップが紫色に輝き、ドローカードを闇に染めて新たなカードを創造する。

 

「シャイニング・ドローが闇に染まった……」

 

奇跡の力さえも完全に闇に染まり、マシュ達の不安がどんどん強くなっていく。

 

DARK ZEXALはニヤリと笑みを浮かべながらフィールドを展開していく。

 

「「魔法カード『ガガガ学園の緊急連絡網』。自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからガガガモンスターを特殊召喚出来る。『ガガガマジシャン』を特殊召喚!更に『ゴゴゴゴーレム』を通常召喚!レベル4のガガガマジシャンとゴゴゴゴーレム でオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」」

 

遊馬得意の戦術であるレベル4のモンスターが二体揃い、そこから展開されるモンスターエクシーズはあれしかいなかった。

 

「「現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

遊馬とアストラルの希望の象徴であり、数々の強敵を打ち破った希望の戦士。

 

だが今はDARK ZEXALの支配下に置かれ、絶望の使徒へとなってしまった。

 

「「更に『RUM - バリアンズ・フォース』を発動!」」

 

「バリアンズ・フォース!?リミテッドの方じゃない!?」

 

それはランク4限定のリミテッド・バリアンズ・フォースでなく、力の制限が解除されたバリアン世界のランクアップマジック。

 

「「このカードはモンスターエクシーズを『CNo.』または『CX』にランクアップさせる!希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築、カオス・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

希望皇ホープが赤い光に包まれて地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「「降臨せよ、我が力の化身!『CNo.39 希望皇ホープレイV』!!」」

 

そして、光の中から現れたのは希望皇ホープがバリアン世界の闇の力によってランクアップした存在。

 

それは同時に過去にDARK ZEXALとなるきっかけの一つでもあるモンスターエクシーズだった。

 

「「更にバリアンズ・フォースのもう一つの効果!相手フィールドのモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットを自分のCNo.のカオス・オーバーレイ・ユニットにする!ホープレスのオーバーレイ・ユニットを奪う、カオス・ドレイン!!」」

 

希望皇ホープレイVの手から赤い光線を放つと絶望皇ホープレスのオーバーレイ・ユニットを一つ奪い、カオス・オーバーレイ・ユニットにする。

 

「「そして、手札からこのカードを装備する!」」

 

それはDARK ZEXALがダーク・ドローで創造した闇のカード。

 

希望皇ホープレイVに暴走の力を与える。

 

「「『DZW(ダーク・ゼアル・ウェポン)- 魔装鵺妖衣(キメラ・クロス)』!!」」

 

闇の中から様々な動物のパーツが合わさった日本の伝説の妖怪である鵺をモチーフにしたモンスターが現れる。

 

それは希望皇ホープに大きな力を与える聖獣をモチーフにしたゼアル・ウェポンが闇の力に染まってしまい、誕生した邪悪なる妖魔。

 

「「魔装鵺妖衣は『CNo.39』に装備出来る!装備モンスターは戦闘で破壊されない!」」

 

魔装鵺妖衣は希望皇ホープレイVに装備され、背中に漆黒の翼が生え、更なる鎧が追加で装着され、ホープ剣が大鎌へと変化した。

 

まるでホープレイVが命を刈り取る死神のように姿を変えた。

 

「「更に装備モンスターの攻撃によって相手モンスターが破壊されなかったダメージステップ終了時、その相手モンスターの攻撃力を0にしてもう1度だけ同じモンスターに続けて攻撃できる!!ホープレイVでホープレスに攻撃!!」」

 

希望皇ホープレイVの攻撃力は2600、絶望皇ホープレスの攻撃力は2000。

 

このままでは確実に戦闘破壊される。

 

「小鳥、ホープレスの効果だ!」

 

「うん!絶望皇ホープレスの効果、モンスターの攻撃時にオーバーレイ・ユニットを一つ使い、そのモンスターを守備表示にする!ゼロムーン・バリア!!」

 

オーバーレイ・ユニットを胸の下三角の宝石に取り込み、背中から大剣を引き抜いて地面に突き刺すと希望皇ホープレイVの前に紫色の満月の形をしたバリアが現れる。

 

バリアに弾かれた希望皇ホープレイVは吹き飛ばされ、DARK ZEXALの前で跪く状態となり、守備表示となった。

 

それは希望皇ホープの攻撃を無効にするムーン・バリアに近い効果だった。

 

しかし、攻撃を防いだものの、ホープレイVにはまだ凶悪な効果が残されている。

 

「「ならば、ホープレイVの効果!カオス・オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスターを破壊、その攻撃力分のダメージを与える!Vブレード・シュート!!」」

 

カオス・オーバーレイ・ユニットを一つ取り込んだ大鎌を投げ飛ばし、回転しながら飛んでくる刃にミストラルは的確なアドバイスを出す。

 

「小鳥、罠カードだ!」

 

「わ、わかってるわ!罠カード!『レインボーライフ』!!手札を1枚捨てて、このターンのエンドフェイズ時まで、戦闘及びカードの効果によってダメージを受ける代わりに、その数値分だけライフポイントを回復する!!」

 

小鳥は手札を一枚捨てると七色の虹の光に包まれ、その直後に絶望皇ホープレスが破壊された。

 

「くうっ……レインボー・ライフの効果で破壊されたホープレスの攻撃力、2000のライフポイントを回復するわ!」

 

絶望皇ホープレスの攻撃力のダメージがレインボーライフで回復へと変わる。

 

DARK ZEXALはこれ以上何もすることが出来ずにカードを一枚伏せた。

 

「「カードを一枚伏せて、ターンエンド」」

 

「私のターン、ドロー!」

 

小鳥は起死回生のカードを引こうとドローしたが、引くことはできなかった。

 

「……っ、ダメ……何も出来ない……」

 

下手にモンスターを召喚すれば破壊効果のある希望皇ホープレイVの効果の餌食となる。

 

フィールドはガラ空きだが小鳥のライフポイントは6000ポイントもある。

 

そう簡単にやられないと判断し、手を強く握りしめながらエンド宣言をする。

 

「ターン、エンドよ……」

 

「「我のターン、暗き力はドローカードをも闇に染める!ダーク・ドロー!!」」

 

DARK ZEXALは再び右手に闇を宿しデッキトップを闇に染める。

 

ドローしたカードはこのターンで小鳥を倒す為に創造したカード。

 

「「装備魔法『巨大化』!ホープレイVに装備する!我のライフポイントが相手より低い時、装備モンスターの攻撃力は2倍となる!」」

 

デュエルモンスターズで初期から存在している強力な攻撃力上昇の装備カード、巨大化によって希望皇ホープレイVの体が2倍近くに大きくなる。

 

「「更に魔法カード『破天荒な風』!ホープレイVの攻撃力と守備力は次の我のスタンバイフェイズまで1000ポイントアップする!これでホープレイVの攻撃力は6200となる!!」」

 

「攻撃力、6200……!?私のライフを上回った!?」

 

小鳥のライフポイントは現在6000ポイント。

 

巨大化と破天荒な風で強化された希望皇ホープレイVの攻撃をまともに受ければ1ターンキルで敗北してしまう。

 

「「これで終わりだ……ホープレイVでダイレクトアタック!!」」

 

「小鳥さん!!」

 

「フォウフォウ!!」

 

希望皇ホープレイVは大鎌を振り上げ小鳥に向かって飛翔する。

 

死神が小鳥の命を刈るように大鎌を振り下ろした。

 

しかし、小鳥は敗北からの恐怖で顔を歪めて──。

 

「ふふっ……」

 

──いなかった。

 

「それはどうかしら?」

 

不敵の笑みを浮かべ、デュエルディスクを高く掲げた。

 

「この瞬間、墓地に眠る絶望皇ホープレスの効果発動!!」

 

小鳥の前に大きな紫色の魔法陣が現れ、紫電が轟いて壁となり、希望皇ホープレイVの攻撃を防いで弾き飛ばした。

 

「「何!?」」

 

「ホープレスが墓地に存在する時、フィールドの『希望皇ホープ』モンスター1体を対象として発動!私は希望皇ホープレイVを選択して、墓地からホープレスを守備表示で復活させる!蘇れ、絶望皇ホープレス!!」

 

魔法陣から絶望皇ホープレスが小鳥を守るように復活する。

 

そして、アストラルが絶望皇ホープレスを託した真の意図……二つ目の効果が発揮される。

 

「そして、選択した希望皇ホープモンスターを復活させたホープレスのオーバーレイ・ユニットにする!」

 

「「ば、馬鹿な!?」」

 

「希望皇ホープレイVを絶望皇ホープレスのオーバーレイ・ユニットに!アブソープション・ホープ!!」

 

絶望皇ホープレスは背中の大剣を鞘から引き抜き、紫電の光線を放つ。

 

紫電の光線が直撃した希望皇ホープレイVは魔装鵺妖衣が消滅し、光に包まれて絶望皇ホープレスのオーバーレイ・ユニットとなった。

 

DARK ZEXALの戦いの象徴である希望皇ホープレイVが奪われ、戦意喪失となって両腕を下ろした。

 

「「ターンエンド……」」

 

「アハハハハハッ!あの憎っくきホープを無力化して奪ったか!なんと愉快な光景じゃないか!!」

 

ミストラルは希望皇ホープレイVをいとも簡単にオーバーレイ・ユニットにして奪ったことに歓喜した。

 

小鳥は視線をデュエルディスクに向け、絶望皇ホープレスのカードを優しく撫でる。

 

「私……この子の存在理由がやっと分かった気がする……」

 

「存在理由だと?」

 

「うん……だって、絶望皇ホープレスって怖い名前の割には一つ目の効果は攻撃表示から守備表示にして、もう一つの効果は復活してホープを吸収する……絶望皇なんて名前には程遠いもん……」

 

最初、絶望皇ホープレスと言う恐ろしい名前にどんな凶悪な効果が書かれているのか不安だった。

 

しかし、実際にテキストを見て使用し、小鳥は強く実感した。

 

「もしかしたら、絶望皇ホープレスは誰かに絶望を与える皇じゃなくて、希望皇ホープの『抑止力』として生まれたんじゃないかな?」

 

「希望皇ホープの……抑止力だと?」

 

「そう。今みたいに遊馬とアストラルが闇に囚われて暴走状態になってホープが敵になった時に、ホープを止める為に……ううん、ホープを守る為にこのホープレスが存在すると私は思うわ」

 

希望皇ホープの抑止力……絶望皇ホープレス。

 

そう考えれば絶望皇ホープレスの二つの効果の力も納得出来る。

 

暴走する希望の光を絶望の闇で抑え込む……アストラルはこの状況を見越して絶望皇ホープレスを最後の力を振り絞って投げ飛ばしたのだ。

 

「ふっ……おめでたい女だな、さっさとドローしろ」

 

「ええ!私のターン、ドロー!!」

 

小鳥はこれが最後のターンだと思いながら力を込めてドローする。

 

そのドローカードを見てミストラルは笑みを浮かべた。

 

「ふはははは!遊馬に負けない運じゃねえか、小鳥ちゃんよ!そのまま決めちゃいな!!」

 

「うん!魔法カード『死者蘇生』!!お互いの墓地からモンスターを1体を選び、自分フィールドに特殊召喚する!」

 

小鳥が墓地から蘇らせるモンスター……それはDARK ZEXALから二人を取り戻すことが出来る唯一無二のモンスター。

 

「私のフィールドに出て来て!未来を切り開く希望の戦士!」

 

絶望皇ホープレスの隣に金色に輝く魔法陣が現れる。

 

「蘇れ!No.39 希望皇ホープ!!」

 

『ホォオオオオオオープ!!!』

 

希望皇ホープが小鳥のフィールドに特殊召喚され、小鳥の右手の甲に『39』の刻印が刻まれ、再び小鳥の心が暴走しかけるが皇の鍵とミストラルの力で抑え込む。

 

希望皇ホープと絶望皇ホープレス。

 

対を成す二体のホープの名を持つ皇が揃った。

 

「ホープ、お願い……遊馬とアストラルを助けて!!」

 

小鳥は皇の鍵を握りしめて強く叫んだ。

 

「希望皇ホープで……DARK ZEXALを攻撃!!!」

 

これが最後の賭け……恐らくはDARK ZEXALから遊馬とアストラルを救う最後の一撃。

 

希望皇ホープはホープ剣を腰から引き抜き、双翼を輝かせて飛翔する。

 

「ホープ剣・スラッシュ!!!」

 

「「ぐぁあああああっ!!」」

 

ホープ剣の一撃がDARK ZEXALの体を斬り、ライフポイントにダメージを与えながら空中にぶっ飛ばされる。

 

「今だ!!!」

 

ミストラルは小鳥の側から飛び、DARK ZEXALに接近した。

 

ミストラルは両手をDARK ZEXALの体に潜り込ませ、体内に宿る闇の力を吸収する。

 

「「がぁああああああああっ!??」」

 

「くっ、小鳥!皇の鍵をDARK ZEXALに差し込め!!」

 

「うん!!!」

 

小鳥は走り出すと同時に首にかけていた皇の鍵を外す。

 

「かっとビングよ、小鳥!!」

 

小鳥は足に力を込めてDARK ZEXALに飛び込んで皇の鍵を胸に強く差し込んだ。

 

皇の鍵がDARK ZEXALの胸に強く差し込まれた次の瞬間、金色に輝く聖なる光が解放される。

 

「「ぐぁああああああああーっ!??」」

 

「戻って来やがれ……アストラル、遊馬!あれだけ俺様に説教しながら、勝手に消えるなんて許さねえぞ!!」

 

聖なる光がDARK ZEXALの闇を浄化していき、ミストラルは更に力を込めて闇を吸収する。

 

そして、小鳥は皇の鍵を強く握りしめ、思いを込めてDARK ZEXALを抱きしめる。

 

「お願い、戻って来て、遊馬!アストラル!私の……私たちの元に!!」

 

小鳥の命と願いを賭けた最後の一撃。

 

それは力の無い少女が起こした奇跡を起こす。

 

DARK ZEXALの中から闇は消え去り、光に包まれると二つの赤と青の光に分かれてその場で横たわる。

 

その二つの光は遊馬とアストラル……無事にDARK ZEXALの呪縛から解放されたのだ。

 

「くっ……何が起きたんだ……?えっ……?こ、小鳥!??」

 

遊馬は自分の胸の中にいる小鳥に驚愕した。

 

「遊馬……良かった、DARK ZEXALから元に戻ったのね……」

 

「小鳥……なんでお前が……!?」

 

「小鳥ちゃんはよぉ、愛しのお前を助けるためにデュエルしたんだよ」

 

「えっ!?ミ、ミストラル!?お前まで!?」

 

「お前らが不甲斐ないから俺様が小鳥ちゃんと一緒に助けたんだよ、感謝しろよ?」

 

ミストラルはいつものような凶悪な笑みを浮かべると、アストラルも目を覚ました。

 

「ミストラル……貴様……」

 

「はっ!無様な姿だな、アストラル。闇に呑み込まれて暴走するなんて、所詮お前はその程度か?」

 

「……すまない」

 

アストラルは自分自身の弱さを認め、ミストラルに謝罪した。

 

「謝る相手が違うぞ。DARK ZEXALでデュエルに挑んだのは小鳥ちゃんだぜ?お前が託した絶望皇ホープレスを使ってな?」

 

「小鳥が!?そうか……君が私たちを救ってくれたのだな?」

 

「うん、ミストラルのお陰でなん、と、かね……」

 

小鳥は力を一気に失ったように遊馬に倒れこんだ。

 

「小鳥?小鳥!?」

 

「遊馬、アストラル……ごめん、疲れちゃってもう動けない……これを……」

 

小鳥は皇の鍵とデュエルディスクにある希望皇ホープと絶望皇ホープレスのカードを差し出す。

 

「小鳥……!」

 

「後はお願いね……」

 

「ああ……!任せてくれ……!」

 

遊馬は皇の鍵を首にかけ、希望皇ホープと絶望皇ホープレスをデュエルディスクに置く。

 

「……マシュ!小鳥を頼む!!」

 

「は、はい!!」

 

遊馬はマシュに小鳥を託し、アストラルと共に立ち上がる。

 

そして……二人は今まで静観していたソロモンに視線を向けた。

 

ソロモンはアングルボダに寄りかかっており、遊馬とアストラルに視線を向けられると数回拍手をする。

 

「実に面白いものを見せてもらった。なるほど、これが異世界の戦いか……とても興味深い」

 

ソロモンは異世界の戦いの儀式であるデュエルをその目で見ることができ満足そうに笑みを浮かべていた。

 

「ソロモン……」

 

「それにしても、貴様らは何者だ?ただの人間と精霊では無いな?」

 

「俺はただの人間だ……とっても弱い、ガキだよ」

 

「私もだ……どれだけの力があろうとも、所詮は一つの小さな力に過ぎない」

 

遊馬とアストラルは自分達の弱さがDARK ZEXALへと堕ちてしまい、小鳥やマシュ達に大きな迷惑をかけてしまった。

 

その事を深く悔やみ、反省をする。

 

そして、それと同時に新たな決意を固める。

 

「だからこそ……俺たちは誓う」

 

「もう二度と、己の弱さで過ちを犯さない為に!」

 

「大切な人達を守り抜く為に!」

 

遊馬とアストラルの決意が力となり、それぞれに赤い光と青い光をその身に纏う。

 

「「俺達/私達はもう二度と、絶対に負けない!!!」」

 

デュエルディスクを構え、遊馬とアストラルの背後に希望皇ホープと絶望皇ホープレスが現れる。

 

第四特異点の最後の戦いが遂に終わりを迎えようとしている。

 

 

 




DARK ZEXALから無事に分離し、遊馬とアストラルが復活しました。

あのままデュエルを続けたら間違いなく小鳥ちゃんの勝利ですね。

絶望皇ホープレスが希望皇ホープの抑止力……私なりの解釈ですが、けっこう合ってるんじゃないかなと思います。

次回はいよいよ第四特異点の最終回です。
ソロモンとの決着はどうなるか!?


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ナンバーズ94 第四特異点終結!ランクアップせよ、希望の英雄!!

これにて第四特異点は終結です。
いやー、これも長かったです。
丸4ヶ月かけてようやく書き終わりました。
ソロモンとの最初の戦いが終わります。


DARK ZEXALの呪縛から解き放たれた遊馬とアストラルはソロモンに立ち向かう為に再び立ち上がる。

 

しかし、ソロモンは容赦なく再び視線を二人に合わせ、今度はどうなるかという残虐な遊び心で呪いの魔術をかけた。

 

「ぐうっ……!?」

 

「があっ……!?」

 

遊馬とアストラルの体に再び呪いの魔術がかけられ、体中に不気味な文字が浮かび上がり、激しい痛みと苦しみが走る。

 

しかし、今度は倒れずに立ち上がったままでソロモンを睨みつける。

 

「ソロモン……もうお前なんかの魔術に決して負けない!!」

 

「そして、二度と闇に堕ちない!我々は光と闇、その全てを受け入れて新たなランクアップへ到達する!!」

 

「小鳥が命をかけて俺達を救ってくれた!その思いに応えるために!俺達は──」

 

「私達は──」

 

遊馬とアストラルの体に聖なる光が宿ると、ソロモンが打ち込んだ魔術を打ち消した。

 

「「未来を取り戻すために、必ずお前/貴様に勝つ!!!」」

 

二人の強い意志を秘めた決意が魂と肉体をランクアップさせ、ソロモンの魔術を打ち消したのだった。

 

「私の魔術を打ち消しただと……!?」

 

ソロモンは二人に打ち込んだ魔術を完全に打ち消したことに驚く。

 

そして、遊馬とアストラルは一瞬のアイコンタクトを交わした。

 

次はこちらの番だと言わんばかりに二人の闘志が湧き上がる。

 

「行くぜ、アストラル」

 

「ああ」

 

遊馬の右手とアストラルの左手を静かに重ねて合わせる。

 

「俺と……」

 

「私で……」

 

「「かっとビングだ!」」

 

二人の重ねた手から『X』に輝く光が放たれ、薄暗い地下洞窟を明るく照らした。

 

その輝きを一度見たことのある小鳥はその時に同じ戦場にいた璃緒の言葉を思い出し、静かに口にした。

 

「希望に輝く心と心、二つを結ぶ強い絆が奇跡を起こす……!」

 

それは遊馬とアストラルが絆を更に深め、新たな決意と共にその魂をランクアップさせる。

 

「「俺達/私達でオーバーレイ!俺達/私達二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!!」」

 

二人はそれぞれ赤と青の光を纏いながら地下空間を駆け抜ける。

 

そして、二つの光がぶつかると、再び『X』の光が輝き、二人の肉体と魂が一つに融合する。

 

「「真の絆で結ばれし二人の心が重なった時、語り継ぐべき奇跡が現れる!」」

 

肉体と魂が融合すると共にその力を今までよりもランクアップさせるために、光の中で再構築していく。

 

そして……光の中から現れたのは勇者と言う幼き少年の殻を破り、英雄と呼ぶに相応しい青年へと成長していた。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II(ゼアル・セカンド)!!」」

 

それは遊馬とアストラルの絆が深まったことにより、ZEXALが新たな姿へとランクアップした存在。

 

ZEXALが赤と白を基調にしたのに対し、ZEXAL IIは黒のインナーに赤いラインが入った白い装甲を纏っている。

 

また、Dゲイザーが肉体と一体化し、デュエルディスクも流形型のシールドのような形となっている。

 

髪の量が格段に増え、色も金色から燃える炎のようなオレンジ色のセミロングとなっている。

 

そして、ZEXAL IIはZEXALよりもかなり大人びた姿となっており、顔のイメージ的には遊馬の数年後の成長したものとなっていた。

 

「ZEXALが進化した!?」

 

「フォウフォー!?」

 

マシュとフォウだけでなくアルトリアやブーディカ達もZEXAL IIに驚愕していた。

 

何故なら、ZEXAL IIはZEXALよりもその身から溢れ出る魔力に似た力が桁違いに膨れ上がっていたからだ。

 

「あれが、二番目のZEXAL!遊馬とアストラルの絆が進化した新しい姿です!」

 

「フッ……相変わらずノロマな奴らだな……これで少しはまともに戦えそうだな」

 

小鳥はZEXAL IIの登場に興奮し、ミストラルはやれやれといった様子で静観していた。

 

「馬鹿な……!?」

 

そして、ZEXAL IIの力に誰よりも驚愕していたのはソロモンだった。

 

「貴様らは……我と同じように生者でありながら、英霊へと昇華したと言うのか!?」

 

ソロモンはZEXAL IIから溢れ出る大きな力にに自分と同じく生者が英霊へと昇華した存在となったのだと勘違いしてしまった。

 

しかし、それは厳密には遊馬とアストラルの肉体と魂が融合したのと同時に人間や精霊の枠を超えたランクアップであるが、勘違いしても無理は無かった。

 

既に人間や精霊を超えた存在のランクアップであるので、ソロモンのように生者から英霊へと昇華とほぼ似ているようなものである。

 

「俺たちは英霊じゃない!」

 

「これは世界を救う、伝説の希望の光!ZEXALだ!」

 

威風堂々と立つZEXAL II……その姿に激しく反応するサーヴァントがいた。

 

「みこーん!?」

 

「おいおい、どうしたんだよ?フォックス」

 

「こ、これは……何と言うことでしょうか!?あの方のイケ魂が急上昇しています!ああっ!?このままじゃ、あまりの情報量に私の脳がパンクしそうです!!」

 

玉藻はZEXAL IIの中にある遊馬とアストラルの魂が一つに融合した魂……それが玉藻にとってかなりイケメンな魂らしく、顔を真っ赤にして頭がパンクしかけている。

 

「「行くぞ、ソロモン!全ての力よ、光よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!!」」

 

ZEXAL IIはシャイニング・ドローでドローしたカードを発動しようとしたが……突如、ZEXAL IIの持つ全てのカードに不気味な闇が覆われた。

 

「な、何だ!?」

 

「私たちのカードに闇が……!?」

 

すると、名前や属性、描かれているイラスト、そしてテキストやステータスが文字化けしたりイラストがぐちゃぐちゃに歪んでしまい、まともに使えなくなってしまった。

 

「何だこれ!?これじゃあディスクに出しても使えない!?」

 

デュエルディスクはカードが正しい形や内容をしていないと発動する事が出来ない。

 

「マズイぞ、ホープとホープレスの姿が……!」

 

ZEXAL IIのフィールドにいる希望皇ホープと絶望皇ホープレスもカードの謎の歪みにより、その体がボロボロと崩れ始めていた。

 

何故このような不可思議な現象が起きたのか、それはソロモンが再び仕組んだ魔術だった。

 

「私の魔術で貴様らのカードを細工させて貰った。先程の戦いで貴様らの力の源がカードが一番重要だとよく分かった。二度とまともに使えないようにカードの絵と文字を書き換えた」

 

これではデュエリストの戦いの儀式であり、遊馬とアストラル……ZEXAL IIの唯一無二の戦いの力を封殺したのと同じことだった。

 

カードをまともに使えなくなればモンスターを召喚も魔法も罠も使用出来ない。

 

万事休すかとマシュ達はそう思ったが、ZEXAL IIは不敵の笑みを浮かべた。

 

「「それはどうかな?」」

 

「何?」

 

ZEXAL IIはイラストとテキストが崩壊しているドローしたカードを掲げ、聖なる光を纏わせる。

 

「「重なった熱き思いが、世界を、希望の未来に再構築する!」」

 

ドローしたカードだけでなく、手札、フィールド、墓地、デッキ……全てのカードに光が宿る。

 

そして、新たな姿へとランクアップしたZEXAL IIの真の力が解き放たれる。

 

「「リ・コントラクト・ユニバース!!」」

 

崩れたカードが一瞬にして元のカードへと元通りとなり、無事に使用できようになった。

 

フィールドにいる希望皇ホープと絶望皇ホープレスのカードも元通りとなり、その姿が元の美しく勇ましい戦士の姿となる。

 

「馬鹿な!?私が全て無に帰したカードを書き換えたのか!?」

 

ソロモンが発動したカードを無力化する魔術が全て打ち消された……否、元のカードへと新たに『書き換えた』のだ。

 

「奇跡の光が闇を払い、私たちのカードを全て、真の姿へと呼び覚ました!」

 

これこそZEXAL IIの能力……既に描かれたカードを書き換える力……『リ・コントラクト・ユニバース』。

 

ソロモンが驚愕している間にZEXAL IIはすぐさまシャイニング・ドローしたカードを発動する。

 

「俺は『RUM - ヌメロン・フォース』を発動!!」

 

「このカードは自分フィールドのモンスターエクシーズをランクアップさせ、カオスナンバーズを特殊召喚する!!」

 

「俺はランク4の希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

希望皇ホープが光となって天に昇り、光の爆発が起きる。

 

「「カオス・エクシーズ・チェンジ!!現れろ、CNo.39!!」」

 

赤黒い『39』の刻印が空中で輝き、希望皇ホープの周りにZEXAL IIの装甲に似た数多の鎧のパーツが現れる。

 

「「未来に輝く勝利を掴む!」」

 

数多のパーツが希望皇ホープに次々と合体していき、希望皇ホープ自体の構造も大きく変化していく。

 

「「重なる思い、繋がる心が世界を変える!!『希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』!!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

勝利の希望皇が降臨し、敵であるソロモンを赤い瞳で睨みつける。

 

「ホープレイ・ヴィクトリー……凄まじい力を感じるが、所詮私の敵では無い……」

 

ソロモンは先程の希望皇ホープ・ザ・ライトニングと同じように視線を合わせて魔術を打ち込んで破壊しようとしたが……。

 

「……魔術を発動出来ない!?何故だ!??」

 

「ヌメロン・フォースが発動された時、この効果でランクアップしたホープレイ・ヴィクトリー以外の全ての効果を無効にする!」

 

ZEXAL IIの足元から瞬く間に光が広がると、地下空間全体が青白い光へと照らされていく。

 

ヌメロン・フォースの効果によりまずはZEXAL IIのフィールドの絶望皇ホープレスの効果が無効となってしまった。

 

この特異点の元凶であるアングルボダの機能が停止して動かなくなり、そして……ソロモンにも無効化効果が適用され魔術を含める全ての能力が封じられる。

 

全てを零に帰すように、闇を光で照らすように地下空間の全てが浄化された。

 

「そんな馬鹿な!?たかがそんな一枚のカードで私を封じるなど──はっ!?」

 

ソロモンの眼にはZEXAL IIの中に宿る力の一端を見ることが出来た。

 

それはZEXAL IIの中に宿る……青白く輝きながら無数のパーツがくっつりたり離れたりし、ゆっくりと回転している不思議なパズルのような形をしたカードだった。

 

それはヌメロン・フォースのイラストにも描かれているカードで、ソロモンは当然見たことのないカードだが不思議と惹かれてしまう。

 

「何だ……?何だ、そのカードは!?貴様らの中に宿る、そのカードは一体何だ!??」

 

惹かれると同時に正体がつかめない謎のカードにこれまで以上に困惑していた。

 

ソロモンの力を封じたのはヌメロン・フォースの力だけではない。

 

ヌメロン・フォースに加えてZEXAL IIの中にある謎のカードと力が合わさったことでソロモンの力を無効にして封じたのだ。

 

「カード?何のことだ?」

 

しかし、ZEXAL IIの中の遊馬はソロモンが何の事を言っているのか理解出来ずにいた。

 

そして、アストラルだけはその意味の答えを『理解』しているが、今は語る時ではないと遊馬に攻撃することを促す。

 

「……遊馬、一気に決めるぞ」

 

「アストラル?ああ!行くぜ!」

 

ZEXAL IIは右手を前に突き出して希望皇ホープレイ・ヴィクトリーに攻撃命令を下す。

 

「「希望皇ホープレイ・ヴィクトリーでソロモンに攻撃!!この瞬間、ホープレイ・ヴィクトリーの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力は相手の攻撃力分アップする!ヴィクトリー・チャージ!!」」

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込むと両腕の内側から第三と第四の腕が現れ、四つの腕で背中に装着されている四つのホープ剣を引き抜く。

 

ソロモンの攻撃力を希望皇ホープレイ・ヴィクトリーに加える。

 

「「更に、ターン終了時まで相手モンスターの効果は無効化される!これで終わりだ、ソロモン!!」」

 

ヌメロン・フォースと希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの効果無効が二重に重なりとなり、ソロモンは魔術も発動出来ずに完全に無力化されてしまう。

 

「「ホープ剣・ダブル・ヴィクトリー・スラッシュ!!!」」

 

二つの重なる『V』の斬撃がソロモンを斬り刻み、大きな衝撃にぶっ飛ばされてアングルボダに激突した。

 

これでソロモンに勝った……!

 

ZEXAL IIを含め、誰もが勝利を確信した。

 

しかし……煙が立ち上るアングルボダからソロモンの影が静かに立ち上がった。

 

「見事だ……異世界の来訪者……いいや、ZEXALよ!!」

 

ソロモンの姿が徐々に消えていくが、それは敗北からの消滅では無かった。

 

「逃げる気か、ソロモン!」

 

「逃げる?それは違うなもう少し遊んでやりたいが、私も忙しい……立ち去らせてもらう。その代わり、私をここまで追い詰めた褒美に貴様らに知りたがっていることを幾つか教えてやろう」

 

ソロモンは遊馬達カルデアが知りたがっていることを見通し、その情報を明かした。

 

「まず七十二柱の魔神……それは受肉させて新生させた。この星の自転を止める楔としてな」

 

「あの魔神たちが楔だと……!?」

 

「この星……地球を止めるほどの力か……」

 

つまり今まで何度も現れて対峙した魔神柱は本物のソロモン七十二柱の魔神だったのだ。

 

そして、ソロモンは上に向かって指差すと衝撃的な発言をする。

 

「天に渦巻く光帯……これこそ我が宝具の姿だ。あの光帯の一条一条がそこにいる騎士王の持つ聖剣を幾億も重ねた規模の光……『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』。即ち──『対人理宝具(たいじんりほうぐ)』である」

 

「私の……約束された勝利の剣の何億倍の光……!?」

 

「ふざけるな、それで時代を焼き払うってのか、テメェ!?」

 

宝具にはランクや規模が様々であり、アルトリアの約束された勝利の剣は対城宝具で城を破壊するレベルの光を放つが、ソロモンの宝具はそれを遥かに上回るレベルの光で世界を焼き尽くそうとしているのだ。

 

ソロモンの規格外過ぎる力に誰もが唖然とするが……。

 

「「そんなことは絶対にさせない!!」」

 

ZEXAL II……遊馬とアストラルだけは諦めていない。

 

「たとえてめえがどれだけの力を持っていようが、そんなことは関係ない!俺が……いいや、俺たちが必ず、この世界の未来を取り戻す!!」

 

「ソロモン!貴様の正体と企み……必ず暴いて全てを打ち砕く!!」

 

「最後まで我に抗うか!だが、我こそは王の中の王、キャスターの中のキャスター……グランドキャスター、魔術王ソロモン!!貴様らに我を倒せるか?」

 

それは世界に選ばれた英霊の頂点である『冠位(グランド)』の器を持つ最強クラスの英霊。

 

魔術の祖と謳われているソロモンならグランドキャスターに選ばれて当然だった。

 

この世界の伝説にして最強の魔術王が敵であるが、ZEXAL IIはソロモンを指差して堂々と宣言する。

 

「「我は世界を救う希望の英雄、ZEXAL!!この存在の名にかけて、必ず倒す!!」」

 

ZEXALはアストラル世界にて太古の時代より『世界を脅かす危機が訪れた時、それを救う英雄が現れる』と語り継がれてきた伝説の英雄である。

 

世界の異なる二つの伝説の存在が世界の未来を左右する事となる。

 

「ZEXALよ……七つの特異点を巡り、聖杯を手にしたその時こそ、我々の決着の時だ。せいぜい私を楽しませるのだな。人理焼却の最後を飾る花としてな!」

 

ソロモンはZEXAL II……遊馬とアストラルを認めて静かに消え去った。

 

完全にソロモンの気配が消え、ZEXAL IIは合体を解除して元の遊馬とアストラルに戻る。

 

「……遊馬、聖杯だ」

 

「ああ……」

 

無効化されて機能を完全に停止したアングルボダから聖杯の輝きを見つけ、遊馬は聖杯を引き抜く。

 

ここからZEXAL……遊馬とアストラルとマシュ、そしてカルデアの本当の戦いが始まるのだった。

 

 

この特異点の聖杯を手にしたことでロンドンの別れの時が来た。

 

ジャックは遊馬と深い絆で結ばれて契約したことで消滅することなくそのままカルデアに連れていく。

 

モードレッド達は光となって消滅する中、それぞれが言葉を交わしていく。

 

「モードレッド」

 

「お、おう……」

 

「カルデアで待ってますよ。あなたに会わせたい人がいますから……」

 

「オレに……?分かったぜ。ユウマ、必ずオレを召喚しろよ?」

 

「ああ!約束するぜ!」

 

遊馬とモードレッドはハイタッチを交わし、絆の結束を深く固める。

 

「ジーク!ルーラー!カルデアで待ってるからね!」

 

「二人が来るのを楽しみにしている……」

 

「ああ……分かった」

 

「ええ、待っていてくださいね。アストルフォ、ジークフリート」

 

アストルフォとジークフリートはそれぞれルーラーとジークと握手を交わし、カルデアでの再会を誓う。

 

「ナーサリー……」

 

「ジャック、またね」

 

「うん!またね!」

 

ナーサリーはジャックに別れの挨拶ではなく再会を願う挨拶を交わした。

 

「短い間だったが、お前さんは最高だったぜ、遊馬!いいや……大将!」

 

「大将?」

 

「俺が認めた相手にそう呼ぶのさ。お前さんは俺の予想を遥かに上回る立派な男だ!負けるんじゃねえぞ!」

 

「おう、サンキュー!ゴールデン!!」

 

遊馬とゴールデンは性格の相性がいいのかすっかり仲良くなってハイタッチを交わす。

 

一方、玉藻は遊馬とアストラルの魂をずっと見続けて呟いた。

 

「……やっぱり、あり得ないですよ」

 

二人の魂が玉藻から見て『あり得ないもの』であると改めて感じていた。

 

そして、モードレッド達は消滅し、遊馬はサーヴァント達をフェイトナンバーズにいれてデッキにしまう。

 

「それじゃあ、俺様は休ませてもらうぜ。久々のシャバで疲れちまったからな」

 

「ま、待て!ミストラル!」

 

ミストラルは遊馬達が声をかける前に皇の鍵の中に入ってしまい、慌ててアストラルが追いかける。

 

「遊馬、カルデアに戻ろうか?」

 

「ああ。小鳥、今回は本当に助かった。ありがとうな」

 

「それじゃあ、今度私のお願い……何か聞いてくれる?」

 

「もちろん、俺に出来ることならなんでもやるぜ!」

 

「うん!ねえ、レイシフトってまだちょっと怖いから……手を握ってくれるかな?」

 

「お安い御用だ。行くぜ?」

 

「ありがとう……」

 

遊馬と小鳥は手を繋ぎ、ゆっくり目を閉じた。

 

レイシフトが始まり、ロンドンからカルデアへと戻される。

 

カルデアに戻るなり、遊馬とマシュと小鳥は問答無用で医務室へと強制連行された。

 

特に遊馬はソロモンの呪いの魔術がかけられたので魔術関係で重点的に検査され、マシュと小鳥はメンタルケアを重点的に治療が行われた。

 

魔術王ソロモンという最大の敵を相手にすると分かり、オルガマリーを初め、カルデア職員達は今まで以上に職務に励んだ。

 

検査と治療が終わり、遊馬は疲れた体を引きずって自室のベッドに倒れた。

 

「戦いはこれから厳しくなるな……」

 

遊馬はソロモンとの戦いが厳しくなることを不安に思いながら瞼を閉じて深い眠りについた。

 

そして、深い眠りの後に遊馬は目を覚ますと……。

 

「ここ、何処だ……?」

 

そこに広がっていたのは映画で見たような石造りの監獄のような場所だった。

 

ロンドンの戦いが終わったのも束の間……遊馬はソロモンの罠によって未知なる世界へと迷い込んでしまったのだった。

 

 

 




様々なソロモンを含め、遊馬達にも謎を残しながら第四特異点は終了です。

次回は早くも監獄塔編です!
復讐者と遊馬がどんな対話をするのか見ものです。
遊馬君は復讐否定派ですからね。

それが終わったら羅生門……うわぁあああああっ!?
ちくしょう、早く第五特異点でスカサハ師匠を出したいです!!


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監獄塔に復讐鬼は哭く
ナンバーズ95 復讐者と虚無のモノ


始まりました、監獄塔編。
ぶっちゃけ書いててアヴェンジャーがメンドくせえ奴だなと思いました(笑)
まあだからこそ魅力的なキャラでもあるんですが。
ただアヴェンジャーのキャラがかなり難しいので指摘があったら是非ともよろしくお願いします!


ロンドンの壮大な戦いが終わり、カルデアに帰還したのも束の間……遊馬は目を覚ますと監獄のような部屋にいた。

 

「ここは……何処だ?」

 

「人を羨んだコトはあるか?己が持たざる才能、機運、財産を前にして、これは叶わぬと膝を屈した経験は?世界には不平等が満ち、故に平等は尊いのだと噛み締めて涙にくれた経験は?答えるな、その必要はない。心を覗け。目を逸らすな。それは誰しも抱くが故に、誰一人逃れられない。他者を羨み、妬み、無念の涙を導くもの。嫉妬の罪」

 

何故自分がここにいるのか分からずにいると遊馬の頭の中に声が響いた。

 

嫉妬の罪……それを聞いて遊馬は腕を組んで悩んだ。

 

嫉妬はもちろんしたことがある。

 

まだデュエルが下手だった頃、父の形見のデッキが未完成でエースや切り札となるモンスターエクシーズを所有してなかったのでデュエルに負け続け、羨ましいと思ったことは数え切れないぐらい多々ある。

 

しかし、アストラルと出会い、希望皇ホープをその手に掴んでからは沢山の仲間となるモンスターエクシーズと巡り会うことができた。

 

嫉妬があったからこそ、手に入れた時の喜びはとても大きかった。

 

「俺は幸せ者だな……」

 

遊馬はそう呟いて胸にある皇の鍵をいつもの癖で握ろうとしたら……。

 

「……あれ?お、皇の鍵が無い!?」

 

いつも身につけて大切にしている皇の鍵が無くなり、困惑している遊馬に驚かせるように再び声が響く。

 

「絶望の島、監獄の塔へようこそ少年!」

 

「っ!?誰だ!?」

 

「罪深き者、汝の名は九十九遊馬!此処は恩讐の彼方なれば、如何な魂であれ囚われる!お前とて、例外では無いさ。この世にいてはいけない英霊だ。お前の可愛い可愛い相棒とやらの口を借りればな」

 

「この世にいてはいけない英霊……?ああっ!お前、もしかしてオガワハイムで戦った捻くれ真っ黒野郎!」

 

それはオガワハイムの黒幕とも言える正体不明の英霊だった。

 

「誰が捻くれ真っ黒野郎だ……まあいい。第一の塔は楽しめたか?いや、いい。言うな。別に感想が欲しいワケじゃない。此は自動的なサァビスだ。人間には拒否不可能な招待、呼び声による引き寄せだ」

 

「何だそれ?」

 

「第二の塔による歓待。せいぜい、心ゆくまで楽しんでいくがいい」

 

英霊がそう言った直後に黒い霧のようなゴーストが突然出現した。

 

「うおっ!?何だあれ!?」

 

「そうら、さっそくお出ましだ。暖かく脈動するお前の魂が気に食わないらしい。第一の塔ほどでないにせよ、此処にもあの手の死霊はよくよく集う」

 

「ああもう!めんどくせえな!」

 

遊馬は上着の内ポケットに手を入れるが……。

 

「あれ……?D・パッドとD・ゲイザーが無い!?あっ!デッキケースも無え!?」

 

皇の鍵のみならず、デュエリストの大切な武器であるデッキとデュエルディスクとD・ゲイザーが手元になく、遊馬は顔を真っ青にする。

 

あれが無ければ当然いつものようにデュエルで戦うことが出来ない。

 

更には原初の火と銃も無く、遊馬は最終手段としてホープ剣を呼び出そうと思ったが出てこなかった。

 

「くっそう!万事休すかよ!?」

 

遊馬は頭を抱え、絶体絶命の危機に陥りそうになった……その時。

 

「遊馬!!!」

 

遊馬の胸元に突然皇の鍵が現れ、翡翠の宝玉から青白い粒子が溢れる。

 

粒子が集まり、形を成すと遊馬の相棒であるアストラルが姿を現わす。

 

「アストラル!」

 

「待たせたな!行け、ホープ!!」

 

アストラルがカードを掲げると希望皇ホープが現れ、ホープ剣でゴーストを斬り伏せた。

 

「怪我はないか、遊馬!」

 

「ああ。助かったぜ、アストラル!」

 

遊馬とアストラルはハイタッチを交わすと二人の前に黒い霧が現れる。

 

「精霊まで此処に現れたか。いや、お前の場合は自ら来た……と言った方が正しいかな?」

 

「……貴様はオガワハイムの奴か」

 

「お前の正体は何だ?そして、此処はどこだ?」

 

「ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を有する監獄塔!そして、オレは……英霊だ」

 

そして、黒い霧が晴れるとそこにいたのはポークパイハットと呼ばれる帽子を被った英国紳士のような姿をした青年だった。

 

「悲しみより生まれ落ち、恨み、怒り、憎しみ続けるが故にエクストラクラスを以て現界せし者」

 

「エクストラクラス……お前、アヴェンジャーか?」

 

「その通り、オレのことはアヴェンジャーと呼べ。仮初めのマスターよ」

 

「マスター?俺が?」

 

謎の英霊──アヴェンジャーは突然遊馬をマスターと呼び、遊馬は唖然として目をパチクリさせる。

 

アヴェンジャーは遊馬とアストラルを連れて監獄の中を案内しながら話をする。

 

「死なぬ限り、生き残ればお前たちは多くを知るだろう。多少歪んではいても、此処はそう言う場所だからな。だが、このオレがわざわざ懇切丁寧に伝えてやる義理はない」

 

「ケチんぼ」

 

「黙れ。オレはお前のファリア神父になるつもりはない。気の向くまま、お前の魂を翻弄するまでだ」

 

「ファリア神父?」

 

「まさか、君は……」

 

アストラルはアヴェンジャーの正体に気付いたが、それを許さないアヴェンジャーは青黒い炎を出しながら警告してきた。

 

「精霊よ、オレの正体をまだ語るな。もし語ろうとするならこの炎で焼きつくすぞ」

 

「お前、俺たちの案内したいのか葬りたいのかどっちなんだよ!?」

 

「落ち着け、遊馬。アヴェンジャーよ、君がまだ正体を隠したいのなら君の意見を尊重しよう」

 

アヴェンジャーがあまりにも面倒くさい性格だとすぐに察した遊馬とアストラルは頭を悩ませ始めた。

 

「さて、最低限の事柄は教えておいてやろう。手短にな。まず、お前たちの魂は囚われた。脱出のためには、七つの『裁きの間』を超えなければならん。カルデアなぞに声は届けられないし、同じくして彼方からの言葉が届くことも有り得ん」

 

「カルデアにも……?何でこんなことに……?」

 

「遊馬、これはあくまで私の推測だが、恐らくはソロモンの仕業だろう」

 

「ソロモンの?」

 

「恐らくソロモンは魔術で我々に呪いをかけ、魂をこの監獄塔に閉じ込めて二度と目を覚まさせないようにしたのだろう。実はカルデアで君は眠り続けているんだ」

 

「マジで!?あれ、でもアストラルは何で……」

 

「私はナンバーズの力のお陰で呪いを完全に打ち消すことができたが、君の魂は完全に呪いを打ち消す事ができず、呪いが僅かに残ってしまった……そこで私は眠っている君と合体してZEXALとなり、肉体と魂を一体化させる事で君の魂が囚われているこの監獄塔に来る事ができたんだ」

 

カルデアで今、遊馬は覚めることのない深い眠りにつき、医務室で治療を受けている。

 

マシュたちが心配して見守る中、アストラルだけが遊馬の危機に駆けつけたのだ。

 

「……裁きの間で敗北し、殺されれば、お前たちは死ぬ。何もせずに七日目を迎えても、お前たちは死ぬ」

 

「つまり、その七つの裁きの間の敵を全て倒せばいい訳だな?」

 

「その通りだ。だが此処は魔術王によって作り出された狩り場だ。そう簡単には突破は出来ないぞ?」

 

「そんな事でビビる俺たちじゃねえぞ。それじゃあ……1、2、3、4!」

 

遊馬はその場で軽い準備体操を始めた。

 

こいつは何をしているんだ……?とアヴェンジャーは疑問に思う中、遊馬は準備体操を終えると床に手を置き、クラウチングスタートの態勢を取る。

 

「遅れるなよ、アヴェンジャー!かっとビングだぜ、俺!よーい、スタート!」

 

遊馬は急いで裁きの間に向かうために走り出し、その後をアストラルが飛んで追いかける。

 

「……ハッ!?貴様ら!オレを置いて勝手に行くな!!」

 

勝手に走り出した遊馬に対しアヴェンジャーは急いで追いかける。

 

何故自分がこんな子守のようなことをしなければならないのかと思いながら第一の裁きの間へと案内する。

 

 

第一の裁きの間に到着するとそこは円形状の広い部屋でそこには一騎のサーヴァントがいた。

 

「まさかお前が相手かよ……」

 

「ファントム・オブ・ジ・オペラ……」

 

それは第一特異点でレティシアに召喚され、遊馬たちと敵対したサーヴァントである。

 

「美しき声を求め、醜きものの全てを憎み、嫉妬の罪を以てお前を殺す化け物だ!」

 

「クリスティーヌ……クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ!」

 

ファントムは狂ったようにその鋭い爪を駆使して暴れ始めて遊馬を攻撃し始めた。

 

「ようく見ておけよ、マスター。これが人だ。お前の世界に満ち溢れる人間どものカリカチュアだ!」

 

アヴェンジャーはその風貌に似合わない卓越した格闘術でファントムと交戦して弾き飛ばす。

 

感情が高ぶっているアヴェンジャーの瞳は夜の闇のように黒く染まっており、まるで復讐の炎が宿っているようだった。

 

「戦え。殺せ。迷っている暇はない。何故なら──お前がオレを信じようが信じまいが関係ない。奴は、問答無用でお前を殺すからな!」

 

遊馬の迷いを振り払うように強い口調でキツイ言葉を並べていく。

 

そんなアヴェンジャーの言葉に遊馬は決意を固めてデッキからカードを引こうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……あなた、この子のことを気に入ったのね。やっぱりあなたは人間が大好きなのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美しく清らかな声が響くと遊馬の胸から純白の光が溢れる。

 

そして、光が人の形を成すとそこに現れたのは思いもよらない人物だった。

 

「か、空……!?」

 

それは美しい白の着物に身を包み、日本刀を持つ女性……死の線を視る『直死の魔眼』をその瞳に宿すもう一人の両儀式──空だった。

 

「セイバー……『両儀式』こと『空』。虚無な夢を渡り、此処に参上いたしました」

 

「空……来てくれたんだな!」

 

「貴様はあの時の……!?何故此処に現れた!?」

 

アヴェンジャーは激昂して空に問い詰めると、空は慈愛の笑みを浮かべて語る。

 

「私は虚無にして幻の存在……両儀から更に遡り、始まりの一……「 」を体現したモノ。夢の世界だからこそ、私もここに来ることが出来たのよ」

 

カルデアでマシュを始めとするサーヴァントの誰もが遊馬とアストラルの加勢に向かうことが出来ずに落ち込み、苛立つ中……空だけが唯一遊馬の元へと駆けつけることが出来た。

 

それは空の存在の特異性と空自身が繋がる強大すぎる力が大きな要因となっている。

 

「チッ、余計な真似を……!!」

 

「うふふ。短い間だけど、仲良くしましょう?アヴェンジャーさん」

 

「黙れ、虚ろにして心無き者よ」

 

「否定はしないわ。それよりも……まずはあなたから相手をしましょう」

 

空は刀を抜いて刀身を輝かせながら構える。

 

「愛に狂った悲しき怪人さん……私が斬り捨ててあげるわ」

 

ファントムに切っ先を向け、空は淡く微笑みながら地を蹴る。

 

遊馬とアストラル、そしてアヴェンジャーと空……とても奇妙な色々な意味でバラバラの四人組パーティーによる監獄塔の七つの裁きの試練が始まる。

 

 

 




まさかの追加キャラ、『両儀式』さんこと空さん参上!
出そうと思った理由は空さんを活躍させたいのと、復讐者で大きな心を持つアヴェンジャーと虚無な心の空さんを出してみたいと思ったからです。
実質監獄塔編は空の境界編の続編みたいなものですから。
最初はアヴェンジャーと遊馬の二人の戦いじゃないとダメかなと思いましたが、アストラルもいるので今更かと思い切って出しました。


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ナンバーズ96 待て、しかして希望せよ

先週は更新できなくてすいませんでした。
風邪を引いてしまい、年末に向けて仕事が忙しくてなかなか書く暇がありませんでした。
皆さんも体調管理に気をつけてください。

そして来週発売の年末箱でオノマトピアとホープダブルとシャイニングドローが……!
これはいつか必ず本編でも出したいですね。


遊馬の魂が監獄塔と呼ばれる場所に閉じ込められ、謎の英霊・アヴェンジャーと相棒のアストラル、そして夢を渡り現れた空と共に監獄塔の攻略に挑む。

 

そして、最初の敵……ファントムを空は一刀の元、斬り伏せた。

 

「クリスティーヌ……」

 

「お休みなさい、怪人さん……」

 

ファントムは愛した女性の名前を呟きながら消滅していく。

 

「クリスティーヌ、我が愛、私は君を愛するが。クリスティーヌ、私は耐えられぬ。尊きはクリスティーヌ、君と共に生きる人々を。愛しきクリスティーヌ、君と同じ世界にある全てを。君と過ごす人々を、朝日のあたる世界を、私は、私は……時に、『妬ましく』思うのだ、狂おしいほどに……」

 

「はは、ははははは!はははははァ!!オペラ座の怪人、お前の嫉妬を見届けた。その醜さだけを胸に秘めてオレは征く!地獄で誇れ、お前こそが人間だ」

 

嫉妬の具現として現れたファントム……その言葉に宿る嫉妬の罪にアヴェンジャーは狂ったように笑い出し、そしてファントムの嫉妬を心に焼き付けた。

 

一方、遊馬はファントムの心の声を聞き、その場に座り込んで天井を見上げた。

 

「なあ、アストラル。ファントムはただ、クリスティーヌさんを愛したかった、一緒に居たかったんだよな……」

 

「……ああ。だが彼は自分の醜さから姿を隠し、クリスティーヌに指導をしていたが、オペラ座に脅迫や実力行使をしていた。そして、恋敵や信頼が揺らいだ為にファントムは殺人にまで手を染めてしまった」

 

フランスの有名小説のオペラ座の怪人……それは美しくも哀しい愛の物語である。

 

「愛って……難しいよな……それにファントムは人並みの人生を送りたかったんだよな……」

 

「そうだな……」

 

ファントムの哀しさが伝わり、アヴェンジャーとは違う意味でその思いを心に焼き付けて立ち上がった。

 

「空、凄え剣だったぜ。今度教えてくれよ?」

 

「そうね……気が向いたらね?」

 

「これで第一の番人は倒した。アヴェンジャー、残り六人を倒せば本当にここから出られるのだな?」

 

「……フッ。いいだろう。お前の疑念にはただ一言を以て返答するとしよう……『──待て、しかして希望せよ』だ」

 

それはオガワハイムでも聞いたアヴェンジャーの最後に良い残した言葉だった。

 

いまいちその意味がまだ分からない遊馬はため息を吐いて文句を言う。

 

「またそれかよ……お前、色々と面倒な奴だな」

 

「黙れ。いいから次行くぞ」

 

「へーい」

 

第一の扉を潜り、続く第二の裁きの間へと向かう。

 

扉に入ったのは良いが……。

 

「おい、最初の部屋に戻ってるじゃねえか」

 

そこは最初に目覚めた牢屋だった。

 

「心配するな。常に始まりの場所はここだが、行く先は異なる。行くぞ、第二の裁きがお前を待っている」

 

「おっしゃあ!善は急げだ、みんな行くぜ!」

 

「ああ!」

 

「ふふっ、魂でもやっぱり元気ね」

 

「だから待たんか貴様らぁっ!??」

 

元気良く走り去る遊馬の後をアストラルと空が続き、言いたい事が山ほどあるアヴェンジャーは叫びながら追いかける。

 

何故自分がこれほど慌てなければならないのかと悩んでいると、廊下で遊馬達が腰を下ろしていた。

 

「おい!あんた、大丈夫か!?」

 

「はい……」

 

遊馬は赤い軍服のような不思議な服を着て長い髪を三つ編みにした遊馬と同じ綺麗な赤い瞳の女性を支えており、その女性を介抱していた。

 

「……誰だ、その女は?」

 

「わかんねえ。なんか倒れてて自分が誰かも分からないみたいで……」

 

「助けたのか?それは正義感か?ははは、随分と余裕があるじゃないか」

 

「うるせえ。どんな状況でも助けを求めてるなら助けるべきだろ?」

 

「アヴェンジャー、遊馬にその類の説教は意味ないぞ。遊馬は敵だった男にも手を差し伸べて助けるからな」

 

「ふん……まあいい。好きにしろ。だがな警戒を怠らんことだ。死ぬぞ」

 

「ご忠告サンキュー」

 

遊馬はアヴェンジャーの忠告を聞きながら女性に話しかける。

 

「大丈夫か?何があったか教えてくれるか?」

 

「それが……」

 

女性から話を聞くが、どうやら記憶を失っているらしく、自分の名前や何故ここにいるのか分かっていないようだった。

 

恐らくはその軍服姿から近代に近い軍に所属していたと思われる女性サーヴァントだということは確かだったが、サーヴァントが自分に関するほぼ全ての記憶を失っていることはあまりにも珍しいことだった。

 

「私は自分の名前を思い出せない。私、ええと、なにか、大切なものを……探して……求めて……いたような……」

 

「フン。名と記憶を奪われた女か。面白い。ならばお前はメルセデスと名乗れ」

 

「メルセデス……」

 

「かつてこのシャトー・ディフにて、名と存在の全てを奪われた男にまつわる女の名だ」

 

アヴェンジャーが謎の女性をメルセデスと名付け、その名前にアストラルはこめかみを押さえながらため息をつく。

 

「アヴェンジャー……君は正体を隠す気があるのか?もはやそれで君の正体はほぼバレバレだぞ」

 

「こいつ意外とうっかりさんじゃねえのか?」

 

「そうみたいね。目立ちたがり屋みたいだし」

 

マイペース過ぎる三人に対しここまで心を傾けられ、アヴェンジャーの額に青筋が浮かぶ。

 

「貴様ら……良いだろう、その喧嘩を買うぞ?」

 

「喧嘩ならここを出てからだ。えっと、メルセデス。行くとこないなら俺たちと行こうぜ。もしかしたらあんたの探し物を見つかるかもしれないからさ」

 

「ありがとうございます……しかし、あなたたちは見知らぬ私のことを、助けて下さるのですか?」

 

「助けを求めてる人を見過ごせないぜ。旅は道連れ世は情けって言うしさ」

 

「それと、アヴェンジャーの言葉を借りるなら……『待て、しかして希望せよ』だ」

 

「アストラル?アヴェンジャーが言ってたそれってどう言う意味だ?」

 

「つまり、どんなに大きな困難が降りかかろうとも、希望を心に持ち、辛抱強く粘る……と言う意味だ」

 

「なるほど!俺たちにとっても良い言葉じゃねえか!」

 

「フフ。そうだ。その通りだ!如何なる状況であろうと、それだけが人間(オマエタチ)に許される!」

 

アヴェンジャーは『待て、しかして希望せよ』の言葉を気に入った遊馬達に対して何処か嬉しそうに声を上げた。

 

それから謎の女性サーヴァント……メルセデスと共に次の裁きの間へと向かった。

 

すると、アヴェンジャーから突然遊馬に問いかけた。

 

「──劣情を抱いたコトはあるか?」

 

「れつじょう?」

 

「他人に対し、性的な欲望や感情を抱くことだ……」

 

「そう言う意味?どうしたんだ、急に……」

 

「第二の裁きの間にてオレはお前に尋ねよう、マスター。一箇の人格として成立する他者に対してその肉体に触れたいと願った経験は?理性と知性を敢えて己の外に置いて、獣の如き衝動に身を委ねて猛り狂った経験は?」

 

遊馬に対して劣情の色々な問いをするアヴェンジャーだが、遊馬の性格を知り尽くしているアストラルと空は『無い無い』と否定しようとしたその時。

 

「無論あるとも!!!」

 

「は?」

 

話に割り込んで現れたのは屈強な肉体に螺旋状の大きな剣を持った戦士の姿をした男のサーヴァントだった。

 

「天地天空大回転!それこそ世の常、無論ありまくるに決まっていようが!獣欲のひとつ抱かずして如何な勇士か英雄か!俺の在り方が罪だと言うならば、ふはははは良いともさ!俺は大罪人として此処に立つまで!俺は!赤枝騎士団筆頭にして元アルスター王たる俺は!主に女が大好きだ!!」

 

いきなり色々な事をぶっちゃけている謎のサーヴァントに遊馬達は口が開いたまま唖然とする。

 

「何だあのダメな大人みたいなおっさんは……」

 

遊馬は何気にひどい一言を発する中、アストラルは男が言ったキーワードを元に真名を推測する。

 

「赤枝騎士団筆頭……アルスターの元王……そして大の女好き……そうか、遊馬。あの男の正体が分かったぞ」

 

「え?マジで!?」

 

アストラルは名探偵ばりにビシッと指差して男の真名を言い当てる。

 

「貴様はケルト神話の英雄、クー・フーリンの友にして養父にして叔父……赤枝騎士団の魔剣使い、『フェルグス・マック・ロイ』だな?」

 

男……フェルグスは自身の真名を言い当てられながらも堂々としていた。

 

「その通り!よくぞ俺の真名を言い当てたな!見事だ、精霊よ!!」

 

「クー・フーリンの叔父さんかよ!?通りで女好きだと思った……」

 

「色欲の罪なら納得出来るな。彼は美女には目がないからな。まあもっとも、フェルグスはその女関係のいざこざで最後は殺されたがな……」

 

「うわぁ……」

 

ケルト関係の書物はまだ読んだ事がないので知らなかったが、クー・フーリンやディルムッドは少なくとも女性関係が死因に絡んでいることはアストラルから少し聞いた。

 

ここまで露骨に女性関係が死因に絡むと流石の遊馬も引いた。

 

「うわぁ、ではない!抱きたい時に抱き、食いたい時に食う!それこそが人の真理!それこそが生の醍醐味であろう!」

 

「勝手に人の真理を語るな。人の真理はそう簡単なものではない」

 

「他にも生の醍醐味は色々あるにしても、それはどうなんだよ」

 

フェルグスの欲望剥き出しの台詞にアストラルと遊馬が鋭いツッコミを入れる。

 

しかし、フェルグスはそんな事を気にせずに遊馬の後ろにいたメルセデスに目を付けた。

 

「そこな女よ、俺には分かる!お前は尊敬に値し、組み敷く困難な女!具体的に言うと魅力的だ!特に、よく突き出た胸が実に良い!」

 

「わ、私、ですか……?」

 

「アストラル、あのおっさんは馬鹿じゃねえか……?」

 

「ああ、大馬鹿ものだ……」

 

フェルグスのセクハラ発言に遊馬とアストラルが呆れていると、フェルグスはメルセデスの隣にいた空に対し、更にとんでもない発言をする。

 

「ふむ、隣の女も良い!色気があっていいが……残念!胸が少々足りんな!」

 

ビキッ!!!

 

その瞬間、何かがヒビが入るような大きな音が響いた……気がした。

 

「……遊馬君」

 

「……はい、何でしょうか……空さん……」

 

遊馬は後ろを振り向くことはできなかった。

 

アストラルとアヴェンジャーも同じく振り向くことはできなかった。

 

何故なら……。

 

「あの男……斬り殺しても構わないかしら……?」

 

とてつもない殺気を放って刀を抜いており、おそらく発動しているであろう直死の魔眼を合わせただけでも殺されると思うほどだったからだ。

 

どうして自分の体の事……特に女性の体で一番象徴するところを他人にとやかく言われなければならないのか。

 

しかも会ったばかりで好きでも何でも無い無礼な男に言われれば流石の空も怒りを露わにするのも無理は無かった。

 

大胆不敵のアヴェンジャーですら目を合わす事を拒むように全力でフェルグスに目を向けていた。

 

「い、いや、あの、その!空さん!ここは俺たちに任せてくれませんかね!?」

 

「そ、その通りだ!我々があの男に鉄槌を下す!任せてくれ!」

 

遊馬とアストラルが必死に空を抑えようと自分たちでフェルグスを倒すと進言する。

 

すると、空は刀を鞘に戻して心を鎮めて殺気を消した。

 

「分かったわ。ここは任せるわ、遊馬君、アストラル。その代わり……全力でぶちのめしてね♪」

 

「「りょ、了解!!!」」

 

空のお陰(?)で緊張感が高まり、遊馬はデュエルディスクを構えてデッキからカードを5枚ドローする。

 

ようやく戦いの時間となり、フェルグスはメルセデスを奪うために遊馬達を殺しにかかる。

 

「その女は俺のものにする!真の虹霓をご覧に入れよう……! 『虹霓剣(カラドボルグ)』!!」

 

フェルグスの持つ渦巻く螺旋の剣が大地を穿つ。

 

巨大な剣光の衝撃波が周囲に一気に広がり、敵である遊馬達を粉砕する。

 

「遊馬!」

 

「相手の攻撃時、手札から『ガガガガードナー』を守備表示で特殊召喚!!更にガガガガードナーの効果!戦闘破壊される代わりに手札を一枚捨てる!!」

 

大きな盾を持った不良の戦士、ガガガガードナーが遊馬の前に現れ、盾を地面に突き刺して衝撃波を受け止める。

 

「危なかったな……」

 

「いきなりとんでもないものをぶっ放してくるな、あのおっさんは!」

 

「遊馬、今度は我々の反撃だ!相手が女好きなら……この二枚のナンバーズだ!」

 

アストラルが渡した二枚のナンバーズ……その効果から有力なコンボを瞬時に理解し、遊馬は一気に展開していく。

 

「こいつは……よし!俺のターン、ドロー!魔法カード『オノマト連携』!手札を一枚捨て、デッキから『ゴゴゴジャイアント』と『ドドドバスター』を手札に加える!ガガガガードナーをリリースし、ドドドバスターをアドバンス召喚!この瞬間、ドドドバスターの効果!アドバンス召喚に成功した時、墓地からドドドモンスターを特殊召喚できる!来い、『ドドドウォリアー』!」

 

ガガガガードナーをリリースしてドドドバスターを召喚し、墓地からオノマト連携でコストとして墓地に送ったドドドウォリアーを復活させる。

 

「レベル6のドドドバスターとドドドウォリアーでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

『『ドドドォー!』』

 

二体の屈強な戦士のドドドモンスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「氷を纏う正義を司る女神よ!氷の如き冷たく絶対なる評決を下し、愚者に裁きを与えよ!」

 

床に冷気が漂ってから一瞬で床が凍り、床から巨大な氷塊が突き出てきた。

 

「現れよ!『No.21 氷結のレディ・ジャスティス』!!」

 

氷塊が砕かれると中から美しくも麗しい正義の名を持つ氷の女神が姿を現した。

 

「おおっ!なんと美しい女!まさに氷の女神!」

 

『……フンッ』

 

レディ・ジャスティスはフェルグスに興味無しとそっぽ向く。

 

「良い!とても良いな!その反抗的な態度に中々良い体つき……是非とも抱きたいものだ!!」

 

「アホかぁっ!!どんなに色欲に飢えているんだアンタは!?ああもう!これだからダメな大人は!」

 

これほどまでに色欲に忠実な大人は初めてで遊馬はこんな大人には絶対になりたくないと強く念じながら次のナンバーズを呼ぶ。

 

「更に魔法カード『二重召喚』を発動してもう一度通常召喚を得る!『ゴゴゴジャイアント』を召喚し、墓地からゴゴゴモンスターを復活させる!蘇れ、『ゴゴゴゴーレム』!!レベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

連続でエクシーズ召喚を行い、ゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「希望と共にある心優しき絶望の皇よ!紫電に轟く大剣を手に、守護の力を示せ!!」

 

紫電が轟き、闇を纏いながら絶望の名を持つ優しき心を持つ皇が姿を現わす。

 

「現れよ!『No.98 絶望皇ホープレス』!!」

 

希望皇ホープの抑止力である絶望皇ホープレスが現れる。

 

「絶望皇ホープレス……しかし、絶望と言う割にはあいつから光を感じるな」

 

アヴェンジャーは絶望皇ホープレスから闇の力の中に輝く光を感じ取った。

 

絶望皇ホープレスはまるで同胞であるレディ・ジャスティスを守るように前に出て堂々と立っていた。

 

「ふっ……そう来たか。その氷の女を手に入れなければ、まずは貴様を倒せということか!!」

 

「貴様は何を言っているんだ?」

 

「本当に女好きだなあんたは!?」

 

「必ずその女も手に入れる!虹霓剣!!」

 

フェルグスは再びカラドボルグを振り下ろし、虹に輝く剣光を放つ。

 

「させるか!絶望皇ホープレスの効果!相手の攻撃宣言時、オーバーレイ・ユニットを使い、相手を守備表示にする!ゼロムーン・バリア!」

 

ホープレスは大剣にオーバーレイ・ユニットを取り込んで地面に突き刺すと紫色の満月の形をしたバリアが現れ、カラドボルグの一撃を消し去る。

 

そして、紫電の雷撃を放ち、フェルグスを強制的に跪かせる。

 

「くっ!?な、何と!?」

 

「俺のターン!ドロー!これで決めるぜ!レディ・ジャスティスの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手フィールドの守備表示モンスターを全て破壊する!!アブソリュート・ジャッジメント!!」

 

レディ・ジャスティスは氷の剣にオーバーレイ・ユニットを一つ取り込ませ、剣を振り下ろすと凍えるような吹雪を放つ。

 

「ぐぉおおおおお!?何という猛吹雪!だが、この程度ではやられぬぞ!!」

 

猛吹雪にフェルグスは凍りつきそうになるが、何とか耐えて立ち上がった。

 

「遊馬!ホープレスで決めるぞ!」

 

「ああ!装備魔法『最強の盾』をホープレスに装備!ホープレスの攻撃力を守備力分アップする!」

 

最強の盾がホープレスの体に取り込むと、攻撃力の上昇と共に紫電の雷撃が更に吹き荒れる。

 

「「絶望皇ホープレスの攻撃!!」」

 

絶望皇ホープレスは紫電の剣を掲げて刀身を紫色の光を輝かせて飛翔する。

 

「受けて立つ!!虹霓剣!!!」

 

フェルグスは凍りついた体で動きを制限されながらもカラドボルグを振り下ろし、虹色に輝く剣光を解き放ち、無数の光がホープレスを傷付ける。

 

しかし、ホープレスは最強の盾をその身に宿した事でカラドボルグの剣光を耐え、間合いに入ると同時に大剣を振りかざす。

 

「「ホープ剣・ディスペアー・スラッシュ!!」」

 

絶望皇ホープレスの一撃がフェルグスの体を切り裂いた。

 

「くっ……ここまでか……」

 

フェルグスは余程メルセデスを抱けなかった事を残念に思ったのか悔しそうな表情を浮かべながら消滅した。

 

第二の裁きの間の敵を倒し、一安心すると遊馬は色欲の罪について考えた。

 

「色欲か……」

 

「遊馬は絶賛思春期だが、そこのところはどうだ?」

 

「そうだな……もちろん、女の子がすぐ近くだとドキドキするぜ?小鳥やネロとキスした時とか、ブーディカに抱きしめられた時とか……でも、性行為は二十歳になるまで絶対にやらないぜ?」

 

思春期の男子ならば性行為に一番興味を持つ時期であるが、遊馬は二十歳になるまでしないと言う強い意志を持つ。

 

「何故だ?」

 

「いやー、姉ちゃんにキツーく言われてるからな。万が一にでも若い内に子供ができたら絶対に苦労してお互い大変だからさ。だから、そう言うことをするのはちゃんと俺が働けるようになって、責任が取れようになってから……その、好きな子とやるつもりだ」

 

母親代わりだった姉の明里の厳しい躾に遊馬に真っ当な考えが染み付いていた。

 

だからこそカルデアでいつも夜這いをかけようとしている清姫やネロを拒むことが出来るのだ。

 

「立派な考えね……ちなみに式は旦那さんと出来ちゃった婚なのよね」

 

式がほとんど語らない自分の過去を空がぶっちゃけてしまった。

 

「マジですか!??」

 

「まあそのお陰で式は旦那さんを婿養子にして結婚して、可愛い娘が生まれたんだけどね」

 

「へぇー、あの式がな。意外だな〜」

 

「色欲も決していけないものじゃないわ。人が変わるきっかけにもなるし、大きな命と深い愛も生まれるのよ」

 

「そっか。俺もいつか父親になるのかなぁ……」

 

「……遊馬、その発言はカルデアにいるみんなの前で絶対に言わないほうがいいぞ」

 

「間違いなく修羅場が発生して下手すればカルデアが崩壊するわね……」

 

アストラルと式は仮にカルデアで遊馬がそんな発言をした際には間違いなく遊馬に好意を寄せる女性達が集まり、修羅場となってカルデア崩壊の危機待った無しとなるだろう。

 

「みなさん、こんな状況なのに楽しそうですね……」

 

メルセデスは遊馬達の元気で楽しそうな雰囲気に戸惑っていた。

 

「こんな状況だからこそだよ。確かに不安はあるけど、不安になったところで状況は変わらない。むしろ悪くなるかもしれないだろ?だったら光に向かって行くだけだ。かっとビングだ!」

 

「かっと、ビング……?」

 

「ああ!メルセデス、記憶が無いのはすげえ不安かもしれないけど、心配するな。俺たちが守ってやるからさ!!」

 

「ユウマさん……はい!」

 

メルセデスは記憶を失い、暗い闇の中にいながらも光を見つけて笑顔で頷いた。

 

そんな遊馬とメルセデスの姿を見てアヴェンジャーは呟いた。

 

「……どうやら、絶望とは程遠いようだな」

 

「ん?そんな事は当たり前だろ、アヴェンジャー」

 

アヴェンジャーの言葉が耳に届いた遊馬はニッと笑みを浮かべて答える。

 

「だが、絶望したなら、もう戦えないと思ったなら直ぐに言え。七日を待たずにお前ををオレが殺してやろう」

 

「……俺にそんな必要が無いのはもう分かってるんじゃねえのか?『待て、しかして希望せよ』……だろ?」

 

「──ははは!その通りだとも、仮初めのマスター!」

 

アヴェンジャーは希望を見つめている遊馬の態度を気に入って高笑いをし、遊馬達は次の第三の裁きの間へと向かう。

 

 

 

 




フェルグスのおっさんは遊馬君の教育に良くありませんね(笑)
遊馬君がそういうことをするのは……本人の意思関係なく貞操を奪われそう(笑)

次回から色々と話を省略して進めようと思います。
あまり監獄塔を長くしたく無いので。


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ナンバーズ97 邪竜の想い

オノマトピアとホープダブル、早速使ってみましたが良いですね。
ホープの殺意が更に高まりました(笑)

今回はクリスマス前なので……少々ラストにイチャラブを加えました。
監獄塔編には似合わないと思いますが、どうしてもこれだけが頭から離れられなかったのです。
ご了承ください。


「うぉおおお!かっとビングだ、俺!!」

 

遊馬は一刻も早く監獄塔から脱出する為に第二の扉を潜り、続く第三の裁きの間に向けて走る。

 

それをアストラルは飛び、空とメルセデスは走って追いかけ、アヴェンジャーは遊馬と並走しながら今まで気になったことを聞く。

 

「ところで、マスターのそのかっとビングとは何だ?何かの掛け声か?」

 

「かっとビングは父ちゃんから教わった精神だ!」

 

「マスターの父?」

 

「おう!かっとビング、それは勇気をもって一歩踏み出すこと!かっとビング、それはどんなピンチでも決して諦めないこと!かっとビング、それはあらゆる困難にチャレンジすること!これがあったから俺は今までも、そしてこれからも頑張って一歩前に踏み出せるんだ!!」

 

「言わば一種のチャレンジ精神のようなものだ。遊馬にとっての行動理念でかっとビングは世界を変える力を持っている」

 

「そんな馬鹿な……」

 

遊馬とアストラルの自信満々に言う『かっとビング』の説明にアヴェンジャーは額に手を当てて頭痛を覚えた。

 

たかがそのような精神で世界を変えるなど不可能に決まっている……アヴェンジャーはそう思った。

 

しかし、遊馬とアストラルを見ていると本当に世界を変える力を秘めているのでは?と不思議な感じを抱いた。

 

「こいつには怠惰は似合わんな……」

 

アヴェンジャーは遊馬に怠惰は似合わないと呟いたが、実は遊馬は勉強が苦手であまりせずに寝ていることがほとんどだった。

 

もっとも、カルデアに来てからはオルガマリーの鬼の教育でそれは改善されたのだが。

 

「ここか!おらぁっ!」

 

遊馬は第三の裁きの間の扉を蹴破ると次の敵の姿が見えた。

 

「主よ!此なる舞台に我を降ろしたもうたは貴方か!ならば宜しい、私は悲劇にも喜劇にも応えられようぞ!」

 

「今度はジルか!」

 

次の敵はジル・ド・レェだが、どうやら遊馬達との記憶は無いらしく、まるで舞台に立つ俳優のように言葉を並べて遊馬を生贄にしようとしている。

 

「遊馬!ジルの宝具は面倒だ、このナンバーズで一気に決めろ!」

 

アストラルは遊馬に新たなナンバーズを渡し、その効果を見て頷きながらデッキからカードをドローする。

 

「おう!俺のターン、ドロー!『レスキューラビット』を召喚!効果発動!このカードを除外し、デッキからレベル4の同名通常モンスターを2体特殊召喚する!来い!『ちびノブ』たち!」

 

『『ノッブノブー!』』

 

「レベル4のちびノブ2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

デッキから2体のちびノブが現れ、遊馬はすぐさまオーバーレイを行い、エクシーズ召喚を行う。

 

「我が故郷の名を持つ小さき竜よ!その心を震わせ、燃え盛る魂の一撃を撃ち込め!!」

 

光の中から鋭い眼差しが輝き、口から炎を吐きながら飛び出した。

 

「現れよ!『No.82 ハートランドラコ』!!」

 

現れたのは遊馬の故郷『ハートランド』の名を持つゼンマイ仕掛けの機械のドラゴンだった。

 

腹に『82』の刻印が刻まれたハートマークが描かれ、ピンクと白を基調としたカラーリングは子供のドラゴンのようにとても可愛いが、強力な効果を持つ。

 

「ハートランドラコの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ハートランドラコは相手にダイレクトアタック出来る!」

 

ハートランドラコがオーバーレイ・ユニットを一つ食べると腹のハートマークが輝きを増し、全身にピンク色のオーラを纏う。

 

「更に魔法カード!『鬼神の連撃』!!モンスターエクシーズを1体選択し、オーバーレイ・ユニットを全て取り除き、このターン二回攻撃出来る!!」

 

「無駄な事を!最高のCooooooolをお見せしましょう! 『螺湮城教本』!!」

 

ジルは不気味な魔導書から数多の海魔を召喚し、ハートランドラコを食い殺そうと襲いかかる。

 

「ハートランドラコでジルを攻撃!!」

 

しかし、それはハートランドラコの前では無力に等しい。

 

ハートランドラコは一瞬で姿を消すと、海魔の群れを潜り抜けてジルの前に現れた。

 

「な、何!?」

 

「喰らえ!ハート・バーニング!!」

 

「あぁあああああっ!??」

 

ピンク色の炎を吐き、ジルを燃やすが一撃だけではジルを倒しきれない。

 

「これで終わりだ!2回目のバトル!ハート・バーニング・フィニッシュ!!」

 

そして、2回目の攻撃……ハートランドラコは大きく息を吸い込んで再びピンク色の炎を吐き、ジルを燃やし尽くす。

 

ハートランドラコの攻撃力は2000。

 

2000の2回攻撃はとても強力でまともに食らったジルは耐えきれずに消滅してしまう。

 

「悪いな、ジル……後でカルデアで何かするからさ」

 

覚えているか分からないが敵とはいえ仲間を倒した事を悔いながら遊馬は第三の扉へ向かう。

 

『ドラ……?』

 

ハートランドラコは勝ったのに辛そうにしている遊馬を見て不安そうな顔をする。

 

「ん?ああ、ごめんよ。ハートランドラコ。お前のお陰で助かったよ」

 

『ドラッ!』

 

遊馬はハートランドラコの頭を撫で、嬉しそうに声を上げながらカードに戻る。

 

「ふう……よし!次行くぞ、次!!」

 

ハートランドラコのお陰で少し元気が出た遊馬は一刻も早くこんな戦いを終わらせるために扉を潜る。

 

再び最初の牢屋に戻り、次の裁きの間へと向かおうとすると、アヴェンジャーが険しい表情を浮かべていた。

 

「……先に、言っておく。お前が殺す相手、第四の裁きの間にいるのは、憤怒の具現だ。憤怒。怒り、憤り。それは最も強き感情であるとオレが定義するモノ」

 

「怒りか……確かに強い感情だけど、強過ぎる怒りは身を滅ぼすよな……」

 

「怒りにも色々ある。しかし、等しく正当な憤怒こそが最もヒトを惹きつける。時に、怒りが導く悲劇さえもヒトは讃えるだろう。見事な仇討ちだ、とな」

 

「仇討ち……」

 

「それを……ヤツは認めようとはしない!怒りを、最も純粋なる想いを否定する!第四の支配者に配置されておきながら、さも当然とばかりに救いと赦しを口にし続ける!許されぬ。許されぬ。おお、偽りの救い手なぞ反吐が出ようというものだ」

 

アヴェンジャーは再び表情を凶悪に変えてまるで人格が変わったかのように毒舌を吐き続ける。

 

「アヴェンジャー、顔怖えよ。そんなに第四の敵が嫌いなのか?」

 

「そうとも!ヤツだ、人が赦し神が赦そうともオレは赦さぬ!」

 

「そんな親の仇みたいに言うなよ……ん?」

 

遊馬はアヴェンジャーに反論しようとした矢先に目に止まったものがあった。

 

それは通路に倒れている人影を見つけ、反射的に駆け寄った。

 

「おい!お前大丈夫か!?」

 

遊馬は倒れている人を起こして薄暗い通路の中、わずかな灯りで顔を見ると……。

 

「えっ!?ジ、ジーク!??」

 

それは第四特異点のロンドンで共に戦った仲間、ジークフリートの心臓を継承した少年──ジークだった。

 

「……知り合いか?」

 

「我々の仲間だ。だがどうしてこんなところに……」

 

「おい、ジーク!ジーク!!」

 

「んっ……うっ……ユ、ユウマ……?」

 

遊馬が揺さぶりながら呼びかけるとジークはすぐに目を覚ました。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ……ここは……?」

 

「えっと……アストラル、説明頼む」

 

「任せろ。ジーク、実は──」

 

アストラルはジークに監獄塔や七つの裁きの間などを簡潔に説明し、学習能力の高いジークはすぐに理解した。

 

「分かった。状況は理解した」

 

「ところで、ルーラーはどこいったんだ?二人はセットのサーヴァントだろ?」

 

遊馬は周囲を見渡すがジークと共にいるはずのルーラーの姿がなかった。

 

「何……?ルーラーだと……?」

 

ルーラーと聞いてアヴェンジャーはまたしても顔を凶悪に歪ませた。

 

「マスターよ……そのルーラーは何者だ?」

 

「え?ジャンヌ・ダルクだけど?」

 

あっけらかんにルーラーがジャンヌと答える遊馬にアヴェンジャーはこれまでにないほどに驚愕した表情を浮かべて声を荒げた。

 

「ジャンヌ・ダルクだと!??馬鹿な!オルレアンの聖女が何故こんな小僧と!?」

 

「決まってるじゃねえか。ジークとルーラーは恋人同士なんだからさ」

 

遊馬の発言はアヴェンジャーにとっては爆弾級のとんでもない事だったので珍しく固まってしまった。

 

「……こ、恋人だと!?あの人間と神に裏切られ、炎に消えた無念の聖女に恋人だと!??」

 

アヴェンジャーは激しく動揺しており、見たことないほどもの凄く慌てていた。

 

すると、ジークは顔を左右に振って遊馬の言葉を否定した。

 

「ユウマ、俺とルーラーは恋人ではない」

 

「え?違うの?だって、ジークとルーラーは互いを強く想いあってるじゃん」

 

「それに第四特異点での君とルーラーの関係は誰が見ても恋人同士にしか見えないが……」

 

遊馬とアストラルは第四特異点でのジークとルーラーの様子を見る限り、どうみても恋人同士にしか見えないほどイチャイチャしていた。

 

「……正直、恋人とはどんなものか俺には分からない。少なくとも、俺はルーラーが何よりも大切だ。ルーラーも俺を想ってくれているはずだが……」

 

「じゃあ、ルーラーにちゃんと気持ちを伝えたら?そういうことはキチンと言葉にして伝えた方がいいと思うぜ」

 

「そうだな……ルーラーもあの時にちゃんと言葉を伝えてくれた。今度は俺の番だ……!」

 

「その調子だ!かっとビングだ、ジーク!」

 

「ああ、かっとビング……だな」

 

遊馬とジークはハイタッチを交わし、ジークはルーラーにキチンと自分の思いの全てを伝えると決めた。

 

「ところで、ユウマ。そこにいる者たちは……」

 

「ああ、紹介するぜ。こっちは捻くれ者のアヴェンジャー」

 

「いい加減殴るぞ、マスター……」

 

「そして、こっちは俺がカルデアで契約しているサーヴァントの空」

 

「こんにちは、ジーク君。私は空……ん?どうしたの?」

 

ジークは空を見て少し呆然としていたが、その訳をすぐに答えた。

 

「……すまない、あなたの声がルーラーにとても似ていたから」

 

空とルーラーの声があまりにも似ている……と言うかほぼ同じなのでジークは驚いてしまった。

 

「あらそう?そう言えばカルデアにいるジャンヌやレティシア達とも声が似ていたわね。まあ、とにかく、よろしくね」

 

「あ、ああ……」

 

ジークは式の声に戸惑いながらも握手をした。

 

「それで最後にメルセデス。何か記憶を失っていて自分が誰か分からないらしくてさ、俺たちと一緒に行動している」

 

「メルセデスです。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく頼む」

 

自己紹介が終わるとジークは遊馬と共に行動し、ルーラーを探しながら第四の裁きの間へと向かう。

 

第四の裁きの間の扉を開くとそこにいたのは白銀の鎧に身を包んだ騎士だった。

 

その騎士の正体をジークは知っていた。

 

「……ユウマ、あの男はかつてルーラーと共に戦ったジルだ」

 

「ジルだって?でもあいつは魔術師のはずだろ?」

 

「遊馬、恐らくあの男は我々が知るジルの過去の姿だろう。フランスの百年戦争でルーラーと共に戦地を潜り抜けた軍人としてのジル・ド・レェだろ」

 

ジルはかつて元帥まで上り詰めた紳士で信仰心のある男だったが、ジャンヌが処刑されたことで心が壊れて絶望し、悪鬼の道へと進んでしまったのだ。

 

「あいつが第四の支配者か?」

 

「違う。ヤツは、その奥にいる者だ。見ろ」

 

ジルが第四の裁きの間の支配者かと思ったが、アヴェンジャーは否定した。

 

そして、部屋の奥から現れたのは……。

 

「ルーラー……!?」

 

「えっ……?ジ、ジーク君!?」

 

それは聖なる旗を掲げる聖女……ルーラーこと、ジャンヌ・ダルクだった。

 

「ジ、ジーク君!どうしてここに!?」

 

「それはこちらの台詞だ。ルーラー、君がどうしてここにいるんだ?裁きの間の支配者とはどういうことだ?」

 

「……私はアヴェンジャーを止めるために此処へと至りました」

 

ルーラーはアヴェンジャーを止めるために自ら監獄塔に入り込み、無理やり裁きの間の支配者として現れたのだ。

 

「忌々しい聖女め……このオレは恩讐の彼方より来たる復讐者!いいかマスター!なんと言おうがアレは『裁きの間』の支配者だ!故にお前は戦い、勝つ他にない!生き残りたければ──聖女を!殺せ!!」

 

「断る!!!」

 

「なん、だと……!?」

 

即答でアヴェンジャーの指示を却下すると、ジークの肩に手を置く。

 

「ジーク、ルーラーは任せた。俺たちはジルを何とかする」

 

「ユウマ……」

 

「任せろよ、ルーラーは絶対に殺させない。殺さない方法で俺たちが勝てばいい話だ」

 

「そんなことが可能なのか……?」

 

「ずっと考えてたからな。敵を殺さずに勝つ方法を。実はデュエルなら数少ないけどあるんだよ。俺たちはそれに賭ける。だから、ジークは思いっきりルーラーに想いをぶつけてこい!」

 

遊馬に諭され、ジークも覚悟を決めてルーラーと向き合う。

 

「……分かった。行ってくる」

 

「かっとビングだぜ、ジーク!」

 

「ああ!かっとビングだ!」

 

遊馬とジークは笑顔を見せて拳を軽くぶつけて気合いを入れる。

 

そして、ジークはかつてアストルフォから譲り受けた剣を鞘から抜いて構え、ルーラーに静かに近づく。

 

「ジャンヌよ、お下がりください!神と貴女に捧げた剣、今こそ振るう時であると心得た!」

 

「ジ、ジル!ダメです!彼には──」

 

キィン!!

 

「むうっ!?」

 

「ジーク君の邪魔はさせないわ」

 

ジルがジークに刃を向けるよりも早く空が刀を抜き、ジルに近づいて刀を振り下ろしていた。

 

「邪魔をするな!!」

 

「それはこちらの台詞よ。私の故郷では昔からこういうのよ。人の恋路を邪魔する奴は!!」

 

空は刀で剣を弾き返し、ジルが一瞬無防備になった隙に遊馬が間合いに入る。

 

「とりゃあ!」

 

「ぐふっ!?」

 

そして、遊馬はジルに強烈なドロップキックを喰らわせてぶっ飛ばす。

 

鎧越しとはいえドロップキックの大きな衝撃がジルの腹部に伝わる。

 

「馬に蹴られちまえ、だな!ジークの邪魔はさせないぜ!!」

 

「貴方の相手は私たちよ!」

 

遊馬と空は全力でジルの足止めをする。

 

一方、ジークはルーラーに一歩一歩、静かに確実に近づいている。

 

「ジーク君……」

 

「ルーラー……」

 

ルーラーはジークと戦いたくない気持ちが強く、思わず旗を手放しそうになってしまう。

 

しかし、アヴェンジャーを止めるためには戦わなければならない。

 

そんな大きな葛藤がルーラーの心を苦しませる。

 

今のルーラーはかつてシェイクスピアの宝具で極限まで追い詰められているほどに精神状態が危うくなっていた。

 

そんなルーラーにジークは両手を大きく広げて口を開く。

 

「ルーラー、あの時の答えを言うよ」

 

「あの時の、答え……?」

 

「ああ。俺の、今の想いだ……」

 

ジークは己の想いと最も欲する気持ちを全て打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーラー、俺は君が愛おしい。君の全てが欲しい。君の美しい心と体、その魂を……俺だけの唯一無二の最高の宝になって欲しい」

 

「えっ──ひゃ、ひゃいっ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の愛の告白にルーラーは一気に顔を赤くして心臓の鼓動が高まり、思わず旗を落としてしまった。

 

そんな姿を見てアヴェンジャーは唖然とした。

 

「あれが……あの、ジャンヌ・ダルク……?」

 

アヴェンジャーはルーラーのあまりの変わりようにもはや表現出来る言葉を失うほど衝撃を受けた。

 

今のルーラーは人と神を信じ、最後に裏切られて裁きの火の中に消えたオルレアンの聖女ではなく、ただの一人の恋する乙女に成り下がっていた。

 

「何だこれは……?」

 

「とっても素敵だと思いますよ?」

 

アヴェンジャーの問いにメルセデスはワクワクしながら見守っていた。

 

 

 

 




ジャンヌことルーラーは人間要塞とか言われてますけど、ジーク君が関わるともの凄くポンコツになるんですよね。
これにはアヴェンジャーさんもビックリ。

賛否両論あるかもしれませんが、どうしてもこれだけは書きたかったんです。
皆さん、すいません。

次回はルーラーを殺さずに勝つ戦いをします。


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ナンバーズ98 恋に堕ちた聖女

今年最後の更新となります。
2018年も色々ありました。
来年の2019年もFate/Zexal Orderを頑張って更新していくのでよろしくお願いします。


監獄塔の第四の裁きの間の支配者として現れたルーラーとそれに付き添う形で現れたジル。

 

しかし、ルーラーはアヴェンジャーを止めるために無理矢理監獄塔へ入り込んで現れたが……。

 

「ルーラー……」

 

「ジーク君……」

 

一緒に召喚されて少し離れた場所にいたジークと再会した。

 

そして、そのジークに想いを寄せているルーラーはジークからの告白を受けて既にメロメロになっている。

 

「貴様ァアアアアアッ!よくも我が聖女を誑かしたな!!」

 

ジルはキャスターの時のように目玉が飛び出るように目を見開いていた。

 

崇拝する聖女であるルーラーが突然現れた謎の男に告白されてまるで恋する乙女のような反応しており、ジルは怒りを露わにした。

 

そんなジルに対し、遊馬はジークへの誤解を解くように話し出す。

 

「何言ってるんだよ、ジル。寧ろジークを誑かしたはルーラーの方らしいぜ」

 

「ゆ、遊馬さん!??」

 

「馬鹿な!聖女がそんな売女みたいな真似は絶対にしない!!」

 

「だって、ルーラーは聖杯大戦中の合間にジークとデートしてるし……」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?どこでそれを聞いたのですか!?」

 

「この前のロンドンでアストルフォが言ってた」

 

「ア、ア……アストルフォのバカァアアアアアッ!!」

 

あの理性蒸発の騎士の口の軽さにルーラーは顔を真っ赤にし、怒りを込めて天井に向かって叫んだ。

 

「あの聖女が誰か知らんが他人を罵倒した……?」

 

アヴェンジャーはルーラーの聖女とは思えない他人を罵倒する姿に唖然とした。

 

ロンドンにてアストルフォは遊馬に聖杯大戦中のジークとルーラーのあれこれをこっそりと話していたのだ。

 

そして遊馬は無自覚に更にルーラーを追い詰める発言をする。

 

「それに、ルーラーはジークに愛の告白をしていたぜ」

 

その衝撃の一言にジルは更に追い詰められる。

 

「なっ……!?馬鹿な!ジャンヌが、あのジャンヌがその男に愛の告白だと!??」

 

「ままま、待ってください!私が愛の告白など……」

 

ルーラーは顔を真っ赤にして全力で視線を逸らして否定するが、遊馬は空に耳打ちをする。

 

「……空、悪いけどこの台詞を言ってくれるか?ゴニョゴニョ……」

 

「ふむふむ……良いわよ。それでは、コホン……」

 

遊馬から耳打ちで聞いた台詞を空は演技するように思いを込めて口にする。

 

「『私はあなたに、恋をしています』……こんな感じかしら?」

 

それはルーラーが謎の花畑でジークに告白した際の台詞だった。

 

しかも空はルーラーと同じ声なのでほぼ100パーセントの再現なのでルーラーは顔を手で覆いながら悲鳴をあげる。

 

「イヤァアアアアアッ!??ど、どうして遊馬さんがそれを知っているのですか!?あの時、あの場所には私とジーク君以外誰もいなかったはずですよ!??」

 

「あー、何かロンドンに行く前に夢を見てさ。綺麗な花畑でルーラーがジークに告白したのを見ちゃったんだ。ごめんな」

 

「あうっ……そんな、まさか遊馬さんに夢見の力があったなんて……」

 

とても信仰者とは思えない恋する乙女の行動を暴露され、ジャンヌは頭から湯気が出るほどに体の熱が高まり、顔を更に真っ赤にしている。

 

「ジークはルーラーと下がってろ!この裁きの間の戦いは誰も傷つけずに勝つ!!」

 

「ま、待ってください!私はアヴェンジャーを……」

 

「ジーク!ルーラーを確保するんだ!!どんな手を使っても構わん!!」

 

アストラルが声を上げて叫ぶようにジークに命令を下す。

 

「分かった!!」

 

どんな手でもと言われ、ジークは素直に頷いて行動に移す。

 

ルーラーはジークよりも身体能力はとても高く、普通に拘束していたら振り払われるのは必至。

 

どうすればルーラーを無力化出来るか……ジークは数秒間考え抜いた答えは……。

 

「ルーラー!すまない!!」

 

「えっ!?キャッ!??」

 

ジークはアヴェンジャーの元へ行こうとするルーラーを後ろから抱きしめた。

 

「ジジジ、ジーク君!??」

 

後ろから抱きしめられたルーラーは再び顔を真っ赤にし、旗を落としてしまい、動けなくなった。

 

愛するジークから初めて後ろから強く抱きしめられ、ルーラーは体の力が抜けて振り払うことが出来ない。

 

「すまない、ルーラー。このまま俺の胸の中にいてくれ」

 

「ですがアヴェンジャーは……」

 

「大丈夫だ」

 

「えっ……?」

 

「アヴェンジャーは俺から見ても不気味で何をするか分からない。だけど、ユウマなら……俺たちのマスターが止めるべきだと思う」

 

「ジーク君……」

 

「ルーラー、俺は君とは戦いたくない。もう君とは一瞬でも離れ離れになりたくない。だから……俺とこのまま一緒にいてくれ」

 

「は、はい……ジーク君……」

 

このままジークにずっと抱きしめて欲しい、耳元で囁いて欲しい……ルーラーはそういう気持ちになってしまった。

 

「よし、上手くいったな!」

 

ルーラーの無力化作戦にアストラルはガッツポーズをする。

 

一見、ルーラーは能力的にも精神的にも強いサーヴァントだが、唯一の弱点がある。

 

その唯一の弱点こそがジークであり、ジークをルーラーにぶつければ精神的に追い詰め、確実に無力化出来ると確信した。

 

「……あれはもうオルレアンの聖女ではないな。あの娘も一人の人間だったということか……」

 

アヴェンジャーはルーラーを鉄壁の自尊心と鋼の如き信仰を持つ『人間要塞』だと思っていたが、そんなものはただの一面に過ぎず実際はジークと言う一人の男との大きな愛を求める少女に過ぎなかった。

 

「おのれ、ジャンヌを誑かす大罪人め、貴様だけは絶対に許さん!!」

 

ジルは何としてでもジャンヌを誑かす存在であるジークを倒そうとした。

 

しかし、それよりも早くアヴェンジャーが間合いに入り込んで殴り飛ばす。

 

「マスターよ!本当に殺さずに倒す方法があるのなら早く試すが良い!」

 

「アヴェンジャー?」

 

「お前の戯言が本当に出来るのかどうか、やって見ろ!」

 

「分かったぜ、見せてやるぜ!俺たちの力を!アストラル!」

 

「ああ!遊馬!」

 

アストラルはカードを取り出して遊馬に投げ渡し、遊馬はデッキからカードを5枚手札にする。

 

「行くぜ、俺のターン、ドロー!魔法カード『オノマト連携』!手札を一枚墓地に送り、デッキから『ガガガクラーク』と『ドドドバスター』を手札に加える!自分フィールドにモンスターがいないとき、手札から『ドドドバスター』を特殊召喚し、レベルを4にする!」

 

遊馬がこれから召喚するナンバーズは召喚条件は少々大変なので色々用意しながら展開していく。

 

「更に『死者蘇生』で墓地から『ガガガマジシャン』を特殊召喚!ガガガマジシャンの効果でレベルを8にする!そして、自分フィールドにガガガモンスターがいる時、手札から『ガガガクラーク』を特殊召喚!!」

 

3体のモンスターが並ぶがレベルは異なり、このままではエクシーズ召喚は出来ないが高ランクエクシーズ召喚を行える切り札がある。

 

「そして、魔法カード『ギャラクシー・クィーンズ・ライト』!自分フィールドのレベル7以上のモンスターを選択し、自分の全てのモンスターのレベルを統一させる!レベル8のガガガマジシャンを選択し、ドドドバスターとガガガクラークのレベルを8にする!これで全て揃った!」

 

レベル8のモンスターが3体揃い、遊馬は先ほどアストラルから受け取ったカードを掲げる。

 

「俺はレベル8のガガガマジシャンとドドドバスターとガガガクラークでオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

レベル8のモンスター3体をオーバーレイして召喚されるのはナンバーズの中でも特殊な力を持つ大型モンスター。

 

「力を借りるぜ、Ⅳ……トーマス!運命を司る獅子よ、王者の風を吹かせ、勝利の剣を振り下ろせ!!」

 

裁きの間に地響きが鳴り、光の中から巨大な影が出て来る。

 

「現れよ!!『No.88 ギミック・パペット - デステニー・レオ』!!!」

 

現れたのは巨大な玉座に座り、大剣を持ち、獅子の顔を持つ巨大ロボットのような姿をしたモンスター。

 

右肩のプロテクターに『88』の刻印が刻まれ、マントと肩掛けを羽織り、その堂々たる姿はまさに王者であった。

 

そのモンスターはトロン一家の次男、Ⅳ……トーマス・アークライトの持つギミック・パペットシリーズの真の切り札である。

 

「デステニー・レオの効果!自分フィールドに魔法と罠が無い時、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デスティニー・レオにデステニー・カウンターを一つ置く!」

 

デステニー・レオの大剣の宝玉にオーバーレイ・ユニットを一つ取り込ませると、デステニー・レオの体が輝き出す。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

デステニー・レオの効果を使った後に魔法・罠にカードをセットし、遊馬は戦闘を行わずにエンド宣言した。

 

ジルはデステニー・レオが攻撃してこなかった事に疑問を抱いた。

 

王者の風格を持ち、見事な大剣を持ちながら攻撃しなかった……絶対に何か裏がある、このまま残していたら間違いなくまずい事になる。

 

ジルは最優先でデステニー・レオを倒すことを決め、宝具を発動する。

 

「今こそ進軍の時!『神聖たる旗に集いて吼えよ(セイント・ウォーオーダー)』!!」

 

かつてジャンヌと共に戦っていた時の最も輝いていた頃の自分を再現する宝具。

 

デステニー・レオの間合いに一瞬で入り、剣を振りかざす。

 

「罠カード!『攻撃の無敵化』!デステニー・レオはこのバトルフェイズ中、戦闘及びカードの効果では破壊されない!!」

 

デステニー・レオを守るように風が吹き荒れ、破壊を免れるがジルの剣が届いて遊馬にダメージが与えられる。

 

「この程度のダメージならなんともないぜ!」

 

デスティニー・レオの攻撃力は3200。

 

ジルの攻撃によるダメージはかなり低く、遊馬は踏ん張って耐えることができた。

 

「行くぜ、俺のターン、ドロー!デステニー・レオの効果!オーバーレイ・ユニットを使い、デステニー・カウンターを置く!!」

 

デステニー・レオに二つ目のデステニー・カウンターを置き、更に輝きを増す。

 

「そして、魔法カード『強欲で貪欲な壺』!デッキからカードを10枚裏側で除外し、2枚ドロー!よし、カードを1枚伏せてターンエンド!!」

 

遊馬のターンが終わり、次が最大の山場。

 

ここでジルを抑えればこの第四の裁きの間の戦いが終わる。

 

ジルは何とかしてデステニー・レオを倒す方法を考えたが自分の力では空を倒すことは出来ない。

 

ここは特攻してでもデステニー・レオを倒そうと考えたが……。

 

「罠カード!『威嚇する咆哮』!」

 

遊馬は更に上の一手を打っていた。

 

デステニー・レオは口を開けて獅子の咆哮を轟かせ、咆哮は衝撃波となってジルを動けなくした。

 

「威嚇する咆哮は相手の攻撃宣言を封じる罠カード」

 

「これでジルはもう攻撃出来ない!」

 

遊馬のデッキはサーヴァントたちとの絆の証であるフェイトナンバーズを使用するようになってから仲間を破壊されないように以前よりも防御系の罠カードを多く採用するようになっていた。

 

それが功を奏してデステニー・レオの効果を発揮することが出来た。

 

「遊馬!決めろ!」

 

「俺のターン、ドロー!デステニー・レオの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デステニー・カウンターを乗せる!」

 

デステニー・レオの最後のオーバーレイ・ユニットが使用され、デステニー・レオに最高の輝きが放たれる。

 

「この瞬間、デステニー・レオに3つのデステニー・カウンターが乗った!」

 

デステニー・レオに3つのデステニー・カウンターが乗った瞬間、玉座にずっと座っていた獅子の王者が目を輝かせながら立ち上がった。

 

「デステニー・レオにデステニーカウンターが3つ乗った時、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する!!」

 

デステニー・レオはデュエルモンスターズの中でも数少ないカードの特殊な条件を満たすことで発動する『特殊勝利』を持つモンスター。

 

「この戦い……俺たちの勝利だ!デステニー・レオ!!」

 

デステニー・レオは大剣を掲げ、その刃に光を宿す。

 

その光はマスターである遊馬とアストラルに勝利を告げる輝き。

 

「輝け、勝利の剣閃!!ファイナル・デステニー・フラッシュ!!」

 

振り下ろした大剣から放たれた剣閃が裁きの間に広がり、光がこの場にいる全ての者を包み込む。

 

裁きの間に広がった数秒の閃光が消えると、奥の扉が静かに開いた。

 

裁きの間の敵であるルーラーとジルは無事で扉が開いたということはデステニー・レオの特殊勝利の効果が適用され、第四の裁きの間をクリアしたと言うことである。

 

「本当に殺さずに裁きの間を勝利するとは……」

 

アヴェンジャーはルーラーとジルを殺すことなく裁きの間をクリアすると豪語した遊馬とアストラルの言葉に半信半疑だったので、本当にデステニー・レオで勝利した事に驚きを隠せなかった。

 

「これが異世界から訪れ、世界の未来を取り戻す真の英雄の力か……」

 

遊馬とアストラルの更なる力の一片を垣間見たアヴェンジャーは驚きを通り越し、やがて畏怖の念を抱くようになる。

 

「まさか、私たちが負けるとは……くっ!」

 

ジルは何も出来ずに負けてしまい、悔しさのあまりその場に崩れ落ちて床を叩く。

 

そして、ルーラーの方に目を向けると、未だに背後からジークに抱き締められて動けずにいたルーラーの今まで見たことない姿にジルはため息をついて立ち上がる。

 

「……少年、ジークと言ったか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「……本当にジャンヌを愛しているのだな?」

 

「そうだ。ルーラー……ジャンヌは俺が最も美しく、愛おしいと思っている大切な存在だ。絶対に離さない、俺が必ず守る」

 

ジークは二度と離さないと言わんばかりかなルーラーを強く抱きしめた。

 

ジークと更に体が密着し、ルーラーは体が蒸気が出そうな体温が高まり、顔を赤く染める。

 

「そうか……それなら、私はもう何も言わない。私の代わりに、ジャンヌを守り抜いてくれ」

 

ジークの想いと覚悟を知ったジルは満足したように目を閉じて笑みを浮かべ、静かに消滅していく。

 

「ジ、ジル!?」

 

「ジャンヌよ、あなたの隣に立つのは私ではない。あなたのそばに居る彼です。今度こそ幸せになってください」

 

ジルはジャンヌの幸せを願い、自分の存在は不要だと悟り、自ら身を引く道を選んで消滅した。

 

「ジル……」

 

ルーラーはジルの消滅を見届け、その想いを受け取り、自分の手をジークの手と重ねた。

 

「ルーラー、俺たちと……遊馬たちと一緒に行こう」

 

「私は……」

 

ルーラーは当初、アヴェンジャーを止めるために監獄塔へと入り込んだ。

 

しかし、アヴェンジャーを止めるのはルーラーではなく遊馬とアストラルの役目だと諭され、自分はどうすればいいのかと迷いが出来てしまった。

 

するとそこに凶悪な笑みを浮かべたアヴェンジャーが高笑いをしながら近づいてきた。

 

「ふはははは!なんとも無様な姿だな、ジャンヌ・ダルクよ!」

 

「くっ、アヴェンジャー……!」

 

「最早その姿はオルレアンの聖女ではないな。そうだな……ジークは確か邪竜の力を持っているのだな?さしずめ『邪竜の花嫁』とでも言っておこうか?」

 

アヴェンジャーにジークの花嫁と弄られてルーラーは精神が大きく乱れて焦り出す。

 

「ははは、花嫁!?だ、誰が花嫁ですか!?私はまだジーク君と結婚していませんよ!?」

 

「ほう、まだ?」

 

アヴェンジャーはルーラーの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「はっ!?い、いえ!決してそんなつもりは……」

 

「ジャンヌ・ダルクよ!オレはお前を誤解していたようだ!神を信じて仕え、不屈の精神を持ちながらも、たった一人の男への深い愛を持つ!何と罪深いことか!!」

 

神に仕える人間は特定の人間を愛することをしてはいけないとされる。

 

しかし、ルーラーは神よりもジークと言う一人の男を愛することを選んでいる。

 

「誇れ!お前は聖女なのではない!お前も一人の人間だ!!」

 

アヴェンジャーはルーラーが人間としての当たり前の心、そして大罪を持つことを喜んだ。

 

「っ……」

 

アヴェンジャーの言葉はもっともであり、ルーラーの心に深く突き刺さった。

 

自分は神に仕えていたが、聖杯大戦でジークと出会い、最初は姉としてジークを守ろうと思った。

 

しかし、少しずつ成長するジークと共に同じ時間を過ごす内にルーラーはジークに惹かれ、やがて……一人の少女として恋をし、愛するようになってしまった。

 

ジークへの想いは日に日に大きくなり、抑え切れなくなっている。

 

すると遊馬は苦悩しているように見えるルーラーに対し諭すように言葉をかけた。

 

「いいじゃん、好きなら好きでさ」

 

「遊馬さん……?」

 

「人が人を想う気持ちは決して間違ってないし、当たり前のことだ。ルーラーが神に仕えていても、英霊だろうが、サーヴァントだろうが、そんなのは関係ない!」

 

遊馬は英霊を……サーヴァントを一人の人間として扱い、大切な仲間として想っている。

 

だからこそ、ジークとルーラーの仲を応援したい、二人の愛が成就する事を願っている。

 

二人それぞれの過去に何があろうともそんなことは関係ない、二人の未来を祝福したいのだ。

 

「ジーク、ルーラー。この監獄塔を脱出して俺が二人をカルデアで召喚したらさ……二人の結婚式を挙げようぜ?」

 

「はあっ!!???」

 

遊馬の爆弾発言にルーラーはこれまでにない程驚愕する。

 

「実はさ、カルデアに結婚しているけど、結婚式を挙げて無いサーヴァント……メディアって言うんだけど、その人の為に前々から結婚式を挙げてやりたいなって考えていたんだ」

 

メディアと宗一郎は冬木の第五次聖杯戦争で出会い、結婚して夫婦になったが結婚式を挙げていない。

 

それを聞いた遊馬はカルデアで小さくても結婚式を挙げられないかと考えてみんなに相談していたのだ。

 

もちろんメディアにはまだ内緒でまだ企画段階の話ではあるが。

 

「それでさ、ルーラーとジークも良かったらどうだ?」

 

「えっ!?いや!あの!わ、私とジーク君はその……」

 

「ユウマ、すまないがその話はすぐには決められない」

 

「そっか……悪いな、変な提案をしちゃって」

 

「いや、俺としては前向きに検討したい」

 

「ジーク君!??」

 

「ルーラー、以前君と街を歩いていた時に教会で行われていた結婚式を思い出した」

 

聖杯大戦中にジークとルーラーが街に出かけてデートしていた時に偶然行われていた結婚式で見たことを思い出した。

 

「結婚がどういうのが分からないが、ウェディングドレス……だったか?俺は君のあのドレス姿を見てみたい」

 

「ジ、ジーク君……」

 

「はははっ!オッケー!詳しい話はカルデアでやろうぜ!」

 

「こほん……さて、これで第四の裁きの間はクリアだ。次の第五の裁きの間へ行こう」

 

アストラルは咳払いをして話を切り替え、急いで次の裁きの間へ行くことを提案する。

 

「あ、そうだな。もう半分は過ぎたからもう少しだな」

 

「ルーラーは……ジーク、君がそのまま拘束した状態で連れてきてくれ。アヴェンジャー、構わないだろ?」

 

アストラルの提案にアヴェンジャーは意気揚々と答えた。

 

「良いだろう!恋に堕ちた聖女の姿を見るのはなんとも愉快な光景だろうか!」

 

「本当に面倒な人ね……」

 

「あはは……」

 

アヴェンジャーの曲がりくねった性格に空とメルセデスは苦笑を浮かべた。

 

遊馬達は新たにルーラーを加えたパーティーで監獄塔を目指し、次なる裁きの間へと向かう。

 

 

 




デステニー・レオで裁きの間クリア!
特殊勝利なら倒さずにクリア出来ると思ったので採用しました。

今回監獄塔でジークとルーラーを出したのはアヴェンジャーにルーラー……ジャンヌの別の一面を見てもらいたかったからです。
アヴェンジャーが知っているのは人間要塞としてのルーラーですが、聖杯大戦を経てジークとの恋に目覚めて人間らしい一面が生まれたルーラーを知ってもらいたいなと思い、出してみました。

そして、カルデアで結婚式フラグが立ちました(笑)
もはやルーラーは逃げられないところまで色々と追い込まれましたな。

次回は第五と第六の裁きの間になると思います。
皆さん、良いお年をお過ごしください。


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ナンバーズ99 終わりのない夢を追う者

あけましておめでとうございます。
2019年最初の本編更新です。
今年もFate/Zexal Orderをよろしくお願いします。

フェイトナンバーズの設定集を予告と注意書きの後に投稿したのでまだ見てない方は是非どうぞ。


ルーラーことジャンヌを仲間……と言うかある意味捕虜のような形で連れて行く。

 

ルーラーが暴れ出さないようにとアストラルの指示でジークがルーラーの手をいわゆる互いの指を絡ませてより強く手を握る『恋人繋ぎ』でルーラーの手をもう二度と離さないと言わんばかりにより強く握る。

 

恋人繋ぎは独占欲の表れでもあるので今のジークにはピッタリでルーラーは何も出来ずに顔を真っ赤にしている。

 

その姿にアヴェンジャーは愉悦を覚えて大笑いをし、ルーラーは羞恥心からギロリと睨みつけるがアヴェンジャーは特に怖くも何も無く進む。

 

するとメルセデスは監獄塔を見渡しながら呟いた。

 

「私も何かの罪の具現として選ばれたのでしょうか……」

 

「メルセデス?どうしたんだ?」

 

「ユウマ様、私は思うのです。罪なきヒトなど在るのだろうか、と。怒りも、妬みも、程度の差はあれ、どれも正常な精神活動の一つに過ぎません。それらが罪であるとして、けれど、主ならざる誰が裁けるのでしょう……」

 

罪と罰……人間にとって永遠の謎とも言えるその問いに遊馬は頭を手で掻きながら静かに答える。

 

「罪がないヒトなんて多分存在しないと思う。俺は全部を知ってるわけじゃないから分かんないけど、ヒトは多かれ少なかれ何かの罪を背負って生きていると思う。もちろん俺もな……」

 

遊馬は世界を救った英雄ではあるが、それに至るまで幼いが故、守りたいが故に数え切れない『罪』を犯してきた。

 

その罪は他人から見れば『罰』を受けるほどのものでは無いとしても、その罪は遊馬の心を締め付けている。

 

「そして、罪の元……『欲望』。俺とアストラルは『カオス』って呼んでいるけど、生きとし生けるものは全てカオスが無いと生きていけないんだ。強大過ぎるカオスは破滅を生むけど、カオスは悪いもんじゃない。だから、自分の中にあるカオスとどう向き合って生きていくのかが、一番大切だと思う」

 

欲望……カオスへの答えについては既に遊馬は答えを見つけていた。

 

「それと、罰だけど……人が人を裁くってすげぇ難しい事だと思う。人だから当然間違いもあるし、罰と偽って悪事に使う奴もいるからな。人を裁く神って奴がいるかどうかは分からないけど、これだけは知っている。人と人が分かり合えない限り、その罪がいずれ罰として自分に返ってくる……」

 

人が欲望を持つ限り、人と人とが分かり合えない限り、終わることのない永遠の罪と罰が繰り返される。

 

しかし、それでも遊馬とアストラルは信じている。

 

人と人とが……誰もが分かり合える未来を。

 

そう信じて戦い続けるのだ。

 

「ふん……」

 

アヴェンジャーは遊馬の話を聞き、何を思ったのか自分の手を見つめて強く握りしめた。

 

 

それからしばらくして遊馬達は第五の裁きの間へと到着した。

 

そこにいたのは遊馬とアストラルがよく知っているサーヴァントだった。

 

「オオオオオオオオオオォ!余は……殺す……殺す……!ああ、あああ、女神よ……余の、振る舞いを許せ!余の、振る舞い、は、運命、で、ある!余は、全てを……貪り!食らうのみ!!」

 

それは月によって狂わされたローマ皇帝、カリギュラだった。

 

「カリギュラのおっさんか……」

 

「ネロがいれば良いのだが……」

 

「まあ流石にこの世界じゃ難しいからな……」

 

カリギュラは姪であるネロを深く愛しており、ネロがいればなんとかなる可能性もあるが、流石に監獄塔までは不可能である。

 

「おっさん!いい加減にしないとネロが悲しむぜ!」

 

「何……?貴様、何故ネロを知っている!?貴様はネロの何なのだ!?」

 

愛するネロの名前を聞きカリギュラは殺気を放ちながら聞く。

 

「何って……ネロは俺の──」

 

遊馬が「俺のサーヴァント」と言う前に空は意地悪そうな笑みを浮かべて口を開いた。

 

「この子はネロのお婿さん候補よ?」

 

「何ぃいいいいっ!??」

 

空の爆弾発言にカリギュラは驚愕した。

 

「ちょっと空!?お前何を言ってるんだ!?」

 

「貴様!我が愛しのネロに手を出したのか!??」

 

「いえいえ、寧ろネロが遊馬君に手を出していますよ。キスとかしましたよ」

 

「ウガァアアアアアアッ!!?」

 

カリギュラは絶望の絶叫を上げ、更に殺気を放って遊馬を睨みつける。

 

「よくも……よくも愛しのネロを!貴様を殺し、ネロを我が手に取り戻す!!月よ、我に力を!!」

 

「ああもう!なんかややこしいことになっちゃったじゃねえか!空のバカ!!」

 

「だって、いずれこうなるから今のうちに済ませた方がいいと思ってね。娘を持つ父親……いいえ、この場合は叔父ね。親バカならぬ叔父バカは面倒だからね」

 

確かにカルデアではネロを愛するが故に、ネロを取られたくないカリギュラは遊馬の命を狙っている。

 

もっともそれはローマ帝国の神祖であるロムルスによって阻止はされている。

 

「ああもう!仕方ねえ、一気に決めるぜ!カリギュラはローマ皇帝でボクシングスタイルなら、こいつだ!」

 

遊馬は右手を真紅に輝かせてデッキトップに指を添える。

 

「力を借りるぜ、アリト!バリアンズ・カオス・ドロー!!!俺はドローしたこのカード、『RUM - 七皇の剣』を発動!このカードは通常ドローをした時に発動する事が出来る!エクストラデッキ、または墓地から『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』を特殊召喚して、そのモンスターをカオス化させる!」

 

遊馬がカオスの力でドローした七皇の剣を発動し、カリギュラの相手に一番適したモンスターを呼び出す。

 

遊馬の隣にかつて伝説の拳闘士として子供達の希望として戦い、転生後もカウンター戦法を使い続けたバリアン七皇の一人……アリトが立ち並ぶ。

 

「夜空に輝く星よ、熱き拳に宿れ!同胞を守る流星の光となれ!」

 

流星のような美しい光と共に『105』の刻印が空中に浮かび、無限大の記号の形を模した物体が現れて人型へと変形する。

 

「現れろ!『No.105 BK 流星のセスタス』!!」

 

現れたのは藍色のボディに両手に硬い革紐を巻きつけた拳闘士の姿をしたモンスターでそれは燃えるような炎の熱き拳を宿すボクシングを主体としたモンスター達のチャンピオンでもある。

 

「そして、流星のセスタスでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

流星のセスタスが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を生み、カオスによってその力と姿を大きく変える。

 

「闇を飲み込む混沌を!光を以て貫くがよい!」

 

赤黒い『105』の刻印と共に流星のセスタスが強靭で破壊に特化した力へと変貌する。

 

「現れろ!『CNo.105 BK 彗星のカエストス』!!」

 

現れたのは群青色のボディに紅蓮に輝く四つの腕を持つ拳闘士。

 

4体目のオーバーハンドレッド・カオス・ナンバーズ……カエストスを選んだ理由は、世界が異なるがかつてアリトがカリギュラが生きたローマの時代と同じ時代に生き、同じボクシングスタイルで拳を振るっていたからだ。

 

しかし、カリギュラは確実に遊馬を倒すために宝具を使う。

 

「女神が……女神が見える!『我が心を喰らえ、月の光』!!」

 

裁きの間の天井に月が現れ、月の光を照らして狂気を撒き散らす。

 

「させるか!カエストスの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手フィールドのモンスターを破壊する!!」

 

カエストスは背中の四つの腕から光線を放ち、カリギュラに直撃した。

 

しかし、カリギュラは何とか耐え抜いてカエストスの効果で倒す事が出来ず、裁きの間全体に狂気が振りまかれる。

 

「そうはさせません!主の御業をここに!我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!『我が神はここにありて』!!」

 

ジークと恋人繋ぎで手を繋ぎながらもルーラーは旗を振り、味方を守る強力な結界宝具で第二特異点の時と同じようにカリギュラの狂気を打ち消した。

 

「今のうちです!遊馬さん!」

 

「サンキュー、ルーラー!その状態だと格好がつかないけどな!」

 

「よ、余計なお世話です!」

 

片手で旗を振りながらジークと恋人繋ぎをするというルーラー本人は真剣だがあまりにも格好がつかないので遊馬は思わず笑ってしまった。

 

「行くぜ!魔法カード『アームズ・ホール』!デッキの上からカードを1枚墓地に送り、デッキ・墓地から装備魔法を手札に加える!俺はデッキから『最強の盾』を手札に加えて発動!戦士族のカエストスの攻撃力は守備力の分パワーアップ!」

 

歪な形をした盾が現れ、そのままカエストスの体内に取り込み、その攻撃力を高める。

 

「カエストスの攻撃力は2800、守備力は2000。よって、攻撃力は4800にまで上昇する!決めろ、遊馬!」

 

「おう!カエストスでカリギュラのおっさんに攻撃!!」

 

カエストスの真紅の瞳が輝き、ファイティングポーズを決めてカリギュラに殴りかかる。

 

「ウォオオオオオオォ!!!」

 

「コメット・エクスプロージョン!!!」

 

カリギュラとカエストスの拳が同時に放たれて腕が交差する。

 

そして、クロスカウンターで先に相手の顔面に拳を叩きつけたのは……。

 

『ハァッ!!!』

 

「グォオオオオオオオッ!?」

 

カリギュラはカエストスの拳によって殴り飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられながら消滅した。

 

「はぁ……カルデアに帰ったらネロのことでおっさんと話さないとな……」

 

遊馬は特に気にしていなかったが、カリギュラがネロを大切に想っているのならばいつか遊馬がネロを異世界に連れて行くときに色々揉めそうなので先に許可を得ないといけないと感じた。

 

無事に第五の裁きの間の扉が開き、いよいよ監獄塔の裁きの間も六番目へ差し掛かった。

 

「これで嫉妬、色欲、怠惰、憤怒、暴食の具現を倒したのか……」

 

「後は……七つの大罪になぞらえるならば、強欲と傲慢だな」

 

「七つの大罪って、確かキリスト教の七つの罪の源だっけ?」

 

「ああ。人間を罪に導くとされる欲望や感情とされるものだ」

 

アストラルから七つの大罪について簡単に説明を受け、アヴェンジャーに次の罪の支配者について聞いた。

 

「ふーん。アヴェンジャー、第六の裁きの支配者の罪は何だ?」

 

「第六の裁き、第六の支配者は強欲。驚嘆に値するほど、彼以上に強欲な生き物をオレは見たことがない……と思っていたが、それは間違いだった」

 

「どういう事だ?」

 

「お前だよ、マスター。第六の支配者と並ぶ強欲……お前の中で一番強い罪は強欲だ」

 

アヴェンジャーの答えに遊馬は頭に疑問符を浮かべるほどに大きな疑問となった。

 

「マスター、お前は一見は清く正しく、子供のように無邪気に生きていそうに見えて実はとても強欲だ」

 

かつて冬木市で同じアヴェンジャーであるアンリマユにも遊馬は強欲だと称した。

 

「大切な人や仲間を守りたい、ずっと側にいたいという独占欲に執着心。それに加えて別の世界であるも関わらず、この世界を救いたいという欲望がとても強い。それは恐らく、マスターが二度と失いたくないという気持ちの表れであろう」

 

遊馬の持つ最大の罪……強欲。

 

仲間を大勢失い、世界が滅びかけた……そんな経験から遊馬の心には強欲と言う名の罪が宿っていた。

 

それは十三歳の少年が持つにはあまりにも大きすぎる罪である。

 

「アヴェンジャー……」

 

「だからこそ、オレは楽しみなのだ。お前と第六の支配者と会わせることを。何故なら、彼は世界を救おうとしたのだから!」

 

「世界を……?」

 

「難敵だ。気を抜けば、たちまち死ぬぞ」

 

「……分かった」

 

遊馬はアヴェンジャーの言葉に気を引き締めて第六の裁きの間に向かう。

 

部屋の中央にいる一人の男……その男は遊馬の後ろにいるジークとルーラーを見て軽く笑みを浮かべながら近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……まさか、こんなところで再会するとは思いませんでしたよ。我が宿敵……ジャンヌ。そして、ジーク」

 

「あ、あなたは……!?」

 

「天草……四郎!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは褐色の肌に白髪、その身には修道服と赤いマントを着用し、その手には日本刀を持つなんともアンバランスな姿の少年がいた。

 

そして、ジークが口にしたその青年の真名に遊馬とアストラルは驚愕した。

 

「天草四郎って、江戸時代に島原の乱を起こした……」

 

「日本で一番有名なキリシタンで神の子として禁教を信じる農民たちから崇められ、叛乱軍の総大将となった男……」

 

天草四郎。

 

江戸時代初期最大の一揆である島原の乱で指導者を務めた少年。

 

そして、ジークとルーラーにとっては因縁の相手でもある。

 

「ユウマ!気をつけろ、あいつは聖杯大戦の黒幕だ!」

 

「私たちはあの男の野望を止めるために戦ったのです!」

 

天草はある理想のために聖杯大戦を影から操り、聖杯を手にしてその理想を叶えようとした。

 

しかし、それをジークとルーラーとの死闘の末に敗れてしまい、理想を実現出来なかった。

 

「マジかよ!?あの天草四郎さんが!?」

 

「おや?君は私をご存知ですか?」

 

「当たり前だ!こう見えても俺はあんたと同じ日本人だからな!あんたのことは小学校の時に歴史の教科書で習ったぜ!」

 

「そうですか……私如きの存在を知ってもらえるとは光栄です。ところで、ジャンヌ」

 

天草はニコニコと笑みを浮かべながらルーラーに話しかける。

 

「……何でしょうか?」

 

話しかけられたルーラーは何を言われるのかと警戒する。

 

「もしや、ジークと結婚したのですか?それほどまでに熱々に手を握るとは、敵とはいえ微笑ましいですね」

 

「……ハッ!?な、何を言うんですかあなたは!?」

 

天草の発言にルーラーは慌てふためく。

 

聖杯大戦の宿敵が対峙していきなりそんなことを言われたら流石の真面目なルーラーも精神が乱れる。

 

「違います、これはジーク君が離してくれないからです!」

 

ルーラーの慌てふためく姿に天草はキラキラしたような笑みを浮かべて二人を祝福する。

 

「ハッハッハ!恥ずかしがることはありません。なるほど、あなたはもう聖女を卒業したのですね。それはとても喜ばしい事だ。そうだ、もしも結婚式を挙げて無いのであれば、私が神父として立ち会いましょう。ご心配なく、こう見えても神父として生きていたことがあるので」

 

「余計なお世話です!!何なんですか!?あなたは私をおちょくりたいのですか!?」

 

「いえ、ジャンヌはジーク関連だと精神が脆くなるのはシェイクスピアの宝具で既に明らかなので、今のうちにダメージを与えておこうと……」

 

「くっ!許しませんよ、天草四郎時貞!!ジーク君、離してください!!」

 

「……嫌だ。また君があの炎を使うなんてことはさせない。もう君を離したく無い」

 

ジークは何かのトラウマが蘇ったのかルーラーと繋ぐ手を更に強めて抱き寄せる。

 

「ジ、ジーク君……それどころじゃ……」

 

「では、結婚式のご祝儀はいくら用意しましょうか?」

 

「もういい加減に黙りなさい!!天草四郎!!!」

 

いい笑顔を浮かべる天草に顔を真っ赤にしたルーラーの怒号が裁きの間に響き渡るのだった。

 

「……そう言えば、天草四郎さんの声ってカイトにそっくりだな」

 

「確かにな……声の高さや色が見事に一致しているな」

 

口調は当然違うが、声音が異世界にいる遊馬の仲間のカイトにそっくりなので、天草のその声を聞いて遊馬とアストラルは懐かしさが蘇るのだった。

 

 

 




天草四郎さんはかなり好きなキャラなので出せて嬉しいです。
ルーラーがジーク君関連で弱いと知っているのでまずは心理フェイズでダメージを与えています(笑)
あとは嫁のセミラミス様を出さなければ……。

次回はジーク&ルーラーVS天草を予定しています。


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ナンバーズ100 人類と世界を救う者

祝!100話突破!
Fate/Zexal Orderも無事に100話を突破しました。
これも皆さんの応援のおかげです、ありがとうございます。

さて、今回は遊馬とアストラルと天草との対話です。
世界を救った遊馬とアストラル、世界を救おうとした天草との対話となります。
色々悩みながら書きましたがもし違和感や違っていたら遠慮なく言ってください。


第六の裁きの間の支配者……天草四郎時貞。

 

その男はジークとルーラーが経験した聖杯大戦の黒幕だった。

 

天草はルーラーを弄り、満足したように清々しい笑顔をすると遊馬とアストラルとアヴェンジャーに目線を向けた。

 

「さて。改めて名乗りましょう。私の名は天草四郎時貞。クラスはルーラーです」

 

「俺の名は九十九遊馬!異世界から来たデュエリストだ!」

 

「我が名はアストラル!遊馬の相棒だ!」

 

「私の名は語るつもりはない。もっとも、ルーラーなら既に私の真名は分かっているだろ?」

 

「ええ、アヴェンジャー。斯様な場所でなければ、違うカタチで出会う可能性もあったでしょうが。復讐のクリストを名乗る貴方には、最早、祈りも言葉も届かないのでしょう。だが、一方で私は貴方を信じてもいます。これ以上ないほどに。この世の地獄を知る者ならば、真に尊きモノが何であるかも同時に知った筈。魔術王の策謀にも貴方は乗らなかった。ならば……」

 

「──黙れ。アレは怨念を持たぬ者だ。恩讐の外に在る存在と馴れ合う道理はない」

 

アヴェンジャーは魔術王……ソロモンと面識があるらしく、そのことにアストラルは静かに耳を傾けた。

 

(怨念を持たない……それは心を持たないと同義だ。つまり、ソロモンは怨みや憎しみなどの感情から人類を滅ぼそうとしたわけでは無さそうだな……)

 

益々ソロモンが『本物』なのかという疑惑を深まる中、アヴェンジャーは天草への答えを示す。

 

「勘違いされては困るな、天草四郎。オレは世界を救う手伝いなぞした覚えはないぞ?」

 

「……確かに、そうでしょう」

 

「だが、世界を救うつもりはないが、今オレが興味があるのは……お前とオレの目の前にいる二人との『対話』だ!」

 

「対話……?」

 

「聞け、天草四郎。ここにいるマスターとその相棒の精霊は異世界からの来訪者だ。そして、この二人は人類と世界を滅ぼそうとした邪神を倒し、人類と世界の全てを救ったのだ」

 

「何と……!?邪神から人類と世界を救っただと……!?」

 

アヴェンジャーの説明に天草は目を見開くほどに衝撃を受けた。

 

精霊を相棒にしている時点で只者ではないマスターだとは思っていたが、まさか異世界からの来訪者で人類と世界を救った本物の英雄だとは思いもよらなかった。

 

天草が生前に島原の乱の総大将として活躍したのは十代半ばでちょうど遊馬と同じぐらいの年齢だった。

 

自分とは比べほどにならないほどの素晴らしい偉業を成し遂げた遊馬とアストラルに対し、天草は深い敬意を抱いた。

 

「素晴らしい……!まさか貴方たちが、人類と世界を救った本物の英雄だとは……貴方たちに敬意を称します」

 

天草はそんな二人に頭を下げて敬意を称した。

 

「へへっ……故郷の有名な英雄に褒められるなんて照れるぜ」

 

遊馬は天草に褒められて嬉しい気持ちになったが、アストラルは目を鋭く細めて静かに尋ねる。

 

「……天草四郎。アヴェンジャーから君は世界を救おうとしていたと聞いた。そして、先程ジークとルーラーは君が聖杯大戦の黒幕で、二人は君が起こそうとした野望を食い止めるために戦ったと言った……君は聖杯を使って何をしようとしていたのだ?」

 

キリシタンだった天草が一体聖杯に何を願おうとしたのか?

 

本当に世界を救うつもりなら誰よりも優しく、他人を思いやる気持ちを持つジークとルーラーが本気で止めようとは思わない筈だ。

 

つまり、天草が聖杯で叶えようとした願いはとんでもない大きな事象と言うことになる。

 

「良いでしょう。世界を救った貴方たちに是非とも聞いてもらいたい。私の願い……それは『全人類の救済』です」

 

「全人類の……」

 

「救済だと……?」

 

全人類の救済。

 

それは人類が永遠に望み、そして打ち砕かれてきた叶うことのない果てなき夢。

 

「私の思う人類救済は、至極単純です。人類共通の根源的欲求の充足。即ち、死への恐怖を取り除くことです」

 

天草の口から語られた言葉に遊馬とアストラルは背筋が凍った。

 

「死への恐怖を取り除くだって……!?」

 

「まさか……天草四郎、君は全人類を不老不死にするつもりか!?」

 

「ええ。ですが、貴方たちが考えている不老不死とは少し異なります。私が行うのは『第三魔法』……『魂の物質化』です」

 

「「魂の物質化……?」」

 

この世界の魔術や魔法の仕組みをまだイマイチ理解していない遊馬とアストラルに対して天草は丁寧に説明する。

 

「少しレクチャーしましょう。物質界において唯一永劫不滅でありながら、肉体という枷に引きずられる魂を、それ単体で存続できるよう固定化する。精神体のまま魂単体で自然界に干渉できるという、高次元の存在を作る業。魂そのものを生き物にして、次の段階に向かう生命体として確立する……それが魂の物質化です」

 

「魂そのものを生命体に……?」

 

「そう言うことか……遊馬、仙人は知っているな?」

 

アストラルは魂の物質化にいち早く理解すると遊馬に分かりやすいように説明する。

 

「お、おう。中国で大昔から伝わる不老不死で不思議な術を使う奴らだろ?日本にもいるよな?」

 

「仙人は厳しい修行の末に不老不死の術を得て、死んだように見せかけて肉体から脱出し、肉体は消滅させることにより、仙人になる……つまり、滅びゆく肉体を無くすことで魂だけで生命体と同じように行動出来るようにするんだ」

 

「それって、全人類がお前やアストラル世界の住人みたいになるって事か?」

 

「いや、アストラル世界の住人は不老不死と言う訳ではない。歳は少しずつ取るし、死はもちろんあるからな……」

 

高次元の存在であるアストラルやアストラル世界の住人は大人や子供まで幅広くおり、アストラル自身は一度死を経験しているので不老不死の存在ではない。

 

「アストラル世界……?なるほど、あなたのような美しい精霊が住む世界があるのですね。でしたら、あなたにも分かるでしょう?人間はあまりにも不完全な存在だ。だからこそ、あなたのように肉体を捨てさせ、魂だけの不老不死になるべきなのです!」

 

天草は人類救済の為にアストラルに向けて熱く語っている。

 

人間が不完全な存在……それは紛れも無い事実。

 

ある意味ではアストラルは天草から見れば完全に近い存在である。

 

異世界の精霊であるアストラルなら分かってもらえる……そう確信していた。

 

アストラルは目を閉じて少し考え、静かに目を開いて答える。

 

「天草四郎。残念だが、私は君の考えに賛同できない」

 

アストラルの返答に天草は動揺を見せた。

 

「何……?何故だ……あなたは人間よりも高次元の存在だ。それなら分かるはずだ!私の目指す人類の救済を!」

 

「……天草四郎。君は人間を嫌っているのではないか?」

 

人類の救済を願う天草だが、島原の乱で人間の邪悪で残酷な一面を見た出来事や、その後も様々な争いを見続けたことから『人間は嫌いだが、人類を深く愛する』という歪んだ考えになってしまった。

 

「……まさか。そう言うあなたはどうなのですか?少年……九十九遊馬と仲良さそうにしていますが」

 

「……確かにあなたの言うように人間は不完全な存在だ。それは紛れも無い事実だ。しかし……私は人間に無限の可能性を持っていると知っている」

 

「無限の可能性……」

 

「ここにいる私の相棒……遊馬や我々が出会ったライバル、仲間達……出会った人間は私の想定を大きく超える可能性を秘めている。それは神と呼ばれる存在すらも凌駕する力だ。だが、あなたが行おうとするそれはその可能性を、力を全て無に帰す行いだ。私はそれを認めるわけにはいかない!!」

 

アストラルは自分の想定を超える人間の持つ無限の可能性を尊重しており、魂の物質化はそれを否定する考えであると否定した。

 

次に遊馬が天草の願いに対する答えを自分なりに考えて言う。

 

「天草さん……確かにあんたの計画で人類はある意味救われるかもしれねえ。みんな、家族や友達や仲間とずっと一緒にいられるからな……だけど、俺もそんな世界は嫌だな」

 

「……何故です?大切な人と一緒に居られるならそれが当たり前の事では?」

 

「俺は世界を救う戦いで沢山のものを一度失った。友達と仲間、敵だったけど分かり合う事が出来た仲間……ここにいるアストラルと見守ってくれた幼馴染以外の全てだ……」

 

「全てを……失った……!?」

 

「だからこそ、大切な人を失いたくない。ずっと一緒にいたいと願う。永遠にこの時間が流れれば良いと思う……」

 

何度も大切なものを失い、その喪失感に遊馬は数え切れないほどに嘆き、苦しんだ。

 

大切な人だからこそ守りたい、ずっと一緒にいたいと誰よりも強く願う。

 

そして、自分と大切な人たちと一緒にいる『世界』を壊すモノを遊馬は絶対に許さない。

 

全てを守り抜くために遊馬は己の全てをかけて戦い、勝利を手にする……それはアヴェンジャーが指摘した遊馬の強欲の罪である。

 

「たけど、それじゃあダメなんだ。人は……いつか別れが来るからこそ、その一秒、一瞬が愛おしいんだ。人間は悲しみを背負っても一歩前に踏み出す事が出来るんだ」

 

遊馬とアストラルは最初で最後のデュエルを繰り広げ、最後には別れを告げた。

 

二人は出来る事ならもっとずっと一緒にいたかった。

 

一度だけでなく沢山デュエルがしたかった。

 

もっと喜びを分かち合いたかった。

 

一緒に色々な事を経験したかった。

 

しかし、二人は互いのそれぞれの歩む『未来』の為に別れることを決意した。

 

「だが、人類は未だに不毛な争いを繰り返している。このままだと世界はいずれ滅びの道を辿ることになる……第三魔法で、魂の物質化で不老不死になれば人類は救われるのです……!」

 

「確かに今でも人と人は争っている。だけど、誰にだって良い心と悪い心が戦ってるんだ。でも、そっから逃げ出さなきゃ、きっとどんな事だってやり直せる。誰とだって、分かり合えるんだ……俺は、俺とアストラルはそう信じている!!」

 

「天草四郎!確かに君の目指す理想は人類の救済の一つの答えとして正しいのかもしれない。だが、我々は目指しているんだ。誰もが分かり合える、光り輝く希望の未来を!!」

 

遊馬とアストラルが信じる希望の未来。

 

それは天草が追い求める『終わりのない夢』であることには変わりなかった。

 

自分では考えられなかったその夢に天草は笑みを浮かべた。

 

「……どうやら、私とあなた達の道は交わりそうにはありませんね。しかし、その揺るぎない信念で貴方達の世界を救ったのですね」

 

天草は自分の信念と遊馬とアストラルの信念が交わらないことは分かった。

 

しかし、その信念で世界を救った遊馬とアストラルに対し、自分では成し得ることのできない、紛れも無いまさに『英雄』と呼ぶに相応しいその姿に天草は心から改めて敬意を評した。

 

「……本当なら、貴方たちに微弱ながら私の力を貸してあげたいところですが、今の私はこの裁きの間の支配者……」

 

今の天草はこの監獄塔の第六の支配者として遊馬とアストラルの前に立ち塞がらなければならない。

 

「心苦しいですが、今だけは貴方たちの敵として戦わせてもらいます。さあ、真なる英雄よ……私と言う壁を超えて見せなさい!!」

 

天草は吹っ切れたような表情を浮かべて刀を構える。

 

戦う事を決めた天草に対し、遊馬とアストラルはアイコンタクトを交わしながら互いの拳をぶつけ合う。

 

「見せてやろうぜ、アストラル。世界を救う……俺たちの力を、覚悟を!!」

 

「ああ!共に行くぞ、遊馬!」

 

「おう!俺は俺自身と!」

 

「私自身で!」

 

「「オーバーレイ!」」

 

二人の体が赤と青の光となって飛び、裁きの間を駆け抜ける。

 

「「俺達/私達二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!!」」

 

そして、二つの光がぶつかると、『X』の大きな光となって輝き、二人の魂が一つに融合して垂直落下する。

 

「どういう……ことだ……!??」

 

あまりの予想外の事態に天草は呆然としてしまう。

 

今まで様々な戦いを潜り抜けてきた天草でさえ、今の遊馬とアストラルが起こしている事態に頭が混乱している。

 

そして、二人の魂が一つとなって限界を超えた力を生み出し、世界を救った真の英雄が姿を現わす。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II!」」

 

遊馬とアストラルはZEXAL IIへと合体し、天草は驚愕した。

 

「まさか、人間と精霊が一つの存在へと合体して進化するとは……!?」

 

もちろん天草だけでなくアヴェンジャーとメルセデスも驚愕していた。

 

「フッ……どこまでオレを楽しませてくれるんだ、お前たちは!!」

 

「これが、ユウマさんとアストラルさんの力……」

 

そして、何度もZEXALの力を見てきたジークとルーラーはそれぞれ剣と旗を構えながら静かにZEXAL IIの隣に立つ。

 

「ユウマ、アストラル。俺も二人が言う、人間の可能性と希望の未来を信じたい」

 

「共に力を合わせましょう。私達の力を存分に使ってください。お二人の未来を切り開く為に!」

 

ジークとルーラーは遊馬とアストラルの信じる人間の無限の可能性と希望の未来に心を打たれ、改めて自分たちの力を託すと決めた。

 

「ジーク……ルーラー……!」

 

遊馬はジークとルーラーの思いに心が震えると、ZEXAL IIの胸元が輝き、一枚のカードが現れた。

 

「これは……?」

 

「それはジークとルーラーのフェイトナンバーズだ」

 

本来なら監獄塔には存在せず、カルデアに存在するカード……ジークとルーラーのフェイトナンバーズである。

 

四人の絆が強く結ばれた事により、カルデアからZEXAL IIの元へと現れ、白紙だったフェイトナンバーズがその力を解放した。

 

「行くぜ、二人共!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

ZEXAL IIはジークとルーラーを粒子化させてフェイトナンバーズにいれる。

 

デッキからカードを5枚ドローして手札にし、新たなフェイトナンバーズの召喚条件を確認しながら右手を輝かせる。

 

「「俺/私のターン!全ての光よ、力よ、我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!『ガガガマジシャン』を召喚!ガガガマジシャンの効果!レベルを4から8にする!更にガガガモンスターが存在する時、手札から『ガガガキッド』を特殊召喚し、ガガガマジシャンと同じレベルとなる!」」

 

ガガガマジシャンとガガガキッドが立ち並び、その効果で共にレベル8となるが、まだこれでは召喚することは出来ない。

 

「「ガガガキッドに装備魔法『幻惑の巻物』を装備!装備モンスターは宣言した属性となる!俺は『光属性』を選択!」」

 

ガガガキッドの前に不気味な巻物が現れ、それをガガガキッドが読むと着ていた子供風の魔法使いの服装が純白に輝いて光属性となる。

 

「「これで条件は揃った!闇属性レベル8のガガガマジシャンと光属性レベル8のガガガキッドでオーバーレイ!!」」

 

『『ガガガッ!!』』

 

二体のガガガモンスターがそれぞれ紫と金の光となって地面に吸い込まれて光の爆発を起こす。

 

「「己が道を切り開く邪竜の少年と愛に目覚めし聖女!今、二人の道が一つに交わり、新たな未来を切り開く!!」」

 

地面から膨大な闇と光が溢れ出し、その中から邪悪な闇の力を持つ勇ましい邪竜と炎に包まれた美しき純白の聖女が姿を現わす。

 

「「現れよ!『FNo.95 邪竜と聖女 ジーク&ルーラー』!!」」

 

現れたのは全身が漆黒の竜鱗の鎧を身に纏い、竜人の騎士のような姿をしたジークと純白の鎧に身を包んだルーラーだった。

 

「さあ、行くぞ……天草四郎!!」

 

「あなたを超えさせてもらいます!!」

 

「行きますよ……ジーク……ジャンヌ!!」

 

再び相見えるジークとルーラーと天草……聖杯大戦から続く因縁の戦いが再び始まる。

 

 

 




今回の話は難しかったです。
人類と世界を救うってとんでもない話ですからね。
遊馬とアストラルは未来を信じますが、天草は人間に絶望したからこそあのような強行手段に出たんでしょうね。
どっちも間違ってないから難しい話ですよね。

次回はジークとルーラーと天草との対決です。
今度はルーラーが消える心配がないのでジークも怒りや恨みがなく戦えそうです。


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ナンバーズ101 交わらぬ二つの道

今回は短めです。
最近仕事が忙しくて執筆も大変です。



第六の裁きの間の支配者……天草四郎。

 

聖杯大戦からの因縁の相手であるジークとルーラー……そのフェイトナンバーズの力が解放される。

 

「行くぜ、ジーク&ルーラーの効果!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、デッキからモンスターを5枚まで選んで墓地に送る!」

 

ジークがオーバーレイ・ユニットを一つ取り込むと、ZEXAL IIはデッキからモンスターを5体選んで墓地に送る。

 

出来るだけ墓地活用ができそうなモンスターを墓地に送ると、ジークとルーラーは剣と旗を構える。

 

「そして、墓地に送ったカードの枚数分だけ、ジーク&ルーラーは相手に可能な限り攻撃する事が出来る!」

 

「カードを1枚伏せ、ジーク&ルーラーで攻撃!!」

 

「行きますよ、ジーク君!」

 

「ああ!」

 

二人は同時に地を蹴り、素早い一瞬の動きで天草の間合いに入る。

 

「「クインテット・デュアル・スラッシュ!!」」

 

「「はあっ!!」」

 

ジークとルーラーはそれぞれ天草に向けて軌道の異なる五つの攻撃を放つ。

 

天草は自身が持つ日本刀……名刀・三池典太を左手に構え、右手には投擲用の剣・黒鍵を指に挟み、二人の攻撃を全力で防ぐ。

 

「くっ……!?」

 

全力で防いでいるが、それでもジークとルーラーの攻撃を全て防ぐ事はできずに体のあちこちに深い切り傷や打撲が出来る。

 

天草は二人の猛攻を防いで下がるとZEXAL IIの左手首に装着されているデュエルディスクを見てそれがZEXAL IIの力の源だと察知した。

 

「……なるほど、そのカードが貴方たちの魔術を発動する為の媒体というわけですか。面白い、これが異世界の魔術師と言うわけですね……」

 

「俺たちは決闘者(デュエリスト)でこの力はデュエルモンスターズだ」

 

「デュエルモンスターズ……それが貴方たちの力ですか。でしたら、私も見せましょう……私の宝具を……」

 

天草は刀を鞘に納めると足元から膨大な魔力が吹き荒れる。

 

「『天の杯(ヘヴンズ・フィール)』起動。 万物に終焉を──」

 

宙に浮いた天草は両腕を開くと、両手にそれぞれ光と闇の球体を作り出した。

 

ルーラーは天草がこれから使おうとしている宝具の恐ろしさを知っており、すぐにZEXAL IIに警告を出す。

 

「っ!?遊馬さん!天草四郎のあれを使わせたらこの部屋は消滅します!」

 

「しょ、消滅だって!?」

 

「今こそ、俺とルーラーのフェイトナンバーズのもう一つの力だ!」

 

「遠慮することはありません!覚悟はできています!」

 

ジークとルーラーのフェイトナンバーズにはもう一つの効果がある。

 

しかし、その効果はルーラー……ジャンヌ・ダルクの切り札とも言うべき最強宝具の力を反映した効果である故にデメリットがある。

 

ルーラーはかつて天草を止めるためにその宝具を使用したが、その際でジークは心に大きな傷を受けてしまった。

 

だが、仲間をとても大切にする遊馬とアストラルはそのデメリットを打ち消すためのカードが既に伏せてある。

 

「分かった……行くぜ、ジーク!ルーラー!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

天草は第六の裁きの支配者として、遊馬とアストラルを試すために最強宝具を放つ。

 

「『双腕・零次集束(ツインアーム・ビッグクランチ)』!!!」

 

両腕から投げ飛ばした光と闇の球体が一つに交わると擬似的な暗黒物質が精製され、周囲のあらゆる存在を取り込む擬似ブラックホールが生成された。

 

このままではこの部屋どころか監獄塔が崩壊する危険が出て来た。

 

ジークとルーラーは強く手を握り、ルーラーが生み出した剣を構えるとジークは手を添える。

 

「「ジーク&ルーラーの効果!このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのカード効果を無効にして破壊する!この効果に対して相手は効果を発動出来ず、無効に出来ない!!」」

 

「ジーク君……」

 

「ああ……」

 

ルーラーの体から紅蓮の炎、ジークの体から漆黒の炎が吹き荒れ、二つの炎が混ざり合って剣に宿る。

 

ZEXAL IIはブラックホールに向けて指差すとジークとルーラーは剣の切っ先を静かにブラックホールに向ける。

 

「「『紅蓮と漆黒の永遠(クリムゾン・アンド・ブラック・エターナル)』!!!」」

 

剣から紅蓮と漆黒の混ざり合う炎が放たれる。

 

その炎は全てを焼き尽くす聖なる力と邪悪なる力が混ざり合ったカオスの力。

 

全てを焼き尽くす炎と全てを飲み込む闇……強大なる二つの力がぶつかり合い、監獄塔が震えるほどの衝撃が響く。

 

ブラックホールは炎に焼き尽くされて消滅し、力を出し尽くしたジークとルーラーはその場に崩れ落ちる。

 

「……この効果を使用した後、このモンスターの攻撃力と守備力は0となり、エンドフェイズ時にこのカードを破壊する……だが!」

 

「そんなことはさせない!罠カード!『ナンバーズ・ウォール』!!ナンバーズは戦闘・効果で破壊されなくなる!これでジークとルーラーは消えない!!」

 

伏せていたナンバーズ・ウォールが発動され、空中に『95』の刻印が浮かび、二人が破壊されるのを防いだ。

 

しかし、二人の攻守が0となり、これでは戦えなくなってしまったので、ジークとルーラーは息切れしながらZEXAL IIに後を託す。

 

「遊馬……後を頼む」

 

「あなたたちの希望を天草四郎に見せつけてください」

 

「ジーク……ルーラー……ああ、任せろ!」

 

「二人の闘志の炎は我々が引き継ぐ!」

 

ZEXAL IIの体から聖なる光が放たれ、右手に収束させて光を宿す。

 

「「俺/私のターン!全ての光よ、力よ、我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!」」

 

シャイニング・ドローをしたカードを見てZEXAL IIは最高にして最強の希望の象徴を呼び出す。

 

「「『ゴゴゴジャイアント』を召喚!その効果で墓地のゴゴゴモンスターを特殊召喚する!蘇れ、『ゴゴゴゴーレム』!レベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!現れよ、光の使者!『No.39 希望皇ホープ』!!」」

 

『ホォオオオオオオープッ!!!』

 

ZEXAL II……遊馬とアストラルの希望の象徴にして世界を救った希望の光……希望皇ホープ。

 

「美しい……」

 

天草は神の如き美しい輝きを放つ希望皇ホープをその目にし、思わず口を開いて呆然としてしまった。

 

これが世界を救った遊馬とアストラルの力……天草は感動で体が震えながら鞘に納めた刀を抜く。

 

天草は双腕・零次集束で膨大な魔力を消費したので刀で戦うしかなかったが、堂々としながら立ち向かう。

 

「さあ、来なさい!遊馬!アストラル!貴方たちの全力の攻撃を私にぶつけなさい!!」

 

「天草さん……!」

 

「行くぞ、希望皇ホープで攻撃!」

 

希望皇ホープの目が輝き、左腰のホーブ剣を引き抜いて飛翔し、天草も地を蹴って走り出す。

 

「この瞬間!希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、攻撃を無効にする!ムーンバリア!!」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込み、振り下ろそうとしたホープ剣を消滅させた。

 

「自ら剣を消した!?」

 

ZEXAL IIはシャイニング・ドローで想像した光り輝くカードを発動する。

 

「「手札から速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』を発動!!モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にして、もう一度攻撃が出来る!!!」」

 

希望皇ホープの真紅の目が鋭く輝き、消滅したホープ剣が右手に現れ、左手で右腰に携えたホープ剣を引き抜いて構える。

 

ダブル・アップ・チャンスの効果を受けて二つのホープ剣の刃が光り輝き、聖なる金色の光を放つ。

 

「魔力が増加……いや、倍増した!?」

 

ダブル・アップ・チャンスの効果で希望皇ホープの攻撃力が2500の2倍の5000まで上昇する。

 

「「行け!希望皇ホープ!!ホープ剣・ダブル・スラッシュ!!!」」

 

金色の光を放ちながら斜め十字に放つホープ剣に天草は刀で防ぐがあっという間に破壊された。

 

「……見事だ」

 

天草は目を閉じた直後に斬撃を受け、あまりの衝撃に後ろに吹き飛ばされて壁に激突する。

 

「天草さん!」

 

ZEXAL IIは思わず走り出して壁に激突した天草に駆け寄る。

 

天草は敗北して体が消滅していき、穏やかな表情を浮かべながらZEXAL IIと話す。

 

「素晴らしい攻撃でした。希望皇ホープ……正に神に等しい存在ですね」

 

「天草さん……」

 

「遊馬、アストラル。この戦いに必ず勝ち抜いてください。そして、いつか私を召喚してください……私も貴方たちと共に戦いましょう」

 

「ああ、待ってるぜ!」

 

「その時は一緒に色々な語り合おう」

 

「ありがとう……」

 

天草は優しい笑みを浮かべながらZEXAL IIと握手を交わし、消滅していった。

 

この世界は夢のような虚ろな世界故にフェイトナンバーズを残すことができず、ZEXAL IIは消滅した天草の光を握りしめる。

 

天草が目指した人類救済の夢……道は異なるが命をかけて人類を救おうとしたその想いを胸に秘めながらZEXAL IIは合体を解除して遊馬とアストラルに戻る。

 

「これで第六の裁きの間もクリアだ。それで、どうだった?天草四郎との対話は?」

 

アヴェンジャーは望んでいた世界を救った遊馬とアストラルと世界を救おうとした天草との対話が実現し、満足そうに近付いた。

 

「……俺、天草さんの考えには同意出来ないけど、天草さんの事は嫌いじゃねえぜ。あの人の誰よりも人類を救済しようとした強い想いはこの心に伝わって来たからな。俺達も、これからもっともっと頑張らなくちゃなと思うぜ」

 

「私たちの目指す道と天草の道はあまりにも険しい。その道が決して交わる事はないだろう……しかし、我々は分かり合える、そう思えるんだ」

 

「そうか……」

 

アヴェンジャーは人類を救う二つの道を歩む者達の考えや想いを聞いて何を思ったのか、語らずに扉に向かって歩く。

 

「さあ、マスターよ。いよいよ次が最後の裁きの間だ……心してかかれ」

 

「ああ!」

 

「必ず勝ち抜き、カルデアに帰る!」

 

「最終決戦……燃えるわね」

 

「いよいよだな、ルーラー」

 

「そうですね、ジーク君……」

 

遊馬達は気合いを入れてアヴェンジャーに続いて扉に向かう。

 

しかし、一人だけ浮かない顔をしていた。

 

「私は……」

 

今だに自分の記憶が戻らないメルセデス。

 

不安に心が支配されながら静かに歩むのだった。

 

 

 

 




最後はホープで決めましたが、ジークとルーラーはいい仕事をしました。

今回のフェイトナンバーズはこちらです。

『FNo.95 邪竜と聖女 ジーク&ルーラー』
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/戦士族/攻4000/守4000
闇属性レベル8モンスター×1+光属性レベル8モンスター×1
このカードはルール上、属性は『闇』、種族を『ドラゴン族』としても扱う。
①1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。デッキからモンスターを5枚まで選んで墓地に送る。このターン、墓地に送ったカードの枚数分だけ、相手フィールドのモンスターに可能な限り攻撃する事が出来る。
②1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのカード効果を無効にして破壊する。この効果に対して相手はカード効果を発動出来ず、無効に出来ない。この効果は相手ターンにも使用する事ができる。この効果を使用した後、このモンスターの攻撃力と守備力は0となり、エンドフェイズ時にこのカードを破壊する。

ダークマターの効果やルーラーの紅蓮の聖女などを元に考えました。
墓地落としとフリーチェーンの効果無効は強いですね。
ダークマターが禁止になったからこれぐらいは強くしたいなと思いがありました。

次回は監獄塔編の最終回を予定しています。
もしかしたら更新が遅れかもしれませんがご了承ください。


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ナンバーズ102 七つの大罪

大変お待たせしました。
少し更新をお休みして心に少しゆとりが出来ました。
今回は前編後編に分けて更新します。
後編は今日中に投稿しますのでお待ちください。


監獄塔……最後の試練、第七の裁きの間。

 

長かった監獄塔の戦いも遂に最後となり、遊馬とアストラルは連戦に次ぐ連戦で流石に疲れが出たので最初の部屋で休んでいた。

 

すると、何処かへと出かけていたアヴェンジャーが部屋に入ると不機嫌な表情をして部屋を見渡す。

 

「……女は何処だ?」

 

「ふあぁっ……女?」

 

「フン。呆けた顔をするな。あの女だ、オレがメルセデスと名付けた女。オレがいない間に何処へ行った?行く先など、シャトー・ディフにはあるまいに」

 

「メルセデス?あれ、どこ行ったんだ?」

 

部屋にはメルセデスの姿がなく、空たちも休んでいたがメルセデスを見ていないようだった。

 

「……まあいい。構うものか。行くぞ、準備しろ。最後の裁きの間の準備が整ったようだ。今度はあの獅子の力を使っても上手くはいかんぞ、必ず第七の支配者を殺せ。迷うな。惑うな。どうせ、道は一つしかない」

 

デステニー・レオの特殊勝利はもう意味を成さないとアヴェンジャーは予め遊馬に釘を指す。

 

部屋を出て裁きの間へ向かう間、アヴェンジャーはこの監獄塔……シャトー・ディフに関する事を雑談のように話した。

 

まるで自身が経験したように話し、裁きの間を挑む遊馬を何かを比べていた。

 

そして……遂に第七の裁きの間へと到着したが……。

 

「誰もいねえじゃねえか」

 

「アヴェンジャー、どういう事だ?」

 

「……フン。ひとつ、昔話をしてやろう。暇潰しだ」

 

「「昔話?」」

 

アヴェンジャーは突然昔話をし始め、遊馬とアストラルは首を傾げた。

 

アヴェンジャーのこれから語り出す昔話を知っているルーラーは少し顔を暗くして目を閉じ、ジークと式は興味深そうに耳を傾ける。

 

それは世界で最高の復讐劇とも言われる話。

 

ある海で働く誠実な男がいた。

 

この世が邪悪に充ちているとは知らずに生きていた。

 

しかし、悪辣な陰謀が導いた無実の罪によって孤島にある牢獄、イフの塔……シャトー・ディフに囚われてしまう。

 

鋼の精神によって屈することなく十四年の地獄の日々を乗り越え、監獄島から生還した男は──『復讐鬼』となった。

 

人間が持つ善性を捨て、悪魔が如き狡猾さと力を手に入れた。

 

自らを地獄へ送った者たちを一人ずつ恐怖を与えながら手に掛けた。

 

アヴェンジャーは地獄へ送った者たちの恐怖や絶望した表情を思い浮かべて凶悪な顔をして大笑いをした。

 

「……それ、お前の経験か?アヴェンジャー……」

 

とても他人の話をしているようには思えず、まるで復讐をやり遂げたように話しているアヴェンジャーに対して遊馬は静かにそう尋ねた。

 

「フッ。逸るな。年長者の話は最後まで聞くものだ」

 

男は復讐に耽ったが、最後の一人を見逃した。

 

自らの悪を捨てたのだ、最後の最後に善性を取り戻したという者もいる。

 

そして、こうも言う。

 

「──愛を、得たのだと」

 

「愛?」

 

男は確かに復讐を止めた。

 

失われた筈の愛を取り戻したのだろう。

 

男は、復讐鬼たる自身を愛し続けた寵姫と共に何処へなりとも消え失せた。

 

「……ハッピーエンドに聞こえるけど?」

 

「……だろうな。性質の悪い小説家めの所行で、遍く世に広まった話ではある。男の人生は物語となった。或いは、物語こそが男の人生であったのか。いずれにせよ、物語は思考の喝采を浴び、無数の想いを受け、復讐の神話となった。かつて男は復讐の神を叫んだが、哀れ、男自身がソレに成り果てたのだ」

 

「復讐の神……」

 

遊馬は復讐を認めず、元の世界で仲間やライバルたちが行おうとした復讐を全力で止めて最後は和解させてきた。

 

しかし、アヴェンジャーの口から語られた復讐劇はあまりにも重く、簡単に否定をすることは出来なかった。

 

「男は、人類史へと刻まれた。人々が夢想する荒ぶるカタチのままに。そして、英霊と化した男の魂は、魔術の王が時を焼却せんとする頃になって──」

 

「……エクストラクラス。酷く特異なサーヴァントとして現界した。それがあなたですね、アヴェンジャー」

 

アヴェンジャーの話に割り込むように現れたのは行方不明だったメルセデスだった。

 

「結局のところ、私……私自身の事は何も思い出せませんでした。でも。分かるんです。どうしてか、あなたの事は分かるの」

 

「メルセデス……!?」

 

「ごきげんよう、ユウマ様。いいえ、あなたではありません。黒い彼を、私……」

 

「そこを退け。女。オレは積極的に女を殺しはしない」

 

「この塔は悪しきモノです。そしてアヴェンジャー様、あなたもそう。あなたは──やっぱり、この世にいてはいけない」

 

「勝手に決めつけるな!アヴェンジャーはちょっと捻くれてるけど、あんたの言う悪しきモノじゃねえ!!」

 

メルセデスのアヴェンジャーを否定する言葉に遊馬は怒りを覚えた。

 

それに対し、アヴェンジャーは静かに凶悪な表情を浮かべながら声を荒くした。

 

「メルセデス。否、否、己を失って彷徨う女。まさか、イフ城にありながらオレを否定するか?か弱い女などであるものか。貴様は強い、貴様はジャンヌにも匹敵する強き魂だ!本性を顕せ!このオレが、世にあってはならぬのならば!示せ。お前の全力を以て殺してみせろ!」

 

「私は、未だ分からない……私が、なぜ、此処にいるのか……でも、力を貸してくれるモノたちがある」

 

そして、メルセデスの思いに応えるかのように、メルセデスの周囲に現れたのは無数の死霊達だった。

 

それはオガワハイムで対峙したゴースト以上に強力な力を持った死霊だが、アヴェンジャーは冷静に分析する。

 

「シャトー・ディフに集う呪いの集合?いいや違うな。ソレには怨念がない、怒りがない。お前を慕い想う魂の欠片どもか!ははは、いいぞ。死霊にさえ愛される女とはな!よほどの道を歩んできたのだろう。お前は、いずれ名のある英霊かもしれぬ」

 

恐らくはメルセデス……本来の記憶を持つ英霊である彼女が生前に多くの人に慕われるほどの偉業を成したと推測される。

 

「──だが。怨念なき死霊など、微風に等しい!」

 

アヴェンジャーの姿が漆黒の霧に覆われ、両手には暗黒に染まった炎を纏い、戦闘態勢を取る。

 

「さあ、マスターよ!貴様も戦え!!」

 

「……分かったよ、これが監獄塔の最後の戦いだからな。メルセデス……行かせてもらうぜ!」

 

「七つの大罪をなぞらえた七つの裁きの間の最後の戦い……それならば、最後はこのナンバーズが相応しい!遊馬、このナンバーズを召喚するのは少々面倒だが、行けるか?」

 

アストラルは三枚のナンバーズを取り出して遊馬に投げ渡す。

 

「このナンバーズは……へぇ、こんな奴らもいるんだな。任せろ、アストラル!」

 

「待ってください、ここは私に任せてください!」

 

そこにルーラーが旗を構えて遊馬の前に出る。

 

ルーラーは聖女として彷徨える魂を浄化する力を持つ。

 

かつて聖杯大戦でその力を駆使して数多の子供の魂の集合体であるジャックを浄化した。

 

しかし、遊馬は首を左右に振ってルーラーの手を掴んで後ろに下がらせた。

 

「ルーラー、悪いけどここは俺とアストラルにやらせてくれ。最後だからこそ、自分たちの手で決めたいんだ」

 

「遊馬さん……」

 

ルーラーはサーヴァントとして遊馬を守ろうと思うがあまりに遊馬の気持ちを無視してしまった。

 

サーヴァントとして間違ってない事だが、その事を恥じて旗をしまって大人しく下がった。

 

「申し訳ありません、出過ぎた真似でした」

 

「気にすんなって。思いは受け取ったからよ!」

 

「遊馬さん、アストラルさん、御武運を!」

 

「おう!」

 

「よし、行け!遊馬!」

 

「行くぜ!俺のターン、ドロー!永続魔法『強欲なカケラ』!このカードがフィールドに存在する限り、通常ドローをする度にこのカードに強欲カウンターを1つ置く!」

 

遊馬の前にデッキから2枚ドローを行うことが出来る『強欲な壺』が割れた破片が1つ置かれる。

 

「『ガガガシスター』を召喚!その効果でデッキから『ガガガ』と名の付いた魔法・罠を手札に加える。俺は『ガガガウィンド』を手札に加えて発動!手札からガガガモンスターをレベル4で特殊召喚する!ガガガマジシャンを特殊召喚!」

 

ランク2から10まで幅広いモンスターエクシーズを呼び出せるガガガマジシャンとガガガシスターのコンビが立ち並ぶ。

 

「行くぜ、ガガガマジシャンの効果!レベルを4から8に変更する!更にガガガシスターの効果でガガガシスターとガガガマジシャンのレベルを共に合計した数となり、レベル10となる!レベル10となったガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

『『ガガガッ!』』

 

ガガガマジシャンとガガガシスターがオーバーレイし、地面に吸い込まれて光の爆発を起こす。

 

「現れよ!『No.35 ラベノス・タランチュラ』!」

 

現れたのは一つ目の不気味な大蜘蛛のモンスターだった。

 

しかし、本命はこのモンスターではない。

 

ラベノス・タランチュラから更なる力を持つナンバーズへと進化する。

 

「遊馬!次だ!」

 

「おうっ!」

 

遊馬はアストラルから渡された2枚目のナンバーズを掲げ、そのナンバーズをラベノス・タランチュラの上に重ねる。

 

「このカードは自分フィールドのオーバーレイ・ユニットを2つ以上持ったランク8から10の闇属性モンスターエクシーズの上に重ねてエクシーズ召喚する事もできる!ラベノス・タランチュラ、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

ラベノス・タランチュラが光となり、地面に吸い込まれて光の爆発を起こす。

 

「現れよ!『No.84 ペイン・ゲイナー』!」

 

ランク10のラベノス・タランチュラがランク11の三つ目の大蜘蛛のモンスターへと進化した。

 

「遊馬!これが最後だ!」

 

「オッケー!かっとビングだ、俺!」

 

これだけでも高ランクモンスターエクシーズをエクシーズ召喚出来たが、モンスターエクシーズの中でも数少ない最高ランクのナンバーズを呼び出す。

 

「そして、このカードは自分フィールドのランク10・11の闇属性モンスターエクシーズの上に重ねてエクシーズ召喚する事もできる!ペイン・ゲイナー、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

ペイン・ゲイナーが光となって地面に吸い込まれ、今まで以上に大きな光の爆発を起こす。

 

「傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲……七つの大罪を司る夢幻の糸よ!今こそ、その糸を一つに束ね、罪深き者の魂を導け!!」

 

光の爆発の中から七色に輝く七つの光の玉が現れ、一つに合わさると更に大きな光の爆発が起こり、その中から巨大な影が現れる。

 

「「現れよ!!『No.77 ザ・セブン・シンズ』!!!」」

 

現れたのはこの監獄塔の七つの裁きの間を戦い続けてきた遊馬とアストラルに相応しい『七つの大罪』の名を持つナンバーズだった。

 

本来ならザ・セブン・シンズは数あるナンバーズでも人の持つ大罪である『七つの大罪』の名を持つことから、かなり大きな力を有しており、アストラルでも制御することは難しかった。

 

しかし、遊馬とアストラルはこの監獄塔で七つの大罪について多くのサーヴァントと対峙し、その欲望や罪に触れることでカオスへの理解を深めていった。

 

それにより、ザ・セブン・シンズを制御することに成功したのだ。

 

不気味だが純白に輝く巨大蜘蛛……その姿に死霊達が怯む。

 

それもそのはず、ザ・セブン・シンズはモンスターエクシーズでも指で数えるほどしか存在しないとされる最高ランクのランク12で攻撃力4000の超大型モンスターなのだ。

 

「フハハハハ!ザ・セブン・シンズ、まさにこの監獄塔の七つの裁きの間、最後の戦いに相応しいモンスターではないか!!」

 

ザ・セブン・シンズの登場に歓喜の声を上げたのは隣にいたアヴェンジャーだった。

 

「七つの大罪ね……確かにこの監獄塔の戦いには相応しいモンスターね」

 

「まさかナンバーズにこれほど強大な力を持つ存在がいたなんて……」

 

「そう言えば、ナンバーズは人の心や欲望を写すとアストラルが言っていた。つまり、あのナンバーズは人々の持つ七つの大罪を写した存在かもしれないな……」

 

空とルーラーとジークもザ・セブン・シンズから放たれる力に感心した。

 

そして、死霊達が怯む中……メルセデスに力を貸すために更に巨大な死霊が姿を現した。

 

「で、でけぇ!?」

 

「なんて巨大な死霊なんだ……」

 

大きさはザ・セブン・シンズにも匹敵し、巨大な死霊は腕を振り上げて攻撃してきた。

 

それに続いて他の死霊達も一斉に攻撃をし、ザ・セブン・シンズを破壊しようとした。

 

「させるか、ザ・セブン・シンズの効果!戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードのオーバーレイ・ユニットを1つ取り除く事ができる!オーバーレイ・サクリファイス!」

 

ザ・セブン・シンズが4つあるオーバーレイ・ユニットを1つ体内に取り込むと、その体が鋼鉄のように硬くなり、死霊達の攻撃を弾き返した。

 

「よし、一気に行くぜ!俺のターン、ドロー!この瞬間、強欲なカケラの効果!強欲カウンターを1つ乗せる!」

 

強欲なカケラに光が灯され、カケラが宙に浮いて灯された光が大きな壺の形となる。

 

「そして、ザ・セブン・シンズの真の効果発動!!」

 

ザ・セブン・シンズの体が光り輝き、口から無数の糸を吐き出す。

 

「彷徨える死霊たちよ、七つの罪を司る大いなる力の前にて深き眠りにつくがいい!!」

 

「1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て除外し、除外したモンスターの中から1体を選んでこのカードのオーバーレイ・ユニットとする!スパイダー・シルク・レイン!!」

 

2つのオーバーレイ・ユニットを取り込むと糸が無限に分裂し、雨のように亡霊たちに降り注いだ。

 

これこそ、ザ・セブン・シンズの真の能力。

 

鉄壁の守りで己を守り、裁きを下す糸で敵を一掃する断罪の一撃。

 

降り注がれた糸は亡霊たちの体を貫き、霊体を粉々に砕いた。

 

亡霊達は一斉に消滅してその内の1体がカードとなってザ・セブン・シンズのオーバーレイ・ユニットとなった。

 

しかし、巨大な亡霊はザ・セブン・シンズ効果でも除去することはできなかったが、まだ攻撃は残っている。

 

ザ・セブン・シンズの攻撃を最大限に発揮するために遊馬はドローしたカードを発動する。

 

「魔法カード『アームズ・ホール』!デッキトップを墓地に送り、デッキ・墓地から装備魔法を手札に加える!俺は『エクシーズ・ユニット』を手札に加えて発動!ザ・セブン・シンズに装備!」

 

ザ・セブン・シンズが光に包まれると、純白の輝きが更に増し、七つの大罪を背負うモンスターとは思えないほどの聖なる光を宿していた。

 

「エクシーズ・ユニットを装備したモンスターエクシーズはランク×200ポイント、攻撃力がアップする!」

 

「ザ・セブン・シンズのランクは12!よって、12×200で2400の攻撃力がアップする!これでザ・セブン・シンズの攻撃力は4000+2400で合計6400だ!!」

 

モンスターエクシーズ最高ランクのランク12だからこそ、エクシーズ・ユニットの真価を発揮し、ザ・セブン・シンズは亡霊を打ち破る為の最高の攻撃力を得た。

 

「これで決める!」

 

「ザ・セブン・シンズで攻撃!」

 

ザ・セブン・シンズの目が輝き、背後に巨大な蜘蛛の巣が張られる。

 

蜘蛛の巣から鋭い槍が無数に作られ、矛先が亡霊に向けられる。

 

「「ジェノサイド・スパイダー・シルク!!!」」

 

糸の槍が一斉に放たれ、最後の亡霊を貫いた。

 

これでメルセデスに力を貸した亡霊が全て消滅した。

 

最後に残った敵はメルセデス……アヴェンジャーは呆然とするメルセデスの間合いに入る。

 

「これで茶番も終わりだ……消えろ!」

 

黒炎を纏った拳でメルセデスを吹っ飛ばし、容赦ない一撃で壁に叩きつけた。

 

「メルセデス!!」

 

遊馬はメルセデスに駆け寄ろうとしたが、壁に叩きつけられたメルセデスは首を左右に振り、心配は無用と言わんばかりに静かに手を前に突き出した。

 

そして、メルセデスの体が消滅していき、優しい笑みを浮かべながら口を開く。

 

「お気に病まれる必要はありません。私は、為すべきと感じた事を為したまで」

 

メルセデスは虚ろな目で上を見上げた。

 

「亡霊たちが力を貸してくれたのは、彼の言う通り……私の生前の在り方ゆえ、なのでしょうか……私は、本来の第七の『裁きの間』の支配者。あなたたちを殺そうとする障害の一つです。何らかの理由でその役割は失われ、記憶も、共に消失していたようです」

 

メルセデスは本当に第七の裁きの間の支配者だったが、彼女の本来の記憶は失われてしまった。

 

「今も、まだ、思い出せはしません。ただ……あなたの行く道が、どうか光に照らされていますように……彼の言葉の多くは欺瞞に満ちているけれど、あの人ことだけは胸に残っています。『──待て、しかして希望せよ』……なんて悲しい。けれど、願いの籠もった言葉なのか……」

 

アヴェンジャーの口癖であるあの言葉を呟き、メルセデスは静かに目を閉じて一筋の涙を流す。

 

「ははははは!死ね!死ね!痕跡一つ残さず消え失せろ!怨念なき力なぞあまりに無力!確かに、相性の観点ではオレには有効だが──届かなかったぞ、女。お前の刃は余りにも優しすぎた」

 

「そのよう、ですね……私は、決して、本当のメルセデスではないけれど……あなたの道にも光がある事を祈ります。アヴェンジャー……いえ……」

 

メルセデスは淡く笑みを浮かべる。

 

そして……今まで知らなかったアヴェンジャーの真名を口にする。

 

「『エドモン・ダンテス』」

 

メルセデスはアヴェンジャーの真名を口にした直後に消滅した。

 

「エドモン……?アヴェンジャー、それがお前の真名なのか?」

 

エドモン・ダンテス。

 

『復讐者』として世界最高の知名度を有し、日本では『巌窟王』として知られている。

 

しかし……。

 

「否!否!!」

 

「えっ?」

 

「オレを奴と同じにするな!エドモン・ダンテスだと──それは無辜の罪で投獄された哀れな男の名!そして恩讐の彼方にて、奇跡とも呼ぶべき愛によって、救われた男の名であり──決してこのオレではない。我が身はアヴェンジャー、永久の復讐者なれば!ヒトとして生きて死んだ人間(エドモン)の名なぞ!相応しい筈があるまいよ!」

 

エドモンは自分がエドモンであることを否定し、復讐者……アヴェンジャーであることを望むように宣言する。

 

「……だとしても、エドモンがお前の真名なんじゃねえのか?」

 

「……話は終わりだ。最早、このシャトー・ディフの役目を終える。七つの裁きは破壊されるのだから。後は、光差す外界へと歩むのみ、だが……シャトー・ディフを脱獄した人間はいない。そう、ただ一人は除いては幾億の怨念を伴って再構成された此処も同じく、やはり、出られるのは一人のみ」

 

エドモンの物語、『モンテ・クリスト伯』と同じく監獄塔……シャトー・ディフを脱獄できたのはエドモンただ一人だけ。

 

「……俺とアストラルは一心同体で、一人として扱えるから……」

 

「私たちとあなたのどちらかしか、出られないと言うわけか……?」

 

エドモンが何を言いたいのがなんとなく理解した遊馬とアストラルは目を細めて警戒する。

 

「察しがいいな。いいや流石に、その程度は理解できような残される一人は、当代のファリア神父となる。絶望を挫き、希望を抱くモノとして命を終える。それはそれで、嗚呼、意義深き事ではあるのだろうよ」

 

ファリア神父とは監獄塔で出会った老賢者でエドモンと同じく無実の罪で投獄された。

 

エドモンに様々な知識やモンテ・クリスト島の秘宝、そして最後には自らの死により自由を与えた。

 

二人は親子のような強い絆で結ばれている。

 

「おまえか、オレか。どちらが生き残り、どちらが死ぬか。さあ、仮初めのマスター。覚悟するがいい。当然ながらオレは朽ちるつもりはない。折角、再びこの世に舞い戻ったのだ。オレはオレの好きにするさ、お前を第二のファリア神父として、オレは生きる。そして、お前の物語は終わる。実に簡単だ。幕としよう。最後の舞台で、お前の魂は真に朽ち果てるのだ」

 

つまり……エドモンこそ監獄塔……七つ目の裁きの間の真の支配者。

 

遊馬とアストラルが真に越えるべき最後の壁だった。

 

「だが、もしも……!お前が歩み続けると叫ぶのならば!お前が!未だ、希望を失っていないのならば!」

 

すると、エドモンは先ほどとは打って変わり、まるで遊馬とアストラルに試練を与える先駆者のような振る舞いをする。

 

そして、再び全身に漆黒の霧を纏い、悪役を演じるように叫ぶ。

 

「──(オレ)を!殺せ!!」

 

「エドモン……」

 

「あなたは……」

 

「神の領分たる復讐を司るこのオレを!傲慢の具現──第七の『裁きの間』の支配者を!世界を救うために──さあ、遠慮は要らぬ!」

 

エドモンがこの最後の戦いを通じ、何かを伝えようとしているのか理解した遊馬とアストラルは静かに手を重ねる。

 

「アストラル」

 

「ああ。ここが正念場だ、かっとビングだぞ、遊馬!」

 

「もちろんだぜ。俺自身と……」

 

「私で……」

 

「「オーバーレイ!!!」」

 

遊馬とアストラルが赤と青の光となって一つに交わり、金色の光と共に究極の存在が姿を現わす。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II!」」

 

遊馬とアストラルの一心同体全力全開の姿……ZEXAL IIとなり、エドモンと対峙する。

 

「現れたか、異世界の真なる英雄!ZEXAL IIよ!さあ、この人類史に刻まれた悪鬼の陰影、永久の復讐者である『巌窟王(モンテ・クリスト)』を越えてみせろ!!」

 

「「必ず、お前/あなたを越える!俺/私のターン!!」」

 

復讐者の漆黒の霧と決闘者の金色の光が裁きの間を埋め尽くす。

 

 

 




監獄塔を書く前からザ・セブン・シンズは必ず出そうと考えていました。
七つの裁きの間で七つの大罪を模してますから出さないわけにはいきませんよね。
次回は今日中に必ず更新します。
巌窟王エドモン・ダンテスとの最終決戦となります。


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ナンバーズ103 監獄塔最終決戦!空の境界VS巌窟王!!

お待たせしました。
これにて監獄塔編は最終回となります。



監獄塔の脱出を賭け、ZEXAL IIと遂に正体を現したアヴェンジャー……巌窟王、エドモン・ダンテスとの最後の戦いが始まる。

 

「さあ、まずはその七つの大罪の名を持つモンスターから始末させてもらおう!!」

 

エドモンがザ・セブン・シンズに狙いを定め、雰囲気が変わったとZEXAL IIは本能的に察知し、咄嗟に手札にあるモンスター効果を発動した。

 

「手札から『虹クリボー』の効果!相手の攻撃時に虹クリボーを装備する!」

 

虹クリボーが飛び出し、エドモンの攻撃を封じようとしたが、エドモンは凶悪な表情を浮かべて全身から漆黒の霧を放つ。

 

「無駄ダァッ!!」

 

向かって来た虹クリボーをエドモンは黒炎で焼き尽くし、装備される前に破壊してしまった。

 

『クリーッ!?』

 

「虹クリボー!?くっ!!」

 

虹クリボーが破壊された際に熱風が吹き荒れ、ZEXAL IIはその場で踏ん張って耐える。

 

そして、エドモンは黒炎を両手に纏いながら目にも留まらぬ速さで駆け抜け、幾人にも分身した。

 

「我が往くは恩讐の彼方……『虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)』!!!」

 

「ザ・セブン・シンズの効果!オーバーレイ・サクリファイス!!」

 

ザ・セブン・シンズは自分の破壊を守る効果を発動するが、エドモンの黒炎がザ・セブン・シンズの体を蝕む呪いとなって侵食した。

 

そして、耐えきれなくなったザ・セブン・シンズは破壊されてしまった。

 

「ぐあっ!?くっ、ランク12のザ・セブン・シンズが……」

 

「これが、世界にその名を馳せる復讐者……巌窟王の力か……!!」

 

恐らくアヴェンジャーとしてはこれ以上ない程の適正クラスで、最高峰の力を持つ英霊であるエドモンの力は強大。

 

モンスターエクシーズ最高ランクのランク12のザ・セブン・シンズでも太刀打ちできなかった。

 

「さあ、どうした?それで終わりか?ここで終わるほどお前達の希望は呆気ないほど小さいのか!」

 

エドモンはZEXAL IIを煽るように叫ぶ。

 

しかし、ZEXAL IIはここまで来て諦めるわけにはいかない。

 

最後の最後まで諦めない為に右手を輝かせてシャイニング・ドローをしようとしたその時。

 

「遊馬君、アストラル。ここは私に任せてもらえないかしら?」

 

そこに今まで静観していた空が静かにZEXAL IIの隣に立っていた。

 

「空?」

 

「アヴェンジャー……エドモンは私が倒すわ。オガワハイムの決着をつけたいし。それから、ルーラーとジーク君はそこで見ていなさい。私の力に巻き込まれるかもしれないから……」

 

「巻き込まれる……?空さん、あなたは一体……」

 

「……ルーラー、俺たちはもしもの時に備えて待機していよう。ここは彼女に任せてみないか?」

 

「ジーク君……はい……」

 

ルーラーはジークの言う通りにしていつでも動けるようにして後ろに下がって待機する。

 

「ふっ……虚無の女よ、貴様がこのオレに勝てるとでも?我が恩讐を受け止めきれるのか!」

 

「そうね……確かに私は泡沫の、虚ろな夢のような存在よ。だけどね……」

 

空は不敵の笑みを浮かべながら懐から何かを取り出して指に挟む。

 

「その虚ろな器を埋めるほどの大いなる力があるならどうかしら?」

 

それは金色に輝く一枚のカード。

 

そのカードに反応してZEXAL IIのアストラルから同じ金色に輝くカードが現れた。

 

「まさか……空、君が持っているそのカードは君自身のフェイトナンバーズか!?」

 

「えっ!?空のフェイトナンバーズ!?」

 

「ええ。使えるかどうかわからなかったけど、持って来たのよ」

 

空はZEXAL IIに自身のフェイトナンバーズを投げ渡す。

 

空のフェイトナンバーズは空自身の力と、その数字に対応したナンバーズが強力な力を有していることから他のフェイトナンバーズをも群を抜いて強力な効果を有している。

 

その反面召喚条件はとても難しく、仮に式がいれば比較的簡単に召喚出来るが、この監獄塔にはいないのでそれは不可能である。

 

しかし、奇跡をその手に掴むZEXAL IIならそれが可能となる。

 

「やろうぜ、アストラル」

 

「ああ。一手のミスも許されない。分かっているな?」

 

「へへっ、当たり前だろ?行くぜ!」

 

ZEXAL IIの中にいる遊馬とアストラルは互いに笑みを浮かべながら心を一つにし、右手を輝かせる。

 

「「俺/私ターン、全ての光よ、力よ、我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!この瞬間、強欲なカケラに2つ目の強欲カウンターが乗る!」」

 

強欲なカケラに更に光が灯されるとカケラから元の姿とも言える『強欲な壺』へと修繕されたが、ZEXAL IIはそれを使う前に別の魔法カードを使う。

 

「「魔法カード『オノマト連携』!手札を1枚を墓地に送り、デッキから『ガガガカイザー』と『ゴゴゴジャイアント』を手札に加える!」」

 

オノマト連携のサーチによるデッキ圧縮を行い、ここで強欲なカケラの効果を使う。

 

「ここで強欲なカケラの効果!強欲カウンターが乗ったこのカードを墓地に送り、デッキから2枚ドローする!ダブル・シャイニング・ドロー!!」

 

強欲な壺と同じ2枚ドローの効果となった強欲なカケラを墓地に送り、ZEXAL IIはデッキから2枚ドローする。

 

「更に魔法カード『強欲で貪欲な壺』!デッキトップを10枚裏側除外して2枚ドローする!セカンド・ダブル・シャイニング・ドロー!!」

 

ここから更に強欲で貪欲な壺の効果で2枚を追加でドローし、手札に今あるカードで空を召喚出来るカードが全て揃った。

 

「力を借りるぜ、カイト!」

 

シャイニング・ドローをして加えたカードの内の1枚はカイトにとって銀河眼の光子竜と同じくらいに思い入れのある大切なカードだった。

 

ZEXAL IIはカイトに深く感謝をし、思いを込めながらそのカードを発動した。

 

「魔法カード発動!『未来への思い』!!」

 

ZEXAL IIが発動したのは瓶詰めの手紙が海に漂うイラストが描かれており、カイトが父・Dr.フェイカーから貰った大切なカード。

 

「このカードは墓地のレベルの異なるモンスターを3体選び、特殊召喚する!墓地から蘇れ、ガガガマジシャン!ガガガシスター!ガガガガール!」

 

墓地からザ・セブン・シンズを召喚するために最初に召喚したガガガマジシャンとガガガシスター、そして『アームズ・ホール』でデッキトップを墓地に送ったカードがガガガガールで、その計3体のガガガモンスターが一気に復活する。

 

「ただし、この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は0となり、効果は無効化される!」

 

レベル変更を得意とするガガガマジシャン達の効果は無効化された。

 

そして、未来への思いのデメリット効果でこのターンにエクシーズ召喚をしなければ遊馬に4000の大ダメージを受けてしまう。

 

このままではレベルがバラバラでエクシーズ召喚を行えないが、全てのガガガモンスターのレベルを統一する存在がいる。

 

「俺はガガガカイザーを通常召喚!更に魔法カード『二重召喚』!通常召喚権を増やし、『ガガガクラーク』を召喚!!」

 

ガガガ学園の生徒会長と書記が現れ、これでガガガモンスターが一気に5体立ち並ぶが、レベルはバラバラでこのままではエクシーズ召喚を行うことは出来ない。

 

しかし、ガガガカイザーがいればその問題を突破できる。

 

「ガガガカイザーの効果!自分の墓地のモンスター1体をゲームから除外して発動!自分フィールド上の全てのガガガモンスターのレベルは、この効果を発動するためにゲームから除外したモンスターと同じレベルになる!墓地から虹クリボーを除外し、ガガガモンスター達のレベルを1にする!!」

 

墓地からの蘇生効果を持つ虹クリボーの効果を犠牲にし、ガガガカイザーは杖を回転させて地面に突き刺す。

 

ガガガカイザーによって放たれた光に包まれた全てのガガガモンスターのレベルが1となる。

 

「行くぜ……空!レベル1となったガガガモンスター達5体でオーバーレイ!!」

 

『『『『『ガガガガァーッ!』』』』』

 

「5体のガガガモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

今まで遊馬やアストラルでもやったことの無い5体のモンスターによるエクシーズ召喚。

 

ガガガモンスター達が光となって地面に吸い込まれ、巨大な光の爆発を起こす。

 

「「夢幻の夢を渡りし虚無の者よ、世界を創り出した創造龍と共に、森羅万象その全てを切り裂く、無限の刃となれ!!」」

 

光の爆発の中から金色に輝く光の龍が現れる。

 

『ウォオオオオオオオオオッ!!!』

 

光の龍は咆哮を轟かせながら遊馬とアストラルの上に現れる。

 

その龍こそ、遊馬とアストラル達の世界を創り出した創造神……ヌメロン・ドラゴン。

 

そして、光の爆発から現れた小さな影にヌメロン・ドラゴンが向かって飛んで影と激突し、眩い金色の光が解き放たれる。

 

「現れよ!!『FNo.100 空の境界 両儀式』!!!」

 

そして、金色の光の中から現れたのはヌメロン・ドラゴンが描かれた白の着物を着た空こと……両儀式。

 

空の手には最上大業物の名刀……九字兼定があり、その美しい刀身にはヌメロン・ドラゴンの姿を象った龍の刻印が刻まれていた。

 

空とヌメロン・ドラゴン……虚無と創造……相反する二つの力が一つに合わさり、神にも等しい強大な力を有した。

 

「創造龍……遊馬さんはそう言ってましたが、まさかアストラルさんの持つナンバーズに創造神の力が宿っていたなんて……」

 

「その創造龍の力を宿しながらも己を見失っていない空……まさか、『あの子』と同じ……」

 

ジークの脳裏にはファヴニールになっていた時に出会った幼く無邪気な笑顔が印象的な謎の少女と重なった。

 

「これは……フハハハハッ!なんと神々しく美しい力だ!面白い!どこまでオレを楽しませてくれるんだ、お前達は!!」

 

エドモンは予想を次々と超えるモンスターを呼び出してきた遊馬とアストラルに内心興奮していたが、ヌメロン・ドラゴンの登場にその興奮も抑えきれずに大笑いしてしまった。

 

「行くぜ、空の効果!オーバーレイ・ユニットを2つ使い、墓地のモンスターエクシーズを1枚選んでオーバーレイ・ユニットにする!俺が選ぶのはランク12のザ・セブン・シンズ!!」

 

空はオーバーレイ・ユニットを一つ握りしめて指を鳴らすと墓地からザ・セブン・シンズのカードを呼び出し、指に挟むとそのまま自分の懐にしまった。

 

「空の攻撃力と守備力はオーバーレイ・ユニットになっているモンスターエクシーズのランクの合計×500ポイントアップする!12×500で攻撃力は6000!!」

 

空の元々の攻撃力は0だが、オーバーレイ・ユニットとなっているモンスターエクシーズのランクの合計によって攻撃力が上昇する。

 

ランク12のザ・セブン・シンズをオーバーレイ・ユニットにしたことで空の攻撃力も一気に0から6000となった。

 

「行くぜ!カードを一枚伏せて、空でエドモンに攻撃!」

 

「行くわよ……アヴェンジャー、いいえ……エドモンさん?」

 

「オレをその名で呼ぶな、女!!」

 

空とエドモンは同時に地を蹴り、九字兼定を拳を振るう。

 

共に人の越え、卓越した剣術と体術が交差する。

 

空は直死の魔眼を発動させ、エドモンの死の線を見極めて九字兼定を振るい、一撃必殺を狙う。

 

対するエドモンは超高速行動を用いた近接格闘や怨念が込められた黒炎を用いた魔力投射を行う。

 

互いが全力で放つ攻撃は互いに紙一重で回避していき、誰も介入できない嵐のような戦いとなる。

 

しかし、このままでは拉致があかない、エドモンは一気に勝負に出る。

 

「これで終わりだ、女!!『虎よ、煌々と燃え盛れ』!!!」

 

エドモンはザ・セブン・シンズを葬った宝具を発動させ、分身して一気に空を倒そうとするが、ZEXAL IIはセットカードを発動する。

 

「そうさせない!罠カード!『攻撃の無敵化』!!」

 

「攻撃の無敵化はバトルフェイズ中に発動出来る!空は戦闘及び効果で破壊されなくなる!」

 

空の周りにヌメロン・ドラゴンの幻影が現れ、エドモンの分身による連続攻撃を全て防いで弾き飛ばす。

 

「ちっ!小癪な真似を!」

 

「更にここで空の二つ目の効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、自分の墓地、もしくは除外されている魔法・罠カードを1枚選んで自分フィールドにセットする!俺は『強欲で貪欲な壺』をセット!」

 

空はオーバーレイ・ユニットを握りしめて指先を光らせて空中をなぞるとZEXAL IIの墓地から強欲で貪欲な壺が現れてそのままセットされる。

 

そして、ZEXAL IIのターンとなり、右手を再び輝かせる。

 

「「俺/私ターン、全ての光よ、力よ、我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!魔法カード『おろかな埋葬』!デッキからモンスターを1枚墓地に送る!デッキから『ゴゴゴゴーレム』を墓地に送る!そしてセットした強欲で貪欲な壺を発動!デッキトップを10枚裏側で除外して2枚ドロー!サード・ダブル・シャイニング・ドロー!!」」

 

強欲で貪欲な壺で20枚もデッキからカードを除外され、半分以下になって更にサーチとドローを繰り返したのでデッキの残り枚数もあと数枚と、かなり少なくなってしまった。

 

このターンで決めなければもう後がないが、ZEXAL IIは勝利への道筋を確信していた。

 

「これで勝利の方程式は揃った!!ゴゴゴジャイアントを召喚!その効果で墓地からゴゴゴゴーレムを蘇生し守備表示となる!レベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!」

 

『ホォオオオープ!』

 

空の隣に人々の持つ願いや夢をその身に秘めた希望の化身、希望皇ホープが現れる。

 

「現れたか、希望の化身!希望皇ホープよ!」

 

「そして、空の効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、空はこのターン、相手フィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃出来る。更に、空が攻撃する時、相手はダメージステップ終了時までモンスター・魔法・罠の効果は無効化され、カード効果を発動できない!!」

 

空は九字兼定にオーバーレイ・ユニットを取り込ませ、刀身の龍の刻印が金色に光り輝く。

 

全ての準備が整い、空の直死の魔眼が美しい赤青く輝いた。

 

「「ファイナルアタック!空でエドモンに攻撃!!」」

 

「エドモン、夢の終わりが来たのよ……」

 

エドモンの体に金色の光がまとわりつき、復讐者として、巌窟王としての力が封じられる。

 

「だが、例えオレの力を僅かな時間封じても俺はそう簡単には死なんぞ!」

 

極限まで鍛え抜かれた強靭な肉体を持つエドモンは空の攻撃を耐えられる自信があった。

 

すると、ZEXAL IIは不敵の笑みを浮かべた。

 

「「それはどうかな?」」

 

「何!?」

 

「「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!ムーン・バリア!!」」

 

希望皇ホープが空の前に瞬時に現れて翼を半月の形に展開して空の行く手を阻んで弾き返した。

 

その光景にエドモンは目を見開き、ハッと気付いて戦慄した。

 

それは一度だけ、遊馬とアストラル……ZEXAL IIが得意とする希望皇ホープの最強コンボを目の当たりにしたからだ。

 

「これは天草四郎の時の……まさか!?」

 

「そのまさかだ、エドモン!」

 

「これが、我々の全力!」

 

ZEXAL IIは最後の希望を託したカードを発動する。

 

「「手札から速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』!を発動!モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にして、もう一度攻撃が出来る!」」

 

本来なら希望皇ホープに使うことがほとんどだったダブル・アップ・チャンスだが、希望皇ホープの他に空がいたからこそ、今回はそちらの選択をした。

 

ダブル・アップ・チャンスの効果を受け、空の背後にヌメロン・ドラゴンが姿を現した。

 

空の攻撃力は6000、ダブル・アップ・チャンスで二倍となり、12000まで上昇した。

 

「これで終わりよ……エドモン」

 

空は九字兼定を右手で構えて床に突き刺した。

 

次の瞬間、石造りの監獄塔の裁きの間が色取り取りの花々が咲き誇る美しい花畑となり、薄暗い空間から温かい光に照らされた。

 

「馬鹿な……!この監獄塔の、裁きの間の空間をお前が支配したと言うのか!?」

 

エドモンは裁きの間を支配した空に更に戦慄する。

 

そして、空は舞うが如くの動きで花畑を駆け抜ける。

 

無数の花弁が舞い上がり、ZEXAL IIは空が放つ唯一無二の宝具の名を感じ取り、言い放つ。

 

「「『無垢識・空の境界』」」

 

「全ては夢──。これが名残の華よ」

 

それは直死の魔眼の理論を応用し、対象の『死の線』を切断する全体攻撃。

 

彼岸より放たれる幽世の一太刀は、あらゆる生命に安寧を与える。

 

空が振り下ろした九字兼定から金色の斬撃と共に九匹の金色の龍のオーラが放たれる。

 

「これが、お前達の希望の輝き……」

 

エドモンはZEXAL IIと空が放った全力の一撃に絶望を切り開く希望の輝きを感じ取り、目を閉じて受ける。

 

斬撃と龍の攻撃を受けたエドモンは宙に投げ飛ばされ、花畑に転がり落ちる。

 

「「エドモン!!!」」

 

もう既に勝負は決し、ZEXAL IIはエドモンに駆け寄って抱き起こした。

 

エドモンは既に立ち上がるほどの力はなく、虚ろな目でZEXAL IIを見つめる。

 

「…………クッ、ククッ。見事。成る程、オレの戦い方を把握したか……流石は仮初めのマスターだ」

 

エドモンはZEXAL IIを認め、笑みを浮かべて自分の本心を語り始める。

 

「はははは!気分は悪くない!そうとも、オレは一度でも味わってみたかった……!かつてのオレを導いたただ一人、敬虔なるファリア神父……あなたのように!オレも……絶望に負けぬ誰かを……おぞましい罠に落ちた、無辜者を──我が、せめてもの希望として──」

 

エドモンが父の様に慕ったファリア神父……彼の様になりたく、遊馬とアストラルを導こうとしていた。

 

「「エドモン……」」

 

「……その名で呼ぶのか、お前も。オレを……」

 

「当たり前だろ?お前は俺たちの仲間のエドモンなんだからさ」

 

「エドモンも巌窟王もモンテ・クリストも全て君の名だ。それは紛れも無い事実だ」

 

「認めよう!お前達はオレを『殺してくれた』!お前はオレに勝利を導いた!」

 

「えっ……?」

 

「あなたを勝利に……?」

 

ZEXAL IIと空が勝利したはずなのにエドモンが勝利を導いたと喜びを表しており、ZEXAL IIは唖然としていた。

 

「分からんか?……嗚呼、それは、そうだろうな。オレは勝利を知らずにいたのだ。復讐者として人理に刻まれながらも、オレは……最後に救われたエドモン(オレ)だったが故に……復讐を成し遂げられず、勝利の味を遂に知らぬままの巌窟王(オレ)を持て余し続けた」

 

エドモンは復讐者として戦っていたが、最後は愛を得たことで復讐を止めた。

 

しかし、世界一の復讐者であると認められながらも復讐を成し遂げられずに中途半端に終わってしまっていたのだ。

 

「だが……お前達だ、遊馬、アストラル……ZEXALよ。お前達はオレに導かれ、障害を砕き、塔を脱出する。それは何と……希望に満ちた結末であろうか。勝利なき復讐者(オレ)であるままのオレに、お前達は、導き手としての役割と勝利を与えたのだ」

 

エドモンがファリア神父のように導き手となり、罠に落ちた遊馬とアストラルに希望の勝利を捧げるために共に歩いてきたのだ。

 

「気前のいい奴だ──はは、遊馬、アストラルよ!『オレ達の勝ちだ』!魔術の王とて全能ではないという事だ!魔術の王は邪視でお前に毒という名の呪いをかけてこの監獄塔へ堕とした。だが──はは、ははは!結果はこの通りだ!残念だったな魔術の王よ!貴様のただ一度の気まぐれ、ただ一度の姑息な罠は、ここにご破算となった!オレなんぞを選ぶからだバカ者め!ざまあない!」

 

魔術の王……ソロモンはロンドンで遊馬とアストラルに呪いをかけて監獄塔へ堕とした。

 

ソロモンは復讐者であるエドモンを選んで遊馬とアストラルを葬ろうとしたが、エドモンは恩讐を持たないソロモンに最初から協力するつもりはなかった。

 

「歩むがいい!足掻き続けろ!魂の牢獄より解き放たれて──お前達は!いつの日か、世界を救うだろう!」

 

最後にエドモンは世界を救う為に戦い続けるZEXAL IIに別れのエールを送る。

 

これが最後の別れになると感じてしまったZEXAL II──遊馬は悲しそうな声をして尋ねたら。

 

「……エドモン、もうお前には会えないのか……?このまま、消えちまうのか……?」

 

「……再会を望むか、アヴェンジャーたるオレに?」

 

「当たり前じゃねえか。お前はとっくに俺達の掛け替えのない、大切な仲間なんだからさ!」

 

ZEXAL IIはニッと飛びっきりの笑顔を見せた。

 

笑顔を見せたZEXAL IIに対し、エドモンは生前に見つけた小さな希望の光を思い出し、残る力を全て振り絞ってZEXAL IIの頭を撫でる。

 

「はは、ははははははははは!ならばオレはこう言うしかあるまいな!」

 

そして……エドモンは笑みを浮かべてこう応えた。

 

「『──待て、しかして希望せよ』と!」

 

エドモンは希望の言葉をZEXAL IIに伝え、光となって消滅した。

 

「エドモン……」

 

ZEXAL IIはエドモンの光を抱きしめ、静かに立ち上がる。

 

エドモンが消滅し、監獄塔も徐々に消滅していく。

 

「……遊馬君、アストラル。先にカルデアに帰るわね」

 

「空……ああ、ありがとうな。助かったぜ」

 

「カルデアで会おう」

 

「ええ……」

 

空は目を閉じるとカルデアから来た時と同じように虚無の夢を渡るために消えた。

 

「ジーク、ルーラー。二人もありがとうな。後でカルデアで必ず召喚するからさ」

 

「ああ。必ず君たちの力になるように全力を尽くす」

 

「召喚するのをジーク君と待っています」

 

ジークとルーラーは手を繋ぎ、笑顔を見せて消えていった。

 

監獄塔には最後にZEXAL IIだけが残り、花畑の奥に溢れるような小さな光が出て来た。

 

「あの光か……?」

 

「遊馬、帰るぞ……カルデアに」

 

「ああ」

 

ZEXAL IIは光に向かってゆっくり歩いて行った。

 

監獄塔の長い戦いの日々を思い出しながらZEXAL IIは光に包まれた。

 

 

光に包まれた後に意識を失い、目を覚まそうと必死に意識を取り戻そうとする。

 

「……ここは、カルデア……?」

 

「帰って来たようだな……」

 

目を覚ますとそこはカルデアの遊馬の自室でゆっくり起き上がると寝起きのいつもと違う姿に一瞬困惑したが、すぐに理解した。

 

「あ、そっか……俺が眠ってる時にアストラルが合体したからZEXAL IIのままか」

 

遊馬は今、アストラルと合体した状態のZEXAL IIとなっていた。

 

「帰って来たんだな、俺達……」

 

「ああ。そうだな……」

 

体は深く眠っていたので監獄塔の戦いがまるで夢のように思えてしまった。

 

ZEXAL IIは胸に手を置き、監獄塔で出会った大切な仲間の事を思い出す。

 

「エドモン……天草さん……」

 

もう一度会いたい、会って本当の仲間になりたい……ZEXAL II──遊馬がそう強く願ったその時。

 

「……えっ?」

 

「これは……フェイトナンバーズ?」

 

ZEXAL IIの胸元が光り輝くと、2枚のフェイトナンバーズが現れた。

 

そのフェイトナンバーズにはエドモンと天草の姿が描かれていた。

 

遊馬の願いが奇跡を呼び、エドモンと天草のフェイトナンバーズが誕生したことにZEXAL IIは喜びを抑えきれなかった。

 

「やった……やったぜ、アストラル!」

 

「ああ!これで二人をカルデアに呼べる!」

 

ZEXAL IIが喜びの声を上げていると部屋の扉が開いた。

 

「遊馬……!?アストラル……!?」

 

「遊馬君……遊馬君とアストラルさんが目を覚ましました!」

 

「フォウ、フォーウ、キャーウ!!」

 

部屋に入って来たのは小鳥とマシュとフォウで目を覚ましたZEXAL IIに喜びと興奮を隠せずに直ぐに駆け寄った。

 

「遊馬、アストラル、大丈夫!?私が分かる?ちゃんと意識はハッキリしている?」

 

「大丈夫だ。ちゃんと起きたから大丈夫だぜ、小鳥」

 

「私もだ。小鳥、すまないがたくさんのデュエル飯を作ってくれないか?お腹が空いてしまった」

 

「うん!任せて!たくさん作ってあげるからね!」

 

小鳥はZEXAL II……遊馬とアストラルが目を覚ましたことに嬉しくなり、元気よく頷いて腕を上げた。

 

「遊馬君、アストラルさん。おはようございます。……無事に戻ってきてくれましたね。良かった……」

 

「心配かけたな、マシュ」

 

「我々はもう大丈夫だ」

 

マシュは遊馬とアストラルが目を覚ましてくれたことが嬉しく、目頭に涙を浮かべていた。

 

ZEXAL IIは立ち上がり、手を差し伸べた。

 

「「ただいま。小鳥、マシュ、フォウ」」

 

「うん。おかえり、遊馬!アストラル!」

 

「はい。おかえりなさい、遊馬君。アストラルさん」

 

「フォウ!キャウ、フォーウ!」

 

小鳥とマシュはZEXAL IIの手に自分の手を重ね、フォウはZEXAL IIの体をよじ登って肩に乗り、頬ずりをする。

 

ソロモンが仕掛けた罠……監獄塔の戦いは終わった。

 

遊馬とアストラルは人の罪と欲望への理解を深め、カルデアのマスターとして更に大きく成長した。

 

そして……遊馬とアストラルの世界を救う為の戦いは新たなステージへと進む。

 

 

 




これにて監獄塔編も終了です。
空とエドモンの対決、如何でしょうか?
出来るだけ頑張って書きました。

今回のフェイトナンバーズはかなり大きな力を持つ空です。

『FNo.100 空の境界 両儀式』
エクシーズ・効果モンスター
ランク1/光属性/戦士族/攻0/守0
レベル1×5
このカードは手札の「RDM」魔法カード1枚を捨て、自分フィールドの「FNo.103 直死の魔眼 両儀式」の上に重ねてX召喚する事もできる。
このカードは相手のカード効果を受けず、リリースすることは出来ない。
このモンスターの攻撃力・守備力はX素材となっているモンスターエクシーズのランクの合計×500ポイントアップする。
このカードの①②③の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用出来ない。
①X素材を2つ取り除いて発動出来る。自分のフィールド・墓地・除外のXモンスターを1枚選択し、このカードのX素材にする。
②X素材を1つ取り除いて発動出来る。自分の墓地、もしくは除外されている魔法・罠カードを1枚選んで自分フィールドにセットする。この効果でセットしたカードはこのターンに発動出来る。この効果は相手ターンでも使用出来る。
③X素材を1つ取り除いて発動出来る。このカードは相手フィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃出来る。このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時までモンスター・魔法・罠の効果は無効化され、カード効果を発動できない。

かなり特殊な召喚方法ですが、かなり強く仕上げました。
空……「両儀式」とヌメロン・ドラゴンのネタを考えたらこれぐらい強くてもいいかなと思って。
RDMは現在一枚しか存在しないので出しにくさも出ています。

次回から羅生門編に入ります。
出来るだけ短めにして第5章のアメリカ編に入る予定です。


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鬼哭酔夢魔京 羅生門
ナンバーズ104 千年前の日本!再会のゴールデン!!


羅生門編スタートです。
今回はストーリーも短いので、監獄塔よりもかなり短めにできると思います。


監獄島の戦いを終え、無事にカルデアへと魂が帰還することができた遊馬とアストラル。

 

目覚めて早々、ZEXAL IIの合体を解除せずにまず初めに行ったことは……。

 

「「ガツガツガツ!ムシャムシャムシャ!モグモグモグ!ゴックン!小鳥!デュエル飯、おかわり!!」」

 

「はーい!すぐ作るから待っててねー!」

 

「目覚めたばかりだというのによく食べるな……」

 

「でも、作り甲斐があるよ!」

 

食堂でZEXAL IIは小鳥のデュエル飯を主食にエミヤとブーディカの料理をおかずに久方ぶりの飯を食べていた。

 

「監獄塔だと魂だけだから飯も何もないからなー」

 

「ああ。だがやはり食事は最高の時間だ……生きる実感を味わえるぞ!」

 

「七日分しっかり食うぜ!」

 

遊馬とアストラルは約七日間眠り続けていたので腹の減りは異常で、いつも以上に食べていく。

 

一方、マシュはオルガマリーと共に一足早くカルデアに帰還していた空から遊馬とアストラルの代わりに監獄塔の報告を聞いていた。

 

「まさか魔術王が遊馬君にそんなことを……」

 

「本当に規格外過ぎるわ……アストラルと空がいたとは言え、よく戻って来たわね」

 

カルデアやマシュを初めとする契約したサーヴァントの支援がほとんどない状況で監獄塔を最後まで戦い抜いたことに深く感心した。

 

「でも、あの戦いは私だけの力じゃない。ジーク君とルーラー。そして……アヴェンジャー……エドモンがいたからこそ戦い抜くことができた」

 

「オガワハイムで出会った巌窟王……エドモンさん……カルデアに召喚されたら謝らないといけませんね」

 

マシュはオガワハイムで知らなかったとはいえ存在してはいけないと言ってしまった事を思い出し、カルデアで召喚されたら真っ先に謝ろうと思った。

 

ZEXAL IIが大量の食事を食べ終え、お茶を飲んで一息をつくと……。

 

「ユウマ〜!」

 

「旦那様〜!」

 

「ん?おお、ネロ!清姫!」

 

「無事か、大丈夫か!?」

 

「お怪我はありませんか!?」

 

「おう!問題ないぜ!」

 

ZEXAL IIが目覚めたと聞き、ネロと清姫が駆けつける。

 

その後もZEXAL IIの目覚めを聞いてカルデアのサーヴァント達が次々と復帰を祝う。

 

ZEXAL IIは食事を終えると目を閉じてその場で合体を解除し、遊馬とアストラルに戻る。

 

「「ごちそうさま」」

 

手を重ねてごちそうさまと食後の挨拶をすると元気な足音が響く。

 

「お兄ちゃーん!」

 

「お兄様ー!」

 

「おかあさーん!」

 

桜と凛、そして先日カルデアにやって来たジャックが仲良さそうに一緒にやって来た。

 

「桜ちゃん、凛ちゃん、ジャック!おっ?三人共、仲良くなったのか?」

 

「うん!ライダーやアタランテお姉ちゃんと一緒に毎日遊んでいるよ!」

 

「お兄様、体はもう大丈夫なのですか!?」

 

「おかあさん、目覚めて良かったよ!」

 

「心配かけたな。俺はもう大丈夫だ。よし、心配かけたお詫びにこれから一緒に遊ぶか!」

 

「「「うん!!」」」

 

遊馬は桜たちと一緒に遊ぼうと椅子から立ち上がるが……。

 

「残念だけど、昨夜に小さいけれど新しい特異点を発見したからこれから遊馬に行ってもらうわ」

 

オルガマリーの無慈悲な司令が下されてしまった。

 

遊馬とアストラルが監獄島で戦っている間に小さい特異点を発見し、心苦しいが遊馬とアストラルが目覚めたらすぐに向かってもらう事になっていた。

 

ガーン!!!

 

「「「ええっ!?」」」

 

「嘘ぉーん!?そりゃあ無いぜ、所長!!」

 

桜たちは涙目になり、遊馬はブーイングを挙げる。

 

オルガマリーは頭痛を覚えながら大きな溜息を吐き、なんとかこの場を抑えるために妥協案を出す。

 

「分かりました。この特異点が解決したらしばらくの間は午前の勉強会と午後の訓練を休講します。これで勘弁して……」

 

「遊馬、気持ちは分かるがここは我慢して行こう」

 

「アストラル……へぇーい。悪いな、みんな。帰ってきたらたくさん遊ぼうな?」

 

「「「はーい……」」」

 

桜たちも我慢し、遊馬は急いで自室に戻ってレイシフトの支度を整える。

 

監獄塔で持って行けなかった原初の火と銃を装備し、デッキとデュエルディスクとD・ゲイザーとデッキケースを確認して管制室に向かう。

 

先に待っていたオルガマリーから簡単な説明が始まる。

 

「まず初めに、今回の護衛サーヴァントも私が選びました」

 

「前回はロンドンだったから、アルトリアとブーディカだから……」

 

「今回のレイシフト先は日本よ」

 

「日本!?」

 

「ええ。ただ、今までとは大きく違ってどの時代かはっきりと分からないの。もしかしたらかなりの大昔かもしれないわ」

 

「分かった、任せてくれ!」

 

「それで、今回の護衛サーヴァントは?」

 

「ええ。入って来て!」

 

オルガマリーが呼び、管制室に入って来たのは……。

 

「遊馬、姉上に任せて!」

 

「マスター、微弱だが俺も力になろう」

 

「姉上!小次郎!」

 

今回の護衛サーヴァントとして着くのは日本で有名な好敵手剣士、宮本武蔵と佐々木小次郎の二人。

 

日本で名を馳せる最強剣士が共に戦うなら心強い。

 

すると……。

 

「待たんか!お主ら!!」

 

「待ってください!!」

 

「え?ノッブ、姉さん?」

 

管制室に突撃するように来たのは信長と沖田だった。

 

「オルガマリーよ、何故儂と沖田を呼ばんのじゃ!」

 

「そうですよ!日本が舞台なら私たちでもいいじゃ無いですか!」

 

信長と沖田も日本出身の英霊なので確かに護衛サーヴァントに選ばれても良いのだが……。

 

「却下よ」

 

オルガマリーは即答で両断する。

 

「ガーン!?何故じゃ!?」

 

「わ、私の剣の腕なら武蔵さんや小次郎さんにも負けませんよ!?」

 

「何故かって……?それはね……あんた達じゃ不安要素しかないし、大事なところで何かやらかしそうだから任せられないのよ!!」

 

信長と沖田は確かにネーミング的には良いのだが、あまりにも残念な性質に任せられないと判断された。

 

「酷っ!?是非もないよね!?」

 

「そんな!?私たちはそこまで酷くない──ゴハッ!?」

 

「ぬぉっ!?沖田がまた血を吐いた!?最近は調子が良かったはずなのに!?」

 

「だからあなた達には任せたくないのよ……ちびノブ、頼むわよ」

 

「「「ノッブノブー!」」」

 

「き、貴様ら!儂から生まれたくせに邪魔をするな!」

 

「で、出番を!私達にも主役級の出番を〜!」

 

ちびノブたちが何処からともなく現れて信長と沖田を管制室から追い出す。

 

「……コホン。改めて、今回の特異点は遊馬とアストラル、マシュとフォウ、そして武蔵と小次郎で向かってもらうわ」

 

「オッケー!マシュ、フォウ、頼むぜ!」

 

「はい!」

 

「フォーウ!」

 

監獄塔の戦いを経ての新しい特異点なのでマシュとフォウと一緒に向かうのは久々に感じる。

 

遊馬はマシュと武蔵と小次郎をフェイトナンバーズにいれ、フォウは上着のフードに入る。

 

アストラルは皇の鍵の中に入り、遊馬は忘れ物がないか確認しながらコフィンの中に入る。

 

そして、レイシフトが始まり、遊馬は目を閉じて体の身を静かに委ねた。

 

 

レイシフトが完了し、目を開くとそこには美しい光景が広がっていた。

 

「すげぇ……!みんな、出て来て見てみろよ!」

 

遊馬はその光景に興奮しながら皇の鍵に触れ、デッキケースを開くとアストラルとマシュたちが出てくる。

 

アストラルとマシュたちの目の前に広がった光景……それは今までの特異点では見る事のなかった新しい風景だった。

 

「美しい……これは日本の古き良き美しい風景だな……」

 

それは日本の花とも言える桜が満開に咲き誇り、緑生い茂る山々に作物が実る田園が広がる日本のとても美しい風景だった。

 

「桜の花が、とても、綺麗です。大変ビューティフルと言えます!」

 

「フォウフォウフォーウ!」

 

「懐かしいな、故郷を思い出すよ」

 

「まさか英霊の身となったこの瞳に懐かしき風景を焼き付ける日が来るとは……」

 

マシュとフォウは初めて見る桜の花に美しさを感じて興奮し、武蔵と小次郎は久し振りに見る懐かしい風景に心を安らいでいた。

 

すると、遊馬たちの鼻に何かの匂いを感じた。

 

「ん?なんか甘い匂いが……」

 

「何でしょう……?」

 

何故か甘い匂いが広がっており、気分が少し良くなって来ていた。

 

「ところで、今回の年代はいつ頃なんだ……?」

 

「は、はい!所長が言うには日本の平安時代になります」

 

「平安時代か……となると現代から千年ぐらい前か?」

 

「いや、平安時代と言っても三百年もあるからそうとは言い切れない」

 

「そっか。あー、今度は日本の歴史もちゃんと勉強しないとなぁ……」

 

今後も日本の特異点があるかもしれないのである程度の日本の歴史を学ばなければならないと遊馬は頭をかきながら思っていると、桜の木の元で何かを見つけた。

 

「……なんか、花びらが山のように積もってるけど……」

 

「はい……どう見ても人型です。控え目に言って、花見をしていたら眠ってしまって、丸一日放置されていたような……」

 

その花びらに埋もれている人物を起こすべきかどうか迷っていると……。

 

「は──くしょい!つあ、もう朝じゃねえかコンチクショ──ウ!」

 

「ゴ、ゴールデン!?」

 

花びらの山から起き上がったのはロンドンでニコラ・テスラを止めるために召喚され、共に戦った坂田金時こと、ゴールデンだった。

 

「うー、あったま痛ぇ……調子に乗って熊どもと騒ぎ過ぎちまったぜ……」

 

「おはよー。ゴールデン」

 

「ん?おお、大将じゃねえか!」

 

金時はロンドンの地で自ら大将と認めた遊馬と再会して喜びを見せた。

 

「いいね、挨拶から入るのはいい。礼節を弁えてる証拠だ。充実した一日ってのは、いい挨拶、いい朝飯、いい薪割りから始まるもんだ。うちの大将……ああいや、お前のことじゃねえ。元の大将っていうか、オレっちの養い親と言うか」

 

「君の養い親?それは源頼光か?」

 

金時の養い親と聞き、アストラルはその人物の名を言い当てた。

 

「源頼光?えっと、どんな人なんだ?」

 

「平安時代中期の武将で化け物退治においては無類の強さを誇ると言われていた。幼い頃のゴールデン……金太郎と呼ばれていた頃と出会い、金太郎の強さと人柄を見込んで家来に誘ったんだ。そして、頼光の元で成長した金太郎は坂田金時と改め、頼光四天王の一人として鬼退治をした……と言われている」

 

アストラルが源頼光と金時の関係を簡潔に説明する。

 

金時も腕を組んで源頼光との思い出を語り始めた。

 

「まあ、大体そんな感じだな。あの人、その辺りはきちっとしていてよ。普段はだらしねえクセに、飯時の行儀だけはガチでよ。片膝なんて立てたら鬼みてぇな顔で打ち込んできやがる」

 

「はははっ!うちの婆ちゃんにそっくりだ。何だか、その頼光さんってまるで母ちゃんみたいな性格なんだな!」

 

「そうだな。平安時代の武将でその性格は確かに珍しいな。まるで女性のようにしっかりしているようだな」

 

「ギクッ!?ま、まあ、そうだよな……」

 

遊馬とアストラルが源頼光についてのイメージを膨らませるが、金時は顔を歪ませて大量の汗をかいて空を見上げた。

 

そこに武蔵と小次郎が近づいて自己紹介を始めた。

 

「私は宮本武蔵!はじめまして、あの有名な頼光四天王の筆頭に会えるなんて光栄だよ!後で剣を交えたいな!」

 

「佐々木小次郎。同郷の英霊に会えるとは光栄だ。もし良ければこちらも後で手合わせをお願いしたい」

 

「二人も同郷のサーヴァントか!良いぜ、こっちの問題が片付いたらいつでも相手になるぜ!」

 

「それで、ゴールデン。何でここに召喚されたんだ?」

 

「この世界で何か大きな危機が迫っているのか?」

 

「世界の危機とは言えねえが、今回はオレっちの庭のトラブルだ。深山幽谷なんのその、誰が呼んだか知らないが、お呼びとあらば即推参。勇往邁進八卦良し、マサカリ担いで峠を攻める、神鳴り様のお通りってな!」

 

「おお!やる気満々だな、ゴールデン!」

 

「それで、どこに行くのだ?」

 

「あん?何処にって決まってるじゃねえか。そりゃあ──」

 

金時がこれから何処に向かうのか重要な事を話そうとしたが……。

 

『GYAAAAOOOO──!!!』

 

突如、獣のような雄叫びが響き渡り、遊馬達の前に現れたのは様々な姿をしたモンスター達だった。

 

「いいとこで茶々いれるんじゃねえ──!つーか、ここいらで見ねえ顔だなテメエ!?」

 

「どうやらこちらを食料と見なしているようです。襲ってきます!」

 

「起き抜けにゃ丁度いい。肩慣らしだ、派手に行こうぜ大将!」

 

「ああ!みんな、派手にぶちかますぜ!!」

 

遊馬達は突如として現れたモンスター達と戦闘を開始した。

 

 

遊馬達が戦闘を開始した直後……そこに一人の女性が近づいていた。

 

「ようやく見つけましたわ、頼光四天王の坂田金時様。そして……」

 

その女性は金時と共に元気よく戦う遊馬を見て優しい笑みを浮かべる。

 

「なるほど、あの幼き少年がマスター様ですか。ちょうど良かったですわ」

 

女性は懐から筆と扇子を取り出して持つ。

 

「これで……この酒乱に狂った京の都を救うことが出来ます」

 

金時と遊馬……この地を救う最後の希望の元へと早足で向かう。

 

 

 

 




ラストに登場したのは皆さんはお気づきかもしれませんが、平安時代が舞台なら彼女を出しても問題ないと思って出しました!
私も出た当初からすぐに好きなキャラの上位に入ったので、羅生門編と彼女の実装タイミングが合って本当に良かったと思います。


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ナンバーズ105 詞の紡ぎ、想いを綴る麗人

今回は遂にあの人の登場です!
ぶっちゃけ私好みのキャラなので出せて最高です。


レイシフト先の平安時代の日本でゴールデンこと坂田金時と再会した遊馬たち。

 

するとそこに謎のモンスター達が襲いかかり、撃退するために戦闘を開始した。

 

平安時代に鬼を始めとした化け物退治をしてきた金時は雷神のマサカリである黄金喰いを振るい、荒々しい動きで倒していく。

 

一方、武蔵と小次郎は鮮やかで華麗な剣で次々とモンスターを斬り伏せていく。

 

すると、倒したモンスターの血に誘われたのか、次々と近くに潜んでいたモンスターが姿を現していた。

 

「キリがないぜ!」

 

「遊馬!サンダー・スパーク・ドラゴンだ!一気に蹴散らすぞ!」

 

「分かった!」

 

遊馬はモンスター全破壊の能力を持つサンダー・スパーク・ドラゴンをアストラルの指示ですぐにエクシーズ召喚を行う。

 

「現れよ、『No.91 サンダー・スパーク・ドラゴン』!」

 

しかし、モンスター達は倒されたモンスターの血肉を喰らってその力を増して襲いかかってきた。

 

「まずいぞ……このままではサンダー・スパーク・ドラゴンの効果を使っても倒せない可能性が出てきた!」

 

「マジかよ!?」

 

「せめて、モンスター達の力が弱まってくれれば……」

 

カルデアで敵の弱体化の宝具を持つサーヴァントに救援を求めようと考えたその時だった。

 

「……ハッ!?遊馬、サーヴァントの気配だ!?」

 

「ちっ、敵か!?」

 

「あっ、見えました!あそこに……女の人?」

 

マシュが指差した方向を見つめると、そこには……。

 

「何だ?この時代に似合わない格好した……」

 

それは漆黒のゴシックドレスに身を包んだ美しい麗人で日傘を持って歩いていた。

 

麗人は遊馬達の視線に気付くとにこりと微笑んだ。

 

「力を、お貸ししますわ」

 

「えっ?」

 

麗人は日傘を閉じると筆を取り出し、その場に座ると目の前に平安時代に書籍や硯箱などを乗せ、読書や写経に用いた長方形の低い台……文台が現れ、その上に巻物が現れた。

 

すると、火が灯された燭台が現れるとその場の空気が闇に染まり、麗人が筆で巻物に文字を書くと同時に静かに言葉を連ねた。

 

「限りあれば、薄墨衣、浅けれど、涙ぞ袖を、淵となしける……」

 

それは日本で最も古くから行われている詩歌の和歌で、その和歌を聞いた瞬間アストラルは耳を疑った。

 

「その和歌は……まさか!?」

 

そして、和歌を詠みあげると、筆で五つの突起を持つ星を描いた。

 

「『源氏物語・葵・物の怪』!」

 

次の瞬間、この場にいた全てのモンスターに大ダメージを与え、その場に崩れ落ちた。

 

「今のは一体……!?」

 

「遊馬、まずはこの場を切り抜ける方が先決だ!」

 

「お、おう!サンダー・スパーク・ドラゴンの効果!オーバーレイ・ユニットを3つ使い、このカード以外のモンスターを全て破壊する!サンダー・スパーク・ボルト!!」

 

サンダー・スパーク・ドラゴンは3つのオーバーレイ・ユニットを喰らい、空に雷雲を浮かべると大量の落雷を落として全てのモンスターを黒炭になるほどに雷で焼き尽くした。

 

モンスターを無事に全て倒し、安心する暇もなく謎の麗人に警戒を向ける。

 

助けてくれたが金時は黄金喰いを麗人に向ける。

 

「てめえ……何者だ?今さっきの攻撃は退魔の術……あれは陰陽師の使っていた力だ!」

 

「えっ!?陰陽師って、あの!?」

 

先程麗人が使ったのは化け物を効果的に倒す陰陽師の退魔の術の一つだった。

 

特に平安時代は陰陽師が特に栄えていた時代だが、女性が陰陽師の退魔の術を使えることはあり得ないはずだった。

 

「私は陰陽師ではありません。安倍晴明様から手解きを受けただけです」

 

「あ、安倍晴明!?」

 

「伝説の大陰陽師……安倍晴明だと!?」

 

日本でその名を知らないものはいないとされる、平安時代に活躍した最強の陰陽師・安倍晴明。

 

その安倍晴明から手解きを受けたこの麗人は何者なのかと更に警戒を高めると、麗人は苦笑を浮かべた。

 

「ご心配はいりません。私はあなた方の味方ですよ。坂田金時様」

 

「なっ!?何故オレの名前を!?」

 

「覚えておりませんか?頼光さまと一緒にお会いになったことがありますが……」

 

「ら、頼光の大将と!?」

 

「ええ」

 

麗人は金時や源頼光や安倍晴明と面識はあるようで、平安時代の英霊だとすぐに分かった。

 

しかし、金時は麗人が誰なのか分からず、頭を抱えていた。

 

すると、アストラルは今までの情報から麗人の正体を突き止めることができた。

 

「……遊馬。突然だが、『源氏物語』を知っているか?」

 

「え?ああ、もちろんだぜ。まあ内容は全然知らないけど名前くらいは──えっ!?アストラル、もしかして!」

 

アストラルがこの状況で関係ない話をするはずがないと察した遊馬も麗人の正体に気付いた。

 

「な、なあ!あんた、もしかして……あの有名な源氏物語を書いた……『紫式部(むらさきしきぶ)』……さん?」

 

「ええ。その通りです。初めまして、キャスターの紫式部と申します」

 

麗人──紫式部はにっこりと微笑んで頷いた。

 

紫式部。

 

日本最古にして世界最古の長編小説の源氏物語などを執筆した女流作家である。

 

「嘘ぉっ!?あの源氏物語の作者さん!?」

 

「まさかこれほどの麗しい美女とは……いやはや驚いた」

 

日本で一番有名な作家といっても過言ではないので紫式部の名に武蔵と小次郎も驚いた。

 

金時は黄金喰いを消すと申し訳なさそうに頭をかいて紫式部に謝る。

 

「いやその、申し訳ねえ。紫式部様……いや、香子様」

 

「香子?」

 

「紫式部はあくまで職場での通り名、簡単に言えばペンネームで彼女の本名は藤原香子だ」

 

「あ、そうなんだ」

 

紫式部の名前が有名過ぎてそれがペンネームだとは知らず、アストラルが説明する。

 

「その、衣装や髪型があまりにも違い過ぎたのでなかなか思い出せなくて……」

 

金時は紫式部のイメージが今と生前であまりにも違うので思い出せなかった。

 

「私も最初は金時様だと気付くのには時間がかかりましたわ。そのお顔を覆うサングラス……何故そのような……?」

 

「それはもちろん、クールでいけてるから!」

 

「は、はぁ……?」

 

金時の美的センスに付いていけない紫式部は再び苦笑いを浮かべた。

 

すると、遊馬達も紫式部に近づいて自己紹介をする。

 

「初めまして、紫式部さん!俺は九十九遊馬!ゴールデンやここにいるサーヴァントと契約しているマスターだ!」

 

「私の名はアストラル。遊馬の相棒で共に戦っている精霊だ」

 

「私はデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトです」

 

「私はセイバーの宮本武蔵!あの紫式部さんに会えるなんて光栄だよ!」

 

「佐々木小次郎。貴女ほどの大した英霊ではないが、よろしく頼む」

 

「はい、みなさん。よろしくお願いします」

 

紫式部は頭を下げて挨拶をし、自己紹介を終えると桜の木の下で早速情報を整理するための話し合いが行われた。

 

この地は平安時代の日本における文化的・政治的中心地の京都の近く。

 

金時は気がついたらここにいたらしく、暇だったので熊と稽古して寝て朝になっており、そこに遊馬達と再会した。

 

そして、紫式部の口から驚くべきことが語られる。

 

「金時様……今、京の都は酒の霧に包まれており、人々は酔っておかしくなっています」

 

「酒だぁ……?」

 

「それから……一瞬で遠目でしか見ていませんが、鬼を目にしました……」

 

「鬼だと!?酒に鬼……ちっ、面倒な事になりそうだぜ!」

 

金時は鬼が現れたと聞いて苛立ち、力を込めた拳で地面を思いっきり叩きつけた。

 

「私一人では圧倒的に力不足……この時代で鬼を倒せるサーヴァントを探していました。そして、ようやく金時様を見つけることが出来ました」

 

紫式部は鬼を倒すことができる力を持つサーヴァントを探すために都から離れ、金時を探し出せた。

 

運良くマスターの遊馬も巡り会えたのでこれで京の都を救うことができる。

 

「お願いします。どうか都を救うためにお力をお貸しくださいませ」

 

「任せてくれ!俺たちはその為に来たんだからな!」

 

「鬼退治ならオレの仕事だ。化け物共に都を好き勝手させるわけにはいかねえ!」

 

金時は酒と鬼と聞いて何かを思い出したのか、やる気と同時に怒りが湧いていた。

 

これで目的は決まり、京の都で謎の酒の気を撒き散らしている元凶の鬼を倒す事となった。

 

紫式部も遊馬達と共に京の都を守る為に戦う為に遊馬と契約を交わす。

 

遊馬と紫式部は握手を交わすとフェイトナンバーズが現れ、これで契約が完了した。

 

遊馬達は早速山を下り、京の都へ向かう。

 

都へ向かう途中、遊馬は紫式部と話をする。

 

「なあ、紫式部さん」

 

「何でしょう?」

 

「気になったんだけど、何でドレス姿なんだ?着物じゃねえのか?」

 

紫式部は当然ながら平安時代の貴族の女性で、中宮・藤原彰子の教育係だったのでかなり身分の高い。

 

それが何故ゴシックなドレスを着ているのか疑問で仕方がなかった。

 

「確かに私は十二単を着ていましたが、その……」

 

「うんうん」

 

「あれだと流石に重くて動きづらいので……」

 

紫式部は少し恥ずかしそうに理由を答えると遊馬は納得するように頷いた。

 

「あー、なるほどね。前にテレビで見たけど平安時代の着物って重そうだよなぁ……」

 

「十二単は約20キロもしたそうだ。一口に十二単にも色々あるが、平安時代の女性貴族は大変な思いをしたことには変わりないな」

 

アストラルが十二単の事を遊馬に教えると紫式部は目を細めて疑惑の眼差しでアストラルを見つめる。

 

「……遊馬様、こちらのアストラルという方は本当に味方なのですか?」

 

「え?何だよ急に……何でそんな事を聞くんだよ?」

 

「……人ならざる存在が、人に協力的なのが信じられなくて……」

 

「アストラルは俺たちの味方だ!アストラルはこれまで沢山の苦難を一緒に乗り越えてきた大切な相棒だ!!」

 

遊馬はアストラルを信じられない紫式部に対して自分のことのように怒るが、アストラルはそんな遊馬を静かに制した。

 

「待つんだ遊馬、紫式部の言うことにも一理ある。平安時代は異形の存在が特に強く、人を食い荒らして大暴れをしていた。人ではない存在の私を疑うのも無理はない」

 

「でもよ、アストラル……」

 

「紫式部。確かに私は人とは異なる存在、アストラル世界と呼ばれる異世界から来た。しかし、私は人を喰らったり、滅ぼすつもりはない」

 

「……それなら、何故遊馬様と共に戦うのですか?」

 

「……私が戦うのは三つある。一つ目はこの世界を滅ぼそうとする存在が私たちの世界を脅かす可能性があり、それを阻止する為。二つ目はカルデアで大切な仲間達を守る為。そして、三つ目……」

 

アストラルは静かに目を閉じてからゆっくり開け、遊馬を見つめて最後の理由を答える。

 

「私は……私のこの命よりも大切な、大好きな遊馬の力になる為にここにいる!遊馬を守り抜き、無事にみんなと人間界に戻る為に戦い続ける!それが、私の戦う理由だ!!」

 

アストラルが戦う理由……それは自分自身ではなく、何よりも大切な遊馬の為だった。

 

紫式部はその答えに言葉を失った。

 

人ならざる存在がこれほどまでに熱く想いのこもった言葉を言うとは思いも寄らなかった。

 

そして、アストラルの金色の双眸に秘められた純粋で真っ直ぐ、それでいて情熱の込められた美しい瞳に平安時代の様々な欲望を持つ人を見てきた紫式部も認めざるを得なかった。

 

「先程は無礼な事を言ってしまい、申し訳ありませんでした。アストラル様」

 

「分かってもらえればそれでいい。これからよろしく頼む、紫式部」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

互いを認め合ったアストラルと紫式部に一同は安心する。

 

そして、アストラルから間接的に告白された遊馬は少し照れながらアストラルと戯れ合う。

 

「ったくよ、どさくさに紛れて告白するんじゃねえよ」

 

「別に告白したつもりはない。あれは私の正直な気持ちだ。それに前に一度、君の笑顔が大好きだと言ったではないか」

 

「そうだけどさ、ちょっと恥ずかしいじゃねえか」

 

「フッ、何を今更。君だって私への想いを口にしたらしいじゃないか」

 

「あ、あれはお前がいない時だったから……」

 

「是非ともその時の君の想いを聞いてみたいな」

 

「い、言えるかよ、馬鹿!!」

 

遊馬とアストラルが痴話喧嘩のように話している光景に紫式部は呆然とする。

 

人と精霊……本来なら相容れぬ存在同士がここまで仲睦まじく一緒にいる光景を紫式部は驚きを隠せなかった。

 

二人はここに至るまでどのような戦いや苦難を乗り越えて物語を紡いできたのか……紫式部は興味を抱いた。

 

 

一方、遊馬とアストラルの痴話喧嘩に過剰に反応する者達が……。

 

「ま、マズイです!非常にマズイです!まさか、私たちの最大のライバルがアストラルさんだったなんて!」

 

「な、なんて事なの……文字通り一心同体になるとは言え、兄弟みたいに見えたから微笑ましく思ってたけど、よくよく考えたらアストラルって明確な性別が無いからどっちも行ける可能性が……!!」

 

「これはいけません、今後はアストラルさんに負けないように努力しないと!!」

 

「私も遊馬の最高のお姉ちゃんポジションを何としてでも守らないと!」

 

マシュと武蔵はアストラルと言う予想外の最強最大のライバルの登場に燃えていた。

 

「フォウフォ……」

 

「全く、私はこいつの暴走を止める為に選ばれた訳じゃないだろうな……」

 

フォウと小次郎はテンションが上がっているマシュと武蔵にこれから起こるかもしれない暴走への憂鬱に溜息をついた。

 

最も、この変なテンションの上がりようは京の都から漂っている酒気が原因なのだが……今はその事を誰も知らない。

 

 

 

 




と言うわけで登場しました、紫式部さん!
もう可愛すぎて嫁にしたい(笑)
黒髪ロングで着物の似合う大和撫子な女性はもうドストライクです。

平安時代の人間なので一応人外のアストラルを警戒していましたが、そこはアストラルの遊馬への想いで警戒は解けましたね。
そしてアストラルが最大のライバルだとマシュ達は気づきます。

次回はマシュと武蔵が暴走します(笑)
色々面白おかしく書きたいと思います。


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ナンバーズ106 酒気暴走!酔いに満ちた京の都!

今回はマシュちゃんと武蔵さんが暴走します(笑)
遊馬くんが色々ピンチです!
書いててとても楽しかったです。


遊馬はこれまで数多の敵と対峙し、かっとビング精神の元、それを最後まで諦めずに戦い抜いてきた。

 

しかし、そんな遊馬はある意味人生最大の危機を迎えていた。

 

それは……。

 

「遊馬君、大丈夫ですよ。私が必ず守ってあげますからね!」

 

ムギュッ!

 

「お姉ちゃんに任せてね。私の二刀流が火を吹いてどんな敵もバッサバッサと薙ぎ払うからね!」

 

ムギュッ!

 

マシュと武蔵が遊馬の両腕に抱きついてそのたわわに実った胸を押し付けていた。

 

流石の鈍感な遊馬もこれはあまりにも恥ずかしく、緊張感マックスでまともに動けない状況だった。

 

「誰か……誰か助けてくれぇえええええっ!!」

 

遊馬の悲痛な絶叫が京の都の空に響き渡った。

 

 

今から少し前……遊馬達は謎の酒気に覆われた京の都に到着した。

 

都に入って街の様子を伺うが、人々は酔っているのかどんでもなく滅茶苦茶に騒ぎまくっていて、言うなればあまりにもカオスな状況だった。

 

「やべっ……俺も酔いそうだ……」

 

未成年で酒に弱い遊馬は酒気に鼻と口を押さえて苦しそうにすると、アストラルはナンバーズの一枚を取り出して遊馬に渡した。

 

空中に『41』の刻印が浮かぶと酒気による遊馬への不快感が全て無くなった。

 

「アストラル?」

 

「酒好きのモンスター、『No.41 泥睡魔獣バグースカ』の力を使った。これで酒気による君への影響は無くなった」

 

「サンキュー、アストラル。助かったぜ」

 

「ああ。しかし、この状況……酒気の所為でこれほど人々がおかしくなるとは……」

 

「言ってるこたぁ物騒だが、まだ理性はある方だ。刃物を持ち出さないうちはかわいいモンだがよ……気づいてるか?どんどん濃くなってきてやがる」

 

金時は都に漂う酒気が街に入ってからどんどん濃度が高くなっていることに気付いた。

 

「つまり、濃度が高い方に敵である鬼がいる可能性が高いな」

 

「ここでこれだ。こりゃあ気を引き締めないとな」

 

アストラルと金時の言葉に一同は緊張感を高めて行動を心がける。

 

しかし、マシュはあちこちに点在する桜から舞い散る桜の花弁に見惚れていた。

 

「相変わらず桜は綺麗ですが──」

 

少し強い風が吹き、桜の花弁が一気に飛んでその内の数枚が遊馬の頭に乗りそうになった……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………っ!?遊馬君、危ないっ!」

 

ムギュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「どうした、マシュ……?」

 

アストラルがマシュの危機を知らせる声に振り向いたが、目に映った光景は……。

 

「ふう、危ないところでした。遊馬君の頭の上に桜の花弁が落ちてきたので」

 

「えっ!?な、何で!?花弁が落ちたぐらい……って、抱きつくなよ!恥ずかしいじゃねえか!?」

 

マシュは頰を赤く染めて遊馬に抱きついていた。

 

目がとろんと緩んでおり、明らかにいつものマシュでないことはすぐに分かった。

 

「遊馬君は大役を担っておられる身。その遊馬君を邪魔し、危害を加えようとするものを見逃すわけにはいきません。マシュ・キリエライトは遊馬君の力になりたいのです。もっと、もっと、もっともっと」

 

マシュは遊馬を守りたいと言うシールダーとしての役割に準じているが、その想いが明らかに暴走している。

 

「……おや?大変です遊馬君、少し顔が赤いです。ひょっとして熱でも──いえ、風邪ではありませんか?」

 

「いやいやいや、熱でも風邪でもないから!むしろ監獄塔で体は一週間眠っていたから元気有り余ってるから!」

 

「そうですか?大丈夫ですか?お辛くないですか?なでなでしますか?」

 

「マシュちゃん!?一体何があったの!?お願いだからいつものマシュに戻って!!?」

 

「そう言えば、レイシフト前の小休憩で少しお腹を出して寝ておられました。不覚。ですが、私がいればもう大丈夫です。今日は……いいえ、今日から私が添い寝をして温めてあげましょう」

 

いつものマシュなら絶対に言わないであろうとんでもない爆弾発言に遊馬も血の気が引く思いだった。

 

「アアア、アストラル!マ、マシュがおかしいんだ!?一体何が起きているんだ!!?」

 

「こちらの宝具を使えばしつこい風邪のウィルスも杉の花粉も完全ガード。あらゆる外敵、悪い虫をシャウトアウトなのです!」

 

「風邪も花粉もガードだって!?それは是非とも春の季節には使いたい──って、その盾にそんな機能は無えよな!?」

 

マシュの渾身のボケに思わずボケツッコミをしてしまう遊馬。

 

この緊急事態にアストラルは冷静に状況を分析して答えを出す。

 

「……遊馬、結論を言う。マシュは……『酔っている』」

 

「……はぁ!?酔っている!?え、でもロンドンの時の魔霧は大丈夫だったじゃねえか!」

 

第四特異点のロンドンの魔霧はマシュの体に特に影響はなかった。

 

しかし、何故かこの酒気ではマシュの体に大きな影響を与え、酔ってしまった。

 

そして、その酔いによってマシュの遊馬への想いが爆発してしまったのだ。

 

「十中八九、この空間に満ちている酒気の所為だ。街の人間達もおかしくなっているこの酒気がマシュを酔わせている。ゴールデンは逆に力が溢れているようだかな」

 

「た、対処法とかは……」

 

「無い。バグースカは君に与えてしまったからな」

 

「ガクッ……マジか……」

 

流石にバグースカと同じ酒に対する抵抗力を与えるナンバーズは他に無いので今のマシュを酔う前の元に戻すのは不可能である。

 

最も、想いが暴走しているとは言え、シールダーとして遊馬を守ろうとする意思が強くなっており、マスターである遊馬の指示には従うので大丈夫だろうと結論付けた。

 

しかし……暴走しているのはマシュだけでは無かった。

 

「遊馬〜!」

 

「えっ?どわあっ!?」

 

ムギュッ!

 

「ふあっ!?む、武蔵さん!?」

 

「えへへ〜、お姉ちゃんも混ざるよ〜!」

 

「むむむ、武蔵姉上!?」

 

遊馬を正面から抱きついているマシュに対し、何と武蔵が遊馬を後ろから抱きついた。

 

武蔵もマシュと同じように頬が赤く染まって笑みを浮かべていた。

 

「ま、まさか……姉上も……?」

 

遊馬は更に血の気が引いて顔が青くなっていく。

 

「これは……武蔵も酔っているようだな」

 

「嘘だろ!?だって姉上はセイバーとして能力はかなり高いはずだろ!?」

 

セイバークラスである武蔵は魔力こそ低いが、それ以外のステータスは高く、更に対魔力がAで酒気など無効化できるはずだが……。

 

「ん〜?どうしたの、遊馬?ほらほら、お姉ちゃんにもっと甘えてよ〜!」

 

どう見てもスキルが役に立っておらず、遊馬に甘えて欲しいとせがんでいる。

 

「ダメです武蔵さん!遊馬君は私に甘えてもらうんですから!」

 

「じゃあ、同盟組もうよ!」

 

「ど、同盟?」

 

「うん!ほら、カルデアには遊馬を狙う奴も多いじゃない。例えば、清姫とかネロとか、そう言う奴から遊馬を守ろうよ!」

 

「そのための同盟ですか、なるほど……シールダーの私とセイバーの武蔵さんで攻守共に完璧ですね!」

 

鉄壁の守りを誇るシールダーのマシュと日本最高の二刀流剣士セイバーの武蔵……確かにこの二人が組めば攻守共に優れたコンビとなる。

 

「分かりました、一緒に遊馬君を守りましょう!」

 

「うん!ありがとう、マシュ!」

 

遊馬に抱きつきながら熱い握手を交わすマシュと武蔵。

 

かれこれ長い時間マシュと武蔵に抱きつかれ、遊馬も羞恥心で限界に近づいていた。

 

「ア、アストラル……助けてくれぇ……」

 

「仕方ない……」

 

アストラルはマシュと武蔵を一時的に抑える為に二人のフェイトナンバーズを取り出し、強制的に収納しようとしたが……。

 

ヒュン!!

 

「……えっ?」

 

アストラルの手にあったフェイトナンバーズが消えてしまった。

 

「ふふふ……アストラルさん、邪魔しないでくださいね♪」

 

「今、遊馬とお姉ちゃんとの大切な時間だからこんな横暴は許さないよ♪」

 

マシュと武蔵はアストラルが瞬きをする一瞬でフェイトナンバーズを奪い取り、強制収納を出来なくした。

 

そして、再びマシュと武蔵は遊馬に抱きつく。

 

フェイトナンバーズを奪われ、これではマシュと武蔵を抑えることは出来ない。

 

「……ふぅ」

 

打つ手が一瞬で無くなり、アストラルは腕を組んでため息をつく。

 

そして、遊馬に背を向いて申し訳なさそうに言った。

 

「遊馬、すまない……非力な私を許してくれ……」

 

「諦めんなよ、アストラルゥウウウッ!!!」

 

アストラルに見放され、遊馬は涙目で絶叫を上げた。

 

アストラルが無理ならマシュが可愛がってるフォウと武蔵のライバルの小次郎に最後の望みをかけるが……。

 

「フォウ、フォウフォウフォウフォウフォウフォウフォウフォウ」

 

小次郎の肩に乗っかっているフォウは何を言っているか分からないが言葉を並べ、全く遊馬を助ける気は無かった。

 

ちなみに……フォウ自身はこんな事を言っていた。

 

(遊馬、もういい加減に正直になった方が良いよ。お酒の力でマシュがあんなに大胆になってるんだからさ。夢と魅力が詰まっているマシュと武蔵の胸部にしっかり触れているんだから男としては喜ぶべきだと思うよ。いくら君が幼いからとはいえ、君も男だからそろそろ欲望のままに楽しんだらいいと思うよ。そしたらマシュは幸せになれるから僕的には万々歳だから頑張ってね)

 

小次郎はフォウを肩に乗せながら静かに遊馬達から距離を取っていた。

 

「すまない、マスターよ……今の武蔵を止められる気がしない……」

 

男絡みの女は強い事を特に知っている小次郎は下手に被害を受けない為に下がる事にした。

 

「悪りぃ大将……オレも無理だわ」

 

「申し訳ありません。私はただの物書きですのでお二人を止められません」

 

金時も紫式部も止められないと白旗を上げ、遊馬は絶望に追いやられた。

 

側から見れば羨ましい限りの光景だが、慣れてない遊馬は顔を真っ赤にしており、体が沸々と熱を帯びてこのままだとオーバーヒートしそうな勢いだった。

 

そんな時だった。

 

「ヒャッハー!新鮮な田舎者やぁー!」

 

「金子おいてけー!」

 

どこぞの世紀末の悪者達みたいな都の物盗り達が現れて遊馬達に襲いかかろうとする。

 

「置いていきません!遊馬君は私たちと行くのですから!」

 

「その邪魔をするなら……覚悟は出来ているよね?」

 

「遊馬君、障害を排除しますね!共同作業です!」

 

「お姉ちゃん達に任せてね、遊馬には指一本触れさせないから!」

 

マシュと武蔵はそれぞれ盾と刀を構えて戦闘態勢を取り、ギロリと京人を睨みつける。

 

「お、おう!頑張れ、かっとビングだぜ!」

 

「はい!マシュビングです!行きます!」

 

「ははは、良いね。私も何か考えようかな?さあ……一気に行くよ!」

 

マシュと武蔵は京人の撃退……もとい、殲滅を始めた。

 

もう二度と悪事が出来ないように、殺さない程度に痛手を与え、大きなトラウマを与えると言う……恐ろしい戦いだが。

 

「……酒に酔って支離滅裂という訳でもない、一見普通に見えるのが不思議だ……この酔い方には何か理由があるのか?」

 

アストラルは今のマシュと武蔵を見て酒気に何かあると睨む。

 

 

一方、カルデアではマシュと武蔵の酒気による暴走で……。

 

「許しませんわ、マシュさん!武蔵さん!二人だけで旦那様とあんな風にイチャイチャと!」

 

「おのれマシュと武蔵め!ならば妻である余が遊馬を奪い取ってやるぞ!」

 

「待っててください、遊馬君!もう一人のお姉ちゃんが行きますから!」

 

「遊馬は私が守るからあんたは下がってなさい、ショタコン聖女!」

 

「だから事ある毎に暴れるんじゃないわよ、この色恋ボケのダメサーヴァント達がぁあああああああああっ!!!」

 

遊馬の元へ行こうとする清姫、ネロ、ジャンヌ、レティシア達を止める為にブチ切れたオルガマリーはマスター代行として他のサーヴァント達の力を借りて全力でレイシフトを阻止していた。

 

ちなみに……小鳥とブーディカはと言うと……。

 

「ねえ、ブーディカさん。私達もあの同盟に参加するのはどうですか?」

 

「うん、良いね!マシュが一緒なら同盟もありかもね!」

 

マシュと武蔵の同盟に密かに参加しようと目論んでいた。

 

 

マシュと武蔵で襲ってきた京人を瞬殺し、二度と悪事を働かないと約束させて遊馬達は都の奥へと向かう。

 

「チ……匂うな。そりゃあ酒にも良い悪いがあるがよ……コイツはとびきり悪い酒だ。まっとうな人間に振る舞うもんじゃねえ」

 

「やはりこれは紫式部が見た鬼が放った酒だと断定しても良いな」

 

「はい。特に……この時代にいた鬼は酒とは深い因縁がありますから……」

 

紫式部はチラッと金時を見ながらそう言った。

 

奥に進むにつれて酒気が更に強くなり、周囲の空間が不気味な赤紫色に染まっていく。

 

そして、見事な巨大な門が見えてきた。

 

「あれは……羅生門?」

 

「羅生門?」

 

「平安京……都の一番南にあったとされる都城の正門だ。だが、次第に荒廃し、羅生門には死骸が捨てられていたと記される」

 

「ここに鬼が……っ!?みんな!」

 

遊馬は門にいる大きな気配に気づいてデュエルディスクを構えた。

 

マシュ達も構えて戦闘態勢を取ると、金時が誰よりも前に出て口を開く。

 

「まさかとは思っていたが、本当にテメェが来るとはな……」

 

そして、金時の言葉に反応するように羅生門にいた気配の元である人影が近づいてきた。

 

「く、は。くははは、くははははははははっ……!」

 

狂ったように笑い出して現れたのは着崩した黄色の着物を着た金髪の少女。

 

しかし、その額には鋭利な二本の角が生えていた。

 

それは……日本を代表する妖怪……鬼であった。

 

「おう、でやがったな茨木童子ッ……!」

 

「茨木童子だと!?」

 

「あの子供が!?」

 

茨木童子。

 

平安時代に京を荒らし回ったとされる伝説の鬼の一人である。

 

「誰かと思えば。おうおう、誰かと思えば。汝は坂田金時ではないか!久しいな!ああ久しいな!汝ひとりか?頼光は?綱はどうした?」

 

綱とは渡辺綱で金時と同じ頼光四天王の一人で茨木童子の腕を切った因縁の相手である。

 

「見ての通りだぜ。だがテメェは……一人じゃねぇようだな」

 

次の瞬間、ビキッと血管が浮き出すほどに金時は全身の力を入れていた。

 

金時は体を震わせながらまるで自分を押さえ込むように茨木童子に問うた。

 

「聞かせろ。ソリャ何だ。『テメェの背に浮かぶそいつは何だ』?」

 

金時のサングラスの奥にある瞳が見つめているもの……それは茨木童子の背後に浮かんでいる小さな影だった。

 

それは茨木童子と同じように紫色の着物を着崩し、腰に酒が入っていると思われる大きな瓢箪を携え、額に二本の角が生えている美しい少女……鬼だった。

 

「知れたこと!これなるは吾が主君にして吾が生贄!吾ら没落の鬼の王、酒呑、酒呑童子のこの様よ!」

 

酒呑童子。

 

平安時代、鬼を束ねた頭領にして玉藻の前と並ぶ日本三大妖怪の一角。

 

日本で一番有名な鬼といっても過言ではない伝説の鬼である。

 

その酒呑童子は眠らされているのか深い闇の霧を纏いながら宙に浮いており、その姿に金時は拳を握りしめて怒りに震えていた。

 

「ゴールデン……?」

 

その後ろ姿に遊馬は呆然としてしまった。

 

宿敵同士であるはずの金時と酒呑童子。

 

しかし、何故か遊馬の瞳には……金時が一番大切な人の尊厳を踏みにじられ、その事に怒りに震えているように見えてしまった。

 

 

 




現れましたよ、最強の鬼、酒呑童子&茨木童子。
茨木童子はめっちゃ強いですから一回では決着はつかないんですよねこれが。

次回は金時と酒呑童子の関係と、それに関する遊馬とアストラルの考えや未来への答えを書こうと思います。


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ナンバーズ107 平安の古き因縁、金時と酒呑

今回の話で種族って難しいなと少し思いました。
人と異形……中々難しいですよね。


平安時代の京都にて特異点の元凶と思われる存在……伝説の鬼、茨木童子が現れた。

 

しかし、何故か鬼の首領と呼ばれる酒呑童子が眠らされていた。

 

まるで茨木童子が酒呑童子から力を奪っているように見え、金時は全身から怒気が溢れてサングラス越しでも怒りを露わにしていた。

 

「おうおう、怒髪天を衝くというヤツか!その目隠しごしにも分かるぞ小僧。眼光爛々と光らせおって、よほど腹に据えかねたか?──ふん。だが不愉快千万は吾が上よ。貴様ごときが酒呑の身を何故案じるか。騙し討ちした貴様が今更?この、まさに吾に喰われようとする酒呑をなぜ気遣う?」

 

「バーカ、気遣ってねぇよ!テメェらが何をしようと知った事か!」

 

茨木童子は金時が酒呑童子を気遣うことに疑問に思うが、すぐに金時は否定した。

 

しかし、遊馬達は金時が酒呑童子に対して宿敵以上の何か特別な想いを持っていると感じた。

 

「仲間割れなら余所でやりやがれ!だいたいなぁ、テメェ──そのクソ女がどんだけヤバイ奴か、分かってんのか?テメェ程度じゃ喰った後に内側から喰い返されるぞ?」

 

「──フン。確かにな。以前の吾なら、酒呑を倒すことすらできなんだ。だがなあ?──走れや、叢源火!!」

 

次の瞬間、茨木童子の右手が燃え上がり、腕から切り離されると、巨大化して勢い良く放たれて金時を吹き飛ばした。

 

「金時!?何だよあれ……腕!?」

 

「茨木童子は渡辺綱に名刀『髭切り』によって腕を斬られた逸話がある……まさか、それが宝具となったのか!?」

 

「然り。然り然り然り!これこそが我が怪腕!名付け改め、『羅生門大怨起』よ!」

 

「ただのロケットパンチじゃねえか!?」

 

「まさか、生前使っていた道具や能力ではなく斬られた腕を宝具として使うとは……」

 

茨木童子の使う予想外の宝具をアストラルが的確な推理をする。

 

すると、茨木童子は金時以外に視線を向け、人間でもサーヴァントでもない存在……アストラルに目を付けた。

 

「……おい、そこにいる青白い亡霊よ!」

 

茨木童子はアストラルを指差して呼んだ。

 

「……私のことか?」

 

「そうだ!いや、亡霊とは違う……貴様は何だ!?何故人間の小僧といる!?」

 

アストラル……異形とも呼べる存在が遊馬の隣にいることに疑問と同時に怒りを出していた。

 

「私はアストラル世界の使者……精霊だ。そして、遊馬は私の大切な相棒だ。私は遊馬と共に戦うためにここにいる」

 

「相棒?共に戦う?ふざけるな!!人と異形が共に手を取り、戦うなど愚かな行為だ!!人は鬼よりも最低で卑怯な存在だ!信じてもすぐに裏切られるだけだ!!!」

 

茨木童子は遊馬とアストラル……人間と精霊……本来なら相容れぬ、種族の異なる者同士が一緒に戦う事に対して憤怒を露わにした。

 

特に茨木童子は金時達に酒を飲まされて討伐されたことから人への嫌悪感が特に強い。

 

「そうだな……人は欲望の強い存在だ。それは紛れも無い事実だ。だが、私は人の持つ光を信じている。それは、希望と言う名の光だ」

 

「希望だと?」

 

「私はその希望を信じている。そして……遊馬は私の希望の光だ!」

 

相変わらず遊馬への思いを恥ずかしがらずに堂々と言うアストラルに対し、遊馬は少し照れ臭そうにしながら感謝する。

 

「へへっ、サンキュー、アストラル。おい、茨木童子。言っておくが、俺とアストラルはただの相棒じゃねえぜ」

 

「何?」

 

「俺とアストラルは長くは一緒にいられなかったけど、大切な時間を過ごして来た。アストラルは俺にとって、親友で、家族で、ライバルで……色々な関係のある大切な存在なんだ!」

 

遊馬にとってアストラルは最早相棒という枠を超えた唯一無二の最高の存在である。

 

遊馬は微笑みながらアストラルに向けて右拳を向けると、アストラルは微笑んで左拳を作って軽くぶつけ合った。

 

「人だろうが精霊だろうが関係無い!そいつとの想いが、心が通じ合えば種族の壁なんて簡単に超えられるんだ!」

 

「その通りだ!人には些細なことから国、人種、宗教……様々な要因が壁を作り、争いを生む事になる。だが、私と遊馬は何度もぶつかり合いながらも絆を深めた。その絆が数多の奇跡を起こしてきた!」

 

「あんたが人々から恐れられてきたすげぇ鬼だろうが、関係ない!」

 

「その畏れに屈するほど、我々は弱くない!」

 

威風堂々……まさにその言葉が似合う遊馬とアストラルの姿に茨木童子は歯を噛み締めて苛立ちを見せる。

 

「……なればその身の内に刻むがよい。死出蟲喰らう腑の代わりに詰めるがよい。荒ぶること獣の如く、怖ろしきこと神の如く、浅ましきこと蟲の如く!人の弱さを知らず、武者の誇りも知らず。腐れの腕すら卑しく拾うて振り回す!それが鬼よ。在るだけで人の怖気を起こす、人喰いの天魔と知れ!!」

 

茨木童子はまず狙いを遊馬に定めて右手に火炎を纏わせる。

 

「手始めにその小僧から喰ろうてやる、羅生門大怨起!!!」

 

ロケットパンチの巨腕を繰り出して遊馬を捕らえようとするが、遊馬にはその身を守るために戦う最高のシールダーがいる。

 

「『仮装宝具 擬似展開/人理の礎』!!!」

 

マシュが遊馬の前に立ち、盾を地面に突き刺すと光の壁が形成され、巨大な城壁となって巨腕を弾き返した。

 

「馬鹿な!?」

 

「よっしゃあ!流石はマシュだ!」

 

「はい!私は遊馬君のシールダーです!この盾に誓って、必ず守ります!」

 

瞬時に盾の宝具を展開出来るまでに成長したマシュに遊馬は喜ぶと武蔵がポンと遊馬の頭に手を乗せて撫でる。

 

「よし、次は姉上に任せて!フェイトナンバーズ、やるよ!」

 

「やる気十分だな、姉上!」

 

「うん!頼むよ、遊馬!」

 

「ああ!行くぜ、姉上!」

 

遊馬は武蔵をフェイトナンバーズに入れ、デッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!よし!魔法カード『増援』!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える!『フォトン・スラッシャー』を手札に加え、特殊召喚!更に『レスキュー・ラビット』を通常召喚!レスキュー・ラビットの効果でこのカードを除外して、デッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚する!来い、『ちびノブ』達!」

 

一気にレベル4のモンスターが3体並び、遊馬は武蔵のフェイトナンバーズを掲げる。

 

「行くぜ、姉上!俺はレベル4のフォトン・スラッシャーと2体のちびノブでオーバーレイ!!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

フォトン・スラッシャーとちびノブ達が光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「二つの刀剣にて数多の未来より勝利を掴め!一刀繚乱!未来を斬り開き、空の境地へと進め!!」

 

光の爆発から二つの斬撃が天へと登り、天下無双の二刀流剣士の姿が現れる。

 

「現れよ!!『FNo.39 天元百花 宮本武蔵』!!!」

 

現れたのは蒼く光輝く着物の衣装に動きを阻害しない純白と金色の装甲を身につけ、両手には愛刀の二刀を構える武蔵だった。

 

しかし、その装甲は同じ『FNo.39』のアルトリアや沖田とは細部が異なっていた。

 

同じ希望皇ホープの力を宿しているが、武蔵のは明らかに別の希望皇ホープの力だった。

 

それは武蔵が目指している『空』の概念に対し、希望皇ホープが持つ複数の進化の中でも『原初の記憶』が共鳴してその力を貸しているのだ。

 

「更に魔法カード『オーバーレイ・リジェネレート』!このカードは自分のモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットとなる!」

 

武蔵のオーバーレイ・ユニットが4つとなり、ここで武蔵の効果を発動する。

 

「そして、姉上の効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、手札・デッキからモンスターを1枚墓地に送る!送ったモンスターの属性によって姉上は効果を発動する!」

 

武蔵はオーバーレイ・ユニットを二刀で斬り、遊馬はデッキからモンスターを1枚選んで墓地に送る。

 

「俺はデッキから光属性『虹クリボー』を墓地に送る!光属性を墓地に送った時、姉上の攻撃力は2倍となる!」

 

次の瞬間、武蔵の体から眩い光が解き放たれ、膨大な光の力の濁流が辺りを包み込む。

 

「これがフェイトナンバーズの力か……凄い、今なら何でもできる気がするよ。遊馬!」

 

「ああ!姉上で茨木童子に攻撃!この瞬間、姉上のもう一つの効果!姉上はオーバーレイ・ユニットの数×1回、相手に攻撃出来る!」

 

「今の私のオーバーレイ・ユニットは3つ……つまり、4回攻撃だよ!」

 

武蔵は二刀を鞘に納めて目を閉じる。

 

「南無、天満大自在天神」

 

すると、武蔵の背後に巨大な影が現れ……その姿に茨木童子は目を疑う。

 

「ば、馬鹿な……貴様、神を、仏を呼び出したのか!?」

 

それは憤怒の形相を浮かべ、四つの腕で宝剣を持つ仁王だった。

 

その仁王は本物ではなく、武蔵の剣圧によって見せた幻のようなものである。

 

しかし、その手に持つ宝剣は幻ではすまない。

 

「『仁王倶利伽羅仰天象』!」

 

仁王は茨木童子の間合いに立つと四つの宝剣で斬りかかる。

 

しかし、その四つの宝剣の攻撃はあくまで相手の気勢を削ぐための威圧。

 

真の一撃……それは武蔵が鞘から抜いた一刀を構え、全ての力を込める。

 

「行くぞ、剣轟抜刀!」

 

一刀に力が収束され、天を衝くような巨大な光の刃となる。

 

そして、武蔵の背後に一瞬だけ蒼く輝く希望皇ホープの姿が現れ、武蔵は渾身の一刀を振り下ろす。

 

「『伊舎那大天象』!!!」

 

振り下ろされた光の刃が茨木童子を呑み込み、膨大なダメージを与える。

 

「はぁあああああああああっ!!!」

 

武蔵は振り下ろした一刀を更に動かし、光の刃を連続で茨木童子に当てていく。

 

光属性を墓地に送り、攻撃力2倍になったが、そのデメリット効果としてダメージが半分となってしまう。

 

しかし、連続攻撃をする事でダメージを蓄積していき、最後の一撃で茨木童子をぶっ飛ばした。

 

茨木童子は羅生門に激突し、あれだけの攻撃を受ければタダでは済まない……そう思った矢先だった。

 

「くはは、くははは!滾る、滾るな!」

 

茨木童子は体と着物についた砂埃を払いながら何事も無かったかのように出てきた。

 

「う、嘘でしょ……私の剣が……」

 

「ふざけるなよ……武蔵姉上の攻撃が効いてないのか……!?」

 

「どういう事だ……!?」

 

武蔵と遊馬とアストラルは何故茨木童子にあまりダメージが与えられてないのか困惑していた。

 

「やるな、女剣士よ!汝の剣と仏の剣はなかなか効いたが、今の吾はそう簡単にはやられん!ひとまず仕切り直しといこうかッ!」

 

「逃すか阿呆!吹き飛べ、黄金──」

 

「くはな、急ぐな、こう急ぐな!吾らが酒宴はまだ続くぞ!くははははは!」

 

茨木童子は金時が黄金喰いを繰り出す前に一瞬で羅生門の奥へと走っていき、消えてしまった。

 

「ゴールデン、ここは一時撤退しよう。茨木童子のあの強さは尋常ではない。こちらも手を考えないといけない」

 

「ちっ……分かったぜ、アストラル」

 

「一度、京都から離れよう!あの桜の木の元でキャンプだ。かっとび遊馬号!!」

 

遊馬はかっとび遊馬号を呼び出し、みんなを連れて一気に京の都から離れて撤退した。

 

 

京の都を脱出した遊馬達は最初に出会った桜の木の下でキャンプをして対策を練ることにした。

 

金時の推測によると茨木童子は眠っている酒呑童子の力を得て生前以上の力を得てかなり強力な鬼となっているとのこと。

 

武蔵の渾身の一刀を受けても耐えられたのはその所為だった。

 

「くっ……全力で戦ったのに鬼を倒せないなんて、まだまだ私も修行不足だな……」

 

そして、武蔵は茨木童子を倒せなかったことに深く落ち込んでいた。

 

「それにしても……」

 

武蔵は目を閉じて茨木童子と酒呑童子の姿を思い浮かべた。

 

一般的な鬼のイメージとはかけ離れた鬼とは思えない美少女とも言えるその姿に武蔵はその思いを呟く。

 

「伝説の鬼達が──あんなに見目麗しいなんて……」

 

「姉上?」

 

「武蔵?」

 

武蔵はフッと笑みを浮かべてからその場に崩れ落ち、ガクッと項垂れて悔しそうに地を叩く。

 

「私は、生まれる時代を間違えた……」

 

「あ、姉上……?」

 

「こやつはこれほどまでに大馬鹿だったか……」

 

遊馬は唖然とし、小次郎は額に手を当てて大きなため息をつく。

 

武蔵は隠れた趣向として美少年好きで茨木童子と酒呑童子の鬼の美しさに平安時代に生まれたかったと落胆した。

 

落胆する武蔵は放っておくことにし、遊馬達はカルデアから送られてきた食材で料理をして夕食を取り、明日に備えて休むことにした。

 

そして……遊馬は当然寝ることになるのだが、酒気に酔っているマシュが宣言通りに添い寝をし、更には武蔵も参加して二人で遊馬を挟むように寝ることになった。

 

緊張したが流石に疲れたので遊馬もすぐに眠りについてしまった。

 

眠りについた遊馬は夢を見た……それは遠い古い時代の昔の記憶。

 

それは森の中にいる一組の男女……金時と酒呑童子だった。

 

二人は宿敵同士のはずだが、まるで互いを想っているように言葉を交わしており、そして……楽しそうに戦っていた。

 

そして、夢が終わると遊馬はパチッと目を覚まして起き上がった。

 

「今の夢……」

 

遊馬は両隣にいるマシュと武蔵を起こさないように立ち上がると、皇の鍵で休んでいたアストラルが現れた。

 

二人は桜の木に寄りかかって京の都の方角を見つめている金時の元へ向かった。

 

「──チ。起こしちまったか。すまねえな」

 

「ゴールデン、さっき夢で……」

 

「オレも気が抜けちまってた。うたた寝で昔話とか、いい笑い話だっつーの」

 

「やはりあれは君の生前の記憶……」

 

マスターは睡眠時に契約しているサーヴァントの記憶を夢のような形で見る事がある。

 

マスターである遊馬と、遊馬と魂で結ばれているアストラルは金時の生前の記憶の一部を夢で見た。

 

「ま、ようはアレだ。酒呑のヤロウとは何度も因縁があってな。本気で打ち合っても勝負はつかねえ、遊びで賭け事をしても勝負はつかねえ。お互い、こりゃあ引き分けしかない相手に出会っちまったなあ、と観念したもんだが……頼光の大将が出張ってきてな。鬼を相手に何をしている、ってよ」

 

金時と酒呑童子は不思議な関係だった。

 

化け物を討つ頼光四天王の一人でありながら酒呑童子を憎く思っておらず、そんな酒呑童子も金時を気に入っていた。

 

しかし、頼光はそれを認めるわけにはいかなかった。

 

鬼は人に仇なす存在……退治しなければならない。

 

「大将は酒呑に毒の酒を飲ませて、鬼たちをまるごと眠らせた。後は分かるだろ。オレは眠った酒呑の首を、後ろから断ち切ったんだよ。なのに、あのヤロウ……死ぬ時まで、うっすら笑いやがった。“お先にな?”なんて呟きやがって。最期までテメェの人生ってヤツを愉しみやがった」

 

「……凄い奴だったんだな、酒呑童子って」

 

「ああ。ホント、すげえ女だぜ、実際。オレゃあ、いまだに勝てる気がしねえ」

 

金時は酒呑童子の事を思い出し、小さく笑みを浮かべた。

 

酒呑童子の事を語る金時の姿を見てアストラルはある考えに行き着き、静かに尋ねた。

 

「……ゴールデン、君は酒呑童子に好意を寄せていたのか?」

 

「──バッ!?バカなことを言ってんじゃねえ!!どうしてオレがあんな鬼娘を!?」

 

「……顔が赤くなっているぞ?」

 

誰が見ても明らかなぐらいに金時の顔が真っ赤に染まっており、遊馬もあっさり信じて頷いた。

 

「そうか……ゴールデン、酒呑童子が好きだったのか」

 

「ダァーッ!?そんなストレートに言うんじゃねえ!第一、オレは人であいつは鬼だから……」

 

「我々にそんな言い訳は意味無いが?」

 

「だよなー」

 

「ウグッ!?」

 

遊馬とアストラルの種族を超えた強い絆の前では、種族の壁の言い訳は皆無に等しい。

 

金時は大きなため息を吐き、自分の正直な気持ちを話す。

 

「……あいつはオレの初恋で、幼馴染で、ライバルなんだよ……だけど、オレは騙し討ちをしてこの手であいつの首を断ち切ったんだよ」

 

金時は自分の両手を見つめ、その時のことを思い出すと若干手が震えてしまう。

 

鬼とはいえ、一番大切な人を手にかけた……その事が金時に大きなトラウマを与えているのだ。

 

そんな金時に対し、遊馬は上着のポケットからD・パッドを取り出した。

 

「ゴールデン、俺さ……お前のその気持ち、すげぇ分かるぜ」

 

「んだと?」

 

遊馬はD・パッドを起動して写真閲覧モードにし、ある人物を写した写真を見せる。

 

遊馬が隣にいる少年と肩を組んでおり、少年は少し嫌な顔をしながら一緒に写真を撮っていた。

 

「こいつは?」

 

「俺のライバル、シャークだ」

 

「神代凌牙。遊馬のライバルで我々の仲間だ」

 

「それで、こいつがどうしたんだよ」

 

「俺さ、シャークとは本当に色々あって、仲間としてライバルとして一緒に戦ったり、時にはぶつかり合ったんだけど……実はシャークは俺とアストラルが戦わなければならない最大の敵だったんだ」

 

「最大の敵?」

 

「詳細は省くが、シャークの前世はバリアン世界と呼ばれる世界を守る七人の皇のリーダーで、我々と世界の命運を賭ける戦いをする事になった」

 

「マジかよ……」

 

金時は思わず絶句してしまった。

 

まさか遊馬が自分と似た境遇で大切な友と戦うことになるとは思いもよらなかった。

 

「俺はアストラルもみんなも、世界を守りたい。守る為にはシャークを倒すしかない。でも俺はシャークも守りたかった。どっちが犠牲になる未来なんて俺は嫌だったんだ」

 

「大将……だけど、それは……」

 

「分かってる。そんなことは甘い考え、ガキのワガママだって。だから俺は最後まで諦めずに探し続ける答えを出したんだ。だけど……」

 

遊馬は暗い表情を浮かべ、皇の鍵をギュッと練りしめた。

 

「大将?」

 

言い出せない遊馬の代わりにアストラルが説明した。

 

「シャークは……遊馬の事を知り尽くしているからこそ最後の攻撃を防ぐ為の罠を張ったが、遊馬の誰かを犠牲にしたくないその想いに自滅してしまったんだ……」

 

「そうだったのか……」

 

「直接手をかけていなくても、間接的に我々がシャークを倒してしまった事には変わりない。遊馬はその事を悔やんでいるんだ」

 

遊馬も凌牙を倒してしまった事が今でもトラウマになっている。

 

大切な人を手にかけた苦しみ……遊馬と金時は同じ苦しみを背負っていたのだ。

 

「あっ、だけど心配しなくてもいいぜ。最後はシャークやみんなはちゃんと復活したからさ!」

 

「ふ、復活……?俄かに信じられないが、何か裏がありそうだな。そこんところは後で教えてくれよ」

 

「ああ。あ、えっと……うまくは言えないけど、俺は思うんだ。ゴールデンと酒呑童子は少なくとも、敵同士でも心は通じ合ってはいたんだろ?でも、色んなことが重なって結局は退治しなくちゃならなくなった。ゴールデンは人々を守る為に酒呑童子を斬った……」

 

遊馬はこれから何を伝えたいのかしっかり聞く為にゴールデンは正面から堂々と耳を傾けた。

 

「……そうだ」

 

「でも、それはもうこの世界にとっては過去の出来事で、過去を変えることはできない。だけど……これからの未来はまだ決まっていない!」

 

「未来……だと?」

 

「酒呑童子は少なくとも、サーヴァントとして召喚されているんだろ?」

 

酒呑童子は茨木童子と同様に英霊となっており、サーヴァントとして召喚されている。

 

「だから、茨木童子から助け出した後に俺と契約するよう頼むんだ。そしたら、ゴールデンと酒呑童子を必ずカルデアに召喚してやる!」

 

遊馬の考えに金時はハッと気づいて目を大きく見開いた。

 

「オレと……オレと酒呑を、大将たちの拠点……カルデアに……?」

 

「そしたら、二人は俺のサーヴァントだから争う必要は無いし、一緒に過ごせるだろ?」

 

遊馬は満面の笑みを浮かべて提案した。

 

過去の出来事は変えられないが、遊馬がカルデアに二人を召喚して新しい日々を与える。

 

それが、遊馬が考えた二人の未来だった。

 

「一緒に飯を食ったり、酒を飲んだり、遊んだり、話をしたり……前に出来なかった事は何でも出来るぜ!」

 

「……い、良いのかよ。酒呑は鬼だぜ?大将、喰われちまうぞ?」

 

「心配するなって。俺にはアストラルやマシュ、みんながいるから。もしもの時は守ってくれる。それに、何だかんだで俺はモンスター達を使役しているようなもんだから、何とかなるって!」

 

「大将……」

 

「それに、君の養い親で上司の源頼光はいない。誰も君たちの関係を咎めるものはいないだろう」

 

寧ろ人と鬼の種族を超えた二人の仲を応援しようとするサーヴァント達がいるかもしれない。

 

「だからさ、必ず取り戻そうぜ。茨木童子からゴールデンの大切な人……酒呑童子をさ!」

 

立ち上がって金時に手を差し伸べる遊馬。

 

その姿に金時は金色に煌めく、希望の光が輝いているように見えた。

 

金時は笑みを浮かべて遊馬の手を取り立ち上がった。

 

「サンキュー、大将。お陰で色々振り切れたぜ!茨木の奴にきつい灸を据えて、必ず酒呑を取り戻す!!」

 

「その調子だぜ、かっとビングだ!ゴールデン!!」

 

「おうよ!かっとビング……いや、『ゴールドビング』だ!!」

 

金時はかっとビングを改良し、『ゴールドビング』と命名して気合いを入れた。

 

思いを新たに遊馬達は茨木童子を倒す為、そして……金時は酒呑童子を取り戻す為の戦いへ向かう。

 

 

 

 




茨木童子は何回も戦うので大変ですが、ここでは省略することにします。

ゴールデンと酒呑童子のカップリングが好きなので少し強調しました。
まあ遊馬とアストラルという人と精霊の種族を超えたカップリングがありますので(笑)

今回のフェイトナンバーズはこちらです。

『FNo.39 天元百花 宮本武蔵』
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000
レベル4モンスター×3体以上
このカードの属性は「地」「水」「炎」「風」としても扱う。
このモンスターはエクシーズ素材の数+1回、相手モンスターに攻撃出来る。
1ターンに1度、エクシーズ素材を取り除き、デッキ・手札からモンスターを墓地に送る。墓地に送ったモンスターの属性によって以下の効果を発動する。この効果は相手ターンでも使用することが出来る。
・『地』このカードを守備表示に変更し、ターン終了時まで戦闘で破壊されなくなる。
・『水』自分の墓地の魔法カードを1枚選択し、手札に加える。
・『炎』このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
・『風』フィールド上の魔法・罠カードを1枚選択し、手札に戻す。
・『光』ターン終了時までこのカードの攻撃力は元々の2倍となる。この効果を使用したターン、相手の全てのダメージは半分となる。

毎ターンおろ埋出来て更に追加効果を持つかなり強い子になっちゃいました笑
闇属性はルールで出来ませんが。

次回で羅生門編を最終回にします。
色々派手に戦おうと思います。


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ナンバーズ108 種族を超えた絆

これで羅生門編は終了です。
遅れて申し訳ありません、ラストの話なので少し長くなりました。
さて今回は茨木ちゃんは速攻片付けます。

新しく情報が出たナンバーズ、『No.97 龍影神ドラッグラビオン』
やべぇ、うちのドラゴン大好きレティシアちゃんが喜びそうなナンバーズですね。
ドラゴン族ナンバーズを何でも出せるって良いですね。
もしかして、これが原因でダークマターが犠牲に……?


茨木童子を止めるため、そして……金時が酒呑童子を取り戻すために遊馬達は再び羅生門へ向かう。

 

羅生門に到着すると待ち構えたかのように茨木童子が姿を現した。

 

「来たか、人間共よ。しかし、何度来ても無意味だぞ?」

 

「悪いがここで決着をつけさせてもらうぜ、茨木童子!」

 

「我々の全力を見せてやろう!」

 

遊馬とアストラルの決意が込められた瞳で茨木童子を見つめると、金時が静かに前に出る。

 

「悪ぃ、みんな。少し耳を塞いでくれ」

 

黄金喰いを担いでる金時に遊馬達は言う通りに自分の耳を両手で塞いだ。

 

すると、金時は大きく息を吸い込み、腹に力を込めて口を開いた。

 

「酒呑ぇん!!!」

 

「な、何だ!?」

 

突然の金時の大声に茨木童子は目をパチクリさせた。

 

「てめぇ、そんなところで何のんびりと眠ってやがるんだ!!それでもてめぇは鬼の首領か!?オレが認めたライバルかよ、おいっ!!いい加減目を覚ましやがれ、この馬鹿野郎が!!!」

 

金時は眠らされている酒呑童子に向かって言葉を送り続けた。

 

すると、僅かだが眠っている酒呑童子の体がピクッと動き、小さく口を開いた。

 

「小僧……」

 

それは酒呑童子が生前から金時のことをそう呼んでおり、久しぶりにその声を聞いて金時は小さく笑みを浮かべた。

 

「ケッ……やっぱり動けねぇか。それなら仕方ねえ、てめぇはそこで待ってろ!!とっとと茨木をぶっ飛ばして、てめぇを起こしてやるよ!!」

 

まるで囚われの眠り姫を起こすような光景に茨木童子は声を荒げた。

 

「小僧!何故酒呑を取り戻そうとする!貴様らが、あの時騙し討ちをして貴様自身の手で酒呑の首を切ったことを忘れたのか!?」

 

「忘れてねえよ。いや、忘れることなんて出来るはずがねえ。だけどな、ここにいる大将のお陰でちったぁ吹っ切れた。てめぇをぶっ飛ばしてに酒呑を取り戻す。恨み言なら幾らでも聞いてやる、オレの血や肉が欲しいならくれてやる、一緒に酒が飲みてぇなら付きやってやる……大将が導いてくれた未来、そいつに賭けてみたいんだよ!!」

 

金時の酒呑童子と共に歩む未来への決意に遊馬とアストラルが隣に立つ。

 

「ゴールデンは過去と向き合って、未来を向いてここにいるんだ!」

 

「都を救う、そして酒呑童子を助ける……その想いがゴールデンの魂を奮い立たせている!」

 

「俺は……ゴールデンのマスターとしてその想いに応える!行くぜ、アストラル!」

 

「茨木童子よ、見るがいい!これが私と遊馬の……精霊と人間の種族を超えた絆が合わさった無限の力だ!!」

 

遊馬とアストラルは拳を重ねて上に掲げる。

 

「俺自身と!」

 

「私自身で!」

 

「「オーバーレイ!!」

 

二人の姿がそれぞれ赤と青の光に包まれて天に昇る。

 

「な、何だ!?何が起きている!?」

 

茨木童子は遊馬とアストラルの予想外すぎる行動に固まってしまい、動けなくなった。

 

「「俺/私達二人でオーバーレイ・ネットワークを再構築!」」

 

赤と青の光に包まれた遊馬とアストラルが二重螺旋のように絡み合い、一つに重なると同時に金色の光を放ちながら落下し、人と精霊の種族の壁を超えた最強の戦士が誕生する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II!」」

 

人と精霊が合体し、新たな姿へと進化したことにより茨木童子はこれまでにないほど驚愕した。

 

「ば、馬鹿な!?貴様、何だその姿は!?人と精霊が合体……あり得ぬ!!人如きが神の領域に踏み込んだと言うのか!??」

 

ZEXAL IIから感じられる神に等しいその力に茨木童子は畏怖の念を抱いた。

 

一方、味方側で初めて遊馬とアストラルの合体を見る紫式部は口元を押さえて驚いていた。

 

「遊馬様、アストラル様……あなた方は一体……」

 

二人が強い絆で結ばれた相棒だとは知っていたが、まさか文字通りに合体するほどのものだとは思わなかった。

 

すると、ZEXAL IIの力に察知したのか、その力を喰らおうと都中の妖怪達が集まってきた。

 

「遊馬君とアストラルさんの邪魔はさせません!」

 

「大将!雑魚は任せな!!」

 

「ああ!ゴールデン、耳は澄ませておけ」

 

「タイミングは我々が見極める」

 

「おう!そっちは任せたぜ!!」

 

マシュはZEXAL IIの守りに徹し、金時を筆頭に集まってきた妖怪を退治していく。

 

「「行くぞ、茨木童子!!」」

 

ZEXAL IIは右手を輝かせてデッキトップを金色に染める。

 

「「俺/私のターン!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!魔法カード『おろかな埋葬』!デッキからモンスターを墓地に送る!デッキから『ガガガマジシャン』を墓地に送る!『ガガガシスター』を召喚!デッキからガガガと名のついた魔法・罠を手札に加える!『ガガガリベンジ』を加え、発動!墓地からガガガマジシャンを特殊召喚し、このカードを装備する!」」

 

ガガガシスターとガガガマジシャンが瞬時に立ち並び、これで大半のナンバーズを呼び出せるが、ZEXAL IIは更にここから一手間を加えて出しにくい部類のナンバーズを呼び出す。

 

「「ガガガマジシャンの効果でレベルを8から3にする!ガガガシスターの効果、ガガガシスターとガガガマジシャンとレベルを合計する!これでガガガマジシャンとガガガシスターのレベルは5!そして、フィールドにガガガモンスターがいる時、手札から『ガガガキッド』を特殊召喚!ガガガキッドの効果、ガガガモンスターと同じレベルとなる!これでレベル5のモンスターが3体!!」」

 

レベル5のガガガモンスターが3体揃い、ナンバーズの中でも特殊な力を持つモンスターを呼び出す。

 

「「レベル5のガガガマジシャン、ガガガシスター、ガガガキッドでオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」」

 

『『『ガガガッ!!』』』

 

ガガガモンスター達が光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「「超然なる神の鎧を纏いし悪魔よ、世界を震撼させよ!」」

 

爆発の中から竜巻が吹き荒れ、まるで巨大な城のような形をした物体が現れる。

 

「「現れよ!『No.53 偽骸神(ぎがいしん)Heart-eartH(ハート・アース)』!」」

 

それは神の骸を肉体にした悪夢の巨人。

 

その中央には心臓部である球体があり、僅かに心臓のような鼓動を響かせていた。

 

「「ガガガリベンジの効果!エクシーズ素材となって墓地に送られた時、自分フィールドのモンスターエクシーズの攻撃力は300ポイントアップする!」」

 

ガガガリベンジの効果でHeart-eartHの攻撃力は上昇したが……。

 

「くははははっ!何じゃその奇怪な物の怪は?まるで力のない見掛け倒しではないか!」

 

Heart-eartHの元々の攻撃力は僅か100。

 

ガガガリベンジの効果で強化されても400にしかならない。

 

見た目に反して攻撃力があまりにも低いことに茨木童子は油断して大笑いをし、右腕を構える。

 

「すぐに壊してやろう……羅生門大怨起!」

 

羅生門大怨起で破壊してその力を奪う。

 

その考えで攻撃をしたが……それはあまりにも浅はかな考えだった。

 

「「Heart-eartHの効果!1ターンに1度、このカードが攻撃対象に選択された時、Heart-eartHの攻撃力はエンドフェイズ時までその攻撃モンスターの元々の攻撃力分アップする!迎え討て、フェイク・バーン!!」」

 

Heart-eartHの目が怪しく輝くと中央の炎に包まれた球体が燃え上がり、羅生門大怨起を弾き飛ばす。

 

「にゃんとォ!?ぬぉおおおっ!?」

 

弾き返された羅生門大怨起に茨木童子は驚愕しながらスレスレで回避し、右腕を自分の体に戻すがその直後にHeart-eartHの球体から放たれた光線を受けて吹き飛ばされる。

 

「くっ……油断した。まさかこれほどの力を秘めているとは……だが、吾は大江山の鬼の首魁……この程度で敗れる訳にはいかん!」

 

茨木童子は鬼の骨を地獄の業火よりも強い炎で数百年鍛えられた大業物……無銘の骨刀を構えてその身に炎を纏う。

 

「羅生門大怨起を弾き返したのは見事。だが、その物の怪の力の源、見破ったぞ!」

 

「「何?」」

 

茨木童子は不敵の笑みを浮かべた瞬間、目にも留まらぬ速さでHeart-eartHの間合いに入ると骨刀を振るい、Heart-eartHの周囲を纏うように飛ぶオーバーレイ・ユニットを切り裂いた。

 

「っ!?オーバーレイ・ユニットが!?」

 

「モンスターエクシーズの力の源、オーバーレイ・ユニットを直接狙ってきたか!」

 

モンスターエクシーズの効果を発揮するための力の源、オーバーレイ・ユニット……それを直接狙って破壊してきたのは初めてだったのでZEXAL IIは驚きを隠せなかった。

 

一瞬で3つのオーバーレイ・ユニットを切り裂いて破壊した茨木童子は勝利を確信して右腕をHeart-eartHの球体に向けた。

 

「これで終わりだ!走れ、叢原火!!」

 

近距離で羅生門大怨起を放ち、巨大化した手でHeart-eartHの球体を掴む。

 

Heart-eartHには破壊される代わりにオーバーレイ・ネットワークを取り除く破壊耐性効果があるが、怨念の鬼火である叢原火により球体が燃やされながら握り締められる。

 

Heart-eartHの心臓部でもある球体は破壊され、ZEXAL IIの前に無残な骸の残骸が転げ落ちる。

 

「さあ、次は貴様らだ……金時を殺す前にその魂ごと喰い殺してやろう!」

 

鬼としての凶悪な笑みを浮かべてZEXAL IIを恐れさせようとしたが……。

 

「「……それはどうかな?」」

 

ZEXAL IIは一切動じずに不敵な笑みを浮かべた。

 

「何!?」

 

破壊されたHeart-eartHの残骸が光を帯びて宙に浮き、収束されて一つの大きな光の塊となる。

 

ZEXAL IIはエクストラデッキから光り輝く新たなカードを掲げ、Heart-eartHの最後の効果を発動する。

 

「「Heart-eartHの最後の効果!オーバーレイ・ユニットの無いこのカードが効果によって破壊された時、墓地のこのカードをエクシーズ素材として、エクストラデッキからこのモンスターをエクシーズ召喚扱いで特殊召喚出来る!!」」

 

Heart-eartHの上に光り輝くカードを重ねると、残骸が天に昇って光の爆発を起こす。

 

「「偽りの骸を捨て、神の龍となりて降臨せよ!!」」

 

光の中から細長い巨大な影が出てきてZEXAL IIの前に降り立つ。

 

「「現れよ!『No.92 偽骸神龍(ぎがいしんりゅう)Heart-eartH Dragon(ハート・アース・ドラゴン)』!」」

 

現れたのは巨城の悪魔から全てを滅ぼす神の龍へと転生した最凶のナンバーズ。

 

「ばばば、馬鹿な!?りゅ、龍だと!?き、貴様ら、龍を使役しているのか!??」

 

鬼でも恐れをなす神の如き力を持つ龍をも使役するZEXAL IIに流石の茨木童子も恐れが出てき始めた。

 

「魔法カード『強欲で貪欲な壺』!デッキトップからカードを10枚除外し、デッキから2枚ドローする!ダブル・シャイニング・ドロー!!」

 

新たにドローした2枚のカードを見てZEXAL IIは小さく笑みを浮かべ、すぐにフィールドにセットした。

 

「「カードを2枚伏せる……ゴールデン!!」」

 

「おっしゃあ!行くぜ!!」

 

ZEXAL IIの呼び声にゴールデンは瞬時に反応して走り出す。

 

「金時さん!」

 

「サンキュー、嬢ちゃん!!」

 

マシュは金時に向けて盾を斜めに構えると、金時は軽くジャンプして盾の上に乗る。

 

そして、マシュは全身の力を振り絞って盾を上へ振るい、それと同時に金時は盾を足場にして高くジャンプした。

 

金時の狙い……それは眠っている酒呑童子を奪う事だった。

 

「まさか!?そうはさせるか!!」

 

茨木童子は金時の狙いに気付いて右腕を構えるが、その瞬間にZEXAL IIがセットした罠が発動する。

 

「「罠カード『立ちはだかる強敵』!!相手の攻撃宣言時、自分フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する、Heart-eartH Dragonを選択!相手は選択したモンスターしか攻撃対象に出来ず、全ての表側攻撃表示モンスターで選択したモンスターを攻撃しなければならない!!」」

 

金時に向けた右腕が無理矢理Heart-eartH Dragonに向けられてしまった。

 

「ぬおっ!?こ、小僧に攻撃が出来ない……!?」

 

茨木童子自身がどうする事も出来ず、今が最大のチャンスだった。

 

「「行け、ゴールデン!!」」

 

「おうっ!黄金衝撃!!」

 

金時は黄金喰いを発動してカートリッジを消費して雷撃で周囲の闇を吹き飛ばす。

 

そして……金時は宙に浮いている酒呑童子を無理矢理抱き寄せる。

 

金時は片腕で酒呑童子を抱き抱えながら地面に降り、ZEXAL IIの元へすぐに戻る。

 

「酒呑!酒呑!おい、お前!目を覚ましやがれ!!」

 

金時が必死に酒呑童子の名前を呼ぶと、ゆっくり目を開けた。

 

「なんや、夢を見ているようやわ……うち、小僧に抱きかかえられてるわ……」

 

「……意識だけは戻ったようだな」

 

「何があったか分からんけど……今の小僧、良い顔してるわ。ありがとうな……」

 

「……おう」

 

酒呑童子は出来るだけ笑顔を見せ、力を振り絞って金時の顔に手を添えて頬を撫でた。

 

酒呑童子を奪われ、その悔しさから茨木童子は歯が砕けそうになるまで強く噛み締めた。

 

「おのれ……よくも酒呑を……!」

 

「「茨木童子、バトル続行だ!Heart-eartH Dragonは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは相手が受ける!」」

 

「くっ、やはりそやつも前のと似た力を持っていたか!それなら!」

 

茨木童子はダメージを受けるなら最小限が良いと判断し、骨刀で軽く斬るだけにした。

 

Heart-eartH Dragonの元々の攻撃力はゼロなのでその判断は正しく、茨木童子も多少の切り傷がついた程度で終わった。

 

しかし、ZEXAL IIの目的は茨木童子の攻撃を引きつけるだけでなく、もう一つの目的があった。

 

「「バトル終了と同時に更に罠カードオープン!『デストラクト・ポーション』!自分フィールド上に存在するモンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する!Heart-eartH Dragonを破壊!!」

 

Heart-eartH Dragonが爆発を起こして破壊される。

 

「自ら龍を殺した!?」

 

元々の攻撃力がゼロなのでZEXAL IIのライフを回復することは出来ない。

 

しかし、ZEXAL IIはHeart-eartH Dragonを破壊する事が狙いだったのだ。

 

「「この瞬間、Heart-eartH Dragonの効果!オーバーレイ・ユニットを持ったHeart-eartH Dragonが破壊された場合、このカードを墓地から特殊召喚する事が出来る!蘇れ、Heart-eartH Dragon!!」」

 

『グォアアアアアアアッ!!!』

 

ZEXAL IIの前に巨大な魔法陣が現れ、中からHeart-eartH Dragonが咆哮を轟かせながら現れた。

 

「「そして、この効果で特殊召喚した時、Heart-eartH Dragonの攻撃力はゲームから除外されているカードの数×1000ポイントアップする!」」

 

「除外……?ハッ!?まさか、さっきのあれは……!??」

 

「「そう、強欲で貪欲な壺はデッキトップからカードを10枚を除外している。つまり、Heart-eartH Dragonの攻撃力は10×1000で10000となる!!」」

 

Heart-eartH Dragonの攻撃力が0から一気に10000へと急上昇し、その身から溢れる力の気に集まってきた妖怪達も恐れをなして一気に逃げ出した。

 

「大将!このまま一気に決めちまえ!」

 

「ああ!アストラル!このターンで決めるぞ!」

 

「当然だ!勝利の方程式は全て揃った!」

 

ZEXAL IIは再び右手を金色に輝かせる。

 

このターンで茨木童子を必ず倒す……その思いを込めてデッキトップに指を添える。

 

「「俺/私のターン!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!魔法カード『ガガガドロー』!墓地のガガガモンスター3枚を除外して2枚ドローする!墓地のガガガマジシャンとガガガシスターとガガガキッドを除外して、2枚ドロー!セカンド・ダブル・シャイニング・ドロー!」」

 

Heart-eartHを召喚するために呼び出したガガガモンスター達の魂がデッキに宿り、2回目のダブル・シャイニング・ドローを決め、ZEXAL IIは勝利の方程式を解く最後のカードを手にした。

 

「「ゴブリンドバーグ』を召喚!その効果で手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する事が出来る!来い、『ゴゴゴゴーレム』!レベル4のゴブリンドバーグとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!』

 

希望皇ホープが降り立ち、ここにナンバーズ最強の戦士と最凶の神龍が並び立つ。

 

そして、希望皇ホープを最強の雷神へと進化させる。

 

「「そして、希望皇ホープをエクシーズ素材とし、このモンスターをエクストラデッキから特殊召喚!希望皇ホープ、ランクアップ・シャイニング・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

希望皇ホープは金色の光となって天に昇り、光の爆発を起こして遊馬とアストラルの前に降臨する。

 

「「一粒の希望よ!今、電光石火の雷となって闇から飛び立て!現れろ!『SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング』!!」」

 

それは金時の電撃で覚醒した雷神の力を秘めた攻めに特化した希望皇ホープ・ザ・ライトニング。

 

「龍の次は雷神だと……!?何なんだ……!?貴様らは、一体何なんだ!??」

 

Heart-eartH Dragonに希望皇ホープ・ザ・ライトニング……妖怪でもここまでの力を秘めている存在はそうはいない。

 

それらを使役するZEXAL IIに茨木童子は恐怖で顔が崩れていく。

 

「「俺/私達は決闘者で、世界の未来を救う最後の希望の光だ!!まずはHeart-eartH Dragonで攻撃!ハートブレイク・キャノン!!!」」

 

『グァアアアアアアアッ!!!』

 

攻撃力が10000にまでに上昇したHeart-eartH Dragonの竜の咆哮が轟き、口から禍々しい赤黒い光線を放ち、茨木童子を吹き飛ばして大ダメージを与える。

 

「ガハッ!?」

 

茨木童子はすぐに撤退しようとしたが、雷神と化した希望皇ホープ・ザ・ライトニングの前には無力となる。

 

「「これで決める!希望皇ホープ・ザ・ライトニングで攻撃!この瞬間、希望皇ホープ・ザ・ライトニングの効果!戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない!!」」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングから雷撃が放たれ、それを受けた茨木童子の体が動かなくなっていく。

 

「吾の、酒呑の、鬼の力が……!?」

 

鬼の力を封じられ、茨木童子は完全に逃げられなくなってしまう。

 

「「更に!希望皇ホープモンスターがオーバーレイ・ユニットとなっている場合、バトル時にオーバーレイ・ユニットを2つ使い、攻撃力を5000にする!!ライトニング・オーバー・チャージ!!」」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニングは両肩の大剣を引き抜いて構え、2つのオーバーレイ・ユニットを刃で斬って取り込ませ、その攻撃力を5000にまで上昇させる。

 

「「ホープ剣・ライトニング・スラッシュ!!!」」

 

雷神の一撃で茨木童子は吹き飛ばされ、地面に転がり落ちる。

 

怒濤の連続攻撃により流石の茨木童子も起き上がる事は出来なかった。

 

戦いが終わったと確信し、ZEXAL IIは合体を解除し、遊馬とアストラルに戻った。

 

「やっ……やりました!無限かと思えるほどの体力でしたが……ついに!あれは致命傷です!」

 

マシュはZEXAL IIが……遊馬とアストラルが茨木童子を追い詰めて喜びの声を上げた。

 

「何故だ……今の吾は鬼の王、英霊とはいえ、人如きに敗れる筈が……!」

 

酒呑童子の力を得た茨木童子は確かに強力となったが、それでも敗れてしまったことに信じられなかった。

 

「バカ言ってんな茨木。テメェは鬼の王なんかじゃねえ。王になり損ねた、ただの童だ。最後まで根性が足りなかった、な」

 

茨木童子の性格を知っている金時は勝てなかった理由の一つを教える。

 

「何だと!?吾の何処が根性無しだと!?」

 

「言われなきゃ分かんねえのか?仕方ねえ、おう大将、いっちょ言ってやんな」

 

金時に言われ、遊馬とアストラルはビシッと茨木童子を指差しながら答えた。

 

「「茨木童子、お前/君は酒呑童子を食べてない」」

 

そう……茨木童子は酒呑童子を食べていない。

 

他人から力を得る方法は様々あるが、手っ取り早く確実なのは対象の存在を取り込んで肉体と魂を己の力にすることだ。

 

「ガ──!?き、きさま、人間……精霊……ッ!怖ろしいまでに残酷なことを口に……!」

 

二人に指摘された事実に茨木童子は雷を受けたような衝撃を受けて体が固まった。

 

「酒呑を食べる、とはあくまで例え話に過ぎぬ!それを、事も容易げに……吾が、酒呑を食べられるものか──!尊敬する酒呑には傷一つ付いておらぬわ、たわけ!そもそも後が怖い!殺されるに決まっておる!」

 

「茨木はこういうヤツなんだよ」

 

先ほどまで凶悪な鬼として頑張っていたが、敗北した途端に、本来の性格が浮き出てしまった。

 

「うん、なんて言うか……小ちゃいって言うか……」

 

「チキンとも言えるな……」

 

「ち、小ちゃいだと!?それに精霊の方はよく分からぬが酷い屈辱を受けているのだけは感じ取れるぞ!!」

 

「だってさ、普通力を取り込むなら魂と肉体ごと全部だよな?ベクターとかはそうしてたし……」

 

「つまりそうしなかったと言うことは、君にそれほどの覚悟はなかったと言う訳だな……」

 

「誰の話をしておる!?それに吾の何処が軟弱だと言うのだ!貴様ら、名を名乗れ!」

 

「俺?九十九遊馬」

 

「私はアストラルだ」

 

「ようし、覚えた。覚えたぞ人間と精霊!末代まで祟ってやるわ!存分に怖がるがいい!」

 

「──ほう?私はともかく遊馬を祟るとは許せないな」

 

アストラルが目を細めて静かな怒りの炎を灯すと、茨木童子の背後に剣を構えた希望皇ホープ・ザ・ライトニングと口を開いたHeart-eartH Dragonが忍び寄る。

 

「──遊馬君に指一本でも危害を加えたら許しません」

 

「──私は一方的な虐殺は嫌いだけど、大切な弟の命がかかっているなら許せないね」

 

そして、酒気で遊馬への思いが爆発しているマシュと武蔵も修羅の如き怒りを見せて茨木童子に盾と刀を向ける。

 

前門のマシュと武蔵、後門の希望皇ホープ・ザ・ライトニングとHeart-eartH Dragonに睨まれ、茨木童子は鬼らしからぬ涙目を浮かべて震えます。

 

「ヒイッ!?何故!何故、吾が怖れるのだ!?吾はこの日本の伝説の鬼だぞ!?数多の鬼を束ねる鬼の大将だぞ!?それが何故こんな風に怖れてるのだ!?」

 

「おーい、みんな。その辺にしておけよ。なんか見てるこっちが弱いものイジメをしている感じだから」

 

遊馬がみんなを抑えようとしたが、言葉の選び方が間違ったのか茨木童子はギロリと睨みつけて声を荒げた。

 

「き、貴様!?よ、弱いものイジメだと!?吾に対しよくもそのような……貴様、実は人間ではないだろ!?人の皮を被った鬼だ!!?」

 

「鬼って……俺は人間だぜ?」

 

「ふざけるな!精霊と、異形と合体する人間し、龍や雷神を使役する存在なぞ見たことがないわ!それにその赤い角は実は鬼の角ではないか!?」

 

遊馬の特徴的な髪型である尖った赤い大きなアホ毛のような髪……茨木童子はそれを鬼の角だと思った。

 

「そんな訳ないだろ、俺は人間だ。まあ、ちょっと特殊だけどな」

 

「ちょっとどころではないだろ!?くそっ!いいだろう、今回は吾の負けだ!だが吾の角はまだ折れていない!次こそ、吾への侮辱を後悔させてやる!!」

 

茨木童子は捨て台詞を残し、遊馬を睨みつけながら消滅した。

 

後には茨木童子のフェイトナンバーズが残り、遊馬はそれを拾い上げた。

 

「──茨木童子、完全撤退を確認。私たちの勝利です、遊馬君!アストラルさん!」

 

茨木童子を倒し、マシュは再び喜びの声を上げたが、未だに空は不気味な闇に覆われて酒気が広がっていた。

 

すると、酒呑童子の体が少しだけ光を帯びるとゆっくり目を覚ました。

 

「むにゃ……ん?んん〜?……おーおーおー!小僧やないの。久しぶりやなぁ。元気にしとったかぁ?」

 

酒呑童子の口から柔らかい京都弁の言葉が響き、金時は目線を逸らして髪をかきながら答える。

 

「……おう。目が覚めたみたいだな」

 

「何や、随分素直やなぁ?」

 

「そんなことはいいんだよ。テメェのそのザマは何だ?」

 

「何がやの?うちはうちやろ?この肌の白さも、胸の膨らみ加減も、尻の丸みも……全部、あんたが知っとうままやろ?──なんなら、もっとよく見せよか?」

 

ただでさえ露出度の高い衣装を着ている酒呑童子は金時に自分の肌をさらに見せようとしていた。

 

「み、見ねぇよ!テメェはどうしてそう明けっぴろげなンだよ!?」

 

「ゴールデン、やはり酒呑童子とそういう関係だったのか……」

 

「金時様……頼光様がお怒りになりますよ」

 

アストラルと紫式部は金時と酒呑童子の乱れた関係にジト目で見つめた。

 

「オレゃあいつも被害者じゃん!?つーかコイツは誰にでもそうだっつーの!ってか、香子様、頼光の大将には絶対に言わないでくれよ!絶対にあの人ブチ切れるから!いや、んな事よりもだなぁ!?茨木以上の鬼であるテメェが、なーんでただの小娘みてェになってんだって話だ!」

 

酒呑童子の今の力は酷く微弱なものとなっており、とても日本最強にして伝説の鬼の首領とは思えないものだった。

 

「あー、そやそや。なんや身体に力が入らんと思うたわぁ。どうも、うちの力の大半は茨木に吸われとったみたいやわぁ。こんなこと普段はあらしまへんのやけど」

 

「今までのことは……覚えてるんですか?」

 

「なんとなくは、なぁ。せやから知っとるよ。小僧がな、うちを必死に助けようとしたことも抱きかかえてくれた事もな?まあ、半分は夢うつつやったけども、囚われの姫さん気分を味わわせてもろうたえ。新鮮で、嬉しかったわぁ……そや、助けられた姫さんは、礼をするものやんなぁ……感謝の口づけでもしよか?ほら、んー……」

 

「スパ───クッ!!!」

 

酒呑童子が妖艶な笑みを浮かべて金時に口づけをしようとしたが、金時は全力で飛び離れて下がった。

 

「すごい飛び離れっぷりです!」

 

「ゴールデン、照れてるな」

 

「素直になれないんだろう」

 

「あん、いけず。逃げなくともよろしおすのに」

 

「えっと、酒呑童子。ゴールデンとイチャイチャしているのは良いんだけど、そろそろ事情を説明してくれないか?」

 

「イチャイチャしてねえよ!?」

 

「そやなぁ。いつまでも小僧と遊んどってもしゃあないか……案内しよか。ついてき」

 

酒呑童子は遊馬達を連れ、今回の酒気や茨木童子の暴走……全ての事件の元凶とも言える存在の元へと案内する。

 

「ほら。あんたはん達が探しとったんは、あれやろ?」

 

「あれは……聖杯?」

 

それは聖杯に似た大きな杯で中には何かの液体が満ちており、そこから酒気が溢れていた。

 

「もしくは聖杯に似た何かだな。これが今回の事件の元凶だな。何かの液体が満ちているな……」

 

「なんかなあ、茨木と一緒にここで目が覚めたらなぁ。それが目の前に置いてあったんやわ。『美味そな酒がなみなみ注がれた』状態でなぁ」

 

聖杯に注がれていたのは酒……酒呑童子はその名の通り、酒が好物。

 

「まさか……」

 

「うん。呑んだえ」

 

「……何で?」

 

「あからさまに怪しいではないか」

 

「そういう奴なんだよ、コイツは。茨木のヤツは嫌がっただろうけどな」

 

「もち、茨木は怯えとったなあ。拾いもの食べるのは良くない言うて。でもまあ、うちが酌で飲めんのか?聞いたら、涙目で飲んでくれたで?」

 

遊馬達の脳裏にはアルハラで酒呑童子に謎の酒を無理矢理飲まされた茨木童子の可哀想な光景が浮かんだ。

 

「茨木さん……もっと優しくしてあげるべきでした……」

 

「カルデアで召喚できたら優しくしようぜ……」

 

あまりにも不憫すぎる茨木童子に対し、マシュと遊馬はカルデアで茨木童子を召喚できたら優しく接しようと心に決めた。

 

「でなぁ、さんざん呑んだら眠くなってしもうて。ほんで気づいたらこうなっとった、言う話やねぇ。茨木に力は吸われとるし、囚われの姫さんになっとるし、小僧はうちの心と身体を情熱的に求めてきよるし……」

 

「求めてねぇからな!」

 

「それで、酒呑童子はこれが何か知ってるのか?」

 

「いや。わからんけど、わかるえ。どうあれこれは酒で、うちはそれを呑んだ。そいで、顛末はあれやろ?なら答えは明白や。これはなぁ──『願いを叶える』酒やわ」

 

「願いを叶える酒……?」

 

「聖杯に注がれた酒……聖杯の願望機の側面が作用しているのか……?」

 

「言うても、この酒は願いをそのまま叶えるわけやおへん。心に秘めた願いを、せやけど、ちびっと違う形で──歪めて、叶える、そういうもんやねぇ。酒は酔うもの、酔えば惑うもの……だからやろか。それが酒の楽しいところなんやけどなぁ」

 

聖杯でありながら聖杯ではない……歪めて叶える力のせいで今回の特異点の事件が起きてしまったのだ。

 

「つまり、この酒から溢れた酒気が都の人たちを酔わせていたのか……」

 

「それで、これを飲んだ茨木の願いは何だったんだ?」

 

「多分やけど、茨木は『うちと一緒に大暴れしたい』いう願いがあったんやろうねぇ……それが『うちの力と一緒に』、いう形に歪んでしもうた、いうことやろ」

 

茨木童子はただ酒呑童子と一緒に鬼として暴れたかっただけ。

 

しかし、歪んだ聖杯の酒のせいでその願いは歪まれ、酒呑童子の力を奪って暴れるということになってしまった。

 

「迷惑極まりないな、これ……あれ?そう言えば、ゴールデンは力が満ち溢れてるって言ってたよな。もしかして、何か願いを……?」

 

「ああ──小僧も同じやったんかなぁ。んふふ。そないにうちと遊びたかったん?」

 

「違えよ、バカ……今の俺の願いは別だ」

 

「そうか。さて、どんな酒を呑んだかも思い出せたことやし。──壊そうか」

 

「あ、待ってくれ。壊したら、みんな消えちゃうだろ?その前に、酒呑童子。俺と契約してくれねえか?」

 

「へぇ……この酒呑童子と契約したいなんて物好きな小僧やなぁ」

 

「まあ、酒呑童子は日本最強の鬼だし、日本人としては憧れるよな。それとは別に、俺たちの拠点でゴールデンと一緒に居たくないか?」

 

「小僧と?そんなことが可能なん?」

 

「ああ。俺と契約してくれれば、後でカルデアって言う拠点で必ず召喚するからさ。そうしたら、誰にも邪魔されずにゴールデンと一緒の時を過ごせるぜ」

 

「おやまあ、それは何とも魅力なお話やなあ。邪魔されないと言うことは、お邪魔虫の源頼光は居ないんやろ?」

 

「うん、源頼光さんに会ったこともないからな。だから、カルデアで思う存分ゴールデンと一緒に酒飲んだり、遊んだり、色々な事が出来るぜ」

 

それを聞いて酒呑童子は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「そりゃあええわ!そのかるであ、言うところで思う存分楽しませてもらうわ!」

 

「それじゃあ、俺と握手してくれ。そうすれば契約できるから!」

 

「よろしゅう頼むわ、旦那はん」

 

「おう!」

 

遊馬は酒呑童子と握手を交わすと酒呑童子が光となってフェイトナンバーズが現れる。

 

これで遊馬との契約が完了し、やる事が全て終わったので酒呑童子は聖杯の前に向かう。

 

すると、金時は最後に酒呑童子に聞きたい事があった。

 

「……オイ。テメェはテメェの願いは、何だったんだ?」

 

聖杯の酒を飲んだと言うことは何らかの願いが叶われた可能性があるが、酒呑童子は意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「……ふふ。何やったと思う?」

 

「ケッ。わかるかよ」

 

「うちのことを気にしてくれはるんやねぇ。小僧は見た目も心もイケメンやなあ。うち、気が多い性質やけど──一途な男は、特別大好きやわぁ。酒をほかすのは気が引けるけども……ま、しゃあないわぁ」

 

酒呑童子は酒が注がれた聖杯を壊すのに気が向かなかったが、これは良い酒ではない……消さなければならないと分かっている。

 

「これは、自分の願いに悪酔いする酒や。悪酔いしもって見えるもんは、歪んどるのが常やけど。今回はえげつない。自分自身も歪んどる。茨木との合わせ技やろうけど、うちも歪みすぎとる。こんな、力もない、人も喰らえん、小僧も襲えん、ただの小娘のようなうちは──うちやあらへんもんなぁ。せやから、このまま飲み干すわけにはいきまへん。酒気に微睡見続けるわけにはいきまへん。瞼を開いて見えるんが、どれだけ恋い焦がれたものであろうとも──。これは──だだの、酔夢や。さあ、あんじょう目覚めよな」

 

悪酔いの夢から覚める為に酒呑童子は拳を作り、鬼としての力を奪われながらもそれなりの腕力を持って聖杯を打ち砕いた。

 

聖杯を打ち砕いたことにより、この特異点の元凶は消え、召喚されたサーヴァント達が消滅していく。

 

「さて。目覚めて……仕切り直しの、飲み直しやわ。そん時は逃さへんよ、小僧。必ず──あの時のお返しをして。それから、うちのイケメンハーレムの一人として、酌させたるからなぁ……ふふ……ほな、またな」

 

酒呑童子は金時を逃がさないと言わんばかりの鬼として、女としての妖艶な笑みを浮かべながら消滅した。

 

「それでは、遊馬様。私も失礼します」

 

「ああ!紫式部さん、ありがとうな!」

 

「今度、あなた方の物語を是非聞かせてください」

 

「俺たちの?良いぜ!カルデアで待ってるぜ!」

 

「はい!」

 

紫式部は酒呑童子とは正反対の優しい笑みを浮かべながら消滅した。

 

そして、最後に残ったのは金時。

 

「さて、オレも消えるぜ。色々サンキューな。それから……大将。気ィつけとけ」

 

「ああ。誰が杯を置いて、酒を注いだのか……だろ?」

 

誰が京の都を混乱に陥れ、茨木童子を暴走させる原因を作った酒が注がれた聖杯を置いたのか……それは結局分からなかった。

 

「……さてな。もし黒幕がいるんなら話はこれで終わらねえ。まだ続きがあるだろうさ。だが今回はここまで、羅生門の鬼退治は終了だ」

 

「分かった。この戦いの続きが来たら、頼むぜ」

 

「おう!ゴールデンに任せろ、大将!」

 

「頼りにしてるぜ、ゴールデン!」

 

遊馬と金時は拳をぶつけ合ってまた共に戦う時を誓い合うと、金時は消滅した。

 

これにて、京の都を酒気で満たし、人々に悪酔いの夢を見せた羅生門の鬼退治は終わりを迎えた。

 

だが、鬼退治の物語はまだ全てが終わったわけではない。

 

今回の特異点の背後にいる黒幕との戦いがまだ残っている。

 

しかし、その物語はまだまだ先の話となる。

 

遊馬達は今はまだその黒幕のことを深く考えず、自分達にできることを精一杯やると心に決めながらカルデアへと帰還する。

 

 

 




これにて羅生門編は終了です。
かなり出しにくいナンバーズのHeart-eartHとHeart-eartH Dragonを出してみました。
カオスの方は劇的に弱いのでやめておきました(笑)

次回からカルデアの日常に入ります。
まずはロンドンと羅生門の英霊を召喚し……皆さん待望のモードレッドとエミヤとイシュタルとパールヴァティーの対面となります。
自分が知らない間に義理の母が出来ていたという心労がマッハな状況になりますね(笑)

日常が終わったらZEXALの遊馬とアストラルの物語を描きます。
断片的だった遊馬とアストラルの運命の戦い……それが遂にマシュ達に解き明かされます。


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ナンバーズ109 モードレッドの新しい母上!?

Fate/Zexal Orderも遂に二周年となりました。
これも皆様の日頃からの応援のお陰です、ありがとうございます!
これからも頑張って執筆していきます!

さて今回は、モードレッドが遂にエミヤ達と出会うことになります。
とても楽しく書けました。


羅生門の戦いからカルデアに帰還した翌日、遊馬達は召喚ルームに来ていた。

 

「おかあさん、早く早く!」

 

「おう、ちょっと待っててな」

 

召喚ルームにはこの召喚を楽しみにしていたジャックが側にいた。

 

第四特異点のロンドンと監獄塔と羅生門で出会ったサーヴァント達を召喚するため、遊馬はフェイトナンバーズと二つの触媒を召喚サークルに並べる。

 

慣れた手つきでマシュから受け取った聖晶石を砕き、その欠片を振りまく。

 

砕いた聖晶石が振りまかれると四度目のサーヴァントが始まり、いつものように爆発的な魔力が収束する。

 

英霊召喚システムとカルデアの電力が轟いて眩い光を放つ。

 

光の中から絆を結んだサーヴァント達が召喚されていく。

 

「セイバー、モードレッド推参だ!父上はいるか?」

 

最初に召喚されたのはモードレッド。

 

モードレッドのフェイトナンバーズは赤雷が轟く背景をバッグに燦然と輝く王剣を構えた姿が描かれており、真名は『FNo.98 叛逆の赤雷騎士 モードレッド』。

 

「遊馬、待っていたぞ」

 

「これからよろしくお願いしますね」

 

モードレッドの次はジークとルーラーで、二人のフェイトナンバーズは既に監獄塔で判明しており、真名は『FNo.95 邪竜と聖女 ジーク&ルーラー』。

 

「ジキルだ……よろしく頼むよ、マスター」

 

ジークとルーラーの次はジキルで、フェイトナンバーズはナイフを構えたジキルの背後に血塗られた指を舐める凶悪な表情を浮かべたハイドが描かれており、真名は『FNo.104 二重存在者 ジキル&ハイド』。

 

「……ウゥゥゥゥゥ」

 

ジキルの次はフランで、フェイトナンバーズは美しい白い花畑の中で可愛らしく座っている姿が描かれており、真名は『FNo.22 無垢なる花嫁 フランケンシュタイン』。

 

「キャスター、シェイクスピア!ここに参上しました!」

 

フランの次はシェイクスピアで、フェイトナンバーズは無数の本のページが舞い散る中、本と羽ペンを持って舞台俳優のように手を広げてポーズを決める姿が描かれており、真名は『FNo.78 偉大なる文豪 シェイクスピア』。

 

「こんにちは。一緒に素敵な夢を見ましょう」

 

シェイクスピアの次はナーサリーで、フェイトナンバーズは『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』の有名な登場キャラクターが描かれている背景の中心に可愛らしく座りながら絵本を読んでいる姿が描かれており、真名は『FNo.78 誰かの為の物語 ナーサリー・ライム』。

 

「三流サーヴァント、アンデルセン。さて、お前達の物語を後で聞かせてもらおうか」

 

ナーサリーの次はアンデルセンで、フェイトナンバーズは『人魚姫』や『マッチ売りの少女』など世界的に有名な童話の本が浮かぶ背景にアンデルセンが羽ペンで新しい物語を書いている姿が描かれており、真名は『FNo.78 童話創作者 アンデルセン』。

 

「ご用とあらば即参上!あなたの頼れる巫女狐、キャスター降臨っ!です!」

 

アンデルセンの次は玉藻で、フェイトナンバーズは満月が煌めく夜空の下で湖で水天日光天照八野鎮石を持ち、湖の上を優雅に歩く姿が描かれており、真名は『FNo.16 絶世の巫女狐 玉藻の前』。

 

「悪魔メフィストフェレス、まかり越しでございます!」

 

玉藻の次はメフィストで、フェイトナンバーズは巨大な時計をバックに巨大なハサミを持って刃を舌で不気味に舐めている姿が描かれており、真名は『FNo.85 堕落の悪魔 メフィストフェレス』。

 

「召喚により参上いたしました。どうか、このパラケルススと友達になりましょう」

 

メフィストの次はパラケルススで、フェイトナンバーズはビーカーと試験管を持ち、その周囲に魔術の五つの元素の光が浮かぶ姿が描かれており、真名は『FNo.33 元素の魔術師 パラケルスス』。

 

「我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共に在る者!」

 

パラケルススの次はバベッジで、フェイトナンバーズは大量のヘルタースケルターを引き連れ、蒸気機関の鎧から蒸気を放出しながらステッキを構える姿が描かれており、真名は『FNo.81 蒸気王 チャールズ・バベッジ』。

 

「俺を呼んだな!復讐の化身を!希望の化身よ、共に戦おうぞ!」

 

バベッジの次はエドモンで、フェイトナンバーズは監獄塔を背後に漆黒の霧を纏い、両手に黒炎を宿した姿が描かれており、真名は『FNo.77 巌窟王 エドモン・ダンテス』。

 

「遊馬、アストラル。君達が本当に私を呼んでくれるとは光栄です。微弱ながら、あなた達に力を貸しましょう」

 

エドモンの次は天草で、フェイトナンバーズは右手には日本刀の『三池典太』、左手には黒鍵を構え、その背後には巨大な聖杯が描かれ、そこから溢れた光を浴びた天草の姿が描かれており、真名は『FNo.90 奇跡の聖者 天草四郎』。

 

「我が顔を見る者は恐怖を知ることになるだろう──お前も」

 

天草の次はファントムで、フェイトナンバーズはオペラ座の舞台で怪しい光のスポットライトを浴びながら演技をする姿が描かれており、真名は『FNo.15 舞台の怪人 ファントム・オブ・ジ・オペラ』。

 

「よう、大将!しばらく世話になるぜ!」

 

ファントムの次は金時で、フェイトナンバーズは黄金喰いを肩に担ぎ、全身から雷撃を放つ姿が描かれており、真名は『FNo.56 黄金武士(ゴールデンサムライ) 坂田金時』。

 

「遊馬様。想いを綴る女、紫式部。参りました」

 

金時の次は紫式部で、フェイトナンバーズは無数の巻物に囲まれながら筆で詩や物語を書く姿が描かれており、真名は『FNo.78 文と詞の想い人 紫式部』。

 

「アサシン、酒呑童子。ふふ、本当に小僧と一緒に召喚してくれたな。ありがとうな」

 

紫式部の次は酒呑童子で、フェイトナンバーズは桜の木の上で朱塗りの盃で優雅に酒を呑む姿が描かれており、真名は『FNo.41 鬼の頭領 酒呑童子』。

 

「吾は茨木童子……まさか鬼で在る吾を呼び出すとはな……」

 

酒呑童子の次は茨木童子で、フェイトナンバーズは右腕に業火の炎を灯し、左手で骨剣を構えた鬼らしく勇ましい姿が描かれており、真名は『FNo.58 業火の鬼 茨木童子』。

 

これで召喚が終わり、今回召喚に応じなかったのはニコラ・テスラだった。

 

遊馬は残念だなと思いながらフェイトナンバーズを回収すると、真っ先にエドモンと天草が近づいて来た。

 

「本当にオレを召喚したな、マスター……いや、遊馬!!」

 

「待て、しかして希望せよ!だろ、エドモン!こらからよろしく頼むぜ!!」

 

「ふん、良いだろう。復讐者の力をお前に貸してやろう!」

 

遊馬とエドモンはガシッと熱い握手を交わす。

 

「遊馬、アストラル。ここに呼んでくれてありがとう。共に世界を救いましょう」

 

「おう!頼りにしてるぜ、天草さん!」

 

「共に人類の未来を守ろう!」

 

次に遊馬は天草と拳をぶつけて互いの腕を交差させる。

 

一方、酒呑童子は金時と一緒に召喚されてとても嬉しく、早速大胆に近づいていく。

 

「さあ、小僧。旦那はんのご厚意に甘えて、頼光がいないうちに、うちとイチャイチャしよう?」

 

「いやいやいや!何言ってんだよ、お前!?まずは、その……落ち着いて話から……」

 

「うちはもう我慢出来んわ。食べても、ええやろ?」

 

「ちくしょう!!いきなりこれかよめんどくせぇええええええ!!!」

 

金時は酒呑童子の大胆さに耐えられなくなり、全力疾走で逃亡する。

 

「ああん!もう、意気地なし!それなら、リアル鬼ごっこといきましょうか?」

 

酒呑童子は妖艶の笑みを浮かべながら金時を追いかけ、カルデアでリアル鬼ごっこを始めるのだった。

 

「やれやれ……」

 

茨木童子は大きなため息をつき、二人を見送るのだった。

 

「ナーサリー!」

 

「ジャック!」

 

ジャックとナーサリーはロンドン以来の再会を喜んで手を取り合う。

 

「おかあさん!私、ナーサリーと遊ぶね!」

 

「おう。夜に宴会あるからそれまでには食堂に来いよー」

 

「はーい!ナーサリー、行こう!」

 

「うん!」

 

ジャックとナーサリーは手を繋いで召喚ルームから出る。

 

幼子達の微笑ましい雰囲気の中、モードレッドは早くアルトリアに会いたく、遊馬の肩を揺らして子供のようにせがんだ。

 

「なあなあ!早く父上に会わせてくれよ!」

 

「分かった分かった。落ち着けって」

 

遊馬は興奮しているモードレッドを落ち着かせてアルトリアのいる食堂に案内しようとしたが……。

 

「……遊馬!召喚システムがまだ動いているぞ!!」

 

「えっ!?」

 

召喚が終わったと思った英霊召喚システムがまだ稼働しており、カルデアの電力が更に消耗されて閃光が轟く。

 

眩い光の中……大きな漆黒の影が現れる。

 

「嘘だろ……?」

 

「彼女は……?」

 

「どうして……?」

 

その姿に遊馬達は驚愕し、モードレッドは目を見開くほどに驚いた。

 

「何で……!?ち、父上……!?」

 

それは……ロンドンに偶発的に現れた謎の存在。

 

聖剣・約束された勝利の剣ではなく、聖槍・最果てに輝ける槍を持ったアルトリア・ペンドラゴンのオルタナティブ……ランサー・アルトリア・オルタ。

 

ランサー・アルトリア・オルタはラムレイに跨り、静かに遊馬達を見下ろして口を開く。

 

「……ランサー、アルトリア。召喚に応じ参上した」

 

ランサー・アルトリア・オルタのフェイトナンバーズは黒馬のラムレイに跨り、その手には漆黒に染まり、嵐のような螺旋のエネルギーを纏う聖槍・最果てに輝ける槍を構える姿が描かれており、真名は『FNo.86 漆黒の聖槍 ランサー・アルトリア・オルタ』。

 

まさかランサー・アルトリア・オルタを召喚出来るとは思ってなかったので遊馬達は呆然としていると、少し気まずそうな表情を浮かべ、ラムレイを走らせて召喚ルームを出てしまった。

 

「お、おい!アルトリア!?」

 

「もしかして、彼女はロンドンで我々と敵対し、本来守るべき地であるロンドンを滅ぼそうとしてしまったことに罪悪感を感じているのではないか?」

 

アストラルはランサー・アルトリア・オルタの心情を察してそう推測した。

 

「でもあれは魔霧で暴走した訳で、アルトリアさんの責任では……」

 

「だとしても、彼女自身がそのことを許せないのだろう。こればかりは時間か……『彼』に任せるしかないな」

 

アストラルの言う『彼』に遊馬とマシュはすぐに誰だか分かり、納得したように頷く。

 

ランサー・アルトリア・オルタも同じアルトリアならば、アルトリアの事を誰よりも理解しているであろう『あの男』に任せるしかないと。

 

「さてと、モードレッド。アルトリアに……会いに行くか?」

 

「お、おう!頼むぜ!」

 

ランサー・アルトリア・オルタの事はひとまず置いておき、一旦その場で解散した。

 

モードレッドの要望を叶えるために遊馬達は食堂へと向かった。

 

しかし、そこでモードレッドが見たものは……。

 

「いらっしゃいませ。カルデア食堂です……おや、モードレッド。来たんですね」

 

それは食堂の入り口で出迎えたメイド服に身を包んだアルトリアだった。

 

偉大なる騎士王、アーサー王こと、アルトリア・ペンドラゴン……そのアルトリアのメイド姿にモードレッドは口をあんぐりと大きく開けた。

 

「なっ……なっ……」

 

そして……。

 

「何やってるんだ父上ぇええええええーっ!!??」

 

当たり前と言うか予想通り、モードレッドの絶叫がカルデアに木霊する。

 

「モードレッド、騒がしいですよ。騎士がそんな大声を出すものではありませんよ」

 

「いやいや!今のあなたに言われたくありませんよ!?どうして騎士王がメイド……給仕になりさがってるんですか!?王としてのプライドはどうしたんですか!?」

 

アルトリアのメイド姿にモードレッドは思わず口調がおかしくなっていく。

 

「モードレッド、あなたの言いたい事はわかります。しかし、私は学んだのです……労働は尊いものだと!!」

 

アルトリアは拳を握りしめて力説するがモードレッドに理解できるわけがなかった。

 

「いやいや、意味わかんねえよ!?オレが言うのも何だけど、他の円卓の奴らが泣くぞ!?それでも良いのかよ、父上!!」

 

「良いのですよ。その時はぶん殴ってでも分からせますから」

 

「父上ぇええええええーっ!??」

 

もはやモードレッドの想定を遥かに上回るアルトリアの変わりっぷりに驚愕して頭を抱えてしまう。

 

しかし、更にここでモードレッドを追い詰める事態が起きる。

 

「ほぅ……来たのか、モードレッド。聞いたぞ、ロンドンではかなりの活躍だったみたいだな」

 

「……えっ?ち、父上……?」

 

それは黒いメイド服に身を包んだもう一人のアルトリア……アルトリア・オルタだった。

 

「ち、父上がもう一人……えっ?えっ??」

 

アルトリアがもう一人いると言う謎の事態にモードレッドは驚愕が混乱になってしまった。

 

慌てて遊馬達がアルトリアとアルトリア・オルタの関係を話し、落ち着きを取り戻したがそれでも納得出来ないモードレッドだった。

 

「モードレッド、こちらに来なさい。貴方に会わせたい人がいます」

 

「お、おう……ロンドンで言ってたやつだな」

 

「ええ」

 

アルトリアはモードレッドを連れて食堂の奥のキッチンに案内する。

 

「シロウ、モードレッドが来ました。出て来てください」

 

「シロウ?」

 

モードレッドがキョトンとしていると、数秒後にキッチンから一人の男が出て来た。

 

「やれやれ……まさかこんな事になるとはな……」

 

それはカルデア食堂の料理長にして、カルデアのオカンとしてみんなから慕われているサーヴァント……エミヤだった。

 

「誰だよ……お前……」

 

モードレッドは反射的に燦然と輝く王剣を構えそうになったが、その前にアルトリアが静かに制した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼はシロウ……私の一番大切な人で、私の嫁です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルトリアの口から静かに語られた発言。

 

その発言にモードレッドは頭が真っ白になり、呆然とする。

 

「………は?よ、嫁??」

 

「ええ。シロウは私の嫁です」

 

「そ、それって……ギネヴィア王妃と……」

 

「ギネヴィアの時とは違います。私はシロウを心の底から愛しています。一人の女性として、彼を……」

 

アルトリアは頬を赤く染めて少し恥ずかしそうに言う。

 

モードレッドは目の前の光景を信じられなかった。

 

あの騎士王が……誰よりも憧れていた偉大なる王が、父が……一人の女になっていると言う事実に。

 

「嘘だ……」

 

「えっ?」

 

「嘘だぁあああああーーっ!!!」

 

モードレッドは目の前の現実から逃げるように、絶叫を上げながらその場から逃げ出した。

 

「モードレッド!?」

 

モードレッドはアルトリアの制止を振り切り、食堂から飛び出してしまった。

 

アルトリアは急いでモードレッドを追いかけようとしたが、絶叫を聞きつけてキッチンから出てきたブーディカに止められた。

 

「待って、アルトリア。ここは私に任せて」

 

「ブーディカ女王……」

 

「お姉さんに任せて。ユウマ、マシュ、アストラル、一緒にお願い出来る?」

 

「ああ!モードレッドを放っておけないからな!」

 

「はい!行きましょう!」

 

「仕方ないな」

 

遊馬とマシュとアストラルとブーディカはモードレッドを追いかけ、食堂を後にした。

 

 

遊馬達は逃亡したモードレッドを必死に捜索し、途中会ったカルデアの職員やサーヴァント達の話を聞いてようやく隠れている場所を発見した。

 

「モードレッド、かくれんぼは終わりだぞ」

 

「ユウマ……」

 

そこは普段あまり人の立ち入りがない倉庫でモードレッドは鎧を消し、ロンドンで見せた露出度の高い服で体育座りをして考え事をしていた。

 

ここなら他の誰にも話を聞かれないと思い、扉を閉めて遊馬達も床に座る。

 

「あー……そりゃあビックリするよなぁ。いきなり父親から新しい母親を紹介されたらな」

 

「……あんな幸せそうな父上、初めて見た……」

 

生前では考えられないほどの優しい笑顔をするアルトリアにモードレッドは目が虚ろになっていた。

 

つまり、エミヤがアルトリアを幸せにした……その事実がモードレッドの心に深く突き刺さっている。

 

「……モードレッド、前から聞きたかったことがある」

 

「んだよ……」

 

「君はどうやって生まれたのだ?アルトリアは女性だ。しかし、アルトリアを君は父上と呼んでいる……アーサー王物語の事は記憶しているが、君の出生に関して明らかに矛盾点が多い」

 

「ちっ……オレの心の傷を抉るような事を言いやがって」

 

「すまない。だが、私達は共に戦う仲間だ。出来れば君とアルトリアの仲を取り持ちたいと思っている。その為に君のことを教えてくれ」

 

「……はぁ、分かったよ。ただし、他の奴らにはチクるんじゃねえぞ。この事はここにいるみんなを信用して話すんだからな」

 

モードレッドは胡座をかいて大きく深呼吸をして、心を決め、静かに語り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは間違いなく父上の子だ。だがな、その正体はオレの母上……『モルガン』が造り上げた『ホムンクルス』なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは遊馬達に衝撃を与える事実だった。

 

アーサー王物語ではアルトリア……アーサー王とその姉、モルガンとの近親相姦によってモードレッドが生まれた事になっている。

 

しかし、アルトリアは女性で同じく女性のモルガンでは子を作る事は不可能である。

 

そこで強力な魔術師でもあるモルガンはアルトリアを魔術によって擬似性転換させ、更に魔術で幻惑して精子を採取……最後に自身の子宮で育てた。

 

そして……アーサー王のコピー、クローンとも言える存在であるモードレッドを造り上げたのだ。

 

「何だよそれ……おかしいだろ……」

 

「狂ってる……嫉妬や憎しみがここまで人を狂わせるのか……」

 

遊馬とアストラルはモルガンの狂気に背筋が凍るほどに戦慄してしまう。

 

監獄塔で七つの大罪を学んだ二人だったが、ここまで狂気に満ちた行為には驚きを隠せない。

 

「ふざけるのもいい加減にしなさいよ……許せないよ、モルガン……」

 

そして……ブリテンよりも前の時代の女王……ブーディカはモルガンの凶行に怒りを爆発させていた。

 

アルトリアやモードレッドを苦しませた事はもちろん、何より許せなかったのは自分の子であるモードレッドを国を滅ぼすための道具として産んだ事だった。

 

「子供って言うのはね、母親がお腹を痛めて文字通り命をかけて産む奇跡とも言える大切なものだよ。それを国を崩壊させる為に、まるで物を作るようにするなんて……もしも会ったら徹底的に説教をしてやるんだから」

 

ブーディカは一人の母親としてモルガンにあったら説教をすると心に誓った。

 

「子供……母親……」

 

マシュはモードレッドとブーディカの話を聞いて暗い表情を浮かべた。

 

「……モードレッド、ありがとう。よく話してくれた」

 

「サンキュー、話してくれて……」

 

「別に構わねえよ。オレにとっては忌々しい過去の話だが」

 

「それを踏まえて尋ねたい。君はモルガンの事を母として慕っているか?」

 

アストラルの質問にモードレッドは瞬時に怒りの表情を浮かべて吠えた。

 

「はぁ!?んな訳ねえだろ!?オレはあの女が大嫌いだ!あいつと同じ雰囲気のサーヴァントに対しても思い出して大嫌いだと思うぐらいだ!!」

 

モードレッドは既にモルガンに対し、母としての愛や想いは一欠片も存在していない。

 

犬のように激しく吠えるモードレッドにアストラルは制しながら新しい考えを導いていく。

 

「分かった。君はモルガンへの思いはもう無い。しかし、今の君には新しい親になるであろう存在がいる」

 

「さっきの……エミヤ、シロウだっけ?」

 

「ああ。関係はかなり複雑だが、形式的にはアルトリアの嫁である彼が君の新しい親になるだろう」

 

「……なぁ、エミヤシロウって、どんな奴なんだ……?オレ、あいつの事は何も知らねえし、父上が本当に選んだ相手なら、少なくともギネヴィアよりも良い奴だと思うけど……」

 

モードレッドは遊馬達にアルトリアが惚れたエミヤの事を聞こうとしたが……。

 

「うーん、教えても良いけど、俺たちよりもモードレッド自身が聞いたほうがいいんじゃねえか?」

 

「オレが……?でも……」

 

「他人を知るって言うのは口では簡単だけど、難しい事は確かだ。最初から気の会う友達や仲間ならまだ知りやすくて良いけど、相手が自分の義理の親になる男なら尚更難しいよな。俺だって、アストラルの事を知って、絆を深めるのにも時間が掛かったからな」

 

種族はもちろん、価値観や考えの違いから遊馬とアストラルは互いを理解して絆を深めるのには時間がかかった。

 

そして、多くの人たちと言葉を交わし、ぶつかって来た遊馬だからこそ今の悩めるモードレッドに対して答えを出していく。

 

「だからさ、モードレッドは勇気を出してエミヤと話すんだよ。毎日少しずつでも良いからさ。好きなもんや嫌いなもん、特技や趣味。小さい事から話していけば自然と話は出来ると思うぜ?」

 

「……そんなもんか?」

 

「そんなもんだよ。確か、モードレッドは聖杯大戦でマスターといい関係を築けたんだろ?それを思い出しながら話せば良いんだよ」

 

「あっ……」

 

モードレッドは聖杯大戦のマスター……獅子劫の事を思い出した。

 

獅子劫はモードレッドのたわいの無い話から相談事までよく聞いてからちゃんと答え、良いコミュニケーションを築いていた。

 

少なくとも、聖杯大戦の参加したマスターとサーヴァントの中でも一番信頼関係を築いた二人と言っても過言ではない。

 

だからこそモードレッドは精神的に大きく成長することができ、ロンドンではランサー・アルトリア・オルタを越えることが出来たのだ。

 

「そうだな……その通りだよな。ありがとよ、ユウマ。お陰でオレの進むべき道が見えたぜ!」

 

「頑張れよ、モードレッド!かっとビングだ!」

 

「おう!かっとビングだな!行くぜ行くぜ!!」

 

無意識にもモードレッドにも遊馬のかっとビング精神が受け継がれ、その勢いのまま食堂へと戻っていく。

 

食堂では夜の宴会の準備が行われており、料理長であるエミヤが指示を出していた。

 

そんなエミヤにモードレッドは意を決して近付いた。

 

「お、おいっ!」

 

「ん?ああ、モードレッド。どうしたんだ?」

 

「お前……本当に、父上の大切な人……なんだな?」

 

「……ああ。私と、アルトリアもお互いを大切に想っている。アルトリアの嫁……とは少々複雑な気分だかな」

 

エミヤは苦笑を浮かべていると、モードレッドは左手で胸元を強く押さえながら右手で力強くエミヤを指差した。

 

「モードレッド?」

 

「お、お前が……父上の嫁なら、オレにとっては……モルガンに代わる、新しい母親になるからな!」

 

「……は?君の、母親?」

 

「だから、今からお前を……あなたを、母上と呼ばせてもらう!!」

 

モードレッドの怒涛の宣言により食堂にいた誰もが呆然とした。

 

「いや、あの……念のため言っておくが、私は男だから母上はちょっと……」

 

「良いんだよ!父上は父上なんだから、その嫁のあなたは母上だ!これは決定事項だ!」

 

「な、何でさ!?」

 

モードレッドの固い意志と強引な理論にエミヤも困惑し出して口癖を言って頭を抱えだす。

 

するとそこに二人の女性が近づいて来た。

 

「良いんじゃない?あんたが母上で」

 

「そうですよ、先輩は女子力と嫁力が圧倒的に高いんですから」

 

「り、凛……桜……」

 

「あぁん?誰だよ、あんたら」

 

来たのはエミヤの嫁である遠坂凛ことイシュタルと、間桐桜ことパールヴァティーの二人だった。

 

「私は遠坂凛。今は女神イシュタルの擬似サーヴァントでそこにいる士郎の嫁よ」

 

「私は間桐桜。同じく、女神パールヴァティーの擬似サーヴァントで、先輩のお嫁さんです!」

 

「……はぁあああああ!??ちょっ、まっ、は、母上!?どういう事だよ!?父上がいながら嫁が二人って……それに、女神の擬似サーヴァントってどういう……うがぁあああああっ!!もう何が何だか訳がわかんねえよ!!!」

 

モードレッドはイシュタルとパールヴァティーの二人の存在により関係が理解不能にまで達してしまい、頭をクシャクシャにして混乱してしまった。

 

「へぇー、本当にアルトリアにそっくりね。流石は親子。あっ、そうだ……私の事をお母さんって呼んでも良いわよ。関係が複雑だけど、一応あなたの義母になると思うから」

 

「それは良いですね、姉さん!私も是非お母さんって呼んでください!アルトリアさんの娘さんなら大歓迎です!」

 

イシュタルとパールヴァティーは思いつきで自分たちもモードレッドの義母になると名乗り出てしまい、モードレッドを更に混乱の深みへと落としていく。

 

「何ぃっ!?あ、あんた達も俺の義母に!??えっ、でも、これは……うわぁあああああっ!もう本当に訳わかんねえよ!!誰か説明してくれぇえええええっ!!!」

 

モードレッドの混乱に満ちた絶叫がカルデアに響き渡るのだった。

 

「うーん、これは確かに分かんねえな」

 

「あまりにも複雑過ぎる家族関係だな」

 

「そ、そうですね……これはあまりにも……」

 

「頑張れ、モードレッド!って、応援するしかないね」

 

その光景を影から見守っていた遊馬達はモードレッドを応援するしか出来なかった。

 

そして……。

 

「何者なのだ……あの男は……?」

 

ランサー・アルトリア・オルタは遠くからエミヤを見つめるのだった。

 

エミヤを中心とするハーレム、それに新たな波乱が巻き起ころうとしている。

 

 

 




やったね、モー君!
新しいお母さんが三人もできたよ!(笑)
家事万能で料理が美味しいエミヤ。
うっかりだけど、なんだかんだで優しいイシュタル。
優しいけど黒くて怒ると怖いパールヴァティー。
これは色々と複雑な家庭環境になりそうですね。

次回はエミヤとランサー・アルトリア・オルタの話になると思います。
ランサー・アルトリア・オルタがエミヤとどうなるか……。
アルトリアの修羅場が来るかもしれませんね。
だって、ランサー・アルトリア・オルタにはWアルトリアにはない、あの見事なメロンがあるので(笑)


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ナンバーズ110 エミヤシロウとランサー・アルトリア・オルタ

今回はタイトル通り、エミヤとランサー・アルトリア・オルタの話です。
ただ、今回はそれだけでなく複数の話が合わさったのでそれを楽しんで欲しいです。



新たにカルデアに召喚されたサーヴァント達の歓迎会が始まり、それぞれが食事や酒、雑談で楽しむ中……。

 

「美味え!こんな美味え飯は初めてだぜ!」

 

召喚されて早々家族関係で精神的に疲労しきったモードレッドは初めて食べる料理で元気を取り戻した。

 

「美味いぜ、母上!」

 

「そうか。それは良かったよ」

 

モードレッドに母上と呼ばれて複雑な気分のエミヤは苦笑を浮かべながら次の料理を運んだ。

 

「本当によく食べるわね。はい、炒飯」

 

「流石、アルトリアさんの娘さんです。どうぞ、ハンバーグです」

 

イシュタルは中華、パールヴァティーは洋食の料理を作るのが得意なのでモードレッドへの歓迎を兼ねて炒飯とハンバーグを作った。

 

「やったー!サンキュー、母ちゃん!母様!」

 

「いやだからなんで私は母ちゃんなのよ!?」

 

「良いじゃないですか、姉さん。馴染みがあって」

 

「良くないわよ!?」

 

モードレッドはエミヤを母上と呼んでいるので、同じく義母となるイシュタルとパールヴァティーへの呼び名を変えた。

 

直感と二人のイメージから呼び名を決め、イシュタルを『母ちゃん』、パールヴァティーを『母様』と呼ぶことにした。

 

イシュタル……遠坂凛はこれでも元々は貴族出身で、そんな自分が何故母ちゃんと呼ばれなければならないのか理解出来ず、モードレッドに変更を求めたがそれは聞き入れられなかった。

 

エミヤはうっかりだが肝っ玉がかなり据わってて、母ちゃんみたいなイメージを感じたからでは?と思ったが、下手に口にするとイシュタルの怒りの拳か蹴りが飛んでくるので黙っていた。

 

一方、パールヴァティーは母様と呼ばれて嬉しいのかニコニコしながらモードレッドを可愛がっている。

 

ただし、モードレッドはパールヴァティーだけは絶対に怒らせてはいけないと直感で感じており、それだけは心に決めて行動している。

 

すると……。

 

「コラー!アチャ男さーん!!」

 

「ん?」

 

エミヤがキッチンに戻ろうとするとそこにズカズカと大きな足音を立てたやって来たのは……。

 

「君は……確か、玉藻の前、だったな」

 

それは数時間前にカルデアに召喚された絶世の狐巫女こと、日本で一番有名な九尾の妖狐……玉藻の前だった。

 

「何をそんな他人行儀な!この玉藻をお忘れですか、アチャ男さん!」

 

「……すまないが、私は君に会ったことがないのだが……」

 

「みこーん!?そ、そんな!あの月での戦いの日々を、私を忘れるなんて……なんて薄情な人なんですか!?」

 

玉藻はどこかの聖杯戦争でエミヤと面識があるようだったが、エミヤには覚えがない。

 

すると、二つの殺気がエミヤの背後から忍び寄る。

 

「──ハッ!?痛タタタタッ!?」

 

「ねぇ、士郎……その狐女とはどういう関係かしら……?」

 

「先輩……まさか、狐耳が好きなんですか?言ってくれれば、コスプレでもつけてあげたのに……」

 

イシュタルとパールヴァティーがエミヤの耳をそれぞれ強く引っ張り、殺気を放って目のハイライトを消して問い詰める。

 

「待て待て待て!私は彼女に会ったことは無い!朧げに変な記憶が思い出されるが、本当に覚えがない──ぎゃああああ!?耳が、耳が取れるぅっ!!?」

 

このままではエミヤの耳が引き千切られそうになるが、近くにいたモードレッドは二人の義母の恐ろしい姿に恐怖し、ガタガタと震えていた。

 

すると、玉藻はイシュタルとパールヴァティーを見て嫌な顔をして数歩下がった。

 

「げぇっ!?あ、貴女達は!?何故アチャ男さんと!??」

 

「……二人共、彼女と面識は?」

 

「はぁ?玉藻の前なんて日本有数のビッグネームのサーヴァントなんて会ったことないわ。会ってたら絶対に覚えているわよ」

 

「私もありませんね。こんな綺麗な人がいたら忘れるわけありませんし……」

 

「お、おや……?ああ、なるほど。似てるけど、非なる存在でしたか……すみません、あなた方と非常に似ている方と勘違いしましたわ」

 

玉藻は改めて二人を見つめると何かを見通すと、玉藻が知っている二人とは全くの別人だとすぐに気がついて謝罪した。

 

「まあ、アルトリアとネロの件もあるし、似ている奴がいても不思議じゃないわよね」

 

「世の中には同じ顔をした人が三人いるって言いますからね」

 

「それはさておき、アチャ男さん!皆様からお聞きしましたが、あなた……ハーレムを築いているようですね!?しかも現在4人も!!」

 

「別に私が望んだわけではないが……」

 

「問答無用です!良妻を目指してる私の前では、ハーレムなんてものは認めません!神が許しても、この私が許しません!!」

 

「……言い方悪いが、ハーレム云々以前に君にとやかく言われる筋合いは無いが……」

 

「お黙りなさい、アチャ男さん!さあ、あなたの罪を数えなさい!」

 

玉藻は魔力を爆発させると後ろへバックステップで下がって大きくジャンプした。

 

「必殺!!一夫多妻去勢拳!!!」

 

そして、右足に力を込めて派手な飛び蹴りをする。

 

「ただのライダーキックでは無いか!?」

 

「拳要素何処よ!?」

 

「去勢って何ですか!?そんな事をしたら先輩との夜のお楽しみが無くなるじゃありませんか!」

 

三者三様のツッコミが炸裂し、玉藻の拳という名の飛び蹴りを防ぐために宝具を展開しようとした……その時だった!

