ガンダム00  マイスター始めてみました (雑炊)
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まだ自分の運命をよく知らなかった頃の話
初遭遇――――プロローグ


と、いうわけで0話です。
以前の物と変わっている部分はあまり無い…はずです。

では本編をどうぞ。


え~っと…一体何が起きているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を思った俺の目の前に広がっている光景は、凄く未来的なものだった。

おそらく何かの兵器のコックピットと思われるところの入り口に、自分は変な拳銃を持って、それを目の前の黄緑色のパイロットスーツに身を包んだ人物にその銃口を向けている。

 

 

(………いや、ホントにどうなってんの?これ?)

 

 

ホントに何がなんだか分からない。

もしかしてこれが二次創作とかでよくある憑依って奴なのだろうか?

 

 

(……とりあえ、ず……

 

 

「…ええっとぉ…」

 

「…?」

 

とりあえずこれは言わなきゃダメ、だよなぁ……

 

「…なんかごめんなさい?」

 

「……は?」

 

いや、は?じゃなくって……

 

「いや、たぶんあれだったんですよ。あれ。ほら、例えば熱に浮かされた麻疹みたいな。きっと“イヤッホォォォォォ!!俺TUEEEEEEEEEE!!!”みたいな。ほら!中二病ですよ!中二病!!きっとそうだ!そうに違いない!!!じゃなかったら俺こんなこと出来ないもん!!つーかなんで拳銃持ってんの俺!?つーかあれ!?なんかさっきまでの記憶がまったく無い!?何?このタイミングで記憶喪失とかそんな感じですか!?何ですかそれ!?あああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

 

ただいま、俺、喋ったことにより緊張の糸が弾けて、大根RAN中☆

相手を見てみると、いきなりこんな事を喋りだした俺を見て呆然としております。

ホントごめん無さ「あ~…君」!!!

 

「はい!ナンデショウカ!?」

 

「さっきから言っている事が支離滅裂で君が何を言いたいんだか分からないんだが?」

 

……フ。そんなことか。そんなこと決まっている。俺が言いたいこと

。それはつまり―――――

 

 

 

「……土下座でもジャンピング土下座でも、ローリング土下座でも、断崖絶壁バンジーでもなんでもやりますんで、許してくれませんかね?」_(T△T)_

 

「……ハァ…」

 

溜息吐かれた!ショック!!やっぱり俺は此処で殺されてしまうのでしょうか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが俺、“■■■ ■■■”から“アムロ・レイ”と名乗るようになった男と、俺が生涯“師匠”と慕った、イノベイドからさらに進化した“イノベイター”ではなく、全く別の存在へと“突き抜けけた存在”となった“師匠”、“リボンズ・アルマーク”。

そして俺が最も一緒に戦場を駆け抜け、果てにはまったく別の存在へと進化した機体。

この世界で始めて造られた戦うための力(ガンダム)との初遭遇であった。

 

 




え~……仕事のせいで全っ然執筆が進まないので思い切ってマルチ投稿を開始していただきました。

とりあえず主人公は結構強くなりますが、そこそこです。
チートにはなりません。当分は。最終的には近い所まで行くかも?
彼の容姿はこんな感じ。

・見た目は刹那の肌を黄色人種にして、目の色を黒くした感じ。(つーか日本人になった原作刹那?)
・パイロットスーツは白と赤のツートン。
・普段の服は青のジーパンにスニーカー。シャツの上からフード付きのヨットパーカーの更に上から、ボマージャケットを着込んでいます。
(ただしこれはスタンダードな物なので、多分作中で変化いたします)

重ね重ね記載致しますが、本作は亀更新です。よろしくお願いします。


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一話―――ガンダム乗ってみました

続いて1話です。まだ本格的な戦闘はありません。

色々とおかしい所があるかもしれませんが、楽しんで頂けたら幸いです。
それではどうぞ。


早いもので、俺が師匠と初遭遇してから数年が経っていた。

……話が飛びすぎだ?気にするな。俺は一切気にしない。というか気にしちゃいられない。

 

色々と面倒くさいから。

 

そんなこんなで俺が今何をしているのか、というと……

 

 

 

 

 

 

『こ…のっ!いい加減に当たりなさいよ!!』

 

「そんなの嫌に決まってるでしょ姉さん?っつうか姉さんって一々攻撃するときに、一瞬武器が震えるから攻撃が読み易いんだよ。その癖直したほうが良いよ?」

 

『んなっ!?あたしってそんな癖あったの!?』

 

「うんゴメン。今の全部嘘だわ」

 

『…………あんたねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』

 

とまあ、こんな感じで絶賛姉さん―――ヒリング・ケアと模擬戦中である…っと

 

「はい、隙あり」

 

そう言いながら、俺は姉さんの乗る黒いアストレアのプロトGNソードによる、横薙ぎの攻撃を避けながら、Oガンダムのビームサーベルを横に振るった。

 

『っ!!!』

 

振るわれたビームサーベルは正確に相手の腹と腰の間に吸い込まれていき、次の瞬間バチッっという音と共に、アストレアが真っ二つになって爆散した。

と、同時にコックピットのモニターにシミュレーション終了の文字が浮かび、模擬戦が終わったことが告げられた。

 

「はい、これで35戦33勝1敗1分け。…そろそろ止めない?流石に腹減ってきたんだけど?」

 

『煩い!!もう一回。もう一回よ!大体なんで第二世代の機体が第一世代の、しかも素人が乗った機体に負けるのよ!?ありえないでしょ!?』

 

「いやもうそれはパイロットの腕の問題じゃ『何か言った?!』…いえ、何も」

 

『よーし、もう一戦いくわよ。今度こそ撃墜してあげるから覚悟しなさい?』

 

(…いやもうそれ死亡フラグの類だろ。)

 

そんなことを思ったが、口に出したら絶対後でまた面倒臭い事になるので、「はいはい」と言いながら流すことにした。

ヴンという音と共に再びシミュレーターが立ち上がる。

こっちの機体はさっきと同じOガンダム。

姉さんの機体は…

 

(…っ!)

 

次の瞬間、太い桜色のビームの奔流が此方に向かって飛んできた。

咄嗟に機体を傾けて、グレイズの要領でそれを避けることに成功した。

 

(……今の粒子ビームは…)

 

そう考えながら嫌な予感を抱きつつもビームが飛んできた方向を確認する。

其処には――――――

 

「―――ってやっぱりIガンダムかよ!姉さん汚ねぇぞ!それ下手したら第三世代とも対等に渡り合えるような機体じゃねえか!!」

 

『うっさい!それにこれなら流石のアンタでも勝てないでしょ!!』

 

「無茶苦茶だチクショウ!?」

 

そう言いながら右手のビームピストルを発射する。

向こうもそれは読んでいたのか、右に滑る様にしてビームを避けると、右手のGNバスターライフルの照準を此方に合わせてきた。

銃口からビームが発射される。

それを宙返りの要領で回避した俺は、OガンダムをIガンダムに突っ込ませる。

それを見た向こうも、バスターライフルでは不利と思ったのか、砲身を畳んで、代わりにビームサーベルをシールドから抜き放ち、同じようにこっちに突っ込んできた。

 

『今度こそあたしが勝ぁぁぁぁぁぁつ!!!』

 

「…んにゃろう。やれるもんならやってみろ細いドラム缶体型が!!何に乗っても無駄だって事を教えてやるよ!!!」

 

「『ぶっ飛ばす!!!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。中々面白い物を見せてもらったよ」

 

「そりゃどうも。お蔭でこっちは昼飯食うのが無駄に遅くなっちまった」

 

茶化してきた師匠に対応しながら、俺はお茶を片手に昼飯のおにぎり(具はおかかと梅干と焼きたらこ)を食べ始めた。

一応あの後の結果を説明しておくと、

 

 

Oガンダム

 

シールド破損・左腕中破・脚部スラスター小破・ビームピストル大破・頭部中破・左肩小破

エネルギー残量・10%

勝利

 

Iガンダム

 

シールド、両肩、右足、左腕、左足首、胸部大破・腰部、頭部小破・右腕小破

エネルギー残量・撃破の為0%

敗北

 

決め手・左腕と頭部を犠牲にした特攻

 

 

 

というわけで俺の勝ちと相成りました。

ヒリング姉さん?シミュレーターの中で真っ白になってましたが何か?

 

というかそもそもあの人は本来味方とのコンビネーション攻撃で、本領を発揮するタイプの人なので、実は単体での戦闘能力はあまり高くは無い。精々ヒクサーさんとどっこいどっこい位だろう。

……とは言っても、常人と比べたら遥かに高いんだけどな。

 

 

「それにしても君の成長には目を見張るものがあるね。数ヶ月前までは、僕達の内の誰にも勝てなかったのに、いつの間にかほぼ互角以上の戦いが出来る様になってきている」

 

「誰の所為でこうなったと思ってるんだ?毎日毎日あんな鬼畜な条件下で訓練させやがって。大体なんだ?Iガンダムと第二世代ガンダム全部、各百機ずつ、Oガンダム一機だけで全滅させろとか。お蔭で大体のガンダムタイプとの戦闘方法が徹底的に身体に染み付いたわ」

 

ホントにあれはつらかった。何せ一回撃墜される度に全種ノルマ10機追加されるから、全然終わらなくて泣きそうになった。お蔭で強くはなれたけど、もう一度やれ、とか言われたら絶対拒否する。

 

「フフフ…だが、それのお蔭で此処まで強くなれているんだ。あまり邪険にすることは無いと思うけど?」

 

「るっさいわ師匠。…まあ、一応結構感謝はしてるよ」

 

それ、どっちの意味だい?、と言いながら、再び瞳を金色に変えて正面を見据える師匠―――リボンズ・アルマーク。

彼がこうなっているのは、大体は他のイノベイドとヴェーダを介してリンクしているか、もしくはヴェーダ自体とリンクしているかだ。

 

(…暇になったな、昼飯も食い終わったし…)

 

そう考えた俺はその場を立ち上がり、自室に戻ろうとする。

すると師匠に呼び止められた。

 

「ああ、そうだ。実はそろそろテストも兼ねて君にミッションをやって貰おうと思うんだけど」

 

「…は?」

 

そう言って俺は身構えた。

この人がこうやって突然何か言い出すのは、俺に対して何か悪巧みを思いついた事に他ならない。

絶対に碌でも無い事に決まっている。

すると師匠は苦笑しながらこう言ってきた。

 

「そう身構えないで欲しいな。なに、わざわざ戦場に行け、という訳ではないよ。実は近じか実行部隊が地上で最後の実戦テストを行うらしいから、その監視に行ってきて貰いたいだけだよ。勿論君の判断で戦闘に介入してもいい。ただし前にも言ったように、介入する際には実働部隊のマイスター達とはあまり関わらないようにしてくれ」

 

どうかな?、と言ってこちらを見据えてくる師匠。

それにしても実行部隊か…どんな奴らか見てくるのも面白そうだな……でもなぁ…

そんな風に考えに考え抜いて俺が出した答えは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分かった。行ってくる。その代わり一つ条件がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…随分と彼に肩入れしているね、リボンズ」

 

そう言って僕に言い寄って来たのは、塩基配列パターン0988タイプのイノベイドであるリジェネ・レジェッタだった。

 

「そうかな?僕としては、あまり肩入れしているつもりは無いんだけどね」

 

そう言って再びヴェーダとのリンクに戻る。

しかし彼はそのまま話を続けた。

 

「君からしてみれば、ね。だが僕らから見てみれば、君は彼にかなり肩入れしているようにしか見えないよ?どうして彼にあそこまでするんだい?彼は人間だよ?僕らとは違って、何も特殊な能力も持ってないし、脳量子波だって使えないただの平凡な人間だ。君があそこまでする理由は無いと思うけど?」

 

…ああ、成程。まったく、君と言う“人間”は……

 

「何の能力も無い、か。これを見ても君はそんなことが言えるかい?」

 

そう言って彼にあるデータを手渡す。

彼は怪訝そうにデータを見るが、だんだんとその顔は驚愕に染まっていった。

それは此処最近の彼の模擬戦のデータともう一つ。

全てを見終わって絶句している彼に僕はこう言い放った。

 

「僕は彼の機体に“あの”GNドライブを搭載しようと思う」

 

それを聞いたリジェネの顔が今度こそ固まる。

少しの沈黙の後、彼は恐る恐る口を開いた。

 

「そ、そんな……それは…君は、本気でそれを言っているのかいリボンズ?」

 

「ああ、本気だよ」

 

そう言いながら、僕は彼に向き直ってはっきりとこう言った。

 

「だってその方が面白そうじゃないか」

 

さあ、見せてもらおう、アムロ・レイ。君が本物なのかどうか、確かめさせて貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リジェネの手から毀れた数枚の書類。その中の一枚にはこう書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アムロ・レイ

 

 身体の一部の細胞が、人間ともイノベイドとも似つかないものに変異していることが確認。

 検査の結果、細胞個々がそれぞれ極微量ながら脳量子波に近い波をを発していることが確認。

 同時に本細胞は緩やかなペースではあるものの、当人の身体全体に広がっていることが前回の結果と比較することで確認。

 以上の結果より、検査対象の身体はその一部に関しては全く別の生命体になっている事が予想され、近い将来、完全なレベルで全く別の存在へと変化する事も予想される』

 




どうも、雑炊です。
何かネタが大量に降りてきたので、当分こっちばっかになりそうです。
因みにキャラが何人か変かもしれませんが、もし「此処はこうだろ」というのがありましたら、どしどし送ってください。
出来るだけ直していこうと思います。
それではまた次回。


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二話――――戦闘に介入してみました

内容が少々どころか結構変かもしれません。
何かあったら感想に書き込んでくれるとありがたいです。
それでは本編をどうぞ。


とりあえず任務の為に、ちょっとした新装備を取り付けたOガンダムに乗って、地球に降下中です。

それにしても流石GN粒子。ちょっとフィールド張っただけで大気圏突入したのに、本体は何とも無いぜ!

 

『浮かれている場合か。予定されていたポイントまでは、残り2㎞をきったぞ』

 

そう此方に語りかけてきたのは、グラーべ・ヴィオレント。

現時点で俺が知るイノベイドの中では、師匠を除いて最もMSの操縦技術が高い人だ。

彼の強さは並ではなく、あんだけ地獄の訓練をした俺でも、彼との模擬戦の勝率は4割程度である。

とにかく正確な動きをするため、遠距離~中距離の戦いでは殆ど隙を見出すことが出来ない。

 

閑話休題

 

『あ、本当だ。それじゃグラーべさん。援護頼みます』

 

そう言って近くの岩場に機体を着陸させた俺は、ステルスモードを発動して、Oガンダムを外界から認識できないように隠した。

近くに、黒く塗装されたサダルスードに乗ったグラーべさんも降りてきて、同じ様にステルスモードになる。

 

今回実働部隊である戦艦“プトレマイオス”――――通称トレミーのメンバーに提示されたミッションは、この付近にある建設中のユニオンの基地を襲撃する事だった。

…とは言っても精々実戦テスト扱いの内容な為、この基地に配備されている機体はその殆どがリアルドであり、ハッキリ言ってガンダムを相手にするには役不足間が否めない。

むしろこのミッションの目的は、マイスターの皆さんに実戦での感覚を体験してもらおうっていう感じがするんだが、そこらへんどうなのだろうか?

一応フラッグが三機ほど配備されているらしいが……まあ、よっぽど油断しない限りはやられたりしないだろう。

 

「…なんか俺の出番無さそうだな……」

 

『その点については我慢しろ。第一お前の存在は本来、俺達以外には知られてはいけないのだぞ?』

 

「いや、それは分かっちゃいるんですけど…なんか、こう、ね」

 

…そう。そうなのである。実は俺の存在は師匠達以外で知っている人間は、ほぼ0に近い。

監視者の人達ですら俺のことを知らない、と言うのだから驚きもんである。

その理由は俺も分かってはいない。

なんでも師匠が言うには「君は計画を根底から破錠させる可能性がある」とのこと。

…おれ、そんな能力も権力も持っていないのですが…

と、そう俺が思い返していた時、

 

『…始まったぞ。十時の方向だ』

 

そう、グラーべさんから通信が入った。

慌てて十時の方向を望遠モニターで見やると、確かに若干攻防による爆風の様なものが見える。

 

『どうやらデュナメスとエクシアが先行して部隊を撹乱。その後サキエルが合流して基地を殲滅するというミッションプランのようだな』

 

サダルスードが回収したデータを元に、グラーべさんはそう推測した。

これが俺が師匠に言った条件、サダルスードを援護に持って来させるという事の理由である。

サダルスードは元々狙撃タイプのガンダムであるデュナメスのプロトタイプに当たる機体であり、同時に索敵能力がかなり強化されている。そのため、今回のようにかなり離れていても、かなりの情報が収集できる。

 

それにしても、

 

「サキエル、ねえ…」

 

と言いながら、俺は今回のミッションに参加するガンダムの中の一機のことを思い返していた。

 

ガンダムサキエル。

他の四機のガンダムが、近接格闘、狙撃または射撃戦、飛行形態による高機動戦闘、大火力の火器による殲滅にそれぞれ特化している中、このガンダムだけは武装の変更により、どんな戦法でも取れるオールラウンダー型だ。

一応他のガンダムと同じく、専用武器としてGNビーム薙刀と、シールドと兼用のGNアローという武器を装備することにはなっているが、それ以外の武器はビームライフルとビームサーベルだけと結構シンプルだ。つーか薙刀に至っては、最早ネタ武器でしかないような気がするし、GNアローに至ってはまだ開発中らしい。

…計画の発動までに間に合うんだろうか?GNアロー?

 

と、目の前の戦場に動きがあった。

どうやらグラーべさんの予想は当たったようである。

実際、見ていたから分かるがあの後直ぐに赤と白の機体が戦闘に参加したのが分かった。

 

が。

 

「…う~ん……遠すぎてよく分からないぞ……?」

 

流石に戦場から離れ過ぎていた為か、基本的な能力しか持たないOガンダムでは本当に薄っすらとしか確認できない。

流石にこのまま此処に居ても意味が無いと判断して、近くによって行く事にした。

 

「グラーべさん。ちょっと此処からじゃよく見えないので、ギリギリのラインまで近づいてみます。なので万が一の場合は援護頼みます」

 

そう言ってOガンダムを戦場へ近づけていく。

グラーべさんが何か言おうとしていたが、私は何も見なかった事にして、ズンズンと近づいていく。

 

…ごめんなさいグラーべさん。後で何か奢りますから。

 

 

 

 

 

「おおお……こりゃ凄いな。実働部隊の名前は伊達じゃない…ってか?」

 

辿り着いたところで見た光景。

それは一種地獄絵図の様相を呈していた。

地面にはビームで身体の一部を抉られたリアルドが、死屍累々と横たわっており、一部の機体は何か鋭利な刃物で切られたかのように真っ二つになっている。

 

と、Oガンダムの頭上を通り過ぎる影が三つ。

その後姿から、おそらくこの基地に配備されていたフラッグだろう。

三機のフラッグはそのまま此方に気付かずに、少し離れたところに居る3機のガンダムへと向かっていった。

 

(…まあ、あれだけの腕があれば、高々フラッグ三機には早々やられたりしないだろう)

 

そう考えた俺は、Oガンダムの踵を返してさっきの所へ戻ろうとした。

が、次の瞬間、

 

ギャキィッ!!

 

と言う音が聞こえて、思わず振り返った。

 

其処では、何故か3機の内の一体の赤と白の機体―――確かサキエル、とか言ったっけ?―――がさっき見た三機のフラッグの内の一体と取っ組み合っており、動きを止められている。

さらにその後ろからはもう一機のフラッグがソニックブレイドを構えて、サキエルを串刺しにせんと突っ込んで行っていた。

エクシアとデュナメスに目を向けるも、残っていた他のリアルドに足止めされていて、とてもじゃないが援護は望めなさそうだ。

 

(…チッ!ああもう!!)

 

そう心の中で悪態を吐きながら、頭から追加装備の外套を被ったOガンダムの右手に持たせたビームピストルから光弾を発射して、突っ込もうとしていたフラッグの腕を、両方とも吹き飛ばす。

 

「すみませんグラーべさん!!万が一の事態が起こってしまったので、出来るだけ援護頼みます!!!」

 

突然のことに呆気に取られる三機を睨みながら、グラーべさんに通信を入れつつ、俺はOガンダムを其処に突っ込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!この…離せっ!」

 

慢心していた!

私はそう心の中で呟いた。

 

今回のミッションは、元々、このガンダムサキエルの最後の実戦テストとして実行されたものだった。

そのため、標的となった基地も、建設途中の戦力のあまり無い此処が選ばれていた。

それに配備されているのは殆どリアルドだけだったので、ガンダムであれば大丈夫、という根拠不明の自信があったというのもこんな事態に陥った原因かもしれない。

 

何とかしてフラッグの拘束から逃れようとするも、上手く腕を絡ませてきて、中々振り解けない。

 

(如何にかしなければ……!)

 

私がそう思った時だった。

突如として、サキエルのレーダーが背後から此方へと近づく何かを捉えた。

 

「今度は一体何…フラッグだと!?基地に配備されてた奴か!?」

 

しかも相手はソニックブレイドを構えて、此方を串刺しにせんと突撃してくるではないか!

他の二人―――刹那とロックオンを見るも、二人とも他の機体に足止めを食らっており、援護は期待できそうもない。

その間にもフラッグは此方へと迫ってきている。

何とかして拘束を外そうともがくが、一向に外れる様子は無い。

そうしている内に、背後のフラッグはもうあと少しという所まで来ていた。

 

―――…これまでか…

 

そう思い目を閉じる。

そもそもあの日家族が皆殺しにされた日から此処まで生き残ってこれたのが僥倖だったのだ。

今此処で殺られても、悔いはない。

 

(…いや、有るか)

 

自意識過剰かもしれないが、ここで私が殺られれば、少しとはいえ、やっと心を開いてくれた刹那やフェルト達に少なからずショックを与えてしまうかもしれない。

 

(…刹那、フェルト、ロックオン、ティエリア、アレルヤ……はまあいいか。(酷いよ!?)今何か聞こえたが無視して、クリス、リヒティ、スメラギさん、ラッセ、イアンさん、モレノさん…)

 

「みんな…ゴメン…」

 

そう言って私は目を閉じる。

 

 

 

…しかし何時まで経っても来るべき筈の痛みと衝撃が来ない。

怪訝に思って目を開けると其処には―――

 

 

 

 

 

 

 

私の身体に突き立てられる筈のソニックブレイドを持っていたフラッグの手が、

 

 

ピンク色の閃光に吹き飛ばされている光景だった。

 

 

 

 

 

(まさか此方の増援!?でも…一体誰が?)

 

まさかアレルヤか、ティエリアかと思ったが、次の瞬間フラッグに突っ込んできた影を見た瞬間、その疑問は解消した。

…厳密に言うと、全く別の質問に置き換わっただけなのだが。

 

突っ込んできたのは、茶色い影だった。

それは良く見ると、何か人型の物がマントを頭からすっぽりと被っている事が分かった。

大きさからそれはMSだという事は分かったが、問題は今これが撃ったであろうビームだ。

現状、世界中何処を探しても今の様なビームを撃てるのは、太陽炉を搭載したMS―――つまりガンダムしかありえない。

という事はこの機体はガンダムなのだろうか?

しかし一体誰が作った?

まさか私達の知らない所で、全く別のガンダムが製造されていたのだろうか?

 

頭の中が疑問で多い尽くされていく。

そんな私に聞きなれない声の人物が話しかけてきた。

 

『其処のガンダム。ボーっとしているなら邪魔だから撤退しろ。後は此方で終わらせておく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、何を言っている?』

 

……いや、何をって…

 

「今ので分からなかったのか?簡単に言うと“そのままだと邪魔にしかならないから、他の二機と一緒に撤退しろ”と言ったんだ」

 

『な…!ふざけるな!私はまだ戦えるぞ!』

 

「喧しい。武器も何も無い状態で如何するつもりだ?」

 

ちょっと離れた所に、薙刀の柄っぽいのが突き刺さっているのが見えるが、あそこまで取りに行っていたら、また後ろから攻撃されかねないぞ。

そう思いながらも今突き飛ばしたフラッグと距離を取りながら、サキエルを雁字搦めにしていたフラッグの頭部をビームピストルで吹き飛ばす。

頭部を破壊されたことで慌てたのか、フラッグの拘束が少し緩まる。

その隙を突いて、サキエルはフラッグを蹴り飛ばし、一気に近づいて肘にマウントされていたビームサーベルで、フラッグを切り捨てた。

 

『武器ならコレがある』

 

そう言いながら、機体の前でビームサーベルを構えるサキエルのマイスター。

…とは言っても、射撃武器も何も無いのに、真面目にビームサーベルだけで戦うつもりなのだろうか?…だとしたらコイツどんな馬鹿だ?例えガンダムであっても、リニアライフルの集中砲火を食らったら、流石にタダでは済まないのだが。

 

(…う~ん…どう説得すべきか…)?

 

そう考えていると、さっきまでエクシアのほうに回っていたリアルドの数機が此方にやってきた。

どうやら機動戦で翻弄しようとしているらしく、全員が飛行形態のままだ。

…と、いう事はこいつらさっきまでエクシアと戦ってた時もこの状態だったのだろうか?

 

(…ま、あんまり関係ないか)

 

そう心の中で呟きながら、Oガンダムをリアルドの方へ飛ばす。

飛んでる途中で、先程フラッグが投げ捨てたのであろうリニアライフルがあったので、拾って左手にマウントし、牽制のつもりで一発撃ってみる。

案の定リアルドの編隊は、リニアライフルの球を避ける為に散開するが、その内の一角にサキエルがビームサーベルで切りかかり、2機を切り捨てた。

 

その後ろからリアルドがリニアライフルでサキエルを狙うが、それを見逃すような俺ではない。

 

「その行動はミスだ、リアルドのパイロット」

 

そう呟きながら、銃口をサキエルに向けていたリアルドに向かって、リニアライフルを発射する。

当たり所が悪かったのか、弾が直撃したリアルドは、そのまま爆散した。

 

『やるな!』

 

サキエルのパイロットから賞賛の声が掛けられるが、俺としてはこんな事位当たり前である。

こっちはお前らみたいにルーキーじゃないぞ?…あ、いや実戦自体は出た事無いから俺もルーキーか。

今迄模擬戦で相手をしてくれた人(及びデータ)の皆が皆(主に姉さんとか姉さんとか姉さんとか)確実に俺を殺しに来ていたので、いつの間にか実戦を経験したような気になっていた。

これはまずいから、後で直さないとなぁ……っと、今はそんな事考えている場合じゃなかったな。

 

「これくらいは当たり前だ。それよりもそっちにまた何機か行ったぞ?」

 

そう言ってサキエルの方へ向かおうとしていたリアルドの内3機を、ビームピストルから発射した光弾で火の玉へと変える。

撃ち落としたリアルドのパイロットに向けて心の中で念仏を唱えながら、こちらをスルーしてサキエルの方へ向かって行った残りのリアルドを見やる。

どうやら其方も既にサキエルが撃墜した後のようだ。

それを確認してから回りを見渡しても、敵機の姿は一体も確認できない。

 

(…終わった、か?)

 

いや、まだ油断はできない。こういう時に限って油断している奴はやられるものなのだ。

実際に体験した事があるので、まだホッとする訳にはいかない。

 

「……グラーべさん?」

 

『確認してみたが、今の所、この付近に近づいて来るような機影は確認できないが…警戒するに越したことは無いだろう』

 

ですよね。

そう思いながらも、左手のリニアライフルはそのままに、右手のビームピストルを、Oガンダムに取り付けた“ちょっとした新装備”―――GNABC《アンチ・ビーム・コート》マントの裏側にあるラッチに取り付ける。

このGNABCマントは、俺が師匠に万が一の事を考えて提案した装備の一つだ。

見た目はただの馬鹿でかいマントだが、表面にGN粒子をコーティングする事によって、GNキャノン程度の威力の物なら、一回だけ完全に無効化できる、という代物だ。

勿論頭からスッポリと被れば、今回の様に一種の偽装としても使える。

……勿論実体兵器に対しても、ある程度は耐えられるぞ?

そしてマントの裏側には、幾つかのGNビームピストルをマウントする為のラッチも設置されている。

今回はこのような小規模な戦闘だったので、一丁しか持って来てはいなかったが、本来はここに合計六丁のビームピストルがマウントされる予定だ。

 

『どうやらもう大丈夫の様だな』

 

…おい?

何でお前はそんなに無防備でこっちに近づいて来るんだ?

普通もうちょっとは警戒したまんまだろう?

 

(……って、あ)

 

そんな事を考えていると、不意にサキエルの後ろで動く影があった。

先程サキエルが撃墜したリアルドの内の一機のようだ。

どうやらまだ息が有ったらしい。

せめて一矢報いようと、手に持ったリニアライフルの銃口を此方へと―――厳密にはサキエルへと―――向けている。

それを見た瞬間、迷う事無く左手のリニアライフルをそちらに向けて引き金を引く。

放たれた銃弾は、サキエルの頭部の真横すれすれを通りながら、リアルドの頭部ごとコックピットを貫く。

 

ジジジ…ドォォン!!

 

そんな音を立てて、リアルドが爆散する。

これで本当の意味で、今回の俺達の“敵”であったユニオンのMS部隊は全滅した。

同時に、左手のリニアライフルも弾が切れる。

……今無意識に引き金を引いたけれど、もしも弾が切れていたらどうなっていたんだろうか?

そう思い、今更ながら肌に鳥肌が立った。

 

(……あ、危なかったぁぁぁぁぁぁ!)

 

うん、まだまだ俺も未熟だな。うん、もっと修行しないとな。うん。

 

『な……あ…?』

 

不意に聞こえてきた声にハッとする。

どうやら向こうは今起きた事に対してちゃんと反応出来ていないようだ。

声の一つでも掛けるべきかと思ったが、そのときレーダーに此方に近づく光点を見つけた。

エクシアとデュナメスだ。

同時に脳裏に甦る師匠の言葉。

 

『あまり言いたくはないけど、君は計画を根底から破錠させる可能性がある。だから最悪でも、実働部隊と関わるのは、計画が始まってからにしてくれ。もしもこの言いつけを破ったらどうなるか……分かってるね?』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・ヤバイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・ヤバイヤバイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!!!!!

 

おぉぉもいっっっっきし関わってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

 

やばい!マジでヤバイ!!こんまま帰ろう物なら一機に俺の命はレッドゾーンだ!

・・・・でもこのままここに居ても俺の命がレッドゾーンなのは明白!

下手をすれば何時の間にか取り付けられていた自爆装置が発動―――なんて事になりかねん!!

如何する!?如何すればいい!?如何すればいいのさ俺ぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????

 

「ラ……」

 

『? ら?』

 

ラ………ラ……

 

「ライフカァァァァァァァドォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずあの後慌ててとある家系に代々伝わる戦術を使い、その場を有耶無耶にして、ひいこら言いながら、このミッションのために経済特区の日本のとあるマンションに作られたアジトに帰ってきてから、師匠に言われたのは次の一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とりあえずペナルティとして、今度は第三世代のガンダムも含めた“地獄の修行(罰ゲーム)”逝ってみようか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゃーす




どうも雑炊です。
今回はオリキャラとオリガンダムを出してみましたが如何だったでしょうか?
因みに初投稿当時は戦闘の件だけで、10数回書き直しました。
…その結果がこれです。本当にすみません。
この機体の設定等は、そのうち詳しく書いた物を載せようと思います。

で、今回はGNABCマントについての説明を。
性能に関しては、要するにクロスボーンのABCマントのOO版と思ってくださって結構です。見た目もあんな感じ。ポンチョとは違います。以上!

ではまた次回


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自分の足で立ち上がろうとジタバタしている頃の話
三話――――同居する事になりました


第三話です。
今回は計画の発動と、マイスターとの接触です。
それでは本編をどうぞ。


「……………………死ねる……」

 

そう言って俺はアジトのテーブルに突っ伏した。

あの後、師匠はマジで俺にあの“地獄の修行改”をやらせ、俺はそれを甘んじて受ける事となった。

……結果として3日位シミュレータから出られなくなったのだが。

 

お蔭様で寝不足&空腹限界MAXだよ。あんの鬼畜師匠めが……

 

で、今俺が何処にいるかと言うと、今は日本のとあるマンションの中にある一室で寝泊りしている。

ひょんな事から、お隣さんと関わりを持ってしまったが……まぁ其処まで大した事ではない。

 

さて、そんな感じで死んでいると、不意にテーブルの上の通信端末から音が鳴った。

どうやら誰かから通信がかかってきたようだが・・・・・ハッキリ言って、もう誰が掛けて来たのか容易に想像がつく。

溜息を吐きながら通信端末を起動させる。案の定出てきたのは師匠だった。

 

『やあ。イイ感じに死んでいるようだね』

 

「……だれのせーだ…だれの……」

 

師匠のからかいに力無く返す。

実際もう疲れすぎて脳味噌がまともに動いていない。

そんな俺を見ながら、師匠は楽しそうな声でこんな事を言った。

 

『フフ…だが、それなりにいい訓練になったろう?実際あれをクリアできるのは僕達の中では君と僕を除いたら、片手で数えるほどしかいないのだから』

 

「…………あれ?それくらいしかいないの?むしろ誰だクリアできるの…って、グラーべさんか」

 

あの人じゃしょうがねーなー等と疲れた頭で考えていたが、次の師匠の言葉でそんな疲れも吹き飛んだ。

 

『彼もそうだけど、実は昨日ヒリングもクリアしたんだよ』

 

…………は?

 

「…ぱーどん?」

 

クリアした?誰が?ヒリング姉さんが?あれを?

何かの間違いでしょう?と師匠を見返すが、この様子だと本当らしい。

マジかよ、と俺は顔を右手で覆って椅子にもたれ掛かった。

こっち来る前には模擬戦で俺にほぼ一方的にボコボコにされていたと言うのに…

 

…流石はイノベイド…って事か?

 

そう考えて俺は頭を振った。

基本的に俺は『あいつはこうだから仕方が無い』と言って人を差別するのは好きではない。

だと言うのに、その自分自身がそんな事を言ってどうするのだ。

どうやら随分と疲れているらしい。

 

頭を振ってから、少しでもそんな事を考えた自分に自己嫌悪していると、師匠がこんな事を言ってきた。

 

『そういえば、計画の発動までもう一週間を切った所だが、そっちでの暮らしはどうだい?』

 

「んあい?」

 

およ?珍しい。普段はこんなこと師匠が言う筈無い。まあ、大抵こういう時は決まって「頼み事があるんだけど」とか、「戻って来る時にこれをお土産として買ってきて貰いたいんだが」とか言い出すのだが、こんな風に単純にこっちの近況を訊いてくる、と言うのは滅多に無いのだ。

で、間違って「師匠。頭でも打ったか?」等と聞いてしまうと、普段の数倍キツイ頼みごと(オシオキ)が待っているので、突っ込みたい衝動をグッと堪えて敢えて普通に応答する。

 

「ああ、特に問題は無いよ。精々お隣と友好的な関係持った位だ」

 

嘘だ。実は数日前に、とある不良グループとイザコザを起こしてしまい、あまりにうっとおしかった為、ヴェーダの機能をこっそり使って、奴らのメンバーを末端に至るまで調べ上げて一人一人懇切丁寧に説得(オハナシ)したと言う事があった。

そのときのイザコザにお隣の弟さんと、その彼女も巻き込んでしまった。

お隣との関係も其処からだ。

が、その事を素直に喋っても面倒なことが起きるだけなので、ここは伏せておく事にした。

 

『ふぅん…まあ、いいけど。ところで、今君が住んでいる部屋には、まだ空き部屋があった気がしたんだが?』

 

……うん?

なにやら雲行きが怪しくなってきたぞ?

第一師匠、何故このタイミングで突然そんな事を訊く?

と、言うか何で今『ふぅん…』言いやがった!?

頭の中で鳴り始めた警鐘を気にしつつも、どうせ誤魔化しても意味が無い事は分かっているので正直に俺は質問に答えた。ってか、嘘ついて後でバレても怖いし。

 

「ああ。一応一部屋位しかないが、これ位の広さだったら後二人…いや、無理すれば三人位は…」

 

ここで師匠の笑みが深まったのを目撃した俺は一瞬固まった。

もうね、この時点で嫌な予感が物凄い事になっているわけですよ。すんごくね。ただ、ここまできたら言い切ろうが言い切らなかろうが一緒なので俺は一端止めた言葉を再び紡ぎだした。

 

「…………三人、くらいは、住めると思い、ます」

 

『何で敬語になるんだい?』

 

そりゃ、アンタの笑顔が嫌な予感的な意味で怖すぎるからだよ。とは言えず、乾いた笑いでその質問に返す。

それを見た師匠は一瞬不機嫌そうになったものの、直ぐにいつもの表情に戻った。

アブねぇ。

 

『まあ、いいか。それよりも三人は住めるんだね?それはよかった』

 

「……良かったって、何が?」

 

うん。もうお約束になってきたなこのパターン。いい加減にしてくれ、と声に出して叫びたいが、無論後が怖いのでグッと我慢する。

…今情けないとか思ったり言ったりした奴。後で体育館裏に来なさい。先生とお話だ!!

そんな俺の内心の叫びに気付かないまま、師匠はその言葉を言った。

俺にとってのある意味での死刑宣告を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実は実働部隊のマイスターの内の二人が、当分の間だけどそっちに滞在する事になったんだ。それで早急に部屋を探す必要があったんだけど、それなら安心だ。引き受けてくれる(・・・・・・・・)ね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……Oh、じーざす。または、がっでむ。神様。俺何か悪い事しましたか?具体的には記憶を失う前とか前世とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日が経った。

その日俺は、お隣に住んでいる沙慈・クロスロードと、そのガールフレンドであるルイス・ハレヴィに半ば無理矢理表に連れ出されていた。

 

因みに連れてこられた理由は『荷物持ち』である。

 

…聞いた瞬間に「帰って良いか?」と言ってみたが、ルイスは「だめ~♪」と言うだけで全く取り合ってはくれず、沙慈は乾いた笑いを漏らすだけだった。

そんなこんなで、三件目のブティックを出た位の事である。

 

いい加減ウンザリしていた俺の耳に、こんな音声が入ってきた。

 

 

『……地球で生まれ育った、全ての人類に報告させていただきます。私達は、ソレスタルビーイング。機動兵器“ガンダム”を所有する、私設武装組織です……』

 

 

 

そんな歳をとった男の声が、町中から聞こえてきた。

俺達の正面にあるビルに取り付けられた街頭テレビにデカデカと映し出されるのは、CBの創設者“イオリア・シュヘンベルグ”の演説。

街行く人たちは皆足を止め、その演説に戸惑いを見せている。

…というよりも実感が湧かないんだろう。

だって、一応CBの一員である俺が聞いていても、何処と無くイメージが湧いてこないんだもの。

そりゃ、いきなりガンダムなんて物を出された上に“紛争根絶”なんて夢物語とも思えるような物を掲げられても、普通の人間だったら実感なんて湧く筈がない。

 

「沙慈……」

 

俺の左前方を歩いていたルイスが、沙慈に心配そうな声を掛けて歩み寄る。

沙慈もそんなルイスをゆっくりと引き寄せる。

……どうでもいいけど、こんな往来で、しかもこんな状況でいちゃつくんじゃねぇバカップル。

周囲の注意が殆どイオリアのおっちゃんの演説に向いているとはいっても、一部の人間はこっち見てるぞ。

つーか実感とはまた違ったドス黒い物湧いてくるからいい加減にやめろ。

 

 

内心でそんなしょーも無いことを呟きつつも、俺はイオリア・シュヘンベルグの演説に耳を傾けていた。

 

 

 

 

 

 

 

西暦2307年。この日この時より、地球上に存在する殆どの文明は大きな変換点を迎える事となった。

その先駆けとなったのは、プトレマイオスのガンダムマイスターたちが駆る、太陽炉を搭載した5機のガンダム。

そしてサポート組織であるフェレシュテが保有する太陽炉の内の1個と、それを動力とする5機のガンダム。

 

そして…………

 

 

 

 

「…あ、そういえば今日の夕飯どうすんべ。スーパーって今開いてっかな?」

 

「「何でこの状況で夕飯の心配なんかできるの!?」」

 

「いやいや。むしろこんな状況でいちゃつけるお前らにこそ、その言葉を送りたいよ」

 

 

……今ここでこんな状況だというのに夕飯の事を心配し、尚且つ友人達と漫才をしている、一見すると普通の一般人にしか見えない少年が保有(?)している、出自不明の太陽炉を搭載する『Oガンダム(ファースト・ガンダム)』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三日後。

ソレスタルビーイングのアジト(表向きはアムロの家)。その玄関の前。

其処にはアタッシュケースを持った、二人の少女(・・)が静かに佇んでいた。

一人は沙慈やアムロと同じく日系で、年の頃は大体17,8歳といったところだろう。

背も高く、175cm位はありそうだ。

しかし肌の色は白く、髪が黒くなかったら白人と言っても通りそうだ。

彼女はその長く伸ばした黒髪を、首の後ろで束ねていた。

 

もう一人は肌が浅黒く、見た目も何処か少女と言うより少年っぽい感じがする。

辛うじて服装で女の子と認識できるが、髪型がボーイッシュということもあり、男物の服を着ても特に違和感が無さそうだ。

此方は前述の少女とは対照的に、背は160cm程しかなく、アタッシュケースもかなり小さい。

年の頃は……大体15,6歳位だろうか?

 

「…刹那。本当に、荷物それだけで良かったのか?」

 

日系の少女が、浅黒い肌の少女に問いかける。

どうやら彼女の荷物が異様に少ない事を心配しているらしい。

 

「大丈夫だ。問題無い。必要最低限の物は持ってきてある」

 

それに対して浅黒い肌の少女(・・)―――刹那は言葉少なく返す。

それっきり二人の間に会話は無くなった。

1分か、5分か、10分か……このまま永遠にこの無音空間が続くのではないか?そんな事を日系の少女が考え始めたくらいだった。

 

「…ユリ。押さないのか?」

 

突然刹那が日系の少女―――ユリに問いかけた。

問いかけられたユリは、一瞬彼女が何を言っているのか分からなかったようだが、すぐにその意味が分かり、顔を赤くした。

確かにこんな真昼間から、人の家の前で未成年の少女が二人、何分も佇んでいたら怪しいことこの上ない。

ユリは慌てて目の前の玄関の脇にあるインターホンを押した。

 

ピンポーン

 

そんな音が鳴り響く。

と、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリ!!ジリリリリリリ!!

 

ガタッ

 

ガゴッ!!

ゴッガッ

ガン

ゴビン!

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・・・・

ビッターン!!!

 

・・・・・・・・・・・・・・・ダダダダダダダダダダダ!!!

 

コツン

 

ズザザザザザザザ!!

ゴトン

ッホワァァァァァアァァアァァアァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ホワッホワァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!

ゴッチーン

 

ウルサイゾ!

 

メメタァ!!

 

アッー!!!!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

と、そんな音が聞こえてきた。

 

「「…………」」

 

二人は何も喋らない。否、喋れない、と言ったところだろう。

何せ今日から潜伏する場所に既に入っていたエージェントを呼び出そうとしてインターホンを押したら、中から聞こえてきたのは、何かがずっこける音、何かを打ち付ける音、転がる音に壁に激突した音。

極め付けは走って来るような音がしたと思ったら、なにかが軽くぶつかったような音がして、とんでもない声量の叫び声が聞こえて来たのだから。

 

よく見ると二人とも大量に冷や汗をかいていた。

 

そのまま数分間ほど周囲を気まずい空気と沈黙が包む。

そしてユリがこの空気に耐え切れず、意を決してもう一度インターホンを押そうとした時だった。

 

ガチャっという音が鳴り、玄関が開く。

其処から出てきたのは……

 

「……はいいらっしゃい。師匠の言ってたホームステイの二人か…とりあえずずっとそこに居るのもどうかと思うから中に入りなさい。丁度昼飯の時間だし…」

 

……頭を抑えながら凄くやる気の無い声で喋る、刹那によく似た彼女と同じくらいの少年だった。

彼の姿に二人は呆気に取られる。

 

「…何をしている?」

 

そう言って訝しげに此方を見てくる少年。

ユリと刹那は慌てて中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「着替えはそこの箪笥の中にでも入れておけ。どうせ幾つか棚は余っているから好きに使っても構わんぞ。それが終わったら早速昼飯を………って、HEYオイ待てコラお嬢。幾らなんでも荷物少な過ぎないか?服とかはどうなっているんだ?」

 

「問題は無い。必要最低限の物は入れてきた」

 

私がそう言うと、私に良く似たエージェントの男は溜息を吐きながらこう言った。

 

「…あのな、それじゃダメなんだよ。確かに最低限の物があれば活動に支障は無いだろうが、君とあっちの姉ちゃんは少しの間とはいえ当分此処に住むんだぞ?男ならそこまで問題じゃないが、君みたいな可愛い女の子がそう毎日同じ服ばっかり着てたら逆に怪しまれる」

 

そこまで言ってから、男は「まったく…」と言いながら私の荷物を探る。

 

……よく分からない。

確かに言っていることは一理あるのだろうが、何故私が毎日同じ服ばかり着ていたら怪しまれるのだろうか?

 

そのまま男は荷物を探っていたが、暫らくすると動きを止めてゆっくりとこっちを振り返ってきた。

 

「……おい」

 

「? どうした?」

 

「…いや、マジでお前の荷物ってこれだけか?」

 

「ああ、そうだが……何か問題でもあったのか?」

 

「……」

 

そう私が返すと、男は突然頭を抱えて俯いた……どうしたのだろうか?

私が少し不安になりながら彼を見ていると、部屋の奥からユリが出てきた。

どうやら荷物の整頓は終わったらしい。

彼の様子に気付いたのか、不思議そうな顔で此方に近づいてきた。

 

「…刹那。彼は一体どうしたんだ?何か困っているようだが……」

 

「…分からない。どうやら私の荷物に何か不備があるという事は分かった……だが、それが何なのか分からない。本当に分からないんだ。あれほど何度も再チェックを重ねた上に、あのティエリアにも不備が無いか確認を取ったというのに……」

 

「そうか……って待て?確認を取った、と言ったな?もう一度、誰に確認を取ったのか、ハッキリと教えてくれないか?」

 

私の答えに一瞬納得したような素振りを見せたユリだったが、次の瞬間何かを聞き間違えた、といった風に、再び私に質問してきた。

それに対して、私は特に誤魔化す必要も無い為、正直に話す。

 

「ティエリアだ」

 

と。

それを聞いた瞬間に、ユリも彼と同じく頭を抱えた。

 

「…刹那。今度からそういった荷物を人に見せる場合は、あいつ以外の人間に見せろ。それこそロックオンやスメラギさんとかにしておけ。じゃないといつか痛い目見るぞ…」

 

そう言って溜息を吐くユリ。

…どういう事なんだろうか?

何故ティエリアはダメで、ロックオンやミス・スメラギは良いのだろうか?

 

「…よし、決めた」

 

私が疑問に思っていると、彼が突然そんな事を言った。

一体何を決めたのだろうか?

彼がゆっくりと此方を向く。

その顔には少しの決意と、諦めが浮かんでいた。

 

 

 

「……この後昼飯を食べたら、ここらへんの地理の把握も兼ねて、お嬢の服を買いに行く。流石に“女の子”として“お嬢の服が下着とかも含めて、今着ているのを含めても各2着しかない”のは、問題がありすぎる」

 

 

 

 

私の後ろでユリが盛大に溜息を吐く音が聞こえた。

何故溜息を吐く?荷物を最小限にしたのは、やはり不味かったのか?

 

「……神よ。出来ることなら聞いてくれ。出来ることなら私は貴方を今すぐ愛弓でぶち抜きたい……!」

 

…ユリ、何を言っているんだ?

神はこの世にはいないんだぞ?

 

 




いかがでしたでしょうか?
どうも雑炊です。
今回は一応日常パートということで、戦闘シーンは無しです。
次回は日常と戦闘パートを半々位にしようと思います。

…しかし当時から思っていましたが果たして刹那の口調はこれで合っているのか……(汗
TSしてるから少し変わっててもいいのか?

とにかくまた次回!

追記

今更ながら某所の小説とちょっと似てない?
と言われたので、全編にわたり現在それっぽい部分を絶賛改訂中です。



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四話――――買い物しました。ついでにちょこっとミッション行ってきました

今回は外伝からちょこっとだけあのキャラが登場です。
それと少しのキャラ崩壊もあります。
それが駄目という方は気を付けてください。

それでは本編をどうぞ。


前回までのあらすじ

 

アムロ、ガンダムマイスター二名と同居開始 → あれれ?おかしいなぁ?一名荷物が少なすぎるよ? → 服が無さ過ぎるぞ……(汗 → デパートに買いに行きますよー←今此処

 

 

 

 

 

 

 

 

……これは一体どういうことなんだろうか?

そう思いながら目の前の光景に頭を抱える。

あの後、私と刹那は周辺の地理の把握を踏まえて、刹那の服を買いにエージェントの少年―――確かアムロと言ったかな―――と共に、デパートに来ていた。

で、今は刹那の服もある程度買い終わり、食料品も買ったので帰ろうとしていた所だったのだが…

 

「……………………」

 

…この様に、突如としてアムロがとある物の売り場の前で、ある一点を凝視したまま動かなくなってしまったのだ。

何度か声を掛けたものの、全く動かない。

それが今から10分前。

流石に見かねたのか、

 

「このままでは今後の活動に支障が出る。私が連れ戻してくる」

 

と言って彼に近づいていった刹那が、そのまま彼と同じ状態になったのが、今から5分前の事だ。

 

「……お~い二人とも~…そろそろいい加減にしてくれないか~…」

 

……反応は、無い。

…泣いてない。泣いてないからな!?

いっそ此処まで綺麗に無視されたら、気持ち良くなってくるぞ!?

………ごめんなさい。本当は少しだけウルッと来ました。

 

「…にしても、二人とも何を見ているんだ?」

 

思わず口に出してしまったが、本当に気になる。

あのアムロという少年とは今日が初対面だからどうかは分からないが、刹那とはそれなりに付き合いがあるので、大体その性格は把握している。

彼女の性格は、簡単に言えば“無口な超ガンダム馬鹿”だ。

以前彼女の目の前で思わず口走ってしまったが、そのときは今まで見た事が無いくらいに満面の綺麗な笑顔を浮かべていた。

…どうやらガンダム馬鹿と呼ばれた事が物凄く嬉しかったらしい。

 

(……そのガンダム馬鹿が、あそこまで惹かれる物とは一体何なのだろう……?)

 

流石に物珍しく思った私もだんだんと彼らへ近づいていった。

…………因みに此処は何処かというと、デパートの二階にあったおもちゃ売り場の、ゲームソフトのコーナーだ。

……結論だけ言わせて貰おう。結局私もそれに魅入られて、その後三人で50分くらいその場に立ち続けてしまった。

 

因みに私達が1時間と5分間ずっと見ていたそのゲームの名前は『スーパーロボットジェネレーション VS:MAXON 』という名前だった。

……パッケージにガンダムに良く似た機体が書かれていたが……刹那。お前が立ち止まってた理由って、まさかソレじゃないだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……迂闊だった。

まさかこんなもんが売られていたとは……ええ、買いましたとも。買いましたともさ!!だってしょうがないじゃん!このゲームなぜか知らんけど師匠が結構気に入っていて、ソレスタルビーイング号の中に第一作から全部あるんだもん!ヒマな時に誰かがやり始めると、そのまま強制的にトーナメント開始ですよ!?師匠と俺とブリング兄さんとデヴァイン兄さんなんか、ほぼ全部の機体の全コンボ制覇してるからな!!そんだけやり込んでんだから最新作出てたら買うしかないじゃないか!!!???

…失礼。

 

と、言うわけで、アジトへと帰ってきてから、即行で夕飯を作って食い、マイスターの内の一人の刹那の服のお披露目会をした後、買って来たゲームを早速プレイしているわけだが……

 

「…ユリ…って言ったっけ?」

 

「ああ」

 

「一つだけ訊いていい?」

 

「なんだ?」

 

「………なんで射撃系の機体使ってんのに、わざわざ接近戦仕掛けてくるん?」

 

「う、うるさいな!私はこういった戦い方のほうが好きなんだ…ってああ刹那!?後ろからブラックホールキャノンなんか撃つな!!」

 

「……シュッツバルトなぞで接近戦を挑んでいる貴様が悪い」

 

「ですよねー……と、ダウン寸前のところスマンが、スプラッシュブレイカーでとどめっと」

 

画面に映る俺の機体―――アシュクリーフの肩から青いボールが飛び出して、ユリの操るシュッツバルトに殺到する。

対するユリはシュッツバルトの右手に持たせたアサルトライフルで幾つかを打ち落とすが、やはり全ては無理だったらしく、打ち漏らしたブレイカーに当たってご退場と相成った。

と、此処でユリの所属しているチームの戦力ゲージが0となり、彼女の負けが確定。

当の本人はボコボコにされたのが悔しいのか、地団駄を踏んでいる。

が、個人的な意見を言わせて貰うなら、基本中距離~遠距離戦向けの機体であるシュッツバルトなどで勇猛果敢に接近戦を仕掛けて来るなと言うもんである。

そんな機体特性ガン無視な戦法はもっと上手くなってからやれや。

 

因みに今の状況は、とりあえずアーケードモードをスーパーアースゲイン等で何回か回った後、隠し機体を全部出した状態で今はフリーバトル祭り第15ラウンドといったところか。

なお、最大で8人対戦が可能なこのゲーム、主な対戦方式は個人戦かチーム戦。基本的なルールとしては、全員1000のコストゲージ(戦闘開始前に500~10000の間で500間隔で変更可能)が表示され、そのコスト分がなくなったら負けとなる。

因みに、ゲージがまだ残っている場合は何度やられてもまた復活でき、ゲージの残りが使用している機体のコストよりも足りなかった場合は、再出撃時に自機の体力が半分以下になってしまう。

ただ、一部の機体はそういった時に若干性能や姿を変えてくるので、一部の人やお遊びでわざと最初からコストオーバーで戦う、なんて事を平然とする奴もざらである。

 

因みに今俺が使っているのは、本作品中全体的にバランスの良い性能に仕上がっている“アシュクリーフ”だ。

コイツは、今さっき使った遠隔兵器の一つであるスプラッシュブレイカーに加え、高出力ビーム砲のビットガン。威力、飛距離、命中精度ともに申し分ないビームカービン。更に近接専用のビームセーバーに可変機構まで搭載していると言う、全体的に射撃系の機体だ。

だというのに、コンボの殆どは格闘攻撃から入るものが殆どで、最初期の作品から使っている俺に言わせて見れば、“射撃系機体の皮を被ったバリバリの格闘系機体”である。

 

対する刹那が使っているのは、ヒュッケバインという機体だ。

コイツはブラックホールキャノンという必殺武器がある以外は、基本アサルトライフルとビームセイバーといった基本的な武装しか持っていないため、初心者にも扱いやすい仕様になっている。

が、その分コンボの数が半端ではなく、直前の行動をキャンセルして別の行動が出来る行動キャンセルというシステムを持っているため、使いこなせるとかなりの強機体と化す。

しかもブラックホールキャノンは、出が遅い代わりに威力と範囲が半端ではなく、特定のコンボから止め技として繋げられると、ハッキリいって殆どの機体はそれだけでワンキルされてしまう。

……顔がなんとなーくガンダムに似ているのは気のせいだろう。うん。

 

因みに師匠がよく使う機体は、意外な事にスーパー系の“スーパーアースゲイン”。もしくは“ゲシュペンストMk-2タイプS”か、“バンプレイオス”と言った俗に言う“スーパー系”の機体が多い。

本人曰く「必殺技が格好いいじゃないか!特に蹴り技が!!」との事。……あなたむしろ(ネタ的な意味で)蹴るよりも殴る方が得意ですよね?

あと、低確率で“ダイゼンガー”を使ってくるが、これで勝った後師匠の顔は何故か物凄く劇画チックになる為、本人は気にしないが周りが気にして彼にダイゼンガーを使わせようとしない。(因みに原因は不明)

そういえば先日連絡したときに自分専用のスーパーロボットを作るとか冗談いってた気が…本当に冗談だよな?

 

他の皆の機体も挙げていくと、

 

ヒリング姉さん:基本的に“ビルトシュバイン”。ただし状況に応じて様々な機体を使用。大体接近戦を挑んで来るので、いつも遠距離武器でボコボコにされている。

 

リヴァイブ兄さん:“グルンガスト三式”、または“スレードゲルミル”を使っている。このとき、彼は何故かドリルブーストナックルを凄い頻度で多用し、しかもこの時だけ人が変わったかのような熱血キャラになる。しかし何故か斬艦刀やシシオウブレードといった武器はあまり使わない。

 

ブリング及びデヴァイン兄さん:二人とも何故か確実に“R-2”を使用する。しかし、ハッキリいって何に乗っても高確率で勝ちを攫っていくので、R-2を選んでいるのはただ単に好みだからだと思われる。俺の知る限り二人よりも強い人ってあまりいないと思う。

 

リジェネ兄さん:強機体、または厨機体の一つに数えられる“ダークブレイン”や、“アストラナガン”。“ディス・アストラナガン”や“ツヴァイザーゲイン”や“ケイサルエフェス”等を多用してくる。が、毎度の事のように一番最初に負けてボコボコにされる。特に師匠が敵でいる際には、速攻で彼の使っている機体を師匠が潰しにかかるため、下手をするといつの間にか負けていたなんて事が無くはない。多分一番下手。

 

グラーべさん:“アルトアイゼン”系統の機体を多用してくる。が、ある程度様子を見てから突っ込む癖があるので、そこを狙われて撃墜される事が多い。

 

ヒクサーさん:“ヴァイスリッター”などの狙撃系機体を使ってくる。基本的に格闘はしない主義の人。グラーべさんと組まれるととてもえげつないコンビネーション戦法を見せてくる。

 

と言った感じか…って!!

 

「ブラックホールキャノン発射!!」

 

「でえええええええええ!?」

 

ちょっと物思いに耽っている間にチャージしていたのか、刹那がブラックホールキャノンを打ってきやがった!

咄嗟に変形して逃げるが、そこを狙っていたのか、刹那のヒュッケバインはキャンセルダッシュを使って発射をキャンセルしながら此方へと突っ込んでくる。

 

「チッ!最初(ハナ)からコイツ(コンボ)が狙いか!」

 

「可変状態からでは格闘攻撃へ対処は出来まい!」

 

そう言いながら刹那はビームセイバーで切りかかってくる。

確かにこの戦法は可変状態の機体に対しては結構有効だ。

だが……

 

コイツ(アシュクリーフ)に対してその戦法はミスだ!」

 

そう言いながら、俺はスプラッシュブレイカーを射出する。

この武器は基本的に近~遠距離までオールラウンダーに使える武器なので、こういう時に役に立つ。

それを見た刹那は慌ててキャンセルダッシュで距離を取るが、元々追尾機能のあるスプラッシュブレイカーは、そのままヒュッケバインを追いかける。

その間に俺はアシュクリーフを人型に戻し、必殺技のチャージを開始。

 

「私に……触れるなっ!!」

 

チャージが半分くらい経った所で、今まで逃げていた刹那が反撃に出た。

ヒュッケバインにビームセイバーを持たせた後、ロックをアシュクリーフから、自身を狙っていたスプラッシュブレイカーの一つへと変更。

そのままタイミング良くセイバーを振るってスプラッシュブレイカーを切り払いながら、こっちへと再び突撃してきた。だが―――――

 

「……掛かったな?」

 

既にこっちのチャージは――――――

 

「っ!!しまった!!!」

 

「さぁ、景気良く―――――――」

 

―――完了している!

 

「吹っ飛べやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

次の瞬間、アシュクリーフを中心に青い波動がフィールドに広がる。

これがアシュクリーフの必殺技である、“スプラッシュブレイカー(MP)”である。

この技は一度発動すると、この様に青い波動がフィールドに広がり、その範囲内の敵に大ダメージを与え、運が良ければ、そのままコンボに発展できる。

今回はギリギリ範囲内という部分だったのでコンボには繋げられなかったが、まだビットガンがある。

俺がそれで止めを刺すために、武器を構えると、向こうもこの距離では間に合わないと判断したのか、咄嗟にブラックホールキャノンを構える。

そのまま両者は手に持った砲門から光を放つ。そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1P:WIN!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃあああああああ!!見たかぁぁぁぁぁぁ!!これが素人と玄人の違いじゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

結果は俺のアシュクリーフの体力が残り10%以下ギリギリで残り、刹那のヒュッケバインが撃墜され、彼女の戦力ゲージが0になった事で俺の勝利となった。

喜び過ぎだ?

馬鹿野郎。もしこれが師匠だったらどこぞの悪役の如く「フフフフフフ……フハハハハハハ!ハーハッハッハッハ!!」などと高笑いを上げながらこちらを見て来るんだぞ。

これぐらいはまだマシである。

 

「……私は…ガンダムには…なれない…!」orz

 

刹那がそう言いながら床に倒れ込む。

というかお前、やっぱりヒュッケバインをガンダムと認識していたな?

そのネタは色々と危険だから今度からやめるように。

心の中でそんな事を言いつつ、次の試合の準備をしようとすると、

 

「なあ」

 

と、ユリに止められた。

 

「ん?どした?」

 

「いや、熱中していて今まで気付いていなかったのだが……」

 

そう言いながら彼女は窓の外を指差した。

なんぞや?と思いながらも、彼女の指の先へと目を向けると……

 

ピピピピ……

チュン、チュチュン

 

「……もう、外が明るいんだが………」

 

「…あらまぁ」

 

俺が唖然としながらそう呟いた瞬間に、

 

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!

 

そんな目覚ましの音が鳴る。

見れば只今の時間は朝の6時。

それが示す所はつまり………

 

「…て、徹夜してしまった……」

 

そのまま呆然としている俺とユリを横目に、刹那はそのまま次の試合で使う機体を決めたらしく、「まだか?」と此方に言ってきたが……ハッキリ言ってそろそろ朝飯作らないと駄目な気がするので、とりあえずゲーム大会はお開き、という事になった。

 

……だからって刹那。そんな不満そうな顔をすんな。そんなに気に入ったのか?このゲーム?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許さぬ」

 

そう言いながら僕の隣にいる人物――――リボンズは険しい顔で腕を組んでいた。

……まあ、確かにその気持ちは分からないでもない。

分からないでもないのだが………

 

「許さぬ」

 

「…あの、そろそろそうやって怒るの止めたらリボンズ?まぁ、あのゲームの最新作先に彼に買われて悔しいのは分かるけど…」

 

僕がそう言うと、リボンズは僕の言葉を鼻で笑ってこう言った。

 

「ハッ。そんなみみっちい事で、僕がここまで怒るとでも?」

 

「いや、話の流れ的にそっちでしょ。…じゃあ何で怒ってたのさ?」

 

「そんな事簡単さ」

 

そう言ってから、彼は少し溜めた後、目をカッと見開いてから、

 

 

 

 

 

 

 

「スーパーアースゲインは僕が一番上手く使えるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

と叫んだ…って。

 

「ハァ!?そんなくだらない事で君は今まであんなに怒ってたのかい!?」

 

「当たり前じゃないかリジェネ・レジェッタ!スーパーアースゲインは僕が一番上手く使える事など君達にとっては周知の事実だろう!?だというのに彼はそれを使い、あまつさえそれでアーケードモードを最高難易度でノーミスでクリアするなど………!!」

 

「……君、この間彼の使うスーパーアースゲインに負け「何か言ったかな、紫ワカメ!?」……いや、何も言ってないよ。うん」

 

…もう突っ込むのも面倒臭いので、僕は彼を放置する事にした。

まぁ、彼の怒りでいつも被害を受けるのは、基本的にアムロ唯一人なので、放置しておいても問題は無いだろう。

とりあえず……

 

「よし。とりあえず彼の部屋に、他のプトレマイオスのクルーを何人か追加で潜伏させるとしよう。それに彼の事だから、男を向かわせるよりも女の子を向かわせた方が彼にとっては大変だろうから……そうだな、とりあえずフェルト・グレイスとヒリングを追加させて、それから………ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……」

 

「……リボンズ~?あんまり彼を虐めないであげてね~?下手したらフラグ乱立させて凄い修羅場になっちゃうかもしれないし……」

 

どうやったらアムロを困らせられるか考えているリボンズを止める事にしよう。

 

「修羅場?修羅場だと!?そうかその手が…!」

 

…………はぁ…………

 

「…最近思うようになったけど、君とアムロってホントに似てきたよね、その変な思考回路」

 

「ハッ。それは心外だな。ヘッポコゲーマー紫ワカメの君如きが何を馬鹿なことを…」

 

「……」

 

……あったまきた。

 

「………よしリボンズ。今からスパジェネVS:MAXON買ってくるから勝負だ。今日こそ僕のツヴァイで冥府魔道へ落としてやる」

 

「そっちこそ、僕のゲシュペンストMk-2TypeSで蹴り潰してあげるよ?」

 

「オッケェィ……その言葉…忘れるなよ?」

 

そう言いながら僕は踵を返す。

上等だよリボンズ。今日こそそのニヤケ面を絶望に染めてやるよ。

 

 

 

 

……まあ、結局その後絶望に染まったのは僕の方だったけどな。

 

「フフフフフフ…フハハハハハハ!ハーハッハッハッハ!!みたかい!?これが君のようなヘッポコクソゲーマー紫ワカメと神も同然たる師匠ことこの僕、リボンズ・アルマークとの違いなのだよ!!!」

 

「……」

 

……リボンズ…やっぱりアムロと君の思考回路って絶対似てるよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんだ?今の電波?

何か師匠とリジェネ兄さんが言い争っているような気がしたけど……

 

『……どうしたの?』

 

「…いや?別に?」

 

『その間は一体何なのよ…?』

 

あの徹夜事件から大体1週間くらいが経った。

今俺は中東でとあるミッションを遂行している、ソレスタルビーイングのサポート組織『フェレシュテ』、そこが所有している“ガンダム”の様子見に向かっている。

勿論乗っている機体はOガンダムだ。GNABCマントも頭からすっぽりと被っている。

因みに今回はヒリング姉さんが“GNセファー”で同行してくれている。

え?刹那とユリはどうしたって?二人は2~3日ほど前に、次のミッションの為にプトレマイオスへと戻っていったが、何か?

 

「…と。姉さんそろそろポイントに到達するから準備して」

 

『はーいはいっと…んじゃ、ドッキング始めるわよ』

 

姉さんの言葉と共に、GNセファーの後部ブロックが、機首と分離する。

そのまま後部ブロックはOガンダムとドッキングし、コックピットのモニターの一つにドッキングが完了した事を告げる画面が表示される。

 

これが最近Oガンダムに追加された、GNセファーとのドッキング形態。

その名も“Oガンダム・セファー”である。

これは元々“ガンダムラジエル”の支援機として作られたGNセファーを、他の機体にもドッキング出来ないかテストする為の形態で、変わった事と言えばGNプロトビットが2つ使えるようになり、セファーの後部ブロックはそのままGNコンデンサーと同じ働きをしてくれるので、せいぜいGNビームガンの威力がちょっと上がるだけである。

…つまりちょっと強くなるだけで、そこまで元々の性能に変化は無い。

しかも元から付けられていたマントのお蔭で、その見た目は結構不恰好な物になっている。

……が、文句は言えない。

 

『ちょっと、あれじゃない?』

 

GNセファーに乗っていた姉さんが何かを見つけたらしい。

見れば近くの岩山から黒煙が上がっているのが見えた。

 

うん、どう考えてもあそこだな。

 

「姉さん。おそらく姉さんの言う通りターゲットはあそこだ。俺がステルスモードで先行するから、後からゆっくりと来てくれ」

 

『はぁ?何言ってんの?あたしが人間如きに負けるわけ無いでしょ』

 

…いや、ね。

 

「……戦闘機よりも酷い脱出ポッドもどきで戦う気ですか貴女は?」

 

『うっ……』

 

これが姉さんの悪い所だ。

イノベイドという人よりも高い能力を持つ存在の所為か、彼女は基本的に身内以外を見下す傾向がある。

実際俺も会ったばかりの頃は見下されていたし。

因みに彼女が俺を見下さなくなったのは、模擬戦で二回勝ったぐらいだから――――――大体5~6年位前か?

ま、何はともかく…

 

「ハロ。敵とターゲットの機体識別しといて。それなら最悪戦闘になってもある程度は対処できる筈だ」

 

「ソコマデワカラン」

 

「……あ、そう」

 

……何だかなぁ……

今俺が声を掛けたハロは、何だか何時の間にかOガンダムに乗っかっていた奴だ。

色は明るい黄緑色で、目は他の奴と同じく赤い。

それだけではなく、こいつは他のとは違い、小さいが手足があり、単独で飛行できたりと結構多機能で高性能だ。

元々は、俺が地上へと降りる前に、ガワと中身の部品だけ貰って個人的に作っていた物だったのだが、どうやら師匠が面白半分に色々とつぎ込んだ後、完成させてしまったらしい。

因みにこれ(ハロ)が乗っている事に気づいたのは、今回のミッションの為にOガンダムに乗り込んだ時だ。

話を聞く限り、この間の実働部隊の監視の時には既に乗っていたらしいが……全く気付かなかったorz

 

と、落ち込んでる場合じゃないな。

 

「ハロ。ステルス実行。ただし完璧にはし過ぎるな?」

 

「ナンデダ?ナンデダ?」

 

「さあ?何故でしょう」

 

そう言いながらステルスが発動した事を確認した俺はOガンダムを飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おおう…こいつは、酷いな……」

 

ターゲットがいると思われるであろうポイントに到着した俺の目に飛び込んできたのは、人革連のものと思われるMSの残骸。そして、指揮車が今まさにビームに打ち抜かれる瞬間。

 

そしてそれを行っていたのは、血に濡れたかのように全身を紅く染めた、エクシアに似た機体。

 

「……あれが“アストレアTypeF”…“フォン・スパーク”の駆る“フェレシュテ”保有のガンダム、か……」

 

ソレスタルビーイングのサポート組織である“フェレシュテ”は4機の“第二世代のガンダム”を保有しており、その内の3機を偽装して使っている……らしい。

で、今俺の目の前で暴れに暴れまわっていた紅く塗装された機体がエクシアのプロトタイプとなった“ガンダムアストレア”である。

本来は白を基調として、所々が青い機体なのだが、今はフェレシュテが保有していると言う意味と、偽装の役割も兼ねて紅く塗装されている。

 

「…懐かしいか?相棒?」

 

思わず口からそんな言葉が漏れる。

元々、フェレシュテが保有し、今あそこで大暴れをかましたアストレアに搭載されているGNドライブは、このOガンダムがまだ師匠の愛機だった頃に搭載されていた物だ。

故のこの言葉だったのだが……この鋼鉄の巨人が何かを返してくれる筈も無く、結果として何故か俺が一人でボケて勝手に滑ったみたいな感じになってしまった。

 

まあ、それはともかくとして。

 

で、その肝心のアストレアはそのまま気が済んだかのように、それへと飛んで行こうとした。

…そう、飛んで行こうとしたのだ。

が、突然空中で体勢を整えたと思えば、アストレアはそのまま手に持ったビームライフルを構えるとそのままそこからビーム弾を放って…!?

 

「まさか!?」

 

ハッとしてビームの行く末を予測する。

するとその射線上にあったのは、姉さんの乗っていたセファーの機首部分だった。

 

(マズイ!!)

 

そう思った俺は、咄嗟にビームガンから同じ様にビーム弾を放つ。

打ち出された弾は、上手い事ライフルの弾へと直撃し相殺する。直後に姉さんも今何があったのかを正確に把握したのか、一目散に其処から離れた。

が、ホッとする間もなく、アストレアは此方を見つけたのか、今度はGNビームサーベルで此方へと切り掛かってきた。

 

「ウッ!?」

 

あまりに咄嗟の事だったので、思わずビームサーベルでそれを受ける。

そのまま両者は拮抗し、動かなくなる。

 

先に動いたのはアストレアの方だった。

このままでは埒が明かないと思ったのか、此方のどてっぱらを蹴っ飛ばしそのままビームライフルで此方に撃ってきた。

俺はそれをシールドで受けながら、ビームガンとGNプロトビットで反撃する。

因みにGNプロトビットは脳量子波の使えない俺の代わりに、ハロがコンピュータ制御によって動かしている。

が、師匠と俺のもはや魔改造としか思えない性能アップによって、その動きはイノベイドが動かしているのとはなんら遜色無い物になっている。

GNプロトビットとビームガンから放たれたビーム弾がアストレアに殺到する。

しかし当の本人はそんな物がどうしたと言わんばかりにそれらを避けながら、Oガンダムへと突っ込んでくる。

それを見た俺は、ビットでは対処できないと判断して、再びビームサーベルを抜き放ち、もう一度アストレアと切り結ぶ。

そのまま当分の間、また弾いて、射撃戦して、再びビームサーベルで切り結んで、といった攻防を繰り返していたが、流石に時間の方がおしてきたので、俺は頃合を見てシールドから煙幕弾とジャマーを発射し、そのまま全速力で離脱した。

流石にあれ以上戦闘を続けて消耗する気は毛頭無かったし、それ以前の問題にあのまま戦っていても勝ち目が一切無いと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫らく飛んでから、溜息を一つ吐いた。そしてこう呟く。

 

 

「……負けた」

 

 

そう、ただ一言だけ。

因みに別に性能差で負けたとは思ってはいない。

第一世代の機体とはいえ、このOガンダムは結構強化されており、やろうと思えば第三世代のガンダムを一手に引き受けても、圧倒は出来ないにしろギリギリ一体くらいは大破できる程度に戦えるほどの性能は有している。

 

だというのに勝てる気がしなかった。

 

これは詰る所単純に言えば、腕の差。

つまりパイロットとしての技量が、向こうの方が遥かに上だと分かった結果だった。

実際先程の攻防で、Oガンダムは掠った程度とはいえ被弾している。

向こうには鍔迫り合い等の時の傷しか付けれていないのに……

 

「……あ~…クソッ…」

 

そう言いながら俺はメットを外して頭をわしゃわしゃと掻き毟る。

そして、

 

「……もっと強くなりてえなぁ…」

 

極めて自然に、そんな言葉が出た。

生まれて初めて呟いた言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(気に入らない)

 

あたしはそう考えていた。

本当は認めたくは無いが、あたしの弟的なポジションにいるアムロ・レイというガキは、はっきり言ってあたしの身内の中では大好きなリボンズの次くらいにMS戦では強い。

だからこそ、今日遭遇した、あの赤いアストレアには腹が立った。

 

(気に入らない)

 

それはあたしの乗っていたGNセファーのステルスが、見破られたというのもある。

だが、本当はもう一つ腹が立ったことがある。

 

……見ていて分かった。

 

あいつはMSの腕はアムロよちも遥かに上だと。

 

つまりそれはアムロよりも弱いあたし達一部のイノベイドよりも強いということだ。

 

(…本当に、気に入らない)

 

だからこそ腹が立つ。

アストレアのマイスターは元犯罪者の只の人間だったはずだ。

…しかし、その“只の人間”にアムロは負けた。

 

(…気に入らない)

 

だから、あたしは、

 

(……殺してしまう?)

 

アムロよりも先に、

 

フォン・スパークを、

 

 

 

 

 

 

 

潰す事にした。

 

 

 

………何時になるかは分からないけど。

 

 

 

 

『……もっと強くなりてえなぁ…』

 

不意にそんな声が聞こえた。驚いて見れば、“あの”アムロがメットを外して頭を掻き毟っている。

 

「…ふふっ」

 

そんな彼を見てたら、なぜか少し笑ってしまった。

とりあえず戻ったら、アムロに思いっきりスイーツでも奢って貰おう。

だってあいつはあたしの弟で、

 

 

 

 

 

 

 

……あたしはこいつの姉なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ。なんだ、もうオシマイかよ?」

 

「アンノウン撤退確認、アンノウン撤退確認!!」

 

「…本当にそう思うか?下手すりゃそう見せかけてるだけかも知れないぜ?どうもあっちもガンダムっぽかったからな。隠れてこっちが気を抜いた瞬間にズドン!……そんな常套手段が来るかもしれないぜ?陳腐過ぎて俺様だったらやらないがな」

 

「……センサーニ反応ナシ!!センサーニ反応ナシ!!驚異確認デキズ!!驚異確認デキズ!!帰還!!帰還!!」

 

「…ハッ。分かった分かった。大人しく帰るさ…シャルの奴に小言を言われるのはゴメンだしな」

 

そう答えながらも俺様は思考を続ける。

当然ながら、たった今、明らかにこの場に在るのが不自然、且つ、面白そうなもんを見っけたからだ。

……あの所属不明のアンノウン……いや、GNセファーを取り付けたMS。

時々マントの隙間から見えた白い装甲や使っていた武器からして、カラーリングは変わっていたがおそらくあれは“Oガンダム”だと分かる。

元々はオレが今いる組織である“フェレシュテ”が管理する筈だったMSだ。

だが、実際にはイオリアのじじいの計画が発動する少し前に保管場所が変更され、今の今まで行方不明だった“筈だった”、んだが…

 

「…それにしてもあのOガンダムのパイロット、腕は“アレ”だが意外と頭は回るみたいだな」

 

あのGNセファーのパイロットから感じた違和感はよーく覚えてる。

あれは、オレ様がCBにスカウトされる前に偶然見つけた“違和感”……“まったく痕跡を残さない完璧すぎるが故の違和感”だ。

……あんなのは、あんときのだけだと思ってたんだが…まさか今更同じようなのを見っけるとはな。

 

…いや、それよりも興味深いのはあの“Oガンダムのパイロット”の方だ。

あのパイロットは、おそらくその“完璧すぎるが故の違和感”を無くす為に、敢えてステルスに穴を作ったのだろう。

センサー自体には引っ掛からなかったが、よくよく考えてみれば視界の隅で極小さくだが何かがはためいていたし、気になるか気にならないかのギリギリのラインだったが微かにアストレア以外のMSと思われる駆動音もしていた。

 

GNセファーのパイロットから感じる違和感と、周囲の人革連のMSの残骸から聞こえる音に紛れて上手く隠れていやがったが……詰めが甘かったな。

自分の相方が狙われた途端に慌てて飛び出てきたんだから、ありゃ相当な甘ちゃんだな。

 

「……ま、どうだっていいさ。甘ちゃんだろうがなんだろうが……楽しめるんならそれはそれでも……っと、んん?」

 

…そうだ、イイ事を思いついた。シャルのやつに今回オレを監視していたMSがOガンダムだと教えてやろう。

 

きっと面白い反応をするに違いない!

 

そう考えると、自然と俺の口からは笑い声が出ていた。

 

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!」

 

さあ!Oガンダムのパイロット!

今度会ったときには今回以上に俺様を楽しませてみせろ!!!

度肝を抜かせてみせろ!!!

 

イオリアのジジイの計画よりもそっちの方が何千倍も楽しそうだからなぁ!!

 

 

「あげゃ、あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!」

 

 

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

今回はちょっとほのぼのパートを入れるつもりで、あんなゲームを出してみました。
某所でチラッと見かけた気もするのですが……うん。そこらへんは出来ればスルーでお願いします。
でも実際にあったらやってみたいと思いませんか皆さん?
因みに今回出てきたプレイヤー機体は、もう完璧に私の趣味です。
スーパーアースゲインとかアシュクリーフとか分かる人いるのだろうか?

で、出ました外伝キャラ“フォン・スパーク”!本名“ロバーク・スタッドJr”!
はっきり言って口調が合ってるかすごく不安ですが、皆さん如何だったでしょうか?



というわけで今回はここら辺で。

ではまた次回!




追記

今更ながら某所の小説とちょっと似てない?
と言われたので、全編にわたり現在それっぽい部分を絶賛改訂中です。



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五話――――同居人が増えました(不本意)

とりあえず今回は戦闘シーン無しの日常パートです。
あまり本編とは関わりが無い……筈、です。
なのでスルーして頂いても大丈夫…かもしれません。
あと、今回はちょっと一部キャラ崩壊がありますので、そういうのはちょっとと言う人は、完全にスルーしてください。

それでは本編をどうぞ。



アストレアとの戦闘後、散々姉さんにケーキやゼリーやアイスやタルトetc.etc……

そう言った、所謂スイーツを奢らされ、俺の財布が凄く軽くなった頃…大体午後の6時くらいだろうか?

やっとこさ俺はアジトへと帰ってこれた。

 

「って、何でついて来てるんだよ姉さん」

 

「ん~……かわいい弟の生活調査とか?」

 

「マジ帰れ今すぐに」

 

何故か一緒に姉さんもついて来たが。

とりあえず姉さんに、同居人である刹那とユリを刺激するなと言っておいたが、口元に浮かんでいる笑みから察するに、ほぼ確実にちょっかいを出す気だろう。

別にちょっかいを出す事自体はそこまで悪い事ではないのだが、この人の場合はそれが行き過ぎた物になる可能性がある。

その結果大乱闘になったという事になったら目も当てられない。

幸いにも、今この家には姉さんも大好きなあのゲームがあるので、万が一の場合はあれで決着をつけさせる事も可能だろう。

そう思いながら、俺はアジトのドアを開ける。

 

「ただいま~」

 

「ん?ああ、アムロか。お帰り」

 

「ああ、戻ったのか。アムロ、すまないがこのR-1という機体のコンボを教えてくれないか。どうやってもコンボの〆技がT-linkソードかナックルにしかならないんだ」

 

「あ……えっ…と……お、お帰りなさい」

 

「うー……い?」

 

……………………ん?

あれ?おっかしいなぁ?今なんか声が三人分聞こえたような気がするぞ?

 

よし。とりあえずまずは整理しよう。

 

最初に聞こえた声は、多分ユリだ。一番無難だったからな。うん。

 

次に聞こえた声はほぼ確実に刹那だろう。

つーか刹那。何勝手にゲーム起動させとるか。あと、R-1は合体技以外ではコンボの〆はソードかナックルしかないぞ?

 

(…で、問題は…)

 

返事もそこそこに、俺は早足でリビングへと向かう。そこには―――――

 

黄色を主体とした特徴的なスーツとピンクの髪の少女がオドオドしながら佇んでいた。

 

 

チュドーン!!

 

「ああ!またやられた!?」

 

「甘い、甘いぞユリ。その程度ではガンダムである私のR-1に勝つことは出来ない」

 

「喧しいわこのガンダム馬鹿!もう一度、もう一度だけ勝負だ!今度こそそのトリコロールの可変機を私のビルトビルガーのコールドメタルソードの錆にしてくれる!!!」

 

「フッ、上等だ。何度でもかかって来るが良い。私が、私こそがガンダムだ!!!」

 

「駆けろビルトビルガー!!奴のR-1よりも早く!!」

 

 

……とりあえずその後ろでゲームに夢中な馬鹿二名。少し自重しろ。

 

まあ、とにかく、なんだ。一応これだけは言わせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんかいきなり同居人増えとるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!???????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん?

今何か聞こえたような気が……空耳かな?

まあ、空耳だったら別に気にしなくてもいいか。そう考えた僕はそのまま目の前の部屋に入った。

 

「アレハンドロ様。お待たせしました」

 

「ン、ありがとう。良いタイミングだ」

 

そう言いながら今僕がしている小姓のようなものの雇い主の“アレハンドロ・コーナー”は手に持っていた書類からこちらに顔を向けた。

僕はそのまま、彼の座っていた椅子のすぐ隣のテーブルに、頼まれていた飲み物と共に、とあるケースとチップを置いた。

程無くして、彼はそれに気付き怪訝そうな顔をした。

 

「ん?これは?」

 

それに対し、僕は自然に顔に笑みを浮かべながら受け答えする。

 

「栄養補給の為のビタミンカプセルとリストを入れたチップです。前者は最近少々栄養バランスの偏った御食事しか取られていなかった上、睡眠時間も少なかった事から。後者は先程のご商談について、力になってくれる人物を思い出したのでリスト化しておきました。良かったらお使いください」

 

それを聞いたアレハンドロは少し唖然とした顔をする。そして直ぐに眩しい物を見るかのような表情になり、こう呟いた。

 

「…リボンズ………本当に君は……何時でも私の欲しい物を与えてくれる…」

 

「ええ、勿論です」

 

「…君に会えたことは、私にとってまさに僥倖…いや、神の思し召しといっても良い程だよ……君こそ、彼らが私に遣わした天使だ…」

 

そう言いながら、彼は僕の右手を取った。

……しかし…天使、か。

以前までの僕なら其処まで何も思わなかったかもしれないけど、最近では普段からアムロに“鬼”だの“悪魔”だの“人間台風もどき”だの……果てには“ハチャメチャスパロボマニア(特定条件下でのみ劇画チックスパロボマニア)”と呼ばれていたから、この呼ばれ方は新鮮な気分になるな。

あ、勿論呼ばれる度に彼を酷い目に合わせるのは忘れないよ?当たり前じゃないか。

 

…まあ、確かに常人であれば、こういった事は中々出来ないだろう。しかしこの僕のような存在―――――ヴェーダとリンクできるイノベイドならば、これくらいの事は造作も無い事だ。1分掛からない内にできる。…まあ、ビタミンカプセルは市販品だけどね。

……アムロなら僕が「やらないと酷い目にあわせるぞ」、と言えば10分…じゃ終わらないか。

となると大体1時間ほどか。それくらいでこんな仕事は終わらせてしまうんだろうけど。

……ああしまった。ちょっと彼が慌てながら泣く泣く作業している所を想像して顔がにやけてしまった。これは直さないとな。

……しかし彼をからかうのは面白いから止められない。

 

そういえば、フェルト・グレイスは彼の家に辿り着けたのだろうか?

彼女があのカオスな状況のアジトに放り込まれれば、おそらくアムロは彼女のフォローでてんてこ舞いになるだろう。

……ああ、想像しただけでも実に面白そうだ。

いっそもうこの際だから、この前言ったようにヒリングも彼と一緒に生活させてしまおうか…?

 

それはそれでもっと愉快な事になりそうだ。

 

「…フフッ」

 

「? どうかしたのかね?リボンズ?」

 

「いえ……ちょっと楽しい事を思い出しまして」

 

「…フム、まあいい。所でリボンズ。“あの件”はどうなっているのかな?」

 

「おおまかなポイントの割り出しは終了しました。しかし、そのポイントの何処に在るのかまではもう少し掛かりそうです」

 

「分かった。いつもすまないな、リボンズ。苦労をかける」

 

「いえ、僕も楽しんでおりますので……それでは作業に戻ります」

 

そう言いながら、僕は踵を返して与えられた自室へと戻る。

それにしても、アレハンドロもアムロ程ではないにしろ要所要所の反応が面白いな……基本上っ面以外は間抜けで、何だか小物臭がオーラになって出ているような人間なのに。

……まあいいや。実際彼の下で働くのは其処まで嫌じゃない。暇潰し程度にはなるし、まだ当分は泳いでもらって、楽しませてもらう事にしよう。

 

「さて、と、スパジェネでもやるかな。今度こそジンライと大雷凰を使いこなさなければ……」

 

作業?そんな物後回しに決まっているじゃないか。

こっちの方が今の僕にとっては最優先事項だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ハッ!?

今一瞬…じゃないな。

時計を確認すると、もう午後7時を指しているから……どうやら1時間くらい飛んでたみたいだな。

何がだって?そんなことは言わなくても分かるだろう。

 

「それにしてももう7時か……今から夕飯を作るにしても、このままだと出来上がるのは8時から9時くらいか?」

 

思わずそんな台詞が口からこぼれる。

いつもは6時から30分(はん)の間に調理し始めるのだが、今回は色々とショッキングな事があったのでいつもよりも30分ほど遅い。

まあ、それ自体は問題ではない。

むしろ問題なのは姉さんと刹那だ。

おそらく姉さんは、このまま夕飯を食ってから帰る気なのだろう。

ついて来た事から鑑みるにこれは確実だ。

もしもこれで、『気絶してたから夕飯できるの遅くなる』等と言ったら間違いなく暴れだす。

刹那も刹那で厄介だ。

あいつは基本的には何もしないのだが、ある程度遅くなると何をする訳でもないのに台所まで来てジッと料理中の俺を見てくるのだ。

しかも何を言っても無言で返すときやがる。

ハッキリ言って最初の頃は鬱陶しい事この上なかった。

最近は慣れたが、それでも少し視界の中にチラチラ映るので鬱陶しいとまでは行かないものの結構気になる。

 

で、今回の場合、この二人+あまり面識の無い子―――要するにどんな反応を示すのか分からない子が一人居るのである。

おそらくある程度ならば常識人にカテゴリされるユリが止めてくれるだろうが、それでも不安は残る。

 

(…とにかく今すぐにに調理を始めなければ!)

 

そう考えた俺は、若干駆け足で台所へ向かう。

………リビングから物凄く楽しそうな声と音が聞こえるが、無視だ!無視!!

そのまま台所へと入った俺は、冷蔵庫を開けた。

が、次の瞬間――――――――――――

 

(……!!??……なん…だと…?)

 

俺は視覚的なショックを受けて、再び意識が飛びそうになった。

今回は何とか耐えれたが、このままではマズイと考えた俺は、そのままこの事態に対する打開策を考える。

そして考え始めてから約30秒後。

 

(…ああもうこうなったら“あの手”しかないか………)

 

考えは、出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっと……どんな状況なんだろう?

私達の目の前には、今日始めて会った、このアジトに元から潜入していた刹那によく似た人――――アムロ・レイが物凄い無表情で仁王立ちしている。

刹那とユリ、そして彼と一緒に帰って来た人―――ヒリングって人も、さっきまでやってたゲームを一時中断して彼に顔を向けている。

ややあって、彼が口を開いた。

 

「緊急事態だ」

 

…え?

 

「…どういう事だ?」

 

ユリが彼に問いかける。

彼は表情を一切変えずに答えた。

 

「なんと冷蔵庫の中に食材が全くといっていいほど無かった」

 

「買ってきなさいよ」

 

今度はヒリングさんが問いかける。

 

「残念ながら、只今俺の財布の中には、ちょっと前のスイーツ祭りの所為でたった500円しか入っていないのだが……」

 

そう言って、アムロはヒリングさんを見た。

目を向けられたヒリングさんは何か思い当たる事があるらしく、居た堪れなくなった様子で目を逸らす。

 

「アムロ。おなかが空いたんだが」

 

いや、刹那…このタイミングでそれは…

 

「おーい刹那ー?マイペースもいい加減にしろー?そんな綺麗な目で小首傾げて不思議そうな顔しても駄目だぞー?小動物みたいで可愛いけどって姉さん?なんで刹那と同じ動きをする?」

 

「いや、こいつがやって可愛く見えるんだったら、あたしはどんな感じかなーって」

 

「どっちかっていうと小動物って言うか小学生っぽい「オーイそれはどういう意味かなクソガキ?」あンだとドラム缶?」

 

そのまま不穏な空気が二人の間に流れ始める。

ユリが慌てて二人を止めに入るけど、あんまり効果が無さそう…って。

 

「あれ?刹那。そのお菓子どうしたの?」

 

何時の間にか、この状況が出来上がる原因を作った刹那が、お菓子を食べているのに気付いて、私は彼女に質問した。

すると刹那は自分の足元に居る物を指差す。

それは……

 

「…ハロ?」

 

そう、黄緑色のハロだった。

よく見ると、その手にはお菓子の袋が握られている。

 

「もしかして…くれるの」

 

「ホシイカ?ホシイカ?」

 

「えっと…まあ、ちょっとだけ…」

 

あまりにも刹那がおいしそうに食べるから、思わず本音がポロリとこぼれてしまった。すると……

 

「アゲル!アゲル!」

 

ハロがそう言ってから、おもむろに自分の身体を開けた(・・・)。驚いて思わず後ろへと後ずさってしまったが、今度は其処にあった物に驚いた。

其処にあったのはお菓子の山、山、山。

もう何処に一体入っていたのだか分からないくらい入っている。

ハロはおもむろにそれの中の一つを掴むと私に差し出してきた。

これは…つまり…

 

「…くれるの?」

 

「アゲル!アゲル!」

 

「……ありがとう」

 

この子のそんな行為が何だか嬉しくて、感謝の言葉と一緒にハロの頭を撫でる。

ハロはそんな私に文句を言うでもなく、ずっと静かに撫でられていた。

 

 

 

 

「……よーし、そこでハロと戯れているえーと……「フェルトだ。フェルト・グレイス(ボソッ」そうだフェルトだ。フェルトと、その隣で黙々とお菓子食ってるガンダム馬鹿女。しょうがないから、今日は外食するぞ。後5分で出るから仕度しな!」

 

 

 

さっきまですぐ隣でヒリングさんと険悪な空気だったアムロがそんな事を私達に言ってきたのは、それからすぐの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、宣言通りに5分で支度をして、戸締りをしっかり確認して俺が4人を連れてきたのは、近くの定食屋だった。

此処はちょっと佇まいが古くて、中もけっして広いとは言えないが、店をやっている老夫婦はとてもいい人達だし、値段も中々リーズナブル……と言うか、下手するとお金が無くてもちょっと店の手伝いをするだけでご飯を奢ってくれたり、メニューも常連になったらその人に合わせた物を作ってくれたりと、中々良心的である。

因みに俺は此方へ始めてきた頃にしょっちゅうお世話になったのでおやっさんとおばちゃんとは顔見知りになっている。

 

「という訳で、おやっさん、バイトすっからいつもの奢って」

 

「あいよ、ちょっと待ってな!すぐに出来上がっからよ!」

 

まあ、そんなこんなで只今俺たちはもう既に店の中に入って席に着いております。

え?お金が無かったんじゃないのかって?

前述の通り、俺が全員分の食事代を働いて返す事で話がつきました。ハハハ、アレ?メカラアセガ…

 

「……なぁアムロ」

 

「うん?どうしたユリ?」

 

「……本当に、私達は何もしなくて良いのか?せめて皿洗いくらいはした方が良いのでは…?」

 

そう言いながら此方を申し訳無さそうな目で見てくるユリとフェルト。

その向こうでは、刹那と姉さんがもう既にラーメンやらチャーハンやらを勝手に頼んでがつがつと食い始めている。

……ってうわっ!?刹那の目がこれ異常無いほどに輝いている!?

そんなに美味かったのかここの料理!?

確かに此処の料理って結構美味いけど、そこまで!?

……って、涙まで流してる!?ああ、鼻汁!鼻汁でてるから!?っていうかそろそろ誰か彼女の様子に気付いてあげて!?何で誰も気付かないのって、早っ!?もう完食しやがった!?

 

「お゛か゛わ゛り゛ー!!!」

 

おかわり頼みやがったあの女郎(めろう)!?

っていうかおばちゃんもじゃんじゃか持ってきてるし!?

何だかどんどん皿の山が築かれていくよ!?

 

「あ、おばちゃーん!あたしこの胡麻団子100個お持ち帰りでー!」

 

「あいよー!!」

 

そして姉さんは一体何個胡麻団子お土産として頼んでんだ!?

此処まで来てちょっと怖くなってきた俺はコッソリとおばちゃんに今どれくらいお金が掛かっているか訊ねてみた。

 

「んー…ちゃんと計算してないけど、大体15万くらいじゃない?」

 

『:あむろは めのまえが まっくらに なった:』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お~いアムロ~……大丈夫か~?」

 

……ムゥ。流石にこれはちょっとマズイな……あ、いや、料理の味が、というわけじゃないぞ。

むしろそっちは物凄く美味しい。

むしろ問題は、今彼が払わなければならない代金を聞いた事によるショックによって口を開けて上を見ながらピクリとも動かなくなってしまった事だろう。よく見ると瞳孔も開きっぱなしになっている。

とりあえず、先程からフェルトと一緒になって彼に声を掛けたり身体を揺らしたりしているのだが一向に動き出す気配が無い。

 

(……さて、如何したものか……)

 

見ればフェルトは、あまりの事態に自分の器量では対処出来ないと判断したのか目に涙を溜めている。

刹那に至っては、未だに涙を流しながら頼んだ物を貪っている。

…そろそろ止めた方がいいかな?

とりあえずフェルトに彼女を止める様に言っておいてから、私はその向こうのヒリングという中性的な人物(アムロが“姉さん”と呼んでいた事から、おそらく女性だと思うが)に目を向ける。

彼女も、流石に彼の状態(惨状ともいう)に気付いたのか頬を引きつらせながら先程頼んだ杏仁豆腐を食べている。

どうやら彼女はあれで打ち止め(ラストオーダー)らしい。

 

…というか、この惨状に気付いても食べ続けているのか…

 

「……あのー……ウチの弟、大丈夫?何か様子がおかしいんだけど…」

 

あ、心配だけはしてたのか。

なら、少し皮肉を混ぜて返しても良いだろう。

 

「…一応彼がこうなった原因には、貴女も入っていますからね?」

 

「いや、それは…その、分かっちゃいるけど……ハハハハハ……」

 

「目を逸らして乾いた笑い声を上げないで下さい」

 

まったく……

 

「刹那、刹那」

 

ズゾゾゾゾゾゾゾゾ……ゴクン「ん?フェルトか。どうかしたのか?」

 

刹那の方も、先程から声を掛けていたフェルトにやっと気付いたらしい。

とは言っても、先程まで自身が頼んだ物を全て食べ終わってからだったが……そんなに此処の料理は美味かったのか?刹那?

意外な一面だな。こういう形で見れても嬉しくも何とも無いが。

 

「あの、どうしたって言うか……その……えっと……」

 

そう言いながら、彼女は動かないままのアムロを指差す。

そんな彼を見た刹那は、少し目を丸くして、こう言った。

 

「……フェルト。彼は一体如何したんだ?」

 

「あ、やっぱり気付いてなかったんだ……」

 

そう言いながらフェルトは肩を落とした。

まあ、あれだけ集中して食事していれば気が付かなくても仕方が無い、か?

その集中力を、実戦でも発揮してくれれば良いのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フム。大体分かった。つまり私があまりにも多く注文してしまったお蔭で、合計金額が物凄い事になり、結果としてアムロはあそこで真っ白になっている訳だな。よく分かった」

 

「ああ、うん…分かってくれて嬉しいよ…」

 

あの後、結局フェルトでは埒が明かない、という事で、代わりにユリに何故彼がああなっているのか教えてもらったが、それほどに酷かったのだろうか?

確かについ先程、私が事情の説明を受けている最中にヒリング・ケアが伝票を見て盛大に口に含んでいた水を噴出しているのは見えたが…………

 

「ユリ」

 

「如何した?」

 

「すまないが、少しその伝票を見せてくれないか?」

 

「いや、別に構わんが……見て驚くなよ……」

 

そう言いながら、彼女が手渡してきた伝票を見る。

そこには『198,000』という数字がでかでかと書かれていた。

 

(……うん?)

 

「何だ、このくらいか」

 

思わず口から言葉を漏らしてしまった。

本当はもっといってるかと思っていたのだが……どうやら値段が安い、というのは伊達ではないらしい。

ふと周囲を見渡してみると、ユリやフェルト、そしてヒリング・ケアの顔が驚愕に染まっているのが見えた。……何故だ?

因みにアムロは未だに固まったままだ。

 

「…刹那、一つだけ聞かせろ」

 

私が頭を傾げていると、ユリが質問してきた。

どうしたのか?

 

「? 如何した?」

 

「お前今、その金額を『このくらいか』、と言ったか」

 

ああ、何だそんな事か。

 

「ああ。此方へ来る前に、スメラギ・李・ノリエガから、資金として日本円で40万ほど貰っているからな」

 

「……は?!」

 

? 何だ?

私が此処に来る前にスメラギ・李・ノリエガから「何かあったときの為に使いなさい」と言って持たされたお金の事を話したら、その場に居た“おやっさん”と呼ばれる男性と“おばちゃん”と呼ばれる女性以外の人物が一斉に動きを止めた。

……あ、いや、もう一人だけ止まっていない人間が居た。

 

アムロだ。

 

彼は私がこのお金の事について喋った瞬間、耳をピクリと動かしてから、まるで『ギ・ギ・ギ・ギ・・・』という音が聞こえてくるくらい、油を注していないブリキのロボットの様に、顔をゆっくりと此方に向けた。

その様子を見てフェルトとヒリングが「ヒィッ!?」っといってお互いに抱き合う。確かに目は虚ろだし口は半開きなので、そんな動きをされたら怖いだろうと思う。

私は平気だが。

暫らく彼は、そのまま死人のように虚ろな目で此方を見つめていたが、そのうちゆっくりと口を開いた。

 

「オイ…刹那……」

 

「どうした?」

 

「今お前……40万…持ってる…つったか?」

 

「ああ。言ったな」

 

「……じゃあ……なにか…?……お前さん……今この伝票に書かれている金額…全部払えんのか……?」

 

「……まあ、そうだな」

 

虚ろな目のまま私に質問を繰り返すアムロ。

私もそれに淡々と答える以外に道は無いので、正面から彼の求める答えを返す。

……というか、流石にこの目で見つめられ続けると、少し悪寒を感じるな……

 

「そう…か………なーんだ、そっか……」

 

って、ん?いつの間にか、アムロがカウンターの方を向いている?

そしてその手に何かの瓶を持っている?

一体何を……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…余談だが、私はこのとき以前ロックオンが教えてくれた、“どんな事があっても我を忘れてはいけない”という言葉の意味を、実をもって知った。

 

彼がその手に掴んだ瓶の正体は、大量の紅生姜が入った容器。

彼はその容器に(おもむろ)に手を突っ込んで、中から大量の紅生姜を掴み出したかと思うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おぉぉお驚かせてんじゃねえこのすっとこどっこいがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!怒りの紅生姜フィンガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

そんな気合の入った咆哮と共に、ポカンと開けていた私の口の中へとそれ(・・)を全て突っ込んだ。

 

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

私は突っ込まれた衝撃と、次の瞬間に口の中に広がった何とも言えない刺激に悶絶し、そのまま床に転がった。

 

(……今度から、なるべくアムロは怒らせないようにしよう。)

 

紅生姜特有の辛さと酸っぱさに悶絶しながら床を転がっている私の頭には、その内そんな言葉が思い浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ~ビックリした……本当に1年くらいタダ働きしなきゃいけないかと思った.

流石にバイトする、とは言っても、そこまでやるわけにはいかねぇよ……

 

そんな感じで安堵する俺の目の前では、紅生姜を大量に口に突っ込まれた衝撃の所為か、刹那が床で転げまわっている。

しかし、同情はしない。

だってそうだろう?

予め金が無い、と言っていたのに突如暴走して物を頼みまくった上、大量におかわりまでしやがるんだから。

……まあ、とはいえよくよく考えたら、あの行動もちゃんとお金が足りると分かっていたからこそだったのだろう。

でなきゃ、あの大人しめな刹那が意味も無く暴走する筈無いか。

…暴走、しないよな?そうだよな?

 

(……そう考えたら、ちょっと申し訳なく思えてきたな……(汗 )

 

そんな訳だから、お詫びに後で何か甘い物でも作ってやるか……材料があれば。

クッキーくらいは……無理か。んじゃカルメ焼きだな。成功する確率70%の難物だが。

 

「おう、坊主。出来上がったぜ!」

 

そんな事を考えていると、おやっさんが何時の間にか料理を終えて、その手に俺がいつも頼む物を持っていた。

って言うかこの人、あの刹那と姉さんの怒涛の注文ラッシュを受けておいて、まだ余裕があるように見える。

…確か、もう80過ぎの御高齢の筈なんだけどなぁ……?

そんな凄く些細な疑問を無視するかのように、彼は俺の前にその手に持った丼を置いた。

 

「へい!餡ころ丼(・・・・)一丁、お待ちどう!」

 

まあ、今はそんな疑問などどうでもいいか。

腹も減ったし、お金の心配も消えたし、さっさと食って、帰ってスパジェネすんべ。……っと、カルメ焼きも忘れないようにしないと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…なに?これ?)

 

今あたしの目の前には、はっきり言ってイノベイドのあたしでも理解できない光景が広がっている。

原因は、今あたしの弟が食っている茶色い何か(・・・・・)だ。

その茶色い物は、辛うじて“餡子”だと言う事は分かるが、問題なのはその量。

どう見ても、丼の端から端までぎっしりと詰まっているようにしか思えない。

アムロはそんな事意に介さず、黙々と箸で食べ続けているが……胸焼けを起こさないのかしら?

よく見ると、名前の通り、ちゃんと丼のようで、あんこの下にはちゃんとご飯がある事が見えたけど…

 

(いや、それでも限度っつー物があるでしょ?)

 

思わず口から出そうになったそのセリフを呑み込みながら、代わりに心の中で呟く。

と、あいつは何か気に入らなかったのか、突然少し眉間に皺を寄せ、次の瞬間、

 

「……やっぱ混ざってないとこれ少ーし食い難いな……(ボソッ」

 

そう、あたしがギリギリ聞き取れるか聞き取れないかと言う声量でこう呟き、何を思ったのか丼の中のあんことその下のご飯をかき混ぜ始めた……って、ええ!?な、何やってんのコイツ!?

止めようとも思ったが、覗き込んだアムロの目が、あまりにもキラキラしていて、思わず怯んでしまう。

その間にも、アムロは丼の中の餡子とご飯をかき混ぜており、もう丼の中は茶色と白のごちゃ混ぜ状態となっている。

その後、あらかた混ぜ終わったのか、アムロは再びそれに箸を付け始める。

……しっかし本当に、見るだけで胸焼け起こしそうね。

それを本当に美味そうに食べるコイツもコイツだけど…

 

と、何時の間にか先程まで床で転げまわっていた、ガンダムマイスターの一人である刹那・F・セイエイがアムロの横に立って、ジッと彼の食べている物を凝視していた。

……何をやってるんだろうかあの子は?

もしかして、あの丼というのもおこがましい餡子と白米の集合体を食べたいとか思ってるんだろうか?

私が内心『まさか』と思っていると、今まで目の前の丼に集中していたアムロが彼女に気付いて、声を掛けた。

 

 

「ん?どうした刹那?もしかして、また何か頼みたいとか言うんじゃないだろうな?」

 

「…いや、違う」

 

「んじゃなんだ?」

 

「……」

 

「………」

 

「…………」

 

「………いや、黙りこくられても困るぞ?」

 

そのまま黙りこくる刹那に対して、アムロも首を傾げる。

が、その内彼女の視線の先にある物に気付いたのか、ハッとした様な表情になってこう言った。

 

「あ、もしかして、餡ころ丼(コレ)食べたいのか?」

 

「…!!(無言で首を縦に振る」

 

「いや、それならそうと早く言えばいいだろう。何で黙りこくったまんまでいるんだ……言っておくが、俺はエスパーじゃないんだぞ?誰だってキチンと言葉にして、声に出してくれなければ、早々そんな事理解は出来ん……って、コラ。目を逸らすな」

 

そう言いながら腕を組んで彼女の方へとアムロは身体を向けた。

そんなあいつに対して、刹那はまたしても無言のまま視線を逸らす。

…何だかその姿が主人に怒られている子犬か何かの様で、一瞬…ホントに一瞬だけ『カワイイ…』と思ってしまったのは、あたしだけじゃない筈だ。絶対に。

そのまま、また少しの間、二人の間に沈黙が訪れる。

そのまま20秒くらい経った頃だろうか。

そろそろ助け舟でも出してやろうかな、と思った所で、刹那・F・セイエイがこう口を開いた。

 

「…………だって……」

 

「あい?」

 

「…だって……さっきの事で…まだ怒ってるかと………思った、から…」

 

 

…………え?

何?何なのこのカワイイ生物!?

若干の涙目で、ちょっとしゃくり上げつつ伏せ目がちにそんなこと言ってくるとか、何この萌えのポイントを抑えているような物の言い方!?

って言うか、言われたアムロも一瞬だけボソッとだけど、「何このカワイイ生物…」言ってたし!

つーか良く見りゃ、周囲の人(この店の店主とおばちゃん以外)もフェルトとかユリ含めて、全員口元を手で押さえている。

……あ、客の一人の手の隙間から、ちょっと赤い物が見えた……

 

 

 

「……いや、あのね……流石にもう怒ってないから…仕返しさっきやったげたでしょ…」

 

気が付くと、何時の間にやら先程の衝撃からいち早く立ち直っていたのかアムロが頭に手を当てて溜息を吐いていた。

…いや、でもさっきのあんな怒り方を見れば、まだ怒ってると思われてもしょうがないわよ、アムロ?

そんなあたしの心の中での突っ込みを知ってか知らずか、アムロは丼の中の茶色いあんこと白いお米の集合体を箸で少し掬うと、

 

「ん」

 

と言って、刹那の目の前へと差し出した。

差し出された方は何故差し出されたのかが分からず、目を白黒させているが。

 

「どうした?食べたいんだろ?ほれ」

 

そう言われてやっと何故差し出されているのか分かったようで、少しの間箸の上に乗っているものを凝視していたが、その内ゆっくりとそれを口の中に入れた。

と、次の瞬間、彼女の目が再びこれ異常ないほどに輝く……て、それそこまで美味しかったの?

とりあえず、どんな味なのかくらいは訊いておこうと思ったあたしは、彼女に質問してみた。

 

「……ねえ、刹那…だっけ?それってそんなに美味しかったの?何か物凄く目が輝いてるけど」

 

そんなあたしの質問を聞いた彼女は、口の中の物を飲み込んでから、大きな声でこう言った。

 

「おはぎみたいで美味しい!!」

 

と。

……つーか、おはぎ知ってるんだ……

あたしも、以前アムロがリボンズに頼まれて買って来たお土産であったから、それがどんな物で、どんな味かは知っている。

確かに美味しいと言う事も知っている。

…でも、これの味がそれみたいって言われても………ねぇ?

 

ただ、そう言われると、本当に味が似ているのか確かめたくなるのよねぇ…

そう考えた私は、とりあえずアムロに向かってこう言ってみる事にした。

 

「ねえ、アムロ」

 

(ムグムグムグムグ…ゴクン)「んぅ?姉さん、どした?」

 

「いや、別にどうってワケじゃないけど…それ、ちょっと気になったから、一口頂戴?」

 

それを聞いたアムロは、少しキョトンとした後、少し目を細めてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……姉さん。昼間あんだけスイーツ食っといて、さっきもあんだけ食ったのに、またコレ食ったら流石に太るぞ?」

 

「上等だクソガキコラァ」

 

イノベイドだけどねぇ、最近流石にそこらへんは気にしてんのよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、その後あたしとアムロの間で、再び一触即発な雰囲気が勃発。

とりあえず此処で暴れては周りに迷惑がかかると言う判断から、家に帰ってからスパジェネによるタイマンで決着(ケリ)を付けることになったのは、言うまでも無い。

 

……結局、ゲシュテルベルンの『十字架でスタンかけられてからそのままハメコンボ』でボッコボコにされたけどな!!ボックスレールガン2丁連打とかワケわからんわ!!

 

あ、ちゃんと代金は、刹那が持っていたお金と、アムロの約1時間のバイトによってちゃんと全額払えてたらしいよ?

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

今回は一応アムロの受難と、二期でやろうと思っているとあるネタ話の伏線をメインにさせて頂きました。
次回からはちゃんと原作に戻ろうと思っています。

で、次回くらいで再びオリキャラを一人入れようと思っています。
因みに敵側です。
結構歪んでいます。色々と。



それではまた次回


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六話――――過去と対峙しました(またしても不本意)―――――前編

モラリア編突入です。
そして新たなオリキャラ登場です。
そんで持って今回は前編です。

それでは本編をどうぞ。


え~…先日の事になります。

低軌道ステーションの『真柱』の一部重力ブロックが、ちょっとした事故の所為で、地球に落ちかけたようです。

しかも、その中には沙慈とルイスも居たらしいです。

…いや~焦った焦った。

何せ友達が巻き込まれたというのもあったけど、それ以上にまさかキュリオスが、(エクシアとデュナメスの援護付だったとはいえ)重力ブロックを安定軌道にまで押し戻してしまったとは思わなかった。

事前にマイスターの情報は貰っていたし、その人柄も知っていたつもり(・・・)だったけど……

 

「まさかあんな事するとはねぇ~」

 

思わず口から言葉が漏れる。

あの後、一時的に営倉に入れられたキュリオスのマイスター、“アレルヤ・ハプティズム”は戦術予報士の“スメラギ・李・ノリエガ”に、自身が持つ人革連の超兵特務機関の情報を渡した後に、ミッションプランに従って出撃。

人革連所有コロニー“全球”第14区画にある“人革超人機関研究施設”を強襲し施設を完全に破壊した。

…貰った情報によると、彼もそこの出身であったらしいが……

 

「…というか、“超兵”、ねぇ……なんでそんな無茶苦茶な事やってたんだか人革連も」

 

さて、此処で今出てきた“超兵”とは何かを、俺が知っている限りで簡単に説明しよう。

超兵とは、物凄く解り易く言えば、『薬物や手術等で無理矢理反応速度や身体能力を異常に引き上げられた兵』…つまり他所で言う“強化人間”の事だ。

しかもヴェーダからの情報によると、どうやら超兵にカテゴリされている人は、その殆ど(と言うほど多くは無いが)が、イノベイド並に強力な脳量子波が使えるらしい。

…ただ、その超兵になるための施術の弊害か何かは分からないが、“超兵”はときたま解離性同一性障害――――つまり多重人格になる事があるらしい。

実際問題、前述のキュリオスのマイスター“アレルヤ・ハプティズム”は、自身の中に“ハレルヤ”というもう一つの人格を内包しており、驚くべき事にそのもう一つの人格“ハレルヤ”と主人格である“アレルヤ”はお互いに意思の疎通が可能であるらしい。

 

閑話休題

 

さて話を戻すが、それでもこの超兵という存在には、様々な問題があった。

例えば、超兵一人を戦場に送り出す為にかかる資金と年月が、それなりに掛かってしまう事。

他には、前述の解離性同一性障害もその一つだし、脳量子波の影響で“人の生の感情に触れてしまった場合、錯乱する可能性がある”という事もある。

ただ、これらはあくまでもほんの一部の人物にしか当てはまらない。

特筆するべきなのは、“能力が高すぎる”という問題である。

今現在、人革連の主戦力は、その殆どが“ティエレン”系統の機体である。

以前俺も訓練で乗ってみた事はあったが、あれは酷かった。

何せ機体の操縦は立ちっぱなしだし、モニターはヘルメットの内側に直で映し出されるので目が疲れる。

追従性が少し悪いので、思うように動いてくれない事もあった。

……まあ、戦闘訓練で出てきた時は、中の人のデータが物凄く強くて地獄を見たがな!!

つーか、地上用ティエレンのカーボンブレイドだけでビーム弾を受け流すってどんなバケモノだ!?

お蔭で一瞬固まってしまって、その隙にコックピットのハッチの装甲と装甲の隙間を狙われて撃墜されたわ!

つーか誰だよ『東洋の黒亀』って!?『ロシアの荒熊』じゃねーのかよ!!??

 

閑話休題

 

まあ、前述した通りに、ティエレンは追従性が少し悪い。

なので、ある程度能力が高いと、機体がパイロットの動きについてこられず、関節等がガタガタになるといった弊害が起こってしまうのだ。

故に近年では、そんな彼らの能力について来られるように、超兵専用機が開発されたりしているのだが……

 

「……“チーツー”の銀色って言うのは解るんだけど……なんで“タオツー”はピンクなのかね?」

 

思わずそんな言葉が口を付いて出てきた。

……よく考えてみたけど、結構どうでも良いな、これ……

 

 

そんなお馬鹿な事を現在進行形で考えている俺が今何処にいるかというと、ヨーロッパ南部に位置する小国“モラリア共和国”である。

ここは、人口は十八万と少ないが三百万人を超える外国人労働者が国内に在住しており、約4000社ある民間企業の二割がPMC――――傭兵の派遣、兵士の育成、兵器輸送、および兵器開発、軍隊維持、それらをビジネスとして行う民間軍事会社の事――――で、誘致した民間軍事会社を優遇して国を発展させてきた。

で、今回此処に俺がいる理由は、(聡明な読者の方々ならばもう解っているかも知れないが、)ぶっちゃけ実働部隊が此処に武力介入する事になったから、それのサポートも兼ねて監視しに来たのである。

 

(まあ、そっちの方は、実は建前なんだけどね……)

 

そんな事を考えながら、俺はOガンダムを飛ばす。

今回は別に実働部隊に見つかっても大丈夫なので、結構ゴツイ追加兵装を施す事になった。

その名も『F(フルアーマー)装備』である。

…まあ、ぶっちゃけて言っちゃうと、肩とか足とか胸部とか腰とかに追加装甲を取っ付けて、左腕に専用の小型シールドを取り付け、その上から専用アタッチメントでいつものシールドを取り付けている。

とは言ってもただ単に重量が増えて機動力が下がっては困るので、追加装甲であるアーマーの幾つかには小型スラスターとブースターを搭載し、その結果機動力はむしろ向上しているのだが。

右腕には追加装甲に左腕に付いているのと同じアタッチメントでナドレ用のビームライフル2丁を改造して連結させた、試作型2連ビームライフルが取り付けられている。

因みにこの試作型2連ビームライフル。元になっているのがナドレ用の物な為、ビームサーベルとしても機能させる事ができる。

が、デカイうえに腕に直接取り付けられているため、慣れていないと以外に使い難かったりする。

また、ビームサーベルは腰のサイドアーマーに増設された専用ラッチに移され、代わりに背面のGNドライブのコーンの右側には、固定式の実弾キャノン砲が装備されている。

「何故実弾?」と思った人はちょっとキャノンをビームに変えた場合のこの機体の粒子消費量を考えてみようか。……とんでもない事になるのがお分かりになるだろうか?

まあ、(一応)オリジナルの太陽路(の筈である)このOガンダムならそこまで問題にはならない筈だが……念には念を入れて、個人的に変更しておいたのだ。

その分弾の所為で機体重量が重くなってしまったが。

因みに反対側には、射撃戦を主体とするこの機体のサポートの為に複合センサーが取り付けられている。

GNABCマント?勿論頭からスッポリと被っているし、ビームガンだって両手とマントの内側に計4個装備して、挙句の果てにビームサーベルをもう一本隠してありますが何か?

 

(…にしても、モラリアの軍事演習にAEUまで参加してくるとは思わなかったな。…どうやら外交努力のたまものっぽいケド…実際には、ガンダムっていう、超技術の塊が欲しいだけかな…)

 

実は此方にもソレスタルビーイングのエージェントとして活動をしている人達は、様々な情報を送ってくれている。

ただし、その情報は実働部隊やヴェーダに送られる物よりもかなり断片化されていて、ハッキリ言って役に立たない物が多かったりする事の方が多い。

 

…ただ、どんなに断片化されていたとしても情報は情報。

 

それらを繋ぎ合わせていけば、実働部隊等に送られている物には無い物が見えてくる事もある。

今回もそんな感じで導き出された情報から、AEUが今回の軍事演習に参加する事と、その部隊の中にPMCから派遣されたパイロットが、AEUから提供された新型機で参加するという事がわかった。

…新型機、とは言ってもイナクトのカスタム機らしいので、性能的にはそこまで警戒はしなくて良いとは思うが…

 

「…なんか、嫌な予感がするなぁ…」

 

主に俺に降りかかる厄介事的な意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロがモラリアへと到着するおよそ3時間ほど前。

PMCトラスト 武器格納庫内部ハンガー

 

「合同演習ねぇ…まさかAEUが参加するとは思わなかったぜ」

 

そこに一人の男がいた。

中東系の顔立ちに、赤毛の髪と髭を蓄えた、野生的な…というよりも、何処か狂気的な物を感じさせるその男は、PMCに所属しているアリ-・アル・サーシェスという。

基本的に中身までその見た目通りな彼はこの格納庫に呼び出されて早々、自分の上司に対していつもの軽口をたたいた。

 

「外交努力の賜物だ。我々ばかりがハズレを引くわけにはいかんよ」

 

彼の上司はサーシェスの軽口を気にもとめず、苦々しく呟くように答える。

 

「そういう訳だから、偶にはAEUにも骨を折ってもらわんとな」

 

「ハッ、違いねぇ」

 

そんな話をしながら二人が奥へ進んでいくと、ライトが付いていない部屋に出た。

明りこそないが、そこには巨大な何かが二つほどある事だけは分かった。

 

(ん?コイツは…?)