 

「ニャハハ!ワォン!!」

 

玉藻の前に突然一つの影が現れ、飛び蹴りを真正面から弾き返して一夫多妻去勢拳の発動を無効にした。

 

「な、何者!?げぇっ!?や、やっべぇー!!」

 

玉藻はその影の正体を目にした瞬間、顔を真っ青にして後ずさりした。

 

それは意外な人物であり、その人物の助太刀にエミヤはその名前を呟いた。

 

「タマモキャット……」

 

エミヤと同じくカルデア食堂で料理の腕を振るう頼れる同僚……タマモキャットだった。

 

「ワンワン!オリジナルよ、我が同僚に手を出すとは許せん!万死に値する、皆殺しだワン!」

 

「オリジナル……?タマモキャット、君は玉藻の前から分かれた分身、という事か?」

 

「そのようなものだ!さあ、オリジナルよ。まずはサインを頂こう。その後に血祭りにする!」

 

可愛い犬耳メイド姿に反して物騒なことを言うタマモキャット。

 

「みこーん!?何でさ!?」

 

対して、衝撃のあまりに思わずエミヤと同じ口癖を言ってしまう玉藻。

 

「そこ、私の口癖を真似するな」

 

「さあ、本当の酒池肉林をお見せしよう!」

 

タマモキャットの目がギラリと怪しく輝き、まるで獲物を狙う野獣のような眼光で玉藻を睨みつける。

 

「くっ、これではこちらに分が悪い……アチャ男さん!今日のところはここで失礼しますわ!ですが、ハーレムなんて絶対に認めませんからねぇえええええーっ!!」

 

玉藻はこのままでは確実に負けると察知し、撤退を決めてその場から全力で退避する。

 

「待つのだー!サインを寄越してから大人しく我が酒池肉林を喰らうのだー!」

 

「どうしてサインなんですか!?それに待てと言われて待つ奴なんていませんよー!」

 

タマモキャットは牙を尖らせながら玉藻の後を追いかけ、二人は食堂から消えていった。

 

嵐のように過ぎ去っていった玉藻とタマモキャットの寸劇にエミヤたちは呆然とするのだった。

 

「何あれ……?」

 

「さぁ……?」

 

「あの類は気にしたら負けという事だ。放っておこう」

 

一方、少し離れたところでモードレッドは退避し、引き続き料理を食べていた。

 

「何か色々大変だな、母上たち……」

 

今のところ自分への被害が特に無いのでのんびりと料理を食べていると……。

 

「あらあら!本当にセイバー……アルトリアにソックリね!」

 

「ん?」

 

振り向くとそこには純白のドレスに身を包んだ美女と暗い色のフードに身を包んだいかにも怪しい男というあまりにもアンバランスな二人がおり、モードレッドは宝具を出さないが警戒する。

 

美女は目を輝かせながらモードレッドにグイグイ近寄る。

 

「……誰だよ、あんた達は」

 

「私はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。シロウのお母さんよ!」

 

「へ……?は、母上の……!?」

 

「ええ。こっちはエミヤキリツグ。シロウのお父さんよ」

 

「えっ!?マ、マジで!?ってか、母上の両親もサーヴァントだったのか!??」

 

エミヤの両親もサーヴァントでしかもカルデアに二人一緒にいることに驚きを隠せなかった。

 

「そうよ。私たちはちょっと複雑な関係だけど、それでもちゃんと家族の絆で結ばれているのよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「ところで、あなた……ホムンクルスなのよね。実は私もなのよ」

 

「えっ!?あ、あなたも!?」

 

「ついでに言うと、聖杯の器でもあって、キリツグとの間に出来た娘もいるのよ♪」

 

「はぁ!??あ、あなたが聖杯の器!??それに娘ってことは……俺に叔母上がいるのか!??」

 

色々とモードレッドが驚く新情報の数々に頭の処理が追いつかずに混乱し始める。

 

「うふふ。流石にちょっと情報が多すぎるわね。少しずつ話してあげるから付いてきてね」

 

「お、おう!」

 

「それから……モードレッド、私の事は『おばあちゃん』って呼んでくれるかしら?」

 

「……ええっ!?お、おばあちゃん!?」

 

「私ね、旦那様と娘と息子が出来たけど、まだ孫はいないのよ。でも!セイバーの子供なら、私にとっては孫同然よね!だから、私の事はおばあちゃんって呼んで欲しいの!!」

 

アイリの家族が欲しいと言う願いから徐々に大家族化計画が進んでいる。

 

そんな中で自分が特に気に入っているアルトリアの子供……モードレッドが家族に入るなら是非ともおばあちゃんと呼ばれたいのだ。

 

「えっ、でも、その……本当に、良いのかよ……ほら、オレさ……」

 

「何を悩んでいるの?そんな事、気にしなくて良いのよ」

 

「あっ……」

 

アイリはモードレッドを抱き寄せてよしよしと頭を撫でる。

 

久しく他人の温もりに触れてなかったのと、これほどまでに誰かに優しくされたのはほぼ初めてなのでモードレッドも嬉しさと恥ずかしさが溢れ出てきた。

 

「ほら、キリツグも──」

 

「僕は認めない」

 

「キリツグ?」

 

キリツグはフードで隠している顔でもわかるほど複雑な表情を浮かべ、その場から逃げるように立ち去った。

 

「全くキリツグは……ごめんなさいね、モードレッド。うちのキリツグはちょっと人見知りが激しいから……イリヤやシロウにはとっても優しいんだけど……」

 

「仕方ねえよ……血が繋がってない奴をそう簡単に孫扱いなんて出来ねえよ。えっと……」

 

モードレッドはアイリを呼ぼうとして頭の中で色々呼び方を模索し、恥ずかしそうに頬を赤く染めながら言う。

 

「お、お祖母様……」

 

「まあ……!嬉しいわ、モードレッド。これからよろしくね」

 

「お、おう……」

 

三人の義母に続き祖母も出来てモードレッドの家族が徐々に増えつつあった。

 

生前では全く考えられない出来事の数々にモードレッドは胸の奥にある幸せをしっかりと感じるのだった。

 

 

一方、遊馬達は……。

 

「ふぃー……流石にサーヴァント達も多くなったから色々抑えるのも大変だな」

 

「みんな個性的だからな」

 

「個性の範疇をとっくに超えてるけどな……」

 

サーヴァント達は国や時代が異なる英霊達なので性格や好みは当然バラバラ。

 

宴会でみんな大騒ぎするので遊馬とアストラルはみんなが暴走しないように奔走していた。

 

多少騒ぐのは構わないが、戦闘沙汰はまずいのでカードや令呪を使って抑え込み、やっと落ち着いてきたのでデュエル飯にありつこうとしたのだ。

 

「はぁ……」

 

「ん?どうした、茨木」

 

近くにいた茨木童子は大きなため息をついて酒をちびちび飲んでいた。

 

「うるさいわ、馬」

 

「遊馬だって。そんなため息ついてどうしたんだよ」

 

「あれを見たらな……」

 

「あれ?あぁ、あれね」

 

茨木童子のため息の原因、それは自分が尊敬する酒呑童子は……。

 

「あははは!これは美味い酒やわぁ。日本のもええけど、異国の酒もええなぁ!」

 

「んまぁ、確かに良い味だな」

 

酒呑童子と金時は一緒に日本以外の異国の酒を飲み比べをして楽しんでいた。

 

ここでは二人の邪魔をする存在はいないので生前で楽しめなかった分、仲よさそうにしていた。

 

「良いんじゃねえの?」

 

「お前な……酒呑と小僧の関係を知ってるはずじゃろ!?」

 

「知ってるよ。でも、だからこそゴールデンは酒呑と向き合ってるじゃねえか」

 

「ただゴールデンは少し恥ずかしがり屋なところがあるからそう簡単には行かないだろう」

 

「だよなー」

 

金時と酒呑童子の行く末を見守ることにした遊馬とアストラルは苦笑を浮かべる。

 

すると、小さな二つの足音が近づいてくる。

 

「茨木ちゃん、ケーキだよー」

 

「これはとっても甘いわよ」

 

桜と凛が大皿にケーキをたくさん載せながらやって来た。

 

「あれ?桜ちゃん、凛ちゃん。茨木と仲良くなったのか?」

 

「うん!茨木ちゃん、優しいから!」

 

「甘いもの好きだし、鬼には思えないわ」

 

「や、優しくないぞ!ってか、小娘共!何故吾を怖がらない!?吾は茨木童子、人々に恐れられたる鬼じゃぞ!?」

 

「えー?でも、茨木ちゃんは怖いと言うより可愛いよ?」

 

「そうね。怖いって言われている鬼のイメージが大きく変わったわね」

 

「お、お主ら……あまり吾を舐めているぞ、喰っちまうぞ!!」

 

本当に喰うつもりはないが、怖がらせるために牙を見せて襲う素ぶりを見せたが……。

 

「「開放召喚!」」

 

「へ?」

 

桜と凛が光に包まれると漆黒の騎士とエレシュキガルへと変身する。

 

「こう見えても鍛えてるから、そう簡単にやられないよ!」

 

「神話の女神の力、見せてあげましょう?」

 

二人は少しずつ解放召喚の力を練習して扱えるようになっていた。

 

自分よりも強大な力を放つ二人を目の前にし、茨木童子は首をグギギと遊馬の方に曲げながら尋ねた。

 

「……馬よ、この二人は人間の小娘なのに英霊の力を感じるのは何故だ?」

 

「あー、この二人はちょっと特別でな。聖杯で召喚したサーヴァントの力を宿している……デミ・サーヴァントなんだ」

 

「……最近の人間は一体全体どうなっている!?合体か変身するのが当たり前なのか!?」

 

遊馬とアストラルのZEXAL IIと桜と凛の解放召喚に茨木童子は頭を抱えて叫んだ。

 

人間の未知なる可能性の進化に茨木童子は驚愕と同時に畏怖を感じた。

 

それから、カルデアにはとても人間とは思えない凶悪な顔や姿をしたサーヴァントが何人もおり、本来ならば人々に恐れられるはずの鬼である自分に自信を持てなくなってきている。

 

「世の中は理不尽な事ばかりじゃな……」

 

茨木童子は溢れそうになる涙をグッとこらえ、ケーキを食べて口に広がる甘味で辛さを抑えるのだった。

 

 

遊馬達が宴会で大いに盛り上がる中、一人だけ宴会に参加しなかったサーヴァントがいた。

 

それは……。

 

「ラムレイ……私はこれからどうしたら良い……?」

 

漆黒の聖槍を持つアルトリア……ランサー・アルトリア・オルタ。

 

ランサー・アルトリア・オルタは与えられた自室で愛馬のラムレイを撫でながらそう呟いた。

 

ロンドンで魔霧によって召喚されたが、暴走状態となってロンドンを滅ぼそうとし、モードレッドと死闘を繰り広げた記憶を持っているランサー・アルトリア・オルタは罪悪感で心を埋め尽くされていた。

 

愛する地を滅ぼそうとしてしまった事、そしてよりにもよって叛逆の騎士と呼ばれたモードレッドが全てをかけてそれを阻止した事……。

 

本来ならばロンドンを守るべき自分が暴走するなど、あまりにも不甲斐なく、申し訳なく思っているのだ。

 

自分はどうすればいいか分からずにランサー・アルトリア・オルタはこうして部屋に閉じこもっているのだ。

 

「はぁ……考えても何も思い浮かばない……少し休むか」

 

ランサー・アルトリア・オルタはベッドに横になり、静かに眠りについた。

 

ラムレイも目を閉じて静かに眠り、部屋に二つの寝息が広がった。

 

夢を見ないサーヴァントだが、ランサー・アルトリア・オルタに不思議な出来事が起きた。

 

それは……自分が体験したことのない出来事の光景だった。

 

『問おう。貴方が私のマスターか』

 

月明かりに照らされた一人の少年との出会いから始まった数え切れないほどの記憶の欠片。

 

『判らぬか、下郎。そのような物より、私はシロウが欲しいと言ったのだ』

 

『──やっと気づいた。シロウは、私の鞘だったのですね』

 

『シロウ──貴方を、愛している』

 

そして……その少年……シロウへの溢れんばかりの想い。

 

それはランサー・アルトリア・オルタが抱いたことのない感情……愛情だった。

 

ランサー・アルトリア・オルタは唐突に目を覚まし、起き上がると同時に胸を強く押さえた。

 

心臓の鼓動が激しく打ち鳴らされ、身体中の血液が早く巡り、体が熱くなるのを感じた。

 

「これは……まさか、聖剣の私の、記憶……?」

 

それは聖剣……約束された勝利の剣を持つアルトリアの記憶。

 

聖杯戦争でアルトリアとシロウが共に戦った記憶。

 

聖杯戦争で二人がサーヴァントとマスターとして戦うならまだしも、アルトリアとシロウは明らかに互いを強く思い合っていた。

 

まるで恋人同士のように一緒に過ごし、時には体を重ねていた……。

 

騎士王として国と民を守るために戦っていたアルトリア・ペンドラゴンとしては信じられない事であり、ランサー・アルトリア・オルタは混乱で頭がいっぱいになっていた。

 

「……少し、散歩するか」

 

ランサー・アルトリア・オルタは心を落ち着かせる為に部屋を出てカルデアの廊下を歩く。

 

まだ誰も起きていない早朝なので今のカルデアはとても静かでランサー・アルトリア・オルタの歩く音が廊下に響き渡る。

 

すると、静かなカルデアに幾つも重なる音が聞こえ、ランサー・アルトリア・オルタは気になってその場所へ向かう。

 

「食堂……?こんな朝早くに……?」

 

それは昨日宴会に呼ばれたが結局は行けなかった食堂だった。

 

そこで忙しなく動いて準備をする一人の男がいた。

 

「お前は……」

 

「悪いがまだ食堂は開いていない……む?君は……」

 

それはある意味、今のランサー・アルトリア・オルタの心を埋め尽くす原因の一つであるエミヤだった。

 

アルトリア達はエミヤをシロウと呼んでいたが、そこでランサー・アルトリア・オルタは一つの疑問を抱く。

 

(夢で見たあの少年……そして、目の前にいるこの男は同じなのか?だとしても雰囲気がまるで違う……)

 

年齢を重ねれば声が変わり、肉体は鍛えれば良いのでまだ分かるが、髪や肌の色が全く違うので本当に同じ人物なのか疑いたくなる。

 

すると、エミヤはランサー・アルトリア・オルタに背を向けて静かにキッチンに向かった。

 

「……少し待っててくれ、軽く何かを作ろう」

 

「何……?」

 

「良いから。適当な席に座っててくれ」

 

エミヤはそう言い残すとキッチンへと消え、残されたランサー・アルトリア・オルタは受け答えも出来ずに大人しく席に座った。

 

そして、ソワソワしながら待っていると、エミヤがキッチンから出てランサー・アルトリア・オルタの前に作ったものを出す。

 

「これは……?」

 

「私特製のハンバーガーとオニオンリングとポテトフライセットだ」

 

それはアメリカ発祥のジャンクフードの代名詞と言うべきハンバーガーセットだった。

 

ランサー・アルトリア・オルタはハンバーガーセットから漂う美味しそうな香りに口の中に唾が生成され、ゴクリと飲み込んだ。

 

エミヤは優しい笑みを浮かべて口を開く。

 

「冷めないうちに食べなさい」

 

「で、では……ありがたく、いただく……」

 

ランサー・アルトリア・オルタはハンバーガーを両手で持ってかぶりつくように食べた。

 

口の中に肉や野菜の旨味がケチャップと混ざり合って美味しさが広がり、思わず笑みが溢れてしまった。

 

その後は揚げたてのオニオンリングとポテトフライも一緒に食べ、あまりの美味しさに心を奪われて一心不乱に食べていった。

 

そして、食べ終わる頃には紅茶を片手にニコニコしているエミヤの姿があり、ランサー・アルトリア・オルタは自分の恥ずかしい姿を見られ、今すぐ逃げ出したい気持ちだった。

 

しかし、エミヤにはどうしても聞きたいことがあり、羞恥心を抑えて話し出す。

 

「ハ、ハンバーガー……とても美味であった」

 

「それは良かった。アルトリア……いいや、オルタもジャンクフードが好物だから君もそうかと思って作ったんだ。気に入ってくれたかな?」

 

「も、もちろんだ。こんなに美味い食べ物は初めてだ。毎日作ってもらいたいぐらいだ」

 

「そうか。毎日は流石に難しいが、たまには作るからその時には食べてくれ」

 

「そうする……それよりも、お前に聞きたいことがある」

 

「私に?」

 

「お前は、聖剣の私の元マスターで、その体に……『全て遠き理想郷』が宿っていたのか……!?」

 

ランサー・アルトリア・オルタが聞きたかったことを一度に尋ね、予想外の質問にエミヤは目を見開いて驚きを隠せない様子を見せた。

 

エミヤは紅茶が入ったカップをテーブルに置き、ランサー・アルトリア・オルタと向かい合うように座る。

 

「……そうだな、君もアルトリアだ。それなら、あの『運命の夜』の出来事を聞く権利はあるな。少し長くなるが、構わないか?」

 

「ああ……頼む」

 

エミヤはアルトリアと出会った『運命の夜』の物語をランサー・アルトリア・オルタに語る。

 

それは、ランサー・アルトリア・オルタの想いや価値観が大きく変わるほどの物語だった。

 

話を聞き終えたランサー・アルトリア・オルタはエミヤに礼を言ってから食堂を後にし、部屋に戻る。

 

「シロウ……」

 

ランサー・アルトリア・オルタは椅子に座り、目を閉じて心を静めて瞑想し、自分の考えをまとめて答えを見つけていく。

 

そして、しばらくして考え抜いた答えは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウよ、私をここまで心を突き動かしたのはそなたが初めてだ。まだ会って間もないが、この想いだけは本物だ。シロウよ、そなたを愛している!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミヤを一人の男として想う事だった。

 

「「「「……はぁっ!??」」」

 

食堂でエミヤに向けて堂々と愛の告白を告げるランサー・アルトリア・オルタにアルトリア達は驚愕の声を揃えて発した。

 

ランサー・アルトリア・オルタはかつてのアルトリアとオルタのようにこれまで人を愛したことはなかった。

 

切っ掛けはアルトリアの記憶の欠片だが、エミヤの自分への想いや優しさに触れて心が燃え上がるほどに熱くなった。

 

「シロウ……私はそなたの夫になろう。私がそなたを必ず幸せにする」

 

「ア、アルトリア……?」

 

アルトリアとオルタがエミヤの正夫ならば、自分にもその権利があると思い、夫として名乗り出たのだ。

 

「ちょっとあなた!シロウと会ったばかりの癖に図々しいですよ!」

 

「その通りだ!聖槍の私よ、幾ら何でも無茶苦茶だ!」

 

「あんたね、士郎のことを何も知らない癖にいきなり過ぎるのよ!」

 

「そ、そうですよ!部外者……とは言いませんけど、早過ぎます!」

 

アルトリア、オルタ、イシュタル、パールヴァティーは認められずブーイングの嵐を巻き起こす。

 

しかし、そんなものは知らぬとランサー・アルトリア・オルタはエミヤに抱きついて体を密着させる。

 

「「「「なっ!??」」」」

 

「ア、アルトリア!?」

 

「シロウ……確かに私はそなたの事を全て知っているわけでもないし、思い出も無い……だが、これからそなたを知って思い出を作れば良いだろう?それに……」

 

ランサー・アルトリア・オルタは聖槍の力によって異常に成長した豊満な胸をエミヤの体に押し付けていく。

 

「もしも私を選んでくれたらこの体……余す事なく使っても構わないぞ?」

 

女性の最大の武器の一つを惜しみなく使い、ランサー・アルトリア・オルタはエミヤをとことん誘惑していく。

 

ブチッ!

 

「「「「ふざけるなぁあああああっ!!!」」」」

 

当然、アルトリア達は大激怒して宝具を構える。

 

「私のシロウをそんな見え透いた色仕掛けで魅了しようとするとは、騎士の風上にもおけん!」

 

「おのれ、聖槍の私め……その駄肉を削り取ってくれる!」

 

「何よ、何よ、あのデカイメロンは!?ふざけんじゃ無いわよコンチクショウ!!」

 

「うふふふ……先輩は私のモノですよ……これはお仕置きが必要ですね?」

 

「フッ……黙ってろ、小娘共。そんな貧相な体よりも、この成熟した女の体の方が良いに決まってるだろ?」

 

ランサー・アルトリア・オルタのこの言葉が引き金となり、唐突に第三次正妻戦争が開幕することとなった。

 

「何でさぁあああああーーっ!??」

 

エミヤの悲痛な叫びが宝具同士が激突する爆発音や衝撃音の中に消えていく。

 

 

「なぁ、ユウマ、マシュ」

 

「どうした?モードレッド」

 

「どうしましたか?」

 

「父上が3人、母上が3人……これさ、どうしたらいいか……?」

 

「さぁな……流石に親が複数いるって普通ありえない状況だよな」

 

「そうですね……特にアルトリアさん達は同一の同じ存在ですし……」

 

「だよなぁ……」

 

「取り敢えず、アレを止めに行くか」

 

「そうですね、私の盾とモードレッドさんのアルトリアさん特攻の力で何とかしましょう」

 

「そうだな……なあ、オレの直感だと父上が更に増える気がするんだよなぁ……だって、あの聖槍の父上、オルタだからその反対の存在も……」

 

「……なんか考えただけでゾッとするな」

 

「アルトリアさんが増える度にこの騒ぎが起きる事を考えると憂鬱になります……」

 

遊馬とマシュとモードレッドはアルトリア達を止めるために大きなため息を吐きながら戦場へと突撃する。

 

 

 




と言うわけで無事にランサー・アルトリア・オルタがエミヤの夫になりました(笑)
あのメロンはパールヴァティーこと桜よりも大きいですからね。
使わない手はないです(笑)
唐突に第三次正妻戦争が始まりましたが遊馬達が止めに入りました。

次回は遊馬の休日みたいな話を書きます。
桜ちゃん達ちびっ子と遊んだり、紫式部さんもいるので図書館の話になりますね。


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ナンバーズ111 少女の願いと想い

今回は桜ちゃん達ちびっ子達との1日です。

最近ロリ桜の擬似サーヴァントのカーマに戦慄している私です。
ここでは希望の光を手に入れているので初めて情報を見た時マジかよと思いました。


カルデアの遊馬の部屋。

 

早朝……遊馬がまだ眠りについている頃、部屋に小さな四つの影が侵入した。

 

しかし、アストラルが侵入者対策用にセットされた罠カードが発動せず、四人は抜き足差し足で遊馬のベッドの横についた。

 

「くかぁ〜っ、くかぁ〜っ……」

 

大きなイビキをかいて未だに眠りの中にいる遊馬。

 

四人は互いを見て頷くと手を繋ぎ合う。

 

「「「「せーの……!」」」」

 

そして……。

 

「「「「起きろ〜!」」」」

 

ボスン!!!

 

「ウボアァッ!!?」

 

四人の渾身のボディプレスが遊馬の体に容赦なく伸し掛かる。

 

そして、朝から元気な幼い声が部屋に響く。

 

「お兄ちゃん、朝だよー!」

 

「早く朝ごはんを食べましょう!」

 

「おかあさん、早く遊ぼー!」

 

「マスターさん、速やかに迅速に動きましょう!」

 

謎の侵入者……それはカルデアのちびっ子達、桜と凛、ジャックとナーサリーの四人だった。

 

「よ、四人共……分かったから、早く……どいて、くれ……ガクッ」

 

「あれ?お兄ちゃーん?」

 

「お兄様?」

 

「おかあさーん?」

 

「マスターさん?」

 

流石に幼女四人の容赦ないボディプレスのダイレクトアタックに不意打ちを受けた遊馬の心身ともに大ダメージを受けてしまい、再び眠りの中に落ちてしまった。

 

 

幼女達のボディプレスから何とか復活した遊馬は着替えて食堂で朝食を取る。

 

「イテテ……全国の子持ちの父ちゃん、それも日曜日の朝の気分を味わった気分だぜ……」

 

遊馬は元気いっぱいな子供達に振り回される全国の父親の気分を味わった気分になりながら小鳥特製のデュエル飯を食べる。

 

「予想外な襲撃者だったな」

 

「ってか、アストラル。お前がセットした罠、発動しなかったじゃねえか。まあ、桜ちゃん達だったから発動しなくて良かったけど」

 

「あれはあくまで遊馬に夜這いをかけようとする不届き者限定だからな。無垢で純粋な子供達には発動しない」

 

「何だその設定は!?まあ、それにしても四人とも朝から嬉しそうだったな」

 

「それもそうよ。だって、みんな遊馬と遊ぶのを楽しみにしていたんだもん」

 

そこに普段からちびっ子達の相手をしている小鳥が卵焼きを持って遊馬の前に置く。

 

「遊馬君、ロンドンの後に監獄塔と羅生門の戦いでとても忙しかったから、ようやく休みが取れて一緒に遊べるのが嬉しいんですよ」

 

モーニングセットを注文してお盆に乗せて持ってきたマシュが遊馬の隣に座る。

 

今は特異点の戦い続きでなかなか休めなかった遊馬の久々の休暇期間で、今日はちびっ子達と一日中遊ぶ約束なのだ。

 

ちびっ子たちはこの日をずっと楽しみにしており、早起きして遊馬の部屋に突撃したのだ。

 

「それだけ君があの子達から慕われている証拠だ」

 

「慕われているか……へへっ、それなら今日は思いっきり遊ばなきゃな!」

 

「もういつからカルデアは託児所になったのよ……」

 

疲れ切った枯れたような声が響き、遊馬達は周りを見渡すと近くのテーブルにぐったりと突っ伏している女性がいた。

 

「所長……?どうしたんだよ、そんな疲れた顔をして……」

 

カルデア所長のオルガマリー……多忙を極める彼女だが、これまで見たことないほどに疲れた様子だった。

 

「疲れたもんじゃ無いわよ……もう限界よ……復活して絶好調なこの体も疲労困憊になるほどヤバイ状態よ……」

 

「な、何があったんだ……?」

 

「あの女よ……」

 

「あの女?」

 

「紫式部……あの女の所為で余計な仕事が……ああもうダメ、今日はもう寝るわ。何かあったらロマンかダ・ヴィンチに後を任せたから……」

 

そう言い残すとオルガマリーはフラフラと立ち上がりながら自分の部屋へと帰って行った。

 

「どうしたんだ?所長……」

 

「紫式部の名を言っていたが……何か問題があったのか?」

 

「でも、紫式部さんは何か問題を起こすような人じゃないと思うけどな……」

 

サーヴァントの中には己の欲のままに動いて奇行に走る者が確かにいるが、紫式部は常識的な人物なので問題を起こすとは考えにくい。

 

「今は考えても仕方ないだろう。今日は子供達と楽しい時間を過ごすことだけを考えよう」

 

「そうだな。何かあったら後で対処すれば良いよな」

 

遊馬はデュエル飯の残りを一気に食べ終え、ごくんと呑み込んだ。

 

「さて!飯も食い終わったし、早速行くかな」

 

「あ、遊馬!私も一緒に行こうか?」

 

小鳥が一緒に桜達と遊ぶと名乗り出た。

 

「小鳥?」

 

「遊馬一人じゃ、小さな女の子の相手は難しいでしょう?」

 

小鳥は普段から遊馬がいない間、桜や凛の遊び相手になっているので姉の一人として慕われている。

 

「で、では!私も一緒に!私も桜ちゃんや凛ちゃんのお姉さんですから!」

 

マシュも姉として慕われているので、遊馬の相棒として共に特異点に向かっているので桜達と触れ合う機会が少ないので、是非とも一緒に遊びたかった。

 

「助かるぜ、二人とも!流石にあのちびっ子達のパワーには俺も参るからな……」

 

「そうと決まれば早速行動だな。それで、何をするのだ?」

 

「うーん、内容はちびっ子達に任せてるから今から聞く」

 

遊馬達は食べ終えた食器を片付けると待っていた桜達と合流する。

 

「それで、まずは何して遊ぶ?」

 

「私たち、行きたいところがあるの!」

 

「行きたいところ?どこ?」

 

桜達は互いに目線を合わせて声を揃えて行きたいところの場所をいう。

 

「「「「せーの……図書館!」」」」

 

「「「「図書館?」」」」

 

あまりにも平凡な場所の名前だが、このカルデアに図書館なんて場所が存在するのか?と遊馬達は首を傾げた。

 

桜達は遊馬達の手を繋いで引っ張って行き、その図書館がある場所へと向かう。

 

 

ちなみに、普段から桜達の世話や遊び相手になっているメドゥーサとアタランテは……。

 

「旦那様!旦那様ぁあああああっ!」

 

「清姫、今日はあなたをユウマの元へは行かせるわけには行きません!」

 

「我々に敗れて大人しくしてもらおうか!」

 

遊馬の元へ向かおうとしている清姫を全力で足止めして桜達の大切な時間を守っているのだった。

 

 

カルデアの地下には特に施設はなく、使われていない倉庫しかないので遊馬達も来たことがない。

 

しかし、地下に向かうにつれて本を持つサーヴァント達とすれ違い、更なる疑問が出てきた。

 

カルデアでは主に電子書籍が使用されており、一応図書室は存在しているがそこまで充実していない。

 

それなのにサーヴァント達は本を手に楽しそうに色々な話を交わしていた。

 

「ここだよー!」

 

そして、桜達が案内した場所……それは近代的なカルデアの施設には程遠い古びた大きな木の扉がそびえ立っていた。

 

カルデアではあまりにも異様な光景に目を疑いながら恐る恐るその扉を開いた先には……。

 

「な、な、なんだこれぇええええええーっ!??」

 

「これは……!?」

 

「すごいです……」

 

「う、嘘でしょ……?」

 

遊馬達が驚くのも無理はなかった。

 

何故なら扉の先には巨大な空間が広がっており、それらを埋め尽くすのは大量の本だった。

 

数百や数千どころの数ではなく、数万は軽く越えるほどの本が本棚に納められてズラッと並んでいる。

 

「これは……!世界に名だたる図書館、アムステルダム図書館やストラホフ修道院図書館をも連想させる見事な図書館だ……!」

 

アストラルは世界的に有名な図書館をも連想させる謎の図書館に感嘆の声を漏らした。

 

「ここは確か地下の倉庫だったはず……それがなんで図書館に……?」

 

マシュはカルデアに長くいるが、これほどまでに立派で本格的な図書館の存在を知らなかった。

 

そもそも明らかにこの図書館だけ異質な雰囲気と空気を出していた。

 

するとそこに……。

 

「いけませんよ。図書館で騒いだら」

 

「えっ?む、紫式部さん!?」

 

図書館の奥から歩いて遊馬達を注意したのは紫式部だった。

 

ゴシックドレスの上に市松模様の半纏を羽織り、眼鏡をかけて知的なイメージを上げており、アンバランスながらとても似合っていた。

 

「あら、遊馬様とアストラル様、マシュさんに小鳥さん。それから、桜ちゃんと凛ちゃん、ジャックちゃんにナーサリーちゃん。ようこそ、我が地下図書館へ」

 

「我が地下図書館?」

 

「はい。ここには古今東西、様々な本を取り揃えてございます。史書に伝記、神話に伝説、悲劇に喜劇、古典に新作、御伽噺に童話、時代劇に西部劇、低俗劇に政治劇、オクシデンタルにオリエンタル……中世に近世、古代に現代、虚構に現実、図鑑や地図もございます」

 

最早ほぼ全てのジャンルを取り揃えていてもおかしくないほどのラインナップだった。

 

「よりどりみどり過ぎじゃね!?」

 

「ああ、それと──復讐譚に恋物語も、もちろんそろえてありますので」

 

「え?じゃあ、巌窟王はある?」

 

遊馬は復讐譚と聞いてアヴェンジャーのエドモンの話を読んでみたいと思ったので思わず聞いた。

 

「巌窟王……モンテ・クリスト伯ですね。もちろんございますよ」

 

「おお!じゃあそれを後で借りるぜ!」

 

「遊馬、今聞くべきことはそれではないだろう?」

 

アストラルに戒められ、ハッと気づいた遊馬は慌ててマスターとして紫式部に問い質す。

 

「え、えっと、コホン!紫式部さん、この図書館はどういう事なんだ?」

 

「どういう事、と申しますと……?」

 

「そこからは僕たちが説明するよ!」

 

紫式部が返答に困っていると台車に大量の本を積んで運んでいるロマニとダ・ヴィンチちゃんが来た。

 

「ここは元々使われていない地下室の倉庫だったんだけど……」

 

「紫式部君が日本の魔術……陰陽道の力で部屋を再構築してこんな立派な図書館にしたんだ。そして、カルデアのデータベースにある電子書籍を全て本に変換したのさ」

 

ロマニとダ・ヴィンチちゃんの説明に遊馬達は驚愕した。

 

たった一人でこれだけのものを構築するとはサーヴァントでもなかなか出来る事ではない。

 

「ええっ!?じゃあ、この図書館は紫式部さんが全部作ったのか!??」

 

「はい。ですが、かつての平安の折には、さほど陰陽道に長けていた訳ではありません。ですのでこうして、サーヴァントとして成立して、初めてあれこれと多くの技を振るえている状態です」

 

必ずしも生前の能力=サーヴァントと同等と言うわけではない。

 

サーヴァントはクラスや知名度など色々な要因で時には生前以上の力を発揮する事もあるのだ。

 

「まあ、レイシフトやカルデアの電気とか重要なものには影響はなかったんだけど……」

 

「ただ……電子書籍から本に変換したものには今後のレイシフトに必要な資料やデータも含まれていたから、今こうしてかき集めているのさ……」

 

特異点のレイシフトには当然歴史関連の資料が必要になるのだが、紫式部はそれさえも本として変換してしまったので、ロマニやダ・ヴィンチちゃん達が急いで集めているのだ。

 

「その所為でマリーは心労で部屋に引きこもっちゃってね……」

 

「……規格外の英霊、魔術王の出現でストレスがマッハに積み重なったからね」

 

その代償として所長であるオルガマリーは本来必要のない仕事が増えて精神的ダメージを受けてしまい、数日は不貞寝することを決めたらしい。

 

その話を初めて聞いた紫式部はまさか自分の行動でオルガマリー達大勢のカルデア職員に迷惑をかけることになるとは思いも寄らなかったので、慌て始める。

 

「あ、あの、その……すみません、私、そんなつもりじゃ……ご、ごめんなさい!

 

やがて紫式部の両目から大粒の涙が流れて申し訳なさそうに二人に頭を下げた。

 

「えっ!?いや、その、君を責めているわけではないから、謝らなくても良いんだよ!?」

 

「そ、そうだよ!カルデアとしては、職員やサーヴァントの新しい娯楽施設が出来て喜ばしい事だから!ほら、私も天才発明家だから本は読むからね!」

 

麗しの平安美人を泣かしてしまい、ロマニとダ・ヴィンチちゃんは慌てて紫式部を慰める。

 

「……我々が何か指摘する必要も無いな」

 

「そうだな。紫式部さんも反省してるからな」

 

紫式部が心の底から反省しているのでマスターとしてこれ以上追求する必要も無くなった。

 

少々トラブルはあったが、結果的にこの大図書館はカルデアにとってとても有意義な施設となったことには変わりない。

 

紫式部にはこの大図書館の司書として勤めてもらうこととなった。

 

「お兄ちゃん、この本読んでー!」

 

「おかあさん、これ面白そうだよ!」

 

とててー、と可愛らしい足音を立てて桜とジャックは大きな本を持ってやって来た。

 

紫式部たちの話が難しくつまらなかったのでその間に目当ての本を探していたのだ。

 

「マシュお姉様、難しい文字があるので一緒にお願いします!」

 

凛は自身の中にいる英霊……エレシュキガルが登場している古代メソポタミア神話の本を持ってきた。

 

「小鳥さん!この絵本を読んでー!」

 

ナーサリーはまだ見たことない世界の絵本を持ってきた。

 

本を一緒に読むことを頼まれ、遊馬達とは笑顔で応える。

 

「よし、じゃあ読んであげるか!桜ちゃん、ジャック、順番に読むからな!」

 

「凛ちゃん、少し難しいですが一緒に古代メソポタミア神話を学びましょう」

 

「ナーサリーちゃん、沢山の物語を読みましょう」

 

遊馬達は図書館に置かれた椅子に座り、それぞれ選んだ本を開いて読んでいく。

 

「とても美しい光景ですね……」

 

その光景に紫式部は微笑みながら呟く。

 

子供達の好奇心や楽しみ、そして知識を向上させて成長を促す、これこそ図書館の役割の一つである。

 

遊馬達は時間が経つのを忘れるほど楽しい読書の時間を過ごし、いつのまにかお昼時になったので読んでいた本を借り、図書館を出て食堂へ昼食にする。

 

昼食を食べ、食休みをしてから今度は体を動かす遊びをする。

 

「それじゃあ、鬼ごっこをやるぞー!」

 

「「「「おー!」」」」

 

鬼ごっこは古くから日本の子供達の屋外遊びとしてポピュラーなものであり、いわゆる追いかけっこである。

 

誰が鬼をするか決めようとしたその時……。

 

「な、何故じゃ!?何故吾が子供の遊びに付き合わなければならぬのだ!??」

 

純血の鬼である茨木童子に鬼役をやってもらうことにした。

 

「だって暇そうにしてたから」

 

「暇だからといって何故吾がお前や小娘達と遊ばねばならぬ!」

 

「鬼ごっこやるからさ、そこにちょうど茨木が来たからな。茨木はリアルの鬼だから適役だろ?」

 

「ふざけるな!真なる鬼である吾が何故!?我慢ならぬ、立ち去らせてもらうぞ」

 

「ちなみにこの鬼ごっこで勝てたら3時のオヤツのパンケーキは特別の大盛りになるぜ」

 

メディア・リリィが上達してきたパンケーキを作ると言っていたので、せっかくなので大盛りを頼んだところ喜んで引き受けてくれた。

 

「それを早く言わんか!!良いだろう、今回だけは吾が全力を持って貴様らを捕らえてやろう!!」

 

酒や肉よりも意外に甘いものが大好きな茨木童子はパンケーキが食べると聞いて一瞬でやる気を出した。

 

「うん、ちょろいな」

 

「ああ、これがあの茨木童子とはな……」

 

羅生門の戦いから感じていたとても鬼とは思えない性格の茨木童子に遊馬とアストラルは失礼だがちょろいと感じた。

 

「む!?貴様ら、今何か無礼なことを言ったか!?」

 

「いえいえ別に」

 

「それよりも早く鬼ごっこを始めたらどうだ?」

 

「おっ、そうだな。それじゃあみんな……鬼の茨木から逃げろー!」

 

「「「「わぁーっ!」」」」

 

「では、小鳥さん、私たちも!」

 

「うん!茨木さん、負けないからね!」

 

みんな一斉に逃げ出し、遊馬とアストラルも走り出す。

 

「まさか本物の鬼にこの言葉を言えるなんてな。鬼さんこちら!手の鳴る方へ!」

 

「ふっ、茨木童子の名にかけて貴様ら全員を必ず捕まえてやるぞ!!」

 

こうして茨木童子が鬼役となったリアル鬼ごっこが始まった。

 

大盛りパンケーキが掛かってるとあって茨木童子は大人気なく本気を出し、次々とタッチをして捕まえていく。

 

体力や速力に自信がある遊馬ですら捕まってしまい、茨木童子は意気揚々と鬼役を務める。

 

しかし、一人だけ捕まえることはできなかった。

 

「へへへっ!残念でしたぁ〜!このロンドンの殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーのスピードには本物の鬼さんも勝てないみたいだねぇ〜!」

 

「待たぬか!この小童がぁあああああっ!」

 

ジャックはあっかんべーをして茨木童子を挑発して逃げていく。

 

かつてロンドンを震撼させた伝説の殺人鬼の名を持つジャックは子供達の霊の集合体とはいえ、アサシンとしてのステータスはとても高い。

 

敏捷はAでとても高くて動きは幼女の姿なので軽快、更にはアサシンのクラス特性の気配遮断はA+、鬼ごっこではある意味最強無敵の存在とも言える。

 

結果、ジャックが見事に逃げ切ったことでジャックの優勝となり、大盛りパンケーキはジャックのものとなった。

 

鬼としてのプライドをズタボロにされ、大盛りパンケーキを手に入れられなかった茨木童子は拳を握りしめ、最早血の涙を流しそうになるほど悔しそうな表情を浮かべた。

 

「ぐっ……おのれ、小童がこの吾にこれほどまでの屈辱を……!絶対に許さんからな!次こそ必ず吾が勝つ!!」

 

「うん!私も負けないよ!」

 

茨木童子は鬼としてのプライドを守るために鬼ごっこで再戦して勝つ決意を固めた。

 

「それって、次もジャック達と鬼ごっこをしてくれるってことか?」

 

「そうみたいだな。桜達と遊んでくれるならそれに越したことはないな」

 

「そうだなー」

 

知らぬうちに茨木童子は桜達の遊び相手へとなってくれたことに微笑ましく思うのだった。

 

 

全力で走って鬼ごっこをし、再び食堂に赴いてで3時のオヤツを食べる。

 

オヤツはメディア・リリィのパンケーキで、鬼ごっこ優勝者のジャックは大盛りのパンケーキを幸せそうに頬張っていた。

 

すると、そこに一人の来客が現れた。

 

「おお、サクラよ!待たせたな、遂に完成したぞ!」

 

「ネロ?」

 

そこに現れたのは布に包まれた大きな物を抱えて持ってきたネロだった。

 

「ユウマもいたか!ちょうど良いな、これのお披露目だな!」

 

ネロはニッと笑みを浮かべるとテーブルにそれを置いて布を解いた。

 

中から現れたのは白銀と金色に輝く長物……両刃の剣だった。

 

その剣に遊馬とアストラルは見覚えがあった。

 

「あれ?この剣……ホープONEのホープ剣じゃねえか?」

 

「確かにこれは……ネロ、どういう事だ?」

 

それは希望皇ホープONEの持つホープ剣と瓜二つで刃から柄の形まで忠実に再現されていた。

 

「そういえば二人には言ってなかったな。実は、この剣はサクラに頼まれて作ったのだ」

 

「えっ!?なんで、桜ちゃんが……!?」

 

桜に理由を聞こうと遊馬が振り向くと、パンケーキを食べ終えた桜は椅子から降り、胸に手を置いて静かに告げた。

 

「開放召喚」

 

桜がその身から溢れる漆黒の魔力を身に纏うと、その体が約十年後の姿へと成長し、漆黒の軽装の鎧を装着する。

 

目を覆うバイザーを上げ、恐る恐る剣を手に取ると手の内から真紅に輝く血管のような模様が全面に浮かび上がる。

 

「ちゃんと宝具は発動している……」

 

「宝具?」

 

「それは、桜の中にいる英霊の宝具か?」

 

「うん。アルトリアさんが教えてくれたの。私の宝具……それは手にした武器を自分の宝具として自由自在に扱えるんだって」

 

それは遊馬達が何度も対峙したとある漆黒の騎士が持つ宝具である。

 

桜曰く、自分に力を貸してくれている英霊は黒髪の悲しそうな謎の女性らしいが……何故それが桜の宝具なのかは不明である。

 

「だから、ネロちゃまにお願いしてホープONEの剣を作ってもらったの。剣ならやっぱり大好きなホープONEのが良いから……」

 

「麗しい美少女の頼みを断るわけにはいかないからな。作るからには最高の剣を作らないといけないが……この剣を作るには少々苦労したぞ。余と遊馬の原初の火と同じ隕鉄を素材として使おうと思ったが、入手出来なかったからな」

 

遊馬とネロの持つ原初の火はただの金属ではなく、宇宙から飛来した鉄……隕鉄を素材として作られた特別な剣。

 

ネロは当初隕鉄で剣を作ろうとしたが、流石に隕鉄が早々手に入れるものではないので、同じく天才であるダ・ヴィンチちゃんに依頼して剣を作るに適した最高の金属を用意してもらったのだ。

 

「希望皇ホープONEの剣を忠実に再現する為にダ・ヴィンチちゃんと一緒に寸分の狂いもない設計を立ててから共に作り、ついでにメディアがサクラを守る為に様々な魔術を施し、完成に至ったのだ!」

 

メディアは桜の為に剣に色々な魔術を施し、剣の耐久性を高める、幸運を呼ぶなどの効力を与えた。

 

至高の芸術家のネロ、天才発明家のダ・ヴィンチちゃん、神代の魔術師のメディア……夢のトリオによって完成されたホープONEの剣。

 

剣としてはこの時点で既に宝具クラスの品が完成したのだ。

 

「ネロちゃま、ありがとう!これで……私にも戦える力が手に入った……!」

 

桜は凛とは違い、武器を持たないと宝具が発動しないのでホープ剣を作ってもらえてとても嬉しそうに振るう。

 

桜の中の英霊と宝具のお陰で剣を自由自在に扱い、既に達人の領域にまで剣を振るうことが出来ている。

 

しかし、それを快く思わない者がいた。

 

「……桜ちゃん、その剣は俺が預かる」

 

それは遊馬だった。

 

真剣な面持ちで桜の手から剣を取り上げようとしたが、桜は剣を抱きしめるように持って下がった。

 

「ええっ!?な、何で……!?」

 

「決まってるだろ?桜ちゃんに武器を持たせる訳にはいかない。雁夜さんと時臣さんと約束したから……桜ちゃんと凛ちゃんを守るって」

 

冬木で擬似サーヴァントとなってしまった桜と凛……その二人を間桐雁夜と遠坂時臣から託された遊馬は大切な妹として守ることを誓った。

 

だからこそ人理を救う為の特異点の戦いを勝ち抜き、ソロモンを倒してこの世界の未来を救い、二人をハートランドシティに連れて行き、魔術師ではない新たな未来を作り出す。

 

擬似サーヴァントに目覚めたとはいえ、未来ある幼き少女である桜と凛を戦わせるわけにはいかない。

 

「いや……私は強くなりたい……!だからこの剣は私のものなの!!」

 

「強くなる必要はない、戦う俺たちが強くなって必ず守るから……!」

 

「いや!いやだ!!」

 

遊馬は桜に分からせる為に少し強い口調をするが、桜は嫌々と首を左右に強く振ると剣が光を帯びるとカードになった。

 

「剣がカードに……?」

 

それはダ・ヴィンチちゃんが開発した物質をデュエルモンスターズのカードへとカード化にするもので、桜の持つカードは装備魔法カードで剣の絵が描かれていた。

 

名前は『閃光煌めく希望の大剣(シャイニング・ホープ・ソード)』。

 

桜の心に宿る希望の象徴である希望皇ホープONEの剣で、ネロ、ダ・ヴィンチちゃん、メディアの想いが込められた最高の作品である。

 

桜は開放召喚を解除して元の体に戻ると、カードを優しく持ち、抱きしめながら自分の想いを打ち明ける。

 

「……遊馬お兄ちゃん。私、守られてばかりで何も出来ない。魔術王に呪いをかけられた時も、呪いでずっと眠っていた時も……」

 

いつも元気で暖かくて優しく、そして……誰よりも強い光を放つ遊馬に大きな危機に迫った時、見守ることしか出来なかった。

 

魔術は大嫌いで二度と関わりたくないが、桜は遊馬の為に戦う決意を決めた。

 

自分の中に戦う力を貸してくれた英霊の想いを応える為、そして……。

 

「私……私は、遊馬お兄ちゃんが大好き!大好きな遊馬お兄ちゃんを守りたい!!だから、この剣が必要なの、お願い!!!」

 

誰よりも大好きな遊馬を守りたい為に桜は強くなりたいのだ。

 

桜の遊馬への強い想い……カオスを感じた遊馬は絶句した。

 

カルデアに来てから僅かな期間でここまで強い意志を示し、強くなりたいと願うほどまでに成長したことに驚きと喜びを感じる。

 

そして、自分をこれほどまでに慕ってくれる桜の想いに遊馬は仕方ないと苦笑を浮かべて膝を折って桜と目線を合わせ、頭を優しく撫でる。

 

「分かった。剣は取り上げない。その剣は桜ちゃんのものだ」

 

「本当に!?やったー!」

 

「ああ。でも、剣を使うときは必ずメドゥーサやアタランテとか、大人のサーヴァントが側にいる時じゃないとダメだぞ?危ないからな。約束出来るよな?」

 

「うん!約束する!お兄ちゃん、大好き!」

 

桜は嬉しさが感極まって遊馬に抱きついた。

 

「おっと!?桜ちゃん、あんまり無理するなよ?桜ちゃんに何かあったら雁夜さんと時臣さんに申し訳が立たないからな」

 

「大丈夫!私、お兄ちゃんを守れるぐらいに強くなるから!」

 

「はははっ、楽しみに待ってるよ!」

 

遊馬は抱きついた桜をそのまま立ち上がって抱き上げた。

 

妹分と深い絆を結べて嬉しい遊馬だったが、振り向くとそこには背筋が凍る光景が広がった。

 

「え、えっと……マシュさん?小鳥さん?」

 

それはいつも自分に笑顔を見せてくれるマシュと小鳥だが、何故か今は睨まれただけで凍るような絶対零度の冷たい表情と目線で見つめられていた。

 

「遊馬君……流石に6歳の少女に手を出したら犯罪ですよ?」

 

「遊馬の、ロリコンシスコン野郎!!」

 

「はいぃっ!??」

 

突然の性犯罪者扱いされ、耳を疑う遊馬。

 

「な、何で俺がロリコンでシスコンなんだよ!?」

 

「だって!他人から見たらもう性犯罪の事案よ、これは!」

 

「偏見はあるかもしれませんが、6歳の女の子はダメですよ!」

 

「何でさ!?」

 

思わずエミヤと同じ口癖を叫びながら驚く遊馬。

 

すると、桜は得意げな表情を浮かべて言う。

 

「だったら、私が遊馬お兄ちゃんのお嫁さんになる!」

 

「「「ええっ!??」」」

 

「私の十年後の姿は保証されているから、私が綺麗で美人の16歳になったらお兄ちゃんと結婚してお嫁さんになる!」

 

桜の十年後の姿は別世界の間桐桜であるパールヴァティーが証明しており、確かに美人でスタイルの良い女性へと成長している。

 

マシュと小鳥は想像した。

 

桜が16歳の時に遊馬は23歳……法律的に年齢は大丈夫だが、やはり犯罪の匂いがしてしまう。

 

「ダダダ、ダメです!それでは遊馬君が捕まってしまいます!」

 

「そうよ!バカの遊馬がロリコンで捕まったらたまったもんじゃないわ!」

 

「おいぃっ!?さっきから二人とも酷くねえか!?俺何か悪いことをしたのか!?」

 

「これは遊馬君が全面的に悪いのです!」

 

「遊馬の女誑し!現代の光源氏!」

 

「だから何でさぁあああああっ!??」

 

桜の告白からドタバタの喜劇が始まり、遊馬は頭を抱えながら叫び続けた。

 

「何じゃこれ?」

 

「おかあさん達、何をしているの?」

 

「さぁ……?」

 

「少女たちは気にすることではない。うむ、美味いな」

 

茨木童子とジャックとナーサリーは目の前で起きている光景に首を傾げ、ネロはジャックからパンケーキを貰いながら楽しそうに見つめていた。

 

「桜、本当に強くなったわね。私も負けてられないわ!」

 

凛は強くなった桜に負けないよう自分も努力しようと意気込む。

 

「やれやれ……」

 

アストラルは大きなため息をつき、腕を組んで宙に浮きながら横になる。

 

 

 

 




桜ちゃんが希望皇ホープONEの剣をゲットしました!
剣を作るならネロちゃま、そしてダ・ヴィンチちゃんとメディアにお願いしたらとんでもない剣が出来ましたね。

次回はいよいよ遊馬とアストラルの物語、遊戯王ZEXALの戦いををマシュ達サーヴァントやカルデア職員に見てもらいます。
ただ、戦いの映像は三部作にして、第一部は最初からDr.フェイカーとの決戦辺りまでを考えたいます。
理由としてはあまりにも話が長くなるので三つに分けることと、特異点毎にやった方が良いかなと思って決めました。
第二部は第五特異点後、第三部は第六特異点後を予定しております。
この話は執筆に時間がかかりますのでご了承ください。


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追憶の記憶 遊☆戯☆王ZEXAL 第一部
ナンバーズ112 遊☆戯☆王ZEXAL 第一部・第一章『運命の始まり、巡り会う希望と未来』


大変お待たせしました、遊戯王ZEXALの物語が始まります。
まずは第一部の第一章、ここから長い物語が始まります。
近所のレンタルビデオにZEXALのDVDが無いので書くのが大変です。
感想まとめや私の記憶を頼りに書いています。
間違っているところとかあったら遠慮なく指摘をお願いします。


突然だが、カルデアで誰もが最も疑問に思っていることがある。

 

それはカルデアの最後のマスター……九十九遊馬とその相棒のアストラル。

 

この世界とは似て非なる異世界から来た二人だが、謎があまりにも多すぎる。

 

世界滅亡の危機から人類と三つの世界を救った……言わば紛れも無い英雄。

 

二人はその戦いの内容を別に隠してないので聞かれれば普通に答えるのだが、それでも謎が多すぎる。

 

アストラルの記憶の欠片であり、希望皇ホープを始めとする強大な力を持つ謎のモンスター……『No.(ナンバーズ)』。

 

遊馬とアストラルの魂と肉体が一つに合体することで誕生し、奇跡を起こす希望の英雄……『ZEXAL』。

 

地球・またの名を『人間界』とは異なるランクアップした魂が向かう場所と言われる高次元異世界……『アストラル世界』と『バリアン世界』。

 

宇宙創造の力を秘め、あらゆる世界の過去・現在・未来の全ての運命を決めることができる神のカード……『ヌメロン・コード』。

 

アストラル世界を滅亡させるために人間界の長い歴史の裏から暗躍して自分の駒となる七人の皇を集め、最後には世界の全てを手に入れようとした異世界の最強最悪の邪神……『ドン・サウザンド』。

 

話の断片を聞くだけで神話・物語・歴史上の英霊……様々な経験が豊富なサーヴァント達や魔術師達も真っ青になり、人類滅亡どころか世界滅亡の危機を食い止める壮大な戦いを繰り広げた。

 

そして、最後は世界を救い、同時に失ったものを全て取り戻したらしいが、僅か13歳の少年が何故これほどまでに大きな戦いに巻き込まれたのか、どうやって最後まで戦い抜いたのか知りたがるのも無理はなかった。

 

そこで、ダ・ヴィンチちゃんは遊馬とアストラルに協力を依頼し、あるものを作成した。

 

それは……。

 

「それでは、我らがマスター!九十九遊馬君とアストラル君のノンフィクション映画を上映するよ!」

 

遊馬とアストラル……二人の戦いの歴史を映画にして上映することだった。

 

二人の壮絶なる戦いが全て明らかになると知り、マシュやオルガマリーやロマニ、カルデアの職員達とサーヴァント達も興味津々だった。

 

食堂にスクリーンを用意して一時的に映画館風に改造し、テーブルには映画館の定番とも言えるジュースとポップコーンが用意されている。

 

一番前の席には主演の遊馬とアストラルが座っており、その隣には小鳥とマシュとフォウが座っている。

 

「いやー、なんか照れるなぁ……」

 

「ああ。我々の戦いの記録とは言え、こうしてみんなに見せる映画になるとはな……」

 

「それでは上映するよ!タイトルは……『遊戯王ZEXAL』!」

 

ダ・ヴィンチちゃんが堂々と映画のタイトルを宣言すると遊馬とアストラルは首を傾げた。

 

「遊戯王……?」

 

「ダ・ヴィンチよ、それはどう言う意味だ?」

 

遊戯王と言う名前を聞いたことがない遊馬とアストラルに対し、ダ・ヴィンチちゃんはうーんと唸っていた。

 

「それがね、私は最初にタイトルはZEXALだけにしようとしたんだけど……何か、突然閃いたんだよね。遊戯王って名前が。そこで二つを組み合わせて遊戯王ZEXALってタイトルにしたんだ。語呂もいい感じだからね」

 

「遊戯王ZEXAL……遊戯か……なんか少し恐れ多いな」

 

「何故ですか?遊戯は遊びって意味ですが……」

 

「……我々の世界でデュエルモンスターズ界史上最強と呼ばれる伝説のデュエリストがいる。その名は……『武藤遊戯』だ」

 

「武藤、遊戯さん……その方とデュエルした事は……」

 

「俺が生まれるよりも前の、伝説の人だからな。流石にもう会えないよ」

 

「いつか彼とデュエルをしてみたいものだ。だが、それは不可能だ。流石にレイシフトでは私たちの世界の過去には行けないからな……」

 

「でも、もし……もしも叶うなら、アストラルと一緒に俺たちの全力を尽くしてデュエルしたいぜ!!」

 

「そうだな。その時は希望皇ホープ達と一緒に挑みたいものだ」

 

伝説のデュエリストとの夢のデュエル……それは遊馬とアストラルの叶う事は不可能と思われる儚い夢。

 

二人はその夢を心の奥にそっと閉まって置く。

 

しかし、そう遠くない未来……二人の夢が叶う時が訪れるのだった。

 

「ふっ……マスターよ、お前達の物語を見させてもらうぞ」

 

「今まで気になっていたマスターとアストラルの物語、楽しみですな!」

 

「遊馬様とアストラル様……一体どのような物語を紡いでいたのでしょうか」

 

作家系サーヴァントであるアンデルセン、シェイクスピア、紫式部の三人は紙とペンを手に映画が始まるのを今か今かと待っていた。

 

謎が多い遊馬とアストラルの物語……それを作家系サーヴァント達が協力して本をする予定である。

 

物語を忠実に再現する為に映画の内容をメモする。

 

そして、食堂の照明を消し、投影機でスクリーンに映像を映し出す。

 

まず遊馬かアストラルの姿が出ると思ったが、その予想に反してとんでもないものが映し出された。

 

それは鎖で雁字搦めに封鎖された怪物の顔を模した巨大な扉だった。

 

『この扉を開く者は、新たな力を得る。しかしその者はその代償として、一番大事なものを失う』

 

扉へ続く道は切り立った崖のようになっており、扉の周囲は壁に囲まれている。

 

その道に遊馬が立っており、皇の鍵を握りしめて不安そうにしていた。

 

その扉の契約……その中央には鍵穴が空いており、皇の鍵でしか扉を開くことができない。

 

しかし、遊馬はその扉を恐れて思わず下がってしまい、道が崩れてしまった。

 

「うわぁーっ!?また、あの夢……」

 

遊馬はハンモックから落ちて目が覚めてしまった。

 

その扉は遊馬がここ最近見ている謎の夢に出てきており、それが何を示しているのか分からなかった。

 

九十九遊馬、この春に中学生になった13歳の少年。

 

両親は冒険家だが、数年前に行方不明となり、姉と祖母の三人暮らしで生活していた。

 

遊馬には父との約束である大きな夢であるデュエルチャンピオンになる為に、日々色々な事に積極的にチャレンジをしている。

 

周りから無理と言われてもめげる事なくチャレンジをし続けていたが、失敗が続いていた。

 

そんなある日、遊馬は幼馴染の観月小鳥と共に小学校からの友人である武田鉄男とデュエルをしようとしたが、鉄男は一つ上の先輩で学園の札付きの不良であると同時に数々のデュエル大会の実力者、神代凌牙……通称・シャークとのデュエルに負けてデッキを奪われてしまった。

 

遊馬は鉄男のデッキを取り戻そうとデュエルを挑もうとしたが、デュエルチャンピオンを目指す遊馬の言葉に苛立つ凌牙は遊馬の一番大切なものを差し出せと言われ、両親の形見である皇の鍵を握った。

 

すると、凌牙は嘲笑うかのように遊馬から皇の鍵を奪い、踏みつけて砕いてしまったのだ。

 

遊馬は非道な行いをする凌牙を許せず、己のデッキを賭け、鉄男のデッキを取り戻すために凌牙にデュエルを挑んだ。

 

その夜、遊馬は凌牙に勝つためのデッキを必死に考えたがエースモンスターのモンスターエクシーズが存在しないデッキでは勝つ見込みは無い。

 

しかも、父が残したデッキのカードの内、使い道が全く分からない一枚のカード……『ダブル・アップ・チャンス』があったりと、四苦八苦しながら遊馬は持てる力を全て込めたデッキで翌日のデュエルに臨んだ。

 

果敢に攻める遊馬だが凌牙とのデュエルは劣勢を強いられた。

 

数々の大会で上位に名を連ねた凌牙の魚族・水族で構築されたデッキ、更には魔法カードを巧みに使うデュエルタクティクスは素晴らしく、あっという間に遊馬を追い詰めた。

 

しかし、遊馬は諦めずに立ち上がり、自分を奮い立たせた。

 

「いくら失敗したって、いくら笑われたって!今まで俺がかっとび続けてきたのは、俺は俺を信じてきたからだ!」

 

「諦めたら人の心は死んじゃうんだよ!!」

 

諦めたく無い、勝ちたい……!

 

そう思った遊馬の思いに応えるかのように、真っ二つに折られた皇の鍵が元通りに復活した。

 

「鍵が……」

 

『さぁ、扉を開けろ』

 

遊馬の前に夢で見た謎の扉が現れた。

 

『え?ここは!?』

 

「扉を開けろ。さすればお前は新たな力を手に入れる。だがその者は代償として、一番大事な物を失う」

 

力を得られるならばと遊馬は扉から言われた代償のことをすっかり忘れ、皇の鍵を鍵穴に差し込んで鍵を開けた。

 

扉を封じていた鎖を解き放ち、封印されていた扉が開かれた。

 

扉との契約が交わされると遊馬の周りに無数のカードが集まり、散らばると元のデュエルの場面に戻った。

 

すると、凌牙の体から邪悪なオーラを纏い、モンスターエクシーズをエクシーズ召喚するが……それは凌牙が今まで所有してなかったカード、『No.17 リバイス・ドラゴン』。

 

No.(ナンバーズ)』と呼ばれる謎のモンスターエクシーズだった。

 

そして、困惑する遊馬の隣には青白く輝く少年のような姿をした精霊が立っていた。

 

「立て、勝つぞ……!」

 

それが……遊馬の運命にして最高の相棒、アストラルとの最初の出会いだった。

 

突如、遊馬以外の誰にも見えず、しかも記憶喪失なアストラルが現れた事に驚愕する中、遊馬にとってもう一つの運命の出会いをする。

 

アストラルの全てを見通すような天才的なデュエルタクティクスに驚く中、遊馬のデッキケースが開くとそこには見たことないモンスターエクシーズが入っていた。

 

「「現れよ!『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

『ホォオオオープ!』

 

それこそ、遊馬とアストラルの最高の切り札にしてエースモンスター、世界を救う最後の希望……『No.39 希望皇ホープ』との出会いだった。

 

ナンバーズはナンバーズでしか戦闘破壊出来ないと言う共有の能力を持ち、希望皇ホープとリバイス・ドラゴンは激しい攻防を繰り広げた。

 

そして、絶体絶命のピンチに陥る中……遊馬は希望皇ホープの効果からこのデュエルを勝利に導く一発逆転のカードがデッキに宿っていることを思い出す。

 

「かっとビングだ、俺!ドロォー!!」

 

運命のドローが引き当てたカード……それは使い道がわからなかった『ダブル・アップ・チャンス』だった。

 

遊馬は希望皇ホープの攻撃無効能力を使い、そこからダブル・アップ・チャンスの発動条件を満たした。

 

今では遊馬とアストラルの必勝コンボとも言える、希望皇ホープとダブル・アップ・チャンスの攻撃力2倍の一撃でリバイス・ドラゴンを斬り裂き、遊馬とアストラルは絶望的状況からデュエルに見事勝利した。

 

遊馬は鉄男のデッキ、アストラルはリバイス・ドラゴンを取り戻し、凌牙は遊馬を認めて立ち去っていった。

 

これが遊馬とアストラルの最初の出会いで始まりを告げる戦いだった。

 

遊馬は世界中に散らばってしまったアストラルの記憶の欠片……所有者の心を写し、心の闇や欲望を増幅させる特殊な力を持つ100枚のモンスターエクシーズ……『No.(ナンバーズ)』を回収する戦いに巻き込まれてしまった。

 

しかし、遊馬とアストラルがナンバーズを賭けたデュエルに敗北すれば、アストラルは消滅する。

 

そんな大きなリスクを背負いながら、遊馬はアストラルと共にナンバーズを回収する為に様々なデュエリストとデュエルを繰り広げる。

 

そんな奇妙な生活が始まる中、様々な謎が発見された。

 

それは遊馬の両親の形見の品である皇の鍵の中にはアストラルの仮の住居のようにいつでも入り込むことが出来、更にはナンバーズを納める事が出来る謎の飛行船が眠っていた。

 

遊馬とアストラルが出会ってから徐々にナンバーズを賭けたデュエルに巻き込まれていった。

 

学園の先生、有名人、街の不良……様々な相手とデュエルをしていき、勝利を収めて少しずつナンバーズを回収していった。

 

しかし、どのデュエルもどれも順調にとはいかなかった。

 

遊馬の心が未熟故に希望皇ホープを使って街の不良とつるむようになった凌牙を失望させた。

 

過去のトラウマから負けることを恐れている凌牙……そんな凌牙にナンバーズに取り憑かれた双子のデュエリスト達は嘲笑うが、それを遊馬は激怒した。

 

「笑うなあぁぁぁ!何がおかしいんだ……!負けるのが怖くて、何がおかしいんだ!!」

 

「もう絶対にデュエルだけには、嘘をつきたくないって!シャークだってきっと同じだ。だからシャークのデュエルは、本物なんだ!!」

 

「相手がどんな卑怯な手を使っても、俺たちは正々堂々、戦って勝つ!!」

 

遊馬は凌牙の強力な力を持つナンバーズをも超える巧みなデュエルタクティクスに遊馬は憧れ、尊敬している。

 

遊馬の熱い心に凌牙の心は突き動かされ、新たなカードを託し、希望皇ホープと凌牙のエースモンスター、ブラックレイ・ランサーの力を合わせて見事な勝利を飾った。

 

そして、遊馬とアストラルの性格や価値観の違いからぶつかり合いながらも少しずつ絆を深めていた。

 

そんな中……遊馬とアストラルに最大の敵が現れた。

 

それは、遊馬とアストラル以外にナンバーズを回収する者がいた。

 

降りしきる雨の中、街でトラックに轢かれそうになった小鳥を助けようと遊馬が飛び出した瞬間……世界の時が止まり、その人物が現れた。

 

ナンバーズを狩る者……ナンバーズ・ハンター……天城カイト。

 

オービタル7と言う人工知能を搭載した多変形をすることが出来るロボットを従えて現れ、アストラルの記憶の欠片であるナンバーズを狙う。

 

デュエルアンカーと呼ばれる赤い光線の糸で手首を繋ぎ、強制的に遊馬にデュエルを行わせると、独自に回収した複数のナンバーズを遊馬とアストラル以上に巧みに召喚して操る。

 

そして……モンスターエクシーズキラーとも呼べるカイトの最強のドラゴンを召喚した。

 

「闇に輝く銀河よ、希望の光となって我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!!現れよ、『銀河眼の光子竜』!!!」

 

銀河眼の光子竜……モンスターエクシーズの力の源であるオーバーレイ・ユニットを消し去る力を持つ恐ろしいドラゴンである。

 

「あいつが、銀河眼の光子竜の所有者……」

 

レティシアは本来の銀河眼の光子竜の所有者であるカイトの戦いを見てその実力に驚きと同時に思わず感心してしまった。

 

ナンバーズ・ハンターであるカイトはこれまで多くのナンバーズを回収してきたが、それはアストラルの回収方法とは全く別物だった。

 

アストラルは遊馬がデュエルで勝利した相手に何の影響も与えずに回収するが、カイトは特殊な科学技術による強引な回収で相手の魂ごとナンバーズを奪うのだった。

 

魂を奪われたらどうなるかわからない……少なくともまともに生きられないのは確かだった。

 

遊馬は初めて死への恐怖を抱いたが、アストラルと共に果敢に攻めて最後までカイトに勝つ手を打ち続けた。

 

しかし、カイトはそれすら上回る戦術を繰り出し、遊馬とアストラルは敗北するかに見えた……だが、カイトは突然何か緊急事態の連絡を受け、デュエルを中断してその場から逃走してしまった。

 

初めて感じた死への恐怖、心に深く刻まれた忘れることのできない大敗……それらが遊馬にこれまでに無いほどの大きな絶望を与え、雨の中で崩れ落ちた。

 

カイトの実質的な敗北から数日……遊馬とアストラルは深く落ち込んでいた。

 

ナンバーズを全て集める以上、それを狙うカイトとの戦いは避けられない。

 

このままではいずれ必ず負けてしまう……そんな遊馬の不安に気付いた祖母の春は知人に野菜を届けて欲しいとお使いを頼み、遊馬は大量の野菜を持ってハートランドシティの外れにある山に向かった。

 

そこは『決闘庵』と呼ばれるデュエルの修行場でそこの主人・三沢六十郎は春の知人で、デュエルモンスターズに名高い伝説のモンスターの木像が並んでいた。

 

木像は六十郎の弟子が旅立つごとに彫って作ったもので、遊馬と六十郎は木像を使った特別ルールのデュエルを行う。

 

遊馬はこのデュエルでモンスターの恐怖を感じながら負けてしまった。

 

六十郎は遊馬に対して優しく諭した。

 

デュエリストがモンスターの想いを知り、それに応えようとする気持ちがモンスターを動かす。

 

また、モンスターも同じように恐怖を感じ、それを乗り越えようとしている。

 

六十郎は遊馬にデュエルの……モンスターとの絆の大切さを教え、遊馬はその教えに感銘を受けた。

 

決闘庵で一晩泊まり、遊馬は朝から木像を布で磨いていると、忍者の姿をしたモンスターの木像が真っ二つに斬られたような跡を見つけた。

 

そこに六十郎のかつての弟子で、強さを追い求めるあまりに道を外れてしまい破門されてしまった闇川が決闘庵の秘蔵のデッキを狙って現れた。

 

遊馬は六十郎の弟子として名乗り、闇川にデュエルを挑む。

 

闇と力を求め、仲間を犠牲にする闇川のデュエルと新たなナンバーズの力に押されながらも遊馬はモンスターとの絆を貫く。

 

そして、モンスターとの絆が一つに重なり、新たな一歩を踏み出した遊馬は希望皇ホープをエクシーズ召喚する。

 

希望皇ホープの光の剣で闇川を倒してデュエルに勝利し、遊馬の真っ直ぐで純粋な想いに遂に闇川の心に宿る闇を打ち払い、改めて六十郎の弟子として修行をし直すことにした。

 

六十郎は遊馬の立派な成長を見届け、決闘庵の秘蔵のデッキを与え、これで成長した遊馬に新たな仲間のモンスター達が増える事となった。

 

決闘庵の出来事を経てカイトへのトラウマを克服した遊馬に対し、アストラルは未だにカイトへのトラウマが残っていた。

 

そんなある日、遊馬は小鳥や鉄男を含むクラスメイトの仲間達からナンバーズ所持者が次々と襲われる事件が起きていると聞かされた。

 

遊馬はみんなを危険な目に合わせないようにほとんど説明をしなかったが、小鳥達はナンバーズの事を知るために『ナンバーズ・クラブ』を結成し、ナンバーズについて調べ始めた。

 

ナンバーズについて知るために不気味な占いの館へ向かうが、それは罠だった。

 

占いの館の主人、ジンは実はナンバーズ・ハンターで遊馬とアストラルを誘き出す為に小鳥達を捕らえて人質にしたのだ。

 

間一髪脱出したキャッシーことキャットちゃんは遊馬に助けを求め、遊馬はすぐに助けに行こうとした。

 

しかし、アストラルは勝ち目のないデュエルをするべきではないと小鳥達を見捨てろと言った。

 

遊馬は激怒してアストラルを殴るが、精霊で霊体のアストラルを殴れるわけがなく、拳がすり抜けてしまう。

 

遊馬は小鳥達を救う為にアストラルの力を借りないと言い、ジンの元へ向かう。

 

ジンはカイトを崇拝する自称ナンバーズ・ハンターで遊馬とアストラルのナンバーズを狙う。

 

相手の手札やセットされているカードを特殊技能によって覗き見ると言う卑怯な手を使いながら、フィールドを支配する力を持つ『No.16 色の支配者 ショック・ルーラー』を召喚した。

 

ショック・ルーラーはかなり強力な力を持つナンバーズだが、遊馬は希望皇ホープと決闘庵秘蔵のデッキで新たに加わった仲間達の力で果敢に攻めた。

 

しかし、ジンは尽かさず相手のモンスターを洗脳して支配する『No.11 ビッグ・アイ』を召喚し、希望皇ホープを洗脳して圧倒的な不利な状況に陥ってしまった。

 

ジンは全てのナンバーズを差し出せば仲間を助けると持ちかけ、アストラルはそれ受け入れて諦めようとした。

 

だが、遊馬はそれに対し、怒りを露わにして今の自分の気持ちをアストラルにぶつけた。

 

「俺は今まで、デュエルでたくさんの奴らと闘ってきた。そりゃ負けることもあったけど、でも……一度デュエルした奴はみんな仲間なんだ!その仲間を、見捨てるわけにはいかねえんだよ!」

 

「しかし……」

 

「まだわからねえのか!?お前は俺の…大切な仲間なんだよ!アストラル!!」

 

遊馬はアストラルをただの同居人としてではなく、一人の大切な仲間として認めた。

 

その言葉と想いがアストラルの心に響き、その心に一つの感情が生まれた。

 

「私は君と……君の仲間の為に、勝ちたい!」

 

アストラルの失われた自らの記憶のためではなく、大切な仲間の為に勝ちたいと言う強い気持ち。

 

その気持ちに反応するかのように、皇の鍵の中に眠る飛行船が起動し、先端から光線を放ってアストラルに直撃した。

 

アストラルの姿が強い光を放ち、新たな力を解放した。

 

遊馬のエクストラデッキに新たなカードが生み出され、アストラルと共にそのカードを使う。

 

「「カオス・エクシーズ・チェンジ!現れよ、CNo.39!希望の力、混沌を光に変える使者!『希望皇ホープレイ』!!」」

 

守りの力を持つ希望皇ホープからまるでその力と姿を反転したような、攻めの力を持つ希望皇ホープレイへと進化した。

 

それはアストラルの誰かの為に勝ちたいと言う一つの欲望から生まれた大いなる力。

 

希望皇ホープレイの力でビッグ・アイを斬り裂き、大逆転を決めて勝利を挙げた。

 

「遊馬……ありがとう、私を仲間と認めてくれて」

 

アストラルは遊馬との間に生まれた確かな強い絆。

 

それは奇妙な人間と精霊の関係から、絆で結ばれた仲間としての関係となった。

 

ジンとの戦いから数日後、遊馬の学校で授業参観が行われることとなり、アストラルは遊馬の両親について尋ねた。

 

遊馬の両親、九十九一馬と九十九未来は冒険家夫婦で世界を股にかけている。

 

一馬は一人息子の遊馬を大切にしており、遊馬を冒険の旅に連れて行った。

 

「無理だよ!こんなの登れっこない!」

 

「かっとビングだ!遊馬!」

 

断崖絶壁の山に命綱無しにロッククライミングをしている遊馬と一馬。

 

(((優しそうな顔をして子供になんて恐ろしい事を……!?)))

 

とても小学生の少年が登るようなものではなく、あまりにも過酷な事をさせる一馬にとあるサーヴァント以外のみんなは戦慄した。

 

「す、素晴らしい……!あれほどの崖を親子で共に挑むとは……!!」

 

そのとあるサーヴァントとはスパルタの語源ともなったレオニダスで一馬の見事な鍛え抜かれた筋肉と、親子で共に挑むスパルタと言っても過言ではない崖登りに感動して涙を流していた。

 

父の一馬を慕っていた明里はそんな遊馬に嫉妬して不貞腐れ、母の未来が慰めているほどだった。

 

遊馬はデュエルチャンピオンを目指していたがそのことを同級生に馬鹿にされて自信を失っていた。

 

そんな遊馬を一馬は男同士の話をする為に冒険に連れて行き、崖を登って山の頂上でキャンプする。

 

山の上から見る満天の星空はとても美しく、一馬は自信を無くしていた遊馬を全力で応援した。

 

「遊馬!常にチャレンジしろ!それがお前の心をいつも奮い立たせる!!」

 

それが一馬から遊馬へと教えた信条……『かっとビング』。

 

それが今の遊馬の心を形作り、多くの奇跡を生み出し、多くの人々を救う事となった原点でも言えるシーンだった。

 

「本当に父から愛されているのだな、ユウマ……だからこそ、伸び伸びと純粋に成長できたのだな……」

 

父である一馬のことが大好きで尊敬していると言う遊馬の言葉にアタランテはとても納得することが出来た。

 

そして、遊馬達に転機の時が訪れた。

 

それは一馬と未来は冒険で雪山へ向かうが、猛吹雪で状況は最悪となり、更には一馬は巨大なクレバスに落ちてしまう。

 

ロープで体を繋いでいた未来は一馬を引き上げようとしたが、一馬は未来を守る為に自らロープを切ってクレバスの底へと落ちてしまう。

 

クレバスに落ちてしまっては助かる見込みは無い……ところが、事故から一週間後に一馬はあちこちを骨折するほどの大怪我をしたが、奇跡的に生還した。

 

無事に家族の元へ戻った一馬の手には……何処で手に入れたのか不明な皇の鍵が握られていた。

 

多次元世界……異世界の存在を信じていた一馬の話を遊馬は信じていなかったが、奇跡的に生還し、皇の鍵を手に入れた一馬を見てある一つの結論に辿り着いた。

 

それは一馬は異世界の扉を見つけて異世界へ向かったと……。

 

そして、遊馬はデュエルチャンピオンの夢を同級生に虐められ、馬鹿にされている時に一馬が現れた。

 

「遊馬!その皇の鍵がお前に力を与えてくれる!新たな一歩を踏みだぜ、遊馬!」

 

一馬は遊馬に皇の鍵を渡し、遊馬は皇の鍵を首にかける。

 

不思議と一馬の言う通り、皇の鍵から力を与えてくれるような気持ちがし、一馬から受け継いだチャレンジ精神……『かっとビング』が遊馬の心へと強く宿る。

 

「かっとビングだ!俺!!」

 

こうして遊馬はデュエルチャンピオンを目指し、かっとビングでどんな事にも勇気を持ってチャレンジをするようになったのだ。

 

しかし、その直後に一馬と未来は行方不明になってしまい、遊馬は寂しい日々を過ごす事になるのだった。

 

その話を聞き、アストラルは一馬と未来の謎の行方不明はアストラル世界と何か関係があるのかと考えた。

 

一馬が手に入れ、遊馬に託された皇の鍵はアストラルが内部に自由に入れることと、ナンバーズを納める事ができる謎の飛行船がある。

 

十中八九皇の鍵はアストラル世界に関係する品物である。

 

しかし、自分自身の記憶が失われていることと、あまりにも九十九家とアストラル世界関連の情報が少ないのでアストラルはそれ以上考えるのをやめた。

 

遊馬は両親がいなくて寂しい思いをしているが、それでも姉の明里と祖母の春は遊馬のことを大切に思っている。

 

更には小鳥や鉄男など遊馬の友達もいる。

 

アストラルは遊馬は一人ではない、みんなから愛されていると感じるのだった。

 

カイトへのトラウマを克服し、新たなデッキを組み、希望皇ホープレイを手に入れた遊馬は意気揚々とナンバーズを持つデュエリストとデュエルをする。

 

しかし、そのナンバーズは効果を使う間も無く弱い謎のモンスターで難なく倒したが、調子に乗っていると思った遊馬に対して注意した鉄男と喧嘩してしまった。

 

喧嘩の際に鉄男は遊馬の皇の鍵の紐を切ってしまい、それを狙ったかのようにアストラルの中から黒い影が現れた。

 

それはナンバーズでも特に強い自我を持つ存在……No.96だった。

 

No.96は黒いアストラルの姿をし、遊馬とアストラルを捕らえて取り込もうとしていた。

 

とっさに鉄男に希望皇ホープを渡し、落ちた皇の鍵を首にかけ、欲望を暴走を抑える事ができた。

 

鉄男は希望皇ホープを召喚し、No.96の化身……『No.96 ブラック・ミスト』を倒し、呪縛から解放された遊馬とアストラルは無事にNo.96を飛行船の中に封印する事ができた。

 

ナンバーズを巡る戦いが少しずつ過激になる中、悪用されそうになったハートランドシティのお掃除ロボット『オボット』を『オボミ』と名付けられ、ひょんな事から九十九家に居候となった。

 

遊馬には辛辣な言葉を使うが、何だかんだで互いに家族と思っており、オボミは特に春と仲良くなり積極的に九十九家の手伝いをしている。

 

アストラルの記憶の欠片であるナンバーズにも謎が出てくる中……ナンバーズ・ハンターのカイトが動き出した。

 

遊馬が学校の水泳の授業で危ないと注意され、いつも常に身につけている皇の鍵を外して更衣室に置いていた。

 

アストラルは普段皇の鍵の中で休んでいるか何か考え事をしている事が多いので、この時も皇の鍵の中にいた。

 

するとここにカイトとオービタル7が現れて皇の鍵を盗みに来た。

 

間一髪で凌牙は遊馬の為に皇の鍵を奪い、遊馬への借りを返す為にカイトとデュエルをする。

 

ナンバーズを持たない凌牙は予めデッキに仕込んでおいたモンスターのコントロールを奪うカードを使ってカイトが召喚したナンバーズを奪ったが、『No.30 破滅のアシッド・ゴーレム』は自滅のナンバーズであり、ライフを大幅に失って逆に凌牙の形勢が不利になってしまった。

 

そして、カイトは圧倒的な力で凌牙を倒し、そのまま凌牙の魂と皇の鍵を奪ってしまったのだ。

 

皇の鍵が遊馬の手から離れるという異常事態に謎の声がアストラルに語りかけた。

 

『来たるべき時が満ちる時、ZEXALの力を手に入れるのだ。全ての闇を光に変えるその力……ZEXAL……』

 

ZEXAL。

 

それが何の力か分からず困惑していると、皇の鍵の内部にカイトが現れた。

 

カイトはオービタル7の動力源である謎の鉱石『バリアライト』の力を使い、皇の鍵の内部へと侵入したのだ。

 

アストラルとカイトは互いにナンバーズを求める者同士、譲れない思いがあった。

 

アストラルは失った記憶の欠片を集める為、カイトはアストラル世界とナンバーズ、そして……『バリアン世界』を知る為だった。

 

バリアン世界と言う謎のキーワードがアストラルの記憶に刻まれる中、アストラルとカイトのデュエルが始まった。

 

アストラルは遊馬の持つデッキを投影してデュエルディスクを左手首に作り出してセットしてデュエルを行う。

 

守りを固めるデュエルを行うアストラルだが、カイトはアストラルの先を読むデュエルを行い、アストラルはカイトの実力に改めて感嘆した。

 

魂が込められたカイトのデュエルにアストラルはカイトが遊馬と同じものを持っていると感じ、それを指摘した。

 

遊馬の心の奥にあるのは両親を失った悲しみを抱きながらも、両親の教えであるかっとビングを信じて生きて行こうと足掻きもがいていること。

 

しかし、カイトは自分には両親がなく、いるのは弟の『ハルト』だけだと怒りを露わにした。

 

一方、遊馬は奪われた皇の鍵と中にいるアストラルと凌牙の魂を取り戻す為に仲間達やかつてナンバーズによって暴走した担任の右京の力を借りてカイトの潜伏先の研究所を突き止めた。

 

しかし、研究所の扉は開かず、遊馬のデッキが輝きを放つと、遊馬はアストラルがピンチに陥っていると分かった。

 

アストラルも凌牙も救えない……遊馬はいつになく弱気になって諦めかけていると、側にいた小鳥はある決心をする。

 

パチーン!!

 

小鳥は遊馬の弱気な心に活を入れる為に、遊馬の頰を思いっきり引っ叩いた。

 

「遊馬!しっかりしなさい!あなたがダメになってどうするの!!」

 

小鳥の思いが込められた渾身のビンタは遊馬の心に響き、遊馬は立ち上がることが出来た。

 

このシーンに遊馬に好意を抱いている乙女達はみんな思った。

 

「「「やっぱり小鳥(さん)は私達の最大のライバル……」」」

 

この頃から既に小鳥は遊馬にとってはアストラルに並ぶ心の支えであり、立ち上がらせる起爆剤でもあった。

 

いつもの調子が戻った遊馬は立ち上がり、研究所の扉は右京が得意のコンピュータて技術で作り出したコンピューターウイルスでセキュリティを解除して扉を開けた。

 

ところが、研究所に入るなり、カイトの邪魔をさせないとオービタル7の兄弟機である大きなゴリラと蜘蛛のロボットが襲いかかってきた。

 

小鳥達はロボットの足止めをして遊馬を先に行かせる。

 

再び遊馬のデッキが輝き、アストラルの危機を感じ取ると……。

 

『お前との契約を続行する。』

 

「契約?」

 

『この扉を開く者は新たなる力を得る。しかしその者は代償として一番大事なものを失う。だが、その契約を邪魔する者がいる。』

 

「え?」

 

『お前の力でそれを排除しろ。』

 

「っ……!」

 

『この扉の中に飛び込み、ZEXALの力を手にしろ。お前にその覚悟があるならば……!』

 

またしても謎の扉が遊馬の目の前に出現した。

 

カイトがアストラルを倒そうとしているので、扉が遊馬に新たな力を与えようとしていた。

 

しかし、その代償として遊馬の一番大事なものを失ってしまう……。

 

扉の幻影が消え、遊馬が奥に進むとオービタル7が現れてボディを変形させて戦闘形態となり、危ないドリルを回して本気で遊馬を殺しにかかる。

 

「ふーむ……あのロボットは人工知能内蔵であれだけ表情が豊か、それに加えてあの多種多様の変形機能……是非とも分解して調べてみたいものだね!」

 

ダ・ヴィンチちゃんはオービタル7の意外なハイスペックに興味を抱き、人間界に行った暁には必ず分解して調べたいと思うのだった。

 

オービタル7はドリルを壁にうっかり深く突き刺してしまい、動けなくなってしまった。

 

オービタルが動けない間に遊馬は奥の研究室へと向かう。

 

一方、アストラルは希望皇ホープを進化させ、ナンバーズの新たな力、カオスナンバーズの希望皇ホープレイにカイトは驚愕していた。

 

希望皇ホープレイで銀河眼の光子竜を斬り裂き、アストラルは倒したと思ったがカイトのセットカードによって銀河眼の光子竜は守られ、倒しきれなかった。

 

アストラルはこのままでは自分は負ける……負けたらカイトにナンバーズを全て奪われ、自分は消滅する。

 

「遊馬……お別れだ……」

 

アストラルはホープレイや自分のプレイイングですらカイトに及ばず、悲しみと悔しさを胸に秘めて遊馬への別れを覚悟した。

 

すると、アストラルの金色の双眸から悲しみの涙が溢れた。

 

アストラルは初めて自分が流した涙に困惑した。

 

遊馬は研究室に乗り込むと、何かの装置によって皇の鍵が宙に浮かされて膨大なエネルギーが送り込まれており、遊馬は謎の写真を見つけた。

 

それは優しそうな表情をするカイトがブランコに乗った歳下の少年と一緒に楽しそうに写っているものだった。

 

その直後に皇の鍵が光り輝くと注がれているエネルギーを弾き飛ばし、遊馬の手元に戻った。

 

遊馬が取り戻した皇の鍵を首にかけると、畳み掛けるようにまたしても扉が現れた。

 

『さぁ、扉の中へ飛び込め。この扉の中へ飛び込み、新たなる力を手に入れろ。だが、その者は代償として、一番大事なものを失う。お前にその覚悟があるか……?』

 

扉から遊馬を試すような言葉を紡ぎ、開いた扉の先は崖となっており、その崖の先にはアストラルとカイトがいたのだ。

 

遊馬とアストラルは離れていたが、扉を通じて互いに声が届いており、アストラルは既にデュエルを諦めていたが、遊馬はそれを認めなかった。

 

「俺とお前は一心同体だろ!?」

 

遊馬にとってアストラルはただの仲間ではなく、一心同体と呼べるほどの大切な存在となっていた。

 

だからこそ、アストラルを助けたい……そんな遊馬はある可能性に賭けた。

 

「ZEXALだ!」

 

ZEXAL……それはアストラルの世界を救うとされる奇跡の力。

 

しかし、それを手に入れるためには遊馬の一番大事なものを失うことになる。

 

アストラルの為に既に覚悟を決めた遊馬はその場から数歩下がって走る体勢を取る。

 

「手に入れるぜ、アストラル!お前を助けられるなら、どんな代償を払っても!超かっとビングだ!俺ぇえええっ!!」

 

勇気を持って走り出して扉の奥に入り、崖を飛び降りて真っ逆さまに落ちる。

 

遊馬のかっとビングが諦めていたアストラルの心を大きく奮い立たせる。

 

「遊馬……私のターン!!!私は、私自身と遊馬でオーバーレイ・ネットワークを構築!遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!来い、遊馬!!」

 

「かっとビングだぜ、俺!!」

 

アストラルは光を纏って飛び上がり、扉から飛び降りて落下して来て同じく光を纏った遊馬と合流する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

二つの光は二重螺旋のように混ざり合い、一つに合体して巨大な『X』の文字を描き、落下して閃光を放つ。

 

二人の肉体と魂が一つに重なり、魂のエクシーズ召喚……ZEXALへと合体した。

 

「どう言う……事だ……!?」

 

遊馬とアストラルがZEXALへと合体したことにカイトは驚愕したが、ZEXALのライフポイントは僅か……このままでは勝つことは出来ない。

 

遊馬はこの状況でどうやって勝てば良いのか悩むが、アストラルはZEXALの持つ力を理解し、その力を使う。

 

「勝つぞ、遊馬。このドローに全てを賭けるんだ!」

 

「えっ?」

 

「最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードさえもデュエリストが創造する!集中しろ、遊馬!」

 

「おう……行くぜ、アストラル!」

 

ZEXALは右手を輝かせ、遊馬とアストラルの心を一つにし、全ての力を込めて数多の光を集める。

 

「「全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!!」」

 

ZEXALはシャイニング・ドローでデッキトップのカードを創造し、新たなカードを手にする。

 

「「現れよ、『ZW - 一角獣皇槍』!!」」

 

空の果てから現れた一角獣皇槍はホープレイの装備カードとなり、攻撃力を大幅に上昇させると同時に銀河眼の光子竜のモンスターエクシーズキラーとしての効果を封じた。

 

「「行け、ZW!ユニコーン・スラッシュ!!」」

 

一撃必殺の力を与えられたホープレイは巨大な槍へと姿を変えた一角獣皇槍を投げ飛ばし、銀河眼の光子竜を貫いた。

 

しかし、カイトは互いに効果ダメージを与える罠カードを発動し、相打ちとなり互いのライフポイントがゼロとなって引き分けとなってしまった。

 

互いに吹き飛ばされ、遊馬はカイトに対して問う、何故こんな悪魔みたいなことをするのか?と。

 

カイトの銀河眼の光子竜を中心とした洗練されたフォトンデッキとデュエルタクティクスは敵ながら素晴らしいと思えるほどだ。

 

それが何故ナンバーズ・ハンターとなってナンバーズを狩り、所有者の魂ごと奪うようになってしまったのか……。

 

遊馬の問いにカイトは背を向けて静かに答えた。

 

「俺は、弟の為に悪魔に魂を売った……」

 

それは写真に写っていたカイトと一緒にいた少年……弟の為だった。

 

カイトは奪った凌牙の魂を返し、先に皇の鍵から脱出した。

 

研究所は皇の鍵を調べるための膨大なエネルギーを使用したため、負荷が限界を越えて掛かってしまった。

 

そして、エネルギーが臨界点を越えて研究所が爆発してしまった。

 

研究所が爆発し、先に脱出していた小鳥達は遊馬が助からないかもしれないと、小鳥は涙を流して遊馬の名を叫んだ。

 

すると……。

 

「へへっ……おっす!小鳥!」

 

瓦礫の中から皇の鍵を首にかけた遊馬が多少体と服が汚れながらも怪我一つなく出て来た。

 

小鳥達は遊馬の無事を喜んでいると、そこにオービタル7を飛行形態にしたカイトが見下ろしていた。

 

「ワールドデュエルカーニバルで決着をつける!!」

 

「カイト……!」

 

カイトはそう言い残して飛び去り、遊馬はその後ろ姿を見つめた。

 

ワールドデュエルカーニバルは近日にハートランドシティで行われる大規模なデュエルの世界大会。

 

遊馬とアストラルのナンバーズを巡る大きな戦いはまだ始まったばかりだった。

 

二人はZEXALと言う奇跡の力を手にし、大きな絆を深め、この力で共にこの戦いを勝ち抜くと誓う。

 

 

 




今回の話でみんなの感想やコメントを考えて載せます。

マシュ「遊馬君とアストラルさんの二人の戦い、まだ始まったばかりでまだまだ前途多難だと感じました。しかし、この二人ならなんとか出来ると不思議な安心感がありました」

ジャンヌ「最初は合わなかった二人が徐々に絆を深めていく姿が素敵でした!」

レティシア「初っ端から怒涛の展開が続いて頭が追いつかなくなりそうよ……」

清姫「旦那様の素敵な姿が見れてる幸せでしたが……アストラルさんや小鳥さんのイチャイチャしている光景を見せられるとムカムカします……」

ブーディカ「ユウマはやっぱりお父さんとお母さんがいなくなって寂しかったんだよね……でも、それを頑張って押し殺しているように見えたよ」

アタランテ「大好きな両親が消えて、あんな風に笑っているが、そこに至るまでどれほどの強い悲しみに耐えたのかのか想像もつかないな……」

ネロ「今の遊馬も良いが……幼き日の遊馬、とても麗しかったな!」

武蔵「そうだね!今の遊馬は13歳だから、あれは10歳ぐらいかな……?可愛くてヨダレが出そうだったよ……」

桜「お兄ちゃんとアストラルさんがこれからどんな戦いをするのかドキドキするよ」

ジャック「おかあさんのかっとビング……おかあさんのおとうさんから伝わったんだね」

アルトリア「マスターとアストラルの徐々に深まる二人の絆……私にはとても親近感がありました」

エミヤ「マスターの父との幼き日の約束……かっとビング。フッ、奇しくも親近感を覚えるな」

エドモン「皇の鍵と両親の行方不明、そしてアストラル……これは何か裏がありそうだな」

天草「天城カイト……彼からは大切な何かを成し遂げようとする不屈の意志を感じました」

次回はWDCの予選を書きます。
色々と破茶滅茶な展開やショッキングな展開があるので大変ですね。


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ナンバーズ113 遊☆戯☆王ZEXAL 第一部・第二章『夢への挑戦!激闘、ワールドデュエルカーニバル!』

皆さん、大変お待たせしました。
記憶編第2話、やっと投稿できました。
本当に書くことが多くて大変です。
次回は来月になるかもしれません……。

しかし、良いこともありました。
祝、ナンバーズ全種類判明!
後はドン・サウザンドのナンバーズだけですが……あれ、カード化できるのかな……?


カイトとの激闘から数日後……ハートランドシティではある話題で持ちきりだった。

 

それはハートランドシティ主催のデュエル大会……ワールド・デュエル・カーニバル、通称WDC。

 

一般人からプロまで世界中から大勢のデュエリストが集まり、参加条件を問わない。

 

優勝者にはWDCの初代デュエルチャンピオンの称号、ハートランドシティ遊園地の生涯無料パスポート、そしてハートランドの権力者であるMr.ハートランドからどんな願いも一つだけ叶えてもらう事が出来る。

 

鉄男達も今から楽しみで、もちろん遊馬も楽しみだったが……参加証でもあるハートピースが届かなかった。

 

それは何故かというと、遊馬はデュエリスト全員に向けた招待制だと思っていたのでうっかりしており、ハートランドのホームページで参加登録をしてなかったのだ。

 

しかも既に登録は終了しており、ショックを受けた遊馬は学園を飛び出した。

 

遊馬は全力疾走でハートランドシティを駆け抜け、中心地であるハートランドタワーへ向かう。

 

その後を気になった凌牙がバイクで追いかけた。

 

13歳とは思えない凄まじい速力にオルガマリーなど現代の人物達は思った。

 

(((オリンピックに出れば普通に優勝出来そう……)))

 

幼少期から活発で更には冒険家の一馬による冒険に連れて行って貰ってるので、身体能力は既に13歳の平均値を大きく超えている。

 

遊馬は凌牙と話をし、WDCに出るのかと尋ねたが、凌牙は出場する気はなく、自分なりにデュエルと向き合うと言った。

 

遊馬と出会った事で精神的に成長し、大きく変わった凌牙だった。

 

ハートランドタワーに到着した遊馬は頼み込むとMr.ハートランドが部下の二人と共に登場し、直談判したお陰もあってか無事に参加証のハートピースを手に入れることが出来た。

 

WDCはデュエルチャンピオンになるという一馬との大切な約束を果たすための大会。

 

しかし遊馬は、勝ちにこだわるつもりはなかった。

 

アストラルと出会った事でデュエルに対する想いに変化が生じていた。

 

アストラルに出会う前は負け続けていたが、デュエルを重ねる毎に強敵にも勝てるようになったが、同時に負けて失うものがあることを知った。

 

しかし、どんな時でもデュエルを嫌いになることはなかった。

 

遊馬は思ったのだ、デュエルに勝ちも負けも関係無い、デュエルとは繋がりなのだと。

 

もちろん、ナンバーズを賭けたデュエルはアストラルの命がかかっているので、当然勝利を目指し、アストラルの為なら何でもやるつもりで、カイトとの戦いでもその気持ちは変わらない。

 

アストラルは遊馬の考えには賛同は出来なかったが、デュエルには勝ち負けを越えたものがある……その先にもっと大事なものがあるのだという遊馬の言葉が、強く印象に残るのだった。

 

そして……数日後、遂にWDCが開幕する。

 

ハートランドシティには世界中のデュエリストが集結し、大幅に人口が増えて大規模な町興しにもなっていた。

 

WDCの予選は三日間行われ、参加証のハートピースを賭け合ってデュエルを行うバトルロイヤル形式でハートピースの欠片を5つ集め、完全なハート型にしなければならない。

 

しかし、ハートピースの欠片の形がそれぞれで違う為、同じ部位のハートピースを持っていても意味がなく、それぞれ別の部位を持つデュエリストと戦わなければ完成しないのだ。

 

遊馬は早速参加者のデュエリストとデュエルを行い、順調に勝利をしてハートピースを集めていく。

 

参加者にはナンバーズを所有していないデュエリストが多いので、遊馬はエースモンスターの希望皇ホープではなく決闘庵の秘蔵のデッキで追加した新たな仲間のモンスターエクシーズを駆使して勝利し、デュエリストとして確実に成長していた。

 

今回遊馬にはアストラルだけでなく、最早周囲から遊馬いるところに小鳥ありと言わんばかりに小鳥が側で応援しており、WDCのルールや注意点を教えていた。

 

すると突然、遊馬の命を狙う謎の少女が現れた。

 

その少女は飛行マシンに変形出来る大砲『フライングランチャー』で遊馬を砲撃でぶっ飛ばそうとした。

 

その際に遊馬は小鳥を庇って押し倒すようにして守ったり、手を引っ張ったりして一緒に逃げた。

 

その際にマシュ達は一瞬小鳥をギロリと睨みつけたが、小鳥は知らんぷりをする。

 

逃げた遊馬を付け狙うかのように少女はフライングランチャーを飛行形態にして飛びながら砲撃をし、下手したらテロリスト並みに砲撃で街を荒らしていった。

 

「街中であれほど派手にランチャーを撃つとは……やるな、あの娘」

 

キリツグは変な風にランチャーをぶっ放す少女を感心してしまう。

 

謎の少女から逃げる為に遊馬と小鳥は街を逃げ回ったが、逃走劇の末に遂に追い詰められてしまった。

 

その少女は神月アンナ。

 

数年前、遊馬と小鳥と同じ小学校のクラスメイトで別の小学校に転校してしまった。

 

どうやら遊馬に好意を抱いていたらしく、転校する前に告白しようとして遊馬を呼び出したらしいが、来なかったので告白出来なかった恨みから遊馬に復讐しようとしていた。

 

復讐しようとしたアンナに遊馬はデュエルを持ちかけ、アンティルールでアンナが勝てば遊馬を貰うと言うとんでもないデュエルが始まった。

 

高レベルモンスターから高ランクのモンスターエクシーズを繰り出すデュエルに遊馬は負けそうになったが、罠カードの組み合わせによるコンボ攻撃で見事に遊馬の逆転勝利を収めた。

 

悔しがるアンナだが、アンナが好意を抱いていたのは実は遊馬ではなかったのだ。

 

それはアンナの勘違いと言うか、人違いでアンナが好意を抱いていたのは遊馬ではなく同じクラスの別の少年で遊馬と名前が少し似ているだけで間違えてしまったと言う余りにもアホなオチだった。

 

しかもWDCの参加者ではないのでデュエルに勝利してもハートピースが貰えなかったので散々な遊馬だった。

 

だが、アストラルはアンナのド派手な攻撃を繰り出すデュエルには爽快感などあって感心していたので、またデュエルをしたいと思っていた。

 

ここまで色々なデュエリストとデュエルをしてきまが、未だにナンバーズを持つデュエリストと出会っていなかった。

 

そんな時に明里から連絡があり、チャーリーという男を捕まえておけと言うものだった。

 

明里には頭が上がらない遊馬は渋々了承すると、WDCには出ないと言っていた凌牙と遭遇した。

 

しかし、凌牙には事情があり、目的を果たしたらWDCを抜けるつもりらしい。

 

その事情とは、数年前に起きた全国大会での因縁の相手・Ⅳの存在だった。

 

かつてⅣは凌牙を罠にはめる為に凌牙の大切な家族を傷付け、今でも眠りについており、その借りを返すことが目的だったのだ。

 

凌牙は自分とは関わらないよう告げて去って行くのだった。

 

復讐の道へ走る凌牙に遊馬は想いを馳せる中、遊馬は明里の目的の人物、チャーリーを見つけた。

 

チャーリーは遊馬が明里の弟だと知るとデュエルを挑もうとするが、そこにWDC出場中のデュエリストの男が現れ、チャーリーがデュエリストだと思いデュエルを挑む。

 

ところが、チャーリーはWDCには参加しておらず、何と遊馬のハートピースを賭けてデュエルを始めることになった。

 

チャーリーは負けるかと思ったが、何とナンバーズの所有者で『No.7 ラッキー・ストライプ』を召喚した。

 

チャーリーはサイコロを使うギャンブルデッキで驚異の運で6を連続で叩き出し、勝利を収めた。

 

デュエルが終わると警察に囲まれるチャーリーだったが、ラッキー・ストライプを持つチャーリーは驚異的な運でその場から逃走し、更には吹き荒れた突風により多くのデュエリストのカードが奪われ、アストラルのナンバーズも一枚奪われてしまった。

 

チャーリーはその場から逃走してしまい、その直後に明里がバイクに乗って到着した。

 

チャーリーは一馬の大学の教え子で、一馬に憧れてトレジャーハンターとして世界を飛び回っているらしい。

 

奪われたナンバーズを取り戻す為、そしてチャーリーからラッキー・ストライプを回収するために遊馬達は捜索を開始するが手掛かりはない。

 

するとアストラルはチャーリーが何度も口癖にしていた「Life is Carnival」と言葉に、遊馬と以前モノレールに乗っていた時にその言葉を掲げる建物を見たという。

 

アストラルの言葉を頼りに、遊馬達はベイエリアへと向かう。

 

ベイエリアへ向かうモノレールの駅には、警察が集まっており、アストラルの読み通り、チャーリーはそこへ向かおうとしていたのだ。

 

ところが、モノレールは停止しており動かない状況。

 

チャーリーはまたもや完全に包囲されていたが、ラッキー・ストライプを掲げると激しい稲光が降り注がれ、何とモノレールは起動した。

 

モノレールはベイエリアに向けて走行を開始し、遊馬と小鳥は辛うじて乗り込み、車中でチャーリーと対峙することに。

 

現在、モノレールはコントロールセンターで制御が出来ていない。

 

それにより、モノレールは目的地まで一直線に向かい、その間にカードを賭けてデュエルしようと提案したチャーリーにナンバーズを回収するために遊馬とアストラルはそのデュエルに乗った。

 

しかし、二人がデュエルを行う場所はモノレールの車内ではなく、モノレールの上だった。

 

「一体何処でデュエルをしているのよあいつらは!?」

 

何で暴走するモノレールの上でデュエルをしているのか理解不能でレティシアは頭を抱えてツッコミを入れた。

 

何故あえて暴走するモノレールの上でデュエルをするのか……デュエリストは時としてあまりにも危険な舞台でデュエルをするものだが、今のレティシアはもちろん遊馬とアストラル以外誰も理解できる者はいない。

 

チャーリーは先ほどのデュエルと同じようにすぐさまラッキー・ストライプをエクシーズ召喚をする。

 

ラッキー・ストライプは所有者には運命すら味方する絶対的な強運を与えると言う強力な力を持つナンバーズだった。

 

それによってチャーリーは最早天文学的な数値の確率でサイコロの連続6の数字を出し、対戦者の遊馬の運を吸い取ってしまっているのだ。

 

アストラルはこれまでのチャーリーのサイコロの連続6の数字を出す計算をしており、その結果は遂に27万9936分の1を叩き出した。

 

「27万9936分の1……アストラルの計算能力も凄いけど、まさかあのナンバーズがそれほどの運を操作するなんて……」

 

オルガマリーはアストラルの計算能力に驚くと同時にラッキー・ストライプに運命を左右するほどの強運をもたらす力があるとは思いもよらず頭痛が襲ってきた。

 

「Life is Carnival……太陽が真っ二つにならない限り、俺の運は尽きない!!」

 

すると、チャーリーを追ってきた明里がバイクを乗ってラッキー・ストライプに関するある伝承を教えた。

 

「太陽が二つに別れし時、その力、風と共に去らん」

 

何のことだから全く分からない遊馬とアストラルで、チャーリーはラッキー・ストライプを持っている自分には勝てないと諦めさせようとしたが、遊馬はたとえ運がなくても諦めるつもりはなかった。

 

「運があろうと無かろうと、全ての力を出し切って戦う、それが俺のデュエルだ!俺はそう父ちゃんに教えてもらった!」

 

遊馬の諦めないかっとビングでデュエルを続けるが、希望皇ホープすらも奪われて絶体絶命の危機に陥る。

 

しかし、チャーリーが発動した『太陽の天秤』が逆転への答えとなった。

 

アストラルの指示で遊馬が発動した『剣の采配』で太陽の天秤を破壊すると、太陽が真っ二つに切り裂いた。

 

伝承通りに太陽を切り裂いたことでラッキー・ストライプの運の力が一気に無くなり、ライフを大幅に回復させるカードの効果も意味がなくなり、チャーリーも元のライフポイントとなってしまった。

 

遊馬とアストラルはこの瞬間に勝機を見出し、一気に攻める。

 

モンスターの洗脳を解除させる魔法カードで希望皇ホープを取り戻し、希望皇ホープレイに進化させた。

 

希望皇ホープレイの効果で攻撃力を上昇してラッキー・ストライプの攻撃力を下降させて攻撃し、一撃でチャーリーのライフポイントをゼロにした。

 

チャーリーを倒したが、モノレールは止まらずにそのまま終着駅の駅に突撃しようとした……その時だった。

 

「かっとビングよ、明里!」

 

明里は暴走するモノレールに自身が乗ってきたバイクを乗り捨ててぶつけ、その衝撃で無理矢理モノレールを止めた。

 

「「「ええええええーっ!??」」」

 

「一体何処の電車系アクション映画よ!??」

 

暴走する電車を止めるアクション映画みたいな展開に多くの者が声を上げて驚き、イシュタルが鋭いツッコミを入れた。

 

「物凄くアクティブな女性なのだな、マスターの姉は……」

 

常々遊馬は明里は恐ろしくて逆らえず、一番恐ろしい存在と言っていたのでエミヤは遠い目をしながらその意味がよく分かった。

 

モノレールが止まり、ラッキー・ストライプの強運を失い、全ての希望を失ったように崩れるチャーリーは何故こんなことをしたのか正直に話し出した。

 

チャーリーの知人の少女、まゆみは重い病気で手術を控えていたが難しい手術らしく、チャーリーはまゆみを助ける為に持ち主に強運をもたらすラッキー・ストライプを渡したかったのだ。

 

遊馬はそのまゆみを助ける為にアストラルを説得し、ラッキー・ストライプをまゆみに貸すことにした。

 

チャーリーはまゆみにラッキー・ストライプをお守りとして渡し、そして勇気のおまじない、かっとビングを教えた。

 

そして、後にまゆみは無事に手術は成功し、ラッキー・ストライプは無事にアストラルの元へと戻るのだった。

 

WDC二日目、連戦連勝中の遊馬は、残り二つのハートピースを集めるべく気合いを入れると、鉄男と等々力が嬉しそうにしていた。

 

それは極東チャンピオンのプロデュエリスト、Ⅳから直々にデュエルの誘いがあったのだ。

 

顔に大きな傷があるが、紳士的な態度から多くのファンがいるⅣ。

 

バトルロイヤルルールで鉄男と等々力と共にデュエルをすることになり、二人は果敢にⅣに自分のデュエルをする。

 

ところが、Ⅳの弟でアストルフォみたいに少女に近い顔を持つ美少年とも言うべき少年、IIIが現れ、デュエルの決着を急かすとⅣの表情と態度が凶悪に変わり、衝撃のエースモンスターを召喚する。

 

「現れろ、No.15!地獄からの使者、運命の糸を操る人形……『ギミック・パペット - ジャイアントキラー』!!」

 

Ⅳは何とナンバーズ使いでしかも遊馬やカイトのようにナンバーズに取り憑かれずに使用していた。

 

そして、ジャイアント・キラーは今まで見てきたどのナンバーズよりもあまりにも不気味で気色の悪いモンスターだった。

 

ジャイアント・キラーの登場に遊馬は思い出したかのように立ち上がって声を上げた。

 

「令呪によって命ずる!メドゥーサ!ブーディカ!アタランテ!急いでチビッ子達の目を塞いで!今から流れる映像はショッキングだから!!」

 

普段ほぼ全くと言って使っていない令呪を使い、メドゥーサは桜、ブーディカは凛、アタランテはジャックとナーサリーの目を命令通りに塞いだ。

 

何故遊馬がこんな命令を下したのか疑問だったが、その意味はすぐに分かった。

 

ジャイアント・キラーはモンスター破壊効果を持っているが、その破壊をする為の表現があまりにも恐ろしいのだ。

 

指から糸が放たれてモンスターを縛ると、胸部のローラーを開放し、そこにモンスターを引きずり込みながら粉砕して呑み込むのだ。

 

モンスターの破壊と言うよりも、言わば粉砕機によるモンスターを処刑するようなグロテスクな表現にマシュ達は顔を真っ青にし、血肉にも慣れているサーヴァントですら嫌な顔をするほどだった。

 

唯一の救いはまだ鉄男と等々力の出したモンスターエクシーズが人や動物の形をしていなかったことだった。

 

流石にあのグロテスクなシーンを桜たちが見たら完全にトラウマものになるので遊馬は令呪を使ってでも目を塞いだのだ。

 

まさに今のⅣの残虐な性格を表しているかのようなナンバーズで、ジャイアント・キラーは破壊したモンスターエクシーズの攻撃力分のダメージを相手に与えるので、その効果で鉄男と等々力に大ダメージを与える。

 

更にⅣは二人を追い詰めるためにコンボカードによって破壊したモンスターエクシーズを復活して再びジャイアント・キラーで破壊させ、ライフポイントがゼロになったにも関わらずファンサービスと称してダイレクトアタックを決めたのだ。

 

余りにも残虐過ぎるデュエルのやり方にレティシアは拳を震わせていた。

 

「何よアイツ……もうデュエル勝ったのに、そこまでする必要があるの……?しかも自分を慕ってくれたファンに対して……ふざけんじゃないわよ!!」

 

遊馬からデュエルの楽しさやそこから始まる大切な絆の繋がりを学んでいたレティシアにとってはⅣのデュエルは絶対に許せないもので、もしもその場にいたら全力で思いっきり殴り飛ばした後に旗でぶん殴りたい気持ちだった。

 

今のレティシアと同じように遊馬も友人二人を痛めつけられ、卑劣な態度に怒りを燃え上がらせてⅣにデュエルを申し込もうとしたその時にバイクに乗ったシャークが駆けつけた。

 

全国大会で起きた不正問題と、愛する妹を今も意識不明の事故への追いやった元凶……凌牙にとってⅣは憎むべき相手だった。

 

「ほぅ……あの少年、強い憎しみの力があるな。アヴェンジャーの素質があるな」

 

エドモンは凌牙の愛する妹を奪われた憎しみの心にニヤリと笑みを浮かべた。

 

今こそ凌牙は復讐を遂げようとするが、それを阻んだのはIIIだった。

 

IIIは自身と凌牙をデュエルアンカーで体が繋ぎ、二人はデュエルが終わるまで離れることが出来なくなってしまった。

 

ⅣはIIIに後を託してその場から消え、凌牙とIIIのデュエルが始めた。

 

IIIは古代文明の謎の遺産、オーパーツをモチーフにした『先史遺産』モンスターを使い、Ⅳ同様にナンバーズを召喚したが……。

 

「現れろ、No.32!最強最大の牙を持つ、深海の帝王!その牙で、全てのものを噛み砕け!『海咬龍シャーク・ドレイク』!!」

 

それは赤紫色に輝く大きな鮫をモチーフにしたナンバーズで、どう見てもIIIのデッキとシナジーが合わないナンバーズだった。

 

一方でナンバーズを持たない凌牙は前回のカイトの戦いの二の舞にならないようにしっかりとシャーク・ドレイクの効果を確認し、自分のデッキにも使えると確信を持ってからIIIからコントロールを奪った。

 

しかし、皇の鍵も無く、ナンバーズへの耐性を持たない凌牙はすぐにシャーク・ドレイクによって心が暴走しそうになってしまった。

 

だが、凌牙の心の中に映し出されたのはⅣへの復讐心ではなかった。

 

遊馬とのデュエル、交わした言葉、そして共闘……遊馬との出会いによって少しずつ変わることが出来た。

 

「俺はもう、あの時の俺じゃねえ!!俺は……俺だぁっ!!!」

 

凌牙はナンバーズの力を無理矢理押さえ、シャーク・ドレイクを自分のものとした。

 

デュエルを再開し、まるでシャーク・ドレイクを凌牙に渡すような戦術をとっていたIIIも本気を出すが、結果はIIIの戦術を上回るデュエルタクティクスを見せつけた凌牙の勝利となった。

 

IIIは既にハートピースを完成させて予選を突破しており、凌牙にハートピースとシャーク・ドレイクを渡してその場から消えた。

 

そして、凌牙は遊馬にもう自分に関わるなど告げてその場を後にした。

 

デュエリストは皆仲間だと考える遊馬は二人の間違ったデュエルに頭を悩ませていた。

 

デュエルは復讐の道具でも、人を傷付けるものでもないと……。

 

悩む遊馬を気遣う小鳥だが、遊馬はまるで聞く耳持たず、その事に小鳥は怒ってしまい、その場を去ってしまった。

 

すると、明里から突然連絡があり、WDC出場者の速水秀太と言う男を探せと言われ、渋々街に出て探す。

 

何でも未来を変え、その未来の内容を写真に撮ることが出来るらしく、アストラルはその力はナンバーズに関係するのではないかと推測する。

 

街に出てデュエルに引かれたアストラルの後を追うと、そこには秀太の姿があり、アストラルの予想通りナンバーズ使いだった。

 

だがそれ以上に、遊馬には怒りを覚える光景が広がった。

 

それは秀太に敗北し、痛めつけられた相手デュエリストの姿だった。

 

秀太の仕打ちが許せずに遊馬は彼に詰め寄る。

 

秀太がデュエルをする理由は、ナンバーズを手に入れることにあった。

 

多くのナンバーズを手に入れ、世界中の人を驚かせる大スクープ写真を撮るためだった。

 

二人が睨み合う中、明里が駆け付け、秀太の人の命を危険に晒してまで撮るスクープ写真を許せないと言う。

 

すると、秀太は次のとっておきのスクープ写真を見せつける。

 

それは、エンジントラブルを起こした、ハートランドシティ上空を飛ぶ飛行船の船内を写したものだった。

 

そして、何よりも驚く事にその墜落寸前のその写真には、小鳥の姿が写されていた。

 

秀太と小鳥は先輩後輩の関係の知人で写真を撮っていたのだ。

 

小鳥を心配した遊馬がすぐに連絡を取ると、小鳥は飛び立った飛行船の船内にいた。

 

そして、次の瞬間にエンジントラブルが発生し、明里は飛行船を何とかする為に管制塔へ向かった。

 

チャーリーのラッキー・ストライプの時と同様に、遊馬が勝てば所有者に取り憑いたナンバーズの力が消える。

 

つまり、秀太に勝てば写真に写った最悪の未来は消える。

 

小鳥を助けるためにも、遊馬は秀太にデュエルを挑むが、秀太は遊馬の写真を撮り、それを渡した。

 

そこにはデュエルに負け、ナンバーズを奪われる遊馬の姿が写されていた。

 

遊馬は今まで以上に不安を覚えながらデュエルを始めた。

 

すると、秀太は先ほどの写真は結末だけでなく、その過程をも写されていたのだと教えた。

 

それは、遊馬は5ターン目で希望皇ホープを召喚し、6ターン目で秀太の出したナンバーズに敗れる……その未来は必ず実現すると、秀太は絶対的な自信を見せた。

 

「未来を実現させるナンバーズ……ラッキー・ストライプと同様に恐ろしい効果です……」

 

マシュはナンバーズにはまだまだ恐ろしい力が秘めているものがあると知り、顔を真っ青にする。

 

その後もデュエルが続いていき、運命の5ターン目。

 

ここで遊馬が希望皇ホープを呼び出せば敗北の未来が訪れ、墜落寸前の飛行船に乗った小鳥や多くの人達が犠牲になってしまう。

 

速見が写真に写し出した未来は、彼が望んだことを具現化したもので、小鳥の乗った飛行船の事故は悲劇だと言う。

 

しかし、秀太はナンバーズを手に入れてからスクープを写す事に目覚めてしまったため、飛行船を見た時からあの事故のことを思わずにはいられなかったとのこと。

 

「うるせえ!自分の未来を決められるのは自分だけだ!!」

 

遊馬は未来を決められてたまるか、未来を決めるのは自分自身の力だと反論するが、未だにどうすれば良いか迷っていた。

 

それに対し、アストラルは遊馬にある助言をする。

 

「遊馬、迷ったら立ち止まり、自分の道を見つければ良い。もしかしたら、予言に反することで、新たな道が、新たな未来が開けるかもしれない。その先にどんな未来が待ち受けているかは分からないが、自分の未来を決められるのは自分だけ……そう言ったのは君だ」

 

アストラルの言葉に気付かされた遊馬は未来を切り開く決意を決めた。

 

フィールドにはレベル4のゴゴゴゴーレムとゴゴゴジャイアントの2体が揃い、希望皇ホープを呼び出せる場面は整った。

 

そして、遊馬が切り開いた未来……それは、希望皇ホープを呼ばない事だった。

 

秀太が決めた未来通りに動かない遊馬に動揺を隠せず、未来を決める元となったナンバーズ、『No.25 重装光学撮影機(フルメタル・フォトグライド)フォーカス・フォース』を呼び出した。

 

速水が撮った未来の写真はあくまでイメージで、これまでデュエルに連勝できていたのも『この未来からは逃れられない』と繰り返し聞かせ続けていた暗示だった。

 

しかし、遊馬は運命の5ターン目で希望皇ホープを呼ばなかった事でその暗示を逃れ、未来を変えたのだ。

 

ナンバーズの力に頼り切り、デュエルの腕を磨かなかった秀太は最早遊馬の敵ではない。

 

遊馬は一気に勝負をつける為に希望皇ホープを召喚し、そこから更に希望皇ホープレイを召喚した。

 

希望皇ホープレイの効果で一気に逆転し、秀太のライフポイントを0にして勝利した。

 

これでフォーカス・フォースの力が無くなるが、飛行船が起こしたエンジンの故障を無かったことにするなど不可能。

 

このままでは飛行船の事故は免れない、万事休すかと思われたその時だった。

 

空から高速で飛翔するものがあり、それは飛行形態のオービタル7を装着したカイトだった。

 

カイトは操縦室に窓を突き破って入って操縦桿を握り、オービタル7は飛行船の下に潜り込んでジェットエンジンを噴射させ、飛行船の墜落を防いで不時着させたのだ。

 

小鳥は無事に飛行船から降り、カイトが小鳥達を助けてくれた事に遊馬は感謝し、「やっぱりデュエリストはみんな仲間だ!」と喜ぶが、カイトはWDCが中止させない為だと、素っ気ない態度でその場から立ち去った。

 

ナンバーズから解放された秀太は深く反省し、カメラマンとして改めて歩く事になる。

 

秀太のハートピースで遊馬の残るハートピースは一つとなるが、何故かアストラルの姿が見えず皇の鍵の中にいた。

 

そんな中、遊馬はクラスメイトの太一と出会う。

 

太一もWDCに参加していたが、遊馬の仲間の徳之助が太一を騙してハートピースを飴で出来た偽物と交換したのだ。

 

友人たちの問題を無視することも出来ず、遊馬は徳之助を捜すことになった。

 

「まあ、何て酷い事を……学友に嘘をついて、騙し取るなんて……骨の髄まで燃やしたいですわ」

 

あまりにも平然と嘘をつく徳之助に嘘が大嫌いな清姫は冷酷な表情を浮かべていた。

 

遊馬と小鳥はMr.ハートランドと初めて会った時に一緒にいたWDC運営委員の二人、ゴーシュとドロワに連れていかれそうになった徳之助を発見した。

 

悪事を犯した徳之助にゴーシュたちが下した裁きはデッキの没収とWDC参加権の永久剥奪、それにハートランドシティからの追放だった。

 

遊馬は徳之助へのあまりに理不尽な対応に怒り、徳之助を助ける為にデュエルで勝負を挑む。

 

遊馬の申し出を受けるゴーシュとドロワだが、徳之助の悪事を見逃す為のある条件を突き付ける。

 

デュエルは遊馬一人に対してドロワとゴーシュのタッグで、そのどちらかを倒せば勝ちだが、逆に負ければ遊馬に徳之助と同じ罰を受けてもらうものだった。

 

アストラルが不在の今、遊馬にとってはあまりにも無謀すぎるデュエルだが、仲間を放っておけない遊馬はその条件を呑んだ。

 

一方、遊馬の前から姿を消していたアストラルは、皇の鍵の中で自らの失われた記憶に考えを巡らせていた。

 

ナンバーズが集まってきたが、これといった真新しい情報も得ることが出来ず、遊馬との奇跡の合体であるZEXALについても分からなかった。

 

そう考えているアストラルの前に、突如として黒いアストラル……No.96が現れた。

 

封印されていたはずのNo.96が現れたのは回収した他のナンバーズの総意があってこそだった。

 

No.96が現れた理由はアストラルに使命を思い出させるためだった。

 

その使命とは……世界の破滅だった。

 

No.96は再びアストラルを取り込もうとするが、それを阻んだのは唯一ナンバーズの総意を拒んだ希望皇ホープだった。

 

希望皇ホープの出現にNo.96も自身の分身である『No.96 ブラック・ミスト』を出現させ、二体は激しい戦いを始めた。

 

「おいおい、ミストラルちゃんよぉ。タイミング良いと言うか悪いと言うか、マスターのピンチに反乱しやがって……やるじゃねえか!」

 

No.96の反乱にアンリマユは意地悪そうにニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

遊馬のデュエルが始まり、守備を堅めるが、ゴーシュとドロワのデュエリストとしての見事な実力と連携で一気に遊馬は追い詰められてしまった。

 

遊馬は守りの力を持つモンスターで何とか九死に一生を得たが、相変わらずピンチには変わらなかった。

 

遊馬はレベル4のモンスター2体を揃えたが、エクストラデッキに希望皇ホープは無く、自分に出来ることをしてモンスターで攻撃をした。

 

その頃、No.96とブラック・ミスト相手に激しい戦いを繰り広げていたアストラルと希望皇ホープ。

 

すると、アストラルは遊馬がデュエルで窮地に陥っていると察知し、遊馬を助ける為に希望皇ホープを遊馬の元へと向かわせた。

 

何も出来ずにターンエンドをしようとした遊馬の元に希望皇ホープがエクストラデッキに戻って来たが、皇の鍵からはアストラルが現れない。

 

もしかしてアストラルもどこかで戦っているのではないかと感じつつも、希望皇ホープが戻ってきたのはアストラルから託された想いだと信じ、遊馬は希望皇ホープをエクシーズ召喚して守備表示にする。

 

すると、ゴーシュとドロワは遊馬がナンバーズ使いに驚愕し、罰を巡るデュエルから一変し、二人のエースモンスターを呼び出した。

 

ゴーシュは『フォトン・ストリーク・バウンサー』、ドロワは『フォトン・バタフライ・アサシン』……それはカイトと同じ『フォトン』モンスターだった。

 

実は二人はカイトと同じナンバーズ・ハンターでフォトンを出した事に遊馬は驚き、カイトの名を口にするとゴーシュとドロワも驚いた。

 

遊馬はカイトとデュエルをしたと言い、カイトの実力の高さはゴーシュとドロワもよく知っている。

 

そのカイトとデュエルをして生き残っている事実にある結論に辿り着いた。

 

それは遊馬にナンバーズのオリジナル……アストラルが取り憑いていると言う事だった。

 

二人は遊馬の持つナンバーズのオリジナルを狩る為に全力で攻め、希望皇ホープのムーン・バリアや罠カードで守っていく。

 

そして、遊馬のラストターン……ドローソースで最後の希望を託した2枚をドローするが……それは希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットが無い状況では無意味のカードだった。

 

未来を閉ざされて絶望に打ちひしがれ、その場に崩れ落ちる遊馬。

 

小鳥と徳之助は諦めないでと応援と励ましをし、遊馬はかっとビングで立ち上がった。

 

そして、アストラルはNo.96に触手で縛られ、取り込まれそうになっていた。

 

しかし、遊馬のかっとビングがアストラルに伝わり、その体が金色に輝いた。

 

「遊馬……感じるぞ、君のかっとビングを……!」

 

アストラルは希望を信じる遊馬のかっとビングの輝きでNo.96を弾き飛ばして力を打ち消した。

 

再びNo.96と全てのナンバーズを再封印し、遊馬の元へ飛んだ。

 

皇の鍵が輝くと遊馬の背後が美しく煌めき、アストラルが現れた。

 

アストラルの出現にゴーシュとドロワは揺らいだ姿でしか確認出来なかったが、ナンバーズのオリジナルが現れたと確信した。

 

「待たせたな」

 

遊馬はアストラルがやっと来たことで喜びを表そうとしたが恥ずかしくてツンツンした態度を取る。

 

「二人掛かりで遊馬を……!」

 

アストラルはデュエルの状況を見てゴーシュとドロワの二人掛かりで遊馬とデュエルを行なっていた事に静かな怒りが沸き起こる。

 

「勝利のピースは揃っている。君の戦いは無駄ではなかった」

 

アストラルにはこの状況を打破出来る勝利の方程式を解いていた。

 

「アストラル……!」

 

「勝つぞ、遊馬!」

 

「おう!」

 

アストラルが来た事で調子を取り戻した遊馬は二人でデュエルを行う。

 

墓地にある『オーバーレイ・イーター』でモンスター効果を無効にするフォトン・ストリーク・バウンサーからオーバーレイ・ユニットを希望皇ホープに移し、フォトン・バタフライ・アサシンに攻撃する。

 

ここで希望皇ホープの効果を発動し、自身の攻撃を無効とし、『ダブル・アップ・チャンス』を発動。

 

攻撃力が2倍になり、更にもう一枚、速攻魔法『バイテンション』で、その攻撃力を更に2倍の合計4倍の攻撃力となった。

 

「行くぞ、遊馬!」

 

「ああ!」

 

希望皇ホープの体とホープ剣が火星のように紅く煌めき、炎を纏って燃え上がる。

 

「「ホープ剣・マーズ・スラッシュ!!!」」

 

炎に燃え上がるホープ剣がフォトン・バタフライ・アサシンに襲いかかるが、ゴーシュが発動した罠カード『バウンサー・ガード』で、希望皇ホープの攻撃対象がフォトン・ストリーク・バウンサーに変更される。

 

ドロワが受けるダメージをゴーシュが庇ってその身に受け、ゴーシュのライフポイントが0となり、遊馬の勝利となった。

 

遊馬がデュエルに勝利した事で約束通り徳之助の悪事は見過ごされることとなった。

 

「約束通り、イカサマのことは忘れてやる。だが覚えていろ!次は必ずお前を倒す!ナンバーズのオリジナルと一緒にな!!」

 

ゴーシュは遊馬の事を一人のデュエリストとして認めて再戦を誓い、ドロワと共にその場から立ち去った。

 

ちなみに、悪事が見過ごされた徳之助だが、今までハートピースを騙し取った人達から仕返しされ、全てのハートピースを奪われて失格となってしまった。

 

自業自得で因果応報なので、特に遊馬達も擁護はしなかった。

 

WDC二日目も間も無く夕暮れで終わりを迎える頃、遊馬のハートピースが子犬に奪われる事件が起きた。

 

遊馬の仲間のキャッシーは何故か猫と話が出来、猫達に頼んでその子犬の居場所を突き止めた。

 

そこには犬が多くおり、遊馬のハートピースを賭けて犬を束ねるボス犬とキャッシーのデュエルが始まってしまった。

 

実はボス犬の背負っている樽には少女が入っており、その名はドッグちゃん。

 

恥ずかしがり屋でキャッシーと同じように犬と話が出来る。

 

猫と話が出来るキャッシーに犬と話が出来るドッグちゃん……魔術師でも無い普通の少女達が何故猫や犬と話が出来て意思疎通が出来るのか理解が出来なかった。

 

「マスターの世界の住人はどいつもこいつも異能者揃いか……?」

 

時計塔のロードの一人であるエルメロイII世も頭を抱えて悩ませた。

 

その後ドッグちゃんはみんなからの応援でかっとビングを覚え、自分流にアレンジして『ドッグビング』と叫んで勇気を出せるようになった。

 

WDCの二日目も終了し、遊馬と小鳥は帰路につくが、そこで不思議な少年と出会った。

 

それは遊馬がかつて研究所で見た写真でカイトと一緒に写っていた少年だった。

 

その少年の名はハルトで、ハルトは虚ろな目をしており、不思議な力を持っていてアストラルが見えていた。

 

放っておけない遊馬はハルトを家に連れて行き一時的に保護をするが、ハルトは何かを求めて何処かに消えてしまった。

 

探す中でようやく見つけたハルトの不思議な力が暴走し、遊馬とアストラルのお陰でなんとか意識を取り戻して力を抑えた。

 

ハルトは疲れて倒れている兄、カイトに大好きなキャラメルを渡したかったのだ。

 

カイトとハルトの兄弟愛に感動していると、ハルトを迎えに来た謎の長髪の青年が現れた。

 

青年はハルトに何かの暗示をかけると素直に着いて行き、最後に衝撃的な言葉を呟いた。

 

「僕の使命はアストラル世界を壊すこと……」

 

何故ハルトがアストラルの故郷であるアストラル世界を壊すのか?

 

大きな謎を残しながらハルトは連れてかれてしまった。

 

しかし、その後カイトとゴーシュとドロワが現れ、ハルトが別の人間に連れ去られたと知った。

 

カイト達はハルトを取り戻すために捜索を開始し、遊馬はハルトを連れて行かれた責任とハルトをカイトに会わせるという約束を守る為に独自にハルトを追う。

 

ハルトを探しながらアストラルは今までの情報からある結論に辿り着いた。

 

以前カイトとデュエルした際にハルトのために悪魔に魂を売り、ナンバーズ回収を行っていることを知った。

 

ドロワとゴーシュは誰かの命令でハルトを探しているが、失踪という失態を隠すために慌てており、二人はWDCの運営委員であり、主催者であるMr.ハートランドの直属の部下でもある。

 

つまり、ハルトを探しているのはMr.ハートランドの指示だと考えられ、ハルトはMr.ハートランドの管理下から逃げ出した……。

 

これらのピースを一つ一つ繋げていくと、一つの真実に辿り着く。

 

カイトはハルトの為にMr.ハートランドからの命令でナンバーズを集めている。

 

つまり、カイトの言う悪魔……それはMr.ハートランドのことを指しているのではないかと言うものだった。

 

Mr.ハートランドがカイトの背後にいる黒幕だと知り、驚く遊馬。

 

しかし、今はそれどころではなくハルトを連れ去ったのはMr.ハートランドの関係者では無い、謎の第三の者達。

 

その者達の理由は不明だが、ハルトを狙っている。

 

謎の敵勢力に遊馬とアストラルの不安は高まるばかりだった。

 

すると、アストラルにハルトからの助けを呼ぶ声が聞こえた。

 

連れ去られた場所を示すヒントを元に町外れの使われなくなった美術館に到着すると、カイトにもハルトの声が聞こえていたので一足遅れて到着した。

 

ハルトの約束を果たす為に食ってかかるカイトの制止を振り切って遊馬は美術館に突入する。

 

美術館の奥に進み、そこにいたのは何とⅣとIIIだった。

 

Ⅳは鉄男と等々力を傷付けた張本人であり、あの時の怒りが蘇ってくる遊馬だが、デュエルを復讐には使わないと決めている為、心は冷静でいた。

 

ハルトは今は無事だが、どうなるか分からず、助けたいのならデュエルで勝てと言うⅣはIIIと共にタッグデュエルを挑んできた。

 

ハルトを取り戻す為、遊馬とカイトの即席コンビで迎え撃ち、タッグデュエルが始まった。

 

ⅣとIIIはまずは強敵であるカイトを先に片付けようとし、対するカイトはフィールド魔法『光子圧力界(フォトン・プレッシャー・ワールド)』を発動するが、それはフォトンモンスターを操るカイト以外のプレイヤーに効果ダメージを与えるもので、タッグを組んでいる遊馬までもが効果の対象となってしまうものだった。

 

もはやタッグデュエルの意味は全くなく、カイトにとっては遊馬の力は必要とせずに自分の力だけで勝つつもりだった。

 

あまりにも非協力的なカイトに腹を立てる遊馬だが、ハルトの命がかかっており、カイトと争う余裕はなく自分のデュエルを行おうとするが、そんな遊馬の様子に気付いたⅣは、カイトが何故ナンバーズ・ハンターとしてナンバーズを狩るのかその真実を口にする。

 

カイトは重い病気にかかったハルトを治すためにDr.フェイカーとMr.ハートランドの指示でナンバーズを集めていたのだ。

 

弟のハルトのためなら他人の魂など関係無い、ナンバーズを持つ者は皆、狩の標的だったのだ。

 

衝撃の事実に遊馬は動揺して迷いを見せた。

 

ナンバーズはアストラルの記憶の欠片でアストラルの為にも全部集めなければならないと思っているが、それは同時にハルトの病気が治らないことを意味していた。

 

動揺する遊馬に対し、アストラルは自分の記憶が関わっているにも関わらずとても冷静で、今は目の前のデュエルに集中するべきだと助言をし、遊馬は何とか落ち着きを取り戻した。

 

一方、IIIもナンバーズを呼び出し、巨大な宙に浮く城の形をしたモンスター、『No.33 先史遺産マシュ=マック』をエクシーズ召喚する。

 

そして、遊馬を格下のデュエリストだと思っているⅣとIIIの前で遊馬はエースモンスターである希望皇ホープをエクシーズ召喚をする。

 

遊馬がまさかのナンバーズ使いだと知り、驚くⅣとIII。

 

それでこそ倒し甲斐があると、Ⅳは鉄男と等々力を倒したジャイアント・キラーを呼び出して希望皇ホープを効果破壊した。

 

その際に先ほどと同じように桜たちの目を塞いで貰い、希望皇ホープのショッキングな破壊シーンは見せずに終わった。

 

大ダメージを受ける遊馬だが、Ⅳのジャイアント・キラーの効果は知っていたのでその対策として用意していた『ダメージ・メイジ』で受けた効果ダメージ分回復した。

 

Ⅳは攻撃目標をカイトに向け、カイトに大ダメージを与えようとしたが、遊馬がセットした罠カードでカイトを守った。

 

敵であるはずの遊馬が自分を守ったことにカイトは驚愕し、素直に受け取らなかった。

 

しかし、遊馬はそれでも構わなかった。

 

何故なら遊馬にはこのデュエルにかける強い想いがあったからだ。

 

「俺はお前が敵だって言うなら敵でも構わねえ。けど、俺はハルトと約束したんだ。あいつはずっとお前に会いたがっていた。だから、必ずお前をハルトの元に連れて行く!!」

 

それはハルトとの約束、兄であるカイトに合わせるという強い想いが遊馬を動かしていた。

 

敵であろうがなかろうがそんな事は関係ない、兄弟二人を会わせる為なら全力でカイトを守り、必ずこのデュエルに勝つ……遊馬はその覚悟を決めていた。

 

「本来なら敵同士のカイトですら守り、ハルト君との約束の為に戦う……良いよ、良いよ!それでこそ私の弟だよ、遊馬!」

 

遊馬の優しさと戦う覚悟に武蔵は嬉しそうに何度も頷いた。

 

しかし、自分の思うようにデュエルが進行しないと腹を立てたⅣは、ファンサービスと称して新たな行動に出る。

 

それは、何かの魔術的な儀式によって苦しむハルトの姿の映像を見せてカイトに精神的ダメージを与えるという卑劣なものだった。

 

これにカイトは怒り狂い、自分の怒りを込めて銀河眼の光子竜を召喚した。

 

しかしそれはカイトを陥れるための罠だった。

 

IIIが発動した罠カードによって銀河眼の光子竜は攻撃も効果も全て封じられてしまった。

 

そして、マシュ=マックの効果でカイトに大ダメージを与えようとしたが、遊馬の捨て身の罠カードでカイトのライフポイントを守り抜いたが、カイトは相変わらず素直に受け取らなかった。

 

遊馬のライフが大幅に減ったことでアストラルの体が点滅していき、消滅の危機に陥るがアストラルは仕方ないと言った表情をした。

 

「仕方あるまい……これが君のデュエルだ。慣れてきたよ」

 

アストラルは相棒として遊馬の性格を熟知してきたので多少の痛みは既に覚悟が出来ていた。

 

「アストラルさん……遊馬君を理解しているからこそ、それほどの覚悟を……」

 

マシュはアストラルが背負う遊馬としての相棒の覚悟に尊敬した。

 

IIIはⅣの卑怯なやり方にやりすぎだと言うが、Ⅳは怒りを露わにした。

 

「やりすぎだと!?お前は俺達が味わった苦しみを忘れたのか!?」

 

まるでそれはカイトに何か恨みを持っているような言い方だった。

 

遊馬は心を乱してまともなデュエルが出来ていないカイトを落ち着かせようとする。

 

「カイト、落ち着け!」

 

「黙れ!お前に俺の苦しみ、俺の憎しみの何が分かる!?」

 

カイトは怒りや憎しみからの苛立ちを遊馬にぶつけた。

 

そう、遊馬にはカイトが背負ってきた苦しみや憎しみを分からない。

 

しかし、そんな遊馬でも一番大切なことを分かっている。

 

「……ああ、分からねえ。分からねえさ!お前や、ハルトの憎しみも悲しみも!だけど、俺はお前とデュエルした!デュエルを通じてお前を知っちまったんだ!デュエルは新しい仲間を……絆を作ってくれる!」

 

遊馬はデュエルを通じてカイトを知り、デュエルは新しい仲間と絆を作ると感じた。

 

だからこそ今のカイトやⅣ達のデュエルを許すわけにはいかなかった。

 

デュエルがあったからこそ遊馬はアストラルと出会い、そこから新しい一歩を踏み出すことができた。

 

「そして、デュエルってのは新しい自分にかっとビングさせてくれる!決して恨みや憎しみをぶつける道具じゃねえ!見せてやる!俺のかっとビングを!!」

 

遊馬はデュエルが恨みや憎しみをぶつけるものでない、絆を作り出すものだと証明するために想いを込めてドローする。

 

「俺のターン、ドロー!来た!俺は魔法カード『死者蘇生』を発動!蘇れ、希望皇ホープ!!」

 

起死回生の死者蘇生で破壊された希望皇ホープが蘇る。

 

今更希望皇ホープを呼んだところで状況は変わらないと感じたⅣとIIIだが、遊馬には切り札が残っていた。

 

「ホープの力はこれだけじゃ終わらない!これが俺のかっとビングだ!!」

 

遊馬とアストラルは希望皇ホープの真の力を解き放つ。

 

「「カオス・エクシーズ・チェンジ!現れろ!CNo.39!希望皇ホープレイ!!」」

 

逆転の力を持つ攻めの希望皇ホープレイが現れ、カオスナンバーズと言う初めて見るナンバーズの進化形態にⅣとIIIは衝撃を受ける。

 

「カオスナンバーズだと!?」

 

「こんなナンバーズ、見たことない……」

 

遊馬は希望皇ホープレイの効果を使ってジャイアント・キラーを対象にし、一撃必殺の攻撃を放つが、Ⅳの罠カードで間一髪のところでダメージが防がれてしまった。

 

Ⅳは最後のファンサービスと称して新たなナンバーズ、『No.40 ギミック・パペット - ヘブンズ・ストリングス』を呼び出してカイトに最後の攻撃を繰り出す。

 

ところが、またしても遊馬が自分のライフを削りながらもカイトを守り抜き、Ⅳは苛立ちが最高潮に溜まっていく。

 

Ⅳはヘブンズ・ストリングスの効果を使い、希望皇ホープレイと銀河眼の光子竜に無数の赤い糸を貫かせ、次のターン終了時に破壊して効果ダメージを与える。

 

このままでは次のカイトのターンが終わった瞬間に遊馬とカイトの敗北が確定してしまう。

 

しかし、カイトは極限まで心身共にダメージが与えられ、もはや立ち上がる事が出来なかった。

 

カイトの情けない姿を見て遊馬は声を荒げた。

 

「立てよ……立つんだカイト!このまま負けちまって良いのかよ!何で立たねぇんだよ……カイト!」

 

遊馬はカイトのそんな情けない姿を見たくなかった。

 

敵でありながら遊馬はデュエリストとしてカイトの事を心の底から尊敬しており、弟のハルトの為に命懸けで戦う姿に憧れていた。

 

ハルトを守れるのはカイトしかいない、遊馬はカイトを奮え立たせるために魂の叫びを挙げる。

 

「お前が、ハルトを守らなくて……誰がハルトを守るんだよ!!!」

 

遊馬の魂の叫びがカイトの心に響く。

 

「ハルト!……俺はまたお前を……」

 

カイトの脳裏にはハルトを連れていかれ、戦う事を誓った日のことを思い出した。

 

カイトは再び立ち上がり、ハルトを守る誓いを新たにし、愛する弟の名を呼ぶ魂の叫びを轟かせる。

 

「俺はお前を……絶対に守ってみせる!!……ハルトォオオオオオ!!!」

 

カイトの魂の叫びがハルトに届くと、兄弟の互いを思いやる願いと思いが奇跡を起こした。

 

ハルトは儀式で力を全て奪われる前に、全ての力をカイトへと託した。

 

ハルトから不可思議の力を受け取ったカイトの体が真紅に光り輝き、エクストラデッキに新たなカードが創造された。

 

「ハルト……お前がくれたんだな。この力を……」

 

カイトはハルトから受け取った力を無駄にしない為にデュエルを再開する。

 

「銀河眼の攻撃力はゼロ!貴様のライフはわずか100!くたばり損ないに何ができるんていうんだ!!」

 

Ⅳは声を荒げて叫んだが カイトは諦めていなかった。

 

「くたばるのは貴様達だ!!」

 

その瞬間 カイトの瞳には銀河眼と同じ銀河の輝きが宿った

 

新たなカードを使う為にカイトは場を整えようとするが、どうしてもまだもう一手が足りなかった。

 

「アストラル!そこにいるのか!?お前は以前俺と遊馬が似ていると言ったな、だったら俺に共鳴してみろ!」

 

素直ではないカイトのその言葉は遠回しに力を貸してくれと言っているようなもので、その意図を理解した遊馬とアストラルは笑みを浮かべた。

 

「遊馬!我々のモンスターでカイトを助けるぞ!」

 

「ああ!カイト!俺のモンスターを使え!行っけー!」

 

遊馬の希望皇ホープレイとダメージ・メイジをリリースし、カイトは『フォトン・カイザー』をアドバンス召喚する。

 

召喚されたフォトン・カイザーの効果でもう1体のフォトン・カイザーが現れ、これでカイトのフィールドには銀河眼の光子竜を含め、レベル8のモンスターが三体揃った。

 

「俺はレベル8の銀河眼と二体分となったフォトン・カイザーでオーバーレイ!三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!!エクシーズ召喚!!!」

 

IIIの罠によって拘束されていた銀河眼の光子竜が解放され、フォトン・カイザーと共に光となって天に昇ると、カイトの手元に大きな槍のような物体が現れる。

 

「逆巻く銀河よ!今こそ怒涛の光となりて姿を現すがいい!」

 

それを握ると天に出来た渦巻きに向けて投げ飛ばすと、超新星の如き真紅の光の爆発が放たれる。

 

「降臨せよ!我が魂!!『超銀河眼の光子龍』!!!」

 

カイトとハルトの兄弟の絆によって銀河眼の光子竜が新たな姿へと進化した。

 

「そうか……超銀河眼の光子龍はカイトとハルトの兄弟の絆から生まれたんだ……」

 

レティシアは超銀河眼の光子龍の誕生の経緯を目の当たりにし、天城兄弟が見せた強い絆に感動していた。

 

進化した超銀河眼の光子龍はモンスターエクシーズキラーである銀河眼の光子竜の力を進化させた効果を発揮し、フィールドの表側の全てのカード効果を無効にし、更にモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットを全て奪い、その数だけ攻撃力を上昇して複数回攻撃を可能にした。

 

攻撃力6000の怒涛の3回攻撃を繰り出し、まずはIIIのマシュ=マックを破壊してIIIのライフポイントを0にし、残るはこれまで卑劣なデュエルをしたⅣだけだった。

 

「Ⅳ!懺悔の用意は出来ているか!!」

 

「くっ……!」

 

「アルティメット・フォトン・ストリーム!!!」

 

Ⅳに怒りの鉄槌を下す為、超銀河眼の光子龍がトドメの龍の咆哮が轟き、ヘブンズ・ストリングスを破壊し、Ⅳのライフポイントを0にして遊馬とカイトが勝利した。

 

敗北したものの、Ⅳはハルトの居場所を教えようとせず、カイトは怒りに身を任せてナンバーズ狩りを実行した。

 

だが、Ⅳは右手に刻まれている不思議な絵柄が刻まれた謎の力でナンバーズと魂を奪うフォトン・ハンドを弾くと、アストラルはナンバーズ回収を試みたが、IIIも同じ力でアストラルを弾き飛ばした。

 

ⅣとIIIは『紋章』と呼ばれる謎の力に守られており、受けた屈辱を倍にして返すと言い残し、IIIと共に消えてしまった。

 

ハルトの手掛かりが失われ、途方に暮れるが、そこへハルトを連れて行った青年がハルトを抱き上げて現れた。

 

カイトがその青年を見て驚いたことからどうやら面識があるようだった。

 

ハルトは返されて無事だったが意識を失い、しかも力まで失っていた。

 

何故ならカイトを守る為に残っていた力を全て与えてしまったからだ。

 

一方で、青年の意識は遊馬に向けられており、衝撃的な事実を告げた。

 

「君の父、九十九一馬はアストラル世界で生きている」

 

それは遊馬にとって、これ以上ないほどの衝撃的なの一言だった。

 

行方不明だった父親がアストラル世界で生きている……それ以外のことを青年から聞き出すことは出来なかったが、アストラル世界からの使者であるアストラルの記憶が戻れば何か分かるかもしれない。

 

しかし、その為にはナンバーズを回収すれば良いのだが、同時にそれはカイトと戦うことになり、更にはハルトの病気も治らない。

 

また、仮にナンバーズの力でハルトの病気が治ったとしても、今度はハルトが一馬のいるアストラル世界を滅ぼすかもしれない……。

 

遊馬はアストラルの記憶を取り戻したい、カイトと戦いたくない、ハルトを見捨てたくない気持ちが渦巻いて解決策が見出せずに悪循環してしまうが、一つだけ方法を思いついてその夜に行動した。

 

遊馬が思いついた方法……それはアストラル世界に行って父親を探し出すことだった。

 

しかしそれは、一時的とはいえ大切なナンバーズ集めを放棄することで、更にはデュエルチャンピオンになる為の夢の舞台でもあるWDCを途中棄権することだった。

 

アストラルにとって、遊馬の考えた行動はとても賛同出来るものではなく、今の遊馬は迷走しているようなものだった。

 

そんな時に遊馬を止める為に小鳥から話を聞いた明里と春、そして遊馬の様子を見に決闘庵の山から降りて来た師匠の六十郎が現れた。

 

六十郎はデュエルを捨てようとする遊馬を見過ごせず、どうしても行くのなら自分をデュエルで倒していけと強要した。

 

遊馬は六十郎にデュエルに挑むことになったが、アストラルは今の遊馬に助力をするつもりはなかった。

 

唐突に始まった遊馬と六十郎のデュエルだが、迷走している遊馬はいつものデュエルが出来ずにただモンスターを並べて攻めるだけのデュエルを行なっていた。

 

そして、六十郎は天位の称号を持つ伝説の究極融合騎士『アルカナ ナイトジョーカー』を融合召喚し、遊馬に一気にトドメを刺した。

 

六十郎は迷う遊馬に一喝し、遊馬は今の心境を吐いた。

 

アストラルを選ぶか、ハルトを選ぶか……それを決められずに悩んでいたのだ。

 

だが、六十郎にとってそれは、逃げたことに等しいと指摘した。

 

父親を探すという名目の元に、ライバルや友、家族や相棒すらも全て捨てようとしているからだ。

 

今、遊馬がすべきことは、自分の足下をしっかり見ること。

 

そしてデュエルと向き合い、今までと同じようにかっとビングをして、一歩を前に踏み出せば良い……その歩く道の先に、必ず一馬がいるはず。

 

デュエルこそが遊馬と一馬を結ぶ大切な絆で、仮に遊馬がデュエルを捨ててまで一馬を探し出せたところで、遊馬のデュエルと夢を応援していた一馬は絶対に喜ばないからだ。

 

六十郎の説得により、遊馬は自分の本当の気持ちに気付いた。

 

それは誰にも負けないぐらいデュエルが好き、大好きでデュエルチャンピオンになる夢を叶う為にWDCに勝つことだ。

 

それこそが今の遊馬が成すべきことだった。

 

デュエルの後、遊馬と六十郎は一緒に風呂に入り、祖父と孫のように楽しそうに師弟の絆を深めていた。

 

一緒にWDCの優勝特典のMr.ハートランドにどんな願いを叶えてもらおうか楽しく話していたが、アストラルも一緒に風呂に入っていた。

 

「「「何故精霊のアストラル(さん)が一緒に風呂に入っている……???」」」

 

アストラルがさも当然のようにシレッと一緒に風呂に入っていることに疑問を持ちながら、マシュ達は静かに嫉妬が燃え上がって来た。

 

六十郎のお陰で悩みが無事に解消した遊馬だが、続いて頭に浮かんだのは、Mr.ハートランドについてだった。

 

六十郎によれば、その名の通りハートランドシティのシンボルであり、子供たちの人気者だが、その裏には黒幕がいるとの噂もあるらしい。

 

そして、100年に一人と言われている天才科学者・Dr.フェイカー。

 

ハートランドシティを造り上げた人物と言われているが、多くの謎に包まれた人物で、現在は生死不明。

 

春はDr.フェイカーが実は一馬とも繋がりがあるのを知っており、一馬が行方不明になる時に最後にガイドした相手がDr.フェイカーだったのだ。

 

一馬とDr.フェイカーとMr.ハートランド……この三人が遊馬が知らない何かで繋がっていた。

 

遊馬とアストラルが踏み出すその先にはDr.フェイカーとMr.ハートランド……そして、一馬がいる……。

 

「絶対に勝つぞ、アストラル」

 

「当然だ」

 

遊馬とアストラルはデッキを組み直しながら勝利と真実に向かうために、WDCで勝ち続ける決意を新たにする。

 

翌朝、WDCの予選三日目の最終日となり、遊馬は六十郎のお陰で迷いは振り切れたものの、まだ揺らいでいた。

 

どうすれば良いのかまだ分からないが、遊馬が今願うことは……。

 

「俺は、みんなが幸せになれる道を探すんだ」

 

それは平和を、幸せを願う者なら誰もが一度は考える道。

 

しかし、それはあまりにも険しく不可能にも等しい道……遊馬は幼いからこそ、その理想の道を考える。

 

小鳥達と合流した遊馬は街で一際賑やかなデュエルをしている場所に向かう。

 

それはかつてナンバーズに取り憑かれ、遊馬とデュエルした『異次元エスパー・ロビン』として人気を博している奥平風也だった。

 

撮影で忙しかったという風也は、今日がWDC初参戦となる。

 

そして、そんな風也に目を付けたのは同じく初参戦のゴーシュだった。

 

WDCの運営委員のゴーシュだが、遊馬とのデュエルで心を震わされ、デュエリストの魂が燃え上がって参加者となったのだ。

 

風也は異次元エスパー・ロビンの劇中に登場するモンスター達を駆使し、ゴーシュは遊馬とのデュエルで使ったバウンサーではなく、ゴーシュ自身のデッキ『ヒロイック』を使用した。

 

風也の華麗な戦術にゴーシュの熱いデュエル……実力者二人が魅せるデュエルに遊馬も興奮していた。

 

ゴーシュに追い詰められる風也だが、どんなに追い込まれようと決して諦めず、自分を信じ続ける……かつてデュエルした遊馬から教わったかっとビングの精神が、風也にも受け継がれていた。

 

その諦めない気持ちが、逆転へのドローカードを引き寄せ、切り札の『超次元ロボ ギャラクシー・デストロイヤー』をエクシーズ召喚した。

 

一気に逆転されるゴーシュだが、ゴーシュもまた遊馬のかっとビングに影響され、最後まで諦めずにデュエルを続けた。

 

そして、召喚したのはゴーシュの真の切り札『H - C(ヒロイック チャンピオン) エクスカリバー』。

 

希望皇ホープレイに匹敵する一撃必殺の剣を持つエクスカリバーでギャラクシー・デストロイヤーを破壊し、ゴーシュが勝利を収めた。

 

デュエルを終えた二人は満足げな表情を浮かべていた。

 

ゴーシュは遊馬のデュエルに魅せられてから、今度は誰にも邪魔されることなく一対一の燃えるようなデュエルをする為にわざわざ運営委員を抜けてWDCに参戦したことを告げた。

 

必ず勝ち残って決勝まで上がって来いとそう言い残し、付き添いで来ていたドロワと共に去って行く。

 

そんなゴーシュの様子に、風也は一つの確信を得た。

 

「不思議だね、遊馬とデュエルした者はみんな笑顔になる」

 

ゴーシュも自分同様、遊馬にデュエルの楽しさを教えられたのかもしれないと。

 

遊馬とデュエルした者は皆が笑顔になる。

 

デュエルで人を幸せにする力……遊馬にはそんな不思議な力があるのかもしれない。

 

デュエルで皆を幸せにする。

 

風也の一言で、遊馬は本当の意味で迷いを吹っ切り、その道を進もうと誓い、アストラルもまた、自分の道を見つけようとしていた。

 

残る一つのハートピースを手に入れる為に遊馬は対戦者を探すが中々見つからずに難儀していた。

 

そんな中、遊馬は傷だらけで倒れたデュエリスト達を発見する。

 

彼らが傷付いたのは、凌牙のデュエルだった。

 

凌牙に会う遊馬だが、その瞳は出会った頃……否、それ以上に昔に鋭い眼光をしていた。

 

今のシャークを突き動かしているのは、Ⅳへの憎しみに秘めた復讐心だけ。

 

放っておけない遊馬はアストラルの制止も聞かずに凌牙にデュエルを挑む。

 

しかし、激しく攻める凌牙に対し、遊馬はバトルを一切せずに守りに徹していた。

 

そして、体はボロボロになり、遂にライフポイントが100にまで追い詰められる

 

何をしたいのか分からないアストラル達だが、遊馬はこのデュエルで最初から勝つ気はなかった。

 

「俺はこのデュエル、勝ち負けなんてどうでもいいんだよ!憎しみで!復讐で!デュエルしてお前、楽しいのかよ!!」

 

ただ、凌牙にデュエルを使って復讐して欲しく無かった。

 

「お前はデュエルだけは大好きな奴だっただろ!だけど、そのデュエルさえ憎もうとしてるじゃねえか!俺は……そんなお前を……見たくねえんだよ!!」

 

デュエルは楽しいもの、デュエルの楽しさや喜びを取り戻した凌牙に戻って欲しくて遊馬はデュエルを挑んだのだ。

 

遊馬の魂が込められた熱い言葉に凌牙は唖然とする。

 

ところが……。

 

ぐぅ~!

 

遊馬のお腹が空腹で大きくなってしまった。

 

ズササーッ!!

 

緊張感を一気に壊す事態にマシュ達は思わず椅子からずっこけてしまった。

 

「ゆ、遊馬君らしいと言いますか……」

 

「フォウ……」

 

マシュとフォウは苦笑いを浮かべるが……。

 

「この決着は決勝でつける!フッ……」

 

遊馬の言葉と行動にいつのまにか凌牙の憎しみの心が抑えられ、笑みを浮かべてその場から立ち去った。

 

「あははっ!それでこそ、私を復讐者から取り戻してくれたユウマだね!」

 

「チッ……相変わらずアヴェンジャーキラーとも言うべき男だな、マスターは」

 

凌牙の復讐心を抑えた遊馬に対し、かつてオガワハイムでアヴェンジャーになりかけたが遊馬によって心を取り戻してくれたブーディカは嬉しそうに笑みを浮かべるが、世界を代表するアヴェンジャーのエドモンはいとも簡単に復讐心を抑えたことに舌打ちした。

 

一旦九十九家に帰った遊馬はそこで思わぬ出会いをした。

 

それは昨夜にタッグデュエルで戦ったIIIだった。

 

敵であるはずのIIIだが、遊馬の部屋にある両親が世界中から持って来た古代文明の遺産に興奮しており、とてもハルトを連れ去り、酷い事をした者達の一員とは思えなかった。

 

IIIはその件についても素直に謝罪をした。

 

敵同士だが、遊馬とIIIはすぐに仲良くなる。

 

IIIは他人の為に戦う遊馬の事を知りたくてやって来たらしく、そのまま小鳥とIIIと一緒に九十九家で昼食をとることになった。

 

仲睦まじい遊馬と明里と春の家族の光景に、IIIは何かを思い出して涙を流し、そのまま九十九家を飛び出してしまった。

 

急いで追いかけた遊馬だが、IIIは何かの決意を固めていた。

 

「遊馬、君がいる限り復讐は果たせない!だから、僕ら家族のために……君を倒さなきゃいけないんだ!!」

 

IIIは自分の家族を守る為に遊馬にデュエルを挑む。

 

遊馬もハートピースを得るだけでなく、IIIの本当気持ちを知りたいと思い、そのデュエルを受け入れた。

 

その日の夕方、小鳥だけでなく鉄男達と合流して遊馬とアストラルはIIIから支持された場所に向かった。

 

IIIの覚悟の表情に遊馬とアストラルも全力で立ち向かい、デュエルが始まった。

 

しかし、IIIは今までのデュエルとは異なる大好きなはずの先史遺産モンスターを繰り返し犠牲にする戦術を取るが、それはIIIのデュエルではないと遊馬は批判した。

 

すると、IIIは涙を浮かべて今まで溜め込んできた感情を全て吐き出した。

 

「君には分からない、仲間に囲まれ、幸せでいる君には……本当に苦しい時や悲しい時、誰にも側に居てもらえなかった僕の気持ちは……やっと取り戻した僕の家族!ボロボロだった!すっかり歪んでいた!でも、それでも僕は守りたいんだよ!遊馬、ウザいんだよ!目障りなんだよ!君の一々が!!」

 

家族と仲間に囲まれて幸せそうな遊馬に対し、IIIは本当に苦しい時、悲しい時に誰にも側にいてもらえなかった。

 

ようやく取り戻した家族……しかし、それすらも歪んでしまっていた。

 

それでもIIIは家族を守りたい気持ちでいっぱいだった。

 

家族を守る為にIIIは最後の一線を越えてしまった。

 

IIIは古代の戦士のような金色の鎧を着て左手の甲に刻まれた紋章を輝かせた。

 

「闇に堕ちろ!遊馬!!」

 

紋章の輝きが遊馬に襲いかかると、IIIは遊馬の精神を操作した。

 

遊馬にとって大きな力……それは一馬から受け継いだチャレンジ精神、かっとビング。

 

紋章は遊馬の過去の記憶を遡り、そこからかっとビングの全てを消し去ったのだ。

 

かっとビングを失った遊馬はいつもすぐそばにいるはずの皇の鍵とアストラルが見えなくなり、更にIIIは紋章の力でアストラルを封じ込めた。

 

いつも元気で活発な遊馬だが、かっとビングを失ったことで幼少期から周囲に馬鹿にされ続け、自信をなくして気弱な性格になったと仮定される……これは言わば遊馬のとある一つの可能性……IFの遊馬になってしまったのだ。

 

「まさか……遊馬君からかっとビングが奪われただけであんなにも弱くなるなんて……」

 

これまで数多くの戦いを臆することなく戦い続けた遊馬を側で見続けたマシュは気弱になった遊馬に衝撃を受けると同時にかっとビングがどれほど大切なものか実感した。

 

それは他の者達も同じ思いで、正々堂々と戦うはずのデュエルで相手の心を操作する非道なやり方をするIIIに対して怒りが湧いてくる。

 

遊馬はデュエルが出来る状態ではなく、サレンダーをして負けを認めようとしたがIIIは遊馬の全てを奪うためにそれを認めなかった。

 

IIIがトドメを刺そうとしたが、未だに捕らわれたアストラルは最後の力を振り絞り、遊馬に失われたかっとビングを思い出させようとする。

 

すると、その想いが通じたのか、遊馬は手札にあった『ガガガガードナー』を特殊召喚をし、辛うじてダイレクトアタックを回避して敗北を免れた。

 

遊馬の咄嗟の行動がアストラルによるものだと知ったIIIは、紋章の力を強めて捕えたアストラルを痛めつけた。

 

そして……紋章の力によって、アストラルを消滅させるのだった。

 

「アストラルさん!?」

 

「フォーフォウ!?」

 

アストラルの消滅にマシュ達は驚愕する。

 

そして、アストラルの消滅時に放った紋章の衝撃波が遊馬に襲いかかり、遊馬は崖から落ちそうになり、小鳥と鉄男達が遊馬を助けて引き上げる。

 

「どうして君たちが……?」

 

「当たり前だ!俺たちは仲間だろ!?どんなピンチにだって勇敢に立ち向かう!俺の知っている遊馬はそういう奴だ!!」

 

遊馬は忘れてしまっているが、小鳥と鉄男達は忘れない。

 

遊馬の諦めないその姿、かっとビングを胸にチャレンジをし続ける姿に尊敬しているのだ。

 

すると、IIIは今度は小鳥達を紋章の力で閉じ込めて声を遊馬に届けなくした。

 

その際に遊馬の首から皇の鍵が外れて小鳥の手の中に収まり、これで遊馬を支えるものの全てが排除されてしまった。

 

かっとビングを、アストラルを、そして仲間との絆、その全てを奪われた遊馬。

 

絶体絶命の危機に陥った……その時だった。

 

「ここまで汚い手を使ってくるか……」

 

皇の鍵の中にある飛行船にアストラルではない謎の人物がいた。

 

その人物は手をかざすと飛行船に納められているナンバーズの刻印が輝き、停止している飛行船が動き始めた。

 

「今回は、お前の力だけじゃ、どうにもならないようだ」

 

そして、飛行船の先端から金色のエネルギーが放たれる。

 

「遊馬ぁ!!一番大事な事を忘れてんじゃねぇぞ!!!」

 

それは遊馬への想いが込められた叱咤……遊馬に一番大事な事を思い出させ、それを伝える者はこの世で一人しかいなかった。

 

皇の鍵から眩い金色の閃光が放たれ、小鳥達を囲う檻を破壊し、そして遊馬の体を包み込んだ。

 

遊馬に刻み込まれていた紋章の力が破壊され、失った大切なものが蘇る。

 

「遊馬!」

 

小鳥は皇の鍵を投げ渡し、皇の鍵を受け取って掲げると、金色の閃光が最高潮にまで輝きを放つ。

 

「そうだ……俺が忘れていたのは……かっとビングだぁあああああ!!!」

 

かっとビングが遊馬の中で完全復活し、皇の鍵の中でその光景を見守り、微笑む人物……その正体は……。

 

「と、父ちゃん……!??」

 

遊馬は声を震わせて呟いた。

 

その人物の正体は行方不明だった遊馬の父、一馬だった。

 

何故一馬が皇の鍵の中にいるのか、何故飛行船を操って遊馬に刻まれた紋章の力を破壊できたのかは不明だが、これだけは確かだった。

 

一馬は遊馬を遠くから見守り、遊馬の最大の危機に父として手助けをしたのだ。

 

かっとビングを取り戻し、いつもの調子に戻った遊馬だが、先程までの気弱だった僅かな間の記憶は無く、アストラルがいないことに気付く。

 

IIIはアストラルは消したと言い、遊馬はその事を信じられなかった。

 

「嘘だ!あいつは俺を置いて、何処にも行かねえ!!」

 

遊馬は小鳥に目線を向けるが、アストラルの最期を見た小鳥は涙を浮かべて首を振った。

 

小鳥の涙が全てを語り、遊馬は今までにない程の怒りが燃え上がった。

 

「許さねえ……!III!!絶対に許さねえ!!!」

 

アストラルは遊馬にとっては仲間であると同時に一緒に同じ時を過ごす家族のような存在になっていた。

 

その家族を奪ったIIIに対し、遊馬は怒りを爆発させてデュエルを続行し、カードをドローする。

 

怒りを爆発させながらも、遊馬の頭は意外にもとても冷静であった。

 

遊馬の脳裏にはアストラルと二人で家の屋根の上に登り、星空が輝く夜空の下で語り合った時を思い出していた。

 

「遊馬、君にデュエルの心得を教えてやる。私はいつ消えるかも分からない。だが君は未来がある、無限の可能性が残されている。だから私は、私がいた証を残したいんだ。君の記憶の中に」

 

アストラルはこれから熾烈を増すナンバーズを賭けた戦いの中で自分が消滅することを既に覚悟していた。

 

しかし、遊馬には未来が、無限の可能性がある。

 

遊馬が一流のデュエリストとして成長してもらいたいという願いと、自分が遊馬と共にいたと言う証を残すためにデュエルの心得を教えるのだ。

 

アストラルは数々のデュエルの心得を教え、最後にこう言い残した。

 

「後は君らしく、かっとビングをすれば良い」

 

遊馬はアストラルから教えてもらったことを思い出し、今のフィールドの現状を冷静に把握し、突破する方法を考えた。

 

「行くぜ、アストラル!お前と共に戦ってきた記憶が、俺の肉だ!血だぁっ!!」

 

アストラルと共に戦ってきたデュエルの数々、それが遊馬のデュエリストとしての形を形成していた。

 

遊馬はアストラルが残してくれた最後の希望……希望皇ホープをエクシーズ召喚をする。

 

「こいつは、アストラルが俺に残してくれた最後の希望だ!!!」

 

遊馬は希望皇ホープと共にIIIに挑み、果敢に攻めて形勢を逆転させる。

 

するとIIIは真の切り札である『No.6 先史遺産アトランタル』を呼び出した。

 

アトランタルの強力な効果に追い詰められる遊馬だが、自分自身とアストラルのかっとビングを胸に立ち上がり、希望皇ホープと共に諦めずに勝利を目指していた。

 

遊馬は希望皇ホープと共に残してくれた最後の希望、希望皇ホープレイを呼び出し、アトランタルを斬り裂こうとしたが、IIIはその攻撃を読んで罠カードで攻撃を防いだ。

 

もはや遊馬には勝ち目は無いとIIIは自分の勝利を疑わなかったが、その体に異変が起きて身体中に不気味な黄色の紋様が浮かんでいた。

 

それはIIIが使った紋章の力の代償だった。

 

強力な力を持つアトランタルを操ることが出来る代わりにIIIの精神と肉体に多大のダメージを与えていたのだ。

 

しかしそれもIIIにとっては覚悟の上の行動だった。

 

大切な家族を守る為なら例えこの身が切り裂かれても構わないほどの覚悟で戦っていた。

 

IIIはアトランタルの効果を使って遊馬を更に追い詰め、希望皇ホープレイを叩き潰すために攻撃を繰り出した。

 

遊馬は防御系の罠カードを繰り出して希望皇ホープレイを守ろうとするが、IIIはアトランタルと共に託された罠カード『アンゴルモア』を発動させてその効果を無効にした。

 

しかし、遊馬は更なる罠カードで希望皇ホープレイと自身のライフポイントを何とかギリギリの所で守りきった。

 

遊馬は自分が危機的状況にも関わらず、IIIに何度も語りかけた。

 

良き友になれたはずなのにどうしてこんなことになってしまったのか、家族という大切なものを語り合いたかった。

 

その想いはIIIにようやく届いたが……既に遅く、事態は急変する事となる。

 

IIIが発動したアンゴルモアには強大な力が込められており、それはデュエルのみならず現実世界にまで影響を与える禁断の破滅のカードだった。

 

それは次元の扉を開き、この世界の全てを吸い込んで破滅に導くカードで、IIIの紋章の力でも制御する事が出来ない。

 

世界の破滅を止めるにはIIIにデュエルで勝つしか方法は無いが、アトランタルの力でIIIにダメージを与える事が出来ず、今の遊馬のフィールドと手札とデッキのカードでは対処法が無かった。

 

万事休すかと思ったが、遊馬はたった一つだけの可能性を思い付いた。

 

それは……遊馬とアストラルの合体による奇跡の力、ZEXAL。

 

ZEXALならなんとか出来るかもしれないが、アストラルは消滅してしまった……そんな時、この世界の破滅を望んでいないIIIはある方法を思い付いた。

 

紋章の力でアストラルが消滅したなら、紋章の力を遊馬に流し込めば何とかなるかもしれないと……だがそれは確率の低い余りにも危険な賭けでもある。

 

しかし、遊馬はその方法に全てを賭けた。

 

アストラルを取り戻す為と世界の破滅を防ぐ為、遊馬は覚悟を決めて手を伸ばし、IIIも覚悟を決めて頷いて手を伸ばす。

 

二人は手を重ね、IIIは遊馬に紋章の力を流し込んだ。

 

紋章の力が遊馬を呑み込もうとし、精神と肉体に多大なダメージを与え、体を蝕む激痛からの悲鳴を上げた。

 

しかし、アストラルを取り戻す為に遊馬はかっとビングを叫び、紋章の力を見事に掌握し、アストラルを求める魂の叫びを轟かせた。

 

紋章の力を遊馬が手にした事で皇の鍵の中で消滅したアストラルが飛行船の上で復活した。

 

すると、一馬が近づいてアストラルに声を掛けた。

 

「アストラル、俺の息子が呼んでいる。助けてやってくれ」

 

「あなたは……!?」

 

アストラルは行方不明だった一馬がいることに目を見開くほど驚き、何故ここにいるのか尋ねようとしたが、遊馬が助けを求めていることに気付き、急いで遊馬の元へ向かった。

 

「君の声が聞こえた……勝つぞ!」

 

皇の鍵から出現したアストラルは遊馬が自分を助けてくれた事と、自分を求めてくれた想いをしっかりと受け取り、優しい笑みを浮かべた。

 

「アストラル!お前、お前……全くいつも偉そうに!!」

 

遊馬はアストラルが復活した事に喜びの余り大粒の涙を流す。

 

IIIは無事にアストラルが復活した事に安心したが、紋章の力を失った事でアトランタルに囚われてしまった。

 

「遊馬、僕の事を気にしないで!早く、こいつを……!!」

 

「III!!!」

 

「遊馬、ZEXALだ!」

 

「おう!行くぜ、アストラル!俺は俺自身とお前でオーバーレイ!!俺たち二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!!!」

 

「遠き二つの魂が交わる時、語り継ぐべき力が現れる!!」

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

遊馬とアストラルはZEXALへと合体し、初めてその姿を目にする小鳥たちは驚愕した。

 

ZEXALは右手を金色に輝かせ、新たにデッキトップを創造してシャイニング・ドローをする。

 

「「現れよ!『ZW - 不死鳥弩弓』!!」」

 

新たに創造したカードは一角獣皇槍に続く幻獣・フェニックスをモチーフとした第二のZW。

 

赤い粒子を放ちながら飛来した不死鳥弩弓は希望皇ホープレイと合体し、新たな武器となる不死鳥弩弓は巨大な弓・弩弓となる。

 

希望皇ホープレイは不死鳥弩弓に足を掛けて弦を両手で掴んで全身の力を込めて思いっきり引っ張り、第三と第四の腕で矢へと形を変えた大剣を番えた。

 

「「不死鳥炎舞撃(フェニックス・フィニッシュ)!!」」

 

放たれた不死鳥の炎の矢はアトランタルを貫き、その効果でIIIのライフポイントをゼロにし、デュエルに勝利した。

 

IIIにデュエルで勝利したことにより、アンゴルモアの効果は消え、開き掛けた次元の扉は消滅し、世界の破滅を防いだ。

 

ZEXALは合体を解除し、一安心するとIIIは何かに解放されたようなすっきりとした表情をしていた。

 

「君は僕の最初で最後の友達だ」

 

そして、IIIはようやく言う事が出来た遊馬を友として認めると同時に遊馬にある願いをした。

 

「遊馬、お願いがある。僕の家族を救ってくれないか?君なら、君のかっとビングならきっと……」

 

それは未だに復讐の中に囚われている父と兄達を救ってほしいというものだった。

 

まるで遺言のような頼みをするIIIはハートピースと2枚のナンバーズ、マシュ=マックとアトランタルを置き、背後に次元の歪みが現れるとその場から消えた。

 

遊馬は最後のハートピースを埋め込んで完成し、これでWDCの予選突破を決める事が出来た。

 

IIIの最後の願い……遊馬は友としてそれを聞き入れ、復讐者へと堕ちた者達と戦い、そして救う決意を決めるのだった。

 

 

 




今回もマシュ達の反応を書きました。

マシュ「まさか既に一度、遊馬君とアストラルさんが世界の破滅を救っていたなんて驚きでした」

ジャンヌ「既にこの時点で英雄と呼ぶに相応しいお方でしたか……流石としか言いようが無いですね」

レティシア「やっぱり遊馬はバカよ!IIIにあんな酷いことをされたのに、それを聞き入れるなんて……本当にバカでお人好しよ!!」

清姫「旦那様に対するアストラルさんと小鳥さんのイチャイチャっぷりが話を重ねる毎に段々と上がっていることにも嫉妬しますが、男女問わず少しずつ旦那様に惹かれていくのも嫉妬しますね……」

ブーディカ「ユウマはアストラルやコトリだけじゃない、沢山の人から愛され、支えられているんだね」

アタランテ「彼らの持つ復讐心……どれも尋常では無かった。子供達が何故、ああなってしまったのか……」

ネロ「ユウマの未来を信じて歩く姿は良いな。しかし、コトリとアストラルの嫁力の高さが凄まじいな……」

武蔵「いやー、姉として弟の成長物語を見るのは格別だね!でも……遊馬って本当に13歳?」

桜「お兄ちゃんがかっとビングを失ったらあんな風に弱くなっちゃうなんて……やっぱりかっとビングって凄いんだね」

ジャック「私達を救ってくれたかっとビング……本当に凄いんだね……」

エルメロイII世「マスターの世界の人間は一体全体どうなっている……?魔術師でもないのに摩訶不思議な異能者が多すぎるだろう……」

マルタ「カイトのたった一人の弟、ハルトを救う為に自分の全て懸けて戦う姿……胸が打たれたわ」

エドモン「レティシアと同意見だが、お人好しにも程がある。自分やアストラルの事で充分なのに、どうして他人を助けようとする、他人の願いを聞き入れるのか……」

天草「全くですね……ですがそれがマスターの良いところなのでしょう……」


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ナンバーズ114 遊☆戯☆王ZEXAL 第一部・第三章『三勇士集結!未来を切り開け、ZEXAL!』

皆さん、大変お待たせしました!
ZEXAL編第一部最終回です!
WDC決勝からカイトのデュエルまで名言とか多すぎて大変でした。
DVDを借りて何度も見直して……早くZEXALの再放送、もしくはネット配信をしてもらいたいです。
こうして見るとやっぱりZEXALは好きだなと改めて感じました。

先日、プリズマ☆ファンタズマを見てきました!
ネタバレはしませんが、桜ちゃんが可愛くて満足しました!
早くイリヤと美遊とクロエの三人を早く我がカルデアに迎えたいですね。


激戦と波乱のWDCの予選を無事に突破した遊馬とアストラル。

 

大会運営より、WDC決勝大会の前夜祭が行われ、遊馬達は正装で訪れた。

 

遊馬はイメージカラーである赤のタキシードを着ており、その姿を見てレティシアは思った。

 

「遊馬……」

 

「何だよ、レティシア」

 

「あんた……タキシード姿似合ってないわね……」

 

「うるせぇ、ほっとけ!」

 

まだ13歳で幼さが残るためかタキシードがあまり似合ってなかったのでレティシアにダメ出しされ、遊馬はそっぽを向く。

 

「やっぱ、遊馬はいつもの格好が一番ね」

 

「そうですね、活発的な遊馬君の一番似合う服はそれしかないですね」

 

レティシアとジャンヌは遊馬の似合う服はやはりいつものTシャツと白ズボンに赤のパーカーが一番だと感じた。

 

前夜祭のパーティーに向かおうとしたが、遊馬がうっかり招待状を忘れて入れないというトラブルが起きてしまった。

 

しかし、そこにゴーシュが現れて遊馬達の入場が認められ、無事にパーティー会場に入ることができた。

 

パーティー会場に入るとそこには予選を勝ち抜いたツワモノ揃いのデュエリストが沢山おり、その中には凌牙にカイトやⅣや長髪の青年もいた。

 

しかし、先日遊馬と激闘を繰り広げた末に絆を結び、既に予選を突破しているはずのIIIの姿が何処にも見当たらなかった。

 

それからしばらくしてWDCの主催者であるMr.ハートランドが参加者の前に現れて挨拶をするが、すぐさま会場の照明が消えると同時に笑い声が響き渡る。

 

そこに現れたのはWDC予選突破者の一人……仮面を被った謎の少年、トロン。

 

「おじさん、あなた達のこと……ぶっ潰してあげる。ハハハハハッ!!!」

 

トロンは不気味な雰囲気を漂わせながら笑みを浮かべ、Mr.ハートランドに対して宣戦布告をする。

 

更には近くにいた遊馬にも決勝で会おうと声を掛けるが、その視線はアストラルにも向けられていた……。

 

「……あの子供、ただの子供ではない……強い邪悪な意志を感じる……」

 

「それだけではない。あいつからヒシヒシと感じるぞ、復讐に満ちた憎悪を!」

 

アタランテはトロンがただの子供ではないと一目で見抜き、またエドモンはトロンに復讐心が宿っていると察知した。

 

遊馬は会場を少し離れるとそこで、カイトと再会した。

 

全力で戦い合うと強気の姿勢を見せる遊馬だが、カイトが意識を向けているのはアストラルの方だけ。

 

しかし、遊馬は全力でカイトと戦うことを望んでいた。

 

そして、翌日……遂にWDCの決勝大会が始まる。

 

1万人以上のデュエリストから、決勝大会に進出したのは遊馬達を含めてたったの23人。

 

世界中が注目するだけあって、ハートランドシティの住民や日本中、果てには世界から大勢観客が来ており、観客席は超満員だった。

 

試合会場には、23台のジェットコースターが用意されていた。

 

その名は『デュエル・コースター』。

 

23人のデュエリストたちはそれに乗り込んでデュエルを行うことになる。

 

デュエル・コースターの起動にはハートピースが必要だが、遊馬はもはやうっかりの極みでそれを忘れてしまっていた……。

 

「……今更だけど、今度から特異点に向かう時には必ず遊馬の持ち物をチェックしましょう」

 

「そうだね。流石にこれはちょっとね……」

 

今まで特に忘れ物をしなかったので気にしていなかったが、遊馬がこれほど大切なイベントや決勝大会で重要なものを連日続けて忘れているのでオルガマリーとロマニは今度から持ち物チェックを必ず行おうと強く誓った。

 

ハートピースが無く焦る遊馬を尻目に、22台のコースターが一斉スタートしてしまった。

 

一方で、遊馬のハートピースは九十九家の自室で発見された。

 

明里はバイクに乗って試合会場に向かい、ナンバーズ・クラブの小鳥たちは遊馬の為にある作戦を開始する。

 

その作戦は小鳥たちがハートピースを投げ渡していくというもので、仲間たちの連携により最後に小鳥がキャッチして全力で遊馬の元へ向かった。

 

しかし、デュエル・コースターに着く直前に小鳥は躓いてしまい、既に着席していた遊馬の膝に乗った状態でハートピースがハート型の穴にセットされ、小鳥を乗せたままデュエル・コースターが起動して勢い良く発進してしまった。

 

「「「何故(ですか)!??」」」

 

本来なら遊馬一人で発進するはずのデュエル・コースターが小鳥を乗せて進んでしまったのか……マシュ達は何故こんなことになったのか全く理解ができなかった。

 

最早偶然に偶然が重なった結果としか言いようがなかった。

 

「もしかして、小鳥って幸運がかなり高いのかしら?」

 

「今まで危険な目にあっても特に大きな怪我はしてないし、何だかんだでマスターと一緒にいるし……ありえるかもね」

 

女神で幸運のランクがEXのステンノとエウリュアレは遊馬と行動を共にする小鳥のこれまでの経緯を見て、実は一般人とはかけ離れたかなりの幸運の持ち主ではと考えた。

 

事実、デュエル・コースターは小鳥を乗せたままレールの上を進み、主催者のMr.ハートランドも面白そうと思ったのか主催者権限で独断で許可してしまい、遊馬はアストラルと小鳥の3人で決勝大会を戦うことになった。

 

何だかんだで遊馬と一緒にデュエル・コースターを乗ることになった小鳥を見てネロと清姫は抗議に向かった。

 

「コトリよ!お主は観客席ではなくユウマを側で応援する為にワザと転んだな!??これが嫁としての行動力……何て恐ろしい娘なのだ!!」

 

「ち、違いますよ!本当に躓いただけで偶然ですよ!!」

 

「あざとい、あざといですよ、小鳥さん!そこまでして旦那様と一緒にいるなんて!!しかも膝の上に乗るなんて……羨ましいです!!」

 

「誤解ですって!だからそんな怖い蛇の目で睨みつけないでください!!」

 

ハートピースを届けようとして偶然転んでしまったのに何故自分がここまで言われなければならないのかと小鳥は涙目になりながら必死に弁明した。

 

デュエル・コースターでは通常のデュエルとは異なり、かなり特別なルールが設けられており、複数あるレーンのうち、同じレーンを走ればデュエルを行うことが出来る。

 

そしてデュエルで敗者となったデュエリストのデュエル・コースターはレーンから外れ、デュエリストも席から強制射出されてしまう。

 

また、走行するレーンは自由に変えることは出来るが、一歩間違えれば大怪我は免れないリスクもある為、冷静かつ的確に判断しなければならない。

 

既に前方では多くのデュエルが行われ、脱落者が続出する。

 

遊馬も対戦相手を探そうとするが、そこに『フォール・ガイズ』と呼ばれるデュエルの裏世界でそれなりに名高い3人が待ち伏せしていたのだ。

 

驚くことに遊馬を脱落させる為に誰かに金で雇われて3人がかりで襲ってきた。

 

振り切ろうとする遊馬だが、その前方には『T』の文字が表示された大きなカードが現れた。

 

それは罠カード『仕込みマシンガン』で遊馬のライフポイントにダメージが与えられた。

 

デュエル・コースターの特別ルールでレーンのあちこちに様々な魔法・罠カードがセットされており、通過した際にその効果が発動する。

 

今回は罠カードが設置された場所を通過した為に、遊馬はその効果を受けることになってしまう。

 

フォール・ガイズはフォーメーションを組み、遊馬にデュエルを挑んできた。

 

1対3の圧倒的不利な状況でデュエルを行うこととなり、フォール・ガイズは共通効果を持つマグネットモンスターを操り、破壊された時に他のマグネットモンスターの攻撃力を上昇させる効果がある。

 

ゴーシュとドロワの時以上に不利なデュエルを強いられ、絶体絶命のピンチに陥ってしまった……その時!

 

「爆走特急ロケット・アローで攻撃!!!」

 

ロケットのような形をした巨大な列車が現れてフォール・ガイズのモンスターが破壊され、遊馬とフォール・ガイズのデュエルに乱入者が現れた。

 

「俺が力を貸すぜ、遊馬!」

 

「ア、アンナァ!?」

 

それは先日、遊馬とデュエルを行った少女・神月アンナだった。

 

彼女はWDCの出場資格が無いはずだが、何故かデュエル・コースターに乗り込んで遊馬に助太刀する。

 

事情は後で聞くことにし、急遽遊馬とアンナの二人でフォール・ガイズとデュエルを行うが、今度はアンナがピンチとなり、助けてもらった礼に遊馬が助太刀する。

 

「よけーなことすんな!あんな奴にやられる俺じゃねえ!」

 

「も~!助けてもらったくせにぃ!」

 

「先に助けたのはこっちだ!」

 

「ぐぬぬ……」

 

「ああ。ありがとな、アンナ!」

 

「え!?い、いや、褒めてもらいたいわけじゃ……エヘヘッ……」

 

「めっちゃ喜んでるし!」

 

遊馬に感謝され、頬を染めながらめちゃくちゃ喜んでいるアンナ。

 

その姿にマシュ達は気付いてしまった。

 

アンナは勘違いから遊馬にデュエルを挑んで結局好意を抱いていたのは別人だった訳だが……どうやらあのデュエルでアンナは遊馬に好意を抱いてしまったようだった。

 

「ギャハハハ!やるじゃねえか、マスターちゃんよ!たったあれだけの時間であんなに可愛いオレっ娘の巨乳のお嬢ちゃんを堕とすなんてよ!」

 

「全くだ、前から思っていたが本当に将来有望な女誑しマスターだぜ!色々と楽しませてくれるな!」

 

遊馬の無自覚天然女誑しにアンリマユとクー・フーリンは大笑いしながら楽しんでいた。

 

「やはりマスターはうちのシロウと同じ……いや、もしかしたらそれ以上の女誑しですね」

 

「まさかマスターがこれほど酷い女誑しとは……末恐ろしい」

 

「僅か十三の歳で……将来が不安だな」

 

「それに加えてこのカルデアにもマスターに惹かれている子は沢山いるし……もう修羅場どころじゃないわね」

 

「マスターさん、大丈夫でしょうか……幼い頃の私もこの前お嫁さんになるって宣言していたので……」

 

アルトリア、オルタ、ランサー・アルトリア・オルタ、イシュタル、パールヴァティーは遊馬はこれから女性関係で大丈夫なのかどうか心配になって不安になる。

 

そして、サーヴァントの中で遊馬と同等の無自覚天然女誑しと言われているエミヤは一筋の涙を流しながら呟く。

 

「マスター……私の知人はこう言っていた。『女は魔物だ!』と……これから何が起きるか想像も出来ないが、死ぬな、負けるな……マスター……!!」

 

エミヤも女性関係で色々大変だが、遊馬が13歳でこれだけ大変な目にあっているので応援せずにはいられなかった。

 

フォール・ガイズは一番上の兄であるウルフを守るため、そして遊馬を脱落させる為に他の二人は犠牲になっていく。

 

再び訪れた遊馬の危機的大ピンチ……だが、ここで二人目の乱入者が現れた。

 

「ノリが悪いな、遊馬!!!」

 

「ゴ、ゴーシュ!??」

 

それはゴーシュで、遊馬を脱落させない為に助太刀に現れ、これでデュエルは3対3のフェアな戦いとなる。

 

ウルフを倒す為にアストラルはある提案をする。

 

それは遊馬とアンナとゴーシュの3人の力を一つに合わせること……それぞれのフィールドにはレベル4のモンスターが一体ずつ。

 

3人のモンスターをオーバーレイし、『隻眼のスキル・ゲイナー』をエクシーズ召喚し、一気に攻め立てる。

 

形勢は逆転し、フォール・ガイズのウルフ以外の二人を倒した。

 

ウルフはレーンを変えて逃走し、ひとまず危機は脱した。

 

アンナが何故WDCに参戦しているかというと、決勝進出者の一人を縛り上げてハートピースを奪ったらしい……。

 

何故そんなことをしたのか問うと……。

 

「だって、お前に会いたか──」

 

「何だあれは!?」

 

勝利を喜ぶのも束の間、ウルフがレーンを逆走して戻って来た。

 

ウルフは切り札の『超電磁竜マグネドラゴン』で遊馬にダイレクトアタックをしようとしたが、アンナがダイレクトアタックを引き受けるモンスターを呼び出して身代わりとなった。

 

アンナは脱落し、席から強制射出してしまうが、飛行形態のフライングランチャーが飛んで来てアンナを乗せる。

 

「こうなりゃ、正真正銘のダイレクトアタックだ!!!」

 

意地でも遊馬を倒す為にウルフはデュエル・コースターをぶつけて脱線させようとした。

 

しかし、それよりも早く遊馬がスキル・ゲイナーで攻撃し、マグネドラゴンを破壊してウルフを脱落させる。

 

フォール・ガイズを全員脱落させ、これで遊馬への危機は去った。

 

アンナはフライングランチャーで遊馬に近付き、エールを送る。

 

「信じてるからな、負けんじゃねーぞ。あばよ、絶対優勝しろよな~」

 

アンナは遊馬への勝利を信じ、レーンから離れた。

 

23人のデュエリストの大半が脱落し、デュエル・コースターによる決勝戦のパークセクションが終わり、次のステージへと突入する。

 

決勝戦・地下セクション……地下に潜った遊馬達は生き残る為に互いに激しい攻防を繰り広げる。

 

そして、最後に生き残ったのは遊馬を含めて8人。

 

この先は4つのステージへと別れており、1つのステージで2人がデュエルを行い、最後の4人が決勝トーナメントの準決勝に進出する。

 

その8人は遊馬、凌牙、カイト、ドロワ、ゴーシュ、トロン、Ⅳ、V。

 

四つのステージでデュエルが行われ、それぞれ特別な効果があるフィールド魔法が展開されている。

 

まず最初に『ジャングル・ステージ』でデュエルを行なったのはドロワとトロン。

 

ドロワは前夜祭で感じたトロンへの異常さや恐怖からカイトと戦わせない為にデュエルを挑んでいた。

 

それはMr.ハートランドの指示でも忠誠心からでも無い、全てはカイトの為だった。

 

何故なら……。

 

「私は、彼を愛している」

 

ドロワはハルトの為に誰にもすがらずに己の全てをかけて戦い続けるカイトを愛しており、彼の為にデュエルをしているのだ。

 

ドロワは万全の対策を取ってトロンを追い詰めるが、それを嘲笑うかのようにトロンのナンバーズ……『No.8 紋章王ゲノム・ヘリター』をエクシーズ召喚し、ドロワのフォトン・バタフライ・アサシンの名と効果と力の全てを奪い、形成を逆転させた。

 

トロンは自分に歯向かった報いを受けさせるためか、紋章の力を使ってIIIが遊馬にしたようにドロワのカイトへの想いや記憶を奪い始めた。

 

遊馬の必死の言葉で辛うじて意識を保ったドロワは自分のライフポイントを賭け、相打ち覚悟でトロンを倒そうとしたが……一歩及ばずにドロワは敗北してしまった。

 

そして、敗者の末路と言わんばかりにトロンの紋章の力でドロワからカイトへの想いや記憶の全てが奪われて行く。

 

だが、ドロワにはカイトに伝えたい想いがある。

 

それを駆け寄って支えてくれている遊馬に託した。

 

「カイトに伝えて……私を、覚えておいて……」

 

その言葉を最後にドロワは魂を抜かれたように意識が失った。

 

トロンのあまりにも卑劣なやり方に、遊馬の怒りが込み上げてくるのだった。

 

そして、それはこの場にいるほぼ全ての女性陣にとっても同じことだった。

 

愛する人への大切な想いと記憶を奪う……それを平然と楽しそうに行ったトロンに既に怒りが爆発しかけていた。

 

拳を強く握りしめて己を抑えていた。

 

魂を奪われ、意識を失ったドロワをWDCの職員に任せ、遊馬と小鳥はデュエル・コースターに乗って次のステージに向かう。

 

するとそこにカイトを心配して飛んできたオービタル7がデュエル・コースターの席に割り込み、そのままカイトのいるステージまで向かうことにした。

 

次のステージ、『スペース・フィールド』に到着すると既にカイトと長髪の男・Vがデュエルをしていた。

 

早速遊馬はドロワがトロンにやられてしまったこと、そして……ドロワの想いを伝えるが、カイトは自分には関係無いと一蹴してしまう。

 

カイトの態度に思わず掴みかかる遊馬だったが、Vに声を掛けられる。

 

遊馬はVにも聞きたいことがあると意識はそちらに向けられた。

 

Vはこの場に遊馬とカイト……このWDCの戦いに導かれて集った者達に運命を感じ、自分だけが知る真実を語り出す。

 

Ⅴ達家族が何故このWDCに現れて暗躍を始めたのか……そしてカイトとハルトに……否、二人の父・Dr.フェイカーに復讐しようとしている理由を。

 

「Dr.フェイカーが、カイトとハルトの父親ですって!??」

 

薄々気づいている者も何人かいたが、その事実にレティシア達は驚愕する。

 

全ての始まりは今から5年前。

 

科学者であるVの父・バイロンとDr.フェイカーは、異世界の扉を発見する研究を続けていた。

 

だが、あと一歩のところでその場所を特定することが出来ず、Dr.フェイカーは焦っていた。

 

そんはDr.フェイカーにバイロンは冒険家の一馬を紹介した。

 

一馬は冒険家だけではなく、大学の講師をしており、考古学など様々な分野で優秀な学者でもあったのだ。

 

Dr.フェイカーは一馬に金や名声などの下心が無いことを確認し、自らの意見を語った。

 

異世界への扉が出現したことにより、世界中の21ヶ所の地点で異常データが観測されており、これを分析すれば次に出現する場所が特定出来るはず……それが21次元方程式と呼ばれるものだ。

 

しかし、一馬はあと2ヶ所の出現場所があるとし、23次元方程式を提唱したのだ。

 

一馬の考えから、次に出現されるだろう異世界への扉の場所を割り出し、一馬のガイドのもと、早速調査を行うことになった。

 

それから数日経過し、一馬達はとある遺跡に辿り着いた。

 

この先に異世界への扉があるはず……様々な罠を潜り抜け、ついにその場所を発見したが、そこは行き止まりになっていた。

 

足元に何かの文章が刻まれて一馬とバイロンは理解出来なかったが、Dr.フェイカーだけは解読が出来ていた。

 

「二つの魂を捧げる時、大いなる扉が開かれる」

 

突如、部屋の空間が赤い粒子に包まれて床が扉となって開き、そこは異世界への扉となっており、二人は底が見えない異世界と言う名の奈落の底へと落ちそうになる。

 

二つの魂とは一馬とバイロン……Dr.フェイカーは二人の魂を生贄に、自らの望みを叶えようとしていたのだ。

 

そして、バイロンはDr.フェイカーへの恨みを叫びながら、一馬と共に異世界の狭間へと落ちて消えてしまった。

 

「遊馬君のお父さんが……なんて事を……!」

 

「フォウ……!!」

 

一馬が行方不明になった原因にマシュとフォウは怒りで震えており、遊馬を慕う他の者達も怒りを募らせていた。

 

それから長い時間が経過し、バイロンは異世界からこの世界に戻って来た。

 

しかし、Dr.フェイカーへの復讐だけを心の支えとし、代償としてその姿は変わり果ててしまった。

 

バイロンの今の姿……それは顔を仮面で隠し、子供の姿となってしまった……。

 

そう……トロンこそ、V達の父親、バイロンだったのだ。

 

全ての元凶、因縁はDr.フェイカー……だからこそ、Ⅴ達はその報いを必ず受けてもらうと行動しているのだ。

 

「そういう事か。この俺と同じように復讐者となって異世界から帰還したという事か……愛する我が子達も巻き込んでか……」

 

かつて全てを奪われて復讐を誓い、壮絶なる復讐を起こしたエドモンは同じ復讐者としてトロンに親近感を抱いた。

 

カイトにとってDr.フェイカーの行いは興味は無く、自分にあるのはハルトへの想いのみだった。

 

カイトは銀河眼の光子竜を召喚し、既にVがエクシーズ召喚した『No.9 天蓋星ダイソン・スフィア』を攻撃するが、その攻撃は届かなかった。

 

動揺するカイトの前に、遂にダイソン・スフィアのその姿を現した。

 

それは太陽も覆い隠す、デュエルモンスターズ史上最大の大きさを誇る、超巨大モンスターだった。

 

Vはカイトのデュエルを手に取るように理解し、優位に立っていた。

 

何故なら、Vはカイトにデュエルを教えた師匠だったのだ。

 

三年前……突如、父のバイロンがいなくなったことで家族はバラバラになってしまった。

 

ⅣとIIIは施設に引き取られ、Vはバイロンが行方不明となった事件の真相を知るためにDr.フェイカーのもとに残った。

 

そんな時にVはカイトとハルトと出会い、Vは二人に自らの兄弟を重ねていた。

 

弟を守るために強くなりたいと願うカイトに Vはデュエルを教えたのだ。

 

倒れたカイトに声を掛ける遊馬。

 

そんな遊馬の姿にVは意外だと感じていた。

 

カイトが一馬を裏切ったDr.フェイカーの息子で、同時にナンバーズ・ハンターでもある。

 

カイトが生き延びるということは、遊馬もいずれナンバーズと魂を狩られるかもしれないと言う事だ。

 

しかし、遊馬にとってカイトは敵ではなく、一度デュエルしたカイトは仲間であると同時に目標だった。

 

仲間を大切にすると言う、遊馬の真っ直ぐな心にVはかつての一馬の面影を感じた。

 

しかし、VはやはりDr.フェイカーと、その息子であるカイトを許すことはどうしても出来なかった。

 

敗北寸前のカイトに、今度はⅤが声を掛ける。

 

ナンバーズ・ハンターの使命とハルト……その全ての苦しみはここで解放されると。

 

それがVが掛けられる、最後の情けだが……カイトにとってハルトは苦しみではない。

 

むしろ逆でハルトは希望を与え続けてくれる生き甲斐なのだ。

 

満身創痍でありながらも、カイトは再び立ち上がった。

 

そして、運命のラストドロー……そのカードはカイトに勝利を齎す希望のカードだった。

 

「魔法カード……『未来への思い』を発動!!」

 

それは手紙が入った瓶が星空の輝く海に漂うイラストのカードで、Vすら知らないカードだった。

 

それもそのはず……このカードは人生でたった一枚、父……Dr.フェイカーから貰ったもので、これまで一度も使ったことがないのだ。

 

父親を憎むカイトが、そんなカードをデッキに入れているはずがない。

 

そう考えるVだが、遊馬にはカイトの想いが理解出来た。

 

「当たり前だろ、そんな事!誰だって家族は守りたい!あんた達が家族を守ろうとするようにな!だから、カイトもそのカードを持っていたんだ!自分の家族にだって、希望があるって!!だから、カイトは……!!」

 

「黙れ!お前に、俺の気持ちを代弁してもらうつもりはない!」

 

遊馬の言葉がカイトの心をそのまま表しているようで、図星同然だったようだ。

 

未来への思いはカイトのハルトを守りたい思い、そしてDr.フェイカーを信じたいという強い思いが込められていた。

 

未来への思いの効果で墓地からレベルの異なるモンスター三体を攻撃力0の状態で復活させるが、このターンにエクシーズ召喚をしなければカイトのライフポイントが一気にゼロになってしまう。

 

カイトはフィールドに呼び出した銀河眼の光子竜を含む三体のモンスターのレベルを統一させる魔法カードを発動し、これでレベル8のモンスターが三体揃った。

 

そして、ハルトとの兄弟の絆の証である切り札、超銀河眼の光子龍をエクシーズ召喚し、鉄壁と思われたダイソン・スフィアの効果を無効にし、更にオーバーレイ・ユニットを吸収してその攻撃力を高めた。

 

カイトは師匠であるVを越える時が来た……その興奮を胸に超銀河眼の光子龍でダイソン・スフィアを破壊し、Vを倒した。

 

Ⅴは父を、トロンを救いたかった。

 

だが、戻ってきたトロンの心はDr.フェイカーへの復讐に取り付かれていていた。

 

復讐の先にあるのは空しさだけ……Vはそれを分かっていながらもトロンを止めることが出来なかった。

 

それが親子というものだと納得しようとしたVだが、カイトはそれを否定。

 

カイトは親に抗うために戦っている。

 

いつかハルトの件が解決したとき、Dr.フェイカーと決着をつけるために。

 

カイトはVの想いを受け継ぎ、トロンと決着をつける決意をしていた。

 

Ⅴはそんなカイトの強さを感じ、満足そうな表情を浮かべてダイソン・スフィアのカードを残して消えていった。

 

カイトはダイソン・スフィアのカードを回収し、オービタル7を飛行形態にして飛び去った。

 

「彼ら二人が動き出した時、私はこの世界に送り込まれた。ならば、それがアストラル世界にいる君の父親の意思」

 

アストラルは遊馬と力を合わせ、Dr.フェイカーとトロンを止める為にこの世界に送り込まれたと考える。

 

「やってやる、やってやるぜ!俺もガツンと言ってやる!自分勝手な大人達に!!」

 

遊馬はアストラルと出会った意味を感じ、自分勝手な大人達……Dr.フェイカーとトロンを止めると誓った。

 

カイトとVのデュエルを見届け、スペースフィールドを出た遊馬たち。

 

アストラルは紋章の力を感じ、トロンがいるかもしれないと力を感じる先へと進んで辿り着いた場所にいたのは凌牙とⅣだった。

 

次のステージは灼熱の溶岩が広がるマグマフィールド。

 

ここでは、凌牙とⅣのデュエルが行われていた。

 

マグマフィールドに展開されているフィールド魔法の『マグマ・オーシャン』は、水属性モンスターを召喚したときにそれを破壊する効果を持ち、水属性デッキの凌牙には圧倒的不利なデュエルだった。

 

しかし、凌牙はそれを見越して水属性モンスターの効果破壊を守るカードを発動していた。

 

アストラルは凌牙がこの一戦に賭ける意気込みを感じていた。

 

実際に凌牙は例えどんな手を使ってもⅣを倒す……それほどの決意を持って挑んでいた。

 

凌牙は海咬龍シャーク・ドレイクをエクシーズ召喚するが、シャーク・ドレイクは元々はIIIが所有していたモンスターでⅣはとても驚いていた。

 

それを凌牙に渡すよう仕向けたのは、幻影として現れたトロンだった。

 

トロンはⅣの苦戦をおちょくると、Ⅳの怒りが爆発し、Ⅳは自らの使命を口にし出した。

 

それは……凌牙を心の闇の中に落とすこと。

 

そのために凌牙を大会で罠にはめ、更には凌牙の妹に大怪我を負わせたのだ。

 

遂に真実を知ったシャーク。

 

怒りを露わにする凌牙と遊馬達の前に、トロンが現れた。

 

アストラルはトロンに何が目的か問うと、トロンは正直に答える。

 

トロンの目的……それは凌牙を操り、Dr.フェイカーの刺客とするためだった。

 

Ⅳは反発するが、トロンはDr.フェイカーを倒すにはⅣよりも凌牙の方が適任だと考えていたのだ。

 

Ⅳは怒りのままNo.40 ギミック・パペット - ヘブンズ・ストリングスをエクシーズ召喚し、装備魔法の効果で脅威の8回連続攻撃を喰らわせた。

 

その連続攻撃に凌牙は大ダメージを与えられ、あまりにも悲惨な光景に怒りを露わにする遊馬。

 

トロンは遊馬を黙らせるために紋章の力で鎖を生み出して縛り、身動きを取れなくなってしまった。

 

それでも遊馬はデュエルを人を幸せにするもの、皆が仲間に、友達になれると豪語する。

 

そんな遊馬の言葉にトロンは一馬を連想させて言葉を掛けた。

 

恨むなら一馬を奪ったDr.フェイカーを恨めと囁くトロンだが……トロンはドロワを苦しめ、ⅢやⅤを復讐の道具にした張本人。

 

遊馬はトロンを絶対に許すわけにはいかず、その囁きには乗らなかったが、遊馬の中に闇が生まれつつあった。

 

一方、追い詰められた凌牙に悪魔の囁きが訪れた。

 

それはシャーク・ドレイクの声だった。

 

自らを受け入れ一つになれと迫るシャーク・ドレイクだが、凌牙はそれを拒否する。

 

もうナンバーズに取り込まれる気など無いのだと正気を取り戻し、立ち上がった凌牙は永続魔法『異次元海溝』で発動し、シャーク・ドレイクを除外した。

 

シャークの判断は賢明だが、唯一の切り札を失ったことになる。

 

Ⅳはトロンの為にも凌牙を倒そうと意気込むが、トロンの態度は冷たく、Ⅳを信頼していなかった。

 

何故なら、友であるDr.フェイカーに裏切られた今のトロンが信じられるのは自分自身と、異世界で彷徨った際にその命を助けてくれた者たちのいるバリアン世界だけだった。

 

Ⅳは勝つ為の最後の切り札を呼び出し、現れたのは『No.88 ギミック・パペット - デステニー・レオ』。

 

デステニー・レオはオーバーレイ・ユニットが全て無くなった時に特殊勝利を発動させる強力なモンスターエクシーズ。

 

次にⅣのターンが来れば、そこで勝利が確定するということだ。

 

復讐の相手であるⅣに、一矢も報いぬまま負ける……追い詰められた凌牙にトロンが助言した。

 

「シャーク・ドレイクが呼んでいる」

 

勝つためにはシャーク・ドレイクを呼び戻し、一つになるしかない。

 

そうすれば全てが叶えられると。

 

Ⅳとトロンを倒し、復讐を成し遂げる……妹を傷付けられた日から、復讐に全てを捧げてきた。

 

それが叶えられるなら、例え悪魔にこの身を奪われても構わない……!

 

遊馬は何度も必死に声をかけるが、勝ち続けるための力を得ることを凌牙は決意した。

 

異次元海溝を破壊し、これにより除外されていたシャーク・ドレイクがフィールドに復活した。

 

シャーク・ドレイクを呼び戻すための布石は予め、用意されていた。

 

凌牙は何度も拒否しながらも、ナンバーズの誘惑を断ち切ることが出来ていなかったのだ。

 

「俺が新たな力を手に入れるのはここからだ。復讐を遂げる為、全てを受け入れる!さあ、シャーク・ドレイクよ!俺の望みを受け入れ、進化せよ!俺は海咬龍シャーク・ドレイクをカオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

復讐を遂げるため、全てを受け入れる……凌牙の体が紫色に輝き、新たな力を顕現させる。

 

シャーク・ドレイクが変形前へと戻ると、天に昇って光の爆発を起こす。

 

「現れよ!『CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス』!!」

 

そして、現れたのは純白に輝き、鋭利な爪を携えた巨大な鮫……それは遊馬とアストラルだけが所有している希望皇ホープレイに続く新たなカオス・ナンバーズだった。

 

何故凌牙がカオス・ナンバーズを作りだせたのか遊馬とアストラルは驚きを隠せずにいた。

 

シャーク・ドレイク・バイスの効果でデステニー・レオの攻撃力は下がり、そして……復讐を遂げる最後の一撃でデステニー・レオを貫き、凌牙はⅣに勝利した。

 

凌牙の覚醒に満足した様子のトロンは姿を消し、一方で敗北したⅣは意外にも素直に謝罪した。

 

Ⅳは帰って来た父を、トロンを止めることが出来なかった。

 

数年前、トロンに命じられるまま凌牙の妹とデュエルをし、渡されたカードを使った。

 

しかしそのカードは炎の竜巻を実体化する危険な力を秘めたカードで大火災が起きてしまった。

 

Ⅳは妹を傷付けるつもりはなく、その際にⅣは顔の右半分に大きな十字傷を付けながらも必死に助けようとしていた。

 

だがシャークを罠にはめ、妹を意識不明の重体にまで追い込んでしまったことに変わりはない。

 

Ⅳはその事を深く責任を感じていた。

 

恨むなら自分だけを、その代わりにトロンを……父を救ってほしい。

 

そして、兄と弟と共にあなたの帰りを待っていると伝えて欲しい……それがⅣの最後の願いだった。

 

Ⅳの言うことが真実であれば凌牙の復讐心は全てトロンに向けられる。

 

新たな復讐心を胸に去っていく凌牙に悲しい視線を送る遊馬。

 

復讐の対象が変わっただけで、結局は何も変わらない。

 

「シャーク……デュエルで復讐や恨みを晴らしたって、誰も幸せになんかなれない。デュエルは……デュエルは……」

 

デュエルは復讐の道具ではない……そう信じる遊馬だが、今は凌牙たちを止めることは出来ない。

 

「遊馬。今は君が信じる道を貫け。君が正しければ、必ず道は開ける」

 

アストラルは遊馬を今出来ることをやるしかないと励ます。

 

「ああ、やってやる……どんな道でも切り開いてやる!!」

 

遊馬は自分の道を貫き、切り開くために自分のデュエルフィールドへと向かう。

 

「復讐が復讐を招くか……復讐の連鎖がこれほど複雑に絡み合っているとはな……」

 

エドモンは凌牙とトロンの復讐心がこれほどの多くの悲劇を生み出している事に溜息をついた。

 

「ふざけるな!!……あれだけ貴様の身を案じ、全てを犠牲にした我が子達を復讐の道具として使い簡単に切り捨て、更には関係ない兄妹を追い詰めるなんて……良いだろう、私が貴様に引導を与えてやる!!」

 

一方、アタランテはトロンの非情な復讐に怒りが爆発し掛け、その身に闇を纏ってオルタ化しそうになっていた。

 

「ア、アタランテ!??ジャック、アタランテを止めてくれ!」

 

「う、うん!えっと……アタランテ、落ち着いて?」

 

ジャックは立ち上がろうとしたアタランテの膝にちょこんと乗り、体がより密着したことでアタランテは非常に驚いて思わず闇が消え去った。

 

「ジャ、ジャック!?」

 

「アタランテ、落ち着けって!とりあえずこのまま見てろって!」

 

「しょ、承知した……ジャック、このまま座ってもらって良いか?」

 

「うん、いいよ」

 

アタランテは膝に乗ったジャックを抱きしめて頭を撫で撫でして至福の時を味わい始めた。

 

今後アタランテが暴走し掛けた時には子供達とスキンシップをさせた方が有効だった。

 

三つのデュエルが終わり、最後のデュエルフィールドへと向かう遊馬達。

 

辿り着いたのは果てしなく続く荒野でまるでアメリカの西部開拓時代を連想させるフィールド、『デンジャラス・キャニオン』。

 

そこで待ち受けていたのはゴーシュだった。

 

決勝トーナメントに進出する最後のデュエルが始まる。

 

デンジャラス・キャニオンはモンスターを攻撃表示で召喚した時と攻撃する時にそのプレイヤーは200ポイントのダメージを受ける。

 

だがこのフィールドは今の遊馬にとって致命的過ぎる効果だった。

 

何故なら遊馬はここに来るまでに運悪く多くの罠カードを通過してライフポイントが100にまで追い詰められてしまったのだ。

 

ゴーシュは効果ダメージを気にも留めずに『H・C ガーンデーヴァ』をエクシーズ召喚し、デュエルにかける強い気迫に満ちていた。

 

遊馬は残りライフとフィールド魔法の効果でまともにデュエルを行うことができず弱気になるが……。

 

ここでゴーシュは罠カード『ヒロイック・ギフト』を発動した。

 

その効果は相手のライフが2000以下のとき、ライフポイントを4000にして自分はカードを2枚ドローするものだった。

 

「あいつ……まさか遊馬と本気で戦うために……?」

 

敵に塩を送る行為の戦術はレティシアは唖然とした。

 

ゴーシュは遊馬のライフポイントを回復させ、万全で本気の遊馬と戦いたいからこその行動だった。

 

ライフが回復したものの、遊馬はモンスターを裏守備表示でセットしてターンエンドしてしまった。

 

遊馬は守りに徹するが、ダメージを恐れずに攻め続けるゴーシュに突破されてしまい大ダメージを受けてしまう。

 

いつもと違う遊馬の異変に、アストラルは気付いていた。

 

勝つことに慎重になり、デュエルを怖がっていた。

 

カイトや凌牙のデュエルを見て、無意識のうちにデュエルに対する恐れが生まれてしまったのだと……。

 

遊馬は否定するものの、どこか自覚していた。

 

遊馬はガガガモンスターのモンスターエクシーズ、『ガガガガンマン』を守備表示で特殊召喚し、その効果でゴーシュに800ポイントのダメージを与える。

 

デュエルの戦術の一つとしてはバトルが終わった後に次のターンに備えるなど間違ってはおらず、寧ろ有効な一手とも言える。

 

しかし、遊馬のデュエルにゴーシュは怒りを露わにする。

 

「俺はお前と……お前とこんなつまらねえデュエルをしたかった訳じゃねえ!!」

 

ゴーシュの本気の叫びに遊馬はハッとなる。

 

ゴーシュがレベル4のモンスター3体分でエクシーズ召喚したの日本神話の武神をモチーフにしたモンスター、『H・C クサナギ』。

 

「さあ、来い!俺を倒したければ、本当のお前の!お前自身のデュエルでかかって来い!それこそがデュエルってもんだろ!!」

 

ゴーシュの言葉に遊馬はようやく気付いた。

 

ゴーシュはどんな時だって自分のデュエルを通してきたが、今の遊馬は自分のデュエルを行ってはいない。

 

ようやく過ちに気付いた遊馬は小鳥をコースターから降りてもらい、自分の全てを賭けてゴーシュとのデュエルに挑む。

 

「絶対に勝って、迎えに来るんだぞ!頑張れー!遊馬ー!」

 

小鳥は遊馬を応援した見送った。

 

小鳥が席を離れたことで、アストラルは遊馬の隣に座る。

 

「遊馬。カイトやシャークは強い。恐るべき力を持っている。そんな彼らに君が恐怖を感じたとしても、それは私にも十分理解出来る。だが、君はいつだってそんな恐怖を乗り越えてきたはずだ」

 

「アストラル、行くぜ。俺は結局、自分のデュエルをするしかねぇんだからな!」

 

遊馬は恐怖を、迷いの全てを振り切り、自分のデュエル魂を蘇らせることができた。

 

「ゴーシュ!今度こそ俺のデュエル、見せてやるぜ!」

 

「おう!ようやく本気になりやがったか!!」

 

ゴーシュが望んでいた遊馬が元の気迫に戻り、嬉しそうにしながらデュエルを再開する。

 

ガガガガンマンとクサナギの激しい攻防により、遊馬のライフポイントは600まで追い詰められてしまったが、当然諦めるつもりはない。

 

ゴーシュはこれが遊馬とのデュエルに求めていた最高のノリだとテンションを最高潮にまで上げる。

 

ところが……レーンが突然途切れてしまい、2人は地面へと落下してしまうのだった。

 

レーンが途切れたのは事故ではなく、デュエルフィールドの仕掛けだった。

 

フィールドは夕日の決闘場へと姿を変えた。

 

まるで西部劇のような夕日が沈む荒野のフィールドで遊馬とゴーシュは銃を構えるガンマンのように立つ。

 

ガガガガンマンとクサナギは互いの効果を駆使して攻撃力を高め、相討ちとなってしまう。

 

互いがフィールド魔法の効果で300ポイントの効果ダメージを受けることになり、後がない状況となる。

 

そして、互いのモンスターが相討ちとなって破壊された瞬間、ゴーシュは最後の罠カード『エクシーズ熱戦!!』を発動した。

 

モンスターエクシーズがバトルで破壊された時、ライフを1000支払うことで互いのプレイヤーは破壊されたモンスターエクシーズを素材とすることで、同じランクのモンスターエクシーズを特殊召喚することが出来る。

 

ゴーシュはエースモンスターの『H - C エクスカリバー』を特殊召喚すると、遊馬に希望皇ホープを召喚しろと迫った。

 

ゴーシュは互いの持つエースモンスター同士による最後の勝負を熱望しているのだ。

 

その勝負に受けて立ち、遊馬は希望皇ホープを特殊召喚し、最後のバトルが始まった。

 

希望皇ホープが攻撃を仕掛け、ゴーシュはエクスカリバーの効果で攻撃力を2倍の4000にし、このままでは希望皇ホープが戦闘破壊される。

 

対する遊馬は希望皇ホープの効果で自身の攻撃を無効にするが、ここでバトルが終わればエクシーズ熱戦!!の効果でモンスターは破壊され、お互いは300ポイントのダメージを受けることになる。

 

現在のライフが300ポイントの遊馬は、このままでは敗北してしまうが……。

 

「いいや、俺にはまだ!このカードがある!!」

 

遊馬の手札にはダブル・アップ・チャンスがあった。

 

これはモンスターの攻撃が無効になった時、攻撃力を2倍にしてもう一度攻撃することが出来る。

 

希望皇ホープの攻撃力は5000となり、エクスカリバーの攻撃力を越え、二振りのホープ剣がエクスカリバーを斬り裂き、遊馬の勝利となった。

 

この瞬間、遊馬のWDC決勝トーナメント進出が決定した。

 

敗北したものの、ゴーシュは満足そうな笑みを浮かべていた。

 

ゴーシュは立ち上がって遊馬に楽しかったと互い称え合う。

 

「遊馬、こいつを持っていけ。その代わり、ノリの悪いデュエルなんかしやがったら、この俺が承知しねえからな」

 

するとゴーシュは遊馬に一枚のカードを託した。

 

それは……ゴーシュのエースモンスター、先程希望皇ホープと激しい戦いを繰り広げた王の剣……エクスカリバーだった。

 

「これは、エクスカリバー!?でも、このカードは……」

 

大切なカードであるはずのエクスカリバーを差し出され、驚く遊馬にアストラルは助言する。

 

「デュエリストとは、負けたデュエリストの想いも引き受けていくもの。彼は自分のデュエルに対する想いを君に託したのだ」

 

かつてはナンバーズ・ハンターとして遊馬のナンバーズを狙おうとしたが、遊馬のデュエルに熱い心に突き動かされ、一人のデュエリストとしてのデュエル魂を思い出した。

 

ゴーシュは自分の想いを遊馬に託し、遊馬のWDC優勝を応援するのだ。

 

「ありがとう、ゴーシュ!お前の想い、確かにこの俺が受け取ったぜ!」

 

「ああ、頼むぞ!頑張れよ!!」

 

遊馬とゴーシュは互いに熱い握手を交わし、ゴーシュは遊馬の健闘を祈った。

 

デュエルをすればみんな仲間……遊馬の目指し、信じている道が確かに証明された瞬間だった。

 

WDCの決勝トーナメントの進出を果たした遊馬。

 

それを祝い、九十九家では小鳥たちを呼んでパーティーが開かれていた。

 

さまざまな強敵に考えるアストラルだったが、遊馬はゴーシュとのデュエルで前向きになっていた。

 

しかし、遊馬はあろうことか、自分のデッキを失くしてしまっていたのだ。

 

「デュエリストが大切なデッキを無くさないでよ、バカ……」

 

「はい、すいません……」

 

デッキをなくした遊馬にレティシアの厳しい言葉がかけられ、遊馬は素直に謝る。

 

デュエリストのデッキケースには、Dパットと連動するGPS機能が付いており、それを調べた結果、遊馬のデッキケースはハートランドにあると判明したのだ。

 

しかし、夜中であるため封鎖されており、忍び込むことは不可能だった。

 

途方に暮れる遊馬たちだったが、そんなとき、建物内に入っていくトラックが目に留まる。

 

そこで徳之助はハートランドに入っていくオボットを乗せたゴミ回収車から侵入作戦を思い付いた。

 

遊馬と小鳥と鉄男は作戦通り、ハートランド内への侵入に成功した。

 

しかし、落とされた場所はゴミを運ぶベルトコンベアーの上。

 

このままでは最悪の場合、ゴミと共に処分される危険もある。

 

ところが何故かその動きは止まり、遊馬たちは近くの扉から脱出した。

 

扉の先には巨大なゴミ処理場があり、ハートランドの下に何故こんなものがあるのかと、遊馬たちが疑問を抱く中、アストラルの脳裏に妙なビジョンが浮かんだ。

 

それは人々の悲鳴と、星と思わしき場所で起こる数々の爆発……。

 

すると、この部屋の上にハルトの気配を察知したからだ。

 

デッキのことは一旦忘れ、ハルトのもとへ向かうことになり、エレベーターのある部屋に到着した。

 

しかし、そこには侵入者を察知した警備ロボがいた。

 

通るためにはデュエルで勝つしかないが、警備ロボが挑んできたのは普通のデュエルではない特別ルールで、その特徴と攻略法を理解した鉄男は小鳥と共に警備ロボを足止めして、遊馬とアストラルを先に向かわせた。

 

エレベーターでハルトの部屋に辿り着いた遊馬とアストラル。

 

そこにハルトはいたが、トロン達から奪い返したあの時のまま、まだ意識は戻っていなかった。

 

深く眠り続けるハルトに、WDCで勝ち残った事や、優勝する決意を優しく語る。

 

遊馬の心の中にはあの日、ハルトをトロン達に渡してしまったことに後悔の念が深く突き刺さっていた。

 

遊馬の瞳から涙が溢れ落ちると、それに呼応してハルトは突然青い光を放つ。

 

遊馬とアストラルが気付くと、そこは見渡す限りの美しい草原が広がる風景だった。

 

それはハルトの意識の中で、ハルトは遊馬とアストラルが来ることを信じて待っていたのだ。

 

「お願いがあるんだ、兄さんを助けて。兄さんはとっても疲れている。でも、僕には兄さんを助ける力はない……僕はここから出られない。お願い、兄さんを助けてあげて……」

 

ハルトは遊馬に自分の願いと想いを遊馬に託した。

 

本物のハルトの意識は心の奥に閉じ込められており、動くことはできないのだ。

 

もしも意識を解放することが出来れば、元に戻すことが可能かもしれない。

 

それにはカイトがナンバーズを集めることと何か関係があると思われるのだが……遊馬とアストラルがこのままナンバーズを集めればハルトは治らない。

 

逆にカイトがナンバーズを集めてしまっては、アストラルが消えることになってしまう。

 

これまで幾度となく現れる答えの出ない大きな問題に遊馬は頭を抱えてしまうのだった。

 

アストラルかハルト……どちらも選ぶことができない遊馬に対し、アストラルは……。

 

「戦うのは君だ。君が決めれば良い」

 

自分の命がかかっているにも関わらずその答えを遊馬に託した。

 

「俺が負けちまったら、お前は消えちまう……」

 

「遊馬。デュエルを共にする中で私は君から多くのことを学んだ。私は共に戦えたのが君でよかったと思っている。私は君が選んだ道に従う。それが如何なる道であろうとも……」

 

それがアストラルの決意だった。

 

遊馬を誰よりも信頼し、自分の命の全てを託しているからこそ遊馬の選択に従うと言う答えを出したのだ。

 

しかし、遊馬はそれに納得出来るわけがなかった。

 

「アストラル……お前、なんでそんな事言うんだよ!?もっと喚いたり泣いたりすれば良いだろう!?記憶を取り戻してくれ、このまま消えたくないって……そしたら、俺だって割り切って戦えんだよ。なのに、何で、何でだよ……」

 

アストラルがもっと自分の本音をぶつけてくれれば、もっとワガママを言ってくれれば良いのにと……涙を浮かべながら黙り込んでしまった遊馬。

 

だがそこに、Dr.フェイカーの立体映像が現れた。

 

遊馬たちの侵入に当初から気づき、Dr.フェイカーにはアストラルが見えている。

 

アストラルは、今まで思っていた疑問を投げかける。

 

ナンバーズはアストラルの記憶の欠片、ナンバーズを集める目的とは何なのか?

 

それは……アストラル世界と並ぶもう一つの異世界『バリアン世界』。

 

Dr.フェイカーはバリアンと取り引きをしていた。

 

アストラル世界を滅ぼし、最強の力を手に入れ、この世界の支配者となる……それこそがDr.フェイカーの目的だった。

 

そのためには自分の子供……カイトとハルトすらも犠牲にするというのだ。

 

そして、遊馬の父・一馬も……。

 

Dr.フェイカーの言葉に遊馬はこの男は本当に二人の父親なのか、なぜそこまでして力を求めるのかと怒りよりも先に疑問が出てきた。

 

Dr.フェイカーは明日の決勝大会を楽しみにしていると言い残すと、遊馬と小鳥と鉄男を再びゴミ山へと落とす。

 

そこに遊馬のデッキケースが落ちてきて、本来の目的はこれで果たされることになった。

 

遊馬はデッキをしまい、Dr.フェイカーへの怒りを心の奥に押し込めて小鳥と鉄男に感謝しながら帰路につく。

 

翌日……勝ち残った4人によるWDC決勝トーナメントが始まる。

 

準決勝の対戦の組み合わせは、トロンVSカイト、遊馬VS凌牙。

 

「アストラル。俺は必ず優勝して、そして、全てをこの手で解決してやる!」

 

「ああ!」

 

遊馬は決意を新たに、アストラルと共に決勝トーナメントに挑む。

 

WDCも遂に決勝トーナメント。

 

準決勝はデュエルタワーで行われ、昨日と同様に大勢の観客がいる。

 

準決勝第一試合、遊馬の対戦相手は凌牙……これまで何度もデュエルを交わし、互いの使用するカードや戦術は分かっている。

 

凌牙がⅣとのデュエルでシャークが召喚したシャーク・ドレイク・バイス……その禍々しさは応援席にいた小鳥を不安にさせる。

 

だがそんな小鳥の心配をよそに、遊馬はいつもの調子だった。

 

しかし、対する凌牙の様子はおかしく、生気を感じられなかった。

 

凌牙の異変の原因にアストラルは見当が付いていた。

 

それは昨日のⅣとのデュエルでも見せた、ナンバーズの闇の力。

 

もしも今の凌牙が最初のデュエルで『No.17 リバイス・ドラゴン』を手にした時以上にナンバーズに取り込まれていたとしたら、その戦いの本能は更に研ぎ澄まされているはず……。

 

遊馬は油断せずに全力を持ってデュエルで語るつもりでいた。

 

デュエルが始まり、遊馬はいつものように攻めるが、凌牙は洗練された戦法を全くせず、戦う意欲が伝わってこない。

 

そして……しばらくしてから起き上がった凌牙の手の甲には驚くべきことにトロンと同じ紋章が浮かび上がっていた。

 

トロンは凌牙に妹の璃緒を傷付けた復讐の相手がDr.フェイカーで、手を組んだ片割れが遊馬であると記憶を捏造したのだ。

 

凌牙の憎しみはトロンではなく遊馬に向けられることになってしまい、凌牙は完全にトロンの操り人形と化していた。

 

凌牙はレベル4のモンスターが3体召喚し、シャーク・ドレイクをエクシーズ召喚した。

 

アストラルが危惧していたナンバーズが姿を現した。

 

早く助けなければ……遊馬はその想いでシャークに訴えかける。

 

最初の対戦やタッグデュエル、皇の鍵を巡るカイトとのデュエル……それらを通じて絆を深め合ってきたはずだと。

 

しかし、トロンに洗脳された凌牙には言葉は届かなかった。

 

ならばデュエルで気持ちを伝えるだけと意気込み、デュエルを続ける。

 

遊馬は攻撃を仕掛けるが、妹の恨みを晴らす復讐心は更に燃え上がり、遂にシャーク・ドレイクが進化し、シャーク・ドレイク・バイスが姿を現した。

 

シャーク・ドレイク・バイスの攻撃に何とか耐えたが、遊馬は次のターンで決着をつけなければ勝ちは無い。

 

遊馬は最後の希望のカード、希望皇ホープをエクシーズ召喚する。

 

しかし、希望皇ホープの攻撃力ではシャーク・ドレイク・バイスに及ばず、自爆覚悟で突っ込むしかないと嘲笑うシャークだが、遊馬はそれを真っ向から否定する。

 

「違う!ホープは死なない!そしてお前のナンバーズも!」

 

「なっ!?」

 

「俺はお前を救いたい。もちろん、負けるのは嫌だ。デュエル・カーニバルで優勝して、トロンやDr.フェイカーにガツンと言ってやりてぇ。でも勝ったとしても、それでお前を失うのはもっと嫌だ!だから俺は、俺は……どんな手を使ってでもお前を助ける!お前を、トロンの呪縛から解き放つ!!」

 

遊馬は凌牙を救うための覚悟を決めた。

 

凌牙からトロンの呪縛を解き放つために遊馬は希望皇ホープによる攻撃を仕掛ける。

 

しかし、遊馬は希望皇ホープの効果を発動し、攻撃を無効にし……ここで永続罠『好敵手の絆』を発動した。

 

その効果は自分のモンスターの攻撃が無効になった時にバトルしていた相手モンスターにこのカードを装備し、そのコントロールを得る。

 

希望皇ホープの効果に適した永続罠で、シャーク・ドレイク・バイスのコントロールは凌牙から遊馬へと移された。

 

その瞬間、凌牙の手からシャーク・ドレイク・バイスが離れたことにより、ナンバーズの力が消えていき、遊馬との出会ったからの日々を思い出し、妹を傷つけたのがトロンだと思い出し、洗脳が完全に解かれて正気を取り戻した。

 

ところが、シャーク・ドレイク・バイスのナンバーズの闇の力は今度は遊馬を苦しめ始めた。

 

ナンバーズの耐性を与える皇の鍵と、ナンバーズに耐性の体質を持つ遊馬ですらシャーク・ドレイク・バイスの強大な闇に取り込まれかけてしまう。

 

しかもそれはトロンの目論み通りだった。

 

トロンの幻影が現れ、仲間を放っておけない凌牙に大きな選択が迫られる。

 

トロンが凌牙を洗脳する時に一緒に渡した罠カード『殲滅の紋章』。

 

これは自分のモンスターを相手がコントロールしているとき、その攻撃力以下のモンスターを全て破壊出来るという効果を持ち、シャーク・ドレイク・バイスと希望皇ホープは破壊され、その攻撃力の合計分5300のダメージも受けることになってしまう。

 

だが、遊馬の手札には自分フィールド上の永続罠を破壊して、自身を特殊召喚することが出来るモンスターが握っており、この効果で好敵手の絆を破壊すれば、希望皇ホープとアストラルは救われる。

 

しかし、シャーク・ドレイク・バイスの戻った凌牙は再びナンバーズの闇が襲いかかり、トロンの洗脳を受けてしまう。

 

アストラルか凌牙……どちらを選ぶべきなのか、その選択は遊馬に委ねられた。

 

「この外道が……!!ユウマとリョウガをそこまで追い詰めるとは……!!」

 

人の心を弄ぶあまりにも卑劣な手を使うトロンにネロは拳を握りしめて怒りを抑える。

 

「君が決めろ、遊馬」

 

「アストラル!?」

 

「この状況では私に出来ることは何も無い。君のデュエルだ、君が考え、君が決めるんだ

 

「そんな事……お前かシャークを選ぶなんて……ぐぁあああああっ!??」

 

遊馬に選べるわけがなく、ナンバーズの闇が遊馬の体に激痛を走らせる。

 

迷う凌牙にトロンは再び悪魔の囁きをし、殲滅の紋章を発動しろと誘う。

 

遊馬は立ち上がり、自分の答えを出す……。

 

「選べねぇ、選べねえ!お前も、シャークも、俺にとって、どっちも大切な……仲間なんだよぉおおおおおっ!!!」

 

遊馬の答え……それは選べない……アストラルも凌牙もどちらも掛け替えのない大切な仲間だから、選べるわけがないのだ。

 

「遊馬……!」

 

遊馬の答えに突き動かされ、凌牙は自分の進むべき未来を選んだ。

 

それは最初に伏せていた速攻魔法『深海雪原封印』を発動し、シャーク・ドレイク・バイスを除外し、その代償として凌牙は1000ポイントのダメージを受けた。

 

凌牙は自分を全力で助けようとした遊馬を助ける為に自滅の道を選び、勝者は遊馬となった。

 

敗北しながらも、シャークの表情は晴れ晴れとしていた。

 

「遊馬、デュエルの最中もお前の声はずっと聞こえていた。お前の諦めない心が、かっとビングが、トロンから救ってくれた。礼を言う。そして、頼む……トロンを倒せ……お前なら、出来る……!」

 

凌牙は自身の想いの全てを遊馬に託した。

 

遊馬の諦めない心と、凌牙との友情の絆……それらがトロンの邪悪なる策略を打ち砕いたのだ。

 

アストラルの命はシャークに救われた。

 

このデュエルは勝ちを譲られ、想いを託された。

 

凌牙の想いも全部ひっくるめて必ず勝ってやる……遊馬は打倒トロンを目指すのだった。

 

「遊馬君の想いと凌牙さんとの友情がトロンの思惑を打ち砕きました……!お二人の友情には感服しました……!」

 

マシュは相棒とは異なる、遊馬と凌牙の間に結ばれた友情と言う名の強い絆に感服した。

 

準決勝第二試合、カイトVSトロン。

 

因縁深い二人の対決となり、準決勝を終えた遊馬はカイトに激励を送る。

 

決着をつけるため、カイトと決勝で戦いたいと考えている遊馬だが、カイトが視線を向けるのはアストラルの方。

 

その場に崩れて落ち込む遊馬だが、カイトは少なからず遊馬の実力を認めている様子だった。

 

カイトとトロンをフィールドに乗せて起動するデュエルタワーに、観客席ではつまらないと遊馬は側で見るために同乗するのだった。

 

デュエルを前にトロンは歓喜に打ち震えていた。

 

Dr.フェイカーの視線を感じ、待ち望んでいた復讐の時がやって来たからだ。

 

同時にカイトもハルトへの仕打ちを忘れておらず、その為にトロンを葬る決意をする。

 

カイトは銀河眼の光子竜を召喚したが、カイト自身はナンバーズ・ハンターとして魂を狩り続けて満身創痍だったのだ。

 

トロンはカイトの奮戦を褒め称える。

 

ボロボロの体ながらも、ハルトのために戦うという目的があることは良いことだと。

 

しかし、トロンにも目的はある。

 

カイトの父・フェイカーへの復讐。

 

フェイカーに裏切られて異世界との狭間を彷徨った挙句、トロンの体は子供の姿に。

 

そして全てを失ってしまったのだ……ただ一つ、復讐心を除いて。

 

復讐のために自分の子供を利用したトロンを非難するカイト。

 

だがカイトもハルトのためとはいえ、魂を狩り続けてきた。

 

でもいつしか、魂を狩る喜びを感じていたんじゃないのか?

 

目的のためには全てを犠牲にしてしまう……トロンは自分自身とカイトが似ていると感じていた。

 

カイトはハルトを助けられるなら何を言われても構わないが、トロンの腐りきった魂は必ず狩る……その為に託された新たな力を使う。

 

「皮肉なる運命よ……命じるが良い。V……いや、クリスの想いを鉄槌と変え、愚かなる父へ降り落とせ!出でよ、『No.09 天蓋星ダイソン・スフィア』!!」

 

カイトはV……師匠のナンバーズ、ダイソン・スフィアをエクシーズ召喚する。

 

カイトはVの想いも背負って一緒に戦うつもりでいた。

 

カイトは一撃必殺の攻撃を喰らわせるが、トロンは罠カードでダメージを抑えた。

 

カイトを喜ばせようとトロンは自らの仮面に手をかける。

 

遂に暴かれたトロンの素顔。

 

そこにはカイトが愛する、ハルトの顔があった。

 

ハルトの顔と声でカイトに迫るトロン。

 

それはカイトにとってこれ以上ない侮辱だ。

 

しかしトロンは、自分こそがハルトだという。

 

ハルトを誘拐した時にトロンは自らの体にハルトの力と記憶を全て吸収していた。

 

その結果、互いの空っぽの心と心が交わり、今ではトロンとハルトの意識が繋がっており、トロンが受けた痛みはハルトも感じるということだ。

 

居ても立っても居られず、思わず飛び出すカイト。

 

だがトロンにデュエルアンカーで繋がれてしまうが、代わりに遊馬が名乗り出てオービタル7と共にハルトの元へ向かう。

 

トロンは紋章王ゲノム・ヘリターでダイソン・スフィアを攻撃し、カイトは一気に追い詰められてしまう。

 

このデュエルは、その衝撃が実際のものとなって肉体を襲う。

 

よってトロンが受けた衝撃はそのまま、ハルトへのダメージとなるということだ。

 

しかもトロンは意識を共有したハルトが苦しむ様子を見せ、カイトを精神的にも追い詰めていく。

 

その頃、遊馬はオービタル7と共にハートランドタワーのセキュリティーを突破し、ハルトの部屋へと突入した。

 

ハルトはトロンの外道な策略によって苦しめられ、ブーディカやアタランテなど子を大切に思うサーヴァント達は怒りから殺気を放っていた。

 

ハルトが受ける苦しみに胸を痛め、手を握る遊馬。

 

すると、握ったハルトの手が光を発すると、遊馬とアストラルは昨夜と同じようにハルトの意識の中へと飛ばされた。

 

だが、美しい風景を穢すように邪悪なる闇が無辺に広がり、そこにはトロンの姿があった。

 

トロンは禍々しい龍の化け物の姿へと変え、遊馬に襲いかかる。

 

それに対抗するため、遊馬は希望皇ホープを召喚した。

 

「いっけー!ホープ!ハルト君を救ってー!」

 

かつて自分が絶望の中から救われたようにハルトを救って欲しいと願いを込めながら桜は応援した。

 

ハルトを救う為、希望皇ホープのホープ剣の一閃が龍の化け物を切り裂く。

 

そして……トロンは遊馬への怨みの声を上げながら消滅し、同時に遊馬とアストラルはハルトの意識から現実に戻る。

 

遊馬と希望皇ホープの活躍により、ハルトの中にあるトロンの意識を退治し、ハルトとトロンの繋がっていた意識を切り離すことに成功した。

 

これでハルトはこれ以上トロンの策略によって傷つくことはない。

 

遊馬はカイトにトロンを倒せとエールを送り、カイトは心の中で遊馬に感謝をしながらトロンへの怒りを爆発させ、その体を真紅に光り輝かせる。

 

そして、カイトとハルトの兄弟の絆の象徴、『超銀河眼の光子竜』をエクシーズ召喚する。

 

超銀河眼の光子龍の攻撃でゲノム・ヘリターを攻撃……決まればカイトの勝ち。

 

だがトロンのライフは残っていた。

 

罠カード『無敵の紋章』により超銀河眼の光子龍の攻撃力は800ポイント下がり、トロンは辛うじてライフを残したのだ。

 

生き残ったことで、トロンは自らの勝利に確信を得ていた。

 

全てはカイトのおかげ……その怒りで、眠れる『紋章神』を呼び覚ますことになった。

 

トロンはレベル4のモンスターを3体召喚し、エクシーズ召喚したのは禍々しい姿をした巨大な悪魔の姿をした神……『No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ』。

 

コート・オブ・アームズを操るには莫大なエネルギーが必要になる。

 

それは怒り。

 

トロンには感情がなく、だからこそトロンはドロワや凌牙、そして自分の息子たちを使って怒りを溜めてきた。

 

もちろんカイトの怒りも利用して。

 

全てはコート・オブ・アームズを呼ぶための布石でしかなかったのだ。

 

コート・オブ・アームズはオーバーレイ・ユニットを使わなくても効果を発動することが出来る。

 

フィールドにいる自分以外のモンスターの効果を無効にし、その全ての効果を得るというもの。

 

これにより超銀河眼の光子龍の効果は奪われてしまい、その鮮やかな真紅の輝きは奪われて灰色となってしまい、カイトの纏う真紅の輝きも失ってしまった。

 

「そんな……カイトとハルトの……超銀河眼の光子龍が……」

 

レティシアはこれほども無惨に超銀河眼の光子龍が力を奪われたことにショックを受けた。

 

そしてトロンは、奪った超銀河眼の光子龍の効果を発動し、攻撃力を上昇して複数回攻撃を可能にした。

 

コート・オブ・アームズは複数回攻撃をし、二度に渡る攻撃でカイトのライフは0に……カイトは敗北してしまった。

 

しかし、トロンの攻撃は終わらなかった。

 

復讐に取り憑かれたトロンはコート・オブ・アームズの三度目の攻撃を繰り出した。

 

だがその時、カイトの前に光が現れてコート・オブ・アームズの攻撃を防いだ。

 

それは……ハルトだった。

 

僅かに残っていた最後の力を使い、カイトを守ったのだ。

 

デュエルは終了し、トロンは若干の不満を残して不味い復讐だったと言い、カイトから魂と全てのナンバーズを奪い姿を消した。

 

ハートランドタワーから急いで駆け付けた遊馬はカイトに駆け寄るが、カイトは完全に意識を失ってしまっていた。

 

カイトはオービタル7が運び、小休憩の後は……いよいよWDC決勝戦、遊馬とトロンのデュエルが始まる。

 

遊馬は控え室でカイトが敗北したことにショックを受けていた。

 

そんな遊馬にアストラルはトロンをデュエルで倒し、紋章の力を破壊すれば……みんなを助けられる可能性があると助言し、遊馬はそれを聞いて希望を見出した。

 

するとそこに鉄男達がやってきて決勝戦前に応援を送り、みんなで手を重ねて遊馬の健闘を祈る。

 

その際、鉄男達には見えないがアストラルも手を重ね、みんなの想いが一つになる。

 

遊馬とアストラルは会場への廊下を歩くと、先ほどいなかった小鳥が何かを持って来た。

 

「遊馬!」

 

「ん?おわっと!?おおっ、デュエル飯じゃん!サンキュー、小鳥!」

 

小鳥は決勝戦前に急いでデュエル飯を作り、遊馬に思いを込めて渡した。

 

元気の源であるデュエル飯を貰い、遊馬は嬉しそうにする。

 

「それ食べて、絶対勝つのよ!」

 

「へへっ、任せとけ!」

 

「絶対の絶対だからね!」

 

「絶対の絶対の絶対だ!それじゃあ、行くぜ!!」

 

遊馬は小鳥と勝利を約束し、デュエル飯を懐にしまってアストラルと共に会場へと向かう。

 

「どうせ止めたって、行っちゃうんだから……」

 

小鳥は遊馬に危険なトロンと戦って欲しくはなかった。

 

決勝戦を辞退してもらいたかった。

 

もしも遊馬が負けてしまったらと嫌な想像が頭の中によぎってしまう。

 

しかし、小鳥は誰よりも分かっていた。

 

遊馬は止めても必ず行ってしまう……だから、今は自分に出来る事をするだけ。

 

遊馬の大好物のデュエル飯を渡して最大限の力で戦ってもらい、自分は全力で応援する。

 

小鳥は遊馬の無事を願い、応援席へと戻る。

 

そんな小鳥の不安そうだが健気な姿を見て一人の英霊がこう言った。

 

「なーんか、戦場に向かう夫を見送る不安そうな妻みたいな光景だな……」

 

戦国時代の英霊である信長こと、ノッブのたわいもない言葉であったが、確かに誰が見てもそう見える光景だが……その瞬間、マシュ達はギロリとノッブを睨みつけた。

 

「……もしかして儂、何か地雷踏んだかの?」

 

「ノッブ……骨は拾ってやりますよ」

 

「おう、何てこった……」

 

ノッブはこの身に感じた数多の殺気にもしかして地雷を踏んだのではと危惧し、沖田はため息をつきながらジュースを飲む。

 

WDC決勝戦……遊馬とトロンが遂に対峙する。

 

その舞台となるのは、ハートランドが技術の総力を結集して作り上げた『スフィア・フィールド』。

 

無数の透明なカードに覆われるような不思議な球体の空間で、今までのフィールドとは全く違う、異世界の疑似空間だった。

 

トロンはデュエルの前に遊馬に話をした。

 

異世界の狭間を彷徨った地獄の時間の中、何度も生きるのを諦めかけた。

 

そんな時、いつも思い出していたのは遊馬の父・一馬のことだった。

 

一馬がいつも言っていた友情、仲間、そして諦めない心……だがDr.フェイカーに裏切られたトロンにとって、それらは無意味なことになってしまった。

 

それでも、諦めない心に関しては別。

 

諦めなかったからこそ復讐という希望を持ち、こうして生まれ変われた。

 

しかし、遊馬はそれを真っ向から否定する。

 

家族を救って欲しい……IIIと約束した遊馬はトロンから復讐という悪魔を追い出し、救うことを誓う。

 

トロンの復讐のためにIIIとVとⅣは犠牲になってしまった。

 

だが、トロンにとって彼らは役に立たなかった存在で彼らに与えられた紋章は、力を得る代償として魂に直結していたもの。

 

デュエルに負ければ魂を消耗してしまうため、今では魂の抜けた抜け殻になってしまっていた。

 

アストラルはここまで醜い心を持つ人間がいるのかと驚いた。

 

しかし、そもそも悪いのはDr.フェイカーで一馬もその犠牲となっており、復讐しないのかと問うトロンだが、遊馬にそんな気は無い。

 

何より一馬はそんなこと望んでいないからと。

 

しかし、トロンには思い当たる節がある。

 

それはアストラルの存在。

 

ナンバーズには恐るべき力がある……それは、この世界すら滅ぼす強大な力が宿っている。

 

復讐の使者こそが、一馬がこの世界に送り込んだアストラル。

 

つまり遊馬は、この世界に報復する使者に力を貸しているということだ。

 

トロンによる衝撃の一言。

 

だが遊馬はそれに屈するつもりはなかった。

 

トロンとDr.フェイカー……自分の子供を不幸にするダメ大人はやっつけてやる為に絶対にデュエルに勝つ!

 

スフィア・フィールドによるデュエルは通常と異なり、ナンバーズの力を最大限に引き出すフィールド。

 

各プレイヤーは手札にある同レベルのモンスター2体をオーバーレイすることで、召喚条件を無視してエクストラデッキからランダムにナンバーズを特殊召喚出来る。

 

但しこの方法で召喚されたナンバーズは、オーバーレイ・ユニットが無くなった時に破壊されてしまう。

 

数多のナンバーズを持つ選ばれたデュエリスト、遊馬とトロンの決勝戦が遂に幕を開ける。

 

先攻のトロンは早速スフィア・フィールドの効果を使い、カイトから奪ったナンバーズ、『No.56 ゴールドラット』を召喚する。

 

アストラルは、先ほどトロンから聞かされた話が気になっていた。

 

ナンバーズには本当にこの世界を滅ぼす力があるのだろうか?

 

アストラルには記憶が無いため、自分がこの世界に送られてきた理由が復讐のためである可能性も考えられる。

 

遊馬はその理由は知らないが、アストラルが悪い奴でないことは分かる。

 

遊馬は一馬を信じている……父ちゃんは復讐を望んでいない、アストラルは世界に報復する使者ではない。

 

ナンバーズに凄い力があるというのなら、尚更トロンやフェイカーに渡すわけにはいかない。

 

遊馬はその力をアストラルなら正しいことに使ってくれる、そう信じて託そうとしていた。

 

アストラルは自分を信じてくれる遊馬の言葉に不安は取り除かれ、今は全力でトロンと戦う事を誓う。

 

遊馬もスフィア・フィールドの効果で闇川のナンバーズ、『No.12 機甲忍者クリムゾン・シャドー』をエクシーズ召喚し、ゴールドラットを破壊した。

 

続いてトロンのターンに『No.10 白輝士イルミネーター』、『No.30 破滅のアシッド・ゴーレム』、『No.8 紋章王ゲノム・ヘリター』……怒涛の連続召喚にフィールドに3体のナンバーズが揃った。

 

トロンは3体のナンバーズで一斉に攻撃を仕掛け、罠カードとクリムゾン・シャドーの防御効果で何とかトロンの1ターンキルを防いで遊馬はライフを守りきった。

 

遊馬も負けじと『No.34 電算機獣テラ・バイト』、『No.17 リバイス・ドラゴン』、そして……『No.39 希望皇ホープ』をエクシーズ召喚し、遊馬も3体のナンバーズを連続召喚した。

 

互いのフィールドにそれぞれ3体のナンバーズが揃った。

 

遊馬は希望皇ホープたちの力を結集して一気にトロンのナンバーズを一掃することに成功。

 

フィールドに存在するのは、遊馬のナンバーズが3体のみ。

 

本気を出す舞台が整ったと、トロンは自らのターンを迎える。

 

手札ゼロからレベル4のモンスターが3体揃え、カイトの超銀河眼の光子龍を倒したトロンの切り札……紋章神コート・オブ・アームズをエクシーズ召喚した。

 

コート・オブ・アームズはトロンの復讐心を具現化したモンスター……トロンの憎しみが闇となって顔から溢れ、仮面の隙間から漏れていた。

 

何もかもが奪われる遊馬にとってはこれが最後のデュエルだからと、トロンは仮面を取り、自らの素顔を晒した。

 

トロンの顔の左半分は、異界化しており存在しないものとなっていた。

 

異世界を彷徨う間にこの世界の人間ではなくなってしまったのだ。

 

トロンはコート・オブ・アームズの効果を発動し、自分以外の全てのモンスターの効果を無効にして奪い、希望皇ホープ達の効果は無効となってしまう。

 

リバイス・ドラゴンが破壊され、遊馬は残りライフ500ポイントまで一気に追い詰められたがまだ諦めてはいない。

 

「まだ? フフッ もういい加減諦めちゃいなよ。使えないⅣやIIIやVと違って、僕は無敵なんだ。そう、このコート・オブ・アームズは親と子ほどの力の差があるのさ!」

 

「くっ! 親と子か、確かにそのモンスター、お前そっくりだ!」

 

「何?」

 

遊馬はコート・オブ・アームズの凶悪さ……そして、その醜さがトロンと同じだと指摘した。

 

「今じゃ良く分かる!IIIだって、Ⅳだって、Vだって、みんな大した奴だった!立派だった!必死に自分を支えようとして、最後にはみんな、あんたのことを心配してた……なのに、どうしてあんな良い奴らが、あんたみたいな奴のために、全部投げ出しちまうのか!」

 

「……っ」

 

「あんたはそれを親子だから当たり前だと思っている。けど、そうじゃねぇ!みんな信じてたんだ!あんたがいつか元に戻ってくれるって!」

 

「遊馬……」

 

「どうしてあんたは戻ってきた時、あいつらに優しくしてやらなかったんだよ!?どうして復讐なんてくだらないこと、やり始めちまったんだよ!!」

 

遊馬はIII達家族を巻き込み、道具のように利用して捨てたトロンに対し、復讐を真っ向から否定する。

 

「分かるはずないさ、君みたいな子供には……」

 

「分かるさ!父ちゃんがいなくなって、どんなに寂しい思いをするのか俺には分かる!あいつらみんな、あんたがいなくて寂しかったんだ!!」

 

「っ!?」

 

「不安で泣きたくて、一生懸命だったんだよ!!」

 

大好きな父が……一馬が行方不明になり、今では大丈夫だと元気でいるが、遊馬もとても寂しい思いをしているのだ。

 

寂しくて、不安で、泣きたくて……III達と同じ思いをしていたのだ。

 

遊馬にはまだ家族である明里と春、仲間の小鳥達がいたが、III達はそうではなかった。

 

III達は帰ってきたトロンといつか本当の家族に戻れる日をずっと待って夢見ていた……そして、最後までトロンの身を案じて倒れていった。

 

「……っ!?黙れ!お前にそんなこと言われる──」

 

その時、遊馬の家族を想う言葉にトロンの脳裏には家族との幸せな思い出が蘇った。

 

「III……Ⅳ……Ⅴ……家族……思い出……そんなの!……そんなものは!!……この、顔と共に……!!」

 

遊馬の言葉が確実にトロンの心の中に突き刺さり始めていたが、復讐の炎はまだ消えてはいない。

 

「俺は諦めねぇぜ、このデュエル!俺はみんなから色んなものを預かってきたんだ!あんたにそれが伝わるまでは、絶対諦めねぇ!!」

 

遊馬の背中には沢山の人達の想いを背負っている。

 

その人達の為にも、遊馬はこのデュエルに必ず勝利する。

 

そして、トロンを復讐から解き放つ為に全力で尽くすと心に決める。

 

マシュ達は遊馬の強い想いに言葉を失った。

 

遊馬とはまだ一緒にいる期間は短いが共に未来を取り戻す仲間として戦ってきた。

 

喜怒哀楽の内、喜びと怒りと楽しみの感情はこれまで数多く見てきたが、ここまで『哀』の悲しみの感情を露わにする姿を見たのは初めてだった。

 

それほどまでに遊馬はIII達に対して強く想いを馳せていたのだ。

 

「行くぜ アストラル!……」

 

「遊馬……」

 

「ZEXALだ。奴に勝つには、ZEXALの力しかねえ!」

 

トロンに勝つためには、想いをぶつける為には奇跡と絆の力、ZEXALの力しかないと遊馬はアストラルに頼む。

 

「遊馬……このスフィア・フィールドは異世界に似せて作り上げられた疑似空間、皇の鍵の中と同じ。ここでならZEXALになれる。ただし、このデュエルは大勢が見ている」

 

アストラルは大勢の観客が見ている事を警告するが、遊馬はそんな事は関係ないと笑みを浮かべていた。

 

「んな事どうだっていい。みんなの想いを、あいつに渡せるなら。行くぜ、アストラル!」

 

「行こう、遊馬!私と共に!」

 

アストラルも覚悟を決めて自分達の全力を持ってトロンと戦う事を決めた。

 

「かっとビングだ!俺!俺と!」

 

「私で!オーバーレイ!!」

 

遊馬は赤い光、アストラルは青い光となり、スフィア・フィールド内を駆け巡る。

 

「うぉおおおおおっ!」

 

「はぁあああああっ!」

 

遊馬とアストラルは激突し、肉体と魂が一つに交わり、奇跡の力が解放される。

 

「遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!」

 

復讐の悪魔……トロンを倒す為、絆と希望の英雄が降臨する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

遊馬の突然の変身に観客がざわめく。

 

観客達にはZEXALが本物のヒーローに見えるという事でかなりの好評で、徳之助はZEXALという名前を伝えようとしたが……徳之助の独特の語尾である「ウラ」が合わさり、誤った名前が伝わり、「ZEXAL」から「ゼアルウラ」として認識されることになった。

 

「「「ゼアルウラ!ゼアルウラ!ゼアルウラ!」」」

 

取り返しのつかない誤解を生んでしまったが、観客の心が一つになって遊馬を……ゼアルウラを応援する。

 

余談だが、遊馬はカッコよくZEXALに変身したのにゼアルウラと言う意味不明な名前に不満を持っているが、アストラルは意外に気に入っているらしい。

 

「し、神秘の秘匿が……マスターには、この世界にはそんな事は関係ないというのか!??」

 

魔術世界には一般人には知られない為に神秘の秘匿で魔術の存在をバレないようにしているが、遊馬とアストラルは下手をすれば封印指定並みの強大な力、ZEXALをあっさり大勢の観客の前で見せたことにエルメロイII世は強烈な頭痛と共に卒倒しかけた。

 

「あー、これなんか親近感あると思ったら子供向けのヒーローショーだわ」

 

「ヒーローがマスターさんで、ヴィランがトロンさん……そうですね、見ただけでわかるほどの明確な勧善懲悪な戦いみたいですね」

 

イシュタルとパールヴァティーはこの光景はヒーローショーだと合点がついた。

 

「正義のヒーローか……マスター、君にはたまに嫉妬を覚えるよ」

 

正義の味方を目指すエミヤは紛れも無い正義のヒーローとなっている遊馬に思わず嫉妬してしまうのだった。

 

「「「「ゼアル!ゼアル!ゼアル!」」」」

 

遊馬のかっこいいヒーローみたいな登場に桜達ちびっ子軍団は正しく「ゼアル」とコールする。

 

「ありがとう、ちゃんとZEXALって呼んでくれて……」

 

遊馬はゼアルウラではなくちゃんと名前を呼んでもらえたことに感動して涙を流す。

 

ZEXALは希望皇ホープをカオス・エクシーズ・チェンジし、『CNo.39 希望皇ホープレイ』をエクシーズ召喚する。

 

ZEXALは魔法カード『セブンストア』を発動し、テラ・バイトをリリースして3枚のカードをドローする。

 

「最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードさえもデュエリストが創造する!」

 

「行くぜ、アストラル!」

 

「「全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!」」

 

「コート・オブ・アームズは相手のモンスター効果を無効にして吸収する だが装備されるゼアル・ウェポンの効果までは奪えない!」

 

「『ZW - 雷神猛虎剣』を装備!」

 

紫電が轟き、雷をその身に宿す白き虎が現れ、希望皇ホープレイが左腰のホープ剣を掲げると、白き虎とホープ剣が合体し、鍔に虎の装飾が施された剣……雷神猛虎剣となる。

 

雷神猛虎剣を装備した希望皇ホープレイで攻撃力は3700でコート・オブ・アームズを攻撃する。

 

「「ホープ剣・ライトニング・ブレード!」」

 

ところが、トロンはこの攻撃を待っていた。

 

コート・オブ・アームズのもう一つの効果が発動し、相手モンスターが攻撃した時、フィールドのカードを一枚破壊する。

 

コート・オブ・アームズの姿が変形し、悪魔から魔神の姿へと変貌し、希望皇ホープレイに無数の赤い閃光が貫く。

 

しかし、ZEXALは雷神猛虎剣の効果を発動し、ZWを手札に戻すことで、希望皇ホープレイの破壊を免れ、バトルは墓地にある『タスケルトン』を除外し、希望皇ホープレイの破壊とダメージを無効にした。

 

手札に戻した雷神猛虎剣を再び希望皇ホープレイに装備し、カードをセットしてZEXALはターンエンドをした。

 

続くトロンのターン、コート・オブ・アームズの効果で、希望皇ホープレイから奪った効果を発動し、コート・オブ・アームズの攻撃力を500ポイントアップし、希望皇ホープレイの攻撃力を1000ポイント下げて攻撃する。

 

だが遊馬は、罠カードのハーフ・アンブレイクで希望皇ホープレイの破壊を阻止し、ダメージを抑えたが、ライフポイントはギリギリの50にまで追い詰められてしまった。

 

コート・オブ・アームズのオーバーレイ・ユニットが無くなったことであすとか勝利の方程式が見えてきたが、トロンは墓地の『紋章獣ツインヘッド・イーグル』を除外することで、オーバーレイ・ユニットを2つ復活させた。

 

息を切らし、精神的に疲労して膝を突くZEXAL……遊馬。

 

そんな遊馬にアストラルは心配そうに見つめる。

 

「どうした遊馬、大丈夫か?遊馬!」

 

グゥ〜ッ!

 

「は、腹が……腹減ったぁ……」

 

ズコーン!!

 

こんな緊迫したデュエルの中で腹の虫を豪快に鳴らすZEXAL……遊馬の図太い精神にマシュ達は再びずっこけた。

 

「何を言っているんだこんな時に……」

 

「だって、腹が減ったんだからしょうがないだろう……そうだ!」

 

ZEXALは左肩のプロテクターの内側に手を突っ込むと、そこから取り出したのは……小鳥のデュエル飯だった。

 

「これこれ!小鳥から貰ったデュエル飯!」

 

遊馬は大盛りのデュエル飯を頬張り始める。

 

突然のZEXALの食事に会場がざわめき、トロンは呆れる。

 

一方、デュエル飯を頬張るZEXAL……それは遊馬と合体したアストラルも同様にデュエル飯を食べていた。

 

肉体と魂が一つに合体したことで本来なら食事を行うことができない精霊のアストラルも食事をして遊馬と同じように味覚と満腹感を味わっていた。

 

「んっ。何だ、この感覚は……!?」

 

「そうか、お前飯食うの初めてか!」

 

「これが食事と言うものか……」

 

「ああ!腹が減ったら戦は出来ねえ!」

 

「不思議だ……体の底から再び闘志が湧いてくる……」

 

初めての食事にアストラルは今まで感じたことのない食事からエネルギーを得る、闘志が湧いてくる感覚が出てきた。

 

「ははっ、そうだろ?」

 

「これが生きる実感……!今消えるとも限らないこの瞬間にこの感覚!面白い!遊馬、君と一緒にいると実に面白い!」

 

アストラルは生きると言う実感を深く感じ、遊馬と一緒にいると沢山のことを学び、改めて面白いと感動した。

 

「降霊科の魔術師達が見たら頭を抱えそうな光景だな……」

 

時計塔の魔術協会には降霊科と呼ばれる学科があり、異世界の精霊であるアストラルがあそこまで食事に感動し、遊馬の影響でどんどん人間臭くなっていることにエルメロイII世は白目を剥きたくなる気分だった。

 

「勝とうぜ、アストラル!」

 

「ああ!私はもっとデュエル飯が食べたい!大盛りで二つ、いや、三つだ! そして生きることを、もっと感じたい!!」

 

アストラルは今まで見たことのないほど子供のような輝く純粋無垢な笑顔を見せた。

 

初めての食事に生きる実感……アストラルの素晴らしい初体験にその身に宿る力が無限大に広がる。

 

「その調子だぜ、アストラル!」

 

遊馬とアストラルはデュエル飯で腹が満たされ、闘志が沸き起こり、今のZEXALは全力全開の状態だった。

 

「遊馬、既に勝利の方程式は揃っている!私を信じろ!」

 

「おう!俺のターン!」

 

「「全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、再び希望の道筋を照らせ!ファイナル・シャイニング・ドロー!」」

 

ZEXALは再び右手を光り輝かせて全ての力を込めてドローする。

 

「「来い!『ZW - 風神雲龍剣』!!」」

 

旋風が巻き起こり、紅の龍が現れ、希望皇ホープレイが左腰のホープ剣を抜くと合体し、鍔に龍の装飾が施された剣が完成する。

 

「白き虎の剣に紅き龍の剣……!龍虎双剣の二刀流……!!」

 

右手に雷神猛虎剣、左手に風神雲龍剣……魅力的で強力なZW二刀流に二刀流剣士の武蔵は目を輝かせる。

 

希望皇ホープレイに装備されたZWの二刀流にトロンは驚愕する。

 

これで希望皇ホープレイの攻撃力は合計で驚異の5000となり、更に雷神猛虎剣は自分フィールド上の魔法・罠カードを破壊の対象に出来なくなり、風神雲龍剣は装備モンスターを破壊の対象にされなくなる。

 

つまり、希望皇ホープレイもZWも破壊できなくなり、二つのZWの互いに作用し合う効果によりコート・オブ・アームズのカードを破壊する効果は封じられるということだ。

 

ZEXALは無敵となった二刀流の希望皇ホープレイで攻撃を仕掛ける。

 

「「ホープ剣・ダブル・カオス・スラッシュ!!!」」

 

装備されたZWからそれぞれ元の白き虎と紅き龍の幻影が現れ、コート・オブ・アームズに襲いかかろうとした。

 

だがトロンは伏せていた罠カード『爆風紋章』を発動し、無敵のZW二刀流希望皇ホープレイの唯一の弱点を突き、二枚のZWを手札に戻し、バトルフェイズを終了した。

 

更に追加効果で手札に戻ったカード1枚につき500ポイントの効果ダメージをこのターンの終了時に与える。

 

残りライフポイントが50ポイントのZEXALには抗いようがなかった

 

しかし、デュエル飯でエネルギーを満タンにしたアストラルの勝利の方程式はまだ他にも用意されていた。

 

ZEXALはシャイニング・ドローしたカードと墓地にあるカードを駆使して2体のZWをフィールドに召喚した。

 

「無駄な足掻きだったな、遊馬、アストラル!」

 

2体のZWもコート・オブ・アームズの効果無効の餌食となるが、ZEXALの狙いはそこではなかった。

 

「「それはどうかな?」」

 

「!?」

 

「雷神猛虎剣と風神雲龍剣のレベルは2体とも5!」

 

「これで条件は揃った!」

 

「まさか!?2体のZWで……!?」

 

「そのまさかだ、トロン!俺はレベル5の雷神猛虎剣と風神雲龍剣でオーバーレイ!2体のZWでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

雷神猛虎剣と風神雲龍剣がオーバーレイし、トロンの想像を超える新たな奇跡の力が降臨する。

 

「「現れろ!『ZW - 獣王獅子武装』!」」

 

現れたのはZWを統べる最強の獣王。

 

獣王獅子武装は瞬時に希望皇ホープレイに装備され、その体が無数のパーツに分離し、ホープレイの体に次々と装着して合体する。

 

「「闘志が纏しその衣!轟く咆哮、大地を揺るがし!迸る迅雷、神をも打ち砕く!獣装合体!!『ライオ・ホープレイ』!!」」

 

希望皇ホープレイが獣王獅子武装と合体した最強の姿。

 

獣王獅子武装を装備し、攻撃力が5500となった希望皇ホープレイはバトルが終わった後で、もう一度攻撃が出来る。

 

これこそが、究極のZWである証。

 

だが、ZWが一つになったことで、相互に働いていた無敵効果は消え、トロンはコート・オブ・アームズの真の姿とし、その破壊効果で希望皇ホープレイを狙う。

 

しかし、獣王獅子武装にはもう一つの効果があった。

 

1ターンに一度、相手モンスターの効果を無効にして、その攻撃力を半分にする。

 

ライオ・ホープレイから放たれた灼熱の閃光により最強を誇るコート・オブ・アームズはその力を失い、トロンはその光景に衝撃を受ける。

 

ZEXALはトロンとの戦いに終止符を打つ最後の攻撃を命ずる。

 

「「行け、ライオ・ホープレイ!!ホープ剣・トリプル・カオス・スラッシュ!!!」」

 

ライオ・ホープレイの渾身の三連撃にコート・オブ・アームズは破壊され……トロンのライフポイントは遂に0となった。

 

激しい攻防からの希望と絶望、そして怒涛の大逆転劇……WDC決勝はZEXAL……遊馬の勝利となった!

 

「第1回WDC優勝者は……九十九遊馬だぁっ!!!」

 

Mr.ハートランドが高らかに遊馬の勝利を宣言し、会場は観客達による大歓声に包まれる。

 

遂に遊馬の夢だったデュエルチャンピオンが叶い、小鳥達は大喜びをするが……事態は急変する。

 

スフィア・フィールドが歪みだし、フィールド全体にエネルギーが電気のように激しく迸る。

 

突如、ZEXALとトロンの体に異変が起こる。

 

それぞれの体から全てのナンバーズが飛び出し、フィールドに出現した異空間に収束した。

 

トロンは反撃しようとしたがZEXALにデュエルで敗北し、ナンバーズを失ったことで紋章の力も弱体化してしまった。

 

同時にデュエルタワーも故障して崩壊を始め、決勝戦終了の大興奮から一転、観客達はパニックに陥る。

 

力が弱体化したトロンは壁に叩きつけられ、異空間へ吸い込まれそうになる。

 

ZEXALはトロンを救う為に滑空し、トロンの手を掴み、空いた左手で雷神猛虎剣を呼び出してスフィア・フィールドの壁に突き刺した。

 

「遊馬……一馬……」

 

トロンは自分を助けた遊馬にかつて異世界の扉で自分を助けようとした一馬の影を重ねた。

 

トロンは静かにこの状況を遊馬とアストラルに語り始める。

 

「遊馬、アストラル、スフィア・フィールドは、ナンバーズを全て回収するためのフィールド」

 

「何!?」

 

「どういう事だよ!?」

 

「デュエル・カーニバルで集められたナンバーズは決勝戦で集結する。この絶好の機会をDr.フェイカーが逃すはずがないだろう……」

 

このWDCもスフィア・フィールドにおけるデュエルも、全てはナンバーズを集めるための壮大な罠だったのだ。

 

しかもこのフィールド内ではトロンは異物の存在で異空間へ飛ばされたら最後だ。

 

手を離すように遊馬に告げるが……。

 

「嫌だ!俺は、俺は諦めねえ!!」

 

「何故だ……?何故僕を助ける……?」

 

「当たり前だろ!デュエルをやったら仲間なんだよ!」

 

「遊馬……」

 

「難しいことはよく分かんねえけど、デュエルが仲間を、絆を作ってくれる!だから、デュエルをしたらお前も仲間だ!!」

 

そんな遊馬の姿にトロンはようやく全てに気付いたのだ。

 

「ふっ……今やっと分かったよ……君が何故諦めないのか。君達のデュエルは、僕の復讐の先にあったんだね。遊馬、僕は君や一馬のようには生きられなかった」

 

「トロン……」

 

「でも、全てをフェイカーの思い通りにはさせない!僕が捕らえた魂を全て解放する!」

 

トロンはかっとビングをして生きる遊馬と一馬に憧れ、嫉妬していたのだ。

 

トロンはせめてものの償いとして残った紋章の力を使い、今まで捕らえた魂を全て解放した。

 

その中にはカイトとハルトの魂も含まれていた。

 

「お別れだ。遊馬、アストラル」

 

そして、トロンは自ら手を離した。

 

「トローン!!!」

 

トロンはとても穏やかな表情を浮かべながら最後に三つの魂を見つめる。

 

「許してくれ、みんな……今度は忘れない……あの頃を……」

 

III、Ⅳ、Vの三人の息子達のことを想い、その魂を解放した。

 

そして、トロンは異空間の中へと消えていくのだった。

 

異空間は爆発的に広がりを見せ、巻き込まれたZEXALはスフィア・フィールドごとハートランドタワーへと飛ばされた。

 

ZEXALが気がつくと目の前にはDr.フェイカーの姿があった。

 

Dr.フェイカーは、アストラル世界を滅ぼすという最後の仕上げを行おうとし、高笑いを響かせた。

 

Dr.フェイカーはアストラル世界を滅ぼすためにスフィア・フィールド砲を作り出し、遊馬とアストラルをその弾丸にしようとしていた。

 

遊馬たちが連れて行かれようとしている場所は地下のゴミ処理場……そこに発射口があり、アストラル世界に向けられている。

 

アストラルが取り戻した記憶の一部の中にはアストラル世界が攻撃されるビジョンがあり、これまでも行われてきた。

 

だが今回はレベルが違うのだ。

 

スフィア・フィールドはナンバーズの力を一つに集約させた弾丸。

 

それを一気に打ち放つことによりアストラル世界は滅ぶ。

 

WDCもナンバーズを集めるために開催したもの。

 

つまり、WDCの参加者全員がDr.フェイカーの道具として利用されていたのだ。

 

その真実に怒りを露わにする遊馬だったが、この計画の最重要人物の登場に困惑してしまう。

 

それは……トロンに魂を解放されて目を覚ましたが、虚ろな表情を浮かべているハルトだった。

 

その体はスフィア・フィールド砲の一部となってしまい、異世界の力を持つハルトはその引き金にされようとしていたのだ。

 

Dr.フェイカーの夢……アストラル世界を滅ぼし、バリアン世界の力を得て、この世界の支配者となる念願が叶おうとしていた。

 

異常事態に混乱を見せるWDCのスタジアム。

 

バイクで駆けつけた明里は鉄男達の無事を確認するが、小鳥の姿だけが見つからなかった。

 

小鳥は遊馬を追ってスタジアムを飛び出し、ハートランドタワーへとやって来たのだ。

 

ハートランドタワーの中に入るとそこにはカイトとオービタル7の姿があったが、カイトは崩壊する塔の瓦礫に埋もれ、身動きが出来なくなっていた。

 

必死にカイトを助けようとする小鳥とオービタル7の前に遊馬の身を案じて病院から抜け出した凌牙が現れた。

 

凌牙の協力により、カイトは無事に瓦礫から助け出すことが出来た。

 

小鳥の追求でオービタル7からDr.フェイカーの企みを知り、スフィア・フィールド砲の場所を問う凌牙だが、ハルトのことでいっぱいのカイトはその話を取り合わない。

 

それどころか、カイトは過去のデュエルの因縁を持ち出して凌牙に挑発じみた態度を取るが、凌牙は冷静だった。

 

それは自分を助け、代わりにトロンを倒してくれた遊馬を助けたいという強い想いを持っていたからだ。

 

それは小鳥も同じだった。

 

遊馬だけでなくハルトも助けたい。

 

小鳥は遊馬がハルトを想っていることを諭すと、カイトの脳裏には遊馬がハルトを想い、守る為に行った数々の言葉や行動が思い出された。

 

カイトも遊馬との関わりから特別な感情を抱き始め、素っ気ない態度を取るカイトも遊馬の身を案じ、小鳥と凌牙を地下へと案内する。

 

しかし地下への通路は瓦礫で塞がれ、他の道を探そうとしたが、オービタル7にホストコンピュータをアクセスさせようとしたが、接続部分が崩壊によって壊れてしまい、足止めを食らってしまった。

 

そこで小鳥はコンピュータ操作が得意な明里に協力を要請した。

 

明里は外部からのハッキングでタワー内の地下へのルートを調べることが出来、小鳥達は無事に地下のゴミ処理場へと到着した。

 

「これ……小鳥ちゃんがいなかったら終わってた?」

 

ロマニの言葉に誰もが同意した。

 

小鳥が遊馬を助ける為にハートランドタワーに向かわなかったらカイトは瓦礫に埋もれたままで、凌牙も場所が分からず彷徨い、カイトと凌牙もいがみ合っていたことは間違いなかった。

 

下手をすれば時間がかかって全てが間に合わないかもしれなかったのだ。

 

ゴミ処理場に到着するとMr.ハートランドが待ち受けていた。

 

頭上にはスフィア・フィールド砲に取り込まれて苦しむハルトと、スフィア・フィールド内で弱り切った遊馬とアストラル……ZEXALの姿があった。

 

Mr.ハートランドはDr.フェイカーの邪魔をさせない為に複数のオボットを操って戦闘用に変形させ、カイト達の排除を行う。

 

その数はあまりにも圧倒的だが、オービタル7も遊馬と戦った時と同じ戦闘モードとなり、同じロボットを倒すのは心苦しいがカイトとハルトの為にオボットを破壊する。

 

カイトと凌牙は一般人を遥かに超える圧倒的な戦闘力でオボット達を次々と破壊していく。

 

そして……小鳥も破壊されて転がっているオボットの部品を武器代わりにしてオボットを倒していき、その姿にオービタル7も感心する。

 

「小鳥……お前、俺たちの知らない間にオボット達と戦ってたのか……!??」

 

「あの時は意識が朦朧としてスフィア・フィールドからの脱出で頭がいっぱいだったからな。それにしても、まさか小鳥があれだけの活躍をするとは……流石だ」

 

遊馬とアストラルは小鳥の意外な活躍に唖然としていた。

 

Mr.ハートランドはDr.フェイカーの長年の計画が達成される時を心待ちにしていた。

 

Dr.フェイカーの夢は自分の夢、Dr.フェイカーに全てを懸けてきたのだ。

 

だからこそ、ここで誰にも邪魔されるわけにはいかなかったのだ。

 

Mr.ハートランドは床の扉を開放するとそこには奈落のような深い穴があった。

 

それは異世界の扉でその先はアストラル世界へと通じており、カイトたちをそこに叩き落とそうとする。

 

このままでは異世界の扉の中に落とされてしまう……小鳥はこの大量のオボットはどこからか指示を受けて動いており、それを突き止めて破壊すれば良いと閃く。

 

オービタル7はスキャンモードを起動し、ホストコンピュータを発見した。

 

オボット達の群れを掻い潜り、オービタル7は気合を入れてジャンプする。

 

「カシコマリングだ!オイラ!そして、ずっとオイラのターン!!」

 

実はオービタル7はカイトとハルトを心配して想いやる遊馬の事を馬鹿にしながらも好意的に見ており、いつの間にか遊馬のかっとビングを受け継いでいて自分流にアレンジしていた。

 

オービタル7はホストコンピュータにアクセスすると、自らの体を犠牲にして大量の電圧を与えてコンピュータに負荷をかけ、オボット達の動きを止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って……!誰か、誰か助けてくださぁーい……!!」

 

その混乱の中、Mr.ハートランドは乗っていたドローンの出力が落ち、抗うことも出来ずにアストラル世界へと落ちてしまった。

 

オービタル7はボディに大量の電圧を受けてボロボロになって倒れ、小鳥は駆け寄り、カイトはよくやったと褒めた。

 

カイトから褒められてオービタル7は本望だと言ってそのまま機能が停止してしまい、小鳥は感謝の言葉と同時に涙を流した。

 

一方、スフィア・フィールド砲のエネルギーも弱まり始めた。

 

ZEXALは意識を取り戻して立ち上がると、アストラルは遊馬とのZEXALを解き、遊馬だけをここから脱出させようとする。

 

ナンバーズのオリジナルであるアストラルは、スフィア・フィールドから出ることが出来ないのだ。

 

「希望……そして、未来……行くんだ、遊馬。行って、ハルトを助け、アストラル世界を救ってほしい!」

 

希望と未来の象徴である希望皇ホープと海咬龍シャーク・ドレイクのカードを遊馬に託し、アストラルはスフィア・フィールドから遊馬を突き飛ばした。

 

「君に未来を託す……!」

 

アストラルのお陰でスフィア・フィールドから脱出に成功した遊馬だが、スフィア・フィールド砲の発射は迫っている。

 

遊馬は2枚のナンバーズにアストラルから託された想いに気づいた。

 

「そうか、そういう事か……!分かったぜ、アストラル!」

 

遊馬はシャーク・ドレイクのカードを凌牙に差し出す。

 

「シャーク、カイト!俺に力を貸してくれ!アストラルに託された希望と未来を守るんだ!」

 

「希望と未来……」

 

凌牙は遊馬に力を貸すためにアストラルから託された想いに応える為にシャーク・ドレイクのカードを受け取る。

 

「お前も俺に託すんだな……希望と未来を……」

 

カイトは超銀河眼の光子龍のカードを取り出し、ハルトを守る為に凌牙と同じ様にアストラルから託された想いに応える。

 

バラバラだった三人の心は決まり、遂に一つになる。

 

「俺たちの心は決まったぜ!みんなの未来を懸けて!デュエルで勝負だ、Dr.フェイカー!!」

 

遊馬は希望皇ホープ、凌牙はシャーク・ドレイク、カイトは超銀河眼の光子龍を掲げる。

 

世界の未来を救う最後の希望……遊馬と凌牙とカイトの三人の勇者……『三勇士』がここに集結した。

 

「遊馬、カイト、シャーク……あなた達こそ、みんなの希望。守って、未来を……!」

 

小鳥はオービタル7を支えながら遊馬達の勝利を願った。

 

遊馬と凌牙とカイトは力を合わせ、Dr.フェイカーに世界の運命を懸けたラストデュエルを挑む。

 

ラストデュエルでは特別ルールが適応され、遊馬・凌牙・カイトの3人とDr.フェイカーによる3対1のデュエルで、遊馬達のライフは3人共通で4000ポイント、対するフェイカーは3人分の12000ポイント。

 

初老のDr.フェイカーがまるでサイボーグのような屈強で異形の姿となり、Dr.フェイカーの先攻から始まる。

 

Dr.フェイカーはレベル5のモンスター3体を並べてナンバーズの頂に立つ最強のナンバーズ……『No.53 偽骸神Heart-eartH』をエクシーズ召喚する。

 

遊馬は希望皇ホープを召喚し、Heart-eartHに攻撃を仕掛けるが、Heart-eartHの効果で攻撃力を上げて希望皇ホープを返り討ちにする。

 

だが、遊馬は希望皇ホープの効果を使い攻撃を無効にし、そこからダブル・アップ・チャンスで、攻撃力を2倍にして再度攻撃した。

 

遊馬の必勝コンボを繰り出すが、Heart-eartHを倒しきることができなかった。

 

続いて凌牙はオボットとの戦いで脇腹を怪我しながらも自身を奮い立たせて海咬龍シャーク・ドレイクを召喚し、Heart-eartHの効果の隙を突き、魔法カードのコンボ攻撃で攻める。

 

そして、カイトのターン。

 

遊馬と凌牙の思いを受け継ぎ、ハルトを救うために父であるDr.フェイカーに立ち向かう。

 

カイトは銀河眼の光子竜を召喚し、これで3人のエースモンスターが揃った。

 

しかし、カイトの体はナンバーズ狩りを続けて体を酷使し、限界を迎えていたのだ。

 

それでもカイトは体に鞭を振り、デュエルを続行する。

 

遊馬と凌牙のバトルで、カイトはHeart-eartHの力を見極めて効果を封じ、銀河眼の光子竜の攻撃で勝負を決める。

 

これで勝負が決まったかに思えたが、Dr.フェイカーのフィールドに新たなモンスターが出現した。

 

それはHeart-eartHをエクシーズ素材とし、悪魔の心臓から神の龍へと転生した最凶のナンバーズ……『No.92 偽骸神龍Heart-eartH Dragon』がエクシーズ召喚された。

 

Heart-eartH Dragonの凶悪な効果とそれに相性の良いカードで遊馬達を追い詰める。

 

遊馬達はそれぞれがセットしたカードや手札にあるカードでライフポイントを守り抜いていく。

 

遊馬はアストラルから希望皇ホープと共に託された希望……希望皇ホープレイを召喚するが、Heart-eartH Dragonの効果で除外されてしまった。

 

Dr.フェイカーは遊馬たちの言う絆の力を幻想だと真っ向から否定。

 

しかし、凌牙の考える絆とは、もっともっと心の奥底で繋がっているもの。

 

それがあり続ける限り、想いは必ず届くのだと信じていた。

 

「俺も諦めねえ、やってみせるぜ。俺なりのかっとビングを!!」

 

凌牙はシャーク・ドレイクを進化させて海咬龍シャーク・ドレイク・バイスを召喚し、Dr.フェイカーを直接攻撃するがそれすらも避けられてしまった。

 

思うようにダメージを与えられず、満身創痍の凌牙だがその想いはカイトへと届いていた。

 

再びHeart-eartH Dragonの効果でシャーク・ドレイク・バイスとセットカードが除外された。

 

だが、凌牙はこの瞬間を狙っていた。

 

罠カード『エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ』はこのカードが除外された時、デッキからレベル8の水属性モンスター2体を特殊召喚する。

 

凌牙は『エンシェント・シャーク ハイパーメガロドン』を2体を呼び出してカイトに託した。

 

「お前の想い……確かに受け取った!うぉおおおおおっ!!」

 

カイトは凌牙の想いに闘志を燃やして体を真紅に輝かせ、銀河眼の光子竜とエンシェント・シャーク ハイパー・メガロドン2体で超銀河眼の光子龍をエクシーズ召喚し、全てのオーバーレイ・ユニットを吸収して攻撃力を上昇させる。

 

そして、三人の想いを背負った超銀河眼の光子龍の攻撃がHeart-eartH Dragonを打ち砕いた。

 

Dr.フェイカーに大ダメージを与え、遂にライフを150ポイントまで追い詰めた。

 

「諦めろ、Dr.フェイカー。もう終わりだ。今すぐハルトを解放しろ!」

 

そう迫るカイトに、Dr.フェイカーは思わぬ反応を見せる。

 

「貴様……自分が何をしているのか分かっているのか?ハルトが生き続けるためには、アストラル世界を滅ぼすしかないのだ!!」

 

衝撃の事実に遊馬達は驚愕する。

 

そして、何故Dr.フェイカーがナンバーズを集め、アストラル世界を滅ぼそうとしているのか……その真実が語られる。

 

「ハルトはバリアンの力がなければ生きてはいなかった。生まれながらに虚弱だったハルト、だからこそ私はその命を救う為に異世界に行かねばならなかった……私は、ハルトを救うと決めた時、全てを捨てると決めた!」

 

それはDr.フェイカーの友だったはずのバイロンや一馬までも……彼らを生贄にすることで異世界の扉を開くことに成功し、その向こうで待っていた者がバリアンだった。

 

彼らの世界は実体の存在しない、ある種のエネルギー世界で、この世界には無い高次元の能力を持っていた。

 

Dr.フェイカーは彼らと取り引きを交わし、ハルトを生かす力を得る代わりに、アストラル世界を滅ぼすことを契約した。

 

だからナンバーズを集め、スフィア・フィールド砲を使おうとしたのだ。

 

その約束が守られなければ、バリアンはいずれハルトを奪いに来ると……。

 

Dr.フェイカーがこれまで真実を語ってこなかったのは、カイトを想ってのことだった。

 

もしもカイトがそれを知れば、一人でその業を背負おうとすると思えたからだ。

 

しかし、何も言わずナンバーズ・ハンターとして戦ったカイトに感謝していた。

 

そして、もうこれ以上苦しめたくないという想いもあった。

 

憎んできたはずの父……Dr.フェイカーが見せた本当の姿。

 

それは悪魔に魂を売ってでも愛する息子を助けようとした一人の父親だった。

 

「それは違う!何故家族を信じない!?何故そいつらを信じ、俺を信じてくれない!?……父さん!!」

 

だからこそカイトは、信じてほしかったと本音をぶつけ……憎んでいたDr.フェイカーを父と呼んだ。

 

「俺がハルトを守る!絶対に守り抜いてみせる!この命にかえても!!」

 

カイトのハルトを守ろうとする想いに遊馬と凌牙も賛同する。

 

「カイト、俺も協力するぜ!バリアンだが何だか知らねえが、俺が一緒にぶっ飛ばしてやる!」

 

「俺もだ」

 

「シャーク!」

 

「勘違いするな、そいつらには貸しがある。俺がぶっ潰してやるぜ!」

 

遊馬は元より、凌牙もカイトと同様に大切な妹がいる為に同じ兄としてハルトを守ろうとするカイトの想いに賛同したのだ。

 

カイト達のハルトを想う優しく、強い想いはDr.フェイカーに通じた。

 

Dr.フェイカーはカイト達を信じ、全ての計画をやめる決心を付いた……その時だった。

 

突如、Dr.フェイカーは急に苦しみ出す。

 

そして、Dr.フェイカーの中から出てきたのは……赤い体を持つ不気味な精霊だった。

 

「九十九遊馬、天城カイト、神代凌牙……デュエルの決着は付いてないぞ」

 

「誰だお前は!?」

 

「フフ……我こそはバリアン!」

 

「バリアンだと!?」

 

それはバリアン世界から現れた使者だった。

 

バリアンはアストラル世界を滅ぼすために現れ、Dr.フェイカーの体を乗っ取って一体化し、Dr.フェイカーがまるで紅い悪魔の様な姿となって遊馬達にデュエルの続きを挑んできた。

 

Heart-eartH Dragonは破壊された時に復活する効果があり、墓地から蘇ると除外されているカードの数だけ攻撃力を上昇させる。

 

満身創痍とも言えるカイトだが、ハルトを守るため、ここで屈するつもりはない。

 

しかし、カイト渾身の一撃は、空しくもかわされてしまい、モンスターがいなくなってしまった遊馬たち。

 

凌牙とカイトは二人ともその場で膝をつき、今にも倒れそうになっていた。

 

残りライフも100という僅かという絶体絶命の状況……すると突然、ハルトの体が輝き出した。

 

遊馬やカイトの頑張りに感化され、自らの持つバリアンの力でスフィア・フィールドを砲台から切り離したのだ。

 

これはアストラルを解放するチャンスにもなる。

 

「遊馬、今だ、アストラルの元へ行け!」

 

「カイト…」

 

「遊馬、お前とアストラルの力、奴に見せてやれ!」

 

「シャーク…」

 

シャークとカイトに促され、遊馬は気合を入れてその場でバク転をして下がり、助走をつけて大ジャンプする。

 

「うぉおおおお!! かっとビングだ、俺!!」

 

大ジャンプした遊馬は降りてきたスフィア・フィールドの中にいるアストラルの元へ向かう。

 

「遊馬!」

 

「アストラル!」

 

スフィア・フィールドに突入した遊馬はアストラルと手を重ねる。

 

「俺とお前で、オーバーレイ!俺たち二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

「遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!」

 

再び遊馬とアストラルの肉体と魂が一つに合体し、奇跡の力が再臨する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

ZEXALとなった遊馬とアストラルはバリアンと決着をつける為のラストターンを決める。

 

シャイニング・ドローにより新たなZWを創造し、自分フィールドに召喚する。

 

「「『ZW - 玄武絶対聖盾』を召喚!」」

 

それは亀の幻獣、玄武をモチーフにしたZWで除外されたモンスターを特殊召喚する効果を持つ。

 

これで復活させるのはZEXALの希望皇ホープレイ、凌牙のシャーク・ドレイク・バイス、カイトの超銀河眼の光子龍。

 

「「甦れ、CNo.39 希望皇ホープレイ!」」

 

「遊馬、行くぜ!」

 

「俺達の力を合わせるぞ!!」

 

「吼えろ、CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス!」

 

「蘇れ、我が魂!超銀河眼の光子龍!!」

 

凌牙とカイトは立ち上がり、それぞれ光を纏って除外されたエースモンスターを呼び出した。

 

「見たか!これが俺たちの底力だ!!」

 

それと同時にHeart-eartH Dragonの攻撃力は2000となった。

 

しかし、バリアンはスフィア・フィールド砲を復活させる。

 

アストラルは逃したが、充填したエネルギーは十分で全員まとめてアストラル世界と共に滅ぼすつもりだった。

 

ZEXALは希望皇ホープレイに玄武絶対聖盾を装備し、守備力は2000ポイントアップする。

 

そして更なる装備魔法の『エクシーズ・ユニティ』を希望皇ホープレイに装備し、連続攻撃を行うがバリアンは永続罠の『バリアンズ・バトル・バスター』を発動して攻撃を無効にしていく。

 

そして、バリアンはバリアンズ・バトル・バスターを墓地に送ることで、フィールドのモンスターを強制的にバトルするよう仕向けた。

 

このまま希望皇ホープレイがバトルすれば、6800のダメージが跳ね返ってしまうが……。

 

「「それはどうかな?」」

 

ZEXALは不敵な笑みを浮かべ、装備した玄武絶対聖盾には更なる効果を発動する。

 

これが装備カードの時、発生した効果ダメージを無効にし、その数値分だけ攻撃力に加える。

 

これにより希望皇ホープレイの攻撃力は16600へと上昇し、玄武絶対聖盾が光となって大剣が取り込まれて背丈の何倍にも巨大化し、希望皇ホープレイの体が金色に輝く。

 

「バカな、バカな……バカなぁあああああっ!?」

 

まさかの逆転により、バリアンは絶望に叩き落とされることとなる。

 

そして、効果が無効になったHeart-eartH Dragonに最後の攻撃を繰り出す。

 

「「ホープ剣・アルティメット・スラッシュ!!!」」

 

希望皇ホープレイの究極の一撃がHeart-eartH Dragonを斬り裂き、ZEXAL達の勝利となった。

 

「見たか、バリアン!これが俺たちの絆だ!!」

 

バリアンはDr.フェイカーの体から弾き出されて何処かへと消え去った。

 

だがその直後、スフィア・フィールド砲が崩壊を始めた。

 

ハルトはスフィア・フィールド砲から解放され、カイトが受け止める。

 

「兄さん……」

 

「もう大丈夫だ。お前の悪夢は全て消え去った……」

 

ハルトの表情はとても穏やかで与えられていたバリアンの力が消えていたが、その肉体は結果的に健康になっていたのだ。

 

すると、崩壊するタワーから瓦礫が降り注ぎ、凌牙はとっさにZEXAL達を守って大怪我を負い、遂には動けなくなってしまう。

 

その一方で力尽きたDr.フェイカーはアストラル世界へと落下してしまう。

 

カイトは再起動して復活したオービタル7にハルト達を託し、Dr.フェイカーを助ける為に飛び降りる。

 

「父さんは連れて来る!必ず連れて帰る!」

 

「小鳥、みんなを頼んだ!」

 

「えっ!?」

 

「行くのか?」

 

「ああ、かっとビングだ!」

 

ZEXALは小鳥に後を任せてカイトに続いて飛び降りた。

 

小鳥は背中にオービタル7を装着して飛行モードになり、動けないハルトと凌牙を連れて先に崩壊するハートランドタワーから脱出する。

 

落下するDr.フェイカーをカイトは手を取るが、足場が崩れて落ちそうになり、もう片方の手でデュエル・アンカーを投げてどこかに引っ掛けようとしたが、ZEXALがそれを掴んだ。

 

「遊馬!?」

 

「何故だ、九十九遊馬……何故お前は私を……?」

 

Dr.フェイカーは一馬を奪った仇敵であるはずの自分を助けようとしている遊馬に驚く。

 

遊馬は自分の思いを、Dr.フェイカーに対する答えを静かに語る。

 

「あんたのことは憎いさ。けどあんたは一生懸命ハルトを生かそうとした。きっと父ちゃんなら仕方がないって笑う……」

 

遊馬はハルトを救おうとしたDr.フェイカーの想い、そして大好きな父の想い……その全てを理解し、復讐をしない道を選んだのだ。

 

「遊馬君……」

 

遊馬の復讐をしない道にマシュは涙を流して感動した。

 

マシュだけでは無い、遊馬の選んだ道に多くのものが感動していた。

 

「ハッ……!?」

 

その時、Dr.フェイカーの目にはZEXAL……遊馬に一馬を重ねて見えた。

 

「もう良いのだ、遊馬……私の犯した罪は大きい……私は許されるべきではない……」

 

自らの犯した罪の重さを悔いるフェイカー。

 

「父さん……!」

 

「そうだよ、君の罪は重すぎる」

 

「トロン!?」

 

そんな時に異空間に飛ばされたはずのトロン……バイロンが現れる。

 

「トロン……止めろ、トロン!もう復讐は終わったんだ……!」

 

「バ、バイロン……頼む、バイロン……カイト達に罪は無い……悪いのは全て私だ!」

 

Dr.フェイカーは復讐をするなら自分だけにしてくれ、せめてカイト達を助けてくれと命乞いをする。

 

「父さん……」

 

「止めろ、トロン!」

 

「これが私の……最後の力だ!」

 

そして、トロンはその体から光を放つとZEXALたちを突き落とし、光に包まれた。

 

小鳥達はタワーから脱出し、遊馬達の無事を祈る……すると、時空の歪みと共に遊馬達が現れた。

 

小鳥は遊馬達の無事に安堵し、涙を流し、凌牙もホッとした表情を浮かべた。

 

「父さん!兄さん!」

 

ハルトはDr.フェイカーに駆け寄り、Dr.フェイカーは元気になったハルトを抱きしめる。

 

トロンによって突き落とされた時……異空間にてDr.フェイカーと最後の言葉を交わしたのだ。

 

「バイロン……!」

 

「フェイカー……」

 

「バイロン……すまなかった……」

 

「さらばだ、友よ……」

 

トロンは……バイロンは最後の最後で、友であるDr.フェイカーの裏切りと罪を許し、最後の力を使って命を助けたのだ。

 

「こんな私を許してくれた、バイロン……」

 

罪深い自分を許し、救ってくれたトロンに対し、Dr.フェイカーは感謝や罪悪感など気持ちが複雑に絡み合いながら涙を流す。

 

こうして、長きに渡る戦いは終わり、その結果はとても良いものとなった。

 

トロンは復讐心から解放され、Dr.フェイカーを許したのだ。

 

Dr.フェイカーはハルトが元気になり、カイトとも和解することが出来た。

 

それは全て、遊馬のかっとビング……諦めない心と仲間を信じる絆が、みんなに希望の光を与えたのだ。

 

「遊馬……君の諦めない心が、仲間を信じる絆がみんなに希望の光を取り戻してくれた。ありがとう……」

 

アストラルはこの戦いで見せた遊馬の大きな強さを改めて感じた。

 

大怪我をした凌牙はゴーシュと魂を解放されてすぐに復帰したドロワと共にヘリコプターで病院へと送られる。

 

壮絶な戦いの後の静けさが広がり、アストラルはこれで終わったと呟く。

 

「終わったようだな、デュエルカーニバル」

 

「いいや!終わってない!まだ、デュエルカーニバルで優勝した商品をもらってねえ!デュエルカーニバル優勝者は自分の望みを叶えてもらえるんだよな!」

 

こんな時に空気の読めない発言をする遊馬に小鳥は何を言うのかと心配するが、遊馬の望み……それは誰も予想のつかないものだった。

 

「俺の望みはカイトたち親子が仲良く暮らすことだ!!」

 

その望みに食堂にいる誰もが驚愕した。

 

父を奪った仇敵であるDr.フェイカーを許すどころか、カイトとハルトと一緒に仲良く暮らすと言う家族の幸せを願った。

 

それは誰にでも出来ることではなく、遊馬の持つ心の優しさと強さに驚愕と共に感嘆するのだった。

 

「ああ、もう……本当に君は……呆れるぐらいに、カッコよくて優しいんだから……」

 

第二特異点のローマで事の顛末を既に聞いていたブーディカだったが、映像で改めて遊馬のその勇ましく優しい姿に心を打たれて涙が溢れていた。

 

一方でブーディカとは真逆の反応をする者がいた。

 

「馬鹿な……!?何故だ、何故お前はそこまで……」

 

エドモンは遊馬の出した復讐に対する答え、そしてその先の願いに困惑していた。

 

本来ならば遊馬にも復讐者としてDr.フェイカーに復讐する権利はある。

 

だが遊馬はそれどころか自分よりも仇敵の幸せを願った。

 

これほどまでに復讐者と言う存在を揺るがすほどの強さと優しさを持つ者はそうはいない。

 

エドモンは遊馬の事をまだまだよく知れていない、もっと理解を深めるべきだと悟った。

 

「……フッ、余計なお世話だ」

 

遊馬の望みにカイトは小さく笑みを浮かべながら素直にそれを受け取らなかった。

 

そんな事をしなくても自分達はこれからの未来を歩んでいく。

 

だからこそカイトは挑発して遊馬の本当の望みを引き出す。

 

「あーっ!わかったよ!わかった!だったら俺の本当の望みだ!カイト!!お前との決着がまだついてねぇ!俺とデュエルだ!!」

 

「なるほど、面白い。事実上の決勝戦というわけか!」

 

「良いだろう、受けてやる……遊馬、アストラル!」

 

遊馬はカイトと何のしがらみもないデュエルを望み、カイトもそれを受け入れる。

 

ここに遊馬とカイトのWDCの事実上の決勝戦が始まる。

 

実質的の大敗だった初めてのデュエル以降、皇の鍵の中のデュエルではアストラルとZEXALになり引き分け、そしてハルトを助けるためにタッグデュエルを行った。

 

それらで感じられたのは、カイトの圧倒的な強さ。

 

だがその強さこそが、遊馬にとって越えるべき大きな目標となっていたのだ。

 

アストラルと一緒に必ずカイトに勝つと遊馬はいつになく意気込んでいた。

 

互いの準備が終わり、広場にて対峙する遊馬とアストラルとカイト。

 

「カイト!今日こそ決着をつけてやる!」

 

「デュエリストのプライドを賭けて君に挑む! そして勝つ!!」

 

「遊馬、アストラル。俺の全力を懸けて、受けて立ってやろう!」

 

デュエリストの全てを懸けた全力のデュエル。

 

小鳥と合流した鉄男達だけでなく、凌牙を病院に送って戻って来たゴーシュやドロワも見守る中、遂に二人のデュエルが始まる。

 

「遊馬!負けたらタダじゃおかないからね!アストラルもむっつりしてないで頑張るのよ!」

 

小鳥は遊馬にいつものように声援を送るが……アストラルにも声援を送った。

 

「えっ……?お前まさか、こいつが見えるの!?」

 

「何だか見えるようになっちゃった♪」

 

「「「えぇ〜っ!?」」」

 

普通の人には見えていないはずのアストラルの姿。

 

どうやら先ほどのバリアン世界の使者とのデュエルがきっかけで、小鳥とカイトと凌牙にもアストラルが見えるようになったらしい。

 

そうでなくても小鳥はこれまで誰よりも遊馬とアストラルのナンバーズを懸けたデュエルを間近で見てきたのだ。

 

その肉体と魂に何らかの変化が起きてもおかしくはなかった。

 

これで小鳥はいつでもアストラルと話が出来るようになり、小鳥は嬉しそうにしていた。

 

遊馬は銀河眼の光子竜対策の戦術を取るが、カイトは得意の銀河眼の光子竜と敵のカードを封じる戦術で攻める。

 

「そうだよなカイト…やっぱお前とのデュエルはこうでなくっちゃな!面白れぇな!」

 

「面白い……?俺の戦術のどこが面白い?」

 

「戦術なんて知らねぇよ。俺は心のドキドキを言ってるんだよ!」

 

「心のドキドキ?」

 

「このドキドキがデュエルなんだ!これがかっとビングなんだ!そして、デュエルをすれば相手の事がすっげぇわかる!仲間になれるんだ!こうやってドキドキが伝わってみんな集まってくれたんだ!」

 

「私もドキドキしてる……遊馬とカイトのデュエルに……!」

 

デュエルをまだやったことの無い小鳥でも遊馬とカイトのデュエルに胸を弾ませていた。

 

それほどまでに遊馬とカイトのデュエルは人を魅了させる力があるのだ。

 

「このドキドキがあればみんな仲間になれる!デュエルで一つになれる!カイト!お前もそうだろ!?」

 

「だったらお前の全力を見せてみろ!ナンバーズだ!俺の真の勝利はお前達のナンバーズを倒してこそ。さぁ呼べ!ナンバーズを!」

 

「ああ。見せてやるぜ。俺のかっとビングを!」

 

遊馬もエースモンスターの希望皇ホープを召喚し、初めてのデュエルの時と同じように希望皇ホープと銀河眼の光子竜が対峙する。

 

しかし、今のままではモンスターエクシーズキラーの銀河眼の光子竜の前に破れてしまうが、遊馬には銀河眼の光子竜対策のもう一つの戦術があった。

 

遊馬は希望皇ホープの攻撃無効効果に適した速攻魔法カードを使用して銀河眼の光子竜の効果を無効にし、カイトの戦術を越えて遂に銀河眼の光子竜を破壊することが出来た。

 

希望皇ホープの攻撃で銀河眼の光子竜を破壊し、カイトに大ダメージを与えて遊馬は一つの目標を越えられて浮かれまくった。

 

その姿にカイトはこれまでの遊馬の戦いぶりを思い出すことになった。

 

何度失敗しようと、どんなピンチに立たされようと、諦めず必死になって立ち上がり、デュエルを心の底から楽しんでいた。

 

そう考えた時、カイトはある決断をした。

 

「遊馬、アストラル。これで終わりだ……俺にはもう、デュエルは出来ない。このデュエル、サレンダーする」

 

カイトは自ら敗北を認めてデュエルをここで終わらせようというのだ。

 

カイトの突然の言い出しに遊馬達は驚愕する。

 

カイトはデュエルする意味を見い出せなくなってしまったのだ。

 

これまではハルトを救い為だけにデュエルを行ってきたが、ハルトが救われた今……戦う意味が無くなってしまったというのだ。

 

もう遊馬のように熱くデュエルすることは出来ないのだと……。

 

カイトの言い分にアストラルは否定した。

 

「カイト。それは違う。遊馬はナンバーズを集めるために私と共に戦い、勝利は私に記憶をもたらしてくれた。だがそれは過去の集まりに過ぎない。遊馬とのデュエルはもっと大切な物を私にもたらしてくれた。それは仲間だ。デュエルを通じて心と心で語り合い絆を深めていった仲間……」

 

アストラルにとってナンバーズを、記憶を集めるのは大切な事だが、遊馬と出会い、重ねていったデュエルは記憶よりも大切なものを与えてくれた。

 

「カイト。君もそうだ。私にとって君は大切な仲間だ。記憶は過去のものだ。仲間は未来にある。君ももう過去に縛られる必要はない」

 

遊馬と同様にアストラルもカイトを大切な仲間と認めている。

 

「そして、この事に君も気付いていたのではないか?だからこの場所に来たのではないか?」

 

カイトも口では語らないが、既に遊馬とアストラルの事を仲間として認めている。

 

「俺は……」

 

悩み続けるカイトに遊馬が声を掛けた。

 

「カイト!カイトビングだ!カイト!」

 

遊馬はカイトに対し、カイトだけの持つかっとビングで一歩を踏み出せと励ました。

 

「俺は感じていたぜ!お前のドキドキを!だがお前のドキドキはこんなもんじゃねぇ!もっとだ!もっと見せてくれよ俺に!感じさせてくれよ!カイトビングを!」

 

遊馬の偽りのない真っ直ぐで純粋な言葉……それはカイトの悩みと迷いを吹っ切れさせた。

 

「……フン。ドキドキじゃ飽き足らぬ。この先に何が待つかわからない。だが切り開いてやろう!俺の道を!俺のデュエルを!」

 

カイトの中にかっとビング……否、カイトビングが宿り、カイトはナンバーズ・ハンターとしてではなく、一人のデュエリストとして新たな未来への道を切り開く。

 

一方……遊馬とカイトのデュエルを見守る者達がいた。

 

「どうやらカイトは自分のデュエルを取り戻したようだね。九十九遊馬……まったく不思議な奴。一馬の息子か……」

 

それは……トロン、III、Ⅳ、Vの四人だった。

 

四人は遊馬のかっとビングのお陰でバラバラだった家族が再び一つとなったのだ。

 

「さぁ、帰ろう。僕達の場所に……クリス。トーマス。ミハエル」

 

トロン達は遊馬達に別れを告げずにそのまま異空間を開いて何処かへと消えてしまうが、トロン達はもう復讐の道には進まない。

 

元の仲の良かった家族として未来を歩き始めたのだ。

 

「遊馬……またいつか、きっと」

 

IIIは遊馬との再会を願い、トロン達と一緒に消えていった。

 

カイトの悩みと迷いも晴れ、デュエルは中盤戦へと突入した。

 

カイトは銀河眼の光子竜を失い、ナンバーズ・ハンターとして回収したナンバーズの全てはアストラルの手にあるが、まだ強力な効果を持つモンスターがある。

 

光属性レベル4のモンスター2体で『輝光子パラディオス』をエクシーズ召喚し、希望皇ホープの効果を無効にして破壊した。

 

遊馬はカイトの強さを改めて感じ、その壁を意地でも越えてやると意気込む。

 

負けじと遊馬は戦士族レベル4のモンスター2体でエクシーズ召喚したのは……。

 

「現れろ!『H - C エクスカリバー』!!!」

 

ゴーシュから想いと共に受け継いだモンスター、エクスカリバーだった。

 

「おっ!あれ俺がやったモンスターじゃねえか!ぶちかませ、遊馬!」

 

エクスカリバーの登場に当然ゴーシュは大興奮した。

 

「ゴーシュ、お前はどっちの味方だ?」

 

しかしトロワはカイトのピンチであるため、ゴーシュの態度に不満をもらしていた。

 

「一刀両断、必殺神剣!」

 

エクスカリバーの攻撃でパラディオスを撃破し、大ダメージを受けたカイトは、ライフが200ポイントまで減ってしまった。

 

カイトは装備魔法『銀河零式』で銀河眼の光子竜を復活させて、エクスカリバーを破壊し、遊馬のライフポイントも残り300と僅かとなる。

 

遊馬も同じく装備魔法で墓地から希望皇ホープを特殊召喚し、希望皇ホープレイへと進化させる。

 

希望皇ホープレイの姿にカイトは新たな誓いを立てる。

 

「ホープレイ……希望……アストラル。お前は言った。もう過去に縛られる必要はないと」

 

「ああ」

 

「俺のデュエルは誓いのデュエルだった。ハルトを絶対助けると誓いながらデュエルをしていた。だがこれからは……望み、希望……俺自身のためのデュエルをする!」

 

「そうだよカイト!未来は俺達のもんだ!俺達が決めるんだ!」

 

己が決めた未来を突き進む遊馬とカイトは一進一退の攻防を繰り出す。

 

最強クラスのデュエリストと言っても過言では無いカイトと対等以上に渡り合えるほどまでに成長した遊馬にアストラルは感心していた。

 

「遊馬、君は強くなったな。君のかっとビングの精神は本当に素晴らしい。君はもう一人でも……」

 

もう自分は必要ないと思えるほどにこの数ヶ月で成長した遊馬にアストラルは僅かな寂しさを覚えるが、遊馬は否定する。

 

「何言ってんだ!俺達は二人で一つのかっとビングだ!ずっと一緒に……前に進もうぜ!」

 

遊馬はアストラルがいなければここまで強くなることは出来なかった。

 

今では文字通りに一心同体になるほどの絆を深めている。

 

これからもアストラルと一緒に強くなりたいと遊馬は願った。

 

「……遊馬、勝つぞ!」

 

「ああ!」

 

カイトはこのターンで決める為に最後の切り札を召喚する。

 

カイトは『銀河の魔導師』を召喚し、その効果でレベルが8となり、2体分のエクシーズ素材とすることが出来るモンスターで銀河眼の光子竜とオーバーレイし、超銀河眼の光子龍をエクシーズ召喚する。

 

遊馬のフィールドにはモンスターはなく、超銀河眼の光子龍のダイレクトアタックをするが、遊馬は永続罠『ディメンション・ゲート』の効果で除外していた希望皇ホープレイを復活させる。

 

希望皇ホープレイと今の超銀河眼の光子龍は攻撃力が互角のため、相討ちとなった。

 

だが遊馬はこれで終わらない。

 

「行け!遊馬!」

 

「よっしゃ!かっとビングだ!俺!速攻魔法!『エクシーズ・ダブル・バック』発動!モンスターエクシーズ1体が破壊されフィールド上からモンスターがいなくなった時、破壊されたモンスターエクシーズ1体とその攻撃力以下のモンスター1体を墓地から特殊召喚出来る!現れろ!希望皇ホープ!希望皇ホープレイ!!」

 

エクシーズ・ダブル・バックの効果で遊馬のフィールドに希望皇ホープと希望皇ホープレイが並び立つ。

 

白と金色の希望皇ホープ、漆黒の希望皇ホープレイ……2体の希望皇が並び立ち、通常では実現が難しい展開はまさに壮観だった。

 

これで次のターン、遊馬の勝利が決まった。

 

ところが……カイトのフィールドに銀河の光が爆発する。

 

カイトのフィールドに銀河眼の光子竜と超銀河眼の光子龍が姿を現した。

 

カイトも遊馬と同じくエクシーズ・ダブル・バックを発動させたのだ。

 

攻撃力はいずれもカイトの銀河眼の光子竜と超銀河眼の光子龍の方が上……遊馬にはその攻撃を防ぐ手立てなど残されてはいない。

 

「銀河眼と超銀河眼の2体でホープレイとホープを攻撃!破滅のフォトン・ストリーム!アルティメット・フォトン・ストリーム!!」

 

「ぐあぁぁぁああ!!」

 

ダブルギャラクシーアイズの攻撃により、ダブルホープは撃破され……デュエルに決着がついた。

 

今回のデュエルは僅差でカイトの勝利となった。

 

「いてて……負けちまった……」

 

ぶっ飛ばされて倒れた遊馬にカイトは近づいて手を差し伸べ、遊馬はその手を取って立ち上がる。

 

「カイト……次は絶対お前に勝ってやるからな!」

 

「何度でも相手になってやる。何度でもな」

 

遊馬の挑戦をカイトは何度でも受けるつもりでいた。

 

「ああ!やってやる!諦めなければ!かっとび続ければいつかお前に辿り着けるかもしれないからな!」

 

今はまだカイトの方が上だが、いつの日か……遊馬が諦めずにかっとビングを続ければカイトに辿り着けるかもしれないと疑わない。

 

カイトは遊馬の言葉に笑みを浮かべてオービタル7を装着し、飛行形態となって家族の元へと帰っていく。

 

「遊馬〜!」

 

小鳥達はデュエルが終わった遊馬に駆け寄る。

 

「小鳥……」

 

すると次の瞬間、遊馬は力が抜けたように小鳥に倒れ込んでしまった。

 

「遊馬?」

 

小鳥はその場で座り込み、遊馬はそのまま小鳥に膝枕してもらいながら熟睡してしまった。

 

「遊馬、遊馬ったら、もう……」

 

みんなの想いを背負って戦う激戦に次ぐ激戦……世界の命運を懸けた戦い……そして、カイトとのデュエルに流石の遊馬も体力と精神力が限界が来て眠りについてしまったのだ。

 

「ねえ、アストラル。遊馬を……」

 

「私にはどうすることも出来ない……」

 

熟睡してしまった遊馬にアストラルも何も出来ずにお手上げだった。

 

「むにゃむにゃ、かっとビングだぜぇ……」

 

遊馬は嬉しそうな夢を見て寝言を言っていた。

 

「しょうがない……しばらくこのままにしてあげるか」

 

小鳥は頑張った遊馬の頭を撫でそのまま膝枕をして眠らせてあげることにした。

 

アストラルは沈む夕日を眺めながら新たな発見をすることになった。

 

「観察結果その21。気持ちの良い敗北も……どうやらあるらしい」

 

アストラルは新たな発見をし、この心地よく素晴らしい時を深く感じて噛み締めていた。

 

数多の陰謀が渦巻くWDCが本当に完結し、全てを救い出した遊馬とアストラル。

 

こうして二人の戦いに一つの終わりが迎えるのだった。

 

遊☆戯☆王ZEXAL第一部……これにて完結となり、エンドロールが流れる。

 

数分間のエンドロールが終わり、食堂が明るくなるかと思いきや、まだ映画には続きがあった。

 

舞台が一変し、場所は真紅に輝く異世界……バリアン世界。

 

バリアン世界では先の戦いから新たな刺客が動き出そうとしていた。

 

王座の間のような場所にローブに身を包んだ四人の者達がいた。

 

不気味な雰囲気を漂わせる四人は人間界でバリアンの使者を退けた遊馬とアストラルの存在を危険視した。

 

「九十九遊馬、アストラル。私の想定外だ。次は……我々が出ねばなるまい!」

 

遊馬とアストラルの戦い……一つの大きな戦い終わり、また新たな戦いの幕開けとなる。

 

謎に包まれた異世界、バリアン世界との戦いが始まろうとしていた。

 

映像はそこで終わり、食堂が明るくなるとダ・ヴィンチちゃんが立ち上がる。

 

「これにて遊☆戯☆王ZEXAL第一部は完結!第二部は現在製作中だから乞うご期待!」

 

遊馬とアストラルの戦いはまだ続くが、それが公開されるのは少し先の話。

 

映画が終わると遊馬とアストラルと小鳥の周囲にみんなが集まる。

 

その時の戦いや行動の心境はどうだったなど、何故そうしたのかと色々話をする。

 

その日は夜遅くまで食堂で遊馬達の話をネタに宴が行われるのだった。

 

 

 




マシュ「遊馬君……まだ私はあなたとアストラルさんの戦いの全てを見てませんが、お二人の不屈の絆と強さに近づけるようにもっおもっと頑張ります。マシュビングです、私!」

ジャンヌ「全てを救う……これは余りにも難しく、不可能に近いことです。それは恐らく神にも不可能な事です。しかし、遊馬君とアストラルさんは全てを救い、そして世界を救った……お二人は神をも超えたと思います」

レティシア「もう呆れ果てるわ……ここまで馬鹿でお人好しがみんなを、世界を救うなんてね。でも、そんな諦めないあんただからこそ虚ろな私を救ってくれた……私はあんたに出会えて幸せよ」

清姫「旦那様……今回の一連の戦い、とても難しい葛藤が続いておりましたが、よくあれだけのご立派なご判断されたと思います。それから……悔しいですが、小鳥さんとアストラルさんの存在はやはり旦那様には必要不可欠だと感じました。やはりお二方との絆は強いですね」

ブーディカ「ユウマ、やっぱり君は本当に凄いよ。話には聞いていたけど、両親が行方不明になる元凶……仇敵に復讐せずに、最後は仇敵とその家族の幸せを願った。それは誰にでも出来ることじゃない。君がマスターで私はとても誇りに思うよ。それと……寂しかったら、いつでも言ってね。大したことはできないけれど、君のお母さんの代わりになってあげるからね」

アタランテ「やはり……ユウマは両親がいなくなって寂しかったのだな。だからこそ、大人達に子供としての思いの全てをぶつけた。そして、自分が不幸せで辛いのを必死に押し殺しながら、他の辛い者達を全力で救おうとしている……本当にお前は優しすぎる子だ……」

ネロ「ユウマよ、お主は本当に優しく強い奴だ。敵である存在とその家族に心を向け、手を差し伸べる……そんなお主だからこそ、余は惚れたのだ……流石は余の自慢の夫だ!惚れ直したぞ!!」

武蔵「こんなにも複雑な状況をよく全て解決できたね……いや、全部解決出来たわけじゃ無いけど、少なくとも遊馬やアストラルが納得出来る結果になった。凄いや、剣を振るってるだけの私じゃ絶対に無理だよ。未来を信じる子供の願いが道を切り開いたわけだね……」

桜「お兄ちゃんも辛い思いを重ねてきたんだね……そして、お兄ちゃんは頑張って全てを救った……私、お兄ちゃんが私のお兄ちゃんで幸せだよ!」

ジャック「おかあさんの戦いは辛いことばかりだけど、おかあさんは諦めずに戦った……私達もかっとビングで絶対に諦めない!」

エドモン「何故だ……何故復讐をしない!?Dr.フェイカーは事情があるにせよ、マスターから父を奪った!マスターには復讐する権利はある!恨み言の一つでも言えばいい!一発顔を殴ってもいい!しかし、貴様はそれどころか、その者達の幸せを願った……本当に貴様はアヴェンジャーキラーだな!フッ、貴様のような奴は俺みたいな奴が側にいなければ不安で仕方ない、せいぜい覚悟するんだな!!」

天草「罪を憎んで人を憎まずと言う言葉がありますが、マスターはそれを越えてその者とその家族の幸せを願う……素晴らしい!マスター、やはりあなたは私とは比べ物にならないほどの本物の英雄です!」

アルトリア「私はかつて皆の理想を背負って戦ってきました……そして、マスターは多くの人の願いや想いの全てを背負って戦った。マスターはその小さな背中に多くのものを背負いながらも、その言葉と行動の一つ一つが全てを救い、幸せへと導いた……あなたは私以上の素晴らしい『皇』です!天晴れです、マスター!!」

エミヤ「友の復讐を終わらせ、他者の家族を幸せにし、そして世界を救う……全く、僅かな時間でこれだけのことをやり遂げるとは恐れ入ったよ。君のかっとビングが切り開いた未来……君こそ、本当の『正義の味方』かもしれないな……」

次回はカルデアの日常を投稿し、その次はいよいよ第五特異点を書き始めます!
やっとこの時が来ました……!
大好きなスカサハ師匠を出せる……!





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ナンバーズ115 カルデアの一日 その4

今回は桜ちゃんが色々と頑張ります。
やっぱり桜ちゃんを幸せにしたいのでこれぐらいしても良いかなと思います。


遊馬とアストラルの壮絶なる戦いの記憶から数日後……魔術王・ソロモンという人理焼却の黒幕が判明しながらもカルデアの落ち着いた日々が始まる。

 

午前7時・起床。

 

もう目覚まし無しで起きられるようになり、目を覚ますと……。

 

「うぅん……重い……?」

 

体が重く感じ、掛け布団を剥がすと……。

 

「まーた侵入してきたのか?」

 

「ふにゅ……」

 

「んんっ……」

 

遊馬のベッドの中には可愛い侵入者が潜り込んでおり、パジャマ姿の桜とジャックが可愛い寝息を立て、遊馬のジャージを握りしめて眠っていた。

 

映画を観てからというもの、何故か桜とジャックが毎晩遊馬の部屋に侵入し、そのままベッドに潜り込むようになっていた。

 

「本当に可愛い子達だな……」

 

遊馬は微笑みながら桜とジャックの頭を撫でる。

 

「何だろう、こう言うのを父性って言うのかな……?カイトもハルトをこんな風に感じて可愛がってたんだろうな。シャークは……まあ、璃緒は双子だから微妙か」

 

己の全てを捧げても守ると誓った最愛の弟を持つカイトとたった一人の家族で双子の妹を持つ凌牙。

 

歳下の家族を持つ気持ちを理解した遊馬はベッドに潜り込んだ二人を邪険にせずに優しく起こす。

 

「おーい、二人共。朝だぞ」

 

「ふぁあ……おはよう、お兄ちゃん……」

 

「おかあさん、おはよう……」

 

「おはよう。顔洗ったら飯食いに行くか」

 

「「うん!」」

 

三人は交代で洗面所で顔を洗い、眠気を覚まして部屋を出ると……。

 

「毎朝変わらねえな……」

 

「おお、おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おのれ、今日もダメだったか……」

 

「アタランテさんとメドゥーサさんの壁が高すぎます……!」

 

廊下には遊馬に夜這いをかけようとするネロと清姫をアタランテが全力で阻止しているもはや見馴れた光景が広がっていたが、桜が遊馬のベッドに潜り込むようになってからメドゥーサも参加してアタランテに協力するようになっていた。

 

「ライダー、アタランテ、おはよう!」

 

「みんな、おはよー」

 

「おはようございます、よく眠れたみたいですね」

 

「ああ、おはよう。今日も元気だな」

 

桜とジャックの笑顔の挨拶にメドゥーサとアタランテは笑顔になる。

 

メドゥーサは眼帯を外すと代わりに眼鏡をかけ、紫色の双眸で桜を優しく見つめながら頭を撫でる。

 

メドゥーサの両眼には石化の魔眼があるのだが、桜が目を見てちゃんと話したいとの要望があり、そこでメドゥーサはダ・ヴィンチちゃんに頼んで楕円型の魔眼封じの眼鏡を作ってもらい、戦闘以外のプライベートはそれを着けることにしている。

 

「幼女達よ!ズルイではないか、二人だけ我が夫の遊馬と一緒に寝るなど!」

 

「私達にもその権利をください!」

 

ネロと清姫は自分達はダメなのに桜とジャックが遊馬と一緒に寝ていることに不公平を感じて抗議する。

 

「イヤ!お兄ちゃんは絶対に渡さないもん!」

 

「おかあさんは私達のおかあさんだもん!」

 

「あはは……困ったなぁ……」

 

桜とジャックは遊馬にしがみついて離さないと言わんばかりの覇気を出していた。

 

二人がここまで独占欲を出したのは映画がきっかけだった。

 

まだ映画には続編……遊馬とアストラルの壮絶な戦いの記憶が続く。

 

それは第一部以上の壮絶なる戦いでもある。

 

それを知った時、幼い桜とジャックはある一つの大きな不安に襲われたのだ。

 

この世界の人類と未来を救う戦い……このカルデアにいる数多くの英霊達も認める本物の『英雄』である遊馬がいつの日か魔術王・ソロモンと対決する時、自分の命を捨ててでもソロモンを倒して世界を守ろうとするのではないか?

 

もちろん遊馬は必ず勝ってみんなの元へ帰ると言うだろうが、家族や友人だけでなく敵や仇にすら手を差し伸べるほどの深過ぎる優しさを持つ。

 

だからこそ不安になってしまい、いつか自分たちの前から消えてしまうのではないかと……。

 

既に遊馬に依存するほど大切に想っている桜とジャックは無意識のうちに遊馬を離さない、逃がさない意味も含めて一緒にいる時間を増やしているのだ。

 

「大切なものが増えると大変だな、遊馬」

 

皇の鍵の中からアストラルが出て来て今の遊馬の状況にやれやれと言った様子で見下ろす。

 

「そうだな。ま、悪くないから良いけどな」

 

「そうか……さて、そろそろ食堂に行った方がいいのでは?」

 

「おう、そうだな!」

 

遊馬達はギャーギャーと騒ぐネロと清姫を抑えて食堂に向かった。

 

 

午前7時15分・朝食。

 

食堂に着いて席に座ると遊馬の前にドン!と山盛りのデュエル飯が置かれた。

 

「はい!デュエル飯大盛り!」

 

「おおっ、小鳥サンキュー!」

 

小鳥特製のデュエル飯に遊馬は目を輝かせる。

 

「アストラルもたくさん食べてね!」

 

「喜んで!さあ、遊馬……ZEXALだ!」

 

アストラルは意気揚々と遊馬との合体を求める。

 

「またかよ!?最近デュエル飯が出る度にZEXALになってるじゃねえか!」

 

WDC決勝戦のトロン戦の時、ZEXAL状態で小鳥のデュエル飯を食べ、アストラルが生まれて初めて食事をしてとても嬉しそうにしていたので小鳥はアストラルにもデュエル飯を食べて欲しいと思って毎日大盛りのデュエル飯を用意するようになった。

 

小鳥の好意にアストラルは素直に応え、デュエル飯の食事の度に遊馬と合体してZEXALとなり、デュエル飯を堪能しているのだ。

 

「遊馬……私はデュエル飯を食べる度に感じるのだ……」

 

「何を……?」

 

「小鳥のデュエル飯を食べ続ければいつかきっと新たなランクアップの扉を開けると!だから私は今日もデュエル飯を食すのだ!」

 

「それってただ単にデュエル飯が食べたいだけじゃねえか!?」

 

「そうとも言う!そして私はもっと生きる喜びを一つでも感じたい!それでは行くぞ!私自身と遊馬でオーバーレイ!!」

 

「おいぃいいいいいーっ!??」

 

アストラルは半強制的に遊馬と合体してZEXALとなり、ここまで来たら遊馬も諦めがついて大人しくデュエル飯を頬張る。

 

「アストラル世界の奇跡の力をこんな簡単に使ってエリファスに怒られねえかなぁ……」

 

「ここは異世界だからエリファスが分かるとは思えないが、基本は黙っていれば問題は無い。もし仮にバレたとしても私自身のランクアップの為だと説き伏せるだけだ」

 

「アストラル、お前好きなことや興味あることにはいつも全力だな……」

 

記憶を失った時からアストラルは好きなことや興味あることをとことん追求したり、楽しんだりしている。

 

十中八九、遊馬との関わりやカオスの影響もあるだろうが……。

 

「美味い……やはり小鳥のデュエル飯は最高だ」

 

「ありがとう!これからも沢山作ってあげるからね!」

 

「ありがとう。感謝する、小鳥!」

 

「まあ、いっか……」

 

別に害はなくアストラルや小鳥がとても嬉しそうにしているので遊馬はそれ以上は追求しなかった。

 

 

午前8時・勉強会。

 

朝食後の恒例の勉強会が始まったのだが……。

 

「──であるからして、ここは……おい、マスター、ちゃんと話しを聞かんか!!」

 

エルメロイII世が教卓を思いっきり叩きながら注意をする。

 

「えー……だってさぁ……魔術なんか勉強してもなぁ……」

 

遊馬は今まで以上にやる気のない顔をしており、いつ居眠りしてもおかしくないほどやる気ゼロだった。

 

冬木市における桜の一件から魔術に対して最早拒絶反応並みの嫌悪感が出てしまい、遊馬は魔術の授業は受けたくない気持ちでいっぱいだった。

 

「……確かにあの娘が受けた魔術は外道で嫌がる気持ちもわかるが、魔術王が相手とならば多少は魔術の知識を持っておけ」

 

元々この授業は人理焼却の黒幕、魔術王・ソロモンに対するもので大して役には立たないかもしれないが魔術についての基礎知識を学ばせるために行なっている。

 

「確かに魔術王と戦うならば魔術の事を少し覚えておけば役に立てるかもしれないな……遊馬、ここは我慢するしかない。それに君自身が魔術を使うわけではないのだからな」

 

それに元々遊馬はこの世界の人間でも無い異世界人なので、魔術を使うための魔術回路と呼ばれる擬似神経が存在しないので魔術を使うことが出来ない。

 

最も、遊馬自身は『魔術の札』と呼ばれるデュエルモンスターズの力や、サーヴァントと契約した事でホープ剣を具現化できるようになったので魔術を使う必要は無いのだが。

 

「うぅ、分かったよ……仕方ねぇ……時計塔で大人気教師のウェイバー先生が教鞭を振るってくれるから受けるかぁ……」

 

「ロード・エルメロイII世だ!!」

 

本日もエルメロイII世のツッコミが冴え渡るのだった。

 

 

午前0時・昼食。

 

勉強会が終わり、遊馬はブーディカ特製のブリタニア料理を頬張った。

 

「うんうん、今日もいっぱい食べてね、ユウマ!」

 

「おう!」

 

ブーディカは遊馬の頭を軽く撫でてキッチンに戻った。

 

最近、ブーディカを初めとする年上系のサーヴァント達からのコミュニケーションが多くなった。

 

頭を撫でられたり、背中を軽く叩かれたりと触れ合いが増えていった。

 

これには理由があり、遊馬が映画の中で両親が行方不明となり辛く、悲しい思いを繰り返していた。

 

全ての戦いの後に両親は無事に戻ってきたらしいが、遊馬はこの異世界にて家族どころか友人達とも離れ離れになっており、本人は大丈夫だと言っているがそれでも寂しいのだ。

 

それを少しでも抑えられるようにとサーヴァント達は無意識に遊馬とのコミュニケーションを増やしている。

 

そのお陰もあってか遊馬もいつもより笑顔が増えていた。

 

 

午後1時・鍛錬。

 

レオニダスの筋トレは成長期の遊馬からロマニと相談して適度なトレーニングをし、その後は武蔵による二刀流剣術の鍛錬となる。

 

「うーん、原初の火とホープ剣の二刀流も良いけど、ホープレイの雷神猛虎剣と風神雲龍剣の二刀流を見てみたいな。遊馬、出してみてよ!」

 

映画で見た希望皇ホープレイのZW二刀流、雷神猛虎剣と風神雲龍剣に魅了された武蔵はZEXALの時に雷神猛虎剣を具現化していたので、ホープ剣を自在に出せる今ならできるのではないかと期待した。

 

「えっ?雷神猛虎剣と風神雲龍剣を?うーん、出せるかなぁ……ZEXALの時でしか出した事は無いから……」

 

とりあえずやってみる事にして遊馬はホープ剣を消し、目を閉じてトロン戦で希望皇ホープレイが持っているイメージを浮かべてみた。

 

すると、遊馬の右手に紫電が轟き、左手に旋風が吹き、一瞬だけ雷神猛虎剣と風神雲龍剣が現れてすぐに消えた。

 

「消えちゃったぜ……」

 

「でも一瞬だけ現れたね!その内出せるようになるよ!」

 

「そうだな。時間がある時に練習してみるよ」

 

「うん、出来るのを楽しみにしているよ!」

 

遊馬に新たなランクアップの兆しが見え、武蔵は雷神猛虎剣と風神雲龍剣の二刀流が実現するのを楽しみに待つ。

 

一方、少し離れたところでは激しい剣戟が繰り広げられている。

 

「良い調子ですよ、サクラ!」

 

「はいっ!」

 

アルトリアが相手をしているのは開放召喚をして黒騎士に変身した桜。

 

桜は『閃光煌めく希望の大剣』を持ち、手にした武器を自分の宝具として自由自在に扱える宝具で巧みな剣術を繰り出す。

 

蝶のように軽やかな動きをしながら繰り出す剣はまるで剣舞のように美しかった。

 

桜は強くなる為にアルトリアに頼み、剣の鍛錬の相手をしてもらっているのだ。

 

同じく凛もエレシュキガルの開放召喚をして鍛錬をしており、その相手は同じメソポタミア神話出身の姉妹で、別世界の未来の自分であるイシュタル。

 

流石にトレーニングルームで宝具をぶっ放なすことが出来ないので細かい魔力操作や魔力放出などの技術面を磨いている。

 

 

午後3時・間食。

 

遊馬達はエミヤたちが作るデザートでおやつを満喫していたが……。

 

「ウッ、ゥゥ……!」

 

『ウォオ……!』

 

フランと『No.22 不乱健』が時空を超えてフランケンシュタインの怪物同士でイチャイチャし始め、フランが不乱健の膝に乗ってお菓子を食べさせている。

 

美女と野獣ならぬ、美少女と怪物の二人の光景は見ているこっちが恥ずかしくなるほど初々しくイチャイチャしていた。

 

余りにもイチャイチャしている二人に遊馬達は思わず「もう結婚すれば?」と呟くほどだった。

 

ちなみに……。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎……」

 

「ヴィクターの娘よ、ようやく運命の相手に出会ったか……」

 

呂布とバベッジはフランの幸せそうな姿に微笑ましく頷いて見守っていた。

 

呂布はフランが娘に似ているので甘やかしており、バベッジは友人の娘とあって気に掛けていた。

 

親のように見守っている二人でもしも不乱健がフランを悲しませることがあったら叩き潰すつもりだった。

 

 

午後4時・昼寝。

 

遊馬達の健やかな成長の為に昼寝の時間が設けられ、大部屋で雑魚寝の形で遊馬と小鳥、桜と凛とジャックとナーサリーが寝ている。

 

そして、遊馬と以前一緒に昼寝をすると約束していたネロと清姫だが、遊馬以外の予想外のメンバーに少々困惑しながらも昼寝をする。

 

その際、ネロはこのままではマズイとある計画を立てる。

 

「むむむ……このままでは余とユウマの時間が無くなってしまう。こうなったら、急いでアレの建設を急がねば!」

 

建築家でもあるネロは遊馬とイチャイチャする為にあるものを建築していた。

 

カルデアの施設拡大という名目でオルガマリーから許可は貰っており、その裏では密かに遊馬とイチャイチャする為の極秘施設を建築していた。

 

ネロは遊馬との仲を深める為にも急いでその極秘施設の建設を急ぐと決めた。

 

 

午後5時半・相談。

 

昼寝から目を覚ますとダ・ヴィンチちゃんから呼ばれて工房に向かうと、そこにはアンデルセン、シェイクスピア、紫式部の作家系サーヴァントが大集合していた。

 

「どうしたんだ?みんな集まって……」

 

「何かあったのか?」

 

「ふふふ……遊馬君、アストラル君、遂に……遂に完成したのだよ!」

 

「何を?」

 

「君の新しい発明か?」

 

「これさ!」

 

ダ・ヴィンチちゃんが取り出したのは小さな冊子だった。

 

表紙には何と……。

 

「お、俺たちの絵!?」

 

「それにホープも……」

 

そこには遊馬がデュエルディスクを構える姿とそれを支持するようなアストラルの姿、そして背後には二人を守るかのようにホープ剣を両手に構えた希望皇ホープの姿が描かれており、タイトルには『遊☆戯☆王 ZEXAL』と堂々と書かれていた。

 

「この前の映画を参考に君たちの本が完成されたのさ!」

 

「締め切りはないが……二人の戦いにインスピレーションが爆発して久々に全力で書いてしまったぞ」

 

「いやはや、あの映画でついつい筆が進んでしまいましたな!」

 

「私も久方ぶりに思いっきり書きました。良い出来だと思います」

 

映画を見た三人は僅か数日で遊馬とアストラルの出会いからカイトとの再戦までの激しい戦いの日々を事細かに書き上げたのだ。

 

「ちなみに挿絵は私の直筆で書かせてもらったよ!」

 

ダ・ヴィンチちゃんも挿絵を担当し、歴史に名を残す芸術家と作家系のサーヴァント達が手を組み、遊馬とアストラルの戦いをネタに最高の一冊を作ってしまったのだ。

 

「下手すれば国宝級の一冊じゃねえか!?」

 

「異なる時代の英霊が集うこのカルデアだからこそ実現した奇跡だな……」

 

この一冊にどれだけの価値が込められているのか分からず、あまりにも恐れ多いその本を受け取る。

 

「も、もしかして……残りの映画のも……?」

 

「もちろん!三部作だから残り二冊も製作予定だから楽しみにしていてね!」

 

ダ・ヴィンチちゃん達はノリノリで残り二冊の制作も考えており、遊馬とアストラルは今までにない恥ずかしさを感じる。

 

ちなみにこの本はカルデアで空前の大ヒットとなり、紫式部の地下図書館に十冊ほど寄贈されたが全てレンタルされるほどの人気になるのだった。

 

 

午後6時・夕食。

 

カルデアで一番賑やかな時になるであろう夕食時……遊馬は大盛りの食事を食べるとあることに気付く。

 

「あれ?そう言えば今日はマシュを見かけないな……」

 

レイシフトが無いカルデアで過ごす時は一日の半分近くは一緒に行動するが、今日は珍しく朝から会っていない。

 

そこにオルガマリーが通りがかってその答えを教える。

 

「マシュなら定期検査よ。特異点の戦いも激しくなってきたし、ようやくまとまった時間が出来たから今日は念入りにしているのよ」

 

「定期検査か。明日には会えるか?」

 

「もちろんよ。明日は勉強会もお休みだから一緒にゆっくりすれば?」

 

「おう!」

 

オルガマリーはその場から立ち去る瞬間に表情を暗くしたが遊馬はそれに気づかなかった。

 

 

午後7時・自由時間。

 

夕食を終えて食堂でデュエルを行う。

 

ルールを覚えた桜も初心者向けの20枚のハーフデッキでデュエルが出来るようになり、遊馬とデュエルを申し込む。

 

「お兄ちゃん!私がデュエルで勝ったら一つ……お願いを聞いて!」

 

「はははっ!このワールドデュエルカーニバルの初代デュエルチャンピオンに自信満々だな!良いぜ、その条件飲んだぜ!」

 

わざと悪役みたいに演じて遊馬は桜とデュエルをする。

 

そして、デュエルの結果は……。

 

「希望皇ホープONEの効果!私のライフポイントが相手より3000ポイント低い時、オーバーレイ・ユニットを3つ使い、私のライフポイントを10にして、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、ゲームから除外!パンドラーズ・フォース!」

 

「やべっ!?俺のモンスターが全滅した!?」

 

「更にこの効果で除外したモンスターの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える!そして、装備魔法『巨大化』を装備!私のライフポイントが相手より低い時、装備された希望皇ホープONEの攻撃力は2倍!攻撃力5020の希望皇ホープONEでダイレクトアタック!ホープ剣・シャイニング・スラッシュ!!」

 

「ぐぁあああああっ!??」

 

「やったー!勝ったー!」

 

結果は桜の勝利となった。

 

桜のエクストラデッキには希望皇ホープONEだけでなくダ・ヴィンチちゃん特製の希望皇ホープなどのコピーカードも入っていた。

 

「すげぇな、6歳でこんだけやれるんだから桜ちゃんにはデュエルの才能があるぜ!」

 

遊馬は最初から負けるつもりだったが、桜から才能を感じ、そこそこ本気でデュエルをしたが、桜が最も信じる希望皇ホープONEで逆転されてしまった。

 

「さてと、負けちまったから桜ちゃんの願いを叶えなきゃな。何をすれば良いんだ?」

 

遊馬はそこまで変な事でなければ願いを叶えるつもりだった。

 

桜はキランと目が怪しく輝くと何かを取りに食堂を出てすぐに戻ってきた。

 

「これにサインして!」

 

折りたたまれた紙とペンを持ってきて遊馬に差し出す。

 

「サイン?オッケー!それなら喜んで!」

 

遊馬は仮にもデュエルカーニバルのデュエルチャンピオンなのでいつかファンが出来てサインを頼まれると思っていたのでこっそりとサインの練習をしていた。

 

遊馬は渡された紙に意気揚々と自分の名前を有名人みたいにサインをして桜に渡す。

 

「やったー、ありがとう!」

 

サインが書かれた紙を受け取った桜は喜びながら紙を開いた。

 

そして、桜の口から衝撃的な発言をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで10年後に私がお兄ちゃんと結婚出来るね!」

 

「……………………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊馬は耳を疑い、首をグギギと桜に顔を向ける。

 

桜の持つ紙には遊馬が書いたサインの上に文書が書かれていた。

 

『九十九遊馬は間桐桜が十六歳になった時、婚約を結び、結婚する事をここに誓う』

 

それはただの紙ではなく遊馬が今から10年後に桜と結婚する事を約束させる契約書だった。

 

「ファッ!?何だこの紙!??」

 

「えへへ……パールヴァティーさんに用意して貰ったんだ!」

 

「パールヴァティーに!?」

 

「はーい、私ですよー!」

 

キッチンで後片付けを終えたパールヴァティーがタイミングよくやって来た。

 

「桜ちゃんに何て物を用意してるんだよ!?」

 

「うふふ、マスターさんが恋多き男の子だからですよ。例え別の世界でも、進む道が違えども、過去の私には違いありません。だからこそ、幸せになってもらいたいんですよ」

 

パールヴァティーは桜の頭を撫でながら有無を言わさない笑みを浮かべる。

 

「マスターさん、この子と同じ私だから分かるんですよ。間桐桜という人間は惚れた男の人には何処までも一筋なんですよ……それに、マスターさんは先輩と同じで無茶することが多いのでちゃんと戻って来てくれる『約束』が欲しかったんですよ」

 

遊馬は多くの想いを背負って戦う優しい心を持つが、その所為で危険な目にも数多く遭遇している。

 

だからこそ『約束』と言う束縛で遊馬の心を縛り、必ず桜の下に帰って来れるように契約書を用意したのだ。

 

「桜ちゃん……」

 

桜は契約書を抱きしめながらウルウルとした涙目で遊馬を見つめていた。

 

自分よりも一回り歳が小さいとは言えここまで慕われているのならば断ることも出来ない。

 

遊馬はまだ十三歳の子供だが出来るだけ歳上としての対応をしながら桜に話しかける。

 

「分かった。十年後に桜ちゃんの俺への気持ちがどうなっているかは分からないけど……」

 

遊馬としては今の桜の想いは幼い子供によくある異性の年上の人と結婚すると言うものだと思っているが……。

 

「もしも、もしも桜ちゃんが十六歳になった時に、まだ俺の事を好きでいてくれたら……その時はその契約書の約束を果たすよ」

 

直接的に言葉にはしていないが遊馬の遠回しのプロポーズに桜の目は輝く。

 

「えっ!?本当に!?」

 

「ああ。契約書がこうしてあるから守らなきゃな……俺、約束を破るのは嫌だからな」

 

「うん!ありがとう!心変わりなんて、絶対にしないからね!」

 

桜の満面の笑みに遊馬は仕方ないと言った様子で苦笑を浮かべる。

 

十年後の未来がどうなっているかは分からないが、今はこの小さな笑顔を守れるならばと遊馬はそう気持ちを切り替えた。

 

そう思った矢先だった。

 

「遊馬……!」

 

「え……?レ、レティシア……?」

 

振り向くとそこにはメラメラと燃え上がる漆黒の炎を纏うレティシアの姿があった。

 

レティシアの手には英語……ではなく、フランス語で書かれていた文章が筆記体で綺麗に書かれているが、幾ら勉強を少しは頑張っている遊馬でもちんぷんかんぷんな内容だった。

 

「さあ、何も言わずにとっととこの契約書にサインしなさい!」

 

桜が契約書を用意したと聞き、レティシアは以前からこっそり作っていた自作の契約書を部屋から取りに戻ってきた。

 

「いやサインって、これ何の契約書だよ……?」

 

流石に半分騙された形で契約書を書かされたので抵抗があり、レティシアの威圧感に押されてその場でたじろぎながらゆっくり下がる。

 

「……責任を取って、私を異世界に連れて行くんでしょう……?だから早くここにサインしなさい!!」

 

「いやだからその契約書の内容は何!?」

 

「うるさい!良いから早く書きなさい!!」

 

「何だかとてつもなく嫌な予感がするからサラバ!」

 

遊馬はその契約書だけではなくこれから起きると思われる嫌なものから被害を受けないためにその場で脱兎の如く逃走する。

 

「逃がすかバカ!この契約書に血判させて絶対に契約させてやるから!」

 

そんな遊馬をレティシアは鬼気迫る表情で全力で追いかける。

 

「血判って俺の血!?レティシア、なんだか昔の竜の魔女時代に戻ってねえか!?」

 

「竜の魔女でも何でも構わないわ!この契約書にあんたの名前が書いてもらえるならね!!」

 

「その契約書で俺に何をさせる気だ!!?」

 

「それは……あ、あんたの人生を貰うわ!」

 

「嘘だろ!?まさか、お、俺を奴隷にするつもりか!?うぉおおおおおっ!逃げるしかねえ、かっとビングだ!」

 

「そ、その代わり、私の人生を──って、最後まで話を聞きなさいよ!遊馬のバカァッ!!!」

 

遊馬の鈍感と勘違いによりレティシアの想いを告げるタイミングが有耶無耶になってしまった。

 

その後、騒ぎを聞きつけて遊馬に好意を寄せる大勢の女性たちが乱入して大混乱となり、オルガマリーの怒号が響くまで終わらなかった。

 

遊馬から密かに離れていたアストラルはウキウキと契約書を見ながら楽しそうに話している桜とパールヴァティーを見て改めて戦慄した。

 

この二人……世界は異なるが同じ間桐桜と言う人間はここまで他人を畏怖させるほどの恐ろしい存在なのかと……。

 

「アストラルよ、桜は私の中で一番怖いと思うのだ……」

 

「姉である私もたまに恐怖で震えるわ……」

 

一連の騒動を見たエミヤとイシュタルが苦笑いを浮かべながらアストラルに近づく。

 

エミヤとイシュタルですらも恐れる『間桐桜』と言う少女。

 

アストラルはため息をついて遊馬の新たな女難に不安を抱く。

 

「…遊馬もかなり大変な少女に惚れられたものだな……」

 

「十六歳になったら結婚……これはもうマスターが逃れられない運命だな……」

 

「結婚は人生の墓場って何処かで聞いたことあるけど、その通りね……」

 

まだ桜に『間桐桜』の恐ろしい一面が出てないにも関わらず遊馬を縛り付けて将来結婚することを約束させた。

 

桜が幸せならそれでいいのだが、遊馬は大丈夫か?と不安になってしまう。

 

「遊馬……強く生きるんだ……!」

 

「くっ、ここに志貴さんを呼んで共に解決策を練りたい……!!」

 

「いやいや、誰か知らないけどそれは絶対に無理でしょ……」

 

アストラル達はもしもの時はもちろん遊馬に力を貸すつもりだが、正直なところ本当に解決出来るか微妙な心境だった。

 

 

午後9時・対話。

 

追いかけっこの後の大乱闘が終わり、動き回った所為で腹が減った遊馬は何か簡単な食べ物が無いか食堂に向かうと……。

 

「あれ?モードレッドにジークにルーラー?」

 

そこにいたのはモードレッドとジークとルーラーの三人でテーブルにお菓子などを広げて談話をしていた。

 

「よー、ユウマ。何してんだ?」

 

「走り回って色々動いたから腹減ってさ……」

 

「あの騒ぎか……」

 

「マスター……女難にもほどがありますよ……」

 

「何も言えねぇ……」

 

ルーラーからグサリと刺さる言葉を言われ、遊馬はグッタリしながらモードレッドの隣に座る。

 

「食うか?オレもなんか腹が減っちまってな。途中であった二人を連れて軽く話してたんだ」

 

「サンキュー、いただくぜ……」

 

モードレッドの厚意でお菓子を貰い、そのまま四人で談話をすることになった。

 

ジークとルーラーの恋話を遊馬とモードレッドで弄ったり、モードレッドの最近のアルトリアとの関係を聞いたりと食堂に楽しい笑い声が響くのだった。

 

そんな中、モードレッドは遊馬にあることを尋ねた。

 

「なあ、ユウマ……お前、誰かを憎んだりしたことはねえのか?」

 

「……急にどうした?」

 

「この間のお前とアストラルの記憶……映画だっけ?それを見てからずっと考えてたからな。もしもオレがお前の立場なら怒り狂って容赦無く斬り殺していたかもしれねえけど、お前は自分が受けた事じゃなくて、誰かが受けた痛みや悲しみで怒っていた……」

 

モードレッドの考えにジークが口を開いた。

 

「俺もだ……ルーラーが消滅した時、天草に抑えきれない怒りと憎しみの感情が湧いてきた。ルーラーを……一番大切な人を失ったからこそ、あの感情が出て来た……ユウマは父を……大好きな家族を奪われても怒りと怨みを出さなかった……」

 

二人が言いたいことを理解した遊馬は頭をかきながらその時のことを思い出しながらゆっくりと答える。

 

「俺だって、許せなかったさ。大好きな父ちゃんが急にいなくなって、探しに行った母ちゃんも……だけど、それよりもアストラルを守る、ハルト達を助けたいって思ったら憎しみよりもそっちの気持ちが強くなったんだ」

 

映画を見て遊馬の気持ちが伝わったが、実際にその言葉を聞くとその重みがさらに伝わった。

 

「それで……考えたんだ。俺の父ちゃんなら、俺にかっとビングの道を示してくれて、俺に沢山の愛情を注いでくれた大好きな父ちゃんなら……Dr.フェイカーとトロンに何て言うだろうって。そう考えたら、自然と憎しみが消えたんだ……」

 

遊馬は誰もが幸せになれる道を目指して抗い続け、そして……遊馬のかっとビングが奇跡を起こし、全てを救い、幸せに導くことが出来たのだ。

 

「素晴らしいです……!マスターなら、私たちの神の道を歩めば聖人として認められてもおかしくない心の持ち主です……!ゲオルギウス様もマルタ様もとても感心していましたし……」

 

聖職者としてルーラーは遊馬の心のあり方を感心しているが、遊馬は苦笑いを浮かべて首を左右に振る。

 

「…残念だけど、俺は弱い人間だ。次の映画のちょっとネタバレになるんだけど、実は……敵に親友を殺されたと思って怒りと憎しみで我を忘れちゃったんだよ」

 

「……本当か?」

 

「ああ、俺の大切な親友さ。だけど、それは敵の罠で俺を嵌めるのが目的だったんだ。その所為でアストラルも小鳥も……俺の大切な仲間達、全てを失いかけたんだ……」

 

憎しみや怨みを否定していた遊馬が犯してしまった拭いきれない大きな罪。

 

それは今でも遊馬の心の奥底に見えない棘として突き刺さり、戒めとなっている。

 

「憎しみは別の悲劇や新しい憎しみを生む……その時に嫌という程思い知らされたんだ。俺はもうあんな思いをしたくねえ、二度と大切なものを失わないためにも……」

 

「……なんか、安心したぜ」

 

「え?」

 

モードレッドはテーブルに肘をついてフッと笑みを浮かべる。

 

「お前もやっぱり人間なんだな。この聖女様みたいな人間要塞のとんでもねえ精神と違ってちゃんと人の心を持っているみたいだな」

 

遊馬がちゃんと人として当たり前の心を持っていることにモードレッドは何処か安心した。

 

「そうか?俺はただのガキだぜ?」

 

遊馬の謙遜した言葉にモードレッド達は互いに目を合わせ、同時に軽くため息をつく。

 

「はぁ……お前の何処がただのガキだよ……なあ?」

 

「確かに……普通を意味するなら明らかに違うな」

 

「魔術師も真っ青な戦いを繰り広げ、その末に世界滅亡の危機を短期間で何度も救っていて、それでただのガキとはちょっと……」

 

「あ、あれぇ?  俺、おかしな事言ったか?」

 

三人からのまさかの否定に遊馬は思わず目を激しく瞬きする。

 

それはそれぞれ想像出来ないほどの重い人生を生きた歴戦のサーヴァント達から遊馬が普通ではない事を明らかに否定された瞬間だった。

 

 

午後11時・就寝。

 

シャワーを浴びて1日の汗や汚れを洗い落として体を綺麗にするが、日本人である遊馬には物足りないものがあった。

 

「たまにはデカイ風呂に入ってゆっくりしたいよなぁ……」

 

世界で数少ない風呂に入る文化を持つ日本人としてたまには風呂に入ってゆっくりしたいと感じる遊馬だった。

 

バスタオルで体を拭き、寝間着のジャージに着替えて部屋に戻ると遊馬はある気配に気づく。

 

「……二人共、隠れてないで出てきたら?」

 

するとベッドの下からゴソゴソと動き、出てきたのは桜とジャックだった。

 

「「バレちゃった……」」

 

「また俺のベッドに潜り込むつもりだったのか?」

 

「「うん……」」

 

正直に自白して頷く二人に遊馬は軽くため息をつきながらベッドに転がり、掛け布団を剥がして広げる。

 

「ほら、入れよ」

 

「え……?」

 

「いいの……?」

 

「ああ。良いぜ、早く寝ようぜ」

 

「うん!」

 

「ありがとう、おかあさん!」

 

遊馬の両側に桜とジャックはウキウキしながら横になる。

 

「よーし、電気を消すぞー」

 

「おやすみなさい」

 

「おやすみー」

 

「ああ。おやすみ」

 

遊馬はリモコンで部屋の電気を消し、三人は眠りについた。

 

それから少ししてから部屋の前にはアタランテとメドゥーサが門番として立ち、清姫やネロなど遊馬に夜這いに来るサーヴァントに立ち向かう。

 

 

深夜0時・???