 

アリーがそれを訝しげに思い、上司に質問しようとした瞬間ライトがつけられ、それは照らし出された。

紺色にカラーリングされたボディに鋭い翼を持った戦闘機。

…そして暗い赤色―――所謂ディープレッドにカラーリングされた全く同じ機体が、そこには鎮座していた。

 

「この機体をお前に預けたい」

 

「…へぇ…AEUの新型か…しかもカスタムされているとはな…」

 

AEUイナクト。

奇しくも、世界で最初に(というのは実際には正確ではないが)ガンダムに倒されたMSである。

 

「開発実験用の機体だが、わが社の技術部門でチューンを施した。」

 

「開発実験用?そりゃまた豪勢なモンを。こいつでガンダムを倒せと?」

 

サーシェスの顔に凶暴な笑みが浮かぶ。

元来、彼の本質は戦う事(というよりも戦争する事や、強い敵と殺しあう事)に喜びを見出す、戦闘狂(というより戦争狂)である。

故にガンダムの以上とも言える戦闘能力を耳にしてからは、思う存分そいつらと戦争がしたいと思っていた。

その念願がようやく叶うのだ。笑みの一つくらい浮かぶという物である。

…しかし彼のそんな期待は次の上司の言葉によって裏切られる。

 

「鹵獲しろ」

 

「…チッ…言うに事欠いてそれ(・・)かよ…」

 

上司の言葉を聞いたアリーは舌打ちを一つしてから、不満の声をあげる。

しかし凶暴な笑みはそのままだ。

何せ『鹵獲しろ』とは言われたが、『どんな状態』でとは指定されていないのだ。

…つまり、重要なデータが集中しているであろうコックピットさえ狙わなければ後は何をしても良い、とアリーは考えたのである。

 

「…成功すれば一生遊んで暮らせる額を用意してやる」

 

「(ヒュ~♪)そいつは大いに魅力的だな。やる気が出るってもんよ」

 

そう言うサーシェスだったが、実のところ彼らの提示している金など、彼にとってはどうでもいいことだった。

ただ、あの機体――――ガンダムと殺し合いができると言うだけで胸が躍る。

 

(クククク……さぁ、て…デッカイ戦争を始めるとしようや…ええ!?ガンダムさんよ!!)

 

これから始まる“デカイ戦争”…それを思い浮かべて、アリーは内心大きな笑い声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!先生こんなところにいたー!」

 

 

 

 

 

 

 

この声が聞こえてくるまでは。

 

「…おい、何で手前ぇがここにいんだ?」

 

さっきまでの凶暴な笑みから一転。急に疲れたような表情になってアリーは後ろを振り返る。

いや、事実彼は一気に疲れを感じていた。いつもの事だが精神的に辛いものがあるのだ。

すると…

 

「ドーン!!!」

 

という言葉と共に、アリーの背部に一つの人影が突っ込んできた。

 

「グオオオォォ!?」

 

突然の攻撃に、流石のアリーも衝撃に耐え切れずにもんどりうって倒れる。

そして彼の背中に体当たりをかました人影は、そのまま彼の身体に頬擦りをし始めた。

 

「わーい!わーい!先生だー先生だー!!」

 

「グゥゥゥゥゥゥ…ええい!コノ…クソッ…放しやがれこのストーカー野郎!!!!」

 

「えー?やだー♪それに私は女だから、“野郎”じゃなくて“女郎(めろう)”ですから放しませーん♪」

 

そう言いながら、人影は一向に彼から離れようとはしない。

そのままアリーは何とかその人影を引き剥がそうと四苦八苦していたが、何分か経ってからどうやら諦めたらしく溜息を一つ吐いて、自身の背中にしがみ付いている人影を見た。

人影の正体は少女だった。

アリーと同じ赤い髪をぼさぼさに伸ばし、彼が着ているパイロットスーツの色違いの黒い物を着ている。

瞳は赤く、肌は中東出身の人間とは思えないほどに白く、髪の色がもっともっと薄ければ、アルビノと言っても文句は無いくらいだった。

顔からして、おそらく歳は16~7歳程度だろう。

しかしそのプロポーションは見事な物であり、アリーが着ている物の色違いなだけだというのに、その姿からは大抵の男なら魅了できそうなくらい濃厚な色気が漂っていた。

というか彼の上司の男なんぞ、既に若干前屈みになっている。

 

“ハディージャ・アリエフ”。

彼女は最初アリーに拾われた時にそう名乗った。

彼女は元々、アリーがKPSA――――今は無きクルジス共和国の反政府ゲリラ組織に所属していた時に、とあるかつて民家だったと思われる廃墟の中でたった一人ポツンと居た所を、「何かの役には立つだろう」という理由で拾った、(おそらく)戦災孤児だった。

元々はここまで感情を顕わにするような性格ではなかったのだが、長く彼と一緒に生活していた所為か、何時の間にかこんな『先生(アリ-・アル・サーシェス)大好き娘』、通称『アリコン(アリ-・アル・サーシェスコンプレックス)娘』と化してしまっていたのだ。

しかもその根本も彼と同じ様な物(戦争狂等)になってしまった為、当のアリーからしてみれば、鬱陶しいやら同属嫌悪で胸糞が悪くなるやらで、かなり苦手な人種であった。

しかも彼女はアリーとは違い、異常性癖持ちである事も、アリーにとっては都合が悪かった。

以前一度だけあまりにも鬱陶しくなったアリーは一計を案じ、適当な理由で彼女に殴る蹴るといった暴行を徹底的に行った事があった。

アリーとしては、これで自分を嫌いになってくれれば万々歳……だったのだが、次の瞬間彼女が言い出したのは、次のような事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は……変態です……あなたに蹴られて殴られて罵られて感じている、変態エロガキです。だから………やめないで。もっと、もっと蹴って、殴って……ねぇ?どうしてやめるんですか?お願いだからもっと踏んで下さい。あんなの、あんなの初めてだったの。力を加えられる度に電気が走って、私が虐げられている事実が溜まらなく興奮して……お願いします!もっと……もっと踏んでっ!さっきのがもっともっと欲しいのっ!人を殺したり、傷を作るだけじゃダメだったあの快楽をもっと、もっと頂戴!!!いけない私をもっと罵ってっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………その場に居た全員が(アリー含め)、いきなりこんな事を言い出した彼女に対してドン引きである。

つまり何が言いたいかというと……彼女はドMなのだ。

しかも真性の。

しかもコレを行った場所が、KPSAのメンバーが多数集まる所でやったのだから尚更マズかった。

この発言により、アリーと彼女―――ハディージャは『ただの保護者と被保護者という関係ではない』という誤解がメンバーの中に生まれてしまい、その後当分の間彼は好奇の目に晒されるだけではなく、“ロリコン”という不名誉なあだ名を付けられる事となったのだ。

 

閑話休題

 

「…ったく…さっきの質問、もう一回言うぞ。“何で手前ぇがここにいんだ?”」

 

色々と諦めた表情で、アリーは再び先程自分が彼女に投げかけた疑問を口にした。

そもそも今回、この仕事は自分一人しか派遣されなかった筈なのである。

…だというのに、このたちの悪いストーカーもどきドM娘までここにいるというのはどういう事なのだろうか?

すると、その疑問の答えは意外なところから返された。

 

「それは私から説明しよう」

 

つい先程まで彼らのやり取りに一切口を挟んでこなかった上司がそう返す。

それを聞いてアリーは少し眉間に皺を寄せて彼を見る。

そんな彼の視線を意に介さず、何時の間に取り出したのか上司の男は両手で小さなネットブック(すごく簡単に言うと(厳密には違うが)ノートパソコンを小さくしたもの)を持っており、それで何かの動画を再生していた。

動画はかなり画質が悪く、それがまともな物で撮影された物ではないという事を示していた。

 

「これを見ろ」

 

そう言って上司の男はネットブックをアリーに差し出す。

アリーはしばらくネットブックのディスプレイで再生されている動画をつまらなそうに見ていた。

……しかし、ふととある処で彼の視線がある一点に釘付けになる。

動画に映っていたもの。 それはとある何処かの海の海面だった。

しかし動画から聞こえてくる音の中に、波の音に混じって独特な言語―――――日本語が聞えた事から、アリーは動画の場所を、今やユニオンの経済特区となっている“日本”の何処かの港か、もしくは日本近海のどこかと推測した。

だが、これだけでは彼の興味を惹く物にはならない。

 

彼の興味を惹く物が映ったのは、動画が丁度2分45秒を指したときだった。

 

突然、海面が丸く盛り上がる。

そのことにアリーが少々驚いているうちに、『ソレ』は姿を現した。

 

茶色い外套をすっぽりと被った、巨人。

そうとしか形容できそうもないように彼には思えた。

よくよく見てみると、外套の中はかなり重装備なのか、ちゃんと収まりきらずに所々該当の表面を膨らませている。

頭と思われる所からは、ライトグリーンに光る目が二つほど覗いており、その巨人に何処か人間っぽさを纏わせている様な感じがする。

巨人はそのまま海面から出た後、2~3秒ほど空中を見つめていたが、突如として緑色に光る粒子を撒き散らしながら空へと飛び上がり、やがて地平線の彼方へと消え去っていった。

動画を見終わってからしばらくの間、アリーは言葉が出なかった。

が、だんだんとその顔に狂笑を浮かべつつ、彼は上司へと口を開いた。

 

「オイオイオイオイ…………大将。この俺の勘からして、ひょっとするとコイツは…」

 

そう途中まで言った彼の言葉を聞いて、上司の男はこう言った。

 

「…ああ、そうだ」

 

少しの溜息を混じらせながら。

 

「おそらく、まだ世界中の誰にも確認されてはいない“ガンダム”だ」

 

 

 

 

……その場をしばらくの間沈黙が支配する。

やがて先に口火を切ったのは、上司の男の方だった。

 

「この映像は、たまたま付近を通り掛っていた子供が、偶然、携帯端末で撮影した物だ…さて、ここまで見せれば、なぜ彼女がここに連れてこられたのか理解できるな?サーシェス」

 

そう言いながら、上司の男はハディージャを指差して、アリーに問いかける。

それを聞いたアリーは、先程から浮かべていた狂笑の中に若干の諦めと疲労を浮かばせながら、こう言った。

 

「……つまり、合同演習へ参加して、今世間を騒がせている方のガンダムを鹵獲しろって言うのはカモフラージュ…本命は…」

 

「……彼女と協力して、このガンダムを鹵獲しろ。ただしこちらに至っては、コックピットさえ残っていれば良い。思う存分にやれ」

 

そう言って、上司の男は彼らに背を向けた。

おそらくこれから合同演習参加のための手続きなどをするのだろう。

そんな彼の後姿を見送りながら、アリーは内心踊りだしたいような気分だった。

何せ“まだ世界の誰にも知られていないガンダム”という存在と、これから思う存分にやり合う事が出来るのだ。

戦争狂の彼にとってこれ以上の喜びはなかった。

しかも今回は上司から直々にコックピット以外は如何なっても良いという御許しまで出ていると来ている。

正に言う事無しだ。

 

「………うにゅ?先生、お話終わった?」

 

――――――………こいつさえ居なければな!

 

そう思いながら、アリーは再びハディージャを見る。

どうやら彼にしがみついたまま寝ていたらしい。

溜息を吐きながら、アリーはハディージャに問いかけた。

 

「……で、だ。ハディー、手前ぇ本当になんで此処に来た?ただ俺に会いに来たって言うんなら、お望み通りにボコボコにしてやるが?」

 

「……そっちの方が良いかもしれないなぁ…(ボソッ」

 

「なんか言ったか?」

 

「ううん。何でも無いです」

 

慌てて手と顔を振るハディージャ(愛称:ハディー)。

しばらく彼女はそうやっていたが、ある程度経ってから、突如真面目な顔になってこう言った。

 

 

 

 

 

「……感じたから、かな?」

 

「…あ?そいつはどういう「なんだかは分からないです」…んだと?」

 

「でも…」

 

「でも…何だ」

 

そして次の瞬間。

彼女は先程までのアリーの狂笑にも劣らないくらいの獰猛な笑みを浮かべて、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも…久々に、あたしがすごく殺したがってた懐かしい顔に合えるような気がするんです」

 

そう言って、彼女はクスクス笑い出した。

そんな彼女を見て、アリーは内心彼女の標的となっていた二人の少年と少女を思い出す。

肌の色や瞳の色以外はそっくりで、もしかしたら双子なのでは?と思った事もあったその少年と少女の顔を思い浮かべて、彼は内心二人に合掌した。

普段の彼ならば絶対にやらないようなことである。

勿論あの二人があの状況下で生き残っているとは考え難い。

ただ、漠然と「生き残ってそうだな」という思いを、彼は不思議と抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおぉぉぉう!!??」

 

その頃、モラリアの上空を飛んでいたとあるガンダムの中で、一人の少年が盛大に身震いをしたが……これが原因だったかは定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は戻り、アムロがモラリアへと到着してから1時間後。

 

 

 

 

 

 

 

「……っし。予定されたポイントへと到着。後は…『ピピッピッピッピピ』……と、繋がった。ハロ、ボイスチェンジャー起動。音声サンプルはNo.5で」

 

「リョウカイ!リョウカイ!」

 

ハロの言葉と共に、コックピット内部の正面コンソールの脇にある赤いランプが点滅を始める。

これでボイスチェンジャーがONになったという事が分かった。

それを確認した俺は、すぐに通信のスイッチを入れた。

 

「エージェントへ。此方【O-01】。所定の位置へと到着完了。これより実働部隊の支援及び援護を行う。AEU及びモラリア軍の現在の動きを求める」

 

とりあえず所定の位置へと到着した俺は、今のセリフの中でも言った通りに一番近い所で待機しているCBのエージェントに連絡をとる事にした。

…そういえば、CBのエージェントも、俺の事はどんな人物だか良くは知らない、と師匠が言っていたな。

……大丈夫なのだろうか?組織的な意味で。

 

『始めまして【O-01】。此方エージェントの“王留美(ワン・リューミン)”です。以後、お見知りおきを』

 

前述のようなアホな事を考えていると、突然に通信が帰ってきた。

表面上は普通にしながらも、内心慌てて通信用モニターに目を移すと、やや翠がかった髪をストレートに下ろした、東洋系の顔立ちをした少女がそこに映っていた。

年の頃は…俺よりも1,2歳くらい上っぽい。

名前から、おそらく中国の人だろう。

とにかく相手が自己紹介してくれたのに、自分は何も言わないというのは失礼な気がするので、一応此方も自己紹介することにした。

 

「自己紹介ありがとう、お嬢さん。もう知っているかもしれないが、私の名前は【O-01】という。よろしく頼む」

 

いつもと口調が違うって?

察してくれ。

基本演技が下手糞な俺は、こうやって口調やキャラを変えないと、ぽろっと元の口調で喋りそうになってしまうんだよ……

 

『…勿論偽名ですよね?』

 

「…存外、いきなり凄い事を聞いてくるな君は。…勿論偽名だ。残念ながら本名は明かせないのでね」

 

苦笑しながら彼女の質問に答えを返す。

まぁ、ミッション以外で普段活動する時は、本名なんだけどね。

 

(ホッ)『…そうですよね(ボソッ……失礼致しました。それで、AEU及びモラリア軍の現在の動きでしたね?』

 

……オイ。取り繕えたと思っているようだけど、おもいっきしホッと息を吐いた音ともう一言聞こえたぞ。

もしかしなくても、【O-01】っていうのを本名だと思いやがったな?

しかし俺は今の心の声を口に出さずにグッと我慢した。

……まぁ、出した所でまた面倒な事になるのが目に見えてただけなんだけどさ…

 

「ああ、そうだ。大まかでいいから、教えてくれないか?」

 

『分かりました。ミス・スメラギの戦術予報と此方で収集したデータを元にして、AEU・モラリア混合軍の現在の動きを今後考えられる動きのシミュレーションデータと共に逐一そちらに御送り致します」

 

「助かる」

 

俺がそう言うと、留美さんは『それではくれぐれもお気をつけて』と言って、通信を切った。

と同時に、先程彼女が言っていたデータが送られてきたのか、ハロが目から立体映像を展開して、おそらく此処らへん一帯の地形データと思われる物を映し出した。

その立体映像の所々に、紅い光点がかなりの数で密集しているのが見受けられる。

おそらくこれが、AEU,モラリア混合軍の機体なのだろう。

そしてその光点の塊からピンク色の光点がブワーっと広がっていく。

そのどれもが規則性のある動きなどをしている事から、たぶんこれがシミュレーションデータだと考えられる。

で、どの赤い光点の一団からも同じ距離だけ離れた所に、ポツン、と一つだけ光っている青い光点がある。

おそらくはこれが俺――――Oガンダムなのだろう。

立体映像の地形と周囲の地形が殆ど合致している事から、これはもう間違いない。

 

「…ってことは、ついさっきから左下に移ってる水色の5つの点は……」

 

そう言いながら、その5つの光点を見ていると、それぞれの光点があるポイントまで来たと思うと、一斉に別々の方向へと向かっていった。

つまりこれは……

 

「…実働部隊の“ガンダム”…ってワケ、ね。…こいつらが出てきたって事は…」

 

俺がそう呟いた次の瞬間だった。

突如として、正面のコンソールにCBのマークが出てきたかと思うと、次の瞬間そこにはこんな事が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ミッションスタート】

 

 

 

 

 

と。

 

 

 

「…そんじゃ、始めますかね。ハロ。サポートよろしく」

 

「マカセロ。マカセロ」

 

そう言って言葉を返してくる相棒を見て、俺は苦笑を一つこぼすと、予め決められていた次のポイントへと、Oガンダムのステルス状態を保持したままゆっくりと移動し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガション・・・・・ガション・・・・・ガション・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徒歩で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今思ったけど、これってミッションに規定された時間までに、ポイントまで辿り着けるんだろうか…?」

 

思わずそんな言葉が口を突いて出てくる。

師匠曰く、ステルス状態を保持する為にこの移動方法なのらしいのだが……

 

「本当に意味あるのか?この移動方法…?」

 

 

 

 

 

 

因みに後日聞いた話だが、やっぱりこれは師匠が俺をからかって面白がるためのデマだったらしい。

師匠曰く、

 

「まさか本当にやるとは思わなかった。でも面白かったし、結果的に規定時間内に到着できていたし、ステルスも本当にそこそこ保持できていたっぽいから、後悔も反省もしていない。むしろもう一回くらいやらせてみたい」

 

だそうな。

 

え?その後どうしたかって?

無論殴りかかりましたよ?

“ペ○サ○流星拳”とかいうので迎撃されたけど……

 

 




如何でしたでしょうか?
どうも、雑炊です。

今回は、冒頭に、私なりに超兵というものがどんなかを纏めて見ました。
…すみませんナマ言いました。
本当はキュリオスが重力ブロックを押し返す話に主人公が介入できそうも無かったから、その分入れてみただけです。
不快になった方が居たらすみません。

で、新オリキャラ登場でございます。
彼女はにじファン時代の読者様が感想で書き込んでくれたアイデアを基にしています。

で、留美さん初登場です。
口調あっているか分かりませんが(汗

そしてOガンダムが、次回から本格的に活躍開始でございます。
フルアーマー装備の方は、OO公式の物ではなく、基本的にFA-78-1の装甲をOガンダムに取っ付けたような物をイメージしていただけると幸いです。

それではまた次回!



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七話――――過去と対峙しました(またしても不本意)―――――後編

今回はちゃんと戦闘らしい戦闘も入っている、かな?
後今回は後書きにちょっとしたアンケートがあります。
それでは本編をどうぞ。


「1、2、3、4、5、発射」

 

ドキューン……

 

チュボーン…

 

「うし、命中っと。次は……」

 

え?何をやってるかだって?

指定ポイントに到達したから、実働部隊のガンダムを援護する為に、右腕の2連ビームライフルで、バレないように、各機体と交戦しているリアルドとかを、チマチマと一機ずつ撃墜しているだけですけど何か?

指定時間までに間に合ったのかって?

…意外や意外、残り2分で到着しましたよ。

しかもステルスにも穴はなかったし。

到着して、各部のチェックが終わった瞬間に思わず『師匠すげー!!』って叫んじゃったよ。

……っとぉ。

 

「よそ見してる場合じゃなかった」

 

そんなセリフと共に、再びトリガーを引くと、銃口の先でエクシアに死角からリニアライフルで攻撃しようとしていた、AEUヘリオンベルベトゥウムが、銃口から放たれたビームによって爆散した。

 

(ベルベトゥムって何ぞ?という人の為に簡単に説明すると、ヘリオンは製造された時代によって、性能は勿論、見た目、同時に名前が異なっており、最初期はイニティウム。中期はメディウムとなっており、残った現在使われている最新型(という訳ではないが)及びその派生機をひっくるめてベルベトゥムと呼称される。以降は別に最初期型と中期型が出てくるわけではないので、ただ単にヘリオンと呼称します。あしからず。)

 

おそらくパイロットは今何が起きたかも解らずに、あの世へと旅立っただろう。

…せめて一瞬で消し飛べたのは、果たして幸運だったのかそれとも不幸だったのか…

 

別に任務だし、こっちだって死にたくないから、という理由で人殺しを正当化しようなんて思ってはいない。

…でも、そんな風にある程度割り切らなければ、身体はともかく心が罪悪感等で押し潰されてしまう。

 

「等とそんなとりとめも無い事考えてる場合じゃないか、クソッ!」

 

そう叫んで、俺はほぼ反射的にOガンダムにバックステップを取らせてその場を退避した。

一瞬遅れて今さっきまで居た場所にミサイルが殺到する。

見上げれば、そこにはヘリオンが4機ほど編隊を組んで此方へと向かって来ているのが見て取れた。

 

(う、気付かれた。)

 

別段驚きは無い。

そもそも指定ポイントに到着してから、一切その場を動かずにビームによる狙撃をしていたのだ。

むしろ今まで気付かれなかったのが奇跡である。

そんな事を考えている内に、ヘリオンの内の一機が変形し、ソニックブレイドを左手にマウントして、切りかかってきた。

…が…

 

「遅いしぬるい」

 

そう呟きつつ、Oガンダムを一気に加速させて相手の懐まで入る。

相手はまだソニックブレイドを振り上げている途中だった。

実際の所、剣等の近接用武器で接近戦をする場合、対人でもそうだが、上段から剣を振り下ろすと言う動作は、自分が先手を取った場合にはあまり有効ではない。空中からの攻撃時にそれをするなんぞ以ての外である。

理由としては、隙がデカイから。特に今のヘリオンのように、振り上げながら突っ込むなんていうのは、格闘戦初心者のする初歩的なミスの内の一つである。

この結果として、相手も初心者であれば、確かに敵が突っ込んでくるという威圧感を与えられるから、有効っちゃ有効ではあるものの……

 

「ほいっと」

 

そう呟きながら、Oガンダムの右腕の試作型2連ビームライフル…もうめんどくさいから、ツインライフルとこれから呼ぶが、その銃口からビーム刃を展開しヘリオンの腹部へとアッパーの要領で展開されたそれを叩き込む。

叩き込まれたヘリオンは数瞬の間もがくように動いていたものの、その内動かなくなった。

 

…とまあ、このように、相手が玄人の場合隙のデカさを利用されて、反撃される、というのがオチとなる。

師匠がサラッと言っていた事なので俺は良く知らんが、日本にある刀を使うどの武道や武術でも、敵の間合いに踏み込む時には剣を振り下ろす動作を同時にしなければならない、という教えがあったりする。

これは振り上げながら突っ込むと今のヘリオンのようにやられてしまうと言うのが理由の一つとして挙げられるが、もう一つの理由としては振り下ろしながら突っ込んだ場合、最悪自分がやられたとしてもうまく相打ちに持ち込める可能性が大きいからである。

 

それって何か意味あるの?とか思った奴。それ以上は俺に聞くな。後は自分で考えるか、タイムマシンでも使ってモノホンに会いに行くか、そういった武に関する事をちゃんと学んでいる人に聞きに行ってくれ。

さっきも言ったが、この話は師匠が俺にビームサーベルの使い方を教えてくれている真っ最中に小話みたいな感じでサラッと言っていただけだ。

実際師匠も最後に、「相打ち覚悟で戦いに臨むのは、戦士としては2流だと僕は思うがね」と言って話を切り上げてしまったし。

…ただ、一応理に敵っていると言ったらそれは間違っては居ないので、個人的には参考にしている所もあるのだが。

 

ピッピッピッピッピ…

 

「うん?」

 

ふと、コックピット正面のメインコンソールから音が鳴った。

ロックオンされた音ではなかったので、なんぞ?と思いながらもそちらに目を向けると、コンソールのモニターには友軍機―――つまり実働部隊のガンダムが移動を始めており、それを追えという旨のメッセージが表示されていた。

それを見た俺は、再びハロに立体映像による此処らへん一帯のマップを表示させる。

ご丁寧にも、マップには実働部隊の各機の次の目標ポイントが記載されており、次に何処へ行けば良いのかが、一目で分かるようになっていた。

 

…だが、今はあまり意識を向けていられるような状況ではない。

仲間の一人を殺られた事がきっかけとなり、頭に血が上ったのか先程のヘリオンで残った三機の内の二機が此方に向かってきた。

しかしどちらも人型形態にはならず、戦闘機形態のままジグザグの軌道を取りつつ、こちらへとレールガンを乱射している。

どうやら高機動による撹乱を絡めたコンビネーションで此方を攻めようとしているらしい。

しかし…

 

「相手が悪かったな」

 

――――――その機動は地獄の特訓でキュリオスやアブルホールに散々やられたわ!!

 

そう口には出さずに呟くと、俺はOガンダムをヘリオンの内の一機に向かって跳躍させ、空中側転の要領で上を取り、そのままツインライフルから発生させたビームサーベルで通り抜けざまに相手を3枚におろした。

そのまま着地すると、後方で3枚におろされたヘリオンが爆散して、周囲が爆風と砂塵に包まれる。

レーダーを見るとどうやらもう一機は上空へと飛び上がって爆風から逃れたらしいが、同時に上がった砂塵とOガンダムの装備しているGNマントの色の影響で、一時的に此方を見失ったらしく頭上でぐるぐる旋廻している。

これ幸いとばかりに、Oガンダムの右肩にあるキャノン砲を展開して照準をヘリオンにロックすると、そのまま発射した。

発射された砲弾は、そのまま真っ直ぐにヘリオンへと向かって行き、程無くして着弾した。

ドン!!、という音と共に、空中に人の死を一つ内包した花火が出来上がる。

それにあまり目を向けずに残ったもう一体のヘリオンを探す。

レーダーを見る限りでは、あまりまだ遠くに行ってはいないが…

 

「…チッ。逃げられたか」

 

思わず舌打ちが出てしまう。

これでこの機体(Oガンダム)の事も、世間にばれてしまう事だろう。

…まぁ、師匠曰く、この機体の事は今回か次回くらいでもうばらすという事になっていたらしいから、そこまで問題にはならないだろう。

監視者の方々の会議は物凄い事になりそうだが(笑)

そりゃあ、自分たちもその行方を知らなかったガンダムが、突然追加装備付きで現れて、戦場に介入していたのだ。

しかもマイスターに登録されているのは、素顔も本名も不詳の謎の人物ときたら、まず計画を自分の思い通りに運ぼうとしていた人達は、顔面蒼白になってプランの練り直しに躍起になるだろう。

 

「……ヤバイ。考えたら笑えてきた」

 

そこそこに歳を取ったおっさんが、顔面蒼白になって必死にブツブツ独り言を言いながら、何かを考えている姿……事情を知らない人からすれば心配の一つでもしそうな光景だが、事情を知る者からすればその光景は意外とシュールだ。

 

「アムロ、イソゲ、イソゲ!!」

 

ハロの声で、俺は一瞬で現実に引き戻された。

見れば実働部隊の機体は全機目標ポイントまで到着しており、残っているのは俺だけである。

 

(あ、ヤバ…)

 

慌てて機体を動かして、目標ポイントへとすっ飛んでいく。

もうとっくにステルスはその意味を成していないので、今度は歩いてではなく空を飛んでいるので、そこまで時間は掛からないと思うが……

 

「…どうなるかは、分からないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モラリア軍事演習所 東部

 

エクシアが新たに追加されたGNロング・ショートブレイドを両手で縦横無尽に振るう度に、周囲のヘリオンは細切れになっていき、瞬く間に倒れていった。

 

(これがGNブレイド…エクシアの新装備。)

 

これならイアン・ヴァスティ(ロックオン曰くおやっさん)が言っていた通り、大抵の物ならを難なく切断することが可能だろう。

これなら確かにセブンソードという開発コード通りの機体に仕上がったと言える。

そのまま感動に浸っていたかったが、まだ周囲の敵が残っている事を鑑みて、すぐさま意識をそちらに切り替える。

すぐさま一番近い所にいたヘリオンに向かって駆け出すと、エクシアの体勢を低くし、そのまま右手に持ったGNロングブレイドで切り上げる。

 

「甘い!」

 

すぐさま背後から切りかかってきたヘリオンの攻撃をかわしてショートブレイドで反撃する。

ショートブレイドはヘリオンのコックピットのギリギリ上の方に突き刺さり、そのまま相手を両断した。

 

「次っ!」

 

私はそれを確認すると、すぐさま飛び上がりつつ、両手のGNブレイドを腰にマウントすると、そのまま武器をGNソードへと変更し、ライフルモードで上空のヘリオン二体のリニアライフルを潰す。

そのままソードモードへとチェンジしたGNソードで、通り抜けざまに、二対を両断する。

 

「チッ!」

 

その直後に後方からリニアライフルで攻撃されたが、ギリギリでそれをかわすと、腰のGNダガーを投擲して、攻撃してきたヘリオン二対の頭部に突き刺す。

そして、振り向きざまに二本のビームサーベルを抜き、後ろから迫っていた二機を腰の部分から切断した。

 

「…エクシア、フェイズ1終了。フェイズ2に…」

 

周囲に敵影が無い事を確認して、私がそう言葉を紡ごうとした瞬間、コックピット内にアラームが鳴り響く。

 

「っ!?」

 

咄嗟に操縦桿をきり、横から飛んできたリニアライフルの弾を避ける。

外れた弾丸は地上に着弾し、土煙を発生させた。

それにあまり気を向けずに正面に目を向けると、ディスプレイには上空を飛ぶ紺色と血の様な色をした二つの機影が見えた。

 

「新型か!?」

 

一瞬そう思ったが、冷静に観察するとどうやらそれは違ったようで、少し形が変わっているものの、それは私が計画発動の際、最初に相手をしたAEUの新型機“イナクト”だった。

血の色の方はこちらの出方を伺っているのかあまり目立ったアクションはしていなかったが、紺色の機体の方は、いきなり加速すると、此方へとリニアガンを撃ってきた。

 

(…少々チューンして手を加えてあるようだが、性能は十分把握している。)

 

撃たれた弾丸を避けつつそう思っていたが、徐々に弾丸はエクシアに近づいていき、遂には正確に捉える程となる。

 

「なに!?」

 

咄嗟にシールドで防御したが、動揺は大きな物ではなかった。

即座に回避のパターンを大きなものに変える。

だが、それでも敵は確実に当ててくる。

 

(まさか、動きが読まれている!?)

 

そう思ってしまうほどに、たて続けにイナクトは此方へと攻撃を当ててきた。

同時に度重なる動揺で動きが鈍くなった所に体当たりをしかけられ、エクシアは倒されてしまった。

 

「ぐぅ!!」

 

『はははははは!機体はよくてもパイロットはイマイチのようだなぁ。ええ!?ガンダムさんよ!!』

 

接触回線で、イナクトのパイロットの声が耳に届く。

しかしそれを聞いた瞬間に、私の頭の中は驚愕で埋まってしまった。

 

「なっ!?…あの声……ま、まさか!?」

 

驚愕に続いて、忌まわしい記憶が脳裏にフラッシュバックする。

自分をゲリラに仕立て上げた男。

自分の神への信仰を利用した男。

自分に両親を殺させた男。

…そして自分と仲間達と○○○を見捨てた男。

 

『商売の邪魔ばっかしやがって!!』

 

「!!」

 

脳裏にあの日の光景がはっきりと浮かぶ。

赤いウェーブのかかった長髪を風になびかせながら自分の前に立っていた姿。

ナイフの戦闘訓練で自分をあしらった時の、あの嘲笑。

そして、突如自分に襲い掛かってきた○○○と1対1で白兵戦闘をしていた時の、あの狂笑。

 

(……やはりそうなのか!?)

 

『こちとらボーナスがかかってんだ!!』

 

イナクトは可変しながら旋回するとそのまま蹴りを入れてくる。

私は腕をあげて防御するが衝撃でコックピットが揺れた。

しかし、そんな事は気にしていられなかった。

目の前にいるこの男が本当に奴なのかということしか頭にない。

そうもしている間に、イナクトが腕からソニックブレイドを取り出す。

 

『別に無傷で手にいれようなんて思っちゃいねぇ。リニアが効かないなら……切り刻むまでよ!!』

 

「っ!!」

 

私はブレイドを構えて向かってくるイナクトをかわすとビームサーベルで斬りかかる。

だが、

 

『ちょいさぁ!!』

 

イナクトが振り向くと同時にエクシアの右手を蹴りあげ、ビームサーベルを弾き飛ばす。

 

(この動き!見覚えがある!…だとすれば納得はいかないが間違いない!!)

 

激情に任せもう一方のビームサーベルで斬りかかるが、ブレイドで上手く弾かれビームサーベルを手放してしまう。

 

「…ええい…!!!」

 

私はは左腰に装備されたGNブレイドを抜いて再びイナクトをにらみつける。

GNブレイドは私の感情に反応するかのように激しく振動している。

 

『一体何本持ってやがんだ…けどな!!』

 

そのままイナクトとエクシアは同時に相手へと踏み出し剣戟を重ねていく。

だが、エクシアは鍔迫り合いに持ち込まれるとそのままじりじり押されていく。

 

『動きが読めんだよ!!』

 

「くっ!!」

 

その時、再び脳裏に忌まわしい記憶がフラッシュバックした。

 

自分に銃を向けられ、驚きと戸惑い、そして悲しみの目を向ける母。

 

『やめて、ソラン…なぜ、どうしてなの……!?』

 

そして、乾いた発砲音と小さな火花。

発砲音の余韻がなくなった後、母は力なく倒れた。

 

 

 

 

「う…う…ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

刹那の咆哮と同時にエクシアの胸部のジェネレーターが激しく輝き、解放された圧縮粒子とともにGNブレイドの切れ味があがっていく。

そして、

 

『なに!?』

 

危険を察知したイナクトはソニックブレイドを手放し、後ろに飛んで距離をとる。

ソニックブレイドはGNブレイドに刺さったような状態だったが、離れた瞬間にガランと音を立てて二つに切断された状態で落下した。

それを見た私は、心の中でこんな事を呟く。

 

(…確かめなければ。)

 

と。

其処に冷静さとかといった、理性から来る物は無い。

只々感情からの行動だった。

光通信でイナクトのパイロットへと「出て来い」と告げると、エクシアのコックピットを開く。

そのまま私は、エクシアの外へと出た。

…無論ヘルメットは付けた状態で。

 

 

 

 

 

 

暫らくすると、奴もコックピットから出てきた。

 

「素手でやりあう気か?えぇ?ガンダムのパイロットさんよ!!」

 

同時に、奴は被っていたヘルメットを取る。

その下から現れた顔は――――――

 

「……っ!!」

 

――――――間違いない!

あの頃と違って顎鬚が生えて、髪も幾らか増えているが、この赤い髪に黄色の瞳は見間違えようが無い!

 

アリー・アル・サーシェス!!

 

その瞬間、私の中をありとあらゆる感情が駆け巡る。

戸惑い、疑問、決意、悲しみ、怒り、そして最も燃え滾る物――――――憎悪。

忘れる筈が無い……忘れようが無い!!

この男の所為で、あの時、私は、私達は!!!!!

 

カチャッ

 

気付くと私は奴に銃口を向けていた。

奴も既に銃を抜いて、狙いを私の頭につけている。

 

「なんだよなんだよ……わざわざ呼び出しておいてこれか!!面ぐらい拝ませろよ!えぇ、おい!?」

 

こっちも向こうも、徐々に引き金にかけている指に力を入れていき、互いの眉間に向けて撃とうとする。

が、次の瞬間、上空からリニアガンが発射される時に鳴る独特の音が聞こえ、私は咄嗟にエクシアの中へと戻り、身体を固定させる事もおざなりに、バックステップで直ぐにその場から退避した。

 

「チッ!!」

 

サーシェスも感付いたのか、いち早くコックピットに戻る。

直後に二人がさっきまで居た場所に、リニアガンの弾が2~3発ほど着弾する。

私は弾が発射された方へと顔を向けた。

 

『……悪いけど茶番はいい加減にして……いつまで先生と楽しい事やってるのよ』

 

そこには先程サーシェスと共に此方へと攻撃してきたもう一機の血の様な色をしたイナクトが、MS形態に変形した状態でリニアライフルの銃口をエクシアへと向けていた。

外部スピーカーを使っているのか、その声はメガホンで拡声したかのように響いている。

しかし私はこの時、そんな事に構っていられるような精神状態ではなかった。

 

(…この声…そして(サーシェス)先生(・・)と呼ぶだと………まさか奴も!?)

 

そして私のその疑問は、次のサーシェスの言葉によって確信に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい、ハディー!!テメェ何俺ごと撃とうとしてんだ!?帰ってから【ピー】の【ピー】に【ピー】突っ込んで【ピーーーーーーーーー】!!!!!』

 

『イヤン♪先生こわーい♪……でも、そっちの方があたしにとっては御褒美に『因みに俺じゃない奴にやらせてから、部下の連中の前に差し出す』マジすいませんでした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ああ、うん。間違い無くこのやり取りはハディージャ・アリエフだな。

確か………ドM……という物だったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ったく……とりあえず謝ったから許すが…次はもうねぇぞ?」

 

『イエス!!マイ・マスター!!!』

 

……本当にコイツにはイラつかせられる……!

見た目は良いんだが、いかんせん中身が駄目駄目っていうのはどういう事なんだろうか?コイツは?

…まあ、それはともかく、だ。

 

「で?」

 

『へ?」

 

「惚けんな。テメェが俺の邪魔をするのは、必要時以外ありえないからな」

 

なんだかんだ言っても、もうコイツとは10年近い付き合いだ。

流石にそれだけ長い間行動を共にしていれば、こいつの行動パターンなんて熟知できる。

 

『…流石は先生、私の事よく解ってくれてるよね(ボソッ』

 

「何か言ったか?」

 

『ううん、何も?』

 

…チッ

 

「で?実際の所はどうなんだ?」

 

このまま漫才をやっていても埒が明かない。

とにかく目の前の白と青と赤(トリコロール)のガンダムが既に体勢を整えていつでも此方に攻撃出来る様にしているのが見受けられるので、さっさと話を切り上げなければ何をされるか分かったもんじゃない。

そう考えて、ハディーの奴にさっさと言いたい事は何なのか言わせようと急かす。

するとアイツは、出撃前に見せた時のように笑うとこう言いやがった。

 

『フフ。先生……どうやらメインディッシュが到着したみたいよ?』

 

ほら、と言って、ハディーは器用に自身の乗るイナクトの左手でガンダムの背後の空間を指差す。

それを聞いた瞬間、待ちわびていた玩具を手に入れた時の子供のように心が躍った。

そしてガンダムに対する警戒を緩めずに、俺もハディーが指差した方を見るが……

 

「…?何処だ?何処にもいねぇじゃねえか」

 

そう、何処にも待ちわびていた“まだ世界中の誰にも確認されてはいないガンダム”の姿は無い。

ハディーが冗談を言ったのかと一瞬錯覚するほど、そこには荒涼とした景色しか広がっていなかった。

しかしそんな俺の疑問を聞いたハディーは、笑みを深くすると、こう言いながら、

 

『まあ…そうね…あたしも最初は見間違いかと思ったけど……』

 

イナクトにリニアライフルを構えさせて、

 

『………これで確信できるかなと!!』

 

ガンダムの後方300mほどの距離にあったMS大の大きな岩に向けて弾を発射した。

すると次の瞬間、

 

シュバッ!

 

という音が鳴るかと思うくらいの勢いで、その岩が…いや。

岩だと(・・・)思っていた(・・・・・)何かが(・・・)突然空中へと飛び上がり、リニアライフルの弾を回避(・・)した。

その瞬間、俺はそれが何を意味しているか理解した。

 

(まさか擬態していやがったとでも言うのか!?)

 

だとしたら恐ろしい事だ。

おそらく、化学的な小難しい理屈もあるのだろうが、だとしても“MSが擬態できる”という事実は、俺達の様な傭兵やゲリラ屋にとっては恐怖でしかない。

今さっきまでそこに岩や砂漠、もしくは密林のジャングルしか無かったと思っていたのに、次の瞬間木や岩や砂漠だと思っていた物の中から敵が出てきたら戸惑うだけでは済まないし、咄嗟に動けたとしても反撃を始めた所の周囲や逃げたりした先に擬態した敵が居たら完全にアウトだ。

もしもステルスなどであれば、逆に気付き易かったりするのだが……

 

『…あたしも、最初はただの岩かな、と思ったのよ』

 

不意にハディーが呟いた。

その間にも、飛び上がったそれは、先程まで岩表面そっくりの姿をしていたマント(・・・)をたなびかせながら、太陽を背に此方よりも高い高度から此方を見下ろしている。

 

まるで嘗て自分がまだ若かった頃に信じていた宗教にでてくる、神か何かのように。

 

『でも、目を離した隙に少ーしずつだけどこっちに近づいてるのが、サブカメラの隅っこの方にチラッとだけど映っていたの。それで辛うじて気付いたけど「そんな事は問題じゃねえさ……」え?』

 

……そう、そうだ。そんな事はたいした問題じゃねぇ…

問題なのは…

 

「行くぞハディー!上手い事やれば、追加ボーナスだ!!楽しむぞ!!!!!!」

 

コイツが楽しめるかどうかって事だ!!!

 

『先生!本音が出ちゃってるよ!!コレ、一応仕事なんだから体面ぐらい取り繕って!!』

 

「五月蝿せぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」

 

体面なんぞ構っていられるか!!!テメェもそんな事言いながら、もうとっくにリニアライフルぶっ放しながら、ソニックブレイド抜いて突っ込んでんじゃねえか!!

さあ始めようぜ!楽しい戦争をよぉ!!!

 

「ええ!?マントのガンダムさんよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!二人いっぺんに掛かってきたぁ!!!!!!!ちょ、やめて!!そんなに殺気発散しながら襲い掛かってこないで!!地獄の修行よりも遥かにマシだとは言え、流石にこれは無いでしょおおおおおおお!!!???」

 

はい、只今大根RUN中でございます。

いきなり新システムの擬態モドキ見破られた上に、文字通り殺る気満々の二体に襲い掛かられたら流石にびびる。

……しかしそうも言っていられないのが現状!

 

「フンッ!」

 

まずはリニアライフルの弾をグレイズで避けつつ、ソニックブレイドで切りかかってきたワインレッド…と言うよりも、若干血みたいな感じの赤色のイナクトに一気に近づいてその顔面に回し蹴りを打ち込む。

そのままよろめいたイナクトの後ろから、もう一機青いイナクトが飛び出してくるが…

 

「甘いわ!!」

 

ソニックブレイドではなくリニアライフルの先に取り付けられていたブレイドで斬りつけてきた為、シールドで受け流しつつ、右手で胸の部分をぶん殴る。

そのまま今度は振り向いて、ツインライフルからビームサーベルを展開しツインライフルを捨ててソニックブレイド二本で切りかかってきたイナクトの攻撃を受け止める。

反対側から先程ぶん殴ったイナクトが、左手にソニックブレイドを持たせて同じ様に切りかかってきたが、

 

「分かり易いことこの上無いィ!」

 

そう言いながらシールドの下の小型シールドに予備的な意味合いも込めて装備したビームサーベルからビームを展開し、リニアライフルで撃たれる事も考慮してシールドで相手を叩き落とすようにして、ブレイドを振り下ろされる前にビームサーベルでイナクトの左手首を切り飛ばす。

案の定イナクトは勢い良く振られたシールドに当たってバランスを崩したのか、地面へと吹っ飛ばされる。

 

「いつまでそんな物騒なもん押し付けとるかぁ!!」

 

もう一機のイナクトも、同じ様にして吹っ飛ばそうとするが、その前に相手は此方の意図を読んだのかソニックブレイドの刃を消しながら急降下で回避した。

舌打ちしながら肩のキャノン砲で追撃するも、向こうの方が小回りは上なので5発ぶっ放したというのに、一発も当たらず逃げられる。(文で書いている為密度はそこまで無いように感じられるが、実際には5分くらい掛かっております)

再び舌打ちしながら、地上で呆然と此方を見ていたエクシアに対して、通信を入れる。

勿論、ボイスチェンジャーはONにして。

 

「エクシアのパイロット。色々と聞きたい事はあるがともかく今はミッションを続行しろ。出来るな?」

 

『っ。あ、ああ』

 

「それだけ返事できれば十分だ。丁度良く近くにお仲間も居る事だから、一緒に連れて行ってもらえ」

 

そう言いながら、視線を少しエクシアの右側面からちょっと向こうに移す。

そこにはスナイパーライフルを構える白とモスグリーンの機体が、映っていた。

…心なしか銃口がこっちに向けられているような気がするのは何故だろう?

 

『なっ!?ロックオン!?』

 

『ったくこの馬鹿!何やってんだ!?ギリギリで気付けたから良いものの、一歩間違えればお前は死んでたんだぞ!?わかってんのか!』

 

白とモスグリーンの機体―――デュナメスのマイスター―――ロックオン・ストラトスと思われる人物の怒声がコックピットの中に響く。

どうやらかわいい妹分のアホな行動に、心配半分怒り半分といった感じで説教をしようとしているのだろう。

…ただ、今はまだ困る。

 

「それくらいにしてあげてくれ。説教も良いが、まだミッション中だし、敵も残っている。お叱りだったらミッションが終わった後にしてくれ。序でにその銃口を下ろしてくれると、私はとても安心できるのだが…」

 

別に怒るなと言ってる訳じゃないが、今此処で説教されると色々とまずい。

 

『……分かったよ。銃向けて済まなかったな』

 

「問題ない。不本意だが、身内から(シミュレーター的な意味で主に約一名から)銃を向けられるのは慣れている」キリッ(`・ω・´)

 

『『……』』

 

スピーカーの向こうで、なんとも言えない空気が広がっているのが感じられる。

まあ、そりゃあいきなりこんな事カミングアウトされても、どう反応するのか困るだろう。

俺だって…………たぶん…………そうなる………筈。

 

『………あ~………悪い』

 

「そんな哀れむような声でそんな言葉を掛けないでくれ。泣けてきてしまうだろう」

 

結構マジだ。もうちょっとウルッと来ている。

 

「…ともかく、今はミッションの続行を優先してくれ。この2機は此方で引き受けよう」

 

そう言って、俺は誤魔化すように先程のイナクト二体に向き直る。

どうやらシールドでぶん殴った時に、何処かイカレたらしく、青い方のイナクトが上手く立ち上がれて居ない。

そのまま少しの間向こうと此方の間で膠着状態が続くが、どうやらこれ以上の戦闘続行は不可能と判断したのか、青い方はそのまま戦闘機形態となり、撤退していった。

 

「…訂正しよう。残った一体は私に任せろ」

 

『…んじゃ、頼むとしますかね。さっきは済まなかったな。刹那、行くぞ』

 

『あ、ああ』

 

そう言いながら、空へと飛び上がり、撤退していくエクシアとデュナメス。

それを逃すまいと、何時の間にかその手に戻したリニアライフルで、残ったもう一体の赤いイナクトが弾を発射しようとするが、それをリニアライフルだけ、ツインライフルで破壊することで妨害する。

 

『援護感謝する』

 

ふとそんな言葉を刹那に言われた。

本当に何処でも変わらない娘だな、この子は。

裏表が無いと言う意味ではいい事だと思うが…

 

「…別に感謝されるような事はしていないよ。君らを助ける事が私の仕事なのでね。ほら。さっさと行って、しっかりと叱られてきなさい。まだ若いんだから」

 

苦笑いしながらそう返すと、最後らへんが気に食わなかったのか、刹那は少しムッとした。

 

「そうそう。そうやってもう少し子供らしくしなさい。お前さん、普通にかわいいんだから…とと、今のは気にしないでくれ」

 

危ね。今一瞬“Oー01”から“アムロ”に戻りかけた。

こういう事があるから気は抜けないんだよなぁ……

……口説いたわけではないよ?あくまで保護者としての言葉よ今の。

お解り?

 

『……!』ブツッ

 

あ、通信切られた。

くだらないと思ったのか、それとも照れ隠しか…たぶん前者だろうなぁ……と。

 

『さて……』

 

今度は外部マイクを使って、イナクトに語りかける。

ボイスチェンジャーで声はさっきと変えてあり、今は20代の女性のような声だ。

どうやら向こうは興味を持ったらしく、返事を返してきてくれた。

 

『何?大人しくあたしにバラバラにされる気にでもなった?』

 

『…中々物騒だな、君は。声の感じからすると、女性かね?』

 

『それはこっちのセリフよ。良いの?堂々と外部スピーカーなんかで話しちゃって?』

 

『本来は駄目なのだが……生憎と、この機体にはボイスチェンジャーが標準搭載されていてね。勝手に私の声をランダムで変えてしまうのだ』

 

無論嘘だ。

チェンジャー自体は任意でONとOFFの切り替えは可能だし、変声後の声も自分で設定できる。

それでも向こうはそれで納得したらしい。

 

『ふーん…あ、そう。それじゃ…』

 

そう言ってイナクトが再びブレイドを2本構えて…

 

『始めましょうか!!!』

 

そう言って突っ込んできた!

 

直ぐに此方もツインライフルから展開したサーベルでそれらを受け止めようとする。

が、

 

バチィ!

 

という音と共に受け止められたのは、右腕の一本のみ。

もう片方は…

 

『甘いのよ!』

 

という言葉と共に横薙ぎに振られ、正確に此方の胴体と腰の接続部分を狙ってきた。

 

『お前がな』

 

ただ、その攻撃は少し考えれば分かる物だった為、左足を蹴りを入れるように振り上げ、その裏の展開式クローアームでブレイドの付け根ごと左手を掴み、そのまま握りつぶす。

 

『なっ…?』

 

『まだだ』

 

直後に右手のブレイドを振り払いつつ、回転蹴りをお見舞いしてやる。

が、それは読んでいた様で、難なく避けられた。

しかし…

 

ドキュゥン

 

という音と共に、回転蹴りの最中に相手の死角を利用してサーベルモードから元に戻したツインライフルを、相手の頭部目掛けて発射する。

が、驚くべき事に相手はその攻撃をまるで最初から分かっていたかのように回避し、そのまま再び右手のブレイドで切りかかってきた。

 

思わず「あら」という間抜けな声が口から出てしまうが、気を取り直してイナクトに向き直る。

そして突っ込んできたイナクトの上を、宙返りの要領で越えると、マントの裏から使い慣れたビームピストルを取り出して、イナクトの右腕を肩の付け根から吹き飛ばす。

バランスを崩したイナクトはそのまま地面に激突しそうになるが、その隙を見逃す俺ではない。

直ぐに接近して行って、あいての頭と腰を引っ掴むと、そのままダメ押しのつもりでコックピットのある腹部を思いっきり蹴り飛ばす。

 

バギン

 

という乾いた音と共に、イナクトの頭と腰が付け根から砕け散った。

可哀相な気もするが、序でに左手と背面のブースターも破壊し、文字通り“達磨よりも酷い状態”になったイナクトに問いかける。

 

『…さて、どうする?続けるかね?』

 

返答は、無い。

気絶しているのか怒りに震えているのか、もしくはそれ以外か……

とりあえず反応も無いのでそのまま踵を返して去ろうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ク……』

 

不意に声が聞こえた。

出所はあのイナクトのコックピットブロック。

一体何かと思い声を掛けようとした、その時だった。

 

『…クク…く……ハハハハハハハ………アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』

 

『!?』

 

な、なんだコイツ?いきなり笑い出すって狂ったか?

 

『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!まさかと思ったけど、その動き方とその蹴りからのコンボで確信したわ!!!!アハハハハハハハハハ!!!』

 

……なんだ?何を言っている?

 

『……一体なんの話かね?』

 

『惚けてるんじゃないわよ!!!!あの動きあのコンボ・・・・・・・ああ、やっぱりアンタだったのね!!!!ってことは、さっきのあのトリコロールのガンダムはソランでしょ!?ソラン・イブラヒム!!』

 

…………んなぁっ!?

一瞬何言われたかわかんなかったけど、よく考えたら何かおかしいぞ!?

何故コイツ、刹那の本名を知っている!?

以前師匠からマイスターの詳細データを渡された際に、全員の本名を見た事はあるが、アレはたしかランク5だか7の情報で、こんな所で傭兵をやっていられるような奴が見られるはずが無いのに!?

…まさか、あの動きだけで分かったとでも言うのか!?

 

そんな疑問が頭の中を支配しているおれに、次の瞬間、イナクトのパイロットは、こう言った。

 

『勿論あんたにも会いたかったわよ!!!!ねえ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――エイジ・ヴェージェフ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ふむ。誰の事かね?それは?そんな人間私の知り合いには居ないな』

 

あら?あくまで惚ける気かしら?

それとも忘れてるのかしら?

 

『忘れちゃってるの?だとしたらソランが可哀相ね?あれだけ双子の妹のように可愛がってくれた昔の恋人が、今はすっかり自分のことを忘れちゃってるなんて』

 

『…いや、本当に知らないな…ソラン、という人間にも心当たりはない』

 

…あらら?本当に忘れてるみたい…?

 

『つれないわね。昔はあれだけ楽しく愛し合った(殺しあった)のに』

 

『愛し合うと書いて殺しあうと読む人間は私の知り合いには居ない』

 

『…結構メタな発言するわね…』

 

『君のほうもな』

 

そういうと、エイジはガンダムの踵を返して、空の彼方へと跳んで行った。

それを見届けた後、私はある事に気が付く。

 

「……いっけない。結局お仕事失敗だわ、これ」

 

だとしたら非常にマズイ。

先生からオシオキをされるのは一向に構わないが、今回は先生意外から淫猥なオシオキをされる可能性がある。

それは非常にマズイ。というかイヤだ。

最悪の場合変なことをしようとした奴らを切り刻めば問題は無いが、その場合は先生に二度と口を聞いて貰えなくなるかもしれない。

 

「……全く、今日は厄日なんだか吉日だったんだか……」

 

そう言いながら、辛うじて生き残ったカメラに先生の機体と、うちのPMCの機体が映る。

どうやらお迎えが来たようだ。

と、突然通信が入る。

大体この場合、かけて来るのは先生だ。

 

「…ハァ…しょうがないから大人しく怒られるか。怒られるだけなら気持ち良くて興奮するんだけど、小言を言われ続けるのはなぁ」

 

観念してスイッチを入れつつ、モニターに映った空を見上げる。

そこにはまだ、エイジの乗ったガンダムが撒き散らしていった翠の粒子が微かに漂っていた。

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

いきなりですが、今回は補足説明をさせていただきます。
ハディーの口調が戦闘中と戦闘無しの時と変わっている理由ですが、簡単に言うと彼女は戦闘に突入すると、気合を入れるために口調をわざと変えているからです。
え?そこまで変わってない?それは失礼いたしました……




で、アムロの過去っぽい物と、本作品の刹那の過去っぽい物もチラッと入れてみました。
これ、一応伏線です。
回収するのはもうちょっと後だけど。











で、此処からがアンケートになります。
簡単にご説明いたしますと、
『ロックオン兄貴(ニール)って、原作通り死亡させちゃっていいの?それとも生き残らせた方がいいの?』

…と、言う物です。

以前にじファン時代でも行いましたが、一応もう一回聞いておこうという感じです。

なお、下に片方のルートを選んだ場合のその後の進行が、簡単に書いてあります。
(変わる場合もありますが、概ねあんな感じです。因みにフラグやイベントの名前は、諸事情により代筆した妹が、プロットを見て勝手に考えた物らしいです)

ガンダムOOの小説を見てくれている方に質問なのですが、ロックオン(ニール)さんの処遇ってどうしたら良いですかね?
一応

生存→1期終盤にて、アムロ応急処置を施したデュナメスに登場確定→刹那と共闘イベント確定→その後ある程度戦ったところでOガンダムに乗り換え→“白い悪魔”イベント発生確定
及び→2期にてライルと和解イベント→ライル強化フラグON
及び→フェルトマイスター化フラグON→2期にて複座式のコックピットのガンダム登場
及び→最終決戦にてサーシェスVSディランディブラザーズ確定
及び→狙い打つ者イベント確定→2期でのアムロの乗機が少しの間“黒いデュナメス改”に
及び→映画版編にて複座型ガンダムの後継機登場

原作通り死亡→1期終盤にて、アムロGNスナイパーライフルをOガンダムに持たせて出撃→“白き流星”イベント発生確定
及び→フェルトマイスター化確定
及び→ライル・刹那外伝漫画での会話イベント確定
及び→最終決戦にてオリキャラ&サーシェスコンビVSライル&フェルトコンビ確定
及び→遺志を継ぐ物イベント発動確定→アムロと刹那の機体にGNスナイパーライフルの発展型搭載確定
及び→外伝“ニールさんとのあの世観光”イベント確定。“ぐっとくるパン屋”登場確定。

という事を考えてはいます。

基本的に特に何も考えずに気軽に書いてくださってOKです。
締め切りは……大体、来月の頭くらいまでですかね。
ただ、私の場合、結構優柔不断でフラフラしている節があるので、伸びる可能性もあります。
ま、そんな感じだと思ってくださって結構です。
所詮私ですから。




それではまた次回!


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八話―――モラリアの後始末(相棒の秘密もあるよ)


はい、八話です。
今回は後始末メインなので、お話はあんまり進んでおらず、いつもより若干短いです。
ご了承ください。

それでは本編をどうぞ


 

「…………」

 

ド初っぱから無言でごめんなさいね。

ちょっと考え事してたわ。

と、言うのも、先程の赤いイナクトのパイロットが言っていた、あの名前についてだ。

確か…

 

「エイジ・ヴェージェフ!エイジ・ヴェージェフ!」

 

ハロがそう言って、教えてくれた。

そうそう、“エイジ・ヴェージェフ”だっけ。

妙にその名前が頭に残っている。

確かに俺は師匠に拾われる以前の記憶がすっからかんだから、もしかしたらそれが俺の“昔の名前”なのかもしれないけど……

 

「…なんかおかしいんだよな……」

 

そう、おかしいのだ。

もし俺が本当にその人物だったとしたら、何故ソラン・イブラヒム―――刹那・F・セイエイは、初対面の時にあそこまで無反応だったのだろうか?

本人が忘れているという事もあるかもしれないが、それにしたって昔会った事があるとしたらもうちょっと何らかのリアクションを起こしても良いのだと思うが……

…それに、その名前を聞いても俺の頭には何の波紋も起こらないという点も気になる。

本当に聞き覚えが無いかのように。

果たしてそれは単なる人違いだという証明なのか?…それとも……?

 

「ポイント到着!ポイント到着!」

 

ふと、そんなハロの言葉で現実に引き戻された。

眼下を見下ろすと、青、緑、オレンジ、紫、赤のカラフルなパイロットスーツを着た、5人の男女が見える。

どうやら青いパイロットスーツの人物が、緑のパイロットスーツの人物に頬を叩かれてから、お叱りを受けているらしい。

……まあ、大体誰か分かるのが悲しい所だが。

 

「ハロ、降りるぞ」

 

「了解、了解」

 

そう言ってから、俺はOガンダムを近くの茂みに隠してからGN粒子を用いた偏光特殊ステルスによって、Oガンダムが被っているGNマントの見た目を近くの茂みの木々にそっくりにしてから、ハロを持ってヘルメットを被ったまま機体から降りてその一団の近くへと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、軍事演習上近くの狭い峡谷の中を抜けて司令部を襲撃し、ものの5分足らずで無条件降伏信号を司令部から空へと打ち上げさせた俺達は、大西洋のとある孤島に全員集まり今回ミッション中に問題行動を起こしたお嬢さんにカミナリを落としていた。

 

パァン!

 

「っつ…」

 

「…さて、刹那…叩いた後で悪いと思うし、さっきもミッション中に一応叱ったし質問もしたが、ここでもう一度お前に質問させてもらう……なぜ敵に姿をさらした?」

 

数秒間の沈黙。

だが、未だ刹那は顔を下に逸らしたまま黙っている。

 

「理由ぐらい言えって。な」

 

「…………」

 

それでも刹那は喋らない。

俺は表情を一層厳しくし、脅すように問いかける。

 

「強情だな……お仕置きが足りないか?」

 

それでも黙ったまま。ああ、もうこれだから思春期のお子様は扱いに困る!

業を煮やした俺がもう一度叩こうとすると、不意に横から銃を構える音がした。

ティエリアだ。

コイツもどうやら俺と同じ様に業を煮やしたらしい。

が、それはあまりにも拙過ぎる!

早計にも程があるぞ!

 

「言いたくないなら言わなくていい。君は危険な存在だ」

 

「やめろティエリア!」

 

慌ててティエリアの銃を押さえ込む。

 

「彼の愚かな振る舞いを許せば、我々にまで危険が及ぶ。以前のユリ・花園(ファーイェン)ような事態に陥る可能性も無くはない」

 

それを聞いたユリが、顔を暗くする。

まあ、確かにあの時は危なかった。

もしあの時正体不明の機体が来てくれなかったらと思うと…ぞっとする。

が、それとこれとは話が別だ。

 

と、そんな事をフッと考えたその時だった。

 

ガサッ

 

「あ、ヤベっ(ボソッ」

 

そんな音と声が近くの茂みから聞こえた。

咄嗟に全員で銃を抜き、その方向に向ける。

そこに居たのは…

 

 

 

 

 

 

 

「ぬおぉぉ!?いきなり銃口を向けるな!?決して私は怪しい物ではない!そしてそこの緑色の男!一日に二回も同じ人に銃口向けるとはどういう了見だ!?…って紫色の優男は引き金にかけた指に力を込めるな!?怖い!怖いから!?」

 

黒い線が縦に入った、西瓜のようなカラーリングのハロを両手で盾にしながら慌てている怪しさ満点の白いパイロットスーツを着た人物と、

 

「盾ニスルノ止メロ!盾ニスルノ止メロ!放セ!放セ~!」

 

そいつの手から必死に逃げ出そうとしている、西瓜のようなカラーリングのハロが居た。

 

「…………テラカオス」

 

「刹那。そんな言葉何処で覚えてきた?別に怒ったりしないからお父さんに包み隠さず話しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?つまりお前さんは、今日俺たちをコッソリと援護してくれてた、“あのガンダム”のマイスター…だと?」

 

「あ~…嘘は言ってはいないから、いい加減その親の敵を見るような目とか、警戒心剥き出しの目は止めて欲しいのだが……」

 

「悪いが、こっちも立場上ホイホイとそんな言葉を信用する訳にはいかないんでね……何か証拠になるような物でもあれば良いが…」

 

あの後、とりあえずその場にコイツを正座させて、銃口を向けたまま俺メインでこの正体不明のガンダムマイスターに尋問をしている。

今分かっている事は、

 

・ボイスチェンジャーで声を変えている。

 

・正体をバラすと、計画が根本から破錠しかねない為、ヘルメットは脱げない。ボイスチェンジャーもOFFできない。

 

・監視者も自分と愛機のガンダムの存在は一切知らない。むしろ知られた場合、自分に知った人間の抹殺許可がヴェーダから直々に下りる。

 

・現状自分を知っているのは、今此処に居るマイスター全員と、彼の上司。そして王(ワン)留美(リューミン)のみ。

 

という4点だ。アッサリとペラペラ話す辺り敵ではないのかもしれんが、そうやって油断させるという手もあるにはあるのだから警戒しておくに越した事は無い。

 

「他には?」

 

「禁則事項で『スチャ』待て待て待て!!!本当に禁則事項なのだ!!なんだったらヴェーダに直接聞いてみてくれれば良い!!!それでも駄目だったなら、ええいもういっそ煮るのも焼くのも好きにするが良い!!!!!」

 

そう言ってその場で腕を組んで胡坐でどっしりと座り込む白いパイロットスーツの人物……ああもう長いから、不審者でいいか。「酷い!!」うっせえ!!地の文に入るな!人の思考に入ってくるな!

兎に角不審者がそうしてから、俺達は一度コイツから距離を取り、円陣を汲むようにして話し合う事にした。

 

「……どう思う?」

 

(チャーハン食べたい)

 

「だから不審者黙りやがれ!!話し合いに入ってくるな!!」

 

「何も言ってないのだが!?」

 

喧しい!!だったら何故↑のような思考が俺の耳に入る!?

ええい!とにかくあの不審者は無視だ無視!!

 

「と、兎に角話を戻そう。嘘は言ってる様には見えないけど……ユリ。以前君を助けてくれた人は、あんな声だった?」

 

おお!アレルヤナイスだ。そう、アイコンタクトで伝えると向こうは苦笑を返してくれた。まあ、そうなるわな。うん。

 

「…んー……いや、もっと若かったな。どっちかというと、刹那くらいの少年の様な感じだった……だがボイスチェンジャーを使っているとなると、その限りではないかも……しかし…あ~、なんとも言えないな…ティエリア。お前はどう思う?」

 

まあ、確かにな。あの時俺もチラッと聞いたが、あの『ライフカード』とかいう意味不明な叫び声は明らかに刹那くらいの子供の声だった。

それは間違いないだろう。

だが、ユリも言った通りボイスチェンジャー使用で声を変更している…と、なるとますます確定はし難くなる。

取り敢えず、今はまだ結論を出すべきじゃねえな。ティエリアの意見も聞くべきか。

 

「…あんなマイスターの存在は、ヴェーダからは教えて貰ってはいない。しかし、ヴェーダの名前まで出したという事は、僕個人の意見として、信頼性は高いと思われる。…彼が此処から逃げ出す為に嘘をついている訳ではない事前提の話だが……刹那・F・セイエイ。期待はしていないが、念の為君の意見も参考程度に聞かせてもらおう」

 

言いながらティエリアが刹那を見る。

…って、オイオイティエリア。期待はしてないって…そりゃあまりにも酷すぎねえか?

 

「お腹がへった」

 

前言撤回。ティエリア。お前が正しかった。

 

「よし黙っていろ」「悪いが珍しくティエリアの意見に賛成だ」

 

「冗談だ。空腹なのは本当だが」

 

「冗談って言えるの?それ……」

 

そんな突然の刹那のボケに、俺を含めて刹那を除いた全員…あのティエリアまでもが、一気に脱力してしまう。

いや、何というか刹那は、以前の鋭い抜き身のナイフの様な雰囲気とは違い確実に柔らかくなった。

のは確かに良いものの、最近はこういったシリアスな状況下で天然ボケをかます事が多くなってきたっていうのが…まあ、頭痛の種とまではいかないが問題っちゃ問題にはなっちまってる。

実際にリラックスは出来るが、若干KYになっているような感が否めないんだよなぁ……

本当に、一体何が原因なんだか。

 

「で、刹那。真面目な意味でのお前の意見は?」

 

「……信用は、出来ると思う」

 

(…ほう。意外な言葉が出てきたな。)

 

意外な刹那の言葉に、思わず驚いて目を見開く。

それはティエリアも同じだった様で、殆ど俺と同じリアクションをしていた。

 

「その根拠は?」

 

「助けてくれた事は事実だ。それに、何かを企んでいるのなら、今でもそこで暢気に寝てなどいられない筈だからな」

 

意外な事に、刹那のやつは結構ちゃんと考えて物を言っていた。

計画発動当初と比べると、本当に随分と成長したもんだ…………って、ん?

 

 

寝ている?誰が?

 

 

刹那の言葉に驚いて、俺たちが振り返ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「zzz……zzzz………zzzzzzz…うぇへへ…休みだ…休みだ……自由だ…ひゃっはー…………zzzzz」

 

……そこには胡坐を掻いて腕を組んだまま、器用にヘルメット被りっぱなしの頭を前後に動かして船を漕ぎながら寝息を立てている不審者が、西瓜柄のハロを抱えて座っていた。

 

(…ってぇ!)

 

「起きろこの馬鹿!」

 

ガスッ!

 

思わず怒り半分呆れ半分で、不審者の頭を引っ(ぱた)いてしまう。

引っ叩かれた方は、引っ叩かれた方で、「何だ!?敵襲か!?竹槍は?竹槍は何処だ!?非常食は!?」などと置きぬけに喚きつつアタフタしている。……竹槍?

 

「尋問中に寝てんじゃねえよ…ったく…とりあえず、お前さんの事を俺達は信用するって事で意見は纏まった」

 

「おお、そうか。スマンな」

 

先程の雰囲気とは打って変わって落ち着いた感じで話す不審者。

どうやら自分の言う事がやっと信じてもらえた事で、ホッとしたらしい。

…こうやって見ると、何処かティーンエイジャーのような感じもするな、こいつ…

ただ、落ち着いた状態のこいつと話していると、自分と同年代かそれ以上の人間と話しているように錯覚することもあるから……なんだかなぁ…?

なんというか、この不審者、雰囲気がチグハグなのだ。

それが更にこいつの怪しさを倍増させている訳なのだが……

 

「? どうかしたかね?」

 

「…いや、なんでもない」

 

「?」

 

……絶対気付いてないんだろうなぁ、こいつ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を目の前の男が考えているとは露知らず、やっと尋問から解放された俺は当初の目的を果たす為に、ティエリア・アーデに頼んでトレミーの艦長兼戦術予報士の“スメラギ・李・ノリエガ”へと通信を繋げてもらった。

今、彼女を含めた実働部隊―――プトレマイオス(通称トレミー)のメンバーは、今回のミッションのオペレーティングの為に王留美が用意した別荘に居るらしい。

最初は渋っていたティエリアも、『頭を下げる→土下座→地面に頭を擦る→ボソッと「ヴェーダ」と呟く』というコンボの前には流石に耐え切れなかったようで(凄く不本意そうではあったものの)快く貸してくれた。

 

ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ・・ピピ

 

程無くして、通信端末にものっそい美人さんの顔が映る。

…なんだかすごく眠そうなのは何故だろう?

 

……ああ、時差か。

 

『はい』

 

「あ、始めまして。私今回トレミーのミッションのバックアップに当たらせて頂いた、“O-01”といいます。以後、どうぞよろしくお願いします」

 

『あ、ど、どうも。ご丁寧にありがとうございます』

 

とりあえず人付き合いで大切なのは挨拶である。

特に初対面での挨拶でその人の第一印象が決まってしまうので、なるべくこういった組織の中では礼儀正しくしといた方が良いのだ。

……何?そんな事言うんだったら、ヘルメット取れだと?

取れるんだったらもうとっくのとうに取っとるわい!

さて今何回『と』って言ったでしょう?

 

………………………………………………………いかんな。

 

精神的な疲れと正座をしていた事による足の痺れと、ずっと演技をしていた事によってフラストレーションが溜まり過ぎて、頭の中がパーになりかけている様だ。

さっさと用事を終わらせて、さっさと家に帰って、ゆっくり休もう。

 

『…えっと、私も自己紹介した方が良いのかしら?』

 

「そちらの御判断に任せます」

 

『……それでは通信を傍受されている可能性も考えて、此方は自己紹介しないという事で…ごめんなさいね?そっちにだけ名乗らせちゃって』

 

「いえ、お気になさらず。とりあえず、今回私がそちらへと連絡している理由を掻い摘んで説明いたします。というのも私の上司から今回、もしも実働部隊に会うようであればこのデータを渡しておいてくれ、と言われておりまして」

 

そう言いながら、俺はハロを呼ぶ。

ついさっきまで楽しそうにオレンジハロと遊んでいたのを邪魔されたのが不服だったのか、若干後ろを向きながら此方へと跳ねてきた。

 

「ナンダ?ナンダ?」

 

「ハロ、データを出してくれ。ああ、それと初対面の人だからちゃんと挨拶して置くように」

 

「ME☆N☆DO☆KU☆SE」(・ω・)

 

「コラ」(#・д・)

 

そう言いながら、少し小突く。

するとブーブー文句を言いながらも口からコードを出してくれた。

それを端末に接続して向こうのパソコンにデータを転送する。

データの中身は俺も良くは知らないが、おそらく師匠の事だから……碌でもない事が書いてあるに違いない。

 

『…なんだか』

 

「はい?」

 

「ナンダ?ナンダ?」

 

と、不意にスメラギさんから声が掛かる。

何だろうと二人揃って首を傾げるとこんな事を彼女は仰ってくれた。

 

『いえ…なんだか貴方のハロって、私達の知るハロよりも何処か感情豊かな気がして…ね』

 

そんな事をスメラギさんが俺のハロを見ながら言ったので、一瞬だがその言葉の意味が分からず怪訝に思う。

が、ふと同じように相棒を見た瞬間にその言葉の意味が分かった。

本来、ソレスタルビーイングで運用されている“ハロ”は必要最小限の人員で活動を行うために、回避運動などMSのサブパイロットから専属の小型ロボットによるメンテナンス活動など、あらゆる面をこなす独立型万能マルチAIとして存在する。

元々は2196年に太陽炉の製造に当たっていた木星探査船“エウロパ”で太陽炉の開発に携わったとあるイノベイド(どうも聞く所によれば師匠と同じタイプの奴だったらしい)の手によりハンドメイドで製作され、その1台がGNドライヴと共に地球に送られた結果、それを発見したCBのメンバーがコピーしたものだ。

しかし、おそらくその当時はそこまで多種多様なシステムは搭載はしていなかっただろう。

 

閑話休題

 

で、この“ハロ”は、勿論人間とコミュニケーションを取る為に、会話機能が搭載されている。

……といっても、人間のように感情といった物はきちんとプログラムはされていないのだが。

(例外として、一部の物にはイノベイドのパーソナルデータが入力されている為、それらに関してはきちんと人間と同じ様に感情もあれば、自身の本来の姿を映すためのホログラム機能も搭載されていたりする)

 

おそらくその為だろう。

スメラギさんが、俺のハロを見た瞬間に少し驚いたのは。

 

補足すると、俺のハロが此処まで表情豊かなのにはキチンと理由がある。

以前も言ったと思うが、俺のハロは師匠と俺の手によって大幅な魔改造とも呼ぶべき処理が施されている。

その際に師匠は何を思ったのか、本来であれば手に入るはずも無いレベルの丸い形をした超超超高性能スパコン―――小型のヴェーダのとも言うべき、オーバーテクノロジーの塊を持ってきやがったのだ。

師匠曰く、“もう一つのヴェーダ”を作る際の副産物として出来上がった物らしいのだが……組み込んだ後で思い出したように調べてみた結果、本物と比べても容量が100ギガバイトくらい低いだけで、十分にヴェーダの代わりが出来るレベルの物品だった。

 

ハッキリ言って、これには流石の師匠もリアルに腰を抜かした。

 

どうやらこのミニマムヴェーダ自体は師匠が他のイノベイドに“完璧なヴェーダのコピー”を作らせた際に失敗作として提出された物だったらしく、このときに調べるまで師匠は『どうせ他のスパコンと変わらない物品』としか認識していなかったらしい。

というか、ちゃんとこれが何なのか解っていたら絶対こんな物俺に渡したりしないで自分で使うよな、この人。

 

閑話休題

 

とまあ、そんなチート臭い……というか、チートそのものなスパコンを搭載している結果としてコイツは空き容量を殆ど無駄な機能に使っていたりする。

例えば大量のゲーム(ジャンル問わず)。

例えば膨大な映画やアニメやドラマやバラエティ番組のデータ(無論ジャンル問わず)。

例えば俺が取り付けたカメラ機能、及びヴェーダにアクセスした際に記録した地球上に一市民として存在しているイノベイドたちから送られてくるデータによる、様々な人や動植物の日常の映像。

etc,etc,etc…………

 

そんな物を大量に保存し、暇な時には延々とそれらを見続けていた結果。

驚くべき事に、コイツ(俺のハロ)は人間となんら変わりない【心】を学習し、獲得するまでに至ったのである。

 

因みに、知能は人間の3歳児程度らしい。

 

しかももっと驚くべき事に、コイツはいまだに自分で自分を改良しているらしい。

その根拠はつい先日、暇潰しにこいつをメンテしたときにふとそのスパコンの容量を見てみたら、なんと10メガバイトほど容量が増えていたのだ。

一瞬目の錯覚かと思ったが、何度見返してみてもその10メガバイトは存在し続けている。

流石におかしいと思って相棒を問い質した所、なんとコイツは勝手に自分の中のスパコンの容量を増やす為に色々と自分で細工していたらしい。

3歳児程度の知能でここまで出来るか?とも一瞬思ったが、よくよく聞いてみると明らかに弁明の内容の所々によーく聞き慣れた言葉の使い回しが見て取れた。

一体誰の使い回しかというと……まあ、もう解ってるだろうとは思うが、やっぱり師匠だった。(唐辛子爆弾で脅した所あっさりと白状した)

どうやら相棒が自分の力で進化しようとしているのを面白がって、色々と助言したらしい。

 

閑話休題

 

とりあえず、スメラギさんには間違ってもこんな事言えないので、適当に「自分と師匠で弄くった結果こうなりました」と言っておく事にした。

…それでも彼女は納得したようには見えなかったけど。当たり前か。

 

とにもかくにも、暫らくするとデータが全て転送された事を告げるメッセージが画面上に映し出される。

これで本日の俺の仕事は終了だ。

なんとも長い一日だったものだ(汗

 

……が、それもこれまで。

 

とりあえず師匠から渡された計画のプロットを見る限り、当分は俺にお鉢は回って来ない筈だったのでその分家でゆっくりできる……筈だ。何事もなければ。

 

「これでデータの受け渡しは終了。同時に私に課せられたミッションとそちらの今回のミッションは終了となります。お疲れ様です。夜分遅くに申し訳ありませんでした」

 

『ん~まだ“夜分遅く”という言葉にはちょっと語弊のある時間帯なんだけど……まあいいわ。そちらもお疲れ様。協力を感謝します』

 

「いえいえ、大した事はしていませんよ」

 

そう言ってから、「それでは」と言いながら頭を下げて、通信を切った。

そして後ろを向いてから、そのまま自分の機体のほうへと歩きだ――――

 

「おいちょっと待て」

 

――――せなかった。

内心で舌打ちしながらも、今声を掛けてきた青年―――ロックオン・ストラトスの方へと振り返る。

 

「何か?」

 

「あ、いや、何かって言うかな……もう帰るのか?」

 

「ああ。元々私の仕事は今の一軒だけだったのでな。そも、仕事が終わったら私はさっさと自宅に帰る主義だ」

 

「……そうか……いや、呼び止めて悪かった。それだけ聞ければ十分だ」

 

「何、特に気にしてはおらんよ」

 

そう言って踵を返そうとして……ふと立ち止まる。

 

(…そうだ、面白い事を思いついた。)

 

それを実行すべく、刹那の方へと振り返る。

向こうは突然俺が自分を向いたので、何事かと怪訝な顔をしている。

そんな彼女に、俺はこう言ってやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アムロ・レイから伝言だ。『何か大ポカやったみたいだから、これから3日間、何か特別な事でもない限りは、お前のゴハンはおにぎりだけだ。異論も反論も認めん』だそうだ」

 

【せつなは めのまえが まっくらに なった !!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スメラギ・李・ノリエガは……いや、彼女と共にその場に居たトレミーのメンバーは、今、もしかしたらソレスタルビーイングが計画を発動してから嘗て無いほどに困惑していた。

理由は、謎のマイスター―――O-01から送られてきたデータの内容だった。

その内容はただ簡潔にこうとだけ書いてあった。

 

 

『何かマイスター達の息が合っていないというか仲が悪そうなので、日本にあるアジトで親睦会でもやろうと思いますイヤッホウ。日程は大体今から3日後。参加者はトレミーのマイスター全員(強制)と、参加希望者。及び現地のエージェントと関係者のみでやろうと思います。遅刻しないように。因みに場所は添付ファイルの中に、地図で書いてあります。

 

P.S:一応これはヴェーダからの提案です。

 

更に追伸:刹那・F・セイエイへのオシオキは、おそらくこれを届けた人間がサラッと終わらせていると思うので、あまり追求してあげないで下さい

 

更に更に追伸:泥酔許可』

 

 

……どういう事?

 

おそらく今此処にいるトレミークルーの全員が、そう思っていた。

ただ、約一名、桃色の髪を持つ少女だけは“現地のエージェント”が一体誰だかわかってしまい、密かに合掌して祈りを捧げた。

 

「…どういうことっすかね?これ?」

 

まず最初に声を出したのは、プトレマイオスの操舵士“リヒテンダール・ツエーリ”―――通称リヒティだ。

普段、陽気で調子のいい性格をしている彼も、このデータには流石に唖然としているらしい。

 

「どういう事って…こういう事じゃ、ないの?」

 

彼の疑問の声に返答したのは、プトレマイオスの戦況オペレーターの一人である“クリスティナ・シエラ”。

かく言う彼女もイマイチ文面の内容を理解できてはいないらしく、リヒティに対する返答も語尾が疑問形になっている。

 

「罠という可能性は無いのか?」

 

プトレマイオスの砲撃士でもあり、予備マイスターとしても登録されている“ラッセ・アイオン”が罠である可能性を指摘した。

が、

 

「それは……無いと思う」

 

というフェルトの言葉によって、その可能性は即座に否定された。

それを聞いたスメラギが、ハッキリと否定の言葉をあらわしたフェルトに驚きつつも、彼女に怪訝そうな声で疑問を漏らす。

 

「…フェルト、何故そう言いきれるの?確かに地図までご丁寧に付けてきてくれているし、住所もしっかり…と言うか、電話番号まで書いてあるわね…うわ、メールアドレスまで…まあ、いいわ。それはともかく、此処まで書いてあってもそこまで信頼性のある情報ではないと思うけど…」

 

彼女がそう言った瞬間、フェルトはこう言った。

 

「……だって……」

 

「だって……何?フェルト」

 

少し口篭ったフェルトに、クリスが答えを促す。

そのまま少し口篭っていたフェルトだったが、その内ややあってこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって…その場所…少し前に私が刹那とユリと一緒に潜伏してた所なんだもの…」

 

そのエージェントの連絡先も分かるよ、と言って、携帯端末を取り出すフェルト。

暫らくしてからその一室から、驚愕の叫びが大音量で王留美の別荘全体に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブエックショイ!!!!!!!………う~?何なんだ今日は?何か俺、今日こんな感じの事ばっかりじゃない?」

 

「気ニスンナ!気ニスンナ!」

 

その頃、何も知らないアムロ(生贄)は、Oガンダムに乗ってなんとも暢気に日本海上空を自宅に向かって飛んでいた。

…そこに自分を苦労の渦に叩き込まんとする悪魔が待っている事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフフ………アムロ。僕がこんな面白い事に、君を放っておくと思っていたのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄緑の悪魔は笑う。

白い子羊の哀れな行く末を思って。

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

今回はモラリアの後話と、ハロの秘密。
そして次回の馬鹿騒ぎの下準備を描写してみました。
なので戦闘描写は一切ありません。

そしてトレミークルー(おそらく)初登場!(フェルト以外)
おやっさんとモノレ先生は、所用で只今席を外しておりましたが、次回にはちゃんと確実に登場すると思いますよ!
口調が合っているか、激しく心配です……





それではまた次回!


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九話――――親睦会やりました(一応家主の筈俺になんの断りも無く話は進んでおりました)


今回は親睦会です。
…が、もしかしたらそこまでハッチャけられてないかも…
あと、一部の人間に激しいキャラ崩壊がありますので、そういうのが苦手な方はご注意を。

それでは本編をどうぞ。


「という訳で3日後に親睦会やるよー!!!」

 

「とりあえず色々と言いたい事は多々あるが、これだけは言わせてくれ師匠。どうやって入ったし」

 

………疲れた身体を癒す為に家に帰ってみたら、何故か師匠と姉さん達が物凄く寛いでいました。

何がおきているか分かりませんでした。

幻覚とかそんなちゃちなもんではなかったと思います……あれ?作文?

 

等と阿呆な事が余裕で考えられるくらいに俺は混乱していた。

とりあえず視界の隅でリヴァイブ兄さんが何故かメイド服着せられて、グラーベさんとヒクサーさんが頬を引き攣らせながらそんな彼からお酌されているというカオスな光景が見えた事は確かである。

……つーか何やってんのさ、兄さん。

アンタそんなキャラじゃな…何?スパジェネの試合で最下位になったからバツゲーム?

有り得ないだろ。第一リジェネ兄さんが居るんだからそんな事あるはず無い……筈。

そう思いながら、テレビの方を向くと、其処では……

 

 

 

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

 

「ばっ馬鹿な!?この俺がリジェネ如きにやられるだと!?」

 

「ちょ、ブリングだいじょ……って、シシオウブレード振り被りながらこっちに来るなぁぁぁぁ!!」

 

「っ!ヒリング援護す「見え見えなんだよォォォォ!!!!」なっ!?シシオウブレード片手に、J(ジャイアント)T(トンファー)R(リボルバー)で牽制だと!?」

 

「遅い遅い遅い遅いィィィィィィィィ!!!!そんなんじゃァこの僕の新たな愛機である“R-1改”には何時まで経っても勝てないYOoooooooooooHoooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「うるっさいわ、このポンコツ発狂紫ワカメがぁぁぁぁ!!!アンタのそんな合体も出来ないR-1なんぞ、あたしの“ART-1”で真っ二つにしてやるわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ!!待てヒリング!!迂闊に突っ込むな!!!デヴァイン!挟み込むぞ!!!」

 

「言われなくても分かっている!!!」

 

「WRRRRRYYYYYYYYYYY!!!!!貧弱貧弱ゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

……おおおおおお!?

リジェネ兄さんがあろう事か、ただシシオウブレード装備しただけの“R-1改”でうちらの中では“4強”に数えられるブリング兄さんとデヴァイン兄さんのタッグと、それなりに強いはずのヒリング姉さん相手に無傷で立ち回ってるよ!?

一体如何したんだろうか……?覚醒か?覚醒したのか?

等と考えながら兄さんの動きを良く見ていると、俺はある事に気が付いた。

 

(…あれ?以前と動きも戦法も大して変わって無くないか?精々変わっているとすれば、武器を両手持ちしている程度……)

 

と、其処まで考えて俺はある考えに行き着いた。

 

元々リジェネ兄さんは、R-1よりもサイズのデカイ大型から超大型の機体をメインで使って、小回りを利かせて相手を翻弄するという今R-1改でやっている戦法で戦っていたのだ。

…だが、その戦法は本来であれば今彼が使っているR-1等の中型から小型の機体でするべき戦法である。

 

つまり、彼は本来するべき戦闘スタイルではなく、全く違う、ある意味間違った戦闘スタイルで戦っていたのだ。

 

本来、彼がいつも使っていた“ツヴァイザーゲイン”や“ケイサルエフェス”といった大型又は超大型の機体は、基本どっしりと構えつつ、パワーとコンボ等のテクニックで押し切るような戦法が正解なのだ。

だというのに、兄さんのように小回りを利かせて相手を翻弄するのが主体の戦法なんぞとってたら隙が大きいのを利用されてボコボコにされるのは当然なのだ。

……が、三人が一方的にやられている理由はそれだけではないだろう。

 

考えられる事は、おそらく三人ともいつもと違う敵の機体サイズに戸惑っているのだろう。

このゲームでは機体サイズが大きくなればなるほどに、攻撃の当たり判定部分が大きくなっていく。

そのため、大型から超大型の機体。その中でも特にスーパー系と呼ばれるような機体は、挙動もリアル系と比べると少しゆっくりしている為、攻撃が当て易いのだ。

たぶんだと思うが、三人はリジェネ兄さんのいつもの動きをしている物がいきなり小さく、そして挙動もスピーディーになっている為動揺してしまっているのだろう。

 

……ただ、その事に気付いている人が、今此処に果たして何人いるのやら……

俺の予想では、とりあえず師匠とグラーべさんと、ヒクサーさんあたりは気付いていると思うが…

 

そんな事を考えながら、三人へと視線を向ける。

三人は俺が向けている視線の意味をリジェネを見た瞬間に分かったのか、苦笑して返してきた。

……残念ながら、絶賛女装中のリヴァイブ兄さんには伝わらなかった様だ。

 

それにしても兄さん。

何でそんな恥らったような表情とか仕草してんのですか。

もっと逆に堂々としていなさいよ。身内しか今居ないんだから、誰に見られたって困るもんじゃないでしょう?

ただでさえ見た目が中性的だから女性に一瞬見えてしまって、いろんな意味で胸クソ悪くなるのですが。

主に一瞬とはいえ「カワイイ」と思ってしまった、自分とかに。

 

そんな感じで暫らく経つと、『フィニッシュ!!』という音声と共に、決着が着いた。

結果はなんとリジェネ兄さんの一人勝ち。しかもパーフェクト。

恐るべき事態である。

あれだけ以前俺達から徹底的にボコボコにされていたリジェネ兄さんが、俺達の中では随一の実力を持つブリング兄さんとデヴァイン兄さんのタッグと、決して弱いとは言えないヒリング姉さんの三人を相手にパーフェクト勝ちしているのだ。

どれだけ兄さんとR-1改相性良いんだ?

 

逆に最下位になったのは、大方の予想を裏切る事無くヒリング姉さん。

まあ、あれだけ突っ込んでいれば真っ先にやられても不思議ではない。

(因みにブリング兄さんとデヴァイン兄さんは、二人纏めて仲良くT-LINKソード(投擲)の餌食となって、2位タイ)

 

「……と、言う訳で今姉さんはバツゲームである黒猫服(露出の多い奴。一瞬水着と間違えた)にお着替え中…と。しかも俺と会わない間に、身体女性にしてもらったのね。良かったじゃん。細いドラム缶体型から脱却して、少し凹凸が付いて」

 

「あたしのこの姿を見て第一声がそれか!?もっと他に言う事無いの!?」

 

「結構似合っててカワイイです」キリッ(`・ω・´)

 

「バッ、真顔で言うな!!!」/////// (//_//)

 

あらあら真っ赤になっちゃって。

いつもの仕返しも兼ねて言ってみたんだけど、こういう一面があるから姉さんは地味に可愛かったりするんだよな。

……勿論弟としての意見ですよ?

男としてじゃないですよ?

 

……で。

 

「リジェネ兄さん、勝負しようぜー」

 

「フハハハハハハ!!!今のこの僕に自ら勝負を挑むなど無謀な!!!その思い上がった性根を叩きなおしてくれるわァァァァァァァン!!!」

 

……馬鹿め。

俺がやるといった瞬間に目が思いっきり光った人間が居た事に気付かなかったのか。

そう思いながら、テレビの前まで言って、コントローラを握った時だった。

 

「では、僕も混ぜてもらおう」

 

そう言いながら、ズイッという擬音が聞こえる様な勢いで、師匠が俺の隣に座った。

そのままコントローラを操作して、機体を“スーパーアースゲイン”に決定し、俺に目線だけで話しかけてくる。

 

こんな形で少し不満だが、そろそろここいらで決めようじゃないか。

 

と。

最初何を言っているのか分からなかった俺だが、少しその目を見返しているうちにその意味を理解した。

同時に俺も、機体をスーパーアースゲインに決定する。

…つまり師匠が言いたかった事はこうだ。

 

『いい加減にどちらが真の“スーパーアースゲイン使い”か決めようじゃないか。』

 

…と。

…あまり認めたくは無いが、俺も基本的に“アースゲイン系統”の機体はよく選択するし、尚且つ師匠と同じ様に“スーパーアースゲイン”はその中でも一番使いこなせていると言っても過言ではない。

故に師匠のこの密かな申し出を断る理由は無い。

というかこのクソ師匠から逃げるという選択肢が浮かばない。

 

(…望む所だ、クソ師匠!!!)

 

そんな感じで俺と師匠の間に緊張した空気が走る。

リジェネ兄さんがその空気を読めずに何か言っているが、既に火花を散らしていた俺達にとってその声は別に気にするほどの物ではなくなっていた。

そうこうしている内に、画面に試合開始のカウントが表示される。

コントローラを握る手に汗がじんわりと浮かぶ。

意図せずに息を止める。

始まる瞬間を見逃さんと、目を見開く。

 

そして次の瞬間、

 

始まりのブザーが鳴ると同時に、

 

俺と師匠は、

 

自身の倒すべき相手に対して開始早々に、

 

最大級の攻撃をぶっ放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「WRYAAAAAAAAA!!!!シシオウブレ「「奥義!!!鳳凰光覇ァァァァァァァァ!!!!!!!」」アッー!!!!」

 

結論:どんなになっても、やっぱりリジェネ兄さんはリジェネ兄さんのままだった。……というか何でGIOGIO?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「買出し~。買出し~ブギ~…っと」

 

「は、ははは……アムロ、なんだかご機嫌だね」

 

「沙慈よ。本当にそう見えるのならお前の目玉今すぐ刳り抜いて眼科に持っていくぞ」

 

「いきなり怖い事言わないでよ!?ちょ、スプーンなんてどっから出したのさ!?」

 

「は、ははは…相変わらず二人って絡むと漫才始めるよね…ちょっと羨ましい」

 

「「ルイス何言ってんの!?」」

 

……あれから2日が経った。

師匠達は相変わらずアジトに居て、思いっきり寛いでいる。

ただ、師匠以外の皆は兎も角、師匠自身はどっかのお偉いさんの小姓やってた筈である。

大丈夫なのか?と、不安になり聞いてみた所、どうやらヴェーダの場所が何処にあるのか調べて来るという名目で此処に居るとの事。

だから精々1ヶ月程度であればブラブラとしていても大丈夫らしい。

 

そんな訳できっと今頃アジトで俺のゲーム機を勝手に引っ張り出してスパジェネでもやっている頃だろう。

他の連中は……イマイチ良く分からない。

姉さんは勝手に俺の部屋を物色しているか、どこぞへと買い物に出ているかなのだが……あの人数の中でたった一人だけで買い物に行くような人じゃないし……リヴァイブ兄さんは……パソコンでMSの各データ閲覧……とか?

ブリング兄さんとデヴァイン兄さんは…なんだろう?

よく考えてみると俺、あの二人がゲームマニアでコーヒーマニアで読書家って事位しか分からな……って、分かってますね。たぶん師匠に便乗してゲームしてるか、自分達でオリジナルブレンドのコーヒー作って読書タイムに突入してるかですね。

リジェネ兄さんは……たぶんスパジェネで師匠に勝負挑んで返り討ちされて真っ白になってるかな?

で、グラーベさんとヒクサーさんは、アジトに在るシミュレータの調整かな?

地獄の修行が、なんかもっとパワーアップしてそうで怖いんだけど…(汗

 

因みに只今は明日の夕方からある親睦会の料理の材料を買いに行っている最中である。

何故沙慈とルイスが居るかというと、ただ単に途中でデート中の二人に会ってしまい、そのままズルズルと一緒に行動する事になってしまっただけである。

 

「しかし…何もこんな時に出かけなくたって」

 

ふと、沙慈がこう呟いた。

それに反応したルイスが、訝しげに彼に問いかける。

 

「何?まだモラリアのこと気にしてるの?」

 

「…うん。まあね……って言うか、ルイスこそAEU側じゃないか。気にしないわけ?」

 

「モラリアなんて行ったことないし、わかんないって……そういえば、アムロは?」

 

「悪いが、俺は生まれも育ちも此処だし、あっちの方の事には基本興味ないのよ」

 

そう言いながら、俺は再び歩き出す。

どうやら二人は授業の合間にソレスタルビーイングに関するニュースを見ていたみたいだ。

それを見ていた沙慈の心境は複雑なものなのだろう。

以前も言ったと思うが、以前二人は謀らずしも結果的にソレスタルビーイング―――厳密に言うと、キュリオスにだが―――助けられている。

しかし、その自分とルイスを助けてくれたガンダムとその仲間が、今度はあの時とは正反対の行動をしている。

きっと、それを見ている沙慈の心の中にはこんな疑問が渦巻いていることだろう。

 

『何故、自分達を助けてくれた彼らが、新たな憎しみの連鎖を生みだすような事をするのか』

 

と。

 

そんな彼に、もしも俺が、あの時ガンダムに乗って当事者の一人になっていたと言ったらどんな反応をするだろうか?

冗談だと笑い飛ばすのか、それとも――――

 

(…止めよう。俺らしくない。所詮はIFの話だ)

 

心の中でそう呟いて、俺は思考をストップした。

 

一方で、そんな沙慈とは正反対に、ルイスは一向に気にしていない様子だった。

 

「で?お前ら今日は何処に行こうとしてるんだ?」

 

いつまでもこんな話題では、話が続かないな。てか気が滅入る。

そう思った俺は、二人に差当たりのの無い質問を投げ掛ける。

そんな俺たちの隣を一台のバスが通りぬけていく。

チラッと、そんなバスの中から不穏な気配を感じ、目だけを其方へと向ける。

すると、本当に一瞬だけだが黒い服を着た男が見えた。

しかし、次の瞬間その不穏な気配も霧散してしまい、俺はその事を気のせいだと思って其処まで気にするほどの事ではないと、直ぐにその事を思考の外へと追いやってしまった。

 

「ウフフ、まずは洋服を見て、洋服を見て、洋服を見る」

 

「洋服見るしかないし………第一、それみんな自分のでしょ」

 

「全くだな…せっかくのデートだっつーのに、そんなんで良いのかよ?」

 

「良いのよ~♪」

 

沙慈が呆れてため息吐き、俺が興味なさ下に頭を書いて口を出し、そんな俺たちからの言葉を一切気にしない様子で、ルイスが笑い、それを見て俺達が再び溜息をを吐こうとした、その時だった。

 

(……っ!?)

 

突如として、ゾワっとした嫌な感覚が、全身を駆け巡る。

 

「伏せろ!!!」

 

咄嗟に俺は叫んでいた。

同時に沙慈とルイスに覆い被さる。

と、次の瞬間!

 

ドウゥン!!!

 

そんな音と共に、つい先程俺たちの横を通り過ぎて、およそ8M先のバス停で止まっていたバスが突然大爆発を起こした。

爆風の衝撃波で周りの建物のガラスが割れ、黒い煙があたりを包み込み、バスの周囲に居た人や乗用車が吹っ飛ぶ。

 

「っく……!なんだ…!?」

 

起き上がった沙慈が、前方を確認する。

同時に俺もそちらを見た。

 

其処には地獄が広がっていた。

 

倒れている人、転倒した車と小さな火がいくつも道路上に存在している。

そして、バスの周りには目を向けるのも躊躇われるような状況が広がり、周囲の空気には生き物の焼ける酷い臭いと、鉄臭い血の臭いが充満していた。

咄嗟に沙慈とルイスの口と鼻を覆うようにして、肩から掛けていたバッグからタオルを取り出し、押しつける。

 

「バスが…!!」

 

沙慈の言葉に反応して、バスの方を見る。

気の毒だが、あれでは中の人はもう誰も生きては居ないだろう。

と、その時、周りが騒ぎ始める中、関西弁の男が声を張り上げる。

 

「テロや!!これはテロやで!!」

 

「う…?テロ……って?」

 

その声で意識を取り戻したルイスだったが、いまだに状況が把握しきれていない。

 

「ここから離れよう、ルイス!早く!」

 

沙慈はルイスの手をとり立たせると、周りには目もくれずその場を後にしようとした。

しかし、俺はその後に続こうとしたとき、ある者を視界の隅に入れてしまったため反射的にそちらへと走り出した。

後方から、「アムロ!?」という沙慈の叫ぶ声が聞こえたが、構っている暇は無いので、後で謝る事を決意しながら先程目に入れた者を追う。

それは黒い服を着た男だった。

さっき、バスの中にいた男だ。

男は、追ってくる此方に気づいたのか、慌てて駆け出して、人混みの中へと逃れようとする。

……が。

 

「甘いわ!!!」

 

そう言いながら、俺は瞬間的にズボンのポッケから財布を取り出すと、思いっきり男の頭目掛けて投擲する。

一瞬のタイムラグの後、

 

ゴビン!!

 

という、財布にあるまじき音と共に、男の後頭部にそれが突き刺さり、堪らず男はぶっ倒れる。

その隙を見逃す俺ではない。

一気に距離を詰めると、男の背中に急降下式の全体重を乗せたとび蹴りをお見舞いし、バックから荒縄を取り出すと、一瞬で手と足を縛り上げる。

そのまま顔面をメリケンサック嵌めてラッシュラッシュラッシュ!!!!

 

できれば【オラオラオラオラオラオラァ!!】とか【ドラララララララララララァ】とか言ってみたいが、流石に其処は自重した。

 

で、見るも無残なまでに顔面が崩壊した男。

俺はそのまま懐に手を突っ込んで調べると、まあ出て来るわ出て来るわ銃刀法なんぞ完全にブッチしている物品の数々。

同時にリモコンのような古典的な物品も見つけたので、それは手袋を取り出して着けた後に適当な袋に入れて、そこら辺に転がしておく。

十中八九、先程のテロはコイツの仕業だろう。

とりあえず警察に連絡を入れた後、猿轡を噛ませて自殺できないようにし、器用に身包みを剥いでから、その他の持ち物を調査する……お、財布見っけ。迷惑料と慰謝料として少し抜いとこ。

ん?こいつはIDカードか?一体何処の……って、これモラリアに本拠地がある、PMCの個人情報特定カードじゃん!

って事は、この男の目的はこないだのモラリアで、出張ってきた俺達(ソレスタルビーイング)への警告か、もしくは意趣返しの為にあんなテロを起こしたのか……後で師匠に渡しとこ。

 

……何?半ば追い剥ぎじゃないかだと?人の命を自分のエゴで奪うような奴は、自らの人権を放棄している物と俺は考えているから、別に追い剥ぎでもなんでもない。うん。

お前が言える立場かって?……自覚してるよ?うん。

それにしても、主犯がこんな事になってるって言うのに一切仲間が出てくる気配が無い。

見捨てられたのか、或いは単独犯だったのか……何れにせよ、そこらへんの仕事は警察が本来やるべき事なので、俺はもう首を突っ込みませんがね。

 

ピーポーピーポーピーポー・・・

 

おおっと、うわさをすれば影、とは良く言ったもので、古き良き音を立てながらパトカーが付近に到着した事をそのサイレンが告げる。

基本、俺は警察や、お上の方々には本来顔を見られてはいけないので、到着される前にトンずらこくとしますかね…くわばらくわばら…っと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、親睦会当日である。

つーか昨日のテロ騒ぎの翌日である。

 

あの後、帰って早々にテロに巻き込まれた事を師匠に報告。

そして、沙慈とルイスに連絡し、無事な事を報告する。

どうやら沙慈はともかく、ルイスも大いに心配してくれていたようでさっきまで半泣きの状態だったらしい。

変わってもらったら、物凄い剣幕で怒られた。

曰く「勝手に何処行ってた」だの「沙慈と一緒に散々心配したんだから、まず最初に顔を自分達の所へ出せ」だの、いろんな事を言われた。

その内、緊張の糸が切れて一気に疲れたらしくソファーで寝てしまったと言うのは、散々怒られてから代わってくれた沙慈の談だ。

…まあ、心配を二人に掛けてしまった事は本当なので、その内何らかの形で返したいと思う。

 

そんな事を考えながら、ただいま俺は親睦会のメインとなる料理―――鍋を作っている。

具材は色々。

只の鍋と侮る無かれ、キチンと出汁をとり、尚且つ野菜や肉も火が通り易いように、考えて切っている。

……のだ……

 

「……姉さん。いくらお腹が空いたからって、生野菜をまんま食べるのはどうかと思うんだが……それと師匠。その手に持っているツナの缶詰は何だ。入れろってか。入れろってか?」

 

「「……テヘッ☆」」

 

「可愛く返しても駄目です。ただし師匠のツナ缶だけはギリギリ譲歩して入れてやる」

 

                                 ,.へ

  ___                             ム  i

 「 ヒ_i〉                            ゝ 〈

 ト ノ                           iニ(()

 i  {              ____           |  ヽ

 i  i           /__,  , ‐-\           i   }

 |   i         /(●)   ( ● )\       {、  λ

 ト-┤.      /    (__人__)    \    ,ノ  ̄ ,!

 i   ゝ、_     |     ´ ̄`       | ,. '´ハ   ,!

. ヽ、    `` 、,__\              /" \  ヽ/

   \ノ ノ   ハ ̄r/:::r―--―/::7   ノ    /

       ヽ.      ヽ::〈; . '::. :' |::/   /   ,. "

        `ー 、    \ヽ::. ;:::|/     r'"

     / ̄二二二二二二二二二二二二二二二二ヽ

     | 答 |     ッシャァ!!!      │|

     \_二二二二二二二二二二二二二二二二ノ

 

                                     」

 

「師匠。キャラ崩壊してるから。戻して戻して……つーかコロンビアって懐かしいなおい。そしてグラーベさん。何故にコンビーフの缶詰を持って俺の隣に立っているのですか。そしてヒクサーさんはなんでコンソメのブロックを持ってその隣に立っているのですか」

 

「……駄目か?」「駄目なの?」

 

「駄目です」

 

「「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」」

 

「そんな残念そうな声を出しても駄目です。…そういえば二人とも、今日は髪形違いますね。何かあったんですか?イメチェン?」

 

そう言いながら、俺は二人の頭に注目した。

グラーベさんは…あれだ、何故か髪型がサイドポニーになってる。中性的な見た目なので其処まで違和感無いんだけど……何で普通に後ろで縛らないんだろう?なんかの罰ゲーム?

 

そしてヒクサーさんはまさかのオールバック。似合ってるんだけど……何だろう?この“コレジャナイ”感?

 

そんな事を俺が思っていると、何故か肩に『ポン』と手を置かれる感触。

何じゃいなと思ってそちらを見ると、何故か師匠と姉さんがまるで「あんまり気にしちゃダメ」とでも言いたそうな、それでも何処か込み上げる笑いを我慢しているような微妙な表情でこちらを見ていた。

その瞬間、俺は全てを悟る。

 

「………あ~…もしかして二人とも、実働部隊の中に知り合い居る?」

 

「……厳密には私達ではなく、私達の複製元のイノベイドが…だがな」

 

「俺の大元は、今の所無気力症患者みたいな物になっちゃってるけどね~……ま、グラーベちゃんの方と違ってまだ生きてるから、少し見た目を変えるなりなんなりして色々細工しとかないとメンドクサイ矛盾が生まれちゃうんだ」

 

「成程」

 

それなら納得。

そう考えながら、俺は調理へと戻るのだが……

 

「…………」

 

「「「「…………………………………………」」」」

 

……ヘーイ。なんかめっちゃ視界の隅にチラチラと映るんですけど。

うわー反応したくない。したくないったらしたくない。

……しかし、ここで突っ込まないとこの人達は何時まで経ってもこれをやり続ける…!!!

 

「……もうあんまり反応したくないので一気に行くけど、リジェネ兄さん何故増えるワカメを持っている、リヴァイブ兄さんはまだメイド服外してないのかって言うかその手に持っている業務用アイスクリームの箱は何だ、そしてブリング兄さんとデヴァイン兄さんは何故インスタントコーヒーのビンを持っている!!」

 

結局、折れた。そして次の瞬間返された返事の内容は……!

 

「「「「…駄目 (か)(かい)((なのか))?」」」」

 

ブチ

 

「駄目に決まってんだろうがァァァァァ!!!!!!!!!!!!!いい加減にしろォ!!!!つーか、あんたら全員にボケられたら、流石の俺でも突っ込みきれねえよ!!第一これ鍋だっつってんだろうが、ああ????!!!!もっと入れても大丈夫なもんをせめて持って来いや!!!!闇鍋でもしたいんかおどれらァァァ!!!!」

 

「おお、以前よりも突っ込みのキレが良くなってきたね。これなら安心だ」

 

「うるせぇ!!つーか何がだ師匠!?」

 

――――――……ハァ…ハァ…だ、駄目だ。このままでは親睦会が始まる前に、俺の体力に限界が来てしまう。実働部隊の連中はまだ来ないのか……?

 

流石に限界を感じた俺はそんな事を思ってしまう。

 

と、その時であった。

 

ピンポーン

 

と言う音が、部屋中に響き渡る。

 

救いの神、降臨である。

 

(ついに来たか!!実働部隊!!!)

 

今度は以前のような事が無い様に慎重に。それでも幾らか急ぎ目で玄関まで向かう。

そしてドアの前に立ってから、深呼吸を一つすると、意を決してドアを開ける。

そこに居たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんれまあ団体さん?そして刹那。何で土下座しとる?」

 

「ごめんなさい。謝るので3日間おにぎりだけは勘弁してください」

 

「服が汚れるし、ご近所から誤解されるから止めなさい。つーかむしろ今ので冗談で言ったあの言葉を実行しようと思った」

 

「!!!!!!????????」Σ(゚д゚lll)

 

「なんでそんなショック受けたような絶望的な顔すんの…?とりあえずもう直ぐご飯だからさっさと服とかの汚れ払ってから入りなさい。後ろの団体さん方もどうぞお入りください」

 

「…了解……ただいま、アムロ」

 

「はいはい、お帰り刹那。ユリとフェルトもお帰り。言い方は悪いですが、その他の皆様方、いらっしゃいませ」

 

そう言いながら、俺は全員を迎え入れた。

しっかしこれから起きるであろう騒動の事を考えると……手放しで楽しめそうも無いな、こりゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で、自己紹介とかすっ飛ばしていきなりお食事始めるよー!!!!」

 

「音頭とってねえで手伝えクソ師匠!!!!」(#゚益゚)コォォォォォ

 

台所から凄まじい剣幕でアムロが私達の前で音頭をとった黄緑色の髪を持ち、中性的な顔立ちをした男に思いっきり怒鳴り散らす。

その声に驚いて、フェルトと刹那とクリスが一瞬身を縮こませた。

話を聞くところによると、今“師匠”と呼ばれた人物の所為で、用意する料理が一品増えてしまったそうだ。

で、その責任を取って少しは手伝え、という事らしいのだが……なんか、言い方がキツ過ぎないか?

そう思って以前聞いてみた事があるのだが、彼曰く「いつもの事」なのだそうだ。

……まあ、師匠と呼ばれている人物自身も其処まで気にした様子は無いから、大丈夫だとは思うが…

 

「アムロー、もうご飯食べちゃって良いのー?」

 

其処まで考えた所で、以前会った事のある女性……確かヒリングとか言っていたな。

彼女が台所に居るアムロに、食べだして良いかを確かめるために声を掛ける。

そんな彼女に対してアムロは先程とはうって変わって穏やかな声で答えを返す。

 

「あ、うん。冷めない内に食べちゃいな。刹那も今日だけ暴走さえしなければおにぎり地獄解禁を許す。腹いっぱい食べなさい」

 

「…何故かな?僕の時とは反応が違わないかい?」

 

「自分の胸に手を当てて、何故俺がこんな口調で返しているのか考えなさい師匠」

 

そう言って再び料理に戻るアムロと“師匠”。

次の瞬間、私の目の前にある鍋を中心にして地獄絵図が始まる。

最初に動いたのは刹那。

まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、一気に鍋の中にあった肉を全て取ろうと腕を伸ばす。

次に動いたのはヒリングだ。

彼女も刹那に負けじと、凄まじい勢いで鍋へと腕を伸ばす。

しかし二人の箸が後一歩で肉へと届くか届かないかという所になった所で……

 

ガキィッ!

 

という音と共に、二人の箸が複数の人間の物によって、横合いから止められた。

刹那を止めたのは、ロックオン、アレルヤ、ティエリア。

ヒリングを止めたのは、薄い紫の髪と赤い瞳を持った、これまた中性的な顔立ちの……少年?と、赤い髪に赤い瞳を持った、長髪と短髪の男だった。後述の二人は顔があまりにも似ている事から、一卵性の双生児なのだろう。

 

「おいおい刹那…禁止令が解かれたからって、いきなり肉を取ろうとするのはマナー違反ってもんじゃねえのか?」

 

「彼―――ロックオン・ストラトスの言う通りだ、ヒリング。食べても良いと言われたからと言って、いきなり暴走するな」

 

「「う……」」

 

ロックオンと、赤髪の長髪の方にそう言われて、二人は言葉を詰まらせた。

二人がそのまま押し黙った所で、赤髪の短髪の方が、私達に謝罪の言葉を掛けて来る。

 

「申し訳ありません、実働部隊の方々。我が家の愚妹がお見苦しい物を見せました」

 

「あ、いえいえそんな……此方も一人暴走しかけたから、お互い様ですよ」

 

「全くだな」

 

短髪の男に対して、アレルヤが慌てて返事を返し、ティエリアが、それに続いた。

それを聞いた刹那とヒリングが、ますます小さくなる。

と、次の瞬間、

 

クゥ~

 

という可愛らしい音が、私の腹から響き渡る。

咄嗟に顔に血が上って真っ赤になるのが分かった。

 

(…こ、このタイミングで鳴るのか…?…物凄く恥ずかしいぞ……!

 

そう思いながら私は俯いた。

が、次の瞬間、

 

グゥ~

 

という音と、

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

 

という音が、ほぼ同時に鳴る……ってちょっと待て!?最後のは一体なんだ!?

見ればフェルトがお腹を押さえているが、彼女も最後の音に驚いている方なのだろう。

その目には驚愕の色が浮かんでいる。

 

では誰が……!?

 

まさか刹那か!?

そう思って刹那の方へと目を向けようとした瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ワリィ。腹の虫鳴っちまったわ」

 

そんな能天気な声が、台所から聞こえてきた。

見れば周囲の私を含めた人間の目は其方へと向いており、誰の目にも。こんな感情が渦巻いているのが見えた。

 

――――――よりにもよってお前かい!!

 

と。

そのまま5秒ほど私達は硬直していたが、いち早く再起動を果たしたスメラギさんが、ロックオンにこう提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ま、まあ、とりあえずせっかくの親睦会なんだし、楽しまなきゃ損ね。そんな訳だからロックオンと、それから…「ブリングです。ブリング・スタビティ。彼は私の双子の弟である、デヴァイン・スタビティです」そう。自己紹介ありがとうね♪そしたら、ブリングさん。悪いんだけど、各自の皿に適量だけ鍋から具を盛ってあげてくれないかしら?下手をすると、また暴走する可能性があるし…」

 

「OK、ミス・スメラギ。んじゃ、こっちは俺がやるよ。ブリングつったっけ?アンタはそっちの方を頼むぜ」

 

「承知した。それではリヴァイブ、皿を出せ「え~!?あたしは!?」…お前は最後だヒリング」

 

「刹那も一応最後な?安心しろって。ちゃんと肉も残しといてやるよ。んじゃ、まずはカワイイ音を鳴らしたフェルトからだな。ほら、皿貸しな。ユリはその次で良いよな?」

 

「ああ、それで良いぞ」

 

私がそう言うと、ロックオンは「そりゃ良かった」と言って、フェルトの皿に具を盛っていく。

ふと隣を見ると、既にトレミークルーの大人組の一部は酒を開けて飲み始めていた。

……と、言うか、スメラギさん。大吟醸持ってきたんですか?

って、ああ!リヒティ!!リヒティがおやっさんとモノレ博士に無理矢理飲まされて大変な事に!!

と言うか、以前リヒティって自分から「お酒飲めない」って言ってた事忘れたんですか二人とも!?

って、ラッセさん!?その手に持っているツマミはなんですか!?

え!?自分で持ってきた!?

料理出るって言われてましたよね!?

っと言うか、スメラギさん、笑ってないで止めてくださいよ!!

ああ!もう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おーい。ちょっと目を離した隙に、ユリが大人組の対応に追われてんだけど、何で誰も助けてあげないの?」

 

「アムロ、良いタイミングだから良い事を教えてあげよう。この世で最も対応が厄介な物。それは“自然災害”と、“自分勝手な正義を振り翳す者”。“性質(タチ)の悪い政治家”に、“腹黒い商人”。“狂信者”と、最後に“性質の悪い酔っ払い”と、昔から相場は決まっているんだよ……」

 

「…納得」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、師匠リクエストの最後の料理がやっと出来上がったわけなんだが……もう殆どの人間が出来あがってんな。とりあえず、この鍋置きたいから、テーブルの上ちょっと片付けてくれ…ってうわぁ、何この状況?テラカオスすぎる」

 

やっと出来上がった、“ツナ缶鍋”を持って台所から出ると、そこには凄まじい光景が広がっていた。

 

実働部隊の大人組(マイスターとオペレータ除く)は何時から飲み始めていたのか、日本酒のビンを何本も開けていまだに飲んでるし、イノベイド組の何人かもそっちに巻き込まれている。

と、言うか、よく見たら巻き込まれていたグラーベさんの顔が青い。

どうやら何とか誤魔化し切れたみたいだが、そのままずるずると巻き込まれて悪酔いしてしまい、結果ナノマシンでも分解しきれない量のアルコールを摂取してしまって気持ち悪くなってしまったようだ。

おそらく人前で吐く事は無いと思うが……注意するに越したことは無いな。一応後でエチケット袋持っていくか、さりげなくトイレに誘導するか。

…とぉ、そんな事気にしている場合じゃなかったわ。

 

「あのー…そろそろ腕が限界なんだけど…」

 

「あ、ゴメンゴメン」

 

そう言って、マイスターの内の一人である“アレルヤ・ハプティズム”が、テーブルの上の空になった皿を重ねて、隅に置いてくれた。

その空いたスペースに鍋を置くと、俺も箸を持って席に着く。

 

「って、殆ど料理無くなってるな…」

 

ふと、テーブルの上を見渡して思わずそんな言葉をこぼしてしまった。

そんなに時間を書けたつもりは無かったが、意外と人数が多かったのと、酒という不確定要素を甘く見すぎていた為か、当初それなりの量があった料理の数々は今や殆ど影も形も無くなっている状態となっていた。

チラと隅を見れば、刹那とフェルトとユリが三人並んで仲良く夢の中。

おそらく刹那はお腹が一杯になったから、眠気が襲ってきてそれに負けたという感じ。

フェルトはおそらく単純にいつもはこの時間帯寝ているのだろう。

因みに今の時間帯は、深夜0時。

で、ユリはおそらく酔っ払った大人組の対応に疲れたのだろう。

今でこそ何人か撃沈して少し沈静化しているが、先程までは台所にまでそのドンチャン騒ぎの音が聞こえていたから。

その上から、プトレマイオスオペレーターのクリスティナが、三人を起こさないように毛布を掛けてあげていた。

 

「あ、すみません」

 

つい謝罪と感謝の入り混じった声が出てしまう。

彼女はそんな俺を見て少し微笑むと、「全然気にしてないよ」と言って再び席へと戻っていった。

あ、イイ人やこの人。

そう思っていたそんな所で、今度は隣から声を掛けられた。

 

「よう、お疲れさん」

 

声を掛けられたほうに目を向ける。

そこに居たのは、デュナメスのマイスター、“ロックオン・ストラトス”だった。

咄嗟に反応して頭を下げる。

 

「あ、どうも初めまして。アムロ・レイって言います」

 

「ご丁寧にどうも。データは見ていると思うが、マイスターのロックオン・ストラトスだ。好きに呼んでもらって構わないぜ」

 

「んじゃ、ロックさんで」

 

俺がそう言うと、彼は突然微妙な顔になってこう言った。

 

「すまん。それは何か危険な感じがするから止めてくれ」

 

「それじゃ、ロックオンさんで」

 

「…さんはいらねえよ。もっとフレンドリーに呼んでもらって構わんぜ?」

 

「いや、でも一応目上の人ですし…」

 

「……お前って、結構変な所で生真面目なのな」

 

「…まあ、よく言われますよ……あ、そういえば、料理どうでした?お口に合いましたか?」

 

「ん?ああ、凄く美味かったぜ。少なくともトレミーのA定食よりかは何百倍…いや、何千倍もな」

 

「は、はははは……そう言ってもらえると、ちょっと恐縮しちゃいますね」

 

そう言いながら苦笑いしつつ、少しの間、俺は彼といろんな事を話した。

例えば、狙撃銃を使う時の注意とか、マイスターの中で誰が一番手の掛かる奴だとか、最近の刹那のポンコツ可愛さは異常だとか、刹那まじカワイイよ刹那とか、ユリがテラ不憫だとか、フェルトマジ天使!!だとか……本当にいろんな事を話した。

で、気付けば、只今の時間帯は、午前の1時。

流石にこれ以上夕飯の時間が延びるのはヤバイ。

さて、それじゃ……

 

「いただき……」

 

其処まで言った所で、俺の目の前に師匠が座る。

その手には箸。口元にはニヒルな笑みが浮かべられ、その目には剣呑な光が湛えられていた。

…なんか、最近こんな事ばっかりなような気がする…

しかし、売られた喧嘩は逃げられないのであれば、正々堂々真正面から買ってやるのが礼儀と言うもんである。

……相手が師匠ならなおさらな!!!!

 

箸を持つ手を上に上げつつ、左手を構える。

無論、師匠もほぼ同じ型で、此方を待ち構える。

…緊張が、走る。

少しの衝撃で、今にも爆発してしまいそうな空気が、俺たちの間に流れる。

……そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふ、あ~ぁ……」

 

「あれ?ティエリアでも、欠伸ってするんだ」

 

「あ、ホントだね」

 

「…クリスティナ・シエラ。そしてアレルヤ・ハプティズム。君らは僕を一体なんだと「「頂きまりゃアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!(バキィ!!)」」思っ!!??」

 

「えっ!?」

 

「んなぁ!?」

 

ガンダムヴァーチェのマイスターである、ティエリア・アーデの何気ない欠伸によって、一気に決壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここからはお好きな戦闘BGMを流してご覧下さい。ただし流す流さないは個人の自由です)(例:作者の場合『Ride The Tiger』)

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

「フゥーハハハハハハハハ!!!!フハハハハハハハハ!!!!!!」

 

「「10年早いんだよォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

ガキン!!ガキッガキッ!ズガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

(一体コイツら何やってんだ!?)

 

突如として始まった、アムロとその師匠と呼ばれている青年―――リボンズ・アルマークの箸と素手によるガチバトル。

それに呆気に取られていた俺は、直ぐに二人を止めようと、行動を起こそうとした。

……が、それを実行する事はできなかった。

何故かって?そいつは、今の二人の手の動きを見れば一瞬で分かるだろう?

…何?こっちは文でしか見れないから、よく分からない?

ああ、スマンスマン。こっちとそっちじゃ、画面一つ挟んで、全く違う物しか見えないんだったな。

簡単に説明すると……ハッキリ言って、俺にも良く分からない。

いや、ふざけている訳じゃないんだ。

ただ、二人の手の動きが尋常じゃないくらい速過ぎて、上手く目で捉える事が出来ないんだ。

辛うじて分かる事と言えば、二人の箸が時々間にある鍋の中の具を摘んで口の中に持っていったり、それを阻止せんとお互いの箸を自分の箸を使って妨害したり、箸を持っていない方の手で相手の顔面などを狙って、正拳突きを放つも、捕まれて阻止されたり……そんな所だ。

 

…って、俺は今一体誰と話してたんだ?

 

流石に深夜を回って少し酒の入っている自分の頭に一抹の不安を持ちつつ、俺は周囲を見渡した。

見ればアレルヤも俺と同じ様に二人を止めようとしていたらしいが、俺と同じ理由で断念したらしい。

此方からの視線に気付いたのか、俺の方に顔を向けると気まずそうに顔に苦笑を浮かべた。

次にティエリアを見る。

基本的にミッション等以外には無関心なティエリアの事だから、きっと傍観しているだけだろうと思ったが、意外な事に果敢にもアムロの方に駆け寄って、何とか二人の戦いを止めようと四苦八苦していた。

よく見てみると、リボンズの方にはティエリアそっくりな顔の“リジェネ・レジェッタ”という中性的な少年が駆け寄って、ティエリアと同じ様に四苦八苦している。

余談だがこの二人は当初、あまりにもその顔が似ていた為“実は生き別れの兄弟…一卵性の双生児では?”と周囲から言われていたのだが、アムロの「本当に一卵性双生児なら、声まである程度似てないとおかしいだろJK。それにリジェネ兄さんは、俺が師匠に拾われたくらいの頃からその見た目だから、その線は無い」と言うセリフによって、その疑問は払拭されたのだが。

 

閑話休題。

 

で、次のこの騒動をあっさりと収めてくれそうな人達…ウチの俺達マイスターを除いた大人組と、向こうのブリング、ヒクサー、グラーベ、ブリングと呼ばれた男達の固まっていた方へと、あまり期待しないで目を向ける。

で、目を向けた先では案の定酔い潰れずにまだ起きている酔っ払い達が、二人の大喧嘩を肴にまだ飲んでいやがった。

俺もあっちに混ざりたいぜ……とと、ちょっと本音が出ちまった。

……て、よく見たらその隣ではリヴァイブと呼ばれた少年とヒリングと呼ばれた少女が顔を真っ赤にして、焼酎のビンを枕にして爆睡していた。

…あれは絶対しこたま飲んでるな。うん。

 

兎も角、これでまた増援と成り得る存在が離脱してしまった事に溜息を吐きつつ、今度はクリスの方へと目を向ける…って、いない?!

一体何処にと周囲に目を向けると……居た。

なんと彼女はもう既に毛布に包まって寝てしまった、ウチの三姉妹に混ざって寝息を立てていた。

 

(…アレは逃げたな。夢の中へと……)

 

等と少し気障な事を考えながら二人へと目を向ける。

どうやら鍋の中の具も、茶碗の中の白米も全て食べ尽くしたらしく、何時の間にかその手から箸は完全に消えて彼らの足元にある箸置きに綺麗に乗っかっている。

…何時の間に置いたんだ?

そんな事を考えている内に、二人の攻防は次のステージへと移った。

突如動きを止めたかと思うと、次の瞬間二人とも綺麗に回転しながら飛び上がり、そのままテレビの前へと着地する。

そしてアムロがゲーム機をセットして、それを起動させ、リボンズはテレビをつけて、モードを“ゲーム”へと切り替える。

と、次の瞬間テレビの画面に、最近刹那やユリが嵌っていたゲームのオープニング画面が流れ、そのまま二人は大戦モードを選ぶとそのまま遊び始めてしまった。

再び俺達は呆気に取られる。

 

…と、不意にアムロが突然何かを思い出したかのように此方を向くと、テレビが置いてある台の下から、何を思ったか突然コントローラを取り出してそれらを本体に接続させる。

そして、俺達に手渡してきた。

ほんでもって一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に遊びませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、だな……たまにはゲームで徹夜するのも悪か無えか」

 

そう言いながら、俺はアムロの隣に腰掛ける。

…こんな風に、ゲームしながら一夜を明かす、と言うのは何時ぐらいぶりの事だろうか?

フッ、と瞼の裏にもう長い事会ってはいない、双子の弟の姿が浮かび上がる。

まだ俺達が子供で、父さんも母さんもエイミーもまだ生きていた頃、しょっちゅう二人で新しく買ってきたゲームで遊びすぎて徹夜してしまい、母さんに二人一緒に怒られていたっけっか…

今はもう戻る事の無い、大切な、大切な記憶だった。

 

(……いつか、また会えたらその事を肴に酒でも飲めるだろうか?)

 

そんな風に感傷に浸っていると、俺の隣にティエリアとアレルヤが腰掛けた。

アレルヤは苦笑しながら。ティエリアは憮然とした顔で。

一方リボンズの隣には、リジェネの奴が苦笑しながらも、目を爛々と光らせて腰掛けていた。

…どうやら結構乗り気らしい。

 

そんな事を考えながら、俺は機体を“ライン・ヴァイスリッター”に決定する。

狙撃も出来るし、動きも早くてバランスが良いからしょっちゅう使ってはいるが……何故か俺がこれを使うと、刹那の奴がブスッとした顔で拗ねてしまう。一体なんだというのだろうか?

まあ、R-1も好きなんだけどな。ただ、やっぱり俺は殴るよりも狙撃する方が好きだ。

 

と、他の連中も、自分の機体を決めたらしい。

画面が変わり、戦闘画面になる。

そしてそのまま、画面でカウントが始められ、ゲームが始まった。

 

(…そんじゃま、ちょっと気合を入れますか。)

 

そう思いながら、俺はいつものセリフを呟いた。

……いつもよりも、遥かに気楽な感じで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狙い撃つぜ…っと」

 

 

 

 





如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

今回は親睦会の話と、紫ワカメ大暴走の話と、アムロ君、テロに巻き込まれるな話でした。
しかも色々詰め込みすぎて、結構いつもより長いし……

あ、途中のAAは試験的に入れてみたものなんで、変にしか映らなかったら後で消します。

因みに途中でアムロが言っていた、「何らかの形で返す」というのは、実はちょっとしたフラグです。
覚えておくと便利です。

…というか、前回からも思ってたけどロックオン兄貴の口調、これで合っているかしら…
なんか、アムロの時とあんまり変わってない気が……一応変えたつもりではありますけど、あまり変わってなかったらすみません。

そしてリボンズとリジェネ大暴走。
特に後者は中の人ネタ(最近は違いますが。あと、そのキャラの身内でしかない人のセリフも出してます)がねぇ…
思ったよりも動きましたこいつら。
以降はこんな感じはナリを潜めますが……もしかしたらまたでてくるかも?

で、次回は一気にハレルヤ初戦闘の回まで進みます。
その後は、また一気に飛んで…どこだろう…?
なるべく早く進めたい所ですが…次回だけで一気に其処までいけるか?

そんなわけで、次回もお楽しみに。


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十話―――折角キリが良い話数だというのに、果たして今回、俺が此処にいる理由はなんだったんでしょうか?つーかいつもよりも長くね?

10話です。
今回は一気に話が飛んだりするので、何時もよりも2倍近く長いです。
そして今回も一部のキャラにキャラ崩壊注意報。

それでは本編をどうぞ。


(一体如何してこうなった?)

 

そう俺が思うのも仕方の無い事だった。

正面には、中から物凄い凶暴な声が聞こえてくる上に、大絶賛此方へと武器を向けてきているキュリオス。

後ろには、先程まで目の前のキュリオスにコックピットをシールドに隠されている小型ナイフでゆっくりと串刺しにされかけていた宇宙用ティエレン。

俺はもう恒例となった新装備(という名の実験兵器の一つ)を取り付けたOガンダムに乗って、キュリオスと対峙していた。

 

(……いや、マジで、如何してこうなった?)

 

それは思い返すこと、今から4~5時間前。実にあの親睦会という名の酒と腹ペコとゲームの饗宴から3日後の事である。

思いがけぬタイミングでの人革連による“ガンダム鹵獲作戦”。その担当となった特殊部隊“頂部”の攻撃を受けた実働部隊の援護をする為に、寝耳に水の状態で急いで宇宙へと上がった俺だったが、現場に着いた時には既に遅く、ヴァーチェはその外部アーマーをオールパージして本来の姿といっても過言ではない“ナドレ”を晒してしまい、更に最悪な事にキュリオスは一瞬の隙を突いて特殊部隊に鹵獲された後だった。

とりあえず、見た所まだ特殊部隊の母艦は遠くには行ってはいなさそうだったため、俺は実働部隊の母艦へと謝罪文を送る事もそこそこに急いでその後を追う事にした。

 

(…ああ、そういやそうだっけ…)

 

ところが追っている最中に、正面に翠色の粒子を散布しながらシールド兼用のクローでティエレンを抑えているオレンジの機体―――キュリオスをちゃっかり発見してしまったのだ。

これ幸いとばかりに、俺はキュリオスに通信を入れてさっさと母艦であるプトレマイオスへと戻るよう促そうとした。

 

……ところが通信を入れた途端に聞こえてきたのは、狂ったようなキュリオスのマイスターであるアレルヤ・ハプティズム“である筈”の男の笑い声と、これまた聞いてるだけで胸糞が悪くなるような、一人の男が死の恐怖に震えて命乞いする情けない声が聞こえてきた。

と、次の瞬間、キュリオスは一時的にシールドアームからティエレンを放すと、一気に止めを刺そうとその腕を突き込もうとする。

 

瞬間的に、俺の身体も動いていた。

一気にOガンダムをティエレンの後ろまで近寄らせると、左手で徐にティエレンの頭を引っ掴んで後ろに引っ張る。

 

…結果的に、突き出されたキュリオスの左腕は空を切り、ティエレンは上手い事Oガンダムの後ろで止まる。

現在は、其処から膠着状態が続いているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、如何した物か?」

 

なんともし難いこの状況。

とりあえず、接触回線を使って、ティエレンのパイロットに呼び掛けてみる。

 

『…ティエレンのパイロット。生きているか?生きているのなら、返事をしろ』

 

『な、何だ?何のつもりだ?』

 

間髪入れずに返事が来た。

どうやら先程よりも、幾分かは落ち着いてきているらしい。

流石は軍人といった所か。

 

『それなりに落ち着いてきているようだな。機体は動かせるか?』

 

『…助けるとでも言うか?』

 

『質問に質問で返すな。お前は答えを返すだけでいい。機体は動かせるのか?』

 

『…コンソールを破壊されたお蔭で、レーダーや手足を動かす事が出来ないが、スラスターを噴かす位はできそうだ』

 

『なら向きはこっちで指定してやるからさっさと母艦に戻れ。丁度良く視界は開けているだろう?ハッキリ言って邪魔だ』

 

そう言いながら、武器を持っていない左手でティエレンの胴体を掴むと、ぐるっと向きを変えてやる。

勿論、視線はキュリオスから一瞬も外してはいない。

つーか外した瞬間に襲い掛かられそうな気配がプンプンするんですけど。

 

『……すまない』

 

向きを変え終わった所で、ティエレンのパイロットから、謝罪の言葉が入る。

 

『お互い様だ。というよりも、言ってる暇があるのならさっさと離脱してくれ。向こうももう限界らしいのでな』

 

そう言うと、今度は何も言わずにティエレンはスラスターを噴かして離脱していった。

…キュリオスからの追撃は、無い。

それに内心ホッとしつつ、今度はキュリオスに通信を入れる。

 

「…待たせてしまったかな?」

 

そう言って、Oガンダムの右手をひょいと上げて少しおどけてみせる。

 

『…テメェ、この間のヤツか…何のつもりだ』

 

キュリオスが、何時の間にかその手に持ち直したビームマシンガンを此方に向けてきた。

どうやら、直ぐにブっ放してくるほど短気ではないらしい。

内心正直言って恐怖でガクブル状態だが、それを表に出さないように気をつけつつ、返答する。

 

「…一応、助けに来たつもりだったんだが……別に要らなかったようだな。それと、タイムオーバーだ。君としてはもっと楽しみたかったのかも知れないが、生憎と此方にそんな時間は無いのでな。さっさとプトレマイオスに戻ってくれないか?というかああゆう事をすると例え粒子コーティングされていたとしても武器が消耗するから止めた方が良いと思うのだが?」

 

『ケッ。こっちはあの時もう終わらせるつもりだったんだがよ…それに、武器云々の事なんぞ俺様には知ったこっちゃねぇよ』

 

「非道いなそれは……イアン・ヴァスティが聞いたら頭から湯気を出して怒り狂うぞ?…まあ、いいか。それではさっさと母艦に戻ってくれ。邪魔をして済まなかったな、“ハレルヤ・ハプティズム”」

 

そう言って、俺は機体を翻す。

こっちとしてはこの後さっき迄実働部隊を襲っていたあの特殊部隊が何処を拠点にしているか、さっさと確かめたかったので半ば強引に会話をぶった切って、そちらに向かおうとしたかったのだ。

…が、俺は直後に、自身が今犯した過ちに気付く事になった。

 

『……おい』

 

「? 何かね?」

 

不意にキュリオスから通信が入る。

何なのかと、疑問に思いつい振り返ってしまう。

 

…それが失敗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチィン!!!

 

「っ!?」

 

咄嗟に左手にビームサーベルをマウントして展開し、いきなり切りかかってきたキュリオスの凶刃を防ぐ。

そのまま右手のビームガンで反撃するが、簡単に避けられる。

 

「何のつもりだ!?」

 

思わず口から言葉が漏れた。

…まあ、いきなりこんな事されれば、誰だってこうも言う。

それを知ってか知らずか、キュリオスからハレルヤの狂ったような声が聞こえてきた。

 

『ハッ!!よく言うぜ!!テメェなんで俺の存在を知ってるんだ!?仲間内でも知ってる奴はそうそう居ないぜ!?』

 

「何を言っているアレルヤ・ハプティズム!?」

 

『惚けんじゃねぇ!!!』

 

そう言いながら、キュリオスは高速形態に変形して此方に突っ込みながらビームマシンガンを乱射する。

急いで機体を捻りつつ、避け切れなかった物をGNABCマントで受ける。

案の定、着弾した部分は少し赤熱化しただけで、次の瞬間にはまた何も無かったかのように元に戻った。

 

『何っ!?』

 

キュリオスから驚愕の声が発せられるが、構っていられる様な状態ではない。

瞬時にマントの裏から“ある物”を引っ張り出すと、右腕にそれを装着して、キュリオスの進行上に、それを発射した。

 

バフッ!!

 

という音と共に、黒い玉がそれから発射される。

と、次の瞬間玉は弾け飛び、中から所々が緑色に発光している巨大な網が姿を現した。

案の定キュリオスはその中に突っ込み、網に身体を絡め取られる。

それを見た俺は、気合の入った雄たけびと共に一気に網を引っ張る!!!

 

「どっせぇぇぇぇい!!!!」

 

『うおぉぉぉぉ!?』

 

急に網ごと引っ張られて、ハレルヤ・ハプティズムが驚愕の声をあげる。

その叫びの発生源が、Oガンダムの目の前まで来たところで、

 

「必殺!!ガンダムパーンチ!!!」

 

そんな叫び声を挙げながら、俺はキュリオスを殴り飛ばした。

 

『技名ダサッ!!!』

 

……そんな声が聞こえたような気がするが、今は無視だ!!無視無視!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……?」

 

軽い衝撃と共に、僕は目を覚ました。

ハレルヤはどうやら眠ってしまったようで、今は僕が身体の主導権を手にしていた。

 

『…気が付いたかね?』

 

ふと、接触回線で、声が掛けられる。

目をそちらへと向けると、先程ハレルヤの操るキュリオスを、難無く網で絡め取ってから容赦無く殴り飛ばしたあのマントの機体―――“O-01”が居た。

 

「……うん。ちょっと身体の節々が痛くて、頭がグラグラするけど」

 

『…フム、その様子から鑑みるに、“ハレルヤ”から“アレルヤ”に戻ったようだな。あと、身体の節々が痛かったりするのには、少し目を瞑ってくれ。あの時はああする以外に止めようが無かったのだ』

 

そう言いながら、器用にMSの手で頭を掻く“O-01”。

そんな見ようによってはコミカルな仕草をを見ながら僕は思わず苦笑を一つこぼす。

…が、今言った彼の言葉の意味を理解した瞬間に、一気に頭が冷える。

 

彼は今、何と言った?

 

彼は今、確実に僕の事を“アレルヤ”と呼び、あまつさえ“ハレルヤ”から“戻った”と言った。

…つまり、彼はもう一人の僕とも言える存在―――“ハレルヤ”について、知っている?

確かにさっきまで、僕はアレルヤと身体の主導権を交換していた。

…だとは言え、一瞬で、例え此方が二重人格だと分かっても、その人格の名前まで分かったりする筈がない!!

 

『…あ、すまない。実は君達をサポートするに当たって、予めヴェーダを使って、君達の経歴以外のデータを全て見させてもらっていたのだ。君のもう一つの人格を知っている理由も其処にある』

 

けど、次の瞬間彼が申し訳無さそうに言った言葉を聞いて、僕は警戒を解いた。

それだったのならば……まあ、すんなりと納得は出来ないけど頷ける物はある。

勿論、個人情報を勝手に見られたのは不快な物もあるけれど、それも僕達をサポートする為に必要だったと言うのならば我慢できる。

 

「…ハレルヤに変わってしまってたとは言え、悪かったね。いきなり襲い掛かってしまって」

 

『何、気にするな。丁度良く試作装備のテスターが現れてくれたと思えば、このくらいは何とも無い。というか上司に無茶苦茶な理由で罠に嵌められたり、家に押しかけてきて早々に飯を集ってくる身内に比べれば、果てしなく楽な物だ』

 

「…苦労してるんだね」

 

『やかましい大きなお世話だ』

 

そう言うと、彼は声に少しの苦笑を滲ませながら、マントを翻して去って行った。

…なんとも気障な帰り方だなぁ……不覚にも、一瞬だけカッコイイとか思っちゃったよ。

 

『アレルヤ!!無事なの!?』

 

暫らくの間、彼が去って行った方を眺めていると、突然スメラギさんの心配そうな声が耳に入った。

後ろを振り返って見ると、何時の間にか、もうトレミーが目と鼻の先まで近寄ってきていた。

 

(…ボーっとしすぎちゃったかな…?)

 

そう考えながら僕は苦笑を一つ零すと、スメラギさんに無事な事を伝えながらキュリオスをトレミーに向けて、帰還の準備を始める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

経済特区東京 某マンション

 

「…ックショー…ビームマシンガンの弾受けながら回転したり、ネットガンでキュリオス一本釣りしたのは流石に不味過ぎたか……まさかオーバーホールする事になるとはなー…」

 

先日のハレルヤの暴走から約2日。

俺はマンションの廊下を歩きながら頭を抱えていた。

その原因は今口に出したように、Oガンダムをオーバーホールする破目なった事に起因する。

と、言うのも、あの小規模な戦闘の後、軌道エレベーターに隠してある小型ドックに入った途端に突如としてOガンダムの両肘関節部分から嫌な音が鳴ったかと思うと、次の瞬間ビシィ!と言う音と共にフレームに罅が入ってしまったのだ。

おそらく原因は関節の酷使による疲労。

それを聞いた瞬間に、俺の頭にはボンヤリと「よく考えてみれば、計画発動直後から今迄、まともにメンテしてなかったな」と言う言葉が浮かび上がってきたので、おそらくそれも原因の一つだと思われる。

まあ、そんなこんなでOガンダムは簡単な改修も兼ねて、全体をオーバーホールする事に。

お蔭で軌道エレベーターのステーションから歩いて帰ってくる羽目になってしまった。

 

「チクショー……今度からマジ気をつけよう……もう金輪際、戸籍の偽造とか変装とかしないぞ……」

 

そう、愚痴りながら自室目指して進んでいくと、不意に眼鏡をかけた女性と長い髪の少女が言い争っている姿が見えた。

遠めなので少し分かり難いが、どうやら少女が眼鏡の女性を引っ張ってどこかに連れて行こうとしているようだ。

 

(…あれ?ルイス?何やってんだ?)

 

案の上、少女はルイスだった。

…と、言う事は、あの眼鏡の女性は彼女の身内なのだろう。

髪の色とか一緒だし。

…それにしても厄介だ。

何しろ彼女たちが争っているのは自分の部屋の前。

近づいていくごとに、二人の間に流れる険悪な雰囲気が俺の神経を突き刺していく。

 

「ルイス!私は彼に会うとは一度も言ってないわよ!」

 

「少しは私の話を聞いてよ!」

 

……話を聞く限りでは、どうやらルイスは女性を自分の彼氏―――沙慈に会わせようとしているのだろう。

何は兎も角、このままでは二人が邪魔なので一端退いて貰うべく、したくは無いが二人に声を掛ける事にした。

 

「あの~……すいません。あまり言いたくは無いのですが…其処、俺の部屋なんですけど」

 

「あらごめんなさい。お騒がせしたわね」

 

「ああ!アムロ!!ねぇ聞いてよ、ママが!!!」

 

「…んぁ?何?一体如何したの?」

 

言いたい事は大体分かるけど……って、いうか、やっぱり身内だったのか。

そう、俺が口に出そうとしたときだった。

 

「あれ?アムロ?何してるの?ってルイス!?」

 

タイミングバッチリで、俺の後ろから沙慈がやって来た。

しかし、ヤツはルイスと彼女の母親を見た瞬間、顔をひきつらせる。

 

「……………………」

 

そして、この状況を作り出した元凶の一人であるルイスの母親は、その沙慈の顔と俺の顔を交互に見ながら何かを考え込む。

その結果、

 

「ルイス!あなた、この子とこの子で二股をかけていたのね!!」

 

「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」

 

「はいいいいいいいいいいいいい!?」

 

如何してそうなった!?

やはり親子!?

少々ぶっ飛んだ思考は、ルイスと同じかそれ以上だ!?

 

「ち、違うんです!お母さん!」

 

「そうよママ!!って言うか、如何してそんな考えに行き着くのよ!?」

 

「ルイスは黙ってらっしゃい!」

 

「…………」

 

…言いたくは無いが、何じゃこのおばちゃん?

日本のおばちゃんとさほど変わらないそのテンションには、若干頭痛さえしてくる。

つーかおばちゃんってもしかして全世界通してこんな感じなのか?だとしたら師匠が以前呟いていた「おばちゃんという生物はね……下手をすればイノベイターよりもはるかに上位にいる生命体なのかもしれないよ…」といういつもの師匠らしからぬ若干背中の煤けた状態で言われたあの一言にも頷ける物が出てくる。

というか今だに思うが、師匠、あの時何があったし。大阪にでも行ってきたんか?

…まあ、兎も角としてこのまま黙っていたら、問題が何一つとして進まないのは明白。

俺は頭痛を覚えながらもルイスの母親に話しかける事にした。

 

「あの…すいません」

 

「ああ、ごめんなさいね、ウチの娘が……あなたからもじっくりお話を」

 

「いい加減に家に入って夕飯の支度をしたいのですが…」

 

「へ?」

 

そんな俺の言葉を聞いた瞬間に、以前計画の発動時に俺の独り言を聞いた沙慈とルイスと同じようにキョトンと間の抜けた顔をした。

見れば二人もあの時と同じ様にキョトンとしている。

 

「……」

 

「「「………」」」

 

「…あの…」

 

「?! は、はい?」

 

「入っても良いですか?というか入れてください頼みますからこのままだと夕飯食うのが遅くなる具体的には3時間分」

 

「あ…は、はい。ごめんなさいね?」

 

そういって、彼女はその場を退いてくれた。

すかさず、俺はドアの前に立って鍵を使ってロックを解除すると、そのまま部屋に入った。

 

「………今日のところはお暇させていただきます。それでは」

 

ドアが締め切るか締め切らないかくらいで、向こうからルイスの母親のそんな声が聞こえたが、無視してドアをそのまま閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザディスタン王国 居住区

 

人革連による、“ガンダム鹵獲作戦”が失敗に終わってから、約1週間後。

ここ、アザディスタンで、一つの大きな事件が起きた。

 

アザディスタンの保守派の高名な宗教的指導者である、マスード・ラフマディー。

その彼が、何物かに誘拐されたのだ。

 

ソレスタルビーイングはこの事件を何時までも二の足を踏み続けるマスード氏に業を煮やした保守派による自作自演か、改革派による強攻策。又は第三者による内紛を引き起こす為のものと睨んで、実働部隊をアザディスタンへと潜入させていた。

目的は、内紛を止める為、誘拐されたマスード・ラフマディー氏を保護し、全国民に無事を知らせること。

そして、現時点で起こっているどんな小さな紛争にも介入する事。

 

先日は、最近新設された太陽光発電受信アンテナ施設に、保守派の中でも、特に過激な超保守派と呼ばれる一派が、施設の警護に当たっていたMSの内数体を強奪し、施設を破壊しようと行動を起こした。

施設自体は、たまたま其処の警備に当たっていたユニオンのMS一個小隊と、事前に情報を得て既に待機していたロックオンとハロによってある程度は防衛できたものの、その乱戦の最中に第三者の手によって放たれたミサイルで少なからず被害が出てしまっていた。

追撃した“とあるエージェント”の話によると、その第三者はおそらく傭兵で今だこの近くに潜伏している物と考えられているらしい。

これを受けて実働部隊はその傭兵、もしくはその仲間が今回のマスード・ラフマディー誘拐の件に少なからず関係していると考え、調査を開始。

 

その調査の一環として、今、刹那はこの国の一般的な衣服に身を包んで街中を歩いていた。

 

彼女が街を歩いていると、否が応でも人々の視線を集めた。

刹那の出身地は確かにアザディスタンだが、より正確に言うなら元クルジスである。

アザディスタンの人間は戦争が終結した後も宗教上の理由からクルジスの人間を忌み嫌い、クルジスの出身者もまた、自分の故国を滅ぼされた恨みからアザディスタンに対してドス黒い感情を抱いていた。

そして、地元の人間が見れば、クルジスとアザディスタンの人間との区別は、実は意外とあっという間についてしまう。

まるで日本人が、中国人や韓国人を何となく見分けられてしまえるように。

つまり、街に出た瞬間に刹那は周りから警戒と侮蔑を集める対象になっているのだ。

そんなこの国の人間の様子を見ていると、刹那はあの頃のことを思い出す。

 

瓦礫と化した街を駆け巡りながら、死の臭いが充満する中で、神のために仲間や自分を本当の双子の妹のように可愛がってくれた彼と共に戦っていた、あの頃のことを。

 

(あんな無意味な事を……まだ続けるつもりなの?この国は…)

 

それは一種の絶望でもあったのかもしれない。

今はあの頃から、既に5年以上経っている。

故に刹那は、心の何処かではそれ位経てば嘗ての蟠りは消滅ないしは緩和している筈だと淡い希望を抱いていた。

…というのに、其処に住む人々は未だに何も変わっては居なかった。

故の怒りであり、絶望。

彼女はギュッと無意識に両手を握りしめた。

そんな風に刹那が静かに怒りに燃えていると、目の前に10歳ほどの少年が歩いてきた。

肩には二つの壺がくくりつけられた棒を担いでいる。

 

「お姉さん!!水買わない?」

 

それを見た刹那は、その姿が少しだけ微笑ましくて、口元に少し笑みを浮かべてこう言った。

 

「いや、間に合っている」

 

そう言いながら、刹那は肩に下げたバッグから白と青のツートンで塗装された若干大きめの水筒を取り出す。

以前の買い物で、潜伏先のエージェントであるアムロが「一応持っとけ」と言って買い与えてくれた物だ。

 

「え~?ちぇ、残念」

 

少年はそう言いながらなかなか刹那から離れようとしない。

 

「ねぇねぇ、ひょっとしてここは初めて?」

 

「……いや、ずっと世界を旅している。此処に来るのは…2回目か?」

 

その言葉を聞いた少年が目を輝かせる。

 

「あのさ!族長に聞いたんだけどさ、この世界にはものすっごく高い塔があって、宇宙まで行けるって本当なの!?」

 

「…軌道エレベーターの事か?ああ。本当だ」

 

「もしかして行ったことある!?」

 

少年は怒涛の勢いで、彼女に質問する。

さしもの刹那も、16年生きてきてこういった質問攻めにあうという事は初めてだったため、思わず半歩下がってしまう。

ティエリア辺りが居たら、「なんて情けない」とか言いそうだ。

 

「ま、まあ…何度かは」

 

「すっげぇ~~!!」

 

少年は感極まって両手を強く握る。

 

「マリナ様が言ってたよ!いつか僕たちも宇宙に行けるって!」

 

「……?マリナ…?」

 

「知らないの?ほら、あそこにあるポスターが、マリナ・イスマイール様だよ」

 

そう言って、少年は町の一角を指差した。

刹那が指の先に視線を向けると、そこには以前、ミッションの最中に出会ったあの女性の写真が確かにそこにあった。

 

(マリナ・イスマイール……)

 

不思議な人間だった、と彼女は記憶していた。

最早形骸化してしまった、母親の記憶が呼び覚ませられるような、そんな女性だった。

 

「おい、なにしてる」

 

以前彼女と出会った時の事を思い出し、刹那が考えに浸ろうとした時、後ろにいた老人から敵意がこもった声をかけられる。

刹那が振り向くと、その老人はその顔に更に嫌悪感を募らせる。

 

「お前クルジス人だな。顔見りゃわかる」

 

「おじいちゃん?」

 

少年は自分の祖父が何を言っているのか理解できない。

先の紛争を知らないのだから当然なのだが、そんなことなどお構いなしに老人はまくし立てる。

 

「ここはお前がいていい場所じゃない!とっとと出ていけ!」

 

その声に反応して、周囲の人間もがなり立て始めた。

おそらく、これまで一応の静観を決めていた人間達が、「もうあの爺さんが始めちゃったからもう我慢しなくてもいいか」という俗物的思考により溜め込んでいた物を吐き出し始めたのだろう。

それらの罵声や怒号を聞きながら、刹那は怒るでもなく、どこか呆れた、そして諦めのような顔をして歩きだそうとした。

 

 

 

 

……筈だった。

 

 

 

 

 

だが、次の瞬間。

 

「オラァ」

 

という声が聞こえると共に、

 

「プゲェッ!?」

 

という声を出しながら、老人が横から誰かに突っ込まれて……いや。

“誰かから蹴っ飛ばされて”横向きにすごい勢いで吹っ飛んだ。

同時に、周囲でがなり立てていた人間達も、一瞬で黙る。

少年が反射的に「おじいちゃーん!?」と、先程とは違うニュアンスで祖父を呼ぶ。

しかし刹那の方はそれ所ではない。

その目は老人を蹴っ飛ばした人物を凝視している。

 

老人を蹴っ飛ばした人物は男性だった。

しかしその格好は、場違いにも程があり、下は砂色のカーゴパンツで、上は灰色無地のシャツの上からボマージャケットを着込んでいた。

髪は黒く、肌は黄色人種特有の色で、彼が中東ではなく、アジアの出身であるという事を如実に物語っている。

しかしそこら辺だけを見れば、下手をすると普通に何処にでも居そうな観光客とも解釈できる。

問題はその顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

言い表すならば、顔は刹那とよく似ていた。

まるで双子かと見間違えるくらいに。

彼女は此処まで自分に良く似ている人間を二人しか知らず、また、その二人の内の誰であるか、直ぐに分かってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アムロ!?」

 

「おう、刹那。観光旅行はどうだ?楽しいか?とりあえずあのジジイ+そこら辺の馬鹿どもには今から俺とお前が本当の兄妹で、クルジス人って言うのは勘違いだと、徹底的に教えてくる」

 

案の定、老人を蹴っ飛ばしたのは彼女にとって、(御飯的な意味で)絶対に逆らえない相手だった。

その彼は次の瞬間心が清い者が見たら発狂するんじゃないかと思うくらいに凄惨な笑顔(別名:オリジナル笑顔orダイナミック笑顔or顔芸)をその顔に浮かべて周囲を見渡す。

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kill them all, die.(皆殺しだ、死ね)

 

そう彼がつぶやいた瞬間、地獄が始まった。

刹那は咄嗟に少年の目を塞げた自分を心の底から褒めてやりたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー儲かった儲かった!」

 

(……うわー……凄く嬉しそうだ……悪魔か。)

 

先ほど大暴れをかました後、ボッコボコにした人達を路地裏に連れ込んで暫らくして、手の上でこの国の硬貨を手で弄びながら此方へと戻ってくるアムロを見て、思わず普段なら絶対に考えないような事を心の中で呟いてしまった。

当のアムロは、ニコニコしながらおそらく先程の人達から奪ったのであろう硬貨を見ている。

…何故そんな事がわかるかって?

それは簡単だ。

彼らがが姿を消してから、物凄い鈍い音が再び周囲に響き渡った後、悲鳴のような物が幾つも聞こえて、それから彼が出てきたのだから。

 

「……アムロ…あの…怒ってくれたのは嬉しいんだが…それは流石に…」

 

「その人の事が人種が違うからという理由で一方的に嫌う奴らに、人権なんぞ無い」

 

「…いや、それでも……」

 

そう言うが、アムロは全然気にする様子は無い。

 

……良いんだ、ろうか?

 

いや、悪い事に決まっている。

そう考えて、再び彼を咎めようと口を開こうとした、その時だった。

 

 

「…あの…」

 

「ん?」

 

「…お、おじいちゃんは、大丈夫、ですか?」

 

…先程の水売りの子だ。

おそらく自分の祖父が心配なのだろう。

彼も真っ先に路地裏に連れ込まれていたし。

不安そうな光を目に湛えている。

 

「……」

 

それを見たアムロが、一瞬で渋い顔になる。

まだあまり付き合いの長くない私でもわかる事だが、彼は基本的に善人だ。

少々偽善的な所もあるし、先程のように、凶暴で理不で独善的な所もあるけれども、それでも基本的に誰かが“正当な理由で困ってたら”自分の事など放っぽり出して、その人の事を助けようとする。

実際、以前買出しに行った際に、迷子になった子供を見つけてしまい、一緒に親を探してあげた後、無事見つけ出して引き渡したら、今度は自分が迷子になった事があると言っていたし。

実際にハロがコッソリ撮っていた映像もあったので、法螺話でもなんでもない。

 

閑話休題だ。

 

そんな彼の前に、不安そうな顔をした子供―――しかもその原因を作ったのは自分自身―――が居たら、彼は間違いなく、その子供を笑顔にしようとして、無茶な行動をし始める。

 

「……あ、そういえば、さっきから喉が渇いてるんだっけ。さっきのジジィと糞どもの所為で忘れてたわ」

 

…ほら、こんな風に。

 

「坊主。丁度いいから、その水全部俺に売ってくれ。それと、お駄賃でこいつもくれてやるよ」

 

そう言いながら、彼はポケットからそれなりのお金―――明らかに、本来払うべき金額を少しだけ超えている―――を取り出すと、先程から手で弄っていた硬貨と共に少年に手渡した。

驚いて彼を見つめる少年から、アムロは水を受け取ると少年に何か耳打ちした。

すると、一瞬で少年の表情は明るくなり、次の瞬間「ありがとう!」と彼にお礼を言うと、そのまま先程アムロが入っていった路地裏に消えていった。

 

「…さて、と。刹那。水も買えたし…んじゃ、行くか」

 

そう言って、アムロは私の手を取って歩き始めた……って!

 

「あ、アムロ!?」

 

「…んあ?何だ?」

 

「何故手を取る理由がある!?普通に私が付いて行けば良いだろう!?」

 

「いや…だってお前、なんか美味そうな物があると、用事とかスッカリ忘れてそっちに飛んできそうなんだもん」

 

「んなっ!?」//////

 

心外な!!

流石の私でもそんな事あるはずな「あ、露店で肉が焼いて売ってるぞ。串焼きで」

 

「何っ!?何処だ!?」

 

…………あ。

 

「………」

 

「………」(゜∀゜)ニヤニヤ

 

「…………」

 

「…………」(゜∀゜)ニヤニヤ

 

「……………………」

 

「……………………」(゜∀゜)ニヤニヤ

 

「…………………………………………うぇ」

 

「Σ(゜д゜||)!!!何で泣くの!?」

 

「うぇ…うぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

「あああああああ!!!ちょちょちょちょちょ!!!!ゴメン!!ゴメンって!!!な!?本当にゴメン!!!!流石にからかい過ぎた!!!!後で美味しいもん買ってあげるから泣き止んで!?ね!?」

 

「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「何でもっと泣き出すのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

 

うるさい!!

お前はもっと女心(と、言ったか?)を学習しろ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「なー、本当にゴメンって……マジで気まずいから機嫌直してくれって……なんか周囲の人の目が、心なしかキツイから。お豆腐メンタルの俺には拷問以上の威力を与えてくれてるからって。マジで」

 

…誰が許してやるものか。

一応私だって女なんだぞ?ガラスのハートなんだぞ?

お前の豆腐で出来たハートなんかよりも脆いんだぞ?

そこらへん分かってるのか?

 

「ほら、このプリンあげるから」

 

「ん、許す」

 

なんだ。最初からそう言ってくれれば良かったのに。

……なんか一瞬だけ、「うわやっす……」とか聞こえたような気がするが、気のせいだろう。

……む、意外と美味いな」

 

「そりゃどうも。言いたかないが、口に出てるぞ刹那」

 

「むぅ……」

 

…意外と恥ずかしいな。

以前クリスやユリが、何か考え事をしている内に考えていた事を声に出していた事があって、それを指摘したら直ぐに顔を赤くしていた。

当時は何故顔を赤くしたのか良く分からなかったが……成程。実際に指摘されてみると、これは恥ずかしい。

 

「どした?いきなり手、止めて」

 

「ん?いや、何でも無い」

 

「あ、そう……って、あそこか?目的地?」

 

暫らくしてから、アムロが何かを見つけた。

其処は近くに小さな崖がある岩場だった。

咄嗟にプリンを簡単に包装してからしまい、端末を取り出して目的地の場所と現在地を照合する。

結果はビンゴ。

直ぐに計器を取り出して、近づいていく。

 

其処は昨日、アンテナ施設の防衛戦中に、第三者によってミサイルが発射されたと思われる場所だった。

昼間にも関わらず人っ子一人いない。

昨晩あれだけ激しい戦闘が行われていたとは思えないほどだ。

まあ、当たり前の事だが。

 

「ロックオンの情報では、確かこの辺りからミサイルが発射されたようだが…」

 

私はは地面に計測用の端末を近づけて様々な数値を計測する。

するととある地点で、微量ながらMSのスラスターに使われるプラズマによる、残留反応が見られた。

 

「残留反応?という事は、確かに此処にMSがいた……?しかし、どこに……」

 

私は立ち上って、計測しながら小さな崖になっている場所へと歩いていく。

が、その途中で、いきなりアムロに肩を掴まれて、動きを拘束された。

何をするのかと抗議の声を出そうとしたが、口に手を当てられて、声が出せない。

ならばと目で抗議しようとした所で、アムロは自分の口元に指を当てて、「シ…」と言って来てから、崖の下をコッソリと指差した。

訝しげに指の先を目で追うと、そこにフラッグと二人の人影を見つけ、ハッとして体勢を低くした。

それに体勢を崩されて、アムロが倒れ掛かってきたが、何とか支える。

アムロの体勢が元に戻り、彼も体勢を低くしたのを見計らって岩陰に隠れ、あちらの様子を窺う事にした。

 

「フラッグという事はユニオン?奴らもここの捜索を?」

 

「おそらくな。大方、昨日の戦闘で施設の防衛に当たってた連中の一人じゃないか?もう一人はパイロットって言うよりかは、学者みたいだがな」

 

私の呟きに、アムロが明確に返す。

どうやら向こうからこちらはまだ認識できてはいないらしい。

…認識されていたら、それはそれでアウトな気もするが…

同時に特に風も無いため、向こうの話し声も明確に聞こえた。

 

「回収したポッドもそうだけど、この反応はやはり間違いないね。」

 

「PMCトラスト側の見解は?」

 

「モラリアの紛争時に紛失した物、とは言ってはいたけど……」

 

其処まで眼鏡を掛けた白衣を着た男が話を進めると、軍服を着た男がの話を手で制止し、鋭い視線を私達がいる崖の上まで向けてきた。

 

「なんだい?」

 

「……立ち聞きはよくないな」

 

(ッ!?見つかった!?)

 

見ればアムロも……あ、いや。どうやらあまり驚いてはいないらしい。

それでも、一瞬だけ「おや」という声は聞こえたから、それなりに驚いてはいる…んだろう。

たぶん。

 

「出てきたまえ!」

 

そんな声を聞いた私は、慌てる事なく、訓練の通りに一般人を装って岩陰から出ていく。

アムロも一緒に立ち上がった。

私は弱気な地元の少女を演じながら。

アムロはそんな私の兄役を演じながら。

彼らの前に姿を現した私達は、両手をあげて無抵抗の意志を示す。

 

「あれ?地元の子かな?」

 

「どうかな」

 

白衣の男は疑っていないようだが、軍服を着た男は此方を警戒したままだ。

 

「あ、あの……私、このあたりで戦闘があったって聞いて、それで……」

 

私はあくまで興味本位でここを訪れたと思わせようとする。

この国の……厳密には、元クルジスという隣国出身である私だからこそできるカモフラージュだ。

 

「なるほど」

 

白衣の男はフムとうなずく。

が、軍服の男の視線は更に鋭い物となった。

 

(…何かミスでもしたか!?)

 

私はそう思って不安になる。

が、彼の視線の先は、よく見るとアムロの方に向けられていた。

 

(…そうか!アムロは私とは肌の色が違う!例え顔の形がよく似ていても、これでは下手な誤魔化しはできない!)

 

思わず冷や汗が頬を伝う。

そんな私の同様など何処吹く風か、男はアムロへと問いかける。

 

「…君の方は、何故此処にいるのかな?」

 

やはり来た。鋭い視線だ。背筋に思わず薄ら寒いものが感じられる。

しかしアムロは何でも無い様に、平然としてこう言った。

 

「俺はこの子の双子の兄貴分でな。こいつがどうしても此処を見たいといったから、付き添いで此処まで来ただけだ。服装が地元のと違うのは、最近まで経済特区の方に住んでたからで、今日はたまたま里帰りしていただけだ。因みに伏せたのは、見つかったら面倒な事になりそうだったからだ……一応、自己紹介でもしたほうが良いか?人物照合しやすくなるぞ?」

 

それを聞いた私は、驚いてアムロを見る。

だが、それを聞いた軍服の男は、彼をじっと見据えたまま動かない。

対するアムロも、ジッと彼の方を見続ける。

 

「……フッ…其処まで言われてしまっては、仕方が無いな」

 

「お、信じてくれるのか?」

 

「悪いが、これでも人を見る目はあるのでね」

 

が、暫らくしてから、軍服の男はフッと笑って、警戒を解いた。

それを見てアムロもいつも通りにヘラッとした笑いを作る。

そのタイミングを見計らったのかどうかは知らないが、次の瞬間白衣の男が会話に入ってきた。

 

「…まあ、そういう事に興味を抱く年頃であるのはわからなくはないけど、このあたりはまだ危険だよ。早く立ち去ったほうがいい」

 

どうやら二人とも、私たちの事を信じてくれているようだ。

が、これ以上下手な会話をしたら、襤褸が出ないとも限らない。

再び疑われない為にも、早くここから立ち去ったほうが得策だろう。

 

「はい、そうします。失礼します」

 

「ほんとだよ全く。付いて来させられる、俺の身にもなれってんだ……お仕事の邪魔してすみませんね」

 

「いやいや、気にしてないから大丈夫だよ」

 

「それでもお仕事の邪魔したのは事実ですから。ほれ。ナイナも頭下げろ」

 

そう言うと、アムロは私の頭を掴んで、無理矢理お辞儀させる。

一瞬彼の言った言葉が何なのか分からなかったが、無理矢理お辞儀させられた後で、彼が咄嗟に考えた私の偽名なのだと気付いた。

 

「お兄ちゃん。自分で出来るよ…」

 

「アホ。そんな素振り全然しなかったろうが……すみませんね、何分人見知りの激しい子で…」

 

「はははは…いや、可愛い妹さんじゃないか。大事にしてあげるんだよ?」

 

「そりゃもう。例え婚約者連れてきたって手放したりしませんよ?」

 

アムロはそう言って一礼してから、「それじゃ」と言って踵を返した。

私も、彼に続くようにして一礼すると、彼らに背を向けて歩きだそうとした。

その時、

 

「少女。そして少年よ」

 

突然、軍服の男に声をかけられた。

瞬間、私は凍ったように固まる。

アムロは「んあ?」と言いながら気だるげに振り返った。

……相変わらず思うのだが、何故こんなに彼は余裕なのだろうか?慣れているのか?

 

そんな私の心中にお構いなく、軍服の男は言葉を続けた。

 

「君達は、この国の内紛をどう思う?」

 

「え?」

 

「…はい?」

 

…? 私たちの事を探っているのだろうか……?

それとも、たまたま…?

それとも……?

さまざまな推測が私のの頭の中を埋め尽くす。

 

「グラハム?一体何を…?」

 

「カタギリ。スマンが少しだけ静かにしていてくれ……もう一度、聞こう。君達は“祖国である筈”のこの国の内紛を、どう思うかな?」

 

鋭い視線と、それに対応した鋭い声を背に受けながら、私は軽くパニックになった脳をフル回転させる。

…しかし、答えは中々出ては来ない。

 

「…わたし、は……」

 

「…フム…客観的には、考えられんか。なら、君はどちらを支持する?」

 

その時、まるで頭の靄が晴れたかのように、ハッとした。

同時に、ある答えに辿り着く。

それは、この状況から逃れるための物ではない。

そんな物ではなく、自分が素直にそう思った答えを彼に告げる。

 

「……支持は、しません。どっちも。どちらにも、その人達也の正義が、あると思うから。……でも、この戦いで人は死んでいきます……沢山、沢山、死んでいきます…」

 

言いながら、私の頭の中には、あの時失った仲間達の顔が、“彼”の笑った表情が、浮かんでは消えていく。

…だからこそ、分かる。

これはマイスター刹那・F・セイエイとしてではなく、素の自分の、ソラン・イブラヒムとしての考え。

戦う事以外の事ができない道にいるから、だからこそ辿り着けた、自分なりの、自分だけの答え。

…今の自分自身と矛盾している事は、痛いほどに解っている。

まともな答えにすらなっていない事も、しっかりと解っている。

だがそれでも、悩んで悩んで、悩み抜いた果てに導いた私だけの答え。

 

「……同感だな」

 

意外な事に、私のそんな答えになっていない答えを聞いた軍服の男は、目を瞑ってそう答えた。

 

「……軍人のあなたが言うんですか?」

 

「…やはり、この国に来た私達はお邪魔かな?」

 

子供のように無邪気な、それでいて凛々しい男の笑みを見て“刹那”としての私は少し気を緩める。

 

「だって……軍人がたくさん来たら、私達みたいな市民の被害が増えるし…」

 

「…成程。確かにそうかもしれないな……だが、君だって戦っているだろう?」

 

「え!?」

 

そう言われた瞬間、再び緊張が奔った。

咄嗟に腰の後ろ側に隠した銃に手が伸びる。

 

「その後ろに隠しているものは何かな?」

 

「ッ!!」

 

男の笑みが鋭いものに変わり、私の後ろにやった手に注目する。

瞬間、この男が私の腰に隠された銃に気付いていた事に、今更ながら私は気付かされる。

私はそれまでの気弱な表情から一変して、鋭い目付きになって、男を警戒した。

 

「怖い顔だ」

 

二人はそのまま睨みあうが、軍服の男は一息つくと今度はアムロの方に目を向ける。

 

「君もそうかね?」

 

…それは、彼も銃を持っている事を確認する為の言葉だったのか、それとも先程の私の答えと同じ事を考えているのか、と、問いかける物だったのか……

少なくともアムロは、暢気な頭で後者だと思ったらしい。

先程となんら変わらない口調で、彼に答えを返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん……個人的にくっだらないな~…とは思ってますね」

 

「!?」

 

「!…ほう。どういう事かな?」

 

そう言って、男は更に眼光を鋭くした。

だが、アムロはそれに気付く素振りを全く見せずに、再び彼に答えを返す。

 

「いや、そもそもこの国の紛争の根幹にあるのって、お互いの利益どうこうって話じゃなくて、宗教上の理由でお互いが気に食わないから引き起こされてるもんが大半でしょう?たぶん……いや、その場合、一応利益云々の話も絡んでくるからそういうものになるのか……?…うーんちょっと違うような気がするんだよなぁ…」

 

「…ふむ。確かに、私の目から見ても、利益どうこうと言う話では無さそうだったが…」

 

「あ、でしょう?此処らへんは特にそういうのが多いんですよねぇ…利益目的ならまだ人間らしくて、個人的にはまだ良いとは思うんですけど、信仰する物の違いで殺し合いするって言うのは、何か人として間違っているような気がしましてね……あ、お二人は軍服から見る限りユニオンの方ですね。すみません。お二人には少し分かりにくいですかね?」

 

それを聞いた男は、不意に驚いた顔をして、こう彼に問いかけた。

 

「…いや、興味深い意見を聞けた。礼を言わせて貰……む?君もこの国の出身なのだろう?随分と周囲の人間とは違った、独特な考えを持っているのだな」

 

「……俺はコイツと違ってハーフなんですよ。日本人と、この国の人とのね。簡単に言ってしまうと、俺とこの子―――ナイナは、種違いの兄妹なんです。詰まる所、母親が一緒だけど、父親は違うって事なんです。元々、俺の親父は此方に永住するつもりだったらしいんですが…まあ、そこらへんは地方特有の変なしきたりでどうやらダメだったらしくて、結局親父は生まれたばかりの俺を連れて日本に戻ったんですよ。だから俺はコイツと違って、生まれはこっちなんですけど育ちは日本なんです。簡単に言っちゃうと……準日本人って感じなのかな……?だから、そういった宗教云々の事に対する考えっていうのは、かなり日本人のものに近いんです」

 

(……よくもまあ、次から次へと口から出任せをポンポンポンポン出せる物だな……)

 

誤魔化す為とはいえ、結構作りこまれた話だ。所々無茶苦茶だが。

…だが、情報によると、この国の村の幾つかの所では、確かにそんな古いしきたりを持つ村は存在しているらしい。

それに、確かに私とアムロの顔は良く似ているから、これ位の法螺話であれば、おそらくかなり突っ込まなければ十中八九信じ込ませられるだろう。

実際、向こうは納得したような顔をした。

 

「……確かに、それならば感性も変わってくるか……成程。済まなかったな、少年」

 

「いやいやしょっちゅう言われますし。それに、俺って結構我慢強い方ですから、これくらいならへっちゃらですよ」

 

「ほう。そうだとすれば、私とは正反対だな。基本的に私は私は我慢弱く、なおかつ人の話を聞こうともしない上に、落ち着きも無い。俗に言う嫌われ者だ」

 

「へえ、そうですか。サラッと言っただけなのに、必要以上の自己紹介ありがとうございます。因みにコソコソするのも得意です」

 

「ならば、君は私の嫌いな人種の一人のようだ。 私は基本的に粘着質で諦めが悪い上に、姑息な真似をする輩が大の嫌いときている」

 

「……ん?一番最後の言葉だけなら、すんなり納得できるのに、その前の聞いてすらいない質問の答えで一気に訳が分からなくなったぞ?」

 

「気にするな」

 

「いや、気にしますよ」

 

「気にするなと言っている」

 

「いや、そりゃそうですがね……因みに和食は何が好きですか?」

 

「寿司と鍋だ。因みに甘味ならば、ドラ焼きと団子。飲み物であるならば緑茶が好物だ」

 

「あ、其処は俺も同じです。意外と気が合いますね」

 

「うむ、そこは同意しよう」

 

「でも、日本以外の甘味も好きなんですよね。食べ物は美味い物は美味いし」

 

「うむ、確かにそうだな」

 

「でしょう?」

 

(……あれー?如何してこうなった?)

 

先程のあのシリアスな空気から一変して、今やなんだかよく分からないカオスな空間が何時の間にか完成している。

…以前ロックオンが、「ツッコミ役不在だと、ボケが飽和して宇宙の法則が乱れる」と言っていたが、今が、まさにそんな状態だった。

流石にこれ以上は話が進まなくなるし、任務にも支障が出る。

そう考えた私は、アムロを諌めようと、口を開こうとした。

が、

 

 

「……グラハム。そろそろいい加減にするんだ。それ以上ボケられると、流石の僕でも捌き切れなくなる。そっちの子も」

 

「「何だつまらん」」

 

「………ハア……君らね…」(泣

 

……白衣の男に、遮られてしまった。

何か悔しい物がある。

そう思って、私は頬を膨らませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで彼女は、僕を睨みながら、頬を膨らませているんだろう…?」

 

「自業自得だな。カタギリ、君はもっと乙女心を解ってあげるべきだ。それだから、私と同じ様に何時まで経っても彼女が出来ない」

 

「そうそう。女の子の見せ場を奪っちゃダメですよモヤシ博士」

 

「そして君らは地味に酷いな!!後グラハム!!彼女云々は大きなお世話だよ!!!と言うか君!!モヤシ博士って一体何!?」

 

「見た目」

 

「おお、成程。言い得て妙だな」

 

「これ以上僕を虐めて何が楽しいのさ君達は!?あと、君ら実は初対面じゃないだろう!?息ピッタリじゃないか!?」

 

「「いやいや、初対面だが(ですが)モヤシ博士?」」

 

「ああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタギリ。落ち着いたか?」(*´∀`*)

 

「……ああ、何とかね……」

 

「すみません。調子こき過ぎました。ごめんなさい」(*´∀`*)

 

「いやいや………」

 

…どうやら、私が拗ねている間に、一悶着あったらしい。

白衣の男性は半泣きの状態となり、軍服の男とアムロはかなり生き生きとしている。

…本当に何があった?

 

「あ、それじゃ、これ以上邪魔しちゃ悪いと思うので、俺達はこれで。ナイナ、帰るぞ」

 

と、突然アムロがこんな事を言い出して、此方へと歩いてきた。

チラと時計を見ると、予定されていた時間をかなりオーバーしている。

流石に拙いと思ったんだろうか?

気付けば、彼はそのまま私の隣を通り過ぎて、スタスタ歩いていこうとしていた。

置いてかれてはマズイ…そう思い、私は急いで彼の後を追いかけようとした。

その時である。

 

軍服の男が、計ったかのようなタイミングで、隣にいた白衣の男に話しかけた。

まるで私達に聞かせるように。

 

「そういえばカタギリ。先日、ここから受信アンテナを攻撃した機体はAEUの最新鋭機、イナクトだったな」

 

「!?」「…?」

 

私は思いがけない情報に、そして、自分の前で話し始めた男に驚く。

アムロは相変わらず「何を言っているのか解らない」と言った感じだが、よく見るとしっかりと聞き耳を立てているという事が分かる。

 

「うん?グラハム、いきなり何を…?」

 

カタギリと呼ばれていた白衣の男もそれなりに驚くが、それでも軍服の男は話すことを止めない。

 

「しかもその機体は、モラリアのPMCから奪われた機体という事らしいじゃないか」

 

そこまで話すと、男は満足そうに一息つく。

 

「さあ、撤収するぞ」

 

「あ、ああ……」

 

男は素早く背を向け、フラッグの元へと歩いていく。

白衣の男も慌ててその後を追いかけて行った。

 

 

 

 

「…さて、刹那。意外な所から情報が入った訳なんだが……心当たりあるか?」

 

その後、私は暫らくの間動かずに、アムロから声を掛けられるまで彼の言葉を反芻していた。

 

「PMCのイナクト……?」

 

「…微妙か?個人的には、あのモラリアの時の情報にあった赤と青のイナクトが怪しいと思ったんだが…」

 

アムロにそういわれた瞬間、ハッとする。

 

「………まさか!?」

 

あの時、イナクトの中から姿を現した赤髪の男、アリー・アル・サーシェスのことを思い浮かべる。

 

「奴が…あの男が、この内紛に関わっていると言うのか…!?」

 

「……心当たり、あるみたいだな。やっぱりその時のイナクトか?」

 

「私の予想が当たっているならば、おそらく……いや。十中八九、奴だ」

 

…だが、奴はもう戦いが終わったこの国に用は無い筈だ。

なのにまた、戦いを引き起こしている。

 

「何故だ?何故、今になって………」

 

分からない。奴が何故、再びこの国で戦いを引き起こそうとしているのかが………

だが、もしそうだとすれば、奴がいるかもしれない場所は……いや、いるであろう場所はあそこしかない。

 

 

 

ピピピ・ピピピ・ピピピ

 

「うん?通信?一体誰……ってうわ師匠かよ。嫌な予感するなぁ……刹那、ちょっとスマン」

 

そう言うと、アムロは少し離れた所まで歩いていった。

師匠、という事は数日前の親睦会という物で会った、あの中性的な顔立ちの、黄緑色の髪の少年(?)の事だろうか?

そんな事を考えながら、私は彼の話し声に聞き耳を立てる。

悪いとは思ったが、万が一という事も有り得る。

 

「お疲れ様です。総務のアムロです……はい?マジ?もう?……はい……はい……あ、そ。んで、今度は一体何を取っ付けたの?……ふーん………は!?何で!?俺も一緒に行った方が…って、ああそういう事で…………オイ、今の音一体何………何?リヴァイブ兄さんが何時の間にか姉さんになってて、結果として姉さんが発狂した!?一体俺がいない間に何があったのそっち!?え!?グラーベさんとリジェネ兄さんとブリング兄さんで今必死に押さえ込んでるけど、もう直ぐ拘束が破れそう!?ちょ、ヒクサーさんとデヴァイン兄さんは一体如何し………発狂直後にレバーブロー食らって沈んだだぁ!?どんな状況よそれ!?……ああもう!!」

 

そう言うと、彼は必死な形相になって此方に振り向き、こう言った。

 

「すまん刹那!!今緊急事態が起きて、色々とやばい事になってるらしいから、ちょっと応援行ってくる!!!俺がいなくても、もう大丈夫だよな!?」

 

「あ、ああ。うん…あ、でも「それならいいや!んじゃな…とと。道中買い食いして、遅れるんじゃな」さっさと行け!!!!」「……ああうん。分かった!んじゃな!」

 

「行け!!さっさと行って、その姉さんとやらにマウントポジション取られてボコボコにされて来い!!」

 

「地味に酷いな!」と言って、彼は走って行った。

…それにしても、心外だ。

私は其処まで食いしん坊じゃな「お!お嬢ちゃん!!ラム肉焼いたんだがいかがかな!」……

 

「頂こう」

 

「あいよ!毎度あり!!」

 

……ムグ…フム、美味いな………ん?私は今、何故怒っていたのだっけ?

……うう、思いだせん…………まあ、忘れてしまうという事は、別に大した事でもなかったんだろう。

それよりも、今はミッションの方を優先しなければ………ム?アレはスイカか?……

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「…………案の定かいおんどりゃあ」(#^ω^)ビキビキ

 

「( ゚д゚)ハッ!?」

 

数分後。やっぱり心配になって様子を見に来たアムロに説教される間、私は今後一切許可無しに買い食いすることはやめようと心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2日後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザディスタン首都 郊外

 

其処に、俺は居た。

あの後、マスード氏の奪還を実働部隊に任せた俺はバックアップの為という名目の元、Oガンダムを“O-01”として回収し、一旦家に戻って発狂した姉さんを延髄切りで気絶させた後に、今回のミッションでのサポートの為、此処に機体をカムフラージュしながら待機していた。

 

「に、しても斬新なミッションだよなぁ……一応保険として俺も待機してるけど、武器は最低限だし…」

 

「基本装備!基本装備!」

 

「いや、そうだけどさ……」

 

今行った斬新なミッションというのが、今回俺がサポートを行う事になった、マスード氏の返還ミッションだ。

が、ただの返還ではない。

なんとエクシア単機でアザディスタンの王宮まで、大観衆が見ている中で向かい、王宮の前まで来た所でやっと返還するという物だ。

しかも、今回作戦に参加する機体は、俺のOガンダムを除くと、刹那のエクシア―――しかも完全(という訳ではないが)非武装―――だけである為、ある意味益々心配である。

 

ピッピッピッピッピッピ

 

「!! ハロ!ハロ!エクシア接近!エクシア接近!!」

 

「…来たか」

 

あれこれ考えている間に、作戦時間になったようである。

レーダーを見ると、俺から見て六時の方向に、上空から緑の粒子を撒き散らしつつ、エクシアが降り立って来ていた。

Oガンダムの頭を動かして、そのエクシアの姿を視界に入れる。

…どうやら当初の予定通りに完全非武装のようだ。

 

「…あ、良い事考えた」

 

ふと、そのとき俺の脳裏に、事ある毎に彼女が呟いている、とある言葉を思い出した。

確か、『私がガンダムだ』…だったっけ?

ガンダム馬鹿らしい刹那の言いそうな事だが……どういう意味かは分からなかった。

だが、良い機会だからこの言葉の意味を教えて貰う事にしよう。

その行動をもって。

 

「ハロ。エクシアにメッセージを送ってくれ」

 

「了解!!ナンテ?ナンテ?」

 

「ん?結構シンプルだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“――――――――――――――――――――――”って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザディスタン王宮前

 

その日、王宮の前には多くの市民が集まっていた。

王宮の前には、武装した市民や、軍の兵隊、そして輸入品であるアンフが、まるで睨み付けるかの如く、空を見上げていた。

それを取り囲むようにして集まっている市民のその全員が、口々に配置されたアンフに向かって、罵声や恨みの言葉を浴びせる。

よく見ると、物も幾つか飛んでいた。

また、各国のテレビ局の人間も、王宮前の至る所からからカメラを回しながら、これから起こる事を決して撮り逃すまいと集中している。

見れば、配置されているアンフ達から距離を置いた所に、ユニオンのフラッグが立っているのが見える。

その内の一機は黒く塗装され、また、一目で分かる位に手が加えられていた。

グラハム・エーカーのカスタムフラッグだ。

普段は自分で明言するだけあって、落ち着きの無い彼ではあったが、流石に自重して、黙ってこれから起こる事の成り行きを見守ろうとしている。

また、他のノーマルフラッグのパイロットである“ダリル・ダッジ”と“ハワード・メイスン”も、彼らが敬愛する上官と同じ様に、その場を固唾を呑んで見守っていた。

 

そんな中、一人の市民が後ろの空から近づいてくる光に気付いた。

 

「あ、あれは!?」

 

その声にアンフに罵声を浴びせていた人々が、一斉に後ろを振り向く。

空から降りてくる青と白の機体、ガンダムエクシアにその場にいた全員の注目が集まり、大きなどよめきが起こる。

そしてエクシアが王宮の前に着地した時、兵器について多少の知識がある者はある事に気付いた。

カスタムフラッグを駆っている、グラハムや、彼の部下であるダリルとハワードも、ほぼ同時にその事に気付いた。

 

「っ!?武装を解除しているだと!?」

 

基本的に心臓に毛が生えていると揶揄されたりするほどに肝が据わっているグラハムも、これには流石に驚いた。

そのままノコノコと此処まで出向いてくれば、間違いなく此処にいる殆どの人間から反感を買うのは目に見えていたが、まさかここまでとは思わなかった。

 

「馬鹿よ!ここに非武装で来るなんて!!」

 

そのとき、王宮の二階にいたマリナ・イスマイールの付き人をしている“シーリン・バフティヤール”は、慌ててそう叫んだ。

と、同時にマリナも慌てる。

昨夜、ソレスタルビーイングのエージェントと名乗る人物から、まさかのホットラインによる連絡を受けた際に、マスード・ラフマディーを保護したという耳を疑うような知らせを受けて、彼女達は会談の準備をして彼らを待っていた。

しかし、約束通りに現れた当の本人は、周りに旧式とはいえ中隊並みの量のMSが王宮を守る為に出張っている所へと、わざわざ非武装でやって来るという、半ば自殺行為も同然の事をしながら、ここまでやってきていた。

この場合、もしもマスード・ラフマディーがガンダムの中に、そのパイロットと共に居たとして、万が一ガンダムが攻撃されて中にいるであろう彼のの身に何かがあれば、それこそ大変な事になる。

 

「ガンダムに攻撃はしないで!」

 

アザディスタン王女―――“マリナ・イスマイール”は、その場にいた兵士にそう命令する。

 

「し、しかし……」

 

「これは命令です!!」

 

その時、遠くにいるマリナ達にもエクシアの居る辺り―――丁度彼女らが居るテラスの正面くらいから、銃声が聞こえた。

それは、おそらく過激派の内の何人かであろう、若い男達だった。

彼らは憤怒の形相を浮かべて、こちらへと歩いてくるエクシアに、カービン銃を撃ち続けている。

 

「来たなガンダム!!」

 

「約束の地から出ていけ!!」

 

男達がエクシアに向けて銃を発砲する。

しかし、ただの対人用の銃で、MSの、しかもガンダムの装甲が抜ける訳も無く、空しく放たれた銃弾はエクシアの装甲に当たって砕け散った。

当然の如く、エクシアはこれに動じる事無くゆっくりと着地すると、王宮へ向けて歩きだす。

それを見たアンフ隊は慌てて右腕の滑空砲の矛先をエクシアに向けた。

それでもエクシアは止まらない。

それを見たアンフ隊は、それまでおざなりに銃口を向けているだけだったが、直ぐに本格的な物へと体勢を変え、同時に付け焼刃でもこれだけあればと言わんばかりにメインカメラの下の対人用機銃の銃口もエクシアへと向けた。

アンフ隊の纏う雰囲気が変わったのを察知したのか、それまで彼らに罵声を浴びせているだけだった市民達が、我先にと慌てて逃げ出し始めた。

その間も、エクシアは王宮へと歩き続ける。

暫らくして、アンフ隊の足元から、市民や歩兵の影が完全に消えたのを見計らって、隊の隊長機から、エクシアへと警告が発せられた。

 

『ガンダムに告ぐ。保護した人質、マスード氏を解放せよ!繰り返す、マスード氏を解放せよ!』

 

だが、それでもエクシアはゆっくりと、しかし確実に王宮へと近づいていく。

そんな中、エクシアを王宮へと進めている刹那は、こんな事を考えていた。

 

(……まだ…まだだ……今ここで開放すれば、また何者かに撃たれる可能性がある。そうなれば、今度こそこの国の紛争は終わらなくなってしまう。)

 

エクシアを動かしながら刹那は思考を働かせる。

しかし、無情にもアンフ達の大砲から轟音とともに弾が発射されてしまった。

 

ドォン!!

 

「グゥっ!」「ぬっ!」

 

強い衝撃を受けて、コックピットの中にいた刹那とマスード氏は、思わず苦悶の声を漏らす。

特にマスード氏に至っては、狭いコックピットの中に立ちっぱなしの状態である。

高齢である彼には、この状況は辛いのだろう。

 

「…まったく。世間であれほど騒がれている“ガンダム”という物の乗り心地がここまで悪い物とは思わなかったな。足腰にくる」

 

「申し訳ありません。ですが今は我慢して下さい」

 

「なに、単なる老い耄れの独り言だ。気にしなくても良い【ドォン!】ぬぐぉ!?」

 

「クッ…」

 

再び、アンフ隊の内の一機から放たれた滑空砲の砲弾が、今度はエクシアの左肩に直撃する。

それを受けたエクシアは、今度こそその衝撃から、一瞬歩みを止めてしまう。

そして、それを見逃すほど、この国の兵達は馬鹿ではない。

アンフ隊はここぞとばかりに、ありったけの砲弾や機銃の弾をエクシアへと撃ち込んだ。

 

「どうして!?」

 

マリナから悲痛な叫びが上がる。

彼女はそのまま居ても立ってもいられずにテラスに飛び出そうとするが、もう少しでテラスの扉に手が届くという所で、シーリンに袖を掴まれて止められた。

 

「っ、シーリン、離して!」

 

「…マリナ、落ち着いて。…ほら、あれを見なさい」

 

シーリンに促されるままマリナが外を見る。

と、目の前に広がっていた爆煙の中から、体の前で両手を十字に重ねて攻撃を防いだエクシアが無傷で現れた。

 

「ガンダム……」

 

マリナは小さくその様子を見ながら呟く。

……あの日、スコットランドで出合った少女が乗っているであろう機体。

自分とは違う方法で平和を作ろうとしている小さな子供。

彼らのしている事を理解できない訳ではないが、認めたくはない。

でも、確かに今、自分の目の前で彼女は戦っているのだ。

この国にある、多くの人間の悪意や策謀などから生まれた、“紛争”という怪物と。

たった、一人で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砲弾や銃弾の嵐が止んだのを見計らって、刹那は再びエクシアをゆっくりと歩かせ始める。

普段の自分ならここまでされれば、容赦なく目の前のアンフ達を手に馴染んだ獲物で斬り捨てているのかもしれないが、今は武器がないせいか不思議と落ち着いたままエクシアを操縦できている。

 

まるで、自分がガンダムになったように。

 

 

 

ピピピピピ・ピピピピピ

 

不意に、そんな電子音が耳に届く。

何事かと正面のコンソールに目を向けると、其処にはミッション中にマイスター間で使われる極秘回線用のメールが届いている事を告げるメッセージが表示されていた。

 

(…メール、だと?一体こんな時に誰が―――――

 

其処まで彼女が思案したところで、勝手にメールが開封された。

有り得ない事に、(ヘルメットの上からでは分からないが)刹那は目を見開いて驚く。

しかし次の瞬間。

其処に表示されたメッセージを目にした瞬間、彼女は思わず声を上げそうになった。

メールの内容――――それはこんな物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここがお前の、お前が目指す“ガンダム”になる為の第一歩だ。だから、しくじるなよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、刹那の脳裏に、昨晩のロックオンとの会話が甦る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初、スメラギから送られてきた、今回のミッションの概要を見た刹那達は驚きを隠せなかった。

なにせ一切の武装無しで、王宮にマスード・ラフマディー氏を届けろと言うのだ。

無謀などというレベルをすっ飛ばして、気が狂っているという言葉がピッタリなその内容に、ユリが疑問を留美になげ掛けた。

 

「……すまない。私は目がイカれた様だから、ちょっと目薬差してくる」

 

「ご安心ください。私にも同じ物が見えていますわ」

 

「それじゃ、貴方の目もどうにかなってるんだ。一緒に目を洗いに行こう」

 

「ユリ。いい加減に目の前の現実を直視しようぜ。大丈夫。俺はもう色々と諦めた」

 

何時までも目を洗いに行こうとするユリに、ほっといても何も変わらないなと感じたロックオンが、止めの一撃と言わんばかりに、彼女に現実を突きつける。

そんな彼の言葉を聞いたユリは、ガックリと肩を落とした後、再び留美に向かって問いかける。

 

「……本当にこのプランが送られてきたのか?」

 

「信じられませんか?なんならこの場で確認をとってもよろしくてよ」

 

「……いい……ある意味あの人らしいと言えば、あの人らしいプランだ…ただ、何で刹那なんだ?ただ送り届けるだけなら、強力なGNフィールドの張れるヴァーチェや、ある程度装甲の厚い、私のサキエルの方が適任だと思うんだが……?」

 

「…私もそう思う」

 

確かに刹那自身もそう思う。

機体の特性を考えれば、今ユリが言ったように、ヴァーチェやサキエルの方が適任だ。

それに、最近問題ばかりを起こしている自分よりも、基本的に模範となるようなユリとティエリア二人の方が人間的にも適任だと彼女は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、刹那だから…じゃねえのか?」

 

そんな彼らの疑問を払拭する様な答えを導き出したのは、ロックオンだった。

 

「知っての通り、このおてんば娘は誰よりもガンダムとしての戦いに憧れるてる……というか、“ガンダム”という絶対的な存在その物に憧れてんだ。だからこそ、このミッションはコイツに最適なんだろうよ」

 

そう言いながら、彼は刹那の方を向いて、少し笑いながらこう言った。

 

「行ってこいガンダムオタク娘。お前の信じる“ガンダム”になって来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……そうだ………!)

 

操縦桿を握る手に力が漲る。

 

(今度こそ………!!)

 

見据える先は、あの日会った女性―――マリナ・イスマイールが居る、王宮。

 

(…………ガンダムに!)

 

その前に居るアンフなど、眼中に入らない。

 

(……ガンダムに!!)

 

目指す所はただ一箇所のみ!!!

 

「ガンダムに、なるんだ!!」

 

――――――――――私は!!!!!

 

裂帛の気合と共に、刹那の口から咆哮に良く似た声が上がる。

そんな彼女の手足も同然となっているエクシアもまた、彼女の堅い決意を受け、真っ直ぐにに王宮を見据えながら、まるで修験者か何かの様に、力強く歩を進める。

同時に、刹那の心に応えるかのように、エクシアの太陽炉から膨大な量のGN粒子が生成され、エクシアの背後に広がっていく。

…まるで、光の翼が広がるかのように。

その姿に圧倒されたのか、王宮の前に居たアンフ達は、段々と武器を降ろし、まるでモーゼの十戒の如く、その中央を行くエクシアに道を譲った。

 

その場に居た全ての人々は、エクシアを見つめていた。

マリナも、

 

シーリンも、

 

グラハムも、

 

ダリルもハワードもアンフ隊の面々も歩兵の人達も王宮前に居る市民も各国のテレビ局の人間もその人たちが流している映像を通して世界中の人間も、

 

果ては王宮の屋根の上で羽を休めていた鳥や、近くの路地裏に居た野良猫や野良犬ですらも、

 

力強く王宮へと歩き続けるエクシアを、見つめていた。

まるで、尊い物を見るかのごとく。

 

 

 

 

 

 

その内、エクシアは王宮のテラスの直ぐ前で、立ち止まっていた。

刹那はエクシアとテラスの距離、そして周囲の状況を確認すると、エクシアをその場に屈ませて、右手をハッチとテラスの間に持って行く。

そして、ハッチを開くと、安全確認の為にまず自分から外に出て、その直ぐ後にマスード氏を降ろした。

無論、何処からも狙撃されない様に、自分の身体とエクシアの右腕を盾にしつつ、しっかりと彼の手を取って。

 

「王宮へ」

 

「うむ…やはり、最後まで良い乗り心地ではなかったな」

 

「申し訳ありません」

 

そう言いながら、刹那は頭を下げた。

無論、氏が狙撃されないように、調整するのも忘れない。

マスード氏は自身の皮肉に変わらず真面目に答える彼女に対し、軽く頭を下げた。

 

「……すまない。礼を言わせてもらう」

 

「お早く」

 

彼は刹那に促されテラスへと降り立った。

すぐさま、王宮のSPが周りを固め、マリナの許へと彼を(いざな)う。

…狙撃されるような様子も、襲撃されるような様子も、無い。

氏の背中を見送り、周囲を一度見渡してからそう判断した刹那は、さっさとエクシアのコックピットへ戻ろうとした。

だが、後ろから声をかけられる。

 

「刹那・F・セイエイ!」

 

その言葉に、聞き覚えのある声に、刹那は足を止めて後ろを見る。

其処には来ている服はあの時と違って、青と紫主体のドレスに変わってはいるものの、確かにあの時の女性が、必死な顔で自分を見つめていた。

 

「本当に……本当に貴女、なの?」

 

それを聞いた刹那は、少しの間黙ると同時に動きを止める。

そして数秒の後に、彼女は後ろにいるマリナの方へと振り返り、しっかりと真正面から向き合った。

 

「…マリナ・イスマイール、私達がまた来るかどうかは、これからの、この国次第だ」

 

違う。そういう事ではない。

マリナとしてはもっと話したい事があるのに、今改めて彼女の前に立つと、それらは全く言葉にはならなかった。

辛うじて、再び彼女の名前を呟く。

 

「刹那……」

 

「………戦え。お前の……お前自身が信じる、唯一の神のために!」

 

それだけ言うと、刹那は素早い身のこなしで、エクシアのコックピットへと戻っていく

 

「刹那!」

 

マリナが彼女の名前を叫ぶが、刹那はそれに応じる事無くハッチを閉めると、そのままエクシアを遥か上空まで、一気に飛び立たせた。

 

マリナは、その後姿をただ黙って、悲壮な表情で見上げる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『中尉、追いかけましょう!』

 

『今ならあのガンダムを追いかけられます!!』

 

ダリルとハワードが追跡を申し出る。

しかし、

 

「できるものか!」

 

グラハムはそれらの考えを、一喝すると共に一蹴した。

 

「そんな事をしてみろ。我々は世界の鼻つまみ者だ……!」

 

だが、グラハムが追跡をしなかった理由はそれだけではない。

先日会ったあの少年と少女の言葉が胸を締め付ける。

 

『……支持は、しません。どっちも。どちらにも、その人達也の正義が、あると思うから。…でも、この戦いで人は死んでいきます……沢山、沢山、死んでいきます…』

 

『う~ん……個人的にくっだらないな~…とは思ってますね』『利益目的ならまだ人間らしくて、個人的にはまだ良いとは思うんですけど、信仰する物の違いで殺し合いするって言うのは、何か人として間違っているような気がしましてね……あ、お二人は軍服から見る限りユニオンの方ですね。すみません。お二人には少し分かりにくいですかね?』

 

この国へと支援名目でわざわざやって来ておいて、結局何もできなかった自分へ苛立ち。

そして、一方で、あれほど世界から嫌われているガンダムが、結果的とは言え、この国を救ったという事実。

それらがグラハムの心の中に、様々な思いとともに渦巻き、結果的にガンダムを見逃すという選択肢を与える事となった。

 

「……すまんな、少女………いや、もしかすると少年か…………これが今の私にできる、私なりの精一杯だ」

 

グラハムは顔を顰めて上を見上げながら、無意識に操縦桿を強く、強く握りしめた。

見上げた空は、思い切り飛べたらどれだけ気分が優れるのかと思うくらいに綺麗で、其処に撒き散らされた、あのガンダムの発する緑色の光る粒子と相まって、とても幻想的な風景を映し出していた。

思わず、グラハムはそれを美しいと感じ、また、そう感じてしまった自分に軽い嫌悪感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?これってもしかして、終わっちゃった感じ?」

 

「今回出番無シ!出番無シ!残念!残念!」

 

王宮のある首都から少し離れた郊外で、マントに身を包んだとある機体の中から、そんな少年の声とその相棒の機会音声が響いたが、気付く者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今回、俺がここに居た意味って……?」

 

「特ニ無シ」

 

「…だよなぁ……」

 

めげるな主人公(笑)

 

「うるせぇ」





如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

今回はハレルヤの暴走と、マスード氏の誘拐事件を纏めてみました。

そして刹那が書いている内に完璧な食いしん坊キャラへと昇華しているという現実……
如何してこうなった……!

そしてアムロとグラハムの絡み。
基本この二人が絡むとツッコミ不在の場合は今回のようにカオスな空間が展開されます。
たぶん真面目な場面ではないとは思いますけど……

では、また次回!








今日のトレミー:

「っくしゅん」

「? どうしたのティエリア?」

「いや、何故かクシャミが……なぜだ?」


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運命とかそういう何か得体の知れない大きな物に足首ひっ掴まれて棺桶へとズルズル引っ張られてる頃の話
十一話―――性質の悪い三兄妹は勘弁してください。あと、ソレスタルビーイングの粛清は恐過ぎます。


今回は前回が長めだったので、少し短めに抑えました。

それと、最後に残酷描写がありますので、それが嫌な人は、今すぐにブラウザバックを実行してください。

それでは本編をどうぞ



「来て貰っていきなりで悪いけれど、ちょっと機体を乗り換えてくれないかな?」

 

「またいきなりだな師匠。いや、もう慣れたけどさ…」

 

突然師匠に呼び出されて、太平洋上某所に在るソレスタルビーイング所有の施設に来たら、いきなりこんな事言われました。

いや、何か師匠の後ろにMSみたいなシルエットが在るから何かな~とは思っていたけどさ…

 

「……で、何に乗ればいいんだ?」

 

「おや、意外とすんなり聞くんだね?もうちょっとごねるかと思っていたのに」

 

そう言いながら、師匠が珍しく驚いたような表情になった。

この人でもそんな顔するんだな…なんか新鮮。

まあ、正直な話、こんな状況で師匠の頼み事(命令)を拒否なんぞしてみろ。絶対に碌な事にならない。

…まあ、もう既に嫌な予感メッチャするけどな!!

具体的には、何かこう、“面倒を見なきゃならない人が増える”、という感覚がする!

ただMS乗り換えろと言われただけなのに!!

 

「…どうしたんだい?素晴らしく面白い表情になっているけど」

 

「眉間にメッチャ皺寄せて顔顰めてる表情の何処が“素晴らしく面白い表情”!?」

 

相変わらずな師匠の言葉に、思わず声を荒げる。

対する師匠はそれすらも面白そうに、ニヤニヤとした笑いを口元に浮かべてこっちを見やがる。

……本当に、いや~な性格してるよなぁ…この師匠。

 

「…で?一体どんなのに乗り換えればいいんだ?」

 

「あ、面白かったのに」

 

「うっさいわ!これ以上やると話進まないから!圧倒的にグダグダになって前回のような惨劇が起きるから!!また作者が泣くから!!」

 

「もうなってると僕は思うけど?というか作者が泣こうとどうなろうと僕らには一切関係無いだろう?」

 

「喧しい!!まだ序盤も序盤の方だ!!修正なんぞいくらでも効く!つーか作者がどうにかなったらこの小説終わっちゃうから!!」

 

ええい!ああ言えばこう言う!!

何だ!?もしかしてストレス溜まってるのか!?

何かいつもよりも当社比20~40倍の勢いでねちっこい様な気がするぞ!?

 

「気のせいだよ。むしろ早朝からあのクソ金ぴか好き変態ウェーブロン毛大使に叩き起こされて、気分は清々しいよ」

 

心の声(地の文)を読むなよ!?っていうか、その口調からすると絶対切れてますよね!?むしろそれが原因ですよね!?というかもしかしなくても、今回俺がここに呼ばれた理由って、そのストレス解消が目的ですよね!?つーか師匠!青筋隠して隠して!顔中に浮き上がってるから!今にも血が飛び出そうだから!!」

 

「そんな訳無いじゃないか。決してラグナ・ハーヴェイというクソデブ中年が私利私欲の為に生み出した、デザインベイビーのイノベイドモドキ3兄妹の監視もしくはドサクサに紛れて抹殺しに行って貰いたいな~なんて思ってないよ?あと、青筋なんてデテルワケナイジャナイカハハハハハハ」

 

はい、俺が呼ばれた理由確定。

要は、新しく用意した機体に乗ってその3人を変な事しない様に監視しろって事ね。最悪ぶっ殺せ、と。

つーか師匠今日一体どうした?

何か後半ぶっ壊れてきてるし………つーか怖っ!

変なラスボス笑いはいつも通りだけど…なんか…こう…目にハイライトが無い上に首をイイ感じに傾げているのが地味に怖い!

兎も角、今は師匠を落ち着かせる事が先決だ!

 

「ちょっと落ち着け師匠。後半片言になってきてるぞ。ほれ、お土産のレモン牛乳」

 

そういいながら、来がけに買ってきたお土産のレモン牛乳をパック開けた上で渡す。

師匠はそれを受け取ると、腰に手を当てて一気に飲み干した。

…って、あ、青筋無くなった。

…なんか一瞬刹那と同じ感じがしたぞ今。

 

「無いね。断じてそれは無い。刹那・F・セイエイと同じなどありえないね。身の毛がよ立つよ」

 

「だから心の声(地の文)を読むなよ師匠……とりあえず、さっさと本題の続きを教えてくれ。これ以上グダグダしてると、どっかから怒られそうだ」

 

「大概君もメタな発言をするね……まあいい。今に限った事じゃないからスルーする事にするよ。話を戻そう。あ、さっき言った抹殺云々は冗談だからそのつもりで」

 

「だろうな」

 

やっと落ち着いてくれた師匠が、先程と比べて爽やかな笑顔で此方に向き直る。というか、やっぱ冗談だったんだ、アレ。あぶねー…下手したら実行してたな。

と、思うと同時に、

 

バサァァ

 

という音と共に、師匠の後ろにあったMSのシルエットを持った何かに掛かっていたカバーが取り去られる。

…って、ああ、さっきからあれの下と上に誰かいるなと思ってたら、デヴァイン兄さんとブリング兄さんとグラーベさんとヒクサーさんか。

ご苦労様です。

そんな事を考えながら、カバーの下から出てきた物に、目を凝らす。

と、次の瞬間、それに周囲から光が当てられ、そのMSはハッキリとその姿を見せた。

 

白を基調とした三色(トリコロール)なのは、Oガンダムと一緒。

ただ、全体的なシルエットとしては一般的なMSと比べるとやや逆三角形を重ねたような感じがする。

GN粒子の循環ケーブルが他のガンダムと違い、Oガンダムの様に表面には露出していないが、機体の各所にエネルギーラインの様な物が見受けられる。

その顔には、Oガンダムと同じ様に赤い顎と二本のスリットが存在していた。

初見での感想としては、「なんか少し手を加えたら変形しそう」である。

 

「GNW-00P・XX“ガンダムスローネ・ザフキエル”」

 

「スローネ?座天使(スローンズ)って事か?相変わらずウチ(ソレスタルビーイング)は天使関係が好きだねぇ…しかもザフキエルって…」

 

「其方ではなくて、“ソロネ”からとっているんだと思うよ。まあ、あまり天使に拘るのもナンセンスな話だと僕も思うけどね。ただ、天上人(ソレスタルビーイング)という名前を冠している以上、其処に悪魔の名前が出てきたら場違いだと思わないかい?」

 

「いや、別に?閣下とか元々天上の人じゃん?むしろそのくらいが丁度良いと思うけど?…まあいいかそんな事。とりあえず、どんな機体なんだ?これ?」

 

そう言いながら、“ザフキエル”の姿を見上げる。

 

ザフキエル。

ユダヤ教の伝承に伝えられる天使の一人で、ツァフキエルまたはヤフキエルとも呼ばれる。

その名は“神の番人”を意味し、生命の木“ビナー”の守護天使とされ、一説ではラファエルに並んで座天使の指導者とも考えられている。

 

今は関係ない事だが、つまりこの名前を付けられてるって事は師匠の事だから監視だけじゃなくて指揮も俺に取らせる心算なのか?

口には出さないが、俺には指揮スキルなんぞ無いのだが……

 

そんな俺の心の内を知ってか知らずか、オホンと咳を一つした後、師匠は機体の説明を続ける。

 

「先程言った、ラグナ・ハーヴェイの私兵と言っても過言でもないそのイノベイドモドキ3兄妹に与えられた機体、“ガンダムスローネ”のプロトタイプを君の技量に追いつける様、大幅な改修を行った機体がこれだよ。ただ、改修を行った結果として第三世代レベルの機体であれば君の技量があれば一方的な展開に持っていける程度の性能は有している」

 

ほう。

 

「そいつは結構。武装は?」

 

「肩にビームサーベルを一対。それと君の戦闘スタイルに合わせて、GNABCマントとシールド。それから、Oガンダムからの変更点として、GNビームガンではなくGNビームライフルを持たせているよ。まあ、少々の照準の誤差は、君の相棒が何とかしてくれるだろう」

 

「実に俺好みでますます結構。あと肩と腰にアタッチメントみたいなのがあるが、ありゃ一体なんだ?」

 

「スローネは元々、背面装備、肩部装備、腰部装備と頭部の仕様を変更する事で、幾多の状況に対応できるように設計されているのさ。無論、そのプロトタイプの改修機とはいえ、この“ザフキエル”にもそのシステムは搭載されているよ。まあ、今回は使わないとは思うけどね」

 

ふーん、と言いながら、俺はとある事が頭の中に浮かび、それをおくびも無く口にする。

 

「GNドライブはどうするんだ?」

 

と。

それに対して師匠は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無論。Oガンダムの物を使うよ」

 

と、さも当然の事の様に言い放った。

見ればもう既に、GNドライブの積み替え作業が開始されている。

 

(…なんだかなあ…)

 

ふと、この施設の入り口の方に目を向ける。

来た時にはもう沈みかけていた太陽の光は、今はもう届いてはいなかった。

その無機質な闇をバックにして立つOガンダムからは、なんとなく物悲しさが感じられる。

それが何故か、無性に虚しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗礁宙域 合流ポイント

 

「さて、結局来てしまった訳だが…向こうは何処に居るんだ?」

 

あの会話から2日後。

俺は機体を慣れ親しんだOガンダムから、この“スローネ・ザフキエル”―――面倒なのでザフキエルと呼称する―――に乗り換えて、イノベイドモドキ3兄妹―――チーム・トリニティとの合流の為に、向こうが指定してきたこの合流ポイントへと来ていた。

……嫌な予感が凄くするのは何故だろう?

ちょっと前に感じた物とは違い、今回のは襲われる的意味で嫌な予感がする。

 

「…ハロ。周囲の警戒レベルを最大に」

 

「了解!了解!」

 

ハロの返答と共に、コンソールに映っていたレーダーの感度が上がり、其処に僅かな大きさの小石すらも映し出し、同時にこちらが射程圏外からロックオンされた事も一緒に伝えて…ってなにぃ!?

 

「っっつおっ!!??」

 

咄嗟に機体を思いっきり振り回して、回避行動をとる。

同時にロックしてきた方へとビームライフルを最大出力で発射する。

ゴッ!!と言う音が聞えてくるような光の奔流が銃口から迸り、その方向へと向かって一気に光の矢が伸びる。

一拍遅れて、向こうもビームを発射したようだ。

血の色をした極大のビームの奔流が、こちらが撃ったビームと真正面からぶつかり、エネルギー干渉によってとんでもない量のプラズマが、周囲に飛び散った。

 

(…!! 反応が鈍い!!)

 

こっちではなくて、向こうが、である。

普通こんなプラズマで視界が遮られれば、それを利用して相手に接近できる。

俺はプラズマが来ると予測した瞬間に飛び込み、一気に間合いを詰める事に成功したが、向こうはそんな事微塵も考えていなかったようで少々こちらに対しての反応が遅れていた。

 

視界に三機の赤系統でカラーリングを統一された、“スローネ”が目に入る。

それぞれ、装備を見るに長距離特化、白兵戦特化、それと…なんだあれ?

背中に大きなバインダーを背負ってるし、武器も右腕の外側に取り付けられたビームガンと左肩と右肩のシールドと、ビームサーベルしかないから……なんだろう?オールマイティーな万能型かな?

の割には長距離武器が無いけど…

 

と、次の瞬間向こうも動き出した。

頭の長い黒に近い赤茶色の長距離特化型は、右肩に背負ったキャノンを中距離型に可変させて、右手に持ったビームライフルでこちらを狙ってくる。

 

が、狙いが甘い。

少しこちらの機体をブレさせて、上下左右に機体を揺らすと、あっという間に照準できなくなったのか若干のうろたえが感じられた。

 

次にオレンジの白兵戦特化が、腰から遠隔兵器である“ファング”を射出して、それと同時に右肩のバスターソードで、襲い掛かってきた。

 

が、遅い。

ファングは相棒がハッキングして、あっという間にコントロールをこっちの物にして無力化し、本体の方は動きが大振りすぎる上になんかバスターソードをただ振り回しているような感じで攻撃してきたため、肩のビームサーベルを出力してからそれで受け止めると、そのまま回し蹴りで吹っ飛ばした。

途中、長距離特化型がオレンジの機体の援護目的でこっちをロックしてきたが、上手い事オレンジの機体を盾にするように動いて、攻撃させない。

 

残った赤い機体は、途中途中でこっちを狙ってきた。

 

が、たぶん一番こいつがショボイ。

照準はちゃんと出来てないし、なんか一々指示を受けながら動いているような感じがする。

 

生半可な照準の銃弾ほど、嫌なものは無い。

あまりにも鬱陶しかった為、相棒にファングを動かさせて少しからかってやると、そっちに意識を集中し始めてしまってこっちには一切興味を示さなくなった。

その内長距離特化型もそっちの援護に入ってしまい、結果的には(いたぶる方)VS白兵戦特化型機体(いたぶられる方)という、なんとも微妙な空間が形成してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後

 

「おーい、いい加減にしろー…」

 

襲い掛かられては受け止めて反撃し、また襲い掛かられては受け止めて殴り飛ばす……

そんな行動を数えるのも嫌になるほど繰り返した所で、俺は向こうの中で一番地位がある者と考えた、長距離特化型の機体に通信を入れる。

つーか向こうはなんか赤い機体がエネルギー切れを引き起こしたらしく、さっきから動いてない。

遊んであげてたファングも、何個かは動かなくなり、残っているのは後一個。

白兵戦特化型は所々凹んでボコボコになっており、背中から出てる粒子も雀の涙。

残った長距離特化型からも、疲れが滲んでいた。

因みにこっちは無傷…という訳ではないものの、精々殴ったりした所に細かい擦り傷が出来ているだけである。

 

どっちが優勢かなんぞ、一目で分かる状況だった。

 

『っ!なんだと……』

 

と、向こうから通信が返って来た。

なんか驚いてるみたいだが…特におかしな事した心算はないし、無論変な事言った覚えも無い…よな?

 

「何か可笑しいか?そっちは一体がEN切れで、一体は満身創痍。お前自身も疲れて動きにキレが無い。そんな状況で戦っても、結局こっちの一方的勝利に終わるだけだ」

 

厳然たる事実である。

つーかこいつらコッチをなめ過ぎでしょ?

ダメ押しのつもりでもう一言呟くように言う。

 

「…三対一なら勝てると思ったか…?滑稽だな…愉快だな……だが無意味だ」

 

『テメェ!』

 

と、突如白兵戦特化機体から通信が入る。

大分頭にきている様だ。

まあ、いきなり襲ってきたのだから、これ位言われてもしょうがないと割り切って頂きたい。

 

「…自己紹介がまだだったな。私の名は“O-01”。君たちの監視、及び戦闘指揮を任命されてきた」

 

そう言ってから、三機を見回すように首を動かした後、こう言う。

 

「……いきなり襲い掛かってくるような礼儀知らずで、挙句の果てにこんなへっぽこな馬鹿共だとは思わなかったがな……」

 

『くっ!!「甘い」なっ!?』

 

咄嗟にこちらにライフルを向けてきた長距離特化型の手を狙い撃って、その手からライフルを弾き飛ばす。

 

「悪いが不意打ち、隙あり、待ち伏せなどの卑怯な手には慣れっこなのでな……その程度では、此方に傷一つ付けられんぞ?」

 

言いながら、白兵戦特化の機体を引っつかむ。

 

「ともかく話は君たちの母艦に戻ってからにしよう。そこで何故いきなり襲ってきたかの事情も聞かせてもらう。あと、拒否したり、降りた所を攻撃してきたら君達のマイスター権限を、“私の相棒が”消去させて貰うからそのつもりで」

 

言ってから、俺は機体を長距離特化型の方へと動かす。

とりあえず、ラグナ・ハーヴェイっておっさんは後で個人的にお仕置きだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チームトリニティ母艦 ハンガー

 

「さて、襲い掛かって来なかった所を見る限りでは、利口ではあるようだな。……約二名今にも爆発しそうだが」

 

「申し訳ありませんO-01」

 

「いいさ。もう慣れっこだ」

 

特に姉さんとか師匠とかでな。あの二人に比べたら理不尽現象やネタ技を駆使して襲いかかってこないだけ幾らか可愛いもんだ。

 

とりあえず機体から降りた俺は、ザフキエルに相棒を残すと、メットは外さずに、彼らの前に姿を出した。

声からすると、今目の前で受け答えしてくれた肌の浅黒いこの青年が、長距離特化型のパイロットらしい。

 

「「(ギリギリギリギリギリギリギリギリギリ…)」」

 

「…フム、いい加減鬱陶しいな……オイ、あの二人ぶん殴って黙らせて良いか?なんで襲い掛かられたのを撃退しただけなのに此処まで睨まれねばならん?いい加減切れるぞ?」

 

「出来れば勘弁してもらえると助かります。あの二人には後で私から厳重に注意しておきますので」

 

「…まあ、良かろう。話の妨げにならなければ良いがな「んだとテメェ!!」…さあ、神様においの「ミハエル!!いい加減にしろ!!」りは……?」

 

済んだか?そう言おうとした瞬間に、目の前の青年が此方に敵意を剥き出しにしていた内の、青い髪の青年の方を叱咤した。

咎められた青年は「いや…でも兄貴!」といって反論しようとしているが…

 

「ラグナからのミッションプランに従ったからとはいえ、今回先に手を出したのはこちらだ!それに、先程の戦闘からも解る通り、彼のほうが実力は上だ。下手をすれば、我々は消されていてもおかしくは無かったんだぞ!」

 

…という言葉で、渋々引っ込んでくれた。

 

…うん。それは否定しない。

実際戦闘中に何度か事故に見せかけて消そうとしたし。俺。

それでも消さなかったのは、師匠からのお仕置きが怖かっただけだから…たぶんそれさえなければ実行してたな。

……あれ?意外と俺って外道じゃね?

 

そんな自分の知られざる一面にショックを受けている間に向こうの話は終わったらしく、気がつくと先程よりも此方に向けられる敵意は少し軟化していた。

……それでも敵意を向けられるのは良い気分じゃないけどな!!

 

「失礼しました」

 

「いや…うん。こういうのも慣れっこだ……とにかくまずはこれだけ聞いておこう。何故いきなり襲ってきた…と、少し考えればわかるな。ラグナ・ハーヴェイか」

 

そう言うと、浅黒い肌の青年は、表情を硬くして頷いた。

つまりは…

 

「狙いは私の保有するGNドライブか」

 

「…その通りです。今回、私たちはラグナからあなたの保有しているガンダムに搭載されているオリジナルのGNドライブを奪取するよう、ミッションプランを受けました」

 

「で、ものの見事に返り討ち…と。見てて思ったのだが、もしかして君達自身の個々の能力は、そんなに高くないのか?もしくは一個の分野に突出し過ぎとか」

 

俺がそう言うと、青年は顔を顰めて苦々しげにこう返す。

 

「それはありません。我々兄妹はガンダムマイスターとなるべく、高い能力を持たされた状態で生まれてきました。基本的な能力だけなら、実働部隊のマイスター達よりも高いと自負しています」

 

…ふーん。イノベイドみたいなもんか?でも、戦った感じだと戦闘重視のタイプじゃないリジェネ兄さんよりも弱い感じしたけど。…と、すれば?

 

「…では、実戦慣れしていないだけか。序に言うと、機体性能に頼りきってる感が否めないから自分の能力を最大限生かせてないという事も挙げられるな」

 

「しかしそれは「だが事実だ。現にお前達はお前たちの機体のプロトタイプにちょっと手を加えただけの機体に乗る私に負けている」…おっしゃる通りです」

 

悔しそうな顔で俯く青年。

まあ、しょうがないとしか言えないな。

素人が最初から高性能な機体を使ってると、こうなる事は良くある。

…とはいえ、俺の場合は“地獄の修行”というドーピング剤使ってるだけなんだけどな。

昨日やったら、こいつらの機体に良く似た白いのが増えてたし。

確かスローネヴァラヌス…だっけ?

 

ま、如何でもいいか。

 

ふと、手元にある端末の、カレンダー部分を見やる。

…確か予定では1週間くらい後に、3大陣営の合同演習がタクラマカンの方であったはず。

師匠曰く、その一大イベントに実働部隊が介入するから、それの手助けをこいつらと共にしろとの事。

 

(……残り1週間。1週間で、こいつらを俺と同じとまでは行かなくとも、刹那達レベルの実力で戦闘が可能なレベルまで育てろと?)

 

無茶苦茶だ!

言いたくは無いが、戦ったから分かる。

こいつら自分たちの優位性が失われた瞬間に、一気に一般兵と同じレベルの実力まで成り下がる!

因みにその優位性とは、コンビネーション能力の高さと機体性能の事。

もしもそれぞれに分断されて、数の暴力で各個撃破に持ち込まれたら……

 

「…考えるだに恐ろしいな…」

 

「? 何か?」

 

「いや、別に?…さて、ではどうしたものか?」

 

…とりあえず、地獄の修行でもやらせるか?

あれさえ真面目にやり遂げれれば、及第点レベルの実力にはなるだろ。

何せ最初パイロット適正0だった俺がここまで生き残れるくらいの腕前にはなってるんだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所

 

(…全く、この男にも困ったものだ。まさかアムロを命令無視に対する正当な処置を装って消去しようとするとは……)

 

そういう僕の目の前には、赤い血溜りの中に倒れて、荒く息を吐いているラグナ・ハーヴェイが、まるで今から殺される家畜の豚のように転がっていた。

因みにやったのは僕ではない。

いや、確かに実行したのは僕だが、厳密に言えば、この身体自体は、予め彼の経営する会社に潜り込ませておいた、全く別のイノベイドだ。

今はヴェーダを通して僕とリンクしている。

 

「…さて、ラグナ・ハーヴェイ。監視者である筈の君が、何故こんな事になっているか理解できるかい?」

 

「…き、きさ、ま…一体…?」

 

…ハァ…

 

「質問しているのは、僕だよ?」

 

ダンッ!!

 

「!!! ぐああああああああああ!!!」

 

全く五月蠅い物だ。

高々左膝を撃ち抜いただけだというのに。

アムロなら「あにするだこのクソ師匠!!」と言って、殴りかかってくるのに。

つくづく、彼以外の人間はこんなにも脆弱なのだと痛感させられる。

 

「…ハァ……ハァ……」

 

「もう一度聞こう。君は今のこの状況を理解できているかい?」

 

すると彼は恨みがましい目を此方に向けながら、ゆっくりとこう呟いた。

 

「…ハァ…ハァ……わ、私を、今、此処で殺せば……貴様一体どうなる…か……ハァ……わか、って、いるのか?……」

 

「……」

 

どうやら彼は、今の自分の現状を理解できていないようだ。

仕方なく、癪には触るけれど、彼の疑問に答えてあげる事にした。

 

「…少なくとも、明日の朝刊の一面に載るね。“リニアトレイン事業の総裁、国際経済団のトップ暗殺される!!”…とね。そしたら僕は一瞬で犯罪者だ」

 

「!! それが分かっていながら「だから」!?」

 

「僕は、“彼”を用意したんだ。来たまえ」

 

そう言って、僕はドアの向こうにいた彼を呼び出す。

其処に立っていたのは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わ、たし……だと…!?」

 

「そうだ。私よ。始めまして…と言うのもかなり可笑しいがね」

 

―――そう。僕が用意した、“もう一人のラグナ・ハーヴェイ”だった。

 

タネはこうだ。

予めソレスタルビーイングに参加する者は、その殆どがイノベイドを作ったりする時に必要な遺伝子提供を行う。

今回は、運良く彼自身の遺伝子があったから、それを培養して文字通り“もう一人の彼”を作り出す事が出来た。

 

「…という訳だよ。つまり君が死んでも、君の代わりをしてくれる人物はちゃんと居るんだ」

 

「そういう事だ私よ。だから……」

 

チャキ

 

「!!! ま、待て!!!!」

 

「安らかに、逝くがいい」

 

 

 

「…さて、粛清も終わった事だし。後は君に任せるよ、ラグナ」

 

「はい、リボンズ。仰せの通りに。……この生ゴミは如何しましょう?」

 

そう言って彼が指さすのは、カーペットの上で滑稽なオブジェと化した肉塊。

ぶっちゃけ、もう僕はそんな物には興味がない。

だが、確かに処理はしないといけないかな?

 

「んーそうだな……一応見つかると厄介だから、ミンチにして適当にばら撒いておいてくれ」

 

そうした方が無難だろう。完全にミンチにする事によって、常人はそれが元々人間であったなどという事実には気づけなくなる物だ。

特に、その死体の正体が今だ生き続けている人物なら尚更だ。

 

「畏まりました。直ぐに手配いたします」

 

「頼むよ」

 

そう、返した僕の声を聞くと、彼は直ぐに受話器をとって予め用意しておいた場所へと連絡する。

おそらく後10分もすれば、イノベイドの工作員達がこのゴミを回収して、然るべき処置を施すだろう。

そのことを確認した後で元に戻るとしよう。

なにやらイノベイドモドキの末妹が所持しているHAROから、面白い悲鳴が此方に届けられているからね。

早く戻って、じっくり観賞したいものだ。

 

…今「コイツ性格悪っ!!」とか思った奴。師匠怒らないから素直に手を挙げなさい。じゃないと今すぐ世界の壁を越えて、“黄金の矢”を直撃させてやる。手を上げた奴は大リーグボール1号の実験台にしてあげるよ。

 

 

 

どっちみち死ぬって?喧しい。僕だってストレス溜まってるんだ。神じゃないんだから。




如何でしたでしょうか?

今回はいつもとは違うリボンズ師匠をお送りさせて頂きました。
この世界の師匠も悪くなると此処まで怖くなります。

そしてトリ三兄妹初登場。そしてこの扱い。
まあ、仕方ないです。
次回からちゃんと活躍します。

そして新機体の“ザフキエル”登場です。
元ネタは、OOで“スローネ”や“ガデラーザ”のデザインを担当した、『鷲尾直広』氏が、OO主人公機のデザインコンペに持ってきた後にスローネの基礎になる“コンペ版ガンダム”です。
あれにGNドライブを取っ付けて、マント被せてライフルとシールドを持たせたやつをイメージしてください。
因みにコックピットは胸部にあります。
見た事がない人は、“機動戦士ガンダムOO メカニック―Final”等の書籍に載っているため、其方をご参照ください。

という訳で、Oガンダムは一時離脱。まあまた直ぐに戻ってきますが。
ま、これまで頑張ってくれたので、一足早い大型連休に入ったと思ってあげて下さい。
きっと今頃どっかの山の中で、何か美味いものでもたらふく食ってる事でしょう。
SD体形になってwwww

ちなみに最後に師匠が凄く気になる事をサラッといったと思いますが、まだそこに触れるのは当分先なので、頭の隅に置いておくだけにしておいてください。



それではまた次回。



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十二話―――大事な局面で漫才ができるコンビ。それって如何なのだろうか?あ、あと3兄妹の基本スペックが意外と高い事と、メンタルが弱い事にビックリ。え?お前と比べるな?ごもっともで…


最新話です。
3兄妹ただいま地獄を見てます。
そして合同演習突入です。

それでは本編をどうぞ。



地獄の修行レベル10……別名“エクストリームガンダム地獄”(命名俺)

それは第1世代から第3世代の正式採用機や没となった機体までありとあらゆるCBの技術が使われた機体が、片っ端から各種100機前後で徒党を組んでたった1体の自機に本気で襲い掛かって来るという、まさに“地獄”と呼ぶに相応しい訓練用VRミッション・・・・・・・

 

………をさっさと終わらせる。ノンチューンのOガンダムで。

いや、つーかもうこれまでの地獄の修行を散々やってると、もういい加減目とか感覚とかが完全に慣れるね。

気分はもう無双ゲームやってる?みたいな?

というかコンピュータがいい加減馬鹿過ぎる。

対人戦では有り得ないような機械らしいミスとかかますからな、こいつら。

例えば以前何かでも言ったミサイルの雨霰による同士討ち。

最近はアブルホール系統だけではなく、それ以外のラインのガンダムにもミサイルランチャーをもったのが追加された為、その段数や攻撃範囲はさらに凄惨なものとなった。

が、これまでの経験からそういったこまい物を撃ち落とせる位にまで上達した俺の腕ならば、ピンポイントで撃ち落としてそのまま周りのミサイルも一緒に誘爆させて、そのまま自分だけ逃げるという芸当は余裕である。

御陰様で本当にこの攻撃パターンが来たら喜ぶようになったしな、俺……

しかもCP連中何が楽しいのかしょっちゅうこれ撃って来るし……本当にごちそうさまです。

他には、近接戦闘時にフェイント入れてこなかったりとか、武器を壊してやると途端に逃げ回るだけになったりとかetcetc……

まあ、それでも確かに慣れていない人から見れば、ハッキリ言って無理ゲー以外の何物でもない鬼畜難易度なのは変わって無いけどね。

俺だって油断すればたぶん落とされるし。

 

そんな事を考えながらシミュレータを出た先の光景を見た瞬間、俺はアホ面を晒した。

たぶんメット無かったら、それはそれは面白い表情してたんだろうなと思う。

 

死屍累々

 

死体が数多く重なっている事を指す四字熟語。

今俺の目に浮かぶ光景は、正しくそれだった。

 

…まあ、3人分しかない訳だが。

 

「……生きてるか?」

 

「「「………はい(おう)(うん)」」」

 

うん。返事が返せるって事は、まだ逝けるな。

字が違う?ほぼ同じようなもんだから気にするな。

 

「ならば今度はレベル3でやってみろ。因みに私は最新版の10をもう30週終わらせたので、今からお前らの夕食を作る。早く食いたければ早く終わらせろ。返事」

 

「…了解しました」「分かった…」「スイーツ食べたい…「リクエストなら受け付けてやるが」…ケーキ。イチゴの乗ったやつ」

 

そう来たか。思わず苦笑してしまう。

 

「了解だ。確か材料は有ったから、それらを使えば1ホールくらい出来そうだな。他の二人は?」

 

「……糖分が摂取できればなんでも良いので、ネーナと同じ物を…」

 

「肉………デカイの」

 

それを聞いて苦笑しながら俺はこう返す。

 

「了解だ。ステーキでいいな?今日の夕飯はそうしよう…よし。では訓練に戻れ」

 

言ってから足を備え付けのキッチンへと向ける。

確か材料ならばタンマリあったので、それ位なら作れそうだ、と口の中で呟きながら。

問題はキッチンの設備だが……最悪ザフキエル使うか…ビームサーベルの出力を最低限にすればコンロの代わりくらいにはなるだろ。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……兄貴、聞いたか……?」

 

「ああ………つくづく彼と我々の力量差を感じられるな……」

 

「最新版って事は、一番難しいって事だよね…」

 

「30週だってよ…」

 

「単純計算、我々がレベル1で既に梃子摺っている間に、既に15週終わらせていた事になるな」

 

「それで機体はノンチューンのOガンダム……」

 

「「「…………アレは本当に、人間か(かよ)(なの)?」」」

 

……フフフフフ…………言ってくれるじゃないか?ええ?(#^ω^)ビキビキ

 

「聞こえてるぞ貴様ら。頭に来たからレベル3すっ飛ばして最新版やれ。1週したら終わっていいぞ?」

 

「「「すいませんでした!!」」」「い・や・だ」

 

まったく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初遭遇から、既に二日が経っていた。

残る時間は後五日ほど。

とりあえず、訓練の一環として、“地獄の修行”の最初期バージョン“レベル1”から、今俺がやらされている最新版までを順繰りにやらせている。

…が、流石はマイスターとなるべく生み出されたと自分達で言うだけあって、俺が当時あれだけ苦労していた最初期版、そしてその後に敵機体のAIのレベルが一気に底上げされた“レベル2”を、初見だと言うのに開始からわずか半日でクリアしているのは驚嘆を禁じ得ない。

……まあ、彼らが使っている機体は彼らの愛機のデータを使用しているため、俺とは条件が殆ど違う訳だが…それでも凄いもんは凄い。

……って、ん?

 

「……」

 

コロ……コロ……

 

「………」

 

…………はぁ……

 

「……ハロ。摘み食いしようとするんじゃない」

 

「…ダメカ?」

 

「駄目だ」

 

「ケチンボ!」

 

「うっせぇ」

 

「センサーテスト!センサーテスト!」

 

「そういう名目で結局食うつもりだろ。つーかなんだ?今度は味覚センサー取り付けたのか?何の意味があるんだ?」

 

「我々ニモ人権…ナラヌ“ハロ権”ヲ要求スル!手始メニ美味シイ物クワセロ!!!」

 

「却下」

 

「エェー……ナラバ革命ダ!!」

 

「じゃかましいぞぬしゃあ。どこぞのゲームにそんな話あったからマジで止めろ」

 

……そういえば、凄いといえば、コイツもそうだったな。

今度は味覚センサーか………いやな?コイツをちょっと前にメンテした時に、なんかよく分からないブラックボックスが存在してたから、何かなと思って調べてみたんだ。

そしたらコイツ、いつの間にか自分の身体の中に4次元ポケットみたいな分けの分からない収納スペースを実装していやがったんだよ!!!

思わず師匠と一緒に盛大に腰抜かしたわ!!!

だって四次元ポケットよ?

未来の世界の猫型ロボットのアレよ?

もう22世紀なんぞすっ飛ばして今や24世紀だが、それでもオーバーテクノロジーである事には変わりない!!!

 

しかもこれまた頭の痛くなる事に、漁って中に入っていた物を物色してみると出てくるわ出てくるわプラモに美少女フィギュアに戦隊ヒーロー物のオモチャから変身ヒーローのオモチャから、果ては如何考えてもこれR-18物だろと言うような物品まで!!

 

本関係も凄かった。

週刊誌や漫画雑誌や普通の雑誌は当たり前。

漫画や文庫本や普通の小説、児童向けの絵本も、まだ何とか許せる。

画集やゲームの攻略本も然り。

……だと言うのに次の瞬間出てきたものは、ものすんごくマニアックな種類の官能小説に、エロ漫画にエロ雑誌!!

同人誌なんか当たり前で、下手すりゃ“これ自主制作じゃねーの?”と思う物まで種類は様々!!

その数ざっと300冊以上!!!

危うく姉さんに見つかりそうになったわ!!

因みに普通の本も合わせると、その合計は5000冊以上!!

マジ何処に入っていたっつーか、全部出したら軽く(エロ本込みだけど)図書館できんじゃねーの!?と思うくらいの数だった。

って言うか、俺その直前まで普通に持ってたけど、重さなんか微塵も感じなかったぞ……?

 

……止めとこう。

これ以上踏み込んだら、なんか何処かから帰って来れなくなってしまう。

 

そこまで考えた俺は、溜息を一つ吐くと夕食の準備を再開する事にした。

もう既にスープとサラダ、そして3兄妹次男の“ミハエル・トリニティ”ご要望のステーキ自体は出来ているので、後は白米が炊き上がるのを待ちつつ3兄妹末っ子の“ネーナ・トリニティ”、そして長男である“ヨハン・トリニティ”ご所望のケーキ1ホールを調理するだけである。

…のだが。

 

ビィー!ビィー!ビィー!