 

就寝となり、皆が寝静まった頃……とある部屋で二人の男女が話をしていた。

 

「それで、ドクター……私の……」

 

「君の検査結果だけど……正直なところ、僕もかなり驚いているよ」

 

それはマシュとロマニの二人で、ロマニは検査結果が記された電子カルテを見て驚きながらも嬉しそうにしていた。

 

「驚いて、いる……?それはどう言うことですか……?」

 

「これはあくまで僕の推論だけど、きっと……このカードが君に希望と未来を与えてくれたんだと思う」

 

テーブルの上には遊馬から借りていた『FNo.0 人理の守り人 マシュ』のカードが置かれていた。

 

「マシュ、落ち着いて聞いておくれよ。決して騒いだり興奮しないこと」

 

「は、はい!」

 

マシュは緊張して姿勢を正してロマニの話を聞く。

 

それはカルデアでは極一部のものしか知らないマシュの秘密……避けられない過酷な運命。

 

しかし、遊馬との出会いがマシュの運命を、未来を希望へと変えていったのだ。

 

その話の詳細を聞いた瞬間、マシュは大粒の涙を流し、部屋に侵入していたフォウがマシュの体によじ登って涙を舐め取った。

 

ロマニは笑みを浮かべ、マシュの頭を撫でながら優しく問う。

 

「この事は遊馬君達に話すかい?」

 

「……いいえ、しばらくは話しません。私の中の英霊が誰かも分かりませんし、まだ私の体がこれからどうなるかも分からないので、ぬか喜びはさせたくありません」

 

「……分かった。それじゃあ話すタイミングはマシュに任せるよ」

 

「はい」

 

マシュは自分の肩に乗っているフォウを撫でて頷いた。

 

この日、マシュは遊馬達の知らないところで未来への小さな希望の光を宿した。

 

そして……その光はやがて、マシュにランクアップの大きな力を与える事になるのだが、それは少し後の話……。

 

 

 




桜ちゃんが黒化して遊馬が逃げられなくなってしまいました(笑)
色々なFateを見て桜ちゃんは可愛いけど怖い、同時に幸せにしたい気持ちがあったのでわずか6歳で遊馬の婚約者(仮)になりました。

ラストはマシュの運命が変わる描写を書きました。
遊馬と契約してフェイトナンバーズがあるのでこうなってもおかしくないと思ったので。

次回はいよいよ第五特異点がスタートです!
私の好きなキャラがたくさん出るので気合を入れていきます!


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第五特異点 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム
ナンバーズ116 第五特異点へ!戦場を駆けるクリミアの天使!


遂に来ました!
スケールが色々デカイバトルが繰り広げられる第五特異点、アメリカ編の突入です!
神話大戦の名にふさわしいド派手なナンバーズを色々出していきたいです!

あと、全く関係ないですけど……7月7日は遊戯王5D'sの主人公、不動遊星の誕生日!
遊星、誕生日おめでとうございます!


これは夢だと最近になってよく分かるようになった。

 

遊馬が目を開くとそこには日が登らない空に果てしない湖のような世界が広がっていた。

 

「……何処だここは?」

 

とても静かな場所で遊馬の足音しか響いていなかった。

 

すると、遊馬の視線の先に人影が見えた。

 

それは太陽のように紅く、綺麗な髪をした美少年と美少女がいた。

 

まるで兄妹のようにも見える二人だが、目を閉じて眠っているようで遊馬は不審に思って近づくと、突然二人の体から邪悪なオーラが放たれて二人を吞み込もうとしていた。

 

「っ!?待ってろ、今助ける!」

 

遊馬は走り出して二人を助け出そうとしたその時だった。

 

『邪魔をするな……』

 

邪悪なオーラが形をなし、猿のような姿をして遊馬の前に立ち塞がる。

 

「てめえ、何者だ!?」

 

遊馬はホープ剣を両手に出現させて構える。

 

「その二人に何をしたんだ!?」

 

『これは、呪いだ……』

 

「呪い……!?」

 

『二人は二度と共に喜びを分かち合うことは出来ない……何度、死を重ねても……永遠にその呪いは解けることはない……』

 

それは二人は二度と会うことはできないと言う意味を示していた。

 

「ふざけるな……!何があったか知らねえけど、てめえにそんな残酷な事をする権利はあるのか!?」

 

遊馬は理由は分からないが、どんな理由があろうとも二人を二度と会わせない呪いを掛けた事に激怒した。

 

大切な人と離れ離れになる、二度と会えない苦しみや悲しみを誰よりも理解している遊馬はホープ剣を振るった。

 

しかし、邪悪なオーラが突風のように吹き荒れて遊馬を吹き飛ばした。

 

やがて夢の中の意識が薄れていき、目の前の世界が真っ白になる……。

 

「がっ……!?はっ、はっ、はっ……」

 

強制的に目を覚まされたようになり、遊馬は何が起きたのか分からずに困惑する。

 

体中が汗でびっしょりとなり、胸を押さえながら息を整える。

 

「何だったんだ、あれ……?」

 

「大丈夫?うなされていたけど……」

 

「空……」

 

忘れた頃にひっそりと遊馬の部屋に侵入している空がタオルと水を持ってきた。

 

「また変な夢を見たの?」

 

「ああ。実は……」

 

遊馬は一緒に寝ている桜とジャックを起こさないようにベッドから降り、タオルで汗を拭いて水を一気に飲み干して椅子に座ると夢の内容を空に話した。

 

すると空は目を見開くほどに驚いて手を口に添えて考え込む動作をして何かを呟く。

 

「まさか……英霊の座に……?でも、そんな、……人間が夢を通じてあそこに介入するなんて……」

 

「ん?どうした?」

 

「な、何でもないわ。遊馬が夢で見たなら、多分その二人は英霊よ。もしかしたら近々会うことになるかもしれないわね」

 

「……だとしたら絶対に何とかしないと。呪いだか何だか知らねえけど、あんなふざけたものは認められないぜ!」

 

「……でも、呪いはそう簡単に解けるものではないわ。奇跡の力でも無い限りは、ね……」

 

「奇跡か……」

 

遊馬は令呪が刻まれた右手の甲を見た後に右手を軽く輝かせて強く握り締める。

 

「やる価値はありそうだな……」

 

「あまり無理しないでね。そこで眠っている可愛い天使ちゃん達の泣き顔は見たく無いからね……」

 

空はスヤスヤと眠っている桜とジャックに毛布をかけ直して頭を軽く撫でる。

 

別の人格の存在とはいえ、その時だけはあまり自分の事を話さない式が一人娘の話をしている時と同じ優しい顔をしていた。

 

「そうだな。守るべきものが増えるって大変だな……」

 

「それ、娘が出来た父親が言う台詞よ……ジャックはあなたを『おかあさん』って言うから間違っては無いけど……」

 

とても十三歳の子供がいう台詞では無いので空は思わずツッコミを入れた。

 

すると、まだ朝も明けてないのに廊下が全然騒がしくないので、遊馬は気になって廊下に出てみた。

 

「あれ?ネロと清姫がいない?」

 

いつもならネロと清姫が夜這いに来てそれをアタランテとメドゥーサが阻止するのだが……。

 

「ああ、おはよう。遊馬」

 

「おはようございます」

 

「アタランテ、メドゥーサ、ネロと清姫は?」

 

「それなのだが、実は……」

 

アタランテが現状を説明しようとしたその時だった。

 

「ネロォオオオオオーーッ!!!」

 

「ん?」

 

ドドドドド……!

 

大きな地響きが鳴り響くと遊馬に向かってカリギュラが殺気を剥き出しで走って来た。

 

「マスター……オマエカァアアアアアッ!!!」

 

「……遊馬、カリギュラに何かしたか?」

 

アストラルが皇の鍵から静かに現れる。

 

「いや、身に覚えない」

 

「仕方ない、フェイトナンバーズに封ずるか?」

 

「私が止めようか?」

 

「魔眼使いましょうか?」

 

身に覚えのない憎しみが込められた殺気に遊馬達は臆する事なく冷静に対処する。

 

「いいや、いつか来るかと思ったこんな時の為に……鍛えていたからな!」

 

遊馬は地を蹴ってカリギュラの懐に潜り込み、右手を光り輝かせて拳を作って振り上げる。

 

「鉄拳聖裁!!!」

 

「グフッ!?」

 

マルタ直伝の鉄拳が輝き、カリギュラの顎を殴り飛ばして脳震盪で倒した。

 

「強くなったな、遊馬」

 

「姉御から色々教わってるからな。それにしても、カリギュラのおっさんはどうしたんだ?」

 

カリギュラからは前々から睨まれていたが何故襲われるのか心当たりがなく首を傾げるとその答えはすぐに判明した。

 

「マスターよ……」

 

「ロムルス?」

 

そこに出て来たのはローマ帝国建国の祖、ロムルスだった。

 

「我が娘……ネロが消えた」

 

「えっ……ネロが、消えた!?」

 

「何処を探しても見つからず、カリギュラはマスターが連れ去ったと思って襲いかかったのだ」

 

「でも俺も知らないぜ……試しに呼んでみるか。おーい、ネロ!ちょっと朝早いけど一緒に飯食わねえかー?」

 

遊馬の誘いならすぐに飛んでくるネロだが全然来る気配がない。

 

「来ないな……」

 

「旦那様……」

 

「ん?おわっ!?き、清姫!?」

 

いつの間にか背後に清姫が立っており、気配なく現れたのでビクッと驚くと、清姫の口から驚くべき事が語られる。

 

「旦那様、ネロさんだけではありません。もしかしたらと思って確認したら、エリザベートさんもいません」

 

「エリちゃんも!?」

 

遊馬はエリザベートとは友人として仲がいいのであだ名で『エリちゃん』と呼んでいる。

 

ネロに続いてエリザベートまで行方不明だと知り、遊馬とアストラルはこの事態にある可能性を考える。

 

「まさか……二人は新しい特異点で召喚された?」

 

「オガワハイムの時みたいにサーヴァントが強制的に呼ばれた可能性もあるな……いや、エリザベートは第二特異点の無人島でも呼ばれていたな」

 

特異点では直接の原因はまだ判明していないが、英霊の座以外からも既にカルデアに召喚されているサーヴァントを強制的に召喚するケースもある。

 

ネロとエリザベートは新たな特異点に召喚された可能性が高くなり、遊馬は部屋に戻ってソードラックに立て掛けた原初の火を手に取る。

 

所有者の思いに応えてその色が変化する刃が炎の如く赤々と輝き、ネロの事を思い出しながら肩に担ぐと、カリギュラが脳震盪からフラフラになりながらも立ち上がった。

 

「……カリギュラのおっさん。ネロは特異点で召喚されたはずだ。ネロは俺が連れ戻す」

 

「……その約束、違えた時にはその首、覚悟しておけ!」

 

「任せとけって。この剣に誓って必ず連れ戻す」

 

遊馬は原初の火を掲げてネロを連れ戻すと固く誓うと、ロムルスが近づいてポンと肩に手を置く。

 

「マスターよ、ネロは我が娘であると同時に最高のローマ皇帝だ。もしも私の力が必要な時にはいつでも呼ぶがいい。ネロとマスター、そしてローマの為に力を振るおう!!」

 

「サンキュー、ロムルス!頼りにしているぜ!」

 

「遊馬、この騒ぎだ……既にオルガマリー達も準備を始めているだろう。私達もすぐに準備をしよう」

 

「ああ!アタランテ、メドゥーサ。子供達の面倒を頼むぜ!」

 

「任せろ」

 

「お任せください」

 

桜とジャック達の面倒を二人に頼み、遊馬は急いで着替えてレイシフトする時の荷物を全て用意する。

 

「お兄、ちゃん……」

 

「ん?あっ、桜ちゃん。起こしちまったか?」

 

ベッドの上でまだ虚ろな目で眠そうな桜が遊馬を見つめていた。

 

「……行くの?」

 

「新しい特異点が現れたかもしれないんだ」

 

「必ず……帰って来てね」

 

「当たり前だろ?ちゃんと戦いに勝って、桜ちゃんの、みんなの元に帰るからさ」

 

「うん。行ってらっしゃい……」

 

「ああ。行って来ます」

 

遊馬は桜の頭を撫で、電気を消してアストラルと共に部屋を後にした。

 

部屋を出てまずは管制室に向かおうとするとそこでマシュと肩に乗っているフォウと落ち合った。

 

「マシュ!フォウ!」

 

「二人も既に起きていたんだな」

 

「遊馬君!アストラルさん!おはようございます!」

 

「フォー、フォウ!」

 

「はい!今起こしに行こうと思っていましたが、早いですね。もう準備完了ですか!あ、そうでした……私のフェイトナンバーズのカード、お返しします」

 

借りていたマシュのフェイトナンバーズを遊馬に返し、デッキケースにしまう。

 

「……気になっていたが、君のフェイトナンバーズを何かに使ったのか?」

 

アストラルの質問にマシュは少し焦りながら説明する。

 

「え、えっと、使ったと言うか確認と言いますか……ごめんなさい、もう少ししたらちゃんとお話ししますので今は待っていただけますか……?」

 

「そっか、分かったぜ。でもいつかちゃんと話してくれよ?」

 

「君個人のことだ。何か人には気軽に話せない大きな事情があるのだろう。私たちはその時が来るまで待つことにしよう」

 

まだ話すことが出来ない内容だと察した遊馬とアストラルはマシュを信じて待つことにした。

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

二人の心遣いに感謝をして深く頭を下げるマシュ。

 

その後、遊馬達は朝早くからオープンしてもらった食堂で朝食を取ってから管制室に向かうことになり、その際にブーディカからあるお願いをされた。

 

「ユウマ、マシュ、ネロの事を頼むね。あいつがいないと、張り合いが無いからね」

 

ブーディカはネロと日夜張り合いをしているので(主に遊馬関係)、いなくなると張り合いが無いと言いながらも実は内心いなくなったネロを心配していた。

 

「ブーディカ ……分かったぜ!」

 

「お任せください!」

 

ブーディカからも想いを託され、いなくなった仲間達を取り戻す決意を固めながら朝食をしっかりと食べる。

 

管制室の準備が終わり、遊馬達は管制室に向かってブリーフィングを行い、オルガマリーが説明を行う。

 

「それでは、ブリーフィングを始めます。まずは新たな特異点が判明し、それと同時にカルデアのサーヴァントが数名が恐らくは特異点先で召喚されました。行方不明となったのは、ネロ、エリザベート、ディルムッドの三人です」

 

ネロとエリザベートだけでなくディルムッドも行方不明になっていた。

 

「さて、前回の第四特異点のロンドンで私たちの最大の敵がソロモン王と判明しました。意図的でしょうけど、様々な情報が判明しました」

 

その情報とは『遊馬達が残り三つの特異点を攻略しても構わない』と『特異点を攻略中はソロモン自身は遊馬達を襲わない』ことだ。

 

「だが問題は山積みだな。このまま人理を修復させるために戦うとして、一番の問題は魔術王とその使い魔の七十二柱だな……」

 

「あの不気味な化けもんが七十二体もいるってことだよな……これまで三体はぶっ倒したけど、多分復活するよな……」

 

「ああ。『七十二柱の魔神』という使い魔はそれ自体が一つの術式、一つの概念なんだ。彼らは常に七十二柱いることが前提条件となる」

 

ロマニの説明に遊馬は苦虫を潰したような表情を浮かべてため息をつく。

 

「つまり、もしもソロモンと決着をつける時は七十二柱をまずは全部ぶっ飛ばさなきゃいけないってことか……」

 

「だが、今考えていても仕方ない。それはまた後で考えよう。オルガマリー、今回の特異点の場所は何処だ?」

 

「今回の特異点は魔術師的には驚きの場所よ。そこは現代では世界有数の超大国──北アメリカ大陸……『アメリカ合衆国』よ」

 

今までの特異点とはまた一味違った場所に遊馬は目をパチクリさせながら驚く。

 

アメリカは遊馬にとって……否、正確には『全てのデュエリスト』にとってはある意味特別な国なので余計に驚いた。

 

「次はアメリカか……でも、アメリカ自体の歴史はそんなに古くは無いよな?」

 

「そうね。魔術的には歯牙にも掛けられていない国だけど、歴史的にはかなり重要よ」

 

「とはいえ、魔術が皆無かと言うとそうでもない。向こうには精霊を降臨させるような独自の魔術が発達していたようだしね」

 

ロマニの補足説明に遊馬は思い出したようにポンと手を叩く。

 

「あー、なるほど。アメリカ先住民のインディアンとかか。アストラル世界の住人みたいな精霊を呼び出せるのかな?」

 

「一口にインディアンと言っても様々な部族や信仰がある。自然の精霊や祖先を崇めているのは共通しているが……もしかしたら、私のような存在を召喚出来るランクアップした魂を持つインディアンがいるかもしれないな」

 

「おぉー。それは会ってみるのが楽しみだな。ところで、今回の護衛は誰にするんだ?アメリカ系のサーヴァントってカルデアにはいないよな?」

 

前回のロンドンでは知名度抜群のアルトリアとブーディカが護衛として付き添っていたが、カルデアにはアメリカ出身のサーヴァントはいない。

 

「そうね。だから今回は抽選にしたわ。ちょっと不安があるけど……」

 

「不安?」

 

「二人共、入って来なさい!」

 

オルガマリーが呼び、管制室に入って来たのは……。

 

「遊馬、久々に頼むわ」

 

「旦那様、よろしくお願いします」

 

「レティシア!清姫!」

 

レティシアと清姫の二人だった。

 

竜の魔女としての力は失っているがルーラーとしての能力は失っていないレティシアと灼熱の炎で敵を焼き尽くすバーサーカーの清姫。

 

アンバランスな二人だがマスターである遊馬を守ろうとする意志の強さはマシュにも引けを取らないのだが……。

 

「この二人は色ボケダメサーヴァント筆頭なのよね……はぁ……」

 

遊馬に女性関係で何かあるとすぐに暴走する二人で、その度にオルガマリーが怒号を響かせながら止めるので正直な話……不安しかなく、出来る事なら抽選をやり直したい気持ちだった。

 

「よーし、みんな!気合を入れて行くぜ!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

「フォーウ!」

 

「もちろんよ!」

 

「頑張ります!」

 

まあ何だかんだで遊馬がみんなを引っ張っているので大丈夫かとオルガマリーは少し諦めた気持ちで納得するしかなかった。

 

遊馬はマシュ、レティシア、清姫をフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまい、アストラルは皇の鍵の中に入り、フォウはいつものように遊馬の上着のフードの中に入り、準備完了となる。

 

「遊馬、忘れ物はないわね?」

 

「ああ!もちろん!」

 

オルガマリーは遊馬に忘れ物がないか確認し、念の為必要な道具一覧をチェックしてからコフィンの中に入れる。

 

コフィンの中に入った遊馬は目を閉じると体が粒子となり、17世紀のアメリカに向けてレイシフトする。

 

 

第五特異点の17世紀のアメリカにレイシフトが成功した遊馬はデッキケースからマシュ達を出す。

 

レイシフトした時代は1783年のアメリカ……否、まだこの時はアメリカ合衆国は生まれていない。

 

この年に終結するイギリスとの独立戦争を経てアメリカは国家として独立するのだ。

 

「さてと、まずは情報収集からだな」

 

「現状の把握と私たちの味方になってくれるサーヴァントを探そう。アメリカは広大だ。今回は飛行船が活躍するな」

 

「遊馬……近くで大規模な戦闘が行われているみたいよ」

 

レティシアは森の外で戦闘が起きているのを察知し、旗を構える。

 

「早速バトルか……みんな、行くぜ!」

 

遊馬はデュエルディスクとD・ゲイザーを装着し、マシュ達を引き連れて森を出る。

 

森を出るとそこは見渡す限りの荒野でアメリカがまだ出来る前の映画でよくある開拓時代を彷彿とさせる光景だった。

 

そこで大規模な大人数による戦闘が行われていたが……その戦闘員がこの時代ではあまりにも異質だった。

 

「あ、あれは……バベッジさん!?遊馬君、バベッジさんです!」

 

それはロンドンで対峙したバベッジやヘルタースケルターのような機械兵士が沢山おり、この時代には存在しないものだった。

 

「でもバベッジはカルデアにいるはずだよな?ってことは……」

 

「あれはバベッジと同じ技術力を持つサーヴァントによる機械兵士という事になるな」

 

バベッジはカルデアにいる事は確認できていたので、遊馬とアストラルはあれがバベッジと同等の技術力を有したサーヴァントの宝具、もしくは製造されたものだと推測した。

 

そして、それと対峙する軍団はかなり大昔のレトロな衣装と装備をした兵士達だった。

 

二つの軍団は遊馬達を敵だと判断し、それぞれが襲いかかってきた。

 

「「現れよ!『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

遊馬とアストラルは希望皇ホープをエクシーズ召喚をし、マシュ達も戦闘態勢を取る。

 

「みんな、行くぜ!」

 

「まずは目の前の敵を薙ぎ払う!」

 

「北米大陸における初戦闘──開始します!」

 

「取り敢えずあのポンコツを派手にぶっ壊すわ!」

 

「それでは私は焼き殺さない程度に焼き尽くしましょう」

 

遊馬達は謎の二大軍団との戦闘を開始する。

 

希望皇ホープとレティシアで機械兵士、マシュと清姫で人間の兵士を相手にする。

 

わずか一体のモンスターと三人のサーヴァントとは言え、既に多くの修羅場を経験しているのでこれぐらいの敵は造作もなく薙ぎ払い、分が悪いと判断したのかそれぞれの軍は撤退する。

 

「とりあえずこれで一段落だな」

 

「ああ。だが油断はできないな……む?遊馬、頬に傷が……」

 

いつのまにか遊馬の頰に小さな切り傷ができて少し血が垂れていた。

 

「あれ?ああ、さっき飛んできた破片で切っちまったかな?これぐらい何ともねえよ、ほっとけば治る」

 

傷を軽く手で擦って血を拭う。

 

すると、撤退した軍の中から一つの赤い影が飛び出した。

 

「何故こんな戦場に子供が!?しかも怪我をしていますね!!」

 

高い女性の声が響き、遊馬はその声に聞き覚えがあり、すぐに反応して振り向くとそこにいたのは……。

 

「えっ?あっ!あんたは……!」

 

「来なさい!あなたを治療します!」

 

「えっ、ちょっ、まっ──どわぁあああああっ!??」

 

突如現れた赤い影に遊馬はヒョイと担がれて連れ去られた。

 

「「遊馬!?」」

 

「遊馬君!?」

 

「フォー!?」

 

「旦那様!?」

 

遊馬が誘拐され、アストラル達は急いで謎の女性の後を追う。

 

「旦那様ぁああああああっ!他の方と逃げるなんて許しませんよ!!」

 

生前、安珍に逃げられたトラウマが蘇ったのか清姫は着物姿にも関わらず凄まじい速度で遊馬の元へ向かう。

 

「くっ、混乱の中でサーヴァントの気配を感じ取るのが遅れてしまった……!」

 

「レティシアさん!あのサーヴァントの真名、分かりますか!?」

 

「ちょっと待ちなさい!ええっと……」

 

レティシアは真名看破で遊馬を担いで走っているサーヴァントの真名を見る。

 

「……これはまた、中々のビックネームなサーヴァントね」

 

カルデアにいる間に死後に英霊の座に招かれ、サーヴァントとして召喚されそうな英雄の真名とその経緯を勉強していたレティシアはそのサーヴァントの真名に驚く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「近代看護教育の母……戦場の医療衛生改革を行い、人々からクリミアの天使と言われた看護婦……『フローレンス・ナイチンゲール』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイチンゲール。

 

近代のイギリス出身で非凡な才能で看護以外にも様々な功績を残した伝説の看護婦である。

 

そして、その姿に遊馬とアストラルは驚く。

 

「「メ、メルセデス!?」」

 

そう……それは監獄島で出会った記憶を失った謎の美女。

 

エドモンが仮の名として与えたメルセデスだった。

 

「メルセデス?誰ですかそれは。私はナイチンゲールです」

 

「ええっ!?それって戦場で多くの兵士の命を救って活躍した看護婦さん!?」

 

メルセデスがナイチンゲールだと知り、驚く遊馬にナイチンゲールは目を細めて遊馬に潜む『病気』を見抜いた。

 

「……あなた、怪我だけでなく心も病んでいますね。こんなにも幼いのに一体何をしたのですか?しっかりと治療しますから覚悟しなさい!」

 

「いや待って、何の話!?た、助けてくれ!アストラル!マシュ!レティシア!清姫!」

 

遊馬は抱えられて動けない状態で連れ去られ、アストラル達は見失わないように必死に追いかけるのだった。

 

 

 




早速ナイチンゲールに連れ去られる遊馬君(笑)
次回は遊馬とアストラルに一番興味を持つと思われるサーヴァント……あの精神はお母さんだけど体はロリっ娘ちゃんの登場です!
彼女からしたら遊馬とアストラルは相当興味を持たれる存在ですよね。

今回の護衛サーヴァントはレティシアと清姫にしました。
理由はロンドン編とは違って、アメリカ系のサーヴァントがいないので必然的に遊馬に好意を寄せるサーヴァントが良いなと思い、色々考えた結果この二人にしました。

とりあえず話の基本展開は今までと変わらず遊馬君の信念のもと、仲間たちの犠牲なしの方向で。
アメリカ編はかなり仲間の犠牲が多いので……。
ちなみに冒頭で出たあの二人ですが、多くの人が涙した過酷な運命を背負う二人を我らが遊馬君がなんとかします!
どうやって救うかはもう既に考えています。


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ナンバーズ117 神智学の祖、新たなマハトマ

もうタイトルからバレバレですね。
あの合法ロリ?のエレナが登場です!
エレナからしたら遊馬とアストラルはもの凄い興味の対象ですよね。


「イヤァアアアアアッ!お願いだからやめてくれ!助けてぇえええええーっ!!」

 

アメリカの特異点に到着してまだ一時間も満たないうちに遊馬は最大の危機を迎えていた。

 

「そんな大声で騒がないでください。今から治療します」

 

「ただの切り傷で何でメスとかの手術道具を取り出してるの!?絆創膏で充分じゃね!?」

 

遊馬を治療しようとして無理やり連れ去ってキャンプ地に到着し、大勢の患者がいる中……ナイチンゲールは何故かその手にはメスなどのいわゆる手術道具が握られており、明らかに軽い切り傷を治療する為の道具では無かった。

 

逃げようと思ったがナイチンゲールは容赦なく携帯していた拳銃をぶっ放して脅し、とても病人に対する扱いをしていなかった。

 

「さあ……大人しく治療を受けなさい」

 

「ヒィイイイイイッ!??」

 

遊馬は危機感から体の中に眠る聖杯が反応し、金色の光が体全体に包まれると頰の傷が一瞬で治った。

 

「傷が治った……?もしや自然治癒能力が高いのですか?」

 

「た、助かった……」

 

「では次はあなたの心の病ですね」

 

「まだ助かってなかった!!?心の病って何のことだよ!?」

 

「私にはわかります。あなたは深く心を病んでいます。ですから、迅速な治療が必要です」

 

「やべえ!よくわかんねえけど俺の人生最大のピンチ!?」

 

ある意味遊馬が感じる人生で最大のピンチに恐怖を感じると、そこに頼れる仲間達がテントに入る。

 

「……そこ。治療中に不衛生な状態で割り込まないでください!」

 

「待ちたまえ!フローレンス・ナイチンゲール!」

 

「待ってくださーい!」

 

「勝手に人様のマスターを奪わないでよ!」

 

「私の旦那様に手を出さないでください!」

 

アストラルとマシュとレティシアと清姫が連れ去られた遊馬を追いかけて急いでやって来た。

 

「患者は平等です。二等兵だろうが大佐だろうが、負傷者は負傷者。誰であろうと、可能な限り救います。その為には衛生観念を正すことが必要なのです。いいですね?そこを一歩でも踏み込めば撃ちますから」

 

パァン!!

 

ナイチンゲールは警告したにも関わらず拳銃から弾丸をぶっ放した。

 

「ふ、踏み込んではいませんが!?」

 

「ダメだこいつ!ただでさえめんどくさいバーサーカーだから、余計に話を聞かないわ!!」

 

実はナイチンゲールはよりにもよってバーサーカークラスで召喚されており、治療を第一に専念して人の話をまともに聞かない。

 

最も、彼女の生前の話を知れば寧ろ妥当な適正クラスでもあるのだが。

 

「もう我慢なりません……旦那様を奪い返します!!」

 

清姫は遊馬を奪い返そうとその身から炎を燃やして体が蛇と化して行く。

 

一触即発の状況だがナイチンゲールは我が道を進むように遊馬に向かい合って堂々と宣言する。

 

「さあ貴女達は出て行きなさい。今からこの子の治療に専念しなければなりません。安心して下さい。私は『殺してでも』貴方を救います」

 

「それ矛盾してねえか!??」

 

「そう──私は全てを尽くして貴方の命を救う!たとえ、貴方の命を奪ってでも!」

 

「もうそれは結果と目的が入れ替わってるだろ!?」

 

遊馬のツッコミも全く聞こえておらずナイチンゲールがとんでもないことをする前にアストラルが前に出る。

 

「みんな。ここは私に任せてもらおうか」

 

「アストラルさん?」

 

アストラルは静かに遊馬に近付くとナイチンゲールは再び拳銃を構えてアストラルのこめかみに突きつける。

 

「聞こえませんでしたか?貴方が何なのかは知りませんが、不衛生のままこのテントに入り込んで、私の治療の邪魔をするなら撃ち込みますよ?」

 

「残念だが私は霊体だ。病原菌など一切付着しない。それから……遊馬の心の病は貴女には治療出来ない」

 

アストラルは冷静にナイチンゲールと対話をし、そこからナイチンゲールを挑発するような言葉をかけた。

 

「……何ですって?」

 

ナイチンゲールは自分では治療が出来ないとアストラルに言われ、ギロリと睨みつける。

 

「私は遊馬の心の病の正体を知っている。現代ではこう呼ばれている。心的外傷後ストレス障害。通称・PTSD。強い精神的衝撃を受けることが原因で著しい苦痛や生活機能の障害をもたらすストレス障害だ」

 

「心的……何だ?」

 

「簡単に言えば、トラウマだ。遊馬は大きなトラウマを抱えている」

 

遊馬のトラウマ……遊馬自身はそれに気づいてない。

 

苦痛や生活機能には特に問題は起きてはいない。

 

しかし、無意識の内にそのトラウマが原因で自分自身を犠牲にしようとしている。

 

「遊馬のトラウマ。それは……大切な人を失う恐怖だ」

 

「──っ!??」

 

アストラルに指摘され、遊馬は思わず絶句してしまった。

 

アストラルの話を聞き、ナイチンゲールは考え込む動作をして尋ねた。

 

「大切な人……それはこの子の家族ですか?」

 

「それもある。遊馬は幼い頃に両親がとある事情で行方不明になっている。そして……遊馬は三つの世界と全ての人類の存亡をかけた戦いに巻き込まれてしまった。そして、そこで一度、全ての仲間と友を失ってしまった」

 

「両親が行方不明……仲間も友も全て……」

 

世界と人類の存亡をかけた戦いと言う単語よりも両親が行方不明になり、仲間と友を失ったことがナイチンゲールにとっては重要だった。

 

「遊馬と共に最後まで戦い抜いた私だからこそ分かる。遊馬はもう二度と、大切な人を失いたくない。その思いから遊馬はたとえ自分が心と体がどれほど傷ついても、何が何でも仲間を必ず守ろうとする強い意志を示している」

 

一度失ったからこそもう二度と失いたくない。

 

もし仮にまたあの時と同じ光景を繰り返したらもう二度と立ち直れなくなるかもしれない。

 

遊馬はたとえ自分がどれほど傷ついても構わない覚悟で戦っている。

 

「なるほど……戦場で戦う兵士も仲の良い同胞を守ろうと時折そのような症状を見せると聞いたことがあります。それでしたら、なおさら治療が必要では?」

 

「PTSDの治療法は精神療法や抗うつ薬などがある。だが、遊馬が治る為には自らの心でトラウマに立ち向かうしかない。私は遊馬の相棒として側で支え、見守る義務がある。そこでナイチンゲールに提案だ。遊馬の心の治療は私に全て一任してもらえないか?医療には経過観察というものがある。もしも私の手では治療は不可能だと判断された時は君が治療を引き継ぐ……どうかな?」

 

人の話を聞かないナイチンゲールだが、患者の治療を第一優先とした話を盛り込めば、対等に話せる……アストラルはそう考えていた。

 

するとナイチンゲールは遊馬をチラッと見て少し考えると頷いて答えを出す。

 

「……分かりました。確かに心の病は一筋縄ではいきません。この子の事を誰よりも理解している貴方に任せましょう。しかし、無理だと判断したら私が治療を行います」

 

「ああ。感謝する、ナイチンゲール」

 

アストラルの見事な話術で人の話をほとんど聞かないナイチンゲールから遊馬を解放し、遊馬は涙目になりながらアストラルに縋り付く。

 

「うううっ……た、助かったぜ、アストラル……!」

 

「君が無事でよかった」

 

アストラルはよしよしと遊馬をあやすように頭を撫でる。

 

ある意味アストラルに許された特権で、その光景にマシュ達が羨ましいと思ったのは言うまでもない。

 

「さあ、終わったらどきなさい!次の患者が来ます!」

 

ナイチンゲールは休む間も無く次の患者の治療を開始した。

 

「ところで、ここは何処だ?」

 

「まだよく分からないが、アメリカ独立軍の後方基地だ」

 

「先程の戦いはアメリカ軍の敗北でした。軍は撤退、前線を後退しました。相手方の正体は不明です。少なくとも、英国軍ではないことは確実ですね」

 

それだけではなくこの戦争には奇妙な点が多い。

 

アメリカの国旗のデザインが異なり、謎の機械兵士もバベッジのヘルタースケルターに酷似している。

 

「ひとまず、この時代に召喚されたサーヴァントに協力を頼まなければ……」

 

「いや、無理でしょ。あのバーサーカー婦長は……」

 

「彼女は目の前の患者を救うことで頭がいっぱいみたいですね……」

 

この世界で初めて出会ったサーヴァントであるナイチンゲールに協力を頼もうと思ったが、ナイチンゲールは生前からの自分の使命のように目の前の患者の治療を全力で取り組んでいる。

 

たとえ頼んでもすぐに断られるのは明らかだ。

 

「……いや、手はある」

 

「アストラル、いけるのか?」

 

アストラルは対話したナイチンゲールの性格からどうすれば協力をしてもらえるのか答えを既に導いていた。

 

「行ってくる」

 

「頼んだぜ!」

 

アストラルは遊馬とハイタッチを交わして気合いを入れて再びナイチンゲールの元へ向かう。

 

「ナイチンゲールよ」

 

「どうしましたか?私の邪魔をしないでください」

 

「君は彼らを治療しているが、それでは間に合わない。彼ら全てを治療する方法がある」

 

「……今、何と?」

 

アストラルの言葉にナイチンゲールは耳を傾けた。

 

「今のままだと患者は増え続ける。それこそ君の手が届かないぐらいにまで。通常の戦争であれば犠牲者の数は何処かで歯止めが利く。しかし、この戦争の相手は最後の一人が死ぬまで終わらないだろう」

 

「患者は増え続ける、と言うのですか」

 

「その通りだ。我々は悪しき根元を断つ為にここに来た」

 

アストラルはナイチンゲールの心に響く言葉を送り続けるが……。

 

「な、何だ!?外が騒がしいぞ!?」

 

「敵襲、敵襲だ……!!」

 

外から一人の兵士が入ってきて敵襲の知らせをする。

 

「おっちゃん、敵ってさっきの奴らか!?」

 

「そうだ!立って動ける者は迎撃準備!機械化兵団の到着はない!大砲を用意しろ!」

 

「みんな……行くぜ!ここにいる患者を守るぞ!」

 

遊馬は外されていたデュエルディスクとD・ゲイザーを装着し直して外に向かう。

 

「はい!ここで前線を維持させなければ患者さん達が……!」

 

「仕方ないわね。派手に暴れるわよ」

 

「旦那様にどこまでも付いて行きますわ」

 

マシュ達も遊馬に続いて外に向かおうとすると……。

 

「──お待ちなさい。私も同行します。こう見えても、戦いの心得はあります。何より、患者をこれ以上負傷させる訳にもいきません」

 

ナイチンゲールが患者を守る為に遊馬達と同行を名乗り出た。

 

ナイチンゲールは他のドクターに指示を出し、患者にも互いに協力し合うように伝える。

 

そして、ナイチンゲールは遊馬と向き合う。

 

「頼むぜ、ナイチンゲール。俺は遊馬。九十九遊馬だ!」

 

「ユウマ……ですか。では、速やかに治療に向かいましょう!」

 

遊馬達はナイチンゲールと共に救護テントを出て戦場に向かう。

 

戦場には先程と同じ大昔の格好をした戦士達が近づいている。

 

「敵が多いな……」

 

「だが、こちらには多人数に対して有力な攻撃方法がある」

 

「ああ!清姫、頼むぜ!」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

遊馬は清姫をフェイトナンバーズに入れてデッキからカードを引く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『おろかな埋葬』!デッキからモンスターを墓地に送る。俺は『ズババナイト』を墓地に送る。そして、『クレーンクレーン』を召喚!クレーンクレーンが召喚に成功した時、墓地からレベル3のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。蘇れ、ズババナイト!」

 

クレーンクレーンが自身の嘴を地面に向けて突くと、魔法陣が浮かび上がって墓地からズババナイトが引っ張られて蘇る。

 

「レベル3のズババナイトとクレーンクレーンでオーバーレイ!嘘つきには針千本、大嘘つきには灼熱の炎を浴びせましょう!」

 

ズババナイトとクレーンクレーンが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起き、灼熱の炎が吹き荒れる。

 

「現れよ、『FNo.57 清廉白蛇 清姫』!!」

 

炎の中から下半身が巨大な白蛇となった清姫が現れて扇子を広げる。

 

「旦那様!」

 

「おう!清姫の効果!オーバーレイ・ユニットを2つ使い、相手フィールドの全てのモンスターに白蛇カウンターを乗せる!」

 

清姫は扇子にオーバーレイ・ユニットを取り込ませて舞うように振るうと敵兵士の体に白蛇の姿を模した刻印を刻ませる。

 

「白蛇カウンターが乗ったモンスターの攻撃力は1000ポイントダウンする!更に清姫がフィールド上に存在する限り、お互いのスタンバイフェイズ時に白蛇カウンターが乗ったモンスターは更に攻撃力を500ポイントダウンさせる!」

 

白蛇の刻印が敵兵士の力を一気に弱体化させていく。

 

これでアメリカ軍の兵士でも簡単に倒せるようになる。

 

「形勢逆転だ。遊馬、一気に攻め立てるぞ!」

 

「ああ!ナイチンゲール、付いて来れるか?」

 

「子供にそう言われるとは……心外ですね。私はそれほど弱くはありませんよ?」

 

ナイチンゲールは拳銃を手に戦場を駆ける。

 

ナイチンゲールの戦闘はとても看護師とは思えないほどアグレッシブだった。

 

手刀、サマーソルト、銃撃……看護師として人体を知り尽くしているナイチンゲールは的確に人体の弱点を突いて次々と敵を倒していく。

 

流石は戦場で活躍した看護師と感心するが……。

 

「清潔!消毒!!緊急治療!!!」

 

何処からか取り出した診察台を豪快に持ち上げてそのまま鈍器として敵を殴り倒す。

 

(((その攻撃方法は何故!??)))

 

予想外過ぎる攻撃方法に遊馬達は内心ツッコミを入れた。

 

サーヴァントは自分が生前に所有していた武器や道具などを使用して戦う。

 

ナイチンゲールは看護師であるので患者を寝かせる診察台は当然と言えば当然なのだが……やはりツッコミせざるを得ない光景だった。

 

そんなことを知らないナイチンゲールは清姫の効果で弱体化した敵相手に文字通りバーサーカーの如く暴れまくって撃退していき、遊馬達も負けじと敵を倒していく。

 

遊馬達とナイチンゲールのお陰で戦況は膠着状態となる。

 

あと一押しで戦況が傾く、そう考えた……その時だった。

 

「遊馬!サーヴァントの気配だ!それも二騎だ!」

 

「来やがったか!」

 

アストラルは敵兵の中から二騎のサーヴァントが来る気配を察知する。

 

そして、現れた二騎の敵サーヴァント……その片方は見慣れた男だった。

 

「ディルムッド!?」

 

「マ、マスター……!?」

 

それはカルデアで行方不明になっていたディルムッドだった。

 

その隣には長い金髪の美男子が立っていた。

 

「ほう、我が配下ディルムッド。そこにいる者達は知り合いか?」

 

「は、はい……『あの方』に呼ばれる前に仕えているマスターです」

 

レティシアは金髪の男の真名を看破して遊馬に伝える。

 

「遊馬、隣の金髪はディルムッドのかつての上司……フィオナ騎士団の長、邪悪な怪物を次々と倒したエリンの大英雄……フィン・マックールよ」

 

フィン・マックール。

 

ケルトの戦神ヌァザの末裔にして、栄光のフィオナ騎士団の長。

 

ディルムッドの生前の上司で、二人の間には女性関係の問題で色々と辛い過去がある。

 

ディルムッドが敵に回り、マシュ達はギロリと睨みつけて非難の嵐を飛ばす。

 

「ディルムッドさん!よりにもよって私達の敵になるなんて……酷いです……」

 

「うぐっ……そ、それは……」

 

「あんた、遊馬にその黒子の件で大きな恩があるくせにそれを仇で返すつもり?ハッ、所詮その程度の忠義だったってことね」

 

「ゴフッ……!?」

 

「旦那様は誰よりもサーヴァントを下僕ではなく、掛け替えのない仲間だと大切に想う素晴らしいマスターですのに……最低ですね」

 

「ゴハァッ!??」

 

ディルムッドは生前と第四次聖杯戦争でのトラウマが二重に重なって蘇り、マシュ達の鋭い刃のような言葉が突き刺さり、血の涙を流して吐血した。

 

遊馬はカルデアでディルムッドを悩ませる呪いの黒子を抑える手段をダ・ヴィンチちゃんやキャスタークラスのサーヴァントと共に考えていた。

 

メドゥーサの持つ眼帯や魔眼を抑える眼鏡などを応用して黒子を抑える道具をまだ未完成だが完成の目処は立っていた。

 

大勢いるサーヴァントの問題に一人一人真正面から向かっている心優しきマスターの遊馬に対し、敵として対峙しなくてはならなくなったディルムッドは唇を噛み締めながら辛そうに声を出す。

 

「我が主よ……」

 

「どうした、ディルムッド」

 

「自害させてください……」

 

「ディルムッド!??」

 

槍の矛先を自分の心臓に向けようとしているディルムッドにフィンは驚愕する。

 

自害しようとしているディルムッドに対し遊馬は声をかける。

 

「おーい、ディルムッド。自害は止めろー」

 

「マ、マスター……?」

 

「お前がそっちの誰に召喚されたのか知らねえけど、俺はお前が裏切ったとかそんな風には思ってねえ。隣にいる金髪の兄ちゃんに生前に仕えていたんだろ?まあ色々あったと思うけど、今はそっち側で俺の敵として戦ってくれよ。だけどな……」

 

遊馬はデッキケースからディルムッドのフェイトナンバーズを取り出して見せるように手で持って構える。

 

「ディルムッド、お前は俺の仲間だ。仲間は何が何でも取り戻す。だから、覚悟しろよ?」

 

敵であるディルムッドを仲間として取り戻す決意を決めた遊馬の大胆不敵な笑みを浮かべる。

 

「マスター……」

 

「おやおや、子供のくせに随分と勝手なことを言うじゃないか。悪いが私の部下をそう簡単に渡すつもりは無いぞ?」

 

遊馬の上に立つ者としての器を見せつけられ、ディルムッドの直属の上司として負けられないとフィンは槍の矛先を遊馬に向ける。

 

「上等!俺たちは絶対に負けねえ!」

 

「ディルムッドの槍はサーヴァントにとってはとても厄介だ。ディルムッドは遊馬とマシュが相手をして、残りはフィンだ!」

 

アストラルの指示で誰が戦うか決められる。

 

「それから、遊馬。私は──」

 

「……オッケー、任せたぜ」

 

アストラルはその場から少し下がり、遊馬達はフィンとディルムッド相手に戦闘を開始する。

 

ディルムッドの宝具、『破魔の紅薔薇』と『必滅の黄薔薇』は対人戦ではかなりの強さを発揮させるので希望皇ホープを操る遊馬と強固な盾を持つマシュが適任だった。

 

遊馬とマシュは守りに徹しながらディルムッドの攻撃を防ぎつつ、隙をついて怒涛の攻撃を繰り出してディルムッドを追い詰める。

 

残るレティシアと清姫とナイチンゲールでフィンを相手にする。

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃──その身で味わえ。 『無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)』!!」

 

邪悪な妖精アレーンを倒したとされる魔法の槍から放たれる攻撃は戦神ヌアザが司る水の激しい奔流。

 

しかし、レティシアの旗と清姫の扇が炎を纏う。

 

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!!」

 

「『転生火生三昧』!!!」

 

レティシアの竜の魔女の時から持つ漆黒の炎と清姫の大嘘つきを焼き尽くす青白く輝く炎の大蛇が水の奔流と激突し、激しい衝撃波と共に相殺した。

 

「私の宝具の水をまさか君達の炎で打ち消すとはね……」

 

「私の心に宿る漆黒の炎を水程度で消せると思う?」

 

「人の心が燃やした炎はそう簡単には消せませんよ?」

 

「このまま押し切りま──っ!?怪我人の気配が……!!」

 

突如、ナイチンゲールは何かの気配を察知してその場から別の場所へ走り出した。

 

「ちょっと!あんた、何処に行くのよ!?」

 

「おや、彼女は気付いたようだね」

 

「それはどういう事だ、フィン!」

 

ディルムッドがフィンの元へ戻り、遊馬とマシュもレティシアと清姫に合流した。

 

「よく聞け。この聖杯戦争は字義通りの戦争なんだよ。我々としては、君達を踏む止まらせておけば良かったんだ」

 

「……そうか、お前達の他の兵士を!」

 

遊馬達がフィンとディルムッドと戦っている間に敵軍の兵士達がアメリカ軍を攻撃する……それが目的だったのだ。

 

「彼らは名も無き戦士たち。ただただ戦い続ける比類なき怪物だ。もちろん、サーヴァント相手には鎧袖一触の存在だが──アメリカ軍相手には、どうだろうね?」

 

フィンはあくまで戦争で勝利することを目指して遊馬達を足止めした。

 

このままではアメリカ軍の敗北は確実。

 

マシュ達はまんまとフィンの策略にハマり、悔しさで顔を歪めるが……。

 

「……それはどうかな?」

 

遊馬は不敵の笑みを浮かべた。

 

「何?」

 

「気付かないのか?さっきから俺の相棒、アストラルが戦闘に参加してないことを」

 

遊馬の相棒・アストラル。

 

戦いの時は常に遊馬の側で指示を出し、時には共に戦う頼れる相棒。

 

しかし、その姿が先程から見えていない。

 

「さっき耳打ちでアストラルが俺に言ったんだ。もしもの時のバックアップをするってさ。だから下がっていたんだ。こいつを……呼ぶためにな!」

 

遊馬はナンバーズの力の波動を感じ、空に向かって指差すと、空気が震えて地上に大きな影が出来る。

 

空を見上げるとそこには巨大な飛行物体が姿を現わす。

 

「襲来せよ、銀河を駆ける戦闘母艦!バトル・イーグル部隊、発進準備完了!戦場を掌握せよ!!現れよ!『No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』!!」

 

現れたのはステルス戦闘機の形をした漆黒に輝く巨大な宇宙戦艦。

 

アストラルは戦況を見極めて左手首にデュエルディスクを出現させ、レベル7のモンスターを2体召喚してエクシーズ召喚を行なったのだ。

 

そのあまりの大きさにフィンは驚愕する。

 

「な、何だあれは……!?」

 

「あれは……マスターの相棒である精霊殿が持つ数あるモンスターのうちの一つです」

 

「冗談はよしこさん!あんな物を操るなんてそれこそ神に等しい存在ではないかは!」

 

フィンは未知なるモンスターを召喚する遊馬とアストラルに戦慄する。

 

「スターシップ……まさか宇宙戦艦ですか!?」

 

マシュは宇宙戦艦の姿をしたナンバーズに驚きを隠せなかった。

 

「また派手なナンバーズを呼んだな、アストラル!」

 

「アメリカと言えば、宇宙映画の宝庫だからな!」

 

アストラルは人間界にいた時に遊馬の部屋でアメリカの宇宙を題材にした映画を見ていた。

 

「それ今のアメリカの時代と関係無えだろ!?」

 

「……スターシップ・ギャラクシー・トマホークの効果!オーバーレイ・ユニットを2つ使い、自分フィールドに『バトル・イーグル・トークン』を可能な限り特殊召喚する!遊馬!」

 

「誤魔化した!?と、とりあえず今はやるしかない!」

 

遊馬はデュエルディスクを掲げ、アストラルが横に立つと二人の空いているモンスターゾーンにバトル・イーグル・トークンのカードが埋め尽くされる。

 

タッグデュエル方式を利用し、アストラルのフィールドと遊馬のフィールド、二人のフィールドを自軍のフィールドとして適用されたのだ。

 

遊馬とアストラルの空いているモンスターゾーンはそれぞれ4カ所ずつ。

 

合計8体のバトル・イーグル・トークンがスターシップ・ギャラクシー・トマホークのハッチから一斉に出撃される。

 

バトル・イーグル・トークンは機械族、風属性、レベル6の攻撃力2000、守備力0の戦闘機の姿をしたトークン。

 

戦闘母艦であるスターシップ・ギャラクシー・トマホークは攻撃力は0で自身は攻撃することは出来ないが、その代わりに母艦の中に収容されている戦闘機を出撃させ、敵勢力に攻撃をするのだ。

 

「バトル・イーグル、全隊一斉攻撃!」

 

「ノリノリだな、アストラル!」

 

まるで艦長のように命令を下すアストラル。

 

バトル・イーグル・トークンは空からの一斉攻撃を繰り出し、敵軍の兵士達を一気に蹴散らす。

 

すると、それに乗じてアメリカ軍でも敵軍でもない第三勢力が現れた。

 

それは褐色の肌の戦士が指揮する謎の勢力で敵軍の兵士達を攻撃する。

 

「あれは……噂に聞くレジスタンスか……!巨大モンスターにサーヴァントが増えたのであれば手の施しようがない」

 

フィンもこのままでは逆にこちらが負けると判断し、一時撤退を決める。

 

「よい。ここは一目散に撤退だ、ディルムッド!戦士たちにも命令を下しなさい!」

 

「畏まりました……」

 

「連中は女王(クイーン)を母体とする無限の怪物。聞かなかったら捨て置け。数千失ったからと言って困るものではない」

 

「女王……?」

 

「母体、無限の怪物……?」

 

フィンの言葉に遊馬とアストラルはその重要と思われるキーワードを記憶する。

 

そして、フィンは撤退する前にマシュに目線を向ける。

 

「ああ、その前に大事を忘れていた。麗しきデミ・サーヴァントよ」

 

「わ、私ですか?」

 

「そう、君だよ君。君は我々と戦うことを決めているのかな?」

 

「……はい。遊馬君とアストラルさんと皆さん、私の大切な仲間と共に、あなたたちを討ちます」

 

「よい眼差しだ。誠実さに満ちている。王に刃を向ける不心得はその眼に免じて流そう。その代わり──君が敗北したら、君の心を戴こう!うん、要するに君を嫁にする」

 

唐突のフィンのプロポーズ。

 

「……はい?」

 

マシュはキョトンと呆然とし、

 

「「「……はぁ???」」」

 

遊馬とアストラルとレティシアは何かの聞き間違えなのかと思って愕然とし、

 

「まぁ……」

 

清姫は扇で口元を隠して驚く。

 

「楽しみだな、実に楽しみだ!実に気持ちのいい約束だ!では、さらば!さらばなり!」

 

一方的にマシュに約束をしてフィンは爽やかな笑顔を浮かべてその場から撤退した。

 

残されたディルムッドは呆れた表情を浮かべ、すぐにマシュに弁明する。

 

「マシュよ、すまない。あれは主のささやかな悪態です。悪戯と思われましょうが、ああ見えて嘘偽りないお方。あの御方はあなたの雄姿に参ってしまったのでしょう……」

 

「……ディルムッド、フィンに伝えといてくれるか?」

 

「はっ、何でしょう?」

 

遊馬はディルムッドに伝言を頼み、真剣な眼差しをしながら口を開く。

 

「マシュは絶対にお前に渡さねえ。マシュは俺の大切な相棒だ。俺たちは必ずお前たちに勝つ、ってな」

 

「ゆ、遊馬君!?」

 

まるで遊馬の独占欲のような言葉にマシュは顔を真っ赤にする。

 

その光景にディルムッドは微笑みながら頷く。

 

「分かりました、必ずお伝えします。では、さらばです……!」

 

ディルムッドもその場から撤退し、兵士たちもいなくなってアメリカ軍への脅威は去った。

 

「まさか戦場でマシュがプロポーズされるとは……」

 

アストラルは戦場でプロポーズするとは思いも寄らず、少々呆れながら額に手を当てる。

 

「マシュ、あいつは絶対にやめておきなさい。あいつ、本で見る限りとんでもなく嫉妬深くて怨みがヤバイから」

 

「ですが、プロポーズは素敵だと思いますよ?まあ、マシュさんはお受けするはずがありませんが」

 

レティシアはフィンだけはやめておけと忠告し、逆に清姫はフィンの清々しいほど率直なプロポーズを評価した。

 

「とりあえず、キャンプ地に戻ってナイチンゲールと合流しようぜ」

 

「彼女は暴走しがちだからな……少し心配だ」

 

戦いを終えた遊馬達は急いでキャンプ地へと戻る。

 

キャンプ地ではナイチンゲールが治療をしており、遊馬達が戻ると先ほどの話の続きで患者と犠牲者を増やさないためにアメリカ軍を離れて原因を探ることを決めた。

 

「じゃあ、俺たちと一緒にこの地に蔓延る病原体をやっつけようぜ!」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

ナイチンゲールは遊馬と契約を結ぶことを了承し、契約を交わしてフェイトナンバーズを誕生させる。

 

出発する前にナイチンゲールは引き継ぎ作業で担当医師のドクター・ラッシュに患者に対する一通りの対処法を伝える。

 

外で待っていると……。

 

パァン!

 

「……撃った?」

 

「……撃ったな」

 

「……撃ちましたね」

 

「フォウ……」

 

ナイチンゲールはドクター・ラッシーに無理やり最新の治療法を分からせるために拳銃をぶっ放して脅した。

 

その後、一通りの指示を終えてテントから出て来たナイチンゲールは撃ったことを聞かれたが何のことやらと知らんぷりを押し通して歩き出す……その時だった。

 

「お待ちなさいな、フローレンス。何処に行くつもりなのよ?」

 

そこに現れたのは遊馬と歳が変わらない可愛らしく華やかな少女だった。

 

その後ろには機械兵士達を連れており、その雰囲気や風貌からサーヴァントだとすぐに分かった。

 

「軍隊において勝手な行動はそれだけで銃殺ものって知っていて?今すぐ治療に戻りなさい。さもないと──手荒い懲罰が待ってるかも、よ?」

 

「……貴女こそ自分の職場に戻りなさい。私の仕事は何一つ変わりません。この兵士達の根幹治療の手段が見つかりそうなので、それを探りに行くだけです」

 

謎の少女とナイチンゲールの間で激しい口論が繰り広げ、激しい火花が散る。

 

これでは拉致があかないと遊馬とアストラルが間に入る。

 

「止めろって、二人共。ってか、何だよあんたは。急にやって来て」

 

「君もサーヴァントだが、何者だ?」

 

「あら、あなたはマスターね。その隣は──っ!!???」

 

少女はアストラルを見た瞬間に手に持っていた本を落としてしまい、その場から後ずさりをして口を手で覆った。

 

体が震えてとても驚いており、明らかに不自然な様子だった。

 

「どうしたんだ?」

 

「君は私の何に驚いている……?」

 

「そんな……何でここに……?あり得ない……あなた、いいえ……!」

 

少女は目を凝らしてよく凝視し、アストラルだけでなく……。

 

「『あなた達』は一体……!??」

 

その隣にいた遊馬にも驚いていた。

 

「え……?」

 

「一体君は先程から何を……?」

 

遊馬とアストラルは自分たちの何に驚いているのか分からずに呆然としている。

 

そして、少女はやがてその驚きは歓喜へと変わり、体が未だに震えながらも笑みを浮かべていた。

 

「何て、何てもの凄い『マハトマ』を感じるの……!この私としたことが、こんなにも近くにいて、これほどの力を感じ取れなかったなんて……!」

 

落とした本を拾い、何度も深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

ようやく落ち着いた少女は遊馬とアストラルに向き合うと優雅に自己紹介をする。

 

「自己紹介しないのも失礼ね。お初にお目にかかるわ、 私はエレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー!!」

 

エレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー。

 

十九世紀を代表する女性オカルティストで神智学の祖。

 

「早速で悪いけど、貴方達全員を王様の元へ連れて行くわ!!『カルナ』!!!」

 

エレナが空に向かって叫ぶように呼ぶと、その名にアストラルとマシュとレティシアは驚く。

 

「馬鹿な、その名は!?」

 

「今、何と……?」

 

「待ちなさいよ、その名前はジークが言ってた……!」

 

そして、瞬時に遊馬達の上空に一騎のサーヴァントが現れた。

 

それは肉体と一体化している黄金の鎧と胸元に埋め込まれた赤石が目を引く青年だった。

 

「異邦からの客人よ、手荒い歓迎だが悪く思うな。──『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』!」

 

「遊馬!」

 

「くっ、手札から──」

 

遊馬は急いでデッキからカードをドローして手札にあるカードを墓地に送ろうとしたが……。

 

青年……カルナが放った攻撃が早く、遊馬の防御が一瞬遅れてしまい、遊馬達は光に包まれてしまった……。

 

そして、遊馬達は全員意識を失い、その場に倒れてしまった。

 

「さあ、この子達を王様の元へ運ぶわよ!」

 

エレナはご機嫌な様子で意気揚々と指示を出し、倒れている遊馬とアストラルの頰を撫でる。

 

「ごめんなさいね、手荒な真似をしてしまって。だけど、貴方達からとても凄いマハトマを感じるわ。それを知ることが出来たら、貴方達も、そこにいるサーヴァント達も必ず生かして悪いようにはしないわ……」

 

エレナの目的……それは遊馬とアストラルの中に秘めた大きな力だった。

 

しかしそれを利用するつもりも、手に入れるつもりもない。

 

ただそれが何なのかを知りたいだけだった……。

 

「さあ、行きましょう!」

 

エレナは遊馬達を連れて自分達が仕える主人である『王様』の元へ向かう、

 

 

 




カルナはチートで不意打ちだったので遊馬もアストラルも一歩遅れちゃいましたね、これは仕方ないです。
エレナも暴走しそうでちょっと怖い感じがしますが、まああそこは大人の余裕で何とかなりそうです。
次回はいよいよあのツッコミどころ満載のライオンヘッドの登場です!
あれを見ると英霊って、サーヴァントって何だよって思いますね。


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ナンバーズ118 それぞれの抱く信念

今回はエレナちゃんが暴走します。
まあ、遊馬とアストラルの設定から考えたら当然暴走しますね。

あと、恐らく全ての人を驚愕させたあのライオンサーヴァントの登場です。
もうサーヴァントって何だよ、滅茶苦茶だよって改めて思いましたね(笑)


「うっ、うぅん……?」

 

遊馬は意識を取り戻し、目を覚ますと……。

 

「ああっ……旦那様!大丈夫ですか!?」

 

「清姫……?」

 

目の前には涙を浮かべている清姫がおり、後頭部に柔らかい感触が広がる。

 

「あー、えっと……膝枕をしているのか?」

 

「は、はい。そのまま寝かせるわけにはいきませんので……」

 

遊馬は清姫の膝枕に頭を乗せて今まで眠っていた。

 

ちなみに遊馬が意識を失った後、先に目覚めたマシュとレティシアを含めた三人で誰が膝枕をするかジャンケンで争い、清姫がその権利を勝ち取ったのだ。

 

「ありがとうな、清姫」

 

「とんでもありません。旦那様ならいつでも膝枕をして差し上げますわ」

 

「じゃあ、またお願いな」

 

「はい!」

 

「そこ、イチャイチャすんじゃないわよ!」

 

「そうですよ……」

 

軽く鋭い視線をしているレティシアとマシュに注意され、遊馬は起き上がって周りを見渡しながらすぐに緊張感を高める。

 

「……アストラル、何があった?」

 

遊馬の隣にアストラルが現れ、状況を簡潔に説明する。

 

「我々は先程現れたサーヴァント……カルナの宝具を受けて失神してしまい、現在馬車で輸送されている」

 

「カルナ……何者だ?凄え、ヤバイ感じだったけど」

 

「インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する不死身の英雄だ」

 

「インドの英霊か……」

 

カルナ。

 

『施しの英雄』と呼ばれ、何かを乞われたり頼まれた時に断らない事を信条とした聖人。

 

非常に高い能力を持ちながら、血の繋がった兄弟と敵対する悲劇を迎え、様々な呪いを受け、その真価を発揮する事なく命を落とした英雄。

 

遊馬はチラッとカルナを見ると、カルナは周囲を警戒しながら歩いている。

 

するとそこにエレナが馬車の中に入ってきた。

 

「起きたのね、おはよう!」

 

「……どうやらエレナが私と遊馬に聞きたいことがあるらしいのと、彼らが仕えている王様に会わせる為に連れて行かれるようだ」

 

「……それで、あんたは俺たちに何を聞きたいんだ?」

 

遊馬は警戒しながらエレナをギロリと睨みつける。

 

「ま、待ちなさいって、そんなに怖い目で睨まないでよ!」

 

「いきなり攻撃して俺の大切な仲間を傷つけようとした奴が何を言うんだ」

 

「うぐっ、し、仕方ないじゃない!フローレンスはタダでさえ話を聞かないし、貴方達を王様に合わせなきゃいけないし、こうするしかなかったのよ!」

 

「……分かった。だけど、俺の仲間を傷つけたら絶対に許さないからな」

 

「そこは大丈夫よ。貴方達がちゃんと話してくれれば」

 

「話すって、何を?」

 

「貴方達から、マハトマを感じるのよ!」

 

「マハトマって、何?」

 

聞いたことのない単語に遊馬はアストラルに目線を向けるが、アストラルも首を左右に振り知らないと意思を見せる。

 

「えっと、そうね……根源は知ってるわよね?」

 

「根源?ああ、あの全ての魔術師どもが目指してるっていう、あまりにも下らねえものだろ?」

 

「ちょっ!?根源は下らなくないわよ!あなた、マスターなんでしょ!?どうしてそういうことを言うの!?」

 

「俺はマスターだけど、魔術師じゃない。デュエリストだ。全ての魔術や魔術師がそうとは言わないけど、そんな物のために他人の命を平気で弄ぶ魔術や魔術師は大嫌いなんだ」

 

「どうしてそこまで……」

 

「……エレナ。実は遊馬の妹分……桜という少女は魔術師の家の出なのだが、そこで想像を絶する地獄に堕とされたのだ。それこそ、女性の、いや……人間の尊厳を踏みにじるような事をされて心が壊れてしまった」

 

「地獄って……魔術の修練は大変だけど、尊厳を踏みにじるって……」

 

「とにかく、俺は魔術や魔術師が大嫌いなの!」

 

「話を戻そう。エレナ、それで我々がマハトマとはどう言う意味だ?」

 

「あ、そうそう……つまりな、その『根源の渦』への到達者、あるいは根源と接続した超常的な存在こそがマハトマだと私は知っているの」

 

「それが、俺たちだと……?悪い、ちょっとタンマ」

 

遊馬はエレナと一時的に話を切ってその場で振り向いてアストラルと小声で話し合う。

 

「アストラル、エレナって何者なんだ?」

 

「エレナ・ブラヴァツキー。19世紀の神智学者でオカルト研究家。レムリア大陸の実在を信じて神秘主義に没頭し、高次の存在『マハトマ』やその集合体『ハイアラキ』と接触し、多くの叡智を得たとされる」

 

ちんぷんかんぷんな単語が並び、遊馬は一つ一つの事をアストラルに尋ねる。

 

「神智学って、何だ?」

 

「神智学とは神秘的な直観などで神の啓示に触れ、神聖な知識の獲得や高度な認識に達しようとする考えだ。ちなみに彼女はその関係で、アストラル体とアカシック・レコードの概念を世に出した」

 

「アストラル体?お前の名前と同じ?」

 

「アストラル体は『感情体』と呼ばれる人間や動物の感情の発現の媒体だ。精神活動における感情を司る身体であるとされる」

 

「それって、魂……いや、心ってことか?」

 

「簡単に言えばそうなるな」

 

「アカシック・レコードって……音楽のレコードの事か?」

 

「そのレコードとは違う。アカシック・レコードは宇宙と数多の世界の全て……その過去と現在と未来が記されていると言われるものだ」

 

アカシック・レコードの内容に遊馬は目を見開いて驚き、アストラルを見つめる。

 

「それ……ヌメロン・コード、そのまんまじゃん」

 

「そうだな……」

 

ヌメロン・コードの内容とほぼ同じアカシック・レコードの概念を考えたエレナに驚きと関心を抱いていると……。

 

「ねえねえ、ヌメロン・コードって何?」

 

「「ん?おわぁっ!??」

 

振り向くとそこにエレナの顔がすぐ目の前にあり、遊馬とアストラルは驚いてその場でたじろぐ。

 

「ヌメロン・コード……良い響きね。聞いたことのないものだけど、何かあなた達に意味あるものなのかしら?」

 

小声で話していたが、ヌメロン・コードと言う単語にエレナは直感的に大きなマハトマを感じた。

 

「……教えたら何をしてくれる?」

 

「えっ?対価が欲しいの?そうねぇ……魔術を教えてあげる……って、あなたは魔術が嫌いなんだっけ?それなら……分かったわ。これから向かう城にいる間の貴方達全員の安全は保証してあげるわ。王様は私の言葉なら聞いてくれるはずだから」

 

「本当か?」

 

「ええ、もちろん。約束は守るわ」

 

エレナは軽く自分の胸を叩いて自信満々な表情で答える。

 

清姫が何も言わないのでその言葉に嘘は無さそうだ。

 

「仕方ない……では話そう。我々の世界と、宇宙を生み出した創世神話を、ヌメロン・コードを……」

 

アストラルはエレナが悪人ではないと判断し、例え知ったとしても自分達には害はないと判断して話すことにした。

 

エレナが興味を抱く内容を次々と話した。

 

ランクアップした魂が行き着く青き世界、アストラル世界。

 

宇宙と世界の全てを創り出した創造龍、ヌメロン・ドラゴン。

 

そして……宇宙創造の力を秘め世界の過去と未来の全てが記され、あらゆる世界の過去・現在・未来の運命を全て決める力を持つ神のカード、ヌメロン・コード。

 

マシュ達は以前その話を聞いていたので特に驚きもせずに普通だったが……。

 

「ドラゴンが世界を創造し、世界を変える神のカードか……英霊の身となってもまだまだ驚かされるものだな」

 

こっそり馬車の外で聞いていたカルナは異世界の創造神話を聞いてあまり表情を変えなかったがとても驚いていた。

 

そして、エレナは……。

 

「良いわ、良いわ良いわ、とっても良いわ!最高よ!英霊の座とは異なるランクアップした魂の行き着く青き世界、アストラル世界!神代よりも……いいえ、命そのものが生まれるよりも遥か昔、その命をかけて宇宙の全てを創り出し、その瞳から零れ落ちた雫から地球と月を創り出した創造神、ヌメロン・ドラゴン!!そして、私が導き出したアカシック・レコード以上の力を持つ、過去と未来の全てが記され、世界の運命を全て決める力を持つ神のカード、ヌメロン・コード!!!これほどにマハトマを感じさせるものがあるなんて、世界はまだまだ広いわね!!!」

 

用意した紙に高速でペンを動かしてアストラルが語った内容を事を事細かにメモをしていく。

 

生前の魔術師の研究者としての一面が復活し、エレナの表情は他人が見てもヤバイと思うほど最高潮に興奮して危ない人と化していた。

 

エレナはもう敵味方関係なく遊馬とアストラルにどんどん質問を重ねていき、こんなお願いもし始めた。

 

「ねえねえ!アストラル世界はどうやったら行けるの?行ける方法があったら教えて!」

 

エレナはアストラル世界に行ってみたいと言うが、遊馬とアストラルは無理無理と同じように手を振る。

 

「いやいや、そう簡単にアストラル世界には行けねえよ?俺が行った時は人間界最高クラスの科学者達が総力を結集して大きな転送装置を作って、ある限定的な条件下でようやく俺一人を片道で送り出せたんだから。しかも転送装置はその後にぶっ壊れちまったし……」

 

「それに、君自身がアストラル世界に適応するかどうかも分からないし、異世界人である君をそう簡単に招き入れることはできない。アストラル世界の守護神のエリファスが認めるわけがないからな」

 

「そんなぁ……じゃ、じゃあ、ヌメロン・コード!お願い、使わないし触らないから一目だけでも良いから見させて!」

 

せめて自身が考え導き出したアカシック・レコードでもあるヌメロン・コードを見てみたいと願うが、当然そんな事を許されるわけがなく、遊馬とアストラルはバッサリと切り捨てる。

 

「絶対にダメに決まってるだろ」

 

「ヌメロン・コードは二度と悪用されないように厳重に封印されてある。そんなことは断じて許されない」

 

「そこを何とか……!お願い、私に出来ることなら何でもするから!!」

 

「「ダメだ!!!」」

 

怒鳴るように即答する遊馬とアストラルにエレナは……。

 

「あぅっ……うわぁん……」

 

涙を浮かべて子供のようにぐずりだした。

 

「えっ!?」

 

「エ、エレナ……?」

 

「私はただ……知りたかっただけなのに、生前果たせなかった夢を少しでも追いかけたかっただけなのに……うわぁーん!」

 

今度は大泣きしてしまい、遊馬達は慌ててエレナをあやす事になってしまった。

 

エレナが大泣きする事態に馬車の外にいたカルナも驚いて共にあやし、アストラルはアストラル世界とヌメロン・コードの代わりにアストラル世界などの知識を教えることで何とか泣き止んでくれた。

 

「ごめんなさい……取り乱してしまって」

 

「いいよ、気にすんなって……ああ、そうだ。俺も聞きたいことがあるんだけど……」

 

「何かしら?」

 

「俺たち、この二人のサーヴァントを探しているんだけど、知らないか?大切な仲間なんだ」

 

遊馬はデッキケースからネロとエリザベートのフェイトナンバーズを取り出してエレナに見せる。

 

「……知らないわね。こちら側のサーヴァントでも無いし、少なくとも私やカルナは会ったことは無いわ」

 

「そうか……ありがとうな」

 

ディルムッドは敵側にいるが、ネロとエリザベートが敵側にいれば少し前に戦ったディルムッドが何か一言伝えているはず。

 

そもそもかなり我の強い二人なので、波長の合った存在に合わない限り、そう簡単に誰かと共に戦うことはあまり無いだろう。

 

「エレナ、次は私からの質問だ。敵について何か知らないか?」

 

アストラルはディルムッドやフィンがいる敵側の情報を尋ねる。

 

「あいつらはケルト軍よ。東部はケルトに支配されているの」

 

「ケルト軍?」

 

「あ、そう言えばディルムッドはケルト神話の出身だったな。だから召喚されたのか」

 

「恐らく、ケルト軍に召喚されているほとんどのサーヴァントはケルト出身よ」

 

「ケルト出身のサーヴァントか……ケルト関係の英霊はどれも強力な力を持つ者ばかりだ」

 

アストラルはケルト神話に登場するクー・フーリンをはじめとする英雄達は並大抵の実力ではなく、今まで以上に厳しい戦いが待ち受けていると確信した。

 

その後エレナから現時点での戦争の状況を聞かされる。

 

この世界は東西が戦い続けていることで辛うじて成立している。

 

エレナ達が戦っていなければ今頃ケルトによってこの国は滅んでいただろう。

 

「敵国のトップは十中八九、ケルトの英霊……今までの特異点の敵の傾向から考えてその者が聖杯を持っているに違いない。そして、フィンが言っていた女王にそれを母体とする無限の怪物……」

 

アストラルは少ない情報からケルトのトップが誰か考えた。

 

ケルト、女王……これらのキーワードから

 

(そう言えば、ブーディカは元々ケルト人だったな。いやいや、ブーディカはカルデアにいるからまずはあり得ない。となると、可能性として一番高いのは……あのコノートの女王だが、まだ情報が少ないしこれを遊馬達に伝えないほうがいいだろう)

 

ケルトと女王のキーワードに最初にアストラルはブーディカを考えたが、カルデアにいるし何より遊馬と絆を結んでいる彼女がそんな事をしないと可能性を捨てた。

 

そんな中でアストラルは一番の候補者を絞り込んだがまだ話すべきでは無いと心の中に仕舞う。

 

それから馬車に揺られて一時間弱、到着したのはアメリカとは思えない光景だった。

 

「さ、到着」

 

「でけぇ……」

 

「立派な石造りの城だな……アメリカには城と呼ばれるものはほとんど無いはずだが……」

 

それはここは思わずヨーロッパなのではと思わんばかりの巨大な石造りの城だった。

 

「ホワイトハウスは奪われちゃったし、仕方ないのよ。城は一から作ったわ。やっぱりほら、ケルトにはケルトへの対策を施さないとね」

 

そこに機械兵士が現れ、『大統王』と呼ばれる王が呼んでいると伝えた。

 

「……大統領じゃねえの?」

 

「領地ではなく王国だからか……?」

 

よく分からないネーミングに遊馬達は頭を悩ませる。

 

ここにエレナとカルナが仕える大統王が居ると知り、治療の邪魔をする存在を排除するためにナイチンゲールは銃の準備をするが、カルナに止められる。

 

「待て。それは悪手だナイチンゲール。もうしらばくその撃鉄は休ませてやれ。世界の兵士を癒そうと言うのなら、病巣を把握しろ。それとも、お前は短絡的なのか?」

 

「……その間に、兵士達が死んでいく。それに耐えろと言うのですか?」

 

「そうだ。慣れることなく耐えてくれ。お前には難しいだろうが、これも試練だ」

 

ナイチンゲールの暴走を止めるためにマスターとして遊馬も言葉をかける。

 

「ナイチンゲール、今は情報が少ない。俺たちは少しでも有力な情報が欲しいんだ。話が終わったらすぐに患者の元へ行こう」

 

「ですから、こうしている間にも……」

 

「俺にはこの世界で一番早く目的地に向かえる、ライダークラスの持つ宝具以上の移動速度を持つ船がある!アメリカ大陸の範囲なら何処でもあっという間だ!」

 

「……本当ですか?」

 

「俺は嘘はつかない。それに、清姫は嘘が大嫌いで他人の嘘を見抜けるからな」

 

ナイチンゲールはチラッと清姫を見ると、清姫は頷いて答える。

 

「誰かを救えない気持ちは俺にも分かる。あんたの気持ちは俺も一緒に背負う。だから、頼む……」

 

遊馬は頭を下げて懇願する。

 

その姿を見てナイチンゲールは冷静になり、遊馬の言葉を信じて銃をしまう。

 

「わかりました。では、この銃はしまっておきましょう」

 

「……危ういな。ブラヴァッキー、オレは彼女の行動を監視する」

 

「はいはい、こっちは任せてね〜。では、我らが王様に排謁してもらいますか!」

 

城の中に案内され、謁見の間と思われる場所に到着する。

 

機械兵士が一分後に来ると伝え、どんな人が来るのか緊張する。

 

「……サーヴァントの気配が近づいている。だが、今までとは違う何か複雑なものを感じる」

 

「複雑なもの?」

 

「何でしょうか……?」

 

アストラルはサーヴァントの気配を感じたが、今までとは全く異なる気配に違和感を感じた。

 

そして、遂に大統王が現れる。

 

「おおおおおおお!遂にあの天使と対面する時が来たのだな!この瞬間をどれほど焦がれた事か!ケルトどもを駆逐した後に招く予定だったが、早まったのならそれはそれで良し!うむ、予定が早まるのは良いことだ!納期の延期に比べれば大変良い!」

 

「……はあ。歩きながらの独り言は治らないのよねぇ。独り言はもう少し小声でやってくれないものかしら」

 

「今の独り言なのか!?」

 

「それにしても声が大きすぎるだろう」

 

「す、すごい音量です……人間の限界を超えています!」

 

大声の独り言を発しながら扉が開き、奥から現れたのは……。

 

「──素直に言って大義である!みんな、初めまして、おめでとう!」

 

獅子の頭にアメリカンヒーローのようなコスチュームを着て、両肩には巨大な電球が付けられているムキムキマッチョの巨漢だった。

 

そのあまりの予想外過ぎる姿に遊馬達は全員固まり、言葉を失ってしまった。

 

「もう一度言おう!諸君、大義である、と!」

 

「ね、驚いたでしょ。ね、ね、ね?」

 

「……それはまあ、驚くだろうな」

 

エレナは悪戯っ子のような可愛い笑みを浮かべ、カルナは軽くため息をついた。

 

「えっと……今まで色々な事があったから多少はそう言うのに耐性が付いていたけど、久しぶりに驚愕したな」

 

「それで……あなたが、アメリカの西部を支配している王、なのか……?」

 

「いかにもその通り。我こそはあの野蛮なるケルトを粉砕する役割を背負った、このアメリカを統べる王──サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン!大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!!」

 

トーマス・エジソン。

 

世界的に最も有名な発明家の一人。

 

蓄音機や白熱電球や映写機など、現代にまで受け継がれる様々な発明を行った。

 

その偉大な功績を称え『発明王』の異名でも知られるが……。

 

「エ!?」

 

「ジ!?」

 

「ソン、な、馬鹿な!??」

 

予想外過ぎる大統王の正体に遊馬達は一斉にレティシアを見る。

 

レティシアの真名看破で大統王の真名を見るが……。

 

「間違いないわ……トーマス・エジソン本人よ。でも、あれ……?」

 

レティシアは大統王の真名がエジソンだと分かったのだが、突如立ちくらみがして倒れかかり、ナイチンゲールに支えられる。

 

「どうしましたか?気分が悪いのですか!?」

 

「違うわよ。エジソンの真名をよく見ようとしたら、何故か沢山の名前が一気に重なって見えて……こんなことは初めてよ。ああ、大丈夫。あんたに治療してもらわなくてもすぐに良くなるから」

 

ルーラーの真名看破を使って初めての事態にレティシアは少し気分が悪くなった。

 

一騎のサーヴァントではあり得ない謎の情報量にレティシアの頭がパンクしたのだ。

 

「本当にあなたがあの発明王、トーマス・エジソンなのか……?」

 

「いかにも。今は発明王ではなく、大統王であるが。ほう、報告に聞いていたが、まさか本当に精霊と話が出来るとは……精霊はお伽話の世界ばかりと思っていたが、いまこの瞬間こそエネルギーの、いや、魂の奇跡でしょう。もちろん、フローレンス・ナイチンゲール嬢。美しい貴女にも出会えたことを心から感動する。私は戦場に生きるものではありませんが、だからこそ貴女の信念を、理性を尊敬する。是非、力を貸していただきたい。医療の発展はもちろん、兵士の士気向上──広告塔としての効果は計り知れないのだからな!ははははははははは!!」

 

「ナイチンゲールはそんな神輿みたいな扱いは望んでねえよ、オッサン」

 

「──む?ほう、その令呪……君がサーヴァント達を束ねるマスターかね?むむっ!?」

 

エジソンは遊馬を見ると目の色を変えて凝視した。

 

「少年、君の左眼と左手首に付けているものは何だ!?」

 

「あー、これ?D・ゲイザーとデュエルディスク。この世界とは違う、異世界で作られた色々な機能が組み込まれた通信機器と、カードに描かれたモンスターを立体映像で呼び出せるソリッドビジョンシステムが内蔵された装置だよ」

 

「い、異世界で作られた通信機器と立体映像!?少年、是非ともそれを私に貸してもらえないだろうか!??大丈夫、必ず元に戻して返そう!」

 

エジソンの視線が見た目通りに野獣の眼光の如く輝き、まるで獲物を狙うかのようなその視線に遊馬もサッとデュエルディスクを付けた左腕を後ろに隠す。

 

「……ライオン頭の変なオッサンに貸せねえよ」

 

「何を言う。私はまごう事なき人間である」

 

「何処がだよ!?どうして人間の頭がライオンになってるんだよ!?」

 

「人間とは理性と知性を持つ獣の上位存在であり、それは肌の色や顔の形で区別されるものではない。私が獅子の頭になっていたところで、それが変わるわけでもない。私は知性ある人間、エジソン。それだけのことである」

 

「いやいや、変わるだろ!?普通の人間は頭がライオンにはならないし、本で見たあんたの生前の数ある写真は何だよ!?むしろ今のあんたならデュエルモンスターズでいう獣戦士族って言われても問題ない姿だぞ!??」

 

遊馬とエジソンが軽く言い争いをする中、アストラルはエレナの元に行く。

 

「……エレナ、エジソンは生前はあの姿だったか?」

 

実はエレナとエジソンは生前の頃からの知人であり、アストラルはエレナにエジソンが生前からあの姿だったのか念の為に確認する。

 

「いいえ、あんな姿じゃなかったわよ。もっと背は小さくてムキムキじゃないし、もちろんあんなライオン頭じゃ無いわよ」

 

エレナの証言にアストラルは虚ろな目をして見上げた。

 

「……マシュ、私はもう分からない。サーヴァントとは、英霊とは何なんだ……?」

 

「私も、これは私の理解を大きく超えています……!」

 

「フォウ……」

 

「ルーラーとして色々なサーヴァントの真名を見てきたけど、一番の衝撃よ……」

 

「私も生前に蛇になりましたが……流石にあれは驚きますね」

 

「あれはもう人間ではなくキメラですね……」

 

アストラルとマシュ達はサーヴァントとは何なんだろうかと思わず頭を悩ませた。

 

そんなこんなで話が色々と脱線し、エレナが切り替えてエジソンは改めて遊馬と向き合って本題に入る。

 

「さて、少年……ユウマ……だったな。この世界において、唯一のマスターよ。単刀直入に言おう。四つの時代を修正したその力を活かして、我々と共にケルトを駆逐せぬか?」

 

「──ん?どうしてそれを知ってるんだ?」

 

まだエジソンはもちろん、エレナやカルナにも遊馬達が四つの時代の特異点を修正した話をしていない。

 

それなのにどうしてエジソンがその事を知っているのかと遊馬達は疑問に思うと、突然エジソンは怒りで顔を歪ませた。

 

「知っているとも。ある人物がな、それを私に知らせてきやがったのだ。この世で最低最悪のろくでなし!憎っくきあのすっとんきょうめが、『こんな事があったのだが、私は息災だ。君にはこんな大冒険はないだろうエジソン君』。などとな!実に不快感極まる!」

 

どうやらその人物……恐らくサーヴァントが憎たらしくエジソンに遊馬達のことを教えたらしい。

 

「エジソンの知人で我々と会ったことのある人物……まさか……」

 

アストラルはたった一人、その人物に心当たりがあったが下手に口にするとエジソンがブチ切れて話どころではないと思い、その名を口にしないことにした。

 

ひとまず落ち着いたエジソンは話の続きをし、ケルトに侵略されたアメリカだがエジソンが召喚され、発案された様々な体制によって戦線は回復して拮抗状態へと持ち込めた。

 

必ず勝つと自信満々なエジソンだが、懸念材料があった。

 

それはアメリカ側のサーヴァントの数が圧倒的に足りないのだ。

 

同率された軍隊はあるが、一騎当千のエースがいなく、対してケルト側には名高き蛮人が多くいる。

 

実はアメリカ側のサーヴァントはエジソン、エレナ、カルナの三騎だけだったのだ。

 

他に召喚されたサーヴァントは散り散りでアメリカ側につく素振りも見せていない。

 

この状況にエジソンは嘆いてライオンの如く吠えていた。

 

「第二特異点のネロの時はブーディカ達がいたから恵まれていたんだなぁ……」

 

遊馬はネロの時とは違うサーヴァントと言う将の数が圧倒的に足りていないエジソンに少なからず同情した。

 

「よし、オッサン!将が足りないなら手伝うぜ、俺たちが協力してケルトの奴らをぶっ飛ばして、聖杯を確保すればこの時代の特異点が修正されるからな!」

 

遊馬は自分の右拳を左掌にぶつけて気合を入れ、ナイチンゲールを除いたアストラルたちも頷いて気合いを入れる。

 

このままエジソン達、アメリカ軍に協力して共にケルトを倒して聖杯を確保する……そう考えた矢先だった。

 

「いいや、時代を修正する必要はない」

 

「……は?」

 

「……え?」

 

「……何?」

 

エジソンが静かに告げたその言葉に遊馬達は耳を疑う。

 

そして、エジソンは遊馬達の想像もつかない考えを示す。

 

「必要ない。聖杯があれば、私が改良することで時代の焼却を防ぐことも出来よう。そうすれば、他の時代とは全く異なる時間軸にこのアメリカという世界が誕生することになる」

 

「な……そんな事が可能なのですか!?」

 

「聖杯の力は、召喚された我々にもよく分かっている。充分に可能だという結論が出た」

 

「待てよ、オッサン。それじゃあ、他の時代はどうなるんだ!?」

 

「──滅びるだろうな」

 

告げられた無慈悲な言葉に遊馬とアストラルは激怒する。

 

「ふざけるんじゃねえ!そんなバカな事が許されるか!?」

 

「それでは何の意味もないではないか!?」

 

「何を言う。これほど素晴らしい意味があろうか。このアメリカを永遠に残すのだ。私の発明が、アメリカを作り直すのだ。ただ増え続け、戦い続けるケルト人どもに示してくれる。私の発明こそが人類の光、文明の力なのだとな!」

 

迷いなきエジソンの歪んだ言葉に遊馬とアストラルは絶句し、それと同時に理解した。

 

何故、エジソンがネロの時と違ってサーヴァントが全く集まらないのか、その決定的な違いがその思想だった。

 

ネロはローマとその未来を守る為に戦っていたので、それに賛同したブーディカたちが自然と集まった。

 

しかし、エジソンは聖杯の力を使い、他の時代と国を滅ぼして新たなアメリカを作ろうとしている。

 

散り散りになっているサーヴァント達は全てがそうとは限らないが、それにエジソンの考えに賛同出来ないからアメリカ側にもケルト側にも付かなかったのだと考えられる。

 

それを聞いてナイチンゲールが意見する。

 

「……その為に戦線を広げるのですか。戦いで命を落とす兵士たちを切り捨てて」

 

「……全ての兵士を救う為に奮戦した貴女らしい告発だわナイチンゲール婦長。私とて……私とて、う、ぐ、切り捨てて切り捨てるのではない、が──」

 

「エジソン、落ち着いて。フローレンスの言葉はただの意見よ。告発ではないわ」

 

ナイチンゲールの意見にエジソンは何かを苦しんでいる様子を見せ、エレナが落ち着かせる。

 

「……承知している。今のはいつもの頭痛だ、気にしないでくれ。いいかね、ナイチンゲール嬢。今の我々──私にとってはこの国が全てだ。王たるもの、まず何より自国を守護する責務がある」

 

「……ねえ、王様。よろしいかしら?」

 

今度はレティシアが進言して前に出る。

 

「良いぞ、黒き乙女よ」

 

「ありがとう。今までの話を聞くと、あなたはこの国を守りたい、って思いが強いわけね。まあ、私は裏切られた国を復讐する竜の魔女として生み出されたから理解出来ないけど」

 

レティシアはかつてフランスに裏切られ、復讐するために竜の魔女として地獄から蘇ったジャンヌとして暴れていた経緯から愛国心にはイマイチ理解できなかった。

 

「あなたは元々王様でもないのに、大勢の民をまとめてケルト相手に戦うその心意気は素晴らしいわ。でもね……」

 

レティシアはエジソンの国民の為に戦うその心意気を認めたが、同時にどうしても許せないものがあった。

 

「あんた、新しいアメリカを作り直す為には他の時代は滅んでもいいですって?そんなふざけた言葉、私たちのマスターの前で言うんじゃ無いわよ」

 

旗を持つ手の力が自然と強くなり、エジソンを睨みつける。

 

「レティシア……?」

 

「ようするにあんたは、アメリカって言う、たった一つの国を守る覚悟はあっても……世界の全てを背負う覚悟がないただの臆病者じゃないの!!!」

 

レティシアは怒りを爆発させてエジソンを真っ向から批判して臆病者と罵った。

 

「な、何だと!?私を侮辱するつもりか!?」

 

「私には国どころか世界を背負えないわよ。私は救国の聖女、ジャンヌ・ダルクの偽物として生まれた何者でも無い存在だった。だけど、マスターが……遊馬とアストラルが私の存在を確立させてくれた、未来を与えてくれた。だから私はこの世界の未来を取り戻し、遊馬と共に生きる為に最後まで戦い抜くと誓った!」

 

レティシアは聖杯から歪んだ虚ろな存在として生み出され敵として消える運命だった。

 

しかし、遊馬とアストラルが起こした奇跡によって一人の少女として生まれ変わった。

 

一人の少女としてレティシアは遊馬と共に生き、どんな事があろうと一番大切な人のそばにいると決めた。

 

レティシアは旗を広げて切っ先をエジソンに向ける。

 

「エジソン……あんたは偉そうなことをベラベラと喋ってたけど、あんたには分かるの?突然自分の住んでいた世界とは違うこの異世界に飛ばされて、世界と全人類の未来を取り戻す命運をその小さな背に全て託されてしまった遊馬の計り知れない重荷を!!十三歳よ?たった十三歳の小さな子供がこの世界と全人類の全てを取り戻す為に命を懸けて必死に戦ってるのよ。それなのにあんたは自分のことばっかり……」

 

レティシアは遊馬の秘めたる確固たる覚悟と世界を背負う重荷を理解している。

 

だからこそエジソンの言い分に激怒して啖呵を切ったのだ。

 

「遊馬とアストラルはこの世界と人類の未来を守る為に戦っている!決して、あんたの歪んだ考えには賛同しない!もしも、あんたが私達の行く道を阻むと言うなら……あんた達をぶっ飛ばしてでも、押し通す!!!」

 

旗に描かれた竜の模様が皇の鍵の紋章へと変化し、レティシアの背後に銀河眼の光子竜皇の幻影が現れる。

 

すると、遊馬のデッキケースに眠るレティシアのフェイトナンバーズが静かに光を放ち、もう一枚のカードを生み出していた。

 

突然現れた銀河眼の光子竜皇の幻影……幻想種であるドラゴンの姿にエジソンはたじろぎ、カルナはエジソンを守るように立つ。

 

レティシアが見せるその心の輝き……それを見たカルナは思い出すように呟く。

 

「誰かを想うその心の強さ……あの聖女とは違うな」

 

カルナの脳裏にはレティシアとは異なる聖女の姿が思い浮かべられた。

 

レティシアとカルナの一触即発の状況に遊馬とアストラルが前に出てレティシアの肩をポンと軽く叩く。

 

「サンキュー、レティシア。心に来る熱い言葉だったぜ」

 

「まさか君が啖呵を切ってくれるとは思わなかったよ。だが、君の想いは私たちの魂を燃え上がらせた……!」

 

エジソンの突飛な考えに戸惑っていたが、レティシアの遊馬とアストラルを想う言葉に突き動かされた。

 

「エジソン、あんたのアメリカを想う気持ちは分かった。他の全てを犠牲にしてもアメリカを守ろうとするその強い意思……一つの世界を守ろうと戦った、俺の仲間に似ているよ」

 

遊馬には心が通じ合い、分かり合えても戦うことを運命付けられて世界を掛けて戦うことになった凌牙……ナッシュの姿が思い出される。

 

しかし、だからこそ遊馬には譲れないものがあった。

 

「でもよ、俺はそんな事は絶対に認めねえ。何かを犠牲にして得られる未来は、絶対に認めねえ!!!」

 

「少年よ!犠牲無しに価値ある勝利は得られない、未来を勝ち取ることは出来ない!!」

 

「可能性はゼロじゃ無い!可能性が1%……いや、たとえそれよりも低いゼロに近い数値でも、その未来を切り開く!!」

 

「エジソンよ、あなたはかつて常人では耐えきれないほどの数えきれない実験と失敗を繰り返して、人類の文化を発展させる発明をしてきた。あなたが諦めない心があったからこそ実現した……それは私たちも同じだ!!」

 

「俺たちは絶対に諦めない!諦めない限り、必ず未来をこの手に掴み取る!それが俺たちのかっとビングだ!!」

 

遊馬はデッキからカードをドローし、『ガガガマジシャン』を召喚し、更に手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚する。

 

「「レベル4のガガガマジシャンとカゲトカゲでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

『ホォオオオオープ!!!』

 

遊馬とアストラルの前に希望皇ホープが姿を現し、その登場にエジソン達は驚愕する。

 

「これは……!?まさかこれが異世界のマスターと、あのカードと機械の力か!?」

 

「凄い……こんな魔術は今まで見た事ない……!」

 

「希望皇……ホープ……。あの戦士からは神をも打ち倒す力とその気迫が伝わってくる。あれは魔物なる神霊の戦士なのか!?」

 

初めて見る遊馬とアストラルのデュエルモンスターズの力に驚愕する中、マシュ達も武器や宝具を構えて戦闘態勢に入った。

 

 

 




清姫ちゃんの膝枕羨ましいなぁ……小鳥ちゃんからもたくさん膝枕をしてもらっている遊馬君爆発しやがれ(笑)
それとレティシアちゃんの強化フラグが立ちました。
エジソンの歪んだ考えに真っ向から否定する役目をレティシアちゃんにお願いしました。

遊馬君とアストラルはナッシュさんの事もあるので全てを否定しませんが、やはり他の時代を犠牲にするやり方はもちろん認められませんね。

次回は戦闘は軽めにして、第三勢力のサーヴァント達と合流します。


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ナンバーズ119 傷ついた大英雄

カルナって本当に強すぎてヤバいですね。
まあインド系のサーヴァントが化け物揃いってのもありますが。
聖杯大戦でジークとアストルフォ、よく戦い抜いたな……。


エジソンの考えるアメリカだけの世界を作る歪んだ考えに反対した遊馬達は共闘を断った。

 

「その誠実さ、真摯さ。トーマス・アルバ・エジソンとしては許すべきなのだろう。しかし、残念だ。大統王としての私はお前達をここで断罪せねばならん」

 

エジソンはここで遊馬達を倒すと宣言するが、それにエレナが真っ向から反論する。

 

「ま、待ちなさい、エジソン!この子達を傷つけることは許さないわ!安全は保障するって約束したんだから!!」

 

「それはならん!今ここで彼らを断罪せねば後々アメリカの脅威になる!カルナ君、頼んだぞ!」

 

「……承知した」

 

「くっ……」

 

エレナは唇を噛み締めて悔しそうにしながら遊馬達に申し訳無さそうな表情を向けた。

 

安全を保障すると言う約束を守れなかったエレナに対しては遊馬達はこの状況では仕方ないと許していた。

 

遊馬は手札から装備カードを希望皇ホープに装備する。

 

「希望皇ホープに装備魔法『ホープ剣スラッシュ』を装備!」

 

それは希望皇ホープの攻撃名であるホープ剣・スラッシュと同じ名前のカードで、デュエルモンスターズではモンスターの攻撃名と同じ名前のカードが存在し、通称『必殺技カード』と呼ばれている。

 

発動したホープ剣スラッシュのカードはクルクルと回転しながら希望皇ホープの体内に取り込まれるが、特に攻撃力と守備力に変化は起きていない。

 

「装備された希望皇ホープは効果では破壊されない。カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

先行は攻撃出来ないので遊馬は希望皇ホープを呼び出して次のターンに備えた。

 

カルナは本能で希望皇ホープが現れた時からあれは真っ先に倒さないといけないと察した。

 

神をも打ち倒す力を秘めた神霊の戦士・希望皇ホープ。

 

カルナは多少場内が破壊されても仕方ないと判断して宝具を発動する。

 

「真の英雄は目で殺す!『梵天よ、地を覆え』!!」

 

カルナの右眼が光り輝き、極大のレーザービームを放つ。

 

それは遊馬達の意識を奪った時に使用した宝具だった。

 

「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!ムーン・バリア!!」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを取り込んで片翼を半月の形に展開し、カルナのレーザービームを防いだ。

 

「オレの宝具を防いだ……!?」

 

「馬鹿な……!?カルナ君の宝具を防ぐとは……!?」

 

「凄いわね……うちのカルナに匹敵する召喚獣なんて……本当に凄い」

 

希望皇ホープがカルナの宝具を防いだ事に、カルナ本人だけでなくエジソンとエレナも驚いていた。

 

「この瞬間、ホープ剣スラッシュの効果!攻撃が無効になる度にこのカードにホープ剣カウンターを1つ置く!希望皇ホープはホープ剣カウンターの数×500ポイントアップする!」

 

ホープ剣が描かれた小さな宝玉が現れて希望皇ホープの胸の宝玉に取り込まれ、攻撃力が上昇し、希望皇ホープの真紅の瞳が力強く輝く。

 

「どうだ!これが、俺たちの力だ!!」

 

自信満々に堂々と言葉を発する遊馬とその隣で静かに強い意志を瞳に宿すアストラル、そして二人の想いを背負っている希望皇ホープ。

 

「これが異世界の英雄達の力か……」

 

カルナは遊馬達のその姿に英雄と呼ぶに相応しい強い光を感じた。

 

遊馬は右手を高く掲げて全ての力を込める。

 

「カルナ!お前に見せてやるぜ、世界を越えた俺たちの絆の力を!」

 

右手が真紅に輝き、カオスの力を解き放つ。

 

「俺のターン!力を借りるぜ、璃緒……メラグ!!」

 

遊馬の隣に璃緒……バリアン七皇の紅一点、メラグの幻影が現れる。

 

メラグは後ろから遊馬の両肩に優しく手を置いて頷く。

 

「行くぜ、バリアンズ・カオス・ドロー!」

 

真紅に輝く右手でドローし、デッキトップに移動させたカードを発動させる。

 

「俺はドローしたこのカード、『RUM - 七皇の剣』を発動!このカードは通常ドローをした時に発動する事が出来る!エクストラデッキ、または墓地から『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』を特殊召喚して、そのモンスターをカオス化させる!」

 

眩い閃光と共に『103』の刻印が輝き、辺りに気温を一気に下がらせる吹雪が吹き荒れる。

 

「現れろ、No.103!全てを凍らせる戦乙女の氷結の刃が、神を葬る!『神葬零嬢ラグナ・ゼロ』!!」

 

吹雪の中から氷の剣を携え、神を葬る力を秘めた令嬢が姿を現わす。

 

「そして、神葬零嬢ラグナ・ゼロでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

神葬零嬢ラグナ・ゼロが赤い光となって天に昇り、光の爆発が起きる。

 

謁見の間が一瞬で冷たい氷原と化し、その中央に光の球体が現れる。

 

「現れろ、CNo.103!時をも凍らす無限の力が、今、蘇る!『神葬零嬢ラグナ・インフィニティ』!!」

 

光の中から氷の剣から神の命を刈り取る真紅の大鎌を携え、黒と紫の衣装を身に纏う美しき令嬢が現れる。

 

希望皇ホープとはまた異なる新たな神霊の戦士にエジソン達は驚愕する。

 

「更に魔法カード、『アームズ・ホール』!このターン、通常召喚出来ない代わりに、デッキトップを墓地に送り、デッキ・墓地から装備魔法を手札に加える!」

 

デッキトップを墓地に送り、デッキから装備魔法を手札に加えて発動する。

 

「装備魔法、『災いの装備品』を……カルナ、お前に装備する!」

 

不気味な顔の模様をした紫色の装備品が現れ、カルナに無理矢理装着される。

 

装備カードは自分のモンスターだけではなく、相手にも装備をすることが出来る。

 

「何だと!?」

 

「災いの装備品を装備したカルナの攻撃力は、俺のフィールド上に存在するモンスターの数×600ポイントダウンする。俺のフィールドには希望皇ホープとラグナ・インフィニティの2体で1200ポイントダウンする!」

 

災いの装備品から紫色の呪いのオーラがカルナに纏われ、神に匹敵するその力がダウンする。

 

「くっ……だが、この程度の呪いを受けたからとは言え、オレは敗れはしないぞ!」

 

カルナは災いの装備品で呪いを受けながらも全く怯んではいない。

 

「バトルだ!希望皇ホープとラグナ・インフィニティでカルナに攻撃!」

 

希望皇ホープは腰からホープ剣を抜き、ラグナ・インフィニティは大鎌を振りかぶり、カルナに攻撃を仕掛ける。

 

「ホープ剣・スラッシュ!インフィニティ・ジャッジメント!!」

 

希望皇ホープとラグナ・インフィニティの渾身の一撃がカルナに襲いかかり、二体の攻撃をまともに受け、その場からぶっ飛ばされて壁に大激突する。

 

「よっしゃあ!カルナに大ダメージだ!」

 

「……いや、遊馬!まだだ!」

 

「えっ?」

 

アストラルの忠告で遊馬は大激突した壁をよく見ると……。

 

「見事な攻撃だ。だが、そう簡単にオレは倒せんぞ」

 

瓦礫を薙ぎ払いながら擦り傷程度の損傷しか受けていないカルナが平然と現れた。

 

「う、嘘だろ……!?」

 

「インド神話ではカルナが纏う鎧は神々でも破壊は困難とされ、カルナを殺すことは出来ないと言われている。それがカルナの宝具になっていたら……!」

 

アストラルの推測は当たっていた。

 

カルナには究極の宝具とも言える太陽の輝きを放つ、強力な防御型宝具『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』。

 

それはカルナが纏っている黄金の鎧と耳輪で、強力な宝具の攻撃すらも余裕で防げると言うとんでもない宝具なのだ。

 

「長期戦になったらやべぇな……」

 

「ああ。私達が全力全開で挑めばまだ勝機はあるかもしれないが、今の状態だと難しい」

 

遊馬とアストラルが希望皇ホープの進化形態と奇跡の力を使えばまだカルナに勝てる可能性はある。

 

しかし、今の段階で全力全開で戦う事は後の戦いに影響を与えるかもしれない。

 

「俺たちが倒すべき相手はケルトだ。だったらここは……」

 

「戦略的撤退だな。遊馬、ラグナ・インフィニティの効果だ!」

 

「おう!」

 

遊馬とアストラルはこの戦争で生き残り、勝つ為の手段を選択する。

 

「頼むぜ、ラグナ・インフィニティ!」

 

遊馬の声にラグナ・インフィニティは反応するように真紅の瞳が怪しく輝き、大鎌を華麗に振り回して掲げる。

 

「カルナ、ちょっくら異次元に飛んでもらうぜ。ラグナ・インフィニティの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動!俺はカルナを選択!選択したモンスターの攻撃力と、その元々の攻撃力の差分のダメージを相手ライフに与える!」

 

ラグナ・インフィニティはオーバーレイ・ユニットを大鎌で切り裂いて取り込み、真紅の刃が光り輝く。

 

「この場合、カルナの主はエジソン。即ち……」

 

「エジソン!1200ポイントの効果ダメージを喰らえ!!」

 

「な、何と!?ヌォオオオオオオ!??」

 

大鎌から真紅の光線が放たれ、エジソンは避ける間も無く直撃し、後ろに吹き飛ばされる。

 

「エジソン!?」

 

「そして、選択したモンスターをゲームから除外する!カルナ、異次元の彼方にぶっ飛びな!!ガイダンス・トゥ・パーガトリィ!!!」

 

振り下ろした大鎌から巨大な斬撃が放たれ、カルナは槍を構えて斬撃を防ぐが、周囲の空間が大きく歪み、カルナの姿が消えた。

 

「カ、カルナ君!?」

 

「そんな、カルナが倒されたの!?」

 

エジソンとエレナはカルナが倒されて消滅したと思い、顔を真っ青にするがそれは誤りだった。

 

「心配しなくて良いぜ。カルナは少しの間だけ異次元にいるだけだからさ!」

 

デュエルモンスターズには『除外』と呼ばれるシステムがある。

 

墓地とは異なり、基本的に除外されたカードは除外に対応したカードを使用しない限りデュエルで使用することがほぼ不可能となり、かなり厄介である。

 

遊馬とアストラルは除外するカードをほとんど使ってこなかったが、これからの戦いで必要になると考えて相手を除外するためのカードをデッキに採用した。

 

しかし、ここで一つ疑問が出てくる。

 

敵として対峙したサーヴァントと戦う際、除外した場合にその相手はどうなるのか……下手をしたらそのまま除外され、異次元に取り残されるのではないかと危機感を感じた。

 

遊馬とアストラルはカルデアで練習用のエネミーを用意してもらい、そこで除外カードを実際に使用して実験を行ない、次のような実験結果を得た。

 

・除外された敵は一定時間経過後に元の場所に帰還される。

 

・敵の強さによって除外される時間は変化する。

 

・敵が強ければ強いほど除外される時間は短くなる。

 

・遊馬とアストラルがデュエルを終了、または中断してその場から立ち去った時点で除外の効果が終了して帰還する。

 

・空間を越える能力を持つスキルや宝具で異次元から帰還できる。

 

カルナをどれだけ除外出来るか不明だが、強力なサーヴァントを長時間の除外は不可能。

 

遊馬とアストラルは互いに顔を合わせて頷くと、遊馬はジェットローラーを起動して全員のフェイトナンバーズを掲げる。

 

「みんな、今すぐ撤退だ!!」

 

「ホープ!ラグナ・インフィニティ!先導して機械兵士を薙ぎ払え!」

 

遊馬はマシュ達をフェイトナンバーズに入れ、希望皇ホープとラグナ・インフィニティはアストラルの指示で機械兵士を薙ぎ払って扉を切り開き、出口への道を作る。

 

「エレナ!エジソンのおっさん!俺たちは自分の道を行く!だけど!」

 

遊馬はポケットから特異点先の通信用のD・ゲイザーを取り出してエレナに投げ渡した。

 

「えっ?」

 

D・ゲイザーを受け取ったエレナは目をパチクリさせて遊馬を見つめる。

 

「エレナ!もしもピンチになって、俺たちの力が必要になったらそいつで連絡してくれよ!じゃあな!」

 

希望皇ホープとラグナ・インフィニティが先導して飛び、遊馬はジェットローラーで城内を走り抜けてその隣をアストラルが飛ぶ。

 

エジソンは自分では逃げる遊馬達を捕まえることはできないと諦め、エレナは安全を保障する約束を守れなかったので何もせずにそのまま見逃した。

 

謁見の間には嵐の後のような静けさが広がり、そこに除外されたカルナが戻ってきた。

 

「おお!カルナ君、無事か!?」

 

「ああ……見たことのない空間にいたが、特に問題はない。彼らは……」

 

「逃げたわよ……これを残してね」

 

「エ、エレナ……!そのD・ゲイザーを私に渡してくれないかな……!?」

 

エジソンは調べてみたかったD・ゲイザーが目の前にあり、目を輝かせて手を伸ばすが、エレナはパッとその場から下がってポケットにしまう。

 

「ダメよ。エジソン、あなたは彼らに手を出さないでってお願いしたのに無視したじゃない」

 

「そ、それは……」

 

「だからこれは渡さないわ。遊馬が私の為に渡してくれたんだからね」

 

エレナは遊馬がやったようにD・ゲイザーを展開して左眼に装着する。

 

「へぇー、こんな感じなのね。面白いじゃない♪」

 

「エレナァアアアアアッ……私の霊フォンの夢がぁ……」

 

未知なる技術の結晶が詰まったD・ゲイザーがエレナが持って行ってしまい、エジソンはショックでその場で崩れ落ちる。

 

「ユウマ……アストラル……」

 

カルナは異世界から来た英雄と同じ輝きを持つ二人の名を呟き、その存在を心に刻みつけた。

 

 

遊馬とアストラルは希望皇ホープとラグナ・インフィニティの先導によって無事に城を脱出し、外に出ると同時にアストラルはかっとび遊馬号を皇の鍵から召喚する。

 

かっとび遊馬号は遊馬とアストラルを船内に搭乗させると、すぐに発進してその場から離脱する。

 

「遊馬、念の為に飛行船をステルスモードにするぞ」

 

「えっ?そんなことが出来るのか!?」

 

アストラルが手を伸ばし、かっとび遊馬号のシステムを操作すると、飛行船全体が透明となって地上から見えなくなる。

 

「この機能はダ・ヴィンチが飛行船の存在を知った後から少しずつ改良してもらい、追加してもらった」

 

「凄えな、流石はダ・ヴィンチちゃんだぜ」

 

「ノリノリでやっていたからな。他にも色々追加したらしい」

 

「それは後の楽しみってやつだな。あ、そうだ!みんなを出さなきゃ!」

 

遊馬はマシュ達をフェイトナンバーズから出し、初めてかっとび遊馬号に乗るナイチンゲールはとても驚いて機器や上甲板からの景色を見渡している。

 

「凄いです……これがユウマの言っていた飛行船ですか。これなら確かに何処へでもすぐに行けそうですね」

 

「それで、これからどうするのよ?アメリカ軍とは協力出来なくなったんだし、今後どうするか話さないとじゃない?」

 

レティシアの言う通りでこれからどうするのかすぐに話し合った。

 

するとアストラルは顎に手を添えて考える動作をしながら案を出す。

 

「みんな、一つ当てがある」

 

「当て?」

 

「フィンと戦った時、アメリカ軍でもない謎の軍隊がケルト軍を追い払った。フィンは彼らのことをレジスタンスと呼んでいた」

 

「レジスタンス……反乱軍って事か?」

 

「これは私の推論だが、もしかしたらそのレジスタンスに、エジソンが言っていたアメリカの各地に散らばっていると言うサーヴァントがいるかもしれない」

 

「そっか!アメリカ側に就きたくないサーヴァント達がケルトに対抗しているかもしれないからな!」

 

「では、散らばっているサーヴァント達に協力をお願いして戦力増強と情報収集と言う方向ですね」

 

「もちろん、患者の治療も行います」

 

マシュが今後の方針の内容をまとめ、それにナイチンゲールが更に要点を追加した。

 

話が決まったところで早速遊馬は舵を取り、かっとび遊馬号を発進させる。

 

アメリカ軍の拠点はナイチンゲールがある程度把握しているので、それ以外の小さな街に立ち寄る事にした。

 

アストラルとレティシアがいるのでサーヴァントの気配はある程度分かるので、それを頼りに探していく。

 

遊馬達は西部の小さな街を見つけ、そこにはサーヴァントの気配が複数あり、すぐに向かうことにした。

 

地上に降り、静かに街の入り口に入ると……。

 

「待て、何者だ?」

 

遊馬達の前に現れたのはナイフを持ち、褐色の肌に不思議な一本の縦線の白い模様を付けた男性サーヴァントだった。

 

遊馬は令呪を男性サーヴァントに見せると、すぐに遊馬がマスターだと知った。

 

「君がマスターなのか!?その隣にいるのは……まさか、精霊なのか……!?」

 

遊馬の隣にいる精霊のアストラルに驚愕し、敬意を払うかのようにその場で跪いた。

 

「あなた様のように強い力を放つ精霊は初めてお会いしました」

 

アストラルから放たれる力の波動を男性サーヴァントはその身で感じ取り、まるで信仰するかのような態度を示す。

 

「私はアストラル。異世界から来た精霊だ。君はサーヴァントだが、真名はなんと言う?」

 

レティシアは真名看破で分かっていたが、アストラルはあえて本人から真名を聞き出す。

 

「ジェロニモ……私の名はジェロニモと申します」

 

「ジェロニモ……アパッチ族の戦士だな」

 

ジェロニモ。

 

北米大陸における先住民族の一つ、アパッチ族の戦士。

 

妻子をメキシコ兵に殺され、その報復でメキシコ軍と戦い、その名を轟かせたインディアンの伝説的な指導者。

 

「なあ、ジェロニモ。俺たちは戦うつもりは無いんだ。まずは話を──」

 

「患者の気配がします!!!」

 

ナイチンゲールは遊馬の言葉を遮ってその場からダッシュして街の中へ突入する。

 

「ナ、ナイチンゲール!?」

 

「ナイチンゲール……!?それは本当か!?良かった、実は治療してもらいたいサーヴァントがいるんだ。あなたにお願いしたい」

 

「お任せください、その方を殺してでも救います!!」

 

とても安心できない言葉を残してナイチンゲールは走り去っていく。

 

「え、えっと……ジェロニモ。とりあえず、歩きながら話そうか?」

 

「そうだな……ところで少年、君の名は?」

 

「九十九遊馬。遊馬が名前だ、よろしくな!」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

遊馬達は歩きながらジェロニモと話をしていく。

 

ジェロニモはレジスタンスを率いるサーヴァントで他には二騎のサーヴァントが仲間として今は別の場所にいる。

 

レジスタンスは戦力不足で迂闊に動くことが出来ず、怪我を負っているサーヴァントを治療出来るナイチンゲールを迎えに行こうと考えていた。

 

そこに遊馬達がやって来たのでこれはレジスタンスにとって喜ばしいことだった。

 

「俺たちはケルトの奴らをぶっ飛ばして聖杯を確保する。そして、この時代を修正する。ジェロニモ、共闘してくれか?」

 

「もちろんだ。この時代を潰す訳にはいかないからな」

 

ジェロニモはエジソンと違い、ケルトを倒してこの時代を元に戻す事を考えていたので、遊馬達と共闘することを快く引き受けた。

 

すると……。

 

「あ、イタタタタ!き、貴様もうちょっと手加減できんのか!?余は心臓を潰されているのだぞ!」

 

重傷を負っているというサーヴァントが休んでいる家から大きな声が響き、その驚愕の内容に度肝を抜きながら遊馬達は急いで中に入る。

 

そこではナイチンゲールが治療を開始しており、治療対象であるサーヴァントは……。

 

「あれ?お前は……」

 

そこにいたのは遊馬と同じぐらいの年齢の少年で、かなりの美形で燃えるような紅く長い髪をしていた。

 

その少年を遊馬が見覚えがあり、すぐに駆け寄った。

 

それはこの特異点に来る前に夢で見た謎の少年だった。

 

「おい、お前!大丈夫か!?」

 

遊馬は少年の胸元を見て目を見開いて驚愕した。

 

それはあまりにも酷い傷で心臓が半端抉られている状態で生きていることが不思議だった。

 

「お前は……マスターか?フッ……余と同じぐらいの子供ではないか」

 

「そんなことはどうでもいいんだよ。お前、名前は?」

 

「余はラーマ……コサラの偉大なる王である!」

 

ラーマ。

 

インドの二大叙事詩の一つ、『ラーマーヤナ』の主人公である。

 

「お前もインドのサーヴァントだったのか。なぁ、あの子はいねえのか?」

 

「あの子……?誰の事だ……?」

 

「えっと、お前にそっくりで紅い髪を左右に縛っている女の子だよ」

 

次の瞬間、ラーマは血相を変えて起き上がり、遊馬の胸ぐらを掴んだ。

 

「貴様!?シータを……シータを知っているのか!?」

 

「シータ……?」

 

「我が妻、シータだ!!余は、シータに会うために……!!」

 

遊馬はその言葉でラーマの抱く想いを察知し、優しい笑みを浮かべてラーマの手を退かせる。

 

「そっか、あの子はお前の奥さんか。ちゃんと事情を話すから大人しく聞いてくれ。じゃねえと……そこにいる婦長さんがいい加減ブチ切れるぜ?」

 

ラーマが振り向くとそこには……鬼のような恐ろしい形相を浮かべ、拳銃とメスを構えて問答無用に激痛を伴う治療を行おうとしているナイチンゲールがいた。

 

幾千の戦いを繰り広げたラーマですら肝を冷やし、大人しく遊馬から離れてベッドに横たわった。

 

「まずは事情を聞かせてくれ。俺たちに出来る事なら何でも協力するからさ。そのシータって子の事も」

 

「す、すまない……」

 

ラーマは冷静さを取り戻し、ナイチンゲールの治療を受けながら説明をするのだった。

 

 

 




アメリカ軍を脱出してやっとレジスタンスに合流したので、次回はサーヴァント達と合流ですね。

早いところラーマとシータを再会してもらって幸せになってもらわないと……!

あの二人はちびちゅきだと離別の呪いがないので幸せなんですよね。


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ナンバーズ120 まだ見ぬ仲間を求めて

すいません、少し忙しくて更新が遅れました。
お盆前はやっぱり色々やることが多いですね。
次回は頑張って土日には更新します!


インド神話のサーヴァント、ラーマの抉れた心臓をナイチンゲールが全力で治療している間、遊馬と話をする。

 

「悪いけど、俺はお前の奥さんのシータが何処にいるか分かんねえんだ」

 

「じゃあ何故お前がシータを……?」

 

「実はこの世界に来る前に夢を見たんだ。日が登らない果てしない湖が広がる世界でお前とシータの二人を見たんだ」

 

「何だと……?夢で……?」

 

「あと、変なのを見たんだけど……猿みたいな、邪悪なオーラが見えて、二人に呪いがかかってるって言ってたんだ。えっと……確か、二人はもう喜びを分かち合うことは出来ない……永遠にその呪いは解けないって……」

 

遊馬の言葉にラーマは目を覆い隠すように右腕を被せた。

 

「少し、長い話になる……」

 

ラーマは遊馬達に静かに語り始めた。

 

それはラーマが主人公として物語を描かれる『ラーマーヤナ』。

 

ラーマーヤナは神々をも使役する羅刹の王・魔王ラーヴァナに連れ去られたシータを取り戻す為に、ラーマが戦う物語。

 

ラーマはシータを取り戻すために十四年間も戦い、遂に魔王ラーヴァナを倒すことができた。

 

しかし、彼はその過程で致命的な失策を犯してしまった。

 

猿同士の戦いに介入し、味方の猿スグリーバを手助けする為に敵対していた猿バーリを殺した際、ラーマは背中から騙し討ちにしたのだ。

 

卑怯な行為に怒ったバーリの妻はラーマに呪いを掛けた。

 

『貴方はたとえ后を取り戻すことができても、共に喜びを分かち合えることはない』

 

シータを取り戻したが、不貞を働いてるのではないか……そういった疑念が民に広まり、ラーマもまた疑ってしまった。

 

そうしたばかりに、シータと永遠に引き離されてしまった。

 

「その呪いは英霊になったこの身でも、余とシータを引き裂いている……同時に召喚されることはない、聖杯戦争でもそれは叶わない……」

 

「そんなに強い呪いなのかよ……」

 

「恐らくは沖田の病弱と同じように抗えないスキルとして英霊の座の霊基に刻まれているのだろう……そうやって二人が一緒になれないように……」

 

「だが、この特異な状況の聖杯戦争なら可能性が……余はこの目で見ていないが、余には分かる……シータはこの世界の何処かで囚われている……!!」

 

ラーマは拳を強く握りしめてそう断言する。

 

それは互いが深く愛し合っている夫婦だからこそ分かる不可視の絆だった。

 

「お前とシータの事情は分かった。それはそうと、その心臓の重症はどうしたんだよ?誰にやられた?」

 

「相手は……クー・フーリン。アイルランド最強の英霊だ」

 

ラーマが対峙したサーヴァントの名に遊馬達は驚愕する。

 

「──何だって?これ、クー・フーリンのゲイ・ボルグにやられたのか!?」

 

「そうだ。シータの居場所を知るために、クー・フーリンと刃を交えた時に……」

 

「……ラーマ、これを見てくれ。お前と戦ったのはこれに描かれたこいつか?」

 

遊馬はクー・フーリンの2枚のフェイトナンバーズをラーマに見てもらった。

 

「そ、そうだ、その──いや、違う。余が戦ったクー・フーリンとは少し違う。余が見たのは雰囲気がもっと禍々しく、身体中に刺青が刻まれていた……」

 

ラーマが対峙したクー・フーリンと遊馬達の仲間であるクー・フーリンとは姿が違っているようだった。

 

念の為にカルデアに確認してもらったところ、クー・フーリンはカルデアにおり、食堂で他のサーヴァントと共に食事している姿が確認された。

 

「うーん?つまり、俺たちの知るクー・フーリンの兄貴とは別人?」

 

「偽物……とは考えにくい。ラーマを追い詰め、尚且つゲイ・ボルグで心臓を抉ったからな」

 

「となると、つまり……」

 

遊馬とアストラルは考えを巡らせて周りを見渡すと、一人の人物に視線が集中する。

 

「「あ!」」

 

「な、何よ……」

 

それはレティシアだった。

 

マシュと清姫も遊馬とアストラルの考えに気づいてポンと手を叩いた。

 

「そうだ、そうだよ!オルタナティブだよ!」

 

「それだな、それが一番可能性が高い!」

 

「つまり、ラーマさんが出会ったクー・フーリンさん……それはクー・フーリンさんではなく、オルタナティブの存在ってことですね!」

 

別側面、もう一つの可能性……それらによって存在する反転した英霊・オルタナティブ。

 

目の前にいるレティシアも元々はジャンヌの反転した存在と仮定して聖杯から生まれたジャンヌ・ダルク・オルタであり、カルデアにいるアルトリア・オルタやランサー・アルトリア・オルタもアルトリアの反転した存在として誕生した。

 

今までの特異点での体験から考え、ある結論に辿り着く。

 

「つまり……この特異点を引き起こした可能性があるケルトのリーダーが聖杯に願ってクー・フーリンのオルタナティブを召喚した、って事だな」

 

遊馬達はケルト軍に現れたクー・フーリンをクー・フーリン・オルタと名付ける。

 

「さて……ひとまずクー・フーリン・オルタの話はこの辺にしておいて、今後我々がどう動くか話し合おうか」

 

アストラルが話の進行役となり、遊馬達とレジスタンスが協力して今後どう動くか話し合う。

 

現状はケルト軍が優勢でアメリカ軍が劣勢……アメリカには規格外のサーヴァントのカルナがいるが、ただでさえサーヴァントの数が少ないのでこのままではアメリカ軍が敗北する可能性が高い。

 

遊馬達も出来ればアメリカ軍に協力したいが、大統王のエジソンの歪んだ思想には同意出来ず、協力は出来ない。

 

中々良い案が出来ず悩んでいるとレティシアはボソッと呟いた。

 

「ケルトの親玉を倒せば話は早いんだけどね……」

 

「それはつまり……暗殺、という事か?」

 

戦争ではそれを起こしている親玉を倒せば自然と軍が崩壊し、戦争に勝利することが出来る。

 

確かに暗殺は効果的……かもしれないが、今まで実践も考えもしたことのない案なので、遊馬はものすごく不安になる。

 

「暗殺か……そう簡単に上手くいくのかな……?」

 

「それならカルデアにいる本職に聞けば良いのでは?」

 

「本職?ああ、なるほど!」

 

遊馬はカルデアに連絡して暗殺の本職……アサシンクラスのサーヴァントに意見を求めた。

 

数あるアサシンクラスのサーヴァントの中で最も暗殺者の名に相応しい人物に連絡を取ると……。

 

「ダメだ、絶対にやめた方がいい」

 

「即答ですか、キリツグさん……」

 

それは魔術師殺しの異名を持つエミヤキリツグだ。

 

デュエルディスクに追加した機能でカルデアと通信する際に遊馬だけでなくみんなにも話が聞こえるようにソリッドビジョンシステムを利用して、カルデアにいるキリツグの姿を映し出して話すことができる。

 

キリツグはこの暗殺の問題点を客観的に指摘していく。

 

「たしかに敵の頭を叩くのは大規模な戦争においては効果的だが、今回は問題点が山ほどある。まずは情報不足だ。敵の戦力や拠点の位置や構造など暗殺に必要な情報が圧倒的に欠けている。これでは行き当たりばったりな暗殺になって成功率が格段に下がる」

 

確かに情報があまりにも不足している。

 

アメリカ軍とケルト軍の戦いが複雑化して上手く情報を入手出来ない状況なのだ。

 

「二つ目は敵戦力があまりにも未知数だ。詳細は不明だが大量に生まれる兵士達だけでも厄介だ。そして、文献を見るだけでもゾッとする化け物揃いのケルト神話のサーヴァント……どいつもこいつもステータスやスキルも宝具も並大抵のものでは無いだろう。万が一見つかりでもして戦闘になったらこちらも無事では済まない」

 

ケルトの無限に生まれる兵士たちに一騎当千のケルトの英霊達……あまりにも敵戦力の大きさや未知数に暗殺の成功率が更に下がる。

 

「三つ目、これはあくまで僕の直感だが……敵側にインド神話のサーヴァントがいる可能性もあるアメリカ側にインド神話のカルナがいた。もしかしたら、抑止力として敵側にもそれに匹敵するサーヴァントが召喚されていても不思議では無い。カルナの力を映像で見たが、あんな化け物はまともには太刀打ちができない。そんな奴が敵の頭の側にいたりしたらそれこそ暗殺は不可能だ」

 

聖杯戦争では強大な力に対して抑止力としてそれの天敵か、同等の力を持つサーヴァントが呼び出される事もある。

 

例を出すなら第一特異点のフランスでファヴニールに対抗するために召喚されたジークフリートだ。

 

「四つ目、ターゲットである敵の頭が聖杯を持っているなら、今までの特異点の敵の傾向から考えて持っているだけでなく、体内に取り込んでいる可能性もある。仮に暗殺が成功しても、最後の最後でとんでもない願いを込めて聖杯が暴走して敵味方問わず、甚大な被害をもたらすことも考えられる」

 

事実、第一特異点でジルが聖杯の力を使って宝具の力を暴走させたり、第二特異点ではレフが聖杯でアルテラを召喚し、第三特異点ではメディア・リリィが聖杯でイアソンを魔神柱にした。

 

キリツグの話を聞けば聞くほど暗殺への不安が募っていく。

 

「……仮にキリツグさんとかのアサシンクラスのサーヴァントを使っても難しいか?」

 

「難しいだろうな。まだ敵の頭の正体は不明だが、女王らしいとの情報だろう?王族なら自分が暗殺される事も考えているはずだ」

 

「だよなぁ……」

 

アストラルやマシュ達もこれでは暗殺は不可能と察し、やむなく暗殺の案は諦めることとなった。

 

「これはあくまで僕の提案だが、やはり情報収集を徹底した方が良いと思う。この広大なアメリカで適したサーヴァントを知っている」

 

そう言ってキリツグが推薦したサーヴァントは……。

 

「と言うわけで、アメリカ軍とケルト軍の情報収集を頼むぜ。百貌のハサンの皆さん!」

 

「「「ハッ!」」」

 

カルデアから呼んだのは一騎で八十人以上の存在となっているアサシンクラスのサーヴァント、百貌のハサン。

 

アメリカは広大でアメリカ軍とケルト軍、二つの軍勢を一度に情報収集をする為に百貌のハサンは適任だった。

 

「十人単位のチームに分かれて行動して、それぞれのチームリーダーにD・ゲイザーを渡すからそれで記録を残してくれ。それから、絶対に敵サーヴァントと戦うなよ。必ず生き残って帰る事!良いな?」

 

「「「ハッ!承知しました!」」」

 

「散!!!」

 

百貌のハサンの代表格でもあるポニーテールの女性のハサン、通称・アサ子の命令でハサン達は一斉に散って情報収集へと向かう。

 

「情報の方はハサン達に任せて、俺たちはどうするか……」

 

遊馬がこれからどうするか悩んでいるとアストラルは静かに隣に立つ。

 

「遊馬、君の心は既に決まっているのではないか?」

 

遊馬のことを誰よりも理解しているアストラルは遊馬の心の中の望みを見抜いていた。

 

心の中の望みを見抜かれ、遊馬は苦笑いを浮かべながら頭をかく。

 

「……そうだな。あははっ、やっぱりアストラルには敵わないなぁ」

 

「私は君の一番の相棒だからな。そうと決まったら早速行動に移すぞ」

 

「おう!」

 

遊馬とアストラルはみんなの元へ戻り、遊馬は自分の考えを伝える。

 

「百貌のハサンのみんなが情報を集めている間に俺は出来ることをしたい。ナイチンゲール、ラーマの心臓の傷はどうなってる?」

 

ラーマの抉れた心臓の傷を治療しているナイチンゲールだがその表情は悔しそうなものだった。

 

「残念ながら、この少年の治療は叶いません。先ほど修復したはずの心臓が既に十パーセント以上損傷しています。底の抜けたバケツ……ほどには酷くはないですが、絶えず治療し続けなければ、すぐに死に至るでしょう」

 

「先ほどドクターに連絡してどうすれば良いか聞きましたが、呪いを解くにはその原因であるクー・フーリン・オルタを倒すのが一番ですが、それは難しいでしょう……」

 

現在、ラーマの心臓はナイチンゲールが治療を続けなければ損傷し続けるほど呪いがとても強い。

 

「ですが、ラーマさんの奥さん、シータさんに会えば治療の効果が上がると言ってました!」

 

「…… ふむ。ラーマは現在召喚されているサーヴァントの中では疑いようもなく最強だ。万全の状態であればカルナが相手でも五分の戦いを繰り広げるだろう」

 

シータに会えばラーマを救える可能性が高くなり、ラーマが万全の状態となればカルナとも互角に戦える。

 

遊馬は頷いて決心がつき、この戦争で生き残り、勝ち抜く為に今始めることを決めた。

 

「よし!それじゃあ、シータを探しながら各地に散らばっているサーヴァントを仲間にして戦力を整えよう!」

 

遊馬達の目的が決まり、全員が頷いて同意すると早速行動を開始する。

 

「移動は飛行船を使おう。ナイチンゲール、君は船内でラーマの治療を頼む」

 

「分かりました。船内なら移動しながらでも治療が可能ですので助かります」

 

「ラーマ、奥さんに会わしてやるから死ぬんじゃねえぞ。来い、かっとび遊馬号!」

 

遊馬は皇の鍵に触れ、上空に待機していたかっとび遊馬号を呼び出す。

 

「なっ……!?空飛ぶ船だと……!?」

 

「これは……なんて見事な……!」

 

ラーマとジェロニモはかっとび遊馬号に驚愕し、早速二人を連れて船内へと入れる。

 

船内には簡易ベッドを用意してあるのでそこにラーマを寝かせてナイチンゲールが治療の続きをする。

 

「よし、それじゃあまずはどこに行くか!」

 

「それなら私の仲間のサーヴァントの元へ向かおう」

 

ジェロニモには同じレジスタンスの仲間である二人のサーヴァントがいる。

 

「オッケー、早速会いに行こうぜ!かっとび遊馬号、発進!」

 

遊馬は舵を取り、かっとび遊馬号を発振させてジェロニモの仲間がいる街へと向かう。

 

 

ジェロニモの案内で二人のサーヴァントがいる街へと向かうが、その街から煙が登っていた。

 

「火事!?襲撃を受けているのか!?」

 

「ナイチンゲールはこの場でラーマの治療を続けてくれ。私たちは地上に降りて戦闘だ!」

 

「患者がいたらすぐに教えてください。彼を担いで向かいます!」

 

「待て!それは流石に恥ずかしいぞ!?」

 

今の重症のラーマの言葉はスルーし、遊馬達はかっとび遊馬号から地上に降りて街に突入する。

 

街の中心では二人のサーヴァントがケルト兵を相手に戦闘していた。

 

二人とも男性のサーヴァントで、一人は緑の衣装に身を包み、右腕に弓を装着しているサーヴァントでもう一人は黒い服を着た二丁拳銃を構えたサーヴァント。

 

「二人とも無事か!」

 

「ジェロニモ!おっ、まさか援軍を連れてきてくれたのか!?」

 

「女子供ばかりだけど……ああ、女の子はみんなサーヴァントだ。子供はマスターで……えっ!?」

 

「なんか隣に精霊がいるし……どんな組み合わせだ?」

 

二人のサーヴァントは遊馬達の不思議な組み合わせに疑問に思っているが、遊馬達は話は後にしてまずは目の前の敵を倒すことに集中する。

 

「俺は九十九遊馬!こっちは相棒のアストラル!話はこいつらを全員ぶっ飛ばしてからだ!」

 

遊馬達はケルト兵に特に苦労する事もなくあっという間に全て一掃すると、その実力に二人のサーヴァントは感心した。

 

「いやー、中々やるね。あんたら」

 

「本当だね。あっという間にケルト兵を片付けるなんて」

 

「ジェロニモが連れてきたんなら信用出来るな。オレはロビンフッド。クラスはアーチャー。それで隣のコイツが──」

 

ロビンフッド。

 

シャーウッドの森に潜んだと言われる義賊で森の狩人。

 

「何だ、あっかやら明かしちゃうんだ。ズルいなあ、それじゃあ僕も明かさない訳には行かないか。僕はウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。人呼んで──ビリー・ザ・キッド!」

 

ビリー・ザ・キッド。

 

アメリカ西部開拓時代の代表的なアウトローで拳銃王の異名を持つ伝説のガンマン。

 

日本でも有名な森の狩人と拳銃王に遊馬の目が感動と尊敬の眼差しをする。

 

「す、凄え!伝説の狩人にガンマンが二人一緒に揃うなんて!」

 

「そんなに感動しなくても……」

 

「なんかちょっと恥ずかしいね」

 

子供の純粋無垢な視線にロビンフッドとビリーは苦笑いを浮かべた。

 

その後、アストラルとマシュが現状を二人に説明している間にかっとび遊馬号からラーマを背中に背負ったナイチンゲールが飛び出して街の住人が怪我をしていないか診察を行なう。

 

「……なるほどねえ。このラーマって子を治療して、他のサーヴァントを仲間に引き入れて戦力を拡充する。だけど、暗殺はやった方がいいんじゃねえのか?汚れ仕事ならオレが手を貸すぜ?」

 

「無限湧きする連中が相手だからね。暗殺の方が確実だと思うけど」

 

二人は無限に現れるケルト兵を抑えるためにも暗殺を勧めるが遊馬は首を左右に振る。

 

「ダメだ。そんな事をして仲間を危険な目に合わせられない。ケルト兵相手なら……最悪、俺とアストラルの力で全滅させる……!」

 

その力強い言葉にロビンフッドとビリーもハッタリではなく確証があると察知し、ひとまずはその意見に従うことにした。

 

「だから今のうちに出来るだけ早く仲間を集めたい。二人共、ケルトではないサーヴァントの情報は無いか?」

 

「僕の知り合いは召喚されてないみたい」

 

ビリーはいないと言うが、対するロビンフッドは気まずそうな表情を浮かべている。

 

「ロビンフッド、どうしたんだ?」

 

「ああ、その……何つーか、ビリーと合流する前にさ、会ったんだわ。セイバーとランサーに。うん、まあ……セイバーとランサーだけどね?」

 

「セイバーとランサー……?あっ!」

 

その二つのクラスに遊馬は思いつき、デッキケースから二枚のカードを取り出してロビンフッドに見せる。

 

「なあなあ!それって、この二人のことか!?」

 

「ちょっ……!?何でお前があの二人のカードを……!??」

 

ロビンフッドはそのカードに描かれた二人のサーヴァントに驚愕し、遊馬はニッと笑みを浮かべる。

 

「この二人は大切な俺の仲間だ!ロビンフッド、案内してくれ!」

 

「へぇ、あの二人を仲間って呼ぶか。お前、中々肝が据わってるね……」

 

ロビンフッドはそのセイバーとランサーの事を知っているので、その二人を仲間と呼ぶ遊馬のマスターとしての評価が上がる。

 

 

 




この小説では暗殺の案が無くなりました。
FGO本編を見たときから感じていましたけど、有能なアサシンいないのにメイヴの暗殺は難しくね?と思ったので。
各地の仲間を集めて、シータを探しに行きます。
次回はセイバーとランサーと合流して、あの女好きのダメ大人なおっさんとのバトルになります。


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ナンバーズ121 白薔薇と常夜の姫たちの夢の舞台!開幕、ジョイント・リサイタル!!

もうタイトルからして不安しかないですよね(笑)
ある意味Fateで最恐の二人がコンビを組んで最高のステージをやります!


ロビンフッドの案内で遊馬達はセイバーとランサーに会いに向かう。

 

かっとび遊馬号でひとっ飛びで向かう中、ロビンフッドは未だに嫌な表情を浮かべて露骨に会いたく無いアピールを出していた。

 

「もしかして、ロビンフッドは二人とどっかの聖杯戦争で戦ったのか?」

 

「あー、まぁ、そんな感じだな……セイバーの方はちょっと違うみたいだが、あの二人とは腐れ縁でな……」

 

戦い以外で何か大きな苦労をしたらしく、ロビンフッドは大きなため息を吐き続ける。

 

「ふーん。あ、もうすぐ到着だ。やっと迎えに行けるぜ」

 

案内された街へと到着し、地上に降り立つと異様な光景が広がっていた。

 

「ケルト兵が弱っている……?」

 

街の入口あたりにケルト兵が大勢いたが、今までとは異なり、とても弱っていた。

 

弱っているのでとりあえずケルト兵達を全て倒したが……。

 

「こ、この歌声は……」

 

「フォ、フォウ……」

 

街の中央から歌声が響き渡り、マシュとフォウはそれに聞き覚えがあり、気分が悪くなって思わず耳を塞いだ。

 

他の者達もその歌声に気分が悪くなっていき、特にロビンフッドは今すぐこの場から逃げ出したい気分だった。

 

ただ一人を除いては……。

 

「あはははっ!相変わらず良い歌じゃねえか!」

 

「「「ええっ!??」」」

 

遊馬だけが笑顔で腕を組んでウンウンと頷いているのでみんなが驚いてその場で思いっきり引いた。

 

そう……遊馬だけが聞いた者の殆どが理解できないであろうその歌の良さを理解しており、遊馬はこの歌を響かせる主の元へと向かい、マシュ達も渋々向かうのだった。

 

「♪ハートがチクチク 箱入り浪漫♪それは乙女のアイアンメイデン♪愛しいアナタを閉じ込めて♪串刺し血濡れキスの嵐としゃれこむの♪浮気はダメよ、マジ恋ダメよ♪アタシが傍にいるんだからネ?」

 

声は綺麗だが物凄く物騒な歌詞を歌っているのは自称アイドルのドラ娘サーヴァント、エリザベート。

 

ロビンフッドが出会い、遊馬達が探していたランサーである。

 

「おーっす、エリちゃん!」

 

「あら?マスターじゃない!こんなところでどうしたの?」

 

エリザベートはいつものゴスロリドレスではなく、ピンクを基調とした華やかなドレスを着用していた。

 

「どうしたって、エリちゃんがカルデアからいなくなったから迎えに来たんだよ」

 

「そうなの?でもまだ帰れないわ。私はやることがあるのよ!何しろここは欲望に肥え太ったブタ達の集う芸能地獄。その名も──ブロードウェイ!なのだから!」

 

「ブロードウェイ?あのミュージカルの?」

 

「そうよ!そこは輝ける娯楽の殿堂。なんだなキラキラした天上の表現大国……ま、今はまだただの田舎町だけど。このアタシが、ここをブロードウェイと定めたのよ!アメリカでかちがあるのはこことあそこだけ。ふふ。アタシには見えるわ。このアタシの歌声に聴き惚れたブタたちが、一人また一人と押し寄せて──やがてここにはアタシ専用ステージとアタシ専用の劇場とアタシ専用の映画館がビルディング。まさに登りきれない魔塔として君臨するでしょう。他に必要なものは──そうね、彫像よ!このアタシの美しさを限りなく忠実に再現した、全長五百メートルの超・彫像!トマトを片手に高らかに歌う鮮血の女神として、血で血を洗うアイドル界に終止符を打つの!」

 

エリザベートは頰を染めて自分が描く夢……と言う名の妄想を力強く語り出し、マシュやロビンフッド達は呆れ果てていた。

 

しかし、遊馬だけは違っていた。

 

「相変わらずスケールデケェな、エリちゃんは。でもさ、今アメリカはヤバイ状況なんだよ。このままだとアメリカそのものが滅ぶんだぜ?」

 

「ええっ!?よ、よく考えればここは特異点だったわね……アメリカに浮かれていて忘れていた」

 

「エリちゃん、もし俺たちに付いて来てくれるなら今のエリちゃんに足りないものを埋めてやるぜ」

 

「ア、アタシに足りないもの!?な、何よ、それは!?」

 

エリザベートは自分に足りないものがあると指摘され、たじろぎながら遊馬に尋ねる。

 

遊馬はデッキケースから5枚のカードを取り出し、空いている片手でビシッとエリザベートを指差す。

 

「エリちゃんに足りないもの、それは……演奏家だ!」

 

ガーン!!!

 

エリザベートは強烈なショックを受けた。

 

「え、演奏家!?」

 

「そうだ!エリちゃんは歌や振り付けやダンスを頑張っているが、バックで演奏してくれる演奏家が誰もいない!宝具で大っきなアンプを出せるけど、生演奏には敵わないぜ!」

 

「くっ、確かにそうだけど……楽器を演奏出来るサーヴァントなんてアマデウスぐらいしか思いつかないわよ!それにあいつ、アタシの歌をダメ出しするし!」

 

「それじゃあ、エリちゃん!最高にホットでクールな奴らを紹介するぜ!」

 

「え!?ここにいるの!?」

 

エリザベートの期待が膨らみ、遊馬はデュエルディスクに先ほど出した5枚のカードを並べて一度に召喚する。

 

「ギター!『弦魔人ムズムズリズム』!」

 

ダブルネック・ギターを巧みに操り、口に薔薇を咥えたキザな黒猫の魔人。

 

「ドラム!『太鼓魔人テンテンテンポ』!」

 

大中小の様々なドラムを楽しそうに叩きまくる少年魔人。

 

「トランペット!『菅魔人メロメロメロディ』!」

 

宙に浮く大きなトランペットに乗る少女魔人。

 

「キーボード!『鍵魔人ハミハミハミング』!」

 

美しい黄金のグランドピアノを鮮やかに演奏するもう一人の少女魔人。

 

「そして、魔人達の演奏を完璧なハーモニーへと導く指揮者……マエストロ!『交響魔人マエストローク』!」

 

マーチングバンドのドラムメジャーの格好をし、レイピアの形をした指揮棒を持つ青年魔人。

 

「見たか、エリちゃん!これが俺の音楽魔人だぜ!」

 

今ここに、遊馬のもう一つのエクシーズ軍団『音楽魔人』が集結した。

 

音楽魔人は師匠・六十郎から譲り受けた決闘庵秘伝のデッキにあったモンスターエクシーズで、ナンバーズ使いではない……いわゆる一般人デュエリスト向けのモンスターエクシーズとして使っていた。

 

「お、音楽魔人、ですって……!?」

 

エリザベートは頭に自分と同じような魔物の角が生えた音楽魔人達に親近感を覚えると、マエストロークは指揮棒を構え、それに続いてムズムズリズム達が楽器を構える。

 

そして、一斉に演奏が始まり、ダブルネック・ギター、ドラム、トランペット、キーボードの異なる音が奏でられるが……。

 

「み、耳が……!!」

 

「フォウ〜……!!」

 

指揮者がその音楽は一応ハーモニーを奏でているが、エリザベートの歌と同じように聞く者の耳を破壊させる超音痴破壊兵器と同等の怪音波を出していた。

 

それもそのはず、あまり害のないように見えるが仮にも彼らは『魔人』……彼らが奏でる音色は聞く者にダメージを与える怪音波となっているのだ。

 

「いやー、相変わらず良い音楽だな!」

 

「……君のセンスはたまに理解ができない」

 

ただし、マスターである遊馬だけは別で何故かその怪音波を気に入っており、アストラルは理解不能だった。

 

そして……その曲を聞いたエリザベートは……。

 

「素晴らしいわ!なんて素敵な演奏なの!!」

 

当たり前と言うか、必然と言うか、大絶賛だった。

 

エリザベートは目を輝かせながら音楽魔人達に近寄り、一人一人に握手をして自己紹介をする。

 

「はじめまして!アタシはエリザベート=パートリーよ!アナタたちの演奏、とても素晴らしかったわ!そこでお願いがあるの……アタシの専属の演奏家になって!一緒に天上の舞台へ上り詰めましょう!!」

 

エリザベートはすぐに音楽魔人達を気に入り、自分の専属の演奏家になってもらえるように頼み込んだ。

 

すると、音楽魔人達は互いの顔を見ると頷いて笑顔で楽器を鳴らした。

 

『『『『『イェーイ!』』』』』

 

音楽魔人達もエリザベートを気に入り、すぐに了承したのだ。

 

「音楽魔人のみんな、これからよろしくね!」

 

「さてと!演奏家が決まったところでエリちゃん!もう一人の仲間を迎えてアメリカ横断ツアーと洒落込もうぜ!」

 

「アメリカ横断ツアー!?うんうん、ブロードウェイを立ち上げる前に私と音楽魔人の素晴らしさを広げておくのも良いかもしれないわね。もう一人の仲間って……もしかして!」

 

「ああ!エリちゃんのダチだぜ!俺と一緒に組めば最強無敵だぜ!」

 

「そうね!マスターとあの子が一緒ならアメリカを……いいえ、世界だって狙えるわ!そうと決まったら早く迎えに行ってリハーサルよ!」

 

「オッケー!かっとび遊馬号は上で待機しているからすぐに行こうぜ!」

 

遊馬とエリザベートは互いにグッドサインを見せながら一緒に歩いていく。

 

「嘘だろ……あのドラ娘とあそこまで息のあった会話が出来るなんて……」

 

苦労人であるロビンフッドはエリザベートの性格を知っているが故に遊馬の異常さに戦慄した。

 

「何故あんなにもエリザベートさんと仲が良いのでしょう……」

 

「知らないわよ……」

 

「エリザベートさん……後で燃やしてあげますわ……」

 

マシュとレティシアと清姫はエリザベートに対して嫉妬の炎がメラメラと燃えていた。

 

さて、ここで一つ疑問が出てくる。

 

何故遊馬とエリザベートがあんなにも友人のように仲が良いのか。

 

遊馬とエリザベートの年齢が近いこともあるが、二人には共通して似たところがある。

 

それは……目立ちたがり屋だ。

 

遊馬は多少ではあるがこれでもWDCのチャンピオンなので他人からちやほやされたい願望があり、エリザベートは日本のアイドルを志しているので当然ファンにちやほやされたい願望がある。

 

更には不協和音の音楽魔人を使う遊馬と超音痴破壊兵器のエリザベート……そんな二人の性格が合うのはもはや必然なのだ。

 

ある意味最恐のマスターとサーヴァントのコンビに戦慄の恐怖を抱きながらマシュ達は遊馬とエリザベートの後を追う。

 

 

エリザベートのいた街から少し離れた場所の街では二人のサーヴァントが戦闘を繰り広げていた。

 

一人は純白の花嫁衣装を身に纏うローマ皇帝、ネロ。

 

もう一人はケルト神話の赤枝騎士団筆頭にしてアルスターの元王、フェルグス。

 

ネロは無人の街で何か大きな計画を立てていたが、そこにフェルグスが現れた。

 

フェルグスはネロを殺しに遥々とやって来て、すぐに二人は戦闘を始めた。

 

しかし、生粋の武人であるフェルグスにネロは徐々に追い詰められていく。

 

それだけではなく、ネロは現在はぐれサーヴァントで魔力を供給出来ていないので魔力が少なくなっていき、まともに動けなくなっていたのだ。

 

このままではフェルグスに敗北してしまう未来は簡単に予想ができ、ネロは大きな決断に迫られる。

 

「くっ、仕方ない……!」

 

ネロは生き残る為、残り少ない魔力を使って宝具を使おうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムーン・バリア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネロの前に大きな影が空から降り立ち、フェルグスの攻撃を防いだ。

 

「何っ!?」

 

「ネロから離れろや、おっさん!!」

 

その直後に大きな影の背中から小さな影が降り立つと、フェルグスの剣を弾き返し、強烈な蹴りがフェルグスの腹部に炸裂する。

 

そのままフェルグスをぶっ飛ばし、小さな影がネロの前に姿を現わす。

 

「無事か、ネロ!」

 

「あっ、あぁ……!お主は……!」

 

ネロは戦闘中ではあるが思わず涙が溢れそうになるほど歓喜した。

 

「全く、来るのが遅いぞ……ユウマ!」

 

それはネロがこの世で最も愛する男……九十九遊馬だった。

 

「百貌のハサンから連絡があって、ホープに乗って、すっ飛んできたんだ」

 

今から数分前、エリザベートのいた街を出たその時にアメリカの各地へと情報収集を行なっている百貌のハサンの内の一つのチームからネロが敵サーヴァントに襲われていると連絡があり、遊馬は居ても立っても居られずに希望皇ホープを召喚して全速力で飛んだ。

 

かっとび遊馬号よりも希望皇ホープで飛んだ方が早く、遊馬が一足先にネロを助けに来たのだ。

 

「にしても、まさかあんただとはな……フェルグス!!」

 

原初の火をソードホルダーにしまい、デュエルディスクを構えた遊馬はフェルグスを睨みつけた。

 

「俺を知っているこか?だが俺はお前のことは知らぬが?」

 

「あんたは知らなくても俺は知ってる。一度戦ったことがあるからな。女好きのダメ大人のフェルグス!」

 

監獄塔で戦った時にあまりにも女体を求めるその姿に遊馬はフェルグス=ダメ大人のイメージがついてしまった。

 

「うっ、うぅ……まさかいきなりダメ大人と言われるとは……」

 

初対面の子供からダメ大人扱いされるとは思いもよらずフェルグスも少し心が傷ついてしまった。

 

「どうせあんたの事だから、ネロを奪いに来たんだろうけど、ネロは俺の大切な仲間だ!絶対に手出しはさせない!!」

 

「ユウマ……!」

 

遊馬はネロを庇うように立つと、ネロは遊馬が自分を守ってくれる事と、俺のものだから手を出すなと言っているように聞こえてしまい、ただでさえベタ惚れのネロが益々遊馬に惚れてしまうのであった。

 

一方、フェルグスは遊馬とネロの仲を敵とは言え微笑ましいと思いながらもすぐに真剣な表情を浮かべて剣を構える。

 

「確かにネロは素晴らしい女だ。是非とも口説いて抱きたいぐらいにな。だが、今回は違う。俺は女王の命により、殺しに来たのだ」

 

「女王……ディルムッドとフィンの言ってた奴と同じか」

 

「少年、ユウマと言ったか?お前のような将来有望な男を若いうちに摘むのは心苦しいが、恨むなら俺だけを恨め」

 

フェルグスはネロだけでなく遊馬も敵として認識して排除する事に決めた。

 

歴戦の騎士の殺気が向けられるが、遊馬は臆する事なく不敵の笑みを浮かべる。

 

「それはどうかな?俺は絶対に殺されないし、俺には最高の仲間達がいるからな!」

 

遊馬が空に向かって指差すと空気を震わせる轟音を響かせながらかっとび遊馬号が現れた。

 

船内からアストラルとマシュ達がワープで一斉に降り立ち、遊馬の周りに集結する。

 

「待たせたな、遊馬」

 

「お待たせしました!」

 

「おう、ナイスタイミングだぜ!」

 

「ネロ!来たわよ!」

 

「おお、エリザベート!貴様も来ていたか!」

 

ネロとエリザベートは再会に喜んでいると、フェルグスは一気に戦力が逆転されて考え込む。

 

「ふむ。流石にこの数で戦うのは無謀か」

 

「降参してもいいんだぜ、おっさん」

 

「──は、まさか。ならば、こちらも遠慮なく女王の力を借りるとするか!出て来い、誇り高き戦士達よ!」

 

フェルグスの呼び声に街中に隠れていたケルト兵達が一斉に現れてフェルグスの後ろに控えた。

 

「十対一では流石に勝てぬが、百対十ならそれなりに拮抗するだろう」

 

「みんな、フェルグスの宝具はかなり厄介だ。気をつけろよ!」

 

遊馬はフェルグスの戦いを体験しているのでそれを伝えながら対処しようとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いが、そいつとの戦いは俺に譲ってもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇ましく凛とした声が響いた次の瞬間、遊馬のデッキケースから藍色の光が飛び出してフェルグスに向かった。

 

フェルグスは向かってきた藍色の光から真紅の槍が鋭く飛び出し、剣で防ぐとその正体に驚愕する。

 

「お、お前は……!?」

 

「よう、久しぶりじゃねえか……叔父貴!」

 

それはアイルランドの光の御子、クー・フーリンだった。

 

「ク、クー・フーリン!?何でお前が!?」

 

遊馬は突然クー・フーリンが現れたことに驚くと、すぐにその答えが返ってきた。

 

「あぁん?ちょいと俺の偽物が暴れまくってるって話を聞いてよ。折角だから俺も暴れてやろうと思ってな……その手始めに、叔父貴と派手に戦おうと思ってな!」

 

「フッ……まさか、ここでお前と相見えることになるとはな。久しいな、クー・フーリン!!」

 

フェルグスはクー・フーリンに再会したことに歓喜し、狙いを遊馬達からクー・フーリンに向ける。

 

フェルグスはクー・フーリンの叔父であると同時に養父でもあり、二人は友でもあった。

 

そんな二人の再会に楽しく酒を酌み交わしたいところだが、今は敵同士として戦わなければならない。

 

「マスター!叔父貴は俺がやる!他の奴らは任せた!!」

 

「はははっ!久々にやり合おうぞ、クー・フーリン!!」

 

クー・フーリンはフェルグスを弾き返すと街から飛び出し、フェルグスもその後を追う。

 

残った遊馬達はクー・フーリンの言葉に従ってケルト兵を相手する。

 

すると、エリザベートは何かを思いついたようにネロに話しかける。

 

「ねえ、ネロ。さっきマスターと話していたんだけど、私達でアイドルコンビを組まない?」

 

「何?アイドルコンビだと!?」

 

「そうよ。実はね、さっきマスターから素敵な演奏家達を紹介してもらったのよ。だから……後は、ネロがいれば最高なのよ!マスターもそれを望んでいるから!」

 

「何と!?ユウマもそれを望んでいると!?それなら喜んでエリザベートとアイドルコンビを組もう!」

 

「そう来なくちゃね、よろしく頼むわ!ネロ!」

 

「こちらも頼むぞ、エリザベート!」

 

ネロとエリザベートが固い握手を交わすと、遊馬のデッキケースから2枚のフェイトナンバーズが飛び出した。

 

それはネロとエリザベートのフェイトナンバーズでそれぞれから光が帯びると、新たなカードが誕生し、遊馬の手の上に静かに降りた。

 

「これは……!?ネロとエリザベート、二人の絆が生んだ新たな力だ!」

 

それはフェイトナンバーズの新たな可能性だった。

 

フェイトナンバーズは遊馬とサーヴァントの絆、サーヴァント自身の心の成長により新たな力を誕生させる。

 

今回はネロとエリザベートが結んだ友の絆によって新たな力が誕生したのだ。

 

遊馬は希望皇ホープを消すと、すぐにそのカードをデッキに入れて空中に浮いているネロとエリザベートのフェイトナンバーズを持つ。

 

「ネロ、エリザベート!二人の初ライブ、行こうぜ!」

 

「分かった!任せたぞ、ユウマ!」

 

「頼むわよ、マスター!」

 

ネロとエリザベートをフェイトナンバーズに入れ、遊馬はデュエルディスクの機能でデッキをシャッフルしてデッキトップからカードを5枚ドローして手札にし、デッキトップに指を添える。

 

マシュ達がケルト兵を抑えている間に遊馬はデュエルを開始する。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『オノマト連携』!手札を一枚墓地に送り、デッキから『ドドドバスター』と『ガガガマジシャン』を手札に加える!更に魔法カード『二重召喚』!このターン、通常召喚を二回行える!」

 

これで準備は整い、ここから怒涛の連続召喚が始まる。

 

「自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札からドドドバスターを特殊召喚し、レベルを4にする!次にガガガマジシャンを召喚!」

 

これでレベル4のモンスターが二体揃い、次の召喚に移る。

 

「更に『クレーンクレーン』を召喚!その効果で墓地からレベル3モンスターを特殊召喚出来る!来い、『ガガガカイザー』!」

 

先ほどのオノマト連携で墓地に送ったガガガカイザーが蘇り、これでレベル3のモンスターも二体揃った。

 

「行くぜ、俺はレベル3のクレーンクレーンとガガガカイザーでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

クレーンクレーンとガガガカイザーが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「轟け、雷鳴!響け、歌声!魅惑の音色で暗き世界を明るく照らせ!現れよ、『FNo.91 雷竜魔嬢 エリザベート』!!!」

 

『No.91 サンダー・スパーク・ドラゴン』の姿形を模したエレキギターを持つエリザベートが派手な演奏を奏でながら召喚される。

 

「イェイ!さあ、どんどん盛り上げていきましょうか!!」

 

「エリザベートの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、次の自分のスタンバイフェイズ時まで、相手フィールド上の全てのモンスターは効果を発動出来ず、攻撃することが出来ない!」

 

エリザベートはオーバーレイ・ユニットを一つ食べ、口から電気が溢れていく。

 

「『竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)』!私の魅惑の歌声に酔いしれなさい!」

 

エリザベートの口から声と共に電撃が響き渡り、ケルト兵達の動きを一時的に止めた。

 

ケルト兵達が止まっている間に遊馬はもう一人のアイドルを呼び出す。

 

「次はこいつだ!レベル4魔法使い族のガガガマジシャンとレベル4戦士族のドドドバスターでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとドドドバスターが光となって床に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「炎のようにその心を熱く燃やし、真紅の薔薇の如く、絢爛豪華の舞台に舞い降りろ!!現れよ!『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』!!」

 

未来皇ホープのプロテクターを装着したネロが現れ、そこから更にネロのもう一つのフェイトナンバーズを重ねる。

 

「かっとビングだぜ、俺!このカードは手札1枚を除外し、自分フィールドの『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』をエクシーズ素材として、エクシーズ召喚することができる!!」

 

手札のカードを1枚除外し、『FNo.0 薔薇の皇帝 ネロ・クラウディウス』の上に光り輝くフェイトナンバーズを重ねた。

 

「アナザー・コスチューム・エクシーズ・チェンジ!!!」

 

ネロは祈るように手を組み、光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きると純白に輝く白薔薇の花吹雪が吹き荒れる。

 

「孤高なる魂の皇帝よ、純真無垢な白薔薇の美しき光を纏いて夢と願いの式場に舞い降りろ!現れよ!『FNo.0 白薔薇の花嫁 ネロ・ブライド』!!」

 

ネロはこの特異点で召喚された時と同じ花嫁衣装のブライドモードへと衣装をチェンジした。

 

「ネロの効果!このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキからフィールド魔法を1枚選択して発動出来る!」

 

そして……遊馬は先ほど誕生した新たな力を秘めたカードを手札に加えて発動する。

 

「行くぜ、フィールド魔法発動!ネロ、エリちゃん、頼むぜ!」

 

「行くぞ、エリザベート!」

 

「ええ!思いっきり行くわよ、ネロ!」

 

二人はハイタッチを交わすと魔力が満ち溢れ、共に切り札の宝具を同時に発動する。

 

「春の陽射し、花の乱舞。皐月の風は頬を撫で、祝福はステラの彼方まで !開け!『招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)』!!」

 

ネロは白薔薇を取り出して上に投げ、原初の火を床に突き刺すと巨大な魔法陣が展開され、黄金劇場を創り出す。

 

「アタシ達最高の歌を聴かせてあげるわ!『鮮血魔城(バートリ・エルジェーベト)』!!」

 

エリザベートはエレキギターを弾き鳴らし、背後に巨大アンプに改造した生前の居城を召喚する。

 

二人の宝具が発動し、ここで遊馬が発動したフィールド魔法のカードが光り輝くと、二つの宝具が渦巻き状となって一つに合わさり、新たなフィールドと言う名の特設舞台が誕生する。

 

「ネロとエリちゃんの夢の舞台!現れろ!『ジョイント・リサイタル』!!」

 

ネロとエリザベートを中心に眩い光が放たれ、マシュ達も思わず一瞬だけ目を閉じた。

 

そして、マシュ達がすぐに目を開けるとそこには……薄暗い空間が広がっていた。

 

ケルト兵達は一箇所にまとめられて何が起きたのか分からず困惑していると、天井からライトが点灯し、二人の主役を照らし出す。

 

「よくぞ、来たな!皆の者!余とエリザベートの初ライブに!」

 

「今日はみんなを死ぬほど痺れさせてあげるからね!覚悟しなさい!」

 

ネロとエリザベートはテンションが最高潮に上がっており、満面の笑みでステージに立っていた。

 

その後ろには遊馬が静かに立っており、ネロとエリザベートの間に向かって歩く。

 

「さあ、二人共、準備はいいか?」

 

「うむ!」

 

「もちろんよ!」

 

「よし!ジョイント・リサイタルの効果!自分フィールドに『ネロ』Xモンスター及び『エリザベート』Xモンスターがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのモンスターは戦闘・効果では破壊されず、相手モンスターの攻撃力・守備力は半分になる!」

 

空間全体に光が灯るとそこはまるでアイドルが歌って踊るような巨大なドーム型の劇場となっていた。

 

元々ネロの黄金劇場は固有結界ではないがそれに近い領域の宝具だったが、エリザベートの鮮血魔城と遊馬の力が一つになった事でランクアップを果たし、ネロとエリザベートの願望として現代のステージを思い浮かべて固有結界として完成したのだ。

 

ネロとエリザベートはそれぞれが光の粒子を纏うと、踊りやすいように衣装が更に可愛らしく変化した。

 

一方で観客でもあるケルト兵達の力が半減され、その場で崩れ落ちていく。

 

一方マシュ達は突然連れてこられた固有結界に呆然としていたが、ハッと気付いてすぐに近くの壁を叩いた。

 

「だ、出して!今すぐここから出してください!!」

 

「フォフォウー!」

 

「ああもう!なんてところに閉じ込めるのよあいつらは!?」

 

「お願いします!今回はネロさんとエリザベートさんを焼かないから出してください!」

 

「いかんな……とてつもなく嫌な予感がする……」

 

「ちくしょう!何でよりにもよってこんなことになったんだよ!?」

 

「人生でここまで恐怖に震えたのは初めてだよ……」

 

出口はどこにも存在せず、マシュ達は必死に壁を壊そうとしたがネロとエリザベート、そして遊馬の力が一つに合わさったこの劇場を壊せるわけがなかった。

 

その強度はたとえアルトリアの約束された勝利の剣でも破壊は不可能であろう。

 

マシュ達は逃げられないがアストラルは緊急退避で自ら粒子化して皇の鍵の中に入り、難を逃れた。

 

一方でノリノリな遊馬達は準備を着々と進める。

 

「ジョイント・リサイタルの更なる効果!1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を選択して発動出来る。自分のエクストラデッキから『魔人』Xモンスターを任意の数だけ墓地に送る!」

 

遊馬はデッキケースから全ての音楽魔人を選択して墓地に送ると、遊馬達の背後に音楽魔人達が現れる。

 

「墓地に送った音楽魔人は5体!その数×500ポイントの攻撃力をアップし、相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃する事が出来る!」

 

「ネロ、任せたわよ!」

 

「任された!」

 

ネロは原初の火を軽やかに振り回して掲げると音楽魔人達から放たれる光を集めると、その力を最高潮に高める。

 

「これでネロの攻撃力は2500+500×5で5000だ!」

 

原初の火が光り輝くと剣から純白に白薔薇の飾りが施されたスタンドマイクへと形を変える。

 

「マスター、歌に集中するから頼むわよ!」

 

エリザベートはエレキギターを遊馬に渡し、ネロとの初めてのライブで歌に集中するためにスタンドマイクを構える。

 

遊馬はエレキギターのベルトを肩にかけてピックを構える。

 

「あまり上手くは出来ないと思うけど、精一杯やらせてもらうぜ!」

 

全ての準備が整い、遂にネロとエリザベート……白薔薇と常夜の姫達の(悪夢)のコラボライブが始まる。

 

「待たせたな、観客達よ!」

 

「アタシとネロの初ライブ!記念すべきファーストソングは……」

 

ネロとエリザベートはビシッと指をさして宣言するように曲名を言う。

 

「「BRAVING!」」

 

遊馬と音楽魔人の演奏が始まると同時にネロとエリザベートの歌が始まる。

 

シリアス調ながらも見えない未来から希望を探し出すと言う、曲名の意味などから遊馬のかっとビングを連想させる歌だった。

 

ネロとエリザベートは二人共とんでもない音痴だが、一緒に歌えることを心の底から喜び、密かにカルデアで練習していたことからその歌声は美しいハーモニーを奏でていた。

 

しかし、ここで忘れてはいけないのはライブではあるが、あくまでこれは攻撃である。

 

いくらネロとエリザベートの歌が良かろうとも、それは最恐の音波攻撃となり、観客席にいるケルト兵達を悶絶させて次々と倒していく。

 

そして……敵ではなくその攻撃の対象ではないマシュ達は……。

 

「み、耳が、悪夢の歌がぁ……」

 

「フォウ〜……」

 

「ああ、もうダメ……ジャンヌ……いいえ、お姉ちゃん……素直になれなくて、ごめんなさい……」

 

「あぁ、意識が朦朧としてきました……こんなことならもっと早く旦那様との夜這いを……」

 

「まさか歌でここまで追い詰められるとは……」

 

「い、言わなきゃ良かった……全力で逃げるべきだった……」

 

「不思議だね……天国への階段が見えるよ……」

 

思わず死をも覚悟してしまうほどの歌にマシュ達は追い詰められ、遺言を残すものもいた。

 

そして、歌は終わりを迎え、ライブの終焉の時を迎える。

 

「さあ、名残惜しいがこれで終幕だ!」

 

「今度は来世で聞きなさい!!」

 

ネロはスタンドマイクを振り回すと元の原初の火と戻り、エリザベートと共に柄を持って掲げる。

 

「「謳え!『星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)』!!」」

 

二人一緒に振り下ろした原初の火から純白の白薔薇の花弁の花吹雪と共に眩い閃光が放たれる。

 

放たれた閃光の輝きによりケルト兵達は倒され、全て消滅した。

 

それはケルト兵との戦いが終わると同時に初ライブの終わりを意味していた。

 

「終わった……いや、終わってしまったな」

 

「ええ。でも最高の初ライブだったわ!やっぱり、アナタは最高よ。ネロ!」

 

「お主もな、エリザベート!」

 

二人は再びハイタッチを交わそうとしたが、もう一人の立役者が名乗り出る。

 

「おいおい、俺を忘れるなよ!二人共、最高のライブだった。感動したぜ!」

 

「おお、ユウマ!すまない、お陰で最高のライブが出来た!」

 

「ありがとうね、マスター!」

 

遊馬とネロとエリザベートは今度は三人でハイタッチを交わした。

 

ちなみに、マシュ達は気絶して会場の隅で倒れてしまい、死屍累々の状態となっていたが、それに気がつくのはこの後すぐである。

 

 

 




ネロとエリザベートの歌に皆さんノックダウン(笑)
普通ならほぼ全てのマスターは止めたり嫌がりますが、音楽魔人を扱う遊馬はむしろノリノリな設定にしました。
その結果は大惨事ですが(笑)

今回のカードはこれです。

『ジョイント・リサイタル』
フィールド魔法
このカードは自分フィールドに『ネロ』Xモンスター及び『エリザベート』Xモンスターがいる時に発動出来る。
自分フィールドに『ネロ』Xモンスター及び『エリザベート』Xモンスターがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのモンスターは戦闘・効果では破壊されず、相手モンスターの攻撃力・守備力は半分になる。
1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を選択して発動出来る。自分のエクストラデッキから『魔人』Xモンスターを任意の数だけ墓地に送り、対象モンスターはその数×500ポイントの攻撃力をアップし、相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃する事が出来る。この効果を使用したエンドフェイズ終了時、自分はこの効果で除外したカードの数×500ポイントのライフを失う。
自分フィールドに『ネロ』Xモンスターもしくは『エリザベート』Xモンスターがフィールドから離れた場合、このカードは墓地に送る。

ネロとエリザベート、そして音楽魔人の力を結集した悪夢のステージをイメージしました。
癖はありますが面白い感じに仕上がりました!

次回は書けたらいよいよシータとの再会になるかもしれません。
頑張って書きます!


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ナンバーズ122 数多の竜を統べる漆黒の皇后

夏の水着イベントが年々とんでもないことになっていて目が点になってしまいます。
レースに同人イベントにカジノ……うん、レース以外は遊馬くんの教育によろしくありませんね(笑)
レースはまだ漫画版でライディングデュエルをやってたので良いですが。
あ、カジノはラッキーストライプがいるから大儲けできそう(笑)

まあ、夏イベやるなら一番最初の無人島ですけど。


ネロとエリザベートの夢のライブが終わり、歌で気絶して倒れていたマシュ達を起こして急いでクー・フーリンの元に向かった。

 

クー・フーリンとフェルグスの対決は終わりを迎えようとしていた。

 

「真の虹霓をご覧にいれよう!『虹霓剣(カラドボルグ)』!!」

 

フェルグスの大地を螺旋状に穿つ宝具が放たれ、クー・フーリンはゲイ・ボルグで受け止めるが、防ぎ切ることが出来ずに投げ飛ばされる。

 

実はクー・フーリンとフェルグスの間には誓約が交わされており、それは戦場で相見えたときには勝敗を交互に譲り合うもので、この戦いにおいてはクー・フーリンは確実に負けるのだ。

 

クー・フーリンは地面に横たわっており、フェルグスは剣の切っ先を向ける。

 

「クー・フーリン、この戦いは俺の勝ちだな」

 

「ああ、俺の負けだ……」

 

クー・フーリンは素直に己の負けを認めたが……。

 

「だが、俺のフェイトナンバーズの戦いは終わってねえ」

 

「何?」

 

「来い、クー・フーリン!!」

 

駆けつけた遊馬の手にはクー・フーリンのフェイトナンバーズが握られ、横たわっているクー・フーリンの体が粒子となって入り込む。

 

遊馬のフィールドには予め召喚していた

レベル7のモンスターが二体揃っている。

 

「レベル7のガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

レベル7となったガガガマジシャンとガガガシスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「神秘の魔術を操りし戦士よ、戦況を切り開く一手を決めろ!現れよ、『FNo.7 神秘の魔術師 クー・フーリン』!!」

 

地面から幾つもののルーン文字が現れ、その中心からフードを被った魔法使いの姿をしたクー・フーリンが現れ、その姿にフェルグスは驚愕した。

 

「何!?クー・フーリン、その姿はキャスタークラスか!?」

 

「その通りだ、叔父貴。うちのマスターのお陰だ。あいつは面白え奴だからな!さあ、取っておきだ……ルーン魔術の真髄を見せてやるぜ!」

 

「クー・フーリンの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスターを破壊する!!」

 

クー・フーリンは杖を振るい、無数のルーン文字が現れて宙を舞うと炎の竜巻の中から現れたのは、火炎を身に纏う無数の枝木で構成された巨人だった。

 

「『焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!!」

 

クー・フーリンは杖を振るい、ウィッカーマンを操作して巨人の拳を振り下ろした。

 

「くっ!?」

 

フェルグスはその場で高く飛び、巨人の拳を回避した。

 

しかし、巨人の拳は地面を殴り、土煙が舞って視界を遮った。

 

「マスター!!」

 

「ああ!このカードはクー・フーリンをエクシーズ素材にして、エクシーズ召喚する事ができる!!」

 

遊馬は『FNo.7 神秘の魔術師 クー・フーリン』の上にもう一枚のフェイトナンバーズを重ね、クー・フーリンが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「クラス・コンバート・エクシーズ・チェンジ!信念と義の武人よ、戦地を駆け抜け、朱槍を煌めかせろ!現れよ、『FNo.7 光の御子 クー・フーリン』!!」

 

キャスターからランサーのフェイトナンバーズへとクラスチェンジを行い、光の爆発から現れたクー・フーリンは左手にある三つのダイスを遊馬に投げ渡す。

 

「マスター!」

 

ダイスを受け取った遊馬はフェイトナンバーズとなったクー・フーリンの召喚時の効果を発動する。

 

「クー・フーリンの効果!このカードが特殊召喚に成功した時、3つのダイスを振る!そして、出た目の合計×100ポイント、攻撃力と守備力を上げる!」

 

遊馬は3つのダイスを投げ、3つのダイスは4、5、6を出した。

 

「ダイスの合計は15!攻撃力は1500ポイントアップする!」

 

「マスター、一気に決めるぜ!」

 

「クー・フーリン……分かった!」

 

遊馬はクー・フーリンの想いに応えてバトルを行わずにすぐに効果を発動する。

 

「クー・フーリンの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、相手モンスターの効果を無効にして破壊する!」

 

クー・フーリンはゲイ・ボルクにオーバーレイ・ユニットを取り込ませると、禍々しい真紅の輝きを放つ。

 

「終わりだ……叔父貴!その心臓、貰い受ける!『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』!!!」

 

真名解放と共に放たれた真紅の槍は因果逆転の呪いにより、心臓に槍が命中した結果を作り、槍を放つ事でその矛先はフェルグスの心臓を穿つ。

 

「ゴフッ……!?み、見事……!」

 

フェルグスは逃れられない一撃により心臓を貫かれ、そのまま地面に叩きつけられる。

 

「見事だ、クー・フーリン……完敗だ」

 

「久々にあんたと戦えて嬉しかったぜ……叔父貴」

 

クー・フーリンとフェルグスは互いを健闘を称え、そこに遊馬達が駆け寄る。

 

「クー・フーリン!」

 

「おう、マスター!終わったぜ!」

 

クー・フーリンは遊馬の頭をわしゃわしゃと掻き、フェルグスは遊馬を見つめる。

 

「良きマスターに出会えたようだな……」

 

「お陰様でな」

 

「……クー・フーリンよ、聞け。この戦の首謀者……ケルトの頭はお前を死に追いやったあの女王だ」

 

フェルグスは女王の名を明かさなかったが、それだけでクー・フーリンは誰なのかすぐに分かった。

 

「……チッ、あの女か。全く生前と変わらず面倒な奴だ。それで、俺の偽物がいるらしいじゃねえか。強えのか?」

 

クー・フーリンは女王が召喚したと思われ、自分の偽物であるクー・フーリン・オルタについて聞いた。

 

「……強い。狂王とも呼ぶべきあの男はお前ですら凌駕するほどの力を持っている」

 

「俺をも凌駕するだと……!?」

 

本物であるクー・フーリンですら凌駕する力を持つクー・フーリン・オルタ……フェルグスの嘘のない真実に遊馬達は戦慄する。

 

「クー・フーリン……近々、お前に深い縁のある者が来るだろう」

 

「俺に深い縁?」

 

フェルグスはその者の名を敢えて明かさないが、どうやらクー・フーリンにとって深い縁のある人物もサーヴァントとして召喚されているらしい。

 

「その者と再会したその時の、お前の驚いた顔を是非とも見てみたいが、それも叶わぬ事だ……」

 

「叔父貴……」

 

フェルグスは安らかな表情を浮かべて消滅し始めた。

 

消滅する前に遊馬はフェルグスに聞きたいことがあった。

 

「フェルグス!一つ教えてくれ!赤い髪をした女の子、シータって言うんだけどその子を知らないか!?」

 

遊馬はラーマの代わりにシータの情報を聞き出そうとした。

 

「シータ……?赤い髪の女子なら見たことはある」

 

「何処だ!?」

 

「……ふむ、いいだろう。女王が立てた作戦の中でもあれは不快なものの一つだからな」

 

フェルグスはクー・フーリンと戦えたことの喜びと女王の作戦に不快があった事を踏まえて素直にシータの情報を伝えたい。

 

「西へ戻れ。アルカトラズ島。そこにシータという女子がいるかも知れん」

 

「アルカトラズ島って、あのアメリカで有名な脱獄不可能って言われた監獄島!?」

 

「信じるも信じないも、お前達次第だ」

 

「……分かった、フェルグス。あんたは女好きだけど、嘘をつかない奴って何となく分かるからさ」

 

「……本当に面白い少年だ。クー・フーリンよ、この少年を死なすなよ?将来がとても楽しみだ」

 

「当たり前だ。叔父貴、また会おうぜ」

 

「ああ……また会おうぞ、我が友よ!クハハハハ!!」

 

フェルグスはクー・フーリンとの再会を願いながら消滅した。

 

地面にフェイトナンバーズが置かれ、クー・フーリンは拾い上げるとそのまま遊馬に投げ渡す。

 

「頼むぜ、マスター。叔父貴は面白え男だからな」

 

「おう。そう言えばクー・フーリンの女好きって、もしかして叔父さん譲り?」

 

叔父と甥で女好きという共通点から遊馬はそう考えたがクー・フーリンは真っ先に反論する。

 

「んなわけあるか!?ケルトの男はだいたいあんな感じなんだよ!!女でもやべえ奴は大勢いるしよ!!」

 

「そうなの?大丈夫かよ、ケルト神話の皆さん……」

 

遊馬はケルト神話の人たちの異常さの一端を知りつつ、頭を切り替えてネロに話しかける。

 

「ネロ、話はマシュ達から大体聞いたな?」

 

「もちろんだとも!ここにハリウッドを築こうと思ったが、ユウマが戦うのならば余も共に行こう!そして、エリザベートとアメリカ横断ツアーで歌と名声を轟かせるのだ!!」

 

「その意気よ、ネロ!初ライブは成功したし、この調子でどんどん行きましょう!」

 

『『『お願いだからヤメテ(ください)!!!』』』

 

マシュ達はこれ以上自分たちの精神が崩壊して消滅しないようにネロとエリザベートの無自覚な凶行を止めようと心に誓った。

 

しかし、本来ならば止めるべき存在であるマスターの遊馬もノリノリで加担しているので説得はほぼ不可能。

 

全力で阻止するか、全力で逃げるか……マシュ達にはそれしか方法は無かった。

 

 

かっとび遊馬号に戻った遊馬達はシータの情報をラーマに伝えるが、居ても立っても居られないラーマは予想通り、飛び出して行こうとした。

 

しかし、そこはナイチンゲールの鬼のような形相を浮かべながらアサシンの如くラーマを捕獲し、無理矢理ベッドに寝かせてロープでぐるぐる巻きにして動けなくする。

 

とりあえず遊馬はアルカトラズ島の近くにいる百貌のハサンに連絡して情報収集をしてもらい、すぐにアルカトラズ島に向けてかっとび遊馬号を発進させた。

 

数十分後にアルカトラズ島から離れた浜辺に到着し、そこで合流した百貌のハサンから情報を聞く。

 

アルカトラズ島には刑務所があり、そこへ通ずる道にはワイバーンが多く配置されていた。

 

D・ゲイザーの望遠モードで確認したところ、ボヤけてあまりよく見えないが刑務所の前に一人のサーヴァントと思われる者が門番のように座っていた。

 

それだけならまだ良いが、刑務所の中には巨大な竜種が眠っていた。

 

「巨大なドラゴンって言ってもファヴニールほどじゃないと思うけどな」

 

「だとしても、これでは飛行船でアルカトラズ島には近づけられないな。この飛行船には武装が一切備わってないからな」

 

かっとび遊馬号こと皇の鍵の飛行船はあくまで世界各地と異世界を渡るために作られたものなので、武装は一切備わっていない。

 

遊馬とアストラルも思い入れのある大切な飛行船を兵器にはしたくないので、武装は今後も付けることはない。

 

「それじゃあ海を渡って正面から堂々と行きますか!」

 

「では、ブラック・コーン号で行きますか?」

 

マシュは第三特異点でアストラルが召喚した船のナンバーズ、『No.50 ブラック・コーン号』を思い出した。

 

「いや、今回はワイバーンが一斉に襲ってくることも考えられる。ブラック・コーン号よりも攻撃性のあるナンバーズを呼ぶ」

 

アストラルは新たなナンバーズを遊馬に渡す。

 

「なるほどな、こいつか……よし!みんな、これで海を渡って行くぜ!」

 

遊馬は召喚条件に必要なモンスターを召喚し、海を渡るためのモンスターを呼び出す。

 

「レベル4のモンスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

海にモンスター達が光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こすと、海が震えて轟音が鳴り響く。

 

「大海を切り裂け、革命の戦艦!世界を震撼させ、勝利の砲弾を撃ち鳴らせ!!」

 

海中から大きな影が浮き上がり、勢い良く浮上して水飛沫を巻き上げた。

 

「出撃せよ!『No.27 弩級戦艦 - ドレッドノイド』!!」

 

海から現れたのは世界各地にも配備されている巨大な近代戦艦だった。

 

戦艦の上部には沢山の大砲が備わっており、迎撃も充分に可能だ。

 

「す、凄いです!これならワイバーンが襲ってきても対処出来ます!」

 

「よし!みんな!ドレッドノイドに乗り込め!」

 

遊馬に続いてマシュ達も意気揚々とドレッドノイドに乗り込む。

 

「おいおい、何者なんだよあの少年は……規格外にも程があるでしょう……」

 

そんな遊馬の姿を見て、それなりに聖杯戦争をくぐり抜けたロビンフッドはここまで規格外なマスターは初めてだとため息をついてしまった。

 

ドレッドノイドに乗り込み、船長である遊馬の指示でアルカトラズ島に向けて発進した。

 

すると、見たことない物体が近づいてきて興奮させたのか、アルカトラズ島からワイバーン達が一斉に襲いかかってきた。

 

「遊馬、迎撃だ!」

 

「分かってる!ドレッドノイド、主砲用意!!」

 

ドレッドノイドに備わっている主砲が自動で動き、空を飛んで向かってきたワイバーンに向けて照準を合わせる。

 

「ドレッドノイドキャノン、撃ぇっ!!!」

 

ドレッドノイドの主砲から一斉にレーザービームが発射され、ワイバーン達を次々と撃退していく。

 

流石にドレッドノイドだけに任せるわけにはいかないと、ロビンフッドとビリーが甲板に出てアーチャークラスとしての威厳を出すために弓矢と二丁拳銃でワイバーンを狙撃していく。

 

ドレッドノイドとロビンフッドとビリーのお陰で無事にアルカトラズ島に上陸することが出来、ワイバーン達もあらかた片付ける事が出来た。

 

ドレッドノイドを消し、遊馬はデッキをシャッフルして再びデュエルディスクを起動させると……。

 

『グォオオオオオオオオッ!!!』

 

アルカトラズ刑務所から咆哮が轟いた。

 

建物内から飛び出したのは報告にあった巨大な竜種だった。

 

「来やがったか!」

 

遊馬はすぐに竜種を倒そうとしたが、レティシアが前に出た。

 

「レティシア?」

 

「遊馬、あいつは私にやらせて!」

 

「えっ!?」

 

「元竜の魔女として、あいつを倒す!じゃないと、竜皇の巫女なんて名乗れないでしょ?」

 

これはレティシアのドラゴンを愛するが故の譲れないプライドであるが、遊馬はレティシアの意思を尊重してカードを引く。

 

「分かった。行くぜ、レティシア!俺のターン、ドロー!魔法カード『増援』!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加え、自分フィールドにモンスターがいない時、手札から『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚!更に『ゴゴゴゴーレム』を通常召喚!レティシア!」

 

「頼むわよ、遊馬!」

 

レベル4のモンスターが2体並び、レティシアを呼ぶと漆黒の炎を放ってドラゴンの頭を狙って直撃した。

 

炎と煙で目くらましをすると遊馬の元へ走り、光の粒子になりながらフェイトナンバーズに入る。

 

「レベル4のフォトン・スラッシャーとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

二体のモンスターが光となって地面に吸い込まれると、光の爆発と同時に漆黒の炎が吹き荒れる。

 

「新たな生を受けし黒き炎を纏いし乙女よ、数多の竜の加護をその身に受け、未知なる未来を突き進め!現れよ、『FNo.62 竜皇の巫女 レティシア』!!」

 

現れたのは銀河眼の光子竜皇を模した装甲を装着したレティシアで召喚されると同時に美しい銀河の輝きを放つ半透明な双翼を展開して空を飛ぶ。

 

「レティシアの効果!エクシーズ召喚に成功した時、エクストラデッキからドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターエクシーズを3枚選択し、ランダムに1枚選択したカードをレティシアの装備カードにする!レティシアの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップし、エンドフェイズ時まで装備したモンスターの効果を得る!」

 

遊馬はデッキケースを開いて3枚の竜のモンスターエクシーズを選び、レティシアの元に投げ飛ばす。

 

宙に浮いた3枚のモンスターエクシーズの中から裏向きで1枚選び、そのカードを掲げる。

 

レティシアは選んだカードを上に投げ飛ばすと現れたのは機械のような漆黒のボディに真紅のラインが無数に刻まれたドラゴン。

 

「力を借りるわね、時空を統べるドラゴンちゃん♪」

 

レティシアが引き当てたのは時を司る伝説のドラゴン、銀河眼の時空竜。

 

銀河眼の時空竜の幻影がレティシアの背後に降り、その体が黒い光の粒子となってレティシアの体に纏うと、銀河眼の光子竜皇の鎧が消滅して代わりに銀河眼の時空竜を模した鎧と双翼が装着される。

 

「銀河眼の時空竜の攻撃力は3000!よってレティシアの攻撃力は2000+3000÷2で合計3500となる!」

 

レティシアの手には装着した鎧と同じ銀河眼の時空竜を模した漆黒に真紅のラインが刻まれた刀身を持つ妖しい輝きを放つ刀が現れた。

 

それは銀河眼の光子竜皇の宝剣と対を成す、まさしく妖刀と呼ぶに相応しい刀だった。

 

「バトルだ!この瞬間、レティシアに装備された銀河眼の時空竜の効果!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、このカード以外のフィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化され、その攻撃力・守備力は元々の数値になる!タキオン・トランスミグレイション!!」

 

オーバーレイ・ユニットを妖刀に取り込み、そのまま空間を切り裂くように振るうと、衝撃波が無数に広がり、ドラゴンの力が弱まっていく。

 

「今だ!レティシアで攻撃!」

 

「喰らいなさい、タキオン・スパイラル・スラッシュ!!」

 

両手で持った妖刀から紫色の旋風が巻き起こり、ドラゴンの真上から振り下ろし、膨大なエネルギーが秘められた旋風によってドラゴンは地面に叩きつけられてそのまま倒されてしまった。

 

レティシアは地面に降り、自ら倒したドラゴンの頭を軽く撫でながら言葉をかけた。

 

「安らかに眠りなさい……」

 

ドラゴンの空いた目を手で閉じさせた……その時だった。

 

「やるじゃねえか、嬢ちゃん!まさかあいつをたった一騎で倒しちまうとはな!」

 

突然現れたのは全身に大きな傷跡を持つ筋骨隆々とした戦士だった。

 

「ん?あんたは……」

 

レティシアはルーラーの真名看破でその戦士の真名を看破した。

 

「なるほどね……英文学最古の叙事詩の主人公にして、歴史に名を馳せるドラゴンスレイヤーの一人……ベオウルフね」

 

ベオウルフ。

 

英文学最古の叙事詩『ベオウルフ』の主人公で巨人やドラゴンと戦った戦士だ。

 

「俺の真名を看破したってことは、ルーラーだな?嬢ちゃん、俺の真名を知ったんだから、お前のも教えろよ?」

 

「いいわ。私の名前はレティシア。まあ、オルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルクの偽物として生まれた虚無の存在よ」

 

「虚無の存在?ガハハハッ!面白え嬢ちゃんだな、それでこいつを……しかも竜の力を纏って倒すなんて益々面白えな!!」

 

「お褒めに預かり光栄だわ。それで、私たちが此処に来た目的だけど、そこの刑務所に囚われている赤毛のお姫様を助けたいのよ。通してくれるかしら?」

 

「残念だが、俺は姫様を解放するつもりはない」

 

「可笑しいわね……あなたは王として私利私欲へ走らず、真っ当かつ穏健に国を治めて、何より民のために命を賭して戦う英雄だったはずよね?」

 

「確かにそうだが、今の俺はこのアルカトラズ刑務所の番人みたいなものだ。通りたかったら、力を見せな!!」

 

ベオウルフは目を野獣のように輝かせた瞬間にレティシアの間合いに入った。

 

「なっ!?」

 

「女と言えど容赦はしないぜ。それに、今のお前は竜の力を纏っている……大嫌いな竜なら尚更ぶっ潰す!!」

 

ベオウルフは両手に二振りの異なる形をした魔剣の宝具を呼び出してレティシアに激しい攻撃を繰り出す。

 

「くっ!??」

 

レティシアは妖刀で必死に防御を固めようとするが、あまりにも激しい攻撃に妖刀は砕け散ってしまった。

 

「時空竜の、妖刀が……!?」

 

更にはその身に纏っていた鎧も大破してその場から思いっきりぶっ飛ばされる。

 

「ガハッ!??」

 

「レティシア!!」

 

「レティシアさん!!」

 

ぶっ飛ばされるレティシアを遊馬とマシュが二人掛かりで何とか受け止める。

 

「レティシア、大丈夫か!?」

 

「遊馬君、レティシアさんのカードが……」

 

遊馬のデュエルディスクに召喚してあったレティシアのフェイトナンバーズが勝手に宙に浮いてそのまま墓地へと送られた。

 

「どうやら、フェイトナンバーズとしてのレティシアが戦闘破壊されたようだ……」

 

アストラルは初めての出来事であるフェイトナンバーズの破壊を冷静に分析する。

 

「そのようね……私の体から、ドラゴンの力が抜け落ちたみたいだし……」

 

レティシアは体中に強い痛みを覚えながら何とか立ち上がり、旗を杖代わりにする。

 

「悪いな、嬢ちゃん。竜はぶっ潰さなければ気が済まないからな!」

 

「ちっ……流石は竜殺しの英霊と言ったところね……」

 

ベオウルフにはジークフリートとは違い、同じ竜殺しだが竜特攻の力はない。

 

それでも年老いてから国を襲った火竜を倒す為に相打ちした竜殺しとしての伝説は紛れも無いもので、レティシアも敵ながら感心してしまった。

 

「さあ、どうした?次戦うのはどいつ──」

 

「『羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』!!!」

 

突如、炎の輪が勢い良く飛んでベオウルフをぶっ飛ばした。

 

「なんとぉ!?」

 

不意打ちにベオウルフも虚を突かれ、ギリギリのところで魔剣で防いだが、全ては防ぎ切れずに炎による痛手が体中に襲う。

 

「なんだテメエ、育ちの良い顔をしやがって不意打ちか!面白いじゃねえかチクショウ!」

 

ベオウルフは不意打ちをした者……それは心臓に重傷を負いながらも宝具を放ったラーマだった。

 

ラーマはナイチンゲールの制止を振り切ってベオウルフを倒す為に宝具を放ったのだ。

 

「うるさい、邪魔だ!そこを退け!馬に蹴られないだけマシだと思え!余の妻が待っているのだ!!手段なんぞ選んでいられるかっ!」

 

ラーマは戦いの矜持など関係なく、愛する妻──シータを助ける為に文字通り命を懸けて立ち上がっているのだ。

 

「ハ──はは、そりゃあそうだ!確かにコイツは俺が悪い!悪党を気取ってみたが、今の俺は悪党どころが三下だった!」

 

その純粋で勇ましい姿にベオウルフは心を打たれて笑い飛ばした。

 

しかし、それに対して遊馬だけは違った。

 

「ラーマ……」

 

バキッ!!

 

「カハッ……!?」

 

遊馬は突然ラーマを殴り飛ばし、その行為にマシュ達は驚いた。

 

「貴様……何を……!?」

 

「ナイチンゲール!そこの大馬鹿重傷人の治療を!」

 

「お、大馬鹿だと……!?」

 

「お任せ下さい。ラーマ、大人しくしてください。全く、その体で宝具なんて使うからまた心臓が大きく破れてきたじゃないですか!」

 

ナイチンゲールは声に怒りを含ませながらラーマの抉れた心臓の再治療を開始した。

 

宝具を使って反動で損傷が酷くなった心臓を塞いでいく。

 

治療を受けているラーマに対し、遊馬は厳しい言葉をかけた。

 

「ラーマ、お前がシータを取り戻したい気持ちは俺にも良く分かるよ。俺も同じようなことがあったから。だけどな、それでお前が無茶をして倒れたらどうするんだ?一番悲しむのは誰だ?」

 

「そ、それは……」

 

「自分を助けるために無茶をして倒れて、それで消滅したら……シータは悲しんで自分を責めるんじゃねえか?」

 

「くっ……」

 

遊馬はシータの事は会ったこともないので知らないのは当然だが、それでも分かることがあり、ラーマはシータを心の底から深く愛している。

 

そんなシータもラーマの事を愛しているだろう。

 

「お前はそこで大人しくしていろ。心配するな、シータに必ず会わせてやる。約束だ!」

 

遊馬はラーマとシータを必ず会わせるという確固たる決意をし、グッドサインをラーマに見せる。

 

そして、レティシアもラーマに言葉を掛ける。

 

「ラーマ、あんたの事は生意気小僧だと思っていたけど、見直したわ」

 

旗を広げて思いっきり振り、先端をベオウルフに向ける。

 

「あんたの一番大切な人を愛し、会いたい気持ちは私が守る。少し待ってなさい……今からコイツをぶっ飛ばすから!!」

 

ラーマのシータへの不変で不朽の愛と一途な想い

 

たった一人を愛する想いにレティシアは感銘を受け、その心を成長させる。

 

「ベオウルフ、覚悟しなさい……あんたは私が必ずぶっ飛ばす!!」

 

「ハッ!出来るものならやってみな!」

 

「必ず……勝つ!私達の未来の為にも、ラーマとシータの為にも!!」

 

「レティシア……ん?何だ……?」

 

レティシアの覚悟と決意に共鳴するかのように遊馬のデッキケースが開くと一枚のカードが飛び出た。

 

それは遊馬とアストラルは知らなかったが、レティシアが城でエジソンに啖呵を切った時にレティシアのフェイトナンバーズから現れたカードだった。

 

遊馬がそのカードを手に取ると、カードに真名とイラストと効果が現れて、一枚のモンスターエクシーズとして完成した。

 

イラストにはレティシアが風に靡く皇の鍵が描かれた旗を背に見覚えのある数多のドラゴンの影が描かれているものだった。

 

レティシアの心の大きな成長によってカードが完成したのだ。

 

「これは……レティシアの新しい力!だけど……」

 

レティシアの新しい力……それは今までの力を遥かに超えたものであるが、大きな問題点があった。

 

それはその力を使う為の『(キーカード)』と言う名の、召喚するために必要なカードがデッキに入っていないどころか、存在していないのだ。

 

不安げな表情を浮かべる遊馬に対し、レティシアは声を張り上げて叱咤した。

 

「遊馬!そんな見っともない顔をしないの!力が無いなら作れば良い!あんたは私たちの想像もつかない奇跡を何度も起こした……諦めるな!あんたなら、出来る!かっとビングよ、遊馬!」

 

レティシアの嫉妬にハッと気付かされた遊馬は気合いを入れる為に両手で自分の頰を思いっきり叩き、気合いを入れた。

 

「レティシア……悪い、そうだったな。こんな時にそんな大事なことを忘れるなんて俺らしくもないな。見せてやるぜ、俺のかっとビングを!俺の……ターン!」

 

「あの光は……!」

 

遊馬は精神を集中して右手に聖なる光を輝かせる。

 

それは遊馬とアストラルが使える奇跡の力。

 

ラーマをシータに会わせる為、レティシアの想いに応える為に遊馬は己の限界を超えて奇跡を起こす。

 

「最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードさえも、デュエリストが創造する!シャイニング・ドロー!」

 

シャイニング・ドローにより遊馬は新たなカードを創造すると同時に勢いよくドローした。

 

遊馬が創造したカード、それはレティシアの新たな力を導くキーカード。

 

「まずはこいつだ!魔法カード『グローリアス・ナンバーズ』!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地の「No.」Xモンスター1体を特殊召喚する!復活せよ、『FNo.62 竜皇の巫女 レティシア』!!」

 

墓地からレティシアのフェイトナンバーズを蘇生させると、レティシアに再び鎧が装着される。

 

「デッキから1枚ドローする!更にグローリアス・ナンバーズの更なる効果!墓地のこのカードを除外し、自分の手札1枚を自分フィールドの「No.」Xモンスター1体のオーバーレイ・ユニットにする!」

 

グローリアス・ナンバーズの効果でドローしたカードをすぐにレティシアのオーバーレイ・ユニットに変換した。

 

「行くぜ、レティシア!」

 

「来なさい、遊馬!」

 

これで全ての準備が整い、遊馬は祈りを込めてそのカードを発動する。

 

「俺は手札から速攻魔法!『RUM(ランクアップマジック) - リミテッド・フェイト・フォース』を発動!!」

 

それは遊馬が初めて自ら生み出した新たなランクアップマジック。

 

イラストには遊馬の令呪の形である皇の鍵に『X』が重なったものに加え、その力を制限するかのような装飾が施されていた。

 

「このカードは自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体を選び、選んだモンスターよりもランクが1つ高い「FNo.」を選択したモンスターエクシーズの上に重ねてX召喚する!」

 

カードから放たれたランクアップマジックの光を宿したレティシアは目を静かに閉じ、その体が光となって天に昇った。

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!今こそ顕現せよ、FNo.62!」

 

上空に『62』のナンバーズの刻印が輝き、空間に無数の次元の歪みが現れ、その中から数多のドラゴンの魂が姿を現わす。

 

「無限に広がり、数多の世界に眠りし竜の魂たちよ、竜を愛する少女へ大いなる力を集わせ、未来への扉を開く!!」

 

ドラゴンの魂達が一斉にレティシアの元に集結する。

 

その力を一つに合わせ、数多の竜を統べ、その強大な力を行使する『皇后』が降臨する。

 

「降臨せよ、『竜皇(りゅうおう)天后(てんごう) レティシア・ドラゴニックエンプレス』!!!」

 

光が爆発し、遊馬の前に降り立ったのは今までとは全く違う姿のレティシアだった。

 

髪は足元近くまで長いロングヘアーとなり、衣装は漆黒の軽装の鎧から漆黒のドレスに変わり、その上から銀河眼の光子竜皇を模した軽装の鎧が重なるように装着していた。

 

そして驚くべきことにレティシアの胸元には遊馬の持つ皇の鍵の色違いのペンダントがキラリと輝いていた。

 

遊馬のが黄金のペンダントに翠玉が埋め込まれているのに対し、レティシアのは黒曜石のような綺麗な黒いペンダントに紅玉が埋め込まれていた。

 

マシュ達は今のレティシアの姿を見て言葉を失った。

 

まるで今のレティシアはその名の通り、皇后のように美しく、神々しい輝きを放っていた。

 

「美しい……まるで美の女神だ……」

 

美を愛するネロですらレティシアの美しさに女神と思うほど見惚れて心が奪われるほどだった。

 

「遊馬、一気に行くわよ」

 

「……ああ。頼むぜ、レティシア!」

 

遊馬も呆然として見ていたが、レティシアに言われて調子を取り戻し、ランクアップしたレティシアの効果を使う。

 

「レティシア・ドラゴニックエンプレスの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地・エクストラデッキからドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターエクシーズを2枚まで選択し、このカードの装備カードにする!」

 

遊馬はエクストラデッキと墓地から1枚ずつ選択してレティシアの装備カードにする。

 

「宇宙創造の力を秘めし、銀河の眼を持つ二体のドラゴンよ!レティシアにその大いなる力を与えよ!レティシアにエクストラデッキから銀河眼の光子竜皇、墓地から銀河眼の時空竜を装備!」

 

レティシアの両サイドに宇宙創造の力を秘め、宇宙最強のドラゴンである対を成す銀河眼が同時に現れる。

 

「レティシアは装備したモンスターエクシーズの攻撃力の半分を得る!更にエンドフェイズ時までこのカードはこのターンに装備したモンスターエクシーズの名前と効果を得る!!」

 

レティシアに力を与える為に銀河眼の光子竜皇は宝剣、銀河眼の時空竜は妖刀に形を変え、それぞれをレティシアは両手で持ち、全く形の異なる剣と刀の二刀流となった。

 

そして、レティシアの攻撃力は自身の攻撃力は3000でそこに銀河眼の光子竜皇の攻撃力の半分の2000に、銀河眼の時空竜の攻撃力の半分の1500で、合計攻撃力は6500となった。

 

その神々しい美しい姿と全てを滅ぼすことも出来る強大な竜の力を秘めたレティシアにベオウルフも呆然とした。

 

「まさか、竜の力をここまで……面白えじゃねえか、嬢ちゃん!!」

 

ベオウルフの闘志が激しく燃え上がり、二振りの魔剣から膨大な魔力を放出する。

 

レティシアも負けじと宝剣と妖刀から魔力を放出して走り出す。

 

バトルフェイズになり、遊馬はレティシアの更なる効果を発動する。

 

「レティシアの更なる効果!装備したモンスターエクシーズのX素材を使用した効果をX素材を使用しないでそれぞれ1度ずつ発動することが出来る!」

 

ランクアップしたレティシアは装備したモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットを使った効果をも自由自在に操ることが出来る。

 

「銀河眼の時空竜の効果!バトルフェイズ開始時にこのカード以外のフィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化され、その攻撃力・守備力は元々の数値になる!」

 

「タキオン・トランスミグレイション!」

 

銀河眼の時空竜の妖刀が怪しく輝き、衝撃波を放つと自身以外の全ての効果を無効にする。

 

「うぐっ!?こいつは……!?」

 

それによりベオウルフの力も半減して上手く使えなくなってしまった。

 

「更に、銀河眼の光子竜皇の効果!戦闘を行うダメージ計算時に1度、攻撃力はそのダメージ計算時のみ、フィールドのXモンスターのランクの合計×200アップする!レティシアのランクは5!攻撃力は1000ポイントアップする!」

 

次に銀河眼の光子竜皇の宝剣が美しく輝き、レティシアの力を更に高める。

 

攻撃力6500に加えて1000ポイントアップし、合計攻撃力は7500となる。

 

「ベオウルフ……あんたには恨みはないわ。だけど、私たちの大切な仲間の、一番大切な人を取り戻す為にあんたをぶっ飛ばす!!」

 

宝剣と妖刀の二つの刃が最高潮にまで輝く。

 

カルデア最強の二刀流剣士、武蔵の動きを思い出しながらレティシアは全身の力をフルに使い、宝剣と妖刀を振るう。

 

「ダブル・ギャラクシー・エクストリーム!!!」

 

未来を司る銀河眼の光子竜皇の宝剣と、過去を司る銀河眼の時空竜の妖刀が煌めき、怒涛の連続攻撃がベオウルフを襲う。

 

「はぁあああああっ!!!」

 

最後の一撃がベオウルフを薙ぎ払い、ぶっ飛ばされてそのまま刑務所の扉を打ち抜いて破壊した。

 

「……よっしゃあ!!!」

 

レティシアは興奮してテンションが上がりまくり、宝剣と妖刀を掲げた。

 

ベオウルフを倒し、囚われのシータに会いに行ける……そう思ったその時だった。

 

「ハハハッ!やるじゃねえか、嬢ちゃん!」

 

破壊されて瓦礫となった扉からベオウルフが出て来た。

 

「おいおい、嘘だろ……!?」

 

「そんな……私の攻撃が効いてないの!?」

 

「いいや、効いたさ……その証拠に……ウグッ……!?」

 

ベオウルフの二振りの魔剣は砕け散って消え、ベオウルフ自身もダメージを受けてその場で膝を着く。

 

「……銀河眼の光子竜皇のデメリット効果が影響を与えたか」

 

「銀河眼の光子竜皇のデメリット効果……?あっ!」

 

アストラルに言われ、遊馬は思い出した。

 

銀河眼の光子竜皇は戦闘においてはとても強い効果を発揮するが、大きなデメリットがある。

 

それはオーバーレイ・ユニットに銀河眼の光子竜皇の元となるモンスターである銀河眼の光子竜がいないと、相手に与えるダメージが半減してしまうのだ。

 

それが銀河眼の光子竜皇を装備してその効果を得たレティシアにも適応されてしまい、ベオウルフに与えるダメージが半減した。

 

そして、ベオウルフは二振りの魔剣を犠牲にすることでなんとか生き延びることに成功したのだ。

 

「だけど、剣を失ったあんた相手ならいける!」

 

レティシアはベオウルフの宝具を破壊したことで戦闘力もガタ落ちし、一気に攻めれば勝てると思った。

 

しかし、ベオウルフは不敵の笑みを浮かべていた。

 

「おいおい、何を勘違いしてやがる?確かに剣は失ったが……寧ろ俺の本当の武器は別にあるぜ?」

 

「ハッ、負け惜しみ?そんなのみっともな──っ!?」

 

レティシアはベオウルフの言葉の意味を理解し、強い緊張感を覚えながら宝剣と妖刀を構え直した。

 

ベオウルフは剣を操る英霊であるためセイバークラスへの適性も有している。

 

しかし、彼の武勇伝では剣そのものよりも、『己の肉体そのものを最大の武器』として戦っていた。

 

バーサーカークラスとして召喚されているからこそ、肉体の戦いがベオウルフの本領発揮なのだ。

 

しかし、ベオウルフは握りしめた拳を解いて闘志を静かに収めた。

 

「もっと戦いたいところだが、今回は俺の負けだ」

 

「えっ……?」

 

ベオウルフの突然の敗北宣言にレティシア達は呆然とする。

 

「嬢ちゃん、さっきの一撃は久々に効いたぜ。通りな、囚人のお姫様には指一本触れちゃいねえ。華奢過ぎて、触っただけで折れそうだったんでな」

 

ベオウルフは指笛を吹くと刑務所に待機していたワイバーンを呼び出し、ジャンプしてその背に乗る。

 

「この刑務所はお前らにくれてやる!早くお姫様の元に向かいな!」

 

「ベオウルフ……」

 

「またどこかの戦場で会おうぜ、あばよ!」

 

ベオウルフは清々しい表情を浮かべながらワイバーンと共に何処かへと飛んで行ってしまった。

 

ベオウルフは確かに敵だったが、レティシアは何処か嫌いになれなかった。

 

味方として召喚されれば良い関係を築けたのではないかと思った。

 

「行きましょう……」

 

「そうだな。ラーマ、もうすぐシータに会えるぞ!!」

 

「ああ……シータ……もうすぐだ……!」

 

シータはナイチンゲールから一通りの治療を受けて立ち上がり、刑務所へ向かう。

 

薄暗く気味の悪い刑務所を進み、レティシアは微かに感じるサーヴァントの気配を読み取って囚われている場所を突き止めた。

 

「ここよ!!」

 

レティシアは独房の扉を斬り裂き、近くにあったロウソクに火をつけた。

 

ロウソクの灯りに照らされ、そこに囚われていたのはラーマと同じ美しい赤い髪をした儚げな雰囲気を漂わせる美少女だった。

 

「ラーマ様……?」

 

ラーマの妻で残酷な運命によって引き裂かれた悲劇の少女……シータ。

 

遂にラーマとシータが再会を果たす時が来たのだが……運命の呪いが二人の邪魔をする。

 

「やっと、この時が来たか……」

 

二人の運命は奇跡を起こす幼きマスターである遊馬の手に託された。

 

 

 




レティシアちゃんが初のフェイトナンバーズ、ランクアップを果たしました!
レティシアちゃんがある意味、マシュとは別に遊馬と強い絆で結ばれているので先にそちらをランクアップしました。
マシュちゃん、待ってて!君はもう少しだから!

今回のフェイトナンバーズはこんな感じです。

『FNo.62 竜皇の天后 レティシア・ドラゴニックエンプレス』
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/闇属性/戦士族/攻3000/守2500
レベル5モンスター×3体
このカードはルール上、「ジャンヌ」モンスター、光属性としても扱う。
このカードは装備したモンスターエクシーズの攻撃力の半分アップする。
このカードが「FNo.62 竜皇の巫女 レティシア」をX素材としている場合、以下の効果を得る。
1ターンに1度、X素材を1つ取り除き、墓地・エクストラデッキからドラゴン族・海竜族・恐竜族・幻竜族のモンスターエクシーズを2枚まで選択し、このカードの装備カードにする。エンドフェイズ時までこのカードはこのターンに装備したモンスターエクシーズの名前と効果を得る。また、X素材を使用した効果をX素材を使用しないでそれぞれ1度ずつ発動することが出来る。この効果は相手ターンでも発動出来る。
お互いのエンドフェイズ終了時に発動する。このカードに装備したモンスターエクシーズを1枚を除外する。



『RUM - リミテッド・フェイト・フォース』
速攻魔法
自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体を選択して発動できる。選択したモンスターよりランクが1つ高い「FNo.」と名のついたモンスター1体を選択した自分のモンスターエクシーズの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

レティシアちゃんは竜皇の巫女の力を進化させた感じで強くしました。
銀河眼の時空竜はせっかくなので妖刀にしました。
理由は銀河眼の光子竜皇と対を成すのと、水着のジャンヌオルタちゃんが何故か日本刀を持っていたので。
あの日本刀、いつの間に用意したんだろう……?といつも疑問に思ってます。

リミテッド・フェイト・フォースはまだリミテッドなので正式版をいつか出します。
まあこれでも速攻魔法だからかなり強いですが(笑)

次回はいよいよラーマとシータを再会させる為に遊馬くんが頑張ります!
あの猿は面倒極まりないですからね。


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ナンバーズ123 呪いを斬り裂く奇跡の光

遂にラーマとシータの呪い問題を片付ける時が来ました。
FGOでも有名な涙腺崩壊の話をぶち壊します!

それと、前話のナンバーズ122でクー・フーリンの戦いでフェルグスとの間に戦いのゲッシュがあるのを見落としていましたので、後で最初の部分を書き直します。
英霊の設定が色々あるとやっぱり大変ですね。



遊馬達はアルカトラズ刑務所に突入し、遂に囚われの姫君……シータを見つけた。

 

ようやくシータを見つけ、ラーマは嬉しそうに近付くが……。

 

「……ラーマ様!?」

 

「シータか?迎えに来たぞ、迎えに……来たんだ……」

 

ラーマは全身の力が抜けるように崩れ落ち、シータが体を支えた。

 

「……ああ、くそ。目が霞む。何も見えん……」

 

既にラーマの体は限界が近く、体が全く動けなくなり、目が霞んで何も見えなくなっていた。

 

シータはラーマをその場に寝かせ、寄り添いながら優しく語りかける。

 

「シータはここにおります、ラーマ様」

 

「どこだ……シータ……どこにいる……?」

 

すぐそばにいるがラーマはシータの姿を目にすることが出来ない。

 

そんなラーマは心が弱くなりながら自分の気持ちを打ち明けた。

 

「……会いたかった、会いたかった。本当に、本当に会いたかったんだ。僕は、君がいれば、それだけで良かった……!」

 

今のラーマは大昔のインドの王ではなかった。

 

たった一人の愛する女性を探し求めていた一人の男だった。

 

ナイチンゲールは急いでラーマの治療を再開し、マシュは経緯と現状をシータに説明した。

 

シータは内容を納得するとある決意をする。

 

「私がこの身を捧げましょう。私の身を以て、この呪いを解きます。私がこの呪いを背負い、消滅すればいい」

 

シータはラーマを救うためにゲイ・ボルグの呪いを自分に移して代わりに消滅する道を選んだ。

 

シータは愛するラーマを救えるなら自分が犠牲になっても構わなかった。

 

ラーマとシータの受けた『離別の呪い』の影響で英霊の座で二人の英霊の枠が共有され、ラーマがシータのどちらかが『ラーマ』として召喚され、二人同時に召喚されることは決してないのだ。

 

通常の聖杯戦争では決して再会は叶わない、それでもこうして姿を見て、手を握り、僅かだが言葉を交わすことが出来た……それだけでシータは満足だった。

 

「大好きよ。……本当に、本当に、大好きなの」

 

ラーマがシータを愛しているように、シータもラーマを愛している。

 

愛するものを守り、助ける為の自己犠牲……それはとても美しく尊いものだった。

 

シータはラーマを抱きしめてその呪いを背負おうとした──その時だった。

 

「馬鹿野郎、勝手に消えようとするんじゃねぇ」

 

遊馬はシータの手を掴んでラーマから引き離して呪いを背負うのを阻止した。

 

「あなたは……?」

 

「俺は遊馬。この世界の唯一のマスターだ。全く、せっかく二人を再会させようと思ったのに、勝手なことをすんなよ。夫婦揃って無茶ばっかりしやがるんだから……」

 

遊馬は無茶ばかりする二人に似た者夫婦だなと思いながらため息をつく。

 

「ですが、私とラーマ様は呪いで再会することは……」

 

「その呪いを消すために俺はここに来たんだよ」

 

遊馬は自分の胸に手を当てると、中から金色の光が輝き、静かに取り出したものにシータは目を見開いて驚いた。

 

「その金色の杯は、まさか……!?」

 

「そう、聖杯だ。と言ってもこれは魔術師が作ったものじゃない、ギリシャ神話の海神・ポセイドンが持っていたオリジナルの聖杯」

 

オリジナルの聖杯の登場にかつて聖杯戦争に参加したロビンフッドは声を荒げて驚いた。

 

「オ、オリジナルの聖杯!?ちょいと少年君、そんなもんを何処で手に入れたんだ!?」

 

「ん?フランシス・ドレイク船長が世界を海に沈めようとしたポセイドンをシバいて手に入れて、その後に俺にくれたんだ」

 

「何その耳を疑うような恐ろしい事態は!?」

 

「まあその詳しい話は後にしてくれ。ちょっとこれ、持っててくれる?」

 

遊馬はシータに聖杯を持たせた。

 

対するシータは突然聖杯を持たされて動揺し、体が震えていた。

 

目の前に願望器である聖杯があるのだ、動揺するのも当たり前だった。

 

「あ、あの……!この聖杯をどうするつもりですか……!?」

 

「ん?決まってるだろ?その聖杯を使って二人にかけられた猿の呪いを解いてやる」

 

聖杯をあっさり自分たちのために使ってくれるという事実にシータは信じられない気持ちと嬉しい気持ちで困惑していた。

 

「っ!?そ、それはとても嬉しいですが、それではあなたの願いは!?聖杯はあなたのものでしたら、願いを叶える権利が……」

 

「俺自身の願いはとっくの昔に自分で叶えたから良いんだ。でもそれだけじゃ呪いを解くのに力が足りないと思う。だから、サーヴァントの絶対命令権の令呪も重ねて使う。シータ、俺と契約してくれるか?」

 

「は、はい!」

 

遊馬はシータと握手をして契約を交わし、フェイトナンバーズを生む。

 

横たわっているラーマにも了解を得てないが握手をして契約を交わしてもう一枚のフェイトナンバーズを生む。

 

ラーマとシータのフェイトナンバーズを持ち、三人との間に強い絆が結ばれる。

 

そして、呪いを解くための更なるもうひと押しに遊馬はアストラルに目を向ける。

 

「アストラル、頼む……!」

 

「君ならそう言うと思っていた。私もこの二人の呪いを解いてあげたいとずっと思っていた……行こう、遊馬!」

 

遊馬とアストラルは手を重ねて光を放つ。

 

「「俺達/私達でオーバーレイ!!」」

 

遊馬は赤い光、アストラルは青い光となって登る。

 

二つの光が螺旋状に絡まり合い、一つとなって地面に落下し、奇跡を体現する英雄が現れる。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II!」」

 

ZEXAL IIの降臨にその姿を初めて見る者達は驚愕する。

 

「これは……一体何が起きているのですか……!?」

 

「人と精霊が合体しただと……!?そんなことがあり得るのか……!??」

 

「おいおいおい……ここまで破茶滅茶なマスターは初めてだぞ……!?」

 

「いやはや、只者じゃないと思ってたけどまさかここまでとはね……」

 

ナイチンゲール達はZEXAL IIの降臨に驚愕していた。

 

ZEXAL IIは静かにシータに近付くと、シータはポカーンと口を開けて呆然としていた。

 

「大丈夫か?」

 

「……え?は、はい!大丈夫です!」

 

「聖杯を。今から二人の呪いを解いてやる」

 

「……あの、ユウマ様。一つよろしいでしょうか?」

 

「何?」

 

シータはZEXAL IIに聖杯を渡しながら静かに尋ねた。

 

「どうして、どうして、私とラーマ様にそこまで親身になってくれるのですか……?とても貴重な聖杯を使ってまで……」

 

シータは遊馬の行動に疑問を抱いていた。

 

知り合いでも友人でも何でもない、会ったばかりなのにどうして自分たちにそこまで親身になってくれるのか。

 

何か裏があるのではないかと思わず疑ってしまうほどだった。

 

「うーん、別に深い理由はないぜ。ただラーマは本当にシータの事を大切にしている、愛しているって気持ちが伝わったから、助けたいと思っただけなんだよな……」

 

ZEXAL II──遊馬は髪を手でかきながらシータの質問に素直に答えていく。

 

「まあ、強いて言うなら……呪いってものは絶対に解いてやりたいって気持ちがあるからな」

 

「何か理由があるのですか……?」

 

「時間がないから大部分は削るが、私と遊馬は人類と世界を滅ぼそうとした邪神と戦った。その邪神が人類の中から選んだ七人の戦士達には呪いがかけられていた。それこそ、君とラーマにかけられたぐらいの魂に刻み込まれる強い呪いだ」

 

アストラルから語られた話を聞いてシータは言葉を失った。

 

夫のラーマは自分を取り戻すために魔王と戦っていたが、まさか目の前にいる少年が邪神と戦っていたなんて予想も出来なかった。

 

「俺は……その七人を救うことは出来なかった。最後はみんな人間として転生して新たな人生を歩むことは出来たけど、それでも救えずに後悔ばかりだった。だからこそ、二人を救いたいんだ」

 

「シータ、君が疑うのも無理はない。だが遊馬は君たちの境遇に心を痛め、救いたい一心で聖杯を使うことを決めた。その思いだけは疑わずに受け取ってほしい」

 

遊馬とアストラルの想いにシータの疑う心はいつのまにか消えた。

 

そして、自分とラーマの未来をこの二人に託したいと思い、ラーマと喜び合える未来を願って頭を下げた。

 

「どうか、よろしくお願いします……」

 

「ああ、任せろ。行くぜ、アストラル!」

 

「もちろんだ。全力で行くぞ!」

 

ZEXAL IIは左手に二人のフェイトナンバーズを持ち、右手に聖杯を持つ。

 

「行くぜ」

 

「はい……!」

 

シータはラーマの手を握り、目を閉じる。

 

ZEXAL IIは深呼吸をして心を落ち着かせ、聖杯を二人に向けて願いを告げる。

 

「「聖杯よ、この二人の運命を縛りし離別の呪いを解き放て!!!」」

 

聖杯から金色の光が解き放たれ、溢れ出る光の粒子が二人に浴びられる。

 

そこから更にZEXAL IIの右手甲に刻まれた令呪を輝かせて二人に絶対命令を下す。

 

「「令呪によって命ずる!!ラーマ、シータ!二人を引き離す離別の呪いを解き放て!!!」」

 

令呪による絶対命令で二人の体に赤い光が纏われる。

 

聖杯と令呪、そしてZEXAL II……奇跡の重ね掛けでラーマとシータの運命を引き離す離別の呪いを解く。

 

「うっ……」

 

「くぅっ……」

 

しかし、二人の体にまるで重力を付加したような重みが架せられ、苦しみ出した。

 

中々呪いが解ける気配が起きず、それほどまでに離別の呪いが重く、恐ろしいものだと物語っていた。

 

「諦めてたまるか、かっとビングだ!!」

 

ZEXAL IIは令呪を更に輝かせて二画目を使う。

 

「「重ねて令呪によって命ずる!ラーマとシータよ!残酷な運命に負けるな、その手で運命を切り開け!!」」

 

二画目の令呪を使い、呪いを解き放とうとするが、それでも二人の呪いが解けず、二人の体に大きな苦しみが襲いかかる。

 

「うぐぅっ……」

 

「あっ、がっ……」

 

マシュ達はもうダメかと思われたその時、ZEXAL IIは右手を金色に輝かせながら最後の令呪の一画から紅い光を放つ。

 

「「最後の令呪によって命ずる!!その手に愛する者との掛け替えのない幸せを掴み、新たな未来への道を歩め!!!」」

 

ZEXAL IIはラーマとシータの幸せと未来を願い、怒涛の令呪の三重掛けを行なった。

 

「うぁあああああっ……!」

 

「あぁあああああっ……!」

 

すると、ラーマとシータの体から不気味な闇が溢れ出した。

 

それは二人を引き離す離別の呪いが視覚化したものだった。

 

奇跡の重ね掛けは不可能を可能にする力を引き起こし、解けないと思われていた呪いが二人の体から抜け出ていく。

 

このままいけば二人の呪いを解ける……そう思った……その時だった。

 

『ジャマヲ、スルナ……!!!』

 

不気味な声が響き、聞いたことのない声にZEXAL II達が警戒すると、その声の主が静かに現れた。

 

ラーマとシータから溢れ出た闇が人型の形となり、一瞬でこの場の空間を埋め尽くすほどの闇が濁流のように広がった。

 

闇はラーマとシータを触手で縛って意識を失わせ、更にはこの場にいる全てのサーヴァントを縛り、動けなくした。

 

マシュ達はスキルや宝具を使って闇を退けようとしたが、何故か発動することが出来なかった。

 

「みんな!?」

 

「サーヴァントのみんなを縛るほどの力……まさか、貴様は……!?」

 

ZEXAL IIはこの闇を操る謎の人型に心当たりがあった。

 

「ラーマの味方の猿達が敵対していたバーリの妻か……!?」

 

『ソノ、トオリ……ワタシハ、コノフタリニ、エイエンノ、ノロイヲ、アタエルモノ……』

 

ラーマとシータに呪いをかけた元凶の猿。

 

それは二人に復讐を果たすための亡霊と化して二人を縛り付けていた。

 

『コノフタリハ、トモニ、ヨロコビヲ、ワカチアウコトハ、ナイ……!ワタシガ、フタリヲ、エイエンニ、ノロウ……ノロイツヅケテヤル!!』

 

その歪んだ復讐心は只の逆恨みであるが、二人の英霊を縛り、この場にいるサーヴァントを封じ込めるほどの強さを持っている。

 

それはアヴェンジャークラスのサーヴァント以上の恐ろしい復讐心と言っても過言ではなかった。

 

「やめろ!復讐はもう十分だろ!?いい加減に二人を解放しろ!!」

 

『ダマレ!!』

 

「ぐぁあっ……!?」

 

「くっ……!?」

 

亡霊はZEXAL IIを触手で強く縛り上げ、その身に襲いかかる闇の力にZEXAL IIの合体が強制的に解除されてしまう。

 

その際に聖杯と二枚のフェイトナンバーズが遊馬の手から離れて地面に転がり落ちる。

 

邪魔者がいなくなり、亡霊はラーマとシータに近付き、闇を操って首などを強く縛り上げていく。

 

『キエロ……!!!』

 

亡霊はこのまま二人を絞め殺して消滅させようとしている。

 

「ふざけるな……」

 

遊馬は亡霊を強く睨みつけて声を振り絞った。

 

「確かにラーマは騙し討ちをした……でもそれは味方を守るためだ。俺に戦いを教えてくれた英霊のみんなから言わせれば、一対一の正々堂々の決闘ではない限り、戦いならどんな手を使っても勝って生き残れば勝者だ……」

 

戦いは綺麗なものではない。

 

どのような手を使っても、戦いに勝利すれば勝者となる。

 

もちろん、人として決して踏み外してはいけない境界線はあるが、卑怯という言葉はルールのある戦いの中で適応される。

 

異なる時代の戦を経験してきた歴戦の英霊たちからその事を聞き、純粋で優しい遊馬は悩みながらも理解した。

 

「それでもな、ラーマはその時のことを悔やんでいた、犯してしまった罪を背負っているんだ……お前は逆恨みで二人に呪いをかけた……もう良いじゃねえか、二人は充分に苦しんだ……もう二人を縛り付けるのは止めろ……二人を解放しろ!!!」

 

遊馬は必死に亡霊に語りかけて説得を試みる。

 

しかし、亡霊は聞く耳を持たない。

 

『ダメダ、コノフタリハ、エイエンニ、クルシンデモラウ……ノロイヲ、ケソウトシタツミデ、コンドハ、メトミミヲ、ウバッテヤル』

 

既に亡霊は理性というものは一欠片も存在せず、ただ二人への怨みを果たし続ける為の復讐の怨霊と化していた。

 

「止めろ!そこまでする権利はてめえにはねえ!!」

 

『ダマレ!キサマモ、ドウザイダ……キサマモ、ニドト、タイセツナモノト、アエナクシテヤル!!』

 

亡霊は遊馬の首を絞めてシータとラーマと同様の強い呪いをかけようとした。

 

「ぐぁあああああっ!??」

 

「遊馬!?」

 

「遊馬君!!」

 

アストラル達は遊馬を助けようと必死にもがくが、触手がどんどん縛っていき、体が益々動けなくなる。

 

遊馬の体に亡霊の邪悪な力が侵食していき、その魂にまで呪いが及ぼうとしていた。

 

このままでは遊馬にも離別の呪いがかけられてしまう。

 

その時、遊馬の脳裏には家族と仲間の姿が浮かんでいた。

 

「そんな事は、させない……」

 

大切な人と永遠に会えない……冗談じゃない。

 

生きている限り別れはいつかは来る、それは理解している。

 

しかし、こんな理不尽で身勝手な理由で自分の未来と世界を奪う事はさせない。

 

「俺の未来を、世界を……」

 

遊馬の両眼の瞳の色が紅から虹色に輝く。

 

自分だけじゃない、互いを深く愛し合っているラーマとシータ……この二人の未来を守りたいと願う。

 

「ラーマとシータの未来を……てめぇに奪わせてたまるものかぁあああああっ!!!」

 

遊馬の強い思いに応えるように胸元から青白い輝きが放たれる。

 

眩い光が亡霊の触手が全て消し去り、亡霊も何が起きたのか分からずにいる。

 

『ナ、ナンダ!?』

 

「うぉおおおおおおっ!!!」

 

遊馬の背中から純白の双翼が生え、両手を開くと右手に雷光が轟き、左手に疾風が吹く。

 

雷光と疾風をそれぞれの手で握りしめると、遊馬の両手に希望皇ホープの最強の双剣……雷神の虎の剣『雷神猛虎剣』と風神の龍の剣『風神雲龍剣』が現れる。

 

虹色の眼に純白の双翼、両手に雷神猛虎剣と風神雲龍剣……いつもの遊馬とは異なる姿をしていた。

 

「二天一流!!」

 

雷神猛虎剣と風神雲龍剣を泰然と構えると、二つの剣から雷神の虎と風神の龍の幻影が現れ、それぞれが雷と風を纏わせた爪と牙で亡霊を攻撃する。

 

そして、遊馬が二つの剣を重ねて振り上げると、巨大な光の刃となる。

 

龍虎双天無限刃(りゅうこそうてんむげんじん)!!!」

 

それは二刀流剣術の師、宮本武蔵の宝具……『六道五輪・倶利伽羅天象』をイメージして考えた遊馬だけの技である。

 

いつか雷神猛虎剣と風神雲龍剣が遊馬の手で生み出した時、技を出せるようにと武蔵と修行していたのだ。

 

遊馬の攻撃は亡霊の闇を確実に打ち消していき、やがて胸元に輝く光が少しずつ落ち着き、その正体が判明する。

 

「あの光は……!?」

 

マシュは遊馬の胸元に輝く光に目を疑った。

 

それは夢で見たことのあるもの、聖杯以上に強大な力を秘めた代物。

 

パズルのようにバラバラになりながら回るカードの形をしたもの、それは……。

 

「ヌメロン・コード……!??」

 

遊馬とアストラルの世界に存在し、あらゆる世界の運命を司る神のカード……ヌメロン・コード。

 

ヌメロン・コードは二度と誰の手にも渡らず、悪用されないようにアストラル世界で封印されているはず。

 

それが何故、遊馬の胸元で光り輝いているのか……?

 

「遊馬……」

 

マシュ達が困惑する中、アストラルはその事実を知っているようで冷静に立ち上がる。

 

「はぁあああああっ!!!」

 

アストラルは雄叫びを上げ、体から閃光を輝かせて一枚のカードを掲げた。

 

亡霊を倒す……否、完全に呪いを解き放つには滅するつもりでなければならない。

 

そうでなければこの場を乗り切る事はできず、ラーマとシータを救う事はできない。

 

その為にもアストラルは今の自分が呼び出せる最強の力を召喚する。

 

「現れよ!No.99!!」

 

上空に遊馬の苗字の『九十九』と同じ『99』の刻印が浮かび上がる。

 

暴風が吹き荒れ、紫電が轟き、その中からナンバーズの力を一つにした最強の魔物が現れる。

 

「『希望皇龍(きぼうおうりゅう) ホープ・ドラグーン』!!!」

 

『ゴォオオオオオーッ!!!』

 

屈強な鎧と武装を装着した純白の巨龍が姿を現した。

 

「な、何、あのドラゴンは!?」

 

今までの銀河眼や他のナンバーズのドラゴンとは異なる異質なドラゴンの登場にレティシアは興奮した。

 

希望皇龍ホープ・ドラグーンは全てのナンバーズの終焉にして、頂点に君臨する皇龍。

 

遊馬は双剣を地面に突き刺すとデッキケースから一枚のカードを取り出して掲げる。

 

「現れよ!FNo.0!!」

 

希望皇龍ホープ・ドラグーンの隣に『00』の刻印が浮かび上がり、次元の果てから未来を司る皇が現れる。

 

「『未来皇ホープ』!!!」

 

遊馬自身のナンバーズ、未来皇ホープが希望皇龍ホープ・ドラグーンの隣に降り立つ。

 

終焉の頂点と無限の未来……対を成す二つの『皇』が姿を現わす。

 

「一気に決めるぞ、遊馬!」

 

「ああ!」

 

アストラルは希望皇龍ホープ・ドラグーンに命令を下し、亡霊の力を削ぐ。

 

「滅び去れ、邪悪なる怨霊よ!!神滅のホープ・インフェルノ!!!」

 

希望皇龍ホープ・ドラグーンの口から神をも滅ぼす灼熱の業火を吹く。

 

業火は亡霊の放つ触手を全て焼き払い、ラーマとシータを縛る闇を一欠片残らず焼き払った。

 

ラーマとシータはその場に横たわり、二人の手が重なる。

 

「行け、遊馬!ラーマとシータの呪いを解き放て!!」

 

「おうっ!!うぉおおおおおっ!!!」

 

遊馬は胸元のヌメロン・コードを握り締め、光を手の中に押さえつけながら掲げる。

 

「来い!未来皇ホープ!!」

 

遊馬が命ずると、未来皇ホープの体が光となって遊馬と激突する。

 

遊馬と未来皇ホープの肉体と魂が一体化し、未来皇ホープの胸元の宝玉が皇の鍵の形へと変わる。

 

そして、未来皇ホープは両手にある双剣を捨てて右手を握り締める。

 

そこから現れたのは美しい純白の羽根の剣。

 

先ほど遊馬が握りしめたヌメロン・コードによって生み出された奇跡の剣で未来皇ホープは両手で力強く持ち上げる。

 

「ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!!!」

 

『ヤメロ!ヤメロォオオオオオ!!』

 

羽根の剣を振り下ろし、亡霊の脳天から真っ二つに斬り裂いた。

 

断末魔の叫びを上げる間も無く亡霊は斬り裂かれ、その中心から無数の光の波動が解き放たれた。

 

亡霊の闇が消え去ると、遊馬は未来皇ホープと分離し、眼の色が元に戻り、背中に生えていた双翼は静かに消えた。

 

『オノレ……』

 

しかし、亡霊の闇が僅かに残り、煙のように登っている。

 

まだ亡霊の意識があり、横たわるラーマとシータに手を伸ばしていた。

 

遊馬とアストラルはラーマとシータを守ろうと走り出したその時。

 

「後は俺様に任せな」

 

皇の鍵から漆黒の霧が噴き出し、亡霊の前にミストラルが現れた。

 

「ミストラル!?」

 

ミストラルはニヤリと笑みを浮かべて右手を伸ばした。

 

「俺様は元々、ドン・サウザンドの呪いから生まれた存在だ。この呪いの残留因子……全て喰わせてもらう!!!」

 

右手が輝くと亡霊を掃除機のように勢い良く吸収していく。

 

『アァ……ノロイガ……』

 

亡霊の僅かに残った力がミストラルに吸収されていき、それがミストラルの失われた力を補うための糧となる。

 

「諦めな、お前は手を出しちゃいけねえ二人を敵に回したんだからな」

 

ミストラルは亡霊の力を全て吸収し、その意識を完全に消滅させた。

 

「ふん、これでようやく半分を越えたぐらいか……」

 

冬木で奪われたミストラルの力も全盛期の半分を越えた程度にまで回復し、少し満足したように頷いた。

 

「ミストラル……」

 

「……礼は言わないぞ」

 

「俺様は自分の力を取り戻すために猿の怨霊を取り込んだだけだ。礼を言われる必要はない。じゃあな、俺は皇の鍵の中で寝る」

 

ミストラルは用がなくなると粒子化して皇の鍵の中に戻った。

 

どんな理由であれ亡霊の残りを倒してくれたことは事実だ。

 

内心感謝しつつ、遊馬とアストラルはラーマとシータに恐る恐る近づいた。

 

すると、ラーマとシータの重なる手がピクッと動き、自然と手が絡み合って強く握りしめた。

 

「シータ……?」

 

「ラーマ様……?」

 

二人の意識が戻り、目を開いて顔を上げた。

 

ラーマは霞んで見えていた視界が開けていき、光が差し込む。

 

抉れていた心臓はいつのまにか塞いでおり、体に重いダルさがあったが、目を凝らすとそこには待ち望んでいた光景が広がっていた。

 

「ああっ……シータ……!見えるよ、君の顔が見える……!!」

 

それは愛する妻……シータの姿を目に焼き付ける事だった。

 

「ラーマ様……!はい……!私も、あなた様の顔がよく見えます……!!」

 

ラーマが自分の顔を見れている事に気付き、シータは涙を浮かべて精一杯の笑顔を見せる。

 

二人は起き上がり、空いている手で互いの頬に触れる。

 

手に感じる確かな暖かい温もりに二人の眼から涙が溢れる。

 

「シータ……愛している。僕は、君だけいれば何もいらないよ……」

 

「私もです。愛しております、ラーマ様……」

 

二人は互いが持つ愛情を言葉にして送った。

 

そして、二人は顔を近づけて互いの唇を重ね、愛を深める為のキスをする。

 

それは二人にかけられた残酷な運命の呪いから解き放たれた瞬間だった。

 

ようやく二人が再会できた事実にマシュ達は喜んだ。

 

声に上げて喜びたかったが、二人の邪魔をしてはいけないと声を必死に抑えていた。

 

遊馬とアストラルは微笑みながら二人を見守り、視線を合わせて手を挙げる。

 

「やったな、アストラル」

 

「ああ。遊馬、君の強い想いが奇跡を起こしたんだ」

 

二人はハイタッチを交わして喜びを分かち合った。

 

「何言ってんだよ。お前がいてくれた、お陰……だ……ぜ……」

 

突如、遊馬は意識が朦朧とし、その場に崩れて倒れる。

 

「遊馬!?くっ……」

 

遊馬に駆け寄ろうとしたアストラルも意識が朦朧として遊馬に重なるように倒れた。

 

「遊馬君!?アストラルさん!??」

 

遊馬とアストラルが倒れ、マシュは声を上げて叫んだ。

 

それに気付いたラーマとシータは遊馬とアストラルが倒れている事に顔を真っ青にした。

 

「ユウマ!!アストラル!!」

 

「ユウマ様!アストラル様!」

 

ラーマとシータは遊馬とアストラルに駆け寄り、必死に呼びかけるが既に二人の意識は無かった。

 

そして、二人の意識が無くなると未来皇ホープとホープ・ドラグーンが静かに消滅する。

 

その際、未来皇ホープが持っていた羽根の剣が小さな光となり、遊馬の中に戻るように入っていった。

 

 

アメリカ軍の城……そこでエレナは遊馬から渡されたD・ゲイザーを弄りながらお茶を飲んでいた。

 

すると、突然エレナの手からカップが落ち、派手にカップが割れて砕け散る。

 

「あっ、あぁ……」

 

エレナは体がガタガタと大きく震えて両腕で自分を強く抱きしめた。

 

「エレナ、どうした!?」

 

「大丈夫か?」

 

エジソンとカルナはエレナの異変に心配するが、エレナは歓喜の笑みを浮かべていた。

 

「感じるわ……感じるわ!!」

 

「な、何がだ……?」

 

「何を感じたんだ……?」

 

エジソンとカルナはエレナの見たことない歓喜の笑みに軽く引いていた。

 

「マハトマよ、マハトマ!私には分かるのよ!しかも、これは……そうか、そうだったのね!!」

 

エレナにしか分からないマハトマにエジソンとカルナは訳が分からずに困惑する。

 

「ユウマ、やっぱりあなただったのね!うふふ、今度会ったら体の隅々まで調べてあげるんだから!」

 

よく分からないがエレナは遊馬に何かを感じたらしい。

 

エレナが遊馬を襲う光景がエジソンとカルナの頭に浮かんだ。

 

互いの理想の違いで別れた敵とは言え、流石にそれは色々まずいと思い、その時はエレナを全力で止めようと心に誓った。

 

 

アルカトラズ島から離れた地で一人の女性が走っていた。

 

その女性は黒い戦装束に真紅の魔槍を携え、赤い瞳を持っていた。

 

「何だったんだ、先ほどの力の波動は……」

 

女性は僅かに感じた力の波動……しかし、その波動は今まで感じたことがないほどのものだった。

 

それはケルト軍のサーヴァントでも無ければアメリカ軍のサーヴァントの仕業でもない。

 

では一体誰が何のために放ったのか?

 

女性はその真実を確かめる為に大地を駆け抜けた。

 

 

 




ラーマとシータの呪いが解かれ、二人は再会できました!
しかし、皆さん疑問に思うところはあると思います。
それは……遊馬君にヌメロン・コードが宿っていたことです。
やりすぎじゃないか?と思う人も多いかと思いますが、これは独自設定になりますが、ちゃんと本編を何度も見直してから気が付いたことなどを踏まえた理由は考えてありますので後々本編で説明します。

次回はいよいよFGOで私が一番大好きなあの人を登場させます!


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ナンバーズ124 師弟の再会と未知の出会い

いよいよ私の大好きなサーヴァントである彼女の登場です!

後半はまた色々ぶっ飛んだネタを組み込みましたのでお楽しみに!


遊馬とアストラルに魔術王ソロモンと対峙し、DARK ZEXALになった時以来の危機に陥っている。

 

「ダメです……体のどこにも異常が見られません」

 

ナイチンゲールは遊馬の体を隅々まで検査をしたがどこも異常は無かった。

 

そしてもう一人、遊馬とアストラルの体を調べている者がいた。

 

「こっちもダメよ。二人の体を隅々まで調べたけど全く異常が無いわ」

 

それは……カルデア所長のオルガマリーだった。

 

魔術を使って二人の体を隅々まで調べたが、ナイチンゲールと同じ答えで異常が見られなかった。

 

そして、アメリカに来たのはオルガマリーだけではなかった。

 

「オルガマリー所長……遊馬は……遊馬とアストラルは、大丈夫ですよね……?」

 

「小鳥、落ち着いて。遊馬とアストラルはきっと目覚めるから」

 

涙を浮かべて心配そうに二人を見つめる小鳥と、後ろから小鳥の肩に手を置いて落ち着かせている武蔵だった。

 

何故アメリカにオルガマリーと小鳥と武蔵がいるのかと言うと、それは遊馬とアストラルの緊急事態に駆けつけたのだ。

 

遊馬とアストラルが亡霊と戦い、ラーマとシータを離別の呪いから解放したその直後に意識を失い、倒れてしまった。

 

急いでナイチンゲールが遊馬の体を調べたがどこも異常が無く、アストラルも調べたかったが精霊を検査できるわけもなく手の施しようが無かった。

 

精霊使いのジェロニモでもアストラルを調べることはできず、マシュ達には何もできなかった。

 

カルデアにいるオルガマリーは一刻も早く遊馬とアストラルを救う為にレイシフト適性を得た自分自身が向かうことを決めた。

 

遊馬とアストラルを心配した小鳥も志願し、オルガマリーは迷ったが遊馬とアストラルが目覚めた時の活力源として連れて行くことにした。

 

オルガマリーと小鳥の護衛として何故か妙にアメリカに行きたがっていた武蔵を選び、すぐにレイシフトを行なった。

 

アルカトラズ島にレイシフトを無事に行われ、マシュ達と合流したオルガマリーはすぐに遊馬とアストラルの検査を行う。

 

しかし、どれほど調べても異常は見当たらず、二人が目を覚ます気配がなかった。

 

「脈もしっかりしているし、呼吸もしている……では何故目覚めないのでしょうか……」

 

原因が分からずナイチンゲールは悔しそうに地面を叩いた。

 

「何が原因なのよ……マスターが倒れたままじゃ話にならないわよ!」

 

『こちらも色々調べているけど原因が特定できないね』

 

『普通に眠っているようにしか見えないね……』

 

カルデアにいるロマニもダ・ヴィンチちゃんも出来る限り調べているがこちらでも分からず仕舞いだ。

 

「頼む……目を、覚ましてくれ……」

 

「私達の為に……こんな事になって……」

 

ラーマとシータは自分達の所為で遊馬とアストラルが目を覚まさないと思い込んで深い責任感が出てしまい、必死に祈りを捧げることしかできなかった。

 

マシュ達も不安で見守る中、小鳥はある可能性を思いつく。

 

「あの……もしかしたら、疲れているのかもしれません」

 

「はぁ?何を言っているのよ、疲れて眠っているのなら私達の声に反応するぐらい──」

 

「体じゃなくて、魂が疲れていると思います」

 

「……魂?」

 

オルガマリーはその単語に反応して真剣に小鳥の話を聞く。

 

「えっと、私は魔術とか詳しくないから上手くは話せませんけど、遊馬とアストラルの側で沢山のデュエルを見てきて、二人が何度か意識を失うこともありました。肉体が傷ついて意識を失ったりもありましたけど、それ以外には肉体があまり傷ついてないのに意識を失うこともあったんです」

 

小鳥は人間界で起きた遊馬とアストラルが関わったデュエルで実際に意識を失ったケースを思い出しながら説明する。

 

「それで、知識が無いなりに考え付いたのがアストラル世界やバリアン世界が高エネルギーの世界で、ランクアップした魂が向かう世界の住人なら何かあった時に肉体の代わりに魂が疲れるのかなって思って……遊馬とアストラルは普通の戦いとは違う戦いをしていたから余計にそう思ったんです」

 

遊馬とアストラルと誰よりも常に一緒にいた小鳥だからこそ感じて考えたその答えにオルガマリーは納得したように頷いたが同時に険しい表情を浮かべた。

 

「魂なんて……そんなものをどうやって癒せば良いのよ。治癒魔術はあくまで肉体損傷にしか使えないし、アイリスフィールや玉藻の宝具もあくまで回復や魂と生命力の活性化ぐらいだし……」

 

魔術は万能ではなく、回復の宝具を持つアイリスフィールと玉藻を考えたがそれでは二人が目覚めるには足りないと判断し、オルガマリーは悩みながら頭を必死に巡らせて考える。

 

すると、ふと目に付いたのは二人のそばに置かれている聖杯だった。

 

「そうだわ!聖杯を使えば望みが──って、何よこのくすんだ色は!?」

 

金色に輝いているはずの聖杯はその美しい輝きが消えてくすんだ色になっていた。

 

「それが……ラーマさんとシータさんを助けた後に聖杯がそんな色に……」

 

マシュ達も遊馬とアストラルが倒れた後から気づいた事でどうやら離別の呪いを解くのにその力を使い過ぎてしまったようだ。

 

よく見ると少しずつだが周囲の空間から魔力を吸収しているので、しばらくすればまた元の輝きを取り戻すと推測出来るがこれでは使い物にならない。

 

遊馬とアストラルが自然に目を覚ますの待つしかないと……万事休すかと思われたその時。

 

「──っ!?みんな、外にサーヴァントの気配よ!」

 

レティシアは刑務所の外にサーヴァントの気配を察知し、オルガマリーは立ち上がって指令を出す。

 

「遊馬とアストラルの代わりに私がマスター代行をします!皆さん、行きましょう!」

 

オルガマリーはサーヴァントのマスター代行として宣言し、マシュ達は頷いて共に向かう。

 

外に出るとアルカトラズ刑務所に向かって歩く一人の女性がいた。

 

黒い戦装束を身に纏い、二振りの真紅の魔槍を携えていた。

 

「あの槍は……」

 

その槍の形には見覚えがあり、マシュはその槍と同じ槍を持つ一人のサーヴァントをチラッと見る。

 

そして、その女性の姿に誰よりも驚いたのはそのサーヴァントで、震えながら声を荒げていた。

 

「嘘だろ……何で、何であんたがここに居るんだ!??」

 

「おぉ……もしやと思ったが、お前は本物だな。久しいな、我が弟子。セタンタよ……」

 

女性はクー・フーリンを見ると嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

セタンタとはクー・フーリンの幼名。

 

「では、他の者もいることだし、自己紹介だ。我が名はスカサハ。そこにいるセタンタの師だ」

 

スカサハ。

 

ケルト・アルスターの伝説の戦士。

 

そして、異境・魔境『影の国』の女王にして門番。

 

「いやいやいや、絶対にあり得ねえ!あんたがサーヴァントになってるのがあり得ねえ!だってあんたは不老不死のはずだろ!?」

 

クー・フーリンの言葉の通り、スカサハは人の身で人と神と亡霊を斬り過ぎた事で、神の領域に近づいてしまい、不老不死となってしまった。

 

本来は死ぬことができないために英霊の座にもいない、サーヴァントとして召喚できないはずの存在。

 

「確かに私は影の国で長いこと門番をしていた。だが、人類史が全て燃え尽き、私の国も燃え尽きた。その結果、こうして『死んだ者』として召喚された。まっとうな歴史であれば私は生者と話すことすら出来ん」

 

「マジかよ……」

 

「人理焼却が影の国をも燃やし尽くしていたなんて……」

 

人理焼却はこの世界のみならず異界である影の国すらも燃やし尽くした。

 

その結果、不老不死のスカサハがサーヴァントとして召喚されると言う、ある意味奇跡に近い現象が起きた。

 

「その点で言えば今回の事変はありがたいとも言えるが……いや、ありがたい筈も無し。ただでさえ阿呆な弟子の輪をかけて阿呆な無様をみるはめになったからのぅ」

 

「叔父貴が言っていた俺の偽物、狂王だな」

 

「フェルグスと既に会っていたか。師として首輪をかけて連れ戻しに来たのだが、どうもアレにも何か思うところがある様子。この時代ごと一刺絶断しようとも考えたが、その時不思議な力を感じた」

 

「不思議な力……ああ、それは多分うちのマスターだな」

 

「マスター……そこの娘か?」

 

スカサハはこの中で唯一の人間であるオルガマリーを見るが、オルガマリーは首を左右に振って否定する。

 

「私じゃないわ。ここにいるサーヴァントのマスターはこの建物の奥にいるわ……そうだわ、あなたなら……!」

 

オルガマリーは何かを思いつくとスカサハに近づく。

 

「どうした?娘よ」

 

スカサハから無自覚に放たれる強者のオーラにオルガマリーは圧倒されながらも堂々と話しかける。

 

「私はオルガマリー・アニムスフィア。あなたの力を借りたいの!あなた、弟子のクー・フーリンにルーン魔術を教えたのよね?」

 

「そうだが、それが?」

 

「あなたの力で目覚めさせて欲しい二人がいるの。私たちにとって、いいえ……この世界の最後の希望とも言える大切な存在なのよ。だから、お願い!!」

 

ケルト神話の伝承が正しいならスカサハは強大な力を持つ戦士。

 

カルデアにいるサーヴァントの中でも群を抜くであろうその能力なら遊馬とアストラルを目覚めさせることができる可能性がある。

 

「良いだろう、その者達の元へ案内しろ」

 

「ええ!ありがとう!」

 

スカサハはオルガマリーの頼みを了承し、マシュ達と共に刑務所の中へと入る。

 

遊馬とアストラルが眠っているところへ向かうと、スカサハは二人の姿に驚いた。

 

「人間の子供と精霊だと……?」

 

まさか目覚めさせる相手が人間の子供と精霊だとは思いも寄らずに目を丸くした。

 

そして、遊馬の手を握って祈るようにしている小鳥にスカサハは声をかける。

 

「娘よ、お主はその子供の恋人か?」

 

「えっ!?いや、その……私は遊馬の幼馴染で……」

 

突然現れた見知らぬ美女に突然遊馬の恋人と言われて顔を真っ赤にして慌てて手を離す。

 

マシュ達はギロリとスカサハを睨みつけたかったが、グッと堪えて我慢した。

 

「ほぅ、幼馴染か」

 

スカサハはマシュ達の視線に気付き、小鳥の反応を微笑ましく思いながら腰を下ろし、遊馬とアストラルに向けて手をかざす。

 

「……随分と魂が弱っているな。後は任せろ、二人を目覚めさせる」

 

「は、はい!」

 

小鳥はその場から下がり、スカサハは指先を光らせて文字を描く。

 

それは普通の文字ではなく、古代から伝わる意味が込められた文字の「ルーン文字」で、空中に描いたルーンを遊馬とアストラルの中に宿す。

 

ルーン魔術は呪文の詠唱ではなくルーン文字を刻むことで魔術的神秘を発現させる。

 

「癒しのルーン」

 

遊馬とアストラルの体に純白の光を纏わせる。

 

スカサハが二人に施したのは疲弊した肉体と魂を癒す事ができる癒しのルーン。

 

スカサハの使うルーン魔術は原初のルーン文字で、それは神代の領域でありとても強力なものだ。

 

それにより極限まで魂が疲弊した遊馬とアストラルが癒され、肉体と魂が最高潮にまで回復する。

 

「……んぁ?」

 

「……むっ?」

 

遊馬とアストラルは同時に目を覚まして起き上がる。

 

「あれ?俺、どうしたんだっけ?」

 

「確か亡霊を倒して……」

 

「遊馬!アストラル!」

 

「えっ?こ、小鳥!?何でここに!??」

 

「遊馬とアストラルが心配だったからオルガマリー所長と武蔵さんと一緒に来たのよ!」

 

「ええっ!??」

 

遊馬とアストラルは小鳥から何故ここにいるのか、何があったのかを詳しく聞いた。

 

「それでね、このお姉さんが二人を目覚めさせてくれたのよ」

 

「お姉さん?」

 

小鳥に紹介されて振り向くとそこには見たことないサーヴァントであるスカサハがいた。

 

「えっと……お姉さん、どちら様でしょうか?」

 

遊馬にお姉さんと呼ばれ、スカサハは少し嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ほぅ、この私をお姉さんと呼ぶか?」

 

「え?だって、うちの姉ちゃんぐらいに若いし……美人さんだよな?」

 

遊馬はアストラルと小鳥に同意を求め、二人は頷く。

 

「まあ、確かに……」

 

「うん!とっても綺麗よね!スタイルも良いし、髪も長くて綺麗だし!」

 

「そうか……嬉しいことを言ってくれるな、子供達よ」

 

遊馬達に若くて美人と褒められスカサハは上機嫌となるが……。

 

「子供にそんな事を褒められて嬉しがるなよ、師匠。あんた、歳を考えろよ」

 

「黙れ、馬鹿弟子」

 

「グボァッ!??」

 

クー・フーリンに軽く指摘された瞬間にスカサハの目が鋭くなり、軽く振るった槍の一撃でクー・フーリンは対抗する間も無くぶっ飛ばされて壁に激突する。

 

「あ、兄貴ぃいいいいいっ!??」

 

「あのクー・フーリンが瞬殺された……!?それにその槍はクー・フーリンが持つゲイ・ボルグに似ている……ま、まさか、あなたはクー・フーリンの師匠で影の国の女王、スカサハ……!??」

 

突然クー・フーリンがぶっ飛ばされて遊馬は思わず叫び、アストラルはその強さと槍からスカサハの正体がすぐに分かった。

 

「私のことを知っているか、精霊よ」

 

「だが、あなたは神殺しの影響で不老不死になっているはず……サーヴァントにならないはずだ!」

 

「それには特別な理由があってな……」

 

スカサハは先程マシュ達にも説明した事情を説明し、遊馬とアストラルは取り敢えず納得した。

 

一方、先程ぶっ飛ばされたクー・フーリンは崩れた壁が瓦礫となってそのまま生き埋めになっていた。

 

助けようとしたがスカサハはそんなことをしなくても良いと止めた。

 

「あ、あんたがクー・フーリンの師匠なのか……?」

 

「その通りだ。しかし、その師匠に対して敬意もない馬鹿弟子には困ったものだ」

 

「物凄くぶっ飛ばされているけど……やり過ぎなんじゃ……」

 

「馬鹿を言うな。あれぐらいで死ぬようなヤワな鍛え方をしてはいない。もしも弛んでいるなら、私がもう一度死ぬほど稽古をつけてやる」

 

「あ、はい……そうすか……」

 

遊馬はクー・フーリンに対して恐ろしいまでに厳しい雰囲気を出すスカサハに唖然としながら頷く。

 

「ユウマ!アストラル!」

 

「ユウマ様!アストラル様!」

 

遊馬とアストラルが目覚め、ラーマとシータは二人に嬉しそうに近付く。

 

「おっ、ラーマ!シータ!二人共、ちゃんと一緒にいられているんだな!」

 

「離別の呪いも無事に解けたようだな」

 

ラーマとシータを苦しめていた離別の呪いが無事に解けていることを再確認した遊馬とアストラルは良かったと安心する。

 

すると、ラーマとシータは真剣な表情を浮かべて二人の前で突然跪いて頭を下げた。

 

「えっ?お、おい、何してるんだよ?」

 

「ユウマ、アストラル……いいえ、ユウマ様、アストラル様、この度は私とシータの為に力を貸していただき、誠にありがとうございます」

 

「御二方には感謝しても仕切れません。このご恩は私達二人の全てを尽くしてお返しします」

 

王であるラーマとその妻のシータ、二人が全身全霊を込めて跪いて頭を下げている……その相手は神といっても過言ではない。

 

「き、気にすんなって。俺たちが勝手にやったことなんだし……」

 

「私達も君達が無事に呪いが解けて嬉しく思っているのだからそれで……」

 

「そうはいきません。あれ程強く、恐ろしい呪いを命懸けで解いて下さった二人に、何のお返しも出来ないなど私達の気が収まりません」

 

「どうか私達に何なりとご命令を……どのような事でも全力を尽くします」

 

遊馬とアストラルは二人の行動に困り果てた。

 

ラーマとシータの呪いを解いてあげたい、呪いを解いて二人に笑顔と幸せをもたらしたいという気持ちで自分達の全てをかけて離別の呪いを解いた。

 

お陰でラーマとシータは無事に再会し、笑顔となって幸せをもたらした。

 

その幸せな姿を見れただけで遊馬とアストラルは満足だったが、ラーマとシータはそうはいかなかった。

 

遊馬とアストラルは恩人どころか、ラーマとシータにとっては救いの神に等しい存在となっていた。

 

その救いの神に何のお返しも出来ないなど二人には考えられない。

 

必ず何かをお返しして恩に報いる気持ちだった。

 

そんな二人の想いをなんとなく察した遊馬は頭をかきながら仕方ないと言った様子で口を開く。

 

「分かった。じゃあ、二人には三つの誓いを立ててもらう」

 

遊馬は三本指を見せて二人に誓わせた。

 

「「はい」」

 

「一つ目、俺たちと一緒にこのアメリカをケルトから救う為に戦ってくれ」

 

これは元々ラーマを救う目的の一つであり、ラーマの心臓に抉られたゲイ・ボルグの呪いも解かれて無事に修復されている。

 

「「はい」」

 

アメリカ軍にいる最高クラスのサーヴァント、カルナにも匹敵するであろうラーマは必ず打ち倒す決意をする。

 

「二つ目、このアメリカの戦いが終わった後……俺たちと一緒にこの世界の未来を取り戻す戦い、人理修復の戦いにも協力して全力を尽くす事」

 

「「はい」」

 

マシュ達から既に遊馬達の戦いの目的を聞いていたので、世界の未来を取り戻す為、もちろんその力を貸すつもりである。

 

「そして三つ目。これが一番重要だからな」

 

遊馬が今までで一番真剣な表現をして二人はドキッと心臓の鼓動を上げたが、その直後に遊馬はニッと笑みを浮かべて宣言する。

 

「ラーマ!シータ!絶対に生前以上にたくさん幸せになる事!呪いで苦しんでいた分、離れ離れになっていた分、二人で新しい未来を歩いて幸せになれよ!!」

 

必ず幸せになる事、それが遊馬から課せられた最後の誓い。

 

「えっ……?」

 

「ユウマ様……?」

 

「どんな命令でも受けるんだろ?ちゃんと守れよな?」

 

「「……はい!」」

 

ラーマとシータは遊馬の自分以外の誰かを思いやるその心に涙を浮かべて頭を深く下げた。

 

すると、ラーマとシータの覚醒していない二枚のフェイトナンバーズが光り輝き、一枚に合体して新たなフェイトナンバーズとなった。

 

そして、ラーマとシータの新たなフェイトナンバーズは二人は幸せそうに抱き合っている姿が描かれており、真名は『FNo.70 永遠の愛と絆 ラーマ&シータ』。

 

スカサハは初めて見るフェイトナンバーズを興味深そうに見つめると、それを持つ遊馬にも興味を持ち出す。

 

「ふむ……良い眼をしている。それに……その体に影響は出てないが、神殺しをしているな?」

 

人のみならず神や亡霊を葬って来たスカサハは遊馬が神殺しをしたとすぐに気付いた。

 

「神殺し?まあ、俺とアストラル、それにホープと一緒に色んな神を叩き切ったり、ぶっ飛ばしたりしたけどな」

 

「色々な神と戦ったか、それは興味深いな……それに、中々いい体つきをしている。鍛えているのか?」

 

スカサハは軽く遊馬の体を服の上から軽く触り、その体つきを確かめる。

 

「おう。カルデアって言う施設にいるサーヴァントのみんなから鍛えてもらっているんだ。肉体はレオニダス、無手はマルタの姉御、そして剣術はそこにいる武蔵姉上から教わってるぜ!」

 

「剣か……」

 

スカサハは目を細めると武蔵に目線を向ける。

 

「なるほど、お主……初めて見たときから感じていたが、中々の使い手のようだな」

 

スカサハの強い視線を軽く受け流しながら武蔵はいつもの笑みを浮かべて話す。

 

「んー、まぁ、それなりにね。私なんてまだまだだけど、一応は二刀流剣術の使い手でね。愛弟の遊馬に私の剣を叩き込んでいるよ」

 

「二刀流……二つの剣を使うか。奇遇だな、私も二つの槍を扱う。どうだ、後で手合わせをしないか?」

 

「うん、喜んで!異国の強い戦士と戦えるなんて光栄だよ!」

 

二槍のスカサハと二刀流の武蔵……それぞれ二つの獲物を扱う二人の戦士の戦いに遊馬は見てみたいと心を躍らせた。

 

「さて、話はそれたが……ユウマ、いいや。これから私のマスターになる存在なら、マスターと呼んだ方がいいな」

 

「えっ!?スカサハさん、俺と契約してくれるのか!?」

 

「さんはやめてくれ。だが、その代わりに……私の弟子にならないか?」

 

「弟子?」

 

「ちょっと待ったぁっ!!」

 

先程ぶっ飛ばされて軽く伸びていたクー・フーリンが、スカサハの発言に瓦礫を吹き飛ばしながら遊馬の前に滑り込むように走ってきた。

 

「何だ、セタンタ。騒々しいぞ」

 

「師匠!何でマスターをあんたの弟子にしようとしているんだ!?」

 

「簡単な話だ、マスターは見所がある。他のサーヴァント達にかなり鍛えられているが、まだ伸び代がある。それをもっと伸ばしたいだけだ」

 

「マスター、師匠と契約するのは構わねえが、弟子になるのだけはやめとけ!!死ぬぞ!!」

 

「え?死ぬ??」

 

「俺はなぁ、生前にこの人の弟子として鍛えられていた時に何度も死を覚悟した……レオニダスのスパルタなんて生易しいほど恐ろしいんだぞ!!」

 

「失礼な、流石にマスターにはそこまではしない。多少は厳しいかもしれないが死にはしない」

 

「いや、あんたのその言葉が信用できねえんだよ!!」

 

クー・フーリンは何としてでも遊馬をスカサハの弟子にはしたくなかった。

 

その理由は純粋無垢な遊馬をケルト戦士にしたくないからであり、もしも遊馬がケルト戦士になったらたまったもんじゃない。

 

「……なあ、あんたの指導を受けたら強くなれるか?」

 

「マスター!?」

 

「……強くなりたいのか?ただ力を求めるわけではないようだが?」

 

「俺……ロンドンの特異点で人理焼却の黒幕と会って、そこで呪いをかけられて闇に堕とされたんだ。そのせいで小鳥やマシュ達に迷惑を掛けちまった。今さっきだって、亡霊と戦って意識を失っちまったし、こうしてあんたにも迷惑を掛けちまった。不甲斐ないよな、こんなマスターで……」

 

「しかし、お主は人間の子供。マスターとサーヴァントの関係を考えるなら、戦いはサーヴァントに任せるのが普通ではないか?」

 

「確かにそうかもしれねえけど、俺にとってサーヴァントは配下でも使い魔でもない。掛け替えのない、大切な仲間なんだ!仲間が俺を守ってくれるなら、俺も仲間を守る!!」

 

思わぬ発言にスカサハは目をパチクリとさせた。

 

聖杯戦争におけるマスターとサーヴァントの関係は召喚された際に聖杯からある程度の知識は得ているが、まさかマスターがサーヴァントを守ると発言するとは思いもよらなかった。

 

そして、遊馬がスカサハが最も好む存在、ただの戦士でもない、蛮勇でもない……『勇気ある者』だと理解した。

 

スカサハは遊馬のこれからの将来に心を躍らせ、槍を見せながら遊馬に宣言する。

 

「よかろう、お主のその想いに応えられるか分からないが、私も全力を尽くして鍛えてやろう」

 

「ああ!これからよろしく頼むぜ、スカサハ師匠!!」

 

遊馬とスカサハは握手をすると同時に契約を交わし、スカサハのフェイトナンバーズが誕生する。

 

マスターとサーヴァントの関係だけでなく、師弟の関係となった遊馬とスカサハにクー・フーリンは頭を悩ませた。

 

「ちくしょう……恐れていた事が現実に……マスターがスカサハの弟子になっちまったぜ……」

 

「……遊馬が望んだことだ。遊馬のかっとビングなら乗り越えられるだろう」

 

アストラルも不安だったが、遊馬が自ら選んだことを尊重し、見守る事にした。

 

 

「あら、聖杯も少しは力を取り戻したようね」

 

オルガマリーは金色に戻りつつある聖杯を拾い上げて軽く手で撫でながら思う。

 

「強くなるか……」

 

遊馬の先ほどスカサハに向けた言葉で思うところがあった。

 

オルガマリーはカルデアの所長で時計塔のロードの一人とはいえ、所詮はただの人間で魔術師。

 

世界と人類を救い、歴戦のサーヴァント達からも認められている本物の英雄である遊馬とアストラルに比べれば、自分はその辺にいる人間と変わらないほどの大した力しかない。

 

カルデアの所長としての重すぎる責任は当然あるのだが、一度死んで蘇らせてもらった身としてはそれだけでは足りないと感じている。

 

「私も、せめて……未来を救う為の役に立てられる力があれば良いんだけどね……」

 

遊馬と同じように未来を救う為に力を求めるオルガマリー。

 

すると、聖杯は少しずつ光を放出していくと、金色の輝きを取り戻していく。

 

「な、何……!?」

 

オルガマリーは困惑していると自分の体から何かが抜けていく感覚を覚える。

 

「これは……まさか、私の魔力を吸収しているの!?」

 

聖杯はオルガマリーの持つ魔力を吸収し、消費している力を補おうとしていた。

 

「所長!?」

 

遊馬達も気づいた時には既に遅く、十分に魔力を得たのか聖杯が光り輝くとオルガマリーは光に包まれた。

 

 

光に包まれて意識が遠のいたオルガマリーは目を覚ますとそこは何も無い真っ白な空間だった。

 

「何よここ……ハッ!?」

 

オルガマリーは背後に気配を感じ、右手に魔力を込めて魔弾を撃つ準備をして振り向く。

 

「……誰、あなたは……?」

 

そこにいたのは椅子に座り、虚ろな目をしてスーツ姿に帽子を被った青年だった。

 

『まさか、この私を呼び出すとはな……』

 

青年は手を組み、ため息を吐いてオルガマリーを見つめる。

 

すると、青年の背後に黒服を着た男たちが現れる。

 

『良いだろう、上に立つ者として……この力を役立てるが良い』

 

「えっ……?」

 

青年と黒服たちは光の粒子となってオルガマリーの中に入り、光に包まれる。

 

 

謎の光に包まれたオルガマリーが戻って来ると、胸に手を当てて深呼吸をした。

 

「確か、こう言うんだっけ……?」

 

目を閉じて静かに自分の中にある扉を開ける鍵となる言葉を口にする。

 

「開放召喚」

 

オルガマリーの体から一瞬だけ光を発すると、次の瞬間にはいつもの制服姿が一変し、渋い色のスーツと帽子を着用し、男装した姿となった。

 

「オ、オルガマリー所長……?」

 

遊馬達が唖然として見つめる中、オルガマリーは苦笑いを浮かべながら告げた。

 

「えっと……私、どうやら……デミ・サーヴァントになったみたい……」

 

「「「……えぇえええええーっ!??」」」

 

予想外すぎる展開に遊馬達は声を揃え、驚愕の叫びをあげた。

 

オルガマリーが力を求めた事で聖杯はその願いを叶え、かつて冬木で桜と凛がそうなったように、オルガマリーもデミ・サーヴァントになってしまった。

 

オルガマリーの中に宿る英霊は……このアメリカの短い歴史において、偉大な存在にして最も敵に回したくない男だった。

 

そして、オルガマリーがその男の力を宿す事によって聖杯戦争は一気に加速する事になる。

 

 

 




オルガマリー所長、祝!デミ・サーヴァント化!

エルメロイII世の事件簿のオルガマリーちゃん(12歳)が可愛い→こっちの小説でも活躍したい→頭の中に何かが舞い降りた→所長のデミ・サーヴァントはどうだ!?
みたいな感じでネタが思いついてしまった訳です。

中にいる英霊が誰かは知っている人はご存知のあの方です(笑)
何か良いサーヴァントがいないかなと探していたら、ちょうど今はアメリカ編でタイムリーだと思ったので、それにしました!

ついでに今話題の武蔵ちゃんもアメリカ上陸!
バーサーカー武蔵ちゃんのフラグが立ちました(笑)

次回は……これで戦力が整ったのでエジソンのところにカチコミに向かいます。


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ナンバーズ125 オルガマリーの再起

今回はオルガマリー所長の心の悩みなどを書きます。
まあこの人は色々ありますからね。
ここらで立ち上がってもらいたい気持ちもあって描写しました。

※ナンバーズ122の最初の部分を書き直しました。
大変お待たせしてすみません。


オルガマリーが聖杯によってデミ・サーヴァントとなってしまい、驚愕しながらも落ち着いて状況を整理する。

 

「お、落ち着きなさい……まずは私の中にいるサーヴァントの真名と宝具を確かめないと……」

 

「大丈夫か?所長……」

 

「大丈夫よ……」

 

オルガマリーは目を閉じて神経を集中し、まずは宝具を発動する。

 

どんな宝具か分からないが期待に胸を躍らせると……。

 

ポンッ!

 

オルガマリーの手に一つのファイルが現れた。

 

「……ファイル?」

 

ファイルには『O&C』と書かれており、オルガマリーはキョトンとしながらファイルを開くとそこには写真付きの資料があった。

 

「誰よ、この老人は?」

 

写真にはオルガマリーが見たことのない老人の白黒写真だった。

 

「これは……オルガマリー、君の中にいる英霊の正体が分かったぞ」

 

アストラルはその写真とファイルの『O&C』から英霊の正体が判明した。

 

「アメリカ連邦捜査局、通称FBI……その初代長官『ジョン・エドガー・フーヴァー』」

 

「……はぁ!?FBIの初代長官!?」

 

ジョン・エドガー・フーヴァー。

 

FBIの初代長官で、当時マフィアの影響力が非常に大きかったアメリカでFBIを巨大な捜査機関に成長させた。

 

近代的・科学的な捜査方法を大々的に導入した立役者として知られている。

 

「FBIって結構近代に出来た組織じゃねえか?その初代長官って事は、そのファイルが宝具?」

 

ファイルの資料に書かれている文にこの宝具の事が書かれており、マシュはそれを読み上げた。

 

「何かファイルに書いてあります。えっと……この宝具は『公式かつ機密(オフィシャル・アンド・コンフィデンシャル)』。その能力は『敵の秘密や弱みを暴いて脅迫する』……え?」

 

攻撃的な宝具ではなく敵対する者の情報を全てを暴くものでサーヴァントの真名や弱点を暴くことができる。

 

「何よそれ!陰険な宝具じゃないの!??」

 

「なるほど、フーヴァー長官が所持していたファイルには多くの政治家の機密情報や不祥事、スキャンダルのデータベースがあり、死後に発見された遺品には国家を複数回転覆させられるほどの情報があったらしい……それが宝具になった訳だな」

 

フーヴァーはFBI長官だが、その反面暗黒面も非常に大きく、連邦捜査局の調査過程には違法捜査も多く行ってきた。

 

それによりフーヴァーのファイルには膨大な数の恐ろしい情報が揃っていたのだ。

 

「ああもう!他に無いの!?使える宝具は!??」

 

オルガマリーが頭を抱えて叫ぶと、突然周囲に黒いスーツを着た男性達が現れた。

 

「今度は誰よ!?あなた達は!?」

 

「あ、宝具の説明がもう一つあります!『黒服の男たち(ガヴァメント・メン)』。エージェントを呼び出し、あらゆる情報を収集してお届けする……らしいです」

 

「情報って……じゃあ、アメリカ軍とケルト軍の情報、持ってこれる?出来れば今夜中に……出来る?」

 

男たちは頷くとその場で瞬時にその場から消えて情報収集に向かった。

 

「はぁ……遊馬、先に情報収集に向かった百貌のハサンたちに連絡をお願い」

 

「お、おう、了解」

 

遊馬はD・ゲイザーを使ってアメリカ各地に向かっている百貌のハサン達に連絡を取って全員を集める。

 

「情報収集が完了次第、作戦会議を行います。それまでは自由時間とします」

 

オルガマリーは髪を手櫛でかき、アルカトラズ刑務所にある備品のデスクなどを借りて資料を整理し始めた。

 

思わぬ自由時間に遊馬達はそれぞれの時間を過ごす。

 

ほとんどは刑務所の外に出て戦いの疲れを癒すためにのんびりと過ごし、小鳥は夕飯の準備をする。

 

アルカトラズ島には少し前に倒したワイバーンが山ほどいるので、クー・フーリンなどに解体してもらって新鮮で良質な肉を切り取り、残りの骨や内臓は清姫に焼いて灰にしてもらう。

 

小鳥は大量のワイバーンの肉が手に入ったので、バーベキューをする事にし、カルデアから野菜を送ってもらい、串焼きバーベキューとご飯の炊き込みの仕込みをする。

 

そこにシータがやって来た。

 

「あ、あの……」

 

「シータさん、どうしました?」

 

「よろしければ、お手伝いします」

 

「え?でも、ラーマさんと一緒にいなくて良いんですか?」

 

「大丈夫です、ラーマ様とはこれから沢山一緒にいられますから。ラーマ様は寝起きなので体が鈍っていると、これからの戦いに向けて体を動かしています」

 

ラーマは目先に必ず戦わなければならない相手としてアメリカ軍にいるカルナがいる。

 

最強クラスのサーヴァントであるカルナには生半可な覚悟では相手にはならない。

 

ラーマはシータが信じる世界一強い戦士として、そして……自分たちを救ってくれた遊馬とアストラルの為にも必ず勝つと決意し、修練を積む。

 

「だったら、ラーマさんの為にも沢山作らないとですね!」

 

「はい!あの、コトリさん。よろしければ、ユウマ様とアストラル様の事を教えていただけますか?お二人の事は全然知らないので……」

 

「もちろん、良いですよ。じゃあどこから話そうかな……」

 

小鳥とシータは夕飯の準備をしながら遊馬とアストラルの話をする。

 

 

一方、遊馬とアストラルは……。

 

「はあっ!」

 

「ふっ!」

 

二刀流最強剣士・武蔵とケルト最高峰の魔槍戦士・スカサハの模擬戦を見ていた。

 

互いに二振りの得物を使う者同士、二人は楽しそうに笑みを浮かべてそれぞれ刀と槍を振るっている。

 

流石に宝具を使ったら相手を殺しかねないので宝具の使用なしの武術のみの模擬戦である。

 

「すげぇな……!」

 

「時代と国を超えた二つの得物を持つ達人同士の戦いか。やはりサーヴァントだとこう言った戦いが見られるのは素晴らしいな」

 

「そりゃあ、別に構わねえんだけどよぉ……」

 

遊馬とアストラルは二人の戦いに感心しているとクー・フーリンが隣に座る。

 

「兄貴?どうしたんだ?」

 

「あー、ラーマの相手が終わったんでスカサハの様子を見に来たんだけどよ……」

 

「それで?」

 

クー・フーリンは顔をげっそりとしながらスカサハを見つめた。

 

「なぁマスター、スカサハは俺の師匠なんだが……なんだよあれ……城に居た時より腕前上がってねぇかあの人?」

 

「そうなのか?」

 

「影の国で門番をしていて、ずっと戦い続けてきたからか……?」

 

「てかゲイ・ボルク二槍流って俺の立場無いですよね!?」

 

クー・フーリンは二つのゲイ・ボルグを巧みに操るスカサハに対して愚痴をこぼして頭を抱えた。

 

スカサハは生前のクー・フーリンが知っている以上にかなり強くなっており、スカサハ自身の『願い』を考えるとあまりの強さに最早呆れ果てるほどだった。

 

「うーん……スカサハ師匠って、確か不老不死だったんだよな?どれぐらい生きていたんかな……?」

 

「ケルト神話の年代を考えると……最低でも2000年は越えているな」

 

「うへぇ……そんなに生きていたなんてな……」

 

「全く、あの師匠は。ババァなんだからもう少しは歳を考えて自重──」

 

クー・フーリンは出来るだけ小さな声でつぶやいたが……。

 

「『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティブ)』!」

 

「え?ちょっ、おまっ──ギャアアアアアアーッ!??」

 

突如、クー・フーリンにゲイ・ボルグの二槍が飛び、空高くぶっ飛ばされてそのままアルカトラズ島の外の海へと落ちていった。

 

「えぇえええええーっ!?あ、兄貴ー!?」

 

「クー・フーリンがまたぶっ飛ばされた……」

 

「あらら……面白いように派手にぶっ飛ばされちゃったね……」

 

遊馬とアストラルは目の前で起きた事に驚愕し、武蔵は突然スカサハが戦闘を中断して宝具を解放してクー・フーリンをぶっ飛ばした事に唖然とした。

 

「全く、あの馬鹿弟子は口が減らないな……」

 

スカサハはゲイ・ボルグで軽く肩を叩きながら愚痴をぼやいていた。

 

さっきのクー・フーリンの悪口はしっかりとスカサハの耳に届いていた。

 

やはりスカサハもサーヴァントとは言え、一人の女性なのでやはり年齢の事を色々言われるのは嫌らしい。

 

下手をすればクー・フーリンの二の舞になる可能性がほぼ確実である。

 

「それで……お主らも私をババァと呼ぶか?」

 

ギロリと殺気が込められた視線が遊馬とアストラルにも向けられた。

 

まさかの矛先の転換に遊馬とアストラルは全力で否定する。

 

「いえいえいえ、滅相もございません!見た目が婆ちゃんそのまんまなら、俺も婆ちゃんって呼んだかもしれねえけど、スカサハ師匠は姉ちゃんと同じぐらいの若い見た目だから呼べる訳ねえって!」

 

「わ、私も、不死ではないが長いこと生きていたのでそもそも言うつもりはない!」

 

「……そうか。なら良い。ちなみに、マスターのその姉の歳はいくつだ?」

 

「え?二十歳だけど……」

 

「二十歳か……そうか、そうか。それなら良い!」

 

遊馬の姉、明里は二十歳なのでスカサハもそれぐらい若く見られると知り、上機嫌となる。

 

元々言うつもりは無かったが、遊馬とアストラルは女性サーヴァントに対してこれからも年齢の事を一切口にしないと心に誓った。

 

 

夕食のバーベキューを食べ、しばらくした後……。

 

「はぁ……」

 

オルガマリーは本日数度目となる溜息を吐きながらペンを動かす手を止めた。

 

「なんとか資料作成は終わったわね……」

 

百貌のハサンと黒服の男たちから集められた情報を元に資料を作成し、今度はそれをファイリングして分かりやすくまとめる。

 

「以前の私ならここまで効率よく上手に作れなかったわね……流石は世界に名だたるFBIの初代長官ね」

 

戦闘能力は高くは無いが、情報収集やファイリングなど『情報』と言う点においてはフーヴァーに勝るサーヴァントはそうそういないだろう。

 

それに加え、黒服の男たちが集めた情報は情報量が多く、それを元にフーヴァーの『公式かつ機密』で秘密を暴き、不明だった謎を解き明かすことが出来た。

 

「それにしても……この資料は恐ろしいわね……」

 

元々あった資料の中にはフーヴァーが生前に集めたアメリカに関するものもあった。

 

魔術世界という名の裏社会出身のオルガマリーでも思わず顔が真っ青になるほどのアメリカの国家における重大な機密情報が事細かに記されていた。

 

こんなものが仮に人理焼却が起きる前に世界に暴露されたらアメリカが転覆し、下手すればアメリカという国が崩壊し、世界に多大な影響を与えるものだった。

 

「これは忘れましょう……」

 

オルガマリーはパタン!とファイルを閉じてその資料のことを全力で忘れる事にした。

 

「それにしても……この特異点で召喚されたサーヴァントは化け物揃いね。文字通り化け物みたいな見た目のもいるし……」

 

揃えた情報からこのアメリカに現存しているサーヴァントの情報が集まっており、今までの特異点とは比べ物にならないほどの化け物と呼べるほどの強力なサーヴァントの多さにオルガマリーは頭を抱える。

 

「クー・フーリンの師匠で影の国の女王のスカサハが味方になってくれたのは大きいわ。でもケルト軍と戦うにはアメリカ軍を何とか味方に引き入れないといけない……」

 

アメリカ軍、ケルト軍、そして今自分たちがいるレジスタンス軍……三つ巴の戦いであるが、強大な力を持つケルト軍に対抗する為にはまずアメリカ軍を味方に引き入らなければならない。

 

しかしそれには力を示す必要があり、最強クラスのサーヴァントであるカルナを何とかしなければならない。

 

「やはりアメリカ軍の一番の難敵はカルナね。同じインド神話のラーマが無事に復活したとは言え勝てるかどうか……いいえ、その心配は無いわね。奥さんのシータと再会して心身共に絶好調みたいだからね」

 

誰が見ても今のラーマは絶好調であり、シータがいる限り全力全開で戦える事は確実。

 

シータの愛がある限りラーマが負ける事はまず無いだろう。

 

資料をまとめながら色々考えるオルガマリーにナイチンゲールが近づく。

 

「どうぞ、コーヒーです」

 

「え?あ、ありがとう……」

 

「ミス・コトリが用意してくれました。カルデアと呼ばれる所から運ばれてきました」

 

コーヒー豆とコーヒーマシンがカルデアから届けられ、それを小鳥が淹れたのだ。

 

「そう、わかったわ」

 

オルガマリーはナイチンゲールから受け取ったコーヒーを飲み、一息いれる。

 

紅茶よりもコーヒー派であるオルガマリーは落ち着いた表情を浮かべる。

 

すると、ナイチンゲールもコーヒーを飲みながらオルガマリーに話しかける。

 

「ミス・オルガマリー。あなたは心に深い病を抱えていますね?」

 

「……そりゃあ抱えているわよ。私の人生は色々あったからね」

 

「よろしければ私に話していただけますか?少しは楽になりますよ」

 

「どうしてあなたに──いいえ、お願いしようかしら……」

 

オルガマリーは異性のロマニとは違い、同性で看護婦であるナイチンゲールに話せる気がして大きく息を吐きながら打ち明けた。

 

オルガマリーの誰にも認められずに育ってきたこれまでの過去と数年前に亡くなった父の犯した『大罪』。

 

人理焼却によるカルデア所長として自分の背中に伸し掛かる大きな責任と自分が一番の信頼を寄せていた男が自分や大勢のカルデア職員を殺した裏切り者でしかも本物の悪魔。

 

遊馬とアストラルのお陰で蘇り、世界と人類の未来、そして遊馬達のために命を賭けると心に誓った。

 

しかし、自分は役立たずで遊馬とアストラル達のように大きな力は無く、戦うことは出来ない。

 

せっかく奇跡が起きてデミ・サーヴァントになったが、戦う力の無い後方支援専門の宝具に能力……オルガマリーは自分の不甲斐なさに絶望していた。

 

「私は……カルデア所長として、遊馬とアストラル……それに、マシュの為にも力が欲しかった。少しでもみんなの役に立てるように……」

 

オルガマリーは自分に力が無いことを呪い、不甲斐ないと感じていた。

 

自分よりも幼い少年少女達に戦場に送り、自分だけは安全な場所で見守り、指示を出す。

 

何て卑怯な大人なんだろう、せめて自分にも力があれば……と、オルガマリーは何度も自分を責めていた。

 

そんなオルガマリーの心境にナイチンゲールは静かに質問する。

 

「……ミス・オルガマリー。いくつか質問します。カルデアの組織についてはまだあまりよく知りませんが、あなたはカルデアの所長……つまりはその組織のトップですね?」

 

「ええ、そうよ……」

 

「では、軍で言うなら……私達サーヴァントのマスターであるユウマが指揮官、あなたは最高司令官……という事になりますね」

 

「まあ……そうなる、わね……」

 

「なら話は早い。あなたに宿った英霊は戦う力はないかもしれません。しかし、あなたは最高司令官。最高司令官は直接戦う必要はありません。大切なのは部下に的確な指示を出し、戦争を勝利に導くかです」

 

「確かにそうかもしれないけど、私は助言とかしている程度で……実際に現場で戦って判断しているのは遊馬とアストラルとマシュで……」

 

「でしたら、フーヴァー長官の力を存分に使えばいいのです。見た所、情報収集と分類と整理がとても素晴らしい。それを使ってマスター達を全力でサポートすれば更に勝率が上がると思われます」

 

「それも、そうね……」

 

「私は戦場で天使とよく言われましたが、実際に看護婦として生きていたのはわずか2年半でした。その後は病に侵されて死ぬまでずっとベッドの上でした。しかし、私は自分にできる事を精一杯やりました」

 

ナイチンゲールは白衣の天使と呼ばれているが、実際に戦場で看護婦として活躍したのは僅か2年半。

 

その後の亡くなるまでの54年間はベット上での生活を余儀なくされながらも、衛生管理の改善、看護婦の重要性などを説いた。

 

「ミス・オルガマリー、あなたは体が万全に動きます。あなたは、あなただけに出来ることを最後まで精一杯やるのです。ユウマはあなたが後ろで全力でバックアップをしてくれるこそ、安心して戦えるのです」

 

ナイチンゲールは自分の過去などの話を踏まえ、悩んでいるオルガマリーを励まし、そして導いていく。

 

「私だけに出来る事……」

 

オルガマリーは胸に手を当て、目を閉じて深く考える。

 

自分は一度死んだ身だが、遊馬とアストラルが立ち上がる為の大きな希望をくれた。

 

縁も所縁もないが、こんな自分にフーヴァーは力を託してくれた。

 

それはカルデア所長……最高司令官として戦い抜けという意味が込められているのではないかとオルガマリーは解釈をする。

 

「ありがとう、ナイチンゲール……あなたのお陰で吹っ切れたわ」

 

オルガマリーはコーヒーを一気に飲み干し、気合いを入れて目の前の資料に向き合う。

 

「そうよ、私は人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長……オルガマリー・アニムスフィア。かっとビングよ、私!!!」

 

オルガマリーは初めてかっとビングと叫び、作業の続きに取り掛かった。

 

「心の病が無くなりましたね、治療完了ですね」

 

ナイチンゲールはオルガマリーの心の病が無事に治療出来たことに満足して静かに退室した。

 

 

翌朝、朝食を終えると作戦会議が始まった。

 

「では、これから作戦会議を始めます!」

 

「なんか所長……気合い入ってね?」

 

「そうですね、いつもより気迫が違いますね……」

 

オルガマリーがいつも以上に気合いが入っているので、遊馬とマシュは驚いてヒソヒソ話をしている。

 

「そこ、無駄口を叩かない!」

 

「「は、はい!」」

 

「まずは現状を相関図でまとめました!」

 

オルガマリーは大きなボードを用意し、そこにアメリカ軍、ケルト軍、レジスタンス軍の相関図を作った。

 

ケルト軍には遊馬が見たことない名が連なっていた。

 

「えっと……メイヴ?アルジュナ?誰だ?」

 

「メイヴ、この特異点の元凶よ」

 

「何者なんだ?」

 

「ケルト神話で登場するコノートの女王よ。大の男好きで数多くの王や勇士と結婚し、アルスター伝説最大の戦争を引き起こした張本人。そして、クー・フーリンを死に追いやった女よ」

 

「クー・フーリンを!?」

 

「ああ。と言っても、あいつに直接やられた訳じゃねえけどな。そこんところは説明するのは面倒だから、後で本でも呼んでくれ」

 

「おう、分かった。それで、そのメイヴがクー・フーリン・オルタを作り出したのか?」

 

「いいえ、レティシアの時とは違って、作った訳じゃないわ。メイヴが『自分と共にあれる邪悪な王のクー・フーリン』を願ったことによって、変転した姿なのよ。生前の狂戦士状態ですらない……本来のバーサーカーとはまた異なる姿での召喚されたらしいわ」

 

邪悪な王として無理矢理歪められた存在として召喚された狂王……クー・フーリン・オルタ。

 

オルガマリーの公式かつ機密により、クー・フーリン・オルタの秘密が判明し、クー・フーリンは呆れてため息をつく。

 

「あの馬鹿女……そんなことを願いやがったのかよ……」

 

「メイヴがお前に対する未練の所為だな」

 

「ちなみにこのメイヴが無限に現れるケルト兵を生み出しているわ。メイヴを止めない限りケルト兵はまだまだ現れるわよ」

 

無限に現れるケルト兵は全てメイヴが生み出している。

 

「なるほどな……それで、アルジュナって誰?」

 

「アルジュナはラーマとシータが出る『ラーマーヤナ』と並ぶインドの二大叙事詩の一つ、『マハーバーラタ』に出ている『授かりの英雄』と呼ばれている大英雄で、カルナとは異父兄弟よ。アーチャークラスでカルナに匹敵するサーヴァントよ」

 

カルナとアルジュナ、ラーマとシータ。

 

これでインドの二大叙事詩のそれぞれの主要人物が揃っていることになった。

 

「マジかよ……あのカルナと同じくらい強いサーヴァントか」

 

「しかし解せぬ……英雄アルジュナが何故ケルト軍にいるのか……」

 

ラーマは直接面識はないが同じ同郷の英霊であるアルジュナが何故ケルト軍に属しているのか理解出来なかった。

 

「少なくとも私達の敵で間違い無いわ。戦うからには全力でやらないとこちらが負けるわ。そこで私はアメリカ軍と交渉したいと考えているわ」

 

「交渉って、カルナとエレナはともかく、あのエジソンを説得出来るか?」

 

「交渉は対等に渡り合えなければ話にならないわ。だけど、今こちらにはラーマとスカサハがいる。これで戦力は対等以上になったと言えるわ。エジソンにはこちらのカードを見せて交渉に応じさせるわ。でも、もしもエジソンが頑固でまだ世界をアメリカだけにすると言ったら……」

 

「言ったら?」

 

オルガマリーは不敵の笑みを浮かべてトンデモナイ爆弾発言をする。

 

「決まっているわ……話を聞かないエジソンを容赦なくぶっ飛ばして、私たちカルデア・レジスタンス連合軍がアメリカ軍を占拠しましょう!」

 

「……えぇえええええっ!?ちょっと、オルガマリー所長?」

 

「そ、それで良いのか……?」

 

「確かにそれはちょっと……」

 

遊馬とアストラルとマシュは待ったをかけようとしたが……。

 

「はははっ!言うようになったじゃねえか、嬢ちゃん!乗ったぜ、その作戦!」

 

「分かりやすい結論だ。力を示し、手に入れる……実に単純明快だ」

 

オルガマリーの提案はケルト組のクー・フーリンとスカサハにとっては好ましいもので、やる気を出していた。

 

他のサーヴァント達もその提案に賛同していき、遊馬もエジソンともう一度話したいと思い、賛同することにした。

 

ケルト軍と対決する前にアメリカ軍と交渉し、最悪戦闘を交わしてでもアメリカ軍を占拠して手に入れる。

 

「さあ……アメリカ軍に向けて、カチコミと行きましょうか!」

 

「あれ?所長も式の影響を受けてる?」

 

式が色々とヤバイ家のお嬢様なのでたまに語られる話に遊馬達も偶に影響を受けている。

 

遊馬はかっとび遊馬号を呼び出し、初めて乗る飛行船にシータやスカサハは驚き、アルカトラズ島からアメリカ軍の城へと一気に向かう。

 

 

アメリカ軍の城の真上にかっとび遊馬号が現れ、遊馬達が降り立つと兵士たちは騒ぎを起こしたが、それをマシュ達サーヴァントがすぐに鎮圧する。

 

そして、正面の扉を開けて堂々と城の中に入る。

 

いつでも反撃出来るように宝具や武器を構えていると……。

 

ドドドドド……!!!

 

「何だ?」

 

何かが走ってくる音が廊下に響き渡り、手をかざして廊下の奥を見渡すと……。

 

「ユウマァアアアアアッ!!!」

 

「エレナ?」

 

全力疾走で走ってきたのはエレナだった。

 

とてもキャスタークラスのサーヴァントとは思えない見事な走りに感心していると、エレナは遊馬の前で急停止をする。

 

エレナは目をキラキラと輝かせながら見た目相応の笑顔を見せながら遊馬の手を握る。

 

「来てくれたのね、ユウマ!私の方から連絡して行こうと思っていたところなのよ!」

 

「ど、どうしたんだ?そんなに興奮して……」

 

「興奮しない訳ないじゃない!だって貴方自身がマハトマだったんだから!」

 

「えっと、どう言う意味だ?」

 

「もう、隠さなくても良いわよ!あなたの中からアカシックレコード……いいえ、ヌメロン・コードの力を感じたんだから!」

 

エレナの口から語られた内容に遊馬はキョトンとなって首を傾げた。

 

「俺から、ヌメロン・コード……?」

 

「ほら、昨日使ったでしょう?私、その時の力の波動をビビビッて体に感じてね、思わず飲んでいたお茶を落としたんだからね」

 

楽しそうに話すエレナに対し、遊馬は頭を抱えた。

 

「昨日……?俺、ヌメロン・コードなんて使ったのか……?そもそも、俺に何でヌメロン・コードが……?」

 

遊馬は昨日、ラーマとシータを亡霊から助ける時にヌメロン・コードの力を使用したが、その時の記憶がすっぽりと抜け落ちている。

 

未来皇ホープを召喚して一体化して攻撃した時の事は覚えているが、どうやって攻撃したのかなど覚えていないのだ。

 

「覚えていないの?それじゃあ……私が調べてあげようか?どう、私の部屋でゆっくりと……」

 

「そこまでだ、ブラヴァッキー」

 

「えっ?キャアアアアアッ!?は、離しなさいよ、カルナ!」

 

エレナが暴走する直前にカルナが現れ、エレナの首根っこを掴んで遊馬から離す。

 

昨日のエレナの異常な反応を心配して来て見れば案の定、遊馬に対して暴走していたので首根っこを掴んで止めたのだ。

 

エレナの暴走にマシュ達の堪忍袋の尾が切れて宝具を発動仕掛けたので、もう少し遅ければ廊下で激しい戦闘が起きていただろう。

 

「よく来たな……レジスタンス。そして、異世界の来訪者、ユウマとアストラル。エジソンが待ってる」

 

「ちょっと!離しなさいよ、カルナ!レディに対してこれは失礼よ!」

 

「――だが己の欲を満たすために少年を自室に連れ込もうとした言葉ではあるまい」

 

「べ、別にやましい事はしないわよ!?私はもうおばあちゃんなんだし!」

 

「すまんが、見た目的にユウマと歳が近いとなると、色々と危ない」

 

エレナの意見をカルナは真っ向からバッサリと論破し、そのまま遊馬達を連れてエジソンの待つ謁見の間へ向かう。

 

「……アストラル」

 

遊馬は自分の知らない真実を知っているであろうアストラルに向けて静かに名を呼ぶ。

 

「……分かっている。アメリカ軍との交渉が終わったら、君が求めている全てを話す」

 

アストラルは何かを覚悟したように頷く。

 

「分かった……」

 

その言葉に遊馬は自分の頬を叩いて気合を入れ、目の前のことに集中する。

 

そして、アメリカ軍の代表……大統王エジソンとの二度目の会合となる。

 

 

 




オルガマリー所長に宿ったサーヴァントはFBI初代長官のフーヴァーでした!
これはマンガで分かるFGOで登場したアサシンから出しました。
所長関連で調べていたらあったので、マンガで分かるFGOを見直して採用しました。
カルデア所長という立場から単純な力の戦力よりも情報収集の方が良いと思いましたので。

冷静に考えると敵サーヴァントの情報を全部丸わかりって凄いですよね。
仮に普通の聖杯戦争なら抜群に強いと言われてますから。

後半は案の定、エレナが暴走しました(笑)
カルナが来なかったらエレナ大ピンチでしたね。

次回は遂に今年の夏で衝撃を与えて暴れまくったあのバーサーカーの登場です!
同時に遊馬と小鳥ちゃんの大ピンチですが(笑)


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ナンバーズ126 冷やし剣豪、見参!

もうタイトルからして色々ぶっちゃけてますね(笑)
アメリカ編で作中の時期的にはまだ夏前なので色々とタイムリーに出せました。
皆さん御察しの通り、彼女が色々と暴走します(笑)


アメリカの城に突撃したカルデア・レジスタンス連合軍はカルナの案内で玉座の間に向かう。

 

そこには相変わらず謎のライオンヘッドとムキムキボディが気になるエジソンがおり、オルガマリーは早速話しかける。

 

「あなたが、トーマス・エジソンね?」

 

「如何にも。我こそはこのアメリカを統べる王!大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!!」

 

「私は人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィア。遊馬達の上司で、カルデアの最高司令官よ」

 

カルデアの所長、オルガマリーとアメリカの大統王、エジソン。

 

二つの勢力のそれぞれのトップが対峙した。

 

「最高司令官……!あなたのような美しい女性が組織のトップか!」

 

「お世辞はいいから、単刀直入に言うわ。エジソン、今すぐに世界をアメリカだけにすると言う愚かな考えを捨てなさい!アメリカだけを残して、それ以外の全ての時代と、そこにいる全ての生きとし生けるものの犠牲にするなんて間違っているわ!!」

 

「何故私の正しさを信じられないのだ!さては陰謀説に浸かっているのか!?エジソンは資本主義の権化だ、とか!真の天才は商売などに傾倒しないのだ、とか!」

 

オルガマリーは人理を守るための正論を言うが、相変わらずエジソンは自分が思い描く世界をアメリカだけにするという望みが正しいことだと豪語する。

 

「そう……史実通りに頑固なのね、あなたは……仕方ないわ!開放召喚!」

 

オルガマリーは仕方ないとため息をつき、振り払うように両手を振ると、フーヴァー長官の力を身に纏って制服からスーツ姿になる。

 

「姿が変わった……?ムムッ!??」

 

「フフフ……さーて、これは何でしょうか?」

 

オルガマリーは不敵な笑みを浮かべながらファイルを出してその中にある資料をパラパラとめくりながらエジソンに見せる。

 

「GAohooooooo!!?そ、それは!?」

 

エジソンは資料の内容に驚愕して顔を真っ青にしながらたじろいだ。

 

「エジソン?」

 

「その資料に何があるのだ……?」

 

エレナとカルナは何の資料か分からずに疑問に思っていると、エジソンはガタガタと震えて怯えていた。

 

「あっ、がっ!?ま、まさか……あなたは!?」

 

「私の体に宿る英霊はFBI初代長官、ジョン・エドガー・フーヴァーよ」

 

「何とぉ!?」

 

「まあ、どちらかと言うと……あなたと言うよりも、あなたと一つになっている人達が恐れているわよね?」

 

オルガマリーの中にいるフーヴァーを怯えているのはエジソン自身でない者断言する。

 

「一つに?所長、どう言う事なんだ?」

 

「エジソンにはね、普通のサーヴァントとは違う大きな秘密があったのよ。近代に近く、写真も残されているエジソンが何故あんな姿をしているのか……それは、アメリカを守る為にアメリカで最も偉大な英霊達がその力をエジソンに集結させたからよ」

 

「アメリカで最も偉大な英霊達?」

 

「アメリカ……まさか!?」

 

「そう……エジソンにはこのアメリカの代表者達である、『アメリカ歴代大統領』全員と一つになったのよ!」

 

「ア、アメリカの歴代大統領!??」

 

「なるほど……エジソンだけでなくアメリカ歴代大統領と一つになったからあのような姿に……」

 

アメリカ歴代大統領達は自分達ではケルトに敗北するという結論に達し、その力の全てを世界的な知名度を誇る英雄に集積すれば良いと考えた。

 

そうして選ばれたのがエジソンで、アメリカ歴代大統領達はアメリカの未来を託したのだ。

 

「さて、話は戻るけど……エジソンの中にいるアメリカ歴代大統領の皆さん、これが何か分かるわよね……?」

 

オルガマリーは遊馬達も見たことないまるで悪巧みをするような笑みをうかべて資料をヒラヒラと動かす。

 

「え、えっと……所長、その資料は何……?」

 

遊馬はその資料が何なのか恐る恐る尋ねた。

 

「これはね、フーヴァーが生前集めていた情報に加えて、今回改めて宝具を使って集めたアメリカの闇……表に出たらマズイ、飛びっきりのスキャンダル。下手したらアメリカは崩壊するわね」

 

フーヴァーの死後に発見された資料にはアメリカを数回転覆させるほどの重大な機密情報があった。

 

更に黒服の男たちから集めた情報を元に『公式かつ機密』で秘密を暴き、さらなるアメリカの隠したいスキャンダルの情報を集めた。

 

「ちょっ!?所長、幾ら何でもそれはマズイんじゃ……」

 

「そう言えば、フーヴァー長官は集めたスキャンダル情報を元にアメリカ歴代大統領や議員たちの首根っこを掴み、誰も彼を罷免させる事が出来ずに死去するまで長官の椅子に座っていたらしい……」

 

「大丈夫よ、あくまでこれはアメリカ軍と交渉するための切り札だから悪用するつもりはないわ。だけど……もしもエジソンが提案を断ったら、私はすぐに全力で走ってこの場から逃げるわ。とりあえず……この城にいる全てのアメリカ国民にこれをばら撒こうかしら?」

 

アメリカ歴代大統領もフーヴァーを罷免させようとしたが、フーヴァーは「膨大なスキャンダルをばら撒く」と脅しており、その暗黒面は今のオルガマリーそのままだった。

 

「Noooooo!?な、何て、背筋が凍るほどの恐ろしいことを!??あ、悪魔だ!貴女は美女の皮を被った恐ろしい悪魔だ!!」

 

あっさりとアメリカの国家転覆を脅迫するオルガマリーにエジソンは共にいるアメリカ歴代大統領と一緒にホラー映画並みの恐怖で震え上がった。

 

「ふっ……皮肉ね、かつて悪魔に一度殺された私が悪魔呼ばわりされるなんてね。でも、悪魔だろうが何だろうが構わないわ。人類と世界の未来を守る為なら何と呼ばれようとも構わないわ!!」

 

正義を貫く為なら悪になろうとも構わない……今のオルガマリーの心は鋼鉄の如く固かった。

 

マシュもこれでは流石にマズイと思ってオルガマリーを止めようとする。

 

「オ、オルガマリー所長!これでは私達が悪党ですよ!?」

 

「フォフォ、フォーウ!」

 

「マシュ、フォウ……泥なら私が全部被るわ。私にはそれぐらいの事しか出来ないから。さあ、エジソン!早く決断しなさい!!このままアメリカがケルト、もしくは私のこの手で滅びの道を辿るか!それとも、私達と共に協力して人類と世界の未来を守るか!!!」

 

「ぐぅっ……!?」

 

エジソンは全身から大量の汗をかいてどうすれば良いのか必死に頭をフル回転させて悩み苦しむ。

 

普通に考えればカルデアとレジスタンスと協力する方が確実かつ健全ではあるが、今のエジソンはそんな考えをすることは出来ない。

 

「はぁ……仕方ないな」

 

すると、遊馬は頭をかきながらオルガマリーの手から資料を奪い取る。

 

「ゆ、遊馬!?何をするの!?」

 

「ごめんな、所長。こう言うやり方はちょっとな」

 

遊馬はエジソン達が恐れる資料をビリビリに破り、丸めて清姫に向けて投げる。

 

「清姫、燃やしてくれ」

 

「はい、旦那様」

 

清姫は火を灯して資料を焼き尽くし、一瞬で跡形もない灰となる。

 

灰になってしまった資料を見てオルガマリーは頭を抱えて絶叫する。

 

「あぁあああああっ!?せっかく私とフーヴァーが集めた資料がぁあああああっ!??何をするのよ、遊馬!せっかくアメリカと交渉するための切り札だったのに!!」

 

「本当にごめん、所長。でも、こんなやり方でエジソン達と交渉して、エジソン達と一緒に戦おうとしても、本当の意味で協力出来ない。一緒に戦うなら、やっぱり信頼は必要だと思うから……」

 

遊馬はオルガマリーには悪いが、脅迫のやり方でアメリカと協力してもケルトには勝てないと感じた。

 

オルガマリーに怒られる事を覚悟してでも、資料を焼却して使えなくしたのだ。

 

遊馬らしい考えだとマシュ達は特に言及せずに納得する。

 

「それに、エジソンはアメリカの為にと暴走している。このまま放って置くわけにはいかないからな」

 

「その通りです、ユウマ。エジソンは病に侵されている。オペの準備を。まずはベッドで安静状態にしてから、話を聞かせる他はありません」

 

ナイチンゲールはエジソンの病を治す為に遊馬に同意する。

 

「そう言うわけだ。エジソン……あんたをぶっ飛ばして正気を取り戻させる」

 

「良いだろう、現時点での最大電力で迎え撃ってやるのだとも!そして、真に知らしめよう。この発明王の発明が、如何に偉大なのかを──!直流こそが、やはり王道なのだ!!」

 

「……やっぱりそこは拘るんですね……!」

 

エジソンは戦いの意気込みを堂々と言うが、ついでに直流を力説し、マシュは思わずツッコミを入れた。

 

すると、玉座の間に次々と武装をしたアメリカ兵達がなだれ込んで来て、戦闘を開始する。

 

流石に城内の戦闘なので互いのサーヴァント達も派手な威力の宝具解放を抑えての戦いとなる。

 

戦いが始まると同時にカルナは動いたが、それを予知して動いたのは同じインド神話出身のラーマだった。

 

「カルナよ、マスターと仲間達には手出しはさせない!」

 

「ラーマか……」

 

ラーマとカルナは交戦し、それぞれの剣と槍が激しく火花を散らせる。

 

「ラーマ様!頑張って下さい!!」

 

シータは弓でアメリカ兵を軽く気絶させながらラーマの応援をする。

 

「シータ……ウォオオオオオオオオオ!!!」

 

ラーマはシータの応援に力が沸き起こり、凄まじい動きでカルナを圧倒していく。

 

「っ……!?薄々気付いていたが、やはりシータと言うことはお前の妻……しかしお前達二人の呪いはどうした?」

 

ラーマとシータの離別の呪いを知っていたカルナは本来なら一緒にいることが出来ない二人が共に戦っていることに驚いていた。

 

「離別の呪いは我らがマスター、ユウマ様とアストラル様が解いてくれた!」

 

「何だと……!?あの二人がお前達の呪いを解いたのか……!?」

 

「そのお陰で、余はシータと一緒にいられることになった。これからもずっと一緒にだ!ユウマ様とアストラル様には感謝しても仕切れないほどの大きな恩がある。だが、お二人はそんな事を気にせず、余とシータの幸せと未来を願ってくれた!せめて、お二人に少しでも恩を返す為にも……余はこんなところで負けるわけにはいかない!!」

 

ラーマは愛するシータの為に、そして自分達のために命を懸けて救ってくれた遊馬とアストラルに勝利を捧げるためにカルナと全力で戦う。

 

「羅刹王すら屈した不滅の刃、その身で受けてみよ!」

 

宝具を解放し、ラーマが持っていた真紅の剣が宙に浮くと高速回転をして円盤状の光となる。

 

「喰らえ!『羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』!!」

 

投げ飛ばした光は高速に駆け抜け、カルナに激突する。

 

「やるな、さすがは羅刹王を倒した英雄……だが俺も、そう簡単にやられはしない!」

 

カルナには強固な防具の宝具である『日輪よ、具足となれ』があるので大したダメージが与えられない。

 

しかし、ラーマは既に真紅の剣を回収して再び高速回転させて次の攻撃の準備を終えていた。

 

「貴様に攻撃があまり効いてないのは分かっている。だが、マスターがエジソンを倒すまで……余は全力で貴様と戦う!!!」

 

ラーマはもう一度剣を投げ飛ばしてカルナに攻撃を続ける。

 

誰よりも愛するシータがいる限り、その愛しい者が必死に発する応援が耳に届く限り、ラーマは決して倒れる事なく全力で戦い続け、カルナもそれに応えていく。

 

 

一方、エレナは一人で遊馬達と対峙をしていた。

 

「仕方ない……私もやろうかしら!」

 

エレナは綺麗な絵柄が描かれた背表紙の魔導書を開いて戦闘態勢に入る。

 

「こうなったら……ユウマ!力付くで手に入れてその体を調べるわ!」

 

何としてでも遊馬の中にあるヌメロン・コードを調べるために全力で挑もうとするが、遊馬は首を傾げた。

 

「そこまでして調べる必要はあるのか?」

 

「もちろんよ!私が生前から探し求めていたものが見られるのよ!?それが今私の目の前にあるなら尚更よ!」

 

「えー?じゃあ……俺の仲間になってくれたら調べても構わないぜ?」

 

「ゆ、遊馬君!??」

 

遊馬はエレナが自分たちの仲間になる代わりに身体を調べてもいいと交換条件を出し、エレナは目を輝かせる。

 

エレナは凶悪なマッドサイエンティストでもないので、別に解剖させられたり何かの実験にされるわけでもないので遊馬は特に気にせずに自分自身を交換条件に差し出す。

 

「え!?本当に!?それなら──い、いえ、ダメよ!一瞬グラって来たけど、友人のエジソンを裏切るわけにはいかないわ!」

 

エレナはブンブンと頭を振って冷静さを取り戻し、目の前の探究心よりも生前からの大切な友人のエジソンとの友情を取った。

 

エレナのエジソンを思う気持ちに感心していると、エレナは先手必勝とばかりに宝具を発動した。

 

「海にレムリア! 空にハイアラキ! そして地にはこの私! 」

 

エレナが召喚したもの……それはどこからどう見ても世界の大きな不思議の一つでもある未確認飛行物体……円盤型のUFOだった。

 

「オィイイイイイッ!?どう見てもあれはUFOじゃねえか!?何であんなものがエレナの宝具になってるんだよ!??」

 

まさかのUFOの登場に遊馬はツッコミを入れ、サーヴァントの宝具の意味不明さに益々頭を悩ませた。

 

「馬鹿な……エレナは宇宙人と交信していたと言うのか!?実に興味深い……よし、遊馬!いつか飛行船で宇宙人を探しに行こう!」

 

「こんな時に何を言ってるんだよ、アストラルのバカァッ!!」

 

宇宙人と言う未知なる存在への可能性に興奮するアストラルに遊馬の怒号が響き渡る。

 

エレナはUFOに収納されてその上に立ち、攻撃命令を下す。

 

「『金星神・火炎天主(サナト・クラマ)』!!!」

 

UFOから無数の光線が放たれ、遊馬はデッキからカードをドローして手を打とうとしたその時、真っ先に一つの影が飛び出す。

 

「剣轟抜刀!!!」

 

武蔵は二刀を構えて『六道五輪・倶利伽羅天象』を発動して全ての光線を斬り裂き、そのままUFOをも叩き斬って撃墜させる。

 

「う、嘘でしょ!?」

 

エレナは慌ててUFOから飛び降り、難を逃れた。

 

「悪いけど、私の可愛い愛弟を奪わせるわけにはいかないから!」

 

武蔵は姉として遊馬を守るためにエレナに立ち塞がる。

 

遊馬たちは武蔵の冴え渡る二刀流が見られると思った。

 

ところが……。

 

「さあ……憧れのアメリカの地に降り立ち、少し見ない間に遊馬が大きな成長を遂げた……姉としてこれほど嬉しいことはない」

 

二刀を鞘に納めると、その身から光の粒子が溢れ出す。

 

「この想いを解き放ち、私は新たな地平へと向かう!さあ、行くよー!!」

 

武蔵がハイテンションになって光を纏うと、次の瞬間に驚くべき光景が広がった。

 

露出度の高い和服の装束が一変し、何とビキニ水着を着用した。

 

しかもただのビキニではなく、アメリカ合衆国の国旗である星条旗から拝借した柄のいわゆる『星条旗ビキニ』の水着を着用していた。

 

その手には武蔵の二天一流を象徴する二刀流の二振りの刀ではなく……リボルバー拳銃と刀を合体させた創作武器として知られている『ガンブレード』を持っていた。

 

「イェーイ!冷やし剣豪、始めました!!」

 

大剣豪の宮本武蔵が何故か水着とガンブレードを装備をしたという、謎の大変身を遂げてしまった。

 

「「えぇええええええーっ!??」」

 

「何が起きている……?」

 

遊馬とマシュは突然の出来事に驚愕して大声を上げ、アストラルは呆然として口が開きっぱなしになってしまった。

 

「うわぁ……武蔵さん、大胆な水着……」

 

星条旗ビキニと言う大胆な水着を着た武蔵に小鳥は顔を真っ赤にして目をそらした。

 

一方、武蔵の姿が変わったことにエレナは何が起きたのかすぐに理解ができた。

 

「まさか……あなた、自ら霊基を書き換えたって言うの!?」

 

霊基とは簡単に言えばサーヴァントの器であり、それぞれの英霊に適したクラスの器を用意して召喚される。

 

武蔵の場合は剣士であるのでセイバークラスが最も適しており、セイバーとして召喚された。

 

霊基はサーヴァントとしての器なので、それを弄ることは普通は出来ないのだが……。

 

「いやー、何かこう……気合いで出来ちゃった?」

 

「気合いでどうにか出来るものなの!??」

 

「姉上、じゃあ今のクラスは……?」

 

「今の私はセイバーではなく、バーサーカーだよ!」

 

よりにもよってセイバーからバーサーカーへとクラスチェンジしてしまった。

 

水着に着替えただけで狂戦士のバーサーカーになるのはどう言うことだと思うが、バーサーカーになったことで武蔵に狂化スキルが与えられてしまった。

 

その結果……。

 

「褐色の日差し、零れる肌の雫、可愛い男の子! 照り返す太陽、弾ける水飛沫、可愛い女の子! んー!夏サイコー!水着だーいすき!」

 

二刀のガンブレードを持って高らかにとんでも無いことを叫んだ。

 

ひっそりと隠していた欲望を大爆発させ、歳下の男の子好きのショタコンと、歳下の女の子好きのロリコンの性癖を全開する事になってしまった。

 

「あ、姉上……?」

 

「遊馬、見ていて!お姉ちゃんの新しい力を!それから、小鳥ちゃん!」

 

キラーン!と目を怪しく輝かせながら後ろに控えている小鳥を指差す。

 

「は、はい!?」

 

「この戦いが終わったら、君を私の妹にするから!!」

 

「はいっ!??」

 

「最愛の弟の遊馬に加えて幼馴染の小鳥ちゃんを私の妹に加える……最高だわ!私の夢のハーレムが完成する!」

 

小鳥は学校では遊馬といつも一緒にいるので誰も割り込めない公認のカップル扱いされているが、学校外では意外にも多くの男子が一目惚れするほどの美少女である。

 

最も、遊馬がいるので男子たちは撃沈するのであるが。

 

そんな小鳥は武蔵が認めるほどの美少女であり、妹にするのが夢でバーサーカーになってその想いが爆発した。

 

「姉上大丈夫か!?なんか色々とおかしくなってねえか!?」

 

「夏は人を狂わせるのよ!でも大丈夫、私は必ず勝つわ!そして小鳥ちゃんを私の妹にする!」

 

「大丈夫要素何処だ!?」

 

見たことないほどにハッチャケている武蔵に遊馬の連続ツッコミが響き渡る。

 

武蔵は遊馬のツッコミをスルーし、エレナに勝つ為にバーサーカーになって初めての宝具を解放する。

 

すると、床一面に海が広がった。

 

「え!?う、海!?」

 

「冷やし剣豪はじめましたぁー!!」

 

武蔵はジェットスキーを召喚してそれに乗る。

 

「ジェットスキー!?」

 

何故ジェットスキーなのか意味不明だが、武蔵はハイテンションでフルスロットルで動かし、海を掻き分けながら一気にエレナに近づく。

 

「ヒュー!いえーい! 」

 

エレナの周りをジェットスキーで一周すると、水の壁を生成してエレナをその中に閉じ込める。

 

武蔵は器用にジェットスキーの上に乗り、ガンブレードを構えて突撃する。

 

「これぞ水懸りの陣!伊舎那水天象! 」

 

そして、武蔵は水の壁をガンブレードで一刀両断で斬り裂き、中にいたエレナは吹き飛ばされる。

 

「きゃあああああっ!?」

 

未知なる宝具にエレナは敗れてしまう。

 

武蔵の使用したそれは長い剣者生涯の中で一度のみ使用したと言われる奇想剣法。

 

その名も『魔剣破り、承る!(がんりゅうじま)』。

 

「よっと、危ない危ない」

 

武蔵は吹き飛ばされたエレナをキャッチして降りる。

 

自称おばあちゃんと言うエレナも美少女なので手荒な真似をしたくなく、武蔵は優しく扱う。

 

「大丈夫?」

 

「え、ええ……あーあ、負けちゃったな。強いわね、あなた」

 

「うん!ありがとう!」

 

遊馬達の元に戻った武蔵はエレナを下ろした。

 

そして、武蔵は眼をキラーン!と妖しく輝かせて小鳥を見つめる。

 

「む、武蔵さん!?」

 

「小鳥ちゃーん!」

 

武蔵は一瞬で動いて小鳥の前に立ち、小鳥が驚いて反射的に動く隙も与えずに抱き寄せた。

 

「むぎゅう!?」

 

「えへへ〜、小鳥ちゃん。お姉ちゃんだよ〜、大好きだよ〜」

 

武蔵は小鳥を抱きしめ、星条旗ビキニで包まれた豊満な胸に小鳥の顔を埋めさせる。

 

(うわぁあああああっ……武蔵さん、温かいし、柔らかいし、いい匂いがするよぉ〜。もう何も考えられないよぉ〜……)

 

小鳥は武蔵の胸に顔を埋めされられ、武蔵のいい匂いが広がり、混乱状態に陥る。

 

武蔵は小鳥の頭を優しく撫で撫でして更に心を陥没させていく。

 

「えっと……マシュ、この場を頼む。俺はエジソンと決着を付けに行く」

 

「は、はい!分かりました!」

 

「行くぜ、アストラル」

 

「ああ!」

 

「それと、武蔵姉上。せっかくだから小鳥をそのまま甘やかしてくれ」

 

「ゆ、遊馬!?」

 

「うん!遊馬も頑張ってね!」

 

「おう!」

 

遊馬はマシュに後を任せてエジソンの元へと走る。

 

 

遊馬とアストラルはエジソンの元にたどり着き、遂に決着をつけるときが来た。

 

「待たせたな、エジソン!」

 

「カルナはラーマが抑えている。今こそあなたとの決着をつける!」

 

「来るがいい、異世界のマスター達よ。私は全力で迎え撃とう!」

 

「俺のターン、ドロー!『銀河の魔導師』を召喚!銀河の魔導師の効果、このカードをリリースしてデッキから『ギャラクシー』と名のついたカードを手札に加える。カードを一枚伏せ、魔法カード『手札抹殺』!手札を全て墓地に送り、その枚数分デッキからカードをドローする!墓地に送ったのは4枚、よってデッキから4枚ドロー!」

 

銀河の魔導師で必要なカードをデッキからサーチしてフィールドに伏せ、そこから手札抹殺で手札交換をする。

 

「よし!これなら行ける!魔法カード『増援』!デッキからレベル4以下の戦士族一体を手札に加える。俺はレベル2戦士族の『ガガガクラーク』を手札に加える!」

 

手札交換によって展開力が広がり、遊馬は一気にモンスターを展開する。

 

「更に魔法カード『死者蘇生』!墓地のモンスター1体を特殊召喚する。蘇れ、『ガガガマジシャン』!そして、自分フィールドに『ガガガ』モンスターがいる時、手札からガガガクラークを特殊召喚出来る!更に『ガガガキッド』も同様の効果で特殊召喚出来る!」

 

ガガガマジシャンの左右にガガガクラークとガガガキッドが立ち並ぶが、これではまだエクシーズ召喚はガガガクラークとガガガキッドのレベル2×2までしか召喚出来ない。

 

「ガガガマジシャンの効果、1ターンに1度、レベルを1から8に変更出来る。ガガガマジシャンのレベルを8にする!」

 

ガガガマジシャンのレベル変更効果でレベル8となり、ここで最初にセットしたカードを発動する。

 

「そして、魔法カード『ギャラクシー・クィーンズ・ライト』!魔法自分フィールドのレベル7以上のモンスター1体を対象として発動出来る。自分フィールドの全てのモンスターのレベルはターン終了時まで対象のモンスターと同じレベルになる!レベル8のガガガマジシャンを選択し、ガガガクラークとガガガキッドも共に8となる!」

 

銀河の魔導師でサーチしたギャラクシー・クィーンズ・ライトでガガガクラークとガガガキッドのレベルも共に8となり、これでレベル8のモンスターが三体並んだ。

 

「レベル8となったガガガマジシャン、ガガガクラーク、ガガガキッドでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

『『『ガガガーッ!』』』

 

レベル8となったガガガモンスター3体が光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「運命を司る獅子よ、王者の風を吹かせ、勝利の剣を振り下ろせ!現れよ!!『No.88 ギミック・パペット - デステニー・レオ』!!!」

 

光の中から現れたのは大統王と名乗り、エジソンと同じ獅子の頭を持つ王者、デステニー・レオ。

 

「何と!?私と同じ獅子の頭を持つ王者か!!」

 

「デステニー・レオの効果!自分フィールドに魔法と罠が無い時、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デスティニー・レオにデステニー・カウンターを一つ置く!」

 

デステニー・レオの大剣の宝玉にオーバーレイ・ユニットを一つ取り込ませると、デステニー・レオの体が輝き出す。

 

遊馬はデステニー・レオの特殊勝利効果で勝利を得てエジソンを抑えようと考える。

 

「そして、カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

しかし、この時の遊馬はまだ知らなかった……エジソンには他の英霊にはない特異な宝具がある事を。

 

「素晴らしい獅子の王者よ、あなたに敬意を評して我が宝具を見せよう……万人に等しく光を与えよう!」

 

すると、周囲の空間が昔の白黒の8ミリフィルム調となり、真上に何処かで見たような映画のオープニングロゴによく似た『何か』が現れた。

 

「あれ!?なんかどっかで見たことあるぞ!??」

 

「私も深夜の映画の放送で見たことが……」

 

遊馬とアストラルはその『何か』に見覚えがあり、驚愕する。

 

「それこそが天才の成すべきカルマだ!」

 

その『何か』は本来のデザインとは異なり、『EDISON』とロゴのデザインとなっており、エジソンはその上でポーズを決める。

 

「『W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)』!!!」

 

エジソンが高らかに宝具の名前を叫ぶと、周囲が眩い閃光を放ち、鮮やかな色彩を彩る。

 

閃光がデステニー・レオに襲いかかり、遊馬はセットしたカードを発動する。

 

「くっ、罠カード!『攻撃の無敵化』!」

 

「無駄だぁっ!!」

 

デステニー・レオに戦闘・効果の破壊を防ぐ効果を与えたが、デステニー・レオの体がヒビが入り、一気に破壊された。

 

「デステニー・レオ!?ぐぁあああああっ!??」

 

「何が起きたんだ!?」

 

破壊を防ぐはずの攻撃の無敵化の効果が打ち消されてしまった。

 

W・F・Dは隠されていた、秘められていたからこそ力を発揮したものを無造作に暴き立て、エネルギーでは計れない何かを零に固定する。

 

民衆たちの神秘への信仰を零に貶める『世界信仰強奪』対民宝具。

 

隠された神秘であるからこそ力のある魔術の力を零にする。

 

「おいおい、こんな宝具ありかよ……!」

 

エジソンの宝具はこの世界の魔術にとっては天敵となる特性を持つ。

 

遊馬のデュエルも異世界の力だがある意味魔術の一種なので、その力を零にされてデステニー・レオと攻撃の無敵化が無効されて破壊されてしまったのだ。

 

「ユウマ!お待たせしました!」

 

ある程度のアメリカ兵を片付け……もとい治療を終えたナイチンゲールがエジソンの治療する為に遊馬の元へ駆けつけた。

 

肩に担いでいる大きな診察台や手に持っている手榴弾については……見なかったことにした。

 

「ナイチンゲール!」

 

「エジソンの治療を行います。私の宝具を解放します!」

 

ナイチンゲールは診察台と手榴弾をしまって遊馬の前に立ち、目を閉じて魔力を解放する。

 

「全ての毒あるもの、害あるものを絶ち、我が力の限り、人々の幸福を導かん!」

 

すると、ナイチンゲールによく似た巨大な『白衣の女神』が大剣を持って幻として出現した。

 

それは戦場を駆け、死に立ち向かったナイチンゲールの精神性が昇華され、更には彼女自身の逸話から近現代にかけて成立した『傷病者を助ける白衣の天使』という看護師の概念さえもが結びつき誕生した宝具。

 

「『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』!」

 

女神が大剣を振り下ろすとそこから光が解き放たれ、光の粒子が遊馬とエジソンに降り注がれると、それぞれ別の効果が与えられる。

 

「すげぇ……力が溢れてくる!」

 

「ぐおっ!?馬鹿な、力が抜けていく……!?」

 

遊馬には活力を与え、逆にエジソンには大幅に力をダウンさせる。

 

「味方には癒しを与え、敵には力を失わせる……なるほど、ナイチンゲールらしい宝具だ」

 

「さあ、今のうちに!」

 

「サンキュー、ナイチンゲール!かっとビングだぜ、俺!俺のターン、ドロー!魔法カード『ガガガドロー』!墓地のガガガモンスターを3体除外し、デッキから2枚ドローする!」

 

デステニー・レオのオーバーレイ・ユニットとなっていた3体のガガガモンスターを墓地から除外し、デッキから2枚ドローする。

 

「おっしゃあ!来たぜ来たぜ!魔法カード『グローリアス・ナンバーズ』!墓地のナンバーズを復活させ、1枚ドローする!蘇れ!デステニー・レオ!そして1枚ドロー!更に墓地のグローリアス・ナンバーズの効果、このカードを除外して手札のモンスターをデステニー・レオのオーバーレイ・ユニットにする!」

 

床に大きな魔法陣が浮かび上がり、墓地からデステニー・レオを復活させてオーバーレイ・ユニットを一つ与える。

 

デステニー・レオの特殊勝利効果をもう使うことが出来ないが、遊馬の手には誇り高き家族から託された『大いなる力』がある。

 

そのカードを祈るように額に持って行き、カードから伝わる想いを受け取って発動する。

 

「行くぜ……トロン、III、Ⅳ、V!みんなの力を今ここに!『RUM - アージェント・カオス・フォース』!!」

 

それはトロン一家四人の四つの紋章が合成されたイラストが描かれたランクアップマジック。

 

バリアンとの戦いで対バリアン用の切り札として、トロンの紋章の力を用いてVが開発したカード。

 

「このカードは自分フィールドのランク5以上のモンスターエクシーズを1体選び、そのモンスターよりもランクが1つ高い『CNo.』または『CX』をエクストラデッキからエクシーズ召喚扱いとして特殊召喚する!デステニー・レオ、カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

デステニー・レオが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「行くぜ、Ⅳ!お前の最強の力を見せてやろうぜ!現れよ!CNo.88!吼えろ、荒ぶる魂!全てを滅ぼす怒り呼び覚ませ!」

 

地面から轟音が鳴り響くと、その中から小さな人形達が支える大きな爆弾のような球体。

 

そして……その球体の上には翼を持つ大きな金色の獅子の像が天辺に乗った不気味なモンスターが現れる。

 

「『ギミック・パペット - ディザスター・レオ』!!!」

 

それはⅣの最後にして最強の切り札。

 

『運命』に抗う『災厄』の名を持つ獅子。

 

獅子の王者の次は巨大な金色の獅子の像が現れ、エジソンは立ち上がりながらその姿に驚愕した。

 

「ぬおっ!?今度は不気味だが何とも美しい金色の獅子か!!」

 

「ディザスター・レオの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手に1000ポイントのダメージを与える!マキシマム・カラミティー!!」

 

オーバーレイ・ユニットが球体に取り込まれると、獅子の像の眼が妖しく輝き、口から炎が噴き出してエジソンの体を炎が覆い、ダメージを与える。

 

「ヌォオオオオオッ!??」

 

「ユウマ、力を貸してください。今の内にエジソンを治療します!」

 

「治療?どうやって?」

 

「私と共にエジソンを殴りましょう!全力で、思いっきり、容赦無く!」

 

「おっしゃあ!一発派手に行くか!ジェットローラー!」

 

遊馬はジェットローラーを起動し、ナイチンゲールが先導して走る。

 

エジソンが炎から抜け出した時には既にナイチンゲールが診察台と手榴弾を持って接近する。

 

「ナ、ナイチンゲール!?」

 

「エジソン、あなたの治療を開始します!清潔!消毒!!緊急治療!!!」

 

ナイチンゲールはアグレッシブに動き、手榴弾をエジソンに叩きつけて爆発させる。

 

手榴弾の爆発を同じく受けたが無傷のナイチンゲールは診察台を片手で持って振り上げ、そこから激しい嵐のような怒涛の連続攻撃を繰り出す。

 

「グォオオオオオオオオッ!?」

 

ナイチンゲールの怒涛の攻撃に押されるエジソン。

 

その間に遊馬は右手を金色に輝かせながらジェットローラーで走り抜け、エジソンの眼の前までジャンプする。

 

「歯を食いしばれ、エジソン。俺の拳はかなり痛いからな!!」

 

右拳を作り、金色を最高潮にまで輝かせる。

 

「鉄拳聖裁!!!」

 

遊馬必殺の光の鉄拳がエジソンの左頬を殴り飛ばす。

 

「グォハァッ!??」

 

巨体のエジソンが殴り飛ばされ、後ろに倒れこむ。

 

「話に聞いていた通り、見事な鉄拳ですね」

 

ナイチンゲールは遊馬の鉄拳聖裁の事を武蔵から聞いていたのでエジソンの治療に最適だと判断して選んだのだ。

 

「ナイチンゲールもナイスファイトだったぜ」

 

遊馬とナイチンゲールは互いに健闘を讃え、笑顔でハイタッチを交わした。

 

アメリカのトップである大統王・エジソン。

 

そのエジソンが敗れたことにより、この戦いはカルデア・レジスタンス連合軍の勝利となった。

 

 

 




前半はオルガマリーが悪党になってしまいました。
フーヴァーは大統領が恐れた男としても有名なので、大統王エジソンも戦慄しました。
こう言うことも考えられたのでフーヴァーをオルガマリーの英霊に採用しました。
これがあるから公式かつ機密は強いと思います。

中盤はラーマが頑張ってカルナを抑え、冷やし剣豪こと水着武蔵爆誕(笑)
早速小鳥ちゃんが餌食となりました。
良かったね、小鳥ちゃん!
美人でスタイルの良いエロいお姉さんができたよ(笑)

後編はエジソンの相手にやはり出すしかなかったデステニー・レオとディザスター・レオで戦わせました。
同じライオンなのでやるしかないですよね。
そして、炸裂しました、遊馬とナイチンゲールの連携攻撃。
地味に相性がいい気がします、この二人。

次回はエジソンの治療の続き、そして……遂に明かされる遊馬の秘密。
乞うご期待です。


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ナンバーズ127 明かされる真実

遊戯王ZEXALの一番の大きな謎……遊馬の正体が判明します。

遊馬の設定って普通に神話レベルのものですよねー。
まあ遊戯王主人公なら結構ありますけど。
遊戯→古代エジプトの名も無き王の魂が宿る。
十代→前世からの付き合いであるユベルと超融合
遊星→赤き竜に選ばれた戦士・シグナー
遊矢→四つに分かれたズァークの分身
そう言えば、遊作には前世とかの設定は無いですね。
まあVRAINSのネットワーク中心の近未来の世界観の設定なら仕方ないですが。


遊馬の鉄拳聖裁によりエジソンは倒れ、カルデア・レジスタンス連合軍の勝利に見えたが……。

 

「おお……おおおぉおおお!まだだ、まだ敗北しない!わたしは屈さない!」

 

エジソンは魂を奮い起こして再び立ち上がる。

 

「ちっ、見た目通りタフだな!姐御直伝の鉄拳聖裁を喰らっても立ち上がるなんてな!」

 

「戦士として及ばないというのであれば、この身を科学に捧げるまで!」

 

エジソンは何処からかいかにも怪しい薬品が入った試験管を取り出した。

 

「トーマス、大変身、大改造の時である!この人間味溢れた紳士の体を捨てて、今こそ、今こそ獣の如き雷音強化(ブースデッド)!トーマス・マスタ・エジソンに変貌してくれ──」

 

ヒュン!グサッ!!

 

「ぐおっ!?な、何かが手に……こ、これはカード!?」

 

エジソンの手の甲にカードの角が突き刺さり、持っていた薬品が落ちて床にぶちまけてしまった。

 

「あっぶねー……間一髪ってところだな」

 

遊馬はデッキからドローしたカードを投げ飛ばしてエジソンの手に突き刺したのだ。

 

「ば、馬鹿な!?こんな紙のカードでこの紳士の体に突き刺したというのが!?」

 

「ふふん♪デュエリストのスキルってところかな?」

 

「君は何処の世界の暗殺者だ!?」

 

思わずエジソンがツッコムほどのデュエリストの謎スキルに驚く。

 

「あー、あれは結構痛いんだよなぁ……」

 

クー・フーリンも冬木市でマシュの体に触った後に遊馬からカード手裏剣を受け、手の甲を摩りながらその時の痛みを思い出す。

 

「くっ……私の超人薬が……」

 

「やっぱりろくでもない薬じゃねえか……」

 

エジソンが飲もうとしたのは超人薬と言う、飲んだらエジソンがとんでもないことになることが確定の怪しい薬だった。

 

そんなエジソンにラーマとの戦いを切り上げたカルナが近づく。

 

「エジソン、ここまでだ。お前が倒れた時点でオレたちは敗北した。それに、第一。間違いなく体に悪いぞ、その薬は。ユウマが阻止しなかったらオレが薬を落としていた」

 

「ノー!良薬は舌に苦いものだ、心臓が爆発するぐらい耐えて見せるとも!」

 

「いや、心臓が爆発したら普通死ぬからな?」

 

「ここで私が踏み止まらなければ、誰がこの国を守るというのだ……!」

 

「はぁ……何でもかんでも一人で背負い込むなよ、エジソン」

 

遊馬はため息をつきながらエジソンに近づく。

 

「歴代のアメリカ大統領と一つになったからアメリカを守りたい気持ちは理解したよ。でもさ、今のあんたはその使命に囚われすぎて見失っているんだよ」

 

自分の経験を元にエジソンに語りかける。

 

「俺もさ、元いた世界で三つの世界を邪神から救うために沢山の仲間たちから思いを託された。負けられない、必ず勝たなきゃって気持ちはよく分かる。だけどさ……仮に勝てたとしても、世界にたった一つの国しかないアメリカに未来はあるのか?」

 

「未来、だと……!?」

 

「ああ。エジソンはケルトに対抗するために機械のアメリカ兵を作ってるけど、その資源はいつかは尽きるよな?それぐらい、天才のあんたなら分かるよな?」

 

「うっ、ぐっ……」

 

「資源が無くなったら国は成り立たなくなり、いつかは滅びる……それは歴史で証明されている。そんなアメリカを誰が望むんだ?」

 

遊馬の的確な論理からの説明にエジソンは追い込まれていく。

 

すると遊馬はデュエルディスクを見てあることを思いついて話題を変えた。

 

「なあ、エジソン。一つ小話をするぜ。実は俺、アメリカって国に憧れてたんだよな。だって……」

 

遊馬はデュエルディスクからデッキを外してエジソンに見せる。

 

「デュエルモンスターズはアメリカ人が作ったんだぜ」

 

「な、何と!?そのカードをアメリカ人が!?」

 

「アメリカの大企業、インダストリアル・イリュージョン社の会長にしてデュエルモンスターズの創造主……ペガサス・J・クロフォード。その人がエジプトにあった古代エジプトの古い石板に刻まれたモンスター達を見て、デュエルモンスターズを生み出したんだ」

 

デュエルモンスターズのルーツは古代エジプトで二枚の古く大きな石板に刻まれたモンスター達を見てインスピレーションを得た。

 

画家でもあったペガサスはそのモンスター達を自ら描いてデュエルモンスターズを生み出した。

 

何故ペガサスがエジプトに行ったのかは……それは遊馬は知らないが、その裏ではまるで誰かに導かれ、最初から定められたかのようなペガサスの運命を変える出来事があった。

 

「デュエルモンスターズを世界中の人達に発信し、今でも世界を動かすほどの力を持っている。でもデュエルモンスターズそれだけじゃ、そこまでの大きな影響力は無かった。デュエルモンスターズの可能性を大きく広げたのはデュエルディスクのお陰だ。ちなみに、デュエルディスクを作ったのは何人だと思う?」

 

「それほどの高性能で小型の立体映像装置……分かったぞ、この天才である私と同じアメリカ人だな!」

 

「ぶっぶー、残念、不正解。このデュエルディスクやソリッドビジョンを作ったのは……俺と同じ日本人だぜ?」

 

「な、何と!?極東の小さな島の者たちが!?」

 

「おいおい、日本人を馬鹿にするなよ。海馬コーポレーション社長、海馬瀬人さんは伝説のデュエリストだけじゃなく、あんたにも匹敵する天才発明家なんだぜ?まあそれ以外にも世界中に海馬ランドって言う遊園地を経営したりする世界最高峰の社長でもあるんだからな」

 

伝説のデュエリスト、武藤遊戯の永遠のライバルである海馬瀬人。

 

彼のお陰でデュエルモンスターズは革命が起き、世界中に普及したと言っても過言ではない。

 

「ま、まさか……日本にそれほどの天才がいるとは……」

 

「まあ俺の世界のだけどな。なあ、エジソン、それにアメリカ大統領のみんな。自分の国だけを守りたい気持ちは分かるけどさ、それじゃあ、つまんねえじゃん」

 

「つまらないだと……?」

 

「国がたくさんあれば、文化や宗教や人種の問題があって争うこともあるけど、違うからこそ互いに新しい刺激がある。組み合わされば未知なる可能性が生まれるんだ。それって、世界にたった一つの国じゃあ生まれないよな?多分アメリカだけ残ってもあまり発展する事はできないと思うぜ」

 

国はその国だけでなく他国の要素を得る事で発展している。

 

遊馬の世界のデュエルモンスターズはまさにその代名詞と言わんばかりの存在である。

 

今度はその話を補足するかのようにナイチンゲールが隣に立って話をする。

 

「エジソン、我々はアメリカだけでなく、この世界を癒さなければ、救わなければならない使命(オーダー)がある。イ・プルーリバス・ウナム」

 

「イ・プルー……何だ?」

 

ナイチンゲールが聴き慣れない単語を言い、遊馬は首を傾げると静かに側に現れたアストラルがその説明をする。

 

「イ・プルーリバス・ウナムとは『多数から一つ』……『多州から成る統一国家』を意味する。つまり、このアメリカ合衆国を表している」

 

「なるほど……」

 

「多数の民族から成立した国家である貴方がたは、あらゆる国家の子供に等しい。ならば、貴方がたには世界を救う義務がある。そこから目を逸らして、自分の国だけを救おうとするから──エジソンは苦しむのです」

 

「ぬ……ぐ……」

 

ここでナイチンゲールはエジソンにとって禁句である強烈な言葉を治療と言わんばかりに浴びさせる。

 

「そして、そんなだから──同じ天才発明家としてニコラ・テスラに敗北するのです、貴方は」

 

「GAohooooooooooo!?」

 

ナイチンゲールの最後の言葉が決定打となり、エジソンは悲鳴を上げながら倒れてしまった。

 

(いちばん重いの言っちゃったー!)

 

(……手加減してやってほしかったがな……)

 

エジソンの心の傷をど真ん中に打ち抜かれ、ナイチンゲールの容赦のない言葉にエレナとカルナは戦慄する。

 

エジソンは痙攣しながら倒れてしまい、ナイチンゲールが言った言葉の意味が分からずに遊馬はアストラルに聞く。

 

「ん?エジソンがニコラ・テスラ……ニコラのおっさんに負けたってどう言う事だ?」

 

「簡単に言えば、エジソンとニコラは電気の流れである直流と交流のどちらが優れているかで揉めていたんだ。それはやがて電流戦争と呼ばれるほどの争いになったんだ。結果はニコラの交流送電が上だと証明され、エジソンはニコラに負けたことになる」

 

「じゃあ、電気に関してはニコラのおっさんの方が考えが上だったわけか」

 

「GOFU……!!」

 

アストラルの説明と遊馬の純真無垢な言葉が今のエジソンにとってはマシンガンで全身を撃たれて吐血するように心に大ダメージを受けた。

 

「ユウマ、アストラル、ストップストップ!それ以上言わないで!エジソンが死んじゃうから!」

 

エレナは慌てて遊馬とアストラルの元に走ってこれ以上エジソンが傷つかないように口を止めさせる。

 

ナイチンゲールは無理矢理エジソンを起き上がらせて尋ねる。

 

「命に別状はありません。エジソン、答えなさい。貴方は、どうしたいのですか?」

 

「……ぐ……む……そうだな。認めよう、フローレンス・ナイチンゲール。私は歴代の王たちから力を託され、それでも合理的に勝利できないという事実を導き出し……自らの道をちょっとだけ踏み間違えた……愚かな思考の迷路を、彷徨っていたようだ……」

 

「……ちょっとだけ……ちょっとだけ、ですか。まあいいでしょう。傷を癒すには、まず病であると認めることから始めます。迷ったとしても構いません。貴方はいま、スタート地点に戻ってきたのですから」

 

「そうか……ここまで市民たちに犠牲を敷いておきながら、やっとスタート地点とは……これは厳しい……厳しいな、実際。私はこれからどうすればいいのか……」

 

エジソンが自分がこれからどうすれば良いのか悩んでいると……。

 

「かっとビングだ、エジソン!!!」

 

遊馬が大きく床に思いっきり一歩を踏み出しながら叫んだ。

 

「かっと、ビング……?」

 

「かっとビングは俺の父ちゃんが教えてくれたチャレンジ精神だ。俺は小さい頃から描いた夢をずっと周りの奴らに馬鹿にされてきた。だけど、俺は諦めずにかっとび続けた。何度負けても、何度絶望の淵に立たされても、俺はかっとビングで道を切り開いてきた!かっとビングがあったからこそ俺は大切な仲間たちと絆を結び、夢を叶えることが出来た!エジソン、あんたは途方もない実験を何度も何度も繰り返して電球や沢山の発明したじゃねえか!あんたこそ、俺が憧れる父ちゃんと同じ最高のかっとビング魂を持つ男だ!」

 

エジソンの諦めずに実験を繰り返し、閃きを得たからこそ人類を発展させる大きな発明をしてきた。

 

それは遊馬のかっとビングと同じチャレンジ精神があったからこそ成せた結果だ。

 

「確かにケルト軍は強大な敵だ。だけど、踏み間違えた道からスタートラインに立った今のあんたなら喜んで俺たちの力を貸す。一緒にこのアメリカを、世界を救おうぜ。かっとビングだ、エジソン!!」

 

「かっとビングか……よく分からない言葉だが、不思議と心に再び炎が灯ったように温かくなる。そして、力が漲る!!」

 

エジソンの両眼が金色に輝いて全身の筋肉が膨れ上がり、力強く立ち上がる。

 

「大統王は死なぬ、何度でも立ち上がらねば!繁栄の世界の夢、ここに復活!かっとビング……否、キングビングだ、私!!」

 

エジソンは勝手にかっとビングを改造し、大統王からキングを取り、キングビングと名付けて叫んだ。

 

「キングビングか……良い感じだぜ、エジソン!」

 

「また新たにかっとビングを継ぐ者が増えたな」

 

アストラルは順調にかっとビングを継ぐ者が増えて満足そうに頷いた。

 

「カルナ君、ブラヴァッキー嬢!迷惑をかけたな!」

 

「いいのよ、友達でしょ」

 

「……そうだな。さしでがましいが、友人だな、ここまで来ると」

 

「──ふ。私はいつも、いい友人に恵まれる。こればかりは、あのすっとんきょうにも及ぶまい。私だけの財産というワケか」

 

エジソンはエレナとカルナと言う部下ではなく、大切な友人に恵まれたからこそ、今までケルトからの猛攻をギリギリ耐えることができた。

 

次にエジソンは遊馬たちに向けて頭を下げて謝罪の意を示した。

 

「……そして謝罪し、感謝するユウマ。彼の助けとなるサーヴァントの諸君にもだ。正直、私にはまだ思いつかない。世界を救う方法も、ケルトを倒す方法も。だが──」

 

「心配するな、俺にはあんたと同じ天才の頭脳を持つ相棒がいるからさ!」

 

「共に考えよう、エジソン。この戦いを導く勝利の方程式を!」

 

「ありがたい。そして頼もしい。そうだ。私は大変な忘れ物をしていた。大統領の傍らには常に副大統領がいるものだ。時に、大統領自身より有能な、ね」

 

エジソンは優しい笑みを浮かべながら遊馬とアストラルを見つめる。

 

その言葉の真意を二人はすぐに気づき、嬉しさから同じく笑顔になっていく。

 

「私はトーマス・アルバ・エジソン。アメリカの繁栄、その礎を担った一因。であれば、今度こそ──世界を救う大発明を成し遂げたい!無論、ユウマ君、君のサーヴァントとして、だ!」

 

エジソンは遊馬をアメリカの副大統領とし、マスターとサーヴァントの契約する事を宣言した。

 

「ああ!もちろん、喜んで!」

 

「では、今ここに私と、私が持つ全てをユウマ、貴方にお渡ししよう。そして共に、世界を救ってもらいたい……我がマスター」

 

「よろしくな、エジソン!」

 

遊馬は手を差し伸ばし、それに応えてエジソンも手を伸ばして握手を交わす。

 

交わされた握手によって契約が始まり、エジソンの体が光の粒子となって新たなフェイトナンバーズが誕生した。

 

フェイトナンバーズからエジソンが出てくると遊馬と不可視の絆で結ばれて無事に契約が完了した。

 

「ねえねえ!エジソンが契約したから私もいいよね?」

 

「おう!もちろんだぜ、エレナ!」

 

ようやく遊馬の仲間になれるのでエレナは興奮しながら契約を交わす。

 

エレナと握手をしてフェイトナンバーズを誕生させると、すぐにエレナは自分のフェイトナンバーズを遊馬から借りてそれを興味深そうに見ていく。

 

そして、最後に残ったカルナは遊馬の前で跪いて視線を合わした。

 

「ユウマ……君は俺の想像を超える素晴らしい英雄だ。君と共に戦える事を誇りに思う」

 

「カルナ……」

 

「これからよろしく頼む、マスター」

 

「ああ!よろしくな、カルナ!!」

 

遊馬はカルナと握手をして契約を交わし、フェイトナンバーズを誕生させ、これでアメリカ軍の三人のサーヴァント全員と契約が完了した。

 

カルデア・レジスタンス・アメリカの連合軍が誕生し、エジソンはすぐにでも会議を開こうとしたが、それをアストラルが待ったをかけた。

 

「すまない、エジソン。その前にどうしても話さなければならない大事な事案がある」

 

「会議の後ではいけないのか?」

 

「遊馬と約束したからな。頼む……」

 

「良いだろう、だが手短に頼むぞ」

 

「分かってる」

 

アストラルは不安そうに見つめている遊馬と向き合う。

 

「アストラル……」

 

「オルガマリー、すまないがカルデアにいるサーヴァント及び職員全てにも私の声が伝わるようにしてくれるか?」

 

「え、ええ……分かったわ……」

 

オルガマリーはD・ゲイザーでカルデアと連絡を取り、アストラルの声をカルデアの施設全体に伝えるようにした。

 

アストラルは大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

これから語る真実はアストラルと極一部のものしか知らないこと。

 

その事を遊馬に伝えたくはなかった。

 

何故なら……。

 

「出来れば、この事は君に知られずに済めば良いと思っていた……何も知らずに、幸せになって欲しいと思っていた……」

 

唇を噛み、拳を強く握りしめてアストラルは自分の本音を語るが、遊馬はその真実を知りたがっている。

 

真実を知ることで遊馬がどう反応するのか分からず不安しかないが、アストラルは意を決して静かに口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊馬……君は……君自身の魂は、数千年前の古の戦いで二つに分かれた、私の分身……もう一人の私なのだ……」

 

「……………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明かされた真実。

 

それは遊馬をこれまで以上に呆然とさせ、同時に小鳥やマシュ達も驚愕で言葉を失った。

 

遊馬がアストラルの魂の半身……それは誰もが予想出来るわけもない。

 

遊馬は自分の手を見つめてその真実を口にする。

 

「俺が、アストラル……?俺の魂が、アストラルの半身……?」

 

自分が人間だと信じていたが、その自分自身の魂が最も信頼する相棒の半身。

 

一体どういうことなのか?