 

「……またかよ?」

 

「マタダナアムロ」

 

「…ハァ……ああ、もう。相棒、再調整開始。細かい作業は俺がする」

 

「サッサト終ワラセタラ、御褒美クレルカ?」

 

「ステーキ、俺のから一切れくれてやるよ」

 

「半分ヨコセ」

 

「……3分の1だ。これ以上はダメだ」

 

「OK!!OK!!」

 

そう言って、機嫌良さそうにポーンポーンと跳ねながら、相棒はザフキエルの足元まで飛んでいく。

そしてそのままコックピットハッチを開けて、中へと一っ飛びすると、口からコードを出してザフキエルと――――厳密にはザフキエルに搭載されている、元Oガンダムに搭載されていたGNドライブと――――リンクを開始する。

程無くして、コックピットの中から相棒のこんな声が聞こえた。

 

「GNドライブ、出力不安定!不安定!ザフキエルトノマッチングに不備アリ!」

 

「チッ…やっぱりか。これで何回目だ?数えてるだけでもこの2日間だけで4回はあっただろ。単純計算半日に一回の割合でトラブル起きてるとか…」

 

「ザフキエルニナッテカラ!!ザフキエルニナッテカラ!!」

 

「…だよなぁ?機体の問題って事か?マッチング不備?…いや、でもキチンとチェックはしたはずだから、普通そんな事無い筈だしな」

 

「GNドライブ拗ネテル!!拗ネテル!!」

 

「んなワケあるか!!!お前みたいな超超超高性能AIが積まれている訳でも在るまいし!!……いや、もしかしたら付喪神って事も…無いか…いや、もしかしたら……?いや……でも造られてから100年も経ってる筈が……あれ?今まで月の裏側に浮いてた様な代物だから………いや、でも………う~ん…」

 

…まあ、今俺が何に悩んでいるかと言うと……見てくれたなら分かると思うが、何故か突如としてGNドライブが安定しなくなってしまったのだ。

当初は機体とのマッチングがちゃんと出来ていないのかと思ったが、相棒が調べたところ、そんな事は無いという事が分かった。

 

だからこそ分からん。

 

それ以外に原因らしい原因が無いのだ。

挙句の果てに相棒は太陽炉自体が、“拗ねている”と言い始める始末。

…いっそそれなら良いんだけど…

 

…と、ちょっとここで今俺が使っているGNドライブの出所について少し説明しておこう。

そもそも、俺の今保有しているこのGNドライブ。実はかなり謎が多すぎる代物である。

本来なら、CB(ソレスタルビーイング)及びそのサポート組織で運用される筈のGNドライブは、合計で6つだけの筈だった。

…つまり、オリジナルのGNドライブは、全部で6つしか造られていなかった……筈だった。

 

俺が師匠に拾われる、僅か1ヶ月前までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、まるで突然現れたという。

実際にその場に居た師匠は、俺にこう語ってくれた。

 

俺が師匠に拾われる約一ヶ月前。

そのとき師匠はOガンダムの性能テストの為、月の丁度地球と反対側のポイントに居た。

太陽の光は完全に月その物に阻まれ、唯一の光源は、師匠の乗るOガンダムのみ。

少なくとも“その時まで”は、師匠はそう思っていた。

違和感を感じ始めたのは、テストを始めてから、約1時間25分後。

師匠はふとモニターの隅に光を反射する鉄塊色の大きな何かを見つけた。

 

(……? なんだ?)

 

嘗ての人工衛星の成れの果てか…それとも、作業中の事故で命の灯火を消されてしまった、哀れな宇宙労働者の名も無き墓標の破片か……

何れにせよ、当時の師匠はこんな辺鄙な場所まで流れてきていた“ソレ”に軽い興味を覚え、機体のテスト序でにソレを持って帰ろうとした。

………しかし彼は、ソレに近付いて行くにつれて今度は自身の目に映る物を信じられない気持ちで見つめる事となる。

 

 

(認めたくない。)

 

…しかし、自身の目に映る物を認めない訳にはいかない。

 

(存在する筈がない。)

 

……でも“ソレ”はハッキリと解る位に其処に在る。

 

(何かの間違いだと思いたい。)

 

しかし――――――

 

 

 

 

今の師匠を知る者ならば、信じられないという顔をして見つめるであろう、極限まで狼狽したその表情。同時にグチャグチャになる思考回路。

気付けば師匠は何時の間にか“ソレ”を無意識にOガンダムの手に掴ませていた。

CBに所属している者ならば、一度くらいはその耳で聞いた事が在るであろう代物―――

 

―――オリジナルのGNドライブ(太陽炉)を。

 

 

 

 

 

 

 

その後、持ち帰られたGNドライブは師匠の判断の元、計画に支障を及ぼす物として封印が決定。

そのまま師匠達が根城としている、“ある宇宙船”の一番奥で、“半永久的に封印されている”筈だった。

 

……俺が拾われるまでは――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処まで思い出した所で、

 

「調整完了!調整完了!」

 

という相棒の声で現実に引き戻された。

見上げると、ハッチの上で黄緑色の玉が一個、テーンテーンと跳ねているのが見える。

 

「コレデステーキ3分の1ナ!!」

 

序でに嬉しそうな声でこうも言ってきた。

それに俺は苦笑してこう返す。

 

「……まあ、偶にはもうちょっと御褒美を増やしても良いだろ……序でにケーキも半分くれてやるよ」

 

「ヤリィ!!!ヤリィ!!!」

 

そう言って再び嬉しそうな声を上げながら跳ねまくるハロ。

…最近本当に感情豊かになってきたよな…本当は機械じゃないんじゃないか?こいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサドサドサッ

 

と、そこでそんな音が鳴り、俺と相棒は揃って音がした方に顔を向ける。

見れば案の定音の主は3兄妹だった。

どうやらシミュレータのレベル10を終わらせたらしい…って、早過ぎないか!?

まださっきから如何見積もっても1時間半しか経ってないぞ!?

流石はデザインベビーの兄妹だぜ……って、流石におかしいわい!!!

 

と、俺が戦慄しかけてた、その時である。

 

 

 

「…お…O-01……」

 

と、ヨハンが死にそうな声を上げて、此方を見る。

何故かその目には悲壮な覚悟が浮かんでおり、それで俺は更に混乱する。

一体如何したというのか?

 

「ど、如何したヨハン?そんな覚悟に満ちた目でこっちを見て」

 

「……罰されるのは覚悟しています。ですが、何卒私達からの願いを聞いてはもらえませんか?」

 

「いや、だから如何したんだ…?」

 

と、俺が其処まで言った所で、ヨハンは一瞬で体勢を変えると…

 

 

 

 

シュバッ

 

ダンッ!

 

「どうかこの訓練シミュレータのクリアは明日に回して頂けないでしょうか!!??」

 

 

……と叫んで、俺に見事なDO☆GE☆ZAを敢行してきた。しかも普通のではなくて俗に言う“ダイビング式”。

見れば他の二人の目にも同じような物が浮かんでいる。

『もう勘弁してください』と。

 

「………」

 

思わずメットの中で頬がヒクつく。

チラッと見えたが、全員のシミュレータのモニターに浮かんでいた総被撃墜数は、占めて856機。

単純計算して、もう既に一人約285回撃墜されている事になる。

軟弱者め!!等と言ってはいけない。

流石に誰でも此処までやってクリアできなかったら心が折れる。

特に“井の中の蛙大海を知らず”状態を地で行っていたこいつらは、特にそうなのだろう。

 

……まあ、俺はこれ初見だったら500回以上やってクリアできない自信があるけどな!!(大笑)

あれ?何故だろう?メカラアセガ……

 

「……? 何故泣いているのですか?」

 

「…いや、少し昔を思い出しただけだ。他意はない。……そうだ、な。流石にこれ以上やっても消耗するだけだろう。今日はこれぐらいにして、後は夕食を食べた後、格闘訓練をして終わろう」

 

俺がそう言うと、ミハエルとネーナから「え~!?」という声が上がる。

喧しいと言ってやりたがったが、グッと堪えて話を続ける。

 

「…とりあえず、君達のデビュー戦までは、既に5日を切っている。それまでにクリアできれば…まあ、問題は無いだろう」

 

そう言うと、俺は工具を持って、ザフキエルまで歩いていく。

そんな俺を見て、ネーナが疑問の声を俺に投げかけた。

 

「あれ?如何したの?」

 

「いや何。私の機体が臍を曲げたようでな。これから微調整だ。あと夕食はまだ米が炊き上がってないから食べられないぞ。摘み食いなどしないように。分かったな。特にミハエル」

 

「って、俺は名指しかよ!!!」

 

「当たり前だ馬鹿者」

 

そう言いながら、俺は再び機体に向けて歩き出した。

後ろから次男のギャーギャー言う声と、それを宥める長男と長女の声が、聞こえていたが……いつも通り無視する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4日と16時間後

 

タクラマカン砂漠:三大陣営合同演習地

 

ピッピッピッピ…ピピピ

 

「よし…此方ザフキエル、ポイントに到着した。アイン、ツヴァイ、ドライ。スローネ各機状況報告」

 

『此方アイン。ポイントに到着。今後の指示を待つ』

 

『此方ツヴァイ、ポイントには到着済みだぜ』

 

『ドライ、ポイントにとーちゃくっと……で?これからどうすれば良いの?』

 

…どうやら全機問題なくポイントまで辿り着けたらしい。

まあ、これ位は出来て当たり前だからな。

むしろ発見されたとか言われたら、後で問答無用で殴る。

・・・っと、指示出さなきゃいけないんだったな。

いつもはこんな事しないから、どうにも調子狂うな…

 

「とりあえずは周囲に動きがあるか、指定時間になるまではその場で待機だ。それ以降は基本的に各自の判断で動いてもらう事になる。ただし、此方の指示にはある程度従ってもらうぞ。良いな」

 

『アイン了解』

 

『ツヴァイ了解だぜ!』

 

『ドライりょ~かい!!』

 

元気の良い返事が返ってくると同時に、俺はフッと息を吐く。

この4日間、一応三人とも地獄の修行はある程度は終えていた。

…まあ、レベル10に関しては、被撃墜数平均で約500機超えた所でやっとクリアみたいな感じだったけど。

それでもたったの4日間で、レベル1~9をあっという間にクリアできるようになるとは恐れ入った…

おそらく今の3人の実力なら、この程度のミッションは何とかなる筈だ。

 

……それでも心配はある。

何せ戦場なんていう物は、シミュレーションとは違って、色々な不確定要素によって様々に変化する物だ。

理不尽さや敵の機体性能等は、遥かに“地獄の修行”の方が上だとしても、ただ敵が戦術も無しに、一斉に此方を殺しに来るだけのあれとは違い、実際の戦場では敵司令官による“作戦”が入ってくるため、どうなるかは分からない。

 

(………ああ、女々しいな、俺。)

 

ふと、そんな言葉が胸中に飛来する。

認めたくは無いが、どうやら俺は一応の教え子でもあるあの三人が上手くやれるのか不安らしい。

いや、今の実力なら大丈夫だと分かってるんだけれど、どうにも初日の“アレ”が…ね?

え?自分自身は如何なんだって?

……まあ、何とかなるんじゃね?だって俺だし。

 

と、其処まで考えた時だった。

 

ドーン!!

 

と言う音と共に、視界の隅で爆炎が上がる。

距離的には、此方からかなり離れているようなので、直ぐにこちらに来るようなことは無いだろう。

 

……確かあっちはミハエルの担当区画だったな。

念の為、一応全員に状況報告させておくか。

 

そう思った俺は、直ぐに秘匿回線を開くと、三人に通信を入れた。

 

「各機状況報告。特にツヴァイ。戦闘が始まった様なエフェクトが見えたが、如何した」

 

すると間髪入れずに三人から返事が帰ってくる。

 

『此方アイン。デュナメスとユニオンのMS部隊が戦闘を開始。敵部隊の中には対ガンダム用の特殊部隊も確認できます』

 

『こっちは人革連の連中とキュリオスが交戦中!なんか見慣れないピンク色のティエレンがいる事から、どうやら超兵も入ってるっぽいぜ!!』

 

『こっちはユニオンとヴァーチェが戦闘中よ!!こっちは特に変なのは居ないけど、一部の機体が捕獲用の電磁フィールド発生装置を持ってるみたい!』

 

ほう…もう始まったのか………って、ん?待て?

 

「ドライ、もう一度聞かせてくれ。一部の機体が…なんだって?」

 

『だーかーらー、一部の機体が“捕獲用の電磁フィールド発生装置”を持ってるんだって。わかった?』

 

その答えを聞いて、俺は簡単に思考の海へとダイブした。何か妙に引っかかるのだ。

 

(……捕獲用の?確かにこんな状況なんだから、数で押せばもしかしたら捕獲は出来るかもしれないけど、流石に準備が………まさか?!)

 

と、そこまで考えて咄嗟に周囲を見渡す。

すると丁度上空2時の方向に、緑色の粒子を撒き散らしながら此方へと降りてくるトリコロールの機体と、赤と白を基調とした二色(ツートンカラー)の機体が視界に入った。

と、次の瞬間。

 

「アムロ!!アムロ!!9時ノ方向ニ敵機!!デカイノトチイサイノ!!」

 

相棒の声にハッとして其方へと目を向ける。

其処にはこの間見た、青色のイナクトと、イナクトの上半身を大型の一つ目ユニットに取っ付けたような大型の機体が、かなりのスピードで此方に近づいていた。

向かう先は……トリコロールの機体、エクシア。そしてツートンの機体、サキエル。

 

瞬間的に、俺は3人に叫ぶように声を荒げた。

 

 

 

 

 

「やはり今回のこの一件はガンダム捕獲の為の罠か!!」

 

 

 

と。

咄嗟に三人に指示を飛ばす。

 

「各機よく聴け!おそらく今回の演習は今言った通りにブラフ。故に若干ではあるが予定を変更する。指定時間は繰り上げて今から5分後。ドライはステルスフィールドを自身の判断したタイミングで展開しろ。あと、敵部隊にこれ以上の増援も考えられる為、戦闘はなるべくスピーディーに終わらせろ。良いな?!」

 

『『『了解!』』』

 

同時に俺はレーダーの範囲を最大にして、三機の動きを追う。

ヨハンとネーナはどうやら出るのを我慢していたらしいが、ミハエルの奴は我慢できなかったらしい。

レーダーを見る限りだと、敵を表す光点とツヴァイを表す光点がぶつかった後に敵を表す方が消えたので、どうやらもう戦闘に介入したらしい。

血気盛んな事だ。

ただ……

 

「…動き出すの、流石に早すぎない?もしかして、アイツ“スピーディーに終わらせろ”って所しか聞いてなかったり?俺指定時間は5分後ってちゃんと言ったよね?」

 

「アムロ、アキラメロ」

 

「ですよねー…」

 

俺のそんな呟きは、今俺の目の前でも行われている4機のMSの攻防の音にかき消されて、砂漠の夜空へと散っていった。

 

「つーか…」

 

「ドシタ?ドシタ?」

 

「…こんなに近くに居るのに、気付かれないって、どういう事なの……」

 

なお、4機との距離は大体250m。めっぽう近いから流れ弾とか普通に飛んでくる。

 

「……」

 

無言で返す相棒が、何気に珍しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5分後

 

「おーおー、押されっ放しだよサキエルとエクシア…いや、良い感じに反撃できてるから互角なのか?」

 

先程のあの呟きから5分が経った。

指定した時間になった為か、レーダーで見る限りスローネの残った二機も戦闘を開始している。

そんで持って俺は……まだ気付かれていない(汗

いや、何でか知らんけど、本当に気付かれない。何故とか聞かれても困る。むしろ俺が聞きたい。

というか、ホントに何で?確かにステルス起動しっぱなしだしマントでカムフラージュもしてるけど、戦闘の余波でしょっちゅうマントははためいて捲れてるし、ステルスも表面のGN粒子が何処かへと流れていって穴だらけ。

…それでも気付かれないって一体……(汗

 

「…なあ相棒。俺って其処まで存在感無いか?」

 

「トイウカ地味。オーラトカ諸ニ一般人」

 

「…地味……地味……か……」

 

……まあ、しゃあないか。

地味なら地味で利点もキチンとある。

一般人とか最高じゃないか。潜入にはうってつけだろそういうの。うん。

 

……な、泣いてないもんねぇ!!!

 

……兎も角、それにしてもここまで気付かれないとなるともう呆れるのも忘れて感嘆するな。

……まさか、気付いてたけど無視してましたって事は無い…よな?

ありそうで怖いんだが。

もしそうだったら本気で泣くぞ。泣けるぞ。

 

ピピピピ

 

『こちらツヴァイ!キュリオスの救助と、人革連のMS部隊の排除完了!!ま、何機か逃がしちまったけどな』

 

と、ここまで考えた所で、ミハエルから通信が入った。

流石に一番に戦闘に介入していただけあって、終わるのも早かったらしい。

 

「了解した。流石に人の話を聞かないで一番に戦闘に介入しただけあるな」

 

『いっ!?いや、それはキュリオスが捕獲されそうだったから介入しただけで、別に面白そうだったから介入したわけじゃないぜ!?第一、アンタ言ってたじゃんかよ“それ以降は基本的に自身の判断で動いてもらうって”!?』

 

「“基本的に”と言っただろうが……それに………チッ。ああ、もう良いか」

 

『おおい!!??』

 

心外だ!と言わんばかりにミハエルが吼えるが、こっちは今それどころではない。

4機の攻防の中心地からザフキエルまでの距離は、ジリジリとこっちに迫っていたのか或いはこっちから迫ったのか定かではないが、既に100mを切っている。

そろそろ攻撃の流れ弾の飛んで来る数が凄まじいので、そちらに集中しなければならない。

俺はとりあえず吼え続けるミハエルを宥めると、簡単に指示を出した。

 

「とにかく、以降の動きを伝えるぞ。ツヴァイはキュリオスを援護しながら指定ポイントまで撤退。追撃部隊を確認した場合は僚機の安全を確かめた後に迎撃に当たれ」

 

『ポイントまで到着した場合は?』

 

「遊撃行動への移行を許可する。ただし制限時間までだ」

 

『OK!!』

 

そう言うと、ミハエルからの通信が切れる。

とりあえずこれで第一段階クリアってとこだろう。

思わず溜息が口から漏れる。

 

ピピピピ

 

『此方アイン。デュナメスの救助及び敵特殊部隊の撃退を完了。被弾は0。エネルギー残量は70%といったところです』

 

「了解した。流石は長男だな。先に戦闘を始めたミハエルが既にキュリオスと共に指定ポイントまで向かっている。デュナメスと共にそちらに合流し、ポイントに到着次第遊撃行動に移れ。追撃部隊を確認した場合は『僚機の安全確保を最優先し、安全を確保した事が確認できた後に迎撃行動に移ります』……うん。良く解ってるじゃないか。それで頼む」

 

『了解しました』

 

そう言って、ヨハンからの通信も切れる。

う~ん流石は3兄妹の長男。

頭が良く回るな。

お蔭で俺が命令する意味あるのか無いのか全く分からん……

 

「…で、あと残るは『ピピピピ』お、きたきた」

 

通信を開く。

案の定相手はネーナだった。

 

『此方ドライ!ヴァーチェの救助とユニオン軍の撃退に成功!!敵エース機と思われる機体も撃墜しちゃった!!』

 

「お、本当か?良くやったな。帰ったらご褒美くれてやろう。何かリクエストは?」

 

俺がそう言うと、彼女は『ホント!?』と言ってから、考え始めた。

うん可愛い。ネーナは刹那達と違って年相応の可愛さがある。微笑ましい。

そんな彼女はやがて何か思いついたのか、満面の笑みで俺にこう言った。

 

『それじゃあね……パフェ!!パフェ食べたい!!イチゴパフェ!!』

 

それを聞いて思わず苦笑が口から漏れる。

何とも女の子らしい。

が、そこまで和んでいられる状況ではないので、一気にスイッチを切り替えて指示を出す。

 

「了解だ。楽しみにしていろ。と、それは置いといて、だ。この後お前はヴァーチェと共に指定ポイントまで撤退しろ。先にアインとツヴァイが向かっている筈だから途中で合流すると良い。追撃部隊が出てきたら、キュリオス、デュナメス、ヴァーチェの援護に回れ。迎撃はアインとツヴァイにさせろ。指定ポイントまで到着したら、制限時間一杯まで遊撃行動を許可する。まあ、面倒臭かったら、もうその時点でステルスフィールド展開して良いぞ」

 

『ラジャ♪パフェ、ちゃんとお願いね♪』

 

「分かった分かった」

 

『絶対だからね!!』

 

そう言ってネーナも通信を切った。

これでチームトリニティは全員が任務を完了した事になる。

これで第二段階クリア……と言う事だろう。

とりあえず俺の個人的なノルマはこの瞬間に達成された事になる。

100点満点中60点といった所だろう。

あとは……俺の仕事が上手く行くかどうか、だ。

 

「……さて、相棒。そろそろ暴れるぞ?いい加減此処まで無視されると腹が立ってくるしな」

 

「ヤッチマウゼ!ヤッチマウゼ!」

 

「おう、ナイスな返事だ」

 

そう言いながら、エクシアを見る。

そっちは今、赤っぽいオレンジ色のあのデカ物が展開している蜘蛛のような足から発生されたプラズマフィールドで身動きが取れないでいた。

サキエルの方も、青いイナクトに阻まれて援護は望めそうに無い。

 

それを確認した瞬間、俺はザフキエルを一気に飛び上がらせると、最高速度でデカ物の上まで移動してビームサーベルを肩に付けたまま展開。

 

 

そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!」「オンドリャアアアアアアアアアア!!!!」

 

――――――相棒と共に威勢の良い方向を上げながら急降下して、デカ物の下半身を串刺しにすると、そのままビームライフルを何発か発射して、破壊する!

 

ドォォォォン!!!

 

腹に響く爆音と共にザフキエルが爆風に包まれるが、あまり気になる程の事ではない。

即座に地面に落下してから体勢を整えると、振り向きながらビームライフルを構える。

そしてそのまま一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガン(俺)ダム、見(参)参(上)!!」」

 

 

……あ~…うん。これは締まらねーな……無いわ。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうだ!!アグリッサのプラズマフィールドの味はぁ!?機体だけ残して消えっちまいな!!クルジスのガキがぁ!!』

 

「あああああああああアアアアアアアアァァァァァアアァァァアァァアァァァア!!!!」

 

三大陣営の合同演習への介入。

その最中、激しい猛攻に曝された私達は、各方面へとバラバラに分断された。

幸いにしてユリの乗るサキエルと一緒だったが…そこへヤツ―――アリー・アル・サーシェスが、イナクトの下半身に、嘗て太陽光紛争時に使用された“アグリッサユニット”を取り付けて、僚機の青いイナクトと共に私たちに襲い掛かってきた。

すぐさま応戦したが、途中ユリは青いイナクトと一騎打ちの状態となり、対して私はアグリッサユニットのプラズマフィールドに捕らわれて膨大な電撃の渦に叩き込まれていた。

 

「アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

電撃に身を焼かれながら、私の脳裏に今までの光景が思い浮かぶ。

これが走馬灯、という物なのだろうか。

つまり私は、このまま死ぬ?

不意に頭の中に流れていた光景が、幼い頃の光景を映し出す。

そこでは、まだ小さかった私が、瓦礫に寄りかかって泣いている所だった。

……ああ、覚えている。確か、あの男に見捨てられて、彼が私の前から居なくなった後、あのガンダムを見て、その後一人ぼっちになった事に気付いて一人で泣いたのだっけ。

周囲では死んだ仲間の亡骸や、崩れ落ちたアンフの無残な姿が見える。

それを見て、私の中に明確に“死”という言葉が浮かび上がった。

 

(……死ぬ…?……死ぬ、のか?)

 

この歪んだ世界の中で……?何にも、ガンダムにもなれぬまま……?

 

あの時の様に失い続けたまま………たった一人で朽ち果てるというのか?

 

『刹那っ!!!今助けに…っくそっ!!邪魔するなぁ!!!』

 

不意にユリの声が聞えた。

電撃による異常な苦痛に耐えつつ、辛うじて動く目だけをそちらに向ける。

そしてそこで青いイナクトを何とかして振り払おうとしているサキエルの姿を見て、私の胸に、あの時私を助け、彼が立ち向かっていった白いガンダムの姿が思い浮かぶ。

 

…同時に、心の中に死に対する恐怖というものが生まれ始めた。

 

「ガン、ダム…………」

 

不意に口から言葉が漏れる。

同時に、ある思いが―――――あの日置いてきたはずの、死の恐怖が、ゆっくりと私を犯し始める。

 

 

 

(……嫌、だ………私は…………私は…まだ……死に、たくない…)

 

 

「ガン……ダム……!!」

 

 

やらなくてはならない事が……沢山あるんだ…!!

 

「ガン…ダム!!!」

 

 

 

 

 

 

必死に電流に抗って腕を動かそうとする。

 

ともすれば吹き飛びそうになる意識を、必死に呼び戻そうとする。

 

 

ガンダムを――――――エクシアを、動かそうとする。

 

 

「ガン、ダム……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の半身とも言うべきこの機体を―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!』『オンドリャアアアアアアアアアア!!!!』

 

―――瞬間、響き渡る怒声が私の耳朶を打つと共に、私を戒めていた電撃が一瞬で消える。

変わりに襲って来たのは爆風による衝撃。

上手く動かない腕を必死に動かして、エクシアに防御体勢をとらせる。

 

ドォォォォン!

 

「クゥっ………!!」

 

ともすれば飛びそうになる意識を必死に保って、衝撃に耐えながら、必死に目を開く。

 

そこには――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクシアと良く似た配色の身体。

 

しかし全体的なシルエットとしては、一般的なMSと比べると、やや逆三角形を重ねたような感じがする。

 

肩からはビームの刃を放ち、右手にライフル、左腕にシールド。

 

 

そして…身体を覆う、以前会った、あの白いパイロットスーツの人物が乗っていた機体に付けられていた物と、同じ様なマント。

 

…しかしその顔は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガン………ダム?」

 

私の良く知る、あの日見た、白い、光の翼を持ったガンダムの物と酷似していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――と、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『ガン(俺)ダム、見(参)参(上)!!』』

 

後ろに振り向いたそのガンダムから、何処かで聞いた事のある声と共に、何処までも締まらないキメ台詞…といったか?

それが放たれた。

 

『『『「………」』』』

 

瞬間、その場を何とも言えない雰囲気が支配する。

敢えて言わせて貰うならば、今のこの状況はこの一言に尽きるだろう。

 

これはひどい。

 

 

 

『バっ!?おまっ!?台詞違う!!何やってんだ相棒!?』

 

『絶対コッチノホウガカッコイイ!!モモデスガナニカ!?』

 

『作品シリーズ全然違うしそもそも局が違うわ!!??しかもそれ何年前だよ!?』

 

『作者カラスルト、オヨソ7年以上前ダ!?』

 

『何で疑問系なんだよ!?つーかメタ発言過ぎるぞ!!少しは自重しろ!!何でシリアスな局面で漫才せにゃあかんのだ!?』

 

『ソレガハロクオリティー!!!ナントカシテモライタクバ“ハロ権”ヲ認メロ!!!』

 

『却下じゃボケェェェェェェェ!!!!!!!!!!!』

 

…はぁ…

 

「テラカオス……」

 

思わずそう呟いた私は悪くない筈だ。

意識を手放しそうになったのも、絶対に悪くない筈だ。

確実に。

うん。

 

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

とりあえず今回は地獄の修行とアムロのGNドライブについての簡単な説明と、合同演習への介入の最初を書いてみました。

GNドライブについては、今は「ああ、そんな感じなのね」と、思ってくれると幸いです。
とりあえず言っておくと、“フェレシュテが持ってる物とは別物”です。

そして次回からVSサーシェスとアイツのコンビです。
後プラスして、“とある部隊”を出す予定です。
ヒントは“最低野郎”。
分かりますかね?
ただ、あくまでそれっぽいだけです。


それではまた次回


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十三話―――貴方達は出てくる作品が違うので早々にお帰りくださ・・・・え?無理?つーかあっちと違う?・・・・ですよねー・・・

詰め込み過ぎた最新話です。

では本編の方どうぞ…



 

「…コホン。さて、ちょっと悲惨な事態があったが無視して次に行こう。これからどうするか……?」

 

「今更カッコツケテモ手遅レダゾ」

 

「相棒うっさい」

 

相棒との漫才が終了して一息つき、再び真面目な顔になって正面を見やる。

先程まで大型ユニットの上に居た、赤っぽいオレンジ色のイナクトは此方の様子を窺うように空中に滞空している。

しかし流石は手馴れというべきなのか、右手に持ったリニアライフルの銃口は油断無く此方に向けられている。

 

ちょっと離れた所に以前も見た青いイナクトが居たが、そちらは意識を半分こっちに、半分をサキエルに向けている為、今の所攻撃される心配は無いだろう。

そう考えた所で、エクシアに通信を入れる。

 

「エクシア。動けるか?」

 

『…っ!』

 

それを聞いた刹那が、必死に機体を動かそうとする。

…が、肝心のエクシアは少し身体を揺らすだけで、あまり動いてはくれない。

機体の何処かが故障でもしたか?等と考えたが、よく見れば刹那の体自体があまり動いてない。

どうやら先程の電撃のダメージは思ったよりも深刻な様だ。

 

「動けない、か……ならば、奴の相手は此方で引き受けよう。体が動くようになったら全力でこのポイントまで離脱する事。良いな?」

 

とにかくこのままでは良い的である。

指定ポイントの座標を地図付きでエクシアに送り、そのままビームライフルをオレンジのイナクトへと向ける。

…両者共に動きは、無い。

しかし些細な事でこの沈黙が崩れる事は、明確に分かる。

 

手に汗が滲む。

頬や額から汗が垂れる。

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……っ!!ハァァァァァァァ!!!』

 

そう言って裂帛の気合を上げながらGN薙刀を構えて青いイナクトにサキエルが突っ込んだ。

対するイナクトはプラズマブレードを展開し、それを受ける。

 

バチィィッ!!というビーム粒子とプラズマの衝突する、特徴的な衝撃音が辺りに鳴り響く。

それが響いた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っシャアッ!!」

 

『っ、チッ!!』

 

ザフキエルの体勢をわざと崩しながら相手の懐に飛び込むと、ブレイクダンスの要領で蹴りを放つ。

イナクトは咄嗟にその場を跳んで離れると、リニアライフルを4~5発ほど一気に斉射してきた。

それを横に飛びながら、避け切れなかった物だけシールドを使って受け流し、お返しにとライフルからビーム弾をお見舞いしてやる。

すると向こうは此方の攻撃を読んでいたかの如く、空中で側転をするかのように身体を振り回しそれを回避する事に成功する。

 

(おお!?)

 

流石の俺もこれには面食らった。

シミュレータの中では何度か見た事はあるが、実戦で。しかも現行の最新鋭機とはいえガンダムと比べれば耐久性等が数段劣るイナクトが、このバランス的な意味で危険極まりない回避行動を実行するとは!!

 

俺が驚いている間に向こうは体勢を立て直して、今度はリニアライフルの先に取り付けられていたブレードで此方に切り掛かって来た。

咄嗟に肩のビームサーベルを展開してそれを受け止めつつ、シールドを取り付けている以外は何も持っていない左腕を使って相手の右腕を掴んで動きを止める。

そしてそのままビームライフルで相手のコックピットに狙いを付けようとすると、驚くべき事にイナクトは掴まれたままの自身の右腕をパージした後、此方に盛大な回し蹴りをお見舞いしてきやがった!

 

「ヌゴッ!?」

 

思わず呻きながら吹っ飛ばされる。

ただ、このまま地面に突っ込むとそこを集中的に狙われる恐れがあるため、衝撃に身体を揺さぶられながらもしっかりと体勢を立て直す事は忘れない。

 

「ぬごげっ!?」

 

……と思ったのだが、どうやら意外と勢いが付いていたらしい。“前方向”に。

体勢を立て直そうとしてスラスターを吹かそうとしたのだが、勢い余って空中で前転してしまう。

しかもそのまま元の体勢に戻そうとする小型スラスターの作用も相まって、コックピットにかなりの衝撃が来てしまった。

 

……って、対ショック性に優れている筈のガンダムのコックピットな筈なのに、かなりの衝撃を受けるって、結構な事じゃないか?

 

そんなアホな事を考えている間にも、イナクトは攻撃の手を緩めようとはしない。

今度は先程右腕ごと捨てたリニアライフルをサッと残った左手で回収し、それの側面に取り付けられていたミサイルランチャーからミサイルを発射してくる。

しかし………

 

「GNミサイル超大量ならいざ知らず、そんな低速ミサイル7,8発では!!」

 

吼えながらライフルで全弾撃ち落とす。

撃ちながら、俺の脳裏に浮かんで来るのはあの地獄の修行がまだ“地獄の特訓”と呼ばれていた時代に受けた、アブルホール×60機以上からのGNミサイルの一斉掃射・・・・・・・・

 

(……くぅっ!!)

 

自ずと目から涙が零れ落ちる。

ハッキリ言ってあれは一種のトラウマ物だ。

空が一斉に白い飛行機に埋め尽くされるや否や、次の瞬間一気に緑色の粒子によるカーテンが出来上がり、そのまた次の瞬間オレンジ色の弾頭の雨が全部此方を目指して降ってくるのだから。

当時はされた瞬間に「オーバーキルにも程がある!!!」と泣き喚きながら必死に逃げるか撃ち落そうとしたものだ………

因みに今でもシミュレータでキュリオス、デュナメス、ヴァーチェ(実弾メインのフィジカル装備)、アブルホール(黒、白混合)の大群からよくやられるが、むしろ当事よりは敵機体の数も比べるまでも無く増えており、上手くいけば同士討ちが狙えるのでむしろ「ラッキー!」と叫ぶ位になっている。

 

(……思えば遠いとこまで来たもんだ。)

 

しみじみと思う。

と、爆風の中からイナクトがソニックブレイドを左手に展開した状態で此方に突っ込んできた。

チラと見ると、先程まで奴が居た所の下側にリニアライフルが落ちていた事からどうやらミサイルが打ち落とされる事を見越していたらしく、爆風が上がると同時にライフルを投げ捨ててブレイドを抜いたらしい。

しかし予想していなかった訳ではないので、俺は咄嗟にビームライフルを腰の横―――というか足の付け根の部分に在るハードポイントにマウントした後に、日本の武術の一種である“合気”や“柔術”等で使われる体制、“半身”の状態から“転換”と呼ばれる動作を使ってそのまま左手で相手の右手をブレイドの根元ごと引っ掴むと、“一本背負い”の要領でイナクトを投げ飛ばす!!

 

『うおおおおおお!?』

 

接触回線で、中年くらいの男の声が聞こえてきた。

どうやら此方の方に乗っているのが、以前もう一方の青いイナクトに乗っていた人物らしい。

まあ、今は特に気にしていられるような場合ではないので、スルーするが。

 

そうしている内に重苦しい音を立てながら、イナクトが地面に落ちる。

しかし流石にその程度では沈黙してはくれないようだ。

今度は掴まれたままの左腕までパージして起き上がると、連続して蹴りを入れてきた。

直ぐに掴んだままの左腕を棍棒のように振るいながら応戦するも、やはり限界という物がある。

 

「ぎっ!」

 

辛うじて受け切れなかった内の1,2発が腹部に当たり、さっきと同じ様に吹っ飛ばされる。

ただ、今度は特に体制を崩していたわけではなかったので、咄嗟にビームライフルを右手にマウントして、お返しと言わんばかりに3連射する。

 

放たれた光弾は、真っ直ぐに両腕を失ったイナクトへと向かっていく。

が、向こうもよくやるもので、それらをスライディングしながら回避すると、そのまま此方へと再び突っ込んでくる。

 

(……特攻か?それともただ単に馬鹿なだけか?)

 

両腕が無い状態で向こうができる事と言えば、後は蹴りだけだ。

ハッキリ言って普通はそれだけで戦おうなんていうのは自殺行為も甚だしい。

…しかし、このイナクトのパイロットはそれを“実行”した。

その事を疑問に思いながら、迎え撃つ為に、俺はザフキエルの左手にビームサーベルを抜かせる。

 

しかし次の瞬間、イナクトが空中へと飛び上がった。

その背後に見えたのは……先程オレンジのイナクトが捨てたリニアライフルを左手で持って、右手のそれと一緒に此方へと狙いを定めている、青いイナクトだった。

 

「…っ!!!」

 

咄嗟にシールドで防御体制をとりながら、ビームライフルで向こうを狙い打つ。

それと青いイナクトが銃弾と共にミサイルを撃ったのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

「ヌグゥ……!!」

 

此方の銃弾に巻き込まれずに落とされなかったミサイルとリニア弾が、全てシールドに着弾し、コックピットをかなりの衝撃が襲う。

それでも此方が体制を崩さなかったのは、単にザフキエル自体の性能のお蔭だろう。

 

気を取り直して、着弾による噴煙をシールドで振り払いつつ周囲の状況を確認する。

するとまず最初に目に入ったのは、正面に居る青いイナクトだった。

どうやら此方の攻撃が上半身の左側を丸々吹き飛ばしたらしく、左腕と背面バーニアの左半分が綺麗さっぱり消えている。

 

次にオレンジ色のイナクト。

青いイナクトの隣に移動しているが、まだその体から発散されている殺気は衰えている様には見えない。

きっとまだ腕が残っていたら、武器が無くても襲い掛かってきそうだ。

 

イナクト二体の後方大体50mくらいの所にサキエルが武器を持った状態で膝を付いていた。

胸部の表面に少し煤が付いていたりする以外は特に傷が見当たらないので……たぶん、鍔競合いの最中至近距離でミサイルの直撃でも食らった時に、軽い脳震盪でも起こしたのだろう。

実際、今見ている感じだと、必死に立ち上がろうとしている感じがするし。

 

で、最後にエクシア。

これが一番問題である。

体制が一切変わってない。

つーかハッキリ言ってなんかダメっぽい。

 

 

…うあー、なんともし難い。

とりあえずイナクト二体は、まだ動けそうなので、また襲い掛かられる可能性は大きいだろう。

ただ、その矛先が問題だ。

もし、このタイミングでサキエルに襲い掛かられたら…まあ、ビームライフルで狙えばいいのだが、下手をすると誤射の可能性がある。

エクシアの方に来られても困る。

その時は一応俺が盾になって迎撃すれば良いが、それでも2対1で碌に動けないエクシアを守りながら戦うと言うのはキツイ。

 

(…どうするかなぁ……)

 

そんな事を考えている間にも、睨み合いは続く。

そのまま5分くらい経った時だろうか?

突如として、イナクト二体はお互いを支えながら撤退していった。

 

(んな!?)

 

突然の行動に、俺は戸惑うが、ハッキリ言って好都合だ。

すぐさまサキエルへと通信を入れる。

 

「サキエル無事か?聞こえているなら返事をしろ」

 

『……う………なん…だ…?』

 

どうやらまだ幾分か辛そうだ。

直ぐにポイントの座標を送りつつ、言葉を続ける。

 

「今送ったのが、合流ポイントだ。追撃されても敵わんから今すぐに向かえ。行けるな?」

 

『っ…あ、ああ。まだ少しふらつくが……たぶん』

 

「そうか…なら、私はエクシアを連れて行くから、先にい【ビー!ビー!ビー!】っ!!何ぃ!?」

 

突如としてコックピットに、ここ最近聞きなれた“あの”警告音が響き渡る。

…って、このタイミングでか!?

やば過ぎるだろう!!

 

「チィッ!!ハロ!!直ぐに再調整開始!!動けるまで立て直してくれれば、後は何とでもできる!!」

 

「任サレタ!!任サレタ!!」

 

「頼む!」

 

咄嗟にハロに指示を出すと共に、各部の細かい調整をする為にキーボードを引っ張り出す。

ハロの方はどうやらリンクを開始したようで、正面のコンソールには膨大なプログラムコードが流れている。

しかし、流石に毎度見ている光景とは言え今回ばかりはそれが遅く感じてしまう。

 

『オイ、どうした!?何があった!?』

 

此方の様子が一変した事に気付いたのか、サキエルのマイスター―――ユリが、心配した様子で問いかけてくる。

心配掛けないようになるべく気持ちを落ち着かせ、できるだけ声のトーンを平坦にして言葉を返す。

 

「いや何、此方の太陽炉が臍を曲げたらしい。出力が不安定になってまともに動けん」

 

『んなにぃ!?大丈夫なのかそれは!?』

 

大丈夫なわけなかろう。

言われると同時にそう口には出さずに愚痴ると、俺はレーダーに目を走らせる。

今の所追撃部隊の影は無いが、レーダーのかなり端っこの方に何やら赤い点がワラワラと……へ?ワラワラと?

 

ハッとしてレーダーの範囲を広くし、確認を取る。

すると縮尺を3kmに設定した時に、“それら”はまるで天気予報の雲のように姿を表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、聞こえているのか!?オイ!!」

 

突如として目をモニターに向けずに、おそらくレーダーがある所に固定して固まってしまったO-01に、私は困惑してしまっていた。

青いイナクトから受けたミサイルの直撃による振動によって、軽い脳震盪を引き起こしていた頭は、今はもう正常に戻っている。

機体の方も特に問題は無い。

 

『……ん?ああ、すまん。ちょっと衝撃的な事が発覚して、意識の外に追いやってしまった』

 

「地味に酷いな!泣くぞ!?……で、一体どうした?」

 

『あ?…ああ…いやはや参った参った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か知らんが、ティエレンとかアンフとかといった機体ざっと50機位に囲まれているぞ。私達』

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?

 

「……は?いや、今なんて…」

 

『だからな、囲まれてしまっているのだ。ざっと50機位の敵に。いやー参った参ったハハハ…』

 

(…おい。どうして笑っていられる?大量の敵機に囲まれているんだぞ?)

 

私が軽く混乱していると、乾いた笑いを漏らしていた彼は、今度は一転して真面目な声色になってこう問いかけてきた。

 

『…で、少し聞きたいのだが』

 

「…んあ?あ、ああ。どうした?」

 

『いや、少し聞きたい事があってな…そっちの機体、何処か故障してたりとかは無いな?』

 

そう言われて、私は反射的に機体の各部をチェックする。

結果、胸部装甲が少し損傷しているだけで、特に問題は無かった。

その事を伝えると、彼は少し何か考えた後でこんな事を言ってきた。

 

『そうか…なら話は早い』

 

「……何がだ?何か少しだけ嫌な予感がするんだが……」

 

『いや、何、簡単な事だ。

 

悪いが、この機体(ザフキエル)を持って、合流ポイントまで行って欲しい』

 

「くたばれ」

 

思わず汚い言葉が口から飛び出してしまったが………ウン。これはこいつが悪いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見上げれば、ザフキエルを抱えて合流ポイントまで向かっていくサキエルが見える。

見下ろせば、未だに倒れたまんまのエクシアのコックピットハッチ。

 

「…さて、お仕事お仕事……っと」

 

とりあえず、ハッチの開放コードは事前に教えられているので、それを使ってハッチを外から開放する。

中を覗き込んでみると、案の定青いノーマルスーツを着た小柄な少女がぐったりとしているのが見えた。

ゆっくりと中に入っていき、ヘルメットのバイザーを上げて呼吸と脈をチェックする。

…どちらも特に問題は、無い。

どうやら疲れ果てて眠ってしまっているだけらしい。

その事に内心ホッとしながら俺はエクシアの操縦桿から彼女の手を退かすと、丁度彼女の前の方に座りながら機体を動かす。

 

ギュオォォーン……という、そんな音を鳴らしながら、エクシアがゆっくりと立ち上がる。

それを確認してから刹那をシートから下ろし、入れ替わりに座ってから彼女を抱えるようにして座らせる。

……役得とか思った馬鹿。ちょっと後で来なさい。

そんな事思えるような状況じゃないからなこっち。

 

…さて、ここで何故俺がこんな事をやってるのか簡単に説明しよう。

ぶっちゃけると、このままエクシア動かして逃げます。

……いや、ちゃんと理由もある。

 

一つは刹那の今の現状だ。

かなり消耗している今の彼女では、おそらく逃げている途中で気絶してしまう可能性がある。

故に俺がこうやって、代理でエクシアを動かしているわけだ。

流石にOガンの直系機だけあって、中々シックリ来る上に動かしやすい。

 

二つ目はザフキエルの現状。

出力不安定な現状であれを動かしてここから逃げるのは、流石の俺でも無理という物である。

今のところハロが調整を続行しながら何とか動ける所まで持って行ってくれてはいるが……それでも“動けるだけ”である。

これではアッサリと捕捉されてしまう可能性がある。

一応サキエルに抱えて持って行ってもらったが、半分位は賭けだ。確率は五分五分だろう。

ま、彼女の技量なら大丈夫だと思うが。

 

そして残る三つ目は……

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

咄嗟に機体を捻って上空から飛んできた砲弾を避ける。

これは…多分ティエレン長距離射撃型の大砲だろう。

どうやらもう来たようだ。

 

「…っし。やるか。地獄の修行よかマシだろ」

 

そう言いながら、GNソードを展開して再び飛んできた砲弾を真っ二つにぶった切りながら、砲弾が飛んできた方へと直進する。

オーウなんという性能か。

多分Oガンダムでは無理である。

流石は近接特化の第3世代機という所だろう。

面目躍如というべきか。

 

と、暫らく飛んでいると案の定長距離射撃型が3機。通常の地上型が1機。

そしてアンフが3機いた。

何故か全機体右肩が赤かったが…まあ、特に問題ではない。

 

向こうも一気に自分達に接近してきたエクシアに気付いたのか、弾幕を張ってくる。

しかし、そのどの攻撃も先程のイナクトや普段の地獄の修行の敵と比べれば遥かに遅い。

一気に接近してから左手に持ったビームサーベルと右手のGNソードを使い、アンフを全機纏めて胴切りにする。

そのままわざと体制を崩して、ライフルモードにしたGNソードで長距離射撃型の主砲を吹き飛ばし、序でと言わんばかりに脚部も吹き飛ばす。

そこで地上型がカーボンブレイドで切りかかってきた。

すぐさまハンドスプリングの要領で飛び上がってそれを回避するも、今度は右腕の滑空砲で狙ってくる。

どうやら予め初撃を回避される事を予測していたようだ。

 

身体を捻ってそれを回避すると、もう一度滑空砲でこちらを狙ってきた。

それを回避しながら、GNダガーを地上型と長距離射撃型の二体に投擲する。

結果は命中。

2本とも相手のコックピット下の腹部に当たった。

当たり所ならぬ刺さり所が悪かったのか、二体はモノアイから光を無くしてから一切動かなくなった。

 

「ふぅ…」

 

思わず口から溜息が出る。

出たような気がした。

 

 

 

その時だった。

 

(……?)

 

不意に、装甲に何か当たったような音がした。

疑問に思って、目を下に向ける。

 

そこに、居た。

 

 

人革連のティエレン用スーツを着た数人の兵士が、

 

 

 

その手に銃を持って。

 

 

銃口を此方に向けて、

 

 

 

 

そこに立っていた。

 

(……は?)

 

思わず内心「馬鹿か?」と呟いてしまう。

そんな豆鉄砲でMSの、しかもガンダムの装甲を抜けるとでも思っているのだろうか?

…まあ、確かにカメラアイ等に当たれば効果は有るかも知れないが……

 

と、其処まで考えた所で、

 

――――――!!!

 

警告音が鳴り響いた。

咄嗟にその場を飛び退くと、コンマ5程遅れて、先程までエクシアが立っていた場所一帯に砲弾の雨が降り注ぐ。

着弾により上がる爆風、砂塵、倒れ伏していたティエレンやアンフの破片。

 

…その中に混じって飛び散る、赤い塊、液体、衣服の切れ端、銃の破片。

そして――――人間の首ぐらいの大きさの、ボールのような、物。

 

「―――――――――――――」

 

それを認識した瞬間、喉の奥―――胃の部分から、何かが込上げるような、そんな不快感が一気に襲い掛かってくる。

それを歯を食い縛りながら一思いにに飲み込むと、直ぐに意識を切り替えて砲弾が飛んできた方を睨む。

 

案の定その方向にはピンク色の目玉を持った無数のティエレンやアンフが、団体で此方に向かって来ていた。

目測大体20機。

その後ろからも、続々と後続の部隊が近付いて来ているのが見える。

 

ふと、抱えている刹那を見る。

相変わらず、意識は無い。

ただ、呼吸音等から先程よりもマシな状態である、という事だけは分かった。

――――それで、十分。

 

無意識に舌で乾いた唇を、舐める。

目を見開いて、敵の動きを見据え続ける。

操縦桿を握る手に力を込め、フットペダルに乗せた足を何時でも動けるように強張らせる。

 

目的は、敵の全滅ではない。

――――そう、“敵の全滅”ではない。

目的はただ一つ……『この戦域からの離脱』

ただ、それだけだ。

あの“地獄の修行”よりも遥かに難易度は低い……筈だ。

 

「…………」

 

沈黙。

 

聞こえてくるのは自身の少々荒い呼吸音。

心臓の音。

エクシアの駆動音。

そして――――敵部隊の足音。

 

「…………………………ふぅ」

 

敵はまだ撃っては来ない。

そんな状況が何時間…いや、何日も続くのではないかと思えるような静寂の最中、思わず溜息を一つ。

 

 

 

 

 

………それが引き金だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟く発砲音。

そして、大量の加速音。

それは、俺に敵の攻撃が始まった事を知らせた。

 

同時にエクシアを一気に最大速度で敵の群に突っ込ませる。

最早文字通りに“弾幕”といえるような状況の中、確実に一発一発を避ける。

それでも避けきれない物は、シールドで防御、もしくはGNソードやロング、ショートソード。

或いはビームサーベルで切り落としていく。

 

気付けばもう目の前には、突っ込んできた敵部隊の第一波。

反射的にGNソードで縦に両断する。

序でにそのまま縦方向に回転しつつ、その後ろに居た敵機に踵落としを決め、カメラを潰す。

その反動を利用して、後ろへと一回転しながら飛び去る。

着地。しかし勢いを殺し切れずに、膝を深く曲げてしまう。

その隙を逃さず、両脇からカーボンブレイドでアンフが2体切りかかってくる。

それを敢えて体制を崩す事で避け、敵が勢い余って空振りした所で、ライフルモードのGNソードを使い、コックピットを打ち抜く。

 

キチンと敵機の撃墜を確認しない内に、その場からスラスターを全開にして退避する。

瞬間その場に着弾する砲弾の雨霰。

巻き込まれ、爆散していく敵部隊のMS。

それらはそのまま砂漠に新たな汚い花火を咲かせる。

同時に巻き上がる砂塵。

序でに磁気嵐まで起こり、優秀である筈のエクシアのセンサーにすらノイズが奔る。

…ただ、エクシアでさえこれだけの影響を受けるような磁気嵐だ。

ならば、ティエレン系統やアンフのセンサーに出る影響は尋常ではない筈……

 

そう思いながら、砲弾を避けつつ、奴さんを見る。

案の定それは正解だったようで、此方から見て手前の方にいる一団は、ほぼ全機動きがおかしくなっていた。

これ幸いとばかりに、そいつらの上を跳び抜けて、先程から延々と砲撃を続けている長距離射撃型の一団を探す。

跳び抜けてから一瞬の間の後、後ろから幾つかの着弾音が聞こえた次の瞬間、爆音が鳴り響く。

が、勿論何一つ確認もしないし気にも留めない。

そのまま全力で飛び続ける。

 

砲弾の雨と爆風の森は、いまだに衰える気配を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロがエクシアを駆ってティエレン系統及びアンフの混合部隊と交戦をしているとほぼ同時刻

 

タクラマカン砂漠 三大陣営合同演習地範囲外

人革連に割り当てられた仮設駐屯基地:司令部

 

「…此度の救援、感謝します。閣下」

 

「礼はいらん。丁度私もどんな物か見ておきたかったのだ……ガンダム、をな」

 

―――………白々しい。

 

目の前に立つ自分よりも高い階級の男に対して、左目の上から頬にかけて大きな傷跡を持つ男―――――人革連軍中佐“セルゲイ・スミルノフ”は、軽い嫌悪感を覚えた。

口ではこう言っているが、実際の所、彼の標的は自分達だったのだろう。

その目に浮かぶ若干の落胆が含まれた光を見て、セルゲイはそう考察もした。

 

“カルロス・A(アクシオン)・ペールゼン”。

普段、自分よりも立場が上の人間に対して、些細な事に至る所まで礼儀を失する事の無いセルゲイも、この男に対してだけは細かい礼儀をする事を躊躇っていた。

 

歳は49と、彼よりも若干年上。

軍需産業から身近な日用品まで、ありとあらゆる分野の企業を参加に置く“アクシオン財団”の元御曹司にして、現人革連軍准将。

しかしその高い能力は他に類を見ない物で、会社経営、株取引、軍事指揮、MS操縦技能、機械技術etc……………と、とにかく多才である。

現在では若い時よりも歳を取ったとはいえ、それらの能力は未だに衰える所を見せる事はない。

同時に、自身の持つ豊富なコネクションを一切使わず、軍学校から自分の力だけで今の地位に上り詰めた生粋の叩き上げ軍人である事から、同じ様な叩き上げの軍人からの憧れの的でもある。

 

……しかし、実際の所、彼はかなり物事に関してドライであり、同時に目的の為に手段は選ばないときた。

例としては次の様な出来事が挙げられる。

今から数年前の事である。

当時、セルゲイはカルロスが新たに新設した特殊部隊の査察の為に、彼が当時赴任していた南京近くの基地まで赴いていた。

理由は至極単純でありながら、同時に曖昧な物であった。

カルロスは当時、新たに配属されたメンバーの中から飛び切り高い能力を持つ者だけを選別し、合格した者だけを受け入れるというスタンスでその部隊を運営しており、その選別方法があまりにも度を越している物だという噂を上層部が小耳に挟んだからだ。

 

その方法とは……所謂“共食い”。

新たに入って来たメンバーは最初、“模擬戦”という名の下に古参のメンバーとMSに乗って戦わせられる。

しかし、実際は両者とも模擬弾一切無しのガチ戦闘。

無論、古参のメンバーはその事を知っている為………いや。

“知っているからこそ”、新任のメンバーを“全員殺しに掛かる”。

つまりこれは、先輩から後輩への所謂“洗礼”というものだ。

この共食いという鬼畜の所業を生き残れた者……いや、“物”だけが、その特殊部隊への参加を認められていた。

 

もう一つは、自身の特殊部隊が果たして何処まで実力をつけたのか確かめる為に、大混戦のドサクサに紛れて味方の部隊を一個丸ごと壊滅させた、という物だ。

ただ、これは偶々その部隊が参加していた作戦が本当に泥沼の大混戦に突入してしまい、その状況下で、本当に味方の部隊が一個丸ごと壊滅してしまった事から作り出されたデマであった。

 

………筈、だったのだ。

 

セルゲイは当初この査察任務の事を上司から聞かされた時、真っ先に上層部の頭を心配した。

たかが噂の確認……その為だけに、MS2個小隊を彼の護衛として付かせようとしたからだ。

彼も当時は既に少佐の任に就いていたから、護衛の一人や二人くらいは付くだろうとは思っていたが、まさかのMS2個小隊である。

 

兎も角、彼はその護衛を丁重に断った。

しかし上層部は何を思ったのか、今度はMS5個小隊を護衛にしようとしてきた。

流石のセルゲイもこれには「何かあるのでは?」と思い、妥協点としてMS1個小隊を護衛にさせてもらい、その4日後、当時の任地であったモスクワから南京まで飛んだ。

 

はたして彼がそこに辿り着いた時、真っ先に出迎えてくれたのは、意外な事にカルロスその人だった。

これにセルゲイは面食らってしまい、思わず呆然としてしまう。

そのまま基地までリムジンで案内され見せられた物は、何処までも統制が行き届いた隊員達による歓迎。

これで更に呆然としてしまう。

そしてそのまま司令室まで案内された時には、もう既に全てが終わっていた。

 

カルロスは司令室に、これまで自身がしてきた事の全てを記した物―――――後に人革連軍内部で『禁書』として忌み嫌われる物だ―――――を用意していた。

その内容を見せられた瞬間、セルゲイは驚きのあまり言葉を失う。

 

そこに書かれていたのは、あの共食いや、デマだと思われていた、あの味方襲撃も含めた、非人道的――――――というよりかは、兵士を“物”としてしか見ていないような――――――訓練や、適性検査の数々。その詳細な内容だった。

 

無論、基本的に善人であるセルゲイも、これを見た瞬間声を荒げて彼に詰め寄った。

 

「兵を――――いや、人を一体なんだと思っているのか!!」

 

――――と。それに対してカルロスが返した言葉は、一瞬でセルゲイをゾッとさせる様な物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の下にいる以上、奴らは人革連軍最強の部隊として戦うだけの“兵器”だ。

 

 

 

 

……………それ以上に、何か理由が必要かね?少佐」

 

 

 

 

その一件以降、セルゲイはカルロス・A・ペールゼンを、公人、軍人としては嫌ってはいないが、一個人としては彼に良い感情を抱いてはいない――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「准将。長距離射撃型ティエレンの損耗率が全体の70%に達しました」

 

その言葉で、若干過去に思いを馳せていたセルゲイは、意識を現実に戻す。

見れば、自身がカルロスに礼を言ってから、まだ15分程度しか経ってはいない。

 

「部隊全体の被害は如何程か」

 

カルロスが淡々と部下に問う。

対する部下も、それに対し淡々と答えた。

 

「投入した50機の内、既に48%が戦闘行動続行困難な状況下に追い込まれています。内5%は、我が部隊の長距離射撃型の集中砲火を利用して撃破した模様」

 

「…フム、予想以上だな。たったの10分足らずで我が部隊の精鋭24を、たった一機で撃破、か…」

 

言いながら、彼は司令部の天井に取り付けられていた幾つかのモニターの内の一つを見上げる。

攣られてセルゲイもそのモニターを見る。

映っている映像は、おそらく部隊に組み込まれている偵察型から送られてきている物なのだろう。

正しく雨と形容出来る様な砲弾の嵐の中でたった一機のトリコロールの機体に襲い掛かっていくティエレンの集団の姿が見える。

直後、トリコロールの機体は砲弾の嵐を避けつつ、襲い掛かってきたティエレンの胴を右手の大剣で纏めて斬り飛ばし、次の獲物を探すように姿勢を低くして走り出す。

走り出して直ぐに別のティエレンが滑空砲で狙うが、トリコロールの機体はまるで来るのが解ってたと言わんばかりに腰から抜いたビームサーベルを左手で振って砲弾を切り捨て、そのまま腕から小型のビーム弾を投射して、ティエレンのコックピットを潰した。

 

(……ガンダム。)

 

ポツリ、と、セルゲイは心の中で呟いた。

自身の目に映るあの機体……その機体は、以前セイロン島で交戦したあの近接戦闘用の機体だった。

あの時、自分はあの機体に乗っている人間に、少女のようなイメージを持った。

……だが、今は如何だ?

 

また、モニターの中でティエレンが撃墜(おと)される。

今度は長距離射撃型だ。

近くに居た同じ小隊の仲間であろう機体がガンダムにカーボンブレイドで挑みかかるが、ガンダムはその腕を左手で引っ掴み、そのまま身動きが取れなくなった所を右腕のソードで真っ二つにした。

 

(…動きが、違う。)

 

少なくとも、あの日セイロン島で相対した時とは確実に。

また、機体が破壊された。

もう既に先程のカルロスとオペレーターの男との会話からは、10分が過ぎている。

そして、その間も、モニターの中でガンダムは戦い続けている。

まるで、戒めから解き放たれた悪魔の如く、襲い掛かってくるティエレンやアンフを一撃で破壊し、物言わぬ骸にしていく。

降り注ぐ砲弾の雨を全てかわし、あまつさえそれを利用してこちらの機体を確実に戦闘不能にし、果てには出所を確認し次第、優先的に右腕のソードを変形させたビームガンで、吹っ飛ばしていく。

 

ふと、ガンダムの目が此方を向いた。

瞬間、背筋に寒気が走る。

まるで、自分が猛獣に追い詰められた獲物の様な、そんな気さえする。

 

と、次の瞬間、ガンダムが一気に巨大化した……いや、厳密には、“カメラを持っていた偵察型に急接近した”が正しいのだろう。

事実、直後からそのモニターからは何一つとして情報が入ってこなくなった。

映っているのは灰色のノイズだけだ。

 

「……今ので、部隊の約、78%が戦闘不能に陥りました…」

 

先程まで、淡々と機械の様に状況報告をしていたオペレーターも、流石に驚愕で声が震えている。

…それもしょうがないのかもしれない。

何せ機体性能はあちらの方が圧倒的に上だとは言え、1:50というこの戦力差を事実上無傷で覆しかけているのだから。

同時に、彼らは“あの”カルロス・A・ペールゼンが育て上げた、彼自慢の“人革連軍最強の部隊”なのである。

少なくとも雀の涙ほどのプライドくらいはあったのだろう……………………たぶん。

それよりも、彼の興味は直ぐに彼らの上司に向けられた。

部下ですらこうなのだから、もしかすれば当の本人はもっとショックを受けているのではないか――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それは間違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……らしい」

 

その声が聞こえた瞬間、セルゲイはギョッとしてカルロスの顔を見る。

その瞬間。

 

「素晴らしい!!!」

 

カルロスが、感嘆の声を上げた。

続けて彼は言葉を繋げる。

 

「素晴らしい、素晴らしいぞ!!この私が半生をかけた我が部隊をたったの30分弱で壊滅寸前まで追い込む!?有り得ん、有り得ん事だ!!だが現実にこれは起きている!!!恐るべき事。そう、恐るべき事だ。しかし、最強を名乗るのであればあれだけの技量が無くてはならない!!」

 

そう、喜色満面の笑みを浮かべながら言った後、カルロスはその表情のまま、セルゲイに振り向いた。

そしてこう言う。

 

「中佐!やはり今日、私はここに来た意味があった!!いや、感謝するよ!!君達が全滅していたら、今日、此処、この時間に、私はこれを見る事は敵わなかった!!!」

 

彼がそう言った瞬間、レーダーに映っていた味方の意味を示す為の最後の光点が消え、同時にオペレーターの悲痛な声が響き渡る。

 

「我が部隊の損耗率、80%に達しました!!」

 

「ガンダム、現戦闘区域を離脱していきます!!」

 

それを聞いても、カルロスは眉根一つ動かさず、表情に笑みを貼り付けたままだ。

彼はその表情のまま、部下に指示を出す。

 

「現司令部に残っている戦力は?あるのであれば、生き残っている残りの10機と、運良く生き残って未だに砂漠に転がっているであろう連中の回収に行かせろ・・・・・中佐。君達の部隊も、貸してはくれないかね?」

 

それを聞いて、セルゲイも数瞬目を閉じて考えた後、はっきりと口にする。

 

「……了解しました。我々もそちらの部隊の救援に当たらせて頂きます」

 

「結構」

 

そう言いながら、彼は満足そうに頷く。

それを見たセルゲイは、「それでは」といって司令室を出ようと踵を返した。

が、その背中にカルロスが思い出したかのように声を掛ける。

 

「ああ、そういえば、これを機に我が部隊も何か部隊名を名乗ろうかと思う」

 

その言葉を聞いて、セルゲイは驚いた。

 

「…まだ、無かったのですか?」

 

「ああ。何時か付けようとは思っていたのだが……なぜか、何時の間にか“赤肩”と呼ばれていてな」

 

心外だ、と呟いてから彼は黙った。

それを聞いて、セルゲイは彼にこう問いかける。

 

「……閣下には、何か候補がお有りで?」

 

それは、もうさっさとこの男から逃げたいというのも在ったし、早く救援に行きたい、というのも在ったからこその言葉だった。

それを聞いたカルロスは、今度は苦笑いのような顔になってこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。

 

 

 

 

 

もういっそ開き直ってしまって――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――“レッドショルダー”とでも名乗ってしまおうかと思っている―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人革っぽくは無いがな」

 

そう言って、彼は苦笑を深くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これっでぇ……40ぅ!!!」

 

40機目を、GNソードのライフルモードで撃墜する。

残りは10体だが、距離が少しあるので頑張れば逃げ出せない訳ではない。

 

(はあ……)

 

溜息が出てくる。

いや、本当に。

…ただ、まあ、これ位減らさないとと、逃げられなかった感はあったけれども。

 

チラ、と刹那の顔を覗いてみる。

まだ眠っていた。

あれほど激しく動いたというのに……肝が据わっているというかなんと言うか……

 

「……帰る、か」

 

言いながらエクシアを飛ばす。

後ろから残った地上用ティエレンやアンフが一斉に滑空砲を放ってくるが、元々長距離用ではない上に戦闘時に起きた砂塵の影響で磁気嵐までおきている為、レーダーもイカれているらしい。

全部が明後日の方向へと飛んでいく。

長距離射撃型がいればもっとマシな結果になったかもしれないが、そいつらはもう既に全滅している。

 

…あ。

そういえば、ネーナからパフェを作れと言われていたような気がする。

とにかく合流地点には今頃皆居るだろうから………何とかなる、かな?

 

と、次の瞬間空が血の色に染まる。

どうやらネーナがステルスフィールドを発動させたようだ。

……今更かよ、と口の中で毒づくも言っても意味の無い事だと自分に言い聞かせて、その後に続きそうになった愚痴を飲み込む。

 

「……ん………くぅ…………」

 

不意に刹那が声を漏らす。

どうやらそろそろ起きるみたいだ。

そんな刹那を見て、微笑ましいと笑みを零してから、再び真顔になって正面を向く。

理由は簡単。

これから、今回のミッションの事後報告の為に、トレミークルーと合流する事になるのだ。

具体的に言うと、チームトリニティの説明しなきゃならんからだが…

 

「ああ…気が重い……」

 

言っても、いつもの様に返してくれる相棒は居ない。

その事で更に空しくなって、再び溜息が出る。

古来から溜息を吐くと幸せが逃げるというが……だとしたら、俺は今年に入ってからどれだけ幸せを逃がしているのだろうか?

 

「……ハァ………」

 

再び幸せが逃げていく。

同時にドッと疲れも押し寄せる。

眠気も襲ってきた。

……なんだか、最近いろんな意味で踏んだり蹴ったりな気がする。

 

そんな俺達を乗せて、エクシアは悠々と真っ赤に染まった空を飛んで行く。

まるで、血で出来た川の流れに逆らうように、緑色の粒子を出しながら。

 

 

 

 

 

 

「ハァ……」

 

再び、俺は溜息を吐いた。

盛大な物だったので、きっと一気に幸せは逃げていっただろうな。そう思えた。

 

 




如何でしたでしょうか?
どうも、雑炊です。

今回は前回のあとがき通り、“あの部隊っぽい物”を出してみました。
……まあ、ほぼ完全にパチモノですが。
因みに当時はあの部隊書くために野望のルーツとか土日潰してほぼ全部再び見直しました。
…うん。あれは描けない。私の力なんかじゃ全然……

と、言うわけで解説です。
とりあえず今回出した部隊は、あの部隊の前身みたいなもんだと思ってください。
今後メインで出てくる予定はありませんが、後々外伝みたいな物を書く予定なので、それで出そうかなとか思ってます。
(まあ、厳密に言うと、出し様が無い、と言った方が正確かも知れませんが)

そしてセルゲイさん初登場。
そこまでいい所も無く初登場。
好きなキャラの一つだと言うのにこの扱い……!

まあ、二期でメッチャ頑張って頂きますがね。色々と。



そして次回は初っ端からプトレマイオスに突撃します。
あ、いや、比喩表現ですよ?

・・・・さて。三馬鹿ならぬ三兄妹を纏める為に、アムロにはもうちょっと働いてもらうかなぁ・・・・・


それではまた次回。



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十四話―――至って真面目にリベンジ・of・『あげぁ』

今回はトレミークルーへの説明と、ヤツの再登場。&アムロのリベンジ回です。


それでは本編をどうぞ。


「ヌグォォォォォォ……」

 

何とかかんとか合流地点まで到達した後、俺たちはそのまま実働部隊の母艦である“プトレマイオス”へと転がり込む事になった。

まあ、その原因は皆さんも分かっていると思うけど、俺。

 

何せ刹那の代わりにエクシア動かしちゃってるし、肝心の刹那はいまだに夢の中。

そしてザフキエルはまだ調整が済んでいないらしく、その動きは超緩慢。

三兄妹のスローネも、それぞれで量は違うが結構エネルギーを使ってしまっている。

特にドライなんかステルスフィールドを使った後だから、何時エネルギーが切れてもおかしくは無い。

 

と、言うわけで俺は今現在――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、重てぇぇぇぇ……」

 

「…いや、仮にも女の子に向かって“重い”つーのは無いんじゃねえか?」

 

「だったら、片手でこの子を抱えてエクシアのコックピットから此処まで降りて来い。きっとどれだけ大変だったか解る筈だ」

 

「……成程。いや、悪かった」

 

「気にしていない」

 

――――刹那を“片手”で抱えて、プトレマイオスの医務室まで運んでいる最中。

因みに片手の理由は、もう片方の空いた手で携帯端末を弄って師匠に今回の件の報告をしているから。

音声でやると、こんな艦内では音を拾われてしまう可能性があるので、些細な事から“『O-01=アムロ・レイ』という事実”が洩れてしまう場合がある。

その為、メールを使って遣り取りしているのだが、これまた時間が掛かる事掛かる事。

結果全てを報告し終えるのに、8分掛かってしまった。

因みに刹那は報告を始めて3分くらい経った所で医務室に付いたので、医療ポッドにぶち込んで放置してきた。

へ?着替えさせたのかって?

そんな事やったらあたしゃ単なる変態になってしまいます。

キチンと様子を見に来てくれたユリさんにお任せしましたよ。

 

ピピッピ、ピピピ、ピピッピ、ピ、ピピ………ピ

 

「……よし。報告完了。お待たせしてしまってすみません。何分中間管理職なもので…」

 

「いえ、其処まで待ってないから大丈夫よ。……とにかく、これだけは教えてくれない?あなた達は…いえ、あのガンダムは、一体何なのか」

 

「分かりました。順を追って説明致しましょう………と行きたい所なのはやまやまなのですが、そ・の・前に……」

 

そう言って、俺はミハエルの後ろにそっと近寄るそして……

 

「フンッ!」

 

キン

 

「おでゅばぁぁぁぁぁあぁ!!??!!??」

 

奇声を上げながら、ミハエルが倒れこむ。

え?何したかって?…効果音から察してください。

女の人にはあの痛みは解らんとです……

 

「アホ。何で友好関係結ぼうとしてる所で相手を威嚇する。パーにする気か?」

 

「……!!……!………!?!?!…!!!」

 

ミハエルは悶えながらも俺に何か訴えているが、声が聞こえないのでガン無視する。

まあ、自業自得なので仕方ない。

事前に変な事したら酷い目に遭わせるとは言ってあったし。

 

「……さて、え~と…何について話せば………っと、あのガンダムと、彼らの事でしたね?」

 

「へ!?…え、ええ。その通りよ」

 

…うーん…やっぱり酷すぎたかな?

何名かは股間を軽く押さえて、ミハエルに同情の視線を送ってるし、スメラギさんとネーナはドン引きしてるし…ま、今はどうでも良いか。

 

「それでは説明しましょう。我々が今回使用していたあの三機は、“ガンダムスローネ”。擬似太陽炉…GNドライブ[τ]を搭載した、所謂“新型機”です」

 

「…では次に、擬似太陽炉について説明を貰えるかしら?」

 

「GNドライブ[τ]は、エネルギー切れこそ在るものの、基本性能自体はオリジナルの太陽炉とそう変わりません。寧ろ、大量生産できる此方の方が使い勝手は良いかも。ただ、オリジナルのように、人体に影響が無い様に考慮してない為、通常時でも過剰に吸ったりすれば、遺伝子異常……というよりかは、細胞異常を引き起こす可能性があります。なので、安全性で言えば、そちらのオリジナルの方が良いです。耐久限界も、オリジナルより低いですし」

 

「新型機、という言葉については」

 

「私の上司の言葉ですが、あの三機は現段階で計画の進行スピードを憂いたヴェーダが、計画の進行スピードを少しでも上げるために、もう一つの実働部隊として用意した“チームトリニティ”の専用機として開発された機体なんだそうで……一応そちらの5体のガンダムのデータを使っているから、新型機も同然だそうです」

 

そう説明し終わると、実働部隊の面々は考え事をするかのように黙った。

…って、あ。いつの間にかミハエル復活しとる。

一応大人しくしてるから…大丈夫、かな?

まあ、大丈夫じゃなかったらまた黙らせるだけだけど(邪笑

 

少しの沈黙が、ブリーフィングルームを包む。

その内、ティエリアが、ややあって口を開いた。

 

「つまり…我々と共に行動する、と?」

 

ん?…成程。確かにそう取られても仕方ないか。

これはキチンと訂正しとかないとな。情報の齟齬は余計な混乱を生むだけだし。

 

「ああ、それh「バーカ、そんな事すっかっ!!あんたらがヤワイ介入しかしねぇから、俺らにお鉢が回ってきたんじゃねぇかっ!!」…………」

 

……………ハイやらかしたー。

 

「………どういう意味かな?」

 

「言った通りの意味だ。あてになんねぇのよ。あぁ?不完全な改造人間君?」

 

「何ぃっ!?」

 

「おっ、やっ「ミハエル」っ!んだよO-01」

 

「うんちょっと黙ろうか。必殺“ピンポイント廬山昇竜波”」

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!キンッキンッグシャア

 

アッァァァァァァァァァァァアァァァー!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プトレマイオス ブリッジ

 

「……な、なんか、すごい連中っすね。特にあのO-01ってやつ。真面目なシーンなのにこれじゃコントだ」

 

ブリーフィングルームに設置されたカメラから様子をうかがっていたリヒティは、盛大に顔をひきつらせる。

まあ、やってきていきなり喧嘩を吹っ掛けてきたり、纏め役の彼が喧嘩を吹っかけた“アホ”を、漫画のような技で(しかもピンポイントに急所攻撃をして)沈めれば、当然の反応とも言えなくはないが。

 

「でも、結構カッコ良くない?」

 

そんな中呟いたクリスティナの言葉を聞いたラッセは驚く。

 

「ん?お前ってそういう奴が好みだったのか?」

 

「え゙?マジ!?」

 

「そう言うことじゃなくて!!あ、いやでも、あの技もなかなか……って、ちっがーう!!!」

 

俄かに騒ぎ始めるラッセとクリスティナ。

その3人から離れたところでフェルトは物思いにふけっていた。

 

「…こんなガンダム、パパやママに聞かされてなかった……」

 

スローネを見ながらフェルトは両親から聞かされていたガンダムのことを思い出す。

フェルトの両親達が乗っていた第二世代機は言わば第三世代機のテストベッド。

フェルトは幼い頃の、しかもうろ覚えではあるが父から両世代の機体の話は聞いていた。

しかし、その中にあの4機のガンダムに類するような機体の話は一切無い。

 

最初こそオールラウンダーなサキエルの発展型かとも思ったが、それもあり得ない。

あまりにも形状や設計思想が違うというのが、外観をよく見れば丸分かりだった。

ただ端的に武装を変更する事でオールマイティな対応を可能とする事を目指したのがサキエルならば、スローネはコアとなるフレームに武装を含めた専用の外装を取り付ける事で、その装備に最も適した領域だけに対応が出来る事を目的としているように見えるからだ。

簡単に言ってみれば、サキエルは器用貧乏で、スローネは一つの分野のしか出来ないといった所か。(厳密には違うが)

 

一瞬だが、サキエルのプロトタイプから別の視点で発展していった機体かとも思った。

が、肝心なそのプロトタイプも、モドキな機体が一応開発されたらしいが、なぜか彼らの手に渡ることなく破棄されたという。

なんでも、とあるパイロットに試験運用をやらせたらしいのだが、その時に問題が発生して開発が中止されたそうだ。

と、いうか、パイロットが散々にダメ出ししたらしい。

曰く、「武器がネタでしかない」、「突出した部分が無い」、「つーかこの機体の居る意味は?援護用?援護用なの?馬鹿なの?死ぬの?」etcetc…

まあ、その結果としてサキエルはそのプロトモドキとアストレアのデータをごっちゃにして作成されたらしいが…

 

(でも、だとしたらこの機体は一体……)

 

考えられるとしたら……そう思い、フェルトはスローネ三機によく似たトリコロールの機体―――ザフキエルを思い出す。

 

「あの機体は、かなりOガンダムに似ていた」

 

誰にとも無く、フェルトは口の中だけでそう呟いた。

再びザフキエルを見る。

色はとにかく、ザフキエルは自分の覚えている限りでは、顔やビームサーベル以外の各パーツ配置、そして基本兵装が限りなくOガンダムに似ていた。

 

――――――つまり、あの三機とザフキエルは、Oガンダムから発展した機体?

 

フェルトはスローネアインを見つめる。

スローネアインの赤い瞳は美しくもあったが、どこか残忍な印象を感じる。

次にザフキエルを見る。

こちらの瞳はGN粒子のように緑色で、美しいというよりかは綺麗という感じで、同時にどこか温かみを感じるような印象があった。

フェルトは出来る事なら両親がスローネの開発に関わっていない事、そしてもし関わっていたとしても、ザフキエルにしか関わっていない事を祈らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…申し訳ありません。うちのミハエルという名のゴミ・アホ・ボケ・カス・アンポンタン・スカポンタン・タコ・クソガキ・恥部・礼儀知らずが本当に、本当に、本・当・に・失礼を…」

 

「…い、いえいえ…あんまりこっちは気にしてないから大丈夫よ。ね?ティエリア?……とりあえずこれだけは聞かせてほしいのだけれど……あなたたちがこうやって来たということは、つまり私達はこれでお払い箱って事?」

 

「あ、いえ、そういう訳ではありません。おそらく、“一人では無理な仕事でも、手分けしてやれば意外と早く終わる”という法則ではないでしょうか…?」

 

「…なあ、それって、“手分けしてやっている連中の仲が悪かったら、お互いにお互いを邪魔してもっと作業が進まなくなる”って、事も考えられねえか?」

 

「ごもっともです。だからこそ友好関係を結びたかったのにこの野郎……!!これが最後の金的だ!!!!」

 

「あ、待って。それ以上やっちゃうと、そのミハエルって人、下手したら二度と戻ってこられない場所に旅立つか、新しい世界に目覚めちゃうかもしれないから止めてあげて」

 

「……………チッ」

 

ロックオンの言葉に再び怒りの炎を燃え滾らせた直後に、アレルヤによって怒りを鎮められ、一寸心の整理が二進も三進も行かなくなってしまい、とりあえず舌打ちを一つして、無理矢理心の平静を取る。

……よし、落ち着いた。

 

「……とりあえず、我々の目的は先程も申し上げた通り、我々の目的も其方側と同じ紛争根絶です……まあ、同じ組織なのに目的が違うとかなったら大変ですが」

 

「…分かった。ただ、僕からも個人的に質問がある。ヴェーダのデータバンクにあの機体…特に、あのザフキエルがないのは何故だ?」

 

そう、ティエリアが疑問を投げかけてきた。

…さて、如何しようかな?

 

チラ、とヨハンを見る。

向こうも俺の視線に気付いたようで、少し考えた後、首を横に振った。

…つまり話したらダメ、という事だ。

それを見た俺は少し首を縦に動かした後……

 

「それはこちらにも……何分、私も突然乗れと言われましたので……大方、どっかの馬鹿が消したか、データベースにのっけるのを忘れたのでは?」

 

と、盛大に一寸考えればばれる様な嘘を口にした。

後ろでヨハンが珍しく“ガクッ”とコケ掛けるが、どうやら気合で何とかしたようだ。

……こけてしまえば良かったのに。面白いから。

 

「知らない?そんな筈はない。嘘をついているんじゃないのか?」

 

ホラ来たよ。あそこでコケてくれれば笑って冗談ですよと言って誤魔化す話をもっと練れたのに。

……とは言っても、どうするか。

とりあえず差し当たり無い言葉で…切り抜けてみようか?

 

「そう言われましても……第一、中間管理職に其処まで詳しい情報の開示を求められても困ります。無茶振りにも程がある」

 

「…貴様「よせよティエリア」ロックオン・ストラトス!しかし!」

 

おお、此処でまさかの助け舟!!

さすがロックオン兄さん。カッコええわー。

 

「どうやら本当に知らないみたいだし、其処まで問い詰めるような事でもねえだろう?…第一、捕まって逃げ場が無いからって、突然寝始めるような奴が知らないって言ってんだから、本当に知らねえんだろ」

 

…え、ちょ、あのー……

 

「…そ、それは褒めてるのかね?それとも貶してるのかね?」

 

「さて、どっちだろうな…」

 

「……こっちの目を見て話してくれないか…?」

 

「……努力する」

 

「…いや努力とか……そこまで?」

 

「………悪い」

 

「Oh……」orz

 

そんな感じに少しブルーになっていると、突然通信機が震え始めた。

…あ、そういえば、“どうせシリアスになるだろうから”ってマナーモードにしといたんだっけ?

そんな事を考えながら通信を繋げると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行き成りだけど、そこの青い髪のアホに波動拳ブッパして見たいんだが』

 

「カエレ!!」\(゜∀゜)/

         (  )

          く|

 

「「「「「「!?」」」」」」(沈んでいるミハエル以外の全員)

 

やっぱり師匠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもって場面は一気に変わって只今とある暗礁宙域である。

飛び過ぎ?気にするな。作者曰く文字数の問題だそうな。

 

…………作者って、なんだ?最近なんかメタな思考が多いなぁ。

 

取り敢えずあの後何がどうなったのかを掻い摘んで説明すると、

 

師匠から連絡来る→俺対応する→師匠「ちょっとフェレシュテに喧嘩売って来いよ」→俺「OK」→師匠「あ、それとGNマント強化したいから、とっ外してこっち送って」щ(゚д゚щ)カモーン→俺「OK」→俺達「んじゃ、お邪魔しました~」

 

って感じである。因みに結局刹那は起きて来なかった。ユリも刹那の方に付きっ切りだったらしい。

…若干、一抹の寂しさを感じた事は内緒だ。変な意味は無いぞ。

 

さて、そんな事は放って置いて、早速お仕事開始である。

通信を入れるのは、目の前にある大型のアステロイド。それに偽装したCBのサポート組織“フェレシュテ”の保有施設の一つである。

 

ピピッという音とともに、通信が繋がった……のはいいんだけど、画面の向こうに居る人の様子が何かおかしい。何かorzとは行かなくとも、それに近い体制になって崩れ落ちている……白髪?の女性が見えた。事前に貰った情報によると、彼女の名前は“シャル・アクスティカ”。本名を“シャル・ヴィルゴ”といい、元第2世代のガンダム、“プルトーネ”のテストパイロットだったらしい。

今は当時の起動実験中に起きた事故によって大怪我を負い、同時にGN粒子の悪性効果による遺伝子異常の影響でMSには乗れなくなっている……らしい。

らしいというのは、俺がその事を資料でしか見た事が無いからで、実際は如何なのか良く知らないからだ。おそらくヴェーダからの情報なので間違いは無いと思うが……もっと詳しい資料щ(゚д゚щ)カモーン。

 

『…O-01?』

 

「おっと、すまん。考え事をしてしまっていた……よし。では、お仕事と行こう」

 

そう言ってからモニターに向き直る。と、同時に俺は口を開いた。

 

「お取り込み中に行き成り失礼。事前にヴェーダからの指令が届いたと存じます。と、いう訳であなた方が保管している太陽炉……そいつを引き渡して貰います」

 

『そんなっ!?太陽炉を失ったら、俺達のガンダムはどうやって起動すればいいんだ!!』

 

「事前に説明がいっていたと言った筈ですが?心配しなくてもフェレシュテは解散と決定しています。今後は他の部署にでも各自散って、其処で頑張ってください」

 

成るべくいつもよりも、若干嫌味な感じで喋る。

無論、これは俺自身の正体を隠す為の師匠の考えた策の一つだ。

基本的に俺は“O-01”という人物として行動する時、初対面の相手と喋る時は敢えてなるべく喋り方を一貫させない様にしている。

こうする事によって、相手に此方がどの様な人物であるかを悟らせ難くしているのだ。

……実際に効果があるのかは、不明だが。

 

と、その時。

 

「……!?」

 

突然背筋に悪寒を感じて、反射的に機体を捻る。

直後、今さっきまでザフキエルの胸部があった部分を、ピンク色の閃光が通り抜けた。

それを見て、若干鳥肌が立つ。

後一瞬でも避けるのが遅れていたら……想像するだに恐ろしい。

そんな感じで、上手く避けれた事にホッとするのもそこそこに、ビームが飛んできた方向を見る。

無数に浮かんでいるアステロイド。その内の一つの岩塊の後ろから、トリコロールに塗装されたOガンダムに良く似ている機体が姿を表した。

その機体の名は――――型式番号GNY-004ガンダムプルトーネ。

 

「出てきたな、フォン・スパーク!!」

 

瞬間、俺は叫んだ。

いつもと違い、GNABCマントは、無い。

その為ビームに対しての防御面が心許無い。

 

同時に以前の実質的負けの事もある。

 

ハッキリ言って勝てる気はしないが、それでもやらねばならない。

 

「トリニティ各機はこの場で待機!!奴は私が相手をする!!手は出すな!!」

 

『なっ!?O-01!?』

 

「ハッキリ言わせて貰うが、奴は私でも勝てるかどうか分からん!」

 

言いながらビームライフルを数発発射しながらプルトーネに突っ込む。

向こうもそれを避けながら、一気に此方へと向かってくる。

お互いに最大出力で突っ込んでいたからか、お互いの機体が接触するまでに、そう時間は掛からなかった。

相手が間合いに入った瞬間に、ビームライフルを鉈の様に振り下ろす。

しかし、それは向こうが此方と同じ様にして振り下ろしたビームライフルによって止められた。

一瞬の膠着。

先に動いたのはプルトーネ。

此方のどてっぱらに蹴りを入れて離れるとすぐさまビームライフルで追撃をかけてきた。

それを此方もライフルでビームを放って相殺し、反撃する。

それを向こうも避けてから、再びライフルで応戦してきた。

其処からは撃っては避けて反撃し、それを避けてはまた反撃………と、延々と同じ事が繰り返される。

以前と同じようなパターンだ。

それをいい加減に鬱陶しく思ったのか、向こうはライフルを投げ捨てるとビームサーベルに武器を持ち替えて此方に迫ってきた。

ならばと此方もビームサーベルをライフルと持ち替えて相手に突っ込む。

次の瞬間、切り結んだ。

両者の出力はどうやらほぼ拮抗しているようで、そのまま先程のような膠着状態に再度陥る。

咄嗟に肩のもう一本のビームサーベルを展開した。

ビームの刃がプルトーネの頭部に迫る。

が、驚くべき事に相手はそれを機体の体と頭部の位置を少しずらす事によって紙一重で回避した。

その技量に内心舌を巻くと共に舌打ちする。若干これで仕留められる自身はあったのだ。

それを今の様な方法で反射的に回避されたのならば、舌打ちの一つくらいは誰でも出よう。

反射的に、先程のお返しと言わんばかりに相手に蹴りを打ち込む。

すると相手はそれを見越していたのか、それを左腕のシールドで防御。反動を利用しつつ半歩下がってから、再び此方目掛けてサーベルを振り下ろしてきた。

それを右足を軸にして“転換”の要領を用いた回転運動を行いながら回避し、そのまま360度回転。

裏拳の要領を用い、シールドで殴りつける。

今度は上手く入った。

プルトーネの体勢が崩れる。

其処を逃さずサーベルを切っ先からコクピットに突き入れようと――――

 

「っ!?」

 

―――した所で、咄嗟に向こうが展開したのであろうGNフィールドに阻まれた。張られたフィールドは以外にも強固なようで、此方のビーム刃を減退させ、拡散させて一切のダメージを向こうに通しては居ない。

流石はヴァーチェ及びナドレのプロトタイプとなったガンダムである。

見た目ではそう堅そうではないというのに、大した防御力だ。

…だが、こっちもそう簡単に負けてはいられない。

瞬間的にスラスターとモニター以外の出力を20~25%の範囲までカット。その分余ったエネルギーを全てサーベルへと出力する。

それらの作業が終わると同時に、ビームサーベルの柄からまるで花火の如く桜色のビーム粒子が迸る。

同時に、向こうのフィールドが段々とぶれ始めた。どうやら過負荷によってフィールド発生器に何らかの問題が生じているらしい。

このままフィールドにビームを干渉させ続ければ、いずれは発生器がイカれてフィールドが維持できなくなり、こっちのビーム刃に貫かれる事になるだろう。

だが、過負荷によって今にもぶっ壊れそうなのは、此方のサーベルも同じである。

コクピットには警報(アラート)が鳴り響き、ビームサーベルが今にも限界を迎えそうな事を如実に語っていた。

向こうが先か、此方が先か――――――――今やそれだけが、この勝負の勝者を決める重要なファクターとなっていた。

 

と、次の瞬間。

 

「っ!!チィィっ!!」

 

ザフキエルの手の中で、ビームサーベルが決して小さくは無い爆発を起こして限界を迎えた。

いつもならば良く持ったほうだと賞賛の一つでも掛ける所だが、今回はそうも行かない。

咄嗟にカットしていた全出力を元に戻し、反射的にもう一つのサーベルを抜いて構える。

と、其処へと爆煙を切り裂いて、狙ったかのようにビームサーベルが振り下ろされた。

振り下ろされたサーベルは、運よく此方が予め構えておいたサーベルにぶち当たり、動きを止める。

同時にその後ろからプルトーネが姿を現した。

その姿に先程との変化は見受けられない…と思ったが、良く見ると体の所々からアーク放電が見える。

どうやら、此方のサーベルが限界を迎えたのと同時に向こうのフィールド発生器も限界を向かえたようだ。

それが原因かどうかは知らないが、振り下ろされたその腕からはさっきほどの力は感じない。

出力系のどこかが故障でもしたらしい。

 

ピピピッピピピッピピピッ

 

「…?」

 

(…っと、通信?こんな時に?相手は……え?目の前?)

 

ハッとして通信を開く。

案の定相手は目の前の機体のパイロット……フォン・スパークだった。

黄金のクッションが敷かれている黒いヘルメットの紫色のバイザーの向こうに、悪魔のような男の顔が見える。

ぶっちゃけ意外とホラーだ。

真面目な表情ならば2枚目なのだろうが、その狂った様な笑顔はかの有名な“オリジナル笑顔”に匹敵するインパクトがある。

 

「何の用だ?ハッキリ言って、今お前と語り合うだけの余裕は無いのだが?」

 

本当である。実際、今受け答えできたのも偶然といっても過言ではないほど、今の俺にあまり余裕は無かった。

向こうはそんな俺の心境を知ってか知らずか、こんな事を問いかけてくる。

 

『あげゃげゃげゃげゃっ!………テメェ、前に俺の戦いを覗き見してたOガンダムのパイロットだな!!あん時とは若干スタイルを変えてるらしいが、節々で同じ様な動きをしてるぜ?』

 

(…っ!!よもやあの時の機体がOガンダムだということもバレている!?……いや、当然か。あそこまで動けば流石に節々が見えてバレる、か。)

 

だとしても、そんな微細な部分から其処まで見破れるとは、恐るべき男である。

貰った情報では元テロリストで戦闘能力が高く、野獣のような性格だと書かれていたが、こいつは野獣なんてもんではない。

操縦技術は高く、尚且つ獣のようにごり押ししようとするのではなく、節々でトリッキーな動きを絡めて相手の裏を斯いたり、自身の乗る機体の性能を最大限引き出して敵を確実に仕留めようとする。

洞察力も半端な物ではない。いくら隠し事をしようとしても、ほんの些細な事から鍵穴を見出して、その隠し事を看破する。そんなイメージすら感じられる。

 

(…野獣って言うよりか、表情通りに悪魔だなコイツは。こんな事やってないで、検事か弁護士か警察か…少なくともそういった所に就職してたら、確実に大活躍してただろうな。)

 

我が事ながら戦闘中だというのに暢気な事を考えているもんだと自嘲する。

と、そんな場合ではない。

 

「偶然同じ様な戦闘スタイルとは考えないのかね?」

 

『ねえな。第一そう返したって事は、当たってます、と自分で言ってるようなもんだぜ?』

 

「……」

 

こりゃもう何言っても駄目だな。そう考えた俺は、素直に白状する事にした。…ま、何時までもこんな問答繰り返してたら終わるもんも終わらないしね。

 

「…正解だ。確かに以前、私は君と接触……いや、戦った事がある……Oガンダムでな」

 

『へぇ…意外と素直に認めんじゃねーか』

 

「いや何、クソ真面目な性分で…なっ!」

 

言いながら、シールドの裏に隠してあったビームガンを発射する。

まあ、ビームガンといっても、いつもの手持ち式の奴ではなくシールド自体に予め組み込まれているタイプの物なので、威力は若干手持ち式の物よりも劣る。

…それでもガンダムの装甲に傷をつけるのには十分だ!

 

『チィッ!!』

 

「んなっ!?」

 

しかしそれでも奴は避けて見せた。もう機体は碌に動こう筈が無いというのに。

そしてそのままサーベルを展開して此方に切りかかってくる。

ならばと此方も反撃しようと、ビームサーベルを抜こ―――――

 

ビー!ビー!ビー!「うっ!?こんな時にか!?」

 

――――うとした所で、最早毎度御馴染みとなってしまったあの音が鳴り響いた。

鳴るなとは言わないから、せめて空気を呼んでくれ!!そう心の中で叫んでも事態は好転しない。

 

運命とは非情である。

 

そう考えている内に、相手は此方の直ぐ其処まで迫ってきていた。

既にサーベルを振り下ろすモーションまで入ってきている。

 

(…ああ。ここまで、か?)

 

一瞬、一瞬だけ、目の前の運命を受け入れそうになる…が、流石にそれは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「癪、だぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

気が付いたら、母艦の中に居た。

何が起きているのかまったく分からなかったが、取り敢えず一言。

 

「……見知った天井すぎ「言ワセネェヨ!!」……見知った天井「言ワセネェヨ!!」……見知った「言ワセネェヨ!!」……見知「言ワセネェヨ!!」……m「言ワセネェヨ!!」……………」

 

…あまりの鬱陶しさに声の出処へと顔を向ける。

それは丁度俺の顔の真っ隣に居たらしく、顔を向けると相棒が居た。

どうやら寝かせられているらしい。

起き上がって身体をチェックする。

……メットが外された形跡、そして脱がされた形跡は、無い。

 

ズキンッ

 

「っだ!?」

 

…と思ったら、脇腹から激痛。

よく見てみると絆創膏が貼られていた。

その淵から若干赤い物が滲んでいる。

どうやら、何か刺さっていたか何かで切ったらしい。

が、耐えられない様な痛みではない。

立ち上がって、周囲を確認する。

 

「いつもの格納庫だ「言ワセネェヨ!!ッテ、アー……」…ざまぁ」

 

腕を出して頭…ならぬ胴体の天頂部に手を当てて落ち込む相棒。

実にざまぁ。

そう思いながら後ろを振り返ると…

 

「…うわっ!?こりゃまた酷い…」

 

そこに、あった。

危うくマッチング不備というとんでもないトラブルで乗り手を殺しかけた機体が…其処に。

しかしその姿は正に無惨としか言いようがなかった。

左腕は根元からゴッソリと無くなり、胴体の左側は焼け焦げて真っ黒。

左脚も一番外側の装甲が若干斬られており、其処は真っ黒になりその周りは熔けている。

胸部にも若干傷がある事から、おそらくそのダメージがコクピットまで届いてしまったのだろう。

そう考えるとこの脇腹の傷も話がつく。

 

「……さて、如何するかな?」

 

思わず呟く。おそらく破損箇所はスローネのパーツを使えばあっさりと修復可能だろう。

…若干、見た目は悪くなりそうだが。

と、そんな事よりもやらなければならない事がある事に、俺は気付いた。

 

「…あ、あいつらの飯、作ってやらんと…」

 

そういえばパフェも作るとかいっておいて、結局いろんなゴタゴタで作ってやれていない。…お詫びの意味も込めて、大き目のやつを作ってやらないとダメかな?

 

 

 

 

 

 

 

ドンガラガッシャ~ン!!!

 

オイネーナナニヤッテンダヨ!!!ミハニイガイキナリホウチョウフリマワスカライケナインデショ!!!オマエライイカゲンニシナイカ!!!コノママデハカユドコロカワレワレノショクジモアヤウイゾ!!??ソレトネーナ、コメヲセンザイヲツカッテアラウンジャナイ!!エ!?デモ、ココニハチャントアラウッテ…?ソウイウイミデハナイ!!!

 

ピー!!!!

 

オワッ!?アニキ、ナベガフイタ!!ナニヤットルノダバカモノ!!ハヤクヒヲトメロ!!!ヨハンニイ!!フライパンカラヒガー!!!ナニィィィ!!!!????

 

 

 

 

 

 

「……………………………………」(滝汗

 

…まず、冷蔵庫を見る為にではなく、あの事態を収集する為に一刻も早くキッチンへと行かねば。

……あいつら、一体何やっとんのじゃ!?

 

「ハロ急げ!!このままだと今日の夕飯は洗剤の味がする粥と、なんだか良く分からない焦げきったダークマターになるぞ!!!て、いてててて……ええい、この程度で怯んでいられるかぁ!!」

 

「ウワ、ヤッベェ!!!!アムロ、脇ノ赤イノガ広ガッテキテルゾ!?大丈夫カ!?」

 

「この程度で怯めねえと言ってんだろうが…って、いっったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そう言いながら、痛みに耐えつつ相棒と共に駆け出す。

そんな状況の中、俺の頭の中には、こんな言葉が浮かんできていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――…負けた、か。どんな理由があろうとも、負けは、負け、か。

 

 

 

 

 

 

“アムロ・レイ”になって、初めての完敗。

それが、何故だか今の俺には苦く、それでいて何故か若干清々しい物に感じられた。

…いや、メッチャ悔しいけどね?

 




如何でしたでしょうか?

どうも、雑炊です。

はい、アムロ敗北回です。結局、トラブルの所為であったとはいえ、勝てませんでした。
あの後の展開は、次回で簡単に説明しますが概ね原作の『OOF』一巻の展開とほぼ同じです。
唯一違うのは、首爆破の後、戦闘した時にコッソリとネーナがザフキエルを回収した程度です。
序でに左腕もちゃっかり回収されています。ビームライフルも然り。

実は書き直す前は、アムロは勝ちもしないし負けもしない、所謂相打ちの後に首爆破、という流れだったのですが、結局アムロには負けて貰いました。まあ、以前師匠とほぼ同等の強さを持つ相手に、相打ちって如何よ?と、考えた為結局こうなりましたが……如何でしたかね?

で、書き直す原因となったトレミークルーとの接触&説明シーン。
実はこれだけで一話分丸々使ってしまっていました…
具体的には1万字くらい。
で、しかもミハエルがこれ以上に酷い目にあっているというね……流石にそこまで彼を虐めたらいろんな所から怒られそうな気がしたので、結局これぐらいソフトにしました。
ソフトにしたんです。
ソフトにしたったらしたんです。
此処、超大事な事なので3回言いました。

で、いよいよ次回から急展開です。
そしていよいよあのイベントが…?

それではまた次回!


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十五話―――なんか俺に最近良いとこないぞー……と、O-01がボヤいておりました(byヨハン)

お待たせしました。
遠く離れた西の土地への赴任確定等、色々と諸事情が重なってゴタゴタし始めたのでちょっとここから投稿ペースが遅れていきます。
ご了承ください。

それでは本編をどうぞ



 

「で?結局あの後どうなったのだ?」

 

厨房にて大惨事を繰り広げていた三兄妹を、気を抜けばアッサリと落ちてしまいそうな脇腹の痛みに耐えつつ(色んな意味で)鎮圧した後、即行鎮痛剤を自らに打ち込んで血で真っ赤になった絆創膏を取替え、すぐさま夕飯を作り直し三兄妹に振舞う。

幸いにも駄目になった食材がそれ程無かったので、直ぐに調理し直す事が出来たので、それ程時間は遅くない。それでも9時を当に回ってしまっているが。

…え?パフェ?食後に作るって言ったんだけど、「明日で良い」って言われたからまだ作ってないわ。

因みに今日のご飯はお粥……ではなく、鍋の中に色々と材料をぶち込み、醤油ベースで味付けをした雑炊である。

理由?いや、単にお粥だと三兄妹は食った気がしないだろう。三人が作ろうとしてたお粥のレシピ見たけど、普通の白粥に梅干一個落とすタイプの奴だったしな。

…え?それお前の為だけじゃないのかって?言っとくがこいつら自分達の分も用意しようとしてたのか、半端無い量作ろうとしてたからな?今使ってる鍋にギリギリ入り切る位の量作ろうとしてたからな?

 

と、そんな事言ってる場合じゃねえわな。

取り敢えず箸を一旦止めて、三兄妹からの報告を待つ。

暫らくしてから、ヨハンが掻い摘んで説明してくれた事を聞く所によると、

 

動作不良が起こった直後にアストレアがビームサーベルを振り下ろす→ザフキエル辛うじてそれを避ける。が、中破する→マズイと思ったヨハンがビームライフルでプルトーネを牽制→向こうが離れた所を狙ってミハエルが一気に切り込み、選手交代→二人が戦ってる内に、ネーナが中破状態のザフキエルを抱えて母艦に一時帰還→ある程度ミハエルとプルトーネのマイスター―――フォンの戦闘が長引いた所で、ヨハンの命令によりHAROがヴェーダに連絡して、向こうの首についている反逆防止用の爆弾を爆破→それでもまだ動いたのでミハエルが戦闘続行→止めを刺そうとしたところでプルトーネのコアファイターで逃げられた

 

…という事になっていたらしい。

……うわー凄いなー。

 

…え?誰がって?勿論フォンだけど?

だって首を爆弾で吹き飛ばされても生きてる上に、戦闘も続行できるとか……地味に凄いだろ。

俺だったら絶対無理だ。と、言うか、人間辞めてない限りは誰も出来ないと思う。

そんな事を考えながら、手元の空になった小鉢に鍋から雑炊を掬って、そこにポン酢を掛ける。

元がお粥だったので若干味が薄いかなと思っていたら、案の定だった為、少し掛けると良い塩梅になるのだ。個人的には少しと言わずにドバッと入れたいものだが、腹の傷を考えると少ししか入れられないのがちょっぴり残念だったりする。

へ?メット被ったままどうやって飯食ってんだって?メットのバイザーを口元だけ開けてるだけだ。

因みに内の身内の中では、師匠は俺と同じでドバッと入れる派。他、姉さん達は至って普通に少し入れる派だったりする。

 

で、俺に報告しているトリニティ3兄妹なのだが……

 

 

 

 

ダバダバダバダバ・・・・・・・・・

ブチュチュチュチュチュチュ・・・・・・・・・

パクパクパクパク・・・・・・・

 

 

「……やべぇクオリティ高けぇなぁ、オイ」

 

「? どうかしたの?」

 

「…いや」

 

言いながら箸を置いて、少し右手で頭を押える。

う~ん…まさかこういうパターンでこられるとは思っていなかった。

何がって?今から説明するよ。

 

まず、ヨハンだが……何故かポン酢ではなく、単なる酢を手元の小鉢にダバダバぶっこんでいる。インスタントラーメンに入れるのならば俺も共感できるのだが……キツくないのか?

 

ミハエルは……まあ、なんというか、ケチャップをこれでもかと言うくらいに掛けてから、グッチャグッチャと混ぜている。……ケチャラーだっけ?こいつ?

 

で、最後のネーナなのだが……見ている分には、至って普通である。……“見ている”分には。

問題なのは…この子、偶にではあるが、人の目を盗んで手元の小鉢に砂糖を少しだけ入れているっぽいのだ。実際、今も下に手を下ろしたと思ったら、次の瞬間小鉢の上に持ってって、指の間から何か落としてるもの。

 

……俺が言えた義理ではないが、この三人、もしかして味覚バカ?特にネーナ。

 

「……ミハエル」

 

「んぉ?ふぉひた(どした)?」

 

「口に入れたまま、喋るな。汚いから………まあいい。ちょっとケチャップとってくれ」

 

「おう。ふぉれ」

 

「すまん」

 

ミハエルからケチャップを受け取った後、じっとそれを見つめる。

……まあ、『食ってもいないのに頭ごなしに否定するのもどうか』と思ったから、まず手始めにこれからやってみようと思ったが……実際、やってみようとすると結構勇気が居るな。

……しかし、怖気づいている訳にもいかないか。

そう思いながら、空になった小鉢にまた雑炊を追加、そしてそこへとケチャップを投下し、混ぜる。

……それでは。

 

「…いざ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論;どれも案外と美味かったです。

 

というか俺もバカ舌の持ち主にカテゴリされる人間だから、不味いと感じるわけがないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなカオス過ぎる夕飯から、丸三日が過ぎた。

パフェ?キチンとあの後作ったよ3人分。メッチャ喜んでくれたよまた作ってくれとせがまれたよ脇腹がメッチャ痛いんですけど。

……うん、痩せ我慢はするべきじゃないね。

あの後、飯食って大体10分くらい経ってからまた突然痛み始めたよ。

たぶん、鎮痛剤が切れたか何かだと思うのだが……うん。焼け付く様な痛みっていうのはああいう痛みの事を言うんだ、と、再度無理矢理理解させられた。

まあ、それでも耐えられない痛みではなかったから、結局その状態で作ったけどねパフェ。

作り終わってから盛り付けて三人に渡した後一息ついた直後から、次の日の朝まで記憶が無い事態に陥ったけど。

 

人間って直立不動の状態で気を失ってもそのまま立ち続けることができるんだね。びっくり。

 

起きたときに凄まじい勢いで3人に心配されたよ。特にネーナなんか半分泣いてたし。

因みにいまだに痛い。

三日前よりかは遥かにマシにはなったけど、それでも激しく動く際に動きを阻害するのには十分だ。MSの操縦中の咄嗟の事態に反応する時、普通に影響が出るのが目に見えている。

 

(……まぁ、どの道今回は別行動なんだけどもね。)

 

等と考えながら、つい昨日自分と三兄妹に送られてきたミッションプランを思い出す。

向こうの今回のミッションは、アメリカはMSWAD基地にいる………誰だっけ?ま、良いか。確か、其処に居る何とかって博士の抹殺がメインのミッションだったはずだ。

…正直“抹殺”っていうのには、心底気が乗らない………これがもしも俺に来ていたら、傷の具合やその他諸々の事をこじつけて間違いなく拒否した所だ。

が、今回のミッションは俺ではなく三兄妹に対して直接出されたミッションで、俺が口出しできるような事ではない。

で、肝心の俺に対して来たミッションだが……

 

ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ

 

「指定ポイント到着!指定ポイント到着!」

 

「了解だ。ヨハン、後は大丈夫だな?」

 

『問題はありません』

 

「ミハエル、ネーナも大丈夫だな?」

 

『おう!』『もっちろん!』

 

「よし……それでは、そちらのミッション成功を祈っているぞ。油断はするなよ……は、また後で会おう」

 

そう言ってから通信を切って、ザフキエルを反転させる。

向かうのは、スペイン北部にある、CB所有の秘匿ドック。

そしてその目的は…………もう一体の、相棒の回収。

 

「……ま、お前とはお別れになるって言うのは、ちょっと寂しい物があるけどな」

 

誰に言うでもなくそう呟いて、コンソールを撫でる。

色々とトラブルを引き起こしてはくれたが、ザフキエル自体は、俺は其処まで嫌ってはいなかった。最近は寧ろ愛着も湧いてきてたしな。因みに今は大破した左側の部分をスローネツヴァイ用の予備パーツで補修し、そこにシールドとサーベルをザフキエルのときと同じ様に取っ付けた状態だったりする。

 

(…感傷に浸ってる場合じゃ、無いか。)

 

息を吐いて気を入れ直す。

軽く脇腹を叩いて、傷の具合をチェック。

痛い。

けど、歯を食い縛れば耐えられない痛みじゃない。全力で戦って10~15分程度の時間なら無茶も出来そうだ。

 

「……んじゃ、行くぞ……頼むぜ、相棒。頼むからAEUの基地近くで機嫌を悪くしないでくれよ……」

 

呟いて、機体を最高速度でかっ飛ばす。

今の所嫌な予感はしないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニオン領 アメリカ MSWAD基地

 

 

 

外は生憎の曇り空が広がる中、ユニオン技術者“レイフ・エイフマン”は自分の研究室でガンダムの動力と思わしき部分から発生される粒子、ならびにその動力機関についてのデータを再確認していた。

 

(…私の仮説通り、ガンダムのエネルギー発生機関がトロポジカルディフェクトを利用しているならありとあらゆる不可思議な点についての辻褄が合う!ガンダムの機体数が少ない理由も、200年以上の時間を必要としたことも……あのエネルギー発生機関を作れる環境はおそらく地球圏では無理だろう……だとすれば提示された条件下で誰にも気付かれること無く製造を行える場所は……木星か!?だとすれば考え付く事柄は120年前にあった有人木星探査計画しかない!まさかあの計画がガンダムの開発に関わっておったのか?!だとしたら、イオリア・シュヘンベルグの真の目的は戦争根絶ではなく………)

 

エイフマンの中で、段々と真実へと至る為の点と点が線で結ばれていく。

しかしその時、目の前のモニターに表示されていた数列や文字が消え去った。

 

「っ!?な、なんだ!?」

 

驚いて立ち上がるエイフマンを余所に、事態は展開する。

続いて彼の問いに対する答えが暗くなったモニターに表示された。

 

You have witnessed too much…(貴方は知り過ぎた)”と。

 

「なに!?」

 

あまりにも物騒なその言葉に驚く暇もなく、続いて基地内に警報が鳴り響く。

 

「何事じゃ!」

 

咄嗟に彼は基地管制に連絡を入れる。

帰ってきたのは悲鳴混じりのオペレータの声。

 

『観測室より通達!ガンダムと思われるMSが三機、EW9877方面から当基地に向けて進行中!』

 

「なんと……!」

 

エイフマンは即座に頭を働かせ、同時に立ち上がる。

 

「まさか、軍内部にも協力者が!?」

 

そうでなければたった今自分がガンダムの真実に近づいたことをソレスタルビーイングが知りえる筈が無い。

咄嗟に自分の机という机を調べながら、彼の頭にはある一つの仮説が浮かび上がっていた。

それはどこまでも真実であった。

 

(いかん!!だとすれば彼らの狙いは……!)

 

「この私か…!?」

 

彼がそう呟き、天井を見上げようとした瞬間に、その背後から極大の赤い光の奔流が迫り、それが部屋に至ったと同時にエイフマンの意識はその肉体ごとこの世から文字通り塵一つ残さずに消え去っていた。

 

それはユニオンの誇る天才科学者の、あまりにもあっけない最後の一瞬となった。

 

唯一エイフマンという科学者にとって幸運だったのは、以前から手書きの研究ノートを電子化して自宅のPCに保存する事癖を付けていたお蔭で、その研究ノートはこの世から彼ごと消滅するという危機を免れたという事実だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ミッション、完了……二人とも、撤退するぞ」

 

『え~?ヨハン兄、もう?』『シケテンナ!シケテンナ!』

 

『んだよ、暴れ足りねぇな…』

 

そんな二人の声を聞いて、私は内心で溜息を吐いた。

確かに、私達はあの地獄と言う言葉すら生温い苦行を乗り越えた(とは言い難いが)結果、確かにかなりの実力を付けたと言える。

しかし、今回は当初予定されていたミッションの進行とは少し違うのだ。

 

「我侭を言うな。このまま戦闘を続行すれば、O-01と合流する前に太陽炉の粒子が切れるぞ。……それに、あの状態の彼を一人で何時間も待機させるつもりか?」

 

『……あ、忘れてた』

 

『チッ…りょーかい。んじゃ、さっさとトンズラして、ポイントに向かおうぜ』

 

『さんせー』『シャーネーナ!シャーネーナ!』

 

そう言って、二人は機体を翻して離脱を開始した。

それを確認したと同時に、私は最後に自身がエネルギーの奔流を撃ち込んだ基地の惨状を目に焼き付ける為に、正面に向き直る。

 

と、次の瞬間、視界の隅に黒い3つの機影を私は認識した。

 

瞬間、その機影から、リニアガンが乱射される。

 

「ムッ!」

 

確認するかしないかの所で、私の身体は反射的に回避行動を取っていた。

同時に、右手のライフルで牽制の意味を込めて何発かビーム弾を放つ。

すると次の瞬間、3機の内の一機が隊列を崩して此方に突っ込んできた。

早い。瞬間的な加速量だけであれば、スローネよりも上だとぼんやりと思う。

その1機――――オーバーフラッグは空中で巡航形態から人型形態に変形すると、ソニックブレイドを展開して斬りかかって来た。

咄嗟に左手でビームサーベルを抜いて受ける。

至近距離から、プラズマとGN粒子のエネルギー干渉音が鳴り響く。

 

『兄貴っ!』

 

「大丈夫だ!先に行け!!」

 

言ってから、ビームライフルを至近距離で放つ。

が、その一撃は向こうの繰り出した蹴りによって向きを逸らされた。

 

実に良い腕前だ。

 

漠然と、そう思う。

おそらく機体の性能が五分であったのならば、互角以上に此方と渡り合えるだろう。

無意識に口元に笑みが浮かぶ。

不思議と気分が高揚してくる。

おそらくそれは、戦士としての私の本質が強敵の出現に対して歓喜している証拠だろう。

 

(…やれやれ…私も二人の事は余り言えんな。)

 

…しかし、悲しい事に、今はこの戦いを長引かせられるほどの余裕は、無い。

同時に、向こうと此方では機体の性能差という決定的な溝がある。

 

先程やられたように、向こうのブレードを保持していた方の腕を、足で蹴り飛ばす。

当たった瞬間、向こうの腕は(ひしゃ)げてしまった。

同時に衝撃でバランスを崩したのか、フラッグが仰け反る。

その隙を見逃す事無く、フラッグの左半身をサーベルで切り裂き、同じ様に左側も切り裂く。そしてダルマになった所で、ライフルの照準を腹部にあるコックピットに合わせて、引き金を引く。

 

「さらばだ」

 

不意に口から溜息を漏らすように声が漏れた。

放たれたビーム弾は、寸分の狂い無くフラッグの腹部へと吸い込まれていく。

瞬間、爆発。

それを確認するかしないかのタイミングで、予めライフルの下部に取り付けておいたマルチプルランチャーからGN粒子を含んだジャミング能力を持つ煙幕弾を数発放つ。

ポンッという気の抜けた音と共に、視界が赤を薄っすらと含んだ白い煙に覆われる。これで向こうのレーダー、及びセンサー類はまともに動く事は無いだろう。

機体を翻して、作戦領域から最高推力で離脱する。

粒子残量をチェック。残りは61.3%。

O-01との合流ポイントはスペイン北部のアジトらしいので、道中沿岸部のアジトに立ち寄って充電をする必要がある。

その事を鑑みると、戦闘はあと出来て2回が限度だろう。

フッと息を吐いて正面を見る。

少し離れた所にドライとツヴァイが見えた。どうやら待ってくれていたらしい。

通信を入れる。

 

「すまない、少々手間取った」

 

『ずりぃぞ兄貴!一人だけで楽しみやがって!』

 

『そうよ!!あたしも暴れたかったのに…』『ザーンネン!ザーンネン!』

 

「そう言うな…実際、粒子残量の事を考えれば、あの状態で相手を出来たのは私だけだったからな……まぁ、次はミハエルに譲るとしよう」

 

『やりぃ!!』『え!?あたしは!?』

 

「ネーナの機体は先程の砲撃で粒子を使い過ぎている。次の充電が終わるまでは、戦闘は無しだ」

 

『ちぇー……』

 

『ザマァ!ザマァ!』

 

『うっさいわよ!!』

 

そう言って、ネーナがHAROを叩いた。

その様子を見て、ミハエルが笑っている。思わず私も口元に笑みを浮かべた。

出来る事なら、このまま穏やかに行きたい所だが……さて、どうなるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AEU領 スペイン 北部上空

 

「“…これが僕なんだ。誰かの陰になりたかったんじゃない。…納得させてみろ。お前が僕をこんな風に造り、そしてこのままにしておこうとする訳を”♪……」

 

個人的に気に入っている、2~3世紀くらい前のとある曲を口ずさみながら、俺はザフキエルを飛ばしていた。

因みに只今上にも書いてあると思うがスペイン北部上空。

流石は大陸と言うだけあって、雄大な自然が眼下に広がっている。

今の所、太陽炉が臍を曲げる傾向も無し。至って順調に目的地へと進めていた。

 

(…おや?)

 

不意に視界の隅っこに、華やかな催し物の気配。

カメラを望遠モードにして覗いてみると、そこは人気のない緑の丘の上にぽつんと建っている教会で、その中庭で、スーツやドレスに身を包んだ人達が白いタキシードと白いドレスに身を包んだ一組の男女を祝福しているのが見えた。豪勢な料理がテーブルの上に並んでいる。

どうやら、結婚式をやっているらしかった。

思わず、笑ってしまう。

今のこの混沌としたご時勢に、まるで「自分たちは関係ありません」と言って喧嘩を売っているようだ。

そう思ってしまって。

我ながらなんとも歪んで捻くれた思考だなあと思ってしまう事も、それを助長していた。

と、その中の一人の男性が此方に気付いた。

その手には携帯電話がある事から、どうやらGN粒子の電波妨害の被害を受けてしまったらしい。

彼に続いて、その周りの人達も此方に気付き始める。

 

あ、これは不味い。

 

そう思って、そそくさとその場を離れようと、スラスターの出力を上げる。

ちょっと姿を見られた程度なら、別に大丈夫だろ―――――そう思った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

視界の隅に、2発のミサイルが映った。

 

(…ッ!!!)

 

咄嗟にライフルで撃ち落とす。

爆発。

直ぐにミサイルが飛んできた方向に顔を向ける。

 

瞬間、視界一杯に、青い戦闘機のような影が映る。

 

(んな…!!!!!)

 

今度こそ俺は驚いて、機体を大きく動かし回避行動を取る。

ガィン、という音が聞こえたから、少し接触したらしい。

顔を上げる。

その青い影は空中で体勢を整えると、一気に此方へと突っ込んでくる。

その姿に俺は見覚えがあった。

一見すると、フラッグやヘリオンと見間違えるかもしれないそのフォルム。リニアライフルの先に取り付けられたカーボンブレード。そして…その青い色。

間違い無く、つい先日タクラマカン砂漠で遭遇した、あのイナクトだった。

 

(…チィッ!!よりにもよって面倒臭いのに見つかった!!!)

 

ザフキエルに最高スピードを出させて、イナクトとドックファイトを始める。

流石に人型と飛行機では向こうの方に敏捷性等は軍配が上がるが、それを腕でカバーするのがガンダムマイスターという者だ。

 

ドンッ!!

 

「グッ…」

 

向こうは方向転換の為には旋廻の必要がある。

その分のロスを利用して追い付く為に、敢えて各部のスラスターを一瞬だけ最大出力にして、無理矢理直角もしくは90度以下の角度で方向転換する。

これは師匠曰く、21世紀前半で流行ったとある小説に出てくる瞬時加速《イグニッションブースト》という技術の応用なのだが、その技術そのものがMSでやればとんでもなく無茶な物である故に、無論この機動をした時に掛かるGも半端ではない。

はっきり言ってやばい。もしも機体がガンダムでなければまともにGを受けて、俺は今頃良くて失神か悪くてペチャンコだろう。

そうじゃなくても脇腹の傷があるのだ。はっきり言って早々時間は掛けられない。

 

「オオオオオオオオオ!!!!」

 

裂帛の気合と共にライフルを放つ。

掠った。右側の羽が少し欠けている。

同時に向こうのバランスが崩れた。人型形態になってバランスを取ろうとしているが、そこを見逃す訳にはいかない。

サーベルを左手で抜き放って、一気に接近して切りかかる。

それに対して、向こうはプラズマソードで対抗して、此方の攻撃を受け止める。

瞬間、以前聞いたあの声が接触回線を通じて此方へと流れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アハハハハハハ!!!また会えたわねぇ、エイジィ!!!!』

 

『…ああもう訂正するのも面倒だからそれで良いわこの変狂女が!!!貴様とじゃれていられるような場所ではないのだ此処は!!取り敢えず機体全然違うのに何故分かった!?』

 

『勘よ!!』

 

『なにそれこわい!!』

 

言いながら向こうを蹴っ飛ばす。

対して向こうは吹っ飛ばされながらもリニアライフルの先に付けられたミサイルランチャーを此方に撃ち出して反撃してきた。撃ち出されたミサイルの数は5発。スピードは遅い。十二分に避け切れる。

そう考えて、回避行動を取ろうとして――――

 

「…!!!!チィィ!!」

 

―――咄嗟にライフルを撃って、ミサイルを2発、擦違い様に左手のサーベルで2発を切り落とす。で、残りの一発は――――

 

 

「ぎっ!」

 

――――シールドで、受けた。

視界が爆煙で、一瞬塞がれる。が、この程度で怯んでいてはいられない。

一瞬だけ後ろを見る。

さっきの教会だ。破片が飛んでいったりはしていないらしい。

ホッと胸を撫で下ろす。

が、よく見ると全員が全員ボーっと此方を見上げているだけで、誰一人として避難しようとはしていない事に気付いてしまい、顔が無意識に引き攣る。

 

(まさか、現実を受け止められていないのか!?そこまで平和ボケしているとでも言うのか!?)