 

何故自分がアストラルの半身なのか?

 

まさか、アストラルと出会うことも、ナンバーズを賭けた戦いに巻き込まれたことも、バリアンとの戦いも、ヌメロン・コードを賭けた戦いも……全て偶然ではなく、必然だったのか?

 

「俺は……俺は……」

 

遊馬とアストラルがこれまでの戦いで築き上げてきた信頼、紡いで来た数々の言葉の、一緒に過ごしてきた時間、そして……繋いで来た仲間達との絆。

 

その全ては遊馬にとって何物にも変えがたい、掛け替えのない宝物である。

 

しかし、それは全て偽りのものだったのか?

 

初めから仕組まれていたものだったのか?

 

そう考えたその時、遊馬の中にある『九十九遊馬』と言う一人の人間を構築する幾つものの大切なモノ……『絆』……『記憶』……『夢』……『心』……『未来』……その全てにヒビが入る。

 

「全部……嘘、だったのか……?」

 

遊馬がその言葉を口にした瞬間、皇の鍵の紐が切れて床に数回跳ねて落ちた。

 

そして、大切なモノが全て砕け散り、意識が全て真っ暗になり、全身の力が無くなるように倒れた。

 

「っ!?遊馬!??」

 

「遊馬君!?」

 

「遊馬!?」

 

遊馬が突然倒れ、アストラル達は駆け寄る。

 

すぐにナイチンゲールが診察をし、遊馬が倒れたのは強いストレスによる意識消失だと診断された。

 

それほどまでに自分の正体を知ったことにショックを受けたのでしょう……とナイチンゲールは言う。

 

その後、遊馬は用意された部屋で休ませ、オルガマリーはエジソンと話し合い、明日にケルトとの最終決戦を迎えるための会議を行うことにした。

 

出来れば遊馬には早めに復活してもらいたいところだが内容が内容だけにかなり難しい状況だった。

 

全員が悩む中、一人だけ気合を入れた表情をした少女がエレナに近付いた。

 

「あの、エレナさん。この城にキッチンはありますか?」

 

それは小鳥で皇の鍵の飛行船に置いてきた大量の食材が入った大きなリュックを持って背負って来た。

 

「え?キッチン?あるけど……あなた、料理するの?」

 

「はい。日頃からやっているので」

 

「分かったわ。エジソン、一旦解散しない?みんな色々思うところもあるみたいだし」

 

「そうだな……では、皆のもの。一旦解散としよう。それから、出来るだけこの城からは出ないようにしてもらいたい。もちろん、ここにいる人数分の部屋を用意する」

 

既にアメリカ軍とは協力関係を結んだので今更城から出る理由はないので、マシュ達はそれに同意して頷く。

 

マシュ達はそれぞれの想いを秘めつつ、玉座の間から解散した。

 

「さあ、キッチンに案内するわ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

エレナは小鳥をキッチンへと案内し、小鳥は気合を入れて料理に励む。

 

 

 

「んっ……うぅん……?」

 

遊馬は目を覚まし、起き上がるとそこは見慣れない部屋でしかもベッドの上だった。

 

「何処だ、ここ……?」

 

見慣れない部屋に困惑しながら近くのテーブルに皇の鍵と体から外されたデュエルディスクとD・ゲイザーを見つけ、紐が切れた皇の鍵を手に取りながら窓際に行く。

 

窓から見える風景は夜の中に複数の灯が灯る城の風景。

 

ここは城の中の一室だとすぐに理解すると、ベッドに横たわって皇の鍵を見つめる。

 

「俺は……何だ……?」

 

自分がアストラルの半身だと知り、自分自身が何なのか分からなくなってしまった。

 

今までの日常や戦いを振り返り、それは全て偽りだったのかと思い込むようになってしまい、それが負のスパイラルとなって遊馬の全てを埋め尽くす。

 

その時……遊馬の負の心に応えるかのように皇の鍵が輝き、遊馬の体が金色の光に包まれる。

 

思わず目を閉じてから光が静かに収まり、目を開くとそこには驚くべき世界が広がっていた。

 

「アストラル世界……!?」

 

そこはアストラルの故郷でランクアップした魂が行き着く青き世界……アストラル世界だった。

 

遊馬がいるのはアストラル世界の中心地で一番大きな塔の前で周りを見渡すが、住人の姿が一人も見えない。

 

「住人どころか、エリファスもいないか……」

 

住人だけでなくアストラル世界の守護神・エリファスの姿も無い。

 

遊馬はこの世界を不審に思いながら塔に向けて歩き出す。

 

塔の中に入り、以前は全く見る暇は無かったのでゆっくりと眺めながら階段を登っていく。

 

そして、最上階に到着するとそこは巨大な皇の鍵と水晶の飾りがある玉座の間。

 

そこはかつて傷ついて離れ離れになってしまったアストラルが眠っていた。

 

遊馬はこの場でアストラルを取り戻し、アストラル世界を変えるために、エリファスと全てをかけたデュエルを行った。

 

しかし、遊馬はその玉座に違和感があった。

 

「……っ!?誰だ!?」

 

青の世界であるアストラル世界に赤い光があり、静かな鼓動を響かせていた。

 

遊馬はホープ剣を両手に作り出して警戒すると、その赤い光が近づいて来た。

 

ボヤけるような赤い光は遊馬に近づくにつれて人型へと形作られていく。

 

その姿に遊馬はホープ剣を手から離してしまうほど驚愕した。

 

「お前は……!?アストラル……!?」

 

それは……真紅に輝くアストラルだった。

 

顔と目の形、逆立った髪の形、体の模様、両耳のピアス……全てがアストラルと同じで、まるで鏡に写したようにそっくりだった。

 

「こうして会うのは初めてだな……遊馬」

 

声までもアストラルと同じで遊馬は困惑していく。

 

「お前は……まさか……」

 

遊馬は目の前にいる謎のアストラルが何なのか理解した。

 

「そうさ……私は君で、君は私。私はアストラルの半身だ」

 

「アストラルの半身……俺の、魂、前世……」

 

「だが、このままでは少々呼びにくいな……私の事は『アナザー』とでも呼んでくれ』

 

「アナザー……お前が俺をここに呼んだのか?」

 

「そうだ。君は自分の正体を知って迷っていたからな」

 

「ここはアストラル世界じゃねえよな……」

 

「ああ。ここはアストラル世界を模した私の心象風景だ。最も、今はアストラルがヌメロン・コードの力でアストラル世界とバリアン世界を一つにしたからこの風景はかなり違っているだろうが……」

 

アストラルの半身……アナザーは自分の故郷である今のアストラル世界を模してこの世界を作った。

 

しかし、アストラルがヌメロン・コードによってアストラル世界とバリアン世界を一つになり、新たな世界となった。

 

アナザーはまだ新しいアストラル世界を目にしてないので少し寂しい表情を浮かべていた。

 

「さて、こうして無事に対面出来たんだ。話し合いと行こうか」

 

アナザーは指を鳴らすと二つの椅子が現れた。

 

それは大きな皇の鍵を模した背もたれが取り付けられた金色の椅子で遊馬とアストラルの半身のアナザーに相応しい皇が座る為の玉座だった。

 

遊馬とアナザーは玉座に座り、互いに目線を合わせる。

 

遊馬は緊張した面持ちだが、アナザーは余裕そうな笑みを浮かべて足を組んでいた。

 

「遊馬、君が知りたい事、聞きたい事は全て分かっている。包み隠さず、全て答えよう」

 

「本当か……?」

 

「心配するな、アストラルと同じように私も嘘はつかない」

 

「……分かった」

 

「では、始めようか」

 

アナザーは再び指を鳴らし、心象風景のアストラル世界を暗転させた。

 

「私と君の、秘めたる謎を」

 

遊馬とアナザー……二人に秘められた数千年に渡る謎が遂に語られる時が来た。

 

 

 




遊馬の前世……もう一人のアストラルはアナザーと名付けました。

次回は遊馬の秘密について迫ります。
アニメの内容を元に私なりの考えを出して行きます。
この話のためにずっと考えていたので存分に書いていこうと思います。


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ナンバーズ128 開かれる真実の扉

更新が遅れてしまい申し訳ありません。
体調を崩して仕事も忙しくてなかなか書けませんでした。
更に今回の話は書くのが難しかったので余計大変でした。

先週はロード・エルメロイII世の事件簿の最終回で今日はFGOのバビロニア編のアニメスタートですね。
グレイちゃんとライネスちゃんとルヴィアさんを見ると事件簿コラボを書きたくなっちゃいましたね(笑)
そうなるとイベントコラボを書くのが更に大変になりますが。

さて今回はアニメZEXALの描写や設定などを元に遊馬とアナザーの真実を私なりに解釈して書いてみました。
もし何か違和感や疑問点、矛盾点などがあったらどんどんコメントください!


「さて……まずは全ての始まりから説明しよう」

 

アストラル世界の風景から一転し、周囲の空間が真っ暗となりそこにいたのはアストラルともう一人……バリアン世界の神、ドン・サウザンド。

 

そして、二人の間の上には……。

 

「ヌメロン・コード……!」

 

あらゆる世界の過去・現在・未来の運命を決めることが出来る神のカード、ヌメロン・コード。

 

「知っての通り、アストラル世界がランクアップの為にカオスを排除した後、バリアン世界が生まれた。バリアン世界の神として君臨したドン・サウザンドはヌメロン・コードを手に入れようとし、アストラルはそれを阻止しようとした」

 

アストラルとドン・サウザンドはヌメロン・コードを賭けて壮絶なる戦いを繰り広げる。

 

アストラルは右手を輝かせてデュエルディスクのデッキからカードをドローする。

 

「戦いの末……アストラルは自分の全てを懸けてシャイニング・ドローをした。その衝撃でドン・サウザンドを撃退する事が出来たが、アストラルもその衝撃で深傷を負った。しかし……その時に予想外の事が起きた」

 

アストラルとドン・サウザンドが同時に吹き飛ばされ、ドン・サウザンドはその力の大半を失った。

 

しかし、アストラルもただでは済まなかった。

 

アストラルの体が二つに分かれ、青い光と赤い光になってまるで反発し合うように離れていってしまった。

 

「私とアストラル……その魂が二つに分かれてしまった。アストラルの力の半分がナンバーズとなり、更にはドン・サウザンドの力が封印された7枚の伝説のナンバーズと共に地球にばら撒かれた」

 

「それが古の50枚のナンバーズ……」

 

古の時代に世界各地に50枚のナンバーズがばら撒かれてしまった。

 

古のナンバーズは後の様々な時代の人間に大きな影響を与えていく事となる。

 

「だが、ナンバーズだけでなくヌメロン・コードもその時の衝撃で世界の何処かへと消えてしまった。そして、50枚の内、2枚のナンバーズが地球ではなく、月へと向かった」

 

「月……まさか……」

 

「そう、月には竜皇伝説の石碑があり、2枚のナンバーズはその力に引き寄せられたんだ。それこそが天城カイトが目覚めさせた『No.62 銀河眼の光子竜皇』と『No.100 ヌメロン・ドラゴン』だ」

 

ヌメロン・コードの封印を解く重要な鍵の欠片でもあるナンバーズがその時に眠りについたのだと納得した。

 

「なるほどな……古のナンバーズの疑問だったところは分かったけど、お前とアストラルはどうなった?」

 

「アストラルは力と魂を失いながらも何とかアストラル世界に流れ着き、いつかドン・サウザンドが力を取り戻して目覚め、再び戦いの時が来るまでに失われた力と魂を癒す為に深い眠りについた。そして、私は……」

 

アナザーはひとまずアストラルの過去を語り終えると、手を前に出す。

 

すると、手の中から眩い光が溢れ出し、遊馬が悩む原因となった『それ』が現れた。

 

「ヌメロン・コード……」

 

手のひらサイズの小さなものだが、確かにそれはヌメロン・コードだった。

 

「遊馬、このヌメロン・コードはアストラル世界で封印されているヌメロン・コードの極一部だ」

 

「極一部……?」

 

「アストラルと二つに分かれた時……すぐに自我が目覚めた私はとっさにヌメロン・コードに手を伸ばした。ヌメロン・コードが何処かへ消える前に手にしようと思ったが、指先しか触れる事が出来なかった。だが、その指先に触れた分だけ、ヌメロン・コードが私の中に流れ込んで一体化したのだ」

 

「それが、俺の中にヌメロン・コードがある理由か……」

 

「ああ。だが、このヌメロン・コードは本体から流れ込んだ100パーセントの内の極一部……1パーセントにも満たない小さな欠片の様なものだ。だが、欠片でも無限大に近いエネルギーが込められている。そうだな……このエネルギーで君と契約しているサーヴァントの魔力を余裕で補えるほどだ。当然、宝具をいくら使っても問題ないレベルだ」

 

流石は宇宙創造と世界の過去・現在・未来の運命を変えて決める力を持つヌメロン・コード……僅かな欠片でも膨大なエネルギーを秘めており、アナザーは引き続き説明をしていく。

 

「ヌメロン・コードには様々な世界の過去・現在・未来を変えることが出来るが、それだけではなく色々な力が込められている。世界に広がる運命、宇宙、星、物質、時間、空間、現象、生命……それらを使用者の思い描く形に自由自在に変える事ができる。そして、私が手にしたこのヌメロン・コードの欠片には『未来』を司っている」

 

「未来……?でも、欠片でも自由には使えないはずだろ?だって鍵である『No.100 ヌメロン・ドラゴン』はアストラルが持っているんだから……」

 

ヌメロン・コードだけではその力の全てを使いこなすことはできない。

 

膨大なエネルギーを得ることはできるが、アストラルが持つ『No.100 ヌメロン・ドラゴン』がヌメロン・コードを使用するための鍵である為、例え欠片でもそう簡単に使えるはずはない。

 

ドン・サウザンドでも『No.100 ヌメロン・ドラゴン』無しではヌメロン・コードの力を全て使うことは出来なかった。

 

「そうだ。だが、長い年月を経て私自身の魂と融合したことによってヌメロン・コードの欠片の力を少しずつ解放できる様になっていた。君がヌメロン・フォールや未来皇ホープを創造できたのもこの力を無意識の内に解放したからだ」

 

アナザーの指摘に遊馬は目を見開いて驚き、その時のことを思い出した。

 

一つはエリファスとのデュエル、もう一つはアストラルとのデュエル。

 

その時はアストラルを助ける為、自分自身の未来を見せるためと無我夢中だったが、アナザーの言葉で合点がついた。

 

「そうだったのか……ヌメロン・フォールにも確かにヌメロン・コードが描かれているし、アストラルの話だと未来皇ホープは希望皇ホープの未来の姿……それを俺自身が未来を司るヌメロン・コードの力を引き出したと考えれば辻褄が合う……」

 

ヌメロン・コードの力の一端を宿した唯一無二のランクダウンマジック、ヌメロン・フォール。

 

そして、遊馬自身のナンバーズ、ランクゼロのモンスターエクシーズ、未来皇ホープ。

 

それらは全て遊馬が未来を司るヌメロン・コードの力を解放したから創造することが出来たという事になる。

 

「さて、ヌメロン・コードについてはここまでにしよう。アストラルと二つに分かれ、ヌメロン・コードを宿した私はその時、幾つもののビジョンが見えたんだ」

 

「ビジョン?」

 

「それは遥か未来に起きるビジョン……カオスを排除したことでアストラル世界が衰退して滅びの道を辿り、ドン・サウザンドが自らの復活の為に大いなる魂を持つ七人の人間を選んで駒にする。そして……ヌメロン・コードを巡る壮大な戦いが始まることを……だから私は選んだ」

 

「選んだ?」

 

アナザーは遊馬に向けて静かに指差した。

 

「私が人間に転生することだ」

 

「……何でアストラルの半身のお前が人間に……俺に転生することを選んだんだ?」

 

アナザーはアストラル世界で誕生した精霊の半身。

 

それが何でアストラル世界に戻らず、人間に……九十九遊馬に転生することを選んだのか?

 

「……私は考えた。一度は退けたがドン・サウザンドは七皇の力を持っていずれ復活する。カオスを排除したアストラル世界は滅んでしまう。ドン・サウザンドを倒す為に、衰退するアストラル世界を救う為にどうしたらいいのか?」

 

因縁の宿敵と故郷の救済……それを実現させる為にアナザーはアストラル世界に戻らずに考えた。

 

「私は長い年月をかけて世界を彷徨い、様々な時代の人間の歴史を目にしてきた。そこで私は人間の持つ欲望……カオスの恐ろしさや醜さを知ると同時に奇跡のような無限の可能性を感じた。ドン・サウザンドを倒し、アストラル世界を救うにはカオスの力が必要だと確信した。そして私はある計画を考えた」

 

「計画……?」

 

遊馬は緊張から心臓の鼓動が高まり、胸を強く手で押さえた。

 

これから聞くことに対して恐怖が生まれてきた。

 

そして、アナザーの口から衝撃的な事実が告げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いずれアストラル世界に向かえるランクアップした肉体と魂を持つ人間の夫婦の子供として、カオスの力を持つランクアップした人間として転生することだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは遊馬にとって衝撃的過ぎる事実だった。

 

その時、遊馬の脳裏には大好きな両親……九十九一馬と九十九未来の姿が浮かんだ。

 

「それじゃあ、てめぇは……人間として転生する為に、父ちゃんと母ちゃんを利用したのか!?」

 

アナザーの言うことが本当ならば九十九一馬と九十九未来の二人を利用し、自らが二人の子供として転生し、九十九遊馬として生まれた事になる。

 

「そうだな。そういう事になるな……」

 

「ふざけるな……ふざけるなぁあああああっ!!!」

 

アナザーの答えに遊馬の怒りが爆発し、玉座から立ち上がると同時に背中から双翼が生え、両手に雷神猛虎剣と風神雲龍剣が現れ、柄を強く握りしめながらアナザーに向かって走り出す。

 

怒りに任せてZWを振るい、アナザーを斬ろうとした。

 

しかし、アナザーが軽く手を振るうと地面から無数の鎖が現れて遊馬の体を縛った。

 

「くっ!?離しやがれ!!」

 

「未来皇ホープの双翼にZW二刀流……なるほど、英霊と絆を結んだ事でお前自身がホープとZWの力を引き出してランクアップしたんだな」

 

アナザーは遊馬の双翼とZW二刀流が数多の英霊と契約し、絆を結んだ事でその力を具現化させたと推測した。

 

「許さねえ……てめえだけは許さねえ!父ちゃんと母ちゃんを利用して……俺を、俺を……あぁあああああっ!!!」

 

遊馬は自分が生まれた理由がアナザーが転生する為の肉体とする為に両親を利用した事に対し、涙を流しながら叫びを上げた。

 

自分が普通の人間ではない事は薄々分かっていた。

 

しかし、自分の生まれた本当の意味を知り、今までに無いほどの怒りと悲しみが膨れ上がった。

 

「……確かに私は九十九一馬と九十九未来を利用した。だがこれだけは聞いてくれ。二人は君が私の転生者だと知っていた」

 

両親は自分がアナザーの転生者だと知っていると知り、遊馬は驚きで体の力が抜けて両手からZWが消滅し、体を縛る鎖も同時に消えた。

 

「……は?知っていたって、俺がお前の転生者って……?ど、どうして!?」

 

「君が幼い頃、九十九一馬はクレバスに落ちた事は覚えているな?その時……九十九一馬はアストラル世界に辿り着いていたんだ」

 

「っ!?やっぱり父ちゃんはあの時、アストラル世界に……」

 

クレバスから生還した時にアストラル世界の力を持つ皇の鍵を握り締めていた事から一馬はその時にアストラル世界に行っていたと気付いていた。

 

「九十九一馬はアストラル世界の大いなる意思から皇の鍵を託されたと同時に自分の息子である遊馬の正体を教えられていた。未来に起きる闘いのことも……それは九十九一馬の口から九十九未来にも知らされていた」

 

「父ちゃんと母ちゃんはもうその事を知っていた……?」

 

「遊馬、一つ質問をする。君の両親は、君の正体を知っても、君への態度、君への愛情は変わったか?」

 

アナザーの問いに遊馬は両親と過ごして来た時間を思い出す。

 

幼少期の記憶が定着してから両親が行方不明になるまで……両親は変わらずに自分に愛情をたっぷりと注いでくれた。

 

一馬は何度も一緒に冒険旅行に行き、夢に悩んでいる自分を励まして応援し、デュエルを教えてくれた。

 

未来は自分に寄り添ってくれて、暖かい温もりで抱きしめてくれて、甘える自分を優しく受け止めてくれた。

 

遊馬はアナザーの問いに首を振って否定の意思を示す。

 

するとアナザーは小さく笑みを浮かべながら次の問いをする。

 

「……遊馬、何故転生した私の意識が今まで現れなかったと思う?」

 

「それは……」

 

遊馬はその問いに答える事は出来なかった。

 

アナザーはわざわざ転生先を選んでまで九十九遊馬として転生したのに何故今まで意識が表に出なかったのだろうか……。

 

ナンバーズを巡る戦いも、バリアンとの戦いも、ドン・サウザンドの戦いも……今までアナザーが遊馬の意識を乗っ取って前に出る事は無かった。

 

「それに関しては私の誤算だった。私は九十九遊馬として生き、半身のアストラルと共に戦うつもりだった。しかし、人間は……いや、生命と言うのは実に不可解で面白い存在だ。君が私と言う存在を押さえ込んだんだからな」

 

「俺が押さえ込んだ……?」

 

「魂がそのまま肉体の表に出なかった事だ。言うなれば、君の自我、意識、意思、人格、そして心……君と言う存在が九十九遊馬と言う一人の人間として形作られた。私が付け入る隙間がないほどにな。そして、君を形作ることが出来たのは君の家族と友人のお陰だ」

 

「家族と友人が俺を……?」

 

「見たまえ」

 

アナザーが再び指を鳴らして風景を変えると、そこは遊馬も知っている場所だった。

 

「ハートランド病院……?」

 

そこはハートランドシティの病院で遊馬も怪我で入院したことのある場所だった。

 

その一室で……一つの家族に新しい命が生まれていた。

 

それは産まれたばかりの小さな赤ん坊だった。

 

「あれは……生まれた時の俺……?」

 

今から約13年前……遊馬がまだ産まれたばかりの時だった。

 

赤ん坊の遊馬を抱いていたのは同じく約13年前の今より少し若い母の未来でその周りを九十九家の家族たちが見守っていた。

 

「未来、ありがとう!俺達に……息子を……遊馬を産んでくれて……!」

 

「父ちゃん……」

 

一馬は念願だった息子が産まれ、自分の名前の一部を与えて遊馬と名付け、嬉しさが込み上げて涙が溢れ出ていた。

 

「私の、私の弟だ!私が今日からお姉ちゃんだ!」

 

「姉ちゃん……」

 

それはまだ小学校に上がったばかりの明里は弟が出来て姉となって嬉しそうに遊馬の柔らかい頰を指でぷにぷにと押していた。

 

「私は幸せ者だね。可愛い孫娘に続いて、可愛い孫が出来たからの〜。遊馬、いっぱいご飯を食べて、自分の好きな事を精一杯やって大きくなるんだよ」

 

「婆ちゃん……」

 

男の子の孫が無事に産まれて来て、春は満面の笑みを浮かべながら遊馬の健やかな成長を願った。

 

「遊馬……私達の元に産まれてきてくれて、ありがとう……」

 

「母ちゃん……」

 

未来は遊馬を優しく抱きしめ、頬にキスを落とした。

 

その幸せで優しい光景に遊馬は大粒の涙を流した。

 

「遊馬……確かに君は私が転生した事で生まれた存在だ。しかし、君は家族から祝福と愛を受けて産まれた……それは今でも変わらない。これは紛れもない真実だ」

 

「アナザー……」

 

「家族だけでない。君には掛け替えのない友人達がいる」

 

もう一度指を鳴らして風景を変えるとそこには遊馬の友人や仲間達の姿があった。

 

「小鳥……鉄男……シャーク……カイト……みんな……!!」

 

それは遊馬が今まで絆を紡ぎ、築き上げてきた大切な友人や仲間達。

 

今は小鳥しか側に居ないが、人間界にいる友人や仲間達は遊馬と小鳥の帰りを待ち続けている。

 

アナザーは玉座から立ち上がり、静かに遊馬と向き合い、両手で遊馬の肩を掴んだ。

 

「遊馬……確かに君の前世は私だ。私が君をこの世に産まれさせたと言えるかもしれない。だけど、これだけはハッキリと言える。君が君だからこそ、全てを救うことができたんだ」

 

「アナザー……?」

 

「もしも私が君の代わりに表に出ていたら全てを救う事は出来なかったかもしれない。下手をすれば、何も救えなかったかもしれない……」

 

アナザーは遊馬の中でこれまでの戦いを見続けていた。

 

もしも仮に自分が遊馬としてアストラルと共に戦ったとしてシミュレーションを行なった。

 

しかし、何度も何度も考えても最後まで戦い抜く事は出来ずに敗北する答えしか考えられなかった。

 

あくまで結果論だが、アナザーは自分ではなく遊馬だからこそ全てを救うことができたと断言した。

 

「それに、私は君のように誰かに希望と未来を与える事は出来ない。だからこそ私は、君を誇りに思う!!」

 

アナザーは自分の胸を叩いて自信満々にそう宣言した。

 

「アナザー……その、サンキュー……」

 

そう言われて遊馬は少し心が軽くなった。

 

するとアナザーは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「遊馬……私が転生する為に選んだとは言え、君を巻き込んでしまったことは申し訳なく思っている。私に出来る事はこれしかない……」

 

アナザーは遊馬に謝罪の言葉と同時に左手からヌメロン・コードを出すと、自然と遊馬の元へと飛んだ。

 

そして、ヌメロン・コードは回転しながら小さな光となって遊馬の中に入っていく。

 

「えっ?ヌ、ヌメロン・コードが……」

 

「ヌメロン・コードを君に託す。その未来の力をどう使うかは君次第だ。そして……」

 

握り締めた右手をゆっくりと開くと、手の中から何十枚もの大量の純白に輝くカードが現れて勢いよく飛び去った。

 

すると、カード達は遊馬の元に集まり、ゆっくりと遊馬の周りを舞う。

 

遊馬はその光景に驚きながら恐る恐るカードを1枚取ろうとすると、カード達が一斉に集まり、束となって遊馬の手の上に降りた。

 

「このカードは……?」

 

「それは私の全てを込めて作り出したカードだ。まだどれも白紙のままだが、君とアストラル、そしてそれに連なる者達の大きな力となる無限の可能性を秘めたカード達だ」

 

「俺とアストラルとみんなの力に……」

 

遊馬はカードの束の一番上のカードを空いている手で取って見ると……。

 

「ん……?うわっ!?」

 

カードから一瞬だけの眩しい光が放たれると、白紙のカードに名前、イラスト、テキスト……必要な項目の全てが描かれ、1枚のカードが完成した。

 

そのカードに描かれた名前とイラストに遊馬は目を見開くほど驚いた。

 

「これは新しい希望皇ホープ……!?」

 

それは遊馬もアストラルも知らない新しい希望皇ホープのカードだった。

 

更にはそのテキストは遊馬のデッキに噛み合う超絶的な効果でその強さに舌を巻いた。

 

「す、すげぇ……こいつの効果を使えば、他の全ての希望皇ホープの力を更に高めることが出来る……!!」

 

「どうやら、君とアストラルにとって素晴らしいカードが生まれたようだな」

 

アナザーもどんなカードが生まれるかは分からず、まだ他の白紙のカード達にも未知数の強大な力を秘めている。

 

それはアストラルの手にした者の心を写し出す100枚のナンバーズにも通ずるものであった。

 

「遊馬、その希望皇ホープは嬉しいか?」

 

「ああ!こいつがあれば今までよりも、もっともっとホープをカッコ良く活躍出来るぜ!やべぇ、色々なホープの戦略が広がるからワクワクするぜ!」

 

「……デュエリストにとって、新しいカードの出会いは最高の瞬間だからな」

 

アナザーの言う通り、デュエリストにとって新しいカードとの出会いはテンションが上がり、頭の中で使い方や活躍する場面を想像したりとワクワクが溢れ出てくる。

 

遊馬は大好きな希望皇ホープを今まで以上に活躍出来るカードを手に入れて嬉しさがこみ上げてきた。

 

アナザーは優しい笑みを浮かべて頷き、静かに口を開く。

 

「最後に君を喜ばすことができて良かったよ……」

 

「……は?最後?」

 

アナザーの言葉に耳を疑い、カードから目線をアナザーに向ける。

 

すると、アナザーの体が光の粒子となって少しずつ消滅していく。

 

「ア、アナザー!?」

 

アナザーの身に一体何が起きたのか分からず困惑する中、アナザーは消滅する自分の手を見ながら語り出す。

 

「そのカード達は私の全てを込めて創造したもの……全ての力を失った私の心は消える運命にある」

 

「消えるって……馬鹿野郎!どうしてそんな事を!?」

 

「……私の心はもう限界だった。何百年、何千年と続く旅をしてきたからな。もう疲れたんだ……」

 

アナザーはアストラル世界で眠っていたアストラルと違い、遊馬に転生するまで一人孤独と戦いながら旅を続けていた。

 

果てしない旅でアナザーの心は既に磨耗してしまっていたのだ。

 

「だけど、君のお陰でドン・サウザンドを倒し、アストラル世界を救うことが出来た。ありがとう、遊馬」

 

改めて遊馬に感謝の気持ちを伝えるアナザーだが、遊馬は納得出来なかった。

 

「アナザー……くっ、それで、それで本当にお前は良いのかよ!?アストラルに一度も会わないで、言葉を交わさなくて良いのかよ!?」

 

遊馬はこれまでアストラルと何度も合体してZEXALとなったが、アナザーは一度もアストラルと会わず、言葉も交わさずにいた。

 

アナザー自身の意識が弱っていたこともあるが、アナザーはアストラルに対して気付いてしまったことがあった。

 

「アストラルが一番大切に想っているのは私ではない……紛れもなく、君だ」

 

アストラルは誰よりも遊馬を大切に想っている。

 

遊馬が半身でもう一人の自分だと気付いてからはその想いが日に日に強くなっている。

 

アストラルに会えば心が苦しくなってしまう……だからこそアナザーは敢えて会わない事を決めてしまったのだ。

 

「それに、最後に君に真実を告げ、ヌメロン・コードとカードを渡せることが出来た……私に後悔は一つも無い」

 

アナザーは自分の使命の果ての思い描いた理想……遊馬はそれ以上の未来を作ってくれた。

 

しかし遊馬は大切な仲間の世界と未来を守る為、異世界で新たな戦いに挑む事を選んでしまった。

 

アナザーは遊馬が未来を歩む為に全てを託して消える決心をついたのだ。

 

「心配するな。私が消えると言っても、この魂に何の変化は無い。君は君のままで何も変わらない。ただ、私の心が永遠の眠りに着くだけだ……」

 

アナザーは静かに目を閉じて最後の刻を待つ。

 

消滅してしまう恐怖は一切無く、穏やかな笑みを浮かべるアナザー。

 

そんなアナザーに遊馬は抱きついてそのまま強く抱きしめる。

 

「遊馬……?」

 

遊馬の突然の行動に驚くアナザー。

 

「ありがとう、アナザー……もう一人のアストラル……もう一人の俺……!」

 

遊馬はアナザーの想いを受け取り、別れと最後の感謝の言葉を告げた。

 

アナザーも遊馬を抱き締め、その瞳から涙が溢れながら同じく最後の言葉を告げる。

 

「遊馬……これからも君の戦いは続くが、君とアストラルと仲間達の絆があれば必ず乗り越えられる。負けるな、頑張れ。そして……必ず君自身が大切な人と、幸せになってくれ」

 

「ああ……必ず、約束する!」

 

「本当にありがとう……遊馬、おやすみ」

 

「ああ、ゆっくり休んでくれ……アナザー、おやすみ」

 

アナザーは遊馬に別れを告げると、その体が一気に全て消滅した。

 

消滅した後に残った赤い光の粒子は全て遊馬の中に入り込んで一つとなった。

 

遊馬はその場に座り込み、託されたカードを抱き締める。

 

そして……アナザーが作り出した心象風景のアストラル世界が崩壊し、遊馬の意識が現実へと戻されていく。

 

 

 

夕暮れ時……小鳥は一人、城の中を歩いていた。

 

「遊馬……もう起きたかな?」

 

特大のデュエル飯と唐揚げと水の入ったコップを乗せたトレーを持っていた。

 

カルデアから持ってきた食材を元に城のキッチンを借りて遊馬の夕食を用意したのだ。

 

「もうすぐケルトとの戦いが始まるから早く元気になってもらわないとね!」

 

小鳥は遊馬に一刻も早く元気を取り戻させる為に無理矢理でもデュエル飯を口に打ち込む意気込みで遊馬が休んでいる部屋の前に着いた。

 

ノックをして遊馬が起きている事を確認しようとしたその時。

 

「うっ……くっ……ううっ……!」

 

「遊馬……?遊馬、開けるわよ」

 

部屋の中からすすり泣く声が聞こえ、小鳥は遊馬の返事を待たずにドアを開けて部屋に入った。

 

小鳥の目に映ったのはベッドに座り、大粒の涙を流しながらカードを握り締めている遊馬の姿だった。

 

「遊馬、どうしたの……?」

 

小鳥はトレーをテーブルに置き、チラッとデュエルディスクとデッキケースを見たが、デッキはセットされたままでデッキケースも開いていない。

 

今、遊馬が持っているカードは何なのだろうか……?

 

小鳥は不審に思いながら遊馬の隣に座って背中に手を置く。

 

「遊馬、何があったの?」

 

「小鳥……あいつが、あいつが……!」

 

「あいつ、って?」

 

「アナザーが……俺の中の、アストラルが……消えちまった……」

 

「えっ……!?」

 

遊馬の言葉に驚愕しながらも言葉の意味や何があったのかも分からないので小鳥は優しく尋ねる。

 

「遊馬……話してみて。話せば楽になるよ……?」

 

「……ああ」

 

「あ、そうだ。ご飯作ったから食べながら話して。お腹空いたでしょ?」

 

「サンキュー、小鳥……」

 

遊馬は空いた腹をデュエル飯で満たしながら自分の前世の存在であるアナザーから語られた真実を全て小鳥に話した。

 

小鳥は何度も驚いた表情を見せながら黙って遊馬の話を聞いた。

 

「アナザーは……俺に全てを託して消えちまったんだ……新しいホープとこのカード達を残して……」

 

アナザーが託したカード達は遊馬が目覚めたと同時に現実へと具現化されて遊馬の手の中に現れた。

 

「もう、会えないのよね……」

 

「せめて、アストラルに会わせてやりたかった……」

 

「そうね……私も、アナザーに会ってお礼を言いたかったわ」

 

「お礼?何で?」

 

「だって、アナザーのお陰で遊馬が生まれんだから」

 

「小鳥……?」

 

小鳥の言っている意味が分からず首を傾げる遊馬。

 

小鳥は微笑みを浮かべながらベッドから立ち上がり、窓に向かって歩き出す。

 

「遊馬、私とあなたの付き合いって元は遊馬のおばあちゃんと私のおばあちゃんが昔からの友人同士で同じ年に生まれたから、幼馴染みの関係になったよね」

 

「そうだな……でも、同じハートランドにいるし、小学校でもきっとクラスメートになってたよな」

 

「うん。それでも、小さい頃からなんだかんだでずっと一緒で、中学に上がってからも同じクラスだからこれからも一緒なのかなと思ってたの。だけど……その矢先に遊馬の元にアストラルが現れて、沢山の戦いを見てきたわね……」

 

小鳥は目を閉じて遊馬とアストラルが戦ってきた数々のデュエルを思い出した。

 

始まりのデュエルからほぼ全てのデュエルを一番側で見守り続けて来た。

 

更には異世界の戦いに巻き込まれた遊馬とアストラルを追いかけてカルデアに来た。

 

小鳥は胸に手を当て、自分の心臓の鼓動を感じながら想いを告げる。

 

「私ね、改めて思うの……遊馬と一緒にいて、遊馬と言葉を交わして、遊馬の笑顔を見て、遊馬のデュエルを見て……その度にあなたの事をどんどん好きになっていた」

 

「小鳥……でも、俺が怖くないのか?俺は……?」

 

「怖い要素なんて一つもないわよ。だって、遊馬は遊馬だし」

 

遊馬は自分の前世がアナザーで小鳥に怖がられたりするのではないかと思っていたが、小鳥はバッサリと言った。

 

「遊馬は馬鹿でおっちょこちょいで、無鉄砲で無茶ばっかりする。でも、誰よりも優しくて、強くてカッコ良くて、相棒のアストラルと家族と仲間、そしてデュエルとデュエル飯が大好き。私が大好きな遊馬はそう言う男の子よ」

 

遊馬の良いところも悪いところも全てを受け入れた小鳥は告白の言葉を重ねていく。

 

「小鳥、お前……」

 

小鳥は再び遊馬の隣に座り、小鳥は遊馬の手を包むように握り、額を合わせた。

 

「私は遊馬に出会えて幸せよ。あなたの前世が何だろうと関係ない。私は遊馬が大好き。例え何があろうとも、私はずっと……あなたの側にいるわ」

 

遊馬は一人ではない。

 

少なくとも遊馬には自分を愛してくれる小鳥と言うたった一人の大切な幼馴染がいる。

 

「ありがとう……小鳥……」

 

その事実に遊馬は嬉しさが込み上げて涙が溢れる。

 

「ああもう、また泣いて……遊馬、カードを置いて。もう寝ましょう?」

 

「あ、ああ……」

 

小鳥は遊馬からカードを受け取ってテーブルに置いた。

 

そして、小鳥はニヤリと悪戯っ子のように笑みを浮かべて遊馬に忍び寄ると……。

 

「えいっ!」

 

小鳥は遊馬に抱きついてそのままベッドに押し倒した。

 

「うごっ!?こ、小鳥!?」

 

「遊馬、今日は一緒に寝よ?」

 

「えっ!?い、一緒に寝る!??」

 

「別にやましいことはしないわ。今の遊馬は心が弱っているから、それを癒してあげたいの。今だけは遊馬のお母さんだと思ってくれて良いから一緒に寝ましょう」

 

小鳥は遊馬の頭を自分の胸へと抱き寄せる。

 

まだ小鳥の胸は成長期で少し小さいが確かな柔らかさがあり、遊馬は顔を真っ赤にして慌て出すが、小鳥は遊馬の頭を撫でて落ち着かせる。

 

遊馬の脳裏には幼少期の頃の母との記憶が蘇っていき、不思議と心が安らいで眠気が出てくる。

 

無意識に遊馬も小鳥に抱きつき、瞼が重くなっていく。

 

「本当にありがとうな……小鳥……」

 

「うん。遊馬、おやすみなさい」

 

「おやすみ……」

 

遊馬は小鳥の胸の中で眠りにつき、小鳥も遊馬の頭を撫でながら静かに眠りについた。

 

 

翌朝、遊馬の検査をする為にナイチンゲールが朝一番に部屋に入ったが……。

 

「微笑ましい光景ですが、結婚もしてない男女が添い寝ですか、いけませんね……」

 

恋仲でもない未成年の二人の男女が同じベッドで寝ている事にナイチンゲールはすぐに叩き起こそうと思ったが、遊馬の寝顔を見てその考えを改めた。

 

「マスターの……ユウマの表情がとても晴れやかですね。ミス・コトリのお陰でしょうか。ユウマの心の治療をしたのであれば、今回は見逃してあげましょう」

 

遊馬の心の治療が終えたと判断したナイチンゲールは二人に毛布をかけ直して静かに部屋を出た。

 

 

 




もう一人のアストラル……アナザーは消滅してしまいました。
数千年も彷徨い続けて彼も大変だったと思います。

アナザーから託されたカード達はまだ本編に出ていないカードや、今後OCG化されるであろう遊馬デッキに使えるカードなどを出すための布石です。

後半は小鳥ちゃん無双にしました(笑)
遊馬を立ち上がらせる為にヒロインとしての意地を見せてやりました。


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ナンバーズ129 それぞれの思い

最近スランプ気味で更新が遅れて申し訳ありません。
少しずつ頑張っていきますのでよろしくお願いします。
一応今年中にアメリカ編を終わらせたいと考えています。


遊馬の正体を知り、マシュ達はそれぞれ異なった心境だった。

 

「まさか遊馬がアストラルの半身だったなんて……でも、前世が神に等しい存在なら、アストラルと協力して私の肉体を復活させることも不可能じゃ無いわね」

 

遊馬に命を救われたオルガマリーは特に驚かず、寧ろ納得した様子だった。

 

同じく納得しているのはもう二人いた。

 

「よく考えれば、余もシータもインドの神々の転生した存在だからあまり驚きはなかったな……」

 

「ラーマ様はヴィシュヌ神、私はラクシュミー神……しかし、古代ならともかく現代でそのような転生があるとは驚きです」

 

インド神話出身のラーマとシータはそれぞれヒンドゥー教の神、ヴィシュヌ神とラクシュミー神の転生者である。

 

それなので同じ転生者の遊馬には納得と同時に親近感を抱いた。

 

「まさかあのマスターが精霊の転生者だとはね……」

 

「魔術関連の知識は無いけど、何となくだけど英霊の視点から見ても凄い存在だとは分かるよ」

 

「アストラルの半身か……人間と精霊があそこまで強い信頼関係を結んでいたのは凄いとは思っていたが、遥か昔に別れた二つの存在だとは思いも寄らなかった。只者では無いと思っていたが、ユウマは我らサーヴァントに匹敵する強大な存在なのは確かだな」

 

遊馬のことをまだほとんど知らないロビンフッドとビリーとジェロニモは自分たちが契約したマスターがとんでもない存在であると知らない故に一番驚いていた。

 

「ブラヴァッキー嬢よ、私は魔術に関する事は詳しくは分からないが、あの少年が精霊の転生者と言うことは凄いことなのか?」

 

「凄いなんてものじゃないわよ。古代の神話や物語とかなら神々の転生者はかなりよくある話だけど、信仰や神秘が失われつつある近代だとそう言った転生のケースは非常に稀なのよ。魔術で降臨させて転生させる手もあるにはあるけど、それはかなり難しい話。私の見立てだと、アストラルは精霊と自称しているけどその力は神霊クラス……いいえ、それ以上ね。その化身どころか、半身の魂を宿す遊馬は私の想像以上に強い力を持っているはずよ!」

 

エジソンがエレナに転生者のことについて尋ねると、エレナは興奮しながら長々と説明していく。

 

魔術師として遊馬の存在は非常に興味深い存在なので是非とも調べたいと言う欲求に駆られているのだ。

 

「……ユウマはかなりショックを受けていた。まるで自分が今まで築き上げてきたものが全てが崩れ落ちたように……難しい話だが、早く立ち直ってくれるといいが……」

 

エレナの説明に耳を傾けながらもカルナは遊馬の身を案じていた。

 

「遊馬がアストラルの半身……ま、私には関係ないわね。遊馬は私の可愛くて大切な愛する弟!その真実は変わらないわ!」

 

「武蔵嬢ちゃん、バーサーカーの影響もあって色々と振り切れてやがるな……だが、確かにその意見には同意するぜ。マスターは俺らの弟分でもあるからな。前世が何だろうとその関係は変わんねえな」

 

遊馬の姉分筆頭の武蔵と兄分筆頭のクー・フーリンは遊馬は自分達のマスターで弟分と言うその気持ちは変わらないと断言する。

 

「神に等しい力を持つ精霊の半身か……大いなる魂を持ち、人の身でありながら神殺しをし、奇跡の力を振るうか……ふふふ、面白い。これは鍛え甲斐があるな」

 

スカサハは遊馬の持つ才能に心が躍り、師匠としてとことん鍛えて育て上げる気持ちが更に高まった。

 

それぞれが遊馬への気持ちを口にする中、この場にいない者たちがいた。

 

ナイチンゲールは看護婦として負傷したアメリカ兵の治療を行なっていた。

 

ナイチンゲールは魔術への知識が乏しいので転生者と言われても特にピーンと来なかった。

 

しかし前世が何だろうと遊馬が遊馬であることには変わりないと全く気にしていない。

 

そして、城から少し離れた辛うじて残っているアメリカの領地にある高い丘に乙女達がいた。

 

それはレティシア、清姫、ネロ、エリザベートの四人である。

 

エリザベートは遊馬に対しては深い友情を結んでおり、レティシアと清姫とネロは遊馬に対して強い好意を抱いている。

 

それ故に遊馬の前世がアストラルの半身だと知り、これ以上無いほどの衝撃を受けた。

 

心を落ち着かせるために城を出て夜風に当たりながらそれぞれの心境を口にする。

 

「……よくよく考えれば虚な存在だった私を救えた男なら神に等しい存在でもおかしくは無いわね。遊馬自身も、前に自分が普通の人間じゃ無いって言ってわね……」

 

レティシアは聖杯から生まれた虚な存在だった自分を救うことが出来た遊馬。

 

サーヴァントに匹敵する強大な力を持つ精霊であるアストラルの半身の魂を持つ遊馬なら今まで起こしてきた数々の奇跡にも説明がつく。

 

「不思議なものね……神を憎悪していた私が神に等しい力を持つ人間の子供に助けられたなんてね。でも、だからこそ遊馬という唯一無二の存在を信じれたのかもしれないわ……」

 

ジャンヌの偽物として神を憎悪していたからこそ、遊馬を信じる事ができたのだ。

 

「ユウマがアストラルの半身……ふっ、なるほどな。アストラルがあそこまでユウマを守ろうとする理由もよく分かった」

 

ネロは何故あそこまでアストラルが遊馬を守ろうとするのか……ただの相棒では少し度が過ぎていたが、まるで愛する家族を守ろうとするその雰囲気に合点がいった。

 

「だが、ユウマは余の夫になる男だ!神に等しい魂の持ち主なら、至高のローマ皇帝である余に相応しい!!」

 

ネロは遊馬が自分の夫であると信じて疑わない堂々と宣言する。

 

しかし、この中で唯一心が晴れていない者がいた。

 

「ちょっと、何しんみりした顔をしているのよ。あんたらしく無いわ」

 

エリザベートが声を掛けたのは喧嘩友達(?)でもある清姫だった。

 

清姫は遊馬に対する好意は契約しているサーヴァントの中でもトップクラスだが、清姫は遊馬を生前に惚れていた安珍の生まれ変わりだと信じて疑わなかった。

 

しかし、遊馬の前世がアストラルの半身と知ってからずっと、心ここに有らず状態だった。

 

数時間前、清姫は遊馬が倒れてナイチンゲールに運ばれた直後にアストラルに突っ掛かった。

 

『アストラルさん……何故そんな嘘をつくんですか……?旦那様が……旦那様の前世が貴方の魂の半身……?そんなわけがありません、旦那様は……旦那様は安珍様ですよ……?』

 

『……清姫、君は他人の嘘が分かる。私が嘘ついてないのも分かっているだろう?それに、安珍程度の魂が数々の奇跡を起こし、私とオーバーレイをしてZEXALになれるわけがない』

 

『っ……』

 

清姫はアストラルが嘘をついてないと分かってはいるが、信じたくなかった。

 

今まで安珍の生まれ変わりだと信じていた遊馬がアストラルの半身という、清姫にとっては残酷過ぎる真実に……。

 

それからずっと清姫はこの調子だった。

 

基本的に思い込みが激しく遊馬を想い続けているゴーイングマイウェイな清姫らしくない酷く落ち込んだ姿にエリザベートは頭を掻きながらため息を吐く。

 

「はぁ……あんた、ストーカーの癖に何落ち込んでいるのよ」

 

「うるさいですよ……私の愚かさ加減に飽き飽きしているのですから。安珍様だとずっと信じていた方が別人だったんですから……」

 

「ねえ、あんた……嘘が大嫌いな癖にあんた自身が嘘つきだったのね」

 

エリザベートは嘘が嫌いな清姫を嘘つきだと称した。

 

「っ!?な、何を言うんですか!?」

 

「もうとっくの昔に気付いてたんじゃないの?マスターがあんたの初恋の人の生まれ変わりじゃないって……」

 

エリザベートはフランスの特異点で遊馬と初めて出会い、カルデアで召喚されてからの清姫の行動や言葉を見て聞いてその結論に辿り着いた。

 

遊馬の起こしてきた行動、紡いできた言葉……それは誰もが想像を超えるものばかりであった。

 

誰よりも優しくて強く、敵にすら手を差し伸べる遊馬……そんな慈愛に満ちた勇敢な少年の前世が、清姫から逃げるために嘘をつくような男なのだろうか?

 

エリザベートは最初から遊馬が安珍の生まれ変わりだとは思わなかった。

 

「あんた……マスターのことを、そのアンチンの生まれ変わりだから好きになったんじゃなくて、本当は一人の男性として本当に好きになったんじゃないの?」

 

「そ、そんな事は……!」

 

「……この月明かりと星明かりしかない薄暗い夜空の下でも分かるほど顔が真っ赤よ」

 

「あら本当、図星ね」

 

「まるで茹で上がったタコの様に真っ赤だな」

 

エリザベートがジト目で軽く睨み、レティシアとネロはニヤニヤと笑みを浮かべながら見つめる。

 

「〜〜〜〜っ!!!」

 

清姫は薄暗い夜中でも分かるぐらいに顔を真っ赤にしていてあたふたとしながら大慌てをし、精神が安定せず転身火生三昧の青白い炎が全身からチラチラと溢れ出す。

 

それは清姫の本音を見透かされたのと同義だった。

 

清姫はフランスで初めて出会った当初は遊馬を安珍の生まれ変わりだと本気で信じていた。

 

しかし、遊馬が精霊のアストラルと合体してZEXALとなり、数多の奇跡を起こしてきた。

 

この時点で本当に遊馬が安珍なのか微妙に疑いはじめ、決定的だったのはローマの出来事だった。

 

清姫のフェイトナンバーズを初めて召喚された時……清姫のもう一つの姿である大蛇。

 

清姫の下半身が大蛇となり、清姫は遊馬に醜いかと尋ねたが……。

 

『あの、旦那様……醜いですか?私の姿……』

 

『いいや、ちょっと驚いたけど……なーんだ、綺麗じゃないか』

 

『き、綺麗!?』

 

『いやー、もっと怖いものを想像してたけど、なんか神秘的で綺麗だと思うぜ』

 

遊馬は不安そうな清姫に対して首を振って笑顔を見せながら下半身が大蛇の姿をした清姫を綺麗だと嘘偽りなく答えた。

 

もしも遊馬が本当に安珍の生まれ変わりなら、自分を焼き殺した時に近い姿である大蛇を何の怖がりもせずに綺麗だと言うわけがない。

 

それからだった……清姫は遊馬を安珍だと表面上では信じていたが、その裏では遊馬が安珍では無いと少しずつ思うようになっていったのは。

 

しかし、清姫は複雑な心で今まで遊馬と向き合っていた。

 

遊馬を安珍だと信じたい気持ちと安珍では無いと疑う気持ち。

 

それと同時に安珍の生まれ変わりではなく、他の誰でも無い九十九遊馬という一人の少年を心の底から惚れてしまったと言う真実を認めて良いのか。

 

はたまた、その想いを否定するべきなのかどうかと言う、かなり面倒な心境になってしまった。

 

「私は……旦那様を……安珍様ではない遊馬様を本当に好きに、愛しても良いのでしょうか……?」

 

「あんた、本当に面倒ね……そんな事は知らないわよ。あんたらしく自分の心に正直にそのまま欲望に身を任せて行けば良いんじゃないの?」

 

生前からの性格に加えてバーサーカーの狂化でその複雑な心境に苦しんでいる清姫にエリザベートは大きなため息をついて呆れながら言葉にした。

 

「じゃあ私は先に城に戻ってるわね」

 

ここから先は清姫自身が答えを見つけるしか無いと判断し、エリザベートは城へと戻る。

 

レティシアとネロも同意してその場から離れ、清姫だけが残った。

 

「自分の心に正直に……欲望に身を任せて……」

 

清姫はエリザベートの言葉を口にしながら夜空を見上げた。

 

エリザベートのその言葉はいつもの調子の清姫に戻って欲しくて励ましのつもりで言ったものだ。

 

しかし、後にこれがとある無人島の特異点で清姫の大暴走を引き起こすことになるとは……今のエリザベートは想像や予想すらしなかったのだった……。

 

 

 

一方……遊馬と一番強い絆で結ばれたサーヴァント、マシュはと言うと用意された部屋のベッドで寝転がりながらフォウを抱きしめてモフモフしていた。

 

マシュの気持ちを知ってか、フォウは大人しくモフモフされていた。

 

「フォウさん、遊馬君の正体を聞いて驚きましたか?」

 

「フォウフォー」

 

「そうですよね、私も驚きました。まさかアストラルさんの生き別れた半身だとは予想外でした……ですが、私はずっと前から薄々気付いていたんです」

 

「フォー?」

 

「カルデアで初めて会った時から何となく感じていたんです。遊馬君は普通の人でも、魔術師でも、サーヴァントでも無い……他人とは何かが違うと感じていたんです」

 

「フォフォフォー!」

 

「フォウさんもそう思っていました?奇遇ですね……遊馬君は私たちの想像を超える奇跡で多くの困難を乗り越えてきました。その力の源……遊馬君の原点を知りました……」

 

マシュはフォウを強く抱きしめて頬を摺り寄せて更に密着させる。

 

「フォウさん……今はまだ話せませんが、時が来たら私の秘密を全て話そうと思います。遊馬君だけじゃなくて、アストラルさんと小鳥さん。それからカルデアのサーヴァントの皆さんにも……」

 

それはマシュの出生に関わるカルデアでかつて行われたとある計画の内容。

 

もしもその計画を知れば遊馬とアストラルは抑え切れないほどの怒りを爆発させるだろう。

 

更にはマシュと仲の良いサーヴァント達……特にブーディカなどが怒りを露わにするかも知れない。

 

その計画の実行者である男は既にこの世にはいないが、それでもカルデアが一時大荒れする事は間違い無いだろう。

 

「私たちが旅をする特異点も既に半分を切りました……これから戦いが更に激しくなります。だからこそ、話すべきだと思います。皆さんに話すのは少し怖いですが、私自身が大きな一歩を踏み出す時が来たのかもしれません」

 

「フォフォー……」

 

「心配してくれるのですか?ありがとうございます。ところで……フォウさんも不思議な存在ですよね。いつの間にかカルデアにいましたし……何の動物か不明ですし……」

 

「フォウ?」

 

フォウは極寒の雪山にあるカルデアにいつの間にか住み着いており、マシュと出会った。

 

フォウはマシュ以外の人間には誰も懐かず、マシュがお世話掛りとなった。

 

遊馬がカルデアに訪れてからはフォウは遊馬にも懐くようになり、それから特異点の戦いには共に向かう様になった。

 

マシュにとってフォウは無くてはならない大切な存在となっていた。

 

しかし、フォウには謎が多く、一体どこから来たのか、一体どんな生き物なのか……マシュは気になっていたが、調べる事は出来ないし、人語を喋れない動物なのでフォウ本人に聞くことも出来ない。

 

「フォウさん……いつか、あなたのことを知る時が来るでしょうか……」

 

「フォーウ……」

 

フォウは少し不安そうな表情を浮かべていた。

 

まるで自分の正体を知られて欲しくないような……そんな様子だった。

 

そんなフォウの不安な様子に気付いたマシュは励ます様に言葉をかける。

 

「フォウさん、たとえあなたの正体が何であろうとも私にとってフォウさんは大切な存在です」

 

「フォウ……」

 

「ふわぁっ……眠たくなって来ました。そろそろ寝ましょう、フォウさん。お休みなさい……」

 

「フォウフォー」

 

マシュは欠伸をしてそろそろ寝ようと毛布を自分とフォウにかけて眠りについた。

 

すぐに眠りについたマシュだが、フォウは起きていた。

 

「フォフォウ……」

 

フォウは眠っているマシュを見つめると、そのままマシュの頬にキスをした。

 

それはフォウがマシュに対する愛情表現でもあり、フォウ自身もマシュと一緒にいたいと思っていた。

 

しかし、フォウには遊馬の前世と違って、知って欲しく無い恐るべき正体がある。

 

いつか自分の正体がバレてしまうその時が来るのだろうか……フォウは不安になりながら目を閉じて眠りについた。

 

 

 

翌朝、玉座の間にマシュ達が集まるとそこに待ち焦がれていた少年が入って来た。

 

「みんな、おはよう!!!」

 

遊馬は大声で挨拶をして玉座の間に堂々と入り、その後を小鳥が続けて入る。

 

吹っ切れて元気そうな様子なのでマシュ達は驚き、遊馬が真っ直ぐ向かったのはアストラルの元。

 

アストラルは不安そうな表情を浮かべていた。

 

「遊馬……」

 

「アストラル、お前が俺の正体に気付いたのはいつからだ?」

 

遊馬はアストラルが自分の正体にいつから気付いていたのか、それだけはどうしても聞きたかった。

 

「……私と君の最初で最後のデュエルだ。君が私の想いに応えてシャイニング・ドローをした時に気付いた。前々から薄々気付いていたが確信を得たのはあの時だった」

 

「そっか……シャイニング・ドローは最初、アストラルが力を貸してくれていたものだと思っていたけど、そうじゃなかったんだな。エリファスもシャイニング・ドローはアストラル世界の力って言ってたからな……」

 

アストラルの答えに納得した遊馬はデッキケースからカードを取り出して左手に持ち、両手をそのまま前に出す。

 

「アストラル……アナザー、もう一人のお前から託されたものがある」

 

「託されたもの……?」

 

遊馬は右手を軽く握ってから開くと、そこから現れたのはアストラルだけでなくマシュ達も驚くものだった。

 

「ヌメロン・コード……!?」

 

「カードの一番上を捲って見てくれ」

 

アストラルはカードの束の一番上のカードを手に取り、そこに描かれたカードに更に驚いて目が飛び出るほどに見開く。

 

「何だこのホープは……!?私も知らない未知なるホープだと……!?」

 

アストラルはたった1枚残された自分の記憶の欠片であり、遊馬との始まりのモンスターエクシーズである希望皇ホープの見たことないカードに驚いて手が震えていた。

 

「これが何なのかを踏まえて今から説明する」

 

遊馬はアストラルだけでなく、マシュ達にも説明した。

 

昨夜に起きた遊馬とアナザー最初で最後の対話……そして、別れ。

 

遊馬とアナザーの関係、アナザーの真意と遥かなる旅路、託された大いなる力。

 

話を聞くにつれて、アストラルは自分の半身の抱いた覚悟と遊馬が背負っていた運命に心が揺れ動かされて涙を流していた。

 

「アナザー……遊馬、すまない。君を巻き込んでしまって……」

 

「おいおい、何馬鹿なことを言ってるんだよお前は。確かに戦いに巻き込まれて迷惑だなと思ったことは何度かあるけど、俺はお前と出会えて本当に幸せなんだ。お前がいたからこそ、俺は新しい一歩をかっとぶ事が出来たんだ……だから、もうそんなことを言うんじゃねえぞ?」

 

確かに遊馬はアナザーの都合で戦いに巻き込まれたが、遊馬はアストラルと出会ったからこそ数え切れないほどの大切な仲間と経験を重ねることが出来た。

 

「ああ……分かった」

 

アストラルは腕でゴシゴシと擦って涙を拭った。

 

「アストラル、お前は俺の半身……って事は、ある意味俺とお前は双子の兄弟みたいなもんだよな?」

 

遊馬はニッと笑みを浮かべると、アストラルは少し困惑しながら答える。

 

「双子の兄弟か……確かにそうとも言えるな……」

 

双子は古来より相対や相克的な意味など深い繋がりがあると考えられており、二つに分かれたアストラルの魂を前世に持つ遊馬もある意味では二人は双子の兄弟と称してもおかしくはない。

 

「俺さ、お前とはただの相棒じゃなくて、双子の兄弟みたいな関係だと分かって嬉しかったんだ。何て言うか、もっと強い繋がりで結ばれている……もう一人の家族みたいな感じでさ」

 

「遊馬……」

 

人間界でアストラルと過ごすようになってから食事は出来なかったが、それ以外の時間はほぼ一緒に過ごしていた。

 

両親が行方不明で寂しかった遊馬にとってアストラルは相棒だけでなく家族と一緒にいるような気持ちになっていた。

 

しかし、自分の前世を知り、遊馬はアストラルと双子の兄弟のように思うようになり、拳を作ってアストラルに向ける。

 

「俺とお前は大切な相棒であると同時に兄弟だと思っている。俺達の関係がわかったからには、俺とお前の繋がった絆は今までも、そしてこれからも永遠に不滅だ。だから、改めてよろしくな……アストラル!」

 

遊馬のアストラルへの強い想い……相棒であると同時に兄弟であると宣言し、アストラルは無言で拳を前に出す。

 

そして、二人は拳をぶつけてガッシリと熱い握手を交わす。

 

「こちらこそ、よろしく頼む……遊馬!」

 

遊馬とアストラル……前世から強くて深い絆で結ばれた二人は改めて相棒として、そして兄弟としてこれからも共に歩むと誓った。

 

二人の誓いにマシュが近づいて盾を見せながら語りかける。

 

「遊馬君、あなたがこれまで私たちに見せてくれた信念、強さ、言葉、想い、奇跡……それらが私達を救ってくれました」

 

「マシュ……」

 

「あなたの前世の話を聞いてとても驚いていました。しかし、それでも私たちの遊馬君への想いと信頼に何の変化もありません!」

 

マシュはみんなを代表して遊馬への想いを告げていく。

 

遊馬の前世がアストラルだと言うことには確かに驚いたが、遊馬はカルデアに来てからマシュ達とサーヴァント達の為に己を犠牲にしてでも戦い、そして人類の未来を守るため、取り戻す為に全力で戦い続けてきた。

 

「私たちはこれからも遊馬君と一緒に旅を続けたいです」

 

「俺もだ。まだまだ俺達の戦い、旅は終わってねえからな!」

 

「改めて、よろしくお願いします。遊馬君!」

 

「ああ、よろしくな!マシュ!」

 

遊馬とマシュは握手を交わすと、フォウがマシュの体をよじ登って肩に乗る。

 

「フォウフォーウ!」

 

フォウが自分もいるよと遊馬に主張する。

 

「もちろん、フォウもな!」

 

「フォーウ!」

 

遊馬は自分の人差し指を出し、フォウの小さな手とハイタッチをする。

 

遊馬が無事に吹っ切れて立ち上がることができ、ホッとする一同。

 

マスターである遊馬が復活したので早速ケルトとの最終決戦に向けた会議を行おうとしたその時だった。

 

アメリカ兵の一人が玉座の間に急いで入って来た。

 

「大統王!我がアメリカ領にサーヴァントが現れました!」

 

「何!?ケルトのサーヴァントか!?」

 

「い、いいえ!ケルトのサーヴァントではありません。我々に危害は加えてませんが、こう申しておりました。『二つ槍を持つ女のサーヴァントよ、立ち合いを所望する』と……」

 

「二つ槍の女サーヴァント……それって、スカサハ師匠の事か?」

 

全員の視線がその特徴に一致するスカサハに向けられる。

 

そのサーヴァントの言うことが本当ならばスカサハと戦いたいと言う内容だった。

 

「この私と戦いたいか……下手に断ると何をするか分からんからな。ユウマよ、とりあえず出迎えた方が良いと思うが?」

 

「そうだな……俺たちも行こう!」

 

スカサハとの立ち合いを望む謎のサーヴァントに会うため、遊馬達は何かの罠の可能性も考えられるので警戒しながら向かった。

 

 

 




次回はあの中国サーヴァントの登場です。
それと、前から考えていたマシュの強化イベントを書きたいと思います。

清姫ちゃんですが……察しの通り、バーサーカーではなくあのクラスになると色々と暴走しますのでそのフラグです(笑)


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ナンバーズ130 覚醒、希望の守護者!!!

今回はマシュの強化イベント回です。
これでマシュがかなり強くなります。

アニメのバビロニア編、個人的に色々面白いです。
それを小説で書ける日……いつになるだろうなと思いながら頑張ります。

今年のハロウィンイベントですが……まさかの予想外の展開に驚愕しました。
FGOって本当にシリアスとギャグの差がとんでもないので唖然としますね。
宇宙か……銀河眼一族とかを乱入させて大暴れしたい気分になりました(笑)


遊馬達はアメリカ領に現れた謎のサーヴァントに会いに向かった。

 

城の外の荒野の大地に茜色の中華の武術家の服装をして槍を持つ赤毛の男サーヴァントだった。

 

「あの服装……カンフー映画とかで見たことあるな。中国人か?」

 

「あの独特な服装は中国特有だから確かだろうな」

 

遊馬とアストラルはその男サーヴァントが中国系出身だとすぐにわかった。

 

男サーヴァントは遊馬と共にいるスカサハを見ると立ち上がって威風堂々と名乗り出た。

 

「ランサー、李書文!よくぞ現れてくれたな、二つ槍のサーヴァントよ!」

 

「李書文……槍と中国拳法において最強と呼ばれた男だ」

 

李書文。

 

李氏八極拳の創始者で、「二の打ち要らず」「神槍」などの二つ名で恐れられた中国拳法の屈指の使い手。

 

「貴様を見た時から我が心中は嵐の如し。もはや倒さねば収まらん。いざ、立ち合いを所望する!」

 

「──ほう、私とか?」

 

スカサハは真正面から立ち合いを求められて興味が出てきた。

 

どうやら李書文は何処かでスカサハを見かけて立ち合いを求めようとしたが、それよりも早くスカサハが遊馬達と出会ってかっとび遊馬号で一気に移動したりしたのですぐには会えなかったようだ。

 

「無論。儂が召喚された理由は知っている。しかし、自分はやはり──どうしょうもなく、我欲に満ちた存在でな。己の槍が神に通じるかどうか、試したくてたまらんのだ」

 

「飢虎、あるいは餓狼というやつか……」

 

ラーマは武人として強者であるスカサハとの戦いを求める李書文をそう表現した。

 

「まあ気持ちはわからんでもないけどな……」

 

遊馬は根っからの武人ではないが、デュエリストとして自分より強いデュエリストと戦いたい気持ちもあるので李書文の気持ちも理解出来なくもない。

 

「……なんといじりがいのあるオモ……コホン。鍛えがいのある逸材よ」

 

「おい師匠、今なんて言いそうになった?」

 

「気にするな、クー・フーリン。さて、李書文よ。ここが影の国であれば真っ先に稽古をつけるところだが、あいにく私はユウマ専属になった。故に順番というものがある」

 

スカサハはマシュのそばに行くと軽く背中を叩いて前に出す。

 

「マシュと戦い、勝利してみろ。であればこのスカサハが直々に相手しよう。だが敗北したなら、疾く立ち去るがいい」

 

「えっ!?」

 

「……なるほど、道理ではある。ではマシュとやら、立ち会い願おう」

 

「……どうする、マシュ?」

 

遊馬はD・パッドとD・ゲイザーをいつでも展開できるように持ち、マシュに尋ねる。

 

「……私、やります」

 

マシュはすぐに覚悟を決め、遊馬も頷いて戦闘準備をする。

 

「よっし、行くぜ……マシュ!」

 

遊馬はD・ゲイザーとD・パッドを上に投げて展開しようと思ったその時だった。

 

「待て、ユウマ」

 

スカサハが槍を遊馬の前に出し、動きを止めさせた。

 

「な、何するんだよ、師匠!?」

 

「この戦いはマシュ一人でやらせる。マスターとはいえ、ユウマの手出しは禁止だ。当然他の者もだ」

 

「待てよ、師匠。流石にマシュの嬢ちゃんじゃ荷が重すぎるだろ。ここはあんたの弟子である俺にやらせろよ」

 

クー・フーリンは自分が戦うと反論するが、スカサハの意思は変わらなかった。

 

「ダメだ、この戦いはマシュだけにやらせる」

 

誰が見てもマシュが李書文に勝てるとは思えなかった。

 

遠目からでも分かる武人としての強者のオーラ。

 

ケルト最強クラスの戦士、スカサハに立ち合いを求めるだけの事はある。

 

マシュは目を閉じて大きく深呼吸をして静かに開くと、覚悟を決めたように強い意志を秘めた目をする。

 

「……分かりました。私、やります」

 

盾を握り直し、ゆっくりと李書文に向かって歩き出す。

 

「ま、待ちなさい、マシュ!あなたじゃ勝ち目がないわ!」

 

オルガマリーが慌てて止めるが、マシュは歩みを止めない。

 

「確かに勝てないかもしれません。ですが、クー・フーリンさんや多くのケルト戦士を育てたスカサハさんが何の考えもなくそんなことを言うわけがありません」

 

マシュはスカサハに試されている、もしくは別の意図があって李書文と戦わせると考える。

 

それからもう一つ、マシュはある目的があった。

 

(私自身が今よりもっと強くなるために……ランクアップするために!)

 

それはマシュ自身が強くなるためで、遊馬とアストラルの言葉を借りるならランクアップを果たすためである。

 

マシュはデミ・サーヴァント故に他のサーヴァントと比べると宝具やスキルを満足に扱う事はできない。

 

しかし、第四特異点のロンドンでマシュの心の成長に新たなフェイトナンバーズが誕生し、新たなランクアップの兆しが見えた。

 

遊馬とアストラルは自分たちも強くなると言ったが、二人は既に強い力を有している。

 

特に遊馬の前世の話を聞いて一刻も早く強くならなければと思っていた。

 

マシュは覚悟を決めて盾を構えて堂々と名乗る。

 

「カルデア連合軍所属。デミ・サーヴァント、シールダー。マシュ・キリエライト、行きます!」

 

マシュの覚悟の名乗りに応える為に、李書文も槍を構えて堂々と名乗る。

 

「サーヴァント、ランサー。李書文。いざ尋常に……勝負!!」

 

マシュと李書文は同時に地を蹴って戦闘を開始した。

 

今までは遊馬や他のサーヴァント達と共に戦っていたので、これはマシュにとって初めての一対一の戦いだった。

 

マシュは今までの戦いや訓練を思い出しながら全力で李書文に挑む。

 

盾を振るい、拳と蹴りの体術で果敢に攻めるが……。

 

「未熟!脇が甘い、踏み込みが足らん!!」

 

「くうっ!?」

 

中国拳法最高峰の英霊である李書文はマシュの未熟な点を指摘し、嵐のような激しい攻撃を繰り出す。

 

マシュは体が傷つきながらも必死に戦うが、李書文の武人としての技量が圧倒的な実力差を生んでいた。

 

「諦めろ、マシュよ。お主では儂には勝てん」

 

「諦めません……私は、諦める事は決してしません!」

 

マシュは何度も立ち上がって李書文に挑むが……その度に体にダメージを負っていく。

 

諦めずに何度も立ち上がるマシュだが、既に勝負はついているのと同じだった。

 

「勇気ある乙女よ、ここで終わりにさせてもらう!」

 

李書文は魔力を解放して宝具を発動する。

 

既に勝負はついているが最後まで諦めずに戦うマシュに敬意を評して宝具を使うことにしたのだ。

 

「マシュ!!」

 

遊馬はデュエルディスクとD・ゲイザーを装着してすぐにマシュを助けようとしたが、既に遅かった。

 

「我が槍は是正に一撃必倒。神槍と謳われたこの槍に一切の矛盾なし! 『神槍无二打(しんそうにのうちいらず)』!!」

 

李書文の放った神速とも言うべき速度を出す槍がマシュの心臓に目掛けて放たれ、槍の穂の先から衝撃波が放たれる。

 

達人の腕前で槍の穂自体でマシュの体に大きな傷は付いてないが、衝撃波が凄まじくそのまま後ろに吹き飛ばされて地面に倒れる。

 

その際に盾がマシュの手から離れて地面に落ちる。

 

ピクリとも動かないマシュに遊馬達は顔を真っ青にしてすぐに走り出した。

 

「マシュ!!!」

 

「すぐに緊急治療を行います!一刻を争います!!」

 

「フォー!!」

 

ナイチンゲールはすぐにマシュの治療を開始する為にまずは宝具を使用して体力の回復をさせようと考えた。

 

一方、クー・フーリンはこんな結果になった原因となったスカサハに対して胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。

 

「おい師匠!!あんた何を考えてやがるんだ!?マシュの嬢ちゃんは生身の人間だぞ!死んじまうだろうが!!」

 

クー・フーリンは何度もマシュの危険な時に助けに行こうとしたがそれをスカサハが止めていた。

 

マシュはデミ・サーヴァントであり、生身の人間でもある。

 

サーヴァントのように倒れれば消滅するわけではなく、当然死を迎えることとなる。

 

しかしスカサハは特に焦った様子も見せずにマシュの方を見つめる。

 

「……まだマシュは死んでない。それにあれを見ろ」

 

「何だと……!?」

 

クー・フーリンが急いで振り向くとそこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲボッ、ゲホッ……はぁ、くっ……まだ、やれます……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に瀕死の状態でありながら呼吸を整え、フラフラになりながら起き上がり、強い意志の秘めた瞳で睨みつけるマシュの姿だった。

 

「馬鹿な……!?手加減をしたとはいえ、あれを受けて動けるはずが……!!」

 

李書文もマシュを殺すつもりはなかったので手加減をして宝具を放った。

 

しかし、神槍と謳われた槍の一撃をまともに受けながらもそこから立ち上がった事に驚きを隠せなかった。

 

「マシュ……!」

 

「いけません、ミス・マシュ!すぐに私の治療を受けなさい!」

 

「フォウフォー!!」

 

遊馬達はマシュを止めようとしたが、マシュは首を左右に振る。

 

「私は……こんなところで、倒れるわけには行きません……!」

 

地面に落ちた盾を拾い、両手で持ち上げる。

 

マシュは何のために立ち上がり、戦うのか……それを言葉にする。

 

「遊馬君……フォウさん……アストラルさん……ドクター……ダ・ヴィンチちゃん……オルガマリー所長……小鳥さん……カルデアの皆さん……サーヴァントの皆さん……私の大切な人達を守る為に、私は何度でも、立ち上がります!!」

 

十字の盾を見つめ、自分の中にいる力を貸してくれている英霊にも届くように想いを込めて声を張り上げて叫ぶ。

 

「この盾に……私に力を貸してくれた英霊さんに、誓ったんです。大切な人達を守る……遊馬君達と一緒に、人類と世界の未来を必ず取り戻すと!!私はマシュ・キリエライト!遊馬君のもう一人の相棒で最高のサーヴァント!そして、人類と世界を守護するシールダーです!!私は絶対に諦めない、何度でも立ち上がります!!マシュビングです、私!!!」

 

盾を高く掲げ、これまでに培ってきた想いの全てを解き放ち、決意の宣言をするマシュ。

 

その宣言に誰もが驚いていると、遊馬のデッキケースから眩い虹色の光が放たれる。

 

デッキケースが開くと2枚のカードが飛び出してそれぞれ遊馬とマシュの前に止まる。

 

「これって、マシュのランクアップしたカード……」

 

遊馬の前に止まったのはロンドンで誕生したマシュのもう一枚のフェイトナンバーズ。

 

そして、マシュの前に止まったのは何も描かれていない白紙のカードだった。

 

「このカードは……もしかして、遊馬君の前世、アナザーさんの……」

 

それは遊馬の前世、アナザーが残した未知なる可能性を秘めた白紙のカードだった。

 

何故突然自分の前に現れたのか分からず、マシュは無意識のうちに手を伸ばしてカードに触れた。

 

指先にカードが触れた瞬間……カードから虹色の輝きを放つとマシュの胸元に飛び込み、そのままマシュの体の中に入り込んだ。

 

「えっ……?」

 

予想外の事態に何の対処も出来ずに呆然とすると、突然目の前の風景が一変し、何も無い真っ白な世界となってしまった。

 

『遊馬と共に歩む心優しき守護者よ……』

 

周りを見ても誰もおらず、マシュの心に直接語りかけるように聞こえていた。

 

アストラルに近い声音にマシュは誰なのかすぐに察した。

 

「この声……まさか、アナザーさん……ですか……?でもあなたは……」

 

『これは私の残したカードの中に宿った残留意識のようなものだ……』

 

「残留意識ですか……?」

 

『さて、本題に入ろう。君の魂と肉体は既にランクアップの域に達している。私が枷を外してあげよう』

 

「枷……?」

 

枷とは何のことだろうと疑問に思うマシュにアナザーは静かに話す。

 

『君の記憶を少し見させてもらった。長い間、人間の歴史を見てきたが……吐き気がするほどの人間の愚かな考えを見てしまった。勝手な真似をしてすまない……』

 

「い、いえ……」

 

アナザーに遊馬達にすら話していない自分の過去を知られたが、アナザーの態度から自分で話すことはないだろうとマシュは判断する。

 

『君の肉体に刻まれた愚かな人間達によって刻まれていたもの……魔術と言うものか。それが君のランクアップを阻害していた』

 

「そうだったんですか……?」

 

どうやらマシュがランクアップする為にはこの世界の魔術が合わないとアナザーは指摘した。

 

『君と遊馬が契約を結び、強い絆で繋がった事で君の魂と肉体は大きな変化を齎らしたが、その肉体に刻まれている魔術がランクアップを阻害していた。今から私の力で無用な物を全て破壊し、君の肉体を再構築して新しい君へと生まれ変わるのだ』

 

アナザーはマシュをランクアップさせるため、不要な要素を全て排除する為にマシュの周囲に無数の数式や魔法陣を展開させる。

 

「新しい私、ですか……?」

 

ランクアップを望んでいたとはいえ、新しく生まれ変わると言われて不安になるマシュをアナザーは優しく語りかける。

 

『心配しなくても良い。君と君に力を貸している英霊には悪影響を与えない。ランクアップすることで、君は少なくとも……人並みに長生きをする事ができる』

 

「……やっぱりそこまで知られたんですね。でも、本当に私は……」

 

『長年、ヌメロン・コードと一体化していた私の力なら問題ない。だけど、一つだけ頼みがある』

 

「頼み、ですか?」

 

『遊馬とアストラルの事を頼む……もう一人の相棒と認めている君だけにしか出来ない事だ』

 

自分の代わりに遊馬とアストラルを守って欲しい……それがアナザーからマシュへの願いだった。

 

マシュはその願いに一瞬だけ驚いて目を見開いたが、元々マシュは人理を救う戦いの旅を始めた当初からそのつもりだったのですぐに頷いて了承する。

 

「任せてください。必ず……遊馬君とアストラルさんをお守りします!」

 

『頼んだよ、マシュ……さあ、そろそろ始めようか』

 

「はい……!」

 

マシュは目を閉じると無数の数式と魔法陣が動き出し、マシュの体に入り込む。

 

そして、マシュがランクアップする為の肉体の最適化、及び再構築を同時に行う。

 

人間として、デミ・サーヴァントとして、フェイトナンバーズとして、ランクアップを果たす。

 

マシュを包む光が静かに消え、たった数十秒の僅かな時間だが、まるで別人で何年も会ってないような不思議な雰囲気を出していた。

 

「マシュ……?」

 

いつもと雰囲気の違うマシュに遊馬は唖然としながら言葉をかける。

 

すると、眼を閉じていたマシュの両眼が静かに開くと、髪の色と同じアメジストのような美しい紫色の瞳が遊馬や希望皇ホープ達と同じ真紅色に輝いた。

 

そして、右手の甲に刻まれたナンバーズの『00』の刻印から翡翠の閃光が光り輝き、マシュは進化への言葉を紡ぐ。

 

「未来を司る力よ、数多の希望の光を集わせ、我の運命を斬り開け!!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!!」

 

マシュの足元に金色に輝く巨大な魔法陣が現れると遊馬のデッキケースとアストラルの胸元から複数枚のカードが飛び出した。

 

「今度は何だ!?」

 

「私のカードまで……飛び出したカードは全て……まさか!?」

 

マシュの周りにカードが集まり、そこからモンスターの幻影が現れる。

 

現れたのは遊馬とアストラルの希望と未来を司るモンスター……希望皇ホープとその進化系モンスター達、そして未来皇ホープだった。

 

ホープ達はそれぞれ小さな光の玉になり、マシュの周りを軽やかに舞う。

 

ホープのカード達が全て遊馬とアストラルの元に戻ると、光の玉が全てマシュの体に入り込み、マシュの体が光り輝く。

 

「ホープ達の力がマシュの中に……!?」

 

「一体何が起きているんだ……!?」

 

ホープの使い手である遊馬とアストラルでさえも予測不能な事態に困惑する中、遊馬が持つマシュのフェイトナンバーズが共鳴するように光を放つ。

 

すると、光り輝くマシュに大きな変化が起きる。

 

十六歳のマシュの体が一回り成長し、ボブぐらいの髪が一気に伸びて綺麗なロングヘアとなった。

 

胸の膨らみなど女性の特徴的な体が更に成長し、幼さの残る顔立ちが凛々しくなる。

 

体だけでなく、マシュの体を覆う鎧も変化し、黒の軽装の鎧がより豪華になっていき、その上から希望皇ホープと未来皇ホープのプロテクターが合わさったような鎧が両腕と両脚、背中には未来皇ホープの四枚の機械の翼が装着された。

 

そして……イラストだけで真名と効果が判明していなかったが、マシュの覚悟とアナザーのカードの力によりその全てが刻まれてフェイトナンバーズが完成した。

 

「や、やった……!マシュの新しいフェイトナンバーズが完成した!」

 

念願のマシュの新たなフェイトナンバーズが完成し、喜びから手が思わず震えてしまう遊馬。

 

「これは……!?素晴らしい、まさに遊馬と私に相応しい力を持つフェイトナンバーズだ……!」

 

アストラルはマシュの新しいフェイトナンバーズの効果を瞬時に一読し、その素晴らしい効果に舌を巻いた。

 

マシュは盾を右手で軽々と持ち上げ、両腰に未来皇ホープの二振りのホープ剣が出現する。

 

左手で右腰のホープ剣の柄を握って引き抜き、ホープ剣の切っ先を李書文に向ける。

 

「我が名は……マシュ・ホープライト!!!人理の未来を守る、希望の守護者!!!」

 

マシュのランクアップしたフェイトナンバーズの真名は『FNo.0 希望の守護者 マシュ・ホープライト』。

 

遊馬とアストラルとマシュ……三人の力と想いが一つに合わさったランクアップした最高の力である。

 

「良いだろう……もう一度相手をしてやろう」

 

突如その姿が大きく変化したマシュに驚きながらも李書文はその未知なる力に興味が出てきた。

 

「……行きます!」

 

マシュは地を蹴り、李書文は身構えた。

 

しかし、僅か一瞬の後に李書文の眼にはマシュの姿が映らなかった。

 

次の瞬間、李書文の腹部に強烈な痛みが走ると同時に宙へ投げ飛ばされる。

 

「ゴフッ……!?何が、起きた……!?」

 

軽く吐血し、何が起きたのか分からずにいると、李書文の目に映ったのは……。

 

「ロード・カルデアス・ストライク」

 

今さっき自分のいた場所のすぐ前に、盾を鋭く突き出したマシュの姿だった。

 

何が起きたのか李書文はようやく理解出来た。

 

マシュはあれほど大きな盾を持ちながら李書文が気付けないほどのスピードで間合いに入り、盾を鋭く前に突き出して李書文の腹部を突いたのだ。

 

(馬鹿な……この儂が反応できないほどの速さ……先程とはまるで別人のように動きが違う、あの短時間で何が……!?)

 

最初の戦いとはまるで違う別人のような戦いに驚きを隠せずにいた。

 

「一気に……決めます」

 

マシュの真紅色の瞳が妖しく輝き、李書文は槍を構え直す。

 

李書文は神速の速さの槍を振るい、マシュは盾とホープ剣を奮って槍の攻撃を捌いていく。

 

重い十字の盾と直剣と言うアンバランスな組み合わせだが、マシュはそれを見事に使いこなしていた。

 

槍を振るい、マシュの盾とホープ剣に触れる度に李書文はある力の波動を感じていた。

 

「そう言うことか……」

 

それはマシュの中にある大いなる力。

 

十字の盾を持つ騎士、そして……先程の幻影として現れた未来皇ホープと希望皇ホープ達。

 

今のマシュはそれらの騎士と戦士、その全ての力が宿っている。

 

マシュは李書文から距離を取ると、左手に持ったホープ剣を上に放り投げ、更に右腰のホープ剣を引き抜いて同じように放り投げた。

 

盾を空に向かって掲げると、二振りのホープ剣と盾が共鳴して金色の光を放つ。

 

二振りのホープ剣は並列に並んで盾の上部に置かれたように浮くと、金色の光が徐々に強くなっていく。

 

そして、金色の光に包まれたホープ剣と盾は巨大な光の剣となる。

 

それはアルトリアの約束された勝利の剣と同等の美しい極光だった。

 

マシュは光の剣を振り下ろし、金色の極光を放つ。

 

「ロード・カルデアス・スラッシュ!!!」

 

振り下ろした剣から極光が解き放たれ、光の濁流が李書文に襲いかかる。

 

「心強き乙女と思っていたが、違っていたか……どうやら儂はとんでもない獅子を目覚めさせてしまったようだな」

 

李書文は避ける間もなくその場に膝をついた。

 

腹部からジワジワと血が流れており、実はマシュに盾で腹部を強打されたのが既に致命傷となっており、いつ倒れてもおかしくはなかったのだ。

 

まるで龍の逆鱗に触れたように、眠れる獅子を目覚めさせてしまったようにマシュの凄まじい力によって李書文は目を閉じ、その極光を受け入れた。

 

極光の光は李書文を呑み込み、誰もが消滅したと思ったが……。

 

「……何?」

 

放たれた極光はすぐに消え、李書文は消滅する事は無かった。

 

とは言え、極光のダメージもそれなりに体に与えており、李書文のランサークラスを象徴する槍は砕かれて使えなくなってしまった。

 

「……娘よ、何のつもりだ?」

 

倒されるつもりだった李書文だったが、突然攻撃を弱めたことに不可解で睨み付けながら尋ねた。

 

「……私達の戦うべき敵はケルトです。あなたはただ、強敵と……スカサハさんとの戦いを望んでいるだけです」

 

マシュが本当に戦うべき相手はケルトで李書文ではない。

 

「何故止めを刺さなかった……?」

 

「それにもう勝負はつきました。槍は壊れてしまいましたが、あなたは八極拳という体術の優れた使い手でしたよね?それならまだ戦えるはずです。傷は浅くはありませんから、すぐにナイチンゲールさんから治療を受けて下さい。私達の仲間になるかはどうか、あなた次第ですが……もしも私の願いを聞いてくれるなら、どうかその力でケルトと戦ってください」

 

李書文もマシュを殺すつもりはなかったので、マシュも李書文を倒さなかった。

 

仲間にならないかもしれないが、個人的に強敵がまだ存在するケルトと戦うかもしれない。

 

そして何より……。

 

「遊馬君なら……私のマスターなら、そう判断すると思ったからです」

 

マシュはマスターである遊馬の事を思いながらそう言い、笑みを浮かべてホープ剣を両腰に戻した。

 

マシュの想いに李書文に座り込み、その将来を楽しみに思い、軽く笑みを浮かべながら言葉を残す。

 

「娘よ……一つ忠告しておく。『相手より己が上である』と吼えるのではなく、『相手より己は上回るのだ』と牙を向くのだ」

 

「相手より、己は上回る……」

 

「その力は確かに強大だ。だが、過信するな。力に溺れるな。やるべきことは変わらんが、いささか心持ちが違う。何より──自分の限界を超える、と言うのは楽しいぞ?」

 

それは一人の武人として長年戦い続けてきた李書文としてのアドバイスでもあった。

 

マシュはその言葉を素直に受け入れてそのまま胸に秘める。

 

「はい!ありがとうございます!」

 

有り難いアドバイスを貰い、頭を下げて感謝の言葉を述べるとマシュは遊馬達の元へ戻る。

 

いち早くマシュに駆け寄った遊馬とアストラルとフォウは心配そうに見つめる。

 

「マシュ、大丈夫か!?」

 

「はい、何ともありません。絶好調です!」

 

「フォウ、フォフォーウ!」

 

フォウは涙を浮かべながらマシュに飛びつき、肩に乗って頬擦りをする。

 

「フォウさん!ごめんなさい、心配をかけてしまいましたね」

 

マシュはフォウの体を撫でてあやすと、アストラルは興味深そうにマシュの全体を見つめる。

 

「以前よりもホープの力が君と混ざり合って更に強くなっている。君自身が上の次元へとランクアップしたと言うことだな」

 

「はい!色々ありましたが、無事にランクアップを果たしました!」

 

「いいなー、身長が大きくなるのは羨ましいぜ。俺も早く大きくなりたいぜ……」

 

「それは大丈夫だと思います。あくまでこの姿は戦闘時の一時的なものなのでまたすぐに元に戻りますよ」

 

「そうなのか?それにしても、最高にカッコ良かったぜ、マシュ!」

 

「君は本当に強くなった。私たちも誇らしいよ」

 

「フォウフォーウ!」

 

「ありがとうございます、遊馬君、アストラルさん、フォウさん!」

 

遊馬達はマシュのランクアップと勝利を共に喜び、祝おうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、うたた寝していて、とても美しい光を見つけたと思ったら……君たちか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、不思議な声と共に周囲の空気がガラリと変わるように白い霧が広がった。

 

遊馬達は敵襲かと警戒すると、霧の中から一人の男が現れた。

 

大きな杖を持ち、白いフードを被った若い男が現れた。

 

「誰だ……あんたは……?」

 

「フォウ、フォウフォウ、フォーウ!!!」

 

フォウはマシュの肩の上で見たことないほどの怒りの形相を浮かべて吠えていた。

 

「フォ、フォウさん!?どうしたんですか!?」

 

男はフォウを見つめると懐かしいものを見たような笑みを浮かべて口を開いた。

 

そして……男の口から衝撃的な発言をする事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『キャスパリーグ』……久しぶりじゃないか、元気にしていたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスパリーグ。

 

男からフォウに向けられたその名前にアストラルは衝撃を受けて驚愕の表情を浮かべた。

 

「キャスパリーグ……だと!?」

 

「どうしたんだよ、アストラル。そんなに驚いて……」

 

「遊馬……キャスパリーグはある物語で登場するモンスターの名前だ」

 

「何の物語だよ?」

 

アストラルは少し震えながらキャスパリーグの説明をする。

 

「キャスパリーグ……それはアーサー王物語において、ブリテンに災いをもたらすと予言された災厄の獣の名だ。凶悪な魔獣の姿をしたそれは180人の戦士を葬り、アーサー王の約束された勝利の剣の刃を通さない強靭な毛皮を持ち、爪でアーサー王の鎧と鎖帷子を斬り裂いて重傷を負わせたと言われている……」

 

「……は?何だよそれ……フォウが……その魔獣だって……?」

 

あまりにも衝撃的な内容に遊馬は呆然としながらフォウを見つめる。

 

「フォウさん……?」

 

「フォ、フォウ……」

 

フォウはマシュの肩の上でガタガタと震えていた。

 

まるで自分の誰にも知られたくない正体を知られたような様子で、今まで見た事ないほどに不安な表情を浮かべていた。

 

遊馬、マシュが自分と向き合い、新たな道へと踏み出した。

 

そして……今度はフォウが自分と向き合う時が来たのだ。

 

 

 




マシュをちょっと強くし過ぎた感がありますが、今後の特異点は化け物揃いなのでこれぐらいは良いかなと思っています。
ランクアップしたマシュの姿は数年後の成長したイメージです。
原作には無いのでそこは皆さんのイメージ頼りになりますが……。

ラストに出てきたのは皆さんご存知のロクデナシ野郎です。
フォウの正体をここでバラしたのはフォウと遊馬達の絆を深めたいなと思ったので早めにしました。
遊馬の正体を知り、マシュがランクアップを果たし、次はフォウだなと前々から決めていました。


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ナンバーズ131 人と獣の絆

本当なら先週投稿できたんですが仕事とプライベートがめちゃくちゃ忙しくて投稿が遅れました。
やっぱり年末に近づくと忙しくなりますね。

今回はフォウの話です。
書いてて思いましたが、フォウとマシュの出会いって特に書かれていませんよね。
ゲームやアニメでも少し前に出会たぐらいしか書かれてませんですし。


マシュのランクアップから約1時間後……城に戻った遊馬達。

 

あの後、李書文はナイチンゲールによって強制的に治療を受け、スカサハと話し合った結果、槍を交えるまでは誰の味方にもならないという盟約を交わしてその場を去った。

 

結果的に仲間にならなかったが、ケルトとの最終決戦には来るだろうと予想する。

 

城で対ケルトに向けて会議を行う前にどうしても確かめなければならない事案が発生した。

 

それは……。

 

「さあ、フォウ。私たちの質問に全て答えてもらうわよ」

 

「フォ、フォウ……」

 

オルガマリーが開放召喚でフーヴァーの力を使い、小部屋を借りてフォウを警察の取り調べのようなことを行い始めた。

 

フォウをキャスパリーグだと言った謎の男はあの後にすぐに消えてしまい、気配や痕跡も無くその真意を確かめる事はできなかった。

 

怯えるフォウは逃げようとしたが、ランクアップしたマシュのスピードから逃れるわけがなく、そのまま確保されてしまった。

 

「フォウさん、大丈夫です。何があっても私たちは絶対にフォウさんに酷い事はしませんから」

 

マシュはランクアップ状態からいつもの十六歳の肉体の姿に戻り、怯えるフォウの体を撫でる。

 

「それに、フォウは俺たちの仲間だろ?まあ、お前が何でカルデアに来たのかとか……あの男は誰なのか知りたいだけなんだ」

 

遊馬は仲間としてただ純粋にフォウの事と、フォウをキャスパリーグと呼んだあの謎の男について知りたいだけだ。

 

すると、フォウは謎の男について自分が答えられる事を話した。

 

「フォウ……マーリン!マーリン!」

 

いつもマシュが名付けたその名前の由来と思われる「フォウ」としか鳴かないフォウが初めて別の言葉を発した。

 

「フォ、フォウさんが喋りました!」

 

「お前、フォウ以外言えたのか!?」

 

「二人共、重要なのはそこじゃないぞ!?」

 

「フォウ、あなた今……マーリンって言ったわよね!?あの男がそうなの!?」

 

『ちょっと待ったー!マーリンだって!?ブリテン島の大魔術師。夢魔と人間の混血。アルトリアをアーサー王として担ぎ出し、宮廷魔術師となった世界有数のキングメーカーにして最高峰のロクでなしが!?』

 

カルデアから通信で話を聞いていたロマニはマーリンについて興奮しながら早口で詳しく解説する。

 

ロマニの言う通りマーリンはアーサー王と同じくらいに世界的に有名な魔術師。

 

そのマーリンとフォウが一体どんな関係なのだろうか。

 

「ロマニ、うるさいけど説明ご苦労様。念の為にさっきの映像をアルトリア達に確認を取ってもらって」

 

『りょ、了解!』

 

ロマニに頼んでマーリンが現れたときの映像をアルトリア達とモードレッドに見てもらい、確認してもらったところ……口をあんぐりと開けて驚愕し、全員が頷いた。

 

あの男がブリテンの大魔術師、マーリンだと確定するのだった。

 

オルガマリーが少し呆れながらロマニにそう言い、腕を組んで唸って考える。

 

「うーん……あれが伝説の魔術師、マーリン……でも、本来ならばキャスパリーグは敵や駆除すべき存在といってもおかしくないのにあんなにも親しげな様子……」

 

「でも、アルトリア達はフォウを見てもキャスパリーグだって、騒いだりしてなかったよな?」

 

「キャスパリーグと言ってもみんな姿形は異なるか、伝承がそもそも間違っているのか、それとも全くの作り話か……」

 

オルガマリー、遊馬、アストラルがそれぞれ疑問に思う事を考える中、マシュはふと思った事を質問した。

 

「フォウさん……マーリンさんと一緒に住んだことありますか?もしかして、私とカルデアで会う前とか……」

 

「……フォウ」

 

マシュの質問にビクッと震えたフォウは小さく頷いた。

 

「えっ?マーリンと一緒に住んでいた?それってまさか……あなた、アヴァロンにいたの!?」

 

オルガマリーの凄まじい驚きように遊馬は聞き慣れない単語に首を傾げた。

 

「アヴァロンって何だ?」

 

「アヴァロン……アーサー王が眠ると言われる伝説の島の事だ。だが、この世界のアヴァロンは違うらしい」

 

「違うって?」

 

「私はアルトリアに以前少しだけアヴァロンの事を聞いた事があってな。アヴァロンは妖精郷と呼ばれる世界の内側にある理想郷で、そこは自然に満ち溢れて妖精が住うとされている」

 

「更にマーリンはアヴァロンの中に塔を作り、そこに住んで永遠に世界を眺めていると言われているわ」

 

アストラルとオルガマリーの説明を聞き、遊馬は上を見上げて整理していくとある疑問が思いつく。

 

「と言うことは……フォウ、お前はマーリンと一緒にその塔の中に住んでいたのか?」

 

「……フォウフォウ……」

 

フォウは頷くとオルガマリーがテーブルにおいた紙とペンを拝借し、歪で下手ながらも必死に何かの絵を書いていた。

 

何かの細長い建物みたいなものを書き、最後に一番上から下に向かって長い矢印を書いた。

 

遊馬達は頭に大量の疑問符を浮かべながら今までの話を整理してフォウが書いた絵の推理をする。

 

「この細長いのはもしかして、マーリンがいるアヴァロンの塔かしら……?」

 

「その一番上から下に向けて矢印……」

 

「まさか……フォウのあの怒りから察するに、マーリンが塔の上からフォウを落としたとか……」

 

「いやいや、流石にそこまで酷いことは……」

 

遊馬達の推理に流石にそれはないと思った矢先……。

 

「フォフォウ……」

 

フォウがポロポロと小さな涙を流して泣いていた。

 

「フォウさん!?だ、大丈夫ですか!?」

 

マシュは涙を流すフォウにすぐに抱き寄せて頭を撫でてあやした。

 

フォウの突然の涙に遊馬とアストラルとオルガマリーは顔が引きつった。

 

「おいおい、今の推理……全部合ってるのかよ……?」

 

「キャスパリーグ……とは言え、今のフォウにそれほど大きな力は感じられない。恐らくは小動物と同じぐらいの力しかないはずだ……」

 

「そのフォウを塔から放り投げて追い出すなんて……アヴァロンがどんな世界か知らないけど、下手したら死んでいたわよ。うん、伝承通りのとんでもない最低のロクでなしね」

 

マーリンが何を考えているのかは分からないが、マーリンが最低のロクでなしということがよく分かった。

 

今までの話をまとめるとこのようになった。

 

①フォウは何らかの理由でアヴァロンの塔の中で暮らしていた。

 

②突然マーリンに塔の上から放り投げられてアヴァロンから追い出された。

 

③アヴァロンから追い出されて帰れなくなったフォウは彷徨った果てにカルデアに流れ着いた。

 

④カルデアでフォウはマシュと出会い、仲良くなり、そのままカルデアで暮らすことにした。

 

⑤異世界からカルデアに現れた遊馬をフォウが見つけ、その後マシュと共に特異点を巡る旅に同行する。

 

⑥マーリンが幻となって現れ、フォウの本当の名を告げて現在に至る。

 

「……こんなところかしら?」

 

まだ不明な点はいくつかあるがフォウがカルデアに来た大筋を纏め、確認を取るとフォウは頷いた。

 

「あなた……結構苦労したのね……」

 

今までフォウはカルデアに偶然潜り込んだ、ただの新種の動物かと思っていたが、その可愛らしい見た目に反して重い運命を背負い、辛い目に合っていることにオルガマリーは同情した。

 

「キャスパリーグね……」

 

遊馬はD・パッドでキャスパリーグの文献を調べる。

 

調べれば調べるほどフォウとキャスパリーグのギャップの違いにどうすればこんな可愛らしい生き物が魔獣になるのか疑問で仕方がなかった。

 

「やっぱりアーサー王物語以外には出てねえか……ん?」

 

キャスパリーグはアーサー王物語やそれに関する物語で僅かに登場する魔獣だが、ある一文に遊馬の目が止まる。

 

「フォウ……お前……」

 

「フォウ?」

 

「リスじゃなくて……猫だったのか!??」

 

「フォーウ(君の驚くところはそこ)!?」

 

キャスパリーグは魔獣であるが動物の分類では猫である。

 

今まで遊馬はリスかそれに近い新種の動物だと思っていたので、猫だとは予想外だった。

 

「いやー、フォウが猫なら是非ともキャットちゃんに会わせたいな。フォウの言葉とか訳してもらいたいし」

 

「フォ、ドフォウ(待って!あの猫娘ちゃんはヤメテ)!?」

 

ある程度キャスパリーグについての資料を読み終わり、D・パッドをしまうと遊馬はフォウと向き合う。

 

「フォウ。えっと……キャスパリーグ?どっちの名前で呼んだらいいか?」

 

マシュが名付けたフォウが本来の名前のキャスパリーグが良いのか尋ねる。

 

「フォウフォウフォウ!」

 

「……フォウでいいのか?」

 

「フォーウ!」

 

キャスパリーグよりもフォウの方が気に入っている様子なので今まで通りフォウと呼ぶことにした。

 

名付け親のマシュは自分がつけた名前を気に入ってくれていると嬉しそうに微笑んだ。

 

「気を取り直して……フォウ、お前に聞きたいことがある。ちゃんと答えてくれよ?」

 

「フォウ……」

 

何を質問されるのだろうかとフォウは不安になる。

 

遊馬は腕を組んで質問をした。

 

「お前、マシュの事が大好きか?」

 

「……フォーウ(はぁ)?」

 

一体何を聞いてんだ?とフォウは訳がわからないと言う表情を浮かべている。

 

一方の遊馬はふざけているわけでもなく真面目な表情を浮かべている。

 

フォウはマシュを見つめて考える。

 

フォウにとってマシュは掛け替えのない大切な存在である。

 

迷い込んだカルデアで初めて出会った人間。

 

マシュはフォウにとって自分が一番求める理想的な人間なのだ。

 

純粋でとても優しく、心が善に満ち溢れ、そして何よりも自分を大切に想ってくれている。

 

「フォウさん……」

 

マシュはフォウが自分のことをどう思っているのか不安な表情を浮かべていた。

 

するとフォウはいつものようにマシュの体をよじ登って肩に乗る。

 

「フォウフォウフォー!」

 

フォウはマシュに頬擦りしたり小さな舌で頬を舐めたりして精一杯の愛情表現をする。

 

「キャッ!?フォウさん、くすぐったいですよ〜」

 

マシュは自分がフォウに好かれていると言う事実に喜びで顔が笑みで綻んでいく。

 

微笑ましい光景に満足した遊馬はパンパン!と手を鳴らして宣言をする。

 

「よしっ!これでフォウの尋問は終わり!早くエジソン達と会議をしようぜ!」

 

「遊馬!?」

 

「遊馬君!?」

 

「フォウ!?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、遊馬!まだフォウに聞かなければならない事が……」

 

「別にもう良いじゃん。フォウの正体とカルデアに来た経緯とか分かった事だし。これ以上、仲間を尋問するのも嫌だからな」

 

「フォーウ(仲間)……?」

 

フォウは目を丸くしてキョトンとして遊馬を見つめた。

 

伝説に語られる恐ろしい化け猫でもあるにも関わらず何故自分を仲間として認めてくれるのか?

 

理解できないフォウに遊馬は指で頭を撫でながら答えた。

 

「だってフォウ、お前はマシュが大好きなんだろ?カルデアがレフに爆破されて大火事になった時に……マシュのそばにいて必死に鳴いてたじゃねえか。フォウのあの時の声があったからこそ俺はマシュの元に辿り着けたんだぜ。もしもお前が敵なら、そんなことはしねえよな」

 

遊馬がカルデアに迷い込んだあの日、地獄と化したカルデア内でフォウがいたからこそマシュの元に辿り着く事が出来た。

 

それから特異点を巡る旅が始まり、フォウは直接戦闘には参加していないが、マシュはフォウが側にいると心が落ち着き、数多の敵にも臆する事なく戦う事が出来た。

 

それは遊馬にとっても同じでフォウがいると心が安らいで落ち着き、仲間として、守るべき存在として側にいるからこそ遊馬も全力で戦う事が出来る。

 

「お前は誰かを愛し、大切に想う心がある。だから魔獣みたいな怖い見た目になってねえんだろ?」

 

フォウが魔獣にならずに済んでいるのは実際は遊馬とマシュのお陰であるが、その事を遊馬達は知る由もない。

 

「フォウ、お前は俺たちカルデアの人理を救う戦いの旅に同行する掛け替えのない仲間だ。キャスパリーグなんて化け猫じゃない。カルデアのフォウだ!」

 

遊馬はフォウをキャスパリーグではなく、カルデアの仲間の一人として宣言した。

 

否、元々遊馬はフォウの正体がキャスパリーグなど最初からどうでもよかったのだ。

 

フォウが自分達の大切な仲間という事実は不変なのだから。

 

すると、今度はマシュがフォウの頭を撫でながら自分の頭を寄せ、マシュが望む願いを告げた。

 

「フォウさん、あなたは私にとって初めてのお友達です。もうフォウさんが側にいない日々なんて考えられません。だから……」

 

マシュはフォウを両手で抱き上げて慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 

「これからも私はフォウさんとずっとずっと一緒にいたいです。大好きですよ、フォウさん」

 

それはキャスパリーグである自分が一生言われることのない言葉だと思っていた。

 

自分は誰にも愛される事なく、生きる事になるだろう……そう思っていた。

 

しかし、マシュがフォウと出会った事で運命が変わったように、フォウもまたマシュと出会って運命が大きく変わったのだ。

 

そして、フォウが出した答えは……。

 

「フォウ!」

 

「ああっ……はい!これからもよろしくお願いします、フォウさん!」

 

マシュは何となくだがフォウの言葉を理解出来る。

 

フォウもマシュの側にいたい……その意味が伝わり、マシュは満面の笑みを浮かべて嬉しそうに頷いた。

 

「良かったな、マシュ。フォウ、改めてこれからよろしくな!」

 

遊馬は拳を作ってフォウに向けた。

 

フォウは頷いて小さな手で拳を作った。

 

「フォウフォーウ!」

 

フォウもこちらこそよろしくの意味を込めて遊馬と拳をぶつけ合った。

 

遊馬とマシュとフォウ……二人と一匹が心を通わせ、絆が深まる。

 

優しく、温かく、美しい……そんな心の光が奇跡を呼び起こす。

 

拳をぶつけ合った遊馬とフォウの間から小さな光が溢れ出し、遊馬の手の中に奇跡の光が宿る。

 

「これは……?」

 

握りしめた拳をゆっくり開くと光が溢れてカードへと形を変えた。

 

「フェイトナンバーズ……?いいや、違う……」

 

カードから光が消えていくとそこに描かれたものは遊馬を驚かせるものだった。

 

「これって、フォウのモンスターカード!?」

 

「何だと!?」

 

「えっ?フォウさんのカードですか!?」

 

「ドフォウ!?」

 

「えっ!?カード化は英霊だけじゃなかったの!?」

 

急いでアストラル達はフォウのカードを見た。

 

まずカードの枠はエクシーズの黒色ではなく、デッキに入れる効果モンスターの茶色だった。

 

イラストには美しい星々が輝く夜空の下でフォウが歩く姿が描かれていた。

 

効果と攻撃力と守備力もしっかり記載され、真名は『希望の守護獣 フォウ』。

 

災厄の魔獣であるキャスパリーグとは正反対の美しい光に満ち溢れた真名だった。

 

「希望の守護獣……!私のランクアップした希望の守護者と同じですね!」

 

マシュは自分のランクアップした存在の『FNo.0 希望の守護者 マシュ・ホープライト』と似たフォウの『希望の守護獣』と言う名前に親近感を得て喜んだ。

 

「この効果は……素晴らしい。遊馬のデッキに適合していて、三積みしたいほどの強力な効果だ」

 

効果を一読したアストラルはその素晴らしく強力な効果に感服した。

 

遊馬はフッと笑みを浮かべながら迷う事なくフォウのカードをデッキに入れた。

 

「デッキ編集は後でやるとして……今後は必ずこのカードをデッキにいれる。フォウ、お前の力を借りるぜ」

 

「フォウ(任せて)!」

 

フォウは興奮気味に大きく頷いた。

 

これでフォウは災厄の魔獣としてではなく、希望の守護獣として共に戦う事が出来る。

 

しかし、フォウにとって嬉しいことはそれだけではなかった。

 

実はカードに書かれた効果テキストにはフォウにとっては嬉しい効果があった。

 

フォウは窓際に向かい、空に向かって高らかに拳を上げて叫んだ。

 

「フォウフォウフォウ、フォーウ(首を洗って待っていろ、クズマーリン)!!」

 

フォウの気合いを込めた驚く叫び声がアヴァロンにいるマーリンに届いたかどうかは……誰も知る由もない。

 

 

 




フォウがモンスターカード化になりました!
エクシーズも良かったんですがモンスターの方がいいかなと思って。

しかし、マーリンはとんでもないクズですね。
漫画で塔からフォウを落とす描写がありましたが、あれは酷い……フォウ泣いていましたし。

マシュとフォウの効果は次回判明する予定です。
出来るだけ早めに投稿しますのでお待ちください。


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ナンバーズ132 ナンバーズを統べる真の皇

未来龍皇ホープ……遊馬君の未来皇ホープとアストラルの希望皇龍ホープ・ドラグーンが一つになったモンスター、かっこ良過ぎて思わず待ち受けにしました。
これはホープ・ゼアルに並ぶラスボス戦に登場に相応しいホープが来ましたね。


遊馬の前世、マシュのランクアップ、そしてフォウの正体と驚天動地な出来事がようやく片がつき、城の玉座の間に大きな円卓を置いてその周りに全員分の椅子を並べた。

 

まるでアーサー王物語の円卓で行われる会議のような光景で一番興奮していたのは意外にもマシュだった。

 

「凄いです……本当の円卓会議を行えるなんて……!」

 

興奮しているマシュに反応するかのように十字の盾が淡く輝いていたが、それを気付くものは誰もいなかった。

 

「さて、会議を始める前にまず私とフーヴァーの力で集めた資料を見て下さい」

 

オルガマリーが事前に用意した資料を参加者全員に渡す。

 

資料にはケルト軍のサーヴァント、現在のアメリカ兵とケルト兵の軍事力や兵力など事細かに分かりやすく書かれている。

 

「さ、流石はフーヴァー長官……ここまで調べ上げるとは……味方になって本当に良かった……」

 

エジソンは中にいる歴代アメリカ大統領を含めてフーヴァーの力を宿すオルガマリーが味方になってくれて本当に良かったと心の底から安堵した。

 

ケルトにいる敵サーヴァントは全部で六騎。

 

ケルト軍の首魁で聖杯を所持していると思われるコノートの女王、メイヴ。

 

そのメイヴが狂王として召喚した最強最悪のケルト戦士、クー・フーリン・オルタ。

 

インドの叙事詩『マハーラーバタ』の大英雄にして授かりの英雄、アルジュナ。

 

栄光のフィオナ騎士団の長、フィン・マックール。

 

フィンの部下でフィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ。

 

英文学最古の叙事詩の主人公で古のドラゴンスレイヤー、ベオウルフ。

 

どれも一筋縄ではいかないサーヴァントばかりだ。

 

どうやってこの戦争をアメリカに勝利を導くか、それぞれが己が考えを出していく中でアストラルが手を挙げた。

 

アストラルは今回のアメリカとケルトの戦いで勝つための点を挙げる。

 

「オルガマリーから得た情報を元に今回の戦争についての重大な点について指摘する。まずは兵士だ。アメリカ兵とケルト兵ではこの場にいる誰もが分かっている通り、敵の首魁、メイヴの力で無限に生み出されるケルト兵の前ではアメリカの資源が底をつく」

 

今も尚、無限に増え続けているであろうケルト兵が相手ではアメリカ兵は勝ち目は無い。

 

「次はサーヴァント。ケルト軍には首魁のメイヴにクー・フーリン・オルタ、フィンとディルムッド、アルジュナとベオウルフ……この六騎のサーヴァントがいる。特に警戒しなければならないのはクー・フーリンやスカサハ以上の力を持つとされるクー・フーリン・オルタとインド神話のサーヴァントのアルジュナだ」

 

「上等だ……狂王だが何だか知らねえが、好き勝手暴れている野郎はこの俺が必ず倒してやるよ……!!」

 

「アルジュナは俺に任せてくれ。あの男は……俺が相手をしなければならない相手だ」

 

クー・フーリンとカルナはそれぞれの因縁の相手に心の炎がメラメラと燃え上がる。

 

マスターの為に、世界の為に、そして己の為に必ず負けないと心に誓う。

 

「今回の戦いは今までとは違い、我々カルデア軍、アメリカ軍、レジスタンス軍……三つの軍が集結した連合軍となった。サーヴァントの数はこちらが断然有利だ。勝機も十分ある。そこで、私が考えた作戦はシンプルに行こうと思う。ケルト軍の拠点に向けて正面突破で乗り込み、メイヴを討つ!」

 

「ストップだ、アストラル君!それではあまりにも無謀だ!拠点に乗り込むのは良いが、それまでケルト兵を抑えることは難しいぞ!」

 

今までギリギリのところまで戦い続けてきたエジソンだからこそ言える言葉だが、アストラルは不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「心配しなくていい。私は……否、私と遊馬は……『ケルト兵を全て蹂躙しつつ拠点に乗り込む』のだから」

 

「ケルト兵を全て蹂躙……!?まさか、対軍……いや、対国宝具やそれ以上のものでやるつもりか!?だがそれでは魔力が持たぬぞ!」

 

「いいや、その必要はない。ケルトの全てのサーヴァントと兵士はその巨大な力しか視線を向けざるを得ないだろう」

 

「巨大な力……!?それは一体……」

 

「……その前にみんなに一つ質問したい──このアメリカで遠い未来で人気を誇る怪獣映画とSF映画は知っているか?」

 

「「「…………は?」」」

 

アストラルの謎の質問に遊馬とマシュと小鳥とオルガマリー以外は首を傾げて頭に疑問符を浮かべる。

 

それはアストラルがこのアメリカに降りたってからずっと考えていた作戦。

 

ケルト兵を全て薙ぎ払い、ケルト軍のサーヴァントと真っ向勝負をする為の作戦。

 

その作戦を元に明日、ケルトとの最終決戦を迎える。

 

 

その夜、遊馬とアストラルは戦いに向けて最後のデッキ調整を行う。

 

今回考えたアストラルの作戦の要の切り札を出せるカードを中心に入れていき、更には……。

 

「やっぱりいつもより防御系カードは入れたほうが良いよな?」

 

「ああ。敵のクー・フーリン・オルタとアルジュナは宝具を解放すればたちまちこちらのサーヴァントは大怪我、下手をすればすぐにやられてしまう。ここは多めに入れた方が良い」

 

「だよな」

 

インド神話の英雄であるラーマを戦闘不能に追い込んだクー・フーリン・オルタにインド神話の英霊・アルジュナを相手にするからには自分の身と仲間達を守る為にいつもより多めに防御系のカードをデッキに加える。

 

「うーん、バランスが難しいな。後はモンスターだけど……展開力がもっと欲しいな」

 

遊馬のデッキにとってあらゆるモンスターエクシーズのエクシーズ召喚の要となるモンスター。

 

もう少しモンスターの展開力が欲しいと考えていると……。

 

「……遊馬、アナザーのカードが……」

 

「えっ?」

 

アナザーの白紙のカードが輝くと遊馬の前に浮き、更には遊馬が愛用する『ガガガマジシャン』を始めとするオノマトモンスター達のカードも一緒に浮いた。

 

ガガガマジシャン達のカードから光の線が現れ、白紙のカードに力を与える。

 

それは遊馬が長年愛用してきたガガガマジシャン達の精霊の想い。

 

精霊の力が白紙のカードと結びついて新たなカードを作り出す。

 

「すげぇ……新しいオノマトモンスターだ……!」

 

「これでオノマトモンスターの展開力も格段に上がるぞ……遊馬!」

 

「ああ!」

 

遊馬とアストラルは新たなカードに興奮しながらデッキ構築を急いだ。

 

新たなカードとの出会いはデュエリストにとって大きな喜び……アナザーの言葉の通りで遊馬とアストラルはデュエリストとしての喜びを味わいながら新しいデッキを作る。

 

 

デッキ調整が終わり、すっかり真夜中になってしまい、遊馬は眠る前にアストラルと共に部屋を出た。

 

長い廊下を歩いているとそこでアメリカ兵たちの検診を終えたナイチンゲールと会った。

 

「こんな夜中に散歩ですか?」

 

「ああ。明日が最後の戦いだから、アメリカの最後の夜を眺めようかなって思ってさ」

 

「……これも何かの縁です。お付き合いしましょう」

 

「オッケー」

 

ナイチンゲールは遊馬に何か話したいことがあるのか、一緒に散歩する事となり、城を出て夜空を眺めながら散歩する。

 

この特異点の戦いも終盤に差し掛かり、ナイチンゲールは今の心境を語る。

 

「……エジソンの病は癒されました。アメリカの大統領という重荷を軽減できた。あるいは歴代大統領の妄執が憑依されていたのかもしれません。予後不良の恐れがあるので、引き継ぎ観察していかなければ……残る病は一つ。それで世界が癒されるといいのですが」

 

「心配するなって、俺たちが必ずケルトをぶっ飛ばしてやるからさ!」

 

遊馬はいつものように自信満々な態度でナイチンゲールを励ますが、ナイチンゲールは目を細めた。

 

「……貴方に重圧を掛けている訳ではありません。そこは勘違いされないようお願いします。世界の崩壊を止める責務をただ一人に負わせるなど、本来は正気の沙汰ではないのです」

 

世界の崩壊を止める……それを一人の少年が全てを背負う。

 

しかし遊馬はそれを何の苦悩もなく決意を固め、自分たちの世界とは関係のないこの世界と人類の未来を守るために戦う道を歩んでいる。

 

それはバーサーカーで狂化を与えられ、多くの人がドン引きする行動をするナイチンゲールでさえも遊馬の『それ』を狂気の沙汰だと感じるほどだ。

 

「……それはまさしく、絶望的な所業には必ず。狂っていなければ耐えられない」

 

「……そうかな?俺は別に自分が狂ってるって思ってないし誰にも言われたこともないけど?」

 

あっけらかんと答える遊馬は自分が狂っていると思っていない。

 

ナイチンゲールは腰を下ろして遊馬と目線を合わして肩に手を置く。

 

「ユウマ、よく聞きなさい。貴方は鉄血の理性を保って、私たちを選ばなければならない。私は貴方を信用しています」

 

ナイチンゲールは生前に経験したことを元に世界の未来を背負って戦う遊馬にアドバイスを送る。

 

「かつて、分からず屋の陸車を相手に戦った同胞たちのように。努力する必要はあります。しかし重荷を背負う必要はありません。貴方の選択が間違いでなくとも、託された側である我々が失敗することもある。盤石の体制を整えても、兵士は死に、病人は発生する。だから、気楽に決めてもいいのです。気楽に、そして誠実に──であれば、私たちはきっと大丈夫」

 

遊馬は全てを背負うほどの強い覚悟を持っている。

 

十三歳と思えないほどの強い意志だが、それは一度崩れれば二度と立ち直ることが出来ないほどの危うさも同時にある。

 

ナイチンゲールは遊馬の心や背負っているものを少しでも和らげる為に今までとは違い、優しい言葉を送る。

 

ナイチンゲールからの言葉にまるで天使のような優しい想いが込められていると遊馬は感じ取り、笑顔を見せて頷く。

 

「分かった!ありがとうな、ナイチンゲール。俺、頑張るよ!!」

 

「はい。夜風が冷たくありませんか?そろそろ戻りましょう」

 

「おう!」

 

遊馬とナイチンゲールは二人並んで城に戻る。

 

その光景を見たアストラルは笑みを浮かべて呟いた。

 

「クリミアの天使か……」

 

ナイチンゲールの優しい一面を見たアストラルはその想いで遊馬の心を癒してくれたことに感謝し、アメリカの夜空を見上げた。

 

 

翌日の早朝……日が昇ると同時に動き出す。

 

遊馬達は城からかっとび遊馬号に乗り、戦場の最前線近くに向かう。

 

ちなみに科学的にも魔術的にも原理が不明なかっとび遊馬号こと皇の鍵の飛行船に対し、発明王の異名を持つエジソンと神智学の開祖のエレナは二人揃ってテンションがマックスとなっていた。

 

「ヌォオオオオオッ!?GyAooooo!?な、何なのだ、この発明王でも見た事のないこの素晴らしい飛行船は!?これは私でも開発する事が出来ないぞ!??」

 

「キャー!?何よ何よこの飛行船は!?原動力は!?構造は!?素材は!?どうやって宙に浮いているの!?まさかこれが科学と魔術のハイブリッドだというの!??」

 

異世界の未知なる技術によって作られた、異世界を渡ることが出来る飛行船。

 

戦争でなければじっくり調べたいところだが、その時間はない。

 

遊馬が後で二人をカルデアに召喚したら必ず調べさせてあげると約束し、二人は好奇心をグッと抑えて我慢した。

 

かっとび遊馬号の操作を小鳥とオルガマリーに任せ、遊馬とアストラルとマシュとフォウは一足先に地上に降り立つ。

 

他のサーヴァント達は遊馬とアストラルの指示があるまでかっとび遊馬号で待機することにしてある。

 

下手に魔力を使用せずにケルト軍のサーヴァントだけに戦いを集中させる為だ。

 

遊馬達の目線の先には数え切れないほどのたくさんのケルト兵達。

 

その余りの大群に圧倒されてしまいそうになるが、遊馬達には大きな自信がある。

 

自分達はこれまでの旅で強くなった。

 

驕らず、慢心せず、油断せず……更なる高み、ランクアップを目指す為に、自分達が今出せる全力をこの戦いで見せる。

 

「遊馬、我々が先陣を切る……油断せずに行くぞ!」

 

「へへっ、分かってるって。そんなの当たり前だろ!さぁて……一丁派手に行くぜ。マシュ、フォウ、準備はいいな?」

 

「はい!」

 

「フォーウ!」

 

遊馬はマシュとフォウを粒子化させてカードに入れ、フォウのカードはデッキに入れる。

 

デュエルディスクのシャッフル機能でデッキがシャッフルされ、遊馬はデッキからカードを5枚ドローして手札にする。

 

「俺のターン、ドロー!よし!魔法カード『オノマト連携』!手札を1枚墓地に送り、デッキからオノマトモンスターを2枚、手札に加える!」

 

手札を1枚墓地に送り、デッキから加えた2枚は遊馬が新たに手にし、実戦で初めて使うカードである。

 

「まずはこいつだ!お前の力を借りるぜ、アナザー!」

 

そのうちの1枚はアナザーから託された白紙のカードから生まれた遊馬の新しい仲間。

 

「俺のモンスター達を導く新たな希望皇!俺は『希望皇オノマトピア』を召喚!」

 

遊馬の前に現れたのはエースモンスターである希望皇ホープをデフォルメしたような可愛らしい小さなモンスターだった。

 

この希望皇オノマトピアは希望皇ホープに酷似しているが、ナンバーズでもモンスターエクシーズでもないので強力な戦闘能力が無いが、代わりに遊馬と共に戦う仲間達を導く力を持つ。

 

「希望皇オノマトピアの効果!手札からオノマトピア以外のオノマトモンスターをそれぞれ1体ずつ守備表示で特殊召喚出来る!」

 

オノマトピアはオノマトモンスターである『ズババ』『ガガガ』『ゴゴゴ』『ドドド』の4種類のカテゴリのモンスターを手札から呼び出すことが出来る。

 

遊馬が手札から呼び出すのはオノマトピアと同じくデッキに加わった新たな仲間。

 

「さあ……出番だぜ!手札から『希望の守護者 フォウ』を特殊召喚!!」

 

オノマトピアの隣に現れたのは白い上着のようなものではなく、希望皇ホープのプロテクターを小型化した小さな鎧を全身に装着したフォウだった。

 

フォウは背中に装着された希望皇ホープの双翼を展開し、宙に浮いて空を飛ぶ。

 

「フォウフォウー♪」

 

四足歩行のフォウは自らの力で空を飛ぶことが出来て嬉しそうに遊馬の周りを飛ぶ。

 

希望皇オノマトピアと希望の守護獣フォウ……この2体は実はオノマトモンスターに属するモンスターである。

 

それはこの2体のモンスターの効果には『このカード名はルール上「ズババ」「ガガガ」「ゴゴゴ」「ドドド」カードとしても扱う』と言うルール効果がある。

 

名前には無いがルール効果によってこの2体はオノマトモンスターの仲間となっている。

 

「フォウ、行くぜ!」

 

「フォーウ!」

 

「レベル4の希望皇オノマトピアと希望の守護獣 フォウの2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

2体のモンスターが地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「心優しき乙女よ、神秘の盾をその手に未来を守る最後の希望となれ!現れよ、『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!!」

 

光の中からマシュが現れ、フェイトナンバーズの姿へと変身すると、その肩に小さな光が現れる。

 

「フォフォウ!」

 

「フォウさん!一緒に行きましょう!」

 

それはエクシーズ素材となり、オーバーレイ・ユニットとなったフォウだった。

 

オーバーレイ・ユニットは本来なら光の球体として扱われるが、フォウは特別で希望の守護獣の姿でマシュの側にいる。

 

そして、オーバーレイ・ユニットとなったフォウには驚愕の効果を有する。

 

「エクシーズ素材となったフォウの効果発動!フォウがフェイトナンバーズのオーバーレイ・ユニットになっている時、1ターンに1度、デッキからカードを2枚ドローして1枚を墓地に送ることが出来る!」

 

オーバーレイ・ユニットがある限り、自分のターンに2枚ドローと墓地肥やしが出来る驚愕のドロー効果。

 

「フォーウフォウ!!」

 

フォウの体から金色の光が放たれ、遊馬のデッキトップの2枚が光り輝く。

 

「デッキから2枚ドロー!そして、手札1枚を墓地に送る!!」

 

ドローしたカードが遊馬が望んでいたカードで、笑みを浮かべて天高く掲げる。

 

「来たぜ来たぜ!マシュ、かっとビングだ!」

 

「はい!マシュビングです、私!」

 

「俺はマシュを対象に『RUM - リミテッド・フェイト・フォース』を発動!」

 

レティシアとベオウルフの戦いの時に発現したフェイトナンバーズ専用のランクアップマジックを発動し、ランクアップの力がマシュに与えられる。

 

マシュの体が光に包まれ、フォウと共に天に登る。

 

「マシュ、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」

 

上空に『00』のナンバーズの刻印が輝き、希望皇ホープ達と未来皇ホープの幻影が現れる。

 

ホープ達の幻影が光となり、マシュと共に天に登り、全ての力が一つに合わさって大きな光の爆発を起こす。

 

「未来を司る力よ、数多の希望の光を集わせ、運命を斬り開け!これが俺の相棒の新たな力!現れよ、FNo.0!!」

 

光の中から飛び出したのは希望の獣と共に機械の翼を展開して大空を自由に飛ぶ心優しき少女。

 

「『希望の守護者 マシュ・ホープライト』!!!」

 

魂と肉体を最高潮にまでランクアップした人類と世界の未来を守る守護者。

 

マシュはフォウと共に降臨し、遊馬とアストラルに目線を向けて3人と1匹はアイコンタクトを取って同時に頷く。

 

早速遊馬はランクアップしたマシュの効果を発動する。

 

「マシュ・ホープライトの効果!このカードが特殊召喚されたターンに1度、エクストラデッキから『希望皇ホープ』モンスター、または『未来皇ホープ』モンスター1体をX召喚扱いで特殊召喚する!」

 

それは無条件でありとあらゆるホープモンスターを召喚出来る効果。

 

マシュが希望皇ホープ達と未来皇ホープの力が一つになったからこそ可能になった大いなる力である。

 

「行きます!フューチャーホープサークル、展開!!」

 

マシュが両腕を左右に開くと足元に巨大な金色の魔法陣が出現する。

 

魔法陣にはアストラル世界の文字や数字、更にその中心には皇の鍵が描かれている。

 

「遊馬!」

 

「ああ!」

 

アストラルは新たなホープを遊馬に投げ渡し、二人は同時にそのカードを掲げてデュエルディスクに置く。

 

「「万界に散りし、我が魂の祈りよ! 今こそこの手に集い、その姿を現せ!」」

 

遊馬とアストラルの周囲に『01』から『100』の100種類のナンバーズの数字が現れ、一斉に飛び交って魔法陣の中央に入り込む。

 

「「現れよ、No.93!ナンバーズの真の皇よ!!」」

 

空中に『93』の刻印が神々しく輝くと、大地と大気が震え、魔法陣から強大なエネルギーの激流が溢れ出す。

 

そして、魔法陣から凄まじい轟音と共に巨大な影が飛び出るように徐々に現れる。

 

遊馬とアストラルは初めて繰り出す新たな希望皇に興奮が隠しきれず、想いを込めて高らかにその名を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「『希望皇ホープ・カイザー』!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現れたのは希望皇ホープの数倍の大きさを持つ巨人の戦士。

 

カイザーと言う皇の名に相応しい絢爛豪華で美しくも神々しい鎧と装飾に身を包み、背中には巨大で煌びやかな翼が生えた新たな希望皇。

 

『ホォオオオオオオープ!!!』

 

ナンバーズのキング・オブ・キング……全てのナンバーズを統べる真の皇がここに降臨した。

 

ホープ・カイザーは召喚条件が少々難しく出しにくかったので今まで出せずにいた。

 

しかし、ランクアップしたマシュの力……あらゆる希望皇ホープと未来皇ホープを無条件で召喚出来る遊馬とアストラルにとって最強とも言える能力によって、ナンバーズを統べる希望皇……ホープ・カイザーを召喚することが出来た。

 

更にマシュの効果により、ホープ・カイザーの力を最大限に引き出すための助力を行う。

 

「そして、特殊召喚したホープに自分の手札・墓地のモンスター2体までを選択してそのモンスターをオーバーレイ・ユニットにする!手札のガガガマジシャンと墓地のゴゴゴゴーレムをホープ・カイザーのオーバーレイ・ユニットにする!」

 

手札からガガガマジシャン、墓地からゴゴゴゴーレムの幻影が現れてそのまま光の球となってホープ・カイザーに2つのオーバーレイ・ユニットが備わる。

 

「更に魔法カード『オーバーレイ・リジェネレート』を発動!このカードをホープ・カイザーのオーバーレイ・ユニットにする!」

 

更にホープ・カイザーのオーバーレイ・ユニットが1つ追加され、これで合計3つとなる。

 

そして、遊馬とアストラルはホープ・カイザーだけが使える唯一無二の最強の力を発動する。

 

「「ホープ・カイザーの効果!1ターンに1度、自分のメインフェイズにこのカードのオーバーレイ・ユニットの種類の数まで、エクストラデッキからランク9以下で攻撃力3000以下のナンバーズを効果を無効にして特殊召喚し、その後このカードのオーバーレイ・ユニットを1つ取り除く!!」」

 

アストラルはホープ・カイザーのオーバーレイ・ユニットの3つの数である3枚のナンバーズを取り出して宙に投げると、3つの数字の刻印が空中に浮かび上がる。

 

「「ナンバーズよ!今こそ真の皇の元に集い、その力を振え!!ナンバーズ・アッセンブル!!!」」

 

3枚のナンバーズは吸い込まれるように遊馬のデュエルディスクに降りて置かれ、そのまま連続して召喚される。

 

「まずはIII!お前からだ!現れよ!『No.6 先史遺産 アトランタル』!!」

 

大地がひび割れ、その中から這い上がるように現れたのは古の大陸が巨人の姿となった大型モンスター、アトランタル。

 

「次はⅣ!君の力だ!現れよ!『No.40 ギミック・パペット - ヘブンズ・ストリングス』!!」

 

アトランタルの横に現れたのは左胸が空洞で片翼と大剣を持ち、運命の糸を操る不気味な人形、ヘブンズ・ストリングス。

 

「最後はV!決めるぜ!現れよ!『No.9 天蓋星 ダイソン・スフィア』!!」

 

最後に現れたのは太陽を覆うほどの巨大な人工衛星、デュエルモンスターズ史上最大級の大きさを誇る超巨大モンスター、ダイソン・スフィア。

 

ナンバーズの三体同時召喚の後、ホープ・カイザーのオーバーレイ・ユニットとなっていたガガガマジシャンを墓地に送られる。

 

アトランタル、ヘブンズ・ストリングス、ダイソン・スフィア……大型ナンバーズを同時に召喚した。

 

それは皇が配下の騎士や戦士を従えて戦うように、他のナンバーズを自在に召喚して操る……まさにホープ・カイザーはナンバーズの真の皇に相応しい存在である。

 

「III!Ⅳ!V!トロン三兄弟のみんな、一緒に行くぜ!!」

 

遊馬とアストラルの側に3枚のナンバーズに込められたIII、Ⅳ、Vの思いの幻影が現れてすぐに消えた。

 

「これがナンバーズの真の皇……ホープ・カイザーの力……」

 

マシュは自分で召喚したホープ・カイザーの強大な力に開いた口が塞がらなくなるほど驚いていると……。

 

「マシュ、そろそろ行くぜ」

 

遊馬が背中に純白の双翼を羽ばたかせて空を飛び、ホープ・カイザーの左肩に乗る。

 

「マシュ、君もホープ・カイザーの肩に乗るんだ」

 

「はい!」

 

「フォウ!」

 

マシュとフォウは反対側の右肩に乗り、遊馬とアストラルはホープ・カイザー達に指示を出す。

 

「行け、ホープ・カイザー!!」

 

「進軍だ!ナンバーズ達も続け!!」

 

大地が揺れるほどの大きな歩みをするホープ・カイザーに続いてアトランタルとヘブンズ・ストリングスが共に進軍し、ダイソン・スフィアはエネルギーを充填していく。

 

無限に生まれ続ける『量』のケルト兵に対し、遊馬とアストラルはホープ・カイザー達による『質』の巨大モンスターで対抗する。

 

エジソンがアメリカ兵で行っていた同じ『量』で戦うのではなく、ナンバーズと言う巨大な『質』で戦う。

 

それがアストラルが導き出した作戦、ランクアップしたマシュとホープ・カイザーがいたからこそ実行することが出来た。

 

遂にカルデア連合軍とケルト軍……長きに渡る因縁の戦いが遂に最終決戦を迎える。

 

アメリカの未来への夜明けを迎える為、壮大なる神話の戦いが幕を開ける!

 

 

 




ナンバーズの真の皇、ホープ・カイザー登場です!
アメリカ編の目玉を何にしようか悩んでいたら、神話の戦いだからド派手な奴を呼ぼうとホープ・カイザーに決めました。

そして今回登場したマシュちゃんとフォウのかーどはこちらになります!

『FNo.0 希望の守護者 マシュ・ホープライト』
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/光属性/戦士族/攻2500/守3000
レベル5モンスター×3体以上
①このカードが特殊召喚に成功したターンに1度、エクストラデッキから「希望皇ホープ」モンスター、または「未来皇ホープ」モンスター1体をX召喚扱いで特殊召喚し、その後自分の手札・墓地のモンスター2体までを選択し、そのモンスターのX素材にする事が出来る。
②このカードが「FNo.0 人理の守り人 マシュ」をX素材としている場合、以下の効果を得る。
●自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動出来る。そのモンスターの攻撃を無効にする。
●モンスターの効果・魔法・罠が発動した時、X素材を1つ取り除いて発動出来る。その発動を無効にして破壊する。この効果は相手ターンでも発動することが出来る。この効果は1ターンに1度しか発動出来ない。

マシュちゃんがランクアップした結果、とんでもなく大幅に強化されちゃいました。
ホープ召喚とムーンバリアと発動無効……ホープの力を集約させたからこれぐらい強くてもいいかなと思ったので。

『希望の守護獣 フォウ』
効果モンスター
星4/光属性/獣族/攻2000/守1500
このカード名はルール上「ズババ」、「ガガガ」、「ゴゴゴ」、「ドドド」カードとしても扱う。
フィールドに「マーリン」が存在しない時は攻撃できない。
①1ターンに1度、自分フィールド上の「ズババ」、「ガガガ」、「ゴゴゴ」、「ドドド」と名のついたモンスター1体を選択して発動出来る。このカードは選択したモンスターと同じレベル、もしくはこのカードと選択したモンスターはそれぞれのレベルを合計したレベルになる。
②フィールドに「マーリン」と名のついたモンスターが存在する限り、「マーリン」と名のついたモンスターの効果は無効化され、攻撃力と守備力は半分となり、このカードの攻撃力と守備力は元々の倍となる。
③このカードを素材として持っている「FNo.」Xモンスターは以下の効果を得る。
● この効果は1ターンに1度しか発動出来ない。自分のメインフェイズに発動出来る。自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札1枚墓地に送る。

遊馬の仲間+マーリンシスベシ+ビーストの魔力?を組み合わせた結果、とんでもない効果に仕上げちゃいました(笑)
そして遊馬君カード恒例のゴリ押しのオノマトモンスターにしました。


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ナンバーズ133 ナンバーズ軍団、大進軍!!!

前話のフォウの効果を少し修正しました。
マーリンがいる時のみ攻撃出来るルール効果にしました。
そうじゃないと強過ぎますからねー。




カルデア連合軍とケルト軍の最終決戦……その開戦を告げたのはナンバーズを統べる真の皇、希望皇ホープ・カイザー。

 

ホープ・カイザーの効果で特殊召喚した3体のナンバーズ……アトランタル、ヘブンズ・ストリングス、ダイソン・スフィアでケルト軍の無限に産まれるケルト兵達を攻撃する。

 

「行くぜ、アトランタルの攻撃!ディヴァイン・パニッシュメント!!」

 

アトランタルの左肩の火山が噴火し、噴石と竜巻と雷が降り注ぐ。

 

「ヘブンズ・ストリングス!ヘブンズ・ブレード!!」

 

ヘブンズ・ストリングスは巨大な大剣を振り下ろし、大地を抉るほどの衝撃波を広範囲に放つ。

 

「ダイソン・スフィアの攻撃!ブリリアント・ボンバードメント!!」

 

ダイソン・スフィアにエネルギーが迸り、無数のレーザービームが雨の如く降り注ぐ。

 

「そして、ホープ・カイザーの攻撃!」

 

遊馬とアストラルとマシュがホープ・カイザーの肩から一度降りると、ホープ・カイザーの真紅の瞳が輝き、右拳に眩い閃光が宿る。

 

「皇の鉄拳!!カイザー・ハンド・クラッシャー!!!」

 

振り下ろした右拳が地面に激突し、巨大な地割れと共に光の衝撃波が周囲に広がる。

 

四体のナンバーズの連続攻撃により数万のケルト兵が一気に倒されて消滅した。

 

「よし!カードを2枚伏せてターンエンド!アストラル、次はお前だ!任せたぜ!」

 

「ああ!私のターン、ドロー!」

 

タッグデュエルの特別ルールでパートナーのモンスター効果を自分も使用することが出来る。

 

これによりアストラルも遊馬のフィールドに召喚されているホープ・カイザーのナンバーズを召喚出来る効果を使用出来る。

 

しかし、アストラルはホープ・カイザーの効果を最大限に活用する為の前準備を行う。

 

「私はマシュのオーバーレイ・ユニットになっている希望の守護獣フォウの効果発動!デッキから2枚ドローし、その後手札1枚を墓地に送る!フォウ、力を借りるぞ!」

 

「フォウ!」

 

マシュの肩にいるフォウの力を借り、アストラルのデッキトップが黄金に輝き、2枚ドローをして手札を1枚墓地に送る。

 

「これなら……!魔法カード『テラ・フォーミング』!デッキからフィールド魔法を1枚手札に加える!私はフィールド魔法『エクシーズ・テリトリー』を発動!エクシーズ・テリトリーはモンスターエクシーズがモンスターと戦闘を行うダメージ計算時のみ、攻撃力と守備力がランクの数×200ポイントアップする!」

 

ホープ・カイザーを中心に大地に巨大なエネルギーが迸り、マシュを含む全てのモンスターエクシーズの力を高める。

 

「魔法カード『死者蘇生』を発動!遊馬の墓地のガガガマジシャンを特殊召喚する!ガガガマジシャンの効果!1ターンに1度、自身のレベルを1から8に変更出来る!私はガガガマジシャンのレベルを4から3に変更する!」

 

遊馬の墓地からガガガマジシャンを蘇らせてレベルを変更し、そこから更に手札からモンスターを展開する。

 

「私は『ズババナイト』を召喚!更にレベル3のモンスターの召喚に成功した時、手札から『影無茶ナイト』を特殊召喚!私はレベル3のガガガマジシャン 、ズババナイト、影無茶ナイトの3体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

レベル3のモンスターが3体が地面に吸い込まれ、光の爆発が起きると同時に漆黒の風が吹く。

 

「欺く風、騙す影よ!惑乱を巻き起こし、世界を掻き乱せ!!」

 

漆黒の風が無数の黒いカードになり、それが集まって人型になっていく。

 

「現れよ!『No.75 惑乱のゴシップ・シャドー』!!」

 

現れたのは漆黒のカードが人型に集まり、左胸に赤い『75』の刻印が浮かび上がったモンスター。

 

ゴシップ・シャドーはその不気味な見た目に反して仲間のナンバーズの力を高める能力を持つ。

 

「ゴシップ・シャドーの効果!1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのナンバーズを対象として発動出来る!このカードをそのナンバーズの下に重ねてオーバーレイ・ユニットにする!ゴシップ・シャドーよ、ホープ・カイザーの力となれ!オーバーレイ・シャドー・リロード!!」

 

ゴシップ・シャドーは回転して漆黒のカードから光の球体になると、そのままホープ・カイザーのオーバーレイ・ユニットになる。

 

「更に!ゴシップ・シャドーにオーバーレイ・ユニットがある場合、それらも全て対象ナンバーズのオーバーレイ・ユニットにする!!」

 

ゴシップ・シャドーが所有していた3つのオーバーレイ・ユニットがホープ・カイザーに追加される。

 

「これでホープ・カイザーのオーバーレイ・ユニットは合計6つだ!」

 

「すげぇ!一気にオーバーレイ・ユニットが増えたぜ!!」

 

「これでホープ・カイザーの効果で一気に私の盤面を整えられる。よし……行くぞ!私はホープ・カイザーの効果発動!!」

 

準備が整ったアストラルは5枚のナンバーズを取り出し、上に向けて投げ飛ばす。

 

ホープ・カイザーの体が輝き、背後にアストラル語とナンバーズの刻印が描かれた魔法陣が浮かび上がる。

 

「私のフィールドに5体のナンバーズを呼び出す!ナンバーズ・アッセンブル!!」

 

今のアストラルのフィールドはモンスターが存在しない。

 

つまり、ホープ・カイザーの効果で5体のナンバーズを一気に呼び出すことが出来る。

 

アストラルは陸と空の両方から攻められるようにナンバーズを選ぶ。

 

「灼熱の炎を纏いて駆け抜けろ!『No.14 強欲のサラメーヤ』!!」

 

最初に現れたのは炎を纏う三つ首の犬のモンスターで大地を駆け抜けながら灼熱の炎を口から溢れ出させる。

 

「サラメーヤ……!?」

 

サラメーヤとはインド神話に登場する死者を導くヤマ神に従う4つの目を持つという犬。

 

インド神話の冥界の番犬の登場にカルナ達は驚いた。

 

「眠りし大地と海の力が紡がれしとき新たな命の光が噴出する! 『No.37 希望織竜スパイダー・シャーク』!!」

 

大海が広がり、そこから水飛沫を上げて飛び出したのは蜘蛛の要素を持つ巨大な白い鮫。

 

「我が記憶に眠る二つの希望!その希望を隔てし闇の大河を貫き今その力が一つとなる! 『No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー』!!」

 

早朝で朝日が登ったばかりにも関わらず空が瞬く間に銀河の星々が輝く夜に変わり、そこから鎧に包まれた銀河の巨龍が姿を現す。

 

「トロン!君の力を使わせてもらう!紋章を司る荒ぶる神よ!その身に宿す大いなる怒りを解放せよ!『No.69 紋章神(ゴッド・メダリオン)コート・オブ・アームズ』!!」

 

上空に巨大な紋章が魔法陣のように展開され、そこからトロンの憎悪と復讐の化身である荒ぶる神が降臨する。

 

「そして、シャーク!君の真の力も借りる!満たされぬ魂を乗せた方舟よ、光届かぬ深淵より浮上せよ!『No.101 S・H・Ark Knight』!」

 

スパイダー・シャークが生成した海から怒り、嘆き、悲しみを背負った魂を守護する巨大な箱舟が浮上する。

 

アストラルのフィールドに強力な5体のナンバーズが一気に召喚された。

 

これで遊馬とアストラルのフィールドを合わせて合計10体のナンバーズが集結した。

 

『No.6 先史遺産アトランタル』

 

『No.9 天蓋星ダイソン・スフィア』

 

『No.14 強欲のサラメーヤ』

 

『No.37 希望織竜スパイダー・シャーク』

 

『No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー』

 

『No.40 ギミック・パペット - ヘブンズ・ストリングス』

 

『No.69 紋章神コート・オブ・アームズ』

 

『No.93 希望皇ホープ・カイザー』

 

『No.101 S・H・Ark Knight』

 

『FNo.0 希望の守護者 マシュ・ホープライト』

 

豪華絢爛でアストラルが昨日言った怪獣映画やSF映画に登場しても不思議ではない巨大な体を持つナンバーズの面々にマシュは場違いな感じがしてかなり焦った。

 

「あ、あの……これは私がかなり場違いに感じるのですが……」

 

「そんな事はねえよ。マシュのお陰でホープ・カイザーを呼べたんだから場違いなんかねえって」

 

「その通りだ。それに、今のマシュにはホープ達の力が集まっている。臆することは無い。もっと堂々と胸を張るんだ」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

「では、次は私のバトルフェイズだ。これでケルト軍を追い詰めていく!」

 

アストラルは呼び出した5体のナンバーズで総攻撃を仕掛ける。

 

「行け、サラメーヤ!ヘル・フレイム・ファング!!」

 

サラメーヤは灼熱の炎を牙に纏わせて噛み砕く。

 

「スパイダー・シャーク!スパイダー・トルネード!!」

 

スパイダー・シャークの口から海水が含まれた凄まじい旋風が吹く。

 

「タイタニック・ギャラクシー!破滅のタイタニック・バースト!!」

 

タイタニック・ギャラクシーの口から銀河の力を秘めた竜の咆哮が轟く。

 

「コート・オブ・アームズ!ゴッド・レイジ!!」

 

コート・オブ・アームズから禍々しい赤い光が天に登ると、そこから文字通り神の怒りの如き邪悪な力を秘めた光の束が降り注いだ。

 

「S・H・Ark Knight!ミリオン・ファントム・フラッド!!」

 

戦艦のS・H・Ark Knightから無数の紫色のレーザービームが放たれる。

 

アストラルが呼び出したナンバーズにより、ケルト兵が一気に消滅していく。

 

 

ホープ・カイザーによるナンバーズ・アッセンブルのナンバーズ大量召喚と一斉攻撃によるケルト兵の殲滅戦。

 

その想像を絶する光景にかっとび遊馬号で待機していた小鳥達は驚愕していた。

 

「凄い……!こんなにも沢山のナンバーズが一度に集結するなんて……!」

 

小鳥はこれほどまでにナンバーズを大量召喚したことに驚愕と同時に興奮を隠せなかった。

 

「な、何よ、これ……?まさか、神々の黄昏でも始まろうとしているの……!?」

 

オルガマリーは口をあんぐりと開け、アメリカ大陸に起きている巨大ナンバーズ達の進軍に北欧神話の終焉の話である世界の滅亡、神々の黄昏が始まろうとしているのかと見間違えるほどだった。

 

遊馬とアストラルが繰り出してきたナンバーズの活躍にはいつもカルデアから映像越しに見て度肝を抜いていたが、今回はスケールの大きさに白目を剥いて倒れかけるほどの衝撃だった。

 

「これが遊馬とアストラルの新しい希望皇の力か……ヤバイわね」

 

「ええ……底が知れないほどの強大な力……まだまだ私たちの知らないお二人の力……」

 

「流石はユウマとアストラル!もしもホープ・カイザーがローマで出たら……うむ、両軍の混乱は凄まじかっただろうな」

 

「いやー、無理無理。あんなのを出されたら私は絶対に勝てないわ……」

 

「本当にいつもいつも遊馬とアストラルには驚かされるね……」

 

レティシア、清姫、ネロ、エリザベート、武蔵はホープ・カイザーの能力に驚愕し、唖然としていた。

 

「これがユウマ様とアストラル様のホープ・カイザー……!まさに上に立つ皇そのもの……!」

 

「この力ならケルト軍の兵士とサーヴァントを凌駕出来ますね……!」

 

ラーマとシータは誰よりも感動し、興奮して震えていた。

 

自分達は本当に素晴らしいマスターに救われ、仕えることが出来たと……。

 

「あ、あれだけ苦労していたケルト兵があんなにも簡単に……!?これがあの二人の真の力なのか!?」

 

「凄いわ……あのナンバーズ達からも大きなマハトマを感じるわ!ユウマの体も調べてみたいけど、ナンバーズも調べてみたいわ!」

 

「──あれだけの勢力······いや、威力からの破壊と脅威か······だがこれほどこの時代に似つかわない巨大で強大すぎる力、これはまさに神話の戦いを連想させる······」 

 

エジソンはあれだけ悩ませていたケルト兵を一掃していくナンバーズに誰よりも戦慄し、エレナは魔術師の血が騒いで調べてみたいと興奮し、カルナはナンバーズの力の大きさに額に汗が流れるほどの緊張感を抱いた。

 

「異世界の精霊がこれほどの力を持つとは驚きだ……」

 

「もう驚き過ぎて現実逃避をしたくなっちまうよ……」

 

「もはや俺たちでは太刀打ち出来ないほどのマスターだね……」

 

ジェロニモ、ロビンフッド、ビリーは余りにも自分達の戦いの次元が違い過ぎて呆れ果てていた。

 

「ふふふ、ははっ、あはははははっ!これが私のマスター、ユウマとアストラルの真の力……否、力の一片か!久々に昂るぞ……あの巨人達と一戦交えたいぞ!!」

 

「おい師匠……興奮するのは構わねえが自分の役割を忘れるな。ってか、あんたはそうやって戦いまくったから不老不死になったんだろうが……」

 

スカサハはもしも今が緊急の戦いでなければホープ・カイザー達と一戦交えたいと槍を握りしめながら興奮し、クー・フーリンは相変わらずな自分の師匠に呆れ果てた。

 

 

ホープ・カイザーが歩を進める中、アストラルは近づく気配に気付く。

 

「遊馬、サーヴァントだ」

 

「来やがったか……マシュ!」

 

「はい!」

 

遊馬達はホープ・カイザーから地上に降りると、二人のサーヴァントが姿を現す。

 

「早速来たか、フィン!ディルムッド!」

 

ケルト軍から先発して来たのはフィンとディルムッドの二人。

 

二人はホープ・カイザー達の進軍に驚きながらも遊馬達を最優先の敵として見る。

 

マシュが盾を構えながら遊馬の前に立つと、フィンは目を見開いてマシュを見つめた。

 

「マシュ殿……!?おお、少し見ない間に美しくなったな……!ますます君を私の嫁にしたくなった!」

 

フィンはランクアップして成長したマシュの姿を見てその可憐な美しさに惚れ込み、ますます嫁にしたい気持ちが強くなった。

 

「お断りします。私には守らなければならない大切な人がいますから」

 

しかしマシュは即答で断り、腰からホープ剣を引き抜いて構え、切っ先をフィンに向ける。

 

「あなたを……倒します!遊馬君のデミ・サーヴァント、希望の守護者の名に懸けて!!」

 

その凛とした態度にフィンは気に入り、槍の矛先をマシュに向ける。

 

「ふっ……ならば、ケルトの戦神ヌァザの末裔!栄光のフィオナ騎士団の長の名に懸けて君を倒し、嫁として手に入れよう!!」

 

「……それなら、一つ賭けをしませんか?」

 

「賭けだと?」

 

「もしも、仮に私が負けたら私の身を捧げましょう。その代わり、私が買ったらディルムッドさんの身柄をこちらに引き渡してください」

 

「マシュ!?」

 

「マシュ殿!?」

 

マシュは自らを賭けの対象にして勝利した暁にはディルムッドをカルデアに戻そうとしている。

 

「ほう、自分の身と私の部下の身を賭けるか!」

 

「ディルムッドさんはケルト軍が召喚したサーヴァントですが、元々私達カルデアが召喚していたサーヴァントです。だからこそ、取り戻します」

 

「……良いだろう、その覚悟に免じてその提案を受け入れよう」

 

「王!?いけません、俺も一緒に──」

 

ディルムッドがフィンと共に戦おうとしたその時……五つの影がディルムッドを囲んだ。

 

「なっ!?」

 

「マシュの邪魔するんじゃ無いわよ、色男」

 

「大人しくした方が良いですよ?」

 

「暇なら余達の歌でも聞くかの?」

 

「とりあえず黙って痺れて貰おうかしら?」

 

「私達五人を相手にするんだから下手に動かない方が賢明よ」

 

それはかっとび遊馬号から降りてきたレティシア、清姫、ネロ、エリザベート、武蔵の5人だった。

 

フィンとディルムッドが現れて急いで加勢に来たが、マシュの覚悟に応え、敢えて手を出さずにディルムッドを抑えることにした。

 

「ディルムッド、そこで見ていろ。私がマシュに勝つ姿をその目に焼き付けておくんだ。しかし、そんなにも沢山の美女達に囲まれて羨ましいな。はっはっは!」

 

「お、王!!?」

 

フィンはレティシア達に囲まれているディルムッドを弄り、笑いながら槍を構えるとすぐに真剣な表情をする。

 

「さあ、行くぞ……マシュ殿!」

 

「はい……!」

 

カルデア連合軍とケルト軍の初のサーヴァント戦、マシュとフィンの戦いが始まる。

 

「行きます!遊馬君!」

 

「ああ!俺のターン、ドロー!装備魔法『最強の盾』をマシュに装備!頼むぜ、マシュ!!」

 

「はいっ!!」

 

歪な形をした盾が回転しながら飛び、十字の盾に入り、その力を最大限に高める。

 

「装備モンスターの攻撃力は、その元々の守備力分アップする!マシュの攻撃力は2500+3000で合計5500!マシュでフィンに攻撃!!」

 

マシュの真紅の瞳が輝き、脚に力を込めて地を蹴ると一気にフィンの間合いに入り、ホープ剣と盾を振るう。

 

ここで展開されたフィールド魔法の効果が発動する。

 

「フィールド魔法、エクシーズ・テリトリーの効果!モンスターエクシーズがモンスターと戦闘を行うダメージ計算時のみ、攻撃力と守備力がランクの数×200ポイントアップする!マシュのランクは5!攻撃力は1000ポイントアップする!合計6500だ!!」

 

最強の盾とエクシーズ・テリトリーでマシュの力が高まり、一気にフィンを攻める。

 

マシュの手から盾が離れて宙に浮き、高速回転して飛ぶ。

 

もう一つのホープ剣を空いた手で抜き、両手で二刀流のホープ剣を操り、高速回転する盾が自分の意思で動くようにマシュをサポートする。

 

「これは……!?」

 

フィンは槍を振るい、マシュの攻撃を必死に捌くが初めて出会った時とはまるで別人のように違っていて驚愕を隠せない。

 

一人……否、まるで複数の戦士を同時に相手しているような激しい攻撃に歴戦の騎士のフィンすらも圧倒される。

 

盾がフィンの槍を押さえ込み、その一瞬の隙を突いてマシュがホープ剣を振り上げる。

 

「しまっ──」

 

「ホープ剣・スラッシュ!!」

 

ホープ剣がフィンの肩から胴体に掛けて思いっきり斬った。

 

しかし、僅かに踏み込みと距離が甘く、仕留めることはできなかった。

 

フィンは盾を振り払ってその場から下がり、傷口を手で押さえる。

 

「まさかここまでの力とは……!だが、私もこのまま負けるわけにはいかない!」

 

フィンは腰につけた水袋を取り出すと、紐を解いて開けて中に入った水をそのまま傷口に掛けた。

 

すると、傷が瞬く間に癒されていき、完全に塞がった。

 

「回復系の宝具ですか……」

 

「その通りだ」

 

フィンの二つ目の宝具『この手で掬う命たちよ(ウシュク・ベーハー)』。

 

フィンの手で掬った水は、尽く癒やしの力を得るという逸話そのものが宝具となったもので、どんな水でも「両手で掬えば」たちまち回復効果のある水となる。

 

人間や英霊が負った傷や毒を癒すことが出来、普段はその水を水袋に入れている。

 

残った水をフィンは飲み干して心身共に回復し、空の水袋を捨てると親指を口に含んで噛んだ。

 

数秒後、指を口から離すと同時に槍を構え直した。

 

「……あまり長引かせる訳にはいかないな。私の最大の力で決めさせてもらう!!」

 

今の行動に遊馬達は不可解な点を覚えるが、実はこれがフィンの三つ目の宝具『親指かむかむ智慧もりもり(フィンタル・フィネガス)』。

 

叡智を与える鮭の逸話が宝具となったもので、フィンの親指には鮭の脂がついたため、舐めるとあらゆる謎を解き明かす大いなる叡智を得る。

 

これによりフィンはあらゆる情報や状況等を整理して「最善の答え」を導き出すことが出来る。

 

フィンから魔力が爆発的に迸り、遊馬はデュエルディスクを構え、マシュもホープ剣を構える。

 

親指かむかむ智慧もりもりで導き出した最善の答え、それは宝具の真名解放による最大の攻撃。

 

現状では前回のような逃走も不可。

 

戦い、勝利するしか道は無い。

 

「マシュ殿、これが私の最後の攻撃だ!これで決めさせてもらう!!」

 

「フィンさん……遊馬君、お願いします」

 

「ああ……俺のターン、ドロー」

 

フィンの覚悟を決めた表情にマシュと遊馬は頷く。

 

「勝利の方程式は全て揃ったな」

 

「そうだな。マシュ……行くぜ」

 

「はい!」

 

遊馬がドローしたのはこの一騎打ちの最後を彩るに相応しいカードだった。

 

そして、マシュが地を蹴って走ると同時にフィンは槍を振り回して宝具の真名解放し、全ての力を解き放つ。

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃──その身で味わえ。 『無敗の紫靫草』!!」

 

魔法の槍から戦神ヌアザが司る水の激しい奔流が現れ、それが人を簡単に呑み込むほどの巨大な津波となってマシュに襲いかかる。

 

「でっけぇ津波だな!」

 

「遊馬、マシュの効果と手札のあのカードを使え!」

 

「ああ!マシュの効果!モンスターの攻撃を無効にする!ムーン・バリア!!」

 

「力を貸してください……希望皇ホープ!」

 

オーバーレイ・ユニットが盾に取り込まれるとマシュの前に希望皇ホープの幻影が現れ、左翼を半月の形に変形させてマシュとフィンの攻撃を無効にする。

 

ランクアップしたことでマシュは希望皇ホープの力を受け継ぎ、攻撃無効のムーンバリアを使う事が可能となったのだ。

 

「これは……!?」

 

「マシュ!ホープの力を受け継いだお前と俺の必殺コンボ、行くぜ!!」

 

「はい!マシュビングです、私!」

 

「かっとビングだ、俺!手札から速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』を発動!モンスターの攻撃が無効になった時、攻撃力を2倍にしてもう一度攻撃出来る!」

 

遊馬とアストラルの必殺コンボカード『ダブル・アップ・チャンス』の効果がマシュに与えられ、その力が極限にまで高められる。

 

マシュの今の攻撃力は5500でダブル・アップ・チャンスの効果で2倍となり、5500×2で11000。

 

「更にエクシーズ・テリトリーの効果で更に1000ポイントアップし、マシュの攻撃力の合計は12000だ!!」

 

マシュの体から膨大な魔力が迸り、金色のオーラが放たれる。

 

金色のオーラが希望皇ホープと未来皇ホープの幻影となり、それぞれがホープ剣を構える。

 

「何と凄まじい力の波動……!これが君達の本当の力か……!?くっ、うぉおおおおおっ!!!」

 

フィンは遊馬とマシュの紡いだ絆の力に嫉妬して唇を噛みながらも槍を再び振るい、水の奔流を繰り出す。

 

希望皇ホープと未来皇ホープの幻影はホープ剣を振るい、奔流を薙ぎ払ってフィンまでの一本道を作る。

 

マシュは双翼を展開して滑空し、風の如く一気に駆け抜ける。

 

そして、マシュのホープ剣の刃が金色に輝き、真紅に染まった瞳が美しく煌めく。

 

「「ホープ剣・カルデアス・スラッシュ!!!」」

 

十字に放ったホープ剣がとっさに防御したフィンの槍ごと斬り裂き、フィンにこれまでにないほどの強烈な大ダメージを与え、フィンは地面に転がる。

 

「クッ……!!」

 

フィンは起き上がろうとするが既に限界を迎え、その体が光の粒子となって消滅していく。

 

「王……!ぐ、ダメか……」

 

「はは……まあ、仕方あるまい。いやいや、存分に戦った。戦い尽くした。ディルムッド、命令だ……カルデアに戻るが良い」

 

フィンはディルムッドに王として最後の命令を下した。

 

「王……!?しかし……」

 

「お前と共に戦えた。ただ純朴に、貪欲に、勝利を求めた。私は満足だ……実際のところ、マシュ殿を得られなかったのは残念だが……まあ良い。ディルムッド、お前の新たな主の元へ戻れ。その槍で少年たちの歩む道の先にある災厄を切り開け!!」

 

「はっ……!」

 

ディルムッドは唇を噛み締めてその場で跪き、頭を深く下げて頷いた。

 

「さらばだ、秩序の守り手たちよ!縁があればまた会うこともあるだろう!」

 

フィンは敵ながらも晴れやかな笑顔を見せながら消滅した。

 

消滅した跡からフェイトナンバーズが落ち、アストラルが回収するとそのまま遊馬に手渡す。

 

「……ディルムッド、カルデアに帰ったら必ずフィンを召喚するから待っててくれ」

 

「マスター……お気遣い、感謝する」

 

ディルムッドは軽く涙を流し、腕で涙を拭ってから遊馬に向かって跪く。

 

「ディルムッド・オディナ……これよりマスターユウマのサーヴァントとして槍を振るいます」

 

フィンの最後の命令を聞き、それを実行するために遊馬に了解を求める。

 

「ああ。改めてよろしく頼むぜ、ディルムッド。おかえり……」

 

「はい……!」

 

遊馬はディルムッドと握手をして再契約を交わし、ケルト軍から脱退してカルデア連合軍に属することになった。

 

「これでケルト軍の残りのサーヴァントは4人か……」

 

「数はこちらが圧倒的有利だが、まだまだ油断は出来ない」

 

「でも、今の私達なら……負ける気がしません!」

 

「フォウフォーウ!」

 

ランクアップした事で以前よりも自信がついたマシュの言葉に遊馬達は同意するように頷く。

 

「よし、早いところ敵のボスのメイヴとクー・フーリン・オルタとの顔合わせと行こうか!」

 

「そうだな。来い、S・H・Ark Knight!」

 

方舟であるS・H・Ark Knightを呼び出し、遊馬達は乗り込んでナンバーズの進軍を再開する。

 

 

 




ナンバーズ軍団の大進軍、これ魔術世界的には白目になりますよね。

次回は本格的な神話大戦が開幕する予定です。
アルジュナとの会話、色々大変になるかもしれないので時間がかかります。


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ナンバーズ134 カオスナンバーズ軍団と希望の星域

十二月は色々忙しかったり、体調が悪くなったり大変です。
何とか今年末までにはアメリカ編を終わらせるよう頑張ります。


ケルト軍の総本部……ホワイトハウスに一組の男女がいた。

 

一人は白を基調としたドレスを纏い、頭に王冠を被り、鞭を持った少女……第五特異点の元凶、ケルト軍の首魁、女王メイヴ。

 

もう一人はフードを被り、体に不気味な刺青が刻まれ、その手には魔槍ゲイ・ボルグを持つメイヴが望んだ邪悪な王のクー・フーリン……またの名をクー・フーリン・オルタ。

 

二人は伝令兵から連絡を受けてこれまでにないほどに戦慄した。

 

一つ目はアメリカがレジスタンスと世界最後のマスターと同盟を組み、カルデア連合軍を結成した。

 

二つ目はカルデア連合軍を結成したことにより、ケルト軍の何十倍ものサーヴァントの数が揃った。

 

三つ目は先発したフィンが倒れ、ディルムッドがカルデア連合軍の捕虜となった。

 

そして、四つ目……見たことない巨人や怪物達が現れて進軍し、ケルト兵達を一気に殲滅していく。

 

「そんな……私が産んだケルト兵が一気に倒されていくなんて……」

 

メイヴは圧倒的有利だと思っていたケルト軍が僅かな時間でそれが逆転し、覆されてしまった。

 

その事が信じられず頭を抱えて悩んだ。

 

「こいつは想定外だ。まさか、世界最後のマスターがこんな大魔術を繰り出すとはな……」

 

クー・フーリン・オルタも想定外の事態に多少は驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻す。

 

「……何て面をしてやがる」

 

「……えっ?」

 

「それでもてめぇはコノートの女王、メイヴか?この俺を呼び出した女がそんなちんけな面をするんじゃねえ。女王ならもっと堂々としろ」

 

クー・フーリン・オルタは槍を振り回して肩に担ぐと真剣な眼差しでメイヴを見つめる。

 

「メイヴ、全力を投入するぞ」

 

「王様……!?」

 

「全てのケルト兵を戦場に出せ。全てオレが殺す」

 

「っ!?ま、待って!あっちにはまだこっちも把握していない沢山のサーヴァントに、あなたの師匠のスカサハ。それに……あなたじゃない、もう一人のクー・フーリンがいるのよ!?」

 

「関係ねえ。オレはサーヴァントを手当たり次第にブチ殺す。そして、あの巨人共を操る世界最後のマスターを殺せば全てが終わる。簡単な話だ……」

 

クー・フーリン・オルタは不敵な笑みを浮かべた。

 

戦いを求めるために、全てを葬るために戦場へ向かおうとするその姿にメイヴは思わずクー・フーリン・オルタの手を掴む。

 

「ま、待って!一人じゃ……」

 

メイヴは死地に向かうクー・フーリン・オルタを止めようとした。

 

しかし、クー・フーリン・オルタはメイヴの手を払い、言葉を掛けた。

 

「オレは国家を成立させるための機構だ。敵対する者を殺戮する武器に徹する」

 

「……分かったわ。もう止めない。行ってらっしゃい、王様」

 

メイヴはクー・フーリン・オルタを見送り、その背中を目に焼き付けた。

 

「ふふふ、ふふふ、ふふふふふ!世界で一番王様らしくない王様。国を統べる気がないクセに国を作る事だけに専心する。だから負けない。敵対した者を必ず殺す。敵対者がいなくなれば、やがて味方を殺すかも」

 

クー・フーリン・オルタの王としての矛盾としたその生き様。

 

しかし、それこそがメイヴが望んだクー・フーリンの理想の姿である。

 

「……もしかすると、私はそれこそを望んでいるのかもしれないわ。あなたという王様が、この世界の何もかも無茶苦茶にするのを。まったく平等に、その死棘の槍(ゲイ・ボルグ)で殺し尽くす様を。ああ、正義と奇跡を信じる人たち──早く来て!無様に殺してあげるから!」

 

メイヴは改めてクー・フーリン・オルタに惚れ込み、うっとりと心と体を熱く火照させる。

 

そして、これから対峙するであろう世界最後のマスターとそれに従うサーヴァント達を今か今かと待つ。

 

 

フィンを撃退し、ディルムッドと再契約を交わした遊馬達はS・H・Ark Knightの上に乗って進軍を再開した。

 

遊馬達はD・ゲイザーの望遠機能で周囲を見渡して警戒すると、ケルト兵の中に一際オーラの違う存在を見つけた。

 

褐色の肌に白い衣装を着た弓を持つ青年。

 

レティシアに確認してもらったところ、その青年はサーヴァントだと確定した。

 

「間違い無いわね。あいつはカルナの宿敵、アルジュナよ……」

 

アルジュナ。

 

インドの叙事詩『マハーバーラタ』の大英雄。

 

授かりの英雄の二つ名を持つ弓の名手。

 

「すぐにカルナに連絡を──」

 

「その必要は無い」

 

「え?どわぁっ!?い、いつの間に!?」

 

かっとび遊馬号に待機していたはずのカルナがいつの間にか遊馬達の背後に現れていた。

 

「アルジュナの気配を感じて船から降りてきた。オレもアルジュナも、この戦に抑えきれない葛藤もある。──故に、アルジュナとは……オレが戦わなければならない」 

 

「行くんだな?」

 

「ああ。すまない、戦いに個人的な感情を持ち込んでしまって……」

 

「気にすんなって。アルジュナが強えサーヴァントならそれに匹敵する相手で抑えないといけないからな。でも、行くからには絶対に勝てよ!」

 

遊馬はカルナに向けて拳を向け、必ず勝つと約束させる。

 

「……承知した、マスター」

 

カルナは笑みを浮かべ、自らも拳を作って遊馬の拳とぶつけ合う。

 

そこにかっとび遊馬号から二つの影が降り立つ。

 

「カルナ君よ、いよいよ宿敵との決戦だな!君の全てを相手にぶつけるのだ!」

 

「カルナ、必ず勝ってね。負けたら承知しないからね!」

 

それはこの特異点でカルナと付き合いの長かったエジソンとエレナだった。

 

「エジソン……エレナ……分かった。この世界で共に戦ったお前達の為にも必ず勝つ……!」

 

カルナはエジソンとエレナのエールを受け、槍を強く握り締めてアルジュナの元へ飛んだ。

 

遊馬達は引き続きケルト兵を倒していくが、それだけではなくワイバーンや巨龍などのモンスターも現れた。

 

ナンバーズ軍団で襲いかかって来る竜種を次々と薙ぎ払っていると……。

 

ゴォオオオオオン……!!!

 

まるで天変地異が起きたような轟音が鳴り響き、遊馬達がいる場所から何十キロも離れた場所で大爆発が起きた。

 

大地が抉れ、空気が燃え上がり、激しい衝撃波が轟く……その中心にいるのがカルナとアルジュナである。

 

今まで特異点で数多くのサーヴァントの戦いを見てきたが、これはそれを遥かに凌駕する神々の戦いだった。

 

「うわぁ……これがインド神話出身のサーヴァントのガチバトルかよ。無茶苦茶だぜ……」

 

「ああ。私達のナンバーズを駆使してまともにやりあえるかどうか……」

 

遊馬とアストラルはカルナとアルジュナのあまりにも凄まじい戦いに圧倒される。

 

しかし、レティシアは大きなため息をついて冷めた目で二人を見る。

 

「何を馬鹿なことを言ってんのよあんた達。確かにあの二人の戦いは凄いけど、あんた達もやろうと思えば普通にやりあえるでしょうが」

 

「「「うんうん」」」

 

レティシアの意見に同意するかのようにマシュ達が同時に頷く。

 

神々の黄昏を連想させるホープ・カイザー達、ナンバーズ軍団でケルト兵を蹴散らしている時点で普通に遊馬達も神々の戦いにガチで渡り合えるレベルである。

 

そうかなと内心不安に思う遊馬とアストラルを他所にかっとび遊馬号から残りのサーヴァント達が一斉にS・H・Ark Knightに降りて来た。

 

「みんな、どうしたんだ?」

 

「何か嫌な予感がしてな。もしもの時のために飛行船から降りてきたんだよ。オレの偽物がまだ出て来てねえからな……」

 

クー・フーリンはクー・フーリン・オルタを警戒するが、今のところ現れる気配が無い。

 

あまりにも相手の動きが静かで不気味過ぎる……何かが起きても最低でもマスターの遊馬を守れるようにクー・フーリン達は遊馬達の側にいる事にした。

 

しばらくすると、カルナとアルジュナの戦いに決着が着こうとした。

 

互いの実力はほぼ互角だが、僅かにカルナが上回っていた。

 

このまま行けばカルナが勝利する。

 

クー・フーリンなどの百戦錬磨のサーヴァント達はそう確信した──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

「──『抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルグ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禍々しい真紅の光が飛び散り、次の瞬間に遊馬達の目に映ったのは……。

 

「カルナ……?」

 

それは……アルジュナに最後の攻撃をしようとしたカルナの胸に真紅の槍が突き刺さった光景だった。

 

「悪く思うな、施しの英雄。何しろこいつぁ、ルール無用の殺し合いでね」

 

そして、カルナとアルジュナの近くに現れたのは……不気味な刺青を体中に刻み、フードを被ったアルスター伝説の勇士。

 

メイヴが聖杯によって邪悪な王として召喚された最強最悪のケルト戦士──クー・フーリン・オルタだった。

 

「──っ!?カルナァッ!!」

 

「S・H・Ark Knight!カルナの元に!」

 

アストラルはS・H・Ark Knightを全速力で発進してカルナの元へ向かった。

 

クー・フーリンとスカサハはすぐにクー・フーリン・オルタの元へ飛び、遊馬達は倒れているカルナに駆け寄る。

 

「カルナ君!しっかりするのだ、カルナ君!!」

 

「カルナ、死んじゃダメよ!必ず勝つって私たちに約束したじゃない!!」

 

エジソンとエレナはカルナの深く傷ついた姿に涙を流して必死に声を掛ける。

 

「緊急治療を開始します!カルナ、しっかりしなさい!!」

 

ナイチンゲールはすぐにカルナの治療を開始する。

 

既にラーマの時にどうやって治療をすれば良いのか分かっているので出来るだけ効率よく、効果的な治療を行なってカルナの心臓を治していく。

 

一方、カルナとの一騎討ちを邪魔されたアルジュナは怒りの形相でクー・フーリン・オルタを睨み付ける。

 

「クー・フーリン……貴様……!!」

 

「──うるせえ。好き勝手に始めやがって。一騎討ちなんぞオレが認めたか?テメエの趣味に走るのは趨勢が決まってからだろうが。後ろから刺されなかっただけでも感謝してな、授かりの英雄」

 

「っ……!」

 

クー・フーリン・オルタはその気になればアルジュナすらも不意打ちで心臓を穿つ気でいた。

 

そんなクー・フーリン・オルタの凶行に二人のサーヴァントが前に出る。

 

「カルナとアルジュナ……互いが待ち望んでいた一騎討ちを邪魔するとはそこまで堕ちたか……」

 

「てめぇがもう一人のオレか……下らねえ真似をしやがって。良いぜ、ぶっ殺してやるから覚悟しな……!!」

 

スカサハとクー・フーリン……師弟の二人がクー・フーリン・オルタに対して怒りを込み上げながらそれぞれは真紅の槍を構える。

 

「はっ……上等だ、まとめて掛かってきな!」

 

クー・フーリン・オルタもやる気になった……その時だった。

 

「クー・フーリン、スカサハ師匠。悪いけど、最初に俺にやらせてくれるか?」

 

クー・フーリンとスカサハの間を遊馬が静かに歩いて前に出た。

 

「マスター、危ねえから下がって──ちっ、分かったよ。だがヤバくなったら俺が出るぜ」

 

クー・フーリンは遊馬を下がらせようとしたが、遊馬の顔を見てすぐにその意思を尊重した。

 

スカサハもすぐに遊馬の思いに気づき、無言で下がった。

 

今の遊馬は誰よりも冷静でありながら強い怒りに燃えていた。

 

カルナとアルジュナの一騎討ちに水を刺し、そして不意打ちでカルナを重症に負わせたクー・フーリン・オルタを遊馬は許せなかった。

 

クー・フーリン・オルタは臆する事なく堂々と対峙する遊馬を見て鼻で笑った。

 

「へぇ……お前が世界最後のマスターか。どんな奴かと思ったが、ただのガキじゃねえか」

 

「ただのガキかどうか……その目によく焼き付けろ」

 

次の瞬間、遊馬の体から真紅の光が溢れ出して無数の衝撃波を放つ。

 

「ガキ……何をするつもりだ?」

 

「決まってるだろ、てめえを……ぶっ飛ばす!!」

 

遊馬はクー・フーリン・オルタに啖呵を切ってデッキトップに指を置く。

 

「何だ……?あの、光は……!?」

 

アルジュナはその光に共鳴するかのように自分の中にある『何か』を押さえつけるように胸元を強く掴んだ。

 

それは遊馬の持つ欲望……カオスの光。

 

クー・フーリン・オルタへの怒りが感情を爆発せずにそのままカオスの光となって遊馬の体から溢れ出ている。

 

「俺の……ターン!!」

 

遊馬は溢れんばかりのカオスの光をカードに込めながらドローする。

 

「行くぜ、マシュのオーバーレイ・ユニットになっているフォウの効果でデッキから2枚ドローして手札1枚を墓地に送る!そして、セットカードオープン!罠カード!『リサーガム・エクシーズ』!!」

 

遊馬が発動したのはアストラルのフィールドに召喚されているコート・オブ・アームズの最終形態の姿が描かれた罠カード。

 

「リサーガム・エクシーズはフィールドの全てのモンスターエクシーズの攻撃力を800ポイントアップする!更に、1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨て、自分フィールドのモンスターエクシーズ1体を対象として発動!その自分のモンスターと同じ種族でランクが1つ高い「CNo.」または「CX」1体を、対象のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する!俺は手札から『RUM - アージェント・カオス・フォース』を墓地に送る!」

 

遊馬はアージェント・カオス・フォースを使用出来るはずなのにわざわざリサーガム・エクシーズのコストとして捨てた。

 

アージェント・カオス・フォースをコストにしたのには理由がある。

 

リサーガム・エクシーズはランクアップマジックを捨てないとこの効果でランクアップしたモンスターエクシーズはエンドフェイズにエクストラデッキに戻ってしまう。

 

カオスナンバーズをフィールドに残す為に貴重なランクアップマジックを捨てたが、アージェント・カオス・フォースにはランクアップの他にもう一つ効果がある。

 

「俺はランク6のアトランタルでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!」

 

アトランタルが光となって天に上り、天空から中央にリングを付属した上下一対の岩石状の物体が現れた。

 

「降臨せよ!CNo.6!有限なる時空を破り、今、その存在を天地に刻め!『先史遺産(オーパーツ) - カオス・アトランタル』!!」

 

岩石が変形し、灼熱の炎をその身に宿した大地の巨人が降臨した。

 

カオス・アトランタルから熱気と共にカオスの力が溢れ出し、その場の空気を支配していく。

 

「この瞬間、墓地のアージェント・カオス・フォースの効果!自分フィールドにランク5以上のモンスターエクシーズが特殊召喚された時、デュエル中に1度だけこのカードを手札に加えられる!」

 

カオス・アトランタルがエクシーズ召喚された事で条件を満たし、墓地に捨てたアージェント・カオス・フォースが手札に戻る。

 

リサーガム・エクシーズでアージェント・カオス・フォースをコストにしたのはこれが狙いだったのだ。

 

ここから怒涛の連続ランクアップが始まる。

 

「行くぜ!俺は手札から『RUM - アージェント・カオス・フォース』を発動!自分フィールドのランク5以上のモンスターエクシーズ1体を対象として発動!そのモンスターよりランクが1つ高い「CNo.」または「CX」1体を、対象のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する!ランク8のヘブンズ・ストリングスでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

ヘブンズ・ストリングスが光となって天に昇り、光の爆発を起こし、無数の赤いの糸が降り注ぐ。

 

「現れろ、CNo.40!運命の糸を操る悪魔よ、人類の叡智の結晶にて再び蘇れ!『ギミック・パペット - デビルズ・ストリングス』!!」

 

天使の姿をした巨大人形が双身剣を持つ不気味な悪魔の巨大人形へと転身した。

 

2体目のカオスナンバーズの登場で膨大なカオスの力が更に周囲の空間に広がるが、遊馬の手は止まらない。

 

「まだまだぁっ!俺は更に手札から『RUM - バリアンズ・フォース』を発動!自分フィールドのモンスターエクシーズを1体選択して発動!そのモンスターと同じ種族でランクが1つ高い「CNo.」または「CX」1体を対象のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する!俺はランク9のダイソン・スフィアでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

ダイソン・スフィアが光となって天に昇り、光が紫色に輝く球体となり……天から宇宙へと上昇する。

 

紫色の球体がこの星……地球の周りを何度も周回して駆け抜ける。

 

駆け抜けた球体が宇宙の力を宿し、天空を覆う星が凶事の前兆と言われ、不吉を告げる妖星へと姿を変える。

 

「現れろ、CNo.9!天空を覆う星よ、森羅万象をその内に宿し、今ここに降臨せよ!『天蓋妖星(てんがいようせい)カオス・ダイソン・スフィア』!!」

 

現れたのは禍々しい五芒星を象った巨大な人工衛星。

 

巨大な人工衛星であるカオス・ダイソン・スフィアが天空に召喚されたことにより、更に膨大なカオスの力が広がる。

 

やがて、暗雲が広がり、青空が不気味な真紅の空へと変貌した。

 

「一緒に行くぜ!III!Ⅳ!V!これが誇り高きトロン三兄弟の想いが詰まったカオスナンバーズ達だ!!」

 

今ここに、III、Ⅳ、Vのトロン三兄弟のカオスナンバーズ達が怒涛の連続召喚を達成した。

 

「クー・フーリン・オルタ!このカオスナンバーズ達でお前を追い詰めてやるぜ!」

 

「ちっ……まさかこんな化け物共を呼び出すとはな!」

 

ケルト神話でも見た事のない未知なる化け物……モンスターの出現にクー・フーリン・オルタも僅かな動揺を見せる。

 

「デビルズ・ストリングスの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手フィールドのモンスター全てにストリングカウンターを置く!」

 

デビルズ・ストリングスは双身剣で自身の体にある弦を弾いて音を奏でると、クー・フーリン・オルタとケルト兵達にストリング・カウンターが置かれ、その体に無数の赤い糸のようなものが貫かれる。

 

しかし、糸に体を貫かれたクー・フーリン・オルタ達には痛みが無い。

 

「何だ……?お前、何をした……?」

 

「こうするんだよ!罠カード『ディメンション・ゲート』!その効果でデビルズ・ストリングスをゲームから除外!」

 

デビルズ・ストリングスの真上にワープゲートが現れ、デビルズ・ストリングスが吸収されてフィールドから異次元へと送られる。

 

「更に手札から速攻魔法『サイクロン』!フィールドの魔法・罠を1枚破壊する!ディメンション・ゲートを破壊し、ディメンション・ゲートが墓地に送られたことで除外されたデビルズ・ストリングスを特殊召喚する!」

 

デビルズ・ストリングスが再びフィールドに現れたことで、その真の力が発揮される。

 

「この瞬間、デビルズ・ストリングスの効果発動!特殊召喚に成功した時、フィールド上のストリングカウンターが乗っているモンスターを全て破壊し、自分はデッキからカードを1枚ドローする!」

 

「何だと!?」

 

「喰らえ、クー・フーリン・オルタ!メロディ・オブ・マサカ!!」

 

デビルズ・ストリングスが再び双身剣で体にある弦を弾いて別の音を奏でると、それが無数の闇の衝撃波となってストリングカウンターと共鳴してケルト兵達が次々と倒されていく。

 

クー・フーリン・オルタにも多大なダメージを与えるが……。

 

「痛えじゃねえか!癒しのルーン使わなかったら少しヤバかったな!」

 

クー・フーリン・オルタは癒しのルーンを使ってダメージを回復している。

 

しかしまだ全快には程遠く、今のうちに遊馬は残りのカオスナンバーズで追い詰めていく。

 

「かわされたか!だけど、デビルズ・ストリングスの効果で1枚ドローする。次はカオス・アトランタルの効果!このターン、相手に与えるダメージが0になるが、1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を選択し、攻撃力1000ポイントアップの装備カード扱いとしてこのカードに装備出来る!」

 

カオス・アトランタルは拳を突き上げてエネルギー波を放ち、クー・フーリン・オルタを吸収しようとするが……。

 

「ちっ、しゃらくせえ!」

 

クー・フーリン・オルタは治癒とは別のルーン魔術を使い、カオス・アトランタルに効力を与えた。

 

すると、カオス・アトランタルは自身の感覚を狂わされて効果発動が無効化されてその場に膝をついてしまった。

 

「カオス・アトランタルの吸収装備効果もかわされたか……!」

 

「それなら、バトルだ!カオス・ダイソン・スフィアで攻撃!」

 

「カオス・アトランタルの効果を使用したターン、相手にダメージを与えられない。だが、バトルは行うことは出来る!」

 

カオス・ダイソン・スフィアは天空を超えた宇宙空間に存在している。

 

これならクー・フーリン・オルタのルーン魔術もそこまでは届くことは無く、問題なくバトルを行える。

 

「カオス・ダイソン・スフィアの効果!このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずにそのモンスターをこのカードの下に重ねてエクシーズ素材とする事が出来る!」

 

妖星の名の通り、不気味な色彩で輝くカオス・ダイソン・スフィアから無数のレーザーが降り注ぐ。

 

「よく分からねえが、変なデカブツに喰われる訳にはいかねえな!!!」

 

クー・フーリン・オルタは魔力を爆発させて高く飛び、ゲイ・ボルグを構えて禍々しい真紅の光を放つ。

 

「まだ体は治り切ってねえが、出し惜しみはしねえ……ここで全員葬ってやるぜ!」

 

「セタンタ!私たちも行くぞ!」

 

「やられる前に、あいつの心臓を貰い受ける!」

 

クー・フーリン・オルタの宝具……ゲイ・ボルグが解放されればこの場にいる全員が全滅する可能性がある。

 

その前にスカサハとクー・フーリンが同時にゲイ・ボルグを放ってクー・フーリン・オルタを止める。

 

しかし、それよりも早く二人の前を一人のサーヴァントが飛び出す。

 

「私が、止めます!」

 

「マシュ!?」

 

「嬢ちゃん!?」

 

それは双翼を展開して高速で飛翔するマシュだった。

 

「私が……みんなを必ず守ります!!遊馬君!!!」

 

「ああ!行くぜ、希望の守護者 マシュの効果発動!モンスターの効果・魔法・罠が発動した時、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、その発動を無効にして破壊する!!」

 

「フォウさん、お願いします!」

 

「フォーウ!」

 

オーバーレイ・ユニットになっているフォウが使用され、丸い球体となって盾に吸収される。

 

これで遊馬とアストラルは強力なドローソースを失ったが、既に二人は手札補充と更なる強力なドローカードを確保したので、フォウは十分に役目を果たした。

 

元のフォウが遊馬の肩にポン!と現れてそのまま肩に乗り、盾から聖なる光が溢れ出す。

 

マシュの背中に装着されている未来皇ホープの機械の双翼が消え、代わりに純白の天使のような双翼が生える。

 

「これが、私の想いと魂の輝き!マシュビングです、私!!」

 

聖なる光がこの空間を支配し、真紅に染まった空が美しい黒の夜天の空へと変わり、無数の星々が美しい光を放って煌めく。

 

マシュが幼い頃から夢見ていたもの……それは『空』を見ること。

 

この星天はマシュの願いと夢が込められた、まさに理想の世界。

 

クー・フーリン・オルタはゲイ・ボルグの真名解放をし、全力で投げ飛ばす。

 

「抉り穿つ鏖殺の槍!!!」

 

放たれたゲイ・ボルグに対し、マシュは盾を振り上げて思いっきり振り下ろすと星天の星々の光が最高潮に輝く。

 

「希望の星域……ロード・カルデアス・サンクチュアリ!!!」

 

星々が天翔る流星群となり、北米の大地に降り注ぐ。

 

流星群の光はゲイ・ボルグの力を封じ込めて弾き飛ばし、更に流星群がクー・フーリン・オルタに襲い掛かる。

 

「バ、バカな!?グァアアアアアッ!??」

 

クー・フーリン・オルタは流星群を受けてその場から大きく吹き飛ばされた。

 

「オ、オレの槍が……ゲイ・ボルグの発動を完全に無効にしただと……!?」

 

クー・フーリン・オルタのゲイ・ボルグの全体に大きなヒビが入り、とても修復するのが難しいレベルだった。

 

宝具の発動さえも無効にし、遊馬とアストラルと仲間達を守護する。

 

これこそが希望の守護者へとランクアップしたマシュの力。

 

「これが……私と遊馬君とアストラルさんとの力の結晶です!!」

 

マシュは威風堂々と立ち、盾をクー・フーリン・オルタに向ける。

 

「ふっ……私でも勝てるかどうか難しいあいつにあれほどの痛手を与えたか。私の見込み以上だな」

 

スカサハはマシュは絶対に強くなると思った自分の目と勘は間違ってはいなかったと満足そうに頷く。

 

「やるじゃねえか、嬢ちゃん。初めて会った時とはまるで比べものにならねえほど強くなりやがって」

 

クー・フーリンは冬木で初めて会った時のことを思い出し、あれからよくここまで強くなったと感慨深いものを感じた。

 

一方、吹き飛ばされたクー・フーリン・オルタは自分の体に治癒のルーンを全力で施しているが、カオスナンバーズの効果に自身のゲイ・ボルグのダメージ、そしてマシュの流星群によってとてもすぐに回復出来るものではなかった。

 

「チッ……流石に喰らいすぎたな。帰って休ませてもらうぜ」

 

「……逃げても無駄ですよ、クー・フーリン・オルタ。どれほど猛ろうと、その傷は決して癒されない。貴方は、病気です」

 

ナイチンゲールはカルナの治療を行いながらクー・フーリン・オルタの受けた傷を見て瞬時に診察し、その狂った王としての在り方に病気だと告げた。

 

「……ハ。お前の言う通りだ、血塗れの聖女。オレが癒される日なんざ、永遠に来ねえだろうよ。倒れて朽ち果てるその日まで、オレは王であり続けるだけだ」

 

クー・フーリン・オルタはクー・フーリンとスカサハ、そして遊馬とアストラルとマシュを見つめて最後に告げる。

 

「──来るなら来い。ワシントンで戦ってやる」

 

それはクー・フーリン・オルタが遊馬達を己が倒すべき敵だと認めた証だった。

 

それを最後にクー・フーリン・オルタはその場から一瞬で消え去った。

 

「ワシントンか……」

 

「遊馬、そこにはメイヴもいる……いよいよ最終決戦だ」

 

アストラルは遊馬の隣に立ってそう告げる。

 

カルデア連合軍とケルト軍の戦いがいよいよ最終決戦に突入しようとしている。

 

しかし……。

 

「──待て」

 

「ん?何だよ、アルジュナ」

 

アルジュナは弓を下ろして遊馬に話しかけた。

 

「世界最後のマスター……名はなんという?」

 

「……俺は遊馬だ。九十九遊馬」

 

「ユウマ……君に一つ問う、何だあの力は?」

 

「あの力?」

 

アルジュナは敵でありながら遊馬にどうしても聞かなければならない事があった。

 

遊馬の体から溢れた真紅の光……ナンバーズをカオスナンバーズへと進化させた力。

 

欲望の力……カオス。

 

それはアルジュナにはあまりにも許せないものであった。

 

 

 




トロン三兄弟のカオスナンバーズ怒涛の連続召喚、やり遂げて満足です。
ぶっちゃけこいつらを相手にしたらクー・フーリン・オルタでも結構ダメージくると思ったので。
マシュの神宣効果でクー・フーリン・オルタに大ダメージ!
強くなったなと思います。

次回は皆さんお待ちかねだと思う遊馬とアルジュナの対話です。
アルジュナはカオス……欲望否定派ですからね。


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ナンバーズ135 原始から続く生きる力、カオス

今年の年末はいつも以上に忙しくて更新が遅れました。
お待たせしてしまってすいません。

今回は遊馬とアルジュナの対話です。
ぶっちゃけかなり難しかったです。
アルジュナの設定とか色々難しかったというか面倒な奴なのでこれで合っているかどうか微妙なのでもし何か不備があったら是非とも指摘をお願いします。


狂王、クー・フーリン・オルタを退けたのも束の間、急いでケルト軍の本拠地であるワシントンに向かう前に授かりの英雄・アルジュナに呼び止められた。

 

アルジュナは遊馬が使った力について聞きたいことがあるらしい。

 

「力……?もしかして、カオスの事か?」

 

「カオス……?」

 

遊馬は右手をカオスの力を再び宿し、真紅に輝かせてアルジュナに見せる。

 

「カオスは俺たちの世界では欲望の力をそう呼んでいるんだ」

 

すると、アルジュナは顔を歪めて声を震わせた。

 

「欲望の力だと……!?それがこの魔物達に、狂王……クー・フーリンを追い詰めるほどの力を与えたのか……!?」

 

「逃げられちまったけどな……でも、次こそは絶対にクー・フーリン・オルタを必ず倒す!」

 

「ふざけるな……」

 

「え?」

 

「ふざけるな!欲望の力だと!?カオスだと!?世界最後のマスターが……人類と世界の未来を救う勇者が、そんな力を使うなど……あってはならない!!」

 

冷静な雰囲気を漂わせていたアルジュナが突然声を荒げてカオスを強く否定して弓を遊馬に向けた。

 

すると、ラーマが遊馬の前に出て剣を構え、シータは遊馬の隣で弓を構えた。

 

「アルジュナよ……我らがマスター、ユウマ様に手出しはさせない!!」

 

「その弓を下ろしてください。アルジュナ様、貴方ほどの英雄がユウマ様に弓を向けるなんていけません!」

 

「お前達は……ラーマとシータ……!?馬鹿な、二人には離別の呪いがあるはず……呪いはどうした!?」

 

「呪いはユウマ様とこちらにいる精霊のアストラル様が余とシータの為に、命をかけて解いてくれた!」

 

「私たちはお二方のお陰で一緒にいることが出来るのです!」

 

「何だと……!?だがお前達の呪いは霊基に刻まれるほど強力だったはず……それをその少年と隣にいる精霊が解いたというのか!?」

 

カルナが戦えない今、アルジュナを抑えられるのは同じインド神話のラーマとシータしかいない。

 

ラーマとシータは命をかけてでも遊馬を守ろうとするが、遊馬は二人の肩に手を置いて前に出る。

 

「二人共、気持ちは嬉しいけど落ち着けって。アルジュナとはちゃんと話すからさ」

 

何故アルジュナがそこまでカオス、欲望を否定するのか分からないが、遊馬は落ち着いてアルジュナにしっかり向き合い、堂々と話す。

 

「アルジュナ、俺はお前のことを何も知らない。お前が何でカオスを拒絶するのか知らねえけど、確かに欲望って言うのは行き過ぎると自分が破滅するし、誰かを不幸にしてしまう」

 

「その通りだ。それを分かっていて何故……」

 

「欲望ってのはそんな単純なものじゃねえよ。ここにいる俺の相棒、アストラルの故郷・アストラル世界って言う異世界の住人、エナから聞いた受け売りだけど……カオスは自分の為に生きる欲望の力。だけど、カオスの中には誰かを守りたい、誰かの為に生きていきたい。そう願う心が含まれているんだ。それこそが生きる力であり、原始的な生命の源なんだ」

 

かつて、遊馬がアストラル世界に向かい、そこで出会った住人達のまとめ役の女性、エナから聞いたカオスの話を思い出しながら話す。

 

「カオスが……生きる、力……?」

 

「だけど、そのアストラル世界は遥かなる高みに登る為に……ランクアップする為に大昔にカオスを排除した。だけど、その所為でアストラル世界が衰退し、住民達も弱って死に掛けてしまったんだ」

 

「なっ……!?カオスが……欲望の力が無くなった所為で世界が一つ滅びかけたと言うのか!?」

 

「そうだ。全ての人……いいや、全ての生きとし生けるものがカオスを失ったら、生きることは出来ないんだ!死ぬと同じことなんだよ!!」

 

カオス……欲望の力が無くなる事で一つの世界が滅びかけたと言う事実にアルジュナは戸惑いを隠すことができなかった。

 

「アルジュナ、お前は世界を救う勇者が欲望の力を使うなって言ったよな。確かに俺はこの世界を救うために戦っているけど、俺はかなり強欲だぜ?」

 

遊馬は自分の指で数を数えながら思いつく限りの自分の欲望を口にする。

 

「えっと、小鳥のデュエル飯を毎日食べたい、みんなとデュエルをたくさんやりたい、サーヴァントのみんなから色々話をしたい、子供たちを笑顔にしたい……」

 

強欲と言いながらもそれは人として当たり前や些細な事ばかりの欲望であった。

 

そして遊馬はまだ子供としての至極当たり前な欲望を口にする。

 

「それから……離れ離れになっている俺の家族、友達と仲間に会いたい……」

 

「っ!?」

 

遊馬の少し悲しそうな表情にアルジュナは固まってしまった。

 

少し考えれば当然の事だ。

 

人理が焼却された世界を救う為に異世界からやって来た遊馬はまだ幼い少年だ。

 

愛する家族や友に会いたいと思うのは当然の事だ。

 

しかし、その会いたいと思うその気持ちも欲望の一つとも言える。

 

「今度は俺からの質問だ。一番大切な人と会いたい気持ちや、ずっと一緒にいたいって気持ちをお前は否定するのか?」

 

「それは……」

 

アルジュナが欲望を否定する事は遊馬の欲望……願いを否定する事と同じである。

 

授かりの英雄と呼ばれながらも欲望を否定するアルジュナに遊馬の言葉が心に深く突き刺さっていき、自然と弓が下される。

 

「それに、アルジュナ……お前はカルナと決着をつけたかったんだよな?経緯とかの話はまだ聞いてないし、インド神話の本を読んでいないから分からないけど、それも立派な一つの欲望じゃねえか」

 

そう……アルジュナは欲望を否定しながらもカルナとの対決を心から望んでいた。

 

そうでなければ最強クラスのサーヴァントであるカルナとあれほどの激しい戦闘を行うことは出来ない。

 

「私は……私は……」

 

アルジュナの中にある矛盾な心を遊馬が的確に指摘し、それに気付かされたアルジュナは震えてしまう。

 

何がアルジュナに欲望を否定させるような事になったのか、遊馬は知らないがそれをこれ以上追求するつもりはない。

 

それにクー・フーリン・オルタを追いかけて決着をつけなければならない。

 

時間をこれ以上かけるわけにはいかず、遊馬はアルジュナに最後の言葉をかける。

 

「最後に一つ、英霊のあんたに偉そうに言うけど、欲望を否定する限りあんたは何も変わらない。あんたの中にある『何か』に囚われたままだ!変わりたいなら、何かを変えたいなら足掻くしかない!前に向かって、一歩でも前に進めばいい!小さな事でもそれが道を切り開くきっかけになる!かっとビングだ、アルジュナ!!」

 

「かっと、ビング……?」

 

自分よりも幼い遊馬に欲望について諭され、謎の言葉……かっとビングを聞いてアルジュナは呆然とした。

 

遊馬がアルジュナから立ち去ろうとすると、そこにナイチンゲールの治療をある程度完了し、エジソンに支えられたカルナが来た。

 

「アルジュナ……」

 

「カルナ……大丈夫か?」

 

「ああ。だが、この体ではお前との決着をつけることは出来ない……不意打ちとはいえ、クー・フーリン・オルタの攻撃を受けて倒れてしまった。今回の戦いはオレの負けだ……」

 

「っ!?何を言うんだ!?まだ私達の決着は……」

 

「それでもオレが倒れた事実は変わりない。だから、オレとの約束を果たせ……アルジュナ!」

 

カルナとアルジュナは戦いの際にある一つの約束を交わしていた。

 

もしもアルジュナがカルナを倒した時は本来の英霊の責務……世界を救うために戦うと。

 

しかし、クー・フーリン・オルタの介入によってカルナは倒れ、結果としてはアルジュナの思い描く戦いにはならなかった。

 

アルジュナは願いが叶えられず、心が晴れずにいたが、遊馬の考えと言葉が深く突き刺さると同時に変化が起きていた。

 

「……カルナ、すまない。今はまだその答えを出すことが出来ない」

 

「アルジュナ……」

 

「ユウマ、と言いましたね。私がこの世界で行った償いは必ずします。信じていただけますか?」

 

「分かった。アルジュナ、お前を信じる」

 

「……あなたの言葉は、虚ろな心にもよく響きますね。では、さようなら」

 

アルジュナは別れを告げるとその場から撤退して何処かへと消えていった。

 

いなくなったアルジュナにクー・フーリンはゲイ・ボルグで軽く肩を叩きながら遊馬に話しかける。

 

「良いのかよ、何もしないで行かせちまって」

 

「ああ。アルジュナはきっと来てくれるって信じているからさ。それに、今俺たちにはやるべきことがあるだろ?」

 

「そうだな。さっきはマスターに譲ったが今度こそ、あの野郎をぶちのめすのは俺だからな?」

 

「分かってる。クー・フーリン・オルタは今度こそクー・フーリンとスカサハ師匠に任せるって……あっ、そうだ!」

 

「あ?どうした?」

 

「クー・フーリン、オルタとは全力で戦いたいだろ?良いことを思いついたぜ!」

 

「良いこと?何だよそれ」

 

遊馬はクー・フーリンが全力でクー・フーリン・オルタと戦う方法を思いついた。

 

正確に言うならその方法をずっと考えていた。

 

クー・フーリン・オルタはクー・フーリンよりも強い力を持ち、師匠のスカサハですら勝てないと言っていた。

 

どうすればクー・フーリン・オルタに勝てるのか、何か良い手は無いのか?

 

その方法を遊馬はやっと見つけたのだ。

 

「これが、勝利の方程式だ!受け取れ、クー・フーリン!」

 

「マスター、こいつは……!?」

 

遊馬はクー・フーリンに勝利の方程式を完成させる物を渡した。

 

それはクー・フーリンの想いを叶えるだけではない。

 

アメリカを……世界を救うための一手としてクー・フーリンにその力を授けた。

 

クー・フーリンは無言でその力を受け取ると、遊馬の前で跪いた。

 

「マスター、約束する。必ずあいつをこの手で倒す。この槍と光の御子、クー・フーリンの名にかけて……!」

 

「ああ!頼むぜ、クー・フーリン!」

 

遊馬のクー・フーリンは固い約束を交わし、クー・フーリンは必ず狂王、クー・フーリン・オルタを倒すと誓った。

 

すると……新たなサーヴァントの気配が近付いて遊馬達の前に現れた。

 

「おっと待ちな。今度は俺と戦ってもらうぜ」

 

アルジュナ、クー・フーリン・オルタの次に現れたのはアルカトラズ島で戦ったベオウルフだった。

 

ベオウルフはアルカトラズ島と同じく大量のワイバーンを引き連れてやって来た。

 

「お前はベオウルフのおっさん!」

 

「性懲りもなく来たわね。遊馬!ここは私がベオウルフを止める!みんなは先に行きなさい!」

 

一度戦ったレティシアは旗を広げて相手にしようとすると……。

 

「すまんな、娘。ここは儂がこやつの相手をする」

 

「えっ!?」

 

赤い影がレティシアの目の前に現れ、そのままベオウルフに襲いかかる。

 

「おいおい、何者だ?」

 

「通りすがりの、神槍である、真名を李書文」

 

現れたのはマシュと戦い、行方知れずとなっていた李書文だった。

 

李書文は戦いを求めて戦場を駆け、ようやくベオウルフという強敵に出会ったのだ。

 

「あんた……分かったわ。李書文、あんたに任せるわ」

 

「李書文、ベオウルフのおっさんを頼むぜ!あのワイバーン達は俺たちが排除しながらワシントンに向かう!」

 

「心得た。儂も後から追いかける」

 

「ああ!みんな、行くぞ!」

 

遊馬達はベオウルフを李書文に任せ、かっとび遊馬号に乗る。

 

李書文はベオウルフと対峙し、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「……フム。これはこで役得よな。名高きベオウルフと打ち合えるとは、光栄の至りよ」

 

「ほう?神槍とは大きく出たな。李書文……ああ、よく知ってるぜ」

 

「何、そう呼ばれていたこともあるだけよ。で、どうする?。ベオウルフと言えば、怪物グレンデルを素手で殴り殺したと謳われる闘士でもある。であれば──」

 

李書文は神槍の通り名の由来の槍を捨てて拳を構えた。

 

「ケッ、うまく煽るじゃねえか。そう言うお前さんは何だったか?あー、そうそう。二の打ち要らずだ。二の打ち要らず!大層なハッタリだな、オイ!」

 

「うむ。ただの誇張が通り名か、試してみてはどうかな?偶然にも、こんな場所で無手で戦えるサーヴァントが二人、出会ってしまったのだ。運命とは真に数奇なものよ」

 

「確かに数奇だなぁ。って事はやっぱりあれかい。いわゆる素手喧嘩(ステゴロ)か?」

 

元々ベオウルフの剣はレティシアとの戦いで壊れて消滅してしまったので素手で戦うしか方法がなかったのだが、ベオウルフの戦いの真骨頂は拳にある。

 

ベオウルフは同じ拳で戦うサーヴァントと戦場で出会えたことを心から喜びを感じていた。

 

「我が拳が果たして届くかどうか。試させて貰うとしよう。この八極──受けてみせい!」

 

「いいだろう、いいだろう。英霊に奉り上げられて幾星霜。それでもアイツを殴り殺した時の感覚は、そうそう忘れるものじゃねぇ。そして今、あのグレンデルより手強そうな奴が俺の目の前にいる。だったら──やらない手はないよなぁ!!」

 

「応とも!!」

 

「一」

 

「二の……」

 

「「三ッ!!」

 

二人はカウントダウンを数え、三を発したと同時に体が動き、拳で殴り合いを始めた。

 

それは神でも止めることができない暴風が渦巻くような激しい戦い。

 

それは武器を一切使わず、己が鍛えた拳のみで戦うという原始的な戦い。

 

もしもここに同じく拳で戦うサーヴァントの一人であるマルタがいれば闘争心が湧き上がったかもしれない。

 

それほどまでに二人の戦いは熱くなるものであった……。

 

 

遊馬達はかっとび遊馬号に戻り、そこでカルナの容態を確認する。

 

カルナは心臓を貫かれながらも自身の治癒能力とナイチンゲールの治療のお陰で何とか生き延びている。

 

しかし今回はラーマの時とは違って完全に治すことは不可能であり、クー・フーリン・オルタを倒さなければ呪いを解くことは出来ない。

 

「ナイチンゲール、治療を頼む……せめて、あと一回だけオレの宝具を撃てるぐらいに……」

 

「それは却下です。患者に無理をさせるわけにはいきません。大人しく治療を受けなさい」

 

「カルナ君、後は私たちに任せるのだ!」

 

「そうよ。あなたはよく戦ったわ。もう敵はメイヴとクー・フーリン・オルタの二人だけだから後は私たちで何とかするわ」

 

「……分かった。だが、お前達に危機が迫ったらたとえこの身がどうなろうとも、オレは前に出る」

 

カルナは本当に危険な時以外は前に出ないと約束し、一時戦線離脱をする。

 

遊馬とアストラルはかっとび遊馬号の甲板に出て上から戦場を見下ろす。

 

まだまだ戦場には大量のケルト兵とワイバーン達がおり、ここで一気に数を減らさなければワシントンには向かうことは出来ない。

 

「遊馬、私のターンで一気に蹴散らす」

 

「分かった。アストラル、頼むぜ!」

 

「ああ!私のターン、ドロー!私は魔法カード『希望の記憶』発動!自分フィールドのナンバーズの数だけ、デッキからカードをドローする。私のフィールドのナンバーズは全部で5体。よって、デッキからカードを5枚ドロー!」

 

ホープ・カイザーのナンバーズ大量召喚の効果にとても噛み合った希望の記憶の効果で大量ドローし、アストラルは自分フィールドのナンバーズで一気に攻め立てる。

 

「バトルだ!コート・オブ・アームズの攻撃!ゴッド・レイジ!!」

 

コート・オブ・アームズから禍々しい赤い光が天に登り、そこから邪悪な光の束が降り注ぎ、ワイバーン達を撃墜していく。

 

ここでアストラルはコート・オブ・アームズをカオスの力で進化させる。

 

「コート・オブ・アームズのバトルが終わったこの瞬間、私は遊馬のリサーガム・エクシーズの効果を発動する!手札から魔法カード『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』を捨て、私はコート・オブ・アームズを選択!私はランク4のコート・オブ・アームズでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

コート・オブ・アームズが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起き、カオスの力が紫電の閃光となって周囲に広がる。

 

「荒ぶる紋章の神よ、混沌の力を以って愚者に滅びと怒りの鉄槌を下せ!!現れろ!『CNo.69 紋章死神(デス・メダリオン)カオス・オブ・アームズ』!!」

 

現れたのは愚者に鉄槌を下し、死へと誘う恐ろしき巨大な死神。

 

カオス・オブ・アームズはトロンが召喚した訳でなく、カオスの力で暴走したミストラルが呼び出したモンスターで強大な力を秘めている。

 

「カオス・オブ・アームズの攻撃!カオス・デス・ドゥーム!!」

 

カオス・オブ・アームズの全身から紫電が轟き、口から邪悪なエネルギーを放ち、ワイバーン達を一気に消滅させる。

 

「S・H・Ark Knight!狙いはワイバーンのリーダー格だ!ミリオン・ファントム・フラッド!」

 

S・H・Ark Knightは無数のレーザービームを放ち、ベオウルフが乗っていたワイバーン達のリーダー格を狙い撃つ。

 

「更に手札から速攻魔法!『RUM - クイック・カオス』!!自分フィールドの「CNo.」以外の「No.」を選択し、そのモンスターよりもランクが1つ高く、同じ「No.」の数字を持つ「CNo.」をエクストラデッキから特殊召喚する!S・H・Ark Knightでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れろ、CNo.101!満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け! 『S・H・Dark Knight』!!」

 

クイック・カオスによってS・H・Ark Knightが光となって地面に吸い込まれ、異次元に送り込まれる。

 

異次元にてS・H・Ark Knightの中心部に眠る漆黒の守護者の封印が解き放たれ、混沌が渦巻く戦場に降臨する。

 

その混沌の深淵の力を宿したその身を包む漆黒の装甲に仇なす敵を滅ぼす三俣の槍を操る槍術士の姿に同じ槍術士のスカサハは親近感を覚えた。

 

「何だ、あのランサーは……とても他人とは思えないほどに強い力と意志を感じるな……」

 

「そりゃあそうだ……あのランサーはマスター曰く、不死身の槍術士らしいからな」

 

「不死身の槍術士……それは面白い、後でユウマに頼んで手合わせを願いたいものだ」

 

「もう好きにしてくれ……」

 

自身と同じ不死身の槍術士であるS・H・Dark Knightにスカサハは是非とも手合わせをしたいと心から望み、相変わらずなスカサハにクー・フーリンはため息を吐いた。

 

「S・H・Dark Knightの攻撃!ダーク・ナイト・スピア!!」

 

華麗に三俣の槍を振り回し、力を込めて投げ飛ばす。

 

今のS・H・Dark Knightはリサーガム・エクシーズの効果で攻撃力が800ポイントアップしており、更にエクシーズ・テリトリーで1000ポイントアップで、攻撃力4600の攻撃は強力でワイバーンのリーダー格の体を貫き、完全に倒して撃墜させた。

 

「私はこれでターンエンドだ。さあ、掛かって来るのだ!」

 

アストラルはカオス・オブ・アームズとS・H・Dark Knightでワイバーン達を倒すだけでその他の敵には一切攻撃せずにカードをセットもしなかった。

 

攻撃が止まり、今度はこちらの番だと言わんばかりにケルト軍が一斉攻撃をする。

 

しかし、これこそがアストラルが設置した最大の罠である。

 

相手の攻撃こそが罠の発動の鍵であり、カオス・オブ・アームズの眼が怪しく輝くと同時に全身から膨大なカオスの紫電が轟く。

 

「相手が攻撃したこの瞬間、カオス・オブ・アームズの効果発動!相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールド上のカードを全て破壊出来る!!!」

 

攻撃によってカオス・オブ・アームズの死神の逆鱗に触れ、敵の全てを滅ぼす。

 

これこそがカオスの力によって神から死神へと進化したカオス・オブ・アームズの恐るべき力である。

 

「ケルト軍よ、これで終わりだ!一掃しろ、カオス・オブ・アームズ!カオス・オブ・カタストロフィ!!」

 

敵に滅びを齎らす死神の紫電が戦場全体に降り注ぐ。

 

降り注がれた紫電はケルト軍全ての兵士に落ち、見渡す限りの軍団はあっという間に全て消滅してしまった。

 

対軍宝具並みの恐るべき力にサーヴァント達は唖然とし、エジソンは体中から大量の汗を流しながら呟いた。

 

「マスター達と本気で敵対しなくてよかった……下手したら我々アメリカが滅ぼされていたかもしれん……」

 

一時期敵対していたとは言え、心優しい遊馬とアストラルが世界最後のマスターで本当に良かったと心からそう思うエジソンだった。

 

ケルト兵とワイバーン兵が全滅し、これで心置きなくワシントンに向かう事が出来る。

 

クー・フーリン・オルタとメイヴとの最終決戦に臨むため、かっとび遊馬号でワシントンへ全速前進で向かった。

 

 

 

一方、遊馬達がワシントンに向かっている頃、一つの巨大な存在が同じくワシントンに少しずつ近付いていた。

 

ズシン……ズシン……!

 

一歩一歩、大きな足音を響かせて歩き、それはホープ・カイザーと同じくらいの大きさを持つ巨人だった。

 

その巨人の肩には一人の男性が乗っていた。

 

「さあ、もうすぐワシントンだ。今こそ君の力を活躍させる時だ!」

 

「うん……でも、大丈夫かな……私なんかの力で……」

 

「心配するな、レディ。君の力は私が保証する。その力を振るって、今こそこの国を蝕むケルトを排除するんだ」

 

「分かった。私、頑張るよ。おじさん」

 

「レディ、そこはおじさまと呼んでくれないか?」

 

「うん!おじさん!」

 

「……分かった、もうこれ以上は言うまい」

 

男性は苦笑を浮かべながらワシントンの方角を見つめる。

 

「ははははは、ははははは!よし……声の調子は良好。さあ、次は真の天才の登場を華々しく飾る手順を考えよう。あの凡骨エジソンの吠え面を見るのが実に楽しみだ!そして、希望の勇者達よ、今こそあの時の借りを返す時だ!」

 

高笑いを響かせ、エジソンに対して何らかの強い感情を抱いており、更には希望の勇者達……遊馬とアストラルに対して強い思いを抱いていた。

 

男性のよく分からない発言に巨人は頭に疑問符を浮かべながら歩み続けた。

 

 

 




次回はクー・フーリン・オルタとメイヴの対峙で出来るだけ早めに投稿したいと思います。


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ナンバーズ136 光を導く者、希望皇ホープ・ダブル!!!

新年、あけましておめでとうございます。
今年もFate/Zexal Orderをよろしくお願いします。

2020年の記念すべき元旦なので頑張って執筆しました!
今回はタイトルから色々バレバレですね(笑)

それと、遊馬役の畠中祐さんご結婚、おめでとうございます!
お相手が千本木彩花さんと聞き、驚きました。
お二方、お幸せに〜!


遊馬達はケルト兵を壊滅させ、かっとび遊馬号でケルト軍の本拠地、ワシントンのホワイトハウスに突撃する。

 

かっとび遊馬号のモニターでホワイトハウスを見るが、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「何だこの異様な雰囲気は……!?」

 

「これは……ホワイトハウスが異界化しているのか!?」

 

ホワイトハウスはアメリカ大統領の官邸でアメリカ政府の中枢を象徴する建物だ。

 

しかし、ホワイトハウスを中心に空間が変異して異界化するという謎の現象が起こり、建物が不気味な形へと変貌していた。

 

十中八九、これはこの世界の特異点である聖杯の力によるものだった。

 

アストラルは顎に手を添えて考える動作をして遊馬に提案する。

 

「……遊馬、ホープ・カイザー達を戻して一度フィールドをリセットしよう」

 

「えっ?何でだよ、せっかく最強の布陣が整っているのに……」

 

遊馬とアストラルのフィールドにはホープ・カイザーをはじめとする十体のナンバーズ軍団がいる。

 

最強といっても過言ではないその布陣を全て戻す理由をアストラルが説明する。

 

「あくまでホープ・カイザーの目的はケルト軍を壊滅させる事だ。その役目は既に果たした。ホープ・カイザーの力を存分に振るったいうことはその能力を敵にある程度把握されたということだ。もしかしたら敵が何らかの隙を突いてこちらに大打撃を与える可能性も考えられる」

 

「……分かった。ここはあえてホープ・カイザー達を戻して、敵にも知られてない力で対抗する訳だな?」

 

アストラルの説明からその意図を理解し、遊馬は納得してデュエルディスクに並べられたナンバーズ達を見る。

 

「その通りだ。幸い、私達にはアナザーから託された新たなホープがある」

 

「オッケー、じゃあその方向で行くか。マシュ、サンキューな。お陰でここまで助かったぜ」

 

「いえ、私も遊馬君とアストラルさんのお役に立ててよかったです」

 

遊馬とアストラルはフィールドと手札と墓地のカードをデッキに戻して一度リセットし、マシュの姿も希望の守護者から元のシールダーに戻る。

 

「これでこの戦争を終わらせる……みんな、行くぞ!」

 

遊馬の言葉に全員が頷き、かっとび遊馬号から降りてホワイトハウスに向かう。

 

全員が神経を尖らせて警戒する中、ホワイトハウスから二人の男女が出て来た。

 

一人は体に受けたダメージを回復して万全の状態となったクー・フーリン・オルタ。

 

そして、もう一人は初めて見る顔で綺麗なピンク色の長髪に白を基調とした衣装を身に纏う清楚な雰囲気を漂わせる美少女だった。

 

「クー・フーリン、あいつがそうなのか?」

 

「ああ、女王メイヴ。コノートの女王で俺を死に追いやった張本人だぜ」

 

女王メイヴ。

 

アルスター伝説のコノートの女王で数多くの王や勇士と婚約・結婚をし、時には肉体関係のみを築いた恋多き少女。

 

アルスター伝説最大の戦争を引き起こした張本人でもある危険な少女。

 

「久しぶりね、クー・フーリン。まさか、クーちゃんを呼んだのにアンタまで来るとは思わなかったわ」

 

「俺は別に会いたくは無かったけどな──おい、ちょっと待て。今、クーちゃんって言わなかったか?そいつのことをそう呼んでるのか?」

 

クー・フーリンはメイヴの衝撃的な言葉に耳を疑って思わず聞き直してしまった。

 

自分の狂った存在を敵の首魁が『クーちゃん』と呼んでいたら聞き直すのも当然だった。

 

「ええ、そうよ。私の王様だもん。どう呼んだって構わないでしょう?」

 

「すぐに止めろ、俺に向けたもんじゃねぇけど気色悪いんだよ」

 

「イヤよ、この呼び方は絶対に変えないわ。それよりも……そこのあなた、君が世界最後のマスターかしら?」

 

メイヴはクー・フーリンからその隣にいる遊馬に視線を向けた。

 

令呪とこの中で明らかに違う空気を持つ人間に遊馬がすぐにマスターだと分かった。

 

「九十九遊馬だ。メイヴ、あんたを倒してこの戦争を終わらせる」

 

「なかなか勇ましいわね。でも、アンタ達じゃ私とクーちゃんには勝てないわ」

 

「それはどうかな?俺とアストラルの希望と絆の力を見せてやる!!」

 

「行くぞ、遊馬!私と共に!!」

 

遊馬は右拳を、アストラルは左拳を軽くぶつけてからXに腕を交差させる。

 

「俺と!」

 

「私で!」

 

「「オーバーレイ!!」」

 

遊馬とアストラルがそれぞれ赤い光と青い光になって空に登る。

 

「「俺達/私達二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!!」」

 

二人はそれぞれ赤と青の光を纏いながら空中を駆け抜ける。

 

二つの光がぶつかり、大きな『X』の光が輝き、二人の肉体と魂が一つに融合し、そこから遥かなる高みへとランクアップする。

 

「「真の絆で結ばれし二人の心が重なった時、語り継ぐべき奇跡が現れる!」」

 

肉体と魂が融合すると共にその力を今までよりもランクアップさせるために、光の中で再構築していく。

 

そして……光の中からこの世界を救う最後の希望である英雄が降臨する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II!!」」

 

希望の英雄・ZEXAL IIが降臨し、その未知なる存在に敵味方でも驚愕するサーヴァントは多かった。

 

「Gyaooooo!?マスターとアストラル君が一つに合体した!?こ、これはまるで私とアメリカ歴代大統領が一つになって今の私のようになったみたいではないか!英霊である私ならまだしも、生者であるマスターにそんな事が可能なのか!?」

 

「う、嘘でしょ!?憑依とは違う、人間と精霊が合体して一つの存在になるなんて……そうか、遊馬の魂は元々アストラルだから二つに分かれた魂が元の一つに戻るように合体が可能なのね!でも、この力は私も知らない……素晴らしいわ!なんて素敵なマハトマなの!」

 

「これは……!?ユウマとアストラル、お前達二人が合体して一つの存在に……!?これが、この世界の未来を救う世界最後のマスターの真の力と言うわけか……フッ、オレなんかよりも本当に素晴らしい英雄だな、二人共」

 

エジソンとエレナとカルナはZEXAL IIの合体とその強大な力に驚愕し、自分達はまだまだ遊馬とアストラルの事を何も知らないのだと悟った。

 

「何だ?何なのだ、あれは……人と精霊、全く異なる存在が一つになり、神に匹敵するほどの大きな力を持つとは。なるほど、あの若さで神殺しを為せた理由もこれではっきりしたな。面白い、それでこそ私のマスターで、世界を救う英雄に相応しい存在だ!益々鍛え甲斐があるな!」

 

スカサハは遊馬が勇者であると既に前から認めていた。

 

しかし、アストラルと合体してZEXAL IIへと進化し、その強大な力は自分に匹敵するものだと益々気に入り、師匠として鍛え甲斐があると心の底から喜んだ。

 

「馬鹿な……あのガキが、精霊と合体してサーヴァント……いいや、英霊に匹敵する存在になったと言うのか……!?」

 

クー・フーリン・オルタは自分を追い詰めたカオスナンバーズ以上の更なる隠し球であるZEXAL IIに驚愕し、ただの世界最後のマスターではないとその評価を敵ながら改めるのだった。

 

「あはっ……あはははははっ!なんて事なの!まだ幼い勇敢な少年だとは思っていたけど、そんなにも素敵な男になるなんて驚きだわ!生前や、この世界でも今まで見た事のないタイプの男ね!」

 

そして……メイヴはスカサハと同等かそれ以上の力を持つZEXAL IIに大興奮していた。

 

メイヴは今まで数多くの男と出会い、愛し合い、自分の恋人にしてきた。

 

遊馬とアストラル……ZEXAL IIはそれらとはまるで異なる未知の存在としてメイヴは直感的に理解した。

 

しかし、それと同時にあまりにも恐ろしいと感じた。

 

ZEXAL IIを勇しくも美しいと感じるが、これほどまでに恐ろしい存在だと思うのは初めてだった。

 

クー・フーリンに彼の師匠であるスカサハ、カルナは怪我をして動けないがそれを補えるほどの沢山の数のサーヴァント。

 

そして、それを束ねるマスターで精霊と合体し、未知なる英雄へと進化したZEXAL II。

 

対してこちらはこの世界の特異点である聖杯を持つ自分とその聖杯で願い、召喚した最狂の王、クー・フーリン・オルタ。

 

クー・フーリン・オルタは確かに強いが、クー・フーリンとスカサハに抑えられる可能性は十分にある。

 

メイヴは女王として勝つためにある決断をする。

 

「クーちゃん……ここでお別れよ……」

 

「メイヴ?」

 

「愛しているわ、クーちゃん。私は彼らを滅ぼすわ……」

 

メイヴの胸元から金色の光が漏れ出し、その中からこの世界の特異点である聖杯が現れる。

 

聖杯を抱きしめたメイヴはクー・フーリン・オルタに対する想いを込めて願いを託した。

 

「我が名はメイヴ!女王メイヴ!私の伝説に刻まれた最高傑作をご存じかしら?その名は『二十八人の戦士(クラン・カラティン)』!稀代の英雄クー・フーリンを倒す集合戦士!」

 

「ハッ、そんなものを今更出してもここにいるサーヴァント全員にかかれば倒せるぜ?」

 

「……あはは……違うの、ぜんっぜん違うの。あなたたちが思っているものとは、何もかも!何もかも、全く違うの!聖杯よ、私の願いを叶えなさい!彼らに滅びを与える最高の力をここに!!」

 

メイヴが聖杯に願った瞬間、膨大な魔力が聖杯から溢れ出した。

 

そして……邪悪な力が一気に膨れ出した。

 

「何をするつもりだ!?」

 

「ま、待って……何よこの術式構成……まずいわ!みんな!早くここから退避して!」

 

エレナはメイヴが発動した何かの術式構成に顔が真っ青になり、急いで退避するように叫んだ。

 

全員はエレナのその言葉に従ってすぐにその場から退避した。

 

そして……メイヴが光に包まれた次の瞬間、巨大な存在へと姿を変えた。

 

不気味過ぎる無数の目玉と触手が絡み合い、巨大な柱のようなものとなっていた。

 

「あれは魔神柱……!?」

 

それは特異点で何度も対峙したソロモンが使役する邪悪な魔神。

 

「ロマン先生!何が起きているんだ!?」

 

D・ゲイザーでカルデアにいるロマニと連絡を取り、メイヴが何をしたのか調べてもらう。

 

『有り得ない……!こんな術式の構成が有り得るのか!?これはソロモンですら試そうとしない試みだぞ!?メイヴが『二十八人の戦士』という枠組に押し込むことで魔神柱を丸ごと召喚したんだ!そこには二十八体の魔神柱の反応がある!!そして、その集合体の中心にメイヴと聖杯が取り込まれてしまった……!』

 

「二十八体だって!?」

 

メディア・リリィの時以上の最悪な状況となってしまった。

 

二十八体の魔神柱を呼び出し、その中にメイヴと聖杯が取り込まれてしまった。

 

これがメイヴが見つけたカルデア連合軍を滅ぼすための最恐最悪の力。

 

巨大な魔神柱にZEXAL II達もゴクリと息を呑み込んだ。

 

そんな中、クー・フーリンはZEXAL IIの肩に軽く手を置いた。

 

「マスター、俺一人であいつと戦う。そっちは任せても良いか?」

 

「クー・フーリン……分かった、お前に任せる。絶対に負けんじゃねえぞ」

 

「ああ。必ず勝利を勝ち取ってくる」

 

「頼むぜ、ついでにこいつを持ってけ。令呪によって命ずる。クー・フーリン、狂王に打ち勝ち、我に勝利を捧げよ!!」

 

ZEXAL IIは令呪を一画使い、クー・フーリンをブーストさせる。

 

「承知したぜ……マスター。必ずあんたに勝利を捧げるぜ!」

 

クー・フーリンはZEXAL IIからの令呪を受け、頷いて了承するとその場から離れてクー・フーリン・オルタの元へ走る。

 

ZEXAL IIは魔神柱に目線を向け、デュエルディスクを構える。

 

「アストラル、どうやってアレを倒す?」

 

「心配するな、遊馬。勝利の方程式は全て揃ってる。新たなホープの力とここにいる全ての英霊の力で魔神柱を討つ……!」

 

「新たなホープ……分かった!アナザーから託された力を今こそ使う時だな!」

 

「その通りだ!行くぞ、遊馬!」

 

「おう!!」

 

ZEXAL IIはデッキからカードを5枚手札にして右手に聖なる光を宿して光り輝かせる。

 

「「俺/私のターン!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!」」

 

ZEXAL IIはシャイニング・ドローでデッキからカードをドローし、この異界化したこのワシントンに新たな光が広がる。

 

「フィールド魔法『希望郷 - オノマトピア -』を発動!」

 

異界となっていたワシントンが一瞬で空に無数の星々が輝き、細長い塔のようなたくさんの建物が天を貫くようにそびえ立つ幻想的な不思議な空間へと姿を変える。

 

「「レスキューラビットを召喚!このカードを除外し、デッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚する!現れよ、ちびノブ!!」」

 

レスキューラビットの効果で2体のちびノブがデッキから呼び出され、これでレベル4のモンスターが2体揃った。

 

「アナザー、一緒に行くぜ!」

 

「私と遊馬が共に歩んで来た希望皇の光、そして君が作り出した最高の希望皇を見せてやろう!」

 

ZEXAL IIは自分達に未来を託し、消えていったアナザーを想いながらデッキケースから光り輝く1枚のカードを高く掲げる。

 

「「かっとビングだ!俺/私!レベル4のちびノブ2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」」

 

2体のちびノブが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起こる。

 

「「無限の未来へと続く、重なる願いと想い!遥かなる高みへと繋がる時、星河一天の希望が光を導く!!」」

 

聖なる光が無数の波動と共にその姿が現れる。

 

「「現れよ!!『No.39 希望皇ホープ・ダブル』!!!」」

 

現れたのはアナザーが作り出した新たな希望皇。

 

希望皇ホープ・ダブルは希望皇ホープと全く同じ姿で唯一違うのはまるで幻のようにその姿が白い朧気なものとなっていた。

 

「「この瞬間、オノマトピアの効果で希望皇ホープモンスターが特殊召喚される度にオノマトピアにかっとビングカウンターを1つ置き、かっとビングカウンター1つにつき自分フィールドのモンスターの攻撃力は200ポイントアップする!」」

 

空に大きな星が登り、かっとビングカウンターが1つ乗る。

 

「「希望皇ホープ・ダブルの効果!1ターンに1度!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、デッキから『ダブル・アップ・チャンス』を手札に加える!」」

 

ホープ・ダブルのオーバーレイ・ユニットが胸の水晶に取り込まれると、希望皇ホープの最強コンボの必殺カードでもあるダブル・アップ・チャンスがデッキから手札に加わる。

 

そして、更にここでホープ・ダブルの真の力が発動する。

 

「「その後、ホープ・ダブル以外の『希望皇ホープ』モンスターエクシーズ1体をこのカードに重ねてエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する!」」

 

「そ、それって、ホープ・ダブルがあらゆる希望皇ホープになれるって事ですか!?」

 

「はぁ!?ランクアップに必要なランクアップマジック無しで高ランクのホープも呼べるの!?強すぎるわよそれは!」

 

マシュとレティシアはホープ・ダブルの破格で強力な効果に驚愕した。

 

今まで数々のデュエルを見たからこそホープ・ダブルの効果は強力だと感じた。

 

ZEXAL IIはデッキケースから1枚の希望皇ホープモンスターを掲げてホープ・ダブルに重ねる。

 

「「希望皇ホープ・ダブルでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

召喚条件などを無視し、遊馬とアストラルの持つあらゆる希望皇ホープへと転身することが出来る希望皇ホープ・ダブル。

 

それは希望皇ホープを誰よりも愛し、共に戦い続けてきた遊馬とアストラルにとって最強の能力を持つといっても過言でもない。

 

そして、ZEXAL IIがホープ・ダブルの効果で呼び出した希望皇ホープモンスターは……。

 

「「現れろ、CNo.39!希望に輝く魂よ!森羅万象を網羅し、未来を導く力となれ!『希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』!!」」

 

勝利の名を持ち、勝利をその手に掴む勝利の希望皇……希望皇ホープレイ・ヴィクトリー。

 

「ホープ・ダブルのこの効果で特殊召喚したホープレイ・ヴィクトリーは相手に直接攻撃出来ない……だが!」

 

「ホープ・ダブルの最後の効果で、特殊召喚したホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力は倍になる!更にオノマトピアにかっとビングカウンターが1つ乗る!」

 

2つ目のかっとビングカウンターがオノマトピアに乗る。

 

ホープレイ・ヴィクトリーの元々の攻撃力は2800。

 

ホープ・ダブルの効果で倍となり、その攻撃力は5600となり、オノマトピアの効果で400ポイントアップし、攻撃力は6000となる。

 

戦闘において最強クラスの力を持つホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力が驚異の6000となるが、遊馬とアストラル……ZEXAL IIのコンボはこれで終わるわけがない。

 

「「魔法カード『オーバーレイ・リジェネレート』を発動!このカードをホープレイ・ヴィクトリーのオーバーレイ・ユニットにする!」」

 

オーバーレイ・リジェネレートでホープレイ・ヴィクトリーのオーバーレイ・ユニットが1つ追加され、これでオーバーレイ・ユニットを3つとなる。

 

「「更に魔法カード『強欲で貪欲な壺』!自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外し、自分はデッキから2枚ドローする!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、再び希望の道筋を照らせ!ダブル・シャイニング・ドロー!」」

 

シャイニング・ドローで新たに2枚のカードを創造し、そのカードで魔神柱を追い詰める。

 

「来たぜ、アストラル!」

 

「当然だ!これで、勝利の方程式は全て揃った!」

 

ZEXAL IIは創造した2枚のカードを発動する。

 

「「手札から『ZW(ゼアル・ウェポン) - 極星神馬聖鎧(スレイプニール・メイル)』をホープレイ・ヴィクトリーに装備!」」

 

現れたのは美しくも勇ましい白と赤の鎧に身を包んだ神馬でその背にホープレイ・ヴィクトリーが騎乗する。

 

「「極星神馬聖鎧は希望皇ホープモンスターの装備カードとなり、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」」

 

攻撃力6000に加えて1000ポイントアップし、攻撃力は7000。

 

更に天地を自由自在に駆ける事が出来る極星神馬聖鎧で機動力を確保した。

 

「「更に手札から『ZW(ゼアル・ウェポン) - 阿修羅副腕(アシュラ・ブロー)』をホープレイ・ヴィクトリーに装備!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーの両肩に屈強な二本の腕が装着されると共に新たな双剣がその手に握られる。

 

「「阿修羅副腕は希望皇ホープモンスターの装備カードとなり、攻撃力を1000ポイントアップさせ、相手フィールド上のモンスターに全てに1回ずつ攻撃出来る!」」

 

阿修羅副腕の双剣に加え、ホープレイ・ヴィクトリーは両腕の内側から新たな二本の腕が現れ、背中にある四本のホープ剣を引き抜いた。

 

これで更にホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力が上昇し、7000+1000で8000となり、阿修羅副腕の効果で全体攻撃能力も加わった。

 

神馬に六本の剣……天地を駆ける神馬に跨り、六刀流を操る最強のホープレイ・ヴィクトリーが誕生した。

 

「みんな、派手にぶちかまそうぜ!」

 

「ここにいる全ての英霊の力を一つに集結させ、魔神柱を討滅するぞ!」

 

ZEXAL IIか召喚した最強のホープレイ・ヴィクトリーと共にここにいる仲間達のサーヴァントと共に魔神柱討滅作戦が始まる。

 

 

 




ホープ・ダブルからのヴィクトリーを呼んで神馬と阿修羅装備……うん、モンスター絶対殺すマンの鬼畜コンボの完成ですね(笑)
次回は少し先になりますが、ヴィクトリーとサーヴァントのみんなと連携して魔神柱を攻略します。



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ナンバーズ137 北米神話大戦、最終決戦!魔神柱を討て!

大変お待たせして申し訳ありませんでした。
仕事と体調を崩してなかなか書けませんでした。

久々にFGOをやっていたらスカサハ師匠を当てました!
やはりFGO小説を書いていると何らかの加護が来るのでしょうか……?


遊馬とアストラル──ZEXAL IIとサーヴァント達が魔神柱と対峙している頃……二人の戦士が対峙していた。

 

一人はこのアメリカを恐怖に陥れた最狂の王……クー・フーリン・オルタ。

 

もう一人はそのクー・フーリン・オルタの本来の正しき存在……クー・フーリン。

 

「決着をつけようぜ、狂王……」

 

「ふん。テメエは俺にとっては最大の邪魔者だ。テメエを殺したら次はあの小僧だ」

 

「させねえよ。ま、うちのマスターが全力を出したらお前に対抗出来るが、煩わせる訳にはいかねえ。ここでオレがお前を殺す」

 

「出来るのか?オレは歪んだ存在だが、メイヴが邪悪な王として願ったことでテメエよりも強いぜ?」

 

クー・フーリン・オルタはメイヴが聖杯に願って召喚した最強の王。

 

それは師匠のスカサハですら越える力を持つ力を持つとされている。

 

「見せてやるぜ……オレの力を、テメエやスカサハすら越える荒れ狂う狂王の怒りを!!!」

 

クー・フーリン・オルタの体から魔力が解放され、邪悪で怪しく輝く呪いの力がクー・フーリン・オルタの全身に纏われる。

 

「全呪解放。加減はなしだ……『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』!!!」

 

宝具の真名解放を行うとゲイ・ボルクが消えると、クー・フーリン・オルタの全身に鋭い角や骨のような凶悪な鎧が装着された。

 

それは魔槍ゲイ・ボルクの素材となった紅海の魔獣・クリードの外骨格を一時的に具象化させ、鎧のように身に纏うクー・フーリン・オルタの最強宝具。

 

ゲイ・ボルクが使用出来ない代わりにクー・フーリン・オルタの耐久がランクアップし、筋力パラメーターがEXになる。

 

クー・フーリンは自分には出来ない戦い方に面白いと思いながら笑みを浮かべた。

 

「それがテメエの奥の手か……それならオレも派手に行くぜ!!」

 

クー・フーリンは右手で胸を軽く叩くと胸から金色の輝きを放ち、右手の甲にナンバーズの『07』の刻印が輝く。

 

クー・フーリンには適正クラスからランサーとキャスターの姿がある。

 

遊馬と契約したことでその二つのクラスを自由に変えることが出来るが、戦闘ではやはり使い慣れたランサーで戦うことがほとんどである。

 

そして、クー・フーリンが光に包まれるとその姿は奇怪なものとなった。

 

光が収まるとそこにいたのはランサーとキャスターの衣装、そして『No.7 ラッキー・ストライプ』の力を得たフェイトナンバーズの時に装着した装飾が合わさったような姿へと変身した。

 

「何だ、その姿は……!?」

 

クー・フーリン・オルタは自分も宝具で姿が変わっているが、クー・フーリンの姿は異様で驚きを隠せなかった。

 

「それはな、こいつのお陰だ」

 

クー・フーリンの胸元が金色に輝くとそこから一つの物が現れた。

 

それは金色に輝く杯……聖杯だった。

 

「聖杯だと……!?」

 

「マスターの聖杯だ。マスターがオレに託したんだよ」

 

クー・フーリンの中に宿っていたのは遊馬の聖杯だった。

 

少し前に遊馬がクー・フーリン・オルタに勝つ為にクー・フーリンに託したのだ。

 

聖杯は人間に大きな力を与えるが、同時にサーヴァントにも大きな力を与える。

 

これにより今のクー・フーリンはランサーとキャスターの力を同時に発現し、更にはフェイトナンバーズの力も混ざり合い……師匠のスカサハをも遥かに超えるカルデア連合軍最強の戦士として誕生した。

 

クー・フーリンは愛槍のゲイ・ボルクを構えて不敵の笑みを浮かべる。

 

「さあ、行くぜ狂王!!!その心臓を貰い受ける!!!」

 

それに対し、クー・フーリン・オルタは鎧で顔も包まれているがその内側ではニヤリと怪しい笑みを浮かべた。

 

「上等だ、光の御子!!!我が絶望に挑むがいい!!!」

 

クー・フーリンとクー・フーリン・オルタは同時に動き、互いの命を奪う為に槍と爪を振るう。

 

激しい紅と黒の閃光が轟き、アメリカの運命を左右する戦いが始まる。

 

 

 

二十八体の魔神柱に取り込まれたメイヴとの最終決戦に臨むため、ZEXAL IIは神馬と六刀流を備えた最強のホープレイ・ヴィクトリーを召喚した。

 

「みんな、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃と一緒に宝具を叩き込むんだ!」

 

アストラルは巨大な魔神柱を倒す為にはホープレイ・ヴィクトリーの力だけでなくここにいるサーヴァント達の力も必要だと確信していた。

 

すると、魔神柱がホープレイ・ヴィクトリーの力に反応し、触手を伸ばして攻撃をしようとした。

 

ZEXAL IIやサーヴァント達がすぐに対応しようとしたその時。

 

ヒュンヒュンヒュン……ドォン!!!

 

風を切る音が鳴ったその直後に巨大な斧が回転しながらその魔神柱の体に突き刺さった。

 

斧が突き刺さった魔神柱は苦しみながら悶えた。

 

「何だあの斧は!?」

 

「なんて巨大な斧なんだ……なっ!?遊馬、あれを見るんだ!」

 

「えっ?」

 

北の方角からこちらに来たのは魔神柱以上の大きさを持つ巨人だった。

 

「きょ、巨人!?」

 

「あれもサーヴァントなのか……!?」

 

巨人からはサーヴァントの気配があり、深緑のベレー帽とコートを身に纏った金髪金眼の少女だった。

 

そして、その巨人の肩にはもう一人のサーヴァントの気配があった。

 

「──ハハハハハ!無様なり、無様なりエジソン!所詮は凡骨、この私の前に立ちはだかる資格などない!疾く、項垂れ消え失せるがいい!」

 

「「この声は……」」

 

「どこかで聞いたような……」

 

立派な高笑いが響き、その声に遊馬とアストラルとマシュは聞き覚えがあった。

 

「……この……この忌まわしい声と……無駄な高笑いは……ま、まさか……おまえは……」

 

「あら?もしかして……」

 

エジソンは顔を真っ青にしながら震え、エレナは目をパチクリさせていた。

 

そして、巨人の肩に乗っていた影は高くジャンプしてエジソンの前に降り立った。

 

「そのまさか、だ!この真の天才、星を拓く使命を帯びたる我が名は──」

 

「すっとんきょう!ミスター・すっとんきょうかぁ──!!!」

 

「ニコラ・テスラ!である!」

 

それは第四特異点のロンドンでゾォルゲンにロンドンを滅ぼす為に召喚され、遊馬達と対決したニコラ・テスラだった。

 

ニコラは体に巨大な斧が突き刺さって怯んでいる魔神柱に向けて神話で語られる雷電神たちの再臨を思わせる雷撃を放って魔神柱を痺れさせて動きを封じる。

 

痺れさせて時間を稼いだニコラは大胆不敵で堂々とした表情を浮かべてエジソンに向ける。

 

「エジソン。貴様はただ、この大雷電の美しさに臥せるがいい……!ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

 

「むう、この日のために発声練習をしてきたとしか思えぬ高笑い!その周到さ、さすが天才である!」

 

「どうでも良いんだけど、ニコラのおっさん。何でここに?」

 

「誰がおっさんだ!?そこはおじ様と呼ぶが良い!そういう君は誰だ!?」

 

ニコラは実は初めて出会うZEXAL IIに目を見開いて驚愕した。

 

「えっ?ああ、俺だよ俺。ロンドンで戦った遊馬。今はアストラルと合体しているんだ」

 

「がっ、合体だと!?世界を救う勇者がまさか合体するとは驚きだな!その話はまた詳しく聞くとして、彼女を紹介しょう!」

 

ニコラは謎の巨人の少女の姿をしたサーヴァントを紹介する。

 

「彼女はポール・バニヤン!カナダに避難していたところを保護していたのだ!」

 

ポール・バニヤン。

 

アメリカ合衆国開拓時代のトール・テイルに登場する樵夫で、雲をつく大男として語られるが何故か少女の姿をしている。

 

その巨大さを生かした無闇にスケールの大きな伝説が数多く存在し、北アメリカの特徴的地理の多くはバニヤンの行動の影響で生まれたとされている。

 

バニヤンはアメリカで召喚されていたが、ケルト軍を恐れて隣国のカナダに避難していた。

 

幸いにもカナダまでにはケルト軍の手は及んでいなかったのでバニヤンは今まで無事だった。

 

ニコラはケルト軍に見つからないように暗躍し、バニヤンの存在に気付いてきっと戦力になると確信して探し出した。

 

そして、説得してバニヤンと共にワシントンにまで来たのだ。

 

「助太刀に来てくれたんだな。ありがとう、ニコラのおっさん!」

 

「だからおっさんはやめないか!君たちにはロンドンで迷惑をかけてしまったからな。そのお詫びでもある」

 

「そっか。じゃあ今からこの二十八体が合体した魔神柱にサーヴァントみんなでホープレイ・ヴィクトリーとの連携攻撃をするんだ。協力してくれ」

 

「良いだろう。我が神の雷霆でこの魔神を焼き尽くしてやろう!」

 

ニコラはバチバチと手から雷電を軽く放出させながら気合十分で了承した。

 

ZEXAL IIはバニヤンに向けて声が届くように大声で叫んだ。

 

「おーい!バニヤン!お前も力を貸してくれー!」

 

「あなたがマスター……?うん!分かったよ!」

 

バニヤンは魔神柱から自分の斧を引き抜いて下がり、これで全ての準備は整った。

 

「皆さん、お待ち下さい!」

 

「ナイチンゲール?」

 

ナイチンゲールは両手を広げて魔力を解放する。

 

「全ての毒あるもの、害あるものを絶ち、我が力の限り、人々の幸福を導かん!」

 

ナイチンゲールに似た巨大な『白衣の女神』が大剣を持って幻として出現する。

 

それはナイチンゲールの回復宝具でこの場にいる全ての仲間たちと敵である魔神柱に効力を与える。

 

「『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』!」

 

女神が大剣を振り下ろすとそこから光が解き放たれ、光の粒子が遊馬達と魔神柱に降り注がれると、遊馬達の体力を回復し、魔神柱を弱体化させる。

 

「私に出来るのはここまでです。さあ、お行きなさい!未来を救う戦士たちよ!」

 

ナイチンゲールにはあの魔神柱と戦うだけの力は無い。

 

だからこそ、看護婦として戦士たちに活力を与えたのだ。

 

それがナイチンゲールだけにしか出来ない戦い……その想いに応えてZEXAL II達は最後の戦いに臨む。

 

「サンキュー、ナイチンゲール !行くぜ、アストラル!みんな!」

 

「ああ!行くぞ、遊馬!」

 

ZEXAL IIはナイチンゲールから受け取った力と想いを胸にホープレイ・ヴィクトリーと共に戦う為、極星神馬聖鎧に一緒に乗る。

 

極星神馬聖鎧から手綱が現れ、ZEXAL IIがそれを握り、そしてホープレイ・ヴィクトリーに命令を下す。

 

「「行くぞ、ホープレイ・ヴィクトリーで魔神柱に攻撃!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーの真紅の瞳が輝き、ZEXAL IIが手綱を引くと、極星神馬聖鎧の翡翠色の瞳が輝くと宙を華麗に、そして力強く駆け抜ける。

 

「「この瞬間、ホープレイ・ヴィクトリーの効果発動!ホープレイ・ヴィクトリーが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠を発動出来ない!更にオーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、ターン終了時まで相手モンスターの効果は無効化され、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力はその相手モンスターの攻撃力分アップする!ヴィクトリー・チャージ!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込み、魔神柱の力を封じ込めると同時にその膨大な攻撃力を得る。

 

この時点で既にホープレイ・ヴィクトリーは魔神柱の攻撃力を遥かに上回った事になる。

 

ホープレイ・ヴィクトリーのターン終了時まで攻撃力上昇効果が適用される。

 

本来ならばモンスターの攻撃は一度しか行えないが、阿修羅副腕の効果で相手モンスター全てに一度ずつ攻撃をする事が出来る。

 

メイヴが召喚した魔神柱は複雑に絡まって一つの存在となっているが、元々は『二十八人の戦士』という枠組に魔神柱を押し込んでおり、二十八体の反応が確認されている。

 

つまり、今の魔神柱は一体ではなく二十八体のモンスターとして存在している事となり、阿修羅副腕を装備しているホープレイ・ヴィクトリーは合計28回の攻撃が可能となっている。

 

「「行け、ホープレイ・ヴィクトリー!ホープ剣・ヴィクトリー・アシュラ・ディバイダー!!!」」

 

六本のホープ剣から放たれた巨大な『V』の斬撃が魔神柱を斬り裂く。

 

「まずは1回目の攻撃!」

 

「まだまだ行くぞ!」

 

魔神柱の1体分は戦闘破壊したがまだ残り27体分は残っている。

 

しかし、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃に続くようにサーヴァント達の攻撃も始まる。

 

「それでは、最初にこの私!アメリカ合衆国大統王、トーマス・アルバ・エジソンがサーヴァントを代表して先陣を切らせてもらおう!」

 

「こう言うのは勢いが大事だから派手にぶちかましてやれ、エジソン!」

 

先陣を切ったのはエジソンで巨大なEDISONロゴが現れ、その上に乗ってポーズを決める。

 

「万人に等しく光を与えよう。それこそが天才の成すべきカルマだ!『W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)』!!」

 

全てを照らし出す光で一切の神秘をはぎ取り真実の姿を露わにする性質を利用し、魔神柱全体にダメージを与える。

 

「「ホープレイ・ヴィクトリー、2回目のバトル!」」

 

尽かさずホープレイ・ヴィクトリーの攻撃が炸裂し、2体目の魔神柱を斬り裂く。

 

エジソンに先陣を切られ、ライバルであるニコラは悔しそうに歯切りをして拳を握りしめる。

 

「ちっ!おのれ、凡骨エジソンめ!先を越されたわ!負けてたまるか!次は私だ!」

 

「頼むぜ、ニコラのおっさん!」

 

「だからおっさんと呼ぶな!君はせめてミスターと呼んでくれたまえ!全く……行くぞ!」

 

ニコラはツッコミを入れながら神の雷霆をその身に纏う。

 

「神の雷霆は此処にある……さぁ、御覧に入れよう!『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!」

 

天から数多の雷霆が轟き、W・F・Dで弱体化した魔神柱に更なるダメージを与えて痺れさせる。

 

「「ホープレイ・ヴィクトリー、 3回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーはニコラの雷霆をホープ剣に吸収させ、雷神猛虎剣に匹敵する雷撃を放ち、魔神柱を感電させて焼き尽くす。

 

「全くもう!二人は相変わらず子供なんだから!ユウマ、アストラル、行くわよ!」

 

エジソンとニコラの生前からの知り合いであるエレナは呆れながら自身の宝具を発動し、巨大な未確認飛行物体──UFOを召喚する。

 

「エレナ、あの未確認飛行物体に乗せてくれるかな?」

 

「アストラル!?」

 

アストラルの突然のお願いに遊馬は驚くと、エレナは笑みを浮かべて手招きする。

 

「いいわよ、来なさい!」

 

「感謝する!」

 

「ちょっ!?アストラルさん!?」

 

ZEXAL II──アストラルは手綱を操って極星神馬聖鎧をUFOの近くまで行き、そこから飛び乗ってエレナの隣に立つ。

 

「本当にUFOだよな、これ……」

 

「まさかUFOに乗れる時が来るとは……興奮が抑え切れないぞ!」

 

「はいはい、その興奮はエレナをカルデアに呼んだときに存分に話し合った時にしてくれ!エレナ!」

 

「私もアストラルと話し合う時を楽しみにしているわ!海にレムリア! 空にハイアラキ! そして地にはこの私!『金星神・火炎天主(サナト・クマラ)』!!」

 

UFOから無数のレーザーが放たれ魔神柱の体や触手を貫き、ZEXAL IIはホープレイ・ヴィクトリーに攻撃命令をする。

 

「「4回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーは貫かれた触手を更に斬りながら四体目の魔神柱を斬り裂く。

 

ZEXAL IIはUFOから降り、迎えに来た極星神馬聖鎧に乗る。

 

順調に魔神柱を倒していくと次に名乗り出たのは……。

 

「次は……オレがやる……!」

 

「カルナ!?」

 

それは心臓に重傷を負っていたカルナで槍を構えて宙に浮いた。

 

背部左側にある四枚の羽の装飾を展開し、右側に翼のような形で炎のオーラを纏う。

 

その後、カルナの翼及びその中心である背、そして槍の輝きが増したところで穂先から強烈な光の一撃を放つ。

 

「神々の王の慈悲を知れ。インドラよ、刮目しろ。絶滅とは是、この一刺。灼き尽くせ、『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』!!」

 

インドラが黄金の鎧を奪う際、彼の姿勢が余りにも高潔であったため、 それに報いて与えた光槍。

 

それは神をも滅ぼす究極の力。

 

真名解放と共に解放されるエネルギーはこの世の存在が抵抗し得るものではなく、神獣や盾、城等の物理的なものは無論、結界も含めたあらゆる「存在」という概念を一片の慈悲もなく焼灼し破壊する。

 

「「5回目のバトル!!」」

 

焼灼した魔神柱の一体にホープレイ・ヴィクトリーはホープ剣の一閃で難なく斬り倒す。

 

「くっ……」

 

自身の最強宝具を放ったことで体に大きな負荷が掛かり、塞いだ心臓に大ダメージが与えられて全身の力が抜けて地面に向けて落下する。

 

ZEXAL IIやエジソン達がすぐに助けに行こうとしたが……。

 

ガシッ!

 

「全く、そんな体で無茶をするなんて相変わらずですね」

 

「アルジュナ……?」

 

落下したカルナを受け止めてそのまま地面に下ろしたのはアルジュナだった。

 

「来てくれたのか……?」

 

「約束を破るわけにはいきませんからね。それに、私を信じてくれたユウマにも応えなければいけませんからね。ところで、ユウマの姿が見えませんが……」

 

「アルジュナ!来てくれたんだな!」

 

ホープレイ・ヴィクトリーが地面に降り立ち、極星神馬聖鎧からZEXAL IIが降りると、アルジュナは「誰だ!?」と驚いて警戒するが、その嬉しそうな少年の声には聞き覚えがあった。

 

「その声は……まさか、ユウマ、君なのか!?」

 

「ああ!アストラルと合体した希望の英雄、ZEXAL IIだ!」

 

「精霊と合体するとは……それに、今の君やその魔物から神に匹敵する力を感じます。やはり君は素晴らしい英雄ですね……」

 

「そんな事より、魔神柱をぶっ飛ばすのを手伝ってくれるか?」

 

「ええ。私のアーチャーとしての力を見せてあげましょう」

 

アルジュナは弓を構えると矢先が螺旋状となった独特な形をした矢を添えた。

 

それは炎の神・アグニがアルジュナに授けた神の弓。

 

「これぞアグニの咆哮……!『炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)』!!」

 

放たれた矢は炎を纏い、高速に飛ぶミサイルとなって魔神柱を一瞬で穿つと同時に爆撃でその体を吹き飛ばす。

 

「ははっ、カルナもアルジュナもすげぇな!」

 

「これがインド神話のサーヴァントの力……凄まじいが、我々も負けてはいられないな!」

 

ZEXAL IIは再び極星神馬聖鎧に跨がり、ホープレイ・ヴィクトリーに命令を下す。

 

「「6回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーはカルナとアルジュナの放った二つの宝具に秘められたインド神話の神々の力の一端をホープ剣に吸収させ、強大な神力を宿したホープ剣で一度限りの強力な斬撃を放ち、魔神柱の一体を完全に消滅させる。

 

「ユウマ様!アストラル様!次は余とシータが参ります!行こう、シータ!」

 

「はい!ラーマ様!私達の力を合わせましょう!」

 

ラーマは剣を高速回転させ、シータは弓の鉉を引くとその背後に巨大な弓が現れて矢がつがえて光を宿す。

 

シータの弓はシヴァ神が力と勇気を試すためにジャナカ王の祖先に授けたという弓でラーマと結婚する始まりとなったものだ。

 

「羅刹王すら屈した不滅の刃、その身で受けてみよ! 『 羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』!!」

 

「この弓は我が永遠の愛の始まり……『追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)』!!」

 

ラーマとシータの宝具が同時に繰り出され、回転する剣と光の矢が並列して高速に飛ぶ。

 

「「7回目、8回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーは六本のホープ剣を投げ飛ばし、ラーマとシータの剣と矢と一つになって二体の魔神柱を同時に貫く。

 

六本のホープ剣は瞬時にホープレイ・ヴィクトリーの手に戻る。

 

「マスターには多大な迷惑をかけてしまった……その償いをさせてもらう!覚悟しろ、化け物よ!」

 

「ディルムッド!化物退治ならお前の宝具は効果覿面だぜ!」

 

ディルムッドは二本の異なる能力を秘めた槍の宝具を発動し、一気に魔神柱に近づいて振るう。

 

「穿て! 『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』!『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』!」

 

魔力効果を打ち消す槍と治癒不能の傷を負わせる槍の連続攻撃で魔神柱に強い呪いを与える。

 

「「9回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーは治癒不能の傷口にホープ剣を深く突き刺し、左右に切り開く。

 

「やるな、ディルムッド。流石はケルトの戦士。これは、同じ二槍流として負けるわけにはいかないな!」

 

「スカサハ師匠!師匠の槍捌きを見せてくれ!」

 

「任せろ!」

 

スカサハは二本のゲイ・ボルクを構えて魔神柱に向けて走り出す。

 

「刺し穿ち……突き穿つ!『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)

』!!」

 

一本のゲイ・ボルクでクー・フーリンが編み出したとされる対人用の刺突技『刺し穿つ死棘の槍』を放つ。

 

その直後にもう一本のゲイ・ボルクで全身の力と全魔力を使い、魔槍の呪いを最大限発揮させた上で相手に投擲し、炸裂弾のように一撃で一軍を吹き飛ばす『突き穿つ死翔の槍』を同時に行う。

 

スカサハには異教・魔境である「影の国」の門番として、数多くの神霊を屠り続けたことでスキルとして神殺しの力がある。

 

それによりスカサハの二本のゲイ・ボルクの攻撃により、魔神柱に大ダメージを与える。

 

「「10回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーはスカサハによって既にボロボロとなった魔神柱にトドメを刺す。

 

「いやー、皆さんとんでもない宝具をばかすか使いまくりますねー」

 

「ほんとほんと。正直格の違いを感じるね〜」

 

「だが私たちも負けてはいられないな!」

 

「今度は3人同時攻撃か!頼んだぜ!」

 

ロビンフッドとビリーとジェロニモは他のサーヴァント達の宝具の威力に驚き、自分たちも負けていられないと三人同時で放つ。

 

「弔いの木よ、牙を研げ。『祈りの弓(イー・バウ)』!」

 

ロビンフッドの弓から矢が放たれ、魔神柱に突き刺さると、溜め込んでいる不浄を瞬間的に増幅・流出してそれが火薬のように爆発が起きた。

 

「さぁ、早撃ち勝負だ。先に抜いてもいいよ?僕の方が速いから……ファイア!!」

 

ビリーが愛用していたと言われるコルトM1877ダブルアクションリボルバー通称「サンダラー」によるカウンターの三連射撃で爆発でダメージを受けた魔神柱に更なるダメージを与える。

 

「精霊よ、太陽よ。今ひととき、我に力を貸し与えたまえ!その大いなる悪戯を……『大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)』!」

 

ジェロニモはアパッチ族に伝わる巨大なコヨーテを召喚し、コヨーテが召喚されることでコヨーテに煙草を奪われた太陽がコヨーテを追いかけ始め、広範囲に渡って強烈な陽光によるダメージを魔神柱に与える。

 

更に守護者であるコヨーテによって味方側の力を増幅させる。

 

「「11回目、12回目、13回目のバトル!!」」

 

コヨーテによってホープレイ・ヴィクトリーの力が増幅され、太陽の光をホープ剣に纏わせて3体の魔神柱を斬り裂く。

 

「バニヤン、お前の力を見せてくれ!」

 

「う、うん!」

 

バニヤンは少し緊張しながら気合を入れて宝具を発動する。

 

「これが開拓者魂だぁーっ!『驚くべき偉業(マーベラス・エクスプロイツ)』!」

 

バニヤンが叫ぶと空から巨大な足が出現し、そのまま魔神柱を踏みつけてダメージを与える。

 

これはアメリカ合衆国そのものを概念宝具とし、その建国史をエネルギー化して敵に叩きつけそこにある全てを薙ぎ払う宝具……なのだが、どう見ても実際は巨大な足で踏みつけているようにしか見えない。

 

「「14回目のバトル!!」」

 

巨大な足で踏みつけられて怯んでいるうちに魔神柱を叩き斬る。

 

「よーし!次は冷やし剣豪になったお姉ちゃんが行くよー!」

 

武蔵はセイバーには戻らずバーサーカーのままで魔神柱に挑む。

 

セイバーの宝具の方が良い気がするが、バーサーカーで狂化されているのでその考えには至っていない。

 

「頼むぜ、姉上!」

 

「いぇーい!冷やし剣豪、はじめましたぁー!!」

 

武蔵は海のフィールドを作ってからジェットスキーを召喚してそれに乗り、フルスロットルで動かし、海を掻き分けながら魔神柱に近づいて水の壁を生成してその中に閉じ込める。

 

「これぞ水懸りの陣!伊舎那水天象! 」

 

そして、武蔵は水の壁に包まれた魔神柱をガンブレードで斬り裂く。

 

「「15回目のバトル!!」」

 

武蔵が横に斬り裂いた後にホープレイ・ヴィクトリーで縦に斬り裂く。

 

「次は私とネロの魅惑の最強デュエットで行くわよ!」

 

「魔神柱を痺れさせてやろう!」

 

「最恐最悪のコンビが来たか……」

 

「ネロ、受けとれ!!」

 

ZEXAL IIは遊馬の所有する原初の火を出現させてネロに投げ渡す。

 

「俺とネロの原初の火、二刀流で派手に決めろ!」

 

「おお!よし、ではユウマやムサシに倣って二刀流で決めてやるぞ!」

 

ネロは皇帝特権と呼ばれるスキルがあり、本来持ちえないスキルでも本人が主張すれば短期間獲得出来、それで初めて使う二刀流を扱う事が出来る。

 

「サーヴァント界最大のヒットナンバーを、聴かせてあげる!『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!!」

 

「春の陽射し、花の乱舞。皐月の風は頬を撫で、祝福は星の彼方まで……開け、ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!」

 

エリザベートの魔城とアンプがせり上がり、更にネロの建築物「ドムス・アウレア」が同時に出現して魔神柱を閉じ込めてパワーダウンさせる。

 

そして、エリザベートはマイクを構え、ネロは二振りの原初の火を構える。

 

「響け!『竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)』!!」

 

「謳え!『星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)』!!」

 

エリザベートの口から絶対的音痴の怪音波を放ち、ネロは炎を纏う原初の火で魔神柱を斬り裂く。

 

「「16回目、17回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーは弱体化した魔神柱を斬り裂き、その直後にドムス・アウレアが解除される。

 

「旦那様!私も行きます!」

 

「ああ!清姫の炎で熱々にしてやれ!」

 

清姫は扇子を広げて青い炎を纏って広げていく。

 

「穢らわしい神よ……私の炎で焼き尽くしてあげましょう。『転身火生三昧』!」

 

扇子で仰ぎ、青い炎を天高く燃え上がらせて魔神柱を包み込んで焼き尽くしていく。

 

「「18回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーは青い炎に突っ込んでそのまま全身に纏い、魔神柱に突撃して更に焼き尽くして灰にする。

 

レティシアは旗を広げるが清姫のように炎を出さず、柄を地面に突き刺して何者にも屈しない不敵の笑みを浮かべる。

 

「ただ復讐の炎を燃やすだけじゃもったいない!せっかくこのアメリカでランクアップしたんだから、その力を使わなきゃ損よね!」

 

両手にそれぞれ異なる銀河の輝きを宿し、レティシアはその輝きを握りしめて高らかと叫んだ。

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!私に力を貸して!最強の銀河眼達!!」

 

時空が歪むとその中から数多のドラゴンの魂が出現してレティシアの元に集結し、その力が一つとなり、『竜皇の天后 レティシア・ドラゴニックエンプレス』へと進化し、その手には銀河眼の光子竜皇と銀河眼の時空竜の宝剣と妖刀を構えて走り出す。

 

「『双璧を成す究極の銀河竜(ダブル・ギャラクシー・エクストリーム)!!!』」

 

宝剣と妖刀が煌めき、乱れ斬りを放って魔神柱を斬り刻む。

 

「「19回目のバトル!!」」

 

「ホープレイ・ヴィクトリー!ついでだからこれを使いなさい!」

 

必殺技を放ったレティシアは宝剣と妖刀をホープレイ・ヴィクトリーに向けて投げ渡した。

 

ホープレイ・ヴィクトリーは二振りのホープ剣を背中に納め、受け取った宝剣と妖刀を握りしめると巨大化して柄を握り締め、銀河眼の美しい輝きを纏いながら魔神柱を斬り裂く。

 

これで残るサーヴァントはマシュだけとなり、最後にマシュが魔神柱に一撃を与えようとしたが、その前にD・ゲイザーに連絡が入った。

 

『マシュ。少しだけ待ちなさい』

 

「えっ!?オルガマリー所長!?」

 

それは上空でかっとび遊馬号で待機しているオルガマリーだった。

 

D・ゲイザーの連絡はZEXAL IIにも伝わっており、上を見上げるとかっとび遊馬号が魔神柱の攻撃が届かない高さにまで静かに降りてきた。

 

すると、突然空に無数の星が広がり、それが翡翠色に輝いていく。

 

「所長、何をするんだ!?」

 

「私もこの特異点に降り立ったからには少しはみんなの役に立ちたいからね。それに、せっかくだから私の力を少しは見せるチャンスだから!」

 

「チャンスって、所長は戦えるのかよ!?」

 

冬木ではオルガマリーがまともに戦える事ができない姿が思い浮かべていたが、この直後にそれが覆される事となる。

 

星々の光が強さを増していき、少しずつ大きくなっていく。

 

「これが私の……オルガマリー・アニムスフィアの大魔術よ!」

 

オルガマリーは今ではカルデアの所長だが、元々はマスター候補の一人で魔術回路の質も量も一流である。

 

今まで遊馬とアストラルとマシュに戦闘を任せていたのでその実力を見せる機会は無かったが、その高い身分や血統に相応しい力を秘めている。

 

アニムスフィアは遥かな昔から天体運動を研究し司る魔術師で、その真価は天体魔術にある。

 

星の形(スターズ)宙の形(コスモス)神の形(ゴッズ)我の形(アニムス)天体は空洞なり(アントルム)空洞は虚空なり(アンバース)虚空には神ありき(アニマ、アニムスフィア)!!!」

 

詠唱が終了すると同時に夜空の星から何十もの翡翠に輝く光の槍を振り落とされていく。

 

光の槍は魔神柱の体を貫き、大きな風穴を空けていく。

 

これがオルガマリーの天体魔術、隕石群落下による広域攻撃を行う大魔術……『星光の魔弾』。

 

「へぇー!やるじゃない、あの子!あれだけの大魔術を使いこなすなんて!」

 

「戦いには向かないとは思っていたが、素晴らしい魔術の才を秘めているな」

 

エレナとスカサハはオルガマリーが放った星光の魔弾に感心していた。

 

実はこの大魔術は詠唱してから隕石を引っぱりこんでいたら当然間に合わないため、「過去に隕石を落とそうとしていた」という因果逆転まで含まれる非常に高度な魔術である。

 

「す、凄え……!所長、こんな魔術を使えるのかよ……!?」

 

「まさか隕石を落とすとは……!カルデア所長の名は伊達じゃないと言うわけだな……!」

 

ZEXAL IIはオルガマリーの本気の大魔術に驚愕と同時に興奮していた。

 

『何をしているの!?私がとっておきの大魔術を使ったんだから早くあなた達も攻撃しなさい!』

 

「はっ!?りょ、了解しました!!」

 

しかし、攻撃するのをすっかり忘れていたので慌ててホープレイ・ヴィクトリーに指示を出す。

 

「「20回目のバトル!!」」

 

未だに降り注がれる魔弾をホープレイ・ヴィクトリーはホープ剣に取り込み、刃が翡翠色に輝き、星の力を宿したホープ剣で風穴を空けられた魔神柱を更に穿つ。

 

「最後は私が行きます……はぁあああああっ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

マシュもオルガマリーの星光の魔弾に興奮しながらも自分も負けられないと心を震わせ、自分の肉体と魂をランクアップさせて『希望の守護者 マシュ・ホープライト』へと進化する。

 

マシュは双翼を展開して空を飛びながら二振りのホープ剣を上に投げ飛ばして盾を構え、盾とホープ剣が並んで金色の光に包まれると、巨大な光の剣となる。

 

「『人理に輝く希望の光剣(ロード・カルデアス・スラッシュ)』!!!」

 

振り下ろされた光の剣は魔神柱の天辺から見事に叩き斬り、すぐさまZEXAL IIはホープレイ・ヴィクトリーに指示を出す。

 

「「21回目のバトル!!」」

 

ホープレイ・ヴィクトリーはマシュの縦の攻撃に合わせて横に切り裂くと、斬撃の形が大きな十字となり、魔神柱は光に浄化されて消滅する。

 

「遊馬君!アストラルさん!後はお願いします!」

 

これで全てのサーヴァント達の攻撃が終わり、残る魔神柱は7体となる。

 

残る魔神柱への攻撃はZEXAL IIとホープレイ・ヴィクトリーに託された。

 

「「22回目のバトル!ヴィクトリー・チャージ!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、相手モンスターの効果は無効化され、このカードの攻撃力はその相手モンスターの攻撃力分アップする!」」

 

オーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込むと更にホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力が上昇し、目にも止まらぬ速さで魔神柱の横を通り過ぎると次の瞬間には魔神柱の体が細切れに斬り裂かれた。

 

「一気にトドメを刺す!決めるぞ、遊馬!」

 

「おうっ!駆け抜けろ、極星神馬聖鎧!!」

 

極星神馬聖鎧は目を輝かせながら空中を凄まじい勢いで駆け抜け、これまでの宝具のダメージで既に残りの魔神柱は大ダメージを受けており、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃に反撃する事もできずに5体の魔神柱は次々と斬り裂かれていく。

 

「「これでファイナルだ!28回目のバトル!!更に最後のヴィクトリー・チャージ!!!」」

 

遂に魔神柱は残り1体だけとなり、ホープレイ・ヴィクトリーは目を輝かせながら最後の魔神柱に向けて突撃する。

 

最後のオーバーレイ・ユニットを使って攻撃力を最大限にまで上昇させてホープレイ・ヴィクトリーは全てを込めてホープ剣を振るう。

 

「「ホープ剣・ヴィクトリー・アシュラ・ディバイダー!!!」」

 

魔神柱を討滅する最後の攻撃。

 

六つのホープ剣が魔神柱の体を叩き斬り、消滅しかけた次の瞬間。

 

魔神柱の中から金色の光が飛び出すとそのままホープレイ・ヴィクトリーの胸を貫き、地面に激突した。

 

胸に大きな風穴を空けられたホープレイ・ヴィクトリーは破壊されてしまった。

 

「くっ!?ホープレイ・ヴィクトリー!?」

 

「馬鹿な……!?一体何が……!??」

 

ホープレイ・ヴィクトリーの効果でバトル時にモンスター・魔法・罠の効果は全て無効となっているはずだが、何かの力によって破壊されてしまった。

 

魔神柱の中から出てきたのは……。

 

「はっ……はっ……まだよ……まだ、私は消えないわ……」

 

「メイヴ……!?」

 

「魔神柱に取り込まれ、私達の連続攻撃を受けながらもまだ生きているか……」

 

それは自ら魔神柱に取り込まれていたメイヴだった。

 

全身がところどころ汚れており、満身創痍な様子でその手にはフェルグスの宝具である魔剣カラドボルグが握られていた。

 

何故他人の宝具をメイヴが使えるのかと言うと、メイヴとフェルグスは生前恋人同士だったのでその関係もあってメイヴは一時的にカラドボルグを借りる形で召喚して使うことが出来る。

 

メイヴは魔神柱が討滅されて解放された瞬間に決死の覚悟でホープレイ・ヴィクトリーの胸元に飛び込んでカラドボルグの一撃を叩き込んで破壊したのだ。

 

「魔神柱は倒されちゃったけど、クーちゃんの為に貴方だけは道連れにしてでも倒すわ……」

 

メイヴは今も戦っているクー・フーリン・オルタの為にZEXAL IIを道連れにしてでも確実に倒そうとしている。

 

「下がれ、マスター。メイヴには私自ら引導を与えてやろう」

 

スカサハが前に出てメイヴにトドメを刺そうとするが、ZEXAL IIは片腕を広げてスカサハを制する。

 

「師匠、俺は連合軍のマスターとしてケルト軍の女王メイヴと決着を着ける」

 

「しかしお前のモンスターは……」

 

「心配ない。こうなる事も予想して予め手を打っておいた」

 

ZEXAL IIが手を前に出すと巨大な魔法陣が展開された。

 

「「極星神馬聖鎧のもう1つの効果!装備モンスターが相手に破壊されてこのカードが墓地へ送られた時、自分の墓地の希望皇ホープモンスター1体を選択して特殊召喚出来る。蘇れ……ホープレイ・ヴィクトリー!!」」

 

魔法陣の中から極星神馬聖鎧と阿修羅副腕を失ったが、ホープレイ・ヴィクトリーが復活した。

 

ZEXAL IIはもしも破壊されてしまった時のことを想定して極星神馬聖鎧も創造しておいたのだ。

 

「なっ……!?せっかく倒したのに復活したの……!?」

 

「「更にオノマトピアの効果でかっとビングカウンターが1つ乗り、更に200ポイント攻撃力がアップする」」

 

オノマトピアに乗ったかっとビングカウンターは3つとなり、これでホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力は合計3400となる。

 

「これで最後よ……私の宝具……!!」

 

メイヴは聖杯で魔力を得て自分の象徴する宝具を発動する。

 

「あらゆる力が私の力……人を総べる王権……人を虐げる鋼鉄……人を震わす恐怖!」

 

メイヴは「クーリーの牛争い」にまつわる牛が引く二頭立ての戦車を召喚して乗り込み、突進攻撃をする。

 

ZEXAL IIはメイヴに立ち向かう為にホープレイ・ヴィクトリーに最後の攻撃命令を下す。

 

「「ホープレイ・ヴィクトリーで攻撃!更に手札から速攻魔法『虚栄巨影』を発動!モンスターの攻撃宣言時、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動出来る。そのモンスターの攻撃力は、そのバトルフェイズ終了時まで1000アップする!」」

 

虚栄巨影でホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力は更に上昇し、攻撃力の合計は4400となり、オーバーレイ・ユニットは無いが充分に攻撃力が強化された。

 

ホープレイ・ヴィクトリーは第三、第四の腕を出現させて背中の四本のホープ剣を引き抜いて構え、メイヴに突撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『愛しき私の鉄戦車(チャリオット・マイ・ラブ)』!!!」

 

「「ホープ剣・ダブル・ヴィクトリー・スラッシュ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイヴの戦車の突進とホープレイ・ヴィクトリーの斬撃が交差する。

 

メイヴは自分の魔力の全てを費やして戦車のスピードを上げて突進力を強化した。

 

しかし、ホープレイ・ヴィクトリーの重なる『V』の斬撃が戦車ごとメイヴを叩き斬り、メイヴは宙に投げ飛ばされる。

 

「クーちゃん……」

 

メイヴは最後にクー・フーリン・オルタの名を呟きながら目を閉じ、消滅していった。

 

消滅したメイヴの体からこの世界の特異点である聖杯とフェイトナンナーズが現れて地面に落ちた。

 

 

 




次回でアメリカ編最終回です。
それが終わったら鬼ヶ島かプリヤのどちらかを書く予定です。


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ナンバーズ138 第五特異点終結!狂王の最期と魔法少女との出会い!!

これにて第五特異点は集結です!
今回も長かったです、ざっと22話ですからね。


ZEXAL IIとサーヴァント達が魔神柱と戦っている頃、クー・フーリンとクー・フーリン・オルタは決着をつけようとしていた。

 

クー・フーリンはゲイ・ボルクの槍術とルーン魔術を駆使し、クー・フーリン・オルタは『噛み砕く死牙の獣』の鎧で獣の如く荒々しく攻める。

 

鎧自体に武器として鋭い爪や棘、刃が無数に付属した怪物のような意匠となっている。

 

更には尖った部分などが体に突き刺さると、そこを基点に四方へ無数の棘が伸びるという、ゲイ・ボルクそのもののような性質も備えているのでクー・フーリンは擦り傷でも受けないように全力で攻撃を回避する。

 

「どうした!避けてばかりで攻撃しないのか!」

 

「オレには使えねえ反則的な宝具を使っているお前が言うんじゃねえ!」

 

クー・フーリンはもしもその状態のクー・フーリン・オルタがスカサハと戦ったら負けることは予想出来る。

 

それほどにヤバイ宝具を相手にクー・フーリンは静かに逆転の時を待っていた。

 

「もういい……とっとと消えろ!!」

 

クー・フーリン・オルタは間合いを詰めて腕を振り下ろした。

 

爪と棘がクー・フーリンに襲い掛かろうとした……その時。

 

グサッ!!

 

「なっ!?」

 

「うぐっ!」

 

クー・フーリンは左手でクー・フーリン・オルタの爪を受け止めた。

 

しかし、左手は爪で貫かれて大量の血が噴き出す。

 

更に突き刺した無数の棘が内部に広がり、クー・フーリンの左手から内臓に向かう。

 

「馬鹿が!このまま内臓を破壊してくれる!」

 

「それは……どうかな!」

 

クー・フーリンは不敵の笑みを浮かべて貫かれた左手の指でルーンを描く。

 

次の瞬間、クー・フーリン・オルタの足元から炎の竜巻が巻き起こる。

 

「何っ!?」

 

「『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!!!」

 

それはクー・フーリンのキャスタークラスとしての宝具『灼き尽くす炎の檻』。

 

炎は無数の細木の枝で構成された巨人となり、クー・フーリン・オルタを胸部の檻に閉じ込めて炎で焼き尽くしていく。

 

「ぐぁあああああっ!??」

 

突然の炎にクー・フーリン・オルタはダメージが与えられるが、クー・フーリンも重体になりつつある。

 

左腕の内部に広がる棘が内臓に向かい、このままではクー・フーリンは瀕死の重傷を負ってしまう。

 

「ガキ共には刺激は強いが……仕方ねえ!」

 

クー・フーリンは歯を噛みしめながらゲイ・ボルクの矛先で左腕を突き刺し、そのまま力を込めて左腕を切り落とした。

 

「自分の左腕を切り落としただと……!?」

 

左腕を切り落としたことで棘の侵食が無くなったが、左肩から大量の血が溢れ出る。

 

「右腕だけあれば充分だ!!」

 

痛みに耐えながらクー・フーリンは魔力を解放してゲイ・ボルクを強く握り締める。

 

「行くぞ、狂王!!この一撃、手向けとして受け取るがいい!!!」

 

それはクー・フーリン最強の一撃。

 

生涯一度たりとも敗北しなかった英雄の持つ破滅の槍。

 

魔槍ゲイ・ボルクの本来の使用方法。

 

クー・フーリンが全身の力と全魔力を使い、魔槍の呪いを最大限発揮させた上で相手に投擲する特殊使用宝具。

 

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』!!!」

 

放たれた真紅の槍はマッハを超えるスピードで飛び、一直線にクー・フーリン・オルタに向かう。

 

「オォオオオオオーーッ!!!」

 

クー・フーリン・オルタは自分の全魔力を噛み砕く死牙の獣に込め、焼き尽くす炎の檻を無理矢理振り払い、回避が出来ないことは既に分かっているので真正面から突き穿つ死翔の槍に立ち向かい、ゲイ・ボルクを破壊しようとする。

 

激突する二人のクー・フーリンが放つ『突き穿つ死翔の槍』と『噛み砕く死牙の獣』。

 

真紅の閃光と衝撃波が火花のように激しく飛び散る。

 

互いに全魔力を込めた宝具の一撃なのでこれで勝負が決まる。

 

クー・フーリンのゲイ・ボルクが突き穿つか、クー・フーリン・オルタの噛み砕く死牙の獣が薙ぎ払うか……力と力のぶつかり合いとなる。

 

「グォオオオオオオオオッ!!!」

 

「ぶちかませ!!ゲイ・ボルク!!!」

 

クー・フーリンが思いを込めて叫ぶと胸に秘めた聖杯が光り輝き、手の甲に刻まれたナンバーズの『07』の刻印が強い光を放つ。

 

聖杯の力とナンバーズの奇跡の力がゲイ・ボルクに込められる。

 

ゲイ・ボルクから真紅の光が最高潮にまで輝き、噛み砕く死牙の獣の鎧にヒビが入る。

 

「バ、バカな!??」

 

次の瞬間、クー・フーリン・オルタに纏われる噛み砕く死牙の獣が破壊される。

 

「突き穿て!ゲイ・ボルク!!」

 

奇跡の力が込められたゲイ・ボルクが更にスピードを上げ、クー・フーリン・オルタの胸に向かう。

 

「ちっ……」

 

自分の運命を悟ったクー・フーリン・オルタは舌打ちをしながら小さな笑みを浮かべた。

 

次の瞬間、真紅の眩い閃光が広がり、光が収まってクー・フーリンの目に映った光景は……。

 

「はっ、こいつはもう癒しのルーンを使っても助からねえな……」

 

心臓をゲイ・ボルクに貫かれたクー・フーリン・オルタの姿があった。

 

癒しのルーンを使っても助からないと悟り、その場に座り込んでいた。

 

クー・フーリンはもうクー・フーリン・オルタは戦う意志がないと近づく。

 

「終わりだな、狂王。この勝負はオレの勝ちだ」

 

「チッ、まさかオレが負けるとはな……」

 

「ケルト軍はもう終わりだ。お前はもうすぐ消えて、メイヴはマスター達が倒してくれる」

 

外の魔神柱の邪悪な気配が急激に弱まっていくことを感じ、直に倒されるだろうと確信する。

 

「そう言えば、なんでお前はメイヴと一緒に戦っていたんだ?お前の目的は結局何だったんだよ?」

 

オルタナティブと言ってもクー・フーリン・オルタはメイヴが『クー・フーリンを自らに並ぶほどの邪悪な王にしろ』と聖杯に願い、召喚した邪悪で歪んだ存在。

 

そんなクー・フーリン・オルタは何を考えて戦っているのか、クー・フーリンは静かに尋ねた。

 

「……ふん、お前には分からねえよ」

 

クー・フーリン・オルタは「狂王」として国を作るに当たって自分に敵対するもの全てを滅ぼす事を掲げ、自身が最強の「王」である事を証明するためだけにひたすら戦い続けた。

 

「愚かだな、お前。その先には破滅しかねえんじゃねえか?」

 

「そうだとしても、オレにはこの道しかなかった……だが、悔いはない」

 

「そうかよ……」

 

自分とは全く違う考えや行動をするクー・フーリン・オルタにクー・フーリンは不思議な虚しさを感じていた。

 

「あばよ、光の神子……」

 

「じゃあな、狂王。お前との戦い、悪くはなかったぜ」

 

二人のクー・フーリンは別れを告げると、クー・フーリン・オルタは目を閉じて静かに消滅し、ゲイ・ボルクとフェイトナンバーズが床に落ちる。

 

クー・フーリンはゲイ・ボルクとフェイトナンバーズを拾い上げる。

 

「狂王、今度マスターに召喚されたらその力を貸してやれよ」

 

最初は気に入らないと思っていたが、戦い、言葉を交わした事で少しずつクー・フーリン・オルタの事を認めていた。

 

もしも遊馬がクー・フーリン・オルタを召喚しても、クー・フーリン・オルタは遊馬を裏切らない、大きな力になってくれると確信している。

 

「さてと、マスター達のもとに戻るかな……」

 

左腕を失い、戦いの疲れからゲイ・ボルクを杖代わりにして体を支えながら遊馬達の元へ向かう。

 

 

二十八体の魔神柱とメイヴとの戦いが終わり、ZEXAL IIは遊馬とアストラルに分離して戻る。

 

遊馬は地面に転がる聖杯とフェイトナンバーズを拾い上げ、メイヴのフェイトナンバーズをデッキケースにしまう。

 

「マシュ!」

 

「はい!聖杯回収、任務完了です!」

 

マシュは聖杯を遊馬から受け取ると、盾の中に収納した。

 

聖杯を回収し、これでアメリカの特異点が解決され、別れの時が来る。

 

「おー、無事に終わったようだな」

 

「兄貴!そっちも終わって──っ!?ク、クー・フーリン!お前、腕が……」

 

クー・フーリンが戻って来たが、左腕を失っている事に気付き、遊馬達が駆け寄る。

 

心配そうで涙目で見つめる遊馬にクー・フーリンはニッと笑みを浮かべて右手で遊馬の頭を撫でる。

 

「心配するな、聖杯のお陰で左腕ぐらいすぐに戻る。ほらよ、あいつのフェイトナンバーズだ」

 

「大丈夫なのか……?」

 

「おう。まあ少し疲れたからカルデアに戻ったら少し休みてえな。まずは弓兵に美味えツマミを作ってもらって、酒を飲んで寝るか!」

 

遊馬を心配させないためにクー・フーリンは豪快に笑い飛ばした。

 

そんなクー・フーリンにスカサハは優しい笑みを浮かべて話しかけた。

 

「セタンタよ、よくあの狂王に勝てたな。今回ばかりは素直に褒めよう」

 

「おう、それより師匠!マスターの召喚には必ず応えろよ!」

 

「ああ。ユウマ、師として弟子のお前を鍛えるのを楽しみにしているぞ」

 

「望むところだぜ!すぐに召喚するからちょっと待っててくれよ!」

 

遊馬とスカサハは師弟として修行をする時を楽しみに待つ。

 

そこに一騎のサーヴァントが走って来た。

 

「む……どうやら全て終わってしまったようだな」

 

「あ、李書文!」

 

それはベオウルフとの戦いを任せた李書文だった。

 

「その様子だとベオウルフに勝ったんだな?」

 

「もちろんだ。少し危うかったが勝ったぞ。それから、ベオウルフを倒した後にこれが残された」

 

李書文が遊馬に渡したのはベオウルフのフェイトナンバーズだった。

 

ベオウルフは一度レティシアと戦ったのでフェイトナンバーズが残る条件が達成されていたのだ。

 

「あ、そうだ!李書文!消える前に俺と契約してくれるか?」

 

「……そうだな。良いだろう、お主達には迷惑をかけたからな」

 

李書文は遊馬と契約を交わしてフェイトナンバーズを生むと、李書文はスカサハに話しかける。

 

「スカサハよ、あの約定……忘れてはいないだろうな?」

 

「もちろんだ。残された時間は少ないが……」

 

「何、構わぬよ……少し離れるか」

 

「そうだな。ユウマ、しばしの別れだ。また会おう」

 

スカサハと李書文は少し前に交わした約定……槍を交える為にその場から離れて消滅する前の最後の戦いを行う。

 

遊馬達はこのアメリカで出会ったサーヴァント達と最後の会話をしていき、再会を約束しながら次々と消滅していく。

 

アルジュナとバニヤンの二人は遊馬にこれからも力を貸すと約束して最後に契約を交わして消滅していった。

 

すると、ナイチンゲールは優しい笑みを浮かべながら手を差し出した。

 

「ユウマ、握手をしてくれませんか?」

 

「え?お、おう!」

 

遊馬とナイチンゲールは握手を交わした。

 

「私は連れ添った患者が退院する時、こうやって手を握りあうのが、私の密かな楽しみだったのです」

 

「へぇー。意外に可愛いところがあるんだな」

 

「……可愛い、という表現は正しくありません。これぐらいの喜びは看護師としての嗜みです」

 

遊馬に可愛いと言われてナイチンゲールは今まで見た事ないほど頬を赤く染め、まるで乙女のように照れた様子を見せた。

 

アストラルやマシュ達は相変わらずな遊馬に「またか……」と呆れ果てた。

 

「……まったく。あれほど激しい戦いをしてそんな悪質な冗談を言うほど元気があるとは、貴方を侮っていました、ユウマ」

 

「そうか?でも冗談じゃあねぇよ、今のナイチンゲールは可愛くて良い笑顔をしているぜ!」

 

「も、もう……あなたはそう言うところも重症ですね……コホン」

 

遊馬の言葉に大慌てをするナイチンゲールはコホンと咳払いをしてマシュに近づく。

 

「ミス・マシュ。一つ、よろしいでしょうか」

 

「は、はい」

 

「私の願いは、世界中から病院を無くすこと。即ち、各家庭で充分な医療が受けられる事でした。百年経ってもそれが果たされないとは思いませんでしたが……それでも、私は確信していることが一つある。いつか、病気は根絶されるでしょう。絶望、怨嗟の内に亡くなる患者は存在しなくなる。自分の靴に接吻した兵士が、苦悶の内に死ぬのを看取ることもなくなるでしょう。私はその為に戦ったのです。今までも、これからも。貴女は貴女の目的のために、これからの時間を生き続けなさい」

 

ナイチンゲールは自分の願いを語り、悩みながらも少しずつ成長していくマシュに向けて言葉を送る。

 

「……はい。ありがとうございます、婦長」

 

「ミス・マシュ。夢と願いは違います。私の願いは夢ではありません。夢という単語にした瞬間、人はそれを遠くにあるものと勘違いしがちです。限りなく現実を睨み、数字を理解し、徹底的に戦ってこそ願ったものへの道は拓かれる。嗚咽を踏みにじり、諦めを叩き潰す。それが、人間に許された唯一の歩き方です」

 

マシュはこれからも強くなる。

 

李書文との戦いで見せた限界を超えるランクアップの輝き。

 

その輝きはまだまだ光を増していく。

 

そして、その輝きの光を共に照らしていくのは……。

 

「ユウマ。私は貴方に同志シドニー・ハーバートと等しい信を置いています。どうか、ミス・マシュへの助力を。貴方たちの進む道に、どうか光がありますように。では、さようなら。またお目にかかる日を、待ち望んでいます」

 

ナイチンゲールは遊馬とマシュに最後のエールを送り、笑顔を浮かべながら消滅した。

 

「……願ったものへの道は……戦ってこそ拓かれる」

 

マシュはナイチンゲールの言葉を復唱して心に深く刻みつける。

 

「私たちの願い、それは人理を修復こと……」

 

アストラルは大きすぎる願い……人理を修復、世界を救うと言う願いに未だに小さな不安がある。

 

しかし……。

 

「そして、人理を救ったら、みんなで俺たちの世界に行く!そして、世界一周だ!!」

 

遊馬の見つめるのはそれよりも先の未来。

 

それはマシュやアストラルの不安すらも打ち消す光り輝くものだ。

 

自分の前世を知り、アナザーと言葉を交わしたことで遊馬の心はより大きく、より強く成長したからこそ、その見つめる未来が来ると確信している。

 

マシュとアストラルもその未来を遊馬と共に必ず紡ぐと心に強く誓った。

 

「シータ……」

 

「ラーマ様……」

 

シータとラーマは手を握り合って互いを見つめていた。

 

「そろそろ別れの時間だ……もっと、もっと君と一緒にいたかった……」

 

「私もです……ですが、ひと時でもあなたと側にいられて私は幸せです……」

 

離別の呪いが解かれてもシータとラーマはサーヴァント。

 

この特異点が消えれば自分たちも消滅して英霊の座に戻る。

 

この世界で奇跡の再会を果たし、最後の一瞬まで一緒にいようとするが……。

 

「そこ、愛する二人の感動の別れのシーンをやってるけどその必要は無いわよ」

 

レティシアが呆れ顔で髪をかきながらそう告げた。

 

「必要は無い……?」

 

「それはどういう意味ですか……?」

 

「気付かなかったの?あんた達……二人共受肉しているわよ?」

 

「「……ええっ!??」」

 

受肉は霊体であるサーヴァントが肉体を得て現界する事である。

 

受肉さえすれば英霊の座に戻る事なく普通の人間と同じように生きることができる。

 

「何を驚いているのよ。だってあんた達は遊馬とアストラルが合体したZEXALの令呪の三画と聖杯を使って呪いを解こうとしていたのよ?それだけの膨大な力を注がれたら受肉するに決まっているじゃない」

 

ラーマとシータは気付いていなかったが、同じく遊馬とアストラルの力で受肉したレティシアは既に二人が受肉していたことを知っていた。

 

「だから、あんた達はこれからも一緒。遊馬の元で第二の人生を歩むのよ」

 

「そう言う事だ!」

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

遊馬はラーマとシータの間に入って二人の肩を抱いた。

 

笑みを浮かべる遊馬はラーマとシータにある提案をする。

 

「俺と約束しただろ?絶対に幸せになるって。だから、戦いが終わったら、二人とも俺たちの世界に来いよ!そこで新しい生活を送るんだ!」

 

それは二人をレティシア達と同じように自分の世界に連れて行って新しい人生を歩ませる事だった。

 

遊馬の他人の幸せを願うその優しく慈悲深いその気持ちにラーマとシータは涙が溢れてくる。

 

「ユウマ様……ありがとうございます……!」

 

「あなた様には本当に、感謝してもしきれません……!ありがとうございます……!」

 

本当に素晴らしいマスターに出会えたとラーマとシータは改めてそう思うのだった。

 

カルデアのサーヴァント以外のアメリカで召喚されたサーヴァントは消滅する。

 

遊馬はラーマとシータ、そしてマシュ達サーヴァントをフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまう。

 

「遊馬〜!」

 

「遊馬、お疲れ様!」

 

そこにかっとび遊馬号が降下し、小鳥とオルガマリーが降りて来た。

 

「やったわね、遊馬!アストラル!」

 

「これでこのアメリカの特異点も解決ね」

 

「おう!小鳥も所長もお疲れ様!」

 

「そろそろ私達もカルデアに戻ろう。ロマニもレイシフトの準備を整えたはずだ」

 

D・ゲイザーでカルデアに連絡を取り、レイシフトを行う。

 

アストラルは皇の鍵の中に入り、遊馬と小鳥とオルガマリーの三人は静かに目を閉じ、レイシフトを行ってアメリカからカルデアへ帰還する。

 

 

カルデアに帰還するとロマニは遊馬達を有無を言わさずに医務室へと連れて行き、遊馬とマシュを重点的に検査した。

 

特に遊馬はラーマとシータを助ける為に無茶をし、マシュは李書文との戦いで一度死にかけたのでロマニは無茶をする二人に小言を言って叱りながら検査と治療をしていく。

 

流石に反論も弁明も出来ないので二人は大人しくロマニの検査と治療を受けていくのだった。

 

検査と治療が終わるが、既にカルデアでの時刻は夜なので遊馬達は就寝する為にそれぞれの自室に向かう。

 

「ふぁあっ……召喚は明日にするかぁ……」

 

「それがいい。それと、色々質問攻めがあることを覚悟した方がいいな」

 

遊馬の前世がアストラルの半身ということは既にカルデア中に広がっているらしく、多くのサーヴァントの質問攻めがあるのは容易に想像出来る。

 

「と言っても俺自身の記憶は無えからなぁ……アストラルも説明とか頼むぜ」

 

「もちろんだ。さあ、そろそろ寝よう。ホープ・カイザーやホープレイ・ヴィクトリーの怒涛の進撃で私達もかなり消耗したからな」

 

「ああ。おやすみ、アストラル」

 

「おやすみ、遊馬」

 

遊馬とアストラルは眠りにつき、戦いで消耗した体力と精神力を休ませる。

 

激しい戦いの疲れからすぐに深い眠りに入る二人。

 

明日からはまたカルデアでの騒がしくも安らぎの日常が戻って来る……はずだった。

 

「……遊馬君。遊馬君。起きてください。寝ている場合ではありません。起きないとて(ムニャムニャ)します。いいんですか。実行には、私の全身全霊、大いなる蛮勇を持って挑まなければいけませんが、致し方ありません。いいのですね?本当に──(ムニャムニャ)しますよ?」

 

「ごめんなさい、すぐに起きます」

 

マシュの言葉が耳に届き、遊馬はすぐに頭を覚醒させて目を覚まして起きる。

 

「……やっと起きられましたね」

 

「だってあんなことを言われたら起きるって。ちなみにマシュは俺に何をするつもりだった?」

 

「それはその……遊馬君の頬っぺを指で押したり、耳を触ったり、足の裏をくすぐったり、その不思議な髪を徹底的に調べて……」

 

「すぐに目覚めて良かった……ところで、何で戦闘モードになってるんだ?」

 

マシュの悪戯に遊馬はすぐに起きて良かったと思いながら、マシュは何故かデミ・サーヴァントの戦闘モードになっていた。

 

「周りを見てください。どうやら突発的なレイシフトです。私達二人だけ……のようですが」

 

周りを見渡すと青い空に白い雲、そして木々が所々に生えている野原が広がっていた。

 

「アメリカから帰って来てすぐこれか……アストラル!」

 

遊馬が呼ぶと皇の鍵が光って中からアストラルが現れる。

 

「遊馬、どうし──ここは、一体……?」

 

「どうやらどっかの特異点にレイシフトしたみたいだ。なんか変なところだな」

 

「はい。まるで異世界?のようです。なんだか落ち着きません」

 

「そうか?俺はアストラル世界やバリアン世界に行ったことがあるから別に普通だけどな」

 

「とりあえず、周囲の状況から確認だ。カルデアと連絡を取りつつ、警戒して行こう」

 

アストラルの提案に同意して早速行動を開始しようとした──その時だった。

 

「キャ──」

 

「おや──あちらで何か物音が。フォウさん……ではない、陽気な声が──」

 

「キャー!どいてくださーい!」

 

何かが空の果てから高速で飛来し、こちらに向かって来てる。

 

「遊馬君!危ない!」

 

マシュが遊馬を庇って前に出たが……。

 

ドカァン!

 

「──はうっ」

 

飛来して来たものとマシュが顔面激突してしまい、マシュはその場で倒れてしまう。

 

「マ、マシュ!??」

 

「だ、大丈夫か!??」

 

「大丈夫です(涙)シールダーです……っ(涙)」

 

顔面に激突した痛みとシールダーでありながら盾で防御できなかった自分の不甲斐なさが同時に来てマシュは顔をさすりながら涙目となっていた。

 

「あらあらー、私ったら出会い頭の濃厚な顔面☆激突!申し訳ありませんー!」

 

「喋る……ステッキ?」

 

「何なのだこれは……?」

 

軽快な高い声と共に跳ね上がったそれは子供のおもちゃにあるような「魔法少女のステッキ」そのままの外観でヘッド部分には黄色の五芒星に羽の生えたリングが飾っている。

 

「おやおや?なかなかの魔力反応?ひょっとして、あなたがたも異邦人ですかー?それに、そこの青い人はもしかして……精霊さんですか?ややーこれはツイていますねー!これならぜひ、お助け願いたいんですけどー?」

 

「ってかさ、お前は……何?」

 

「あ!聞いちゃいます?それ聞いちゃいますぅ〜?しからば名乗りあげましょう!魔性の人工天然精霊、その名も──!」

 

ババン!と何処からか効果音が流れながらそのステッキは名乗りを上げた。

 

「愛と正義のマジカルステッキ、マジカルルビーちゃんです!イッツミー!」

 

「マジカルルビー……?」

 

「人工天然精霊……?」

 

「あ、先程は顔面失礼しました(ぺこり)」

 

「いえ、それはもう──ッ!」

 

「遊馬!」

 

「ああ!」

 

遊馬達はルビーを持ってその場から急いで下がると、炎の攻撃魔術が襲って来た。

 

「あら、ステッキの方だった?まだ生きてたの?ずいぶん頑丈なのねー。宝石魔術系の礼装は、伊達じゃないってとこかしら」

 

そして、空から降りて来たのはピンク髪の少女だった。

 

「このピンク髪ですよー!私をマスターごとブッ飛ばしてくれたのは!WORKING!WARNINGです!」

 

ルビーを襲ったのは遊馬達にとって戦ったばかりの敵だった。

 

「てめぇは……メイヴ!!」

 

「おや?お知り合いですか?」

 

「我々がつい最近戦った、敵の首魁だ!」

 

「とても危険なサーヴァントです……しかし、何故ここに!?」

 

遊馬達は再び現れたメイヴに警戒するが、当の本人からは全く違う反応だった。

 

「あら、私の顔をご存知なの?ちょっと嬉しいな。でもね、それは少し違うの。教えてあげるわ!今日からあなた達を支配する、女王の名前を。一度だけよ、よーく聞きなさい。二度目は私の番犬の餌食(おやつ)だから♡」

 

華麗なポーズを取り、男を魅了するである可愛いウィンクをしてメイヴは堂々と名乗った。

 

奉仕(ゆめ)隷属(きぼう)が私の力の源!魔法少女のなかの魔法少女!人呼んで蜂蜜禁誓(ハニーゲッシュ)魔法少女(クイーン)、コナハト☆メイヴ!ちゃん付けでも構わなくてよ!」

 

「「「…………は?」」」

 

遊馬とアストラルとマシュは心の中で何を言っているんだ?と思い、三人は互いに目を合わせて頷くと踵を返した。

 

「よーし、ルビー。お前のマスターを探しに行くぞー」

 

「まずはそのマスターの見た目などの身体的特徴などを詳しく教えてくれ」

 

「出来るだけ早く見つけましょう。どんな方かはまだ知りませんが、不安になっているかもしれないので」

 

遊馬達はメイヴを放置して急いでルビーのマスターを探しに行こうとした。

 

「ちょっとちょっと待ちなさいよ!あんた達、何で私を無視するのよ!!?」

 

メイヴは慌てて走って回り込んで遊馬達の前に滑り込む。

 

そんなメイヴに対して遊馬達は哀れみの目で見つめ、ため息をついて話す。

 

「メイヴ……お前さ、魔法少女って言う歳じゃねえだろ?」

 

「前にテレビで魔法少女アニメを見たことあるが、あれは小学校高学年か……最悪高校一年ぐらいがギリギリの年齢制限だろう。それにメイヴ、君はサーヴァントであるが……少女という年齢ではないだろう?」

 

「そうですね……女王メイヴの伝承を考えると、少女と言うにはちょっと……と言うかもう既にアウトだと思います。クー・フーリンさんとスカサハさんが今の貴方を見たら呆れ果てるか大爆笑しますよ」

 

遊馬達からの容赦ない言葉の刃が次々と心臓を貫くゲイ・ボルクの如くメイヴの心に深く突き刺さり、精神的ダメージを負いながらなんとか踏みとどまった。

 

「グスッ……う、うるさーい!そこまで言わなくていいじゃない!本当は自分でもギリギリだと思っているんだから、そこは合わせなさいよね!?と・も・か・く。いつも通り颯爽と愛しい私の重戦車(チャリオット)でやってきたの。今では『雪華とハチミツの国』を統べる女王──それが、私なの。おわかり?」

 

メイヴの話からしてどうやらアメリカで対峙したメイヴとは少し異なる存在のようだった。

 

以前ぐだぐだ本能寺の時に戦った戦国武将を名乗った残念サーヴァント達と同じような感じなのだとすぐに理解した。

 

「それじゃ、そこのルビーとかいう魔法の杖を、こちらによこしなさい?」

 

メイヴの狙いはルビーで魔物を大量に召喚し出した。

 

「お前の狙いはルビーか!」

 

「てやややー!このルビーちゃんが精霊心(ハート)に誓ったマスターは一人だけです!あなたの所有物なんかにはなりませんよー!?」

 

「……ルビー、君のマスターはどんな人物だ?」

 

アストラルはルビーからマスターはどんな人物なのか尋ねた。

 

「ワーオ、いきなり告白タイムですかー?ルビーちゃんのマスターはとってもフツーの女の子なんですよー?でも、ときどきすごーく強いんです!友達思いのがんばり屋さんなのです!まあ、欲望スイッチがバチコーンすると、思わず流されちゃうのも女の子らしいのですが。でもちょっと怖いですよね、あれ。優等生な女の子が暴走するとなんかもうモンスターって感じ、しません?」

 

「モンスターか……なるほどな」

 

アストラルはルビーからマスターの話を聞き、マシュに目線を向けた。

 

「……アストラルさん?なぜじっとこちらを?アイコンタクトでしょうか?」

 

「いや、気にするな。遊馬、ルビーのマスターはどうやら小さな女の子らしい。友達思いの頑張り屋なら……私達が助けない道理は無いな!」

 

「当たり前だ!メイヴ、ルビーは渡さねえし、お前の企みを止めてやる!」

 

遊馬達はルビーとそのマスターのために戦う決意をする。

 

「おやおや、生意気なブタね……調教してあげようかしら……ん?」

 

「ちょっと待ったぁーっ!」

 

そこに元気な少女の声が響いた。

 

草原を全力疾走で駆け抜け、遊馬達の前で止まった。

 

「ぜぇ、ぜぇっ……走りすぎて、もうっ……ルビー!!」

 

走って来たのは長い銀髪に紅い瞳を持つカルデアにいるとある女性によく似た制服姿の可愛らしい少女だった。

 

「君は……?」

 

「イエース!マイ・マスター!ルビーちゃんはここですよー!?」

 

ルビーはマスターである少女に駆け寄る。

 

「ふうーん……戦車で轢いても壊れないなんて、新入りの魔法少女は痴態(イキ)がいいわね!あなた、名前を教えなさい!私の無敵の軍団に迎え入れてあげてもいいわ!」

 

「むうぅ、また勝手なことを言ってるし……私は……私は!イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!」

 

少女──イリヤの名前と苗字に遊馬とアストラルは何処かで聞いた覚えがあった。

 

「イリヤ、スフィール……?」

 

「アインツベルン……?」

 

イリヤはルビーの柄を握り、鬼気迫る表情で叫んだ。

 

「無敵の軍団なんて知らない!それよりなにより──美遊(ミユ)を返して!!ミユは、私の!一番大切な友達なんだから!」

 

まだ状況や事情を把握してないが、大切な友達を全力で助けようとするイリヤの姿に遊馬達は心を打たれた。

 

「ルビー!──転身!」

 

「かしこまりました!」

 

ルビーから金色の光が放たれ、それがイリヤを包み込んでその姿を変える。

 

「コンパクトフルオープン!鏡界回廊最大展開!!☆」

 

それは偶然と奇跡が重なった少女の無限大の輝き。

 

Die Spiegelform wird fertig zum(鏡像転送準備完了)!」

 

無理矢理戦いに巻き込まれ、自分の大き過ぎる力に苦悩し、一度は戦いから逃げてしまった。

 

Öffnunug des Kaleidoskopsgatter(万華鏡回廊開放)!」

 

しかし、友の為に立ち上がり、自分の大切なものを守ると誓った、幼くも強い……最強無敵の魔法少女がここに降臨する。

 

「カレイドライナー プリズマ☆イリヤ!ここに推参ですー!!」

 

光の中から現れたのはピンク色を基調としたフリフリのスカートなどが特徴のとても可愛らしい……所謂『魔法少女』の名に相応しいデザインの衣装を身に纏ったイリヤだった。

 

まるでアニメで見たような魔法少女が目の前に登場し、遊馬達は唖然としてしまった。

 

「ほ、本物の魔法少女だ……すげぇ……!」

 

「見事だ……イリヤスフィールの本来の可愛さもあるが、あの姿こそが魔法少女と言うべき可愛らしさだ」

 

「ええ。メイヴさんの自称魔法少女とは比べ物にならないほどの素晴らしい可愛らしさです!」

 

それと同時に魔法少女に変身したイリヤの可愛さに驚きと感動を得るのだった。

 

「……ねえ!ちょっと!敵とはいえさっきから私に対するディスりは酷くない!?」

 

メイヴはイリヤの魔法少女としての可愛さに敗北感を感じ、更には遊馬達の地味に酷い言葉に涙目になりながら叫ぶのだった。

 

 

 




やった来ました!プリヤちゃん降臨です!
実は私、あんまりロリっ子はあまり好きじゃないんですが、プリヤはロリっ子の中で一番好きですね。
あと、これは個人的な感想ですが、イリヤちゃんと遊馬ってなんか似ている気がするんですよね。
性格とかはもちろん違うんですけど、美遊ちゃんか世界のどちらかを救うか迫られてイリヤちゃんは「美遊も世界も両方救う!」と言った台詞に遊馬との親近感を覚えました。
遊馬もシャークと世界、どちらかは選ばないって言って両方救おうとしましたからね。
イリヤちゃんと遊馬、この二人は結構最高のコンビになりそうな気がします。


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魔法少女紀行 〜プリズマ・コーズ〜
ナンバーズ139 召喚!伝説の黒き魔法少女!


イリヤちゃんは書いていて改めてその可愛さに惚れちゃいました(笑)
早く美遊ちゃんとクロエちゃんもお迎えしたいです。


新たな特異点で遊馬達とイリヤが出会った頃……この世界に一人の少女が降り立った。

 

「ここは、何処……?」

 

「クリ……」

 

少女の隣には毛むくじゃらの小さなモンスターが浮いており、少女とモンスターは不安な表情を浮かべて周囲を見ていた。

 

「マスターとお師匠様の気配を感じられないし、ここは精霊界でも無い……私達の知らない異世界だわ……」

 

少女とモンスターもこの世界に引き寄せられてしまい、どうしたらいいか分からずにいた。

 

「クリクリ……クリ?クリリー!」

 

するとモンスターは何かに気付いて必死に少女に話しかける。

 

「えっ?この世界にマスターと同等の力を持つデュエリストがいる!?それは本当なの!?」

 

「クリ!」

 

「分かったわ。ひとまず、そのデュエリストのところに行きましょう!」

 

「クリクリ!」

 

少女とモンスターはこの世界にいるデュエリストの元へと飛んで行った。

 

 

ルビーの力で魔法少女に変身したイリヤはその可愛らしい見た目に反して魔力砲と魔力を斬撃にして放つと言う、戦いに特化した戦い方でメイヴを追い詰める。

 

一気に追い詰められたメイヴにイリヤはトドメの魔力砲を放った……その時、小さな黒い影が魔力砲を防いでメイヴを守った。

 

その小さな影に遊馬達は目を疑った。

 

「「「ク、クー・フーリン・オルタ!?」」」

 

「クーちゃん!?」

 

それはアメリカの特異点で戦った最大の敵、クー・フーリン・オルタなのだが……あの凶悪な姿で狂王と呼ばれていた姿が一変し、デフォルメしてぬいぐるみサイズにまで小さくなっていた。

 

「……っ……!?あの人を庇って……?」

 

「どうやら、あちら側の使い魔さんですねー?」

 

あのデフォルメしたクー・フーリン・オルタはメイヴの使い魔のようで、可愛い見た目だが言動はクー・フーリン・オルタそのものだった。

 

クー・フーリン・オルタはメイヴに撤退を促し、ここでもメイヴはクー・フーリン・オルタにメロメロで頬を赤くして目をハートに輝かせながら一瞬で消えてその場から撤退してしまった。

 

「ミユを……ミユを助けなきゃ……!──え……っ!?」

 

イリヤは友を助ける為にメイヴに聞きたいことがあり、すぐにメイヴを追いかけようとしたが、転身が解けて元の制服姿に戻ってしまった。

 

「転身が解けちゃった!?なにするのルビー!?これじゃ、あの人を追いかけられないよ!」

 

「あらー?どういうわけか魔力供給が安定しませんねぇ」

 

どうやらイリヤとルビーの間で何かトラブルが起きて上手く戦えない様子だった。

 

このままではメイヴを追いかけることはできず、深追いは禁物なので一度落ち着いてその場で遊馬達とイリヤ達で自己紹介と情報整理を行う。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。穂群原学園初等部の五年生です。そ、それでその……ま、魔法少女……やってます……やらされてます……はううっ……自分で名乗るの大変恥ずかしい……!」

 

流石に魔法少女を名乗るのは恥ずかしがったが、すぐにイリヤはルビーを助けてくれた事を感謝した。

 

「あの、ルビーを見つけて、敵から守ってくださって、本当にありがとうございましたっ(ぺこり)」

 

「いやいや、大したことはしてないぜ。俺は九十九遊馬。ハートランド学園中等部の一年生だ。よろしくな」

 

「は、はい。遊馬さんは日本人ですか……?」

 

「ああ、そうだぜ」

 

「その髪……どうやってセットしているんですか?」

 

イリヤはその特徴的過ぎる前髪と髪型に日本人なのか思わず疑ってしまった。

 

「よく言われるけど、日本人だぜ。この髪は父ちゃん譲りなんだ」

 

「と言うことは遺伝!?どんな遺伝ですか!?とんでもない遺伝子じゃないですか!?」

 

「そうか?」

 

首を傾げる遊馬にマシュは苦笑を浮かべながら自分も名乗る。

 

「私はマシュ・キリエライトです。アインツベルンさん」

 

「私の事はイリヤで!友達はみんなそう呼んでくれるから!」

 

「分かりました。では私もマシュと呼んでください」

 

「はい!」

 

イリヤは何故かマシュに家族と同じ雰囲気を感じており、心に安らぎを得ながら笑顔で話す。

 

「私の名はアストラル。アストラル世界と呼ばれる異世界から来た精霊だ」

 

「おやおやー?イリヤさん、このお方、私と違って人工ではなく天然の精霊さんですよ。しかもかなり高位ですねー」

 

ルビーはアストラルから強い精霊の力を感じ取り、感心して頷いていた。

 

「せ、精霊……?あの、つかぬ事をお尋ねしますが、その格好は最初からそのままですか……?」

 

イリヤはアストラルの格好……側から見れば裸体であるその姿に何かを思い出したのか思わず顔を隠して頬を赤く染めていた。

 

「私は元々服を着ることは出来ないからな」

 

「そ、そうですか……」

 

「あれ?でも、アストラル世界の住民はみんな服を着ているよな?そう言えばなんでアストラルは服を着てないんだ?」

 

遊馬の脳裏にはアストラル世界の住人達がみんなそれぞれ服を着ていたり、守護神のエリファスも鎧を装着していたことを思い出した。

 

「そう言えば……何でだろうな?」

 

初めてそのことを指摘されたアストラルも今更なんで自分は服を着ていないのだろうと疑問に思い始めて来た。

 

「本人すら分からないんですか!?ちょっとは恥ずかしいと思わないんですか!?」

 

「いや別に?」

 

「そんな曇りなき眼で!?」

 

「まあいっか。別にアストラルが服を着てなくてもアストラルはアストラルだし」

 

「確かに……そうですね。寧ろ最初からこうでしたから特に問題ありませんね」

 

アストラルは初めからこの裸体の姿だったので遊馬とマシュにとってはもはや当たり前のものとなっているので気にしていない。

 

「あれ!?そちらが既に問題なく受け入れちゃってる感じ!?」

 

「まあでも良いんじゃないんですか?よく見ればアストラルさんは美少年のようにお美しい顔立ちをしているんですから役得ってことで!」

 

「ルビー、そう言う問題じゃ……」

 

「あれ?でも、アストラルさんにはアソコが無い……ハッ!?も、もしや!?うはー!滾ってきましたよー!」

 

「ストーップ!それ以上は禁止!!録画モードも禁止ー!」

 

ルビーがアストラルに対して何かに目覚めてしまい、イリヤがそれを全力で止める光景が広がり、遊馬達は自然と笑みを浮かべた。

 

「何だか、面白いコンビだな」

 

「日々が退屈しなさそうな少女とステッキだ」

 

「でも、とても素敵だと思います」

 

話が少し脱線してしまったが、遊馬達とイリヤ達でそれぞれの事情を説明する。

 

まずはイリヤとルビーが事情を説明する。

 

元々イリヤは普通の小学生だったが、突然現れたルビーと強制的に契約を結ばれ、本来の持ち主であった「リン」に命令されて冬木市に眠る強力な力を持つ『クラスカード』の回収の手伝いをすることになってしまった。

 

そんな中、リンの相方である魔術師「ルヴィア」が、もう一つのカレイドステッキ「マジカルサファイア」と契約した謎の少女「美遊」を引き連れてイリヤの前に姿を現す。

 

クラスカードには英霊を実体化させるという能力が施されており、イリヤと美遊はカード回収の為に英霊と戦うことになる。

 

さまざまな苦労や挫折、そして拒絶……小学生には重過ぎる重荷を背負い、イリヤと美遊は苦悩したが、友情を深めていった二人は親友となり、力を合わせて遂に全てのクラスカードを回収したのだ。

 

「いやー、イリヤちゃんも結構色々苦労しているんだな」

 

「そうだな。ところで、ルビー。そのリンとルヴィアという魔術師……大馬鹿か?」

 

イリヤと美遊をトラブルに巻き込む元凶であるリンとルヴィアが起こした愚行とも言える数々の行動にアストラルは厳しい言葉を放つ。

 

「わぁお。アストラルさん、ストレートで辛辣な発言ですね。お二人は若いですが魔術師としては有能です。しかし、これが酷い犬猿の仲でしょっちゅう喧嘩しているんですよ。それで偶に一般人が色々被害を喰らってるみたいですし。まあ、マスターとしてあまりにも相応しくないので、私もサファイアちゃんも見限ってそれぞれイリヤさんと美遊さんに着いたんですけどね」

 

「……もう呆れてしまうほどダメなお二人なんですね」

 

マシュも既にフォロー出来ないほどの性格の相性が悪過ぎる二人だった。

 

「そ、それでも!二人は私たちの頼れるお姉さんです!一応は……」

 

イリヤの全力でフォローしようとしたが最後の泳いだ目に遊馬達は涙を誘った。

 

「……イリヤちゃん、時間がある時にでもジュースとお菓子でもつまんで俺たちが愚痴を聞いてやるぜ」

 

「君の話ならいくらでも聞いてあげよう」

 

「遠慮なく話してくださいね」

 

「ううっ、ありがとうございます……!」

 

かなり常識人な部類に入る遊馬達の励ましにイリヤは感動の涙を流して感謝した。

 

ちなみに、そのリンと言う魔術師だが、カルデアにいる凛やイシュタルとはただならぬ関係があると言う事を遊馬達が知る由もない。

 

話は少し逸れたが、イリヤは現実世界から隣接する『鏡界面』へと移動しようとした際に原因不明のトラブルがあり、イリヤと美遊が巻き込まれてしまい、この異世界に来てしまった。

 

その直後、美遊は魔法生物に連れ去られてしまい、そこへ自称・魔法少女のメイヴが現れて襲撃を受け……現在に至る。

 

マシュはイリヤの話から自分達の住む地球とは異なる平行世界から来たのだと推測した。

 

遊馬達も自分達の目的や旅……世界が一度滅び、その世界を救う為に戦っていると軽く説明した。

 

まさか平行世界が滅び、遊馬達が世界を救う為に戦っているとイリヤとルビーは驚愕した。

 

「平行世界でそんなことが起きているなんて……」

 

「軽く聞いただけでもとんでもない戦いを繰り広げているんですねー」

 

「それを語り出すと軽く数時間はかかるぜ。まあ、それは置いておいて……イリヤちゃん、俺たちはこの特異点を解決する」

 

「この特異点に君の友人のミユも関わっている可能性がある。イリヤ、私達と協力しないか?」

 

アストラルの提案にイリヤは唖然として目をぱちくりさせる。

 

「協力ですか……?」

 

「君と同じ魔法少女のミユが連れ去られ、わざわざメイヴが魔法少女を自称しているほどだ。この特異点には魔法少女と言う存在に何か大きな意味があると思われる。そこで、この特異点を解決する為に魔法少女である君の力を借りたい。その代わり、私達はミユを助ける為に全力を尽くすことを約束する」

 

「なるほど、いわゆるギブアンドテイクですねー!確かにこちらにも大きなメリットはありますね。イリヤさん、どうします?」

 

「あの、本当に良いんですか……?」

 

今のイリヤにはとてもありがたい話だが、少し遠慮しがちな雰囲気で話し出した。

 

「遊馬さん達には世界を救うっていう大切な使命があります。それなのに、私の目的に付き合わせちゃって……」

 

「バーカ」

 

コツン!

 

「あ痛っ!?」

 

遊馬はイリヤの頭を軽く叩いてそのまま頭を撫でた。

 

「遊馬さん……?」

 

「小学生の子供がそんなことを言うなって。一人で何でも抱え込むなよ。大切な友達を助けたいなら……どんな手を使ってでも助けたい気持ちでもう少しワガママになれよ」

 

「ワガママに……?」

 

「俺も大切な人を助けたい気持ちはよく分かる。でも、一人じゃ限界がある。俺も沢山の人達の協力と支えがあったからこそ、大切な人を……アストラルを助けることが出来たんだ」

 

「アストラルさんを……?」

 

「ああ。それと、ここからは個人的な思いだけど……俺はイリヤちゃんに協力したい!友達のために頑張っている君の助けになりたい!」

 

「その通りだ」

 

「私もです!」

 

遊馬だけでなくアストラルとマシュもイリヤに協力したいと心の底から強く願っている。

 

三人の思いに心が熱くなったイリヤは嬉しさから涙が溢れるのを必死に押さえながら頭を下げた。

 

「お願いします……!ミユを助ける為に、みなさんの力を貸してください!!」

 

「おう、任せろ!」

 

「よし、カルデアにも連絡を取って早速作戦会議だ」

 

「はい!すぐに準備します!」

 

こうして遊馬達とイリヤは特異点を解決する為、そして……ミユを救う為に協力関係を結ぶことにした。

 

D・ゲイザーでカルデアと連絡を取り、渋るオルガマリーを説得して特異点解決とミユ救出の許可を貰った。

 

ところが、この世界は今までの特異点とは大きな違いがある事を告げられた。

 

それは、この世界が巨大な『固有結界』によって構成された特殊な世界と言うことだ。

 

本来なら固有結界は数分しか保たないはずだが、これほど巨大な固有結界は異質というわけだった。

 

十分に注意しながら行動するようにと忠告を受けると、作戦行動を開始する前にカルデアから物資が転送された。

 

物資には遊馬が部屋に置いてきた原初の火などが入っており、中身を確認していくと……。

 

「フォウ、フォウ!」

 

「フォウさん!?物資に紛れて来たんですか!?」

 

カルデアにいたフォウが物資の中に隠れてこの世界に転送されて来たのだ。

 

カチッ!

 

フォウの登場にイリヤの中で唐突に何かのスイッチが入った。

 

「うひゃい!なにこのモコモコフッサフサの子!可愛いいぃ〜!さわりたいさわりたいさわります!」

 

「フォウ!?……フォフォウ!」

 

目がハートになって大興奮状態となったイリヤにフォウは驚いたが、美少女と言っても過言ではないイリヤなら構わないと思ったのか器用にイリヤの体をよじ登って胸に飛び込んだ。

 

「うひゃあああああ!?モコモコちゃんが私に飛びこんでキター!マシュさん、この子は何ですか!?こんなに可愛い生き物は見たことありません!」

 

「え、えっと……その子はフォウさん。私のお友達です」

 

「一応そいつは猫らしいぜ」

 

遊馬の調べでフォウが一応猫だという事を話すと、イリヤのテンションがますます上がった。

 

「ネコ!?ネコちゃんですか!?私ネコが大好きなんです!こんなにもモコモコで可愛いなんて反則だよぉ……この子を是非ともお持ち帰りたい!」

 

「フォー!?」

 

イリヤの猫好きが大爆発して思考がおかしくなり、そのままお持ち帰りをしようとした。

 

「ダ、ダメです!フォウさんは私の大切なお友達でずっと一緒にいてくれると約束してくれたんですから、イリヤさんにはあげられません!」

 

「イリヤさん、無理矢理はいけませんよ?それに仮に持ち帰ったとしてもセラさんに動物を飼うのはダメですって言われるのでは?」

 

マシュに全力で止められ、ルビーから家庭内の事情を指摘されると、イリヤも冷静さを取り戻してスイッチがオフになる。

 

「あううっ……そうだよね……フォウ君はマシュさんのネコちゃんだし、セラにはダメって言われる未来も簡単に想像出来るよ……その、フォウ君、ごめんね」

 

「……フォウフォー!」

 

イリヤはフォウに謝罪するとその気持ちが伝わったのか、フォウはイリヤの肩に登るとそのまま頬擦りをして「気にするな!」と舌で頬を舐めて慰める。

 

「──ルビー、今ならどんな敵が相手でも勝って、ミユを必ず助けられる気がする」

 

その瞬間、何かのリミッターが解除されたかのようにイリヤの顔が真剣そのものになり、拳を握りしめて決意を示す。

 

「おおっ!?フォウさんの頬擦りにイリヤさんがまさかの覚醒!?これはプリズマ イリヤのマスコット枠としては少々嫉妬しますが、イリヤさんの『魔法少女力(MS力)』がかなり上昇したので目を瞑りましょう!」

 

「魔法少女力って……何?」

 

「さあ?私も初耳だ」

 

よくわからない展開と単語に遊馬とアストラルは頭に疑問符を浮かべるが、とりあえず準備を整えて出発する事にした。

 

まずは情報収集の為にイリヤがこの世界に来た時に空から見かけたここから一番近い場所にあるカラフルな国に向かう。

 

カラフルな国に到着すると、そこは建物から床まで全てがお菓子で作られたメルヘンな国……まるで童話で出てくるようなお菓子の国だった。

 

そこにはお菓子の体を持つ不思議な住人達が住んでおり、警戒の為にイリヤはルビーで転身し、遊馬もモンスターを召喚する。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『強欲なカケラ』を発動!『ゴゴゴゴーレム』を召喚!更に、レベル4モンスターの召喚に成功した時、手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚!レベル4のモンスター2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ!『No.39 希望皇ホープ』!!」

 

希望皇ホープを召喚すると初めて見る遊馬のモンスター召喚にイリヤとルビーは驚愕する。

 

「うわぉっ!す、すごいすごい!アニメやゲームで見たことあるような、あんなにもかっこいい戦士が召喚された!」

 

「むむっ……あのモンスター、かなり大きな力を宿していますね。それを魔術礼装でも無い機械で遊馬さん自身に何のデメリットも無くあっさり召喚しましたね……これは是非とも後で色々話を聞かなければ」

 

警戒しつつお菓子の国に入ると、住人達はイリヤを怖がる様子を見せて逃げ出した。

 

何故逃げるのか分からず、取り敢えず逃げ遅れた住人の一人を捕まえ、イリヤが可愛らしく軽く脅し、情報を聞き出した。

 

どうやらこのお菓子の国の女王は魔法少女で、同じ魔法少女のイリヤを恐れ敬ったのだという。

 

ミユを見かけたかどうか確認したが、どうやらミユの姿は見ていないらしい。

 

住人達からこれ以上情報が聞けないと判断すると、次に向かうのはお菓子の国の中心にある城……女王が住まう城である。

 

どんな女王がいるか分からないが遊馬達は最大限の警戒して城に向かった。

 

 

お菓子の国の城に入り、そこにいる女王に会いにいくと……。

 

「お客様だわ!お客様だわ!なんていい日なのかしら?どうぞいらっしゃい!おいしいお菓子を召し上がれ!」

 

「……ナーサリー?」

 

真っ黒なドレスを着た幼い美少女……それはナーサリー・ライムだった。

 

「わたし……ナーサリー・ライムなの?あなたが言うんだからきっとそうね!なん万なん千回目かのはじめましてをお祝いして、お茶会しましょう!?ナーサリー・ライムは魔法の少女。トミーサムの可愛い絵本。魔法少女のおやくめ果たし、にげさるアナタとこわれたワタシ。みんなの望みを叶えましょう?」

 

ナーサリーが何を伝えたいのかよく分からず、マシュは念の為D・ゲイザーでカルデアに確認を取ってもらう。

 

カルデアのナーサリーはジャック達と遊んでおり、彼女がこの国の住人達を操るマスターだと判明した。

 

今のところナーサリーから敵意は感じられないのでひとまずはお茶会に参加する。

 

イリヤはナーサリーにミユと他の魔法少女について話を聞こうとするが、ナーサリーは遊んでくれないと答えないと言った。

 

イリヤは渋ったが見た目的にイリヤよりも年下に見えるナーサリーのワガママな態度に折れて仕方なく先に遊んであげる事にした。

 

ナーサリーが一緒に遊んでいる黒いひつじを呼ぼうとみんなで一緒に鳴き声を真似て呼んだ。

 

すると……ナーサリーから魔力が溢れ出し、不気味な呪文を唱えた。

 

「おいでおいで!わたしのかわいい黒ひつじさん!」

 

邪悪な魔力が迸り、ナーサリーの背後に巨大な影が出現する。

 

その影の正体は遊馬達にとって何度も戦ったモンスターでもあった。

 

「ま、魔神柱だと!?」

 

それは無数の眼球がある巨大で不気味な肉の柱……魔神柱だった。

 

「──さあ、一緒に遊びましょう?」

 

ナーサリーは無邪気で残酷、そして純粋な笑みを浮かべた。

 

「ちっ、こうなったらナーサリーと全力で遊ぶしかねえな!」

 

「ナーサリーめ、何て危険なものを召喚したのだ……!」

 

「迎撃しましょう!イリヤさん、私の後ろに下がってください!」

 

「私の知ってる、遊ぶ、と根本的にちがうみたいなんですけど……(泣)」

 

「女王様って、そういうものですよー?いつも刺激に飢えているんです」

 

「刺激強すぎない!?」

 

「イリヤちゃん、ルビー、全ての女王がそうじゃねえからな!?少なくとも俺の仲間の勝利の女王と白百合の王妃は全然違うから!」

 

予想外過ぎるナーサリーの使い魔である魔神柱の登場にイリヤは恐怖から涙目になり、遊馬達は戸惑いながらも急いで迎撃態勢を取る。

 

遊馬はデュエルディスクを構えると希望皇ホープが現れ、自分のターンとなってデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!強欲なカケラの効果で通常ドローした時にこのカードに強欲カウンターを1つ置く。魔法カード『破天荒な風』!自分のモンスター1体を選択して発動し、次の自分のスタンバイフェイズまで攻撃力と守備力を1000ポイントアップする!」

 

希望皇ホープを中心に風が吹き荒れ、攻撃力と守備力が上昇する。

 

「これで希望皇ホープの攻撃力は3500!」

 

「行け、希望皇ホープの攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

希望皇ホープはホープ剣を右手で抜いて一気に魔神柱に斬りかかる。

 

しかし、魔神柱が軽く振るった触手の攻撃で希望皇ホープがあっさりと弾き返された。

 

「ホープ!?」

 

「これはまさか……遊馬!ホープの効果だ!」

 

「お、おう!希望皇ホープの効果!ムーン・バリア!」

 

アストラルの指示で遊馬は急いで希望皇ホープの効果を使い、オーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込んで肩翼を半月に展開して魔神柱の攻撃を防いで遊馬の元に戻る。

 

「遊馬君、アストラルさん、何が起きたんですか!?」

 

「分からねえ……ホープのカードには何の変化も無いのに……」

 

「まだ理由が不明だが、どうやら……ホープの攻撃力がダウンしているようだ」

 

「そ、それなら私が……収束砲撃!」

 

イリヤが代わりに魔力砲で攻撃すると、希望皇ホープと違って確実に魔神柱にダメージを与えた。

 

「イリヤちゃんの攻撃が効いている!」

 

「イリヤの攻撃が特別なのか?いや、ここは固有結界によって作られた異世界……もしかしたら独自のルールが適用されるのか……?」

 

「とにかく、今はイリヤさんの攻撃を主体に私達でガードしましょう!」

 

まだこの世界のことを理解していない遊馬達は唯一攻撃を通せるイリヤを攻撃の要とし、シールダーのマシュと希望皇ホープで守りを固める。

 

「『擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』!!!」

 

「ムーン・バリア!!!」

 

魔神柱から襲いかかる怒涛の連続攻撃にマシュの宝具と希望皇ホープのムーン・バリアでイリヤ を守っていく。

 

しかし、希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットを使い切ってしまい、攻撃対象になってしまったことでデメリット効果が発動してしまう。

 

「くっ、希望皇ホープのデメリット効果でオーバーレイ・ユニットがない状態で攻撃対象にされた時、ホープは破壊される……!」

 

希望皇ホープが破壊されてしまい、遊馬は苦い表情を浮かべる。

 

「ホープが……くっ、アストラル!イリヤちゃんみたいな魔法少女系のナンバーズはいないか!?」

 

「残念だが、ナンバーズにはそのようなモンスターは存在しない。君のデッキには一応魔法少女系のモンスターが存在するが、あくまでエクシーズ召喚を主軸としたモンスターだから魔神柱にダメージを与えるほどの攻撃力は無い……」

 

この世界の影響力によりナンバーズですらまともに戦うことは出来ず、唯一戦えるのはイリヤだけだが、そのイリヤ本人もまだ本調子ではない。

 

「くっそぉ!このままイリヤちゃんに任せるしかねえのかよ!」

 

遊馬は自分の無力さに打ちひしがれ、拳を握りしめた。

 

だが、運命は……デュエリストが紡ぐ奇跡が希望の光を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めないでください!真のデュエリストなら……最後まで勝利を信じて、デッキからカードを引いてください!!」

 

「クリクリ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な二つの声が響くと、ピンク色と茶色の光の玉が飛来し、遊馬の周りを軽やかに舞うとデッキの中に入って光を放った。

 

「な、何だ……?」

 

デッキトップがシャイニング・ドローをする時のように金色に輝いていた。

 

遊馬は祈る思いでデッキトップに指を添えた。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

遊馬が金色に輝くカードをドローし、それを見た瞬間、遊馬とアストラルはかつてない衝撃を受けた。

 

「嘘だろ……?このモンスターは……!?」

 

「まさか……この魔法少女の世界に引き寄せられたというのか!?」

 

「そうだとしたら、心強い援軍だぜ!」

 

「そうだな。遊馬、今のままでは召喚出来ない。強欲なカケラで必要なカードを引き当てるんだ!」

 

「任せろ!強欲なカケラの効果!通常ドローで強欲カウンターを乗せる。強欲カウンターが2つ乗ったこのカードを墓地に送り、デッキから2枚ドローする!」

 

強欲なカケラが修復されて強欲な壺へと戻り、その効果でデッキから2枚ドローする。

 

「来た来たぁっ!魔法カード『増援』!デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを1枚手札に加え、自分フィールドにモンスターが存在しない時、『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚する!」

 

増援で手札に加えたフォトン・スラッシャーを特殊召喚し、遊馬とアストラルは不敵の笑みを浮かべた。

 

「俺はフォトン・スラッシャーをリリースして、このモンスターをアドバンス召喚!」

 

フォトン・スラッシャーの魂を生贄に捧げ、手札から召喚するのは遊馬とアストラルにとって……否、デュエリスト達にとって伝説のモンスターの一体と語られるモンスターである。

 

「「現れよ!伝説の黒き魔術師の力を受け継ぎし、唯一無二の弟子!」」

 

遊馬とアストラルの前にカラフルな光が煌びやかに溢れ出し、そこから一人のモンスターが召喚される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ブラック・マジシャン・ガール!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現れたのは可愛らしい水色の衣装と帽子にピンク色のマントとスカートを着用し、手には渦巻模様のステッキを持つ金髪碧眼の美少女にして魔法少女。

 

デュエルモンスターズ界の伝説のモンスターであり、その可愛らしさから多くのデュエリスト達から絶大な人気を誇る最高の「アイドルカード」のモンスターである。

 

「キャ、キャー!き、金髪碧眼の魔法少女!?美少女だし、スタイルも良いし、服もとっても可愛い!」

 

「こ、これは!?私も見たことないほどの魔法少女力!以前お会いしたなのはさんよりも同等、いやそれよりも高い!?まさかこれほどの魔法少女がいたとは!??」

 

イリヤとルビーはブラック・マジシャン・ガールの可愛さと魔法少女力に大興奮していた。

 

「遊馬君が召喚したということは、まさか彼女はデュエルモンスターズのモンスター……!?」

 

「フォウ……!?」

 

「それに、悔しいですがイリヤさんの言うとおり、確かに可愛いです……!」

 

ブラック・マジシャン・ガールはマシュやフォウも見惚れてしまうほどの可愛さだった。

 

遊馬によって召喚されたブラック・マジシャン・ガールは振り返って遊馬とアストラルを見て優しい笑みを浮かべる。

 

「運命に選ばれし真のデュエリストよ、共に戦いましょう!」

 

「ブラック・マジシャン・ガール……ああ!一緒に行こうぜ!」

 

「君と共に戦えることを誇りに思う。力を合わせよう!」

 

遊馬とアストラルはブラック・マジシャン・ガールと共に戦えることを心の底から深く喜び、一緒にこの危機を乗り越えられると確信する。

 

 

 




デュエルモンスターズ界、最強の魔法少女!
ブラック・マジシャン・ガール、降臨です!

最初は出す予定はなかったんですが、ナンバーズには魔法少女系のモンスターがいないので、魔法少女の世界が舞台なので特別ゲストで呼んでみました。
ブラック・マジシャン・ガールはちょいちょい遊戯さん以外のところでも出てるので良いかなと思って思い切って出しました。


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ナンバーズ140 友を救う願いの力、夢幻召喚!

プリズマ・コーズ編って、イベントの割にはかなりストーリーが作り込んでいる感じがありますよね。
設定とか何度も見直さなきゃならないので大変です。


魔法少女の世界が起こした奇跡の出会いによって遊馬のデッキにブラック・マジシャン・ガールが宿り、それを自分のフィールドに召喚した。

 

「カードを1枚伏せ、そして……」

 

遊馬は戦いの中だがデュエリストとして深い喜びを感じていた。

 

かつて遊馬は決闘庵で六十郎が作った木札のカードによる特別ルールデュエルでブラック・マジシャン・ガールを模した「スタチュー・ブラック・マジシャン・ガール」を召喚したが今回は違う。

 

正真正銘の本物のブラック・マジシャン・ガールを召喚し、共に戦える……!

 

「ブラック・マジシャン・ガールで魔神柱に攻撃!!」

 

ステッキに魔力を集中して圧縮し、球体の形に留めながら一気に放つ。

 

「「黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!」」

 

魔神柱に魔力弾がぶつかった瞬間に圧縮された魔力が大爆発を起こし、魔神柱に大ダメージを与える。

 

「よっしゃあ!魔神柱に大ダメージだ!」

 

「行けるぞ、遊馬!」

 

ブラック・マジシャン・ガールの登場で一気に戦況の流れがこちらに向いてきている。

 

「黒ひつじさん、頑張って!」

 

ナーサリーの応援で魔神柱は起き上がり、ブラック・マジシャン・ガールに目掛けて触手と光線を放ち、攻撃を仕掛けた。

 

「ブラック・マジシャン・ガールを対象に罠カード、オープン!『安全地帯』!カードが存在する限り、対象モンスターは、相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されず、相手に直接攻撃できない!」

 

ブラック・マジシャン・ガールに光が纏われ、戦闘・効果破壊を防ぐ。

 

しかし、戦闘ダメージは免れず遊馬は自分に受けるダメージを覚悟した……その時。

 

「クリクリ〜!」

 

「えっ?この声……」

 

聞き覚えのある声に遊馬は手札をよく見るとそこにはデッキに入ってないカードがあった。

 

「こいつは……あっ!」

 

それは前のターンで遊馬が強欲のカケラの効果で2枚ドローした時、増援と一緒に引いていたカードだった。

 

増援を引き当てた時の喜びでもう1枚のカードを確認していなかったのだ。

 

ブラック・マジシャン・ガールと共にデッキに宿ったこのカードがあれば自分のダメージを抑えられる、遊馬は来てくれたことに感謝しながらカードを発動する。

 

「よっしゃあ!ありがとうな、力を借りるぜ!俺は手札から『クリボー』の効果発動!」

 

「クリクリ〜!」

 

ブラック・マジシャン・ガールの前に茶色の毛むくじゃらで少し鋭利な爪の緑色の両手両足につぶらな瞳を持つ可愛らしいモンスターが現れた。

 

それはデュエルモンスターズでブラック・マジシャン・ガールと並び、マスコットキャラとして人気を誇るモンスター、クリボーだった。

 

「相手モンスターが攻撃した場合、そのダメージ計算時にこのカードを手札から捨てて発動!その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる!」

 

「クリー!!」

 

クリボーが魔神柱の攻撃を全て受け止めて遊馬へのダメージを0にした。

 

「助かったぜ、クリボー!」

 

「まさかクリボーまで一緒に来ていたとは……不謹慎だがこの世界には感謝したくなるな」

 

アストラルの言う通り、デュエリストにとって伝説のカードであるブラック・マジシャン・ガールとクリボーを使うことができて遊馬はとても嬉しかった。

 

何故二体が力を貸してくれたのか理由はまだ分からないが、今は目の前の魔神柱を倒すことに集中してデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!うおっ!?こ、このカードは!?」

 

「あ、それは私が入れておいたカードです!それであのモンスターを倒せるはずです!」

 

遊馬がドローしたのはブラック・マジシャン・ガールがデッキに仕込んでおいたカードでブラック・マジシャン・ガールに最高の力を与える。

 

「そうか……行くぜ、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「はい!」

 

「魔法カード『黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)』を発動!このカードは自分フィールドに『ブラック・マジシャン・ガール』モンスターが存在する場合に発動出来る!相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!」

 

それはブラック・マジシャン・ガールの技名と同じ、専用の必殺技カード。

 

ブラック・マジシャン・ガールがいれば相手フィールドのモンスターを一掃する事が出来るシンプルだが豪快な能力のカードである。

 

カードの効果を受け、ブラック・マジシャン・ガールは膨大な魔力を得てそのままステッキに込めて先程よりも巨大な魔力球を生成していく。

 

「ルビー!私たちも行くよ!」

 

「アイアイマスター!派手にぶっ放して下さい!」

 

イリヤも負けじと魔力を込めてルビーを振り上げて構える。

 

そして、ブラック・マジシャン・ガールとイリヤは互いに目を合わせてアイコンタクトを交わし、同時にステッキとルビーを振り下ろす。

 

黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!!!」

 

極大斬撃(マクスィマール・シュナイデン)!!!」

 

巨大な魔力の爆撃と巨大な魔力の斬撃が同時に炸裂し、魔神柱に一気に襲いかかる。

 

膨大な魔力が込められた爆撃と斬撃……魔法少女二人の全力全開の攻撃に流石の魔神柱もひとたまりもなく、力を失って消滅した。

 

魔神柱が撃破され、これで残る敵はナーサリーのみとなったのだが……。

 

「あー楽しかった!」

 

ナーサリーはどうやら満足したらしく、遊びというなの戦いもこれで終了したようだった。

 

唐突に終わってしまい釈然としないが、約束通り遊びに付き合ったのでイリヤはナーサリーからミユについて尋ねた。

 

ルビーから秘蔵コレクションと言う名の危ない映像が流れようとしたがイリヤはそれを全力で阻止し、ナーサリーはミユの事を知らないと言った。

 

するとナーサリーは少し悲しそうな表情を浮かべながらこの世界の情報を語り始めた。

 

この世界は魔法少女達が集まる愉快で陽気なパーティーホール。

 

しかし、遊び疲れた者から順番に消えていく……という『きまり』があるらしい。

 

そして、このお菓子の国以外に三つの国があり、それぞれの国を魔法少女が支配している。

 

一つ目は『大海原と竜の国、二つ目は『死せる書架の国』、そして三つ目は『雪華とハチミツの国』。

 

「それとね……」

 

「……それと?」

 

「……ううん、なんでもないの。でも、これを、あげる。私と黒ひつじさんといっしょに遊んでくれた、お礼。楽しかった」

 

そう言ってナーサリーが取り出してイリヤに渡したのは美しい輝きを放つ大粒のダイヤモンドだった。

 

どう見ても高価なダイヤモンドにイリヤは涙目で受け取りを拒否しようとしたが、ナーサリーは無理矢理イリヤに渡した。

 

「いいの──私、魔法少女なのよ?だからね、私の大切なきらきら星──その星の宝石が、あなたのお友だちをさがす、たすけになるかもしれないわ」

 

どうやらこの宝石には何か不思議な力があるらしく、イリヤがミユを助ける為の力になるかもしれない。

 

「……遊馬さん、どうしよう?」

 

「ナーサリーが渡してくれたんだから素直に受け取ればいいんじゃねえか?それに……ミユちゃんを助けられる力が宿っているなら尚更だ。友達を助けるなら迷うことはない」

 

「……そ、そっか。かえって失礼なのかな……」

 

「そうよ、しつれいよ?私、女王さまなんだから。ちっとも惜しくはないわ。えへん」

 

ナーサリーはイリヤに変に不安にさせないようにわざと自慢げに言い、そのまま宝石をイリヤが貰い受けることになった。

 

ナーサリーにお礼を言い、遊馬達は城を後にして宝石をどう使うのか悩んでいると……。

 

「……あっ。宝石が……!まぶしい……!」

 

宝石が光を放つとある一定の方向を指し始めた。

 

そこは判明している地理で言うと郡島の密集する海洋部だった。

 

ナーサリーの言葉を借りるなら『大海原と竜の国』の可能性が高い。

 

「大海原と竜の国か……」

 

「ナーサリーだけの情報では、まだこの世界の事も、ミユの事も不明だ。情報を一つでも多く集めるためには宝石の導く光に向かうしかないな」

 

「宝石がこの世界の重要なアイテムだとしたら……もしかしたら他にもあるのかもしれません」

 

「イリヤさん!ここは情報&宝石ゲットの為にも次の国へ向かいましょう!」

 

「そ、そうだね……ミユ、少し時間はかかるけど、必ず助けるから待ってて!」

 

次の行き先を『大海原と竜の国』に決め、遊馬達はお菓子の国を後にした。

 

 

遊馬達は次の魔法少女の国である『大海原と竜の国』に向かうことにしたが、海を越えなければならないので……。

 

「ようこそ、俺達の飛行船!かっとび遊馬号だ!」

 

当初イリヤとルビーは船で向かおうと考えていたが、遊馬には皇の鍵の飛行船こと、かっとび遊馬号があるのでイリヤ達を船内に案内する。

 

「すっ──すっごぉい!こんな飛行船は初めてだよ!まるでSFか近未来が舞台のアニメか映画でしかみたことないよ!」

 

「……なんですかコレ。私達の世界の魔術とは全くの別物ですけど、これは魔術と科学のハイブリッドで生まれたとんでもないオーバーテクノロジーの塊じゃないですかー。遊馬さん、この化け物飛行船はどこで手に入れたんですか?」

 

「これは俺の父ちゃんが用意してくれたんだ。どうやって作られて動いているとか原理とか分からねえけど、アストラル世界で作って俺の為に用意してくれたんだ」

 

「「遊馬さんのお父さん、ハイスペック過ぎませんか!?」」

 

自慢げにいう遊馬に対し、イリヤとルビーは軽くドン引きしながら同時にツッコミを入れた。

 

かっとび遊馬号をステルスモードにして地上から見えなくさせてから上空に待機させ、カルデアからエミヤに作ってもらった弁当を転送してもらった。

 

人数もそこそこいるので、重箱のお弁当を転送してもらい、中を開くとそこにはおにぎり、若鶏の唐揚げ、卵焼きなどの日本のお弁当のメジャーな食べ物が詰め込まれていた。

 

「わぁああっ!美味しそうなお弁当だ!これぞ、ザ・日本人のお弁当だね!」

 

「イリヤちゃん、日本食はいけるのか?」

 

「うん!生まれはドイツらしいけど、私は日本でずっと育ったんだよ!それにこう見えても、ママがドイツ人で、おとーさんが日本人でハーフなの!」

 

「ハーフだったんだ!エミヤの飯は美味いから沢山食べてくれよ!」

 

「……衛宮?」

 

「ん?どうした?」

 

「ううん、何でもないです。いただきまーす!」

 

イリヤは遊馬の言葉に頭に引っかかるものがあったが美味しそうなお弁当を前に手を合わせて日本人らしく、いただきますの挨拶をして食べ始める。

 

「……あれ?」

 

「どうした?」

 

「もしかして口に合いませんでしたか?」

 

「ち、違います、とっても美味しいです!でも、このお弁当のおかずの味、私が慣れ親しんでいる味だったので……」

 

お弁当のおかずの味がイリヤにとって馴染みのあるものだったので疑問に思った。

 

「そっか……じゃあ、バンバンモリモリ食えるよな!イリヤちゃん、遠慮しないで食えよな。成長期なんだし、ミユちゃんを助けるためにもエネルギー補給をしないとな!」

 

「は、はい!」

 

遊馬とイリヤは歳も近く、成長期なので今後の戦いに向けて英気を養っていく。

 

「平行世界……まさか……」

 

アストラルはイリヤの言葉と反応、そしてカルデアにいる複数のサーヴァント達の口から語られた話からとある可能性を考えた。

 

しかし、今は下手にイリヤを混乱させるよりも大切な友人のミユの救出に集中させるのが賢明だと判断して何も言わなかった。

 

食事が終わり、重箱を片付けると遊馬のデッキが輝いて二つの光が飛び出した。

 

「お食事、終わりましたか?」

 

「クリクリ!」

 

「ブラック・マジシャン・ガール!クリボー!」

 

二つの光からブラック・マジシャン・ガールとクリボーが登場した。

 

「うひゃい!?毛むくじゃらのモコモコちゃん!フォウ君と違ったこのフワフワで感じもまた良い!」

 

モコモコでフサフサの体でつぶらな瞳を持つクリボーにイリヤはメロメロになった。

 

「クリボーか……あ!そうだ!」

 

遊馬はクリボーを見てデッキを抜いて中から3枚のカードを取り出してデュエルディスクに置く。

 

「召喚!『クリボルト』!『クリフォトン』!『虹クリボー』!』

 

『クリクリー!』

 

『クリリー!』

 

『クリー!』

 

召喚されたのは遊馬のデッキにいるクリボーの派生モンスターであるクリボルト、クリフォトン、虹クリボー。

 

「きゃあああああっ!!クリボーそっくりの可愛いモンスターがキター!!」

 

『クリー?』

 

『クックリー!』

 

『クリー!』

 

『クリリー!』

 

クリボー達は時空を超えた夢の出会いに喜び合いながら跳ねたり柔らかい体をぶつけ合う。

 

「ああっ……本当に可愛い……!モフモフの可愛い動物達がたくさん……あれ?ここは天国かな……?」

 

クリボー達の可愛さにイリヤの心は天国にいる気分となり、笑みを浮かべて見守っていた。

 

ヘブン状態となっているイリヤをルビーが正気に戻し、ブラック・マジシャン・ガールも交えて話し合いをする。

 

「私とクリボーはデュエルモンスターズの精霊界にいました。ところが、気がついたらこの世界に迷い込んでしまいました」

 

「デュエルモンスターズの精霊界だって……!?」

 

「やはり存在していたか。古の時代より数多のモンスター達が住まうとされる伝説の世界が……」

 

デュエルモンスターズにはモンスター達が住むとされる『精霊界』と呼ばれる異世界があると噂があった。

 

実際にブラック・マジシャン・ガールやクリボーが精霊界から来たと言うことに遊馬とアストラルは感動した。

 

「私達はこの世界から精霊界に帰る方法がありません。そこで、デュエリストであるあなた達の力を貸して欲しいのです。もちろん、私達の力を使ってください」

 

ブラック・マジシャン・ガールはクリボーと共に精霊界に帰らなければならない。

 

しかし、デュエルモンスターズの力を存分に使うことができるのはデュエリストしかいない。

 

そこで遊馬とアストラルの力を貸してもらいたいのだ。

 

「分かったぜ。ブラック・マジシャン・ガール、一緒に協力しようぜ!」

 

「はい!ありがとうございます!では、私とクリボーのカードだけでなく、このカードも使ってください!」

 

ブラック・マジシャン・ガールはステッキを構えて軽く振るうとたくさんのカードが現れて遊馬の手に置かれる。

 

「すっげぇ!魔法使い族と相性の良い魔法と罠カードだ!」

 

それは遊馬とアストラルも持っていない魔法使い族と相性が抜群の魔法・罠カードだった。

 

「ありがたい……これさえあればこの世界でも充分に戦える。遊馬、早速デッキ調整だ!」

 

「ああ!サンキュー、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「はい。喜んでもらえてよかったです」

 

遊馬とアストラルは貰ったカードを使って早速この特異点で戦い抜く為の専用デッキの調整を行う。

 

イリヤは遊馬とアストラルが行なっているデッキ調整を興味深く見つめる。

 

「うーん、これってどう見てもクラスの男子がハマっているカードゲームみたいだよね……」

 

イリヤはやったことはないがおもちゃ屋で見たことあるようなカードゲームにこれが魔術として戦っていることに疑問を持つ。

 

「デュエルモンスターズは元々、世界中で老若男女が楽しんでいるカードゲームだぜ」

 

「その起源が古代エジプトから始まり、モンスターを召喚する魔術だからな。時代を超え、その形を変えながらも力は永遠に紡がれていく」

 

「へぇー……凄いカードなんですね」

 

イリヤはカードを手に取って見ていく。

 

「ちなみに、遊馬君はそのデュエルモンスターズの世界大会で優勝したデュエルチャンピオンなんですよ!」

 

「フォーフォウ!」

 

「……ええっ!?世界大会で優勝!?そ、それって凄いことじゃないですか!?」

 

マシュとフォウが少し自慢するように言うとデュエルモンスターズの知識があまり無いイリヤでも分かる遊馬の偉業に驚愕する。

 

「い、いやー!それほどでも無いぜ!アストラルがいたから勝てたし……」

 

「デュエルチャンピオン……なるほど、精霊と共に戦い、運命を引き寄せる力もあるあなた方はやはり真のデュエリストだったんですね」

 

遊馬が幼いながらもデュエルチャンピオンである事実にブラック・マジシャン・ガールは改めて遊馬とアストラルは真のデュエリストだと確信した。

 

「カードか……これが使えたらな……」

 

イリヤは左足のももに取り付けてあるカードケースから3枚のカードを取り出す。

 

「イリヤちゃん、それって……?」

 

「これがクラスカードです。ミユと私で回収した英霊の力が宿った不思議なカードです」

 

それはイリヤとミユの運命の始まり、切っ掛けでもある英霊の力が宿るクラスカード。

 

全身を銀の鎧に包まれ、剣を持つ騎士……『Saber』。

 

フードに体を包んで杖と魔導書を持つ魔術師……『Caster』。

 

凶悪な表情を浮かべて大剣を持つ狂戦士……『Berserker』。

 

「セイバー、キャスター、バーサーカー……これがクラスカードか……確かにこれらから英霊……サーヴァントの力を感じる」

 

アストラルはクラスカードからフェイトナンバーズに似た同質の力を感じ取った。

 

クラスカードはイリヤがルビーを介して英霊の力の一端を一時的に宿して使用することができる。

 

しかし、この世界に来てから何故かクラスカードを使用出来なくなっている。

 

「そう言えば、クラスカードって7枚あるんだよな?残りの4枚は?」

 

「残りの4枚の内の3枚はミユが、最後の1枚はクロが持ってます」

 

「クロ?」

 

「クロは私の双子の妹みたいな、女の子……かな?現実世界に置いてきちゃいましたけど……」

 

「クラスカードが使えれば魔法少女+英霊パワーでイリヤさんの戦力も倍増するんですけどねぇ……」

 

「クラスカードね……イリヤちゃん、少し見ても良い?」

 

「はい、どうぞ」

 

イリヤからクラスカードを受け取り、手に取ってジッと見つめた。

 

すると、遊馬のデッキケースが輝くとパカッと開いて中から3枚のカードが出て来た。

 

「フェイトナンバーズが……この4枚って……」

 

それは遊馬が契約しているサーヴァントのフェイトナンバーズ、アルトリアとアルトリア・オルタ、メディア、ヘラクレスのカードだった。

 

アルトリアとアルトリア・オルタはセイバー、メディアはキャスター、ヘラクレスはバーサーカーのそれぞれのカードと共鳴して光の線で結ばれると3枚のクラスカードが光り輝いていく。

 

謎の現象にルビーが近づいてマジマジとクラスカードを見つめた。

 

「おおっと!?こ、これは!?イリヤさん!どういう原理かよくわかりませんが、クラスカードがパワーアップしていますよ!」

 

「えっ!?本当、ルビー!」

 

「はい!これならこの世界でもクラスカードをバッチリ使えるはずですよ!」

 

クラスカードにフェイトナンバーズの力が注がれたことでクラスカードがパワーアップし、この世界でも使用が可能となった。

 

「やったー!遊馬さん、ありがとうございます!」

 

「おう、良かったな。よーし、イリヤちゃんもパワーアップしたところで、俺たちもデッキ調整を頑張ろうぜ、アストラル!」

 

「そうだな、負けてられないな!」

 

イリヤにクラスカードを返し、遊馬達は魔法使い族を中心としたデッキ調整を急いだ。

 

 

大海原と竜の国へ向かった遊馬達は一直線にその国の大きな建物……神殿のような形をした城と降り立った。

 

堂々と正面から入り、玉座の間にいたのは……。

 

「はじめまして、見知らぬ異世界の方々。私はメディア──愛と癒やしの魔法少女メディカル☆メディアと申します。どうか、よしなに」

 

遊馬達が知ってる中でも特に魔法少女という名に相応しいサーヴァント……メディア・リリィだった。

 

「今度はメディア・リリィか……何かメディアが見たら色々とブチ切れそうな予感がするぜ」

 

「この事は黙っていたほうが賢明だな」

 

「ええ、それに隣の人形は……」

 

メディア・リリィの隣に小さな人形が浮いており、その形には見覚えがあり、遊馬達は思わず涙を誘った。

 

「イアソン……魔神柱の次はあんな可愛い人形になっちまって……」

 

「とことん不運が重なる男なのだな……」

 

「性格は少しあれですが、さすがに同情してしまいます……」

 

それはメディアの元夫・イアソンをデフォルメした人形だった。

 

オケアノスで魔神柱にされてしまったその次は人形……遊馬達も同情せざるを得なかった。

 

突然の訪問だったが、メディア・リリィは遊馬達とイリヤの話を聞き、質問などにも答えてくれた。

 

メディア・リリィは静かな暮らしをしたいので互いに干渉しないことを願った。

 

イリヤは宝石について聞くと、メディア・リリィも宝石を持っており、それがこの海原の国を支えて力を授けているらしい。

 

するとメディア・リリィはこの世界に起きた過去を語り出した。

 

かつてこの世界には数多くの魔法少女が存在したが、彼女たちは自分だけの国を欲しがり、戦い、奪い合った。

 

自分たちの安寧のルールを求め、互いに争いあった。

 

価値観と世界観の激突として……メディア・リリィは戦いを逃れることはできずに必死に戦った。

 

やがてメディア・リリィの手に宝石が現れ、戦うたびに重さと輝きを増していった。

 

宝石には幻想を支える媒介であり、それを奪われると言うことは死に等しいことなのだ。

 

「ですので貴女もこのままお帰りなさい。その宝石があれば貴女の望む国が造れるでしょう。欲しいものがあるのなら、それで代用すればいいのです。友達が欲しいのなら友達の国をお造りなさい。きっと、貴女の国に訪れた者は全て貴女の友達にされてしまう、素敵な国が出来る筈です」

 

メディア・リリィの狂った考えでイリヤにミユを諦めて友達の国を造れと勧める。

 

サイコパスと称されているメディア・リリィの言葉にマシュ達は言葉を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「──そんなの、違います(違う)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、イリヤと遊馬はメディア・リリィの言葉に同時に違うと否定した。

 

「私は友達が欲しいんじゃなくて、友達といたいんです。一緒に学校にいって、一緒に笑って、時にはケンカして離ればなれになって、でもすぐに会いたくて仕方がなくなる──そんな、自分と同じくらい大切な誰かと、私は出会うことができたんです。だから──今は、それ以外のものなんて要りません」

 

「友達って言うのはな、作るんじゃなくて自然と出来るもんなんだよ。代用なんか出来ない……掛け替えのない……一生の大切な宝なんだ。友達が困っている、危機が迫っているなら、全力で助ける!それが、本当の友達ってもんなんだよ!諦める事なんて絶対にしない!!」

 

イリヤと遊馬は友達を救いたいという強い想いを解放して言葉にする。

 

「……ただ静かに暮らしたい、と願うあなたに比べたらすごく貪欲で、我が儘な目的だけど──ごめんなさい、お願いします!私は、私の友達を助けるために来ました!」

 

「宝石がこの世界でどんな力を持ってるのか、どんな役割を持つのかは知らないけど、メディアが渡したくないならそれでいい。だけど、この世界に詳しいならミユちゃんを救い出すための手がかりを教えてくれ!」

 

「方法──ですか。残酷なようですが、イリヤさん。あなたはもうこの世界から逃れる事はできません。友達を助けるどころか、あなたにも出口はない。あなたが魔法少女である限り。いえ、あなた自身が逃れる意志すら持てない。そう言う絶望の場所なのです。あなたは結局、そんなふうに『友達のためにしか奇跡を起こせなかった』。永遠に未熟な魔法使い──魔法少女なのです。だから最後には、絶対にその宝石を頼るでしょう。わずかな希望にすがってお互いを燃やし尽くした、これまでの彼女(わたしたち)のように」

 

魔法少女……響きはとても可愛らしいものだが、この世界にとって魔法少女とは何か呪われたもの、絶望の象徴のようなもの。

 

メディア・リリィは生き残るために、争うために大切な何かを諦めている様子を見せていた。

 

「その、ミユさんという方の事は諦めて、お人形(おともだち)の造り方ならば、喜んで教えましょう?それが私なりの、ナーサリー・ライムへの手向けです。あなたに宝石を譲り、消えてしまった彼女への」

 

ナーサリーが消えた……その衝撃的な発言に遊馬達とイリヤは耳を疑った。

 

「──え?待って、これはどういう──」

 

「宝石は私たちの願いの寄る辺であり、私たちをまだ生かしておく最後の明かり……それを手放したナーサリー・ライムは存在を拡散し、すみやかに消滅するでしょう」

 

ナーサリーは侵略しに来るメイヴからイリヤを守る為、そして……希望を託す為に自ら魔法少女の願いが込められた宝石をイリヤに託したのだ。

 

イリヤは消えてしまったナーサリーへの謝罪を涙ながらにしながらも、ミユを助けたいと強く願った。

 

ナーサリーが自分ではなく、まだ輝ける誰かに希望を託したこと……しかしそれが、メディア・リリィの逆鱗に触れた。

 

「ああ、全く──本当に馬鹿げています!これだから童話出身の魔法少女は砂糖菓子なのです!中途半端な希望とか!何度!裏切られれば気が済むのでしょう!」

 

メディア・リリィはイアソンの人形を叩き起こすと、憎たらしい小言を言ってもらい、自分の戦意を高めていく。

 

「全く、面倒なギリシャ夫妻だな……葛木夫妻とは大違いだぜ」

 

遊馬はデュエルディスクを構えてデッキからカードを引いた手札にする。

 

「イリヤちゃん、こうなったら戦うしか道は無いようだぜ」

 

「この城を大型の敵が取り囲んでいるようだ……どの道逃げるのも困難だな」

 

「イリヤさん、敵に回ったメディアさんは決して易しい相手ではありません……!」

 

「またこんな展開になっちゃった──!?魔法少女って話し合いで仲良くなるものじゃなかったのー!?」

 

「あっはっは。それはご自分の胸に手を当ててよくおお考えくださいねー☆」

 

結局またしても戦闘になってしまい頭を抱えるイリヤに遊馬はポンと頭に手を置いて撫でながら優しく諭す。

 

「イリヤちゃん、別に相手を倒す必要は無いんだ。ここは一発、ガツンと自分の想いを込めてぶつければいいんだ!戦闘不能にして相手の頭を冷やせばまた話せるだろ?」

 

イリヤがとても優しい性格だと分かっているので、相手を倒すのではなく話し合う為に戦えば良いのだと諭した。

 

「遊馬さん……うん……!とにかく、出来るところまでやってみる……!」

 

「その意気だ、イリヤちゃん!」

 

イリヤはルビーを手に取り、一瞬で転身して魔法少女となる。

 

すると、イリヤの足に巻いてあるカードケースの中から光が漏れ出した。

 

「あれ?クラスカードが……」

 

3枚のクラスカードの内の1枚が輝き、イリヤはそれをカードケースから引き抜いて手にする。

 

「よく分からないけど、このカードが使えって言ってるんだね……」

 

イリヤはクラスカードを床に置いて静かに目を閉じる。

 

「行くよ、ルビー!」

 

「はい!初めてミユさんがやった時の台詞はサファイアちゃん経由で記録されてますので、イリヤさんにダウンロードします!せっかくなので、ここはカッコ良くかつ華麗に決めちゃって下さい!」

 

手にしているルビーから言葉の羅列がイリヤの頭の中に流れ込む。

 

静かに目を閉じたイリヤは想いを込めてその言葉を発する。

 

「──告げる!」

 

クラスカードが純白に光り輝き、そこを中心に大きな十字が描かれた魔法陣が展開される。

 

「汝の身は我に!汝の剣は我が手に!聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!誓いを此処に!我は常世総ての善と成る者!我は常世総ての悪を敷く者──!汝、三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ、天秤の守り手──!」

 

それは本来なら魔術師が英霊を召喚する為に使う魔術の詠唱。

 

しかし、クラスカードを使用するのであれば英霊をサーヴァントとして召喚するのではなく、別の形・方法として召喚する。

 

夢幻召喚(インストール)!!!」

 

クラスカードが光となってイリヤの体の中に入り込むと、イリヤが光に包まれてその姿を変える。

 

英霊の力を宿したクラスカード……その真の力を発揮する。

 

「クラスカード……『キャスター』!!!」

 

紫色のローブと黒色のマントを身に纏い、ルビーは先端が三日月をモチーフとなった柄の長い銀色のステッキとなる。

 

魔法少女であるイリヤの衣装が少し大人っぽくなったことで色気を醸し出していた。

 

クラスカードの真の力は英霊の力を自身の体を媒体にし具現化させることで、その能力をフルに発揮し、簡単に言えば自分を一時的にデミ・サーヴァント化させる魔術。

 

「あれは、メディアの衣装と杖……!?」

 

「間違い無いな……あのクラスカードに宿っていた英霊の力はメディアのものだったか……」

 

「と言うことは、残りのセイバーとバーサーカーのクラスカードには……」

 

クラスカード・キャスターにはギリシャ神話の神代の魔女……メディアの力が宿っていた。

 

奇しくもメディアの幼少期であるメディア・リリィと、メディアの力を一時的に宿したイリヤが対峙することとなった。

 

「その力はまさか……未来の私の魔女としての力!?」

 

「お、おい!マジかよ!?よりにもよって裏切りの魔女が降臨しやがったぜ!しかも魔女の力を宿した魔法少女なんて──プギャア!?」

 

「魔法少女であるあなたが、魔女の力を使うのですか!?」

 

イアソンくんを軽くステッキで叩きのめしながらメディア・リリィはイリヤを睨みつけた。

 

「魔法少女とか魔女とかそんなのは関係ない……私はミユと一緒に集めたクラスカードの力を使って戦う!あなたを、止める為に!!」

 

イリヤは暴走するメディア・リリィを止める為に夢幻召喚・キャスターの力を持って挑む。

 

 

 




せっかくなのでクラスカードを使用できるようにしました。
一応こちらには英霊の力が込められたフェイトナンバーズもあるので。
あと、夢幻召喚したイリヤちゃんを活躍させたかったので。


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ナンバーズ141 託された希望

お待たせしました。
更新ペースの空きが増えましたが無理せずゆっくりやっていこうと思います。

プリズマ・コーズ編は華やかなCMとかに騙されがちですが内容がかなり重いなと改めて感じました。


イリヤが夢幻召喚によってメディアの力をその身に宿し、その力を危惧したメディア・リリィはこの国の魔法少女として数多のモンスターを呼び出してイリヤ達に襲いかかる。

 

イリヤは杖を振るうと背後に五つの魔法陣が展開され、それぞれの魔法陣の中心に魔力が込められる。

 

クラスカード・キャスター……そこにはギリシャ神話の魔女・メディアの力が込められており、夢幻召喚をしたイリヤはその使い方を理解した。

 

「五門壊砲……神官魔術式・灰の花嫁(マキア・ヘカティック・グライアー)!!!」

 

五つの魔法陣から放たれる魔力砲は通常のイリヤのよりも強力で一気にモンスターを倒していく。

 

「すげぇ……!メディアに負けず劣らずの魔力砲だぜ……!」

 

「イリヤの魔力砲は確かに強力だが、メディア・リリィの防御力は高い……」

 

遊馬はイリヤの夢幻召喚に感心するが、アストラルはこのままではメディア・リリィを止めることは出来ないのでどう切り開くか考える。

 

「防御力が高い……あっ、そうだ!遊馬さん、作戦を思いつきました!」

 

イリヤは杖を見てクラスカードのもう一つの力を思い出し、良い作戦を思いついた。

 

「ほう……興味深いな。遊馬、予備のD・ゲイザーをイリヤに。作戦内容を相手に聞かれるわけにはいかない」

 

「分かった。イリヤちゃん、D・ゲイザーだ!マイクに向かって小声で話せば俺たちにも届く!」

 

遊馬は予備のD・ゲイザーを起動して展開し、イリヤに渡す。

 

「は、はい!」

 

イリヤはD・ゲイザーを左眼にセットし、マイクに向かって自分の作戦を小声で話し、遊馬とマシュに伝える。

 

イリヤの使える能力や状況を瞬時に判断した効果的な作戦に遊馬とマシュは見事だと感心し、その作戦を遂行することにした。

 

作戦を遂行するために遊馬が先陣を切る。

 

「よし!イリヤちゃん、露払いは俺が引き受けるぜ!俺のターン、ドロー!よっし!魔法カード『アームズ・ホール』!デッキトップのカードを墓地に送り、デッキ・墓地から装備魔法を1枚手札に加える!俺は『魔術の呪文書』を手札に加える!更に魔法カード『黒魔術のヴェール』を発動!!」

 

遊馬のフィールドに青と紫に輝く魔法陣が浮かび上がる。

 

「1000ポイントのライフを払い、自分の手札・墓地から魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する!手札から『ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚!!」

 

『ふふっ……はっ!』

 

自分のライフポイントを糧とし、手札からブラック・マジシャン・ガールを呼び出す。

 

「ブラック・マジシャン・ガールに魔術の呪文書を装備!このカードは『ブラック・マジシャン』か『ブラック・マジシャン・ガール』にのみ装備可能!これにより、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力を700ポイントアップする!」

 

様々な呪文が記された大きな魔術書が現れ、それをブラック・マジシャン・ガールが読むと攻撃力が上昇する。

 

「速攻魔法『スター・チェンジャー』!自分のモンスター1体のレベルを1つ上げるか下げることが出来る!ブラック・マジシャン・ガールのレベルを1つ上げ、レベル7にする!」

 

わざわざブラック・マジシャン・ガールのレベルを1つ上げた理由……それはモンスター達を一掃する魔法使い族の必殺のカードを発動する為である。

 

「更に手札から魔法カード『拡散する波動』を発動!俺のライフポイントを1000ポイントを払い、自分フィールドのレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を対象として発動!相手フィールドのモンスター全てに攻撃出来る!!」

 

拡散する波動……それは伝説のデュエリスト・武藤遊戯が数々の名デュエルでフィニッシュを何度も飾ったカードで自然と遊馬も声に力が込められる。

 

「ブラック・マジシャン・ガールの攻撃!」

 

ブラック・マジシャン・ガールがステッキを上に向けると、魔術の呪文書と拡散する波動によって得られた特大級の魔力が込められる。

 

「ブラック・バーニング・バースト!!!」

 

魔力が何倍にも増加し、新たに現れたモンスター達全てを対象に無限に近い爆撃が拡散されて放つ。

 

拡散する波動の効果でこの場にいる全ての敵を一度に攻撃することが出来るので僅か十数秒でモンスター達を全滅させた。

 

「行け!マシュ!イリヤちゃん!」

 

「「はいっ!!」」

 

マシュは走り出し、イリヤは低空飛行で飛び、メディア・リリィとイアソンの元に向かう。

 

「こ、来ないでください!」

 

メディア・リリィは魔力弾を放ち、マシュとイリヤを狙い撃つが、マシュは盾で魔力弾を防ぎ、イリヤは回避しながら急上昇して高く飛ぶ。

 

「『キャスター』、アンインストール!」

 

イリヤは胸元に手を置くと自身と一つになっていたキャスターのクラスカードを取り出し、夢幻召喚を解除して元の魔法少女の姿となり、カードケースから次のクラスカードを取り出す。

 

「クラスカード『バーサーカー』!!」

 

取り出したのはバーサーカーのクラスカード。

 

それを今度は夢幻召喚ではなく、ルビーでクラスカードを叩きつけるようにして発動させる。

 

限定展開(インクルード)!!」

 

限定展開とはルビーを媒介とすることでそのクラスカードに込められた英霊の力の一端である『宝具』を召喚、行使出来る魔術。

 

「『射殺す百頭(ナインライブズ)』!!!」

 

ルビーがステッキから変化したのはイリヤの背丈の何倍もある巨大で荒々しい形をした斧剣だった。

 

それはギリシャ神話の大英雄・ヘラクレスの持つ斧剣だった。

 

「そんな、あの剣は……!?」

 

「バカな!?あれはヘラクレスの武器!?何故あんな娘が扱えるんだ!?」

 

メディア・リリィとイアソンは斧剣に驚愕していた。

 

特にイアソンにとってヘラクレスは友であり、そのヘラクレスの斧剣を何の関係もないイリヤが使用していることに信じられないといった様子を見せていた。

 

限定展開したバーサーカーの斧剣はあまりにも重く、イリヤではとても振り回せないのでその超重量を利用して落下させるように振り落とす。

 

「そうはさせません!」

 

メディア・リリィは防御魔術を展開して斧剣の超重量にも負けない強固な守りを展開する。

 

「行きます!はぁあああああっ!!」

 

それに合わせてマシュはメディア・リリィに接近し、盾を振り上げる。

 

「ロード・カルデアス・ストライク!!」

 

盾を振り回し、連続攻撃を仕掛けるが強固な防御魔術で防ぎ切られる。

 

「くっ……!?激しい攻撃ですが、そう簡単には崩せませんよ!」

 

「それは……どうですかな?イリヤさん!」

 

「はい!『バーサーカー』、アンインクルード!」

 

バーサーカーの限定展開を解除し、ルビーが射殺す百頭から元のステッキに戻り、尽かさずキャスターのカードをルビーに向けて投げる。

 

「限定展開!『キャスター』!!」

 

夢幻召喚ではなく、限定展開でキャスターのクラスカードを発動すると、ルビーの形が歪な形をした短剣となった。

 

「そ、その宝具は……!??」

 

メディア・リリィはその短剣を見た瞬間、顔を真っ青にしてすぐに対抗策を考えようとしたが既に時は遅かった。

 

イリヤは短剣を逆手持ちにして構え、防御魔術に向けて振り下ろす。

 

「『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』!!!」

 

バリィン!!!

 

ガラスが割れるような派手な音が鳴り、メディア・リリィの強固な防御魔術があっさりと全て破戒された。

 

破戒すべき全ての符……それはメディアの持つ『あらゆる魔術を初期化する』という特性を持つ最強の対魔術宝具である。

 

「マシュさん!」

 

「はい!せいやぁっ!」

 

マシュは防御魔術を突破してメディア・リリィが次の魔術を発動する前に盾を振るい、メディア・リリィの杖を弾き飛ばした。

 

「キャッ!?」

 

「ごめんなさい、少し手荒くします!」

 

マシュは盾を床に突き刺して手を離すと、すぐにメディア・リリィの腕を掴んで足払いをし、そのままバランスを崩して取り押さえて動かなくした。

 

「メ、メディア!!」

 

チャキッ!!

 

「ヒィッ!?」

 

イリヤは破戒すべき全ての符の刃をイアソンの首元に添え、堂々と宣言する。

 

「この勝負……私たちの、勝ちだよ!」

 

イリヤがクラスカードの能力を理解し、巧みに操り、勝利へと導いた。

 

メディア・リリィとイアソンは敗北を感じ、マシュとイリヤはアイコンタクトを交わして頷き、二人を離す。

 

「行きましょう、イリヤさん。もうこの国に用はありません」

 

「はい。私はミユを助けに来ただけで、国を壊しに来たんじゃないんだから、もう出て行きますね」

 

「ま、待ってください!魔法少女は戦うものですし……モデラー魂に火が入りましたし……」

 

メディア・リリィは頬を赤く染めながらイリヤとブラック・マジシャン・ガールを見て密かに考えていたとんでもない計画を暴露した。

 

「イリヤさんを倒して、あとそこにいる魔法少女も一緒に型取りをして大量生産、新商品として我が国の秋の商戦の目玉にする計画が……」

 

メディア・リリィは何と、イリヤとブラック・マジシャン・ガールを型取りして等身大フィギュアを作ろうとしていた。

 

「出会って数分でそこまで綿密な計画を立てないでください!サイコですかメディアさんは!」

 

イリヤはメディアの事をサイコだと言い放ち、ブラック・マジシャン・ガールは顔を引きつってドン引きした。

 

「さ、流石にそれは怖いですね……」

 

「あー、ブラック・マジシャン・ガール。念の為言っておくと、あんたのフィギュアなら俺たちの世界でもかなり売られているぜ」

 

「えっ!?そ、そうなんですか!?私のフィギュアが!??」

 

「ああ。等身大は無いが、小さいサイズで様々なポーズのフィギュアが世界中で売られている」

 

ブラック・マジシャン・ガールはデュエルモンスターズの中でも一番の人気を誇るアイドルモンスターなので、フィギュアなどの数多くの商品が開発されている。

 

「そ、それって、喜んでいいのかどうか悩みますね……」

 

ブラック・マジシャン・ガールは自分が人気だという事実に素直に喜んでいいのかどうか悩んだ。

 

「私は宝石なんて要りません!他の方法を探します!あなたが何のために国を造ったのか知らないけど、何か大切なものがあって、そのために戦ってきたって分かるもの!」

 

イリヤはこれ以上、メディア・リリィと戦いたくない……その為にメディア・リリィを説得しようとしたが……。

 

「大切なもののためになんて戦ってないぞ。何となくで戦い続けてきたのがメディアだからな」

 

イアソンが突然真実を語り出した。

 

「この国を造ったのはオレへの負い目から。宝石を守り続けたのは他の魔法少女が怖かったから。静かに暮らしていたいだけ、なんて言い分は、そうしていれば醜い魔女にならないと信じたから」

 

それはメディア・リリィが様々な心境と自分の未来……魔女・メディアになる事を恐れていた。

 

「それは……そうですけど……そもそも私に籠城しろと言ったのはイアソン様で……」

 

「そりゃそうだ。お前は自分の国を出たら魔女になる。そういう運命だ。だから他の国には行くなって忠告したのさ。魔女になれば、お前もエコーの仲間入りだからな」

 

「エコー……?」

 

エコーとはギリシャ神話の森の妖精の名前であるが、何故イアソンがそれを言ったのか不明だった。

 

「だが、その心配もこれで終わりだ。ほら、お嬢さん。こいつが欲しいんだろ。持っていけ」

 

イアソンは真紅に輝く宝石を取り出した。

 

イリヤは宝石を渡してくれたことに困惑したが、イアソンはひねくれた考えで石が欲しいものには渡さないが、要らないと言った善人には嫌がっても押し付けるつもりだったのだ。

 

どのみちメイヴと戦争になれば負けるのは分かっていたので、それならイリヤに託した方が気持ちが良いだろうと考えた。

 

そして何より……イアソンはメディア・リリィが魔女になってもらいたくない、このまま夢のまま消えた方が良いと……。

 

「……分かりました。イアソン様がそう仰るのなら、宝石は譲ります。その代わり、私は何も教えません……語れば、悲しい事を思い出してしまうから。私も、かつて私が倒してきた彼女たちと同様、ここで運命を終えましょう」

 

宝石をイリヤに渡し、メディア・リリィの悲しそうな表情に遊馬とアストラルは共に顎に手を添えて考えこんだ。

 

この世界は何かがおかしい。

 

魔法少女の世界……と言えば聞こえは楽しそうに感じるが、その実情はかなり殺伐としており、悲しみに包まれており、狂っているようにも見える。

 

それがミユを誘拐された事と関係があるのかと……一つ一つの疑問の線を真実に向けて結んでいく。

 

「メディアさん……あの、あなたもここで消えてしまうんですか?」

 

「はい。でも私には希望は無くても、未練がありますから、すぐには消えません。えーと、作りかけの模型があと二十八万七千個ありますから──1日3個の計算でも二百五十年はかかりますね!ファイト、メディア!」

 

メディア・リリィは笑みを浮かべてガッツポーズをして、そのまま別れを告げた。

 

「希望ではなく未練か……これは一つのカオスから来る、生きる力だな」

 

アストラルはメディア・リリィが持つカオスに色々と考えさせられるのだった。

 

 

大海原と竜の国を後にした遊馬達はかっとび遊馬号に乗って次の国へ向かう準備をする。

 

すると、イリヤとルビーの姿が見えないので探すと、二人は甲板に出ていた。

 

遊馬達は悲しそうな表情を浮かべているイリヤに話しかけた。

 

「イリヤちゃん、どうしたんだ?」

 

「私達がメディアさんの国に押し入ったから、メディアさんは仕方なく戦っていた。その結果、私はメディアさんから宝石を取り上げちゃったんだ……」

 

イリヤはメディア・リリィと戦うことになってしまい、宝石を譲り受けたとは言え、結果的には取り上げてしまった事と同義。

 

イリヤはただ、ミユを助けたいだけなのにナーサリーとメディア・リリィの宝石を奪ってしまった……その事を深く心を痛めていた。

 

それは遊馬達も同じ思いだった。

 

すると、ルビーは自分の考えを説いていく。

 

「それはないと思いますよー?ホントは使い途なんかないのに、なんだか勿体ないから棄てられない──メディアさんにとってこの宝石はそういうものだったと思います。あれだけの力を持つ魔法少女ですからねー。ホントは宝石がなくても、自分の国ぐらい造れていたんじゃないですかねー」

 

魔法少女の力を測る事ができるルビーだからこそ、メディア・リリィの心を推測した。

 

「……うん。でも、そんな力を持つメディアさんでさえ、あんな暗い顔で、暗い思い出に取り憑かれてた。メディアさんさ……私はこの世界から逃げられない、とか言ってたけど、本当なのかなあ……?私が魔法少女である限り……って」

 

「さあー、ルビーちゃんにも確証なありませーん。でも本当だったらどうします?美遊さんを取り戻した暁には、おふたりの愛のキャッキャウフフランドでも創りますかー?ご協力は惜しみませんよーうっふっふー?」

 

「ちょ──!なに言ってるのルビー、もう……」

 

「イリヤちゃん、ちょっと良いか?」

 

「は、はい。なんですか?」

 

ルビーが本気か冗談か分からないが、落ち込むイリヤを和ませると、遊馬は歳上としてアドバイスをする。

 

「イリヤちゃん、確かにナーサリーとメディアの事は辛いさ。だけど、二人は自分達の意思で君に宝石を……希望を託したんだ。忘れろ、気にするなとは言わない。だけど、イリヤちゃんには取り戻したい人がいるだろ?」

 

「もちろんです。私は……ミユを助けたいです」

 

「悩む事も大事だけどさ、今だけは二人のことを心の中に仕舞っておいて、イリヤちゃんはミユちゃんを助ける……その事だけを見つめて前を向いて歩けばいい。他の事は俺たちが悩んだり考えたりするからさ」

 

「不安や悩みはみんなで分け合えば良い……イリヤ、君は一人ではない」

 

「そうですよ、イリヤさん。私達がついてますから、一緒に頑張りましょう!」

 

「フォーフォウ!」

 

イリヤは遊馬達からの言葉に励まされ、元気になって笑みを浮かべる。

 

「みなさん……はい!ありがとうございます、少し元気が出ました!」

 

イリヤが元気になったところで二つの宝石を近づけると、次の目的地への道標を示した。

 

次の目的地は静かな建物が広がる場所……おそらくは『死せる書架の国』。

 

「よし!次の目的地に向けて、かっとび遊馬号、全速前進で発進だ!」

 

遊馬は舵を取り、かっとび遊馬号を死せる書架の国に向けて発進した。

 

 

次の目的地……死せる書架の国、それは今まで訪れた場所とはかなり違う不気味なゴーストタウンだった。

 

空は灰色に染まっており、国全体が廃れており、とても魔法少女の世界とは思えない国だった。

 

そして、その中でも特に異質なものがあった。

 

「何だ、あの黒い壁……」

 

「湾曲してドーム状になっている……まるで巨大な結界のように見えるな」

 

そこは死せる書架の国に隣接した全く異なる空間だった。

 

こんなところに魔法少女がいるのか、そう考えた矢先に……。

 

『────!!!』

 

「って、きゃああぁぁー!!」

 

「おおっ、ゴースト系の敵だ!?」

 

それはオガワハイムや監獄塔などでも遭遇したゴースト系の敵でイリヤは恐怖からマシュにしがみ付く。

 

「ちっ、ゴーストタウンに相応しい敵だな!」

 

「待て、遊馬。このゴースト、何処かへ行こうとしているぞ」

 

「えっ?それじゃあ……建物の影に隠れよう」

 

下手に戦闘するよりも戦闘を回避した方が良いと判断し、遊馬達は建物の影に隠れると、ゴーストは遊馬達を見向きもせずに黒い壁の方向へ向かった。

 

「あのゴーストさん、とっても怖かったんだけれど……どこか可哀想に見える……」

 

イリヤは何故かゴーストが可哀想に見えてしまい、遊馬達は街に徘徊するゴーストを避けながら街の中心部に向かう事にした。

 

街の中心部には大きな建物があり、そこは静まりかえっていた。

 

これからどうしょうか悩んでいるとアストラルはある提案をする。

 

「ここは死せる書架の国……書架、つまり本の国。それなら、本を探せば何か見つかるのではないか?」

 

「本か……よし、それならあの建物に入ってみるか。手掛かりは無いからな」

 

手掛かりが無いなら探すしか無いと、ひとまず建物の中に入ろうと門を潜ると……。

 

『『『────!!!』』』

 

突然、ゴースト達が何処からともなく大量に現れて敵意を露わにし出した。

 

「うおっと!?今度はなんか変だぞ!?」

 

「明らかな敵意を感じる……遊馬、ここは戦うしかないぞ!」

 

「あわわわわ……ゴーストさんと戦うなんて……」

 

「イリヤさん、無理しないでください!」

 

マシュはゴーストを恐がるイリヤを後ろに下がらせ前に出る。

 

すると、フォウがマシュの肩に乗ってビシッと前足をゴーストに向けると……。

 

「フォウフォウ……デミ魔法少女カルデア☆マシュに変身するフォウ!」

 

「はいっ!……はい!?フォウ??」

 

マシュは肩から聞こえた声に驚愕し、耳を疑いながらフォウに首を向ける。

 

「フォ、フォウさん!?」

 

「……おいっ!?フォウ、今人語を話さなかったか!?マシュに変身しろって言わなかったか!?」

 

「フォウ、君はしらばっくれるつもりか!?明らかに喋ったはずだが!?」

 

「フォ、フォウ君って喋れるんだ……」

 

「……フォーウ?」

 

フォウは何のこと?と言わんばかりに可愛らしく首を傾げた。

 

「あー、なるほど……可愛い見た目に騙されていましたが、そういう事でしたか」

 

ルビーはフォウについて何か心当たりがあるらしく、頷きながら呟いていた。

 

「と、とにかく……行きます!」

 

マシュはキュルン!といつもと違い、可愛らしい音が鳴りながらデミ・サーヴァントに変身して盾を構える。

 

遊馬はデュエルディスクを構え、イリヤはまだゴーストを恐がっているが勇気を奮い立たせてルビーを持って転身する。

 

 

 




次回はメイヴとの戦いまで書ければと思います。
絶望と戦うメイヴに希望と未来を信じる遊馬が立ち向かう予定です。


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ナンバーズ142 最初の魔法少女、ファースト・レディ

お待たせして申し訳ありません。
最近スランプ気味で執筆が遅れました。


死せる書架の国の中心部で謎のゴースト達に襲われた遊馬達は戦闘を行う。

 

次々と現れるゴーストにキリがなく、一度撤退した方がいいと考えたその時だった。

 

「……ずいぶん騒がしいのね。こんな魔力の涸れた荒地を訪れる魔法少女が、まだ居たなんて……」

 

屋敷から出て来たのは魔法少女と思われる少女でゴーストが自然と消えていった。

 

「エレナ……?」

 

それはアメリカで出会ったサーヴァント、エレナ・ブラヴァッキーだった。

 

「あら、お詳しいこと。そう呼ばれても否定しないわ」

 

ここのエレナもどうやら遊馬達がアメリカで出会った存在とは別のようだった。

 

エレナがこの国の女王だと推測するが、それはすぐに否定されると同時に衝撃的な事実が発覚する。

 

「ここは魔法少女たちの墓場。ここの廃墟の亡霊は、みな、魔法少女のなれの果て。私はただの墓守人。そして司書。女王でもないし、魔法少女だったのも昔の話よ」

 

「魔法少女の……ぼ、亡霊……!?あわわわ……っ……」

 

イリヤはゴーストが魔法少女の亡霊だと知り、恐怖でガタガタと震え出した。

 

「亡霊……?何故そのような存在に……?」

 

遊馬が召喚していたブラック・マジシャン・ガールは首を傾げて頭に疑問符を浮かべた。

 

イリヤはエレナにミユのことを聞こうとしたが、ここではなんだからと屋敷の書斎に案内した。

 

書斎には壁一面に本がズラっと並べており、イリヤはすごいと感心していたが、ルビーは何かを感じていたのか珍しくブルブルと震えていた。

 

「あっ、ライオンのお人形さん☆」

 

イリヤはテーブルに置かれていたライオンの人形を見て嬉しそうに持ち上げた。

 

それはどこぞのアメリカ大統王をデフォルメしたような人形だった。

 

「それは、私の元パートナーだけれど……言葉を発しなくなってから、もうずいぶん経つわ」

 

「……電気を与えたら再起動するんじゃね?」

 

遊馬はそう思って呟いたがエレナには届かず、早速話し始めた。

 

この国……『死せる書架の国』のその由来を。

 

「さて、まずは……外にいた亡霊たち、そしてこの部屋の無数の書物、その全てはかつて魔法少女だった者たちのなれの果て。この世界に堕とされた、不幸な少女たちの墓標なの。彼女たちは『亡霊(エコー)』と呼ばれている」

 

「エコー……イアソンが言っていたのはこの事だったのか……」

 

イアソンが言っていたエコーはギリシャ神話の森の妖精ではなく、魔法少女の成れの果てのことを言っていたのだ。

 

「あの〜、ちょっとよろしいですか?」

 

ブラック・マジシャン・ガールは挙手をして質問をする。

 

「あら?何かしら?」

 

「ここの亡霊たちは何故冥界に行かないのですか?死んだのなら、普通は冥界に行くはずですし……」

 

「……確かにあなたの言う通りね。でもここは魔法少女の世界、冥界なんてものは存在しないわ。むしろここは魔法少女にとって現世と冥界……二つが混ざり合った世界と言っても過言ではないわ」

 

「そんな事が……誰がこんな世界を?」

 

「この世界を創ったのは、一人の魔法少女よ。彼女は『ファースト・レディ』と呼ばれている」

 

ファースト・レディ。

 

この固有結界を生み出した者でこの世界の中心にある閉鎖空間、黒い壁の向こう側にいると言われている。

 

黒壁はどんな魔法でも破壊することはできず、内側の様子を知ることも不可能。

 

ファースト・レディとメイヴは別の存在だと言う事が分かった。

 

「私達魔法少女は、元はと言えば、様々な平行世界からこの場所に招かれたのよ。私達はもう、自分の世界では様々な理由で魔法少女ではいられなくなった存在だから。ここに来るしかなかった。他に行き場所が無かった。けれど、この世界なら魔法少女であることを続けられる。ここはある意味、私達の楽園。そして、終着の地なの」

 

「でも、なんでイリヤちゃん達が?それにブラック・マジシャン・ガール達も、そして俺達も……」

 

「それは私にも分からない。ファースト・レディに聞いてくださる?ただ……残酷なことを言うようだけど……そうやって自分の立場を認められない子達が外で暴れている亡霊になるのよ」

 

「……一つ確認したい事がある。マシュも魔法少女として召喚されたのか?」

 

アストラルはマシュがこの世界に召喚された事が魔法少女として召喚されたのかと確認した。

 

「そう推測するのは妥当では?そちらの守護獣(おとも)さんも一緒にね」

 

「フォウフォーウ……マシュのマシュコットならまんざらでもないフォウ?」

 

フォウは自分が魔法少女のマシュのマスコットキャラとして良いんじゃね?と思い、再び人語を話し出した。

 

「フォウさん!?いえいえ、あなたは後から来たじゃないですか!?」

 

「また普通に喋ってるよ……」

 

「もう好きにさせよう……」

 

フォウが再び喋った事に対して遊馬とアストラルはもう既にツッコム気力が無くなり、ため息をつく。

 

「あなたが気にすることは無い。マシュ・キリエライト。いいえ──肉食酒乱(ビースト)系魔法少女ふかふか☆マシュ、だったわね」

 

「デミ魔法少女です!……じゃなくてっ、デミ・サーヴァントです!!」

 

エレナがとんでもないマシュの魔法少女名を命名し、すぐにマシュが訂正する。

 

その話を聞いて遊馬とアストラルはふとあることを思いつく。

 

「なあ、アストラル。俺たちの力でマシュのフェイトナンバーズを魔法少女系のカードに出来るかな?」

 

「ふむ……マシュは意外にも魔法少女に興味津々だ。それもアリかもしれないな……」

 

「フォウフォウ(マシュの魔法少女化を是非ともお願い)!」

 

「遊馬君、アストラルさん、フォウさん、後でお話があります!」

 

遊馬達が漫才のような会話をしていると、デッキからクリボーが現れてブラック・マジシャン・ガールに近づく。

 

「クリクリ〜?」

 

「うーん……クリボー、今の話が本当なら、あなたは私の守護獣として一緒にこの世界に来てしまったって事になるわね。ごめんね、巻き込んじゃって……」

 

「クリ?クリリー!」

 

クリボーは気にするな!と言うようにブラック・マジシャン・ガールに頬擦りをする。

 

「うふふっ。ありがとう、クリボー」

 

「……ねえ、あなた。普通の魔法少女とは何かが違うようだけど、あなたは何者?」

 

エレナはブラック・マジシャン・ガールが今まで見て来た魔法少女の中でもかなり異質な存在だと気づいた。

 

「私ですか?そうですね……うーん……実は私、大昔に死んじゃってるんですよねー」

 

「……………………はぁ!??」

 

突然告げられた事実にエレナは声を上げて驚いた。

 

「えっと、大体……現世で換算すると、紀元前千年ぐらいの人間で、死んだ後はこの姿で冥界や精霊界で魔術とか色々な修行をしています」

 

「き、紀元前千年って……幾らなんでもそんな時代に魔法少女は存在しないわよ!?」

 

「あ、いえ。元々私は魔法少女じゃなくて、王家に仕える魔術師兼神官でーす!」

 

「……えぇえええええーっ!??」

 

ブラック・マジシャン・ガールは魔法少女ではあるが、本職(?)が王家に仕える魔術師であり、神官であることにエレナは今度は大声で叫んで驚いた。

 

もちろん驚いたのはイリヤとルビーも一緒で大慌てでブラック・マジシャン・ガールに質問していく。

 

「ブ、ブラック・マジシャン・ガールさんは大昔の人だったんですか!?」

 

「そうですよ。まあ、精霊になってからは時間の流れは特に気にしてないのであまり大昔って感じはありませんけど」

 

「ち、ちなみにご出身はどちらですか!?紀元前千年ですと、イリヤさんの世界で換算するなら……さ、三千年前でこれほどの魔法少女がいるとは思いませんが!??」

 

「出身地?エジプトですよ」

 

「「エジプト!??」」

 

ブラック・マジシャン・ガールの出身地がまさかのエジプトだと聞き、更なる驚愕の事実が判明した。

 

「あ、あの……ブラック・マジシャン・ガールさん!あなたがエジプト人ならどうして肌が真っ白なんですか!?あちらの方なら褐色の肌でもおかしくないのに……」

 

「私も生前は元々、みんなと同じで褐色肌でしたよ。でも、精霊の時から何故か肌が白いんですよね……何でだろう?」

 

ブラック・マジシャン・ガールから語られる驚愕の過去にマシュ達は驚きの連続だった。

 

そして、この事実に遊馬とアストラルはある確信を得た。

 

「古代エジプト……って事は……!??」

 

「間違いない……!ブラック・マジシャン・ガールが仕えているマスターとは……!!」

 

ブラック・マジシャン・ガールが仕えるマスター……その人物に遊馬とアストラルは心当たりがある。

 

それはデュエルモンスターズの長きに渡る歴史の中でも伝説として語り継がれる最強のデュエリスト。

 

しかし遊馬とアストラルは今はその事を聞いたり話したりする暇はないので興奮する気持ちをグッと押さえ込んだ。

 

「と、とりあえず……あなたが他の魔法少女とはかなり違うことは分かったわ。そんなあなたにこれを託すわ。この石は、ヴリルなんて名付けたけれど、もうどうでもよい話ね」

 

エレナはオレンジ色に輝く魔法少女の宝石を取り出してブラック・マジシャン・ガールに渡そうとする。

 

「……良いんですか?」

 

「……別に良いの。遅かれ早かれ、ここへメイヴがやって来たでしょうから。私はもう魔法少女じゃない、ただの墓守だから。石の力にはこだわらない。躊躇う必要は無いわ。あなた達も同じ運命を辿るのだから」

 

「それって、どういう意味ですか……?」

 

イリヤはエレナの同じ運命を辿るという言葉の意味を尋ねた。

 

「……いずれあなたも世界に棄てられる時が来る、イリヤ。望みを失う時が。一番大切な事を教えるわ。あなたの友人、美遊・エーデルフェルトについて。これは推測だけど、彼女をさらったのはメイヴじゃない──ファースト・レディだわ」

 

美遊をさらったのはメイヴではなく、ファースト・レディ……その事実に遊馬達は衝撃を受ける。

 

「黒い壁の向こうにいる彼女が、ひそかにこの世界を観察していると私は睨んでいた。自分の使い魔を、他の魔法少女のものに紛れ込むように変身させてね。メイヴに尋ねれば、より真相に近づけるでしょう。その後も生存を許されていればの話だけれど」

 

「ありがとう……エレナさん……これを、ミユの件を一番知りたかったんです!でも宝石までは要りません」

 

「黒い壁の向こうに行くためには、全ての宝石を合わせた力が必要だとしても?」

 

「えっ……全ての……って……」

 

「ぜ、全部の宝石ってことは、メイヴのも含めて全ての魔法少女の石を奪う必要があるのかよ!?」

 

「それはつまり、魔法少女の宝石を全て集めることでファースト・レディの黒い壁を打ち破れると?」

 

「ええ。亡霊たちの囁きが教えてくれた。宝石は願いを叶える想いの結晶。壁を越えて、外なる世界にすら届くだろうと。でもそれもまた、レディの狙いの内なのかも。だとしえと確かめる手段は一つだけ。石を集めるのみ」

 

「お、おい、ちょっと待てよ……ファースト・レディは魔法少女たちをわざと戦わせて宝石を集めさせ、その願いを叶える力を使わせるためにこんな事を……!?くそっ、どうしたら良いんだ!」

 

「この世界のルールは絶対よ。レディは絶対の存在だからね」

 

エレナが諦めるように言い、遊馬達もどうしたら良いのか答えを見つけることができないでいた。

 

すると、ブラック・マジシャン・ガールはエレナにソッと近づいて手を取った。

 

「エレナさん、私達と一緒に行きませんか?」

 

「はぁ!?いきなり何を言い出すのよ!?」

 

「神官で、精霊でもある私には分かるんです。ここにいる魔道書の想いが……あなたの想いを……」

 

古代エジプトの神官でもあり、精霊でもあるブラック・マジシャン・ガールは亡霊となった魔法少女達、そしてエレナの想いを感じ取ったのだ。

 

「運命に抗うために戦い、そして……此処にいるんですよね?」

 

「う、うるさい!もう疲れたの!終わりにしたいの!さっさと私の宝石を持っていけばいい!」

 

「私も過去に数えきれない絶望を味わいました……だけど、世界は絶望のままで終わらない。必ず、希望の光が待っています。だから、もう少しだけ抗ってみませんか?」

 

震え、暴れようとするエレナにブラック・マジシャン・ガールは静かに抱き寄せる。

 

母のようにエレナの背中を撫で、ブラック・マジシャン・ガールは優しく諭していく。

 

「私には確信があります。遊馬さんとイリヤさん……二人が必ず奇跡を起こしてくれるって」

 

「二人が奇跡を……?どうして分かるの……?」

 

「二人には私のマスターと同じ、未来と希望をその手に掴む眩い光があるからです」

 

ブラック・マジシャン・ガールには遊馬とイリヤに自分が仕えるマスターと同じ『光』があると確信している。

 

「……本当に、出来るの?」

 

「ええ。史上最強の魔法使いの弟子の私が言うんですから、間違いありません!」

 

自信満々に言うブラック・マジシャン・ガールの言葉にエレナは呆れ果てた表情をして笑った。

 

「分かったわ。そこまで言うのなら付き合ってあげる。せいぜい、バッドエンドを迎えないように頑張りなさいよ」

 

「と言うわけで……エレナさんも同行する感じで、良いですよね?」

 

宝石を奪うのではなく、宝石の所持者であるエレナに同行してもらう……遊馬達にとって好ましい展開となり、ブラック・マジシャン・ガールを称賛した。

 

「ああ!最高だぜ、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「うんうん!エレナさん、よろしくね!」

 

こうしてエレナが遊馬達と同行することになり、ファースト・レディの事などを踏まえてカルデアに報告しようとしたが……。

 

『遊馬……大変よ。カルデアが襲撃されたわ』

 

「はぁ!??」

 

オルガマリーからの報告に遊馬達は度肝を抜かれるほどの衝撃を受けた。

 

遊馬達が死せる書架の国に入った頃、突然カルデアに数体のモンスターが襲撃してきたのだ。

 

そのモンスターは雪原に特化しており、それはメイヴが支配しているモンスターだった。

 

カルデアは遊馬達の持つD・ゲイザーとの間に強力なレイラインが繋がっており、それで通信などを行うことが出来る。

 

メイヴはそのレイラインを利用し、モンスターを直接カルデアに送り込んだのだ。

 

カルデアは以前ちびノブ達が襲撃された事があったので、その経験からすぐに襲撃用の緊急警報が発令され、カルデアにいるサーヴァント達の協力で瞬殺されて被害は最小限に抑えられた。

 

しかし、もしもこれ以上カルデアに襲撃が重なるなら致命的な事となる。

 

オルガマリーはすぐにでも遊馬とマシュとアストラルとフォウを帰還させるべきだと考えるが、遊馬達の性格を考えてそれは無理だと判断する。

 

そこで……。

 

『遊馬……』

 

「は、はい……何でしょうか、オルガマリー所長……」

 

映像越しからでも分かるオルガマリーのただならぬ気配に遊馬は背筋をビシッと伸ばして姿勢を正した。

 

『所長として、本来ならマシュと一緒に早く帰還しなさいと言うべきでしょうけど、イリヤスフィールの事もあるから貴方たちは帰るつもりはないでしょう?』

 

「そ、そうですね……」

 

更に体中から冷や汗が流れ、思わず敬語になってオルガマリーの言葉に返事をしていく。

 

『それなら、そのまま任務を続行しなさい。その代わり……』

 

「その代わり……?」

 

『カルデアを襲撃したメイヴのいる国に向けて今すぐカチコミをかけなさい……魔法少女だか女王だか知らないけど、誰を敵に回したか……カルデアの恐ろしさを思い知らせるのよ!!派手にぶちかましなさい!!!良いわね!?」

 

「は、はいぃぃぃっ!ア、アイアイサー!!」

 

『私が直々にメイヴの眉間に魔弾をぶちかましたいところだけど、私も暇じゃないから……遊馬、やるなら徹底的にやりなさい!!』

 

「ぜ、全力でやらせていただきます!」

 

『私は襲撃の事後処理があるから連絡を切るわ。頑張ってね』

 

カルデアとのD・ゲイザーの連絡を切り、遊馬は苦笑いを浮かべてアストラルに目線を向ける。

 

「アストラル……どうしょう……」

 

「やるしかないな。遊馬、メイヴは明らかに最初から我々に敵対し、イリヤを捕らえようとして、更にはカルデアを襲撃したんだ。ここまでやられて黙っているわけにはいかないだろ?」

 

アストラルに言われ、遊馬は目を閉じて静かに思い出しながら考えた。

 

メイヴにどんな理由があるのか分からないが今までやって来た行いを思い出す度に沸沸と怒りが湧いてきた。

 

「よし……やってやるか!アストラル、派手に行くぜ!!」

 

「ああ!イリヤ、君は確か母親がドイツ人だったな?」

 

「は、はい。そうですけど……」

 

「ならば……さあ、遊馬、このナンバーズを使ってメイヴの城に向けてカチコミを仕掛けようではないか」

 

アストラルはニヤリと笑みを浮かべると一枚のナンバーズを取り出す。

 

 

一面が雪の銀世界に覆われた雪華とハチミツの国の城。

 

その国のメイヴとクー・フーリン・オルタが住まう城。

 

メイヴは豪勢な玉座に座りながらイリヤが来るのを今か今かと待っていた。

 

「ウフフフフ、イリヤがもうすぐここに来るのね。まあ、お邪魔虫も一緒だけど。あの子を私の魔法少女軍団に入れたいからね」

 

「そいつはかなり苦労するぜ。どうやら新しい魔法少女が現れたらしいからな」

 

「新しい魔法少女?それは聞き捨てならないわね。私の軍団に入れる価値があるか見定める必要があるわね」

 

メイヴが怪しい企みを考えていると……。

 

ヒューン……!

 

「え?何この音は?」

 

「あ?何だ?」

 

何かが飛んで来るような音が響いた。

 

次の瞬間。

 

ドガァアアアアアン!!

 

突如、何かが飛来して城の扉が破壊し、大きな穴が開いた。

 

飛来したそれは人の数倍の大きさがある巨大な弾丸だった。

 

「キャーッ!?な、何!?し、城が……私の城がぁ……!?」

 

「くそっ、敵襲か!?一体どこから……」

 

ドカァン!ドカァン!!ドカァン!!!

 

更に連続で弾丸が飛来して城の扉の周囲を破壊して穴を大きくしていく。

 

「何よこれ……これは魔法少女の攻撃でも魔術じゃない……!?」

 

「な、何だあれは!?あそこに巨大な物があるぞ!?」

 

クー・フーリン・オルタが城の穴が開いた場所から遠くを眺めると見たことない物体が城に近づいていた。

 

 

城から数十キロ離れた場所……雪原に現れたのは大砲を備えた全長約50メートルの巨大な列車だった。

 

「ア、アストラルさん……これは一体……!?」

 

そこに乗車しているイリヤは口を大きく開けてガタガタと震えていた。

 

「『No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ』……これの元になったものは80cm列車砲。第二次世界大戦でドイツ陸軍が開発した世界最大の巨大列車砲だ」

 

ナンバーズの中でも巨大な部類に入るスペリオル・ドーラ。

 

遊馬達はあの後、死せる書架の国を後にした後すぐに雪華とハチミツの国に突入した。

 

そして、スペリオル・ドーラを召喚して全員乗り込んで城に攻撃を仕掛けたのだ。

 

「ええっ!?ドイツはこんなものを作ったんですか!?と言っても、私は物心つく前から日本にいたのでドイツにいた記憶はないですけど……」

 

スペリオル・ドーラの元々の存在はドイツで開発された80cm列車砲だと知り、イリヤは驚愕した。

 

イリヤはドイツ人のハーフであるが実はドイツに行ったことはないのだ。

 

それはさて置き、メイヴの城が大破している光景を目の当たりにし、やり過ぎではないのかと遊馬に話しかける。

 

「あ、あの、遊馬さん……ちょっとやり過ぎでは……?」

 

遊馬は操縦室で何か吹っ切れたような表情を浮かべ、思い出すように言った。

 

「イリヤちゃん、俺の仲間がこう言っていた……『やられたらやり返す! それが孤高なる鮫の流儀だ!』ってな!」

 

それはシャークこと凌牙の言葉だが、その流儀に意味がわからないとイリヤはすぐにツッコミを入れる。

 

「鮫!?何で鮫なんですか!?そこはせめて人間の流儀で行きましょうよ!」

 

「まあ、シャークだからなー」

 

「シャーク!?それがあだ名ですか!?」

 

「おう。俺達はシャークって呼んでるぜ。さてと、それじゃあ……城に向けて、出発進行!」

 

砲撃を止め、城に向けてスペリオル・ドーラを走らせる。

 

すると、オーロラが彩る空の果てから一つの星が飛来する。

 

「おや?あれは……イリヤさん!あれを見てください!」

 

「あれ?」

 

ルビーが何かに気付き、イリヤは目を細めて見つめると……。

 

「イリヤ様ー!ルビー姉さん!遅くなりましたー!」

 

それはルビーと良く似た六芒星にリボンの飾りが付いた喋るステッキだった。

 

そのステッキこそ、ルビーの妹で美遊と契約している魔術礼装……マジカルサファイア。

 

イリヤはスペリオル・ドーラのドアを急いで開けてサファイアを中に入れる。

 

「サファイア!?あなただけ!?ミユは!?」

 

「まずは、こちらをご覧下さいませ。美遊様から託されたメッセージです」

 

サファイアはプロジェクター機能で壁に映像を映し出し、そこは城と思われる場所の内部でその中央には黒髪の美少女がリボンに縛られていた。

 

その美少女こそ、イリヤの親友でもう一人の魔法少女……美遊・エーデルフェルト。

 

美遊はサファイアに伝言を頼んで脱出させたのだ。

 

美遊はこの固有結界の世界を創った張本人、ファースト・レディに囚われており、この世界の中央に位置する黒い障壁の内部に城がある。

 

イリヤと美遊をこの世界へと招き入れたのはファースト・レディで、レディは平行世界へと干渉するなんらかの技術を得て、美遊を捕らえているのも何か関係がある。

 

ファースト・レディを止めるためにサファイアを道案内を兼ねて脱出させるが、何故かイリヤが来てはいけないと釘を刺した。

 

何故イリヤが来ては行けないのか分からず、そこで映像は終わってしまった。

 

イリヤは美遊からのメッセージを受けて酷く落ち込んでしまった。

 

そんなイリヤにサファイアは励ました。

 

「──イリヤ様。美遊様は、イリヤ様を待っておられます。気を落とさずに……私もご協力します」

 

「……うん、そうだよね。ありがと、サファイア。無事に再会できて嬉しい」

 

「はい。美遊様のお側にいるはずの私が、一人戻りまして……本当に悔しいのです!それにこちらのカルデアの方々も……イリヤ様をお守りくださって……感謝の念で一杯です。どうか、どうか……美遊様をお救いくださいまし……!」

 

サファイアは姉のルビーと違い、マスターの美遊に忠実で礼儀正しく、遊馬達に感謝の気持ちを伝え、美遊の救出を心の底から願った。

 

「サファイア、事はイリヤちゃん達だけの問題じゃなくなってきたからな。俺たちとしても、ファースト・レディが何を企んでいるか知らないけど、悪巧みならそれを阻止する。そして、ミユちゃんの救出に全力を尽くすぜ」

 

「はい……!ありがとうございます……!」

 

遊馬はサファイアと握手をして協力関係を結ぶ。

 

「ファースト・レディ……美遊・エーデルフェルトを拐った張本人……エレナ、君はファースト・レディの正体について何か知らないか?」

 

アストラルは謎の敵であるファースト・レディについての正体の情報をエレナに尋ねる。

 

「レディの正体──それなら、私たちも推測はしたわ。ファースト・レディ。この魔法少女の総覧たる、固有結界の所有者。彼女は──『最初の魔法少女』と、云われている」

 

「最初の魔法少女?」

 

「人類史を彩る数多の英雄たちにも、その原初たる、英雄の王が存在するように。魔法少女としての概念を、最初に確立した少女がいる……」

 

ファースト・レディ……最初の魔法少女。

 

全ての魔法少女の始まり、原初の存在とも言える。

 

「最初の魔法少女……ちょっと待てよ、だったら大昔の神話の時代とかも考えるなら、メディア・リリィとかもそれに当てはまるんじゃねえのか?」

 

遊馬の指摘はもっともな話であるが、メディア・リリィは既に大海原と竜の国の魔法少女であったのでそれは違うことになる。

 

「確かにそう考えられるが、メディアの場合はどちらかと言うと魔女として呼ばれていた。ギリシャ神話や他の神話でも、魔法を使う女性……魔女はたくさんいる。しかし、魔女と魔法少女は別の存在として考えるなら話は違うのではないか?」

 

考えれば考えるほど謎が深まるファースト・レディ……そんな存在に不安を覚えるが、まずはメイヴ達と話をつけなければならない。

 

「遊馬、考えるのは後だ……今はメイヴのところへ!」

 

「ああ、それもそうだな……早いところケリをつけて、ミユちゃん救出に行こう!スペリオル・ドーラ、全速前進!!」

 

スペリオル・ドーラのエンジンを全開にし、半壊した城に向かって全速力で発進した。

 

 

 




ブラック・マジシャン・ガールのネタを色々入れました。
前世ネタ……結構色々豊富ですよね。
古代エジプト出身で後に神官で魔術師、死後は魔法少女の精霊……何だコレ?

メイヴとの対決は次回に持ち越しとなりました。
既に半分ほど書いてあるので早めに投稿出来ると思います。


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ナンバーズ143 未来を導く魔術師

早めに書けたので早速投稿しました。
今回は前回書けなかったメイヴ戦です。

それと、前からずっと悩んでいることがありまして、イリヤ、美遊、クロの三人娘を遊馬のハーレムに入れようかマジで悩んでいます。
原作では三人はお兄ちゃんこと衛宮士郎LoveですがFGOだとマスターに好意がある設定なのでどうしようかなと悩んでいます。
そこでアンケートを設置しようと思いますので是非とも投票をお願いします。


カルデアを襲撃したメイヴへのカチコミに遊馬とアストラルはスペリオル・ドーラで城の扉を破壊し、大穴を開けた。

 

城の中へ堂々と入り込もうとしたが、エレナだけは外で残ることにした。

 

「……私はここに残るわ。こちらが先手を打ったけど、メイヴは万全の態勢で待ち構えているでしょう。メイヴを相手にして和解や妥協は有り得ないわ。メイヴかあなたたち、どちらかが倒れるでしょう。私はもう……本当は……魔法少女が倒れるところを見たくないの」

 

「……分かった。エレナ、少し待っててくれ」

 

城に突入するのは遊馬、アストラル、マシュ、ブラック・マジシャン・ガール、イリヤ 、ルビー、サファイアとなる。

 

半壊した城に突入し、モンスターの奇襲を警戒しながら玉座の間に到着するとそこにメイヴとクー・フーリン・オルタがいたが……。

 

「おーっす、メイヴ。邪魔するぜ!」

 

「何が……邪魔するぜ、よ!?私の城をこんなにしてくれて!!」

 

メイヴは遊馬達が城を半壊させたことに当然ブチ切れて怒りを露わにしていたが、遊馬も負けじと反論する。

 

「先にうちのカルデアに襲撃したのはそっちだろ?やられたらやり返す、それが孤高なる鮫の流儀って俺の仲間が言ってるし」

 

「鮫!?何よそれ、意味分からないわよ!?やり返すって言っても、あなたたちの被害はここまで酷くないでしょ!?」

 

カルデアへの被害は確かに酷くはない。

 

チビのぶの襲撃からカルデア全体のセキュリティを大幅に強化し、更にはカルデア中には大勢のサーヴァントがいるので襲撃があってもすぐに対処出来る。

 

「確かにちょっとやり過ぎな気もしますけど……」

 

イリヤも敵とは言え流石にやり過ぎではないのかと感じて苦笑いを浮かべている。

 

「俺もね、ちょっとやり過ぎたかなぁ、って思うよ……でもさ、これぐらい派手にやらないと、オルガマリー所長に後で何を言われるか怖いんだよ!!」

 

遊馬も内心やり過ぎたと思っているが、カルデアを襲撃したメイヴに対して怒りが爆発しているオルガマリーを納得させる為にもこれぐらいやらなければならないと後が怖いので、スペリオル・ドーラで先手を打ったのだ。

 

「あー……そう言えば凛さんとルヴィアさんもブチ切れた時は確かに怖かったなぁ……」

 

イリヤも似たような経験があったのを思い出し、遊馬の心境に深く同情した。

 

メイヴは遊馬達に対する怒りを抑える為に深呼吸をし、改めてこの国の女王として振る舞いながら話しかける。

 

「ほんの一瞬だけど、貴方達の世界を覗かせてもらったわ。送り込んだ使い魔を通してね」

 

人理が焼却された平行世界……それを見たメイヴは嘲笑うかのように罵倒し始めた。

 

「つうまらない、つうまらない、本当にくうだらなーい世界ね?そんな世界は、さっさと見限ってこの私につきなさい。それとも貴方達まで救いようのない愚か者なの?自分に酔いながら死にたいわけ?」

 

メイヴの言葉は明らかに自分達……遊馬達とカルデアに対する侮辱。

 

その侮辱に遊馬とアストラルは挑発に乗らないよう怒りを抑えたが……一人だけ怒りを露わにしていた。

 

「あなたに……あなたに何が分かるんですか!??」

 

人理を救う戦いの最前線に立つマシュは何の関係もないメイヴに侮辱され、今すぐにでもランクアップエクシーズチェンジをしてメイヴを倒そうとした。

 

「フォフォーウ」

 

「落ち着け、マシュ。挑発に乗るな」

 

フォウはマシュの頬をペチペチと叩き、遊馬はマシュの盾に手を置き、マシュの暴走を抑えた。

 

アストラルは目を鋭くしてメイヴを睨み付けて反論する。

 

「随分な言いがかりだな。我々は人理を……世界とそこに住む人類の未来を取り戻す為に戦っている。自己陶酔で戦うほど愚かではない」

 

「それこそあなたたちの思い上がり。自分だけが世界を救えるという独占欲」

 

「独占欲……なるほど、そういう見方もあるが、では君には世界を背負えるほどの覚悟があるか?覚悟のない、無関係な君にそんな戯言を言う資格は無い」

 

「ふん。それは、せめてもの抵抗をしたと言う言い訳が欲しいだけ。自分の運命を支配出来ないだけでしょう?」

 

「違うな、運命は支配するものでは無い。自らの手で切り開くものだ。欲しいものを貪欲に手にするだけの女王の君には分からないだろうな」

 

「生意気な豚ね……奴隷にして調教するのが楽しみね」

 

「やれるものならやってみろ、少なくとも生前にチーズを頭にぶつけて死んだあまりにも間抜けな死に方をした君にやられるほど私は弱く無いぞ」

 

「っ……!言ってくれるじゃないの、とても美しいと思ったけど、その体をズタズタに引き裂いてやろうかしら!?」

 

アストラルとメイヴの間で互いを罵倒し、睨み合いから起きる激しい火花が散る。

 

「アストラル怖ぇ……あのメイヴに口で勝ってるぜ……」

 

「す、凄いです……見事な話術に私も頭が冷えてきました……」

 

アストラルの話術にメイヴの怒りが湧いて冷静さを失いつつある状況で、その光景に遊馬とマシュは呆然とした。

 

「いいわ。貴方達は所詮、偽物の魔法少女。私の軍団には相応しくない。心の底から欲しいのは──イリヤ、貴方とそこにいるもう一人の魔法少女よ!」

 

メイヴが自分の軍団に欲しいと願ったのはイリヤとここで初めて対峙するブラック・マジシャン・ガールだった。

 

「お断りします。私がこの魂に誓い、お仕えするお方は……前世の人間の時でも、今の精霊のこの身でも、永遠に……マスターだけです。貴女のような人には絶対につきません!」

 

ブラック・マジシャン・ガールは自分が真に仕えるのはマスターだけ、その不動の忠誠心でメイヴの誘いをバッサリと切り捨てた。

 

「そう、それは残念ね。でもねイリヤ、その連中はきっと貴女の世界も狡猾に狙っているわよ?」

 

「メイヴさん……ううん。あなたと一緒にしないで!メイヴ!遊馬さんも、そんな事は絶対しないんだから!」

 

メイヴは遊馬達がイリヤやその世界を狙っているとありもしない言葉で揺さぶりをかける。

 

「それはどうかしら?彼らはずっと貴女の利用価値を値踏みしていたのだと思うけれど……そう言えば、貴女は友達を救いたいんでしょう?名前は美遊と言ったわね。いいわ、それなら私も協力してあげる。ただしイリヤ──貴女も、美遊も、私の軍団に加わってもらう。カルデアの連中は奴隷にするわ」

 

「……寄り道で欲張るのはいいけどな。肝心の本命で欲張るな、メイヴ。連中は殺しておけ。あれは奴隷にはならねぇ。ああ見えて、中身はスパルタクスとどっこいだ」

 

「ああん、クーちゃんたら。ミニサイズになってもクールに残虐なのね……♡ でも、その忠告は聞けないわ。私は女王だもの。生かすも殺すも私次第よ?」

 

この魔法少女の世界でも相変わらずな会話をするメイヴとクー・フーリン・オルタだった。

 

「……メイヴ、そういうあなたはファースト・レディに従っているの?」

 

「……へーえ。どうしてそう考えたのか興味があるわね。ますます欲しくなったわ。ええ、その通り。そのつもりだった。──でも、もう違うわ。彼女の夢は、私の望み。彼女の痛みは、私の苦しみ──ファースト・レディ。この世界に墜ちた最初の一人。最初の呪い。混沌の世界に光を示し、導いてくれた黒き女王。けれど自分の城から動けない。世界の外にも出られない。ずっと一人ぼっちで。かわいそうな黒の女王。でも、もうそんな敬意も憐れみもない!私は反抗の角笛を吹き鳴らしたのよ!」

 

「……お前はレディの望みを自分でやったのか?」

 

遊馬はメイヴにそう尋ねた。

 

「そうよ!私は彼女の願いを早めただけ。その結果をご覧なさい?もうこの世界に、魔法少女は数えるほどしか残っていない」

 

「そんなことが……ファースト・レディの望みなの?絶対におかしいよ!それに賛同してやりかたを真似るメイヴ、あなたも!そんなの狂ってる!」

 

イリヤはルビーを持って魔法少女に転身した。

 

美遊を連れ去り、大勢の魔法少女を傷つけ、身勝手な行為を繰り返すファースト・レディとメイヴに対して怒りが爆発した。

 

「……ふふふ。抵抗するのね。それもいいわ、とてもいい。力で屈服させるほうが早いもの!ファースト・レディに取られる前に、私が貴女を奪うんだから!」

 

イリヤとメイヴ、お互いの心がヒートアップし、イリヤはクラスカードを取り出し、メイヴは鞭を構えて一触即発の状況となる。

 

「イリヤちゃん、ストップ!ステイだぜ!」

 

「ゆ、遊馬さん!?」

 

そこに遊馬が前に出たイリヤの頭を撫でて落ち着かせ、そのまま手を引っ張って後ろに下がらせる。

 

そして、イリヤの代わりに遊馬がメイヴと対峙する。

 

「メイヴ。今までのあんたの言葉でようやく分かった。あんたは狂ってなんかいない、ただ必死に絶望と戦っているだけなんだ」

 

遊馬の言葉の意味を気付いたマシュは静かに尋ねる。

 

「……では、狂ってしまったのは世界の方だと?そう言いたいんですか、遊馬君?」

 

「ハッ、そんな独り善がりの戯れ言ね!それとも、ここに来てみっともない命乞いなの?」

 

「……遊馬さんは……こんな勝手で迷惑な人を、許してあげようとしている?ミユを拐ったのは、メイヴじゃなかった──でも、そのきっかけを作って、襲ってきたのはこの人だよ?お兄さんたちの、カルデアにだってこの人は侵略しようとしているのに?」

 

イリヤにとってメイヴは戦わなければならない敵として今まで行ってきたことに対して強い怒りを持っていた。

 

しかし、遊馬の中には既にメイヴへの怒りはなく、許そうとしていたことを信じられなかった。

 

「……ふふ、ふふふ、うるさい。耳障りよ、黙りなさい!」

 

そして……遊馬の言葉にメイヴは若干震えだして笑いながら再び罵倒し始めた。

 

「悪いのはファースト・レディだ。ここはレディが作った固有結界……固有結界は心象風景の具現化、つまりこの世界はレディの心そのものだ。メイヴはその心に触れて、絶望に抗おうとしていただけだ」

 

「喋るな。私を見るな。触れるな!息もしないで!」

 

冷静さを完全に失ったメイヴの罵倒はあまりにと子供っぽく、対する遊馬はとても静かで冷静に落ち着いていた。

 

「絶望に抗い、希望を手にしようとした……お前は、俺たちと同じなんだ」

 

「黙りなさい!!!」

 

メイヴは怒りが爆発し、鞭を捨てて代わりに魔剣カラドボルグを召喚して手に持ち、怒りに任せて遊馬に襲いかかる。

 

マシュとイリヤはとっさに遊馬を守ろうとしたが、それよりも早く遊馬は右手で背中に携えた原初の火を抜いてメイヴのカラドボルグを受け止める。

 

「いい加減に黙りなさい、貴方みたいな未熟な子供に何が分かるの!?」

 

「分かるさ。沢山の絶望を受けて、その度に悩み、苦しみ、もがいた……だけど、絶望の中には必ず希望の光がある。俺たちはその光を信じて戦い続けて来た。だからこそ、俺は……!!」

 

遊馬の希望の未来を信じる強い想いに応えるように原初の火の刀身の色である紅色から空を美しく彩る虹色に輝き出し、それと同時に大量の炎が噴き出す。

 

「なっ!?火の魔術!?」

 

メイヴは突然の炎に驚き、遊馬からとっさに離れて距離を置く。

 

遊馬自身も原始の火から炎が噴き出して驚愕しており、とりあえず床に突き刺した。

 

炎はまるで遊馬を中心に螺旋を描きながら吹き荒れ、遊馬を守るように噴き出している。

 

原始の火は元々ネロが隕鉄を元に作り出した剣だが、あくまで一つの武器であり、宝具のような力はない。

 

しかし、ネロの持つもう一つものも含めて何故か原始の火には不思議な力が込められており、刀身の色が変化したり、炎が噴き出したりする。

 

遊馬は原始の火から放たれた炎に守られ、その間にデュエルディスクを構えてデッキから5枚の手札を引き、後ろにいるイリヤに向けて言葉を送る。

 

「イリヤちゃん!」

 

「は、はいっ!?」

 

「手を出さずに、後ろでそのままマシュ達と一緒に見ていてくれ!俺の……九十九遊馬の戦いを!!」

 

遊馬は自分自身の戦いをイリヤに見せようとしている。

 

それは遊馬が年上の先輩として、心に迷いなどがあるイリヤの手本となるように一人でメイヴと戦うのだ。

 

遊馬の想いにいち早く気づいたアストラルは静かに目を閉じ、遊馬から離れてマシュたちの元まで下がる。

 

炎を噴き出している原初の火を床から抜き、軽く振るって炎を消して背中のソードホルダーに仕舞い、デッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『増援』!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える。俺は『フォトン・スラッシャー』を手札に加え、自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札からフォトン・スラッシャーを特殊召喚出来る!更に『ガガガガードナー』を召喚!」

 

フォトン・スラッシャーとガガガガードナーが立ち並び、これで希望皇ホープを呼ぶ……マシュ達はそう思ったが、遊馬はアストラルと目線を合わせて一瞬のアイコンタクトを取る。

 

アストラルは遊馬の想いを理解して頷くと、遊馬はデッキケースから1枚のモンスターカードを取り出す。

 

「戦士族レベル4のフォトン・スラッシャーとガガガガードナーでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

フォトン・スラッシャーとガガガガードナーが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きると城内に霹靂が轟き、聖剣の名を持つ誇り高き王者が現れる。

 

「光纏いて現れよ!闇を斬り裂く眩き王者!『H(ヒロイック) - C(チャンピオン) エクスカリバー』!!」

 

「あれは……!アルトリア・オルタさんとの戦いで召喚したエクスカリバー……!?」

 

エクスカリバーが召喚され、マシュは希望皇ホープじゃないことに驚く。

 

「アストラルさん、なんで遊馬君はホープじゃなくてエクスカリバーを?」

 

「……これは遊馬自身が望んだ戦いだ。だからこそホープでも、ナンバーズでもない、遊馬の持つカードで戦うんだ」

 

遊馬はアストラルのナンバーズを使わずに遊馬自身のカードで戦う事を望んだのだ。

 

「エクスカリバーに装備魔法『最強の盾』を装備!エクスカリバーの攻撃力は元々の守備力分アップする!これでエクスカリバーの攻撃力は2000+2000で4000だ!」

 

歪な形をした最強の盾をエクスカリバーが左手に装着し、攻撃力を高めながら右手で左腰に携えた王の剣を引き抜く。

 

「エクスカリバーの効果!オーバーレイ・ユニットを2つ使い、エクスカリバーの攻撃力を次の相手のエンドフェイズまで元々の倍となる!これで合計攻撃力6000だ!!」

 

剣にオーバーレイ・ユニットを2つ取り込み、エクスカリバーの攻撃力が更に高まる。

 

「カードを1枚伏せ、エクスカリバーで攻撃!!」

 

エクスカリバーは剣を回転させ、刃に雷撃を纏わせてメイヴに向かって突撃する。

 

「メイヴはやらせねえぞ!!」

 

「クーちゃん!?」

 

クー・フーリン・オルタがエクスカリバーに向けて突撃し、エクスカリバーは電撃を宿した剣を掲げる。

 

「エクスカリバー、必殺のヘキレキ!!」

 

振り下ろした剣から電撃が爆発的に膨らみ、クー・フーリン・オルタは真正面から迎撃する。

 

しかし、アメリカで戦った元々のクー・フーリン・オルタに比べるとやはりその力はかなり低く、エクスカリバーの攻撃に敗れてしまい、吹き飛ばされて壁に激突する。

 

「クーちゃん!?よくも……よくもクーちゃんを!!」

 

メイヴはクー・フーリン・オルタをやられたことで怒りが更に爆発し、カラドボルグを乱暴に振り下ろした。

 

魔法少女としてのメイヴの力が上昇し、大幅に攻撃力を強化したエクスカリバーの胸を貫いて破壊した。

 

「エクスカリバー!くっ……!?」

 

エクスカリバーが破壊された事でダメージが遊馬に襲い、衝撃波で軽く吹き飛ばされるがすぐに立ち上がる。

 

「ははっ、どう?貴方如きに倒される私じゃないわ。諦めて後ろの魔法少女達に応援を頼んだら?」

 

「絶対に諦めない。俺はメイヴ……あんたを必ず止める!」

 

「何故……どうしてそこまで……貴方は、貴方はなんなのよ!?」

 

「俺は異世界から来たデュエリスト、九十九遊馬!!!カルデアの最後のマスターで、希望の未来を司る皇……未来皇だ!!!」

 

遊馬は威風堂々と名乗り上げる。

 

すると、デッキケースから光が溢れ出して1枚のカードが飛び出す。

 

それは遊馬の前世……アナザーが託した無限の可能性を持つ白紙のカード。

 

「これは……!アナザーの力。それに……」

 

遊馬の手札にある1枚のカードが共鳴するように光を放つ。

 

「ガガガマジシャン……?」

 

それは遊馬がメインデッキの中でも一番愛用しているモンスター、ガガガマジシャンだった。

 

ガガガマジシャンから何かのメッセージが語り掛けられ、このカードを使えと訴えているようだった。

 

「分かったぜ、ガガガマジシャン!俺のターン、ドロー!魔法カード『死者蘇生』!墓地からモンスターを一体復活させる、蘇れ!ガガガガードナー!更にガガガマジシャンを召喚!!」

 

死者蘇生でエクスカリバーの素材だったガガガガードナーを復活させ、ガガガマジシャンを召喚させる。

 

「行くぜ……レベル4のガガガマジシャン とガガガガードナーでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとガガガガードナーが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

すると、光の爆発の中から遊馬の瞳に一つの幻影が姿を現す。

 

「ガガガマジシャン……!」

 

それは光となったガガガマジシャンで遊馬を見つめて頷いて拳を向けた、遊馬もそれに応えて頷いて自らも拳を作り、二つの拳が軽くぶつかる。

 

デュエリストとモンスター……二つの絆が結ばれ、新たな力を秘めたカードを遊馬はデュエルディスクに置く。

 

「我と共に数多の戦いの道を歩み、己が星を操る魔術師よ……龍の衣をその身に纏い、我が未来への道を繋ぐ、新たな星となれ!!」

 

城内に無数の星々が煌めく夜空が彩られ、それが夜空を駆ける流星となって光の爆発の中へと入り込む。

 

「現れよ!未来への光を導く、星の魔術師『ガガガガマジシャン 』!!」

 

光の中から現れたのは学ラン風のフードに見事な龍の刺繍が施され、魔力が込められた大量の鎖を脚や胴体などに巻き付けた不良の姿をした魔術師。

 

それは遊馬が父・一馬から譲り受け、デュエルを始めた頃からずっとデッキに入っている、ある意味では希望皇ホープよりも信頼していると言っても過言ではない遊馬自身のフェイバリットカード……ガガガマジシャンがモンスターエクシーズへと進化したモンスターだった。

 

「ガガガガマジシャンの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを使い、ガガガガマジシャン以外のモンスターエクシーズを一体、効果を無効にして墓地から特殊召喚する!蘇れ、エクスカリバー!!」

 

ガガガガマジシャンがオーバーレイ・ユニットを手で握りしめて取り込むと、自分が巻いている鎖を振り回して目の前に現れた魔法陣の中心に投げ込むと、エクスカリバーが鎖を持って墓地から引き摺り出されてガガガガマジシャンの隣に立つ。

 

「これでランク4のモンスターが2体……!ガガガガマジシャン、素晴らしい能力だ……!」

 

ガガガガマジシャンの素晴らしい効果にアストラルは感心したように頷く。

 

「行くぜ、ランク4のガガガガマジシャンとエクスカリバーでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

ガガガガマジシャンとエクスカリバーが光となり、地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「今こそ現れよ!FNo.0!天馬、今ここに解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る!これが俺の、天地開闢!俺の未来!かっとビングだ、俺!『未来皇ホープ』!!」

 

光の中から現れたのは光り輝く純白の双翼を羽ばたかせる光の巨人。

 

光の巨人が纏う光が消え、赤を基調としたロボットのような姿をした戦士……未来皇ホープが姿を現す。

 

「未来皇ホープ……あれ?なんか、遊馬さんに似ている……?」

 

未来皇ホープを初めて見るイリヤはその姿形にどこか遊馬に似ていると感じ取った。

 

「真のデュエリストとはいえ、ここまで大きな力を秘めていたとは……アストラルさんと一緒なら、私のマスターと同等の力を持っていると言ってもおかしくないですね……」

 

一方、ブラック・マジシャン・ガールは未来皇ホープに秘められた大きな力に驚いていた。

 

遊馬は未来皇ホープのオーバーレイ・ユニットとなっているガガガガマジシャンのもう一つの効果を発動する。

 

「ガガガガマジシャンのもう一つの効果!このカードが未来皇ホープのオーバーレイ・ユニットになっている時、未来皇ホープに新たな効果を与える!」

 

未来皇ホープの背後にガガガガマジシャンの幻影が現れ、ガガガガマジシャンのもう一つの効果を発動する。

 

「オーバーレイ・ユニットを2つ使い、モンスターエクシーズを1体選択し、ターン終了までそのモンスターエクシーズの攻撃力は4000となり、効果は無効化される!未来皇ホープを対象にその効果を与える!」

 

未来皇ホープ自身は攻撃力を持っていないが、ガガガガマジシャンを素材にエクシーズ召喚した事により、4000という大きな攻撃力を得る事を可能にした。

 

ガガガガマジシャンは召喚条件が難しい未来皇ホープをエクシーズ召喚しやすくし、更にモンスターエクシーズの攻撃力を強化させる。

 

長年遊馬と共に戦ってきたガガガマジシャンだからこそ、遊馬自身のナンバーズである未来皇ホープに最高の力を与えるガガガガマジシャンへと進化を果たしたのだ。

 

ガガガガマジシャンの幻影が未来皇ホープと一つとなり、未来皇ホープに美しい虹色のオーラが纏われ、その攻撃力が上昇する。

 

「行け、未来皇ホープで攻撃!!この瞬間、罠カード発動!『ナンバーズ・ウォール』!自分フィールド上にナンバーズがいる時に発動出来る!ナンバーズ・ウォールが存在する限り、ナンバーズは効果破壊されず、ナンバーズ以外の戦闘では破壊されない!」

 

最初にセットしたカードであるナンバーズ・ウォールによって未来皇ホープに守護の力が与えられ、破壊から守りながらメイヴに向かって突撃する。

 

「いいわ、迎え撃つわ!!」

 

対するメイヴも自身の宝具を発動し、二頭の牛が引くチャリオットを召喚して突撃する。

 

「ホープ剣・ガガガガ・フューチャー・スラッシュ!!!」

 

「あらゆる力が私の力、人を総べる王権、人を虐げる鋼鉄、人を震わす恐怖!チャリオット・マイ・ラブ!!!」

 

振り下ろしたホープ剣とチャリオットが激突し、強烈な衝撃波が場内に響く。

 

衝撃波によって未来皇ホープは吹き飛ばされ、チャリオットは粉々に破壊されて消滅する。

 

「チャリオットが……!?」

 

メイヴはチャリオットが破壊されて悔しそうな表情を浮かべる。

 

未来皇ホープは吹き飛ばされながら態勢を整えて遊馬の前に降り立つと、遊馬は不敵な笑みを浮かべて必殺カードを発動する。

 

「手札から速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』を発動!モンスターの攻撃が無効になった時、その攻撃力を二倍にしてもう一度攻撃が出来る!」

 

未来皇ホープの真紅の眼が光り輝くと、背中の機械の双翼が天馬の美しい双翼へと変化し、左手で右腰から二本目のホープ剣を引き抜く。

 

ダブル・アップ・チャンスにより攻撃力が二倍となり、未来皇ホープの攻撃力は8000となる。

 

「そんな……!?」

 

メイヴは宝具を失い、未来皇ホープの力が更に上昇した事に目を疑う。

 

「これが俺の信じる、未来と希望を込めた攻撃だ!!」

 

遊馬の眼が虹色に輝き、胸から光が溢れ……そこから現れたのは遊馬の魂と同化している未来の力を司るカード……ヌメロン・コード。

 

「綺麗……何だろう、あのカード……?」

 

「むむむ!?あのカード、何やらめちゃくちゃヤバイ力を感じますよ!?」

 

「とてつもない大きな力……遊馬さん、あなたは一体……?」

 

イリヤ達は遊馬から現れたヌメロン・コードに驚いていると、遊馬は未来皇ホープのカードを掲げた。

 

「来い、未来皇ホープ!」

 

遊馬が命ずると未来皇ホープが光となり、遊馬に激突して一体化して一つとなり、未来皇ホープの胸元の水晶が皇の鍵の形となる。

 

「ゆ、遊馬さんと未来皇ホープが合体した!??」

 

遊馬の未来皇ホープが一体化したことにイリヤは口をアングリと大きく開けて驚愕する。

 

未来皇ホープはガガガガマジシャンとダブル・アップ・チャンス、そして遊馬とヌメロン・コードの力でパワーアップする。

 

二振りのホープ剣に全ての力を込め、虹色に輝く刃を振り下ろす。

 

「ホープ剣・ダブル・フューチャー・スラッシュ!!!」

 

振り下ろしたホープ剣から虹色の光が全てを包み込むような閃光へと変わり、城内全てを照らした。

 

「これが……あなたの、希望と未来の光……」

 

メイヴは未来皇ホープの光をその身に受け、静かに目を閉じるのだった。

 

 

 




未来皇ホープの強力なサポートモンスター、ガガガガマジシャンの登場です!
未来皇ホープを召喚しやすく出来るのだ私も重宝しています。

次回はいよいよファースト・レディの元へ向かう話になります。
そして、プリヤの魔法少女三人娘の最後の子も登場します!


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ナンバーズ144 突入!ファースト・レディの国へ!!

前回から設置したアンケート、反響が結構あって驚きました。
最終的に決めるのは私なのでアンケート結果を見て、改めてプリズマイリヤを全巻見てから考えようと思います。



遊馬とガガガマジシャンとの絆によって誕生したガガガガマジシャンで強化された未来皇ホープの攻撃によってメイヴは敗北した。

 

メイヴは敗北した悔しさから遊馬を罵倒した。

 

「くぅっ、この私があんな海老みたいな髪の子供に──!」

 

「誰が海老の髪だ!?この髪は父ちゃん譲りで子供の頃からずっとこの髪型だ!」

 

「生前から色々な男にあったけど、そんな奇抜過ぎる髪型は最早意味不明の領域よ!」

 

「うるせぇ!人の髪型にケチつけるんじゃねえ、このピンク女!」

 

「何よ、このクソガキ!!」

 

もはや戦いというよりも子供の口喧嘩みたいな感じとなっていた。

 

「……ったく。前菜なんざ食ってる暇があるからやられるんだよ、マヌケ。らしくなく丁寧に、順序立てて侵略するとはな。以前のテメエならまず主菜から食い殺しただろうに。同じ魔法少女の末路とやらに少しでも同情したおまえさんの負けだよ、メイヴ」

 

「くっ、バッカじゃないの……!?いくらクーちゃんでも、その台詞は許せないわ……!」

 

「はあ?基本、オレはテメエの敵だぞ?敵同士でつるみ合ってるのがオレたちの契約じゃねえか」

 

「そ、それはそうだけど、クーちゃんにはいつも愛憎入り交わっているけど!でも、基本的にはラブのが強かったの!だってトゲトゲが格好いいんだもの!」

 

「はいはい。趣味悪いな、テメエ」

 

「何か……夫婦漫才みたいなのが始まったな」

 

「我々は何を見せられているんだ?」

 

突如始まったメイヴとクー・フーリン・オルタの夫婦漫才みたいな会話に遊馬とアストラルは唖然とした。

 

「それよりさっきの失言、取り消して!私は女王、他の魔法少女なんてどうでもいいんだから!私が救われて、私が満足して、私が可愛くて、私が一番偉い──そんな世界のために軍団を作っただけよ!行き場のない魔法少女を集めていたのは結果論!」

 

メイヴの言葉に遊馬とイリヤ、他のみんなも驚いて目を丸くした。

 

「なによ、その顔。不思議なものを見るような目とか、何様のつもり!?」

 

「いやー、何かメイヴの言葉が意外でさ……」

 

「はい。でも、クーちゃんさんの指摘は正しいと思います。メイヴさんは立派な女王さまだったんですね」

 

「はあ?何ですって?」

 

「だって、メイヴは『私だけが』って言ってないもんな?」

 

「言葉にはしないけれど、メイヴさんは消えていった魔法少女たちを、仲間として認めていたんですね」

 

遊馬とイリヤはメイヴの言葉の中にある本心を気付いたのだ。

 

メイヴは確かに女王として振る舞っていたが、自分だけ幸せになるとは言っていない。

 

絶望に抗い、希望を手にしようとしていた……そして、消えていった魔法少女達を仲間として認めていた。

 

すると……。

 

ゴゴゴゴゴ……!

 

突然、城が崩れだして轟音が響き渡った。

 

「城が崩れる!?もしかして、大砲を撃ちすぎちまったか!?」

 

遊馬はここにカチコミする時のスペリオル・ドーラの砲撃を撃ちすぎたのかと思ったが、それをクー・フーリン・オルタが否定した。

 

「違うぜ。今のでトドメになったんだよ」

 

「トドメ?」

 

「いまメイヴの心が折れた。城が崩れだしたのはその証拠だ。なあ、そうだろメイヴ?テメエの甘さに気付いて、今自分を本気で殺したよな、テメエ?」

 

「…………ごめんなさい。でも、こんな私はクーちゃんに相応しくないから……死んで出直してくるわ……もっともっと邪悪で、放蕩で、悪虐な──もうすっごい魔法少女になってカムバックするから!その時まで待っていてね、クーちゃん♡」

 

「縁があったらな。まあ、そん時はそん時で返り討ちにしてやるけどよ」

 

「…………ふふ。そうよね。そういう関係よね、私達。さて、これで私も退場、打ち切りかあ。悪役にしてはもった方かなあ。で、そこのブタ。カルデアの、なんて言ったっけ?」

 

「……遊馬、九十九遊馬だ!」

 

「遊馬。つっまんない名前。覚えたくもないから、さっさと行って。そこの雌犬と精霊も連れて。こんな所にいないで。あなたのくだらない世界を救いなさいよ。最後まで、やってみせなさい」

 

くだらないと言いながらもメイヴは遊馬の事を認め、必ず世界を救えとエールを送った。

 

「待てよ、メイヴ!お前も一緒に!」

 

「そうです!外にいるエレナさんの力も借りれば助かります!」

 

「無駄だ、こいつは、揺り戻しって奴だ。無理をして他の世界に干渉したツケがメイヴ自身に還ってくるのさ。それを誤魔化すことはメイヴへの侮辱だ。コイツは最初から承知の上で悪役を始めた。命も心もくれてやったが、その矜持まではやれねぇよ。テメエらはさっさと先に進みやがれ」

 

メイヴは僅かながらも他の世界に干渉した対価として大きなダメージが襲い掛かるのだ。

 

しかし、メイヴはその事を既に受け入れているのだ。

 

「だからって……!」

 

未来皇ホープと一体化している遊馬は無理矢理にでもメイヴを連れていこうとしたが、それをクー・フーリン・オルタが立ち塞がる。

 

「テメエがメイヴの最期を邪魔するって言うなら、オレが全てを掛けてでもテメエを止める」

 

「クー・フーリン・オルタ……」

 

「もう一度言う。先に行け……テメエらには、やらなければいけないことがあるんじゃねえのか?」

 

クー・フーリン・オルタの鬼気迫る想いに遊馬は拳を握り締め、その場を振り返った。

 

「ごめん……メイヴ、クー・フーリン・オルタ……」

 

イリヤも泣きそうになるのを必死に堪えながら振り返る。

 

「メイヴさん……クーちゃんさん……」

 

遊馬達はメイヴとクー・フーリン・オルタを残し、城の外へと脱出する。

 

城を脱出して数十秒後、城は完全に崩壊してしまい、中にいたメイヴとクー・フーリン・オルタは恐らく消滅してしまった。

 

すると、崩壊した城の中から城に輝く楕円形の宝石が現れてマシュの手の中に収まった。

 

「…………そう。メイヴは亡霊になったのね。ならいずれ、私の書斎で会えるでしょう……彼女が本好きだったためしなんて無いけれど」

 

エレナはメイヴが亡霊になった事に少し悲しそうな表情を浮かべていたがすぐに気を取り直した。

 

「その宝石はメイヴが託したのでしょう。イリヤではなくマシュ、あなたにね。遂に……こうして宝石が四つ揃った。と言うことは──」

 

「黒い壁の内側……ファースト・レディの王国へ……!」

 

すると、四つの宝石が共鳴するかのように輝きを増していき……そして、黒い壁が全て消滅した。

 

「……黒い壁が弾けました……!」

 

「これでファースト・レディの王国に突入出来るぜ……!」

 

「よし、ではすぐに突入しよう。ファースト・レディも黒い壁を消されて使い魔達をすぐにでも出してくるだろう」

 

「またスペリオル・ドーラで行くか?」

 

「いいや、スペリオル・ドーラは威力はあるがスピードが足らない。ここは銀河眼の双竜で一気に攻めよう!」

 

「なるほどな……!あの二体なら、この魔法少女の世界で多少パワーダウンしても暴れられるな!」

 

「頼むぞ、遊馬!」

 

アストラルのアドバイスを受け、頷いた遊馬は一度未来皇ホープをカードに戻し、フィールドをリセットしてデッキをシャッフルし直し、デッキから5枚の手札をドローする。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『オノマト選択』!このカードの発動処理としてデッキからオノマト選択以外のオノマトカードを手札に加える。デッキから『オノマト連携』を手札に加えて発動!手札を1枚墓地に送り、デッキからオノマトモンスターを2枚手札に加える!」

 

『オノマト選択』は遊馬のデッキの強力なサーチカードである『オノマト連携』をサーチすることができ、初動を安定させられる。

 

「行くぜ、『希望皇オノマトピア』を召喚!」

 

希望皇ホープをデフォルメさせた可愛らしいモンスターが召喚され、仲間であるオノマトモンスターを導く。

 

「希望皇オノマトピアの効果!手札からオノマトピア以外のオノマトモンスターをそれぞれ1体ずつ守備表示で特殊召喚出来る!手札から『ガガガマジシャン』と『ズバババンチョー - GC(ガガガコート)』を特殊召喚!」

 

手札からガガガマジシャンと新たな仲間……ガガガモンスターの羽織りを纏い、ノコギリみたいな凶悪な剣と鎧を装着した番長のモンスター、ズバババンチョー。

 

「ズバババンチョーの効果!自分の墓地の、「ゴゴゴ」モンスターまたは「ドドド」モンスター1体を特殊召喚する!蘇れ、『ゴゴゴゴーレム』!!」

 

ズバババンチョーは羽織りを翻しながら剣を地面に突き刺すと魔法陣が浮かび上がり、オノマト連携のコストで墓地に送ったゴゴゴゴーレムを蘇らせる。

 

「ガガガマジシャンの効果!1ターンに1度、ガガガマジシャンのレベルを1から8の任意のレベルに変更する!ガガガマジシャンのレベルを4から8に変更する!」

 

ガガガマジシャンのバックルの八つの星が輝き、レベルが8に変更される。

 

これでガガガマジシャンのレベルが他の3体のモンスターと異なるが、ここでオノマト選択のもう一つの効果が発動される。

 

「オノマト選択のもう一つの効果!1ターンに1度、自分フィールドのオノマトモンスターを1体選択し、自分フィールドの全てのモンスターのレベルはターン終了時まで対象のモンスターと同じレベルになる。俺はガガガマジシャンを選択し、全てのモンスターのレベルを8にする!!」

 

オノマト選択により、己が星を操るガガガマジシャンの効果を最大限に活用する事ができ、他の3体のモンスターのレベル8となり、これでレベル8のモンスターが4体となった。

 

「さあ、アストラル。準備は完了だ。派手にぶちかまそうぜ!」

 

「ああ!魔法少女のこの世界に、ファースト・レディに見せてやろう!我々の力を!」

 

遊馬とアストラルはそれぞれナンバーズを1枚ずつ取り出し、同時にエクシーズ召喚を行う。

 

「俺はレベル8のガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!」

 

「私はレベル8の希望皇オノマトピアとズバババンチョーでオーバーレイ!」

 

レベル8のモンスターが2体ずつオーバーレイを行い、二つの光の爆発が起きる。

 

光の爆発の中から無限大に輝く銀河の煌めきが空一面に広がる。

 

「宇宙を貫く雄叫びよ。遥かなる時を遡り、銀河の源より蘇れ!顕現せよ、そして我を勝利へと導け!『No.107 銀河眼の時空竜(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)』!!」

 

「現れろ!銀河究極龍、No.62!宇宙に彷徨う光と闇、その狭間に眠りし哀しきドラゴンたちよ。その力を集わせ、真実の扉を開け!『銀 河 眼 の(ギャラクシーアイズ・)光子竜皇(プライム・フォトン・ドラゴン)』!!」

 

世界を創造したドラゴンの分身、時の竜と光の竜……銀河眼の時空竜と銀河眼の光子竜皇がここに揃った。

 

「え……えぇえええええーっ!?ドドド、ドラゴン!??ドラゴンって本当に存在したの!?」

 

「げ、幻想種!?しかもドラゴンですと!?竜種は幻想種の頂点に立つ化け物じゃないですか!??」

 

「幻想種は世界から消えたはず……それなのに、竜種が2体も……あ、ありえません……」

 

「う、嘘でしょ……宇宙のドラゴン……?そんな存在は聞いたこともないわよ……」

 

イリヤ 、ルビー、サファイア、エレナは2体の銀河眼に驚愕していた。

 

「そんな……この2体のドラゴン……マスターが操る3体の神にも匹敵する力……!?」

 

そして、ブラック・マジシャン・ガールは口を手で抑え、震えながら驚きを隠せないでいた。

 

「よっしゃあ!」

 

遊馬は気合を入れると器用に銀河眼の時空竜の体を登って胴体の上に乗り、アストラルは銀河眼の光子竜皇の肩に乗る。

 

「みんな!銀河眼に乗るんだ!」

 

「このまま一気にファースト・レディの城に向かうぞ!」

 

「の、乗るんですか!?」

 

「乗ってもいいんですか!?」

 

ドラゴンの背に乗る……それはある意味ファンタジーでは夢の体験であり、マシュとイリヤは更なる驚きと同時に興奮してきた。

 

「で、では私は時空竜の方で……!」

 

「じゃあ、私はこっちのキラキラ綺麗なドラゴンさんで!」

 

マシュは銀河眼の時空竜を選択して遊馬の後ろに座り、イリヤは銀河眼の光子竜皇を選択して恐る恐るその背に座る。

 

「エレナさん、私達も」

 

「わ、分かっているわよ」

 

ブラック・マジシャン・ガールは銀河眼の光子竜皇、エレナは銀河眼の時空竜の背に乗り、残ったルビーとサファイアは慌ててイリヤの元に向かい、これで全員2体の銀河眼に乗った。

 

「みんな、しっかり掴まってろよ!」

 

「目標……ファースト・レディの城!ミユを救い出し、ファースト・レディとの決着をつける!!」

 

『『『はいっ!!!』』』

 

この世界での最後の戦い……ファースト・レディと決着をつけ、囚われの美遊を救い出すために2体の銀河眼は翼を広げ、決闘者と魔法少女達を乗せて飛翔する。

 

雪華とハチミツの国を後にし、ファースト・レディの王国に突入すると、ファースト・レディが放ったと思われる大量の使い魔が待ち構えていた。

 

「フィールド魔法『エクシーズ・テリトリー』!モンスターエクシーズがモンスターと戦闘を行うダメージ計算時のみ、そのモンスターエクシーズの攻撃力・守備力はランクの数×200ポイントアップする!」

 

銀河眼の光子竜皇と銀河眼の時空竜のランクは共にランク8でバトルの時に攻撃力と守備力は8×200で1600ポイントアップする。

 

使い魔程度ならこの世界でも充分に倒すことが出来る。

 

「このまま全力で突っ走れ!!」

 

「薙ぎ払い、突き進め!!」

 

『グォオオオオオン!!』

 

『ガァアアアアアッ!!』

 

二体の銀河眼はドラゴンとしての圧倒的な力で使い魔を捻じ伏せ、薙ぎ払い、吹き飛ばす……膨大な数の使い魔をものともせず、サファイアの道案内で一直線に美遊が囚われているファースト・レディの城に向かう。

 

「すごいすごいすごーい!こんなにも綺麗で強くてかっこいいドラゴンさんの背中に乗って空を飛ぶなんて……自分で飛ぶのと違って最高の気分だよ!」

 

イリヤは二体の銀河眼の強さと美しさに感動し、魅了されてしまった。

 

「ああっ!イリヤさんがまさかの大喜び!?いけませんよ、イリヤさん!魔法少女がドラゴンに乗って大喜びするなんて!むしろドラゴンは大昔から敵役として決まっているのですから!」

 

「そんなことはありませんよ?私もドラゴンに乗って戦った事がありますから」

 

ルビーのドラゴンを否定する言葉にブラック・マジシャン・ガールはまたしてもとんでもない発言をした。

 

「ええっ!?ブラック・マジシャン・ガールさん、前にもドラゴンに乗ったことがあるんですか!?」

 

「ええ。精霊界に古くから伝わる伝説の竜と共に戦いましたよ。その時、私は騎士の鎧と剣を持って……『竜騎士ブラック・マジシャン・ガール』として活躍したんですから!」

 

「竜騎士……魔法少女から竜騎士とは、なんとエロいのでしょう!なるほど、ジョブチェンジと言うのですか、それもそれでアリですね!」

 

「姉さん、こんな時に変な発言をしないでください」

 

「竜騎士か……あっ、そうだ!」

 

イリヤは竜騎士と言う言葉に豆電球が光ったように何かが閃いた。

 

「ルビー!私達もブラック・マジシャン・ガールさんに倣って行くよ!」

 

「倣うって……もしかしてあれですか!?」

 

「うん、行くよ!」

 

イリヤはカードケースからクラスカードを取り出して構える。

 

「夢幻召喚!」

 

夢幻召喚を行い、クラスカードがイリヤの中に入り込み、英霊の力をその身に宿す。

 

「クラスカード『セイバー』!!!」

 

薄桃色の服に両手両足に鎧を装着し、長髪の銀髪を黒のリボンでポニーテールに纏め、手には人々の願いが込められた最強の星の聖剣……『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が握られていた。

 

「約束された勝利の剣……あれはアルトリアの……!」

 

「やはり、セイバーのクラスカードにはアルトリアの力が込められていたか。しかし、その身に纏っている鎧が違うな……」

 

約束された勝利の剣は遊馬とアストラルが何度も見てきたのでその剣の形と輝きは紛れも無く本物だと断言出来るが、鎧だけはアルトリアのでもオルタのでも違い、軽装でどこか少女らしいものだった。

 

「行きます!!!」

 

イリヤは銀河眼の光子竜皇からジャンプして飛んでいるモンスターを約束された勝利の剣で次々と斬り伏せて行く。

 

舞う蝶のように戦うイリヤの姿にアルトリアが重ねて見える。

 

二体の銀河眼と共に戦い、時にその背に乗って聖剣を振るう。

 

その姿はただの騎士ではなく、竜騎士と言っても過言では無かった。

 

やがて、ファースト・レディの城が目視で確認出来るまで近づくことができ、イリヤは一気に攻めるチャンスだと思い立った。

 

「遊馬さん!アストラルさん!一気に決めましょう!」

 

「分かった!銀河眼の時空竜!!」

 

「行け、銀河眼の光子竜皇!!」

 

銀河眼の時空竜と銀河眼の光子竜皇はその眼に宿る銀河の輝きを解き放ち、それぞれ時の力と光の力を口に宿す。

 

イリヤは約束された勝利の剣を右肩に担ぐように構えて刀身の金色の輝きを最高潮に高める。

 

「殲滅のタキオン・スパイラル!!!」

 

「エタニティ・フォトン・ストリーム!!!」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!」

 

二体の銀河眼から繰り出される時と光の力を込めた竜の咆哮が轟き、振り下ろされた星の聖剣から金色の奔流が繰り出される。

 

三つの光が瞬く間に使い魔達を消し去り、城への道が開けた。

 

「うっ……」

 

しかし、イリヤは酷く疲れた表情を浮かべると、夢幻召喚が解除されて胸からクラスカードが飛び出した。

 

「魔力……切れ……?」

 

「あの宝具は魔力消費が大きすぎます!魔力供給にはしばらく時間がかかりますよ!」

 

約束された勝利の剣は魔力を大量に消費してしまう為、イリヤの持つ魔力量では一度の使用でしばらく使えなくなってしまうのだ。

 

「イリヤさん!」

 

銀河眼の光子竜皇がイリヤとルビーを回収すると、ブラック・マジシャン・ガールはイリヤの背中に手を置いた。

 

「ブラック・マジシャン・ガールさん……?」

 

「私があなたに回復の魔術をかけます。それと同時に私の魔力を注ぎます」

 

ブラック・マジシャン・ガールはイリヤに回復の魔術をかけると同時に自身の魔力を注ぎ込んで疲労困憊のイリヤを回復させる。

 

「良いんですか……そんな事をして……?」

 

「これでも最強の魔術師と言われた、お師匠様から魔力を受け継いだ弟子ですよ?これぐらいは大丈夫です。ミユさんを救う前にヘロヘロじゃあダメですからね」

 

大丈夫だとブラック・マジシャン・ガールは微笑みながら回復を行い、あっという間にイリヤは回復してすぐに元気になった。

 

「ありがとうございます、ブラック・マジシャン・ガールさん!」

 

「イリヤさん、もうすぐ到着します。気合を入れましょう!」

 

「はい!」

 

それから間もなく……ファースト・レディの城に到着し、銀河眼の光子竜皇と銀河眼の時空竜は城の前に降りて遊馬達を下ろす。

 

流石に中に美遊が囚われているのでそのままドラゴン達の攻撃で突入するわけにもいかないのでサファイアが脱出した時のルートで向かう事にする。

 

「……遊馬、先に行きなさい」

 

「エレナ?」

 

エレナは城の反対方向を向いていた。

 

「レディが放った使い魔はあらかた片付けたけど、世界に散らばっていた使い魔がこの城に集結している……だから、私はここに残って使い魔を抑えるわ!」

 

「で、でも、エレナさんを残して……」

 

「告白するけれど──イリヤ。これほどあなたが気概を見せるとは驚かされたわ。魔法少女の紛い物だと、みくびっていた。伝統、経験、知識、そんな魔術の奥義からはかけ離れた力を隠していると、あらためて気付かされた」

 

「え……?」

 

「来臨!」

 

エレナは光を纏うと帽子を被り、ローブを着崩すように羽織って大きな魔道書を宙に浮かせる。

 

それはエレナの魔法少女としての姿だった。

 

「今まで黙っていたけど、宝石を持っているから私も魔法少女として戦えるわ。さあ、行きなさい、遊馬。イリヤを連れて、レディの元へ。使い魔達は魔法少女を狙っている。それなら、私が……!」

 

「……分かった。エレナ、ここは任せた!」

 

「ありがとう、遊馬。機会があれば、私の物語を教えてあげる」

 

「エレナさん……!」

 

「私の贈った時間を無駄にしないで、早く行って!」

 

「……心より恩にきます、エレナ様。さあ、イリヤ様──皆様もお早く!」

 

サファイアはエレナに感謝の言葉を告げ、自分が一度通った道を戻って道案内をする。

 

エレナにこの場の後を頼み、遊馬とイリヤ達は城内へと侵入する。

 

城内に侵入したが構造は複雑でサファイアの道案内が無いと迷ってしまうほどだった。

 

城内にいる使い魔は殆どおらず、手薄だと感じたが、それは逆に誘い込まれているようで不気味に感じた。

 

そして……到着したのは部屋の全てが美しいクリスタルのような装飾が広がる玉座の間。

 

その玉座に一人の少女の影が見えた。

 

「あれがファースト・レディ……で……ハッ!?」

 

「おやおやー?」

 

「……え……?……っ……あなたは……」

 

サファイア、ルビー、イリヤは少しずつ近づいて来た少女の影に驚愕した。

 

クリスタルのシャンデリアの光に照らされ、その姿が露わになる。

 

赤い外套に露出度の高い黒いプロテクターを身に纏い、褐色の肌にピンク色が混ざった銀髪の少女。

 

しかし……その少女の姿は紛れもなくイリヤと瓜二つだった。

 

「──クロ!?」

 

「あーあ、来ちゃったか。ほんと諦めが悪いんだから」

 

その少女こそ、イリヤの妹……クロエ・フォン・アインツベルンなのだ。

 

「クロ……!?ど、どうして、クロがここに!?」

 

「彼女がクロさん……双子同然とお聞きしましたが、本当にイリヤさんにそっくり……!」

 

イリヤが以前言っていたようにクロエは双子のようにそっくりな少女だった。

 

しかし、クロエの姿に遊馬達は首を傾げるほどの見覚えがあった。

 

「あれがイリヤちゃんの妹……なんか、あいつに似てね?」

 

「あの格好と肌の色……とても見覚えがあるな……」

 

「はい……もしも二人が並んだら親娘と言ってもおかしくないほどに……」

 

「フォーウ……」

 

遊馬達カルデア組にとってクロエの格好と肌の色にあまりにも似ているサーヴァントを一人思い浮かんだ。

 

しかし今その謎を証明する暇もないので黙っておき、クロエの様子を伺った。

 

「……サファイア、イリヤの妹がここにいると言うことは彼女も魔法少女なのか?」

 

「──はい。ですが……なぜ私自身、クロ様の存在に気付かなかったのか……」

 

「ハァ……まったく派手にやってくれて。あまり痛手は受けてないから痛覚共有が来なかったけど、こっちの身にもなってほしいわ」

 

「あ……ごめん。ていうか!ミユは!?そっか、クロ、助けに来てくれたんでしょ?リンさんや、ルヴィアさんは?」

 

クロがここにいるということは保護者(?)のリンとルヴィアもここにいるとイリヤは思い込んだ。

 

「ううん、リンたちはいない。私とミユだけよ。ずっといたわ。最初からここにいたの──私」

 

「……え、何言ってるの……クロ?ここにずっと……?」

 

クロエの謎の言葉にイリヤは衝撃を受けて戸惑う中、遊馬は背中の原初の火の柄を持ちながら小声でサファイアに聞く。

 

「サファイア、ミユちゃんは何処だ?」

 

「あちらです……!ですが、お気をつけください!」

 

部屋の奥にレースのような拘束で体を縛られて動きを封じられている少女……美遊がいた。

 

「ジェットローラー!!!」

 

遊馬はジェットローラーを起動してダッシュし、原初の火をソードホルダーから引き抜いて美遊に近づくと拘束の一部が変化して使い魔のような形となる。

 

遊馬は使い魔を全て斬り裂き、美遊を縛る拘束を斬り下ろすために振り下ろした。

 

しかし、原初の火が拘束に触れた瞬間、遊馬の体に激しい電撃が襲いかかり、更に強い衝撃波が遊馬を吹き飛ばした。

 

「ゆ、遊馬さん!??」

 

美遊を助けようとした遊馬がダメージを受けて吹き飛ばされ、イリヤは顔を真っ青にした。

 

「遊馬、大丈夫か!?」

 

「遊馬君、しっかりしてください!」

 

「すぐに傷を治します!」

 

「うっ、いってぇ……」

 

吹き飛ばされた遊馬にマシュとアストラルが駆け寄り、ブラック・マジシャン・ガールはすぐに遊馬に治癒の魔術をかける。

 

服喪面紗(ヴォワラ・ドゥイユ)の防衛反応。対魔法少女用の礼装だけど、人間……かどうかは微妙だけど、お兄さんもダメージ受けちゃったわね」

 

「なんですってー、対魔法少女礼装!?ありえません!限定的で事案発生な匂いがプンプンします!」

 

「愉悦型なんとか精霊のルビーには言われたくない……っと、それはともかく!どういうことなのクロ?冗談ならいい加減にして!ミユを自由にしなさい!そして、遊馬さんに謝りなさい!!」

 

イリヤはクロエの姉として厳しく怒りを示して叱り付けた。

 

「お兄さんの件は知らないわよ。私が言う前に勝手に動いたのが悪いんだし。ミユはどうしようっかな。せっかく、私のモノになったんだし。いつもイリヤに独り占めされて癪だったのよね。フフッ……なんだか懐かしい感じ。そうね。こっちの方が、ほんとの自分に近いのかな?」

 

「イリヤちゃん……クロエちゃんは操られているのか?」

 

ブラック・マジシャン・ガールの治癒の魔術で傷を治した遊馬はすぐに立ち上がってイリヤに尋ねた。

 

「うっ……そうかも。でも意外と自然体にも見えるし……クロって、ああいう悪ふざけ好きなとこがあって……」

 

「確かに、妙な魔力は感じませんねー?いたってフツーのクロさんです」

 

イリヤとルビーはクロエの様子からしていつもと変わらないように見えた。

 

「ふぅ……ごちゃごちゃ言ってるわね……誤解されても面倒だから、疑問は解消しておくわ。イリヤとミユと一緒に『鏡面界』へと向かった時──私、実は一緒にいたの」

 

「えっ……?」

 

クロエはイリヤと美遊が鏡界面に行く時に慌てて一緒に向かったが、気付いたらこの世界にいた。

 

イリヤと美遊が来るよりもずっと前に……不安定な世界により時間のずれが生じてしまったのだ。

 

この世界を見渡せば戦っている魔法少女ばかりでクロエの味方か敵かわからない。

 

気配を殺して隠れても魔力は消費されるだけで消えてしまいそうで、とても心細かったが……。

 

「その時、出会ったの──彼女(レディ)と。正確にはその使い魔とね」

 

「……っ……なっ……なんでそんなムチャしたのー!クロのバカぁー!」

 

「はぁ?私に声もかけずに鏡界面へ行くとかありえないでしょ!?」

 

「だって、リンさんたちに急かされて仕方が無かったんだもの!」

 

「私だって、リンや、ルヴィアが助けてくれないか期待したわ。だけど、そもそも気付かれていないんじゃ助けに来ようがないものね。でもね……そうじゃなかった。私がここへ来るのは必然だったのよ。レディは私に言ったわ。明け透けに。肋骨を抜けるナイフみたいに。『あなたの存在意義は、イリヤの付属品なの?手懐けられ、牙を抜かれたヤマネコみたい……』って」

 

クロエの負の感情が具現化したかのように闇のようなオーラが纏われた。

 

「そんなこと……っ……!」

 

「ええ、はいはい、わかってる。あなたが否定するのは。だってイリヤだもの。なにより私自身が、そんなつもり毛頭ない。だけど、ね……どこかであなたを第一に考えていた──とも気付かされた。あなたの為ならミユとだって仲良くもするわ。だって私自身の為だもの。それが当然よね」

 

「クロ……」

 

「クロエちゃん、こんな事をしても君は幸せになれないぞ。勢いだけに任せて行動して……本当はわかってるんじゃないのか?自分は間違っているって……」

 

遊馬は今のクロエは正気ではないと判断してそう言葉をかけた。

 

「わかってるわよ!不条理さが世界の本質だってことは!厭味を言うのが馬鹿らしくなるくらい、あなたがとても真っ当な人だって事もね……!でもね、私にだって叶えたい願いはあるのよ。自分だけのために。自分だけの願いを──世界へ届かせたい」

 

クロエは両手に双剣を投影した。

 

その双剣は雌雄一体の夫婦剣、干将・莫耶。

 

遊馬達が思い浮かべる一人のサーヴァントが好んで使う双剣だった。

 

「……っ……!クロが……武器を投影して!」

 

「あら〜、これは完全に戦闘モードですねー?」

 

「……クロったら……もう!遊馬さん、マシュさん、アストラルさん、ブラック・マジシャン・ガールさん、少しだけ、私に時間をください!」

 

戦う意志を示すクロエにイリヤもそれに応えて戦おうとする。

 

しかしこれは戦いでもない、殺し合いでもない、イリヤとクロエ……ただの姉妹喧嘩である。

 

「姉妹喧嘩だな、わかった!存分にやるんだ!」

 

「姉妹の覇権を賭けた全力全開魔法ゴンバット……ちょっと惹かれま……い、いえ!危険になったらすぐに止めに入りますので!」

 

「ありがとうっ……ルビー!?」

 

「いえーす☆おイタのクロさんには一発プスっと?」

 

「もう一刻も待てません。私の洗脳電波デバイスで……」

 

ルビーは怪しい緑色の液体が入った注射器を取り出し、サファイアは体からパラボラアンテナのようなものを出していた。

 

明らかにろくでもない、危ないものであるとすぐに察しできる。

 

「──違うってば!変に入っちゃってるスイッチを戻してあげるの!」

 

「ハイハーイ☆真心(ぶつり)説得(なぐれ)ですネー?承知しておりますとも!でも、色々放置していた件はイリヤさんも後で謝った方がいいとは思いますけどー?」

 

「……うっ……とにかくミユを離しなさい!クロ!」

 

「イヤよ!もう、ミユは私のものよ!」

 

「この……バカクロッ!」

 

クロエは干将・莫耶を構えて床を蹴り、イリヤはルビーを持って同じように床を蹴って互いに接近し、互いの想いをぶつける姉妹喧嘩を始めた。

 

「ミユちゃんを自分のモノに……なんか、あの子のカオス……欲望が色々と暴走しているな」

 

「恐らくはファースト・レディのせいだろう。この世界でたった一人……愛する者や身近な人間が側にいなくて心細く、精神が不安定な時に悪魔の囁きのような言葉をかけられて自分の欲望が抑えられなくなってしまった……そう推測出来る」

 

「今、ミユちゃんを助ける事はできない……クロエちゃんはイリヤちゃんと姉妹喧嘩をするから、俺たちは待機だな」

 

「ああ。今はイリヤとクロエ、二人に姉妹喧嘩をさせてあげよう。だが、ファースト・レディがいつアクションを起こすか分からない。今のうちに準備だけは整えておこう」

 

「オッケー、分かったぜ」

 

遊馬はすぐにでも状況の変化に対応出来るようにイリヤとクロエが姉妹喧嘩をしている間にフィールドと手札を整えておく。

 

 

 




クロエちゃん、可愛いですよね。
まあ色々とヤバイ性格でカルデアに来て……下手すれば桜ちゃんの逆鱗に触れそうな気がします(笑)

次回はイリヤちゃんとクロエちゃんの姉妹喧嘩?は軽くして、本題はファースト・レディとの対話とバトルですね。
ぶっちゃけファースト・レディの問いについて遊馬とアストラルとマシュは答えを持ってるんですよねー。
遊馬とアストラルは一回自分たちの世界を救ったし、新たな未来や夢を見つけてるし。
そして、遊馬とアストラル、そしてイリヤちゃんの全力全開を見せる事になると思います。


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ナンバーズ145 希望と奇跡の最強タッグ!ZEXAL II & プリズマ☆イリヤ ツヴァイフォーム!!

まとまった時間が出来たのでしっかり書くことができました。
新アニメの遊戯王SEVENSやドン・サウザンドのCNo.1とかテンションが上がるネタが多くて楽しいです。
遊戯王SEVENSはまだ始まったばかりだけど、人間関係が良くて明るい感じなので期待しています!


イリヤとクロエ……二人の姉妹喧嘩は想像を超えるものだった。

 

イリヤはステッキから魔力砲と斬撃を放ち、クロエは干将・莫耶と弓矢を巧みに操って互いを攻撃する。

 

姉妹喧嘩というよりも、殺し合いのように見える激しい戦いだったがギリギリのところで相手を殺さないように威力を抑えて手加減していた。

 

しかし、戦いを重ねる内にクロエの方が先に息が切れてきた。

 

「ハァ……ハァッ……やっぱりイリヤとじゃ、決定的な勝負はつかない、か……だいたい痛覚共有を誤魔化すのも……限界が……」

 

クロエが力尽きて倒れそうになった瞬間、クロエの全身に闇が覆い、瞳の色が紫色に輝いた。

 

「クロ……!?どうしたの?その体は……っ……」

 

「──決まってるでしょ、彼女(レディ)よ。レディは、ミユだけじゃなく、あなたまで欲しいのね。私よりも欲張りだなんて……」

 

「な……何を言ってるのクロ……!?」

 

「……っ……クロさん。美遊さんをさらったのはレディの意思、そうなんですね?」

 

「……さあ、それは……どうかな……」

 

すると、突然クロエは苦しみだして干将・莫耶が手から滑り落ちて地面に転がる。

 

「クロ?……クロ!?」

 

「……ううっ……待って、まだ……やめ……て……!」

 

まるで何かに支配されるようにクロエを纏う闇がどんどん強くなっていく。

 

そして……。

 

「……約束通り……あなたとイリヤの決着まで待ったわ──クロエ。あなたは乗り物(カラダ)としては申し分ない。けれど、イリヤの瞬発力(ココロ)にまでは及ばないようね」

 

クロエの纏う闇が形質を変えて簡単な鎧となって装着され、更には声や口調までも変わってまるで別人のようになってしまった。

 

「クロエさんの姿が……声まですっかり変わって……!」

 

「まさか、お前は……!?」

 

「ファースト・レディなのか……!?」

 

「そう──初めまして。私がレディ。最初の魔法少女(ファースト・レディ)。自己紹介しましょうか?人懐こくて礼儀正しい、魔法少女らしくね」

 

クロエ──否、最初の魔法少女、ファースト・レディはクロエの体を支配して意識を乗っ取り、話を始めた。

 

「私は──魔界に生まれ、人間界で育った魔法使いの娘……正体を隠して人の為に戦った。けれどそのために故郷を失い、やがて人間からも、魔界の同胞からも忘れられた。もう誰も私を知る者はいない。もう誰も私の名前を呼んでくれる人はいない。でも私は人間や同胞を憎みはしなかった。決して魔女には堕ちなかった。今の私の望みは、ただ、少女たちの願いをかなえ続けること──。魔法少女たちの魔法を──。その愛と希望を、世界に振りまくこと……そんな私の想いが、亡霊たちを引き寄せた。この固有結界に」

 

「待てよ、だったら何故魔法少女たちを互いに争わせたんだ?」

 

「そうだ、君のその言葉とこの世界の現状はあまりにも矛盾している」

 

「……っ……それは後悔してる。こんな筈じゃなかった。後の祭りと言っても始まらない。狭すぎたのよ!私たちにはこの固有結界だけでは。だからもうそんなことははせない。私たちにはもっと世界が必要なの!」

 

「何故、クロエさんでなければならなかったのです?」

 

「何故クロエが私の前に現れたか?どうでもいいわ。それは問題じゃない。私はこの機会を逃す気はないの。決して。そう──だからマシュ、カルデアのあなたにも手が届いたのよ。もっとも、ブラック・マジシャン・ガール……あなたは予想外だったけどね」

 

偶然か必然かクロエはこの世界に来てしまい、亡霊となっていたファースト・レディは乗り移るための肉体として選んだ。

 

そして、魔法少女のイリヤと美遊もこの世界に迷い込んでしまい、魔法少女の素質を持つマシュと精霊界の魔法少女のブラック・マジシャン・ガールも同様に引き寄せられてしまったのだ。

 

「美遊がいれば、出来るわ。全ての亡霊をもう一度、受肉させられる。こんな虚ろな結界の檻の中じゃなく、本当の世界に届くのよ。無限の平行世界には無限の危機があるわ?倒すべき本当の敵たちがいるわ?魔法少女を心の底から必要としている不幸せな人たちがいるわ!!そのための魔法少女の軍団(リトルウィッチ・コーズ)……いえ、魔法少女の軍団(プリズマ・コーズ)!私たちは駆ける。平行世界の果ての果てまでも!願いはきっと叶うから!」

 

ファースト・レディの目的……それは亡霊である自分がクロエの体に憑依して新たな肉体を得て、更には美遊を使って何らかの方法でこの世界の全ての魔法少女達の亡霊に肉体を与える。

 

そして、この固有結界の世界から飛び出して無限の平行世界に飛び立って危機を救う……と言うものだった。

 

「……っ……これは……メイヴと同じ……ううん、違う……メイヴよりもっと業の深い……闇……」

 

「全くです。手段と目的が見事に逆転してますねー」

 

「イリヤ……あなたは、私のたった一つの譲れない願いを打ち消してしまうのね。この世界での魔法少女への振る舞いを見てそれがようやく分かった。そんなことはさせない。もうすぐ美遊を、私の中に取り込んでしまえる。美遊はしぶとい。しかも私の中のクロエが未だに同化に抵抗している。本当に素直じゃない。でもそれも、時間の問題──」

 

「ふざけるな!!!」

 

ファースト・レディの言葉を遮るように遊馬の怒号が轟き、ファースト・レディは突然の怒号にビクッと驚いた。

 

「な、何よ……」

 

「ファースト・レディ、お前は世界を救う為に美遊ちゃんとクロエちゃんを犠牲にしようとしているな……ふざけるんじゃねえ!そんなことをして手に入れられる世界の平和が本当に正しいのか?俺は絶対にそんなのは認めねえ!それに、お前に美遊ちゃんとクロエちゃんの幸せと未来を奪う権利は無い!!」

 

「その通りだ!それに加え、今の君はとても正気では無いし、正常な判断も出来ていない。仮に美遊とクロエを犠牲にし、この世界の魔法少女達を受肉させ、平行世界を救いに行ったとしても……君の歪んだ願いは叶う事はない。世界を救うことは出来ない!」

 

遊馬とアストラルは美遊とクロエを犠牲にするファースト・レディの歪んだ願いに怒りを震わせて真っ向から否定した。

 

「ファースト・レディ……私もかつてマスターと一緒に何度も世界を救いました。私は偉そうなことは言えませんが、マスターの言葉を借りるならこう言います……私は、人の命を踏み台にした未来を認めません!世界を救う為に美遊さんとクロエさんを犠牲にするなんて絶対に認めません!!」

 

二人と同じくブラック・マジシャン・ガールもファースト・レディの歪んだ願いを否定した。

 

そして、イリヤもファースト・レディに対して自分の気持ちをぶつける。

 

「レディさん……あなたの魔法少女を信じたい気持ち、伝わります。だけど、これだけは言える──ミユを犠牲にして、叶えていい願いなんて無い!ミユだけじゃない!クロだって、クロは私の大切な半分なんだから!」

 

「……それは、私が亡霊だから?もう誰の心にも響かない、ただの残響に過ぎないから?あなたも私を忘れてしまうのね。そんなに私を過去に置き去りにしたいの?私はこんなに世界を救えるのに。女王にだってなれるのに。イリヤ──あなただって、いずれ──」

 

「聞いて、レディ!それじゃあ、願いは呪いになってしまう!私たちは……魔法少女は──!中途半端で、理不尽なトラブルに巻き込まれてばかりで、それでも、きっといいことが──あれ……いいことあったかな、えっと……」

 

すぐに良いことを即答出来ないあたり、イリヤは相当苦労したのだろうと遊馬達はすぐに察した。

 

「ちょっとイリヤさん?ここズバッと言うところですよ?」

 

「あっ、そ、そうだよ!?良かったって思える瞬間があるもの!私はミユに会えた。大好きなミユに。クロっていう生意気で、すごく頼もしい妹も出来た。ルビーやサファイア、リンさんやルヴィアさん、最初はちょっとどうかと思ったけど……本気で、自分を全部差し出しても良いって思える大切な仲間が──それが、一番の宝物でしょう?」

 

イリヤの純粋で無垢な少女の言葉……それは当たり前とも言える大切なもの──仲間。

 

その言葉に遊馬達は微笑みながら同意するように頷く。

 

しかし、ファースト・レディは仲間に対して暗い過去を持っていた。

 

「私にも仲間がいたわ。でも彼女は……世界に棄てられた」

 

「……えっ……?」

 

「──遊馬、あなたはどう?むしろ忘れられることを望む。そういう人かしら、あなたは──けれど……世界を救ってしまったらあなたはどうするの?今が一番辛くて、苦しくて、逃げ出したくて──でも、生きているでしょう?世界を救ってしまった瞬間に──あなたは死ぬのよ」

 

世界を救ったら死ぬ……ファースト・レディが亡霊になる前に実際に世界を救って経験したことから言えるものだった。

 

その事実に対し、遊馬がどんな反応をするのかファースト・レディは興味深そうに見つめるが、当の本人は頭をかきながら平然と答える。

 

「ファースト・レディ……お前、なんか勘違いとかしてねえか?」

 

「勘違い……何を?」

 

「世界を救ったら死ぬ?だったら俺とアストラルはもうとっくの昔に死んでるって」

 

「それは……どういう意味よ?」

 

「だから!俺とアストラルは自分の世界を何度も救ったんだよ!世界が邪悪な力に何度も滅び掛けたり、邪神が滅ぼそうとしたのを全力で阻止したんだよ!」

 

「正確に言えば、その戦いの最中に私は一度死んだが遊馬と仲間達のお陰で復活した。だが、私と遊馬は世界を救い、今でもこうして生きている!!」

 

「そ、そんな……貴方達が世界を救ったですって……!?」

 

世界を救いながらも当たり前のように生きている遊馬とアストラルに対し、ファースト・レディは信じられないと言った表情を浮かべていた。

 

「事実だよ。それにな、世界を救ったらそれで終わりな訳がねえだろ?俺にはでっけえ夢があるんだからな!」

 

「夢……?世界を救うのに夢があるの……?」

 

呆然としているファースト・レディに対して遊馬は不敵の笑みを浮かべて堂々と宣言した。

 

「当たり前だろ!夢は人を強くする!未来に向かって前に進む原動力になるんだからな!良いか、聞いて驚けよ。俺の夢は……みんなで一緒に俺たちの世界で、世界一周大旅行だぁっ!!!」

 

「……………………はぁ?」

 

「世界一周大旅行……?」

 

ファースト・レディは何を言っているんだ?と言わんばかりの困惑した表情をし、イリヤはきょとんとして目をパチクリとさせた。

 

「おうよ!カルデアには世界各地、色々な時代の英霊達……サーヴァントがいるんだ。みんなから生前の話を聞くたびに思うんだ。その土地の歴史や文化、みんなが生きてきた人生や物語の証が現代ではどうなっているんだろうって。だから、かっとび遊馬号に乗って、サーヴァントのみんなと一緒に俺たちの世界を回るんだ!歴史に名を残したサーヴァントのみんなと世界一周をするんだ、そんなの絶対にワクワクするじゃねえか!」

 

遊馬はワクワクを表すように笑顔を見せながらみんなに夢を語る。

 

その夢を何度も聞いていたアストラルとマシュとフォウは笑みを浮かべながら頷く。

 

「遊馬だけではサーヴァントのみんなを束ねるのは大変だからな。私も同行しよう」

 

「私も行きます!皆さんと一緒に世界一周はとても素晴らしい旅行になります!その時が来るのを楽しみにしています!」

 

「フォフォーウ!」

 

アストラルとマシュとフォウも楽しそうに遊馬の夢に賛同する。

 

「どうして……?」

 

どうしてここまで明るくなれるのか、どうして笑顔でいられるのか、どうして夢を語れるのか……ファースト・レディは遊馬達の想いを理解できずに困惑が深まっていく。

 

「……イリ……ヤ……」

 

すると、奥で囚われていた美遊が目を覚ました。

 

「ミユ……っ!気づいたんだね!」

 

「美遊様……!」

 

「レディを……クロを……助けてあげて……レディの言葉は……偽りの……言葉……決して叶わない願いを……心の底に隠している……お願い……泣いている彼女の手を握って……イリヤが……私にしてくれたように……」

 

美遊はファースト・レディが偽りの言葉を発していると知り、イリヤに彼女を助けてと願った。

 

「うんっ……もう少しだけ待って、ミユ!」

 

「あと……その……」

 

「──えっ、な、何?」

 

「こうして、ずっとクロと一緒だと……気まずいっていうか……何を話したらいいのか、わからなくて……沈黙が割と……痛い……」

 

「へっ?」

 

イリヤたちが城に来る前に囚われている美遊とクロエは二人で城内にいたのだが……イリヤがいない所為なのか、何を話したらいいのか分からずに沈黙状態となっていたのだ。

 

「──ちょっ、なんですって!!人が必死に抵抗してるのにッ!!」

 

ファースト・レディに支配されていたクロエの意識が前に出た。

 

「わっ、クロが戻ってきた」

 

「私だってめちゃめちゃ気を遣ってるんだからね!直接私に言えばいいじゃない、なんて面倒くさいの!」

 

どうやらイリヤと美遊とクロエ、三人は誰も欠けることなく一緒にいることで雰囲気や空気などのバランスが取れているようだった。

 

「……なんか、イリヤちゃん、美遊ちゃん、クロエちゃんの三人が揃ってバランスがいい感じになるみたいだな」

 

「まるで君とシャークとカイトみたいな感じだな……シャークとカイトだけだと喧嘩ばかりするらしいからな」

 

「え?そうか?」

 

「い、いけません、クロエさん!美遊さんに憎しみを向けたら……」

 

「ああっしまった……!もうっ……イリヤ、なんとかしなさい!」

 

クロエが美遊を求めるが故の憎しみの心を出してしまった瞬間にファースト・レディの意識の支配が更に侵食してしまう。

 

「……あ……ごめん……なさい……」

 

「ふ……ふふ……美遊を求める気持ちでクロエと一つになった。おかげでクロエの精神の障壁を突破できた。このカラダで、全力で戦える──!あとは、美遊自身の前であなたたちを倒せば、彼女の心の支えもなくなる──無限の世界に手が届く!」

 

クロエの精神と肉体を完全に掌握し、残るは美遊だけとなる。

 

イリヤたちを倒して美遊を絶望させ、取り込めば願いが叶う……ファースト・レディは願いが叶う目前まで来たと歓喜に震える。

 

しかし、ファースト・レディを止めるため……魔法少女達と戦士達が立ち塞がる。

 

「そうして届いた世界で今度は何を犠牲にするの?……ミユだって戦ってる。私だって負けられない……!カレイドの魔法少女は、二人で一つなんだから!」

 

「そうですとも!ルビーちゃん感激です!」

 

「イリヤ様──皆様、どうか……!」

 

「遊馬さん!マシュさん!アストラルさん!ブラック・マジシャン・ガールさん!お願い、あと一度だけ!一緒に戦って!」

 

「一度と言わず、何度だって一緒に戦ってやるぜ!なあ、マシュ!アストラル!ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「はい、遊馬君。気持ちは一つです」

 

「共に行こう、ファースト・レディを止めるぞ!」

 

「悲しみに囚われた彼女を救いましょう!」

 

美遊とクロエ、そして……ファースト・レディを救うために最後の戦いに挑む。

 

その最後の戦いの先陣を切るのは遊馬とアストラルの二人だ。

 

「さーて、アストラル、あの色々と勘違いをしている魔法少女に見せてやろうぜ!俺たちの力を!」

 

「ああ。世界を救った者として、奇跡を起こせるのは魔法少女だけでないところを教えてやろう!」

 

遊馬とアストラルは互いの拳をぶつけて気合いを入れ、手を天に向けて掲げる。

 

「かっとビングだ!俺と!」

 

「私で!」

 

「「オーバーレイ!!」」

 

遊馬が赤い光、アストラルが青い光となって宙に浮き、城内を駆け巡る。

 

「「俺達/私達二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!!」」

 

二人はそれぞれ赤と青の光を纏いながら空中を駆け抜ける。

 

二つの光がぶつかり、大きな『X』の光が輝き、二人の肉体と魂が一つに融合し、そこから遥かなる高みへとランクアップする。

 

「「真の絆で結ばれし二人の心が重なった時、語り継ぐべき奇跡が現れる!」」

 

肉体と魂が融合すると共にその力を今までよりもランクアップさせるために、光の中で再構築していく。

 

そして……光の中から世界を救った無限大の奇跡の力を秘めた、魔法少女に匹敵する希望の英雄が降臨する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II!!」」

 

希望の勇者……ZEXAL IIが降臨し、同じく奇跡を起こす者達である魔法少女達ですら初めて見る異様な光景に開いた口が塞がらなかった。

 

「ゆ、遊馬さんとアストラルさんが……がが、合体するなんて……!?」

 

「人間と精霊が合体ですと!?あ、あり得ませんよ!私やサファイアちゃんがイリヤさんや美遊さんに力を貸すならともかく、肉体と魂が一体化して全く新たな存在になるなんて考えられませんよ!」

 

「しかし姉さん、今目の前で起きていることは現実です……しかも、ここからでも感じる強大な力……サーヴァントにも匹敵します」

 

「二つの存在が一つに……まさに一心同体……まるで、以前のマスター達を連想させます……」

 

イリヤ、ルビー、サファイア、ブラック・マジシャン・ガールはあまりの衝撃的な展開に驚きを隠せられなかった。

 

「う、嘘……誰だかよく知らないけど、人間と幽霊(?)が合体して全く違う姿に……?理解不能……私の知識や常識を遥かに超えている……」

 

囚われた美遊は人間と幽霊(精霊)が合体すると言う常識を遥かに超えている謎の事態に理解不能となり、頭がパンクしかけていた。

 

「な、何よ、あのお兄さんは!?よく分からない幽霊と合体して……ちょっとだけイケメンになっちゃって……イリヤったら一体どんな人を連れてきたのよ!?」

 

ファースト・レディに体を支配されて操られているが心の中にいるクロエは子供っぽい見た目の遊馬がZEXAL IIになり、凛々しく勇ましい姿に変身して少しだけときめいていた。

 

「何……?何なの、何なのよ、あなたは……!?どうして合体できるの!?どうして魔法少女でも無いのに、それほどの奇跡の力をその身に宿せるの!?」

 

そして、ファースト・レディはZEXAL IIから感じ取れる魔法少女を遥かに超えるであろう奇跡の力に驚愕と同時に恐怖を抱いていた。

 

「俺達はZEXAL!世界を救う、希望と未来を司る英雄だ!」

 

「見せてやろう、我々の力を!奇跡の創造の光を!」

 

ZEXAL IIがデュエルディスクを構えるとイリヤとクロエが戦っている間に予め何ターンもかけて用意していた布陣がフィールドに現れる。

 

モンスターフィールドには『ガガガマジシャン』と自身の効果で特殊召喚された『ドドドバスター』がそれぞれ一体。

 

魔法・罠ゾーンにはセットカードが1枚、更に永続魔法『強欲なカケラ』が発動しており、強欲カウンターが1つ乗っている。

 

「「俺/私のターン、ドロー!強欲なカケラの効果!通常ドローする度にこのカードに強欲カウンターを1つ置く!強欲なカケラのもう一つの効果!強欲カウンターが2つ以上乗ったこのカードを墓地に送り、デッキから2枚ドローする!」」

 

強欲なカケラが復元されて元となった強欲な壺となり、ZEXAL IIの右手が金色に輝きを放つ。

 

「「最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードもデュエリストが創造する!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!ダブル・シャイニング・ドロー!!」」

 

シャイニング・ドローでデッキからZEXAL IIの望む2枚のカードを引き寄せてドローし、新たな仲間を呼び出す。

 

「「魔法カード『おろかな埋葬』!デッキからモンスターを1枚墓地に送る。デッキから『ドドドドワーフ GG(ゴゴゴグローブ)』を墓地に送り、ドドドドワーフの効果発動!このカードが墓地にあり、ドドドドワーフ以外のゴゴゴモンスターかドドドモンスターがいる時、このカードを墓地から特殊召喚出来る!蘇れ、ドドドドワーフ!」」

 

それは両腕に屈強なゴゴゴモンスター達から作られた大きな岩石のグローブを装着し、鎧を纏ったドワーフの戦士でズバババンチョーと同じく新たにデッキに加わった仲間だ。

 

ズバババンチョーと同じく他のオノマトモンスター導く効果を持つ。

 

「「ドドドドワーフのもう一つの効果!自分のメインフェイズに手札からズババモンスターかガガガモンスターを特殊召喚出来る!来い、フォウ!!」」

 

「フォウフォーウ!」

 

フォウがZEXAL IIの元に走り、光の粒子となって手札にあるカードの中に入り込む。

 

「このモンスターはオノマトモンスターとして扱う!ドドドドワーフの効果で手札から『希望の守護獣 フォウ』を特殊召喚!」

 

オノマトモンスターとして扱うフォウをドドドドワーフの効果で手札から特殊召喚する。

 

「「ドドドバスターをリリースして手札から『ブラック・マジシャン・ガール』をアドバンス召喚!更に魔法カード『二重召喚』!通常召喚権を一つ増やし、手札から『ガガガガール』を通常召喚!」」

 

ブラック・マジシャン・ガールをアドバンス召喚し、そこから更に遊馬のデッキで魔法少女モンスター……ギャル風の魔法少女、ガガガガールが召喚された。

 

『ふふっ……ガガガッ!……えっ!?』

 

ガガガガールは隣にいるブラック・マジシャン・ガールに驚愕して慌て出した。

 

『ブ、ブラック・マジシャン・ガールさん!?え、嘘、本物!?は、はじめまして!私、ガガガガールと言います!』

 

ガガガガールは魔法少女として、デュエルモンスターズとして、大先輩のブラック・マジシャン・ガールが一緒にいることに興奮と驚きでいっぱいで何度も頭を下げた。

 

「もしかして、私の後輩ですか?一緒に頑張りましょう!」

 

『はい!』

 

ガガガガールは憧れのブラック・マジシャン・ガールに頑張ろうと言われて気合いが入る。

 

「マシュ、準備を頼むぜ!」

 

「分かりました!」

 

次にマシュをフェイトナンバーズに入れてすぐさまエクシーズ召喚を行う。

 

「「レベル4の希望の守護獣 フォウとドドドドワーフでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!心優しき乙女よ、神秘の盾をその手に未来を守る最後の希望となれ!現れよ、『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!!」」

 

光の爆発の中からマシュが現れ、フェイトナンバーズの姿へと変身すると、その肩にエクシーズ素材となったフォウが現れる。

 

「「エクシーズ素材となったフォウの効果発動!フォウがフェイトナンバーズのオーバーレイ・ユニットになっている時、1ターンに1度、デッキからカードを2枚ドローして1枚を墓地に送ることが出来る!セカンド・ダブル・シャイニング・ドロー!!そして、手札1枚を墓地に送る!かっとビングだ、マシュ!!」

 

「マシュビングです、私!」

 

「「マシュを対象に『RUM - リミテッド・フェイト・フォース』を発動!」」

 

フェイトナンバーズ専用のランクアップマジックを発動し、ランクアップの力がマシュに与えられる。

 

マシュの体が光に包まれ、フォウと共に天に登る。

 

「「マシュ、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」」

 

上空に『00』のナンバーズの刻印が輝き、希望皇ホープ達と未来皇ホープの幻影が現れる。

 

ホープ達の幻影が光となり、マシュと共に天に登り、全ての力が一つに合わさって大きな光の爆発を起こす。

 

「「未来を司る力よ、数多の希望の光を集わせ、運命を斬り開け!現れよ、FNo.0!『希望の守護者 マシュ・ホープライト』!!!」」

 

光の中から飛び出したのは希望皇ホープと未来皇ホープの力をその身に宿し、魂と肉体を最高潮にまでランクアップした希望の守護者。

 

「「マシュ・ホープライトの効果!このカードが特殊召喚されたターンに1度、エクストラデッキから『希望皇ホープ』モンスター、または『未来皇ホープ』モンスター1体をX召喚扱いで特殊召喚する!」」

 

「フューチャーホープサークル、展開!!」

 

マシュが両腕を左右に開くとアストラル世界の文字や数字、更にその中心には皇の鍵が描かれた金色の魔法陣が展開される。

 

「「無限の未来へと続く、重なる願いと想い!遥かなる高みへと繋がる時、星河一天の希望が光を導く!現れよ!!『No.39 希望皇ホープ・ダブル』!!!」」

 

魔法陣の中から聖なる光が無数の波動と共に現れたのはあらゆる希望皇ホープに転身することが出来る、大きな可能性を秘めた希望皇ホープ・ダブル。

 

「「ホープ・ダブルの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキから『ダブル・アップ・チャンス』を手札に加え、希望皇ホープモンスターをこのカードに重ねてエクシーズ召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚する!」」

 

ダブル・アップ・チャンスをデッキから手札に加えてエクストラデッキから希望皇ホープを手にして希望皇ホープ・ダブルの上に重ねる。

 

「「希望皇ホープ・ダブル!エクシーズ・チェンジ!現れよ、No.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者!『希望皇ホープ』!!」」

 

朧げな霊体のような姿をした希望皇ホープ・ダブルが転身し、希望皇ホープとなる。

 

「「この効果で特殊召喚したホープの攻撃力は倍となる!攻撃力、2500×2で5000!」」

 

希望皇ホープの攻撃力が二倍となり、全身に力が漲るように赤いオーラを纏う。

 

ZEXAL IIは更に希望皇ホープの力を高める為に新たなモンスターを呼び出す。

 

「「ガガガマジシャンの効果!1ターンに1度、ガガガマジシャンのレベルを1から8に変更出来る!ガガガマジシャンのレベルを5にし、更にガガガガールの効果!1ターンに1度、ガガガマジシャンと同じレベルになれる!これでガガガマジシャンとガガガガールのレベルは共に5!」」

 

『ガガガッ!』

 

『ハァッ!』

 

ガガガマジシャンとガガガガールはブラック・マジシャン・ガールが共に戦っているので気合を入れて声を出す。

 

「「レベル5となったガガガマジシャンとガガガガールでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」」

 

『ガガガ先輩!』

 

『応ッ!!』

 

ガガガマジシャンとガガガガールは互いに声を掛けながら光となって地面に吸い込まれて光の爆発を起こす。

 

「「彼方より来たれ、奇跡の獣たちを導く王!希望の光を紡ぎ、闇を斬り裂け!現れよ!『ZW(ゼアル・ウェポン) - 獣王獅子武装(ライオ・アームズ)』!!」」

 

ZEXAL IIがエクシーズ召喚したのはZWを導く獣王、獣王獅子武装。

 

獣王獅子武装は希望皇ホープの力を最大限に高める為に隣に並び立ち、獣の咆哮を轟かせる。

 

「「ガガガガールの効果!ガガガモンスターのみでエクシーズ召喚したモンスターエクシーズは相手モンスターの攻撃力をゼロにする!ゼロゼロコール!」」

 

獣王獅子武装の隣にガガガガールの幻影が現れ、携帯電話を操作してファースト・レディに向けて特殊な音波を放つ。

 

「そんなのは効かないわ!」

 

ファースト・レディは音波を薙ぎ払ったが、ZEXAL IIはそれは想定内の事なので気にせずに獣王獅子武装の効果を発動する。

 

「「獣王獅子武装の効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、デッキからZWを手札に加える!」」

 

獣王獅子武装がオーバーレイ・ユニットを一つ食すと、ZEXAL IIはデッキからZWを一枚手札に加える。

 

「「デッキから『ZW - 雷神猛虎剣』を手札に加え、希望皇ホープに雷神猛虎剣を装備する!」」

 

ZW二刀流の片割れである雷神の虎が現れ、希望皇ホープがホープ剣を掲げる。

 

ホープ剣と雷神の虎が一つになり、雷神猛虎剣となる。

 

「「そして、これが対魔法少女用の罠カード!『DNA改造手術』!」」

 

ZEXAL IIが発動したのは手術衣を身につけた医師達が描かれた罠カード。

 

「「種族を一つ宣言し、このカードが存在する限り、フィールド上の表側の全てのモンスターは宣言した種族となる!俺/私は『魔法使い族』を宣言する!!」」

 

DNA改造手術はモンスターの種族を文字通り改造し、デュエリストが宣言すれば自分のモンスターの種族を『神』にもなれる大きな可能性を秘めたカード。

 

元々魔法使い族であるブラック・マジシャン・ガールを含め、希望皇ホープ、マシュ・ホープライト、獣王獅子武装が全てのモンスターの種族が魔法使い族となる。

 

種族が魔法使い族になれば魔法少女の世界でもそれなりのダメージを与えられるとZEXAL IIは考えてデッキに入れておいたのだ。

 

希望皇ホープと獣王獅子武装は一瞬だけ体が光ってそれぞれテキストが戦士族と獣族から魔法使い族になり、マシュも戦士族から魔法使いになるが……。

 

「えっ?あっ、あれ?」

 

「フォー?」

 

マシュが肩に乗っているフォウと一緒に光に包まれると希望皇ホープと獣王獅子武装とは違う変化が起きた。

 

体に装着されている希望皇ホープと未来皇ホープのプロテクターと両腰に備えている二振りのホープ剣が消失し、代わりに紫色のドレスのようなとても可愛らしい衣装を身に纏った。

 

マシュを象徴する大きな十字の盾が掌サイズにまで縮小し、更に盾から柄が飛び出して魔法少女のステッキとなる。

 

「え……ええっ!?わ、私の姿が、魔法少女に!??」

 

ステッキを手に取り、腕を軽く広げて静かに降り立つとマシュは自分の姿に驚いた。

 

「フォーフォーウ♪デミ魔法少女カルデア☆マシュの誕生だフォウ!」

 

フォウはマシュが魔法少女に変身したことに再び人語を話しながら喜んだ。

 

しかし、何故自分だけが魔法少女になったのか分からずマシュは困惑しながらZEXAL IIに尋ねた。

 

「な、なんで私が魔法少女に!?遊馬君、アストラルさん、これはどう言うことですか!?」

 

希望皇ホープと獣王獅子武装の見た目には特に変化はなく、その理由をZEXAL IIはだいたい察しがついた。

 

「あー、多分……デュエルディスクが空気を読んだんだな」

 

「空気を読む!?デュエルディスクがですか!?」

 

「デュエルディスクはデュエルの演出や表現を盛り上げるの為、時にカードの効果を付与したモンスターがその姿や必殺技を変える時がある。今回はマシュが戦士族から魔法使い族になった事で衣装が魔法少女のようになったのだろう」

 

デュエルディスクに搭載されているソリッドビジョンシステムの高度な技術力(?)により、マシュが希望の守護者から『デミ魔法少女カルデア☆マシュ』へと変身したのだ。

 

「とっても可愛いですよ、マシュさん!こんな時じゃなければスイッチが入ってたかも……」

 

「ええ!マシュさんも魔法少女の素質は充分に備わっていたのでとても似合っていますよ!」

 

イリヤとブラック・マジシャン・ガールは魔法少女となったマシュを絶賛した。

 

マシュはまさか自分が本当に魔法少女になれるとは思わなかったので恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらステッキを握り締めていた。

 

ZEXAL IIは苦笑を浮かべながら気を取り直し、バトルフェイズに入る。

 

「「行くぞ、希望皇ホープで攻撃!ホープ剣・ライトニング・ブレード!!」」

 

希望皇ホープは雷撃を纏う雷神猛虎剣を構えて振り下ろすが、ファースト・レディは手を前に出すと花弁のように展開する光の盾が現れた。

 

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!」

 

それはエミヤが使う強力な盾を展開する結界宝具の熾天覆う七つの円環。

 

花弁の2枚が破壊されるが、熾天覆う七つの円環を突破する為にZEXAL IIは尽かさずモンスターの攻撃を指示する。

 

「「マシュの攻撃!」」

 

「は、はい!」

 

魔法少女になったマシュはステッキを掲げ、先端の十字に魔力を込める。

 

イリヤやブラック・マジシャン・ガールの攻撃を模倣し、込めた魔力を一気に解き放つ。

 

「ロード・カルデアス・マジック!」

 

ステッキを振り下ろすと込められた魔力が無数の小さな魔力弾となり、弾丸がガトリング砲のように次々と連射されて熾天覆う七つの円環の花弁の盾を破壊する。

 

「「ブラック・マジシャン・ガール!ブラック・バーニング!獣王獅子武装!ライオ・タックル!!」」

 

ブラック・マジシャン・ガールと獣王獅子武装もマシュに続いて攻撃する。

 

ブラック・マジシャン・ガールは球体状に込めた魔力を爆発させ、獣王獅子武装は城内を駆け抜けて強烈な体当たりをする。

 

熾天覆う七つの円環の花弁の盾は全て破壊されたがファースト・レディは未だに無傷。

 

「ふん……いくら貴方たちの力がどれだけ高まっても、今の私を倒せないわ!」

 

「上等だ!クロエちゃんの意識が戻るまで何度でも攻撃するまでだ!」

 

「我々は絶対に諦めない!必ず君を止めてみせる!」

 

ZEXAL IIはファースト・レディを止め、クロエを取り戻す為に諦めずに戦い続ける。

 

ファースト・レディも反撃でクロエの戦闘能力である弓矢や刀剣を投影して戦っていく。

 

「……ルビー」

 

「はい、何でしょう?」

 

「遊馬さんとアストラルさん、マシュさんとフォウ君は……ミユとクロを助ける為に命を掛けて、全力で戦ってくれている。本当なら関係のない、見ず知らずの他人なのに……」

 

遊馬達はまるで自分の事のようにイリヤの大切な人である美遊とクロエを助ける為にファースト・レディと戦っている。

 

「それなのに、私だけ全力でいかないのはダメだよね……」

 

イリヤの覚悟を決めた想いを込めた言葉にルビーは汗を流しながら震えた。

 

「イ、イリヤさん……ま、まさか……!?」

 

「私は取り戻したい。私の大切な親友のミユを……私の大切な半身で妹のクロを……だから!私も覚悟を決める!サファイア、もう一度……あなたの力を貸して!」

 

「……はい!イリヤ様!共に美遊様とクロエ様をお救いしましょう!

 

「ルビー!お願い!」

 

「ああもう!分かりましたよ!こうなったら私も覚悟を決めましょう!」

 

イリヤはルビーを左手に持ち、サファイアを右手に持つ。

 

二つのカレイドステッキが光り輝くとイリヤの体が光に包まれて衣装とステッキが変化する。

 

先端が大きなガラス玉のような球体の中にルビーとサファイアの五芒星と六芒星があり、羽根とリボンの飾りがついたステッキとなった。

 

そして、魔法少女の衣装はイリヤの自身のピンク色のフリフリのドレスと、美遊の競泳水着のような衣装がごちゃ混ぜになったような姿となり、背中には魔力で形成された赤紫色に輝く双翼が炎のように揺らめきながら生えていた。

 

しかし……その双翼はまるで、イリヤにある命を対価に燃え上がらせている炎の双翼にも見え、可愛らしさと同時に恐ろしさや怪しさを宿していた。

 

二つのステッキを一つにして手にし、溢れんばかりの力をその身に纏うその姿はイリヤの最強の力。

 

「カレイドライナー・プリズマ☆イリヤ ツヴァイフォーム!!!」

 

ツヴァイフォーム。

 

それは、ルビーとサファイア……二つのカレイドステッキを同時に使用し、一つにする事で変身できる……イリヤの奇跡の最強形態である。

 

ツヴァイフォームに変身したイリヤは静かにZEXAL IIの隣に立つ。

 

「イリヤちゃん……その姿は……!?」

 

「私の……切り札です!クロ、ちょっと痛いの我慢してね!!」

 

双翼を羽ばたかせたイリヤは飛翔して一気にファースト・レディの元に行き、ステッキに大きな魔力刃を形成して振り下ろす。

 

ファースト・レディは慌てて干将・莫耶で魔力刃を受け止める。

 

「イリヤ……くっ、あなたのその力は一体……!?」

 

「ミユとクロ……私の親友と妹を絶対に返してもらうから!ファースト・レディ!!」

 

イリヤはその場から軽やかにバク転するように飛びながら魔力砲を撃つ。

 

それはクラスカード・キャスターの夢幻召喚の時に放った魔力砲よりも強力で、しかも一つだけだなく複数の魔力砲を同時に放っていく。

 

ツヴァイフォームの強大な力にZEXAL II達は感心するが、ブラック・マジシャン・ガールは目を見開いて体が震えていた。

 

「ダメ……」

 

「えっ?」

 

「ダメです!早くイリヤさんを止めないと!」

 

「ど、どう言う事なんだ!?」

 

「感じるのです……イリヤさんが力を使う度に体が損傷していくのが……あの姿はイリヤさんの命を削っています!早く何とかしないと!!」

 

ツヴァイフォームは通常の魔術回路だけでなく筋系・血管系・リンパ系・神経系までも擬似魔術回路として利用する事によって引き出しているため、攻撃する毎にそれらの神経を大きく傷付ける諸刃の剣である。

 

イリヤはかつて美遊を救う為にこのツヴァイフォームを使い、ルビーはもう二度とイリヤに使わせないと誓ったがイリヤの確固たる決意に折れたのだ。

 

「俺よりも年下の女の子が文字通り命を懸けて……アストラル!!」

 

「分かっている!力を使う度に命を削る……そうだ、遊馬!イリヤを救う方程式を導いたぞ!」

 

アストラルはツヴァイフォームで命を削るイリヤを救う方法を思いつく。

 

「「俺/私のターン、ドロー!フォウの効果!デッキから2枚ドローし、その後手札を1枚墓地に送る!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、再び希望の道筋を照らせ!ダブル・シャイニング・ドロー!そして手札1枚を墓地に送る!」」

 

シャイニング・ドローで創造したカードによりイリヤを救うカードを手札に加える。

 

「「魔法カード『コストダウン』!手札を1枚捨て、このターンの自分の手札のモンスターのレベルは2つ下がる!」」

 

コストダウン、それは上級モンスターのレベルを下げてアドバンス召喚のコストを文字通り下げる魔法カード。

 

「「このモンスターをレベル6からレベル4として召喚する!現れよ!『マテリアルドラゴン』!!」」

 

ZEXAL IIが召喚したのは全身が金色に輝き、流れる水のような模様が美しい竜……マテリアルドラゴン。

 

「「マテリアルドラゴンの効果!このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、ライフポイントにダメージを与える効果はライフポイントを回復する効果になる!マテリアルヒーリング!!」」

 

マテリアルドラゴンの体から金色の粒子を散布し、それがイリヤの体に纏われると不思議な事が起きた。

 

ツヴァイフォームで力を使う度にイリヤの体中の器官が傷ついていき、あちこちから痛々しく血が流れていたがそれが徐々に無くなっていた。

 

「えっ……?これって……」

 

「こ、これは……驚きです!イリヤさんの体が回復しています!?」

 

「傷付いたイリヤ様の肉体の全器官が癒されて回復していきます……ツヴァイフォームで傷付くはずだった肉体が逆にどんどん回復していきます!」

 

「マテリアルドラゴンはフィールドに存在する限り永続的に効果ダメージを回復に変換させる唯一のモンスター!」

 

「これでその姿の代償となっていたイリヤちゃんのダメージは全て回復になるぜ!」

 

力を使う度に体に負荷を掛け、命を削るツヴァイフォームだが、マテリアルドラゴンの癒しの力によりダメージが逆に回復に変換された。

 

数あるデュエルモンスターズの中でもフィールドに存在する限り、効果ダメージを永続的に回復出来るモンスターはマテリアルドラゴンを除いて他にはいない。

 

「凄い……ありがとうございます、遊馬さん!アストラルさん!」

 

「この姿の時はZEXALって呼んでくれ!」

 

「さあ、これで君の体の心配も無くなった……全力全開で行くぞ!」

 

「はい!」

 

ZEXAL IIもイリヤも全力全開で最後のターンを迎えようとしたが、ファースト・レディもただで済ませるわけにはいかなかった。

 

「そうはいかない!イリヤ、先にあなただけでも確実に倒す!」

 

干将・莫耶を一組から二組に増やして投げ飛ばし、ブーメランのように回転しながら四方向からイリヤを狙う。

 

「岩を断ち、雨を裂き、逃げ場を挟む鶴の一声……『堕・鶴翼三連(ブラックバード・シザーハンズ)』!!」

 

山を抜き、水を割っても堕ちることのなかった双剣が、堕ちた黒鶴の両翼となり切り刻む。

 

イリヤの背後にファースト・レディが転移して現れ、もう一組の干将・莫耶をその手に持ち、三組の干将・莫耶による回避不可の同時攻撃を行おうとした。

 

これをまともに受ければただでは済まない。

 

しかし、イリヤは目を閉じてとても落ち着いており、静かに口を開いた。

 

「全方位錘形物理保護」

 

次の瞬間、イリヤを中心に数多の錘形の魔力で形成されたシールドが隙間なく全方位に形成され、投擲された干将・莫耶を別の方角に逸らして地面に突き刺さり、更にはファースト・レディが振り下ろした干将・莫耶も簡単に受け流されてしまった。

 

「なっ!??」

 

「ファースト・レディ……あなたはクロに憑依して体と力を自由に扱えても、クロの記憶を見れるわけじゃ無いんだね。この姿になった私は……そう簡単にやられないんだから!!」

 

イリヤは背後にいるファースト・レディに向けてゼロ距離で魔力砲をぶっ放して吹き飛ばし、地面に叩きつけられる直前に物理保護の応用でシールドを星型に形成してファースト・レディの体を拘束した。

 

「ZEXALさん!今です!」

 

「ああ、任せろ!」

 

「これで最後だ、ファースト・レディ!!」

 

ZEXAL IIはファースト・レディに向かって最後の攻撃を繰り出す為に希望皇ホープに最高の力を与える。

 

「「俺/私のターン、ドロー!獣王獅子武装の効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキから『ZW - 風神雲龍剣』を手札に加え、希望皇ホープに装備する!」」

 

獣王獅子武装の効果によりZW二刀流のもう片方の剣、風神の龍……風神雲龍剣を手札に加えて発動する。

 

希望皇ホープのもう一本のホープ剣が風神の龍と一体化して風神雲龍剣となり、ZW二刀流が完成した。

 

「「そして、獣王獅子武装を希望皇ホープに装備!闘志が纏いしその衣、轟く咆哮、大地を揺るがし、迸る迅雷、神をも打ち砕く!獣装合体!ライオ・ホープ!!」」

 

最強のZW二刀流に加え、究極のZWの獣王獅子武装を装備し、今の希望皇ホープは最高の攻撃力と効果を有している。

 

「これでホープの攻撃力はホープ・ダブルの効果で二倍に加え、三つのZWの効果で更に上昇する!」

 

「その攻撃力は2500×2+1200+1300+3000で合計10500!」

 

驚異の攻撃力1万超えを達成し、これで希望皇ホープの攻撃の準備は完全に整った。

 

「「ライオ・ホープでファースト・レディに攻撃!この瞬間、希望皇ホープのモンスター効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、モンスターの攻撃を無効にする!ムーン・バリア!!」」

 

ライオ・ホープが突撃したその直後にオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込むと攻撃が無効になる。

 

「攻撃を自分で無効に!?」

 

「「手札から速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』を発動!モンスターの攻撃が無効になった時、その攻撃力を二倍にしてもう一度攻撃が出来る!」」

 

「さ、更に二倍ですって!?」

 

ホープ・ダブルで手札に加えていたダブル・アップ・チャンスを発動したことにより、ライオ・ホープの攻撃力は更に倍となり、10500×2で合計攻撃力は21000となった。

 

ライオ・ホープは雷神猛虎剣、風神雲龍剣、獣王獅子武装の全ての武装を解除して光の粒子に変換させると、その力を二振りのホープ剣の刃に収束させる。

 

「これが私の全て……!」

 

その間にイリヤもルビーとサファイアの力により、全身の全ての器官を擬似魔術回路の変換が完了し、魔力放出を限界を越える状態にしてステッキを掲げて魔力を込める。

 

そして、希望皇ホープとイリヤは同時にホープ剣とステッキを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホープ剣・ゼアル・ウェポン・スラッシュ!!!」

 

「『多元重奏飽和砲撃(クウィンテットフォイア)』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希望皇ホープから十字の巨大な金色の斬撃が放たれ、イリヤはステッキから夜空に輝く銀河の如き美しい魔力砲を放った。

 

ファースト・レディは物理保護の拘束を強引に破壊し、瞬時に投影を行い、手にしたのは……。

 

「これが……この体で……クロエが投影出来る最強の剣……!」

 

それはアルトリアの持つ星の聖剣、約束された勝利の剣。

 

投影したものなので、アルトリアのオリジナルやイリヤの夢幻召喚で手にした約束された勝利の剣には及ばないが、それでも充分な力を持つ。

 

更には美遊から魔力を充分に与えられている今なら投影したものでも全力で使う事ができる。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!!」

 

約束された勝利の剣から放たれた金色の激流が斬撃と魔力砲と真正面からぶつかり合う。

 

最初の魔法少女、この世界に君臨する魔法少女の女王としてファースト・レディは負けられない。

 

約束された勝利の剣のこの一撃に全てを込めてイリヤ達を倒し、自分の願いを叶える。

 

だがそれはイリヤも同じで負けるわけにはいかない。

 

自分はファースト・レディのように世界を救うという大きな事のために戦ってはいない。

 

だけど、自分の一番大切な親友と妹……その二人の命を守り、救い、そして……一緒に元の世界に帰って共に幸せな日常を過ごしたいと願いを叶える為。

 

それはファースト・レディの願いに比べたら何処にでもいる幼い少女のワガママかもしれない。

 

しかし、時にその小さな願いは……世界に届く大きな力となる。

 

「ミユ……クロ……!うっ、くぅっ……うあぁああああああああああああっ!!!」

 

イリヤは全身から力を奮い立たせるような叫び声を上げ、全ての魔術回路と擬似魔術回路を解放して魔力砲の規模を更に拡大させ、約束された勝利の剣の光を呑み込んでいく。

 

「そ、そんな……!?」

 

ファースト・レディの手にある約束された勝利の剣は限界を超えて粉々に砕かれて消滅し、次の瞬間には斬撃と魔力砲が目の前にまで迫る。

 

「ミラー……」

 

ファースト・レディは誰かの名を呟き、涙を流しながらその身が光に包まれた。

 

 

 




いやー、今回はいつもの倍近くの文字数で色々大変でした。
ZEXAL IIとツヴァイフォーム……このタッグを実現したかったので満足です。
それとマシュの本格魔法少女化にも成功しました(笑)
やっぱりDNA改造手術と空気を読むデュエルディスクのソリッドビジョンは最強ですな。

次回はいよいよプリズマ・コーズ編の最終回です。


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ナンバーズ146 魔法少女達の新たな物語

これにてプリズマ・コーズ編は終わりです。
なんとか4月中に終わってよかったです。
改めて思うとやっぱりプリズマ・コーズは話の内容が濃いなと思いました。
書き終えて一安心です。


美遊とクロエを救う為、クロエに憑依したファースト・レディに向けてZEXAL IIとイリヤの最大級の攻撃を放ち、ファースト・レディの力を削いでいく。

 

「はぁ……はぁ……なんとか相手の力を削ぎきった……よね?今、あなたはレディ……?それとも……クロ……なの?」

 

「ふむふむー?どうやらクロさん優勢のようですよー?憑依していたレディの反応が消えていきます!」

 

ファースト・レディの力を削ったことでクロエの意識が優勢になっているが、このままではファースト・レディが消滅しそうになっていた。

 

「えっ……!?そ、それは待って、レディさん!聞こえるクロ!?お願い!もうちょっとこらえて!」

 

「あのねぇ……また勝手なこと……きっついなもう……」

 

「まずい……ファースト・レディが消失すればこの固有結界も消失する可能性があるぞ」

 

「くっ、どうする……聖杯で魔力を渡すか……!?」

 

ファースト・レディをこのまま消させるわけにはいかず、ZEXAL IIは聖杯を使って命をつなぐことを考えた。

 

一方、ファースト・レディの膨大な力の源であった美遊を拘束していた魔術礼装が無力化されていた。

 

「イリヤ様、美遊様を拘束していた礼装が無力化しています!」

 

「サファイア、行って!」

 

「はい!」

 

イリヤはツヴァイフォームを解除してステッキのルビーとサファイアを分離させ、サファイアを美遊の元に行かせた。

 

しかし、美遊は長いこと拘束されて上手く体に力が入らずにその場に倒れそうになる。

 

「美遊様っ!?」

 

「はっ!?クリボー、頼む!」

 

ZEXAL IIは手札にあったクリボーを召喚して美遊の元へ向かわせた。

 

「クリクリー!」

 

クリボーは瞬時に美遊の前に召喚されると、クリボーの体が倍加して大きくなり、モフモフの体がクッション代わりとなって美遊を受け止めた。

 

「あっ……えっと……?」

 

美遊はその場に座り込んでクリボーを見つめると、クリボーは元の大きさに戻って笑顔を見せた。

 

「あ、ありがとう……」

 

「クリクリ〜♪」

 

「わぷっ!?」

 

人懐っこいクリボーは嬉しそうに美遊に頬擦りをする。

 

「ちょっ……あははっ、もう、くすぐったいよ……」

 

美遊は人懐っこく、可愛らしいクリボーに少しだけ心を開いて頭を撫でた。

 

少しだけクリボーのモフモフを堪能して立ち上がると、サファイアに感謝した。

 

「ふぅ……サファイアも、ありがとう」

 

「美遊様……っ……」

 

サファイアは感極まって涙声で美遊に駆け寄り、もう離れないと言わんばかりに抱きついた。

 

「良かった……ミユ……」

 

美遊を無事に救えてイリヤは一安心をする。

 

すると、ファースト・レディが恨めしそうな声でイリヤに話しかけた。

 

「……どういう……つもり、イリヤ……とどめを刺さないなら……私に勝ったことにならない……私は決して諦めない……諦められない……」

 

「勝ち負けとか……レディさん、そうじゃなくて──」

 

「……そう。違う。あなたのそれは執念や理想とは異なる。それはきっと──贖罪だから。レディ、あなたは認められないだけ。イリヤの純粋な想いとは違う」

 

ファースト・レディが何を思って今まで生きていたのか、戦ってきたのか……短い間だが一緒にいた美遊はその本心を気付いていた。

 

「ミユ……?」

 

「贖罪……?」

 

「ねえイリヤ 、彼女にあなたの気持ちを教えてあげて」

 

「えっ、私が!?」

 

「うん──彼女の心に届くように。素直に。思い切り」

 

「……わかった、ミユ」

 

美遊に託され、イリヤは深呼吸をして心を落ち着かせ、自分の正直な気持ちを打ち明けた。

 

魔法少女として戦ってきたこれまで日々とこの世界に導かれ、魔法少女たちと戦って気づいた自分の想いと覚悟を……。

 

「レディさん……わ、私はね……いつも目の前のことで精一杯で、世界を救おうなんて、考えたこともなくて……ううん。正直に言うと、自分と関係ないことだからって遠くのことは考えないようにしてた。でも、もしもレディさんと同じ立場になったら……人に頼られて、振るうのが義務になってしまうぐらい途方も無い大きな力を手に入れてしまったら……その時、自分に何が出来て、誰を選ぶのか……私にはまだ……分からない、です」

 

「……そう」

 

「でも……私の大切な友達や家族に危険な目に遭うことがあれば、私は魔法をためらいなく使う。私は、みんなの笑顔を守るために魔法を……使うよ?」

 

「……それで、あなた自身が泣くことになっても……?」

 

ファースト・レディの問いにイリヤは無言で頷く。

 

「……遊馬、アストラル。いいえ……ZEXAL。あなた達もそうなの?それほどの大きな力を持つあなた達も、大切なものを守るためにその力を振るう……?」

 

「ああ。俺の大切なもの……家族と仲間達とその幸せを守る為に俺は戦う。自分の心と体がどれだけ傷ついてもな……」

 

「私たちは知っている、家族と仲間達……それがどれだけ掛け替えのないものだということを。だからこそ、守る価値があるのだ……」

 

「イリヤ……ZEXAL……私はあなたたちが羨ましい。けれど、同時に愚かだと思う。まるで過去の私を見ているようだから。私は救えなかった……私の大切な友達を……私は彼女と世界を天秤にかけて──世界を……選んだ……一番の親友だった彼女を、救うことが……出来なかった……」

 

ファースト・レディはかつて……世界を守る為に大切な友達を救うことができなかった。

 

その話に遊馬は眼を見開いて驚き、辛そうな表情を浮かべて自分の胸を強く掴む。

 

「……お前もそうなのか」

 

「……まさか、あなたも……?」

 

「……俺も、仲間と友達を……救う事が、出来なかったから……」

 

「……彼女は魔法少女では無かった。彼女は魔法少女であることを拒絶した……『世界の敵』となって、人々を絶望させた……だから……私が、この手で……っ……彼女を止めるしか……なかった……もう二度と彼女に会えない……ごめんなさいって……言えなかった……」

 

ZEXALも同じ苦しみを持っていることを知り、ファースト・レディはその友達の事を想い、後悔の念から大粒の涙を流した。

 

友達を救うことが出来なかった深い悲しみに誰もが言葉をかけることが出来なかった。

 

しかし、その空気をぶち壊す凛とした声が響く。

 

「それはどうかしらね」

 

「……っ……エレナさん!?ライオンさんも!?」

 

それは外で使い魔達と戦っていたエレナだった。

 

エレナは魔法少女としての衣装を身に纏い、側には屋敷で眠っていたライオンのぬいぐるみ……エジソンが再起動をして駆けつけたのだ。

 

「そちらでの戦闘が本格化したと同時にレディの使い魔たちは脅威ではなくなったの。この玉座の間に辿り着くのも苦労したけれど、この城内は結界が強すぎて、あの子が入れないわ。美遊も無事だったのなら、レディを連れて一旦外へ出ましょう。移動しながら、レディに憑依されている彼女についても聞かせてもらえるかしら」

 

「あの子……?」

 

「どうやらエレナは何か秘策があるようだ。とりあえず一緒に行こう」

 

この状況を打破する秘策があるようで一同はエレナの後をついていく。

 

ちなみにエレナが遊馬とアストラルが合体したZEXAL IIの存在に驚愕したことは言うまでもない。

 

城を出るとそこには見たことのある亡霊がいた。

 

「きゃっ……!って、もしかしてあの時のお化けさん!?」

 

それは死せる書架の国で黒壁の近くにいた亡霊だった。

 

「この亡霊はおそらく、以前からよく黒壁の周囲を徘徊していた子だわ。黒壁の崩壊後に危なっかしく城へ向かおうとしていたのを拾ってきたの。もしかしてファースト・レディ──あなた、この子をご存知なのではなくて?何か一言あなたに言ってやりたそうな顔をしているわ」

 

「確かに……すごく怒ってるような気が……レディさんに何か伝えたがってる……?でも、なんて言ってるのかわからないよ……うう……」

 

亡霊の力が弱いのか何を言っているのか分からず、ファースト・レディに対して怒ってるぐらいしか分からなかった。

 

すると、ブラック・マジシャン・ガールはある方法を思いついた。

 

「……魂の力を強化させて、誰かに憑依させればいけるかも」

 

「ブラック・マジシャン・ガール、可能なのか?」

 

「はい!それに、私は魔術師で精霊の力を操る古代エジプトの神官です。私の魔力と『(バー)』をあの子に分け与えます」

 

ブラック・マジシャン・ガールはステッキを構えて自身の魔力と魂の力を与えて亡霊自身の力を強化する。

 

「憑依の方ならこちらにおまかせです!イリヤさん、ちょっとお体をお借りしますよ。ルビーちゃん特製霊媒(イタコ)ポーションどうぞ!えいっ!(ぷす)」

 

「ひゃんっ──!」

 

ルビーはどこからか取り出した怪しい薬が入った注射器を迷うことなく問答無用にマスターのイリヤに打ち込んだ。

 

「イタコ?どっかで聞いたような……」

 

「日本の東北地方に古くから伝わる死者の霊魂を呼び寄せて語らせる巫女のことだ」

 

イリヤは打ち込まれた薬によってその体は亡霊を憑依させる状態へと変化した。

 

「素晴らしい……!もう憑依出来る状態になれるなんて、ルビーさん!あなたは素晴らしいステッキです!」

 

「ありがとうございます!ブラック・マジシャン・ガールさんのような素晴らしい魔法少女さんに褒められてルビーちゃん鼻が高いです!」

 

「さあ……イリヤさんの体に……」

 

力を強化された亡霊はイリヤの体の中に入ると、イリヤの瞳の色が紅から水色に変わり、纏う雰囲気も変わっていた。

 

「本当に憑依させた……!?そんな簡単に?今更だけど出鱈目に高機能な魔術礼装ね……」

 

「ってか、いつの間にあんな薬を用意していたんだ?」

 

「一体ルビーはなんの用途で開発したんだ?」

 

何故ルビーが亡霊を憑依させる薬を都合良く開発していたのか分からず遊馬達は首を傾げた。

 

「どう……イリヤ?いえ、お化けさん……?」

 

美遊はイリヤに憑依した亡霊に聞くと、イリヤは静かにファースト・レディに近付いた。

 

「……っ……の……この……おばかっ!!」

 

そして、激怒すると同時にファースト・レディの頭を殴った。

 

「……痛っ……いきなり殴られたぁ……何をするの……!痛っ、痛いってば……!」

 

「あらあらー?殴られた防衛反応でクロさんが半分戻ってきましたね?」

 

「イリヤちゃんに憑依しているのは誰なんだ?」

 

「イリヤに憑依している彼女……私知っているかもしれません。もし、夢で見た彼女なら……」

 

「……でも、見ため的にはイリヤとクロエがどつきあっているようにしか見えないのがあれね」

 

側から見ればイリヤとクロエが軽い(?)姉妹喧嘩をしているようにしか見えなかった。

 

「おばかだからおばかって言ったのよ!」

 

「……その口癖……まさか……ミラー?あなたなの!?あなたも亡霊としてここに……!?」

 

ファースト・レディはイリヤに憑依した亡霊の正体に気付いて驚いた。

 

「ええ……いけない?短期間だけど私も魔法少女を務めた。だから資格はある。そして今のあなたはファースト・レディ、最初の魔法少女、そうね?」

 

「やっぱり……彼女だ。ミラーさん?あなたがレディの大切なお友達……ですか?」

 

「そうよ──美遊。私はレディに敵として討たれた──元・魔法少女」

 

ミラー。

 

彼女こそ、世界の敵として倒されてしまったファースト・レディの友達である。

 

ファースト・レディは魔法少女として誰かが幸せになるように自分の全てを世界に捧げた。

 

しかし、ファースト・レディが頑張るほどに逆に人々から笑顔が消えた……人々の強すぎる欲望に振り回され、ファースト・レディの心が擦り減ってしまったのだ。

 

ミラーはそんな世界に救われる価値はないと思い、世界よりもファースト・レディを選んだ。

 

「……ずっとここにいたの、ミラー?私が気付けなかったの……?」

 

「……ええ。魂の力を少し頂いて回復はしたけど、私は今でも朧げな亡霊だわ。こうしてイリヤの体を借りなければ意識もはっきりと保てない。でも、ずっとあなたの存在は感じていた。この世界はあなたの後悔そのものだから。だから黒壁の向こうに届くように願っていたわ。あなたの心に安らぎが訪れるように」

 

「……っ……固有結界の外へレイラインを開いたのはあなたね?ミラー?クロエをこの世界に呼び込んだのは偶然じゃなかった。ミラー、あなたの願いがもたらした」

 

クロエをこの世界に導いたのはファースト・レディを想うミラーだったのだ。

 

その事に対してミラーはすぐに謝罪をした。

 

「私は自覚は無いけれど……だとしたら、謝るわ。迷惑をかけたわね」

 

「だとしたら、私たちやブラック・マジシャン・ガールをこの世界に導いたのはファースト・レディ、君なのか?」

 

「……いいえ。メイヴでしょう。彼女は自分自身を膨大な魔力の器としてレイラインを開いてみせたのだわ。私はその開かれたレイラインを利用しようとしただけ」

 

遊馬達やブラック・マジシャン・ガール達がこの世界に導かれた様々な謎が次々と解明していく。

 

しかし、ファースト・レディの力にも限界が来ており、クロエが苦しそうな声を出す。

 

「レディの圧力が消えそう……このままだと……いくらこちらが我慢しても弾き出してしまう……」

 

「……っ……エレナさん。あなたの状態はいかがですか?」

 

「……私自身はまだ変化を感じない。けれど、私の『死せる書架の国』にはもう異変が起き始めてる──宝石を通じてわかる。おそらく固有結界の中心、レディの城から離れた王国から順に崩壊が始まっているはず──」

 

「固有結界が持たないのかよ!?」

 

この世界が崩壊したらここにいる全員が巻き込まれて消えてしまう。

 

アストラルはすぐに対策を打つ。

 

「遊馬!フィールド魔法のオノマトピアだ!崩壊する固有結界の代わりに展開して僅かでも時間を稼ぐぞ!!」

 

「分かった!俺のターン、全ての光よ、力よ、我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!フィールド魔法『希望郷 - オノマトピア -』を発動!!」

 

ZEXAL IIはシャイニング・ドローでデッキトップに置いたオノマトピアを発動し、自身の奇跡の力と体内に宿る聖杯の力を使って規模を固有結界全体に広げ、一時的な崩壊を防ぐ。

 

「固有結界の崩壊を防いだ!?」

 

「だがこれはあくまで一時的なものだ。早く何か手を打たないと……」

 

ファースト・レディの消滅がこの世界の消滅と直結している為、早く具体的な方法を見つけらければならなかった。

 

その方法をいち早く見つけたのは……エレナだった。

 

「……レディ、あなたの固有結界を私が受け継いでは駄目かしら」

 

「固有結界を受け継ぐ……!?」

 

「お生憎だけど、私は本気よ。この世界は傷ついた魔法少女を受け入れる場所として必要だわ。レディ、再びあなたのような存在を出さない為にも。あなたの最初の望みを、もう一度やり直させてくれないかしら」

 

世界の為に戦った魔法少女の為にもこの世界は必要であり、ファースト・レディの最初の願いを叶える為にエレナは全てを受け継ぐ決意を固めていた。

 

「……エレナ。知恵と神秘の魔法少女。ええ……それが、あなたの心からの願いなら。私は……あなたの願いを叶えるわ!」

 

「感謝を。ファースト・レディ。今度はうまくやるわ」

 

ファースト・レディもエレナになら全てを託せると安心したように笑みを浮かべた。

 

すると今度はファースト・レディだけでなく、ミラーにも限界が訪れてしまう。

 

「ああっ……ミラーさんが消えちゃう」

 

ミラーは消滅する前に最後の力を込めてファースト・レディに言葉を送る。

 

「──聞いて、レディ。あなたは世界に棄てられ忘れられた。そして手ひどく裏切られたと感じている。魔法少女は、魔女ではない。ましてや女王でもない。奇跡に見返りを求めない。自分の為に魔法を使うこともない。ただ見知らぬ誰かのために、胸の底から湧き起こる気持ちを呪文に乗せて唱える。そうでなければ──叶わぬ願いたちは呪いになってしまう。届かぬ想いが世界の狭間に吹き溜まって煉獄となってしまう」

 

「私はまだ……それにミラー、あなたに……」

 

「ううん、レディ……あなたはもう充分に唱えきったのよ。喉が枯れるまで。魔法の本の最後のページまでめくり終えたのよ。そうね。確かに人々に降りかかる危機や襲い来る敵は、尽きず現れる。それでも……その為に、イリヤのような新しい魔法少女たちが生まれてくるのだから──いいえ、魔法少女だけではないわ。彼らのような勇敢で、奇跡を手にする勇者たちもいるわ」

 

ミラーは世界の危機が訪れる度にイリヤ達のような新たな魔法少女が生まれる。

 

そして、遊馬とアストラルのような世界を救う勇者が生まれると確信していた。

 

だから、もうファースト・レディが苦しむ必要は無い……ミラーはファースト・レディの手を取り、もう二度と離れないようにと指を絡ませて強く手を握った。

 

「みんなはまだまだ頼りない未完成の魔法少女と勇者だけれど──でも──だからこそ──みんなの掌には──未来がある──」

 

ファースト・レディとミラー……最後は二人とも優しく笑い合いながら……消滅していった。

 

二人は長きに渡る呪縛から解き放たれ、新たな世界へと旅立ったのだ。

 

「エレナさんの手に……新しい宝石が……」

 

エレナの手にファースト・レディの宝石が現れ、これで正式にこの世界を受け継ぐ事になった。

 

「二人共、戻ったのか?」

 

イリヤとクロエの憑依が解かれ、遊馬は無事を確かめた。

 

「う、うん。私はしっかり……クロは?」

 

「うーん……ここはどこ……私は誰……分からない……今までの悪行とか都合よくこれっぽちも思い出せない……だから責任問題は生じない……ミユに放送禁止内容に踏み込んだ魔力提供を強制した気がするけど合意だからノーカンだし……レディの力で私が主役の世界を作って、お兄ちゃんとラブラブな生活を送ったものの……正義の集団セロに弾劾された末に悪堕ちして、トラブル少女の烙印を押されて倒されたのも秘密だし……とまあ、色々あったけど、よくやったわねイリヤ!それでこそ正義の魔法少女、信じていたわ」

 

なんかとんでも無いことをぶっちゃけて反省の色がないクロエに対し、イリヤは苦笑いを浮かべた。

 

「うわあ……クロのせいじゃないけど、ここまで反省の色がないのもどうかと……」

 

「イリヤちゃん、クロエちゃんっていつもこんな感じ?」

 

「かなりマイペースで所謂ゴーイングマイウェイな性格だな。ある意味遊馬に通ずるところがあるな」

 

「うおいっ!?それはどう言う意味だよアストラル!?」

 

「そのまんまの意味だが?」

 

「てめぇ!?」

 

その後、遊馬とアストラル、美遊とクロエの間でそれぞれ軽く、他愛もない微笑ましい口喧嘩をしていった。

 

エレナはファースト・レディから受け取った宝石を自分の為ではなく、願いが循環する世界を作るつもりだ。

 

そして、イリヤと美遊とクロエの手には三つの宝石があり、それを自分ではなく別の誰か……この場合はイリヤが美遊、美遊がクロエ、クロエがイリヤに向けて元の世界に帰れるように願うことで、誰かの為の願いの循環で3人は元の世界に帰れることが出来る。

 

エレナはファースト・レディの代役としてこの世界に流れ着いた魔法少女たちのホスト役を勤めることにした。

 

メイヴとナーサリーとメディアの亡霊もきっと見つかるだろう。

 

だが、不安定な世界の為、綻びが起きていつか終わりが来るかもしれない。

 

しかし、エレナはそんなことでは絶望しない。

 

その時が来たらどこか辺鄙な世界に移住して亡霊たちと一緒に幽霊屋敷に住むと笑いながら考えていた。

「うーん、私達はどうやって帰りましょうか……」

 

「クリ……」

 

イリヤ達の帰る方法は見つかったが、ブラック・マジシャン・ガールとクリボーはどうやってこの世界から精霊界に帰ろうか悩んでいると……。

 

「な、何……!?この闇の魔力は……!?」

 

エレナは何かの気配を感じ、空を見上げると美しい星空から闇の魔力が迸る。

 

闇の魔力が収束すると大きな赤と黒の扉が現れて地面に落ちる。

 

「と、扉……!?」

 

「これは魔法カード『奇跡のマジック・ゲート』……!?」

 

それはデュエルモンスターズの魔法使い族専用の魔法カード『奇跡のマジック・ゲート』に描かれている大きな扉だった。

 

『マナ……マナ!』

 

すると、マジック・ゲートから男性の声が響いてきた。

 

「この声は……お師匠様!」

 

「クリクリ〜!」

 

その声にブラック・マジシャン・ガールとクリボーは嬉しそうに声を上げた。

 

マナ……それはどうやらブラック・マジシャン・ガールの真名らしい。

 

『マナ、クリボーも一緒か。無事か!?』

 

「はい!大丈夫です!」

 

「クリリ〜!」

 

『そうか!消えたお前達の魔力を追って、ようやくその異世界に私の魔術を届かせることができた。そのマジック・ゲートを潜れば精霊界に帰る事ができる。早くするんだ!』

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「クリ〜!」

 

そして、この世界と精霊界を繋ぐ扉を生成したブラック・マジシャン・ガールの師匠……その強大な魔力とそこから繰り出される魔術の腕にエレナは感心した。

 

「凄いわ……宝石の奇跡の力を使わずに異世界を繋ぐ扉を作り出すなんて。ブラック・マジシャン・ガール、あなたの師匠は素晴らしい魔術師ね」

 

「はい!私のお師匠様は最高の魔術師です!」

 

「ブラック・マジシャン・ガール、クリボー。良かったな、これで精霊界に帰れるな」

 

「君たちの協力に感謝する。遊馬、二人から預かったカードを……」

 

「そ、そうだった!ちょっと待っててな、すぐにデッキから抜くから!」

 

遊馬は慌ててデッキからブラック・マジシャン・ガールとクリボーと魔法使い族専用のカードを抜こうとしたがブラック・マジシャン・ガールは笑顔で首を振る。

 

「それはあなた方に差し上げます。今回協力してくれたささやかなお礼です」

 

「クリリー!」

 

「え?い、いいの!?」

 

「はい!遊馬さんのデッキには魔法使い族のモンスターもいますので役立てると思います。存分に使ってください」

 

「クリクリ〜!」

 

「ありがとう!大切にするぜ!」

 

遊馬はブラック・マジシャン・ガールとクリボーからのカードのプレゼントに大喜びした。

 

「ところで、ブラック・マジシャン・ガール。あのマジック・ゲートから聞こえた声、お師匠様って言ってたけどもしかして……!」

 

ブラック・マジシャン・ガールが師匠と呼ぶ人は一人しか存在しない。

 

「はい。遊馬さんの想像通りですよ。それでは、そろそろ行きます。あまり遅いとお師匠様に叱られてしまいますので」

 

「あっ!ブラック・マジシャン・ガールさん!クリボーちゃん!色々助けてくれてありがとうございます!」

 

「あなたのような素晴らしい魔法少女に会えて、最高でしたよ〜!」

 

「はい!イリヤさん、ルビーさん、お元気で!」

 

「クリクリ〜!」

 

ブラック・マジシャン・ガールはクリボーを抱き抱え、イリヤとルビーに最後の別れを告げてマジック・ゲートの前に立つと、扉が開いてその奥には異世界を繋ぐ渦巻いた空間が広がる。

 

マジック・ゲートの力でブラック・マジシャン・ガールはクリボーと一緒に宙に浮いてそのまま扉の奥まで動かされる。

 

すると、唐突にブラック・マジシャン・ガールの脳裏に不思議な光景が広がった。

 

それは最強の魔術師から強い魔力を受け継いだブラック・マジシャン・ガールが時折見る未来の予知……その光景にブラック・マジシャン・ガールは目を見開く。

 

「あっ……!?さ、最後に一つ、皆さんに伝える事があります!」

 

ブラック・マジシャン・ガールは扉の奥に引き寄せられながら遊馬達の方に振り返る。

 

そして、笑みを浮かべたブラック・マジシャン・ガールから衝撃の言葉が告げられる。

 

「少し先の未来……私たちは運命に導かれ、もう一度、皆さんと再会します!」

 

「えっ!?」

 

「再会だと……!?」

 

「これは私が今、予知した未来の出来事です!またお会いしましょう!」

 

「クリリ〜!」

 

ブラック・マジシャン・ガールとクリボーは最後の別れの言葉と共に体が光となり、扉の中へと消えていく。

 

「おうっ!また会おうぜ!」

 

「君達と共に戦えたことを誇りに思う!」

 

「短い間でしたが、お世話になりました!」

 

遊馬とアストラルとマシュも最後の別れを告げ、ブラック・マジシャン・ガールとクリボーを見送った。

 

ブラック・マジシャン・ガールとクリボーが扉の中に消えていくと、扉は静かに閉じて光を放ちながら消滅していった。

 

ブラック・マジシャン・ガールとクリボーが帰り、イリヤ達も帰る時間が近づくと、イリヤはZEXALに最後のお願いをした。

 

「あの、ZEXALさん!最後に一つ、お願いがあります!」

 

「お願い?何だ?」

 

「あ……握手してくれますか!?」

 

「「握手?」」

 

「はい!実は私、結構アニメが好きで……今の遊馬さんとアストラルさん……ZEXALさんがアニメに出てくるような本物のヒーローみたいで興奮しちゃって。だから、これで最後のお別れになっちゃうから、握手をお願いします!」

 

「そう言うことか。分かったぜ。なあ、アストラル」

 

「ああ。それくらいお安い御用だ」

 

「ありがとうございます!」

 

ZEXAL IIとイリヤは握手を交わした。

 

ある意味では異世界の勇者と魔法少女の奇跡の光景とも言えるものだった。

 

イリヤはZEXALと握手をしながらこれまでの戦いから感謝の想いを打ち明けた。

 

「ZEXALさん……ううん、遊馬さんとアストラルさんとマシュさんはずっと世界を背負って戦っていたんだね──真剣に。命賭けで。私なんかより遥かに大きな使命を背負っていても、それでもミユを、クロを、私たちを助けてくれた。気まぐれで出来ることじゃないです。ホラ、また冗談めかして笑ってるけど。自分が一番苦しいのに、他の人に手を差し伸べられる。それって、どんなら魔法でも起こせない奇跡だと思います。そんな人にしか多分世界は救えないんです……ほら、クロも。何か言うことあるでしょう?」

 

「……とりあえず、私もせっかくだからまずは握手していい?」

 

「おう、良いぜ」

 

クロエもZEXAL IIと握手を交わしながら感謝と謝罪の言葉を述べる。

 

「ありがとう……迷惑かけて悪かったわ。遊馬、アストラル、マシュ。そっちもなんだかタイヘンそうだけど気楽にやりなさい」

 

「そんな言い方はないでしょう、クロ!もうっ……」

 

イリヤとクロエがZEXAL IIと握手をし、一人だけ仲間外れも嫌なので美遊も感謝の気持ちを込めてZEXAL IIと握手を交わす。

 

「──遊馬さん、アストラルさん。本当にありがとうございました。私には……世界を救う、という命題にどれほどの強い意思が必要か……想像も付きません。けど、私たちのために心を砕いてくれたこと……そのあたたかな思いは、確かに伝わりました。誰かのためにその身を削って戦える……きっと、そんな姿が人を救ってくれるんだと──この世界を、意味のあるものにしてくれてるんだと。そう……思います」

 

イリヤ、クロエ、美遊の3人から受け取った言葉にZEXAL IIの心は満ちてこれからの戦いを頑張ろうと意気込む。

 

そして……ZEXAL II・遊馬とアストラル、そしてイリヤと美遊とクロエ、五人の間で深い絆が結ばれた時……新たな奇跡が起きた。

 

ZEXAL IIの胸元から白く光り輝く3枚のカードが飛び出し、イリヤと美遊とクロエの前で宙に浮きながらクルクルと回る。

 

「アナザーのカード?どうして……」

 

それは遊馬が持っているアナザーのカードだった。

 

ZEXAL IIではなく、イリヤ達の前に現れたアナザーのカード。

 

イリヤはまるで導かれるように無自覚に指先でカードに触れた。

 

すると、カードの輝きが増し、イリヤと共鳴して新たな力が宿る。

 

カードの輝きが収まると真名とイラストとテキストが刻まれた。

 

「ク、クロ……!」

 

「うん……!」

 

美遊とクロエもイリヤに続いて自分の目の前にあるカードに触れた。

 

2枚のカードも美遊とクロエに共鳴して新たな力が宿り、真名とイラストとテキストが刻まれた。

 

「ZEXALさん!このカード……!」

 

「イリヤとクロ……私たちの姿が……!」

 

「これって、私達のカードって事……!?」

 

ZEXAL IIが確認するとそれは紛れもなくフェイトナンバーズだった。

 

満天の星空の下、妖精のように可愛らしく空を飛ぶイリヤとルビーの姿が描かれており、真名は『FNo.0 星天の魔法少女(スターライト・マジシャン・ガール) イリヤ』。

 

大きく美しい満月をバックにまるでお姫様のように優雅に立つ美遊とサファイアの姿が描かれており、真名は『FNo.0 朔月の魔法少女(ムーンライト・マジシャン・ガール) 美遊』。

 

黄昏の橙色に輝く夕暮れの空の下で可愛らしくウィンクしながら黒弓を構えるクロエの姿が描かれており、真名は『FNo.96 黄昏の魔法少女(トワイライト・マジシャン・ガール) クロエ』。

 

「うわぁっ!私達のカードだ、とっても可愛い!」

 

「うん。それにとても素敵で綺麗……」

 

「へぇー、なかなかイケてるじゃない!」

 

「おおっ!?良いですね、良いですね!魔法少女のカード!これは……高値で売れますね!?」

 

「売らないでください、姉さん。皆さんのカード、とても可愛らしくて素晴らしいです」

 

イリヤ達は3枚のフェイトナンバーズを絶賛した。

 

フェイトナンバーズはイリヤ達の手から離れて持ち主であるZEXAL IIの元に戻る。

 

フェイトナンバーズが増えることはZEXAL II……遊馬とアストラルにとっては喜ばしいことだが、今回は素直に喜べなかった。

 

「アストラル……」

 

「分かっている。君の想いはわかってる」

 

「サンキュー、アストラル」

 

ZEXAL IIは新たに誕生したフェイトナンバーズをイリヤ達に差し出す。

 

「このカード……みんなで受け取ってくれ」

 

「えっ!?い、良いんですか!?」

 

「ああ。俺たちが持っていると、もしかしたら君達を戦いに巻き込んでしまうかもしれないんだ。だから、みんなが持っていてくれ」

 

「フェイトナンバーズは下手に処分も出来ない。だから……これは君たちに持っていて欲しい。御守り代わりと思ってくれればいい」

 

自分達が持っているよりもイリヤ達が持っていた方がいいと3枚のフェイトナンバーズを渡した。

 

「ZEXALさん……はい!ありがとうございます!」

 

「私たちのカード……ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいです」

 

「良いわね、とっても気に入ったわ♪」

 

「さあ、皆さん。とても名残惜しいですが、そろそろ行きますよ。ではではお先に失礼いたしますねー」

 

「どうかご機嫌よう──エレナ様、マシュ様、アストラル様、遊馬様」

 

遂にイリヤ達が帰る時間となり、3人はそれぞれが持つ宝石を自分ではなく、誰かの為に願いを込めていく。

 

「限定次元──反射路形成──」

 

「鏡界回路 最大展開!!☆通常界へのリンケージ探索開始です!!☆さあさあ、離界(ジャンプ)いたしますよ〜!?元の世界の座標を、宝石に向かって思い浮かべてくださいね〜?」

 

「ありがとう、エレナさん──マシュさん!フォウ君!アストラルさん!遊馬さん!──元気でね!」

 

イリヤは最後にもう一度感謝の言葉を送り、光に包まれてこの世界から元の世界へと帰って行った。

 

イリヤ達とブラック・マジシャン・ガール達を見送った遊馬達も役目を終えたのでカルデアに連絡をし、エレナとエジソンに別れを告げてレイシフトを行なう。

 

短いようで長く感じた魔法少女の世界の戦いを終え、遊馬達はカルデアへと帰還する。

 

レイシフトを行い、魔法少女の世界からカルデアに帰還した遊馬達にオルガマリーが出迎えた。

 

「お帰りなさい、みんな」

 

「ただいま、所長!」

 

「あの固有結界とのレイラインは自然消滅したわ。これでもう、あちらの様子を知る手段は無くなったわ。ひとまず、平行世界からの干渉を受ける危険は去ったと考えて良いわ。まぁ……誰が作ったか分からないけど、あのルビーやサファイアのような規格外の魔術礼装で強引に押し掛けて来られない限りはね……」

 

ルビーとサファイアは魔術師的にも非常に興味がある魔術礼装だが色々と規格外の能力で契約したら魔法少女になってしまうと言うので、流石にオルガマリーの年齢的に魔法少女はあまりにも合わないのであまり関わりたくない気持ちだった。

 

しかし、この直後……オルガマリーの頭や胃を悩ませる事態に陥る。

 

「──っ!??遊馬、マシュ、アストラル……」

 

突然オルガマリーは今にも倒れそうな疲れ切った表情をして震えた指で遊馬達の後ろを刺した。

 

「ん?どうした?所長?」

 

「そ、そこにいる子達は……誰かしら……?」

 

「子達?」

 

遊馬達が振り向くとそこには驚くべき光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと……」

 

「その……」

 

「……ん?あ、来ちゃったわね」

 

「どうもどうも〜♪」

 

「お邪魔します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊馬達の後ろにいたのは先程別れたばかりのイリヤと美遊とクロエ、ルビーとサファイアだった。

 

「──イ、イリヤちゃん!?美遊ちゃん!?クロエちゃん!?」

 

「それに、ルビーとサファイア!?」

 

「ここがカルデア……凄い、SF映画みたいな設備だ……!」

 

「こんなの……見たことない……ちょっと興味ある……」

 

「へえー。モダンな造りね。少し殺風景だけれど」

 

「いやー、来ちゃいましたね〜。うふふ、面白そうな匂いがプンプンしますね!」

 

「姉さん、あまり暴走しないように」

 

「いやいやいや!?なんでそんなに平然と受入れているの!?」

 

「何故君たちがカルデアに!?」

 

「宝石の力で皆さんは元の世界に帰ったはずでは!?」

 

「ドフォーウ!?」

 

魔法少女の世界から元の世界に帰ったはずのイリヤ達が何故カルデアにいるのか遊馬達は驚愕と困惑していた。

 

「その……私達、皆さんにとてもお世話になったので、何か恩返しが出来ないかと思いまして……」

 

「イリヤとクロがカルデアに行きたい気持ちがあったから……それなら私も一緒に行こうと思って……」

 

「なんとなくね、カルデアの任務ってのも面白そうだなって思ってたの」

 

「なっ……何を言っているんだ!?俺たちはイリヤちゃんたちが元の世界に帰れるように頑張ったんだぜ!?」

 

「宝石の奇跡の力がない今、君たちの世界に帰れる方法は……」

 

「そ、そうです!ご家族が心配されますよ!」

 

遊馬達はイリヤ達を助け、無事に元の世界に帰られるように全力を尽くしたのだ。

 

これでは意味がなく、本末転倒である。

 

「それでしたら大丈夫です!」

 

「もう一人の私たちは……ちゃんと元の世界に帰還しましたので」

 

「それだけは確かよ♪」

 

もう一人の私たち……その言葉に疑問が出てきて、何のことだか分からず遊馬達は頭に疑問符を浮かべる。

 

「もう一人のイリヤちゃん達……?」

 

「まさか……フェイトナンバーズの力か……!?」

 

「アストラル、どう言うことだよ!?」

 

アストラルは瞬時にイリヤ達の言葉から何が起きたのか様々な要因から答えを導いた。

 

「これはあくまで憶測だが、フェイトナンバーズは本来なら私達と英霊の結ばれた絆によって生まれる特別なカード。誕生や生成の経緯に差はあるがそこに大きな変化はない。フェイトナンバーズはそれを媒体にしてカルデアの召喚システムで英霊の座からサーヴァントを召喚出来る。今回は3枚のフェイトナンバーズを3人の魔法少女に与えた状態で、奇跡の力が宿る宝石の力で魔法少女の世界から3人がいた元の世界に帰還させた。しかし、この時……イリヤ、美遊、クロエの3人は私たちに対して助けたこと、協力してくれたことへの強い感謝の気持ちを持っていた。もしもその思いとフェイトナンバーズと宝石の力と共鳴して、新たな奇跡を起こしたとしたら……」

 

「つまり、フェイトナンバーズと宝石の力でイリヤちゃんと美遊ちゃんとクロエちゃんの全てを写した3人のサーヴァントが生まれて、それでカルデアに来ちゃったってことか……!?」

 

フェイトナンバーズと魔法少女の宝石、そしてイリヤと美遊とクロエ……奇跡と奇跡の重ね掛けにより、魔法少女三人のサーヴァントが生まれると言う新たな奇跡が起きてしまった。

 

遊馬がイリヤ達を巻き込ませない為に良かれと思ってフェイトナンバーズを渡したが、それが裏目に出てしまい、結局人理を救う戦いに巻き込んでしまった。

 

「みんなごめん!俺が余計なことをしたばかりに……!」

 

遊馬はイリヤ達を巻き込んでしまった罪悪感から土下座をして全力で謝罪した。

 

「ゆ、遊馬さん!謝らないでください!これは私たちが望んだことですから……!」

 

「そうです……ですから土下座はやめて下さい。恩人に土下座されるのはちょっと……」

 

「そうそう、気にしないで良いのよ。もう一人の私たちは無事に元の世界に帰ったんだから」

 

「それと、恐らくですがカルデアでの役目を終えたら私達は消えます。その後に元の世界のイリヤさん達にここでの記憶が還元されて統合するので特に問題無いですねー」

 

「それに、今の美遊様とイリヤ様とクロエ様の3人はサーヴァントになったことで生身の時とは大きく違い、肉体面でも能力的にも強化されているので、世界を救う戦いに微力ながらお手伝い出来ると思います」

 

「でも……」

 

イリヤ達は必死に遊馬を慰めようとするが、それでも遊馬の罪悪感は消えないでいた。

 

未だに土下座をする遊馬の傍にイリヤ達は腰を下ろしてそれぞれのフェイトナンバーズを差し出す。

 

「遊馬さん……これは私のワガママですけど、私はもっと遊馬さん達と一緒にいたい、冒険したいと思ったんです」

 

「私は……世界を救う為に戦う、あなた方の行く末を見守りたいと思っています」

 

「私はね、絶望とかそう言うのは嫌いなの。希望を手に未来を取り戻す為に戦うあなた達の心意気を気に入ったのよ」

 

「イリヤちゃん……美遊ちゃん……クロエちゃん……」

 

三人の想いを聞き、遊馬はフェイトナンバーズを受け取って立ち上がった。

 

「……みんなの想いは分かった。俺も覚悟を決めたよ。一緒に戦おう、これからよろしくな!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「お世話になります、よろしくお願い致します」

 

「よろしくね〜」

 

「あ、それから一つ……イリヤちゃんはあまり無茶しないこと。美遊ちゃん、クロエちゃん、二人でイリヤちゃんの監視とセーブ役を頼むぜ」

 

「えっ!?なんで私だけ!?」

 

「はい。イリヤが無茶しないように全力を尽くします。もしもの時はどこかに監禁するつもりで……」

 

「ミユ、それはやりすぎ。でもそうよねー、イリヤは本当に無茶するんだから。って言うか、イリヤがダメージ受けると私も受けるんだからやめてよね!」

 

イリヤ、美遊、クロエの三人もカルデアのサーヴァントとして戦うことになり、カルデアの最高責任者のオルガマリーは頭痛と胃痛に悩まされながら呟く。

 

「カルデアはいつから託児所みたいなところになってるのよ……」

 

子供サーヴァントのジャックにナーサリー、デミ・サーヴァントの桜と凛……年齢は彼女達に比べると高いが11歳の魔法少女のイリヤと美遊とクロエが追加され、子供パワーで益々騒がしくなるだろう。

 

「後でロマニのところに行きましょう……」

 

この頭痛と胃痛を少しでも治す為に後で医務室でロマニから薬を貰おうと思ったオルガマリーだった。

 

「よし!みんな、カルデアの施設紹介の前に食堂に行こうぜ。ファースト・レディの戦いで力を使って腹減っちまったからな」

 

「カルデアの食事担当のサーヴァント達が作る料理はどれも絶品だ」

 

「きっと皆さんも気にいると思いますよ」

 

「そうなんですか?お弁当が美味しかったので楽しみです!」

 

「イリヤ……今度私がお弁当を作ってあげるからね」

 

「サーヴァントが作る料理か……どんなものかしらね?」

 

遊馬達はカルデアの施設を案内する前にまずは腹拵えの為にイリヤ達を食堂に案内する。

 

しかし、この時のイリヤ達はまだ知らなかった。

 

このカルデアにはイリヤ、美遊、クロエの三人と時空を越えた不思議で強い縁を持つサーヴァント達がいることを。

 

その奇跡とも呼べる運命の出会いが小さな幸福を生み出すことを。

 

 

ここはデュエルモンスターズの精霊たちが住まう異世界……精霊界。

 

とある大きな城の大部屋にて黒紫色のローブを身に纏い、翡翠色の長いステッキを持った魔術師の男が自らの魔力で作り出した扉の前で静かに待っていた。

 

そして、扉が静かに開くと奥から二つの光が飛び出した。

 

「お師匠様!ただいま戻りました!」

 

「クリクリー!」

 

「マナ、クリボー、よく戻ったな」

 

魔術師はブラック・マジシャン・ガールとクリボーの帰還に優しい笑みを浮かべて出迎えた。

 

しかし、魔術師はすぐに真剣な表情を浮かべて話を切り替える。

 

「帰ってきて早速で悪いが、マスターからの緊急の招集があった」

 

「マスターからですか?」

 

「クリー?」

 

ブラック・マジシャン・ガールとクリボーは一緒に可愛らしく首と体を傾げる。

 

「これから、私達やマスター達の住んでいた世界とは別の異世界に向かう」

 

「異世界ですか?そこで何をするんですか?」

 

「クリリー?」

 

異世界で何をするのか……そう質問され、魔術師は部屋の中を歩き、窓から空を見上げる。

 

「世界を滅ぼす大いなる闇が……異世界で眠りから覚めようとしている」

 

「大いなる闇……まさか!?」

 

「そうだ……これはマスターと私達の力で止めなければならない。行くぞ、マナ!クリボー!」

 

「はいっ!」

 

「クリッ!」

 

魔術師はブラック・マジシャン・ガールとクリボーを引き連れて部屋を後にした。

 

そして……向かう先には彼らが仕えるマスター……一人の少年が立っていた。

 

額や耳、手首などに豪華で煌びやかな金の装飾を身につけ、その身には白の装束に包まれ、首から大きなマントを羽織っている。

 

そして、首にはピラミッドを逆さにしたような正四角錐の金の大きな首飾りがかけられており、その首飾りと額飾りには古代エジプトのシンボル……神の眼を意味する『ウジャト眼』の刻印が刻まれていた。

 

魔術師とブラック・マジシャン・ガールとクリボーはマスターの前で跪いた。

 

「行くぞ」

 

「「はっ!」」

 

「クリクリ〜!」

 

少年はマントを翻しながら振り向いて歩き出し、魔術師とブラック・マジシャン・ガールとクリボーはその後に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは……とある世界に語り継がれる、光の中に完結した大いなる物語の『伝説』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての戦いを終え、静かな眠りの時を過ごしていた『伝説』は新たな戦いの『運命』へと導かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……導かれた『運命』の世界で、『伝説』が無限の可能性を持つ『未来』と『希望』と出会う時、新たな『物語』が始まる。

 

 

 




と言うわけでイリヤちゃんと美遊ちゃんとクロエちゃんをお招きしました!
次回は皆さんお楽しみの衛宮家の緊急家族会議を行います(笑)
まあ、カルデアの衛宮家からしたらイリヤ達はとんでもなく異質な存在ですからね。
この話を書くのが本当に楽しみでしたので頑張って書いていきます!

そして、ラストに登場したビックゲスト……皆さんはもうお分かりですよね?
彼が登場するのはもちろん第六特異点ですのでそれまで楽しみに待っていてください!


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ナンバーズ147 アインツベルン家&衛宮家の緊急家族会議!

今回でプリズマ・コーズ編は最終回となります。
プリズマ☆イリヤのネタを確認する為に原作とアニメを見直して書きました。
話の内容は主に説明中心です。
エミヤ達からしたらプリズマ☆イリヤの世界はかなり驚愕ですからね。


奇跡と奇跡の重ね掛けにより、カルデアに訪れた3人の魔法少女、イリヤと美遊とクロエ。

 

そして謎の2本のステッキ、ルビーとサファイア。

 

正式にカルデアのサーヴァントとなり、まず食堂で食事を取ろうと遊馬達の案内で廊下を歩いていく。

 

すると、まるで狙ったかのように一人のサーヴァントが現れた。

 

「おお、マスター!無事に帰還して──ヌォアッ!?」

 

「おー、黒髭。どうしたんだ?」

 

それは黒髭で帰ってきた遊馬と色々語り合おうと思ったが、イリヤ達を見た瞬間に目が飛び出るほど驚いた。

 

「マ、マ、マスター!そこにいる可憐な美少女達は!!?」

 

「ああ。新しくカルデアに来たイリヤちゃんと美遊ちゃんとクロエちゃん。みんな異世界から来た魔法少女なんだぜ」

 

「ままま、魔法少女!?マジでガチで!?リアル魔法少女がこのカルデアにでござるか!?」

 

絶世の美少女達と言っても過言ではないイリヤ達だが、それに加えて魔法少女と言う最強の属性が加わり、黒髭のテンションは最高潮に高まった。

 

「おっと、失礼お嬢さん方。私の名はエドワード・ティーチ。通称・黒髭。泣く子も黙る大海賊でございます」

 

黒髭は第一印象は大切だとすぐに呼吸と心を整えて紳士的な対応をして自己紹介をする。

 

黒髭と大海賊というキーワードにイリヤ達はすぐに頭に豆電球が光ったように思い出した。

 

「黒髭……?ああ、分かった!黒髭危機一髪だ!」

 

「それって、前に遊んだあのゲームの海賊……?」

 

「そっか、通りで見たことがあると思ったわ」

 

「黒髭危機一髪?マスター、それは何でござるか?」

 

「簡単に言えば黒髭をモチーフにしたおもちゃだよ。確か日本で造られていて、子供なら一度はやったことがあるか、やったことなくてもその存在は知ってるぐらいのメジャーなおもちゃだぜ」

 

黒髭危機一髪とは樽に入った黒髭をモチーフにした小さな人形を助けるために樽に小さな剣を突き刺して人形を飛び出させるおもちゃだ。

 

「何と!?まさか拙者の存在が知らず知らずのうちに日本人に擦り込まれていると!?では魔法少女のお嬢さん方……もしよければお茶でもご一緒に……」

 

黒髭がイリヤ達とお近づきになるためにお茶に誘おうとしたが……。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

突如として獣のような咆哮が廊下に轟き、イリヤ達の上を大きな影が飛び越えた。

 

その影にイリヤ達は目を見開くほど驚愕した。

 

「あ、あれは……バーサーカー!?」

 

「私とイリヤがやっとの思いで倒したクラスカード最後のサーヴァント……!」

 

「うわぁ……こうやって間近で見ると迫力凄いわね……」

 

それはギリシャ神話の大英雄・ヘラクレス。

 

実はイリヤと美遊はクラスカード回収の最後の戦いで対峙したのがヘラクレスだったのだ。

 

ヘラクレスは憤怒の形相を浮かべて黒髭を睨み付けた。

 

「ギャアアアアアアッ!?へ、ヘラクレス殿!?どうしたのでござるか!?何故そんなに怒っているのでござるか!?」

 

何故いきなりヘラクレスが現れて睨まれているのか分からずに困惑し、更にはそのあまりの恐ろしさにガタガタと震えている。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

「プギャア!?」

 

ヘラクレスはその巨体の手で黒髭の体を掴んで軽々と持ち上げた。

 

そして、ヘラクレスは背後にいるイリヤ達の姿を確認するように顔を後ろに向けた。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎……」

 

「えっ……?」

 

とても強く、そして恐ろしいと思っていたヘラクレスだが、イリヤの目に映ったのは別のものだった。

 

それはほんの一瞬だけだったが、大切な人を見つめるような、とても優しい表情だった。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

ヘラクレスは何故かテンションが上がりながら黒髭を武器のように激しく振り回した。

 

「ノォオオオオオッ!?ヘールプ!マスター、プリーズヘルプミー!このままだと拙者はヘラクレス殿に振り回されてジェットコースター状態で頭がおかしくなるでござるうっ!アブブブブッ!?く、首が、首がへし折れてしまうでござる!?ヘラクレス殿、どうか、どうかお助けぉおおおおおーっ!?」

 

激しく振り回されて首がへし折れそうになるような状態になりながらヘラクレスは何処かへと走り去ってしまった。

 

「え、えっと……黒髭さん、大丈夫ですか……?」

 

イリヤはヘラクレスに連れ去られてしまった黒髭の安否を心配した。

 

「まあ大丈夫だろ。黒髭、結構頑丈だし」

 

「たまに色々なサーヴァントからお仕置きを受けるから私たちもそこまで心配していない」

 

「少ししたらケロっと戻ってくるので大丈夫ですよ」

 

「フォキュー」

 

遊馬達は黒髭の頑丈さを知っているので特に心配せずにイリヤ達の案内を再開する。

 

ようやく食堂に到着して中に入り、その広さと綺麗さにイリヤ達が驚いていると一人のサーヴァントが出迎えた。

 

「あら、マスター。やっと帰ってきたのね。本当に忙しくて大変──」

 

それはイシュタルで特異点から帰って来た遊馬達を労ろうとしたが、その後ろにいるイリヤ達を見た瞬間に表情が固まった。

 

そして、普段から優雅であろうとしている態度から一変して非常に驚いた様子で叫んだ。

 

「イ、イリヤァ!?何であんたがここにいるのよ!?」

 

対するイリヤ達も口を大きく開けて大量の汗をかいて叫んだ。

 

「り……凛さーん!?なんて破廉恥な格好をしているんですか!?いつもの赤を基調とした服はどうしたんですか!?」

 

「は、はぁ!?り、凛さん!?」

 

「凛さん……まさか、またルヴィアさんの家の物を壊して、借金してそんな格好に……!?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?ルヴィア!?借金!?一体何のことよ!?」

 

「あちゃあ……これはもう本当にヤバいわね。遂に頭が狂ったか、ルビーにでも変な薬を打たれたの?」

 

「狂ってないわよ!?私は正常よ!ってか、あんた誰よ!?それにい、今、ルビーって……」

 

「いやー、凛さん。なかなか破廉恥で大胆な格好をしていますね。魔法少女とは別物ですが、ルビーちゃん的にはなかなか良いのでマイフォルダに保存しておきますね♪」

 

「不思議な格好ですがとてもよくお似合いですよ、凛様」

 

ルビーとサファイアが謎機能の一つでカメラのレンズが飛び出てイシュタルを撮影していると、イシュタルは顔を真っ青にした。

 

「ギ……ギャアアアアアアッ!?カ、カレイドルビー!?何であんたがここに!?あんたは宝箱の中に厳重に封印したはず!?それに何なのよルビーそっくりのそのステッキは!?」

 

「宝箱?封印?」

 

イシュタルの言葉にルビーはその意味が何なのかすぐに理解し、イリヤ達の誤解を解くために説明をする。

 

「あー、なるほどなるほど。そういう事でしたか。ようやく理解しましたよ。イリヤさん、この凛さんは私たちの知っている凛さんではなく並行世界の別の凛さんみたいですよ」

 

どうやらイリヤ達が以前から何度も言っていた凛はカルデアにいるイシュタルとは別の並行世界の凛らしい。

 

「えーっ!?そ、そうなの!?あ……そうだよね。凛さんがルビーや宝石みたいな魔法のアイテムもなくカルデアにいるはずもないよね……」

 

「へ、並行世界?待ちなさいよ、じゃああんた達は……!?」

 

「どうしたんですか、凛。先程から騒がしい……イ、イリヤスフィール!?」

 

イシュタルの次に食堂から現れたのはメイド服では無く、いつもの青を基調とした服を身につけたアルトリアだった。

 

「えっ……?ああっ!あ、あなたはセイバー……アーサー王さん!?」

 

「アーサー王……!?ほ、本物!?」

 

「ちょっと、カルデアにはアーサー王まで召喚されているの!?凄すぎじゃない!?」

 

クラスカード回収の戦いでセイバー……アルトリアと戦ったイリヤ達は世界で一番有名と言っても過言ではないアーサー王がいることに驚く。

 

「ア、アーサー王さん……?と、とにかくイリヤスフィール、ここで待っていてください!すぐにみんなを呼んで──」

 

「あらあら、セイバー。そんなに慌ててどうしたの?」

 

そこにおっとりとした声が響き、イリヤとクロエはその聞き覚えのある声にハッとなり、目を見開いて振り向いた。

 

振り向いた先にいたのは天の衣に包まれた女性……アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 

イリヤとクロエはアイリの姿に呆然としながら呟いた。

 

「「ママ……?」」

 

「イリヤ……イリヤ!!」

 

「「わぷっ!?」」

 

アイリは大粒の涙を浮かべ、両腕を広げてイリヤとクロエを抱きしめた。

 

「ちょっ、ママ、苦しいよ……」

 

「い、息できないからもう少し力を緩めて……」

 

「イリヤ……ああ、私のイリヤ……!会いたかった……こんな奇跡が起きるなんて……あら?」

 

アイリは違和感に気付いてイリヤとクロエを解放すると、目をパチクリさせて二人を交互に見つめる。

 

「イ、イリヤが、二人……?こっちは肌黒い……あらあら?」

 

「どうした?アイリ」

 

困惑するアイリの背後に音も無くキリツグが現れた。

 

「キ、キリツグ!大変よ!イリヤが、イリヤが二人に増えちゃったわ!?」

 

「アイリ、何をバカな──っ!??」

 

キリツグはイリヤとクロエを見た瞬間に驚愕し、体が震えてたじろいで数歩下がった。

 

「「キリツグ……?」」

 

イリヤとクロエはアイリから離れてキリツグに静かに近づく。

 

フードに隠れたキリツグの顔を覗き込むように見て、見覚えのある顔にイリヤとクロエは首を傾げながら呟いた。

 

「おとーさん……?」

 

「パパ……?」

 

「……………………グハッ」

 

パタリ。

 

キリツグは突然血を吐いて後ろに倒れた。

 

「えっ……?お、おとーさん!?」

 

「パ、パパ!?何で倒れたの!?私たち何かした!?」

 

「キ、キリツグ!?大丈夫?しっかりして!」

 

「全く騒がしい……さっきから一体何が──イ、イリヤ!?」

 

そして……この状況を更に混沌へと追い詰める最後の一人、エミヤが現れた。

 

エミヤのその姿にイリヤと美遊は真っ先にクロエを見て二人を見比べた。

 

「えっ、うっ、嘘!?ク、クロに……似ている……!?」

 

「髪と肌、それに衣装が酷似している……これは……!?」

 

エミヤとクロエは髪と肌の色、そして衣装があまりにも酷似している。

 

エミヤに比べてクロエは髪の色が若干ピンク色が混ざっており、衣装は露出度が高めだがそれでも二人には類似点が多かった。

 

「あ、あなたは……まさか……」

 

エミヤの存在にクロエは彼が誰なのか気付き始めた。

 

「シロウ、大変よ!キリツグが……」

 

「なっ!?どうした、じいさん!?何故そんな嬉しそうな表情を浮かべて血を吐いて倒れている!?」

 

「イリヤが……イリヤが……二人のイリヤが僕の事を『おとーさん』と『パパ』って……こんなに嬉しいことはない。もう満足だ……」

 

キリツグはこれまでに見たことないほどに満足げな笑みを浮かべており、あまりにも満足しすぎて今すぐ消滅して英霊の座に戻ってもおかしくない状況だった。

 

「そんなに嬉しかったのか!?娘に名前の呼び捨ては寂しかったのか!?やっぱりちゃんと『父』として呼ばれたかったのか!?」

 

「しっかりして、キリツグ!私の宝具使って回復させるから!」

 

食堂に来て僅か数分で起きてしまったこの怒涛の展開に完全に蚊帳の外にいる遊馬達は呆然としながら呟いた。

 

「やべぇ……何だよこの混沌とした状況は……」

 

「いわゆる……修羅場だな……」

 

「これはどうなってしまうんでしょうか……」

 

マスターと言えど流石にこの修羅場には割り込むことは出来ずエミヤ達に任せるしかないと判断する。

 

 

食堂にて遊馬達は小鳥やブーディカが作った食事をとっていた。

 

そこに帰りを待ちわびていたようにか小さな足音が響く。

 

「お兄ちゃーん!」

 

「お兄様!」

 

「おかあさーん!」

 

「マスターさん!」

 

「みんな、ただいま。やっと帰ってきたぜ」

 

桜と凛、ジャックとナーサリーが駆け寄り、一緒に食事をするために席に座る。

 

「お兄ちゃん、お帰りなさい!」

 

「ああ、ただいま。桜ちゃん」

 

桜は遊馬の隣に座ってそのままギュッと抱きついた。

 

「お兄様、先程からとても騒がしかったですが一体何があったんですか?」

 

「ああ。あれさ……」

 

遊馬が指差した方を見ると食堂の一角でサーヴァント達が集まっていた。

 

アルトリア、エミヤ、イシュタル、パールヴァティー、キリツグ、アイリ。

 

そして、イリヤ、美遊、クロエ、ルビー、サファイア。

 

イシュタルは何処からか用意した赤フレームのメガネを着けてホワイトボードに情報を纏めた。

 

「えー、では……これより、アインツベルン家&衛宮家の緊急家族会議を開催します。司会進行役を私が務めさせてもらうわ。まず、アイリさん、キリツグさん……ここにいるイリヤは並行世界で一般人として生きていたことが分かりました」

 

「へ、並行世界……!?」

 

「一般人だと……!?」

 

「イリヤ達に聞き取り調査を行ったところ、彼女達の世界は私たちの知っている歴史とは全く異なる歴史を辿っていました。まずイリヤ達の世界では第四次聖杯戦争が未然に防がれ、冬木大災害が起きていません。そうよね?」

 

「は、はい。詳しい事情は聞いていませんが、私のママ……アイリスフィール・フォン・アインツベルンはおとーさん……衛宮切嗣と一緒に聖杯戦争を二度と起こさないために世界中を回っているって言っていました」

 

「冬木大災害は私たちの知る限り、冬木市ではそれほど大きな大災害が起きた事実はありません」

 

「ちなみにアインツベルン家はもう無いってママが言っていたわ。何故ママとパパがそうしたのか……それはイリヤの為よ。アインツベルン家の一族の悲願よりもイリヤの幸せを望んだのよ」

 

エミヤ達のいた世界の冬木市とイリヤ達のいた世界の冬木市では全く異なる歴史を辿り、そしてイリヤは魔術師ではなく一般人として生きていた。

 

「そう……そっちの私はいつも一緒には暮らせて無いけど、イリヤと幸せな時を過ごしているのね……」

 

「聖杯よりも……理想よりも……そっちの僕は家族の幸せと平和を選んだのか……」

 

アイリとキリツグは並行世界の自分たちがイリヤの為に生きていた事を知り、落胆していた。

 

「……ねえ、一つ聞きたいんだけど」

 

クロエはエミヤ達にどうしても聞きたいことがあった。

 

「そっちのイリヤは……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは一般人じゃなく、アインツベルンの魔術師として、聖杯の器として生きていたのよね……?」

 

クロエがどうしても聞きたい質問……それはイリヤの進むべき道の可能性、別の世界のイリヤの一つの可能性。

 

その質問にイシュタルやエミヤが重い首をゆっくり下げた。

 

「そう……良いわ、それ以上の答えは求めない。それだけ聞ければ満足よ」

 

その答えにクロエは目を閉じて満足したように息を吐いた。

 

「クロ……」

 

「イリヤ、勘違いしないで。私たちの世界でアインツベルン家は無くなって私が進むはずだった魔術師の道は無くなった。だけど、私は……イリヤと美遊、お兄ちゃんとママ、セラとリズ、凛とルヴィア、龍子と那奈亀、雀花と美々……みんなとの生活や騒がしい日々に満足しているし、幸せだと思っているわ」

 

「ありがとう、クロ……」

 

「クロ、偉い偉い」

 

イリヤと美遊はクロエの出した立派な答えと想いに褒めながら頭を撫で撫でする。

 

「ちょっ!?何で私の頭を撫でるのよ!?私はお姉ちゃんなんだからね!?やめなさいって!」

 

頭を撫でられて恥ずかしくて顔を真っ赤にしたクロエは抗議をする。

 

そんなクロエの姿を見てこの場で一番苦い表情を浮かべていたのはエミヤだった。

 

エミヤは一呼吸置き、クロエに目線を向けて口を開く。

 

「クロエ……君に聞きたい。君はイリヤと同じ姿をしながらも、私とどこか似ている……一体君は何者で、何が起きたんだ?」

 

「……その話をする前にまずはクラスカードについて話さなければならないわ。イリヤ、ミユ、クラスカードを……」

 

「う、うん」

 

「分かった」

 

イリヤと美遊は足に巻きついたカードケースからそれぞれ3枚ずつ、合計6枚のクラスカードをテーブルに置く。

 

イリヤ達は冬木市に突然現れたクラスカードとクラスカードを元に召喚されたシャドウサーヴァントとの戦い、そしてクラスカードの能力を説明した。

 

アルトリアはクラスカード『セイバー』のカードを手に取り、目を閉じてその力を感じとる。

 

「このカードから私の……いえ、アーサー・ペンドラゴンの力を感じます。なるほど、確かにこのカードは英霊の力を宿していますね」

 

クラスカードの話がある程度終わると、クロエは自分自身の出世を語り始めた。

 

「イリヤがまだ赤ん坊だった頃、魔術で処置されて色々な知識を持っていた。だけど、ママ……アイリスフィールがイリヤを一般人として育てるために魔術師としての機能と知識と記憶を全て封印した。そして、十年近く……封じられた記憶がいつしかイリヤの中で育ち『一つの人格』が出来上がった。そして、偶然か必然か……イリヤが使ったクラスカード『アーチャー』のカードを媒体にし、肉体を得て顕現したのが私よ」

 

クロエは奇跡によって誕生したもう一人のイリヤと呼べる存在だった。

 

「ちなみに、私と一体化しているこのクラスカードの力……投影魔術を使えるわ。剣とか弓を投影出来るわ」

 

クラスカード『アーチャー』の力である投影魔術を見せる為にクロエは干将・莫耶や黒弓を投影し、それを使いこなしているクロエにエミヤは目を見開いて驚く。

 

「十年間も封印されていた私は自分の居場所が欲しかった……だから最初はイリヤを殺して、自分がイリヤになろうとした。でもそれは失敗に終わり、更にはママからアインツベルンはもう無いって言われて自分の居場所は何処にも無いと諦めて消えようとした。だけど、イリヤに諭されて気付いたの、私の本当の願いを。家族と友達が欲しい、普通の暮らしがしたい……そして何よりも消えたくない、ただ生きていたい……そう願ったの。まあ、色々あって、正式にアインツベルン家&衛宮家の一員となったのよ」

 

色々あったがクロエは一番欲しかったものを手に入れた、人として当たり前で尊いとも言える願いを叶えた。

 

「つまり……シロウの力が並行世界のイリヤスフィール……クロエを救った、人としての生を与えたという事ですね……」

 

アルトリアはクロエの出世には間接的であるが、エミヤがクロエを救ったのだと深く感じた。

 

「あ、あの……シロウさん」

 

今度はイリヤがシロウに質問をした。

 

それはシロウに対する疑問を解消する為だ。

 

「何かね……?」

 

「まず一つ、少し前にカルデアから遊馬さんに送った弁当……あれはあなたが作ったものですか?」

 

「……ああ。あれは私が作ったものだ」

 

「……やっぱり」

 

イリヤは目を閉じて息を吐き、自分がずっと考えていたある事をエミヤに突きつける。

 

「シロウさん……あなたは、並行世界のお兄ちゃん……衛宮士郎さんですね?」

 

「えっ……!?並行世界の……士郎さん!?」

 

「イリヤ、本当なの……!?」

 

見た目や声がイリヤ達の知っている衛宮士郎とまるで違うので美遊とクロエは慌てるように驚く。

 

対するエミヤは落ち着きながら静かにイリヤに問う。

 

「……イリヤ、どうしてそう言い切れるんだ?」

 

「お弁当のおかずの味です。味付けがお兄ちゃんのもので、いつも食べ慣れている味だったからです」

 

「……それだけで分かったのか?」

 

まさか料理の味付けだけで自分の正体を見抜かれるとは流石のエミヤも思いもよらなかった。

 

「分かりますよ。私は小さい頃からずっと、ずーっとお兄ちゃんの料理を食べて来たんだから。最初に作って大失敗して黒焦げになった肉じゃが……その味だって今でも覚えています。流石にそれはとってもマズかったけど」

 

イリヤは小さい頃からの兄との大切な記憶を思い出しながらまっすぐエミヤを見つめた。

 

「あの味はお兄ちゃんにしか作れないから分かるんです。あなたが……並行世界のお兄ちゃん、衛宮士郎だって」

 

「……敵わないな、イリヤには」

 

エミヤは苦笑いを浮かべて両眼を片手で軽く覆った。

 

エミヤの脳裏には生前に生き別れた義姉……雪の妖精のような少女……イリヤが思い浮かべられた。

 

観念したというよりも開き直るようにエミヤは堂々と自分の正体を明かした。

 

「……その通りだ。私の名は衛宮士郎。君達の兄・衛宮士郎とは異なる道を進み、その果てに英霊となった者だ。そして、クロエと同化しているアーチャーのクラスカードには間違いなく私の力が宿っている」

 

「ふーん、数奇な運命ね……私に人としての生を与えて、命を繋いでいるのが並行世界のお兄ちゃんの力だなんて……」

 

「私もそう思うよ、クロエ」

 

エミヤは微笑みながら言うと、クロエはその優しい笑みに最愛の兄である衛宮士郎と同じものだと分かり、顔を少し赤くしながらエミヤに近づく。

 

「あの……まだ少し混乱しているけど、あなたのお陰で私は生きていられている。だから、その……ありがとう」

 

「ああ……どういたしまして」

 

エミヤはこんな自分でも救えた掛け替えのない命があったのだと改めて実感し、クロエの頭を優しく撫でる。

 

「さてと、イリヤとクロエの事が大体分かったところで……美遊だっけ?」

 

「は、はい……」

 

イシュタルはイリヤとクロエの事が分かったので次に自分たちも知らない謎の少女……美遊について質問する。

 

「あなた、本当にあのルヴィアの義妹なの?」

 

「はい。身寄りのない私にサファイアが現れて、契約を交わして魔法少女になりました。そして、ルヴィアさんが私を保護してくれて、エーデルフェルトの姓をもらいました」

 

「うーん、あの日本嫌いのルヴィアが日本人の女の子を養子にね……」

 

「日本嫌い?いいえ、ルヴィアさんは日本をとても気に入っていますよ。前に……日本のコンビニで売られている羊羹を所望したぐらいですから」

 

「……マジで?」

 

「本当です」

 

イシュタル……遠坂凛の永遠のライバルとも言えるルヴィア。

 

並行世界でこうも違うのかとイシュタルは頭を悩ませる。

 

「でもルヴィアと一緒だと大変でしょ?あいつ無茶苦茶だし」

 

「無茶苦茶なのは……ルヴィアさんの個性ですから。でも、ルヴィアさんは私の事を実の妹のように可愛がってくれていて、私もルヴィアさんを本当のお姉さんのように想っていて、大好きです」

 

美遊とルヴィアが互いを本当の姉妹のように大切に想っていると知り、イシュタルはルヴィアの意外な一面を知って驚いた。

 

「知らなかったわ……ルヴィアって姉属性があったのね、意外だわ。ま、まあ、それなら私の方も同じ姉属性持ちだからね。イリヤ、そっちの私はちゃんとあなたの姉代わりをやってるかしら?」

 

イシュタルは興味本位で並行世界の遠坂凛がイリヤの姉代わり兼保護者としてちゃんとやっているかどうか尋ねた。

 

「え、えっと……そうですね、戦闘面では頼りになります……」

 

「何よ、その反応は?」

 

イリヤは苦笑いを浮かべ、凛と初めて出会ったときのことを思い出した。

 

「……初対面の時に『命じるわ──貴女はわたしの奴隷(サーヴァント)になりなさい』と言われた事を思い出しまして……」

 

「…………はいっ!?」

 

「凛、君はイリヤになんて事を……!?」

 

「凛、ロンドンに帰りなさい」

 

「姉さん……酷いです」

 

エミヤ、アルトリア、パールヴァティーはジト目でイシュタルを睨み付ける。

 

イシュタルは自分は無実だと涙目で必死に弁明する。

 

「待ってぇっ!それは私じゃないから!並行世界の私だからぁ!!」

 

「だ、大丈夫ですよ!気にしてませんし、凛さんもなんだかんだで私の事を心配してくれているので」

 

「……ありがとう。本当にあなた、良い子ね……」

 

イシュタルはイリヤの優しさに涙を流した。

 

涙を拭き取ったイシュタルは気を取り直して美遊に質問を続ける。

 

「ふぅ……それで美遊……あなた、本当に何者なの?」

 

「それは、どういう意味でしょうか……?」

 

「カレイドステッキの片割れのサファイアに認められるぐらいだから魔術師としての才能はとても大きいはず。イリヤは別として、本当にあなたは一般人?絶対に違うわよね。ルヴィア……あのエーデルフェルト家に認められ、姓を与えられるほどの才能の持ち主がそう簡単に、しかもその辺にいるはずもないわよね?」

 

「そ、それは……」

 

美遊の正体と過去……それは親友のイリヤとクロエ、義姉のルヴィアでさえも知らない大きな謎。

 

真実を追い求めようとするイシュタルはクラスカードをトントンと指で叩きながら美遊に問い詰める。

 

「答えなさい、美遊。あなたは何者なの?もしかして、このクラスカードと何か関係があるんじゃないの?」

 

「やめてください!!!」

 

イシュタルの問い詰めにイリヤはガタッと勢いよく立ち上がって叫んだ。

 

イリヤは美遊を抱きしめてギロリとイシュタルを睨み付ける。

 

「イ、イリヤ……?」

 

「凛さん!ミユを……ミユを虐めないで下さい!!」

 

「は、はぁ!?虐めてなんかいないわよ!ただ私は美遊が何者か聞きたいだけで……」

 

「人には言えないことの一つや二つありますよ!特に魔術師なんて隠し事を沢山する人達じゃないんですか!?」

 

穏やかな性格のイリヤは人が変わったかのように怒り出して正論で論破していき、イシュタルは図星を突かれて追い込まれる。

 

「うっ……そ、それはそうだけど……でも、美遊は明らかに普通とは違う……」

 

「ミユが何者だろうと、そんなの関係ありません!」

 

「そうよそうよ!さっきから聞いていれば、ミユを責めるように問い詰めて大人気ないにもほとがあるわ!ミユは悪い子じゃない、むしろすごく良い子よ!それで充分じゃない!」

 

クロエもイリヤに同意して美遊を反対側から抱きしめて美遊を守るようにした。

 

「ミユは……ミユは私の大切な親友です!もしもミユをこれ以上虐めるなら、私たちにも考えがあります!」

 

「な、何よ……」

 

「わ、私達の世界の凛さんが仕出かして来た沢山の酷い話や写真や映像をカルデアの全ての人とサーヴァントに暴露します!」

 

「なあっ!!?」

 

まさかの脅迫という最終手段にイシュタルは驚愕してたじろぐ。

 

「私達は知っているんですからね!私達の世界の凛さんが私達を含めて、暴走してどれだけ沢山の人に迷惑をかけているのか!」

 

「イ、イリヤ!私を脅す気!?」

 

「それが嫌だったらもう二度とミユを問い詰めないで下さい。ルビー!サファイア!プロジェクターの用意!早速映像を食堂に流して!」

 

イリヤからの指示を受け、ルビーとサファイアは謎機能の一つ、ボディを変形させて壁に映像を投映するプロジェクターモードになる。

 

「アイアイ、マイマスター♪ルビーちゃん、イリヤさんが親友の美遊さんを守るためにドSに覚醒して並行世界の凛さんに立ち向かう姿にキュンキュンしました。それでは、出血大サービスの凛さんドキュメンタリーをお送りしましょう!凛さん、覚悟してくださいね。あんな姿やこんな姿をお見せしますからね。グフフフッ♪」

 

「私はこういう他人を脅迫するのはとても心苦しいですが、美遊様の為なら喜んでやらせてもらいます。凛様、私はエーデルフェルト家の屋敷でこちらの凛様の醜態をこっそりと見ていました。イリヤ様やクロエ様も知らない劇的な姿をお見せしましょう」

 

ルビーとサファイアも既に乗り気で愉悦感マックスでイシュタルを追い詰めようとする。

 

イシュタル……遠坂凛にとって最大の天敵の一人であるルビーに追い詰められ、イシュタルはガタガタと震え始める。

 

「ふ、ふん……しょ、所詮は、へへ、並行世界の私でしょ……?わわ、私自身の事じゃないから、バラされても、痛くも痒くも……」

 

「ルビー、サファイア。カウントダウン開始」

 

「「了解です」」

 

「……ああもう!分かったわよ!分かったからもうやめて!いくら並行世界でも私の醜態を晒されるのは耐えられないわ!!」

 

イシュタルは並行世界といえど流石に自分の醜態を晒すのだけは勘弁だと敗北を認めた。

 

「じゃあもう美遊の事は問い詰めませんか?」

 

「分かったわよ、約束する……」

 

これ以上美遊のことを追求しないと約束し、安心した美遊は左右にいるイリヤとクロエに感謝する。

 

「ありがとう、イリヤ、クロ……」

 

「ううん、当然だよ。私達、友達だもん!」

 

「そうそう、友達だからこれぐらい楽勝よ♪」

 

イリヤと美遊とクロエの三人娘の仲睦まじい姿にエミヤ達は微笑ましく見守る。

 

一方、キリツグとアイリは反対にかなり落ち込んでいた。

 

人生というのは何かの決断、行動で大きく変わるもの。

 

ここにいるイリヤが魔術師ではなく、人としての道を歩いた『if』の存在。

 

キリツグとアイリは自分たちは正しかったのか?間違っていたのか?と自問自答して罪悪感に蝕まれていた。

 

「あ、あの……お二人に少しお願いがありまして」

 

「大した事じゃないんだけどね……」

 

すると、イリヤとクロエが二人に近づいて恥ずかしそうに話しかける。

 

「私達はお二人の世界のイリヤじゃないですけど……」

 

「しばらくここにいるんだから、他人行儀って言うわけにはいかないでしょ?」

 

「だから、二人のことをママとおとーさんって呼んでもいいですか?」

 

「私はママとパパで。もしも嫌なら、さん付けとかで呼ぶけど……」

 

イリヤとクロエの細やかな願いにアイリとキリツグは目を見開いて驚く。

 

自分たちは間違っていたかもしれない。

 

永遠にこの罪を背負って苦しんでいかなければならないのかもしれない。

 

「ええ……もちろんよ、イリヤ、クロエ」

 

「ああ……もちろんだとも」

 

しかし、今だけは……この奇跡ともいえるこの時だけを深く噛みしめ、小さな幸せを大切にし、守っていこうと心に深く誓った。

 

アイリはイリヤとクロエを強く抱きしめ、キリツグは涙ながらに何度も頷いて見守る。

 

カルデアでは様々な時代と世界の英霊を召喚する可能性を秘めた唯一無二の奇跡の場。

 

その奇跡により並行世界を越えた家族が揃うことになった。

 

しかし、奇跡はこれだけでは終わらなかった。

 

新たなる出会いと再会……アインツベルン家と衛宮家に関わる小さな奇跡がすぐそこまで近付いていた。

 

 

 




次回から鬼ヶ島編に突入します。
まずはイリヤ達の新しい日常でそこからすぐに鬼ヶ島編です。
軽くネタバレですが鬼ヶ島に向かう護衛サーヴァントはイリヤと美遊とクロエにします。
一応この3人は日本人サーヴァント扱いなので。
もしかしたら軽く気付いている方もいると思いますが、鬼ヶ島編であの子を登場させようと思います。
せっかくイリヤ達をお招きしたので。
次回は出来るだけ早めに投稿出来るようにします、お楽しみに〜。


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天魔御伽草子 鬼ヶ島
ナンバーズ148 千年前の日本、再び!魔法少女三人娘の試練!


お待たせしました、鬼ヶ島編のスタートです!
まずはイリヤ達の新しい日常と第五特異点のサーヴァント召喚などをやり、次回から本格的に鬼ヶ島編が始まります。

ナンバーズが無事に全種類出ますし、あとまさかのアストラル文字の希望皇ホープはビックリです。
これは必ず手に入れようと思います。


魔法少女三人娘のイリヤと美遊とクロエがカルデアに訪れてから数日が経過した。

 

この三人はサーヴァントとしてカルデアに現れて遊馬達と共に戦うことになったので、他のサーヴァント達と同じくそれぞれに部屋を与えられる予定だったが……。

 

「あ、私……イリヤと同じ部屋でいいです」

 

「ミ、ミユ!?」

 

美遊はイリヤと同じ部屋を所望した。

 

その理由としては今後カルデアにサーヴァントが増え続けるのは容易に想像出来るので、それなら少しでも部屋数を抑える為にと美遊はイリヤと同じ部屋に住んでも構わないと進言したのだ。

 

まあ、それはあくまで建前で本音は友人達から見れば『重い』と言われているほどイリヤの事が大好きな美遊が少しでもイリヤと一緒に居たいという欲望ただ漏れの願いなのだが。

 

「だったら、私もイリヤとミユと同じ部屋がいいなー♪」

 

しかし、そこにクロエが小悪魔のような笑みを浮かべて割り込んできた。

 

イリヤと美遊の二人部屋で自分が外されていると言うのが面白くないとのもあるが、単純にちょっと寂しい気持ちもあるのだがそれは恥ずかしいので絶対に言わない。

 

それにより三人の間で色々と一悶着あったが、既にストレスが色々溜まっているオルガマリーがブチ切れて怒号が轟いた。

 

「うるさいわ!少し大きな部屋を与えるから、あなたたちは三人で一緒にいなさい!」

 

「「「は、はいっ!!」」」

 

オルガマリーの所長としての権限でイリヤと美遊とクロエは少し大きな部屋で一緒に住むことになった。

 

そんなある日の朝……大きなベッドで眠る少女達の前で小さな影が近付く。

 

「イリヤ……クロ……起きて、朝だよ」

 

「ふにゅ……?ふぁあっ……朝……ふえっ!?」

 

「まだ眠いよぉ……学校無いんだからもっと寝たい……ぬおっ!?」

 

イリヤとクロエはまだ眠いと目を擦るが、自分達を起こしてきた美遊の姿を見た瞬間に目を大きく見開いて刮目する。

 

美遊は魔法少女姿でも私服姿でもなく、白と黒を基調とした給仕服……つまり、メイド服を着ていた。

 

「おはよう……イリヤ、クロ。いいえ……おはようございます、ご主人様、お嬢様」

 

美遊はメイド服の裾を両手で摘んで軽く持ち上げて挨拶をする。

 

美遊は小学生だが、同時にエーデルフェルト家のメイドとして働いているリアル小学生メイドなのだ。

 

食堂でメイド服を着て働いているアルトリア達を見て美遊の中のメイド魂が燃え上がり、一晩でエーデルフェルト家で着ているのと同じメイド服を作り上げ、こうしてイリヤとクロエを起こしに来たのだ。

 

「ミ、ミユ……それは……!」

 

「カルデアにいる間……ルヴィアさんがいないから、期間限定でイリヤとクロエのメイドになってあげる」

 

「私とイリヤのメイド……じゃあ主人として命令を言っていいの!?」

 

「キスとかはダメ。あくまでメイドとして生活のサポートをするだけだから」

 

「それでも良いよ!ミユが私のメイドになってくれるなら最高だよ!」

 

「まあそうね……キスは残念だけど、ミユにお嬢様って呼ばれるのも悪く無いわね」

 

こうして美遊は期間限定でイリヤとクロエのメイドになるのだった。

 

メイドになった美遊の働きぶりはカルデアでも話題になっていた。

 

特にとても11歳の小学生とは思えない、高級料理店に出しても問題ないほどの料理の腕。

 

その他、掃除や洗濯などの家事の数々……あまりにも有能過ぎるのですぐにカルデアの家事担当の即戦力として注目を集めるのだった。

 

イリヤ達はアイリやキリツグ達がいるお陰でカルデアの生活にもすぐに慣れていったが、そんなイリヤ達の現状を悩ませるのは……。

 

「何か……サーヴァント……英霊のみんなって私達のイメージと違い過ぎるよね……」

 

「私達が習ってきた歴史って……」

 

「もう今すぐ学校の歴史の教科書を破り捨てたい気持ちよ……」

 

それは遊馬も通って来た同じ道……英霊……サーヴァント達のイメージのギャップ、歴史の真実とは一体何……?と言うものだった。

 

性別が違っていたり、歴史の書物などに書かれていた定説とは違う見た目・姿・性格……定説とは異なる歴史。

 

日頃からたくさんの知識を吸収していく小学生のイリヤ達にとってそれはあまりにも衝撃的だった。

 

歴史とは……英霊とは……一体何だろうと答えの見つからない自問自答を繰り返していた。

 

「イリヤちゃん、美遊ちゃん、クロエちゃん……その気持ち、痛いほど分かるぜ……!」

 

遊馬はイリヤ達の苦しみを痛いほど理解出来るので涙を流して同情した。

 

 

その日の午後、食堂でエミヤ達が忙しそうに食事の準備をしていた。

 

いつもと違い食材の量が違うので美遊は気になって聞いてみた。

 

「えっと……シロウさん。今日は何かあるんですか?」

 

「ああ、美遊。今日はマスターがサーヴァントを召喚するからその歓迎会だ」

 

「歓迎会?」

 

「マスターが特異点で絆を結んだサーヴァント達をこのカルデアに召喚するんだ。これはもう恒例行事となったが、サーヴァントとの交流を深めるために歓迎会を行う事になっているんだ」

 

「そうでしたか……では私も手伝います。パーティー用の料理も作り慣れています」

 

「ありがとう、助かるよ。それと、サーヴァント召喚の時にはイリヤとクロエと一緒に見に行くといい」

 

「はい、そうします」

 

エミヤに言われ、美遊はイリヤとクロエを誘って英霊召喚を見にいくことにした。

 

午後になり、遊馬とアストラル、そしてイリヤと美遊とクロエ、ルビーとサファイアは召喚ルームに来た。

 

マシュとフォウはロマニから呼ばれているので退室しており、早速第五特異点のアメリカで出会ったサーヴァント達を召喚するためにフェイトナンバーズを召喚サークルに並べる。

 

遊馬はせっかくなのでとイリヤと美遊とクロエにも聖晶石を渡し、一緒に砕いて欠片を振りまく。

 

砕いた聖晶石が振りまかれるといつものように爆発的な魔力が収束し、英霊召喚システムとカルデアの電力が轟いて眩い光を放ち、サーヴァント達が召喚されていく。

 

「ユウマ、私が来たからには安心してください。共に全ての命を救いましょう」

 

最初に召喚されたのはナイチンゲールで、フェイトナンバーズは体中が傷だらけになり、包帯を巻いていながらも傷ついた他者のために全力で治療をする天使のような笑みを浮かべた姿が描かれており、真名は『FNo.38 鋼鉄の天使 ナイチンゲール』。

 

「アメリカ合衆国、大統王!トーマス・アルバ・エジソン!ここに降臨である!」

 

ナイチンゲールの次はエジソンで、フェイトナンバーズはアメリカ合衆国の国旗や自由の女神像などアメリカを象徴するものをバックにマッスルポーズを決めるエジソンの姿が描かれており、真名は『FNo.88 大統王 トーマス・エジソン』。

 

「この時を待っていたわ、ユウマ!アストラル!私があなた達を導いてあげるわ!」

 

エジソンの次はエレナで、フェイトナンバーズは大きな魔導書を開いて星空の下でUFOに乗る姿が描かれており、真名は『FNo.45 神智の叡智 エレナ・ブラヴァツキー』。

 

「サーヴァント、カルナ……よろしく頼む」

 

エレナの次はカルナで、フェイトナンバーズは灼熱の太陽のような炎をバックに槍を構えている姿が描かれており、真名は『FNo.46 施しの英雄 カルナ』。

 

「サーヴァント、アルジュナ。ユウマ……いえ、マスター。私を存分にお使いください」

 

カルナの次はアルジュナで、フェイトナンバーズは美しい幻想的な蓮の花に囲まれながら弓を構える姿が描かれており、真名は『FNo.97 授かりの英雄 アルジュナ』。

 

「ジェロニモだ。マスター、君に精霊達の加護があらんことを」

 

アルジュナの次はジェロニモで、フェイトナンバーズはナイフを構えて血でその体を濡らしながらコヨーテの精霊と共に大地を駆ける姿が描かれており、真名は『FNo.75 精霊戦士 ジェロニモ』。

 

「ビリー・ザ・キッド!新しめのサーヴァントだけど、役に立つと思うよ。よろしくね!」

 

ジェロニモの次はビリーで、フェイトナンバーズは夕陽が沈む荒野で二丁拳銃を構えている姿が描かれており、真名は『FNo.27 拳銃王 ビリー・ザ・キッド』。

 

「よぉ、マスター君よ。呼ばれたからにはそれなりに働きますよっと」

 

ビリーの次はロビンフッドで、フェイトナンバーズは穏やかな森の中で静かに木に背を預けている姿が描かれており、真名は『FNo.28 森の守り手 ロビンフッド』。

 

「サーヴァント、スカサハ……我が新たな弟子、ユウマ。師として、しっかり鍛えてやるからな」

 

ロビンフッドの次はスカサハで、フェイトナンバーズは『影の国』と呼ばれる不気味で暗い魔境をバックに二本のゲイ・ボルクを持って闇夜を駆け抜ける姿が描かれており、真名は『FNo.101 影の国の女王 スカサハ』。

 

「李書文。存分に主の槍として使うがいい」

 

スカサハの次は李書文で、フェイトナンバーズはそびえ立つ岩山の上で槍を構える姿が描かれており、真名は『FNo.72 絶招神槍 李書文』。

 

「私は天才、ニコラ・テスラだ!」

 

李書文の次はニコラで、フェイトナンバーズは闇夜を照らすかのように数多の雷電が降り注ぐ中、威風堂々と立っているニコラの姿が描かれており、真名は『FNo.91 雷電博士 ニコラ・テスラ』。

 

「クー・フーリン・オルタ。召喚に応じ、参上した。今度は敵じゃなく、お前の槍になってやる」

 

ニコラの次はクー・フーリン・オルタで、フェイトナンバーズは真紅と漆黒の閃光が轟く中、ゲイ・ボルクを構えて凶悪な笑みを浮かべる姿が描かれており、真名は『FNo.7 狂王 クー・フーリン・オルタ』。

 

「私はメイヴ。女王メイヴ。あなたの事は気に入らないけど、クーちゃんと一緒に召喚してくれたことには感謝するわ!」

 

クー・フーリン・オルタの次はメイヴでフェイトナンバーズは自身の宝具のチャリオットの中で妖艶な笑みを浮かべながら優雅に蜂蜜酒が注がれたグラスを持つ姿が描かれており、真名は『FNo.11 恋の支配者 女王メイヴ』。

 

「エリンの守護者。栄光のフィオナ騎士団の長。ヌアザに勝利せし者。フィン・マックール、ここに現界した」

 

メイヴの次はフィンで、フェイトナンバーズは魔法の槍を振り回して膨大な水を操る姿が描かれており、真名は『FNo.73 フィオナ騎士団長 フィン・マックール』。

 

「フェルグス・マック・ロイ。召喚に応じ、参上した。さて……クー・フーリンのヤツはいるかな?」

 

フィンの次はフェルグスで、フェイトナンバーズは虹色に輝く魔剣・カラドボルグを振り下ろす姿が描かれており、真名は『FNo.16 虹霓の魔剣 フェルグス・マック・ロイ』。

 

「ベオウルフ……さあ、暴れて殴り込もうぜ、マスター!」

 

フェルグスの次はベオウルフで、フェイトナンバーズは全身から真っ赤に輝く闘気を纏い、拳を握りしめる姿が描かれており、真名は『FNo.54 拳闘王 ベオウルフ』。

 

「アンシャンテ……私、ポール・バニヤンです。よろしくね、マスター」

 

ベオウルフの次はバニヤンで、フェイトナンバーズは斧を構えて森を伐採して開拓する姿が描かれており、真名は『FNo.6 小さき巨人 ポール・バニヤン』。

 

ちなみにバニヤンはアメリカで一緒に戦った時の巨人では無く、桜達と同じ大きさの少女として召喚されていた。

 

第五特異点の総勢17騎のサーヴァントを無事に全員召喚し、遊馬とアストラルはみんなを出迎えた。

 

初めて目にする英霊召喚にイリヤ達は興奮が収まらなかった。

 

「凄い……これが英霊召喚なんだ……!」

 

「みんなアメリカとインドとケルトの有名な英霊ばかり……凄い……!」

 

「なんか一人だけ変なのがいるけどね……」

 

英霊召喚が無事に終わると遊馬はナイチンゲール達に駆け寄る。

 

その中で召喚に応じてくれるか微妙だったクー・フーリン・オルタとメイヴがいたことに遊馬はとても喜んだ。

 

「二人とも来てくれたんだな!」

 

「俺はただ戦うだけだ。この槍で敵を殺す。それだけだ」

 

「私はクーちゃんがいるなら何処にでも行くわ!」

 

まだクー・フーリン・オルタとメイヴは遊馬には心を開いていないがそれでも構わない、これから絆を深めていけばいいと思う。

 

「ユウマ。また会えて嬉しいです」

 

「ナイチンゲール!ああ、待ってたぜ!」

 

遊馬はナイチンゲールと再会を喜び、握手を交わす。

 

「では早速、皆さんの体調管理のチェックを……」

 

「それはもうちょっと後にしてくれ。これからみんなの歓迎会があるから。それからでも遅くはないだろ?」

 

「歓迎会ですか。分かりました。ではそれが終わり次第行います」

 

「あはは……相変わらずだな」

 

ナイチンゲールはカルデアにいる全職員の体調管理をチェックして適切な処置をしようと燃えていた。

 

すると今度はある意味この中で一番遊馬に会いたがっていたエレナが抱きついて来た。

 

「ユウマ!この時を待っていたわ!あなたのヌメロン・コード……ちゃんと調べさせてね!」

 

「あ、ああ!俺も知りたいからな、頼んだぜ!」

 

「ええ!任せて頂戴!」

 

エレナは遊馬の中にあるヌメロン・コードをずっと調べたかったので、カルデアに召喚されてようやくその機会が訪れたので興奮でいっぱいだった。

 

「エレナよ、少し落ち着くのだ。マスターが困っているぞ!」

 

「ふん、今回ばかりはエジソンの言う通りだな」

 

「エジソン!ニコラのおっさん!」

 

「だからミスターと呼べと言っているだろうが!」

 

「ふははははっ!ニコラ・テスラ!その老け顔が仇になったな!マスターにおっさん呼ばわりされるとはな!ふははははぁっ!」

 

「うるさいわ!この凡骨が!貴様こそ、その意味不明なライオン顔の癖に!」

 

「黙らんか、ミスター・すっとんきょう!」

 

「ああもう!二人共落ち着きなさーい!」

 

相変わらず仲の悪いライバル関係のエジソンとニコラをエレナは慌てて仲裁する。

 

そして、遊馬に会いたがっていたもう一人のサーヴァント……スカサハが近付く。

 

「待っていたぞ、我が弟子……ユウマよ」

 

「押忍っ!待っていたぜ、師匠!」

 

「私が鍛えてやるから覚悟しておくんだぞ?」

 

「望むところだぜ!」

 

スカサハは新しい弟子の遊馬と再会し、笑みを浮かべながら頭を撫でる。

 

すると、スカサハは近くにいたイリヤ達を見つけその中の1人を見つめて静かに近付く。

 

「ほぅ……」

 

スカサハが見つめていたのは美遊だった。

 

数多くの弟子を育ててきたスカサハは美遊の持つ大きな才能と力を見抜き、笑みを浮かべて美遊の前で腰を下ろして目線を合わせる。

 

「黒髪の娘……お前、中々の才と力を持っているな。名は?」

 

「み、美遊……美遊・エーデルフェルトです……」

 

「ミユか……良い名だ。私の名はスカサハだ。もし良ければ私の──いや、まだ早かったな。もしも機会があれば……私がお前に、戦いを教えてやろう」

 

スカサハは美遊の頭をポンポンと撫でて立ち上がり、その場から去った。

 

「凄い綺麗な人だけど、ちょっと怖い感じがするね……」

 

「黒いオーラみたいなのが見えたわ……」

 

イリヤとクロエはスカサハの強者としてのオーラと影の国の女王としての深い闇を無意識に感じていた。

 

「スカサハ……?」

 

「美遊さん。あのスカサハさんは影の国の女王……ぶっちゃけかなりやべー女王様ですよ」

 

「クー・フーリンを始めとする多くの弟子を育て、神や怪物を倒して不老不死となったケルト神話の最高峰の戦士です」

 

「クー・フーリンの師匠さん……」

 

美遊はカードケースからランサーのクラスカードを取り出した。

 

クラスカードの中で美遊が敵を倒すのにかなり使用しているのがランサーのクラスカードで、そのカードにはクー・フーリンの力が込められている。

 

そのクー・フーリンの師匠のスカサハに認められ、美遊はクラスカードを抱き締めてスカサハの背を見つめた。

 

それから間も無く宴会が始まり、宴会を重ねる度にサーヴァントの数がかなり増えていくので料理人達は忙しく料理を作っていく。

 

しかし、今回は美遊が参加したことでそれが劇的に変化した。

 

美遊は料理の腕は凄いがそれだけではなく、どう見ても数時間が掛かる料理をあっという間に短時間で作り上げ、更には明らかに用意した食材とは合わないほど豪華な料理を作り上げてしまうという、まるで『魔法』のような謎の技術を持っている。

 

美遊の料理の謎技術により、料理は次々と作り上げ、それを食べた者達は全員余りのおいしさに感動するのだった。

 

そして、それに一番の衝撃を受けているのは料理長のエミヤだった。

 

「ば、馬鹿な……美遊のあの料理の技術は一体何だ……!?まさか……『あの男』が教えたと言うのか……!?くっ、料理にはそれなりの自信があったが、どうやらまだまだのようだな。カルデアの料理長として負けてはいられないな!」

 

エミヤの料理人としてのプライドが燃え上がり、より一層料理の腕を磨いていこうと心に誓うのだった。

 

 

数日後、魔法少女の特異点から時間を空けずに再び小さな特異点が出現した。

 

その特異点の出現するとほぼ同時にカルデアにいるサーヴァントが数人消えていた。

 

消えたサーヴァントは金時、酒呑童子、茨木童子、佐々木小次郎、玉藻の前、清姫で特異点の舞台は日本だった。

 

前回の京都の特異点とは時代はあまり変わらず、場所も少し離れた場所らしい。

 

六人を連れ戻し、特異点を修正するために遊馬達は早速向かうことになった。

 

そして、今回の特異点の護衛サーヴァントはオルガマリーが選ぶことになり、それは……。

 

「では、イリヤスフィール、美遊、クロエ。三人共、頑張りなさい」

 

「は、はいっ!頑張ります!」

 

「全力を尽くします」

 

「頑張って活躍するわ!」

 

イリヤと美遊とクロエの魔法少女三人娘だった。

 

何故今回の特異点でイリヤ達が選ばれたのかと言うと、それは経験と実戦、そして見極めである。

 

イリヤ達は魔法少女としてシャドウサーヴァントと戦い、それなりに修羅場を経験したがそれでもまだまだかなり未熟だ。

 

本来なら戦わせるべきではないだろうが、イリヤと美遊が契約しているルビーとサファイア……カレイドステッキは魔術世界において『魔法使い』と呼ばれる大いなる存在の一人……『キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』が作った一級品の魔術礼装。

 

人工精霊の性格はかなりアレだが、ルビーとサファイアの能力はとても素晴らしく、今後の特異点の戦いでイリヤと美遊が活躍出来る可能性は大いにある。

 

更には英霊の力が込められているクラスカードもまだ謎が多いがカレイドステッキ同様に戦力としては申し分無いので、それを使いこなす為にもイリヤ達の経験と実戦を重ねてレベルアップを図るために今回の特異点に参加させた。

 

そして、もう一つ……それはクラスカードをイリヤ達が使うに値するかの見極めである。

 

クラスカードにはそれぞれ英霊の力が込められている。

 

セイバーにはアルトリア、ランサーにはクー・フーリン、アーチャーにはエミヤ、ライダーにはメドゥーサ、キャスターにはメディア、アサシンにはハサン、バーサーカーにはヘラクレスの力が込められている。

 

イリヤ達はカルデアに来るまで気付いていなかったが、英霊達からしたら許可もなくクラスカードに勝手に自分達の力を込められて、それをイリヤ達が勝手に使っているので憤慨しているのだ。

 

アルトリアとヘラクレスはイリヤと美遊になら使っても構わないと言うが、メドゥーサはあまりいい顔をしなかった。

 

エミヤのクラスカードは既にクロエと一つになり、それが並行世界の妹でもあるクロエの命を繋いでいるのでそのまま使ってくれと言った。

 

しかし、クー・フーリンとメディアはイリヤと美遊に自分の力を使うことを認めてはいなかった。

 

そして、ハサン……百貌のハサンは特に発言はしなかった。

 

アサシンのクラスカードは特別で使用者の縁や相性によって歴代のハサンの中から選ばれるため、百貌のハサンは自分たちだけでは判断出来ないとそれ以上の発言はしていない。

 

それなので、今回の特異点でイリヤ達の戦いをモニタリングしてクー・フーリンやメディアに見てもらい、クラスカードを使うに値するか見極めてもらうのだ。

 

「イリヤちゃんとクロエちゃんとミユちゃん……大丈夫かしら?」

 

アイリはイリヤ達が特異点で戦うことを酷く心配していた。

 

「大丈夫だ、アイリ。日本では昔から可愛い子には旅をさせよと言う。あの子達の成長を願おう」

 

「……キリツグ、その起源弾や銃とナイフは何かしら?」

 

「……ハッ!?」

 

キリツグはイリヤ達は大丈夫だと言っていたが、実はかなり心配で無意識の内に自分の武器の手入れをしていた。

 

「ふっ、全く……爺さんは相変わらず心配症だな。マスターやマシュもいるからきっと心配無いだろう」

 

「……士郎、その投影している防御系の魔術礼装は何かしら?」

 

「……ハッ!?」

 

イシュタルに言われ、気付いたエミヤはキリツグと同じように無意識に防御系の魔術礼装を投影して用意していた。

 

心配症なキリツグとエミヤに苦笑を浮かべるイリヤ達は大丈夫だと伝える。

 

「あの、おとーさん、お兄さん、大丈夫です。まだ私たちは頼りないけど……全力で頑張りますから!」

 

「イリヤは……何があっても必ず守ります」

 

「期待に応えられるよう頑張るわ!」

 

「ルビーちゃん達も、イリヤさん達を全力でサポートしますよ〜!」

 

「必ず無事にこのミッションをクリアしてみせます」

 

イリヤ達に言われ、キリツグとエミヤは大人しく引き下がり、エミヤが投影した魔術礼装は使わないのでそのまま回収された。

 

「よっしゃあ!二度目の日本の特異点、気合入れて行こうぜ!」

 

「以前の京都の謎の聖杯……もしかしたらその元凶が判明するかもしれないな。警戒をして行こう」

 

「あの時は酒気が凄かったですからね……今度は負けないように頑張ります!」

 

「フォーフォウ!」

 

遊馬達も気合を入れていき、マシュとイリヤ達をフェイトナンバーズに入れ、コフィンの中に入り、二度目となる日本の特異点に向けて出発する。

 

 

日本の特異点。

 

邪気が漂い、天田の鬼が跋扈するこの地であまりにも異質な存在がいた。

 

それは雪のような銀髪に空のように青い瞳を持つ少女でその身にはこの時代、この地では見たことない白とピンクを基調とした民族衣装を来ていた。

 

「はぁ……北の地から遥々やって来たけど、気持ち悪い鬼ばっかりいるね。ねぇ、シロウ?」

 

シロウと呼ばれたそれは人では無く、真っ白な毛皮に覆われ、不思議な紋様が背中に刻まれた大きな熊……白熊だった。

 

「ガァオ……」

 

白熊……シロウは同意するように吠え、少女を背中に乗せながら歩いていた。

 

「他のサーヴァントは見かけないし、早いところマスターに出会わなくちゃいけないんだけどね……」

 

少女は早いところ自分と契約してくれるマスターを探してシロウと一緒に彷徨っていた。

 

「でも、焦ってもしょうがないよね。私たちはそう簡単にやられないし、のんびり行きましょう」

 

「ガァオ!」

 

少女は焦らずにのんびりとしながらシロウに揺られて彷徨い続けていく。

 

 

 




ラストに出たキャラ……皆さんもうお分かりですね?
イリヤ達が出たので、あの子も本格的に出すことにしました。
鬼ヶ島編は登場するキャラとか展開を色々改変していきますので楽しみにしていただければ幸いです。


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ナンバーズ149 母と子、親子の奇跡の再会

なんとかそれなりに順調に書けているのでこのままのペースを保ちつつ更新したいですね。

今回は色々な再会がありますのでお楽しみに!


遊馬達はイリヤ達魔法少女三人娘を連れてレイシフトした先は千年前の日本。

 

場所は本州近くにある一つの島で遊馬達が降り立ったところは海岸だった。

 

デッキケースからフェイトナンバーズを取り出してマシュ達を出すと、やる気満々のイリヤが早速行動する。

 

「じゃあ、私とミユで空を飛んでザッと周囲を見てきます!」

 

「何かあるかチェックします」

 

「おう。任せたぜ、二人共!」

 

イリヤは空を飛び、美遊は魔力で足場を使って跳んでいく。

 

「いやー、空を飛べるって凄いな」

 

「美遊は足場を作ってジャンプしている……イリヤみたいに飛べないのか?」

 

アストラルは美遊が何故イリヤのように飛ばないのか疑問に思っているとクロエが呆れるように話し出す。

 

「ミユは頭がいいんだけど、常識に囚われていてね。簡単に言えば頭の固いの。イリヤは魔法少女は飛ぶものって思い込みで飛べるんだけど、ミユは人は飛べないって常識が強すぎて結局飛べないの。だから、ああやって足場を作って跳ぶ方法を取っているのよ」

 

「そっか。もったいないな、魔法少女なのに」

 

「なるほど、思考の違いによって魔法少女としての動きもかなり違ってくるのだな」

 

遊馬とアストラルは魔法少女について色々考えていると、イリヤと美遊が戻ってきた。

 

「遊馬さん、なんかこの島……変ですよ?」

 

「ええ……こんな島、日本ではあり得ません」

 

「あり得ない?」

 

「それはどう言うことだ?」

 

イリヤと美遊はこの島は変であり得ないと言い、今まで静かだったマシュも静かに口を開く。

 

「この島の全景……日本の方なら分かると思います」

 

「全景……ああっ!」

 

「これは……まさか!?」

 

遊馬とアストラルはこの島の全景を改めてよく見るとその異常さがよくわかった。

 

普通ではあり得ない形状……まるで、絵本に描かれている挿絵そのもののような……あまりにも分かりやすすぎる『島』。

 

それは日本人である遊馬と美遊、ついでにハーフであるイリヤとクロエも一度は見たことあるその島。

 

その結論を口にする前に遠くを見渡していたクロエが何かを見つけた。

 

「ね、ねえ、みんな!あっちに誰か倒れている!それになんか変な化け物が囲んでいるわ!?」

 

「助けに行くぞ!」

 

遊馬達は急いでクロエが見つけた倒れた人物の救出に向かう。

 

近づくと、そこに倒れていたのは赤毛の少年でその周りを囲んでいた化け物は……。

 

「お、鬼!?」

 

それは日本の化け物の代表でもある鬼だった。

 

鬼は少年を囲って食べようとしていた。

 

「っ!ミユ、クロ、行くよ!」

 

「うん!」

 

「ええ、鬼退治と行きますか!」

 

イリヤと美遊とクロエは少年を救うために先陣を切って鬼退治に向かう。

 

「マシュ・キリエライト、行きます!」

 

「フォーウ!」

 

「遊馬、マシュとイリヤ達のサポートをする。このナンバーズだ!」

 

「分かった!俺のターン、ドロー!魔法カード『増援』!デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える!デッキから『影無茶ナイト』を手札に加えて『ズババナイト』を召喚!更に影無茶ナイトの効果でレベル3モンスターの召喚に成功した時、手札からこのカードを特殊召喚できる!レベル3のズババナイトと影無茶ナイトでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

ズババナイトと影無茶ナイトが召喚され、光となって地面に吸い込まれると『20』の刻印が空中に輝く。

 

「大地に輝け、小さき命の鼓動!同胞達に命の煌めきを与えよ!現れろ!『No.20 蟻岩土(ぎかんと)ブリリアント』!!」

 

赤い球体を持つ植物の種が現れ、そこから変形して現れたのは光り輝く巨大蟻。

 

「ブリリアントの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、自分フィールドに表側表示で存在するモンスターの全ての攻撃力を300ポイントアップする!ブリリアント・ライトパワー!」

 

ブリリアントがオーバーレイ・ユニットを1つ食べると光り輝く羽根を高速に羽ばたかせて光の粒子を放出し、マシュとイリヤ達がそれを被ると攻撃力が上昇する。

 

「力が……湧いてきます!」

 

「凄い……デュエルモンスターズはこう言うこともできるんだ!」

 

「とても面白いです。今度色々遊馬さんとアストラルさんから教えてもらいます」

 

「パワーアップしたところで、一気に終わらせるわよ!」

 

パワーアップしたマシュとイリヤ達は鬼を次々と蹴散らしていく。

 

すると、倒れていた少年が目を覚ました。

 

「っ……う……君たち、は……」

 

「俺たちは……鬼退治をしている桃太郎ご一行ってところだぜ!」

 

「……よくわからない、けれど……君たちが鬼と戦っているのは……分かる。僕を助けるため……なら……疲労困憊、精神衰弱につき、僕は本当、全然駄目なのですが……」

 

少年は懐に手を入れた瞬間に小さな光が輝くと、鬼の額に何かが突き刺さった。

 

「えっ!?今のは!?」

 

「あれは……苦無。忍者が使っていた小刀……君は一体?」

 

「……すみません。名乗るほどのものではないのですが……えーと……僕は風魔小太郎。なんとなくですが、五代目小太郎……です」

 

「ふ、風魔小太郎ってあの風魔忍者の!?」

 

風魔小太郎。

 

第五代目頭目であり、北条早雲の後継者氏綱に仕える忍者集団「風魔一党」の頭領。

 

つまり……日本に歴史を残す有名な忍者の一人である。

 

「ええっ!?に、忍者!?本物!?」

 

「忍者……本当にいたんだ……」

 

「流石は忍者!正確無比で見事な苦無捌き!アーチャーとしては是非ともコツを教わりたいわね!」

 

「アイエエエ!?ワァオ!?ジャパニーズニンジャ!?本物の忍者さんの登場はテンション上がりますねぇ!」

 

「忍者の使う忍術が本物なのか……是非とも忍術を見てみたいですね」

 

イリヤ達は本物の忍者の登場に大興奮していた。

 

忍者は日本人だけでなく外国人にも人気のある存在で、小太郎は何故ここまで興奮しているのか分からないが、とりあえず目の前の敵の殲滅に集中する。

 

「小太郎さん、大丈夫か?」

 

「あなたは……もしやマスターですか?」

 

「ああ!俺は九十九遊馬だ!とりあえずこの鬼達はすぐに片付けるから少し待っててくれ!」

 

「いえ、僕も……僕も戦います。女子だけに戦わせるわけには行きません!」

 

男として情けないところを見せないために小太郎は限界寸前なのに立ち上がる。

 

「あんまり無茶するなよ。罠カード『ギフトカード』!相手は3000ライフポイントを回復する!」

 

遊馬は相手のライフポイントを回復するギフトカードを使って負傷している小太郎を回復させる。

 

「これは……!?消耗していた僕の力が回復している……!?」

 

「風魔忍者の力……見せてくれよな!」

 

「承知……!助けていただいた仁義を通します!」

 

小太郎は遊馬に力を回復してもらい、助けてもらった仁義を通すために忍者として助太刀する。

 

マシュとイリヤ達、そして小太郎によって鬼は次々と退治されていくが、森の奥から次から次へとどんどん鬼が現れていき、やがて大群となって攻めてきた。

 

「くっ、数が多すぎるぜ!」

 

「鬼を束ねる頭がいないとなると、単純に数が多いだけだな」

 

あまりの大群にこちらが不利となっている状況下でイリヤと美遊はクラスカードを取り出す。

 

「遊馬さん!一気に鬼を蹴散らします!」

 

「私とイリヤで夢幻召喚をして一掃します!」

 

夢幻召喚で英霊化して鬼を全て蹴散らそうとした……その時。

 

パラリラパラリラパラリラ〜♪

 

独特なラッパ音が響き、更にはエンジン音が轟くように響き渡る。

 

そして……崖の上に現れ、そのまま飛び降りて砂地に降り立った。

 

「いよう。鬼の臭いに釣られてみれば、こいつはご機嫌な展開じゃねえか。ゴールデンなパーティーだぜ。なあ、そう思わねえか、大将さんよぉ!」

 

「ゴールデン!」

 

颯爽と登場したのは金髪のおかっぱの髪型を変え、黒と金を基調としたレザージャケットを身につけ、アメリカンタイプの大型バイクを跨るその男は……ゴールデンこと、坂田金時。

 

「……!?あれが……坂田、金時……?」

 

小太郎はマシュからゴールデンの真名である坂田金時と聞いて衝撃を受けていた。

 

「はい、信じられないとは思いますが、あの方は坂田金時さんこと、ゴールデンさんです。私たちも最初は戸惑いました!あ、でも……いつにもまして、今日は特に……」

 

「ゴールデン、そのバイクは何なのだ?」

 

「……チッ。聞くかよそれ。つーか聞いちまうか。やっぱり聞くよなあ、コイツのコトをよぉ!おう、耳の穴研ぎ澄ませてよーく聞いてくれ!コイツこそ唯一無二のオレの相棒!一噴きで百里をカッ飛ぶ極上アクセル!熊百頭が行く手を阻もうと関係ねぇJETエンジン!まさに──まさにゴォォォォオルデンッ!こいつこそ足柄山にその(クマ)ありと謳われた伝説ッ!ハイパー・ウルトラ・デンジャラスマシン──ゴールデンベアー号、つーワケさぁ!」

 

ゴールデンベアー号……つまり、ゴールデンの幼少期である金太郎が友となった熊が……何故かアメリカンタイプのバイクになっていた。

 

「「「えー……」」」

 

どうして金太郎の熊がバイクになるのか訳がわからず、イリヤたちは冷めた目でゴールデンベアー号を見つめていた。

 

一方、遊馬は……。

 

「か……かっこいい!やばいぜ、ゴールデン!そのバイク、超かっこいいぜ!そのエンジン音から高スペックのバイクだってよく分かるぜ!」

 

「へへ、やっぱ分かるよな大将!このベアー号のモンスターっぷりがよぉ!」

 

一応バイクが乗れる遊馬は目をキラキラと輝かせてゴールデンベアー号を見惚れており、ゴールデンと意気投合していた。

 

「……ゴールデン、すまないが状況を見てくれないか?」

 

「OKOK、皆まで言うなアストラル。つーかなんだそりゃ、その鬼ども!何かのギャグか?能だけにノウってか!オレっちは鬼退治のプロだがよ、こんな絵に描いたようなマヌケ面、見た事ねえぞ!やべえ、とくに理由はねえのに面白ぇー!笑いすぎて死にそうだ!ギャハハハハ!」

 

ゴールデンからしたら、この鬼達は平安時代で跋扈していた鬼とは比べ物にならないほどの下等な存在らしく、大笑いしていた。

 

「Mr.ゴールデン!大爆笑している暇はありません!イリヤさんと美遊さんが鬼を一掃するのを手伝うべきでは!?」

 

「何……?イリヤと美遊が鬼を一掃だと……?はっ、サーヴァントとはいえ、可愛い子供達をあまり戦わせるわけにはいかねーな。下がっていろ、嬢ちゃん達。あとはオレに任せな」

 

イリヤ達が戦ってると知り、スイッチが入ったゴールデンはゴールデンベアー号のエンジンをフルスロットにする。

 

「大将!アストラル!マシュの嬢ちゃん!子供達!あとそこの小僧!見ていろよ、これが、バーサーカーからライダーへとクラスチェンジをしたオレの力だ!」

 

ゴールデンは最初に召喚された時のクラスはバーサーカーだったが、今回はライダークラスとして召喚されていた。

 

「疾風迅雷、電光石火、輝くボディはゴールデン!神馬一体、こいつがオレとベアー号!」

 

ゴールデンはゴールデンベアー号を再び走らせて鬼の大群に突撃する。

 

「OK、 振り落とされんなよ?そんじゃあカッ飛ばそうか!ベアーハウリング!」

 

ゴールデンベアー号から金色の閃光を纏い、まるで空を翔ぶ龍のように光り輝いて駆け抜ける。

 

「『黄金疾走(ゴールデンドライブ)』!」

 

爆走するモンスターマシンが、鬼の大群に突撃した次の瞬間には瞬く間に大量の鬼を轢殺していき、稲妻烈火を巻き上げて灰すら残さずに消滅させた。

 

「『夜狼死九(グッドナイト)』……!」

 

ゴールデンベアー号を停止させてカッコよく決めたゴールデン。

 

そして、大量にいた鬼を文字通りゴールデンベアー号で全て蹴散らしてしまった。

 

「すっげえ!流石だぜ、ゴールデン!」

 

「おう!オレ様にかかればこんなもんよ!」

 

遊馬とゴールデンは勝利のハイタッチを交わした。

 

周囲に鬼の気配は感じられず、とりあえずこの一帯の鬼は全滅させたので、一旦落ち着いて情報整理を行う。

 

「やはり……あれだけの鬼の大群にこの島の形。ここは……鬼ヶ島で間違いありません」

 

鬼ヶ島……日本昔話の桃太郎などで登場する鬼が住むとされる島。

 

一応日本には鬼ヶ島のモデルとなった島は複数あるが、それとは異なるここはまるで絵本やイメージにある鬼ヶ島そのものだった。

 

前回の羅生門の特異点と何か関係があるのかと考えながらも、遊馬達の目標はこの鬼ヶ島という名の特異点を解決する事と決まり、次に小太郎の話を聞く。

 

「はい。恩を受けましたので、お手伝いします」

 

小太郎は遊馬達に大きな恩を受けたことからサーヴァントとして契約を交わすコトを決めた。

 

「それじゃあ……よろしくな、小太郎!」

 

「はい、マスター!」

 

遊馬と小太郎は握手をして契約を交わし、小太郎のフェイトナンバーズが誕生する。

 

「大将、一応オレもクラスチェンジしたから再契約を頼むわ」

 

「ああ!ゴールデン!」

 

既にゴールデンは遊馬と契約しているが、クラスチェンジしたので念のために一応再契約を交わした。

 

元々あったゴールデンのバーサーカーのフェイトナンバーズからライダーとしてのフェイトナンバーズが誕生し、これで再契約が完了した。

 

「では、僕はまだ鬼がいないかどうか、他に何かあるかここ一帯を探ってみます」

 

「おう、オレも付き合うぜ。大将、確か遠くにいても話せる道具があったよな?それを貸してくれ」

 

「分かった。頼んだぜ、ゴールデン、小太郎」

 

遊馬はゴールデンにD・ゲイザーを渡し、ノリノリで左目に装着しながらゴールデンベアー号に跨る。

 

「いくぜ、ボーイ!ついて来れるかぁ!?」

 

「はい!全力でお供します!」

 

ゴールデンはゴールデンベアー号を走らせ、小太郎は忍者としての速い脚で走って付いていく。

 

二人が帰ってくるまで周囲を警戒しながら休憩を始めようとすると……休む間も無く新たな出会いが訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅーん……随分愉快な格好をしているのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、冷たい氷のような声が響いた。

 

全員が振り向くと崖の上にその声の主がいた。

 

その姿を見た瞬間、イリヤ達は自分の目を疑った。

 

「う、嘘……な、何で……!?」

 

特にイリヤは震えるほど驚いていた。

 

長い銀髪と美少女と言っても過言ではないドイツ系の血筋の整った顔……目の色は青色だが、そこにいたのは間違いなく……イリヤだった。

 

そのイリヤは不思議な民族衣装を着ており、その隣には大きな白熊が立っていた。

 

イリヤは白熊の背に乗って崖から飛び降りて無事に着地した。

 

「あなた……イリヤ……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンね?」

 

「そ、そうだけど……」

 

「そっちの褐色の子は?」

 

「……私はクロエ。クロエ・フォン・アインツベルン。ここにいるイリヤの姉であり、半身みたいな存在よ」

 

(だから姉は私の方でしょ!?)

 

イリヤはそう叫びたかったがそんな事を言える雰囲気ではなかったのでグッと堪えた。

 

「姉、ねぇ……じゃあそっちの黒髪の子は?あなたが持っているステッキと似ている物を持っているけど」

 

「私は美遊・エーデルフェルト。イリヤの親友……」

 

クロエと美遊がそれぞれ自己紹介をすると、もう一人のイリヤは体を微弱に震わせながら自身も名乗る。

 

「私は……イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。でも、今の私は擬似サーヴァント。真名は『シトナイ』。クラスは『アルターエゴ』よ」

 

「シトナイ?」

 

「シトナイはアイヌの伝承における少女だ。村を襲う大蛇に自分が生贄として捧げられたが、猟犬と共に返り討ちにしたと言われている……」

 

「ですが、アルターエゴと言うクラスなんて聞いたことがありません。まさか、ルーラーやアヴェンジャーと同じエクストラクラス……!?」

 

アストラルの説明とマシュの驚きで一同に更なる緊張感が走る。

 

新たなエクストラクラスのサーヴァントが登場し、驚愕する中……シトナイは腰に身に付けた山刀『マキリ』を引き抜いて構える。

 

シトナイはイリヤを睨みつけて地を蹴り、マキリを振り下ろす。

 

突然襲われて驚いたがイリヤはルビーの柄でマキリを受け止める。

 

「ちょっと!?い、いきなり何をするの!?」

 

「気に入らない……気に入らないわ。私が手に入らなかったもの……姉妹と友達を持っているあなたを!!」

 

シトナイは自分が持っていないもの……手に入らなかったものを平然と持っているイリヤに嫉妬をして襲いかかった。

 

「それに、気持ち悪いわ!私と同じはずなのに、全く違うあなたを!」

 

「──っ!?だからって、だからってそんな身勝手な理由で襲わないでください!」

 

イリヤはシトナイを弾き返して自分もルビーを振るって魔力弾を放って傷つけない程度の軽い攻撃する。

 

「私は、少し前までは自分が普通の女の子だと思っていたから……でも、自分が聖杯の器で、ホムンクルスだとママから教えられてショックだった。もしかしたら、あなたは私の想像を絶する辛い人生を送って来たのかもしれません……あなたから見れば私の存在がおかしいのかもしれない。だけど、私は私、あなたはあなたです!あなたの人生にも輝くほどの大切なものはないんですか!?」

 

イリヤは強い意志を込めた瞳でシトナイを見つめる。

 

シトナイはイリヤの言葉にハッと気付いた。

 

シトナイの人生にももちろん大切なものがある。

 

それは掛け替えのない大切なものであり、イリヤの人生では手に入らないものである。

 

「それでも……それでも私は!!」

 

シトナイはマキリを鞘に納めて氷の弓を作り出して氷の矢を番える。

 

イリヤはルビーを構えて物理保護を展開し、美遊とクロエも動こうとしたその時……針金で出来た小鳥が現れてイリヤとシトナイの間に割り込んだ。

 

「えっ!?何これ!?」

 

「これは……シュトルヒリッター!?」

 

その針金の小鳥は魔術の一種、錬金術で作られたものでシトナイはそれが何なのかよく知っている。

 

そして、二人に向かって静かな足音が響き、優しい声が広がる。

 

「ごめんなさい……本来なら来ちゃいけないんだけど、オルガマリーに無理を言って送ってもらったの」

 

「ええっ……!?」

 

「う、うそ……そんな……!?」

 

イリヤとシトナイはその人物の登場に驚いた。

 

特にシトナイは信じられないと言った様子で驚いて両目に涙が浮かんでいた。

 

「マ、ママァ!?」

 

「ええ、アイリママよ。イリヤちゃん」

 

それはカルデアにいるはずのアイリだった。

 

つい先ほどデッキケースが開いてアイリのフェイトナンバーズが届き、カルデアからの連絡を受けて遊馬はすぐにアイリを召喚したのだ。

 

アイリは母としての慈愛の笑みを浮かべながらイリヤとシトナイに近づく。

 

アイリは唖然としているイリヤの頭を軽く撫でるとシトナイに向けて両腕を大きく開いた。

 

「イリヤ……会いたかったわ。私のイリヤ」

 

「う、うそよ……だって、だって、お母様はずっと前に……!」

 

「この私は確かに別の世界の存在だけど……私は生まれてから第四次聖杯戦争で命を落とした時の全ての記憶を持つ天の杯。あなたの母……アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ」

 

「あっ、あっ、ああっ……!」

 

シトナイは体が震え、大粒の涙を流しながら走り出す。

 

「お、お母様……お母様ぁ!わぁああああん!お母様ぁ〜〜!!」

 

そして、両腕を広げたアイリの胸に飛び込み、大泣きしながら抱きついた。

 

「イリヤ……私のイリヤ……会いたかったわ……この時を、ずっとずっと待っていたわ……」

 

アイリも涙を流し、もう二度と離さないと言わんばかりに、シトナイを強く……強く抱きしめた。

 

もう二度と会うことの叶わない母と娘の親子の奇跡の再会……その光景に遊馬達も小さな涙を流す。

 

 

アイリと再会したことでイリヤへの怒りと憎しみはすっかり落ち着いたシトナイは遊馬達からカルデアの話を聞く。

 

「カルデアか……そっか、そこにお母様がいるんだね」

 

「そうよ。今回は来る予定はなかったんだけど、イリヤが召喚されて……カルデアの所長のオルガマリーに無理を言ってこっちに送ってもらったのよ」

 

今回の特異点ではイリヤ達の経験と実戦と見極めの為でもあったが、シトナイ……イリヤにどうしても会いたかったアイリは土下座する勢いで頼み込み、流石のオルガマリーも折れて送り出したのだ。

 

「ねえ、イリヤ。カルデアにはね……なんとキリツグもいるのよ!」

 

「……ええっ!?キ、キリツグもいるの!?」

 

アイリだけでなく父親であるキリツグもいると知って更に驚くシトナイ。

 

「そうよ。会いたい?会いたければマスターとオルガマリーに頼めばすぐにでも──」

 

「嫌だ!!」

 

シトナイは自分の父……キリツグに会うのを即答で拒否した。

 

まさかの即答の拒否にみんなが驚く中、アイリは困惑しながらその理由を尋ねる。

 

「えっ!?ど、どうして?キリツグに……あなたのお父さんに会いたくないの?」

 

「キリツグは……私を捨てた、帰って来なかった、約束を破った……そんな人は私の父じゃない!会いたくもない、大嫌いよ!!」

 

シトナイは涙目を再び浮かべて、その瞳の奥には憎しみが宿っており、はっきりと大嫌いと告げた。

 

イリヤとクロエは自分の父親をここまで憎んでいるのには何か大きな理由があると察するが、イリヤとクロエ自身は自分の父親がどんな人物なのかは全ては知らない。

 

自分の知っている父親は滅多に帰って来ないけど、それでも自分を大切にしてくれて娘として愛してくれている、それは確かだ。

 

カルデアにいるキリツグも並行世界の存在である自分を大切に想っている。

 

きっと何か大きな勘違いや食い違いがあるのだと思う……イリヤはシトナイとキリツグの仲をなんとかしたいと強く思うのだった。

 

「イリヤ……」

 

「お母様。私は二度と会えないと思っていたあなたに会えただけでとても嬉しいわ。これ以上の幸せは望まないわ。それと、私の事はイリヤじゃなくてシトナイって呼んで。そうじゃないと、そっちの私と混合しちゃうでしょ?それにシトナイの名前も気に入ってるからね」

 

「そうなの……?分かったわ、イリヤ……いえ、シトナイ」

 

「うん!」

 

シトナイとアイリはもう一度抱きしめ合い、話がひと段落したところでイリヤ達が挨拶をする。

 

「えっと、その……色々あったけど、よろしくね。シトナイさん!」

 

「よろしくお願いします、シトナイさん」

 

「とりあえずよろしくね〜」

 

「……ええ、よろしく。イリヤ、ミユ、クロエ……」

 

まだイリヤ達のことを認めてないが、最愛の母と再会して気持ちが落ち着いたシトナイはとりあえず挨拶だけした。

 

「どうもどうも〜。私、イリヤさんの相棒、カレイドルビーちゃんでーす!並行世界のイリヤさんことシトナイさん、よろしくお願いしまーす!」

 

「私は妹のカレイドサファイアです。どうぞよろしくお願いします、シトナイ様」

 

「随分話が出来る魔術礼装ね……えっと、それから……マシュとフォウ。そして……ユウマとアストラル……あなたたちがマスターなのね?」

 

「ああ。よろしくな、シトナイちゃん」

 

「ちゃんはやめて。呼び捨てでいいわ。それにしても……ふーん。ねえ、あなたの魔術回路は?どんな魔術が使えるの?」

 

「魔術回路?そんなもんはねえよ」

 

「魔術回路が無い?馬鹿言わないで。それでどうやってサーヴァントと契約して魔力を与えているのよ?」

 

「ああ、それならこれこれ。アストラル」

 

「承知した」

 

遊馬は未来皇ホープとマシュのフェイトナンバーズ、アストラルは希望皇ホープのカードを取り出してシトナイに見せる。

 

「カード……?」

 

「ナンバーズとフェイトナンバーズ。俺たちの絆の証だ」

 

「君は生粋の魔術師らしいな。それでは軽く、私たちのことも説明しよう」

 

遊馬とアストラルはシトナイに自分たちが異世界から来たこと、デュエルモンスターズとナンバーズとフェイトナンバーズの関係などを簡潔に話した。

 

「異世界のマスターね……面白そうじゃない。でも、まだあなたとは契約するつもりはないから。あなたのことを……じっくりと見極めさせてもらうわ」

 

「ああ、それで構わないぜ。ところでさ、シトナイ。あの白熊は……何?」

 

遊馬が気になったのは海で狩をして魚を取っているシトナイが乗っていた白熊だった。

 

「あの子は私の宝具で使い魔よ。名前はシロウって言うの!」

 

「シロウって……まさか、お兄ちゃんじゃないよね……?」

 

よく見ると何処となく白熊……シロウの眉毛が衛宮士郎に似ており、イリヤは血の気を引きながら恐る恐る聞いた。

 

するとシトナイはニヤリと小悪魔の笑みを浮かべて口を開く。

 

「さぁ……?それはどうかしらね……?」

 

「ちょっとぉ!?」

 

もちろん冗談なのだが、早速シトナイの小悪魔な性格に弄られるイリヤだった。

 

それから少しして偵察から小太郎が戻ってきた。

 

「マスター。ただいま戻りました。それと……」

 

小太郎は何か言いにくそうな態度を取り、どうしたんだと遊馬達は疑問符を頭に浮かべた。

 

「実は……はぐれサーヴァントを一人見つけて……一緒に来てもらいました」

 

「はぐれサーヴァント?何処だ?」

 

「──此処にいます」

 

突如、遊馬達の前に一つの影が一瞬で降り立った。

 

「どわっ!?えっ、だ、誰?」

 

現れたのは……綺麗な黒髪に金色の瞳を持ち、美遊の魔法少女の衣装に近い少々露出度の高い衣装に身を包んだ女性だった。

 

「お初にお目にかかれます。ワタシは……加藤段蔵と申します」

 

加藤段蔵。

 

戦国時代末期に活躍した風魔の流れを汲む忍者。

 

しかし、その体は……。

 

「機械の……腕?」

 

段蔵の両腕が人のものではなく、精巧に作られた機械の腕だったのだ。

 

そして、段蔵の口から衝撃的な事実が話される。

 

「はい。ワタシは人ではなく……からくり人形です」

 

『『『……はぁ!??』』』

 

人ではなくからくり人形と言う事実に遊馬達は驚愕するのだった。

 

小太郎は段蔵を見つめながら複雑そうな表情を浮かべ、長い前髪から僅かに見える赤い瞳に深い悲しみを宿していた。

 

「母上……」

 

そして、誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。

 

 

一方、その頃のカルデアでは……。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!」

 

「落ち着くんだ、じいさん!今すぐ銃を手放せ!!」

 

「起源弾はやめなさい!起源弾は!そんな事をしても自分が苦しむだけです!何も解決しません!」

 

「離してくれぇえええええっ!イリヤに……イリヤに嫌われた僕には生きる資格は無いんだぁあああああっ!!」

 

モニタリングをしている管制室ではとんでもない修羅場が起きていた。

 

特異点にいるシトナイ……イリヤに大嫌いと言われて拒絶されたキリツグはあまりのショックに絶望してしまい、自分の体に起源弾を撃ち込んで苦しみながら死のうとしていた。

 

こう見えてもキリツグはイリヤに対して子煩悩であり、親バカである。

 

イリヤが生まれた時から誰より愛おしい、世界を滅ぼしても守りたいと思うほど大切に想っていた。

 

流石に死なせるわけにはいかないのでエミヤとアルトリアが必死に止めている。

 

「そこはちゃんと話し合えば良いだろう!?じいさんがどれだけイリヤを大切に想っているか伝えるんだ!」

 

「そうです!私もモードレッドと話し合ってそれなりの親子関係になれたのですからキリツグも大丈夫です!」

 

「うぁあああああっ……イリヤァ……イリヤァ……!!」

 

キリツグは二人に説得されて何とか銃を手放したがその場に崩れ落ちて涙を溢す。

 

モニターを見ながらイシュタルとパールヴァティーは並行世界ではなく自分達の知っているイリヤが擬似サーヴァントになって召喚された現状に薄々あり得るかもと思っていたが、まさか現実になることに驚いていた。

 

「それにしても、こっちのイリヤまで来るなんてね……もう第五次聖杯戦争関係者の擬似サーヴァント化が凄いわよ」

 

「そうですね……特に先輩の家に集まっていた私達が選ばれるのは不思議な縁を感じますね」

 

「士郎の家か……ん?ちょっと待って」

 

「どうしましたか?姉さん」

 

イシュタルはパールヴァティーの言葉にとある人物の事を思い出した。

 

「ねえ、士郎の家に普段からいる人……”もう一人”いない?」

 

「えっ?”もう一人”……ああっ!?」

 

それはエミヤ達にとって共に同じ時間を過ごして来た大切な人でもあり、恩師でもある人だった。

 

「いや、でも、”あの人”は直接聖杯戦争に関係ない一般人だからあり得ないわよね〜」

 

「そうですよ。実家はちょっとアレですけど、本人は剣道が強いだけのただの英語の先生ですよ?魔術の魔の字も関係ないから流石に来ませんよ」

 

「そうよね。あははははっ!」

 

「もう姉さんたら!ふふふふふっ!」

 

その恩師は魔術師でもなければ聖杯戦争に全く関係のない一般人同然の人物なのであり得ないと二人揃って笑っていた。

 

しかし……笑い話となったイシュタルのこの想像が後に現実になることを今はまだ知らなかった。

 

しかも、とんでもない神霊に選ばれて、とんでもない力を手に入れて大暴れすることになるとは……今はまだ知らない。

 

 

 




早い展開ですがシトナイちゃんとアイリさんを再会させました。
キリツグさんは……マジでドンマイです。
仕方ないよね、プリヤ軸と違ってそれだけのことをやらかしたんだから。
そして、小太郎君と段蔵ちゃんもまさかの再会です。
段蔵ちゃんは本来なら英霊剣豪七番勝負で登場しますが、今回の鬼ヶ島のテーマを個人的に『母と子』にしたかったので、小太郎君のお母さんを登場させました。
FGOの親子でこの二人はかなり好きなので幸せになってもらいたい気持ちを込めました。


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ナンバーズ150 鬼殺しの女武者

言い忘れていましたが、今回の鬼ヶ島編は牛若丸と弁慶は登場しません。
あまりキャラが多くなるのも大変なのと、二人は第七章のバビロニア編で登場するので今回の登場は無しにしました。

FGOのレクイエムイベントですが、やって思ったことは……これ、闇のゲームじゃね?でした。
是非ともゲームの天才&闇のゲームの番人の遊戯さんやアテムさんをお呼びしたいなと思っちゃいました(笑)


鬼ヶ島で小太郎が連れてきた加藤段蔵……しかし、その正体は人間そっくりに作られたからくり人形だったのだ。

 

加藤段蔵は謎に包まれている忍者であったが、その正体を小太郎は静かに語り始めた。

 

「は……いえ、加藤段蔵殿は果心居士と初代の風魔小太郎が作った女忍者形のからくり人間なのです」

 

「かしんこじ……?」

 

「果心居士とは戦国時代に存在した謎の法師だ。妖術師とも言われている」

 

「でも、とても機械とは思えぬほど人間に見えますね……」

 

見れば見るほどとてもからくり人形とは思えない人間に近い見た目をした段蔵にマシュだけでなくその他のみんなも驚きを隠せない。

 

「……あなたが、マスターですか?」

 

「あ、ああ。九十九遊馬だ。それで、段蔵さん。ゴールデンと小太郎と一緒に来たってことは、一緒に戦ってくれるのか?」

 

「はい。からくり人形ですが、私も風魔の忍です。五代目頭目の風魔小太郎殿が契約したマスターならば、私もお供します」

 

「ありがとう!それじゃあよろしくな」

 

「はい」

 

段蔵は同じ風魔忍者の小太郎がいるので信頼できると遊馬と契約して新たなフェイトナンバーズが誕生した。

 

それから遊馬達は小太郎が集めてきた情報を纏める。

 

この鬼ヶ島には鬼と人が集まっている場所があり、そこでは鬼が人を無理やり働かせる強制労働所のようなものだった。

 

捕まっている人々は目的は不明だが地面を掘ったり、土や丸太を運んでいた。

 

捕まっている人々を助けようにも鬼の数が多く、更には何ヶ所も同じようなものがあるので全てを助けるのは難しい。

 

そして、どうやら最奥部の頂上にこの鬼ヶ島の元凶が存在するようだった。

 

しかし、頂上に向かう道には三つの大門を開かなければならず、迂回も不可能で開くには門番らしい特殊な大鬼が持つ鍵が無ければ開かない。

 

更には鬼達は恐ろしい用心棒を雇っているらしく、一筋縄ではいかないようだ。

 

試しに遊馬はかっとび遊馬号を使おうと提案したが、鬼ヶ島と言う特殊な特異点の空間が不安定で上手く動かせないことが分かったので諦めて徒歩で向かうことになった。

 

ゴールデンが先に最初の大門の近くで見張っているので合流する為に小太郎が先導して向かう。

 

ちなみに……。

 

「ちょっと、あなたもちゃんと歩きなさいよ」

 

「えー、だってシロウは私の宝具なんだから良いじゃない」

 

「ガオ」

 

シトナイはシロウに乗って自分一人だけのんびりと山登りをしており、クロエは不満を漏らした。

 

すると、前髪に隠れた小太郎の瞳が光るとその場に伏せた。

 

「──しっ。皆さん、伏せてください」

 

忍者として気配に敏感な小太郎が静かにそう言うと遊馬達もすぐに口を閉じてその場に伏せた。

 

岩陰に隠れて小太郎が見つけた気配の先を見ると、そこにいたのは数体の鬼だった。

 

人語を話せる鬼で労働所から来たようで、中間管理職のような役割を担っているのか人間の弱さや脆さを愚痴にしてこぼしていた。

 

しかし、その中で許さない事を口にした。

 

鬼の一体は老人の首を撥ねて肝を取り出して弁当として持って来たのだ。

 

「許せねえ……」

 

「落ち着いてください、マスター。まだ伏兵が潜んでいる可能性があります。下手に出ない方が良いです」

 

遊馬は鬼に対して怒りを露わにしながら原初の火の柄に手を掛けてすぐにでも飛び出そうとしたが、小太郎が押さえ込む。

 

すると、アストラルは近付いてくるもう一つの気配に気がついた。

 

「これは……サーヴァントの気配……?ゴールデンのじゃないな……」

 

それはサーヴァントの気配でゴールデンとは別の者が近付いていた。

 

「何をしているのです、アナタたちは」

 

現れたのは刀と弓を携え、鎧を着た雅で清潔、そして……艶やかな妙齢の女性だった。

 

女性は鬼に対して怒りを露にしており、殺気を込めた瞳で睨み付けていた。

 

「……罪のない老人を、何の理由もなく殺める……やはり、心底から外道なのですね」

 

女性の登場に鬼達は驚愕し、そこから恐怖で震え上がった。

 

「一刀曇りなし。されど天雷が如く奔り、雪華が如く耀き、白雨が如く慈悲を与えん」

 

女性は弓を消すと代わりに腰に刺した刀を抜いて構える。

 

「──誅伐執行。激痛を孕みながら死になさい」

 

振り下ろした刀が鬼の堅い肉をまるで豆腐のように簡単に切り落とし、次々と鬼を斬り殺していく。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

遊馬達は女性──女武者に加勢しに向かう。

 

しかし、結果として遊馬達の助けはほとんどいらなかった。

 

女武者は鬼と戦い慣れているのか全く疲れを見せずにまるで舞をしているかのように華麗に鬼を斬り殺していき、あっという間にこの場にいた鬼を全滅させた。

 

鬼の血で塗られた刀を軽く振って血を振り払うとそのまま鞘に納め、女武者は遊馬達に笑みを浮かべた。

 

「ご尽力感謝いたします、名も知れぬ異邦の方々。珍しい出で立ちですが、どうやってこの島に?港に船が来るのはまだ先の筈ですが……あら?」

 

頼光は遊馬達の中で一番異質な存在を見つけると笑顔が消えて眼を細めた。

 

「……鬼ではありませんが、見たことのない異形がいますね……?」

 

女武者はアストラルに視線を向けると同時に殺気を放った。

 

どうやら女武者は鬼などの異形の存在に対してとても敏感であり、それに気付いた遊馬はアストラルの前に立ち、原初の火を抜いてホープ剣を作り出して構えた。

 

遊馬が立ち塞がり、女武者は冷たい刃のような言葉で尋ねる。

 

「……童よ、何故その異形を庇うのですか?」

 

「アストラルはさっきの鬼みたいに人を襲ったり喰らったりしない!俺と一緒に世界を救うために命がけで戦ってる、俺の半身で、大切な相棒だ!!」

 

遊馬の純粋で真っ直ぐな言葉に面を食らった女武者は目をぱちくりさせた。

 

そして、女武者は遊馬の眼を見つめた。

 

その眼に宿る強い意志と光……それを見極めた女武者は静かに刀から手を離した。

 

「……童、あなたの言葉を信じましょう。確かにその異形からは鬼のような悪しき力も、悪しき心も感じません」

 

「お、おう……」

 

「童、あなたの名は?」

 

「俺の名前は九十九遊馬だ!」

 

「九十九、遊馬……良い名前ですね」

 

女武者は遊馬の名前を覚えると、次はイリヤ達に目線を向けた。

 

「まあまあ、とても可愛らしいお嬢さん達ですね。もしかして、三人共……あなたのお子さん?」

 

イリヤとクロエとシトナイがアイリにとても似ているので、全員アイリが産んだ子だと思った。

 

確かにイリヤ達はアイリが産んだ娘なのは間違い無いが、並行世界や異世界など色々とややこしい事情があるのでどう説明しようか悩んでいると……。

 

「ええ、もちろん♪」

 

「わぷっ!?」

 

「むぐっ!?」

 

「ふにゅ!?」

 

アイリはイリヤとクロエとシトナイの三人を器用に抱き寄せてギュッと抱きしめた。

 

「この子達はみーんな、私の可愛い愛娘たちよ♪」

 

アイリは三人の愛娘を抱きしめながら愛おしそうに頬擦りをしていく。

 

「マ、ママ!?ちょっとやめて?!」

 

「く、苦しいし、暑いわよ!?」

 

「お、お母様……流石に恥ずかしいわ……」

 

流石に人前でこんな風に母親にハグをされてイリヤ達は恥ずかしくなって抜け出そうとするが、アイリはそう簡単に逃さないと抱きしめる力を強くする。

 

「そうだわ、ミユちゃんも来なさい」

 

「えっ?」

 

「そうね……とっても可愛くていい子だし、シロウがキリツグの養子だから、私の養子も良いわね〜」

 

アイリの提案で美遊の養子話が突然飛び込んできた。

 

「ミ、ミユが養子……!?だ、だったら、是非とも私の妹で!」

 

「ミユが私の妹……良いわね、それ!ミユ、これから妹ボイスで私をお姉ちゃんって呼んで!」

 

スイッチが入って暴走しかけるイリヤとクロエ。

 

「ま、待って!?なんで私が妹!?そ、それも確かに良いけど……」

 

そして、二人の妹に妄想が膨らんでいく美遊。

 

「ちょっと……本当にイリヤとクロエは並行世界の私?何か私よりも色々とぶっ飛んでない?大丈夫なのこの子達?」

 

シトナイはイリヤとクロエが幾ら人生と育ち方が違うと言え、ここまで性格がぶっ飛んでいるのかと悩んで頭痛が走ってきた。

 

その光景に女武者は微笑ましく見ていたが、その瞳にはどこか悲しく、どこか寂しさが宿っていた。

 

「それでは、私はこれにて失礼します。親娘いつまでも、仲良くいてくださいね……」

 

女武者はアインツベルン親娘にそう言い残すとその場を後にする。

 

追いかけようと思ったが、誰もがこの場から動くことは出来なかった。

 

「何か、怖い姉ちゃんだったな……」

 

「あのサーヴァント、何者だ?鬼を斬った女武者だけの情報しかないからな……」

 

鬼殺し、女武者……これだけでは情報が少なすぎるので真名の判明は出来ない。

 

「不思議な雰囲気の女性でしたね。包容力があるといいますか、母性的と言いますか」

 

「あら?包容力と母性なら4人の娘と1人の息子を持つ私は負けないわよ!」

 

「ママ、そこは張り合わなくて良いからね……」

 

女武者の包容力と母性に張り合おうとするアイリにイリヤがツッコミを入れる。

 

サーヴァントならその内また会えるだろうと思い、遊馬達は心を切り替えて引き続き山道を歩いていく。

 

しばらくすると見事な装飾で飾られた怪しげな大門が見えてきて、その近くにゴールデンがいた。

 

「よう。待ってたぜ、大将」

 

「悪い、ゴールデン。遅れたぜ」

 

「おうよ、遅いからもう少しでベアー号で迎えに行こうと思ってたぜ。何があったのか?」

 

「実はさっき、女武者のサーヴァントと会って鬼退治をしていたんだ」

 

「身長は約175cm。紫に近い長い黒髪で、紫を基調とした服装をしていた包容力と母性の雰囲気がある女性だ」

 

「──あ?」

 

アストラルが女武者の特徴を詳しく説明すると、ゴールデンは一瞬自分の耳を疑うように固まった。

 

「……どういう事だ、そりゃあ。いや、まさかな……」

 

ゴールデンは女武者に何か心当たりがあるようだったがまさかなとその考えを捨てた。

 

「ゴールデン?」

 

「ああ、いや、なんでもねえ。それより、あの大門に大きな鬼と用心棒がいるぜ」

 

「よーし、早速本格的な鬼退治の始まりだな!」

 

気合いを入れて遊馬達は第一の大門に向かったが……。

 

「……あー」

 

「「小次郎か!?」」

 

鬼が雇った用心棒がまさかの小次郎で遊馬とアストラルは同時にツッコミを入れた。

 

小次郎の側には大刀を持った緑色の大鬼が立っていた。

 

「少しばかり話をしていいだろうか。ちと、尋ねたい事がある」

 

「……何?」

 

「我が秘剣の煌めきを請われ、鬼共の用心棒として──『ツバメもキジも鳥だからだいたい一緒だろう』という闇鍋的思考、否、大胆な考察により、キジ絶対殺すマンとして、嘴から光線を吐く魔鳥を討つために星一つで雇われた身なのだが」

 

「キジが光線なんか吐くわけねえだろ!?」

 

「日本の国鳥がそんなモンスターだったら日本は色々と終わっているぞ!?」

 

ツバメを斬ると言う強い思いが変な風に暴走した小次郎に対して頭痛が響く遊馬とアストラルだった。

 

「ああもう、なんか心配して損したぜ!小次郎、カルデアに戻ったらマルタの姉御とメディアに説教してもらうからな!」

 

「ま、待て!あの鉄拳聖女と魔女だけは勘弁してくれ!拙者はただキジを斬りたいだけなのだ!そ、そうだ……そこの赤毛の少年!お主は初めてみる顔だな……何者だ!?もし良ければせめて手合わせを所望する!」

 

「……あ、僕は風魔小太郎です。キジではないですけど、えっと、分身と土雷の術とかなら、なんとか……」

 

「なに?風魔小太郎……?伊賀、甲賀、の次に来るあの風魔忍群か?ほほう、それは失礼した。風魔の頭領が相手であれば溜飲も下がると言うもの。名前も良いしな。小太郎。小次郎。これは甲乙付けがたい名勝負の末、友情が芽生え──」

 

「芽生えません。僕は今から小次郎絶対殺すマンとなりました」

 

突如、小太郎の雰囲気がガラリと変わって表情が怒りに満ち溢れていた。

 

「何故だ!?同じ日本人枠ではござらんか!?」

 

「お黙りなさい。無気力な僕ですが、許せないものが三つあります。一つ、武器の手入れをおろそかにする同業者。一つ、宅配してくれる商人を追い返す手下達。そして最後が──我ら風魔を伊賀者と甲賀者の後に格付けする者です!貴殿は今、僕の禁域に踏み込んだ!風魔忍群五代目頭領として、その珍しい刀を貰い受ける!」

 

「小太郎殿、私もお供します!風魔忍群を格下と見られて黙っているわけにはいきません」

 

「いいえ、段蔵殿。ここは僕にやらせてください。風魔忍群五代目頭領の名にかけて、必ずあの男を叩き潰します!」

 

段蔵も参戦しようとしたが小太郎の怒りとやる気が既にマックスなので、段蔵はそれに従って下がる。

 

「小太郎……その事を気にしていたんだな……」

 

「こればっかりは仕方ないな……」

 

確かに日本では風魔よりも忍者としては伊賀や甲賀の方が知名度が高いのは事実だ。

 

「俺は風魔は好きだけどな。ほら、風魔って伊賀や甲賀に比べて名前とかカッコいいし」

 

「名前の問題なのか!?」

 

「マスター!そう言っていただけて嬉しいです。今度風魔について段蔵殿と一緒に御教授しますよ!」

 

「ああ!楽しみだぜ!」

 

話がひとまず終わると、小次郎は先ほどの失言の詫びとして忠告した。

 

隣にいる大鬼の名は風越丸。

 

鬼の王曰く『速さ』の化身で『速さ』では決して勝てぬらしい。

 

「さて……鬼はともかく、小次郎は他のサーヴァントと違って宝具と呼ばれるものは存在しないが、宝具に匹敵する神秘を兼ね備えた最高の剣技……『燕返し』がある。燕返しを突破出来る方法……」

 

燕返しは小次郎が一生をかけて生み出した剣技であり、小次郎自身の剣技はアルトリアや武蔵に匹敵する。

 

剣の腕だけで言えばカルデア内のサーヴァントでも上位に入るほどの腕前……まともに戦えばそう簡単に勝つことは出来ない。

 

「剣をすり抜けてダイレクトアタックで直接小次郎にダメージを与えれば良いんだけどな……」

 

遊馬の言葉にアストラルはハッと気付いてこの状況を打破する唯一のナンバーズを思い付く。

 

「剣をすり抜けて、ダイレクトアタック……?そうか、その手があったか!遊馬、君のお陰で必勝法が見つかったぞ!」

 

「えっ!?本当か!?」

 

「ああ。勝負は一瞬で決まる……小次郎の剣技と風越丸の速さが来る前に決着を着ける。小太郎、いつでも動けるように準備を」

 

「わ、分かりました!」

 

「遊馬!このナンバーズだ!」

 

アストラルはまだ使用したことのない癖のあるナンバーズを遊馬に渡す。

 

「こいつは……?へぇー、こう言う効果のナンバーズか。面白いぜ!」

 

「小太郎、君の切り札……宝具で小次郎と鬼を同時に倒せるか?」

 

「一度にですか?ええ、もちろん行けますよ」

 

「俺たちで小太郎を小次郎と鬼の間合いに一瞬で送り込む。そしたら、宝具で一気に決めてくれ!俺のターン、ドロー!魔法カード『オノマト連携』!手札を1枚墓地に送り、デッキからオノマトモンスターを手札に加える!デッキから『希望皇オノマトピア』と『ドドドドライバー』を手札に加える!」

 

小太郎にはすぐに動けるよう待機してもらい、遊馬も手札とフィールドを整えていく。

 

「そして、希望皇オノマトピアを召喚!オノマトピアの効果!1ターンに1度、オノマトモンスターを手札から守備表示で特殊召喚出来る!手札からドドドドライバーを特殊召喚!この瞬間、ドドドドライバーの効果発動!このカードがドドドモンスターの効果で特殊召喚されたターンにドドドモンスターのレベルを1つ上げるか下げることができる!」

 

「オノマトピアはドドドモンスターとしても扱うのでこの効果は適用される!」

 

オノマトピアとドドドドライバーが並び、ドドドドライバーの効果で2体のレベルを変化させる。

 

「オノマトピアとドドドドライバーのレベルを1つずつ下げ、レベルは3となる!レベル3のオノマトピアとドドドドライバーでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

レベル3となったオノマトピアとドドドドライバーが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「異次元への道、果てなき旅路の先……今こそ、終焉の地へと導け!現れろ!『No.26 次元孔路オクトバイパス』!」

 

光の爆発と共に現れたのは機械の体を持つ大きなタコで右頭部に『26』の刻印が刻まれている。

 

「オクトバイパスの効果!自分・相手のバトルフェイズ開始時に、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、このバトルフェイズ中にモンスター1体でしか攻撃出来ない!」

 

オクトバイパスがオーバーレイ・ユニットを体内に取り込み、8本の脚を開いて内側を見せると……そこには異次元への孔路が開かれていた。

 

「しかし、そのモンスターの攻撃は直接攻撃になる!!」

 

「小太郎!オクトバイパスの内側に飛び込め!!」

 

「承知!マスター……あなたを信じます!」

 

小太郎は未知なる領域であるオクトバイパスの異次元の孔路に飛び込んだ。

 

小次郎と風越丸は小太郎がどこに消えたと周囲を見渡したが気配を感じられなかった。

 

すると、二人の背後の空間が大きく歪み、その中から小太郎が現れた。

 

「馬鹿な!?拙者の間合いに!?」

 

「素晴らしい……まさかこれほどの力をお持ちとは……どうやら僕は凄いマスターに出会えたようだ」

 

小太郎は遊馬とアストラルのマスターとして申し分ない力を持ち、感動しながらも目の前の敵を倒す為に全力を尽くす。

 

「即ち此処は阿鼻叫喚……」

 

小太郎の周囲に苦無を両手に持った黒い装束を身に纏った忍者が大量に現れた。

 

それは第五代目頭目である小太郎の部下二百人を霊体であり、小太郎はそれを自身の宝具として召喚したのだ。

 

小次郎が長刀・物干し竿で斬り伏せようとし、風越丸は大刀を振り下ろそうとしたが……既に勝負はついていた。

 

二百人の霊体はまるで機械のように一斉に正確に小次郎と風越丸の周囲を高速で駆け抜けると、灼熱の炎が激しく燃え上がった。

 

やがてそれは巨大な炎の竜巻となり、敵である小次郎と風越丸を阿鼻叫喚の地獄に叩き込む。

 

「大炎熱地獄!『不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)』!!!」

 

「ぐわぁあああああっ!?」

 

小次郎は炎を防ぐ方法が無く全身に熱のダメージが与えられ、風越丸は焼き尽くされて消滅する。

 

「くっ……見事……」

 

炎のダメージを負った小次郎はその場に倒れて動けずにいた。

 

「待ってて、すぐに治療するわ」

 

アイリは治癒魔術を使って小次郎を治癒する。

 

小太郎は小次郎に対して宝具の威力を抑えていたのでそこまでダメージは大きくないので、治療はすぐに終わった。

 

「ううっ……アイリ殿、かたじけない」

 

「ええ。じゃあカルデアに戻りなさい。もう満足したでしょ?」

 

有無を言わせない母の笑みに小次郎は頷くしかできなかった。

 

「……そうだな。すまない、マスター。佐々木小次郎、これよりカルデアに帰還する」

 

「ああ。先に戻ってくれ、小次郎」

 

小次郎をフェイトナンバーズに入れてカルデアに戻し、倒した風越丸から鍵を抜いて最初の大門の扉を開ける。

 

「よしっ!第一の扉をクリアだ!」

 

「まだ先は長いな。最初の用心棒が小次郎だとするともしかしたら他の用心棒は……」

 

「そうだよな……出来るだけ戦わずに済むことを考えないとな」

 

カルデアから消えたサーヴァントの数人がこの先の大門の用心棒になっている可能性が高い。

 

今回は小次郎が小太郎の逆鱗に触れてしまったために仕方なく倒したが、今後は出来るだけ戦闘は避けたいと遊馬は思う。

 

「小太郎殿!」

 

「だ、段蔵殿……?」

 

「見事な宝具でした。風魔の忍と共に地獄の炎を巻き上げて敵を倒す様はとても立派でしたよ!」

 

「ありがとうございます、段蔵殿……」

 

段蔵は小太郎の活躍に何故か自分のことのように喜び、褒められた小太郎は嬉しそうに笑みを浮かべたが、どこか複雑な表情もしていた。

 

 

大門の扉を開け、奥に進むと鬼ヶ島で働かされている人たちの集落を見つけた。

 

しかし、集落といってもスラム街的なもので、必要最低限の文化レベルしか維持ができていないものだった。

 

救出したいがあまりにも人数が多く、鬼に連れ戻されるのがオチなので一刻も早く鬼ヶ島の元凶を倒すのが一番だと考えた。

 

集落の外れに小さな空き家があり、鬼ヶ島に来てから連戦続きで食事もまだしてないので休憩と食事を取ることにした。

 

「オレさ、これでも武家大将の家で育てられたからさ、朝は何もしてねえと凄ぇ膳を出されるんだよ。オレゃあ、あれがちょい苦手でな。行儀良く朝飯を食うとかナーバス過ぎるぜ。朝飯は握り飯で十分さ」

 

「ええ、わかります、わかります!僕も朝は簡単なものでいいと言うのに、手下たちがですね、妙に凝った物ばかり出して!」

 

「へぇー、二人ともそれぞれの立場とか身分があるから食事も豪華だったんだな。でもやっぱりデュエル飯……おにぎりは最高だよな!俺は朝食に婆ちゃんが作ってくれてるからほぼ毎日食ってたぜ!」

 

「デュエル飯……おにぎりは最高のご馳走だ。ただ米を握っただけのもので簡単だが力が溢れてくる!」

 

「だよなぁ!やっぱり握り飯は最高だな!」

 

「ええ、すぐに食べられてしかも美味い!言うことはないですね!」

 

遊馬とアストラル、ゴールデンと小太郎の四人でまさかのおにぎりを話題とした語り合いが始まってしまった。

 

おにぎりの語り合いはどんどん熱くなり、男性陣がここまでおにぎりに拘りを見せているので美遊はため息をついてD・ゲイザーでカルデアに連絡する。

 

「すいません……お米とお水、後は何か適当な食材を用意してくれますか?」

 

美遊の要望で米と水などの食材を送ってもらい、空き家にある台所を借りて調理を行う。

 

「ミユって、料理出来るの?」

 

シトナイは素朴な疑問をすると、イリヤとクロエは自信満々に応える。

 

「もちろんだよ!美遊はスーパー小学生メイドなんだから!」

 

「ミユの料理の腕は最高よ!調理実習で高級料理とウェディングケーキを簡単に作れるんだからね!」

 

「ごめん、あなた達が何言っているのかよく分からないわ……」

 

シトナイは美遊が本当に小学生なのか不安に思うほどの才能に戦慄していた。

 

「大したことはしてないよ。それと、クロ。魔術で包丁とフライパンを出せる?」

 

「投影魔術で?まあお兄ちゃんに習ったから出せるわ」

 

クロエはエミヤから投影魔術を教わり、剣や弓などの武器だけでなく包丁やフライパンなども出せるようになっていた。

 

ちなみに包丁は干将・莫耶のような模様が入っており、そこはエミヤのこだわりが入っていた。

 

「ありがとう。みんな少し待ってて、すぐに作るから」

 

「美遊殿、私もお手伝いします」

 

一人で料理を始めようとしたが、そこで段蔵が手伝いを名乗り出た。

 

「段蔵さん……料理が出来るんですか?」

 

「はい。サーヴァントの身で作るのは初めてですが、問題なく作れます」

 

「それじゃあ……お願いします」

 

からくり人形の段蔵が料理が出来ることに驚いたが、試しに頼んでみた。

 

すると、段蔵は手際良く料理の下拵えをしていき、美遊も料理がしやすかった。

 

「英霊って、サーヴァントって……本当に不思議……」

 

美遊は一緒に料理をしている段蔵を見ながら英霊……サーヴァントが本当に摩訶不思議な存在なのだと改めて思い知らされてそう呟くのだった。

 

 

 




次回は一気に話を進めていきたいと思います。
このペースなら鬼ヶ島編は6月中に終わると思いますね。
そしたら、夏休み編に突入して……ああ、まだまだやることいっぱいやで。


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ナンバーズ151 母は強し

今回は次回の区切りとか少し短めになりました。
次回は出来るだけ早めに更新したいです。


美遊と段蔵が作ったおにぎりとそれに合う和食のお(かず)で食事が始まり、男性陣は子供のようにはしゃぎながら食べる。

 

「うんめぇ!美遊ちゃんは本当に料理が上手だな!」

 

「確か歳が十一になったばかりだろ?その歳でこんなに美味え飯が作れるなんてもはや天才だぜ!」

 

「ええ、それと……段蔵殿が作ったお菜も、とても美味しいです……」

 

遊馬とゴールデンと小太郎は美遊と段蔵を褒めまくった。

 

ちなみに、食べられないアストラルは羨ましそうに遊馬を見つめていたが、今は我慢だと皇の鍵の中に入ってしまった。

 

「料理も美味いし、家事も出来る!これはいつ嫁に行っても問題ないな!」

 

「あ、ありがとうございます……金時さん……」

 

金時に褒められて少し恥ずかしそうにする美遊。

 

そんな美遊に対し、イリヤとクロエは美遊が結婚した時のことを色々と妄想する。

 

「ミユがお嫁さんか……うーん、メイド服も良いけど、やっぱり新妻ならフリフリのエプロンだよね〜」

 

「何言ってんのよ。その前に結婚式で着るドレスでしょう?ミユのウェディングドレス姿は綺麗でしょうね。もしルヴィアが用意するなら最高級で素敵なウェディングドレスで決まりね!」

 

「甘いわ!コンビニのプリンよりも甘いわよ、クロ!ウェディングドレスは女の子の夢!確かにミユによく似合うと思うけど、純日本人で綺麗な黒髪のミユなら白無垢が一番よ!」

 

「し、白無垢ですって!?くっ、イリヤにしては良いアイデアじゃない。でも今時、白無垢……神社で結婚する人は少ないんじゃないの?」

 

「確かに少なくなっているけど、だったら両方やれば良いよ!ルヴィアさんに提案すれば、喜んで両方やるよ!」

 

「それもそうね。女の子の一生の思い出なら欲張らないとね。ちなみに私はもちろん、ウェディングドレス♪お相手もちろん、お兄ちゃんで♪」

 

「ちょっと、クロ!?何勝手なことを言ってるのよ!?お兄ちゃんの相手は私だよ!私だって、ウェディングドレスを着たいもん!」

 

「わ、私も……!それなら、みんなで一緒に士郎さんと……!奪い合うくらいなら、みんなで一緒に分かち合おう……!」

 

イリヤとクロエと美遊で並行世界の衛宮士郎との結婚を夢見て妄想を膨らませていた。

 

そんな光景を見たアイリは微笑ましく見守り、シトナイはため息をつく。

 

「あらあら、並行世界のシロウは大人気ね。こんなに可愛い女の子達に慕われているなんて」

 

「やっぱりシロウは並行世界でも女の子にモテモテのシロウなんだね。ああ、シロウ……大丈夫、あなたじゃないから。私の義理のお兄ちゃんの話だからね」

 

シトナイの隣で寝ていた白熊のシロウは「呼んだ?」と言わんばかりの表情を浮かべたが、それは自分の義兄の事だとシトナイは苦笑しながら説明した。

 

そんな話を聞いた遊馬はふとある事を思った。

 

「モグモグ……なあ、アストラル。そう言えば気になってたんだけど、義理の兄と妹で結婚って出来るのか?」

 

一応自分も妹分の桜と結婚の約束をしているので念のためにアストラルに聞いてみた。

 

「……一応可能だ。血の繋がってないなら、法律上の問題ない。もしも仮に君が実の姉と明里と結婚するとなれば話は別だがな」

 

「いやいやいや、姉ちゃんは家族としては大好きだけど、流石に結婚なんてあり得ねえって。はっはっは!」

 

遊馬は姉の明里は家族として大切だが、同時に最大の恐怖の対象でもあるので天地がひっくり返っても恋愛対象になることは絶対にない。

 

絶対にあり得ないと思いつつも一瞬だけ想像したら全身に寒気が走る遊馬だった。

 

「そう言えば婆ちゃんが姉ちゃんに婚活とか見合いを勧めてるって言ってたな。でも姉ちゃんみたいなキツイ性格の人を嫁にもらってくれる男はいるかなぁ?」

 

姉の明里に対してかなり酷いことを言ってる遊馬。

 

もしもこれが明里にバレれば遊馬の命の灯火が消えることは間違いないだろう……。

 

 

食事が終わり、遊馬達は次の大門に向けて出発した。

 

しばらくすると関所のような場所が見えてきて、そこには大量の鬼がいた。

 

強行突破も危険なので何か作戦を練ることになった。

 

「ねえ、あの鬼達をセイバーの約束された勝利の剣で一掃する?」

 

イリヤはセイバーのクラスカードを見せながら提案した。

 

「イリヤ、セイバーはクラスカードの中でも切り札になるカードだから最後に取っておいた方がいい」

 

「他のカードで使えそうなのを使ったら良いんじゃない?他に対多数戦闘に使えそうなのは……」

 

美遊とクロエはイリヤに待ったをかけて、セイバー以外で他のクラスカードで有効なものを考える。

 

「セイバー……アーサー・ペンドラゴンの約束された勝利の剣まで使えるなんて……クラスカード、とんでもない魔術礼装ね」

 

シトナイはセイバー……アルトリアのことをよく知っているのでその聖剣・約束された勝利の剣すらも使えるクラスカードに驚きを隠せなかった。

 

「イリヤ、美遊。すまないが、改めて6枚のクラスカードそれぞれの限定展開と夢幻召喚の能力を教えてくれるか?私も有効な作戦を考える」

 

「はい!」

 

「分かりました」

 

イリヤと美遊は6枚のクラスカードの限定展開と夢幻召喚の現段階で判明している能力の全てを説明した。

 

その能力を参考に関所の鬼達を倒す短期決戦の作戦が練られた。

 

その作戦の要はゴールデンとイリヤだった。

 

ゴールデンはゴールデンベアー号の準備を整え、イリヤはセイバーのクラスカードに匹敵するクラスカードを手に持つ。

 

「はぁ……ふぅー……行ってきます」

 

緊張で胸が張り裂けそうになるのを抑え、遊馬からD・ゲイザーの予備を借りて装着して走り出す。

 

すると、関所の鬼達がイリヤに気付いてぞろぞろと湧いて出て襲い掛かってきた。

 

「行くよ、ルビー!」

 

「イエス、マイマスター!行っちゃってくださーい!」

 

「夢幻召喚『ライダー』!!!」

 

イリヤが夢幻召喚したのはライダーのクラスカード。

 

クラスカードをその身に宿した瞬間……眩い白い光と共に勢い良くその場から駆け上り、襲ってきた鬼達を吹き飛ばす。

 

イリヤは鬼達の上空を飛んでおり、跨っていたのは翼を持つ美しい白馬・ペガサスだった。

 

イリヤが使用したクラスカード・ライダーにはギリシャ神話の反英雄・女神メドゥーサの力が宿っている。

 

イリヤは魔法少女からメドゥーサと同じ黒を基調としたボディコン服を纏い、その手には鎖付きの鉄杭が握られている。

 

唯一違うのは本来ならばメドゥーサのスキルである石化の魔眼を制御する為の両眼を覆うバイザーが右目を覆う眼帯となっていることだった。

 

これはクラスカードと使用者の相性による弊害の影響らしく、ライダーのクラスカードはイリヤとの相性が少し悪いらしく、石化の魔眼のランクが少し下がっている。

 

「石化の魔眼……キュベレイ!」

 

眼帯を外し、右眼のみで石化の魔眼を発動して鬼達、全ての動きを止める。

 

魔眼のランクは下がっているが、それでも鬼達には絶大な効果を発揮しており、まるで石になったように動けなくなっていた。

 

イリヤは短剣を光の手綱にしてペガサスに掛けると、D・ゲイザーで地上でゴールデンベアー号のエンジンをふかしているゴールデンを呼ぶ。

 

「金時さん!」

 

『ゴールデンと呼びな、イリヤの嬢ちゃん!』

 

「ゴ、ゴールデンさん!行きまーす!」

 

『応よ!!ライダー同士、派手にカッ飛ばそうか!!』

 

「はいっ!」

 

流星の如く天を翔けるペガサスと龍の如く地を駆けるゴールデンベアー号が鬼達を狙う。

 

「『騎英の手綱(ベルレフォーン)』!!!」

 

「『黄金疾走(ゴールデンドライブ)』!!!」

 

天と地の同時攻撃で動けなくなった鬼達に突撃する。

 

純白と黄金の輝きが花火のように派手に輝くと、鬼達は全て消滅し、後に残ったのはイリヤとゴールデンの二人だけだった。

 

「『夜狼死九(グッドナイト)』……!」

 

「え、えっと……おやすみなさい(グーテ ナハト)……」

 

ゴールデンはトドメの決め台詞を言うと、イリヤも慌てて何か言おうと思いついたのが、「おやすみなさい」をドイツ語で言ったのだ。

 

「やるじゃねえか、イリヤの嬢ちゃん!」

 

「は、はい!ありがとうございます、ゴールデンさん!」

 

ゴールデンはイリヤを褒めてワシャワシャと頭を撫でた。

 

二人の活躍でこの関所にいた鬼達をほぼ全滅させ、その後は残りの数少ない鬼達を退治し、遊馬達は次の大門に向けて再出発する。

 

 

一方、カルデアでモニタリングをしているサーヴァント……メドゥーサは自身の力が宿るライダーのクラスカードを使ったイリヤの戦いを見てコメントを出す。

 

「まさか私の宝具のペガサスまで使うとは。魔眼を含めてランクや威力は下がっていますが、それなりに使えてますね。まあ、及第点と言ったところですね」

 

相性は悪いが一応ライダーのクラスカードを使ったイリヤの評価を及第点として、ひとまずは認める事となった。

 

それとは別にイリヤの夢幻召喚した姿を評価する。

 

「しかし、若干コスプレ感はありますが、銀髪紅眼の美少女が私と同じ格好で片目眼帯……なかなか良いですね。ミユのも是非見てみたいですね」

 

妙なスイッチが入ってしまったメドゥーサは戦いよりも見た目を高評価を出した。

 

実はメドゥーサは自分の長身がコンプレックスになっていて、自分の姉のステンノとエウリュアレのような幼く可愛らしい少女の姿こそが、彼女の理想像である。

 

幼く美少女であり、素直で良い子の妹キャラであるイリヤが自身と同じ格好をしていることに少なからず嬉しく思うのだった。

 

 

第二の大門にようやく到着し、そこに待ち構えていた用心棒は……。

 

「はい、それはもうご期待通りに☆第二関門で待ち受ける美女は私──自主的に御神酒を拝借した頼れるアナタの巫女狐、ほろ酔い美人の玉藻の前ちゃんなのでしたー!」

 

「やっぱり玉藻か!」

 

「しかも酔っ払っているぞ!?」

 

最初の用心棒の小次郎で次は玉藻が来るかもしれないとある程度予想していたが、まさか酒を飲んで酔っ払っているとは予想外だった。

 

「何やってんだよ、フォックス!」

 

「おや。あちら、金時さん。今回は愉快なオモチャに乗っての顕現ですか。はぁー。いいですねぇ、殿方は。いくつになっても単純、純粋でいらっしゃる。心の機微より即物的な快楽さえあれば満足できるのですから。ハイハイ、カッコイイデスネ」

 

何故か玉藻はいつも以上にやさぐれて目が据わっており、明らかに何かに不満などを持っているようだった。

 

話を聞くと日本出身で三大妖怪でもある玉藻はこの鬼ヶ島の舞台で活躍するのを楽しみにしていたのだ。

 

鬼ヶ島なので桃太郎の三匹のお供の犬枠になれると確信してずっとオファーを待っていたのだ。

 

しかし、いつまで経っても遊馬達が来ないので、出番を貰うために近くの茶屋で貰った酒を飲んでハイテンションになりながらこうして用心棒となったのだ。

 

「だったらすぐに俺たちのところに来れば良かったのに。別に桃太郎の三匹のお供枠とか決めてなかったし」

 

「うるさいうるさーい!女は時に、迎えに来て欲しいものなのですよー!」

 

「そうよね、女心は複雑なものよね。自分で行く時はグイグイ行くけど、迎えに来たい時は迎えに来て欲しいからね」

 

玉藻の心情に同意したアイリはうんうんと頷く。

 

「おや、アイリさん。それに娘さん達もご機嫌よう……って、何かもう一人アイリさん似の子が増えている!?ちょっと!いつの間に増やしたんですか!?」

 

玉藻はいつの間にかもう一人増えているイリヤと同じ顔のシトナイにビックリした。

 

「増やすも何も、この子も私の大切なイリヤよ♪」

 

聖母のような優しい笑みを浮かべるアイリからキラキラと輝くような光が見えて玉藻は全身に寒気が来るほどの戦慄が走る。

 

「くうっ!?良妻を目指す私に見せびらかすようなその余裕の笑み……良妻どころか、それを越える良妻賢母……!?流石はアイリさん、カルデア屈指の子持ちの奥さん!」

 

「ありがとう。ところで、カルデアに帰らないの?あなたが戦う理由は無いんじゃないの?」

 

「いいえ!もう後には引き下がれません!ここは良妻を目指す為にアイリさん、あなたに挑戦します!共に戦う青鬼は技喰丸と申します!」

 

玉藻の背後に現れたのは大きな鈍器を担ぐ青鬼だった。

 

「技の化身たるこの大鬼と、愛する人を喜ばせる多数のワザに定評のあるこの私。小手先の技は通じませんよ!」

 

「あら?愛する夫のキリツグを喜ばせる技なら誰にも負けないわよ?」

 

「やめて!娘の前でそんな生々しい発言は!」

 

「今回のママはテンション高めね。まあ、シトナイと再会出来たってのもあるけど」

 

「どうしてお母様はキリツグみたいなダメ男を好きになったんだろう……」

 

アイリの夫婦仲のぶっちゃけた発言にイリヤとクロエは顔を赤く染め、キリツグを嫌っているシトナイは何故両親が結婚したのか……本気で考えて悩むのだった。

 

ちなみにシトナイの「ダメ男」発言でガラス並みに脆くなっているキリツグの心にクリティカルヒットし、管制室で撃沈しているのは言うまでもない。

 

「さーて、可愛い娘達もいることだし、ここは母親として少しはかっこいいところを見せましょう!」

 

「姫様、お供します。ワタシは隣の青鬼を退治します」

 

段蔵はアイリのお姫様オーラから「姫様」と呼び、貴族出身のアイリはそれに応える。

 

「ありがとう、ダンゾウ。気をつけてね」

 

「はい」

 

アイリは玉藻、段蔵は技喰丸の相手をする。

 

アイリを心配してイリヤ達はいつでも動けるように準備をし、段蔵の強さを誰よりも知っている小太郎は特に心配せずにそのまま見ている。

 

「加藤段蔵……参ります!!」

 

段蔵は素早い動きで走り、全身に武器が仕込まれた絡繰人形の体を生かした「絡繰忍法」で戦う。

 

肘の隠し刃で体を回転しながらの斬り付け、腕からのワイヤーアームの射出し、果ては両腕からガトリングガン、背中からミサイルを撃ち……とても戦国時代に作られたとは思えないハイスペックな絡繰人形だった。

 

技の化身の技喰丸ですら対処出来ない段蔵の多種多様の絡繰忍法で追い詰めていく。

 

そして、段蔵は技喰丸にトドメを刺すために宝具を発動する。

 

「風よ集え。果心礼装起動」

 

段蔵が両手を前に突き出すと、両手が風車のように回転して周囲の空気が収束される。

 

すると、技喰丸は対処できずに吸い寄せられていき、収束した空気が真空の刃と化し、段蔵は全てを解き放つ。

 

「『絡繰幻法・呑牛』!」

 

真空の刃によって技喰丸を圧縮粉砕すると同時に派手にぶっ飛ばし、大門の壁に激突させる。

 

壁が破壊されるぐらいの威力でぶっ飛ばされ、技喰丸は瞬く間に退治された。

 

「わ、技喰丸があっさり!?」

 

「まあ、ダンゾウったら凄いわね。流石はカラクリニンジャ!さてと、私もそろそろ……終わらせましょう!」

 