 

そんな考えが頭を過ぎるが、次の瞬間、一人が喚きたてる様な素振りをしながら逃げ出したのを皮切りに、全員が弾かれた様に逃げ始めた。

しかし、不運な事に大勢の人間が一斉に逃げ出すには中庭の出口は小さ過ぎた。

一気に大混雑となる出口。それに付随して起こる2次災害とも言える事態。

ドレスに足を取られて、女性が一人転んだ。その上を大量の人間が駆け抜けていく。全員が必死なのか、下の女性の事などお構い無しだ。一気に女性の姿は人の波に呑まれた。

残念だが、あれでは無事では済まないだろう。下手をすれば、もう死んでいるかもしれない。

心の中で十字を切りながら、絶え間無くイナクトが放つミサイルやリニアガンの弾を、教会の方に行かない様に。尚且つ、向こうが教会の事態に気が付かないように、絶妙な位置を取りながらライフルやサーベルで打ち落とし、同時に積極的に反撃する。

無論、教会の方に意識を向けるのも忘れない。

どうやら、不運なカーペットになった人間が増えてしまったらしく、人の波の足元の端々から、スーツやドレスの切れ端が見える。その事に気付いた人が決して小さくは無い悲鳴を上げ、さらにパニックを大きな物にしているという悪循環まで起き、更には出口からだけでは埒が明かないと思ったのか、他の人を踏み台にして教会のガラスを叩き破り、そこから中に入って行く姿も見える。が、そういうのは大抵後ろから来た人間に踏み潰されるか、叩き割ったガラスの破片で怪我をして悶えるのがオチとなっている。

しかし、状況が状況だけに一切嘲りの言葉は言えない。生き残ろうとして必死になる―――――人間ならば、当然の行動だ。俺だってあんな状況に突然放り込まれたら、情けない事にああいった行動を取る自信がある。

 

等と考えていたら、向こうに気を取られ過ぎていたのか、何時の間にかイナクトに接近を許してしまっていた。

咄嗟に向こうが左腕で振り下ろしてきたプラズマブレイドを振り下ろされる前にシールドで腕を肘部分から抑えて動きを止める。

同時にけっして軽くは無い衝撃が、コックピットを襲った。

 

その、瞬間。つい最近味わった痛みが、俺の脇腹を襲った。

 

「…ウ…!ギ…ゥ………!!」

 

ともすればもれ出そうになる悲鳴を、歯を食い縛って留める。

最悪のタイミングで最悪の事態だ。

こうなってくると、俺ももう教会の事など気にしてはいられない。

非情かもしれないが、俺だって死にたくは無いのだ。

ライフルで相手の胴体に風穴を開けんと、標準をあわせてビームを放つ。

しかし、避けられた。

ご丁寧にこっちの腹に蹴りまでお見舞いしてくれている。

その所為で、脇腹の痛みは更に酷い物になる。

ともすれば意識は飛びそうになるが、そこを気合で何とかしつつ、イナクトを視界の正面に入れながらライフルで狙う。

今度は当たった。

放たれたビーム弾はイナクトの左手を吹き飛ばし、ついでと言わんばかりに背中の左ウイングまで一緒に吹き飛ばす。

 

(いけるか!?)

 

そう思いながらも気は緩めず、ライフルで狙いを付け続ける。

バランスを崩したイナクトは、そのまま滞空し続けるのが困難となり、地上へと落ちていく。

が、まだ背面のスラスター等は全て生きているらしく、狙いを付けられないように左右へと機体を大きく揺らしながら、隙在らばリニアガンで此方を狙い撃たんと銃口を此方に向けている。これではライフルで狙っても、避けられて逆にライフルを破壊されかねない。

仕方無しにライフルを構えつつも、左手のサーベルで止めを刺せるように構えてから、突っ込む。

残り500m。まだ遠い。牽制程度にライフルを撃つが、軽く避けられた。

残り300m。まだまだ。バルカンとライフルを併用して上手く相手を追い込む。

 

残り120m。そろそろ間合いに入る。左手のサーベルを何時でも相手の腹に突き入れられるように構える。

イナクトがリニアライフルで迎撃してくるが、少し身体を動かせばギリギリ回避できる。

回避。

しかし少しだけ左肩に掠った。が、支障は無い。

 

 

 

 

残り、50m。

 

間合いに、入った。

 

「シッ!」

 

手早くコンソールを叩いて、左手のサーベルにエネルギーの供給を集中させる。

警告が鳴るが、一発で決める心算だから別に問題は無い。

 

刀身が伸びる。

俺はそれを目の前のイナクトの腹に突き入れんと、左手を全力で振るった。

 

 

()った!!!

 

そう、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、次の瞬間。あと一歩という所で、ビームの刀身が根元から霧散する。

同時に驚く暇も無く、ザフキエルの左腕が肩の付け根から吹き飛んだ。

やっと脳がその事に気付いて目をそちらに向けると、外れた腕が慣性に則って正面に吹っ飛んでいく所だった。

チラと見えた肩の付け根の部分は、胴体と腕を繋ぐジョイントが捻じ切れているのが分かる。

瞬間、俺はこの事態が何故起こったのかを理解した。

甦るのは、この機体を受領した時の師匠の『“ガンダムスローネ”のプロトタイプを君の技量に追いつける様に、大幅な改修を行った機体』という言葉。

あの時の大幅な改修というのは、“機体性能が低過ぎるから改修した”のではなく、“俺がしょっちゅうする、無茶な動きに耐え切れるように改修した”という事ではないのか?

だとすれば、ザフキエルの完成形とも言える“スローネ”の腕がこうなってしまうのにも合点が行く。

 

 

そんな事を考えている内に、事態は動いた。

左腕が無くなった事で俺はその原因について考察してしまう。その一瞬の隙を突いて、イナクトが此方を蹴り飛ばしたのだ。

反応する暇も無く、俺は吹っ飛ばされる。

同時に衝撃で脇腹の傷が更に痛み、意識が飛びそうになる。

 

2秒くらいの後に、ザフキエルは仰向けに地面に突っ込んだ。

ズッズゥゥゥン…という凄まじい衝撃が襲い、再び俺は意識を飛ばし掛ける。

何とかギリギリの所で踏み止まって急いで立ち上がろうとしたところで、今度はザフキエルの胴体を踏みつけられ、三度意識が飛びかけた。

 

(…あ、やばい。これは洒落になってない。)

 

痛みと失血で頭が朦朧とする。

 

『……あ~……今のはヒヤッとしたわ……流石じゃない』

 

そこへ接触回線によるあの耳障りな声。

ハッキリ言って勘弁して貰いたい。

 

『あら?だんまり?つまんないわね……ま、良いか』

 

うっせえな。こっちは今それどころじゃないんだ。黙りやがれ。

そう言ってやりたいが、口からは荒い息が出るだけだ。

それを聞いて向こうは益々不機嫌になったくさい様な雰囲気を醸し出したが、知ったこっちゃ無い。

 

『……あ、そういえば……』

 

すると向こうはそんな事を言いながら、リニアガンをこっちではなく、まったく別の方向に向ける。

一体何をする心算なのだろうか?嫌な予感が物凄いことになってるんだが…

 

俺がそう思った次の瞬間、向こうはこう言って、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの教会、ミサイル撃ち込んだら綺麗な花火が上がると思わない?あんた達みたいな組織って基本目撃者は消すって言うテンプレみたいな掟、在ったりするんでしょ?そしたら、あたしが変わりにやってあげるわ』

 

笑って、リニアライフルの先のランチャーから、ミサイルを二本発射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……!!!!!!!!!!!!!!!)

 

咄嗟に朦朧としながらも、イナクトを渾身の力で吹き飛ばして起き上がり、ライフルでミサイルを打ち落とそうと狙いを付ける。

発射。

銃口からビーム弾が2つ発射される。

 

一発は命中。ミサイルは推進部と弾頭部分纏めてビームの閃光に飲み込まれて、消えた。

そしてもう一発は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あっ)

 

 

掠っ、た。しかもそれで推進部に在る羽の一部がゴッソリ無くなった為、動きが無茶苦茶になり、そのまま――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン!

 

そんな音を立てて、教会の右半分を、吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!…あ…クソっ!」

 

激情に任せてイナクトにライフルを向けるも、奴さんは既に脱出した後らしく、イナクトのコックピットハッチが開いているのが見えた。

俺は舌打ちを一つして、直ぐに捥げた左腕を改修するとザフキエルを教会の方に飛ばす。

あんな事の後に、この事態だ。無傷、というのは確実に無いかもしれないけれども――――――生きている人は、居る筈。

そう思いながら。

………後になって考えてみたが、やっぱりもう俺はこの時限界だったんだろうなぁ…いつもだったらこんな事考えずに、「あ、アレは駄目だな」とか考えて、さっさと目的地まで行っちゃうのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教会まで辿り着いた俺は、脇腹の痛みを必死に我慢しながら教会の中庭や建物の中を生存者探して駆けずり回る。

しかし、目に映るのは潰れたり、踏まれたりして死んだ人の無惨な死体。死体。死体。

死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死「ぅ……」た?

 

「……ぁ………ぅ………」

 

(居た!!!)

 

今の俺にとってはそれが天からの複音にすら聞こえる!

生存者だ!!少しこんもりとした瓦礫の下から、微かにだが声が聞こえた。

直ぐに相棒に指示を出して大きな瓦礫を退かしてもらった後、細かい瓦礫を必死に退かす。

大体4つくらい退かした時だった。

退かした瓦礫の下から、薄汚れて血が滲んでしまってはいるが、紺色のスーツを着た男の人と思われる体が見えた。その隣には、少し歳を取っていると思われる女性のドレスを着た姿も在る。

この人達がそうなのか?――――――そう一瞬思うも、彼らの首がある筈の所に、大きな瓦礫がブッスリと刺さっていたのを確認して、それは無いと頭を振る。

では、声の主はこの下から?直ぐにこの男女の仏様を退かす為に、周りの瓦礫も必死に退かす。

脇腹の傷?どうやらあまりの痛みに脳がその痛みを認識するのを辞めたくさいですが、何か?

まあ、今はそんな事を言っている場合ではない。

その内相棒もザフキエルから降りてきて手伝い始め、そのまま大体4分ほど。何個か瓦礫を退かす内に、やっと男性の方の遺体が動かせそうな事に気が付き、相棒と一緒にその身体に手を掛ける。

そのまま一気に転がす。

瞬間、その下からブロンドの綺麗な髪が何条か舞い上がった。

直ぐに状態を確認する為に、その顔を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途端に固まった。

 

だって、其処に居たのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ル、イス?」

 

……出来ることなら、なるべくこういう所で見たくはなかった、良く、見知った、友達の顔だったのだから。




如何でしたでしょうか?
どうも、雑炊です。

ハイ、ルイスさんの事件、そしておじいちゃん襲撃&抹殺&フラッグファイターハワードさん殉職イベ、結局勃発です。
ただ、どれも展開は替えさせて頂きました。
と、いうか、ただ原作通りにしてもつまらない、というか……小説版丸写しになりかねないっていうか……そんな感じです。
で、書き直しに書き直しを重ねた結果こんな感じに……さーて反応が怖いぞー(滝汗&乾笑

それでは解説行ってみましょう。

ルイス事件
→説明するまでも無く、原作では末っ子が引き起こしたアレです。
ただ、こっちではこんな感じに因縁を替えてみました。
ええ、大方の予想通りにこれで彼女の第2期登場フラグがONになりました。

おじいちゃん&ハワード
→で、こっちも一部展開を変更。おじいちゃんは兎も角、ハワードさんを倒したのは此処ではヨハンになりました。出番少なくてごめんよハワードさん…意外と好きなキャラなのに・・・・・・・・(半泣

そしてアムロがまたイイとこなし。今回は試合にも負けて、勝負にも負けて…と、踏んだり蹴ったり。
予定では次回くらいからまた活躍し始めますが……さて、この調子ではどうなる事やら……


と、いう訳で次回はついにアイツがなっが~~~~~~~い休暇を終えて、再び登場します。ちょっとだけ強化されて。
お楽しみに。

では、また次回。



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十六話―――話の転換点。あと、友達がいるって良いよね。寂しくないって意味で&次回への布石

今回戦闘描写はありません。

それでは本編をどうぞ。


(……あ、行ってくれたみたいね)

 

そう思いながら、あたしは機体近くの茂みから顔を出す。

見つからなくて良かった、とは思っていない。見つかったらその時はその時だし。

…それにしても、今日は厄日ね。

まさか先生を送り届けた帰りに、エイジと出くわすなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前 リビア ヤフラン付近 PMC所有施設

 

「へ?あたしのイナクトでAEUはスペインの“サジェント デ・ガジェゴ”まで送って欲しいって?」

 

『…なんでそんな長いセリフをもう一回反芻するんだよオメェは…』

 

「う~ん………読者への配慮?」

 

『なんじゃそりゃ……?』

 

その日、仕事でリビアは地中海近くのヤフランという都市近郊にある施設に来ていたあたしの元に、本当に、本当に珍しい事に“先生から”連絡が来た。因みにこの“先生から”って部分重要ね。

その内容は、新しい契約先の代表と会う為にスペインの北部の国境近くのサジェント デ・ガジェゴという町まで行く予定だったが、肝心な時にMSが使えず、何とかチュニジアのタタウイヌまでは来れたものの、ウチの使えない上司のお蔭で其処から先の飛行機のチケットも取れず、如何しようかと迷った結果、一番腕が良い(と思われる)あたしに送り迎えを頼むという物だった。

幸い此処からタタウイヌまでは、そこまで距離は無い。向こうで、推進剤の補給もしてくれるらしい。

無論、途中での補給も必要だから、そちらの手配もしてくれるとの事。故に…

 

「OK!ちょっと待ってて先生!!5時間以内に行くわ!!」

 

『おう、頼むぜ。んじゃ切るぞ』

 

…故に結構あっさりとOKサインを出した。

まあ、補給よりも何よりも、先生と長時間狭い空間に二人っきり…………ゲヘヘヘヘヘwww

…とと、ちょっと顔が下品になってたくさい。

周囲の男共が奇妙な物を見るような目で此方を凝視している。

直ぐに顔を元に戻して立ち上がり、此処の管理者の所まで足を運ぶ。

勿論、今からチュニジアのタタウイヌまで向かう為だ。

とりあえず、色仕掛け+3時間くらいやってやれば十分だろう。

……いや、本番なんかしてあげないよ?勘違いしないように。あたし本番は先生にして貰う心算だから。

意味が分かって無い人はそのまま流しちゃって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、その後少しゴタゴタしたり、18歳未満お断りな事がありそうで無さそうでやっぱりあったりしてから直ぐに施設を飛び立ってタタウイヌまで向かい、其処で先生と合流してそのまま(真に残念だが)何事もなく補給と休憩とを繰り返しながら、実質4日程度でサジェント デ・ガジェゴに到着。そこで名残惜しいけど先生と別れたあたしは、次の仕事の為にスペイン南部のジブラルタルのラ・リネア デ・ラ コンセプションまで向かおうと、機体を飛ばしていたのだが……

 

「…はぁ…調子乗るべきじゃなかったわね……」

 

チラ、とぶっ倒れたままのイナクトを見る。

解りきった事だが、現時点の技術ではユニオンのとあるエースパイロットのお蔭で戦闘機形態から人型形態への変形は可能だが、人型形態から戦闘機形態への変形は、理論上不可能。

まあ、よしんば出来たとしても、可変翼や左腕がゴッソリ無くなっている今の状態では変形自体はできても飛ぶ事など絶対に不可能だろう。と、いうか今の状態でも空中に上がる事すら不可能そうだ。

 

「…ああ……如何しましょ……?」

 

ラ・リネア デ・ラ コンセプションまで、まだまだかなりの距離がある。

同じ組織の人間に迎えに来てもらえば良いのだろうが、後でこの事を知った先生にとんでもなく怒られる可能性がある。

……でも、それ以外に方法は無い。

 

「…仕方ない、わよねぇ?」

 

兎も角、このまま此処にいれば、調査の為に来たAEU軍や地元の警察にどんな事をされるか解ったもんじゃない。

急いで機体に戻って、再起動させる。

幸い、其処まで破壊されていた訳ではないので、近くの町まで歩く事くらいはできそうだ。

後は其処から同じ組織の誰かに迎えに来てもらおう。先程も言った通りの問題もあるが、この状況では致し方ない。見返りに身体を要求されるかもしれないが、それ位は慣れっこだ。最悪前を要求してきたら無理矢理組み伏せるか殺してしまえば良いし。

 

「……ああ…でも……怒られるだろうなぁ……自業自得だけど」

 

そう呟きながら、あたしはなるべく人目に付かない様なルートを選びながら、機体を歩かせ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ?あたし………いったい?

ママやパパと一緒に親類の結婚式に出席して、それから――――

 

「―――――」

 

「―――――――――――――」

 

――――?誰かが話す声が聞こえる。でも誰だろう?両方とも聞き覚えがない声だ。

 

「――――――――――――ぞ」

 

「――――え!―――――を―――――――い―!」

 

「―る―」

 

……何か言い争っている?―――――ううん。これは、片方がもう片方を心配しているんだ。

……でも、誰が?

 

目を開けようとしたところで、あたしは何か細長い物に乗っけられた。同時に、そのときの衝撃が身体に響いて、あたしは少し声を漏らす。

 

「―――――!クッ……うぅ…」

 

痛い。まるで体の肉や骨に皹が入っているようだ。

少し身動ぎするだけでも、それなりに痛い。

 

「―――い!患者の意識が!!」

 

…漸く耳がキチンと聞こえるようになってきた。それでも、頭の方はまだ朦朧としている。

意識に霞が掛かっていて、ぼんやりとしか物事を考えられない。

取り敢えず周りの状況を確認しないと――――そう思って瞼を開ける。

瞬間、眩しい程の太陽の光があたしを襲った。

ずっと目を閉じていた弊害か、本来の明るさよりもずっと明るく感じる。

思わず、目を細めてしまった。それでも、首だけを動かして周りを見る。

白い大きなガラス張りの建物に、白衣を着た男性や、ナース服を着た女性が居る事から、此処はどうやら病院らしい。

――――病院?何であたしは病院にいるんだろう?

確かに教会で親類の結婚式を兼ねたパーティーに出ていた事は憶えている。

ただ、其処から先が―――――

 

「――――――あ?」

 

そのとき、あたしは視界の隅にこの場には似合わない異質な物―――――片腕の無い、マントを羽織った三色(トリコロール)の巨人を見つけた。

 

瞬間、頭の中に火花が散る。

 

 

 

 

「……あ………」

 

……そうだ、あの時、沙慈と国際電話で話していたら、突然繋がらなくなって、そしたら誰かがあの機体を見つけて声を上げて―――――

 

 

「あ……あ……」

 

……そしたら、アレに突然何処かからミサイルが放たれて、そのまま戦闘状態になって―――――

 

 

「あああ……あ…ああ……あ」

 

……会場がパニックになっちゃって、パパやママと一緒に逃げようとしたら突然教会が爆発して―――――

 

 

 

 

 

「あああああああああああああ………」

 

それで、パパとママは――――――――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

頭が…瓦礫で、つぶさ、れ……て………!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よーし……落ち着け…良い子だ…」

 

不意に、パニックになって身体を縮めたあたしの頭に、誰かが手を当ててこう言った。

 

「大丈夫……大丈夫だ……まだお前は、本当に一人ぼっちになった訳じゃないぞ…」

 

優しい声色で、話しかけてくる。

声は聞いた事がない。まるで女の人みたいな声。

―――――だけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、むろ…?」

 

「…………………悪いな。そんな名前ではないよ」

 

どこかその人は、アムロに似ていて―――――――その人が、そういった瞬間、あたしは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、目を覚ましたあたしに教えられたのは、パパやママ、そしてあたしの親類のほぼ全員があの場で亡くなったという事実と、あたしの左腕が瓦礫で押し潰されていて、使い物にならなくなってしまったという事だった。

幸いな事に、後者の方は再生治療で如何とでもできるという事だったが………家族や親類が全て居なくなってしまったという事実は、私の心に大きなショックを与えるのに十分だった。

 

孤児。

 

まさに、今あたしはそれとなってしまっていた。

 

聞く所によると、幸いパパとママの遺してくれていた莫大な財産のお蔭で、生活するだけならば何一つ不自由する事は無いらしい。このまま学校に通い続ける事もできるし、2、3年働ければそれ以降は質素な暮らしを心掛けるだけで一生遊んで暮らせる。

 

――――そんな事を聞かされても、あたしの心に何一つ波風は立たなかった。

……と、言うか、なんかもう如何でも良かった。

つい昨日まで至って普通に話して、笑いあってて、次の休日には皆で何処かに出かけようとか、その内、沙慈の事も紹介するから、その為に国際電話で話をしてもらおうとか――――そんな事を言い合っていた家族は、もう何処にもいない。

顔を何処に向けても、あのやさしい表情は、何処にも見当たらない。

 

――――あたしは―――――一人ぼっち。一人ぼっちになってしまった。

 

―――――そんな事があってから、今日でもう3日目。

 

(…寂しい)

 

背筋に氷を無理矢理突っ込まれたかのような寒気が、心にぽっかりと穴が開いたかのような空虚な感覚と共に、あたしに襲い掛かってきた。

目を覚ましたあの日から一人になるといつもこうだ。

無意識に、残った右手であたしは自分で自分の身体を抱きかかえる。

それでも、そのいっそおぞましいとも言える感覚は治まらなくて……段々と、あたしの身体は震え始めた。

 

(……寂しい……あたしは一人ぼっち……寂しい………!)

 

この3日間、どんなに頭を振っても、その単語が脳裏から離れてくれない。

一人ぼっちは嫌だと、心が叫んでいる。

でも、あたしには如何する事もできない。

何時も傍に居てくれている筈の沙慈や、彼のお隣に住んでいてたまにふらっと居なくなるアムロも、今は此処には居ない。

 

(…寂しい…寂しい…寂しい…寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい!!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…寂しい……よぉ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オイ。お姫様泣いてるぜ?やっぱ早く来た方が良かったんじゃねーか?」

 

「……誰の所為で此処まで遅くなったと思ってるのさ…本当は今日の朝にはもうとっくに着いてる筈だったのに」

 

「ハイハイ、どうせ途中で拾ってもらったくせに下痢ってトイレから3時間ほど出てこなかったあたしが悪いですよーだ」

 

「ホントだよもう……というか、何であんな所でヒッチハイクしてたのさ?」

 

「仕事の関係だな」

 

「何さその仕事って「キニスルナ」…気にするよ。なんでカタコトになってるんだよ…」

 

…………不意に、あたしの耳にそんな声が入った。

それは、3日前のあの時とは違って、酷く耳になれた声で………

 

「よ、災難……って言葉で片付けられねーか……沙慈。持ってきた果物の中に林檎か、それに似たもんあったよな?剥くから寄越せ」

 

「自分で取りなよ、もう……ルイス、大丈夫?」

 

「………あ……」

 

顔を上げたら、目の前に二人が居た。

アムロは相変わらず、どこか疲れた様な顔で……それでも、どこか沈痛そうで。

沙慈は本気で心配してくれてるのか、いつものヘタレ顔を、さらにふにゃっとさせて。

 

それでも、やり取りや雰囲気はいつものまんまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――大丈夫……大丈夫だ……まだお前は、本当に一人ぼっちになった訳じゃないぞ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の、“誰か”の言葉が、頭の中に響く。

そう、あたしは………あたしは………!

 

 

 

 

 

 

「んお?」「る、ルイス!?」

 

思わず二人に抱きついた。

それで一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…寂しかった…よぉ……」

 

そのまま、あたしは泣き出してしまった。声を上げて、涙をこれでもかというくらい流して。

……何時ぐらいぶりだろう?こんな風に泣いたの?

 

「……ハァ…よしよし、寂しかったのな…ほれ、此処にいっから好きなだけ泣け」

 

「…うん。僕たちは此処にいるから。好きなだけ泣きな?ルイス」

 

「う…え……えええええええええ………うええええええええええ………」

 

パパやママや、親戚の皆が皆居なくなってしまってから3日目。

あたしは、始めて泣いた。

……一人ぼっちじゃないって事が嬉しくて、パパやママが居なくなってしまった事が悲しくて。

 

 

 

 

 

――――――沙慈とアムロの二人が居る事が、本当に嬉しくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「林檎の皮が剥き終わったというかゴメン流動食の方が良いかと思ったから微塵切りにしてヨーグルトの中にぶち込んだ後砂糖と大量に混ぜちゃった。食べる?」

 

「うん、食べる」

 

「ホレ」

 

そう言って手渡された器を右手で貰おうとする。

ところが沙慈それを横からとって、困ったような顔でこう言った。

 

「ダメだよアムロ。今ルイスは片手が使えないんだから」

 

「あ、悪りぃ。んじゃ、スプーンやるから食わしてやって。俺はその内に次の果物剥いちゃうわ。確か洋梨あったっけ?」

 

「ラ・フランスの事?確か在ったと思うけど……あ、確かスウィーティも在ったよ」

 

「………怪我人に柑橘系って大丈夫なのか?」

 

「果物だから、たぶん大丈夫だと思うけど……」

 

「オケ、んじゃ剥くわ」

 

そう言いながら、アムロは自分で持ってきたリュックサックの中から出した果物ナイフを手にとって、沙慈が持ってきた籠の中から洋梨と緑の皮を持つグレープフルーツに良く似た柑橘系の果物――――スウィーティを手に取ると、あたし達の目の前でササッと剥き始めた。

程無くして二つの果物は全ての皮を剥かれて丸裸になる。

それを食べやすい大きさにスライスしていくアムロ。それに、何処か何時か見たママの姿が被ってしまって……

 

「あれ?ルイス?」

 

「…あれ…?」

 

また、涙が出てきてしまった。

気付いてくれた沙慈が拭ってくれたが、涙は一行に止まる気配が無い。

その度に何度も沙慈が拭ってくれたが、それでも止まらない。

そんなあたしの様子に気付いたアムロが溜息を一つ吐いてから、徐に近くのティッシュ箱を取ったかと思うと、其処から大量にティッシュを取った。

そしてそのままそれを纏めると…

 

「わぷっ」

 

「止まらねぇんだったら、こういったの目に当ててろ。その内止まる。あと、水を飲め。水分を取れ。脱水症状なっちまうぞ?どうせ碌に飯なんぞ食っとらんだろう」

 

「……食べてるもん」

 

「嘘コケ。無意識に目で果物とか追ってただろうが。なぁ、沙慈?」

 

「え?其処僕に振るの?」

 

「沙慈、どうなの?」

 

「え!?まさかの2方向から!?」

 

そう言ってから、沙慈はウンウン唸りだした。

もしホントだったら……如何しよう?嘘だったらアムロを殴るけど。

 

「…?」ブルッ

 

「? 如何したの?」

 

「いや、寒気が……で?」

 

「え…え~と………それは……」

 

「どうなの?沙慈?」

 

「………」

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……追って、ました」

 

「マジか……」

 

ヤバイ。恥ずかしい。

一気に顔が真っ赤になるのが分かる。

俯きがちな顔から目だけを動かしてアムロの顔を見る。

……うわぁ…すんごくイイエガオで此方を見てらっしゃる……

具体的には「ドヤァ……?」って感じで。

……とりあえず、そのドヤ顔止めなさい。

 

 

 

 

 

 

その後は、至って普通だった。

いつも通りに(今回は主にあたしが)果物を食べながら取り止めの無い話をしたり、最近の世界情勢について軽く話してみたり、些細な事で沙慈とアムロが無意識にコントを始めて、あたしはそれを楽しく眺めてて………そういえば、話の途中で至って自然にパパとママとの思い出とか、そういった事を話してみたら意外と心がスッキリしたのには驚いたなぁ………と、言うかむしろ…

 

(…落ち着く…?)

 

そういった表現がしっくりくる様な不思議な気分だった。

今迄ささくれ立っていた物が段々と無くなっていく様な……沸騰していたお湯が段々と冷めていくような……そんな感覚。

一瞬悲しいという感情が一周してこうなったのかと思ったけど、それとはやっぱり違って……う~ん……なんというか……

 

「…ん?どした?」

 

「ふぇ?…う、ううん。なんでもない」

 

「…? へんなヤツだな……」

 

 

 

――――――アムロがいる、から?

 

 

 

なんというか、そんな感じがする。沙慈と一緒にいると心があったかくなってくるんだけど、何故かアムロの場合は何処までも落ち着くのだ。

まるで――――パパとママが一緒にいてくれるみたいに。

 

(でも、たぶんそんな事言ったら、アムロ微妙な顔するんだろうなぁ……)

 

そう、思った所で、突然病室には似つかわしくない、ピピピピという電子音が鳴り響いた。

はて?なんだろうと思って辺りを見渡すと、アムロが何かに気付いたような顔をしてから、失礼と呟いて上着のポッケから小さな端末を呼び出した。音はどうやらそこから鳴っている様だった。

怪訝な顔をして、アムロは通信端末の画面を見た。瞬間その表情がすごく苦々しい物に変わる。

一体如何したんだろう?そう思ってから彼に声を掛けようと―――――

 

「―――悪り。ちょっと話してくるわ」

 

―――――した所で、彼はさっさと病室から出て行ってしまった。

後に残されたのは、驚いた顔をしているあたしと沙慈だけ。

…一体如何したんだろう?

不思議に思って顔を見合わせるあたし達。其処に今度は顔を青くしてアムロが戻ってきた。

そんな彼に沙慈が声を掛けるが、アムロはそれに一言も返事を返さないままTVをつけてチャンネルを回し始めた。

その内、チャンネルがとあるニュース番組で止まる。

 

其処に映っていた物に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……てきた凶悪なテロ行為に対して、ユニオン、人類革新連盟、AEUは軍事同盟を締結、国連の管理下でソレスタルビーイング壊滅のための軍事行動を行っていくことを、ここに宣言いたします!』

 

 

 

 

「…え?」

 

「な…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、あたし達を絶句させるのには、十分過ぎる衝撃を持ったニュースだった。

 

AEU、ユニオン、そして人革連の各陣営が手を組み……更に其処へと“ガンダム”の“動力炉のコピー”が何処からか提供された、なんて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……面倒な事になってきたなぁ……オイ」

 

TVの音しか聞こえない静かな病室の中で、呟いたアムロのそんな言葉だけが、絶句したままのあたしの耳に嫌に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、アムロは暫らくの間ニュースをずっと見続けていたけど、暫らくしてからまた携帯の向こうにいる誰かと2,3言何かを喋ると、直ぐに荷物(とは言っても、碌に無かったが)を纏め始めた。

沙慈が突然そんな事をし始めたアムロに言葉を掛けるが、アムロは「ちょっとやばい事になった」というだけで、あんまり反応してくれない。

その内荷物を纏め終わったのか、「今直ぐ行かなきゃならん所が出来たから行って来る」とあたし達に言ってからリュックを背負ってドアの方へと向かう。

と、その途中で何かを思い出したかのように立ち止まって、顔だけを此方に向けた。

 

そして一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。ルイス。友達なんだから、なんかあったら遠慮なく国際電話なりなんなりで呼べよ?来れれば直ぐ来るから。あと、沙慈はなるべくルイスがいいって言っても近くに居てやれ?彼氏なんだから」

 

んじゃな、と、それだけ言ってアムロはドアの向こうに消えていった。

ポカンとしたままあたし達は病室に残される。

二人とも、声が出せなかった。と、言うか、アムロの突拍子も無い行動には慣れているとは言っても、これは流石に急過ぎたから……何と言うか、喋るタイミングを失ってしまった。

…でも、暫らくしてから突然沙慈が笑い出した。

驚いて如何したの、と声を掛けても笑いっぱなしで返事を返してくれない。

やがて一通り笑って満足したのか、目じりの涙を拭いながらこう呟いた。

 

 

 

 

 

「いやぁ、アムロって、何処まで行ってもアムロなんだなぁって」

 

「……どうゆう事?それ?」

 

「そのままの意味だよ。カッコいい事言ってるつもりなんだろうけど、なんかこう……『いつも通り』だなって」

 

「…あー……そうかも」

 

そう言われれば、そうなのかもしれない。

いつも通り、3人で話したりして、その内アムロが突然誰かから呼び出されたりしていなくなり、それをあたし達が見送る。……ホントにいつも通り。

別れ際に何か言っても全然格好良く見えなくて、むしろコミカルだかなんなんだか分からなく思えるのも。

 

「…ホントになんだかなー…」

 

そう言いながら、あたしはベッドに背中から倒れこんだ。そして目を閉じながら、少し考える。

パパやママ。叔父さんや叔母さん達は―――――もういない。いなくなってしまった。

 

 

…でも――――――

 

 

目を開けて、沙慈を見る。

いきなり目を向けられてキョトンとしている彼に、私は笑いながらこう言ってやる。

 

「沙慈」

 

「ん?」

 

「結婚しよっか」

 

瞬間ブフォッ!!と聞こえそうなくらいに盛大に沙慈は噴出してから、むせ始めた。

上手く顔を逸らしてる辺り、相変わらずこういう所はすごいと思う。

 

「る、ルルルルルルルルルイスさん!?一体何言い出して「冗談よ冗談。でも、その内、ね?」そ、そのうちって……」

 

そう言いながら俯いてブツブツ言い始めた彼を横目に、また私は目を閉じる。

 

 

――――――でも、沙慈(恋人)やアムロ(友達)はいなくなってない。

今この瞬間だけは、ちょっと違うけど『いつも通り』。

 

そう考えると、少し前まで感じていた寂しさは、影も形もなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………やっぱ痛い」

 

歩きながら、痛む脇腹を押える。

向かう先は病院近くの町。

其処に相棒とヒクサーさんが車で迎えに来る。

……しかし其処までは、自力で歩かなければならない。

 

(…完治しないうちに動くもんじゃないな。本当に顔に出なかったか心配だわ)

 

そんな事を内心ぶつくさ言いながら、少し反省する。

……まあ、ルイスの元気(?)な姿が見れたのだから、無駄骨ではないと考えておこう。

 

そう思いながら前を向くと、前から黒塗りの軽自動車――――ビートルが走ってくるのが見えた。

向こうは俺の近くまで来るとゆっくりとスピードを落としながら止まり、そして――――

 

ガチャッガッドスンバタンブオオオオオォォォォォォォン………

 

――――そして見事な鮮やかさで俺を拉致ると、そのままUターンしながらスピードを上げ始めた。

無論運転しているのは……

 

「……あれ?姉さん?」

 

「…そうよ。なんか悪い?」

 

「いや?別に」

 

……何故か姉さんだった。おもわず疑問形で声を上げてしまい睨まれる。お、相棒も直ぐ近くに居たよ。つーか今首根っこ掴んだのお前かこの野郎意外とビックリしたぞ……しかし本当に何故?予定では迎えに来るのはヒクサーさんだったはず「予定変更したからよ。あんただってあのニュース見たでしょ?アレが原因よ」……地の文に割り込んで欲しくないのですが。

 

「うっさい。つーかアンタ顔に出易いのよ」

 

「まじか」

 

「マジで。で、これからの予定だけどアジトに着き次第出撃準備。今日の夜1130で中国の広州に向かうわよ」

 

聞いた瞬間、頭のどこかでスイッチが切り替わった。即座に“アムロ・レイ”ではなく“O-01”として質問する。

 

「その心は?」

 

「三大陣営連合軍……いえ、今は国連軍ね。国連軍がGNドライブ[τ]……つまり、擬似太陽炉を搭載した新型MS“GN-X(ジンクス)”のお披露目の為にソレスタルビーイングをを発見次第で攻撃する事が決定したのよ。そして今、アフリカにいるトリニティは人革の広州方面軍駐屯基地を狙うって命令受けている……つまりあたし達は、結果的に新型MSお披露目の為の生贄に扱いとなるトリニティを救援に向かうってワケ」

 

「なるほど……って、チョイ待ち。あいつら今アフリカにいんの?初耳だぞそれ」

 

俺がそう訊くと、姉さんは溜息を吐きながらこう返してきた。

 

「……一応、アンタがアジトについてから連絡はあったらしいのよ。ただそれに出たのが…」

 

其処まで姉さんが口にしたところで、大体の予想がついた。間違い無くそうなんだろう。

意を決して俺はその先を言った。

 

「……もしかして、師匠」

 

「ピンポーン……」

 

「マジかよ……」

 

そう言いながら頭を抱える。

そうなると、あの3人が今アフリカにいる理由も分かる。

間違い無く師匠の悪戯だ。大方、完治したらそちらに行かせるとでも言って、上手い事言い包めたのだろう。事こういうのに関しては師匠は天下一品の実力を持っている。アフリカなのは……おそらく、適当な任務を与えたのだろう。北西部には一部熱帯のジャングルとなっている部分にアジトもあるし。

 

「………まあ、良いか」

 

結果的には全て終わった事だ。IFを考えた所では物事進まない。スッパリ割り切らねば。

 

「次。俺の機体は如何するんだ?言っておくけどザフキエルじゃ新型相手は無理だぞ」

 

事実だ。というか、新型相手に問題ありありの機体で挑みたくない。愛着があるとはいえ2度もアレに乗って死に掛けているのだ。流石にそれで未知の相手と戦うというのは遠慮したい物がある。

しかし対する姉さんはまるでそれを見越していたかのようにフッと笑うと、こう言い放った。

……なんでもいいけど、姉さんがフッと笑うって似合わんな、相変わらず。

 

「まあ、そこら辺は安心しなさい。“アレ”の強化も終わったし、それで行ってもらうって。因みにキチンとリボンズが監督しながら指示を出して強化されてるから、きっと大丈夫なはずよ」

 

「………ゴメン。それ何一つ安心できないわ…」

 

「……大丈夫よ。たぶん」

 

「…当の本人は今何処?」

 

「あのクソ大使と一緒にヴェーダの所まで行ったわ」

 

「……それ、報復されるのが解ってたから逃げたんじゃね?」

 

「…………………………違うとおもうけど」

 

「オイその間は一体なんだ」

 

一気に不穏な空気が漂い始めた。

……師匠。とりあえず一体どんな改造施したんだ?せめて機体の操縦系がD(ダイレクト)M(モーション)L(リンク)S(システム)とか、座禅組んで生体エネルギーや脳波で操縦するようなぶっ飛んだ物になっていませんように………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程無くしてアジトへと到着した。

直ぐに更衣室に入って脇腹の傷をチェックしながらノーマルスーツに着替える。

……よし。開いてないな。念の為絆創膏変えて、その上から包帯グルグル巻いてしまおう。

そのままチャックを閉めてメット持ったら準備完了。ハンガーへと歩いていく。

その途中、珍しく俺と同じ白いノーマルスーツに身を包んだ姉さんと出くわす。

……うん。以前も見たけどキチンと出るとこ出てて、引っ込んでるとこ引っ込んでる。

 

「…何見てんのよ」

 

「姉の成長具合の観察」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

「以前同じ様な事言って人の股間ガン見してた人に言われたか無いわ」

 

「重みが違う」

 

「アホ、明らかにこっちのほうが受けた被害デカかろう」

 

「喰うぞ」

 

「オイなんでそうなる」

 

そんな風にギャーギャー言い合いながら歩いていくと、その内ハンガーに到着した。

其処には片腕が無くなり、太陽炉が取り外されたザフキエルと共に、何か大きな物が2体ほど布に包まれておいてあった。

その上から、此方に気付いたヒクサーさんが呼び掛けてくる。

 

「あ、来た来た。おーい!アムロにヒリちゃーん!準備終わってるよー」

 

「ヒリちゃんって言うな!」

 

隣に居た姉さんが吼えた。そんなにあの渾名が嫌まあ、その気持ちもわからんでもない。

アムちゃん……うん。某少女マンガの主人公の女の子の名前っぽい語感で実にイヤだ。

 

そんな事を考えていると、目の前のデカイのの布が取り去られた。

その下から出てきたのは――――――とても見慣れたカラーリングの、俺にとって1番愛着があり、使い慣れたあの機体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「GNPF-000“パーフェクトOガンダム”……Oガンダムに追加装甲と追加装備を取り付けた、改良機だよ」

 

乗ってみて、と促されるままに、相棒と共に乗り込む。

機体のシステムを立ち上げて、起動。

コンソールに各システムの状況が表示された後、各武装のデータが表示される。

全体的な感想としては、以前のフルアーマー装備の改良型、と言った感じ。

ただ、あれと違うのは背面部に特殊バックパックが装備され、それにビームと実弾の切り替えが可能なキャノンと、大容量GNコンデンサが取り付けられている点。右腕のツインライフルが以前のナドレ用を二つ取り付けたようなものではなく、よりコンパクトにシールドと一体化したような見た目になっている点。シールドの裏に機雷やビームサーベルが搭載されている点。追加装甲が更に厚くなり、脚部に付いていたスラスターが更にでかくなっている点。そして極め付けは、頭部にヘッドギアが追加されているという点だろう。

表示されている情報からすると、結構多機能らしいが……なんか、見た目が更にゴツく…

 

『どんな感じだい?キチンと調整されてるとは思うけど』

 

外から、ヒクサーさんの声が聞こえる。

ハッとしてチェックを再会し、一通り見た所で返事を返す。

 

「こっちは特に問題ないです!」

 

『OK!ヒリちゃん!そっちは!?』

 

『だ~か~らぁ!!そのあだ名で呼ぶなっつーの!!……ったく、こっちもOKよ!今から動かしても余裕!』

 

そんなヒクサーさんと姉さんのやり取りを聞いて「ん?」と思いながら左を見た。

其処には今のOガンダムを優に超えるでかさの見た事も無い水色と白の2トンカラーの……戦闘機?が鎮座していた。姉さんの声が其処から聞こえるという事は、どうやら彼女はこれで出撃するらしい。

 

『OK!そしたら二人とも、指示に従ってドッキング作業始めて!その後は、お互いに時間一杯シミュレーションとかでフォーメーションの練習とかして時間潰して!』

 

「分かりました」『了解っと』

 

言いながらコンソールにでてきたマニュアルに従って機体を動かす。

……って、言うかとうとう合体までしだしたか……その内、変形できるようになるんじゃないだろうな?Oガンダム?

 

「ソレハ無イダロ」

 

「言ってみただけだっつうか地の文読むな相棒」

 

最後の最後でこんなかい、とは絶対に言わんぞ。




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

いやー…もう2期に入るまでは女の子メインの場面なんか書きたくないと思うくらいに当時は難産でした。
と、言うかその頃に学校の授業で人間失格の映画なんて見ちゃったもんだから益々鬱ーな心理状態に陥ったりとか、なんか何時の間にかスランプ陥ったりとか、学年末テストが叫びだしたくなるような状態になったりとかで………口述試験に研究室配属にレポートに…………いやー大変でした。

と、言うわけで解説入ります。

まあ、見ていただければわかる通り、冒頭は前回何故ヤツがあの場に居たのかの説明です。無理矢理感があり過ぎ?ハハハハ……ちょっと自覚あります。
因みに前回の師匠の仕業という言葉の意味は、其処を指定したのが師匠だからという裏設定があります。が、其処まで気にしなくていいので流しちゃってください。

中盤からの場面はルイスのあの後の話。いやー心理描写難しい……
因みにまだあの2人は別れません。………っていうか、本作においては原作通り疎遠になる事すら無いかも。

で、Oガンダム復活!!ただし戦闘なし。&サポート機体登場!!ただ、もう予想できると思います。

で、パーフェクト装備の説明ですが、まあ、パーフェクトガンダムVer Kaのあの追加装甲をOOに出てくる奴っぽくした物を思い浮かべてください。
それでOKです。
もっと簡単に言うと、SDプラモの方のパーフェクトガンダムの中の人をOガンダムにした物、です。ヘッドギアも、あのプラモから採っています。


さて、次回からは1期佳境に入っていきます。
GN-X好きの皆さん、お楽しみの時間ですよー!
まあ、フルボッコにはならんと思います。
……へ?Oガンダム?あいつが彼らと戦うのはもう少し後です。

ではまた次回。


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十七話―――悲しい事は続く物・・・って、ちょ、此処で敵がパワーアップイベントとか。もうちょっと心の準備という物を・・・・え?俺、今回特に出番無し?

今回はGN-X登場回であると共に、冒頭でいきなりとある事件が起きます。
ほんでもって新たな伏線もチラホラ……

では、本編をどうぞ。


アムロがパワーアップ(魔改造されたともいう)したOガンダムを受領する約数時間前。

 

リニアトレイン公社 会長別荘前

 

「ハァ…取材は空振りするし、費用も意外と掛かったし……これからどうすれば……」

 

タクラマカン砂漠での作戦に偶然参加していた兵士から得た情報で、なんとかリニアトレイン公社会長、ラグナ・ハーヴェイにまで辿り着いた絹江。しかし今現在彼女は取材を申し入れたものの、受付の人間にやんわりと断られ彼のオフィス兼邸宅となっている豪奢な建物の前で途方に暮れていた。

まあ、冷静に考えてみれば、どんなに怪しいとはいえ相手は自分の会社の大株主。

そう簡単に情報が得られるとは思っていなかったが、態々此処まで訪れて何の手がかりも得られなかったのは慣れている彼女にとっても流石に精神的にも“クル”物がある。

フゥ、と彼女は再び落胆交じりの疲労の溜息を吐こうと肩を落とした。

と、その時大きなマフラー音と共に、会長別荘の車庫の方から綺麗な赤色のスポーツカーが勢い良く飛び出してきた。

かなり手を加えてあるのか、若干激しい動きをしているにも拘らず、音は静かだ。

瞬間、不意に絹江の頭にとある事が思い出された。

 

「…そういえば、さっき総裁は面会中だって……」

 

記者の勘に従い、絹江はスポーツカーの前に出る。

スポーツカーの運転手は突然飛び出してきた絹江に驚いて急ブレーキをかけるが、絹江はそんなことに動じずに運転手とコンタクトを図る。

…一瞬だけ、その運転手の顔が「ウゲッ」とでも言うように苦々しく歪んだように見えたが、彼女は気にしない事にした。

 

「あの…」

 

「……何か御用かな?」

 

車を運転していた男は赤髪で、端整な顔立ちをしている。が、少し日に焼けているせいか粗野な印象を受けた。しかし、話し方は至って穏やかで好印象を持たせる。

絹江はバッグの中から身分証明証をとりだした。

 

「あの、私JNNの特派員なんですが、2,3個ほどお聞きしたいことがあるんです…今お時間よろしいでしょうか?」

 

「…フム……JNNの記者さん、ねぇ…」

 

男は困ったような笑みを浮かべる。

 

「構いませんが、私は今少し急いでまして…車中でよろしければ…」

 

「! い、いえ……それ、は…その…」

 

絹江は一瞬迷った。

それまではそれ位の事など一体何が怖いのだと思っていたのだが、男から感じた何かが本能を通じて自分を踏みとどまらせようとしている。

しかし、

 

「…やはり、止めておきますか?」

 

「…………」

 

少し考えた後、絹江は答えた。

 

「では、お言葉に甘えて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

別荘から離れた二人は海が一望できる橋の上を車に乗って走っている。

車を運転している男…ゲイリー・ビアッジは絹江が乗ってから何も話そうとしないが、橋の真ん中あたりに差し掛かったところで突然口を開いた。

 

「絹江・クロスロードさんですか……良いですね、あなたのような美人の記者さんがいて」

 

「いえ、そんな…」

 

お世辞だとは分かっているが、綺麗と言われてうれしくない女性はそうはいない。

だが、絹江はすぐさま気を引き締める。

 

「で、私に聞きたいこととは?」

 

「間違っていたら謝りますが、ビアッジさんは先ほどトレイン公社の総裁、ラグナ・ハーヴェイ氏と会われていませんでしたか?」

 

「ええ、会いましたよ」

 

彼はあまりにもあっさりと答える。それを聞いた絹江は、さらに突っ込んだ質問をする。

 

「どのような話を?」

 

「私は流通業を営んでおりましてね。物資の流通確認のために総裁に報告に来たんです」

 

「……態々、総裁に?直接?」

 

「ええ、一応私用も兼ねまして、ね」

 

「私用ですか?」

 

「ええ、私用です」

 

絹江は男のほうに身を乗り出す。

 

「差し障りなければその運搬していた物資と、その私用がなんなのか、教えて頂けないでしょうか?」

 

それを聞き、ビアッジ考えるような素振りをして間を置くが、すぐに八重歯が覗くような笑い方をする。

 

「……フフッ…GNドライブ」

 

「GN…ドライブ?リニアトレイン関係の機材か何かですか?」

 

聞いたこともないような言葉に戸惑う絹江だが、それ以上に、隣にいるビアッジが先程から放つ気配は異常だ。それでも絹江はビアッジの言葉にじっと耳を傾けている。

 

「いえ……MSを動かす、最新型のエンジンです」

 

「へ?MS、の?でもそんな物まだ何処からも発表は「ガンダムですよ」……っ!!??」

 

ビアッジの気配が一段と異常さを増す。

自分が期待していた以上の答えとビアッジの気にあてられ、絹江は身震いする。

 

「知っているでしょう?CB(ソレスタルビーイング)の所有する、あのクルジスの少年……いや、少女兵と言った方が適切か。彼女とそして…おそらくですが同じ場所で少年兵をしていた化物がパイロットをしている、あのガンダムです…」

 

「クルジスの少女兵…?…化、物?」

 

おかしい。

何故この男は未だ何処の陣営もキャッチしていない筈の、“あの”ガンダムのパイロットについて何かを知っているのだ?

何処をどう考えても、普通の……少なくとも、“表”の人間ではない。

そんな絹江の不安を他所にビアッジは語り続ける。

 

「そのクソ餓鬼と化物をですね……誘拐して、洗脳して…あ、いや、化物の方は、拾ったのですがね。洗脳もしていません。まあ、そいつらに戦闘訓練を受けさせ、ゲリラ兵に仕立て上げたのは何を隠そう…」

 

そこでビアッジは、その笑みを更に凄絶な物にして絹江に向けた。

そして一言呟くように囁く。

 

「この私なんですよ…ククッ…」

 

「あ…あなた……?」

 

絹江の声が震える。

その様子を見ていたビアッジの笑みに更に凶暴なものが入り混じっていく。

 

「戦争屋です。戦争が好きで好きで堪らない…ククク…人間のプリミティブな衝動に順じて生きる、最低最悪の人間ですよ…ク、クククククク……」

 

ビアッジ、いや、アリー・アル・サーシェスはこれから彼女の身に起こることを考えながらほくそ笑んだ。

と、その時突然車が止まる。

絹江は一体如何したのかとうろたえるが、サーシェスは至って落ち着いたまま、正面から待ち人が来たとでも言わんばかりに笑うと、彼女にこう言い放つ。

 

「…記者さんよぉ……あんたぁ、知りすぎたんだ…運が無かったなぁ…ククク……じつは、今から俺ぁそのCBの重要な立場の人間に会いに行く所だったんだが……どうやら、待ちきれなくて向こうから来たみたいだぜ」

 

その言葉に驚いて絹江が前を見ると、橋の向こうから歩いてくる、一人の人影が見えた。

それを確認した彼女は直ぐに車を降り、それと反対側へと駆け出す。

それは一応今まで危険な橋を渡った事が何度もあった彼女の記者としての危機察知能力が働いたお蔭だったのかもしれない。

しかし………

 

――――――……!?

 

突然、身体に衝撃。

同時に、胸から激痛。

思わず身体を見下ろすと、其処には黒くて短い刃が突き刺さっていた。

瞬間、体中の力が抜ける。

意識を失う寸前、彼女が聞いた言葉は、「……あれ?出来ちゃってるよ」という若い青年とも少年とも似つかない、その中間程度の声質の誰かの呟きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オイオイ大将。アンタホントに人間か?あの距離から投げナイフをあそこまで正確に当てるとか、もうギネスもんだろ?」

 

「いやぁ、僕もまさか出来るとは思っていなかったよ……まあ、それは兎も角、これからよろしくねアリー・アル・サーシェス。会うのは2度目かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後 某所

 

雨が降り注ぐ夜の裏路地で絹江は血があふれる胸部を押さえながら倒れていた。

ICレコーダーのようなデータを残しておく機材はすべて壊され、そこら辺に転がっている。

バッグの中身もすべてぶちまけられて、無残にも雨に打たれている。

その中に写真の入った定期入れが絹江の近くに転がっていた。

 

「う…く……」

 

絹江は残った力を振り絞り、写真へと手を伸ばす。

 

「と…うさ……ん………」

 

絹江、沙慈、そして二人の父の三人で撮った写真。

家族の大切な思い出だ。

 

「さ…………沙………………慈…………………………」

 

自分の大切な、大切な最後の家族である弟の名を喉の奥から振り絞り、何とか写真を掴もうと、彼女は手を伸ばす。

しかし、現実とは無情な物。

彼女はもうあと1mmで手が届くという所で、彼女は力尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ごめんね……沙慈…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………これが?

 

はい。最近我々を嗅ぎ回っていたJNNのジャーナリストです。

 

……フム…使えるかな?

 

死後、其処までは経っていないようなので、蘇生できれば、あるいは………ジャーナリストならば、記憶力も良いでしょうし…危機察知能力も良さそうです。

 

………よろしい。丁重に運んでおいてくれ。適性が無くとも“加工”できれば…何かの足しにはなるだろう。

 

畏まりました………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

「? 如何したの、沙慈?」

 

「うん? いや……今、何か…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは……彼女にとっての………唯一の救いだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

「? アムロ?」

 

「あ、いや………なんだったんだ?今の……?」

 

 

1名、余計なヤツがそれを察知したのは如何だったのかは不明だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絹江がゲイリー・ビアッジ――――アリー・アル・サーシェスと接触するほぼ同時刻

 

人革連 広州方面軍駐屯基地

 

夜明けが間近な空に三つの赤い彗星が尾を引きながら地上へと向かって行く。

地上にある人革連の基地では人もMSも慌ただしく動いている。

 

『観測班から通達!三機の新型のガンダムと思われる機影がS-9788方面より飛来!当基地に対する軍事介入行動と思われる!直ちに迎撃に移れ!』

 

モニターから見える、その様子を見下ろすミハエルの目は敵を蹂躙する期待と少し前にあった“予測しがたい事態”に対する怒りによる興奮で見開かれていた。

 

『こっちはこの前の鬱憤がたまってんだ!吐き出させてもらうぜ!!いいよな、兄貴!?』

 

それを見た私は、少し嘆息した。O-01とその相棒であるハロによる教育で、平時では以前よりもある程度マシになったミハエルの苛烈さではあるが、今回ばかりは止める事は不可能そうだ。まあ、それもしょうがないのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻る。

それはO-01が負傷し我々と連絡がつかなくなった後、代理として受け答えした彼の上司―――つまり監視者の一人だと思われる人物の指示で、アメリカの軍事工廠を強襲後、アフリカ北部のアジトへと渡るために大西洋上を横断していた時である。

 

『まさか、今の兄貴を梃子摺らせるがいるなんてな』

 

『うん。油断大敵ね』

 

「……肝に銘じるしかないな…私も、少し楽しんでいた部分があったのでな」

 

確かに、今にして思えば恐るべき相手だった。

軍事工廠強襲時、ミッションが終わるかどうかの所で、突然1機のオーバーフラッグに奇襲を仕掛けられたのだ。

最初は、高々オーバーフラッグの1機など……そう思っていた私だったが、その機体は私の反応速度を遥かに超えるスピードで接近すると瞬間的に変形し蹴りを一発此方に当てた瞬間、隙を突いてソニックブレイドで切りかかってきた。

咄嗟にビームサーベルを展開して切り払うも、再び蹴りを入れられバランスを崩される。

その隙を突いて向こうはビームサーベルを奪うと、再び此方に切りかかってきた!!

 

(チィッ!!!)

 

咄嗟に機体を翻して回避するも、少し回避が間に合わず、右腕を切り落とされる。

直後に、突然フラッグは動かなくなった。

おそらく、無茶な起動をしたために体が耐え切れなくなったのだろう。

このまま撃墜しても良かったが――――止めておいた。そもそも機体の粒子量を考えると、もう無駄に粒子を使うわけにはいかない。

結局、その場は見様によっては私だけほうほうの体で湾岸付近にあったアジトへと帰り着いたのだった。

 

閑話休題

 

あの時の事を思い出して、少し嘆息する。

少なくとも、あの時感じた事は『自分はまだまだ未熟だ』と言う事。

デザインベイビーとしてこの世に生を受けた為に身体能力だけは基準以上の物を、私達兄妹は持っている。しかし、それはあくまでも身体能力だけだ。実際のMS戦で勝つために必要な物はそれだけでは不十分……実際はそれに加えてその能力に見合うだけの性能を持った機体。そしてそれらを完璧に使いこなすだけの経験と実力が不可欠だ。

…つまり、私達に足りない物は―――――

 

ピピピ!!ピピピ!!ピピピ!!

 

「っ!!」

 

『うぇっ!?何!?』

 

『うおお!?』

 

咄嗟に機体に回避運動を取らせ、天空から降り注いだ桜色の光弾の雨霰を避ける。

即座に機体を光弾が放たれた方向に向けて、その空間を睨む。そこには―――――

 

 

 

 

『エクシア、目標を捕捉……三機のガンダムスローネを紛争幇助の対象と断定……これより、武力介入を開始する!』

 

 

(…!!! あれは…!)

 

『目標を――――――

 

「っ!チィ!!スローネアイン!これより防衛行動を――――

 

言うが早いが向こうはGNソードを展開する。

無論此方も既にビームサーベルを展開済だ。

 

反射的に背面スラスターを全力で吹かして接近する。

向こうもどうやら此方の意図を読んだらしい。同じ様に背面スラスターを全開にして接近してくる。

そして次の瞬間――――――

 

 

 

 

 

―――――駆逐する!!!』

 

―――――開始する!!』

 

―――そんな言葉と聞こえると同時に、お互いの獲物がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…最初に聞いておこうエクシアのマイスター、刹那・F・セイエイ。何故我々に攻撃を仕掛けてきた?我々は君達と目的を同じとする『違う!!!』…何?」

 

『その機体が―――』

 

瞬間、此方の腕が跳ね上げられる。

 

『お前達が――――』

 

驚く暇も無く、機体の胴体が蹴り飛ばされた。

 

『―――――ガンダムであるものか!!!!』

 

そしてエクシアは、此方が体制を崩しそれを立て直す事などお構い無しに、GNソードの切っ先をスローネ達に向け、背中から大量のGN粒子を放出しながら我々へと向かって来た。

 

「チッ」

 

舌打ち一つで力点をずらし、突き入れられたGNソードの切っ先をずらす。

O-01がよくミハエルとの模擬戦で行なっていた戦法だ。

そのままバランスを崩したエクシアの横っ腹を、右手のGNビームサーベルで叩く。

しかし向こうも大したもので、殴られて出来た距離からGNソードのライフルモードで銃撃してきた。

回避するも、何発か機体を掠る。流石に正規マイスターは伊達ではないと言う事か…

 

『ちょ、ちょっと!どうするのヨハン兄ぃ!?』

 

ネーナからそんな通信が入る。フム、と首を捻った後、私は直ぐにエクシアのマイスターに通信を入れて説得を試みる事にした。何かの間違いで誤解をし、その結果で我々に襲い掛かってきているのであれば、此処での戦闘は果てしなく無意味な物だからだ。

 

「落ち着け。再度訊くが何故我々に攻撃を仕掛けてきた?我々は君たちと同じ戦争根絶と言う『違う!!』…」

 

『貴様達はガンダムではない!!』

 

更に攻撃を加えてくるエクシア。どうやら逆効果だったようだ。

錯乱しているかとも思ったが……そういう訳でもない。

どうやら本気で此方を排除しに掛かっている様だ。

……となれば、此方もやられる訳にはいかない。

 

「ミハエル、ネーナ。仕方が無い、応戦しろ。ただし撃墜するなよ」

 

『了解だぜ兄貴!!』

 

『待ってました!!』

 

それを機に、それまで静観していた二人がエクシアへと攻撃し始める。これで3対1。いかなオリジナルの太陽炉を有するエクシアと言えども流石にこの戦力差をカバーしきれる物ではない。

……筈だ。ハッキリ言ってそんな芸当をするような人間はO-01以外に居て欲しくない、というのが本音なのだが…いや、世界は私達が思っているよりも遥かに大きく、広い。もしかしたら、彼のような人間がまだまだ居るかもしれない。

そう考えながら、ビームライフルをエクシアの右肩をわざと掠めるように照準して撃つ。

エクシアはそれを一瞬で当たらないと判断したのかそのまま突っ込んでくる…掛かった。

 

「ミハエル」

 

『あいよぉ!ファング!!』

 

私の合図に応じて、ミハエルがツヴァイの腰からファングを射出しつつ、バスターソードで切りかかる。

向こうはそれを受け止めたが、そこへとファングから放たれたビームが殺到し、私もそこへとGNキャノンを放つ。

しかし流石は正規のマイスター。強引にGNソードを振る事でツヴァイを引き剥がすと、絶妙のタイミングで機体の胴体を捩り、全ての攻撃をかわした。更にダガーとビームサーベルを投げて3基、GNソードを振って残った全てのファングを破壊した。

その技量に舌を巻くが、まだ想定範囲内だ。

 

『まだあんだよぉ!!』

 

ミハエルはさらにファングを2基射出し、エクシアの死角から接近させる。

しかし次の瞬間、そのファングは一条のビームによって破壊された。

 

「むっ!?」

 

『援軍!?』

 

『ちょ、ちょっとミハ兄!!あれ!!』

 

ネーナが何かに気付いて指を向けた。

咄嗟にその方向へとライフルで迎撃するが、更に大きな光弾を返されたので急降下で避ける。

あれは……

 

『……ティエリア・アーデ?』

 

「ガンダムヴァーチェ、か?」

 

『ヴァーチェ、目標を破壊するっ!!』

 

…どうやら実働部隊は本気で此方を消したいらしいな。レーダーを見る限り、更にその後ろからキュリオスとデュナメス、さらにはサキエルの反応まである。

私は、溜息を一つ吐いた後、冷静に状況を考える。何度か脳内でシミュレーションを行い、問題点を見つけ、この後に続くミッションの内容等も加味すると…

 

「……フム、ミハエル、ネーナ。戦闘中止だ。逃げるぞ」

 

『兄貴!?』『ミハ兄!?』

 

ほぼタイムラグ無しで二人が驚愕を持って返事を返してくる。

文句を言われる前に説得するとしよう。

 

「状況を考えろ。我々は先日の事もある上に、大幅な迂回をしながらここまで来ているんだ。それに目的地はまだ遠い…次のミッションも中々に大きな物になりそうだ。今此処で徒に消耗する事だけは避けたい。それに流石の我々でも、4機のガンダムを撃墜せずに相手取るのは無理だろう。それ以前に少し損傷させるだけでも大幅に計画に支障が出てしまう」

 

『悪りぃが…逃げきれると思ってんのかい?』

 

不意に誰かから挑発された。声の感じと近くに居ることから、これはおそらくデュナメスのマイスター“ロックオン・ストラトス”だろう。

フッと頭の中で『思いっきり戦いたい』という本能と、『早く逃げなければ』という理性の衝突したビジョンが浮かぶが、此処は素直に理性に従う事としよう。

……しかし逃げ切るには、少々嫌な手を使うしかないな。

先程の挑発で今にも爆発しそうなミハエルとネーナを宥めながら、私はカードを切る事にした。

 

「……ロックオン・ストラトス。君は我々よりも先に戦うべき…否、戦わねばならない相手がいるだろう?…いや、それとも、“ニール・ディランディ”、と呼んだ方が良かったかな…?」

 

『…!!! 貴様!!俺のデータを!』

 

画面の向こうで彼が怒声を放つが、あまり気にしてもいられない。淡々と言葉を放ち続ける。

 

「当然、O-01からデータは拝見している。彼と共にミッションをこなす場合は、基本的に君達のサポートが我々の主な役割になる。1度だけ、しかも秒単位というかなり短い時間だったが、十分な程に見せてもらえたのでね。無論、他のマイスター達についても、詳細に見せてもらった」

 

嘘だ。実際には「プライバシーの侵害という言葉の意味を10回ほど調べて来い」と言われて拒否されたので、ヴェーダを通じて、“コッソリと勝手に”拝見させてもらった。

 

『あの不審者め…!一度やっぱり本気で狙い撃った方が良かったか……!!』

 

……申し訳ありません、O-01。どうやら余計な事態の火種を作ってしまったようです。

心の中で彼に謝罪の言葉と十字を切りながら、更に言葉をつむぐ。

 

「ニール…君がガンダムマイスターになってまで復讐を遂げたい相手の一人。実はその内の一人が、今、此処に、君の直ぐ傍に居るぞ」

 

『…!? なんだと…?』

 

「…信じられないか?では、ハッキリと口に出そう。その人物の元の所属は、今は無き中東のクルジス共和国。そこで主に活動していた反政府ゲリラ組織、KPSA。その構成員の中に、ソラン・イブラヒム……」

 

そして、一呼吸置く。

一瞬、誰かが息を呑む声が聞こえた。

それが消えるかどうかの所で、口を開き、告げた。

 

「今は、刹那・F・セイエイという名の少女が居た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫らく、沈黙が続く。

それを破ったのは、案の定、ロックオン・ストラトスだった。

 

『ん…な…せ、刹那、だと?』

 

若干声が震えているな。此処でドッキリカメラ等と書かれたプラカードを出したら一体どんな顔を―――――…って、待て待て!!違う!!私はこんなキャラではない!!むしろそれはO-01の役割だろう!!『オイ、ふざけんな。何でそうなる』何か聞こえたが無視だ!!

 

「そうだ……詰まる所彼女は君の両親と妹を殺した組織の一員……つまり、君の仇。忌々しき君自身の暗い人生の根源の内の一つというべき存在なのだ」

 

デュナメスがエクシアを視界に入れる。対するエクシアは身動ぎ一つしない。

……ふむ。嘗ての罪は、余す事無く受け止める、とでも言うつもりだろうか?殊勝な事だ。

そんな事を考えながら、我々は機体を飛ばしていった。

おそらく後ろから背中を撃たれる事は無いとは思うが、少し心配な事はある。

ミハエルとネーナを先に行かせた後で、私は機体を翻し、離脱した。

……後方からなにやら途轍もない負のオーラと共に感じられる気まずい雰囲気を感じた瞬間に、「やはり言わなければ良かった」、と、後悔したのは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

「…という事があって今に至る」

 

『? 兄貴?』

 

「……………作戦上では問題ない。ただ、やり過ぎるなよ」

 

『あ、ああ、了解!!』

 

地上から機関銃と砲撃による攻撃が開始されるが、三機は別れて行動を開始する。

 

『おらおらぁ!!』

 

『当たれ当たれぇ!!』

 

……何故かネーナも参加している?O-01が聞いたら、また頭を抱えそうだ…まあ、今はそれどころではない。そう考えた私は、直ぐにネーナに指示を出した。

 

「そろそろ片をつける。ドッキングするぞ」

 

『『了解!!』』

 

それまで好き放題に暴れていた二人が私の後ろに回ってシステムを連結しようとする。

その時だった。

赤い光が三機の間を奔り、分断させる。

 

『な、なに!?』

 

『またエクシアかよ!?』

 

二人が困惑した声を出した。

……だが、あの地獄の修行なるシミュレーションで徹底的に鍛えられた私の目は、放たれたビーム粒子が一体どの様な物なのかをハッキリと捉えていた。

 

「いや、違う!今のは…!」

 

咄嗟にモニターに表示された敵の数を見る。

瞬間、私は驚愕に目を見開き、思わず声を荒げてしまった。

 

「十機の編隊だと!?」

 

ちょうど夜が明け、日の光がその正体を照らし出した。

全身が白でカラーリングされ、胸部からでた突起状のスラスターと思われる物体が、Vの字に肩の後ろまで伸びている。

顔は額に紫色の楕円型のクリスタル状のセンサーが埋め込まれ、顔のバツの字型のスリットからは紫に光る四つの目が覗き、中世の甲冑に身を包んだ騎士を連想させる。

そして、何より着目すべきは背中から放出されている赤い粒子と三角錐の出力機関…紛れもなくGNドライヴとGN粒子…なの、だが……

 

「これは…ガンダムでは、無い?……いや、データにあったスローネヴァラヌス?しかし、あれは此処までスマートでは……?」

 

『オイオイ兄貴、どういうこったよ!?』

 

『でもGN粒子は放出してるよ!?』

 

「あれもまた、ソレスタル…いや、そんな筈が無い…まさか!?」

 

私達が動揺する中、先頭を切る機体から、順次それらのMSがフォーメーションを組み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレスタルビーイング某所のアジト

 

「…………此処カラ再ビ三人称!!三人称!!」

 

「うおぉっ!?相棒いきなりどうした!?」

 

「最近出番無イ!!無イ~!!!!」

 

「あったろうが1話位前で!!」

 

「セリフ無イ!!セリフ無イ!!!」

 

「喧しいわ!!つーか今思ったけどもしかして今回俺らって今回出番これだけ!?」

 

「大正解!!大正解!!」

 

「ガッデム畜生!!!!」

 

「叫んでないではよ昼飯作らんかいダボスケェ!!!!」

 

ドゴァッ

 

「アボガドッ!?」

 

「ちょ、ヒリちゃん!?後頭部をスパナで殴打は真面目に死ねるよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頂部GN-X部隊…これより攻撃行動に移る。虎の子の10機だ。大破はさせるな…」

 

部下に指示を出しながら冷静さを保っていた彼であったが、内心では既に目の前の“獲物”に対してその獰猛な牙を突き立てんとしようとする気持ちが我慢の限界であった。

 

「かかれ!!」

 

人革連“大佐”セルゲイ・スミルノフの怒号とともに10機のMS……GN-Xから血の様に赤く光る光弾が発射される。

 

「くっ!!」

 

その威力に顔をしかめながらもネーナは全く別のことに驚いていた。

 

「何よ、こいつら!?こっちと互角!?」

 

今まで自分たちが相手にしてきたMSとは明らかに全てが違う。

多彩な動きにそれを生かしきれるスピード。

地獄の修行の敵機や実働部隊、そして自分達のガンダムには少々劣るが、流石にこれだけの数が相手だと実力の上がったネーナと言えども手古摺る物がある。

 

「なんという性能だ…!やはりこの機体…」

 

セルゲイはGNドライヴ搭載機の性能をかみしめながら腰のビームサーベルを抜いてドライへと斬りかかる。

 

「凄い!!」

 

「このぉ!!」

 

斬りかかられたネーナは同じ様にビームサーベルを展開して左手でそれを構えて、攻撃を受けた。

同時に一瞬の硬直を突いて、右手のビームガンで相手の胴体を狙うが、セルゲイは動じない。

 

「もはやガンダムなど、恐るるに足らん!!」

 

驚くべき事に、彼はまるでビームサーベルの刃を滑らせるようにして一気にスローネドライの真下へと回り込むと、そのまま左手をサーベルごとたたき切らんとサーベルを振るう。

 

「冗談!!」

 

しかしネーナもただ黙ってやられない。

直ぐにビームサーベルから手を離すと、即座にもう一本のサーベルを取り出してわざと相手の頭部スレスレを狙って横薙ぎに振るい、相手がそれを避けようとして少し下にずれた所で、肩の小型シールドに搭載されたGNミサイルを発射する。

しかし、

 

「嘘!?」

 

「でぇやあああぁぁぁぁぁ!!」

 

セルゲイの操るジンクスは事も無げにそれを避け、逆にドライの顔に回し蹴りをお見舞いした。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ネーナ!!」

 

地上へと落下していくドライの救援にツヴァイが向かおうとするが、

 

「貴様の相手はこの私だ!!」

 

「なめんじゃねぇ!!行け、ファング!!」

 

ツヴァイは自身を止めようとしたソーマのジンクスにファングを飛ばす。

中距離から嵐のように赤い光弾が降り注ぐが、ソーマは事も無げに避けていく。

 

「マジか!?O-01じゃあるまいし!!」

 

ミハエルは完全に回避されたことで動揺するが、ソーマはさらにファングにビームライフルによる反撃を行う。

数機のファングが破壊され、残ったファングは攻撃を続けるが一向に当たる気配がない。

 

「機体が私の反応速度についてくる!!……これが……これが……ガンダムの力!!」

 

ソーマは自身では後から同僚に言われるまで気づいていなかったのだが、この時、今までに味わった事の無い充足感という物に、子供のように喜んでいた。

何せ、今までは機体の性能限界によってできなかった自分の能力をフルに活かしきって戦うという事が出来ているのだ。

その特異な経歴上、どこか自信を兵器、あるいはそのパーツの一つとしか見ていない彼女にとって、自身の持ち得る最高のパフォーマンスを発揮する事によって、初めて友軍に対して…取り分け、自信を温かく迎えてくれたこの部隊の同僚と上司に貢献できているためか、今までに見せたこともないような笑顔を見せる。

 

「クソッたれがぁ!!」

 

一方の対するミハエルは怒り心頭である。何せO-01に負けてからは一人密かに二度と敗北したりしないと決めていたのだ。

借りを返そうとペダルを踏み込もうとするが、それを遮るかのようにヨハンから通信が入る。

 

『撤退するぞ。殿は私がする』

 

「兄貴!!」

 

『このままでは一方的に消耗するだけだ。反論は聞かん。行け!!』

 

よく見ればヨハンも一機のGN-Xに押され始めている。

 

「覚悟!!」

 

「甘い!!」

 

GN-Xによるビームサーベルが突き込まれる。

しかしヨハンは瞬間一気に相手の懐に入りながら、そのまま何も持っていない左腕で、相手の胴体にフックをかけた。

それを受けたGN-Xが若干ながらも体勢を崩す。

それを見たヨハンはすぐさま標的を変更。今度は今までミハエルが相手をしていた機体―――ソーマ・ピーリスの駆る機体へと襲い掛かっていく。

それに対しソーマは咄嗟に武器をライフルへと変更。

威嚇射撃をしながら、左手にビームサーベルを展開し、正面から突っ込む。

無論、周囲のGN-Xも彼女の援護に回り、アインに対して弾幕を張った。

しかしヨハンはそんな物がなんだと言わんばかりに機体をさらに加速させる。

対するソーマはまさかこの弾幕の中でそう出てくるとは思わず、無意識的にではあるが、一瞬機体を停止させる。

 

それが、勝敗を分けた。

 

流石にあの地獄の修行もとい“エクストリームガンダム地獄”を経験してきただけはある。

ヨハンはその一瞬の停止の隙を突き、一気に機体の出せる最大のスピードを叩き出すと、そのまま、まさかの“MSによる体当たり”を敢行した。

しかもGN粒子の質量軽減性質を反転させて、瞬間的にではあるが機体重量を基本重量の2倍にするというオマケ付きである。

そのおかげで体当たりを食らったソーマの機体は、咄嗟にシールドを構えて防御したとはいえ相殺し切れぬほどの凄まじい衝撃を受けて、まるでアメリカンクラッカーの球の如く、綺麗に吹っ飛んだ。

しかし、流石は超兵というべきか。体当たりを食らった瞬間、彼女は無意識にではあるがビームライフルを捨て、咄嗟にGN-Xの固定武装の一つでもあるGNクローを突き出すことに成功したのだ。

これには、まさかそんな物が付いていたとは思わないヨハンも面食らい、回避もできぬまま左肩にクローの直撃を許してしまう。

咄嗟に右手のビームライフルのグリップでGN-Xを殴り、何とか振り放すものの、コンソールを見てみれば受けたダメージがどれだけ酷い物であるか一目瞭然である。

それでも敵が攻撃の手を緩めてくれる訳ではない。

ヨハンはそんな現実に溜息を吐きながら、再び襲いかかってきた複数のGN-Xを手玉に取り始めた。

 

そんな一連の攻防を見ていたミハエルは、自身の胸に、初めて兄に対して上手く説明のできない澱みのような感情が芽生えたのを感じた。

そんな自分が気に入らず、舌打ちをしながらも、自分を追おうとしていた1機のジンクスを牽制しつつネーナの乗るドライを片腕に抱えながら撤退にかかる。

それを見たヨハンはそのまましばらくGN-X数機を相手に軽く立ち回ってから、良い塩梅になった所で左肩のシールド裏に付いていたスモークグレネード(GN粒子混込済み)を何発か射出して目くらましをしてから、悠々と上空へと退避していく。

 

「待てっ!!」

 

そんな中、なおも果敢に追おうとするのはソーマだ。何せ向こうが撤退をしているという事は、例え手玉に取られていたとしてもこちらが有意であったことには変わらないという思考が、彼女の中にはあったのだから。

しかし、そんな彼女をセルゲイはやんわりと制止した。

 

『少尉。追うな。今日はこの位で良い。少し“アレ”な展開ではあったが、あくまでもこれは世界にGN-Xの力を示す為の、言わばデモンストレーションなのだからな』

 

「しかし中佐!!」

 

『大佐だ…それに眼下の基地を見ろ』

 

「基地?」

 

ピーリスはセルゲイに言われた通り、眼下の基地に目を向ける。

そこには生き残った者たちが歓声とともにこちらに手を振っている。

 

「これは……何故………?皆、あれだけの被害を受けたというのに…?」

 

『……そういえば、少尉は初めて味わうんだったな』

 

ピーリスは不思議そうに首をかしげる。

そんな彼女の顔を見ながら、セルゲイはニヒルな笑みを浮かべつつ高らかに、されど静かにこう言った。

 

『これが……勝利の美酒というものだ……中々に良いものだろう?』

 

「勝利の……美酒…………」

 

敵を仕留めきれなかった。所か、自分を含めた一部の味方に至ってはたった1機に手玉に取られた。

味方の被害も甚大だ。

なのに、眼下の友軍である“皆”はその顔に眩いばかりの笑顔を浮かべ、歓声を上げながら自分たちを祝福、或いは称賛してくれている。

それを見ている内に、ソーマは胸の奥から込み上げてくる、暖かな“何か”を感じた。

彼女がそれをキチンと理解するのはまだ先の事になる。

兎も角、“超兵”ソーマ・ピーリスは、とりあえず今はその感情に素直に従い、満面の笑みを浮かべた。

それは正真正銘、まるで“花が咲いたかのような”美しく、可愛らしい笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

余談ではあるが、この時の彼女の微笑みはそれはそれは可愛らしかったらしく、この後直ぐの短い期間で秘密裏に彼女のファンクラブが結成されたという記録が、とあるパイロットの手記として後世に残っているが……ウソかホントかは、定かではない。




如何でしたでしょうか?

どうも雑炊です。

さて、原作においては沙慈君にとって此処からとっても欝展開が始まるはずだったのですが、本作においてはルイスさんとは疎遠にする予定無しなのでまだ大丈夫かな……それでも人生ハードモード突入は確定ですが。

で、トレミー組VSトリニティ勃発。アッサリと終了しましたが。
ここら辺の後始末はまた次回に持ち越しです。

で、VS GN-Xはこんなかんじに。
納得行かない人も居るかと思いますが、まあ、ヨハンが活躍しているのにはワケがあるのだと解釈してやってください。


で、一番最後の蛇足は……一応2期にやるあるイベントの布線です。憶えておかなくても結構ですが。

では、また次回


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閑話その1というか本当の意味で本編には全く影響のない話Part1
キリも良くなってきたし、そろそろ俺らの設定でも紹介しようか(アムロ) いや、遅すぎないかい?(師匠)


題名通りです。
本作におけるオリキャラ及び改変がかなり目立つ人物+オリジナルMSの設定をここら辺で大放出しようというお話です。
オリジナル(にじファン時代及びPixivの物)との違いは裏話や一部のプロフィの追加となっております。

因みにネタバレも少々。


因みにかなりアレな話ですが、今回の設定話に『ザフキエル』はまだ入っておりません。
ご了承ください。

2013年9月7日
ザフキエルの項を追加いたしました。
が、この追加の時点で最新話である二十二話にて出てきた装備の説明も都合上入っておりますのでご了承下さい。

では設定をどうぞ。


アムロ・レイ

 

イメージCV:宮野 真守

 

所属:ソレスタルビーイング(正式な物ではない為、極一部(身内とも言う)の人間にはその事が最重要機密扱いで知らされており、それ以外の人間には知られていないか偽名、若しくは一端の最下級エージェントとして知られている)

性別:男

年齢:16歳(?)

生年月日:西暦2291年5月18日(?)

血液型:A

身長:162cm

体重:65kg

本名:不明

 

パーソナルカラー:白だったり灰色だったり黒だったり

 

搭乗機:Oガンダム改(通称Oガンダム)

 

言わずと知れた本作主人公。

一応Oガンダムのマイスターではあるが正式な物ではない。(正式な記録上ではOガンダムのマイスターは偽名の【O-01】)

基本的に前向きで優しく、おおらか。ながらも色々と苦労している為ちょくちょく愚痴や弱音を吐く事もしばしば。

ただし非人道的な事をしたり、理不尽な理由で他人を虐げる人に対してはかなり冷酷になる事もしばしば。

今日も居候の3人と義理の家族であるイノベイド達、そして実質保護者の師匠からの無茶振りやご飯のリクエストに答えつつ、キッチリと組織の裏方の仕事に勤しむ苦労人。

最近の口癖は『休みたい』。

意外と子供好き。味覚は別に何処もおかしくはない。

なお、背が小さい事を指摘されると本気で切れかける。

隠れたメロン狂でありスイカ狂であり果物狂である。

好きな犬はフレンチブルドッグ。

 

ソレスタルビーイングの理念には然程共感しておらず、精々拾ってくれた上に此処まで育ててくれたという恩で動いているに過ぎない。

その為、他の正規メンバーのように明確な紛争根絶に対しての理由や目的がハッキリしない。

全てがその場凌ぎの中身のない出任せ。

しかし本人はその事を指摘されても屁とも思わない。

 

メンタル面に関しては師匠やその他の皆さんからの所謂“地獄の特訓(後に“地獄の修行”→“エクストリーム・ガンダム地獄”と変化)”のお蔭でかなりどっしりとしている。

言い換えると、“面の皮が分厚い”、“心臓に毛が生えている”といわれるレベル。

ただし補正なのか何なのかは不明だが、ギャグパートではただの五月蠅い突っ込み役。或いは性質の悪いボケ役に徹する事多し。

肉体的にはそこそこ鍛えてあり、フル装備でフルマラソンして息がギリギリ切れない位のスタミナと、戦闘用イノベイド並の体術ができる程度の身体能力は備えている。(師匠仕込)

 

体細胞が段々と正体不明の物に置き換わってきているらしいが真相は不明。というか本人が気付いていない。

おそらく全部変わっても永久に気付かない可能性が高い。

 

顔は中の上。もしくは中の中。黒髪黒目と黄色人種の肌というアジア系特有の見た目なのに何故か顔立ちがハッキリしていたり。

髪はぼさぼさの伸び放題なので、定期的に義理の姉に切って貰っている。ただしテキトーに切られる為、ヘアースタイルは安定しない。

普段着は基本ジーパンにシャツの上からフード付きのトレーナーを着て、さらにその上からMA1という出で立ちだが、季節と時期によってちょくちょく変わる。

 

 

キャラクター裏話:

 

見た目は兎も角、中身は完全に作者と作者の両親の性格を足して2で割った後何かを+1したキャラ。

因みに最初は有り勝ちな転生系だったが、プロローグを書き始めて直ぐにキャラが暴走。

最終的にそんな初期設定は最初から無かった事となった。

なお、憑依でもない。

 

 

 

 

ハロ

 

イメージCV:花澤香菜

 

所属:ソレスタルビーイング

 

言わずと知れたマスコット。実は本作最高のチートメカにして最強候補の一体。

メインカラーは薄い黄緑。

というか声以外は基本初代『ガンダム』のハロ。

ただし中身は完璧にブラックボックス。

製作者である筈の師匠とアムロも首を傾げる超大量の謎機能と超ハイスペックな自己学習型AIと、性能は通常のハロと一線を隔す。

が、当の本人はその機能の殆どを様々なジャンルのゲームや漫画、ラノベや果ては同人誌に至るまで、娯楽という娯楽を詰め込み保管する為だけに使っている。

というかもはやオタク。しかも重度の。

最近味覚センサーを実装したとか何とか……

 

 

キャラクター裏話:

 

本作におけるギャグ担当であり隠れたキーキャラ。

CVは完全に思い付き。(というか初代の物との区別付の為)

性格も完全にノリ。

元々はハロハンマーだのGジェネ版ハロを出す為の布石だったのだが何がどうしてこうなった……!?

 

 

ユリ・花園

 

イメージCV:伊藤静

 

所属:ソレスタルビーイング

性別:女

年齢:18歳

身長:175cm

体重:48kg

???:E

生年月日:西暦2289年8月15日

血液型:AB型

本名:???

 

パーソナルカラー:赤

 

*詳しい3サイズはトレミーの皆さんによって検閲されてしまいました。

 

花園と書いて『ファーイェン』と読みます。

見た目は日系とアジア系のあいのこみたいな感じ。ただし肌が白人に近い。

性格は温厚だが少し頑固でしかも面倒見が良いという性格ゆえに、トレミークルーの酒の席等でのしょうもないトラブルの収集に当たるのは何時も彼女である。

解り易く言うとトレミークルー版アムロ。

ただ、戦闘時にはちょっと興奮してしまうのか平時よりも荒っぽくなったりする点に関してだけはアムロとは違う。

一応ヒロインその2。影が薄いけどね!!

何気にフェルトや刹那、果てはティエリアといった人付き合いが苦手だったり難儀だったりするメンバーと唯一普通に会話ができる存在。

顔は普通に美人。ただし、雰囲気が落ち着いていたり未成年とは思えないプロポーションをしているため、実年齢よりも上に見られる事がしばしば……本人もそれを気にしている。

普段着はジーパンに長袖シャツの上からジージャンとボーイッシュだが、スタイルがかなりはっきりと出るために、最近変えようか迷っているらしい。

 

ソレスタルビーイングに参加した理由は現在不明。ただし、元孤児だったらしい。何時、何処で、如何いった経緯で孤児になったのかは、その内明らかになる…かも。

髪型はポニーテール。うなじも綺麗です。

 

 

キャラクター裏話:

 

モデルは犬○叉の主人公の元カノ。あの最後は不覚にも泣けたよ姉さん……

ところが書いてみればこんなキャラに。というかあの人モデルにした時点で色んな意味でダメだろJK…!元ネタのあの人アレで14、5なんだぜ…信じられるか……?

 

私服の格好は某超能力と魔術の跋扈する学園都市が舞台の物語の聖人からインスピレーションを受けました。

目指した物はカッコイイ女の人。

別に刀とかは持ってませんけどね。

 

というか元々はメインヒロインにする気無しのオリキャラ。まあ、結局書いてる内にこの人も勝手に動き出してあんな感じに。

 

 

 

(ここから原作キャラだけど、改変されている為一応)

 

刹那・F・セイエイ

 

イメージCV:水樹奈々

 

所属:KPSA→ソレスタルビーイング

性別:『女』(此処重要)

年齢:16歳

身長:162cm

体重:43kg

???:D

血液型:A型

生年月日:西暦2291年4月7日

本名:ソラン・イブラヒム

 

イメージカラー:青

 

*詳しい3サイズはトレミーの皆さんによって検閲されてしまいました。

 

搭乗機:ガンダムエクシア

 

作者の趣味とその他色々な人達の思惑によって何故かTSしてしまった原作主人公。

腹ペコ設定が追加されていたりともはや作者によってやりたい放題。

一応ヒロインその1。

基本的な設定は原作と変わらず。

ただし、KPSA時代にどうやら恋人が居たらしい。(ただし相手はそんな気は無かったと思われる)

ロックオンのお父さんフラグをぶっ立てた張本人。

この状態でドラマCD編なんかやったら乙女座さんは完璧にただの変態である。

 

ガンダム馬鹿。

ただしどうやら彼女にとっての『ガンダム』である条件はなんだかハードルが低そうである…

 

因みに描写されてはいないが、実はかなり語学力が高く、英語、日本語、フランス語、アラビア語、ドイツ語、韓国語、インド語、ラテン語、エジプト語をパーフェクトに使いこなせる。

それ以外の学力もかなり高め。

ただし世間一般の常識や流行等にはかなり疎い。

あと顔もかなり整っており美少女。

スタイルもフェルト並みにはある。

つまりバリボー。

将来が楽しみである。

 

 

キャラクター裏話:

 

この子が登場する原因となったのは最初の移転先で見たTS刹那のイラスト。

別に作者は腐ってはいなかったがあそこにあったイラストの内の一つを見た時に衝撃が走りましたよ。

可愛すぎましたね。

 

……と、いうのは原因の一つで、そもそもの元凶は作者の妹。

よりにもよって彼女は最初に公開されたOOのPVを見た瞬間にこんな事を仰りました。

 

妹「あれ?新しいガンダムって主人公の内の二人が女の子なんだ?」

 

作者「は?」

 

妹「いや、髪が紫のと、最後に出てきた浅黒いの」

 

作者「……はい?」

 

そこから大論争が勃発したのがこのTS刹那の原因。

まあ、ドラマCDの病気っぷり(主に刹那が受けばっかだった)もありますが。

なお、食いしん坊キャラは何となくです。

CVはこの人がシックリ来るかなという理由から。(MGPWとかPSpo2iやってたというのもありますが)

 

因みに何気アムロと背丈が一緒に設定したので、原作刹那よりも小さいです。

その内原作の刹那と対談させてみようかな…?

 

 

師匠(リボンズ・アルマーク)

 

CV:蒼月昇(という名の古谷徹)

 

所属:ソレスタルビーイング親玉兼アレハンドロ・コーナーお抱えの召使

性別:中性

年齢:???

誕生日:???

血液型:???

身長:175cm

体重:49kg

 

イメージカラー:黄緑かトリコロール(白・赤・黄色或いは白・灰色・黄色)

 

本作一番改変されたかも知れない人。最強。色んな意味で最強。

ゲームの腕はアムロとどっこいどっこいだが、それ以外は理不尽なまでの超高スペック。つーかチート。

その事もあって自身の能力に対しては何処までも絶対の自信を持っている点については原作と変わらず。まあ、仕方ないっちゃ仕方ない。勝てる人本当にいないし。

しかしアムロを拾った影響か、原作よりも人間を蔑んではおらず、性根もだいぶ丸い性格に。しかし超ドS 。

 

身体能力もイノベイドであるため結構高いが、彼の特筆すべき部分は何よりもそのネタ体質。

基本的に下手すればギャグパートでなくても中の人ネタで色々とできる。

スーパーロボット大好き&隠れガンダム厨。下手をすると刹那以上にガンダム馬鹿。

 

というかこの師匠は原作のリボンズとガチで戦ったらまず間違いなく完勝できる。間違いなく。Oガンダムで理不尽なまでにリボーンズガンダムをボコれる。確実に。

たぶん悪霊とかも殴って除霊出来る。宇宙人だって滅ぼせる。魔法使い?レベルを上げて物理で殴ればいい。

純粋種?知らん何それ美味しいの?

 

アムロの精神にゴリゴリとダメージを与えていく原因第一位。

一応ラスボスの予定。

ただ、戦う理由は確実に殺伐としたシリアスな内容ではない予定。

 

現在、原作の様にイオリアの計画に則った上で自身の計画『リボンズ計画』とでも言うべき物を遂行する為の下準備をしている所だが、ちょくちょく飽きてアムロにちょっかいを出しに来る事が多くなってきている。

と言うか、もしかするとこの師匠、もはや計画の事など眼中に無いのかもしれない。

己が楽しめればそれで良し。そんな自分に対抗できて、尚且つ敵対する者がいればなお良し。みたいな感じへと段々シフト中。

 

なお、快楽主義者ではない。

 

 

キャラクター裏話:

 

名前の欄がおかしいのは仕様です。

そもそもの原因は…………何でしょう?作者にも分かりません。

アムロの次に暴走した割にはアムロよりも勝手に動いてます。

というか、むしろコイツを少しでも出そうとした瞬間、出しても意味が無い場面だろうと勝手に出張ってきます。

 

強さが半端ではないのは一応ラスボスだからです。

あと師匠だから。何気にガンダムシリーズで師匠呼ばわりされてるのは全部が全部強いですからね。

 

ある意味では本作品中最も『吐き気を催す邪悪』。

ただ、これはアムロにも当て嵌ります。

何せこの二人は何故か描写すると良く似てしまうので。

 

また、ある意味では作者の抱くコンプレックスが最も反映されているキャラでもあります。

原作や、外伝漫画で彼が見せた“弱い部分”は作者も共感できる部分があるので。

 

言うなれば、アムロは『理想(目指したい物)と現実(自分が置かれている状況)』の体現。対するリボンズは『理想(どんなに努力しても辿り着けない物)と現実(目を背けられない暗い部分)』の体現と言えます。

 

まあ、二人とも勝手に動いてる間はそんな事微塵も感じさせないのですけれども。

 

 

作中のオリMS

 

Oガンダム改

 

型式番号:GN-000/realive

頭頂高:18.0m

本体重量:53.4t

動力機関:GNドライヴ(詳細不明タイプ)

所属:ソレスタルビーイング(非公式)

 

武装:

・ビームガン

・ビームサーベル

・ガンダムシールド

・GNフェザー

・頭部GNバルカン

・GNABCマント

・ステルスシステム

・時と場合でランダムに変わる実験兵器の数々

調整後

・ガンビット×6

 

初の太陽炉搭載MSにして、後の『ガンダム』を含めた全ての太陽炉搭載MSの原点となった機体。

 

……を、リボンズがアムロ用に改修を施した機体。

 

ぶっちゃけマントを被って塗装が白基調のトリコロールになった以外に外見上の差異は元々の見た目と大差無い。

簡単に言うとマント引っかぶって色が1stガンダムと同じになっただけ。

ただし中身はかなり手を加えられており、総合的な性能で言えばIガンダムと同等かそれに少し及ばないくらいの物を有する。

武装は元の物と然程大差無し。ただし全体的に性能が向上されており、出力もエクシアの物と同等レベルまで上げられている。

ただし操作系統にもかなり手が加えられ、結果反応や出力調整がピーキーになっており、ハッキリ言って慣れているアムロ以外の人間が乗ると癖があり過ぎる為、本当に腕のある人間以外はまともに動かす事が不可能。

 

元々は“フェレシュテ”が保管する手筈だったのだが、リボンズの手引きによってこっそりと機体だけは極秘に別の場所へと移され、改修されていた。

そして彼の思い付きによって生み出される、数々の実験装備のテストベッドとして、今日もアムロとハロと共に世界を走り回る事となった。

 

*GNABCマント:

偽装の意味も兼ねて基本アムロの搭乗機となる機体に装備される特殊外套の事。

見た目はただの布だが実際は金属繊維を使っているためかなり重く、同時に丈夫。

GN粒子を特殊コーティングする事で実弾,ビームの両方に対応可能。

また、アンチ・ビームコートという特殊な皮膜を塗布している為に、ビーム兵器に対してはヴァーチェの展開するGNフィールド級の防御力を発揮する事が可能。

でも高い為に量産はし難いらしい。(何がとは言わないが)

 

*ステルスシステム:

基本的に全てのガンダムには搭載されているが、Oガンダムの場合、起動中でもシステムを動作させる事が可能。

また、GNABCマント装備時ならばこのシステムを応用して一種の光学的擬態(要はマント表面に簡素なホログラムを映す事)も可能。

なんだかんだで意外と役立つシステム。

要はステルス迷彩である。

 

◆フルアーマー装備

 

型式番号:GN-000/realive/FA

頭頂高:18.0m

本体重量:99.9t(装備重量/36.5t)

 

武装:

 

・GNフェザー

・ビームサーベル兼用二連ビームライフル

・実弾式ショルダーキャノン

・GNシールド

・頭部GNバルカン

・胸部GNミサイルポッド

・ビームジャベリン兼用サーベル×4(背部・左腕シールド裏・腰部)

・GNABCマント

・ステルスシステム

 

リボンズの思い付きと、アムロの何気ない一言から生み出されたOガンダムの強化パーツ装備形態。

……なのだがその実態は第2、3世代機の予備パーツを寄せ集めてそれっぽくしただけの、所謂“ネタ機体”。

一応性能低下を防ぐ為に様々な工夫が為されているが……結局、元の状態よりも若干鈍足になった。スラスター増設で其処まで遜色が無い様に見せかけてはいるが、全体的に3%程推力が落ちている。

が、そこらへんは腕でカバーするのが一人前というリボンズの一言でモラリアにて実戦投入が確定した。

何故か射撃兵器よりも格闘兵器が多く装備されていたりする。

簡単に説明すると、本家フルアーマーガンダム用の追加パーツをOガンダムに取っ付けただけ。色は砂色。

 

◆GNセファー装備

 

文字通りGNセファーを取り付けただけ。

武装面も出力30%上昇+GNプロトビット×2使用可能になっただけ。

 

◆パーフェクト装備

 

型式番号:GN-000/realive/PF

頭頂高:18.5m(ヘッドギアあり)

本体重量:75.6t(装備重量/22.2t)

 

武装:

 

・GNフェザー

・ビームサーベル兼用ダブルビームライフル

・実弾・ビーム切り換え式ショルダーキャノン

・GNシールド

・頭部GNバルカン

・ビームジャベリン兼用サーベル×9(背部バックパック・左腕シールド裏)

・機雷

・胸部ワイヤーランチャー×2

・シールド部外付け式マルチ・ランチャー

・ステルスシステム

・ガンビット×6

[・GNピストル改(腰部アーマーにマウント)]

[・GNABCマント(増加装甲内部に収納)]

 

これまで取られたデータを基に、Oガンダムを完全にアムロ・リボンズ専用機として調整。

それでも追い付かない部分を追加装備によって補強した、言うなればOガンダムの最終形態。

フルアーマーの教訓を生かし、余計な装備をできるだけ削ぎ落としたと共に、脚部やバックパックなどにブースターを増設する事で、未装備時よりも機動性などは向上している。

更にヘッドギアによる通信、索敵、照準能力も向上されている。

 

*GNバースト:

元々微弱なGNフィールドを張る事は出来たが、PF装備時のみヴァーチェレベルの物を張る事が可能。

更にその際にGNフェザーを展開する事で、張られていたフィールドと展開されたフェザーが反発。最終的にフィールドは決壊し、超高密度のGN粒子の壁が周囲にばらまかれる。

ただし、この弾け飛んだGNフィールドを構成する粒子の状態はかなり不安定になっており、吸い込んだ生物に重大な遺伝子異常を引き起こさせ、最悪の場合即死させられる。

元々はプルトーネの事故からアイデアを得た装備なため、周囲の安全は保障されていない。

ただ、吸い込む前に飛ばされたフィールドにぶち当たって木端微塵になるのが関の山だが。

 

 

 

MS裏話:

 

最初から主人公になる事が決まっていた機体です。

原初なのにあんまり出番無いのが勿体無いという理由もありますが。

 

ぶっちゃけた話が作者が一番好きな機体だからというのもありますけど。

 

 

 

 

 

ガンダムスローネ・ザフキエル

 

 

型式番号:GNW-00P・XX

頭頂高:18.4m

本体重量:67.1t

動力機関:GNドライヴ(詳細不明タイプ)/GNドライブ[τ](ミハエル搭乗時)

所属:ソレスタルビーイング(非公式)

 

武装:

 

・専用GNビームライフル

・GNビームサーベル×2

・GNシールド

・頭部GNバルカン

・GNABCマント(ミハエル搭乗時には無し)

 

 

劇中師匠が発言している通り、“ガンダムスローネ”のプロトタイプをアムロの技量に追いつける様、大幅な改修を行った機体であり、性能は下手をすれば第3世代並の性能の機体に対し一方的な展開を作り出せる程度の性能を有する。

結構高そうと思ってはいけない。あくまでもそれは中の人間の腕によるのだから。

プロトタイプの名に恥じぬ不完全っぷりであり、改修されているはずなのにケーブルが出ていないだけでエネルギーラインは装甲上に剥き出しになっている。

 

とはいえ、それが何だと言わんばかりの柔軟性と耐久性を誇っており、アムロの無茶苦茶な動かし方(空中から吶喊・空中後方一回転受身・肉弾戦)に余裕で耐えうる。

劇中でこそGNドライブとのマッチング不調によりあまり良いとこはなかったが、本来はIガンダムに負けず劣らずの高性能機なのだ。

 

各部にスローネの基本素体同様ハードポイントが有り、アイン・ツヴァイ・ドライ3機と同様の専用パーツを取り付ける事が可能。

まさに『デカイ組み換え玩具ロボ』。

 

指揮官機として調整が成されており、基本の状態での索敵・通信能力は全スローネ中最高レベル。

…とはいえ、無論限界はある訳で、ハロ、或いはヴェーダのサポート無しではその効果を最大限発揮は不可能である。

 

 

◆アウダークス装備:

 

型式番号:GNW-00P・XX/audax

頭頂高:18.4m

本体重量:148.6t(装備重量/81.5t)

 

武装:

 

・GNロングバスターライフル

・GNバスターソード×2(内部にGNキャノン内蔵)

・GNビームサーベル×2

・GNミサイルコンテナ

・GNファングコンテナ

・GNステルスフィールド

・GNハンドガン×2(内部にアンカーガン搭載)

 

本作におけるザフキエルの最終決戦装備である。

スローネアイン・ツヴァイ・ドライ各機の特徴となる主なパーツとトゥルブレンツユニットを混ぜたような見た目であり、事実一部の武装は混ざっている。

過剰とも言える火力と防御機能、搭載武装の数に比例して粒子消費量も大きいが、それは元々この武装が不要となった部分を片っ端からパージしていく言わば“使い捨て”を主眼においた装備の為である。

その為、各強化パーツそれぞれに大型の粒子カートリッジと電力パックがサブパックとして搭載されており、それらの残量が全て空になった時にパーツが勝手にパージされるというシステムになっている。

 

んが、劇中ではミハエル自身がワザとサーシェス戦の為にこのシステムを封印。

結果、GNドライブ[τ]の電力及び粒子消費量は凄まじい事になっている。

 

無人支援機としての機能は全排除されているが、やろうと思えば出来ない事はない。

ただ、アムロのハロやヴェーダの様なチートレベルの処理演算能力がなければ不可能だが。(あくまでもその場合は無理矢理動かす事を前提とする為。)

 

なお、読みはaudax。意味はラテン語で『無謀』。

師匠がこれを扱うミハエルに対して皮肉で付けた名前だが、本人は意外と気に入っているようだ。

…おそらく意味を良く解っていないのはご愛嬌。

 

因みにアムロと師匠がこれを使う場合は基本的に採算を考えない大暴れになる事は確実である。

そもそも、使い捨てという思考の時点で大暴れを前提としている事が丸分かりである。

 

 

 

最終的に本装備の戦闘データは大元のトゥルブレンツユニット共々アルケーのヤークト装備の礎となっている。

 

*巡航形態変形機能:

 

基本的にプロセスはトゥルブレンツと同じだが、両肩のGNバスターソードが展開しGNキャノンとなる為、地上における空力性能は若干低下している。

代わりに火力がかなり高くなっている分、殲滅能力が向上している。

元となっているユニットより9.4tも重いが、その分スラスターが増設されている為機動力は(無理矢理ではあるが)向上している。

ただ、その分小回りは利き難い。

 

 

*オーバーブースト:

 

巡航形態に変形できるこの機体ならではのシステムである。

脚部のパーツ内のサブパックを全て使い切る事となるが、一時的に地上から衛星軌道上まで一気に飛び出せるほどの推力を約3分近く生み出す事が可能となる。

無論それに見合った加速も約束される。

ただし、その分直線的な動きしかできなくなり、方向転換が不可能。

言ってしまえば、ロケットとなってしまう。

 

 

 

 

MS裏話:

乗り換えも一度はやっておこうかという猿知恵と、元デザが意外にも個人的にツボだったことから登場が決まった機体です。

フル装備は頑張ればプラモでも再現できます。トゥルブレンツ系統が無いけど。

色は元デザの見た目が完全に正統派主人公機だったためですかね。元々主人公機のコンペで出されていた物だったので。

 

結局良いとこ無しで終わりそうだったのでミハエルの乗機として再登場しましたが、実は当初の予定には全くそんな展開はありませんでした。

しかし、折角出したのにそれはどうかと思い、ああなった次第でございます。

なお、こっちではあまり描写されていませんが、意外と見た目はマッシブです。

 

 

 

 

ガンダムサキエル

 

型式番号:GN-006

頭頂高:18.7m

本体重量:54.4t

動力機関:GNドライヴ

所属:ソレスタルビーイング

 

武装:

・GNビームライフル

・GNビームサーベル

・GNシールドアロー

・GNシールド(ナドレの物を流用)

・GNビームナギナタ

 

完全オリジナルガンダム第1弾

第3世代では珍しい特化した能力の無い万能型。

太陽炉は木星から送られてきた物の一つ。(本作の世界では木星で作られた太陽炉は合計6つという設定の元こうなっています)

ただしマイスターの戦闘スタイルのお蔭でもっぱら接近戦を挑む事が多い。ユリさん自重。

 

万能型というだけあって全体的にバランスは良い。しかし実はカタログスペックだけならとある経緯から第3世代中最も戦闘能力が高い。

各武装の性能もかなり高めで、本来であれば他のガンダムに遥かに勝る戦果を叩き出せた“筈”だったのだが……?

 

なお、これの前身に当たる第2世代ガンダムはキチンと存在している。

しかし、どういうコンセプトで作られたのか、何時、誰が、何処で設計し、組み立て、テストしたのか、最終的にはどうなったのかという情報が一切開示されておらず、第2世代の開発に参加していたイアン・ヴァスティやジョイス・モレノすら、サキエルトレミーに運び込まれるまではその機体の存在を知らなかった。

 

武装面に関しては近、中、遠距離どのレンジでも武装を変更する事で対応可能と、中々に優秀。

…ただし、決定打に欠けてしまうために、現在は器用貧乏の感が否めない……

 

 

 

MS裏話:

 

ユリを出すにあたってはどんな機体がいいかと考えた結果、「そういえばそんなの前に作ってたな」という思い付きから登場した機体です。

色はユリのモデルとなったキャラのイメージカラーから。

武器は弓以外適当に。あと本機の初期設定から引っ張っている部分も多々あります。

 

見た目はGガンのライジングガンダムの胸に大型レンズとGNドライブ取り付けてもっと細身にして流線を増やした感じ。

GNシールドアローはキュリオスのシールドを大きくして、展開時にクローではなく大型の弓矢っぽく変形できるようにしたイメージ。

ビームライフルは諸にプロトタイプガンダムの物の本体に内蔵型の四角いタイプのスコープを取っ付けた物。

ナギナタは壽屋さんから出てる武器セットのナギナタの先っちょを、同シリーズのビームサーベルにした物。

 

元ネタは実はライジングガンダムではなく雑炊が嘗て暇潰しにHGシリーズプラモのジャンクパーツを組み合わせて作ったオリジナルガンダム。

GNシールドアローもキュリオスのキットのシールドが弓の様な形にできたことが元ネタ。

しかしその結果、移転前の場所では『もうライジングガンダム以外に見えない』『何このGガン』とか言われ続けた為に結局こうなりました。

因みにその元ネタとなったキットのベースはガンダムアストレイレッドフレームとキュリオスとエクシア。

現在は知り合いの子に誕生日プレゼントとして渡してしまった為、未所持です。

 

 

 

 

以下ネタばれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サキエルの正体は実は師匠が自身とアムロ用に用意しようとしていた専用機の試作品。

武器にナギナタと弓があったり、どう考えても初期装備で普通に戦えるレベルだったのはこれが原因。

もしもユリまたは刹那が負傷、もしくはマイスターとして不完全だった場合には合格した片方にエクシアを任せ、残った本機はサポート用としてアムロに譲渡される筈だった。

ところが二人とも合格してしまった為にアムロの機体とはならなくなり、結果としてこの事がOガンダムを再強化する切欠となった。

 

つまり本機がアムロに渡されていた場合、Oガンダムは原作通りに出番無しとなる筈だったのだ!

 

 

因みに、最初期の状態ではカタログスペックが色々とイカレており、ユリの前に操縦テストしたラッセが使ったところ、尋常ではないスピードと反応性で動きまくった為に彼に全治1ヶ月半程度の重傷を負わせてしまう。

その後、イアンの手によってリミッターがかけられ、現在のように他の第3世代と然程変わらない性能となった。

……トレミーのガチムチ担当のラッセが怪我するほどのスペックって、師匠ならばともかく、確実にアムロが乗ったら無事じゃ済まなかったのではとかいってはいけない。

 

因みにプロトタイプに当たる機体とは実はOガンダムその物。

データ収集は基本的にアムロ以外のイノベイド達が彼の目を盗んで(というか彼が地獄の修行(当時は地獄の特訓)をしている最中)Oガンダムを持ち出し、こっそりと行われていた。

ただし、地獄の修行によって得られたデータもかなり反映されており、操作系統にも予めアムロの癖が組み込まれたりしている為、実質アムロがテスターを勤めていたといっても過言ではない。

 

以下、サキエルがアムロに渡されたIFの状態での設定

 

 

 

ガンダムアライブ

 

 

型式番号:GN-000R/A

頭頂高:18.8m

本体重量:54.4t

動力機関:GNドライヴ(詳細不明タイプ)

所属:ソレスタルビーイング(非公式)

 

武装:

・ビームガン

・GNビームライフル

・GNビームサーベル×2

・ガンダムシールド

・GNフェザー

・頭部GNバルカン

・GNABCマント

・時と場合でランダムに変わる実験兵器の数々(ただし1つのみ)

 

アムロに譲渡され仮初の名前である天使の名から、“生きている”を意味する“alive”へと名を改め、さらに外装も全体的に取り替えられてよりOガンダムの意匠を残す物へと変更されたサキエル。

因みにカラーリングも白基調のトリコロールとなった。

見た目は手足が太くなり、顔にスリットが入り、メインの体色が胴体以外ほぼ全部白になって、所々のパーツがないエクシア。

明らかにサキエルから変わり過ぎており、ぶっちゃけた話フレーム以外総取っ替えしていると言っても過言ではない。

武装はOガンダムから引継ぎの様な形になっているが、これはアムロ自身が自分の使い易い物が武装としてベストという意見を出したため。

 

性能は全第3世代機の中でもダントツで高い。ただしいっそ気が狂っていると思えるほどに無茶苦茶な設定をされているので、結果としてアムロは今度は自身の身体を鍛えるという名目で、新たなる地獄の修行を師匠から受ける事に。

因みに師匠は平然とこの機体を乗りこなしてみせる。何故?それは師匠だからだ。

 

操作系統から何から何までもアムロ、もしくは師匠が乗る事を前提として再調整されている為に彼らが乗れば無類の強さを発揮する事が可能となっている。

ただしOガンダムと比べて機体に拡張性が段違いに悪く、更には他の第3世代機と違って微弱なGNフィールドすら張れないために大気圏再突入が不可能。

更に更に武装もその殆どが高い出力を誇っている為にエネルギー切れを起こし易く、ちょくちょく武器内のGNコンデンサに粒子を再チャージしなければならなかったり、極めつけは本機以外の全ての機体にある筈の簡易ステルスシステムがサキエルだった時と違い非搭載だったりと、一歩間違えれば性能が高いだけの欠陥品と揶揄されてもなんらおかしくは無い仕様になってしまった。

一応GNコンデンサは全て大容量の物に取り替えられているが、どうも武器の出力がそれを上回っている臭い。

アムロ曰く、『絶対にCBの本職の一つの隠密行動には適さない機体』。

……何一つ訂正のしようが無い。

 

 

 

MS裏話:

 

 

ガンダムアライブはわかる人にはわかるガンダム漫画のタイトルをそのまま引っ張って来てます。

一応原作の「存在し続ける事に意味がある」というセリフと、刹那の「生きているんだ」というセリフにかけてもいます。

見た目は元々OとIを混ぜたらこんな感じかなという物を想定していましたが、思い付きでコンペ版のエクシア(顔にスリット有り)に変更しました。

(わからない人は劇場版OOの設定資料集:メカ編か、かつてのHobbyJapanに作例があったのでお探し下さい)

 

性能がイカレている部分は、元々1期編のラスボスがコレだったという本作品のボツ設定から。

 

 




と、いう訳で設定はこれにて。
如何でしたでしょうか?

まだこれらは1期序盤~中盤の一部のみの資料なのでその内第2弾とか2期編とかやろうかなと画策してはいます。

ただ、問題なのは次に載せるのは誰にしようかということ。

と、いう訳で『コイツ改変されてんじゃねえか?』とか『こいつのこの小説における設定ってどうなってんの?』というご要望があれば、バシバシ感想に書き込んでください。
直接メッセージを送っていただけても可です。
全部(と言っても社会人という立場上限界はありますが)対応させて頂きます。

と、言うわけで今回はここまで。
では、また次回。


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自分自身の本音といい加減真正面から向かい合おうと思った瞬間の話
十八話―――マイスターズは和解して俺は出撃。後に続くは悲劇のみ。


いよいよ佳境も佳境、大佳境です。

今回は題名通り、前回のヨハンによるネタバラシの後、刹那達はどうなったのか。
そして、ヨハンの最後の見せ場をお送りいたします。


それでは、本編をどうぞ。


トリニティ3兄妹がトレミーのマイスター達と交戦してから数時間後・つまりGN-X部隊と戦闘するちょっと前

 

太平洋の何処かの孤島

 

赤道に程近い筈なのに、そこまで空気に不快な湿気などを感じられないという珍しいその森の一角で刹那とロックオンは向かい合っていた。

周りには二人から少し離れてアレルヤとユリが、そして二人の間にある木に寄りかかるティエリアが事の成り行きを見守って(一人は静観だが)いた。

 

「…刹那、先ずはこれだけハッキリとさせろ…本当なのか?お前が当時、KPSAに所属していたっていうのは?」

 

「……ああ。そうだ」

 

いつもと口調だけは変わらずとも明らかに暗い雰囲気を纏っているロックオンの質問が刹那に向けられる。

対して彼女は、それに対して一拍だけ間を置いてから、一切言い淀むこと無く答えた。

 

「…お前は、当時のクルジス共和国出身か?」

 

「…ああ」

 

再びの質問。

今度はそれに一瞬何かを堪える様な素振りを見せてから、彼女は答えた。

 

(…ゲリラの……少年兵……か…)

 

ティエリアは目を細めて刹那とロックオンを交互に見る。

経緯やその他諸々の違いはどうあれ、突き詰めた事を言ってしまえば両者とも戦争によって人生を狂わされた存在。

其処に明確な区切りを与えている物は加害者と被害者という立場の違いのみ。

故に本質的な物は、両者共に変わりは無い。

 

「…ロックオン、トリニティの言っていたことは……」

 

刹那が口を開く。それに対して、彼はこれ以上無いほどに苦々しい物を吐き出す事を我慢するような顔になってから答えた。

 

「…ああ、事実だよ。俺の両親と妹はKPSAのメンバーの自爆テロに巻き込まれて、死亡した」

 

それからロックオンは一拍置くと、刹那をキッと見据えて再び話し始める。

 

「…お前は知っているかどうかは知らんが、事の全ての始まりは軌道エレベーターによる太陽光発電が開始された後に世界規模での石油輸出規制の開始だ。化石燃料に頼って生きるのはもう金輪際止めにしようってな……だが、一番ワリを食うのは今のアザディスタンや当時のお前の故郷であるクルジスといった中東諸国。輸出規制で経済は傾き、国民は貧困に喘ぎ、結果として夥しい量の死者が国内に溢れ返る…」

 

ロックオンの声に徐々に怒りがこもっていく。

 

「貧しき者や力無き者は神に救いを求めて縋り、神の代弁者たる者の声に耳を傾ける。富や権力………言い換えちまえば、“力”を求めるあさましく、醜い人間の声を、さも尊い物かのように…な」

 

それを聞いて、刹那は目を伏せた。

嘗ての幼い自分もその神の……神の代弁者だと思われていた男の言葉を信じ、その為ならば自分の命すら惜しくないと思った。

いわんや、他人の命…自分を育ててくれた両親や、ともに戦った戦友すらも。…たった一人を除けば、だが。

 

「そんでもって、約二十年近い年月にも及ぶ太陽光紛争の出来上がりってわけ、だ……神の土地に住まう者達による聖戦……自分勝手な理屈だ…まあ、勿論一方的に輸出規制を可決した国連に、罪は一つも無いとは絶対に言えないがな。……だが、神や宗教、いわんや国その物が絶対的に悪いわけじゃあない。太陽光発電システムだってそうだ……けどな、その中でどうしても、どう足掻いても世界は歪む。それ位、俺にだって十二分に理解はしている…」

 

同時に、ロックオンは視線を下に外して悲しみと怒りが混じったような複雑な表情をする。

 

「…だから、お前がKPSAに拉致、或いは洗脳されて…結果、利用されていたことも、望まない戦いを続けていたこともキチンと理解はしている…理解はしているんだ。……だが、だがな…………その歪みに巻き込まれて、俺は家族を失った………失っちまったんだよ……!!」

 

「…だから……マイスターになることを受け入れた…のか?」

 

ポツ…と、ティエリアがロックオンに問いかけた。

そこに、いつもの無機質さは無い。

どちらかというと、出された問題の答えが分からなくなった生徒がギブアップして教師に教えを請う時のような、そんな人間らしさが感じ取れる物だった。

 

「――――ああ、そうだ。勿論、それが矛盾しているって事も解ってる。俺のしている事は当時のお前達や今でもそんな事をしている連中と同じ、テロだ。俺は暴力による歪みの連鎖を断ち切らず…こっち…戦う方を選んだ」

 

だから…そう言ってロックオンはティエリアから再び刹那へと視線を移す。

 

「人を殺め続けてきた罰は世界を変えてからキッチリ全部受ける。だが、その前にやることが……いや、けじめとして、やりたい事がある」

 

ロックオンは携帯していた銃を取り出し、ゆっくりと刹那に向ける。

 

「「「ロックオン!!」」」

 

その場にいた刹那とロックオン以外の全員が焦りの声を上げる。あのティエリアですら、だ。

が、それでもロックオンは銃を下ろさない。

 

「刹那…俺は今、お前を無性に狙い撃ちたい…!無意味だと解ってはいる…!こんな事をしても、あの世の家族たちが喜ばないのだって解ってはいる…!だがな…だからと言ってはいそうですかと割り切れるほど……」

 

それから、彼は一つ深呼吸をした。

そして、まさに搾り出す、という表現がぴったり来るような感じで、次の言葉を口にした。

 

「――――――俺は、大人じゃねぇんだ……!!」

 

その言葉はまるで慟哭のように刹那には思えた。

もしも自分が彼と同じような立場に置かれたら……否、嘗ての恋人の仇が味方の一人だと知ったら……自分も、彼と同じ事をする。

そうも思った。

 

「家族の仇を討たせろ……!恨みを晴らさせろ……!」

 

だから、彼女はそう言いながら徐々に引き金にかけている指先に力を込めていくロックオンを、真正面からジッと見ていた。

それだけで彼の…今にも子供の様に泣き出してしまいそうな、自身の良き兄貴分の男の気が済むのならば……それでも良い、と。

 

 

そして次の瞬間、乾いた発砲音が島に響いた。

 

 

その決して小さくは無い音に、驚いた鳥たちが一斉に空へと飛び立つ。

周囲には、その鳥が羽ばたく音と、鳥が飛び立ったことによる木々のざわめきしか聞こえない。

 

不思議と、まるでドラマの1シーンの様に静かな瞬間だった。

 

そんな中、ロックオンは銃を下ろさずに、弾丸が髪を掠めたというのにも関わらず、ただただじっと穏やかな眼差しで自分を見ている刹那を見据える。

 

――――――……何、やってんだ…俺は…?