アイリはシュトルヒリッターで小鳥や短剣の形にして飛ばし、玉藻は呪術で応戦する。

 

アイリの宝具は自身に宿る聖杯の力で味方を癒すサポート系の宝具なので、直接的な攻撃ではない。

 

玉藻の宝具もサポート系なので攻め手に欠けるので戦いは互いにジリ貧になるかと思われたが……。

 

「ちょちょ、ちょっとぉ!?何ですかそれは!?」

 

玉藻はアイリが繰り出した魔術に驚愕した。

 

アイリはシュトルヒリッターで針金を芸術品のように綺麗に編んでいき、小鳥や短剣よりも更に巨大なものを作っていく。

 

出来上がったのはまるで巨人が振り下ろすかのような巨大な握り拳だった。

 

アイリはニコニコ顔で右手を挙げるとシュトルヒリッターの拳が玉藻の上に移動する。

 

逃げられないように玉藻の足を針金で縛り、まるで罪人に裁きの鉄槌を下すかのような状況に玉藻は涙目になった。

 

「いやいやいや!流石にこれはちょっとやり過ぎでは……お待ち下さい!謝りますから、すぐにカルデアに帰りますから、どうかご勘弁を……」

 

「ダーメ、少しは反省しなさい♪」

 

「フギャア!?」

 

シュトルヒリッターの拳が振り下ろされ、玉藻はその巨大な拳に押し潰されて撃沈した。

 

拳の針金を解くと、玉藻は気絶して頭に軽くタンコブが出来ており、イリヤとクロエは無意識に自分の頭を摩った。

 

「あれって、物凄く痛いんだよね……」

 

「イリヤさんとクロエさん、アイリさんから喧嘩両成敗って、容赦なく叩き落とされましたからね〜。いやー、あれは恐ろしいお母さんです」

 

「私なんてイリヤの感覚共有で二発分喰らったんだからね……」

 

実はイリヤとクロエも自分達の世界のアイリからシュトルヒリッターの拳を喰らったことがあるのだ。

 

その時のアイリによる理不尽なまでの容赦ない攻撃を思い出して頭を摩り続けた。

 

気絶した玉藻をアイリは首根っこを掴んでズルズルと引き摺り、遊馬の前に突き出した。

 

「マスター、タマモをカルデアに」

 

「お、おう……」

 

普段から想像出来ない容赦ない姿に遊馬は苦笑いを浮かべて頷き、玉藻をフェイトナンバーズに入れてカルデアに転送した。

 

玉藻をあっさりと倒したアイリにゴールデンはひそひそ声でイリヤ達と話す。

 

「なあ、嬢ちゃん達……お前ん家の母ちゃんはかなり怖えな……」

 

「ママはうちの家の序列のトップで、神と称しているので……」

 

事実、アイリはアインツベルン&衛宮家の家族の序列のトップで、夫のキリツグもアイリには逆らうことはできない。

 

しかも今のアイリには並行世界を含めた3人の愛娘のイリヤがいるのでサーヴァントとしても無意識のうちにいつも以上にかなり強化されている。

 

母は強しとはまさにこの事である。

 

倒した技喰丸から鍵を取り、大門の扉を開けると鼻に微かな酒気を感じる。

 

「この酒の匂いは……?」

 

「なるほど、この先に玉藻が酔うほどの酒があるということだな」

 

「お酒という事はやはり……」

 

玉藻を酔わせる酒とそれを提供している謎の茶屋。

 

シトナイと小太郎と段蔵を除き、遊馬達の脳裏には二人のサーヴァントを思い浮かべるのだった。

 

 

 




ラスベガス復刻でそしたらすぐに新しい夏イベが来そうですね。
今年のネタはどうなることやら……。

夏に合わせてこちらも夏イベの小説を頑張って書いていきたいと思います。


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ナンバーズ152 仲間を守る覚悟

今回は遊馬と頼光さんで一悶着あります。
頼光さん好きなので遊馬とフラグを立てる意味を込めて(笑)


第二の大門を突破し、玉藻が酒を飲んだという茶屋に向かう。

 

茶屋は集落の中にあり、遊馬やマシュ、金時にとって嗅いだことのある酒気だった。

 

そして、集落の中で一際目立つ立派な茶屋があり、そこにいたのは……。

 

「はーい、いらっしゃい、いらっしゃい。鬼も人も関係あらへんよ。喉が乾いとるんやったら、遠慮せんとおいでやす。ほれ、茨木。あんたもちゃんと客引きしぃやー」

 

「うう、なぜ吾が人間に愛想笑いなぞ……」

 

平安時代で大暴れした三大妖怪の一角・酒呑童子と鬼の頭領・茨木童子の二人だった。

 

その酒呑と茨木が何故か茶屋を開いて人間と鬼関係なしに酒を振る舞っていた。

 

酒呑はノリノリで接客し、茨木は嫌がっていたが酒呑の有無を言わせないパワハラによってヤケクソ気味に接客をしていた。

 

「「「やっぱり……」」」

 

「フォウ……」

 

「マジでアイツらかよ!?ひねりもクソもねぇストレートな展開だな!?」

 

ある程度展開を予想していた遊馬達は同時に呟き、ゴールデンは予想通り過ぎて逆に驚愕した。

 

「なんや小僧、ようやく到着したん?思うたより遅かったなあ?」

 

「クアっ!坂田金時、それに馬!?」

 

「だから遊馬だって。茨木、いい加減に名前呼んでくれよ」

 

「ふん!汝なんぞ馬で十分だ!」

 

「とにかく本題だ、茨木、酒呑!テメェら、こんな島を造って何を企んでやがる!」

 

ゴールデンはこの鬼ヶ島を作ったのが酒呑と茨木の二人だと思い込んで早速問いただした。

 

「──ほ?」

 

「──やっぱりなあ。そら、うちの言った通りやろ、茨木?」

 

「──ふ。ふふ。くはははは!愚昧なり、愚昧なり金時!吾らは汝の大敵よ!そのような問いに答える義理は──」

 

「そうやそうや。うちらはなーんも答えへんよ。だって、この島と何の関係もあらへんのやし」

 

「しゅ、酒呑ー!そんなに素直に教えなくてもよいではないかっ?」

 

「すぐに分かる事や、そこは勿体つけへんでもええやん。はあ。茨木は遊びのツボが分かってへんのやねぇ。それに、旦那はんがいるんやから遅かれ早かれ教える必要があるやろ?」

 

「う、く……だ、だが、金時は敵同士なのだし……壺などと言われても、陶芸とか分からぬし……」

 

どうやらこの鬼ヶ島を作ったのは酒呑と茨木の二人ではないようだ。

 

二人ともそんな嘘を言う性格でもないし、茨木に関しては鬼を振る舞っているが内面は素直なので清姫がいなくても嘘でないとすぐに分かる。

 

「あれが鬼か……なんか頭に角が生えた可愛い美少女にしか見えないわね」

 

シトナイは鬼とのイメージがまるで違う酒呑と茨木の第一印象をそう感じた。

 

「まあ酒呑は自由気ままな性格だけど、茨木は結構真面目で親しみやすいぜ。カルデアで子供達と一緒に遊んだり、甘いおやつを食べたりしているし」

 

「えっ……?鬼が、子供と遊んでおやつを……?」

 

「おいこら、馬!汝は何ふざけたことを言ってるのだ!?」

 

「え?だって事実じゃん」

 

「カルデアでは既に周知されているな」

 

「そうですね、茨木さんは鬼ごっこや隠れ鬼とか……日本で鬼の名がある遊びをやっていますね」

 

遊馬とアストラルとマシュはカルデアでの茨木の普段の生活を赤裸々に暴露していき、茨木は顔を真っ赤にして怒りが沸沸と湧いてくる。

 

「ぐぬぬ……こ、こうなったら鬼としての威厳を見せる為に今からでもそこの童達に恐怖を与え……」

 

「やっちゃえ、シロウ!」

 

「ガァオオオオオ!」

 

イリヤの指示にシロウの目がキラリと輝かせて野生の本能を解放し、鋭利な牙と爪を見せながら茨木に襲い掛かる。

 

茨木は慌ててシロウの攻撃を回避し、見たことない白熊に驚愕した。

 

「にゃんとぉ!?な、何なのだこの怪物は!?こんな白くて怖い怪物は初めて見たぞ!?」

 

「白熊は日本には存在しない北極などの寒い地方に生息する動物だ。そして、白熊は陸上において世界最強クラスの肉食動物だ」

 

「あなたなんて、全然怖くないわ。バーサーカーの方が絶対に強いもん!」

 

「バーサーカー?吾もバーサーカーだぞ!」

 

「あなたじゃないわ。カッコよくて大きくて強い、最強で最高のサーヴァントだもん!」

 

シトナイが自信満々に言うバーサーカーは互いに強い絆で結ばれた唯一無二のサーヴァント。

 

そのバーサーカーはカルデアに所属しているのだが、バーサーカーの残された僅かな理性で自分を抑えていた。

 

まだ会わない方が良い、自分の力が必要な時が来るのを待ち、必死に耐えていた。

 

酒呑は茨木と戯れあっているシトナイを見て興味深そうにイリヤやアイリと見比べる。

 

「何や可愛い娘やな。おや?よう見たらイリヤやクロエ同じ顔……アイリはんにそっくりの子やないの。アイリはん、いつの間にキリツグはんと子作りしたんか?」

 

「もう、シュテンたら。シトナイを……イリヤを産んだのはもうずっと前のことよ?キリツグとは最近……」

 

「ママ、ストップ!それ以上はお願いだからやめて!」

 

アイリの夫婦仲の良さを暴露する前にイリヤが無理やり口を抑えて阻止する。

 

年頃の娘たちの前でそんなことを暴露されたら恥ずかしくてたまったもんではない。

 

その後、茶屋は一旦閉めてお客には心苦しいが帰ってもらい、遊馬達だけで改めて酒呑と茨木から話を聞く。

 

この鬼ヶ島はいつのまにか出来ており、鬼達も酒呑や茨木ですら知らない全く異なる別の鬼だった。

 

この島をめちゃくちゃにしようと考え、その一歩として島の宝物庫に忍び込むと面白い杯を見つけた。

 

その杯には酒が沸いており、試しに飲むとそれは羅生門の特異点の元凶である、聖杯に似た『願いを叶える酒杯』と同じ酒の味だった。

 

しかし、羅生門の時ほどの力は持ってない飲んだモノを酔わせる程度の酒らしく、玉藻が酔ったのもその影響だった。

 

せっかくなのでみんなを酔わせるためにこの酒を使って茶屋を開き、遊馬達とゴールデンが来るまで待っていて現在に至る……と言うことだった。

 

「さてと、話が終わったところで名残惜しいけど店仕舞いにしよか。旦那はんと小僧が来てくれたからな」

 

「やっと、接客から解放されるのか……」

 

「と言うわけで、うちと茨木は旦那はんのもとに戻るで。この前の借りをきちんと返さんとあかんからな」

 

酒呑は羅生門の時の借りを返すために遊馬の元に戻ると宣言する。

 

元々酒呑と茨木は遊馬のサーヴァントなので小次郎や玉藻の時と違って戦う理由は無いので同行させてもらうことにした。

 

「マスター、鬼の酒呑童子と茨木童子が一緒で大丈夫ですか……?」

 

小太郎は初対面なので本当に酒呑と茨木が一緒で大丈夫なのかどうか遊馬に確認した。

 

「心配すんなって。二人共俺の大切な仲間だからさ」

 

「承知しました……」

 

遊馬にはマスターの証である令呪もあるので、とりあえず酒呑と茨木が裏切ることはないだろうと納得する。

 

一方、ゴールデンと酒呑はカルデアでのいつもの光景と言わんばかりに追いかけっこをしていた。

 

ライダーで顕現し、バーサーカーとはまた違った雰囲気のゴールデンに酒呑は欲情し、二人は追いかけっこをしていた。

 

ゴールデンはゴールデンベアー号を使う暇もなく必死な形相を浮かべながら全力疾走で逃げており、遊馬達はそろそろ酒呑を止めようと思った……その時だった。

 

「──っ!?よっと!」

 

酒呑は背後に何かの気配を感じ取り、振り下ろされた銀色の一線を間一髪で避けた。

 

「あら……かわされましたか。残念です」

 

そこに現れたのは刀を構えていた謎の女武者だった。

 

「貴様はッ……!」

 

「……やっぱりなあ。あんたはんが出てくる頃やと思ったわ」

 

その女武者を見た茨木と酒呑は今まで見たことのないほどの嫌な相手に会ったと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

そして、ゴールデンは驚愕しながらその女武者の名を呼ぶ。

 

「……まさかとは思ったがよ。なんでアンタがここにいやがる、頼光の大将!」

 

「頼光の大将って、まさか!?」

 

「彼女が源頼光だと言うのか!?」

 

源頼光。

 

平安時代で数々の妖怪を討ち果たしてきた最強の神秘殺し。

 

ゴールデン・坂田金時を始めとした『頼光四天王』を率いて都を守護した。

 

しかし、頼光は記録によれば男性のはずだが、どこをどう見ても女性であり、頼光はゴールデンに向けて厳しい表情をした。

 

「いけません金時。いつも言ってるでしょう。皆さんといる時は礼儀正しい言葉を使いなさい、と。それに……ここにいやがる、とはあんまりな物言い。まるで私が厄介者のようではありませんか……もし、もし、本当にそんなことを思っているのだとしたら……母は……泣いてしまいますよ……?」

 

子供を躾けるような厳しい表情から一転し、子供に嫌われて悲しむ母親のように涙を浮かべる頼光に遊馬達は唖然となった。

 

「うんうん、その気持ち……よく分かるわぁ」

 

ただ一人、娘を持つアイリだけは深く頷いて頼光の気持ちに同意した。

 

「ゴールデン、さっきあの人……母って言ってたけど……」

 

「勿論、実の母親じゃねえよ。オレっちを引き取って育ててくれた、大恩あるひとなのは確かなんだが──頼光の大将は最初からこうなんだよ。『私は姉ではなく、母として貴方を鍛えます』ってな。ま、だから、あれだ。義理の母親みてーなものではあるっつーか。武芸の師でもあるっつーか……」

 

「なるほどなー」

 

「そんな……義理だなんて。母はそんな風に貴方を育てた覚えはありません……」

 

「……ゴールデン、頼光さんめっちゃ涙目なんだけど、大丈夫か?」

 

凛々しい女武者の姿は何処に行ったのやら、今にも大泣きしそうな頼光にゴールデンは慌てて慰める。

 

「あー、別に迷惑じゃねえよ迷惑じゃ!むしろ久しぶりに会えて嬉しいっつうの、頼光の大将!」

 

「まあ。金時、嬉しいことを言ってくれますね。うふふ、母もです。元気な貴方の姿が見られて幸せですよ」

 

頼光は泣き止み、ゴールデンと再会できたことを心から喜んでいた。

 

ところが……。

 

「──本当。その周りに、目障りな虫が飛び回っていなければ、更に幸せだったのですが」

 

頼光は酒呑と茨木を殺気を込めた瞳で睨みつけて刀を構える。

 

酒呑はやれやれと言った呆れた様子で話す。

 

「相変わらずやなあ、頼光。子離れできん母親は嫌われんで?ま、その苦労も今回までのようやけど。あんたはん、いよいよ──」

 

「酒呑ッ!」

 

頼光は酒呑の首を切り落とす勢いで地を蹴って刀を振り下ろしたが、それを読んでいた酒呑はサッと回避する。

 

「虫と言の葉を交わす気はありません。消えなさい、疾く消えなさい。誅伐、執行!」

 

「仕方ないな、ここで決着つけようかー?」

 

鬼……酒呑に対して明らかに嫌悪感を出して刀を振るう頼光と呆れながら剣を構えて応戦しようとする酒呑。

 

因縁の二人が本気で戦えばただで済むわけがない。

 

「やべぇ……ま、待ってくれ!頼光の大将!!」

 

ゴールデンが二人を止めようとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

「何やて……!?」

 

頼光と酒呑童子は同時に目を見開いて驚く。

 

二人の刀と剣はまだ互いに届いていないが、振り下ろされた頼光の刀には……。

 

ポタン……ポタン……。

 

「くっ……痛ぇっ……」

 

遊馬は頼光の刀を左手首のデュエルディスクで受け止め、右手で刀の鍔元を握ったが、それだけでは振り下ろされた勢いは止まらず、刀の刃が遊馬の左肩を少し斬っていた。

 

「な、何をしているのですか!?離しなさい!」

 

頼光は慌てて遊馬から刀を外そうとしたが、遊馬は全力で刀を押さえて離さなかった。

 

「離さねえよ……離したら、こいつで酒呑の首を斬ろうとするからな……」

 

鍔元を握る力を強くし、右手からも左肩ほどではないが血が流れていく。

 

「だ、旦那はん!うちのことは気にせずにすぐに離れるんや!その刀はめっちゃ切れ味が凄いんやで!?」

 

まさか遊馬が自分を庇ってくれるとは思わなかったので酒呑は珍しく平常心を失って大慌てする。

 

「知ってるさ。源頼光の刀……名刀・童子切安綱。平安時代にこいつで酒呑の首を切り落とした。そして、未来では天下五剣の一つとして崇められ、日本刀で最初の国宝に認定されたぐらいだからな……!」

 

遊馬は羅生門の特異点の後にゴールデン達のことを調べており、そこには当然頼光の名前もあったので調べると所有していた刀が日本ではかなり有名なものであると知った。

 

やはり日本人なのでやはり刀に魅力があるので、同じ名刀である九字兼定を使う空からも童子切安綱の話は聞いていたのだ。

 

「悪いな、頼光さん。あんたが引いてくれるまでは俺も引くわけにはいかないからな……!」

 

「あ、あなたは鬼を庇うのですか!?何故ですか!?人に仇なす存在は、鬼は殺さねばなりません!」

 

「ああ、それは分かってるよ……だけどな、俺は馬鹿で頭悪いから難しいことは上手く言えねえけど、これだけは言える……」

 

鍔元を抑える力を更に強くし、紅い瞳で頼光を見つめながら遊馬の想いを口にする。

 

「酒呑と茨木は確かに平安時代に鬼として暴れて、あんたやゴールデンたちがそれを退治した。だけど、今の二人はただの鬼じゃねえ……俺のサーヴァント、俺の大切な仲間だ!!」

 

「仲間……!?鬼を、仲間だと言うのですか!?」

 

人間がサーヴァントとは言え、鬼を仲間と断言することに信じられず頼光は声を震わせながら驚愕していく。

 

「ああ!人だろうが鬼だろうが種族の違いなんて俺にとって何も関係ない!一度仲間と認めた奴は何があっても信じ抜く、そして守る!それが俺の、カルデアのマスターとしての覚悟だ!」

 

カルデアのマスターとして、絆を結んだサーヴァント達と共に戦い、守る。

 

その為に鬼である酒呑と茨木を殺そうとする頼光を全力で止めている。

 

人を喰い殺す鬼は許せないが、仲間として人理を救う為に共に戦うことを約束してくれた酒呑と茨木は守る。

 

そんな矛盾した考えと答えだが、そこには遊馬の仲間を二度と失いたくないと言う確固たる覚悟が秘められていた。

 

「覚悟……?」

 

頼光は遊馬の覚悟に呆然とし、童子切の柄を握る力が弱くなる。

 

遊馬はその隙を逃さずにアストラルに向かって大きく叫ぶ。

 

「アストラル!今のうちに酒呑と茨木をフェイトナンバーズに入れてカルデアに送るんだ!」

 

「遊馬……分かった!二人共、少々手荒だが文句は後で聞く!」

 

アストラルは手を輝かせながら前に突き出し、遊馬のデッキケースを操り、中から酒呑と茨木のフェイトナンバーズを取り出した。

 

「だ、旦那はん!後で文句を言わせてもらいますからな!」

 

「遊馬!きっちり説教するから覚悟するのだぞ!」

 

酒呑と茨木は粒子となってフェイトナンバーズに入り、そのままデッキケースに閉まってカルデアに転送した。

 

「虫の……気配が消えた……!?」

 

二人の鬼の気配が完全に消え去り、殺してもいないのに気配が消えたことに頼光は困惑した。

 

「頼光さん、これであんたの宿敵の酒呑と茨木はカルデアって言う場所に強制送還してもらった。もうこの鬼ヶ島の……いいや、この世界の何処にもいないから、追いかけることはできないぜ」

 

遊馬はニヤリと不敵の笑みを浮かべてこの戦いの勝利を確信した。

 

これで頼光はカルデアに強制送還された酒呑と茨木に手出しは出来なくなり、刃を向ける理由は完全に無くなってしまった。

 

「……っ」

 

「もう、刀を納めてくれるよな?頼光さん……」

 

頼光は無言で完全に力を抜き、遊馬も静かに刀から手を離した。

 

そして、遊馬は一気に気が抜けてしまい、その場に座り込んで血が流れる左肩を右手で押さえる。

 

「痛ぇっ……久々にやべえなこれ」

 

初めて日本刀……刃物で傷付いた遊馬はその痛みに必死に耐える。

 

今まで以上にかなり無茶な行動にアストラルとマシュとフォウは大焦りしながら遊馬に駆け寄る。

 

「遊馬!なんて無茶なことを……!?」

 

「遊馬君、大丈夫ですか!?」

 

「フォフォーウ!?」

 

「ああ、なんとかな……流石は天下五剣だ。切れ味半端ねえぜ」

 

イリヤ達も駆け寄り、遊馬の右手と左肩から流れ出る血の量に顔を真っ青にする。

 

「遊馬さんの右手と左肩が血塗れ……ママッ!」

 

「任せて!大丈夫よ、すぐに治癒魔術で傷口を塞ぐから!」

 

アイリの治癒魔術で遊馬の傷を癒していく。

 

傷はすぐに塞がり、痛みも引いたので一同は一安心する。

 

「全く君と言う男は……!」

 

「悪いな、アストラル。それにみんな、心配かけちまって」

 

遊馬を中心にみんなが集まり、遊馬の無茶な行動に色々言い争っていた。

 

一方、頼光はそんな遊馬を見つめて呆然と立ち尽くしていた。

 

「大丈夫か、頼光の大将。いや、大将呼びが二人ってのも締まらねえ。ちょいと昔の呼び名だが、頼光サマでいいかい?」

 

ゴールデンは頼光を心配してそっと話しかけた。

 

「……金時、あの童が……九十九遊馬が、今の貴方の大将なのですか?」

 

「ああ。まさか酒呑を庇うとは思いもよらなかったが、遊馬の大将らしいぜ。あいつは、仲間と世界を守るためなら何でも背負う、諦めずに最後まで戦って希望を掴み取る。そんな男だぜ……」

 

苦笑いを浮かべながらも何処か誇らしげに遊馬を見つめるゴールデン。

 

そんなゴールデンを頼光は寂しそうに見ながら童子切安綱を鞘に納める。

 

「金時、母はもう行きます……」

 

「一緒に来ねえのか?」

 

「まだ、とても困惑しているので……しばらく考えたいのです。あの子には申し訳ないと伝えておいてください」

 

「別に大将は気にしてねえぜ?元々は酒呑と茨木を守るためだったし」

 

「それでもです。金時、また会いましょう」

 

頼光はゴールデンに別れを告げるとその場から静かに立ち去った。

 

ゴールデンは頼光を見送り、姿が見えなくなると頭を掻いて大きくため息をつく。

 

「ったくよ……うちの大将と言い、頼光サマと言い……オレの上司はどいつも無茶ばかりしやがるな……」

 

愚痴をこぼしながら更にため息をつき、遊馬達の元へ戻る。

 

 

茶屋にある酒杯は特に酒を作る以外の力はないので破壊せずにカルデアに転送してもらい、遊馬達は最後である第三の大門に向かった。

 

そこにいる用心棒のサーヴァントはもうすでに誰なのかほぼ分かっていた。

 

「赤……それは情熱の色。燃えさかる炎の色」

 

「清姫……」

 

「清姫さん、何故ここに……?」

 

そこにいたのはカルデアから消えた最後のサーヴァント……清姫だった。

 

「何故?愚問です。私は──私はマスターである遊馬様……いえ、安珍様がいらっしゃる所に必ず現れます」

 

「遊馬の前世を聞かされてもまだ安珍を言うか……」

 

遊馬の前世がアストラルの半身・アナザーだと知ってもまだ清姫にとっては遊馬は安珍の認識らしい。

 

そして、清姫は普段なら絶対に言わない言葉を口にするのだった。

 

「だって──安珍様を慕い、どこまでも追い掛けて追い詰める、愛の忠犬なのですから!」

 

「「「忠犬の意味が何か違う!?」」」

 

「……酒の匂いがします。彼女もたらふくあの酒を飲んでしまったかと……」

 

「蛇なだけに酒は底無しってか……こりゃあ生粋のバーサーカーだぜ……」

 

「しかもとんでもなく酔っ払ってますね」

 

小太郎とゴールデンと段蔵は玉藻よりも明らかに酔っ払っている清姫に呆れる。

 

清姫は酒によって体がふらつきながらマシュをギロリと睨みつけた。

 

「分かってます……マシュさん、あなたが旦那様の犬枠になったのだと!」

 

「いえいえいえ!?私は犬枠になった覚えはありませんが!?」

 

「犬は正直者と言います。つまり、誰よりも嘘を嫌う私こそが犬に相応しい。なのに、ああ──私以外の女性が旦那様に犬と呼ばれるなど!毎夜毎夜、この雌犬め犬らしく鳴いてみせろ。わんわんよーしいい子だご褒美をくれてやろう……みたいな破廉恥なプレイに励んでいるなど!決して許す訳にはまいりません!想像するだけで嫉妬の炎が口から零れます!」

 

どうやら清姫は自分から攻めるだけでなく、弄られたいマゾヒズムな一面があるようで、酒を飲んだことでそれを赤裸々に暴露してしまった。

 

「遊馬がそんな特殊なプレイをする訳ないだろう!?」

 

「そうです!そ、それにそう言うことはまだ早すぎますし、清姫さんの妄想が激しすぎです!」

 

当然遊馬には誰かを弄るような趣味を持ち合わせていない。

 

「犬ね。でも俺がするのはせいぜい……こうやって、フォウの頭や体を撫でるぐらいだぜ?」

 

「フォウッ!」

 

遊馬はマシュの肩に乗っているフォウの頭と体を優しく撫でて、フォウは嬉しそうに声を上げる。

 

「きしゃー!?私の妄想通りじゃないですかー!?」

 

「「「何処が!??」」」

 

清姫は嫉妬で舌が蛇の舌になって青い炎が零れ出てしまい、よく分からない妄想に遊馬達はツッコミを入れる。

 

「……やはり旦那様は、そして旦那様のイヌの座は力尽くで取り戻さなくてはならないようですね」

 

「いや、別に犬枠は特に決まってねえけどな?」

 

「もうただの変態じゃないの!?何なのよあのサーヴァントは!?」

 

ここまで変な性癖のサーヴァントは見たことないシトナイは頭を悩ませながら聞く。

 

「自称、遊馬の嫁だ……」

 

「自称!?大丈夫なのそれ!?ユウマ、あなた本当に大丈夫なの!?」

 

シトナイは清姫の愛の異常さに戦慄し、それに愛されている遊馬に本当に大丈夫なのかどうか心配してしまう。

 

「清姫……」

 

酒によっている清姫はいつも以上に狂っており、普通に対話しただけでは収まらないだろう。

 

下手したらまず第一に自分の恋路を邪魔するマシュや動物分類上(一応)は猫だが見た目的には犬にも見えなくないフォウを真っ先に狙う可能性が大である。

 

「仕方ない、ここは一肌脱ぐかな」

 

「何をするつもりだ、遊馬」

 

「まあ見てなって」

 

遊馬は少し前に出るとその場で座った。

 

あぐらの態勢で座ると、ポンポンと膝を軽く叩いた。

 

「来いよ、清姫。膝枕してやるぞ〜」

 

「ひゃいっ!?び、膝枕!?」

 

「おう、犬枠になりたいんだよな?それなら、膝枕をして頭を撫でてやるぜ」

 

遊馬は酒でいつも以上に狂っているのなら、欲望でこちらに誘い出す作戦に出た。

 

「ひひ、膝枕なんて恐れ多い……!確かに犬ですから旦那様に撫でられたい気持ちはありますが、そんなことをしたら私の身が持ちません……!」

 

清姫は大胆なようで実はかなりの恥ずかしがり屋で一歩を踏みそうで踏み出せない一面がある。

 

「そっか、俺の膝枕は嫌か……仕方ない、フォウ。膝に来いよ、マッサージしてやるぜ」

 

「フォウ〜」

 

フォウがマシュの肩から降りて遊馬の膝に乗ろうとした瞬間。

 

「お、お待ち下さい!!」

 

清姫はとても動き辛い着物姿にもかかわらず、アサシンクラス並みの目にも止まらぬ俊敏さで遊馬の前に座った。

 

「「「早っ!?」」」

 

「旦那様……ぜ、是非とも、お願いします!」

 

「おう。じゃあ、どうぞ」

 

「は、はい……失礼します」

 

清姫は心臓をバクバクと鼓動を激しくさせながらゆっくりと自分の頭を遊馬の膝に乗せて膝枕をしてもらった。

 

遊馬は清姫の望んでいる欲望を出来るだけ叶えるために頭を優しく撫でてあげる。

 

「おー、よしよし。いい子いい子」

 

頭を撫でてもらった清姫は今まで見たことないほどに幸せに満ちていた。

 

「はぅ〜……幸せです。旦那様にこうやって撫でてもらえるなんて……」

 

心から愛している相手に膝枕をしてもらい、頭を撫でてもらった今の清姫は幸せ絶頂で、更には酒を飲んでいたので徐々に睡魔に襲われて瞼が重くなっていく。

 

「清姫、お酒を沢山飲んで眠くなってきただろ?このまま眠ってもいいぜ」

 

「はい……ありがとう、ございます……」

 

すっかり気分が良くなった清姫はゆっくり瞼を閉じてそのまま眠りについてしまった。

 

「さてと、悪いんだけど……俺はこんな状況だから、あの鬼を任せるぜ」

 

大門から大きな邪気が溢れ出て、大門の内側から飛び越えるようにして現れたのは金棒を持った赤鬼。

 

第三の大門を守護する赤鬼、名は轟力丸。

 

力の具現の赤鬼で、力では決して勝てない存在。

 

最後の門番である大鬼の相手……それに名乗り出たのは……。

 

「よーし、それじゃあ今度は私たちの出番ね!力を貸しなさい、妹達!」

 

シトナイが名乗り出て、鬼退治をイリヤ達にも手伝ってもらう。

 

「はい!って、シトナイさんが長女ですか!?」

 

「当たり前よ!こう見えても十八歳のお姉さんよ!」

 

「へぇ、十八歳のお姉さん……待って!?十八歳!?今十八歳って言わなかった!?成人間近なのに私たちと同じ体型!?どういうこと!?」

 

並行世界で違う人生を送ってきたイリヤとシトナイだが、シトナイが十八歳で自分たちとあまり変わらない体型にイリヤは絶望に似た衝撃を受ける。

 

「お、落ち着きなさい、イリヤ!大丈夫よ、私たちはホムンクルスだけどちゃんとママとパパが赤ちゃんの時に人として成長出来る様に魔術で調整してくれたわ!多分……」

 

「多分だけじゃ不安だよ!将来はママみたいに大きくなってナイスバディになるのが夢なのに!」

 

将来的に母のアイリのように成長したいと願うイリヤとクロエは自分の今後の成長に不安が残る。

 

「イリヤ、大丈夫。例え今の姿でも、もしもの時は……私が貰うから!」

 

「何を言っているのよミユ!?」

 

「ミユ!イリヤだけじゃなくて私も一緒に貰ってよ!」

 

「いい加減にしなさい、そこの小学生百合トリオ!いいからキビキビと働きなさーい!」

 

シトナイは「こいつら本当に日本の冬木で育った小学生!?この歳で同性愛とか業が深いわよ!?」と心の中で叫びながら襲い来る頭痛に耐える。

 

「それじゃあ、派手に行くわよ!トレース・オン!」

 

クロエは黒弓を投影し、そこから更に矢と数多の刀剣を投影して一斉に発射する。

 

正確無比に発射された矢と刀剣は轟力丸に突き刺さるがそれだけではあまりダメージを与えられていない。

 

しかし、クロエの攻撃は投影魔術だけではない。

 

エミヤの力が込められているクラスカード『アーチャー』と一体化しているクロエはエミヤも使う必殺技を繰り出す。

 

「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』!!」

 

突き刺さった矢と刀剣の詰まった魔力が全て爆発し、轟力丸にダメージを与えると同時に煙で目眩しをする。

 

クロエが目眩しをしている間にイリヤは轟力丸の間合いに滑り込む。

 

「全力全開……!」

 

ルビーに魔力を込め、まるで剣士が鞘から剣を抜くように思いっきり振り上げる。

 

「最大出力!斬撃(シュナイデン)!!」

 

魔力を薄くして鋭利に飛ばし、イリヤが繰り出せる巨大な斬撃にして轟力丸の体表を切り裂く。

 

「いやー、これじゃあまだまだ倒れませんねー!」

 

「でも、私の役目はこれで充分!ミユ!!」

 

イリヤは砲撃しながら下がり、美遊にバトンタッチする。

 

「サファイア。クラスカード『ランサー』……限定展開!」

 

「はい!」

 

ランサーのクラスカードをサファイアに投げて限定展開を発動すると、サファイアの姿がクー・フーリンの持つ真紅の槍……ゲイ・ボルクに変化する。

 

美遊は槍術を習ったことはないが、持ち前の天才的センスでゲイ・ボルクをまるで自分の愛槍のように華麗に振り回していく。

 

ゲイ・ボルクを操る美遊の姿はクー・フーリンやスカサハにも負けず劣らずの技術だった。

 

「行きます……」

 

呼吸を整え、目を鋭く輝かせると同時に走り出し、高くジャンプしてゲイ・ボルクを轟力丸に向ける。

 

「『 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!」

 

そして、全力でゲイ・ボルクを投げ飛ばし、真紅の閃光が輝く。

 

ゲイ・ボルクの「槍を放つ」よりも先に「心臓を穿つ」という結果が作られるという、因果を逆転させる必殺必中が発動して、轟力丸の心臓を穿つ。

 

しかし、心臓を穿たれても轟力丸は息をしており、自分の胸に刺さったゲイ・ボルクを抜いて投げ捨てた。

 

美遊はゲイ・ボルクを回収して元のサファイアに戻してその場から下がった。

 

「シトナイさん!!」

 

最後のトドメはシトナイに任せた。

 

「ええ、ありがとう……後は、私に任せなさい!シロウ、お願い!!」

 

「ガォオオオオオッ!!!」

 

シトナイはシロウの背中に乗ると、シロウは轟力丸に向かって全力疾走で突進する。

 

突進したシロウが爪で引っ掻いた後に上へと吹き飛ばし、シトナイは氷の弓を構えて魔力を込める。

 

「私の中の女神たち、力を貸して……!」

 

放たれた氷の矢は轟力丸を貫くと、巨大な氷柱となり、轟力丸を氷柱の中に閉じ込める。

 

そして、氷柱の上をシロウは器用に走り、シトナイは氷の弓を消し、氷の魔力を纏うマキリを構える。

 

「『吼えよ我が友、我が力(オプタテシケ・オキムンペ)』!!!」

 

アイヌにて大蛇を斬り殺した山刀(マキリ)の一閃が轟力丸を斬りつける。

 

クロエ、イリヤ、美遊、そしてシトナイの四人による連続攻撃により、力の具現である轟力丸を遂に倒した。

 

シトナイは倒した轟力丸から最後の大門の鍵を取り、笑顔でイリヤ達と合流する。

 

「やるじゃない、あなた達。見直したわ」

 

「はい!シトナイさんも凄い宝具でした!」

 

「私達もまだ自分の宝具がどうなのか分からないので参考になりました」

 

「弓と剣の攻撃、見事だったわ」

 

四人は互いを称えて勝利のハイタッチをする。

 

「凄いわ、みんな。コンビネーションばっちりじゃないの!」

 

四人の愛娘達の活躍にアイリは拍手をして出迎える。

 

「イリヤと美遊とクロエ……三人共、戦いに慣れてきたな」

 

鬼ヶ島での鬼退治を通じて三人は戦いに慣れてきて、コンビネーションも良くなってきたので当初の目的の一つである経験を積ませることが達成したといえる。

 

シトナイは鍵で第三の大門の扉を開き、遂に鬼ヶ島の頂上への道が開いた。

 

遊馬は膝の上で眠っている清姫の頭を撫でながらフェイトナンバーズを取り出す。

 

「悪いな、清姫。帰ったら一緒に飯でも食おうぜ」

 

清姫に謝りながらフェイトナンバーズに入れ、カルデアに転送した。

 

これでカルデアから消えたサーヴァントの回収は無事に終わり、遊馬は勢いよく立ち上がって体を伸ばして気合いを入れる。

 

「──よしっ!いよいよ鬼ヶ島の頂上だ。行こうぜ、みんな!」

 

「「「おうっ!」」」

 

「「「はいっ!」」」

 

鬼ヶ島と羅生門、二つの特異点の元凶である黒幕に会いに遊馬達は頂上への道を歩く。

 

 

一方、カルデアではクー・フーリンがつまらなそうにモニターを見ていた。

 

「ちっ……あの小娘、なかなかやるじゃねえか」

 

美遊が限定展開でクラスカード『ランサー』のゲイ・ボルクを巧みに操り、宝具である『刺し穿つ死棘の槍』を成功させたことに少し腹を立てながらも認めざるを得なかった。

 

「そうだな。十一の娘があそこまでゲイ・ボルクを操るとは見事だ」

 

そこにスカサハが嬉しそうな声を上げてやって来た。

 

「おい師匠、あんたまさか……」

 

クー・フーリンはスカサハの態度にすぐに察して顔が青ざめた。

 

「一目見た時からミユは素晴らしい逸材だと感じた。ユウマも中々だが、ミユの潜在能力はとても高い。私の弟子として、更には養子に迎えたいほどだ」

 

スカサハの悪い癖で遊馬を弟子に迎えただけでは飽き足らず、能力が高くてしかもゲイ・ボルクを見事に使いこなす美遊までも弟子に迎えようと考えていた。

 

しかも美遊はスカサハから見ても美少女とも言える可愛らしく美しい容姿なので、出来れば養子として迎えたいほどの欲が出てきてしまった。

 

「もういい加減にしてくれ……」

 

クー・フーリンは頭を抱えて自分の師匠のマイペースさに呆れ果てるのだった。

 

 

 




鬼であろうとも仲間である酒呑と茨木を守ろうとする遊馬は頼光さんにとっては信じられないことだと思います。
ある意味矛盾を抱えてますけど、一度仲間になった相手を見捨てないのが遊馬ですからね。
次回はいよいよ鬼ヶ島編のクライマックスになるかなと思います。


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ナンバーズ153 源頼光の真実

久々に本文がかなり長めになりました。



第三の大門を抜けて遂に鬼ヶ島の頂上に到着した。

 

頂上なので見晴らしはとても良いが、天候も黒雲が浮かんで雷が鳴っており、とても不吉な気配に満ちていた。

 

いよいよ鬼ヶ島の鬼退治も大詰めを迎えようとしていた。

 

「遊馬、広場の中心を見ろ!」

 

「あれは……聖杯……いや、でも今まで見た中で一番邪悪な感じがするな。ん?でもその前にいるのは……えっ!?」

 

広場の中心には恐らくこの鬼ヶ島と羅生門の元凶と言える聖杯に近い何かの器があるが、その前には驚くべき人物が立っていた。

 

「頼光さん……?」

 

それは少し前に別れたばかりの頼光だった。

 

「頼光さん、どうしてここに……」

 

「……待ちな」

 

「ゴールデン?」

 

「不用意に近付くんじゃねえ。アレは違ぇぞ」

 

ゴールデンは遊馬の前に立ち、真剣な表情で頼光を見ていた。

 

それは自分を育てた養母でも師匠でもない……まるで敵を見るような表情だった。

 

「……ふふ。金時。やっと来ましたか」

 

「──ち。そうかよ。酒呑のヤロウが出張ってきたのはそう言うことか。考えてみりゃあ、刹那主義のヤロウが鬼の縄張り争い程度で出てくるはずがなかった。ヤロウが無視できねえ相手なんざ、鬼の中でも特上の鬼だけだ。アンタは──なんでだ?なんで、戻ってやがる?」

 

ゴールデンの言っている事の意味が分からず遊馬達は困惑している中、頼光は嬉しそうに笑い出した。

 

「ふふ、ふふふ、うふふふふふふふ!わかりますか、やはり、それは愛ですね!」

 

すると、次の瞬間には頼光の体から黒い雷が迸り、紫の瞳の中心が怪しい赤い光を放った。

 

「頼光さん……!?」

 

「何だ、この邪悪な気配は……!?先ほど出会った頼光とはまるで違う……!?」

 

「Mr.ゴールデン!これは一体……!?」

 

「……あれは頼光の大将じゃねえ。頼光様には違いねえが、在り方がネジ曲がってやがる。そうだろ、天魔の大将。鈴ヶ森の丑御前サンよォ!」

 

「うしごぜん……?」

 

「馬鹿な!丑御前は伝承では源頼光の兄弟で、北野天神、牛頭天王の申し子。牛頭天王の化身として生まれた鬼子で頼光が退治したはずだ!」

 

アストラルは丑御前の伝承を焦りながら言うが、頼光……否、丑御前の真実をゴールデンは語り出す。

 

丑御前は源頼光の兄貴にあたるお方。

 

しかし、御前は女性の敬称。

 

頼光は自分の出自を語らなかったので、ゴールデンは察するしかなかった。

 

歴史に隠された事実は天神様の子供として生まれた子供が、その力から鬼子とされて寺に預けられた。

 

しかし、その子供の父親は才能を惜しく思い、新しく生まれた息子として幽閉した子供……娘を家に戻した。

 

後は歴史通り、その娘は源頼光として京を守った。

 

だが、頼光は源氏の棟梁になるにあたって、自身の異形の側面を切り離そうとしたが、色々あって頼光の意識の奥深くに封じる形になった。

 

そして今……その封印が解けて頼光の体を乗っ取って丑御前が現れてしまっているのだ。

 

「まだよく分からないけど、昔の私みたいなものね……」

 

厳密には違うが、かつてクロエは肉体を得る前にイリヤの中にいて、一度だけ戦いのためにイリヤの代わりに肉体を支配したことがあるので妙な親近感を持った。

 

「なんで、封じたはずのアンタが出てきてやがる?」

 

「母がここにいる理由ですか?簡単です。ここにいるというのが理由ですよ」

 

丑御前の態度とこれまでの経緯からマシュはある結論に達した。

 

「……この鬼ヶ島を造ったのは、貴女なのですね」

 

「はい。この杯を手に入れた私が作りました。完全なる鬼達の王国を建設する為に」

 

「島を丸ごと作り出す……まさか、その杯と牛頭天王の化身の力で作ったのか!?」

 

「でもなんでこんなものを造った!?」

 

「……はて。理由、ですか。それは……えっと……ああ、そうですね。私たちまつろわぬ者どもの復権、と言うのはどうでしょう?この土地に古くから住まう者であるのに、鬼やら蜘蛛やらは異形であるというだけで退治される。それはあまりにも無体だと、頼光は何となく思ってました。ですので、今回はそれを理由に魔国を造った……というのは、筋が通っているのではないでしょうか?」

 

「だけど、頼光さんは鬼を斬って、酒呑と茨木を斬ろうとしたじゃねえか!?」

 

「ああ、それは、ほら。頼光も私も、鬼とか嫌いですから。魔国を造るための労働力ですが、目に付けば処分します。人間は食べ物なので保存する価値はありますが……鬼は、ほら。醜いだけで何の価値も無いでしょう?」

 

まるで当たり前であまりにも身勝手過ぎる丑御前の言葉に誰もが怒りを募らせる。

 

「ふざけるな!鬼は確かに許せねえけど、あんたの配下じゃねえか!?あんたを慕って働いているのに無価値だと!?」

 

「無価値です。だってこの島の鬼は全部、私が作ったものですから。たまたま上手く描けたものは鬼丸として名を与えましたが、それ以外は汚らわしい落書きばかり。自らの至らなさを見るのは辛いもの。この島の工事が終われば、纏めて処分する予定です」

 

「そうかよ……くそ、忘れてたぜ。どっかで見た覚えがあると思えば、あれか……ガキの頃、頼光様が描いてくれた鬼の絵か……」

 

鬼ヶ島の鬼にゴールデンがどこかで見た覚えがあると思ったが、それは頼光が描いた鬼でそれを丑御前が具現化したのだった。

 

「どうです金時?この島は中々のものでしょう?私も貴方も人と神の気まぐれのようなもの。人界で生きるには辛かったでしょう。でもこの島なら誰の目を気にする必要もありません。本当はこんな面倒な事をしたくなかったのですが……一思いに本州を魔界にしてしまうと、流石に金時に嫌われてしまうでしょう?子供の遊び場は出来るだけ大事にしてあげなくては。本州でしたことは、せいぜいが、悪い虫達に悪酔いする酒を呑ませて同士討ちさせようとした事ぐらい」

 

「羅生門の事件も、やはり、貴女が……!」

 

羅生門の願いを叶える酒杯で茨木を狂わせたのは丑御前が用意して酒呑と茨木を排除しようとしていた。

 

「……大将、みんな、すまねえ。前回といい今回といい、コイツぁオレの責任だ」

 

「金時……?何故母に敵意を向けるのです?ここは貴方の為に作った島だと言ったでしょう?本当は天守閣が出来てから自慢したかったのだけど、秘密にするのはここまでです。さあ、我が手足、我が具足、我が手駒たる四天王よ。安心して、お前達の主の元に帰る時です」

 

「ゴールデン……頼光さん、じゃねえ、丑御前は……」

 

「おう。悪いな、大将。気を遣わせちまったな。だがま、心配無用だぜ。やる事は変わらねえ。これが、鬼退治のクライマックスだぜ」

 

「金時──」

 

「丑御前サンよ。アンタが本質的には頼光様と同じだってコトぁ、よく知ってる。源頼光の功績はアンタのお陰であり、丑御前の悪行は源頼光の罪でもあるってな。アンタにゃとても返せねぇ大きな借りがある。恩人で、尊敬だってしてらぁ。だがよ。それでも言わせてもらうぜ──テメエ、やっぱ要らねぇわ」

 

「何……ですって……?」

 

ゴールデンのキッパリと言った拒絶の言葉に丑御前はこれまでに無いほどの大きな精神的ダメージを受けた。

 

「テメェなんざ怖くも何ともねえって話だ!頼光の大将のマジギレの方が数倍おっそろしい!なーにがオレっちのための島、だ。単に、行き場の無い自分のためじゃねえか。頼光サンならよぉ、例え角が生えようが牛神になろうがテメェの国から逃げるなんて事ぁしねえ!泣いていじけて駄々こねた後、開き直って京ででーんと構えるのが源頼光だ!テメェは鬼落ちした負け牛にすぎねぇ!さっさと頼光サンに戻るんだな!」

 

「……いいでしょう。貴方の中の頼光像は分かりました。同じ半神として理解してもらえると思っていたのですが。伝わらないのなら、貴方も所詮、人間ということ。本来なら見逃してあげても構わないのですが……貴方たちはそうはいかないのでしょう?人の世を守る、という事は、人以外の頂点を許さない、という事。全く、どちらが鬼なのでしょう。皆殺しにするしか無い、という結論において、私たちは同じなのにね?」

 

「おう、言ってろ人でなし。それとな、丑御前。オレは今からアンタをぶっ飛ばす。だが勘違いするんじゃねぇぞ。それは、オレが鬼退治をする四天王の金太郎だからでも、この大将の仲間だからでもねぇ。息子として、母親の馬鹿騒ぎを止めるってだけだ。そこだけは間違えんな」

 

ゴールデンは頼光四天王の一人でも、遊馬のサーヴァントでもなく、あくまでも頼光の息子として丑御前を止めると意気込む。

 

しかし、それが丑御前の琴線に触れてしまった。

 

「……あ、ああ……やだ、だめ、いけません、母親なのに、ああ、身体の奥が、熱い、熱い!嬉しい嬉しい、嬉しいです金時!それは──愛ですね!それなら私も本気になれるというもの!ここで貴方の想いを全て受け止めて──貴方を()してあげることが出来るのですから!」

 

人ではない存在故に愛がとても歪んでおり、清姫よりも大きく狂っており、丑御前のゴールデンに向けられた歪んだ愛に全員ドン引きした。

 

「……来るぜ。手加減して勝てる相手じゃねぇ。オレっちの雷光はゴールデンだが──大将の雷光は全てを塗り潰す黒縄地獄だ。黒焦げになる前に決着をつけねえとな。頼むぜ、大将!」

 

「ゴールデン、丑御前はどうやって頼光さんの中に封じ込めるんだ!?」

 

「とりあえず失神させるしかねえ!そうすれば頼光サンの意識が戻るはずだ!」

 

「分かった!行くぜ、俺のターン!!」

 

遊馬は丑御前を止める、そして頼光を取り戻すためにドローしようとした……その時だった。

 

「うぐぅっ!?」

 

突然全身に痛みが走り、遊馬はその場にうずくまる。

 

「遊馬、どうした!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「分かんねえ、急に痛みが……!」

 

何故か痛みが全身に走り、原因が分からずにいた。

 

すると皇の鍵から黒い霧が溢れ出して遊馬達の前に現れた。

 

「よう、ピンチじゃねえか」

 

「ミストラル……!?」

 

「何故貴様が!?」

 

ミストラルが邪悪な笑みを浮かべながら現れると腰を下ろしながら遊馬を見つめる。

 

「おいおい、何があった?遊馬の体に邪悪な力が入り込んでるぜ?」

 

苦しんでいる遊馬にミストラルは目を細めて告げる。

 

「邪悪な、力……?」

 

「そんなもの何処で……」

 

「……も、もしかして!?」

 

マシュは遊馬の中に入り込んだ邪悪な力に心当たりがあった。

 

「遊馬君が酒呑さんを庇う時に頼光さんの刀で傷を負った時に……!」

 

「はっ!?そ、そうか……頼光の刀、童子切安綱は数多の鬼や妖魔を斬ってきた。この島でも既に多くの鬼を斬っていた。遊馬の左肩と右手に刀傷を負った……その時に鬼の因子が遊馬の体に入っていたとしたら……!」

 

遊馬の純粋な人間の体に高次元の精霊の魂が宿っている。

 

そんな遊馬に鬼と言う邪悪な因子が混ざってしまった事で拒絶反応が起きてしまったのだ。

 

「ちっ、仕方ねえな……遊馬、力を抜け」

 

「えっ?」

 

「少しばかり体を操るぜ」

 

ミストラルは自身の体の闇を増幅させて遊馬の体を纏わせる。

 

かつて遊馬を操った時のように体の自由を奪う。

 

「ミストラル、何のつもりだ!?」

 

「落ち着けよ、アストラル。これは遊馬を救うためだぜ?」

 

「何だと!?」

 

「遊馬、よく聞け。お前には体の中の鬼の因子を全て取り除くためにダーク・ドローをやってもらう」

 

ミストラルの提案に遊馬は驚く。

 

ダーク・ドローは闇の力によって闇のカードを創造するシャイニング・ドローと対をなすDARK ZEXALが使った技だ。

 

「ダーク・ドロー!?でもあれはDARK ZEXALにならないと……」

 

「DARK ZEXALにならない代わりに俺が力を貸す。今は黙って俺に従っていろ」

 

「……ミストラル、俺を助けてくれるのか?」

 

「勘違いするな、ただお前に借りを作ってやるだけだ。アストラルにはこの鬼の因子は取り除けないからな」

 

鬼の因子は僅かな量だが遊馬の肉体の中を巡っており、アストラルにも取り除く事は難しいだろう。

 

「……分かった。ミストラル、お前を信じる」

 

「ハッ……じゃあとっととやろうぜ。おい、アストラル。しばらくお前が戦いな。時間がかかる」

 

「遊馬に何かあったら貴様を絶対に許さないからな」

 

「おー、怖い怖い。心配するな、約束は守る」

 

ミストラルは意地悪そうな笑みを浮かべながら自身の闇を遊馬の肉体に侵食させて鬼の因子を探る。

 

「がぁっ!?」

 

「我慢しろ、このまま鬼の肉体になるよりはマシだろ?」

 

「分か、ったぁ……!かっと、ビングだぁ……!」

 

遊馬は体に走る激痛に耐えながらミストラルに体を委ねる。

 

「マシュ、遊馬を頼む!」

 

「はいっ!」

 

マシュは盾を構えて動けない遊馬を守ることに専念する。

 

アストラルは遊馬が復活するまで代わりにデュエルをしてフィールドを整えていく。

 

「行くぞ、私のターン、ドロー!魔法カード『オノマト選択』!このカードの発動効果処理でデッキからこのカード以外のオノマトと名のついたカードを手札に加える!デッキから『オノマト連携』加えて発動!手札1枚を墓地に送り、デッキからオノマトモンスターを2枚手札に加える!私は『ガガガマジシャン』と『ズバババンチョー - GC(ガガガコート)』を手札に加える!」

 

初手からオノマト選択とオノマト連携で手札を整えていく。

 

「ガガガマジシャンを通常召喚!更に手札からズバババンチョーの効果発動!自分フィールドにズバババンチョー以外のズババモンスターまたはガガガモンスターが存在する時、手札から特殊召喚出来る!来い、ズバババンチョー!ズバババンチョーのもう一つの効果!自分の墓地のゴゴゴモンスターまたはドドドモンスター1体を特殊召喚出来る!墓地より蘇れ、『ドドドドワーフ - GG(ゴゴゴグローブ)』!」

 

一気に三体のモンスターをフィールドに並べ、ここでレベル4のモンスターでエクシーズ召喚を行うことができるが、アストラルは遊馬が来るまでみんなのサポートに徹することにした。

 

「ガガガマジシャンの効果!1ターンに1度、レベルを1から8に変更出来る!レベルを1に変更し、ここでオノマト選択のもう1つの効果!フィールドのオノマトモンスターを1体選択し、自分フィールドの全てのモンスターのレベルをターン終了まで同じにする。私はガガガマジシャンを選択し、全てのモンスターのレベルを1にする!」

 

ガガガマジシャンとオノマト選択のコンボで遊馬のデッキでは出しにくいレベル1のモンスターが3体揃った状況にした。

 

「私はレベル1となったガガガマジシャン、ズバババンチョー、ドドドドワーフの3体でオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

レベル1となった三体のモンスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「力を借りるぞ、風也!いや、エスパーロビンよ!銀河の闇を統べる女王よ、母なる力で大いなる守りの加護を与えよ!現れろ!『No.83 ギャラクシー・クィーン』!!」

 

アストラルの前に現れたのは銀河に輝くドレスを身に纏った女王。

 

風也とは遊馬の仲間で役者をやっており、ヒーロー番組「異次元エスパーロビン」の主人公の「エスパーロビン」を演じており、ギャラクシー・クィーンは風也の母にとても似ている。

 

余談だが、アストラルはその「異次元エスパーロビン」の大ファンである。

 

「ギャラクシー・クィーンの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、次の相手のエンドフェイズ時まで、自分フィールド上に存在するモンスターは戦闘では破壊されず、守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える!ギャラクシー・プロテクション!!」

 

ギャラクシー・クィーンがオーバーレイ・ユニットをステッキに取り込んで掲げると、銀河の星々の輝きがフィールド全体を包み込み、戦う味方全員に光の加護を与える。

 

「カードを1枚セット!みんな、頼むぞ!」

 

「よっしゃあ、行くぜ!みんなぁ!」

 

ゴールデンを筆頭に戦闘が始まり、一斉に丑御前に向けて攻撃を開始する。

 

ゴールデンベアー号に乗ったゴールデンは最初からエンジンフルスロットルで走って丑御前を翻弄する。

 

丑御前は頼光と同じ童子切安綱を使った近接戦闘メインなので他の者達は中距離・遠距離攻撃で攻めていく。

 

しかし、攻め手にまだ欠けてるのでアストラルは新たなナンバーズを呼び出す。

 

「私のターン、ドロー!『ガガガシスター』を召喚!ガガガシスターの効果、召喚に成功した時、デッキからガガガと名の付いた魔法・罠を手札に加える!私は『ガガガリベンジ』を手札に加えて発動!墓地からガガガマジシャンを特殊召喚してこのカードを装備!」

 

ギャラクシー・クィーンの効果で最初に使用したオーバーレイ・ユニットはガガガマジシャンでガガガシスターでサーチしたガガガリベンジで復活させる。

 

「もう一度頼むぞ、ガガガマジシャン!ガガガマジシャンの効果でレベルを5に変更し、オノマト選択の効果でガガガマジシャンを選択し、ガガガシスターのレベルを5にする!」

 

モンスターエクシーズはレベルが存在しないランクなのでギャラクシー・クィーンにはレベル変更の効果は発動せず、ガガガマジシャンとガガガシスターのレベルが共に5となる。

 

「風魔忍者の小太郎と段蔵がいるなら、やはりこのナンバーズが適任だ。私はレベル5となったガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!昏き王よ、疾く現れよ!『No.12 機甲忍者クリムゾン・シャドー』!!」

 

アストラルが次にエクシーズ召喚したのは忍者モンスターのクリムゾン・シャドー。

 

「これは忍者のモンスターですか!?」

 

「ワタシと同じ、絡繰忍者……!?」

 

クリムゾン・シャドーの登場に小太郎と段蔵は驚く。

 

「ガガガリベンジの効果!装備モンスターがエクシーズ素材になる事によってこのカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上の全てのモンスターエクシーズの攻撃力を300ポイントアップする!」

 

それによりギャラクシー・クィーンの攻撃力は500から800、クリムゾン・シャドーの攻撃力は2400から2700になる。

 

「クリムゾン・シャドーの効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、このターンに自分フィールドの忍者モンスターは全て戦闘及び効果で破壊されない!シャドー・ボンド!!更にギャラクシー・クィーンの効果!ギャラクシー・プロテクション!」

 

クリムゾン・シャドーの効果で同じ「忍者」である小太郎と段蔵に破壊耐性を与え、更にギャラクシー・クィーンの力をもう一度使って仲間に加護を与える。

 

「行け、クリムゾン・シャドー!月影紅斬り!!」

 

クリムゾン・シャドーは高速で駆け抜けて丑御前に近づき、逆手に持った忍者刀を振るう。

 

「甘いですよ」

 

丑御前は童子切安綱で簡単に忍者刀の攻撃を受け止めてクリムゾン・シャドーを弾き飛ばした。

 

「お遊びはここまでです……!」

 

本気になった丑御前から邪悪な力が溢れて出し、サーヴァントでもある頼光の肉体と力を使って宝具を発動する。

 

「『牛王招力(ごおうしょうりき)怒髪天昇(どはつてんしょう)』!!!」

 

四つの落雷が降り注ぐとそこに四人の丑御前の分身が現れた。

 

分身それぞれには異なる武器を持っており、赤い刀と緑の弓と白い槍、そして黄金の斧……それはバーサーカーのゴールデンの宝具である黄金喰いだった。

 

頼光の本来の宝具でもあるそれは頼光四天王の武具を持って敵を蹂躙するものである。

 

「やべぇ!みんな、避けろ!!」

 

このままでは五人の丑御前による一斉攻撃で全滅も免れない。

 

「そうはさせません!」

 

丑御前の宝具を全力で阻止に入ったのが小太郎だった。

 

自身の宝具を発動し、二百人の部下の霊体を召喚し、一斉に丑御前の周囲を高速で駆け抜けると、灼熱の炎が激しく燃え上がり、巨大な炎の竜巻となる。

 

「大炎熱地獄!『不滅の混沌旅団』!!!」

 

地獄の炎で丑御前を焼き尽くそうとしたが……。

 

「やりますね……でも、まだです!」

 

炎の竜巻の中から丑御前が飛び出てきた。

 

他の四人の分身体は消失したが、丑御前本人は傷が無く無事で、小太郎の前に現れる。

 

「小太郎!!」

 

「邪魔です、消えなさい」

 

丑御前が童子切安綱を振り下ろし、小太郎が斬り殺されそうになったその時……黒い影が小太郎の前に現れた。

 

そして、丑御前の手の感触には刀で肉を斬った感触はなく、とても堅いものを斬った感触が伝わった。

 

「何……?」

 

「な、何で……!?」

 

「小太郎殿をやらせません……!」

 

小太郎を守るように庇ったのは段蔵だった。

 

しかし、段蔵は無事ではなかった。

 

ギャラクシー・クィーンとクリムゾン・シャドーの破壊耐性を二重に受けているにも関わらず、丑御前の童子切安綱の攻撃は通っており、段蔵の左肩から胸の辺りまで刃が深く斬っていた。

 

それは丑御前が北野天神、牛頭天王の申し子で、牛頭天王の化身として生まれた鬼子……神に近いその力で破壊耐性を突破してしまったのだ。

 

切り口から段蔵の絡繰の断面が痛々しく見えており、バチバチと火花が散っていた。

 

「だっ、段蔵殿!?」

 

「ご心配にはおりません……この程度では、まだ壊れません!」

 

段蔵は両手を前に突き出して高速回転させて風を巻き起こす。

 

「風よ集え!『イビル・ウィンド・デス・ストーム』!」

 

段蔵の宝具『絡繰幻法・呑牛』を丑御前の近距離で放って吹き飛ばす。

 

その際に段蔵に突き刺さっていた童子切安綱は抜かれるが、それと同時に段蔵はその場に崩れ落ちる。

 

「段蔵殿!!」

 

小太郎は崩れ落ちた段蔵を受け止め、泣きそうになる程に顔を崩し、震える声で段蔵に話しかける。

 

「段蔵殿……どうして、僕を……!?」

 

「分かり、ません……あなたに危機が迫っている時に……体が勝手に動きました……」

 

段蔵自身にも理由は分からないが、小太郎に危機が迫ると自然に体が動いて命懸けで守ろうとしたのだ。

 

そんな段蔵に対し、小太郎は小さな涙を流しながら呟いた。

 

「母、上……!」

 

小太郎の呟いた言葉に段蔵は目を丸くして驚く。

 

「母……?小太郎殿、何故私を……?」

 

「あなた自身には……記憶が無いかもしれませんが……僕ははっきりと覚えています。あなたは、僕の育ての親で、風魔忍術の師匠でもあるんです……!」

 

初代・風魔小太郎と果心居士によって作られた段蔵は一時期、風魔の里に身を寄せており、そこでとある赤毛の幼子の育ての親となった。

 

初代風魔小太郎の技を一種のデータとして内蔵した段蔵は、絡繰忍者であると同時に最高の「風魔の技の伝達者」であったのだ。

 

時に忍術の師として導き、時に母のように慈しんだこの幼子こそ……後の五代目・風魔小太郎なのである。

 

「ワタシが、あなたの……母で、師匠……?」

 

「記憶のないあなたを苦しませたくはなかった……だけど、抑えきれないこの想いをお許しください、母上……」

 

「小太郎……殿……」

 

段蔵が小太郎の育ての親と言う事実にみんな驚く。

 

アイリは急いで段蔵の元に行き、サーヴァントとは言え絡繰の体に効くかどうか不明だが治癒魔術を試みる。

 

「段蔵さんが小太郎さんのお母さんだったなんて……」

 

「そう言えば、ご飯の時に段蔵さんの作った料理を誰よりも食べていたのは小太郎さんだった……」

 

「我慢しながらもずっとお母さんの事を求めていたのね……」

 

「例え、機械でも親子としての繋がりがあったんだ……」

 

特にイリヤ達はその事実に驚きながらも小太郎が時折見せた寂しそうな雰囲気に合点がいく。

 

「ううっ、泣けますね〜。ルビーちゃん、久々に心がウルウルしてきましたよ!」

 

「記憶が無くても小太郎様を助けたのは段蔵様の母としての想いがあったのですね」

 

魔術礼装であるルビーとサファイアは小太郎と段蔵の親子の絆に感動していた。

 

しかし、それを嘲笑う者がいた。

 

「うふふふっ……あはははははっ!なんて、なんて滑稽なお話でしょうか!」

 

丑御前は小太郎の話を聞いて立ち上がると二人の親子の絆を嘲笑う。

 

「人でもない、ましてや妖魔ですらない、人の形をしたモノが子を育てた母なんて、滑稽過ぎますね」

 

丑御前は頼光と同じ子煩悩な性格だが、母性愛と慈愛が存在しない。

 

もしも頼光がこの話を聞けば小太郎と段蔵の親子の絆に感動していたかもしれないが、丑御前にはそれが滑稽と感じてしまっている。

 

「丑御前……アンタって人は……!」

 

ゴールデンは丑御前の発言に怒りを露わにした。

 

しかし、ゴールデン以上に怒りを爆発させている者達がいた。

 

「斬撃」

 

「砲撃」

 

魔力の鋭い斬撃と巨大な砲撃が同時に放たれ、更には二つの矢が飛んできて丑御前に襲い掛かるが童子切安綱でそれを斬り落とす。

 

「何をするのですか?小娘達……」

 

丑御前の睨んだ先にいたのはイリヤ達だった。

 

イリヤ達は丑御前の発言で絶対に許せないと怒りが爆発していた。

 

「たとえ、血が繋がってなくても、種族が違ってても……そこにある大切な絆を嘲笑うなんて、絶対に許せない!!」

 

「互いを想う気持ちがあるからこそ掛け替えのない絆が生まれる。それをあなたみたいな人が否定する権利なんてない!!」

 

「覚悟しなさい、この牛女……家族の絆を大切に想う子供を怒らせると、とっても怖い事を教えてあげるわ!!」

 

「そうよ、その腐った根性を叩きのめしてやるわ!」

 

イリヤ達四人にはそれぞれ血の繋がっていない家族がいる。

 

イリヤと美遊は種族の異なる魔術礼装との強い繋がりがある。

 

どれも心で繋がった大切な絆で結ばれており、小太郎と段蔵の絆を嘲笑った丑御前はイリヤ達の大切な絆を嘲笑うことと同等であり、怒りの炎を燃え上がらせる。

 

すると、少し離れたところで段蔵の治癒をしていたアイリの悲痛な叫びが響く。

 

「っ!ダメ……治癒魔術じゃ機械の段蔵を直せないわ……!」

 

治癒魔術は人間やサーヴァントに対して使うが、段蔵はサーヴァントとはいえ機械の体なので治癒魔術が上手く作用しないのだ。

 

「段蔵さん……!」

 

段蔵を救いたいと願う美遊はどうすればいいのか必死に考える。

 

「早く、段蔵さんを何とかしないと……!」

 

すると、美遊の脳裏にある言葉が思い出される。

 

それは、もう二度と会うことが出来ない美遊の大切な家族との記憶と願い。

 

「月ではなく、星に願う……」

 

想いは、願いは夜空に輝く月ではなく小さな星に願うものだと教えられた。

 

すると、美遊の瞳の色が金色から赤色に変化し、魔法少女の衣装が大きな三日月の飾りが付いたミニスカートのある和風の衣装へも変化した。

 

それに共鳴するかのようにサファイアの姿も豪華な装飾が施されて柄が長くなった特別なステッキとなった。

 

「み、美遊様!?この姿は……!?」

 

「サファイア、私もよく分かってないんだけど、段蔵さんを助ける為に力を貸してくれる?」

 

「は、はい!」

 

美遊は自分がこれから何をすべきなのか瞬時に答えを導き出し、サファイアと共にそれを実行する。

 

「地に瞬く願いの光、堕ちた月は無垢なる願いを束ね、天を望む……」

 

足元に巨大な青い魔法陣が展開されると美遊の体が宙に浮き、胸元から星のような光が出てきて天に昇り、別の青い魔法陣が上空に浮かぶ。

 

「『星天を照らせ地の朔月(ほしにねがいを)』!」

 

星の輝きが幾重にも広がり、自身以外の味方全員に願いの光を与え、力を漲らせる。

 

「ミユちゃん、この力は……よし、今なら!」

 

アイリは目を閉じると、宙に浮いて胸元から金色の光が溢れ出す。

 

金色の光が形付いて現れたのは聖杯だった。

 

「『白き聖杯よ、謳え(ソング・オブ・グレイル)』!!」

 

アイリの宝具は聖杯を具現化して召喚し、その光を以て全てを癒す。

 

美遊とアイリの宝具の力で段蔵の斬られた箇所が修復されて元通りとなり、意識がはっきりとなる。

 

「これは……信じられません。壊れた所が元通りになりました」

 

「母上……!アイリ殿、ありがとうございます!」

 

「ええ。本当によかったわ」

 

段蔵が元通りに復活し、小太郎は嬉し涙を浮かべながら段蔵を抱きしめ、アイリに感謝の気持ちを述べる。

 

「これがミユとママの宝具……そうか!」

 

クロエは美遊とアイリの繰り出した宝具をきっかけに自分の宝具がなんなのかようやく気付き、黒弓を消した。

 

「ファースト・レディ、あなたは既に私の宝具の可能性を示してくれていたのね……感謝するわ!」

 

黒弓の代わりに二組の干将・莫耶を投影して両手に持つ。

 

それは魔法少女の国でファースト・レディがクロエの体を使って発動した『堕・鶴翼三連(ブラックバード・シザーハンズ)』をクロエの宝具として全力で放つ。

 

「とっておき、見せてあげるわ!」

 

クロエは二組の干将・莫耶を投げ、まるでブーメランのように回転しながら飛ぶ四つの剣は丑御前を囲むように向かう。

 

「これは……!?」

 

「山を抜き、水を割り、なお堕ちる事無きその両翼……」

 

そして、クロエが走り出すと同時にその姿が消え、丑御前が気配を探ろうとした次の瞬間。

 

「『鶴翼三連(かくよくさんれん)』!」

 

クロエは丑御前の背後に突然現れて、もう一組の干将・莫耶を投影して振り下ろす。

 

互いに引き合う性質を持つ干将・莫耶を三組投影し、その内の二組を敵を囲むように投げ放ち、更に残りの一組を手にして剣撃を浴びせる投擲と斬撃を重ね合わせた必中不可避のコンビネーション。

 

これを打ち破るには全方位への防護か、損傷を無視した術者本体への特攻しかない……しかし、丑御前にはそれを対処できる力がある。

 

「『牛王招力・怒髪天昇』!!!」

 

丑御前が再び五人へと分身し、四人で二組の干将・莫耶を撃ち落とす。

 

丑御前の黒い雷撃がクロエに襲い掛かろうとしたが……。

 

「そうはさせないわ!」

 

「ガァオオオオオッ!!」

 

シトナイとシロウが丑御前に向かって駆け抜ける。

 

「『吼えよ我が友、我が力(オプタテシケ・オキムンペ)』!!!」

 

シロウの爪で丑御前の童子切安綱を抑え込み、その間にシトナイが氷の弓で矢を放ち、分身を含めた丑御前全員の足を凍らせて動けなくする。

 

「ありがと、シトナイ!」

 

「どういたしまして!イリヤ、今度はあなたよ!」

 

シトナイからイリヤにバトンタッチされ、イリヤは自分の宝具を見つけ出す。

 

「私の宝具……」

 

宝具とはサーヴァントの切札であり、その英霊を象徴する力である。

 

それは武器や道具、攻撃方法や能力など様々な形で現れる。

 

イリヤは自分の切札、象徴する力を思い浮かべる。

 

「クラスカード……はちょっと違うよね。やっぱり、私の力はこれだよね……」

 

イリヤの体をピンク色の光に包まれると魔法少女の衣装とルビーの姿がツヴァイフォームの姿に変身する。

 

「こ、これは!?ツヴァイフォーム!?サファイアちゃんは美遊さんのところにいるのに!?」

 

ツヴァイフォームに変身する為には二つのカレイドステッキが揃わないといけないのだが、ルビー単独で変身出来たことに驚きを隠せなかった。

 

「ルビー、これが私の宝具だよ。ツヴァイフォームの最強の攻撃が私の切札!」

 

イリヤの宝具……それは人間の身でありながら強力なサーヴァントにも対抗出来る、最強の切札でもあった自身の肉体を蝕む諸刃の剣とも言えるツヴァイフォーム。

 

「な、なるほど……!サーヴァントになったことで、イリヤさんの最強の姿であるツヴァイフォームをサファイアちゃん無しでも再現することが出来たんですね!?」

 

「多分ね。ルビー、行くよ!」

 

「はいっ!」

 

「これがわたしの全て……! 」

 

全身の魔術回路に加えて筋系、神経系、血管系、リンパ系を疑似的な魔術回路と誤認させ、瞬間的な出力を得る捨て身の技。

 

イリヤ自身の限界を超える超出力の魔力砲撃。

 

「『多元重奏飽和砲撃(クウィンテットフォイア)』!!!」

 

全身を巡る五つの回路が奏で上げた壮絶な魔力の奔流は、星の光にも匹敵する殲滅力を誇る。

 

「凄い……セイバーの聖剣にも負けない光だわ……!」

 

シトナイはイリヤの最強の魔力砲撃にとある騎士王の聖剣の光に匹敵すると感心した。

 

最強の魔力砲撃が丑御前を呑み込み、衝撃波と大きな土煙が立ち昇る。

 

魔力砲撃を全て放出し終わったイリヤはツヴァイフォームを解除して地面に座り込む。

 

「いてて……体のあちこちが痛い……」

 

ツヴァイフォームは本来ならイリヤの体を大きく傷付けて命を削ってしまうが、サーヴァントの体ならば体の節々に痛みが生じてしまう程度に済んでいる。

 

これで倒し切ればいいと思ったが、そう簡単にはいかなかった。

 

「やりますね……!」

 

立ち昇る土煙の中から丑御前がゆっくりと歩いて来た。

 

「まさか、小娘がこれほどの力を持つとは驚きでしたよ……」

 

流石に無傷では無く、丑御前は魔力砲撃をまともに受けていたのでダメージは確実に受けており、軽くふらついていた。

 

「私の最強の砲撃受けても立ってるなんて……」

 

「まあ、流石にサーヴァントだと、あの時ほどの威力は出ませんからね。ですが、それでもダメージはしっかり与えられてますよ」

 

イリヤは最強の魔力砲撃を受けても立った丑御前に軽くショックを受けたが、それは仕方ないとルビーが慰める。

 

再び丑御前を迎え撃つ為に構えようとしたその時……遂に真打ちの登場である。

 

「みんな……待たせたな、後は俺に任せろ!!!」

 

元気のいい声が響き、その声の主はもちろん……遊馬だった。

 

ミストラルによって体は支配されているままだが、ようやく全ての準備が整ったのだ。

 

「待ちくたびれたぞ、遊馬!」

 

アストラルは自身のデュエルディスクにあるカードを全て遊馬のデュエルディスクに移し替え、デッキと手札を遊馬に渡す。

 

「遅れて悪い、アストラル!」

 

「さぁ、派手に行こうか……遊馬、まずはホープを召喚しろ!」

 

「ああ、行くぜ!ミストラル!」

 

ミストラルが身体を支配してくれたお陰で鬼の因子の拒絶反応は抑えられ、遊馬はデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!ゴゴゴジャイアントを召喚!その効果で墓地のゴゴゴモンスターを特殊召喚する。蘇れ、ドドドドワーフ!」

 

ドドドドワーフはゴゴゴの名を持つのでゴゴゴジャイアントの対象となり、墓地から蘇生出来た。

 

「レベル4のゴゴゴジャイアントとドドドドワーフでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ!『No.39 希望皇ホープ』!更に魔法カード『希望の記憶』!自分フィールドのナンバーズの種類の数だけ、デッキからドローする!」

 

希望皇ホープをエクシーズ召喚し、そこからナンバーズ専用のドローソースである希望の記憶を発動する。

 

「今フィールドにいるのは希望皇ホープとギャラクシー・クィーンとクリムゾン・シャドーの三体!よって3枚ドローだ。集中しな、遊馬!」

 

「わかってる!」

 

遊馬は目を閉じて右手に神経を集中させる。

 

肉体の支配をミストラルに任せているので、遊馬に出来ることは頭を空っぽにして鬼の因子を右手に集中する。

 

すると、右手が漆黒の闇に染まり、DARK ZEXALの時と同じ闇の力を宿す。

 

「暗き力はドローカードをも闇に染める……ダーク・ドロー!!」

 

シャイニング・ドロー、バリアンズ・カオス・ドローに続く闇の力で鬼の因子を一つにして新たなカードを創造する。

 

ドローした3枚の内、1枚の闇のカードを見ると目を疑って瞬きをする。

 

「こいつは……!?」

 

「ハッ!こいつはこの鬼ヶ島の戦いに相応しいカードになったじゃねえか!」

 

ミストラルは遊馬の支配を解くと、遊馬はその場で軽く体を動かすと先ほどまでの痛みが無く、いつも通りの絶好調となる。

 

体から完全に鬼の因子が抜け、遊馬はニッと笑みを浮かべてミストラルに礼を言う。

 

「助かったぜ、ミストラル!」

 

「礼はいい。さあ、あの牛女にぶちかましてこい!」

 

「ああ!俺は『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!自分フィールドのランク4のモンスターエクシーズをランクアップさせ、カオスナンバーズを特殊召喚する!希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

希望皇ホープをエクシーズ召喚し、更にリミテッド・バリアンズ・フォースを発動し、カオス・エクシーズ・チェンジでランクアップをする。

 

「混沌の力纏いて勝利を目指せ!進化した勇姿が今ここに現れる!現れろ!『CNo.39 希望皇ホープレイV』!!」

 

破壊の力を司る闇の希望皇ホープを召喚する。

 

召喚した理由はダーク・ドローで創造したカードに一番適したモンスターが希望皇ホープレイVだったのだ。

 

「そして……鬼の力を凝縮したこいつの力を使うぜ!」

 

遊馬は自身に入った鬼の因子を凝縮させ、闇の力で作ったカードを発動する。

 

「『DZW(ダーク・ゼアル・ウェポン) - 魔装鵺妖衣(キメラ・クロス)』!」

 

それはDARK ZEXALが作り出した邪悪なる妖魔のゼアル・ウェポン。

 

「なんて邪悪な気配……!?」

 

丑御前は魔装鵺妖衣の邪悪な気配に驚いていた。

 

ちなみに、奇しくも鵺は頼光の玄孫と言われている源頼政が退治した妖魔である。

 

「魔装鵺妖衣は『CNo.39』に装備出来る!装備モンスターは戦闘で破壊されない!」

 

魔装鵺妖衣は希望皇ホープレイVに装備され、背中に漆黒の翼が鎧が装着され、ホープ剣が大鎌へと変化する。

 

「邪悪なる闇の力が新たな希望への道を斬り開く!妖魔合体!!キメラ・ホープレイV!!!」

 

魔装鵺妖衣と合体した希望皇ホープレイVをキメラ・ホープレイVと名付け、その邪悪なオーラに丑御前も圧倒される。

 

「さあ、大将同士で決着をつけようぜ!丑御前!!」

 

「……良いでしょう、返り討ちにして差し上げます!!牛王招力・怒髪天昇!!!」

 

丑御前はキメラ・ホープレイVがこの場にいる最強の敵だと認識し、再び宝具を発動して分身を召喚し、大将同士の最終決戦を望む。

 

遊馬はキメラ・ホープレイVに攻撃命令を下す。

 

「行け、キメラ・ホープレイV!!!」

 

キメラ・ホープレイVは真紅の瞳を輝かせ、大鎌を軽やかに振り回してから大きく振り上げて突撃する。

 

「矮小十把、塵芥に成るがいい!」

 

丑御前五人の怒涛の連続攻撃がキメラ・ホープレイVに集中し、そのあまりの威力に大きなダメージが遊馬とキメラ・ホープレイVに与えられる。

 

キメラ・ホープレイVの鎧が傷付き、砕けていく……しかし、キメラ・ホープレイVは決して倒れる事はない!

 

「魔装鵺妖衣の効果!装備モンスターの攻撃によって相手が破壊されなかったダメージステップ終了時、その相手モンスターの攻撃力を0にする!ダーク・チャージ!!」

 

キメラ・ホープレイVが再び真紅の瞳を輝かせ、大鎌を掲げると丑御前の体から力の源である邪悪な神気が大量に抜けていき、キメラ・ホープレイVに吸収されていく。

 

「ば、馬鹿な……!?私の、力が……抜けていく……!??」

 

「そして、装備モンスター……つまり、キメラ・ホープレイVはもう1度だけ同じモンスターに続けて攻撃できる!」

 

「遊馬、セットカードだ!」

 

丑御前の意識を封じ込めて頼光を助けるためのカードはアストラルがあらかじめフィールドにセットしておいた。

 

「ああ!罠カード『安全地帯』を発動!このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、その表側表示モンスターは、相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されず、相手に直接攻撃できない!これを……丑御前、あんたを対象にする!」

 

モンスターを守る最強の罠と言っても過言でもない安全地帯の効果を自軍ではなく、丑御前に使用した。

 

「何を……!?」

 

遊馬達が何を狙っているのか分からず困惑し、キメラ・ホープレイVは丑御前の目の前まで飛んで大鎌を振りかぶる。

 

「ホープ剣・デスサイズ・スラッシュ!!」

 

命を刈り取る死神の大鎌の一撃が炸裂し、丑御前はぶっ飛ばされて広場の壁に激突する。

 

しかし、激突したと言っても安全地帯の効果で大きな怪我はなく、丑御前は意識を失って倒れてしまった。

 

それにより、丑御前から鬼気が消えていき、ゴールデンは安心したように息を吐くとそれが戦いを終えた証明だった。

 

「ゴールデン、思いっきりやっちゃったけど、頼光さんは大丈夫か?」

 

「……もちろんさ。へへッ、いい大将だなアンタ!んでもって気遣いは無用だぜ。オレが前にもやったことだからな」

 

「……ゴールデン、丑御前退治の真実と言うのは……」

 

「ああ。ようは意識をブッ飛ばせばいい。丑御前も大将も同じ人間だ。切り離す、なんざ初めから無理なんだよ。まあ、イリヤとクロの嬢ちゃん達のはかなり例外だがな」

 

頼光と丑御前に少し似た境遇のイリヤとクロエがクラスカードで一人の人間から二人に分離した話を聞いた時、ゴールデンはとても驚いていた。

 

「だからオレは、昔──大将と、大将が切り離そうとした丑御前の戦いに割り込んだ。自分を殺そうとする頼光サンを打ちのめしてな。んなバカなことさ止めてくれ、ってよ。みっともなく泣きながら、土下座して頼んだ。あの時の状況は今回より酷かったが──丑御前の方が折れてくれてよ。自分からオレっちの雷撃を受けて、気絶しやがった。文字通り失神ってヤツさ。それ以来、丑御前は出てこなかった」

 

それが丑御前退治の真実。

 

頼光が丑御前を……自らを殺そうとし、それを息子のゴールデンが必死に止めたという母と子の話だったのだ。

 

ゴールデンは倒れている丑御前に近づいて背中に腕を回して持ち上げると意識が戻った。

 

「ううん……私、は、いったい……」

 

「よぅ、起きたかよ大将」

 

「金時……?あれ、私は……?」

 

「……少し色々あったんだよ」

 

目を覚ましたのは丑御前ではなく、元の頼光だった。

 

頼光は丑御前に体を支配されている時の記憶は無く何が起きたのか覚えていないのだ。

 

これで丑御前の意識は無事に頼光の中に封じ込められ、後は特異的の元凶である杯を処理すれば解決する。

 

「ふぅ、これで鬼ヶ島の戦いも終わりだな」

 

遊馬は一息をついてカードをデッキに戻した。

 

鬼ヶ島の鬼退治の戦いが終わり、誰もが一安心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、まだ鬼ヶ島の戦いは終わってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストラルが皇の鍵の中に戻ろうとしたその時、邪悪な気配に気付いて振り向いた。

 

「遊馬、アストラル……まだ終わってねぇぞ……見ろ!」

 

「えっ!?」

 

「何だと!?」

 

遊馬達が振り向くとそこにあったのは特異点の杯で中からドロドロとした邪悪な液体が溢れ出していた。

 

すると、杯に共鳴するかのようにこの場にいる6人の男女に異変が起きた。

 

「な、何だ……聖杯が……!?」

 

遊馬の中にある聖杯が鼓動を鳴らして胸元が輝き、それと似たような現象がイリヤと美遊とクロエ、アイリとシトナイにも起きていた。

 

イリヤ達にも何が起きているのか分からず困惑していると、特異点の杯から大量のドス黒い液体が一気に溢れ出した。

 

溢れ出した液体が杯を呑み込み、どんどん巨大化して固まっていき、一つの大きな生き物となった。

 

紫色に輝く体に赤い眼、そして特徴的な頭の大きな角……そして、この世のものとは思えないおぞましい声が広場に響き渡る。

 

『我は……鬼の王……!』

 

鬼の王。

 

それは体長が何十メートルもある巨大な化け物でアトランタル級の大きさを持っており、見る者を震わせるほどの圧倒的な強者のオーラを放っていた。

 

『この、鬼ヶ島の真の王……!そして、この日の本の国の支配者だ……!!』

 

鬼の王から大量の邪気が溢れ出して天に昇り、空に広がっていた黒雲に数多の稲光が轟く。

 

そして、鬼ヶ島にいる全ての鬼があっという間に頂上に集まっていき、その数は約数万となって広場を囲んでいた。

 

「囲まれた!?」

 

「なんて数だ……!」

 

「この数は多すぎます……私達で対処できるか……!」

 

あまりの鬼の数に遊馬達も焦りの表情が出てくる。

 

特異点の杯が暴走し、遊馬達に最大の危機が迫るのだった。

 

 

 

 




丑御前を倒しましたが、鬼ヶ島のクライマックスはこれからです。
これで終わりにしても良かったのですが、書きたかった内容があるのでもう一話続きます。


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ナンバーズ154 再会の約束

今回で鬼ヶ島編は終わりです。
今回の話はただ私がこれはどうしても書きたかっただけの話なので個人的に満足しています。


突如として現れた鬼の王と呼ばれる謎の存在。

 

鬼ヶ島にいる全ての鬼が頂上に集結していき、何が起きているのか誰も分からずにいた。

 

数万いる鬼の中から欲望を抑えきれずに遊馬達に襲いかかって来た。

 

応戦しようとしたその時、デッキケースから二つの光が飛び出して襲いかかって来た鬼を細切れにする。

 

「なんや面倒なことになって来たなぁ」

 

「まるで地獄のような光景になっているな」

 

「酒呑!茨木!」

 

現れたのは最強の鬼の酒呑と鬼の首領の茨木だった。

 

酒呑と茨木はゴールデンに支えられている頼光を見てニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「おやおや、茨木見てみぃや。うちらの事を虫と呼んでいた頼光が虫の息やで〜」

 

「ふははははっ!源頼光よ、なんて無様な姿よな!!」

 

平安最強の神秘殺しの頼光の弱った姿に酒呑と茨木はここぞとばかりに大笑いし、頼光は悔しさから歯を噛みしめながら童子切安綱を握る。

 

「虫共が……一体何しに来たんですか……!?」

 

「無理せんでええよ。別にあんたをどうこうするつもりは無いで。今のあんたと戦っても面白ないからなぁ」

 

「今の貴様など眼中に無いわ!吾らはあの鬼の王などとふざけた事を言っている奴をぶちのめすために来たのだ!」

 

酒呑と茨木は鬼の王と名乗っている存在を倒す為にカルデアから駆けつけたのだ。

 

「おい、酒呑。あれは何なんだ?あんな鬼の王なんて奴は存在するのか?」

 

「小僧。あんなもの、鬼の王でも何でも無いわ。この鬼ヶ島に溢れる負の気と鬼の気が願いを叶える酒杯に集まって生まれた存在や」

 

「負の気と鬼の気だと?」

 

酒呑は鬼の王がどんな存在なのか既に理解していた。

 

鬼の王は酒呑や茨木と異なり本物の鬼ですらない。

 

この特異点の元凶である願いを叶える酒杯は丑御前の歪んだ願いを叶えてこの鬼ヶ島を作り、頼光が描いた鬼を配下として具現化させた。

 

その結果、この鬼ヶ島で大勢の人間が奴隷となって働かされ、たくさんの負の感情が生まれた。

 

更には人間だけでなく、鬼達も殺されていき、その魂と屍が鬼ヶ島に漂っていた。

 

そして……それらの負の感情と鬼の気が酒杯に少しずつ溜まっていき、酒杯の性質が完全に変化してしまった。

 

酒杯から膨大な邪気が溢れ出て、それが意志を持ち、鬼の王が誕生してしまったのだ。

 

しかし、鬼の王が誕生する決定的な理由は他にもあった。

 

「まあ、後は多分やけど……聖杯持ちが複数いるのも原因やろうなぁ……」

 

ここには聖杯所持者の遊馬に加えて聖杯の器であるイリヤ達がいる。

 

聖杯に近い性質の酒杯と共鳴すると言う本来ならばあり得ない現象が起きてしまい、より大きな力を生み出してしまったのだ。

 

『感じるぞ……その小娘達からこの杯と同じ力を……!』

 

鬼の王はギロリとイリヤ達を睨みつけて狙いを定めた。

 

イリヤ達の中にある聖杯の器という大きな力を得れば強大な力を得られる、鬼の王として更に強くなれると確信した。

 

『さあ、奪え!その力でこの日の本を鬼の国にするのだ!』

 

鬼の王は鬼達に指示して一斉にイリヤ達に襲い掛かった。

 

イリヤ達を守る為に近くにいた小太郎と段蔵が身を挺してでも襲い掛かる鬼を倒そうとした。

 

イリヤ達も守られてばかりでは無く、イリヤと美遊はクラスカードを構え、クロエとシトナイは弓を構え、アイリはシュトルヒリッターで小鳥と剣を作る。

 

遊馬達も急いで走り出し、イリヤ達を守る為に戦おうとした。

 

鬼の王の手によってイリヤ達に危機が迫るその時……再び遊馬のデッキケースから光が溢れ出る。

 

そして、光が一気に飛び出してイリヤ達の前に降り立ち、数千の鬼を一瞬で全て薙ぎ払い、一陣の突風が吹き荒れた。

 

その影にイリヤ達は目を見開いて驚愕した。

 

巨人と見紛うほどの巨躯を持ち、まるで巌のような男性。

 

灰色の肌に逆立つ黒い髪、その鋭い眼で敵を射殺すような赤色と金色の瞳。

 

鍛え抜かれた肉体とその同等の長さを持つ大きな斧剣を片手で持ち、地面に突き刺して全身に力を込めて雄叫びを上げる。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

その雄叫びの声量にイリヤ達は思わず耳を塞いだが、一人だけ反応が違っていた。

 

「え……?うそ……でしょ……?」

 

それはシトナイだった。

 

シトナイは目の前にいるその巨人に信じられないと言わんばかりの困惑した表情をした。

 

しかし、その直後に嬉しくて笑みが溢れて涙を浮かべながらその巨人の名を呼んだ。

 

「……バーサーカー!!!」

 

バーサーカー……ヘラクレスはシトナイにその名を呼ばれ、鬼の王達に背を向けてゆっくりと腰を下ろした。

 

ヘラクレスの視線の先にはシトナイがおり、シトナイは足に力を込めてジャンプし、ヘラクレスの顔に抱きついた。

 

「バーサーカー、あなたにまた会えるなんて……本当に、本当に奇跡だわ」

 

ヘラクレスはその大きな手でシトナイに軽く触れて優しく頭を撫でる。

 

実は……ヘラクレスはシトナイ……イリヤスフィールの元サーヴァントだったのだ。

 

並行世界で起きた第五次聖杯戦争……そこでイリヤスフィールはヘラクレスをバーサーカーとして召喚して戦ったのだ。

 

イリヤスフィールはヘラクレスに心から信頼を寄せており、サーヴァントであると同時に父のように慕っていた。

 

ヘラクレスはイリヤスフィールをマスターとしてだけでなく、自分の亡くなった子供と重ねて敬愛する大切な存在として守ろうとしていた。

 

「そっか……バーサーカー、今はユウマのサーヴァントなんだね。それでも、私の為に来てくれたんだね。ありがとう」

 

『たかが、英霊一騎如きで……!さっさと始末しろ!!』

 

鬼の王の指示で再び鬼達が一斉に襲い掛かり、ヘラクレスはシトナイ達を守るように立ち上がり、右手で地面に突き刺した斧剣を引き抜く。

 

シトナイは笑みを浮かべて腕を振り上げ、嬉々として声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やっちゃえ!バーサーカー!!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はもうマスターではないが、シトナイの命令にヘラクレスは歓喜に似た怒号を轟かせて斧剣を振り回す。

 

文字通り『狂戦士(バーサーカー)』の戦いに相応しい荒々しい暴風のような攻撃で鬼達がいとも簡単に吹き飛ばされる。

 

再び目にしたヘラクレスの戦いにシトナイは大興奮でいると更なる再会が待ち受ける。

 

「バーサーカー……いえ、ヘラクレスはイリヤスフィールと再会して嬉しそうに戦っていますね」

 

「いや、あの恐ろしい戦いっぷりに、無残にも飛び散る鬼を見ていると、そう思えないわよ……」

 

「でも絶対に嬉しいはずですよ。バーサーカーさんはイリヤさんのことが大好きですから!」

 

「確かにヘラクレスとイリヤのセットはとても合ってますからね」

 

「え……?ま、まさか……!?」

 

四つの声にシトナイは聞き覚えがあり、驚愕しながら振り向いた。

 

「セ、セイバー!?リンとサクラ!?それにライダーまで!」

 

後ろにいたのはアルトリア、イシュタル、パールヴァティー、メドゥーサの四人だった。

 

「イリヤスフィール、お久しぶりですね」

 

「やっほー、イリヤ。みんなで来ちゃったわよ♪」

 

「イリヤさん、また会えて嬉しいです!」

 

「まあ私はサクラの付き添いですが。とりあえず久しぶりです」

 

シトナイを守る為に鬼ヶ島に突撃したヘラクレスに続き、四人も鬼ヶ島に参上した。

 

アルトリアはシトナイの肩にポンと手を置いて再会を喜ぶ。

 

「イリヤスフィール、私達だけではありませんよ。貴方のために駆け付けたのは……」

 

「ま、まだいるの?」

 

「ええ。アイリスフィールと同じく、貴方を心から愛する人が……」

 

すると、シトナイの背後に黒い影が静かに立ち、そのままシトナイの頭を優しく撫でた。

 

その大きくてゴツゴツした手に撫でられてシトナイは息をするのも忘れるほど驚いた。

 

「イリヤ……僕を怨むなら幾らでも怨んでくれ」

 

「どうして……?」

 

「僕は……君の父親だ。父親として、愛する娘を……君を、守らせてくれ」

 

「キリツグ……!?」

 

シトナイの頭から手から離し、その男……キリツグはナイフと銃を手に駆け出して鬼退治をする。

 

まさかキリツグが来てくれるとは思いもよらずシトナイは困惑している。

 

「ふっ……じいさん。言うならちゃんと面と向かって言えばいいものを……」

 

そして、最後にシトナイの元に駆けつけたのはシトナイの義理の弟であるエミヤだった。

 

「えっ?シ、シロウ!?あなたまで!?」

 

「久しぶりだな、イリヤ」

 

「あっ、ああ……!」

 

シトナイはこれまでに無いほどの幸福感に溢れていた。

 

最高の従者と生き別れた両親に加えて義弟との奇跡の再会にシトナイは涙が溢れ出るほどに嬉しかった。

 

でもここは戦場、涙を流している暇などない。

 

シトナイはシロウの背に乗り、マキリを掲げて叫ぶ。

 

「よーし!みんな、行っくよぉー!」

 

シトナイの先導でアルトリア達と一緒に鬼退治に向かう。

 

「ミユ、クロ!私たちも行くよー!」

 

「うん、負けてられないね……!」

 

「アインツベルン家&衛宮家大集合だからね。派手に行きましょう!」

 

「みんな、頑張ってー!」

 

イリヤと美遊とクロエも負けられないとシトナイ達に続き、アイリは応援しながらみんなのサポートに徹する。

 

「僕達も行きましょう、段蔵殿!」

 

「ええ。ワタシを救ってくれたアイリ様達の恩に報いる為に!」

 

小太郎と段蔵は鬼の王から特に狙われているイリヤ達を守る為に駆け抜ける。

 

強力な援軍で鬼達が次々と倒されていき、その間にゴールデンは動けない頼光を抱きかかえて遊馬達の元に戻った。

 

「悪いな、大将、マシュの嬢ちゃん。頼光サンを任せてもいいか?」

 

「ゴールデン、行くのか?」

 

「ああ。酒呑と茨木、それにあんな小さな嬢ちゃん達が鬼退治をしているんだ。頼光四天王のオレが戦わないわけには行かないからな!ゴールドビングだ!!」

 

ゴールデンはゴールデンベアー号に乗ってフルスロットルで走り出す。

 

サーヴァント達による鬼退治が始まり、一騎当千とも言えるその戦力で次々と鬼が退治されていく。

 

しかし、鬼の王は自分の体から溢れる邪気を元に新たな鬼を作っていき、サーヴァントとの戦力差を埋めていく。

 

鬼の王と酒杯がある限り、鬼は無限大に増えていくのでこのままではキリがない。

 

「よし、アストラル。俺たちで鬼の王を倒すぜ!」

 

「ああ!そして、酒杯を奪取してこの特異点を終わらせる!」

 

遊馬とアストラルは鬼の王を倒し、酒杯を奪取することを決める。

 

希望皇ホープで戦おうと思ったその時……黒い影が二人を遮る。

 

「待ちな、二人共」

 

「ミストラル?」

 

「貴様、何のつもりだ?」

 

ミストラルの行動に警戒する遊馬とアストラル。

 

「遊馬君よ、早速で悪いが借りを返してもらうぜ」

 

「借りを返すって、何をどうするんだ?」

 

「簡単な話だ。俺様の分身、ブラック・ミストであの鬼の王を倒せ」

 

「ブラック・ミストで!?」

 

「そうか……ブラック・ミストの力で鬼の王から邪気を奪い取り、それを貴様の失った力を取り戻す為に使う気だな!?」

 

「ご名答。まだまだ俺様の力を100パーセント取り戻すには足りないからな。だが、あの鬼の王の登場はちょうど良いタイミングだ!」

 

「うぐっ!?」

 

ブラック・ミストが手を前に突き出して闇を纏うと、アストラルの体から『No.96 ブラック・ミスト』のカードが勝手に飛び出して遊馬の手に収まる。

 

確かにブラック・ミストは戦闘に特化した能力である為、鬼の王との戦いには最適かもしれないが、それは同時にミストラルの力を取り戻す事に繋がり、アストラルは不安が過ぎる。

 

すると、遊馬はため息をついてブラック・ミストのカードをデッキケースに入れる。

 

「分かったよ。やろうぜ、ミストラル」

 

「ふふふっ……良いぜ、そうこなくちゃな!」

 

遊馬はミストラルに借りを返す為と鬼の王を倒す為にブラック・ミストを使う決意を固めた。

 

「遊馬!?」

 

「心配するなって、アストラル。ミストラルは俺を助けてくれたのは確かだ。借りはちゃんと返さなきゃいけないからさ。それに、もしもミストラルが悪さをするなら俺たちでまた止めれば良い話だ。そうだろ?」

 

ミストラルの真意は不明だがこれまでも何度か遊馬とアストラルの危機に対して手を貸して命を救っているのは事実だ。

 

仮にミストラルがまた悪さを行おうとする可能性もあるが、今の自分たちなら止められると遊馬は確信している。

 

しかし、それと同時に遊馬は信じているのだ。

 

ミストラルはドン・サウザンドの一部から生まれ、世界に滅びをもたらそうとしていたが、その心は確実に変わり始めていると。

 

「全く君は……分かった。今回は目を瞑ろう」

 

遊馬のミストラルを信じる心に根負けし、アストラルはため息をついて今回の出来事に目を瞑る事にした。

 

「さあ、話が済んだところで……遊馬君よぉ!さっさと俺様を召喚してみろ!」

 

「そう言ってもお前の召喚条件はかなり面倒じゃねえか。まあやるだけやってみるけど……俺のターン、ドロー!」

 

テンションが上がっているミストラルに遊馬は軽く呆れながらドローをして手札を確認する。

 

「えっと……はぁ!?なんでこのカードが!?」

 

「どうした、遊馬?こ、このカードは……ミストラル、貴様か!?」

 

遊馬とアストラルは初期手札を見てあり得ないと驚いていた。

 

「正解だ。さっき遊馬の体を操っているときにこっそりデッキに入れさせてもらった。いつかこの俺様を召喚する為にな」

 

ミストラルのニヤリとした不敵な笑みに遊馬はため息をつく。

 

「ったく勝手な事を……分かったよ、これでやってやるよ。俺は手札から『マリスボラス・フォーク』の効果発動!手札からこのカード以外の悪魔族モンスター1枚を墓地に送り、このカードを特殊召喚する!」

 

背丈ほどのフォークを武器にし、鎧を着た小さな悪魔が召喚される。

 

マリスボラスはミストラルの分身を呼び出す為のカテゴリーモンスター。

 

レベル2で同じマリスボラスモンスターを特殊召喚する効果に特化している。

 

「更に『マリスボラス・ナイフ』を通常召喚して効果発動!召喚に成功した時、マリスボラス・ナイフ以外の墓地のマリスボラスモンスターを1体特殊召喚する!蘇れ、『マリスボラス・スプーン』!」

 

ナイフを武器にした悪魔とスプーンを武器にした悪魔が立ち並び、これでレベル2のモンスターが一気に揃った。

 

「行くぜ、レベル2のマリスボラス・フォーク、マリスボラス・ナイフ、マリスボラス・スプーンの3体でオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

3体のマリスボラスモンスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きるとミストラルはテンションマックスで叫んだ。

 

「現れろ、我が分身!No.96!漆黒の闇からの使者!『ブラック・ミスト』!」

 

ミストラルの分身である不気味な闇の怪物、ブラック・ミストがエクシーズ召喚される。

 

「カードを1枚伏せ、ブラック・ミストで攻撃!」

 

「この瞬間、ブラック・ミストの効果!相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に1度、このカードのオーバーレイ・ユニットを1つ取り除いて発動!その相手モンスターの攻撃力を半分にし、ブラック・ミストの攻撃力はその数値分アップする!シャドーゲイン!!」

 

ブラック・ミストの手から無数の触手が生え、それらが全て鬼の王の体に突き刺さる。

 

『ば、馬鹿な……!?我の力が、奪われている……!?』

 

鬼の王の体を形成する膨大な邪気が一気に半分となり、それがブラック・ミストの攻撃力となる。

 

「ああ……満ちていく、俺に闇の力が満ちていくぞ!」

 

それと同時に本体であるミストラルの中に邪気が流れ込み、失っていた力をどんどん埋めていく。

 

「さあ、ブラック・ミストよ!鬼の王を蹴散らせ!ブラック・ミラージュ・ウィップ!!」

 

鬼の王に突き刺した触手を引き抜くと同時に鞭のように激しく振るって攻撃する。

 

闇の触手の攻撃で力が半減した鬼の王に多大なダメージが与えられる。

 

「流石だな、ミストラル。相変わらず強いな、ブラック・ミストは」

 

「当たり前だ!欲を言えばランクアップをすれば更に思いっきり暴れられるが今回はこれで良しとしよう!」

 

「ランクアップした君は面倒極まりないからなって欲しくはないがな」

 

共感と反発をする遊馬とアストラルとミストラル……本来ならば相反する存在であるが、今は共に戦っているその奇妙な関係に頼光は唖然としていた。

 

「何故……何故、彼らはあんな風に協力して戦っているのですか……?」

 

「それは……遊馬君がそうさせているんです」

 

「あの子が……?」

 

闇の存在であるミストラルと一緒に戦っている遊馬とアストラルに疑問を持つ頼光にマシュが答える。

 

「はい。遊馬君には不思議な魅力があります。どんな逆境に立たされても何度でも立ち上がり、絶対に諦めない。そして、敵であろうとも心が少しでも通じ合えば手を伸ばして助けようとする。そして、その手に未来を掴む……それが、私たちのマスター、九十九遊馬君です!」

 

「未来を、掴む……?」

 

頼光は未来を掴む無限の可能性を持つ遊馬の姿を見つめる。

 

鬼の王は一騎でも多くのサーヴァントを倒すために闇の波動を放つが、ヘラクレスの斧剣やアルトリアの聖剣によって攻撃は阻まれてしまう。

 

「さーて、そろそろ終わりにしよか?」

 

サーヴァント達のお陰で鬼の数が大きく減り、戦いも終盤に近づいたと感じた酒呑は鬼の王に一気にトドメを刺す。

 

「頼光!あんたがうちにくれた宝具を使うで?」

 

「私があげた……宝具……?」

 

頼光は何のことだか分からず、まだ誰にも見せていない酒呑の宝具をお披露目する。

 

「死にはったらよろしおす……」

 

酒呑の持つ盃から酒を垂らすとそれが一気に地面に広がって湖のような状態になる。

 

「『千紫万紅・神便鬼毒(せんしばんこう・しんぺんきどく)』!」

 

酒が鬼の王に触れた瞬間、邪気から作られたはずの体が一気に腐食して全身に回り出す。

 

酒呑の宝具……それは頼光が酒呑を退治する為に用いた毒酒「神便鬼毒酒」が宝具として昇華されたもの。

 

英霊と化した今、この毒酒と酒呑童子は一体の存在へと昇華されている。

 

千紫万紅・神便鬼毒は酒呑の意志で相手に与えた酒の濃度を変え、最大濃度ならば、全身を生きながらに腐乱させ、僅かな骨しか残さないほどの猛毒にする。

 

『な、何故だ!?何故この邪気の体が酒に蝕まれる!??』

 

「この酒呑童子を酔わせて眠らせるほどの毒酒やで?その最大濃度を受ければただでは済まんのは当然や。さあ、茨木。次はあんたや」

 

「応っ!鬼の王と言ったが、貴様如きがこの鬼の頭領であるこの茨木童子の前で王を名乗るな!」

 

鬼の頭領としてのプライドが茨木の怒りを燃え上がらせ、その怒りが炎となって右手に宿る。

 

「走れ叢原火!『羅生門大怨起』!! 」

 

茨木の右手が切り離され、真っ赤に燃える怨念の鬼火を纏って巨大化し、猛烈な速度で走る。

 

酒呑の宝具の毒で弱っている鬼の王の胸元に向けて飛び、そして……心臓を抉るように貫いた。

 

『グァアアアアアッ!??』

 

「ハッ……!捕まえたぞ!!」

 

茨木の元に戻った右手の中には鬼の王の中にあった酒杯があった。

 

羅生門大怨起で酒杯を捥ぎ取り、これで鬼の王の無限に近い力の源を奪い取ったことになる。

 

「さあ、遊馬!早いところこいつにトドメを刺せ!」

 

酒杯を鬼の王から奪い取り、満足した茨木は最後のトドメを遊馬達に譲る。

 

「ああ、わかったぜ!俺のターン、ドロー!ブラック・ミストで攻撃!この瞬間、ブラック・ミストの効果発動!シャドーゲイン!」

 

ブラック・ミストの効果で再び触手を放って鬼の王を貫き、力を奪い取る。

 

「クックック……これで貴様の力を更に奪ってやったぜ。ブラック・ミスト、やれ!ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

 

最初よりも倍増した触手で鬼の王をこれでもかと痛ぶり、もはや虫の息と言えるほどまでに追い詰めた。

 

『お、おのれぇ……まだだ、ここにいる鬼を全て取り込んで力を……!』

 

鬼の王はまだ辛うじて残っている鬼達を自分の肉体として取り込み、力を取り戻そうとした。

 

「鬼の王、悪いが次のお前のターンは来ない。これで終わりだ」

 

『何だと……!?』

 

「ミストラル、ラストアタック……行くぜ?」

 

「おいおい、この俺様をまだ満足させてくれるのか……!?最高だぜ、遊馬君よぉ!!」

 

歓喜の表情を浮かべたミストラルの思いに応えるラストカードを発動する。

 

「罠カード!『かっとビング・チャレンジ』!自分バトルフェイズにこのターン攻撃を行ったモンスターエクシーズ1体を対象として発動!このバトルフェイズ中そのモンスターはもう1度だけ攻撃出来る!そして、この効果でそのモンスターが攻撃する場合、ダメージステップ終了時まで相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない!!」

 

それは夕陽に向かって高くジャンプする遊馬の後ろ姿が描かれており、モンスターエクシーズの2回目のバトルを可能にして相手に大ダメージを与える罠カード。

 

このカードは戦闘によって自身の攻撃力が上昇するブラック・ミストと相性がとても良いのだ。

 

「ヒャハハハ!ここで2回攻撃とは最高だぜ!さあ、再び攻撃しろ、ブラック・ミスト!!」

 

かっとビング・チャレンジの効果を受けたブラック・ミストラルはもう1度鬼の王に攻撃する。

 

「ブラック・ミストの効果!シャドーゲイン!!」

 

ブラック・ミストが最後のオーバーレイ・ユニットを使い、更に鬼の王の力を半減させる。

 

これで鬼の王の力は8分の1以下にまで大幅に減少し、力の源だった酒杯も奪われている。

 

「これでファイナルだ!ブラック・ミスト!!」

 

「喰らいな!ファイナル・ブラック・ミラージュ・ウィップ!!」

 

最早数え切れないほどの大量の触手がブラック・ミストから生えて鬼の王の全身を隈無く叩きのめした。

 

『馬鹿な……我の……鬼の国が……』

 

「悪いけど、あんさんが支配するそんな国は必要無いで」

 

「紛い物の鬼にそんなものを作れるはずがないのだ!」

 

酒呑と茨木は鬼の王に引導を渡し、鬼としての全てを否定されながら消滅していく。

 

「茨木。酒杯を」

 

「ああ」

 

茨木は鬼の王から奪った酒杯を酒呑に向けて投げる。

 

「旦那はん、こいつを壊すで?」

 

「酒呑、頼む」

 

「了解♪」

 

酒呑は剣を構えて羅生門と鬼ヶ島……二つの特異点の元凶である酒杯を真っ二つに斬り裂いた。

 

真っ二つに斬り裂かれた酒杯が地面を転がりながら消滅する。

 

酒杯が消滅した事でこの特異点を解決した。

 

「うーん、これですっきりしたわ。小僧、旦那はん、先に帰らせてもらうで」

 

「ようやく終わったか……帰ったら甘味をたらふく食べるかな!」

 

酒呑は特異点の元凶を破壊できてすっきりし、茨木は戦いが終わって安心し、二人は頼光に色々言われる前に先にカルデアに戻った。

 

今度こそ鬼ヶ島の戦いが終わり、全員がホッとするとこの特異点の一番の被害者と言える存在、頼光がその場で土下座をして全員に謝罪した。

 

「皆さん……この度はご迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした。記憶は欠けておりますが、私の至らぬ弱さ、はしたない本性が、皆様に害を成したと存じます。謝って許される事ではありませんが、この通り。どうか、お許しくださいませ」

 

「顔を上げてくれよ、頼光さん。俺たちはそんなことは気にしてないし、丑御前が酒杯の所為で暴走してしまったことはみんな分かっているからさ」

 

遊馬は土下座をする頼光を起こした。

 

しかし、それでも頼光の申し訳なさそうな罪悪感を持つ表情は消えず、今にも泣きそうだった。

 

頼光の罪の意識を少しでも和らげるために遊馬はある提案をする。

 

「それじゃあさ、頼光さん。俺と契約をしてくれるか?」

 

「契約、ですか……?」

 

「ああ。俺たちは世界の未来を取り戻す為に戦っていて、ゴールデンも一緒に戦ってくれているんだ。だから……頼光さんの力も貸してほしい」

 

「こんな私でもよろしいのですか……?」

 

「もちろんだぜ!同じ日本人として最強の神秘殺しの頼光さんがいてくれたら安心するからさ!それに、俺と契約してカルデアに召喚したらゴールデンとまた一緒に暮らせるぜ?」

 

自分の最愛の息子でもある金時とまた暮らせると聞き、頼光の表情が明るくなっていく。

 

「まあ……!金時とまた一緒にですか!?しかし、こんな私にその資格が……」

 

「何で?互いを想いあってる家族でまた一緒に過ごせることに資格なんて必要か?なあ、ゴールデン、別に問題ねえよな?」

 

「当たり前だ、大将。オレだって頼光サンの……母上の作った飯を食いたいからな」

 

あっけらかんと言う遊馬とそれに応えるゴールデンに頼光は目を見開いて驚き、それと同時に心がとても暖かくなっていく。

 

頼光は思う、自分はなんて幸せ者なのだろうと。

 

自分を想ってくれる最愛の息子。

 

そして、自分を真っ直ぐ見つめ、手を差し伸べて優しい笑顔を見せてくれる少年。

 

母としてこの想いに応えなければならないと頼光は決意を新たにした。

 

「源氏の棟梁、源頼光。九十九遊馬様……あなたの刃になることをここに誓います」

 

頼光は遊馬の前で跪いてサーヴァントとしての忠誠を誓った。

 

「おう!これからよろしくな、頼光さん!」

 

「はい!」

 

遊馬と頼光は握手をして契約を交わした。

 

頼光のフェイトナンバーズが誕生し、契約が完了するが、その直後に頼光の体が光の粒子となって消滅していく。

 

「どうやら時間が来てしまったようです……」

 

「心配するな、帰ったらすぐに召喚するからさ!」

 

「はい……よろしくお願いしますね、遊馬」

 

頼光は最後に満面の笑みを浮かべながら消滅した。

 

それに続いて小太郎と段蔵も消滅していく。

 

「マスター、色々とお世話になりました」

 

「またお会いしましょう」

 

「小太郎、段蔵!カルデアで召喚したら風魔忍者の事を沢山教えてくれよ!」

 

「はい!手裏剣や苦無の投げ方など沢山教えます!」

 

「ワタシも一緒に御教授致します!」

 

「楽しみにしてるぜ、二人共!」

 

小太郎と段蔵も笑顔のまま消滅していき、残るは……。

 

「ねえ、ユウマ」

 

「シトナイ、どうしたんだ?」

 

最後の一人はまだ契約を交わしてないシトナイだった。

 

「えっと……契約、お願い出来るかな……?カルデアで召喚してくれたら、お母様やみんな……それに、バーサーカーとも会えるよね……?」

 

「もちろん!カルデアに帰ったらすぐに召喚してやるからな!」

 

「うん、ありがとう!」

 

シトナイはカルデアには最愛の母のアイリだけでなく、生前に一緒にいた大切な人たちが沢山いるので、特殊な環境下とはいえまた一緒に暮らせると心を弾ませている。

 

遊馬はシトナイとも無事に契約を交わし、これでこの鬼ヶ島で出会った全てのサーヴァントとの契約を完了させた。

 

「ああ……シトナイ、いいえ、イリヤ……待っててね。すぐにマスターが呼んでくれるから……」

 

アイリはシトナイとの別れを惜しみ、二度と話さないと言わんばかりに、強く抱き締めていた。

 

「うん……待ってるからね。お母様」

 

そして、シトナイの体が光の粒子となって消滅されていき、別れの時が来た。

 

アイリは泣きそうな表現を浮かべるが、シトナイは我慢しながらアイリから離れてシロウの元に戻る。

 

「じゃあね……じゃあね、みんな!私、待ってるからねー!」

 

シトナイは小さな涙を流しながら精一杯の声を出して再会の為の別れを告げながら消滅していった。

 

「さぁ、俺様の力も大体取り戻したぜ。俺は鍵の中で休ませてもらうぞ」

 

ミストラルは欠伸をしながら特に何もせずに皇の鍵の中に戻った。

 

ミストラルの目的が何なのかわからず小さな不安が残るが、何はともあれ羅生門と鬼ヶ島の繋がる日本の特異点を無事に解決した遊馬達はカルデアへと帰還する。

 

そして、帰還早々に遊馬は新たなフェイトナンバーズを手に召喚ルームへと駆け出した。

 

 

 




次回から夏イベのカルデアサマーメモリー編を始めます。
やっと夏イベに突入出来ます。

その前に遊馬の説教とかシトナイの一悶着がありますのでお楽しみを(笑)


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ナンバーズ155 父娘の再会と説教

父娘の再会についてはとあるFate作品のパロディ全開です(笑)
これはずっと前から考えていました。


鬼ヶ島の特異点から帰還した遊馬達は真っ先に召喚ルームに向かった。

 

召喚する前にバーサーカーからライダーへとクラスチェンジした金時の新たなフェイトナンバーズが覚醒した。

 

愛機のゴールデンベアー号に跨り、雷鳴を轟かせながら爆走する姿が描かれており、真名は『FNo.56 黄金疾走 坂田金時』。

 

召喚サークルに4枚のフェイトナンバーズを並べ、マシュから聖晶石を貰って砕いてばら撒く。

 

英霊召喚システムにより、遊馬達が望んだ四騎のサーヴァントが召喚される。

 

「シトナイよ。よろしくね、マスターさん」

 

最初に召喚されたのはシトナイだった。

 

シトナイのフェイトナンバーズはシトナイが白熊のシロウと共に極寒の森の中を歩く姿が描かれており、真名は『FNo.21 氷雪の女神 シトナイ』。

 

「サーヴァント、アサシン。風魔小太郎。このようなナリですが、どうぞよろしく」

 

フェイトナンバーズは燃える炎の中で苦無を構えながら駆け抜ける姿が描かれており、真名は『FNo.12 風魔忍者 風魔小太郎』。

 

「加藤段蔵。ここに起動。入力を求めます、マスター」

 

フェイトナンバーズはどこかの城の上で風に舞う花弁と共に美しく座っている姿が描かれており、真名は『FNo.12 絡繰忍者 加藤段蔵』。

 

「こんにちは。サーヴァント、セイバー……あら?あれ?私、セイバーではなくて……バーサーカーの源頼光です。よろしくお願いします」

 

最後に召喚されたのは頼光で本人はセイバーだと思っていたがバーサーカーとして召喚されており、戸惑いながら挨拶をした。

 

頼光のフェイトナンバーズは雷鳴が轟く中、童子切安綱を構える姿が描かれており、真名は『FNo.5 天雷の神秘殺し 源頼光』。

 

小太郎と段蔵は遊馬に駆け寄り、頼光は金時に駆け寄ってそれぞれ再会を喜んだ。

 

そして、シトナイが静かに真っ先に向かったのは生前に生き別れた父……エミヤキリツグの元だった。

 

「……キリツグぅぅ!」

 

「イリヤ……!」

 

生き別れた親子の時空を越えた感動の再会が再び起きようとした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャーマンナッコォ!」

 

「げふぅ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれはあまりにも儚い幻想だった。

 

「ジャーマンスープレックス!!」

 

「ゴッチ!?」

 

「ジャーマン一本足四の字!!!」

 

「いがりィィィッ!?」

 

シトナイは自分の身長の40cm以上の体格差がある男性のキリツグに対してプロレス技をはじめとした豪快な体術を繰り出している。

 

「「「えぇえええええーっ!??」」」

 

「きゃー!?イリヤ、どうして……!?」

 

あまりの予想外過ぎる展開に遊馬達は驚愕して叫んだ。

 

シトナイは見たことのないほどの殺気をキリツグに向けて放つ。

 

「ここで会ったら百年目!今ここでキリツグを殺すわ!」

 

「がーん!いつか来ると思ってたけど、我が娘に反抗期が来ちまった!殺すとかキッツイなあもう!」

 

キリツグは愛する娘に殺すと言われてかなりショックで娘を持つ父親の共通の悩みである反抗期が来たと勘違いをした。

 

反抗期にしてはあまりにも物騒過ぎるのでイリヤもツッコミを入れる。

 

「いやいやいや!もはや反抗期レベルじゃないからね!?私はそこまで言うつもりはないから!」

 

「……うん、ごめん!私は前科あるから否定出来ないわね!」

 

「クロさんはイリヤさんと出会った時は殺意バリバリでしたからね〜」

 

「今はもう流石にないけどね」

 

「薄々感じていましたが、やはりクロ様はイリヤ様よりもシトナイ様に近いようですね」

 

クロエは少し前にイリヤを殺して自分がイリヤになり変わろうと考えていた時期があったのでシトナイを否定出来なかった。

 

「イ、イリヤ……」

 

シトナイのキリツグに向けた予想外の殺意にアイリはオロオロしていた。

 

「イリヤ……じいさん……」

 

「これは……下手したら私とモードレッドの関係以上に拗れてますね」

 

「これはそう簡単に関係修復出来そうにないわね……ってかあの豪快なプロレス技は何処で習得したのよ?あの成金馬鹿を思い出すわ……」

 

「もしかして、先輩の家のテレビで藤村先生と一緒に見ていたプロレス番組ですかね……?」

 

エミヤとアルトリアとイシュタルとパールヴァティーはアイリと同じようにシトナイを心配してオロオロする。

 

「反抗期じゃないわ……まじこのオヤジ、一回シメるわ……!」

 

「イリヤ、女の子がシメるとか言っちゃいけません!言うことを聞かないとお尻ぺんぺんだぞー!」

 

「こ、このセクハラオヤジ!もうキリツグ殺す!マジ殺す!!」

 

「あれー?!」

 

シトナイを子供扱いをして軽く叱るキリツグだが、それが逆にシトナイの逆鱗に触れて更に激昂し、殺意が高まってしまう。

 

「私を捨てて、約束を破った怨み……今こそ復讐を果たすわ!!」

 

両眼に涙を溜めながらマキリを鞘から抜いてキリツグに向ける。

 

「ま、待ってくれ!イリヤ!僕は……!」

 

「問答無用よ!!」

 

キリツグの弁明も無視してシトナイは積年の怨みを晴らすために襲いかかった。

 

ところが……。

 

「…………!」

 

「うわぁっ!?えっ?バ、バーサーカー!?何をするの!?」

 

シトナイの背後にヘラクレスがいつの間にか回り込み、シトナイの体を優しく掴んで持ち上げた。

 

そして、ヘラクレスはシトナイを自分の左肩に乗せると、シトナイは昔を懐かしむようにヘラクレスの頭に抱き付く。

 

「バーサーカー……」

 

巨体であるヘラクレスの左肩はシトナイ──イリヤスフィールの特等席であり、移動や戦闘でよく乗っていた。

 

ヘラクレスは大きな手でシトナイの頭を軽く撫でた。

 

大好きなサーヴァントに心を落ち着かせてもらい、シトナイの怒りが鎮まっていく。

 

「……分かったわ。今回はバーサーカーに免じて止めるわ」

 

キリツグへの復讐は一旦止めてシトナイはエミヤに目線を向ける。

 

「シロウ、私は久しぶりにあなたの手料理が食べたいわ!」

 

「ああ、喜んで。料理のジャンルは?」

 

「そうね……和食で!いつもより腕によりをかけてね!」

 

「ふっ、かしこまりました。お嬢様」

 

「ええ、楽しみにしているわ♪」

 

久しぶりに大好きなエミヤの料理を食べられるのでシトナイは上機嫌となる。

 

「バーサーカー、このままカルデアの中を散歩するわよ。シロウ、来なさい」

 

「……ガオッ」

 

白熊のシロウはシトナイが自分ではなくヘラクレスの左肩に乗っていることに不満な表情を浮かべながら歩き出すバーサーカーの後を追う。

 

「うーん、シトナイとキリツグさんとの関係はヤバいなぁ……」

 

「シトナイの殺意は凄まじかったな……」

 

「それほどまでにキリツグさんを憎んでいるのですね……」

 

遊馬達は最悪な関係となっているシトナイとキリツグをなんとかしたいと考える。

 

ガシッ!

 

「えっ……?」

 

突然、遊馬は背中から大きな何かに掴まれた感覚が襲い、視線を下に向けると悍しい巨大な手が遊馬を掴んで持ち上げていた。

 

「な、何だ!?」

 

「ふははははっ!さあ、愚かな馬よ!召喚などの用が済んだところで行くぞ!」

 

「い、茨木!??」

 

それは茨木の右手で宝具の力で巨大化させて遊馬を掴んで持ち上げたのだ。

 

遊馬が茨木に襲われていると思い込んだ頼光は瞬時に戦闘態勢を取る。

 

「っ!?この、虫が……マスターに何をするのですか!?」

 

「ま、待て!頼光よ、別に馬を傷つけたりはしないぞ!?」

 

「せやで、頼光。別に悪い事をする気はないんやから、そんな殺気を放たんでもええやろ?」

 

「酒呑童子……!!」

 

早速因縁の相手と再会した頼光はギロリと殺気を放つが、酒呑はその殺気には乗らず、ケラケラと軽く笑い飛ばしながら対応する。

 

「そうやなぁ……なあ、頼光。あんたも一応当事者やから一緒に来るか?」

 

「当事者……?」

 

「せやで。さあ、旦那はん。行こうか♪」

 

「い、行くって何処にだ!?」

 

「心配せんでも、別に変なところには行かんよ。まあ、そこで地獄のような苦痛が待ってるかもしれへんけどなぁ……うふふふふっ……」

 

「待って!?俺に、俺に何をするんだぁ!?」

 

遊馬は茨木と酒呑に連れてかれてそのまま召喚ルームを後にした。

 

茨木と酒呑の殺気が感じられなかった頼光は唖然としたが、遊馬を見過ごすわけには行かずにアストラルやマシュ達と一緒にすぐに後を追いかけた。

 

 

遊馬が連れていかれた場所、それはカルデアの憩いの場所である食堂だった。

 

その食堂の中央で遊馬は正座で座らされていた。

 

「あ、あの……どうして僕はこんなところで正座をさせられているのでしょうか……?」

 

あまりの予想外の事態に遊馬も思わずいつもの口調を忘れて丁寧語になっていた。

 

「決まっているでしょう?今から遊馬に説教をするためよ!」

 

正座をさせられている遊馬の前で小鳥が仁王立ちをして見下ろしていた。

 

遊馬は鬼ヶ島での頼光の刀を受け止めた行為をし、これまで何度も無茶をしてきたのでここで一度きっちりと説教をすることになった。

 

説教するのは小鳥とブーディカとオルガマリー、そして茨木と酒呑の五人である。

 

「せ、せめて別の部屋でやってくれませんか……?ここだと、みんなの視線が……」

 

「ダメに決まってるでしょ。我慢しなさい」

 

「そんなぁ……」

 

食堂はカルデアで一番人が集まる場所でもあるので、食堂に訪れた職員やサーヴァント達の視線が自然に遊馬に集まる。

 

一種の晒し者のような状態となり、みんなから集まる視線に遊馬は羞恥心で恥ずかしくなる。

 

アストラルとマシュは今回ばかりは遊馬のためでもあるので何も出来ず、そのまま遊馬への説教が始まった。

 

「本当に、本当に遊馬はバカなんだから!いくらなんでも切れ味のいい日本刀を素手で受け止めるなんて有り得ないわよ!それで指が切れたらどうするの!?もうデュエル飯を握れないし、カードをドローすることも出来ないのよ!分かっているの!?」

 

小鳥は涙目で感情的な言葉で遊馬を責める。

 

「ユウマ……私もオガワハイムで助けられたからあまり強くは言えないけど、君が傷ついたらみんな心配するんだよ。世界を救う為に必死に戦っている君をみんなはいつも心配している。それだけはいつも覚えておいてね」

 

ブーディカは説教ではなく、あえて優しい言葉で遊馬を諭す。

 

「遊馬、現場の最前線で戦っているあなたの意思は最大限主張することになっていますが、もう少し自分の身を大切にしなさい!あなたはこのカルデアの最後のマスターで、人類最後の希望なのよ!?仲間を守る気持ちは素晴らしいですが、もっと考えてから行動しなさい!」

 

優しいブーディカに対してオルガマリーはカルデア所長として、保護者代わりとして遊馬の姉の明里を連想させる厳しい言葉を送る。

 

「おい、馬!あの頼光に立ち向かうとか貴様は本物の馬鹿だな!死ぬ気なのか!?貴様は頼光ほどではないが、ちょっと人外が混ざっているだけで基本は人間なんだぞ!死んだらそこで終わりだ、もっと自分の命を優先しろ!!」

 

茨木は何だかんだで自分達サーヴァントと違い、人間である遊馬の命を心配していた。

 

「旦那はん……あんたは元いた世界で色々あったから何がなんでも仲間を守ろうとするその強い意志は素晴らしいと思うわ。でもな……人が鬼を守るなんて前代未聞や。鬼として少し侮辱された気分やわ。まあ、今回は許してやるわ。その代わり、もう少し……うちらを、あんたと契約したサーヴァントを信じてくれへんか?」

 

酒呑は遊馬が守ろうとしたとは言え、鬼としてのプライドを侮辱されたと僅かながらに感じており、今回はこの説教で特に何もせずに許してあげることにした。

 

しかし、それと同時に遊馬のサーヴァントとして自分だけでなく、他の者たちを信じて欲しい気持ちがあった。

 

「はい……ごめんなさい……」

 

さすがの遊馬も弁明出来ずに謝罪の言葉しか言えないのだった。

 

説教は約数時間にも及び、その間は足を崩すことも許されなかった。

 

ようやく説教が終わり、言葉が身に染みた遊馬は解放されたが……。

 

「うががががぁ……あ、足がぁ……!?」

 

数時間も正座をした代償に両足が痺れてしまい、動けなくなってしまった。

 

「「「「じぃーっ……」」」」

 

そこにちびっ子組の桜と凛、ジャックとナーサリーが見つめていた。

 

すると、ニコッと笑みを浮かべて小さな人差し指を出す。

 

「な、何を……ま、まさか!?」

 

「「「「えいっ!」」」」

 

そのまま子供特有の悪戯心が出て遊馬の痺れた足を何度も突っつく。

 

「のぉおおおおおっ!??足がぁあああああっ!??」

 

痺れた足を突っつかれ、刺激が全身に響いた。

 

「ちびっ子達……何をするんだぁ……!!」

 

遊馬は足が動けないので両手で体を動かしてゾンビのように這いずり回りながら追いかける。

 

「「キャー!」」

 

「「にげろぉ〜!」」

 

ちびっ子達は一斉に遊馬から逃げ出して食堂を飛び出す。

 

「おのれ……悪戯好きなちびっ子達め……」

 

珍しく動けない遊馬にちびっ子達の悪戯で地味なダメージを受けるのだった。

 

一方、そんな動けない遊馬を見て密かに動き出す者達がいた。

 

「い、今こそ……旦那様に膝枕をする時!鬼ヶ島でしていただけたお礼をお返しをします!」

 

鬼ヶ島で膝枕をしてもらった清姫が今度は自分の番だと意気込んでいた。

 

「そうはさせません!遊馬君は私が膝枕をします!」

 

「あんただけずるいわよ!酔っ払って膝枕をしてもらえるなんて!」

 

そこにジャンヌとレティシア姉妹が乱入して清姫を阻止する。

 

「待つのだ!ここはユウマの嫁である余の出番!貴様ら達には任せられんぞ!」

 

「それはこっちの台詞だよ!遊馬は姉であるこの私が膝枕をするからね!」

 

更にネロと武蔵も乱入し、それぞれが武器を構えて誰が遊馬に膝枕をしてあげるか一触即発状態となる。

 

「さーて、遊馬を労ってあげようかなぁ♪」

 

「では、私も遊馬君に……!」

 

そこに既に何度も遊馬に膝枕をした事がある小鳥とマシュがちゃっかり行こうとした。

 

「「「待てぇっ!!」」」

 

「「「ずるいっ!!」」」

 

しかし清姫達が遊馬の嫁候補ナンバーワンの小鳥と遊馬のもう一人の相棒のマシュを全力で阻止する。

 

食堂でいつものような騒がしい声が響く中、一つの影が静かに遊馬に忍び寄った。

 

そして……。

 

「あれ……?ゆ、遊馬がいない!?」

 

「「「ええっ!?」」」

 

いつのまにか遊馬の姿が消えており、慌てて遊馬を探しに食堂を出るのだった。

 

 

消えた遊馬の行き先……それは遊馬の自室だった。

 

「ふぅー、やっと落ち着いたぜ……」

 

遊馬は自室のベッドで横になり、落ち着くことができてそこで大きく深呼吸をする。

 

未だに足が痺れてまともに動けない中、遊馬を自室に運んだのは……。

 

「頼光さん、ありがとう」

 

「いいえ、これぐらい大したことありませんよ」

 

優しい母のような笑みを浮かべながら椅子に座る頼光だった。

 

頼光は動けない遊馬を見過ごすことは出来ず、こっそりと動けない遊馬を抱き抱えて食堂から自室まで移動したのだ。

 

それに加え、頼光は遊馬とゆっくり話をしたかったのでちょうど良かったのだ。

 

「マスター……その、手と肩は大丈夫ですか……?」

 

「ああ、それなら大丈夫だ。アイリさんが治癒魔術で治してくれたから。ほらな!」

 

遊馬は右手と左肩を見せて傷が無いことを頼光に証明する。

 

「それは良かったです……私が言うのもなんですが、無茶だけはしないでください……」

 

「あー、えっと……頑張ります……」

 

説教されたばかりだがそう簡単には自分の信念を変える事は出来ず、今の遊馬にはそれしか言えなかった。

 

「そう言えば、頼光さんの中にいる丑御前は大丈夫なのか?」

 

「……ええ。今は落ち着いています。丑御前は私に神気が高まることで出て来ますので滅多には出て来ません」

 

「そっか。また丑御前が出て来たら俺たちが必ず止めてやるからな」

 

「……マスターは私が……丑御前が怖くないのですか?」

 

頼光は自分が牛頭天王の化身・丑御前であることに怖くないのかと恐る恐る尋ねるが遊馬はあっけらかんと答える。

 

「怖い?何で?別に怖くも何ともないけど?」

 

「どうしてですか……?幾らあなたが不思議な術を使うとは言え、人であることには変わりません。それが、こんな化け物みたいな私を──」

 

「俺もさ、頼光さんと少し似ているからさ」

 

「似ている……?」

 

遊馬は起き上がって軽く目蓋を閉じ、精神を集中させると背中から純白の翼が生え、目蓋を開くと両眼が虹色に輝く。

 

「背中から翼……!?それに眼の色が……!?」

 

「実は俺もさ、頼光さんみたいにある存在の転生者なんだよ。まあ、そいつとはちゃんと話はついているけどな」

 

「何故……何故そこまで平然としていられるのですか?なんとも思わないのですか……?」

 

頼光は今でも自分の中にいる丑御前の事で悩んでいるが、遊馬は既に自分の中のもう一人の存在……アナザーとの決着はついており、吹っ切れていた。

 

「そりゃあ、俺だって色々悩んだり苦しんだよ。自分の存在理由とか生まれた意味とかさ。だけど、俺には俺のことを思ってくれている大切な人と仲間達がいる。だからこそ、堂々と言えるんだ。俺は九十九遊馬って言う一人の人間だってな」

 

遊馬の人間として迷うことなく生きると決めている威風堂々とした態度に頼光は言葉を失った。

 

「頼光さん、せっかく俺のサーヴァントとして召喚されたんだからここで色々やってけばいいと思うぜ」

 

「色々とは……?」

 

「例えば、生前の平安時代では出来なかった事とか、やってみたいこと、後は自分の中の丑御前とどう向き合っていくかを考えるとか……とりあえず時間は沢山あるから、頼光さんのこれからの未来を生きていけばいいんじゃねえか?」

 

「未来、ですか……?」

 

「ああ!もしも相談したいこととかあればいつでも言ってくれよ。マスターとして出来る限りの事をするからさ!」

 

遊馬は満面の笑みを浮かべて頼光に笑いかけた。

 

頼光にとって遊馬は初めて出会うタイプの人物だった。

 

息子の金時と同じ元気で優しいのは共通しているが、言葉で言い表せない大きな違いがあると思った。

 

「はい!ありがとうございます、マスター!」

 

頼光は遊馬の事をもっと知りたい、一緒にいたいと願うようになった。

 

 

一方、遊馬の自室の外では息を潜めた二人が壁に耳を当てていた。

 

「ふぅー、頼光様。とりあえず落ち着いてくれてよかったぜ」

 

「やるなぁ、旦那はん。あの頼光を落ち着かせるなんてな」

 

それは金時と酒呑の二人だった。

 

頼光が遊馬を食堂から連れ出すのを目撃し、大丈夫だと思うが丑御前関係で何か起きたらすぐに対処出来るようにこっそりついて来たのだ。

 

大丈夫だと判断した金時と酒呑はその場から静かに離れる。

 

「もしかしたら、頼光の闇を旦那はんが払ってくれるかもな」

 

「オレにはそれが出来なかったからな……情けねえ話だが、大将なら何とか出来るかもな」

 

「せやな。ああ、でも、もしも上手くいったら旦那はんが小僧の義父になるかもしれんなぁ〜?」

 

「……おいおい、勘弁してくれよ……そんな事になったらカルデアがマジでヤバいことになるぜ……」

 

「それが面白いんやで。それを肴にして酒を飲むのもまた格別やからなぁ〜♪」

 

金時は近い未来に起きるかもしれない騒動に顔が真っ青になり、対する酒呑は面白おかしく楽しんでいるのだった。

 

 

数日後……小さいが新たな特異点が発見され、遊馬達はすぐにレイシフトを行った。

 

レイシフトを行い、地上に降り立った遊馬達は目の前の光景に唖然とした。

 

「ここ、何処……?」

 

「見たところ……無人島だな……」

 

「オケアノスで見た島を連想させる風景ですね……」

 

青い空、白い雲、照りつける太陽。

 

見渡す限りの綺麗な海、太陽の光に反射して輝く砂浜、緑が生茂る森林。

 

そこは人の気配と文明が無い、大きな手付かずの無人島だった。

 

「どうするか、これから……」

 

今までと違い、サーヴァントの気配すら一切感じられない無人島でどうするか悩むのだった。

 

 

 




次回から夏イベのカルデアサマーメモリー編の開始です。
無人島開拓とバカンスと遊馬達の修行を行います。


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カルデアサマーメモリー
ナンバーズ156 夏だ!海だ!開拓だ!カルデアサマーメモリー!


※突然ですが、大切な話があります。

今現在、Fate/Zexal Orderでカルデアサマーメモリー編を書いていますが、最近は全くモチベーションが上がらずにスランプに陥って全然小説が書けていません。

頭には話のアイデアが色々浮かんでいて、書こうとはいつも思っているんですが、中々書けずにいます。

このままでは更新が滞ってしまうので私はずっと悩み続けた結果、ある一大決心をしました。

それは今のカルデアサマーメモリーとその次のハロウィンイベントの話を通常の話とは異なり、ダイジェストにして纏めた話書こうと思います。

内容は遊馬の日記みたいな感じの話にしようと思います。

今あるナンバーズ156の話は後日削除してから更新します。

それを出来るだけ早めに書いたら遊戯王ZEXALの映画編第二弾を書きます。

今回も3話に分けて、バリアン世界との戦いからNo.96との死闘の話を書いていきます。

遊戯王ZEXALはdアニメストアで見られるようになったので、第一弾よりも環境的に書きやすくなったので頑張って書きます。

皆さんには大変お待たせして申し訳ありませんが、どうかご了承下さい。



【無人島開拓の始まり】

 

無人島の特異点に到着した遊馬達だが、そこは今までの特異点とは違い、サーヴァントの気配が無ければ、多少の蟹型や魚型のモンスターなどがいるだけで、特に敵の強いの邪気も無い平穏に近い世界だった。

 

これからどうするかと悩んでいるとデッキケースが開いて中から沢山の光が飛び出した。

 

「な、何だ!?」

 

何事かと驚くと、その飛び出した光は言わずもがなカルデアにいるサーヴァント達だった。

 

しかも一人や二人どころではなく、カルデアにいる半分以上のサーヴァントが一斉に現れたのだ。

 

「な、何でみんなが……?」

 

「私が招集をかけたのだ」

 

「スカサハ師匠?」

 

沢山のサーヴァント達を集めたのはスカサハだった。

 

何故こんなことをしたのかと尋ねる前にスカサハは説明を始める。

 

「ユウマ達がこの無人島にレイシフトをしたと聞いてな、ある事を閃いたのだ。せっかくの機会だ。この無人島で皆の心身を癒すバカンスをやろうと思ってな」

 

「バカンス?」

 

カルデアは雪山の上に建てられており、外に出ることは出来ない閉鎖空間だ。

 

一応色々な遊びや娯楽施設は用意してあるが、それでも限界はあるのでスカサハはこの無人島を利用して心身を癒すバカンスを行おうと企画したのだ。

 

しかし、ただバカンスをするだけではなかった。

 

「そして……遊馬とマシュ、あとは魔法少女三人娘の修行も行おうと思う」

 

カルデアで今後の戦いに向けて強くなりたいと願っているのがマスターの遊馬にデミ・サーヴァントのマシュ、そしてイリヤと美遊とクロエの魔法少女三人娘の五人。

 

スカサハはその修行もこの無人島で行おうと考えているのだ。

 

「おお!バカンスと修行か!良いな!なんか合宿みたいでワクワクするぜ!」

 

「しかし、そう簡単に上手く行くでしょうか?ここはカルデアと違う環境ですし……」

 

「マシュの言う通りだ。ここは草木があるだけの無人島だ。まずは無人島を開拓する必要がある」

 

「無人島開拓か……一応父ちゃんからサバイバル知識は叩き込まれているけど、バカンス出来るレベルまで持っていけるかな?」

 

遊馬は冒険家の父からサバイバル知識を叩き込まれているが、流石に無人島を開拓出来るほどのものではないので不安になる。

 

「そこは心配するな。カルデアには様々な特技を持つサーヴァントがいるではないか」

 

「そっか!みんなの力を借りれば短時間の開拓も可能だな!」

 

「その通りだ。私も最大限のサポートをする。お前の指揮でこの無人島を開拓をしてみせろ」

 

「おう!任せろ!」

 

こうしてスカサハの提案で無人島開拓とバカンス、そして修行を行うことになった。

 

 

【無人島最強の開拓者】

 

人間の生活の基本は『衣食住』。

 

つまり、衣服と食物と住居となっている。

 

衣服は遊馬はカルデアから持ってきてもらう予定で、サーヴァント達はスカサハが霊基を弄って水着に着替えさせているので問題はない。

 

問題は食物と住居の二つだ。

 

食物にいち早く行動したのはクー・フーリンだ。

 

「仕方ねえ、ちょっくら釣りをしてくるかな」

 

こう見えて釣りが趣味のクー・フーリンは早速釣りに向かった。

 

「待て、クー・フーリン」

 

「あー?何だよ弓兵」

 

「あまり使わせたく無かったが、緊急事態だ。これを使え」

 

エミヤは投影魔術であるものを投影してクー・フーリンに渡す。

 

「こ、こいつは……!?」

 

それは高級感な質感で、とてもハイテクな機能が備わっており、見るからにとても高そうな釣具だった。

 

実はその釣具は釣具屋では連日売り切れの人気商品らしく、値段は203000円相当もする高級品でエミヤが偶に釣りをする時に使うものだった。

 

震える手でその釣具を取るクー・フーリンは不敵の笑みを浮かべてエミヤを見る。

 

「お前がこいつを渡したってことは釣りの成果を上げろってことだろ?」

 

「何せうちのカルデアには大喰らいに加えて、成長期の子供達がいるからな……食糧はいくらあっても足りんからな」

 

「ハッ、上等じゃねえか……見てろよ、釣って釣って釣りまくってやるぜ!!!」

 

クー・フーリンはエミヤからの釣具は挑戦と受け取り、未知なる魚達がいる海へと突撃するのだった。

 

食糧は後は海の貝や海藻、あとはこの森にある可能性があるものを探すことになる。

 

食物の次は住居。

 

少なくともそれなりの期間を過ごすのでしっかりした住居が必要となる。

 

そこに立ち上がったのはネロとバニヤン、そしてちびノブ達だった。

 

まずはバニヤンがアメリカの西部開拓時代の怪力無双のきこりの伝承から凄まじいスピードで森の木を次々と切り倒して伐採していき、それを木材として加工していく。

 

それを至高の芸術家の異名を持つネロが木だけで作れる家のログハウスの建築をちびノブ達に指示していく。

 

そして……生い茂っていた森が瞬く間に開拓されていき、そこには遊馬達を含めてカルデアから来たサーヴァント達全てが寝泊りできる沢山のログハウスが完成した。

 

「早いよ!?あっという間に見事なログハウスが出来ちゃったよ!?」

 

「ふはははは!見事だぞ、小さき巨人とちびノブ達よ!」

 

「「「ノッブノブー!」」」

 

「まだまだ!マスター、このまま畑作りで作物を作るからね!」

 

「ええっ!?」

 

ネロに褒められて喜ぶちびノブ達だが、バニヤンはまだまだやる気で森の伐採の次は畑を作り、そこに自前の種を植えて作物を育てる。

 

普通なら作物はそう簡単に育たないのだが、その作物はバニヤンの開拓者としてのスキルによって急成長&巨大化をしてしまい、下手をすればアルトリアとモードレッドの大食い達ですら食べ尽くせないほどの量の食糧が確保された。

 

「師匠!なんか無人島に来てたった数時間で衣食住問題が全て解決しちゃったよ!?」

 

「う、うむ……これは流石に予想外だ……私のルーンの力で手伝いながら行おうと思っていたがまさかこれほどとは……」

 

スカサハもまさか数時間でここまで開拓出来るとは思いも寄らなかった。

 

開拓者の概念と言っても過言ではないバニヤンによる森の伐採と加工と農作物の栽培、万能の天才であるネロによるログハウス建築の指揮、そしてそれを実行するちびノブ達の人海戦術。

 

それらが見事にマッチして無人島で生き抜くための最低限の衣食住をあっさりと確保してしまったのだ。

 

何はともあれ衣食住は確保されたので遊馬とマシュは今後の無人島生活を一安心するのだった。

 

 

【サマーコスチューム】

 

ひとまず無人島開拓の第一段階が終わり、スカサハはある提案をする。

 

「……さて。ここで一つ、提案があるのだが──」

 

スカサハの出した提案、それは……。

 

「ふむ。悪くない」

 

「あっ、あっ、あの!遊馬君、どうでしょうか……?」

 

木陰でのんびりしていた遊馬の前に出て来たのはこの美しいビーチに似合う水着姿のスカサハとマシュだった。

 

スカサハは赤い瞳に近い色のビキニの水着にハイビスカスの花飾りを頭につけ、マシュは白のワンピースタイプの水着で胸元にあるリボンがとても可愛らしいものでその上からいつもの私服のパーカーを羽織っていた。

 

「二人共とっても似合ってるぜ!なあ、アストラル、フォウ」

 

「ああ。二人のイメージにピッタリだ」

 

「フォーウ♪」

 

遊馬とアストラルは絶賛し、フォウはマシュの水着姿に満足して上機嫌で声を鳴らす。

 

スカサハはここにいる全てのサーヴァント達の霊基を調整してこの無人島にふさわしい格好にしたのだ。

 

大半は水着で、あとは半袖半ズボンのラフな格好やアロハシャツなどの涼しげな格好となっていた。

 

しかし、ただ衣服を水着に変えただけでなく、霊基を弄った影響で中にはクラスが変更された者も多いようだった。

 

サーヴァントの霊基を弄るのは武蔵やアタランテの例を除き、普通は出来ないのだが、スカサハはここにいるサーヴァント全員の霊基を弄ると言う、サーヴァントとしてとんでもないハイスペックを見せつけるのだった。

 

 

【みんなでバカンスをしよう!】

 

「みんな水着で良いなー」

 

サーヴァント達はスカサハの力で夏用の霊装姿となり、遊馬は自分の夏系の衣装が無いのでみんなの格好を羨ましがると後ろから話しかけられる。

 

「遊馬の分ならあるわよ」

 

「えっ?こ、小鳥!?それに所長とダ・ヴィンチちゃん!?」

 

後ろにいたのはカルデアにいるはずの小鳥とオルガマリーとダ・ヴィンチちゃんだった。

 

「スカサハさんの提案で私たちのストレス発散を兼ねてみんなでレイシフトをしてきたのよ。ほら、これに着替えて」

 

「おおっと!?これは……え!?俺の水泳袋!?」

 

小鳥から投げ渡されたのはハートランド学園中等部で水泳の授業で使っている水着が入ったスイミングバッグだった。

 

「何で俺の水着が?」

 

「それが……私が人間界からカルデアに来る時に遊馬の着替えとか持ってきたでしょう?遊馬の家から服とか下着を用意する時に水着も一緒に持ってきたのよ」

 

「そうだったんだ。あれ?小鳥が持ってるのは……」

 

小鳥の手には遊馬とは色違いのスイミングバッグが握られていた。

 

「実は私も持ってきちゃったのよね……」

 

苦笑いを浮かべた小鳥は自宅で自分の衣服を用意した時に間違って自分の水着も持って来たのだ。

 

「でもこれで問題なく海に入れるな。ありがとうな、小鳥」

 

「うん。でも、私は学校指定の水着だからね……せっかくだからお気に入りの水着を着たかったなー」

 

「まあまあ、とりあえずすぐに着替えようぜ」

 

「そうね。ほら、オルガマリー所長も着替えましょう!」

 

「ま、待ちなさい……私はまだ仕事が……」

 

フーヴァーの影響なのか、すっかりワーカーホリックになってしまったオルガマリー。

 

実は第五特異点の帰還後、オルガマリーはフーヴァーの力を使って事務処理を効率的に行った。

 

しかし、それだけではなく他のカルデア職員の仕事すらも自分に回してしまったのだ。

 

このままではオルガマリーが過労死で倒れてしまうと危惧したカルデア職員達はロマニに相談して無理矢理にでも休ませるため、今回強制的にレイシフトをしてこの無人島に送り込んだのだ。

 

「良いじゃないか。君は少し働きすぎだから少しは羽を伸ばそうでは無いか」

 

そんなオルガマリーを宥めるダ・ヴィンチちゃんだったが……。

 

「何ちゃっかり水着を着ているのよこの変態野郎が!!!」

 

「うおっ、危なぁっ!??」

 

怒気を浮かべながら豪快な飛び蹴りをするオルガマリーにダ・ヴィンチちゃんは全力で回避する。

 

「な、何をするんだい!?もう少しでこの素晴らしい美貌に傷が付くところだったじゃないか!」

 

「やかましいわこの変態野郎!!元男の癖になんで女物の水着を着ているのよ!?しかも大胆なビキニを!?」

 

ダ・ヴィンチちゃんはいつの間にか自分の霊基を弄っていつもの服からイメージカラーである赤と青を基調としたビキニの水着を着用しており、世界に絶賛されるモナ・リザの美貌とスタイルが相まってとても似合っていた。

 

「別に良いんじゃね?似合ってるし」

 

「おお!流石は遊馬君!分かってくれてるね。ご褒美に幾らでもこの美貌を見ても構わないよ!」

 

「正気なの!?遊馬、こいつの見た目は女だけど中身は男よ!??」

 

「でもほら、もしも自分が別の異性に生まれたらって話はよくあるじゃん。ダ・ヴィンチちゃんはそれを自分の力で実現しているだけだから凄いと思うぜ?」

 

ダ・ヴィンチちゃんがモナ・リザの姿で現界していることを大半は疑問や気味悪がるが、遊馬は寧ろ凄いと絶賛していた。

 

「むむっ……これが遊馬君の無自覚天然フラグ建築……一応中身が男である私ですら胸キュンをさせるとは恐ろしい……!」

 

ダ・ヴィンチちゃんは遊馬の素直な感想に心臓がドキッとなってしまい、慌てて顔を隠すのだった。

 

「うん……相変わらずね、遊馬は……」

 

「はぁ……本当にあなたって子は……私はすぐにでもカルデアに戻ります。フーヴァーの力で事務処理で上手く捗ってるんだから今のうちに少しでも進めないと……」

 

「……所長、水着のままで帰るのか?」

 

「え……?キャアアアアア!?な、何これ!?」

 

いつのまにか制服姿から黄色のビキニの水着となっており、オルガマリーは自分の体を両腕で隠しながらその場に座り込む。

 

「ああ、すまぬ。私がお前の霊基を弄った」

 

スカサハがこっそりとオルガマリーの霊基を弄って水着姿に変えていた。

 

「ス、スカサハ!?勝手に私の霊基を弄らないで!今すぐ元に戻しなさい!」

 

「断る。せっかくの夏の無人島だ。今は仕事のことは忘れてのんびりしていろ」

 

「出来るわけないでしょう!?私には命をかけて果たさなければならない使命があるんだから!」

 

「これは重症だな……オルガマリー、この島から出ることを許さん。カルデアに戻りたかったら私を倒せ」

 

「なっ……!?」

 

「無理だと思うなら諦めてしばらくこの無人島で休んで頭を冷やせ」

 

戦闘能力だけでなく、サーヴァントの霊基を簡単に弄るという規格外な力を持つスカサハを倒すなんてオルガマリーには絶対に無理な話である。

 

カルデアに戻ろうにもカルデアにいるロマニ達がちゃんと休暇をするまでオルガマリーの連絡は全てスルーするつもりなので、戻ることは出来ない。

 

「でも、休めって言われても……何をすればいいの……?」

 

ここ数年、色々なことがあり過ぎて突然無人島で夏のバカンスを楽しめと言われてもオルガマリーは何をすればいいのか分からなかった。

 

元々魔術師生まれで海で遊ぶと言う機会がないとはいえ、ワーカーホリックここに極まりだった。

 

これは流石にまずいと思ったスカサハとダ・ヴィンチちゃんは何が何でもオルガマリーを休ませようと心に誓った。

 

 

【ひと夏の思い出】

 

小鳥から渡された水着を着用し、遊馬もみんなが遊んでいる海へ向かった。

 

マシュ達は海で泳いだり、砂遊びをしたり、ビーチバレーをしたりなど海の遊びを満喫していた。

 

そこに水着に着替えた小鳥が走ってやって来た。

 

「おーい、遊馬。お待たせー」

 

「ああ、小鳥。遅かったな」

 

「女の子は支度が大変なのよ」

 

「そうか?まあ、とりあえずちょっとひと泳ぎするか?」

 

「ええ、良いわね」

 

「ちょっと待ってください!」

 

遊馬と小鳥は海を泳ごうとしたらマシュに止められた。

 

「ふえっ!?ど、どうしたんですか!?」

 

「こ、小鳥さん!いつの間に水着を用意したんですか!?」

 

マシュは小鳥がレイシフトをして来たことは知っていたが、水着まで用意しているとは予想外だっあ。

 

「これは学校用の水着ですよ。実は人間界からカルデアに来る時に間違えて持って来ちゃったんです」

 

「で、でも確か日本のスクール水着はもっと地味なはず……そんな色鮮やかな水着なわけがありません!」

 

一般的な学校指定のスクール水着は紺色なのだが、小鳥が来ているのは白色とピンク色の二色で交互になっているものでとても可愛らしいものだった。

 

「そ、そう言われても……学校の制服の色もこんな感じですし……」

 

ハートランド学園の制服は男子はワイシャツにズボンだが、女子はとても可愛らしく学年によって色は異なるが白色をベースにピンクやグリーンなどのカラフルなデザインとなっている。

 

「でもやっぱり小鳥の水着姿は良いよなー。なんか見ていて落ち着くって言うかさ」

 

遊馬はハートランド学園での日常を思い出す意味で言ったのだが、小鳥は自分の体を腕で隠しながらジト目で遊馬を見る。

 

「……遊馬のエッチ」

 

「な、何でさ!?何でいきなりエッチって言われなきゃならないんだよ!?」

 

突然小鳥にエッチと言われて遊馬は慌てて否定する。

 

「何か言い方が卑猥に聞こえるのよ!遊馬はもう少し言葉をちゃんと選びなさい!」

 

「えーっ!?」

 

いつもの遊馬と小鳥のたわいもない軽い言い合いにマシュは戦慄した。

 

やはり遊馬に一番心を寄せている女子は小鳥であると。

 

「この無人島で遊馬君との距離を更に縮めなければ……!」

 

恐らくは他の遊馬に好意を寄せている女性サーヴァントも同じことを考えていると思われるが、この無人島でのひと夏の思い出で遊馬との距離を一気に縮めるチャンスであるとマシュは決意を固めるのだった。

 

 

【ちびっこサーヴァントの新しい友達】

 

遊馬は海でひと泳ぎを終えて浜辺で休みながらアストラルと共にちびっこサーヴァント達の面倒を見ていた。

 

「桜ちゃん、凛ちゃん、楽しいか?」

 

桜と凛はそれぞれピンク色と赤色の可愛らしいワンピースタイプの水着を着ており、はしゃぎなから遊んでいた。

 

「うん!こんなにきれいなところは初めて!」

 

「とっても楽しいです!」

 

「それは良かった」

 

「やはり子供は伸び伸びと遊ぶのが一番だな」

 

魔術師の家系で生まれた二人はこうやって自然溢れる場所で伸び伸びと遊べる機会はほとんど無かったのでとても嬉しそうに遊んでおり、自然と遊馬とアストラルの笑みが溢れる。

 

「おかあさーん!」

 

「マスターさーん!」

 

「おー、ジャック、ナーサリー、バニヤン。みんな可愛い水着だな。あれ?その子は?」

 

桜や凛と同じくワンピースタイプの可愛い水着を着たジャックとナーサリーとバニヤンだが、その後ろに小さな影が隠れていた。

 

「私達の新しいお友達!」

 

「可愛いですよね?」

 

「でもお話ししないんです」

 

ジャックとナーサリーとバニヤンがその影を前に出すとそれは浅黒い肌にアホ毛が付いた紫の髪、白いワンピースを着た少女で頭には小さな髑髏の仮面が髪飾りのように付いていた。

 

「えっと、この子は?」

 

「微弱だがサーヴァントのようだが……」

 

「その子は我々百貌のハサンの一人です」

 

遊馬とアストラルの背後に百貌のハサンの一人でまとめ役のアサ子が現れて説明する。

 

「アサ子さん。え、この子が?」

 

アサ子曰く、この少女のハサンは生前の百貌のハサンが任務に失敗し、敵に捕らえられ、拷問を受ける際に表層化させていた、『何も知らず』『何もできない』幼女人格……通称・ちびハサン。

 

彼女の役割は拷問を受けるというもので何も知らない人格なら、いかなる責め苦を負おうとも、知らないので喋れない……と言う事だった。

 

「おいおい、重すぎるぞ……」

 

「百貌のハサンとしては、別にこの子は戦わなくても良いんだよな?」

 

「はい。元より、他の百貌たちも同じ意見で戦わせるつもりも無いので」

 

「分かった、じゃあみんな。この子を……ハーちゃんの面倒を見てあげるんだぞ」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

桜と凛、ジャックとナーサリーとバニヤンは元気よく返事する。

 

「ハーちゃん……?」

 

今まで喋らなかったちびハサンが「ハーちゃん」と呼ばれてようやく口を開いた。

 

「ああ。名前あったほうが呼びやすいし便利だろ?あ、もしかして嫌だった?」

 

ちびハサンはフルフルと首を左右に振って否定した。

 

こうしてちびっこサーヴァントに新しい友達が増えて益々賑やかになるのだった。

 

 

【意外に経験豊富な三人娘】

 

今回の無人島でスカサハの修行対象のイリヤと美遊とクロエはまずは海で遊ぶことにした。

 

スカサハで霊基を弄られて制服姿から変化したイリヤ達は元の世界で少し前に購入したばかりの水着を着ていた。

 

「やったー!この前買ったのと同じだ!」

 

「買ったばかりでまだちょっとしか着てないからナイスタイミングね」

 

「うん。あ、イリヤ、クロ、左手首を見て」

 

美遊は自分達の左手首にあるものを発見して嬉しそうに伝える。

 

3人の左手首には五芒星、六芒星、ハートのチャームがついた可愛いらしいブレスレットが付いていた。

 

「あら、可愛らしいブレスレットね。どうしたの?」

 

民族衣装から紫色の水着に着替えたシトナイがイリヤ達のブレスレットを興味深そうに見つめる。

 

「これはこの前の私たちの11歳の誕生日にお兄ちゃんがプレゼントしてくれたんです」

 

「な、何ですって……!?」

 

シトナイはその事実に衝撃を受けた。

 

並行世界とはいえ義弟の衛宮士郎がそんなに可愛いものをプレゼントするとは思いもよらなかったからだ。

 

シトナイは夕食の準備をしているエミヤに近づいて無言の圧力を向ける。

 

「何かな、シトナイ……?」

 

「じぃーっ……」

 

「……はぁ、分かった。無人島からカルデアに帰還したら君に似合うアクセサリーを作ってやるから睨まないでくれ」

 

「やったー!ありがとう!」

 

シトナイの言いたい事を理解したエミヤはやれやれと言った様子で義姉のワガママに応えるのだった。

 

しばらくして遊び終えるとイリヤと美遊は砂浜でのんびりしていたルビーとサファイアを呼んだ。

 

「さてと、ルビー。転身」

 

「サファイア、お願い」

 

イリヤと美遊は水着姿を保ったまま、ルビーとサファイアの力で魔法少女の力を得て遊馬の元に向かった。

 

「遊馬さん!私と美遊で上空からこの島を確認してきます!」

 

「上空から撮影する為にD・パッドを貸してください」

 

「じゃあ私は海岸で食べられそうな食材を探しているわ」

 

イリヤと美遊とクロエは小学生ながら自発的に無人島サバイバルで自分にできる事を行動し始める。

 

「ちょっと待った。三人共、すごいサバイバルに慣れている気がするんだけど……」

 

遊馬はサバイバルに妙に慣れている雰囲気を出すイリヤ達に違和感を覚えた。

 

幾ら魔法少女と言えど小学生の女の子たちがサバイバルに慣れているのはあり得ない。

 

するとイリヤは苦笑いを浮かべながら打ち明ける。

 

「えっと、実は……私達は少し前に無人島で遭難したことがあるので」

 

「「「…………はぁ!??」」」

 

無人島で遭難という驚きの事実に遊馬だけでなくその周りにいた者達も驚愕した。 

 

何故並行世界の冬木市で平穏?に暮らしているイリヤ達が無人島で遭難したのかもはや意味不明の領域だった。

 

それは少し前に夏休みでイリヤ達が友人や士郎達と共にルヴィアに招待されて南の島でバカンスをすることになった。

 

しかし……ルヴィアと凛がいつものように喧嘩し、旅客機内でルヴィアが凛に向けて攻撃魔術の一種であるガンドをぶっ放してしまった。

 

その結果、旅客機に大きな穴が開いて操縦不能となり、無人島に不時着してしまい、そこで助けが来るまでサバイバルをすることになってしまったのだ。

 

「なっ……何やってんのよ並行世界の私とバカルヴィア!飛行機の中でガント撃つとかもう考えられないし、それに無人島に不時着してイリヤ達だけじゃなく、その友達や士郎達に大迷惑をかけてサバイバルさせるとかもう馬鹿の極みじゃないの!!?」

 

ちなみにこの話を聞いた元凶である並行世界の凛とルヴィアの愚行にイシュタルは頭を抱えて嘆いた。

 

「いや、その、イシュタルさんの所為じゃないので気にしないでください。もう済んだことですので」

 

「でもあの無人島でなんか記憶が抜けてる気がするのよね……」

 

「うん……ぽっかりと何かが消えたような……」

 

イリヤ達三人には無人島でのサバイバル生活の中で一部抜けている記憶がある。

 

それに関してはサバイバル生活の極限状態と士郎への想いが爆発したもので、今後の生活の為に記憶を消してもらい、その真実を知るのはルビーとサファイアのみである。

 

 

【姉を名乗る不審者達の敗北】

 

遊馬がアストラルと共に浜辺を少し散歩していると……。

 

「遊馬くーん!」

 

「おーい、遊馬ー!」

 

水着に着替えたジャンヌとレティシアがやって来た。

 

ジャンヌは白の競泳水着に眼鏡をかけ、長い金髪をポニーテールに纏めていた。

 

レティシアは黒と赤のビキニにジャケットを羽織り、腰には何とフェイトナンバーズ時に使用している銀河眼の光子竜皇の宝剣と銀河眼の時空竜の妖刀がベルトに装着されていた。

 

「あれ?レティシア、その剣と刀は……?」

 

「これ?この姿になったら着いてた。一応私の武器扱いよ。もっとも、フェイトナンバーズの時みたいな力はないただの剣と刀よ」

 

「ふふふっ、レティシアったら、常にその剣と刀を持てるようになって嬉しいんですよ」

 

「なっ、い、言うんじゃないわよ!『お姉ちゃん』!!」

 

「あはははっ、やっぱりレティシアは気に入って──ん?お姉ちゃん?」

 

遊馬はレティシアの言葉に違和感を覚えた。

 

レティシアはジャンヌに対して素直になれず、ジャンヌの事を基本的には「アンタ」や「馬鹿姉」、酷い時には「ショタコン聖女」などと呼び、決して「お姉ちゃん」とは呼ばないのだ。

 

「……ジャンヌお姉ちゃん、レティシアに何かした?」

 

「いえいえ、別に大した事をしてないですよ。この度、アーチャーになった事で私の必殺技を編み出したんです!」

 

「必殺技……?」

 

「はい。その名も……『姉ビーム』!」

 

「姉、ビーム……?」

 

何だそれ?と遊馬とアストラルは同じように首を傾げた。

 

「このビームを浴びれば、たちまちその人は私の弟か妹になります!そして仲良し家族になるのです!」

 

「何だそれ……」

 

「それはつまり洗脳では無いのか……?」

 

「洗脳だなんて人聞きの悪い!私は本当に家族になりたい人だけにこのビームは使っています。と言うわけで……遊馬君も私の弟になりなさい!」

 

「なっ!?マズい!遊馬、逃げろ!?」

 

「姉ビーム!!!」

 

ジャンヌは手でハートマークを作ってピンク色の波動を放つ。

 

突然の攻撃に遊馬は反応出来ずに姉ビームを受けてしまう。

 

「さあ、私の可愛い弟君!お姉ちゃんが甘やかしてあげるのでこの胸に飛び込んでください!」

 

姉ビームを喰らわせて遊馬はジャンヌの弟となったが……。

 

「……いや、それは流石に恥ずかしいからパスで」

 

「……あれぇ!??」

 

何故か遊馬に姉ビームの効果が現れなかった。

 

本来なら姉ビームを受ければジャンヌを姉として認識し、ジャンヌにこれでもかと言うぐらいに甘えるはずである。

 

「な、何故……もしかして効力が薄いのかも……ええい、こうなったら下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法です!姉ビーム連続攻撃!」

 

ジャンヌは姉ビームを連続で発射して遊馬に当てるが……。

 

「えっと、なんかよく分からないんだけど、本当にそのビームは効果あるのか?」

 

「なっ……!?そ、そんな……レティシアには効いているのに……!?」

 

「お姉ちゃん、さっきから何をしてるのよ?」

 

いつもツンツンしているレティシアには姉ビームは効果的面だが、何故か遊馬には効果が無かった。

 

「ん?おっ、悪い。通信だ。ごめん、ちょっと呼ばれたから行くぜ。また後でな」

 

遊馬のD・ゲイザーに通信が入り、呼ばれたのでその場を後にした。

 

「ああっ!?そ、そんな、弟くーん!?」

 

去っていく遊馬を引き止められず崩れ落ちるジャンヌ。

 

そんなジャンヌにアストラルは何故遊馬に姉ビームが効かなかったのか指摘する。

 

「……ジャンヌ。君の姉ビームがどれほどの威力は知らないが、遊馬にはあまり意味ないのでは無いか?」

 

「意味がない、とは……?」

 

「遊馬は君の事をかなり早い段階から姉として慕っているではないか。まあ、それに加えて今の遊馬には聖杯にヌメロン・コードの一部の力が覚醒している。だから姉ビームが効果が無かったと私は推測するが」

 

「……ああっ!?」

 

遊馬はジャンヌの事を仲間であると同時に姉として慕っていた。

 

ジャンヌを姉と思ってないレティシアには効果はあるが、元々姉と慕っている遊馬には効果は無いのだった。

 

「そんな……この姉ビームでレティシアと一緒に遊馬君とのイチャラブ作戦が……」

 

「ジャンヌ……そんなくだらない事を考えていたのか、君は……」

 

アストラルはジャンヌの考えた作戦に呆れ果てて遊馬の元に戻った。

 

一方、もう一人のジャンヌことルーラーも水着に着替えていた。

 

競泳水着のジャンヌとは違い、ルーラーは黒のビキニにパーカーを羽織り、髪を三つ編みに纏めてその手には浮き輪を持っていた。

 

「さあ!ジーク君を弟にしてお姉ちゃんと呼んでもらいましょう!」

 

こちらのルーラーもジャンヌ同様に姉ビームを習得しており、相方のジークを弟にしてお姉ちゃんと呼んでもらおうとした。

 

これまでルーラーは聖杯大戦でもジークに対して姉のように振る舞おうとしたが、ジークの方が世間知らずの割には大人びた雰囲気や態度を持っているのでなかなか上手くいかない。

 

しかし、姉ビームがあればジークを弟にすることができ、ルーラーの積年の願いが叶う時が来たのだ。

 

「あ、ジーク君!」

 

「ルーラー……?」

 

ジークは黒い水着にルーラーと同じようにパーカーを羽織っていた。

 

「ジーク君、行きますよ!姉──」

 

「──美しい……」

 

「──はひいっ!??」

 

ジークは水着姿のルーラーを見惚れ、美しいと言葉を紡いで姉ビームを放とうとしたルーラーは顔を真っ赤にした。

 

「ひゃ、あっ、あう……」

 

「やはり君は美しい……君は俺だけの唯一の宝だ……」

 

ジークはルーラーの頬に手を添えてその姿をじっくり眺め、益々ルーラーの顔が真っ赤に染まっていく。

 

「少し砂浜を歩くか?せっかく南の島に来たからな」

 

「は、はい……」

 

ジークはルーラーの手を握って砂浜を散歩していく。

 

砂浜を美男美女の二人で歩く姿はとても絵になり誰から見てもお似合いのカップルだった。

 

その二人の姿をこっそりと見る者がいた。

 

「あーあ、ルーラーったらあんなに真っ赤になっちゃって。妬けるなー」

 

それは聖杯大戦からの大切な繋がりであるアストルフォだった。

 

ちなみにアストルフォはフリフリの可愛らしい水着を着ていた。

 

女装を好むアストルフォなので当然女物のだが。

 

「二人には悪いけど……僕も行こー!ジークー!ルーラー!」

 

アストルフォは二人に向けて突撃し、一緒に散歩を頼むのだった。

 

 

 




今回の話、無人島開拓でバニヤンちゃんが頼し過ぎるって結論に達しました(笑)
木こりの能力や食糧関連のスキルが頼し過ぎてバニヤンちゃん一人いれば普通に生き残れるという事実に笑いましたわ(笑)

あと、姉を名乗る不審者ことアーチャージャンヌ×2は見事遊馬君とジークくんの前に敗れました(笑)
元々弟キャラの遊馬君には効果無しで、ルーラージャンヌ特攻持ちのジーク君には負けますよね。

次回は色々な水着サーヴァントの話や修行になると思います。
ネロちゃまや清姫ちゃんとかネタが豊富なので楽しみですね。


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ナンバーズ156 サマーメモリー1日目

前話や活動報告にも記載しましたが、改めて報告します。

今現在、Fate/Zexal Orderでカルデアサマーメモリー編を書いていますが、最近は全くモチベーションが上がらずにスランプに陥って全然小説が書けていません。

頭には話のアイデアが色々浮かんでいて、書こうとはいつも思っているんですが、中々書けずにいます。

このままでは更新が滞ってしまうので私はずっと悩み続けた結果、ある一大決心をしました。

それは今のカルデアサマーメモリーとその次のハロウィンイベントの話を通常の話とは異なり、ダイジェストにして纏めた話書こうと思います。

内容は遊馬の日記みたいな感じの話にしようと思います。

今ある前話のナンバーズ156の話は8月末に削除します。

それを出来るだけ早めに書いたら遊戯王ZEXALの映画編第二弾を書きます。

今回も3話に分けて、バリアン世界との戦いからNo.96との死闘の話を書いていきます。

遊戯王ZEXALはdアニメストアで見られるようになったので、第一弾よりも環境的に書きやすくなったので頑張って書きます。

皆さんには大変お待たせして申し訳ありませんが、どうかご了承下さい。


第五特異点のアメリカの大戦と魔法少女の世界の戦い、そして鬼ヶ島での丑御前の激闘からすぐに新たな特異点が見つかった。

 

と言っても、すげえ小さな特異点で南の島の無人島みたいなところだった。

 

特に大きな敵や聖杯の反応もないので時期に消滅する特異点だったのでカルデアに戻ろうと思ったその時……カルデアからスカサハ師匠がたくさんのサーヴァントを連れてきてやって来たんだ。

 

何事かと驚くとスカサハ師匠の提案でこの無人島を開拓してそこでみんなでバカンスを楽しむと言うものだった。

 

確かにカルデアは雪山の上に建てられている閉鎖空間で娯楽施設はいくつか有るけど、前線で戦うサーヴァント達のストレス発散を兼ねて無人島を開拓してバカンスをすることになった。

 

しかも小鳥やオルガマリー所長、そしてダ・ヴィンチちゃんもバカンスに参加することになった。

 

所長は仕事が忙しいからとカルデアに戻ろうとしたけど、スカサハ師匠が何とサーヴァント全員の霊基を弄って男性サーヴァントはアロハシャツとかのラフな格好で、女性サーヴァントをそれぞれのイメージにあった水着姿に変えちまったんだ。

 

イリヤちゃん達みたいな現代人を除いてほぼ全てのサーヴァントは水着になったことはないのでみんな大はしゃぎをして海で遊び始めていた。

 

サーヴァントの霊基を弄るのは普通なら無理なはずだけどそれをいとも簡単にやってしまうスカサハ師匠の能力には驚かされたぜ。

 

すると、霊基を弄られたサーヴァント達に共鳴するようにフェイトナンバーズのカードが飛び出し、イラストが水着姿となった新しいフェイトナンバーズが一気に誕生したんだ。

 

一気に大量のフェイトナンバーズに慌てたけど、どれも新しい効果わわ持っていたので新戦力として期待して使うことにした。

 

ちなみに俺と小鳥の水着だけど、小鳥がカルデアに来る前に間違えて自分たちの学校の水着を持ってきたのを用意してくれたので俺達も水着に着替えることができた。

 

ただ、オルガマリー所長がデミ・サーヴァントになって、自分に宿っているフーヴァー長官の力を得た影響なのかうちの姉ちゃんよりもヤバイとんでもないワーカーホリック状態になっていたので、スカサハ師匠とダ・ヴィンチちゃんが「このままではマズい、休ませなければ!」と意気込んでいた。

 

確かに俺もオルガマリー所長は働きすぎだなとずっと思っていたけど、カルデア所長としての責任感が強すぎて休んで欲しいとあまり誰の言うことも聞かなかったからな。

 

これを機にオルガマリー所長にはちゃんと休んで貰いたいぜ。

 

無人島の生活が始まり、遊びたいけどまずは最低限の生活を出来るように居住と食糧の確保を考えないといけなかった。

 

冒険家の父ちゃんからはサバイバル知識を叩き込まれているけど、流石に大人数だと難しいからどうしようと悩んでいるとそこに名乗り出たのはネロとバニヤンだった。

 

バニヤンは巨大化して斧を振り回し、無人島にある森の木々を次々と切り倒して木材に加工していき、それをネロが連れてきたちびノブ達に的確な指示を出して建築を始めた。

 

たったの1時間弱で俺たち全員が寝泊まりできる立派なログハウスが完成してしまった。

 

更にはバニヤンが畑を作って自前の種を植えると、今度は多種多様の作物が巨大に成長して実ってしまい、それは大食いのアルトリアやモードレッドでも食い切れないほどの大量の食糧となってしまった。

 

苦戦すると思われたサバイバルの居住と食糧をあっという間にクリアしてこれにはルーン魔術でサポートするつもりだったスカサハ師匠も苦笑いを浮かべていた。

 

無事に居住と食糧をクリアしたので俺は小鳥やマシュと一緒に海でひと泳ぎをしながら子供達の面倒を見ていた。

 

桜ちゃんと凛ちゃんは魔術師の家系で育った故に海で遊ぶということは無かったらしくとても楽しそうにしていた。

 

兄貴としては可愛い妹達の笑顔と幸せをこれからも守っていきたいと改めて感じたぜ。

 

そう感じているとジャックとナーサリーとバニヤンが不思議な女の子を連れてきた。

 

その子は実は百貌のハサンの一人でアサ子さん曰く、生前の百貌のハサンが任務に失敗し、敵に捕らえられ、拷問を受ける際に表層化させていた、『何も知らず』『何もできない』幼女人格……通称・ちびハサンだった。

 

その子の役割は拷問を受けるというもので何も知らない人格なら、いかなる責め苦を負おうとも、知らないので喋れない……と言う事だった。

 

あまりにも重い存在に俺の心は沈んだが、俺や百貌のハサンたちも戦いには参加させるつもりはないので、とりあえずはジャック達と仲良く一緒に遊んでもらうことになり、これからも見守ることにした。

 

海と浜辺では子供達の他に家族や夫婦や恋人関係のサーヴァントがたくさん遊んでいた。

 

アルトリアとモードレッドのブリテン親子は遊ぶ……と言うよりはモードレッドが使っているサーフボードを巡ってアルトリアが何処からか持ってきた水鉄砲を駆使して波を自在に操るモードレッドと戦っていた。

 

なんでも、モードレッドの乗るサーフボードはアルトリアのアーサー王時代の宝物庫にあった「プリドゥエン」って言う船にもなる不思議な盾みたいで、モードレッドが普通のサーフボードじゃ壊れるからと言ってそれを勝手に持ち出したらしい。

 

クラレントのみならずプリドゥエンも持ち出されたことに腹を立てたアルトリアは我慢の限界でエクスカリバーではなく、水鉄砲でモードレッドを攻撃してプリドゥエンを取り返すみたいだ。

 

まあ、この二人は生前に殺し合っていたのでそれに比べればかなり平和的(?)な戦いをしていて、近くにはイシュタルとパールヴァティーとオルタとランサー・アルトリア・オルタがビーチチェアーでのんびりと眺めながら見ているので何かあっても大丈夫だろう。

 

イリヤちゃんと美遊ちゃんとクロエちゃんの魔法少女三人娘は意外なことに三人全員夏生まれのしかも誕生日が同じという不思議な運命で結ばれていて、海で大はしゃぎしていた。

 

その母のアイリさんは娘のシトナイと一緒にイリヤちゃん達と遊んでおり、その近くでは普段はあまり表情を顔に出さないヘラクレスが砂浜に座りながら僅かな笑みを浮かべていた。

 

ちなみに兄のエミヤはせっせとバーベキューなどの食事の準備をしていて、父のキリツグさんは銃器とナイフを構えながら愛する妻と娘達に悪い虫が近寄らないようにと周囲を警戒して見張っていた。

 

キリツグさんって過保護なんだなと意外な一面が見られた気がする。

 

他にもメディアと葛木先生、ラーマとシータ、そしてジークとルーラーの夫婦や恋人達がそれぞれイチャイチャしていた。

 

オリオンとアルテミスは……まあ、オリオンが女の子達に鼻の下を伸ばしていたのでいつも通りにアルテミスが制裁を下していた。

 

ラーマとシータは離れ離れだった分ずっと手を繋いでいて幸せそうで二人を助けられて本当に良かったぜ。

 

そう思っていると普段前髪で両眼を隠しているけど、髪留めをして綺麗な左眼を見せるようにしたフランがやってきた。

 

可愛いと褒めようと思ったらフランは何と「ますたー、まいすいーとだーりんぷりーず!」と言葉を発してきた。

 

ほとんど話せないフランが普通に話せるようになり、俺たちは衝撃を受けてすげえ驚いたぜ。

 

霊基を弄ってバーサーカーからセイバーにクラスチェンジした影響らしいけど、こんなにも変わるなんてサーヴァントって益々不思議だなと改めてそう思ったぜ。

 

とりあえずフランの要望でアストラルは不乱健のカードを取り出して召喚した。

 

不乱健こと健ちゃんは「敵は?ここは何処?」と平和な無人島を前にきょとんとしていると、フランは目を輝かせて健ちゃんに抱きついた。

 

いつも以上に大胆な行動をするフランに健ちゃんは当然顔を真っ赤にして逃げようとしたが、フランの新しい宝具と思われるハンマーがでっけえ雷の剣に変化したものを振り回して健ちゃんの行手を塞いだ。

 

そして、恥ずかしがる健ちゃんを連れてフランは満面の笑みを浮かべながらデートを始めた。

 

無人島の1日目は少し忙しい感じだったけど、最低限の生活を出来るようになったし、後は開拓に燃えるサーヴァント達が色々やると言っていた。

 

俺はと言うと、明日からマシュとイリヤちゃん達と一緒にスカサハ師匠の元で修行することになっている。

 

あのクー・フーリンの兄貴や数多くのケルト戦士を育てたスカサハ師匠は兄貴ですら恐るほどのかなりのスパルタらしい。

 

だけど、スカサハ師匠の元でしっかり鍛えれば強くなれると信じて頑張るしかねぇ。

 

かっとビングだぜ、俺!

 

 

 




とりあえずこんな感じでしばらく話を進めていきます。
次回はできるだけ早く書けるように頑張っていきます。


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ナンバーズ157 サマーメモリー2日目

なんとか早めに2日目の話をかけました。
この調子でなんとか8月中にサマーメモリー編を終わらせたいです。


バニヤンが作った大量の作物とクー・フーリンの兄貴が釣ってきた魚介類を元にエミヤのバーベキューで腹一杯食べた俺たちはすぐに就寝に入った。

 

ログハウスではハンモックが付けられていて俺はテンションマックスで眠ったぜ。

 

カルデアだとロマン先生がハンモックは成長期の体に悪いと言って禁止されてベッドを使ってたから、久しぶりのハンモックは気持ちよく眠れたぜ。

 

翌朝、気持ちよく目を覚まして外に出たら……すげぇ異様な光景が広がっていた。

 

それはネロと清姫と武蔵姉上が涙目になりながら砂浜で正座をさせられていて、その前には明里姉ちゃんが学生時代に着ていたセーラー服のようなを着た頼光さんが憤怒の様子で立っていた。

 

恐る恐る頼光さんに何が起きたのか聞くと、昨夜にネロと清姫と武蔵姉上が水着姿で俺のログハウスに忍び込んで夜這いをかけようとしていたらしい。

 

それを頼光さんが全力で阻止してくれたみたいだ。

 

今の頼光さんはバーサーカーからランサーにクラスチェンジした影響でかなり厳しい性格が表に出ているようだった。

 

そう言えば頼光さんを怒らせるとすげぇ怖ぇってゴールデンが言ってたな……。

 

流石に海に来たのにこのまま説教を続けるのはネロと清姫と武蔵姉上が可哀想なので、頼光さんを説得して三人への説教を後で俺と頼光さんと二人っきりで散歩をする条件でやめてもらった。

 

ちなみに三人は長時間日差しを浴びながら熱々の砂地で正座させられて心身共にかなり疲労してしまったのでフラフラしながらログハウスで休むそうだ。

 

朝食を食べて軽い準備運動をしてからいよいよスカサハ師匠の指導の元、俺たちの修行が始まる。

 

修行に関しては各個人でやるものではなく、俺とマシュとイリヤちゃんと美遊ちゃんとクロエちゃん、5人で協力して行うものだった。

 

その内容は正直に言うと俺でも耳を疑うようなものだった。

 

それは……アストラルの持つナンバーズとの百番勝負だった。

 

5人の持てる全ての力を駆使してナンバーズ100体を全て倒すと言うもので、マシュとイリヤちゃん達は顔を真っ青にした。

 

ちなみに俺はデュエルモンスターズとデュエルディスクは使えず、俺自身が使える剣と銃でしか戦えないとスカサハ師匠に言われてしまった……。

 

スカサハ師匠のこの修行内容は前日にアストラルと話し合って決めたらしい。

 

スカサハ師匠の弟子のクー・フーリンの兄貴でさえも「流石にそれはヤバいだろ……本当に師匠は鬼畜だな……」と呟いた瞬間に師匠のゲイ・ボルクが兄貴に向かって飛んでぶっ飛ばされてしまった……兄貴、御愁傷様。

 

ちなみに修行のナンバーズ100体だが、ヌメロン系は能力が特殊過ぎるので除外されて、おしゃもじソルジャーみたいな戦闘に向かないナンバーズも除外で、カオス・ナンバーズを含めた100体をアストラルが選んで1体ずつ召喚して戦わせるらしい。

 

流石に効果は使わずに純粋な戦闘力のみで戦わせるが、それでもナンバーズ100体との勝負はかなり危ないと思う。

 

しかし、スカサハ師匠は本来なら自らの手でじっくりと時間を鍛えてやりたいところだが、人理焼却で時間があまりないと言うこともあるので多少の荒療治も兼ねてのことだった。

 

この魔術世界とは異なる、異世界で高次元の力の結晶であるアストラルのナンバーズで成長途中のマシュ達と戦わせればきっと大きな成果を得られると師匠はそう確信しているのだ。

 

そして、俺自身が『未来皇ホープ』でもあるので同じナンバーズと戦うことで内なる力を更に高める事が狙いらしい。

 

それにしても、ナンバーズ軍団との百番勝負か……デュエルじゃなくて純粋なガチンコバトルだからすげぇ不安だけど、同時にワクワクしてきたんだ!

 

マシュ達は不安そうな顔をしていて申し訳ないけど、デュエルでは見られないナンバーズ達の姿の細かいところを見られるし、色々なアクションシーンも見られるかもしれないと言う期待で胸がいっぱいだった。

 

俺は原初の火とホープ剣を構え、腰にはホルスターを取り付けて久々に使うフリントロック式拳銃をいつでも取り出せるように仕舞う。

 

やる気満々な俺にマシュとイリヤちゃん達も覚悟を決めて戦闘態勢を取り、スカサハ師匠は満足げに頷くと早速修行が始まった。

 

アストラルが記念すべき最初のナンバーズのカードを海に投げ飛ばすと海の中から現れたのはリバイス・ドラゴンだった。

 

リバイス・ドラゴンは最初にデュエルで召喚された記念すべきナンバーズだ。

 

ナンバーズ百番勝負の修行の始まりを告げるには相応しいともいえる相手だった。

 

このバカンスの間に100体を全部倒すのが目標だ、必ず突破してやるぜ!

 

ナンバーズ百番勝負は朝から昼まで行われ、切りのいい20体を倒したところで今日の修行は終了となった。

 

ナンバーズを20体倒すのは……正直言ってかなり疲れたぜ。

 

体力に自信のある俺だけでなく、マシュとイリヤちゃん達もぐったりしていて午後はあまり動けない感じだった。

 

戦闘の陣形は俺とマシュが前衛、イリヤちゃんと美遊ちゃんが中衛、クロエちゃんが後衛のバランスが取れた陣形でなんとか戦い抜けた。

 

でも、ナンバーズを20体倒したとは言え、まだ残りは80体もいて、しかもまだまだ力のある奴は山ほどいるからそう簡単には倒せないから前途多難な道のりだった。

 

流石のこの修行内容には百戦錬磨の戦士系のサーヴァント達も同情するほどでみんな俺たちに労りの優しい言葉をかけてくれた。

 

午後は無人島でサーヴァント達が何をしているのか見て回った。

 

昨日と引き継ぎで遊んでいたり、のんびりしたり、魚釣りをしたり、無人島を探検したり、自分だけの秘密基地のようなスペースを作ったり、そして無人島を開拓するために色々な施設を作ったりと各々が自分の心の赴くままに行動していた。

 

カルデアとは違った開放的な環境でみんな生き生きと行動していてここに来て良かったなと思う。

 

そんな中、木陰でビーチチェアーに座り、優雅に本を読んで恐らくはエミヤが作ったであろうヤシの実ジュースを飲んでいるオルガマリー所長を見つけた。

 

よかった、ちゃんとのんびりと休んでいるなと安心して何の本を読んでいるのかとこっそりと表紙を覗き込んだけど、それに思わず目を疑った。

 

タイトルは『銃の基礎知識』。

 

その名の通り、銃の基礎知識が事細かに書かれており、何でそんなものを読んでいるのか不思議で仕方がなかったが、その答えをダ・ヴィンチちゃんが教えてくれた。

 

どうやら所長はFBI初代長官のフーヴァーの力を引き出して宝具ではないが武器としてマグナムリボルバーやサブマシンガンなどの銃器を使えるようになった。

 

所長は今後の戦いの自衛の為にと銃器の使い方を学んでいるらしい。

 

そして、マグナムリボルバーやサブマシンガンは後でカルデアに戻った際にはダ・ヴィンチちゃんを始めとする天才達とメディアなどの高名な魔術師達に頼んで強化改造をしてもらうらしい。

 

サーヴァントの持つ武器を改造出来るのかと疑問に思ったが、どうやら天草さんが聖杯大戦時に日本刀の「三池典太」をシェイクスピアのスキルで宝具レベルにまで強化したのでそういう事は可能みたいだ。

 

魔術師が銃器を使って大丈夫なのかなと思って恐る恐る所長に聞いてみたら「元々私は魔弾使いだからそれを銃器にも取り入れられれば攻撃の幅が広がるわ。それに使えるものはなんでも使える方が良いし、手数が多ければ多い程、これからの敵を倒すには良いでしょう?」と不敵の笑みを浮かべた。

 

その時、オルガマリー所長は俺たちカルデアの仲間にはその銃口が向けることは無いけど、敵対勢力や害をなすものには容赦なく向けられる光景が簡単に浮かんだ。

 

色々と心の枷がぶっ飛んだオルガマリー所長を怒らせてはいけないと俺は改めてそう心に誓った。

 

それから子供達の様子を見に行くと、みんなはバニヤンが作った畑で作物を収穫をしているらしく俺も手伝いに行くことにした。

 

するとそこには子供達だけでなく珍しい組み合わせでマリー姉様とモードレッドも一緒にいた。

 

すると子供達は俺に気付くと一斉に近づいてきてお願いをしてきた。

 

何のお願いか分からないけど出来るだけ叶えたいと思い、まずはどんなお願いか内容を聞いたが……それはかなり予想外のものだった。

 

子供達の後に付いてきた小さな三つの影、それは四本足で歩く日本でも馴染みのある小さな動物だった。

 

それは……猪の子供、うりぼうだった。

 

しかも見た目は可愛くて性格は人懐っこく、人に害を与えない様子だった。

 

そして、子供達の願いはうりぼう達をペットにしたいと言うことだった。

 

子供達よ……犬や猫ならまだしも、よりにもよって難易度の高いうりぼうをペットにしたがるのか……?

 

まあ、みんなサーヴァントとデミ・サーヴァントだからうりぼうが猪に成長しても問題なく飼えそうだけどさ……。

 

しかも、マリー姉様とモードレッドもうりぼう達をかなり気に入っていて、その二人からも珍しくお願いされたら断る事はできなくなってしまい、結局うりぼう達を飼うことになったのだった。

 

それにしても、このうりぼう達は人語を普通に理解しているけど、一体何なんだ……?

 

 

 




ナンバーズ百番勝負……考えた私ですら恐ろしいと思いました。
これに挑む遊馬達はかなり地獄だと思います。

オルガマリー所長の強化フラグが立ちました!
まあ、原作では何故かビーストになってますのでこれぐらいは(笑)



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ナンバーズ158 サマーメモリー3日目

夏イベガチャでキアラさん2枚とイリヤちゃん2枚をゲットです!

イリヤちゃんを無事に迎えることができて最高です!

このテンションを抱えたまま頑張って書いていきます!


子供達とマリー姉様とモードレッドの願いでうりぼう達を飼うことにしたけど、うりぼう……猪は害獣だから処分、もしくはジビエにして食べようとする意見がスカサハ師匠やアルトリアから出た。

 

人語を理解しているうりぼう達はそれを聞いて涙目になってガタガタ震えながら子供達の後ろに隠れ、うりぼう達を殺すと聞いた子供達は「いやだいやだ!」と大泣きして拒否し、子供達の大泣きにスカサハ師匠とアルトリアも困り果てて言いづらくなった。

 

確かに猪は害獣だけど、日本だと十二支の一つとして十二年のうちの最後の一年を司る縁起の良い動物で、アストラルの知識で猪は場所によっては神使いだったり、金運や交通安全や安産の神様として祀られていてとても良いものだと言ってみんなをなんとか説得した。

 

だけど、その直後にエネミーの巨大で邪悪な魔力を秘めた猪、魔猪が現れたんだ。

 

魔猪はアルトリアを見つけると怒りを露わにして突進してきた。

 

すると、アルトリアやスカサハ師匠を始めとする水着姿になってクラスチェンジしたサーヴァント達が一斉に宝具を放った。

 

魔猪は何も出来ずに空の彼方にぶっ飛ばされてしまった。

 

ところで、魔猪がぶっ飛ばされる直前に恨めしそうな声でアルトリアの名前を呼んだような気がしたけど、気のせいかな……?

 

うりぼう達は子供達が面倒を見ることになり、保護者としてマリー姉様とモードレッドが側に付くことになった。

 

色々と暴走することもあるけど、なんだかんだでしっかりしている二人が一緒なら安心できるな。

 

うりぼう……猪の子供だけど、命を育てることはとても大切なことを学べるいい機会なので子供達の成長を促すにも良いだろうと思う。

 

そして、二日目もあっという間に過ぎて三日目が始まる。

 

無人島生活の三日目で、第二回目の修行。

 

朝から昨日に引き続き残り80体のナンバーズを倒す為に前日にみんなと話し合ってコンビネーションや状況把握を考えて戦った。

 

俺とマシュが囮役になって敵を引きつけたり、イリヤちゃんと美遊ちゃんがそれぞれ状況に適したクラスカードを使ったり、クロエちゃんが弓だけでなく空間転移で後衛から一気に前衛に入って剣で斬るなど試せることを色々やって昨日に引き続き19体を倒し、通算40体目に突入した。

 

しかし、その40体目は大陸の巨人……アトランタルだった。

 

そのあまりの巨大さに初めて見るイリヤちゃん達は口を大きく開けてアングリとしてしまったが、アトランタルは待ってくれるわけもなく肩の火山を噴火させて炎を帯びた噴石を落としたり、巨大な拳を振り下ろしたり拳から竜巻と電を発生させ攻撃したりと一種の大災害を受けている気分となった。

 

このままではこちらがやられるとすぐにイリヤちゃん達が動いた。

 

美遊ちゃんが全力で砲撃とバリアを張ってアトランタルの攻撃からイリヤちゃんとクロエちゃんを守り、クロエちゃんはアトランタルの足元に集中して投影した矢を出来る限り放ってから魔力を爆発させる「壊れた幻想」で一斉に爆発させてアトランタルのバランスを崩した。

 

そして、セイバーのクラスカードを夢幻召喚して、最大限にまで魔力を込めて輝かせた約束された勝利の剣の光を一気に放ち、アトランタルを消滅させた。

 

俺とマシュが力を貸さなくてもナンバーズでも上位に入るアトランタルを倒せたイリヤちゃん達の実力とコンビネーションに感動した。

 

このままの勢いで50体目まで倒して半分クリアを目指そう!……と思った矢先だった。

 

突然空が暗くなり、雨が降るのかと思って空を見上げたらそこには……デュエルモンスターズ史上最大級の大きさを誇るダイソン・スフィアがいた。

 

そうだ……ナンバーズにはこいつがいたんだった!と血の気が引くほど驚きながらも倒そうした。

 

しかし、結果は惨敗となってしまい、そこで今日の修行は終了となった。

 

惨敗の理由は簡単だ、俺たちの攻撃がダイソン・スフィアに届かないのだ。

 

俺の剣やマシュの盾、イリヤちゃんと美遊ちゃんの砲撃、クロエちゃんの矢……そのどれもが宇宙空間にいるダイソン・スフィアに届くわけがない。

 

イリヤちゃんの切り札でもあるツヴァイ・フォームから放たれる最強の魔力砲撃の「多元重奏飽和砲撃」でも届かず、ダイソン・スフィアの宇宙からのレーザー攻撃に為す術もなく惨敗となってしまった。

 

あんなのに勝てるかぁっ!?とイリヤちゃん達は頭を抱えて嘆き、それには俺とマシュも同意見だった。

 

そもそもダイソン・スフィアは天空を越えた宇宙空間にいるし、見守っていたサーヴァント達も仮に自分たちが挑んでいたら流石にアレには攻撃は届かないから無理と言っていた。

 

何か策を練らないとダイソン・スフィアの攻略は不可能だ。

 

そこでスカサハ師匠から一度自分たちの力を見つめ直せとアドバイスを貰い、それぞれが今の自分の力とそこから導き出される新たな可能性を見つめ直すことにした。

 

マシュは盾を見つめながらフォウと一緒に考え、イリヤちゃん達はクラスカードを手にそれぞれの力が込められたサーヴァント達に話を聞きに行った。

 

俺もなんとかしないとなぁ……と必死に剣を振るったりして考えるが、中々案が浮かばずに頭がショートしてしまった。

 

何も思い浮かぶことができずに砂浜で倒れて空を見上げるとそこに清姫がニコニコしながら顔を覗き込んできた。

 

清姫が俺が悩んで頭がショートした話を聞くと無人島の奥で見つけた涼める場所で頭を冷やしに行こうと誘われ、気分転換にも良いなと思ってエミヤから昼飯の弁当をもらってから清姫と散歩に出掛けた。

 

森をかき分けて奥に進むとそこには綺麗な泉があった。

 

そこは山からの地下水が流れて源泉として溢れてできた泉で、透明度のある真水だった。

 

午前中に気の向くまま森を歩いていたら見つけたらしく、とても美味しい水らしいので飲み水としても使えるそうだ。

 

そう言えば、日本だと蛇は水神として崇められているってカルデアの本で読んだな。

 

清姫も一応蛇だからこの泉を見つけたのかな?と思っていると、泉のそばにサーヴァントがいた。

 

誰だ?と目を凝らすとそこには泉から汲み上げた冷たい水を頭の上から勢いよく被っていたのはかなり際どい紫色のビキニの水着に天女が使う羽衣を身に纏った美女……頼光さんだった。

 

頼光さんはセーラー服の下に水着を着ていたようで、会った時から綺麗な姉ちゃんだなと思っていたけど、水を浴びた姿に思わずドキッと心臓が跳ねた気がしたぜ。

 

そしたら、清姫にジト目で睨まれて耳を引っ張られて痛かった……。

 

頼光さんは精神を鍛える為にこの泉の水で禊をしに来たらしい。

 

己の中にいる丑御前に負けない為にと意気込んでいた。

 

昼時でもあったので、せっかくなので頼光さんと一緒にエミヤの弁当を食べた。

 

二人から三人になったから多めに作ってもらって正解だったぜ。

 

弁当を食べながら頼光さんにも俺の今の悩みを打ち明けるが、流石の平安最強の神秘殺しでも接近できるならともかく、相手が宇宙空間にいるのでは対処は不可能だと言う。

 

やっぱりそうだよなぁ……と落ち込むと、清姫はあることを思いついたようにランサーになった影響で持つようになった見事な薙刀を見せながらこう言った。

 

「旦那様も双剣以外の別の神器を出せば良いのでは?」……と、そう答えた。

 

双剣以外の神器と言われて一瞬何のことだと思ったが、すぐに両手に力を込めて雷神猛虎剣と風神雲龍剣を創り出した。

 

清姫に言われてハッと思い出した。

 

そうだ、この雷神猛虎剣と風神雲龍剣は元々はZEXALが作り出した奇跡の力……ゼアルウェポンだ。

 

ゼアルウェポンは雷神猛虎剣と風神雲龍剣だけじゃない、他にも色々な種類がある!

 

ずっと自分で剣ばかりを使っていたからすっかり忘れてたぜ!

 

俺はそれを思い出させてくれた清姫に感謝すると、清姫は「旦那様に喜んでもらえて私も嬉しいです」と言ってくれた。

 

本当に清姫は良い子だなと思うと、頼光さんが立ち上がって仏具みたいな大きな槍の「釈提垣因・金剛杵」を出して俺が他のゼアルウェポンを出せるまで一緒に修行を付き合ってくれると言った。

 

頼光さんの方はいいのかと聞いたけど、頼光は「私よりも必死に頑張っているあなたの為に力を尽くすのは当然です!」と言ってくれて俺はとても嬉しかった。

 

俺は清姫と頼光さんと一緒に日が暮れるまで一緒にいてくれて、そのお陰もあって他のゼアルウェポンを無事に創れるようになった。

 

まだ全部のゼアルウェポンは無理だけど、ナンバーズ百番勝負で使えそうなゼアルウェポンはいつでも創れるようになった。

 

夜になり、夕飯を食べてすぐにマシュとイリヤちゃん達を集めて明日の作戦会議をした。

 

どうやらマシュとイリヤちゃん達も午後で何かを掴んだみたいで、明日のダイソン・スフィア攻略に光明を見つけた。

 

ふふふ……待ってろよ、スカサハ師匠!

 

俺たちの絆の力を見せてやるぜ!

 

 

 




遂に出ました、ダイソン・スフィア!
こいつにリアルファイトで勝てるのって中々いないですよね。
普通ならグランドアーチャーのオリオンぐらいしか思いつきませんね。


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ナンバーズ159 サマーメモリー4日目

Heaven's Feel見て来ました!
長かった三部作が完結し、無事に士郎と桜が幸せになって本当に良かったです。
まだまだ辛いことは沢山あるし、罪と向き合って生きていく事になりますが、二人には幸せになってもらいたいものです。

さて今回はダイソン・スフィア攻略戦です!
遊馬達の作戦が見ものです。


無人島四日目で第三回目の修行、朝から俺たちは気合い充分だった。

 

エミヤが気を利かせてくれてハワイの名物朝食を作ってくれてその美味しさにモチベーションも上がった。

 

浜辺ではどうやってダイソン・スフィアを攻略するのかと多くのサーヴァント達が見物に来ていた。

 

その中で一番異彩を放っていたのはアイリさんだった。

 

アイリさんはイリヤちゃん達の応援するためにシトナイと一緒にチアガール姿で応援していた。

 

アイリさんはすげぇノリノリだったけど、シトナイは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。

 

アイリさんって、人間みたいだけど、確かホムンクルスだったんだよな……見た目に反して実年齢や精神年齢とかかなり違うみたいだな。

 

イリヤちゃんとクロエちゃんもママ達は何をやっているの!?とこちらも恥ずかしくて顔を赤くしていた。

 

ちなみに……キリツグさんはというとアサシンクラスの俊敏などを生かしながらアイリさんとシトナイの写真を撮っていた。

 

まさかキリツグさん、この連休中ずっと奥さんと娘さん達の写真を撮りまくっていたのか……?

 

キリツグさんの愛妻家と子煩悩に苦笑しながらも気合いを入れ直して空を見上げた。

 

太陽を隠しながら現れたのは昨日は大敗し、サーヴァント達でも対処は不可能と言われた超巨大モンスターのダイソン・スフィア。

 

その巨大さに圧倒されるが、わざわざ負けるために来たわけじゃねぇ。

 

昨夜行った作戦会議通りに各自が行動を開始する。

 

まずは美遊ちゃんが宝具を発動して俺たちの体力と魔力をブーストさせて、クロエちゃんはブーストさせた魔力を使って一つの剣を投影した。

 

それはクロエちゃんが投影出来る最強の剣、約束された勝利の剣だ。

 

約束された勝利の剣を『剣』から『矢』に改造して普段なら使い慣れている黒弓で撃つが、黒弓では矢が宇宙空間まで届かない。

 

そこで俺の出番で両手を前に出して全神経を集中させて両手に光を宿した。

 

そして、紅蓮の炎が燃え上がり、俺の前に死と再生を司る火の鳥……不死鳥が誕生するとそこから巨大な弓へと姿を変えた。

 

これはZEXALが二番目に創造したゼアルウェポン、不死鳥弩弓。

 

弩弓は普通の弓と違ってかなり大きな弓でその威力と飛距離は他の弓とは比べ物にならないほとだ。

 

不死鳥弩弓をダイソン・スフィアに向けるために美遊ちゃんが物理保護で空中にしっかりと固定する。

 

だけど、こいつを出した俺が言うのもなんだけど、使いこなすことは出来ない。

 

何故なら弩弓は腕だけでなく、両足まで利用して全身の力で弦を引いて放つ弓で実際にホープレイもその通りに放ったが、今の俺の腕力と脚力だと上手く弦を引けないんだ。

 

そこで、俺の代わりに不死鳥弩弓を引いてくれるのは……イリヤちゃんだ。

 

イリヤちゃんはバーサーカーのクラスカードを夢幻召喚し、上半身がサラシ1枚で腰蓑を巻いた半裸の姿となって、ルビーは巨大な斧剣へと変化した。

 

バーサーカーのクラスカードにはギリシャ神話の大英雄・ヘラクレスと繋がっていて、凄まじい戦闘能力で吹き荒れる暴風のような戦闘をする。

 

今回は斧剣となったルビーは使わず、クロエちゃんから約束された勝利の剣の矢を受け取って不死鳥弩弓にセットし、そして……片手で軽々と弦を引いたんだ。

 

バーサーカーのカードをその身に宿した事で、その細腕では考えられないほどの凄まじい腕力を手に入れ、本来なら全身の力を全て使って引く弩弓を片腕で軽々と引けるようになった。

 

イリヤちゃんとバーサーカーのクラスカードはとても相性が良く、浜辺で見守っていたヘラクレスの力に真に迫るほどの力を引き出していた。

 

それは恐らくイリヤスフィールとヘラクレスと言う時空と並行世界を越えた二人の強い絆で結ばれた縁による結果なのだとルビーは言っていた。

 

しかし、イリヤちゃんには弦を引けても弓を使う技術はないのでクロエちゃんが後ろからサポートしてダイソン・スフィアに狙いを定める。

 

だが、ここでダイソン・スフィアが俺たちに向けてレーザービームを放って来た。

 

このままでは俺たちがやられるが、俺たちには最高の守護神がいる!

 

マシュが盾の宝具を発動して降り注がれてくるレーザービームから俺たちを守り、美遊ちゃんもサポートに入って魔力砲撃でレーザービームを撃ち落として相殺させながら守ってくれている。

 

その間に俺は不死鳥弩弓の力を上げるために必死に念を込めていた。

 

そして、全ての準備が整い、俺たちの最高の一撃を放つ時が来た。

 

狙いが完全に定まり、イリヤちゃんが弦から指を離し、不死鳥弩弓から約束された勝利の剣の矢がダイソン・スフィアに向けて放たれた。

 

金色に輝く矢が流星のように天を駆け抜け、最後の仕上げに不死鳥弩弓から約束された勝利の剣の矢に込めた力を解放する。

 

金色の矢が炎を纏い、巨大な不死鳥となって宇宙に向けて飛翔する。

 

不死鳥は速度を落とすことなく大気圏を瞬く間に突破するが、宇宙空間の急激な温度の低下でやがて炎を保てなくなった不死鳥は消滅してしまう。

 

だが、不死鳥が包んでいた約束された勝利の剣の矢は健在で矢は止まることなく飛び続けた。

 

そして、矢はダイソン・スフィアの中央の球体に直撃し、内部に入り込んだその瞬間に壊れた幻想が発動し、約束された勝利の剣に込められた魔力が大爆発を起こす。

 

内部からの爆発により、最新機械の塊であるダイソン・スフィアは逃れられない連鎖的な大爆発がボディ全体に広がる。

 

それにより、倒すことは不可能と思われて来たダイソン・スフィアが遂に破壊された!

 

ダイソン・スフィアの破壊に俺達は心が震え、勝鬨を上げた。

 

見物していたサーヴァント達も俺達の見事な一撃に拍手を送り、スカサハ師匠も拍手をして俺たちを褒めてくれた。

 

今回のダイソン・スフィア攻略作戦は俺達五人がそれぞれが出せる『最強』を組み合わせた『最強の一撃』を繰り出す事だ。

 

美遊ちゃんが俺達に最強の力を与え、クロエちゃんが最強の矢を投影し、俺が最強の弓を創り、マシュが最強の盾となり、そしてイリヤちゃんが最強の射手となる。

 

これによりダイソン・スフィアを破壊することが出来た。

 

しかし、喜んでばかりはいられなかった。

 

ダイソン・スフィアの後にはある意味ではナンバーズ最恐とも言えるモンスターのジャイアント・キラーが出て来た。

 

だけど、ジャイアント・キラーは砂浜に突き刺した斧剣となったルビーを手にしたイリヤちゃんが海の上を高速で駆け抜け、斧剣を振り下ろして一刀両断で瞬殺した。

 

その後も召喚されて来るナンバーズ達を次々と斬り伏せ、オケアノスで対峙したヘラクレスの荒ぶる戦いを連想する活躍っぷりだった。

 

これにはヘラクレスも嬉しそうに頷き、ギリシャ神話のサーヴァント達もイリヤちゃんがヘラクレスの力を使いこなしていることにとても驚いていた。

 

しかし、そのままイリヤちゃんが戦い続けることは無理だった。

 

バーサーカーのクラスカードは『狂化』の能力で各ステータスを向上させるが、夢幻召喚をしてから10分を経過すると使用者の理性を奪ってしまい、制御不能の怪物となってしまうんだ。

 

そこで9分50秒を過ぎたらイリヤちゃんはバーサーカーのクラスカードを排出して体力が回復するまで撤退させる事にした。

 

イリヤちゃんはよく頑張ってくれたから後は俺達が頑張る番だった。

 

俺は最初に創造したゼアルウェポンの一角獣皇槍を創り出し、美遊ちゃんはランサーのクラスカードを夢幻召喚してクー・フーリンの力を宿した。

 

俺と美遊ちゃんは腕が痺れて動けなくなるまで一角獣皇槍とゲイ・ボルクを投げまくり、マシュとクロエちゃんがサポートに回った。

 

そして、1時間弱で六十体目まで倒したが、そこで俺たちの体力が尽きて今日の修行は終了となった。

 

体力や魔力などの後先を考えずに最初から全力全開で戦ったので、それ以上の戦闘は無理だった。

 

百番勝負の内、六十体を無事に倒してすでに半数を倒すとができた。

 

だけど、残り四十体は強力な上位のナンバーズにカオスナンバーズが来る……明日もまた気合を入れないとな!

 

でも、今日はダイソン・スフィアを無事に倒したから残りの時間は全力でのんびりすることにした。

 

マシュとイリヤちゃん達も今日はのんびり過ごすそうだ。

 

俺は昼食にエミヤ特製のフィッシュバーガーを食べて腹を満たして子供達の面倒を少し見てから強い睡魔に襲われたので、ヤシの木にハンモックを取り付けて昼寝をすることにした。

 

南の島で大好きなハンモックで昼寝を出来るなんて、俺にとっては最高の贅沢だぜ!

 

ハンモックで心地よい海風を肌に受けながら眠りについた。

 

それから時間が過ぎ、眠りから目を覚ますとそこは浜辺のヤシの木の林ではなく、見たことのある豪華絢爛な劇場だった。

 

寝起きで頭があまり働かないが、起き上がってここはどこだ!?と警戒するとそこに現れたのは……ネロだった。

 

赤と白の二色の水着の上に半透明の白いドレスを着ていてその手には熱々で出来立ての大きな肉料理が乗った皿を持っていた。

 

何が何だか分からず困惑しているとネロは笑みを浮かべて全て話した。

 

ネロはこれまでの俺のナンバーズ百番勝負の活躍に感動し、俺を労るために二人だけの豪華ディナーをしようと計画した。

 

昼寝をしている俺をこっそりと連れ出し、ここに連れて来た。

 

ここはネロの宝具で黄金劇場を改造してパイプオルガンみたいな砲門とネロをイメージした大きな彫刻が設置された『誉れ歌う黄金劇場』。

 

黄金劇場は海に浮いていて、無人島からもかなり離れた場所に展開したので誰の邪魔も入らずに豪華ディナーを楽しめると言っていた。

 

多少強引だけどネロの気持ちはすげぇ嬉しいし、ネロが作ってくれた豪華料理はどれも美味しそうだったので冷めないうちに食べることにした。

 

時刻は夕暮れ時で、俺とネロのディナーが始まり、美味い豪華料理と綺麗な夕日で腹と心が満たされていく。

 

そして、最後のデザートの時には夕陽が沈み、空には満点の星空が浮かんでいた。

 

料理を食べ終えて黄金劇場の端に座ると、空には星空、海面には月の輝きが反射していて本当に綺麗だった。

 

昔、父ちゃんに冒険に連れて行ってもらった時に見た星空を思い出が蘇って来たぜ。

 

すると、ネロは俺の隣に座って俺の手に自分の手を重ねた。

 

サーヴァントに美男美女が多いから少し感覚が麻痺しているけど、近くで見るとやっぱりネロは可愛いよな……。

 

まあ、自分を至高の芸術って自信満々に言うぐらいだからな。

 

そう思っていると、ネロは俺の戦う姿に惚れ直したと言うと顔を赤く染めながら顔を近づけてきた。

 

これはまさか!?と思って下がろうと思ったが手を重ねられて逃げられなくなり、そのまま三度目のキスをされかけた……その時だった。

 

ジェットスキーに乗って爆走して来た武蔵姉上と大きなサメの背中に乗ったジャンヌお姉ちゃんが襲撃して来た。

 

どうやら俺を探しに来てくれたみたいだけど、ネロの行動に激怒して襲いかかって来た。

 

ネロも邪魔されて激怒し、黄金劇場に設置した砲門をフル稼働させて拡散ビームを放ちまくった。

 

武蔵姉上とジャンヌお姉ちゃんも負けじと宝具を発動して対抗する。

 

結局こうなるんだなぁ……と思いながら俺は盾のゼアルウェポンの玄武絶対聖盾を創り出して戦いが終わるまで盾で身を防ぎながら待つことにした。

 

 

 




ダイソン・スフィアの攻略法はこれぐらいしか思いつきませんでした。
なにせ敵は宇宙空間にいますからね……。

そして後半はネロちゃんが久々に頑張りました!
まあ最後は邪魔されましたが(笑)


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ナンバーズ160 サマーメモリー5日目

仕事がかなり忙しくてなかなか書けませんでした。
暑い中の仕事なのでダウンしながら仕事してました。
まだまだ暑い日々が続くので皆さんも熱中症に気をつけてください。


無人島五日目……今日も午前から張り切ってナンバーズ百番勝負に挑んだけど……。

 

結果としては10体倒して、合計70体を倒した時点で終わりとなった。

 

いつもより倒した数が半分になったのは今回戦ったナンバーズは『海』というフィールドに適応した相手ばかりでかなり苦戦したからだ。

 

それはシャーク・ドレイクをはじめとした水属性のナンバーズ達でこの海辺では文字通り水を得た魚のように生き生きと動きまくっていた。

 

攻撃の威力が跳ね上がるし、海の中から攻撃したり、触手とかで俺たちの体を縛って海の中に引き摺り込んだりとかなり大変だった。

 

特にイリヤちゃんたちはシャーク・ドレイクとかの『シャークモンスター』との戦いから世界中に普及してかなりの人気があるパニック映画の有名ジャンルのサメ映画を思い出して「サメ怖い……」と軽くトラウマを植え付けてしまった。

 

まぁ、俺はシャークとのデュエルなどでモンスターと共にシャークモンスターと戦ってきたから慣れてるけど、まだイリヤちゃんたちは小学生でサメは毎年の海の被害も多いから身近な危険生物ってイメージがあるから怖いのも無理ないよな。

 

そう思っているとそこにジャンヌお姉ちゃんとレティシアがやって来た。

 

お姉ちゃんはこのままトラウマを抱えたままではいけないのでサメを克服させようと言ってきた。

 

どうやって克服するんだ?と思っていると、海からなんと……巨大なホオジロザメが出て来た。

 

ホオジロザメの登場に思わず「オィイイイイイッ!??」って叫んじゃったよ。

 

だってホオジロザメはサメ映画の主役みたいな存在だから余計に驚いたよ。

 

でもホオジロザメだけじゃなくてイルカも登場して、どちらもお姉ちゃんのサーヴァントとしての使い魔らしい。

 

オルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルクの使い魔がホオジロザメとイルカってどう言うこと……?と俺たちは内心同じ気持ちでツッコンだ。

 

そして、ジャンヌお姉ちゃんはその使い魔のホオジロザメと触れ合ってサメを克服しようと提案した。

 

その恐ろしい提案に俺たちは戦慄した。

 

いくらなんでもホオジロザメと触れ合うなんて正気の沙汰じゃない。

 

イリヤちゃん達は全力でその場から全力疾走で逃走するがジャンヌお姉ちゃんは手でハートを作ると「姉ビーム」と言って謎のビームをイリヤちゃん達に当てた。

 

するとイリヤちゃん達はジャンヌお姉ちゃんを「お姉ちゃん」として突然呼ぶようになってホオジロザメと触れ合おうとしていた。

 

何が起きたのか困惑した。

 

どうやら「姉ビーム」を受けたものは強制的にジャンヌお姉ちゃんを姉として認識すると言う催眠光線だったのだ。

 

その姉ビームを使って普段はツンツンしているレティシアすらもジャンヌお姉ちゃんを姉としてちゃんと認識してしまった。

 

なんて恐ろしい攻撃を会得したんだと再び戦慄すると、ジャンヌお姉ちゃんは今度は俺に向かって姉ビームを当てた。

 

だけど、不思議なことに姉ビームを受けても俺は特に洗脳されずに問題はなかった。

 

よくよく考えれば普段からジャンヌお姉ちゃんを優しいお姉ちゃんとして認識しているんだから、今更姉ビームを受けてもあまり意味ないよな。

 

俺に姉ビームが効かないと知り、ショックを受けるジャンヌお姉ちゃんだけど、更なる危機が迫っていた。

 

それはジャンヌお姉ちゃんの大先輩で水着になったことで何故かルーラークラスになったマルタの姉御、イリヤちゃん達の家族のエミヤとアイリさんとキリツグさん、そして、ヘラクレス……みんなが怒りを露わにしてジャンヌお姉ちゃんを囲んだ。

 

イリヤちゃん達を洗脳したことにみんなが激怒し、特にキリツグさんは拳銃を取り出すほどだった。

 

キリツグさんが撃つ前にマルタの姉御の鉄拳聖裁がジャンヌお姉ちゃんの頭に放たれてしまい、ジャンヌお姉ちゃんは撃沈してしまった……。

 

ジャンヌお姉ちゃんが撃沈したことでイリヤちゃん達の洗脳が解かれた。

 

その後、ジャンヌお姉ちゃんはその場で正座をさせられてみんなから厳しい説教を受けることになった。

 

本人曰く、生前から見てみたかった海で浮かれていたことと可愛い妹が欲しい気持ちが爆発してしまったらしい。

 

確かにジャンヌお姉ちゃんの生前のことを考えれば気持ちは分からなくもないので、イリヤちゃん達と相談してジャンヌお姉ちゃんを許すことにした。

 

ジャンヌお姉ちゃんも反省して二度と姉ビームを使わないと約束し、これで一件落着かと思ったら、そうじゃなかった。

 

それはレティシアの洗脳がまだ解けておらず未だにジャンヌお姉ちゃんをお姉ちゃんと呼んでいた。

 

この無人島生活で姉ビームを何度も受けたらしいレティシアは催眠が解け辛くなってしまったらしく、ジャンヌお姉ちゃんも洗脳の解き方は分からないらしい。

 

ナイチンゲールに急いで見てもらったところ、催眠はそのうち解けるから大丈夫で、俺たちに対してはいつもと対応は変わらないのでレティシアに関しては経過観察で見守ることにした。

 

ジャンヌお姉ちゃんは今のうちにレティシアともっと仲良くなって洗脳が解けても姉妹になれるようにと意気込んでいた。

 

やれやれ、レティシアも大変だなと思い、また暴走しないように弟として見ておかないなと思った。

 

なんだかんだで無人島生活も慣れて来たこの頃、もうすぐカルデアに帰るのかなと思っていたその時……邪悪なる魔獣が静かに俺たちに迫っていた。

 

 

 

 




そろそろサマーメモリーも終わりに近づいてます。
ハロウィン書こうかなと思ってますけど、ぶっちゃけ書かなくても良いかなと思う自分もいます。
まだZEXAL第二章も控えているので。


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ナンバーズ161 サマーメモリー6日目

先程、新たなリミットレギュレーションでドラグーン・オブ・レッドアイズとホープ・ゼアルが禁止に……。
うわぁ、この先の話に使おうと思っていたカードが禁止とは……。

まあこのカード達が強すぎるのが問題だったわけですからね……。


無人島六日目、昨日の時点でナンバーズは70体を撃破したけどスカサハ師匠からこのままだと時間がかかり過ぎるから残り30体を今まで以上のハイペースで倒せと無理難題を言われた。

 

ちなみに残り30体のナンバーズはカオスの力で戦闘や破壊能力などに特化したカオスナンバーズ軍団、銀河の力を宿した銀河眼の光子竜皇などのドラゴン族中心としたドラゴンナンバーズ軍団。

 

そして……数々の敵を討ち倒し、神々すらも葬る最強の光の戦士達……希望皇ホープ軍団。

 

ここまで頑張って70体は倒したけど……残りの30体を全て倒すのは正直のところ絶対に無理だと思った。

 

カオスナンバーズだけでもすげぇやばいのに、俺たちの世界でも魔術世界でも強い幻想種上位種のドラゴン達に加えて、俺とアストラルが今まで共に戦って来た百戦錬磨の希望皇ホープ軍団……。

 

このナンバーズ百番勝負で何度も思ったことだけど、デュエルならともかくリアルファイトでやり合うなんて正気の沙汰じゃないし、勝てる見込みは無いよな……?

 

この修行で力と自信をつけてきたマシュやイリヤちゃん達もこの敵の豪華すぎるラインナップには白目を剥きたくなるほどの衝撃だった。

 

一応サーヴァントのみんなにも意見を聞くと「消滅を覚悟して挑む」や「生前の全盛期レベルで戦わないと」や「普段使えない使用不能な宝具を解放しなければ」……などと、普通に戦ってもこれは勝てない、やられると言っていた。

 

俺はデュエルでモンスター達が自分をどれほど支えてくれたのかと強く思い、感謝の気持ちを浮かべるのだった。

 

しかし、いくら俺たちが意気消沈してもスパルタなスカサハ師匠が許してくれるわけがなく、強制的に残りのナンバーズとの戦いをさせられることとなる。

 

その結果は察しの通り……惨敗だった。

 

ダイソン・スフィアの時以上にやばいナンバーズとの連続勝負に俺たちは心身ともに限界まで低下してしまった。

 

あまりの疲労感に砂浜で死んだように横たわり、もう午後は何もやる気が起きないと思ったその時だった。

 

突如、空が暗雲と共に邪気が広がり、陸と海の空間が歪んでそこから大量の魔猪が現れた。

 

そして、その魔猪を統べるのが普通の魔猪の何倍も巨大でしかも全身が機械の体になったいわゆるサイボーグの姿をした機械化した魔猪だった。

 

その魔猪の名前は「トゥルッフ・トゥルウィス」。

 

なんとそいつはアルトリアが生前にかつて戦った敵で、堕落して人のものを奪うことに捉われて呪いで猪に変化してしまい、七頭の息子と共にブリテンを食い荒らした魔猪の王だった。

 

しかし苦しむ民を守るため、そして持っていた巨人の装身具を手に入れる為にアルトリアに追い払われたらしい。

 

すると、スカサハ師匠から驚くべき事実が語られた。

 

この無人島はスカサハ師匠が住んでいた「影の国」の一部で人理焼却の影響で切り離された。

 

そして……魔猪の体には聖杯が宿っており、その影響で機械の体になりながらも二千年も生き長らえ、神獣へとランクアップし、この無人島を含めるこの世界が小さな特異点となったのだった。

 

二千年と言うあまりにも長い時間が経過しながらもそれほどまでにアルトリアに対しての怨みがあったのか……。

 

俺とアストラルは魔猪とはいえ、元人間であるあいつの持つカオスに恐ろしさを感じてしまった。

 

トゥルッフ・トゥルウィスは二千年分の怨みを晴らすためにアルトリアに襲い掛かった。

 

アルトリアは水着から騎士王の姿に戻って約束された勝利の剣で応戦しながらみんなに他の魔猪は倒さずに気絶させてと頼んできた。

 

倒さずに気絶させるその意図が分からないがあの真面目で滅多に頼み事をしないアルトリアが言うのでそれに応えるため、俺のマスター権限でみんなにそう指示して他の魔猪との戦闘を開始した。

 

疲れたからといって怠けるわけにはいかないとマシュやイリヤちゃんたちも立ち上がり、気合を入れ直して戦う。

 

ナンバーズに比べれば魔猪は大したことないので、まるでアクションゲームの無双状態のようにマシュとイリヤちゃん達は暴れまくり、魔猪達はまるで軽い人形のように次々と空に薙ぎ飛ばされていくのだった。

 

きちんとナンバーズ百番勝負の修行の成果が出ているようだった。

 

一方、アルトリアはトゥルッフ・トゥルウィスと戦闘は続いていた。

 

トゥルッフ・トゥルウィスは聖杯の力を得て機械化したその戦闘力は凄まじかったが、そこにアルトリア・オルタとランサー・アルトリア・オルタが参戦した。

 

二人も違う可能性だけど同じアルトリアだから参戦しても不思議はない。

 

当然だけどアルトリアが三人となったことにトゥルッフ・トゥルウィスは困惑していた。

 

そりゃあ復讐の相手が三人に増えたら驚くのも無理はないな。

 

そして、アルトリア達三人による息の合ったコンビネーションでトゥルッフ・トゥルウィスは追い詰められ、約束された勝利の剣が額に突きつけられた。

 

トゥルッフ・トゥルウィスは敗北し、死を覚悟したが……アルトリアはトドメを刺さずに約束された勝利の剣を消した。

 

何故トドメを刺さないのかとトゥルッフ・トゥルウィスは尋ねると、アルトリアはこれ以上憎しみの連鎖を生み出さない為にと静かに告げた。

 

アルトリアは俺とアストラルの物語を見て憎しみの連鎖を断ち切ることが大事だと思い知らされ、自分に憎しみを向けるトゥルッフ・トゥルウィスに慈悲を示したんだ。

 

もう争いは止めよう、憎しみで自分を苦しめるなと言う思いを込めて……。

 

するとトゥルッフ・トゥルウィスは仇敵である騎士王ではなく、見た目相応の優しい少女の笑みを浮かべている昔とは違うまるで別人みたいなアルトリアに毒気を抜かれるとその場に力なく倒れてしまった。

 

力に満ち溢れていたはずのトゥルッフ・トゥルウィスが瞬く間に弱っていった。

 

トゥルッフ・トゥルウィスはこの戦いに敗れ、そしてアルトリアからの慈悲によって今まで自分を支えてきた憎しみの心が全て打ち砕かれてしまい、それにより二千年も生きながらえていた生命力が尽きかけようとしていたんだ。

 

これは憎しみで無理矢理生きながらえた命に終わりが迎えようとしているので、ナイチンゲールも無理に治療せずにそのまま静かに見守った。

 

お前は随分変わったなとトゥルッフ・トゥルウィスはアルトリアに言い、アルトリアも多くの人との出会いや想いが自分を変えてくれたと嬉しそうに言った。

 

それを聞いたトゥルッフ・トゥルウィスは静かに目を閉じた。

 

「もしも……私も、お前のように、変われたら……」と、最後にそう言い残して力尽き、体が機械ごと静かに塵となりながら消滅していった。

 

こうして二千年に渡るトゥルッフ・トゥルウィスの怨みの生は終わりを迎えた。

 

消滅したトゥルッフ・トゥルウィスの体から聖杯が現れて静かに浮いていた。

 

そしてこれが俺たちの無人島生活の終わりを迎える合図となるのだった。

 

 

 




次回でサマーメモリー編は終わりとなります。
その次はかなり短めなハロウィンを書いていこうと思います。
エリちゃんの大暴れとマタ・ハリ姉さんを出したいので。


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ナンバーズ162 サマーメモリー7日目

これでサマーメモリ編は終わりです。
終わりなのでかなり短めです。



無人島七日目、この無人島での生活も遂に終わりの時を迎えることとなった。

 

昨日消滅したトゥルッフ・トゥルウィスの体から現れた聖杯を回収し、この特異点と化したこの無人島……影の国の一部を元に戻さなければならない。

 

聖杯を回収する前にやることがあった。

 

それはトゥルッフ・トゥルウィスが引き連れた魔猪たちの今後の生活だ。

 

魔猪はトゥルッフ・トゥルウィスの影響で邪悪に染まっていたが、消滅したことによって邪気が抜けてうりぼう達と同じ無害な猪に戻った。

 

今後もここで生きていく猪たちの為に無人島を住みやすくし、一生食べ物に困らないようにした。

 

一晩かけて全てを終わらせ、それを猪たちに説明すると猪たちは感謝の鳴き声を上げた。

 

そして、簡単なものだけど消滅したトゥルッフ・トゥルウィスの墓を作ってあげた。

 

二千年も怨み続けて生きてきたトゥルッフ・トゥルウィスが少しでも安らかに眠れるようにと少し大きめの石を切り出して墓を作り、この島を見渡せる山の中腹あたりに建てた。

 

全てのやることが終わり、カルデアに帰還する直前に子供達がうりぼう達を抱き抱えて来た。

 

嫌な予感が頭によぎる中、子供達はうりぼうをカルデアに連れて行きたいとお願いしてきた。

 

まあ、何となく予想はついていたけどな。

 

子供って捨てられた動物とか仲良くなった動物とかを拾って家に連れて帰りたくなるもんだからなぁ。

 

犬や猫ならよくあるけど、うりぼうは普通は無いからな。

 

オルガマリー所長はうりぼうを連れて行くのに難所を示していたけど、この無人島での生活でうりぼうは良い子だし、子供達がちゃんと面倒見ていることをみんなが見ていたので反対はせずに賛成してくれた。

 

うりぼう達は子供達と一緒にいられると喜んでいた。

 

すると、アナザーのカードが一枚出てきてうりぼう達の前に止まると回転しながら真名とイラストが浮かび上がり、新たなカードが誕生した。

 

それは『小さく勇敢な獣 うりぼう』というカードとなり、なかなか使える効果だった。

 

カードが生まれたと言うことは俺たちの仲間という一つの証明となり、うりぼう達は正式にカルデアの仲間の一員だ。

 

そして、聖杯を回収し、俺はサーヴァント全員をカードに入れてデッキケースにしまい、小鳥と所長とうりぼう達と共にカルデアに戻り、特異点であるこの無人島に別れを告げる。

 

長いようであっという間だった無人島の七日間の日々はこうして終わった。

 

カルデアの戦いの日常に戻り、所長は早速いつもの服に着替え、無人島でリフレッシュした遅れを取り戻す為に気合を入れて仕事に臨んだ。

 

サーヴァント達もカルデアでのそれぞれの生活に戻っていく。

 

なんだかんだ大変だったけど、久々にのんびり?出来たし、今後の特異点解決も頑張っていこうと決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、俺たちの無人島での苦労はまだ終わってすらいなかった。

 

「ユウマよ、力を付けてしばらくしたらマシュ達と残りのナンバーズと戦ってもらうぞ。まだまだ30体も残っているからな」

 

「えっ!?スカサハ師匠、まだあの修行って継続なの!?」

 

「当然だ。これぐらいの試練を乗り越えない限り人理を救うなど夢のまた夢だ。逃げ出すことは許さんからな?」

 

スカサハ師匠の地獄の修行はまだまだ続くが、文句を言ってもしょうがねぇ。

 

こうなったらマシュ達と一緒に乗り越えて行くぜ!

 

かっとビングだ! 俺!!

 

 

 




次回はハロウィンかZEXAL第二部の映画を考えています。
まだまだスランプが続いていますが何とか頑張りたいです。


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ナンバーズ163 ハロウィンの夜、デンジャラス・ビースト降臨!?

ハロウィン編のスタートです!
と言っても短めにして終わらせる予定です。

そして、ZEXAL好きに朗報です。
コナミから全てのナンバーズを収録したNo. COMPLETE FILE -PIECE OF MEOMRIES-が発売となります!
これはリアルナンバーズハンターとしてもかなり嬉しいので楽しみです!


夏の無人島生活から少し経過した頃、遊馬達は小さな特異点を解決したり修行をしたりと以外に大忙しだった。

 

すると、遊馬の手元に謎の招待状が届いた。

 

差出人は不明だが今度行われるハロウィンパーティーの招待状だった。

 

「ハロウィン……ああ、こっちだともうすぐだったな」

 

「ハロウィン。古代ケルトでは魔除け、キリスト教では先祖の霊を迎えて悪霊を祓う祭り。だが現代では仮装をしてお菓子をもらうイベントになっているな」

 

「クリスマス以上に変なイベントになっちまったよな。そうだ、せっかくだからカルデアでもハロウィンパーティーをやろうぜ!」

 

「そうだな。1日くらいならオルガマリーも許してくれるだろう。まだ大きな特異点が残されているからストレス発散には良いだろう」

 

「それと、みんなでコスプレもして楽しもうぜ!」

 

「コスプレか……それは良い考えだな」

 

遊馬とアストラルは早速ハロウィンパーティーの企画をオルガマリーに進言し、カルデア中のみんなにも伝えた。

 

サーヴァント達は結構イベント好きが多いのでみんな了承して早速準備に取り掛かった。

 

すると小鳥がコスプレ衣装を一緒に作ろうと提案してきて俺にとっても念願の『あのモンスター』の衣装を作ることにした。

 

裁縫は遊馬には難しかったが実は刺繍が趣味のヴラドや衣装作りが得意なメディアの力も借りて何とか衣装が完成した。

 

そして、ハロウィンパーティー当日……遊馬達はコスプレ衣装に着替えた。

 

「やっと、やっと、こいつのコスプレが出来たぜ……!」

 

遊馬が着替えたのはフェイバリットモンスターのガガガマジシャンが進化したガガガガマジシャンの衣装。

 

実はハートランド学園の学園祭でモンスターカフェという店員がモンスターのコスプレをする企画を行い、遊馬はガガガマジシャンのコスプレをしようと思ったのだが……ジャンケンで負けて等々力委員長に権利を取られてしまったのだ。

 

そして、遊馬は太鼓魔人テンテンテンポのコスプレをすることになったのだ。

 

ちなみにガガガガマジシャンのフードには見事な龍の刺繍があるのだが、それはヴラドの力作で作られていて見事なまでの再現度だった。

 

「似合っているぞ、遊馬。これは一馬さん達にも見せてあげたいな」

 

「うん!遊馬、とっても似合ってるわ!」

 

小鳥はガガガマジシャンの相方で後輩のガガガガールのコスプレをしており、ガガガガールのコスプレはモンスターカフェの時にもしていた。

 

「お兄ちゃーん!お姉ちゃーん!」

 

「お兄様、お姉様、お待たせしました!」

 

「お!桜ちゃんと凛ちゃん、二人ともすげぇ似合ってるぜ!」

 

「ええ、頑張って作った甲斐があったわ」

 

桜と凛もコスプレ衣装に着替えてやってきた。

 

桜は可愛らしい小さな魔法少女のガガガシスター、凛は真面目な秘書のガガガクラークのコスプレをしている。

 

妹キャラの桜にはガガガシスター、真面目な優等生の凛にはガガガクラーク。

 

二人のキャラにとても合っており、頑張って衣装を作った小鳥も満足そうに笑みを浮かべる。

 

今回のハロウィンでは自由にコスプレをすることになっている。

 

遊馬達のは手作りで、サーヴァントは自分の魔力で変化させることができるので自分の思いのままのコスプレをする。

 

次に魔法少女三人娘のイリヤと美遊とクロエがやってきた。

 

三人はハロウィンのコスプレの王道とも言える子供用の絵本に描かれるような箒を持った黒を基調とした魔女のコスプレをしてきた。

 

イリヤ達の普段の魔法少女の衣装も良いが魔女のコスプレもとても似合っていた。

 

ちなみにだがクロエは露出度の高い猫のコスプレをしてエミヤに迫ろうとしたがそこはイリヤと美遊が全力で阻止した。

 

更にはアイリが何を勘違いしたのか最早下着かビキニの水着にしか見えないほどの際どすぎる衣装を着て生まれて初めてのハロウィンに参加しようとしたが、それをアルトリアとシトナイとキリツグが全力で阻止して自室で説得をしているのだった。

 

最後にちびっこサーヴァントのジャックとナーサリーとバニヤンがうりぼうと共にやって来た。

 

うりぼうは体中に無理が無い程度に小さなジャック・オー・ランタンや蜘蛛や骸骨などのハロウィンを飾りが付いており、見ているだけでもハロウィン気分を味わえるほどだった。

 

ナーサリーは自身の存在のモデルとも言える「不思議の国のアリス」の主人公のアリスがきているような水色と白色を基調とした可愛らしいドレス。

 

バニヤンは斧を担ぎ、白いウサギの衣装に血糊で不気味に塗られていて何かのホラー映画の殺人鬼を思い起こさせるような感じだが、ハロウィンにはピッタリだ。

 

そして、ジャックは……。

 

「おかあさんは、いないかー!」

 

「ジャック、それ……なまはげか?」

 

「うん、かわいいでしょ?」

 

ジャックのコスプレは日本の秋田県の厄祓いをする神の使い、鬼の仮面を被って藁でできた衣装を着た「なまはげ」だった。

 

ジャックは頭に鬼の仮面を被り、右手にはナイフを持ち、いつもの露出度の高い衣装の上に藁の衣装を着ている。

 

ジャックは自分がハロウィンのコスプレで何をすれば良いか悩んでいる時に地下図書館で偶然日本のなまはげを見つけ、なまはげを気に入ったので採用したのだ。

 

「まあ、可愛いから良いか……」

 

ハロウィンになまはげは合うのか疑問だが、なまはげ姿のジャックは可愛いので問題ないと結論付けた。

 

これでコスプレをする子供達がほぼ揃い、あとは最後の一人、マシュだけとなる。

 

真面目で几帳面なマシュが遅れており、珍しいと思った矢先。

 

「皆さ〜ん、お待たせしましたぁ〜」

 

「おお、マシュ!待ってた──でぇっ!?」

 

「マ、マシュ……!?」

 

「マシュさん、その、格好は……!?」

 

遊馬達はマシュのコスプレに驚愕していた。

 

紫色のマイクロビキニに狼人間をモチーフにしたモフモフの付け耳や尻尾を付けたあまりにも大胆なコスチュームだった。

 

いつもの戦闘用のスーツ以上に露出度があまりにも高く、恥ずかしがり屋な一面があるマシュが着るのがあり得ない。

 

その答えは今のマシュの状態にあった。

 

マシュの顔は赤く染まって目が少し虚となっており、まるで酔っ払っているようで以前遊馬がラム酒を飲んで酔っ払ったに近い状態だった。

 

そして、マシュをこの状態にした元凶はすぐそばにいた。

 

「マシュ……こんなに成長しちゃって……今のうちに写真を撮りまくろう!」

 

「うんうん、この天才ダ・ヴィンチちゃん渾身のハロウィンスペシャルコスチューム……『デンジャラス・ビースト』は最高の出来だね!」

 

「ところで君の所感は、フォウ?」

 

「フォウ。フォウフォウフォウフォウフォウ(なにかってまずお腹がいいよね。お腹。普段のマシュよりちょっと余分に脂肪がついているだろう?お団子の食べ過ぎを止めなかったボクの采配にキミたちは心の底から敬意を払うべきだよ。胸部の破壊力に関しては何を今さら、という話さ。ボクは十分に承知していたからね。でもちょっと、毛変わりするぐらい驚いた。マシュは着痩せするタイプなんだ……危険だね。とても危険だ。全体的なカラーはボクの好みからはちょっと外れるけど、紫という色が持つ魅力はハロウィンの夜に相応しい。高貴かつ淫靡かつ無垢。もうこれは彼女専用のエクストラクラスを作るべきではないだろうか?) 」

 

「んー、なに言っているか分かるのにキミの内面がぜんぜん分からん!」

 

それは……ロマニ、ダ・ヴィンチちゃん、フォウだった。

 

ハロウィンのコスプレに悩んでいるマシュに気付いたフォウがダ・ヴィンチちゃんにこのコスチュームの依頼をし、ダ・ヴィンチちゃんはノリノリでこのデンジャラス・ビーストを作った。

 

マシュは当然このデンジャラス・ビーストのコスチュームには顔を真っ赤にして拒否をしたが、ロマニがマシュを落ち着かせるためにとジュースを飲ませたが……それは酒呑童子から分けてもらったアルコール度がかなり高い酒を混ぜたカクテルだった。

 

カクテルで完全に酔っ払ったマシュはデンジャラス・ビーストのコスチュームで遊馬を誘惑しようと考えて着用し、遊馬達の元へ向かった。

 

その後をカメラを用意したロマニと自分もノリノリで露出度の高い魔女のコスプレをしたダ・ヴィンチちゃんとドラキュラのコスプレをしたフォウが追いてきて現在にいたる。

 

「遊馬君、どうですか?今宵の私はあなたを食べちゃうオオカミですよ〜?」

 

「あ、あの、マシュ、さん?とりあえずその格好じゃ寒そうだから何か羽織らなねぇと、風邪ひいちまうぜ……」

 

「それじゃあ意味ないですよぉ〜。せっかく頑張って着たんですからぁ〜。さあ、大人しく私に食べられてくださいね〜♪」

 

どこからともなく盾を構えて戦闘態勢に入るマシュ。

 

今のマシュに誰の言葉に耳を傾けない……正に恐ろしい狼人間、デンジャラス・ビーストだった。

 

下手に抵抗してマシュを傷つけるわけにもいかず、近くにいる大人のロマニとダ・ヴィンチちゃんも悪ノリしていて役立たずでどうしようかと悩んでいるとイリヤが名乗りを上げた。

 

「遊馬さん、ここは私に任せてください」

 

「イリヤちゃん?」

 

「ルビー、お願い」

 

「えー?ルビーちゃんとしてはあのマシュさんのビーストモードをこのまま面白い記録として撮りたいんですけどぉ〜」

 

「ヘラクレスさんを呼ぶよ?」

 

「イエス、マイマスター」

 

イリヤは例え世界が異なっても自分を守護してくれるヘラクレスの名前を出すとルビーは渋々と大人しく従った。

 

仮にヘラクレスが呼び出されたらイリヤの指示でルビーに鉄槌が下されてしまう未来が目に見えている。

 

イリヤはステッキモードになったルビーを構えてマシュに静かに近づき、応戦しようとしたマシュの手足を物理保護で固定して動けなくなった。

 

「これは!?」

 

「マシュさん……ごめんなさい!」

 

イリヤが廊下を蹴って走り出すと同時にルビーを振り上げる。

 

そして、ステッキモードのルビーの上部に日本のコント・漫才の小道具であるハリセンが現れた。

 

「一撃卒倒!ハリセンモード!!」

 

「ハブッ!?」

 

ハリセンがマシュの頭部にクリーンヒットし、大した威力ではないがとある並行世界の魔術師二人を一瞬で卒倒させる力を持ち、それによりマシュは卒倒して倒れてしまった。

 

「ああっ!マシュ!?」

 

「くっ、ものすごく良いところだったのに……まさかあのステッキにあれほどの力も備わっていたとは……計算外だったよ!」

 

「フォーウ!?」

 

マシュが卒倒し、せっかくの愉悦的な面白い場面が無くなってしまい戸惑うロマニとダ・ヴィンチちゃんとフォウ。

 

しかし、そんな二人と一匹に背後から迫り来るものがいた。

 

「何をやっているのかしら、ア・ナ・タ・た・ちは……?」

 

「あ……?」

 

「これは……?」

 

「フォ……?」

 

二人と一匹が恐る恐る振り向くとそこにいたのは……。

 

「マシュにお酒を飲ませてあんな格好をさせて、貴方達は面白おかしく見ていて……子供達が楽しみにしていたハロウィンを台無しにするつもりかしら?」

 

怒りの形相を浮かべてデミ・サーヴァント化して銃を構えたオルガマリーだった。

 

あまり乗り気ではなかったがみんなが楽しみにしているハロウィンに自分もそれなりに楽しもうと思った矢先にマシュの様子がおかしいと他のサーヴァントから連絡を受けてやって来たのだ。

 

「おおお、落ち着いて、所長!これには深い訳が……」

 

「そ、そうさ!これもマシュの成長の為に……」

 

「フォフォフォウ!」

 

「この新しい銃の実弾練習の相手になるか、大人しく説教を受けるか今すぐに選びなさい」

 

「「誠にすいませんでした……」」

 

「フォーウ……」

 

つい先日改造したばかりの銃を突きつけるオルガマリーの恐ろしさに負けてロマニとダ・ヴィンチちゃんとフォウは日本人顔負けの土下座をして瞬時に謝罪をするのだった。

 

「はぁ……ミユ、クロエ。貴方達はすぐにマシュの部屋から普段着のパーカーと水分補給の水のペットボトルを持ってきなさい。このままじゃ風邪をひくかもしれないし、酒を飲んだ時は水を飲ませないといけないから」

 

「は、はい!分かりました!」

 

「すぐに取りに行ってくるわ!」

 

オルガマリーの指示を受けて美遊とクロエはすぐにマシュの部屋に向かってパーカーと水を取りに向かった。

 

「みんな……うちの馬鹿共が迷惑かけたわね……」

 

「あ、うん……所長もありがとうな」

 

「この馬鹿共の説教は後でとことんするわ。マシュが目を覚ましたらハロウィンを楽しみなさい」

 

「おう!めいいっぱい楽しんでやるぜ!」

 

色々とトラブルがあったがようやくカルデアの初めてのハロウィンが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その裏で一人のサーヴァントによる恐ろしいハロウィンの計画が進んでいるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、今宵は闇の眷属のお祭りよ。最高のハロウィンスペシャルコンサートを始めるわよ!」

 

 

 




マシュちゃんがデンジャラス・ビーストになりましたが、イリヤちゃんのハリセンツッコミで撃沈しました(笑)
まあこうでもしないと収まらないと思ったので。


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ナンバーズ164 迫り来る恐怖!?ハロウィンスペシャルコンサートへの誘い

十月は法事が重なって思うように執筆できませんでした。
しかも来月の十一月は会社の方で免許取得が土日にあるのでマジで大変です。
今年もあと少しなのでいつも以上に更新が遅くなりますがご理解とご了承をお願いします。


マシュによるデンジャラス・ビースト襲来から少し時間が経過し、水を飲ませて酔いを覚まさせた。

 

記憶がしっかり残っているマシュは酒による自分の乱行に顔を真っ青にして遊馬達に土下座をした。

 

「遊馬君、皆さん、本当にすいませんでした……」

 

マシュは眼鏡と私服のパーカーを羽織り、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら必死に土下座をする。

 

「いやいや、気にするなって。悪いのはそこにいるダメ大人二人と……」

 

「そこの小さい獣の所為だからな……」

 

遊馬とアストラルがジト目で見た方にはオルガマリーの説教&鉄拳制裁を受け、首からは『私は純真無垢な女の子に酒を飲ませて如何わしい服を着させた悪い大人です』というプラカードを首から提げられて土下座をさせられている涙目のロマニとダ・ヴィンチちゃん。

 

そして、一週間のおやつ抜きを言い渡され、更には今日食べられるはずだったエミヤや美遊が作ったハロウィンパーティーの豪華な料理とスイーツも禁止され、楽しみにしていた料理が食べられなくなり、絶望してその場に倒れてしまったフォウ。

 

マシュのデンジャラス・ビースト騒ぎの犯人である二人と一匹が制裁を受けていた。

 

「さてと、今までのことを含めてこの二人の説教は別室で行いましょうか……フォウはあなた達に任せるわ。それじゃあ、ハロウィンパーティーを楽しんでね」

 

オルガマリーはジャックが付けているナマハゲの鬼の仮面に負けないほどの憤怒の表情を浮かべ、ロマニとダ・ヴィンチちゃんの首根っこを掴んでズルズルと引き摺って連れ去ったのだった。

 

倒れているフォウはとりあえずマシュが首根っこを掴まれた猫のように持ち上げてから肩に乗せる。

 

「フォウさん、えっと……い、一週間はあっという間ですから頑張りましょう!」

 

「フォーウ……」

 

マシュはフォウに精一杯の励ましの言葉を送ったが、逆にそれがフォウの心にグサッと刃の如く突き刺さるのだった。

 

「よーし、みんな!これから会う人にトリック・オア・トリートでお菓子をたくさんもらいながら食堂に行こうぜ!」

 

『『『おー!』』』

 

遊馬達は気を取り直してハロウィンを楽しむために意気揚々と歩き出した。

 

そこですれ違ったサーヴァントにハロウィンの合言葉とも言える「トリック・オア・トリート」でお菓子をたくさん貰う……はずだったが。

 

「誰もいねえな……」

 

「一人も通らないな……」

 

「いつもなら誰かしらとすれ違うはずですが……」

 

「どうしてかしら……」

 

このカルデアのサーヴァント数もかなり多くなり、大所帯で廊下を歩けばすぐにサーヴァントの一人や二人とすれ違うはずだが、何故か今夜に限っては誰とも会えなかった。

 

「おかしいな……みんな、ハロウィンを楽しみにしているはずだけどな……」

 

元々そう言ったイベントに興味がない一部のサーヴァントを除き、今夜のハロウィンは少なくとも全体の半数のサーヴァントが参加するはずだが何故か気配が全くない。

 

せっかくのハロウィンなのにこれではあまりにも寂しく、つまらないとちびっこサーヴァント達が駄々をこねそうになった……その時だった。

 

「あらあら、うふふ。可愛らしい招待客さんたちね」

 

すると突然、美しい音楽が流れて遊馬達の前に一人のサーヴァントが現れた。

 

現れたのは若々しくも美しく、黄色とオレンジを基調とした扇情的な踊り子の格好をした女性だった。

 

見たことのないサーヴァントに全員はすぐに意識を切り替えて警戒し、ちびっこサーヴァント達を後ろに下がらせると女性サーヴァントは母性あふれる優しい笑みを浮かべた。

 

「ハロウィン・パーティーにようこそ!私の名はマタ・ハリ。今宵一夜限りのお祭り騒ぎ。どうか楽しんでくださいませ」

 

「マタ・ハリ……遊馬、彼女は世界で有名な女スパイだ」

 

マタ・ハリ。

 

本名、マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ。

 

第1次世界大戦時にスパイとして活躍し、女スパイの代名詞的存在となった女性。

 

「え!?あの人女スパイなの!?でもどうみても……踊り子のお姉さんにしか見えないぜ?」

 

「彼女の本業はダンサーだ。それと同時に位の高い男性とベッドを共にする高級娼婦でもある」

 

「高級娼婦……まあ確かに美人だよな……」

 

「マタ・ハリはその魅力を利用して敵国の関係者や軍関係者を篭絡し、情報を引き出していたという」

 

「なるほどな……」

 

女だけが持つ美貌で男を狂わせるのは古の時代から続く女の最大の武器と言っても過言ではない。

 

「うふふ、可愛い坊やね。どうかしら?これから私と甘い夜を過ごしてみない?」

 

「「なっ!?」」

 

「悪いけど、そう言うことは姉ちゃんとの固い約束で俺が成人して責任取れるようになってからって決めてるから」

 

「あら、随分しっかりしているわね。でも……ひと時の快楽に身を委ねるのも悪く無いわよ?」

 

「そんな事をして姉ちゃんにバレたら鬼のように怒られてぶっ飛ばされてちまうよ……でもその前にここにいる小鳥にフライパンでボコボコにされるな……」

 

「ちょっと!?どうしてそこで私の名前が出てくるのよ!?」

 

「じゃあその手に持ってるフライパンは何だよ!?」

 

いつの間にか小鳥の手には一撃で相手を撃沈させる伝家の宝刀とも言えるフライパンが握られていた。

 

「えっ?こ、これはその……遊馬がマタ・ハリさんにデレデレした時に使うとっておきよ!安心して、私のフライパン捌きは上達したから一撃で撃沈出来るわ!」

 

「安心要素が何処にも無えよ!?」

 

「うふふ、本当に可愛らしい。それなら、拙いですが、私の踊りを楽しんでもらいましょう。よいしょ、と……」

 

そう言うとマタ・ハリは自分の服を脱ぎ始めた。

 

マタ・ハリの最大の武器である己の肉体を使った妖艶な魅了を行おうとし出し、小鳥とマシュが慌てて遊馬の目を塞ぎ、アストラルはこの状況を打破する画期的な方法を思いつく。

 

「そうだ!子供達よ、今からあのお姉さんが綺麗なダンスを見せてくれるぞ!」

 

「え?」

 

アストラルの言葉にキョトンとしたマタ・ハリは手を止める。

 

するとちびっこサーヴァント達は一斉に前に出る。

 

「「「「「じぃーっ」」」」」

 

ダンスをすると言うマタ・ハリに子供達が興味津々で見つめる。

 

「あ、あら?えっと……あなたたちも、サーヴァント?」

 

「私は桜!デミ・サーヴァントだよ!」

 

「私は遠坂凛。エレシュキガルのデミ・サーヴァントです」

 

「私はジャック・ザ・リッパーだよ」

 

「ナーサリー・ライムです!」

 

「私は開拓者のポール・バニヤン!」

 

「そ、そう……」

 

マタ・ハリは遊馬を魅了するためのストリップダンスをしようとしたが、綺麗なダンスを期待しているちびっこサーヴァント達の純粋な目に汗をかき、たじろいでしまう。

 

そして、マタ・ハリの選択は……。

 

「こほん……それじゃあ、今から私の自慢のダンスを見せてあげるわ。しっかり見ててね?」

 

「「「「「わーい!」」」」」

 

マタ・ハリはその場で華麗なダンスをちびっこサーヴァントに披露する。

 

舞姫と言う言葉にピッタリな美しいダンスにちびっこサーヴァント達は大興奮だった。

 

「ふぅ、作戦は成功だな……」

 

「マタ・ハリさんって子供好きなのか?」

 

「ああ、そうだな。それと、彼女の人生はかなり色々あったからな……」

 

生前のマタ・ハリは幼稚園の教諭を一時期目指して勉強していたが周囲の環境で上手くいかず、更には夫婦生活は最悪だった。

 

しかし、マタ・ハリは子供達の事を心から愛し、大切に思っていた。

 

目の前にいるちびっこサーヴァントにマタ・ハリは一瞬だけ自分の子供達の姿を重ねてしまい、自分の男を狂わせる魔性の性分よりもこの子達の笑顔を壊したくない気持ちが勝ってしまった。

 

マタ・ハリは忘れかけてしまった純粋な母性溢れる優しい笑みを浮かべてちびっこサーヴァント達へ最高のダンスを披露する。

 

それからマタ・ハリのダンスが終わると遊馬は早速質問をする。

 

「マタ・ハリ。ところでさ、あんたの目的はなんだったんだ?」

 

「私の目的はあなた達の一時的な足止めです」

 

「足止め?」

 

「別に戦う必要はありませんでしたので私の召喚者の願いに了承しました。幸い、私の宝具は洗脳宝具でもありますから」

 

「はっ!?洗脳宝具!?」

 

「ええ。まあこちらは使うことはありませんでしたが……」

 

マタ・ハリのその美貌と妖艶な舞踊で見た者の思考回路を麻痺させ、抵抗出来なかったものを操り人形にするという珍しい洗脳宝具。

 

最悪これを使ってでも遊馬達を足止めをしようとしていた。

 

「……それで、あんたを召喚して俺たちの足止めを頼んだのは誰だったんだ?」

 

「私を召喚したのは──」

 

マタ・ハリが召喚者の名前を告げようとしたその時。

 

「だ、旦那様……!」

 

「えっ……?き、清姫!?」

 

そこに現れたのは負傷して着物がボロボロになり、廊下の壁に体を預けながらやって来た清姫だった。

 

負傷した清姫に遊馬達はすぐに駆け寄る。

 

「ど、どうしたんだよ一体!?」

 

「何があったんですか!?」

 

「まさか、カルデアに敵が現れたのか!?」

 

カルデアに過去に数回起きた謎の敵が現れたのかと思ったが、清姫は首を左右に振ってそれを否定し、震える唇で話しだす。

 

「敵ではありません……ネロさんと、エリザベートさんが……!」

 

「っ!?ネロとエリちゃんに何かあったのか!?」

 

遊馬は仲の良い二人に何かあったのかと心配するが、マシュ達はその逆でこの二人がセットの時点でとてつもなく嫌な予感が頭に過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネロさんとエリザベートさんが今夜のハロウィンパーティーを占拠して……ハロウィンスペシャルコンサートを開催したのです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネロとエリザベート。

 

タイプは異なるが見た目はとても美しく麗しいが、その歌声はサーヴァント界でも最恐最悪と恐れられている。

 

サーヴァントとは言え、とても人とは思えない破滅的な音痴による怪音波で、その危険すぎる歌声を知っているものは例え強い戦闘能力や宝具を持っていたとしても自分の身の安全のためには脱兎の如く逃げ出すほどの恐ろしさである。

 

そんな二人が何を血迷ったのか……否、恐らくはノリノリで良かれと思ってハロウィンパーティーを乗っ取り、ハロウィンスペシャルコンサートを開催してしまったのだ。

 

「ハロウィンスペシャルコンサート?」

 

「ネロさんとエリザベートさんのあの歌に……皆さんが次々とやられて犠牲に……!」

 

先にパーティー会場にいたサーヴァント達は全力で止めようとしたが、その歌には百戦錬磨のサーヴァントですら特大ダメージを受けて倒れてしまった。

 

ぶっちゃけこの二人が組めば、相手が聴覚を持ってない限りほぼ全てのサーヴァントを倒せるんじゃね?と思わせるほどだった。

 

清姫はその歌を聞いてしまい、ダメージを負いながらも脱出し、遊馬達の元になんとか辿り着いたのだ。

 

「くっ!何ということだ……!?」

 

「アメリカでのコンサート以降、静かにしていると思っていたら……!」

 

アストラルとマシュは予想以上の緊急事態に顔を歪ませる。

 

一方、ネロとエリザベートの歌を聞いたことのない小鳥達はキョトンとして首を傾げていた。

 

そして、この男は……。

 

「えー?ネロとエリちゃんの歌はあんなにいいのになぁ……」

 

遊馬は何故二人の歌がそこまで酷く言われるのか分からずに首を傾げていた。

 

遊馬だけがネロとエリザベートの超音痴の怪音波とも言うべき歌を理解し、絶賛している。

 

「君という男は……」

 

「遊馬君……あなたという人は……」

 

「遊馬の耳はどうなってるのよ……」

 

アストラルとマシュと小鳥は遊馬の持つあまりにも謎過ぎる耳の感覚に呆れ果てていた。

 

しかし、このままネロとエリザベートを放置しておけばカルデアは大変なことになる。

 

「まずいな……このままネロとエリザベートが歌い続ければ……」

 

「カルデアの崩壊の危機です……!」

 

本当はこのままコンサートが終わるまで避難していたいが、カルデアの崩壊の危機を見過ごすわけにはいかない。

 

「遊馬、行くぞ……!」

 

「ネロさんとエリザベートさんのコンサートに……!」

 

アストラルとマシュは覚悟を決めてコンサートに向かう事にしたが……。

 

「おう!楽しみだぜ、二人のハロウィンスペシャルコンサート!」

 

「「「はぁ……」」」

 

遊馬はかなり楽しみにしており、アストラルとマシュと小鳥はため息を吐いた。

 

清姫はマシュが背負っていき、マタ・ハリはせっかくなので一緒についていくことにした。

 

そして、いよいよネロとエリザベートによる夢と悪夢のハロウィンスペシャルコンサートが始まろうとするのだった……。

 

 

 




マタ・ハリさんは調べれば調べるほど胸が締め付けられる思いでした。
カルデアでは少しでも幸せになればなと思います。

次回はハロウィン編最終回で出来れば十月三十一日までには投稿できるように頑張ります。


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ナンバーズ165 ハロウィンプリンセスの奇跡

なんとかハロウィンに間に合わせることができました。



ネロとエリザベートによる最恐最悪コンビにより、ハロウィンパーティーが乗っ取られ、ハロウィンスペシャルコンサートが開催された。

 

このままではカルデアが崩壊すると危惧したマシュ達は急いで止めようと向かうが、ただ一人だけそのコンサートを心から楽しみにしている者がいた。

 

「ネロとエリちゃんのスペシャルコンサート、楽しみだな〜♪」

 

それは恐らくは英霊の座を含めても世界でただ一人、ネロとエリザベートの歌を心から気に入り、大絶賛するのがカルデアの最後のマスターである遊馬だった。

 

何故遊馬がそこまで二人の歌を気にいるのかもはや世界の不思議、永遠に解けないの方程式レベルの謎でマシュとアストラルを悩ませながら遂にコンサートの会場となっている訓練場に到着した。

 

ゴクリと唾を呑み、マシュは震える手で訓練場の扉を開けた。

 

扉の向こうに待っていたのは不気味で不思議な空間だった。

 

ハロウィンのカボチャのランタン、様々な形と大きさのジャック・オー・ランタンがツリーのように大量に置かれ、天井にはオレンジと紫の天井飾りが付けられ、更にはお化けやコウモリなどの小さな飾りが至る所にあった。

 

いつもはサーヴァントの訓練などに使われる訓練場が今日だけは彩豊かなハロウィンのパーティー会場となっていた。

 

これにはハロウィンを楽しみにしていた子供達のテンションも一気に爆上げだった。

 

しかし、その直後にそのパーティー会場の異変に気付く。

 

「あっ!?お、お兄さん!?」

 

「シ、シロウさん!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

イリヤ達が気付いたのは床に横たわるエミヤだった。

 

「イ、イリヤ……クロエ、美遊……早く、逃げるんだ……!このままだと、全滅──ガクッ」

 

エミヤは意識を失ってしまい、イリヤ達の絶叫が響く。

 

「お兄ちゃあああああーん!?」

 

「そ、そんな……シロウさんが……!?」

 

「誰よ!うちのお兄ちゃんにこんな酷いことをするのは!?」

 

エミヤだけでなく、パーティー会場の床には多くのサーヴァントが意識を失って倒れていた。

 

そして、その奥には大きな特設ステージがあり、そこに立っているのは……。

 

「待っていたぞ、我が愛しの夫……ユウマよ!」

 

「待っていたわ、マスター!今宵は私達の歌で盛り上げるわ!」

 

いつもと違うハロウィンの黒とオレンジと紫に彩られた魔女風の衣装に身を包んだネロとエリザベートだった。

 

ハロウィンの衣装に身を包んだ二人に応えるように、無人島の時と同じように二人のフェイトナンバーズから二人で一枚のハロウィンバージョンのフェイトナンバーズが誕生した。

 

イラストはハロウィンの衣装に身を包んだネロとエリザベートが仲良く並びながら歌う姿が描かれており、真名は『FNo.0 ハロウィンプリンセス ネロ&エリザベート』。

 

まさかのフェイトナンバーズの追加に驚いていると、アストラルは二人の間にあるモノに気付く。

 

「あれは!?ネロ、エリザベート、何故二人がそれを……聖杯のカケラ持っている!?」

 

二人の間に宙に浮きながら金色に輝く小さな破片……それは聖杯のカケラだった。

 

何故それがあるのかをエリザベートはあっさり打ち明けた。

 

「あーこれ?少し前にフランスにレイシフトをしていたら拾ったのよ」

 

『『『拾った!?』』』

 

数日前、資材の補給の為に度々カルデアからサーヴァントを送ることがあり、その時にエリザベートが参加した。

 

しかし、どうやら第一特異点の聖杯から溢れたカケラがフランスにまだ落ちていたらしく、それを偶々エリザベートが拾ったのだった。

 

「すぐにマスターに渡そうと思ったんだけど、そう言えばもうすぐハロウィンだなと考えたら……何故かハロウィンの衣装になってクラスチェンジしたのよね……」

 

聖杯のカケラによりエリザベートはネロと同じコスチュームチェンジとクラスチェンジの力を得てしまったようだった。

 

「でもせっかくだからこのハロウィンの力を楽しもうと思ってね!ネロと一緒にハロウィンパーティーをスペシャルコンサートにして、マスターに歌を捧げようと思ってね!」

 

「俺に?」

 

ハロウィンパーティーを乗っ取ってまでハロウィンスペシャルコンサートにしたのは全て遊馬のためだった。

 

「その通り!この前の無人島のナンバーズ百番勝負然り、ユウマは常日頃から忙しく動いておる。そこで、ユウマを労る為に余とエリザベートで歌をプレゼントすることにしたのだ!」

 

「そうだったんだ!でも、何でみんな倒れているんだ?」

 

ステージの周りには多くのサーヴァントが倒れており、まさにその光景は死屍累々と言わんばかりだった。

 

「それが……リハーサルで歌の練習をしたけど……」

 

「何故か皆が余達の歌を聞いた途端に全員倒れてしまったのだ!」

 

ここにいるサーヴァント達は全員、ネロとエリザベートのコンサートを阻止する為に立ち向かったのだが、奮闘する間も無く二人の歌にやられてしまったのだ。

 

しかもまだ本気ではなく、リハーサルで練習レベルというのが恐ろしい……。

 

「ん?もしかして、マタ・ハリを召喚したのはエリちゃん?」

 

まさかと思ってエリザベートに聞くと苦笑いを浮かべながら頷いた。

 

「うん……まさか欠片で召喚出来るとは思わなかったけどね。私はマスター達を足止め出来ないかなと思ったら……」

 

「マタ・ハリが召喚されたって訳か……」

 

マタ・ハリの召喚された理由が分かり、納得したところでエリザベートは愛用のサンダー・スパーク・ドラゴンのエレキギターを構える。

 

「さあ、マスターが来たところで始めるわよ!」

 

エリザベートがピックを持った手を掲げると遊馬のデッキケースが勝手に開いて5枚のカードが飛び出した。

 

それは『弦魔人ムズムズリズム』、『太鼓魔人テンテンテンポ』、『菅魔人メロメロメロディ』、『鍵魔人ハミハミハミング』、『交響魔人マエストローク』の5枚の魔人オーケストラだ。

 

魔人オーケストラのカードが回転しながら光を放つとそれぞれからモンスターが召喚されてネロとエリザベートの後ろに舞い降りる。

 

演奏家も揃い、リハーサルで喉の準備も整ったのでネロとエリザベートはマイクを構えた。

 

「みんな、頼むわよ!」

 

「さあ、この歌をユウマに捧げるぞ!」

 

「そ、そうはさせません!」

 

「止めるんだ、二人共!」

 

マシュとアストラルが歌を止めようと飛び出すが、聖杯のカケラによってバリアが張られて弾き返されてしまう。

 

そして、遂に遊馬に捧げるハロウィンスペシャルコンサートが始まる。

 

「「曲は『Wild Child』!」」

 

魔人オーケストラの演奏が始まると同時にネロとエリザベートの歌が始まる。

 

軽快な二人の歌声が響き、マシュとアストラルと小鳥は耳を塞いだが……。

 

「「「……あれ?」」」

 

耳を塞いだとしても聞いた者にダメージを与えるネロとエリザベートの歌だが、何故か苦痛を感じなかった。

 

それどころか、とても心地よく聴いているだけで癒されるような気分となった。

 

驚くことに超絶音痴なはずのネロとエリザベートの歌は感動するほどとても上手だった。

 

何故二人の歌がここまで上手くなったのか……その理由は二人がアイドルで天下を取る為に密かに練習をしていたこともあるが、今回はそれだけではなかった。

 

ネロとエリザベートは遊馬の為に全力で歌を捧げている。

 

自分の為ではなく、他者の為に想いを込めて全力で歌う……それこそが二人の歌が上手くなった最大の理由である。

 

すると、二人の歌と聖杯のカケラが共鳴し、会場に美しい光の粒子が降り注がれる。

 

雪のように舞い散る光の粒子が幻想的に輝くと、倒れているサーヴァント達が次々と目を覚ました。

 

他者の為の想いの歌が皮肉なことに一度は歌によって倒れたサーヴァント達を癒やしたのだ。

 

そして、歌い終わると拍手喝采が沸き起こり、倒れていたサーヴァント達が無事に復活したのでハロウィンパーティーを気を取り直して盛大に開催することとなった。

 

カボチャなどを使った秋の味覚の食材で作ったハロウィンのパーティー料理を堪能していく。

 

やがて歌が上手くなったネロとエリザベートに触発されて他のサーヴァント達も歌を披露し始め、まるでカラオケ大会みたいな感じとなってしまった。

 

みんながそれぞれ思い思いの歌を熱唱していき、笑ったり泣いたりして大騒ぎをした。

 

一悶着あったハロウィンパーティーだったが、結果的にはみんなが大満足のいく楽しいパーティーとなった。

 

またみんなでこうして楽しい思い出を作れるようにこれからの戦いも頑張ろうと思いながらハロウィンの夜が終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日……。

 

「シクシク……どうして……アイドルとして頑張った私が……」

 

「余はユウマの為に頑張ったのにぃ……」

 

エリザベートとネロは聖杯のカケラをすぐに渡さなかった事と、ハロウィンで騒がせた罰として『カルデアに迷惑をかけたダメアイドルです』というプラカードを首からかけて廊下で正座をさせられていた。

 

「全く……少しは反省しなさい!」

 

昨日に引き続き、オルガマリーの怒号が再びカルデアに響き渡るのだった。

 

 

 




次はいよいよZEXALの映画編第二弾です。
書くのが大変ですが頑張っていきます。
ただ、11月から仕事で免許取得の関係で土日に行くことになってマジで忙しいので更新がしばらく出来ないかもしれないのでご了承ください。


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追憶の記憶 遊☆戯☆王ZEXAL 第二部
ナンバーズ166 遊☆戯☆王ZEXAL 第二部・第一章『バリアン世界侵攻!カオスエクシーズの脅威!(前編)』


2021年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

新年最初の投稿はZEXAL編第二弾です!
バリアン編の話ですが……申し訳ありません、今回の話から内容の濃さによっては一章毎に前編後編の話に分けさせてもらいます。
ぶっちゃけ今回は話の内容が濃すぎて一話に纏めるのが大変で分けることにしました。

前作はよく3話に纏められたなと思いました……。

特に今回はZEXALの94話から98話にかけての真月のアレがもう色々ヤバいので後編は最低でも今月中には投稿しますので気長に待ってもらえると幸いです。

※二重投稿になっていて編集したら何故か削除されたので再投稿しました。


色々と特異点やらトラブルやらイベントが重なり、カルデアで忙しい日々が続く中……遂に遊馬とアストラルの物語を映像化した映画化の第二弾が完成した。

 

第一弾の映画が好評だったので第二弾の期待が高まった。

 

すぐにでも上映してもらいたかったが、その前にまだ一度も見ていないサーヴァント達に第一弾の映画を再び食堂で上映して見てもらった。

 

初めて遊馬とアストラルの物語の映画を見たサーヴァントたちの半数以上は感動していた。

 

「遊馬さんとアストラルさんすごいすごい!そうだ、今すぐサインを貰わなきゃ!」

 

「うん、とても満足する内容の映画だった……これが第一弾で、まだ第二と第三の映画もあるなんて、とても楽しみ」

 

「せっかくストーリーの登場人物がすぐそばにいるんだから色々話を聞きたいわね」

 

「流石はユウマ様とアストラル様だ……あの二人と出会えて本当に良かった……」

 

「はい……お二人はやはり素晴らしいお方です」

 

イリヤ達は壮大な物語の映画を見ているみたいで感動し、既に遊馬とアストラルに心酔しているラーマとシータは更なる忠誠を誓うほどだった。

 

「これが異世界の英雄であるマスター達の戦いか……見事だ」

 

「敵や仇にすら情けをかける慈愛の心。真の英雄とはそういう事なのかもしれませんね……」

 

カルナとアルジュナは遊馬とアストラルはやはり自分達とは比べ物にならないほどの真の英雄だと改めてそう確信していた。

 

「ふーん、これがマスター達の物語ね。結構やるじゃない」

 

「ええ……まさか、世界の命運を掛けたこれほどの戦いを経験していたとは感服致しましたわ」

 

シトナイは興味深そうに映画を見て、頼光は感動して涙をホロリと流していた。

 

そして、第二弾の映画上映当日……サーヴァントの数も増えてきたので食堂だけでは収まりきれなくなってきたので会議室などその他の部屋などでも見られるようにした。

 

「バリアン世界との本格的な戦いが始まった話は……うん、色々あったよなぁ……」

 

「ああ、本当に色々あったな……」

 

遊馬とアストラルは遠い目をしてその時のことを思い出す。

 

どことなく二人から哀愁が漂っており、一体何があったのか聞くことが出来なかった。

 

どの道映画でその理由が分かるので聞かないでそのままにしておいた。

 

「さあ、お待たせしました!遊戯王ZEXALの第二弾の映画の上映だよ!」

 

今回も力作として完成させたダ・ヴィンチちゃんは自信満々に言った。

 

テーブルには前回で好評だった映画館お馴染みのポップコーンにジュース、更にはホットドッグなども用意し、期待が高まる中で遂に上映が始まった。

 

ワールド・デュエル・カーニバル……WDCが終わって少し経った頃、遊馬達は壮絶なる戦いの後の穏やかな日常を過ごしていた。

 

しかし、新たな戦いは突如として訪れることとなる。

 

そのきっかけは再び遊馬の夢の中で度々現れた『皇の扉』だった。

 

既に遊馬が皇の鍵で扉の封印を解いてアストラルと出会い、扉の中に入ってZEXALとなって大いなる力を手に入れたはずだが、何故かまた鎖で雁字搦めに封印されている状態だった。

 

『この扉を開く者は、新たな力を得る。しかしその者はその代償として、一番大事なものを失う』

 

「俺の、一番大事なもの……!?」

 

『そう……お前はいずれ一番大事なものを失う』

 

「一番大事なものって……うわぁあああああーっ!?」

 

皇の扉が言っていた遊馬が一番大事なものとは何かの答えを知る前に足場が崩れ、遊馬は授業中の居眠りから目を覚ましてしまった。

 

一方、アストラルは皇の鍵の中にある飛行船の上で考え事をしていた。

 

「デュエルカーニバルで集まったナンバーズは50枚……このナンバーズに私を導く何かは……」

 

それはアストラルの失われた記憶とこの世界に送り込まれた本当の目的など、まだ判明していない未知なる事柄でそれをずっと考えていると、それに応えるかのようにナンバーズ達がアストラルに集まり、何か重要な記憶を伝えようとした。

 

「え?あれだけ戦ってまだ半分しか集まってないの?」

 

「まだ50枚が世界各地に散らばっているなんて……ナンバーズを全部集めるのも大変ですね……」

 

レティシアとジャンヌはナンバーズが全部集まってないことに驚き、まだまだ先は長いとため息をつく。

 

学校の放課後、遊馬は小鳥と一緒に下校しているとバイクに乗った凌牙と会った。

 

凌牙は未だに意識が戻らない双子の妹の見舞いのために病院に向かうところだった。

 

すると、突然遊馬と凌牙は不気味な力の波動を感じ取った。

 

その直後に病院から凌牙に凌牙の妹の容態が急変したと緊急連絡が入った。

 

遊馬と小鳥も凌牙について行き、病室に入るとそこにいたのは両眼を包帯で巻かれてベッドで苦しそうにしている妹の姿だった。

 

数年前のⅣとのデュエルで紋章……バリアンの力が込められたカードによってダメージを受け、未だに目覚める事が出来ない妹は悪夢にうなされるように何かを呟いた。

 

「来る……来る!災いが……来る……来る、奴らが……大事なものを、奪いに……!」

 

まるで予言のような言葉を口にした。

 

「どうやらあの娘はバリアンの力によって傷つけられた事でその身にバリアンの力が少なからず宿ってしまった……それにより何らかの霊感的な力を宿したのか……?」

 

エルメロイII世は魔術的視点からそう考えた。

 

その言葉に遊馬の脳裏には皇の扉の言葉が過った。

 

『この扉を開く者は、新たな力を得る。しかしその者はその代償として、一番大事なものを失う』

 

「俺の一番大事なもの……俺の……アストラル……!まさか、お前が……?」

 

遊馬の大事なものを……それはアストラルだとようやく気付いてしまった。

 

アストラルは皇の鍵で皇の扉と契約を結んだ事で出会えた遊馬の最高の相棒。

 

希望皇ホープを始まりとして遊馬にたくさんの大事なものを得るきっかけを作ってくれたアストラルは遊馬にとっては一番大事なものだったのだ。

 

そう気付かされると鉄男からD・ゲイザーで連絡を受けると、そこに映っていたのは鉄男ではなく、ハートランドで多くの犯罪行為を行う犯罪組織のボスである風魔だった。

 

風魔は学園で遊馬の力になる為にデュエルの練習を積んでいた鉄男達の前に現れ、デュエルで叩き潰して人質に取った。

 

その目的は……ナンバーズだった。

 

遊馬はアストラルを守る為に皇の鍵を小鳥に預けて学園に急いだ。

 

学園に戻るとそこにはデュエルに敗れて倒れる鉄男達の姿があった。

 

「さあ、お前のナンバーズを全て渡してもらおうか!」

 

「誰だお前!?どうしてナンバーズを狙う!?」

 

「俺は大いなる力を『バリアン』より与えられし者」

 

「バ、バリアン!?」

 

風魔はアストラル世界と並ぶもう一つの異世界・バリアン世界の刺客によって洗脳され、遊馬の持つナンバーズを狙いに来たのだ。

 

「貴様はバリアン世界の礎となってもらう!九十九遊馬!あの戦いは序章に過ぎない。既に幕は切って落とされた!」

 

WDCの終了からまだ日が浅い内にバリアン世界の侵攻が始まってしまったのだ。

 

遊馬はバリアンの魔の手からナンバーズを……アストラルを守る為に風魔とのデュエルに挑む。

 

その頃、アストラルは皇の鍵から出られない事とデュエルが始まった雰囲気を感じ取り、遊馬に何か異変が起きたことを察した。

 

「遊馬はナンバーズをかけたデュエルを……!?」

 

皇の鍵は現在小鳥が持っており、物理的に遊馬から遠く離れている為に皇の鍵から外に出られないアストラルはどうすればいいかと悩んでいると、希望皇ホープのカードが輝きを放つ。

 

「ホープ!?まさか遊馬のところへ……」

 

希望皇ホープは自らの意志でアストラルを離れて皇の鍵を飛び出し、空間を越えて遊馬のデッキケースに入り込んだ。

 

「……こうして見ると希望皇ホープさんの旦那様への愛が強い気がしますね」

 

希望皇ホープが人語を話せない為にその真意は不明だが、遊馬の危機を察して何処へでも駆けつけ、遊馬の剣となり、盾となる希望皇ホープの愛(?)には流石の清姫も認めるしかなかった。

 

遊馬は来てくれた希望皇ホープをすぐさまエクシーズ召喚し、これで風魔と互角の戦いに持ち込めると思った……その時だった。

 

「待っていたんだよ、お前のホープを!」

 

風魔は不敵の笑みを浮かべると額にはDr.フェイカーがバリアンに乗っ取られた時と同じバリアンの紋章が浮かび上がり、ドローしたカードを発動した。

 

「俺は手札から『RUM - バリアンズ・フォース』を発動!このカードは自分のモンスターエクシーズをランクアップさせ、カオスエクシーズを特殊召喚する!」

 

RUM(ランクアップマジック)

 

それは遊馬達……否、アストラルを含むこの世界の全てのデュエリストすら知らないモンスターエクシーズを更なる次元の存在へと進化させる大きな力を秘めた、新たな魔法カードだった。

 

バリアンズ・フォースにより風魔の『機装天使エンジネル』はランクアップされて『CX 機装魔人エンジェネラル』へと進化してその姿を大きく変えた。

 

ランクアップしたことにより、攻撃力と守備力だけでなくモンスター効果もより強化された。

 

バリアンズ・フォースの効果でモンスターエクシーズの力の源とも言えるオーバーレイ・ユニットが奪われ、攻撃力が奪われたオーバーレイ・ユニットの数×300ポイントダウンしてしまった。

 

更にはカオス・エクシーズは相手モンスターの破壊無効効果を消滅させるという追加効果が加わった。

 

これにより、ナンバーズの強みの一つである、ナンバーズはナンバーズでしか倒せない効果が無効となってしまった。

 

これこそがバリアン世界がナンバーズを手に入れる為に生み出した対ナンバーズ用の秘密兵器であるバリアンズ・フォースの力なのだ。

 

「敵に対抗するため、最大の弱点を突く力を幾つも内蔵した切り札となる魔法か……なるほど、理に適っているな」

 

スカサハは敵ながらもバリアン世界が作り出したナンバーズの対抗策であるランクアップマジックの力に感心していた。

 

機装魔人エンジェネラルの攻撃により希望皇ホープは破壊され、未知なる力を秘めた強大なモンスターを前に遊馬は一気にピンチに陥ってしまった。

 

遊馬のライフポイントが減り、それに伴って皇の鍵の中にいるアストラルもダメージを受けて体が消えかかっていた。

 

「遊馬……何故一人で戦う?私たちは一心同体ではなかったのか……?」

 

遊馬が一人で無茶をして戦うのか疑問に思っていると、皇の鍵を持っている小鳥の姿が見えた。

 

アストラルは自身の力と皇の鍵と共鳴させて小鳥に話しかけた。

 

アストラルは遊馬の元へと頼み、小鳥は遊馬がアストラルを守ろうとして皇の鍵を託したのだと伝えた。

 

「そうか、遊馬は守ろうと……小鳥、遊馬は今、新たな脅威と一人で戦っている。私も共に戦わなくては。私を遊馬の元へ届けて欲しい……頼む、小鳥」

 

「アストラル……」

 

アストラルの頼みに小鳥は一瞬迷ったが、遊馬を助けるために決意を固め、病院を飛び出してハートランド学園に向けて走る。

 

途中転んで肌に擦り傷を負いながらも立ち上がり、遊馬とアストラルのために痛みを堪えて走り続けた。

 

一方、遊馬は希望皇ホープを失い、防戦一方になりながら必死に耐えていた。

 

そして、ライフが残り100ポイントになり、アストラルを守ると言いながらもこの様で情けないと思ったその時。

 

「遊馬ー!」

 

「小鳥……?」

 

「受け取って!」

 

小鳥は何とかギリギリ間に合ってハートランド学園に到着し、遊馬に皇の鍵を投げ渡した。

 

しかし、デュエルによる体のダメージが大きく、石につまずいて転んでしまい、その場で倒れて皇の鍵を受け取ることができずに地面に転がってしまう。

 

「アストラル……!俺は、お前を、守らなきゃ……!」

 

何とか立ち上がって皇の鍵に触れた瞬間、皇の鍵から眩い黄金の輝きが放たれた。

 

そして、虹色の光の粒子が溢れ出るとアストラルが姿を現した。

 

「アストラル……何で来たんだよ!?お前なんかいなくても、俺だけで……」

 

「遊馬……どうしてこんな無茶を?」

 

「……見たんだよ、夢を……」

 

「夢?」

 

「夢の中で聞いたんだ。俺が大事なものを失うって……きっとあれはただの夢じゃねえ。だから、俺……ごめんな、アストラル。そんなに透けちまって、俺、お前を守れなくて……」

 

夢で見た言葉で遊馬は不安になりながらも必死に戦ったが力及ばず逆にアストラルを危険な目に遭わせてしまった。

 

しかし、アストラルはそんな遊馬を咎めずに優しい笑みを浮かべた。

 

「遊馬、私は君を誇りに思う。私のこの体は本当の友ができた証だ。私のために傷つき、私のために戦ってくれる友が」

 

「アストラル……」

 

「私の友を傷つける者は……許さない!」

 

アストラルの遊馬を傷つけられた事への怒りが力となり、全身から青白い閃光が輝く。

 

「立て、遊馬!まだ我々のライフが尽きたわけでは無いぞ!」

 

「相変わらず上から目線かよ……」

 

「遊馬立ちなさい!いつまでへたり込んでいるのよ!」

 

アストラルと小鳥の叱咤により、遊馬の迷いは晴れていく。

 

「全く、どいつもこいつも言いたい放題言いやがって……」

 

「さあ、立て!立つんだ、遊馬!」

 

遊馬は皇の鍵を拾い、元気よく立ち上がる。

 

「かっとビングだ、俺!」

 

「いっけー!遊馬ー!アストラルー!」

 

小鳥はめいいっぱい遊馬とアストラルを応援する。

 

アストラルは風魔のフィールドにいる不気味な力を感じるモンスターエクシーズの機装魔人エンジェネラルについて尋ねた。

 

「遊馬、アレは?」

 

「アレか?ナンバーズすら破壊しちまうバリアンの新兵器、カオスエクシーズって奴さ」

 

「カオスエクシーズ……面白い。勝つぞ、遊馬。既に勝利の方程式は揃っている!」

 

「おう!」

 

アストラルが遊馬の元に戻り、ここから二人の反撃が始まる。

 

遊馬は蘇生カードで希望皇ホープを墓地から復活させて反撃をしようとするが、風魔は永続罠『エクシーズ・ヘル・ジェイル』で希望皇ホープを鉄柵で囲んで動けなくしてこのターンの終わりに500ポイントのダメージを与え、遊馬に敗北を与えようとした。

 

風魔は勝利を確信するが、遊馬とアストラルには更なる切り札が眠っていた。

 

「そんな事させるかよ!俺とアストラルの力が合わされば、俺たちの可能性は無限大だ!」

 

「行くぞ、遊馬!」

 

「おう!かっとビングだ、俺!希望皇ホープ、カオス・エクシーズ・チェンジ!」

 

希望皇ホープの眼が鋭く輝き、鉄柵をホープ剣で破壊し、変形してニュートラル体に戻ると地面に潜り、光の爆発を起こす。

 

「混沌を光に変える使者、CNo.39!『希望皇ホープレイ』!」

 

希望皇ホープを希望皇ホープレイに進化させ、希望皇ホープを対象として発動していたエクシーズ・ヘル・ジェイルが破壊され、これで攻撃が可能となった。

 

希望皇ホープレイの効果で攻撃力を上げて機装魔人エンジェネラルの攻撃力を下げて攻撃を仕掛けるが、風魔は更なる罠カード『ワイルド・チャージャー』で希望皇ホープレイの攻撃力を上回ってしまった。

 

しかし、遊馬とアストラルは速攻魔法『ナンバーズ・インパクト』で更に希望皇ホープレイの攻撃力を上昇させ、機装魔人エンジェネラルを破壊し、風魔のライフポイントを一気にゼロにした。

 

風魔に勝利したが、風魔本人はすぐに立ち上がって不敵の笑みを浮かべていた。

 

「こ、これで済んだと本当に思っているのか?忘れたんじゃねえだろうな?バリアン世界の軍団がここに向かっていることを。もうすぐだ、もうすぐここにやって来る!」

 

風魔と同じようにバリアン世界の使者によって力を与えられて洗脳させられた軍団がハートランド学園に襲撃に来ようとしていた。

 

しかし、遊馬とアストラルにはバリアンと戦う頼れる最高の仲間がいた。

 

「「それはどうかな?」」

 

現れたのは凌牙とカイトの二人だった。

 

二人は遊馬と風魔がデュエルをしていた間に裏で密かに動いていた。

 

「残念だが、貴様の仲間は来ない」

 

「今頃、お前の仲間はいい気分で夢の中だろうぜ」

 

カイトと凌牙はそれぞれ二方向から来ていたバリアン軍団がハートランド学園に来る前に立ち塞がり、風魔ほどの実力は無いが数十人もいたデュエリストを全て倒してしまったのだ。

 

「うわぁ、色々と前作で拗らせていたものが無くなると頼もしすぎるわ、あの二人」

 

「うむ、ユウマと結束した二人は頼もしさが凄まじいな」

 

エリザベートとネロは前作で色々と拗らせてやらかしていたカイトと凌牙がこうして味方だととても頼もしいなと強く思った。

 

「ば、馬鹿な……たった二人であの軍団を倒したと言うのか……!?そ、そんな……」

 

「俺たちがいる限り……」

 

「この世界をお前らの好きにはさせん!」

 

遊馬とアストラルに敗北し、凌牙とカイトでバリアン軍団は全滅し、風魔は絶望に追い詰められた。

 

「ダイレクトアタック!」

 

すると、背後に忍び寄ったオービタル7が電気ショックを与えて風魔を気絶させた。

 

「一丁あがり!」

 

気絶させられた風魔の額に現れたバリアンの紋章が消えて洗脳は解け、洗脳の元凶であるデッキにあったバリアンズ・フォースのカードも消えてしまった。

 

どうやらバリアン世界の刺客が遠くから高みの見物をしていて、敗れた風魔からバリアンズ・フォースのカードを奪われないように回収をして撤退をしたらしい。

 

そして、風魔達もDr.フェイカーと同じように操られて戦わされていたらしい。

 

遊馬とアストラルの勝利に小鳥達が駆け寄り、一緒に勝利を喜び合う。

 

そして、カイトと凌牙が近づきながら静かに遊馬に告げる。

 

「遊馬、どうやら本格的に動き出したようだな」

 

「バリアン世界の刺客達が」

 

「カイト、シャーク」

 

「戦いはこれからだ」

 

「ああ!どんな奴らが来たって、俺たちが力を合わせりゃ絶対負けねえ!束になってかかって来いってんだ!かっとビングだ、俺!」

 

遊馬はバリアン世界の侵略が始まったことで最初は不安でいっぱいだったが、アストラルと凌牙とカイトと一緒なら絶対に負けない、乗り越えられると確信した。

 

「やっぱり、凌牙さんとカイトさんがいると頼もしさが凄いですね。遊馬君とアストラルさんの安心感と信頼感が伝わります。私もあの二人のようにもっと強くならなければ……」

 

マシュは凌牙とカイトのように遊馬と共に戦う仲間として相棒としてもっと強くならなければと改めて思った。

 

風魔とのデュエルから数日後、遊馬は一人の少年と運命的な出会いをした。

 

「今日からこのクラスに転校してきました、真月零です!」

 

真月はWDCで優勝した遊馬のファンでとても素直で優しい性格だが、とてもおっちょこちょいなところもあり、遊馬を少し困らせていた。

 

しかし、遊馬のためにがむしゃらに頑張ろうとする姿に遊馬も心を打たれ、真月を仲間として認めて友として仲良くなるのだった。

 

「真月……あいつって確か……」

 

レティシアは以前遊馬から真月の話を聞いたことを思い出し、これからの展開に少し不安が過ぎった。

 

ちなみに武蔵は……。

 

「遊馬に人懐っこい感じで幼さが残る美少年……!いいわ、これをおかずに素うどんを何杯でもいけるわ!」

 

遊馬と真月の仲良さそうな映像に何を想像したのか涎を垂らした武蔵は慌てて涎を拭いていた。

 

「いいのか?日本最強の二刀流剣士がこんな淫らな煩悩まみれで?」

 

それを小次郎がジト目で見ていた。

 

バリアン世界の刺客は風魔に続き、様々なデュエリストをバリアンズ・フォースで洗脳して遊馬とアストラルに差し向けていく。

 

洗脳したデュエリストのエースモンスターのモンスターエクシーズをランクアップさせた強力な『CX』を誕生させて二人を追い詰めるが、希望皇ホープと二人のデュエルタクティクスで撃退していく。

 

そんな中、バリアン世界の刺客が次に標的に選んだのは凌牙だった。

 

病院で眠っている凌牙の妹が突如として姿が消えてしまい、いつも以上に錯乱してしまっている凌牙の前に現れたのはハートランド学園で漫画研究部の部長をしている有賀千太郎だった。

 

凌牙の妹を拉致したのは千太郎で凌牙は怒りに燃えながらデュエルをする。

 

千太郎は漫画好きと同時にヒーローが好きで自身の理想のヒーローとも言えるモンスター……騎士王・アーサーをモチーフにした『CH キング・アーサー』を召喚した。

 

「ほう、私の……いえ、アーサー王をモチーフにしたモンスターですか。騎士らしい勇ましいモンスターですね」

 

「へぇ、アーサー王のモンスターか……よし、あれを貰うか」

 

アーサー王本人であるアルトリアはキング・アーサーに親近感を得て満足そうに頷き、モードレッドはキング・アーサーのカードが欲しくなりどうやって貰うか考えていた。

 

千太郎は勝つ為に凌牙の精神を追い詰め始めた。

 

それは凌牙の妹は千太郎が創り出した仮想空間……つまり漫画の世界に囚われており、千太郎がデュエルに負けたら仮想空間が崩壊すると言い出した。

 

それが嘘か誠か分からないが、妹が人質に囚われている以上、凌牙は下手に攻めることが出来なくなってしまった。

 

アストラルと小鳥はこのデュエルを解く鍵は千太郎がいつも持っていたスケッチブックに描かれているのではないかと考え、遊馬は真月を連れてハートランド学園に向かった。

 

遊馬と真月は漫画研究部の部室でスケッチブックを探すとそこには千太郎が思い描くストーリーの漫画があった。

 

そこには悪魔の使者の凌牙とヒーローの千太郎が戦い、凌牙が敗れるが囚われの姫である妹は時既に遅く、永遠の眠りについてしまったものだ。

 

つまり、このままではどう足掻いても凌牙は妹を助けることは出来ないのだ。

 

凌牙は妹を助けることが出来ないと告げられ、絶望に打ちひしがれてその場に崩れる。

 

このまま助けられないのかと皆が諦める中、遊馬だけは諦めなかった。

 

「こんなもんに俺たちの未来を決められてたまるかよ!シャーク立てよ!立って戦えよ!今お前しか、妹を守れないんだ!前を塞ぐもんは全部ぶちのめす!それがシャークだろ!」

 

遊馬の叱咤激励の言葉に凌牙の心が奮い立たされ、妹との大切な記憶が呼び覚ませられる。

 

たった一人の大切な妹を守る……兄として凌牙は闘志を燃え上がらせて立ち上がる。

 

「どんな未来が待っているか知らねえが、璃緒は必ず俺が守る。だから璃緒、目を覚ませ!璃緒!!」

 

凌牙が妹を──『璃緒』を想う心が奇跡を起こし、互いの指に嵌められたペアリングが共鳴して光を放った。

 

「凌牙……」

 

璃緒は意識を取り戻して牢屋から抜け出し、城の上に立つと両目に巻かれていた包帯が自然と解け……遂にバリアンの呪縛の永き眠りから目を覚ましたのだ。

 

「璃緒……」

 

「凌牙……!」

 

凌牙と璃緒、兄と妹の感動的な再会が──。

 

「ひょっとして、デュエルで負けてる?あり得ないから、私の前で負けるなんて」

 

──起こらず、まさかの璃緒からの第一声がとんでもなく冷たいものだった。

 

どうやら妹の璃緒は兄の凌牙に対して少し厳しい性格らしい。

 

「うひょおおお!?長き眠りから覚めたのはまさかのツンツン美少女!?あんな可愛い子が妹なんて羨ましいですぞ、シャーク殿!」

 

ちなみに璃緒の見た目と性格は黒髭にヒットしたらしく興奮していたが、周りの人たちは華麗にスルーした。

 

璃緒の第一声に流石の凌牙はかなり呆れていたが、璃緒が無事に目を覚ましたことで凌牙に対する制約が全て解かれ、ここから一気に反撃に移った。

 

今まで攻撃に耐えてカードを温存していたので、それらを全て駆使して形勢を逆転させ、更にシャーク・ドレイクをシャーク・ドレイク・バイスに進化させ、千太郎を打ち破って勝利を収めた。

 

千太郎はバリアンの洗脳から解かれ、璃緒はバリアンの呪縛から解放されて目覚めたとは言え数年間も眠り続けていたのであまり動く事はできず、すぐに病院に連れて行くことになった。

 

するとなんと、凌牙は璃緒をお姫様抱っこで軽々と抱き上げると、璃緒は先程の厳しい表情から一転して優しい笑みを浮かべて凌牙に甘えるように首に手を巻いたのだった。

 

とても双子の兄妹とは思えないラブラブ(?)な光景に女性陣は「怪しい……」と目を光らせる。

 

それから数日後……数年間も眠っていたにも関わらず、リハビリなどをほとんどしないで璃緒がハートランド学園に登校して来たのだ。

 

普通なら全身の筋肉が衰えてまともに動くには数ヶ月のリハビリが必須なはずなのに璃緒はまるで眠っていたことが嘘のように元気よく動いていた。

 

「いやいやいや!?あり得ないって!?一体どんな薬を使った!?それか魔術!?数年間も昏睡状態で全く体が動いてなかったのにどうしてあの子はたった数日で動けるんだ!?」

 

カルデアの医療部門トップであるロマニは璃緒のあり得ない体質に驚愕して頭を抱えている。

 

その後、更にロマニは璃緒に驚かされることとなる。

 

璃緒はハートランド学園の全女子生徒の中でもトップに迫るほどの美少女なので様々な部活から是非ともマネージャーになってもらいたいと男子どもが下心全開で勧誘してきた。

 

璃緒は勧誘してきた男子どもと勝負し、璃緒自身がそちら側が勝てたらマネージャーになると側から見ればあまりにも無謀な条件を出した。

 

サッカー部、柔道部、卓球部、野球部、ボクシング部、将棋部、バスケットボール部と……それぞれの部活のレギュラー陣をたった一人で全て打ち破り、勝利してしまったのだ。

 

「だから何でさ!?どうしてそんなにアグレッシブに動けるの!?元々天才的な運動神経を持ってるならまだギリギリ分かるけど、何で数日前まで昏睡状態だった十四歳の少女がそんなにスポーツで一騎当千の如く暴れまくれるんだい!?それとも何!?遊馬君達もそうだけど、あの異世界の住人はこれほどまでに身体能力が化け物クラスなのか!?」

 

璃緒の常識外れすぎる身体能力にロマニの医者としての理解度が既にオーバーヒートしてしまい、頭を抱えながら床を転がってしまうほど追い詰められてしまった……。

 

ロマニほどではないが、この場にいるほぼ全員が同意し、遊馬を含める異世界人はどれだけ凄いのかと思い知らせる事となった。

 

璃緒がここまで強く、勝利を目指す理由は兄の凌牙の為だった。

 

凌牙は璃緒を傷つけられ、Ⅳとのデュエルで罠に嵌められてから不良となって色々問題を起こしてしまった為、多くの人物から恨まれる事となった。

 

凌牙のたった一人の妹である璃緒が弱点として狙われることも考えられるので、璃緒は凌牙の為にも強くならればならないと決めているのだ。

 

すると、璃緒と遊馬達は華道部に誘われ、和室のある部室に向かった。

 

そこで華道部部長の花添愛華が花を花鋏で切り、花を生けて言葉を紡いでいくと小鳥達は突然眠りについて倒れていった。

 

アストラルは愛華が花を切ることで催眠術をかけたと推測した。

 

「催眠術って、そう簡単にかけられるものだっけ……?」

 

「一応研究はされているけどあんな短時間でかけるのは無理」

 

「催眠術か……お兄ちゃんにかけられるかな?」

 

現代人であるイリヤ達はあっさりと小鳥達に催眠術をかけた愛華に驚いた。

 

愛華はバリアンの刺客として洗脳されており、狙いは璃緒だったが催眠術にかかってない遊馬からデュエルで叩き潰そうとした。

 

遊馬はすぐに愛華とデュエルを行おうとしたが慣れてない正座で足が痺れてしまった。

 

「私が、お相手致しましょう」

 

すると、催眠術で眠っていたはずの璃緒が目を覚ましたのだ。

 

璃緒は様子がおかしかったのでかかったフリをしていたのだ。

 

遊馬は自分がデュエルをすると言ったが、璃緒は売られた喧嘩を買うが如く、愛華とのデュエルを受けてたった。

 

璃緒は凌牙と同じ水属性のデッキだが、大きく違うのは璃緒は氷をモチーフとした鳥獣族をメインにしたデッキだった。

 

同じ水属性でも凌牙の大海のシャークデッキとは異なり、璃緒のはいわゆる氷海のブリザードデッキ。

 

そのデッキ構築は当然かなり異なるが、璃緒のデュエリストとしてのデュエルタクティクスは凌牙に引けを取らないとても高い実力だった。

 

愛華はバリアンズ・フォースで自身のエースモンスターの『烈華砲艦ナデシコ』をカオス化させ、『CX 激烈華戦艦タオヤメ』を召喚して璃緒を追い詰める。

 

すると愛華の凌牙への悪口を吐き、それに対して璃緒は見た事ないほどに激昂し、これまでの丁寧口調を捨て……冷たい氷のような視線と態度を取った。

 

「凌牙の事を粗野とか卑しいって言ってたわけ?私はともかく、凌牙の悪口は許さない……アンタ、凍らすよ?」

 

璃緒は凌牙の事をたった一人の兄であり、家族として心の底から大切に想っており、凌牙を侮辱される事を何よりも嫌っているのだ。

 

そして、璃緒から吹雪のイメージを放ちながらエースモンスターの『零鳥獣シルフィーネ』を召喚してフィールドの全ての効果を凍らせて見事愛華を倒したのだ。

 

それはまるで御伽噺の『氷の女王』のような全てを凍らせて敵を倒すと言う凄まじいデュエルだった。

 

余談だが、何故か遊馬は璃緒を名前で呼ばずに凌牙の妹と言うことで「妹シャ」と呼ぶことにした。

 

ちなみに遊馬が妹シャと呼ぶ度に璃緒は「その名で呼ぶな!」と強気で注意し、遊馬は臆して「は、はいっ!?」と言う一種の漫才みたいなことが起こるのだった。

 

バリアン世界の刺客達が遊馬達に何度も迫る中、遊馬は一人のデュエリストと出会う。

 

その名はアリト、どうやら小鳥に惚れているらしく小鳥をかけてデュエルを申し込んできた。

 

アリトはボクサーをモチーフにした『BK(バーニングナックラー)』モンスターの使い手で相手モンスターとバトルをし、相手の攻撃を利用したカウンター罠を巧みに操るカウンター戦法を得意とするデュエリストだった。

 

遊馬もカウンター罠を駆使し、フィールドはまるで自分の魂をモンスターに込めて熱いボクシングを繰り広げているようだった。

 

最後は失敗を恐れない遊馬の勇気によってデュエルは勝利し、もしも失敗を恐れていたらアリトのカウンターで敗北していたのでアストラルは遊馬の成長と勇気に驚かされた。

 

「良いわね……私好みの良いバトルだったわ。男の子はこれぐらいヤンチャにやらないとね!」

 

マルタは遊馬とアリトのデュエルが自分好みで楽しそうに頷いた。

 

デュエルが終わり、小鳥が真月から話を聞いて駆けつけたが……アリトは小鳥には目もくれず遊馬の事をとても気に入り、ライバルと宣言した。

 

「俺はアリトだ!この名前胸に刻んどけよ!何たって俺はお前のライバルになる男だからな!」

 

そんなアリトの人柄とデュエルに遊馬も同じように気に入ってライバルと認めた。

 

遊馬とアリトの男同士の友情が芽生え、訳の分からない展開に小鳥は頭を悩ませるのだった。

 

ある日、ハートランド学園で小鳥達が些細な出来事から大喧嘩をしてしまった。

 

遊馬はすぐに仲直りするだろうと特に気にしていなかったが、翌日になっても小鳥達は喧嘩したままで遊馬はどうすればみんなが仲直りするか悩んでいた。

 

そんな時に現れたのは同じハートランド学園の制服を着た謎の大男だった。

 

「君たちの悩みを解決するなら、スポーツデュエルしかない!爽やかに流れる汗で仲間の絆を取り戻すんだ!」

 

大男は遊馬の悩みを解決する策としてデュエルとスポーツを組み合わせた特別ルールのデュエルをすることを提案した。

 

更に大男は仲間達の絆を高める為に遊馬がわざと負けて他のチームを優勝させる提案をし、遊馬もみんなが仲直りするならと快く了承した。

 

翌日、ハートランド学園の校庭を貸し切り、大男主催のスポーツデュエル大会が開催された。

 

人数合わせに凌牙も参加させられ、遊馬と凌牙、璃緒と鉄男、小鳥とキャッシー、等々力と徳之助の4チームで大会が行われ、大男と真月は実況と審判を担当する。

 

こうして始まったスポーツデュエル大会はD・ゲイザーのARビジョンを最大限に活用して様々なスポーツをモチーフにしたデュエルが行われた。

 

自分が召喚したモンスターと共にスポーツをする変則デュエルでスカイダイビング、ビーチバレー、テニス、カルタ、卓球、プロレスなど……色々なスポーツデュエルを行う。

 

「何やってんのよ、あいつら……?」

 

カルデアでデュエルをよくやるレティシアは「何だこれ?」と言った様子で普通のデュエルとはかけ離れたスポーツデュエルに疑問符を浮かべていた。

 

スポーツデュエル大会も終盤に入り、体力がある遊馬や璃緒以外のみんなが疲れ切っていると一緒に汗を流して競技をしたことで喧嘩していた事を忘れていつのまにか仲直りしていた。

 

大男の狙い通りに仲間の絆が取り戻す事ができ、無事に目的を果たすことが出来た。

 

このままスポーツデュエル大会は決勝戦をやることになり、最高得点の遊馬と凌牙ペアと主催者の特権で何故か最下位小鳥とキャッシーが決勝戦に進むこととなった。

 

決勝戦を始める前に大男が小鳥とキャッシーに渡すものがあると言って二人を別室に呼び出した。

 

そして、スポーツデュエル大会の決勝戦が始まり、内容は野球デュエルだったが、凌牙がいつの間にかいなくなっていた。

 

凌牙はこんなことやってられるかと言い残して先に帰ってしまったのだ。

 

遊馬は帰ってしまった凌牙に仕方ないなと思いながら大男にピンチヒッターを指名した。

 

「え!?俺が!?うわ、ちょっと待って!俺はあの……え!?何この格好!?ちょっとちょっと!うわっ!?」

 

大男は突然ピンチヒッターに指名されて大慌てし、弁明する暇もなく衣装が自動的に野球デュエル用に着替えられ、デュエルディスクが起動して強制的に参加させられた。

 

大男は何故か焦りながらデュエルを行い、手をモチーフにした『ハンド』モンスターを駆使しながらデュエルをする。

 

しかし、わざと負けて小鳥達に勝たせるつもりだった遊馬のカードで大男の戦法が妨害されていく。

 

小鳥はいつもの優しい雰囲気が少し違っており、エースモンスターである『フェアリー・チア・ガール』を召喚すると、とんでも無いカードを発動した。

 

それはバリアンズ・フォースでフェアリー・チア・ガールが『ダーク・フェアリー・チア・ガール』へとカオス化してしまったのだ。

 

バリアンズ・フォースを使ったということは小鳥とキャッシーはバリアンに洗脳されていることである。

 

「あれ……?もしかして、バリアン世界の刺客って……」

 

マシュの言う通り、ここで察しのいい者達は誰がバリアンズ・フォースを渡したのか何となく分かった。

 

小鳥とキャッシーがバリアンに洗脳されているのならば必ず勝つしかなく、既に遊馬の勝利の方程式は揃っており、ピンチヒッターの希望皇ホープをエクシーズ召喚した。

 

大男の罠カードで希望皇ホープの攻撃力が倍となり、バトルを行うとダーク・フェアリー・チア・ガールが超速球の球を繰り出す。

 

「ホープ剣・逆転満塁ホームラン!」

 

希望皇ホープが二振りのホープ剣を引き抜くと剣がバットに形を変え、ダーク・フェアリー・チア・ガールの球を打ち返した。

 

「ホープ……意外にノリが良いわね……」

 

オルガマリーは呆れ顔で言ったが、野球デュエルの演出の一種でもあるだろうが、希望皇ホープはその勇ましく神聖な雰囲気の姿に似合わず意外とノリが良いのだった。

 

ダーク・フェアリー・チア・ガールは破壊され、遊馬と大男の勝利となり、小鳥とキャッシーはバリアンの洗脳から解かれた。

 

大男は勝てて良かったと涙を流し、いつの間にか遊馬達の前から消えていた。

 

小鳥にバリアンズ・フォースを与えてバリアン世界の刺客の顔は覚えておらず、そのままスポーツデュエル大会はお開きとなった。

 

そんなある日、遊馬は夢を見た。

 

それは見たことない黒く巨大なドラゴンが自分とアストラルを追い詰めて攻撃をするという恐ろしい夢だった。

 

遊馬はバリアンに洗脳されたデュエリストとの戦いで繰り出されてきたバリアンズ・フォースとカオス・エクシーズとの具体的な対抗策を見つけることが出来ず、これでアストラルを守れることはできるのだろうかと深く悩んでいたのだ。

 

悩んでいたせいで食事もあまり喉が通らず、明里と春が驚愕して心配するほどだった。

 

そんな遊馬の悩みにいち早く行動を起こしたのは春だった。

 

春は気を利かせて小鳥に今度の連休に遊馬と一緒に食材を持って決闘庵におつかいをお願いした。

 

山の空気を吸って気分転換にでもなれば良いと春はそう考えて小鳥に遊馬を頼んだのだ。

 

決闘庵に到着すると二人を出迎えたのは遊馬の兄弟子で以前のデュエルから心の闇が消えてすっかり落ち着きを取り戻した闇川だった。

 

残念ながら師匠の六十郎は不在で会えなかったがせっかくなのでのんびり過ごすことになった。

 

遊馬は決闘庵の中にある六十郎が彫ったモンスターの木像を見に行った。

 

いつ見ても素晴らしいモンスターの木像を見ていると、デュエルモンスターズの伝説のドラゴン……『真紅眼の黒竜』の木像を見た瞬間、夢で見た漆黒のドラゴンが重なって見えてしまった。

 

未知なる敵との恐怖とアストラルを守れるのかと深く悩んでいると闇川が遊馬を励ましに来た。

 

「悩み、迷うのを恥じることない。かつては私もそうだった。お前にこれを渡しておこう」

 

渡されたカードはモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットに関する効果を持つ魔法カード、『オーバーレイ・バレット』と『オーバーレイ・チェーン』の2枚だった。

 

「何か思い悩んでいるようなら、このカードを渡してやってくれと。師匠は俺たち弟子のことは何でもお見通しのようだな」

 

闇川の言葉と六十郎の想いに遊馬の心も軽くなっていく。

 

小鳥は近くの川で水遊びをし、遊馬は岩場に座ってもらった2枚のカードを使ったカオスエクシーズ対策を考えていた。

 

すると、小鳥が突然遊馬の顔に水を掛けた。

 

「うわっ!?な、何すんだよ!?」

 

「だって、ずっと難しい顔してるんだもん!」

 

「どんな顔してたっていいじゃんかよ!」

 

「ダメー!似合わないもーん!」

 

「ちくしょー!今度は俺のターンだ!ドロー!」

 

遊馬も川に飛び込んでお返しにと小鳥に水を掛ける。

 

突如として始まった遊馬と小鳥の水辺での水の掛け合い。

 

誰がどう見てもまるで恋人同士のようにイチャイチャしている二人の雰囲気にマシュ達はギロリと小鳥を睨みつける。

 

マシュ達の視線に気がついた小鳥はドヤ顔を見せるとマシュ達の嫉妬の炎が燃え上がる。

 

思春期の少年少女の微笑ましい光景だが、一部の者達は「自分たちは一体何を見させられているのだ?」という複雑な気持ちだった。

 

落ち込んでいる遊馬を元気にさせる幼馴染である小鳥の存在が大きいと改めて思い知らされた。

 

川遊びで服がびしょびしょになり、決闘庵に戻ろうとしたその時、突然謎の光弾が小鳥に直撃して吹き飛ばされた。

 

「お前か、九十九遊馬という奴は」

 

光弾を放ったのは木の上に乗った謎の金髪の少年だった。

 

少年の手には菱形の小さな結晶が握られており、それを空高く投げ飛ばした。

 

「バリアンズ・スフィア・フィールド、展開!」

 

結晶が無数の赤い光のカードとなり、遊馬と少年を巻き込みながら宙を浮いた。

 

光のカード達は巨大化しながら球体となり、それはWDCの決勝戦でDr.フェイカーが発動したスフィア・フィールドと酷似していた。

 

「お前は一体……!?」

 

「我が名はミザエル。九十九遊馬、お前のデュエルの最後の相手となる者だ」

 

遊馬はバリアンズ・スフィア・フィールドにミザエルがバリアン世界の刺客だとすぐに気付き、遊馬とミザエルのデュエルが始まる。

 

遊馬は初手から希望皇ホープをエクシーズ召喚すると、カオスエクシーズ対策として闇川から貰った六十郎のカードが2枚とも手札に来ていた。

 

遊馬はミザエルがバリアンズ・フォースを使ってカオスエクシーズを出すと考え、オーバーレイ・ユニットを守るオーバーレイ・チェーンを希望皇ホープに装備させた。

 

守り重視のデュエルを行う遊馬に焦りの表情が見えているのをアストラルは見逃さなかった。

 

続くミザエルのターンでレベル8のドラゴン族モンスターを2体揃え、エクシーズ召喚を行う。

 

「宇宙を貫く雄叫びよ、遙かなる時を遡り、銀河の源より甦れ!顕現せよ!そして我を勝利へと導け!『No.107 銀河眼の時空竜』!!」

 

ミザエルが召喚したのはカオスエクシーズでもない、新たな銀河眼であり、見たこともないナンバーズだった。

 

銀河眼の時空竜は機械的なフォルムを持つ紫色の巨大なドラゴンでそれは遊馬が夢で見たドラゴンと同じものだった。

 

遊馬の夢はこの銀河眼の時空竜の襲来の予兆を示していたのだった。

 

「ほ、本当に夢の通りのドラゴンが……やっぱりマスターの夢見の力は凄いわね……」

 

「あそこまで正確な予知夢を見るとは……アストラルと契約した影響か、ナンバーズを使うことによる影響か……なんにしても、未来に起こりうる事を断片的に知る事が出来るとは恐ろしいな……」

 

メディアとエルメロイII世は遊馬が時折見る未来を予兆する夢見の予知夢の力が本物だという事を改めて認識するのだった。

 

「銀河眼の時空竜……あいつがカイトと並ぶもう一人の銀河眼使い……!」

 

レティシアはもう一人の銀河眼使いの登場に心が震えていた。

 

カイトの『銀河眼の光子竜』と同じ銀河の輝きをその眼に秘め、『銀河眼』の名を持つドラゴン……『銀河眼の時空竜』。

 

その異質な姿形とあまりにも強大な力の前に遊馬とアストラルは初めてカイトが繰り出した銀河眼の光子竜と対峙した時以上のプレッシャーを感じ、更には『107』番目のナンバーズに衝撃を受けた。

 

本来ならば『1』から『100』までしか存在しない100枚のナンバーズ以外の『100』を超える数字を持つバリアンが持つ新たなナンバーズ……『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』。

 

一方、小鳥が不安そうに見つめる中、銀河眼の時空竜の襲来の気配に気付いた凌牙と璃緒が駆けつけた。

 

銀河眼の時空竜が攻撃し、希望皇ホープの効果で攻撃を無効にし、これでバトルが終了するかと思われたが……。

 

「甘いな!銀河眼の時空竜のモンスター効果、発動!」

 

ここで銀河眼の時空竜の恐るべき効果が発動される。

 

銀河眼の時空竜が元の菱型のニュートラル体に戻り、その身から眩い七色の光を放つとそれに導かれるように希望皇ホープもまた変形してニュートラル体に戻ってしまった。

 

銀河眼の時空竜は1ターンに一度、バトルが終了した時にオーバーレイ・ユニットを1つ使って銀河眼の時空竜以外のモンスターの効果を無効にして攻撃力と守備力を元に戻し、バトル中に発動したカード1枚につき攻撃力を1000ポイントアップする。

 

そして、この効果を自分のターンに使用した時に銀河眼の時空竜はもう一度攻撃が出来る。

 

「馬鹿な!このモンスターは過去に戻って、そこで自分に有利な未来を選択することが出来るとでも言うのか!?」

 

アストラルの言う通り、銀河眼の時空竜は一度流れた時間を逆転させて戻し、自分が有利な選択をして勝利への時を進むことが出来る。

 

まさに時空を司る銀河眼の時空竜の相応しい超絶効果に全ての効果を無効化された希望皇ホープは敗れてしまい、遊馬はバリアンズ・スフィア・フィールドの壁に叩きつけられて大ダメージを受けてしまった。

 

ライフポイントがまだ残っているにも関わらず遊馬は気絶してしまい、デュエル続行不可能の状態の危機的状況にまで陥ってしまった。

 

遊馬の代わりに凌牙がデュエルを引き継ごうとしたその時、バリアンズ・スフィア・フィールドのエネルギー波を感知してハートランドタワーからカイトとオービタル7が駆けつけた。

 

「そのデュエル、俺が引き継ごう!」

 

カイトが遊馬のデュエルを引き継ぐと宣言すると……。

 

「呼んでいる……ギャラクシーアイズがギャラクシーアイズを呼んでいる。遥かなる時空を超えて、再び相見えた二体の竜が、互いに引き寄せ合っている……」

 

璃緒の意思が無くなると何かが乗り移ったように予言めいた言葉を口にし始めた。

 

カイトとミザエルが互いを見つめると、カイトの前に銀河眼の光子竜の幻影が現れ、それに応えるように銀河眼の時空竜が咆哮をあげた。

 

すると、バリアンズ・スフィア・フィールドが輝くと、まるで銀河眼の時空竜が導くようにカイトをバリアンズ・スフィア・フィールド内に入れた。

 

「カイト……?」

 

「後は俺に任せて、お前達は休んでいろ」

 

「すまない、カイト」

 

「気にするな、それにこれは俺の問題でもある」

 

「君の問題?」

 

「銀河眼使いは一人でいい。そしてそれは、俺だ!」

 

ミザエルも銀河眼の時空竜の意思を尊重して、カイトが遊馬のデュエルを引き継ぐのを許可した。

 

「闇に輝く銀河よ!希望の光となりて、我が僕に宿れ!現れろ、『銀河眼の光子竜』!!」

 

カイトはまるでカードに導かれるようにすぐさま銀河眼の光子竜をフィールドに繰り出した。

 

銀河眼の光子竜と銀河眼の時空竜。

 

姿形が全く異なる二体の銀河眼が遂に対峙した。

 

「やはり世界は広い……これほどまでに強大な力を持つドラゴンが異世界にいるとは……」

 

「俺の宝具の大剣と鎧でもあの二体を倒せるかどうか分からないほどに銀河眼から恐ろしさを感じるな……」

 

「くっ、滾るじゃねえか……あのドラゴン共をぶちのめしてやりてぇぜ!」

 

竜殺し……ドラゴンスレイヤーであるゲオルギウス、ジークフリート、ベオウルフは二体のギャラクシーアイズの登場にレティシアとは違った意味で心が震えた。

 

二体の銀河眼が揃った瞬間、互いに咆哮を轟かせるとその体から無数の光の波動を放ち、共鳴しあっていた。

 

「この二体、やはり呼び合っているのか!?」

 

共鳴による強烈な力の波動にバリアンズ・スフィア・フィールドから漏れ出して周囲の地形が歪んでしまうほどだった。

 

「銀河眼が二体揃う時、大いなる力への扉が開く……そう伝え聞いてはいたが……」

 

「何のことだ、それは?」

 

「フッ、ここで惨めに敗れ去る貴様には知る必要のないことよ」

 

「ならば、勝って聞かせてもらおうか!」

 

ここからカイトとミザエル……二人の銀河眼使いのデュエルが始まる。

 

互いの銀河眼の効果と多くの魔法と罠の効果を駆使して激しい攻防を繰り返していく。

 

真の銀河眼使いの称号を手にする為、二人は全力で相手を叩き潰す為に戦う。

 

そして、カイトは一気に勝負に出る為に最強の切り札を召喚する。

 

「逆巻く銀河よ、今こそ怒涛の光となりて、姿を現すがいい!降臨せよ、我が魂!『超銀河眼の光子龍』!!」

 

カイトとハルトの兄弟の絆のドラゴン、超銀河眼の光子龍がエクシーズ召喚された。

 

「おお、これが……!」

 

ナンバーズキラーと恐れられている超銀河眼の光子龍の召喚にミザエルは敵ながら天晴れと言わんばかりの歓喜の表情を浮かべていた。

 

超銀河眼の光子龍の攻撃で銀河眼の時空竜は破壊され、戦況はカイトが有利となったがミザエルにはまだ奥の手が残されていた。

 

「フッ、これならば私が本気を出すに相応しい!」

 

ミザエルは本気を出すと宣言すると、ミザエルが光に包まれた。

 

「バリアルフォーゼ!」

 

光の中でミザエルの姿が変わっていき、現れたのは白の仮面を被った金色の戦士だった。

 

「へ、変身しましたー!?」

 

「フォー!?」

 

まさかのミザエルの変身にマシュ達が驚愕する。

 

「ええーっ!?異世界人とは言え男の子が変身するのもありなの!?」

 

「いやー、あの変身はちょっと予想外ですね〜」

 

現役魔法少女のイリヤとステッキのルビーもミザエルの変身には驚きを隠せなかった。

 

遊馬とアストラルの合体形態のZEXALで慣れたと思ったが、まさかバリアン世界の住人が変身するとは思いもよらなかった。

 

それはミザエルのバリアン世界の住人としての真の姿、先程までの姿は人間界で行動するための仮の姿にすぎなかった。

 

バリアルフォーゼはバリアン世界の住人がスフィアフィールドなどの異世界空間で己の真の姿になる変身形態である。

 

「今から貴様に、真のバリアンの力を見せてやろう。私は『RUM - バリアンズ・フォース』発動!」

 

ミザエルは銀河眼の時空竜にバリアンズ・フォースを発動したのだ。

 

「混沌より生まれし、バリアンの力……ナンバーズに宿りて新たな混沌を生み出さん!カオス・エクシーズ・チェンジ!逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ!永遠を超える竜の星!『CNo.107 超銀河眼の時空竜』!!」

 

銀河の星々が無限大に煌めく中、ミザエルのフィールドには金色に輝く巨大な三つ首の竜が召喚された。

 

オーバーハンドレッド・ナンバーズをカオス化させた新たなナンバーズ……『オーバーハンドレッド・カオス・ナンバーズ』。

 

これこそがカオス・エクシーズを超えるバリアン世界の真の切り札である。

 

「超銀河眼の時空龍だと!?」

 

超銀河眼の光子龍と対のような存在である超銀河眼の時空龍の召喚に驚く中、事態が急変する。

 

共鳴状態で常に強いエネルギーを発している銀河眼が二体揃う中、銀河眼の時空竜の進化体の超銀河眼の時空龍が召喚されたことで更にエネルギーが強くなり、バリアンズ・スフィア・フィールドに限界が訪れてしまった。

 

互いの銀河眼が爆発してフィールドから消滅し、ミザエルも変身が解かれて撤退を余儀なくされた。

 

「このデュエル、貴様に預けておくぞ!我が名はミザエル!いつか二体の銀河眼を支配する者だ!」

 

ミザエルはその場から消えるとバリアンズ・スフィア・フィールドが崩壊し、カイトとミザエルのデュエルが中断されてしまった。

 

バリアンズ・スフィア・フィールドの崩壊に伴い、カイトは飛行形態となったオービタル7に掴まったが、体を全く動かすことができない遊馬は地面に落ちてそのまま転がってしまう。

 

そして、転がった先には先程の銀河眼の共鳴で地面が割れて大きな崖となっており、とっさに凌牙が助けようとしたが二人一緒に落ちてしまった。

 

崖から落ちた二人にみんなが騒めき、女性陣の何人かは悲鳴を上げたが……実は二人共無事だった。

 

遊馬と凌牙は特に大きな怪我もなくハートランドシティ病院に運ばれて入院することになった。

 

怪我は擦り傷や切り傷に打撲などでたったの一週間程度の入院で済んだ。

 

「おかしいですね、普通あれだけ高い崖から落ちれば最低でも骨折の二、三本。酷ければ頭などを打って重症は免れないはずですが……」

 

「もうあの世界の住人の肉体がおかし過ぎてツッコむ気力も無いよ……」

 

これまで数え切れないほどの人の治療をしてきたナイチンゲールは病室にいる遊馬と凌牙の怪我の具合を見て、何故崖から落ちて大きな怪我をしていないのかと疑問に思って首を大きく傾げ、ロマニはもはやツッコミを入れる気力も無くテーブルに撃沈していた。

 

マシュ達も流石に遊馬と凌牙の異世界人の肉体の丈夫さに苦笑いを浮かべていた。

 

アストラルはミザエルとのデュエルでダメージを受けて皇の鍵の内部で休息を取りながら銀河眼の光子竜と銀河眼の時空竜の謎の関係を考えていた。

 

また、ミザエルがバリアンとしての真の姿を現したことでバリアン世界側も本気を出して攻めてきたことを悟った。

 

そして、遊馬が迷いと恐れと苦しみを抱いているのが伝わってきた。

 

遊馬がアストラルを守ろうと必死に戦っている気持ちはアストラルにとっては嬉しいことだが、それだけではダメなのだとアストラルは気付いていた。

 

遊馬と凌牙はハートランド病院の同じ病室で入院し、遊馬はカイトとの初めてのデュエルで銀河眼の光子竜に大敗した時以上のショックを受けていた。

 

遊馬は多くのデュエリストとデュエルを重ねて強くなった、デッキも大幅に強化された。

 

しかし、それでもミザエルの銀河眼の時空竜という圧倒的過ぎる力の前になすすべもなくやられてしまった。

 

流石の遊馬も心に深いダメージを負ってしまい、いつもの元気がなく、ため息ばかり吐いていてそんな姿に凌牙も苛立っていた。

 

遊馬が検査を受けて病室に戻ると凌牙の姿がなく、ベッドに置いた皇の鍵が無くなっており、代わりに手紙が置いてあった。

 

手紙には凌牙が皇の鍵を預かり、返して欲しければデュエルをしろと言う内容が書かれており、遊馬は急いで私服に着替えて病院の屋上に向かった。

 

屋上で凌牙が待ち構えており、空は曇天に覆われていた。

 

遊馬が困惑する中、皇の鍵を取り戻す為に遊馬と凌牙の五度目となるデュエルが始まった。

 

何度もデュエルを重ねている二人だが、今日の遊馬はいつもと違っていた。

 

果敢にモンスターで攻めるデュエルを好む遊馬が守りに徹しており、そんな遊馬に凌牙は更に苛立って暴言を吐きまくりながらデュエルをする。

 

すると凌牙は遊馬に皇の鍵を投げ渡して普通に返し、それと同時に雨が降り出した。

 

その雨はまるで今の遊馬の心を表しているようだった。

 

凌牙は得意のマジックコンボを使って次々とモンスターを召喚し、そこからブラック・レイ・ランサーにエアロ・シャークの二体のモンスターエクシーズを連続でエクシーズ召喚していく。

 

遊馬は守りを固めるが、そんな遊馬に凌牙は苛立ちながら叱咤する。

 

「舐めてんのか遊馬!今のお前は臆病な負け犬だ!戦う勇気の無い奴に掴める勝利はねえ!」

 

凌牙は遊馬がバリアンのカオス・エクシーズとミザエルの銀河眼の時空竜という強大な力に心が弱り切っていることに気付いた。

 

かつて遊馬が凌牙に叱咤して立ち上がらせてくれたように、今度は凌牙がデュエルをしながら遊馬の心を奮い立たせて、立ち上がらせようとしていた。

 

「遊馬、これから私達の前にはこれまで以上の強敵が立ち塞がるだろう。遊馬、気付いてくれ。この先、私と君に必要なものは何なのか」

 

アストラルは遊馬がこれからの戦いに必要なものが何なのか、その答えを見つけるのを静かに待っていた。

 

そして、凌牙は一気に勝負を決める為に新たなモンスターエクシーズ、巨大な鮫の形をした移動要塞『シャーク・フォートレス』をエクシーズ召喚した。

 

シャーク・フォートレスの効果でブラック・レイ・ランサーにエアロ・シャークのそれぞれに2回攻撃が付与され、遊馬にトドメを刺そうとした。

 

「これで、これで終わりなのか……?このまま何にも出来ずに負けちまうのか……?あの時みたいに大切なものも守れずに終わっちまうのか……?」

 

遊馬はミザエルとのデュエルの光景が脳裏に甦り、全てを失ってしまうのかという迷いと恐れと苦しみが一気に心に襲いかかる。

 

その場に崩れ落ちながら遊馬はその思いを否定した。

 

「嫌だ、俺はもっと先に進みたい。そしてアイツと……アストラルと一緒にデュエルしたい!俺は、俺は……俺はもっと、アストラルと一緒に戦っていきてぇんだよ!!」

 

遊馬の見つけた答え……その言葉に皇の鍵が輝く。

 

「遊馬、その言葉を待っていた」

 

「ア、アストラル……」

 

遊馬の答えにアストラルが皇の鍵から姿を現した。

 

「私が君を助けるのでも、君が私を守るのでもない。私と君は、共に戦っていくのだ」

 

どちらかが助けるのでも、守るのでもない。

 

遊馬とアストラルは一心同体、共に心を重ねて力を一つにして戦うことで無限大の力を発揮する。

 

それは強大な力を持つバリアンをも打ち砕く希望の光となる。

 

「遊馬、立て!」

 

「ああ、何度でも立ち上がってやるさ!共に戦う仲間と未来を切り開く為にな!」

 

「遊馬……」

 

「フッ……」

 

遊馬は答えを見つけたことでアストラルは安心し、凌牙も笑みを浮かべた。

 

そして、遊馬の答えで心の迷いが晴れたと同時に雨が止み、空から太陽の光が降り注がれていく。

 

「光纏いて現れろ!闇を切り裂く眩き王者!『H-C エクスカリバー』!!」

 

遊馬がエクシーズ召喚したのはゴーシュから託された王の聖剣の名を持つ戦士、エクスカリバーだった。

 

エクスカリバーに戦士族専用の装備魔法『最強の盾』を装備され、守備力分の攻撃力が上昇し、そこからエクスカリバーの効果で攻撃力が二倍となった。

 

「行け、遊馬!」

 

「かっとビングだ、俺!エクスカリバーでシャーク・フォートレスを攻撃!」

 

これまで様々のデュエルで攻撃力が上昇した希望皇ホープに負けない攻撃力となったエクスカリバーは剣を回転させ、刃に雷撃を纏わせる。

 

「必殺のヘキレキ!」

 

放たれたエクスカリバーの攻撃でシャーク・フォートレスは破壊され、凌牙のライフポイントが一気にゼロとなった。

 

凌牙は敗れたが満足そうな笑みを浮かべて倒れ、遊馬の勝利となった。

 

「シャーク、遊馬が立ち直ったのは君のお陰だ。君には私から礼を言おう、ありがとう」

 

「何言ってんだ、お前に礼を言われる筋合いはねえ」

 

「いいや、このデュエル、最初からそのつもりで……」

 

「馬鹿野郎、そんなんじゃなえ。うん?」

 

「シャ、シャーク……お前って奴は……!」

 

「何勝手に感動してんだよ、そういうところがウゼェんだよ!」

 

遊馬は凌牙の想いに感動して涙を浮かべるが基本的に素直になれない凌牙はツンツンしながら突っぱねるのだった。

 

凌牙の性格を人はツンデレと言う。

 

「観察結果、その22。人間は時折、自分の気持ちを素直に表さない時がある。それはともかく、仲間とは良いものだ」

 

アストラルが晴天の空を見上げると近くの建物の屋上にカイトとオービタル7が立っていて遊馬と凌牙を見守っていた。

 

カイトは入院している遊馬と凌牙の見舞いに来たが、二人のデュエルを陰から見守っていたのだ。

 

バリアン世界の猛攻はこれからも続く。

 

ミザエルやまだ見ぬバリアン世界の刺客達との壮絶なる戦いはこれから待ち構えている。

 

アストラルは遊馬と凌牙とカイト……仲間達と一緒なら乗り越えていけると確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その裏で遊馬とアストラルの絆を引き裂く、卑劣なる魔の手が既にすぐそこまで忍び寄っている事を知る由もなかった……。

 

 

 



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ナンバーズ167 遊☆戯☆王ZEXAL 第二部・第一章『バリアン世界侵攻!カオスエクシーズの脅威!(後編)』

大変お待たせしました、第二部第一章の後半です。
仕事とプライベートが忙しかったのもありますが、ベクターの書くのが地味に辛さと大変さがありました。
次は遺跡編なので少しはマシですが(笑)


遊馬と凌牙が無事に退院し、怪我も完治してハートランド学園に登校するようになった。

 

遊馬はいつものように走りながら登校し、真月と合流しながら学園に向かう。

 

すると、遊馬と真月の前にデュエルディスクを構えた数十人もの学園の生徒達が立ち塞がった。

 

そのデュエリストの額にはバリアンの紋章が浮かんでおり、バリアンは遊馬とアストラルを倒す為に人海戦術で攻めてきたのだ。

 

「デュエルは基本一対一なのに、こんなにたくさんのデュエリスト……どうやって倒せばいいのよ……!?」

 

遊馬とアストラルと真月の周りにいるデュエリストがあまりにも多く、どうやって倒せるか分からずレティシアは顔を真っ青にした。

 

しかし、遊馬とアストラルには頼れる仲間がいる。

 

「遊馬!」

 

「シャ、シャーク!?」

 

「ハッ、朝の運動にはちょうど良さそうだな」

 

遊馬の危機に駆けつけたのは凌牙だった。

 

「容赦は致しませんわよ!」

 

「コテンパンにしてやるんだから!」

 

更には璃緒と小鳥まで駆けつけた。

 

学園にいた璃緒が遊馬とアストラルがバリアンの襲撃を受けると危機を察知したのだ。

 

遊馬と凌牙と璃緒はD・ゲイザーとデュエルディスクをセットしてバリアンのデュエリスト達とデュエルをする。

 

ちなみに小鳥はデュエルの腕がまだ未熟なのでデュエルディスクではなくフライパンを持ってリアルファイトで戦う。

 

「小鳥嬢……フライパンは武器ではないのだが……」

 

カルデアの料理長のエミヤは小鳥がフライパンでリアルファイトをしていることに苦笑いを浮かべていた。

 

遊馬達はデュエリストを次々と倒していったが、デュエリストの数があまりにも多く、多勢に無勢と言わんばかりの状況だった。

 

すると避難していた真月がバリアンに洗脳されて遊馬を背後から羽交い締めにして動けなくし、遊馬がデュエルを出来なくした。

 

そんな遊馬達の前に一人の男が現れた。

 

それはスポーツデュエル大会を開催した大男だった。

 

「お前はあの時の!スポーツデュエル大会で……何でお前がここに!?」

 

「何でって、まだ分からねえかな?」

 

大男が見せたのはバリアンズ・フォースのカードだった。

 

「遊馬、この男……バリアン!」

 

「そう、俺の名はギラグ。バリアンの戦士だ!」

 

大男……ギラグ、この男こそが風魔から始まり、これまで多くのデュエリストを洗脳して遊馬達を襲わせたバリアンの刺客だったのだ。

 

ギラグは洗脳したデュエリスト達に命令を下し、モンスターを一気に召喚して一斉攻撃をさせる。

 

遊馬とアストラルの絶体絶命の危機……その時、一人のデュエリストが現れた。

 

「俺は速攻魔法『ライトニング・グリンチ』を発動!このカードは攻撃された時、ライフポイント3000を払って発動し、そのバトルを無効とする!」

 

「アリト!?」

 

「バカな、何故てめえが……」

 

現れたのはアリトで自らのライフポイントを犠牲にして攻撃を無効にした。

 

アリトは次の自分のターンで魔法カード『ブレイン・リブート』を発動し、相手フィールドの全てのモンスターを手札に戻してそのレベルかける500のダメージを与える効果を発動した。

 

今フィールドには洗脳されたデュエリスト達が召喚したモンスターが大量に存在しており、それらが全て手札に戻ると同時にライフポイントに大ダメージを与えて全滅させた。

 

アリトの登場とカウンターによるデュエリストの全滅にギラグは激昂した。

 

「て、てめえ!アリト!貴様、忘れたのか、我々の使命を!我らの世界を救う為、ナンバーズが必要だということを!」

 

「忘れてなどいない……俺はバリアンだ!」

 

何とアリトも実はバリアン世界の戦士だったのだ。

 

「だったら、何故俺の邪魔をする!?」

 

「言ったはずだ、俺は真っ向勝負で奴らを倒すと!」

 

「違う!どんな手を使っても勝たなきゃいけねえんだよ、九十九遊馬を舐めんじゃねえ!」

 

「そうだ、俺はバリアンである前に俺は……デュエリストなんだよ!!」

 

本来ならバリアン世界と敵対している遊馬とアストラルを必ず倒し、ナンバーズを手に入れなければならない。

 

しかし、アリトは敵だと知らずのうちに遊馬とデュエルをして心の底から気に入り、ライバルと認めた。

 

「だから俺は、デュエルでケリをつける。全て、デュエルで!ギラグ、お前のやってることはデュエルじゃねえ。消え失せろ!!」

 

アリトの熱い気迫に圧倒され、ギラグは撤退した。

 

ギラグが撤退し、洗脳されたデュエリスト達も解放され、遊馬とアリトは対峙する。

 

それは遊馬とアリトにとっては避けられない残酷な運命の戦いとなる。

 

「待てよ!俺たちが、バリアンのお前とデュエルするってことは……」

 

「そうだ、ナンバーズを……いや、互いの存在をかけた戦いとなる」

 

「アリト……」

 

「俺はお前らとデュエルがしたいだけだ。遊馬、そして、アストラル!」

 

アリトの熱き魂が込められた言葉に遊馬とアストラルは覚悟を決めた。

 

「遊馬、彼の決心は変わらない。いずれにせよ、戦わねばならない相手」

 

「わかったよ、やってやる」

 

「待ってたぜ、その言葉。バリアンズ・スフィア・フィールド、展開!」

 

ミザエルも使用した異世界空間を再現し、バリアンの力を最大限に解放するためのバリアンズ・スフィア・フィールドを展開し、遊馬とアリトのデュエルが始まった。

 

アリトは前回のデュエルでも召喚した『BK 拘束番兵リードブロー』をエクシーズ召喚した。

 

遊馬はバリアンとのデュエルなので初手からエースモンスターの希望皇ホープをエクシーズ召喚する。

 

アリトは前回のデュエルの攻撃を再現しようとしていた。

 

遊馬はアリトの想いに応え、希望皇ホープと共に挑んだ。

 

遊馬とアリトはそれぞれ希望皇ホープとリードブローに己の魂を込めてバトルをし、罠カードとカウンター罠を駆使してぶつかり合った。

 

序盤からボクシングの熱い殴り合いのような白熱のデュエルが行われ、デュエルの知識があまり無い人でも自然と心が熱くなるものだった。

 

「アリト!俺たちのデュエルはまだまだこれからだ!」

 

「あぁ……フフッ、行くぜ、遊馬!」

 

遊馬とアリトは戦わなければならない互いの存在をかけたデュエルだが、心の底から楽しんでいた。

 

しかし、その一方でバリアンズ・スフィア・フィールドの悪影響がアストラルに襲い、ダメージを少しずつ与えていた。

 

更にはアリトも先程のデュエルで遊馬を庇った時のダメージが残っていた。

 

しかし、それでもアリトは遊馬とのデュエルを楽しむ為、そして勝つ為に全力を尽くす。

 

「見せつけてやるぜ、本気の俺を!刻み込め、遊馬!」

 

アリトはフィールドにレベル4のモンスターを3体分を揃え、バリアンとしてのエースモンスターを呼び出す。

 

「現れろ、No.105!『BK 流星のセスタス』!!」

 

現れたのは青色と黄色の鎧に身を包んだ拳士、流星のセスタス。

 

ミザエルの銀河眼の時空竜と同じ、アリトの持つオーバーハンドレッド・ナンバーズだ。

 

セスタスの効果によって遊馬は大ダメージを受けてしまうが、ミザエルの時とは違って今度は意識を失わずに心を奮い立たせて立ち上がる。

 

アストラルは残りライフが500となり、このままでは負けてしまうと危惧するが遊馬はこの状況下でも胸が熱くなるほどにワクワクしていた。

 

遊馬とアリトの性格が似ている事と、モンスター同士でぶつかり合うデュエルを好む気質が互いの心を熱く燃やしていた。

 

その熱にアストラルも自然と感化されてきた。

 

「遊馬……私に君の燃える思いを消すことなど出来ないだろう。だったら私も行くしかないようだな」

 

「行くぜ、アストラル!アリト!今度は俺たちの全力モードを見せてやるぜ!」

 

「行くぞ、遊馬!」

 

「かっとビングだ、俺!俺と!」

 

「私で!」

 

「「オーバーレイ!」」

 

バリアンズ・スフィア・フィールドはスフィア・フィールドと同じく異世界と同質の空間を持つ。

 

「遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる。エクシーズ・チェンジ!」

 

「「ZEXAL!」」

 

即ち、遊馬とアストラルの真の力……二人が合体した奇跡の姿、ZEXALになることが出来る。

 

ZEXALは希望皇ホープを希望皇ホープレイに進化させ、セスタスとバトルをするが互いに同じ魔法カード『エクシーズ・スタンドアップ』を発動した。

 

これにより、決着はまだつかずにホープレイとセスタスが互いにフィールドに残る。

 

アリトはZEXALとホープレイのバトルに更に心を熱くし、全ての力を解き放つ。

 

「バリアルフォーゼ!見ろ、俺の真の姿。俺の真の想いを!」

 

アリトが光に包まれ、現れたのはその燃えるような心をそのまま肉体に表したかのような真紅の戦士。

 

アリトのバリアンとしての真の姿だった。

 

アリトはバリアンズ・フォースを発動し、セスタスをカオス化させる。

 

「俺はランク4の流星のセスタスでオーバーレイ・ネットワークを再構築。闇を飲み込む混沌を、光をもって貫くがよい!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れろ、CNo.105!『BK 彗星のカエストス』!!」

 

現れたのは紫色の鎧に身を包み、背中に四つの腕を携えた最強の拳士、カエストス。

 

アリトの最強の切り札、ミザエルの超銀河眼の時空竜と並ぶオーバーハンドレッド・カオスナンバーズの一体である。

 

カエストスはモンスター破壊効果でホープレイを破壊しようとしたが、ZEXALはセットしておいた罠カードで破壊を阻止したが、カエストスの攻撃で残り少ないライフポイントが削られ、ピンチに追い込まれる。

 

アリトはカエストスの攻撃を防がれ、悔しがるどころか面白いと興奮していた。

 

しかし、ZEXAL……遊馬はとても楽しいデュエルだが、戦わなければならない敵同士と言う真実に迷い、悩み、苦しんだ。

 

「お前はバリアンで、俺たちは……」

 

「デュエルを楽しもうぜ、遊馬!俺たちのデュエル、最後の最後まで熱く楽しもうぜ!」

 

そんな遊馬の迷いを振り切るようにアリトは熱い言葉を投げかけた。

 

アリトの熱い想い……ZEXALは最後まで全力で応える最後の決意を固めた。

 

「彼の思いに応えよう、最後まで」

 

「アリト!俺もこのデュエル、とことん楽しんでやらぁ!」

 

「よっしゃ来い!」

 

もはや敵味方を越えたデュエリストの魂で繋がった熱い絆。

 

ZEXALは奇跡の力を起こしてホープレイと共にアリトとカエストスに立ち向かう。

 

「最強デュエリストのデュエルは全て必然。ドローカードさえも、デュエリストが創造する」

 

「「シャイニング・ドロー!!」」

 

ドローカードを創造する奇跡の力、シャイニング・ドローでZEXALは創造したカードを発動する。

 

「来たぜ!俺はこいつを召喚だ!」

 

「天翔ける空の王、汝の爪牙で万物を掌握せよ!」

 

「来い!『ZW - 荒鷲激神爪(イーグル・クロー)』!!」

 

現れたのは二つの頭を持つ真紅の荒鷲。

 

荒鷲激神爪はホープレイの装備カードとなり、ホープレイの背中に合体し、巨大で鋭利な爪牙を携えた双腕となる。

 

荒鷲激神爪で攻撃力が2000ポイントアップしたホープレイでカエストスとバトルを行う。

 

このままではカエストスは戦闘破壊されるが、アリトは墓地の『BK カウンターブロー』の効果でZEXALの墓地の罠カードを自分のカードとして発動させた。

 

発動したのは自分のモンスターの戦闘破壊を無効にしてバトルダメージを相手に受けさせる『バトル・ラッシュ』でこのままではZEXALが負ける。

 

しかし、荒鷲激神爪は1ターンに一度、バトル中に相手の罠カードの発動を無効にすることができ、バトル・ラッシュの効果を無効にした。

 

「それも読んでいたぜ、これがとどめだ!カウンター罠!『コークスクリュー・クロス』!」

 

アリトの最後のカウンターにして最後の罠カード。

 

その効果で相手がカード効果が発動された時、その効果を無効にし500ポイントのダメージを相手に与える。

 

つまり、荒鷲激神爪の効果が無効となり、ZEXALにダメージが与えることになり、アリトの勝利となる。

 

アリトが最後のカウンターに勝利を確信した……その時。

 

「まだだ!まだ終わっちゃいない!」

 

ZEXALの最後のカウンターが炸裂する。

 

「カウンター罠、『ラスト・チャンス』!発動!相手の墓地からカウンター罠1枚を発動する!」

 

ZEXALが選択したのはバトルで発動したカウンター罠を無効にして破壊する『カウンターズ・ハイ』。

 

これにより、アリトのコークスクリュー・クロスが無効化された。

 

「そして、このバトルで受けるダメージは2倍となる!」

 

「そ、そんな馬鹿な!?」

 

「行くぜ、かっとビングだ、俺!イーグルカウンターマグナム!!」

 

アリトのカウンターを全て打ち砕き、荒鷲激神爪は爪を突き立てるのではなく、ZEXALの想いに応えてか拳の形にしたカウンターの一撃がカエストスを粉砕する。

 

そして、ホープレイの最後の攻撃がアリトにトドメを刺す。

 

「ホープ剣・カオス・イーグル・スラッシュ!!!」

 

三刀流のホープ剣がアリトを切り裂き、アリトは吹き飛ばされてバリアルフォーゼの変身が解除される。

 

ZEXALとアリト……壮絶なるカウンター合戦を制したのはZEXALだ。

 

「良いわ……久々に胸が熱くなったわ!」

 

マルタは拳を強く握りしめてZEXALとアリトのデュエルに胸が熱くなり、この場にいる誰よりも興奮していた。

 

バリアンズ・スフィア・フィールドが解除され、遊馬はアリトに駆け寄った。

 

遊馬とアリトは楽しいデュエルだったと褒め合うが、アリトは敗者としての覚悟を示した。

 

「アストラル……持っていけ、俺の魂を」

 

アリトは自分の魂そのものであるオーバーハンドレッド・ナンバーズとオーバーハンドレッド・カオスナンバーズのセスタスとカエストスを差し出そうとし、アストラルは2枚のナンバーズを回収しようとしたが……それは出来なかった。

 

これにはアストラルとアリトも困惑していると、アリトの背後にバリアンの異空間の通路が作り出された。

 

「どうやらお迎えだ、遊馬……」

 

アリトは他のバリアンによって連れてかれてしまい、粒子となってその場から消えてしまった。

 

「アリト……あっ……あぁ!?」

 

突然アストラルが苦しみ出してその場で倒れてしまう。

 

「アストラル!?アストラル!どうしたんだよ、アストラル!」

 

アストラルはバリアンズ・スフィア・フィールドの状況下でのデュエルはダメージが大きいらしく、皇の鍵の中で休めざるをえない状況となってしまった。

 

それから数日後、アストラルは皇の鍵の中で休んでいた。

 

そんな中、ギラグが現れて遊馬に果たし状を出した。

 

するとギラグは何故か真月も連れてくるように指示した。

 

何故真月も連れて来なければならないのかと疑問に思うとギラグは怒りを露わにして答えた。

 

「奴はアリトを闇討ちしやがった!」

 

ギラグは真月が遊馬とのデュエルでダメージを受けていたアリトを襲ったと言うのだ。

 

真月の性格から考えてもとても信じられない話だが、遊馬は友として真月を信じ、ギラグとのデュエルを挑む。

 

最初は真月には告げずにギラグの果たし状に書かれた廃工場跡地でギラグと対峙した。

 

ギラグは真月が来なかったことにブチギレていたが、遊馬が心配だった真月は結局来てしまった。

 

ギラグは怒りの炎を燃やしながらバリアンズ・スフィア・フィールドを展開し、初っ端からバリアルフォーゼを発動し、ギラグのバリアンとしての灰色の体を持つ屈強な大男の姿を現した。

 

このデュエルは変則デュエルでバトルロイヤルルールで行われ、ギラグのターンから始まる。

 

「来い!『ファイヤー・ハンド』!貴様達はこの俺の全てをかけて倒す!骨を残さぬよう、焼き尽くしてやる!」

 

ギラグは大きな手の形をした『ハンド』モンスターを繰り出すが、ファイヤー・ハンドはギラグの決死の覚悟かハンドモンスターの特性か不明だが、ギラグの体に装着してまるで力を使う代償のようにダメージを与えていた。

 

真月は『シャイニング』モンスターという光属性のモンスターを出すが、デュエルは素人同然でミスを犯してしまう。

 

遊馬は真月を守るためにエースである希望皇ホープをエクシーズ召喚をする。

 

そして、一周してギラグのターンで『アイス・ハンド』を召喚するが、ギラグに合体してダメージを与える。

 

ギラグはそれを耐えながらファイヤー・ハンドとアイス・ハンドをオーバーレイしてエースモンスターを繰り出す。

 

「この世の全てを握りつぶせ!『No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド』!!」

 

現れたのは指先と掌に不気味な目が埋め込まれた巨大な岩の手のモンスター、ジャイアント・ハンド。

 

ギラグのオーバーハンドレッド・ナンバーズが召喚され、まずは真月から攻撃しようとするが遊馬は希望皇ホープのムーン・バリアで攻撃を無効にしようとした。

 

「ジャイアント・ハンドの効果発動!相手モンスターの効果が発動した時、オーバーレイ・ユニットを一つ使う事でその効果を無効にする!喰らえ!モンスター秘孔死爆無惚!!」

 

ジャイアント・ハンドがオーバーレイ・ユニットを掌の目の中に取り込むと人差し指からドリル状のエネルギーが作られ、希望皇ホープの胸の球体を突いて効果を無効にした。

 

真月のモンスターが破壊されてダメージを受け、真月のモンスター効果によって遊馬もダメージを受ける中……アストラルは真月を守りながら戦うのは危険だと言うが、真月を見捨てられない遊馬……。

 

その時、アストラルはアリト戦のダメージとバリアンズ・スフィア・フィールドの悪影響下のダメージが遂に限界を迎えて倒れてしまった。

 

これ以上戦うことが出来ないアストラルは希望皇ホープ達を遊馬に託し、皇の鍵の中に入った。

 

遊馬は小鳥に皇の鍵を託し、アストラルと真月を必ず守り、戦い抜くと誓う。

 

希望皇ホープは効果が無効になったままだがジャイアント・ハンドよりも希望皇ホープの方が攻撃力が上、次の遊馬のターンで攻撃すれば倒せると意気込んだがギラグは不敵な笑みを浮かべたままだった。

 

不穏な予感を抱きつつも攻撃するしかない遊馬は希望皇ホープでジャイアント・ハンドを攻撃しようとしたその時……突如、希望皇ホープの体全身に亀裂が入り、爆発して破壊されてしまった。

 

ジャイアント・ハンドの秘孔死爆無惚を受けたモンスターは効果を無効にされだけでなく攻撃した瞬間に破壊され、更にはその攻撃力分のダメージを受けてしまうのだ。

 

希望皇ホープを破壊され、遊馬は窮地に追いやられるが真月を守るためにも守りを固めていく。

 

ギラグはそんな遊馬と真月の互いを守ろうとする行為に苛立ち、遂に最後の切り札を繰り出す。

 

「俺は『RUM - バリアンズ・フォース』を発動!俺はランク4のジャイアント・ハンドでオーバーレイ!カオス・エクシーズ・チェンジ!出でよ、CNo.106!混沌なる世界を掴む力よ、その拳は大地を砕き、その指先は天空を貫く!『溶岩掌ジャイアント・ハンドレッド』!!」

 

現れたのは岩石の手から不気味な赤い光を放つ溶岩の腕、ギラグのオーバーハンドレッド・カオスナンバーズのジャイアント・ハンドレッド……これで遊馬と真月にトドメを刺そうとしていた。

 

「……彼からは強い意志と覚悟を感じ取れます。己の命を捨ててでも成し遂げたい強い想いを……」

 

天草はギラグから命をかけてでも戦うその姿に親近感を抱いた。

 

ジャイアント・ハンドレッドの猛攻で遊馬と真月を追い詰め、ギラグは更なる魔法と罠で遊馬と真月のライフポイントを削る手筈を整える。

 

「くっ、俺たちに残されたターンは一度きり……!」

 

「遊馬君、今度こそ僕に何があっても助けようとしないで。僕はどうなったって良いから」

 

「お前……」

 

真月は遊馬に繋ぐ為に決死の覚悟でギラグのライフポイントにダメージを与えるカードを破壊しようとするが、ギラグの罠カードでカウンターを受けてダメージを与える。

 

「終わりだ!地獄の炎に焼かれ、アリトに詫びるがいい!」

 

真月のライフポイントが尽きる……その時、遊馬はカウンター罠『デスパレード・ガード』で自分のライフポイントを犠牲にしてダメージを無効にし、真月を守った。

 

「お前とアストラルも、俺の仲間だ……だから俺は、絶対に誰も……誰も見捨てたりしてえんだよ!!!」

 

遊馬の仲間を絶対に守り抜く不屈の信念。

 

ギラグはその信念に圧倒されるが、遊馬を打ち倒すために罠カード『デス・ハンド』でモンスターがいない遊馬に効果ダメージを与えてトドメを刺そうとした。

 

遊馬には手が残されておらず、今度こそ敗北するかにみえたその時……真月が動いた。

 

「罠発動!『シャイニング・リボーン』!自分フィールドのモンスター2体をリリース!そして、遊馬の手札を全て墓地に送る!」

 

「お、俺の手札を!?」

 

「何!?」

 

「相手に手札がなければデス・ハンドの効果は意味をなさない」

 

「貴様……!?」

 

「真月、お前……」

 

「更にシャイニング・リボーンの効果で遊馬の墓地からモンスター・エクシーズを遊馬の場に召喚!蘇れ!No.39 希望皇ホープ!!