 

そんな彼女を見ながら、ロックオンはそう自嘲する。

無意味だと解っていながらも、自分よりも遥かに…というのは弊害があるものの、年下の少女に対して銃を向けて、殺気を出して、あまつさえ発砲しても当てずに、女の命でもある髪をかなり少しだけとはいえ散らせる…例えそれが嘗ての仇の内の一人だとはいえども…

 

…結局、仇を討つ事はできなかった。

 

途端、ロックオンは、自身が酷く矮小な人物であると自覚した。

もしも彼女が味方でも何でもなく、全くの他人であったならば、確実に撃てていたという自覚があったからだ。

それでも、相手の少女は少しも動じない。

眉一つ動かさず、眼すら閉じず……どこまでも、静かで、穏やかだ。

おそらく、当の昔にに覚悟を決めていたのだろう、と、そんな彼女を見ながらロックオンは思った。

少し癖っ毛の黒髪がはらはらと落ちていく中、刹那は目を閉じる。

…そしてややあって静かに口を開き、言葉を紡ぎ始めた。

 

「―――私は…神を信じていた。信じ込まされていた」

 

「…だから、悪くないって言いたいのか?」

 

ロックオンは眼光を一層鋭くして刹那を睨む。

しかし、彼女はそれに一切臆する事無く、あくまでも穏やかに話し続ける。

 

「違う…そういう訳じゃない……この世界に神はいない」

 

「…質問の答えには、なってねぇぞ…!!」

 

自然と語調が強くなり、視線が鋭くなるのをロックオンは自覚した。

まさかこんな場でKYが発動したのかと思ったのだ。

が、続く言葉でそれは杞憂であったと彼は理解した。

 

「…あの時、私は神を信じ…そして、最後の最後に、そんな物は所詮人が作り上げた幻想で、何の意味もない事を知った………あの男が、そうした」

 

「……あの、男………?」

 

それを聞いたロックオンは訝しげに表情を顰める。

それを見ながら、刹那はその名前を口にした。

…その顔に、形容しがたい怒りのような物を滲ませて。

 

「KPSAのリーダー…アリー・アル・サーシェス。」

 

「アリー・アル………」

 

「サーシェス……?」

 

ユリとアレルヤが、その名を疑問形で口にする。

二人の呟きを聞いてから、刹那は一つ頷くと、再び言葉を続ける。

 

「奴はモラリアで、PMCに所属していた」

 

「PMC!?確か、中東の民間軍事会社の中では大手に属する組織の筈だ!」

 

ユリの言葉を聞き、さらに視線が鋭くなったのをロックオンは自覚した。

そして間髪入れずに、こう、呟くように吐き捨てる。

 

「オイオイ…ゲリラの次は傭兵か?単なるの戦争中毒じゃねぇか、そいつ」

 

思わず苦虫を噛潰したような声で唸った。

それに呼応するように、刹那の顔にも険が浮かぶ。

 

「…モラリアの戦場で……私は思いがけず、奴と再会した」

 

「…そうか…あの時コックピットから降りたのは」

 

「……あの男の存在を確かめたかった……あいつの神が一体何処に居るのか…どんな物なのか知りたかった……」

 

それから、刹那は一拍ほど間を置き、それから口を開く。

声は―――震えていた。

 

「……もし、もしも奴の中に神がいないとしたら…私は…私は…」

 

刹那は視線を落とす。

少しではあるが涙も流れていた。

それは普段絶対に見せる事の無い、彼女の弱さだった。

ロックオンはそんな刹那を見ながら心の中で再び自嘲する。

 

(………本当に、何…やってんだかなー……仲間に……しかも可愛い可愛い妹分に銃を向けて……こんな風に詰問して…責めるような真似もして……これじゃ…本当にただの…)

 

―――下衆だ。本当に最低な大人だ。

それを自覚したロックオンはさらに自嘲の笑みを深める。

だが、それでも確認しなければならないことがある。

 

「…刹那、これだけは聞かせろ―――お前は。エクシアで何をする?」

 

「っ…戦争の根絶!」

 

涙を拭いつつ、刹那は力強く言い放つ。

 

「…俺が撃てば、できなくなるぞ」

 

「…構わない……代わりに、貴方がやってくれれば。この歪んだ世界を変えてほしい」

 

「……もしも撃たなければ、どうする。お前を、俺がもし生かし続けるとするなら」

 

「……そう、させてくれるなら……私は、戦う。KPSAの少年兵、ソラン・イブラヒムとしてでは、無い。ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとして」

 

そう言い切った少女の目にあるのは―――ロックオンのよく知る、強い光だった。

生半可な物ではない。

それを再度確認するかのように、彼は目前の少女に向かって問いかけた。

 

「……ガンダムに乗ってか」

 

「そうだ。私が……ガンダムだ」

 

迷いが無い処か何処までも強い意志―――覚悟を宿した、小さな少女の強い真っ直ぐな眼差し。

それだけで、ロックオンには十分だった。

彼は彼女が持っているものが、その光が、どれだけ高尚且つ尊い物か、理解していたから。

フッと笑って、彼は銃を下ろす。

 

「…ハッ!アホ臭くて撃つ気にもならねぇな……ホントに、お前さんはとんでもねぇ……底無しの、ガンダム馬鹿だ」

 

少し皮肉混じりの、いつもの軽口を叩く。

するとそれを聞いた刹那は意外な言葉を発してきた。

 

「……ありがとう」

 

「…あ?」

 

「私にとっては、これ以上無い最高の褒め言葉だ」

 

珍しく刹那が笑う。

それを見ていたロックオンだけで無く、ティエリアたちも呆気にとられるが、ロックオンが笑いだすのにつられ、自然と笑いだす。

 

「…これが……人間か……」

 

ティエリアは柔らかに微笑むと再び木に体重を預けた。

何故だか、先程まで何処までも険悪な雰囲気を漂わせていた此処が、ひどく暖かい所に思えた。

 

 

 

そんな彼らが笑い合っている時間から、約7日後……というか、現在

 

AEU領内某所 上空

 

其処を飛んでいく、一機の戦闘機…にしては異常に大きな物の、丁度腹の中と言っても過言ではない所に、その男は居た。

……というか、まあ、俺なんですけどね。

 

「…暇だ…」

 

『だから言ったでしょ?ドッキング終わったらアンタは目的地に着くまでやる事0だって。丁度いいから、怪我人はおとなしくそこでのんびりしてなさい』

 

「…ありがたいけどありがたくない…」

 

……いや、ホントに暇なんだよ。

下手に動かそうとすればドッキングが解除されてそのまま下に落とされるからグリップには触れないし、相棒も今は索敵にリソースを使ってるから音楽や動画を流したり映せたり出来ないし……昼寝しようにも眠くないんだよなぁ…

 

さて、いきなりこんな状況で何が何だか訳分からんという皆様に説明すると、現在俺と姉さんはトリニティ3兄妹の救援の為に、Oガンダムを新しく造られた……訳ではなく元から造ってあった試作機を改良した専用支援機“GNアーマー”にドッキングさせた状態で、人革連の広州へと飛んでいた。

…まあ、おそらく間に合わんだろうな。

何せミッション開始時間までもう残り少ないし、今から見つかるの覚悟ですっ飛んで行ってもあいつらの事だから着いた時にはもう8割方終わらせてるだろう。

……また見せ場が無くなるよ……ハァ…

 

「アムロ、アムロ。偵察機、偵察機」

 

「ああ、ハイハイ。姉さん、偵察機がこっち来てるっぽい。反応とレーダー上の動きからしてたぶん無人機(ファントム)だ」

 

『了解。ステルス使うわよ。……にしても、こういう時だけはアンタとOガンダム積んでて良かったと思うわ。圧倒的に楽だもの』

 

「本来の仕事をシッカリできるように調整してるからな」

 

俺がそう言うと同時に、GNアーマー全体にGN粒子によるステルス迷彩がかかり、外部からは絶対に察知できないレベルで隠蔽が完了する。

これで無人機相手には絶対に見つからない。…まあ、万が一に有人機に来られると、それなりに中のパイロットの腕が良ければ見破られるかもしれないような代物でしかないんだけどな。

 

「お、来た」

 

そうこうしている間に、モニターを通した視界の11時方向に黒っぽいカラーリングの小型戦闘機のような物体が移る。

先端に小型カメラ等といったセンサーが集積されたユニットのあるタイプ。データによると、AEUとその周辺の中東諸国で使用されている物だった。

暫くそれらは俺達の周辺の空域を旋回していたが、その内役目が終わったと言わんばかりに別の空域へと飛んでった。

ホッと息を吐いてから数瞬の後に、再びやる事が無くなった事に気付いた俺は、今度は盛大に溜息を吐いた。

こんなご時勢に暇な事に対して憂鬱の溜息を吐くとはなんとも贅沢な事かもしれないが、そうでもしないとやってられない。

何せ師匠の教育のお蔭なのかどうかは知らないが、妙な所で日本人的な慣性が身に沁みてしまっている俺は、周囲が仕事をしているというのに自分だけ何もしていないという状況下に放り出されると、何故か落ち着かなくなって何やら不安になってしまうのだ。

なんに対しての不安かは俺も知らん。

が、兎も角精神的にキツイ事には変わりない。

頭を抱えて叫びだしたくなるような衝動を何とか押さえ込みつつ、俺はOガンダムのシートに腕を組んで凭れ掛かり、そのまま目を閉じた。

 

・・・・・・なんとも意外な事に、そのまますんなりと眠りについてしまったのは・・・予想外だったが。

 

 

 

 

 

 

 

転寝から覚醒したとき、そこは人革連領内上空ではなく、大西洋上空でした。しかも夕方を少し過ぎた所なのか妙に暗い。

……What?Why?

 

『あら、起きたのね。調子はどう?』

 

「……幾分か、酷い。まず、なんで俺は大西洋にいるんだ?そこからの説明がほしい」

 

状況把握だけはしておきたいという無意識の言葉だったが、正直な話、寝てる間に世界情勢がどう動いたかを確認するために発した言葉だった。

 

『OK。んじゃ、簡単に言ってあげるけど……実働部隊が襲撃を受けたわ。それでデュナメスのマイスター、ロックオン・ストラトスが利き目である右目を負傷。同時に、ヴェーダは完全にリボンズの手に入ったわ。更に同時進行する形で、人革の対ガンダム及び疑似太陽炉搭載型MS試験運用部隊、頂部GN-X部隊によってチームトリニティの地上のアジトが全て抑えられ、現在あの3人はこの周辺の何処かの孤島でのんびりと隠れてる。おわかり?』

 

「……まあ、のんびりって点に関しては同意できないけど、大体分かった。つまり今は、3人を探してる真っ最中ってわけか」

 

帰ってきた答えに、俺は顔を随分と顰めた。

思った以上に状況の変化が激しい。

早いとこ3人を保護しないと不味い事になりそうだ。

 

『そういう事。通信入れて敵が寄って来たら不味いから目視で、だけど……って、あら?』

 

「? どした?」

 

『…アムロ。右4時の方向。イオンプラズマジェット推進光よ。しかも2つ』

 

「わかった。調べてみる」

 

不意に説明をしていた姉さんが何かに気付いた。

言われた方向を俺も見ると、確かに青白い光が二つ。並んで飛んでいるのが見える。

すぐさまキーボードを引っ張り出して映像をズームして解析。

結果として出てきたのは…イナクト?しかも巡航形態なのは良いとしても、片方は確実に長距離移動用と思われるような装備なのに対して、もう片方は完全ノーマルというのが妙に気にかかる。

遠い上に暗いので色は判別し難い。

……でも、確実に正規軍の物じゃないよな…軍の物だとしても、あの組み合わせはちょっと…どころかかなりおかしい。

…それに、イナクトのコンビというのは、なんか…こう……ね?あれが…ね?

 

念には念を入れて悪い事は無い。

すぐに相棒に解析画像を更に詳しく分析してもらい、外観的特徴、スラスター等の音、そして動き方の癖等からあの2機が懸念している物かどうかを検証してもらう。

もしもあれが何の変哲も無い正規軍の物だったとすれば、登録してあるデータと(相手がエース用のカスタムであった場合はその限りではないが)今回収できたデータはほぼ合致する筈である。

ただ、もしも民間の……例えば、あの(そこまでではないが)忌々しいPMCの所有機であった場合、搭乗者の意向に合わせて独自のカスタマイズがされている筈なので、データと回収データの間にはそれなりのズレが生じる。。

前者であれば特に問題はない。完全にスルーするか問答無用で黙らせられる。

が、後者の場合はそうはいかない。一歩間違えれば、民間企業のテストパイロットが新装備のテストを行っている可能性だってあるし、どこぞの金持ちが気分転換に自身の所有物でただ飛んでいた、という可能性だってある。

…まあ、後者は中々無いとは思うが。

 

「…ハロ!ハロ!解析完了!解析完了!」

 

「結果は?」

 

丁度良く相棒の声が響き、間髪入れずに聞き返した。

何せ懸念している物が“それ”であった場合、一刻も早い行動が必要となってくるのだ。

それはそれで良いのだが、なるべくであれば精神的負担は軽減したいというのが俺の本音である。

 

が、現実とは無情だ。そんなささやかな願いを平然と吹き飛ばしやがるのだから。

 

 

 

「PMCノカスタム機!PMCノカスタム機!前ニ戦ッタタイプ!」

 

「マジか」

 

……Oh GOD。マジで俺、あなたに何かしましたか?偶には平穏無事に物事を済まさせて下さいよ。後生ですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぁ、と、私は平時ではやらない様な、人前で欠伸をするという行動を行った。

眠くはないので生欠伸だろう。脳に酸素が足りていないのかもしれない。

そう思いながら横目で自分達の機体を見る。

ここ数日の国連軍の疑似太陽炉搭載型MS(ニュースでは、確かGN-X(ジンクス)とか言っていた筈)を配備された特務部隊との度重なる交戦により、スローネ3機は中々に草臥れた感を出していた。

一度だけ、アフリカ北西部にあった地下基地で修理と補給を行えたが、それでもその後の以前戦った人革連の特務部隊による基地襲撃と、ドウル国国境付近でのAEUの特務部隊との遭遇戦で、かなりの量のGN粒子を消耗してしまった為に、炉の粒子発生率はさほど低下していないとはいえ実質今の現状はエネルギー面だけで言えば補給前と何ら変わりは無いだろう。

機体の損傷レベルも、3機それぞれだ。

 

ネーナのドライは他の2機と比べて比較的使用する粒子の量が少ない為に粒子残量はあまり心配していない。損傷も比較的援護や敵機体の牽制を主にした戦法をとっていた為軽微だ。

ミハエルのツヴァイは近接戦闘をメインにした戦法を取っていたために、装甲はかなり傷が出来ている。中でも右腕ビームガン接続部にはビームでも掠ったのか粒子ビーム特有の損傷が少し見受けられるのが、少々痛い。それ以外は凹み等なのでそこまでではないが…

武装もGNバスターソードには凹み等が見て取れるし、ビームサーベルに至っては片方を先の遭遇戦で失っている。幸いなのはファングを含めた射撃武器にまだ一つも損傷していないというところか。それでも粒子残量を鑑みれば楽観視はできない。

 

そして最も損傷しているのは、私のアインだ。

戦闘がある度に殿や囮役。また、二人の負担を最低限にする為に、敵のテリトリーど真ん中まで突っ込んでいって暴れる事が多かったからか、左肩のGNコンデンサ内臓シールドは黒焦げになり、右肩のアーマーの先端部分は吹き飛んで無くなっており、脚部も一部は装甲が剥ぎ取れてフレームを晒している。

ビームサーベルは左の片方がラックがアンテナごと切り落とされた。幸い抜いている状態で切り飛ばされた為2本とも無事だったが、今は片方をツヴァイに分け与えた為、今や実質的に右側の1本しかなく、近接レンジの戦闘には不安が残る。

 

ふっと息を吐いて空を見上げた。

今自分達が身を潜めているこの大西洋上の孤島には、人工物が一切無いため光源となっているのは見上げる空の西側に浮かんでいる月だけだ。

時刻は丁度4時。夜と朝の境目といった時間帯だ。

東の空がうっすら明るくなってきているのを見ると、どうやら太陽が昇り始めたのだという事が分かる。

それでも空には満天に星々が輝いており、そのどれもが美しい光を放っている。

 

(……いつでも此処に来れれば、プラネタリウムなどもはや無用の長物だな)

 

そう考えた自分に対して、私は自嘲の笑みを浮かべた。暢気なものだ、と。

ラグナとは連絡がつかなくなり(とはいっても、O-01と会ってからは然程連絡していないのだが)、国連軍には包囲網を狭められ、結果自分たちは確実に追い詰められているというのに一切の焦りが浮かんでこない。

むしろこんな事を考える余裕まである。

これも自分達の面倒を見てくれた“彼”の影響なのだと思うと、少々笑えてしまう。

…だが、もしも今の自分と同じ状況にいたならば、この満天の星空を見上げた時、彼はいうだろう。今自分が考えていた事と同じ言葉を。

 

(…そろそろ動き出そう)

 

東の空がだんだんと緋色に染まっていくのを見て、私は頭を切り替える。

自分の機体に戻り、仮眠をとっているかわいい弟と妹を起こさなければ。

王留美に指定されたポイントまではあと一息…とは到底言えないが、それでも今日中には着ける距離だ。

試行錯誤を繰り返して敵に捕捉され難いであろうルートをとっているとはいえ、今から飛ばせば昼前には何とかなるかもしれない。

そう考えながら愛機へと足を向ける。

 

(…?)

 

不意に、耳に妙に聞きなれた音が入った。静かに周囲に神経を張り巡らせてみると、その音が段々とこちらへ近づいてくる、AEUイナクトのイオンプラズマジェット推進の音であるという事が分かる。

ハッとして顔を上げれば、視界の隅に2つの光。

それを確認した瞬間、私は駈け出していた。

すぐさまアインのコクピットに滑り込み、アイドリング状態にしていた機体を立ち上げ、右手のライフルを構える。

通信回線を通じてミハエルとネーナが目を覚ました音が聞こえる。しかしそれに構っていられるだけの時間はない。

先手必勝と右手のトリガーに指をかけて――――――

 

(…?)

 

―――――その手を止めた。

何故ならば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…光通信?攻撃の意思無し…だと?」

 

 

…イナクトの顔面部センサーを用いた光通信によって、その様なメッセージが送られて来たからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~…くそ。やられた……。師匠め、元から助ける気なんぞ無かったな?」

 

Oガンダムの中で俺は呟いた。

何故ならば、あのトラウマレベルで俺の苦手なイナクトコンビの後を追っている最中、師匠から突然この後の段取りを描いたスケジュール表みたいな物が送られてきたからだ。

姉さんに期待制御を任せている以上は、俺には仕事は無い。要は暇である。

なのでその暇潰しに読んでいたのだが……クソッ。表面上には殆ど出ていないのが自分でも気になるが、本当に腹が立つ。

あろう事か、そこにはトリニティ3兄妹の物も書かれており、更にはある地点から先に彼らの欄は全てが斜線になってしまっていたのだ。

つまり、彼らに出番は無いという事。……要は、用済みという事。

そう考えるとあの2機がなんで居るのかも辻褄が合う。

簡単に言えば、奴らは刺客なのだ。

 

(…不味いな)

 

ヨハン達は確かに身体能力は高いのである程度ならば白兵戦も可能だろう。

 

しかし、相手はプロの傭兵である。

 

地力はともかく実力その物には大きな開きがあるのは目に見えている。

そこから導き出される答えとは……

 

(……ああ、もう!)

 

「姉さん。今すぐ俺をあの2機が降りようとしている島に下して。3人の救援に向かうから」

 

「……は!?何言ってんのアンタ!?リボンズの計画滅茶苦茶にする気!?そもそも気付かれるわよ!!」

 

「だったら近くでいいよ。最悪後は泳いでやる。…それに」

 

言いながらスケジュール表を姉さんに見せつけるように出す。

端末を操作して上から下まで一通り誰が書かれているのかを見せてから、俺はこう言ってやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…此処に、俺の名前は一切無い」

 

つまりはそういう事だろう。

それに、偶には日頃の仕返しを兼ねて、逆らってみるのも良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イナクトから一人の男が顔を出す。

その身に纏うノーマルスーツは、朱い。

私とミハエルは今、機体から降り、その手に各々の獲物を持って立っていた。

念の為、二人ともスーツの下には事前にO-01の忠告で所持していた、防弾性プレートを急所部分に当てている。

これでもし不意打ちで銃撃されたとしても、頭部でなければ即死の心配は無い。

ネーナは機体に待機させた。向こうももう1機のパイロットが降りていない。

一応保険のつもりだが…最悪犠牲は私一人に抑えねばな。

 

「よう!世界中にケンカ売ってあっぷあっぷしているソレスタルなんたらってのはあんたらか?!」

 

男がそう言った。

周囲に響き渡るような声だ。命令しなれた人間独特の印象がある。

こちらもそんな男に対して警戒しながら言葉をかける。

 

「何者だ?」

 

それを聞いた男はヘルメットを脱いで顔を晒した。

朱い長髪に粗野に見える顔立ち。

目は獰猛な獣のごとき鋭い光を放ち、口元には不敵な笑み。

男は首を振り、髪をかき上げながらばらしつつ、こう言った。

 

「アリー・アル・サーシェス。御覧の通りに傭兵だ。スポンサー様からアンタらを如何にかして欲しいと頼まれたんで、こんな辺鄙な所まで足を運んだってわけだ」

 

その言い方に、私は引っ掛かる物を覚えた。

我々を“如何にかして欲しい”?それは一体どういう意味だ?

救援であれば歓迎すべきだ。しかし、イナクトがたったの2機?

しかも相手は傭兵と来た。このような時勢になってしまったとは言え、ソレスタルビーイングはどこまで行っても秘密主義だ。

そんな組織が救援の為とはいえ、“一般人である傭兵という職業の人物”を“雇う”?

更に引っ掛かるのは、彼は自分への依頼人を“スポンサー”と言った。

…それは一体誰だ?

 

「援軍って…2人だけかよ?誰に頼まれたんだ?」

 

ミハエルがそう言う。

それを聞いて、私は内心で顔を青くした。

 

(……不味い!ミハエルは今の言葉にあった違和感に気付いていない!!)

 

瞬間的に私は身構えた。

向こうは今、コックピットハッチにあるウィンチロープを使って降りてきている。

そしてこちらを見下ろしながらこんな事を言い、

 

「ラグナ?……ああ、ハイハイ。ラグナ・ハーヴェイな……」

 

地面に足をつけた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっこさん、死んだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が殺した」

 

その手に隠し持っていた物を、発砲した。

 

 

 

 

瞬間、私は弾かれたようにミハエルを突き飛ばす。

しかし、一拍遅かったのか、弾丸はミハエルの脇腹を貫通する。

同時に、私の右肩にも衝撃が走り、一拍遅れて痛みが来る。

 

「「がっ!」」

 

二人同時に倒れこむが、そのまま倒れている訳にはいかない。

すぐに立ち上がって銃を構えようとして――――

 

(……!!!!!)

 

左肩と、右足に衝撃。同時に激痛。

 

「ぐああああ!!」

 

そのまま倒れこんだ所を、足で踏みつけられる。

疲弊した所に、決して軽くは無い傷を負った体に激痛が走る。

一瞬ではあるが意識が遠のきかけた。

それを必死に堪えて眼だけで男――――アリー・アル・サーシェスを睨む。

奴は、笑っていた。

 

「…ハッ!お前さんは中々そこのよりかは勘が良いみてぇだな。どこで気付いたよ?」

 

言いながら、サーシェスは足を抉るように動かす。

それで更に激痛が体を襲うが、それに構ってはいられない。

 

「グッ!…貴様の、暈した言い方だ…少し考えれば、違和感に気が、付く」

 

「あらららら。もうちょっと考えて言やあ良かったかな?俺もまだまだだなぁ…せっかくのチャンス、無駄にしちまったぜ。…ま、いいか」

 

そういいながら、奴は視線をミハエルに移した。

当のミハエルは起き上がり、得物のソニックナイフを構えている。

…しかし、今の状況でそれは不味い!!

 

「ミハエル、ネーナを連れて逃げろ!!」

 

叫ぶと同時に、私は全力で起き上がり、奴を跳ね飛ばした。

瞬間、今度は右わき腹に激痛が走る。

…しかし構ってはいられん!!

すぐに奴に組み付いて抑え込み、ミハエル向かって叫ぶ。

 

「だ、だけどよ「構うな!!行けぇ!!!私を無駄死にさせるつもりか!!」…っ!!」

 

ミハエルが首を少しだけ縦に振って、ツヴァイに駆けていく。

しかし…

 

「おっと逃がすかよ。邪魔だ」

 

「ぅがぁ!?」

 

サーシェスの持った銃のグリップが私の米神に叩き付けられる。

それで怯んでしまった隙に、奴は私を振り解き、ミハエルに向けて、数発銃弾を放った。

が、寸前に体当たりしたために何発かは逸らす事ができた。しかし、内一発が足に当たってしまったらしく、倒れこむのが視界に映る。

 

「ネーナ!!ミハエルを回収して逃げろ!!早く!!」

 

間髪入れずに叫んでいた。

そのままサーシェスに無事な方の足で蹴りを食らわす。しかし、上手い事受けられ、そのままCQCで返されてしまった。

しかし、時間を稼ぐ事はできたらしい。

ネーナのドライがミハエルをその手で包み、上空へと退避していくのが見える。

 

(これならば…)

 

と、その時である。

 

「…へっ。美しき兄妹愛ってヤツかぁ?陳腐でヤダねぇ…ほら」

 

そう言いながら、サーシェスが私から手を離しそのまま離れる。

咄嗟の事で呆然としてしまうが、私はすぐさま現状を理解し、自分の機体のコックピットへと向かった。無論逃げる為だ。

本来であれば損耗の少ないツヴァイに乗るのがベストなのだが、この状況下、一々生体プロテクトを外しているだけの時間は無い。

途中先程捨てた銃が目に入るが拾おうとは思わなかった。

そうすれば今度こそ死んでいただろう。

 

「うぐっ!!…うう……」

 

痛みでともすれば意識の飛びそうな身体を必死に動かし、コックピットに転がり込んだ私は、すぐさま機体を上空へと逃がす。

肩が撃たれている為に操作が変になり妙な挙動ではある。

が、機体は十分に私に応えてくれていた。

 

『ヨハン兄!大丈夫!?』『兄貴!!』

 

飛び上がってから直ぐに二人から通信が入る。

見れば二人とも涙目だ。ネーナなんかもう既に涙をこれでもかと言うほどに溢している。

何とかして励まそう…そう思いながら、口を開こうと――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『はっはー!!!』

 

「っ!?何だと!?」

 

聞こえてきた声に驚愕しながら、反射的に残ったビームサーベルで切りかかってきた影に対応する。

その影の正体は―――――

 

 

 

 

 

「つ、ツヴァイ…だと!?」

 

『ちょいさぁ!!』

 

襲い掛かってきたのはあまりにも見慣れた緋色の機体―――――言わずと知れた、ガンダムスローネツヴァイだった。

しかしその機体から聞こえてくる声は、確実にヤツの物だ。

 

(一体何故?!)

 

そんな言葉が脳内を駆け回る。

そもそも、ソレスタルビーイング所有のMSは、その全てに強奪防止用の生体プロテクトが仕掛けてある。

特に私達の機体は、私達以外が使えぬよう、それぞれの機体のマイスターのバイオメトリクスが無ければ動かす事は出来ない様になっているのだ。

…だが、現実としてヤツは機体を動かせている。

それが意味する所とは―――――アレしかない!!

 

「まさか、ヴェーダを使ってデータの書き換えを!?」

 

私が驚愕でそう叫ぶと同時に、ツヴァイはその手に持ったバスターソードを思い切り振り回した。

その衝撃で、私は弾き飛ばされる。

同時に身体に襲い掛かる激痛は更に酷くなった。

 

『兄貴!待ってろ、今助けに…』『ちょ、ちょっとミハ兄!!』

 

弾き飛ばされる中そんな声が聞こえる。

朦朧とする意識の中薄っすらと目を開けると、視界の隅でドライが何とかして此方に来ようとしているのが見えた。

が、その直後下から突っ込んできた、もう一機の蒼いイナクトによって弾き飛ばされ、そのままリニアライフルの弾を何発か食らってしまう。

その全てが直撃コースだと分かった瞬間には、イナクトはリニアライフルを持っていないほうの手にソニックブレードを持ち、ドライに向かって突っ込んでいる途中であった。

瞬間、脳が沸騰する。

体中の痛みが無くなる。

必死に操縦桿を動かして二人を助けようと機体を向かわせる。

 

が、

 

 

 

 

 

「っ!邪魔だぁぁぁぁ!!!!!」

 

目の前にバスターソードを振り上げながら、ツヴァイが割り込んでくる。

無論、此方もビームサーベルを構え、突っ込む。

 

だが明らかに向こうの方が早い。

 

おそらく、刀身が届くよりも早く、此方を両断するだろう。

 

 

 

 

 

――――――…ここまでか。

 

酷く静かに私はその結果を受け入れられた。

 

……しかし、それでもミハエルとネーナが此処で死んでしまうという現実の方は認められたものではない!

 

故に私はこの時、初めて心の底から神という物に祈った。

 

…助けてくれと。

 

私などは最早如何でも良いから、兎に角、あの二人だけは助けてくれ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、願いは叶った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイ、ドーン!!』

 

外部音声で凄まじい雄叫びを響かせながら、何かが蒼いイナクトを文字通りに吹き飛ばす。

吹き飛ばされたイナクトは、空中で体勢を整えたが、直後に四肢を突っ込んできた何かが放ったビームによって吹き飛ばされ、そのまま海へと落ちていった。

その何か、が一体何なのか、私には分からない。

だが、それを操る人物が一体誰であったのか、私には手に取る様に分かった。

 

だからこそ、感謝の言葉と共に、最後の願いを彼に託した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「   、       」

 

と。

 

視界が閃光に包まれる。

痛みは無い。

熱さも無い。

何もかもが白く染まっていく。

ただ、最後に一瞬だけ、誰かの顔が見えた。

若い、まだ少々幼さを残している16歳ほどの黒髪黒目の黄色人種の少年だ。

どこかで見た事があるような気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

それでも、それが誰なのかは―――――私には、少しだけ分かった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヨハン!!!!!】

 

だれかが、わたしのこえをさけんだ。

 

それきり、わたしはなにも かんが     なっ 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨハン!!!!!」

 

目の前で、スローネアインがスローネツヴァイによって真っ二つにされる。

それをただ見てなどいられはしない。

何とか助けようとして右腕のツインライフルを向け、ツヴァイ向かってビームを放つ。

命中。

しかし、咄嗟に身体を捻っていたのか、背面のジョイントがぐしゃぐしゃになっただけであまり大きな損傷は見られない。

 

そして、当のアインは、

 

胴の部分から綺麗に真っ二つになって、

 

直後、真っ赤な血の色をした粒子を周囲にばら撒きつつ、

 

 

 

 

 

爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ………チッ…」

 

『兄貴ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!』『イヤアアアアアアアアアア!!!!!』

 

瞬間、はらわたが煮えくり返る。

しかし、耳元から聞こえた二人の絶望したような悲鳴が一瞬で脳みそを冷静にしてくれた。。

しかし、構ってはいられない。

直ぐにツヴァイに背を見せながら、ドライを引っ掴むとそのまま戦線を離脱する。

丁度、レーダーには遥か上空から降下してくる、武装コンテナくらいの大きさの物体も確認してるしな。

チラ、と背後を見る。

案の定追いかけて来ているようだ。

それを確認した直後に、俺はとある場所へと通信を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、後は頼む」

 

『了解した』

 

 

 

直後、俺の頭の上を擦れ違う、青と白の影。

それに対して心の中で、「遅い」と悪態を吐いてから、俺はそんな事を言う資格は無い、と自嘲した。

後方で、ツヴァイとエクシアの切り結ぶ音が聞こえた。

前方には、GNアーマーが此方を待っているかのように滞空していた。

その丁度胴体部分にある、MS収容スペースに、ドライを上手い事固定し、そのままOガンダムをGNアーマーの上に乗っけて、俺は姉さんとミハエルとネーナと共に、その場を逃げ出した。

 

「……仇は取ってやるぞ……とは、言わないからな」

 

酷く自然にそんな言葉が出たので、俺は自分自身を酷いヤツだと嘲笑した。

……ただ………

 

 

 

 

 

 

【二人を、頼みます】

 

 

 

 

 

 

「………安心しろ。バッチリ最後まで面倒見てやるさ」

 

彼の死の間際に聞こえた、その“頼み”だけは、意地でも聞き届けてやらねばならん、と思ったのも事実だったから、俺はそのすぐ後に頬を叩いて気合を入れ直した。

……何故ならば、ここからが俺と相棒の本来の出番なのだから。

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

という訳でヨハン君一時退場です。
また次回の番外編で出てきますが。

で、ロックオン兄貴の発砲事件発生。原作との違いは、マイスターが全員居るという点です。
良かったねアレルヤ。第2次スパロボZでハブられてないから出れたんだよ。

で……まさかのヨハン兄さん死亡ですが…………実は、ここも1回書き上げた後に、なんだか微妙な感じがしたので書き直してます。丸々。
しかも書き直す前は、助けるのが間に合って兄さん生きてるという、ね…
ただ、この後の展開上、とあるキャラの成長の為に、彼にはここで一時退場という形をとって頂きました。…ああ、ファンの方々から殺されないか心配です…


そして次回ですが……また微妙な所で“番外編という短編の寄せ集め回”が入ります。
パワーアップイベントはまた直ぐその後です。
少々お待ちくださいね。

では、また次回


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番外編―――色々とつめ過ぎた彼是

詰まる所は短編集です。後で司会担当の彼らが説明してくれますが。


それでは本編をどうぞ


『ばーんがーいへーん!!』

 

「さあ、始められてしまいました短編3本による特別番外編。司会は私一応主人公のアムロ・レイと」

 

「解説も含めて、師匠こと僕、リボンズ・アルマークがお送りするよ」

 

「つー訳で開幕早々師匠。俺ちょっと聞きたい事があるのですが」

 

「何かな?」

 

「…………え?何?これ?いつもと違い過ぎんでしょ?つーか地の文何処行った」

 

「ああ、それはだね、今回僕たちがいる“此処”は言うなれば“世界から外れた場所”とでも言うべき所だからだよ。更に今回は、作者のちょっとした浅知恵でただの1本話ではなく、さっきも君が言った通り、3本の短編が纏められた“短編集形式”…故に各話の合間合間にその話の登場者とトークしなさいというお達しまで来ていると来た」

 

「……成程。ちょっと微妙だが理解できた。だから司会と解説役か。作者もしょうも無い事考えるな」

 

「それは言ってはいけない約束、というものだよ」

 

「……で?肝心の作者何処行った?姿が見えん「仕事だよ」…は?」

 

「だから仕事だよ。一応彼はビルメンテ会社の設備管理課の所属だからね。しかも見習い。だから上司について言って様々な現場に顔を出したり書類届けたりetc……」

 

「……ああ、うん。もういい。途轍もなく面倒臭そうなのだという事は解った。だから呪詛のように何か言葉を呟くのは止めてくんない?」

 

 

「と、いうわけでそろそろ短編その1に移ろう。内容は…あ?“シスコンなのか”?」

 

「というよりは、むしろちょっとした雑談だね。君があの3兄妹と一緒に行動している時の話だよ」

 

「…あ~、あったあった。飯食ってる時のあの話か。……短過ぎないか?マジであれサラッとしかないぞ?会話にして3分あったか…」

 

「まあ、そこらは作者の腕の見せ所といった所かな?幸い今回の短編は殆どが3人称メインらしいからね」

 

「本当に大丈夫かよ……まあ、いいか。それでは短編その1“シスコンなのか”次ページよりスタートだ」

 

 

短編その1

『シスコンなのか』

 

それは3大陣営合同演習2日前の話である。

 

「……」

 

夕食を口にしながら、考え込みつつ目の前の全く似ていない3兄妹の顔を見ているのは、ご存じ我らの地味主人公アムロである。

無論、ヘルメット On the head 状態なので、唯一開けられている口元以外から表情を見受ける事はできない。

だが、雰囲気からして何かを考え込んでいるのだという事だけはわかる。

どうでもいい事だが、因みに今日の夕飯はハンバーグ。一応ソースの方もケチャップベースのオリジナルである。

ヨハンはともかく、下の二人は豪い一心不乱に食べていることから、相当美味いのだろう。

それでもミハエルは顔の周りにソースがついているというのに、同じ様に食べているネーナの口の周りがあまり汚れていないのは、ヨハンとミハエルがさり気無く拭いてあげているからだ。

この二人、流石の息の合い様である。

 

「…?O-01、どうしました?」

 

と、それまで比較的静かに食事をしていたヨハンがアムロの様子に気づく。

流石に長男というだけあって、彼は色々な事に気が付き、そしてキチンと対応する。

これで性格がもう少し軟化すれば、女性からはモテるだろうにもったいない、とアムロが頭の中で呟けば、怪訝な表情を更に深くしたので、アムロはあわてて取り繕うように言った。

 

「ン…いや別に大した事じゃない」

 

言いながらも、彼は彼らから目を外そうとはしない。

しかし、そのまま一拍置いてから再度彼が口を開いた時、其処から飛び出してきた言葉はヨハンを大いに動揺させるに足る物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨハンとミハエルって、シスコンなのか」

 

直後にヨハンが偶々口に含みかけた茶を噴出する。

ミハエルは咽に何か詰まったらしくむせ、残ったネーナはポカンとする。

そのまま暫らくその場をヨハンとミハエルの咳のみが支配する。

ややあってヨハンがアムロに向かって珍しく慌てた声を出した。

 

「O-01、何をいきなり言い出すのですか!?」

 

「いや、だってなぁ、お前ら。何でネーナの口を拭いてやるのに二人同時でやるんだ。さっきも、彼女の食器を出すのが一番早かったし、今回もそうだけど普段の飯のメニューとかあれこれとかは、基本彼女の意見最優先じゃないか。服の洗濯だって私の仕事だっつってんのにしてやってるし、挙句の果てには一緒に風呂に入って頭とかも洗ってあげてるじゃないか。これをシスコンと言わずになんだというのか。特にミハエル。風呂一緒に入る時、ヨハンはキチンと服が濡れるの上等で来たまま入ってるのになんでお前全裸なんだ。いや、ヨハンも大概だし、拒否しないネーナもネーナだが、お前もうちょっと自重しろ」

 

つらつらと言われる事実にミハエルとヨハンは「うぐぅ」と言って黙り込む。

特にミハエル。どうやら一線を越えてはいないようだが、それでも流石に不味かろう。

そう思って、半ばからかう様に言ってみたアムロであった。

しかし、次の瞬間予想外の反応をした人間を発見し彼の顔が固まる。

上の馬鹿兄貴二人の反応は予想の範囲内である。それは何一つとして問題ではない。

問題となる人物……それはまさかの、騒ぎの渦中の人物たるネーナであった。

バカ二人のとっても大事な大事な、若干処か此方も中々ブラコンの気があるネーナは、今の話の何処に問題となっている物があるのか理解していないようで、目を丸くしながらキョトンとしている事。

どうやら、今の話に出した例のその殆どが、どれもこれも異常な事だと思ってはいなかったらしい。いい感じに(言い方は悪いが)洗脳されているようだ。

そんな彼女の反応は、アムロにとって完全に予想外だった。

思わずいつも引っ被っている“O-01”という仮面を付けている事すら忘れて、暫しの間呆気に取られる。

心なしか彼の口元がヒクついているのは、決して錯覚でもなんでもない。

その内、そのまま彼は黙り込んでいる馬鹿2名の方へと顔を向けた。

バイザーで隠れてしまっているが、ヨハンとミハエルには、その目に絶対零度の光が宿っているという事がハッキリと理解できる。

それほどまでに、彼の体から発散されている物は、暗く、冷たく、重く澱んでいた。

 

「…二人とも」

 

その口から言葉が紡がれる。

瞬間、二人にはまるでレーザーの如くプレッシャーが叩き付けられた。

顔面を真っ青にしながら辛うじて一言だけ反応する。

 

「「…はい」」

 

それを聞いたアムロはニッコリと笑ってゆっくりと親指を立てると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後でザフキエルの裏な。ちょっと先生と“家族間での倫理観とかそれ以外の色々な事について”お話しようか?」

 

「「…イエス、マム」」

 

「サーな」

 

行き先を立てた指で示して、ハッキリと死刑宣告を行なった。

そのままネーナに顔を向けて彼女を不安にさせないようフォローを入れている辺り、完璧にこなれていることをヨハンとミハエルが理解できるまで後15秒。

 

アムロ・レイ。

手の掛かる師匠と兄姉、そして同居人や近所の友人のお蔭で、本人も望まぬ内に“オカンスキル”が磨かれ、“ガンダムマイスター”ならぬ“ガンダムオカン”への階段を駆け上がっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、以上で短編その1“シスコンなのか”終了な…あと、ガンダムオカンって何だガンダムオカンって。ケツの3文字完璧に余計だろ」

 

「いい加減認めてしまえばどうだい?楽になれるよ?」

 

「なにがだよ!?……まあ、いい。という事でトークゲストの紹介だ。ヨハン、カモン」

 

「…どうも、チームトリニティの長男、ヨハン・トリニティです。O-01、今回はお招き頂き、ありがとうございます。…しかし、何故私だけが」

 

「君、前回死んだだろ?で、予定ではと言っても当分出番無いから暇だろうと思ってね」

 

「師匠!ド直球でいうな!!もっとオブラートに包めよ!!」

 

「………本当に、呼んで頂けて感謝しています」

 

「お前も泣くな!?みっともない!」

 

 

「…さて、解説行ってみようっていうか解説いるかこれ?」

 

「僕は要らないと思うけど一応ね…そういえば、君達3兄妹は実質的な血のつながりは無いんだっけ?」

 

「はい。我々3人は嘗てソレスタルビーイングに参加、或いは協力を申し出た人物のDNAサンプルを元に、とある遺伝子研究者の手によって生み出されました。なので、兄妹、とは言っても仰るとおりに実質的に血の繋がりは無く、また、兄妹の位置づけもあくまで肉体の培養、調整が終了した順で付けられているために、かなり曖昧な物なのです」

 

「……ん?培養?調整?まるでイノベイドみたいだな?」

 

「………(実はその研究者ってイノベイドの不老性の秘密が欲しかったからそのサンプルとして彼らを作ったのだけれど…面白いから黙っていようかな)」

 

「…師匠。どした?」

 

「いや、別に?」

 

 

「さ、どんどん行ってみようか?」

 

「つー訳でシスコン。真面目な話、お前もしもネーナが彼氏紹介してきたらどうする?」「スローネアインのライフルで消し飛ばします」

 

「即答かよ。流石はシスコン、伊達ではないぜ……因みにその相手が俺だったら如何するよ?タダでは「全面降伏いたします」だから早いって!!しかも俺に対しては全面降伏かよ!?」

 

「実際の所、本編中アレだけの怪我を負いながらもあそこまで戦えてしまう貴方に勝てるビジョンが何一つ思い浮かびません。例えガンダムを持ち出したとしても、懐に入られてそのままコックピットから引きずり出される可能性があるので…」

 

「…まあ、否定はしない」

 

「つーか君絶対にやるよね」

 

「そんなこと言う師匠はどうせそんな事せずに彗星拳で爆破だろ?」

 

「惜しい。ジー○ブ○ーガ○、死ねぇ!!!!で潰すよ」

 

「とうとうそっち方面を出してきたか!ってかサイズが合わんだろサイズが!!」

 

「フッ、愛の前に不可能なんぞは無いのさ…」

 

「うわぁ綺麗な言葉なのに師匠が言うとまるで別の言葉に聞こえ「ジー○ブ○ーガ○、死ねぇ!!!!」ってうおおおおおおい!?椅子が!?椅子が木っ端微塵なんですけどォォォ!?」Σ(゚д゚lll)

 

「チッ…」

 

「舌打ちをするな舌打ちを!!」

 

 

 

「……というわけで、トークその1終了だ。短かったなおい…しかもゲスト途中からほったらかしだし……という訳でヨハン。お前次と…ああ、あとその次のトークも続投な。流石に今のは酷いし…」

 

「了解しました」

 

「んじゃ、次の話は……“スパジェネ”」

 

「僕の真骨頂!!!!」「師匠うっさい」「にょろーん」「かわいくない」

 

「…?O-01。スパジェネ、とは…?」

 

「ああ、後で実際にやらせてやるけど、要はテレビゲームだよ。楽しいんだ」

 

「…ゲーム、ですか?」

 

「そう。ホントに楽しいよ?後でミハエルやネーナも入れてみんなでやろう。んじゃ、その前に短編開始だ」

 

 

 

短編その2

『スパジェネ』

 

幾多ものビルが立ち並ぶ市街地を、1機の巨人が駆け抜けていく。

その後ろに追随するは、悪魔の如き翼を生やし、その植物の蔓の寄せ集めのような有機的な肉体を刺々しい白い甲冑に包んだ巨人。

手には大型の狙撃用ライフルが握られている。

と、次の瞬間白い巨人――――――ライン・ヴァイスリッターは手に持ったライフル―――――ハウリングランチャーで目の前の巨人―――――アークゲインと呼ばれたそれに対して、光の矢を放つ。

その結果は―――失敗。なんとアークゲインはその場で踏み止まってから方向転換し、あろう事か正拳突き1発でビームを弾き返してしまったではないか!!

慌ててライン・ヴァイスリッターは回避行動をとるも、一瞬早くアークゲインがその懐に飛び込む。

そして――――――――――

 

 

 

 

 

 

【1P WIN!!】

 

 

 

 

 

 

「うし、勝った」

 

「いやいや待て待て!!今の一体なんだよ!?」

 

深夜1時頃のとあるマンションの一室からこんな会話が聞こえる事を咎める者は……いなかった。

 

 

ぶっちゃけてしまうと、今の現象はアークゲインという機体の特異性にある。

元々はアークゲインやヴァイローズ等といった、所謂“64系スーパーロボット”のカテゴリにその名を連ねる“ソウルゲイン”という機体のバリエーション機体という立ち位置で参戦した機体ではあったが、アーケードでの稼働当初は所詮“名前と見た目が違うだけのソウルゲイン”という性能でしかなく、さらに通常の対ソウルゲイン戦法の確立や、新たに追加された覚醒コマンドを使った所で、ソウルゲインのように両腕が変化しパワーアップする、といった目新しい物も無かった為、結局当時は“気分で使うロマン機体”という立ち位置に落ち着く事となった不遇の機体である。

この現実を受けて開発スタッフが何を思ったのかは分からない。が、流石に最新機体がこれではいけないとでも思ったのだろうか。

何時の頃からかアークゲインには、“射撃攻撃被弾時にタイミング良く攻撃を当てる事で、その攻撃を相手に跳ね返す”という異色の能力が付与されたのである。

しかもこの能力、何故かその“タイミング”というものがかなり甘く設定してあり、ただ単に攻撃を相手の射撃攻撃に当てるだけでも跳ね返せるという鬼畜仕様であった。

そんな物であるから使い手の腕によっては、アークゲインは一気にロマン機体から“一歩間違えるとリアルファイトに突入するレベルのチート機体”へとその性能を変化させてしまったのだ。

しかも何故かその異常な性能を再三ユーザーから指摘されているにもかかわらず、メーカー側は修正する気が無いという。

 

まあ、そんな状況な物だからその鬼畜性能は家庭版になっても修正されず、結果今のような事態が起こりまくる事となったのだが……

 

 

「という訳で、アムロはアークゲイン使用禁止。強過ぎるからね。いっそスパアス(スーパーアースゲインの略称)も封印させたいくらいだ」

 

「前半は納得するが、後半は完璧に師匠の我儘だろ。……はい、ティエリアおっつー」

 

「ぬああぁ!?」Σ(゚д゚lll)

 

ティエリアがそう叫ぶと同時に、画面の中でゲシュペンストMk-Ⅱ改タイプCがアークゲインのラッシュでバラバラにされる。

現実では一流パイロットの中でも抜きん出た実力を持つマイスターの内の一人。それでも、流石にゲームの中の腕前はそこそこでしかなかったらしい。

思わず彼はアムロを睨むが、睨まれた方は屁とも感じていないようでもう既に次の試合の準備に取り掛かっている。

まあ、先程のアムロとロックオンの試合を見ていれば、今の結果はもう分かったも同然。

なので他の面々は(約1名にやにやと笑っているのを除いて)苦笑いで彼らを見ている訳なのだが。

 

「………ほい、再設定完了。んじゃ師匠次」

 

「ほいきた」

 

そんな会話を交わしながらアムロがリボンズと入れ替わる。

因みに今の状況はマイスターズVSバカ師弟+1のチーム対抗戦が終わったので、今度はマイスターズ+1VSバカ師弟コンビによる対抗リーグ戦の真っ最中。

+1が何故移動しているのかというと……ぶっちゃけた話、ハンデである。

初戦のチーム戦にて、いきなりスーパーアースゲイン*2という地獄絵図が展開された際、一切+1の駆るR-1が目立って無かったからというのが大きな原因である訳だが。

…が、そんなハンデ等意味があったのか、今となってはわからない。

何故ならば、やりつくしているこのバカ師弟コンビはリーグも余裕で全勝中なのだから。

 

「…………………」

 

「ティエリア。無言で向こうを睨みつけながら僕にコントローラを渡さないで。意外と怖いから」

 

「……クッ、たった…たった数発しか当てられないとは…僕は…俺は……私は……!」

 

「うん。ただのゲームごときでそこまで情緒不安定になれるって結構才能だよね……大丈夫だよ。仇は……無理そうだけどとにかく頑張ってみるよ」

 

「私は……」

 

「…あー、アレルヤ?ダメだ、コイツ聞いてないぞ」

 

「……フォロー、お願いします…」

 

「あいよ」

 

言いながらロックオンがティエリアの方へ向かう。

…え?リジェネ?彼はリーグ開始早々バカ師弟コンビに秒殺されて真っ白になっていますが何か?

 

「…相手はスーパーアースゲインか…」

 

試合開始と同時に、アレルヤは自機のART-1を戦闘機形態へと可変させて、ステージの端ギリギリを飛ばした。

これにはキチンとした意味がある。

スーパーアースゲインもアークゲインもそうだが、基本的にスーパー系の機体というのは、ダッシュ攻撃などといった勢いのある攻撃をした場合、リアル系のように直ぐには止まれずそのまますっ飛んで行ってしまうという妙な癖がある。

アレルヤはそれを利用しようとしているのだ。

このゲーム、ステージの範囲外に出ると、全自動で範囲内に戻ろうとするモーションがかかるのだが、実はこの時でもダウンしなければ攻撃が通り続けるという仕様になっている。

無論、リアル系の機体ではせいぜいマシンガンの掃射を一回喰らえば直ぐにダウンしてしまうため、あまり戦闘に影響が無いと言えば無いのだが、スーパー系の機体になると話は違ってくる。

無駄に防御力と図体、そしてダウン耐性のあるスーパー系にはこのモーションが入ると中々ダウンしないのが災いして、この仕様は忌むべきフルボッコの種となるのだ。

なので本来では、このようなアレルヤと同じ戦法をとる敵を相手にするのはかなり時間の無駄なので無視するのが定石なのだが……今回のようにタイマンとなると、そうはいかない。

時間切れを狙っても、一度も倒せなければ意味は無いのだ。

 

(さあ、来い!)

 

そう思いながら、アレルヤはギリギリのラインを保ち続ける。

尚且つ、ブーストゲージが切れる前に変形解除→着地→変形コマンドでモーションキャンセルと共にブーストゲージ回復→再度飛行開始 という変形機体特有のバグ技も交えた行動をも取り入れながらというのが、彼の技量が如何程高い物かというのを証明していた。

それを見て、リボンズは内心で小さな感嘆の声を上げる。

先程のロックオンやティエリアと違い、己の駆る機体の特性と相手の機体の特性。そして己と相手の技量の差をキチンと弁えた、至極合理的な戦い方を選んできた事に対する物だった。

バグ技の方は、おそらく最初のチーム戦でアシュクリーフを用いたアムロの動きを見てそれを真似ているだけなのだろうが、それでもそれをすぐさま自分の動きに取り入れられているというというのは、一種の才能というものだろう。

…しかし――――

 

 

(面白い!!その小賢しいコテコテの定石など、真正面から蹴り砕いてくれる!!)

 

―――そんな戦法に対して、この鬼畜最強イノベイドが一片の怯みも覚える訳が無い。

むしろ嬉々としてコレに突っ込んでいく。

地を蹴り、邪魔な障害物を吹き飛ばし、いまだギリギリのラインを飛んでいる若干紫交じりのダークブルーの機体を群青色の巨人が追いかける。

これがもしも現実であったならば、アレルヤは恐怖で肝をつぶしていただろう。

…しかしこれはゲームである。命など一切ベットしなくてもいい、お遊びの一環なのである。

 

(来た!)

 

乗ってきた群青色の巨人を見て、アレルヤは快哉交じりの声を心の中で叫んだ。後は敵の攻撃に当たらないように、且つそれをうまくステージ外に飛び出すように誘導しながら粘り切れれば勝利である。

…しかし、極めに極めた男の駆るこの巨人は、そんな小賢しさをせせら笑うような行動をとった。

それは……

 

「っ!?ラインの上を!?」

 

「この程度、少し訓練すれば誰でもできる芸当だよ!それ、落ちてもらおうか!?」

 

…簡単な話、相手よりも外側に立って、攻撃が外れたとしても範囲外へと出るリスクを無くしたのだ…詰まる所、境界線の上で行動したのだ。

無論、そんな簡単な事ではない。少しでも操作をミスれば一瞬で範囲外へと出てアウトである。

事実、口は軽いがリボンズの手にはうっすらと汗がにじんでいる。

 

「…っけど、バランスを崩してしまえば!!」

 

言いながらアレルヤは変形を解除して、ブーステッドライフルによる攻撃を敢行する。

弾速、威力、相手の保つ絶妙のバランスに与える影響を加味した上でのチョイスだ。

事実、ほぼ至近距離から放たれた銃弾は諸にスーパーアースゲインの頭部を捉えた。

 

「ヌハハハハハハハハ!!!!貧弱貧弱ゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

それでも止まらない、ブレない、怯まないと3拍子揃っているのは、流石のスーパー系最強の一角といった所だろう。

思わずそれを見たアレルヤは舌打ちをしながら再度変形。再び全速力で逃げ始めた。

それを追いつつ、隙あらば掠らせる程度とは言えダッシュ攻撃を当てるリボンズ。

そんなイタチごっこの如き追いかけっこは、制限時間終了時まで続いた。

 

因みに結果は引き分けだった。

つまり、どっちも相手を落とせなかったという訳だ。

試合終了時、不気味に笑うリボンズを見ながらアムロはコッソリとアレルヤに合掌したという。

 

 

 

 

「次、俺とやろうぜ。さっきはアンタの弟子に予想外の攻撃で負けちまったが、今度はそうはいかねぇぞ?」

 

「HAHAHAHAHA。狙撃しか能のない男がよくも吠えた物だね。良いだろう劇画チックにブチのめしてさしあげよう」

 

「言いやがったな?負けて吠え面かくなよ?」

 

「こちらのセリフだ、と言わせてもらおうか」

 

「……あの、二人とも年長者なんだから、もうちょっとにこやかにゲームできませんかね?」((((;゚Д゚))))

 

その直後の試合でとんでもない黒い笑みを浮かべた年長者による、暗~い雰囲気の中行われた、斬艦刀VSZOソードという異色の対決があったのだが……あまりにも試合中行われていた会話がブラック過ぎるので、少っしも描写できるような物ではなかったという事を、ここに明言させてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

「……以上で“スパジェネ”終了だ。師匠、そっち終わったか?」

 

「もうじき終わるよ……む、今のを避けるか。しかしこれでフィニッシュと行こう」

 

「ああ!………くっ、無念……」

 

「……えー、とりあえず今までヨハンと師匠の二人が何やってたかというと、ヨハンがノウルーズ、師匠がアルブレードカスタムを使って、スパジェネやってたんだな。因みに大方の予想通りに師匠の勝ちだ。…それでも1回落せてるから、初めてにしては大健闘じゃないかヨハン。誉めてやろう」

 

「恐縮です、O-01」

 

「オウ。という訳でゲストはこの人。トレミーのおとうさんこと、ロックオン・ストラトスだ」

 

「いやー!!どうもどうも!ご紹介に預かりましたロックオン・ストラトスです!」

 

「2期のウソ予告と、デフォルメキャラによる特別編登場時のノリで出ていただき、ありがとうございます、兄貴」

 

「いや、兄貴言うなし。気恥ずかしいな」

 

「んじゃお義父さんで」

 

「おい、今なんかニュアンス違わなかったか!?」

 

 

「それじゃ、早速トークしようか。今回は親睦会の時の話だね」

 

「ホント、二人はもうちょっとにこやかにやって下さいよ…」

 

「ああ…あれは俺も少し大人げなかったからな…反省しねぇと」

 

「した所で絶対に変われない件について」

 

「ケンカ売ってんのか?」

 

「売ってやろうか?」

 

「やめなさい!!!大の大人がみっともない!!」

 

「“お恥ずかしったらありゃしない”、という事ですね、O-01」

 

「いや、そのネタは結構古いぞ…というか意味も違うし。……というかなぜに知っている、ヨハン…」

 

「元ネタの分かる貴方も大概だと思いますが……」

 

 

「というか、アークゲインって…」

 

「ムゲフロの機体だね。Wシリーズなんだっけ?」

 

「そ。EXCEEDでサポキャラとして使用可能になった奴なんだけど……良いのか?使っても?」

 

「まあ、鬼畜性能なのは否めないけど……良いんじゃないか?どうせ今回だけだろうしな」

 

「はぁ」

 

 

「…ところでロックオンさんはラインヴァイスしょっちゅう使いますよね?狙撃機体ならほかにもあるでしょうに…」

 

「いやあ、あれ中々使い易いんだよ。早いし軽いし、弾頭切り替えもスムーズにできるしな。弾幕が張れるっていうのも大きい」

 

「…乱れ撃つのは貴方の弟の特権でハブォ!?」

 

「「ヨハンちょっと黙ってようか?」」

 

 

「つーか師匠とロックオンさんってなんでそんなに仲悪いんですか。できればもうちょっと仲良くして貰いたいなと思う訳で「「やだ」」…即答ですか」

 

「まあ、僕の場合は嫌いというよりかは何となく気に入らないというのが大きいんだけどね。特に心の中にどす黒いとても大きな物を持ってるのに、綺麗な言葉でそれを塗り固めて上手く隠している所とか“特に”」

 

「俺の方も同じような感じだな。綺麗な顔して中身はこの世の歪みという歪みを凝縮して上手いこと人間の皮を被せてる様な所とか“特にな”」

 

「……フフフ」

 

「フフフフフ」

 

「「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」」

 

「……勘弁してください」

 

「O-01。挫けたら負けです」

 

「…………ホントに勘弁して……」

 

 

 

 

「…気を取り直して、次は3本目だな。さっさと終わらせて帰りたい…」

 

「ロックオン・ストラトスと師匠氏はいまだ不気味な笑いを続けているので代わりに私が。題名は“影の薄い彼女のデート?”だそうです」

 

「……誰?誰と?そしてなぜ疑問系?」

 

「さあ……」

 

「…………ま、いいか。そしたらさっさとはじめよう。次ページからスタートだ」

 

短編その3

『影の薄い彼女のデート?』

 

(……これは一体如何してこうなっているのだろう?)

 

ある晴れた昼下がり。

ソレスタルビーイング所属のガンダムマイスター【ユリ・花園】は、嘗て無いほどの試練に襲われていた。

 

その試練とは――――――

 

「……オイ、何顔赤くしてるんだ。はよ食え。俺がアホみたいだろが」

 

―――などと言ってスプーンの上に乗ったアイスクリームを口元に差し出してくる、一人の少年だったりする。

 

(……ど、どうしてこうなった……?)

 

そう思いながら、彼女は内心頭を抱えた。

主に羞恥とか羞恥とかそこらへんで。

 

何がどうしてどうなっているのか――――――その答えの糸口を見つけるには、今の状況から約数時間前に遡らなければならない。

 

 

「……は?買い物に付き合え、だぁ?」

 

「あ、ああ…ちょっと…その、個人的に必要だった物が、最近尽きかけてきてな……それで…」

 

とある日曜の昼直前。アムロはユリにこんな風に誘いをかけられた。

その誘いをかけた方の恰好はかなり気合が入っており、どう考えても“ちょっと買い物行ってくる”レベルの物ではない。

何をそんなに気合を入れているのか? 思わずアムロは内心で首を傾げた。

 

「で…その……どうなんだ?」

 

ソファーに寝っ転がりながら天井を見つめて考え事をしていたアムロに再びユリが問いかける。

 

「ン。まあ別に今日は彼是無いから暇だしな…一日中家の中っていうのも性には合わんから付き合うわ」

 

「ホントか!?」

 

「ウソ言ってどうすんだ。で、何処に行くんだ?」

 

言いながらアムロはソファーから立ち上がって荷物の準備をする。

とは言っても、携帯と財布をズボンのポッケに押し込んで、肩掛けバッグを背負うだけなのだが。

そんな彼に対して、ユリはテーブルの上に置いてあったとあるチラシを開いて見せる。

其処に書いてあった事とは――――――

 

 

お○場 ○ーナス○ート

 

「ここまで来させられた意味が分からない」

 

「うるさいな。来たかったんだから別に良いだろう。それに文句言いながら結局ついて来てるじゃないか」

 

「俺保護者。お前被保護者」

 

「喧嘩売ってるのか?」

 

等と言い合いながら歩く二人はどっからどう見てもバカップルとかそういった類の関係にしか見えないのは…まあ、些細な事だろう。

 

 

ポテポテと二人そろって歩きながら周囲を見渡す。

さっきの言い争いから既に30分ほど経過していた。

その間に二人が入った所と言えば…まあ、主に服屋とか化粧品屋とか雑貨屋とかしかない訳でそういう所にしか行ってないのであるが。

しかしそれでも彼らの両手に荷物の入った買い物袋が大量にぶら下げられるには充分であった。

 

「……つくづく思うが大量に買ったよな…ってか、明らかにお前が着たりする以外の物も買ってなかったか?」

 

「ん?…ああ。一応スメラギさんやクリス達にあげようと思ってな。彼女たちは基本仕事であまり出かけられないから…」

 

「ん。納得」

 

言いながらアムロは首を回して肩を解した。

あまりユリに荷物がいかないように頑張ってみたものの、流石に両手のキャパシティを超えるほどの量の荷物を持つとキツイ物があるらしい。

結局、彼女にも幾つか持たせてしまっているし。

それでも液体系や比較的重量のある物をメインで持っているのは、男としての面目躍如といった所だろう。

そんな自分に自嘲気味の苦笑を漏らす。

 

が、次の瞬間。

 

「「…?」」

 

不意に二人は誰かから注視されているような奇妙な感覚を感じ、咄嗟に不自然な動き方にならないように注意しつつ背中合わせになった。

周囲を警戒し、隅々まで見渡す。

異常無し。

ユリの顔を見る。彼女も異常無しと判断したようだ。

同時に二人揃って、はて?、と首を傾げた。

確実に見られているような感覚はしたのだが、肝心のこっちを注視しているであろう人間の姿が見当たらない。

気のせいか?と思おうとしても、タダでさえガンダムマイスターという特異な職業柄、気配察知などの能力が高いユリに、それを“基礎能力”として追加で鬼畜師匠による地獄の修行を施されて尋常じゃないレベルまで身体能力をぶち上げられたアムロの二人が同時に察知できたのだ。

勘違い、という線はありえない。

 

(…不味い、か?)

 

少々不穏な物を感じたアムロは荷物のせいで碌に動かない手を必死に動かして、ユリにジェスチャーで“早く行こう”と伝える。

対するユリも同じ様な考えだったのか、それを直ぐに了承すると早歩きで目的の場所へと向かい始めた。

念の為最後に周囲をちょっと確認してから、アムロもその後を追い始める。

 

……ただ買い物に来ただけなのに何故こうなるのか、と口の中で愚痴を吐きながら。

 

 

そんな二人からちょっと離れた場所にある柱の裏……というかは、二人が居た方向とは丁度反対側。

其処には先程まで二人を注視していたとある3人組が、組み体操かトーテムポールかと言わんばかりのとっても変な体制で隠れていた。

 

「……い…行った?」

 

そう呟いたのは一番下で上の二人を支えている、黄緑の髪を持つ少女―――ヒリング・ケア。

 

「ああ、行った。おそらく荷物を置くかそのまま此処を離れるためにエレカに戻ったんだろう」

 

そう返したのは上の一人を肩車で支える浅黒い肌で黒髪を持つ少女―――刹那・F・セイエイ。

 

「あ、あの…も、もう降りた方が良いですよね……?」

 

そう言いながら一番上でヒリングに労りの声をかけるのは、ピンクの髪を持つ少女―――フェルト・グレイス。

 

「う、うん。言いたかないけどやっぱキツイわ…」

 

「すまない。今降りる」

 

「ありが…って痛ぁ!?ちょっ、靴が!!靴の踵が肩甲骨の隙間にぃ!?」

 

ギャーギャー喚いても体勢を崩さない辺りは流石のイノベイドと言ったところだろう。普通に涙目になってしまってはいるが。

そんな彼女に構わずに地面に降り、肩車していたフェルトを下すと刹那は首をグリグリと回した。

流石の彼女でもちょっときつかったのかも知れない。

そうしてから、刹那はアムロとユリが消えていった方を見ると、

 

「追うぞ」

 

と言ってから再び歩き出した。

その後を慌ててフェルトが。

遅れて痛みで少し悶絶していたヒリングが追いかける。

 

 

……さて、なんで彼女達が何の用事も無いのにこんなショッピングモールに居て、更にはアムロとユリを追跡しているのか。

その理由は時間を少し戻してみるとわかる。

 

 

2時間ちょっと前

 

アムロ自宅兼アジト

 

「というわけで、アムロとユリ・花園がデートするらしいから追跡するわよー」

 

ニタニタ笑いながらリビングでそう宣言したのは、誰であろうヒリングだ。

肝心のアムロとユリが出かけてから1分近く経ってからの事だった。

突然の一言に刹那とフェルトが目を丸くする。

ややあって彼女に質問したのはフェルトだった。

 

「え………追いかけるん、ですか?」

 

「モチのロンよ。姉には弟がこういった機会に不純な行動しないかどうか監視する義務があんのよ。決して自分の弟があたしより早くそんな甘酸っぱい青春のイベントに遭遇したからって嫉妬してる訳じゃないわよ。無論あたしはブラコンじゃないからその相手があたしじゃなかったからってユリ・花園に嫉妬してる訳でもないわよ」

 

「墓穴を盛大に掘ってないかJK」「黙れ食いしん坊マイスター」

 

言いながら睨み合う二人。

されどヒリングが墓穴を掘った事などフェルトにだってわかる。

それでも口に出さなかったのは、彼女が比較的聡い子供だからだろう。

 

(デート…かぁ…)

 

まあ、子供と言ってもお年頃。

そういった色恋沙汰に興味が湧くのは女の子だから仕方のない事だ。

だから彼女はヒリングの提案に反論しなかったし、然程乗り気でなかった刹那を必死に説得したりもしたのだ。(ただし刹那はお菓子をチラつかせた瞬間に賛成派に回った為に、別に説得も糞も無いのだが)

 

まあ、それは兎も角としてその後直ぐに追跡する事を決めた3人は言うが早いがヒリングの愛車に乗り、出歯亀もとい何時か自分達にそういう事態が来た時の参考として(約1名は美味い物を食べる事がメインになってはいるが)此処へと足を運んだわけなのだ。

 

 

そして現在。

3人は怪しまれる事を避ける為に、ヒリング主導でアムロとユリが入った店に程近い距離の店(無論向かいだとか隣では無い)を物色しながら2人を追跡しつつ、約1名は虎視眈々と隙あらば二人を誘導してフードコートへと向かおうとしているのだった。

なんかおかしい?気にしてはいけない。

 

「…チッ。二人とも、流石に訓練しているだけあって早い。もうエレベーターホールの前に居る」

 

「不味いわね……あの位置からじゃ、下手に近づくと完璧に見つかるわ。特にアムロの奴はエージェントの仕事もやってるだけあって場馴れしてるし…フェルト。地図を見て、あのエレベーターが駐車場の何処のブロックに到着するのか確かめて」

 

「そこまで詳しくは載ってないけど、大まかになら……えっと…Dの一番端に到着するみたいです」

 

それを聞いたヒリングが悔しそうに顔を歪める。

 

「だとしたら少しキツイわね。あたし達の車があるのはBブロックだから離れすぎてる……ここで見失うと厄介よ」

 

「…裏をかいて別のブロックに置いてあるという可能性は?或いは別の階で降りてから時間を潰し、それから戻るなどの可能性もあるだろう。ユリは兎も角、アムロはやりそうな気がするが」

ポツリと刹那がそう言った。

確かに、先程の二人の様子を鑑みるに何かしらのフェイントでそういう事をしてくるのは考えられる。

特に相手はあのアムロだ。自分が追われていると判断すれば、あの手この手で追う側の気力を削ぐような嫌らしい手を使ってくるあの男が自分達の相手なのだ。

ジャブの気分でそれくらいしてきても何らおかしくは無い。

フェルトもそれが分かっているのか、不安そうな目でヒリングを見てくる。

しかしヒリングはある種の確信があるのか、それは無い、と首を振った。

 

「あいつ単体ならやりかねないけど、今は同伴者が居るのよ?しかも手元には荷物が大量……この場合、逃げるのが目的なら真っ直ぐ足になる物に駆け込むのが得策。フェイントをかけるにしても、かけてる最中に同伴者に限界が来たら逆効果になるしね。あいつもそれ位は分かってる筈よ」

 

「それじゃあ、彼らが乗ってから次に来たのに乗り込みましょう。幸い、エレベーターは2つありますし」

 

「それが一番良いわね……っと、来た来た……それじゃ、二人が乗ってドアが閉まった所で走るわよ」

 

「「了解」」

 

そんな会話を交わしてから身構える3人は、傍から見てる者にとってはどう良心的に見ても不審者以外の何物でもない。

それでも通報されないのは、きっと3人全員がかなりレベルの高い容姿であったからだろう。

要するにこうである。

 

“かわいいは正義!!”

 

 

されどそんな3人の推理を嘲笑うかのごとく、アムロとユリはエレカのあるフロアではなく、まさかのフードコートのある3階で降りていた。

無論、二人ともまだ警戒は解いてはいない。

周囲をきょろきょろと見回しながらアムロが一番店のカウンターに近く、尚且つL字型に壁に囲まれた席に座った後、荷物を置き、ユリを壁側に座らせる。

そしてささっと目配せし、直ぐに手頃な物―――某有名なハンバーガー店Mへと自分と彼女の分の昼食を買いに行った。

その間、ユリはフードコートに入ってくる客をチェックする。

幸い今はまだ11時半。

段々と人が入ってくる時間帯ではあるが、まだ一気にドバっと人が入ってくるような事は無いため、チェックし損ねる心配は無い。

 

(…にしても家族連れが比較的多いな。カップルは逆に少ない、か……)

 

意外だった、と言えば嘘になるが、かといって予想の範囲内だったかと言うと、それもまた嘘になる。

そもそも今日は平日だ。土日でもなければ祝日でもない。

どちらかと言えば、ほぼ中間の水曜日だ。

…まあ、この世の中定休日が土日祝日ではなく水日祝日とか、それ以外の曜日と祝日だとか、下手をすれば土日とGW、盆、年末だけという所もある。

その事を鑑みれば、この状況もあまり不思議な事ではない。

 

(……っ…)

 

脳裏に一瞬だけ幼い頃の自分が誰かに手を引かれながら笑っている光景が浮かんだ。

それは何時の頃の光景だったのか、何が理由で笑っていたのか……

 

「…………ハァ…」

 

そんな頭に浮かんだビジョンを振り払い、新たに入ってくる家族を見てユリは溜息を吐く。

吐いた所で、別段に何か変わるわけではないが。

 

「持ってきたぞ…って、どした?」

 

其処へアムロがトレーの上に色々と乗せながら戻ってくる。

 

「ん?いや、なんでもないさ」

 

対するユリは慌てて笑顔を浮かべてその場を取り繕うが、流石に勘のいいアムロはそれが作り笑いである事に気がついたのか、更に眉間に皺を寄せる。

……が、やがて何かを察したような顔になると辺りを見渡してから周囲に妙な物が無いかチェック。それから一番近いところに座っている客との距離を見てから、彼はテーブルの上にトレーを置き、椅子に座ると小声でこういった。

 

「…………つらい?」

 

心臓を引っ掴まれたような気分だったと後に彼女は語っている。

これがアムロ・レイという人間の悪い部分であった。

察しが良すぎる訳ではない。人の心の機微に疎いわけでも敏感なわけでもない。

ただ、まったく別の意味で言った言葉が、あまりにも絶妙なタイミングで出てしまい、まったく別の意味で相手に受け取られてしまう。

詰まる所、低確率ながら彼は人の心の地雷原を盆踊りを踊りながらよりにもよって“突破”してくるのだ。

しかも、本人は全く別の意味でそれを言っているのだから、性質が悪い事この上ない。

 

今回もそうであった。

 

アムロ自身は“人が多いからつらい?”と言ったのであって、まったくそれ以外に含む所は無い。

しかし、今このタイミングで放たれたその言葉は、ユリにとってまったく別の意味を持って投げかけられたと思わせるのに十分であった。

 

「……ン、大丈夫」

 

一寸カッと熱くなりかけた自分を諌めて、彼女は至って普段と同じように返答する事に成功した。

よくよく考えてみれば、彼が自分に関して知っている事など然程無いのだ。

寸前でそう思えた自身の理性に感謝しつつ、彼女はそのまま目の前のハンバーガーの包みを開けて食事を始めた。

そんな彼女の反応を見たアムロは怪訝そうな顔になりながらも同じ様に食事を始める。

 

それから食事が終わるまで、二人は一言も言葉を交わさなかった。

 

 

(…さて、どうする)

 

数分後 

 

(そろそろ腕が疲れてきたな…)

 

場所は変わらず

 

 

((…………どうしよう?))

 

二人はある意味今日一番の問題と直面してしまっていた。

 

 

 

そもそもの発端は食事が終わって不意に立ち上がろうとした時である。

 

【ピピピ、ピピピ、ピピピ】

 

「「ん?」」

 

突然鳴り響く電子音。

はてなんだろうと二人が見渡すと出所は今さっきまで食べていたハンバーガー屋のトレー…の上に置いてあった小型端末。

なんだこれ?と、ユリがそれを持ち上げる。

それを見たアムロは少し考えた後、何か合点がいったような顔になって手を叩いた。

 

「いっけね。デザート代わりに別の店でアイス頼んでたんだったわ。それ、たぶん呼び出し音だ」

 

それを聞いたユリも、ああ、といった顔になる。

成程見れば端末の隅に番号と店の名前が印刷されているシールが貼ってある。

ちょっと取ってくる、と言いながらアムロは席を立った。

それに手を振って返すと、アムロは店の方へと歩いていく。

…暫くしてから戻ってきた彼の手にあったトレーの上に何故かてんこ盛りの緑色の物体が入ったバケツのような容器が乗っているのを見て、彼女が盛大に頬を引きつらせるまで、残り40秒。

 

 

「ドッチクショォォォォォォ!!!」

 

一方こちらは二人の行動を深読みし過ぎてまんまとフェイントに騙された追跡部隊の3人。

駐車場に来てからそこらじゅうを虱潰しだと言わんばかりに練り歩いて二人の姿を探していたが、結局アムロとユリは見つからず。

まさかもう出て行ったのかと思ったところでフェルトが二人が乗ってきたであろうエレカを発見。

荷物などの置かれていないその状態から、ヒリングがやっと自分達がフェイントに引っかかった事に気付いて大絶叫。

刹那はそんな彼女を道中買った肉まん片手に冷ややかに見つめ、残るフェルトは周囲がヒリングを変な目で見ている事に気づき、巻き込まれては厄介と他人のフリを全力でしている。…結局近くにいるので然程効果はないのだが。

兎も角、この後ヒリングが周囲の自分を見る目に気づいて悶絶したため、追跡組がアムロとユリを追いかけられるようになったのは、そこから十数分後であった。

無論、その頃には二人は別の場所へと歩き始めてしまっていたのだが。

 

 

で、その肝心の二人はというと……

 

 

 

「……つくづく思うが、本当にエライ量のアイスを買ってきたな」

 

「食べる?」

 

「いや、いいよ。そんなに食べたらお腹壊しそうで…」

 

「…流石に全部は食わないよ?残ったらキチンと持って帰れるようにしてもらったさ」

 

「そ、そうか」

 

言いながら頬を引きつらせるユリ。

まあ、容器抱えてその中身食ってたら誰でも全部食べるのかと思ってしまうのは当たり前だろう。

事実、既にバケツの中のアイスはもう半分程になってるし。

帰ってからアムロがトイレに篭もりっきりになるのではないか、とユリは少々不安気味になる。

が、そんな彼女の不安なぞ知った事じゃないとばかりにアムロはアイスを貪り続ける。

その顔はもはや何か色々と緩みきってふにゃけてしまっている。

 

(…締まりのない顔)

 

アムロを見ながら、ユリは内心でこう呟いた。

そこには嘲りの色はない。

むしろ、コイツでもこんな顔をするのか、といった驚愕が浮かんでいた。

まあ、それはそうだろう。

ぶっちゃけた話、アムロはこんな顔絶対に人前ではしない。…というか、するタイミングがない。

平時の“アムロ”という存在として活動中は炊事洗濯掃除に買い出しといった家事に追われ、時たま刹那やユリ、フェルトや師匠や姉兄ご近所の対応に追われ、それ以外では相棒のハロに対応。

(ユリ達は知らないが)“O-01”として活動中は常に戦闘のプレッシャーやエクストリーム・ガンダム地獄による訓練、トリニティ3兄妹の面倒を見ている。

そのため、実質的に彼個人がゆっくりできる時間など実は本当に無い、とまではいかないもののそう言っても過言ではないほどに少ない。

 

「何?」

 

と、いつの間にかアムロがふにゃけた顔のままユリを見ていた。

長く見すぎた、とユリは内心で一人ごちる。

珍しい事だったとはいえ人の顔を凝視し続ける、というのは知った仲であっても失礼だろう、と。

 

「いや、なんでもない」

 

言ってユリは視線を外した。

そんな彼女を見ながら、アムロは軽く何かを考えるような素振りをする。

…が、そこは流石のアムロ。

おそらく、彼はそう考えたのだろう。

何かに気づいたような表情になったかと思うとスプーンで手元のアイスを限界ギリギリまで掬い上げ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ」

 

「……は?」

 

「いや、『は?』じゃなくて。食いたいんだべ?」

 

「え?いや、ちょ、ま…え?」

 

 

―――スプーンを、ユリの顔の前に差し出してこう言った。

『自分の顔を見られていた』…それが思いつかない代わりに『アイスを食べたくてそっちを見ていた』なんて事が思いつくあたり、流石だと言わざるをえない。

何が?と言われても困るが。

 

 

「……オイ、何顔赤くしてるんだ。はよ食え。俺がアホみたいだろが」

 

(……ど、どうしてこうなった……?)

 

そして話は冒頭へと戻る。

とりあえずアムロ。アホみたいではない。お前はアホだ。筋金入りの。

 

 

……まあ――――――

 

 

 

 

 

 

「……んっ」

 

「…美味いか?」

 

「……うん」///////

 

「そりゃよかった」

 

 

 

 

 

 

――――――結局食べてしまったあたり、ユリもユリなのだが。

この後?無論帰るだけだったが、家に着くまで(ユリが一方的に)変な雰囲気になっていたことは言うまでもない。

 

 

世界のどっかの某所にて

 

                           

「リア充マジでくたばれ!!!!!!!!!!!!!」ヽ(゚Д゚)ノガオー

 

「ちょっとリボンズ!?いきなり何言い出してるの!?」Σ(゚д゚lll)

 

どっかの師匠が謎の電波を受信して天に向かって吠えたが―――まあ関係なかろう。

 

駐車場にて

 

「「ハッ!?」」

 

「? 刹那、どうかしたの?ヒリングさんも…」

 

「い…今、何か、役どころとしてとても重要なイベントを見逃した気が…」

 

「何故かしら…あたしの場合はなんか無性に腹が立ったんだけど」

 

三人の間でこの様な会話がされたのも関係あるまい。

―――因みにこの3人。自分達では完全にバレきってはいないと思っているが、実はこの時点で追跡者が自分だと『アムロには』バレている。

故に家に帰った瞬間、イイ笑顔のアムロに正座させられ、そのまま事のあらましを聞いて顔を真っ赤にしていたユリに大説教を食らったのは…しょうがない事であろう。

 

因みに宇宙に浮かんでいる白と水色のツートンカラーで塗装されたとある戦艦内では、この二人っきりの買い物が何者かによって逐一映像で実況されていたらしい。

どんな騒ぎが起こっていたかは…それは、読者の皆様のご想像に任せるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「……以上『影の薄い彼女のデート?』終了だ。……てか、これデートちゃうやろ」

 

「それ以上言ってはいけませんO-01。おそらく、ここに居る全員が思っている事です」

 

「はいはい作者の力不足を酷評する場所じゃないからねココ。というわけでトーク行ってみよう」

 

 

「時系列的には合同演習前だな。というか、これまでの話を読んでいる限りでは、お前さんトリニティと合流してから一回も帰ってないんじゃないか?」

 

「あー…気付きましたか。そうです。一回も帰っておりません。もうすぐ帰れる算段だったんだけど…うわぁ…よく考えたら帰ったら帰ったでまた面倒な事があるじゃないか…」

 

「? 何かあるのですか?」

 

「うん。とってもとっても面倒な案件が……そこの緑髪のバカ師匠の所為で」(-_-)ジトー

 

「ハッハッハ…何の話かな?」

 

 

「つーか今回の話の舞台って、フツーに現実にあるよな。東京都の埋立地の方に」

 

「伏字にしてあるけどモロですしねぇ…作者はなんて言ってるの、師匠」

 

「『なんか苦情とか来たら即座に名前を捏造する』とのことだよ」

 

「…最初から変えとけばよかったのでは?」

 

「そこはそれ、当人の理由という物があるんだろうね」

 

「…果てしなく下らない理由な気がするぜ…」(ーー;)

 

 

「そういえば、O-01が口にしていたものは一体…」

 

「無論メロンアイス!!!」

 

「うおっ!?叫ぶほどか!?」

 

「あー…そういえば言ってないしキャラ紹介の回でも明記してなかったけど、アムロって実は基本的な好みや性格は完璧に作者と両親がモデルになっているんだよ。だから隠れたメロン狂だったりするし、フレンチブルドッグが好きだったりするよ」

 

「マジかよ…」

 

「メロンがあったらどんな絶望的な状況でも10年は戦えるぞ、俺は!!」

 

「どのような理屈なのですか…?」

 

「ヨハン・トリニティ。考えては負けだよ」

 

「はぁ…」

 

「因みにスイカとか梨とかでも可!!つーか果物全般何でもこいや!!」

 

「スイカは野菜だろうが……んじゃ訊くけどドリアンはどうなんだ?」「すみません。刺さるし頭割れるんで勘弁してください」

 

「即答かよ!?」

 

 

「あれ?そういえば思ったんだけどさ師匠」

 

「ん?どうしたんだいいきなり」

 

「いや…ユリ何処?これまでの話の流れからするとトークゲストで出てくるんじゃないの?」

 

「あ、それ俺も思った。だけど、何故か俺もこっち来るまでに見てないんだよな。何でだ?」

 

「…ああそれね。いや、実は彼女も今回呼ぶ予定だったんだが……」

 

「…だが、なんだよ?」

 

「…オイまてまさか…」

 

「フ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1期編の終わりにアムロとタイマンでトークするから今回は出番無しだそうだ」

 

「「酷いぞ作者ああああああ!!!!!!!」」

 

「……(な、なんだ?この形容し難い哀れみは?)」

 

 

 

 

 

「ハイ気を取り直してドンドン行ってみよー!!……って、あれ?今ので終わりじゃなかったっけ?3話でしょ今回?最初に言ってたよな?」

 

「そういや、そうだな…たしか、元々は3話しか入れてなかったはずだが…」

 

「私の記憶にある限りでは、Pixiv版では確かにそうでしたが…」

 

「あ、そういえば言ってなかったかな?今回移転するにあたって、この小説、オリジナル版とは少し違う部分が幾つか有るんだよ。表現が変わってたり、文量が多くなってたり」

 

(もしかしてこう言う脳内でのセリフが『・・・・・・』じゃなくて()で表現されている所とかか師匠?)

 

「あ、うん。実際にやってくれてありがとう。まあ、そう言った部分も含めて、だね」

 

「んじゃあ、次の話もその一環ってわけか。だったら早速話に入ろうぜ。題名は『1期編でやろうと思って“た”外伝のプレ版』か。……って、はい?」

 

「…………え゙?」

 

「……では言ってみましょう」

 

「レッツスタート」

 

 

「いや、ちょっと待って!?何かおかしくない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

短編その4

 

 

『1期編でやろうと思って“た”外伝のプレ版』

 

 

 

 

 

…ん?何が起こった?

 

むくりと起き上がって、周囲を見る。

見慣れたコックピットに、見慣れた相棒の姿。モニターに若干見える外套と満天の星から、瞬時に此処が乗り慣れたOガンダムのコックピットで、俺は今宇宙にいるという事に気付いて安堵の息を漏らす。

 

…いやいや、安堵しちゃ駄目だろう。

 

そう思い直して、漏らした安堵の息を吸い直す様に、俺は深呼吸を一つしてから、昨日の夜の出来事を思い出す。

 

(…え~……と…確か昨日は師匠が「全員で年越しじゃー!!」言って俺らを集めて、リアル『ガキの使い 笑ってはいけない空港』やる羽目になったんだよな、DVDで………で、その途中で一月一日来ちゃったから、皆で年越し蕎麦(全部俺製)食って、そんでもってなんか皆段々と変なテンションになっていって、それから……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・アムロー!!サスガノアンタデモベッドノウエデモアタシニカテルトオモウナー!!!チョッ!!ネエサンナニイッテ・・・・ウェェェェェェェェェェ!!!!!??????シ、ショウタスケtガンバレーシ、シショオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………うん。何も無かった!!!!!!

無いよ!?無いったら無いからな!?

あ、思い出した!そういやなんか途中で師匠がどっかから甘酒持ってきて、それを皆で飲んだんだった!それで確か姉さんが超大量にそれを飲んじゃって………うん!!悪いのは全部師匠と甘酒ごときで酔っぱらう姉さんだ!!!全て師匠と姉さんの仕業だ!!

 

さて、悪いのは全てあの二人だと確信できたので、再び現状把握に移ろう。

取り敢えず、今俺が乗ってる機体がOガンダムだという事は分かった。

コンソールを見ると、武装データがあって、其処にデカデカと『O-GUNDAM』と書かれている事からも間違いは無い。

…って、いうか、こんな画面あったか?

取り敢えず色々と疑問は残るが全部放置して現状把握の方を続行する。

 

(…えー…っと、武装の方はシールド1つとビームガン改1丁。ビームサーベル1本と、GNABCマントはいつも通りで、その裏に改修型ビームサーベルが2本……改修型?なんじゃそら?何が違うんだ?…………ま、いっか。確認は後にして……あとは改修型ビームガン改がそれぞれ別タイプで6丁……って、“改修型ビームガン改”ィ!?なんじゃそりゃ!?しかもこれ全部どんなのだか説明無い?!って、いうか、さっきのサーベルの方も詳細乗ってないし!………ええい、まあいいや。グダグダ言っていてもどうにもならん。次、次!あとは……特になし!!)

 

「…つまり、良く解んない武器が何個かあるだけで、それ以外はいつもの状態なのね…」

 

確認後思わずそんな言葉を漏らした。同時に脱力する。

てっきりとんでもなく変な実験兵器を持たされて放り出されているのかと思ったが、そんな事は無いようだ。

…へ?得体の知れないビームガンとサーベルはって?

大本の武器が使い慣れてる奴なので除外した。つーか細かい事一々気にしてたら俺の精神がもたない。

とにかく、これで武装の把握の方は終了。

後は周囲の状況だが……

 

「オイ、起きろ相棒」

 

「ムニョ…?」

 

俺から見て右側の専用台座にすっぽり嵌まっていた相棒を小突いて起こす。

って、いうか何が「ムニョ」だ何が。

お前一応機械なんだからそんな事言う必要ないだろ。

そんな事を考えながら、俺は相棒に指示を出した。

 

「相棒。現宙域をサーチ開始。何かめぼしい物があったら順次報告しろ。取り敢えず俺達は今何処のどこら辺に居るのか詳しく確認したい」

 

「OK!OK!」

 

「頼むぞ…」

 

言いながら、モニターの外を睨む。

一通りチェックはしてみたものの、そのどんな場面でもこの状況がシミュレータによる仮想現実だということは明示されてはいない。というか、そもそも仮想現実であるならば、今俺の目の前に相棒は居ない筈なのだ。

つまりこれは――――――シミュレータによる仮想(バーチャル)現実(リアリティ)ではなく、現実(リアル)

要するに、人革連やユニオン、はたまたAEUといった『敵』が何時出てきても、何一つとしておかしな事は無いのだ。

故の相棒によるサーチである。

相変わらず気が狂っているとしか思えない超高性能を誇るコイツは、無論情報処理能力もハンパではない。その為、今回の様に索敵等をさせると、ものの1~2分で半径約2km程度の範囲の処理は終わってしまうのだ。この能力は、個人的にかなり高く評価できると思っている。

……まあ、それ以外の能力が凄いんだけど凄くない使われ方をしているからかもしれないが……

 

「……!! アムロ!見ッケタ!見ッケタ!」

 

と、どうやら相棒が何か見つけたらしい。

直ぐに俺は返事を返す。

 

「お!何だ?何を見っけた?」

 

「真後ロ見ロ!!真後ロ見ロ!!」

 

「は?真後ろ?」

 

言われて一瞬俺は頭の上に『?』を大量に乱舞させてから、ハッと気が付く。

そういえば、武装の確認とかはしたけど、まだ周囲を見渡してはいなかった。

これは失敗、と、頭を掻きながら後ろを振り向く。

 

で、絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは巨大な、シリンダー型の何かだった。

全長は今一分からないが、とにかく巨大で、その端っこから羽みたいなのが3枚生えていて、グルグル回っている。

羽の内側は、ほぼ全部が鏡みたいになっていて、その真下は硝子の様な物で構成されているのか透明で、其処から中を見ることが出来た。

中には……雲だ。雲が見える。丁度シリンダーの真ん中らへんに雲があった。その向こうには、シリンダーの外郭にまるで張り付くようにしてビルや民家等が見える。

よく見ると馬鹿デカイサンタのバルーンがあった。その下を車が通っていたり、人が歩いているのが見える。

それを確認した瞬間に、俺は思わず叫んでしまった。

 

「…シ……シリンダー型の居住コロニーだと!?」

 

有り得ない事に、頭の中が一瞬でこんがらがる。

何せ西暦2307年現在にも確かにコロニーはあるが、そういうのは大抵小規模な物で、軌道エレベータの中継地点だとか、アステロイドベルトの小惑星の中だとかそういった所にしかまだ作られていないのだ。外宇宙航行艦とかは別だとして。

CBの所有するコロニーだって、前述した物の後者の方の小惑星タイプの物が限界なのだ。

 

しかし、それでも―――――目の前に実物があるのだから、認めない訳にはいかない。

自分がノーマルスーツを着ていることを今一度確かめてから、コックピットのハッチを開けて肉眼で確認する。

存在している。

ハッチを閉める。そして頭を抱えて溜息を一つ。

これが幻覚の類だとか、自分はまだ寝ててこれは夢なんだといった事ならば、少しは気が楽になるのだろうが、生憎とノーマルスーツ着用時のあのなんともいえない感覚と微妙な息苦しさがこれが夢でもなんでもなく現実なんだという事を如実に物語っている。

その事を再び確認して、また溜息を一つ。

 

(…取り敢えず、何かで気を紛らわそう。このままだとおかしくなりそうだ。)

 

そう考えて、再び周囲に目を向ける。

と、視界の隅でオレンジ色っぽい光が見えた。

ん?と思ってOガンダムのメインカメラをそちらに向け、倍率を最大に上げる。

見れば其処では、一つ目のMS達が、互いにヒートサーベルやバズーカ、ビームライフルやビームサーベルや、あれは…ビームナギナタ、かな?そんな物を振り回したりして戦闘をしていた。

さて、これを見て俺はいよいよ訳が分からなくなってきた。

見た所、あのMS達にGNドライブは付いていない。だというのに、何機かは軽々とビーム兵器を扱っているのだ。しかもビームの色はどれもこれも黄色に近いオレンジである。

もう何が何やら。

 

 

 

ピピピッピピピッピピピッ

 

 

 

と、突然そんな音が鳴った。何かと相棒に確認させると、どうやらその内容はメールらしい。

何ぞと考えながら、メールを開く。

其処にはこんな事が書かれていた。

 

 

 

 

 

『赤いMSのパイロットが指揮している部隊を援護して、彼らの任務を成功させよ。なお、素性は本名以外正直に明かす事』

 

 

差出人は完全に不明。

本当に、これだけしか書いてない。

そして始まる脳内会議。

 

『もうこんな訳分かんない状況なんだから、素直に従っとくのが無難じゃね?』

『いや!これは師匠の盛大なドッキリという可能性がある!!信用するべきではない!!』

『しかしこのままここでボーっとしていても何も始まらん!!素直に従うべきだ!!』

『しかしそれは安易過ぎる!!もっと様子を見るべき』

 

イヤシタガウベキダ!イヤシタガワナイベキダ!!イヤイヤ…………

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全員かかって来いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、従おう」

 

「アッサリトキメタナ」

 

「うっせぇ」

 

言いながら、Oガンダムを戦場へと向ける。

時々流れ弾が飛んできたが、GNABCマントで十二分に弾き返せたので特に問題は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、戦場へと辿り着いたわけだが……

 

「…どうしよう。向こうの周波数しらねえよ」

 

…まさかの事態である。

よくよく考えてみると、俺は向こうの回線の周波数を一切知らない。

と、なると残されているのはレーザー通信か接触回線だけなのだが……

 

「アムロ!!上ダ!!上ダ!!」

 

「チィッ!!」

 

瞬時に機体を動かして、真上から降って来たビームの奔流を避ける。

結構太いな……明らかに高出力だ。

チラとモニターの一つを見ると数値はGNバズーカ並みの出力数値を検出している。

メインカメラを頭上に向けて望遠モードを倍率40倍くらいにしてその方向を見やると…青い一つ目の…何だろう流線型な見た目が妙に目に付く機体が大型のビームライフルと思わしき物をこちらに向けていた。

それを見て、俺は舌打ちを一つする。

何せあれが本当に敵なのかどうか判別がつかないのだ。応戦して撃墜してしまったとして、もしも相手がさっきの指示に出てきた“赤いMSのパイロットが指揮している部隊”の味方だった場合……考えるだに恐ろしい事となる。

 

(何とかして接触回線か何かで事情が説明できればそれがベストだが……)

 

なんて考えたのとほぼ同じくらいのタイミングで第2射が放たれた。

ギリギリの所でそれを避けつつここぞとばかりに接近する。

向こうもこちらの魂胆に気付いたようだ。

ライフルを投げ捨てて背中から…うん、たぶんビーム薙刀だな、あれ。

それを抜き放って此方に突っ込んできた。

しかし……

 

「そいつを……」

 

一気に加速して相手の間合いに態と入る。

相手は一瞬怯むけど直ぐに薙刀を振り下ろしてきた……けど、師匠は元より姉さん達や刹那、ユリ、そしてあのフラッグファイターの男と比べるとすこーしだけ、遅い。

 

「…待ってたんだ!!」

 

直ぐに相手の腕を引っ掴むとそのまま合気道は“正面打ち一教転換投げ”の動きで相手の後ろに入り、薙刀を奪い取る。

すると直ぐに接触回線で相手のパイロットの声が聞こえてきた。

 

『ぬぅっ!?不覚!!よもや連邦の白い悪魔がここまでとは!』

 

「…はい?」

 

連邦?白い悪魔?あにそれおいしいんか?

……あー駄目だな。本気で頭の中がこんがらがってきた。これ以上何か余計な事聞くと本当に如何にかなりそうだ。

そう考えた俺はすぐさま接触回線による対話を試みる事にした。

聞いた所、言語はユニオンで使われているEnglishみたいだから会話はできる……筈だ。

 

「悪いちょっと待てというか待って下さい後生だから。こちら私設武装組織“ソレスタルビーイング”所属のガンダムマイスター…あー…O-01だ。諸事情により偽名を名乗ることを許してほしい。取り敢えずこちらの状況を掻い摘んで説明すると寝ている間に連れて来られて訳も分からぬまま指示だけ出されて此処にいるので少しお尋ねしたい」

 

『…何?』

 

お、反応してくれた。これは良い感じかもしれん。

こういう場合、間を置かずに立て続けに要件を言えば拒否されるという事は少ない。

……ただ、セリフの感じからして拒否られそうな気が無くもないんだよなぁ。さっきの例だって少ないってだけだし…まあいいや。

少々あれかも知れないが、失礼千万覚悟で質問を言う。

 

「現在、私はこの機体で“赤いMSのパイロットが指揮している部隊を援護して、彼らの任務を成功させよ”というあやふやにも程がある指示を受けている。そこで聞きたいのだが、貴官の部隊を指揮するのはさっきからあそこで暴れまわっている赤いMSのパイロットか?出来れば早い返答をお願いしたい」

 

『フンッ、そんな事を言ったとして、それで本当に貴様が連邦の犬ではないという保証は無い!』

 

「故に言えん、と?」

 

『そうだ!』

 

「…………あい分かった。ならば証拠を見せよう」

 

そう言ってから、ビーム薙刀を相手の手に返す。

見ればあの赤い機体とその指揮下にある機体は、他のMSには目もくれず、その奥にあるずんぐりむっくりした緑色の戦艦に殺到している。

その挙動の節々から焦りのような物を見て取れる事から、おそらく急がなくてはいけない事情があるのだろう。

……ならば愚図愚図してはいられない、というのが、目の前のMSのパイロットの心情なはずだ。

再び顔を青い一つ目の機体に戻す。

拘束を解かれた青い機体はその手にビームを発振させない状態の薙刀の柄だけを持って此方を見ている。

それを見てから、俺は通信方法をレーザー通信に変えてから、少しだけ深呼吸してこう言い放った。

 

「…もしも不満があるのなら、今から私を“それ”で斬るがいい。コックピットは腹だ。外すなよ。外したら貴官の首を貰うぞ」

 

『…ほう。その意気や良し…だが良いのか?自らに課せられた事を成し遂げられなくなるぞ?』

 

「その時はその時だ……それに、こんなふざけた状況下で信用してもらおう何ざ思っちゃいないさ…ただ、信じてくれるのなら…その時は、貴官の仲間に事情説明などしてくれるとありがたいがね」

 

『……』

 

答えは、来ない。

元々ダメ元で言っているから、あまり緊張はしない。

溜息を一つ吐いてシートによっかかる。

 

(……だめ、かな?)

 

そう思って目を瞑ろうとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……アナベル・ガトーだ。階級は少佐。現在はシャア・アズナブル大佐の指揮下にある、特務隊にてジオンの為に戦っている』

 

「…それは信用して貰ったと捉えて良いんだな?」

 

驚きそうになった自分を自制しながら、目の前の青い機体を―――――アナベル・ガトーを見る。

すると向こうはどこか苦々しげな、それでもどこかスッキリとしたような微妙な感じで言葉を返してきた。

 

『今の我々に悩んでいる時間など無いのだ。さらに言えば今は猫の手も借りたいような状況……ならば、口だけとはいえ協力を申し込んできた者を無下に扱うわけにはいかん。……ただし、私が独断で監視として付く。何か妙な動きをすれば…』

 

「無論撃破して貰って構わん」

 

『……良かろう。ならば付いて来い!!』

 

言うが早いがアナベル…って、たぶん年上だから呼び捨ては不味いな。口に出すときはガトーさんで良いかな?まあ、とりあえず彼は機体を翻して先ほど俺が見た戦艦へと向かっていく。

俺も急いでその後を追い始める。

直後に、通信回線を使って彼からデータが送られてきた。

何かと確認する暇も無く、レーザー通信によってガトーさんから説明が入る。

 

『今、我々の友軍機としての識別ビーコンと敵機の識別ビーコン、そして通信に使う周波数のデータを送った!直ぐに機体に入力しろ!!』

 

「無茶を言うな!!ありがたいのは確かだがな!!」

 

すぐさまハロにデータ入力を指示しながら、ガトーの後を追う。

と、右側から黒と紫のツートンの少し太っているような印象を持つ機体がこちらにバズーカを向けてきた。

…ふぅん。リックドム、ね。

どうやら実体弾のバズーカを使うようなので自慢のマントが効かないのがアレだが…まあ、然したる問題はない。

 

「よっと」

 

放たれたバズーカの弾を左手で抜いたビームサーベルで両断。そのまま怯んだ所を頭にビームガン突き付けてビームをぶっ放して終了。

そのままあっさりと先へ行ってしまったガトーの後を追う。

咄嗟にやってしまったが、ビーコンからするとどうやら今のは敵のようだ。あー良かった…

 

『ほう、やるな。あの至近距離からあのような芸当ができるとは』

 

「何、師匠の課した“地獄の特訓”……もとい“初見でやったら確実に精神がくたばる地獄の修行”のおかげでなっと」

 

再び攻撃される。

今度は…ザクⅡ、ね。色合いからするとティエレンによく似てるな…向こうはこんなに丸くないけど。もっと四角い。

ドラムタイプのバレルを取り付けたマシンガンを装備しているが、キュリオス等のビーム式のそれと比べるとかなり弾速は遅い。

機体を少し捻ってからビームガンで頭部を吹き飛ばす。

しかし息つく暇も無く、今度は大出力のビーム砲と機銃の嵐が襲ってきた。

冷静にそれらを回避しながら前方を見れば、ライトグリーンで塗装された戦艦が見える。……ムサイ、か……

 

「名前の割に、あんまし“ムサく”は無さそうだな」

 

言いながらミサイルの発射管と思われる所にビームを叩き込んでから離脱する……うん、ビンゴ。

誘爆でも起こしたのか見事に汚い花火を宇宙に咲かせてくれた。

 

『何をしている!!無用な交戦をするな!!時間が無いと言っているだろう!!』

 

と、そんなタイミングでガトーさんから怒声が飛んだ。

見れば向こうはこっちの事情などお構い無しに、十字砲火を軽々と避けながら正面奥の大きなずんぐりむっくりの戦艦―――――ザンジバルへと向かっていく。

…技量凄過ぎだろ。掠ってすらいないぞ……もしかして師匠級にバケモノなんじゃねえかあの人……?

 

「ごめんなさいね!!」

 

間髪入れずに謝りながらOガンダムを飛ばしていく。

同時に護衛艦からの十字砲火が飛んできたが、一部はそのままガトーや、俺達の後ろから近付いて来た…たぶん友軍であろう機体達に向けられていた為に、さっき見た物よりも勢いが強い訳ではなった。

……それにしても、黄色のビームって……向こうはいったいどんな技術でビームを撃っているんだろうか?

と、そんなあほな事を考えている内に、目の前まで件の目標―――ザンジバルが迫ってきた。

空かさずガトーに連絡を入れて確認を取る。

 

「これが!?」

 

『そうだ!!目標の敵部隊の旗艦だ!!』

 

「沈めちゃっても良いんだな!?」

 

『元よりそれが目的だ!!!』

 

「では遠慮無く―――――」

 

言うが早いが俺はGNABCマントの下からガンビットを放出した。無論コントロールは相棒である。

射出されたガンビットは先ほどのあのデータの詳細が無かったそれらではあるが……どうやらキチンと使えたらしい。ちょっとホッとした。

まあ、そんな俺の内心の変化などお構い無しに、相棒はガンビットの銃口をザンジバルのミサイル管や主砲へと向けて行く。

無論、俺もビームガンの狙いを艦橋と思わしき場所へと定めた。

同時に、いつの間にか横に並んでいたガトーの蒼い機体―――――ゲルググも、その手に持っていた大出力ビーム砲を構える。

 

そして――――――――

 

 

 

 

 

「――――――沈めさせて、貰おうか!!!」

 

そんな咆哮にも似た大声を発すると同時に、俺はトリガーを引いた。

ほぼ同じタイミングで相棒がガンビットを、ガトーが大出力ビーム砲をブッ放す。

放たれた全てのビームは、それはそれは綺麗に光の線を描いていき………綺麗にザンジバルの各部位へと吸い込まれていく。

そして一拍の沈黙の後、ザンジバルは艦体のあらゆる所から火を噴いた後、それはそれは盛大な火の玉となって、宇宙に散って行った。

 

 

………が、ここで綺麗に決まらないのが、俺クオリティというかなんというか……

 

ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!

 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

 

どうやら、爆発の余波は意外と凄かったようだ。

ゲルググの方は全然平気だったようだが、GN粒子の影響で強度はそのままとはいえ重量がビックリするほど軽量化されているOガンダムは、まさに木の葉の如く爆破の衝撃に振り回される事となったマントに揉みくちゃにされながら、けっして緩くは無い振動の嵐の中に叩き込まれる事となった。

半端ではない振動の嵐の中、何とか機体を動かしてマントを元に戻す。

飛び散った破片によるダメージが無いのは幸いと言うべきかなんと言うべきか……

 

『無事か!?傍から見ても酷い事になっていたぞ!?』

 

「これが無事に見えるか!?グルグル回って目が回りそうだ!ただ、機体にダメージは無いからまだまだいけるぞ!いちおぷ…」

 

『目が回る程度で何とかなる物ではないと思うのだが…?というより、今吐き掛けなかったか?』

 

「ぐぐぐ…ふう、大丈夫だ…自慢ではないが身体は尋常ではないほどに頑丈なのでな………よし、落ち着いた。取り敢えずこの後どうすれば良い?先ほども言ったが私は貴方達を手伝えとしか言われていないから、指示がない限りは何もできないのだが…」

 

言いながら周囲をチェックする。

戦闘の光景は其処には無い。

…というか、殆どの機体が、呆然としているような感じだ。

見える限りの半分は、おそらく自分達の頭が潰されてしまった事で指揮系統がごちゃごちゃになって混乱しているか、或いは目の前の現実を受け入れられないからボーっとしているだけか……何にせよ警戒するに越した事は無い。

残る半分は………うん、なんだろう?

微妙な感じ?

というか、その殆どがこっち…というか、俺の方を見ている。何か怖い。

 

『……ム。待て、今大佐から通信が入った。そちらに繋げる』

 

と、そんな事を考えてるまっ最中にガトーからそんな通信が入った……っていうか、そろそろ心の中でもさん付けするか。明らかにこの人俺よか年は上みたいだし…あ、でもいきなり変えるのも不自然か……如何しようかな?

 

「……いっそ渾名呼びしたら………駄目だ、怒られる。確実に怒られる」

 

『……一つ聞くが、それは誰にかな?』

 

「そりゃあ無論ガトーさんに……ん?」

 

あれ?今俺誰と話してた?

不意に聞こえた声を疑問に思い周囲を見渡そうとしてカメラを左に向けた所で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………辛そう」

 

『…貴様『ガトー少佐。別に私は気にしていない。兎も角、今は自己紹介にかける時間も惜しい』…了解しました』

 

………えーっと…今、ガトーは分かり難かったけど、この人に対して敬語を使ったよな?

で、その人が乗ってるであろう機体は、さっきからしょっちゅう見かけていた上に、“あの変な指示”に出てきてた赤い機体で、確か指揮官で…そうすると名前は……

 

「……シャア・アズナブル大佐?特務隊の指揮官の?」

 

『…その様子では自己紹介はいらなそうだが、一応名乗っておくとしよう。確かに、私がジオン公国軍大佐の“シャア・アズナブル”だ』

 

「……CB非公式所属、特殊偽装型MS“Oガンダム”のガ…パイロットの“O-01”です。指示により貴官の指揮する部隊への“協力者”、或いは“増援”として…たぶん派遣されました」

 

『…何故“たぶん”等という曖昧な言葉が付くのかは腑に落ちんが……「すいません。無礼承知で聞かせて頂きますが、時間が無いのでしょう?」…その通りだ』

 

「でしたら、その点に関しては詮索は後回しでお願いします。先ほどもガトー……あー…えー…うー…少佐?にも言いましたが、私は決して貴方方の不利になるような事はしないので」

 

肝心のガトーの階級をど忘れしかけたけど、概ねまともに会話できたと思う。後は向こうの反応を見るのみ……!

 

『…ガトー少佐。彼は本当に信用できるのか?最初に接触した君の意見を聞きたいのだが』

 

『…五分五分といった所でしょうか』

 

「ちょ、おま」

 

まさかの裏切りキター!?ひでぇよガトーさん!!そりゃ無いって!

 

『やはりか…』

 

ちょ、やめて!?そこでそんな空気出さないで大佐!?こんな所でタダ働きな上に集中攻撃されるとか嫌だぞ俺!?

 

『…ですが、キリング中将を早期に討てたのには、彼の活躍もあっての事……愚策ではありますが、一応監視を付けた上で友軍と認識すればよろしいかと』

 

と、そこで落としてから上げるというガトーさんによるファインプレーが入った。

え?何時の間にさん付してんだって?良いじゃん別に。恩人には敬意を払うんだよ俺は。

……何?師匠はどうなんだって?あれは全く別物だろ。

 

 

 

 

 

さて、なんやかんやで監視付きとはいえ一応友軍として信用された俺と相棒。

しかし、向こうからすればまだまだ安心はできない。

何せ俺が駆るこの“Oガンダム”という機体は、細部こそ違うものの、これまで幾度となく彼らを苦しめてきた怨敵ともいえる存在――――白い悪魔“ガンダム”にそっくりであるのだから。

……いや、むしろ驚いたのはこっちだったけどな。

何せ見た目もなんもかんもかなり“似過ぎている”といっても過言ではないような機体が、俺と互角か一歩間違えればそれ以上の動きで戦ってるんだもの。

データを見る限りだと、今から突入しようとしてたコロニーでも、そのガンダムの“新型”が開発されてたみたいだし。

………いやー。世界って広いんだなー…

 

「なんて事を考えながらアムロ・レイがコロニーにログインしました」

 

「右ニ同ジク」

 

『何を言っているのだ貴様は…』

 

「いや、言わなきゃダメかな、と」

 

言いながらゆっくりと“港”と呼ばれる所からOガンダムを飛ばす。

あ、因みにコロニーの中に入ってるのは俺とガトーさんだけです。

何でも、ここで作戦遂行中の“サイクロプス隊”の救出が任務なんだとか。

それをキチンとこなす事で、自分達を信頼させろという事らしい。

へーとしか思わなかった俺は悪くない。

だっていつもの事だし。

 

で、肝心のコロニーの中は一見すると地上と何ら変わり無い物にしか見えなかった。

民家があり、道路があり、デパートといった商店があり、そして植物の生い茂る林や森がある。

サンタの巨大なバルーンがある事から、ああ、今はクリスマスなのだと容易に予想が付く。

…………そして甦るクリスマスに関する碌でもない思い出がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!

 

「アアアアアアアア!!!!!!!ちょ、ま!師匠やめて!!七面鳥の足は鼻の穴には入らないからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

『オイ、いきなり如何した!?何故奇声を上げる!?』

 

「気にするな、思い出したくもない思い出ががががががががががががが!!!!!??????」

 

『何処からどう見ても気にするような状況に陥っているぞ!?』

 

「ノノオノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノノ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

『オイ待て!!本当に一体どうしたというのだ!?』

 

俺発狂。ガトーさん大混乱。まあそりゃそうだろうなと残った冷静な部分で俺はそう呟いた。

 

 

 

数十秒後

 

 

 

「トラウマ克服完了!!さ、殺ろう!!」

 

「タンドリーチキン」

 

「ガガガガガガガガッガガガガガガッガ!!??」

 

『全然克服できてないではないか!?』

 

出来てるよ。キチンと操縦できてんじゃん。

そう言おうとするも声が出ない。中々俺の精神にあの一件が与えたダメージは相当だったらしい。恐るべし、師匠。

 

「……なんかムカッ腹立ってきたな?帰ったら師匠の飯に山葵を大量に入れたろう」

 

『お前の師匠は一体どんな人間なのだ……?』

 

「外道」「逸般人」

 

「「というか師匠」」

 

『……』

 

何とも言えない顔になってガトーさんが黙った。

それはそうだろうと思う。

師匠とか呼ばれてんのに弟子にそんな風に言われる人間は多分そう居ないだろうし。

…ってか、“師匠”って……

 

(…お?)

 

ふと視界の隅に青い一つ目とOガンダムによく似た青と白のツートンカラーの機体を発見した。

片方は兎も角として…もう片方のが例の“連邦の白い悪魔”かな?

 

「何はともあれ先制攻撃」

 

言いながらビームを一発放つ。

すると反応だけは良いようで、難なくよけられた。…まあ、当てる気無かったから当然なんだけどさ。

 

「それではガトーさん。あの新型はこっちが担当しますので救出の方お願いします」

 

『そうさせて貰おう。まさかいきなり躊躇無く発砲するとは思わなかったが』

 

「強襲闇討は正義」

 

『…自分の師の事を言えんのではないか?』

 

「自分はあそこまで非道くないです」

 

心外な、という意味を言外に含めると、ガトーさんはなんとも微妙な雰囲気を出しながら青い機体の方へと向かっていった。

まあ、しょうがないかなとは思う。

確かに俺自身さっきの行動はかなり外道だと思うし、何よりも卑怯だと思う。

ただ、師匠はさっきのような行動は日常茶飯事でもっと酷い事までするのだから俺なんか遥かにマシだろう。

 

「…とか言ってる間にもう敵が目と鼻の先ですよっと」

 

改めて目の前の“ガンダム”を見る。

頭部にバルカン、背中にサーベルが2本……色さえ同じならほぼそっくりだ。驚きである。

まあ、それは無効も同じ事だろう。

明らかに動揺しているのが目に見えてわかる。新兵なんだろうか?

 

「……まあ、容赦なんぞしないわけで」

 

そうポツリと呟いてから、Oガンダムを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言うわけで『1期編でやろうと思って“た”外伝のプレ版』終了だ…………これはツッコミを入れるべきだったんだろうか?」

 

「いいから解説に行くよ。このお話は作者が投稿しようとしていた、“外伝話”のプランの一つで、Pixiv版で既に投稿されている外伝の前に既に書かれていた物だよ。因みにあっちがこっちでも正規で投稿する予定の物だね」

 

「……ここにある作者から手渡されたメモによると、“GジェネDS”の序盤(スペシャルルート)にOガンダムで介入するという話だったようです」

 

「どらどら……へえ。ファースト・ガンダムVSOガンダムっていう構想もあったらしいな。つまりは『本物の白い悪魔VS偽物の白い悪魔』ってことか」

 

「…2期編に入ってからも、向こうの世界に跳んで行くっていうプロットも書いてたみたいだね。流石は作者だ。節操がない」

 

「結局あんまり書けてないみたいだけどな。……何で今回載せようと思ったんだ?」

 

 

「「「「……まさか書く理由付けの為?」」」」

 

 

違げーよアホども

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハイ。と、いうわけでこれにて短編集終了だ。いや…本当に長かった…」

 

「もはや短編集ってレベルの分量じゃないからね。いつもの1話分以上はあると思うよ……っと思ったら文字数カウント見る限りだとどうやら3万3千文字近い文字数あるじゃないか?」

 

「って事は、いつもの3倍近いのかよ今回………まあ、所々不完全燃焼な部分もあったけどな。特に最後」

 

「作者の力量を考えると、この程度が関の山なのでは?」

 

おいヨハンちょっと表出ろ。 by作者 (゚Д゚)ノカモーン

 

「作者の変な呟きはスルーして…さて、次回はとうとう“あのシステム”御披露目回か…ここまで来るのに一体どれだけかかった……」

 

「それは言ってはいけない約束だよ。際限がなくなってしまう」

 

「ハハハハハ…ハア…」

 

「と…そうなると、俺らマイスターもうかうかしてらんねえな…こっからが正念場か」

 

「私はもう退場してしまったので、実質今回が最後の出番になりますが…」

 

「安心しろ。多分ギャグ回では出番あるぞ」

 

「“幽霊役”…という文字がつくけどね」

 

「…寒い時代だ……!」

 

「あ~…今度暇なときに一緒に飲みに行くか?愚痴程度は聞いてやるよ…」

 

 

「と、いうわけでこれ以上やると収拾つかなくなるので今回はここまで!!ちなみに今回は後書き無し!!書くことないからな殆ど!」

 

「あるとしたら作者の謝罪くらいだけど…鬱陶しいから僕が削除しておいたよ」

 

「ま、そーなるわな」

 

「それでは、カーテンコールと行きましょう。O-01。お願いします」

 

「では皆様、合図と共にお願いします。…いっせーのーっで!!」

 

 

 

『次回をお楽しみに!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん。いざ言ってみると途轍もなく恥ずかしいね」

 

「そこでみんなが気にしていることを言うなよ師匠ェ……」

 

 

 

 

 




というわけで後書きも何も無く次回に続きます


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十九話―――赤い天使、赤い悪魔、そして天然ダイナミック超天才メロン狂腰痛持ちおじいちゃん降臨

タイトルが色々とおかしいのはスルーしてください。
というわけで前回の短編集でも話題に挙げられていましたが、今回でやっと『あのシステム』がお披露目です。


が、ここで一つだけ注意を。


今回は原作でも重要なポジションの回なのですが、本作品においては同時にとある人物のキャラが大崩壊する回でもあります。 しかもよりにもよって“あの人”のキャラが。 なのでそういうのが苦手、あるいは嫌いな方はここでプラウザバック等を行い、本作品を閲覧しないことをおすすめします。 そうでない方はどうぞ生温い目でお楽しみください。

また、劇中でアムロが外伝云々言っていますが、それはPixiv様で投稿している物のことです。
此方にも直ぐに投稿しますので見たい方は少々お待ちを。

では、本編をどうぞ


『じゃあ、後は頼む』

 

「了解した」

 

その声に違和感を覚えたのは必然だった。

今此処に居るはずがない男。

CBの末端のエージェントで、日本での潜伏時にはいつも本当の家族のように接してくれた、性別などの細かい部分以外自分と瓜二つのあの少年。

それと全く同じ声だったのだから。

 

『刹那!』

 

「っ!エクシア、目標との戦闘行動に移る!」

 

『よし、ロック解除。行ってこい!』

 

共に来てくれたラッセがそう言うと同時に、エクシアが強襲用コンテナから空中へと投げ出される。

結果少々バランスが崩れるが、少しの姿勢制御で十分に対処できる。

 

「……」

 

…スローネツヴァイが何故アインを襲って撃破し、あまつさえそのままPMCの物と思われるカスタムタイプのイナクトと共にドライまで手にかけようとしたのかは、私は知らない。

しかし、錯乱して仲間割れをしたのではない、というのは以前彼らがO-01とともにトレミーに来た時の事を思い返すとありえないと断言できる。

 

……では何故?

 

その答えは、次の瞬間バスターソードで斬りかかってきたツヴァイの攻撃を、GNソードで受け止めた瞬間に氷解することとなった。

 

 

 

『邪魔すんなよ、クルジスのガキがァ!』

 

「っ!!!」

 

それは私にとっては忘れたくても忘れられない声。

あの男―――アリー・アル・サーシェスの声!

 

「アリー・アル・サーシェス!!貴様!!」

 

突き飛ばすようにしてツヴァイと距離を取り、素早くGNソードをライフルモードに切り替えてビーム弾を放つ。

しかし奴の駆るツヴァイはこれまでとは違い、小刻みに動いて的を絞らせず、右手に握ったバスターソードと左手のGNハンドガンを巧みに操り独特のラフファイトじみた攻撃法で攻めてくる。

斬撃と共に粒子ビームを放ち、かと思えばビームと一緒に蹴りを繰り出す。

その全てに翻弄され、私は一気に守勢に回る事を余儀なくされた。

水流めいたビームと斬撃の豪雨をシールドやGNソードで防いでいると、奴からの嘲笑が届く。

 

『ほらほらどしたぁ!?』

 

瞬間、奴がハンドガンを乱射しながら、鈍い光を放つ右手のバスターソードで斬りかかってくる。

ビームを避けながら、GNソードで反撃。奴と切り結ぶ。

同時に、叫ぶように奴に吠える。

 

「何故だ!何故貴様がガンダムに乗っている!?」

 

『お前さんの許可が必要なのかよ!』

 

その言葉とともに今度はこちらが蹴り飛ばされる。

おまけに、GNソードがライフル部分ごとエクシアの右腕から弾かれた。

 

「何っ!?」

 

『おらあっ!』

 

そのまま接近され、横薙ぎに振られた斬撃は辛うじて左腕のシールドで防げた。が、サーシェスは強引に剣を振り回すことで、そのシールドも弾き飛ばす。

其処へ左腕のハンドガンによる追撃が入る。

咄嗟に東部を横に逸らす事でなんとか直撃は避けられたが、それでもビーム弾と擦過した装甲が削られるのがわかった。

 

『刹那!』

 

其処へ粒子ビームが飛来する。

強襲用コンテナのラッセが、ツヴァイに放った物だ。

しかし奴は大仰に機体を動かすわけでもなく、粒子ビームの射線を見切った上で少し体制を逸らす事で全て躱し、お返しと言わんばかりにハンドガンで応戦した。

強襲用コンテナは直撃寸前の危ういラインでそれらを避けると、大きく旋回して距離を取る。

それを目で追おうとしたのだろう。一瞬だが、奴に隙が出来た。

 

「っ!」

 

その隙を見逃すほど、私は馬鹿ではない。

両腰からGNブレイドを抜いて斬りかかる。

しかし勘のいいあの男は腐っていても一流の傭兵なのだろう。

GNブレイドを振るった時には既に間合いから離れていた。

 

『ははははは!最高だなガンダムってヤツは!!大将が言うだけあるぜ!!コイツはとんでもねー兵器だ…戦争のし甲斐があるってもんだぜ!!』

 

そのタイミングで、奴の声が聞こえる。

カンに障り、腹が立つ。

 

『オメーのガンダムも、さっきのあの箱もどきも、その為にあんだろう!?』

 

ツヴァイがバスターソードを両手で担ぐようにして構え、突進してくる。

私は、それを両手のブレイドで受けるとともに叫んでいた。

 

「違う!!」

 

しかし、力比べで負けて、片方のGNブレイドを弾き飛ばされる。

 

「絶対に、違う!!」

 

次の瞬間再度切り結ぶも、今度はもう片方の得物まで弾き飛ばされる。

 

「私のガンダムは―――!!」

 

――――――戦争の道具なんかじゃ、ない!!

 

『うるせーガキだこと』

 

が、言い終わる前に背後を取られていた。

悔しいかな、やはり操縦技量やセンスはあちらの方が格上だったらしい。

冷徹な声が耳に届くとともに、絶対的な“死”が近づく足音が聞こえたような気がした。

 

 

 

『―――コイツでフィナーレ、だ!』

 

 

 

向こうがそんな風になっている頃、こっちもこっちでちょっと面倒なことに…つーかGN-X含めたMS部隊に囲まれるなんて珍事になっていたのは…まあ、読者の皆様ならお分かりの筈だ。

…はて?読者、とは一体なんぞや?少なくとも今はメタパートではないんだが?

 

「なんて考えとる場合じゃないってのは解りきってんだけどねー」

 

『だったらもうちょっと真面目にアイツら撃ち落とさんかい!ボケェ!』

 

「無茶言うなや」

 

言いながら右腕のツインライフルをブッパ。

相手のシールドに当たったけど…む、ディフェンスロッド部分で受けたか。

板が残ってしまっている。

すかさずショルダーキャノンで追撃するけど避けられた。

ふん。腕も一級品、と。

……こら面倒だわな。

ぶっちゃけ一般兵レベルならこれだけの数でもなんとかなるのだけど…

 

「っと」

 

真下から撃たれた軽く避けて反撃する。

ワイヤーを発射して相手の右腰の細長いスラスターに引っ掛けてそのまま力任せに振り回す。

疑似太陽炉搭載機でも、流石に姿勢制御において重要な部分を強引に引っ張られれば、必死に抵抗しても碌な効果は無い。

憐れ手足をジタバタさせながら僚機にハンマーの如くぶち当たるGN-X。

そこにタイミング良くビームを撃ち込む。

命中。

狙い通りに腰部にあるコクピットに直撃。そのままパイロットを一瞬で蒸発させる。

 

「っし。姉さん、今ので大穴空いたぞ。さっさと離脱せい」

 

『言われなくても!いい加減こいつらの啜り泣く音が鬱陶しいからね!』

 

「無理言ってやるなよ……」

 

そんな言葉に『じゃかあしい!』と返してくる姉さんに溜息一つ。

ここら辺、イノベイドと人間の違いってもんなんだろうか?それとも、そういう物が関係無い根本的な違いなんだろうか?

…まあ、そんな感傷に浸ってなどはいられない。

 

(………GN-Xはあと3機。それ以外は……武器も持たずに来てどっか消えたな…何か仕掛けてくる可能性がとても高いから注意はしとこう。後は後続もいると考えて敵全体の数は……ちょいわからん、か?)

 

無論こっちを囲んでいるのはさっきも言ったが言わずと知れたGN-Xである。

元々4機いたのが今では1機減っているとはいえ、乗っているのはエースレベルだ。

パワーアップしたOガンダムでもちとキツイ。

そして随伴で来たイナクトやヘリオンの存在も不可解だ。一体何をしてくることやら……

因みに機体と地理的な事を考えると、此奴らはAEUの所属部隊かな?

あの傭兵の二人組がリークでもしたか…?

 

「っと…」

 

後方からビームによる攻撃。同時に正面からサーベルを突き入れるフェンシングのような構えで1機突っ込んでくる。

面倒なのでその場でバレルロールしつつGNフィールド展開して正面のGN-Xに体当たり。

サーベルは切るよりも性質的に突き入れる方が威力が高いのは常識だが、流石にヴァ―チェクラスのGNフィールドには通用し難いのが現実。

しかもエネルギー量は確実に此方が勝っているから…

 

(…ほらね。)

 

GN-Xの掌で爆発が起こる。

過負荷に耐えきれなくなったビームサーベルが自壊したのだ。

シンプルイズベストを体現したようなOガンダム用の物の量産劣化品とはいえ、あの一瞬だけでも持っていたのだから称賛すべき性能だ。

そんな事を考えつつ目の前の敵機に向かってブースト付きの回し蹴り。

バギンという音と共に相手の胸部小型スラスターの片方が飛んでいく。同時に、バランスが崩れた。

 

(焦るの禁物…っと。)

 

そのまま追撃すれば撃破できたのだろうが、あと2体無事なのが残っていることを鑑みて止めておく。

一瞬だけ意識を姉さん達の方へと向ける。

レーダーを見る限りでは、既に作戦エリアから遠ざかる事ができているようだ。

敵の後続とぶち当たる等といった事もなさそうである。

そうなると、俺の残る仕事としてはエクシアとツヴァイの戦闘が終わるまでコイツらの足止め。あるいはそれまでに撃墜することだ。

………存外にハードな……

 

カンッ

 

「んお?」

 

不意にそんな音が鳴った。

しかし、ダメージは無い。

衝撃も殆ど無い。

気のせいか?

そう思える程に、それは微かな音だったし、尚且つショボかった。

何だ?そう思いながら周囲を見渡す。

 

瞬間、何かに機体がグイっと引っ張られた。

 

ほぼ条件反射だった。

思い切り機体を捩らせて回避運動をとったその直後、頭部スレスレをビーム弾が掠った。

まずいと思いつつ機体を更に捩るも、まるで何かに引っ張られているような感覚は消えず思うように動けない。

再度GN-Xからの攻撃。ロングライフルによる狙撃だ。

こちらはサーベルモードに切り替えたツインライフルで切り払う。

が、切り払いの挙動が終わるかどうかのタイミングでまたしても引っ張られるような感覚。

機体のバランスが崩れ、丁度眼科の海に真正面に向き合う形になる。

そこで、見た。

 

海の中から伸びるワイヤーと、それを必死に海中から引っ張る、3機ほどのイナクトとヘリオンを。

 

(…げ…なんちゅー無茶を…)

 

心からの言葉だった。

そも、GNドライブ搭載や水中戦を想定していない機体では、水の中でまともに動く事などできない。

操縦感覚は宇宙空間によく似ているとは言え、水圧、水の抵抗、浸水によるトラブル等々………そういった問題で、下手な事をしようとすれば関節部に負荷がかかって損傷したりするからだ。

ティエレンのようにガッシリとした作りならばまだある程度はいけるのだろうが、流石にイナクトやヘリオン、フラッグやリアルドといった手足の細い機体では実際無理がありすぎる。

ゲームなどで水に潜る事を何度か見た事はあるがあれはあくまで創作物の話だ。現実はゲームではない。

 

「向こうもそれだけ必死か」

 

ポツリと呟く。あるいは擬似太陽炉搭載機があるからもう旧式などいらない、という判断だろうか? あまりにもお粗末な考えだったためこの線は無い、と頭を振って消し飛ばす。

と、その時先ほどの乾いた音が立て続けに2、3回ほど鳴る。

ビームサーベルで攻撃を仕掛けてきたGN-Xをいなすのとほぼ同時に大きく機体を動かして確認を取る。

相棒に引っ張られた部分を黄色く表示しろと指示を出してコンソールを見れば、右肩、胴体、左足、バックパックが黄色くなっている。

腕に当たらなかったのは不幸中の幸いというべきか否か。

少なくとも、これではロクな軌道をとって飛行することは無理だ。

肩や背中はともかくとして、姿勢制御で重要な胴体と足にアンカーが当たっている時点で本来なら地上に降りるのがベターである。

ただ、今眼下にあるのは海だし唯一足場にできそうな敵機も水の中。

何とかして水上まで引きずり上げたいが、いかな強化装備を付けたガンダムであっても1対複数。しかも力の掛かる場所がバラバラでは無理がある。

となると結局対抗策としてはアンカーを引っ張る敵を吹き飛ばすしかない。

幸いなことに今のOガンダムには弾頭切替可能なショルダーキャノンがある。

ここまで一度も実体弾は使っていないから残弾数も十分。

 

しかし、撃てない。

 

「ええいまたか!?少しは待ってくれよ!?」

 

撃とうとすれば絶妙なタイミングで敵のGN-Xによる邪魔が入る。

無論、大人しく当たってやれば致命傷確実だ。

そういう訳にもいかないから回避行動を取るのだが…結果的に、アンカーを引っ張る敵機を撃ち落とすことができない。

 

(…いっその事、機雷ばら蒔いてやろうか?)

 

一向に良くならない状況にそんな事を考える。

ただ、そんな事しても一歩間違えれば自殺行為にしかならないからキチンと自重して案を却下する。

ま、このままやられっぱなしってわけにも行くまい。

そう思いながらダブルライフルをサーベルモードにし、構えた。

突っ込んでくるGN-Xと交錯する時間はたったの一瞬ではあるが、それだけあれば十分である。

まあ、失敗すればそれはそれは酷い事になるが。

 

――――――…おや、珍しく緊張してら。

 

唇の乾きにそう心の中で呟いた。

舌で舐めて湿らせるが一向に乾きが収まらない。

気づけば喉もカラカラである。

そこまで来て、やっと俺が自分自身がそこそこに相手を嘗めていたのだという事に気づく。

 

「うわ」

 

思わず苦笑い一つ零してそう呟いた。

やっぱり俺も未熟だな、と。

それから次いで「ダセェ」と自重の言葉を漏らそう―――

 

―――ッ!ちぃ!

 

―――とした所でGN-Xが突っ込んできた。

相変わらず、こっちの心情を全部見破っているかのようなタイミングである。

 

(…だがなっ!)

 

今度はこっちからも―――そう吠えようとして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ガクン

 

 

「あら?」

 

―――――機体のバランスが、崩れた。

 

見れば右腕のダブルライフルにアンカーが貼っついている。

…って事は貼り付けたのは今さっきか。

バランス崩したのもコレ、と。

 

(……はぁ……)

 

目前に迫る血の色をしたビームの刀身。

機体の体中アンカーで雁字搦め。

逃げ切れるだけの余裕は――――――無い。

 

 

 

「Oh…」

 

思わずそう呟く。

辞世の句になるかもしれないが仕方がない。

出来ればもうちょっとかっこいい事を言えばよかったと後悔するかもしれないが大人しく黙ろう。

 

(……そういえば、最近醜態晒してばっかだな。)

 

不意にそう思う。

我ながら暢気な物だと苦笑い。

ただ、醜態を晒してばかりなのは事実なのでそろそろいいカッコしたい、というのは本当だ。

……何?外伝で散々暴れただろう、だと?メタな発言は止して貰いたい。

 

…………ま、そんな気持ちも確かにあったから、ただ、なんとなーくやってしまったんだよ。

 

「…………」

 

無言で、『避けれたら凄いなー』なんて考えながらさ、機体を思いっきり上空へ飛ばそうとしたんだよ。

 

 

 

 

 

 

ぶつん

 

――――――……ん?

 

 

 

 

 

そしたらいきなり意識がすっ飛ぶのってどういう事なんだろうな?

 

 

数分前―――

 

ピシ、と、僕の目の前にある冷凍睡眠用のカプセルに弾痕が穿たれ、無数の亀裂が入る。

月の裏側にあるソレスタルビーイングの心臓部―――ヴェーダ本体が置かれた大聖堂とも言える荘厳なその室内に入り込んだ監視者の一人―――今の僕の雇用者であるアレハンドロ・コーナーが手に持った拳銃より鉛玉をご馳走したのである。

冷凍カプセルに眠る…否、“眠っていた”禿げ頭の男―――ソレスタルビーイング創始者にしてGNドライブの開発者。

おそらく、今後当面の間、こんな漫画に出てくるような天才科学者は出てこないだろうと断言できる正真正銘の大天才。

世が世なら人類の宝といわれても可笑しくはない存在―――イオリあ・シュヘンベルグ。その人に。

アレハンドロはそのまま拳銃のスライドを引いて、薬室に弾丸を装填した。

その拳銃は古めかしい金色のオートマチックで、銃身には華美な装飾が施されている。

―――この24世紀の現代においてはもはや観賞用でしか存在しないか、趣味か何かでしか使われる事のないまごう事無き骨董品だった。

そんな物を使うとは…………と、僕は内心で溜息を吐く。

こと、この男はこういった物が好きだった。

金持ち特有の物なのか、或いはこの男だけが持つものなのか判別は付きにくいけど、少なくとも悪趣味である、という事だけはハッキリしていた。

 

「やはりいたか、イオリア・シュヘンベルグ……」

 

そう言いながら大仰な手振りをしつつ、再度彼はカプセルに銃口を向ける。

もうそれ以上やっても無駄だというのに…この男。

確実に自分に酔っているという事がありありと分かった。

正に下衆というべき醜態だった。

 

「世界の変革見たさに蘇る保証もないコールドスリープで眠りにつくとは…………しかし残念だが、貴方は世界の変革を目にすることはできない」

 

うん。もう死んでるからね。嘲弄の目で彼を見るのは良いんだけど、基本あなたは僕がいなかったら此処には来れてないんだよ?

最初からこの位置が分かってた僕が。そこら辺わかってる?……わかってないよねー?

うわぁぁ殴りたいこの笑顔。ボッコボコにしたい。

…実際にもうやってしまおうか?

 

(……いやいや待て待て落ち着け落ち着け。こういうのは最大限持ち上げてから落とすのが一番面白いんじゃないか。)

 

そう内心で言ってから少し落ち着く。

うーん、アムロもこんな感情になった事があるのかな?

…だとしたら要注意かな。仮にも僕の弟子だしね。

その内逆襲してくるんじゃないかという不安がムクムクと湧き上がってくる。

……まあ、負ける気なんか毛頭ないんだけどな!!

 

「あなたが求めた統一世界も、その抑止力となるソレスタルビーイングも、この私が引き継がせてもらう。そうだ……世界を変えるのはこの私、アレハンドロ・コーナーだ!」

 

そんな事を考えている内にアレハンドロの銃が再度火を噴いた。

カプセルに更なる弾痕が空き、細かな皸が入り、イオリアの顔が見えなくなる。

創造主の死。人類の変革を望んだ、僕すら一時は心の底から尊敬した天才は、たった今確実に死んだのだ。

 

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

アレハンドロは狂ったように笑いながら何度も引き金を引く。

それを僕は冷ややかに見ていた。

無論創造主が殺された事に少しは思う部分もあるのだが、それ以前にあの天才がここまでの事を予想できなかったのかという疑問の方が先に立っていた。

もしも予想できていたなら何かトラップの一つでもあればいいのに…………

そう思っていた。

 

だがこの時、僕たちはそれに気づいていなかった。

 

そのことに最初に気付いたのは僕だった。

周りにあったヴィジョンにノイズがはしる。

 

「なに!?」

 

「リボンズ!これは!?」

 

戸惑う僕ら二人の前に、壁と思われていたものが巨大なモニターに変わり、イオリアの姿が映し出される。

 

『この場所に、悪意を持って現れたということは、残念ながら、私の求めていた世界にはならなかったようだ』

 

「…イ………イオリア・シュヘンベルグ……!」

 

「システムトラップとは……!」

 

やはりという言葉が喉から出かかる。

同時に安心感も。

僕が思っていた通り、この男は正真正銘の天才だったのだ!

 

『人間は未だ愚かで戦いを好み、世界を破滅に導こうとしている……だが私はまだ人類を信じ、力を託して見ようと思う』

 

そして僕の目の前で理想高き創設者は言った。

堂々と。

確信を持って。

 

『世界は、人類は―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わらなければならないのだから……

 

 

 

縦に振り下ろしたGNバスターソードが空を切った。

 

「んなにっ…………!?」

 

思わず絶句する。

確実にあのガキごとガンダムを真っ二つに叩き切ったはずの得物にはなんの手応えもなし。ただ、剣先をGN粒子とかいう緑色の光の粒の残滓が流れ、消えていくだけだ。

破片どころか欠片やカス一つ見当たらない。

 

―――逃げられただと!?

 

脳裏をそんな言葉が掠めた。

馬鹿な、と間髪入れずにその言葉を自分で否定する。

あのタイミング、距離、どれを取っても完璧に俺の間合いだったはずだ。

 

それで、避けるならまだしも逃げ切る?…冗談じゃない!!

 

反射的に頭を切り替える。

仮に逃げたとするならばまだ近くに居るはずだ。

以前のアイツのお仲間のように擬態をしている可能性だって無くはない。

そう考えて周囲に視界を巡らすも、あのトリコロールの機体は影一つ見える事はない。

ステルス特有の違和感もなし。

一体何処へ?そう思った瞬間だった。

 

視界の隅に、光る何かが過ぎった。

 

「っ!そこか!!」

 

振り向きざまに腕のハンドガンを放つ。

しかし躱された。

その空間にはただ光の粒子が漂っているのみだ。

 

(チィッ!)

 

ただ呆然としているわけにも行かず、機体が持てるポテンシャルを最大限活かして光の後を追い、ハンドガンを連射する。

しかし届かず、弾丸は的はずれな方向に飛んでいくだけだ。

一瞬だけ高速で動く『それ』を視界の内に入れることはできたが、それだけだった。

 

「何だっつーんだ、あの動きは!?」

 

思わずそんな言葉が口から漏れるが、それを言った所で現状は変わらない。

一瞬、『それ』が側面に走った。

即応し、ハンドガンを連射するが当たるわけもなく全て躱される。

光る『それ』―――あのガキの乗るガンダムは驚くべき事に残像が見えるほど高速で動いてこちらの攻撃を躱し続けている。

 

「ムゥッ!」

 

突然、それまで躱すだけだったガンダムの動きが一転して、攻勢に出た。

両手にビームサーベルを抜き、こちらに迫ってくる。

迎撃の為に再度ハンドガンを撃っても全て躱される。

 

「クソッ!一発ぐらい当たりやがれってんだよ!!」

 

言った直後に背中から衝撃。

斬られたのとは違う、硬質な感触。

体当たりでもかましてきたらしい。

ただ、そんな事は問題にはならん。

チャージなんぞ俺も実際によく使う手だからな。

それよりも驚くのは…

 

「背後を取られただと!?」

 

其処だ。

こっちが手の内から何から全て分かっているようなガキ如きに背後を取られた。

その事実の方が、よっぽど俺には衝撃的だった。

 

「ふざけんな!!テメェはあの化け物とは違う筈だろうが!!」

 

瞬間脳裏にフラッシュバックする嘗ての悪夢。

クルジスで目の前のガキも含めた少年兵達を纏め上げて、いざ戦争、と思ってきた所で突然襲い掛かってきたあの正真正銘の化け物に背後を取られたときの恐怖が俄かに甦ってくる。

 

(冗談じゃねぇ!!)

 

その恐怖から逃れる様にハンドガンからバスターソードに武器を切り替えて、奴の動きが方向転換の為に止まってくれるその一瞬の隙を見逃さずに切りかかる。

 

だが、それすら空を切った。

 

代わりに相手の獲物でバスターソードを弾き飛ばされ、直後に蹴りを食らって地面に落とされる。

 

「グううぉ!!」

 

地面にぶつかるスレスレで機体に受け身を取らせて着地したものの衝撃は殺しきれない。

歯を食いしばって踏ん張り、衝撃がある程度緩和されたところで肺に溜まった息を吐き出す。

圧倒的に致命的な隙だった。

殺そうと思えばいつでもやれたはずだ。

 

だがあのガキのガンダムはビームサーベルをだらんと手に提げたまま、こちらを見下ろしてくるだけだった。

 

(…本当に、ふざけた冗談だ…!)

 

目の前に見えるガンダムは―――まるで中のガキの感情が表面化しているみたいに赤く、眩く、いっそ神々しいと思えるほどに輝いていた。

ただ、機体の装甲の表面に血管みたいな光のラインが時折奔っているのが、少しだけ人間っぽさを感じさせたのが何よりも腹立たしかった。

 

 

「こ、れは…?」

 

私は、その時これまで見慣れてきていた筈のコクピットの中を、今初めて見たかのように眺め回していた。

あの時、サーシェスによって機体を切り裂かれかけたあの時、当然のように回避運動を行った。

死が怖かったのではない。ただ、この男などに殺されてたまるか、という激情のままにエクシアを動かしただけだった。

奴の攻撃を、例え甚大なダメージが出たとしても、何とかして切り抜け、その上で応戦しようとした。

するとエクシアは、ガンダムは思っていた以上のスピードで応えてくれた。

瞬間移動でもしたのかと思うほどの機体速度。これまで想像せども不可能だったはずの四肢の鋭敏な動き。

“ガンダム”エクシアは、今、己の操者が望んでいたことを、それ以上に体現していた。

その働きに、私はこれまで感じた事の無い、一種のトランス状態だったといっても良いほどの興奮に陥った。

サーシェスの駆るスローネツヴァイからの数多の猛撃をどのように避け、どの様に反撃するかを考えてはいたものの、それを自身が操縦桿を握って成し遂げたという自覚など無きに等しかった。

まるで、エクシアが自分の力でもって勝手にやってくれていたような錯覚を感じるほどだった。

それを自覚した上で、身体は震えていた。

 

「この、ガンダムは……?」

 

その時、突然コクピットモニターに一瞬ノイズが走った直後、映像が割り込んできた。

虚を突かれ、息を呑む。

そして映し出された人物を確認し、思わずあっと声を漏らした。

モニターに映し出されたのは誰であろうあのイオリア・シュヘンベルグだったのだから。

思わぬ事態に呆気にとられるに構わず、映像の中の人物は喋りだす。

 

『…GNドライブを有する者たちよ。君たちが私の意思を継ぐ者なのか、今この時代に生き、そちらに存在していない私には分からない。だが、私は私自身の最後の希望……GNドライブの有する全ての“可能性”を君たちに託したいと思う』

 

それを聞く私は真摯な面持ちで聞いていたと同時に、今の言葉に何か引っかかりを覚えた。

しかし、それはあまりにも微かな物だったために、そこまで気にすることではない、と判断して忘却の彼方へと吹き飛ばす。

そんなことを考えるよりも、この言葉を聞くほうが先決だ。

ちなみに、この時の私は知り得ていないことではあったが、この映像は同時にプトレマイオスにも流れており、ロックオンやスメラギ達といったクルー全員がこれを目にし、同時に同じ疑問を微かに抱いていたらしい。

 

しかしそれに構わず、イオリアは言葉を紡いでいく。

 

『君達が真の平和を勝ち取るため、戦争根絶のために戦い続けてくれる事を祈る。ソレスタルビーイングという群体ではなく、君達自身という個人の意志で……ガンダムという、可能性を体現するための、人の意思を形にするための存在と共に……』

 

その最後の言葉が紡ぎ終わるとともに、映像はブツンと消えた。

残ったのは彼の言葉だけだった。

 

「…ガンダム…」

 

戦争根絶のために、自分たちの意志で。

 

“ガンダムという、可能性を体現できる、人の意思を形にできる存在”と共に。

 

(……可能性……)

 

一体何の、とは思わない。

きっと、何か意味があるのだろう。

今は分からずとも、何時か分かる時が来る。

そう、確信があった。

 

(…だが…)

 

そう心の中で呟くと同時に不安が込み上げる。

可能性の体現。

果たして自分にそれが出来るのだろうか?

罪に塗れて、戦うことしかできない手を持つ、私に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――できるか、じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――やるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意にそんな声が耳元で聞こえた。

通信ではなく、肉声の様な、頭に響くような声。

咄嗟にうつ向き気味だった顔を上げて周りを見る。

誰かが居る筈でもないのに。

 

「……」

 

嫌にその言葉が耳に残った。

“できるか”ではなく“やる”。

正解、間違い、成功、失敗、自信、不安。

そんな物関係無しに、とにかくやってみる。

 

何故かすんなりと、その言葉が受け入れられた。

 

(…ガンダムと共に、戦争根絶の為、自分達の意志で。“できるか”…違う。“やるんだ”。)

 

心の中で何度も復唱する。

言葉を、体の隅々まで、それこそ末端の毛の先端まで染み渡るように。

 

しかし、その行為は背後から急接近してくる悪意に遮られた。

 

 

『やってくれたじゃねえか!ええ!?』

 

スローネツヴァイが―――サーシェスの駆る緋色の機体が、GNバスターソードを振り上げていた。

 

『どんな手品か知らねぇが!』

 

先程までならば確実に私にとって致命的な一撃を与えられた一撃。

悔しいが、スピードも、何もかも、ヤツを1流のMS乗りだと納得させられる物だった。

 

――――――…それでも!

 

今の私とエクシアにとっては遅すぎる!!

 

『ぬああっ!?』

 

バスターソードの一撃を紙一重で避けて奴の頭上に回り、そのまま頭部を左の拳骨で殴りつける。

見た目の地味さに反して元々の威力がそこそこあり、更に強化された状態での全体重をかけた一撃だ。

例えGN粒子でコーティングされた装甲でも、モロに食らえば間違い無くタダでは済まない。

現にスローネツヴァイの頭部が見事なエクシアの拳形に拉げている。

 

だが、それに躊躇するような私ではない!

 

返す右の拳によるアッパーでカチ上げ、そのまま反対の拳で腹部のレンズをぶん殴る。

それを受けたスローネの体が後ろに下がる。

そのまま距離を取られるのも嫌なので背後に回ってコーンの部分を蹴り飛ばす。

ついでにあの遠隔兵器―――ファングを出されても厄介なのでGNダガーで射出部分を潰す。

おや、意外とあっさり潰せてしまった。

追加でドロップキックでもお見舞いしておこう。

えい。

 

『こ、この俺があっ!』

 

あ、良く考えてみれば上空に打ち上げればビームサーベルで刻めるか。

後顧の憂いは断って置くべき。

相手に体勢を立て直される前に一気に接近して引っ掴み、そのまま頭上へとブン投げる。

そのまま両手にビームサーベルを持ち、擦れ違いざまに切りまくる。

GNソードがあればスパジェネに最近追加されたアッシュやエグゼクスバインの如く大剣によるお手玉が出来るのだが…無い物強請りは出来ないか。

一瞬拾ってこようかとも思ったが、それは傲慢に過ぎるというものだろう。

勝ちたければ何処までも手堅く。

勝負の鉄則だ。

…といってもスパジェネというゲームにおける、という頭文字が付くが。

……流石に不謹慎か。

 

まあ、それは兎も角として、だ。

 

「アリ・アル・サーシェス…」

 

言いながら、スローネツヴァイの手からバスターソードを弾き飛ばし、それをエクシアの右手に持たせる。

 

「さっき貴様は、私にこう言ったな」

 

言いながら左腕に内蔵されているGNバルカンを斉射。

両肩のクラビカルアンテナを破壊する。

 

「コイツでフィナーレだ、と…」

 

ついでにそのまま相手の両手も粉砕する。

 

「その言葉…」

 

何とかして離脱しようとするのを蹴りと正拳突きで黙らせる。

 

「そっくりそのまま……!」

 

そのまま奴を正面に見据えながらGNバスターソードを正眼に構え――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――返させてもらう!!」

 

―――一気に近付き振り下ろす!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでぇ……フィナーレッ、だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」

 

振り下ろした瞬間、確かな手応えを感じた。

しかし、視界の隅に映ったのは、血の色をした光の粒子。

斬った物を見れば、それはツヴァイの腰部バインダー。

どうやらこれを身代わりにして逃げ出したらしい。

やはり一流は伊達ではなかったようだ。

 

「…ん?」

 

ふと、それまでどんな事があっても表示される事の無かった文字が、正面のコンソールに表示されている事に私はその時初めて気付いた。

発光するルビー色をしたバックに黒色で書かれたその言葉は―――“TRANS-AM”。

 

「…トランス、アム?……いや、“トランザム”、か……?」

 

少なくとも前者では無さそうだな、と私は何となく思った。

と、するとエクシアが急にあの高い高機動性を表したのは、これが原因となったのだろうか?

ならば…

 

「……トランザム、システム……?」

 

先程のイオリアと、あの声の言葉を思い出す。

 

――――――ガンダムと共に、戦争根絶のため、君達の意志で……

 

―――GNドライブの有する全ての“可能性”を君たちに託したいと思う

 

――――――“できるか”じゃない。

 

―――“やるんだ”。

 

「…託された」

 

―――可能性を。

 

ガンダムを。

 

…ガンダムという、可能性を体現するための、人の意思を形にするための存在を!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達は――――――託されたんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、其処で終われば綺麗に物事は済んだのかもしれない。

そう思っている。

 

しかし、あの時、あの事態はそれだけでは終わりではなかった。

 

トランザムという可能性は――――始まりでしか、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンッという音と共に、再度正面のモニターに誰かが映る。

驚いてそれを見れば、映っていたのは先程自分達に“可能性”を託してくれた人が―――イオリア・シュヘンベルグが居た。

しかし、先程とは居る場所が明らかに違う。

 

そこは何処かの別荘の一室のようなところだった。

奥の窓の向こうに海が見え、画面の左には大量のディスプレイと、一つのキーボードがある事から、おそらく其処がイオリア・シュヘンベルグの研究室なのだろうという事がわかる。

 

『此処からは……其方の時代に、君が目覚め、尚且つ私がガンダムという可能性と、“ソレスタルビーイング”という集団が存在する確信を持つ切っ掛けとなった“それ”を用いた“何か”に君が乗り込んでいるという条件が揃った時のみ、その時点で製造されている全てのGNドライブ搭載機とそれに付随する存在にのみ投影される』

 

呆気にとられる私を他所に、イオリア・シュヘンベルグは喋りだした。

しかし、其処に先程までの人類の未来を案じる天才としての男の姿は無い。

居たのは…まるで自分の親しい友人か、自分の息子に対するような、温かみが感じられた。

 

『先ずは誕生日、おめでとう。些かどころかかなり遅れている可能性はあるが、一応の形式としてだ』

 

その言葉に、私はかなり驚いた。

誕生日?誰のだというのか?

取り敢えず私ではない事は確かだ。

私自身はもとより、私の家系に彼と交友関係を持つ人間などは居ない。

 

『面倒なので要点だけ纏めて言わせて貰うが…ガンダムは君が昔書いたあの落書きを元にしてデザインさせてもらった。とは言っても最初の1体だけだが』

 

最初のガンダム…と、言う事は、Oガンダムの事だろうか?

アレの元が落書き?

そんな事言ってもいいのか?

と、いうか、アレは元デザインが落書きなのか…い、イメージが…

 

『気に入ったなら私の墓前にでも報告してくれ。気に入らなければ何処がダメなのか書いてくれると助かる。来世で参考にしよう。

 

そっちの生活は如何だ?どうせ君の事だからぐうたらダラダラ暮らしているのだとは思うが…偶には外に出て動くことをお勧めしよう。私も最近スキューバを始めてみた。筋肉痛がひどい。

 

友達は居るか?出来れば家内も息子も孫ももう居るといってもらいたいものだ。あの世で彼との話題の種になり易い。

 

料理は出来るようになったか?叶わないとは思うが、万が一私がそちらの時代でもまだ生きていたら何か振舞ってもらいたい。無理なら墓前にでも置いておいてくれ。あの世まで持っていこう。あとは――――――』

 

要点だけ纏めるとか言っておきながらどんどん出てくる彼からの言葉。

その内ウンザリしてきて後半は殆ど聞いていなかった。

まあ、しょうがない。

明らかに私以外へのメッセージなのだ。ただ聞いていても、何だか盗み聞きしているような気分になって不快だしな。

そんなのが5分ぐらい延々と続いた辺りで話が一端止まった。

 

「…やれやれやっと終わったか…」

 

託された身としてはそんなこと言いたくないのだが、あんな話を一方的に延々と聞かされたら悪態の一つや二つは言いたくなる。

ティエリア辺りに聞かれたらエライ剣幕で怒られそうだが知った事か。

そう思いながら何時の間にか離していた操縦桿に手を伸ばそうとして―――

 

 

 

『では、最後に君を含めたGNドライブを託された物達への忠告でも呟いて終わるとしよう』

 

 

―――手が、止まった。

 

思わず顔が引き締まる。

身が強張る。

忠告とは何か。

態々あの天才が授けてくれる物なのだ。

確実に、意味はあるのだろう。

耳を済ませて、紡がれる言葉を待つ。

 

そして―――

 

 

 

 

 

『――――――超越だけはするな。革新ならば幾らでもしてくれていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類は―――変わらなければならないのだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…超、越?」

 

『…まあ、君以外の者達は兎も角、どうせ君の事だ。何を言っても変わりはしないだろう。きっと、幾ら言っても革新などせずそのまま大きくなってしまうのだろうから、あまり心に留める必要は、無い』

 

ガクッ!っと体勢が崩れる。

思わず口から良いのかよ!?、とアムロのように突込みが出そうになったがなんとか踏ん張れた。

同時に、とある確信が私の中に生まれた。

 

イオリア・シュヘンベルグ。

 

この男――――――天然だ。

しかも、重度の。

一瞬アムロ並みという言葉が思い浮かんだが―――この男。もしやアレ以上なのではないだろうか?

 

『以上で、言いたい事は全て言えたのでメッセージを終える事にする』

 

「って、ちょっと待て!これだけか!?」

 

思わずそう言ってしまった。

いや、さっきアレだけカッコいい事言ってたのだから、できれば最後まできっちりと締めて貰いたかったのだが…

 

『では、バイ・ビー』

 

「オイィィィィ!?」

 

最後までそんな感じか!?素か!?それが素なのか!?イメージが違うにも程があるぞイオリア・シュヘンベルグ!

いや、もしかすると今まで見てたあの姿はただ単にカッコつけてただけなのか…?

 

『……あ、そうそう忘れていた。確か以前君が私の研究室に冷蔵庫の中にとっておいたメロンを食べたのは誰だといって突撃してきた事があったな』

 

って、まだあるのか!?さっきのが最後じゃないのか!?オイ頼むぞ!?これ以上イメージを壊すような事は言うなよ!?後生だから!

……などという、そんな淡い願いを聞いてくれるほど、目の前に映る人物は優しくは無かった。

 

 

 

 

『…済まない。あの時食べたのはE・A・レイだと言ったが……実は食べたのは私だよッ!』

 

ガタッ!(椅子から立ち上がる音)

 

『しかァしッ!私はッ!後悔も反省もしていないッ!――――――何故ならばァッ!』

 

クルクル…(そのままモニター前まで回転しながら移動する音)

 

『このッ!イオリア・シュヘンベルグはッ!』

 

シュピンッ!!(右手の人差し指をモニターに向け、やや斜め上かに見下ろすように顔を固定した音)

 

『マサチューセッツ工科大学並びにホワイトハウス及び国連本部秘密結社ァ!』

 

シュバァッ!!(手の甲を見せ付けるように左手を顔の前に持ってくる音)

 

『“メロンを狂おしいほどに愛する会”のォ!』

 

ギュポーン…(イオリアの目が光る音)

 

『名誉会長にして会員ナンバー00ォ…』

 

ガッキィィィン!!(そのまま所謂ジ○ジ○立ちした音)

 

『だ・か・ら・だッ!!!!!』

 

グキッ(何か鈍い音)

アオウッ!!(何か切ない感じの呻き声)

ガタン!!(何かが倒れる音)

ブツッ(モニターが消えた音)

 

「…………」

 

………なんというか、まあ……

 

「……テラカオス…」

 

って、いうか、これはひどい。どうしてこうなった?さっきまでのシリアスは何処行った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これは酷い」

 

そして俺―――アムロ・レイの方も何だか良く分からない事になっていた。

 

気を失ったと思われる状態から回復して最初に目に入れた物―――それは――――

 

 

「……う、おーいぃ…」

 

 

―――Oガンダムに首根っこを掴まれて、装甲やら何やらを徹底的に引きちぎられたのであろう、“元々はGN-Xだと思われる何かの残骸”だった。

 

 

「…」

 

見下ろしてみれば、其処には先程まで海中からワイヤーでこちらを引っ張っていたと思われるリアルドやイナクトの残骸がプカプカ海に浮かんでいる。

さらに言えばその近くにコックピットを握り潰されている以外は特に損傷のない残りのGN-Xが仰向けになって漂っていた。

 

「……とりあえず逃げるか」

 

手に持っていた残骸を海面に向かってシュゥゥー!!超!エキサイティン!!

そのまま踵を返して明日への逃走!!

目指すは姉さんも向かったのであろう近海のアジトだぜ!

 

「……って、あれ?なんか何時もよりもスピードが遅い…?」

 

何故?と考えていた俺の視界にとある文字が映る。

コンソールに浮かび上がっていたのは翡翠色をしたバックに赤いルビー色というミスマッチ過ぎる色で“TRANS-AM”という単語。

読み難い事この上無い。

 

「…トランザム?」

 

車?…じゃないよな。“Trans-Armd”の略語か?ただ、“変化する武器”ってどんな言葉だ?

…まあ、取り敢えずさっきの惨状はこのシステムの所為による物なんだろう。…たぶん。

そうであって欲しい。

もしそれなら、さっきの惨状を自分の意志で起こさない事が可能なのだから。

 

「……取り敢えずは、戻ってミハエルとネーナのフォロー…か。姉さんがそんな事するとは思えないし」

 

メンドクセーなどとほざきながら、俺はアジトへと急ぐ。

なんたって、最後まで面倒見る、なんて事言っちゃったんだからな。

口ではなんと言おうと、キッチリやり遂げなけりゃあヨハンの奴に笑われちまうよ。

 

「…ドミネ・クオ・ヴァデイス。お前が行くのは…勿論天国だ」

 

俺は地獄だけどな。

最後にポツリとそんな言葉が出た。

せめてもの鎮魂にこれぐらいは許されるだろう。

そう思いながら。

 

 

……ところで、何で相棒はさっきから一言も喋らないのだろう?

機能停止してるわけでは「zzzzz……」…は?

 

「zzzzzz…」

 

「……突っ込まないよ?絶っ対に突っ込まないからな?」

 

フリじゃねえからな!!




さて、如何でしたでしょうか。
どうもガン山です。
今回はトランザム回ということで私の脳みそも書いているうちにどうやらトランザムしてしまったようで…ほんとにどうしてこうなった!?

というわけで解説に。

お茶目なイオリア
→実は連載当初から考えてたネタの一つだったり。ここまでものの見事に暴走してくれるとは微塵も思っていませんでしたが。いや、それにしても動いてくれました。
そして彼が今回の話の中で使ったネタの元を分かってくれる人は居るのだろうか…?

トランザム
→原作と同じ感じですね。

刹那が聞いた声
→これはとんでもないネタバレとなるのであまり言えません。
強いて言うならば、声の主はある意味では刹那と繋がっています。同時にアムロとも。師匠は…微妙。
ただ、本作においての重要なキーパーソンの一人となる予定です。

イオリアが託したもの
→本作では“全能力”ではなく“可能性”とさせていただきました。
要はただ与えられるんじゃなくて、たまには自分達で考えろってことですね。
何げに私が自分自身に投げ掛けた言葉だったりします。

イオリアからのメッセージ
→とある人物に向けられたこのメッセージですが、もしかしたら勘の良い方は目星が付いているのではないかと思います。

最後の惨状
→これに関しては次回の冒頭でちょっぴり明らかになります。

というわけで今回はここまで。
では、また次回。


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二十話―――葬式に出るときは身嗜みも大事だけどそれよりも先ずは喪主に恥をかかせないという心構えをしましょう

今回はこの前書きをしっかりと理解した上での閲覧をお願いします。


今回はあまりお話は進みません。
あと、文中に少し不謹慎にも程があるネタが入っておりますのでそういう物に不快感を感じる方は、冒頭以降の閲覧をお控えください。マジで。
念の為オリジナル版と比べて表現を私が和らげられる分だけ和らげましたが、それでも少しキツい方にとってはキツいかもしれません。
一応こんな事したのはこういう理由があるからだよ、というのをあとがきに書き込んではいますが……
あるいは、途中を飛ばしてください。

そんなの無いよという方だけどうぞ。


西暦2309年 某所

 

……あら?めっずらしいわね?本当に来たの?

政府公認のPMCに対する取材だって言うからてっきり出まかせかと思っちゃった。

…え?そう思ったならなんで此処に居るのかって?

そんなもん暇潰し以外何があると思ってんの?偶々よ。偶々。

 

…で?何が聞きたいんだったっけ?

…………ああ。あの“白い悪魔”が初めて表舞台に出た話ね。

確かにあたしはアレに参加してたけど…担当は別のやつよ。AEUの正規軍。あたしはそれを見ていただけ。

…え?それでも良いって?まあ、それで満足するならあたしも吝かじゃないけど…あ、勿論報酬はキチンと寄越しなさいよ。……OK。交渉成立ね。

 

そしたら、取り敢えず要点だけ纏めて言うわね。

確かアレはAEUによるワイヤーを使った作戦が成功に見えたその瞬間だったっけ…

 

 

 

「あらー…これは流石に勝ち目無いかもねぇ…」

 

その時、あたしは機体をそいつに撃墜されててさ…あ、ガチでやって負けたわけじゃないから。不意打ちでやられただけだからノーカンよ。ノーカン。

で、とりあえず近くの小島に機体を隠して救難信号出してたわけなの。

そしたら、近くでAEUとそいつのドンパチが始まってさ。

で、俗に言う『ワイヤー作戦』で悪魔は絶体絶命のピンチだったと。

それでも、かなり堪えてたけどね。ワイヤーを体中に合計3つだか4つだか忘れたけどそんだけくっつけられた上に、引切り無しにバラバラの方向から引っ張られるのよ?

普通は腕が良くても2つ3つが限界。それをそこまで耐えてたっていうのは純粋に尊敬できるわね。

まあ、新しく引っ付けられた瞬間にバランス崩してたけど。

 

話を戻すと、まさにそのタイミングでGN-Xの内の1機がビームサーベル構えて特攻したのよ。

こう、突き入れるような形でね。

…え?回避?

無理よ。無理無理。あたしでもそんなの無理。

直ぐにブーストかけて離脱しようとしても、腕や足の1本や2本は持ってかれるわ。

……奇跡でも起きない限りは、ね

 

 

そう。奇跡。正しくあの時、悪魔には奇跡が起こったのよ。

 

 

サーベルが突き入れられる瞬間、突然悪魔は眩い光を放ってから消えた。

 

そして次の瞬間、悪魔はその身を戒める縄を全て引き千切ってから、自分の命を狙った不届き者をその手の光の剣でバラバラに解体した。目にも止まらぬ速さで。

 

そして今度は肩の大砲を用いて波間に隠れた奴隷達を次々と裁きの光にて焼き殺し、残った哀れな生贄を自らの腕で引き裂いた。

 

 

…ちょっと詩的な表現になっちゃったわ。ごめんなさいね。あたしって一応敬虔な宗教家だから。ユダヤ教ね。…あれ?キリストだっけ?ヒンドゥーだっけ?…まあいいか。

話戻すけど、でもあの光景はそうとしか言い表せなかったわ。装甲の隙間という隙間から血飛沫みたいに緑色の粒子が噴出してるのは本当にすごかったし。その近くが赤く光ってるのも印象的ね。

絵が描ければ解り易くできるんだけど…ごめんなさい。あたし、絵心無いから。

まあ、ともかく後は公式発表の通りよ。

悪魔は―――――ガンダムは、その後バラバラにした機体の残骸を海に投げ捨ててからどっか行ったわ。こう、ポイっとね。

あたしはそれを黙って見ているしかできなかった。

 

……?別に?死んでったやつなんかは運が悪かったか、身の程を弁えなかっただけだからね。別に悲しんでやったりはしてないわよ。

本音を言えば、あの状態のガンダムと心行くまで戦争したかっただけよ。

きっと、戦ってるだけでもイケちゃうわ。きっと。

 

…と、もうこんな時間ね。

んじゃ、あたしこの後仕事あるから、ここでお暇させて貰うわ。

お金は、指定口座に振り込んでね。

 

…ん?今夜一緒にどうかって?

ん~…ゴメンね?あなたは魅力的だけど、あたしってもう主人が居るから。

うん。主人。ご主人様ってやつね。

満足?してるわよ勿論。愛の前に障害なんて物はないの。

 

それじゃ、ね?この話、いい記事にしてよ?

 

 

西暦2307年 スペイン某所 ソレスタルビーイングアジト

 

 

「……そろそろ離して欲しいのだが」

 

「……」

 

「……」

 

「………兄妹揃って無視とか良い度胸だな貴様ら」

 

なんとかほうほうの体に近い状態でアジトへと帰ってきてみれば、機体から降りた途端にミハエルとネーナに捕まりましたよ。

いや、兄貴死んで色々とあるのは解るのだけれど流石にいつまでも抱きつかれているとこっちは何もできないと言うよか一歩も動けない訳で。

できればさっさと放して欲しいのにまさか今の彼女達の精神状態で力ずくとはいかないし…

 

いや、別にネーナの方は引っ付いてても良いんだけどさ。

 

「…ミハエル。ネーナはともかくお前お兄ちゃんだろう。差別するつもりはないが、妹が泣いてる時はもう少し気丈に振るまえ。そんなんじゃ示しが付かないだろう、情け無い」

 

「………おう……」

 

「ネーナも、だ。そんなんではヨハンに笑われてしまうぞ?今は良いが落ち着いたらまたいつも通りにしなさい。な?」

 

「……うん…」

 

そうしてから、また二人共無言になった。

…今思ったが、そういえば二人共涙は流してるみたいだが嗚咽は漏らしていない。

本当はわんわん声を出して泣きたいだろうに。

 

(…何がいつもどおりにしなさいだ。示しがつかない、だ)

 

そう思うと笑えてくる。

顔には出さないが。

 

(お前ら二人は十分“強い”よ。多分俺よりも)

 

何となくそんな感慨深い物を感じた。

ギリギリヘルメットのお蔭でバレなかったけど、実は俺ももう泣きそうだったのだ。

顔もクシャクシャだろう。

 

でも、強がっていられるのは、きっと最後のあの声のお陰だと思う。

 

 

まあ、その数分後にとある事を聞かされて、二人に構っていられないくらいに愕然となったんだけどさ。

 

 

「…は?え?あの、ちょっと、師匠?今なんて言った?ちょっと聞き取り難かったから、もう一回言ってくれない?」

 

『勿論構わないよ

 

 

 

絹江・クロスロードがつい先日、何者かに襲われて死体で見つかった』

 

 

…………………………………

 

 

「………それって、俺葬式でないとダメなんじゃない?」

 

『いきなりそんな発想ができる弟子を持てて僕は嬉しいよ』

 

「いや、だって…」

 

ねえ?不味くない?

 

 

経済特区日本 都内某所 斎場

 

 

姉さんが、死んだ。

スペインでルイスの看護をしている時に掛かってきた電話で言われた事の意味が、最初は何だか解らなかった。

ただ、何となく「ああ、あの時かな」なんて柄にもなく思ってしまった。

最初は、ただそれだけしか感じれなかった。

 

実感が持てたのは、死体を見てからだった。

ルイスの主治医に無茶を聞いて貰って、彼女を連れて(というか勝手に着いてきた)身元確認へと走った。

 

久々の姉さんは、青いシートに包まって冷たかった。

検死は終わっているらしく、死因は頭部への強い衝撃による脳挫傷なのだという。

それ以外に、傷跡は手足の擦過傷くらいだったから、特に大きな傷も無く、姉さんの体は綺麗な物だった。

 

でも、そんな事はどうでも良くって。

 

もう僕は姉さんと二度と言葉を交わす事も出来なければ、笑い合う事すらも出来なくなったのだと、その事が、僕には一番強い衝撃を与えていた。

 

その場で泣き出さなかったのは、隣にルイスが居てくれた事が大きい。

もしも彼女が手をずっと握ってくれていなかったら、ずっと嗚咽を漏らして静かに涙を流していなければ、僕はその場で心が折れていたかもしれない。

 

姉さんの後輩の記者さん曰く、彼女はソレスタル・ビーイングについて、ずっと調べていたのだという。

上司からも、同僚からも心配され、何度も止めろと言われていたらしいが、それでも彼女は情報を集める事を止めなかった、と。

そんな中、偶々後輩さんが別の仕事で姉さんと別れた。

その時姉さんはリニアトレイン事業の総裁で、国際経済団のトップである“ラグナ・ハーヴェイ”と面会する予定だったのだという。アポ無しで。

その人が考えるには、おそらくそのタイミングで、確信に迫る何かを聞いてしまった。或いは感づいてしまった。

その結果として口封じの為に殺されたのではないか、と。

 

もう一つは、偶々なんかしらの事故の被害者になったか。

姉さんが見つかった地域は車の交通量が多く、もしかしたらひき逃げの被害者になったのではないかと。

体の傷の少なさから、同時に発見場所が交通量の多い大通りの直ぐ近くだったということから、可能性はこちらのほうが高い、それが向こうの地方局の見解だった。

 

 

できれば、僕は警察の人たちと同じように、後者であることを願いたかった。

その方が、まだ現実味もあるし、色々な意味で踏ん切りが付けられそうだったから。

前者だと、きっと誰に恨みを抱けば解らなくなって潰れてしまうかも知れないから。

 

 

『~~~~~~~』

 

そして、今は姉さんの葬式の最中だ。

喪主は、僕。

当然だ。

何故ならば、他に家族が居ないから。

けど、斎場の手配などは殆どが姉さんの職場の同僚の方や、編集長さんがやってくれた。

みんな、良い人達ばかりだった。

 

『~~~~~~~』

 

お坊さんの唱えるお経は、何を言っているのか良くは分からない。

時々、周囲の人の計らいで僕の隣に座ることを許されたルイスが、質問してくるから少し困る。

こういう時の説明役は、大体は今此処にはいない友人だというのに。

 

『~~~~~~~』

 

そういえば、その肝心の友人はつい先日から連絡が付かない。

元々神出鬼没な上に、なんだか良く分からないバイトを前からやっていたが、今度もその関係なのだろうか?

 

『~~~~~~~』

 

そんな事を考えながら、焼香に来た参列者の人達を見ていた。

 

『~~~~~~~』

 

そんな中、丁度式が半分位に差し掛かった時である。

突然入口付近の辺りが騒がしいように感じた。

まるで、有名人が来たけど空気を読んで黙ってるが少し動きに出てしまっている、という感じだ。

 

(…一体何だ?)

 

そう思っていると、突然入り口のドアが開いた。

思わずそちらへ目を向けて――――――

 

 

 

「…………」

 

――――目を背ける事にした。

 

だって其処に居たのは身長190cmに届くか届かないかの長身で、炎の様な赤い髪に整った顔立ちの所謂“イケメン”と分類される人が二人―――――

 

「…………」

 

「……ねえ、沙慈。あの人達が着てる服って、色は黒と白だけど多分江戸時代とかのお侍さんが着てた「ゴメンルイスそれ以上言わないで。このままだと何かが崩れそう」……あ、うん…………ゴメン」

 

―――今ルイスが言ったように、黒い着物に白い袴という時代錯誤も上等な格好でやってきた。

香典とかもキチンと渡してたし、受付もキチンとしていたけど……普通、スーツじゃないの?いや、別にあれでも一部地域では普通だと思うけど、それでもこのご時勢にそれは…結婚式じゃないんだし…

…いや、よそう。もしかしたらスーツで来ようとしたけど、やむを得ない事情があってアレで来ているのかもしれない。

ほら、顔なんか超真面目な感じに堂々としているもの。

きっと、下手に照れるとますます酷い事になるからあんな顔にしているんだ。そうに違いない。そうだと言ってくれ…………!

 

 

そんな僕の願いを裏切るように、次に入口から出てきた人はもっと凄い格好でやってきた。

 

「…………」

 

「…………ねえ、沙慈……あれってまさかナース「ゴメン黙っててルイス」…う、うん……」

 

……次に出てきたのは、淡い紫の髪に白い肌。赤い瞳にこれまた整った顔立ちの―――

 

「…………」//////

 

―――どう見ても、真っ黒なナース服をそれなりに見れる形に改造したようにしか見えない服を着てきた女の人。

綺麗というより可愛いという感じだが、その格好はどうなのだと。

…………いや、きっと彼女のあの格好は不本意な物なのだろう。だって顔がトマトのごとく赤いし。

きっと、偶々服がなかったから、苦肉の策でああしたんだろうな。

うん。ならまだ許容範囲だよ。

 

 

「――――――と思ってたらこれだよォォォォ!!」(超小声)

 

悲しみと共に次に入ってきた人物の姿を見て小声で大絶叫するという奇妙な体験をしてしまう。

入ってきたのは二人組の男性で、一人は黒髪ロングの一瞬女の人と見間違えてしまうほど綺麗な人。

もう一人はこちらも見様によっては女性に見えるかもしれないが、顔立ちでギリギリ男だとわかる、典型的な金髪で北欧出っぽい人。

 

…………うん。此処までならまだ普通。普通なんだ…………ここまでは。

 

「…………え……え~…と。さ、沙慈?」

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハ。何だいルイス?もうドンと来いよ」

 

「…………え、えっと…………もしかして、あのグラサンに白いマフラーに黒スーツの人達ってもしかしてマフィ「あ、ルイス。焼香に来た人達がいるからお辞儀お辞儀」あ、うん」

 

…………オーケェイ。Coolだ。Cooooooooooolになるんだ沙慈・クロスロード。この程度でブルってたら天国の姉さんに笑われちまう。

………よし。落ち着いた。

そ、そうだよな。まさかそんな裏の世界の人が姉さんの葬式にあんなに堂々と『私、マフィアの人間です』オーラ出して来たりしないもんな。

そもそも姉さんはそんな裏の世界に脚を踏み入れては………いない、よね?

いや、大丈夫なはずだ。僕は姉さんを信じる。OK。それが真実だ。

 

 

「とかさっき言ってたけど、ごめん姉さん。僕は貴女を疑ってしまいそう」(超小声)

 

そんな事を呟く僕の目の前に次に現れたのは、各所にフリフリが付きまくっている黒と白基調のドレスを着た、髪が黄緑のこれまた美人。

 

しかしゴシックロリータ。略してゴスロリファッションだ。ご丁寧に眼帯まで付いている。

 

「あ、可愛い」

 

「」

 

…だ、ダメだ。もうルイスの素っ頓狂なセリフに突っ込む余裕が無い。

アムロはもしかしてこんな苦行を家族間で行っていたというのか。

そりゃああんなに精神が強くなるわけだよ。

……くそぅ!逃避もできない!!周囲の目が痛すぎる!!主に僕に対しての「可哀想に…」という生温い視線が!?

や、ヤバイぞ!?ルイスはまだまだ大丈夫そうだが喪主の僕はもう既にいっぱいいっぱいだ!主に精神の安定とかそういった部分が今にも盛大に『銀河の彼方へさぁ行くぞ!』してしまいそうだ!?

 

(た、頼みます神様姉さま仏様!!次こそ!次の人こそもっとマトモな格好でお願いします!!このままでは僕の心が破裂しそうです!!!)

 

思わずそう願ってしまう僕を誰が責められようか。否、常識ある人ならば誰も責められまい。

 

「さ、沙慈!?大丈夫!?なんか目が虚ろだよ!?ねえ、聞いてる!?大丈夫!?ねえったら!?」

 

ルイスが何か言っているが、悪いけど今は其処に構っていられない。

何故ならば、僕の精神の運命は次に入ってくる参列者の格好で決まるんだ。

少し心配させちゃうかも知れないけど大丈夫。ここまで変なのが続いているのだから流石にもう変なのは「はーはっはっはっはっは!!!!!僕、参、上!!!!」(←上下真っ赤のスーツに金色ネクタイ)「ゴメンルイス僕は限界だ」

 

いいながら僕の意識は暗闇へと沈んでいった。

完全に沈む間際に普通の喪服で周囲の参列者に対して「ごめんなさい」と「すみません」「申し訳ありません」を連呼しながら土下座して謝りまくるアムロと紫色の髪のメガネの少年が見えたのは唯一の救いか。

 

(と、いうか、もしかしなくてもこの人たちって君の御家族かい?アムロ?)

 

そんな言葉は形になる事無く、僕の意識は闇に染まった。

 

 

 

(式中断中……)

 

 

 

「全員纏めてマトモな服に着替えろやダボがァァァァァァ!!!!!!!!!!あ、グラーベさんとヒクサーさんはグラサンとマフラー外して。リジェネ兄さんはそのままね。至って常識的だから」

 

「「我々は?」」

 

「ブリング兄さんとデヴァイン兄さんはどうぞご自由に。夕飯がコーヒーご飯になりたいのであれば」

 

「「……………………………………………………………………………………………………………………………着替えてくる」」

 

「オイちょっと待て二人共何だ今の間は。もしかして食べたかったりした?」

 

「僕は僕は?」

 

「その真っ赤なスーツを黒い色に変えてネクタイもその金ピカから黒いのに替えれば良しとするというかさっさと変えてこいやクソ師匠がァァァ!!!!!」

 

「ちょっと待ちたまえ!!その日本刀は一体何処から出したと言うんだい!?僕も出しちゃうけどね!!!」

 

「ちょっと二人共巫山戯てないで沙慈を介抱してあげてよぉ!!」

 

 

(師匠一行着替え中……)

 

 

 

「ねえねえアムロ!どう?似合う?」

 

「とりあえずその口調とセリフはやめろ師匠。可愛くない。蒼月昇氏にジャンピング土下座して謝れ。あとネクタイ曲がってる。ちょっと動くな」

 

「すまんね」

 

「アムロ。あたしは?」

 

「ちょっと待って姉さん。…よし。師匠はこれでOK。姉さんは……あ、良いんじゃない?」

 

「っし!」

 

「でもスカートよれてる。直すから動くな」

 

「えっ。ゴメン…って、尻を触るな!!」

 

「不可抗力なんだから我慢しろってゴファ!?」

 

「ああっ!?アムロが宙を舞った!?」

 

「見事な回転だな」

 

「言ってる場合か!?」

 

 

(アムロ蘇生中……)

 

 

 

「そういえば思ったんだけどリヴァイヴ」

 

「何だい紫ワカメ?」

 

「黙れずんだヘッド。入ってくんな。…あ、ごめん。いや、僕らの中でこういった式での作法って知ってる人居るのかなって。因みに僕は知ってるよ」

 

「…なら何故訊く。…確かこの場合は立礼式だから、 

 

1.焼香台の2、3歩手前に出て遺族と坊主に一礼

 

2.身を正して遺影または御本尊に合掌して一礼

 

3.焼香台の前に進み、抹香を目の高さに押し抱き、炭の上に落とす(1~3回繰り返す)

 

4.合掌して遺影または御本尊に再度一礼

 

5.後ろ向きに下がってから再度遺族と坊主に一礼

 

で、最後に席に戻るか退場して終了だったはずだが」

 

「長文ご苦労TSちゃん」「殺すぞ」

 

「いや、マジゴメン。調子乗った。……で、リボンズ。ちょっと言いたいんだけど」

 

「ん?何だい?」

 

「…アムロって、それ知ってると思う?」

 

「……たぶんね」

 

「……嫌な予感しかしないなぁ…」

 

 

(アムロ復活&沙慈が起きないので喪主気絶状態のまま式続行。臨時喪主代理はルイスに)

 

(アムロ焼香終了)

 

「…何だよ?なんでそんな目で見る」

 

「いや、だって…ねえ?」

 

「…まあ、確かに教えてはいたけど、さ」

 

「「「「「「「「……つまらないなぁ」」」」」」」」

 

「おっしゃ全員今から表出ろ。エスカリボルグでミンチにしてやる」

 

 

 

「……はっ!?」

 

気がついたら葬式は殆ど終わっていた。

僕はどうやらルイスの膝枕で眠り続けていたらしい。実に心地いいんですけど。

 

「…………って、膝枕ァ!?」

 

「あ、やっと起きた」

 

飛び起きてみれば、ルイスの腿の辺りが少し赤くなっている。

どうやら長い時間ずっと乗っけていたらしい。

申し訳無さと共に、大観衆の前でこれをやっていた彼女の豪胆さに驚く。

……尻に敷かれるのは決定かなぁ……

 

「よ」

 

「あ、久しぶり」

 

「おう。ご愁傷様です」

 

「ホントだよ。後であの人達とお話させてね。結構言いたい事があるから」

 

「言っても無駄だと思うぞ。さっきこっ酷く叱ったけど屁とも思ってなかったから、全員今日の夕飯は抜きにしてきた」

 

「それは効果あるんだ…」

 

「いや、マジで台所を制する者は人権を制すみたいな感じになってるからな、ウチ」

 

「マジで?」

 

と、様子を見に来てくれたのかアムロがやってきたので、いつも通りの取り留めもない会話をする。

っていうかやっぱり彼らは君の身内だったんだねアムロ。地味に尊敬しちゃうんだけど。

 

「よせやい。照れる」

 

「あれ?口に出してた」

 

「顔に出てるぞ」

 

「うわ、ホント?」

 

「ホントホント。な、ルイス」

 

「バッチリね」

 

「あちゃー…」

 

やっぱり少しだけ参っている様だ。

普段だったらこんな事無いのになぁ…つくづく思うけど、最近こういう時にアムロがしょっちゅう居る気がする。

 

「気のせいだな」

 

「地の文読まないでよ」

 

「いや、二人共メタ発言はよそうよ。ここまだ斎場だよ」

 

「「納骨までの時間が暇です」」

 

「その前にお骨を拾うんでしょー!」

 

そうルイスに怒鳴られるも、どうも腑抜けてしまうのが現状だ。

きっと、張り詰めていた物が一気に途切れてしまった事から来る反動みたいな物なのだろうけど。

アムロも何故か似たような状態らしく、だらけきっている。

時折、家族の方(とは言っても、明らかに血は繋がって無さそうだから、きっと施設関係の年上の人なのだろう。嘗て本人がそう言っていた)が寄って来て、彼と二言三言言葉を交わして去っていくが、その内容は殆どが今日の夕飯の献立だったり基本ご飯関係なのはどういう事か?

 

(…そういえば、姉さんも帰ってきたら何時も「今日のご飯は何?」って訊いてきたっけ。)

 

もう戻って来ない日々とはよく言った物で、つい先日まで普通に交わしていたその会話がもう交わせないと思うと、改めて姉さんが死んでしまったのだと否応無しに理解させられ――――

 

 

――――――…ああ、そうか。

 

―――こんな気持ちを、ついこの間ルイスは味わったんだ。

 

…きっと、アムロも。

 

 

不意にそんな言葉が脳裏に浮かんできて、思わず二人に顔を向ける。

二人は、仲良く談笑している……というより、どうやらルイスが必死にアムロに何かを教えて貰っている。

途中途中で「味醂がちょっと」だの「ご飯炊くときは」だの聞こえている事から、どうやら料理の仕方でも教えてもらっているみたいだ。

その事にちょっとだけ驚く。

「あのルイスが?」という気持ちもあるが、それよりもアムロが中々高度な技術をルイスに伝授しようとしているからだ。

君何ルイスに料理と偽って茶芸(中国の伝統芸能の一つ)教え込もうとしてるの?というか君何で出来るの?

 

「俺だからな」

 

「だから地の文読まないでって。というか出来るんだ」

 

「あの一瞬で仮面が変わるのもできるぞ。ほら」

 

「うわぁ!?ホントにやってくれてありがとうって言うかどうやったのさ!?」

 

「企業秘密」

 

「ですよねー…」

 

 

いよいよもって、火葬の時がやって来た。

最後のお別れはさっき済ませた。

何気にアムロから師匠と呼ばれている少年にしか見えない人が姉さんの死体のほっぺをぷにぷにしていたような気がしたけど気のせいだよね。

アムロがとっても慌てて周囲に謝ってるけどそれも気のせいだろう。

うん。

 

「さ、沙慈!?オデコが!?オデコの血管がはっきり浮き出て!?」

 

ハッハッハ何を言ってるんだルイス。そんな事あるわけないだろう?

あ、姉さんの三角巾取られた。

アムロが鬼の形相になりながら何処からか日本刀を持ち出して師匠を追い掛け回している。

全くダメじゃないかアムロ。

 

そこは僕も混ぜてくれないと。

 

「ホレ、エスカリボルグ&般若のお面」

 

「ほいキタァァァァァァ!!!!!!」

 

「何ィ!?増えただとゥ!?ヨソウガイデス!?」

 

「ちょっと沙慈もアムロも落ち着いてぇぇぇぇ!!!!」

 

「……オーイ4人ともー。納棺しちゃうよー」

 

「諦めろリジェネ。もうあの4人は止められん」

 

「というかあの沙慈って坊ちゃん、よく今まで我慢できてたわよね。偉いと思うわよ、あたしは」

 

「…お前に褒められても誰も嬉しくはないと思うがな」

 

「とか言いながら、ヒリングもグラーベちゃんも缶コーヒー飲みながら傍観は止めようよ…」

 

「ヒクサーそれは違う。私達は色々と諦めたのだ」

 

「そうそう。ぶっちゃけあの状態のアムロを止めるなんて、あたし逆に殺されそうだから真っ平ゴメンだし」

 

「それってただ傍観するだけよりも何倍も質悪くない!?」

 

外野が五月蝿いが僕の知った事ではない。

今こそ、このずんだ餅ヘアーのクソ野郎に天誅を与えるべきなのだ!!!友と共に!!

 

「「死ねよやぁァァァァ!!!!!!」」

 

「おのれ!ならば良いだろう!!二人纏めて黄金の矢で消し去ってくれる!!!!」

 

「だから沙慈もアムロも止まってよぉ!!師匠さんは早く謝るなりなんなりしてぇぇ!!」

 

「……う~ん、テラカオス」

 

「とか言いながら紫芋オレ飲みながらお前も傍観するなリジェネ」

 

 

 

結局、あのずんだ餅に天誅を下す事はできなかった。

流石にルイスに抱きつかれて泣いて懇願されたらいかな男でも抗う事は無理だと思う。

カワイイは万国共通の正義だよね。

 

「にしても姉さん、軽くなったねえ。ご飯食べてる?」

 

「お願いだからこっちに戻ってきて沙慈!!それは確かにお姉さんだけど骨だから!ハイライトの消えた虚ろな目とか怖すぎるから!ね!?」

 

全く冗談がルイスに通じない辺り、どうやら僕の他人から見た感じはとっても悪いようだ。

少なくとも、一緒に骨を拾っている人達の殆どが、僕に可哀想な人を見る目を向けてきている。

実に微妙な気分である。

 

「まあ、さっきまでのお前の惨状を目の当たりにした上で今の言葉を聞いたら、そんな目も向けるわな」

 

「原因の3割くらい君だけどね。残りの7割は君の師匠だけど」

 

「(。・ ω<)ゞテヘペロ」

 

「「……反応しませんよ(しないかんな)?」」

 

「畜生!!」

 

言いながら涙を流しつつ外へと飛び出す師匠。

もうこの人やりたい放題だな。周りからの目が気にならないのだろうか。

…気にならないんだろうなぁ……そういえば、以前アムロが彼の事を「師匠は師匠という名前の何か。新種の生命体」とか言ってたけど、今ならその意味が良く解るよ…

あ、戻ってきた。

 

「…とりあえず、もうこれ以上は変な事しないで下さいね。騒いでるのあなただけですよ」

 

「わかっているさ。多分これ以上やったら作者が読者の方々に批判の嵐を見舞われる可能性があるからね」

 

「メタ発言乙。だけど、多分手遅れだと思うがな」

 

「安心したまえ。某漫画ではもっと酷い事してるから」

 

「アレはアレだから許されるんだろうが」

 

「二人共、少し黙って」

 

「「アイ、サー」」

 

まったく……

 

 

「僕に対するおもてなしがぶぶ漬けってどういうことだい?」

 

「安心しろ。俺は持参の弁当だ」

 

「ゴメンねアムロ。まさかご家族で来るとは思ってなくて……」

 

「そう思ってたからこそ持ってきたんだ。突然来たわけだしな。ところで師匠。そんな所で蹲ってどうした?」

 

「……まさか無視され続けることが此処まで苦痛だとは思ってもみなかった……!」

 

無論、意図的な訳だが。

因みに今は式も完全に終わり、昼食中だ。骨はもうお墓の中に納骨してきた。

無性に物悲しくなったが、僕以上にルイスがもう泣いて泣いて凄い事になっていたので涙なんかは引っ込んでしまった。

…あれ?おかしいな?普通そこで大号泣しなければならないのは僕の筈なのに?

 

「アムロ!!お茶!!」

 

と、其処へ飛んでくるアムロのお姉さんの声。

彼女は自分の紙コップを天高く突き上げ反対側の手に箸を持ってアムロを見ていた。

そんな彼女を見たアムロは目を細め、実に呆れたような顔をしながらこう言い放つ。

 

「…自分で入れなさ「買って来て!!」尚更自分で行って来い」

 

そう言うも、彼女は不満そうな顔をするだけだ。

よく見るとどうやら近くのテーブルに備え付けられていた2リットルのペットボトルのお茶が全て空になっていた。

だからこその『買って来て』発言だったらしい。

少し納得する。

僕も姉さんが家に居た時は、良く言われていたものだ。

とは言っても、大抵僕が用事がある時その序でに、というのが多かったが。

あそこまで理不尽極まりない物ではない。

 

「…あ……沙慈、ちょっと動かないでね」

 

「え…?」

 

その時、不意にルイスが顔を近づけてきた。

思わず顔を赤らめるが、直後彼女が手に持ったハンカチで頬を拭いてくれたことで、その意図を理解する。

どうやら、知らずと僕は泣いていたようだ。

自分で自分が泣いていたことを気付かないなんて、どうやら僕は自分で思っているよりも精神的にキているらしい。

 

「ぶぶ漬け以外とうめぇwwwwww」

 

「師匠。シリアスにいきなりギャグ突っ込んでくんの止めてくんない?」

 

「だが断る」

 

「……」

 

……あれ?何故だろう?

姉さんが死んだ事よりも、このキャベツ頭の所為で精神がやられている比率の方が大きいと感じるなんて思ってもみなかった。

 

「沙慈、落ち着け。師匠は何時でも大体こんなだから。付き合うだけ無駄だぞ。だからその額の青筋を引っ込めろ」

 

「…うん。改めて君が凄いと思うよアムロ。普通ここまで無表情でぶぶ漬け人の顔面に叩きつけれる人なんて居ないもん」

 

「馬鹿者。10年近く付き合ってればこうもなる」

 

「……」

 

…そっか、10年か。凄いねアムロ。

僕なら多分半年で発狂しちゃうよ。

 

「ぶぶ漬けを倍プッシュだ……!」

 

「カブトムシの幼虫入ってるけどそれで良いですか?」

 

「ごめんなさい調子に乗ってました!!」

 

あ、こういうのは効くんだこの人。

 

 

そんなこんなで一連の騒動……もとい、姉さんの葬式は終了した。で、今はアムロとルイスと一緒に帰宅中。

…いや、騒動なんてこういう言い方は姉さんに失礼だし、葬式そのものに対する侮辱だと思う。

でも、だからこそこう言わなければならないんだと思う。

それに僕が此処まで荒んだのは全面的にあのキャベツずんだの所為だ。

 

「ハイ沙慈落ち着け。野菜ジュースあげるから」

 

「某歌姫の曲と一緒に懐から出さないでよ。突っ込みどころ満載だから混乱するって……あれ!?ルイスどうしたの!?」

 

「…どーせ私は家事も出来ない、沙慈に頼ってばっかのボンボンですよーだ!!!」

 

「何を言ってるの!?ああもうこんな所で蹲らないでよ!」

 

「安心しろルイス。お前は頼ってばっかのボンボンではない。沙慈にとって都合の良い女だ」

 

「何一つフォローになってないよアムロ!!むしろそれ失礼にも程がな「なら良いや」ルイスさぁぁん!?」

 

くそう!!キャベツずんだから逃げられたと思ったらこれだよ!!

言ってみればいつも通りの展開だけどまさかこんな時にまで……!

…っ!!いかん!!涙がちょちょ切れる!!まさかこんな巫山戯た事で泣くなんて!?しかもこれまで溜め込んでたせいか涙が止まらずまるで滝のように!?

 

 

「…お、やっと泣いたな」

 

…は?

 

「うん。あ~良かった…」

 

「え?いや、あの……え?」

 

え、何?どういう事?意味がわからない。

 

 

「…つまり、何?僕が葬式中ほぼ一度もハッキリと泣かなかったから、今此処で泣かせてしまおうって?」

 

「まあな。ってか、お前って辛い事とか悲しい事に対しては涙腺の耐性が高いじゃんか。優しくしても逆効果だし。だから、こういうしょうもない事であえて一度限界来させたんだよ。こうでもしないとお前溜め込んだままじゃん」

 

「ご、ゴメン沙慈。悪気はなかったの…」

 

……うん。まあ、これに関しては完璧に僕が悪いと言える。

だって溜め込んでしまうのは僕自身良く解ってるし。

………でも、さあ……

 

「……何か涙止まらないんだけど。(ズズッ)ついでに言うと鼻水もとばんだい(ズズッ)もとい止まんないんだけど(ズズズッ)これ、大丈夫なのがぬぁ(ズズズッ)」

 

「安心せい。そんな物で脱水症状起こしたよという笑える話は、俺ァ見た事も聞いた事もねえ」

 

「ああ、ああ、沙慈、ホラ。チーンして。チーン」

 

「ばびがぼ(チーン)…ありがと、ルイス」

 

ルイスが手渡してくれたポケットティッシュで鼻をかむ。

…けど、一向に涙と鼻水は止まる気配がない。本当に大丈夫なんだろうか?これ?

 

「…とりあえずさっさと家に戻るか。沙慈。キッチン使わせろ。ホットミルクかココアでも作ってやろう。それともレモネードか?」

 

「ミルクとココアは兎も角レモネードっぬぇ(チーン)って。レモンなんかウチには無いよ?」

 

「俺の家にある」

 

「流石のアムロさんです」

 

「もっと褒めろ」

 

そう言いながら胸を張るアムロ。…うわぁ。超似合ってるよそのポーズ。

 

「あ!じゃあ、私!私が作りたい!!」

 

「は?」

 

「レモネードの事!ほら、私ってこっち来てからあんまり沙慈の為に何かしてあげられてないし。向こう居た時だって、ずっとお世話になりっ放しだったでしょ?」

 

ね?という目を向けられて、僕は少し焦る。

確かに彼女は僕が世話しっ放しだった。

再生技術によって今こそ完全に潰れた左手は完治しているものの、当時はまだ施術されていなかった為に左手が使えず、怪我の後遺症で少しの間足元が覚束無かった彼女をトイレやら風呂やらに連れて行ったこともあった。

…風呂に関しては、体を拭いたりと色々したし。

…あ、トイレに関しても少し手伝ったか。アムロにバレたら殺されそうである。

 

「……ヘイわが友。食事だけだよな?」

 

いかん勘付かれている!!!

目が明らかに細くなったもの!!

マズイ!本当にマズイ!!このままでは姉さんと同じ地面を踏む羽目になる!!

何とか戻ってくる方法を以前アムロ自身から教えて貰った事はあったが、それが本当に実用できるかは全く判らない!!

つまり!今此処で返し方を間違えればリアルに Dead or Alive を彷徨いかねない!!

 

駄菓子菓子!!もしも嘘など吐けば勘の良いアムロの事だ。間違いなくバレる!!

という事はこの場を切り抜けるには差し当たり無い言葉で茶を濁すか、ある程度暈して事実を伝えるしかない!!

 

(…い、一世一代の大勝負をこんな所でしろというのか神様!?掛金命とかシャレになってないよ!!)

 

「…おい?」

 

畜生!!口調が強くなった!!今日は厄日か!?

頼みの綱のルイスはニコニコしながらこっちを見ている!!おそらく、援護は望めない!!

いや、アムロ様に読者の皆様、並びに天国の姉さま!!僕、変な事は何にもしてませんよ!?

ただ単に着替えを手伝ったりバスタブに入るのを手伝ったり、トイレでは便座に座るのを手伝ったりしただけですよ!?

体も確かに洗ってあげました!しかし!!背中と足と右腕だけです!!前は見てません!!下も見てません!!断じて疚しい事は何にもありませんでした!!

いや、確かにそりゃ少しは劣情を催しましたよ。でも、そんな状況のルイス相手にそんな事したらただの変態な上、最低の鬼畜野郎でしょう!!我慢しましたよ!!ええ我慢しましたとも!!

今だって我慢してますよ!!膝枕されたときは理性が吹き飛ぶかと思ったわい!!

ってか、何!?ダメなの!?僕みたいなヘタレがルイスみたいな超カワイイ女の子と付き合うのはダメだというですか!?そんな事誰が決めたというのですか!?

何!?神!?神が何だというのですか!?所詮は偶像でしかないでしょうがあんな物!!

ちょっと今直ぐ出てこいよぶっ飛ばしてやるから!!別の世界ではこちとら40m級の巨大ロボやってんだぞコラァ!!」

 

 

「…おーい。沙慈。沙慈。興奮するな。とりあえず変なことはなかったみたいだという事は解ったし、大声出すのは恥ずかしいぞ。見ろ。ルイス真っ赤」

 

「/////////」

 

「ルイス可愛い!!超カワイイ!!!お嫁に来なさい!!!!」

 

「落ち着けマジで」

 

愛を叫ぶ事すらダメだというのかこの野郎!!

 

「時と場合を考えろっつってんだ阿呆が。ドリルミルキィファントム改(師匠仕込み俺バージョン)」(ズドム!!)

 

「オッホゥ!?」

 

腹部に絶大なる一撃。

回転を加えられたその一撃は僕の意識を刈り取るに十分過ぎる威力を持っていた。

…っていうかアムロ。その技は確実に君が使えるような物じゃないと思うんだけど…ネタでも何でもないし……

 

「仕様だ」

 

そうですか。

 

 

 

「はーい♪沙慈♪レモネードお待ちどうさま♪」

 

「うん。ありがとうルイス」

 

「因みに出来は保証しよう。何度か塩と砂糖と醤油と味噌とポン酢を取り違えそうになったが」

 

「なんか今変な物混ざってなかった!?」

 

「気にするな。入っとらん。入れる前に止めたわい」

 

そう言ってアムロは苦笑い。

対するルイスは「もー!」と言って、彼をパシパシ叩いている。

一切動じていない辺りが凄い。

だって今ルイスはプラスチック製のウチのお盆で彼をブッ叩いているからだ。

普通は痛がる様な気がするのだけど…

 

「ああ、慣れてるから。鉄とかセラミックとかEカーボンより柔らかいし」

 

「そんな物に慣れちゃってる君の日常は一体どれだけバイオレンスなのさ!?」

 

多分絶対教えてくれないが、確実にロクな日常ではないと思う。

Eカーボンてどういう事なの。あれ、MSの装甲とか軌道エレベータとかの外壁に使われているような部材のハズなんだけど…

 

「まあ、バイトの関係でな」

 

「「どんなバイト!?」」

 

思わずルイスも反応してしまう。

そんな危険極まりないバイトとは、一体どんなバイトなのだろうか?

ギャグ補正のかかったコメディアンでも死んでしまいそうなものだが。

知りたいが、それよりも脳内で出ている危険信号に従うことにする。

多分、知ったら二度と平和な表の日常には帰って来られない的な意味で。

 

「そんな事よりも早く飲んでやれや。折角ルイスが“お前の為に”作ってやったんだぞ。冷めない内に感想を聞かせてやれ」

 

「あ、うん」

 

言われてみればそうである。

では早速頂いてみる事にしよう。なのでそんなキラキラした目でこっち見ないでくれませんかルイスさん。理性が吹き飛びそうだから。

 

「……あ、普通に美味しい」

 

「でしょ!!」

 

「………でも、何でレモンの皮がかなり薄くスライスされたものとか入ってるの。ぶっちゃけ飲みにくいんだけど」

 

「それは俺だな。香りを出すためにそうやってるんだ。国産の物だから無農薬だし。因みに豆知識だが、本来だったら唐揚げとかについてくるレモンを絞る際も、上手い事革の表面にある粒ごと潰す方が美味いらしいぞ」

 

「マジで?ちょ、唐揚げ食べたくなってきた。夕飯それにしようかな?」

 

「というと思ったのでもう作ってありまーす!!」

 

そう言いながら、まさかのルイスがキッチンから皿いっぱいの唐揚げを持ってきた。

準備良すぎない!?

 

「あ、それ俺がさっきまで作ってたヤツではないか。何故にお前が盛り付けとる」

 

「実はコッソリ私も作ってたんですー。まあ、混ぜてあるけどね」

 

「オイコラ止めろ。なんだその微妙にロシアンじゃないロシアンルーレット」

 

言った瞬間アムロが宙にカチ上げられる。

綺麗なフォームで入ったけど、ルイスいつの間にそんな芸当覚えたのさ!?

 

「え?葬式の合間にヒリングさんから教えてもらったの。アムロが失礼なこと言ったら、これで報復しときなさいって」

 

「なんつーモンを教えとるんじゃあのバカ姉貴!?」

 

あ、復活した。流石に意識を刈り取れるような威力を出すのは無理だったらしい。

…何だか僕、ドンドンルイスの尻に惹かれる未来が確定していっているような気がする。

 

 

「んじゃ、そろそろ俺は帰るぞ」

 

「うん。今日はありがとうね」

 

「おう。ルイスは次もうちょっと料理を練習しておこうか」

 

「バッチリ美味しいと言わせてみせますよーだ!」

 

夕飯も終わってから、最後に3人で少しゲームで遊んで、その後そろそろ時間的にヤバイという事になり、アムロは家へと帰ることになった。

とは言っても、隣りなんだけどね。

因みに僕達はあと2、3日程してからスペインに帰る予定なのでまだ此処に居る。

 

「んじゃ、お休み」

 

「ん、お休み」

 

「またねー」

 

そんな風に言葉を交わしてから、アムロは自分の部屋へと戻っていった。

……何故だろう。いきなり彼の怒声が聞こえたような気がするんだけど……

 

「…僕達も入ろうか。ルイス、疲れてない?」

 

「うん。まだまだ大丈夫。沙慈こそ大丈夫?」

 

「勿論。アムロとルイスのお蔭でね」

 

「…そこは私の名前だけにしてもらいたかったんだけど…(ボソッ」

 

「?」

 

最後に彼女が何か言ったような気がするけど、直後に何でも無いと言って先に部屋の中に入ってしまったので、聞き返す事はできなかった。

…もしかして、アムロの名前を先に出したのが少し癪にさわっちゃったかな?

 

(だとしたら、しまったなぁ…)

 

何か彼女の気を良くできる物はないか考えてみるも、ご飯はさっき食べてしまったしデザートもアムロが作ってくれちゃったし……あれ?

よく考えてみると、今日アムロの比率高いな。

何なのだろうか?

 

「………あ゙」

 

そんなことを考えた瞬間、ふと脳裏に閃く物があった。

……が、素直に喜べない。何故に彼の事を考えてそれが思い浮かぶのか。

 

(まあ、良いか。)

 

ともあれ思い出した以上善は急げである。こんなタイミングで渡すのもどうかと思うがもしかしたらもう渡せるタイミングはないかも知れないのだ。

ならば渡せる内に渡さねばならない。話を出来る内に話をしなければならない。

 

逝ってしまった人達とは、何をどう努力しても僕では永久に語り合うことは不可能なのだから。

 

(……姉さん。どうかルイスが、喜んでくれますように。)

 

そう、自分の中で神様よりも高い地位にいる人に祈りを捧げる。

語り合うことはできなくても、これ位ならば許されるだろう。

 

散々さっき泣いたせいか、姉さんの事を思ってももう涙は出なかった。

…というか、泣いてなくても泣く気はなかった。

 

だって、これから女の子にプレゼントを渡す男が泣いてたら、格好悪いでしょ?

 

 

「…だよね、姉さん」

 

 

部屋の片隅に掛けてあった袋から小さな子箱を取り出しながらそう呟く。

嘗てまだ姉さんも、ルイスの家族も生きていた頃に彼女にねだられた物だ。

コツコツとアルバイト等でお金を貯めて、やっと買えた矢先にルイスが大怪我をしてしまったので結局渡せていなかった物だ。

 

 

『』

 

 

不意に、誰かの声が聞こえたような気がした。

それは姉さんの声の様でもあったし、幼い頃に聞いたっきりの父さんの声の様でもあった。

ただ一つ言えるのは、それからまるで応援するかのような感じがした事だけだ。

 

それで、僕には十分だった。

 

「……よし!」

 

気合を入れ直して、リビングへと向かう。

ドアの向こうから、ルイスの呼ぶ声が聞こえる。

それに応じながら、僕はドアを開ける。

彼女を見て、改めて気合を入れなおす。

 

そして僕は一歩を踏み出した。

 

 

写真の中の姉さんと父さんが、僕を見守っていた。

 

 

 




後書き

如何でしたでしょうか。
どうもガン山です。

今回はOガンのトランザムは控えめにして、主に沙慈の心情に焦点を当ててみました。
本来は欝展開のここら辺ですが、アムロと事態の元凶が介入したせいでこんな感じに。
本当に師匠はこういう所では暴走してくれます。悪い意味で。
彼が式場からたたき出されなかったのは、一重にアムロとリジェネのおかげです。
そのうちお仕置きします。出来れば。

というわけでここからは解説です。

最初の語り部

→言わなくても判るかな?
そう、やつです。

葬式での師匠の暴れ方

→実はこれ伏線です。しかも超重要な物。
というより、皆さん。あの会話があったのに“絹江の死体が見つかった”という時点で「ん?」と思った方も居るんじゃないでしょうか。
今回こっちに投稿するに至っては傷の詳しい部分の描写もありますし。
これがヒントです。
追加でヒントを出すとすれば、現在の沙慈とルイスは『知らないから幸せ』という事です。本当に、トコトンまで、どこまでも幸せです。

何せ、『クトゥルフの呼び声』ではありませんが、彼らは自分達の暮らしの薄皮一枚隔てた直ぐ隣にある悍ましい現実に直面する事は今後無いのですから。

因みにアムロも知りません。
知っているのは師匠だけです。
ただ、アムロにバレたら最後、二人の関係は永遠に修復不可能になります。
それほどまでの秘密であり、とある真実です。

レモン

→皮ごと絞るはマジな話です。日本で栽培している農家の人達は大体そうやっているそうです。


男を見せる沙慈

→言ってしまうと『人の恋次を邪魔する奴はガンダムに蹴られて三途の川』です。『首突っ込んだらビームで蒸発』です。『デバがめはガンダムパンチ』です。
取り敢えず結果としては成功した事だけご報告しておきます。

といった感じでしょうか。次回はまた宇宙に飛びます。
徐々に1期の終わりに近づいて来ているので、気合を入れねば…

とは言っても、仕事の関係で中々執筆する時間がないのですけれど。
連休なんか全然無いよ!

しかも今回でストック切れたので、次回の投稿が更に遅れる可能性もあります。
ご容赦下さい。

では、また次回!



追記

あ、あと活動報告『ガンマイ最新投稿』にて皆様に相談が…
乗らなくても見るだけでもありがたいです。


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二十一話―――準備・オブ・リベンジェンスとか言ってみるけど、別に俺が復讐するわけじゃないんだよね(byアムロ

というわけでミハエルくんの下準備話……だったはずなのですが何をどうして彼の出番があまり無いという悲惨な事態に。次回はかなり活躍するはずです。


そんな訳で基本安室の一人語りとでも言うべき本編をどうぞ。
いつもよりも短いかもしれません。


復讐と信念。

果たしてどちらの方が戦う理由としてマシかと訊かれれば、俺は迷わず『復讐』を選ぶと思う。

何故ならば、こっちの方が正当性を簡単に作れるからだ。

親を殺された、兄弟を殺された、友を、恋人を、家族を――――――挙げればキリがない。

他には金を取られただの、物を盗まれただの。

ハッキリ言って憎しみの連鎖がどうこう言う馬鹿が居るが、そんな物は俺は知らん。

古今東西南北話し合いなどの平和的手段で決着が着くのであれば、人間の歴史に『争う』といった類の言語は生まれてこない筈なのだ。

しかし存在するということは―――人間はそう言った笑い事では済まない根深い憎しみが絡んだ事象になると、どうしても復讐という手段を取りたがるものなのだ。

 

まあ、信念で戦っても良いが、その場合戦いに正当性が無ければテロも同然という事を頭に入れておきたい。

 

 

で、なんでこんな事を俺が言っているかというと、目の前の人間がモロに今出した例の『マシな方』をヤル気満々の血走った目で俺を見ているだけなのだが。

 

 

…うん。つまりは現実逃避なんだ。

 

 

「……で?」

 

「頼むから俺に機体を寄越せ!!ついでに俺を鍛えろ!!アイツに勝つには兄貴以上にならねえといけねえんだよ!!」

 

「……その前に私が殺してやろうか貴様」

 

ヨハンが死んだ事でタダでさえピリピリしている所にこれである。

取り敢えず人に物を頼む態度っていうものをキチンと勉強してから来い。

 

 

まあ何が起きているかというと、だ。ミハエルの奴がヨハンの敵討ちの為に今言ったみたいな事を言い始めた、と。

と、言うのもスローネドライは長い間補給無しで戦っていた為か現在フルメンテの意味も兼ねてオーバーホール中。

で、俺ら(残る二人のトリニティ兄妹含めたイノベ組)は暇で暇でしょうがない。(実行部隊が国連から逃げ回っている為)

師匠もアレハンドロのトコから報告終えて戻ってきてまた暇をもらってるらしいし。一週間くらい。

という訳でその暇潰しも兼ねて何かしようかと言い始めたらミハエルがこれである。

どうも以前から兄の実力に対するコンプレックスでもあったのか、その目標でもあった兄が倒された事でそこらの彼是が爆発してしまったらしい。

普段の彼と比べて2割増くらい殺気やら何やらがダダ漏れである。

 

んが、ぶっちゃけ俺は多分ヨハンであろうあの時の約束の件もあるのであまり乗り気ではない。

が、現実問題暇人を出すわけにもいかないし、何より面倒を見るとか言っちゃったのだ。やってやらない理由はない。

…ただ、やってもいいのだが、丁度いい所に機体が無い。

スローネの4号機に当たり、GN-Xのプロトタイプに当たる機体である『ヴァラヌス』はバラしてはいないけど今此処には無いし、かと言ってGN-X掻払ってくるのもアレだし…え?出来るのかって?出来るよ?Oガンダムと相棒が居れば。

…Oガンダム?ダメダメ。アレ今下手に俺か師匠以外が扱うと無茶苦茶なセッティングの所為で絶対廃人になるから。加速度とかそっちで。

 

「…フム。ビックリする程機体が無いな」

 

「何ぃ!?」

 

「煩いぞ。あと“機体”であって“期待”ではないから安心しろ」

 

言いながら顎に手を当てて考える。

あ、因みにメットはとっくに外している。

というか、前回のアレの準備中にメット外した状態でバッタリ会ってしまったのよね。

相棒も連れてたからもう言い訳不可能っていう。

 

まあ、それでどうかしたのかと言われれば別にどうともないんだけどね。

ただ、何故か二人共酷く驚いていて、ちょっと絶望したような感じになっていたのは何故だろうか?

 

「ただ単に刹那・F・セイエイにそっくりだったっていうのと、自分達よりもちっさいのに全面的に自分達の方が負けてるって自覚しちゃったからでしょ」

 

「いきなり出てきて何の用かリジェネ兄さん。あとちっさいは余計だコラ」

 

そう言いながらお玉による一撃を脳天に叩き込む。

そのまま痛点を抑えて悶絶しながら床に転がる兄さんを放っておきながら俺は昼飯の支度を進める。

 

…とは言っても、機体の不足はかなりの悩み所である。

万が一にOガンダムが使えなくなってしまった場合、その代理機体がないと俺が出撃できない。

しかもタダでさえ人員不足甚だしいCBにとって、暇人を出すのはかなりの損に成りうる。

そう考えると何とかしてやりたい物なのだが……現実とは非常であり、使える機体がないというのは一切変更のない事実――――――――

 

「――――――あ…いや?」

 

――――――あるよな?たった1機だけ、俺が乗った事のある奴が。

 

 

 

 

 

―――というわけで師匠。ザフキエルの強化案を相棒と一緒に作ってみたんだが」

 

「ちょ、おま、人が昼飯食ってる時に出すなし」

 

「(♯(・)ω(・)♯) ダマレッ!!」

 

「え、何でそんなに切れてるの!?」

 

無論前回とか前々回とか前前々回とかの色々を込めての一言である。

…え?関係無いって?すみません。

 

まあそれは兎も角として。

 

「兎に角こんな感じなんだが…今からできるか?」

 

言いながら見せたのはザフキエルに“トゥルブレンツユニット”と、アイン・ツヴァイ・ドライ3機それぞれの特徴的な部分をくっつけたような図面。

無論、俺設計である。プリントは相棒だけど。

 

「ふん……見た目のゴテゴテしさに反して、組み上げ自体にあまり時間が掛からない様になっているのか」

 

「というか、被弾部からパジれるようにした結果がコレなだけだけどな。乗るの俺じゃなくてミハエルだし」

 

「……ああ、成程、納得したよ。確かに君や僕が乗るのであれば、少しバランスが崩れても平気だものね」

 

「うっせぇ」

 

言いながらもしも俺が乗るのだとしたらどうするのかを考える事も忘れない。

どんな事も“絶対”は有り得ないのだから。

…とは言っても、多分、というか精々コレにビームガンとシールド取っつけるだけだろうが。

 

「いっそザフキエル単体で行ったほうが良いんじゃないかい?」

 

「いや、それは嫌な予感しかしないからそれは遠慮しておく」

 

具体的にはまた大怪我しそうな感じしかしない。

 

 

「と、いうわけでミハエルの訓練始めるぞー」

 

言いながらさっきまで“地獄の修行フルコース”(相棒考案)をウォーミングアップとして行っていたお蔭で既に屍と化しているミハエルを軽く蹴りつつ転がしていく。

ネーナが腰にしがみついて何か言っているが知った事か。兎に角あまり時間は無いどころかもしかしたら30秒後には出撃するやも知れぬのだ。時間は有効に使うべき。

 

「……突っ込まないからな?私は絶対突っ込まないからな!?」

 

「いや、別に良いって」

 

リヴァイブ兄さ…否、姉さんにそう言いながらミハエルを転がし続ける。

そういえば今日は姉さん露出が少し多めのメイド服なんですね。

とてもお似合いで眼福でございます。

 

「そ、そうか…?それなら、良いんだが……?」

 

「ちょっ!?アムロ!?そしたらあたしは!?あたしはどうなのよ!?」

 

「姉さん。お茶くれ」

 

「平然と顎で使った!?」

 

うん。ぶっちゃけ姉さんには何故か平然と命令できるわ。なんだろうこの格差……?…まあ、いいか。

 

「で、ミハエルどうする?少し休憩にするか?」

 

「却下ァ!!」

 

「威勢は良いけど顔から汗ダラダラ垂らして生まれたての子鹿の様な体制の状態で言っても何も説得力無いからなお前」

 

何とか少し体力が回復したのか、フラッフラの状態でミハエルが立ち上がる。

しかしもう誰が何処からどう見ても限界を迎えているのがアリアリと解るんだが。

俺だって鬼ではないのだ。こういう場合は休んだ方が良いと重々承知している。

……師匠は一切休ませてはくれなかったが。

 

「……」

 

「何だい?」

 

「…別に」

 

…思い出したら凄く腹立ってきたな。囁かな仕返しに今日の夕飯師匠だけ山葵を練り込んだ蕎麦にしてやろうか。大盛りで。

 

「残念ながらその場合は倍プッシュだ……!」

 

「…!!なん…だと!?…まあ特に辛くはないはずだし当たり前か。んじゃ、大盛り倍プッシュで作ってやるよ。けど、鼻はツーンとするぞ?」

 

「僕は一向に構わん!」

 

「ハイハイ変なコントやるんじゃないバカ師弟。…で、どうするんだ?」

 

っとお危ない危ない。あと少しでまたいつもの感じになる所だった。

比較的真面目な場でそういうのは自重したいので、こういう時真面目な感性を持つ姉さんは頼りになる。

…しかし師匠が意外と辛党だったとは……ってことは今までやってきた山葵系の仕返しに対するリアクションは全て演技だったと言う事か…くそう、これで仕返しのバリエが一つ無くなってしまった。残念。

 

(…マズイ。勢いで言ってしまったけどもしかすると墓穴を掘ったかもしれない……。まさか嘘だとはもう言えない……!)

 

……?何やら師匠が挙動不審になったが何なのだろうか?この状況では突っ込みたいが下手、に深入りするとロクな目に遭わないのは解りきっている為何も言わないけど。

…とと、そうだそうだミハエルミハエル…

 

「…休憩、だな。流石にこれ以上させたら復讐の前に死にそうだし……続きは明日にしよう」

 

言いながら反論しようとしたミハエルの首筋に手刀を当てて黙らせる。

 

「!? ミハ兄!?」

 

「安心せい。気絶しただけ。少し休めばまた起きるよ。……な?」

 

そう言ってミハエルを抱えながらネーナに笑いかける。

彼女は少し心配そうな顔だったが、それでも納得してくれたのか少し首を縦に振ってくれた。

それで十分。

俺はそのまま今担ぎ上げたバカを寝室のベッドへと叩き込まんと歩き始めた。その後をネーナと相棒が着いてくる。

意外と、ヨハンが居ないだけで何時も通りだった。

 

…それでも…

 

 

(……少し前まで居た奴が居ないと、寂しい、な)

 

そう思うのは、別に悪いことではない。少なくとも今は。

 

俺はそう思う。

 

 

 

 

 

「…フフ。なんともまあ、滑稽な無理をしているね」

 

アムロの背中を見ながら、僕はこう呟いた。

おそらく、長年彼を見てきたからこそ言える言葉だ。流石に師匠という名の育ての親をしてきたのは、伊達ではないという事なのだろう。

 

アムロは悲しいと思う物事に直面しても、決して泣く事がない。

 

感情を表に出して取り乱す事も殆ど無い。

 

全て、何時も通りに進めようとする。

 

…だが、そんな事ができる人間は普通居ない。

大なり小なり少しの同様は必ず出る物だ。

それは例えばかなりイカサマが上手い人間であってもそう。

表情には出なくても、目の動きや体温の変化。それこそ、僕達の様にイノベイドならば脳量子波を使って脳波や脳指紋等を解析してしまえば良いのだ。(お蔭で対人系のギャンブルにおいて、僕は態と意外では負けた事がない)

 

所がアムロにはそれが無い。

 

どこまでも、どこまでも平坦だ。

 

まるで、“人間ではない様に”。

 

 

…しかし、感情を読み取れば、その平坦な態度が嘘である事が一発でわかる。

自分と関わりがあったものが死んだという悲しみは、キチンと“悲しい”“寂しい”という感情で表される。

 

 

と、ここで彼の本質について僕の考えを述べようと思う。

彼自身は何一つとして気付いてはいないが、彼の本質は“大衆にとっての善人”であり“自らにとっての独善”でもある。

長い物には巻かれるのかと思いきや、時には手の平を返すかの様に少数の弱者の為に体を張る。

かと思えば大多数の笑顔の為に切り捨てられる少数を切り捨て、本当に何の問題も無い時にはアッサリと自分の為に他者を吹き飛ばす。

 

傍若無人で八方美人。

自分とその周りが幸せならばそれで良し。でも気に入らない奴は徹底的に叩き潰す。

 

僕程ではないにしろ、彼は邪悪な人間だ。

 

だが、そんな邪悪な面などは、この世に存在する“人間”というカテゴリの存在は少なからず持っていて当たり前なのである。

 

何せどんな聖人君子だろうと、自分の今立っている場所から丁度地球の裏側で他人が死のうと、それを知ろうとはしないのだから。

知ればそれは悲しむだろうが、一般的な人間ならば「ご愁傷様です」一言で終わらせてしまうものだ。

 

つまり、彼は一般人の持つ暗い面がにおいてもその部分が強化されているような物なのである。

 

…まあ、そうなった原因は確実に僕や他のイノベイドによる教育なのだが。

 

 

 

話を戻そう。

 

だからこそ、彼は今回ヨハン・トリニティが死んだという事実に対して、表面上に表さないだけで強いショックを受けたはずなのだ。

自分の周りを構成していた内の一つが消え、少なくとも彼はそれを悲しむ。

更にその死人を慕っていた者達が更に哀しむものだから更にその悲しみは増す。

 

そして、もしも彼が僕と始めて出会った頃や、計画発動前の状態ならば、彼は今回の件の元凶である僕に対して、キチンと感情を全て表へと出し、僕に殴りかかろうとするくらいのことはするはずなのだ。

 

所が、実際はそういう事が殆ど無かった。

 

それを如実に表すのが、今の彼の僕に対する態度である。

 

一時的とは言え、彼は間違いなく今回の件を仕組んだ僕に対して、圧倒的に怒りを募らせていたはずだ。

態々スケジュール表という分かり易い形で表した今後の予定まで送ったのだから、それは間違いない。

…だが、彼の此処に来てからの僕に対する態度はどうだ?

 

まるで何時も通りである。

怒りなど、無いかの様だ。

一瞬声を荒げたので残滓くらいはあるのだろうが、それでもあまりにも沈静化が早すぎる。

 

まるで、吹き出た感情が片っ端から何かによって“除去”されているかのようだ。

 

 

 

……では、と此処で僕は考える。

 

その除去された感情は何処へといったのか?

 

 

 

 

(……やっぱり、何度考えても面白いな)

 

去っていくアムロの後ろ姿を見ながら僕はそう思う。

あの日突然目の前に現れたラット(実験動物)は、気づいた時には既に檻から飛び出していた。

 

実に面白い事だ。

 

 

……何?何を言いたいかさっぱり分からないって?

何を言っているんだ読者の諸君。

 

これは僕の取り留めなんか無い“独り言”だよ?

 

意味なんてあるわけ無いじゃないか。

…え?もしかして大真面目に今迄の全部読んだの?

あ~……メンゴ。

 

 

 

 

「――――――――よりにもよって読者を敵に回すような事するなァァァァァ!!!!!!!!!!!」

 

「フハハハハハハハハハハ!!!!!!100m先から全力ダッシュで僕にツッコミを入れてこようとするとは!!!しかもドロップキックで!!!!本当に成長したな君は!!??」

 

「ドヤかまっしゃァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!これで読んでくれる人居なくなったらどうするつもりだァァァァァ!!!???」

 

ああ、もう!!!なんか師匠が立ち止まって小さい声でブツブツ言ってると思ったら案の定コレだよ!!!

勘弁してくれよ、マジで!!!!

 

「だが断る」

 

「それが言いたかっただけかァァァァァァァァ!!!!!?????」

 

「無論!!」

 

ええい!!ドヤ顔で言いやがるのが更に腹立つ!!

つーか俺だってヨハンが死んだ事悲しんでバッチリ号泣したわい!!具体的には帰りのOガンダムの中で!

 

何?なんでその場面見せないかだと?

嫌だよカッコ悪いし恥ずかしいから!!

ガキ臭い?やかましいわ!!俺ガキだもん!!まだ16だぞ!?

 

 

 

 

 

「……さて。取り敢えず前回に引き続き不謹慎仕出かした暴走師匠は、先程リジェネ兄さん達の協力で天誅を下せたので放っておくとして…」

 

…え?どうやったかって?

いや、どうやら前回の葬式云々の時に衣装とかはどうも全て師匠が決めてたらしくてね?

その鬱憤を晴らせるぞと皆煽ったら、本当に皆師匠に飛び掛って押さえ込んでくれたので、その隙に師匠の鼻腔に練山葵5本分詰め込んだだけぞ。

超悶絶してた。

笑った笑った。

 

まあ、全体的に師匠の自業自得なのでこの話題はこれで御終いとする。

 

 

で。

 

 

「…ミハエル。どうだ?行けるか?」

 

「ったりめぇだぁ!!!」

 

「……取り敢えずその顔の汗拭って来い。話はそれからだ」

 

ぶっちゃけまだ体力が回復しているようには見えない。

のに気合を無理矢理入れているのは、復讐という目標への執念がなせる技か。

…だが、その結果として勝手に潰れてしまったら本末転倒なのだ、という事を解っているのかいないのか…

 

とはいえ、である。

 

鉄は熱い内に叩けという言葉もあるように、やる気がある状態では何事も伸び易いものだ。

休憩も十分とは言えないが取ったし、何よりこの位の消耗ならば俺の時と比べれば遥かにマシといっても良いだろう。

ならば……

 

 

 

 

「おう!序でにシャワーも浴びてきたぜ!!「あ、じゃあそのまま今日はもう終わりな。続きは明日からで」何故!?」

 

「うるせぇ♪」

 

人の考えをダメにしてくれた礼も込めてそう言ってやると、顔を青くしてから敬礼された。

 

 

 

 

そして時間は少し過ぎて3日後。

事態は急激に動く事となった。

 

 

 

 

「実働部隊の連中が国連の艦隊を補足したって?」

 

そんな事を言いながら師匠達に通信を入れる。

と、言うのも今俺はちょっとした野暮用で宇宙へ上がる為の軌道エレベータの中に居るのだ。

お忘れかもしれないが、俺の表向きの肩書きはCBの末端エージェントである。

とはいえ、その仕事内容は具体的には雑用といっても良いかも知れない。

今だってやってきた仕事といえば、他のエージェント達の今後について関係者各所と打ち合わせをしてきた程度である。

 

瓦解し始めているとは言え、CBという組織は異常なまでに幅広いネットワーク、巨大なバック、そして数多くの協力者を未だに保有している。

その協力者の中には、政治家、実業家、科学者などなど……ヘタをすれば、一国の王族なんていうのも居たりするのだから恐ろしい。

 

また、その中にはエージェントやその他様々な役職に就いて、援助という間接的なものではなく、直接組織へと協力をしてくれる人間もいる。

王留美はその代表格だろう。

 

まあ、そういう方々は最悪自分の持っている地位などをフル活用すれば基本問題はない。

問題があるのは、一般市民としての地位しか持たないエージェントたちだ。

 

一般的に彼らは普段市居の小市民として生活しているのが殆どで、必要な時のみ呼び出しを受け、その上でエージェントとして活動を行うのが基本である。

まあ、基本的に暗殺等のヤバイ案件は師匠が裏から手を回してイノベイドに行わせているが。彼らの仕事は情報収集などのそこまで危険度の高くなかったりする物でしかない。

 

それでも、機密情報の持ち出しやそれ以外にも中々グレーゾーンな事をしているのは事実だ。

そんな彼らがCB崩壊後どの様にして生活していくのか…少なくともエージェントだった事がバレればロクな目には合わないということは理解できる。

 

さっき言っていた打ち合わせとは、それを未然に防ぐ為の対策についてだ。

幸い一般エージェントの勤務する企業はその殆どがCBの関係者だったりする。当たり前だが。

それでも全てではない。普通の中小企業に勤務する者も居れば、自営業で生計を立てている者も居る。

後者は本人がボロを出さない限りは安全なので、少しの間監視が付く程度で済んだが、前者はかなり議論が白熱した。

 

何せ、下手な中小企業に勤める者は、『その企業しか持っていない技術』を習得しているか可能性があるのだ。

下手にヘッドハンティングしようとすれば面倒事が待っている。

しかし放置すれば変な所から情報が漏れる可能性だってある。

 

かと言って始末するのは愚か過ぎるし、拉致軟禁で監視下に置くのは足のつく可能性がある。

 

結局あーでもないこーでもないと話し合いに話し合いを重ねた結果、取り敢えずは協力者の企業から中小企業の方に仕事を依頼して、簡単にではあるが監視できるような状況下においておくという案でこの件は一応の決着を見た。

 

が、それでも膨大な金の動きがあるのは間違いなく、これを一般の民間人に気取られないように進めるというのは、相当に骨の折れる作業だ。

特に現代の超が付くほどネットワークが発達した世の中では、本当に些細な事から情報が筒抜けになりかねない。

それも無名の一般人相手にだ。

趣味で荒らしてたら変な情報を見っけました―――なんて、有り得そうで笑えない。

 

そこら辺はもう自分達の手の出せるような世界ではないので完全に相手方の企業任せになってしまうが、本当に協力者の方々には頭を何度下げても気が済まない思いである。

 

 

閑話休題

 

 

取り敢えずそれらが何とか終わって一息吐きつつエレベータ乗ったら一般に紛れ込んだイノベイドからの前述の情報である。

時間の問題だったと理解していた為、比較的冷静に反応できているが不安要素がない訳ではない。むしろてんこ盛りである。

 

具体的にはミハエルとかミハエルとかミハエルとか。

暴走して機体持ち出して飛び出してったとかシャレにならん。

一応あの後一昨日までは面倒見てたが、以降は完全に姉さん達にブン投げてしまう形だったのだ。師匠?ミハエルが死にそうだったので関わらないように念を押してたけど何か?

 

『お蔭様でこの2日間は異様に暇だったよ……!』

 

「メタ発言禁止ー。取り敢えずさっき俺言ったことはホントか?」

 

『君も存外酷いな……まあいいだろう。その情報はホントだよ。既に君の機体も調整を終わらせてある。ただ、ちょっと新しい武装を作成したからそのテストもやって貰う為にPF装備は取り外しておいたよ。詳細はこちらに来てからでどうかな?』

 

「げ」

 

サラリと言われた一言に唖然となる。

いつもの事なので別に何か言うわけでは無いがそれでもいきなり不安要素が大きくなったのは明らかだ。

大丈夫なのだろうか?師匠の事だから半端な事はしないと解っているがそれでもなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あとミハエル・トリニティの機体も仕上がったから君と一緒に出撃させるからね』

 

「オイちょっと待て!」

 

 

それは流石にマズイ!主に俺の精神衛生的にも肉体的負担にも!

思わず声を荒げたが、直ぐに切られてしまった。ド畜生!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、今現在俺はオービタルリング内にあるCBのアジトに居るわけだが…………

 

 

「……当然貴様も居る訳か」

 

「何でそんなに不満そうなんだよ?」

 

「……足を引っ張るなよ」

 

「んだと!?」

 

先程までの気を遣う仕事による疲労やらなんやらで疲れきっていた俺は若干不機嫌である。

その結果半ば諦め切ったような口調でそんな言葉を吐き捨ててしまった。

無論、これを聞いてミハエルが我慢できる訳もなく飛びかかってきたが、空かさず巴投げでぶん投げる。

無重力空間では打撃よりもこういった動きの方が有効なのは意外と知られていない事だ。

まあ、MS等の格闘戦はもっぱら打撃戦が多いから仕方ないのだが。

ミサイルや実弾もかなりアレな話になるが、ある面から見れば打撃攻撃ともとれるし。

 

まあ、それはどうでも良いとして。

 

半ばもう諦めながら振り返れば、そこには桃色のパイロットスーツに身を包んだ赤い髪の少女―――――ネーナが不安そうに佇んでいた。

思わず目が細くなる。

睨むとまではいかないが、それでも更に不機嫌になったという事は解ったのだろう。

 

「…で、ネーナ。なぜ貴様まで此処に居る?」

 

口調まで刺し々しいのを自覚した。

いかんなと思って少し落ち着こうと深呼吸。…うん。大分落ち着いたか。

 

『それは僕に説明させてもらおうかぁ!!!!』

 

あ、ごめん嘘。一気に落ち着かなくなったわ。

 

顔を上げればいつの間に出てきたのか天井に大型スクリーン。床からは映写機。

オイなんてアナログなもん使ってるとは言わない。突っ込むのにも疲れた。

 

『……反応がないね?』

 

「疲れてんの!!昨日降りて休み無しで移動してまた上がってきたんだぞ!?」

 

『気張れや』

 

「じゃかぁしい!!!」

 

ぜェぜェと息を切らしながら吠える。

どうやら自分でも知覚できていた以上に疲れが溜まっているらしい。おかしいな…?まあ、打ち合わせ中は四六時中神経を使っていたのだ。慣れていなかった分疲れているのだろう。

そう自己完結した辺りで頬に何かが押し付けられる。

なんぞと思ってそちらを向けば――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――可愛イ女ノ子カト思ッタ?残念!!ハロデシタ!!」

 

「変な事言ってねえでその手のモン寄越せガラクタ!!」

 

 

 

―――相棒が俺の頬に栄養ドリンクを押し付けていた。

反対側の手に何本も持っていることから全部飲めということらしい。

 

……逆に体壊すんじゃないの?コレ…

 

 

 

 

 

 

栄養ドリンクも飲み終わったので早速師匠に説明を求めると、彼が言うにはこういう事らしい。

 

 

『新しい装備ってビット兵器なんだよね。ファングじゃなくて。しかも複数。で、君脳量子波使えないじゃん?で、ハロに任せても良いけどちょっと使える奴を増やして纏めたらどんな結果になるか知りたいから、君彼女とランデブーしてくれない?』

 

「アホか」

 

思わずそう言ってしまった俺は悪かない。

だってぶっちゃけそんな事したらビットの制御系がノイズだらけになる。つまりマトモに制御できなくなるのだ。

一応相棒にビット制御を任せるの止めて、全部ネーナに任せても良いのだが、如何せん俺は彼女が本当にビットを使えるのかを知らない。

使えるとしても“何処まで使えるのか”が分からないのだ。

鍛えてあるとは言え、元々サポートメインのドライを担当していただけに基本能力はミハエルや俺と比べて低いはずの彼女が、そもそも俺の滅茶苦茶な操縦に着いてこられるのかという懸念もある。

万が一にも着いて来られなければアウトだ。

結局相棒に全てを任せる事になれば、ぶっちゃけその場合の彼女は(言い方は悪いが)デッドウエイト以外の何者でもない。

師匠の選定故にそういう事はないとは思うが……

 

ちら、と、彼女の顔を伺う。

…不安そうだ。乗るのが怖いのか、それとも別の何かか……できれば、前者が良いが。下ろす理由になるし。

 

「…………」

 

「……」

 

「……?オイ、どした?」

 

「ん?…ああ、ちょっと、な……先に機体チェックしておけ。土壇場で故障はキツいぞ。折角の晴れ舞台なるかもしれんのに」

 

そう言うとミハエルは少し顔を顰めた。

「お前に言われたくない」とか思ってるのだろうか?……もしそうだったら後で〆たる。

 

「…あんたの機体はどうすんだよ?新装備が付いてる上、ネーナを乗せんだろ?」

 

「あ、そっち?」「あ?」「いや、何でもない」

 

やべぇ普通に妹に対する気遣いだった。

どうやら本格的に俺の精神は不味いらしい。疲れて何時も通りの思考ができなくなってるっぽいぞ?

……と、するとさっきのネーナに対する思考もいつもと違ったりするのか?