 

真月のカードでギラグのデス・ハンドの効果を回避させ、破壊された希望皇ホープを復活させて遊馬の危機を救った。

 

更にはまるで今までのドジっ子な性格が変わったかのようにしっかりとした様子となり、遊馬のことを呼び捨てにした。

 

「そして、シャイニング・リボーンの最後の効果。自分の手札1枚を相手のフィールドにセットする。遊馬!これを使え!」

 

真月が手札のカードを遊馬に投げ渡した。

 

渡されたカードを見て遊馬は驚愕した。

 

「えっ?これは……『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』!?」

 

それはバリアンだけが持つモンスター・エクシーズをランクアップさせる魔法カード……『RUM』だった。

 

しかし、バリアンのデュエリストが今まで使って来たバリアンズ・フォースの力がまるで制限されたかのような名前と効果を持っていた。

 

遊馬は何故このカードを真月が持っているのか困惑し、バリアンのカードにギラグも驚いていると真月は真剣な眼差しで遊馬を見つめる。

 

「真月、何故お前が……」

 

「説明は後だ。このデュエルに勝って、アストラルを助けたいんだろう?私を信じてくれ、遊馬」

 

真月の言葉に遊馬は応え、このカードを使うことを決意した。

 

「かっとビングだ、俺!俺は『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!」

 

「「このカードは自分フィールドのランク4以下のモンスター・エクシーズを1体選択し、そのモンスターよりランクが1つ上のカオスと名の付くモンスター・エクシーズに進化させる!」」

 

「俺は希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

「「カオス・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

希望皇ホープがリミテッド・バリアンズ・フォースの力を受け、初めてのランクアップを果たす。

 

「「出でよ!CNo.39!」」

 

「混沌を統べる、紅き覇王!」

 

「悠久の戒め、解き放ち!」

 

「赫焉となりて、闇を打ち払え!」

 

「「降臨せよ!『希望皇ホープレイV』!」」

 

現れたのは希望皇ホープレイとは異なる、バリアンのカオスの力で進化した新たな希望皇。

 

紅き殲滅の力をその身に秘めた覇王……希望皇ホープレイV。

 

「馬鹿な、ナンバーズをランクアップだと!?そんな力を人間が持っているはずが……」

 

ランクアップマジックはバリアン世界の切り札……それを人間である真月が持っているわけがないと信じられない表情を浮かべた。

 

そして、リミテッド・バリアンズ・フォースでランクアップした希望皇ホープレイVは凄まじい効果を有していた。

 

「行け、遊馬!」

 

「おう!ホープレイVの効果発動!1ターンに一度、カオス・オーバーレイ・ユニットを使って、フィールド上のモンスター1体を破壊する!行け、ホープレイV!ジャイアント・ハンドレッドを破壊しろ!ホープレイV、Vブレード・シュート!更に破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

それはカエストスと同じモンスター破壊と効果ダメージを与える強力効果だった。

 

カオス・オーバーレイ・ユニットを取り込んだホープレイVは刃が歪曲となった二振りのホープ剣の柄同士を合体させて双刃刀にして投げ飛ばし、ジャイアント・ハンドレッドを破壊し、更に攻撃力分のダメージをギラグに与えた。

 

「まだだ、ホープレイV!ギラグにダイレクトアタックだ!ホープ剣・Vの字斬り!!」

 

モンスターの効果破壊のバーンダメージからの怒涛のダイレクトアタックでギラグのライフポイントが一気にゼロとなり、遊馬と真月の逆転勝ちとなった。

 

ギラグはデュエルの衝撃で吹き飛ばされて倒れ、真月を睨みつけながら問う。

 

「貴様は、貴様は、一体……!?」

 

「いずれわかるさ、いずれな……」

 

真月の意味深な言葉を受けながらギラグの背後に異世界の扉が開いてそのまま撤退し、真月は自分の正体を遊馬に明かした。

 

「私はバリアンズガーディアンだ」

 

「バリアンズ……ガーディアン?」

 

バリアンズガーディアン、それはバリアン世界の警察組織でその事を遊馬だけに明かして小鳥達には秘密にしてもらった。

 

その夜、遊馬の家の屋根の上で真月はこの世界に来た理由を明かした。

 

バリアンズガーディアンである真月の任務は悪のバリアンを探し出し排除することで、この世界では真月零として振舞わなければならず、遊馬に周りの人間には秘密にしてもらいたいと頼んだ。

 

そして、真月はバリアンズガーディアンとして遊馬を部下に任命するのだった。

 

遊馬もそれを了承し、共にバリアンと戦うと決意した。

 

「ふむ……あの真月というお方……最初から思いましたが、とても怪しいですね……」

 

映像なのでまだ分からないが、嘘を見抜ける清姫は直感だが真月の事を怪しいと蛇の目となってギロリと睨む。

 

アリトとギラグ、バリアン世界の刺客を退けた後、遊馬は真月と共にハートランド学園にあった二人のアジトに向かったがそこには何も痕跡は無かった。

 

真月は遊馬にアストラルに自分のことは秘密にするようにと口酸っぱく命令した。

 

アストラルの為だと言われ、遊馬は素直にその言葉に従った。

 

一方、皇の鍵の中で休んでいるアストラルはナンバーズが何かを伝えようとしている事を感知していた。

 

これまでも何度もアストラルに何かを伝えようとしてきたが、未だにそれが何なのかは分からずにいた。

 

そんなアストラルの前に現れたのはWDCの時から封印されているはずの黒いアストラルこと、No.96だった。

 

「良いことを教えてやろう。お前はナンバーズの真の記憶を取り戻していない」

 

No.96の言葉にアストラルにこれまで集めた50枚のナンバーズに問いかけたその時,アストラルの前に運命の扉が現れた。

 

『我は汝を試す者』

 

「私を、試す?」

 

『ナンバーズの記憶を手に入れるのだ。その時、全てが動き出す』

 

「ナンバーズの記憶……?」

 

すると、アストラルの前に運命の扉が生み出したと思われる屈強な体格をした謎の巨人が現れた。

 

「あの扉……とてもマハトマ的な何かを感じるわ……」

 

エレナは運命の扉や謎の巨人から映像でも分かる大きな力を感じていた。

 

『我は汝を試すもの。我とデュエルをするのだ』

 

影の巨人がアストラルに試練としてデュエルを挑んできた。

 

アストラルの様子がおかしい、何かあったのだと知った遊馬は授業を抜け出して皇の鍵に向けて必死に話しかけた。

 

すると、皇の鍵が輝き出して影の巨人の意思で遊馬を取り込んでアストラルの前に連れてきた。

 

遊馬は影の巨人やこの状況が何なのか分からなかったが、デュエルを挑まれているのでデュエリストとしてそれに応える。

 

遊馬と影の巨人とのデュエルが始まり、影の巨人は不気味な見た目をした『虚構王 アンフォームドボイド』をエクシーズ召喚し、更にはフィールド魔法『オーバーレイ・ワールド』を発動した。

 

遊馬とアストラルは影の巨人の出したアンフォームドボイドに今までにない不気味さを感じながら一気に倒す為に希望皇ホープではなく、高火力のモンスターを繰り出した。

 

モンスター破壊とバーンダメージを与える『No.61 ヴォルカザウルス』と相手のライフポイントを半減させる『No.6 先史遺産アトランタル』。

 

「うわぁ……ホープじゃない他の凶悪ナンバーズ2体とか、えげつないわね……」

 

レティシアは普段の遊馬のデュエルから想像できない初手の手札の運と展開力、そしてヴォルカザウルスとアトランタルに顔が引きつくほどの恐ろしさを感じた。

 

その遊馬とアストラルがデュエルでは殆ど出さない強力なナンバーズ2体で影の巨人を1ターンキルで倒そうとしたが、アンフォームドボイドとオーバーレイ・ワールドの効果で防がれてしまう。

 

それどころか一気に逆転されて遊馬とアストラルがピンチになってしまう。

 

「ふふふふふ……随分と面白いことになってるじゃねえか、遊馬……アストラル……」

 

そこにこの瞬間を待っていたかのようにNo.96が再び姿を現した。

 

No.96は影の巨人はアストラルがナンバーズを持つに相応しいデュエリストなのかどうか試す存在だと教えた。

 

そして、No.96の力が影の巨人を倒すことはできない。

 

それはNo.96がアストラルにはない悪意、憎悪、怒り、悪の心がないからと告げた。

 

遊馬はそんなものはアストラルには必要ないと突っぱねるが、影の巨人の攻撃でライフポイントが一気に減らされてピンチに陥る。

 

「もし負けちまったら、遊馬はどうなっちまうんだろうなぁ?」

 

アストラルの脳裏に過ったのは悪魔の囁きか、もしくは悪魔との契約のような言葉だった。

 

本来ならNo.96の申し出は断るしかないはずだが、アストラルにとって何よりも大切なものは遊馬だ。

 

遊馬が守れるならば悪魔と契約しても構わないとアストラルは決意を固めた。

 

「遊馬……分かった、No.96。君を解放する!」

 

「何!?おい、アストラル、お前!」

 

「No.96、力を貸してもらうぞ!」

 

アストラルは自分の中に封印していた『No.96 ブラック・ミスト』の封印を解き、No.96は歓喜の叫びを上げながら遊馬とアストラルに力を貸す。

 

「ククク……約束通り、お前達を勝たせてやる。さぁ、俺の分身を召喚しろ、遊馬!」

 

遊馬は嫌々な気持ちだったが、デュエルに勝つ事が先決で幸か不幸か遊馬のドローカードとフィールドと手札と墓地には既にブラック・ミストを使った勝利の方程式が出来上がっていた。

 

遊馬はブラック・ミストをエクシーズ召喚し、戦闘ではほぼ無敵の効果を持つ効果でアンフォームドボイドの攻撃力を奪ってブラック・ミスト自身の攻撃力を高めた。

 

「ふははははっ!これで奴をぶちのめせるぜ!分かったかい?アストラル、お前には俺の力が必要なのさ、悪の力がな……」

 

ブラック・ミストの攻撃でアンフォームドボイドを打ち砕き、影の巨人とのデュエルに勝利した。

 

そして、影の巨人とのデュエルが終わった瞬間に再び運命の扉が遊馬とアストラルの前に現れた。

 

「こ、これは……夢の中に出てきた……!」

 

『思い出せ、アストラル……お前の使命を……!』

 

運命の扉が光を放つと遊馬とアストラルは不思議な通路を通っていた。

 

それは運命の扉が見せているアストラルの真の記憶への道だった。

 

通路の先にアストラルの真の記憶があり、映し出された光景は広大な銀河のような不思議な世界だった。

 

「はっ、そうか……そうだった!思い出したよ、遊馬!」

 

そして、アストラルは運命の扉によってナンバーズに秘められた真の記憶を取り戻した。

 

遊馬とアストラルの前に青く輝く板のパズルが組み合わさったカードのような姿をしているものが浮かんでいた。

 

それはとても不思議で時折七色に輝きながらパズルがバラバラになるとすぐに元のカードに戻ったりしていた。

 

アストラルはこれが何なのか静かに語り出した。

 

「これは世界の全てを記したカード。このカードの中には、世界がどうやって出来たのか。そして、どこへ向かうのか……その過去と未来が全て記されている」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!一体何を……!?」

 

突然の事に遊馬の頭が混乱し始める。

 

「このカードはあらゆる世界の運命を全て決める力がある。君には信じられないかもしれないが、世界はたった一枚のカードから生まれた。全ての世界を創り上げた神のカード」

 

世界を創造した神のカード。

 

まるで神話の世界のような話に遊馬は困惑しながらアストラルはそのカードの名を告げる。

 

「それが『ヌメロン・コード』」

 

「ヌメロン・コード……?」

 

「私がまだ手に入れてないナンバーズにその在処が記されている。私の使命はバリアンより先にこのカードを手にいれること」

 

アストラルの使命は全てのナンバーズを回収するだけではなかった。

 

ナンバーズにはヌメロン・コードの在処が記されているものがあり、それを元にヌメロン・コードを手に入れること。

 

バリアンもまたヌメロン・コードを手に入れる為にナンバーズを回収しようとしており、その為にバリアン世界の敵対勢力である遊馬とアストラルを倒そうとしているのだ。

 

つまり、これまでのナンバーズ争奪戦は戦いの序章に過ぎなかったのだ。

 

この戦いの真の目的はナンバーズを手に入れた先にある、ヌメロン・コードと言う大いなる力を手に入れる壮大な争奪戦だったのだ。

 

これまでの戦いが使い方によっては新たな世界を創造することも、世界を自分の思い通りに出来る神のカード……ヌメロン・コードの争奪戦と言う、そのあまりの想像を絶するものに内容を断片的にしか知らなかった者たちは口をあんぐりと開けて絶句するほど驚愕していた。

 

万能の願望器とされる聖杯が霞んで見えるほどの恐ろし過ぎる力を秘め、魔術世界では魔術師が目指す『根源』とほぼ同一のものと言っても過言ではないヌメロン・コード。

 

カルデアにいるエルメロイII世を始めとする魔術師達の頭を悩ませるヌメロン・コード。

 

そして、ただ一人……ヌメロン・コードに大興奮の人物がいた。

 

「アハッ……アハハハハッ!世界を創造した神のカード……過去と現在と未来が記されている、私が導き出したアカシック・レコード以上の力を秘めたヌメロン・コード!そして、この戦いは強大な力を持つナンバーズ争奪戦ではなく、世界を創り変えることすら可能な神のカードであるヌメロン・コード争奪戦!!まさか異世界とはいえ、この現代よりも少し未来とも呼べる世界で神話の如き戦いが繰り広げられているなんて!!マハトマよ、実にマハトマだわ!それに映像とは言えヌメロン・コードを見れるなんて最高だわ!!しかもこれからユウマの魂と同化しているヌメロン・コードの一部を調べられるんだから!!まさかサーヴァントとなったこの身で異世界のアカシック・レコードを調べられるなんて……なんて私は幸運なのかしら!?ああもう、私はユウマに何を捧げれば良いの!?ただサーヴァントとして戦うだけでは物足りないわ!これはもう私の全てを捧げるぐらいじゃないと割りに合わないわ!!」

 

それはヌメロン・コードと同質のものと言っても過言ではない宇宙と数多の世界の全て……その過去と現在と未来が記されていると言われるアカシック・レコードの概念を世に出したエレナは発狂したように大喜びをしていた。

 

そのあまりの大喜びの様にみんながドン引きするレベルだった。

 

「ナ、ナイチンゲール嬢!エレナに鎮静剤を頼む!このまま興奮しきっていたら彼女の身が保たない!」

 

「くっ!?落ち着け、エレナ!」

 

大興奮してキャラ崩壊しまくっているエレナをエジソンとニコラは抑え込んだ。

 

「お任せください、エレナ!うるさいですよ、少しは落ち着きなさい!」

 

「ハウッ!?」

 

ナイチンゲールは鎮静剤の注射をエレナに打ち込み、投与してエレナを強制的に落ち着かせた。

 

「ヌメロン・コードか……この魔術世界の最終到達地点でもある『根源』と同質のモノ。全く、マスター達め、とんでもないものを見つける戦いをしていたのだな……」

 

一方、エルメロイII世は煙草をふかしながらヌメロン・コードについて頭の中で整理して考えていた。

 

やはりなんだかんだ言って魔術師としてもヌメロン・コードに興味があるのだ。

 

遊馬とアストラルが皇の鍵から外に出ると大量の黒い霧が溢れ出した。

 

「約束通り、解放させてもらう……覚えておけよ、アストラル。お前には必ず、悪を必要とする未来が待ってるってことを……ふははははっ!!」

 

それはNo.96はアストラルとの約束通り、解放してもらって不吉な言葉を残しながら外の世界へと飛び出していった。

 

ナンバーズ争奪戦からヌメロン・コード争奪戦という大きな戦いが始まろうとする中、遊馬達の日常に小さな恋物語が始まった。

 

それは遊馬の家で居候しているお掃除ロボットのオボミとカイトが発明したサポートロボットのオービタル7。

 

人工知能を搭載したロボット同士であるが、それが何とオービタル7がオボミに恋をしてしまった。

 

オボミへの恋心から遊馬達から虐待を受けていると勘違いをし、遊馬とデュエルを行った。

 

デュエルの果てにオービタル7は敗北してしまったが、遊馬を倒す為に衛星兵器を呼び出して宇宙空間からレーザービームを放ったのだ。

 

「馬鹿な!?衛星兵器はSFフィクションではなかったのか!?」

 

「そんな危ないものまで異世界にはあるの!?」

 

現代人として映画などのSFフィクションの知識を持つエミヤとイリヤはまさかの衛星兵器からのレーザービームがあるとは思わずに驚愕するが、更に驚愕の映像を目の当たりにする。

 

オボミが遊馬に近づき、オービタル7がとっさにオボミを押し出したが……その直後にレーザービームが遊馬とオービタル7に襲いかかった。

 

しかし……レーザービームの威力が大したことなかったのかどうかは不明だが、遊馬は頭がアフロになる程度で済み、オービタル7もボディが焦げ付く程度だった。

 

「「「えぇえええええーっ!??」」」

 

衛星兵器のレーザービームはとても危険な代物のはずが遊馬とオービタル7にはあまりダメージが無く、一体どうなっているんだ!?ともはや理解不能なレベルだった。

 

小鳥はオービタル7がオボミのことが好きなのだと察知し、まずはお友達からとアドバイスをしてオービタル7とオボミの交流が始まるのだった。

 

「人工知能搭載ロボット同士の恋か……面白い、やはりあの世界のロボット技術は素晴らしいね!」

 

ダ・ヴィンチちゃんは異世界のロボットの無限の可能性に心を踊らせた。

 

ハートランド学園では年に一度の学園祭が行われた。

 

遊馬のクラスでは生徒一人一人がモンスターのコスプレをして接客をするモンスターカフェを行った。

 

メニューは食べ物をモチーフにしたデュエルモンスターズのイラストを元にした特製メニューで、選んだカードを引いて注文するようになっている。

 

ちなみに小鳥はガガガガールでキャッシーはキャットガール、そして遊馬は太鼓魔人テンテンテンポのコスプレをしていた。

 

遊馬としてはフェイバリットモンスターのガガガマジシャンのコスプレをしたかったが、等々力にジャンケンで負けてその権利を取られてしまったのだ。

 

「おお〜!みんなどれも衣装のクオリティが凄い!中学生の学園祭のコスプレでここまで出来るなんて!」

 

可愛い服のコスプレに興味があるイリヤは遊馬達のモンスターのコスプレにとても中学生の学園祭で行うレベルではないと興味を持つ。

 

そこに何とアンナが学園祭があると聞きつけてフライングランチャーで教室の壁をぶっ壊しながらダイナミックに入店してきた。

 

「相変わらずとんでもないな、あの子は……」

 

町中で派手にランチャーをぶっ放したことがあるアンナが今度は教室の壁をぶっ壊して入り、キリツグは遠い目をしながら将来有望だなと思うのだった。

 

すると真月が『ダンディライオン』というタンポポの可愛らしいモンスターの格好をしながら急いで教室に入ると遊馬にデュエル大会があることを知らせた。

 

特別ゲストでプロデュエリストの羽原飛夫と海美夫妻が来ていた。

 

二人はタッグデュエルで無類の強さを発揮する名コンビなのだ。

 

しかしその大会はカップルデュエル大会で、出場するには男女のカップルでなければならない。

 

するとアンナは遊馬にカップルデュエル大会に一緒に出てくれと頼んだ。

 

アンナは海美とどうやら何か関係があるようでデュエルをすると意気込んだが、遊馬のクラスメイトで小鳥の友人のセイとサチがアンナはハートランド学園の生徒じゃないからデュエル大会には参加出来ないと指摘した。

 

カップルデュエル大会に出られなくて落ち込むアンナだったが、それからしばらくしてアンナは私服からハートランド学園の制服に着替えて遊馬の前に現れた。

 

実は更衣室に忍び込んで小鳥の制服を勝手に借りてきてしまったのだ。

 

「あれー?でも小鳥ちゃんのサイズじゃあ、アンナちゃんの胸のところが小さ──」

 

ゴォン!!!

 

「──グボァッ!?」

 

アンリマユは女性の体で特に指摘しては行けない事をうっかり口にしてしまい、目を光らせた小鳥が背後に忍び寄る。

 

次の瞬間にはフライパンによるフルスイングがアンリマユの後頭部にダイレクトアタックし、アンリマユは一撃で撃沈した。

 

「アンリマユさん、日本には口は災いの元って言う諺があるんですよ?あんまり女の子の体の事を言わない方がいいですよー?」

 

小鳥はドス黒いオーラを纏いながら背中に絶望皇ホープレスの幻影が現れ、手に持っているフライパンをクルクルと器用に回しながらアンリマユを見下ろす。

 

「はい、ごめんな、さい……ガクッ……」

 

アンリマユは謝罪しながらそのまま気絶して床に伏せてしまう。

 

乙女の逆鱗に触れて完全に自業自得なので誰も同情しなかったが、自称最弱のサーヴァントとは言え特に力も能力もない一般人である小鳥がフライパンでアンリマユを撃沈したのは地味に凄いので他のサーヴァント達は感心するのだった。

 

「遊馬、やはり小鳥には逆らわない方が身のためだぞ」

 

「ああ……そうだな……」

 

その光景にアストラルと遊馬は小鳥には逆らわないと心の中で強く誓った。

 

アンナはフライングランチャーを構えて遊馬を脅迫し、一緒にカップルデュエル大会に出場することになった。

 

アンナはフライングランチャーで飛び、無理矢理連れてこられた遊馬はアンナの腰にしがみ付きながらカップルデュエル大会の会場に乱入した。

 

アンナがどうしてもカップルデュエル大会に出場したかったのは海美がデュエルを辞めると勘違いしているらしく、海美も事情を話そうとしてもアンナは聞く耳を持っていない。

 

二人の間に行き違いがあり、遊馬はデュエルでぶつかり合えば誤解も解けると意気込み、それを聞いた飛夫は流石はWDCのチャンピオンだと褒めた。

 

こうして始まった遊馬とアンナ、飛夫と海美のタッグデュエル。

 

飛夫と海美は夫婦ということもあって息の合ったデュエルをしていく。

 

更には海美はアンナのデュエルの師匠らしく、アンナと同じ機械族の超弩級の大きさを誇るモンスターを駆使し、その余りの大きさにフィールドを圧倒していく。

 

一方の遊馬とアンナだが、これまで凌牙やカイトなどと共に戦ったタッグデュエルで相方にナイスアシストする事に定評のある遊馬は問題無く、むしろカード効果を熟知したデュエルタクティクスでプロの飛夫と海美を感心させるほどだった。

 

問題は相方のアンナだった。

 

アンナは烈車デッキのド派手な戦略とモンスターを繰り出すために断りもなく遊馬のモンスターを勝手に使ったりと自分勝手なデュエルをしていた。

 

それを見ていた海美は怒りが沸々と湧き上がり、ドローしたあるカードで全てが変わり出す。

 

「アンナ……何にも分かってない……それなら……私が分からせてあげるわ!!!」

 

海美の額にバリアンの紋章が浮かび上がり、飛夫が驚愕するほどにまで海美の性格が豹変した。

 

そして発動したのはバリアンズ・フォース……デュエリストを洗脳してバリアンの刺客として放っていたギラグは倒したはずなのに何故海美がバリアンズ・フォースを持っているのか遊馬とアストラルは分からなかった。

 

バリアンズ・フォースで羽原夫婦の愛の宮殿と称した戦艦のモンスターであるガンガリディアがカオス化して『CX 超巨大空中要塞 バビロン』となり、遊馬とアンナに一気に襲いかかる。

 

海美はまずアンナからトドメを刺そうとしたが、遊馬のアシストで自分のライフを犠牲にしながらアンナを守り切った。

 

アンナは自分勝手なデュエルをして見捨てられても仕方ないのに守ってくれた遊馬に心を打たれ、最後にドローしたカードを見て何かの決断をした。

 

続く飛夫のターンでアンナを守る為にフィールドにモンスターも伏せカードもない遊馬にダイレクトアタックが迫った……その時だった。

 

「速攻魔法!『献身的な愛』……発動!」

 

それは戦果の中、愛し合う二人が抱き合う姿が描かれたカードだった。

 

その効果は相手のバトルフェイズ中に発動出来るカードで、バトルを終了させ、相手に1枚カードをドローさせる。

 

タッグデュエルの場合、ドローする相手は遊馬となる。

 

しかし、その代償として自分のライフポイントはゼロとなってしまう。

 

これは普通の一対一のデュエルなら使用すれば確実に自分が敗北するカードだが、タッグデュエルでは自分を犠牲にしてパートナーを守り、逆転の一手を導くカードとなる。

 

アンナはライフポイントがゼロとなり、後の事を遊馬に全て任せた。

 

実はこのカード、羽原夫婦の結婚式に海美からのブーケトスに混ぜてアンナにプレゼントしたカードなのだ。

 

アンナは当初はこのカードは使えないと断言したが、海美はいつかそのカードの意味をきっと理解できる日が来ると信じていた。

 

そして……アンナは今までの自分の身勝手な行いを反省し、そのカードに込められた使い方と意味を理解して遊馬を守る為に『献身的な愛』を使ったのだ。

 

「献身的な愛ね……ふーん、タッグデュエルでそんなことも出来るのか……良いわね」

 

レティシアは男女のタッグデュエルにおけるパートナー同士の愛の育みを感じ取った。

 

遊馬がアンナの想いを受け取ってドローしたカード……それはリミテッド・バリアンズ・フォースだった。

 

そのカードを初めて見たアストラルは目を疑いながら遊馬に問う。

 

「遊馬、さっき君がドローしたカードはなんだ?何故君がバリアンのカードを持っている!?」

 

「えっ、ええと……それは……ギ、ギラグからぶんどったんだよ。あいつを倒した時に手に入れたんだ」

 

遊馬は真月に秘密にすることを固く約束されたことからアストラルに『嘘』を言ってしまった。

 

「……旦那様……」

 

遊馬が付いてしまった嘘に清姫は口元を開いた扇子で隠しながら静かに見つめる。

 

遊馬は希望皇ホープをエクシーズ召喚し、リミテッド・バリアンズ・フォースを手に取る。

 

アストラルはリミテッド・バリアンズ・フォースを使うことを危惧するが、デュエルに勝つ為にはバリアンのカードでも使うしか無いと遊馬は発動した。

 

リミテッド・バリアンズ・フォースで希望皇ホープは希望皇ホープレイVに進化し、初めてその姿を目にするアストラルが驚く中、遊馬は既に一度使用してその効果を理解しているのでここから一気に逆転の反撃に出る。

 

ホープレイVの効果で攻撃力が3800もあるバビロンを爆殺し、その効果ダメージで飛夫のライフポイントは一気にゼロとなる。

 

続く海美へのダイレクトアタックを行い、ライフポイントをゼロにした。

 

ホープレイVの強力過ぎる効果でまたしても危機的状況のデュエルで見事な勝利を飾った。

 

ダイレクトアタックで吹き飛ばされた海美に飛夫は慌てながら身を呈して海美を受け止めて守った。

 

海美の額からバリアンの紋章が消え、バリアンの力で性格が豹変したが……本人曰く頭が熱くなったみたいな感じだったらしい。

 

デュエルの後、アンナと海美はキチンと話し合うと海美はデュエルを辞めるのではなく、しばらくの間お休みするだけだった。

 

それは海美のお腹には小さな命……赤ちゃんが宿っていたのだ。

 

デュエルは時には先程のように吹き飛ばされて激しいダメージを体に受ける可能性があるので赤ちゃんが無事に産まれて落ち着くまでデュエルをお休みするのだ。

 

「確かにお腹に赤ちゃんがいる状況でデュエルであんな風にぶっ飛ばされたら大変だからね……」

 

ブーディカを始めとする子持ちサーヴァントの女性陣は女性にとってのデュエルの持つ危険な一面にうんうんと頷いていた。

 

海美はアンナが献身的な愛のカードに込められた本当の意味を理解してくれて心から喜び、遊馬と結ばれるように応援するのだった。

 

一方、皇の鍵の中にいるアストラルはリミテッド・バリアンズ・フォースで進化したホープレイVの力にバリアンとの戦いで大きな戦力になると感銘を受けていたが、それと同時に得体の知れない胸騒ぎを感じていた。

 

ある日の夜、遊馬は真月から緊急連絡を受けて急いで向かうとそこにはフードとマントを羽織ったバリアンと思われるデュエリストが真月を襲っていた。

 

「奴は我々が長年追ってきた最も凶悪なバリアン、ベクターだ。遊馬巡査、私は奴の後を追う。私のいない間、この世界の平和は頼んだぞ。このカードを君に預ける」

 

真月は5枚のバリアンの力を込めたカードを遊馬に渡した。

 

そのカードの事もアストラルには秘密にしてくれと遊馬に何度も何度も念を押して言い、遊馬も流石にそろそろ言ったほうがいいと思ったが結局はアストラルに秘密のままにしてしまった。

 

翌日、新しく手に入った5枚のバリアンのカードにテンションを上げていると、突然巨大なエネルギーの球体が現れて遊馬達に襲いかかってきた。

 

その中から現れたのは昨日の夜に出会ったベクターだった。

 

「ハハハハハ!我が名はベクター。バリアン最強の戦士だ。貴様らもろとも、この世界をぶっ潰しに来たぜ!」

 

ベクターは真月の次に遊馬とアストラルを狙いに強襲をかけてきた。

 

ベクターはバリアンズ・スフィア・フィールドを展開して自分自身と遊馬とアストラルを閉じ込めた。

 

「クククク……お前らとデュエルするのは久しぶりだな」

 

「何が久しぶりだ!俺はお前のことなんか知らねえ!」

 

「忘れちまったのかよ!お前たちと楽しいデュエルをしたじゃねえか!

 

ベクターは遊馬達がハートランドタワーの地下でDr.フェイカーとデュエルをした時、カイトの説得でデュエルをやめようとしたDr.フェイカーを無理矢理操ったバリアンだったのだ。

 

その恨みを晴らす為に遊馬達の前に現れたのだ。

 

「全てを徹底的に叩き潰してやる。

 

「ふざけるな!お前の好きにさせてたまるか!」

 

「さぁ、よからぬことを始めようじゃないか!」

 

遊馬とベクターのデュエルが始まり、ベクターは『アンブラル』と言う不気味な悪魔族モンスターを召喚してエクシーズ召喚したのは角の先端が偶然か必然か遊馬の持つ皇の鍵の形をした黄金のカブトムシ『No.66 覇鍵甲虫 マスター・キー・ビートル』だった。

 

ベクターはマスター・キー・ビートルと魔法・罠カードを組み合わせたコンボで遊馬のリミテッド・バリアンズ・フォースを封印し、尚且つ自分のフィールドの戦力を増やしたりするなどの巧みなタクティクスで遊馬が召喚した希望皇ホープを破壊して一気に遊馬を追い詰めた。

 

「遊馬君、諦めちゃダメだ!デッキを……デッキを信じて!」

 

「行くぜ、かっとビングだ!俺!来たぁ〜!!」

 

遊馬が真月の想いとデッキを信じて引いたカードは一発逆転の可能性を秘めたカードだった。

 

「俺は『Vサラマンダー』を召喚!」

 

現れたのは四つの首を持つ火を司る精霊のサラマンダー。

 

その効果は召喚時に墓地から希望皇ホープを復活させるもので、ただのバリアンのカードではなく希望皇ホープのサポートカードとしても優秀なものだった。

 

遊馬はリミテッド・バリアンズ・フォースで希望皇ホープを希望皇ホープレイVにランクアップさせるが、Vサラマンダーの更なる効果を発動する。

 

VサラマンダーはホープレイVの装備カードとなり、ホープレイVのモンスター破壊効果を1体ではなく相手フィールド全体にすることが出来る超絶効果だった。

 

「行っけー、ホープレイV!Vサラマンダー・インフェルノ!」

 

ホープレイVは背中に装着した四つの砲台から地獄の業火を放ち、ベクターのフィールドのモンスターを全て焼き尽くし、ベクターのライフポイントを一気にゼロにした。

 

「Vサラマンダー……なんと言うカードだ……」

 

「どうだ!俺とアストラルの力、思い知ったか!」

 

「フッフフフ……!」

 

ベクターは左手を前に突き出すと突然巨大なエネルギー体の手が現れて遊馬を捕まえようとした。

 

「遊馬君!」

 

「真月!?」

 

真月が遊馬の前に出ると巨大な手に捕まってしまう。

 

「遊馬君、良かれと思って……」

 

「フフフ……私が、貴様らに敗北などありえるものか。貴様の代わりにこいつを頂いていく」

 

そして、ベクターは真月を捕まえた代わりにマスター・キー・ビートルのカードをアストラルに投げ渡した。

 

「そいつが俺たちの再会へのキーとなる」

 

「遊馬君!」

 

「真月!」

 

真月はベクターと共に背後に現れた異世界の扉の中に消えてしまった。

 

真月が連れ去られ、心を乱す遊馬の前に凌牙とカイトが現れる。

 

「真月がバリアンに連れて行かれちまったんだ!奴らの居場所を探し出してくれよ!」

 

心を乱す遊馬にカイトは遊馬の頬を思いっきり叩いた。

 

「落ち着け、見苦しいぞ」

 

「カイト……」

 

遊馬を落ち着かせる為にカイトは心を鬼にして頬を叩いたのだ。

 

「カイトさん……その発言は少々ブーメランでは?」

 

「あんた、弟のハルトが大変だった時も同じ感じだったじゃない……」

 

ジャンヌとレティシアはWDCの時、ハルトが誘拐されて危険な目にあった時に精神状態が不安定だったカイトの時のことを思い出しながら突っ込んだ。

 

アストラルは皇の鍵の中でベクターから取り戻したマスター・キー・ビートルのカードを見つめていると、マスター・キー・ビートルがニュートラル体のクエッションマークの鍵の姿となると飛行船の中にある舵輪の中央にセットされた。

 

すると、マスター・キー・ビートルに込められた記憶にとある異世界への場所への道標が刻まれており、船内に立体的な地図が映し出された。

 

遊馬は凌牙とカイトと共にハートランドタワーの一室でベクターの情報を教えていた。

 

相変わらず凌牙とカイトの性格が合わないのか互いに言い争っていると突然警報音が鳴り、オービタルからタワーの上に強い重力波を感知したと知らせた。

 

遊馬達が急いでまだ修理中のタワーの頂上に向かうと空に暗雲が広がり、皇の鍵から眩い光が放たれると……空から巨大な飛行船が現れて頂上に衝突した。

 

そこにアストラルが現れ、マスター・キー・ビートルのカードが飛行船を起動させる鍵となり、人間界に出現出来るようになったと説明した。

 

更にある場所を示す座標も分かり、そこは……人間界とアストラル世界とも異なるもう一つの異世界・バリアン世界。

 

ベクターは飛行船を使ってその座標のある異世界に来いと言うメッセージだが、遊馬は真月を助ける為にも一人でも向かう覚悟を決めた。

 

凌牙とカイトもベクターによって人生を狂わされた事への決着をつける為に共に行くことにしたが、飛行船のエネルギーがチャージ完了となるのは明日の朝なので遊馬達は一旦解散した。

 

翌日の早朝、家族には何も告げずに家を出ようとするが……遊馬の様子がおかしいと気付いていた明里と春とオボミは既に起きていた。

 

オボミが投げ渡したのは遊馬の大好物である春が作ったデュエル飯。

 

明里と春とオボミは遊馬が戦いに行くと悟り、止めずに家族として見送った。

 

ハートランドタワーの頂上には既に凌牙とカイトとオービタルと璃緒が待っていた。

 

璃緒は昨夜自分もついて行くと言って、言い出したら聞かないと凌牙も既に諦めていた。

 

飛行船から内部に入るための光のリングを遊馬達に当てるとその瞬間に隠れていた小鳥達も入って真月を助ける為に一緒に行くと言い出した。

 

小鳥達を巻き込むわけにはいかなかったが、小鳥達も友である真月を助けたいと言う意思から仕方なく同乗を許可した。

 

飛行船の内部は最新式のコンピューターシステムで構築されており、オービタルが操作する。

 

そして、遊馬が船長として舵輪を握って舵を取って出航の宣言をし、異次元ゲートを開いて異次元空間に突入し、座標の示すバリアン世界へと向かう。

 

異世界へと続く道・異次元トンネルを進んでいくと、突如大量のモンスター達が現れて飛行船に攻撃してきた。

 

遊馬とアストラル、凌牙とカイト、璃緒と鉄男は表に出てそれぞれのエースモンスターである希望皇ホープ、銀河眼の光子竜、シャーク・ドレイク、シルフィーネ、ブリキの太公を召喚して応戦して行く。

 

しかし、モンスターの手応えが無いのに気付くと飛行船の進路上に巨大なブラックホールが実現し、遊馬達は飛行船ごと吸い込まれてしまった。

 

気絶した遊馬をアストラルが呼びかけて目覚めるとそこはバリアン世界ではなく、沢山の壊されたボロボロの船が漂う不気味な世界だった。

 

「ようこそ、サルガッソへ!待っていたよ、九十九遊馬。そして、アストラル!」

 

そこに現れたのはベクターだった。

 

先程のモンスターの大群はベクターの仕業でここは異世界の墓地、サルガッソだと告げた。

 

「くっ、ベクター!真月は、真月は何処だ!?」

 

「ふふふ……そんなに会いたいかい?なら、会わせてやろう。貴様のお友達にな!ふははははっ!」

 

ベクターが指パッチンをして出したのは倒れている真月だった。

 

「真月……?おい、真月!真月!!ベクター、てめぇ!真月に何をした!?」

 

「残念だが、お前のお友達は二度と目を覚ますことはない!」

 

「う、嘘だ……そんな、嘘だろ!?」

 

心臓が止まりかけるほどの衝撃を受ける遊馬にベクターは嘲笑って答えた。

 

その時、遊馬の脳裏には初めて出会った時からの真月との思い出が過った。

 

しかし、二度と真月は目を覚さない……一緒に過ごすことも出来ない。

 

目の前で大切な親友が奪われ、ベクターへの遊馬の怒りが爆発する。

 

「許さねえ……絶対に許さねえ!ベクター!お前を必ず、叩き潰す!!」

 

怒りと憎しみで感情が爆発した遊馬はベクターとデュエルをし、凌牙とカイトもそれぞれバリアンの戦士であり纏め役でもあるドルベと銀河眼使いのミザエルとデュエルを行う。

 

「ユウマ……これが、あなたが憎しみを抱いた時なのね……」

 

遊馬が初めて見せた憎しみに心を囚われた姿にブーディカは心配そうに見つめた。

 

遊馬は希望皇ホープ、凌牙はシャーク・ドレイク、カイトはギャラクシオンをエクシーズ召喚するが……その時、突然暗雲から落雷が降り注いで遊馬達のライフポイントに500のダメージが与えられた。

 

それはこの世界……サルガッソそのものがフィールド魔法として存在していたからだ。

 

フィールド魔法『異次元の古戦場 - サルガッソ』はエクシーズ召喚に成功する度にそのコントローラーに500ポイントのダメージを与えるものだった。

 

ベクターの卑劣な罠が遊馬とアストラルにダメージを与えていく。

 

一方のベクターもアンブラルモンスターを召喚して素材を揃え、今度は自身のエースモンスターを召喚する。

 

「出でよ!No.104!その眩き聖なる光で愚かな虫けらどもをひざまずかせよ!『仮面魔踏士シャイニング』!!」

 

現れたのは仮面を被った魔術師でベクターのオーバーハンドレッド・ナンバーズ。

 

ここでサルガッソの効果でベクターにダメージが与えられるが、速攻魔法『サルガッソの灯台』でサルガッソの効果ダメージを無効にするカードを使ったのだ。

 

「何よそれ、そんなの卑怯過ぎるじゃない!!」

 

自分のデッキのカードとしてちゃんと発動するならともかく、最初からサルガッソを発動していて、しかも自分だけサルガッソの効果を無効にするカードを使うことにレティシアは憤慨する。

 

凌牙とデュエルをするドルベもサルガッソの灯台でダメージをゼロにし、バリアン世界を救う為には仕方なしと苦渋の決断をしながらドルベもエースモンスターをエクシーズ召喚する。

 

「現れろ!『No.102 光天使グローリアス・ヘイロー』!」

 

現れたのは金色の鎧に身を包んだ天使でドルベのオーバーハンドレッド・ナンバーズ。

 

カイトはギャラクシオンの効果で銀河眼の光子竜を召喚し、それに応えるようにミザエルも銀河眼の時空竜をエクシーズ召喚したが、サルガッソの灯台をデッキに入れていなかった。

 

ミザエルはサルガッソの灯台を使うのは臆病者でカイトとは同じ条件で勝たなければ意味がないと言う、銀河眼使いとしての崇高な戦いを示す。

 

遊馬はベクターを倒す為にダメージを受ける覚悟でリミテッド・バリアンズ・フォースを使い、ホープレイVをエクシーズ召喚する。

 

ホープレイVの効果でシャイニングを破壊し、その攻撃力分のダメージを与えてベクターにダメージを与える。

 

すると、ダメージの爆発からの煙が消えるとベクターの姿がいなくなっていた。

 

ベクターは今のダメージで異空間に飛ばされたのかと思ったその時、死んだと思われていた真月が目を覚まして起き上がった。

 

「生きていたのか、真月!」

 

遊馬は真月が生きていたことに喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククク……ククク……ククク……な〜んちゃって。おかしくて、腹痛いわぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、この映像を見ている誰もが雷を受けたような衝撃と凍りついたような感覚を同時に受けた気分となった。

 

「お前、何言って……」

 

「面白いやつだな、お前。本当に俺のことを……ククク……なら見せてやろうか?もっと面白いものをよ!バリアルフォーゼ!!」

 

真月が不気味な笑顔を浮かべながら光を纏うとそこに現れたのは倒したはずのベクターだった。

 

「貴様、真月に化けてやがったのか!?それじゃ、おい、本物の真月はどこだ!?」

 

「本物?誰それ?俺、ベクター。鈍いなぁ、俺が真月だよ!」

 

「そんな馬鹿な!だってさっきまで、ベクターは俺とデュエルしてた!この前だって、ベクターは俺とデュエルして、真月を……」

 

「まだ分からないのかよ?この前デュエルしたのも、さっきまでデュエルしたのも俺が生み出した分身だよ!本物の俺はお前の親友、真月零に化けてたって訳さ!じゃんじゃじゃ〜ん!今明かされる衝撃の真実ぅ〜!」

 

真月……否、ベクターはマヌケな転校生を演じて遊馬に近づき、友情を深めて親友となり、分身を生み出してサルガッソまで誘き寄せたのだ。

 

ベクターは真月がバリアンだった事をみんなに黙っていたことも、貰ったバリアンのカードがデッキに入っている事をバラしてアストラルや小鳥達に不信感を募らせていく。

 

「なんて……なんて卑劣な……!はっ!?と言うことはアリトさんを闇討ちしたのは本当に真月さんって事……それに、同じ仲間のはずのギラグさんも……それじゃあ、遊馬君を陥れる為に、仲間まで騙して、犠牲にしたって事じゃないですか!!」

 

マシュはベクターの卑劣なやり方だけでなく、仲間のはずのアリトとギラグも平気で傷つけたやり方に怒りを露わにする。

 

「フォウ……!」

 

これにはフォウも怒りを覚え、これを見ている他の者たちも怒りが沸々と湧いてきている。

 

ベクターは遊馬の精神を追い込み、ここで罠カード『Vain - 裏切りの嘲笑』を発動し、デッキに眠るVサラマンダーを始めとする5枚のバリアンのカードが墓地に送られ、更にその数かける5枚のカードをデッキから墓地に送る効果で遊馬のデッキが一気に25枚も墓地に送られた。

 

これはデュエルモンスターズの敗北条件の一つであるデッキからカードをドローできなくなった時に敗北する『デッキ破壊』を狙ったカード。

 

つまり、ベクターが与えた『V』のバリアンのカードはこのデュエルで遊馬のデッキを破壊してデッキ破壊で敗北させる為のものだったのだ。

 

ベクターはこの状況はお前が招いた結果で、関係ない奴らを巻き込んだ……みんな生きては帰れないと遊馬に絶望を与えていく。

 

「このままではベクターのペースに巻き込まれるばかりだ、どうすれば……」

 

アストラルは冷静になって打開策を練ろうと考えたが、突如胸に大きな痛みが走る。

 

「これは……何だ?この言い知れぬ不安は……これはまるで……闇の欠片が生じたような……」

 

アストラルは初めて感じる謎の感情に不安が過ぎる。

 

ベクターは魔法カード『グローリアス・ナンバーズ』で破壊されたシャイニングを復活させ、シャイニングの効果で遊馬のデッキから更にカードを墓地に送り、敗北へのカウントダウンを進める。

 

一方、凌牙は肉を切らせて骨を絶つギリギリの戦法をしながらシャーク・ドレイクをシャーク・ドレイク・バイスに進化させて奮闘する。

 

カイトは銀河眼の光子竜を超銀河眼の光子龍に進化させると、ミザエルはこの時を待っていたかのように罠カードを駆使して銀河眼の時空竜をランクアップさせる。

 

「逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ!永遠を超える竜の星!顕現せよ、CNo.107!『超銀河眼の時空龍』!!」

 

現れたのは銀河眼の時空竜のランクアップした真の姿……三つ首の巨大な金色の龍・超銀河眼の時空龍。

 

ここに超銀河眼の光子龍と超銀河眼の時空龍の二体のネオギャラクシーアイズが揃うのだった。

 

遂に揃った二体のネオギャラクシーアイズにカイトとミザエルは自然と心が熱くなっていた。

 

すると突然、空間に大きな渦が発生して飛行船を呑み込もうとしていた。

 

サルガッソでは生贄を求めるのか時々ブラックホールが発動するらしく、中には小鳥達がいるのでこのままだと消滅する可能性がある。

 

すると、ベクターはナンバーズを全て寄越せばサルガッソの灯台の効果を増幅させてブラックホールを止めてやると言う最低最悪な取引を持ちかけた。

 

アストラルか小鳥達、どちらかの命を選ぶしかない。

 

しかし、遊馬に選べるわけがない。

 

遊馬はただ、大切な仲間を、みんなを助けたい……その想いに遊馬をいつも信じ続けている小鳥が応えた。

 

「何を迷ってるの、遊馬!アストラルと一緒にデュエルを続けて!」

 

「何言ってんだ!?」

 

「私たちは大丈夫だから!」

 

「小鳥……?」

 

「私たち、遊馬の足を引っ張る為にここへ来たんじゃない。あなたの使命はアストラルを守る事、そう誓ったはずよ。勝って!絶対にこのデュエルに勝って!人を信じることや、友達や絆を大切に思うことが間違ってないってことを、あなたが間違ってないって事を証明して!」

 

「小鳥……」

 

「かっとビングよ、遊馬!」

 

小鳥はみんなに飛行船を動かす為の指示を出し、そこにオービタルも駆けつけて共に飛行船を再起動させる。

 

小鳥は必死にみんなを励ましながら飛行船を操作し、遂にブラックホールから脱出した。

 

小鳥達の無事に安堵すると、凌牙とカイトは不器用ながらも遊馬を励ました。

 

「小鳥さん……流石です」

 

マシュは小鳥な遊馬を支える大きな存在だと改めて認識するのだった。

 

ようやく元気を取り戻した遊馬はアストラルに謝罪し、アストラルは遊馬を許してこのデュエルの勝利を目指す。

 

遊馬とアストラルは気持ちを一つにしてオーバーレイし、ZEXALへと合体する。

 

しかし、そこに遊馬とアストラルの絆を葬るためのベクターの最後の魔の手が迫る。

 

「アストラル!本当に遊馬と一つになれるのか?お前は今、心の底から遊馬を信じているのか?疑っているんじゃないのか?お前に嘘をついていた遊馬の事を?自分の心の奥までよーく覗いてみるんだ。よーくな……」

 

「アストラル?」

 

「遊馬、私は……」

 

「そうだ、お前の心に小さな黒いシミが出来てんだろ?そいつを素直に認めるんだな。今まで執拗に遊馬を責めてきたのはな、アストラル……その裏でお前の心に自分を裏切った相手への疑いの根を張らせ、怒りと言う芽を出させる為だったんだよ」

 

「な、何だと!?」

 

「貴様は純潔で疑う事を知らない。そして裏切られる事に免疫がない。だから、僅かな黒い小さなシミで十分。それだけで命取りだ。今、その小さなシミを無限の絶望の闇に広げてやるよ!」

 

ベクターの闇の言葉とバリアンの力によって生まれたホープレイVの力によってアストラルの中に芽生えた心の闇が増幅され、ZEXALの合体が解除されてしまった。

 

アストラルの左胸から大量の闇が溢れ出て、脳裏にNo.96から聞かされた悪を認めると言う言葉がアストラルを支配する。

 

そして、闇に呑み込まれたアストラルは闇を宿しながら遊馬に近づき、強制的に合体した。

 

闇の心が芽生えたアストラルと遊馬が合体して現れたのは……闇を操る絶望の使者……『DARK ZEXAL』。

 

希望を司るZEXALとは正反対の最低最悪の存在となってしまった。

 

「DARK ZEXAL……あれは魔術王と対峙した時の……!」

 

マシュはロンドンで初めて魔術王ソロモンと対峙した時、遊馬とアストラルが闇に囚われてDARK ZEXALになった時のことを思い出した。

 

DARK ZEXALは光では無く、カードを闇に染めるダーク・ドローでホープレイVを強化させる闇に染まったゼアルウェポン……『DZW 魔装鵺妖衣』を召喚した。

 

魔装鵺妖衣をホープレイVに装備してシャイニングに攻撃し、魔装鵺妖衣の効果で攻撃力を2倍にして攻撃を続行して行く。

 

しかし、ベクターの伏せていた罠カード『ハンドレッド・オーバー』戦闘破壊を無効にし、ホープレイVはもう一度攻撃出来るが、攻撃された時にシャイニングはホープレイVの100を加えた攻撃力となる。

 

これでDARK ZEXALは100の反射ダメージを受けるが、DARK ZEXALは力を求めるが故に暴走を起こしてホープレイVの攻撃力を高めて攻撃を続けてしまう。

 

これによりDARK ZEXALは戦闘を行う度に100のダメージを受けていき、このままでは敗北してしまう。

 

その頃……DARK ZEXALの中にいる遊馬の心が目覚めるとそこにはアストラルの心象風景を現した巨大なアストラル像の前にいた。

 

遊馬がアストラル像の中に入って登ると、そこにはアストラルがいた。

 

遊馬はアストラルに謝ろうとしたが、アストラルは遊馬を拒絶した。

 

初めて芽生えた悪の心……それがとても大きな力だと言う事にアストラルは深い快感を得ていた。

 

悪が自分を強くさせる、憎悪が全てを壊す力を与えてくれると。

 

「悪……憎悪……」

 

ブーディカはアストラルの言葉にローマに復讐しようとして悪の心と憎悪で戦っていた事を思い出し、胸が苦しくなった。

 

遊馬はアストラルの言葉に心が痛みながらもこのままではいけないと走り出す。

 

「やめろー!アストラル!!」

 

遊馬はアストラルに突撃しながら抱きつき、そのままアストラルの背後にあったステンドグラスを破壊してアストラル像から外に落下する。

 

それにより、力を求めて暴走していたDARK ZEXALの合体が解除され、ホープレイVの攻撃力が既に83200まで上昇してライフポイントも残り僅かになっていた。

 

凌牙とカイトの呼びかけで遊馬は慌ててバトルを終了させ、サルガッソの効果でダメージを受けて残りライフポイントは100になり、もう少し遅かったら遊馬とアストラルは敗北になっていた。

 

残りライフポイントは100でデッキのカードも1枚と言う絶望的な状況の遊馬だが、アストラルと小鳥達を守る為に最後まで諦めずに立ち上がった。

 

ベクターは最後まで遊馬の絶望した姿を見るためにバリアンズ・フォースを発動させる。

 

「現れろ、CNo.104!混沌より生まれしバリアンの力が光を覆う時、大いなる闇が舞い踊る!『仮面魔踏士アンブラル』!」

 

シャイニングをカオス化させ、不気味な仮面の魔術師を呼び出す。

 

「遊馬……私との絆が絶たれてもなお、君は一人戦うと言うのか……?」

 

アストラルは僅かな意識の中で一人で戦う遊馬の姿を見続ける。

 

アンブラルの効果で魔装鵺妖衣を破壊し、ホープレイVの攻撃力を元に戻し、アンブラルでホープレイVを攻撃するが遊馬は罠カード『エクシーズ・リベンジ・シャッフル』でダメージをゼロにし、ホープレイVをエクストラデッキに戻して希望皇ホープを墓地から復活させる。

 

サルガッソの効果で遊馬に効果ダメージが与えられるが、デッキ破壊で墓地に送られた『プリペントマト』の効果でダメージを無効にした。

 

エクシーズ・リベンジ・シャッフルの効果でアンブラルはもう一度攻撃出来るが、遊馬は墓地の『マジック・リサイクラー』のデッキからカードを一枚墓地に送り、墓地の一番下にある魔法カードをデッキに戻す効果を使う。

 

遊馬はデッキに残ったカードが何なのか覚えており、そのカードを墓地に送り、代わりにデッキに戻したのは『リミテッド・バリアンズ・フォース』。

 

そして、墓地に送ったカード『エクシーズ・エージェント』の効果で自身を除外して自分のモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットを使用する効果を発動させ、希望皇ホープのムーン・バリアでアンブラルの攻撃を無効にする。

 

ベクターはアンブラルの効果を2回使って遊馬のライフポイントを半分の半分の25にし、手札を2枚墓地に送った。

 

これでライフポイントは25で手札はゼロ、そしてデッキは残り1枚。

 

ここまで追い込まれても遊馬は諦めずに立ち上がり、ベクターはその姿を嘲笑う。

 

「ヘッ!相棒との絆を無残にやられても、まだやる気か?」

 

「ベクター、確かに俺とアストラルの絆はお前に葬られちまった。けど分かったんだよ、たとえ汚い手で墓地に送られたとしても、積み重ねた思いの力を信じている限り、希望と言う名のカードは俺を助けてくれるんだってな!」

 

「はっ……!?」

 

遊馬の希望を信じて戦い続けるその姿にアストラルの中で何かが変わり出す。

 

「ハッ!知った風な事言うじゃねえか。けどよ、てめえに最後に残った希望とやらはあのカードなんだぜ?お前と真月の友情の証のな!」

 

「確かに、そうだ……けど、今の俺はこのカードを引くしかねえ。希望を信じて引くしかねえんだ。俺のターン、ドロー!」

 

遊馬が祈るように願いを込めるように希望を信じて引いた最後のカード……それはやはり『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』。

 

フィールドには希望皇ホープがいて、ホープレイVはエクストラデッキにいるのでエクシーズ召喚することは出来るが、サルガッソの効果があるので使用した瞬間に敗北してしまう。

 

今の遊馬にとっては希望では無く、絶望のカードとなってしまい、遂に力尽きて倒れてしまう。

 

「ゆ、遊馬……」

 

アストラルは必死に体を動かして遊馬に近付く。

 

「アストラル……」

 

「遊馬、私はもうこれまでのように君を信じることはできない。だが、どんなに窮地に陥っても希望を信じて戦う君を、私は信じたい……!」

 

アストラルは裏切られたと思って一度は遊馬の事を信じられなくなってしまった。

 

しかし、遊馬の諦めずに希望を信じて最後まで戦う姿を見て、アストラルは改めて遊馬を信じたい……新たな絆を結びたいと強く願った。

 

「遊馬……」

 

「アストラル……」

 

遊馬とアストラルはそれぞれ左手と右手を伸ばして重ね合う。

 

「俺と……」

 

「私で……」

 

「「かっとビングだ……!」」

 

遊馬とアストラルの重ねた手から奇跡と希望の光がサルガッソ全体に広がる。

 

「希望に輝く心と心、二つを結ぶ強い絆が奇跡を起こす……!」

 

璃緒は遊馬とアストラルが放つ光に大きな希望を感じた。

 

「貴様!」

 

まだ戦おうとしている二人にベクターに焦りの色が見え始める。

 

アストラルは遊馬の腕を自分の肩に回して共に立ち上がり、ベクターを見つめる。

 

「行くぞ、遊馬!」

 

「おう!」

 

「俺は俺自身と!」

 

「私で!」

 

「「オーバーレイ!!」

 

二人は再びそれぞれ赤と青の光を纏いながらサルガッソを駆け抜ける。

 

「俺達二人でオーバーレイ・ネットワークを構築!!」

 

そして、二つの光がぶつかると、巨大な赤い『X』の光が輝き、二人の肉体と魂が一つに融合する。

 

「真の絆で結ばれし二人の心が重なった時、語り継ぐべき奇跡が現れる!」

 

肉体と魂が融合すると共にその力を光の中でランクアップしていく。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

遊馬とアストラルの絆が深まったことにより、ZEXALが新たな姿……ZEXAL IIへとランクアップした。

 

「くっ、新たなZEXALだと!?だが、今更進化しても、遅えんだよ!」

 

「「それはどうかな?」」

 

「何!?」

 

ZEXALの能力はドローカードを創造するシャイニング・ドロー。

 

しかし、進化したZEXAL IIは更なる奇跡を起こす。

 

「「重なった熱き想いが、世界を、希望の未来に再構築する!リ・コントラクト・ユニバース!!」」

 

掲げたリミテッド・バリアンズ・フォースのカードの絵柄が一瞬だけ崩壊した次の瞬間、新たなカードへとその姿を変えた。

 

「何ぃっ!?カードを書き換えただとぉ!??」

 

リミテッド・バリアンズ・フォースが新たなカードへと書き換えた事にベクターはかつて無いほどの驚愕した表情を浮かべた。

 

既にドローしたカードを新たなカードに書き換えるなどデュエル史上あり得ない出来事なのだ。

 

「奇跡の光が闇を払い、リミテッド・バリアンズ・フォースの真の姿を呼び覚ました!」

 

新たなカードを創造するシャイニング・ドローに続くZEXAL IIの新たな能力、手札にあるカードを書き換えるリ・コントラクト・ユニバース。

 

これこそが遊馬とアストラルの新たな絆が生み出した奇跡、ZEXAL IIの力。

 

「俺は『RUM - ヌメロン・フォース』を発動!」

 

ZEXAL IIがリミテッド・バリアンズ・フォースを書き換えて作り出したのはヌメロン・コードの姿が描かれたZEXAL IIだけのランクアップマジック。

 

「このカードは自分のモンスターエクシーズをランクアップさせ、カオスエクシーズを特殊召喚する!!」

 

「俺はランク4の希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

希望皇ホープが光となって天に昇り、光の爆発が起きる。

 

「「カオス・エクシーズ・チェンジ!!現れろ、CNo.39!!」」

 

「未来に輝く勝利を掴む!」

 

「重なる思い、繋がる心が世界を変える!!」

 

希望皇ホープの周りにZEXAL IIの装甲に似た数多の鎧のパーツが現れ、それが次々と希望皇ホープに合体していき、最後に兜が装着され、希望皇ホープの真紅の瞳に新たな光が宿る。

 

「「『希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』!!!」」

 

『ホォオオオオオープ!!!』

 

バリアンの力で進化した希望皇ホープレイVとは異なる遊馬とアストラル……ZEXAL IIの力で正統な進化を遂げた勝利の名を持つ希望皇……希望皇ホープレイ・ヴィクトリー。

 

「そっか……ホープレイ・ヴィクトリーはユウマとアストラルが新しく結んだ絆で生まれたんだ……」

 

ホープレイ・ヴィクトリーに特に強い想いを抱くブーディカはその誕生経緯に何度も頷きながら見惚れていく。

 

「ホープレイ・ヴィクトリーだと!?くっ、だが、サルガッソの効果で貴様はお終りだ!!」

 

ホープレイ・ヴィクトリーの召喚に驚くベクターはサルガッソの効果でZEXAL IIに効果ダメージを与えようとしたが、ヌメロン・フォースの効果はモンスターエクシーズのランクアップだけではない。

 

「ヌメロン・フォースが発動された時、フィールドで表側表示のカード全ての効果は無効となっている!」

 

「何ぃ!?」

 

ヌメロン・フォースで召喚したホープレイ・ヴィクトリー以外の表側表示のカード、つまりこれまで遊馬とアストラルを苦しめていたフィールド魔法のサルガッソとベクターのアンブラルは効果を無効化されている。

 

「行くぜ、ホープレイ・ヴィクトリーでアンブラルを攻撃!この瞬間、ホープレイ・ヴィクトリーのモンスター効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、このモンスターがバトルする時、相手モンスターの攻撃力を自分の攻撃力に加える!ヴィクトリー・チャージ!!」

 

ホープレイ・ヴィクトリーはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込むと両腕の内側から第三と第四の腕が現れ、四つの腕で背中に装着されている四つのホープ剣を引き抜く。

 

ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力はアンブラルの攻撃力である3000ポイントアップし、自身の攻撃力の2800と加えて5800になる。

 

「5800……!??」

 

ベクターは希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力と自分の伏せた罠が全て打ち砕かれた事に恐怖で震える。

 

「これが俺たちの…」 「「絆の力!」」

 

「「行け、ホープレイ・ヴィクトリー!」」

 

「アンブラルを……ベクターをぶった斬れ!!!」

 

「「ホープ剣・ダブル・ヴィクトリー・スラッシュ!!!」」

 

希望皇ホープレイ・ヴィクトリーは四つの剣で重なる二つの『V』の斬撃を放ち、アンブラルをぶった斬る。

 

ぶった斬られて破壊されたアンブラルが大爆発を起こし、そこから引き起こされた大爆発にベクターはぶっ飛ばされる。

 

地面を派手に転がり、背中の羽根が壊れて体がボロボロになってしまい、ベクターの姿が無残な状態となってしまった。

 

ベクターの長い時間をかけた作戦はうまく行くっていたはずだった。

 

真月として遊馬と絆を結び、バリアンのカードを使わせ、サルガッソに誘き寄せ、真実を伝えて遊馬とアストラルの絆を葬った。

 

勝てるはずだった、確実に二人に勝利してナンバーズを全て手に入れられるはずだった。

 

しかし、最後まで諦めずに立ち上がる遊馬のかっとビング、遊馬とアストラルの結ばれた新たな絆……そこから生まれた新たな希望と奇跡に全てを覆されてしまった。

 

遊馬とアストラルの絆と希望と奇跡によるベクターの完全敗北である。

 

遊馬とアストラル……ZEXAL IIが勝利した事に凌牙とカイトは安堵するが、突如サルガッソが崩壊していく。

 

ZEXAL IIの光のエネルギーによってサルガッソのバランスが崩れてしまい、このままだと異次元の狭間に呑み込まれてしまう。

 

「貴様ら……これで勝ったと思うなよ……!良いか、アストラルの心を穢した苦しみは決して消せやしねえ。穢されたという思いは永久に残り、それがお前達の絆を蝕んでゆく……クッ、クハハハハハ!」

 

ベクターはボロボロで立ち上がりながら負け犬の遠吠えと言わんばかりの捨て台詞を残しながら異世界の扉を開いて撤退した。

 

飛行船で遊馬達を回収し、急いで崩壊するサルガッソから脱出して人間界に帰還する。

 

「アストラル、俺たち勝ったんだよな?」

 

「ああ。だが、私たちの戦いは始まったばかりだ」

 

バリアンとの死闘が終わったが、まだこれは戦いの始まりに過ぎない。

 

まだ見ぬ数多のナンバーズを集め、ヌメロン・コードを手にする戦いはこれから始まるのだ。

 

「分かってる。俺、もっともっと強くなる!やってやる!かっとビングだ、俺!」

 

遊馬は気持ちを新たにアストラルと仲間達を守る為に強くなると誓うのだった。

 

ベクターとの戦いの記憶を見終わり、遊馬は椅子から立ち上がるとアストラルに向けて頭を深く下げた。

 

「遊馬?」

 

「アストラル……本当に、本当にごめん。俺のせいでアストラルに辛い思いをさせて……危険な目に合わせて……」

 

真月に……ベクターに騙されたとはいえアストラルの心に闇を抱かせてしまい、更には消滅の危機に陥らせてしまった責任を改めて深く感じてしまった。

 

そんな遊馬の改めての謝罪にアストラルは優しい笑みを浮かべながら遊馬の肩にそっと手を乗せる。

 

「……遊馬、あの時の事は説明してもらったが、こうして映像として見てはっきりしたよ。君は何も悪くはない」

 

アストラルは遊馬には何の責任もないと断言した。

 

「アストラル……」

 

「君は私を守ろうといつも必死だった。そしてベクターを……真月の事を仲間として、友として大切にしていた。君は……言わば一種の洗脳状態に掛かっていたんだ」

 

「洗脳状態……?」

 

「真月は何度も何度も、念を押して私を守る為だと君に言い続けた。秘密を守る事、バリアンのカードを使う事で私を必ず守れると遊馬は洗脳されていたんだ」

 

現実世界でも言葉だけで相手を支配し、思想や行動を都合よく誘導させる洗脳が実際にあり、それが詐欺や大事件などに繋がるケースは多々ある。

 

アストラルを守る……そんな遊馬の強い想いをベクターに狙われたのだ。

 

「ベクターは中々の巧妙な手を使ったものだ。我々の絆を破壊する為に時間をかけてきたんだからな……」

 

「悪知恵だけは本当に凄えからな……どうやったらあそこまで出来るんだろうな……」

 

遊馬とアストラルに復讐する為とナンバーズを奪う為にベクターは長い時間をかけて真月として遊馬と絆を結び、バリアンのカードを使わせてサルガッソでの作戦を実行したのだ。

 

根気のいる巧妙な作戦を行ったベクターに遊馬とアストラルはため息を吐きながら思わず感心してしまった。

 

「ね、ねえ……遊馬、アストラル……あれ……」

 

「小鳥?えっ!?」

 

「これは……」

 

すると小鳥は何かに恐怖で怯えながら遊馬とアストラルを呼び、振り向いた先には……。

 

「許せません……遊馬君とアストラルさんをあそこまで卑怯な手で追い詰めるなんて……!」

 

「私も久々にカチンと来ました……!」

 

「普通にアリトやギラグに協力すれば遊馬とアストラルに勝てたはず。なのに、二人を踏み台にして自分の欲を満たす為に遊馬とアストラルの絆を弄んだ……絶対にぶちのめしてやるわ」

 

マシュとジャンヌとレティシアは拳を握りしめてベクターに怒りの感情を向ける。

 

「ふはははは!よくも、よくも我が夫の心を弄んだな……その罪をその命を持って償ってもらおうか!」

 

「うん……ちょっとお姉さんも怒っちゃったな。とりあえずまずは正座をさせて説教はしないとね?」

 

ネロとブーディカも同じ気持ちで遊馬の心を弄んだことに怒りが込み上げていた。

 

「うふふふふ……旦那様を騙し、心を操って嘘を吐かせた罪は重いですわ……真月さん、あなたを私の炎で灰すら残さず焼き尽くして上げましょう……!」

 

嘘を何よりも大嫌いな清姫は嘘をついて遊馬を騙し、更には遊馬に嘘を吐かせたベクターを燃やし尽くそうと蛇化しかけながらメラメラと体から炎が燃え上がる。

 

「そうですね……敵を倒すのではなく、心を弄んで嘲笑うなど言語道断です。これは誅伐すべきですね……」

 

頼光はバリアンとして敵を倒す為に近づいたならまだしも、遊馬とアストラルの心を弄んでその光景を見て嘲笑うと言う自分の欲を満たす為に動いていたベクターに嫌悪感が爆発し、童子切安綱の鯉口を切った。

 

「ハ、ハハハ……クハハハハハハハハハハ!何という凶悪で卑劣な男だ!マスターの心をあそこまで追い詰めるとはな!アヴェンジャーキラーのマスターでもあいつは許せないだろう、よし……俺もこの人理の戦いを終えたら人間界に向かうとしよう、そしてマスターと共にあいつに最高の復讐を遂げて見せよう!!」

 

世界最高の復讐者であるエドモンはベクターのあまりの下衆な行為に復讐者としての逆鱗に触れたのか人間界で遊馬と共に復讐を決行しようと決めてしまうのだった。

 

「お兄ちゃんとアストラルを傷つけたあの人を許さない許さない許さない……」

 

「ねえねえ、あのベクターって人を解体してもいいよね?心臓を抉り取ってもいいよね?」

 

桜は黒化して病んだ目をしてベクターに怨みの言葉を発し、ジャックはナイフを持って純真無垢な目でベクターの心臓を抉ろうと考えていた。

 

その他にもベクターに対して怒りを露わにするサーヴァントが多数いた。

 

「み、皆さん……?」

 

「遊馬、これは我々が戦いを終えて人間界に帰ったらベクターの……真月の命が危ないのでは……?」

 

アストラルの脳裏にはマシュ達サーヴァントがベクターに会った瞬間に全力で襲いかかり、武器や宝具などをぶっ放して抹殺される未来が安易に想像出来た。

 

遊馬も同じような未来が想像すると、顔を真っ青にして天井に向けて思いっきり叫んだ。

 

「し、真月ー!世界の果てでも異世界でもどこでも良いから早く逃げてくれー!!」

 

百戦錬磨、一騎当千のサーヴァントを相手では絶対にベクターでは敵わないので一刻も早く逃げるように警告した。

 

しかし、異世界でその声が届くはずもなく、遊馬はベクター……真月を襲うみんなをどうやって止めようかと必死に考えるのであった。

 

 

 




マシュ「真月さん……いえ、ベクターは正攻法ではなく、時間と手間をかけて遊馬君とアストラルさんの絆を壊そうとしましたが、決して壊れない絆でなんとか勝てて良かったです……」

ジャンヌ「敵の罠とは言え親友だと信じていた方に裏切られるなんて……遊馬君の人生は本当に何度も辛い目にあっていたんですね。そして、アストラルさんも初めての裏切りにあそこまで乱すなんて……」

レティシア「よし、人間界に行ったら必ずベクターを殴り飛ばそう。まずは絶対に絶対に殴ろう。じゃないとこの気持ちが収まらないわ……!」

清姫「ふふふ……許しませんわ、ベクターさん。旦那様とアストラルさんをあそこまで追い詰めるなんて……さて、どうやって焼き殺しましょうかね……?」

ブーディカ「復讐を否定したユウマですら心をあんなにも乱していたから、そこまでユウマは相棒のアストラルや幼馴染のコトリとは違う……“親友”として、あのベクターに心を許していたんだね……」

ネロ「ふむ……さて、あのベクターとやらにユウマとアストラルを傷つけた裁きを下しに向かおうかの?」

武蔵「遊馬と真月の親友同士のやりとりをホクホクしながら見ていた少し前の自分を殴りたい気持ちです……」

桜「許さない許さない許さない……絶対に許さない……!」

ジャック「ねえ……おかあさん、あの人を解体してもいいよね?」

頼光「うふふふふ……あの罪人の首を切り落としても問題はありませんよね?」

アルトリア「人間関係で色々あった私としてはとても心苦しいです……ここからどうなるのか気になりますね……」

エミヤ「マスターとアストラルはよくあの絶望的な状況から勝てたものだ……」

エドモン「ふはははは!やるではないか、あの小僧は!さあ、マスターよ!復讐の時だ、今こそ復讐をするのだ!!」

イリヤ「いやー、あれはショックだよね……親友だと思ってた人が敵だったなんて……」

美遊「あれは辛すぎる……私だったら自決している……」

クロエ「でも最後のベクターがぶっ飛ばされたところはスカッとしたわね!」

次の話は遺跡編でストーリー上の都合で短めになると思います。


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ナンバーズ168 遊☆戯☆王ZEXAL 第二部・第二章『遺跡のナンバーズを目指せ!繋がる真実への扉(前編)』

お待たせしました。
家庭の事情と仕事の忙しさでなかなか投稿できずに申し訳ありません。
今後も気長に待ってくれれば幸いです。

今回から遺跡のナンバーズの話になります。


サルガッソでのバリアンとの死闘から数日後……あれから以前のようなバリアンの刺客などの襲撃も無く、遊馬達は束の間の平穏な日々を過ごしていた。

 

ハートランド学園でいつもの日々を過ごしていた時……突如、遊馬と凌牙と璃緒に寒気が走るような不気味な気配を感じた。

 

感じたことのない大きな気配に放課後、遊馬は小鳥と凌牙と璃緒の四人で屋上に集まった。

 

バリアンの気配を感じることが出来る璃緒に頼んで先程の大きな気配を探知できるか探ってみた。

 

「何か感じるか?」

 

「いいえ、さっきは強いものを感じたのに今は何も」

 

「いもシャのアンテナもダメかぁ」

 

「その名前で呼ぶな!」

 

「は、はいっ!?」

 

璃緒をイモシャと呼ぶ遊馬とのいつもの対応をしていると、突然空から突風が吹くとそこに現れたのは皇の鍵の飛行船だった。

 

飛行船が遊馬達を船内に入れるとそこにはアストラルがいた。

 

突然飛行船に連れてこられて遊馬達は驚いていると、アストラルは立体映像で地球の地図を映し出して説明した。

 

地図には七つの赤い点が記されており、そこには七つの遺跡があり、そこにナンバーズがあるというものだった。

 

そして、地図と共に一人の男性の立体映像が現れた。

 

「遊馬、アストラル」

 

「と、父ちゃん!?」

 

それは行方不明でVの話では現在はアストラル世界にいると思われている遊馬の父親・九十九一馬だった。

 

一馬は遊馬とアストラルにメッセージを残していた。

 

それは事態が最悪に向かっており、一刻も早く遺跡にある七枚のナンバーズを回収しなければならない。

 

そのナンバーズは特別なナンバーズでバリアンの手に渡れば強大な力が蘇る……一馬は遊馬とアストラルに頼んだぞとそう言い残して映像がそこで終了してしまった。

 

一馬はナンバーズとアストラルの事を知っていた。

 

つまり、この飛行船は一馬がDr.フェイカーによってアストラル世界に流れ着いた後に作ったことになる。

 

「いやー、もう遊馬君のお父さん……九十九一馬さんはどれだけ有能なのかな?ただの考古学者だけじゃなくて異次元や異世界の知識もあるし、あの飛行船すら作るなんて……この万能の天才のダ・ヴィンチちゃんですら嫉妬しちゃうよ」

 

遊馬とアストラルの為に色々と準備をしていた一馬の優秀さと天才的な頭脳にダ・ヴィンチちゃんも珍しく嫉妬した。

 

一馬が遊馬が困難な時にいつでも導いてくれた、遊馬は愛する父である一馬を信じて進むと決めた。

 

凌牙もバリアンに七枚のナンバーズを渡すわけにはいかないと共に行くと決め、璃緒は凌牙のお目付役としてついて行くと決めた。

 

そして、小鳥もいつものように一緒に行くと決め、早速遊馬達は遺跡のナンバーズを探しに出発するのだった。

 

「七つの遺跡……そこに眠るナンバーズ……良いねえ、燃える展開じゃないかい!」

 

「空飛ぶ船を使って世界を股にかける大冒険……良いですわね!」

 

「マスター達は中々の冒険を繰り広げているね」

 

「恐らくは既にバリアンも動いているはず……これは色々な意味でワクワクするでござるな!」

 

海賊のドレイクとアンとメアリーと黒髭は皇の鍵の飛行船を使った世界を股にかけた七つのナンバーズを巡る大冒険に心を躍らせる。

 

異次元トンネルを使って最初に向かう遺跡までの最短ルートを通っていくが、異次元空間がまるで嵐のように荒れていた。

 

遊馬はアストラル世界がどんな場所なのかとアストラルに尋ねた。

 

アストラル世界はランクアップした魂だけが行き着ける場所。

 

全ての生き物の魂は常に理想を目指しており、誰にでもランクアップの可能性はある。

 

しかし、どうやってランクアップ出来るのかはアストラルにも分からない。

 

すると、突然何かの赤い光が飛んできて飛行船と激突してしまった。

 

一瞬人影のようにも見えたその光が飛行船に激突すると、大きな衝撃で異次元トンネルから人間界に出てしまった。

 

更には遊馬達は甲板に出ていたのでそのまま目的地に投げ飛ばされてしまい、みんなバラバラになって逸れてしまった。

 

飛行船は先程の激突でダメージを受けてしばらく使えなくなってしまい、自動修復機能を使って修理しながら遊馬は急いで逸れた仲間達と合流する為に探す。

 

森の中を移動していると遊馬とアストラルは眼鏡をかけた少年が熊に襲われている光景を見てすぐに助けに向かった。

 

熊は恐らくは見えていないがアストラルの気配に気付いてその場から立ち去って難を逃れた。

 

遊馬が一安心するとそこに凌牙が合流すると謎の少年を睨みつけながら警戒した。

 

「私はナッシュ。ただの旅行者だ……」

 

ナッシュと名乗る少年にアストラルと凌牙は怪しいと睨む。

 

それもそのはず、最初に訪れた遺跡があるこの地は南アメリカのジャングルにあり、周囲には街や村などは無くとても旅行者が来るようなところでは無い。

 

凌牙は先程の飛行船と激突した謎のエネルギー体とベクターが遊馬を騙した経験からナッシュがバリアンではないかと疑い、遊馬に迂闊に人を信じるなと警告する。

 

すると突然、小鳥の悲鳴がジャングルに響き渡り、遊馬達は急いで悲鳴が聞こえた方角へと走った。

 

ジャングルを抜けたその先には石造りの大きな遺跡があり、その遺跡こそ遊馬達の最初の目的地であるナンバーズが眠る七つの遺跡の一つなのだ。

 

「あれはペガサスの紋章?」

 

メドゥーサは遺跡の入り口にあった彫刻にペガサスの紋章が刻まれていたことにいち早く気付いた。

 

遺跡の中に入ると小鳥と璃緒が大量の蛇に襲われそうになっており、遊馬と凌牙は蹴りで蛇を追い払う。

 

蛇を追い払って一安心すると璃緒は飛行船の外でもアストラルが見えるようになっており、璃緒は自分もランクアップしたと喜んでいた。

 

遊馬と凌牙は遺跡の奥に進むとそこにはそれぞれ赤と青に塗られた壁の前に向かったその時、床に仕込まれていたスイッチを同時に踏んでしまった。

 

遺跡が大きく揺れて天井から次々と壁が降りてきて閉じ込められ、その際に壁に挟まれそうになった凌牙をナッシュが飛びついてなんとか助けた。

 

遊馬達が分断されると赤と青の壁が扉となって奥に続く道が現れ、それぞれの先に進むしかなくなった。

 

遊馬達が進んだ先には開けた場所となっており、そこには大きなペガサスの石像と光り輝くカードがあった。

 

あれこそが探し求めていた遺跡のナンバーズ。

 

すると、ナンバーズから強い光が放たれると遊馬達の前に一人の男が現れた。

 

「私はこの遺跡のナンバーズを守るガーディアン。マッハ」

 

それは翼のような形をした肩鎧と甲冑に身を包んだ騎士だった。

 

それはナンバーズに秘められた精霊のような存在で、遺跡のナンバーズを手に入れる為にそのガーディアンであるマッハとのデュエルをしなければならない。

 

「ここは高貴な魂の眠る場所。その試練を乗り越えられねば、その代償、彼らの魂を貰う」

 

「彼ら?」

 

マッハが光の球体を作り出すとそこには凌牙とナッシュの姿が映し出されていた。

 

そして、遺跡の罠で壁が押し迫って二人を押しつぶそうとしていた。

 

「汚ねえぞ、てめえ!二人を離せ!」

 

「それはお前達次第。このデュエル、お前達が何を見つけるか……」

 

「私達が見つける……?二人を救う方法がこのデュエルに隠されていると言うのか……!?」

 

アストラルはマッハの言葉から二人を救う方法がデュエルの中にあると推測する。

 

遊馬はシャークとナッシュを救うために全力でデュエルをする。

 

遊馬はモンスターを召喚して次々と攻撃すると、凌牙とナッシュが罠を回避するための扉が開いていく。

 

しかし、マッハは永続罠カード『不公平条約』と永続魔法『決断の迷宮』で遊馬のライフポイントと手札を削るコンボをして追い詰める。

 

アストラルはこのデュエルにおける試練の意味を理解した。

 

モンスターでマッハに攻撃することで壁が迫る凌牙とナッシュに進むべき扉が開かれる。

 

しかし、攻撃することでマッハのコンボカードが発動して自分たちがダメージを受ける。

 

つまり、デュエルと罠が連動しているのだ。

 

だが、普通に戦っては遊馬とアストラルが敗北する可能性はとても高い。

 

遊馬は希望皇ホープをエクシーズ召喚すると、マッハもモンスターをフィールドに揃えて遂に遺跡のナンバーズを呼び出す。

 

「現れろ!No.44!悠久の大儀よ、今こそ古の眠りから目覚め、天空をかける翼となれ!『白天馬 スカイ・ペガサス』!」

 

現れたのはペガサスの姿をしたナンバーズで、一度共闘したメドゥーサは自然と興奮し、ステンノとエウリュアレは興味深く見つめる。

 

「おお、スカイ・ペガサス。あなたは遺跡のナンバーズだったのですね……」

 

「中々良いペガサスじゃない。あれは私達が飼っても良いわね」

 

「そうね、勇ましい姿をしているから気に入ったわ」

 

スカイ・ペガサスの効果はこれまでマッハの使った魔法・罠カードのように相手の選択を狙う効果で遊馬のライフポイントがどんどん削られていく。

 

そんな中、光の球体で向こうにいる凌牙とナッシュと話が出来るようになり、小鳥と璃緒が状況を説明する。

 

アストラルはマッハの言葉から部屋に何かデュエルのヒントになるものがないか尋ねた。

 

凌牙が周りを見渡すと部屋の一面に大きな壁画が描かれていた。

 

アストラルはこのデュエルと称したこの試練は一種の謎解きゲームで、凌牙が見つけた壁画に謎を解くヒントがあると推測する。

 

「これには……古の英雄についての伝説が綴られている」

 

「お前、そいつが読めるのか!?」

 

壁画の文字は古代文字なので凌牙に読めるわけがないが、ナッシュには何故か読めることが出来た。

 

それは遠い昔、とある国に仕える勇敢な騎士達がいた。

 

その一人は愛馬ペガサスに乗る英雄だった。

 

英雄率いる騎士達の活躍でその国の平和は守られた。

 

ある時、国を後にした英雄は自分の生まれ故郷に帰っていった。

 

だが、英雄がいなくなると残された騎士達が王を倒して国を乗っ取ろうとした。

 

騎士達は英雄が去った今、己の力に自惚れて自分たちが王に相応しいと言った。

 

壁画はそこまでしか描かれていなかった。

 

遊馬は希望皇ホープでスカイ・ペガサスを攻撃するが、マッハの罠カードで攻撃を防がれて再び『不公平条約』と『決断の迷宮』のライフポイントと手札を削るコンボで遊馬が追い詰められてしまう。

 

しかし、凌牙とナッシュは次の部屋に進むことができ、そこには壁画の続きがあった。

 

騎士達の謀反を知った英雄は城に駆けつけ、英雄は彼らに訴えかけた。

 

いかなる時でも心に掲げていた正義と共に戦った仲間との絆を思い出してほしいと。

 

しかし、かつての仲間は英雄に刃を向けたのだった。

 

英雄は仲間を斬ることができず、彼は無抵抗のまま仲間の剣に傷つき、倒れた。

 

その時、愛馬ペガサスが主人を守ろうと騎士達の前に立ちはだかった。

 

ペガサスが自分を犠牲にして英雄を守ろうとした。

 

しかし、その後の壁画は風化で崩れて読むことが出来なくなっていた。

 

マッハはスカイ・ペガサスの効果を使用して希望皇ホープを破壊するかライフポイントを支払うか再び選ばせた。

 

「遊馬、これ以上ライフを削られたらこのデュエル勝てねえ!俺たちのことは気にするな、ホープを破壊しろ!」

 

凌牙はデュエルを優先して希望皇ホープを破壊しろと言うが、遊馬はどうすればいいか悩んだその時。

 

「仲間を守れ!ホープを守るんだ、遊馬!」

 

ナッシュは確信を持ったように遊馬に指示した。

 

「私は、この伝説の続きを知っている!」

 

ナッシュはなんと、壁画に描かれていた伝説の結末を知っていたのだ。

 

英雄にはペガサスを見捨てることはできなかった。

 

彼はその場に留まり、ペガサスと共に息を引き取った。

 

「分からないのか!?この伝説は仲間を守り、人を信じる気持ちを語っている!遊馬、ホープを守り、私を信じろ!」

 

「貴様、何故そんなことを……やはり、お前は!?」

 

凌牙がナッシュの正体に気付いたその時、床が崩れて凌牙が落ちそうになり、ナッシュは凌牙の手を掴んだ。

 

「そうだ、凌牙。私は……私は……!」

 

ナッシュの右手首に巻かれたブレスレットの中央の赤い宝石のヒビが直り、ナッシュの体から赤い閃光が放たれ……その姿を変えた。

 

「私は、バリアンだ!」

 

現れたのはバリアン世界の使者の一人、ドルベだった。

 

ナッシュがドルベ……バリアンの一人という事実に遊馬の脳裏にベクターに騙された時のトラウマが蘇る。

 

「俺は……俺は……!」

 

「遊馬、君が何を信じるのか……君に託そう」

 

アストラルは遊馬に何を信じるのか……その選択を託した。

 

「くっ……」

 

「さあ、この試練……乗り越えてみろ!スカイ・ペガサスよ、ホープを破壊しろ!」

 

「俺はライフを払って、ホープの破壊を無効にする!!」

 

遊馬が選択したのは希望皇ホープを守ること。

 

だが、これで遊馬のライフポイントにダメージが入り、残りのライフポイントが200となってしまう。

 

その時、アストラルはある事に気づいた。

 

一方、ドルベは凌牙を引き上げて助けた。

 

「遊馬!てめえ、何故こいつのいう事を!?」

 

「シャーク……俺にはやっぱり、疑えないんだ。疑いたくねぇんだ!誰も!」

 

遊馬は例え裏切られ、騙された時の辛い過去があったとしても、敵である可能性があっても疑いたくない。

 

しかし、その思いがこのデュエルの勝利へと導く。

 

「遊馬、彼のコンボは崩れた!攻撃だ!」

 

アストラルの指示で希望皇ホープでスカイ・ペガサスを攻撃し、再びマッハのコンボが発動するかと思われたが……カード効果が発動しなかった。

 

その理由はマッハのカードは元々自分でライフポイントを支払う事で発動するが、不公平条約で遊馬がライフポイントを支払う事になった。

 

しかし、遊馬が希望皇ホープを守った事でスカイ・ペガサスの効果でダメージを受けて今のライフポイントが200になったことでカード効果を発動する為の『コスト』が払えなくなってしまった。

 

デュエルモンスターズでは発動する為のコストが無い時にそのカード効果を発動出来ないルールがある。

 

つまり、遊馬がコストを払えなくなった今、そのコストはマッハが支払わなければならなくなり、これでマッハのコンボが完全に崩れた事となった。

 

「君の選択は正しかった!行け、遊馬!」

 

遊馬の仲間を守るという選択が勝利への活路を切り開いたのだ。

 

「おう!そうと分かりゃあ、俺はさっき墓地に送ったカウンター罠『超速攻』を発動!このカードを手札から墓地に送った時、デッキからカードを1枚ドローして、それが魔法カードだった時、速攻魔法として扱う!」

 

遊馬が引いたカード……それはサルガッソにてZEXAL IIの力で覚醒させた『RUM - ヌメロン・フォース』。

 

ヌメロン・フォースを速攻魔法として発動させ、希望皇ホープをランクアップさせる。

 

「現れろ、CNo.39!希望に輝く魂よ、森羅万象を網羅し、未来を導く力となれ!希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!」

 

希望皇ホープを希望皇ホープレイ・ヴィクトリーに進化させる。

 

ヌメロン・フォースの効果でマッハのフィールドのカード効果を無効にしてからのモンスターとの戦闘ではほぼ無敵とも言える希望皇ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃によりスカイ・ペガサスを切り裂き、マッハとのデュエルに勝利した。

 

マッハに勝利した事により、凌牙とドルベの罠が全て解除されて出口への道が開かれた。

 

「お前達は試練を乗り切った……」

 

「マッハ、その英雄に仕えていたペガサスとは君の事か?」

 

アストラルはマッハの正体を察していた。

 

マッハはただのナンバーズの精霊ではない。

 

この遺跡の伝説に描かれたペガサスが精霊となった存在だったのだ。

 

「そう、伝説には続きがある」

 

騎士達は命懸けの英雄とペガサスに心を打たれ、己を恥じ、謀反の気持ちが消えた。

 

彼らは英雄とペガサスを手厚く葬り、その墓の前に深々と首を垂れた。

 

そして、英雄はペガサスの魂と共に天に召されていった。

 

「これが伝説の全てだ。遊馬、アストラル、お前達の人を信じる力に賭けてみよう……」

 

マッハは穏やかな笑みを浮かべながら精霊の姿からスカイ・ペガサスのカードとなって遊馬の手に収まった。

 

「貴様、何故俺たちを助けた?」

 

「分からない……あえて言うのなら、この遺跡の伝説に心を動かされたからだ」

 

「ドルベ!ありがとうな、お前がこの伝説の続きを教えてくれなかったら……」

 

「いいや、お前が選んだ事だ。それにお前はそんなものを聞かずとも、人を信じたさ。だが、こんな戯言はこれっきりだ。今度会った時、その時は決着をつける」

 

ドルベはバリアンであり、敵であるが遊馬達にデュエルを挑まずに回復した力を使って異世界の扉を開いてそのまま消えてしまった。

 

「ドルベ……ん?」

 

遊馬は王冠を被ったライオンが描かれたコインを拾った。

 

それは覇者のコインと呼ばれるもので一馬のものだった。

 

一馬は冒険した場所の証としてそのコインを置いていく癖があるらしい。

 

遊馬達は凌牙と合流して遺跡の外に出る。

 

「アストラル、シャーク。俺、ずっと考えてたんだ。バリアンの奴らは俺が人を信じることを利用してくる。でも、俺には結局人を疑うことなんて出来ねえ。人を信じるしか出来ねえんだ」

 

「それが君の結論なら今は何も言うまい。例え、それでこれから私と違う道を行くことになっても……」

 

アストラルは遊馬の結論を受け入れながらもその先にある未来に一抹の不安を抱いていた。

 

「ナッシュ……いいえ、ドルベが遺跡の古代文字を読むことができ、白馬伝説の全てを知っていた。異世界人であるはずの彼が……これはバリアン世界の住人に何か大きな秘密がありそうですね」

 

メドゥーサはドルベが遺跡の伝説を知っていた事からバリアン世界の住人がただの異世界人ではないと睨んだ。

 

マッハとのデュエルが終わり、遊馬達は皇の鍵の飛行船に乗り、次の遺跡に向かった。

 

遊馬は飛行船の操舵輪を手に取り、堂々と宣言した。

 

「行くぜ!かっとび遊馬号!」

 

「遊馬号?」

 

「いつそんな名前がついた?」

 

「まぁ、いいじゃん!アハハハッ!」

 

「ネーミングセンス、ゼロですわね」

 

「うふふ……」

 

こうして皇の鍵の飛行船は『かっとび遊馬号』と言う名前に命名されるのだった。

 

飛行船は一馬が作ったもので、所有権は遊馬とアストラルで半々のようなものなので船名はそれになるのだった。

 

次の遺跡の場所は自然豊かな孤島にある古城だが、璃緒はここはとても危険な場所だと感じた。

 

遺跡に入るが既に空気がとても嫌な感じを出しており、璃緒の霊感が遺跡にある古代の人の嘆きや苦しみを感じていた。

 

そして、両眼を緑色に輝かせながらこの遺跡の伝説を語り始めた。

 

かつてこの王宮に住まい、島を収めた王子がいた。

 

幼き頃より人臣を信じず、全ての人間に疑惑の目を向け、これを裁く。

 

全ての人々の命を奪いし後、王子一人残りて、自ら命を経つ。

 

それはとても恐ろしい呪われし伝説だった。

 

遊馬達は遺跡の奥に進むとマッハの遺跡と同じような罠が大量があった。

 

しかし、遊馬は恐らくは一馬が付けたと思われる星印に触れると罠を回避する部屋が開いた。

 

一馬はこの遺跡を攻略した際に一番避けやすい罠の通路に目印を付けていたと遊馬は推測する。

 

一馬の事を褒められて遊馬が何故か照れて肘が壁にあった不思議な模様の石にぶつかった瞬間、突然遊馬達の足元に落とし穴の罠が発動してしまい、遊馬達は下へと滑り落ちていく。

 

辿り着いたところはなんと牢屋でそこで思わぬ人物と再会する。

 

「よう、久しぶりじゃねえか。遊馬君よぉ!」

 

それは玉座と思われる椅子に座っているベクターだった。

 

「お、お前、ベクター!」

 

「おやおや寂しいな。もう真月とは呼んでくれないのかい、遊馬君」

 

ベクターは明らかに遊馬を挑発したが、遊馬はサルガッソの時のような憎しみは既になく、バリアンとして敵として睨みつけていた。

 

ベクターは一足先にこの遺跡に入って既にこの遺跡のナンバーズを手に入れたと告げた。

 

ベクターはナンバーズをかけてデュエルを申し込んだが、あの真月が正々堂々と遊馬とデュエルをするはずがなかった。

 

玉座の側にある鎖を引っ張ると遊馬の牢屋の絡繰が発動し、牢屋から目の前にある柱の上に叩き出されてしまった。

 

回収した遺跡のナンバーズからこの遺跡……悲鳴の迷宮について色々知る事が出来、それで遊馬を柱の上に追い詰めた。

 

これでは遊馬がデュエルは出来ないが、ベクターが指名したのはアストラルだった。

 

遊馬を人質に取られたのと同じ状況なのでアストラルはそれを承知したが、デュエルの相手はベクターではない。

 

「フフフフフ……!久しぶりだな、アストラル!ここでなら、俺たちでも存分にデュエルが出来る」

 

現れたのは先日アストラルから解放されて行方不明となっていたNo.96だった。

 

No.96はベクターと協力してこの遺跡のナンバーズを手に入れたのだった。

 

No.96はアストラルの体を手に入れるためにデュエルを挑み、アストラルは遊馬達を助けてNo.96との因縁に決着をつけるためにそれに応える。

 

アストラルはデュエルディスクを左手首に出現させ、デッキは遊馬のカードを拝借してセットした。

 

アストラルとNo.96とのデュエルが始まり、早速No.96はレベル2の闇属性悪魔族モンスターのマリスボラスモンスターを連続で召喚して『No.96 ブラック・ミスト』をエクシーズ召喚する。

 

恐らくはアストラルから解放された後に手に入れたカードで分身であるブラック・ミストをエースにしたデッキ構築していた。

 

対するアストラルはブラック・ミストの効果を熟知しているので、希望皇ホープと装備カードのコンボ攻撃でNo.96にダメージを与えていく。

 

アストラルの見事な戦術で先制攻撃を与えたが、その瞬間に遊馬に危機が襲いかかる。

 

突然、巨大な振り子ギロチンが現れて遊馬に襲いかかった。

 

「ああ、言い忘れていたが、No.96のライフポイントが減少する度にこの悲鳴の迷宮の仕掛けが一つ作動する」「な、何だと!? うわぁ!!」「フハハハハハッ!!」

 

つまり、アストラルではなくNo.96がピンチになればなるほど、悲鳴の迷宮の罠をベクターが発動させて遊馬をピンチに追い詰めていく。

 

これではアストラルは攻撃する事が出来ず、サルガッソの時以上の更なる外道なやり方にマシュ達は再び怒りを募らせていく。

 

「……エリザベートよ、確か未来のお主は拷問器具を持っていたな?それを借りても良いか?」

 

「そうね……本当は嫌だけど、私もちょっと借りようかと思うわ」

 

ネロとエリザベートは怒りの炎を燃え上がらせてカーミラに宝具でもある拷問器具のアイアンメイデンを借りてベクターに使わせようかと本気で思い始めるのだった。

 

No.96は一足早く手に入れたこの悲鳴の迷宮の遺跡のナンバーズを召喚した。

 

「現れろ、No.65!呪われし裁きの執行者!『裁断魔人 ジャッジ・バスター』!」

 

現れたのは両手の代わりに鋭い刃を持ち、罪なき人をも裁く恐ろしい魔人だった。

 

ジャッジ・バスターはモンスター効果と発動を無効にする効果を持っており、希望皇ホープの効果を無効にされてしまい、ブラック・ミストに破壊されてアストラルは大きなダメージを受ける。

 

アストラルは今はまだNo.96のフィールドや遊馬の事もあり、下手に攻撃する事せずに守りに徹して反撃のチャンスを待つ。

 

最後まで諦めないアストラルに対してNo.96は人間の仲間意識の弱さや脆さなどを批判し、アストラルは遊馬の人間の弱さに染まってしまったと指摘した。

 

そして、No.96は今まで謎だったアストラルがカオスナンバーズを吸収できない理由を説明した。

 

それはアストラルにNo.96の力が無いからである。

 

つまり、No.96がいなければナンバーズを全て揃えることは不可能で、No.96はアストラルにはヌメロン・コードを手に入れる資格はないと告げた。

 

No.96はバリアンと手を組んだことで得られた新たな力を使う。

 

それはベクターから与えられた力……『RUM バリアンズ・フォース』のカードだった。

 

No.96はバリアンズ・フォースでジャッジ・バスターをランクアップさせる。

 

「現れろ!CNo.65!数多の怨念を纏いし裁きの魔王……『裁断魔王 ジャッジ・デビル』!」

 

魔人から魔王へと進化したジャッジ・デビルは相手モンスターの効果を無効になり、発動する事が出来なくさせた。

 

再びの怒涛の攻撃によりアストラルは追い詰められたが、罠カード『エクシーズ・リボーン』で希望皇ホープを復活させて何とか耐える事が出来た。

 

しかし、今のままではアストラルが逆転することは出来ず、No.96は自身の勝利を確信していた。

 

「俺のせいだ……アストラルは俺を守る為に……お前が本来のデュエルを出来さえすれば……もしデュエルに負けてアストラルが消えちまったら……俺は……俺は……」

 

遊馬はアストラルが追い詰められてしまったことに責任を感じて自分を責めた。

 

「顔を上げろ。目の前の出来事から目を逸らすな。全てと向かい合い、今自分に何が出来るか考えろ」

 

「俺に……俺に何が出来るってんだよ!?教えてくれよ、アスト──」

 

「甘ったれるな!」

 

アストラルは珍しく声を張り上げて遊馬を叱咤した。

 

その言葉に遊馬の焦っていた感情が一気に冷えて冷静となる。

 

「アストラル……俺に出来ること、俺が今すべきこと……」

 

「遊馬、気付いてくれ……君なら必ず……」

 

遊馬はアストラルの為にも早くなんとかしなければと必死に考える。

 

「そうだ、そうだよ。ここから脱出する。何がなんでも……それしかねえじゃん。はっ!?あれは……向こうの柱に飛び移ることが出来れば……でも、どうやって……」

 

遊馬は十数メートル先にある同じような形の柱を見つけ、そこに飛び移れば助かると考えたが、自分の身体能力を考えてもそれは難しかった。

 

すると、遊馬の前を勢い良く通り過ぎる振り子ギロチン……それを見てハッと気づいた。

 

しかし、もし失敗すれば遊馬の命はない……弱気になったその時、足元に一馬の覇者のコインを見つけた。

 

遊馬は覇者のコインから一馬の勇気を貰い、アストラルがギリギリの戦いをしている中で自分が一歩前を踏み出さなければと言う強い気持ちを取り戻した。

 

「かっとビングだ、俺!」

 

遊馬は勇気を出して振り子ギロチンに飛び乗った。

 

そして、遊馬の狙い通りに反対側の柱に飛び移った。

 

「「「嘘ぉ!??」」」

 

「「「えぇえええええーっ!??」」」

 

悲鳴の迷宮の処刑道具の罠すら攻略した遊馬の身体能力にマシュ達も驚きを隠せない。

 

「チッ!逃げられると思うなよ!」

 

ベクターは別の罠を作動させて天井から巨大な鉄球を落とすが、遊馬はそれすらも華麗に回避してアストラルのいるフィールドまで到達した。

 

「マスター!筋肉自慢が出るアスレチックの番組に出ることをお勧めする!君なら絶対に優勝出来るぞ!?」

 

エミヤは興奮して筋肉自慢が集ってアスレチックを攻略して競い合う番組で遊馬なら絶対に優勝出来ると豪語した。

 

「素晴らしい!マスターのかっとビングとその筋肉で卑劣な策略を打破しましたぞ!!」

 

レオニダスは遊馬の恐怖に打ち勝つ勇気ある行動と鍛えた筋肉によって凶悪な罠を突破したことに感動した。

 

「いっけー、アストラル!奴を思いっきりぶちのめせ!!」

 

「遊馬……」

 

遊馬が無事にベクターとNo.96の罠の危機をから回避し、アストラルは安心した笑みを浮かべた。

 

「遊馬、てめぇ……!!」

 

再び遊馬によって卑劣な罠を突破されてベクターは悔しそうな表情を浮かべ、これには「ざまあみろ」と思う者も何人かいた。

 

「くっ。だが、俺の絶対的有利は変わらん!」

 

「それはどうかな?」

 

「何!?」

 

「既に勝利の方程式は出来ている!」

 

アストラルは希望皇ホープを希望皇ホープレイに進化させ、更にはセットしていた『スペリオール・オーバーレイ』でジャッジ・デビルを破壊し、ブラック・ミストの最後のオーバーレイ・ユニットを使わせた。

 

これでブラック・ミストの効果は使えなくなった。

 

一気に形勢逆転となり、スペリオール・オーバーレイはアストラルが最初にセットしていたカード……この逆転の一手にNo.96に焦りの表情が出てくる。

 

「馬鹿な!貴様はこの状況全てを想定していたというのか!?」

 

「その通りだ」

 

アストラルは遊馬が人質に取られていた時点からあらゆる状況を全てを想定し、遊馬が無事に罠を突破出来ると信じてこの瞬間まで耐えていたのだ。

 

No.96はアストラルの遊馬を人質に取られたことで攻撃できないと言う策に溺れたのだ。

 

アストラルは希望皇ホープレイの効果を使って攻撃力を上昇させ、ブラック・ミストの攻撃力を減少させる。

 

これで攻撃してブラック・ミストを破壊すればアストラルの勝利となる。

 

しかし、No.96は最後の悪足掻きに出た。

 

「俺は貴様の思い通りにはならん!罠発動!『カオス・リターン』!このカードは相手の攻撃時、その攻撃を無効にする!」

 

「何!?」

 

「更に手札を一枚捨て、墓地の魔法カードを発動させる!俺は墓地のランクアップマジック、バリアンズ・フォースを発動!」

 

希望皇ホープレイの攻撃が無効となり、墓地のバリアンズ・フォースのカードが再び発動し、No.96がランクアップの対象にしたのは……己が分身であるブラック・ミストだった。

 

「現れろ、CNo.96!混沌なる嵐を巻き起こし、今ここに舞い降りよ!『ブラック・ストーム』!!」

 

ブラック・ミストをランクアップさせて現れたのは不気味な漆黒の獣だった。

 

しかし、変化したのはブラック・ミストだけではなかった。

 

「ふははははっ!!うぉおおおおおおおぉ!!!」

 

No.96の額にバリアンの紋章が浮かび、カオスの力が溢れ出して肉体が一回りも二回りも大きくなって全身の筋肉がムキムキとなり、背中にはベクターのバリアンの姿の時のものに似た翼が生えていた。

 

ブラック・ミストをカオス化させたことでバリアンズ・フォースに宿る膨大なカオスのエネルギーが本体であるNo.96の体に流れ込んでその力を何倍にも増幅させたのだった。

 

もはや元となった黒いアストラルの姿とは別人レベルに変わり果ててしまった。

 

「これで貴様は、俺を吸収することは出来ん!!」

 

No.96はアストラルに吸収させないための最後の賭けとしてバリアンズ・フォースのカオスの力を取り込んでパワーアップをしたのだ。

 

「あいつ……自らカオス化しやがった!?」

 

これにはベクターも予想外だったらしく、No.96の行動にはとても驚いていた。

 

ちなみに、このNo.96の異変に1人だけ激怒している者がいた。

 

「……ふざけるな!なんなのだ、あの偽りの筋肉は!?あんな筋肉、私は断じて認めないぞ!」

 

カオス化で何故かムキムキの筋肉を手に入れたNo.96にレオニダスは激怒していた。

 

脳筋であり、筋肉を愛しているレオニダスには絶対に許せない光景だった。

 

「カオス……やはりあの力はマスター達は正しく使えるが、それ以外の者にとっては邪なる力か……」

 

一方、闇の力とも言えるカオスを正しく使えている遊馬やアストラルとは異なり、使用者の見た目すらも大きく変えてしまう強大な力にアルジュナは恐ろしさを感じてしまう。

 

カオス・リターンの最後の効果で希望皇ホープレイとブラック・ストームが再び戦闘を行う。

 

ブラック・ストームの効果はバトルで破壊された時、発生するダメージは互いのプレイヤーが受けることになる。

 

希望皇ホープレイのホープ剣がブラック・ストームを切り裂いた瞬間に大きな爆発がアストラルとNo.96に襲いかかり、二人のライフポイントが同時にゼロとなった。

 

相打ちの結果となり、往生際の悪いベクターは最後の罠を発動させた。

 

それはこの遺跡を崩壊させるものでこのままでは遊馬達を下敷きになってしまう。

 

ベクターとNo.96は異世界の扉を開いてその場から消え、崩壊する遺跡から遊馬達は脱出する方法が無かった。

 

フィールドが崩壊し、遊馬が奈落の底に落ちそうになったその時、ハートランドから急いで来たカイトと飛行形態のオービタル7が助けた。

 

カイトとオービタル7はこの地の空間の変化を探知して駆けつけたのだ。

 

「カイト!?なんでお前が!?」

 

「説明は後だ!」

 

小鳥達は牢屋の壁が崩れた事で元来た道に戻ることができ、遊馬はカイトとオービタル7のお陰で全員無事に遺跡を脱出する事が出来た。

 

カイトとオービタル7にも遺跡のナンバーズの説明をし、今後はナンバーズ回収のために共に行動する事となった。

 

7枚の遺跡のナンバーズの内、スカイ・ペガサスは遊馬とアストラル、ジャッジ・バスターはNo.96に奪われてしまった。

 

残りは5枚……遊馬達はかっとび遊馬号で次の遺跡に向けて出発する。

 

 

 




色々書いてみた結果、記憶編の1話1話の長さを短めにして投稿しやすくしようと思います。
次の話は半分近く既に書けているので頑張ります。


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ナンバーズ169 遊☆戯☆王ZEXAL 第二部・第二章『遺跡のナンバーズを目指せ!繋がる真実への扉(後編)』

ライオ・ホープレイにホープドラグナー……やばいです!新たな希望皇の登場にワクワクが止まりません!
今後の特異点やラスボスで活躍できそうな希望皇が出てきてどれを出そうかマジで悩みます。


悲鳴の迷宮から脱出した遊馬達は次の遺跡に向かった。

 

三番目の遺跡があるのは今までの二つの遺跡とは異なり、大都市の中にある。

 

その都市の名はスパルタンシティ。

 

かなり賑わっており、到着するなり小鳥と璃緒はウキウキ気分でショッピングをして新しい服を着ていた。

 

「おお、あのスパルタンシティ……分かる、分かるぞ、あれは間違いなくローマだ!」

 

「ローマァアアアア!!」

 

「ふむ、あそこは間違いなくローマだな!」

 

「──ローマである!!!」

 

歴代ローマ皇帝達のネロ、カリギュラ、カエサル、ロムルスはスパルタンシティがローマであると確信し、興奮して大騒ぎをする。

 

スパルタンシティはイタリアにあるので確かにローマと言っても間違ってはいない。

 

街を歩いていると遊馬は空中スクリーンに流れている映像が目に留まった。

 

それはスパルタンシティで行われているデュエルトーナメントの宣伝で出場しているデュエリストはどれも見た目からして濃そうなキャラが並ぶ中、遊馬はその中にいる一人に驚いていた。

 

謎の最強覆面デュエリスト、その名はゴーシュ・ザ・スターマン。

 

目元を星型の仮面を付けていて一瞬誰だか分からなかったが、その名前と鍛え抜かれた肉体でカイト達も誰だかすぐに気付いた。

 

遊馬達は急いでスパルタンシティのデュエルスタジアムに向かうと、観客満員の大盛況の中でデュエルトーナメントが行われていた。

 

そして、会場に現れたゴーシュ・ザ・スターマンに観客から応援の声が響き渡り、特に子供達に大人気だった。

 

ゴーシュ・ザ・スターマンはヒロイックモンスターを操り、相手のプロデュエリストを華麗に倒した。

 

デュエルの後、ゴーシュ・ザ・スターマンはファンの子供達にサインを書いていると……。

 

「俺にもサインくれよ!へへっ、ゴーシュ、ドロワ!」

 

「お、お前……遊馬!」

 

遊馬達はゴーシュ・ザ・スターマン……否、ゴーシュと隣にいたドロワの二人と再会を果たした。

 

ゴーシュとドロワはWDCで雇い主であるMr.ハートランドが行方不明になった後にプロデュエリストの道を進んだのだ。

 

ゴーシュはゴーシュ・ザ・スターマンとして連戦連勝で勝ち上がり、次はチャンピオンに挑戦予定でドロワはゴーシュのマネージャーを勤めている。

 

ちなみにゴーシュは当初ドロワと二人で覆面タッグデュエリストでデビューしようと考えていたが、ドロワは流石にゴーシュみたいな衣装を着るのはキツイものがあるので断固拒否した。

 

ゴーシュは自身とドロワの幼少期の孤児としての辛い経験からデュエルで子供達の希望の星になろうと星からの使者『ゴーシュ・ザ・スターマン』として活躍しているのだ。

 

「子供達の希望の星か……ふふっ、良き心を持つ者達だ」

 

アタランテはゴーシュとドロワの想いに感銘を受けて嬉しそうに笑う。

 

ゴーシュとドロワは遊馬達をホテルのディナーに誘い、そこで夕食を取りながらこの街の遺跡について聞いた。

 

それはコロッセウムの遺跡に彷徨う拳闘士の魂の伝説。

 

かつてこの地には己の拳一つで勝ち続けた最強の拳闘士がいた。

 

拳闘士にはライバルがいたが、それはその国の王子だった。

 

拳闘士と王子……二人は何度も戦うことで立場を超えた戦う者同士の絆を育んでいった。

 

そんな二人が雌雄を決する時が来たが、大観衆の前で王子が敗れるようなことは許されない。

 

そこで側近達は拳闘士に無実の罪を着せて捕らえ、拳闘士は必死に無実を訴え、ライバルの王子も弁護したが聞き入れられなかった。

 

そして、大観衆が見ている前で拳闘士は無残に処刑されてしまった。

 

「王子と絆を育んだ最強の拳闘士……ね……まるであの子みたいね」

 

マルタは遺跡の伝説を聞いて遊馬と拳を交わした一人の少年のことを思い出した。

 

しかし、そのコロッセウムの遺跡は彷徨う拳闘士の魂を封じるために土手を築いて水を流し込んで大きな湖となっており、これでは調べることは出来ない。

 

調べる方法が分からず、日も沈みかけているので続きは明日に行うことにした。

 

その日の夜、遊馬達はホテルで就寝していると、アストラルは遺跡の異変に気付いて遊馬達を起こした。

 

ベランダに出て双眼鏡で湖を確認すると、驚くことに湖の水が全て抜かれてコロッセウムの遺跡が現れたのだ。

 

バリアンが仕掛けたと思い、すぐに遺跡に向かおうと思ったが璃緒はコロッセウムの遺跡から恐怖を感じていた。

 

そこに寝巻き姿のドロワが出てきて遊馬達は事情を説明し、車を用意してコロッセウムまで運転してもらった。

 

しかしゴーシュはホテルにはおらず、小鳥は熟睡しているので遊馬とアストラル、凌牙と璃緒、カイトとドロワの六人でコロッセウムに向かうことになった。

 

コロッセウムに到着すると湖の水が全て引いており、早速中に入るとそこにはホテルにいなかったゴーシュがいた。

 

そして、もう一人はなんとアリトだった。

 

ベクターの闇討ちで倒れたアリトと再会できて遊馬はとても喜んだ。

 

しかし、アリトは邪悪な笑みを浮かべながら燃え上がる炎のように輝くカードを見て近寄ってきたゴーシュを見ると驚くべき行動をする。

 

「ゴーシュとか言ったな。しばらくこいつを貸してやる!」

 

アリトは持っていたカードをゴーシュに投げ渡し、そして……。

 

「そいつを使って俺と一緒に九十九遊馬を倒すんだ!」

 

何とアリトはかつてギラグがやったようにバリアンズ・フォースのカードを使ってゴーシュの額にバリアンの紋章を浮かび上がらせて洗脳したのだ。

 

アリトがゴーシュを洗脳したことに遊馬は信じられない気持ちとなり、この場に四人のデュエリストがいるのでアリトはタッグデュエルを申し出た。

 

アリトは洗脳したゴーシュとタッグを組み、ドロワは遊馬のパートナーを名乗り出た。

 

「奴の心が敵の手に堕ちたのなら、それを取り戻すのは私だ!」

 

凌牙がタッグデュエルで遊馬のパートナーになろうとしたが、ドロワのゴーシュを思う強い思いを感じたカイトがそれを抑えた。

 

遊馬はアリトに何故ゴーシュを巻き込むのかと問うたが、アリトは洗脳したゴーシュをまるで道具のように扱うみたいな態度を取り、明らかに性格が酷く変化していた。

 

それは敵同士でありながらも互いを尊敬し、熱く激しいデュエルを繰り広げたあの時のアリトとは最早別人みたいな雰囲気だった。

 

こうして始まった遊馬とドロワ、ゴーシュとアリトのタッグデュエル。

 

遊馬はアリトへの静かな怒りと疑心を抑えながら希望皇ホープをエクシーズ召喚する。

 

そして、ゴーシュはアリトから渡されたカード……この遺跡のナンバーズを呼び出す。

 

「現れろ、No.54!熱き闘志の雄叫びが眠れる魂すらも震わせる!『反骨の闘士 ライオンハート』!」

 

現れたのは獅子の頭を持つ屈強な拳闘士、ライオンハート。

 

「ライオンハート……私と拳を交えたあなたも遺跡のナンバーズだったのね」

 

オルレアンでライオンハートと拳を交えたマルタはその時受けた頬の痛みを思い出す。

 

ライオンハートの攻撃力は僅か100。

 

このまま攻撃すればただの自殺行為だが、ライオンハートの効果はモンスターとのバトルでプレイヤーが受けたダメージを相手プレイヤーにも与える。

 

希望皇ホープとライオンハートの攻撃による拳が互いの頬を殴り、それと同時に遊馬とゴーシュに大ダメージを与えた。

 

ライオンハートは自分のライフポイントを削るのでリスクが高く、その為に手に入れたアリト自身ではなくゴーシュに使わせたのだ。

 

一対一のモンスター同士の熱いバトルとカウンター罠を駆使して戦うはずのアリトらしからぬ戦い方に遊馬は批判する。

 

「お前、こんな戦い方をする奴じゃなかったはずだろう!?」

 

「九十九遊馬、お前に負けた恨みが俺を変えたのさ!」

 

アリトは遊馬に負けた恨みが自分を変えたと言う。

 

すると、遺跡の観客席に無数の青い炎のようなものが現れて聞き取れないが歓声のようなものが響いていた。

 

「これは……遥か昔、このコロッセウムを埋め尽くした、時を超えた人々の思い!」

 

霊感のある璃緒がこの現象を説明した。

 

どうやら希望皇ホープとライオンハートの激突とこの場にいるデュエリスト達の熱き魂によってこの現象を引き起こしたらしい。

 

「おお……これぞ、コロッセウムの熱狂!剣闘士達のぶつかり合う熱き魂!!」

 

トラキアの剣闘士のスパルタクスは熱狂に包まれるコロッセウムに生前を思い出して魂が燃え上がっていた。

 

遊馬はゴーシュを元に戻すため、先にアリトを倒そうと攻撃を仕掛けるが、アリトがセットしていた『BK リベージ・ガードナー』は攻撃対象を変更する効果を持ち、希望皇ホープは再びライオンハートとバトルすることになり、更にオーバーレイ・ユニットも墓地に送られてムーン・バリアも使えなくした。

 

このままではライオンハートの効果で遊馬とゴーシュに再び大ダメージが与えられて遊馬とゴーシュのライフポイントがゼロになってしまう。

 

その時、ドロワの罠カードで遊馬へのダメージを半分にして守ったが、ゴーシュのライフポイントがゼロになってしまった。

 

しかし、ライオンハートには更なる効果を持っており、プレイヤーのライフポイントがバトルで0になる時にオーバーレイ・ユニットを一つ使うことでライフポイントを100にする。

 

ライオンハートから放たれた炎の闘志が倒れたゴーシュに与えられると止まった心臓を蘇らせるようにライフポイントが0から100になる。

 

ライオンハートのオーバーレイ・ユニットがある限り何度倒れても戦い続けることが出来るがプレイヤーであるゴーシュの体がボロボロになっていく。

 

自分で使わずにライオンハートをゴーシュに代わりに使わせて戦わせるかつてのアリトらしくない非道な行いに遊馬は信じられない気持ちと一緒に怒りを募らせる。

 

「ゴーシュ……その様はなんだ!?今のお前のしているデュエルには熱さのかけらも無いぞ!お前は忘れてしまったのか、お前の夢を!お前と私の夢を……答えろ、ゴーシュ!」

 

ドロワは洗脳されているゴーシュに向けて想いを込めた言葉を紡いでいく。

 

続くアリトのターンで『BK チート・コミッショナー』をエクシーズ召喚し、希望皇ホープに攻撃するがチート・コミッショナーの効果でバトルの相手を入れ替える効果でまたしても希望皇ホープとライオンハートのバトルが行われようとした。

 

しかし、ドロワが罠カード『幻蝶の勇姿』でライオンハートと自分のモンスターとのバトルを変更させて遊馬を守り、ゴーシュとドロワにライオンハートの大ダメージを受ける。

 

「ゴーシュ!それが今のお前のノリか。そんな死んだ目をしたデュエルで子供達の希望の星になれると思っているのか!?」

 

ドロワはゴーシュの魂を呼び覚ますために新エース『ナイトバタフライ・アサシン』をエクシーズ召喚し、ライオンハートのオーバーレイ・ユニットを奪う魔法カードを使ったがアリトの罠カードで防がれてしまい、更にはナイトバタフライ・アサシンとライオンハートの強制バトルが発生してしまった。

 

ドロワは今の自分ではこの展開を覆すことは出来ないと察した……だが、ドロワはナイトバタフライ・アサシンの効果を使ってオーバーレイ・ユニットの数だけ攻撃力を上昇させた。

 

しかし、攻撃力を上昇させただけではオーバーレイ・ユニットを持っているライオンハートを倒すことは出来ず、逆に自分に大ダメージを受ける。

 

一見無駄にも思えるドロワの行為にカイトはその意味を感じ取った。

 

「あの4600はただの攻撃力の数値ではない。あれは言うなればゴーシュに向けたドロワの想いの強さ。ドロワは今、己の持てる全てを叩きつけることで洗脳されたゴーシュの心を取り戻そうとしている!」

 

「行け!今の私の全てをゴーシュに叩きつけ、奴のデュエリストの魂を呼び覚ませ!ゴーシュ、私のありったけを……喰らえ!!」

 

ナイトバタフライ・アサシンとライオンハートのクロスカウンターで互いの頬を殴り、ドロワとゴーシュのライフポイントが0になる。

 

ゴーシュはライオンハートの効果でライフポイントが蘇ったが、ドロワはここで敗れてしまう。

 

ドロワはナイトバタフライ・アサシンを遊馬に託し、遊馬ならゴーシュを取り戻せると信じてそのまま意識を失ってしまった。

 

遊馬はドロワの想いを受け取り、必ずゴーシュを取り戻す為に立ち向かう。

 

アリトは『ナンバーズ・オーバーレイ・ブースト』で自分の手札のモンスター2枚をライオンハートのオーバーレイ・ユニットにして補充し、万全の状態でゴーシュのターンとなった。

 

このままライオンハートで希望皇ホープに攻撃すれば遊馬とアストラルを葬って勝負が決まる……アリトはそう確信した。

 

しかし、デュエリストの熱き魂が奇跡を呼び起こす。

 

「俺は……装備魔法『ストイック・チャレンジ』を発動!!」

 

ゴーシュはライオンハートで攻撃せず、それどころかストイック・チャレンジの効果でせっかくアリトが補充したオーバーレイ・ユニットを全て墓地に送ってしまった。

 

更に装備魔法『ヒロイック・クローズ』でライオンハートの攻撃力を高めていく。

 

ライオンハートの攻撃力が高まり、ゴーシュは雄叫びをあげる。

 

「そうか……そういうことか!ゴーシュ、やっと良いノリになってきたじゃねえか!」

 

遊馬はゴーシュに何が起きたのか理解し、ゴーシュの想いに応える。

 

璃緒は洗脳が解けたのかと思ったが、カイトはそれを否定して説明する。

 

「ゴーシュの意識はまだ洗脳されたままだ。だが、ドロワの渾身の一撃が囚われた奴の魂を震わせ、細胞に刻み込まれたデュエリストとしての本能を呼び覚ましたのだ。これが、この姿こそが真のデュエリストだ!」

 

デュエリストの魂と本能が強力なバリアンの洗脳を凌駕し、ゴーシュは遊馬とのデュエルを全力で行おうとしているのだ。

 

遊馬は魔法カード『エクシーズ・シフト』でナイトバタフライ・アサシンを墓地に送り、同じランクのモンスターエクシーズを特殊召喚する。

 

「現れろ!『H-C エクスカリバー』!!」

 

遊馬が呼び出したのはナンバーズではなく、かつてのゴーシュのエースモンスター……エクスカリバーだった。

 

「ここでエクスカリバー!分かってるじゃない、遊馬!」

 

ここであえてエクスカリバーを選択した遊馬にレティシアは称賛する。

 

エクスカリバーの登場に遺跡の観客の歓声が沸き起こる。

 

「ゴーシュ!こいつは熱いデュエルの証として、お前が俺に託してくれたモンスターだ!!」

 

遊馬はゴーシュの魂を呼び覚ます為に託されたエクスカリバーを呼び出したのだ。

 

エクスカリバーで攻撃と同時に効果で攻撃力を二倍にするが、ゴーシュは罠カード『戦士の喊声』でライオンハートの攻撃力が二倍となってエクスカリバーの攻撃力を大きく上回る。

 

「いいぞいいぞ、熱くなってきやがったぜ!」

 

「遊馬!」

 

「おう!」

 

遊馬は罠カード『魂の一撃』でライフポイントを半分支払ってその数値分だけエクスカリバーの攻撃力を上昇させるが、今の遊馬のライフポイントは200なので半分の100しか支払えず、エクスカリバーの攻撃力はたったの100しか上昇しない。

 

しかし、遊馬の狙いはただの攻撃力上昇ではなくライオンハートに装備したヒロイック・クローズの効果だった。

 

ヒロイック・クローズは互いのライフポイントが同じ場合は攻撃力二倍の効果は無効となり、ライオンハートの攻撃力は2600にまで減少する。

 

「行け!エクスカリバーでトドメだぁっ!」

 

「来い、遊馬!!」

 

エクスカリバーは己の武器である王の剣を捨てて右拳を強く握りしめた。

 

アリトはチート・コミッショナーのオーバーレイ・ユニットを全て使って相手の手札に魔法カードがあればバトルを終了させてそのカードを発動させる最後の効果を発動した。

 

ゴーシュの手札にはアリトから渡されたバリアンズ・フォースがあり、それを使ってライオンハートをカオス化させようとした。

 

しかし、遊馬にはアリトを倒す最後のカウンターがセットされていた。

 

「遊馬、今だ!」

 

「おう!罠発動!『オーバーレイ・マーカー』!」

 

オーバーレイ・マーカーはバトルの時、モンスターエクシーズがオーバーレイ・ユニットを全て使い切った場合に発動された効果を無効にして破壊する。

 

そして、そのモンスターエクシーズをコントロールするプレイヤーにバトル中のモンスターの攻撃力の合計分のダメージを与える。

 

つまり、エクスカリバーとライオンハートの攻撃力の合計……6700のダメージがアリトに襲う。

 

「お、俺が、6700のダメージだと!?」

 

「喰らえ、アリト!俺とゴーシュの熱い魂を!!」

 

エクスカリバーとライオンハートは互いの間に入ったチート・コミッショナーに向けて全力の拳を放つ。

 

遊馬とゴーシュ……それぞれの熱き魂を秘めたエクスカリバーとライオンハートのダブルパンチを喰らったチート・コミッショナーは爆散し、アリトは大爆発を受けて吹き飛ばされた。

 

「な、何だよ……何だってんだよ、今のは!?」

 

アリトは大爆発を受けた際に何かを見たらしく、それに困惑していた。

 

するとアリトの背後に異世界の扉が開き、困惑の謎を残したままバリアン世界へと消えていった。

 

アリトが消えたことでゴーシュの洗脳が解けて無事に解放された。

 

遺跡から一馬が残した覇者のコインを見つけ、ゴーシュは遊馬にライオンハートを渡した。

 

「遊馬、水くせえじゃねえか。バリアンとやりあってるんなら何で言わねえんだよ。奴らをぶっ倒すんなら俺も力を貸すぜ!」

 

「馬鹿野郎!お前にはドロワとの夢があんだろ!子供達の希望の星になるって夢が!そうだろ、ゴーシュ!」

 

「遊馬……そうだったな」

 

遊馬からの叱咤激励を受け、ゴーシュは自分の進むべき道と叶えたい夢を再確認した。

 

そして、迷いを振り切ったゴーシュはトーナメント決勝戦で見事チャンピオンを打ち倒し、スパルタンシティの新たなデュエルチャンピオンとなり、子供達の希望の星となったのだ。

 

遊馬達はスパルタンシティを後にし、かっとび遊馬号で次の遺跡に向かった。

 

ちなみにホテルで熟睡していた小鳥は起こしてくれなかったことを怒っていて璃緒が必死に宥めていたのだった。

 

一方、落ち込んでいる遊馬にアストラルが厳しい言葉で声をかけた。

 

「遊馬、アリトのことを考えているのか。昨日のデュエルで分かっただろう。やはり彼はバリアン、残念だが我々とは相入れない存在なのだ」

 

アストラルは遊馬にバリアンは敵なのだと改めて忠告した。

 

遊馬はそれを静かに受け止めながらため息を吐き、ライオンハートのカードを見つめる。

 

「アリト……何でお前があんな風になっちまったのか俺には分かんねえ。けど、俺は信じてる。あの時みたいに正真正銘、熱い想いをぶつけ合ったデュエルができる日が再び……来るって……」

 

遊馬はアリトとの一度目と二度目の熱いデュエルは偽りでは無いと信じている。

 

変わってしまったのには何か理由があるのではないか、いつか必ず熱いデュエルができる日が来ると……そんな淡い希望を抱くのだった。

 

スパルタンシティから四番目の遺跡に向かう中、アストラルは飛行船のナンバーズを納める場所に訪れ、手に入れた2枚の遺跡のナンバーズ……スカイ・ペガサスとライオンハートが何かを伝えようとしているのを感じていた。

 

そして、アストラルの脳裏に流れた二つの記憶……それはそれぞれの遺跡の伝説で悲劇の結末を辿った英雄の姿が判明した。

 

驚くことにペガサスの騎士はドルベ、拳闘士はアリトだったのだ。

 

「えっ!?そ、それではバリアンの皆さんは元々は人間!?しかも何百年も前の!?」

 

マシュ達はバリアンがただの異世界人ではなく、元々は人間だったと言うことに驚きを隠せずにいた。

 

薄々気づいている者も何人かはいたが確証はなかった。

 

つまり、ドルベやアリトだけでなく、ベクターとミザエルとギラグも元人間の可能性が高くなったということになる。

 

その事実にアストラルは驚愕しているその時、突然飛行船のコントロールが不能となっていた。

 

四番目の遺跡がある場所は中国で大きな岩山が連なっている土地。

 

そこは特殊な空間が広がっていて、それが飛行船のシステムに不具合を起こしているらしい。

 

オービタル7の尽力で飛行船をなんとか地上に不時着させ、外に出るとそこには天を突くような大きな岩山があり、その頂上に遺跡のナンバーズがあるようだった。

 

しかし、その岩山は雲の上まで伸びており、軽く見積もっても数百メートルはある。

 

飛行船もオービタル7もこの地域の特殊な空間によって動く事ができない。

 

さて、どうやって行くと言うとそれは……。

 

「いいか、山登りのコツはまず足場を作って、腕を伸ばして、こうだ!分かったか!それと山では助け合いが大事なんだぜ!自分勝手はなしだからな!」

 

「うるせぇ!お前に教えられる筋合いはねえ!」

 

「くっ……!」

 

遊馬と凌牙とカイトは命綱無しの崖登りをすることになった。

 

遊馬は幼少期に一馬と共に冒険で崖登りをしてきたのでとても余裕で難なく登っていき、凌牙とカイトは苦労しながらついていく。

 

ちなみに小鳥と璃緒は下で動けないオービタル7とお留守番である。

 

『────────!!!』

 

岩山を登っていると突如、謎の叫び声が天から轟いた。

 

「アストラル、今のは!?」

 

「恐らく……ドラゴンの咆哮」

 

ドラゴンの咆哮に応えるかのようにカイトのデッキケースに眠る銀河眼の光子竜から銀河眼の時空竜と対峙した時に似た共鳴の光を放っていた。

 

「ギャラクシーアイズ……やはりこの遺跡は……!」

 

銀河眼の光子竜とこの岩山の頂上にある遺跡は何か関係があるとカイトは睨んでいた。

 

すると突然岩山の一部が崩落して岩の塊がカイトに襲いかかり、危うく落ちそうになったが……。

 

ガシッ!

 

「ヘヘッ、だから言ったろ?山では助け合いだって!」

 

「ふん……!」

 

落ちそうになったカイトの手首を遊馬は片手で掴んでそのまま持ち上げ、助けるのだった。

 

今回ばかりは遊馬が凌牙とカイトにアドバイスをして引っ張っていくが、二人は悪態を吐きながら必死に登るのだった。

 

「幼少期にお父上が鍛えた崖登りの技術がここで役に立つとは!!そして、あれほどの岩山を臆する事なく登るとは……素晴らしい!!」

 

レオニダスは遊馬の細身の体にある強靭な肉体に再び感動し、今度は涙を流していた。

 

しかし、この場にいるほとんどの者が遊馬達の異様な光景に疑問を抱いていた。

 

遊馬と凌牙とカイト……十三歳と十四歳と十九歳の少年達が命綱なしで危険な岩山を登る。

 

遊馬達のとんでも無い身体能力にもはや誰もツッコミを入れる気が無くなり、ロマニに関しては死んだ魚のような目になっていた。

 

数十分の時間をかけ、ようやく岩山の頂上を登り切ると、そこに遺跡があるはずだが、そこにあったのは中国風の見事な宮殿だった。

 

宮殿に驚いていると遊馬は何かの美味しそうな匂いを嗅ぎ取って惹かれるように向かうとそこには中国伝統の鍋料理の火鍋が美味しそうに煮えていた。

 

腹が減っていた遊馬は勝手に食べようとしたその時、宮殿から一人の老人が現れ、杖を投げて遊馬を叱った。

 

仙人のような、あるいは中国拳法の達人にも見える謎の老人だった。

 

老人はカイトを見つめると互いに何かを感じ取って名乗りをあげる。

 

「俺の名はカイト。遺跡のナンバーズを探しに来た」

 

「お前……ドラゴン使いか」

 

老人はカイトがドラゴン使い……銀河眼の光子竜の使い手と瞬時に感じ取ると、またカイトも老人からただならぬ気を感じていた。

 

「我が名はジンロン。このナンバーズの遺跡を守る者!」

 

老人の正体はマッハと同じく遺跡のナンバーズの守護者だった。

 

ジンロンは遥か昔にこの遺跡の伝説に残るドラゴンと戦ったデュエリストのことを語るが……。

 

「そのデュエリスト、ミザエルという者だな?」

 

そのデュエリストの正体をアストラルは既に導き出していた。

 

この遺跡に残る伝説のデュエリスト……その正体はミザエル。

 

アストラルは遺跡で回収した二枚のナンバーズの記憶からバリアン七皇が人間であったことを遊馬達に伝えた。

 

その事実に遊馬達は驚愕する中、カイトはジンロンのデュエルの相手を名乗り出た。

 

カイトはここにやってきたのは単なる偶然ではない、運命……否、ドラゴン使いとしての宿命なのだろうと確信した。

 

ジンロンも承諾し、負けた場合はカイトのドラゴンを貰うと宣言するが、カイトは負けることはあり得ないと豪語する。

 

カイトとジンロン、ドラゴン使いのデュエルが始まる。

 

ジンロンは二体のレベル8のドラゴン族を揃え、遺跡のナンバーズを呼び出す。

 

「現れろ、No.46!雷鳴よ、轟け。稲光よ、煌めけ。顕現せよ、我が金色の龍!『神影龍ドラッグルーオン』!!」

 

現れたのは純白の体を持ち、金色に輝く中国や日本に伝説として伝わる蛇のような姿をした美しい東洋龍だった。

 

「ドラッグルーオン……銀河眼の光子竜みたいなドラゴンを西洋竜と呼ばれているけど、こんなドラゴンもいるのね……」

 

レティシアは一般的なドラゴンと呼ばれる西洋竜とは異なる姿形をした東洋龍のドラッグルーオンを目にしたレティシアは感動に震えていた。

 

ドラッグルーオンは他のドラゴン族がいることでドラゴン族に関する強力な効果を発揮する。

 

カイトは初手から己が魂のドラゴンである銀河眼の光子竜を召喚するが、ドラッグルーオンは相手のドラゴン族モンスターの効果を無効にする力を持っている。

 

銀河眼の光子竜の効果が無効となり、その美しい銀河の輝きが消え失せてしまう。

 

これは遺跡のナンバーズを手に入れるデュエルだけでなく、カイトのドラゴン使いとして、銀河眼使いとしての大きな試練でもあるのだ。

 

「待っていろよ。鉄壁とやらを全てぶち壊し、お前のナンバーズを俺の手で狩ってやる!」

 

カイトは臆することなくジンロンとドラッグルーオンという巨大な鉄壁に果敢に立ち向かう。

 

ジンロンはドラッグルーオンの効果で手札から『魂喰神龍ドレイン・ドラゴン』を特殊召喚するが、そのドラゴンは攻撃力をカイトのライフポイントと同じ数値で破壊されたら攻撃力の半分のダメージを与えるという強力な効果を持つ。

 

ドレイン・ドラゴンを破壊しなければ負けるが、このままでは破壊することも出来ず、圧倒的な攻撃力を突破するのは困難を極める。

 

それに対し、カイトはライフを犠牲に相手モンスターの攻撃力を下げる魔法カード『デスパレード・スクレイプ』を使用し、更に使用した魔法カードを回収する『ドラゴニック・ディバイン』でライフを犠牲にしながらも再びデスパレード・スクレイプを発動し、ドレイン・ドラゴンの攻撃力を極限まで下げる。

 

そして、銀河眼の光子竜で攻撃してドレイン・ドラゴンを破壊し、カイトにバーンダメージが与えられるがなんとかライフポイントがギリギリ200まで残った。

 

まさに肉を切らせて骨を断つ戦法でジンロンの壁をまた一つ打ち砕いた。

 

そして、ジンロンは最後の壁としてドラッグルーオンの効果で銀河眼の光子竜のコントロールを奪おうとした。

 

しかし、この効果に対してカイトがライフポイントを半分支払い、銀河眼の光子竜を破壊すれば無効に出来る。

 

「敵の手に渡すくらいなら、己の手で破壊するか?」

 

「貴様には分かるまい。俺とギャラクシーアイズの絆の強さを。俺無くしてギャラクシーアイズはあらず、ギャラクシーアイズなくして俺もあらず……ましてや貴様に言われて、ギャラクシーアイズを破壊することなどありえぬ!!」

 

それはカイトと銀河眼の光子竜の結ばれた揺るぎない強い絆だった。

 

カイトと銀河眼の光子竜はただのデュエリストとモンスターの関係ではなく、心を一つにして共に戦う一心同体の関係。

 

ドラッグルーオンは銀河眼の光子竜のコントロールを奪い、銀河眼の光子竜のダイレクトアタックが決まろうとしたその時、カイトは永続罠『デステニー・ブレイク』を発動した。

 

ダイレクトアタックした時、デッキから一枚ドローし、それがモンスターカードならそのダイレクトアタックを無効にする。

 

カイトがドローしたカードは『銀河騎士』で銀河眼の光子竜のダイレクトアタックは無効となる。

 

「フン……デュエルを運に託したか」

 

「運では無い!必然だ!」

 

「なんじゃと!?」

 

「最強のデュエリストはドローカードさえ自らが導く!それが俺とギャラクシーアイズの絆だ!」

 

カイトは己と銀河眼の光子竜の強き絆でドローカードという運命を自ら手にしたのだ。

 

続くドラッグルーオンのダイレクトアタックにカイトは再びデステニー・ブレイクを発動してドローしたカードは2枚目の銀河騎士でダイレクトアタックを無効にしてこのターンの攻撃を凌ぎ切り、デスティニー・ブレイクの効果で自身を破壊して手札の2枚の銀河騎士を効果を無効にして特殊召喚する。

 

そして、カイトのラストターン……ドローした最後のカードを見てカイトは勝利の方程式を全て揃えた。

 

魔法カード『デスティニー・オーバーレイ』で相手フィールドにいるモンスターと自分のモンスターでエクシーズ召喚を行い、洗脳された銀河眼の光子竜と銀河騎士2体でエクシーズ召喚する。

 

カイトは銀河眼の光子竜を取り戻し、切札の超銀河眼の光子龍をエクシーズ召喚する。

 

しかし、ドラッグルーオンの効果で超銀河眼の光子龍の効果は無効となり、ナンバーズキラーとしての能力は使えない。

 

ジンロンは次のターンに超銀河眼の光子龍を奪おうと思うが、カイトは既に自分の勝利は決まっていると宣言した。

 

カイトは最初のターンで銀河眼の光子竜を召喚するためにリリースした『オーバーレイ・スナイパー』と『オーバーレイ・ブースター』の墓地効果を使用してドラッグルーオンの攻撃力を減少させ、超銀河眼の時空龍の攻撃力を上昇させる。

 

そして、超銀河眼の光子龍とドラッグルーオンのバトルが始まる。

 

ジンロンは罠カード『神龍演舞』で墓地のドラゴンを除外して超銀河眼の光子龍の攻撃力を0にまでダウンさせた。

 

これで超銀河眼の光子龍はドラッグルーオンの返り討ちを受け、ジンロンは勝利を確信した……その時。

 

「消えるのは貴様だ」

 

「何!?」

 

カイトはカウンター罠『銀河黒龍渦』で神龍演舞の発動と効果を無効にし、超銀河眼の光子龍の攻撃力が元に戻る。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「俺はアンタをみくびってなどいない。ドラゴンを知り尽くし、俺をここまで苦しめた戦術は最高のものだった。だからこそ敬意を評し、このカードを伏せておいた」

 

「カイト……」

 

「受けよ、我らが一撃!!アルティメット・フォトン・ストリーム!!!」

 

超銀河眼の光子龍の魂を込めた一撃が強敵・ドラッグルーオンを撃ち破り、ジンロンのライフポイントをゼロにし、カイトは勝利した。

 

ジンロンはカイトとの面白いデュエルに満足し、晴れやかな笑みを浮かべていた。

 

ジンロンはこの遺跡……ミザエルの伝説について語り始めた。

 

遥か古より、この地は一体のドラゴンによって守られた。

 

この地の勇者・ミザエルとドラゴンは心を真に通わせた良き相棒であり、デュエルで共に戦う仲間でもあった。

 

ドラゴンとミザエルの活躍で穏やかで平和な日々が続いていた。

 

しかし、ある年に酷い災害が起き、罪もない多くの人々が亡くなってしまい、そんな時に流れ者の祈祷師が訪れてドラゴンがこの地に災いをもたらしたと触れ回った。

 

人々はその言葉に惑わされ、守り神であるドラゴンを忌み嫌い、討伐することにした。

 

ミザエルは人々を必死になって説得をしようと試みたが、その言葉は届かなかった。

 

そればかりかミザエルが真の勇者ならドラゴンを倒すべきだという声が次々とあがり、遂にミザエルは決心した。

 

ミザエルはドラゴンの前で皆にこう告げた……自らも命を捧げる代わりに我が言葉を信じてほしいと。

 

しかしその時、数百数千の矢がミザエルとドラゴンを貫いた。

 

それは隣国からの軍勢でこの時を待ってこの地に攻め込んで来た。

 

そう、祈祷師は隣国の回し者でミザエルとドラゴンは命が尽きてしまい、この地は滅んでしまった……。

 

「人と人が引き起こした憎悪と争いか……それは異世界でも変わらぬものだな……」

 

ドラゴンと深い関係のあるジークフリートはミザエルの伝説から親近感を持ち、自分のことのように心の中に悲しみを抱いていた。

 

ジンロンは命を諦めたミザエルとは違い、カイトは己の運命を諦めない力と心があると評価したその時。

 

「黙れ!」

 

「お、お前は……!?」

 

現れたのは怒りを露わにしたミザエルだった。

 

ジンロンはミザエルに信じられないと言った様子で狼狽えていた。

 

ミザエルは自分が下等な人間だったなどと出鱈目を言うジンロンに怒りをぶつけて吹き飛ばす。

 

「待て、貴様の相手は俺ではなかったのか、ミザエル!」

 

「面白い、遂に決着をつける時が来たようだな!カイト!」

 

カイトの背後に超銀河眼の光子龍、ミザエルの背後に超銀河眼の時空龍の幻影が現れ、再戦が行われようとしたが、突如として遺跡が崩れ始めた。

 

どうやらカイトとジンロンのデュエルが終わったことと超銀河眼の光子龍と超銀河眼の時空龍の共鳴によって遺跡が耐えきれなくなり、崩れてしまったのだ。

 

ミザエルはまたしても間が悪いと異世界の扉を開いてバリアン世界へと撤退した。

 

遺跡が崩れ、煙が消えると遊馬達は岩山の上に立っていた。

 

遺跡は完全に無くなり、ジンロンの姿も消えていた。

 

遊馬は岩山の頂上に四枚目の覇者のコインを見つけると、ジンロンの声が響いた。

 

「伝説には続きがある。ドラゴンの魂はナンバーズに触れ、再び蘇った。そして、今日までそれを守ってきたのじゃ」

 

雲海の中から金色の光が溢れ、飛び出してきたのはジンロンの真の姿であるドラッグルーオンだった。

 

「カイトよ、わしがお前を試したと言ったな。いかにもその通りじゃ。遺跡のナンバーズを求める者が現れし時、世界は大きく動く。若きドラゴン使いよ、世界を正しき道へと導くのだ!」

 

「正しき道……」

 

「わしは見たのじゃ、遥か彼方……天空で戦う神々しい光と光」

 

そして、ジンロンは遺跡の伝説とは別のかつて世界に起きた大いなる戦いの一部始終を語り始めた。

 

「その戦いは数百日にも及んだ。地上には火の雨が注ぎ、稲妻が大地を切り裂いた。やがて、二つの光がぶつかり合い……消滅したのじゃ」

 

ジンロンの語る戦いがアストラルの中に記憶として鮮明に蘇る。

 

それは強大な闇と対峙するアストラル。

 

二つの力は地上にも災いをもたらすほどの衝撃だった。

 

そして、アストラルと強大な闇がぶつかり合い……消滅した。

 

「これは私の記憶……?私はかつて、バリアンと戦ったのか……?」

 

アストラルはその強大な闇がバリアンで、大昔に戦ったのかと困惑する。

 

「カイトよ、このナンバーズを託す!愚かな戦いは世界を破滅に導く。決して、繰り返してはならぬ……!」

 

ドラッグルーオンは自らナンバーズのカードとなってカイトの手に収まり、ドラッグルーオンはアストラルではなくそのままカイトが所持することとなった。

 

遊馬達は復旧したかっとび遊馬号で下にいる小鳥たちを回収して共に四番目の遺跡を後にした。

 

アストラルはかっとび遊馬号のナンバーズを納める場所で再び一人で考えていた。

 

「そうだ……そうだった……」

 

アストラルはドラッグルーオンの記憶からある重要な事を思い出していた。

 

「私の使命は……」

 

それはヌメロン・コードの確保とは別にアストラルがアストラル世界から人間界に来たもう一つの使命。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バリアン世界を滅ぼす事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アストラルはまるで何かのスイッチが入ったようにそう呟く。

 

そして、綺麗な金色の瞳の奥が闇に染まり、妖しく輝くのだった……。

 

 

 




マシュ「な、なんだかアストラルさんに不穏な空気が……」

ジャンヌ「遺跡のナンバーズも残り3枚……遊馬くんたちに何が待ち受けるのか今から不安が……」

レティシア「なんか遺跡の伝説からどいつもこいつも誰かに裏切られて殺されている感じよね……」

ネロ「アリトの生前の拳闘士としての戦いをローマ皇帝としてコロッセウムで見てみたかったな!」

武蔵「くっ……ベクターのみならず、アリトまであんな風に遊馬を失望させるなんて……あの微笑ましい少年たちの光景は夢なの……?」

エドモン「これは直感でしかないが、遺跡の伝説には何か裏がありそうだな……」

マルタ「遊馬とゴーシュ、エクスカリバーとライオンハートの攻防は燃えたわね!それから、カイトと銀河眼の光子竜の絆の強さには感服するわ!」


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ナンバーズ170 遊☆戯☆王ZEXAL 第二部・第三章『滅びゆく三つの世界!ZEXAL VS No.96(前編)』

No.99希望皇ホープ・ドラグナー……恐らくは最後のナンバーズと思われるその効果はまさに皇!
他の1から100のナンバーズを自由に呼び出せるとか最高です!
ナンバーズを集めてて良かったと思いました。
この性能は最終決戦仕様と言ってもおかしくないので未来龍皇ホープも含めてどこで出すべきかマジで悩みます。


四つの遺跡を巡った遊馬達は一度日本に帰還してそれぞれの家に帰宅した。

 

遊馬は小鳥とアストラルと一緒に九十九家に帰るが……そこで待ち構えていたのは明里の怒号だった。

 

「こらぁ!遊馬!今までどこほっつき歩いてたのよ!!」

 

遊馬達は一刻も早く遺跡のナンバーズを集めるためにサルガッソの時とは違って明里達に何も言わずに向かってしまったのだ。

 

母親代わりを務めている明里は遊馬のことを心配すると同時に小鳥を連れ回したことに激怒していた。

 

春は遊馬達が冒険に出かけたのだと察していたのであまり心配せずに見守っていたが、明里は反省しない遊馬にプロレス技のコブラツイストを喰らわせて折檻する。

 

「何が大冒険よ!反省しろ、この!!」

 

「ギャーッ!?」

 

いつも以上に激しい明里からの折檻を受けて心身共にダメージを受けていると遊馬の目に映ったのは春が見ていたニュースに出てるある人物だった。

 

『春さーん!遊馬ー!』

 

「ろ、六十郎じいちゃん!?」

 

ニュースに出ていたのは何と遊馬のデュエルの師匠・六十郎だった。

 

六十郎はある歴史的な発見をした事でニュースに出演しているようだった。

 

それはこの地の戦国時代の武将を祀った石像なのだが……。

 

「「「……ギラグ?」」」

 

その武将の石像はバリアン七皇の一人、ギラグに瓜二つだった。

 

伝説の武将の名は喜楽壮八。

 

戦上手で並み居る武将達と戦い、戦で得た富は全て領民に分け与えていた。

 

自分は徹底して質素倹約し、この地では伝説の名君と言われた男だ。

 

「ノッブ、そんな人……戦国時代にいましたか?」

 

「いいや、そんな奴の名は聞いたこともない。多分、その男が存在するのはマスターの世界だと思うが……」

 

沖田は戦国時代の大名でもあるノッブに一応念のために確認したが、喜楽壮八の名前は聞いたこともない。

 

ノッブは恐らくは喜楽壮八は遊馬の世界にだけ存在する戦国武将なのだと推測する。

 

今回発見された石像の他にも色々な宝が見つかり、助手として一緒に出演していた闇川が宝を入れた箱を持ってきた。

 

箱の中には小判や勾玉などの宝が入っていたが、その中には何故か一馬の覇者のコインも一緒に入っていた。

 

覇者のコインにアストラルが思い出したかのように説明した。

 

実は遺跡のナンバーズが示す地図には何とこの日本にもあったのだ。

 

遊馬達は真相を知るためにも急いで喜楽壮八の石像がある決闘庵に急いだ。

 

決闘庵への階段を登りながら喜楽壮八の石像からギラグの伝説だと考えるが、ギラグが偉い武将だとはいまいちピンと来なかった。

 

すると、上から悲鳴が聞こえると階段を転げ落ちてきたのは……なんとギラグと喜楽壮八の石像だった。

 

遊馬は咄嗟に小鳥を押し出したが、遊馬は転げ落ちてきたギラグと石像に巻き込まれて一緒にそのまま転げ落ちていく。

 

なんとか階段の中腹で止まり、頑丈な遊馬は特に大きな怪我もなく起き上がり、ギラグも起き上がったが……。

 

「はっ、これは!?やっと自由になれただポン!」

 

鼻が真っ赤に染まり、頬から左右にそれぞれ3本の長い髭が生えていた。

 

顔だけでなく声も違って礼儀正しくなったギラグはそのまま立ち去ろうとしたが……。

 

「俺の体、返しやがれ!」

 

突如、石像が立ち上がってギラグの声が響いた。

 

「石像じゃねえ、俺はギラグだ!」

 

石像がギラグと名乗り、訳がわからない遊馬達にギラグは必死に説明する。

 

「わかんねえけど、この石像の中に取り込まれちまったんだ!あいつ、あそこにいる俺はナンバーズの精霊だ!」

 

どうやら石像の中にいたナンバーズの精霊とギラグの魂が入れ替わってしまったようだった。

 

しかし、そう簡単に信じられない遊馬達にギラグはハートランド学園で潜入捜査していた時の遊馬の秘密を暴露し始めた。

 

「俺はお前のことを何だって知っているぞ。お前、その女の弁当のおかず、いつも盗み食いしてたろ。バリアンの情報網を舐めんなよ!」

 

遊馬は実は学校のお昼休みでみんなで昼食を食べているときに小鳥の弁当の鳥の唐揚げなどのおかずを盗み食いしていたのだ。

 

今時子供でもやらない弁当の盗み食いをする遊馬に対し、みんなからのジト目で冷たい視線で見つめられる。

 

そして、その時のことを思い出した小鳥は怒りのオーラを放ち、遊馬は全身に汗をかきながら小鳥の前で正座をして頭を下げる。

 

「あの時は色々あってすっかり忘れていたけど……遊馬、どうして私の弁当のおかずを盗み食いしていたのかしら?」

 

「え、えっと……こ、小鳥様の作ったお弁当のおかずが美味しそうだったので、つい……」

 

遊馬は小鳥以外の弁当を盗み食いをしていない。

 

「ふーん……盗み食いしたくなるほど、私の作ったお弁当を食べたいんだ……」

 

それはつまり……遊馬は小鳥の料理が美味しい、盗み食いをしてでもいつも食べていたいと言う事実でもある。

 

その事実に気づいた小鳥は自然と怒りのオーラが消えて笑みを浮かべて遊馬に宣言する。

 

「しょうがないわね。今度からお弁当の量を倍に増やして持ってきてあげるわ。盗み食いなんてはしたないことをしないで、一緒に食べましょう」

 

「マ、マジで!?ありがとうございます、小鳥様!!」

 

ちゃっかり遊馬にお弁当を作る約束と好感度を上げた小鳥のあざとさにマシュ達の嫉妬の視線が向けられるのだった。

 

ギラグの肉体に入ったナンバーズの精霊はこれからは自分が喜楽壮八になると宣言し、アストラルは伝説の武将の喜楽壮八はやはりギラグだと確信する。

 

「おい、頼む!デュエルで奴に勝って俺の体から追い出してくれ!」

 

ギラグは石像に閉じ込められて動けないので敵である遊馬に頼み込んだ。

 

「敵に肉体を取り戻してくれとか頼んでどうするのよ……」

 

「バリアンの人たちって……どこか抜けているね……」

 

「本人達は否定するけど、人間らしいよね……」

 

オルガマリーとロマニとダ・ヴィンチちゃんはギラグやバリアン七皇は敵であるが、とても人間らしいなと思うのだった。

 

ナンバーズの精霊は遺跡のナンバーズを所有しているので、回収するためにも遊馬はデュエルを挑む。

 

ナンバーズの精霊は可愛らしい狸の姿をしたモンスターを繰り出し、早速遺跡のナンバーズを召喚する。

 

「現れろ、No.64!混沌と混迷の世を斬り裂く知恵者よ。世界を化かせ!『古狸三太夫』!」

 

現れたのは赤と黒の甲冑に身を包んだ武将の姿をした狸だった。

 

古狸三太夫は自分フィールドに影武者狸トークンを特殊召喚し、フィールドの一番攻撃力の高いモンスターと同じになり、更に影武者狸トークンがいるときに古狸三太夫は攻撃対象にならない効果を持つ。

 

影武者を繰り出して自分の身を守るまさに武将らしい効果である。

 

続く遊馬のターンで手札には希望皇ホープを呼び出せるカードが揃っていたのだが……。

 

「ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ……ポーン!」

 

突然ナンバーズの精霊は団扇を持って簡単な舞を見せて両眼を強く見開いた。

 

そして……次の瞬間、驚くべき事態となった。

 

「遊馬……ヒゲ?」

 

「ど……あっ?ちょっ……うわ〜っ!お前!?」

 

遊馬の鼻が赤く染まり、頬にはヒゲ。

 

そして、ギラグは困惑している様子。

 

この光景にマシュ達は血の気が引きながら顔を引き攣らせた。

 

「ま、まさか……遊馬君と精霊が入れ替わったんですか!?」

 

ナンバーズの精霊は今度は遊馬の体と入れ替わったのだ。

 

心……魂が二つの肉体の間で入れ替わったと言うとんでもない事実にエルメロイII世はテーブルを思いっきり叩きながら立ち上がった。

 

「ふざけるな!魂がゲームのカセットのように簡単に入れ替わってたまるか!?しかも入れ替わっていながら体に何の影響も無いとかどう言うことだ!?生きていた頃は人間に変化していたと言うことは相当な力を持つ狸……いや、この場合は日本風に言うなら変化狸か。ドラッグルーオンの経緯も考えると、死後にナンバーズの力と一体化したことで魂の入れ替え能力を手に入れたと言うのか……!?」

 

この魔術世界では魂の入れ替えなどそれこそ大掛かりな儀式でもしない限りは簡単にできるはずがない。

 

しかし、ナンバーズの精霊として魂が高い次元として昇華したことで簡単にその能力を使えることにエルメロイII世は頭を抱えながら推理するのだった。

 

遊馬の体を支配したナンバーズの精霊は次々と手札のカードを場に出していき、本来ならば希望皇ホープを出せるはずがそれを無視して好き勝手に展開したのだ。

 

死者蘇生などの有力カードさえも無駄遣いしていき、遊馬のフィールドは無茶苦茶になってしまった。

 

そして、バトルを行う瞬間に遊馬とナンバーズの精霊はそれぞれ元の体に戻り、影武者狸トークンの攻撃で遊馬に大ダメージを与える。

 

遊馬は何故こんなことをするのかと尋ねると、ナンバーズの精霊は自分の事を語り始めた。

 

ナンバーズの精霊……その正体はデッキ内容や口癖からも察せられるが元々はタヌキで、喜楽壮八の影武者だったのだ。

 

戦国時代……激しい戦いの中、迷い込んだタヌキを喜楽壮八が助けた。

 

タヌキはその恩に報いるために喜楽そっくりに変化をして影武者となり、代わりに戦をしたのだ。

 

タヌキは人間ではないが、戦の天才で連戦連勝を飾るほどとても強かったのだ。

 

「た、狸が戦を……?」

 

「え?嘘、マジで?あの狸……有能じゃの。是非ともわしの配下にマジで欲しい」

 

沖田はタヌキが武将として戦をしていたことに困惑し、ノッブはその有能すぎる能力からマジで欲しいと思うのだった。

 

ちなみに戦を経験したことのある多くのサーヴァント達はタヌキが変化をし、更には戦の天才というとんでもない存在に遊馬達の世界の『異常』さを改めて感じるのだった。

 

しかし、喜楽は突然狸をクビにして国から追い出し、それから間も無く喜楽は戦に負けて死んでしまった。

 

タヌキは自分がやれば絶対に勝てていたと思うと同時に自分を捨てた喜楽をざまぁ見ろと蔑み、それから間も無くタヌキも死んでしまった。

 

そして気がつくとタヌキの魂は喜楽石像の中に閉じ込められてしまい、今度はタヌキはギラグの体を乗っ取って本物の喜楽壮八になると決意したのだ。

 

タヌキの話を聞き、遊馬はギラグへの想いを打ち明ける。

 

「なあ、タヌキよ。お前が言うようにギラグの野郎は卑怯なところはある。せこいところもある。嫌な野郎だ。でも……でもさ、俺どっか憎めねえんだよ、奴を……」

 

わずかな時間ではあるがスポーツデュエル大会の時に共にデュエルをし、倒れたアリトの為に命懸けで戦ったギラグの事を卑怯なところはあるが、どこか憎めなかった。

 

しかし、タヌキは遊馬の言葉に耳を傾けずデュエルを続行し、古狸三太夫と影武者狸トークンでダイレクトアタックをしかける。

 

大ダメージを受け、最後の攻撃が来た瞬間、遊馬が最初にセットした罠カード『バースト・リバース』を発動し、墓地からドドドガッサーを裏守備表示で特殊召喚する。

 

ドドドガッサーは攻撃力は0だが、守備力は3000もあるので影武者狸トークンのバトルは中止となる。

 

続く遊馬のターンでドドドガッサーを反転召喚する。

 

ドドドガッサーは普通に召喚してもその力を発揮できない。

 

真の能力は裏守備表示でセットしてから反転召喚した時にのみ、大きな力が発揮されるのだ。

 

反転召喚した時、相手フィールド上のモンスター2体を選択して破壊し、更に攻撃力はお互いのライフポイントの差分アップする。

 

それにより、2体の影武者狸トークンが破壊され、ドドドガッサーの攻撃力が一気に3500に上昇する。

 

ドドドガッサーの攻撃時、タヌキは罠カード『千畳敷返し』を発動してドドドガッサーを破壊して攻撃力分のダメージを与えようとした。

 

しかし、そこで遊馬のカウンターが入る。

 

今ドローしたモンスターカード『チャウチャウちゃん』は手札から墓地に送ることで相手が発動した罠カードの効果を遊馬が発動することが出来る。

 

これにより、千畳敷返しの効果の対象がドドドガッサーではなく古狸三太夫に移り、古狸三太夫は破壊されてタヌキに攻撃力分のダメージを受ける。

 

そして、ドドドガッサーのダイレクトアタックが炸裂する。

 

「ポン太ぁーっ!!」

 

ダイレクトアタックを受け、吹き飛ばされるタヌキにギラグは『ポン太』と悲痛な叫び声を上げて呼んだ。

 

今回のデュエルは奇跡的にナンバーズ無しでも勝利することができた。

 

ギラグは石像のままタヌキ……否、ポン太の前に近づいた。

 

ギラグは優しい声でポン太に話しかけた。

 

どうやら喜楽壮八としての記憶が蘇ったらしい。

 

ポン太は何故自分を捨てたのかと震えながらギラグに尋ねた。

 

それは……領民にばかり富を与えていた喜楽を気に入らない家臣達が寝返ったのだ。

 

気付いた時にはどうにもならない状況でせめてポン太だけでも生き延びて欲しいとあえて最低な言葉を言って逃したのだ。

 

真実を聞いたポン太は大粒の涙を流した。

 

自分だけ生き延びても意味がない、共に戦おうと言って欲しかった、最後まで一緒にいたかったと……。

 

真実を知り、全ての悔いが無くなったポン太はギラグの体から抜けて成仏して消えようとした。

 

その時だった。

 

「んなわけねえだろ!!!」

 

石像が壊れてギラグの魂が飛び出してポン太の魂を掴むとそのまま食べて自分の中に取り込んでしまったのだ。

 

ギラグの魂は元の肉体に戻り、ギラグは悪人面を見せる。

 

「へっ!まんまと作り話に引っかかりやがって……お前らみんな、化かしてやったぜ!」

 

先程の話はギラグの作り話で全てはポン太を騙すための嘘だった。

 

「お前!」

 

「九十九遊馬……今度会う時は必ず、お前を倒すっから!」

 

ギラグはそう言い残すと異世界の扉を開いて撤退した。

 

「ギラグ!お前は……」

 

遊馬はギラグの卑劣な行いに怒りを覚えるのだった。

 

予想外過ぎる展開にマシュ達は呆然としていると、ジャックは遊馬に近づいて服の裾を軽く引っ張る。

 

「ねえねえ、おかあさん」

 

「ん?ジャック、どうした?」

 

「あのギラグ……解体してもいい?」

 

ジャックはギラグの体を解体して中にいるポン太を助けようと思ったらしく、ナイフとメスを取り出していた。

 

遊馬は苦笑いを浮かべながらジャックの頭を撫でる。

 

「え、えっと……ギラグとポン太の事なら大丈夫だから、解体はやめような?」

 

「……ほんとう?」

 

「ああ、もちろん!人間界に行ったらちゃんと会わせてやるからさ!」

 

「うん!わかった!」

 

ジャックを諭して元の席に座らせる。

 

一方、ノッブと清姫はギラグの嘘に唸りながら疑問を持っていた。

 

「うーむ、あの時代背景ならギラグの話もあながち作り話と言えなくもないが……」

 

「映像だから分かりづらいですが、私にはギラグさんの話が全て嘘とは思えませんね……」

 

戦国武将としての経験と嘘を見破る二人の視点からギラグの話が嘘だとは思えなかった。

 

第五の遺跡のナンバーズを回収し、残るは二つの遺跡のナンバーズのみとなった。

 

第六、第七の遺跡は同じ場所にあるが、今度はインド洋のど真ん中にあり、地図上では陸地がどこも見当たらなかった。

 

今回は最初と同じで遊馬とアストラルと小鳥、凌牙と璃緒の5人のメンバーで向かうこととなり、早速かっとび遊馬号で遺跡に向かう。

 

異次元トンネルで向かう中、遊馬はバリアンについて改めてアストラルに尋ねた。

 

「なあ、アストラル。バリアンの奴ら、あいつら本当に人間だったんだよな?」

 

「ナンバーズから得た記憶に間違いは無い」

 

「バリアンって、要するにお前みたいな存在なんだろ?」

 

「アストラル世界とバリアン世界を同じとするなら、そう言うことになる」

 

「なんであいつらがバリアンに?」

 

「彼らの伝説に共通する『何か』が、彼らをバリアンに転生させたのかもしれない」

 

アストラルは元人間であったバリアン七皇の魂が『何か』によって、アストラル世界ではなくバリアン世界に向かったのではないかと推測する。

 

そんな二人の話に凌牙は割り込み、バリアンに深入りするなと警告する。

 

「デュエルに感情を持ち込まないのが、君の哲学というわけか」

 

「戦う理由は常に自分のためだけでいい。だから俺は一匹狼でいる」

 

凌牙は己を一匹狼と称して遊馬とアストラルに自分の戦いの信念を伝えた。

 

「一匹狼……でも、凌牙さんには妹の璃緒さんがいますし、何だかんだで遊馬君達と一緒にいますよね?」

 

一匹狼と自称する凌牙だが、とてもそうは思えないとマシュはツッコミを入れてみんなはそれに同意するように何度も頷く。

 

異次元トンネルを抜けて、地図の指定されたポイントに到着したが、そこは予想通り海の真上で陸地はなく、しかも遺跡のナンバーズの影響かとてつもない嵐が吹き荒れていた。

 

あまりにも危険なので一度この場から撤退しようとしたが、飛行船の動力が停止してしまい、この場に留まった。

 

まるで飛行船が意思を持つようにこの場から動かないようだった。

 

すると、璃緒は何かの声が聞こえ、そのまま導かれるように意識が朧げになりながら体が勝手に動き、操舵室から出ていくと大雨と暴風が吹き荒れている外の甲板へと出て行った。

 

そして……凌牙の静止の声も聞かずに、驚くことに璃緒は甲板から飛び降りてしまった。

 

そのまま璃緒は海の底に消えていく。

 

凌牙は璃緒を追いかけて自らも飛び降り、遊馬とアストラルも後を追う。

 

流石に小鳥は後を追って飛び降りる出来ず、飛行船をそのままにするわけにもいかないので一人で留守番となってしまった。

 

遊馬達は海の中で意識を失ってしまった。

 

そして……目が覚めた遊馬達が見た光景は想像を絶するものだった。

 

それは海の底にある巨大な海底神殿だった。

 

驚くことにこの海底神殿は空気で包まれていて水がほとんどなく、遊馬達が問題なく呼吸が出来るほどだった。

 

しかも、海底神殿には2枚の覇者のコインがあり、ここが目的の遺跡だということが示されていた。

 

「すっげぇな、マスターの世界は。海の底にあんなでけぇ海底神殿が今でもあるなんて」

 

「確かに凄いけど……あのコインがあるってことは、マスターのお父さんも来たことがあるのよね。どうやって海の底まで来たのかしら……?」

 

海神の息子のオリオンは神の力が宿る海底神殿が異世界にも残っていることに驚き、アルテミスはその海底神殿に一馬がどうやって来たのか疑問に思うのだった。

 

遊馬達は海底神殿に入るが、そこはただの神殿ではなく巨大な迷路だった。

 

遊馬は一馬の教えから迷宮の抜け方であるひたすら壁沿いに進む右手方を使って迷宮を進んでいく。

 

しかし、いつのまにか凌牙と離れ離れになってしまい、迷宮の入り口まで戻ろうとしたが戻ることができずアストラルは同じところを何度も進んでいることに気がつく。

 

この迷宮は常に壁が作られていて形が変わっていくのでこれでは凌牙と璃緒の元には辿り着くことができない。

 

どうやって進めば良いのか悩んでいると、海底神殿を包む空間の一部が破れてそこから大量の海水が流れ込むと一人の来訪者が現れた。

 

「あっ……ドルベ!?」

 

「遊馬、アストラル」

 

「何でお前がここに!?」

 

「お前達を追ってきた。これ以上、ナンバーズを渡すわけにはいかない」

 

人間ではなくバリアンの姿のドルベが遊馬とアストラルの前に現れた。

 

「ここで決着をつけようってのか。ドルベ、どうしてもお前と戦わなくちゃならないのか!?」

 

「何を今更……」

 

「だってお前は俺たちを助けてくれた!あの時、あの遺跡でお前が居なかったら、俺たちはどうなっていたか。だから……!」

 

「それはお前の勝手な思い込みだ。所詮、我らは戦わねばならぬ宿命」

 

「なあ、ドルベ。遺跡にあった伝説はお前達のことなんだろ!?何があったのかわかんねえけど、お前達は元々俺たちと同じ人間だったんだ!それがどうしてアストラルと戦わなきゃならねえんだよ!?」

 

「ふざけるな!我らが人間だったなどそんな話、私は信じない!」

 

ドルベはバリアンとして人間を下として見ており、自分が元人間だと言うことを強く否定する。

 

「バリアン世界はアストラル世界と対となる世界。そして、敵対する世界だと運命づけられている!」

 

アストラル世界とバリアン世界は敵対する関係だが……実は何故敵対するのか、何故戦わなければならないのかと、本当の意味をどちらも理解していないのだ。

 

「なんだよ、それって……じゃあ、お前もアストラルも、戦う本当の意味を知らないってことじゃねえか!?そんなくだらねえことで戦ってんじゃねえ!!」

 

明確な理由も目的もなく、一見すれば無意味な戦いを行なっているアストラルとバリアン七皇に対し、遊馬は真っ向から否定する。

 

無意味な戦いを正論で否定した遊馬の言葉にサーヴァント達の何人かの心にグサッと突き刺さるのだった。

 

「お前が何と言おうと、我々が共に生きることはない。そうだな、アストラル!」

 

「私の使命は……バリアン世界を滅ぼすこと」

 

「ア……アストラル……?」

 

遊馬はアストラルから見たことない不穏な雰囲気を漂わせながら滅ぼすと恐ろしいことを口にしたことに唖然とする。

 

「さあ、決着をつけよう!デュエルだ!」

 

「ドルベ、デュエルの前に一つ聞きたいことがある。バリアンの七皇の中に、まだ我々が出会っていない者が二人いる。この遺跡には恐らくその者達の伝説が残されているはず。何故その二人は私たちの前に姿を現さない?」

 

アストラルは未だ姿を現さないバリアン七皇の残る二人についてドルベに尋ねた。

 

「その二人とは……我らバリアン七皇のリーダー、ナッシュ。そして、メラグ……彼らは必ず生きている。そして、戻ってくる!」

 

ナッシュとメラグ。

 

行方不明となっている理由は不明だが、二人は必ず戻ってくるとドルベは心の底から信じている。

 

すると、突然海底神殿の上空にオーロラが現れ、そこに凌牙と璃緒がデュエルをしている光景が映し出されていた。

 

何故二人がデュエルをしているのか遊馬は困惑していると、ドルベは何かを感じ取ったのか遊馬とデュエルをせずに空を飛んで遺跡の中心地へ向かう。

 

遊馬は飛ぶことは出来ないのでどうすることもできずにいると、アストラルはドルベが開けた穴から流れた海水を見て打開策を見つけた。

 

遊馬は一寸法師をモチーフとしたモンスターの『針剣士』を召喚し、針剣士はお椀で川を渡った一寸法師のようにカードに乗りながら海水の上を進んでもらった。

 

アストラルは水の流れる先が迷宮の出口があると答えを見つけ、遊馬は針剣士の後を追う。

 

すると突然、アストラルの目の前に遺跡とは全く異なる光景が広がった。

 

それは夕暮れ時に数多の船が戦を繰り広げており、その中心には巨大な海神が現れていた。

 

「なんだ?はっ!?ここはまさか、遺跡の記憶の中!?」

 

アストラルはそれが遺跡に眠る記憶だとすぐに分かったが、その記憶には驚くべき人物達の姿があった。

 

「りょ、凌牙さん……?璃緒さん……?」

 

そこには何と船の上で多くの兵士を引き連れた剣士の姿をした凌牙と巫女の衣装を着た璃緒がいた。

 

更に驚くことに凌牙と璃緒と対峙する敵は何とベクターだったのだ。

 

「ベクター!またあんたなの!?」

 

ベクターの思わぬ登場にレティシアはまたなのかとツッコミを入れた。

 

ベクターは海神を操って街を破壊し尽くしていく。

 

そこに璃緒が馬を使って海神に近づくと、海神は璃緒を捕らえて人質にした。

 

ベクターは璃緒を人質に凌牙に降伏しろと言うと、そこに乱入者が現れた。

 

「我が友よ、何を驚く。私が君の危機に駆けつけないと思ったか!」

 

それは天を駆けるペガサスに乗る騎士……ドルベだった。

 

ドルベは凌牙を友と呼び、これが過去に起きた本当の記憶ならばドルベと凌牙は過去の世界において友人同士ということになる。

 

「そんな……私が、過去で、凌牙と……!?」

 

衝撃の事実にアストラルとドルベが驚く中、璃緒は海神の手の上で目を覚まして立ち上がる。

 

璃緒は覚悟を決めた様子で凌牙に向けて笑みを浮かべた。

 

「邪の呪印を解くには聖なる代償で神を浄化するしかない。お兄様、私の魂がアビスを浄化するわ」

 

「璃緒……璃緒!!」

 

璃緒はその場から飛び降りて自ら生贄となって海に飛び込んだ。

 

そして、海の中に消えた璃緒……そこから眩い青き光が放たれて海神を浄化するモンスターが現れた。

 

この記憶の光景にアストラルとドルベはある結論に辿り着く。

 

「まさか、シャークと璃緒は……」

 

「ナッシュとメラグだと言うのか……!?」

 

凌牙と璃緒がナッシュとメラグ。

 

バリアン七皇の最後の二人。

 

その驚愕の事実にマシュ達はこの映画を見て一番の衝撃を受けた。

 

「そ、そんな……お二人が……バリアン……!?」

 

遊馬の仲間である凌牙と璃緒が人間ではなく、実は敵対するバリアン七皇のメンバーだと言う事実に驚きや困惑の表情を浮かべる。

 

一方、遊馬は水の流れを辿って遂に迷宮の到達点である中央の祭壇に到着した。

 

しかし祭壇では凌牙は璃緒ではなく、この遺跡のナンバーズの精霊・アビスとデュエルをしていた。

 

驚くことに巫女の装束に身を包んだ璃緒が精霊の手によって渦の中に落として生贄に捧げられようとしていた。

 

「そんな……今のは、俺の記憶……俺は璃緒を救うことはできなかったのか……」

 

「このフィールドはお前の心そのもの。お前は再びこの世界でも妹を失うことになる。お前の心の弱さが大切なもの全てを失わせる」

 

「璃緒っ!!」

 

デュエル中で璃緒を助けることができない凌牙は絶望に打ちひしがれる中、仲間を救い出す為に遊馬が走り出す。

 

「遊馬!?」

 

「かっとビングだ、俺ぇっ!!!」

 

自分の身を顧みず、遊馬は全力疾走から大きくジャンプして璃緒に向かって飛びつきながら抱きつく。

 

抱きついた勢いで璃緒は間一髪のところで生贄から解放され、そのまま遊馬と共に床に転げ落ちる。

 

咄嗟に遊馬が身を挺して璃緒が傷つかないようにしっかりと抱き寄せて、床に背中を打ったが、受け身を取ったのでダメージはほとんどなかった。

 

「シャーク、妹は助けたぜ!心置きなく、そいつをぶっ倒せ!!」

 

璃緒は意識を失っているが体には傷一つなく、遊馬はグッドサインを見せながら絶望しかけていた凌牙を鼓舞する。

 

アストラルは記憶の世界から戻ってくると遊馬が命懸けで璃緒を救い出したことに安堵の笑みを浮かべる。

 

「「「おお〜!」」」

 

璃緒を見事救い出し、更には凌牙を鼓舞する遊馬の勇気ある行動にマシュ達は感心して拍手を送る。

 

「恐らくはあれは神への生贄のはずだ。しかし、ユウマ様は臆することなく仲間のリオを身を挺して救った……流石はユウマ様だ!」

 

「もしもあと少し遅ければ間に合わなかったかもしれません。しかも失敗すればユウマ様の身も危ない……そんな中の決死の救出。お見事です、ユウマ様」

 

ラーマとシータは自分たちを命懸けで救ってくれたことを思い出しながら遊馬への信頼度と忠誠心を更に高めるのだった。

 

ちなみに魔術サイドと神霊サイドからしたら遊馬の行動は冷や汗ものだった。

 

本来ならば神への生贄は古来より世界各地で行われており、国や宗教などで違いはあるが基本的には神聖なものであり、それを阻止することは絶対にあってはならないことだ。

 

もし仮に阻止することがあらば神の怒りが降り注ぐことになるだろうが、遊馬は大切な仲間を守るためならその神すらぶっ飛ばすだろうとマシュ達は頷きながらそう思うのだった。

 

「遊馬……」

 

璃緒を救出されて安堵した凌牙の前に一枚のカードが現れた。

 

「このカードは璃緒の化身のナンバーズ……!」

 

それはアビスが召喚した遺跡のナンバーズ……『No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ』と同じ、この遺跡に眠るもう一枚のナンバーズだった。

 

そしてそれは記憶の世界で璃緒が命を捧げて生まれたナンバーズでもある。

 

「さぁ、凌牙。我を倒し、自分の記憶を取り戻し、皇として世界を導くのだ!」

 

「ふざけるな。俺は誰でもねえ。俺は俺だ!!」

 

遊馬の鼓舞で立ち上がった凌牙は反撃に出る。

 

凌牙はフィールドにレベル5のモンスターを召喚し、既に召喚して破壊されていた『ブラックレイ・ランサー』を死者蘇生で復活させて罠カード『フル・アーマード・エクシーズ』を発動してエクシーズ召喚を行う。

 

「現れろ、No.94!氷の心を纏し霊界の巫女、澄明なる魂を現せ!『極氷姫クリスタル・ゼロ』!」

 

現れたのは氷の姫巫女でどことなく璃緒によく似たナンバーズだった。

 

フル・アーマード・エクシーズの効果でクリスタルゼロにブラック・レイ・ランサーを装備させて攻撃力を上昇させる。

 

クリスタル・ゼロはオーバーレイ・ユニットを使って相手モンスターの攻撃力を半分にする効果を持ち、二つのオーバーレイ・ユニットを使ってアビス・スプラッシュの攻撃力を半分の半分で四分の一にまで減少させた。

 

ブラック・レイ・ランサーの力を身に纏ったクリスタル・ゼロの怒涛の攻撃でこの遺跡のナンバーズであるアビス・スプラッシュを撃ち破り、ナンバーズの精霊・アビスに打ち勝ったのだ。 

 

「何故だ?どうして璃緒と俺にこんなことを……」

 

「我はそなたの命令に従ったまで。そなたの記憶を呼び覚ますという命令に……」

 

「俺の命令だと?おい、どういうことだ!?おい!」

 

アビスの姿が消えると、凌牙の手にアビス・スプラッシュのカードが収まる。

 

「これが俺のナンバーズ。まさか、そんな……」

 

2枚のナンバーズを凌牙が手にし、遊馬達に濃霧が出現するとアビスの力によって遊馬達はかっとび遊馬号の甲板に転送した。

 

小鳥は帰ってきた遊馬達に安堵するが、璃緒は未だに意識を失ったままだった。

 

「璃緒!!!」

 

凌牙は目を覚さない璃緒に駆け寄った。

 

七枚の遺跡のナンバーズを巡る旅は終わりを迎えた。

 

しかし、それにより隠された真実が判明し、遊馬達の戦いにかつてないほどの大きな変化が及ぼすことになるのだった。

 

 

 




次回はNo.96との決戦でそれが終わったらマシュの出生秘密の話を書いていよいよ第六特異点に入る予定です。


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ナンバーズ171 遊☆戯☆王ZEXAL 第二部・第三章『滅びゆく三つの世界!ZEXAL VS No.96(後編)』

やっと映画編第二部が完結です!
次回ぐらいにマシュの出生の秘密で六月から第六特異点の話を始められると思います。


世界を股にかけた七つの遺跡のナンバーズを巡る大冒険を終えた遊馬達だが、璃緒は意識を失ったまま再び病院送りとなって入院となってしまった。

 

アストラルは海底神殿で見た記憶から凌牙と璃緒の正体について考えていたが、突如胸に大きな痛みが走り、アストラル世界に何か異変が起きたと気付き、寝ていた遊馬をすぐに起こした。

 

ニュースを見ると火山の噴火やオーロラの出現に南の島に氷山が流れ込むなどの異常現象が世界各地で発生し、まるで世界の終焉のような事態となっていた。

 

アストラルは人間界の異変はアストラル世界と何か関係があると感じ取り、何か大きな力が蠢いていると推測した。

 

遊馬は小鳥と合流して外を歩いていると凌牙の事を考えていた。

 

海底神殿の遺跡の後から様子がおかしく、璃緒が意識不明の事を含めて何か考え込んでいると感じていた。

 

海底神殿で判明した凌牙と璃緒の真実……その事を知っているアストラルはそれを遊馬に話すべきか考えていた。

 

「遊馬。シャークはいずれ、君に重大な相談をしてくるかもしれない」

 

「えっ!?なんだよ、それって……」

 

「彼が自分から話さないのなら、今何を言っても仕方のない事だ」

 

「仕方ないって、あいつなんか悩んでるのか?だったら、遠慮しないで話せばいいのによ……」

 

「それが、例え君に大きな苦しみをもたらす結果になってもか?」

 

「当たり前だ!だって仲間じゃねえか!」

 

「仲間……」

 

遊馬の仲間を信じる気持ちにアストラルは考え込んだその時、バイクに乗った凌牙が焦った様子で駆けつけた。

 

無事かと言われて何のことかわからない遊馬だったが、すると突然空から触れると痛みが走る謎の黒い雪のようなものが降り注いだ。

 

『ガハハハ!ハハハハハ!!』

 

突如空から不気味な笑い声が響き、強大な力が広がっていた。

 

暗雲から無数の雷が降り注ぎ、風が吹き荒れる中……謎の力によって遊馬達は自由を奪われながら宙に浮いて暗雲の中に引き込まれてしまった。

 

その際に異常現象を調査していて近くにいたカイトとオービタル7も巻き込まれてしまった。

 

遊馬達が辿り着いたところはサルガッソと同じ異世界空間で周囲を赤い結晶の山に囲まれた小さな決闘場だった。

 

そして、遊馬達をここに招き入れた者は……。

 

「フハハハハッ!会いたかったぞ、遊馬。そして、アストラル!」

 

「No.96!」

 

悲鳴の迷宮でベクターから貰ったバリアンズ・フォースのカオスの力をその身に取り込んでムキムキボディと翼を手に入れたNo.96だった。

 

No.96は遊馬とアストラルだけを呼び寄せようとしたが、小鳥と凌牙とカイトも一緒に巻き込んで連れてきてしまったが、凌牙とカイトのナンバーズも後で手に入れる予定なので好都合だった。

 

「No.96、今起きている異変は君の仕業か?」

 

「その通りだ。見るがいい……!」

 

No.96が決闘場にある映像を映し出した。

 

それはアストラル世界がカオスの力で攻撃を受けているものだった。

 

「アストラル世界だけではない。今や俺の力はバリアン……そして、人間世界まで影響を及ぼす」

 

「君はアストラル世界を破壊しようと言うのか!?」

 

「そうだ、跡形もなく消し去るつもりだ」

 

「そんな……お前にとってアストラル世界は故郷じゃねえのかよ!?」

 

「だからこそ、消し去る。神である俺に故郷など必要ない」

 

No.96はアストラルの一部で故郷であるはずのアストラル世界を滅ぼそうとしていた。

 

それは元々考えていたことかカオスの力でその考えに至ったのか不明だが、No.96は神として全ての世界を滅ぼそうとしていた。

 

その手始めに遊馬とアストラルとデュエルを行い、全ての因縁に決着をつけようとしていた。

 

No.96は己の中に取り込んで強化したカオスの力でバリアンズ・スフィア・フィールドを作り出して自分と遊馬とアストラルを閉じ込めた。

 

それだけではなく上空から落雷を落として遊馬とアストラルにダメージを与えていくと言う卑怯な行いをし、小鳥はずるい、正々堂々と戦えと非難する。

 

「あんの屑霧野郎……デュエルで正々堂々と戦いなさいよ!」

 

卑怯な事をするNo.96にレティシアは小鳥と同じように怒りに震えていた。

 

「遊馬、このデュエル……勝つぞ!」

 

「おうっ!」

 

遊馬とアストラルはNo.96の卑怯な行いにも屈せずに立ち上がり、デュエルディスクとD・ゲイザーをセットしてNo.96との最後のデュエルに挑む。

 

No.96は初手から前回のデュエルと同じマリスボラスモンスターを繰り出してから分身の『No.96 ブラック・ミスト』をエクシーズ召喚すると、更にバリアンズ・フォースを発動して『CNo.96 ブラック・ストーム』をエクシーズ召喚した。

 

初手から切札を出したNo.96に対抗し、遊馬も初手から希望皇ホープをエクシーズ召喚し、ヌメロン・フォースを発動して『CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』をエクシーズ召喚する。

 

ヌメロン・フォースとホープレイ・ヴィクトリーのコンボで攻撃すればNo.96に大ダメージを与えられるが、No.96は遊馬の手を読んでいた。

 

罠カード『カオス・クロス』でホープレイ・ヴィクトリーのオーバーレイ・ユニットを全て墓地に送り、デッキからフィールド魔法を手に入れ、更にこのターンにホープレイ・ヴィクトリーは攻撃出来ない。

 

No.96は遊馬とアストラルの対策を立てていき、先程手札に加えたフィールド魔法からかつてないほどの強力な一手を繰り出す。

 

「俺は手札からフィールド魔法『カオス・フィールド』を発動!」

 

それはNo.96が究極のフィールドと称する最強のカードだった。

 

「このカードは1ターンに一度、自分フィールドのカオス・ナンバーズのカオス・オーバーレイ・ユニットを一つ墓地に送り、相手のエクストラデッキからランダムに選択したナンバーズ1体をモンスター効果を無効にして、自分フィールドに特殊召喚出来る!」

 

カオス・フィールドは神のフィールド……遊馬とアストラルの心身にダメージを与え、更にアストラルからナンバーズを奪う凶悪な効果を持つ。

 

「それでは貴様のナンバーズを頂くぞ!俺はブラック・ストームのカオス・オーバーレイ・ユニットを墓地に送り、お前のエクストラデッキからナンバーズを貰う!」

 

No.96はアストラルからナンバーズを強制的に奪い取ると、そのナンバーズを見て不敵な笑みを浮かべた。

 

「フッ、解放しろ、怒りを!現れろ!『No.69 紋章神コート・オブ・アームズ』!!」

 

No.96がアストラルから奪ったのはトロンの怒りの化身であるコート・オブ・アームズだった。

 

しかし、カオス・フィールドの効果はそれだけではなかった。

 

「相手のエクストラデッキから奪ったナンバーズを一つ上のランクのカオスナンバーズに進化させる」

 

相手のナンバーズを奪うだけでなくカオス・ナンバーズにランクアップするという強大な効果を持っているのだ。

 

「俺はコート・オブ・アームズでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『CNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズ』!!」

 

カオス化したことで更に禍々しさが増したカオス・オブ・アームズはエクシーズキラーとしての効果は健在で、相手モンスターの攻撃力と効果を得る効果を発動させて、希望皇ホープレイ・ヴィクトリーに攻撃する。

 

遊馬は罠カード『ナンバーズ・マジック・マスター』で希望皇ホープレイ・ヴィクトリーをリリースしてデッキから永続魔法『炎の護封剣』を発動して攻撃を封じた。

 

引いたカードを見て遊馬はアストラルのアドバイスで仕掛けずに様子を見ることにし、そのカードをセットする。

 

No.96はもう一度カオス・フィールドの効果を発動し、ブラック・ストームのカオス・オーバーレイ・ユニットを使ってアストラルからもう一枚のナンバーズを奪って呼び出す。

 

「偽りの骸を捨て、神の龍となりて現れよ!『No.92 偽骸神龍Heart-eartH Dragon』!!」

 

コート・オブ・アームズに続いて現れたのはDr.フェイカーの最強のナンバーズ、Heart-eartH Dragonだった。

 

更にカオス・フィールドの効果でHeart-eartH Dragonをカオス化させる。

 

「現れろ!『CNo.92 偽骸虚龍 Heart- eartH Chaos Dragon』!!」

 

カオス・オブ・アームズと同じく禍々しさが増し、それは神の龍と言うよりも邪悪な骸の龍へと変貌した姿となった。

 

今ここにかつて遊馬とアストラルを苦しめ強敵、トロンとDr.フェイカー……二人のナンバーズがカオスナンバーズとして復活して再び立ち塞がるのだった。

 

「そんな……トロンさんとDr.フェイカーさんとNo.96のカオスナンバーズがこんな簡単に揃うなんて……」

 

マシュは凶悪なカオスナンバーズが勢揃いしたことに冷や汗をかいて顔を真っ青になる。

 

今のNo.96が展開した布陣はデュエル初心者でもわかるほどの恐ろしいものである。

 

Heart- eartH Chaos Dragonは相手フィールドの全てのカード効果をターンの終わりまで無効にしてセットカードを封じる効果を持ち、遊馬の炎の護封剣とセットカードが凍りついて使えなくなってしまう。

 

遊馬の守りは崩され、No.96は勝利を確信したように不気味な笑みを浮かべた。

 

ブラック・ストーム、カオス・オブ・アームズ、Heart- eartH Chaos Dragon……三体の最凶カオス・ナンバーズの攻撃が遊馬とアストラルに迫る。

 

絶体絶命の状況……そんな中、遊馬は不思議な光景が頭に過ぎる。

 

それは夕暮れ時に広場で遊馬とアストラルが待ち合わせをしていた。

 

「いやー、悪い悪い、遅れちまって」

 

「また補習か?」

 

「ち、違えよ!今日先生がどうしてもわからねえところを教えてくれるって言うから……」

 

「それを補習と言うんだ」

 

「なっ!?ぷっ、ははは!」

 

「あははははっ!」

 

いつものような日常的な会話をした後、遊馬とアストラルはデュエルをする。

 

「「デュエル!」」

 

「遊馬。君に会えて本当に良かった」

 

「な、なんだよ、いきなり。そんな本当のことを言われちまったら……」

 

「遊馬、ナンバーズを頼んだぞ」

 

「アストラル……?」

 

まるで走馬灯のような光景は幻覚で遊馬の意識は元に戻り、No.96と対峙する。

 

No.96は三体のカオスナンバーズで一斉攻撃を仕掛ける。

 

炎の護封剣とセットカードを封じられた遊馬だが、遊馬にはまだ手札が残されていた。

 

相手の攻撃宣言時に手札から特殊召喚出来る遊馬の頼れる盾、『ガガガガードナー』呼び出してダイレクトアタックを阻止した。

 

更にはガガガガードナーの効果で墓地に送った『タスケルトン』の効果でガガガガードナーの破壊を無効にして戦闘ダメージをゼロにすることでなんとかギリギリライフポイントを守り切ったがカオス・フィールドで遊馬とアストラルに多大なダメージが与えられる。

 

No.96はこのターンで仕留められなかったことに舌打ちしたが、Heart- eartH Chaos Dragonの効果で遊馬に与えたダメージ分ライフポイントを回復し、一気に7500となって大きな差を広げた。

 

「ぐっ……俺たちは絶対に負けねえ!俺とアストラルの絆の力を!お前に見せてやる!かっとビング、だ……」

 

遊馬はカオスナンバーズ達の攻撃によって心身共に大きなダメージを受け、遂に限界が来てその場で倒れてしまった。

 

「遊馬、君はよく戦ってくれた。少し休め!」

 

「何を言ってやがる……俺、全然、大丈夫……ぐうっ……」

 

「遊馬……後は私に任せてくれ!」

 

アストラルは遊馬のデュエルを引き継ぎ、デュエルディスクを顕現させて遊馬のデッキを自分のにセットする。

 

「遊馬、君はいつも諦めない心。そして、振り向かず、真っ直ぐに進む意思を持って歩み続けている。信じたものへ向かって」

 

「アストラル……」

 

「遊馬、どのような形になっても、私達は共に戦っている。さあ、No.96!私が相手だ!」

 

アストラルはNo.96と対峙し、No.96はアストラルの言葉を否定する。

 

「下らん。何が諦めない心、真っ直ぐ進む意思だ。アストラル世界によく似ている……ほんの僅かな悪意の染みで崩壊する脆弱な世界。その証拠にこの俺が今や、アストラル世界はおろか、バリアンや人間世界も崩壊させようとしている。そうだ……俺は神という存在なのだ!貴様はここで消滅する!」

 

No.96は永続魔法『ナンバーズ・カルマ』を発動してフィールドにナンバーズがいないプレイヤーはターン終了時に500ポイントのダメージを与える効果でアストラルを追い詰める。

 

ナンバーズ・カルマは明らかにアストラルがナンバーズを呼び出させるための思考の誘導。

 

「そうだったな、遊馬。私のターン、ドロー!常に前を向いて、迷わずにデュエルだ!」

 

アストラルは遊馬のように迷いを捨て、突き進むデュエルで戦う。

 

Heart- eartH Chaos Dragonの効果で封じられていた罠カード『ナンバーズ・リターン』を発動し、墓地からナンバーズを復活させる。

 

墓地にはNo.96が召喚したコート・オブ・アームズとHeart- eartH Dragonが存在する。

 

凌牙とカイトとNo.96は強力なナンバーズであるどちらかを選ぶと推測するが、アストラルの選択は……。

 

「私が呼び出すのは、希望皇ホープだ!」

 

希望皇ホープを復活させ、コート・オブ・アームズとHeart- eartH Dragonを希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットにする。

 

No.96はアストラルが希望皇ホープを選択したことを馬鹿にしたが、希望皇ホープの復活に応えるように遊馬の意識が呼び覚まされる。

 

「ホープは……アストラルと俺の、最初の絆だ!どんなやべぇデュエルの時でも、いつも必ずホープがいた。ホープは俺たちと一番長く一緒に戦ってきた、希望の仲間なんだ!だから俺たちは、信じるんだ!!」

 

遊馬が共に戦ってきた希望皇ホープへの強い信頼の言葉を述べ、その想いに応えるように希望皇ホープは金色の輝きを放つ。

 

「愚かな!その信じると言う安っぽい感情は嫉妬や猜疑心、憎しみを生み、そして裏切りを生む!個々の存在という煩わしく、面倒なものを消し去り、ただ神である俺だけがいればいい!それこそが理想の世界なのだ!」

 

No.96は人間の心の全てを否定して最悪な自己中心的で無茶苦茶な理想を語るが、一人だけその理想に共感する者がいた。

 

「……永遠の孤独か」

 

それはアルジュナだった。

 

生前の出来事から永遠の孤独を望むアルジュナは本来なら相入れないはずのNo.96の理想に少しだけ共感してしまったのだ。

 

しかし、No.96の理想を遊馬は真っ向から堂々と否定し、己の理想を語る。

 

「下らねえ……下らねえよ!そんな理想の世界なんていらねえ!みんなバラバラで、色んな奴がいるからいいんだ!そりゃ、失敗や間違いだってするさ。でも、間違ったら誰かが教えてやればいいんだ。その為に友達が、仲間がいるんじゃねえか!仲間がいて、一つになって、そんで二倍も三倍もすっげぇ力が生まれるんだ。みんなで生きてるから楽しいんだ。おもしれぇんじゃねえのかよ!!」

 

遊馬は仲間がいるから生きていける。

 

たとえ間違っても友達と仲間がいればやり直せる。

 

一人では小さな力でも、仲間とその力を一つに合わされば大きな力になる。

 

そして、みんなと一緒にいるからこそ楽しく、面白く生きられると強く宣言する。

 

「……やっぱり、敵わないな……マスターには」

 

アルジュナは遊馬の強い心を持つ言葉に感嘆のため息を吐いた。

 

アストラルは遊馬の言葉に励まされ、遊馬と最後のターンに挑む。

 

「遊馬。二人で決着をつけるぞ」

 

「アストラル……」

 

「ZEXALだ」

 

「ああ、行くぜ!」

 

「「かっとビングだ!」」

 

遊馬とアストラルの絆の力が最高潮に高まり、二人から金色の聖なる輝きが放たれる。

 

「俺は俺自身と!」

 

「私で!」

 

「「オーバーレイ!」」

 

遊馬とアストラルは異世界空間であるここでオーバーレイを行い、それぞれ赤と青の光となって飛ぶ。

 

「俺たち二人で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

「真の絆で結ばれし二人の心が重なった時、語り継ぐべき奇跡が現れる!」

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!」」

 

二つの光が一つに重なり、遊馬とアストラルの肉体と精神が合体して奇跡の英雄・ZEXAL IIが降臨する。

 

「ZEXALだと?だが、今から何をしても遅い!」

 

「いや、仲間の絆は必ずお前を打ち砕く!行くぞ、希望皇ホープよ!カオス・エクシーズ・チェンジだ!現れろ、CNo.39!混沌を光に変える使者、『希望皇ホープレイ』!!」

 

ZEXAL IIは希望皇ホープをエクシーズ素材にし、希望皇ホープレイを呼び出す。

 

しかし、No.96は罠カード『ナンバーズ・デス・ロック』で希望皇ホープレイを鎖で縛り上げて攻撃と効果を封じ、このターンの終わりに破壊されて攻撃力分のダメージをZEXAL IIに与える。

 

だが、No.96がナンバーズを呼び出した時の罠をセットしていたのは想定内でZEXAL IIは魔法カード『エクシーズ・トレジャー』を発動してフィールドのモンスターエクシーズの数×1枚ドローする効果でデッキから4枚のカードをドローする。

 

「最強デュエリストのデュエルは全て必然。ドローカードさえもデュエリストが創造する!シャイニング・ドロー!!」

 

ZEXAL IIはシャイニング・ドローで創造した4枚のカードに全てを賭けた。

 

まずは魔法カード『希望の鼓動』でホープモンスターは相手効果を受けない効果と発動しているカード効果を無効にして破壊する効果を与え、ナンバーズ・デス・ロックの呪縛を打ち破る。

 

効果を使えるようになった希望皇ホープレイの効果で三つのオーバーレイ・ユニットを全て使って攻撃力を4000まで上昇させて、カオス・オブ・アームズの攻撃力を一気に3000ポイント下げる。

 

「ここからだ!俺は『ZW - 極星神馬聖鎧』を召喚!」

 

ZEXAL IIは新たなるゼアルウェポン、北欧神話のオーディンが騎乗したとされる伝説の馬を模した神馬を召喚して希望皇ホープレイに装備する。

 

希望皇ホープレイは極星神馬聖鎧の背に乗り、攻撃力を1000ポイントアップする。

 

更にZEXAL IIは速攻魔法『オーバーテイク・サモン』でブラック・ストームのカオス・オーバーレイ・ユニットを奪って手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する。

 

「行くぜ!俺は手札から『ZW - 阿修羅副腕』を特殊召喚!」

 

ZEXAL IIは六つの腕を持つ仏教の守護神、阿修羅を模したゼアルウェポンを特殊召喚して希望皇ホープレイに装備する。

 

四つの腕を持つ希望皇ホープレイに新たな六つの腕とホープ剣に新たな力を与えた。

 

阿修羅副腕の効果で攻撃力を1000ポイントアップし、更に相手モンスター全てに攻撃することが出来る。

 

これにより、希望皇ホープレイの攻撃力6000による怒涛の三回攻撃が可能となった。

 

No.96は最後の罠カード『カオス・アライアンス』を発動して全てのカオスナンバーズの攻撃力を一番攻撃力の高いモンスターと同じにする。

 

「ホープ剣・アシュラ・ディバイダー!!」

 

希望皇ホープレイのホープ剣でHeart- eartH Chaos Dragonとカオス・オブ・アームズの二体を斬り裂き、No.96に大ダメージを与える。

 

そして、最後に残ったブラック・ストームだが、ブラック・ストームは破壊された時に発生するダメージは互いに受ける効果がある。

 

しかし、同じ手を二度も食わないと極星神馬聖鎧の効果で希望皇ホープレイの攻撃力をブラック・ストームと同じにして二体同時に相打ちで戦闘ダメージをゼロにした。

 

フィールドのモンスターが全滅し、No.96の発動しているナンバーズ・カルマでこのターンの終わりにナンバーズのいないZEXAL IIは500のダメージを受けて敗北する。

 

「詰めを誤ったな!」

 

No.96は今度こそ自分の勝利を確信した。

 

「……まだ俺のターンは終わっていない」

 

「何!?」

 

ZEXAL IIのフィールドのカードは無く、手札もゼロ……しかし、ここまでの状況を全て想定していたZEXAL IIは極星神馬聖鎧の最後の効果を発動させる。

 

「「極星神馬聖鎧の効果発動!装備したモンスターが破壊された時、墓地の希望皇ホープを特殊召喚できる!現れろ、希望皇ホープ!」」

 

墓地から極星神馬聖鎧の効果を受けてその身を太陽のように金色に輝かせ、両手にホープ剣を構えた希望皇ホープが復活した。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「言ったはずだ。俺たちの希望が必ず勝利に導くとな!」

 

「この俺が、神が、負けるのか!?」

 

「「行け!希望皇ホープ!!No.96にダイレクトアタック!ホープ剣・ラグナカイザー・スラッシュ!!」」

 

希望皇ホープの全てを込めた最後の攻撃がNo.96に直撃し、遂にZEXAL IIはNo.96に勝利した。

 

勝利したZEXAL IIは既に満身創痍でその場に膝をつく。

 

勝利に安心した……しかし、まだNo.96の憎悪が消えたわけではなかった。

 

「負けた……神であるこの俺が……?……あるわけない、俺が負けるはずがない!」

 

敗北を認めないNo.96は最後の悪足掻きに出た。

 

「アストラル!!貴様が勝ったと言うなら、この俺を、その体の中に受け止めてみろ!!!」

 

No.96は自らをエネルギー体にしてZEXAL IIに向けて突撃する。

 

「遊馬!」

 

アストラルは遊馬を守る為にZEXAL IIの合体を解除して遊馬を突き飛ばす。

 

「ぐあっ!?」

 

次の瞬間……鋭い槍のような形となったNo.96がアストラルの胸に突き刺さった。

 

「アストラル!」

 

「来るな!来てはいけない!」

 

「アストラル……貴様にアストラル世界は救えない。俺は神、神なのだ!」

 

膨大なカオスの力を宿したNo.96がアストラルの中に入り込み、アストラルの力とカオスの力が拒絶反応を起こして決闘場が崩壊する。

 

「アストラル!!!」

 

「全てを……全てを消し去ってやる!お前も、お前の仲間も、全てを!!」

 

「いけない、このままでは……」

 

アストラルはこのままでは自分のみならず遊馬や小鳥達を消滅させてしまうと察知する。

 

「遊馬……うぉおおおおおーっ!!!」

 

アストラルは遊馬を守る為、己の中にある全てを力を掛けてNo.96を消し去る。

 

そして、カオスの力を極限まで押さえ込みながら……自爆するのだった。

 

「アストラル……おい、アストラル!!」

 

遊馬はアストラルに駆け寄るが、アストラルの姿が点滅しながら消えかかっていた。

 

自爆することでカオスの力を抑え、決闘場に大きな穴が空く程度で済んだ。

 

「アストラル……」

 

「遊馬、無事だったか……」

 

「馬鹿野郎!無茶しやがって!何でZEXALを解いたんだ!?」

 

「君を巻き込むわけにはいかない」

 

「なんでだよ!仲間だろ!?」

 

「仲間か……そう、君はかけがえのない仲間だから。君には繰り返し教えられたな。仲間の大切さ、仲間を信じる心」

 

アストラルは遊馬と初めて出会った時から仲間の大切さと仲間を信じる心を何度も繰り返し教えられ、その心に刻んだことを思い出していた。

 

「お別れだ、遊馬」

 

「えっ!?」

 

「ナンバーズを頼んだぞ」

 

アストラルは希望皇ホープを始めとする所有する全てのナンバーズを遊馬に託した。

 

「な、何でだよ、どう言うことだよ……ふざけんじゃねぇよ!なんでお別れなんだよ!俺、嫌だよ、別れるなんて!」

 

遊馬は涙を流してアストラルと別れるのを拒んだが、アストラルの足先から徐々に消滅していく。

 

アストラルはNo.96とカオスの力を消し去る為に己の全ての力を使い切ってしまい、消滅してしまうのだ。

 

「待てよ、アストラル!アストラル!!」

 

安らかな笑みを浮かべたアストラルは遊馬に向けて手を伸ばす。

 

「どこにも行かないでくれよ!おい、アストラル!!」

 

遊馬も手を必死に伸ばしたが、その手はアストラルに届かない。

 

「ありがとう」

 

二人の手は重なることなく、アストラルは無数の光の粒子となって決闘場の穴の下……異次元へと落ちていった。

 

「アストラル!!!」

 

遊馬の首からかけていた皇の鍵がまるで遊馬とアストラルとの繋がりが断ち切られたかのように紐が切れ、アストラルの後を追うように異次元へと落ちてしまった。

 

そして、アストラルは完全に消える前に最後の力で遊馬達全員を異世界の決闘場から人間界の元いた広場へと送り届けた。

 

小鳥は涙を流し、凌牙とカイトは拳を握りしめて悲しみに耐えた。

 

「アストラル……アストラル!!!」

 

遊馬はアストラルと皇の鍵を失い、二度と会うことの出来ない悲しみに嘆き、アストラルの名を叫ぶように呼ぶのだった。

 

No.96との長きに渡る因縁の戦いは終わった。

 

しかし、その代償として遊馬は相棒のアストラルと宝物である皇の鍵を同時に失ってしまった。

 

遊馬はこれほどにまでないほどの絶望の底へと叩き落とされてしまい、希望の光に闇が迫ろうとしていた。

 

そして……遊馬とアストラルの戦いの物語は遂に最終章へと突入する。

 

そこで映像が終わり、食堂全体の電気が付く。

 

「……え?そんな……まさか、ここで……?」

 

「フォウ……?」

 

マシュとフォウは呆然とし、微妙な空気が広がる中、ダ・ヴィンチちゃんは気不味そうな表情で発表する。

 

「えーっと、これで映画の第二弾の上映は終了!第三弾をお楽しみに♪」

 

「「「えーっ!??」」」

 

「ドフォーウ!?」

 

まさかのアストラル死亡と言う衝撃的なラストからのお預けにブーイングがあちこちから飛び交う。

 

「し、仕方ないじゃないか!上映時間とかその他諸々で切るタイミングはあそこしかなかったんだ!あっ、や、やめるんだ!人に向けて物を投げるのはいけないよ!?」

 

ダ・ヴィンチちゃんは申し訳なさそうに言うが、あまりにも気になる終わり方に物を投げる者もいた。

 

「お兄ちゃん、アストラルさんをどうやって助けたの!?」

 

「アストラルさん!胸の傷は大丈夫なのですか!?」

 

桜と凛は遊馬とアストラルに駆け寄って映画の続き……アストラルはどうやって助かったのか気になって聞こうとした。

 

「えっと……教えてあげたいところだけど……」

 

「こういうものはネタバレは禁止だ。次の映画まで気長に待ってくれ」

 

「「えーっ!?」」

 

ネタバレをしてはいけないと遊馬とアストラルは口を固く閉し、桜と凛はガーン!とショックを受ける。

 

「教えてよー!」

 

「お兄様とアストラルさんのケチ!」

 

頬を膨らませて不機嫌になる桜と凛はポカポカと遊馬を叩きながら不満を言う。

 

「ご、ごめんって……でも、心配するなよ。この後に絶望からの大逆転劇があるからさ!」

 

遊馬は苦笑いを浮かべながら二人を落ち着かせる。

 

色々と不満はあったが、次の映画で最終章ということもあるので、みんなにはひとまず我慢してもらった。

 

次の映画が上映されるまで前作を見直したり、これまでの経緯をまとめたりして待つことになるのだった。

 

 

 




マシュ「え、えぇーっ!?凌牙さんと璃緒さんがバリアン七皇!?確かにお二人は遊馬君とはまた違った不思議な力を持っていましたが……そして、アストラルさんが遊馬君を庇って……」

ジャンヌ「そんな……お二人がバリアンなら、いずれ遊馬君と……」

レティシア「え?アストラルが、死んだ……?いやいや、どうやって復活させたのよ!?」

桜「お兄ちゃん、大丈夫かな……目の前でアストラルを失って……」

ブーディカ「アストラルとドルベの話から互いに憎しみの感情は感じられなかった。それなのに何故アストラル世界とバリアン世界は争っているの?」

ネロ「ふむ……互いに戦う本当の意味も知らずに争っている。確かにユウマのくだらないことで戦うなという意見には一理あるが、難しいものだな……」

清姫「ああ、旦那様……世界はどれだけ旦那様を苦しめれば気が済むのでしょうか。とりあえず、その一端であるミストラルさんを燃やしましょうか?」

ラーマ「リョウガとリオ……もしや、あの二人は何度も転生を繰り返しているのか……?」

シータ「一体あのお二方に何が起きたのでしょうか……?」

アルジュナ「まさか私があんな邪悪な者と同じ共感を持つとは……しかし、マスターの言葉は相変わらず心に響きますね」

カルナ「マスターの人生と戦いはオレ達英霊と同じように波瀾万丈だな。だが、命を失ったアストラルをマスターはどうやって取り戻すのか……マスターの次の行動と奇跡に期待だな」

式「そう言えば前に一度アストラルは死んだって言ってたな。胸の傷は遊馬を庇った時のか……」

アルトリア「何だか色々と状況が複雑に重なり合って訳がわからなくなってきましたね……これはまた映画を初めから見直さないといけませんね」

エミヤ「シリーズものの映画のパンフレットに記載されている時系列や相関図などをまとめたのを用意したいな」





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ナンバーズ172 マシュの過去とカルデアの大罪

FGOの第二部の6章前編が始まりましたね。
まだ全然進めてませんが、運良くモルガンを手に入れたので育てて頑張って攻略したいと思います!

今回はマシュの過去の話です。
と言っても本作では色々と運命が変わっているので原作ほど重い話ではないです。


映画第二弾の上映から一夜明けた次の日。

 

遊馬とアストラルは医療室に訪れていた。

 

そこには忘れがちだがカルデア医療部門のトップのロマニが遊馬の体の精密検査を行っていた。

 

その周囲にはオルガマリーとダ・ヴィンチちゃん、エルメロイII世とナイチンゲール。

 

そして……目をキラキラさせながら興奮しているエレナがいた。

 

今回はエレナが心の底から待ち望んでいたモノ……遊馬の中に宿るヌメロン・コードを調べる為だ。

 

第五特異点で判明した遊馬の魂が数千年前に分かれたアストラルの半身で、その魂にはヌメロン・コードの極一部が宿っている。

 

遊馬はその事をもう一人のアストラルであるアナザーから詳しく話を聞いたが、自身に宿るヌメロン・コードについては謎が多い。

 

そこで神智学の祖で高次の存在「マハトマ」やその集合体「ハイアラキ」と接触し、多くの叡智を得たとされるエレナに詳しく見てもらう事にしたのだ。

 

ヌメロン・コードに興味があるオルガマリーとダ・ヴィンチちゃん、そして時計塔のロードの名を持ち、これまで多くの魔術師も目を見張る考察力を持つエルメロイII世が同席する。

 

ちなみにナイチンゲールはエレナが暴走した時用の抑止力として他の事務作業をしながら同席している。

 

「よし、検査結果が出たよ。まあこれはずっと前からやってたから結果は同じだけどね。遊馬君の肉体は異世界人とは言え、僕らと同じ人間そのものだ。魔術回路は無しだから魔力もないの一般人だ。まあ、そんな子が毎度毎度とんでもない召喚獣を呼び出したり、アストラル君と合体したりというとんでもない事をしているのが本当に信じられないけど……」

 

ロマニは遊馬の肉体を精密検査を行い、いたって普通の人間だということを証明する。

 

「さ、さぁ、遊馬!早速だけど、あなたのヌメロン・コードを見せて!」

 

「お、おう……」

 

精密検査が終わったところでエレナは大興奮で息をハァハァさせながら近づき、そのテンションに遊馬も唖然と鳴る。

 

「エレナ、念を押しておくが遊馬に変な事をしたらタダでは済まさんぞ」

 

「とても興奮していますね。すぐに鎮静剤を打ちましょうか?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

アストラルが睨みつけ、ナイチンゲールが鎮静剤の注射を構え、エレナは肝が冷えてすぐに心を落ち着かせて改めて遊馬と対峙する。

 

「それじゃあ、遊馬。いつものように出してみて」

 

「わかった」

 

遊馬は目を閉じて意識を集中させ、自分の中にある力を顕現させる。

 

遊馬の胸元から淡い光を放ちながら、パズルのように形を分解したり、元に戻ったりする一枚のカードが顕現する。

 

それこそがこの世界とは異なる異世界の過去と現在と未来の全てが記され、あらゆる世界の運命を全て決める力を持つ神のカード『ヌメロン・コード』。

 

そして、遊馬の前世の存在……二つに分かれたもう一人のアストラルである『アナザー』が手に入れてその魂に宿したヌメロン・コードの『未来』を司るその一部の力である。

 

ヌメロン・コードの顕現に合わせて遊馬の背中から美しい双翼が生え、目を開くと赤い瞳が虹色に輝く。

 

目の前にヌメロン・コードが現れ、エレナは表情をうっとりさせる。

 

「ああっ……やっと目に出来たわ。私が考えたアカシック・レコードがこうして目の前にあるなんて。では、早速だけど調べさせてもらうわ」

 

アカシック・レコードは宇宙と数多の世界の全て……過去と現在と未来が記されているとされるエレナが生前から考えていた記録層である。

 

エレナは興奮を抑えて研究者として意識を切り替えて調査を始める。

 

「ふむ……遊馬の体から出ているヌメロン・コードからは魔力とも違う不思議な力の波動出ていて……見えるけど、触れられないわね。まるで触れられない幻か立体映像みたいな不思議な感じね」

 

「……恐らくはヌメロン・コードがマスターの魂と完全に一体化しているからだろうな。目に見えているのはあくまでイメージにしか過ぎないのだろう」

 

我慢出来ずにエルメロイII世も意見や考えを出す。

 

遊馬の胸元から出ているヌメロン・コードは遊馬とアストラルを含めて誰が触れようとしてもすり抜けてしまい、まるで幻か立体映像のようなものとなっている。

 

「マスター、そのヌメロン・コードの力を自分の意志で使えるのか?」

 

「うーん……使うというか、ヌメロン・コードの力を無意識に引き出してカードにしたって感じかな」

 

「カードに?」

 

遊馬はデッキケースから2枚のカードを取り出してエルメロイII世に見せる。

 

遊馬が見せたカードはヌメロン・フォールと未来皇ホープ……遊馬がシャイニング・ドローで創造したカード。

 

すると、2枚のカードとヌメロン・コードが波紋のような光を放って共鳴反応を見せた。

 

「そうか!そういう事なのね!遊馬はカードを使ってモンスターを召喚する『魔術』を使うデュエリスト。デュエリストにとって一番大事な力の源はカード、だからこそ遊馬はヌメロン・コードの力を一番引き出せるのが未来の力を秘めたカードの創造なのね!」

 

ランクダウンマジックのヌメロン・フォールとランク0の未来皇ホープはデュエルモンスターズでは他に存在しない遊馬だけが持つ唯一無二のカードである。

 

「アストラル、あなたはそちらの世界でヌメロン・コードを使ったことがあるのよね?どんな感じだった?」

 

オルガマリーはアストラルがヌメロン・コードを使ったことがあるのを思い出し、どんな感じなのか聞いてみた。

 

アストラルは顎に手を添えて考える動作をしてその時のことを思い出す。

 

「どんな感じか……そうだな、ヌメロン・コードは一度だけ使って私達の世界の過去と未来には手をつけなかったが、イメージとしては……自分の想いを描く感じだな。例えるなら既に描かれている絵を書き足すか、物語を書き換える……そう思ってくれれば分かりやすいか」

 

世界の全てを書き換えることが出来るヌメロン・コードを使った感想を聞いたエレナはすぐにメモを取る。

 

ふと遊馬はヌメロン・コードを見ながらある事を思い出す。

 

「そう言えば、ラーマとシータを助ける時にヌメロン・コードを握りしめたまま未来皇ホープと合体した時に羽根の剣を作ったな……」

 

ラーマとシータの呪いを解く為に遊馬は無意識にヌメロン・コードの力を使って呪いの亡霊を倒した。

 

それを聞いてエレナは耳を疑い、遊馬への質問攻めが続くのだった。

 

今回の調査と遊馬がアナザーから聞いた話で以下のことが判明した。

 

・ヌメロン・コードは遊馬(アナザー)の魂が手に入れた後に数千年近く掛けて一つに混ざり合い、完全に一体化しているので切り離しは不可。

 

・遊馬のヌメロン・コードはアストラルが使用したヌメロン・コードの本体のように世界を変えるほどの大きな力はない。

 

・ヌメロン・コードの本体から切り離された1%にすら満たない極一部の欠片ではあるが、その秘められたエネルギーはとてつもなく膨大なものである。

 

・ヌメロン・コードの力を遊馬が一番引き出せる方法は未来皇ホープなどデュエルモンスターズの新しいカードを創造すること。

 

・普段は思い通りに力を引き出せないが、遊馬自身の強い想いや感情の高まりでヌメロン・コードの力を一時的に使う事が出来る。

 

・遊馬が時折見る未来を暗示する夢見の力は恐らくは未来を司るヌメロン・コードの力によるもの。

 

・遊馬の背中に生えた双翼は未来皇ホープとヌメロン・コードによって創り出された力でこちらは遊馬の意思でいつでも顕現させる事ができる。

 

・遊馬の虹色の両眼は魔眼の知識があるオルガマリーに見てもらったが、特に魔眼のような力は無くヌメロン・コードの力の余波で色が変わっただけで今のところ何かの能力を有しているかどうかは不明。

 

まだ不明なことは多いが、ヌメロン・コードの事を調査出来てエレナは大満足だった。

 

かなり時間が掛かった調査と質問攻めで疲れ切った遊馬とアストラルは自室に戻り、ベッドに横たわって一休みをする。

 

「つ、疲れたぁ〜」

 

「エレナが予想以上に興奮していたな……だが色々わかって良かったな」

 

「そうだな。自分の中にヌメロン・コードがあるって変な気分だけど……」

 

「遊馬、君は……」

 

「分かってる。俺は俺……だろ?」

 

「ああ……」

 

遊馬とアストラルは笑みを浮かべて軽く拳をぶつけ合った。

 

既に自分の正体について迷いを振り切っている遊馬は自分のことに対する全ての事実を受け入れている。

 

「あっ、そうだ!今日はもうフリーだし久しぶりにカードの整理とかやるかな!」

 

「そうだな。特異点ごとに増え続けるフェイトナンバーズにアナザーの新しいカードもあるからな。ここで一度カードの整理をして次の特異点に向けたデッキ編集も行おうか」

 

「それじゃあ早速始めるか!」

 

遊馬はベッドの上にカードを広げてアストラルと一緒にカードの整理を行う。

 

カードの整理は種類や用途に分けていくのが意外に大変でアストラルが細かい指示を出しながら遊馬が一枚一枚分けていく。

 

数時間かけてやっと整理が終わると遊馬は疲労感からそのままベッドに横たわる。

 

「終わったぁ……」

 

「お疲れ様だ、遊馬」

 

「おーう……こうして見ると本当にカードが増えたよな……特にフェイトナンバーズ。見ろよ、デッキ以上の枚数だぜ」

 

「私と出会うまでモンスターエクシーズを1枚も持ってなかった頃とは段違いだな」

 

「そうだな……特異点の戦いでは使い切れないけど、人間界に戻ったらフェイトナンバーズ達を使ってシャークやカイト達を驚かしてやるぜ!」

 

遊馬はフェイトナンバーズを使って凌牙やカイト達とデュエルをするのを心の底から楽しみにしている。

 

「えへへ、楽しみだぜ……」

 

フェイトナンバーズは英霊達と契約した遊馬だけのナンバーズ。

 

フェイトナンバーズを使ってみんなを驚かせ、共に戦う日を必ず実現すると改めて心に誓う。

 

すると遊馬は疲れから意識が朧げになってうとうとしていき、いつのまにか眠りについてしまった。

 

眠ってしまった遊馬を見てアストラルは宙に浮いたまま横になって一緒に眠る。

 

フェイトナンバーズのカードを弄りながら眠ってしまった遊馬の指先にはマシュの2枚のフェイトナンバーズが触れていた。

 

マシュのフェイトナンバーズが淡い光が点滅しており、遊馬にある光景を見せる……。

 

「何だ……?」

 

遊馬が眠りの中で見た景色……それはいつも見慣れたところだった。

 

「カルデア……?」

 

それはカルデアだったが、そこは見たことない施設の部屋だった。

 

そこには複数のカルデア職員が集まっており、驚くべき人物もいた。

 

「あいつは……レフ!?」

 

それはカルデアの裏切り者でその正体はソロモン七十二柱の悪魔であるレフだった。

 

レフの隣には不安そうな表情をしたロマニがおり、二人の存在に遊馬はある推測を立てる。

 

「まさか、これは過去のカルデアなのか……!?」

 

遊馬が見ている光景は過去のカルデアだと推測すると、そこに見たことの無い男がいた。

 

「誰だ……?あのおっさん……?」

 

癖のある長い白髪を三つ編みに纏めた少し若々しい男がいて、その男は遊馬の知っている誰かにどこか面影が似ていた。

 

そして……大きな部屋の中心……そこには信じられない光景があった。

 

「マシュ……!?」

 

それは遊馬のもう一人の相棒であるマシュがいたが、自分の知っているマシュよりもかなり幼かった。

 

そのマシュは大きな機械に縛り付けられて両手両足に拘束具を付けられていた。

 

すると、マシュの足元に英霊を召喚する時に現れる魔法陣が現れ、マシュの体にデミ・サーヴァントの霊衣と鎧が装着された。

 

それに職員たちが喜ぶのも束の間、マシュは拘束を破り、怒りに身を任せて職員と謎の男に向けて攻撃を仕掛けた。

 

十字の盾を出現させて振るい、施設はあっという間に火の海となった。

 

遂に謎の男に攻撃しようとしたが……マシュが伸ばした手をもう片方の手で押さえ込んだ。

 

そして、マシュは何かを押さえ込むようにその場に座り込み、鎧が消失しながら倒れてしまった。

 

「何だよ……何だよこれは……!?」

 

遊馬は何が起きたのか分からずに困惑し、意識が一気に目覚める。

 

目が覚めた遊馬は全身から汗が流れ出ていて、水分不足で気分が悪くなっていてすぐに洗面台に行ってコップに水を注いで喉に流し込む。

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

心臓の鼓動が高くなり、気持ち悪さから吐き気が出そうになったのを胸を押さながら耐えて洗面台の前で座り込む。

 

「遊馬……大丈夫か?」

 

目が覚めたアストラルは遊馬に駆け寄るが、アストラルも顔色が良くなかった。

 

「アストラル……俺、マシュの……」

 

「私も見た……恐らくは君と同じ夢を……」

 

アストラルは遊馬と同じ魂を持つ半身同士でたまたま近くにいた事で遊馬が見た夢をアストラルも見たのだ。

 

「あれって……多分、人体実験……だよな……?」

 

遊馬はマシュのされたあの光景にアニメや漫画などのフィクションでしか見たことのなかった人体実験が連想されていた。

 

「くっ……見落としていた。世界を存続させる人理継続保障機関とは言え、ここは魔術と科学の区別なく研究者が集まった研究所にして観測所。そして、英霊の力を宿して戦うデミ・サーヴァント……その可能性を考えるべきだった!」

 

アストラルは怒りに震えて拳を握り締めた。

 

遊馬とアストラルの脳裏にはかつて桜が受けた魔術の悍ましい蟲を使った肉体の調整が思い出されていた。

 

魔術は時として他者の人の命をも平気で利用して踏み躙るモノ。

 

英霊の力をその身に宿すマシュにも魔術によって肉体を弄られてもおかしくはなかった。

 

しかし、遊馬とアストラルは自分達が特異な存在だと言うこともあり、気付けなかった。

 

それだけでなく、いつも笑顔で遊馬とアストラルの頼れるもう一人の最高の相棒とも言えるマシュにそれほどの重い過去があるとは思いも寄らなかったのだ。

 

遊馬は立ち上がってもう一度水を飲んで心を落ち着かせるとその体から真紅のカオスの光が溢れ出る。

 

「……アストラル、確かめに行くぞ」

 

「ああ……真実を確かめに!」

 

遊馬とアストラルは自室を飛び出して全速力で廊下を駆ける。

 

二人が向かった先はいつもカルデア職員が多くいる管制室だった。

 

そこに入ると次の特異点を特定するために多くの職員が働いていて、その中心にはオルガマリーとロマニがいた。

 

「遊馬、アストラル──二人共、どうしたの!?」

 

オルガマリーは遊馬とアストラルが明らかにいつもと様子が違うのと遊馬の体からカオスの光が溢れ出ていることに驚いていた。

 

ただならぬ様子の二人の来訪にオルガマリーだけでなくロマニやカルデア職員達も驚きを隠せないでいた。

 

遊馬とアストラルは体を震わせながらオルガマリー達を睨みつけて静かに口を開いた。

 

「……所長、隠さずに答えてくれ。カルデアは……あんた達カルデアは……マシュに、マシュの体に何をしたんだ!?」

 

「オルガマリー……君によく似た男がカルデアにいたはずだ、彼は何者だ!?」

 

遊馬とアストラルの怒号に近い言葉にオルガマリーは絶句した。

 

ロマニ達も同じく絶句し、誰もが口を開けない中……オルガマリーは震えながら口を開いた。

 

「……マシュから話を聞いたの……?」

 

「違う。夢で見たんだ……幼いマシュが人体実験をされてデミ・サーヴァントになった光景を……!」

 

「そこにはレフもいた……それはカルデアで起きた過去の出来事だと私と遊馬は確信している。私達は……カルデアの……マシュの真実を確かめに来た!」

 

遊馬とアストラルの話にオルガマリーは意を決して前を向いて二人に告げた。

 

「……分かりました。貴方達、いいえ……貴方達を含む、カルデアにいる人間とサーヴァント達に全てを話します。カルデアが……私の父が、犯した大罪を……マシュの過去を……」

 

オルガマリーはマシュの過去とカルデアの大罪を遊馬とアストラルだけでなく、カルデアにいる全ての者に知ってもらう為、カルデア中の全てのスピーカーをオンにして放送する。

 

始まりはカルデアの先代にして初代所長……オルガマリーの父・マリスビリー・アニムスフィアだった。

 

カルデアは人類の未来を見守るという大義のもとに非人道的な試みも少なからず行われた。

 

それこそが『英霊』と『人間』の融合──『デミ・サーヴァント実験』。

 

サーヴァントは使い魔として使役しているものの、英霊は人間を遥かに越えた存在である。

 

英霊がその気になればマスターであれ命を失い、座に還ることになる。

 

それでは、安全な兵器とは言えないと考えたマリスビリーはより確実な英雄の力を求めた。

 

英霊は縁となる聖遺物を触媒にして召喚されるが、カルデアはその触媒を『人間の子供』にした。

 

英雄を呼ぶに相応しい魔術回路と無垢な魂を持った子供。

 

これを用いて英霊と子供を一つの存在にし、英霊に『人間』になってもらおうとした。

 

そのコンセプトの元、マリスビリーは秘密裏にカルデアで人工受精による子供達を作り出した。

 

今から16年前の西暦2000年……その年にマシュが産まれた。

 

マシュは……人工受精と遺伝子操作によって作られた人間。

 

そのような点ではマシュはイリヤやアイリスフィールのようなホムンクルスと近い存在である。

 

しかし、基本的には質の良い魔術回路を持って生まれただけの普通の人間。

 

それから、10年後の2010年、マシュが10歳に成長した時に英霊との融合術式は行われた。

 

英雄の召喚そのものは成功し、マシュの中に英霊が呼び出された。

 

しかし、その英霊は目覚めなかった。

 

その英霊は高潔な心の持ち主でカルデアとマリスビリーの行いを認めなかった。

 

『自分が退去しては触媒となった少女は死亡する。だから退去しないが目覚めもしない』

 

英霊はマシュを生かすためにその身に宿り続けたが、カルデアとマリスビリーには一切協力しなかった。

 

マシュは『英霊融合』の術式が正しいことを証明したが、同時にそれ自体が間違いであることも証明したのだ。

 

英霊はたとえ反英雄であろうと人間との融合を拒否する。

 

そうして融合実験は頓挫し、その一年後……マリスビリーは所長室で亡くなっていた。

 

マリスビリーの死亡には事件性はなく、自殺と認定された。

 

マリスビリーの亡き後、娘であるオルガマリーが仕事を引き継ぎ、カルデアの二代目所長となった。

 

ロマニはオルガマリーからなんとか許可を取り、マシュをスタッフ入りさせた。

 

融合した英霊は眠ったままだが、マシュのマスター適性は一流のものだからだ。

 

しかし、その一方でオルガマリーは恐怖に震えていた。

 

理想の父親が亡くなったかと思えば、その父親が裏で酷い実験を起こしており、ショックで一ヶ月近く拒食症に陥っていたほどだった。

 

そして、オルガマリーはマシュに自由を与えることでいつ復讐されるか気が気ではなかったが、オルガマリー自身はマシュから目を背けなかった。

 

魔術師の中ではかなり珍しいが、生真面目な性格で間違った事を許せないからこそオルガマリーはマシュと向き合った。

 

そのお陰でマシュは一人の人間として認められ、カルデア内での自由を獲得した。

 

遊馬とアストラルはカルデアの大罪とマシュの経歴を知り、呆然としていた。

 

「それが、俺がマシュと出会うまでの過去……」

 

「なんてことだ……いや、待て……そうだとしたら……!」

 

アストラルは今までの事を頭の中で整理し、大きな疑惑にたどり着き、すぐにロマニに尋ねた。

 

「ロマニ!マシュは……マシュはあとどれだけ生きられるんだ!?」

 

アストラルの衝撃的過ぎる言葉に遊馬は耳を疑った。

 

「アストラル、どう言う事だ!?」

 

「遊馬、私はナンバーズから人間界の知識を得ている。デザインベビーには倫理的な大きな問題点があるが、遺伝子操作によって遺伝子に何らかの不具合や欠陥などの大きな危険も孕んでいる!だからこそ人間界ではデザインベビーを作ることは法で禁止されているんだ!」

 

「遺伝子の欠陥って……!」

 

「マシュはただのデザインベビーじゃなく、デミ・サーヴァントになるために作られた存在だ。恐らくは様々な薬を体に打ち込まれたに違いない。それに英霊と言う膨大な力の存在を宿すと言う肉体や魂に大きな負荷が掛かるのは容易に想像がつく……」

 

アストラルはナンバーズで得た知識を総動員させてデミ・サーヴァントの実験で誕生してからのマシュの肉体に掛かる負荷があまりにも大きいと推測する。

 

「っ……ドクター!どうなんだ!?マシュは……マシュは……!」

 

「……マシュは魔術回路の質は良くてもその体は無垢すぎる。無菌室で育った体は外の世界には順応出来ない。彼女はその活動限界までカルデア内のみで生活できる娘だったんだよ」

 

「活動限界って……」

 

「普通の人間と違い、寿命が設定されているという点だ。カルデアで設計されたデザインベビーたちはその大部分は失敗に終わった。マシュは数少ない生存例だ。それでも、その細胞の劣化は早い。彼女の肉体はあれ以上老いることはない。だから老化で死ぬ事はない。ただ、生命力の枯渇で息絶えるんだ。電源の切れたロボットのように、ある日、突然に」

 

ロマニの口から語られたマシュの残酷過ぎる運命に遊馬とアストラルは恐ろしいほどの絶望に心が蝕まれ、更なる真実が告げられる。

 

「彼女の活動時間は長くて18年。あと1年あるかないかだ」

 

マシュの命があと残り僅か……その残酷過ぎる真実に遊馬とアストラルは絶望に打ちのめされてその場で崩れる。

 

「そんな……」

 

「くっ……」

 

異世界で初めて出来た大切な仲間を……相棒を救うことが出来ないのか……。

 

たとえこの世界の未来を救ったとしても、マシュの命が救うことが出来ないのかと遊馬とアストラルは自分達の無力さを呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけど……マシュの運命は、未来は……既に君達のお陰で書き換えられている!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロマニの強い想いが込められた言葉に遊馬とアストラルは唖然となる。

 

「えっ……?」

 

「どう言うことだ……?」

 

「これはとても信じられないことだが、マシュの肉体は……細胞に寿命があるはずだった。しかし、遊馬君……君と契約してからその全てが変わったんだ」

 

「俺とマシュが契約してから……?」

 

「カルデアが爆破され、人理が焼却されたあの日……マシュは遊馬君と遊馬君の化身でもありヌメロン・コードの力を宿した未来皇ホープと強い繋がりで結ばれた」

 

遊馬がカルデアに訪れ、マシュと出会った運命の日。

 

遊馬はマシュに御守り代わりに未来皇ホープのカードを渡し、それが後にマシュが瀕死の危機に陥った時に命を繋いだ。

 

冬木市にレイシフトをした際にマシュはその身に宿る英霊の力をデミ・サーヴァントとして覚醒し、そしてアルトリア・オルタとの戦いの際に宝具を使用し、遊馬との絆の証であるフェイトナンバーズも覚醒した。

 

異世界の大いなる力を持ち、奇跡を起こす精霊の魂の半身である遊馬。

 

無限大の未来への可能性の力を持つモンスター、未来皇ホープ。

 

遊馬と未来皇ホープの存在がマシュの運命を大きく変えた。

 

「実は……マシュの肉体に変化が起きていたのは冬木市から戻って検査した時にすぐに分かったんだ。だけど、まだ小さな変化で今後何が起きるか不明点が多かったからマシュには話さなかった」

 

ロマニはマシュの担当医師としてマシュの肉体と細胞に起きていた変化にすぐに気付いていた。

 

「遊馬君の半身のアストラル君のナンバーズによる魔力に代わるエネルギー供給、これまでの特異点における戦いによるマシュの心身の大きな成長……」

 

ロマニはマシュの肉体の変化を細かく記録していった。

 

マシュはマスターである遊馬とその半身であるアストラルによってナンバーズの未知なるエネルギーを常に得ていた。

 

最初の冬木市の特異点から始まる数々の特異点での戦いによりマシュは心も肉体も大きく成長していった。

 

「そして、第五特異点でのマシュのランクアップだ!」

 

マシュは遂にその魂と肉体がランクアップを果たし、遊馬とアストラル、未来皇ホープと希望皇ホープと今まで以上に強い絆で結ばれた。

 

「遊馬君、アストラル君。マシュの肉体の細胞と遺伝子は今、人間としては既に最高レベルを超えている数値を出しているんだ。もはや遺伝子操作やデザインベビーの根底や運命すら壊すほどのね」

 

マシュは活動限界という変えることの出来ない細胞の寿命を迎えるだけだったが、遊馬とアストラルの出会いによって運命が変わった。

 

「そ、それじゃあ……!」

 

「マシュの寿命は……!」

 

「今の段階だと細かい寿命の断定は出来ない。あとはマシュ次第だが、少なくとも……一般的なおばあちゃんレベルは生きられるよ」

 

ロマニがグッドサインを見せながらマシュの運命が変わったと断言した。

 

「よっしゃあああああーっ!」

 

「よしっ!!」

 

遊馬とアストラルはマシュが人並みに生きられると知り、喜びが抑えられずに声を上げた。

 

「──遊馬君!アストラルさん!」

 

「フォウ!」

 

すると管制室に放送を聞いてマシュとフォウが来た。

 

遊馬とアストラルは喜びを笑顔に変えながらマシュに駆け寄る。

 

「マシュ!良かったな、寿命が伸びて!」

 

「本当に良かった……安心したぞ」

 

「……私はお二人に出会う前に自分の命が残り僅かだと知っていました。たとえ、短い命でも一生懸命に生きればそれで満足だと思っていました」

 

マシュは自分の寿命の事を随分前から知っていた。

 

カルデアで自由に動けるようになってからは様々な知識を得るために勉学に勤しみ、残り僅かな時間を精一杯謳歌しようとしていた。

 

「だけど、今は違います。遊馬君とアストラルさん、そして沢山の英霊の皆さんと出会って私はこう思うようになりました……」

 

マシュは大きく息を吸い込み、昔とは異なる『今』の自分の想いを宣言する。

 

「私は遊馬君とアストラルさんとフォウさんと、みんなともっと一緒にいたいです!たくさんのことを知りたい、見てみたいです!そして……生きることを、もっと感じていたいです!!」

 

マシュの願いと夢……それは人が生きるための欲望の力、カオス。

 

その想いの宣言に満足した遊馬は満面の笑みを浮かべてマシュの肩を抱く。

 

「その調子だぜ、マシュ!そのまま、まだ見ぬ未来に向かってかっとビングだ!」

 

「はい!マシュビングです!」

 

「フォウフォーウ!」

 

遊馬とマシュとフォウはかっとビングを高らかに叫び、管制室を後にした。

 

アストラルは遊馬達の後を追いながらマシュの背中を見つめる。

 

「マシュ……君と初めて出会った時から何故か不思議と好感を持っていた。その理由がようやく分かったよ。私達は似たもの同士の存在だ。世界を守る為に作り出され、そして……遊馬と出会い、運命が変わった……」

 

アストラルもアストラル世界を守る為に作り出された存在で遊馬と出会った事で運命が変わり、新たな未来を作り出した。

 

ほとんど同じ境遇で、同じ人間によって運命が変わった。

 

そんなアストラルとマシュだからこそ二人の相性が最初から良かったのだ。

 

「マシュ……君は私の大切な仲間だ。これからもよろしく頼むぞ」

 

アストラルは改めてマシュを大切な仲間と認め、戦い抜いて遊馬と共に未来を生きていこう心に強く誓うのだった。

 

 

 




よくよく考えるとマシュとアストラルってある意味似ているんですよね。
それなのでマシュの最後の方の台詞はアストラルが初めてデュエル飯を食べた時のオマージュにしてみました。

次回はカルデアの日常でその次はいよいよ第六特異点に突入します。


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ナンバーズ173 カルデアの一日 その5

遊戯王SEVENSの新OPで希望皇ホープに似たモンスターが映っていて朝から超ビックリしました。

しかもまさか野球要素と合体したホープで何があった!?と思いました。

一応スポーツデュエル大会でホープ剣・逆転満塁ホームランをやりましたが(笑)

何にしても今後の遊戯王SEVENSも楽しみです!


マシュの過去とカルデアの大罪をオルガマリーが放送で流した直後、マシュの寿命が人並みに伸びたことを知り、マシュを慕っている、または好意を寄せているサーヴァント達みんなが喜んだ。

 

その一方でデミ・サーヴァント計画を行ったカルデアに対して怒りや嫌悪や反感を持つサーヴァント達も少なからずいた。

 

そのサーヴァント達に対してはマシュが必死に説得してなんとか怒りを収めてもらった。

 

ちなみに遊馬とアストラルは人の倫理に反する人体実験であるデミ・サーヴァント計画を行ったカルデア……もといマリスビリーに対して怒りを向けていた。

 

しかし、マリスビリーは既に亡くなっており、その娘のオルガマリーはマシュと必死に向き合っているのでひとまず二人の怒りは収まっていた。

 

仮に、もしもマリスビリーが生きていたら……二人がマリスビリーとカルデアに何をするかオルガマリー達は想像しただけでも恐怖で震えていた。

 

そんな遊馬達の新たなカルデアの日常が始まる。

 

 

午前7時・起床。

 

朝、目が覚めると遊馬は大きな欠伸をしながら起きる。

 

「あら、おはよう。遊馬」

 

「おー、おはよう……空」

 

眠ることが必要の無いもう一人の両儀式……空はいつの間にか遊馬の部屋に入ってのんびりと本を読んでいた。

 

遊馬のベッドにはよく潜り込んでいた桜とジャックの姿は無い。

 

二人は最近、ちびっ子サーヴァント達も増えてきたので一緒に大きなベッドでお泊まり会のように寝たりしているのだ。

 

若干の寂しさを感じつつ遊馬はのんびりとベッドで寝る日々を送っている。

 

遊馬の起床にアストラルも皇の鍵から出てきて、遊馬は私服に着替えて部屋を出るとそこにはもはや見慣れた光景であるアストラルの罠カードによって侵入を妨害されてボロボロのネロと清姫がいた。

 

「おはよう。ネロ、清姫」

 

「う、うむ……おはよう……」

 

「おはようございます……」

 

遊馬も流石に慣れたのでいつものように挨拶をしながら食堂に向かった。

 

 

午前7時15分・朝食。

 

特異点を重ねるごとにサーヴァントが増え続け、朝から既に食堂がとても賑わっていた。

 

キッチンでは新たに加わった美遊のメイドスキルのお陰で料理がドンドン出来上がり、それをアルトリアとオルタが運んでいく。

 

「美遊ちゃん本当にすげぇな……」

 

「彼女は天からどれだけの才能を授けられたのだろうか……」

 

美遊の大きな才能に戦慄を覚える遊馬とアストラルだった。

 

 

午前8時・勉強会。

 

勉強会もかれこれ回数を重ねてきたので慣れていき、遊馬も勉強をかなり出来るようになってきた。

 

エルメロイII世からの魔術に関しては分かりやすく教えているが、やはり専門外な学問なのでちんぷんかんぷんな事が内容ばかりだったが、アストラルの補足説明や分かりやすい解釈をしてなんとか遊馬も付いていっている。

 

 

午後0時・昼食。

 

昼食には小鳥ではなく、桜が作った大きなデュエル飯が遊馬の前にドーンと置かれた。

 

「おお……こいつは食べ応えのあるデュエル飯だな!」

 

「うん!たくさん食べてね、お兄ちゃん!」

 

「ああ、いただきます!」

 

デュエル飯を思いっきり頬張り、美味しそうに食べているのをアストラルは羨ましそうに見ていたが、桜が遊馬のために作ったデュエル飯なのでここは我慢した。

 

 

午後1時・鍛錬。

 

訓練場で今日も多くのサーヴァント達が武を磨き、競い合っている。

 

遊馬は二刀流を更に極めるためにいつでも出せるようになった雷神猛虎剣と風神雲龍剣で武蔵と稽古をする。

 

「良いね良いね!龍虎の双剣の戦い方も様になったね!」

 

「おう!今日こそ姉上に一本取ってやるぜ!」

 

「その意気だよ!でも、私もそう簡単には取らせないからね!」

 

その一方でマシュとイリヤと美遊とクロエもサーヴァント相手に訓練をしていた。

 

「さあ、マシュ殿!今日も厳しく行きますぞ!」

 

「はい!レオニダスさん!マシュ・キリエライト、行きます!」

 

マシュは尊敬する盾使いのサーヴァントであるレオニダスから訓練を受けて守護者としての戦い方を身につけていた。

 

イリヤはクラスカード『セイバー』を夢幻召喚してアルトリアの力をその身に宿し、モードレッド相手に約束された勝利の剣を振るって戦っていた。

 

「どうしたどうした!アーサー王の、父上の力はそんなもんじゃねえぞ!もっと気合いを入れてかかって来い!」

 

「くうっ!?は、はいっ!」

 

モードレッドはアーサー王の力が宿ったセイバーのクラスカードを使うイリヤを認めてはいないので、それ相応の力を身につけてもらう為にスパルタな剣の稽古をしていた。

 

ちなみにアルトリアはモードレッドがやり過ぎないようにと近くで稽古を見ていた。

 

「そうだ!いい感じだぞ、ミユ……さあ、私を殺すつもりで槍を振るうがいい!」

 

「は……はいっ!」

 

美遊はクラスカード『ランサー』を夢幻召喚してクー・フーリンの力をその身に宿し、ゲイ・ボルクを使ってスカサハ相手に稽古をしていた。

 

スカサハはクー・フーリン以外にゲイ・ボルクを巧みに操る美遊の素晴らしい才能に惚れ込み、クー・フーリン以上の戦士に育てるために稽古を重ねている。

 

クー・フーリンはスカサハの厳しい稽古を受けている美遊に同情すると同時にそれを耐え切っているという美遊の才能に恐怖を感じるのだった。

 

「クロエ、君は聖杯の力で私の力を使いこなしているが……私自らが稽古をすることで視野を広げることもあるだろう、厳しく行くぞ」

 

「うん!よろしくね、お兄ちゃん♪」

 

クロエは自身の存在の核となっているクラスカード『アーチャー』の力の元となっているエミヤから稽古を受けている。

 

クロエ自身は投影魔術や戦い方などは既に熟知して使いこなしているが、力の元となったエミヤと稽古を重ねれば新しい何かが見えるかもしれないのと、一時的に並行世界の兄のエミヤを独占出来ることを上機嫌で楽しそうに稽古を受けるのだった。

 

 

午後3時・間食。

 

三時の間食はいつもは食堂担当のサーヴァントが作ってくれるが、最近は趣向が違っている。

 

女性サーヴァントの中でお菓子作りがブームになっており、料理上手なエミヤと現役小学生メイドの美遊が中心となって『お菓子教室』を行なっている。

 

お菓子教室で作ったお菓子をみんなと一緒に食べてもらうと言うものだ。

 

流石に女性サーヴァントだけのお菓子教室に遊馬が参加するのは気が引けるので大人しく見守ることにした。

 

すると、お菓子作りが始まる前にイリヤが鬼気迫る表情でちびっ子達に言い聞かせていた。

 

「みんな、お菓子作りはレシピ通り、先生の言う通りにするんだよ!お姉ちゃんとの約束だからね!」

 

珍しく必死に言い聞かせているイリヤに何かあったのかとクロエに聞いてみた。

 

「イリヤちゃん、お菓子作りで何があったのか?」

 

「実はね、少し前にやった小学校の調理実習でパウンドケーキを作ったんだけど……イリヤの班で勝手にナツメグとミントタブレットを入れた子がいて……」

 

「ナツメグ?」

 

「ナツメグは香辛料の一つだ。主な使い方としてはハンバーグで挽肉の臭み消しに使われるものだ。一応焼き菓子でも使われるが、パウンドケーキではあまり使われないと思うが……」

 

「……流石にミントタブレットは冗談だよな?」

 

「冗談じゃないわ……私の友達の一人がとんでもない思い込みの激しい子がいてね、その子がやったのよ。あれは流石にイリヤが哀れに思えたわ……」

 

「……イリヤちゃんとクロエちゃんと美遊ちゃんの友達って不思議な子が多い?」

 

「不思議というか、我が強いというか、欲望に忠実な子が多いわね」

 

クロエは遠い目をしながらそう語り、遊馬とアストラルはイリヤ達の友達がどんな女の子達なのか非常に気になった。

 

ちなみにお菓子作りはイリヤが余計な事をしないようにと頑張って見張っていたお陰で無事に成功し、上手に作ることができた。

 

「うっううっ……ちゃんと作れば、こんなにお菓子は美味しいんだね……!」

 

そして、涙を流しながら完成したお菓子を食べるのであった。

 

 

午後5時半・相談。

 

遊馬はダ・ヴィンチちゃんに呼ばれて工房に向かった。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、今度は何を作ったんだ?」

 

「遊馬君、やっと君の魔術礼装が出来たんだ!」

 

「魔術礼装?」

 

魔術礼装とは魔術の儀礼に使用される装備・道具であり、魔術を強化したり道具に込められた魔術を発動させる効果を持つ。

 

「え?でも俺、魔術回路が無いから使えないぜ?」

 

「心配いらないよ。私が作ったのは魔力がなくても使える礼装さ!」

 

そう言ってダ・ヴィンチちゃんが取り出したのは遊馬がいつも着ている私服と同じフードが付いた赤の上着と炎のような模様のある白のズボンだった。

 

「あれ?これって俺の服?」

 

「遊馬君は今まで私服で特異点に向かっていたからね。本当ならもっと早く用意したかったけど、魔力の無い遊馬君にも使える魔術礼装を作るのには苦労したよ」

 

カルデアの選ばれたマスター候補なら魔力回路があるので魔術礼装を使えるが、遊馬は異世界人で魔力回路が存在しない。

 

「この服には可能な限りの防御系の魔術が込められているから、これを身につければかなりの衝撃を緩和出来るよ。遊馬君は攻撃の手段が豊富だからね、だからこそ魔術礼装は防御に特化させてもらったよ」

 

「そっか……ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん。よっ、歴史に名を残す万能の天才!」

 

「あははっ!それほどでもないさ!」

 

とても良いものを作ってもらい、遊馬はダ・ヴィンチちゃんを褒め称えた。

 

 

午後6時・夕食。

 

夕食には小鳥特製のデュエル飯とエミヤから教わった山盛りの唐揚げが出されると……。

 

「遊馬、ZEXALだ!」

 

「またですか!?」

 

デュエル飯をこよなく愛するアストラルは奇跡の力であるZEXALを簡単に使い、遊馬と合体してZEXALとなり、デュエル飯を頬張るのだった。

 

 

午後7時・自由時間。

 

1日の最高の楽しみとなった自由時間。

 

食堂ではレティシアや桜がデュエルモンスターズに熱中している中、新たなデュエリストが誕生する。

 

「えっと……それじゃあ、モンスター1体をリリースして、『ブラック・マジシャン・ガール』をアドバンス召喚!」

 

それは現役小学生五年生のイリヤで小学校の男子がやっているカードゲームには興味はなかったが、デュエルモンスターズにはイリヤ好みの可愛い系のモンスターも多数いるので、遊馬からブラック・マジシャン・ガールなどのカードを借りてデュエルを始めてみた。

 

アニメや漫画が好きなだけあって楽しいとハマり、それに釣られて美遊とクロエも一緒にデュエルをする。

 

デュエルが着々と異世界に広がり、そこで繋がる絆に遊馬とアストラルは嬉しく思うのだった。

 

 

午後9時・対話。

 

「おい、マスター」

 

「ん?あ、クーちゃん」

 

「誰がクーちゃんだ」

 

「いいじゃん。メイヴはそう呼んでるんだし、クー・フーリンだとクー・フーリンの兄貴と被るだろ?」

 

「ちっ……仕方ねえ。お前に聞きてえことがある」

 

「俺に?」

 

「マスター、どうしてそこまで他人の為にそこまで戦えるんだ?」

 

「どうしてって……」

 

クー・フーリン・オルタは遊馬とアストラルの映画を見てから遊馬が家族や恋人ではない他者の為に己の命をかけてまで戦っていることに疑問を抱いていた。

 

「お前は施しの英雄とは根本的に何かが違う。たとえ自分が傷ついても、復讐したい相手にすら手を差し伸べた。何故だ?」

 

クー・フーリン・オルタは遊馬の行為は施しの英雄と言われたカルナとは根本的に違うと指摘する。

 

「俺がそうしたいと思っただけだよ。後は……自分が後悔したくないからだよ。後悔したくない、間違った選択をしたくないからさ」

 

「違うわね、他人と思われるけど結局は自分の為なのよ」

 

「メイヴ?」

 

二人の話に割り込んで現れたのはメイヴだった。

 

メイヴは遊馬にビシッと指を刺しながら徹底的に指摘し始める。

 

「マスター。あなたは高潔な心の持ち主とは違う、ただの偽善者よ。ようするに、後味が悪い事をしたくないだけじゃないの?」

 

「偽善者、後味が悪い……」

 

「みんなが喜んで褒め称えてくれる『正しい』選択さえすれば良い……そうすれば自然と人が集まるものね。あなたは見た目に反してとんでもない偽善の心で埋め尽くされているのよ!」

 

これまでの遊馬の活躍を見た他のサーヴァント達は勇者や聖者、英雄などと褒め称えた。

 

しかし、メイヴだけは遊馬の事を偽善者と称した。

 

「……確かにメイヴの言う通り、俺は偽善者なのかもしれねえな。誰かの視点から見れば俺のやってきた事は間違っていると思うのかもしれないな」

 

偽善者と呼ばれて一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに真剣な表情をしてメイヴに向き合う。

 

「だけど、偽善だろうがなんだろうが構わねえ!俺は自分がどれだけ傷ついても、大切なものを全て守る!俺は俺の行く、信じた未来への道を突き進むだけだ!」

 

遊馬は既に自分が進む道を迷う事なく突き進むと決めている。

 

誰に何を言われようともそれを変える事をしない。

 

「……分かったわ。悪かったわね、色々言っちゃって。クーちゃん、行くわよ」

 

遊馬の答えを聞いてメイヴはフッと笑みを浮かべると手をひらひらと振ってクー・フーリン・オルタを連れてその場から立ち去る。

 

「おい、メイヴ。何故マスターにあんな事を言った?」

 

「マスターの……あの子の覚悟を知りたかっただけよ。かつて立ちはだかった敵の首魁としてね」

 

メイヴはアメリカの特異点で戦った敵として、遊馬が今後も続く戦いで迷う事なく戦い抜く覚悟を持っているのか……それを知りたかったのだ。

 

「クーちゃんみたいな私の好みじゃないけど、頼まれたら力ぐらい貸してあげるわ」

 

男としては遊馬は好みではないが、その覚悟に免じて力を貸すと決めたのだ。

 

「そうだな……あいつが求める限り、この槍を振るってやるか」

 

クー・フーリン・オルタも遊馬の覚悟に応えて力を貸すと決めた。

 

 

午後10時・入浴。

 

就寝前、遊馬とアストラルが訪れたのは自室ではなく……。

 

「ふぃ〜……癒されるぜ〜」

 

「まさかカルデアで温泉に入れるとはな……」

 

なんと二人は温泉に入っていた。

 

ここはカルデアに最近出来た温泉施設でネロが密かに作ったのだ。

 

古代ローマには日本に負けないほどの公衆浴場があるほどの温泉文化がある。

 

ネロは遊馬や多くのサーヴァント達の心を癒す為にオルガマリーから許可を貰ってカルデアの施設の一部を改装して見事な温泉施設を作り上げてしまったのだ。

 

遊馬とアストラルが今いるのはマスター専用の個室温泉で他のサーヴァントが入れないように妨害系の魔術が施されている。

 

それなので遊馬とアストラルは誰にも邪魔されずに伸び伸びと温泉を楽しんでいる。

 

ちなみにアストラルは精霊なので温泉のお湯の熱や匂いを感じる事はできないが、気分だけを味わっている。

 

二人の間でゆったりとした時間が流れるが……。

 

「待たせたな、ユウマ!」

 

壁の一部が隠し扉になり、そこから現れたのはなんとタオルを体に巻いたネロだった。

 

「……ネロ!?」

 

「何故君がここに……!?」

 

「ムッ、アストラルもいたか……アストラル、ここからは余とユウマの時間だ!立ち去るが良い!」

 

「な、なんでここに入ってくるんだよ!?ここは俺とアストラルしか入れないはずだろ!?」

 

「ふはははは!この温泉施設の現場監督は余であるぞ!ユウマと一緒に入る為に密かにこの隠し扉を作ったのだ!」

 

自分の欲望に忠実なネロに呆れる遊馬とアストラルだが、そんなことを気にせずに温泉に入る。

 

「さあ、ユウマよ……存分にイチャイチャしようではないか!」

 

ネロはタオルを外しながら風呂に入ろうとした……その時。

 

「「あ」」

 

遊馬とアストラルは揃えて隠し扉の方を指差す。

 

「ん?どうした──」

 

「ネロ……あんた、何をやってるのかなぁ……?」

 

隠し扉から怒気を纏いながらブーディカが出てきて拳を握り締めていた。

 

ブーディカはネロが何か悪さをしていると気付いてこっそりと後を追っていたのだ。

 

「ヒイッ!?ブ、ブーディカ!?フギャア!?」

 

ブーディカの鉄拳がネロの頭に直撃した。

 

ネロの頭に大きなたんこぶが出来上がり、気絶してその場に倒れ込んでしまった。

 

ブーディカは気絶したネロを抱き上げて遊馬とアストラルに申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。

 

「ごめんね、二人共。邪魔しちゃって……」

 

「「あ、ああ……」」

 

遊馬とアストラルはブーディカのネロに対する容赦ない鉄拳制裁に呆然としながら二人を見送った。

 

「……今のは忘れるか」

 

「ああ、無かったことにしよう……」

 

遊馬とアストラルは今のは無かったことにしようと全力で忘れて温泉を楽しんだ。

 

 

午後11時・就寝。

 

就寝となり、いつものように部屋に忍び込もうとしているネロや清姫をアストラルがセットしていたカードで軽く排除し、遊馬は今日はベッドではなく室内に備え付けてもらったハンモックで寝る。

 

ハンモックで寝るのは成長期の遊馬にとっては良くないのでロマニから禁止されていたが、一週間に一度だけと言う制約で解禁されたのだ。

 

ハンモックで寝るのが好きな遊馬はテンションを上げながらハンモックに横たわり、ゆらゆらと揺れながら眠りにつき、アストラルも皇の鍵の中に入って休むのだった。

 

カルデアの一日が終わり、次の新たな特異点に向けて一日が始まる。

 

そんな中……遊馬は何度目かとなる不思議な夢を見る。

 

そこは広大な砂漠が広がる世界で遊馬に近づく一人の影があった。

 

「お前は……?」

 

遊馬の前に現れたのは左眼を長い髪で隠した銀髪紫眼の少年騎士だった。

 

「こうして会うことになるとはな……九十九遊馬」

 

遊馬と少年騎士……数奇な絆で結ばれた二人が運命の出会いを果たすのだった。

 

 

 




次回はいよいよ第六特異点『神聖円卓領域キャメロット』編が始まります!

やっと……やっとこの時が来て嬉しいです!

Fate/Zexal Order史上最大の戦いが始まりますのでお楽しみに!


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第六特異点 神聖円卓領域 キャメロット
ナンバーズ174 第六特異点へ!巡り会う運命の出会いと再会!


お待たせしました、第六特異点『神聖円卓領域キャメロット』編の開幕です。
今回は時間がなかったので短めです。

ストラクチャーデッキ『オーバーレイ・ユニバース』をゲットしました!
ホープ・ドラグナーのシークレットが2枚当たって満足でした!
さて、ホープ・ドラグナーとかをいつ出そうか悩みどころです。


もう既に何度も経験しているお陰でこれが夢の中だと遊馬はすぐに理解した。

 

そして、遊馬の前に謎の銀髪紫眼の少年騎士が現れた。

 

「九十九遊馬、君に一つ問う」

 

少年騎士は真っ直ぐ遊馬に視線を向けて問いを投げかける。

 

「次の戦いはこれまでに無いほどに凶悪な敵と対峙することになる」

 

それは次の特異点における敵の事を示しており、少年騎士はそれを察知していた。

 

「それって……例えば神霊クラスのすげぇサーヴァントやソロモンの魔神柱って事か?」

 

遊馬はこれまでの特異点での経験から凶悪な敵と聞いてパッと思いつくのはそれぐらいだったが、少年騎士は首を左右に振って否定した。

 

「違う、もはやサーヴァントや魔神柱とは桁違いだ。ある意味では魔術王にも匹敵する存在だ」

 

「何だって!?」

 

サーヴァントや魔神柱よりも格上で人理焼却の黒幕である魔術王ソロモンに匹敵する敵。

 

そんな敵が次の特異点で戦うことになるのかと遊馬は戦慄を覚えて冷や汗が背中から出る。

 

「君たちにその戦いに勝てる可能性は無いに等しい。さて、君はどうする?」

 

少年騎士の問い……それを遊馬は真っ直ぐ視線を向けて答えた。

 

「勝つ可能性は0か……だったら、0を1にすればいい!」

 

遊馬の答えに少年騎士は目を丸くした。

 

「何……?」

 

「可能性が最初から無いなら、方法を見つけて足掻いて僅かな可能性を作ればいい!後はアストラルとマシュ、そして……カルデアにいるサーヴァント達みんなと協力すれば可能性を0どころじゃない、全てをひっくり返して100パーセントにすることだって出来る!」

 

自分一人だけなら勝つことは出来ないかもしれない。

 

だけど遊馬は知っている。

 

一人の力が無理ならば、仲間達の力を借りればいい。

 

たとえ、一人一人の力は小さくても、その力を一つに合わされば不可能を可能にする奇跡を起こせると!

 

「……君ならそう言うと信じていた」

 

少年騎士は張り詰めた緊張が解けたように優しい笑みを浮かべた。

 

「君はやはり強く、優しい心を持つ素晴らしい人間だ。あの少女に私の力を貸した甲斐があったものだ」

 

「あの少女に力を貸した……?まさか、お前は!?」

 

少年騎士の雰囲気と言動から遊馬は誰なのか何となく察したが、少年騎士の姿が消えていく。

 

「お、おい!お前、名前は!?」

 

「……遊馬、あの少女に言伝を頼む。戦いが終わったら、幸せに暮らしてくれ……と」

 

少年騎士は名を告げず、言伝を最後に残して消えてしまい、遊馬の意識はそこで浮上する。

 

「待て!あ、あれ……?」

 

夢から覚ますと同時に勢いよくベッドから起き上がった。

 

アストラルは皇の鍵から出てきて遊馬を心配する。

 

「遊馬、どうした?」

 

「アストラル……えっと……」

 

夢の中の少年騎士の話を話すべきか迷っていた。

 

「遊馬……」

 

すると、アストラルは悲しそうな表情を浮かべて……。

 

「……隠し事は我々の間では大罪だぞ?」

 

「はい、仰る通りです。アストラル様」

 

先日の映画で真月もといベクターとのトラウマが地味に再発した遊馬とアストラルだった。

 

遊馬はその場で土下座をしてアストラルに謝罪し、正直に全てを話すと誓った。

 

「あ、でもこれは俺達だけじゃなくてマシュ達にも関わることだからみんなの前で言うよ」

 

「マシュ達にもか。了解した」

 

アストラルは了承すると一旦話はそこで終わり、朝食を食べるために食堂へ向かった。

 

食堂で朝食を食べ終え、今日は特に忙しくないので遊馬は義妹の桜や凛とお喋りをしたり、デュエルをしていた。

 

そんな中、桜はふと子供らしい疑問を遊馬にぶつけた。

 

「お兄ちゃん、デュエルモンスターズってどうやって生まれたの?」

 

桜の疑問はデュエルモンスターズの起源。

 

桜が蟲の地獄から解き放つことが出来た力の一端であるデュエルモンスターズ。

 

何故デュエルモンスターズが生まれたのか、誰が作ったのか。

 

そんな疑問が桜の中で生まれてくる。

 

「デュエルモンスターズの起源か……よし、分かった!D・パッドの中に色々な画像があるからそれを見ながら説明するぜ!」

 

D・パッドには遊馬が人間界にいた時にデュエルモンスターズのことを調べた時に見つけて保存した画像を見せることにした。

 

そこにルビーが現れて万能すぎる謎機能でD・パッドと接続してプロジェクターで画像を壁に映すと提案してくれた。

 

すると、話を聞きつけて多くのサーヴァント達が見に来て早速遊馬とアストラルがデュエルモンスターズの起源について説明する。

 

デュエルモンスターズを作ったのはインダストリアル・イリュージョン社会長のペガサス・J・クロフォード。

 

アメリカ人で元々は画家だった。

 

ペガサスにはシンディアという結婚を誓い合った恋人がいたが、その恋人は若くしてこの世を去り、絶望したペガサスは古代エジプトから伝わる術で亡くなった恋人と会えるかもしれないと言う僅か望みでエジプトに向かった。

 

しかし、そこでペガサスが目にしてたのは人生を変えるものだった。

 

「ペガサス会長が見たのは……古代エジプトの石版の壁画だ」

 

「古代エジプト第18王朝の王の葬祭殿に残されたこの石版を目にした瞬間、ペガサスはインスピレーションを得て……デュエルモンスターズを生み出したんだ」

 

最初に映し出された画像の壁画は半分近くは風化などで壊れていたが、そこには複数のモンスターの絵と古代エジプト文字が刻まれていた。

 

古代エジプトは世の全ての災い、争い、苦しみは魔物によってもたらされると考えられていた。

 

そして、王に仕える魔術師たちが魔物を具現化し、石版に封じ込めることで平和が保たれていた。

 

しかし、石版は邪悪な力を蓄積していき、王に背いた神官達が魔術師たちを操り、石版を使って争いを始めてしまった。

 

「馬鹿な……こんな壁画、見たことないぞ!」

 

そこにエルメロイII世が目を皿のように見開いて壁画を見つめる。

 

エルメロイII世は時計塔の教師として色々な歴史や魔術の知識を得ていたが、遊馬が映した石版の壁画は見たこともない。

 

「もう一枚の壁画もウェイバー先生どころか、誰も見たことないものだぜ……!」

 

遊馬が次に映した画像……それは最初のよりも保存状態の良い石版の壁画。

 

そこに描かれていたのは……王と神官がそれぞれ石版から魔術師とドラゴンを召喚して戦っているものだった。

 

それは紛れもなく二人がデュエルモンスターズでデュエルを行なっているものだった。

 

「凄い……本当に古代エジプトでデュエルが行われていたんだ……!」

 

古代エジプトでデュエルが行われており、それをペガサスがカードゲームのデュエルモンスターズとして現代に復活させた。

 

桜はデュエルモンスターズの起源を知って満足そうに頷く。

 

すると、レティシアは壁画の一部を見てある事に気付く。

 

「ん……?ねえ、遊馬。壁画の上のあの3体のモンスターは何?」

 

壁画の上半分には逆三角形にホルスの目が中央にある不思議なマークの周りに3体のモンスターが描かれていた。

 

わざわざ王と神官の戦いの壁画の上に描かれているだけあって何か特別なモンスターなのかとレティシアは睨む。

 

「流石はレティシア、いい洞察力だぜ!」

 

「あそこに描かれている3体のモンスターはデュエルモンスターズの中でも特別な存在だ」

 

「デュエルモンスターズで唯一『神属性』と『幻獣神族』に属する三体の神……『三幻神』!」

 

「三幻神……!?」

 

三幻神。

 

それはデュエルモンスターズの中でも最高レベルの幻にして伝説のレアカードである。

 

『オシリスの天空竜』。

 

『オベリスクの巨神兵』。

 

『ラーの翼神竜』。

 

この三枚を手にしたデュエリストは永遠不滅の伝説と共にキングオブキングスの称号を得られるとされる。

 

「へぇー……で、遊馬とアストラルはこの三幻神を見たことあるの」

 

「無いぜ。三幻神のカードは今は失われているからさ」

 

「なら……カード会社が三幻神のレプリカとか作ればいいのにね」

 

レティシアが三幻神のカードをまた作ればいいのにと思ったが、遊馬とアストラルは苦い表情を浮かべながら重々しく口を開く。

 

「絶対に無理だと思うぜ。三幻神のカードは選ばれたデュエリストにしか扱えないんだ。三幻神は……下手すればナンバーズよりも恐ろしい力を持っているんだ」

 

「かつて……三幻神の制作に関わった多くの人達が次々と謎の死を遂げてしまった。それは神の呪いとも言われていた。創造主のペガサスですらその力を恐れて、エジプトの地下深くに封印せざるを得なかった……」

 

「ただでさえすげぇ力が秘められたカードなのに……レプリカなんか作ってそれを使ったら、どんな呪いや災いが来るか……」

 

三幻神にまつわる恐ろしい話を聞いてみんなは背筋が凍った。

 

やはり遊馬達の世界はこちらの世界でも負けず劣らずのとんでもない世界なのだと改めて実感するのだった。

 

「──遊馬君!アストラルさん!」

 

するとそこにマシュがアルトリアとジャックと一緒に走って食堂に入ってきた。

 

「マシュ、それにアルトリアとジャック……どうしたんだ?」

 

「マスター、モードレッドが消えました」

 

「モードレッドが!?」

 

「はい。ちょっと説──ではなく、話をしていたら急に目の前から消えました」

 

アルトリアはモードレッドと話をしている時に突然目の前からモードレッドが消えてしまったのだ。

 

次にジャックは遊馬に抱きつき、涙目で話した。

 

「おかあさん……ハーちゃんが、ハーちゃんがいなくなった……」

 

「ハーちゃんだけでなく、他の百貌のハサンの皆さんもです……」

 

ハーちゃんことちびアサシンだけでなく、他の数十人もいる百貌のハサンも消えてしまった。

 

カルデアからサーヴァントが消えたということは……。

 

「新たな特異点だな……アストラル!」

 

「ああ。マシュ、私達は部屋に戻ってすぐに準備を始める。君も準備を!」

 

「はい!」

 

遊馬とアストラルとマシュはすぐに特異点に向けて自室に戻って準備をする。

 

「おかあさん!ハーちゃんを見つけたら教えてね!」

 

「マスターさん!私たちはいつでも出られるように準備します!」

 

ハーちゃんと仲が良いジャックやナーサリーがハーちゃんを必ず助けるという強い意志を見せ、その他のちびっ子達も頷いた。

 

「分かった!頼りにしてるぜ!」

 

遊馬はちびっ子達の頭を撫でてから自室へ急いだ。

 

自室に戻った遊馬はいつもの支度を整えて準備を終えて管制室に向かった。

 

管制室で遊馬とアストラルとマシュとフォウ、オルガマリーとロマニとダ・ヴィンチちゃんが集まり、早速ブリーフィングを行う。

 

「今回はいよいよ第六特異点。先程連絡を受けてモードレッドと百貌のハサンが特異点先で召喚されたと思うわ。時代は十三世紀、場所は『聖地』として知られるエルサレムよ」

 

「エルサレム?えっと、何処だっけ……?」

 

「エルサレムはイスラエルの首都だ。エジプトの東側にあると言えば分かりやすいか?」

 

「おお、なるほど」

 

いつものように知識が足らない遊馬にアストラルが助言をする。

 

「西暦は1273年。第九回十字軍が終了し、エルサレム王国が地上から姿を消した直後の時期ね。十字軍遠征の終了……それは西洋諸国がエルサレムから撤退したことは現代にまで続く人類史へと多大な影響を与えているわ。ただ……」

 

オルガマリーは歯切れの悪い様子でこの特異点の『異質』を話した。

 

実は第六特異点の予測は前回のアメリカよりも早く出来ていた。

 

しかし、シバから帰ってくる観測結果があまりにも安定しなかった。

 

時代証明が一致しない、時には観測そのものができない時もあった。

 

観測の光そのものが消えてしまうという異常事態になっていた。

 

それはつまり、第六特異点はカルデアスの表面に存在しない……その部分だけが空洞となってしまうものになっていた。

 

これまでに無い異常事態で、第六特異点は人理の流れから外れようとしていた。

 

それだけではなく……。

 

「この特異点は今までと違った未知のエネルギーを観測していたの。とても大きな……全てを呑み込みそうなけれど、不気味な力をね……でも、それもすぐに消えてしまった」

 

「今までのレイシフト先は『その時代』を見出そうとするソロモンの聖杯との戦いだった……」

 

「だけど、今回は特異点そのものが『あってはならない』歴史になりつつある。下手したら人類史は多大な被害を受けるだろうね。それ故に、第六特異点の人理定礎評価はEXだ。何もかも特殊な事例と言うことだね。と言うことで……!」

 

オルガマリー、ロマニ、ダ・ヴィンチちゃんの説明が終わると、ダ・ヴィンチちゃんは遊馬の前に立って手を前に出した。

 

「ダ・ヴィンチちゃん?」

 

「遊馬君、いよいよ時が来たよ。さあ、私と契約をしてくれるかな?」

 

ダ・ヴィンチちゃんが何と遊馬との契約を望んできた。

 

「「何ィッ!?」」

 

「え?良いのかよ、ダ・ヴィンチちゃん」

 

「なにしろ前人未到の人理定礎EXだ。遊馬君にはこの天才の助けがいよいよ必要さ!」

 

「おおっ!万能の天才のダ・ヴィンチちゃんがいれば百人力だぜ!」

 

「ははっ、大船に乗った気でいてくれたまえ!」

 

遊馬とダ・ヴィンチちゃんはノリノリで契約を交わそうとしたが、それをオルガマリーが待ったをかけた。

 

「ちょっと待ちなさいよ!なんであんたが前線に出るのよ!?あんたは技術局特別名誉顧問でしょ!?」

 

ダ・ヴィンチちゃんはカルデアのサーヴァントではあるが、技術局特別名誉顧問として技術部のトップを務めて普段から様々なアイテムの開発と研究を行っている。

 

後方支援を徹底していたので、今まで遊馬と契約しなかったのもその為だった。

 

「オルガマリー。こう言う時だからこそ、私の頭脳が必要なのさ」

 

ダ・ヴィンチちゃんはいつになく真剣な表情でオルガマリーを見つめる。

 

意外に頑固なところがあるダ・ヴィンチちゃんに根負けし、オルガマリーはため息をついてダ・ヴィンチちゃんの同行を許可した。

 

「さあ、遊馬君。頼むよ♪」

 

「ああ!」

 

遊馬はダ・ヴィンチちゃんと握手をしてサーヴァント契約を行い、ダ・ヴィンチちゃんのフェイトナンバーズが誕生する。

 

ダ・ヴィンチちゃんのフェイトナンバーズは遊馬と相性が良いのですぐに覚醒した。

 

カードのイラストにはダ・ヴィンチちゃんが様々な機械を操る姿が描かれており、真名は『FNo.66 万能の天才 ダ・ヴィンチちゃん』。

 

「これで名実共に遊馬君のサーヴァントになれた訳だ。改めてこれからよろしく頼むよ、マスター♪」

 

「こちらこそよろしく頼むぜ、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

遊馬とダ・ヴィンチちゃんはハイタッチを交わした。

 

続いて今回の特異点の護衛サーヴァントとして選ばれたのは……。

 

「マスター、よろしくお願いします。必ず、モードレッドの馬鹿息子を連れ戻します」

 

「まさか私がアルトリアのお目付役に選ばれるとは……」

 

アルトリアとエミヤの二人だった。

 

アルトリアはいなくなったモードレッドを連れ戻すと燃えており、エミヤはそんなアルトリアのお目付役に選ばれてしまった。

 

「それから……胸騒ぎがするのです……モードレッドに何かあったのではないかと……」

 

何だかんだでアルトリアはモードレッドのことを心配しており、胸騒ぎがして不安な心境を語った。

 

「あっ、そうだ……みんな、聞いてくれ!」

 

特異点に向けての話が一通り終わると、遊馬は夢で見た少年騎士の話をみんなにする。

 

少年騎士が話した第六特異点で待ち受ける魔術王に匹敵する強大な敵の存在。

 

そして……。

 

「そいつは自分の名前を名乗ってなかったけど、多分……マシュに盾と戦う力をくれた英霊だ」

 

「えっ……!?」

 

「フォウ……!?」

 

遊馬は少年騎士の正体は数年前にマシュの中に召喚されて、後にデミ・サーヴァントとして盾と力を与えてくれた英霊だと気付いた。

 

遊馬は少年騎士から託されたマシュへの言伝を伝えた。

 

「マシュ、あいつからの伝言だ。戦いが終わったら幸せに暮らしてくれ、ってさ……」

 

「──っ!?」

 

それを聞いた瞬間、マシュの目から大粒の涙が溢れてその場に座り込んでしまった。

 

「マ、マシュ!?」

 

「ご、ごめんなさい……嬉しくて、思わず……」

 

少年騎士が自分の事をこれほどまでに思ってくれていたことに感極まって涙を流してしまったのだ。

 

マシュは自分を救い、戦う力を貸してくれた少年騎士に大きな感謝の気持ちを抱き、その想いに応える為にも必ず人理を修復して未来を取り戻すと強く心に誓った。

 

「さあ、みんな……行くぜ!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

「フォーウ!」

 

「いぇい!」

 

「行きましょう!」

 

「うむ!」

 

遊馬達は第六特異点に向けて気合を入れ、遊馬はマシュ、ダ・ヴィンチちゃん、アルトリア、エミヤをフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまう。

 

アストラルは皇の鍵の中に入り、フォウは遊馬の上着のフードの中に入って準備完了となり、遊馬はコフィンの中に入る。

 

そして、これまでとは異なる未知なる戦いが待つであろう、第六特異点……十三世紀のエルサレムに向けてレイシフトを行う。

 

 

灼熱の砂漠の中にある一つの大きな王国。

 

その王国を治める『王たち』が住まう宮殿の一室……そこにいる一人の少年は太陽を見上げていた。

 

すると、少年は『何か』の気配に気付き、首からかけているピラミッドを逆さにしたような正四角錐の金の大きな首飾りの『ウジャド眼』から黄金の光が放たれる。

 

その反応に少年は嬉しそうに笑みを浮かべ、拳を握りしめた。

 

「遂に来たか……選ばれし運命のデュエリスト!」

 

少年はマントを翻し、待ちかねたように部屋を後にしてすぐに行動に移した。

 

 

 




次回は早速ですが、皆さんトラウマのアレのイベントを行きたいと思います。
まあ、そこは……うちの遊馬君とアストラルがやってくれますので安心してもいいと思います。


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ナンバーズ175 聖抜の真実

お待たせしました、FGOの数あるトラウマシーンです。
それを我らが遊馬君達が立ち向かいます!

遊戯王SEVENSで次回、ユウカちゃんが遂にあの野球ホープを使うかもしれないとのことで色々と楽しみです(笑)
遊馬君のエースがまさかのユウカちゃんに継承されるってなんか不思議な気分です。


第六特異点の十三世紀のエルサレムにレイシフトをした遊馬達。

 

目を開くとそこには照りつける太陽と広大な砂漠が広がっていた。

 

「見渡す限りの見事な砂漠風景だな……」

 

「人の気配もありませんね……」

 

遊馬とマシュは周りを見渡すがあるのは砂漠だけで人や人工物など見当たらなかった。

 

するとエミヤは投影魔術で人数分のマントを投影して全員に渡した。

 

「みんな、これを羽織っておくんだ。砂漠ならマントを使った方が何かと便利だ。それに、私たちの格好は目立つからな」

 

剣でないため投影魔術の質は悪いが、それでも砂漠で活動するには最適のウールのマントを遊馬達は着用する。

 

「おお、これこそ砂漠ならではの格好だよな!サンキュー、エミヤ!」

 

「ありがとうございます、エミヤ先輩!」

 

遊馬とマシュはエミヤに感謝をし、次にこの砂漠をどう移動するか議論する。

 

「とりあえず、かっとび遊馬号で行くか?」

 

「それでも良いがまずは現地の人間に話を聞いた方がいい」

 

「まずは地上で人を探すとなると、大変ですね」

 

砂漠という悪条件の中、そこで打開策を名乗り出たのがダ・ヴィンチちゃんだった。

 

「ふっふふふ……早速この天才の力を見せる時だね!」

 

ダ・ヴィンチちゃんはD・ゲイザーを取り出して装着するとカルデアに連絡する。

 

「もしもし、早速だけど私がこの前完成させたニューマシンの転送をお願いするよ!」

 

「ニューマシン?」

 

数分後、カルデアから転送されてきたのは大型バギーに希望皇ホープの双翼を模した機械の翼が左翼に取り付けられた車両だった。

 

「これぞ、万能の天才ダ・ヴィンチちゃんの頭脳と遊馬君の父君の九十九一馬が作り上げた皇の鍵の飛行船の技術を元に作り上げた万能車両!その名も、オーニソプター・ホープ号!!」

 

ダ・ヴィンチちゃんお手製の大型バギーの登場に遊馬のテンションが上がる。

 

「うぉおおお!?すげぇ!ダ・ヴィンチちゃん、車も作れるのかよ!?」

 

「オーニソプター……鳥型飛行機の設計図を生前に君は描いていたな。まさか、この車も?」

 

オーニソプターとは鳥などの動物を模した翼を羽ばたかせることで飛ぶ飛行機の事で現在でもまだ実用化には至ってないが、ダ・ヴィンチちゃんが生前に描いた設計図が実際に残っている。

 

アストラルの質問にダ・ヴィンチちゃんはグッドサインを見せながら嬉々として答える。

 

「その通り!ある程度の助走は必要だけど、飛行は可能だよ!砂漠でもガンガン走れるし、敵の攻撃を受けても大丈夫なように頑丈に作ったよ!さあ、これでこの砂漠を突っ切ろうじゃないか!」

 

ダ・ヴィンチちゃんはオーニソプター・ホープ号のキーを遊馬に投げ渡した。

 

「え?もしかして、俺が運転してもいいの!?」

 

「もちろんさ!バイクが運転できるんだから、次は車だよ!」

 

「よっしゃあ!ガンガン行くぜ!」

 

遊馬は意気揚々と運転席に乗り、キーを差し込んで回し、エンジンをかける。

 

マシュ達もすぐに乗って席に座り、全員が乗ったところでアストラルが向かうべき方角を指示する。

 

「遊馬、僅かだがあっちの方角に複数のサーヴァントの気配を感じる」

 

「分かった。じゃあ、まずはそっちから行くか。オーニソプター・ホープ号、発進!」

 

オーニソプター・ホープ号を発進し、まだ見ぬサーヴァントと特異点の情報を得るために砂漠を走り抜ける。

 

 

遊馬達がオーニソプター・ホープ号で砂漠を進むが、砂漠を抜けた先にあったのは人が住むことができない焼け野原だった。

 

これこそが魔術王の仕業で、魔術王は人理定礎を乱すことで特異点を生み出した。

 

その結果、人類史は不安定になり、魔術王は過去に渡るまでの一切を燃やすという偉業を成した。

 

逆に言えば特異点にだけは人理焼却の波は来ないはずだった。

 

しかし、ここまで人理定礎が乱れると特異点であれ例外はない。

 

このままではこの大地はじき燃え尽きる……ダ・ヴィンチちゃんはそう説明する。

 

すると、遊馬達はこの燃え尽きた大地を歩く難民達に出会った。

 

遊馬達は難民達から話を聞くと有力な情報を得た。

 

難民達はここから東の方角にある『聖都』に向かっていた。

 

侵略者……十字軍がやってきて、土地が燃え、聖都が奪われてしまった。

 

しかしそこに十字軍を蹴散らした偉大な王……『獅子王』が聖都を開放したのだ。

 

「獅子王……アストラル、誰か分かるか?」

 

「歴史上で獅子王の異名で呼ばれた英霊は何人か存在する。その中で一番有名なイングランドの王、リチャード一世がいるが……彼は十字軍に参戦した王だ。これでは矛盾が起きてしまう……」

 

「リチャード一世じゃない可能性が大きいか……」

 

この特異点で重要な存在であるだろう獅子王が誰なのかまだ情報が足りないのでひとまず置いておくことにした。

 

獅子王は聖都には誰も拒まないと言い、月に一度、『聖抜の儀』という難民を受け入れる日があり、その日までに聖都に辿り着けば後は何の心配もいらないらしい。

 

一方で難民の中には聖都に滞在する騎士達を悪く思う者もおり、聖都を拒む者は山岳地帯に向かった。

 

そこには山の民の村があり、そこに滞在しているらしい。

 

山の民と聞いてエミヤはあることを思い出す。

 

「山の民……マスター、もしかしたら百貌のハサン達はそこにいるかもしれない。ハサンは元々山岳地帯を拠点にしていたらしいからな」

 

「そっか。じゃあ、百貌達を探すためにも後で山岳地帯に行ってみるか!」

 

百貌のハサンがいるかもしれない情報を得て、遊馬達は難民達の護衛をしながら聖都に向かう事にした。

 

そして……大地をひたすら進んだ先にあったのは巨大な白亜の城塞だった。

 

「で、でげぇな……これが聖都か?」

 

「外を拒絶するような巨大な白亜の壁……」

 

「これが聖都……これほど見事で美しい城塞は初めてだ……」

 

聖都の美しさと巨大さに驚きつつ遊馬達は城塞の中心、聖都の正門に向かった。

 

正門の前には千人近くの難民達がキャンプをして待機しており、聖抜の儀を待っていた。

 

遊馬達は難民達に紛れながら正門の前の近くまで進んだ。

 

すると、皇の鍵が一瞬黒い輝きを出すとアストラルは中にいるミストラルからの呼び出しだと気付き、アストラルは皇の鍵の中に入った。

 

「どうした、ミストラル」

 

ミストラルは悪い笑みを浮かべながらアストラルに忠告した。

 

「おいおい、アストラルよ。ここはやべぇ場所だぜ?ベクターの嘆きの迷宮とは比べ物にならねぇほどの負の感情が染み付いてるぜ?」

 

「何だと!?」

 

「お前も薄々気付いていたんじゃないか?聖都と呼ばれながらもここから悍ましい気を感じるのをよ……」

 

闇の存在であるミストラルが皇の鍵越しでも分かる聖都の異常な環境。

 

アストラルも薄々気付いていたが、聖都から放たれている神聖な強い力で上書きされるような感覚で気付くのが遅くなった。

 

「ミストラル……感謝する」

 

「ハッ、てめぇらに今死なれたら困るからな。まあ、せいぜい頑張れや」

 

ミストラルはその場から姿を消していなくなる。

 

アストラルは聖都の敵に見られないために皇の鍵の中から遊馬に向かって話す。

 

『遊馬、聞こえるか?』

 

「アストラル?」

 

『ミストラルからの警告だ。この聖都は嘆きの迷宮以上の負の感情が眠っていて非常に危険だ。この聖抜の儀はもしかしたら罠かもしれない』

 

「マジかよ!?」

 

『遊馬、今のうちにデッキに防御系のカードを入れてフィールドにセットしておくんだ。君のことだ、難民達を守るために戦うだろ?』

 

「ああ……もちろんだ。今の事をマシュ達にも伝える。アストラル、出るタイミングは任せる」

 

『任せろ、私達の全力を尽くすぞ!』

 

遊馬は今のアストラルの話をマシュ達に伝え、聖抜の儀が始まる前に防御系のカードをデッキに入れるだけ入れて、デュエルディスクのシャッフル機能でデッキのカードをシャッフルする。

 

デッキから引いた5枚の手札で早速最高のカードを引き寄せた遊馬はカードをセットしていつでも動けるように準備を整えた。

 

しばらく経つと聖都から鎧に身を包んだ騎士達が現れ、無言で難民達を守っているように見えたが、同時に逃がさないように囲んでいるようにも見えた。

 

静かな緊張が走る中……突如、空が明るくなって聖都を照らした。

 

空が明るくなった事に誰もが困惑する中、聖都から一人の騎士が現れた。

 

「落ち着きなさい。これは獅子王がもたらす奇跡──『常に太陽の祝福あれ』と。我が王が、私に与えたもうた祝福(ギフト)なのです」

 

それは白銀の甲冑と深緑の外套を身に付けた金髪の騎士だった。

 

その騎士の登場にアルトリアは目を見開き、声を震わせて驚いた。

 

「ガウェイン卿……!?」

 

ガウェイン。

 

円卓の騎士の一人で完全なる理想の騎士と言われた男である。

 

「ガウェインだと!?」

 

ガウェインの登場に遊馬達は驚愕するが、難民達は遂に聖都に入れると喜び、盛り上がっていた。

 

ガウェインは難民達に向けて静かに言葉を送った。

 

「皆さん。自ら聖都に集まっていただいた事、感謝します。人間の時代は滅び、また、この小さな世界も滅びようとしています。主の審判は下りました。もはや地上のいかなる土地にも、人の住まう余地はありません。そう、この聖都キャメロットを除いて、どこにも。我等が聖都は完全、完璧なる純白の千年王国。この正門を抜けた先には理想の世界が待っています」

 

太陽の騎士の異名を持つガウェインから放たれる神々しいオーラに難民達は救いの神が訪れたような気分になっていた。

 

「ありがとうございます。ここに至るまで長く、辛い旅路があったのでしょう。我が王はあらゆる民を受け入れます。異民族であっても、異教徒であっても例外なく。── ただ、その前に。我が王から赦しが与えられれば、の話ですが」

 

ガウェインは正門の上空に目線を向けた。

 

そこに立っていたのは獅子の面を被った純白の騎士だった。

 

その騎士を見た瞬間、アルトリアの中で鼓動が高まって何かが蠢き、胸を押さえながら体がふらつく。

 

「アルトリア!?」

 

「だ、大丈夫です、シロウ……」

 

アルトリアはエミヤに支えられながら純白の騎士を見つめ、今まで感じたことのない畏怖を抱いていた。

 

純白の騎士は難民達に向かって静かに告げた。

 

「──最果てに導かれる者は限られている。人の根は腐り落ちるもの。故に、私は選びとる。決して汚れない魂、あらゆる悪にも乱れぬ魂。──生まれながらにして不変の、永劫無垢なる人間を」

 

その瞬間、難民達の中から数人が光り輝いていた。

 

「聖抜は為された。その三名のみを招き入れる。回収するがいい、ガウェイン卿」

 

これが聖抜の儀……選ばれた人間だけが聖都に入れると言うものだった。

 

純白の騎士は聖都の中心の城に向かって消えていく。

 

ガウェインが騎士達に命じて選ばれた三人を前に連れて行く。

 

そして、

 

「……御意。皆さん。まことに残念です。ですがこれも人の世を後に繋げるため。王は貴方がたの粛清を望まれました。では──これより……『聖罰』を始めます」

 

騎士達が剣を構え、城壁から無数の矢が雨のように放たれて難民達に降り注がれようとした。

 

難民達は何が起きたのか理解出来なかった。

 

聖都に行けば助かる、生きることができる。

 

それだけを信じてここまで命をかけて来た。

 

しかし、希望の象徴であるはずの騎士達に裏切られ、難民達に絶望が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その時、一人の希望が立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっとビングだ、俺!」

 

遊馬は人をかき分けて前に出ると同時にマントを脱ぎ捨ててセットしたカードを発動する。

 

「罠カード!『ホーリーライフバリアー』!手札を1枚捨てて、このターン相手から受ける全てのダメージを0にする!」

 

遊馬はあらゆるダメージを0にしてモンスターの戦闘破壊も防ぐ最強の防御系罠カード、ホーリーライフバリアーで遊馬を中心に全ての難民に聖なる守りの壁を広げた。

 

雨のように降り注がれた矢は聖なる守りの壁に触れた瞬間、塵となって全て消えた。

 

「馬鹿な……!?矢を全て消しただと……!?くっ、おのれ!」

 

ガウェインは矢が消えたことに驚きを隠せず、すぐさま宝具である剣を振るって遊馬に向かって灼熱の炎を放った。

 

「遊馬君!」

 

「マシュ、大丈夫だ」

 

マシュは遊馬を守るために前に出て盾を構えたが、ガウェインの放った炎すら聖なる守りの壁によって一瞬で掻き消されて遊馬達には届かない。

 

「マスター、魔力を多めに使うぞ!」

 

「おう、幾らでも持っていけ!」

 

エミヤは高くジャンプすると魔力を多めに使って自身の周りに無数の大量の刀剣を投影し、それを矢のように一斉に発射して難民達を囲っていた騎士達を全て射抜いて消滅させる。

 

「ナイス、エミヤ!」

 

「油断するな、あの騎士が普通の人間でないと言うことはいつかのワイバーンの時みたいに次々と召喚される可能性が高い」

 

騎士達が普通の人間でないことが判明し、エミヤは黒弓を投影していつでも矢を打てるように準備する。

 

「何者ですか、貴方たちは……!」

 

ガウェインは聖罰を邪魔し、騎士達を倒した遊馬達を睨みつけて静かな殺気を放つ。

 

すると、遊馬の横を一つの影が凄まじい勢いで通り抜けた。

 

その影はガウェインに向かって走り、それに対してガウェインは聖剣を振るって再び炎を繰り出す。

 

その影が羽織っていたマントが炎で焼けて消し炭となり、その者の姿が現れる。

 

「ガウェイン……貴様、何をしている……?」

 

「──ま、まさか、あなたは……!?」

 

ガウェインはその者の姿を見た瞬間に目を見開いて聖剣を手放しそうになるほどに驚いた。

 

常に凛とした空気を纏い、金髪の髪を後ろで結い上げ、その手には勝利を名に冠する光の聖剣を持ち、青と銀の甲冑を着た見目麗しい少女剣士。

 

「何をしているのだ、貴様ぁあああああーっ!!!」

 

円卓の騎士王……アルトリア・ペンドラゴンの怒号が轟いた。

 

アルトリアは同じ円卓の騎士であり、生前でとても信頼していたガウェインの悪虐非道な虐殺行為に今まで見た事ないほどの怒りを露わにしていた。

 

「アーサー王……!?何故、何故あなたがここに!?」

 

「質問をしているのは私だ、ガウェイン!!助けを求める難民達を一方的に虐殺するのが騎士の務めか!?それが忠義の騎士と呼ばれ、高潔な魂を持つ貴様がこんな事をするのが正しいと言うのか!?」

 

「……私は、私は王に忠義を尽くす為にここにいます。今は、それだけしか言えません!」

 

「……そうか。今の私は頭に血が上ってまともに貴様の話を聞くつもりはない。マスターのサーヴァントとして、難民達を助ける為にも貴様をまずは足止めする!!」

 

アルトリアは怒りを鎮めて力に変えながら約束された勝利の剣をガウェインに向ける。

 

「今まで、いろんな奴らと戦ってきたけど……」

 

遊馬は静かに歩きながら今までの特異点で戦ってきた数多くの敵のことを思い返していた。

 

しかし、聖罰と言ってこれほどまでに一方的な虐殺行為を今まで何度も行って来た事に遊馬の怒りはアルトリアと同じくらいに爆発していた。

 

「てめぇは……いいや、てめぇらは救いを求める人達を……力なき者達の心を踏み躙り、一方的に殺そうとした……てめぇらだけは……てめぇらだけは絶対に許せねえ!何が救いだ、何が聖抜だ!てめぇらのやってることはただの殺戮じゃねえか!」

 

ガウェイン達が何を目的に動いているのかは知らないが、人を平気で皆殺しにするやり方を真っ向から否定する。

 

「俺が、いいや……俺達が必ず、みんなを守る!!」

 

遊馬の激昂と決意に応えるように皇の鍵からアストラルが出てくると難民達を見渡した。

 

「……遊馬、みんなの心はバラバラでこのままではここから無事に逃すことはできない。ここは私に任せてもらえるか?」

 

「アストラル……頼む」

 

アストラルは遊馬の上に浮くと自身の力を高めて遊馬やサーヴァント達だけでなく難民達にも見えるようにした。

 

突然現れたアストラルの姿を見て難民達は驚愕しながらも美しく神々しい姿をするアストラルの言葉に耳を傾けた。

 

「我は精霊・アストラル。我はここにいる遊馬と共にこの地に訪れた。この聖都で行われている聖抜の真実を確かめるために……」

 

アストラルは如何にも人々に崇拝されるような神聖な存在であるような口調で話した。

 

「しかし、この聖都は楽園と聞いていたがそれは偽りだった。ここは、人を拉致し、騙し、そして……何の罪もない人の命を奪う地獄のような場所だ!」

 

アストラルは聖都を弾糾するとガウェインに向かって指差す。

 

「あそこにいるのはかつて『忠義の騎士』と言われた誇り高き騎士だ。しかし、今はもはや騎士ですらない外道に堕ちた者だ!我々はこのような悪行を絶対に許しはしない!だからこそ、今ここで君達に誓おう。我々は君達を守る!我々の全てをかけてでも!」

 

アストラルは難民達を守ると誓いを立てるが、ガウェイン達に裏切られたばかりで難民達はまだ信じることは出来ていない。

 

「遊馬、ヌメロン・コードの力で翼を広げてからホープを呼ぶんだ」

 

「え?ホープはともかくなんで翼?」

 

「良いから早く!」

 

「は、はいっ!?」

 

遊馬はアストラルの指示通りに自身に宿るヌメロン・コードの力の一部を使って背中から美しい純白の翼を広げて軽く羽ばたかせ、そこからデッキからカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『ガガガ学園の緊急連絡網』!デッキから『ガガガマジシャン』を特殊召喚!更に『ガンバラナイト』を召喚!レベル4のガガガマジシャンとガンバラナイトでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ!『No.39 希望皇ホープ』

!!」

 

遊馬はガガガマジシャンとガンバラナイトを呼び出して希望皇ホープをエクシーズ召喚する。

 

アストラルの指示通りに遊馬が翼を顕現させ、希望皇ホープを呼び出した。

 

希望皇ホープはこの場の空気を読んでホープ剣を抜かずに翼を広げて静かに降り立った。

 

その結果……。

 

「聖なる光の翼……あの子は、もしかして天使様……!?」

 

「なんと、なんと神々しい光を放つ剣士……あれはまさか、神の化身なのか……!?」

 

「彼らこそ、私たちの本当の救世主様なのだ……!」

 

「「「ウォオオオオオーッ!!!」」」

 

難民達は新たな希望を見つけて心を一つにして沸き起こった。

 

「えっ!?ちょっ!?何事!?」

 

「遊馬、堂々としていろ。今の君は神が使した天使だからな」

 

「何ですと!?」

 

「なるほど。アストラルさんは遊馬君と希望皇ホープを彼らの希望の象徴にして、聖都が悪で私達が彼らを救う正義だと言う大義名分を作り上げたのですね」

 

「いいねいいね、これぞ勧善懲悪だね。向こうが見るからに悪そのものだから、こちらの善の光がより輝く訳だね」

 

マシュとダ・ヴィンチちゃんはアストラルの真意に気付き、マントを捨てながら遊馬の隣に立つ。

 

宗教の信仰心の強い難民達は翼を顕現させた遊馬を天使、神々しく輝く希望皇ホープを神の化身と盛大に勘違いしてしまった。

 

確かに遊馬と希望皇ホープは異次元の高位の存在である為、難民達が勘違いしても無理はないが。

 

「何はともあれ、これで難民達の心が一つになった。遊馬、カルデアにいるサーヴァント達の力を借りて難民達を聖都の外まで逃し、そこから方舟であるS・H・Ark Knightを乗せてこの地から脱出するぞ」

 

「分かった。そっちは任せる。俺はここでホープと敵を迎え撃つ。敵がガウェインだけとは限らないからな。マシュ……一緒にここで戦ってくれるか?」

 

「もちろんです。私は遊馬君のシールダーです。遊馬君と皆さんを必ず守り抜きます!」

 

遊馬とマシュはここでガウェイン達の足止め、アストラルは難民達の脱出を担当する。

 

遊馬はD・ゲイザーでカルデアに通信し、サーヴァント達に伝達する。

 

「マスター、九十九遊馬の名においてカルデアにいるサーヴァント達に命ずる!みんな、力を貸してくれ!ここにいる人達を……助けを求める人達の命を全て助けるぞ!!」

 

今ここに……遊馬達にとって初めての、勝つ為ではなく、みんなを守る為の戦いが始まる。

 

 

聖都から遠く離れた砂漠の中……そこにはまだ遊馬達も知らない一つの王国が存在していた。

 

その王国の入り口で複数の人物と一体のモンスターが話をしていた。

 

「マナ、クリボー。彼らの迎えと案内、頼んだぞ」

 

「はい!お任せください、マスター!」

 

「クリクリ〜!」

 

少年は目の前にいる褐色の肌に焦げ茶色の髪を持つとても可愛らしい少女と毛むくじゃらのモンスター・クリボーに『ある者達』の迎えと案内を頼んだ。

 

「こいつに乗って向かってくれ」

 

少年は左腕に装着された金の大きな腕輪を構えると、まるで三枚の片翼が展開されるような形となり、その中の一枚にドラゴンのような姿が描かれる。

 

「現れろ!『カース・オブ・ドラゴン』!」

 

少年の前に現れたのは大きな骨の飛竜でそれはデュエルモンスターズのモンスターの一体だった。

 

「わぁ!ありがとうございます、マスター!行ってきまーす!」

 

「クリー!」

 

マナはカース・オブ・ドラゴンの背に跨ると早速空を飛んで行き、クリボーは宙に浮いたまま一緒について行く。

 

少年は飛んでいくマナ達を見送ると、後ろから大きな杖を持った魔術師の青年が近づく。

 

「マナはちゃんと彼らを見つけて、来てくれるでしょうか……」

 

「相変わらず、マハードはマナに対して心配性だな」

 

「当然です。マナはいつまで経ってもおっちょこちょいな所は変わりませんから」

 

青年・マハードの容赦ない断言に少年は苦笑を浮かべた。

 

「大丈夫だろう。彼らが選ばれし運命のデュエリストなら必ずマナと再会するはずだ。それまでに俺達は俺達の仕事をするだけだ」

 

「これから来る彼らと難民達の受け入れですね?」

 

「ああ。他のファラオ達の説得は引き続き行う。マハードは難民達の受け入れを出来る様に準備をしていてくれ」

 

「ハッ!承知しました、マスター」

 

少年とマハードは自分達の仕事をする為にすぐさま行動に移す。

 

 

 




さあ、皆さんトラウマのシーンが来ましたが見事に遊馬君たちが全てひっくり返しました。

ここで一つ皆さんが疑問に思っているであろうことを答えようと思います。

Q.遊馬が聖抜に選ばれなかったのは何故?

A.遊馬は本来ならば聖抜に選ばれてもおかしくない美しい魂の持ち主ですが、欲望の力のカオスを受け入れてその力を使いこなしているので外されました。

ホープレイVとか七皇の剣とか色々使ってるので獅子王様に選ばれないですよね。


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ナンバーズ176 守る為の戦い

遊馬達の守る戦いが始まりました。

今日の遊戯王SEVENSは久々にテンション上がりました。
球児皇ホームはホープ一族に相応しい殺意のある脳筋効果で嬉しかったです。
これは是非ともデッキを組んでラッシュデュエルをしてみたいですね。
嬉しくてつい遊馬とアストラルのコメントを書いてみました。

遊馬「いやー、まさか遊戯王SEVENSでホープとガガガマジシャンとズババナイトとアチャチャアーチャーが野球モンスターになって登場するなんて驚きだぜ」

アストラル「罠カードにドドドウォリアーをモチーフのモンスターも見えていたな。ユウカのデュエルが今後もあるだろうから、リメイクモンスターが増えるのに期待だな」

遊馬「背番号39 球児皇ホームか……ダブルアップ・チャンスの攻撃力2倍を意識した効果は燃えるぜ!名前はホームだけど、やっぱりあいつもホープだぜ!ユウカ、新しいホープ使いとして認めるぜ!」

アストラル「そして、ユウカのかっとバシング……ま、まさか!?遊馬よ、あのユウカは並行世界の君かもしれないぞ!?あのテンションとノリ、面白さと強引さ……ありえるな」

遊馬「えーっ!?顔とか髪とか全然似てないぜ!?それに俺野球はユウカほど好きって訳じゃないし……」

アストラル「だが、ユウカには君に似ているところがある。今後の活躍に期待だな」

遊馬「そうだな。一応敵サイドだけど、良い子だからな。これからもかったバシングだぜ、ユウカ!」



青年は歩き続けた。

 

果てのない、到達点が見えない遙かなる旅路を。

 

それは、己の犯してしまった大罪と向き合い、目的を果たす為に。

 

そして、ようやく辿り着いた聖都。

 

そこで行われる人の命を踏み躙る悍ましい儀式が行われようとしたその時、青年は一つの希望の光を見つけた。

 

太陽のように輝きを放ちながらも、その光は優しく温かみのある光だった。

 

青年はその光に未来を斬り開く力があると確信した。

 

 

聖抜の儀で選ばれなかった人々を意味もなく殺める聖罰の儀から難民達を救う為、遊馬達の守る為の戦いが始まった。

 

アストラルは難民達を聖都から逃す為の乗り物を用意する。

 

「シャーク、バリアン世界を一心に背負った君の力を借りる!私のターン、ドロー!『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚!更に『ゴゴゴゴーレム』を召喚!レベル4のモンスター2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れろ!No.101!満たされぬ魂を乗せた方舟よ。光届かぬ深淵より浮上せよ!『S・H・Ark Knight』!!」

 

S・H・Ark Knightは方舟を模しており、難民達を運ぶ為に適切とも言えるモンスターである。

 

見たことない方舟に難民達が驚く中、遊馬の呼びかけによりまず先陣を切って現れたサーヴァントはジャンヌとレティシアだ。

 

「我が名はジャンヌ・ダルク!契約者、遊馬と共に戦う者!難民達よ、この旗の元に続きなさい!」

 

「私達が先導するわ!慌てないでついて来て、あの船に乗りなさい!」

 

ジャンヌとレティシアは旗を振って難民達を先導し、S・H・Ark Knightが光の線を放って難民達を次々と船内に入れていく。

 

「マシュ!聖抜に選ばれた人達を助けるぞ!」

 

「はいっ!」

 

遊馬とマシュは聖抜の儀で選ばれた難民を救うために走り出すが、次々と騎士達が召喚されて難民達に襲いかかる。

 

先程よりも更に倍に増えた騎士達に焦る遊馬だが、カルデアから『守る為の戦い』において群を抜くサーヴァントが現れる。

 

「マスター!マシュ殿!私が彼らを守ります!」

 

「「レオニダス(さん)!!」」

 

「これが……スパルタだぁあ!『炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)』!」

 

レオニダスはかつて十万のペルシャ軍に対して共に戦った三百人の兵士を召喚し、難民達を囲むように配置する。

 

召喚された兵士は槍と盾を構えて襲いかかって来た騎士達を押し返す。

 

レオニダスの宝具である炎門の守護者は攻勢よりも守勢という面において凄まじい力を発揮する。

 

「マシュ殿!今こそ守護者としての戦いを見せる時です!」

 

「はい!レオニダスさん!」

 

マシュは尊敬するレオニダスからエールを受けて気合いを入れる。

 

「さて、我々は騎士達の撃退を行おうか」

 

エミヤは無数の剣を次々と投影し、黒弓で矢を放ちながら剣も同時に放っていく。

 

「ふふん!いよいよ、この籠手と杖を暴れさせる時が来たようだね!」

 

ダ・ヴィンチの左腕に装着されている籠手と右手で持っている杖はただの道具ではない。

 

冷気や火炎を放ち、更には籠手を巨大化させてロケットパンチの様に射出したりと多機能な『全戦局対応型万能籠手』と魔力測定器兼レーザービームを備えた『星を表す杖』なのだ。

 

ダ・ヴィンチちゃんは騎士達を撃退する為、発明してきた武器で大暴れするのだった。

 

難民達の誘導や護衛に多くのサーヴァントが出動した。

 

「皆さん、落ち着いてゆっくり進んでください!」

 

「何が来ても必ず私たちが貴方たちを守り抜くわ!」

 

「大丈夫です、必ずこの地から脱出して助かります!」

 

聖地エルサレムとあって、キリスト教関係の聖人仲間としてゲオルギウスとマルタと天草が難民達に呼びかけて誘導する。

 

「全く、ブーディカよ!円卓の騎士が色々やらかすとはとんでもない後輩であるな!?」

 

「私だって予想外過ぎるよ!後輩がこんなことをするなんて……こうなったら先輩として頑張らないとね!」

 

ネロとブーディカは剣を振るって騎士達を倒しながら円卓の騎士の凄まじさに呆れ果てていた。

 

 

正門の近くで一組の親子が手を繋ぎながら必死に走っていた。

 

聖抜の儀で選ばれた女性がいたが、その女性には子供がいた。

 

母親として子供と一緒にいることを望んだが、聖抜で選ばれなかった為にそれは叶わない。

 

騎士は聖抜で選ばれなかった子供を粛清する為に凶刃を向ける。

 

「おかあさん、早く!」

 

「お願い……私はどうなっても構わない……だけど、この子は……ルシュドだけは……!」

 

騎士は二人に近づいて剣を振り上げ、母親は子供を守る為に盾になろうとした。

 

「ホープの攻撃!ホープ剣・スラッシュ!!」

 

「ロード・カルデアス・ストライク!」

 

希望皇ホープの剣とマシュの盾の攻撃で騎士達がぶっ飛ばされる。

 

「あっ……おかあさん、天使様だよ!」

 

「ああっ……神様……ありがとうございます……!」

 

「早くあの船に!ここは俺達が食い止める!」

 

「は、はい!ルシュド、行きましょう!」

 

「天使様、ありがとー!」

 

「……ああ、また後でな!」

 

遊馬は親子を無事に逃して一安心してから騎士達を睨みつける。

 

女子供ですら平気で刃を向ける騎士達に遊馬とマシュの怒りの炎が更に燃え上がる。

 

そして……誰よりもその怒りの炎を燃え上がらせたサーヴァントが現れる。

 

「おかあさん……あの人たち、絶対に許せないよ……」

 

「まさか、私にとっては地獄のような光景が目にすることになるとはな……」

 

それはジャックとアタランテだった。

 

子供たちの霊の集合体でもあるジャックと子供達が愛される世界を望むアタランテからしたら子供ですら殺める聖罰の儀は許されないものだった。

 

「お前たち……全員解体するよ!!」

 

ジャックは押さえ込んでいた殺人鬼としての一面が溢れ出し、愛用のナイフを構えて目にも止まらぬスピードで次々と騎士達を斬り伏せていく。

 

「私たちを怒らせた事を後悔させてやる!!」

 

アタランテは怒りで顔を歪ませながら矢を次々と放って騎士の心臓を射抜いていく。

 

遊馬とマシュはジャックとアタランテの怒りの炎を目の当たりにして逆に心が冷静となる。

 

「マシュ、俺たちはここでみんなに指示を出そう。冷静に行こう」

 

「分かりました、私たちまで頭に血が上ったらいけませんからね」

 

「フォウフォーウ!」

 

遊馬はマスターとしてみんなに指示を出していく。

 

 

一方、アルトリアは全力で約束された勝利の剣を振るい、ガウェインの聖剣と交差する。

 

「はぁあああああっ!!」

 

「くっ!!うぉおおおおおっ!!」

 

今のガウェインに何を聞いても答えてはくれない、更にはギフトで常に太陽の光を得ているガウェインを倒すのは難しいと判断したアルトリアは難民達が全員無事に逃げ切るまで足止めに専念する。

 

ガウェインの宝具である聖剣を使わせない為にアルトリアは怒涛の攻撃を仕掛けていく。

 

その時、アルトリアの直感が働き、ガウェインから下がり、その直後に巨大な赤雷が通り過ぎた。

 

「この赤雷は!?」

 

アルトリアはその赤雷が何なのか知っており、振り向いた先は聖都の正門でそこにいたのは……。

 

「モードレッド……!?」

 

それはカルデアから特異点に召喚されて行方不明だったモードレッドだった。

 

しかもモードレッドだけでなくその隣にもう一人……馬上槍と盾を持ち、鎧に身を包んだ騎士がいた。

 

「ガレス……!?」

 

ガレス。

 

円卓の騎士の一人で、円卓の中でも最も新しく加わった騎士であるが、槍一本で名だたる騎士達を倒した槍使いである。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!」

 

「────────」

 

モードレッドは声にもならない叫びを上げ、ガレスは無言のまま同時に走り出してアルトリアに襲いかかる。

 

「モードレッド!ガレス!貴方達も獅子王などと言う愚か者に付き従うのですか!?」

 

アルトリアは二人の猛攻をなんとか捌きながら声を掛けるが、二人の目を見て言葉を失った。

 

「──二人の意識が、無い……!??」

 

モードレッドは顔に不気味な白い模様が浮かび、まるで狂化属性を付与されたバーサーカークラスのサーヴァントのようになっていた。

 

ガレスの方は目が虚ろになって表情が無となっていて、まるで人形のようになっていた。

 

二人はただアルトリアを倒すためだけに獲物を振るう……まるでロボットのような存在になっていた。

 

「まさか、二人も獅子王が……おのれぇっ!!」

 

アルトリアは獅子王が二人に魔術的な何かで心を縛り、戦うだけの操り人形にしたのだと察知し、怒りを更に募らせる。

 

「我が王……申し訳ありません!」

 

ガウェインが聖剣から炎を纏わせ、アルトリアに向けて放とうとしていた。

 

「くっ……!?」

 

流石のアルトリアも円卓の騎士三人を相手ではあまりにも分が悪い。

 

どうすればいいのかと迷った……その時!

 

「ふん!!」

 

「はぁっ!!」

 

黒の閃光がガウェインに襲いかかり、純白の輝きがガレスの槍を弾く。

 

「情け無いぞ、青いの!」

 

「アルトリアさん!大丈夫ですか!?」

 

「オルタ!イリヤ!」

 

それはもう一人のアルトリアであるアルトリア・オルタとクラスカード『セイバー』を夢幻召喚したイリヤだった。

 

アルトリアの危機に二人が駆けつけて来たのだ。

 

「ば、馬鹿な……我が王が、もう一人!?しかも、あの少女が手にしているのは紛れもなく王の聖剣……一体どういうことなのだ!?」

 

ガウェインはアルトリアがもう一人いる事と、イリヤが約束された勝利の剣を持っている事に驚きを隠せず困惑していた。

 

「ふっ……貴様に分かるわけが無いだろう、この筋肉馬鹿が!!」

 

オルタはガウェインを馬鹿にしながら漆黒の聖剣を豪快に振るう。

 

一方、イリヤは蝶のように軽やかに跳んで舞うように聖剣を振るい、ガレスの槍を捌きながらアルトリアに話しかける。

 

「アルトリアさん!私とオルタさんが敵を抑えている間にモードレッドさんを!大丈夫です、きっとアルトリアさんの言葉なら届きます!」

 

「言葉……」

 

アルトリアは必死に考えた。

 

自分からモードレッドの心に響く言葉は何なのか?

 

どうすれば囚われたモードレッドの心を呼び覚ませられるのか?

 

カルデアで見たモードレッドの意外な性格を思い出しながら最も響くであろう言葉を大きく息を吸って吐き出す。

 

「──目を覚ましなさい、モードレッド!そのような無様な姿で戦って、それでもあなたは私の子ですか!?」

 

私の子……それはモードレッドが何よりもアルトリアから聞きたかった言葉だった。

 

その瞬間、モードレッドの体が止まり、手にしていた燦然と輝く王剣を落とし、頭を両手で押さえながらその場に膝をつく。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎……アァアアアアアアアアアッ!!!」

 

「モードレッド!?」

 

「ち……父上……」

 

モードレッドはアルトリアの言葉で何とか意識を取り戻した。

 

そして、モードレッドは自分を押さえ込みながらアルトリアに情報を伝える。

 

「父上……獅子王は、聖槍を持った別の可能性の貴方だ……!」

 

「何ですって……!?」

 

獅子王の正体が聖剣ではなく、聖槍を持ったアルトリアだという事実にアルトリア自身も驚愕する。

 

「獅子王は、聖抜で選んだ人間を……うがぁっ!?」

 

「モードレッド!?」

 

一つでも多くの情報を伝えようとしたモードレッドだが、顔に浮かんである模様が更に顔中に伸び、モードレッドを苦しませていく。

 

「もうダメか……父上、ガレスを、ガレスを連れて行ってくれ……あいつの心はもう、限界だ……頼む……!!」

 

モードレッドは自分の意識が再び無くなる前にアルトリアにガレスを連れて行けと頼んだ。

 

その真意は不明だが、モードレッドの必死な頼みにアルトリアは頷いた。

 

「分かりました。ですが、もちろんあなたも連れて行きます!イリヤ、聞こえましたか!?」

 

「はい!ルビー、何とかあの人を一時的に眠らせる事とか出来る!?」

 

「お任せあれ!こんなこともあろうかと、こっそりと作っておいたサーヴァントでも効果抜群の強力な眠り薬があります!」

 

「なんて恐ろしいものを作っているのかと色々言いたいけど、今回はグッジョブだよ!」

 

「ですが、今のままでは使えません。ルビーちゃんは聖剣になったままなので夢幻召喚を解除してステッキにならなければいけません」

 

今現在、イリヤはセイバーのクラスカードの力でガレスの槍の猛攻を防いでいる。

 

夢幻召喚を解除する隙もなかったが、イリヤには頼れる親友と妹がいる。

 

「「イリヤ!!」」

 

「ミユ!クロ!」

 

難民達の収容を手伝っていた美遊とクロエがイリヤの援護に駆けつけた。

 

「イリヤ、難民達の収容がもうすぐ終わるよ!」

 

「急いで遊馬の元に戻るわよ!」

 

「その前にこの人を連れて行きたいの!お願い二人共、一瞬だけで良いから動きを封じて!」

 

「イリヤ……分かった!クロ!」

 

「仕方ないわね!ちゃちゃっと終わらせるわよ!」

 

クロエは一気に決める為に二組の干将・莫耶を投影してガレスに向かって投げ飛ばす。

 

「山を抜き、水を割り、なお堕ちる事無きその両翼……」

 

走っているクロエの姿が消えた次の瞬間にガレスの背後に現れてもう一組の干将・莫耶を投影しながら振り下ろす。

 

「鶴翼三連!!!」

 

見たことない必中不可避の六連撃の攻撃がガレスを襲い、動きが止まった一瞬の隙に美遊はサファイアを向ける。

 

「物理保護、拘束!!」

 

美遊は物理保護でガレスの手足と胴体を挟み込んで動けなくする。

 

「セイバー、送還(アンインストール)!ルビー!!」

 

「了解です、そいやっ!超強力眠り薬!!」

 

イリヤはセイバーの夢幻召喚を解除し、ルビーが聖剣からステッキに戻った瞬間に眠り薬入りの注射器を二つ取り出して見事な投擲術でガレスとモードレッドに突き刺して注入する。

 

サーヴァントにすら効く超強力な眠り薬を注入されたモードレッドとガレスは強制的に眠らされ、その場でガクッと倒れ込んだ。

 

「感謝します!イリヤ、ガレスをお願いします!」

 

アルトリアは眠ったモードレッドを担ぎ上げて遊馬の元へ向かう。

 

「ルビー、魔力を筋力に回して!」

 

「サファイア、私もお願い!」

 

「「了解です!」」

 

イリヤと美遊はそれぞれルビーとサファイアに頼んで魔力で筋肉を強化しながらガレスを両側から持ち上げて運ぶ。

 

「オルタの騎士王様ー!難民達の収容も終わるから早くこっちに来てくださーい!」

 

クロエはオルタにそう呼びかけながらイリヤ達の後を追う。

 

「そろそろ潮時だな。さぁ、ガウェイン。妹二人を奪われた気分はどうだ?」

 

オルタはガウェインに向かって不敵の笑みを浮かべながらそう挑発した。

 

実はガウェインとモードレッドとガレスは血で繋がった兄妹であるのだ。

 

二人を同時に連れ去られ、オルタに挑発されたガウェインは聖剣の柄を強く握りしめて振り上げる。

 

「ウォオオオオオオオッ!!!」

 

オルタは挑発しすぎたかと思いながら聖剣から漆黒の輝きを放ちながら迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、銀色に輝く一閃がガウェインに襲いかかり、その場から吹っ飛んで壁に激突した。

 

「ぐあっ!?だ、誰だ……あ、貴方は──!?」

 

ガウェインを吹っ飛ばしたのはブロンドの髪を結った端正な容姿の美青年だった。

 

その右腕が銀色に輝いており、その手には光の剣が握られていた。

 

「貴様は……!?」

 

「王よ、今のうちに撤退を……!ぐ、っぅぅぅぅぅううう……!」

 

青年はその場で苦しそうに膝をつくと、オルタの鼻に焦げ付いた匂いが届いた。

 

その匂いの元は何と青年からでその腕と体の内部が焼けているのだ。

 

「王よ、事情は把握していませんが、今のガウェイン卿を侮ってはいけません。難民達の避難はもう完了しました……早く、王も、お仲間のところへ……」

 

青年はオルタを一刻も早くこの場から逃す為に戦いに割り込んできたのだ。

 

「ちっ……仕方ない」

 

オルタは舌打ちをして聖剣を消すと青年を抱き上げた。

 

「お、王!?」

 

「貴様にも来てもらう。どうやら貴様は獅子王の配下では無いらしいからな。貴様の知ってることを吐いてもらうぞ。その腕のことも含めてな……」

 

オルタは青年を抱き上げたまま走り、遊馬の元へ急ぐ。

 

遊馬の元に戻るとそこには既に難民達の収容と騎士達の撃退を終えたサーヴァントが全員集まっていた。

 

S・H・Ark Knightに全ての難民を乗せ、アストラルが指示を出して既に聖都から脱出した。

 

「マスター、待たせたな!」

 

「オルタ、待ってたぜ!ん?その兄ちゃんは誰だ!?」

 

「説明は後でする!早く脱出を!」

 

「ああ!かっとび遊馬号!!」

 

遊馬は皇の鍵からかっとび遊馬号を召喚して全員を船内に入れる。

 

遊馬は舵を持ち、マシュとダ・ヴィンチちゃんがコンピュータを操作して全システムを起動させて緊急発進を行う。

 

「システムオールグリーン!」

 

「エンジン、出力全開!遊馬君!」

 

「みんな、掴まれ!かっとび遊馬号、緊急発進!!」

 

かっとび遊馬号の最高速度で加速し、船内が大きく揺れながら一気に聖都から脱出する。

 

聖都から大きく離れ、先に出発したアストラルとS・H・Ark Knightと合流し、遊馬は笑みを浮かべて腕を高く上げた。

 

「おっしゃあ!全員無事に聖都から脱出出来たぜ!この戦い、俺たちの勝利だ!!」

 

「はいっ!」

 

「フォーウ!!」

 

遊馬達は獅子王とガウェイン達の聖罰の儀から難民達を守り、助け出した守る戦いに無事に勝利を挙げ、みんなは一時の喜びを分かち合うのだった。

 

 

広大な砂漠の中……一人の女性が歩いていた。

 

その女性はこの地では見られない異国の少し派手な服装をしていた。

 

「はぁ……どうしようか……全然誰にも会えないし、このままじゃ遭難しちゃうよぉ……」

 

女性はとても不安な心境で今にも涙を流しそうになっていた。

 

「ひとりぼっちで現界しちゃうし、菩薩様のお声も聞こえないし……ぐす……」

 

否、もう既に泣いていた。

 

哀れなことにこの女性を助けてくれる者はここには存在しない。

 

そんな時、女性に大きな好機が訪れた。

 

「……ん?急に暗く……って!?何あれ!?」

 

空が急に暗くなったと思い、上を見上げたらそこには空を飛ぶ二隻の大きな船だった。

 

見たことない形をした空飛ぶ船に呆然としていると、女性はまるで雷が落ちたように何かを感じ取った。

 

「はっ!?か、感じるわ……あの船から、とてつもなく徳の高い人間がいるわ!それも……御仏にもなれる逸材が!待ちなさーい!私の弟子候補ー!」

 

女性は一気に元気になり、空飛ぶ船を見失わないように走って追いかけるのだった。

 

 

 




ラストに登場したのはもちろん皆さんご存知の彼女です!
これは小鳥ちゃんも出さないといけませんね。

それと、本来ならキャメロット編で登場していないガレスを出してみました。
ちょっと設定は異なりますがそれは後に判明します。


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ナンバーズ177 西遊の法師

FGOで心にダメージを受けながら何とか書きました。
来週からソロモン編の映画が上映されるので楽しみです!

さて、私の好きなサーヴァントである法師様を出します!
ただ……当ててないので悲しいです( ; ; )


聖都から脱出した遊馬達はかっとび遊馬号とS・H・Ark Knightで空を飛び、聖都から充分に距離を取ったところに人のいない廃村を見つけた。

 

廃村と言ってもある程度形が残っている民家が何軒もあるので、そこに降りることにした。

 

難民達は既に心身共に疲弊して限界が近いので、炊き出しなどを行うことにした。

 

カルデアからバニヤンが日頃からせっせとカルデアで育てていた大量の食材を送ってもらい、エミヤは投影魔術でキャンプの調理器具を大量に投影する。

 

そして、料理長のエミヤを筆頭にスタミナのつく料理を大量に作っていき、難民達に配っていく。

 

また、砂漠地帯で水不足に陥っているので……。

 

「現れよ!『No.19 フリーザードン』!!」

 

「現れよ!『No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ』!!」

 

遊馬とアストラルは2体のナンバーズを呼び出した。

 

氷の恐竜・フリザードンが巨大な氷塊を何十個も作り出し、アビス・スプラッシュで大量の水を生成して擬似オアシスを作り出した。

 

大量の食料と水に難民達は一安心したところで、民家の一軒を使って診療所を開いたナイチンゲールが難民達の健康診断を行う。

 

そして、廃村を囲むようにレオニダスが宝具『炎門の守護者』を展開していた。

 

いつ敵が来ても難民達を守れるようにとレオニダスは休まず常時展開している。

 

また、レオニダスだけでなく、アーチャーのアタランテとロビンフッド、アサシンの小太郎と段蔵が周囲を監視している。

 

そして、いつ獅子王配下の円卓の騎士が来てもすぐに撃退出来るようにカルナとアルジュナが威風堂々とした様子で待ち構えていた。

 

ちなみにカルナとアルジュナは聖都での難民達の護衛や騎士の撃退に行こうとしていたのだが……この二人の力がサーヴァントの中でも上位に入る最強クラスの能力を持つ。

 

あまりにも強すぎる攻撃の余波で難民達に被害が出る恐れがあった為、カルデアでエレナやエジソンが全力で二人を止めていた。

 

しかし、今は砂漠のど真ん中の村にいるという事もあり、二人は遠慮なく攻撃出来るのでレオニダスと同じく休まず警戒している。

 

難民達のケアをしていく中、遊馬達は一番大きな民家で集まっていた。

 

その中心には未だにルビーの超強力眠り薬で眠っているモードレッドとガレスが横たわっていた。

 

「うーん……これは神代の魔術でも無いわね」

 

「ルーン魔術の類でもないな。これはもっと神聖な力を感じる」

 

戦闘マシンのように戦っていたモードレッドとガレスが何かしらの魔術が掛けられているのではないかと思い、メディアとスカサハに見てもらった。

 

しかし、神代の魔女のメディアもルーン魔術の使い手のスカサハでも原因が分からずお手上げ状態だった。

 

無理矢理魔術でこじ開けるように解くことも可能だが、それではモードレッドとガレスの霊基に多大なダメージが及ぶ可能性が高いので下手に手出しはできない。

 

「私にお任せください。私なら……二人にかけられた『ギフト』を『断ち切る』ことが出来ます」

 

そこに名乗りを挙げたのが聖都で出会った謎の青年だった。

 

まだ名を名乗ってなかったので青年は銀色に輝く右腕を胸に添えて軽く頭を下げながら名乗った。

 

「私はアーサー王にお仕えする、円卓の騎士の一人……ベディヴィエールです」

 

ベディヴィエール。

 

円卓の騎士の最古参の一人でアーサー王の忠実な騎士である。

 

「……あれ?ベディヴィエール。確かあんたは隻腕の騎士だったよな?その右腕はどうしたんだ?」

 

遊馬はアーサー王伝説を一読していて、ベディヴィエールのことをある程度知っていたのでその疑問に辿り着いた。

 

ベディヴィエールは右腕が無いが片腕でも騎士としての腕は確かで『隻腕の騎士』の異名を持つ。

 

しかし、今のベディヴィエールには美しい模様が刻まれた銀色の右腕があり、それは何なのかと疑問に思う中……。

 

「……フォウ?」

 

「あっ、フォウさん!」

 

フォウがマシュの肩から降りてベディヴィエールの体をよじ登って銀色の右腕の匂いを嗅ぐと興奮したように吠えた。

 

「フォウフォウ!マーリン、マーリン!!」

 

フォウが大嫌いな元主人であるマーリンの名を呼び、遊馬達に衝撃が走る中……アルトリアは冷静に考えて答えを出す。

 

「なるほど……ベディヴィエール。その右腕はマーリンがあなたに与えたものですね?」

 

「その通りです、我が王。片腕では円卓の相手は厳しいだろう、とマーリンが一計を案じたのです。これは彼が作った人工宝具。ケルトの戦神、ヌァザが持つ銀の腕を模したもの」

 

マーリンがベディヴィエールに宝具を与えていとことに誰もが驚く中、ベディヴィエールは状況を打破出来ると告げる。

 

「この右腕の力を使えば、二人に掛けられたギフトを何とか出来ます」

 

「ギフト?」

 

「そう言えばガウェインが獅子王から与えてくれた、常に太陽を照らしてくれると言っていたな。スキルとは違うのか?」

 

アストラルはガウェインが聖都に現れた時のことを思い出しながら尋ねるとダ・ヴィンチちゃんが代わりに答える。

 

「あれは聖杯の祝福だ。それも私達が集めている聖杯(アートグラフ)じゃない」

 

「特異点の聖杯じゃないってことは俺が持ってるポセイドンの聖杯みたいなものか?」

 

「その通り。アーサー王伝説に現れる救世主の聖杯(ホーリーグレイル)。神の祝福を円卓の騎士たちは受けている。ああ、ベディヴィエールは例外だ。正しくは、獅子王の配下の円卓の騎士たちは、だね」

 

獅子王には恐らく遊馬が持つポセイドンの聖杯と同等かそれ以上の力を秘めた『アーサー王伝説の聖杯』を使って配下の円卓の騎士を『祝福』として強化している。

 

「この右腕のは『聖杯を断つ』能力を持っています。この力でガレスちゃんとモードレッド卿にかけられたギフトを断ち切れば時期に目を覚ますはずです。しかし、その前に我が王に一つお尋ねしたい」

 

「何でしょう?」

 

ベディヴィエールはモードレッドをチラッと横目で見ながらアルトリアに静かに問う。

 

「ガレスちゃんはともかく、モードレッド卿は叛旗を翻し、カムランの丘であなたを死に追いやりました。そんなモードレッド卿をお救いしてもよろしいのですか?」

 

モードレッドはアーサー王伝説の終焉……アルトリアの王としての人生に終わりを与えた存在でもある。

 

アルトリアにモードレッドを怨んでいる様子は見られないが念の為に確認した。

 

「……モードレッドとは確かに色々ありました。ですが、私とモードレッドは共に異なる世界の聖杯戦争でそれぞれ良きマスターに巡り会いました。マスターと言葉を交わし、多くの人と出会ったことで、私達は人として変わり、大きく成長する事ができました。まだまだ未熟で駄目なところは多々ありますが、モードレッドは……私の息子です」

 

恐らくは他の円卓の騎士達が聞いたら驚愕するほどのアルトリアのモードレッドへの想いにベディヴィエールは唖然とする。

 

「……それを聞いて、安心しました。このベディヴィエール。全身全霊を持って、二人をお救いします!」

 

ベディヴィエールはアルトリアの想いに応える為に覚悟を決めた。

 

「『剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)』!」

 

銀の右腕の力が解放され、聖杯の断ち切る銀色の閃光が光り輝く。

 

「はぁっ……はぁ!!」

 

モードレッドの胸元に右手を当てて銀色の閃光を押し込むようにすると、ギフトが断ち切られてモードレッドの顔中に刻まれていた刻印が消滅する。

 

「次はガレスちゃん……ぐぅっ!??」

 

ベディヴィエールは体内に激しい激痛が襲いながらガレスに向けて右手を伸ばす。

 

「ベディヴィエール!?」

 

「大、丈夫、です……!はぁっ!!」

 

そして、ガレスの胸元に右手を当てて同じように銀色の閃光を押し込むとまるで人形のように冷たく、生気がなかった顔色が一気に良くなり、規則的な呼吸をするようになった。

 

「これで、大丈夫です……」

 

ベディヴィエールはその場に崩れ落ちるとその体から焼けた肉のような匂いが広がる。

 

ベディヴィエールの異変にオルタは確信を得た。

 

「ベディヴィエール……やはりその右腕を使う度に命を削っているのだな?」

 

「……はい」

 

聖都でガウェインを薙ぎ払った時にもベディヴィエールは肉体に多大なダメージを受けていた。

 

ベディヴィエールは右腕の力を使う度に文字通り命を削っているのだ。

 

「このままでは貴様の身が持たないな。肉体の回復はナイチンゲールやアイリスフィールに頼むとして……メディア」

 

「何かしら?セイバー?」

 

「ベディヴィエールの右腕の反動を抑えることはできるか?」

 

オルタは世界最高峰の魔術を使い、様々な魔術道具を作り出せるメディアにベディヴィエールの右腕の反動を抑えてもらう事を考えた。

 

「そうね、彼の専用の魔術道具が出来るのは二、三日ぐらいかしらね?」

 

「頼む、ベディヴィエールはこの戦いの鍵になる男だ」

 

円卓の騎士たちに掛けられた聖杯の祝福を断ち切る力を持つのはベディヴィエールしかいない。

 

ベディヴィエールを失わない為にもオルタはメディアに頼み込んだ。

 

「分かったわ。でも、タダではやらないわよ。彼はあなたの部下なんでしょ?それ相応の対価を貰わなきゃね♪」

 

「良いだろう……私と青いの、二人で貴様の服を着たファッションショーをやるのはどうだ?」

 

「オ、オルタ!?」

 

「ベディヴィエールを守る為だ、我慢しろ」

 

「うっ……分かりました……」

 

アルトリアとオルタはベディヴィエールの為に一肌脱ぐことになった。

 

その後、ベディヴィエールの重体に察知してナイチンゲールが現れ、有無を言わさずに強制的に治療を受けることになった。

 

流石にベディヴィエールのダメージは通常の治療では治せないのでカルデアからアイリスフィールと玉藻とメディア・リリィに来てもらい、モードレッドとガレスの治療も並行して行うことになった。

 

カルデアを代表する4人の回復系宝具のサーヴァントがいればベディヴィエール達もすぐに回復することは間違いない。

 

後のことはナイチンゲール達に任せて一旦遊馬達はその場で解散となった。

 

各自休息を取ったり難民達の様子を見たりと各々が自由行動をする中、アルトリアは人気のない瓦礫のところにいた。

 

大きな瓦礫の上に座り、約束された勝利の剣を見つめながらその美しい刃に触れる。

 

「獅子王……聖槍を持った私……」

 

アルトリアは聖槍を持った別の可能性の自分がこの特異点を引き起こし、聖罰などと言う恐ろしいことをしたのだと思い、酷く心を痛めていた。

 

「何故、こんな事を……」

 

例え別の可能性のアルトリアでも同じ騎士王として理想の為に戦ったはず。

 

他のアルトリアの別の可能性でもあるアルトリア・オルタとランサー・アルトリア・オルタは暴君としての要素があるが、根底にある『騎士王』としての目的、理想そのものは変化していない。

 

それが獅子王と名乗り、聖抜で数人の人間を選び、聖罰でそれ以外の人間を粛清するようになったのか。

 

その心境を理解が出来ず、悩んでいた。

 

するとそこに遊馬がアルトリアの元にやって来た。

 

遊馬の手にはお皿には小鳥特製の山盛りのデュエル飯が盛られていた。

 

「マスター……」

 

「アルトリア、食うか?」

 

「……食べます」

 

遊馬とアルトリアは共にデュエル飯を食べる。

 

ちなみにアストラルは今日の出来事や今ある情報を整理する為に皇の鍵の中にいる。

 

まるで大食い大会のように次々とデュエル飯が無くなっていき、あっという間に皿の上からデュエル飯が全て無くなってしまった。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさまでした……マスター、ありがとうございます」

 

「ん、何が?」

 

「落ち込んでいる私の為にご飯を持って来てくれたのですね?」

 

「……まぁな。この特異点の戦いはアルトリアと深い因縁がありそうだからな。真面目で責任感の強いアルトリアなら絶対に落ち込んだり、悩んだりしていると思ってな」

 

遊馬はマスターとしてアルトリアのケアをしに来た。

 

本来ならばアルトリアの嫁であるエミヤがやるべきなのだが、エミヤは現在難民達の為に忙しく働いているので遊馬が代役として来た。

 

「アルトリア、気持ちは理解出来るけど無茶だけはするんじゃねえぞ。特異点の戦いはアルトリアだけの問題じゃねえからな」

 

「……分かってます。ベディヴィエールの事もありますし、独りよがりの行動はしないようにします」

 

「ベディヴィエール?あいつになんかあるのか?まさか、偽物とかそういう……」

 

「いいえ、ベディヴィエールが偽物なんてとんでもありません。彼とは長く共に戦い、私の最後の頼みを聞き入れてくれたのですから。しかし……」

 

「しかし?」

 

「ベディヴィエール本人なのは間違いないのですが、何処か違和感を感じるのです……あの右腕の事も」

 

ベディヴィエールはアルトリア達にもまだ話していない『何か』大きな秘密を隠している。

 

そして、マーリンが与えた銀の右腕……アガートラム。

 

これらを含めたアルトリアが感じた違和感。

 

獅子王を含めたそれらが一つに繋がり、大きな因縁になっているとアルトリアはそう考えている。

 

「私はマスターのサーヴァントとして独りよがりな戦いや高度はしないと誓います。しかし、アルトリア……かつてのアーサー・ペンドラゴンとして、騎士王として、この特異点の全ての因縁に決着をつけるべきだと考えています。それだけはご理解ください」

 

アルトリアは覚悟を決めた様子で遊馬に頭を下げて頼み込んだ。

 

それは騎士王アーサー・ペンドラゴンとして生きたアルトリアとしてのケジメでもあると遊馬にはしっかりと伝わっていた。

 

「……分かった、俺も出来る限りの協力はする。だけど、これだけは心に刻んでくれ。俺たちはマスターとサーヴァントの関係であると同時に、かけがえのない大切な仲間だ。絶対に忘れるなよ?」

 

「……はいっ!」

 

遊馬とアルトリアは固い約束を交わし、共にこの特異点の因縁に決着をつけると誓った。

 

一時の平和な時が流れる村に突如として異変が起きる。

 

D・ゲイザーのアラームが鳴り、通信に出るとマシュからの緊急連絡だった。

 

『遊馬君!警備を担当しているサーヴァントの皆さんから村に近づいて来た不審なサーヴァントを発見し、捕獲したそうです!』

 

「不審なサーヴァント!?円卓の騎士か!?」

 

『いえ、私はまだ確認していませんが、騎士の格好はしておらず、女性サーヴァントのようです。一瞬で警備をしていたサーヴァントの皆さんに囲まれて抵抗してないようです』

 

「分かった、すぐにそっちに向かう!」

 

「マスター、私も一緒に行きます!」

 

「頼んだぜ!」

 

遊馬はアルトリアと共に謎のサーヴァントを確認する為に村の外へと急いだ。

 

その途中で難民達の為に忙しく働いている小鳥と会った。

 

「遊馬、アルトリアさん、どうしたの?」

 

「ちょっとな!それとデュエル飯美味かったぜ!ごちそうさま!」

 

「コトリ、とても美味しかったです。ごちそうさまでした!」

 

「はい、お粗末様です」

 

小鳥は遊馬達を見送り、難民達にも挨拶を交わしながら村の外へ出る。

 

村の外に出ると異変に気づいたアストラルが皇の鍵から現れ、事情を説明しながらマシュと合流する。

 

そして、捕獲された不審サーヴァントの元に行くと……。

 

「待ってよー!?私は獅子王の仲間でも円卓の騎士でもないから!!」

 

必死な高い声が響き渡り、その声音に遊馬達は聞き覚えがあった。

 

「「……小鳥?」」

 

「小鳥さん……?」

 

「コトリの声……?」

 

それは小鳥の声にとてもよく似ており、耳を疑うレベルだった。

 

しかし、小鳥は先程村の中で会ったばかりでいるはずがない。

 

その正体を確認する為に急ぐとそこにはカルナやアルジュナなどの多くのサーヴァントが不審サーヴァントを囲んで武器を構えていた。

 

一歩でも動けば抹殺するレベルの殺気が放たれていて、その中央にいたのは水着と間違われる程に露出度の高い袈裟を纏った美しい女性サーヴァントだった。

 

どう見ても円卓の騎士ではない女性サーヴァントでアルトリアも首を横に振って円卓の騎士では無いと否定する。

 

今にも泣きそうな様子に流石に可哀想なので遊馬はみんなを下がらせる。

 

「みんな、落ち着けって!とりあえず下がっててくれ!」

 

聖罰の事もあり、気が張っているサーヴァント達を落ち着かせながら遊馬は女性サーヴァントの元に行き、苦笑いを浮かべながらみんなを代表して謝罪する。

 

「えっと……ごめんな。みんな悪気があった訳じゃねえんだ。難民達を守ろうと一生懸命だったんだ」

 

「もう良いよ……ぐすん……」

 

よほど怖かったのか明らかにいじけている様子で遊馬は機嫌を直してもらう為にある事を思いつく。

 

「そうだ、飯食うか?水もたくさんあるし、腹一杯食べるか?」

 

「うん、食べる……」

 

女性サーヴァントは頷き、遊馬の提案に応じて食事をいただくことにした。

 

村に案内された女性サーヴァントは早速小鳥特製のデュエル飯を食べ始めた。

 

お腹が空いていたらしくアルトリアに負けないほどのスピードでデュエル飯をパクパクと食べていった。

 

「あー!美味しかった!ごちそうさまでした!」

 

「お粗末様です。お水をどうぞ」

 

「うん!ありがとうー!」

 

小鳥から冷たい水の入ったコップを貰い、女性サーヴァントは一気に飲み干した。

 

「ぷはぁー!生き返る〜!やっぱり砂漠を歩き回った後の水は格別だね〜!」

 

「うふふ、良かったですね」

 

「ところで……あなた、私と声が似ているわね」

 

女性サーヴァントは自分の声と小鳥の声が似ていることに気付いた。

 

遊馬とアストラルとマシュも注意深く二人の声を聞いているが……。

 

「ダ、ダメだ……10年以上幼馴染でいつも一緒にいる俺でも聞き分けられねぇ……!?」

 

「二人の声帯がここまで似ているとは……これは奇跡としか言いようがないな」

 

「これはもう目を瞑ったらどちらが話したかわからないですね……」

 

あまりにも二人の声が似ている為に遊馬達は軽く困惑しかけていた。

 

「あっ、やっぱりそう思いますか?何だか不思議な感じです。自分と同じ声の人とこうして話すなんて……」

 

「うんうん!私も旅をして色々な人に会ったけど、声が同じ子なんて初めてだよ!えっと……」

 

「私、観月小鳥です。小鳥って呼んでください」

 

「小鳥か、可愛い名前だね。おっとそうだった。私も名乗らなくちゃね」

 

女性サーヴァントは右手を立てて自分の顔の近くに持っていき、笑みを浮かべて真名を名乗る。

 

「私は玄奘三蔵!御仏の導きによってこの地に現界したキャスターよ、よろしくね!」

 

玄奘三蔵。

 

中国の小説『西遊記』の主要人物で仏典の原典を求めてシルクロードを旅し、経典を唐へと持ち帰って法相宗の開祖となった。

 

「さ、三蔵って、あの西遊記の!?」

 

「まさかここで中国の伝説の僧侶と会うことになるとは……」

 

「今まで聖人や聖女などのキリスト教系のサーヴァントは多かったですが、初めての仏教系のサーヴァントですね」

 

「嘘っ!?三蔵法師様!?」

 

西遊記は中国で有名な小説だが、日本にも古くから伝わっている為、三蔵の名前は誰でも知っているほどだ。

 

小説では三蔵は男性のはずだがここにいる三蔵は女性なのは遊馬達はもう既に気にしていない。

 

「あれ?私の事を知ってるの?」

 

「もちろんだぜ!西遊記は日本人なら一度は聞いたことのある話で、孫悟空と猪八戒と沙悟浄と白竜の天竺への旅はワクワクしたぜ!」

 

「そうなんだ、ちょっと照れくさいな。それはそうと……あなた、その令呪があるってことはマスターで良いのよね?まさか、この村にいるサーヴァント全員と契約しているの!?」

 

「俺は九十九遊馬。こっちは相棒のアストラル。ここにいるサーヴァント達は俺と契約を結んでいる大切な仲間だ」

 

「私はマシュ・キリエライトです。デミ・サーヴァントでシールダーです。こちらはフォウさんです」

 

「フォーウ!」

 

「へぇー、これだけのサーヴァントと契約が出来ていて、サーヴァントを自分の配下ではなく大切な仲間……うんうん!いいねいいね!やっぱり私の勘は間違って無かったわ!」

 

三蔵は遊馬をじっくり見て何かを見定めるとビシッと指差しして宣言した。

 

「あなた、私の弟子になりなさい!!」

 

「……え?」

 

突然の三蔵の宣言に遊馬は唖然となり、マシュ達は耳を疑った。

 

憧れの三蔵から弟子になれと言われて唖然から少しずつ興奮していく遊馬だが、よくよく考えれば自分には既に何人もの師匠がいるので申し訳ない気持ちで断る。

 

「さ、三蔵さん。悪いんだけど、俺にはもう剣の師匠と戦いの師匠がいるんだ。だから……」

 

「剣と戦い?ううん、違うよ。私はね、あなたを仏門としての弟子にしたいのよ」

 

「仏門の弟子?」

 

「あなた、空飛ぶ船に乗っていたでしょ?その時に感じたのよ、とてつもなく大きな徳の心を!」

 

「徳?」

 

「そう!あなたは人として真っ直ぐで正しい素晴らしい心を持っているわ!それも御仏になれるほどのね!これは仏の道を行く者として見逃せないわ!だからお願い!」

 

「仏の道か……まあ日本人は仏教は特に親しい宗教だし、あの三蔵法師の弟子になれるなら最高だよな。よし!じゃあ三蔵さん、あんたの弟子にならせてもらうぜ!」

 

「やったー!それじゃあ、私のことは『お師匠さん』って呼んでね!マスター!」

 

「えっ?三蔵さん、じゃなかった……お師匠さん!俺と契約してくれるのか!?」

 

「もちろん!あなたになら喜んで力を貸すわよ、遊馬!」

 

「サンキュー、お師匠さん!」

 

遊馬と三蔵は仏門の師弟関係を結ぶと同時に握手を交わしてサーヴァントの契約を交わした。

 

三蔵と契約してフェイトナンバーズが誕生し、早速みんなに紹介しようとした……その時だった。

 

ドカァアアアアアーン!!!

 

「な!何だぁ!?」

 

「敵襲か!?」

 

「小鳥さんは危ないのでここで待っていてください!」

 

「は、はい!」

 

「ええっ!?ここに来るまでに獅子王の配下の騎士とか見なかったけど!?」

 

大きな爆発音に騒然とする中、遊馬達は小鳥を残して再び村の外へと走り出した。

 

村の外では警備しているサーヴァントの攻撃に加えて桃色の閃光と爆撃が飛び交った。

 

そして、遊馬達の耳には二つの声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからー!遊馬さんとマシュさんとアストラルさんとイリヤさんに大切な話があるから会わせてくださいと言ってるじゃないですかー!!」

 

「クリクリー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛とした声に続いて可愛らしい声が響き、その声に聞き覚えがある遊馬達は耳を疑った。

 

その声を聞いた瞬間に遊馬は令呪を輝かせてサーヴァント達に命令を下した。

 

「令呪によって命ずる!村を守護するサーヴァント達よ、今すぐ攻撃を中断せよ!」

 

攻撃を中断する令呪にサーヴァント達は一斉に攻撃を止める。

 

そして、その戦いの中心にいた者たちに向かって遊馬は大声で呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラック・マジシャン・ガール!クリボー!」

 

「あっ!遊馬さん!マシュさん!アストラルさん!よかったぁ〜、やっと会えました!」

 

「クリ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは魔法少女の世界で出会ったデュエルモンスターズの伝説のモンスターたち、ブラック・マジシャン・ガールとクリボーだった。

 

それはブラック・マジシャン・ガールが予知した再会の未来が訪れた瞬間だった。

 

そして……遊馬とアストラルが『伝説の王』と出会う為の導く光となるのだった。

 

 

 




次回はいよいよ……伝説が登場します。
この時を、この時をずっと待っていました!
恐らくはこの小説を見ている皆さんもこの時を待っていたと思います。
長らくお待たせしましたが、いよいよ登場しますのでお楽しみに!


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ナンバーズ178 伝説の決闘王

もうタイトルからしてテンションマックスになりますね!
この小説を見てくれる全てのデュエリストの皆さん、お待たせしました!
伝説にして最強のデュエリストが登場します!

ソロモン編の映画見て来ました!
立香とマシュとロマニの三人の物語としては最高の映画だと思います。
色々なサーヴァントが登場して個人的に大満足でした。


廃村に三蔵の後に突然やって来たのはブラック・マジシャン・ガールとクリボーだった。

 

イリヤはブラック・マジシャン・ガールとクリボーと再会出来て大喜びで抱きついた。

 

「ブラック・マジシャン・ガールさん!クリボー!また会えて嬉しいです!」

 

「はい!イリヤさん、元気そうで良かったです!」

 

「クリクリー!」

 

「ところで、どうしてこの世界に?」

 

「そうでした……遊馬さん!大切なお話があります!アストラルさんとマシュさん、それに……難民の皆さんの代表者と話の場を設けてくれますか?」

 

「分かった。少し待っててくれ」

 

ブラック・マジシャン・ガールの要望に遊馬は了承し、ブラック・マジシャン・ガールとクリボーを廃村に入れた。

 

難民達の代表者が来るまで何故サーヴァント達と争っていたのかその経緯を聞いた。

 

ブラック・マジシャン・ガールとクリボーはカース・オブ・ドラゴンに乗ってこの世界に来た遊馬達を探しに来た。

 

廃村を見つけて早速コンタクトを取ろうとしたが、大きな骨の竜の姿のカース・オブ・ドラゴンに敵だと判断してサーヴァント達が攻撃してきた。

 

カース・オブ・ドラゴンが破壊されてしまい、ブラック・マジシャン・ガールとクリボーは戦うつもりはなかったがやられる訳にはいかなかったので仕方なく戦闘になってしまった。

 

それを聞いて遊馬達は驚愕した。

 

ブラック・マジシャン・ガールとクリボーだけで廃村を守る為に周囲に配置していたサーヴァント達全員を相手にしていたのかと……。

 

流石はデュエルモンスターズの初期から戦い続けて来た伝説のモンスターだと感心する遊馬とアストラルだった。

 

「あ、そうだ。話すならこの格好じゃない方がいいよね」

 

ブラック・マジシャン・ガールは杖を軽く振って自分に光の粒子を掛けると、その姿が一瞬で変わった。

 

肌の色が褐色、髪の色が焦茶色となり、水色と桃色を基調とした魔法少女の衣装が白色の軽装な服装に変わった。

 

「ええっ!?ブラック・マジシャン・ガール、その格好は……!?」

 

「これが私の元々の姿、生前の姿ですよ」

 

「エジプト人と言っていたが、まさにその通りだな……」

 

ブラック・マジシャン・ガールは生前に古代エジプトの王家に仕える魔術師兼神官と言っていたのでその言葉が真実だと実感した瞬間だった。

 

「この姿の時はマナって呼んでくださいね!」

 

マナ。

 

それがブラック・マジシャン・ガールの真名である。

 

ブラック・マジシャン・ガール改め、マナの要望で廃村の一軒を借りて遊馬とアストラルとマシュ、それと難民達の中から代表者として村長や長老達が集まり、早速マナが話を進めていく。

 

「私はマナ。この砂漠において最も栄えた理想の国。『光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)』から使者として来ました」

 

マナはここから西に存在する大国から来た。

 

そこには何と、古代エジプトのファラオのサーヴァント達が召喚されて、そこに巨大なエジプトの領地を作り出した。

 

そして今では獅子王の聖都と対抗出来るほどの巨大な王国となっていた。

 

「難民の皆さんからしたら宗教的な問題で拒否したくなる気持ちはありますが、私達の『マスター』は宗教や人種に関係なく助けを求める人たちを守る為に他のファラオと対立しながらも皆さんを受け入れる準備を整えています。皆さんが安心して暮らせるように充分な居住地や食糧、働き口を用意しています。そして……聖都のように選ばれた人間ではなく、全ての難民を受け入れます」

 

難民全てを受け入れるための準備ができていると言うが、聖都で裏切られたこともあり、村長や長老達は信じられない気持ちでいっぱいだった。

 

そんな気持ちを感じ取ったマナは深く頭を下げる。

 

「皆さんの気持ちは分かっています。ですが、今は皆さんの身の安全が最優先です。マスターは皆さんを守る為に必死に動いています。どうか、私達のマスターを信じてください」

 

みんなを守りたい。

 

マナの必死な気持ちに村長や長老達は心を動かされ、エジプト領に向かうことに決めた。

 

村長や長老達は領民達をなんとか説得し、全員がエジプト領に移住することになった。

 

翌朝、護衛や炊き出しなどを行ったサーヴァント達をカルデアに帰還させた。

 

現場に残ったサーヴァントはマシュとダ・ヴィンチちゃんとアルトリアとエミヤ。

 

イリヤと美遊とクロエ。

 

アルトリア・オルタとナイチンゲール。

 

そして、ベディヴィエールと三蔵。

 

イリヤと美遊とクロエはブラック・マジシャン・ガールが是非ともエジプト領を案内したいとのことで残ってもらった。

 

ナイチンゲールは引き続きモードレッドとガレスの治療、オルタは付き添い。

 

ベディヴィエールと三蔵は遊馬達と共に獅子王達を止める為に行動を共にする事となった。

 

そして、せっかくレイシフトをしたので小鳥も一緒に行くことになった。

 

難民達を再びS・H・Ark Knightに乗せてエジプト領に向かわせ、遊馬達はかっとび遊馬号に乗り、共に廃村を後にした。

 

西の方角に向かって飛び、マナの案内でエジプト領に向かう。

 

しばらく西に進むと行く手を遮るかのような巨大な砂嵐が発生していた。

 

砂嵐を迂回しようとしたが、マナは砂嵐の先にエジプト領があると言うので多少船内が揺れるが強引にその砂嵐を突破する。

 

砂嵐を突破した瞬間……遊馬達が目にしたのは驚くべき光景だった。

 

そこには聖都に負けず劣らずの見事な都市だった。

 

エジプトを象徴する巨大建造物のピラミッドに加えて数々の立派で大きな彫刻品……まるで古代エジプトに迷い込んだような神殿が聳え立っていた。

 

神殿の周囲には数え切れないほどの建物や農地などが広がっており、規模だけで言えば聖都以上の巨大都市となっていた。

 

その光景に唖然とする中、ひとまずはかっとび遊馬号とS・H・Ark Knightを下ろして外に出る。

 

ナイチンゲールはかっとび遊馬号の船内でモードレッドとガレスの治療を行っている。

 

すると、突然大量のエジプト兵士達が現れて遊馬達は思わず身構えるがマナが前に出て落ち着かせる。

 

そして……兵士達が整列をすると、奥から一人の青年が現れた。

 

白の衣装に見事な金の装飾品を身につけ、手には魔術の杖を携えた褐色の青年の登場にマナは元気そうに手を挙げる。

 

「お師匠様!ただいま戻りましたー!」

 

「クリクリー!」

 

「マナ、クリボー。よく戻った」

 

青年は優しい笑みを浮かべてマナとクリボーを迎えると、遊馬達と対峙して頭を軽く下げながら挨拶をする。

 

「お初にお目にかかる。私は王家に仕える神官、マハードと申します。弟子のマナとクリボーがご迷惑をおかけしました」

 

「い、いえ、こちらこそ!」

 

「難民の者達よ。今から居住区へ案内します。ここでの暮らしについては兵士達が丁寧に説明します。慣れない環境かと思いますが、一日でも早く慣れるように我々が精一杯補助します。そして、皆さんの身の安全は必ずお守りします」

 

青年……マハードはまずは難民達にここで暮らす為の案内や説明を兵士達に任せて居住区へと連れて行く。

 

「異世界の来訪者よ、貴方達を歓迎します。我らがファラオが集う神殿へとご案内します」

 

マハードは遊馬達を神殿へと案内する。

 

マハードの姿を見て遊馬とアストラルはある確信を得ていく。

 

「なあ、アストラル……マハードさんってやっぱり……」

 

「ああ……マナ、ブラック・マジシャン・ガールの師匠と言う存在から間違いない」

 

マハードの正体が遊馬とアストラルの中で判明する中、ピラミッドの前に威風堂々と誰かが立っていた。

 

それは紫色の長い髪と露出度の高い衣服を着た褐色の女性で右手にはマハードのとは形の異なる杖を持っていた。

 

「神官マハード!神官マナ!貴方達は何勝手に難民達と不審者を連れて来たのですか!?」

 

女性はマハードとマナに向かって大声で怒鳴りを上げた。

 

「申し訳ありません、ファラオ・ニトクリス。しかしこれは我々のマスターの意志です」

 

「彼らを連れてくるようにマスターから命令を受けました」

 

「ま、またあの子ですか……!?全くあの子はいつもいつも私たちを困らせることばかり……!?」

 

褐色の女性……ニトクリスはマハードとマナの言葉に頭を悩ませていた。

 

「遊馬、サーヴァントだ。ニトクリス……古代エジプトの女性ファラオだ」

 

ニトクリス。

 

古代エジプト第六王朝にて、僅かな時期に玉座に在った女性ファラオ。

 

「女性ファラオか……珍しいサーヴァントだな」

 

「む!?そこのあなた、今何か言いましたか……え!?それは令呪!?と言うことはあなたがマスターなのですか!?」

 

「俺は九十九遊馬。人類最後のマスターだ」

 

「っ……なるほど、分かりました。でしたら、付いてきなさい!ファラオの謁見を許可します!」

 

ニトクリスは渋々遊馬達がこのエジプト領最大のファラオとの謁見を許可し、ピラミッド内部へと案内する。

 

豪華絢爛な神殿に目を奪われながら案内された玉座の間。

 

その中央にある豪華な玉座に座っていたのは褐色の肌と太陽の色をした眼を持つ男性だった。

 

「──ふぅむ。眠いな。余は、とても眠い──」

 

ところがその男性は玉座に座り、欠伸をしながら瞼を擦っていた。

 

遊馬はニトクリスに玉座に座っているのは誰なのか尋ねた。

 

「ニトクリス、それであの人は誰なんだ?」

 

「なっ!?あ、あなた!不敬ですよ!今すぐに平伏しなさい!不遜すぎます、地上に在る神たるファラオに対して!この方こそ最も偉大なファラオ。最も勇壮、最も威光に満ちた神たらんとする──ファラオ・オジマンディアス!この終末の地を平定し、救済する理想の王です!」

 

オジマンディアス。

 

太陽王の異名を持つ古代エジプト世界における最大最強のファラオ。

 

「オジマンディアス……まさかエジプト系サーヴァントで最強のファラオが召喚されるとは……」

 

オジマンディアスはエジプト系のサーヴァントの中でも知名度や能力は最強と言っても過言では無い。

 

アストラルはオジマンディアスが召喚されていることに驚愕する。

 

「……お前たちが異邦からの旅人か。我が名はオジマンディアス。神であり太陽であり、地上を支配するファラオである」

 

オジマンディアスは眠気に襲われながらも真名を名乗る。

 

「マハードとマナよ、貴様らは何故この者たちを連れて来た?」

 

「オジマンディアス王、これは我らがマスターのご指示です。彼らの力が必要になる時が来たと申しておりました」

 

「彼らと協力し、力を合わせれば獅子王と円卓の騎士、そして……大いなる闇を倒すことが出来ます!」

 

「「大いなる闇……?」」

 

マナが口にした大いなる闇と呼ばれる存在。

 

この特異点の敵は獅子王とその配下の円卓の騎士だけでは無いのかと遊馬とアストラルは新たな疑問に頭を悩ませる。

 

「……良いだろう、そこまで言うのであれば貴様らの力を見定めさせてもらおう!」

 

オジマンディアスは眠気覚ましも兼ねて遊馬たちの力を見定める為に戦闘を行おうとしていた。

 

遊馬達は突然のオジマンディアスの宣戦布告に緊張感が一気に高まり、マシュ達が戦闘態勢を取ろうとした……その時。

 

「待て!!!」

 

玉座の間に天を突くような凛とした声が響き渡る。

 

カッ、カッ、カッ……!

 

声の後に王の間に新たな足音が響く。

 

少しずつ近づいたその時。

 

ブルッ……ゾクッ!!!

 

遊馬とアストラルに今まで感じたことのないほどの全身に大きな電撃が走るような感覚が襲われる。

 

「──っ!?ア、アストラル!!」

 

「ああ……感じるぞ、遊馬……この感覚は初めてだ……!!」

 

それは恐怖から来るものではない。

 

まだその姿を目にしてないが、遊馬とアストラルの本能がそれを『歓喜』として感じているのだ。

 

マシュ達は遊馬とアストラルが何を感じ取ったのか分からず疑問符を浮かべているとその足音を鳴らす人物の姿が見えてきた。

 

「そんな……嘘だろ……!?」

 

「馬鹿な……ありえない……!?」

 

現れた人物を見た瞬間、遊馬達はあり得ないと思うほど驚愕していた。

 

しかし、マシュ達は別の意味で驚愕していた。

 

その人物の髪型は誰もが見た事ないほど特徴的だった。

 

まるでヒトデのような派手な髪型で遊馬の特徴的な髪型と負けず劣らずの髪型だった。

 

肌の色は褐色で瞳の色は紫、その身には金の装飾品と白を基調とした衣を見に纏っていて、首から大きな紫色のマントを羽織っている。

 

そして、首にはピラミッドを逆さにしたような正四角錐の金の大きな首飾りがかけられており、その首飾りと額飾りには古代エジプトのシンボル……神の眼を意味する『ウジャト眼』の刻印が刻まれていた。

 

「肌の色は違うけど、あの顔とあの髪型は……!」

 

「そして、首からかけているあの逆さにしたピラミッドを模した黄金の正四角錐は紛れもない……『千年パズル』!!」

 

遊馬とアストラルは信じられない気持ちを持ちながらも高鳴る胸の鼓動を抑えきれずにその名を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「遊戯さん!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯……その名を一度聞いたことがあるマシュは耳を疑った。

 

「えっ!?遊戯さんって前に話していた伝説の……!?」

 

「ドフォーウ!?」

 

「遅いぞ、アテム!貴様は何をしていた!?」

 

オジマンディアスはその少年を遊戯ではなく、アテムと呼んだ。

 

「少し野暮用で遅くなっただけだ。オジマンディアス、彼らを見定めると聞こえた。悪いがその役目はオレにやらせてもらう」

 

「何?」

 

「ここから先はオレ達にとっては神聖な戦いだからな。邪魔だけはしないでもらいたい」

 

アテムはゆっくりと歩みを進めながら遊馬達に近づく。

 

「遊戯さん……」

 

近づくアテムに対し、遊馬は無意識に遊戯と呼んでしまった。

 

「ふっ……懐かしいな、その名で呼ばれるのは。オレの名はアテム。この地に召喚されたサーヴァントだ。またの名を……」

 

千年パズルのウジャドの眼から黄金の光が放たれ、紫色のマントを翻しながらアテムはもう一つの名を堂々と名乗る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊戯……武藤遊戯だ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは遊馬の住む人間界でかつて存在したデュエルモンスターズ界の絶対王者、キングオブデュエリストの称号を持つ最強のデュエリスト……『武藤遊戯』。

 

本来ならば遊馬とアストラルが会うことが不可能な何世代も前の昔の人物である。

 

そして、遊馬とアストラルが興奮しながらもありえないと思ったその理由はこのデュエルモンスターズが存在しない異世界では『武藤遊戯』が存在していないはずだからだ。

 

この世界とは関係のない異世界の人間が英霊の座に登録されるはずもなく、ましてやサーヴァントとして召喚されるはずがない。

 

困惑している遊馬とアストラルに遊戯は不敵の笑みを浮かべる。

 

「マナとクリボーから話を聞いた。二人が世話になった、ありがとう」

 

「い、いえ!とんでもないです!俺たちの方こそ力を貸してもらったし!」

 

「二人の名前を聞かせてもらえるか?」

 

遊戯に名前を聞かれて一瞬心臓が跳ね上がる遊馬だが、遊馬とアストラルは堂々と名乗る。

 

「俺は遊馬!九十九遊馬です!」

 

「私はアストラル!アストラル世界の精霊で、遊馬の相棒だ!」

 

「遊馬とアストラル……お前たちはオレが待ち望んでいた選ばれしデュエリストだ。早速で悪いが、お前たちを試させてもらう」

 

遊戯が試すという言葉を聞き、遊馬とアストラルはデュエリストとして瞬時に察した。

 

「試すって……」

 

「まさか……!?」

 

「フッ……デュエリスト同士が出会ったなら、やることは一つだ!」

 

千年パズルから再び金色の眩い光が放たれる。

 

「『伝説の決闘王(レジェンド・オブ・デュエルキング)』!!」

 

遊戯が宝具を発動させ、千年パズルから放たれた光が遊戯の体全身包み込んだ。

 

金色の光が徐々に消えると遊戯の全身の肌の色が褐色から白色に変わり、身に付けていた白の衣装とマントと金の装飾品の代わりに武藤遊戯がかつて通っていた童実野高校の制服姿となった。

 

制服に加えて黒のノースリーブTシャツを着用し、腰にはデッキケース付きのベルト、更にはチョーカーとブレスレットを付けていた。

 

そして、千年パズルに通されていた紐が頑丈な鎖に変わると遊戯は着用していた童実野高校の制服の上着を脱ぎ、マントの代わりに上着を肩にかけた。

 

それこそが遊馬とアストラルがよく知る『武藤遊戯』そのものの姿だった。

 

更に遊戯の左手首には遊馬やアストラルが使うのとは別のタイプの白を基調とした角張った形のデュエルディスクが現れる。

 

「あれは海馬社長が開発した初期型のデュエルディスク!」

 

「全てのデュエルディスクの原型でソリッドビジョンを内蔵し、デュエルの世界を更に大きく広げた海馬瀬人の発明!」

 

遊馬の世界では『ARデュエル』によってD・ゲイザーとD・パッドでより臨場感のあるデュエルを楽しむことができ、初期型のデュエルディスクはもはや使われなくなったがその完成度はとても素晴らしく歴史に名を残すほどの大発明である。

 

遊戯はデュエルディスクを起動させて変形すると、ベルトのデッキケースからデッキを取り出してデュエルディスクにセットし、ライフポイントカウンターにライフポイントが表示される。

 

「マハード!マナ!クリボー!」

 

「「はっ!」」

 

「クリ!」

 

遊戯が呼ぶとマハードとマナとクリボーはそれぞれ紫色と桃色と茶色の光の玉となってデッキの中に入り込む。

 

デッキが一瞬光り輝き、遊戯のデュエルの準備が整った。

 

遊戯がデュエルの準備をしたと言う事は……遊馬とアストラルにデュエルを申し込んでいると言う事だ。

 

遊馬とアストラルは心が昂った。

 

あのデュエルキングが……伝説の決闘王とデュエルが出来るという夢のような状況に興奮を抑える事はできないでいた。

 

「ごめん。マシュ、小鳥、みんな……今だけは、今だけは……カルデアのマスターじゃなくて、一人のデュエリストとして戦わせてくれ!」

 

遊馬は今だけは、この時だけはカルデアのマスターと言うことを忘れて一人のデュエリストとして遊戯に挑もうとしていた。

 

マシュ達は怒涛の展開の連続に何が起きているのか全く理解出来ずに唖然としていて言葉が出なかった。

 

「遊馬。私達の全身全霊、全力全開で挑むぞ!」

 

デュエルをするのは遊馬だが、一心一体の関係でもあるアストラルは共に最強のデュエリストに挑む。

 

アストラルは遊馬のデッキに手を向けて輝かせると、対サーヴァント用のデッキからデュエル用のデッキに再構築をする。

 

「ああ!行くぜ!!」

 

遊馬は意気揚々とD・パッドを上に投げ飛ばす。

 

「デュエルディスク、セット!!」

 

D・パッドがデュエルディスクに変形してデッキをセットする。

 

「D・ゲイザー、セット!!」

 

次にD・ゲイザーを変形させて左眼に装着する。

 

「デュエルターゲット、ロックオン!!」

 

D・ゲイザーがデュエルディスクと連動し、デュエルの相手である遊戯をロックオンし、これで互いに全ての準備が整った。

 

遊馬と遊戯は互いにデッキの上から5枚のカードを引き、手札にする。

 

そして、二人は互いに見つめ合いながらデュエリスト達がデュエルの開始の宣言をする、あの言葉を口にする。

 

「「デュエル!!!」」

 

WDCの初代デュエルチャンピオンである遊馬とアストラル世界が作り出した天才デュエリストのアストラル。

 

その二人が今、デュエルモンスターズ史上最強にして絶対王者である遊戯とのデュエルが始まる。

 

 

 




遂に登場しました、我らがデュエルキングの遊戯さんことアテム!
次回は遊馬&アストラルVS遊戯のデュエルです!
と言っても話の展開などもあるので互いに1ターンだけのデュエルにします。
これは遊馬とアストラルの力を試すデュエルなので。

それと、遊戯さんの設定などは明日投稿しますのでお楽しみに!


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プロフィール『アテム(闇遊戯)』

アテムの設定紹介をTYPE-MOON wiki風に書きました。

何か矛盾点や間違いや追加項目などあったらご指摘よろしくお願いします。


真名

アテム

 

別名

武藤遊戯、名も無きファラオ、冥界のファラオ

 

性別

男性

 

身長

153cm

 

体重

42kg

 

好きな物

遊戯と仲間たち

デュエルモンスターズ

ターメイヤ(ソラ豆のコロッケ)

 

苦手な物

自分の心の弱さ

バターレック(ボラのカラスミ)

 

出典

???

 

地域

エジプト、日本

 

属性

混沌・善

 

隠し属性

 

一人称

オレ

 

二人称

貴様/お前/君

 

三人称

奴/彼奴

 

声優

風間俊介

 

レア度

☆?

 

初登場作品

遊☆戯☆王

 

 

人物

 

ヒトデ(?)のような特徴的な髪型に赤い瞳を持つ褐色の肌の少年で額や耳、手首などに豪華で煌びやかな金の装飾を身につけ、その身には白の装束に包まれ、首から大きなマントを羽織っている。

 

そして、首にはピラミッドを逆さにしたような正四角錐の金の大きな首飾り『千年パズル』がかけられており、その首飾りと額飾りには古代エジプトのシンボルで神の眼を意味する『ウジャト眼』の刻印が刻まれている。

 

異世界の古代エジプト第18王朝のファラオだが、生前の戦いの代償で幼少期から王としての記憶はほとんどなく、僅かな断片的な記憶しか残っていない。

 

三千年後の現代で自身の魂が宿る千年パズルを完成させた『武藤遊戯』の体に憑依し、仲間達と親交を深め、現世の影響から古代エジプト人よりも現代人に近い思考を持っている。

 

人の想いや命を踏みにじることへの怒りを露わにする正義感や誰かを助けることへの慈愛の心は生前とは変わらない。

 

その反面、悪人には容赦せず、特に大切な仲間を身勝手に傷つける者には怒りを爆発させて制裁を加える残忍な一面もある。

 

この性格から聖杯戦争で仮に召喚された場合、自分を召喚したマスターが人の命を弄ぶような魔術師の場合は確実に闇のゲームによる罰ゲームや制裁が下されるのは確実だろう。

 

ただし、悪人でも重く辛い過去、心や体に深い傷を背負っている者には同情や理解を見せて言葉をかける優しさを持つ。

 

強気で勝気な性格だが、負けられない戦いで勝利を求めるあまりに遊戯よりも精神的に脆く弱い部分がある。

 

勝利の為に力を求めて闇に堕ちてしまい大切な相棒を失ってしまい、モンスターの信頼を裏切ってしまったこともあり、それ以来闇には絶対に負けず、仲間とモンスターとの絆を何があっても絶対に信じ抜いて戦うと決めている。

 

また相棒である遊戯から本当の強さとは「勇気」と「優しさ」と言うことを学び、それを自分の心と魂に刻み込んでいる。

 

遊戯と一緒に言葉を交わしたり、デッキを組んだり、仲間達と一緒に過ごす時間がとても大切な日々であり幸せだった。

 

趣味と言うほどではないが、シルバーアクセサリーなどの装飾品に並々ならぬ拘りがあり、ちゃっかり遊戯のファッションを自分好みへと徐々に変化させていた。

 

ちなみにデュエルモンスターズのみならず、遊戯と同様にゲームの天才であり、始めてやるゲームの本質をすぐに理解し、攻略法や裏技などを発見する理解力や発想力がとても高い。

 

聖杯にかける願いは特には無いが、強いて言えば「僅かな時だけでも武藤遊戯や仲間達と再会して言葉を交わす」こと。

 

 

能力

 

普通の英霊のサーヴァントではなく、異世界から召喚された異例中の異例であるエクストラクラスのサーヴァントの為、宝具は規格外で異端の召喚術と称されているデュエルモンスターズを操る。

 

しかしながら、サーヴァントとして重要な要素の一つである魔力消費は優れてはいない。

 

あまりにも特殊なエクストラクラスである為、宝具の使用にはアテム自身の魔力を使っているが、全力で戦う為にはデュエリストのマスター……特に世界と運命に選ばれた『真のデュエリスト』の存在が必要不可欠となる。

 

 

ステータス

 

筋力・D

耐久・B

敏捷・D

魔力・A

幸運・A

宝具・EX

 

 

保有スキル

 

『騎乗(A++)』

 

乗り物を乗りこなす能力。

 

「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。

 

A++ランクでは本来騎乗スキルでは乗りこなせないはずの竜種を例外的に乗りこなすことが出来る。

 

ただし、アテムの場合は特殊で自身で召喚したモンスターに乗る場合のみ騎乗スキルを発揮して乗りこなせる(馬程度なら問題なく乗れる)。

 

『神性(A)』

 

その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。

 

ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされ、より肉体的な忍耐力も強くなる。

 

ファラオとは古代エジプトの民を統べ地に君臨する支配者であると同時に、神へと至る者でもあり、王である以上に神なのである。

 

プトレマイオス朝のファラオはかのオジマンディアス王のような伝説のファラオと比べると神々との繋がりが薄く、神性スキルを有さない。

 

しかし、アテムの場合は天空の神、大地の神、太陽の神を使役しており、その他多くの神や伝説のモンスターと繋がりを持つ為、他のファラオ系サーヴァントよりも神性スキルはかなり高く、オジマンディアスにも匹敵する。

 

決闘王(デュエルキング)(EX)』

 

デュエリストの数々の輝かしい栄光を手にし、最強無敗の決闘王として未来永劫語り継がれる伝説の存在。

 

ドローカードはアテムが望んだカードを常にデッキトップに引き寄せることができる。

 

神懸かった巧みなデュエルタクティクスで困難で不可能と呼ばれる状況も打ち破り、カードに込められた力を最大限以上に活用する。

 

 

エクストラクラス『デュエリスト』

 

聖杯戦争では存在しない新たなエクストラクラス。

 

このクラスに割り当てられる最大の条件はデュエルモンスターズを巧みに操る『決闘者(デュエリスト)』であること。

 

特に『真のデュエリスト』と呼ばれるモンスターと強い絆で結ばれ、実力の高いデュエリストが選ばれやすい。

 

この事からFate世界に関わる世界の英霊は絶対に召喚することは出来ず、デュエルモンスターズが普及する異世界の人間でしか該当しない。

 

ありとあらゆる姿形をしたモンスターと魔法と罠を操り、条件さえ揃えば神すらも容易く召喚出来ることからデュエルモンスターズは『異端の召喚術』と称される。

 

 

真名:アテム

 

古代エジプト第十八王朝にて僅かな時期に玉座に座ったが、歴史上から殆ど記録が残されておらず、その名が失われてしまった「名も無きファラオ」。

 

先代ファラオである父・アクナムカノンの跡を継ぎ王座に就くが、それから間もなく闇の大神官との闘いに負け、彼を道連れにして自らの魂を千年パズルの中に封印して、その際に自分の全ての記憶と名前を失ってしまった。

 

誕生日は収穫期第3の月19日。

(6月4日・11月19日の説)

 

それから3000年の時を越えて現代の日本でアテムと瓜二つの姿をした一人の少年「武藤遊戯」が8年の歳月を掛けて千年パズルを完成させ、その魂が遊戯の体に憑依して現世に復活する。

 

名も無きファラオの魂として遊戯の体を借りて立ち塞がる数々の強敵達とデュエルを交わし、勝利を掴み取ってきた。

 

デュエルを重ねる内にやがて遊戯を自分の宿主ではなく「相棒」として認めて互いに欠かせないほどの大切な存在となり、仲間達とも強い絆で結ばれていき、それがアテムの心を支える大きな力となっている。

 

遊戯とアテムはデュエルモンスターズの創造主であるペガサス・J・クロフォードの持つ『千年眼』の力によって囚われた祖父・武藤双六の魂を取り戻すため、ペガサスが開催した大規模のデュエル大会『決闘者の王国(デュエリストキングダム)』に参加した。

 

数々のデュエリストを倒し、仲間達の思いを背負った遊戯とアテムは千年眼の力を駆使するペガサスを打ち破り、決闘者の王国のチャンピオンに輝いた。

 

アテムの最大のライバル・海馬瀬人は伝説のレアカードである三枚の神のカード『三幻神』を手にし、『初代決闘王(デュエルキング)』の称号を手に入れる為に決闘者の王国を越える大規模デュエル大会の『決闘都市(バトルシティ)』を開催した。

 

アテムは自身の失われた記憶を取り戻す鍵となる三幻神を集め、友との約束を果たすために決闘都市に参加し、壮絶な戦いの末に遂に三幻神を手にし、初代決闘王の称号を手にした。

 

これらの多大なる功績により、アテムこと武藤遊戯は最強にして伝説のデュエリストとして未来永劫語り継がれている。

 

そして神のカードと千年パズルの力によってアテムは己の正体に気付き、冥界に還らなければならなくなる。

 

冥界へ還るための儀式「闘いの儀」を武藤遊戯と行い、激闘の末に遊戯が勝利を掴んだ。

 

アテムは遊戯と仲間たちは別れを告げて、冥界へ笑顔で還っていく。

 

 

宝具

 

『千年パズル』

ランク:???

種別:混沌魔術宝具

レンジ:???

最大捕捉:???

 

別名・千年錐。

 

アテムの父・アクナムカノン王が、弟である神官アクナディンに命じて造らせたモノ。

 

ピラミッドを逆さにしたような正四角錐の形をした大きな金の首飾りで、古代エジプトのシンボルで神の眼を意味する『ウジャト眼』の刻印が刻まれている。

 

敵国に攻め込まれて危機が迫りつつある情勢の中、王国に受け継がれていた謎の冊子『千年魔術書』の一部を解読に成功し、記されていた闇の錬金術を用いて卑金属を神秘の力を持つ貴金属の七つの宝物……『千年アイテム』を鋳造することになった。

 

しかし、それを鋳造する為にかつては王宮に従事していた墓作り職人が墓荒らしとなって移り住んだ「クル・エルナ村」の99人の人間を生贄にして作られた呪われたアイテムであり、世界を滅ぼす力を持つ『大邪神』を復活させる鍵でもあった。

 

千年アイテムは所有する際に千年アイテム自身が所有者の魂を試し、装着に値しない場合は魂を焼かれてしまう。

 

七つの千年アイテムはファラオと選ばれた六人の神官団にのみ与えられ、その中でも千年パズルはファラオの証でもある。

 

また、千年アイテムにはそれぞれに特殊能力が備わっており、それを利用して罪を犯した罪人の裁判を行ったりもしていた。

 

アテムはかつて国を滅亡に追い遣ろうとした闇の大神官と対決し、敗北寸前で千年パズルを用いて、自らの魂と共に闇の大神官の魂を封印し、その際に千年パズルは分解されてパズルのピースとなった。

 

それから三千年後……武藤遊戯が八年の歳月をかけて複雑な形をしたパズルのピースを組み合わせ、千年パズルを完成させたことにより封印されていたアテムの魂が遊戯の体に憑依することで現世に復活することになった。

 

千年パズルには光と闇の二つの力が同時に備わっており、能力は「結束の力」で友や仲間との強い絆で結ばれた結束が奇跡を起こし、無限大の力を生む。

 

また、対峙して倒した敵の悪の心を砕いて更生させる『マインドクラッシュ』を行うことも出来る。

 

伝説の決闘王(レジェンド・オブ・デュエルキング)

ランク:E~EX

種別:混沌魔術宝具

レンジ:???

最大捕捉:???

 

武藤遊戯として、名も無きファラオ「アテム」としての未来永劫語り継がれるデュエルキングの称号と伝説から生まれた宝具。

 

宝具を発動すると自身の姿がファラオの姿からデュエルキングとしての全盛期である武藤遊戯の体に憑依した姿となり、童美野高校の制服にお気に入りのシルバーアクセサリーなどを着用している。

 

左手首にはアテムの永遠のライバルである海馬瀬人が開発した『決闘盤(デュエルディスク)』が装着される。

 

腰のベルトのデッキケースの中、もしくはデュエルディスクにセットされているデュエルモンスターズのデッキ内容は宝具を発動する度にアテムが想像したものとなっている。

 

使用するカードプールはアテムと武藤遊戯が所有、または一度でもデュエルで使用したことのあるカード、更には使用したことがなくてもそれらに関連したカード。

 

対峙する敵や状況によってデッキのカードを編成するので臨機応変に対応出来る。

 

召喚出来るモンスターの種類は多くのデュエリストから最弱と称されているクリボーから最強の神々である『三幻神』まで多種多様で強力なモンスターで、その力は神霊サーヴァントや魔神柱に匹敵、またはそれ以上である。

 

モンスターが破壊される度にアテム自身の霊基にダメージを負い、三幻神クラスだと多大なダメージを負うリスクがある。

 

最終的に霊基のダメージが限界を越えてしまった場合は消滅してしまう。

 

そして……三幻神が一つになった存在かつこの宝具の最強にして究極の神である『光の創造神』は召喚条件が難しいが、召喚すれば対峙した敵を必ず倒し、アテムに絶対的な勝利をもたらすが、その代償として霊器が耐えきれずに消滅してしまう。

 

古代の決闘盤(ディアディアンク)

ランク:E~EX

種別:混沌魔術宝具

レンジ:???

最大捕捉:???

 

古代エジプトに存在していた古代のデュエルディスクで石版に封じられた魔物を召喚し、操る事ができる。

 

黄金で作られていて大きな腕輪の形をしており、展開すると三枚の翼を広げた形となり、左手首に装着されている。

 

魔物を三体まで呼び出すことができ、使用者の力量次第では同時に魔物を三体同時召喚する事も可能。

 

デュエルモンスターズとは異なり、コストや召喚条件などを無視して魔物を召喚出来る。

 

アテムは本来ならばデュエルモンスターズでは召喚するのが難しい『三幻神』も瞬時に召喚が可能。

 

ただし、使用者のライフポイントとも言える『(バー)』が少なければ魔物を呼ぶことも難しくなる。

 

魔物を召喚する為にはその魔物が封じられた石版が存在することが必須なのだが、アテムにはその代用品として現代の魔物の石版とも言えるデュエルモンスターズのカードを所持しているので石版は必要ない。

 

他の千年アイテムの力でモンスター同士の融合などが可能だが、アテムは千年パズルしか所持してないので魔物の召喚しか出来ない。

 

魔物の召喚が容易だが、デュエルモンスターズのような魔法カードや罠カードを駆使した多彩な戦術が行えないのが難点。

 

 

関連人物

 

マハード

 

アテムの生前から王宮に仕えていた天才魔術師の青年でファラオを支える六神官の一人。

 

アテムがファラオになる前の幼少期から愛弟子のマナと共に深い交流がある。

 

毒蛇に噛まれた時にアテムが必死に助けようとしてくれたこともあり、誰よりもアテムへの忠誠心が高く、永遠の忠誠を誓っている。

 

国を脅かす『盗賊王バクラ』との死闘の末、最期の力で自らの命を生贄とした秘術を執り行い、マハードの魂は自身の精霊「幻想の魔術師」と融合し、最強の魔術師「ブラック・マジシャン」として死後もアテムに仕え続けている。

 

 

マナ

 

マハードから魔力を譲り受けた唯一無二の魔術の弟子で、アテムの幼馴染でもある。

 

元気いっぱいでおっちょこちょいな性格の少女で師匠のマハードを度々困らせているが、マハード以上の魔術師になれる才能を持つ。

 

マハードと同じくアテムへの忠誠心は高く、精霊であると同時に自分自身でもある「ブラック・マジシャン・ガール」としてアテムに永遠の忠誠を誓っている。

 

 

クリボー

 

アテムのデッキに宿るモンスターの内の一体でデュエルモンスターズの有名なマスコットモンスターで派生モンスターも数多くいる。

 

一応悪魔族だが可愛い外見でとても人懐っこく、攻撃力はとても低く、多くのデュエリストから雑魚モンスターと呼ばれている。

 

しかし、アテムにとっては頼りになるモンスターであり、数々の危機から自分の身を挺してアテムを守り抜いた最強の盾とも呼ぶべき存在である。

 

 

ニトクリス

 

異世界の先輩ファラオの一人。

 

王としての統治をほとんど行えずに国と民を守るために闇の大神官と戦い、その命を落としたアテムに対してニトクリスは亡くなった自分の兄弟を重ねている。

 

姉代わりとして、先輩ファラオとして色々世話を焼いている。

 

 

オジマンディアス

 

異世界のファラオの一人で、時代で言えばアテムの後輩にあたる。

 

ファラオとしての記憶をほぼ全て失っているとはいえ、ファラオらしくない性格に少々呆れているが、デュエルモンスターズという未知なる召喚術の力や人々を守ろうとする正義の心を認めている。

 

 

メモ

 

・この作品に登場するアテムは原作『遊☆戯☆王』ではなく、アニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』に登場するアテムである。

 

・原作ではなくアニメの時間軸のアテムなので『劇場版 遊☆戯☆王 ~超融合!時空を越えた絆〜』で出会った『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』の主人公『遊城十代』と『遊☆戯☆王5D's』の主人公『不動遊星』と共に世界とデュエルモンスターズの未来を賭け『パラドックス』と戦った記憶を持っている。

 

・また、アメリカで公開された映画『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ 光のピラミッド』のストーリーも経験済みである。

 

 

 




アテムのクラスはキャスターとかライダー色々考えたんですけど、特別ゲストでもあるのでエクストラクラスにしてみました。

FGOでガチャをやるとしたらやっぱり星5ぐらいの価値はあるなと思います(笑)



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ナンバーズ179 奇跡の決闘!遊馬&アストラルVS遊戯!

遊馬&アストラルが遊戯とデュエルをします!

デュエルを見やすくするためにカードテキストや効果などをしっかり記載してみました。


遊馬とアストラルは伝説のデュエリスト、武藤遊戯との夢のデュエルが始まろうとしていた。

 

「遊馬、アストラル!今回のデュエル……勝手で悪いが互いに1ターンずつで終わらせる」

 

「たった、1ターンだけ!?」

 

「1ターンで2人の全てをオレにぶつけてこい!」

 

1ターンで遊戯に力を示さなければならない……それはデュエリストとしてもかなり難しいことだった。

 

すると、遊馬のデッキケースが開いて中から二つの光が飛び出た。

 

「よし、間に合った!」

 

「お兄ちゃーん!」

 

現れたのはレティシアと桜だった。

 

「レティシアに桜ちゃん!?何で!?」

 

「何でって、伝説のデュエリストと遊馬がデュエルするって聞いて急いで来たのよ!」

 

「私もデュエルを見てみたかった!」

 

レティシアと桜は遊戯のデュエルを間近で見たいと思い、オルガマリーに無理を言って急いでカルデアから転送してもらったのだ。

 

「ギャラリーも増えてきたな。そろそろ始めるぞ」

 

「は、はい!」

 

「行くぞ!」

 

遊馬と遊戯はデュエルディスクを構え、デュエルを開始する。

 

 

 

遊馬&アストラル LP4000

 

遊戯 LP4000

 

 

 

最初は遊戯からのターンで始まる。

 

「行くぞ、遊馬!アストラル!オレのターン、ドロー!」

 

遊戯はデッキからドローしたカードを見てニヤリと笑みを浮かべ、ドローしたカードを発動する。

 

「魔法カード『召喚師のスキル』を発動!デッキからレベル5以上の通常モンスターを手札に加える!」

 

 

 

《召喚師のスキル》

 

通常魔法

 

(1):デッキからレベル5以上の通常モンスター1体を手札に加える。

 

 

 

「レベル5以上の通常モンスター……まさか!?」

 

「来るぞ、遊馬!」

 

遊戯はデュエルディスクからデッキを抜き、その中からレベル5以上の通常モンスターを1枚手札に加える。

 

「オレが加えるのは『ブラック・マジシャン』!」

 

遊戯がデッキから加えたのはレベル7の通常モンスター、ブラック・マジシャン。

 

 

 

《ブラック・マジシャン》

 

通常モンスター

星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100

 

魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

 

 

 

通常ではレベル7以上のモンスターを召喚するためにはフィールドのモンスターを2体リリースしなければアドバンス召喚は出来ないが、通常モンスターには効果モンスターとは違った豊富で優秀なサポートカードが多く存在している。

 

「更に魔法カード『古のルール』!手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する!現れよ、我が最強の僕!『ブラック・マジシャン』!!」

 

 

 

《古のルール》

 

通常魔法

 

手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 

杖を軽やかに振り回しながら現れたのは紫色の魔法衣を身に纏ったのはデュエルモンスターズ界の伝説の魔法使いにして遊戯の最強の僕、ブラック・マジシャン。

 

『ふっ、はあっ!』

 

「すげぇ……遊戯さんのエースモンスター、ブラック・マジシャン!」

 

「初手からブラック・マジシャンを呼ぶとは……流石は遊戯さんだ」

 

「……それとさ、やっぱりブラック・マジシャンって、マハードさんだよな?」

 

「……そうだな」

 

ブラック・マジシャンは肌の色は異なるがどこからどう見てもマハードだった。

 

つまり、マナと同じようにマハードはブラック・マジシャンの前世と言うことが確定した。

 

「これで驚くのはまだ早いぜ。魔法カード『師弟の絆』を発動!自分フィールドに『ブラック・マジシャン』が存在する場合、自分の手札・デッキ・墓地から弟子である『ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚する!」

 

 

 

《師弟の絆》

 

通常魔法

 

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在する場合に発動できる。

自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン・ガール」1体を選んで特殊召喚する。

その後、デッキから「黒・魔・導」「黒・魔・導・爆・裂・破」「黒・爆・裂・破・魔・導」「黒・魔・導・連・弾」のいずれか1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットできる。

 

 

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

 

効果モンスター

星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700

 

(1):このカードの攻撃力は、お互いの墓地の「ブラック・マジシャン」「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数×300アップする。

 

 

 

ブラック・マジシャンの隣に紫色に輝く魔法陣が現れ、その中からブラック・マジシャン・ガールが元気よく飛び出して現れた。

 

『ふふっ、はっ!』

 

「ブ、ブラック・マジシャン・ガールまで!?凄すぎるぜ!」

 

「ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール……遊戯さんの最強マジシャンコンビが揃ったか……!」

 

ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールを初手からいきなりフィールドに揃えた遊戯のデッキ構築とタクティクスにとても驚く。

 

しかし、これだけではなく遊戯の展開はまだまだ終わらない。

 

「師弟の絆の更なる効果!デッキから『黒・魔・導』『黒・魔・導・爆・裂・破』『黒・爆・裂・破・魔・導』『黒・魔・導・連・弾』のいずれか1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットできる。オレは『黒・爆・裂・破・魔・導』をセットする!」

 

 

 

《黒・爆・裂・破・魔・導》

 

速攻魔法

 

(1):自分フィールドに、元々のカード名が

「ブラック・マジシャン」と「ブラック・マジシャン・ガール」となるモンスターが存在する場合に発動できる。

相手フィールドのカードを全て破壊する。

 

 

 

遊戯が師弟の絆でセットしたカードにアストラルは焦りから顔色を悪くする。

 

「遊馬、マズイぞ……『黒・爆・裂・破・魔・導』がある限り、私達に勝ち目は無い」

 

「えっ!?どう言うことだよ!?」

 

「『黒・爆・裂・破・魔・導』はブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール、その2体が揃った時のみ発動出来る必殺技カードだ。その効果は相手フィールドのカードを全て破壊する……」

 

「なっ……!?それじゃあモンスターを召喚したり、カードをセットしても……」

 

「私たちのフィールドはガラ空きになるだけだ……」

 

相手フィールドの全てのカードを破壊する最強の必殺技カードがある限り、遊馬とアストラルに勝機は無い。

 

「更にカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

遊戯は2枚のカードを魔法・罠ゾーンにセットし、ターンを終了した。

 

遊戯のフィールドにはブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール、そしてセットカードが3枚。

 

セットカードの内の1枚は『黒・爆・裂・破・魔・導』。

 

最初から最強の布陣を展開した遊戯。

 

遊馬とアストラルにとってそれは遊戯からの挑戦状でもあった。

 

この巨大な壁を1ターンで越えて見せろ、お前達の全てをぶつけて来い……そう語っているようだった。

 

遊戯のターンが終わり、次は遊馬とアストラルのターンとなる。

 

遊馬はデッキに手を添えてドローしようとしたが、遊馬の手が震えていた。

 

「遊馬……」

 

アストラルは遊馬が恐怖ではなく興奮や緊張から震えているのだと察していた。

 

相手は伝説のデュエリスト……自然と手が震えてしまうのも当然な話である。

 

震えた手でドローしようとした……その時!

 

「遊馬ー!何ビビっているのよ!しっかりしなさぁーい!!」

 

「小鳥……?」

 

小鳥が大声で叫んで遊馬を叱咤激励した。

 

遊馬の震えている様子に気付いて小鳥は全力で応援した。

 

「伝説のデュエリストが相手でも関係無いわ!いつも通りの遊馬らしく堂々と戦いなさい!かっとビングよ、遊馬!!」

 

「遊馬君!頑張ってください!」

 

「フォーウ!」

 

小鳥の全力の応援にマシュ達も続く。

 

みんなの応援に遊馬の心に闘志が湧き起こり、震えが収まっていく。

 

「小鳥の応援は力が湧いて来るな……」

 

「ああ。みんなの応援で俺のかっとビングも最高に高まって来た!行くぜ、アストラル!」

 

「ああ!」

 

「かっとビングだ!俺のターン……ドロー!!!」

 

遊馬はデュエリストの全てを賭けてカードをドローする。

 

「……よっしゃあ、来たぁ!」

 

「遊馬、ここぞと言う時の君の引きの運にはいつも驚かされるよ!」

 

「おう!これで……行けるぜ!」

 

遊馬がドローしたカードで遊馬とアストラルの中で勝利の方程式が完成した。

 

「速攻魔法『ツインツイスター』!手札を1枚捨て、フィールドの魔法・罠を2枚まで破壊する!」

 

「何だと!?」

 

 

 

《ツインツイスター》

 

速攻魔法

 

(1):手札を1枚捨て、フィールドの魔法・罠カードを2枚まで対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

 

 

 

遊馬の前に二つの竜巻が現れて遊戯に向かって飛ぶ。

 

「俺が破壊するのはセットされた『黒・爆・裂・破・魔・導』と右のセットカードだ!」

 

竜巻は現状で一番危険な『黒・爆・裂・破・魔・導』と右隣のセットカードを破壊した。

 

「破壊したのは……『魔法の筒』!?確かモンスターの攻撃を無効にして効果ダメージを与えるんだっけ!?」

 

 

 

《魔法の筒》

 

通常罠

 

(1):相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。

その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

 

 

「そうだ。残る最後のセットカードは気になるが行くしかない!」

 

まだ遊戯には最後のセットカードが残っているが、遊馬とアストラルは意を決してモンスターを繰り出す。

 

「よし、魔法カード『死者蘇生』!墓地のモンスターを復活させる!」

 

 

 

《死者蘇生》

 

通常魔法

 

(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

 

「死者蘇生!?墓地のモンスターは……ハッ!?ツインツイスターのコストで手札から墓地に捨てたカードか!」

 

「その通り!デュエルの最高の舞台に現れろ!『ガガガマジシャン』!!」

 

死者蘇生で復活させたのは遊馬のフェイバリットモンスターのガガガマジシャン。

 

 

 

《ガガガマジシャン》

 

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1500/守1000

 

(1):「ガガガマジシャン」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):1ターンに1度、1~8までの任意のレベルを宣言して発動できる。

このカードのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。

 

 

 

『ガガガッ!……ガッ!?』

 

ガガガマジシャンは堂々と現れたが、伝説の魔術師であるブラック・マジシャンがいることに驚愕していた。

 

「ガガガマジシャン!今日の相手は伝説のデュエリストと伝説のモンスター達だ、気合いを入れて行くぜ!」

 

『……ガガガッ!』

 

遊馬の言葉にガガガマジシャンは頷いて気合を入れて身構える。

 

「更に『ガガガガール』を召喚!」

 

遊馬はガガガマジシャンの後輩で相方のガガガガールを召喚する。

 

 

 

《ガガガガール》

 

効果モンスター

星3/闇属性/魔法使い族/攻1000/守800

 

(1):自分フィールドの「ガガガマジシャン」1体を対象として発動できる。

このカードのレベルはそのモンスターと同じになる。

(2):このカードを含む「ガガガ」モンスターのみを素材としてX召喚したモンスターは以下の効果を得る。

● このX召喚に成功した時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターの攻撃力を0にする。

 

 

 

『フフフッ、ハッ!……ええっ!?ブラック・マジシャン・ガールさんにブラック・マジシャンさん!??』

 

ガガガガールは以前会ったブラック・マジシャン・ガールだけでなく、ブラック・マジシャンもいるので余計に驚いていた。

 

遊戯のフィールドにブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール。

 

遊馬のフィールドにガガガマジシャンとガガガガール。

 

奇しくも魔法使いタッグが互いのフィールドに揃った。

 

遊馬はガガガガールの効果を発動する。

 

「ガガガガールの効果!1ターンに1度、ガガガマジシャンと同じレベルになる!ガガガマジシャンのレベルは4!よってガガガガールのレベルも4になる!」

 

 

 

ガガガガール

 

レベル3→レベル4

 

 

 

「2体のモンスターのレベルを同じにした……?」

 

ガガガガールのレベルが3から4に変更し、その効果に遊戯は疑問に思う。

 

「遊戯さん、見ててください!これが俺達の力です!俺はレベル4のガガガマジシャンとガガガガールでオーバーレイ!!」

 

『『ガガガッ!』』

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ガガガマジシャンとガガガガールが紫色の光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きる。

 

「「現れろ、No.39!我らが戦いはここより始まる、白き翼に望みを託せ!光の使者!『希望皇ホープ』!!」」

 

光の爆発と共に遊馬とアストラルの絆と希望を象徴する光の剣士……希望皇ホープが現れる。

 

 

 

《No.39 希望皇ホープ》

 

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000

レベル4モンスター×2

 

(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

そのモンスターの攻撃を無効にする。

(2):このカードがX素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。

このカードを破壊する。

 

 

 

エクシーズ召喚という遊戯にとって未知なる召喚法に衝撃を受けた。

 

「エクシーズ召喚……!?融合や儀式、シンクロとも違う新たな召喚法か!そして……」

 

遊戯は希望皇ホープを見上げ、その美しさと勇ましさに見惚れた。

 

「希望皇ホープか……それが2人のエースモンスターだな?」

 

「はい!俺とアストラルの最高にして最強のエースモンスターです!」

 

「私たちはホープと共に数々のデュエリストと戦って来ました!」

 

遊馬とアストラルが一番信頼するエースモンスターである希望皇ホープを自信満々に紹介し、遊戯は満足そうに頷く。

 

「よし……エクシーズ素材となったガガガガールの効果発動!」

 

「ガガガガールが他の『ガガガ』モンスターと共に素材となりエクシーズ召喚した時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体の攻撃力を0にする!」

 

「ゼロゼロコール!」

 

希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットの一つからガガガガールの幻影が現れ、携帯を操作してブラック・マジシャンに向けてエネルギー波を放ち、ブラック・マジシャンの攻撃力を0にする。

 

 

 

ブラック・マジシャン

 

攻撃力2500→攻撃力0

 

 

 

ブラック・マジシャンは攻撃力を0にされて力が失われてその場に膝をつき、遊戯は驚く。

 

「ブラック・マジシャン!?」

 

「「行け!希望皇ホープでブラック・マジシャンに攻撃!」」

 

尽かさず遊馬とアストラルはバトルに入り、希望皇ホープでブラック・マジシャンに攻撃を仕掛ける。

 

「「ホープ剣・スラッシュ!!」」

 

希望皇ホープは腰からホープ剣を引き抜き、高く飛んで急降下しながらホープ剣を振り下ろす。

 

「チャンスを作り出し、果敢に攻めるその勇気は認める」

 

遊馬とアストラルは遊戯に大ダメージが与えそうになった……しかし!

 

「だが……甘いぜ、二人共!罠カードオープン!」

 

「罠カード!?」

 

「やはりまだあったか!」

 

遊戯はデュエルディスクのスイッチを押してセットしたカードを発動する。

 

「『聖なるバリア -ミラーフォース-』!」

 

遊戯がセットしていたのは遊馬も持っているほどの伝説の罠カード、ミラーフォース。

 

遊馬はツインツイスターで2枚の罠を破壊したが、遊戯は更にもう1枚の罠を張っていたのだ。

 

ブラック・マジシャンの前に敵からの攻撃を防ぎ、反射させる聖なるバリアが展開される。

 

 

 

《聖なるバリア -ミラーフォース-》

 

通常罠

 

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 

 

希望皇ホープが振り下ろしたホープ剣が聖なるバリアによって防がれる。

 

そして、バリアが強い光を放つと希望皇ホープを思いっきり弾き飛ばしてから破壊した。

 

「ホープ!」

 

「これでバトルは終わりだな。危なかったぜ、攻撃力が0になったブラック・マジシャンに攻撃力2500の攻撃は効くからな!」

 

希望皇ホープが破壊されて遊馬とアストラルのバトルはこれで終わったと思った。

 

「いいや……」

 

「まだ、私達のバトルフェイズは……」

 

「「終わってない!」」

 

しかし、遊馬とアストラルの闘志はまだ消えてはいなかった。

 

「何だと!?」

 

「かっとビングだ、俺!手札から速攻魔法『エクシーズ・ダブル・バック』を発動!」

 

「自分のモンスターエクシーズを破壊されたターン、自分のフィールドにモンスターが存在しない時、墓地から破壊されたモンスターエクシーズとそのモンスターの攻撃力以下のモンスターを1体特殊召喚する!」

 

遊馬とアストラルの前に二つの魔法陣が現れる。

 

 

 

《エクシーズ・ダブル・バック》

 

速攻魔法

 

自分フィールド上のエクシーズモンスターが破壊されたターン、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。

自分の墓地から、そのターンに破壊されたエクシーズモンスター1体と、そのモンスターの攻撃力以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

 

 

 

「「蘇れ!希望皇ホープ!ガガガマジシャン!」」

 

遊馬とアストラルの前に破壊された希望皇ホープとオーバーレイ・ユニットだったガガガマジシャンが同時に現れる。

 

「ホープとガガガマジシャンが復活した……!?」

 

「遊馬、ホープとガガガマジシャンのそれぞれの攻撃対象は分かっているな?」

 

「ああ!まずは希望皇ホープでブラック・マジシャン・ガールに攻撃!」

 

希望皇ホープは再びホープ剣を引き抜いてブラック・マジシャン・ガールに攻撃する。

 

ブラック・マジシャン・ガールは杖から特大の魔力弾を放つが希望皇ホープはホープ剣で斬り裂く。

 

 

 

希望皇ホープ

攻撃力2500

VS

ブラック・マジシャン・ガール

攻撃力2000

 

 

 

「ホープ剣・スラッシュ!」

 

そして、希望皇ホープは大振りで振り上げたホープ剣を勢い良く振り下ろし、ブラック・マジシャン・ガールを吹き飛ばす。

 

「ブラック・マジシャン・ガール!くっ……!?」

 

 

 

遊戯 LP4000→LP3500

 

 

 

「最後にガガガマジシャンでブラック・マジシャンに攻撃!!」

 

ガガガマジシャンは拳を握りしめてブラック・マジシャンに突撃する。

 

ブラック・マジシャンは突撃してきたガガガマジシャンに対して杖から魔力弾を次々と発射するが、ガガガマジシャンは巻き付けている鎖を持って鞭のように振るって魔力弾を打ち消す。

 

 

 

ガガガマジシャン

攻撃力1500

VS

ブラック・マジシャン

攻撃力0

 

 

 

「ガガガマジック!」

 

ガガガマジシャンは一瞬でブラック・マジシャンの懐に入り込み、魔力を拳に込めて正拳突きを打ちかまし、ブラック・マジシャンを吹き飛ばして破壊する。

 

「ブラック・マジシャン……!」

 

 

 

遊戯 LP3500→LP2000

 

 

 

ブラック・マジシャンも戦闘破壊され、遊戯のライフポイントが半分にまで減らされた。

 

本来なら希望皇ホープでブラック・マジシャンに攻撃すれば遊戯のライフポイントを更に500ポイントも減らす事が出来るが、遊馬とアストラルはライフポイントを多く減らすよりも遊戯のモンスターを全て倒すことを選択したのだ。

 

バトルが終わり、遊馬とアストラルは一瞬だけ息を吐いて心を落ち着かせて行く。

 

遊戯のライフポイントに大ダメージを与えられて大喜びをしたい気持ちだったが、まだやるべき事があった。

 

このターンのエンドフェイズ時にエクシーズ・ダブル・バックのデメリット効果で蘇生させた希望皇ホープとガガガマジシャンは破壊される。

 

遊馬の手札には次の一手を繋ぐためのカードがあった。

 

「俺はガガガマジシャンに装備魔法『ワンダー・ワンド』を装備する!装備したガガガマジシャンの攻撃力を500ポイントアップする!」

 

大きな緑色の宝玉が埋め込まれた杖が現れ、ガガガマジシャンが柄を持って構える。

 

 

 

《ワンダー・ワンド》

 

装備魔法

 

魔法使い族モンスターにのみ装備可能。

(1):装備モンスターの攻撃力は500アップする。

(2):装備モンスターとこのカードを自分フィールドから墓地へ送って発動できる。

自分はデッキから2枚ドローする。

 

 

 

「このタイミングで装備魔法?」

 

遊戯はバトルが終わったメインフェイズ2のタイミングでガガガマジシャンにワンダー・ワンドを装備したことに疑問に思った。

 

「ワンダー・ワンドのもう一つの効果!このカードとガガガマジシャンを墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする!」

 

「魔法使い族の攻撃力を上げるだけでなく、場合によってはドローソースにする装備魔法か!エクシーズ・ダブル・バックの効果で破壊される前に生贄にすると言うわけか」

 

遊戯はカードのデメリット効果を考えた後の次の一手を打つカードの組み合わせに感心した。

 

「ガガガマジシャン、お前の命……使うぜ。ガガガマジシャンとワンダー・ワンドを墓地に送り、デッキから2枚ドロー!……よし、カードを2枚セットする!」

 

ワンダー・ワンドの効果でドローしたカードは2枚とも次のターンに繋げられるカードであり、2枚ともフィールドの魔法・罠ゾーンにセットする。

 

「遊馬!これが最後の一枚だ!」

 

アストラルは遊馬のデッキケースから1枚のカードを取り出す。

 

「行くぜ、アストラル!」

 

遊馬はアストラルと共にそのカードを掲げ、希望皇ホープのカードの上に重ねる。

 

「「このカードは自分フィールドの希望皇ホープをエクシーズ素材にして、自らを進化させる!希望皇ホープ、カオス・エクシーズ・チェンジ!」」

 

「カオス・エクシーズ・チェンジ!?」

 

希望皇ホープが変形してニュートラル体に戻り、地面に吸い込まれると光の爆発が起きる。

 

「「現れろ、CNo.39!混沌を光に変える使者!『希望皇ホープレイ』!!」」

 

巨大な漆黒の剣が現れ、変形して希望皇ホープの進化形態である希望皇ホープレイが現れる。

 

 

 

《CNo.39 希望皇ホープレイ》

 

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000

光属性レベル4モンスター×3

 

このカードは自分フィールドの「No.39 希望皇ホープ」の上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

ターン終了時までこのカードの攻撃力を500アップし、相手フィールドのモンスター1体を選んでその攻撃力をターン終了時まで1000ダウンする。

この効果は自分のLPが1000以下の場合に発動と処理ができる。

 

 

 

希望皇ホープが新たなモンスターである希望皇ホープレイに進化したことにより、エクシーズ召喚の未知なる可能性に遊戯は更に驚かされた。

 

「希望皇ホープが魔法や罠の力を使わずに進化したのか!?」

 

「希望皇ホープが希望皇ホープレイに進化したことにより、希望皇ホープを対象としていたエクシーズ・ダブル・バックのデメリット効果は打ち消された!」

 

「これでホープは破壊されず、俺たちのフィールドに残ったぜ!」

 

希望皇ホープレイは腕を組んで堂々と遊馬とアストラルの前に立つ。

 

そして……遊馬は手札を全て使い切り、これ以上展開することは無くなった。

 

「遊馬……ここまでよく戦った」

 

アストラルはたった1ターンだけだったが、全力で遊戯と戦ったことを褒めた。

 

「サンキュー、アストラル」

 

遊馬は目を閉じて胸に手を置き、この最高な夢のひとときが終わってしまう虚しさを感じていた。

 

だが、虚しさはあるが全力を出し切ったので後悔は一切無い。

 

「遊戯さん……これで、ターンエンドだ!」

 

遊馬は目を開いて遊戯に向かって堂々とターンの終了を宣言した。

 

そして、その瞬間にデュエルが終わり、希望皇ホープレイの姿が消えていく。

 

「遊馬、アストラル。素晴らしいデュエルだった」

 

「遊戯さん……ありがとうございました!」

 

「とても素晴らしい経験になった。ありがとう、遊戯さん」

 

遊馬とアストラルは遊戯に敬意を表して頭を下げた。

 

「エクシーズ召喚には驚いたが、デッキの構築、戦略、状況を打破する冷静な思考。そして何より、モンスターとの信頼関係。どれも素晴らしかった。たった1ターンだけだが、君たちが真のデュエリストだと言うことがよく分かった!」

 

遊戯はこのデュエルで遊馬とアストラルが真のデュエリストとして素晴らしいと称賛し、高く評価した。

 

「見事な戦いだったぞ、アテム!そして、ユウマとアストラルよ!久々に余の心が震えたぞ!ニトクリス、貴様はどうだ?」

 

「は、はい!私も心が熱くなってきました!」

 

オジマンディアスとニトクリスは初めて目にするデュエルに心が震え、熱くなっていた。

 

デュエルモンスターズの起源が古代エジプトでもあるので、オジマンディアスとニトクリスも自然とデュエルに興味を持った。

 

「オジマンディアス、ニトクリス。彼らに全てを話す。構わないな?」

 

「良いだろう。それから、見事なデュエルを見せてくれた礼だ。客人としてこのエジプトの滞在を許可しよう!ニトクリス、彼らの世話を頼むぞ!」

 

「はっ!承知しました!」

 

オジマンディアスは遊馬達がエジプト領の滞在を許可し、ニトクリスが世話係に任命される。

 

遊戯のデッキから先程デュエルを繰り広げたブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール……マハードとマナが出て来る。

 

遊戯は宝具を解除して最初のファラオの姿に戻り、真剣な表情を浮かべて遊馬とアストラルと向かい合う。

 

「遊馬、アストラル。オレがこの世界に召喚されたのはある存在を追ってきた」

 

伝説のデュエリストで名もなきファラオと呼ばれている遊戯が異世界であるこの特異点にわざわざ来たと言うことはとんでもない異常事態が起きていることは間違いない。

 

遊馬は夢で出会った少年騎士が言っていた魔術王に匹敵する『凶悪な敵』と関係があるのではないかと考える。

 

側にいるマハードとマナは重い表情を浮かべ、遊戯はその名を静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大邪神ゾーク・ネクロファデス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは遊戯……アテムにとって因縁のある宿敵である。

 

世界を闇に包むことを目論む……冥界を統べる大邪神。

 

その邪悪なる影がこの世界の何処かに眠っている……。

 

 

 




如何でしたでしょうか、遊馬&アストラルと遊戯のデュエル。
自分なりに色々考えてみましたが、やはり難しいです。

ライトニングでよくね?と思うかもしれませんが、流石にそれは遊馬らしくないのでホープだけで戦わせました。

ライフポイント4000でライトニングはやばすぎですよ。

大邪神ゾーク・ネクロファデス……遊戯王のラスボスで元凶の存在がこの特異点に忍び寄っています


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ナンバーズ180 交差する奇跡の物語

今回かなり短めです。
最近また仕事が忙しくなってきたので大変です。


遊戯の口から語られた大いなる闇……『大邪神ゾーク・ネクロファデス』。

 

聞いたことのない邪神の名前に遊馬はすぐにアストラルに尋ねる。

 

「アストラル、ゾークって邪神は何なんだ……!?」

 

「分からない……人間界の知識で、歴史的にもそのような邪神の名前は何処にも記されてない……」

 

アストラルの持つ人間界の知識でもゾークと言う名には心当たりがないし、アストラル世界でもその存在を確認していない。

 

「当然だ。ゾークは歴史の闇に隠れた存在だ。三千年前……俺が生きていた古代エジプトで、世界を闇に包もうとした冥界を統べる大邪神だ。一度はこの千年パズルに俺の記憶と魂と共に封じ込めて復活は阻止したが、記憶の世界で復活して世界を闇に包もうとした……」

 

「そんな事が……」

 

「そして、俺は三千年の時を超えて相棒と友との結束の力でゾークを倒すことができた。二度とゾークは復活しないはずだったが、異世界であるこの世界で復活すると知り、マハードとマナ達と共に冥界から世界を越えて来たんだ。ゾークを……倒すために!」

 

遊戯がこの世界に来た理由が判明し、遊馬とアストラルは背筋が凍った。

 

伝説のデュエリストがわざわざ世界を越えてまで倒そうとしている大邪神……どれほど強大な存在なのか想像も出来なかった。

 

「だが、ゾークの復活の前にこの世界で既に滅亡の危機に陥っていた。世界を守り、そこに住む人々を守る為にオレはオジマンディアスとニトクリスに協力することにした」

 

「カルデアの者たちよ。貴様らは遅すぎる!貴様らが訪れる前にこの時代の人理はとっくに崩壊したわ!」

 

遊戯の次にオジマンディアスはこの特異点の状況について説明し始める。

 

「この時代は本来であれば聖地を奪い合う戦いがあった。一方は守り、一方は攻める。二つの民族による、絶対に相容れぬ殺し合いだ。その果てに聖杯はどちらかの陣営に渡り、聖地は魔神柱の苗床になったであろうよ。お前達が、もう少し早くこの地に到達していれば、な」

 

「でもそうはならなかった。聖地奪還の戦いは起こらなかった……そういう事かな?」

 

「その通りだ。その証拠がこれだ」

 

ダ・ヴィンチの言葉にオジマンディアスは答え、彼の胸元から金色の光が放たれるとそこに現れたのは……。

 

「聖杯!?」

 

「特異点の聖杯か!?」

 

それは遊馬達が求めているこの第六特異点の聖杯だった。

 

オジマンディアスは人理崩壊の元凶である十字軍を滅ぼして聖杯を回収し、一足先に人理定礎を終えてしまっていた。

 

つまり、オジマンディアスは今まで戦ってきた聖杯の特異点のサーヴァントではなく、この特異点における新たな聖杯の持ち主であり、聖杯の守護者であるのだ。

 

ところが、同時期に召喚された獅子王と円卓の騎士達が聖都を乗っ取って選ばれた人間だけを聖都に入れて、それ以外を排除する聖抜の儀を行うようになった。

 

獅子王との相打ちを恐れ、オジマンディアスは互いに不可侵条約を結び、今に至るわけだ。

 

この特異点の状況を知った遊馬達はその悲惨な現状に唖然とする。

 

すると、遊馬は遊戯に駆け寄り、体を震わせながら尋ねた。

 

「遊戯さん……聞かせてください。あなただったら、獅子王と円卓の騎士を何とかできたんじゃないんですか……?」

 

「遊馬……」

 

「伝説のデュエリストのあなただったら、獅子王と円卓の騎士を倒す事だって可能なはずだ!ゾークを倒す為だけに来たのは分かってます。だけど、人の命を大切に思うあなたなら……!」

 

それは遊馬にとって遊戯に対する八つ当たりのようなものであることは百も承知だ。

 

本当ならば憧れる遊戯にこんな無礼なことを言いたくも無かったが、カルデアのマスターでもある遊馬はその事を聞かざるを得なかった。

 

それに対して遊戯は暗く、辛い表情を浮かべて遊馬の肩に手を置きながら静かに口を開く。

 

「遊馬、君の気持ちは分かる。オレも獅子王達の行いは絶対に許せない。すぐにでも、聖罰というふざけた事をやめさせるために戦いたかった。だけど、それは出来なかった……」

 

「出来なかった……?」

 

「オレはこの世界にサーヴァントとして召喚される際に通常のクラスではなく、エクストラクラス……『デュエリスト』として召喚された」

 

「エクストラクラス……デュエリスト!?」

 

七つの基本クラスとは異なるイレギュラーな存在として召喚されるエクストラクラス。

 

遊戯が聞いたことのない新たなエクストラクラスで召喚されるとは思いも寄らなかった。

 

「エクストラクラス『デュエリスト』。それは真の決闘者が選ばれる特別なクラス。だが、一つ大きな欠点がある。それは魔力消費がとても悪く、まともに力を振るう事ができない」

 

魔力消費が悪いと言うことはマスターがいない限りサーヴァント自らの魔力で補わなければならない。

 

高威力の宝具を使うサーヴァントやバーサーカークラスのサーヴァントなどそれに該当するが、遊戯の場合はそれとは比べものにならないのだ。

 

「オレが万全の力を発揮するためには、ただのマスターだけでも、聖杯の力でもダメだ。デュエリストの力を発揮させるマスターもデュエリストでなければダメなんだ」

 

「それじゃあ、遊戯さんは俺とアストラルを……?」

 

「そうだ。オレはずっと待っていた……二人を……遊馬とアストラルを……!」

 

遊戯がサーヴァントとして力を発揮する為にはデュエリストのマスターが必要不可欠だった。

 

獅子王と円卓の騎士の非道な行いを止める事が出来ないことを深く悔やみながら、遊馬とアストラルが来るまで自分を押し殺して必死に待ち続けていたのだ。

 

「遊馬!アストラル!ゾークを倒す為に二人の力を借りたい!その代わりにサーヴァントとして、二人にオレの全ての力を託す!!」

 

「遊戯さん……!」

 

遊戯の言葉に込められた人々と世界を守りたい強い想い。

 

遊馬もその想いに応える為に手を差し出す。

 

「遊戯さん、さっきはすいませんでした。俺からも世界を守る為に、遊戯さんの力を貸してください!」

 

「遊馬……ありがとう。行こう!共に!」

 

遊戯は遊馬の手を握り、握手を交わすとマスターとサーヴァントの契約が行われる。

 

遊戯が光の粒子となってフェイトナンバーズへと姿を変えた。

 

イラストにはファラオではなく、デュエルディスクを装着してカードを持つ武藤遊戯の姿として描かれていた。

 

真名は『FNo.XX 伝説の決闘者 遊戯王』と書かれていた。

 

フェイトナンバーズの数字がナンバーズでも存在しない前代未聞の『XX』と言うことに驚愕したが、遊戯がただのサーヴァントでは無いこともあるのですんなりと受け入れた。

 

無事に遊戯との契約が完了し、フェイトナンバーズから遊戯が出て来る。

 

「これがマスターと契約した感じか……魔力が満ちている。これならオレの全力で戦える」

 

「遊戯さん、改めて……よろしくお願いします!」

 

「ああ!遊馬!」

 

遊馬と遊戯は今度はハイタッチをし、アストラルは遊戯に敬意を示し、改めて挨拶をする。

 

「遊戯さん、あなたと共に戦えることを誇りに思う。短い間だが、よろしく頼む」

 

「アストラル、オレの方こそよろしく頼む!」

 

今度はアストラルと遊戯がハイタッチを交わす。

 

こうして遊戯は正式に遊馬のサーヴァントになった。

 

遊馬と契約したので遊戯はエジプト領からの脱退を宣告された。

 

「貴様の身勝手さは今に始まった事ではない。だが、二度とこの地に足を踏み入れられることはないと思え!」

 

「全くあなたはいつもいつも勝手なことばかり……本当にファラオとしての自覚がありません!謝っても簡単には許しませんからね!」

 

オジマンディアスとニトクリスは遊戯にそう強く言い放った。

 

しかし、遊戯の脱退を宣告したとは言え、遊馬達を客人として滞在を認めている。

 

遊馬達は獅子王や円卓の騎士、更には百貌のハサンや山の民の事もあるので、エジプトに長く滞在するつもりもない。

 

そこで、遊馬達の休息も兼ねてエジプトには1日だけ滞在することになり、それに伴い遊戯の脱退も1日延びた。

 

すぐにオジマンディアスの指示の元、宴の席が設けられて遊馬達は豪勢なエジプト料理を頂いた。

 

そして、宴が終わると一旦その場で解散となり、それぞれがエジプトで束の間の休息を取る。

 

その夜、遊馬とアストラルは遊戯からの誘いを受けて大部屋で互いのカードを並べながらデュエルについて語り合っていた。

 

互いの持つカードの事、特殊な召喚方法である融合・儀式・エクシーズ、戦略やデッキ構築などデュエリストとしての語り合いで話が盛り上がっていた。

 

「遊馬のデッキは面白いな。特にこの擬音が名前になった……オノマトモンスターか。とてもユニークでモンスター同士の結束の力を感じられる」

 

「オノマトモンスターのガガガマジシャンとかゴゴゴゴーレムとか、元々は父ちゃんから貰ったデッキなんです」

 

「遊馬の父が?」

 

「そうです。デュエルを覚えた頃から小さい頃からずっと使ってて。それと、俺のデュエルの師匠、六十郎の爺ちゃんがくれたデュエル庵秘蔵のデッキにも沢山のオノマトモンスターが入っていたんで、ずっと愛用してます」

 

「そうか……実はオレのデッキも、元々は爺さんから貰ったデッキなんだ」

 

「遊戯さんのお爺さん?」

 

「武藤双六。若い頃は凄腕のギャンブラーとして全世界のゲームに挑み、全てに打ち勝って来たと言う伝説のゲームマスターだったらしいな……」

 

「ああ。デュエルを教えてくれたのは爺さんで、デュエルの腕も中々だった。ゲーム屋を経営していて、カードコレクターの一面もあったから色々なカードを手に入れてデッキを組んでいたよ。お陰で色々なカードと触れ合うことが出来た」

 

遊戯は千年パズルに触れて外を見ながら懐かしそうに呟いた。

 

「……相棒と一晩中デッキを組んでいて、気が付いたら朝になることもよくあったな」

 

「遊戯さん……」

 

遊馬とアストラルは今の遊戯の気持ちを誰よりも理解していた。

 

ずっと一緒にいたいと思うほどの大切な相棒と離れ離れになり、二度と会えないその気持ちを。

 

「ああ、すまない。しんみりさせてしまったな。そうだ、二人に頼みがあるんだ」

 

「頼み?」

 

「ナンバーズのカードを見せてくれないか?希望皇ホープは39番だったな、他のナンバーズがどんなものなのかとても気になる」

 

「アストラル……」

 

「……分かった。遊戯さんになら見せても構わないだろう」

 

アストラルは手を翳すと100枚以上のナンバーズのカードが飛び出し、遊戯の周りに集まり、ナンバーズの数字の順番通りに並べられる。

 

これほどの大量のカテゴリのモンスターは遊戯の時代には存在しないので感心している。

 

「ナンバーズ……面白いカードだ。強力なモンスターもいれば、不思議な効果を持つモンスターもいる。こんな不思議なカードは初めて見た」

 

「喜んでもらえて良かったっす」

 

「そうだな」

 

「ナンバーズを見せてくれた礼をしなくてはな。喜んでもらえるかは分からないが、とっておきのカードを見せてやる」

 

遊戯は千年パズルを軽く触れて金色の光を手の中に収め、テーブルに翳すと3枚のカードが現れた。

 

そのカードが現れた瞬間、遊馬とアストラルは思わず立ち上がって身構えた。

 

思わず身構えるほどにそのカードから凄まじい力を放っていた。

 

「う、嘘だろ……!?」

 

「あの伝説のレアカードを目にする日が来ることになるとは……!」

 

そして何より……そのカードは遊馬とアストラルにとって想像を絶するレアカードなのだ。

 

「「三幻神!!!」」

 

伝説にして幻のレアカード……遊戯だけが持つ3枚の神のカード。

 

『オシリスの天空竜』

 

『オベリスクの巨神兵』

 

『ラーの翼神竜』

 

遊馬の時代では既に失われている伝説のカード……それが今目の前にあることに遊馬とアストラルは遊戯とデュエルした時と同じくらいの興奮や感動で体が震えていた。

 

遊戯が召喚されている時点で神のカードを持っている可能性は考えられたが、実際に目にするとその興奮や感動は桁違いだった。

 

「すげぇぜ、アストラル……三幻神だ。オシリス、オベリスク、ラー……伝説の神のカードだぜ……!」

 

「ああ……これほどの力を持つカードはドン・サウザンドやナッシュ達の切り札に匹敵する。これが、神のカードか……!」

 

「持って見てもいいぜ?」

 

まさかの遊戯からのご好意に遊馬とアストラルの頭は一瞬真っ白になるほどの衝撃だった。

 

神のカードを触れるなんてデュエリストにとって素晴らしいことだ。

 

「……ええっ!?」

 

「だ、だが、神のカードを遊馬が持っても大丈夫なのか!?」

 

「心配ない。神のカードには確かにデュエリストを選ぶが、二人なら問題ない。それに、前に爺さんに何度も見せてと、せがまれたからな」

 

「じゃ、じゃあ……失礼します……」

 

遊馬は恐る恐る三幻神に向かって手を伸ばした。

 

唾を飲み込み、ガクガクと手が震えながら三幻神のカードを手に取った。

 

三幻神から何らかの力の波動を指先に触れた瞬間から感じるかと思ったが、意外にも何も起こらずにただのカードとして遊馬の手に収まった。

 

しかし、改めて三幻神のカードを手に取って見ると言う夢のような出来事に遊馬は嬉しさで涙が出そうになる。

 

「最高に嬉しい瞬間だぜ、アストラル……!」

 

「同感だ……これが現実なのか疑いたくなるほどだよ」

 

「あ、そうだ!記念写真撮ろうぜ!」

 

遊馬はD・パッドを持ってカメラモードにして自撮りをする。

 

ダ・ヴィンチちゃんの改造で本来ならカメラなどに写らない霊体のアストラルも撮れるようになっており、遊馬とアストラルは肩を抱きながら一緒に三幻神のカードを持って自撮りをする。

 

数枚撮ってから写真を確認し、しっかりと撮れていることを確認する。

 

すると遊馬は図々しいと思いながら遊戯にお願いをする。

 

「あ、あの!最後に一つ、お願いがあります!遊戯さんと一緒に写真、良いですか!?」

 

「オレと?分かった、良いだろう」

 

遊戯はすぐに了承し、遊馬の隣に座った。

 

急いで遊馬はD・パッドのカメラ機能のタイマーをセットし、テーブルに立てかけてスイッチを入れる。

 

遊馬とアストラルは先程と同じように三幻神のカードを二人で持ち、互いに肩を抱く。

 

そして、遊戯は遊馬の肩に手を置き、ウィンクをしてピースをする。

 

「ハイ、チーズ!」

 

パシャ!

 

三人の記念写真を撮り、遊馬は写真を確認すると感無量と言った様子で目を閉じた。

 

「ああ……遊戯さん、ありがとうございます。この写真は家宝にします」

 

伝説のデュエリストとの一緒の写真が撮れて今の遊馬は本当に涙を流しかねないほどの喜びだった。

 

「ははっ、大袈裟だな」

 

「遊戯さん、本当にありがとうございます。あ、三幻神をお返しします!」

 

遊馬は三幻神を遊戯に返し、夢みたいなひと時に興奮が収まらないでいた。

 

すると遊戯はふと笑みを浮かべてデッキを手に取り、今の自分の気持ちを口にした。

 

「やっぱり、デュエルは楽しいよな……」

 

「遊戯さん?」

 

「新しいカードとの出会い、デッキの構築、そして……友とのデュエル。どれもオレの大切な記憶だ」

 

遊戯は遊馬とアストラルのデュエルに対する楽しい気持ちから友と一緒に過ごした記憶を思い出していた。

 

しかし、それと同時に悲しい事実を再確認する。

 

「だけど、デュエルは戦いの力でもある。辛い戦い、悲しい戦い、醜い戦い……オレはデュエルでそんな戦いを何度も経験した」

 

「……遊戯さん、俺も同じです。デュエルをすればみんな仲間、そう信じてデュエルをしています。だけど、デュエルで沢山の憎しみや悲しみを見てきました……」

 

「まるでカードの表と裏のように、デュエルには良き面と悪しき面がある……」

 

遊馬とアストラルもデュエルの事実を再確認する中、二人の信念を口にする。

 

「だけど、俺達は信じています。デュエルはみんなとの絆を繋げる大切なものだって……!」

 

「そして、デュエルには未来を切り開く力がある……!」

 

デュエルへの希望と未来を信じる遊馬とアストラルの想いに遊戯は安心したような笑みを浮かべた。

 

「強いな……二人共。これほどの強い心を持つ二人のデュエリストと一緒に戦えるなんて、とても心強いな」

 

「俺たちだって、遊戯さんが一緒に戦ってくれるんだ。百人力……いや、千人力だぜ!」

 

「遊戯さん……必ず勝つぞ、この戦いを……!」

 

「ああ……!」

 

遊馬とアストラル、そして遊戯の三人はマスターとサーヴァントの関係ではなく同じデュエリスト同士として強い絆を深めていく。

 

そして、夜が明け……遊馬とアストラルと遊戯の三人のデュエリストによる新たな伝説の戦いが始まる。

 

 

 




次回からハサン関係の話になります。
もうすぐ静謐ちゃんも出せますね。


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ナンバーズ181 師弟の抱く想い

ハサンの話に入ろうと思いましたが、その前に一悶着起きます。


第六特異点……広大な砂漠で人知れず、誰も知らないところで『闇』が蠢いていた。

 

『遂に動き出したか……名もなきファラオよ』

 

『闇』は遊戯が行動を開始し始めたことを察知し、『闇』自らも動き出す。

 

『闇』は自分の力の一部を使い、7枚のカードを創り出した。

 

『名もなきファラオの記憶に残る敵の幻影よ……大いなる闇の復活の礎となれ!』

 

そして、7枚のカードの内の4枚を何処かに飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1枚目は体全身に不気味な千の眼を持つ怪物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2枚目は五つの異なる力の首を持つ竜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3枚目は死と再生を象徴する巨大な蛇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4枚目は獅子と人間の顔を持つ神に仕えし獣の長。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4枚の闇のカードは各地に眠り、目覚める時を待っていた。

 

動き出した『闇』……その力は第六特異点に新たな波乱を生み出すのだった。

 

 

遊馬とアストラルと遊戯がデュエルの話で盛り上がっている頃、マシュ達女性陣はニトクリスの勧めで王宮の大浴場で体を清めていた。

 

ちなみにアルトリアは辞退してかっとび遊馬号の船内で治療中のモードレッドとガレスの見舞いに行き、ダ・ヴィンチちゃんは一応中身は男性なので同じく辞退してオーニソプター・ホープ号のメンテナンスをしている。

 

カルデアよりも大きく、そして豪華な大浴場に子供組の小鳥と桜、イリヤと美遊とクロエはテンションが上がっていた。

 

マシュと三蔵とレティシアはのんびりと入り、ニトクリスとマナは客人であるマシュ達をもてなす為に髪の手入れなどをする。

 

ちなみにルビーとサファイアも水浴びをしている。

 

そして、フォウはマシュにされるがままにモコモコの体を洗われている。

 

「うーん!暑い砂漠を歩いた後の水浴びはいつでも最高ねー!」

 

「三蔵さん、やっぱり天竺の旅は本のように大変でしたか?」

 

「本のはどうかは分からないけど、やっぱり色々大変だったわね。今度じっくり話してあげるわ」

 

「はい!楽しみにしています!」

 

三蔵と小鳥は既に姉妹のように仲良くなっており、今度西遊記のメインストーリーである天竺の旅の話をする約束をする。

 

「ぶー……」

 

「あら、サクラ。何をそんなに不貞腐れているの?可愛い顔が台無しよ」

 

一方、桜は水に浸かりながら何故か頬を膨らませて不貞腐れており、姉属性のあるニトクリスが優しく問いかける。

 

「だって……お兄ちゃんが遊戯さんにメロメロなんだもん……」

 

「お兄ちゃん……?ああ、もしかしてあのユウマという少年ですか?」

 

「うん……お兄ちゃん、遊戯さんに会ってからずっと話しかけていて……大昔にいた憧れの人なのは分かるけど、あまり私を放っておくと許さないんだから……!」

 

ゴゴゴ……!と桜の体から嫉妬の闇が溢れ出し、ニトクリスは苦笑いを浮かべた。

 

ニトクリス自身も心に宿る闇が深いと思っているが、桜も相当深いと察した。

 

すると、フォウの体を洗い終えたマシュがニトクリスにある質問をする。

 

「あの、ニトクリスさん……ニトクリスさんから見て遊戯さん……いえ、アテムさんはどんな方ですか?」

 

ニトクリスの視点から見たアテムの人物像だった。

 

「アテム?そうですね……一言で言うなら、私よりもファラオらしくないファラオですね」

 

「ファラオらしくない、ファラオ?」

 

ニトクリスは大きなため息をつき、呆れながら遊戯のことを語り出した。

 

アテム……遊戯は異世界とは言えエジプト王家の血筋を持つ正統なファラオである。

 

しかし、その考えや行動はとてもファラオとは思えないものばかりだった。

 

ファラオとしての自覚はあるが、どこかファラオとして抜けているところがある。

 

オジマンディアスに比べるとファラオ……王としての尊大なところは多少はあるが、基本的にそこまでわがままは言わず、素直なところがある。

 

たびたび王宮を抜け出しては街に出かけて民の生活の様子を見たり、たまに子供達とゲームをして遊んでいる。

 

自分よりも誰かの為に行動をしていた。

 

「民衆に好かれているのなら別に問題はないんじゃないかな……?」

 

「嫌われるよりは良いと思うけど」

 

「そうよねー。子供達の遊び相手になってくれるなんて良い王様じゃん」

 

「いけません!ファラオとはエジプトの王としてだけでなく、同時に神でもあるんですよ!本来ならば人々から畏れられ、崇められる存在であるべきなのです!!しかし……私とオジマンディアス王がいくら注意しても聞く耳を持たなくて……」

 

ニトクリスは姉代わりとして手のかかる弟のように遊戯の面倒を見ていた。

 

実はニトクリス自身もファラオに向いてない性格だと自覚しており、自分よりも優秀なファラオである遊戯を立派なファラオにしようと色々模索しているが全てうまくいっていない。

 

「マスターは幼少期から身分に拘らない変わった考え方を持ってましたからね。それに……マスターはファラオとしての記憶を殆ど失っていて、三千年後の現世の価値観を持ってますから」

 

マナは苦笑を浮かべて仕方ないとフォローする。

 

「現世の……価値観?」

 

「はい。昼間に話していたゾークを千年錐……千年パズルに魂と記憶を封印した三千年後、マスターと瓜二つの少年……もう一人のマスターが砕かれた千年パズルを完成させて、その時にマスターの魂がその少年の肉体に憑依して現世に復活したんですよ」

 

マナの話にみんなが度肝を抜かれた。

 

三千年の時を越えて容姿が同じ少年に憑依して現世に復活するなどあり得ないと思ったが、レティシアは似たような話を聞いたことがあった。

 

「あー……そう言えばルーラーが現代に行われた聖杯大戦でジャンヌ・ダルクそっくりなレティシアという少女に憑依したイレギュラーな形で召喚されたって言ってたわね。どの世界でも似たような事が起きるものなのね……」

 

レティシアはルーラーからの体験談を聞いて似たような話があるんだなと納得していた。

 

「そう言えば、マナさんは大昔から遊戯さんに仕えているんですよね?」

 

イリヤはマナが三千年前の人物で魔術師兼神官と言っていたことを思い出した。

 

「はい。あ、でも実際にマスターがファラオの時は魔術師兼神官として仕えてはいないので……幼馴染として一緒にいたのがほとんどですね」

 

「えっ!?遊戯さんと幼馴染!?」

 

「マスターとお師匠様、小さい頃から兄妹のようにずっと一緒だったんですよ」

 

マナが王族であった遊戯と幼馴染の関係と聞いてルビーはギラリと星を輝かせながら怪しい声を上げた。

 

「おや〜?何やらラブロマンスの香りがしますね〜。もしや、マナさんは遊戯さんの事を──」

 

「ちょっ、ルビー!?」

 

「私、マスターの事、好きですよ?」

 

「ええっ!?」

 

「おおっ!?」

 

「でも、ただ好きと言うか……兄として、ファラオとして、マスターとして……色々な想いを持っています。デュエルの時を含めて、マスターとお師匠様と一緒にいる時が幸せですから」

 

マナが遊戯に抱いているのは家族愛に近いものだった。

 

実際に臣下として忠誠を誓っているマハードとは違ってマナは遊戯に対して親愛を持って仕えている。

 

「そうじゃなきゃ、三千年の時を越えてお師匠様と一緒にマスターに仕えていませんから」

 

「そっか……なんだか分かるな、その気持ち……」

 

イリヤは義兄である衛宮士郎のことを男として好きであるが、兄妹関係の家族である距離感や居心地の良さの現状に満足しているのでマナの気持ちが理解できた。

 

「まあ、何にしても……アテムは変わった性格のファラオです。色々大変だと思いますが……あの子のことをよろしくお願いします。あ、この事はアテムには絶対に言わないでくださいね!」

 

ニトクリスは本当にアテムの事を心配しており、その優しさにマシュ達は微笑ましく思うのだった。

 

 

一方、王宮から離れた場所で一人砂漠の砂地に座りながら夜空を見上げる者がいた。

 

不安な表情を浮かべていると、誰かが近付く気配を感じて咄嗟に立ち上がって身構えた。

 

「マハード殿……」

 

「ベディヴィエール殿、休むのであれば王宮の寝室でお休みください」

 

砂漠に座っていたのはベディヴィエールで近づいて来たのはマハードだった。

 

「すみません、ちょっと眠れなくて……」

 

「……少し、話をしてもよろしいですか?」

 

「え?あ、はい、大丈夫です……」

 

マハードはベディヴィエールの隣に座り、単刀直入に話を切り出した。

 

「ベディヴィエール殿、あなたは何か大きな罪を背負っていますね?」

 

「──っ!?どうしてそれを!?」

 

「……分かりますよ。今のあなたは昔の私を思い出させますから」

 

「昔の、マハード殿を……?」

 

マハードは自分が過去に犯した罪を話し始めた。

 

「……私が生前、王国に隠された恐ろしき真実を知り、それを先代の王に告げました。しかし、先代の王はそのことを知らず、心に深い傷を負ってしまった。王は苦悩の末に病に倒れ、遂には病死してしまいました……私の所為で王を……マスターの父を死なせてしまったのです」

 

その恐ろしき真実は王が背負うべき『罪』とは言え、マハードは間接的に先代の王の命を奪ってしまった。

 

ベディヴィエールは銀の右手を見つめ、強く握りしめて静かに尋ねた。

 

「……一つ、聞かせてください。マハード殿の罪を、アテム王は何と……?」

 

「マスターは、ただ一言……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マハード、これからもオレと共に戦ってくれ。オレの……最高の、最強の僕としてな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯は罪に対して何も言わず、ただマハードに共にいてくれと命じた。

 

「このような私を……マスターは最強の僕として、共に在ることを認めてくれました……私はマスターに永遠の忠誠を誓い、全てを捧げる覚悟で戦います。今までも、これからも……」

 

遊戯はマハードを最強の僕として信頼し、マハードは未来永劫の忠誠を遊戯に誓って戦い続ける。

 

「素晴らしき王ですね……アテム王は……」

 

「はい……ベディヴィエール殿、一人で全てを背負おうとすれば破滅します。罪を償いたいのであれば、何かを成し遂げたいのであれば……信頼出来る者にまずは打ち明けるべきです」

 

マハードはベディヴィエールに自分と同じ過ちを繰り返して欲しくない気持ちからそう助言した。

 

「マハード殿……ありがとうございます。まだ、話す事は出来ませんが……必ず、皆さんにお話しします」

 

「そうですか。あまり、無理をしないでくださいね」

 

これ以上は踏み込んではいけないと判断し、マハードはベディヴィエールに一礼してその場を後にした。

 

残されたベディヴィエールは再び銀の腕を見つめ、自然と瞳から溢れた涙を握り締めながら己の『罪』と向き合う。

 

「私は……!」

 

しかし、ベディヴィエールにはまだその『罪』を誰かに打ち明けられるほど心を強く持っていなかった……。

 

 

翌朝、遊馬達は支度を整えてエジプトを出発する時が来た。

 

目的地は百貌のハサン達がいると思われる山の民が住む山岳地帯の村。

 

そこで百貌のハサンと合流して情報を集めつつ、次の行動を決めることになった。

 

遊馬達はエジプトで保護してもらった難民達に別れの挨拶をしていると、一組の親子が駆け寄ってきた。

 

それは聖抜の儀で選ばれた母親とその子供だった。

 

母親の名前はサリア、子供の名前はルシュド。

 

「あの、天使様……山の民のところに行くと聞きましたが……もし良ければ私達を連れて行っていただけませんか?」

 

「え?な、何で……?」

 

「実は……私は元々山の民の出身です。父に反対されながら聖地の家に嫁いだのです。山の民を抜けた身ですが、知り合いがいるはずです。ですから、天使様達が村に入れるよう私が話をします」

 

「お母さんが話せば、ドクロのおじちゃんもきっとすぐに分かってくれるよ!」

 

「ドクロのおじちゃん?」

 

「うん!お母さんの幼馴染でかっこいいおじちゃんなんだ!」

 

ルシュドはそのドクロのおじちゃんに懐いているらしく、サリアの提案も悪くはなかった。

 

遊馬達は話し合い、何かあればすぐにサリアとルシュドをエジプト領に戻すことを条件に二人を連れて行くことにした。

 

一方、小鳥とレティシアと桜はカルデアに帰還してもらい、イリヤと美遊とクロエは残ることになった。

 

イリヤはアーサー王であるはずの獅子王が何を望んでいるのかそれを聞きたく、美遊はアサシンのクラスカードから何かを感じ取っていてそれを確かめる為、クロエはそんな二人のお目付役。

 

そして、新たにカルデアの旅に同行するのは……。

 

「待たせたな、みんな」

 

「これからよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

遊戯とマハードとマナの3人である。

 

オジマンディアスから追放されたのは遊戯だが、当然遊戯の配下のマハードとマナも同行する。

 

全員が揃い、エジプト領の外に出てから上空に待機しているかっとび遊馬号を呼び戻して山の民の村へ向かう。

 

しかし、遊馬達の行く手を阻むように突然空に暗雲が広がり、砂漠からまるで間欠泉のように膨大な闇の力が噴き出した。

 

今まで体験したことのない状況に遊馬達は身構えると、闇の中から1枚のカードが現れた。

 

「カード……?」

 

「何だ、あのカードは……強い闇の力を感じる……!」

 

遊馬とアストラルは闇のカードから恐ろしいほどの闇の力を感じて思わず背筋が凍りつく。

 

そして、闇のカードから二つの光が飛び出して砂漠の砂の中に入り込んだ。

 

次の瞬間には砂が吹き飛んで中から巨大な影が現れた。

 

巨大な影が形を成していき、現れたのはエジプトのスフィンクスをモチーフにした2体のモンスターだった。

 

一体は頭が獅子で屈強な体を持つモンスターで、もう一体は頭が美しい女性の顔で体は翼を持った白いライオンのモンスター。

 

遊馬とアストラルは見たことないモンスターに驚いたが、遊戯はそのモンスターを知っていた。

 

「馬鹿な!あのモンスターは!?」

 

「遊戯さん、知ってるんですか!?」

 

「アンドロ・スフィンクスとスフィンクス・テーレイア。オレと相棒がかつて戦った破壊の王、アヌビスのモンスターだ……!」

 

アヌビス。

 

それは遊戯が現世で戦った邪悪なる闇の魂を持つ存在。

 

そして……世界を滅ぼそうとする冥界の王である。

 

倒したはずのアヌビスのモンスターが現れ、更には闇のカードから数えきれないほどの大量のモンスターが次々と出現する。

 

モンスター達から発している邪悪な力の波動に遊馬達は咄嗟に身構えるが、遊戯が静かに前に出て千年パズルを輝かせる。

 

「アヌビス……オレと海馬を罠にかけて、デュエルを穢し、相棒達を危険な目に合わせてくれたな。あの時の借りを全て返させてもらうぜ!マハード、マナ!」

 

「「はっ!」」

 

遊戯は宝具『伝説の決闘者』を発動させてマハードとマナをデッキに入れる。

 

デッキからカードを5枚引いて手札にし、背後にいる遊馬とアストラルに向けて言葉をかける。

 

「遊馬、アストラル……デュエルキングの戦いを見せてやる!」

 

デュエルではなく、デュエルモンスターズを使った遊戯の本気の戦いを見せる時が来た。

 

今の遊戯は遊馬と契約している事で魔力の心配はいらない。

 

遊戯のデュエリストとして、サーヴァントとしての全力全開の本気の力を発揮し、過去の幻影の敵と対峙する。

 

 

 




ゾークだけじゃバランスがちょっと取れてないなと思って急遽遊戯が戦う敵を用意しました。
まあかませになることは見えていますが(笑)

まずは映画『光のピラミッド』の敵を出します。
もう皆さんは今後どんなモンスターが出るかは分かりきっていると思いますが(笑)

次回は現代の豊富なカードと遊戯のデュエルタクティクスと最強のドローでどれだけ暴れるかの話になります。


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ナンバーズ182 超魔導融合乱舞

チートドローが出来る遊戯が現在のカードを使ったらどんなことになるのか……その答えが判明します。
ぶっちゃけ、リアルに相手にしたくないほど強いです(笑)


遊戯がかつて対峙した敵のモンスター『アンドロ・スフィンクス』と『スフィンクス・テーレイア』。

 

遊戯の邪魔をさせない為にマシュ達が先に動いて闇のカードから生まれた無数のモンスター達の相手をする。

 

過去からの敵との決着をつける為に遊戯は全力でデュエルをする。

 

「オレのターン、ドロー!まずは永続魔法『切り裂かれし闇』を発動!更に手札の『マジシャンズ・ソウルズ』の効果!デッキからレベル6以上の魔法使い族を墓地に送り、効果を発動する。デッキから『ブラック・マジシャン』を墓地に送る」

 

遊戯のフィールドに青白く輝くブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールの魂と呼ぶべきモンスターが現れる。

 

「そして、マジシャンズ・ソウルズの二つの効果の一つ、このカードを墓地へ送り、自分の墓地から『ブラック・マジシャン』か『ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚出来る!現れよ!『ブラック・マジシャン』!!」

 

二人の魂が消え、代わりに魔法陣が展開されて『ブラック・マジシャン』がフィールドに現れる。

 

「この瞬間『切り裂かれし闇』の効果発動!1ターンに1度、自分がトークン以外の通常モンスターの召喚・特殊召喚に成功した場合にデッキから1枚ドローする!」

 

ブラック・マジシャンは通常モンスターなので最初に発動させた永続魔法の効果により遊戯はデッキからカードをドローする。

 

ドローしたカードを見て遊戯は不敵の笑みを浮かべると、カードから翡翠色の閃光が放たれる。

 

「力を借りるぜ、デュエルモンスターズ界を守護する伝説の竜!その一つの力よ!魔法カード『ティマイオスの眼』を発動!」

 

発動した魔法カードから勢い良く飛び出して現れたのは翡翠のように美しい眼と鱗を持つ西洋竜だった。

 

「何だあのカードは!?魔法カードからドラゴンが出てきた!?」

 

「ティマイオス……聞いたことがある。遥か昔に人間界とデュエルモンスターズ界を守護する為に戦った三体の伝説の竜がいたと……!」

 

ティマイオス。

 

それは太古の昔から語られるデュエルモンスターズ界を守護した伝説の竜の内の一体である。

 

「自分フィールドの『ブラック・マジシャン』モンスターを対象として発動!そのモンスターを融合素材として墓地へ送り、そのカード名が融合素材として記されている融合モンスターを呼び出す!」

 

ブラック・マジシャンは高くジャンプし、ティマイオスも高く飛んで一つに重なり、聖なる光を放つ。

 

「黒き魔術師と伝説の竜よ、その力を一つに合わせ、闇の世界に光を導く!融合召喚!現れろ!『竜騎士ブラック・マジシャン』!」

 

ブラック・マジシャンは魔術師から剣と盾を持つ騎士となり、ティマイオスの背中に乗って遊戯の前に降り立つ。

 

ティマイオスから放たれる力の波動はアストラルの持つ上位クラスのナンバーズに匹敵する力を感じられた。

 

「カードを3枚伏せてターンエンドだ!」

 

初手から遊戯は強力な『ブラック・マジシャン』の融合モンスターを展開し、『アンドロ・スフィンクス』と『スフィンクス・テーレイア』が一斉に襲いかかって来る。

 

「『竜騎士ブラック・マジシャン』を対象に永続罠オープン!『ディメンション・ガーディアン』!このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、そのモンスターは戦闘・効果では破壊されない!そして『竜騎士ブラック・マジシャン』がフィールドにいる限り、オレのフィールドの魔法・罠カードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない!」

 

『竜騎士ブラック・マジシャン』は『ディメンション・ガーディアン』の力を受けて自身を守るバリアを展開してモンスター達の攻撃を防いで弾き返した。

 

魔法・罠を守る『竜騎士ブラック・マジシャン』とモンスターを守る『ディメンション・ガーディアン』の互いを守る相互効果によって鉄壁の布陣を作り上げた。

 

「更に永続罠オープン!『永遠の魂』!!」

 

遊戯の背後に砂地の中から巨大な長方形の石板が現れた。

 

そこには魔術師……ブラック・マジシャンの姿が描かれており、それは古代エジプトに存在していたデュエルモンスターズの古の石板である。

 

「これはマハード……ブラック・マジシャンの石版だ!その効果で1ターンに1度、手札・墓地からブラック・マジシャンを特殊召喚する!墓地から蘇れ、ブラック・マジシャン!この瞬間、再び『切り裂かれし闇』の効果で1枚ドロー!」

 

墓地から再びブラック・マジシャンが現れて『竜騎士ブラック・マジシャン』の隣に立ち、遊戯はデッキからカードを引き、そこから遊戯のターンに回る。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード『融合』を発動!フィールドの『ブラック・マジシャン』と手札の『魔道騎士ガイア』を融合!」

 

遊戯が発動したのは複数のモンスターを合体させて新たなモンスターを召喚させる魔法カード『融合』。

 

「黒き魔術師と天地を駆ける騎士よ!天地を穿つ漆黒の槍となれ!融合召喚!」

 

フィールドにいる『ブラック・マジシャン』と遊戯が今引いた二つの馬上槍を携えて勇ましい馬に跨る暗黒騎士……『魔道騎士ガイア』と融合して一つに交わる。

 

「現れろ!『超魔導騎士 - ブラック・キャバルリー』!!」

 

現れたのは『ブラック・マジシャン』が暗黒騎士の力の証である漆黒の鎧を身に纏い、馬上槍を携え、暗黒騎士の馬に跨った『超魔導騎士』。

 

「『ブラック・キャバルリー』の効果で攻撃力がフィールド・墓地の魔法・罠の数×100アップする!」

 

遊戯は魔法と罠のカードを多用するので、魔法と罠を使えば使うほど『ブラック・キャバルリー』の力が高まっていく。

 

強力な2体の騎士が並び立つが、遊戯の展開はまだ終わらない。

 

「罠カード『融合準備(フュージョン・リザーブ)』!融合モンスター1体を相手に見せ、そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体をデッキから手札に加え、その後自分の墓地の『融合』1枚を選んで手札に加える事が出来る!」

 

遊戯は更なる融合モンスターを展開する為のカードを既に用意していた。

 

「オレが選ぶのは『超魔導剣士 - ブラック・パラディン』!そして、ブラック・パラディンの融合素材モンスターの『バスター・ブレイダー』をデッキから手札に加え、墓地の『融合』を回収する!」

 

遊戯はデッキから対ドラゴン族最強クラスのモンスターである『竜破壊の剣士』の異名を持つ『バスター・ブレイダー』と墓地の『融合』を手札に加える。

 

「『永遠の魂』の効果!墓地から『ブラック・マジシャン』を再び特殊召喚する!『切り裂かれし闇』の効果で1枚ドロー!そして、フィールドの『ブラック・マジシャン』と手札の『バスター・ブレイダー』を『融合』!」

 

墓地から『ブラック・マジシャン』を復活させ、融合召喚の準備を整えてこのターン二回目の融合を行う。

 

「黒き魔術師と竜破壊の剣士よ、竜を切り裂く剣を以て数多の闇を切り裂け!融合召喚!」

 

『ブラック・マジシャン』と『バスター・ブレイダー』が一つに交わり、数多のドラゴンを切り裂く遊戯が操る最初の『超魔導』が現れる。

 

「現れろ!『超魔導剣士 - ブラック・パラディン』!!」

 

現れたのは『ブラック・マジシャン』が『バスター・ブレイダー』の『竜破壊』の力を受け継ぎ、魔術師の杖と竜を切り裂く剣が融合した長柄武器のグレイブを持つ『超魔導剣士』。

 

「ブラック・パラディン!バトルシティ決勝トーナメントで遊戯さんが海馬社長とのデュエルで出した切り札!」

 

遊馬は昔見たデュエルの動画で出ていた遊戯の切り札でもあるブラック・パラディンの登場にテンションが上がりまくっていた。

 

「まだまだ行くぜ!魔法カード『融合回収(フュージョン・リカバリー)』!自分の墓地の『融合』と融合召喚に使用した融合素材モンスターを手札に加える!墓地から『融合』と『ブラック・マジシャン』を手札に加える!」

 

これだけでは終わらず、遊戯は『融合』と『ブラック・マジシャン』を墓地から回収していき、更なる『超魔導』を呼び出す為のカードは先程『切り裂かれし闇』の効果でドローしたカードを使う。

 

「魔法カード『儀式の下準備』!デッキから儀式魔法カード1枚を選び、更にその儀式魔法カードにカード名が記された儀式モンスター1体を自分のデッキ・墓地から選び、そのカード2枚を手札に加える。オレは儀式魔法『カオスの儀式』と『カオス・ソルジャー』をデッキから手札に加える!!」

 

「カ、カオス・ソルジャー!?」

 

「デュエルモンスターズ界に名高い伝説の最強戦士……!?」

 

「そして……『融合』!手札の『ブラック・マジシャン』と『カオス・ソルジャー』を手札融合!!」

 

『カオス・ソルジャー』は儀式モンスター最高クラスの攻撃力を持ち、伝説の最強戦士と謳われるモンスターである。

 

「黒き魔術師と混沌の最強戦士よ!混沌を制す者となり、我に勝利を齎せ!融合召喚!!」

 

怒涛の三回目の融合で『ブラック・マジシャン』と光と闇の混沌の力を操る最強戦士『カオス・ソルジャー』が現れて一つに交わる。

 

「現れろ!『超魔導戦士 - マスター・オブ・カオス』!!」

 

現れたのは『ブラック・マジシャン』が『カオス・ソルジャー』の光と闇の混沌の力を宿した剣と盾、そして鎧を装着した『超魔導戦士』。

 

「すげぇ……!ブラック・マジシャンを素材とした融合モンスターを一気に3体も召喚するなんて……!」

 

「融合召喚……エクシーズ召喚とは異なる性質を持つからこそ出来る技術。そして、何よりも遊戯さんの持つタクティクスは素晴らしい……!」

 

遊馬とアストラルは三連続融合召喚を行なった遊戯の手腕に驚愕と興奮を抱いていた。

 

強力な融合モンスター達が召喚され、それを見計らってマシュ達は下がった。

 

そして……遊戯は召喚した4体の融合モンスターで一斉攻撃を行う。

 

「行け!『竜騎士ブラック・マジシャン』!ブラック・ドラゴン・ストライク!!」

 

『竜騎士ブラック・マジシャン』は剣からビームを放ち、ティマイオスが口からドラゴンブレスを放つ。

 

「『ブラック・キャバルリー』!超魔導螺旋撃!!」

 

『超魔導騎士 - ブラック・キャバルリー』は馬を疾走させてスピードを乗せながら馬上槍を突くと螺旋状のエネルギーが放たれる。

 

「『ブラック・パラディン』!超魔導無影斬!!」

 

『超魔導剣士 - ブラック・パラディン』はグレイブを振り下ろして魔力が込められた竜破壊の斬撃を放つ。

 

「『マスター・オブ・カオス』!超魔導混沌波!!」

 

『超魔導戦士 - マスター・オブ・カオス』は剣を振り下ろし、混沌の力を込めた斬撃を放つ。

 

融合モンスター4体の連続攻撃により大量の闇のモンスターが破壊され、『アンドロ・スフィンクス』と『スフィンクス・テーレイア』に大ダメージを与えていく。

 

そして……『アンドロ・スフィンクス』と『スフィンクス・テーレイア』は四連続攻撃に耐えられず、破壊された。

 

遊馬とアストラル達はこれで勝利したと思ったが遊戯は表情を変えずに警戒していた。

 

「まだだ……あの2体が破壊されたことで呼び出されるモンスターがいる……」

 

破壊された『アンドロ・スフィンクス』と『スフィンクス・テーレイア』の残骸がドロドロに溶けて混ざり合い、一つに合体して新たなモンスターが現れた。

 

それは『アンドロ・スフィンクス』と『スフィンクス・テーレイア』……2体のモンスターのパーツが合体したモンスター。

 

『スフィンクス・アンドロジュネス』。

 

『アンドロ・スフィンクス』と『スフィンクス・テーレイア』の真の姿で神に仕えし獣の長である。

 

すると、『スフィンクス・アンドロジュネス』の獅子の顔の額が歪むと中から屈強な男の上半身が現れた。

 

『ファラオ……闇のファラオォオオオオオ……!!!』

 

「アヌビス……冥界から蘇ったのか……!」

 

それは冥界の王であり、遊戯が倒した敵……アヌビス。

 

アヌビスは復讐心から遊戯に『スフィンクス・アンドロジュネス』を操って攻撃をしようとした……その時だった。

 

「──出ませい!」

 

上空に円形のゲートが現れると中から眉毛と目が書かれた大きな頭巾に足が生えた謎の生物が大量に現れて『スフィンクス・アンドロジュネス』を踏みつけてその場から消えた。

 

「あれはメジェド?と言うことは……」

 

メジェドとは、エジプト神話「死者の書」に描かれる神である。

 

そして、メジェドを呼び出したのは……。

 

「全く、騒ぎを聞きつけて駆けつけたら……何ですか?あのスフィンクスに似た化け物は……」

 

「ニトクリス!」

 

それはエジプト領から駆けつけてきたニトクリスだった。

 

ニトクリスがメジェドを召喚して攻撃をしたのだ。

 

「アテム、あのスフィンクスもどきの額にいる男は?」

 

「あいつはアヌビス。かつてオレが戦った世界を滅ぼそうとした破壊の王だ」

 

「アヌビス……?」

 

アヌビスの名前を聞いた瞬間、ニトクリスの雰囲気が一気に変わった。

 

「この私の前でアヌビスの名を語る不敬者がいるとは……愚かな」

 

遊戯とアヌビスの因縁については知らないが、ニトクリスにとってはアヌビスと名乗る不敬者に怒りが込み上げて魔力が迸る。

 

「アテム、皆の者、後ろに下がりなさい。私の宝具を使います。ファラオの敵対者を死へと導きます」

 

「ニトクリス……わかった」

 

アテムはニトクリスの意思を尊重して一旦下がり、遊馬達も従って後ろに急いで下がる。

 

ニトクリスは杖を構えて魔力を解放し、宝具を発動させる。

 

「屍の鏡。暗黒の鏡。扉となりて、恐怖を此処へ…… 」

 

ニトクリスの背後に青いゲートが現れ、そこからジャッカルの頭を持つ黒いアヌビス像が出現する。

 

「『冥鏡宝典(アンプゥ・ネブ・タ・ジェセル)』!!!」

 

アヌビス像の頭上に現れた円形の大鏡からワニや蛇、人の髑髏に似た顔の青い霊体が大量に現れる。

 

無数の霊体が敵全体に襲い掛かり、霊体が敵をすり抜けると同時に死へと導き、次々と息絶えて倒れていく。

 

「キャアアアアア!?お、お化けがたくさんいるぅ……」

 

お化けが苦手なイリヤはニトクリスの宝具に完全にビビって美遊とクロエの後ろに隠れる。

 

ニトクリスの宝具で大量にいたモンスターが一気に倒されて全体の約半分にまで減らすことができた。

 

残りの半分も宝具で大ダメージを受けており、もはや虫の息である。

 

そして、アヌビスと『スフィンクス・アンドロジュネス』もニトクリスの宝具で大ダメージを受けて肉体が崩壊していく。

 

『グァアアアアアアッ!?ば、馬鹿な!?何故名もなきファラオ以外に冥界の力を操る者が!?』

 

ニトクリスは杖を掲げて堂々と真名を名乗り上げた。

 

「我が真名はニトクリス!天空の神ホルスの化身である!!」

 

『ニトクリスだと!?馬鹿な!?古の女王が何故、名もなきファラオと共に!?』

 

アヌビスは大昔の古代エジプトの女王が遊戯と共にいることに驚愕していた。

 

「アテム、後は任せます。決めなさい」

 

「ああ!アヌビスとの因縁を切り裂く!『永遠の魂』の効果!来い!『ブラック・マジシャン』!『切り裂かれし闇』の効果で1枚ドロー!!」

 

『ブラック・マジシャン』を復活させたことでモンスターフィールドが全て埋まり、遊戯は1枚ドローする。

 

「オレのターン、ドロー!来たぜ……最高のカードが!」

 

そして、遊戯のターン……これがラストターンになり、遊戯は最高のカードをドローした。

 

「魔法カード『真紅眼融合』!!!」

 

発動したのはただの『融合』ではなく、特殊な発動効果を持つ新たな『融合』カードである。

 

「自分の手札・デッキ・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、『レッドアイズ』モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体を融合召喚する!」

 

本来ならば『融合』は自分のフィールド・手札のモンスターを融合素材にするが、『真紅眼融合』はデッキのモンスターも利用することが出来る。

 

「オレはフィールドの『ブラック・マジシャン』とデッキの『真紅眼の黒竜』を融合!」

 

遊馬とアストラルは『真紅眼の黒竜』と聞いて耳を疑うほど驚いた。

 

「今度はあの幻のレアカードの『真紅眼の黒竜』!?」

 

「真紅眼の黒竜……まさか、あれは遊戯さんの親友で伝説のデュエリストの一人である彼の……!?」

 

『ブラック・マジシャン』の隣に現れたのは漆黒のボディにルビーのように真っ赤な美しい双眸を持つ竜……デュエルモンスターズ界に名高い伝説のドラゴンである『真紅眼の黒竜』。

 

「力を貸してくれ、城之内君!」

 

遊戯の隣に童実野高校の制服を着用し、初期型デュエルディスクを左手首にセットした金髪の少年の幻影が一瞬だけ現れた。

 

城之内克也。

 

遊戯の親友で『真紅眼の黒竜』を操る伝説のデュエリスト。

 

「黒き魔術師と黒き竜よ!時空を越えた友との絆が究極の竜騎士を目覚めさせる!融合召喚!」

 

『ブラック・マジシャン』と『真紅眼の黒竜』が一つに交わり、最強の『超魔導』が降臨する。

 

「現れろ!『超魔導竜騎士 - ドラグーン・オブ・レッドアイズ』!!」

 

現れたのは『竜騎士ブラック・マジシャン』とは異なり、『ブラック・マジシャン』が巨大な鎧ととなった『真紅眼の黒竜』を装着し、手には『超魔導剣士 - ブラック・パラディン』とは異なる形の『真紅眼の黒竜』の素材で出来たグレイブが握られていた。

 

これこそ遊戯の『ブラック・マジシャン』と城之内の『真紅眼の黒竜』が融合した奇跡と夢の最強モンスターである。

 

「アヌビス、このカードで貴様の闇を全て切り裂いてやる!」

 

遊戯はアヌビスとの因縁と闇を切り裂くとっておきのカードを発動する。

 

「手札から魔法カード発動!『拡散する波動』!!」

 

『拡散する波動』は上級魔法使い族に使用できる魔法カード。

 

「オレのライフポイントを1000を払い、自分フィールドのレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を対象として発動!このターン、そのモンスター以外のモンスターは攻撃できず、対象のモンスターは可能な限り相手モンスター全てに1回ずつ攻撃を行う!オレが選択するのは『超魔導竜騎士 - ドラグーン・オブ・レッドアイズ』!!」

 

遊戯は最強の『超魔導』である『超魔導竜騎士 - ドラグーン・オブ・レッドアイズ』を選択し、全てのモンスターを切り裂く力が与えられる。

 

「そして……『切り裂かれし闇』のもう一つの効果!通常モンスターを素材とした融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時にその自分のモンスターの攻撃力はターン終了時まで、その相手モンスターの攻撃力分アップする!」

 

『拡散する波動』に加えて『切り裂かれし闇』の効果で『超魔導竜騎士 - ドラグーン・オブ・レッドアイズ』は全てのモンスターを確実に戦闘破壊する力を得た。

 

「ドラグーン・オブ・レッドアイズの攻撃!!!」

 

遊戯は1000ポイントのライフポイントを支払い『超魔導竜騎士 - ドラグーン・オブ・レッドアイズ』が身に纏う『真紅眼の黒竜』の鎧の真紅の眼が光り輝き、グレイブに全魔力を込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超魔導黒竜烈波斬!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレイブから膨大な漆黒の魔力が解き放たれ、無数の巨大な魔力の刃となり、全てのモンスターに狙いを定める。

 

数え切れないほどの魔力刃が瞬く間にモンスター達を切り裂いていく。

 

そして、『スフィンクス・アンドロジュネス』の巨体も切り裂かれていくが、額にいたアヌビスが魂の存在となって遊戯に襲いかかって来た。

 

『名もなきファラオォオオオオオ!!!』

 

「アヌビス……オレはもう名もなきファラオではない」

 

アヌビスの魔の手から遊戯を守る為に『超魔導竜騎士 - ドラグーン・オブ・レッドアイズ』が立ち塞がり、遊戯は堂々と名乗る。

 

「オレの名は……アテムだ!!!」

 

そして、『超魔導竜騎士 - ドラグーン・オブ・レッドアイズ』グレイブに再び魔力を込め、向かって来たアヌビスを真っ二つに叩っ斬った。

 

叩き斬られたアヌビスは断末魔の叫びを上げることなく消滅していく。

 

現れたモンスターを全て破壊し、その元凶である闇のカードは静かに消滅した。

 

「闇のカード……まさか、ゾークが動き始めたのか……?」

 

遊戯は突然現れた闇のカードに既にゾークが動き始めたのかと嫌な予感がした。

 

「遊戯さん!闇のカードもまだ他の場所にあるかもしれない!急がないと!」

 

「遊馬……そうだな。ニトクリス、さっき助かった。それと、後の事は頼む」

 

ニトクリスに礼と後の事を頼むと、ニトクリスは真剣な眼差しで遊戯に話しかけた。

 

「アテム。私はあなたから聞かされたゾークの話に半信半疑でした。しかし、あの化け物を見て、ようやく信じることが出来ました。今の私はこのエジプトを守ることしか出来ませんし、オジマンディアス王も動きません」

 

「ニトクリス……」

 

「行きなさい、アテム。ファラオとして、あなたの信じる道を進み、あなたの信念を貫きなさい!」

 

ニトクリスは手を貸すことは出来ないが、先輩ファラオとして遊戯の背中を押して見送る。

 

「ああ、行ってくる!」

 

遊戯はニトクリスの想いを受け取り、笑みを浮かべて戦いの旅へと歩み始めた。

 

「遊馬!」

 

「ああ!来い、かっとび遊馬号!」

 

遊馬は上空に待機しているかっとび遊馬号を呼び出し、全員を船内に入れて山の民のいる村へと出発する。

 

 

 




書いて見て思いました。
遊戯に現在あるOCGカードを使ったら酷いことになりましたね(笑)
永遠の魂と切り裂かれし魂のコンボは強すぎますね。
ドラグーンオブレッドアイズは禁止カードですがこの小説内では利用可能にしています。


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ナンバーズ183 神滅の竜騎士と竜破壊の剣士

今回も遊戯無双が始まります!
ここまで来ると敵が可哀想になります。


遊戯がアヌビスとの決着をつけ、すぐに山の民が住む村へと向かった。

 

かっとび遊馬号で山の麓まで飛び、そこからサリアの案内で故郷である東の村まで歩いていく。

 

すると、アストラルがサーヴァントの気配を感じ取り、全員が警戒すると黒い影が現れた。

 

「我らの村に何用だ、異邦人」

 

現れたのは白い髑髏の仮面に黒いマント、黒い布で覆われた棒のような右手と不気味な外見をしたサーヴァントだった。

 

すると、そのサーヴァントはアルトリアとエミヤを見て驚きの声を上げた。

 

「貴様らはセイバーにアーチャーだと……!?何故この村に踏み入れた、何が目的だ……!?」

 

そのサーヴァントの登場にアルトリアとエミヤが前に出て戦闘態勢を取る。

 

「マスター!お下がり下さい!このサーヴァントは危険です!」

 

「呪腕のハサン!第五次聖杯戦争で間桐臓硯が召喚したサーヴァントだ!奴と臓硯によって桜が闇に堕ち、冬木は地獄と化したことがある!」

 

呪腕のハサン。

 

イスラム教の伝承に残る暗殺教団の教主「山の翁」の一人。

 

第五次聖杯戦争で特にパールヴァティー……間桐桜と因縁がある。

 

「なっ!?臓硯が召喚したサーヴァントで、パールヴァティーが闇に……!?」

 

アルトリアとエミヤの言葉に驚愕し、緊張感が一気に高まってサーヴァント達が次々と戦闘態勢を取り、呪腕のハサンも投擲剣を構えていると……。

 

「久しぶり、ドクロのおじちゃん!」

 

空気をぶち壊すようにルシュドが前に出て元気よく挨拶をすると呪腕のハサンは凍りつくように固まった。

 

「ル、ルシュド!?」

 

「ハナム!お願い、皆さんの話を聞いて!」

 

「サリア!?」

 

ルシュドに続いてサリアが出てくると呪腕のハサンの纏う魔力が一気に収まり、投擲剣を消した。

 

「二人共、どうして彼らと……!?」

 

「ハナム、私達は聖都で騎士達に殺されそうになったところを皆さんに助けてもらったのよ」

 

「天使様達は僕たちだけじゃなくて、たくさんの人を助けてくれたんだよ!」

 

「そうか……二人共、無事で本当に良かった……」

 

「お願い、ハナム。皆さんを村に入れて、話を聞いてあげて……」

 

「おじちゃん、お願い!」

 

「……二人にそう頼まれては、断れるわけがない」

 

呪腕のハサンは仮面を被っているが、二人の願いに少し困ったように苦笑を浮かべているように見えた。

 

呪腕のハサンは投擲剣を消し、静かに近づいて軽く頭を下げた。

 

「私の知人の命を救ってもらい、感謝する。セイバー、アーチャーよ。第五次聖杯戦争の事で思うところはあるだろうが、今は互いに刃を収めよう」

 

「……シロウ」

 

「……ああ」

 

呪腕のハサンから殺気は完全に無くなり、アルトリアとシロウはその言葉に従って刃を収めた。

 

ルシュドとサリアが呪腕のハサンを慕い、また呪腕のハサンもルシュドとサリアの事を大切に想っているその姿から信じるに値すると感じた。

 

「話は終わったようだな。良かった良かった!」

 

岩陰に隠れて出てきたのは深紅の弓を持ち、褐色の肌と生気に満ちた瞳が特徴の男だった。

 

「アーラシュ殿……」

 

「おっ、お前達が聖都で難民達を救出してくれた勇者達だな?会いたかったぜ!」

 

アーラシュ。

 

古代ペルシャにおける伝説の大英雄。

 

戦争を終わらせる為に究極の一矢を放ち、「国境」を作ったとされる救世の勇者である。

 

「アーラシュだと!?」

 

「もの凄いビッグネームのアーチャーが来たわね……」

 

西アジアにおいてはアーチャークラス最高峰のサーヴァントに同じアーチャークラスであるエミヤとクロエは戦慄する。

 

「客人達よ、我らが村に案内する」

 

呪腕のハサンに目的地である東の村へ案内してもらう。

 

東の村……山の民の隠れ里、そこは山岳地帯から全く見えないが立派な村があった。

 

山の地形を利用して作られているので土地勘がなければ簡単には辿り着けないようになっていた。

 

早速遊馬達は自分たちの目的を呪腕のハサンとアーラシュに説明する。

 

「ほう、獅子王と対決する為に仲間を集めていると?」

 

「ちなみにそちらの戦力は……これだけじゃ無さそうだな」

 

「やろうと思えば百戦錬磨のサーヴァントがまだまだたくさんいるし、俺とアストラルと遊戯さんでサーヴァント以上のモンスターを繰り出せるぜ」

 

「こちらとしては一人でも多くのサーヴァントが仲間になってくれると心強い。獅子王の力は未知数だからな。もちろん、君たちが守っている民の生活や安全に協力する」

 

遊馬とアストラルは呪腕のハサンとアーラシュと協力関係を結ぶ為に交渉を重ねる。

 

「こちらとしても戦力は欲しいところだが、貴殿達を容易く迎え入れる訳にはいかぬ。叛逆者と言えど、円卓が二人もいるなら尚更よ」

 

円卓が二人……それはベディヴィエールともう一人、マシュを意味していた。

 

呪腕のハサンはマシュが円卓の騎士のデミ・サーヴァントだと気付いていたのだ。

 

「呪腕のハサンよ、その円卓の王である私の言葉を信じられないか?かつて、あの聖杯戦争で黒に染まった私と共に戦った同僚として……」

 

「そ、それは……」

 

アルトリアは第五次聖杯戦争の辛い戦いを思い出しながら呪腕のハサンを説得するが、呪腕のハサンは暗殺教団のトップでもあるのでそう簡単に返事を出すことが出来ない。

 

「わかりました……では、桜を呼びましょうか。桜があなたをフルボッコにしてもらい、無理矢理納得してもらいましょうか」

 

アルトリアは冷たい笑みを浮かべてまるで死刑宣告のような言葉に呪腕のハサンは驚愕と共に大いに焦った。

 

「なっ!?ま、待つのだ!そんな事になったら私だけでなく村のみんなが……わ、分かった!承知した!協力しよう!」

 

突然協力を了承した呪腕のハサンに遊馬達はキョトンとして首を傾げた。

 

桜……パールヴァティーが来たらどうなるのか……呪腕のハサンはあまりの恐ろしさで一瞬体が震えた。

 

「ゴ、ゴホン……その、協力を結ぶ事になり、早速申し訳ないが……マスター殿よ、力を貸してもらいたい」

 

「力を?何だ?」

 

「実は……この世界には私以外に歴代のハサンが召喚されている。そのうちの一人が敵に捕らわれているのです」

 

「捕らわれている?」

 

この特異点には呪腕のハサンのみならず、歴代の山の翁である「ハサン・サッバーハ」が召喚されており、この東の村以外の生き残った村の指導者となっている。

 

何人かは既に円卓の騎士達によって倒されてしまい、残ったハサンも少なくなった中で一人のハサンが円卓の騎士によって捕まってしまったのだ。

 

他のハサンなら捕まった時点で情報を漏らさないように自ら命を絶っていただろうが、その捕まったハサンは年が若く、自分で自分を殺せない厄介な体質を持っている。

 

救い出さなければいずれ情報を漏らすかもしれない危険があるのだ。

 

「分かった!そのハサンをすぐに救出に行こう!」

 

遊馬は即決でハサン救出を決めた。

 

みんなもハサン救出に賛成し、すぐに行動に移す事になった。

 

「おお、ありがたい」

 

「それで、そのハサンの真名は?」

 

「真名はもちろん『ハサン・サッバーハ』。あやつは『静謐』と呼ばれている」

 

「静謐?ってことは……『静謐のハサン』って事だな。それで、その静謐のハサンはどこに捕まってるんだ?」

 

「静謐は西の村の近くにある砦に捕まっています。西の村には百貌のハサンがおります」

 

「百貌のハサンがいるのか!?」

 

西の村にはカルデアから召喚されていた百貌のハサンが滞在しており、やっと再会出来ると知り、遊馬達も一安心する。

 

遊馬達は西の村にいる百貌のハサンと合流してから静謐のハサン救出に向かおうとしたその時、空に暗雲が広がった。

 

暗雲の中から闇のカードが現れ、無数の光が飛び出した。

 

無数の光はドラゴンとなり、空を覆い尽くすほどの数だった。

 

これだけでも恐ろしい光景だが、更に強大な力が目を覚ます。

 

今度は五つの光が一つに合わさると巨大な影となり、見たことのないドラゴンが現れた。

 

それは五つの首を持つ巨竜で、その五つの首はどれも形も性質の異なっていた。

 

そのドラゴンに遊戯だけでなく遊馬とアストラルも知っており、衝撃を受けた。

 

「「「『F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』!?」」」

 

F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)

 

デュエルモンスターズで最強の攻撃力5000を持つ超大型モンスター。

 

五つの首にはそれぞれ『地』『水』『炎』『風』『闇』の属性を秘めており、同じ属性のモンスターとの戦闘では破壊されない能力を持つ。

 

「今度はBIG5か……アヌビスとは違った意味での因縁だな!」

 

BIG5。

 

海馬コーポレーションの重鎮の5人の幹部だったが、社長である海馬瀬人を裏切って海馬コーポレーションを乗っ取ろうとしていた。

 

遊戯とは何度も戦った相手でもあるが、BIG5は普通の人間なのでアヌビスの時とは違ってその魂はここには存在しないようだ。

 

「遊馬、オレに任せろ。ドラゴン対策ならとっておきのカードがある。『伝説の決闘者』!!」

 

遊戯は『伝説の決闘者』を発動し、ドラゴン対策のカードを豊富に入れたデッキを構築した。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード『竜破壊の証』!デッキから『バスター・ブレイダー』を手札に加える!そして『竜魔導の守護者』を召喚!」

 

遊戯の前に槍を持った空色の竜人が現れた。

 

「『竜魔導の守護者』の効果!このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、手札を1枚捨て、デッキから「融合」通常魔法カードまたは「フュージョン」通常魔法カード1枚を手札に加える!オレはデッキから『融合』を手札に加える!」

 

『竜魔導の守護者』は融合召喚を繋ぐ力を持つ強力なモンスターなのだ。

 

「魔法カード『トレード・イン』!手札からレベル8モンスターを1体捨てて、デッキから2枚ドローする!オレは……『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)』を捨てて2枚ドロー!」

 

『青眼の白龍』

 

世界に4枚しか存在しないとされている幻の超レアカードである。

 

「『青眼の白龍』!?『真紅眼の紅竜』と並ぶ伝説のドラゴン!?」

 

「そのモンスターは遊戯さんのライバル……海馬瀬人のカードのはずだが……」

 

「『青眼の白龍』は確かに海馬のカードだ。だが、何度かその力を使ったことがある」

 

遊戯はライバルである海馬瀬人のエースモンスター『青眼の白龍』の力を借りて何度かデュエルを行ったことがある。

 

遊戯の宝具『伝説の決闘王』は過去に『一度』でもデュエルで使用したことのあるカードを使うことが出来るので『青眼の白龍』も使えるのだ。

 

「よし、魔法カード『竜の霊廟』!デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。この効果で墓地へ送られたモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、更にデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事が出来る!オレはブルーアイズを墓地に送り、更にもう1枚のブルーアイズを墓地に送る!」

 

『青眼の白龍』は通常モンスターなのでデッキに眠る2枚の『青眼の白龍』を墓地に送る。

 

「『竜魔道の守護者』のもう一つの効果!EXデッキの融合モンスター1体を相手に見せ、そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を自分の墓地から選んで裏側守備表示で特殊召喚する。オレは『超魔導剣士 - ブラック・パラディン』を見せて墓地から『バスター・ブレイダー』を裏側守備表示で特殊召喚!」

 

『竜魔導の守護者』は槍を振るって地面に突き刺すと、魔法陣が現れて中から裏側守備のカードが現れる。

 

『バスター・ブレイダー』

 

遊戯が強力な力を持つドラゴン族の対策として所有しているモンスター。

 

『竜破壊の剣士』の異名を持ち、数多のドラゴンを破壊してきた歴戦の戦士である。

 

しかし、裏側守備表示なのでまだ戦いに加わることは出来ないが、遊戯の展開はまだ終わらない。

 

「行くぜ、魔法カード『龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)』!自分のフィールド・墓地からドラゴン族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合召喚する!」

 

巨大な鏡が現れ、中に無数のドラゴンの幻影が浮かび上がる。

 

「オレは墓地に眠る3体のブルーアイズを除外して融合!」

 

3体の『青眼の白龍』を融合素材にするという豪華かつ豪快な融合モンスター。

 

「出でよ!海馬デッキ最強の僕!」

 

それは海馬瀬人の持つ最強のモンスター。

 

墓地から3体の『青眼の白龍』が現れて飛び交い、一つに交わる。

 

そして、純白の閃光を放ちながら究極のドラゴンが誕生する。

 

「『青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)』!!!」

 

現れたのは額に刻印が刻まれた三つの首を持つ巨大な白き竜。

 

デュエルモンスターズ界最強クラスのドラゴンで神をも凌駕する力を秘めている。

 

遊馬とアストラルは超銀河眼の光子龍や超銀河眼の時空龍と同等の力の波動を感じ取り、興奮や畏れから体の震えが止まらなかった。

 

これだけでは『F・G・D』には一歩届かないが、遊戯の手札には最強のモンスターを呼び出す準備は整っている。

 

「魔法カード『融合』!『青眼の究極竜』と手札の『カオス・ソルジャー』を究極融合召喚!!」

 

フィールドの『青眼の究極竜』と手札にある『カオス・ソルジャー』を融合素材にし、『F・G・D』と並ぶ最強のモンスターを呼び出す。

 

「最強の竜と戦士、揃いし時……邪悪なる神は滅びる!海馬、行くぞ!!」

 

遊戯の隣に白のロングコートを羽織り、デュエルディスクを左手首に装着し、少し不機嫌そうな表情を浮かべた長身の男の幻影が一瞬だけ現れた。

 

海馬瀬人。

 

遊戯の永遠のライバルで本来ならば協力することがあまり無い二人の結束によって生まれた最強のモンスターが現れる。

 

「現れろ!『究極竜騎士(マスター・オブ・ドラゴンナイト)』!!」

 

現れたのは『カオス・ソルジャー』が『青眼の究極竜』の背に乗ったモンスターで、その攻撃力は『F・G・D』と同じ5000の超大型モンスターである。

 

「『究極竜騎士』の効果はこのカード以外の自分フィールドのドラゴン族×500の攻撃力がアップする。今オレのフィールドにはドラゴン族の『竜魔導の守護者』がいる。よって、『究極竜騎士』の攻撃力は5500!」

 

『竜魔導の守護者』の力を受け取り、『究極竜騎士』の攻撃力が『F・G・D』を上回る。

 

「行け!『究極竜騎士』の攻撃!ギャラクシー・クラッシャー!!」

 

『青眼の究極竜』の竜の三つ首の口から同時にドラゴンブレスが放たれ、それに合わせて『カオス・ソルジャー』も剣からビームを放ち、二つの力を一つに合わせた特大のビームを『F・G・D』や沢山のドラゴンに喰らわせる。

 

「やはり……アヌビスのスフィンクス達と同じようにそう簡単には破壊できないか」

 

『F・G・D』に対抗する切り札として『究極竜騎士』を呼び出したが、どうやらそれだけでは勝てそうになかった。

 

そんな中、遊戯はある一つの可能性を抱いていた。

 

それは遊戯のいた時代ではまだ存在しなかった特別なモンスターカードと召喚法。

 

それを知ることが出来たのは『破滅の未来』を阻止するために『未来』から来た一人のデュエリストの力である。

 

本来ならば自分が存在しない未来の力を使うことは出来ない。

 

しかし、今の遊戯は『英霊』であり、『サーヴァント』である。

 

デュエルモンスターズの無限大の可能性に賭けて、遊戯はドローする。

 

「オレの……ターン、ドロー!!」

 

ドローしたカード……そこから純白の輝きが放たれ、遊戯に新たな『進化の可能性』を齎した。

 

「来たぜ、遊星!チューナーモンスター『破壊剣士の伴竜』を召喚!」

 

遊戯の前に小さく可愛らしい白い竜が現れた。

 

チューナーモンスター。

 

それは融合、エクシーズ、儀式とは異なる新たなモンスターを呼び出す為に必要な『調律師』の力を持つモンスター。

 

「『破壊剣士の伴竜』の効果!このカードが召喚に成功した時、デッキからこのカード以外の『破壊剣』カードを手札に加える。更に『バスター・ブレイダー』を反転召喚!」

 

デッキから新たなカードを手札に加え、裏守備表示だった『バスター・ブレイダー』が表側攻撃表示となり、その姿が現れる。

 

「そして、レベル7の『バスター・ブレイダー』にレベル1の『破壊剣士の伴竜』をチューニング!!」

 

『バスター・ブレイダー』がジャンプし、それに続いた『破壊剣士の伴竜』が緑色の光の輪になり、『バスター・ブレイダー』の体を囲んだ。

 

「剣士に伴う小さき竜が竜破壊を導く大いなる力となる、光さす道となれ!シンクロ召喚!」

 

すると、『バスター・ブレイダー』の体が消えて代わりに七つの小さな星が現れて一直線に並び、光の柱が天を貫く。

 

「現れろ!『破戒蛮竜 - バスター・ドラゴン』!!」

 

光の柱から現れたのは『破壊剣士の伴竜』が成長し、大きな白き蛮竜となったモンスターだった。

 

シンクロ召喚。

 

それは進化の力が込められた純白のエクストラモンスターカードであり、遊馬とアストラルも知らない未知なる召喚法である。

 

「チューナーモンスターにシンクロ召喚!?」

 

「私たちの知らない未知なる召喚法……そうか、エクシーズが同じレベルのモンスターを重ねて召喚するのに対し、シンクロはチューナーモンスターとそれ以外のモンスターのレベルを合わせて召喚するのか!」

 

アストラルはシンクロ召喚の特性にすぐに気付いた。

 

遊戯は初めてのシンクロ召喚に成功し、内心喜びながらも気を引き締めて『バスター・ドラゴン』の効果を発動する。

 

「『破戒蛮竜 - バスター・ドラゴン』の効果!このカードが存在する限り、相手フィールドのモンスターは全てドラゴン族になる!」

 

『ギャオオオオオーン!!!』

 

『バスター・ドラゴン』の咆哮により、相手フィールドの全てのモンスターの種族がドラゴン族へと強制的に変更された。

 

デュエルモンスターズには見た目と種族が異なる所謂『種族詐欺』がよくあるので、これで相手フィールドのモンスターが全てドラゴン族だと言うことが確定した。

 

「更に『バスター・ドラゴン』は自分フィールドに『バスター・ブレイダー』モンスターが存在しない場合、墓地から『バスター・ブレイダー』を特殊召喚する!再び蘇れ!『バスター・ブレイダー』!!」

 

今度は表側攻撃表示で『バスター・ブレイダー』が墓地から蘇り、竜破壊の剣を構える。

 

『バスター・ドラゴン』は『バスター・ブレイダー』と共に戦う蛮竜であり、『バスター・ブレイダー』の力を最大限に引き出す効果を持っている。

 

『バスター・ブレイダー』の攻撃力は相手フィールド・墓地のドラゴン族×500アップする。

 

今、相手フィールドには『F・G・D』を含めて数え切れないほどのドラゴン族モンスターが存在し、『バスター・ブレイダー』はかつて無いほどの竜破壊の力を高めていく。

 

「バトルだ、行け!『究極竜騎士』!ギャラクシー・クラッシャー!!」

 

『究極竜騎士』の攻撃により『F・G・D』に大ダメージが与えられる。

 

「『バスター・ブレイダー』!破壊剣一閃!!」

 

その直後に『バスター・ブレイダー』が一瞬で『F・G・D』の懐に潜り込み、竜破壊の剣による斬撃が炸裂し、『F・G・D』の五つの首を斬り落とした。

 

あっけなく『F・G・D』を倒してしまい、遊戯は一瞬拍子抜けしてしまったが、首を斬り落とされた『F・G・D』の胴体がボコボコと気味悪く蠢くと、中から何と屍の巨竜が現れた。

 

「あれは……『バーサーク・デッド・ドラゴン』!?」

 

『バーサーク・デッド・ドラゴン』はBIG5のもう一つの切り札のモンスターであり、その強力な効果に遊戯も打つ手がなく一度は敗北で諦めてしまうほどだった。

 

ちなみに『バーサーク・デッド・ドラゴン』はドラゴンの名を持つがアンデット族である。

 

しかし、『バスター・ドラゴン』の効果で『バーサーク・デッド・ドラゴン』はアンデット族からドラゴン族となる。

 

「まだだ……まだ、オレのバトルフェイズは終了していないぜ!」

 

遊戯の手札には『破壊剣士の伴竜』の効果で手札に加えたカードがあった。

 

「『バスター・ブレイダー』のバトルが終わったこの瞬間、手札から速攻魔法『破壊剣士融合』!自分の手札及び自分・相手フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、『バスター・ブレイダー』を融合素材とする融合モンスターを融合召喚する!」

 

それは『バスター・ブレイダー』専用の融合カードで速攻魔法なのでバトルフェイズ中でも発動が出来る。

 

「オレはフィールドの『バスター・ブレイダー』とドラゴン族モンスター『竜魔導の守護者』を融合!!」

 

『バスター・ブレイダー』と『竜魔導の守護者』が一つに交わる。

 

「剣士と竜、二つの力を一つに合わせ、全ての竜を破壊する最強の竜破壊の剣士が目覚める!融合召喚!」

 

本来ならば『バスター・ブレイダー』が破壊するはずのドラゴンの力を取り込み、竜破壊の力を極限までに高めた最強の剣士が現れる。

 

「現れろ!『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』!!」

 

現れたのは藍色の鎧の一部が純白に輝き、ドラゴンの力が込められた破壊剣を持つ、全てのドラゴンを破壊する最強の竜破壊剣士。

 

「『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』の攻撃力・守備力は、相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×1000アップする!」

 

『バスター・ブレイダー』の攻撃力アップ効果が進化し、その力が極限まで高められる。

 

「更に!『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』がフィールドに存在する限り、相手フィールドのドラゴン族モンスターは守備表示になり、相手はドラゴン族モンスターの効果を発動出来ない!全てのドラゴンよ!バスター・ブレイダーの前に跪け!!バスター・プレッシャー!!」

 

『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』は剣を地面に突き刺すと無数の電撃が放出され、相手フィールドの全てのドラゴンに直撃し、全ての力を失って地に倒れていく。

 

「『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』の攻撃!!」

 

『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』の全身から電撃のような閃光が迸り、両手で破壊剣を持って肩に担ぐ構えをしたその瞬間に遊戯の前から姿を消した。

 

「真・破壊剣一閃!!!」

 

電撃の如く目にも止まらぬスピードで動き、次の瞬間には『バーサーク・デッド・ドラゴン』を一瞬で叩き切って体をバラバラに切り裂いた。

 

しかし、それだけでは止まらず、地に伏せている無数のドラゴンを次々と切り裂いていく。

 

強大な力の象徴であるドラゴンがいとも簡単に倒されていく。

 

それは『バスター・ブレイダー』の異名である『竜破壊の剣士』の名に相応しい働きだった。

 

わずか一分で全てのドラゴンを倒し、『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』は遊戯の前に戻った。

 

「よくやった、『バスター・ブレイダー』!」

 

遊戯は勝利を収めた『竜破壊の剣士 - バスター・ブレイダー』を褒め、ドラゴン達を生み出した闇のカードは静かに消滅した。

 

「すげぇ……」

 

遊馬は目の前の光景に唖然とした。

 

伝説や幻のモンスターカードを巧みに操り、次々と現れる強力なモンスター達。

 

遊馬とアストラルも知らない未知なる召喚法。

 

強大な力を持つ敵モンスターを倒した圧倒的すぎる遊戯とモンスター達との絆の力。

 

遊馬は唇を噛み締め、手を強く握りしめた。

 

「届かねえな……高すぎるぜ……」

 

まるで天を貫くように聳え立つ巨大な山のような遊戯の大き過ぎる存在感。

 

登っても、昇っても……届かないほどの遊戯の遥かなる高みに遊馬は自分の小ささを感じてしまうのだった。

 

「遊馬?」

 

「遊馬君、どうしました?」

 

遊馬の様子がおかしいと気付いたアストラルとマシュに話しかけられ、遊馬は慌てて気を取り戻す。

 

「あ、いや、何でもない!よし、早く助けに行こうぜ!」

 

ドラゴン達がいなくなったので遊馬達は急いで静謐のハサンの救出の為に西の村へ急いだ。

 

 

 




ドラゴンキラーの究極竜騎士とバスター・ブレイダーで無双状態でしたね(笑)
伴竜とバスター・ドラゴンは5D'sの主人公、不動遊星との絆があるので使えるようになりました。

次回は静謐のハサンが登場です。


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ナンバーズ184 毒の花と決闘者の生存本能

お待たせしました。
軽くスランプで遅くなってしまいました。

今回は静謐のハサンの登場です!


西の村に到着すると遊馬とアストラルの気配を察知して無数の黒い影が舞い降りた。

 

「お待ちしておりました、マスター」

 

「アサ子さん!百貌のみんな、待たせてごめんな!」

 

アサ子を筆頭に百貌のハサンが一斉に遊馬の元に集まった。

 

これでカルデアからいなくなっていたサーヴァントと合流することが出来た。

 

早速捕らわれている静謐のハサンの救出に向かうことになったが、流石に全員で向かうわけにはいかない。

 

ダ・ヴィンチちゃん、イリヤと美遊とクロエ、ベディヴィエールとアーラシュと三蔵が村に残り、それ以外はすぐに砦に向かった。

 

砦は西の村から山を降りたところにある。

 

立派な砦が建っており、気付かれないように岩陰に隠れながら作戦を考える。

 

「救出作戦の王道ならやはり陽動作戦だな」

 

アストラルが作戦を提案すると、アルトリアが名乗り出た。

 

「では、私が正面から堂々と出て囮になりましょう。円卓の騎士がいる可能性も考えると私が出た方が効果は高いでしょう」

 

砦に円卓の騎士がいるならばアルトリアが出て来れば必然的に現れる。

 

作戦内容はすぐに決まり、アルトリアが砦の前で暴れている間に救出チームが砦に侵入して囚われている静謐のハサンを救出して脱出する。

 

そして、脱出が完了次第にアルトリアも撤退するというシンプルだが確実性のある内容だ。

 

囮チームはアルトリアとエミヤと遊戯。

 

救出チームは遊馬とアストラルとマシュ、呪腕のハサンと百貌のハサン。

 

二つのチームに分かれて行動を開始する。

 

「行きます……『約束された勝利の剣』!」

 

アルトリアは初っ端から約束された勝利の剣で軽めの極光のビームを放ち、砦の壁を壊した。

 

予想通り敵襲と砦の中にいる者達が騒ぎ出して騎士達が出てくる。

 

「オレも行くぜ。宝具『古代の決闘盤(ディアディアンク)』!」

 

遊戯は左手首に装着されている金色の腕輪を翼のように展開する。

 

それは古代エジプトにてファラオである遊戯と六人の神官団が所持していた古代のデュエルディスク。

 

石板に封じ込めている人の心から生まれた魔物を召喚して操ることが出来るアイテムである。

 

石板は既に存在せず、本来ならば使用することはできないが遊戯には現代の石板とも言えるデュエルモンスターズのカードを所持しているので、それを代用してディアディアンクの召喚術を使うことができる。

 

魔物(カー)召喚!『ブラック・マジシャン』!『青眼の白龍』!『真紅眼の黒竜』!」

 

ディアディアンクに魔術師と竜の絵が浮かび上がり、遊戯の前に3体のモンスターが同時に召喚される。

 

遊戯のエースモンスター『ブラック・マジシャン』。

 

海馬瀬人のエースモンスター『青眼の白龍』。

 

城之内克也のエースモンスター『真紅眼の黒竜』。

 

3人の持つ伝説のエースモンスターが一同に集結した。

 

「『ブラック・マジシャン』、ブラック・マジック!『青眼の白龍』、滅びのバースト・ストリーム!『真紅眼の黒竜』、黒炎弾!」

 

3体のモンスターの怒涛の連続攻撃が炸裂し、一応騎士達を殺さない程度に痛めつけていく。

 

「モンスターを同時に召喚する宝具か……マスターにはないとても強力な能力だな」

 

「ああ。だが、難点があってな。オレ自身の肉体と魂が大きなダメージを受けていると上手く魔物を召喚できない。それと、デュエルモンスターズのような魔法や罠を活用したコンボ攻撃が出来ないんだ」

 

「確かにマスターは様々な魔法や罠を使って強力な攻撃や防御を駆使していた。なるほど、君はモンスターを召喚する二つの宝具を用途や状況によって使い分けているのか」

 

「その通りだ。それにしても、エミヤはよく喋りながら矢を打てるな……」

 

「フッ、慣れているものでな……」

 

エミヤは遊戯とお喋りをしながら黒弓を構えて矢を次々と放ってアルトリアの援護をする。

 

しばらくすると、砦から威圧感のある顔立ちをした黒甲冑の男が現れた。

 

「……やはりあなたでしたか。アグラヴェイン」

 

アグラヴェイン。

 

円卓の騎士の一人で文官の事実上の最高責任者であり、アルトリアの補佐役でもある男。

 

そして、円卓随一の尋問官で巧みな拷問技術を持つ為、アルトリアは静謐のハサンの拷問にアグラヴェインが関わっていると推測していた。

 

「王よ……ガウェインから話を聞いた時は驚きましたが、まさか本当にあなたが現れるとは……」

 

「アグラヴェインよ。貴様らが何故獅子王に付き従い、外道に堕ちたのか……語ってもらうぞ!」

 

アルトリアは囮役ではあるが、部下であるアグラヴェインから真相を聞き出すために聖剣を振るう。

 

対するアグラヴェインは唇を強く噛み締めて自分を抑え込みながら剣を構えて黒い鎖を生み出してアルトリアと対峙した。

 

 

百貌のハサンの情報と呪腕のハサンの経験から牢屋は地下にあると判明し、遊馬たちはアルトリア達が囮になっている間に地下牢へと侵入する。

 

するとアストラルは地下牢からサーヴァントの気配を感じた。

 

「遊馬、サーヴァントの気配が二つ感じるぞ」

 

「え!?一つは静謐のハサンだよな。他に誰か捕まってるのか?」

 

「分からない。だが、より慎重に進んだ方がいい」

 

地下牢にいるのが静謐のハサンだけでないと知り、遊馬達は慎重に奥へ進んでいく。

 

アストラルが感じているサーヴァントの気配とフォウが見つけた隠し道の奥に牢屋があった。

 

そこには見張りがいたがサーヴァントでは無いので呪腕のハサンが瞬殺した。

 

「……む?おお、これはこれは、サーヴァントにもしや君がマスターかな?」

 

牢屋の中にいたサーヴァントは遊馬達に気付くと簡単に牢屋の鉄格子を破壊して出てきた。

 

「って、出れるのかよ!?」

 

「そりゃあ、いつでも出られたからな。寝たろうにも飽いた。そろそろ働き時とみた」

 

牢屋から出てきたのは左肩をはだけた朱色の着物を纏い、大きな米俵を軽々と担いだ豪快かつ爽やかな男だった。

 

「米俵……もしかして、あんたって日本人サーヴァント?」

 

「その通りだ。サーヴァント、アーチャー。真名を俵藤太と申す」

 

「俵藤太……そうか、君は平安時代に大百足を退治した武将、藤原秀郷だな」

 

俵藤太。

 

後に藤原秀郷と名乗り、三川山の大百足を退治した平安武将。

 

「ほう、精霊か。しかも清き力を感じるな。そして、お主がマスターだな?」

 

「九十九遊馬だ!同じ日本人同士、よろしくな!」

 

「おお!同じ日本人か!九十九遊馬、うむ名前に見合った元気な男子だ!」

 

藤太はすぐに遊馬を気に入り、その場ですぐに契約を交わして遊馬のサーヴァントとなった。

 

藤太はどこにも所属しないはぐれサーヴァントとして彷徨っていたところ、円卓の騎士の一人と遭遇し、魔力も少なくなっていたので早々に降伏して捕まっていたのだ。

 

藤太との思わぬ出会いがあったが遊馬達は目的の静謐のハサンの救出に向かう。

 

地下牢の最奥に進み、扉を打ち破るとそこには目を疑う光景があった。

 

床にこびり付いた血の跡、壁にかけられたいくつもの器具……そこはただの牢屋ではなく、いわゆる拷問部屋だった。

 

遊馬とマシュは気分が悪くなりながら奥の壁に鎖で繋がれた少女を見つけた。

 

百貌のハサンや呪腕のハサンと同じ髑髏の仮面を被っており、その少女こそ静謐のハサンなのだ。

 

「…………だれ?…………まだ、諦めてないの……?何をされようと、私は何も話さない。だから……早く、首を落として」

 

静謐のハサンは拷問を受けながらも情報を話さないように口を閉ざしていたのだ。

 

「互いに時間の無駄でしょう……?毒も痛みも、私を殺せないのだから」

 

「……いや、その必要はない。よくここまで耐えた、静謐の」

 

「もう大丈夫だ、助けに来たぞ」

 

「あなたは、東と西の村の……?」

 

静謐のハサンは仮面の奥で虚な瞳で見つめた。

 

遊馬とマシュは静謐のハサンを縛る鎖を破壊しようと近づくが、静謐のハサンは警戒した。

 

「……待って。待ちなさい。私に近寄らないで。貴方達は、本当に山の民なのですか……?」

 

「俺はカルデアのマスター、九十九遊馬だ。山の民じゃねえよ」

 

「私たちは貴方を助けに来ました」

 

「うむ、真実だ。静謐のハサンよ。故に警戒するな。吐息を漏らしてはいかんぞ。すまぬが、ユウマ殿、枷を外してやってくれ。あの鎖はどうもサーヴァントに対して良くない」

 

静謐のハサンを縛る鎖はどうやらサーヴァントに対して大きな力を発揮するものらしく、それ以外ならただの鎖らしい。

 

「わかった。静謐のハサン。今解放してやるぜ!」

 

遊馬は原初の火を抜き、燃える炎の刃で鎖を破壊していく。

 

無事に解放された静謐のハサンは立ち上がったが、拷問により心身共に限界で

 

「あっ、危ない、足がもつれて──」

 

「危ねえ!」

 

遊馬は咄嗟に静謐のハサンに駆け寄り、抱き留めるが、そのまま静謐のハサンに押し倒されるように遊馬も後ろに倒れてしまった。

 

その際に静謐のハサンの仮面が外れてしまい、そして……驚くべきことに遊馬と静謐のハサンの唇が重なってしまった。

 

倒れた弾みで唇が重なる……キスをしてしまった遊馬と静謐のハサンにマシュはピシッと石のように固まる。

 

アストラルは「またか……」と頭痛を感じたが、起き上がった静謐のハサンは体を震わせ、顔を真っ青にして口を開いた。

 

「……駄目。もう、この人は立ち上がれません……」

 

「──何だと!?どう言うことだ!?」

 

アストラルは声を荒げて静謐のハサンに駆け寄る。

 

「私の習得した『妄想毒身(ザバーニーヤ)』は、この身に触れた者の命を奪い取るもの、です。私の体は毒の体。肌も、粘膜も、体液の一滴に至るまで猛毒そのもの……」

 

「毒、だと……!?」

 

静謐のハサンは体を震わせながら頭を抱えて両目に涙を浮かべた。

 

「遥か昔の伝説に在る『毒の娘』を模して教団に作り上げれた私は、生きている毒の塊。普通の接触であれば即死はせずとも、今のは、その……唇……が……」

 

静謐のハサン。

 

歴代ハサン・サッバーハの一人であるが、その正体は伝説上の存在「毒の娘」を暗殺教団が再現し暗殺の道具、兵器として作り上げたもの。

 

静謐のハサンはその『毒の体』そのものが暗殺の武器であり、特に唇などの粘膜接触は強力で大抵の存在は絶命してしまう。

 

つまり、唇を重ねてしまった遊馬は静謐のハサンの毒を粘膜接触で受けてしまったのだ。

 

「……ごめんなさい。もう、この人は死にます。立ち上がることはできません。ごめん、なさい……助けに来てくれたのに、私、また、殺してしまった……」

 

助けてきてくれた遊馬を事故で唇を重ねてしまい、毒を与えてしまった。

 

生前のような取り返しのつかない事をしたと静謐のハサンは嘆き悲しむが……。

 

「──ウォオオオオオーッ!!!」

 

遊馬は腹の底から大声を吐き出して全身に力を込めた。

 

すると、遊馬の体が真紅に輝き、何事かと全員が驚く。

 

燃え上がる灼熱の炎のように遊馬の体が熱くなっていく。

 

そして、ゆっくりと真紅の光と熱が消えていくと……。

 

「……ふぅー、ちょっと苦しかったけど……俺、完全復活!よっと!」

 

遊馬は目を覚まして元気良く立ち上がり、その場で軽く準備運動をして見事なバク転を決めた。

 

「……っ!?うそ、起き上がって……え……何、が……どうして……?」

 

静謐のハサンは自分の毒で死ななかった遊馬に目を見開いて信じられないと言った表情を浮かべた。

 

「へへっ……いやー、流石に危なかったけど、俺の仲間曰く!デュエリストとしての生存本能が、免疫系を活性化し熱く燃え盛る抗体が血中の毒を焼き尽くしたのだ!ってね!」

 

以前カイトが敵デュエリストの卑劣な罠で毒を投与された際、死にかけたカイトは今遊馬がやったのと同じようにデュエリストの生存本能で毒を焼き尽くして見事に復活したのだ。

 

そして、遊馬の体には静謐のハサンの毒への抗体が出来ているので毒で苦しむことはない。

 

「カイトのお陰か……やはり彼には何度も救われるな」

 

「す、凄いです……毒を焼き尽くすなんて……デュエリストとは人類を超えていますね」

 

「フォ、フォウ(そ、そんな馬鹿な)……」

 

「あり得ない……静謐の毒をあっという間に打ち消すとは……」

 

「呪腕よ、よく覚えておくと良い。うちのマスターはサーヴァントに匹敵するほど規格外過ぎる人間だ……」

 

「はっはっは!なんと精悍な童だ!ますます気に入ったよ!」

 

アストラル達は遊馬が毒を克服したことに驚きと呆れと感嘆を見せていた。

 

「……はい?生存、本能……?毒を焼き尽くす……?」

 

今まで自分の毒で多くの人間を毒殺してきたが、毒を受けて復活した人間はいなかったので静謐のハサンは困惑していた。

 

「あの……本当に、大丈夫……なんですか?貴方は……私に、触れても……?」

 

「とりあえず、あんたの毒の抗体を作ったからもう大丈夫だぜ。だから泣かなくても良いって」

 

遊馬はニッと笑みを浮かべて困惑した静謐のハサンの頭を撫でた。

 

静謐のハサンは爪、肌、体液、そして吐息さえも毒で構成されており、全身が宝具と化している。

 

そんな静謐のハサンに触れても遊馬は何ともない……それは奇跡に近い出来事だった。

 

「あっ……」

 

その瞬間、静謐のハサンの中で何かが芽生え、同時に安心して緊張の糸が切れて遊馬に倒れ込んでしまった。

 

「おっと……っ!?よく見たら酷え傷じゃねえか。あ、そうだ!こいつを使って……」

 

遊馬は静謐のハサンを今度は両手で受け止めると体中に刻まれた夥しい拷問の傷に怒りを覚えながら自分の胸に手を置く。

 

胸元が金色に輝くと中から聖杯が出て来る。

 

「何と!?それは聖杯!?」

 

呪腕のハサンは遊馬が聖杯所有者だと知り驚いた。

 

遊馬は聖杯に念じると、聖杯から水が生まれ、やがて杯いっぱいの水が出来た。

 

「静謐、聖杯の水だ。ゆっくり飲むんだ」

 

静謐のハサンは朧げな意識の中で遊馬に促され、聖杯の縁に口をつけてゆっくりと水を飲んでいく。

 

聖杯の水を飲んだ静謐のハサンの体に光の粒子が纏うと体中に刻まれた拷問の傷が瞬時に治った。

 

「よし!これでひとまずは大丈夫だな!」

 

遊馬は聖杯を自分の中に戻してそのまま静謐のハサンを抱き上げた。

 

「あの……私……」

 

「大丈夫だ。すぐにここから脱出して西の村に戻る。俺たちに任せろ」

 

「その……ありが、とう……ございます……」

 

「おう!」

 

安心しきったのか静謐のハサンは既に心身ともに限界だったので意識を失い、そのまま遊馬が抱き上げたまま運ぶことになった。

 

毒に対して耐性を持っているマシュが代わりに運ぼうと思ったが、よほど遊馬の事を信頼しているのか静謐のハサンは小さな手で遊馬の服を強く握っているので目覚めるまで離すことはできない。

 

わずか数分で静謐のハサンをここまで信頼させるとは思いもよらず、マシュは頬を膨らませて少し嫉妬をし、それをアストラルとフォウは苦笑を浮かべながら見守るのだった。

 

 

地下牢から脱出した遊馬達はかっとび遊馬号に乗り、前線で囮になっているアルトリア達に連絡を取る。

 

エミヤに渡してあったD・ゲイザーに連絡が入り、エミヤはアルトリアの名を呼んでアイコンタクトを取る。

 

「アルトリア!」

 

「シロウ……分かりました!」

 

アルトリアは剣を交えているアグラヴェインを弾き返す。

 

アルトリアはアグラヴェインを睨みつけて約束された勝利の剣の切っ先を向けながら堂々と宣言する。

 

「アグラヴェイン!あなた達と獅子王が何をしようとしているのかは知りません。しかし、私はこの世界の未来を取り戻す為に戦います!マスターと仲間達と共に!!」

 

その直後、遊戯は召喚した青眼の白龍と真紅眼の黒竜に命令を出し、遊戯は真紅眼の黒竜の背中に乗って空を飛ぶ。

 

「アルトリア!エミヤ!ブルーアイズの背中に乗れ!!」

 

青眼の白龍は翼を広げて滑空し、アルトリアとエミヤが背中に乗ると勢い良く空を飛んで砦から脱出する。

 

「我が、王……?」

 

アグラヴェインは生前では見られなかったアルトリアの美しく勇ましい姿に本当に自分が知っているアルトリアと同一人物なのかと目を疑ってしまうほどだった。

 

 

遊馬達は西の村に戻ると、それから間もなく遊戯達も無事に戻った。

 

静謐のハサンは目を覚ますとすぐに遊馬の前で跪いた。

 

「こんな私を助けてくれて、ありがとうございます……」

 

「ああ。静謐、もう体は大丈夫か?」

 

「お陰で快調です。その、あまり役に立てませんが……私の身を貴方に捧げます」

 

「それって、俺と契約してくれるって事か?」

 

「は、はい……」

 

「ありがとう!よろしくな、静謐!」

 

遊馬は笑顔で静謐のハサンの右手を握った。

 

静謐のハサンは自分に触れられる遊馬に心から感動し、静謐のハサンは空いている左手で遊馬の手を重ねてその熱を感じながらフェイトナンバーズのカードが誕生した。

 

静謐のハサンのフェイトナンバーズはすぐに覚醒した。

 

イラストは黒と紫の美しい毒の花に囲まれてナイフを構えた静謐のハサンの姿が描かれており、真名は『FNo.30 静謐のハサン』。

 

「よろしくお願いします、マスター」

 

静謐のハサンはまるで願いが叶ったかのように涙を浮かべて笑みを浮かべた。

 

 

 




早速静謐のハサンが遊馬君に攻略されちゃいましたね(笑)
デュエリストの生存本能で毒を焼き尽くしたってネタはZEXALでやりましたが、とんでもないですよね。

遊馬君の声優の畠中佑さんと静謐のハサンの千本木彩花さんが夫婦なんですよね。
この小説が始まった頃はまだお二人は結婚してなかったのでかなり驚きました。
まあ、キャラ的にも遊馬君と静謐のハサンはかなり合うのでこれも運命かもしれませんね。


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ナンバーズ185 滅ぼす光と守護の風

大変お待たせしました。
色々ありまして更新が遅れて申し訳ありません。



静謐のハサンの救出作戦が無事に成功し、西の村に帰還した遊馬達。

 

これからの事について話し合ったり準備する中、美遊はクラスカード『アサシン』を見つめながら呟いた。

 

「やっぱり、私のアサシンの夢幻召喚のハサンは……」

 

クラスカード『アサシン』の夢幻召喚はハサン・サッバーハの力が宿っており、使用者によって異なるハサン・サッバーハの力を使う。

 

ちなみにイリヤは『百貌のハサン』をその身に召喚出来る。

 

分身はあまり作れず、そこまで強力ではないが、緊急回避に役立てている。

 

そして、美遊が夢幻召喚出来るハサン・サッバーハは……。

 

「毒の娘……静謐のハサン。一度話をしなくちゃ」

 

美遊は夢幻召喚で静謐のハサンをその身に召喚出来る。

 

クラスカードや夢幻召喚のことを一度ちゃんと話さなければと思い、美遊は意を決して話しかけようとしたが……。

 

「は、話せない……タイミングが……」

 

「美遊様、これはとても話せる様子ではありませんね」

 

「静謐のハサンさん……遊馬さんにべったり……」

 

「見てるこっちが恥ずかしくなりますね〜」

 

「ベタ惚れね。静謐のハサンからラブラブオーラが出まくってるわね」

 

静謐のハサンはラブラブオーラを出しながら遊馬に張り付くようにべったりとそばに居て、毒を放出してしまう体質も相まってとてもじゃないが近寄れなかった。

 

静謐のハサンは毒の娘である自分に触れても大丈夫で、事故で命を奪いかけても何の責めもしなかった遊馬にベタ惚れなのだ。

 

一方遊馬は静謐のハサンが生前から毒の体質で誰とも触れ合えないことを苦しんでいたことを知り、少し恥ずかしいが静謐のハサンの心を癒せればと側にいることを許している。

 

ちなみに……マシュも静謐のハサンの苦しみを知り、我慢しているのだが嫉妬心がどんどん高まってフォウとダ・ヴィンチちゃんは苦笑いを浮かべた。

 

仕方ないので美遊は静謐のハサンと話せるタイミングを待つのだった。

 

 

今後の戦闘や村人の安全などの話し合いが難航し、日が沈む頃……事態が突如として急変する。

 

アストラルはこちらに近づくサーヴァントの気配に気付く。

 

「遊馬、サーヴァントの気配だ!これは……サーヴァントが二人もいるぞ!」

 

「円卓の騎士か!?」

 

「恐らくは……ハサン達よ!村人を避難させることはできるか!?」

 

アストラルはハサン達に村人を戦闘に巻き込ませないように避難できる場所がないか確認する。

 

「それなら、もしもの時の避難用の洞窟があります」

 

避難用の洞窟があると知り、遊馬はすぐにサーヴァント達に指示を出す。

 

「ハサン達は村人の避難と護衛を頼む!俺たちは敵を迎え撃つ!アーチャークラスは高台から見張りと弓矢の遠距離攻撃を頼む!」

 

遊馬の指示に特に問題点は無く、サーヴァント達は頷いて行動に移る。

 

ハサン達は一斉に動いて村人達に説明して避難を開始し、アーチャークラスであるエミヤとクロエ、アーラシュと藤太の四人は高台に移動していつでも矢を打てるように準備する。

 

そして……最前線には二人の偉大なる騎士王が並び立つ。

 

アルトリアと連絡を受けてかっとび遊馬号から降りて来たオルタ……二人は来るであろう円卓の騎士が来るのを堂々と待ち構えていた。

 

獅子王のギフトを断ち切る事ができるベディヴィエールはまだ宝具のダメージを抑える魔術礼装が完成してないので、もしもの時まで力を温存している。

 

それからしばらく時間が経ち、大勢の騎士達を引き連れて遂に現れた。

 

「貴様達か……」

 

「まさか、ガヴェインとアグラヴェインだけでなく貴様達も獅子王に仕えていたとはな……」

 

アルトリアとオルタは聖剣を強く握り締めながらギロリと睨みつけた。

 

「我が王よ……こんな形で再会することになるとは……」

 

「嗚呼……悲しい。敬愛する騎士王と敵対しなければならないとは……」

 

現れたのは白銀の甲冑を纏った紫髪に紫眼の騎士と悲哀に満ち、憂いを帯びた吟遊詩人のような赤い長髪の美青年。

 

円卓最強と謳われ、湖の騎士の異名を持つ『ランスロット』。

 

円卓随一の弓手であり、悲しみの子の異名を持つ『トリスタン』。

 

「ランスロット、トリスタン。貴様達は私達を葬りに来たのか?」

 

「……獅子王様のご命令です」

 

「そして、獅子王様に歯向かう村人全てを始末する為です」

 

ランスロットとトリスタンの言葉にアルトリアとオルタは怒りに震えながら聖剣を構える。

 

「聖都で虐殺したガヴェインだけでなく、貴様達も外道に堕ちたか……」

 

「特にトリスタン、貴様は救いようのないほどにな……容赦はしないぞ」

 

「申し訳ございません。これは……獅子王様の望む世界のため……!」

 

「嗚呼、悲しい……騎士王に刃を向けなければならない日が来るとは……!」

 

もはや言葉は不要と言わんばかりに四人の騎士達は同時に動いて激しい戦闘を開始した。

 

それに伴い、ランスロットとトリスタンが引き連れてきた騎士達は村人を始末する為に一斉に走り出したが、それと同時に数多の矢と魔力砲撃が襲いかかる。

 

エミヤとクロエ、アーラシュと藤太が次々と放つ矢で騎士達は貫かれ、更には高威力の魔力砲撃をイリヤと美遊が放っていく。

 

そして、それを免れて突撃した騎士はマシュとダ・ヴィンチちゃんと三蔵が蹴散らしていく。

 

作戦通りに戦いが進む中、突如空に黒雲が広がり、邪悪な力の波動が鼓動する。

 

「この邪悪な気配は……まさか!?」

 

遊戯の心を騒めく邪悪な気配に心当たりがあった。

 

上空の空間が歪み、黒雲の中から現れたのは巨大な翡翠の土偶の形をしたモンスターだった。

 

「馬鹿な……『オレイカルコス・シュノロス』だと!?」

 

オレイカルコス・シュノロス。

 

かつて世界を滅ぼそうとした秘密結社『ドーマ』の長『ダーツ』が操るモンスターである。

 

遊戯は『伝説の決闘王』をすぐに発動するが、内心とてつもなく焦っていた。

 

ダーツは海馬とのタッグで挑み、極限状態でようやく勝利を得る事が出来た。

 

今の遊戯ならオレイカルコス・シュノロスを倒すことは可能だが、問題なのはオレイカルコス・シュノロスを倒した後に現れるモンスターである。

 

そのモンスターは『三幻神』に匹敵する強大な力を持つ『神』である。

 

その『神』を倒す手段も勿論あるが、この西の村の前で『神』が召喚されれば力を持たない村人達に多大な悪影響を及ぼす可能性がある為、遊戯は下手に戦うことはできなかった。

 

遊戯はみんなの安全を第一に考えて今回は守りに徹した戦いをすることに決めた。

 

「遊馬!アストラル!今ここでこのモンスターを倒すわけにはいかない!オレが全力でこのモンスターを抑え込む。みんなのことを頼む!」

 

「遊戯さん!任せてください!」

 

「私達でみんなを守り抜く!」

 

遊馬とアストラルは事情は後で聞くことにして、信頼する遊戯の想いに全力で応えるためにその場を離れてオレイカルコス・シュノロスを引きつけた。

 

オレイカルコス・シュノロスは遊戯を追いかけていき、村から少し離れた場所で遊戯は立ち止まってデュエルディスクを構える。

 

遊戯はあの時の辛い戦いを思い出しながらデッキからカードをドローする。

 

 

一方、アルトリアとオルタ、ランスロットとトリスタンは壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

ランスロットとトリスタンの騎士としての実力が高いのに加えて獅子王から授かったギフトでとてつもない力を発揮していた。

 

アルトリアとオルタが押されそうになったその時、闇夜を照らす赤雷がランスロットとトリスタンに襲いかかった。

 

「この赤雷は!?」

 

「まさか……!?」

 

ランスロットとトリスタンはギリギリ赤雷を回避し、生意気な声が闇夜を穿つように轟く。

 

「おうおうおう!このオレ以外に敬愛すべき父上に刃を向けるとは、テメェらはそこまで堕ちたようだな!!」

 

その生意気な声にアルトリアは無意識にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「全く……遅いですよ、寝坊助ですね!」

 

振り向いた先にいたのは獅子王の呪縛から解き放たれ、完全復活を果たしたモードレッドとガレスの二人だった。

 

「おう!待たせたな、父上達!赤雷の騎士、モードレッド!ここに復活だ!!」

 

「円卓第七席、白い手(ボーメイン)、ガレス!同じく復活です!」

 

ガレスは軽やかに飛んでアルトリアの前に降りてからすぐに跪き、騎士の誓いを立てる。

 

「アーサー陛下。モードレッド卿から話はあらかた聞いております。今よりあなた様に再び仕え、この槍を捧げます」

 

「ガレス卿……あなたが共に戦ってくれるとは心強い、まずはここを乗り切ってからゆっくり話しましょう」

 

「はいっ!」

 

ガレスはアルトリアからそう言葉をかけられ、花が咲くように嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「ガレス、トリスタンはオレが相手する。ランスロットの野郎はお前がやれ」

 

「分かりました。でも、お姉ちゃんにあまり生意気な口調はやめて下さいね」

 

「ヘイヘイ、わーったよ。それじゃあ……行くぜ、トリスタン!!」

 

「ランスロット様、参ります!!」

 

治療と回復を受けて全快となったモードレッドとガレスは最初から全力でランスロットとトリスタンに攻撃する。

 

一気に形成逆転となり、これ以上の戦力差は不味いと判断したランスロットとトリスタンは宝具を解放しようとしたその時、漆黒の暴風が吹き荒れて二人を吹き飛ばした。

 

「くうっ!?今度は何事だ!?」

 

「なっ……あ、あれは、そんな馬鹿な……!?」

 

ランスロットとトリスタンは新たに現れた存在に目を疑った。

 

何故ならそれは獅子王と相反する存在だからだ。

 

「我は嵐の王……ランサー・アルトリア・オルタ。ランスロット、トリスタン、貴様らに裁きを下す!」

 

漆黒の聖槍を持つ騎士王、ランサー・アルトリア・オルタが降臨した。

 

「おお、来たな。もう一人の聖槍の父上……!」

 

「え、ええーっ!?アーサー陛下が更にもう一人!?しかも獅子王様と同じ聖槍を所持しているのですか!?」

 

ガレスは獅子王と同じ『聖槍』を持つランサー・アルトリア・オルタの登場に驚愕と同時に困惑している。

 

これにはガレスのみならずランスロットとトリスタン、そしてベディヴィエールも驚愕している。

 

性質や姿が異なっても同じ『アーサー王』が複数存在すれば誰だって驚愕するのは当たり前のことだ。

 

外道に堕ちた円卓の騎士達と同じ聖槍を持つ獅子王の振る舞いに遂に我慢の限界となり、ランサー・アルトリア・オルタも参戦を決めたのだ。

 

「諦めなさい、ランスロット、トリスタン。いくら獅子王のギフトで力を得ても、貴方達に勝ち目はありません!」

 

アルトリアはそう宣告し、ランスロットとトリスタンはかなり焦った。

 

引き連れた騎士達はいつのまにかほぼ全滅し、三人のアルトリアに復活したモードレッドとガレス、そしてベディヴィエールも後ろに控えている。

 

圧倒的な戦力差にランスロットとトリスタンの敗北は免れない状況だった。

 

これで獅子王側の円卓の騎士を二人を倒す事ができる……そう確信した遊馬達。

 

すると、暗い夜空が急に明るくなり、遊馬達が見上げるとそこには驚くべきものが現れた。

 

それは……空から降り落ちるように現れたのは巨大な光の塊だった。

 

とてつもないエネルギーであれを受ければここにいる敵味方関係なしに消滅するだろう。

 

「あの光は……まさか……『最果てに輝ける槍』!?」

 

アルトリアはあの光が宝具『最果てに輝ける槍』によって放たれたものだとすぐに分かった。

 

これまでこの広大な荒地のあちこちに複数のクレーターがあったが、それら全てが『最果てに輝ける槍』の光だったのだ。

 

獅子王はここにランスロットとトリスタンがいるにも関わらず、遊馬達を葬る為に聖都から『最果てに輝ける槍』を放ったのだ。

 

「聖剣の騎士王達、ここは頼む!」

 

ランサー・アルトリア・オルタはラムレイを操ってその場から離れ、光の真下に着くと宝具を解放する。

 

「突き立て、喰らえ、十三の牙!!」

 

渦巻く漆黒の長槍の穂先が高速回転し、その回転に風王結界を纏わせ、聖槍の力で極限まで増幅する。

 

「『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』!!!」

 

漆黒の竜巻を天に向かって解き放つ。

 

ランサー・アルトリア・オルタが放てる全力の最果てに輝ける槍の漆黒の竜巻が天の光と激突する。

 

天の光と漆黒の竜巻が激突した際に無数の衝撃波が発生し、あまりの威力に西の村の民家を破壊してしまうほどだった。

 

拮抗するかに見えた二つの大きな力だが、やがて天の光が徐々に漆黒の竜巻を呑み込んでいった。

 

ありえない事態にランサー・アルトリア・オルタは目を疑った。

 

「ば、馬鹿な!?くっ!?私の『最果てに輝ける槍』が押されている!?同じ聖槍のはずなのに、何が起きている!??」

 

ランサー・アルトリア・オルタは獅子王が持つ宝具が性質は異なるが同じ『最果てに輝ける槍』だと判明し、自分の『最果てに輝ける槍』で天の光を相殺させようとした。

 

ところが相殺させるどころか逆に押されてランサー・アルトリア・オルタは焦りと困惑の表情を浮かべた。

 

このままでは全滅する……そんな最悪な未来が頭によぎった。

 

その時、希望と未来の光がランサー・アルトリア・オルタの隣に並び立つ。

 

「諦めるな、アルトリア!」

 

「我々があの光の威力を抑え込む!」

 

「アルトリアさんはそのまま攻撃し続けて下さい!」

 

「マスター、アストラル、マシュ……!」

 

遊馬とアストラルとマシュはみんなを守る為に獅子王の天の光に全力で立ち向かう。

 

「行くぜ!アストラル!マシュ!」

 

「ああ!かっとビングだ!」

 

「はい!かっとビングです、私!」

 

マシュをフェイトナンバーズに入れ、遊馬とアストラルは互いの右腕を『X』に交差させる。

 

「俺と!」

 

「私で!」

 

「「オーバーレイ!!」」

 

遊馬とアストラルは赤と青の光となって絡み合い、一つに交わって合体する。

 

「「エクシーズ・チェンジ!!ZEXAL II!!」」

 

奇跡の希望の英雄・ZEXAL IIが降臨し、その強大な力の波動にオレイカルコス・シュノロスと戦っていた遊戯は全身が大きく震えた。

 

「なんだ……この力は!?この気配は遊馬とアストラル!?二人に何が起きているんだ!?」

 

遊戯が戦ってきた歴戦のデュエリスト達を凌駕するほどの力に喜びと驚きを隠せなかった。

 

「「俺/私のターン!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!!」

 

ZEXAL IIはシャイニング・ドローでカードを創造してドローし、手札のカードを見て瞬時に頭の中で展開を考えて発動させる。

 

「「『ガガガマジシャン』を召喚!更に『カゲトカゲ』を手札から特殊召喚!レベル4のモンスター2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!」」

 

2体のモンスターが地面に吸い込まれ、光の爆発を起こす。

 

「「現れよ、『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!更にマシュを対象に『RUM - リミテッド・フェイト・フォース』を発動!!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」」

 

フェイトナンバーズのマシュが召喚されたと同時にランクアップ・マジックを発動し、マシュの最強の姿へと進化させる。

 

「現れよ!『FNo.0 希望の守護者 マシュ・ホープライト』!!」

 

「マシュ・ホープライトの効果!このカードが特殊召喚されたターンに1度、エクストラデッキから『希望皇ホープ』モンスター、または『未来皇ホープ』モンスター1体をX召喚扱いで特殊召喚する!」

 

「フューチャーホープサークル、展開!!」

 

マシュが両腕を左右に開くと足元に希望皇ホープか未来皇ホープを呼び出す金色の魔法陣が展開される。

 

「現れろ!『No.39 希望皇ホープ』!そして、特殊召喚したホープに自分の手札・墓地のモンスター2体までを選択してそのモンスターをオーバーレイ・ユニットにする!手札のモンスター2枚をオーバーレイ・ユニットにする!」

 

魔法陣の中から希望皇ホープが飛び出すように現れ、手札のモンスター2枚を希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットにし、ZEXAL IIは早速希望皇ホープに指示を出す。

 

「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!ムーン・バリア!!」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを胸の宝玉に取り込みながら右翼を半月の形に変形させて光の柱に突撃する。

 

これまで数々の戦いであらゆるモンスター、サーヴァントの攻撃を防いできた希望皇ホープのムーン・バリア。

 

だが、そのムーン・バリアでも天の光の攻撃を防ぎ切ることができずにいた。

 

「遊馬君!アストラルさん!」

 

「「マシュ・ホープライトの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!ムーン・バリア!!」」

 

マシュは盾にオーバーレイ・ユニットを取り込み、希望皇ホープと同じように左翼を半月の形に変形させ、盾を前に構えながら光の柱に突撃する。

 

希望皇ホープとマシュの二人がかりで獅子王の『最果てに輝ける槍』を全力で喰い止める。

 

「「うぉおおおおおーっ!!!」」

 

「はぁあああああーっ!!!」

 

ZEXAL IIとマシュは腹の底から声を出して力を込める。

 

みんなを必ず守る……そんな強い想いが大きな力となり、希望皇ホープの真紅の瞳が輝いて天の光を押し返していく。

 

「今だ!アルトリア!令呪行くぞ!」

 

「光を獅子王に送り返してやるんだ!!!」

 

「承知!!この身を賭して、必ず成し遂げる!!!」

 

ZEXAL IIの右手の甲に刻まれた令呪の一画を使い、ランサー・アルトリア・オルタの力を最高潮に高める。

 

「「令呪によって命ずる!!漆黒の聖槍よ、人々に仇なす天の光を撃ち抜け!!!」」

 

令呪によりランサー・アルトリア・オルタの魔力が爆発的に増幅し、溢れんばかりの力が全身に駆け巡る。

 

それに伴い、漆黒の聖槍から黒い雷電が迸り、回転が更に増して巻き起こす風が強くなっていく。

 

「もう一度、行くぞ……!」

 

ランサー・アルトリア・オルタは全ての力を込めて漆黒の聖槍の力を再び解放する。

 

「喰らえ……最果てに輝ける槍!!!貫けぇえええええーっ!!」

 

漆黒の竜巻は威力を倍増し、ドリルのように一直線に放たれた竜巻は更に巨大化し、うねり曲がって飛ぶ龍のように放たれた。

 

まるで全てを喰らうように漆黒の竜巻は天の光を打ち消していき、光を防いでいたマシュと希望皇ホープはその場から脱出した。

 

そして……漆黒の竜巻は光を喰らいながら天を貫いた。

 

それは、獅子王の聖槍に打ち勝ったことを意味する。

 

それを間近で見たZEXAL IIとマシュは勝利に喜んだ。

 

「やったな!アルトリア!」

 

「これでみんな救われた!」

 

「お見事です、アルトリアさん!……アルトリアさん!?」

 

マシュはランサー・アルトリア・オルタの異変に気付き、すぐに地面に降り立って駆け寄った。

 

ZEXAL IIも地面に降りて駆け寄ると、ランサー・アルトリア・オルタは漆黒の聖槍を地面に落とし、左手で右腕を強く押さえながら痛みに耐えていた。

 

「申し訳ありません……しばらくはこの腕が使い物になりそうにありません……」

 

ランサー・アルトリア・オルタの右腕は血だらけになっていた。

 

右腕全体の皮膚がボロボロで、筋肉や骨もまともに動かせないほどに重症だった。

 

「アルトリア、お前……!」

 

「聖槍と令呪で限界を超えた力を使ってしまったのか……」

 

「す、すぐに治療をしないと!ナイチンゲールさん達に連絡を!!」

 

マシュはD・ゲイザーでナイチンゲール達に連絡をし、ZEXAL IIは次に来るかもしれない攻撃に希望皇ホープと共に警戒する。

 

ランサー・アルトリア・オルタの辛勝を見届けたアルトリア達は次は自分達の番だとランスロットとトリスタンに再び対峙したが……。

 

「っ!?ランスロットとトリスタンが……」

 

「あっ!?あの野郎ども、逃げやがった!ちくしょうが!!」

 

ランスロットとトリスタンはこの場にいるほとんどの人間が天の光に引きつけられている間に西の村から完全に撤退していた。

 

二人が撤退し、決着をつけようと思っていたモードレッドは苛立ちから燦然と輝く王剣を振り回して赤雷を出しまくった。

 

アルトリアはとりあえずモードレッドを拳骨を叩き込んで黙らせ、ひとまずは脅威が去った西の村を見渡した。

 

幸いにも村人達には犠牲者はいないが、住居などの建物がほとんど壊れてしまい、これでは生活することはできない。

 

恐らくは一時的に東の村に避難という形で移住することになるだろうが、色々と問題が起きることは容易に想像ができる。

 

「早く、獅子王と決着をつけなければ……」

 

アルトリアは味方である円卓の騎士すらも巻き込んで滅ぼそうとする獅子王に対して怒りと焦りの心を持つのだった。

 

一方、オレイカルコス・シュノロスに対して防戦に徹していた遊戯。

 

獅子王の聖槍の脅威が去り、円卓の騎士の気配も消え、遊戯は防戦から攻戦に移ろうとした。

 

ところが、オレイカルコス・シュノロスは遊戯への攻撃を止め、その身が闇に包まれると次の瞬間には霧のように消えてしまった。

 

「消えた……何故撤退したんだ……?」

 

遊戯はオレイカルコス・シュノロスが撤退した理由が分からず困惑した。

 

その場に座り込んだ遊戯はデュエルディスクからデッキを抜き、その中の1枚のカードを手に取る。

 

更に千年パズルを輝かせて新たな3枚のカードを手に取り、合計4枚のカードを見つめながら遊戯は呟く。

 

「オレイカルコスも出てきた……お前達の真の力を借りなければならないな」

 

それはオレイカルコスの力に対抗できるデュエルモンスターズ界の伝説の三体の竜。

 

そして、伝説の三体の竜に宿る真の力を呼び覚ますカード。

 

「戦いは更に厳しくなるな……気を引き締めていかないと……」

 

遊戯は大邪神ゾークの前に立ち塞がる過去の強大な敵達に僅かな不安と恐れを抱きながら遊馬達の元へ戻る。

 

 

その頃……聖都の中央に聳え立つ王城。

 

その玉座に消耗した体で座り込む者がいた。

 

それは聖都を支配する獅子王……聖槍を持つアルトリアだった。

 

「まさか……私の聖槍を打ち消すとは……しかも、私に反撃を加えるか……」

 

獅子王の右手には軽度ではあるが怪我をしており、それはランサー・アルトリア・オルタの令呪によって強化された最果てに輝ける槍によって受けた傷だった。

 

「邪魔者と私に従わぬ者……そして、邪神の配下を消そうとしたのだが、まさかここまでとはな……」

 

獅子王は遊馬達だけでなくオレイカルコス・シュノロスも消す為に最果てに輝ける槍を放ったのだ。

 

獅子王も大邪神ゾークの存在に気付いて密かに動いていたのだ。

 

「この聖都を……滅ぼすわけにはいかない。エジプトと山の民と異邦者達ならまだしも、邪神が相手では身に余る……さて、どうするか……」

 

己が宿願を果たす為、大邪神を相手にするにはどうしたら良いか……獅子王はそれを考えながら静かに目を閉じた。

 

 

 




本来ならアーラシュがステラで消滅しますが、今回はランサー・アルトリア・オルタが頑張りました。

次回は……多分じぃじの登場になると思います。


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ナンバーズ186 山の翁 ハサン・サッバーハ

大変長らくお待たせしました。
スランプで中々書けなくて本当に申し訳ありません。


円卓の騎士達の侵略と獅子王の滅びの光から西の村の村人達を守り切った遊馬達。

 

しかし、西の村は住居はほぼ全て壊れて村としては壊滅状態で住める状態ではないので一時避難として東の村に移り住むことになった。

 

かっとび遊馬号とS・H・Ark Knightで村人達を東の村に運び、住居はなんとかなるが問題はやはり食料である。

 

ただでさえ東の村の食料はギリギリなので西の村の村人を養う余裕がない。

 

最悪カルデアから食料を運ぶと悩んでいると、藤太が自信満々に前に出た。

 

「マスターよ、ここは拙者に任せてくれ」

 

「藤太?」

 

藤太がいつも担いでいる米俵が光り輝き、更には大きな鍋も出現した。

 

「悪虫退治に工夫を凝らし、三上山を往来すれば汲めども汲めども尽きぬ幸──お山を七巻き、まだ足りぬ。お山を鉢巻、なんのその。どうせ食うならお山を渦巻き、龍神さまの太っ腹、釜を開ければ大漁満席!さあ、行くぞぅ!対宴宝具──美味いお米、海の幸、山の幸がどーん、どーん!」

 

次の瞬間、米俵から溢れんばかりの米が滝のように大量に出現する。

 

更には大きな鍋から魚や貝、きのこや山菜など山海の珍味も同様に大量に出現する。

 

その異様すぎる光景にマシュ達は唖然とし、遊馬とアストラルは頭を抱えて絶叫した。

 

「うわぁーっ!?なんだこの大量の米は!?しかもツヤツヤで大粒の米だ!?それにこの山と海の幸はどれも新鮮で美味そうだぜ!?」

 

「なんと言うことだ……これはまさか、俵藤太がかつて大百足を討ち果たした功績で三上山に住まう龍神たちから授かった巨大な米俵と山海の珍味がいくらでも湧いてくる鍋か!?」

 

これこそが俵藤太の対宴宝具『無尽俵』。

 

美味しいお米がどんどん出てくる半永久的食糧自給能力。

 

ちなみにこの宝具には「山海の珍味がいくらでも湧いてくる鍋」も纏められているので、海の幸も山の幸も自由自在に出せる。

 

「一度使うと回復までに少し時間がかかるが、とりあえずはこれだけあれば皆の飢えを凌げるだろう」

 

「すげぇぜ、藤太!こんな宝具初めてだぜ!」

 

「喜んでもらえて何よりだ。だが、あいにく料理の方は不得手でな。料理できる者がいれば……」

 

「大丈夫だ、それなら問題ないぜ」

 

文字通りの山盛りの食料に目を輝かせる者がいた。

 

「す、素晴らしい……このような宝具が存在していたとは……シロウ!これはどれも見事な食材ですよ!是非とも調理をお願いします!」

 

アルトリアは涎が出そうになるのを我慢しながらエミヤに調理を頼んだ。

 

「ああ、もちろんだ……私もこれほどの食料を目の前にして興奮を抑えきれないな」

 

「エミヤさん、私もお手伝いします」

 

「ありがとう、美遊君。では、料理人の戦場を用意しよう……トレース・オン!!」

 

エミヤは投影魔術を使い、剣や弓……ではなく、外で調理できる屋外キッチンを投影した。

 

コンロやシンク、さまざまな種類の包丁やフライパンや鍋……これだけ調理器具が揃っていれば屋外でも充分な調理が出来る。

 

エミヤは更に投影魔術で小さなエプロンを投影して美遊に差し出しながら不敵の笑みを浮かべる。

 

「さあ、美遊君。今からここは料理人の戦場となる──ついて来れるか?」

 

エミヤから挑発や挑戦のように聞こえる言葉に美遊はエプロンを受け取り、軽やかに着けて堂々と宣言する。

 

「ついて来れるか、ではありません……エーデルフェルトのメイドの名にかけて、追い抜いて見せます。エミヤさんこそ、ついて来てください!」

 

美遊はキッチンの前に立ってすぐに調理を開始する。

 

「フッ……それでそこ、あの男の妹だな……」

 

エミヤはキッチンに立つ美遊の後ろ姿を見てそう呟き、前掛けを投影して着ける。

 

そして……エミヤと美遊のカルデア最高クラスの料理人による野外調理が始まる。

 

片や料理に携わるプロのシェフ100人とメル友になるほどの料理人。

 

片や魔法の如き謎の技術で短時間で絶品料理を繰り出す現役小学生メイド。

 

二人はあっという間に次々と料理を完成させていき、それをまず村人達に提供していく。

 

村人達は見たことない料理に最初は戸惑ったが美味しそうな香りに我慢できずに恐る恐る食べていく。

 

そして、料理を口にした瞬間にそのあまりの美味しさに笑みが溢れるのだった。

 

それを皮切りにどんどん料理を食べて腹を満たしていき、腹が膨れていく。

 

村人達の次は遊馬やマシュ、そしてサーヴァント達であり、同じように絶品料理に笑みが溢れていくとやがて村は宴会へと早変わりした。

 

対宴宝具『無尽俵』には米から作られた日本酒も出てくるので、大人達は日本酒を飲んで大騒ぎだった。

 

そして……カルデア一番の大食らいと言っても過言ではないアルトリアはその細身の体では考えられないほどのスピードで料理を平らげていく。

 

「騎士王よ、なかなかの健啖ぶりだな!そら、どんどん食うがいい! 無限にあるからな、白米は!」

 

「はい!こんなにも美味しいお米は初めてです!トウタ、あなたの宝具は最高です!ありがとうございます!」

 

藤太は幸せそうに食べるアルトリアを気に入り、アルトリアも夢のような素晴らしい宝具を使う藤太に感謝した。

 

一方、そんなアルトリアを見て困惑する者達がいた。

 

「ア、アーサー王……?」

 

「あんな風に笑っているアーサー王を見るのは初めてです……」

 

アルトリアの部下である円卓の騎士のベディヴィエールとガレスは王ではなく、少女のように笑うアルトリアの姿に困惑して唖然とした。

 

「父上は聖杯戦争で色々な出会いと経験があったらしいからな。まあ、あんな性格になった父上に慣れるのは苦労するけどな」

 

モードレッドはそれなりにカルデアでアルトリアと一緒にいたからもう慣れているが、アーサー王時代のアルトリアしか知らない円卓の騎士達は困惑することは必至だろう。

 

「そう言うモードレッドも変わりましたよね。アーサー王と仲が良くなって息子と認められていますし……」

 

「そ、そうなんですか!?確かに以前より雰囲気も良くなってますね。モードレッドも何かあったんですか?」

 

「……ああ。まあ、そのうち話してやるよ……」

 

モードレッドは元マスターの獅子劫の事を思い出しながら夜空を見上げた。

 

 

その後、宴会が終わり、一休みしたところで遊馬達は集まって会議をする。

 

まずは獅子王から解放されたモードレッドとガレスから獅子王の目的を聞こうと思ったが……二人は何も覚えていなかった。

 

獅子王のかけたギフトによる後遺症か、何かあった際に記憶が無くなるように術をかけたのか不明だが、現状ではモードレッドとガレスから新しい情報を得られることは難しい。

 

東の村に西の村の住人が一時的に移り住むことになり、食料は藤太のお陰でなんとかなっているのでしばらくは問題ない。

 

村人達が平和に暮らす為には一刻も早く獅子王と大邪神ゾークをなんとかしなければならない。

 

「うーん、この特異点での味方になってくれそうなサーヴァントはもう全員会ったかな?」

 

現状、この特異点は四つの勢力に分かれている。

 

カルデア陣営、獅子王と円卓の騎士陣営、エジプト陣営、山の民陣営。

 

獅子王と円卓の騎士によって既に何人もサーヴァントは倒れており、今のところ遊馬達が契約出来そうなサーヴァントはこれで揃ったと思ったが……。

 

「……あの、マスター。契約は難しい……いえ、多分無理かもしれませんが、この世界には獅子王に匹敵するサーヴァントがもう一人います」

 

静謐のハサンが恐る恐る遊馬に進言した。

 

獅子王に匹敵するサーヴァントと聞いて全員の視線が静謐のハサンに集まる。

 

「我ら『山の翁』の初代……教団を守護するお方です」

 

「それって、ハサン達みんなの大先輩って事か?」

 

「初代ハサン・サッバーハ……暗殺者、アサシンの語源である暗殺教団の創設者か……」

 

呪腕のハサン、百貌のハサン、静謐のハサンの歴代当主にとって偉大な存在である初代ハサン・サッバーハ。

 

ハサン達は初代ハサン・サッバーハは獅子王や円卓の騎士すらも凌駕する力を持つと説明し、遊馬達はこの特異点に召喚されているサーヴァントなら会いに行くと決めた。

 

初代ハサン・サッバーハに会いに行くメンバーは遊馬とアストラルとマシュ、遊戯とアルトリアとエミヤとダ・ヴィンチちゃん、呪腕のハサンと百貌のハサンと静謐のハサン。

 

それ以外のメンバーは東の村で待機するする事になった。

 

早速遊馬達はかっとび遊馬号で東の村の奥にあるアズライールの廟に向かう。

 

遊馬達は山奥にあるアズライールの廟に到着し、山奥とは思えない見事な寺院に驚いたが、それと同時に言葉を失うほどの重圧が襲いかかった。

 

魔力反応もサーヴァント反応も物音も生命の気配も皆無だが、魂がここにいてはいけないと拒絶するほどの恐怖だった。

 

「な、何だよこれ……!?体の震えが、止まらねえ……!?」

 

「ドン・サウザンドの時とは違うこの感じは……!?」

 

遊馬とアストラルは今まで感じたことのない恐怖に震えていると……何かを切り裂く音が鳴る。

 

「遊馬君!」

 

マシュは咄嗟に遊馬の前に立って盾を構え、それと同時に遊馬はデッキケースから希望皇ホープのカードを取り出して召喚する。

 

「「現れろ、希望皇ホープ!!!」」

 

希望皇ホープがマシュの前に現れたその直後に希望皇ホープは一瞬で切り裂かれて破壊され、マシュは何かの攻撃を受け止めながら後ろに吹き飛ばされる。

 

「マシュ!大丈夫か!?」

 

「は、はい……しかし、一体どこから……!?」

 

何処からともなく繰り出された謎の攻撃に警戒する遊馬達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──魔術の徒よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、廟に声が響き、その声を聞いた呪腕のハサンと百貌のハサンと静謐のハサンはその場で平伏した。

 

何事かと驚く中、アルトリアとエミヤは遊馬達を守るために前に出た。

 

二人の顔には汗が流れ、いつもとは全く違う緊張感と恐怖感が混ざり合った表情に遊馬達もこれまでに無い異常事態だと察する。

 

『──魔術の徒よ。そして、人ならざるモノたちよ。汝らの声は届いている。時代を救わんとする意義を、我が剣は認めている。だが──我が廟に踏み入る者は、悉くさなねばならない。死者として戦い、生をもぎ取るべし。その儀を以て、我が姿を晒す魔を赦す。静謐の翁よ、これに。汝に祭祀を委ねる。──見事、果たして見せよ』

 

「ぁ──ああ、ああああ!?ひぃ、やあ……!?」

 

「静謐!?」

 

静謐のハサンの周りに黒いオーラが現れて包み込むと意識を奪われ、操り人形のように立ち上がると遊馬達から離れてナイフを構える。

 

「初代様!お使いになられるのでしたら私を……!」

 

「静謐には荷が重すぎまする!どうか……!」

 

呪腕のハサンと百貌のハサンは初代ハサン・サッバーハが静謐のハサンを操って戦わせようとしていることに抗議しようとしたが、初代ハサン・サッバーハは切り捨てる。

 

『たわけ。貴様らの首を落とすのは我が剣。儀式に使えるものではない。静謐の翁の首、この者達の供物とせん。天秤は一方のみを召し上げよう』

 

それは静謐のハサンを倒せば、初代ハサン・サッバーハは姿を見せて話に応じるという試練だった。

 

『道程は問わぬ。結果のみを見定める。死の舞踏を始めよ、静謐の翁。どちらの首が晩鐘に選ばれるか──それは、汝らが決めることだ』

 

初代ハサン・サッバーハは静謐のハサンを操り、猛毒の霧を溢れ出す。

 

「いけない!『風王結界(インビシブル・エア)』!!」

 

アルトリアは約束された勝利の剣に不可視の風の剣の魔術を纏わせる宝具『風王結界』を発動させる。

 

本来ならば聖剣の刀身を風の魔術で透明化させて相手に間合いを把握出来なくさせる為の宝具であるが、応用技で風を放つことが出来、それで毒を防ぐ防護壁を作り出した。

 

これで毒を放出する静謐のハサンの攻撃を防げるが、ここにいる者達のほとんどは毒に耐性が無いため下手に戦うことが出来ない。

 

しかし、たった二人……静謐のハサンに対抗出来る存在が静かに前に出る。

 

「アルトリア、その風で毒からみんなを守ってくれ」

 

「私達が静謐さんを助けます」

 

静謐の毒に耐性を持つ遊馬とスキルで毒を受け付けないマシュの二人が静謐のハサンと対峙する。

 

「マシュ、静謐を必ず助ける。フォロー頼むぜ」

 

「はい。シールダーマシュ、行きます!」

 

遊馬とマシュは最低限の言葉だが、既に相棒として心が通じ合っており、互いにどう動くか熟知しているのすぐに二人は行動を開始する。

 

一方、遊戯はアストラルが遊馬と共に戦わずに下がっていることに疑問に思って尋ねた。

 

「アストラル、行かないのか?」

 

「私の希望皇ホープや他のナンバーズでは囚われた静謐のハサンを救う事は出来ない。だが……遊馬ならそれが可能だ。遊戯さん、これから遊馬の真の力が見られる」

 

「遊馬の真の力……?」

 

アストラルの持つ希望皇ホープやナンバーズを使わず、遊馬自身が持つ力で戦うということに僅かな好奇心を抱きながら見守る。

 

マシュは遊馬が安全にフィールドを展開できるように十字の盾を振るい、静謐のハサンを押さえ込む。

 

その間に遊馬はデッキからカードをドローしてカードを発動していく。

 

「行くぜ!俺のターン、ドロー!魔法カード『オノマト連携』!手札を1枚墓地に送り、デッキからオノマトモンスターを2枚まで手札に加える!俺はデッキから『希望皇オノマトピア』と『ゴゴゴゴーレム』を手札に加える!俺は『希望皇オノマトピア』を召喚!」

 

遊馬は希望皇ホープをデフォルメ化したモンスターである希望皇オノマトピアを召喚する。

 

「希望皇オノマトピアの効果!手札から『希望皇オノマトピア』以外のオノマトモンスターをそれぞれ1体まで守備表示で特殊召喚する!来い!『ガガガマジシャン』!『ゴゴゴゴーレム』!」

 

希望皇オノマトピアの効果によって手札のオノマトモンスターが同時に特殊召喚され、そこから更にモンスターを展開する。

 

「更に!墓地の『ドドドドワーフ - GG』の効果発動!このカードが墓地に存在し、自分フィールドに『ドドドドワーフ-GG』以外の『ゴゴゴ』モンスターまたは『ドドド』モンスターが存在する時、このカードを特殊召喚する!」

 

最初のオノマト連携の時に墓地に送ったドドドドワーフが墓地から復活し、遊馬のフィールドに4体のモンスターが揃った。

 

「一気にレベル4のモンスターを4体も並べたか……ここからどんなモンスターエクシーズを呼ぶのか……」

 

1ターン目から一気にフィールドにレベル4のモンスターが4体も並び、その展開力に遊戯も感心する。

 

静謐のハサンは猛毒を撒き散らせながら激しい体術を繰り出し、時折ナイフを投げ飛ばす。

 

マシュは盾で静謐のハサンの猛攻を防ぐが、だんだん押され始めたその時……一つの影が舞い降りた。

 

「遊馬さん!マシュさん!」

 

「なっ!?み、美遊ちゃん!?」

 

「美遊さん!?」

 

それは東の村で待機していたはずの美遊だった。

 

「来ちゃダメだ!毒にやられちまう!」

 

「問題ありません!」

 

美遊は左太腿のカードホルダーからアサシンのクラスカードを取り出した。

 

「夢幻召喚!『アサシン』!」

 

クラスカードが美遊の体に入り、光に包まれながら静謐のハサンに突撃する。

 

そして、光が晴れると同時に美遊は蹴りを静謐のハサンに与え、軽やかに遊馬の前に舞い降りた。

 

「今の私は……あなたの毒は効かない。だって、この力は、あなた自身のものだから……!」

 

そこにいたのは魔法少女の姿ではなく、髑髏の仮面を頭に飾り、肌は褐色に染まり、その身には黒衣を纏い、苦無に近いナイフを携えていた美遊だった。

 

「美遊ちゃん、その姿は……!?」

 

「アサシンのクラスカードにはハサン・サッバーハの力が宿っています。そして、歴代当主十九人の中の誰かと使用者と繋がります。私が繋がったのは奇しくも静謐のハサンさんでした……」

 

美遊は今目の前で操られている静謐のハサンと同じ力を宿している。

 

「遊馬さん達が村を離れてから少しして、胸騒ぎがしたので急いで来ました。静謐さんが操られているのなら、止めるのを手伝います!」

 

美遊はクラスカード『アサシン』を通じて静謐のハサンが苦しんでいるのを無意識に感じ取り、静謐のハサンを助けるために戦うことを決めた。

 

「分かった。美遊ちゃん、マシュと一緒に静謐を抑えててくれ!」

 

「はいっ!行きます!」

 

美遊はマシュと共に静謐のハサンに再び攻撃を仕掛けて抑え込む。

 

シールダーのマシュと静謐のハサンとしての同じ力を持つ美遊を同時に相手をし、今度は静謐のハサンが押されてしまう。

 

その間に遊馬は展開したフィールドからモンスターエクシーズを呼び出す。

 

「行くぜ、かっとビングだ、俺!レベル4のガガガマジシャンと希望皇オノマトピアでオーバーレイ!ゴゴゴゴーレムとドドドドワーフでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、ランク4!『ガガガガマジシャン』!『H - C エクスカリバー』!」

 

遊馬のフィールドに希望皇ホープやナンバーズ以外で信頼を寄せる2体のフェイバリットモンスターであるガガガガマジシャンとエクスカリバーが立ち並ぶ。

 

「更に魔法カード『エクシーズ・ギフト』!自分フィールドにモンスターエクシーズが2体以上存在する場合に発動!自分フィールドのX素材を2つ取り除き、自分はデッキから2枚ドローする!ガガガガマジシャンとエクスカリバーのオーバーレイ・ユニットを1つずつ取り除き、2枚ドロー!」

 

遊馬は2枚ドローで手札を補充し、デッキケースから光り輝く1枚のカードを取り出す。

 

「超かっとビングだぜ!俺はランク4のガガガガマジシャンとエクスカリバーでオーバーレイ!!2体のモンスターエクシーズでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

ランク4の2体のモンスターエクシーズが光となり、地面に吸い込まれて光の爆発が起きる。

 

「今こそ現れよ、FNo.0!天馬、今ここに解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る!これが俺の、天地開闢!俺の未来!かっとビングだ、俺!『未来皇ホープ』!!」

 

『ホォオオオープ!!!』

 

遊馬がエクシーズ召喚したのは遊馬自身が生み出したナンバーズ、未来皇ホープ。

 

遊戯は未来皇ホープのモンスターエクシーズではあり得ない特異性に気付いてとても驚く。

 

「な、何だと……!?レベルが存在しないモンスターエクシーズ同士でエクシーズ召喚だと!?」

 

「未来皇ホープ。ランク0、攻撃力守備力0……遊馬自身が作り出した唯一無二のモンスターエクシーズで、遊馬だけのナンバーズ」

 

「遊馬が作り出した……!?未来皇ホープ、あれほど強い力を放つカードを作ったなんて……遊馬、君と言う男は……!」

 

遊戯は未来皇ホープを遊馬が作ったことに驚愕し、それと同時にそれほどの大きな力を秘めた真のデュエリストだと言うことを改めて実感して感極まっていた。

 

「来い!未来皇ホープ!」

 

未来皇ホープの体が光となって遊馬と激突し、遊馬と未来皇ホープの肉体と魂が一つとなり、その証として未来皇ホープの胸元に皇の鍵の装飾が現れる。

 

「遊馬が未来皇ホープと……デュエリストとモンスターと合体した!?」

 

遊戯は過去にデュエリストがモンスターと合体した光景を何度も見てきたが、遊馬と未来皇ホープのような完全に一つとなった合体は初めて見たので眼を疑うほど驚いた。

 

デュエリストとしてあまりにも規格外な遊馬の事実に遊戯は驚きの連続だった。

 

遊戯だけでなく、ベディヴィエールやガレスなど初めて見る未来皇ホープに驚きを隠せなかった。

 

遊馬と合体した未来皇ホープは二振りのホープ剣を構え直し、その鋒を洗脳された静謐のハサンに向ける。

 

「待ってろ、静謐!必ず助ける!!」

 

未来皇ホープは飛翔しながらホープ剣を振り上げて勢い良く静謐のハサンに向けて振り下ろす。

 

「ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!!!」

 

静謐のハサンはナイフを投げ飛ばして猛毒を放出するが、戦闘ダメージはゼロの効果を持ち、遊馬自身が毒の耐性を持っているので未来皇ホープにはダメージは無い。

 

未来皇ホープのホープ剣が静謐のハサンの体を斬りつけるが、攻撃力0の攻撃では静謐のハサンにはダメージが無い。

 

「未来皇ホープの効果!このカードが相手と戦闘を行ったダメージステップ終了時に発動!その相手のコントロールをバトルフェイズ終了時まで得る!」

 

未来皇ホープの戦闘後に発動する相手モンスターのコントロール奪取効果を発動させようとするが……。

 

「──っ!?未来皇ホープの効果が効かない!?」

 

静謐のハサンから漂う黒いオーラによって未来皇ホープの効果が無効化されてしまった。

 

それは初代ハサンの力によって未来皇ホープの効果が無効化されてしまい、このままでは静謐のハサンを救うことが出来ない。

 

「くっそぉ……でも、諦めてたまるかよ!!」

 

遊馬は諦めずに何とか打開策を考えようとしたその時。

 

『──汝に尋ねる』

 

突然、初代ハサンは静謐のハサンから声を発して静かに遊馬に問うてきた。

 

「……何だよ?」

 

『何故、そうまでして静謐の翁の命を助けようとする?まさか、この娘に惚れているのか?』

 

静謐のハサンはとても美しい姿をしており、年齢的に近い遊馬は惚れているのかと考えたが遊馬はすぐに否定した。

 

「違ぇよ。静謐は可愛いのは確かだけど、惚れてるかどうかじゃない。何が何でも仲間を守る、それが俺の覚悟だ」

 

『仲間?何も護れぬ毒に侵した肢体の娘を、仲間というのか?』

 

「……どう言う意味だよ」

 

『そのままの意味だ。静謐の翁は不甲斐ないハサン・サッバーハだ。己の毒を自由に操れない、野に咲く花すら護れぬ孤独な娘だ。そんな娘でもお前は仲間と言うのか?』

 

初代ハサンは後輩である静謐のハサンに厳しい評価を下し、それに対して遊馬は自分の考える仲間の定義を語る。

 

「……おい、初代のハサン。悪いけど、あんたの考える仲間と俺の考える仲間は全然違うぜ」

 

『何?』

 

「俺にとって仲間は互いを想い合い、支え合い、力を合わせ、例え力が無くても共に未来へと向かう存在だ」

 

『力が無くてもだと?』

 

「……俺の幼馴染、小鳥って言うんだけどさ……その子はここにいるサーヴァントのみんなのように宝具やスキルみたいな特別な力を何も持ってない、本当に普通の女の子だ」

 

遊馬は自分にとって最大にして最後の心の支えである大切な存在……小鳥について語り始めた。

 

小鳥には普通の人には見えないアストラルが見えるだけで遊馬達のように特別な力も戦う力を持っていない。

 

「小鳥はいつも俺の側にいてくれた。俺たちの世界で、人類と三つの世界の命運をかけた戦いの最後の時まで側で見守って応援してくれた。小鳥の言葉に俺とアストラルは支えられて、最後まで諦めずに戦い抜くことができたんだ」

 

小鳥は遊馬への想いからどんなに危険な状況でもいつも側で戦いを見守り、勝利を祈り続けていた。

 

「確かに力や能力があれば出来ることはたくさんあるし、頼りになる。でもさ、それだけが全てじゃない。例え、力が無くても、想いが……誰かの想いの力が希望と未来を紡ぐ事が出来る!」

 

「想いの、力……」

 

遊馬の言う想いの力に美遊の脳裏に大切な兄の姿が浮かび上がった。

 

「人はそれを……絆、結束の力って言うんだ。その力がある限り、俺は例えどんな敵が相手でも戦うことができる」

 

『だが、汝は既に多くの仲間がいる今更一人欠けたところで何の問題も無かろう』

 

「俺は……もう二度と、大切な仲間を失いたくない。あんな想いは……二度と御免だ!」

 

『貪欲な童だ。強すぎる欲望は身の破滅を生むことになる』

 

「貪欲で結構!貪欲じゃなきゃ、俺の願いは叶えられないからな!」

 

『願いだと?』

 

「俺は……仲間も世界も両方救う!大切な相棒と仲間達と共に最後まで戦い抜く!!」

 

その答えに初代ハサン・サッバーハは言葉を失った。

 

仲間と世界……その全てを救うという言葉に込められた遊馬の願いと覚悟が伝わってきた。

 

それは幼稚な子供の我儘な願いともとれるその覚悟。

 

しかし、遊馬の心に迷いは一切無い。

 

それこそ、遊馬がどれだけ辛く、悲しい戦いを重ねてきても貫いてきた『かっとビング』だからである。

 

「初代ハサン……必ず返してもらうぜ、静謐を……俺の大切な仲間を!!」

 

遊馬の不屈の覚悟……その想いに応えるかのように一つの奇跡が引き起こされた。

 

突如、アストラルの胸元から一枚のナンバーズが飛び出し、光を放ちながら回転する。

 

「このナンバーズは……!?」

 

アストラルも何が起きているか分からず困惑していると、そのナンバーズのカードに共鳴するかのように未来皇ホープの真紅の瞳が輝くと自らの意志で一体化していた遊馬を分離した。

 

「えっ!?未来皇ホープ!?」

 

遊馬の化身でもある未来皇ホープが勝手に行動をして驚く中、デッキケースが光り輝き、中から1枚のカードが飛び出す。

 

「アナザーのカード!?」

 

それは遊馬やアストラルの想いや願いに反応して新たな奇跡の力を作り出すアナザーのカード。

 

アストラルのナンバーズから第五特異点でラーマとシータを助ける時に現れた『No.99 希望皇龍 ホープ・ドラグーン』の幻影が現れる。

 

未来皇ホープとホープ・ドラグーンの体から光の波動が放たれて共鳴反応を起こすとアナザーのカードがその力を吸収して強い光を放ち、新たなカードが誕生した。

 

新たなカードはゆっくりと遊馬の手元に飛んできた。

 

しかし……。

 

「まだ、完成してないのか……?」

 

アナザーのカードはいつもすぐに完成形として使えるが、今回は名前もテキストも書かれておらず、イラストはシルエットだけだった。

 

唯一判明しているのはこれがモンスターエクシーズのカードという事だけだった。

 

未完成のカードではまともに使うことは出来ないが、遊馬は可能性を感じ取っていた。

 

「このタイミングで生まれたなら、何か大きな意味があるはず……!」

 

遊馬のフィールドには未来皇ホープのみで手札とフィールドと墓地には次のエクシーズ召喚に繋がるカードはない。

 

そう考えた時、遊馬は今までのデュエルの経験から一つの可能性を導き出す。

 

「これに……賭ける!!!」

 

遊馬は願いを込めるようにアナザーのカードを未来皇ホープの上に重ねた。

 

「未来皇ホープ、エクシーズ・チェンジ!」

 

遊馬は希望皇ホープレイや希望皇ホープONEと同じ、モンスターエクシーズを素材として単体でエクシーズ召喚する方法を取った。

 

もしも失敗ならエラーが起きて何も変化が無いが、未来皇ホープに異変が起きた。

 

未来皇ホープの体全体にまるでモザイクが掛かったかのように姿が歪となるが、時折未来皇ホープとは異なる新たな戦士の姿が見えてくる。

 

「新しいホープ、なのか……!?」

 

遊馬が知る全ての希望皇ホープでも、未来皇ホープでもない全く新しいホープ。

 

未完成ながらも強大な力を秘めている新しいホープにハサンは本能的に脅威となる存在だと感じ取った。

 

『これで……終わりにする……!』

 

静謐のハサンを操り、全身から高濃度の毒の霧を放ち、ホープを腐蝕させて滅ぼそうとした。

 

静謐のハサンの宿る猛毒はその気になれば幻想種や英霊も死へと導くこともできる。

 

猛毒の霧にホープの体が腐蝕しそうになったその時、ホープの真紅の瞳が輝き、背中から光り輝く大きな純白の双翼が生えた。

 

ホープは双翼を羽ばたかせて光の粒子を放出させて部屋全体に広げ、猛毒の霧を全て消滅させた。

 

そして、光の粒子が静謐のハサンを包み込んだ。

 

『こ、これは……!?』

 

次の瞬間、静謐のハサンの体から黒い何かが弾き飛ばされた。

 

意識を失った静謐のハサンはその場で倒れてしまい、遊馬は急いで抱き上げた。

 

「静謐!大丈夫か!?」

 

「……マス、ター……?」

 

遊馬の声に反応し、静謐のハサンは静かに目を覚ました。

 

静謐のハサンは元に戻り、遊馬は一安心した。

 

「よかった、もう大丈夫だな」

 

すると、役目を終えたようにホープが静かに消えていき、デュエルディスクに置かれた新しいホープのカードの強い光が消えた。

 

「マスター……ごめん、なさい……」

 

静謐のハサンは心から慕っている遊馬に操られていたとはいえ刃を向けてしまったことに悔やみ、涙を流して謝罪する。

 

「気にすんなって。静謐が無事で本当に良かったぜ」

 

そんな静謐のハサンに遊馬は笑みを浮かべて頭を撫でてあげた。

 

静謐のハサンを傷つけることなく無事に取り戻した遊馬達だったが……。

 

「……生をもぎ取れ、とは言ったが。どちらも取るとは、気の多い童だ。だが結果だけを見ると言ったのはこちらだ。過程の善し悪しは問わぬ──解なりや」

 

廟の奥から黒い霧と共に静かに現れたのは大きな角の付いた髑髏の仮面と胸部に髑髏をあしらった装飾のある甲冑を身に纏った大男だった。

 

「よくぞ我が廟に参った。山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

その大男こそ暗殺教団「山の翁」の初代首領……ハサン・サッバーハ。

 

 

 



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ナンバーズ187 混沌を統べる者

なんとか書けました……。
とりあえず今後は月1ぐらいの更新になると思います。
今後ともよろしくお願いします。


試練を乗り越え、遂に姿を現した初代ハサン。

 

「……初代様。恥を承知でこの廟に訪れた事、お許しください」

 

呪腕のハサンが代表で初代ハサンに話をしようとしたが……。

 

「待つがよい、呪腕よ。まずは……確認せねばならぬことがある」

 

初代ハサンは呪腕のハサンから視線を美遊に向けた。

 

その視線だけで人を殺せそうなほど恐ろしい髑髏の仮面の奥に輝く双眼を向けられてビクッとなる美遊は思わず身構える。

 

初代ハサンの骸骨の仮面の奥の双眼が怪しく輝くと美遊の中にあるアサシンのクラスカードが勝手に飛び出して夢幻召喚が解除されてしまった。

 

「あっ!?アサシンのクラスカードが!?」

 

アサシンのクラスカードはそのまま吸い込まれるように初代ハサンの手に収まり、数秒間の沈黙の後に静かに尋ねた。

 

「娘よ、この札からハサン・サッバーハの……歴代の翁の力を感じ取れる。そして、貴様は静謐の翁の力をその身に宿していたな?」

 

初代ハサンは『ハサン・サッバーハ』と繋がる力を持つクラスカードに疑問を抱き、威圧するように美遊を睨みつけた。

 

「──っ!??」

 

殺すつもりは無いがその恐ろしい視線に美遊は恐怖で震えて体が動かなくなる。

 

声も出せずに震えていると、ソッと両側から優しく手を握られる。

 

「ミユ、大丈夫だよ」

 

「私達が側にいるから」

 

「イリヤ……クロ……」

 

イリヤとクロエは初代ハサンの恐怖を必死に耐えながら美遊に寄り添った。

 

美遊は二人の手を握り返し、初代ハサンに真っ直ぐ目を向けながら口を開く。

 

「お話しします。そのカードが何なのか……私達が何故それを手にしていたのか……」

 

美遊はクラスカードとクラスカードを集める戦いについて簡潔に説明をすると、初代ハサンは納得したようにアサシンのクラスカードを見つめた。

 

「成程……まさか、このような手段で英霊の……歴代の翁の力を手に入れようとした輩がいたという訳か……許せぬ」

 

初代ハサンは誰が作ったのか知らないが、歴代ハサンの力を勝手に盗み取りするような事をしたクラスカードの製作者に対して静かに怒りが込み上げ、可能ならこの手で首を切り落とそうと思うほどだった。

 

そんな中、イリヤは深く頭を下げながら初代ハサンに頼み事をする。

 

「あ、あの!初代ハサンさん!大変身勝手なお願いですけど、アサシンのクラスカード……私達に使わせてください!」

 

クラスカードはイリヤ達にとって貴重な戦力であり、現在ではアサシン以外のクラスカードの使用は認められている状況だ。

 

イリヤ達の日頃の頑張りや熱意で認められていたが、アサシンだけは使用者によって歴代ハサンの誰かの力を使えるということなので、認められるのは難しかった。

 

しかし、歴代ハサンが恐れ、敬う存在である初代ハサンに認められれば……?

 

その可能性に懸けてイリヤは頼み込んだ。

 

「……娘よ、何の為に力を求める?」

 

初代ハサンは試すように静かに問うた。

 

アサシンのクラスカード……否、それだけではない。

 

イリヤ達からその可憐な姿から想像出来ないほど貪欲に強さを、力を求める気迫を感じられた。

 

その問いに対し、イリヤ達三人は互いに目を合わせてアイコンタクトを交わし、イリヤが代表として前に出て答えを示す。

 

「私たちの大切な人たちも、世界も……両方救うためです!!!」

 

その答えに初代ハサンは一瞬言葉を失った。

 

それは遊馬と同じ全てを守り、救うと言う幼稚だが、貪欲過ぎる答えだった。

 

まさか同じ答えを持つ者が他にもいるとは思いも寄らなかった。

 

そんなイリヤ達に呆れと同時に小さな興味が出てきた。

 

「……良かろう」

 

初代ハサンはクラスカードを投げ渡し、美遊の元に返した。

 

「娘達よ……英霊ですらない、未熟で不安定な存在。その小さき力でどこまで戦えるか……この地で示して見せろ」

 

それはこの特異点でイリヤ達が獅子王陣営に対して、何らかの形で力を示して見せろと言うものだった。

 

それはイリヤ達にとってあまりにも過酷な条件だったが、既に答えは決まっていた。

 

「「「やります!」」」

 

イリヤ達は即答で答え、初代ハサンは静かに頷き、ひとまずはこの問題はこれにて収まるのだった。

 

ちなみに初代ハサンと堂々と対話できるイリヤ達にハサン達は凄いと密かに感心するのだった。

 

「さて……この我に何を望む?呪腕よ、そして……魔術の徒よ」

 

初代ハサンは話を戻し、改めて呪腕のハサンと遊馬達に何を望むのか尋ねる。

 

それに対して獅子王と戦うために力を貸して欲しいと頼むが……。

 

「その必要は無かろう。何故なら、汝らには獅子王に匹敵するほどの力を既に有している。我が剣を振るうまでもない」

 

初代ハサンは既に遊馬達の持っている力を見極めており、遊馬達なら既に充分すぎるほど獅子王と戦う力は備わっていると指摘した。

 

「だが、汝らは、知らねばならぬ。獅子王の真意。太陽王めの戯言。人理の綻び。そして──全ての始まりを」

 

「全ての、始まり……!?それってどういうことだよ、えっと……」

 

遊馬は初代ハサンと言うのもなんだか変な感じに思えてきたので、咄嗟に新しい名前を思い浮かんだ。

 

「……そうだ、キングハサン!一番最初のハサンでハサンの中で一番偉い人だからキングハサンだ!」

 

「遊馬君!?キングハサンと言うのもどうかと思います……!ほんと、これ以上失礼なことをしたら、さしものキングハサンさんもご機嫌を損ねるかと……!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

マシュとフォウが遊馬の命名に突っ込みを入れるが……。

 

「──良い」

 

「え?」

 

「好きに呼ぶがよい。我が名は元より無名。拘りも、取り決めもない」

 

遊馬のキングハサンという命名に初代ハサンはあっさりと了承した。

 

まさか初代ハサンがキングハサンという呼び名を了承したという事態にハサン達は唖然とし、空いた口が塞がらないほどだった。

 

「……では、キングハサン。貴方が指示した内容を知る為には何処に行けば良いんだ?」

 

アストラルはキングハサンに獅子王や人理焼却の答えを知るための方法を聞き出す。

 

「──砂漠のただ中に異界あり。汝らが求めるもの、全てはその中に。砂漠においてさえ太陽王めの手の届かぬ領域。砂に埋もれし知識の蔵──その名を、アトラス院と言う」

 

「っ……!」

 

アトラス院……その名前にマシュは言葉を失うほどの衝撃だった。

 

「アトラス院?」

 

「確か、以前オルガマリーから少し聞いた事がある。時計塔と並ぶ魔術教会の一つで、西暦以前から存在する、エジプトを根拠とする錬金術師の集団……カルデアにもアトラス院の技術が使われたものがあると」

 

アストラルはオルガマリーから時計塔の他に魔術教会があるのかと聞いた事があり、それがアトラス院でカルデアにも大きく関わっている。

 

「魔術の徒よ。人理焼却の因果を知る時だ」

 

「分かったぜ、キングハサン」

 

「しかし、問題は獅子王ではない。この地に蔓延る巨大な闇……この我でも把握出来ぬほどの闇がいる」

 

キングハサンは獅子王以上に警戒しなければならない存在を気付いていた。

 

もちろんそれは遊戯達が追う大邪神ゾークの存在だ。

 

遊戯は大邪神ゾークの事をキングハサンに説明した。

 

「大邪神ゾーク……まさか、異世界の大邪神がこの地に流れ着いていたとは……」

 

ソロモンに匹敵する大邪神の存在に流石のキングハサンも驚きを隠せずにいた。

 

「良かろう。魔術の徒よ、汝らが必要な知識を得て、危機が迫りし時……我は戦場に現れる。──天命を告げる剣として」

 

キングハサンはもしも大邪神ゾークとの戦いで遊馬達が危機に陥った時、その力の一端を貸すと誓ったのだ。

 

流石に遊馬と契約は出来ないが、偉大なアサシンの力を借りれるのは今の遊馬達にとっては心強いことだった。

 

しかし、キングハサンは眼を真紅に輝かせながらとんでもないことを口にした。

 

「では呪腕のハサンよ。首を出せい」

 

「……は。呪腕のハサン、我が咎を受け入れまする」

 

「っ!?ま、待てよ!どう言う事だ!?」

 

キングハサンは呪腕のハサンの首を斬ろうとしていた。

 

その理由をキングハサンは静かに語り始めた。

 

「我が面は翁の死。我が剣は翁の裁き。我は山の翁にとっての山の翁。──即ち。ハサンを殺すハサンなり。山の翁が膿み、堕落し、道を違えた時、我はその前に現れる。分かるか。歴代の山の翁はみな、最期に我が面を見た。ただ一人も、我が剣を免れた者はいない。故に、我が面を見た者こそ真の翁であり──その時代のハサンが我に救いを求めるという事は『己に翁の資格』と宣言するに等しい。──翁の面を、剥奪されるのだ」

 

キングハサンはここにいる呪腕、百貌、静謐を含める歴代のハサンの最期に現れて首を斬ってきた。

 

呪腕と百貌と静謐はこの時代を救う為に覚悟を持ってキングハサンに会いに来たのだ。

 

そして、今回はキングハサンは呪腕のハサンの首を斬ると決めたのだ。

 

「何でだよ……何でそれを話してくれなかったんだ!!話してくれたなら、最初からキングハサンに頼まなかったのに!」

 

「呪腕、百貌、静謐よ。一時の同胞とは言え、己が運命を明かさなかったのか」

 

「──キングハサン!!!」

 

遊馬は前に出ると同時にヌメロン・コードを出現させて眼の色を虹色に輝かせ、背中から純白の翼を広げてデュエルディスクを構える。

 

「キングハサン、俺の仲間に指一本触れさせねえ!俺が全力であんたを止める!!」

 

遊馬はキングハサンを止める為に全力で戦おうとしている。

 

愚行にも思えるその行動に呪腕のハサンは声を荒げた。

 

「おやめください!これは私達の問題です!」

 

「そんな事は関係ねえ!俺はもう二度と仲間が犠牲になるのはもう嫌なんだ!!」

 

最初から自分の命を犠牲にしようとしたハサン達に遊馬は仲間達が次々と犠牲になって消滅した光景がトラウマとして蘇っていた。

 

キングハサンは遊馬の姿を見て何かを感じたのか静かに殺意を収めた。

 

「魔術の徒よ、貴様の信念を何処まで貫く?」

 

「信念……決まってるだろ、最後の最後まで貫いてみせる!!!」

 

遊馬の仲間を守る信念とその覚悟、その強い意志を聞いたキングハサンは呪腕のハサンに告げた。

 

「呪腕よ、やはり貴様は何も変わっておらぬ。諦観も早すぎる。既に恥を晒した貴様に、上積みは許されぬ。この者達と共に責務を果たせ。それが成った時、我は再び貴様の前に現れよう」

 

「……ありがたきお言葉。山の翁の名にかけて、必ず」

 

キングハサンはこの場で呪腕のハサンの首を斬らず、この特異点の戦いが終わるまでの猶予を与えた。

 

「アトラス院に急ぐがよい。残された時間は少ない。獅子王の槍が『真の姿』に戻る前に聖地を──聖なるものを、返還するのだ」

 

最後にそう言い残し、キングハサンは姿を消した。

 

ひとまずはキングハサンの試練と謁見は終わったが、キングハサンの最後の言葉が引っかかった。

 

「獅子王の槍が真の姿……?アルトリア、どう言う事だ?」

 

「私にも分かりません……聖槍は確かに使っていましたが、それがどういう意味なのか……」

 

アルトリアは心当たりが無いが、ベディヴィエールをチラッと見た。

 

ベディヴィエールの様子から何かを勘付いたアルトリアは今はまだ話すべきでは無いと判断した。

 

「……申し訳ありません。まだ獅子王について情報が足りなすぎます。あくまで憶測に過ぎないので何か分かりましたらお伝えします」

 

「分かったぜ、アルトリア」

 

「遊馬、一度村に戻ってからアトラス院に向かおう」

 

「おう!」

 

アストラルの提案通り寺院の外に出て、西の村に向かう為にかっとび遊馬号を呼び出そうとしたその時、空に暗雲が広がる。

 

暗雲の中から闇が溢れ出し、4枚目の闇のカードが出現し、そこから何かが飛び出すように現れた。

 

「あれは、まさか!?」

 

現れたのは『TOON WORLD』と書かれた大きな緑色の本だった。

 

本が開くと中は仕掛け絵本となっていて不気味な城が出てくるとそこからデフォルメ化したようなモンスターが次々と現れた。

 

「カートゥーンみたい……」

 

イリヤはそのモンスター達の姿からアメリカの漫画を思い浮かべたが、まさにその通りだった。

 

「あれって、まさか……『トゥーン・ワールド』と『トゥーンモンスター』!?」

 

遊馬は本と独特な姿をしたモンスター達に見覚えがあった。

 

「トゥーン……?」

 

聞きなれない単語にマシュは首を傾げ、アストラルは腕を組みながら説明を始める。

 

「トゥーン・ワールド、トゥーンモンスター……それらを操るデュエリストは世界に一人しかいない。デュエルモンスターズの創造主、ペガサス・J・クロフォード……」

 

「えっ!?デュエルモンスターズの創造主さんが使っていたカードなんですか!?」

 

マシュはトゥーンカードがデュエルモンスターズの創造主であるペガサスが使っていたカードと知り、とても驚いた。

 

アメリカ人であるペガサスはアメリカの漫画……カートゥーンが大好きで、デュエルモンスターズに自分の理想のカードを作り上げた。

 

それこそがカートゥーンのような破茶滅茶なキャラや展開を模した効果を持つトゥーンカードであり、一般流通はされておらず、世界でペガサスしか所持していないレアカードなのだ。

 

そして、トゥーン・ワールドの上の空間が闇に染まり、中から新たなモンスターが姿を現す。

 

しかし、それはトゥーンモンスターではなく、あまりにも予想外過ぎるモノだった。

 

「な、何ですか、アレは……!?」

 

その姿にマシュは口を押さえて声を振るわせるほど驚愕した。

 

マシュのみならず他のサーヴァント達もそのモンスターの姿に多かれ少なかれ驚きを隠せずにいた。

 

鋭い爪を持つ両腕に、異様な形の胴体と翼、ここまでならまだ良い。

 

しかし、下半身は円錐で宙に浮いていて胸元には不自然な形をした円形の穴。

 

そして、何よりも驚きなのは蛇のように長い首にその先端には遊戯の持つ千年パズルにもある眼の刻印である『ウジャドの眼』を持つ不気味な球体なのだ。

 

『────────!!!』

 

そのモンスターは言葉にならない叫び声を上げると、次の瞬間には全身に不気味な眼玉が数えきれないほど作られていき、体が藍色から赤紫色に変化した。

 

ただでさえ不気味なモンスターが更に不気味になったが、それだけでは終わらなかった。

 

顔と思われる眼の球体が金色に輝いてその周りに豪華な装飾が施されると、翼が金色に変化し、全身に浮かび上がった眼玉が全て金色の眼の球体に変わり、モンスターの不気味さが最高潮にまで高まった。

 

これまで様々な敵と対峙してきた遊馬達だが、これほどまでに不気味過ぎるモンスターは初めてだった。

 

ある意味では魔神柱の不気味さを遥かに越えるほどの存在感だった。

 

サクリファイス。

 

生贄を意味する名を持つモンスター。

 

そして、全身に数多の金色の眼球を宿すその姿はミレニアム・アイズ・サクリファイス。

 

「あのモンスターの金色の眼……遊戯さんの千年パズルと同じマークだ!」

 

「……千年眼。ペガサスが所持していた千年アイテムだ」

 

千年眼。

 

千年パズルと同じ七つの千年アイテムの一つで球体の形をしており、眼球を犠牲にし、義眼として埋め込まなければならない。

 

「千年眼!?ペガサス会長も千年アイテムの所有者だったんですか!?」

 

「ああ。ペガサスは己の願いを叶えるために自分の左眼を犠牲に千年眼を埋め込まれた。これはオレの想像にすぎないが、あのモンスター……サクリファイスはペガサスと千年眼に込められた邪念から生み出されたモンスターだ」

 

ペガサスは亡くなった恋人を一途に愛し続け、子供達に夢を与える優しい心を持っていた。

 

しかし、千年眼の込められた邪念によって冷酷で残虐な心を宿してしまい、その象徴がサクリファイスだと遊戯は推測する。

 

「みんなは下がっていろ。サクリファイスは敵を吸収して己の力に変える吸収能力を持つ。一度吸われたら助かる見込みは無いぞ!」

 

遊戯はサクリファイスの恐ろしさを覚えているので遊馬達を急いで下がらせ、宝具を発動してデュエルディスクを構える。

 

遊戯はデュエリストとして最初の強大な敵として立ち塞がったペガサスとのデュエルが頭をよぎった。

 

遊戯は一人の力でペガサスに勝つことはできなかった。

 

大切な相棒と仲間達との結束の力でペガサスの闇を打ち破る事ができた。

 

今の遊戯には相棒と仲間達は側にはいないが、心に宿る結束の力を感じながらデッキからカードを引く。

 

「行くぜ!オレのターン、ドロー!フィールド魔法『混沌の場(カオス・フィールド)」を発動!」

 

遊戯がフィールド魔法を発動すると、周囲の空間が光と闇が混ざり合った混沌の世界へと変わる。

 

遊馬とアストラルは遊戯の展開した混沌の世界に少なからず驚いていた。

 

遊馬とアストラルの知る混沌……カオスの世界はバリアン世界であり、その独特な雰囲気は今でも覚えている。

 

しかし、遊戯が展開した混沌の場は純粋な光と闇の融合した世界なので、同じ混沌でも違う性質を持っているのだ。

 

「混沌の場の発動時の効果処理として、デッキから『カオス・ソルジャー』儀式モンスターまたは『暗黒騎士ガイア』モンスター1体を手札に加える。オレはデッキから『カオス・ソルジャー』儀式モンスターを手札に加え、魔法カード『トレード・イン』!手札からレベル8モンスター1体を捨てて、デッキから2枚ドローする。手札に加えた『カオス・ソルジャー』儀式モンスターを捨てて2枚ドロー!この瞬間、混沌の場の効果で互いの手札・フィールドからモンスターが墓地に送られる度に魔力カウンターを1つ置く!」

 

手札に加えたカオス・ソルジャーを捨てて2枚ドローし、ここから怒涛の展開を見せていく。

 

「今ドローした『ワタポン』の効果!カードの効果によってデッキから手札に加わった場合、手札から特殊召喚できる!ワタポンを守備表示で特殊召喚!」

 

遊戯のフィールドに現れたのは綿のようなフワフワした体をした小さな可愛らしいモンスター。

 

このモンスターは特殊召喚以外には特に効果を持たないが、遊戯は後の展開を考えて特殊召喚したのだ。

 

「『砲撃のカタパルト・タートル』を通常召喚!」

 

ワタポンの次に背に大きな大砲を背負った亀を召喚する。

 

「砲撃のカタパルト・タートルの効果!自分フィールドのモンスター1体を生贄に手札・デッキから『暗黒騎士ガイア』モンスターまたはドラゴン族・レベル5モンスター1体を特殊召喚する。カタパルト・タートルを生贄に捧げ、デッキから『暗黒騎士ガイア』モンスター、レベル8『暗黒騎士ガイア・ソルジャー』を特殊召喚!混沌の場の効果で魔力カウンターを1つ置く!」

 

カタパルト・タートルの代わりにカオス・ソルジャーに似た鎧を纏った暗黒騎士ガイアが姿を現す。

 

「ガイア・ソルジャーの効果!このカードを生贄に捧げて発動できる。デッキから『暗黒騎士ガイア・ソルジャー』以外のレベル7以上の戦士族モンスター1体を手札に加え、混沌の場の効果で魔力カウンターを更にもう1つ置く!」

 

ガイアソルジャーを経由して新たな戦士族モンスターを手札に加える。

 

「混沌の場の最後の効果!魔力カウンターを3つ取り除き、デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える!」

 

混沌の場の最後の効果を発動し、儀式魔法を手札に加える。

 

「行くぜ、オレは儀式魔法『超戦士の萌芽』を発動!レベルの合計が8になるように、手札・デッキから光と闇のモンスターを生贄に、自分の手札・墓地から『カオス・ソルジャー』儀式モンスター1体を儀式召喚する!オレは手札から光属性『開闢の騎士』、デッキから闇属性『宵闇の騎士』を生贄に捧げる!」

 

カオス・ソルジャーに似た鎧と剣を持つ二人の少年騎士が力を合わせ、伝説の最強戦士を呼び起こす。

 

「ひとつの魂は光を誘い、ひとつの魂は闇を導く!やがて、光と闇の魂は混沌の光を創り出す!『超戦士カオス・ソルジャー』!!超降臨!!」

 

墓地から現れたのは新たな混沌の力を手に入れたカオス・ソルジャー。

 

更に儀式の生贄に捧げた開闢の騎士と宵闇の騎士はカオス・ソルジャーに新たな力を捧げ、混沌の力を究極にまで高めた。

 

「更に、墓地の光と闇のモンスターを1体ずつ除外し、手札から特殊召喚!開闢の騎士、宵闇の騎士、再びお前達の魂を混沌に!天地開闢!光と闇の魂を生け贄に捧げ、混沌の場に降臨せよ!『カオス・ソルジャー -開闢の使者-』!!」

 

儀式モンスターではなく、墓地の光と闇のモンスターを除外する事で特殊召喚出来る、もう一人の伝説の最強戦士。

 

その姿は元の儀式モンスターのカオス・ソルジャーと変化はないが、モンスターとの戦闘及び除去において強力な効果を持つ。

 

「除外された開闢の騎士、宵闇の騎士の効果発動!デッキから新たな儀式魔法と儀式モンスターを手札に加える!!」

 

開闢の騎士と宵闇の騎士の力により新たな儀式魔法と儀式モンスターを手札に加え、カオス・ソルジャーに続くもう一つのカオスの力を持つモンスターを呼び出す。

 

「儀式魔法『カオス・フォーム』!レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、自分の手札・フィールドのモンスターを生贄、または生贄の代わりに自分の墓地から『青眼の白龍』または『ブラック・マジシャン』を除外し、手札から『カオス』儀式モンスター1体を儀式召喚する!手札からレベル8モンスターを生贄に捧げる!」

 

遊戯の背後に混沌の世界へと続く巨大な扉が開き、新たな混沌の力を宿すモンスターを呼び出す。

 

「我が生け贄を儀式の糧とし、その姿を現せ!黒き混沌の魔術師!『マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX』!超降臨!!」

 

現れたのは光と闇の融合が生み出したカオスの宿りし、至高にして崇高な、マジシャンの中のマジシャン。

 

そのブラックカオスが更なる混沌の力を得て進化した姿である。

 

「マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXの効果発動!このモンスターが特殊召喚に成功した場合、自分フィールドのモンスター1体を生贄に捧げる事でこのターン、相手はモンスターの効果を発動できない!オレはワタポンを生贄に捧げる!ブラックカオス!仲間の力を糧にフィールドを混沌の力で支配しろ!カオス・コントロール!!」

 

ワタポンの命を剣杖に捧げ、混沌の力を解放してフィールドを支配した。

 

混沌の力によってトゥーンモンスター達とミレニアム・アイズ・サクリファイスの力が封じられる。

 

「そして、魔法カード『死者蘇生』!墓地からモンスターを復活させる!」

 

マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXの隣に魔法陣が展開され、中から混沌の魔力が溢れ出す。

 

「光と闇!二つの力を宿し混沌の最上級魔術師、今ここに降臨!『混沌の黒魔術師』!!」

 

魔法陣から現れたのは混沌の力が洗練された混沌の黒魔術師。

 

混沌の最強戦士と最強黒魔術師が遊戯のフィールドに威風堂々と並び立つ。

 

「すげぇ……!伝説のモンスター達、カオス・ソルジャーとブラックカオスが揃った!」

 

「カオスモンスターの中でも最高クラスの力を持つカオス・ソルジャーとブラックカオスを1ターンで揃えたか……流石だ、遊戯さん!」

 

融合召喚とはまた違う召喚に一手間もかかる儀式召喚を

 

「ペガサス!お前の心に宿っていた狂気の闇を打ち砕く!一掃せよ、カオスモンスター達よ!!」

 

遊戯にデュエルで敗れ、千年眼を失った事で改心し、光の道を歩んだペガサスの為に最強のカオスモンスター達による一斉攻撃を仕掛ける。

 

「超戦士カオス・ソルジャー!ハイパー・カオス・ブレード!!」

 

究極にまで高められた混沌の力を剣に乗せて解き放ち、

 

「カオス・ソルジャー!開闢双破斬!!」

 

天地を開闢する混沌の剣で斬撃を放ち、

 

「マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX!マキシマム・デス・アルテマ!!」

 

敵を滅却する滅びの呪文を放ち、

 

「混沌の黒魔術師!滅びの呪文!!」

 

混沌の魔力を込めた黒魔術の砲撃を放つ。

 

四大モンスターの混沌の攻撃でトゥーンモンスター達とミレニアム・アイズ・サクリファイスが一瞬で破壊された。

 

モンスター達を破壊し、残された闇のカードは消滅した。

 

「ペガサスの闇よ、永遠に消え去れ。ペガサスはもう二度と、闇を抱くことはない」

 

遊戯は消え去ったモンスター達に向けて手向けの言葉を送った。

 

超強力なカオスモンスター達を繰り出し、闇のモンスター達を瞬殺し、まだまだ余力を残している遊戯に遊馬は爪が手に食い込むほどギュッと手を強く握った。

 

「強くなりてぇ……もっと、もっと……!」

 

遊戯のデュエルを見る度に感じるデュエリストとしての遥かなる高み。

 

どうすれば遊戯の高みまで登れるか自問自答している。

 

「遊馬……」

 

アストラルは遊馬の抱く葛藤に気付き、その気持ちを察して深く同意するのだった。

 

遊馬達は西の村に戻り、アトラス院に向かう人選をした。

 

アトラス院に向かうメンバーは遊馬とアストラル、マシュとフォウと遊戯、アルトリアとエミヤ、ダ・ヴィンチちゃんとベディヴィエールの8人と1匹となった。

 

遊馬達は真実に辿り着く為にかっとび遊馬号でアトラス院へ向かった。

 

 

 




アサシンのクラスカードについてはキングハサンの了解を一応得る感じにしました。
ってか、クラスカードの経緯と能力からプリヤのラスボス?のダリウスはキングハサンに狙われてもおかしく無いことをやらかしてるんじゃね?と思ってこんな話にしました。
あとはイリヤちゃん達が頑張って戦います。

遊戯のカオスモンスター勢揃いでえげつない感じになっちゃいました(笑)

次回はアトラス院の話です。


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ナンバーズ189 名探偵と獅子王の真実

遊馬達はキングハサンの指示で魔術協会の三大部門の一角、アトラス院に向かった。

 

アトラス院が存在する地点はエジプト領のから少し離れた砂漠のど真ん中だった。

 

アトラス院は砂漠の遺跡のような建物らしく、とりあえず遺跡を目印に探そうとしたのだが……。

 

「砂嵐やべぇな!父ちゃんもよく砂漠の砂嵐で苦労したって言ってたな!」

 

まるで外部の人間を排除するかのような凄まじい砂嵐が巻き起こっており、目を開けられないほどだった。

 

これではアトラス院の捜索は困難を極めると思われたが……。

 

「えっ……?キャッ!?」

 

突然マシュの姿が消え、何が起きたか困惑する間も無く遊馬達も砂の中に一気に呑み込まれるように落ちていった。

 

どうやら落とし穴のようなものが作動し、遊馬達は地上から一気に地下まで落とされてしまった。

 

落とされた先は真っ暗闇だが、ある程度の空間があり、呼吸も出来る。

 

安全確認を行おうとしたその時だった。

 

「どうやら全員来たようだね。怪我人もなく何よりだ。では明かりを付けよう。少しばかり目眩がするが、そこはご愛嬌だ」

 

部屋の明かりをつけ、遊馬達の前に現れたのはインバネスコートを着込み、片手にパイプを持った長身痩躯の男だった。

 

「やあ、こんにちは諸君。そしてようこそ、神秘遥かなりしアトラス院へ!」

 

その男は遊馬達を歓迎し、すぐにサーヴァントだと気付いたがあっさりと真名を明かした。

 

「私はシャーロック・ホームズ。世界最高の探偵にして唯一の顧問探偵。探偵という概念の結晶、明かす者の代表──キミたちを真相に導く、まさに最後の鍵という訳だ!」

 

シャーロック・ホームズ。

 

イギリス人作家のアーサー・コナン・ドイルが生み出した世界的に有名な探偵小説「シャーロック・ホームズ」シリーズの主人公。

 

「シャ、シャ、シャーロック・ホームズさん!??」

 

シャーロック・ホームズの大ファンであるマシュはホームズの登場に今まで見た事ないほどの大興奮な姿を見せていた。

 

「マジかよ!?ここで世界一の名探偵の登場!?」

 

「まさかシャーロック・ホームズが実在していたとは……と言うことは、相棒のジョン・H・ワトソンや宿敵のジェームズ・モリアーティも実在すると言うのか!?」

 

遊馬とアストラルもホームズの登場に興奮状態となっていた。

 

一方、ホームズは落ち着いた様子で遊馬達を見渡して口を開いた。

 

「キミ達が九十九遊馬とアストラル。そちらがミス・キリエライト。そちらがサーヴァント、レオナルド・ダ・ヴィンチ。そちらがサーヴァント、アテム。そちらがサーヴァント、エミヤシロウ。そしてそちらが──ほう。これは驚きだ。騎士王と円卓の騎士の一人が仲間とは」

 

ホームズは何と全員の名前と真名を言い当てていき、最後にアルトリアとベディヴィエールに驚きの様子を見せた。

 

「初めまして、騎士王アーサー・ペンドラゴン、サー・ベディヴィエール。同郷の人間として、会えたことを心から喜ばしく思います」

 

ホームズはイギリス人なので伝説の騎士達であるアルトリアとベディヴィエールに敬意を示した。

 

「ホームズさん、どうして俺たちの名前を……?」

 

「なに。初歩的な事だよ、諸君」

 

(お決まりの名台詞、来ました……!この方は本物のミスター・ホームズです……!)

 

ホームズの台詞として恐らく1、2を争う有名な言い回しであり、本物の名台詞を聞けてマシュのテンションは鰻登りである。

 

「キミたちと私は既に接触を果たしている。こうして顔を合わせる前に、情報を介してね」

 

「情報……?ハッ!?まさか、魔術協会の地下で私たちが求めた資料を一箇所にまとめておいたのはあなたなのか!?」

 

「ほう、流石は異世界から来た精霊。凄まじい理解力だ。その通り、あれは私が用意したものだ」

 

第四特異点のロンドンで崩壊した魔術協会の地下の書庫に一箇所にまとめて置いてあった資料。

 

誰が置いたのか分からずにいたが、書庫を整理して資料をわかりやすく置いていたのはホームズだったのだ。

 

しかし、あまり分かりやすく纏めては敵であるマキリに気付かれてしまうのでアンデルセン達のような本当の知恵者が真実の目的を求めて来た時のみ意味を成すように配列して置いたのだ。

 

「キミ達はあの情報を知る必要があった。傍観者ではなく、この殺人事件の解決者になる為にはね」

 

「殺人事件……?」

 

「ああ、殺人事件だ。私もかつて体験したことのない規模の。『人理焼却による根底からの霊長類の殺害』。まさに神話級の殺人事件だ。であれば、私が現れるというのも当然だろう?」

 

ホームズはソロモンの人理焼却を殺人事件として調査していたのだ。

 

そんなホームズにアルトリアとベディヴィエールは疑問符を浮かべていた。

 

同じイギリス出身のサーヴァントだというのは分かったが、一体彼が何者なのか理解出来ていなかったのだ。

 

そんな二人に根っからのシャーロック・ホームズファン……シャーロキアンであるマシュが熱く語って説明をした。

 

シャーロック・ホームズシリーズの原作を読み込んでいたマシュの感動と尊敬を受けたホームズは「私のことをよく理解している良い読者」と好意的だった。

 

「マシュ、せっかくだから……はいコレ」

 

ダ・ヴィンチちゃんは熱く語っているマシュにあるモノを渡した。

 

「ダ・ヴィンチちゃん?これは……色紙とペン?」

 

「サインでも貰ったら?せっかくホームズに会えたんだし」

 

「そ、そうですね!ありがとうございます!あ、あの!ミスター・ホームズ!お願いがあります!どうか、サインを下さい!」

 

「私のサイン?ははは、こんな風に求められたのは初めてだよ。良かろう、私のファンであるミス・キリエライトに特別にサインをあげよう」

 

ホームズは快く色紙にサインをしてマシュに渡した。

 

マシュはサインを受け取ると今まで見たことないほどのウキウキ気分となり「一生の宝物にします!」と大喜びだった。

 

ひとまず和やかな雰囲気は置いておき、ホームズは再び真剣な表情で話す。

 

遊馬達に協力したいのは山々だが、依頼の順番があり、その依頼者は……バベッジだった。

 

第四特異点のロンドンでバベッジは僅かな理性を代償にホームズに調査を依頼していたのだ。

 

調査の為にアトラス院に来たのだが、中心部に行く為には地下迷宮のような通路を突破しなければならない。

 

しかも地下迷宮には罠が山ほど設置されているので流石にそれをホームズ一人で対処するのは難しいので遊馬達を待っていたのだ。

 

アトラス院に向かう目的は同じなので、遊馬達はホームズと共に地下迷宮の攻略に乗り出した。

 

地下迷宮を歩きながらホームズはアトラス院について軽く説明する。

 

アトラス院は西暦以前から存在しているエジプトを根拠とする錬金術師の集団。


時計塔のような中世を発祥とする西洋魔術に傾倒した現代錬金術とは別物で、魔術の祖と言われる錬金術師の集まり。

 

魔術回路の数が少ないことも特徴で、単体では自然干渉系の術はまったく使えない。

 

故に神秘を学ぶ過程において魔力に頼らず、多くの道具に頼り、その在り方は科学技術の発展による発展に近かった。

 

「自らが最強である必要はない。我々は最強であるものを創り出すのだ」という格言を信条とし、多くの武器や兵器製造しており、その最たるものが魔術世界で言う、七つの禁忌……『七大兵器』として展示されている。

 

ホームズの話を聞き、遊戯は千年パズルに触れる。

 

「古代エジプトの錬金術か……」

 

すると、千年パズルから淡い光が放たれ、まるで何かに共鳴するかのような反応だった。

 

何事かと周りが驚いていると、遊戯は千年パズルがアトラス院に封印されている道具か何か共鳴しているのではないかと察知した。

 

「……千年パズルはこの世界とは違う異世界だが、古代エジプトの錬金術によって生み出されたアイテムなんだ」

 

遊戯は千年パズルに隠された秘密を静かに語り出した。

 

千年パズルを含む七つの千年アイテムは元々は遊戯達の住んでいた世界の古代エジプトで国の繁栄を願うアテムの父・アクナムカノン王が弟の神官アクナディンに命じて作らせたもの。

 

敵国に攻め込まれ危機が迫る状況の中、アクナディンは王家に古より受け継がれていた『千年魔術書』の一部の解読に成功し、そこに記されていた闇の錬金術で卑金属を神秘の力を持った貴金属の七つの宝物へと鋳造する事になった。


しかし、その製法には99人の人間を生贄を捧げる必要があり、生贄に選ばれたのがかつては王宮に従事していた墓作り職人が墓荒らしとなって移り住んだ村……盗賊村のクル・エルナ村の99人の住民の命が捧げられた。

 

完成された千年アイテムの最初の所持者となったアクナムカノン王とアクナディンを含む六人の選ばれた神官団は精霊と魔物を呼び出し、その圧倒的な力で敵国の侵略を返り討ちにして王国を守った。

 

それ以降、千年アイテムは国の守護と同時に罪人の裁くために使われた。

 

しかし、それは同時に王国が破滅に向かう最悪な運命の始まりだった。

 

それは……冥界を統べる大邪神ゾークは自身が現世に降臨する為に千年魔術書に冥界への扉を開く儀式と道具の使い方を記した闇の錬金術を残し、千年魔術書を通じてアクナディンを利用して千年アイテムを生み出させた。

 

つまり、千年アイテムは王国を守護する神器であると同時に大邪神ゾークを現世に降臨させる為の鍵だったのだ。

 

千年アイテムに隠された恐るべき真実に遊馬達は驚愕していた。

 

「千年パズル……千年アイテムにそんな秘密があったなんて……」

 

「そして、同時にデュエルモンスターズの起源でもある……」

 

千年アイテムによって罪人の裁判を行い、人の心に宿る魔物を具現化させて石板に封印し、その魔物を遊戯や当時の神官達が操っていた。

 

ペガサスはその当時の様子が刻まれた数々の石版からインスピレーションを得て、デュエルモンスターズをこの世に生み出したのだ。

 

「なるほどねぇ〜、ふむふむ。実に興味深い話だね」

 

ダ・ヴィンチちゃんは遊戯から聞いた話を興味深そうにメモを取っていく。

 

その姿に遊戯はギロリと睨みつけて千年パズルを輝かせる。

 

「ダ・ヴィンチ……遊馬のサーヴァントで仲間のあんたにこう言うことを聞きたくは無いが、千年アイテムと闇の錬金術の話を聞いてどうするつもりだ?まさか、カルデアで千年アイテムに似た闇のアイテムを作るつもりか?」

 

「いやいやいや!そんな事はしないさ!私は非人道的な行為は認めないから!私はただ、デュエルモンスターズのカードを制作するための情報を集めているだけさ!」

 

「デュエルモンスターズのカードを?」

 

「実は遊馬君の為にカルデア製のオリジナルのデュエルモンスターズのカードを作ろうとしているんだけど、なかなかうまくいかなくてね。一応遊馬君とアストラルの持ってるカードの複製には成功したけど、新しくカードを作るとなると難しくて……そこでデュエルキングの君からデュエルモンスターズの起源を聞いて、何か切り開くきっかけを思いつけば良いと思ったんだよ」

 

「そうだったか……すまない、疑ってしまって。お詫びになるか分からないが、前にペガサスから託された名もなきカードの話をしよう……」

 

遊戯はすぐに非礼を詫び、ダ・ヴィンチちゃんの為にペガサスのカード作成の話をした。

 

ペガサスはデュエルモンスターズのカードを作成する為に世界中の遺跡を巡っていた。

 

ペガサスは精霊達が住まう異世界、デュエルモンスターズ界に伝わる三体のドラゴンの噂を聞き、そのドラゴンが描かれた壁画を見て強いインスピレーションを掻き立てられた。

 

そのインスピレーションからペガサスは一つの仮説を立て、三体のドラゴンの真の力を解き放つ事ができるカードを生み出した。

 

ペガサスは更にこう話していた、人は過去や未来、見ることが出来なくてもイマジネーションを膨らませる事で無限の世界を知る事ができる。

 

そして、カードに込められた想いを真のデュエリストによってその力を引き出す事が出来る。

 

その話を聞いたダ・ヴィンチちゃんはペンを強く握りしめるほどのインスピレーションを得た。

 

「ありがとう……お陰で良い刺激になったよ。遊馬君!アストラル!待っててね、カルデアに帰ったら最高のカードを作るから!」

 

「期待してるぜ、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

「楽しみにしている」

 

遊馬とアストラルはダ・ヴィンチちゃんが作るオリジナルカードが出来るのを楽しみに待つ。

 

 

ホームズは色々な話を聞く中、遊馬達にあることを尋ねた。

 

それは魔術王ソロモンのことだった。

 

情報があまりにも少なく、遊馬達は一度対峙しているのでホームズは少しでも情報を求めた。

 

しかし、実際にその情報を口にしようとするとソロモンの影響かどうかは不明だがうまく説明することは難しかった。

 

遊馬とアストラルに関しては直接呪いを受けたり、暴走してDARK ZEXALになったり、監獄塔に魂が囚われたりと色々大変だったのでソロモンのイメージに対して少しあやふやになっている。

 

そんな中、マシュはソロモンの言動が安定していないという違和感があったと思い出した。

 

その時のことをマシュはホームズに説明すると、ソロモンについて一つの仮説を立てた。

 

ソロモンは鏡のような性質を持ち、他者からの心や言葉に対して態度を変えている。

 

自分が無い、多重人格でもない……ソロモンは数多の属性を持っている。

 

ソロモンは人理焼却を行い、人類を滅ぼして次の仕事に移ろうとしていた。

 

本来ならばソロモンと戦う者は存在しないはずだったが、ここに一つの奇蹟が起きた。

 

それが遊馬とアストラルとマシュ……カルデアの存在だ。

 

この奇蹟とも呼べる存在がこの人理焼却を覆し、ソロモンを打倒できる唯一無二の存在であるとホームズは信じている。

 

すると、突然地下迷宮に警報のブザーが響き渡り、地下迷宮の罠である防衛装置が作動し、次々とアトラス院で作られた自律型の使い魔が現れる。

 

「私からの忠告、いや宣言だ。私が諸君らの前に現れた最大の理由はここにはカルデアの目が届かない事にある。事前に言っておくとだね。私は──ドクター・ロマンを信用していない」

 

ホームズの宣言……それは遊馬達にとって信じられない内容だった。

 

 

遊馬達は使い魔を倒して地下迷宮の奥へと進み続け、辿り着いたのはとても地下とは思えない場所だった。

 

広い空間に学院のようなものがあり、天井には偽りとは言え美しい青空が広がっていた。

 

この場所こそ目的地であるアトラス院の中心部である。

 

中心に聳え立っている三本の塔があり、古代エジプトで神殿に建てられる記念碑の石柱であるオベリスクがある。

 

そのオベリスクがアトラス院最大の記録媒体、擬似霊子演算器トライヘルメス。

 

カルデアにある電子演算器トリスメギストスの元となったオリジナルである。

 

ホームズは既にアクセス権を持っており、トライヘルメスを利用してある記録を検索する。

 

それは……2004年の日本で起きた、聖杯戦争の顛末だった。

 

日本の聖杯戦争と聞き、アルトリアとエミヤは自然と視線が鋭くなって緊張した面持ちとなる。

 

ホームズは聖杯戦争の記録を調べたが過程や結末までは知る事はできなかった。

 

参加した七人のうちの一人はカルデアにとって重要人物だった。

 

それは……オルガマリーの父にして謎の死を遂げたカルデア前所長、マリスビリー・アニムスフィア。

 

「オルガマリー所長の父ちゃんが聖杯戦争に参加してた!?」

 

「しかも、トライヘルメスの情報によると……聖杯戦争の勝者になっていたのか……!?」

 

「そして、聖杯を手に入れた……!?」

 

その事実に遊馬達は驚きを隠せずにいた。

 

以前、最初の特異点で訪れた冬木でオルガマリーは聖杯戦争の事やマリスビリーが勝者などと言ったことは一言も口にしていない。

 

オルガマリーはマリスビリーが聖杯戦争に参加したことや勝利して聖杯を手に入れたことは知らないと思われる。

 

記録には続きがあり、マリスビリーは聖杯戦争時に助手を連れてきた。

 

その助手は後にカルデアのスタッフ、医療機関のトップとして在籍する事になった。

 

「……ロマニ・アーキマン、ですね?ドクターは……カルデアに来る前から、前所長と知り合いだったと?」

 

マシュはとても複雑な表情を浮かべながらホームズに尋ねる。

 

「イエス。そして、更におかしな事に。このロマニ・アーキマンという人物の経歴は一切不明だ。どう調べても聖杯戦争以前の記録を見つけ出せない」

 

情報収集に優れている名探偵のホームズでさえ見つけ出さないロマニの経歴。

 

ヘルメスを更に使えば判明するだろうが……年ごとに更新される何十億という個人データからたった一人の人生をサルベージするには時間がない。

 

「それがドクター・ロマンを信用していない理由だ。彼は間違いなく人間であり、魔術師ではないが……何かを隠している。それもとびきり、真相に近い何かを……」

 

マリスビリーと何かしらの深い関係があり、異例の出世でカルデアの医療機関のトップとなったロマニ。

 

カルデアに潜り込んだ裏切り者にしてソロモンの魔神柱でもあったレフの実例がある為、ホームズはロマニを怪しんでいる。

 

その事実に一同が困惑の様子を見せ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は……ロマン先生を信じる!!!」

 

 

 

 

 

 

遊馬の想いが込められた言葉がアトラス院に響き渡る。

 

その言葉にアストラル以外の誰もが困惑する中、ホームズは遊馬を見定めるように目を細める。

 

「……ほう、経歴も分からない、謎が多すぎるあまりにも不気味な男を信じるのか?」

 

「確かに……ロマン先生の過去に何があったか知らないし、怪しい事は確かにホームズさんの言う通りかもしれねえ。ロマン先生には俺たちには言えない何かがあるのかもしれねえ……」

 

遊馬はロマニとの最初の出会いから今まで交わしてきた言葉、見せてくれた表情を思い出していく。

 

「だけど、俺やマシュに向けた優しい言葉や表情……場を和ませてくれたり、美味そうにスイーツを食べていたり……何よりも、ひとりぼっちだったマシュのことを誰よりも大切にしてくれていたロマン先生の想いが全部偽りだなんて信じられねえ!」

 

数々の特異点の戦いからカルデアに帰還する度にロマニは遊馬達を笑顔で迎え、ドクターとして一生懸命治療や検査をし、時には食事やおやつを一緒に食べてたくさん話をした。

 

「もしも、ドクター・ロマンがレフと同じように敵だとしたらどうするつもりかな?」

 

「その時はその時だ。何かあったら俺やマシュがロマン先生をブン殴って目を覚まさせるだけだ!」

 

私もですか!?とマシュは驚いたが、ロマニと深い関係があるのはマシュだ。

 

ロマニに何かあったらその時行動するのは自分の役目だとマシュも決意を固めて頷く。

 

遊馬はロマニとのたくさんの思い出を胸に再び断言する。

 

「ロマン先生は俺たちの大切な仲間だ!」

 

何があっても仲間を信じ抜く強い心。

 

遊馬の強さの芯にホームズは呆れたような笑みを浮かべた。

 

「なるほど、それが君の心の強さか。私は彼を重要参考人として見ている。そこまで言うなら、その信念を貫いて見せてくれ」

 

「おう!」

 

ひとまずはロマニについての話はこれで終わりとなる。

 

遊馬達はロマニにはこの事は追求せず、ロマニが自分の口から語るのを待つ事にした。

 

次にホームズはカルデアの記録を探っているうちにある答えを見つけてしまった。

 

それはマシュに力を譲渡した謎の英霊の真名である。

 

遊馬は夢でその英霊と出会っており、性別は男性で騎士のような姿をしていて、マシュの命を守るために力を譲渡した誇り高く、そして優しい心を持つ。

 

ホームズはその謎の英霊について遂に答えを見つけ、マシュにその真名を告げようとしたが……。

 

「ま、待ってください!ホームズさん!まだ、真名は言わないでください!」

 

マシュはホームズが明かそうとした英霊の真名を明かすのに待ったをかけた。

 

ホームズはキョトンと驚く中、マシュは胸を押さえ、心臓の鼓動を感じながら……その身に宿る霊基が発する言葉を口にする。

 

「私の中の、英霊が……言っているんです。まだその時では無い……この地で、あの男と再会する時まで待て、と……」

 

マシュの中に宿る英霊は誰かとの再会を待ち望んでいるらしく、ホームズに真名を明かすのを待てと伝える。

 

「だから、どうかお願いします!」

 

「あの男……?なるほど、そういう事か。仕方ない、今回は君の中の英霊の願いと私の大ファンであるミス・キリエライトに免じて、真名を告げるのはやめておこう。今の君なら私が告げなくても問題はないだろう」

 

ホームズは英霊とマシュに免じ、自分の意思を曲げて真名を明かすのを止めた。

 

そして、ホームズは遊馬達に最後の疑問についての答えを告げる。

 

「さて、最後に獅子王の持つ聖槍ロンゴミニアド。これが何であるのか、諸君らは知る必要がある」

 

獅子王……モードレッド曰く、聖槍を持つ別の可能性のアルトリア。

 

「ロンゴミニアド……アーサー王物語の終焉の戦い、カムランの戦いでアーサー王がモードレッドとの一騎討ちでエクスカリバーの代わりに使用した槍……」

 

「アルトリア、ロンゴミニアドってどんな宝具なんだ?」

 

アストラルはロンゴミニアドの一般的に知られている情報を口にし、遊馬はアルトリアに直球でどんなものか尋ねる。

 

「ロンゴミニアド……実は、聖槍はただの槍ではありません。その正体は水平線の彼方、世界の果てに立つ塔。世界の裏側の最果てにて輝く塔なのです」

 

「「「塔!??」」」

 

アルトリアの衝撃的な答えに遊馬達は耳を疑う。

 

ロンゴミニアドの正体と獅子王の目的……それをアルトリアとホームズが説明する。

 

ロンゴミニアド……それは『塔』であり、この世界を貫いている巨大な光の柱。

 

これは聖槍の在り方がカタチとなったものであり、本来の姿である。

 

『槍』はその塔が地上に落とした影で塔の能力、機能をそのまま使える個人兵装。

 

『塔』は世界の果てに在り続けるもの。

 

『槍』は塔の管理者が持ち続ける武器。

 

例えるならば、塔が本体で槍は子機という事である。

 

『聖槍は健在なり』と人間に示したものであり、実際に塔としてあるようだが、『世界の果て』にあるため人間には永遠に辿り着けない。


塔は世界の果てに聳えながら人界の全てを見通し、見守っている。

 

一方、聖地エルサレムに現れた聖都。

 

その正体はただの都市ではなく、聖地の上に一夜にして築かれたが、あの都市が『聖槍』なのだ。

 

「あの聖都がロンゴミニアドなのか!?」

 

「なるほど、一夜にして現れたと聞いてどうやって作ったのか疑問に思っていたが、ロンゴミニアドを利用して建てたのなら納得出来る……」

 

聖都が聖槍と言う事実に驚いたが同時に納得するが、ホームズから語られる獅子王の目的に更なる驚愕が襲い掛かる。

 

獅子王は聖都に理想都市を作り、選ばれた人間を選んで招き入れたが、その実態は理想都市で生きる為ではなく、理想の人間として集めたに過ぎない。

 


選ばれた人間を保護したというが、真相は逃がさないように閉じ込めたのだ。

 

故に聖都に運ばれた人間は、みな聖槍の中に仕舞われたようなもの。


聖抜によって選ばれた清らかな人間というのは「清く正しい人間」ではなく、「何が起ころうと正しい行いしかできない人間たち」である。

 

ヘルメスのによると、聖槍には五百人分の魂が収納でき、獅子王は聖都を最果ての塔にし、聖都にいるものを聖槍に取り込ませる。

 


こうなれば生命として活動する余地はなく、生きるか死ぬかという話ではなくなり選ばれた人間は『善良な人間の要素』として管理される。

 


聖都は収束し、一つの塔になるが、その塔の中には圧縮された地獄があり、獅子王の元で人間の価値を証明するように永久に保管される。

 

無論、『塔』が出来るという事は、その一帯は全て『世界の果て』になり、『塔』という完全な世界を作る代わりに、『塔』の外の世界は消滅する。

 

その余りにも恐ろしい……人間とは思えない所業に遊馬達は怒りに震えた。

 

「何だよそれ……!?何が理想の世界だ!身勝手に選んだ人間を閉じ込め、それ以外の要らない人間を容赦なく殺し、最後は自分達だけ助かろうとしている……ふざけるな!何の権利があってそんな事が出来るんだ!」

 

遊馬はあまりにも身勝手な獅子王の行いに血が出るほどに手を強く握りしめていた。

 

そして、獅子王の目的を知ったアルトリアは聖槍を持つ別の自分が行おうとしている所業に体が震え、自分の手を見つめた。

 

「馬鹿な……そんな、事が……獅子王が……聖槍を持つ私が……そのような、悪魔みたいな所業を……!?」

 

アルトリアと獅子王は厳密に言えば別人ではあるのだが、アルトリアは過去の様々なトラウマが蘇り、罪悪感で頭を抱えてしまう。

 

人と国を救いたいと願い、アーサー王として戦った自分の気持ちが偽りだったのか?

 

本当は獅子王のような人を聖槍の中に閉じ込めて標本にしてしまうような人ですら、王ですらない悪魔のような心を持っているのではないかと自分を追い詰めてしまう。

 

全て自分が悪いのでは?と自分を極限にまで追い詰めてしまい、アルトリアはストレスで倒れそうになる。

 

「王!?」

 

ベディヴィエールが駆け寄るが、それよりも早くエミヤがアルトリアを支え、そのままお姫様抱っこで抱き上げる。

 

「シロウ……?」

 

「今は休め。話なら後でじっくりと聞く」

 

「……はい」

 

アルトリアはエミヤの言葉に従い、ゆっくり目を閉じた。

 

「マスター、アルトリアを休ませたい。ここで調べるものは調べ終わったはずだ」

 

「そうだな。キングハサンの宿題もこれで終わったし、村に戻ってみんなとこれからどうするか話し合おう」

 

「ホームズ、君はこれからどうする?」

 

アストラルは遊馬達に協力はするが、仲間にならないホームズに今後どうするのか尋ねる。

 

「君たちと一緒にアトラス院を脱出したらそこでお別れだ。私は私で他に追う者がいる。もしも、また縁があれば……その時は是非とも契約を頼もう」

 

「その時を楽しみにしているぜ、ホームズさん!」

 

「ああ、私も楽しみにしているよ。未来と希望を紡ぐ子供達よ」

 

遊馬とホームズは再会を約束する。

 

その後、遊馬達はアトラス院を脱出して外の砂漠でホームズと別れる。

 

そして、遊馬達はかっとび遊馬号で西の村へと戻った。

 

 

 



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ナンバーズ190 新たなる切り札!ドラゴニック・ホープレイ!!

アトラス院から西の村に戻った遊馬達は次の目的を決めた。

 

徐々に獅子王との対決が近づいていき、遊戯はエジプト領に行くことを提案した。

 

エジプト領にいるオジマンディアスとニトクリスと話をつけて協力関係を結び、獅子王との最終決戦に挑むのだ。

 

遊馬達もそれに同意し、明日の朝にエジプト領に向かうこととなった。

 

本日も色々な事があったので、サーヴァント達は村人達と一緒に宴会を初めた。

 

食材と酒は藤太の宝具でどんどん湧いて出てくるのでエミヤが料理を作っていき、サーヴァント達の腹を満たしていく。

 

すると、マシュはいつの間にか遊馬とアストラルの姿が無いことに気付き、念の為にデュエル飯を用意して探しに出かけた。

 

「マシュ殿、私も一緒に探します」

 

「ありがとうございます、ベディヴィエールさん」

 

ベディヴィエールも同行し、遊馬とアストラルを探す。

 

村を隅々まで探したが遊馬とアストラルの姿が見えず、マシュはフェイトナンバーズの繋がりを頼りに見つけ出した。

 

遊馬とアストラルは村の外の人気のない場所で対峙していた。

 

その近くの岩陰には静謐のハサンが気配遮断の隠密行動スキルで隠れながら遊馬とアストラルを見ていた。

 

「静謐さん?」

 

「ここで何を……」

 

「っ!?マシュさん、ベディヴィエールさん。えっと、ユウマ様を見守っていました……」

 

遊馬にベタ惚れしている静謐のハサンは遊馬がいないのをいち早く気付いて探し出していた。

 

そして、遊馬とアストラルが何をしているのかと言うと……二人は珍しくデュエルをしていた。

 

「『ガガガガマジシャン』の効果で攻撃力4000となった『未来皇ホープ』でアストラルにダイレクトアタック!」

 

「甘いぞ、罠カードオープン!『エクシーズ・リボーン』!墓地から『希望皇ホープ』を復活し、エクシーズ・リボーンをホープのオーバーレイ・ユニットにする!」

 

「くっ!それなら未来皇ホープで希望皇ホープに攻撃!ホープ剣・ガガガガ・フューチャー・スラッシュ!」

 

「希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!ムーン・バリア!」

 

未来皇ホープの攻撃と希望皇ホープの防御がぶつかり合い、激しい火花を散らす。

 

そして、二体のホープが互いを弾き飛ばして遊馬とアストラルの前にそれぞれ立つ。

 

「くっそー、もうちょいでいけると思ったんだけどな!」

 

「遊馬、この程度で私がやられるわけないだろう?」

 

「だったら何度だってぶつかってやるぜ!」

 

「その意気だ。来い、遊馬!」

 

「ああ!アストラル!!」

 

遊馬とアストラルは互いの力を高め合うようなデュエルをしており、真剣な様子にマシュ達も声をかけることは出来なかった。

 

しかし。

 

ぐぅ〜っ!

 

「うぐっ!?……は、腹減った……」

 

遊馬の腹の虫が盛大になり、静謐のハサンとマシュとベディヴィエールは思わずその場でずっこけてしまい、アストラルは苦笑を浮かべながらデュエルディスクを消した。

 

「遊馬、今日はここまでにしよう。夕食を食べずにずっとデュエルをやっていたからな」

 

「そうだな。そろそろみんなのところに戻るかぁ……」

 

「ユウマ様!」

 

「ゆ、遊馬君!」

 

「ユウマ殿!」

 

「へ?静謐?マシュ?それにベディヴィエール?」

 

静謐のハサンとマシュとベディヴィエールはすぐに復活して遊馬とアストラルの元に駆け寄った。

 

遊馬はマシュが作った特大のデュエル飯を満面の笑みで食べる。

 

「うんめぇ〜!サンキュー、マシュ!ご馳走様!」

 

「はい。お粗末様です」

 

「ところで、ユウマ殿、アストラル殿。こんなところで何をしているのですか……?」

 

ベディヴィエールはみんなに黙ってデュエルをしていたことに疑問を抱き、遊馬は水を飲んで夜空を見上げながら静かに答えた。

 

「……どうやったら大きな壁を越えられるか分からなくなったんだ」

 

「大きな壁……?もしかして、遊戯さんの事ですか……?」

 

マシュは遊馬にとっての大きな壁と聞いて伝説にして最強のデュエリストである遊戯の事だと察した。

 

「遊戯さんのデュエルを見る度に力の差を感じるんだ……こんなにも越えられないと思うほどの大きな壁は初めてだ……」

 

「遊戯さんの神がかったデュエルタクティクス、見たことない未知なる力を秘めたカード……まさしく遊戯さんは私達よりランクが上の最強デュエリストだ。あの遥かなる高みに登るにはどうすれば良いのか……」

 

遊馬とアストラルはどうすれば遊戯のように強くなれるのか分からず、悩み、苦しみ、足掻いていた。

 

ジッとしてはいられない二人はとにかくデュエルをして答えを見つけようとしていた。

 

そんな二人に対し、マシュは第三者からの視点から冷静に分析する。

 

「そうですね。技術……戦術や戦略などのデュエルタクティクスの方は一朝一夕で何とかなるものではありません。ですが、カードならなんとかなります。遊馬君、アナザーのカードはまだありますよね?」

 

「「アナザーのカード……?」」

 

静謐のハサンとベディヴィエールは何のことか分からず首を傾げると、遊馬はデッキケースを開いて中から白紙のカードの束を取り出す。

 

「俺の前世で、アストラルの半身……アナザーが全ての力を込めて託してくれたカード……」

 

「確かにこれがあれば、私と遊馬が望む最高のカードを創り出してくれるはずだ……」

 

「でも、気軽にアナザーのカードを使って良いのか、正直迷っているんだ……」

 

「デュエリストにとって、新しいカードとの出会いはとても喜ばしいことだ。だが、安易に強すぎる力を求めることが果たして良いことなのか……」

 

アナザーのカードはこれまで遊馬とアストラル、そしてマシュ達の想いに応えて新たなカードとしてその力を覚醒してきた。

 

しかし、遊馬とアストラルは今までの経験から、強力なカードを得られるかもしれないアナザーのカードを自分の意思で覚醒させることを控えていたのだ。

 

「ユウマ殿とアストラル殿なら大丈夫ですよ」

 

ベディヴィエールは悩む二人にそう断言した。

 

「「ベディヴィエール……?」」

 

「ユウマ殿。貴方はどこか、我が王に似ています……そう感じるのです」

 

「我が王って……アルトリアの事か?でも、俺はアルトリアみたいに真面目じゃないし、騎士王って呼ばれるほど強くないぜ?」

 

「性格や強さではありません。誰かの幸せを見て笑顔になる、そんなところが似ています」

 

「誰かの幸せを見て笑顔に……ふふっ、そうですね。まさに遊馬君の生き様そのものですね!」

 

「アストラル殿。あなたは安易に力を求めず、力を使うことに対して悩み、深く考えることは戦う者として、とても良いことです」

 

ベディヴィエールは悩む遊馬とアストラルの良い点を挙げ、最後に結論を言う。

 

「お二人なら大丈夫です。誰かの幸せを願い、力の使い方を常に考えるお二人なら……必ずみんなを守り、幸せに出来ます!」

 

ベディヴィエールの言葉に心を突き動かされ、遊馬とアストラルの不安と迷いは一気に消え去った。

 

デュエルキングである遊戯と同じ高みへ登り、自分達の愛する者達と世界を守り抜き、未来を守る為に。

 

「……ありがとう、みんな」

 

「お陰で私達の心は決まった。みんなを、未来を守る為に、私達は新たな力を手にする時だ」

 

遊馬とアストラルは覚悟を決め、遊馬はアナザーのカードを地面に置く。

 

「かっとビングだ、アストラル」

 

遊馬は魂に宿るヌメロン・コードの力を解放し、双翼を羽ばたかせて右手に純白の輝きを宿す。

 

更に、バリアン七皇から託されたカオスの力を左手に込めて真紅の輝きを宿す。

 

「ああ。かっとビングだ、遊馬」

 

アストラルはアストラル世界の伝説の力であるシャイニング・ドローの金色の輝きを右手に宿す。

 

アストラル世界、バリアン世界、ヌメロン・コード、三つの力を宿した光をアナザーのカードに向ける。

 

そして、遊馬とアストラルは目を閉じて新しいカードへの想いを込める。

 

遊馬とアストラル、二人の希望と未来を象徴するモンスターの希望皇ホープと未来皇ホープ。

 

数々のデュエルで共に戦ってきた大切な仲間であるモンスター達。

 

多種多様の姿形と能力を秘めたナンバーズ。

 

大いなる戦いに臆することなく、遊馬とアストラルの側にいてくれた小鳥と仲間達。

 

ぶつかり合いながらも絆を深めた二人の勇士、凌牙とカイト。

 

世界の未来を救う遥かなる旅路を共に戦う新たな仲間達、マシュとサーヴァント達。

 

今まで遊馬とアストラルが築き上げ、紡いで来た記憶と絆がカードに込められ、覚醒の輝きが最高潮にまで高まる。

 

「「かっとビングだ!俺/私!!」」

 

そして、遊馬とアストラルの全てを込めたカードが遂に完成し、弾け飛ぶように空に舞い上がる。

 

舞い上がったカードはゆっくりと落ちながら遊馬とアストラルの手の中に収まっていく。

 

まだ覚醒してない白紙のカードは10枚ほど残っており、それは遊馬のデッキケースにしまった。

 

完成したカードを見て遊馬とアストラルは胸が弾むほど興奮した。

 

「す、すっげぇ!俺とアストラルのホープやナンバーズの力を高めてくれるカードがこんなにも!」

 

「これがあれば、私達のデッキがかなりランクアップ出来るぞ!」

 

「それに、シャークとカイトのデッキやナンバーズを大幅に強化できるカードもたくさんあるぜ!」

 

「胸の高まりが抑えきれない……!遊馬、すぐに新しいデッキ構築を始めよう!」

 

「もちろんだぜ!アストラル、今夜は寝かせないぜ!」

 

「望むところだ!」

 

遊馬とアストラルは新しいカードを持ち帰り、マシュとベディヴィエールと静謐のハサンと共に村に戻った。

 

二人はデッキと新しいカードを広げてデッキ構築を始め、自分達の思い描く最強のデッキを作り上げていく。

 

 

翌朝、村人達に別れを告げて西の村を後にした。

 

かっとび遊馬号に乗り、目指す目的地はエジプト領。

 

あっという間に数日振りのエジプト領に到着してすぐに降り立ち、遊馬達は堂々とオジマンディアスのいるピラミッドに向けて進んだ。

 

途中、警護のエジプト兵士が止めようとしたが、ファラオである遊戯と神官であるマハードとマナの無言の圧力で道を開けてもらった。

 

そして、ピラミッドの前には予想通りと言うべきか、一人の女性が立ち塞がる。

 

「帰って来ましたね、アテム、マハード、マナ。そして、カルデアの者達よ」

 

「ニトクリス、今戻ったぜ」

 

エジプト領のファラオサーヴァントの一人、女王ニトクリス。

 

ニトクリスは真剣な眼差しでアテム達を見つめ、ファラオとして堂々と立つ。

 

「それで、この地に戻って来て何をするつもりですか?」

 

「ニトクリス、まずはそこを通してくれ!オジマンディアスに話がある!」

 

「そうはいきません。ファラオ・オジマンディアスと話がしたければ、私を倒してからにしなさい!あなたはファラオとは言え、この地から追放された身なのですから!」

 

「……仕方ない」

 

遊戯はニトクリスが頑固なところがあるのを知っているので、力づくで押し通るしかないとデュエルディスクを構えようとするが……。

 

「遊戯さん!ここは俺達に任せてください!」

 

「私達の手に入れた新しい力を見せる時が来た!」

 

遊馬とアストラルが前に出てニトクリスとの戦いに名乗りをあげた。

 

遊戯は遊馬とアストラルの体から放たれるデュエリストの闘志がメラメラと燃え上がるのを感じ取り、更にはデッキから強い力の波動を感じ取れた。

 

「遊馬、アストラル……面白い、そこまで言うのなら見せてくれ。二人の新たな力を!」

 

「「はいっ!!」」

 

遊馬とアストラルは気合いを入れてゆっくりと歩き、ニトクリスと対峙する。

 

「ユウマとアストラル……と言いましたね?まさかアテムではなく貴方達が来るとは思いませんでした。しかし、私は手加減するつもりはありませんよ?」

 

「こっちだってそのつもりだ。寧ろ、新しい力が強すぎてちょっと手加減が出来ないかもしれないけどな!」

 

「では、試練として貴方達の力を示しなさい!この先に進みたければ、我が屍を乗り越えるのみ!」

 

「全力全開で行くぞ、遊馬!」

 

「ああ!デュエルディスク、セット!D・ゲイザー、セット!デュエルターゲット、ロックオン!」

 

遊馬はデュエルディスクとD・ゲイザーを起動させ、デッキからカードを5枚を手札にする。

 

「デュエル!行くぜ、俺のターン!ドロー!よっしゃあ、最強の手札が来たぜ!」

 

「この手札なら最初からフルパワーで飛ばせるぞ、遊馬!」

 

遊馬は初期手札とドローカードでテンションが上がり、遊馬の引きの強さにアストラルは満足そうに頷きながら言う。

 

「おう!自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。俺は手札から『ZS(ゼアル・サーバス) - 昇華賢者(アセンド・セージ)』を特殊召喚!」

 

遊馬の前に藍色の鎧を纏った賢者の姿をしたモンスターが現れる。

 

「ゼアル・サーバス……!?初めて見るモンスターです!」

 

マシュは今まで遊馬とアストラルが使ったことのないゼアルの名が付いた初めて見るカテゴリモンスターに驚く。

 

「ゼアル・サーバスは希望皇ホープを助ける効果を持つ、従者の役割を持つモンスターだ!」

 

「アナザーのカードで希望皇ホープの展開力を大幅に強化するゼアル・サーバスが誕生した!」

 

元々遊馬のデッキは希望皇ホープをエクシーズ召喚しやすくする為の手札・墓地のモンスターの特殊召喚に特化していた。

 

そこにアナザーのカードで更にその展開力が大幅に強化された。

 

「更に自分フィールドのモンスターがこのカード以外のレベル4モンスター1体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。『ZS(ゼアル・サーバス) - 武装賢者(アームズ・セージ)』を特殊召喚!」

 

昇華賢者の隣に同じような形をした真紅の鎧を纏った賢者が現れる。

 

二人の賢者は対となる効果を持つペアのようなモンスターなのだ。

 

「更に永続魔法『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』を発動!」

 

希望皇ホープをエクシーズ召喚する事にデッキから1枚ドロー出来るドローソースを配置し、遊馬とアストラルは意気揚々とエクシーズ召喚する。

 

「「俺/私はレベル4の昇華賢者と武装賢者でオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れろ!『No.39 希望皇ホープ』!!」」

 

希望皇ホープがエクシーズ召喚されると、オーバーレイ・ユニットとなった昇華賢者と武装賢者の幻影が現れる。

 

「この瞬間、ホープのエクシーズ素材となった昇華賢者と武装賢者の効果発動!」

 

「昇華賢者と武装賢者はそれぞれ、希望皇ホープモンスターの素材となってエクシーズ召喚した場合、デッキから『RUM』と『ZW』1枚ずつ手札に加えることが出来る!」

 

「更にホープがエクシーズ召喚したことで、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果が発動し、俺のライフポイントを500払って1枚ドロー出来る!」

 

昇華賢者と武装賢者は希望皇ホープをエクシーズ召喚しやすくしただけではなく、更なる展開力を高める為にデッキから『RUM』と『ZW』をサーチする効果を有する。

 

「俺はデッキから『RUM』1枚と『ZW』1枚を手札に加え、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果でデッキから1枚ドローだ!」

 

更にエクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果でデッキから1枚ドローし、希望皇ホープを出しつつ一気に手札が3枚も増えた。

 

これだけでも充分な展開だが、ここから更に新たな力を繰り出す。

 

遊馬とアストラルは1枚のカードを二人で一緒に持ち、発動させる。

 

「「俺/私は『RUM(ランクアップマジック) - ゼアル・フォース』を発動!」」

 

発動したのは遊馬の令呪の刻印にも描かれている『X』の紋章が描かれたゼアルの名を持つ新たなランクアップマジックだった。

 

「「このカードは自分フィールドのモンスターエクシーズ1体を対象として発動!その自分のモンスターよりランクが1つ高い『希望皇ホープ』モンスターまたは『ZW』モンスター1体を対象のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚し、更にデッキから『ZW』モンスターまたは『ZS』モンスター1体を選んでデッキの一番上に置く!」」

 

遊馬とアストラルが発動した新たなランクアップマジックはランクアップした希望皇ホープだけでなく、召喚条件が少々難しいモンスターエクシーズのゼアル・ウェポンも呼び出すことが可能となった。

 

希望皇ホープの真上に『X』の紋章が光り輝き、光となって地面に吸い込まれる。

 

「「ランク4の希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!ランク5!『ZW(ゼアル・ウェポン) - 弩級兵装竜王戟(ドラゴニック・ハルバード)』!!」」

 

現れたのは希望皇ホープモンスターではなく、獣王獅子武装と同じランク5のゼアル・ウェポンのモンスターエクシーズ。

 

竜王の名を持ち、戟の尻尾を持つ勇ましい姿をしたドラゴンだった。

 

「弩級兵装竜王戟の効果!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、デッキから『ゼアル』魔法・罠を手札に加える!」

 

獣王獅子武装がゼアル・ウェポンをデッキからサーチする効果に対し、弩級兵装竜王戟はゼアルの魔法・罠をデッキからサーチする効果を持つ。

 

「俺はデッキから魔法カード『ゼアル・エントラスト』を手札に加えて発動!」

 

「ゼアル・エントラストは自分の墓地の『希望皇ホープ』、『ZW』、『ZS』モンスターの内、いずれか1体を手札に加えるかフィールドに特殊召喚する!」

 

「俺は墓地の希望皇ホープを復活させる!蘇れ、希望皇ホープ!」

 

弩級兵装竜王戟のエクシーズ素材となり、オーバーレイ・ユニットとして使用された希望皇ホープが墓地から復活する。

 

「行くぜ!希望皇ホープ、カオス・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『CNo.39 希望皇ホープレイ』!」

 

「希望皇ホープレイがエクシーズ召喚に成功したことにより、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果でライフを500支払い、1枚ドロー!」

 

復活した希望皇ホープを希望皇ホープレイに進化させ、そこからエクシーズ・チェンジ・タクティクスで更に1枚ドローする。

 

「さあ、行くぜ!アストラル!」

 

「私達の新たなる希望の力を!」

 

「俺は『RUM - リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!」

 

「自分フィールド上のランク4のモンスターエクシーズをランクが1つ高い『CNo.』に進化させる!」

 

「「俺/私はランク4の希望皇ホープレイでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」」

 

連続でランクアップマジックを発動し、今回の戦いにおける遊馬とアストラルの最強の切り札を召喚する。

 

希望皇ホープレイが光となって地面に吸い込まれて光の爆発が起きると同時に凄まじい旋風が吹き荒れ、空に暗雲が広がる。

 

「「覇気が宿しその鎧!輝く波動、天空を震わせ!吹き荒ぶ疾風、悪鬼をも撃ち貫く!現れろ!『竜装合体(りゅうそうがったい) ドラゴニック・ホープレイ』!!」」

 

現れたのは希望皇ホープレイが新たな真紅の鎧と巨大な戟──『竜王戟』を第三と第四の腕で持った姿だった。

 

それはただ希望皇ホープレイが進化しただけの姿ではなく、真紅の鎧と竜王戟は明らかに隣にいる弩級兵装竜王戟のものだった。

 

「ドラゴニック・ホープレイはホープレイが弩級兵装竜王戟と合体した姿だ!」

 

「攻撃力は元のホープレイと同じだが、奇跡の力を束ねれば強力な力を得る。遊馬!」

 

「ああ!ドラゴニック・ホープレイは希望皇ホープレイとして扱い、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果で500ライフを支払って1枚ドローし、弩級兵装竜王戟をドラゴニック・ホープレイに装備だ!」

 

「この瞬間、ドラゴニック・ホープレイの効果発動!1ターンに1度、効果・攻撃の対象に選択された時に発動できる。手札・デッキから『ZW』を選び、その効果による装備カード扱いとしてこのカードに装備する!」

 

「俺は手札の『ZW - 天馬双翼剣(ペガサス・ツイン・セイバー)』を装備する!」

 

遊馬が手札のZWを発動させると天空から聖なる光をその身に宿した美しい純白の天馬が急降下しながら降り立つ。

 

「天馬双翼剣の効果でドラゴニック・ホープレイの攻撃力は1000ポイントアップする!」

 

ドラゴニック・ホープレイは双剣を投げ飛ばして天馬双翼剣と合体し、美しい羽の形をした剣となって地面に突き刺さる。

 

天馬双翼剣をドラゴニック・ホープレイが引き抜いて装備すると、背中から大きな天馬の翼が生える。

 

「更に弩級兵装竜王戟の効果でドラゴニック・ホープレイの攻撃力は3000ポイントアップする!」

 

弩級兵装竜王戟は光の粒子となってドラゴニック・ホープレイに既に武装された鎧と竜王戟と完全に一体化し、美しい粒子の輝きを放つ。

 

これにより、ドラゴニック・ホープレイの攻撃力は2500+3000+1000で6500となる。

 

「ゼアル・ウェポン……なるほど、希望皇ホープ専用のユニオンモンスターと言うわけか!」

 

遊戯はZWの能力を特定のモンスターの装備カードとなるユニオンモンスターと似たモンスターだと解釈した。

 

「そして、ドラゴニック・ホープレイ……遊馬、アストラル。二人のデュエリストと共に進化し、高みへと昇り続けるモンスターか……!」

 

そして、希望皇ホープと言うあらゆる進化の姿を持つモンスターに遊戯はとてもワクワクしていた。

 

「これでターンエンドだぜ!」

 

遊馬は最初の1ターンで怒涛の展開を繰り出して強力な効果を持つドラゴニック・ホープレイを呼び出した。

 

これまでとは比べ物にならないほどに遊馬のデッキが大幅に強化された。

 

「その魔物が貴方達の力の結晶という訳ですね。では、その魔物を葬り、私が勝ちという事にしましょう」

 

ニトクリスはドラゴニック・ホープレイに遊馬とアストラルが想いを込めていると察し、一気に勝負を決めるために杖を構えて魔力を解放し、宝具を発動させる。

 

「屍の鏡。暗黒の鏡。扉となりて、恐怖を此処へ…… 」

 

ニトクリスの背後に青いゲートが現れ、そこからジャッカルの頭を持つ黒いアヌビス像が出現する。

 

「『冥鏡宝典(アンプゥ・ネブ・タ・ジェセル)』!!!」

 

アヌビスとその配下のモンスター達を一気に死へと導いた無数の霊体が現れる。

 

「さあ、覚悟なさい!これで終わりです!」

 

霊体がドラゴニック・ホープレイを囲み、一斉に襲いかかる。

 

獲物を狙う獣のように牙を向け、ドラゴニック・ホープレイは多勢に無勢の如く、危機が迫った。

 

「「それはどうかな?」」

 

「えっ!?」

 

遊馬とアストラルは不敵な笑みを浮かべ、二人はドラゴニック・ホープレイの持つ天馬双翼剣を指差す。

 

「「この瞬間、天馬双翼剣の効果!」」

 

ドラゴニック・ホープレイの真紅の瞳が輝き、両手に持つ天馬双翼剣が大きな羽根の剣へと変化した。

 

「「1ターンに1度、相手フィールドのモンスターが発動した効果を無効にできる!ペガサス・ツイン・トルネード!!」」

 

羽根の剣となった天馬双翼剣で仰ぐように振り下ろすと聖なる光を宿した突風が吹き荒れ、鏡から現れた暗黒の異形を全て消し去った。

 

「馬鹿な……!?私の宝具が、冥鏡宝典が……封じられた!?」

 

ニトクリスは宝具が封じられたことに驚愕し、危うく杖を落としそうになった。

 

「これで決めるぜ。俺のターン、ドロー!」

 

遊馬とアストラルはこれで勝負を決める為、ドラゴニック・ホープレイのもう一つの効果を発動する。

 

「ドラゴニック・ホープレイの効果発動!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、ドラゴニック・ホープレイに装備しているZWの数まで、相手フィールドの表側表示のカードを効果を無効にする!」

 

「ドラゴニック・ホープレイに装備しているZWは2枚!ニトクリスの力を無効にする!」

 

オーバーレイ・ユニットを竜王戟に取り込ませ、刃が光り輝き、光の波動を降らせる。

 


「「ドラゴニック・ストライク!」」

 

光の波動をまともに受けたニトクリスは一時的に力を失い、その場に崩れ落ちてしまう。

 

「あっ……?」

 

「「ドラゴニック・ホープレイでニトクリスに攻撃!」」

 

ドラゴニック・ホープレイは第三と第四の腕で持っている竜王戟を勢い良く振り回す。

 

「「ホープ剣・ドラゴニック・スラッシュ!!!」」

 

天馬双翼剣で十字の斬撃を放ち、最後に竜王戟を天高く振り上げる。

 

「ファラオ・オジマンディアス……申し訳ありません」

 

もはやこれまでと、オジマンディアスに謝罪しながらニトクリスは目を閉じて覚悟を決めた。

 

しかし、ニトクリスは遊馬とアストラルのことを理解してなかった。

 

十字の斬撃はニトクリスの足元を斬り裂き、竜王戟はニトクリスの真横へと振り下ろされた。

 

ドラゴニック・ホープレイの攻撃はニトクリスに傷一つ負わせず、砂埃を僅かに被らせた程度である。

 

「何故……?」

 

ニトクリスは自分にとどめを刺さなかった事に唖然としていた。

 

遊馬は腕を下ろしてカードをデュエルディスクから外すとドラゴニック・ホープレイの姿が消える。

 

「俺達はオジマンディアスと話すためにここに来たんだ」

 

「私達の刃を向ける先は獅子王と円卓の騎士達だ」

 

「と言うわけだ。俺達の勝ちだから通らせてもらうぜ〜」

 

ニトクリスとの勝負に堂々と勝ったので、遊馬達はピラミッドの中へと向かう。

 

「……甘いですよ。その甘さでこの先も勝つことは出来ませんよ」

 

戦いの中の甘さが目立つ遊馬達にニトクリスが苦言をするが、遊馬とアストラルはそんな事を百も承知だと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「これが俺達のやり方だ」

 

「私達は私達の道を貫くだけだ」

 

「それに……あんたを倒す事なんて、出来ねえよ……」

 

遊馬は苦笑いを浮かべ、その言葉の意味が分からずにニトクリスは疑問符を浮かべる。

 

「だって、少し似ているからさ。俺の姉ちゃんに」

 

「姉ちゃん……?」

 

「ああ。ちょっと厳しくて、無茶苦茶なところがあるけど、なんだかんだで俺のことを大切に想ってくれている、大切な家族の姉ちゃんだよ」

 

遊馬はニトクリスに初めて会った時からずっと懐かしさを感じていた。

 

それはどことなく、ニトクリスが明里に似ていたのだ。

 

そんなニトクリスを見て遊馬は人間界にいる明里に思いを馳せていた。

 

明里に……家族に会いたいと願う遊馬の少し寂しそうな笑顔を見てニトクリスは亡き兄弟の姿を重ね、酷く心を打たれた。

 

世界の未来を背負っているこの子を絶対に闇に囚われさせてはいけない、先達者として導かなければならない。

 

そして、この子を絶対に愛する家族の元へと帰してあげたいと……。

 

ニトクリスはギュッと杖を力強く握りしめ、自分の今の立場に苦しんでいた。

 

エジプト領のファラオとしてそう簡単に遊馬達側に付くことは出来ない。

 

しかし、ニトクリスとしては遊馬に力を貸してあげたいと強く望んでいた。

 

「ニトクリス」

 

「アテム……」

 

アテムはニトクリスの肩にそっと手を置いた。

 

「行こう、オジマンディアスの元に」

 

「……分かりました」

 

ニトクリスはアテムの言葉に従い、共にオジマンディアスの元に向かうことにした。

 

エジプト領の……否、この特異点の命運を左右するオジマンディアスとの対話をする為に。

 

そして、遊戯とオジマンディアス……二人のファラオによる『神神の戦い』が始まろうとしていた。

 

 

 



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ナンバーズ191 天空神、招来!!!

エジプト領にてニトクリスとの戦いに勝利した遊馬達は堂々とピラミッドに入った。

 

玉座の間には目的の人物であるオジマンディアスが玉座に堂々と座っていた。

 

「ニトクリスを下したか。良い、褒めてつかわす。して、何用だ異邦のマスターよ。余に首を預けに来たか、あるいは情けを乞いに来たか。どちらでも良いぞ? 望むままに殺してやろう」

 

「オジマンディアス、オレの大事な後輩達に手出しはさせないぜ」

 

オジマンディアスの挑発に遊戯は軽くキレながら遊馬達の前に出る。

 

「ふっ、冗談だ。それで、アテム。追放した貴様が何故戻ってきた?」

 

「単刀直入に言う。オジマンディアス、獅子王と決着を付けるためにオレ達と共に戦ってくれ!」

 

「──はははははっ! アテムよ、貴様本気か? そのような現実離れをした夢を見ようとしているのか? 空想を知らぬ余にはない際のいいだ、ふはははははっ!」

 

オジマンディアスは遊戯の発言に現実味が無いと高笑いをした。

 

「許さねえ、よくも遊戯さんを──!」

 

「遊馬、待て!」

 

遊戯を馬鹿にされた事に遊馬は感情的になって怒りから希望皇ホープを召喚しようとしたが、咄嗟に遊戯が止めた。

 

「遊戯さん……」

 

「遊馬、何を言われても相手のペースに乗ってはいけない。デュエルと同じだ」

 

「っ……はい……」

 

遊戯に諭され、遊馬は悔しさから唇を噛み締めながら大人しく下がった。

 

「……オジマンディアス王、ちょっといいかしら?馬鹿にするのも大概にしなさい。遊戯や遊馬達は本気なんだから。それと、愉快でもないのに笑うのもやめなさい。あなた、ちっとも面白いと思ってないでしょ」

 

三蔵は錫杖を軽く鳴らし、僧侶としてオジマンディアスに指摘をして睨みつけた。

 

「──玄奘三蔵。余に何か意見があるようだな。よい。その偉業に免じて、一度のみ質問を許す」

 

「ありがとうございます……やっぱりみんなが言っていた通りの人ね。多くの場所でこの国の人たちの話を聞きました。冷酷で尊大で、でも合理的に民を守る王の話を。あなたは獅子王とは違う。国の人たちの生活を第一に考えている。それが一番国を豊かにする方法だって知っているから。それを王の務めと思っているから。なのに──」

 

三蔵は人々の話からオジマンディアスが立派な王であると評価した。

 

しかし、それと同時にオジマンディアスの矛盾点を指摘した。

 

「なのに、あなたはその務めを放棄しようとしている。空想を知らない、と言ったわね?あなたは獅子王と戦えば共倒れになると読んだ。だから戦わなくなった。遊戯から聞いた大邪神の存在もあってその考えが強くなってしまった。その結果が国を閉じる道を選んでしまった。自分からこんな砂漠を、この世界に呼んでおいて! 獅子王には、大邪神には勝てないから、自分の国の民たちを神殿に閉じ込めようとしている! この矛盾を、いえ、この諦めを捨てる道が提示されたのに、なんで素直にいいよって言えないの!」

 

三蔵は遊馬達も知らなかったオジマンディアスの真意を指摘する。

 

「たわけ、勝算なき戯言に乗ってなんとする!加えて、獅子王や大邪神を倒したところで何があろう! 人理焼却により世界は燃え尽きる。であれば、獅子王や大邪神を斃したところで無駄な事。余は、余の権限で余の民を救うまで! 他のものなど、どうなろうと知った事ではない!」

 

オジマンディアスの考えは第五特異点でエジソンが聖杯を使って新たなアメリカを作って永遠に残そうとした行いとほとんど同じ考えだった。

 

つまり、オジマンディアスは世界が人理焼却によって未来が訪れない事に絶望して諦めてしまい、方向性は異なるが獅子王と同じ道を歩んでしまっているのだ。

 

「フッ……」

 

すると遊戯はオジマンディアスの発言に対し、馬鹿にしたように鼻で笑った。

 

それに気づいたオジマンディアスはギロリと睨みつける。

 

「アテムよ、何か言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

「ならはっきり言ってやるぜ。オジマンディアス、オレはあんたのことを偉大なファラオとして尊敬していたが……ガッカリだ。期待外れだったな」

 

「何……? 貴様、どういう意味だ?」

 

「自他共に認めるエジプト最強のサーヴァントのオジマンディアスが腰抜けで器の小さい男だという意味だ!」

 

「アテム、貴様! 余を愚弄するか!同じファラオとしても容赦せぬぞ!」

 

同じファラオである遊戯に侮辱され、オジマンディアスは青筋をビキリと浮かべ、怒りを露わにしている。

 

「黙れ! あんたが民を守ろうとする意思はオレも同じだ。だが、三蔵が言ったように、どうして世界を救おうと、守ろうと考えないんだ!」

 

「無駄だと言ってるのだ! 既に滅んだ世界で余に何が出来るというのだ!?」

 

「……そうか、今はっきりと分かった。オジマンディアス、貴様はかつてのオレと同じだ」

 

遊戯は千年パズルに触れながらかつての戦いの記憶を思い出す。

 

自分の心の弱さから闇に堕ち、大切な相棒を失い、己の心を失いかけた。

 

遊戯は今のオジマンディアスにかつての自分を見ている気分で怒りと同時に深い悲しみを抱きながら叫ぶ。

 

「オジマンディアス、貴様は強く、完璧なファラオだ。だが、心の底では傷付くことを恐れ、自分の国という殻に引き篭もろうとしている! 貴様はただの臆病者だ!」

 

「余が、余が臆病者だと……!?」

 

オジマンディアスは生前含め、恐らくは初めて臆病者と言われ、衝撃を受けて固まる。

 

「遊馬とアストラルとマシュ、そして……彼らと契約しているサーヴァント達は今まで戦い続けて前に進み、ここまで来た。世界の未来と言う、とてつもない重圧を背負って戦い、獅子王や特異点の戦いの果てにいる魔術王と全力で戦おうとしている……」

 

遊戯は遊馬達の背負っているモノの大きさとその揺るぎない覚悟を知り、深く感銘を受けていた。

 

「オジマンディアス! 貴様がエジプト最強のサーヴァントと名乗るなら彼らに恥じない、偉大なファラオとしての生き様を見せてみろ!!」

 

だからこそオジマンディアスを強く批判しながらも、諦めてしまったその心を動かそうとしていた。

 

「────────」

 

遊戯の言葉にオジマンディアスは絶句し、深く考え込んだ。

 

そして、数秒間の沈黙の後、突然大笑いし始めた。

 

「くはははははは! 生き様を見せろ、と来たか!そこまで言われるとは思ってもみなかった。だが余は貴様達、勇者にとって常に障害。優れた王とはまた、倒される暴君である。よって、余は如何なる時代、如何なる世界であっても、お前達の敵として君臨した。ファラオ・オジマンディアスは世界を救えぬ。支配し、脅かす側の王であるが故に、な……」

 

オジマンディアスは遊戯を見つめると一瞬だけ羨望の表情を浮かべた。

 

遊戯……アテムは王であると同時に勇者でもあり、世界を救い、大邪神を倒した。

 

歴代のファラオでも成し得なかった偉業にオジマンディアスは密かに嫉妬していたのだ。

 

「アテム、玄奘三蔵、中々の問いであった! だが貴様らの言には一つ、致命的に足りないものがある! 心底から余を笑わせた褒美だ。このオジマンディアスの手でそれを補ってやろう!」

 

「え……足りないものって何……?私、また失敗しちゃった?」

 

「何をする気だ、オジマンディアス!」

 

「言うまでもなかろう? 貴様らが世界を救うに足るものか否か──その証明がされていない。故に、その機会を余が与えようと言ったのだ!」

 

オジマンディアスはこの特異点の聖杯を出現させると、自ら傷をつけてその血を聖杯に注いだ。

 

そして、その血を一気に飲み干した。

 

「聖杯に宿りし魔神の陰よ。魔神アモンなる偽の神。是に、正しき名を与える!」

 

すると、次の瞬間にオジマンディアスの姿が黄金の魔神柱へと変化してしまった。

 

「七十二柱の魔神が一柱。魔神アモン──いいや、真なる名で呼ぶがよい。我が大神殿にて祀る正しき神が一柱! 其の名、大神アモン・ラーである!!」

 

「オジマンディアスが魔神柱になっちまった!?」

 

「かつてメディア・リリィがイアソンを魔神柱にしたのと同じ要領だが、今回の魔神柱は全くの別物だ……!」

 

アモン・ラーとは古代エジプトの最高位に類する神性。

 

デュエルモンスターズを除き、それほどの巨大な神性が顕現することは有り得ないが、魔神柱に名を与えて貼り付けたことで一時的な顕現を可能にしたのだ。

 

「ファラオ・オジマンディアス……?」

 

ニトクリスはオジマンディアスがアモン・ラーとして魔神柱となって顕現したことに唖然としていた。

 

「遊馬、アストラル、今度はオレに任せてくれ」

 

遊戯は宝具『伝説の決闘王』を発動し、アモン・ラーの相手に相応しいデッキ構築をしてデュエルディスクにセットする。

 

遊馬とアストラルは無言で頷くと遊戯は静かに歩きながらデッキからカードを5枚を手札にし、アモン・ラーと対峙する。

 

「行くぞ、アモン・ラー! 俺のターン、ドロー!」

 

遊戯はドローしたカードを見てニヤリと不敵の笑みを浮かべる。

 

「俺は魔法カード『ジョーカーズ・ストレート』を発動!手札を1枚捨て、デッキから『クィーンズ・ナイト』1体を特殊召喚し、デッキから『キングス・ナイト』『ジャックス・ナイト』の内1体を手札に加え、その後、モンスター1体を召喚出来る!」

 

「えっ!?もしかして、あれは六十郎爺ちゃんが俺とのデュエルで使った『絵札の三銃士』!?」

 

それは遊馬のデュエルの師匠・六十郎が使ったカードでもあり、トランプの絵札をモチーフにした剣士のモンスター達である。

 

「デッキから『クィーンズ・ナイト』を特殊召喚し、デッキから『キングス・ナイト』を手札に加えて召喚!更に『キングス・ナイト』の効果で『クィーンズ・ナイト』がフィールドに存在する時、デッキから『ジャックス・ナイト』を特殊召喚する!」

 

遊戯のフィールドにトランプの絵札のジャック、クィーン、キングをモチーフにした三人の剣士が並び立つ。

 

「たった1枚でモンスターが一気に三体も並んだぜ!」

 

「……遊馬、遊戯さんはただ単に絵札の三銃士を揃えたのでは無いぞ」

 

アストラルは絵札の三銃士を見つめながら静かに口を開いた。

 

「えっ?どういう事だよ?」

 

「……遊馬、君なら分かるはずだ。遊戯さんが何故絵札の三銃士を召喚したのか……」

 

「確か、絵札の三銃士は融合すれば『アルカナ ナイトジョーカー』を出せるけど……」

 

遊馬は六十郎が繰り出した絵札の三銃士を融合させた融合モンスター『アルカナ ナイトジョーカー』を思い出したが、アストラルは首を横に振る。

 

「違う……確かに『アルカナ ナイトジョーカー』も強力なモンスターだ。しかし、オジマンディアス……魔神柱を相手にする以上、遊戯さんは更に強力なモンスターを召喚するはずだ」

 

「更に強力なモンスター……ハッ!?」

 

遊馬はアストラルの推測を聞いてある一つの可能性を思い付いた。

 

それは遊戯をはじめとする伝説のデュエリスト達が数々の名デュエルを繰り広げたデュエル大会、バトルシティにおける一つの大きな戦術。

 

選ばれしデュエリストのみが召喚出来る、とあるモンスターを召喚する為の布石であり、下準備。

 

大型モンスターを生贄召喚するため、フィールドにモンスターを大量に並べる最速召喚戦術。

 

「まさか……!?遊戯さんは『あの』カードを……!?」

 

「遊馬、このデュエルを一瞬も見逃すな!」

 

遊馬とアストラルはこれから召喚されるであろう、とあるモンスターの存在に緊張と興奮で心臓の鼓動が少しずつ早まっていく。

 

「行け!絵札の三銃士達よ!トライアングル・セイバー・クラッシュ!!」

 

遊戯は絵札の三銃士に攻撃命令を下し、華麗でコンビネーション抜群な剣技を繰り出してアモン・ラーを斬りつける。

 

しかし、幾ら素晴らしい剣の攻撃でもアモン・ラーには僅かな傷しか付けられていない。

 

アモン・ラーはこれで終わりかと威嚇するが……。

 

「何を勘違いしてるんだ?まだオレのバトルフェイズは終了してないぜ!」

 

遊戯は三銃士の攻撃から追撃のカードを発動する。

 

「手札から速攻魔法『神速召喚』!このカードは自分・相手のメインフェイズ及びバトルフェイズにレベル10のモンスター1体を召喚する。ただし、自分フィールドにクィーン、ジャック、キングの絵札の三銃士が全て存在する場合、デッキから闇属性以外の攻撃力?のレベル10モンスター1体を手札に加え、その後、レベル10モンスター1体を召喚できる」

 

「闇属性以外で攻撃力が?でレベル10のモンスターって……!」

 

「来るぞ、遊馬!みんな、気をしっかり持て!」

 

「今から遊戯さんがとんでもねえモンスターを召喚するぜ!」

 

マシュ達に警戒を促しながら遊馬とアストラルは自然と笑みが溢れてきた。

 

遊戯はデッキから神速召喚の効果で指定されたステータスのカードをデッキから手札に加える。

 

「絵札の三銃士を生贄に捧げ──」

 

絵札の三銃士を生贄に捧げ、遊戯は一枚のカードを掲げた。

 

そのカードは闇を祓うかのような眩き雷光を放ち、遊戯は勢いよくデュエルディスクに置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天空に雷鳴轟く混沌の時、連なる鎖の中に古の魔導書を束ね、その力無限の限りを誇らん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『オシリスの天空竜』!!召喚!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯を中心に無数の雷撃が周囲に拡散し、それが一気に集まって形を成していく。

 

そして……遊戯を囲むように現れたのは巨大な真紅の竜。

 

東洋の龍神を思わせる無限に伸びるような長い胴体に大きな翼。

 

金色に輝く双眸、額には青い宝玉のようなものが埋め込まれており、何より特徴的なのは鋭い牙が沢山がある大きな口。

 

しかし、その口は驚くことに二つ重なっており、一つの顔に二つの口が重なっているというあまりにも異質なものだった。

 

これこそが遊戯が持つ伝説にしてデュエルモンスターズ最強と謳われた三枚の神のカード、三幻神の一柱。

 

天空の神、オシリスの天空竜。

 

「すげぇ……本物の……オシリスの天空竜だ……!」

 

「感動的だ……デュエルモンスターズの伝説の神の姿を目にする日が来るとは……!」

 

遊馬とアストラルはオシリスの天空竜の姿を目に出来て感動で体が震え、涙が溢れそうになった。

 

一方、マシュ達サーヴァントの反応は違っていた。

 

今まで遊馬とアストラルのナンバーズや魔神柱など様々な姿形をしたモンスターを目にして来た。

 

しかし、オシリスの天空竜から発せられる圧倒的なプレッシャーは銀河眼の光子竜皇や超銀河眼の時空龍を初めて目の当たりにした時の衝撃に匹敵するものだった。

 

そのあまりの迫力にマシュ達は言葉を発する事ができず、息をするのも忘れてしまうほどに見惚れてしまった。

 

一方、ニトクリスは天空の神であるオシリスの天空竜から発せられる神気を感じ取り、胸の高鳴りが抑えられなかった。

 

「オシリスの天空竜……これが、アテムが従える神……!」

 

ニトクリスはファラオであり、天空神ホルスの子であり、化身とされる。

 

ちなみに、オシリスとはエジプトにおける豊穣神にして冥界の神とされるが、遊戯のオシリスの天空竜はオシリスとはもはや別物と呼べる存在である。

 

そして、アモン・ラーの中にいるオジマンディアスはニトクリスと同様に心が震えていた。

 

神であるファラオが強大な力を持つ神である三幻神を従えていることに驚きと興奮を同時に抱いていた。

 

実は遊戯はオジマンディアスとニトクリスに三幻神の存在を教えてはいたが、実際に召喚したことはなかった。

 

単純に遊馬と契約する前で三幻神を召喚できるほどの魔力が不足していた問題もあったが、遊戯はオジマンディアスと戦うかもしれないと考えて三幻神という最強の手札を見せなかったのだ。

 

「オシリスの攻撃力と守備力はオレの手札の数×1000ポイントとなる。今のオレの手札は3枚。よって、オシリスの攻撃力は3000だ!」

 

『グォオオオオオーッ!!!』

 

オシリスの天空竜は特定の攻撃力と守備力を持たず、プレイヤーの手札によって決まる。

 

「オシリスの天空竜の攻撃!!」

 

オシリスの天空竜の下の口が開き、口の中に雷撃を溜める。

 

「サンダーフォース!!!」

 

アモン・ラーの体を呑み込むほどの莫大な雷撃が放たれる。

 

雷撃によってアモン・ラーは多大なダメージを受け、体全体が焼け焦げていた。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

手札が1枚になったことでオシリスの天空竜の攻撃力と守備力は僅か1000となってしまう。

 

オシリスの天空竜の攻撃力と守備力はプレイヤーの手札によって決まる為、当然手札の枚数が少なければその力も弱まってしまう。

 

仮に手札が無ければオシリスの天空竜の攻撃力も0になってしまう。

 

その為、オシリスの天空竜が除去されないようなカードを用意しつつ、手札を増やしてオシリスの天空竜の攻撃力と守備力を維持すると言うかなり高度が戦略が求められるのだ。

 

すると、焼け焦げていたアモン・ラーの体が瞬く間に回復していった。

 

「何だと!?」

 

「大複合神殿だ!大複合神殿がアモン・ラーに魔力を供給し続けている!」

 

ダ・ヴィンチちゃんはアモン・ラーの回復の仕組みを一瞬で見抜いた。

 

大神殿は攻撃が防御のどちらかの戦闘形態を取ることができる。

 

オジマンディアスは大神殿を防御の戦闘形態にしたことで獅子王の攻撃から民を守ってきたのだ。

 

「自動回復か……そうこなくちゃ、張り合いがないからな!」

 

遊戯は倒し甲斐があると闘志を燃やすと、アモン・ラーの体から次々とモンスターが生み出されていった。

 

それはエジプトを代表するであろう純粋種の竜に並ぶ幻想種である神獣・スフィンクスだった。

 

このスフィンクスはオジマンディアスの宝具の一つである『熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)』を展開したものである。

 

大量のスフィンクスを生み出して一斉にオシリスの天空竜に襲い掛かろうとしたが、それはあまりにも愚策である。

 

オシリスの天空竜は静かに口を閉じると、今まで閉じていた上側の口を静かに開いた。

 

「相手がモンスターが攻撃表示で召喚・特殊召喚に成功した時、オシリスの特殊能力を発動!」

 

遊戯は襲いかかって来る大量のスフィンクスに向けて人差し指を向ける。

 

「相手が召喚・特殊召喚したモンスターの攻撃力を2000ダウンさせ、0になった場合そのモンスターを破壊する!」

 

オシリスの天空竜は上の口に雷撃を溢れるほどに急速に溜める。

 

「召雷弾!!!」

 

生み出されたスフィンクスの数だけ上の口から球体状の雷撃が放たれる。

 

雷撃は避ける間も無く全てスフィンクスに直撃し、一瞬で塵も残さずに粉砕された。

 

「モンスター全滅!オシリスがいる限り、下級モンスターは全て粉砕されるぜ!」

 

相手が攻撃表示で呼び出したモンスターの攻撃力をダウンさせ、2000以下なら容赦なく破壊するモンスター制圧効果。

 

この二つの特殊能力は並大抵のデュエリストでは扱うことは出来ない。

 

遊戯の神がかったデュエルタクティクスがあって初めてオシリスの天空竜は真の力を発揮出来るのだ。

 

アモン・ラーはオシリスの天空竜を相手に戦いを長引かせたら不利だと判断し、全力の攻撃を繰り出した。

 

レーザービームのような攻撃を放ち、僅か攻撃力1000のオシリスの天空竜は呆気なく破壊され、遊戯にダメージが入る。

 

「ぐぅうっ!?」

 

「「遊戯さん!」」

 

オシリスの天空竜が破壊され、遊戯とアテムは心配するが、その表情を見て息を呑む。

 

一方、アモン・ラーは神であるオシリスの天空竜を倒し、勝利を確信したが……。

 

「……それはどうかな?」

 

遊戯の不敵の笑みは崩れていなかった。

 

「アモン・ラー。気付かないのか?何故オレがわざわざオシリスの攻撃力を下げてまでカードを伏せたのか」

 

遊戯のデュエルキングとしての神がかった戦術により、アモン・ラーは既に罠に落ちていたのだ。

 

「見せてやるぜ、オシリスの極限にまで高めた攻撃を!オレのターン、ドロー!」

 

遊戯はアモン・ラーを確実に倒すための罠を既に最初のターンからセットしていたのだ。

 

「罠カードオープン!『蘇りし天空神』!」

 

それはオシリスの天空竜の姿が描かれた専用カード。

 

「墓地に眠るオシリスを特殊召喚する。蘇れ!オシリスの天空竜!!」

 

その名の通り、墓地に眠るオシリスの天空竜を復活させ、更にその力を高める効果を持つ。

 

「オシリスは特殊召喚された場合、エンドフェイズに墓地に送られる。だが、このターンでアモン・ラー、貴様を倒す!蘇りし天空神の効果で手札が6枚になるようにデッキからドローする。オレの手札は2枚、デッキから4枚ドローする!」

 

オシリスの天空竜を墓地から蘇生するだけではなく、一気に手札を6枚にまで増やしたが、遊戯の展開はこれだけでは終わらない。

 

「更に魔法カード『強欲な壺』を発動!デッキからカードを2枚ドローする」

 

最強のドローソースカードである強欲な壺でオシリスの天空竜の攻撃力と守備力を上昇させるが、遊戯はもう1枚のセットカードで極限にまで力を高める。

 

「そして、これが勝利へのラストカード!罠カードオープン!『絵札の絆』!」

 

それは墓地に眠る絵札の三銃士が描かれた罠カードだった。

 

「絵札の絆は絵札の三銃士を手札・墓地から特殊召喚する効果を持つ。だがオレはもう一つの効果を発動させてもらう!オレの手札・墓地から『クィーンズ・ナイト』『ジャックス・ナイト』『キングス・ナイト』をそれぞれ1体まで除外し、除外した数だけ自分はデッキからドローする。オレは墓地の絵札の三銃士全てを除外し、デッキから3枚ドローする!」

 

遊戯のデュエルディスクの墓地から絵札の三銃士の幻影が現れ、三つの剣を掲げて刃を重ねる。

 

そして、絵札の三銃士は三つの光となってデッキに入り込み、遊戯はデッキから3枚ドローする。

 

「これでオレの手札は10枚。オシリスの攻撃力と守備力は10000にまで上昇!」

 

手札10枚と言うデュエルではなかなか見れない状況を作り出し、オシリスの天空竜の攻撃力と守備力が脅威の10000に上昇しする。

 

『────────!!!』

 

オシリスの天空竜は全身に力が漲り、大気を震わせるほどの咆哮を上げる。

 

「すっげぇぜ!手札10枚に攻守10000のオシリスなんてヤバすぎるぜ!」

 

「これが、三幻神を操る遊戯さんの実力……!」

 

遊馬とアストラルはアモン・ラーにわざとオシリスの天空竜を破壊させ、そこから墓地から復活させてその力を最大限にまで高め、更に手札を10枚にするという二手、三手先を見据えた見事な戦術に感動していた。

 

「行くぞ!オシリスの天空竜の攻撃!」

 

オシリスの天空竜は下の口を大きく開き、息を吸うように電撃を溜めていく。

 

先ほどとは比べものにならないほどの膨大なエネルギーの電撃が溜まり、王である遊戯は命令を下す。

 

「闇を切り裂け!!超電導波サンダーフォース!!!」

 

放たれた電撃は再びアモン・ラーに襲い掛かり、先ほどの3倍以上の攻撃力の前にアモン・ラーの攻撃は無意味となり、再び電撃に呑み込まれた。

 

電撃の後に煙が広がり、アモン・ラーの姿が見えなくなってしまった。

 

そして、煙が徐々に収まっていくと……。

 

「ぐっ……まさか、アモン・ラーがここまで一方的にやられるとは……」

 

変身が解除され、元のオジマンディアスへと戻った。

 

オジマンディアスは玉座に戻り、酷く疲れたように座り込み、じっくりとオシリスの天空竜を見つめる。

 

「これが、アテム……お前が従える神か。見事だ!」

 

オジマンディアスは遊戯とオシリスの天空竜の力を見せつけられ、認めざるを得なかった。

 

「しかも他にまだ神が二柱もいるとは末恐ろしいな!」

 

「ああ。だが、言っておくが。オレのマスターの遊馬とアストラルもその神に匹敵する力を持っている。オレじゃなく、二人が相手でもアモン・ラーに余裕で勝てただろう」

 

遊戯は遊馬とアストラルの実力を認めており、唐突に褒められて二人は思わず照れてしまう。

 

「さて、それでどうする?今度はオジマンディアス自身でオレと戦うか?このターンが終わると同時にオシリスは消えるが、オレの手札は10枚ある。10枚もあればデュエリストは万全の状態で敵を迎え討つことができるぜ」

 

例えオシリスの天空竜がこのターンのエンドフェイズに再び墓地に送られても今の遊戯には10枚の手札があり、このターンの召喚権もある。

 

オジマンディアス相手でも問題なく戦う事が可能である。

 

しかも遊戯自身が対等の力を持つと評価する遊馬とアストラル、そして契約するサーヴァント達も後ろには控えている。

 

既に世界を救うための力を示す試練はクリアしたと言っても過言ではない。

 

「──良いだろう」

 

オジマンディアスはそう言うと持っていた聖杯をマシュに投げ渡した。

 

「え……オジマンディアス王、これは……」

 

「くれてやる。アテムの三幻神の力の一端をみせてくれた褒美だ。だが、この時代は他の特異点とは違う。聖杯を得るのみでは人理は修復されぬ」

 

第六特異点は聖杯を手にしただけでは修復されない。

 

獅子王の聖槍と大邪神ゾークを止めなければ修復されないのだ。

 

「オジマンディアス、聖杯を渡したと言うことはオレ達に協力してくれるのか?」

 

「みなまで言わせるな。だが、聖都攻略には余は力を貸せん。他にやるべき事があるからな」

 

エジプト領は遊馬達の要望通り、獅子王との対決の為の全面協力はするが、オジマンディアス自身は別行動をする事となった。

 

何をするのかは秘密だったが、オジマンディアスは自分にしか出来ない戦いをすると判断して特に聞かないことにした。

 

こうして遊馬達はようやくエジプト領との共同戦線を行う事となった。

 

これでカルデア、山の民、エジプト領と獅子王陣営に敵対する全ての勢力が一つとなった。

 

ようやく獅子王陣営との決戦の時が近付き、遊馬達は気合いが入っていた。

 

しかし、一人だけ違っていた。

 

ドクン……ドクン……!

 

感じたことのない強い心臓の高鳴りとそれに共鳴するかのように十字の盾から光を発する。

 

「…………来る」

 

マシュは少しずつ近づいて来る何かに気付き、紫色の瞳が金色に輝く。

 

それはマシュにとって最も深い因縁のある相手との再会が待ち受けるのだった。

 

 

 



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ナンバーズ192 聖盾の姫騎士

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


エジプト領との共同戦線を行うことになり、遊馬達は獅子王達との最終決戦に向けて最後の準備に入る。

 

すると、マシュの目が金色に輝き、雰囲気が一変すると、それに気付いた遊馬が話しかける。

 

「マシュ、どうしたんだ?」

 

「遊馬君……あの人が、ここに近づいて来ています……」

 

「あの人?」

 

「アルトリアさん!」

 

マシュはアルトリアを呼ぶと、言葉を交わさなくてもアルトリアは内容を理解して頷く。

 

「モードレッド、ガレス、ベディヴィエール、あの男を迎え討ちますよ」

 

アルトリアはモードレッド達を連れ、急いでエジプト領の外に出る。

 

アルトリア達の突然の行動に遊馬達は何事だと慌てて着いて行く。

 

そして、エジプト領を出た外の砂漠……そこに黒馬に跨る藍色の甲冑に身を纏った騎士がいた。

 

「ランスロット……!」

 

アルトリアは約束された勝利の剣を構えながらその名を呼ぶ。

 

ランスロット。

 

円卓の騎士でも最強と謳われ、湖の騎士の異名を持つ男。

 

「ランスロット卿、あなたは聖槍の正体を、獅子王の目的を知っていますか!?」

 

ベディヴィエールはランスロットに聖槍の正体と獅子王の目的を知っているかどうか尋ねた。

 

もしもそれらを知らないならばランスロットを説得して戦闘を回避できるかもしれないと淡い期待を持っていた。

 

「……何?」

 

「聖都は理想都市ではない。あれは最果ての塔。理想の人間を集め、収容する檻であり──それが成った時、この大地は全て消滅する!獅子王の行いは人の領域を超えたものだと!」

 

「……まさか」

 

ランスロットは剣を下ろしたかに見えたが……。

 

「ぬん!」

 

剣を振り下ろしてベディヴィエールに襲いかかり、間一髪でアルトリアが間に入って聖剣で受け止める。

 

「ランスロット!あなたは!」

 

「まさか、あなた方がそこまで知っているとは……」

 

「ランスロット卿!あなたは聖槍を知っていながら王に仕えるのですか!過ちを知った上で、なお!」

 

「くどい!我ら円卓に王の不忠はない!聖伐が終わり、相応しい人間が聖都を満たした時、最果ての塔の扉は開かれる。それは我ら円卓を召喚した際、真っ先に獅子王が宣言した事。我らは、その言葉に従うと誓った。その理想の下、我らは同胞である十字軍を屠り──この時代、全ての人間の敵になると決めたのだ。王の行いに人ならざる意思を感じてもな」

 

ランスロットを始めとする獅子王に仕える円卓の騎士達は獅子王がアーサー王ではない意思があると知りながらもこの道を進むと決めてしまったのだ。

 

「それなら、私の言葉はどうですか!?」

 

「っ!?」

 

「何が理想ですか!?人の命を弄び、世界の全てを諦めた道なんて……このアルトリア・ペンドラゴンが願う騎士の道ではありません!!」

 

アルトリアの怒号が響き、ランスロットの心が揺れ動く。

 

しかし、唇を噛み締めて自分を抑えながら剣を構える。

 

「……申し訳ありません、アーサー王。私はもうこの道しか残されていないのです!」

 

ランスロットは剣を振り上げ、アルトリアに剣を振り下ろそうとした……その時。

 

ガキィン!!!

 

刃が交差する音ではなく、何かが剣を受け止める音が鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たーーーあっっっ!!おーこーりーまーしーたーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランスロットの剣を真正面から受け止めたのは盾を構えながら何故か怒り心頭のマシュだった。

 

「何!?」

 

「マシュ!?」

 

まさかマシュが割り込んで来るとは思いも寄らなかったアルトリアが驚き、ランスロットはアルトリア以上に驚いたが、それと同時に困惑し始めた。

 

「私のアロンダイトを真っ向から受け止める……?いや、この盾、この気配……君は、まさか……!?」

 

「完全に怒り心頭です!私の中にはもういませんが、きっと彼もそうだと思います!ですので、代弁させていただきます!サー・ランスロット!いい加減にしてください!」

 

「い、いい加減にしてください……?まさか、私は叱られているのか……!?」

 

突如始まったマシュによる説教にランスロットは唖然とする。

 

一方、アルトリア達は戦いの最中であるが安心したような笑みを浮かべた。

 

「やっと、目を覚ましましたか……」

 

「ええ、そのようですね……」

 

「ったく……大遅刻だぜ。遅いんだよ、あんの野郎」

 

「むしろ、この時を待っていたのかもしれませんね……」

 

アルトリア、ベディヴィエール、モードレッド、ガレスはそれぞれ感想を口にする。

 

マシュは怒りで怒気のオーラがメラメラ燃えるような勢いでランスロットに説教していく。

 

「いいえ、憤慨しているのです!それでもアーサー王が最も敬愛した騎士なのですか!?王に疑いがあるなら糾す!王に間違いがあるならこれと戦う!それが貴方の騎士道のはず。それが貴方だけに託された役割でしょう……!」

 

「待て。待つんだ。待ちなさい!親を親とも思わない口ぶり、片目を隠す髪……君は、もしや──!」

 

ランスロットはマシュに何かに気付き、言葉をかけようと思ったが……。

 

「もはや言葉は不要です、サー・ランスロット!貴方に決闘を申し込みます!」

 

まさかの決闘の申し込みに今まで口を挟めなかった遊馬とアストラルが慌ててストップをかける。

 

「ま、待った!マシュ、いきなりどうしたんだ!?」

 

「相手は円卓最強の騎士、ランスロットだ!一人では危険だ!」

 

「ご安心ください、遊馬君!アストラルさん!私は決して、あの人には負けませんっ!この盾が、この鎧が、この胸が、そう叫んでいるのです!だって、だって──!」

 

次の瞬間、マシュの鎧に新たなプロテクターが次々と装着されていき、今まで少し頼りなかった鎧が強固なものへと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はマシュ・キリエライト、与えられた英霊の真名はギャラハッド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャラハッド。

 

円卓の騎士の一人で『呪われた席次』と呼ばれる十三番目の席に座り、見事呪いをはねのけて騎士に選ばれた「聖なる騎士」。

 

それが今まで謎だったマシュの命を二度も救い、力を渡した英霊の正体である。

 

「ギャラハッド!?マシュの中にいる英霊が……俺が夢で会ったあいつがギャラハッドなのか!?」

 

「なるほど……高潔な人物と言われたギャラハッドなら、マシュの為にサーヴァントとしての力を譲渡したのも頷ける」

 

マシュの中にいた英霊がギャラハッドと知り、遊馬とアストラルは驚きと同時に納得するのだった。

 

ギャラハッドの名を聞き、唖然とするランスロットだがマシュは目を細めて睨みつけながら砂の大地を蹴る。

 

「──行きます」

 

「ま、待て!待つんだ!待ちなさい!」

 

「問答無用!!」

 

ランスロットの言葉を無視してマシュは盾を勢いよく振るい、ランスロットをぶっ飛ばした。

 

円卓最強のランスロットをぶっ飛ばしたことに遊馬達は口を開けて驚愕する。

 

そこからマシュは怒涛の勢いでランスロットを攻める。

 

重量のある盾で押し潰そうとしたり、盾をまるで剣のように軽やかに振るい、盾をフリスビーのように勢い良く飛ばす。

 

息もつかせぬマシュの盾の猛攻にランスロットはなす術もなく追い詰められて行く。

 

今まで見て来たマシュの戦いとはまるで違う……十字の盾を使った本来の戦いを実践しているようだった。

 

マシュの己の中に宿る英霊──ギャラハッドに対し、ランスロットは酷く動揺していた。

 

何故なら……ギャラハッドとランスロットはただの円卓の騎士の同僚ではない。

 

二人は実の親子なのだ。

 

ランスロットはギャラハッド本人ではないが、ギャラハッドの力を譲渡したマシュと対峙した事でどう向き合えばいいのかわからず、とても複雑な心境に陥っていた。

 

一方のマシュはランスロットの心境など関係なく、全力で叩き潰そうと考えていた。

 

ぶっちゃけると、ギャラハッドとランスロットの親子仲は最悪なのだ。

 

複雑な家庭環境でまともに親子としての絆を結ぶことが出来ずに互いの人生が終わってしまった。

 

それはアルトリアとモードレッドとは別のベクトルで歪な関係となっており、ギャラハッドはランスロットに対して愛憎が入り混じった感情を抱いている。

 

そんなギャラハッドの感情が今のマシュに影響を与えており、遊馬達が唖然とするほどの変化である。

 

「ギャラハッドさん……一緒にあの人を叩き潰しましょう!」

 

共にランスロットを叩き潰す……そうマシュは盾を構え直してそう意気込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ……共に行こう、マシュ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュの耳に凛とした声が響いた。

 

「えっ……?」

 

すると、マシュの体から金色の粒子が溢れ出し、それが徐々に集まって人の形を形成していく。

 

現れたのはマシュより少し高い背丈の銀髪に金眼の少年騎士だった。

 

マシュと真逆の左目を隠したヘアスタイルをしており、そして……マシュと同じ暗紫色の騎士甲冑を身につけていた。

 

マシュは少年騎士の姿を見た瞬間、体が震え、両目に涙を浮かべながら声を出す。

 

「ギャラハッド、さん……?」

 

少年騎士──ギャラハッドはマシュを自分の妹か娘を見るような優しい表情を浮かべながら頷いた。

 

「ギャ……ギャラハッド!?」

 

一方、ランスロットは息子であるギャラハッドが現れた事で名前を呼んで話そうと思ったが……。

 

『……気安く話しかけるな、穀潰しが』

 

優しい表情から一変し、怒りの表情を浮かべて吐き捨てた。

 

「グハァッ!?」

 

とても時空を越えた親子の再会の第一声とは思えないギャラハッドの辛辣な言葉にランスロットは精神に大ダメージを受け、その場に崩れる。

 

ちなみにその光景にアルトリア達は笑い転げるのを我慢し、声を殺して失笑していた。

 

「ギャラハッドさん……どうして……?」

 

『本当はこうして現れることはなかったが、この特殊な特異点と君のマスター……ツクモユウマとアストラルの繋がりで一度だけ姿を現すことができた』

 

第六特異点と獅子王の存在、そして遊馬とアストラルの繋がりによって本来ならばカルデアの大火災でマシュにサーヴァントの能力を譲渡した際に消滅したはずのギャラハッドが一度だけ姿を現すことができたのだ。

 

『マシュ、今こそ私の全ての力を解放させる。そして、新たな力を開花させる』

 

「ギャラハッドさんの力と新たな力……?」

 

新たな力とは何のことだろうと疑問に思っていると、ギャラハッドは十字の盾に向かって指差す。

 

『それはただの盾ではない。我ら円卓の騎士の名の由来……白亜の城キャメロットの中心、全ての円卓の騎士達が座った円卓そのものだ』

 

「えっ!?この盾が、円卓……!?」

 

円卓の騎士の由来……アーサー王をはじめとする騎士達が一つの円卓を囲い、上座と下座が無く、敵味方の立場や身分とは関係ない集まりの場として使ったものとされる。

 

まさか伝説の円卓が十字の盾として改造されているとは思いもよらなかった。

 

『この円卓は多くの英雄が集った。つまり、英霊を集めるものとされている。そこで……』

 

ギャラハッドは遊馬とアストラルに手を向ける。

 

すると、遊馬のデッキケースが勝手に開き、未来皇ホープと静謐のハサンを助ける時に現れた未覚醒状態のホープのカードが飛び出し、更にアストラルの胸元から全ての希望皇ホープのカードが飛び出した。

 

「あっ!?ホープのカードが!?」

 

「ギャラハッド、何をする気なんだ!?」

 

全てのホープのカードがギャラハッドの元に集まり、遊馬とアストラルは大いに焦る。

 

ギャラハッドはちゃんと説明したかったが、サーヴァントとして召喚されていない不安定な存在の為、残りの時間が残されていない。

 

『マシュ、私の最後の力で全ての希望の力を集結させて最高の騎士へと生まれ変わらせる』

 

「最高の騎士……!?」

 

『君の今まで使ってきた希望の力はその身に纏い、光を導く力。だがそれだけでは魔術王や大邪神には勝てない』

 

ギャラハッドは魔術王ソロモンだけでなく、この特異点に現れるとされる大邪神ゾークの対策を考えていた。

 

『この円卓を媒介に、全ての希望の力を一つに合わせる』

 

「全ての……希望皇と未来皇を一つに……?」

 

アストラルの全ての希望皇ホープと遊馬の未来皇ホープ。

 

その全てのホープの力をマシュに収束させ、最強の騎士へと生まれ変わらせる。

 

それこそがギャラハッドの考えた魔術王ソロモンと大邪神ゾークの魔の手から未来を取り戻す最強の一手。

 

「ギャラハッドさん……お願いします!」

 

マシュは迷うことなくギャラハッドの提案に即答した。

 

『分かった、始めるぞ……』

 

ギャラハッドは円卓の盾を輝かせ、希望皇ホープと未来皇ホープのカードを操る。

 

全ての希望皇ホープと未来皇ホープのカードがマシュの中に入り込み、マシュの体から金色の輝きを放たれる。

 

そして……マシュの進化を見届ける前にギャラハッドが消滅していく。

 

「ギャラハッドさん!?」

 

『すまない……私はもう限界だ。この一度きりで、もう会うこともないだろう……』

 

本来ならばギャラハッドは生前に聖杯を既に手に入れているので聖杯戦争でサーヴァントとして召喚不可能とされる。

 

マシュはもう二度とギャラハッドとこうして会うことは出来ないだろう。

 

ギャラハッドはマシュに最後の言葉を送る前にランスロットに目を向けた。

 

『……ランスロット卿』

 

「ギャラハッド……!」

 

ランスロットはギャラハッドに話しかけられ、いざなんて言葉をかければいいのか分からず言葉が詰まってしまう。

 

そんなランスロットに対し、思わず苦笑いを浮かべながらギャラハッドは優しい言葉をかける。

 

『……私の代わりにマシュにかっこいいところを見せてください。あなたは、私が永遠に敬愛する、偉大な騎士なんですから……』

 

親子仲は確かに最悪だったが、ギャラハッド自身の本心は今でもランスロットの事を心の底から大切な実父として、一人の騎士として、敬愛と尊敬の想いを抱いているのだ。

 

「────っ!?」

 

ランスロットは抑えきれないほどの嬉しさで言葉を失っていた。

 

そして、ギャラハッドはマシュの頭に手を乗せ、優しく撫でながら最後の言葉を送る。

 

『マシュ、君の永遠の幸せを願っている。さらばだ……』

 

「はい……!ギャラハッドさん、ありがとうございます……!」

 

ギャラハッドは最後に優しい笑みを浮かべながら消滅し、金色の粒子がマシュの中に宿る。

 

マシュはギャラハッドとの別れに一筋の涙を流し、その涙を腕で乱暴に拭う。

 

そして、決意を込めた金色の瞳でランスロットを見つめながら円卓の盾を掲げる。

 

「マシュビングです、私!!フューチャー・エクシーズ・チェンジ!!!」

 

円卓の盾から聖なる光が溢れ出し、その光がマシュを包み込んでその姿を変える。

 

黒の鎧が消え、白地に赤と青のドレスを着用し、その上に希望皇ホープや未来皇ホープをモチーフにした軽装の鎧が装着される。

 

ドレスの白地は純粋無垢なマシュを、赤と青の色は遊馬とアストラルを表している。

 

胸元には黄金ではなく、白銀に輝く皇の鍵のペンダントがかけられている。

 

更にマシュの背後には全ての希望皇ホープと未来皇ホープが持つ多種多様のホープ剣が放射線状に並んで宙に浮き、まるで日輪を描くようだった。

 

それはマシュの今までの姿……シールダー、未来の守り人、希望の守護者とは全く異なる姿をしていた。

 

「私は……未来と希望……二つの光を司る、聖盾の姫騎士。その名は……」

 

ギャラハッドの力を受け継いだシールダーとして覚醒し、希望皇ホープと未来皇ホープの力の全てをマシュに集約させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『FNo.0 未来皇妃(みらいおうひ) マシュ・ホープライト』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来皇妃。

 

それはまるで未来皇ホープ……遊馬の妻を意味するような名前だった。

 

名前だけでなく、その煌びやかで美しいドレス姿はまさに皇妃と呼ぶのに相応しいものだった。

 

マシュの未来皇妃の美しい姿に遊馬達は目を見開いて瞬きするのを忘れるほど見惚れてしまった。

 

一方、ランスロットも一瞬見惚れてしまったが、息子のギャラハッドの力を受け継いだマシュにそんな邪な感情を持ってはいけないと自制して首を激しく振る。

 

マシュは右手を軽く振るうと背後のホープ剣が一斉に動き、まるで指揮者のように右手を動かしながらホープ剣を操る。

 

「ギャラハッドさんの名にかけて、今こそ円卓の不浄を断ちましょう──!」

 

今、マシュはデミ・サーヴァントと言う名の枠を越えて希望と未来を司る最強の姫騎士へと再誕の時を迎えるのだった。

 

 

 




未来皇妃マシュ・ホープライトはマシュの最終進化形態となります。
獅子王と大邪神ゾークを相手にするならこれぐらい必要かなと思いますので。


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