 

再度彼女を正面から見た。

偏見とか何もなしに、ただ、見る。

 

…やはり不安そうだった。

…でも、乗るのが怖い、とか、自分の身を案じる心配ではない。

では、何か―――と考えた所で、この不安そうな表情は自分がよく知る表情だとやっと気づく。

 

―――気付くことが、出来た。

 

 

 

 

これは、“誰かを気遣う時の不安”だ。考えてみれば、顔をメットで覆っていたとは言え、自分も最近しょっちゅうしていた表情だ。

 

気付けなかったのは、おそらくそれに追加して『自分が置いていかれるのではないか』という不安が混ざっていたからだ。

それは基本誰かに着いていくということがなかった俺にとっては馴染みのない物だ。

…だから気付けなかったというのは……ちょっと、どころか、かなり言い訳臭いかな?

 

 

 

「………」

 

「……」

 

 

…そうなると彼女自身はもう覚悟が出来ているんだろう。

そうなれば、俺も腹を括らないと情けないというもんである。

……いい加減、顔を合わせ続けているのも気まずいし。

 

 

「……」

 

「………」

 

「…………サブシート引き出せ。後3分で支度は終わらせろ。…情けない姿を晒すなよ」

 

「っ!!……ラジャ!」

 

そう言ってから彼女はOガンダムのコクピットへ飛んでいく。

途端に元気になったのを見れば、思わず苦笑が溢れる。

…だが、それを悪い物と思ったりはしない。

 

(…俺も相当難儀な性格だなぁ、オイ)

 

そう自嘲しながら俺はネーナの後を追った。

目の前に立つもう一体の相棒は、いつものGNABCマント姿だ。ヘッドギアも何も付いていない、マントとシールドが装備されている以外は“素”の状態である。

…いつもの、とは言ったが、そういえばもう長い事この姿を見てなかった。

そう思えば感慨深い物がある。

最初に戻って来たと言うべきか、それとも戻らされたというべきか。

 

「…」

 

思わずコックピットを通り越して顔の近くまで寄る。

今思えば、こうやってここまで近付いた事はなかった。

そうすると、いつも見慣れていたあの顔が妙に新鮮味のある物に見える。

 

 

 

「……改めて宜しく、相棒」

 

丁度デコの角の根元にある赤いクリスタル状の部分に手を当ててそう呟いた。

実におセンチな真似である。

自分で自分が滑稽だ。

 

―――でも、偶然だと思うが、ガンダムはそれに少しだけ唸りを上げる事で返してくれた。

 

…返してくれたんだと、思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『がんばろう』

 

 

 

 

 

 

 

耳元にそんな声が聞こえたような気がしたが、聞き覚えのない声だったので確実に疲れからくる幻聴だろう。

取り敢えずコクピットに入り次第さらに栄養ドリンクをがぶ飲みしようと思う。

精力剤?ヤバイ事になりそうだから遠慮する。というか俺16やぞ。

 




如何でしたでしょうか?

どうも雑炊です。

というわけで次回からあの回に入っていきます。
投稿は遅れるかもしれませんが、お許し下さい。

というわけで解説へ入ります。


ザフキエル強化
→あんだけ活躍の場がなかった原因はこれです。まあ、ラストぐらいドデカイ花火を打ち上げぃということで……

師匠の独り言
→実はバシバシ伏線が仕込んであったり。
なお、彼の思考はあくまでも『師匠』の思考なので普通の人間とは物の見方や考え方が違うということをご理解頂ければ嬉しいです。……私の力量不足で解りにくいかもしれませんが……


アムロの仕事
→そういえば今まであまり描写したことないなと思いサラっと描写。
大体あんな感じで色んな人と人との間を取り持ったりしてました。回数はかなり少なかったですけど。


最後の声
→さあ、だれでしょうかねー(棒


というわけで今回はここまで!
何かあれば感想等にどうぞ!
では、また次回!!


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二十二話―――復讐の果て : 前編

という事で前後編の内の前編に今回は当たります。
…いや、調子に乗ってたら15000字超えてまして。
取り敢えず区切りが良いので前編という形を取らせて頂きます。


それでは、本編をどうぞ。


一つの閃光がソラを駆けていく。

その手に槍を。腰には牙を。そしてその背には剣を携えて。

その目は赤く血走り、獲物を探し忙しなく動く。

ある時、閃光は獲物をその目に捉えた。

 

……だが、違う。

本当に狩りたい物ではない。

 

しかし何かの足しにはなるだろうと、閃光はそれらを狩る事にした。

槍から尖った血の色の光を数発放ち、獲物を全て絶命させる。

仲間を失った事に気付いた獲物の同類達が此方へと寄ってくるが、その動き全てが緩慢で、閃光にとってはイライラするような動きであった。

 

―――ウゼェ。

 

心の中でポツリと呟いてから閃光は牙を放つ。

腰から放たれた牙達は、自らの主の命に従い、獲物達に自慢の剣を突き刺し、蹂躙し、破壊していく。

ものの一瞬とも言える時間で、獲物達は閃光の目の前から消え去った。

 

だが、閃光は満足できない。

本当に狩りたいものはこれじゃない。

 

―――ウゼェ。

 

更に閃光はソラを駆ける。

しかし見つかるのは先程狩ったのに良く似た者や、それよりも重厚でずんぐりした者。

そして――――――あの日、自分をコケにした、銀色のバツの字型の突起物を身に付けた、赤い光を出す物。

 

 

その全てが――――――彼の狩りたいものでは、無かった。

 

 

「――――――ウッゼェェェェェェェェェェェんだよ!!お前らはァァァァァ!!!!!!!!」

 

咆哮と共に、全身の武器から光が放たれる。

牙から、大砲から、剣から、槍から――――――その全ての光が、獲物の命を皆刈り取っていく。

 

それでも彼は満足できない。

更に更に歩を進めながら、彼は再度咆吼した。

 

 

 

 

 

「どォォォこだァァァァァァァ!!!!!!アァァァリィィアル・サーシェスゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

閃光は――――――ミハエル・トリニティは、今、正に復讐に狂える狂気の閃光と化して、己を邪魔する者達の命を片手間序でに刈り取る、まさに死神と形容しても良い存在だった。

その彼の駆る機体は―――皮肉な事に、ヒーロ然としたトリコロールの天使だった。

 

 

 

 

 

 

「……いや、相棒。変なモノローグ流している所悪いけど、マジで姉さん達あいつに何したの?キャラ崩壊ってレベルじゃねーぞ」

 

「ミハにい…怖いよぉ………」

 

「ああ、もう泣くんじゃない。幼児退行してまで泣くんなら着いてこなければ良かっただろう」

 

「だって……だってぇ………」

 

「そこでまた泣くんじゃないよ全く…」

 

だが、怖い、という意見には全面的に同意する。

今のミハエルは以前よりも明らかに荒々しく、同時に鬼気迫る物を纏っていた。

復讐の機会が巡ってきたと同時に、今まで研鑽してきた物を披露する最高の舞台ということでテンションが異様に上がっているのだとしても、彼処まで凶暴化はしまい。

……まさか師匠か?機体に何か仕掛けているというのならば納得だ。あの師匠ならば俺や乗る本人は愚か、相棒の目だって欺いてそういう事をしかねない。

……もし、素でああなってるというのであれば、俺はこれからあいつとの付き合い方を考えようと思う。

主に接し方をもうちょっとソフトな物にしようと思う。

 

…と。

 

「はいはい邪魔邪魔」

 

いつの間にか寄ってきていた宇宙型ティエレンとイナクトの一団を正確にビームガンとガンビットで打ち抜いていく。

なお、ガンビットは現在進行形で相棒が操作している。

理由は簡単で、さっきのネーナの様子を見れば解ると思うが、すっかり怯えてしまっているのだ。

まあ、あんな兄の狂気に飲み込まれたかのような様子は、確実に彼女ほどの年頃の娘さんにとって毒でしかなく、また、恐怖を覚えさせるには十分であるものというのはよくわかる。

如何せん、人間というものは敵の狂気にかられた姿よりも、味方、或いは親しい人達の狂気にかられた姿の方が精神的ショックがデカイ。

故に、このように怯えるのも無理は無かろう。

 

だからこそ、俺は必要以上に咎めない。

 

……咎めない、のだが……

 

「うううぅぅぅぅぅぅぅぅ………」

 

「……いい加減抱きついてくるのは勘弁してくれ。操縦しにくいんだが」

 

「だってぇ……怖い、んだもん……しょうがない、じゃぁん…」

 

「泣くな。泣くんじゃない」

 

泣きたいのはこっちだバカヤロー。

 

 

因みにミハエルはいまだに大暴れしていた。

…あんだけバカスカ使っているのは………大丈夫なんだろうか?

エネルギーがサーシェス戦まで持つのか、とても不安である。

 

……結局俺が戦う、とかなったらあのバカは異次元まで飛んで行くくらいの勢いでぶん殴ってやる。

 

というか、何げにもう戦端は開かれてるのか……さて、俺はどうするべきかねぇ…?

 

 

 

 

 

 

約40分前  アムロ達からは別の宙域のデブリベルト

 

プトレマイオス ロックオン自室

 

ドンッ

 

「…くっそまじかよアイツら…そりゃあねえだろう」

 

自室のドアを叩いて、俺はそう独り言ちた。

今現在地上から此方へと向かっているエクシアを除いて、現時点でトレミーの戦力は俺のデュナメスとアレルヤのキュリオス、ティエリアのヴァーチェ、そしてユリのサキエルしかない。

対する敵機の数は不明………だとしても、確実に擬似太陽炉搭載機は全機近く出てくるだろう。

そして間違いなく、あの戦争狂も出てくるはずだ。

間違いなく、奪ったガンダムで。

 

しかし、そんな厳しい状況下で俺に言い渡されたのは自室での待機だった。

 

思わず、ノーマルスーツに着替えた状態のまま呆然とし、次いで抗議の声を上げた時には、俺は自室に隔離されている状況だった。

 

…ガンダムが全機いたとしても切り抜けられるかは判らないのに、その半分の2、3機でなど圧倒的に不利だというのは皆解っているはずだ。

それでも俺を待機させるというのは、俺が右目を負傷しているからだと………詰まる所は要らない気遣いなんだということが、ありありと解る。

 

(……大方ティエリア辺りが仕組んだんだろうが……あの野郎、帰ったらシッカリと拳骨食らわさにゃあ…)

 

確かに先の戦いで効き目を負傷している故に、確かに狙撃はかなり難しい。

右側からの攻撃に対する反応も鈍いだろう。

が、それだけだ。

ぶっちゃけた話として、現在のデュナメスには『GNアームズTypeD』がある。

あれは基本艦隊のような一箇所に固まっている多数の敵を殲滅するのに有効な武装を多々搭載している。

 

また、GNアームズの例に漏れず、ドッキング後の機動性はガンダム単体よりも遥かに上だ。

故に、よっぽどの事がなければ片目をヤられていたとしても、戦闘は可能なのだ。

 

(…いや、それを分かっているから、この仕打ち、か)

 

成程、怪我人を隔離する、という手は確かに有効だろう。

特に勝手に脱走するようなタイプには。

その気遣いには涙が出てくるほど感激する。

…が、その結果として母艦が落ちた、ではシャレにならないだろうがよ!

 

(っクソ!電子ロックはハッキング不可!部屋自体は元から抜け道無し!八方手詰まりもいいとこか!?)

 

焦る。焦る。焦る。

よく創作物とかの主人公とかは、仲間からのいらん気遣いで戦えるというのに戦いから遠ざけられ、『皆が戦っている中俺は何故こんな所に居るんだ!?』と苦悩するような場面がよくあるが、今の俺は正しくその状況だ。

唯一の違う部分は、この状況は俺の頑張り次第ではどうにでもなり、尚且つ神とかいうのが気紛れによっては他の皆諸共俺も死ぬ、という事ぐらいか。

 

「クソッタレが!マジでどうする!?考えろ、冷静になって考えるんだよロックオン・ストラトス!」

 

思わず独り言を漏らす。

結果として何も状況は変わらないが、少し冷静になる。

何故ならば、焦っても意味はないからだ。

急いではいるものの、焦っても何も良い事はない、というのは、この二十数年間の人生で良く解っているのだ。

なら、頭を冷やして冷静に考えるべきなんだ。

 

深呼吸を一つしてから、俺は自室のドアの前に座り込む。

ここで俺が取るべき脱出の方法は3つ。

 

1.天井板を開けて天井裏から外へと出る。

 

2.ドアを破壊する

 

3.助けを待つ

 

…なんとしても3だけは勘弁して欲しい。まず有り得ないのだから。

詰まる所残るのは1と2だが、これも結構難しい。

何せこの自室は腐っても戦艦の一部なのだ。

壁などに使われている素材におけるある程度の威力を持った攻撃に対する強度は折り紙付きとも言って良い。

しかも天井は一枚板で、ライトは壁に据え付けてあるタイプ。

どう頑張っても天井板を持ち上げられそうな雰囲気ではない。

 

…要するに、どう足掻いても残るのは3だけなのだ。消去法で行けば。

 

「……ハァ……」

 

溜息を再度ついて首をガックリと落とす。

文字通りの八方手詰まりだ。

どうすりゃ良いんだと言っても、どうにもならないし、どうもできない。

唯一希望に成りそうなのは居るが……多分、無理だろう。

そもそも今部屋の外に居るのかが分からない。

居ても無視してくる可能性が高いのだ。

 

「……」

 

…ふと、あの不審者の相方を思い浮かべた。

機械のクセに人間臭く、欲望に忠実で、主人にも平然と逆らう、あのスイカ柄の球体。

だが、あんなのでも一応俺の相棒と大本は一緒の筈なのだ。

 

…ならば、試してみる価値というものは…あるのだろうか?

 

 

「………」

 

ドアを見据える。

 

居るかどうかも分からないのに。

 

口を開く。

 

聞こえるかどうかも分からないのに。

 

言葉を紡ぐ。

 

聞いてくれるかも分からないのに。

 

 

「         」

 

 

我ながら、情けない言葉を吐いたと思う。

 

…それでも、そんな物を気にしてはいけないのだ。

 

 

 

 

何故なら、この行動の是非によって、今外で戦っている仲間たちの運命が左右するかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

プトレマイオスより離れた宙域

 

国連軍輸送艦隊付近

 

 

 

あの時クルジスのガキのガンダムに武装を全損させられ、尚且つ機体にもダメージを追っていたスローネツヴァイは、大将のおもちゃ――――――アレハンドロ・コーナーの旦那の手配で完璧といって良い程のレベルまで復元されていた。

武装、コンディション、そしてデータリンク。

何から何まで致せりつくせりの見事なものだった。

結果として殆どロールアウト直後と見受けられてもおかしくない程にピッカピカだ。

唯一残っているのは背面のラッチの根元に刻み込まれたビームサーベルの傷だが―――これはこれで、悪くないと思う。

頭の馬鹿な連中に対しては泊が付くし、傷の分重量が軽くなってると思えば不快な物ではない。

無論のこと、戦闘にも一切支障はない。

 

正にパーフェクトだ。

早くこれで戦争がしたいというもんだぜ。

 

 

だが、今回俺が割り当てられたポジションは今話題のGN-Xとかいう新型MS部隊の後方支援―――と言うよかは、アレだな。後始末?ケツ拭い?…まあ、そんな仕事を任されちまったというわけだ。

 

 

まあったく不満もタラタラ口から漏れ出るってもんよ。

…………ま、ハディーのアホから色んな意味で逃げられたのにはホッとしたが。

 

何せアイツは只今俺と自分自身を国連のお上に売り込む為、日夜努力しているのだから。

無論バッリバリでハニートラップその他諸々を使用しながら。

 

……ああいう面でのみ、アイツを拾っちまったことだけは幸いと思えるな。あくまで“こういう面でのみ”、だが。

 

ともかくだ。

 

「…おーおー皆さんお元気なこって……精々叩き落とされて、俺の獲物を横取りしないでくれると嬉しいんだがねぇ…」

 

前を行く連中のケツを見ながらそう呟く。

普通なら怒鳴られてもおかしか無いんだが、どうも奴さん方の耳には届いちゃいないらしい。

スピーカーから聞こえてくるのは色んな連中の生の感情って奴だ。

 

武勲を建てようとする奴。只々己に課せられた任務を全うしようとする奴。殺された仲間の復讐に燃える奴に、これから自分が死ぬんじゃないかという恐怖を押しつぶすために何かブツブツ言ってる奴……兎に角、人それぞれで表情が違うのはおもしれぇ。

 

だが、結局それだけだ。

そんなに異常に興奮して一体何になるってんだ?

 

結局の所、戦いは戦いでしかねぇ。戦争も同じよ。それ以上でもなければそれ以下でもねぇ。

 

死ぬか、死なせるか。

 

或いは殺すか、殺されるか。

 

たったそれだけだ。

 

実にシンプル、且つ分かり易い真理ってやつだ。

 

俺が戦争を好いてるのも、それが理由よ。

 

単純だからこそ俺の心はそこに酔うし、明快だからこそ燃えるってもんだ。

 

だからこそ、俺はこういう場に身を浸しているのよ。

 

此処に居る方が本当の意味で呼吸をしているように感じるし、他人の命が死ぬのを見ることで、自分が生きているのだということを実感できる。

 

 

結局、俺はそういう類いの人間だ。

とはいえ、俺以外にもそう言う奴はこの世界ごまんと居る。

探せばPMC意外にも居るだろうよ。

案外、ガンダムに乗っている連中にも、そういうのは居るかもしれねえ。

 

だからこそ、そういう連中にとってCBという組織は目の上のたんこぶ且つ、最大級のご馳走でもあるってわけだ。

一方で、国連軍は目の上のたんこぶであると同時にウザったらしい首輪でもある。

近い将来連中の手によって世界は平定されるのだろうことは馬鹿でも解る。

そうなれば世界は退屈になる。

 

俺たちが好きに戦争はできなくなる。

 

その前に少しでも面白そうな戦争には参加しておきたいっていうのが俺の魂胆なんだが……これじゃあ、なぁ。

 

 

 

 

なーんて思ってるまっさなかよ。

 

 

 

 

 

『…出てきたぞ。羽つきと…デカ物か。たった2機だけとは…嘗めているのか、それとも別か…何にせよ、獲物が少ないのは軍人としては嬉しい話だ。各機、倥るなよ』

 

 

そんな声が耳に届く。おそらくは出撃前に話したあの『ロシアの荒熊』だ。

獲物が少ないのが嬉しい…とは……本音かどうかは知らないが、やはり俺とは相容れない、かねぇ。

 

 

「…まあ、何にせよ始まり、か……」

 

視界の隅には2機のガンダムが出てきている。

それに若干物足りなさを感じるのは、仕方がないというもんだろう。

 

 

 

 

戦闘の開始はやけにアッサリとしていた。

国連側のGN-Xが威嚇でビームライフルを撃ったのが切っ掛けとなって、全ての機体が戦闘体制に入った。

 

最初に犠牲者が出たのは当然の様に国連側だ。

キュリオスのテールブースターにあるビームキャノンの一撃が、離脱し損ねたGN-Xを一体汚い花火に変える。

一方の国連軍も負けてはいない。

25機となったGN-Xのほぼ全ての機体が粒子ビームでキュリオスとヴァーチェを狙う。

怒涛の猛攻だった。

アレルヤとティエリアの目には、まるで自分達が血の色をした光の川に飛び込んだように見えていただろう。

 

それでもGN-Xと比べ、性能特価型とも言えるガンダムにとってはこの程度を掻い潜るのは造作もない事だった。

特にキュリオスはブースターで機動性が上がっている。

そこへアレルヤの技量も相まって、迫り来るビームの狭い間隙を縫うように飛び、隙を見て再度GNキャノンによる砲撃を見舞った。

 

無論GN-Xのパイロット達は皆、各陣営のエースパイロットと賞賛されている人物たちだ。

その程度は予想内だったのか、射線上にいた者達は全員がその砲撃を回避する事に成功した。

 

……が、ここまでもアレルヤの予想範囲内だったということを、彼らは知る由もない。

 

突如回避したGN-Xに、頭上からヴァーチェのGNバズーカによる砲撃が襲いかかった。

それに反応する事もできず、2体のGN-Xが破壊される。

それに目もくれずにヴァーチェは両手に持った2門のGNバズーカを別の敵へと向けていた。

 

流石に今度は避けられたがそれに対してティエリアは特に何も思わない。

全て計画通りだった。

 

 

 

 

元々、4機で何とかできるとは彼らも思ってはいなかった。

いくら性能差があるとはいえ、結局の所現状において、戦いとは質より量なのだ。

空想のように現実は甘くはない。

無双なんぞ、いかなガンダムでも不可能だ。

以前の合同演習の時を見れば、その事は良く解る。

 

 

そこで今回の作戦の鍵となるのが、現在緊急で此方へと向かっているエクシア。

そして、宛になるかはわからないが、これまで幾度と無くこちらの危機にタイミング良く現れていた、『O-01』という協力者。

それが保有している『Oガンダム』である。

 

 

作戦はこうだ。

まず、正面からの敵部隊をキュリオスとヴァーチェで引き付ける。

 

後は2機で時間を稼ぎながら、可能であれば敵擬似太陽炉搭載機を撃破。無理ならば眼界まで逃げ回る。

 

その間に敵艦隊の後方からエクシアがGNアームズを装備した状態で突っ込み、GN-X部隊の帰る場所を無くしてしまう。

 

無論、母艦が潰されるわけには行かないので、トレミーは逃げ回る役に徹する。

同時に、不測の事態…例えば、敵の伏兵等も居る事を考え、サキエルがその護衛を行う。

オールラウンドな対処が可能なサキエルは、他4機と比べて器用貧乏な部分が目立つことが多いが、逆を言えばそれはどんな状況下においても不利になる事が少ないのと同義だ。

だからこその護衛担当である。

既にサキエル用のコンテナは、今回キュリオスやヴァーチェ同様に間に合わなかったGNアームズに代わり、大量の武器が詰め込まれた所謂武器庫とも言うべき専用の強襲用コンテナに換装されている。

その為、例えそこそこな数の敵が来ても十二分に対処は可能なのだ。

本人の技量と相まって、その信頼度はかなり高い。

 

 

なお、チラッと出たO-01は言うなればオマケの攪乱役だ。

最悪敵がまだ隠し球を保有している可能性もあるので、その場合は容赦無くそれを担当して貰うつもりだが。

 

 

なんともシンプル且つ難易度の高い作戦かと呆れる人も居るかも知れないが、その分成功時の影響は計り知れない。

既に、エクシアが敵艦隊に到達するまでの時間は作戦開始から45分後。

O-01直属の上司という人物からの報告によって、O-01と『オマケと称される機体』が作戦宙域に到達するまで30分前後という結果は出ている。

 

故に、作戦に変更は、ない。

 

そう言う意味では最初の接近で数機潰せていたのは僥倖とも言えた。

後に続く負担は例え一、二三機だとしてもかなり軽くなるものだ。

 

また、制限時間があるとは言え、此方の手札には『トランザムシステム』という『切り札(ジョーカー)』がある

おいそれとは使えないが、その分発動後の彼我の戦力バランスは圧倒的に此方が上となる。

使いどころを間違えなければ、此処ぞと言う時に苦戦する、などという事にはならないだろう。

 

だが、いずれ使わなければならぬ時は必ず来る。

なれば、その前にできるだけ数を減らしておく。

 

無論、囮として撃墜されぬよう、基本は逃げ回るというスタンスを取る。

が、ヴァーチェの火力ならば例え片手間の反撃であろうと敵機を撃墜する事など余裕だ。

 

ティエリアはGNフィールドを展開しながら、後方から追撃してくるGN-XにGNバズーカによる反撃を行う。

敵のライフルから放たれる粒子ビームは、前回の戦いの時とは違い、既に解析が終了している。

故にそのデータをもとにして粒子圧縮率を調整されたフィールド表面は、襲い掛かるビーム粒子の軌道を逸らし、あらぬ方向へと飛ばしていく。

無論、装甲に到達していなければ、フィールドの粒子も然程減衰してはいない。

 

当然の事ながら、敵の攻撃から身を守る際の行動において、受けるよりも逸らす方が武器や防具への負担が軽いという事は、古来から証明されている。

ただし、それはビームの様な粒子兵器ではなく、マテリアルな実体兵器での話、という認識が、一般には強く浸透している。

 

故に、当たり前の事ながら技術を手にしたとは言え未だCBと比べれば粒子兵器の理解に遅れている国連所属のGN-Xパイロットにとっては今のヴァーチェのフィールドが成した事柄は、一瞬とはいえ隙を作り出すほどの驚愕に満ちた、所謂“神業”として映った。

その隙を逃すティエリアではない。

当然の様にGNバズーカ、並びにGNキャノンの一斉射によって、ケツに付いていた5機のGN-Xが血の様な光を放ちながら虚空へと消えた。

コチラに引っ付いてきていた機体の数を、ティエリアはキチンと把握してはいない。

が、今ので5分の1の敵機を一辺に片付けた事になる。

普通ならば賞賛物の働きだろう。

だが、気は抜けない。残りの敵が何処に居るのか分からないのだ。常に警戒し続ける必要がある。

 

心配してはいないが、念の為アレルヤに通信を繋げるべきかと彼は考えた。

と、いうのも、有り得ないとは思うが、万が一にも残りの敵機が全て向こうへといっているのだとすれば、流石にキュリオス単機では無理にも程があると考えたからだ。

 

―――と、次の瞬間、脳裏に閃く冷たい物に従って、ティエリアは機体を動かし、ほぼ反射的にGNキャノンを発射した。

 

何かに直撃するような手応えと同時に、先程まで自分の機体があった空間を赤い光が駆けていく。

 

何だと思う暇無く、それは爆散した資源衛生の影から現れた。

 

緋色の大剣を構えた、見覚えのある機体―――ガンダム!

 

「スローネか!!」

 

先刻地上でトリニティの救出任務にあたっていた刹那からの通信で伝えられた、鹵獲された機体――――――ガンダムスローネツヴァイ。

鹵獲したのはアリ・アル・サーシェスという名の傭兵。

刹那・F・セイエイに戦い方を教えた教官にしてテロ組織内での嘗ての上官。ロックオン・ストラトスの家族の仇。マイスターでもないのにガンダムに乗り、今またその手中に堕ちたガンダムを駆って戦場へと出てきた戦争狂!

 

―――ロックオン・ストラトスと刹那・F・セイエイには申し訳ないが、未来への禍根を断つ意味でも奴はここで消さねばならない!!

 

「今此処で消滅させる!!」

 

左腕に設置されたGNハンドガンから粒子ビームを放ちつつ此方へと突っ込んでくるスローネツヴァイに向かって、ティエリアはGNフィールドを展開しつつ、二つのGNバズーカから粒子ビームを迸らせた。

MSを1機丸ごと飲み込める程の、圧倒的な熱戦がスローネツヴァイに襲い掛かる。

が、流石にマイスターでもないのにガンダムを操れているサーシェスの技量は並ではなかった。

 

機体を翻させながらそれを躱すと、両腰の特徴的な板状のスカートから6つの閃光を放つ。

GNファングだ。

 

無軌道に迫ってくる六つの牙に対し、ティエリアは舌を巻く。

本当に殆どをCP制御で動かされているのか疑わしいほどの滑らかさだった。

それは相手がこういう武器に対しての技量も高いのだということを証明しているという事に他ならない。

 

タイミング良く回避と反撃を繰り返し、何とか4つを破壊する事には成功したものの残り二つの撃ち漏らした牙がヴァーチェに襲い掛かる。

 

「ちぃっ!」

 

回避する暇のないその攻撃に、ティエリアは舌打ちを一つ漏らす。

元々重装甲なヴァーチェは、既存の機体やMAと比べれば確かに機動力は勝るこそすれ劣らないものの、やはりGN-Xや他のガンダムと比べれば若干低い事は否めない。

これがFA装備やPF装備のOガンダムの様に、やったらめったらスラスター等を取り付けて機動力を確保しているならば良いものの、肝心のヴァーチェの装甲――――パーティクルと呼ばれるそれには、アレの様に過剰なスラスター類の装備はない。

それが、この一瞬の勝負を分けた。

 

元々、ファングの格闘攻撃用ビームサーベルは、他の機体に標準搭載されている物と同様に、斬撃よりも刺突に優れている。

その貫通力はビームライフルなどの粒子兵器と比べて、高い。

故に、それに対応できるよう調整されていないヴァーチェのGNフィールドでは、如何に元の強度が高かったのだとしても、易易と貫かれる事は明らかであった。

圧縮粒子の壁を突き破ったファングが、ヴァーチェの左脚部装甲と右肩部GNキャノンを抉った。よりにもよってフィールド展開中であったが故に少々の小爆発の後、損傷部は粒子放出部分を中心に破裂した。

 

「ぐぁっ!」

 

その衝撃は、コクピットを揺らし、ティエリアに攻撃の隙を作らせるには十分な物。

同時に、その振動で右手のGNバズーカを取り落とす。

 

しまった、という暇はない。

体制を立て直さねば、取り落としたバズーカを回収する前にやられるのは明白だ。

だが、不思議な事に緋色の機体は役目は終わったと言わんばかりに離れていく。

代わりに、周囲の衛星から多数の白い影―――GN-Xが姿を現した。

その数、ざっと見積もって12機。

 

「付け入られたか……!」

 

熱くなり過ぎてしまった自分を叱咤する暇も無く、GN-Xが赤い粒子ビームを放ってくる。

直ぐ様ティエリアは破損部をバランスが崩れるのを承知でパージし、回避行動をとる。

序でにGNフィールドも展開して逃げ回るのに専念するが、4つの粒子放出箇所のうち2つを失った現状で張れるのは、精々他の4機のガンダムが張れる物よりもマシというレベルであり、尚且つ局所的な物でしかない。

その隙間を縫って、敵のビームが装甲に当たる。

ジワジワという表現がシックリくるかの様に、ヴァーチェの装甲は削られつつあった。

 

 

そのヴァーチェの危機を、アレルヤも察知していた。

テールブースタのキャノンで追っかけてきていた集団の内2機目を撃墜した直後であった。

 

「ティエリア!」

 

直ぐに援護へと回ろうと機首を向けるが、その前に機体が酷く揺動する。

何事かと目をモニターへと向ければ、今の一瞬の隙をついてテールブースタに粒子ビームが直撃した事を知らせてくれていた。

 

「しまっ……ッゥ!?」

 

そのビームの出処は何処かと彼が探そうと顔を動かした瞬間、頭の中に火花が散った。

頭部に何か重い物がぶつかった時の様に、目がチカチカする。

 

それは直ぐに治まったものの、次の感覚がアレルヤを襲った。

脳を直接針で刺されているかの様な鋭い痛み。

呻き声を上げながら、彼はヘルメット越しに頭を抑え、その感覚が何かを思い出す。

 

「この、不快な感覚は…!」

 

―――脳量子波による干渉!!

 

「うわっ!?」

 

更なる粒子ビームが、テールブースタに直撃する。

堪らず体を仰け反らせるも、しっかりとブースタをパージして爆発から逃れる事は忘れない。

同時に此方へと向かってくる存在の正体も、彼はハッキリと理解していた。

頭の痛みが教えてくれていた。

 

此方へと向かってくる敵の、その中でも突出して前に出ている機体―――彼と同類の、超兵機関の遺児!!

 

初弾こそ別の誰かの物の様だが、その隙に此方に肉薄してきたのだろう。

 

その事を、アレルヤも予想済みだった。

同時に、超兵を投入してくるのだろう事も予想済みだった。

これまでの戦いで、“ソレ”と交戦時に自分の動きが鈍るのは、既に知られているのだから。

 

即時アレルヤはそこから離れようとするが、それよりも早く、GN-Xがサーベルを振り下ろしてくる。

やむを得ずキュリオスをMS形態に変形させ、ビームサーベルで対応する。

二つの光の剣が交錯し、スパークが迸った。

 

 

―――被検体E-57!!

 

「っ!…ソーマ・ピーリスか…!」

 

声が伝わってきたような感覚と共に、やはりと思う。

直ぐに相手を蹴り飛ばして距離を取りつつ、周囲からビームの雨を降らせてくるGN-Xから逃げ回る。

これでキュリオスにデュナメスのGNスナイパーライフル程の威力の武装があれば反撃で敵機を落とす事も可能だったのだろう。

が、肝心のキュリオスは高機動戦特価型。唯一の高威力な武装は、超近距離専用のシールドクロー程度だ。

どう足掻いても、敵に肉迫することはこの状況下では不可能―――更に搭乗者であるアレルヤ自身も、超兵同士の脳量子波干渉によって、酷い頭痛に悩まされているという最悪に近いバッドコンディション。

辛うじて重度の被弾は避けているも、それがいつまで続けられるのかはわからない。

正に今のキュリオスは、ヴァーチェ共々袋の鼠と表現されてもおかしくはない状況だった。

 

 

その状況を聞いているプトレマイオスでも、小規模とは言え戦闘が行われていた。

キュリオス、ヴァーチェの2体に引っ付かなかった残りのGN-Xが向かって来ていたのだ。

数は3機。

それでも、十二分に殆ど兵装がないプトレマイオスにとっては脅威と成りうる。

現在サキエルが必死に応戦してはいるものの、それでも母艦が近くにあるという手前、あまり派手にする事ができないということが、かなりの枷になっていた。

 

『ええい、クソ!!また外した!?』

 

サキエルがGNミサイルランチャーとGNサブマシンガンを斉射する。

既に襲いかかってきていた内の2機は落とす事ができたが、残る1機が中々に手強いのだ。

ビーム粒子の嵐を巧みに交わし、時にはミサイルを切り払う。

その技量の高さにユリは舌を巻く。

エースは伊達ではないようだ。

 

……別にここで報せるべきではないのだが、ここで読者の諸君にはのこったGN-Xのパイロットが誰かを教えておこうと思う。

…ただし、セリフだけで誰かわかると思うので、何処でどういった事を言ったのかだけセリフの横に書き込ませて頂く。

 

 

 

 

 

 

「はっはー!甘いなぁ!」←マシンガンの嵐を避けつつ。

 

 

 

「この、俺はァ!」←襲いかかってきたミサイルを切り払いながら。

 

 

 

「スペッシャルで!!」←サキエルに対しビームライフルを発射。

 

 

「2千回でェェ!!!」←避けたところに突っ込んで蹴り飛ばす。

 

 

「エース様なんだよォォォォ!!!!!」←追撃でビーム弾発射。よけられる。

 

 

 

 

 

 

以上。というわけで閑話休題。

 

 

(…拙いわね…!)

 

スメラギはこの状況を見て、心の中で唸った。

本来であればもう少し敵戦力を削りたい……欲を言えばエクシアやO-01が来るまでは粘りたかったのだが、流石に前線に2機、護衛に1機では無理があったようだ。

しかし、最低誤差範囲内でミッションプランの達成は成されている。

見た所敵増援として現れたスローネツヴァイによってヴァーチェは足止めをくらい、投入された超兵によって、キュリオスはブースタをパージして逃げ回らねばならない状況に陥ったのだろう。

敵が鹵獲したガンダムによって不利に追い込まれたというのは、何とも皮肉めいている。

 

同時に、そのパイロットの実力がどれほどの物か分からないという不確定要素の大きさも、今の現状の原因となっているのは間違いない。

 

アリー・アル・サーシェス。

 

一介の傭兵としてはマイスターに迫るどころか、ヘタをすれば追い抜いているほどの能力を持つ男。

刹那からの報告でその名を聞いた途端、ロックオンの表情が歪んだのをスメラギは見逃してはいない。

 

因縁めいている。

 

そう、感じた。

 

しかしこの状況においてそんな思考は何の役にも立たない。

兎に角、今は前線のガンダム2機を呼び戻すことが先決だ。体勢はその上で立て直せばいい。

 

「クリス。ガンダム2機に撤退命令を。サキエルにも適当にあしらった後で戻ってくるように…『ブリッジ、聞こえるか!?』っ!?」

 

そう、指示を出そうとした時だった。

突如として、ブリッジにおやっさん―――イアン・ヴァスティの声が響いてそれを遮った。

その声は、酷く切迫している。

どうしたの?、と声をかける間もなかった。

彼が『デュナメスが…』と言った瞬間、もう一人の声がブリッジに響き渡ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「デュナメス、出撃する。GNアーマーで奇襲及び対艦攻撃を仕掛けるぞ」

 

起動チェックをしながら、俺はそう言った。

無論、コクピットには相棒のハロも一緒だ。

本当に、コイツには頭の下がる思いである。最高の相棒だよ、全く…

 

『ロックオン!?でも、その体で……』

 

ブリッジからミス・スメラギの驚愕と懸念に満ちた声が聞こえるが、構っている暇は無い。

 

「あんたの立てたプラン通りにやる。それに、俺が出れば、あのバカ2人の逃げる時間も稼げる」

 

言ってから有無を言わさずに通信を切る。

ハッチがこれで開かなければ無理やりにでも出るつもりだったが、どうやらこちらの意を汲んでくれたらしい。

嬉しい限りだ。

…まあ、許可しなきゃ更に現状が悪くなる、と判断したせいかもしれないが…どっちにしろ好都合だ。

 

ハッチから出て早々に、サキエルと交戦中のGN-Xの上半身をGNスナイパーライフルで吹き飛ばす。

こっちに気を取られていなかったためか、狙い打つ必要がないのが幸いだった。

 

『ロックオン!?』

 

「ようお転婆娘1号め。後で向こうにいるバカ2名共々お説教してやるからな」

 

言いながらGNアームズとドッキング。

加速を付けながら前線へと突入していく。

無数のMSの中に、赤く光る2体を見つける。

キュリオスとヴァーチェだ。

トランザムを発動させている。

それでも、中々キツそうだ。

そこで左のミサイルコンテナからそこそこな数のミサイルを発射。

周囲の敵機を攪乱しながら、俺はバカ2名に通信を開いた。

 

『っ!?ロックオン!?』『ロックオン・ストラトス!?』

 

「よお!くそったれたバカどもめ!!よくも俺を閉じ込めてくれたな?後で帰ったらお説教だ!!」

 

ニヤリと笑いながら俺は機体を進める。

どうやら敵さんは俺の狙いに気付いたらしく、ほぼ全部が俺の後についてきた。

それをヴァーチェがバズーカで。キュリオスがサブマシンガンで1、2機ほど落としたのを尻目に俺は更に愛機を加速させる。

 

『しかし、そんな体で…!』

 

「ガキに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ!俺よりもボロボロだろがてめぇら!さっさと戻れ!!」

 

言いながらミサイルでケツのGN-Xを牽制する。

5機落とせたのを確認した。

その仕返しと言わんばかりに粒子ビームが向かってくるが、GNフィールドを張っている分向こうからの攻撃は屁とも感じない。

ざまあみろ。

 

そう思っているうちに、やがて正面に敵艦隊が見えてきた。

自分でもわかるほど、凶暴な表情が表に浮かんだのを感じる。

 

こっからが本番だと言わんばかりに、俺はGNアームズの全武装を展開した。

 

 

「悪いが、今は狙い撃てないんでね……圧倒させてもらう!!」

 

「砲撃開始!砲撃開始!」

 

右側の大型ライフルから光が迸る。

放たれた粒子ビームは見事敵艦隊の内の1隻を沈める事に成功していた。

幸先が良い。

 

 

「さあ、行くぜ相棒!暴れられなかった分を返してやる」

 

「ヤッチャルゼ!ヤッチャルゼ!」

 

「おう!やってやるぜ!」

 

 

言いながら、次の標的に銃口を向けた。

また1隻落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひゃあ~…派手だねぇ」

 

それを見ながら俺はOガンダムを飛ばしつつ周囲の敵を気付かれぬようガンビットで正確に撃ち抜いていた。

その殆ど全てがイナクトやオービットフラッグ、ティエレン宇宙型だったが、まあ、所詮そんなもんだろうと思う。

元々、ここまで入り込まれるとは微塵も思っていなかったんだろう。護衛がここまでしかないというのが如実に表している。

 

…まあ、仕事が楽に済みそうなので文句はないが。

……っと…

 

「ミハエル、聞こえるか?一旦こっちに来い。充電してやる。“はぐれ”を追い掛け回すのは一旦止めにしろ」

 

『ああ!?』

 

「落ち着け。残量を見ろ」

 

モニタに映る顔はまさに悪鬼か何かだ。修羅とか言われてもしっくり来る。

…が、悲しい事にそれに反して機体のエネルギーは……

 

『……げぇ!?もう30%かよ!?』

 

「暴れ過ぎなんだよ。ほら、早く来い」

 

そう言ってやると、ミハエルは舌打ちを一つしながらも此方へと静かに寄ってくる。

それを見ながら、俺は傍らのネーナに指示を出した。

 

「ネーナ。ECガンセット。バッテリ残量いくらだ?」

 

「え、えっと……残り94%…」

 

「十分だな」

 

言いながらECガン……所謂、電力補充用の工具を取り出して、俺はザフキエルの背面にあるコネクターにその銃口を突っ込んでからトリガーを押した。

こいつは擬似太陽炉搭載機に対する電力補充の一つの手段として考案されている試作品を、師匠がかっぱらってきた物だ。

意外と使い勝手が良い事に、俺は大変驚愕している。

何せ、これさえあれば擬似太陽炉搭載機でも長い間全力で戦えるのだ。

特に今のザフキエルの様に、大出力な機体にとっては嬉しい装備である。

…唯一の問題点は、バッテリの交換ができないという点か。師匠曰く「試作品を“まんま”ぎってきた」らしいし……何してんだか……

 

 

そんな事を考えている内に充電が終了する。

残りの残量は…24%、か。100%でMS1機分の電力量とか、意外とこのバッテリ凄いな…

 

「よし、暴れて来い」

 

『おしゃああああああああ!!!!!』

 

「だから興奮しすぎだって…」

 

おしゃああてなんだおしゃああて。

『っ』をキチンと発音しろよ。本当に大丈夫なのかよ全く……

 

(……ま、それはいいとして、だ……)

 

視線を自分の左腕に下ろす。

ネーナが何かを言いたそうな顔でその腕を引っ張っていた。

顔に浮かぶのは不安と驚愕。

まあ、それはそうだろうなと思う。

 

 

 

「…待っていてくれてありがとう……そういった方が良いですかね?」

 

 

誰に言うわけでもなく、そう呟いた。

一体どうしたと思う人がいるかもしれないが、ほっといてくれると嬉しい。なにせ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ほう?何時から気付いていたのかな?』

 

「ん、まあ結構最初から。あのバカは一切気付いていませんでしたけどね」

 

『…フム。彼は中々ユニークな人間なのだな』

 

「それほどでもないと思いますよ?」

 

 

言いながら、機体を後ろへと向けた。

正面にはちょうど青い星―――地球が綺麗に見えている。

そして、その丁度ど真ん中少し上の所に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――貴方と比べれば、ね?」

 

『……褒め言葉として、受け取っておこう』

 

 

 

 

――――――黒い細身のボディーにオレンジ色のバイザーに包まれた顔面。

見慣れた翼こそ無いが、それは俺もよく見知ったMS――――――フラッグに、瓜二つ。

そして、このパーソナルマークは、以前にも見た事がある。2回、ほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――初めまして、と言うべきですか?“グラハム・エーカー上級大尉”?」

 

 

『―――出来ればそう言いたい所だが―――生憎、そうではないだろう?少年』

 

 

 

その人物こそは世界に名立たるフラッグファイターの中でも最強と目される人物。

GN-Xパイロットに選ばれながら、その愛機への拘りから、あえてその名誉を蹴った人物。

 

 

名を――――――グラハム・エーカー。

 

俺が今回の作戦で唯一――――――出て来たらやだなぁ、と思う程のエースパイロットである。

 




如何でしたでしょうか?

どうも雑炊です。

というわけで次回は後編に当たるのですが、もしかしたら今回よりもかなり短くなる可能性が大きいです。というのも、後はVSサーシェスとその後の話くらいしか書く事無いので…

気を取り直して解説に参ります。


どうしたミハエル
→むしろアムロがどうしてこうならなかったのか作者も師匠も不思議に思っています(笑)

みんなの相棒『ハロ』
→そのシーンを書き込まなかったのは『あえて』です。

スペシャルな2千回
→特に意味はありませんが、まあエースなのだから少しは活躍しろ、と。

花火はー?
→残念ながら次回に持ち越しです……!

ECガン
→オリジナル設定武装です。でも、こういうのあってもあまり不思議じゃないんですよね、個人的には…

ハム
→カオス空間はもうちょっと待っててね。


というわけで今回はここまで!
では、また次回。


*なお、執筆状況については(前に記したかも知れませんが)ちょくちょく活動報告に書いております。趣味の話や詰まった下書きとともに……なお、紹介文にもあるとおり私はTwitterにも出没しておりますが、そっちではあまりこっちの情報は書いてませんのでご了承下さい…

あと、ちょっとこの後の展開について少し皆様にアンケを取りたいので、出来れば活動報告の方を見ていただけると幸いです。


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二十二話―――復讐の果て:後編

難産に難産を重ね、気がついたらヒャッハーモード(要はSAN値直葬モード)に陥り気がつきゃこんな感じです。
まさかの一万六千字超。嘗てこの話をここまで長くしたのは居るのでしょうか?
大丈夫か、私。
取り敢えず前回の続きですよ。


では本編をどうぞ。


自らの目にそれが映った時、私は神に感謝した。

 

同時に、絶望した。

 

映った存在を誰が動かしているのか、分かったからだ。

 

初めて会ったあの時、私は彼に『戦うような人間』―――否、『戦えるような人間』ではない、という印象を受けた。

おそらく、それに気付いていたのは私だけだろう。私だけなのだろう。

 

恐ろしく歪な雰囲気を纏っていた。

どこまでも一般人。たとえ鍛えられた軍人が、武術を極めた達人が彼を見ても、そのような感想しか持たぬだろう。

 

しかし、私にだけはその歪さが良く解った。

何故とは考えない。

何かそういった波長が合っただけなのだろう。

 

では、その歪さとは何か――――――明確に口に出そうとしても、それは表現ができない物だ。

所謂、感覚的な物だ。

 

だが、こういう事だけは解った。

 

『ああ、この少年は戦う事が嫌いなのだな』と。

 

しかし、その身からは確かに軍人に近い『戦い』の匂いが染み付いていた。

 

『闘う』ではなく『戦う』。

同じ意味なようで、全く違うこの二つの言葉のニュアンス。

前者は所謂『闘争心』を燃やすような―――言うなれば、試合や稽古といった、『命のあまり関わらぬ遣り取り』を表すもの。

後者は―――前者とは違い、『命の関わる遣り取り』を表すもの。

 

彼は―――あくまで私見ではあるが―――前者の物はそれなりに好きなのだろう。むしろ、積極的にそれをしようとしている。

しかし後者は―――もはや、『生活の一部となっているからただやっている』のだろう。

そう感じ取れた。

 

だが、私個人の意見を言えば、それは是非とも外れて欲しい物だった。

 

何故ならば、彼からは戦いに対する『覚悟』や『思い』というのが全くと言っても良い程に感じ取れはしなかったのだ。

 

 

私にはそれがある。

以前までならば『強き者と戦い、更なる上を目指す』と、『愛している空を汚すような無粋な輩を駆逐する』と、『軍人として戦いからは逃げるような事はしない』という覚悟や思いがあった。

今はそれに追加して、『友との約束の為、“フラッグ”でもってガンダムを倒す』という思いであり、覚悟でもあるそれがある。

あの時一緒に居た少女からも、言い表せはしないが覚悟と思いは感じられた。

 

 

が、彼はそんな物がなんだと言う様に空虚だ。何も無い。

 

普通の一般人と同じだ―――戦いに対する覚悟や思いなど、微塵も持っていない、私達軍人が守るべき対象である彼らと―――ただ、状況に流されている。

 

 

 

そして、再度彼を見た瞬間に、言葉を交わした瞬間に、私は悟ってしまったのだ。

 

 

―――変わっていない―――と。

 

 

確かに、以前と比べれば幾分雰囲気は変わっているようだ。

成長もしているのだろう。

 

だが――――――やっぱり変わってはいない。

その根幹にある空虚は―――何一つとして。

 

 

そして、私は絶望した。

何故ならば、私が追い求め、倒すべき敵として認識していた中で、話を聞く限りでは最も強く、誇り高い存在なのだろうと思っていた存在の正体は――――――

 

 

 

 

 

『―――初めまして、と言うべきですか?“グラハム・エーカー上級大尉”?』

 

 

「―――出来ればそう言いたい所だが―――生憎、そうではないだろう?少年」

 

 

『ですよねー』

 

 

 

 

 

 

――――――こんな、何処にでもいる、ただの、普通の、一般人の少年だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……酷く侮辱された気がする」

 

「イツモノコト。イツモノコト」

 

「……クゥッ!」

 

そんなコントをしながらも視線は目の前の黒い機体からは外さない。

見た感じ、目の前のフラッグみたいな機体は明らかに非武装だ。

が、フラッグならばそう見えて脚部にミサイルを仕込んでいる、なんていう事は十二分に有り得る。

しかし、解せないのはその姿だ。オービットフラッグを基にしているのならば理解できるのだが、それでもおかしい部分はある。

 

まず、羽根がない。これに尽きる。

 

オービットフラッグならば腰部に宇宙用スラスターかコロニーガード仕様ならば背面にロケットブースター用のジョイントがくっついているのだが、それらしき物は無い。

というか、下半身から少しだけ見えるフレーム構造が記憶している物と違う事から確実にオービットフラッグではない。

 

とすれば残るのはシェルフラッグと呼ばれる地上用か――――――或いは通常仕様機か、オーバーフラッグか。

 

再度まじまじと観察すれば、肥大化している首元のウイングや肩部分のパーツ、色等から、何となくアタリが付くのはオーバーフラッグだ。

が、納得いかないのは―――あれは地上用なのだ。あくまでも。全体的な性能こそ(とは言っても明確に違うのは機動力のみだが)一般機より高いとは言え、宇宙空間での動きにおいてはオービットフラッグ以下の性能しか出せない。

 

という事から導き出される答えは――――――

 

 

(………新型の実験機、か?或いは全領域対応型の実証機?)

 

 

―――となる。何にせよ、未だ世には出ていない機体だろう。そのテストパイロットとして優秀なエースが宛てがわれる事は、決して珍しい事ではない。

後方にいる優秀なテスターより、現場の優秀なスタッフの方が良い意見を出してくれる、というのは物作りや社会における客商売等のビジネスの世界において今も昔も変わらない思考の一つである。(軍がそういうのと一緒くたに出来るのかという部分は放っておく事とする。)

 

 

―――勝てるか?

 

 

非武装の相手に襲かかる程外道な事はないとは思うが仕方ない。

何せ敵は未知の存在。

ほっておけば後々どんな厄災を引き連れてくるかわかった物ではない。

 

無意識にトリガーに指をかける。

既にマントの下でOガンダムの左手にはビームピストルが握られていた。

後は攻撃コマンドを入れるだけで、自動的に敵にビームが撃たれる。

無論避けられる事も考慮して、ガンビットも事前に放出済みだ。

舐めてかかれるような相手ではないのは百も承知だからこそのこの采配。果たして吉と出るか、凶と出るか?

 

 

「…で?今日はどんな御用ですかね?生憎とこっちはそちらに構えるほど暇ではないのですけど?」

 

自然と口が動く。隙を作り出すための、というよりかは情報を取れるだけ取っておこうという思考の表れだ。

 

『何、あの“ガンダム”相手に噂の新型が何れ程やれるのか、興味が湧いただけだよ』

 

向こうもそれは百も承知なのか、口調は軽いがしっかりと言葉を選んでいる感がある。流石に人を束ねる役職に就いているだけはある。

 

「…で?どうします?」

 

『……フム。どうするか、か……』

 

小細工は効かない―――今の会話でそれはハッキリと解った。ならば、やるべき事はさっさとこの状況を進展させるのみである。

 

ゆえの今の問。この空気。

 

これで敵が「ではやろう」等といった日には全力でビームの嵐に飲まれていただきます。

そこ、外道だとか卑怯だとか言うな。常識だからな。

 

 

 

 

 

……んが、それで出てきた相手の答えは…というか行動は俺の常識を超えていた。

 

 

 

 

 

 

 

パン

 

 

という音が通信機越しに鳴る。

何だべ、と思った次の瞬間、こんな事を言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――では、決闘の予約を取らせて頂こう。今の音はその表明だよ』

 

 

 

「…ウェイ?」

 

 

決闘?予約?……ちょっと今の展開からなんでそうなったのかとか、あなたが何言ってるかわかんないですね僕……

 

 

 

 

 

 

 

 

狼狽えている。

そう、明白に分かった。

よもやMSが首を傾げて頭上にクエスチョンマークを出すとは思わなかったが、その分彼がどのような心境にあるのか分かり易い。

 

まあ、確かにそうだろうとは思う。

 

決闘を申し込まれ、その後直ぐに始めるというのならばよくある話だが、今の私の様に決闘の“予約”をする、というのは些か理解しがたい物だろう。

 

「何、簡単な話だよ。私のこの新たな愛機―――さしずめ、カスタムフラッグⅡと呼称すべき存在は、未だ不完全なのだ。今、友やその仲間達が寝る間も惜しんでこの機体を完成に近付ける為の努力をしてくれてはいるが、今回はこの様な大規模な作戦に私の嘗ての部下であり、友が参加していると聞いてね」

 

『……その勇姿を拝む為に無理言って不完全な機体で出てきたと?で、そしたら自分が居たから完成の暁にはタイマン張ってくれと?』

 

「そういう事だ」

 

我ながら苦笑が禁じえない。

今はもう別の所属だというのに、ダリルは出撃前に態々この機体の開発を手伝っている私のもとまで挨拶にやって来たのだ。

曰く、「ハワードの仇を取る為に。そして隊長の望みを叶える為―――お膳立ての為に出撃いたします」、と。

 

お膳立て、とはどういう事かと思ったが、今なら解る。

 

『フラッグでガンダムを倒す』―――そのお膳立ての為だ。

 

たった1機で何ができるのかと殆どの者は笑うだろう。

だが、彼がガンダムを1体でも倒す事ができれば、敵の数を減らせれば―――軍は、ガンダムに対してそこまでの戦力投下をする事はなくなるだろう。

そこへ自分がフラッグで一騎打ちが出来るような状況を仕立て上げられれば―――後は言うまでもないだろう。

 

しかし、それは理想論だ。

現実にそんな事が許されるわけはないだろうと思う。

 

だが、僅かでも可能性があるのならば、その可能性を更に大きくするために出来る事があるのならば―――彼は、そう思ったのだろう。

 

そんな彼に、私は何も言ってやることが出来なかった。

辛うじて、その心意気に感謝し、敬礼する事しかできなかった。

 

 

だが、やはり私の我慢弱い部分はただジッとしていることを望まなかったようで―――結局、カタギリに無理を言って、この不完全なカスタムフラッグⅡを持ってきたのだ。

 

その結果として、彼と相対する事が出来たのだからこれは怪我の功名とも言うべきか―――微妙な所か。

 

 

 

と―――ここで不意に私の前方が明るくなる。

それを戦艦が撃沈した際の最後の断末魔の物だと理解した瞬間、この場に居る二人の行動は早かった。

 

私は咄嗟に推力を全開にして。少年は盾を構えながらその場から離脱し始めた。

無理もない。というのも、この宇宙空間において、輸送艦とは言え大型艦の爆発による周囲への被害というのは、同サイズの物ならばまだしもMSにとってはかなり辛い物があるからだ。

今も私のこのフラッグの横スレスレを外壁だったのであろう破片が通り抜けていった。

当たっていれば―――おそらく、元がフラッグであろうと無かろうと防御を捨てて、且つかなりの軽量化を施す事でより高い機動力を確保しているこの機体では一堪りもなかっただろう。

 

 

 

 

『――――――っ!?GNドライブ!?』

 

 

ほう?どうやら気付いてくれた様だ。

見れば破片を避けながら注意深く目だけをこちらへと向けているガンダムの姿が見えた。

思わず感嘆の声を漏らしかける。

何せ爆発点から飛んでくる破片を一切目にする事無く避けているのだ。高性能なサポートCPUを積んでいるか、或いは本人の技量の高さの現れか。

どちらにしても、彼との決戦が心躍るものになりそうだということを私に知らしめるには、十分過ぎる物だった。

 

 

 

「では―――また会おう、少年!!是非とも良い答えを聞かせてくれる事を切に願うぞ!!」

 

『いや、ちょっと待ちなさいって!え?ナニコレ!?実質俺に拒否権無いじゃん!?次会ったら強制的に戦闘開始じゃん!?え?!ちょい待ち?!ホントにドユコトこれ!?』

 

「ハーハッハッハッハ!!ア、デュー!!!」

 

『ちょちょちょちょちょちょちょちょ!?』

 

 

 

本当に次に相対する時が楽しみだな!少年!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行っちまったよ…………」

 

「…ど、どうするの?」

 

「ん?ん~………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――取り敢えず見つけ次第に全力で逃走するわ。ある事無い事言いふらしながら」

 

「なにそれひどい」

 

「外道、外道」

 

「黙れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に国連軍の輸送艦隊は既に壊滅といったも良い状態にあった。

今もまた、一隻がGNアームズから伸びた四条の光の線によって戦隊に大穴を開けた後、爆散していく。

既に他の艦船はGNアームズの姿を確認し、リニアライフルによる弾幕を展開していたが、未だ味方の撃沈による混乱から抜けれてはいないと推測できる。

その殆どの弾頭は虚空を切っているのだから、仕方がないな。

銃座は今頃大パニックなのであろう。

その結果、弾幕は今のGNアームズにとって威嚇の意味すら持ち得てはいなかった。

 

そんな中、デュナメスのコクピットで俺は輸送艦の残骸を横目に無意識に奥歯を噛み締めていた。

 

 

(…たったの1機でこれほどとはな…大したもんだよ、全く)

 

ほぼ一撃で戦艦が撃沈するほどの火力。

それが生み出した、敵輸送艦隊の壊滅寸前という惨状。

だが、その戦果を前にして心は冷えている。

戦艦を撃沈するというのは―――それに乗っていた、顔も知らない誰かの命を百人単位で宇宙に散らせたという事なのだ。

後悔こそしてはいないが、罪の意識はキチンとある。

大量殺人を仕出かした後に歓喜と達成感を覚えるほど俺の精神は単純じゃあない…と、思う。

 

それでも。

 

そう呟いた自分の声が聞こえた。

だが、口は一切開いちゃいない。

これは、俺の心の声だった。

 

CB(ソレスタルビーイング)の理念。紛争根絶。それを実現するために。

 

此処(ソレスタルビーイング)にはその覚悟を持って参加しているのだ。

後悔の二文字はスナイパーを志したその日に自分の心からは除外されていたしな。

 

リニアライフルを乱射してくる敵艦は残り2隻。

MS部隊は遥か遠く、トレミーの方だ。深入りをし過ぎたのは失策だったな、と敵の司令官と会話ができるなら言ってやりたい。

いわば今の俺はチェスで言う敵のキングのいる列に入り込んだクイーンだ。しかも敵の駒の殆どはこっちの陣地に入りっぱなしと来ている。

要は、チェックメイト寸前だ。

逆にこっちには優秀な駒―――ナイト、クイーン、ビショップ、ルークが勢揃いな上、クイーンと同格になったポーンが2機居るのだ。

後者がアテにはならないとしても、十分場はこちらの方へと傾いてきている。

後はゆっくり……してはいられないのでさっさと王手(チェックメイト)を決めさせて貰うだけだ。

 

「悪いが、墜ちてもらうぜ?」

 

狙いをつけて、トリガーを引く。

片目こそ使えないものの、こんなシステム頼りの簡単な狙撃くらいは普通にできる。

特に、俺のガンダムなら尚更だ。出来ないといった日には確実に何処かが逝かれている。

 

目の前でまた1隻沈んだ。

紫色の独特な煙―――推進剤等の不純物の混じりあった酸素の塊だ―――が膨れ上がって、やがて虚空に消えていった。

 

――――――次でラスト!!

 

続けて大型ライフルの銃口を残る1隻へと向ける。

コイツで全てが終わる。そう確信しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――しかし次の瞬間目に飛び込んできたのは大型ライフルが爆発する光景だった。

 

 

「何!?」

 

思わずそう声を上げながらユニットごとパージする。

爆発の仕方からして、明らかに整備不良だとかそういったたぐいで引き起こされる不具合からの物ではない。

―――攻撃だ。しかも、粒子ビームを用いた攻撃。

 

(気を抜き過ぎてたってのか!?クソッ!!)

 

だがそう悪態も吐いていられない。

輸送艦からはリニアライフルの嵐。そして四方八方からの粒子ビーム。

辛うじて回避運動は取れたが、それでも何発か食らう。

お蔭様でGNアームズはもう既に満身創痍だ。

デュナメスまで被害が来なかったのが奇跡かとも思えるぜ。

 

(よく頑張ったよ、GNアームズ!!)

 

心の中でそう呟きながらアームズ其の物をパージする。

次の瞬間、GNアームズがデュナメスの真後ろで爆散する。

が、どうも基部だけがぶっ壊れたようで、それ以外は自動的にパージされていたらしい。

幾つかの装備はまた後で回収すれば使えそうだった。

 

結局対艦攻撃はあと1隻残して終了になった。

 

「ええい、しつっけーんだよ!!」

 

しかしその事を悔やむ間も無く粒子ビームが再度襲いかかってくる。

いやらしい機動を描いていると思えた。

誘い込まれているような気分だった。

 

不意に視界の隅にオレンジ色の何かが映った。

左腕の装着型ハンドガンで此方に威嚇射撃を行いながら突っ込んでくる、“それ”。

 

大型の大剣を肩にくっつけ、腰に大型のスカートバインダーを装着しているそれは、素晴らしく見覚えがあった。

厳密には、ちょっと前に交戦しそうになったり、助けられたりしていた。

 

 

ガンダムスローネ・ツヴァイ

 

 

そいつは威嚇射撃も程々に俺の隣をすり抜けて言った後、突然こちらを向いて右手で合図を出してきやがった。

 

曰く、『こっちだ』、と。

 

ご丁寧に首も動かして誘っていやがる。

 

 

珍しく自分でも異常なくらいギリギリと歯噛みしていると自覚できた。

眉間には皺を寄せて、目が釣り上がる。

心臓はバクバクと音を鳴らし、頭は怒りの炎で沸騰していた。

 

 

 

「アリ・アル・サーシェス……野郎……!」

 

上等だ。いい度胸じゃねえか。ぶちのめしてやる。泣いても謝っても許さん。八つ裂きだ。

 

そんな言葉が頭を駆け抜ける。

 

無理もなかった。

 

あいつは戦いを呼ぶ権化であり、刹那の話を信じるのだとすれば、間接的には俺の家族の敵でもある。

そして――――――あのガンダムバカ娘を、こんな修羅もびっくりの血塗れた道に引きずり込んだ、史上最悪の戦争狂だ。

 

「……生かしておいてなるものかよ……!」

 

迷わず俺はその背中を負った。

ただ、復讐の二文字。それだけが、今の俺の思考を占めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグランジュ1の資源衛星郡における戦闘の光がモニターで見えるレベルまで、既に教習用コンテナは到着していた。

それでも望遠モニターを用いてやっと見えるのだから、距離的にはざっと数万キロの距離だ。

 

『刹那。ポイントを確認した』

 

「わかっている。見えている」

 

言いながら強襲用コンテナからGNアームズを分離。

完全に離れたのを確認してから、続いて自身もエクシアで虚空へと躍り出る。

 

モニターの映し出す物がコンテナから宇宙空間へと変わるやいなや、機体を制御して体勢を変え、目指すべき宙域を視界に入れる。

あそこで仲間が戦っているのだ。

トレミーが国連艦隊を補足したという暗号通信を最後に、皆とは連絡が取れてはいない。

戦闘中だから仕方ないと言ったらそれまでだが、それでも情報の不足は私の不安を加速させるのには十分だった。

おそらく、あの光の大きさからすれば、既にサキエルがその大量の重火器を持って艦隊を火達磨にしているか、或いは………考えたくもないが、負傷しているはずのロックオンがGNアームズTypeDで対艦戦闘を行なっているか、だ。

スメラギ・李・ノリエガは確実に彼を出撃させようとはしないことは分かっているが、ロックオンはそれを良しとしないということは明らかだ。

絶対に何かしらの手で持って出撃しているのだと思う。

 

それでも、それを見越して他のマイスター達が手を打っているはずだ。

それが成功したのであれば、実質3機で擬似太陽炉搭載機を相手取らなければならない。

更に言えば、スローネツヴァイを奪取し、その上空に上がったというアリ・アル・サーシェスの事もかなり気にかかる。

 

『行ってこい、刹那!』

 

「そうさせて貰う」

 

少なくとも、今、現状で自分が出来る事など皆無に等しい。

ならば、一分一秒でも早く、あの戦線に自分も参加する事こそが、今の自分の役目だ。

 

「トランザムを使う」

 

GNアームズにドッキングし、私はトランザムを起動した。

これでも使えるかどうか心配だったが、どうやら杞憂だったらしい。

エクシアだけでなく、GNアームズの装甲も赤く光り、明らかに通常よりも速いスピードで動いているのが解る。

 

―――間に合うか?

 

そんな疑問が心の中で浮かんだが、頭を振って思考の隅へと追いやる。

 

間に合うか、ではない。

間に合わせるのだ。

 

兎に角、やるしかないのだ。今は。

 

そう、自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!!利き目!!こんな所で影響が出やがるか!!」

 

GNスナイパーライフルで攻撃しながら、俺はボヤいた。

さっきからスローネに弾が一発も当たらない。

それは勿論奴の腕もあるのだろうが、それ以前に狙いが上手く付けられてないのが最大の原因だった。

眼帯の違和感は相変わらず拭えないどころか更に増しているし、それに伴って積もっていく不快感によって集中力は乱れていく。

 

結局の所、これじゃあスローネの機動力相手にスナイパーライフルを当てることはかなり難しい。

所謂、至難の業って奴だ。

万全の状態ならともかく、今の効き目が使えない俺じゃあ無理だな。

 

「仕方ねぇか…!」

 

スナイパーライフルを大人しく仕舞って、右手にGNビームピストル、左手にビームサーベルを持たせる。

所謂、インファイト装備っていう奴だ。狙撃能力しかクローズアップされてはいないが、基本デュナメスだって格闘戦はできる。

問題は奴の攻撃が右側…つまり、今の俺の死角から襲ってくる可能性があるということだ。

今の所はまだ大丈夫だろう。だが、いつボロを出してしまうかはわからない。

そうなればおしまいだ。ファングでズタズタにされるだけだろう。

 

(そうなる前にケリは付けたい所だが……!)

 

そう思った矢先、突然資源衛星の影からスローネツヴァイがバスターソードを構えて飛び出してくる。

速い。ピストルでの対応は不可能だ。

咄嗟に左手のサーベルで振り下ろされたバスターソードを受け止める。

GN粒子でコーティングされたEカーボンとビームの衝突する独特な音がコクピットに響き渡った。

 

ディスプレイ越しに仇敵が乗っているであろうスローネツヴァイのコックピットを睨む。

鍔迫り合いで発生している光でよく見えないが、今の俺の目線の先にはその位置は大体解る。

 

「KPSAのサーシェスだな!?」

 

有視界通信回線を開いて、奴の顔を拝みながら詰問するように怒鳴る。

何とも粗暴そうな面構えだった。髭を剃っている分幾らか清潔な雰囲気を醸し出しているが、表情に浮かぶ狂ったような笑みで全部マイナスだ。

こいつはどんな聖人君子でも狂人扱いだなと感じるような顔だった。

 

『ハっ…大方あのクルジスのメスガキにでも聞いたか?』

 

――――――認めやがった!!

 

そう解釈しても良いだろう。

これで表情に少しでも変化があれば疑うところだが、そんな素振りは一切無い。

 

ビンゴだった。

 

その声を聞いた瞬間、俺の瞳は怒りで大きく見開かれる。

奴の声を聞いたのは初めてだったが、そこに浮かんでいた愉悦と侮蔑――――それらを認識した瞬間、背骨が不快感と嫌悪感、それがない混ぜになったような衝撃で酷く粟立った。

 

「アイルランドで自爆テロを指示したのはお前か!?どんなつもりであんなことを仕出かしやがった!?」

 

『俺は傭兵だぜ?しかも自分の本能に忠実な最低野郎と来たもんだ……故に依頼があれば、金の為、心躍る戦争の為にに何だってやる物なんだよ……それになぁ……』

 

サーシェスはニヤリと擬音がつくように笑った。

瞬間俺の背筋が寒くなる。急いで操縦桿を倒してその場から離れた。

次の瞬間、スローネがバスターソードを振るうと同時に今デュナメスのコクピットがあった空間を血の色の閃光が貫く。

反射的にピストルで出処を撃った。

 

ファングだ。

運良くよけられたから良かったものの、気づけなければ今頃は……ゾッとする話だ。

何とか今一つ潰せたのは僥倖だった。

 

改めて奴を見ると、向こうは勢いをつけて再度こっちにに斬りかかってきていた。

それに俺が対応することで、再び鍔迫り合いが開始する。

 

『AEUの軌道エレベーター建設に中東が反発するのは至極当たり前じゃねぇか。わかってんだろ?』

 

「関係無い人間まで巻き込んでやる事じゃあねぇだろうが!!」

 

『テメェだって同類。俺みたいなののお仲間だろうが。紛争根絶…そんな甘っちょろい理想をを掲げる稀代のテロリストさんよぉ!!』

 

「…咎は受けるさ」

 

ひどく自然とそんな言葉が口から出る。

 

当然だ。

今まで殺してきた、或いは傷つけてきた人々。そいつらの怒りも、憎しみも、悲しみも、どんな感情だって、受け止める覚悟はとうに出来てんだ。

当然だが、全てが終わればその咎を受けるつもりはまんまんだ。

 

――――――ただし!!

 

 

「テメェをブチ殺した後でなぁ!!」

 

鍔迫り合いをしながらデュナメスの腰部装甲を展開。そこに装備されたミサイルを迷う事無く全弾発射する。

 

『おぉっとビックリィ!!』

 

だが、奴の操縦技術はやはりかなりの物だった。それを改めて認識させられる。

 

一気にこっちと距離を取りながら、ミサイルを避け、或いはハンドガンで撃墜しやがった。

撃墜されなかったのも、資源衛星に当たって粉微塵に粉砕するに留まる。

 

思わず舌打ちが出た。

 

そのまま他の資源衛星郡に逃げようとする奴を、感情に任せて追いかける。

 

「許すものかよ……!」

 

そうだ。今口から漏れた言葉の通り、奴の行いは到底許せたものじゃねぇ。

 

GNスナイパーライフルでその背中を狙い撃つ。

無論、避けられるのは最初から織り込み済みだ。

狙いはその隙に距離を詰めることにある。

 

ハンドガンによる反撃。

しかし明らかに威嚇行動だ。

このまま突っ込める。

 

一気に距離を詰めてビームサーベルで切りかかる。

向こうは勿論バスターソードで応戦してくる。

肩のビームサーベルを使わないのには気になったが、おそらくあれは緊急用なんだろう。そう、解釈しておくことにした。

時々剣戟の合間にピストルで狙う。が、避けられる。

向こうもハンドガンで狙ってくる。が、それを俺も避ける。

 

何度も何度も剣を交え、撃ちあう

奴はこの瞬間、この戦いを楽しむ為。

俺はある意味一方的な復讐の為。

どっちも完全に歪んでいる。だが、それで良い。

少なくともその部分は今、全く意味をもつことはない。

 

「テメェは戦いを生み出す権化だ!!元凶…疫病神其の物だ!!」

 

『喚いてろ!!』そう、奴が言う。

 

『同じ穴のムジナがよぉ!!』

 

「ふざけんな!!テメェみたいなキチガイファッキン野郎と一緒にすんじゃねぇ!!!!」

 

感情に任せながら不意打ちで蹴りを繰り出す。

幸運にもヒットした。しかも肝心の獲物を持っている方だ。

 

『うぉっ!?』

 

スローネツヴァイの体制が崩れる。崩れてくれた。

ほぼ反射的に右手のピストルでバスターソードを持つ手を狙い撃ち、そのまま左手のビームサーベルを逆手に持ち直して振り上げる。

勢いよく振られたそれは、胸部装甲の端っこと頭部のアンテナごと、ツヴァイの右腕を切断した!

 

『ゲッ!?やべぇ!?』

 

奴の焦ったような声が聞こえる。

思わず口元に笑みが浮かんだ。チャンスだ。そう思った。

 

(逃がしゃしねぇ……いや、逃せねぇ!!!)

 

慌てて逃げる奴をライフルを再度右手に持って追いかける。

当然だ。

あいつはここで殺しておかなきゃ、またどんな災厄を振りまくかわからねぇ。

だったら、今、ここで、確実に殺しておくべきだ。

 

「俺はこの世界を……!」

 

そう言ってから、操縦桿を握る。

 

 

 

 

その、次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

「敵機接近、敵機接近」

 

「んなっ!?」

 

思いもよらないソレに、俺の意識がサーシェスから、一時其方へと移った。

 

 

 

突っ込んできた機体――――――GN-Xに乗っていたのは、嘗て尊敬すべき上官と友と共にフラッグという愛機を駆って大空を飛び回り、今はその二人のどちらとも離れ、ただ一人恥を忍んでこの機体に乗った男だった。

 

「そこにいたかよ、ガンダム!!」

 

ユニオン所属のダリル・ダッジ准尉はまさに怒りに駆られた阿修羅の如き形相で、GN-Xをデュナメスに突っ込ませていく。

曹長から准尉に昇格したのは喜ばしい事だったが、その結果としてこの機体に乗ることになったのには、実際のところ彼は良い印象を持っていなかった。

 

―――だが、それは今何一つとして問題になることではない。

 

先の対艦攻撃により武装の殆どを潰された彼の愛機は既にほぼ徒手空拳以外での戦闘は不可能になっている。

だが、それでも妥当せねばならない敵が居る事を彼自身は理解していた。

だからこそ、残った1隻の輸送艦―――本作戦における旗艦の護衛を無視してまで、ここまでやってきたのは、その為であった。

 

「ハワードの仇だ!!」

 

―――そして、隊長の望みを繋げる為に!!

 

裂帛の気合と共にGNクローによる格闘戦を行う。

ハワード・メイスン准尉はフラッグがユニオンで正式配備され、それが自分に回ってきて以来の戦友だった。

いい奴だった。

少し斜に構えた部分もあったが、それでもいい奴だったと断言できる。

 

無論、彼以外にもオーバーフラッグスとして国連軍に参加してからも数多くの戦友達が屠られてきているのは記憶に新しい。

その度に、苦渋も辛酸も耐え、ただただ拳を握り締め、復讐の機会を伺ってきた。

既に生きているパイロットで親しい戦友は嘗ての上官―――グラハム・エーカー上級大尉ぐらいしかいない。

 

―――だからこそ!

 

(あの時墓前で誓ったあの約束!!今こそ果たさん!!)

 

「死ねよやぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

眼前のモスグリーンのガンダムが腰からミサイルをこちらに向けて放ってくる。

しかし、ダリルはGN-Xの片腕で頭部とコクピットを防御しながら突っ込んでいく。

当然だ。ここまで来て、逃げるという選択肢はない。

ミサイルがヒットした。装甲の内側に、圧縮粒子が注ぎ込まれる。

その衝撃は凄まじかった。

防御していた左腕がもげる。振動でコックピットのモニターに頭部を思い切りぶつけた。

バイザーが割れ、破片が頭に突き刺さる。

目に刺さらなかったのは僥倖だった。

 

流血によって視界が赤く染まっているが、何一つとして問題はない。

推進力も落ちてはいない。

 

―――行ける。

 

思わず口元に笑みが浮かんだ。

そう、行けるのだ。これならば、ガンダムを倒せる。できなくても、手傷くらいは負わせられよう。

 

―――それで、十分。

 

 

――――――矜持を見せろよ。

 

 

ハワードの声が聞こえた。

幻聴だと思う。

だが、それでも聞こえた言葉は今の彼を更に奮い立たせるのには十分だった。

 

(良いだろう。そこで見ていろよ。―――これが、俺の矜持だ!)

 

敵は更に右手のピストルで此方を狙ってきている。

その粒子ビームを避けながら、ダリルはGN-Xをガンダムの右側に突っ込ませる。

何故だかは解らない。

が、そうすれば良い、という根拠無き確信があった。

 

もう既に敵は目前だった。

もうGN-Xは両足を無くし、左腕も付け根から無く、挙げ句の果てに頭部は半分死んでいる。

 

―――だけど、右腕だけは残っている!!

GN粒子でコーティングされた、クローが!!!

 

「俺は…!」

 

右腕を伸ばす!狙いは敵のコクピットがあるであろう腹部!

 

「俺は……!!」

 

機体の出力リミッタを解除し、擬似太陽炉を暴走寸前の状態にする。推力は更に上がった!!

 

「俺、は……!!!」

 

レバーを全開で前に倒し、一気に加速。腕を突き入れる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は……!フラッグファイターだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その時、彼にとって最悪の偶然が起こってしまった。

突然、血の色の光が、ダリルのGN-Xを襲った。

四方八方から、粒子ビームによって貫かれ、切り刻まれ、哀れな事に最後の一瞬をキチンと把握できぬままに、ダリルの体は蒸発し、この世から消えていった。

 

ロックオンはそれを見た瞬間、反射的に機体を逃した。

見えない右側からの特攻―――おそらく、今のでサーシェスにはこちらの負っているハンデが判ってしまっただろうと思う。

しかし、だからといって味方まで攻撃するのだろうか?

放っておけば、確実に手傷を負わせられた俺を助けるような真似までして?

 

混乱が頭の中で渦巻く。

意識こそ警戒に当てているが、それでも理性は疑問の渦から抜け出せられてはいない。

 

そんな状況下、答えを持ってきたのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒ………ヒヒヒ……ヒヒハヒャハヤヒャハヤハヤヒャハヤハ!!!!!!!!!』

 

「っ!?」

 

 

そんな、狂っているとしか思えないような、笑い声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雌伏の時間は終わりだ。

正しく、今の俺にはその言葉があっている。

道中その内の一つかも知れないと思って旧世代のアレコレや、あのクソ忌々しい灰色の雑魚共を纏めてバラバラにしてきたが、どれも違った。

 

それで、イライラが募っていたのは認めよう。実際限界だった。

 

それで、今もまた灰色をを一機落としたのも認めよう。だが、別に悪い事じゃないはずだ。

 

問題は、俺の眼前にそいつがいやがったという事だけだ。

 

 

懐かしいツヴァイが右腕を無くして其処に居る。

それだけで、十分だ。

中身が誰だとかは一発でわかる。確信がある。

 

口角がつり上がって、端から泡が出てくるが知ったものか。

そこまで俺は喜んでいる。

下世話な話だが、下の息子もビンビンだ。大興奮だ。

 

ああ、早く殺してやりたい。

バラバラの八つ裂きにしてやりたい。

 

だが、既に俺の機体はもうエネルギー切れ寸前だ。やっぱり暴れ過ぎたらしい。

どうもコイツはいけねえな。

そう考えて、追加パーツの予備電池を起動。

擬似太陽炉に電力を満タンまで充填した後、余分なパーツは全部切り捨てる。

元々そういうモンなのだから、怒られはしまい。

 

深呼吸を一つする。

武装をチェック…オールグリーン。

ただし、ファングが使えなくなったのがちと残念だが…まあ、問題はねぇ。

むしろあんなのに頼りきりじゃあ、兄貴よか強くなったとは言えねぇからな。

 

(…なぁ?そうだろ?)

 

いない人間に心の中で問いかける。

答えは帰ってこない。

それで良い。

それで良いんだ。

 

後は妹が、可愛い妹が幸せになればそれで良い。

あの男なら多分してくれるはずだ。

 

だから、俺は―――

 

 

 

「――――――アァァァァァァァァリィィィィィィィアルサァァァァシェスゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」

 

 

――――――後先考えずに、この男を殺す事だけに全身全霊を注ぐとしよう!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オラァァッァァァァァ!!!!!!!!』

 

『チィッ!テメェ!!!』

 

 

果たして俺の目の前では、中々理解し難い光景が広がっている。

突然現れたスローネによく似たトリコロールの機体―――あの不審者の機体だ―――ザフキエルがスローネツヴァイに右手に持ったロングバレルのライフルで殴りかかる。

見た感じ、ソレに刃の様な物体は付いていない。長い物は明らかにただのバレルだ。

 

しかし、それはそこそこ強度があるのか、ツヴァイの頭をぶん殴った割にはひしゃげた様子はない。…だとしても、それで殴りかかるというアレは出ねぇだろう、普通…

 

(……っと、うかうかしちゃいられねぇな)

 

何はともあれコイツはチャンスだ。

サシで戦ってあの野郎を殺せないのは少々残念だが、そんな事を言っていられる状況じゃあねぇもんな。下手な感傷でチャンスを逃す…なんて事はバカとガキのやる事だ。

少なくとも俺は歪んでいるし、そんなに大人じゃないが、そこまでガキでも馬鹿でもない。

 

デュナメスの右手にGNスナイパーライフルを持たせてツヴァイを狙う。

ザフキエルはロングバレルライフルをしまい、両肩のGNバスターソードを取り出してツヴァイに猛攻を仕掛けている。

一方のツヴァイは防戦一方…じゃねぇ。ファングとハンドガンで上手い事対応できていやがる。改めてその技量の高さに舌を巻く。

その内ザフキエルはバスターソードを片方破壊される…というか弾き飛ばされた。

一瞬だが俺が取りに行こうかと思ったが、やめた。

既にこのデュナメスには無理をさせ過ぎている。下手に対応していない武装を使って土壇場で関節逝かれました、なんてトラブルは真っ平ゴメンだ。

 

「おっし鍔迫り合いに入ったな」

 

視界の中で、2機がビームサーベルとバスターソードで鍔迫り合いになる。

…つまり、動きが止まるというわけだ。

そうなれば、例え効き目をやられていようと疲労していようと、俺の腕なら狙い撃てる。

 

「ハロ、ザフキエルに暗号通信。そのまま「モウヤッタ、モウヤッタ。“ソノママ抑エテロ”モウ送ッタ」…本当にお前は最高の相棒だよ」

 

いつの間にやら俺の思っている事が解るようになっていたのやら……本当に、本当にコイツには助けられる。

既に照準は付いていた。

狙うはツヴァイの頭部。

確実に仕留めるにはこの状況で奴の動きに隙を作るしか無い。

無論、本音を言えば奴の居るコクピットを狙い打ちたい所だが、俺の今居るここからではそれだとザフキエルも狙い打たねばならない。

かと言って場所を変えようとすればその間にアイツが抜け出てしまう恐れもある。

 

だからこそ、狙うのは頭部だ。

そこを潰せばどんな凄腕だろうと、どんなにキチガイ野郎だろうと必ず怯む。

生身、MS搭乗時関係なしだ。

むしろMSに乗っている方が怯み易い。

何せ一歩間違えれば外の様子が全く分からなくなるのだ。

そうなると、後は救助を待つか、我武者羅に動くか、或いは死ぬのを待つだけだ。

 

2機とデュナメスの距離は目算で約500mちょい。

障害物はほぼ無し。

全力を出せば一瞬で近づける距離。

 

…つまりは味方の存在を考えなければビームサーベルで十分奴を仕留められる距離!

 

 

(だが、それはやる訳には行かない)

 

そう頭の中で呟いて、狙いを付ける。

既に照準サイトのど真ん中には奴の頭部が見えている。

後は引き金を引くだけだ。

それで、終わる。

 

 

「んじゃ、ま…」

 

視界の中でザフキエルが“クン…”と首を動かした。馬鹿野郎バレるだろうが、と怒鳴りたくなったがそうもいかない。

そんな事言ってたら逃げられるからな。

 

…だから……

 

 

 

 

 

「―――狙い撃つぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――残念だけど、そういう訳にも行かないんだよね――――――――――

 

 

 

「っ!?何!?」

 

突然聞こえたその声に俺は慌てて機体をその場から逃がそうとした。

背筋の凍るような、変成器を確実に通していると解る甲高い声。

その声の感覚は正に怖気が走る様な物。

虚空から這い上がってきたかの様な、おぞましい何か。

 

それが何なのか、誰からなのかを明確に認識する前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!グアアアアアアアアアアアァァァ!!!???」

 

 

 

凄まじい衝撃とともに機体が揺れた。

コクピット内に紫電が走り、部品がひび割れ、飛ぶ。

 

それは何個か俺の体をノーマルスーツ越しに突き刺すほどの威力と鋭さを持っていた。

 

見れば辛うじて無事なモニターに、デュナメスの頭部、右腕、両足、左肩が大破ないしは中破したという表示が出ている。

…今の一瞬で、だ。

 

相棒が俺の事を呼ぶ。

が、明確に耳に入ってこない。

視界がボヤけ、意識が遠くなる。

どうも想像以上に俺の体はダメージを受けているらしい。

 

拙い。

 

そうとだけはハッキリとわかる。

こんな所で気をやれば、確実に俺は死ぬ。

が、手に力が入らない。

 

ギリギリノーマルスーツに循環している冷却液兼用の止血用吸水ポリマーが肌にくっ付き、そのヒンヤリとした感触があるのはまだ俺の意識が消え去ってはいない証拠だ。

 

しかし体に力が入らない以上は、それが解った所でどうしようもない。

必死に口を動かして、相棒に指示を出そうとする。

 

「ハ……ロ…グッ…じ…動「モウヤッテル、モウヤッテル」…スゲ、ェな、お前……」

 

…うん。やってくれてたわ。流石は俺の相棒だよ。マジで。

だが、それでも限界はある。精々敵の攻撃を避けるくらいは出来そうだが、果たして何処まで持つものか……

 

 

 

 

 

 

 

――――――…Oh。まだ動けるん……ああ、サポートAI……しぶといなぁ…――――――

 

 

全身に悪寒が走る。

さっきの声だ。

またしても頭の中に響くような声。

明らかに通信機ではないその音に俺は恐怖する。

 

しかし、冷静な部分はそんな状況下でも必死に目を開けて動かし、その声の主が何なのかを探る。

 

どこだ?何処に居る――――――

 

 

 

 

 

 

――――――こっちだよ。こっち――――――

 

 

再びの声。

しかし今度は何となくその位置が解った。

ハッとしてさっきまでザフキエルとツヴァイが鍔迫り合いを行っていた空間を見れば――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――そうそう。こっちだよ。こっち――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――居た。居やがった。

 

白と赤とクリーム色のトリコロール。

四肢からは黄金の羽の様な物を伸ばし、背中からも似たような物を2本生やしている。

 

何とも目を引くのはさっきのGN-X達とは違い、流線ではなく俺達のガンダムの様に角張ったボディー。

 

 

 

 

 

 

 

そして――――――額から生える2本の角。意志を感じさせる目。後頭部に生えた、まるでジャパンの中世にいたサムライの頭の様な突起物。

 

 

 

 

 

 

口元にある、まるで獣の牙の様な物が生え揃った“クラッシャー”。

 

 

 

 

 

 

つまり、その機体の見た目こそは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ガンダム。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口からはその言葉は出なかった。

だが、奴はそれが聞こえたようだった。

カメラアイの筈の目が細まり、クラッシャーが少し開き、まるでニヤリと言うよりはニッコリと笑ったような―――そんな気がした。

それを見て俺の心に浮かぶのは恐怖だ。当然の様に。

 

思わずロクに動かない腕を必死に動かし、フットペダルを踏もうとする。

が、ロクに動かない以上その行動は無意味だ。離脱するスピードは変わらない。

 

 

やがて俺はそのガンダムの傍らに浮かぶ、オレンジとトリコロールの2機をやっと意識的に認識できた。

 

その2体も傍から見てどう考えても死に体だった。

四肢は左腕以外切り飛ばされ、無傷で残っているのは胴体と頭くらいだ。

その脇にはこれみよがしにビームサーベルが浮かんでいる。

 

―――嫌な予感がした。果てしなく、嫌な予感が。

 

 

 

 

 

それを認識してから、とうとう俺の意識は限界を迎え、俺は気を失った。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。


今回で『復讐の果て』は一区切りです。
『え?中編じゃねーのこれ?』と思った方。残念ながら違います。

まあ、状況は次回まで続いていきますが。
要は次回で題名がガラッと変わるだけですね。


では、解説。

アムロの本質が一般人?

→なわけないでしょう。奴の本質はあくまで『逸般人』です。
まあ、ハムさんも『逸般人』なので勘違いしちゃったんでしょうね。


ダリル

→ファンの方には申し訳ありませんがこんな結果です。
因みに彼のシーンのテーマは『無情』です。
んなドラマ見てーなことそうそう起こるわけ無いでしょ、という『人生の無情』という物を描いています。
何気に今の自分を皮肉ったものだったり……

ミハエルの視点は?

→奴は次回がメイン回なので今回は意図的に描写を少なくしています。
表現が狂ったみたいで汚いのは……まあ、次回でその理由がわかるかな、と。


最後のアレ

→まあ、機体はお判りになるかな、と思います。分からなければMSVで検索を。
中の人は……ネタバレなので言えませんね。



というわけで全ての決着は次回となります。
では、また次回!!




追記

そういえば、活動報告にて行っているハムの今後アンケートに追加して、もうちょっと経ったらまた別のアンケを行おうと思います。できれば目をお通し頂けるとありがたいです。

……にしてもマニュアル全部作り直しとか……キツイわぁ……(完全私事


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二十三話――――――帰ってこれた者。帰ってこれなかった者

今回でやっと決着です。
マジで長かった……というか、酷く遅れて申し訳ありませんでした。
途中何度も何度も書き直してやっと書き上がりました。

……1万7千3百文字超という分量だけどね!?




というわけで本編の方をどうぞ


「如何でしょう?御指示通り、アレには投薬と催眠暗示。それから“ちょっとした(・・・・・・)”改造手術を施した後、こちらで極秘に製造した機体で戦場に投入してみましたが」

 

「いや、素晴らしいよリボンズ。片方は手負いだったとはいえガンダムマイスター2人と凄腕の傭兵をあんな短時間で秒殺……フフ、予想以上だ」

 

「お気に召しましたでしょうか?」

 

「とても良いよ。とても気に入った。いや、私も少しは嘗て軍のエースだったという誇りがあったのだがね…それがこんな物の前では吹き飛んでしまう様だ……いや、勘違いしないでくれたまえ。むしろ清々しさすら感じているのだからね」

 

それを聞いた僕は恭しく一礼する事で、感謝の礼を示す。

…が、その内心ではこの男の顔に今直ぐにでも唾を吐き掛けてやりたいと思っている。

 

(悪趣味此処に極まれり、か…アムロの耳に入ったら大変だな)

 

そう思いながら、横目で画面を見やる。

 

 

実際あの“肉人形”の為に用意する羽目になった“アクウオス”は上々の成果を叩き出せていた。

…とは言っても、戦闘動作や思考パターン、対話時の使用音声は全てプログラミングされた物だ。

プログラム主は僕。パターン等のモデルも僕。ただし、技能レベルなどはかなりの所まで下げてあるから、同じ条件下だったら僕が圧倒的優位に立てるね。

ぶっちゃけアムロでも普通に勝てるだろう。

マイスターだって、さっきみたいな不意打ちみたいな真似さえされなければ打倒は決して難しいものではない筈だ。

 

 

 

 

問題はその機体の性能差を何処まで実力でカバーし切れるかだ。

 

 

 

ハッキリ言って“アクウオス”自体の性能は僕やアムロ専用機としての調整を施している所為で、カタログスペックだけならば“リミッターを解除したサキエル”レベルの機体でなければ互角の勝負は不可能だ。

逆を言えば『サキエルならばアクウオスと互角に戦える』という事なのだが。

 

(……っと。そろそろ限界かな?)

 

不意に手元の端末から聞こえたその音に、僕は一言断ってからディスプレイを見やる。

…どうもアクウオスの生体CPUが悲鳴を上げ始めたらしい。

もうちょっと粘るかと思ったが、どうもそういう訳にはいかないらしかった。

 

……いや?これはハードが限界というわけじゃ無さそうだ………という事は、“中身”の心配…本能的な物で拒絶反応起こしているのかな?

少なくとも、これ以上の戦闘は無理そうだ。

 

そう判断して、僕はいまだ上等なワインを飲みながらクラッカーの上に乗せられたチーズを食みつつ、まるで映画を鑑賞するようにモニターを見る男へと僕はこう進言する。

 

 

「アレハンドロ様。生体CPUが限界のようです」

 

「おや?もうかい?」

 

「はい。残念ながら、身体ではなく精神の方が薬物に拒絶反応を起こしているようで……」

 

「フン。“私はあくまで清らかだ”とでも言うか?既にデータ処理か慰み者になるしか能の無い肉人形が吠えたものだな」

 

「……アレハンドロ様。それは……」

 

「ン……些か……どころではないな。気分を悪くしたかね?」

 

「いえ、別に………ですが、あんな物でも一応私の“作品”ですので…せめてキチンと生体CPUとお呼びください」

 

「ああ!すまないすまない。確かに君が仕事をしてくれた物を肉人形呼ばわりは失礼だったな。次からはキチンと呼ばせてもらうよ」

 

「勿体無いお言葉です」

 

再度頭を下げる。

う~ん自分自身にも腹が立つね今の会話は。

本来であれば正しく導くべき人類を、僕は野望の道具として扱っている……僕の存在意義は僕自身が見つける事だからそこら辺どうこう思う事は無いが、それでも思う所はあるのだよ。

 

……何?『誰だお前は!?』、だって?失礼な……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだろう?あたまがおぼつかない。

いつのまにかわたしはきかいにくみつけられて、こんなものにのっている。

でもふしぎといわかんはない。

むしろきもちいい。

くちのなかにとおされたくだからなにかながされている。

きっとごはんだ。

のどをとおるぜりーみたいなものがぐにゅぐにゅするかんかくがそうだとわかる。

おなかにたまった。

それにおしだされるようにしてなにかがからだのなかをとおっていく。

あ。

おおきくふくらんだわたしのおなかのなかからなにかがとんとんとたたいている。

ああ、ごめんね。こわかったね。

でもだいじょうぶだよ。もうこわいひとたちはみんなやっつけたからね。

だからもうこわがらなくていいよ。

 

だいじょうぶだよ。

 

 

こわいひとはみんなおかあさんがやっつけてあげるからね。

 

だからね、

 

 

 

 

もうなかなくていいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――『  』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヤバい物を見てしまった気がする」

 

「?どうかしたかね?」

 

「いえ……」

 

 

 

 

……うん。やっぱりこういうのはダメだね。メッチャクチャ気分悪いわ。吐き気がするわ。マジで。もう二度としない。生体CPUなんぞ二度と作るものか。

 

吐き気がするわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠がどこかで凄く気分が悪くなったという電波が届いた件について」

 

「ソノ心ハ?」

 

「プギャー」

 

「デスヨネー」

 

「…凄く、なんか余裕だよね」

 

 

まあ、実際にはそんな会話できてる場合じゃないんですがね、と心の中で呟きながら右から切りかかってきたGN-Xの顔面をグーで殴りつける。

いい感じに怯んでくれたのでそのまま胸部…っていうか、腹部?のGNコンデンサのレンズに正拳突き。

レンズは見事にバリンと割れて、そのままOガンダムの右腕がズボッと突っ込まれた。

…まあ、なんというか、アレだ。

 

ガンダムパンチ、凄い。

GN粒子で強化しているとは言え普通のパンチでこれは無い。あまりにも威力がおかしすぎる。

 

が、それに構う余裕なんぞ無い訳で。

 

「ホッ!」

 

後ろから襲い掛かってきた別のジンクスのビームサーベルを避けつつ、その腕を引っつかむ。

後は突き入れてきた奴の顔面に反対の手に持ったビームガンの弾を接射してやる。

そんでもってちょっと離れた所で蹴り飛ばすっと……まだ動かれても困るからビームガンでコンデンサを撃ち抜く。

結果的にそのままGNドライブも壊れる訳で、凄い量の赤い粒子がそこらじゅうにブチ撒かれる。

 

(しまった)

 

そう口には出さずに呟く。

濃度が低ければ問題ないのだが、今目の前に広がった粒子はまるでスモッグのごとく、濃い。

こうなるとこの中に入ったビーム兵器は撒かれた粒子に干渉もしくは中和されて、尽く威力を落とすか最悪無効化されてしまう。

逃げ込むには良いが、ここから反撃するとなるとどうにもし難い。

それにいくらGN粒子制御用のクラビカルアンテナがあるからといって、こんな濃い粒子の雲の中に突っ込んでいる以上レーダー等の計器にも幾らか影響が出てしまうのは明白だ。

今も3次元レーダーがマトモに機能してくれていない。

 

と思ったら、

 

「おっと」

 

煙を引き裂いてGN-Xが手刀を突き入れてきた。

アッサリと回避しつつその脇腹に蹴りを一発。

反動を利用してそのまま粒子スモッグの中から離脱する。

勿論GNABCマントで全方位をカバーしながら、だ。

出た瞬間ビームで蜂の巣とか勘弁してほしい。

 

…と、身構えていたのだが一向ににそれらが来る気配がない。

つーか全機こっちに恨みがましそうな視線(俺主観)を向けてくるだけで一向に動きが無い。

少し動いてみる。と言っても軽く機体の向きをプトレマイオスの方向に向けただけだ。

それでも少し身構えるだけでそれ以上の動きは無い。

スラスターを噴かして移動し始めてもである。

 

どうにも不気味だ。

 

だが、同時に好都合でもある。

 

何せこっちは一刻も早く実働部隊と接触した後、先程から何の反応も返してこないミハエルの安否を確認しなければならないのだ。

どうにもあの狂い具合には引っかかる物があるので、こちらとしては早急に合流したいのだが……果たしてそれを許してくれるかどうか……

 

 

 

 

――――――まあ、何かしてきたら対応すりゃいいだけだけどね。

 

 

ふっと頭の中に浮かんできたその言葉にそれもそうかと納得する。

どうせこれまでも『向こうが何かしてきたから対応する』のが常だったのだ。

結局いつも通りである。

こっちはこっちの目的の為に動くけど、それを邪魔してくるなら叩き落とすのも止む無し。

そういうもんなのだ、俺の行動スタンスは。

 

それがいつの間にかこっちから先に手を出そうとする様になっている。

どうにも焦り過ぎているらしい。

その理由は理解しているつもりだ。

が、だからといって焦って行動すれば、悪い結果しか産まない事など経験済みだろうに。

 

主に師匠の所為で。

 

もう一度言おう。

 

主に師匠の所為で。

 

 

 

 

 

「…アムロ?」

 

「ン……まあ、仕掛けて来ないなら無視していくさ。最優先でミハエルを探したい所だが……生憎私情でそういう事ができないのが中間管理職の辛い所でな」

 

「……」

 

ネーナが暗い顔をして黙る。

心配なのだろう。

実際に血が繋がっていないのだとしても、トリニティは確かに兄妹だったのだ。

紛れもない、本当の家族だったのだ。

その家族が、もう自分以外はたった一人だけしか居ない。

しかも、その安否は未だ不明。

 

……もしも、俺なら……きっと、仕事とか放り投げてしまうんじゃないだろうか?

 

そんな確信がある。(ただし師匠は除く)

 

それが解ったからこそ、俺はOガンダムの推力を上げて、一秒でも早く余計な仕事を終わらせる為の行動をした。

 

 

 

家族が居なくなって一人ぼっちになる人間が出るのは――――――俺の知り合いで、これ以上増やしたくは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――夢を、見ていた。

 

 

 

『―――――――ぞ』

 

 

 

――――――酷く、曖昧で、ぼやけてて――――――

 

 

『――にい!!早く――――』

 

 

 

 

『―――――――――っと行儀よ――――――――――』

 

 

 

――――――…それでも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミハエル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――幸せな、夢だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ……?」

 

気が付くと同時に抱いたのは違和感だった。

こう、体に何か刺さってるんだけど痛みがない的なそれだ。

見れば自分の胴体にコクピット内のコンソールの破片らしい物が何本か刺さっていた。

幾つかは小さく、別に何も問題はなさそうだったが、内1本だけが比較的大きい。

おそらく内蔵を貫いているのだろうなという事は理解できた。

 

「よっ…と……うぇ」

 

破片を抜き、ノーマルスーツの止血用吸水ポリマーが凝固していくのが目にするが、やはり傷は深いようだ。

一向にポリマーが凝固し切る様子がない。

これでは応急用の絆創膏を貼った所で、凝固したポリマーが上まで上がってきて最悪窒息させられる。

 

(冗談じゃない)

 

仕方無く絆創膏を貼るのは諦める。

どうせポリマーが固まりきるかどうか分からないのだ。

だったら、少しでも死に易くなるようなファクターを増やすのは遠慮したい。

 

「機体は……ダメか?」

 

ダメコン画面には左腕と胴体と頭部以外は全てロストしているという情報が映し出されている。

…モニターは兎も角として、メインのセンサーやカメラが一つも死んでいないというのは、運が良かったのか、それとも別の何かか……

 

 

(……っ!)

 

不意に目に入った光点が瞬間的に再度脳みそを沸騰させた。

ここから離れていっているそれ――――――レーダーにはハッキリと『ツヴァイ』の文字。

 

奴だ。しかも逃げ出そうとしている。

 

「野郎…!」

 

奥歯を砕けんばかりに噛み締め、残った左手で近くを漂っていたビームサーベルを引っ掴み、全速力で追いかけ始める。

凄まじいGが満身創痍と言っても過言ではない体に襲い掛かり、骨が軋む音がわかった。

血もポリマーの吸収できる量を超えたのか静かに流れ出している。

 

 

だというのに痛みが無い。

 

これは僥倖でも何でもない。

 

 

その原因だと思われる物は――――――はて、何だっただろうか。

 

機体を動かしながら、俺はボンヤリとそこら辺に関する記憶を掘り出し直していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロが戻ってくる数時間前:CBアジト

 

 

ゼッ…ゼッ…ゼッ…ゼッ…ゼッ…ゼッ………

 

 

―――クソッ!

 

 

息を吐き出すばかりで体は動かない。

―――というか、小刻みに痙攣を繰り返すだけで一向にそれが収まる気配がない。

 

 

「おいおい……」

 

俺の頭の先で緑色の髪のガキ―――にしか見えないヤツが酷く呆れたような声で俺を見下している。

…が、その顔は笑顔だ。これ以上無い程に笑顔だ。

成程こんな鬼畜な男の下で長い間鍛えられていたのだったら、アムロのあのとんでもない実力の高さも納得できるというもんだった。

文字通りに、俺達とは基礎が違ったのだ。

 

「高々休憩挟みつつ5時間連続組手と40時間ぶっ続けで“エクストリームガンダム地獄”をやらせただけじゃないか?何故そんなに消耗するんだい?まったくそんな程度で自分よりも格上の相手にサシで戦って勝ちたいとか馬鹿なの?死ぬの?別に僕は困らないけどさ」

 

「…………!…………っ……」

 

言葉責めに反論しようとしたが、反論ができない。

何せ顎の筋肉すらもう既に限界なのだ。

というか、体中の筋肉という筋肉がヤバイ。

以前まだアムロと会った初めの頃にやった延々と続くようなあの地獄がどれだけ生温く、優しさに満ち溢れた物だったのかを思い知らされている気分だ。

 

「……フン」

 

「ゴェッ!?………ゲッ………っ…!」

 

「フフン?」

 

そんな事を考えている内に腹を蹴られた。

どころかそのまま仰向けにされて喉を踏み潰される。

胃から逆流してきたゲロが流れを塞き止められ、そのまま胃まで戻る。

その流れに腹の中を掻き混ぜられるような痛みを感じるが、同時に呼吸まで封じられている分体はそっちの苦しみを優先しているのか、そこまでもんどり打つ事はなかった。

…が、このままだと本当に死ぬので何とかして腕を動かそうと躍起になる。

 

しかし結果は芳しくない。精々震えながら数cm腕が浮いただけだった。

 

 

「…ハァ…」

 

すると突然首の圧迫感が無くなる。

新鮮な空気が鼻と口を通って体の中に入ってくるのを感じる――――――

 

 

 

 

「―――そぉい!!!!」

 

「ゲガッ!?」

 

 

―――――のと同時に思いっきり頭を蹴っ飛ばされた。

反論しようと体を起こそうとするが相変わらず筋肉は痙攣を繰り返し、今度は視界も揺れてエライ事になっている。

 

 

―――殺される。

 

 

酷く当然の様にそれが頭に浮かんだ。

視界に映る、サディスティックな笑みを浮かべるソレがゆっくりと近づいてくるのを目にすれば、誰でもそう思うだろう。

 

 

 

 

 

…しかし、気紛れか何かは知らないが、そいつはそれ以上俺に攻撃をする事はなかった。

それどころか普通に手当てをし、休憩までさせてくれた。

(その時の手捌きは素人目から見ても見事だったのには複雑な気分だったが)

 

 

 

 

 

 

「で、だミハエル・トリニティ」

 

「あ?何ですかねェ?」

 

 

「ふむ。ハッキリと言わせて貰うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵討ち、諦めなさい。君じゃ無理だよ」

 

「フォンドヴァヴォゥ!?」

 

とか思ってたらこの一言だよ。

 

 

 

あまりの衝撃に呆然となっている俺をほっといて、目の前の師匠は淡々と、それでいて笑顔のまま理由をつらつら上げていく。

 

「まず、第一に実力の差は如何ともしがたいね。これは君も解っているはずだ。一日二日で身につけた付け焼刃は、本当の実力者…そうでなくても、ただ単に長くMS乗りをやっているベテランにすら通用はしないからね」

 

「…」

 

…それは俺も理解している。

何せ、それを明確に教えてくれたアムロは実地で俺達にそれを証明してみせたのだから。

その事に納得しつつも、次の師匠の言葉を待つ。

 

 

 

「二つ目にあるのは――――――というか、あまり言いたくはないけど此処が大きな理由かな――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――相手になる男―――アリー・アル・サーシェスだが―――どうも、基本的な身体能力が君よりも上っぽいんだよ。耐Gの許容限界とか諸々も、ね」

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

んが、流石にこの一言だけは聞き流す事もできず、かと言って理解も納得もできなかったが。

 

 

 

 

 

 

…そのまま数秒間沈黙が周囲を支配する。

やっとこさ絞り出せた言葉も、次の様に短い単語だけだった。

 

 

「…マジ?」

 

「マジマジ大マジ。残念ながら明確な事実だよ………っと、何処からそんな情報持ってきたかは聞かないでくれ?情報はこの世で最も強力な武器になり得るが、同時にこの世で最もその価値と力を失い易い貴重品だからね」

 

そう言われるものの、今の俺はそんな言葉など聴いてる余裕も、それを疑問に思う余裕もなかった。

 

アレが俺やネーナよりも身体能力が高く、尚且つ腕前も遥かに上?

 

…そうなれば、後は機体性能や別のファクターでカバーするしかない。

 

……が、そういった部分は彼我の戦力差――――――この場合は前述した二つだ――――――があまりにも掛離れていた場合、何の意味も持たない。

 

………詰まる所それは――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………それってよぉ……もしかしてこれ、詰んでね?」

 

 

――――――という事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 何を言っているんだい?一応まだ手はあるよ」

 

 

 

 

―――とか思ってたらこれだよ。

 

 

は?と思いながら俯かせた顔を上げる。

そこにいるのはさっきとは打って変わって――――――実に楽しそうな笑みを浮かべた、師匠の姿。

 

瞬間的に俺の本能が警鐘を鳴らした。

 

 

ヤバイ、と。

 

 

 

何かは分からないが兎に角拙い、と。

 

 

それを認知した俺の体は、休憩で幾らか回復しているとは言え、まだ全快時とは比べ物にならないような動きしかできない体を無理矢理動かしながら、弾かれた様にその場から逃げ出した。

 

…逃げ出そうと、した。

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ」

 

「グガッ!?」

 

 

が、相手はそれを予め読んでいたかの様に、体を動かそうとした瞬間俺の背中にそこそこな威力の蹴りを叩き込み。

 

「そおい!!!」

 

「うおおおおおおお!?」

 

そのまま襟首掴んで振り回した挙句地面に叩きつけると――――――

 

 

 

 

 

「そ~れぷすっとな」

 

 

「ハゥッ!?」

 

 

 

――――――何かよくわからん物を注射してきた。

 

 

瞬間、体中が熱くなる―――――というか、体全体をなんだかかなり小さい何かが這い回っているような感触がする。

熱いと感じたのは、おそらくそれらが蠢く事で肉体が錯覚したからだろう。

特にそれが顕著なのが血管とかだ。ちらと見えた手首の血管を凄い勢いで何かが動き回っているのが見えた。

 

「ぎ、ぎゃああああああああああああああああ!!!!!?????」

 

思わずそれに対する恐怖で口から声が出る。

が、それはそんな風に恐怖する俺のことなどお構いなしにとうとう頭の中にまで入ってきやがった。

 

瞬間、目の奥で火花が散り、体が勝手に動き出す。

感覚も滅茶苦茶だ。

何も含んでいないはずなのに口の中は甘かったり苦かったり塩っぱかったり。

視界はモノクロになったかと思えば突然カラフルになったり、暗くなったり明るくなったり。

 

体中の筋肉など、もう痙攣しているのか動いているのかすら解らない。

 

背筋がゾゾゾッとし、目からは涙、鼻から鼻水、口から涎を撒き散らしているのかもわからない。

 

 

 

快楽、苦痛、不快感、幸福感、恐怖、悲哀、憎悪、憤怒、絶望感。

 

そういった感情が一気に溢れ出すかの様な奇妙な感情が体を駆け巡る。

 

 

ただし、このまま行けばどうなるのか。それだけはマトモではなくなった思考でも理解できていた。

 

 

 

 

 

死ぬ。

 

 

 

殺される。

 

 

 

 

 

 

このわけのわからない存在に、おれは何もできずに殺される。

 

 

もう自分が床を転がっているのか宙に浮いているのかたっているのかそれとmmj不イグfydtvfhbjghkんjgbfCDsgんbhcgjmvbんcgfvgbんhbmvンxbfdgvhbmjbfdscgすぇdrftgyふjhんgybtrvへcせだqwせdrftgyふじkkkkkkkkk―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。まあ、こんなもんかな」

 

 

 

 

最hsyりhskvふlkshcvkbvh。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Lets起床」

 

「ウグホッ!?」

 

 

目を覚ましたら突然蹴っ飛ばされた。

何をするんだと目の前の奴を見ると、そいつは突然顔を至近距離まで近づけて、矢継ぎ早にこう宣った。

 

 

 

「さて本来ならばこんな事しなくても良いのだけれど、まあ、君のその執念に感服、或いは驚嘆したそのご褒美ということだ。理解したね?」

 

何がだ、と言いたかったが言うことができない。

なぜか口は動かず、只々ボーッとそいつの言う事を聴く事しか出来ない。

 

「まあ、反応は帰ってこないなんて理解しているからね。別に気にしないよ――――――ああ、そういえば君の脳を通してこっちを見ている『彼ら』には今君に何が入ったのかわからない人も居るだろうから教えておこうかな?―――――まあ、ぶっちゃけた話が僕のこの目の前にいるコレの身体能力その他諸々を徹底的にブチ上げるための魔法の代物だよ」

 

 

「簡単に言えば、アリー・アル・サーシェスに勝つ。コレには欠けている物が多過ぎる。となれば後は何でそれをカバーするのかが問題だ」

 

 

「…ってオイ。気を失おうとするんじゃないよミハエル・トリニティ。一応君の為に説明しているのも同義なんだからね?」

 

 

「で、その補う為の答えというものが……今注入した物だ。言ってしまえば、技量で勝てないならば徹底的に身体能力をぶち上げて、それに+αで何か追加してやれば勝てる…そういった、少々端的な物だよ」

 

 

「僕らしくない?当然だね。ハッキリ言っておくが、僕はコイツに其処まで愛着がある訳ではない。むしろどうでも良い」

 

 

「ただ、其処まで言うんだったら……という理由で、まだ試作段階のあるもののテストベッドにしてやっただけさ」

 

 

「要するに彼の勝ち負けはどうでも良いのさ。僕は今投入したソレのデータが欲しい。ただそれだけ」

 

 

「…まあ、其処までやって勝てませんでしたは流石に僕も腹が立つからね。一応の一矢報いるぐらいはできるようにお膳立て程度はしてあげるよ」

 

 

「……っと、そろそろ可愛い馬鹿弟子のご到着かな?このままだと怒鳴られてしまうね………以前の失言もあるし、仕返しが怖いからそろそろ元に戻そうかな」

 

 

 

 

 

 

「というわけでレッツゴージャスティーン。あ、その時が来るまではキチンと普段通りに生活するんだよ?良いね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在:

 

 

 

回想終了。

――――――なんというか、色々ヤバかった。

 

というか痛みとかその他諸々がないのはそのせいか。ってか、なんで後半の記憶無くしてた俺。

 

概ねぶち込まれた物が関係しているんだろうが――――――っていうか起きた時にあそこが妙にグッショリしていたのもそのせいか。

 

…なんとなくだが、意地でも勝って帰らねばならなくなってしまったような気がする。

―――主にアムロの奴にに告げ口して仕返ししてもらうという意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「損傷甚大!損傷甚大!戦闘不能!戦闘不能!」

 

「ヌ、グォ…?」

 

ハロのそんな声に意識が覚醒する。

どうも意識が少しの間ばかし飛んでいた様だ。

だが、まだ少し靄が掛かっている様に覚束無い。

 

「ッ…!」

 

そこで意識をハッキリさせる為に頭を振ろうとしたのだが、直後に体の中から鋭い痛みが走る。

…おそらくさっきの一件で何本か肋骨が折れたのだろう。

鋭い痛みということは、これは内蔵にもダメージがあるかもしれない。

皮肉な事に頭は痛みで冴えたものの、今度は骨折による嘔吐感が襲ってきた。

頭を軽く叩く事で紛らわせたが……やはりキツイな。

 

「チッ…」

 

舌打ち一つ打って、なんとか資源衛生の影にデュナメスを隠した。

周囲に敵が居ないこの状況は嬉しい物だったが、かと言ってさっき見た『アレ』が何処かで見ていないとも限らない。

バカみたいにボンヤリとしてて、それで殺されるのなんかはまっぴらゴメンだ。

…何にせよ機体の損壊状況から言っても、逸早く母艦へと戻らねばならないという事は明白だった。

 

 

――――――ただなぁ…

 

 

心の中の隅でそんな事を呟く。

というのも、あの時、あの得体の知れないアイツ(ガンダム)から逃げ出す際に見た光景が、嫌に引っかかっているのだ。

 

 

四肢は左腕以外切り飛ばされ、無傷で残っているのは胴体と頭くらい。

その脇にこれ以上無いほど解り易く浮かんでいるビームサーベル。

 

 

…実際問題、アレを見た時の妙な不安感は、未だに払拭できていない。

むしろ、更に膨れ上がっている。

 

 

(……よし。)

 

 

そこで俺はある決意をした。

傍から見てもバカバカしい――――――いや。

 

 

気が狂っているにも程がある事を決意した。

 

 

 

―――それに、あの傭兵は出来れば自分の手で引導を渡しておきたい。

その為の手も、既に俺は見つけていた。

 

「っ!……フゥ……」

 

コクピット上部に設置されている精密射撃用のスコープを痛みに耐えながら外して肩に担ぐ。

内臓怪我してる上に骨折ってる奴が何してんだと色んな方面から怒鳴られそうだが、今はそれを敢えて無視しておく。

何故ならコイツが、コイツこそが『手』の鍵になるからだ。

置いてはいけない。置いてってはいけないんだ。

 

コンソールを叩いてコクピットハッチを開ける。

相変わらず体は痛むが、それでも動き方に気を付けていれば我慢できないような痛みが襲ってくる様な事は無さそうだった。

その事に軽く安堵しつつ、移動用のバーニアを背面に背負ってから、俺は宇宙空間へと身を乗り出した。

 

「グッ…ハ、ハロ……デュナメスを、トレミー、に……できるな?命令だ……」

 

脇腹が少し傷んだ。

それに堪えつつ、相棒へと指示を送る。

 

「ロックオン、ロックオン」

 

「はは……心配すんな。生きて、帰るさ……」

 

手を伸ばして専用の台座にスッポリ嵌っている相棒の、よく撫で慣れたオレンジ色でツヤツヤの表面を改めて撫でる。

そのLEDの目が何か訴えかけるようにしている……みたいに見えるのは、きっと俺の感傷だ。

 

―――が、たまにはそういう風にセンチメンタルになるのも良いだろう。

 

そう思いながら相棒から手を離し、ハッチを蹴ってデュナメスから離れていく。

 

「太陽炉、頼むぜ……」

 

言いながら、もう一度離れていく愛機の姿を見る。

ボロボロだ。

今の俺の様にボロボロだ。

 

(……なんて無様だ)

 

そう思いながら、目を離す。

耳元で相棒が自分の名前を呼び続けている――――――そんな気がした。

 

幻聴だろう。

そう切って捨てる。

 

きっと、俺の感傷が生んだ産物だろう。

そうに違いない。

 

「……生きて帰る、か……」

 

 

 

だからこそ、俺はその感傷を振り切るために、もう聞こえないかも知れないがこの言葉を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘ついて、ごめんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟は揺るがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウルォラアアアアアアア!!!!!!!』

 

「ハハッ!テメェ!!」

 

あの3色(トリコロール)のガンダムが残った左腕でビームサーベルを構えながら突っ込んでくる。

それをこっちも残った左腕で保持したビームサーベルで受け流す。

さっきからこんな感じだ。

 

と、いうのも、大将の言うとおりに敢えて向こうの回者からの攻撃を喰らい、ボロボロになった状態で奴さんが離脱したのを見届けた後、大急ぎでビームサーベルを回収、離脱してきたら、予想よりも早い段階で目の前のコイツが追い縋って来やがったのだ。

常人だったら最短でも後5分以上は気絶しっぱなしと言う話だったんだが……どうもコイツは『何かされて』いるみたいだなぁ…そこまで俺を殺したいってか?

 

「イイねぇ…最高だ!!」

 

『ウッがァァァァ!!!!!』

 

そう叫びながら一心不乱にサーベルを叩きつけてくるその様子は、もはや獣だ。

接触回線から聞こえてくる声は明らかに無理をしている事が解るものの、それを捩じ伏せて体を動かしてくるような――――――所謂、手負いの獣を連想させる。

実に俺好みだ。

 

「ウラァ!」

 

『ギッ!』

 

弾きながら柄の尻で胴体を殴り付ける。

やはり四肢の内3本を失っているのは大きいのか、向こうもこっちもかなりバランスが崩れた。

 

が、偶にはこういうのも良い。

 

いつもとは違う状況、環境。

それは命が失われるというスリルを更に増大させ、同時に俺の心にいつもとは異なる刺激を与えてくれる。

 

向こうも手負い。こっちも手負い。

ただし互角ではなく、向こうは中身が満身創痍で、こっちはほぼ無傷。(ただまぁ、軽い打撲っぽいのはあるがな)

 

そこだけが残念だ。

逆だったならば……この戦争(勝負)をもっともっと楽しめた筈なのに。

 

 

(ま、死ぬのは流石の俺も嫌だかんな……)

 

そう思いながら追撃。

左下腕に取り付けられているビームガンで頭を狙う。

 

避けられた。

そんなもんだと思う。

元々当てるつもりなど毛頭なかったのだ。

むしろ避けてくれて嬉しい。そう思ってしまうほどだ。

 

 

下手に追加で損傷されればその分相手は弱る――――――楽しみが続かなくなるのだから。

 

 

 

(…つっても―――あ~…そろそろ限界みてーだなぁ…)

 

おそらく意識の方は兎も角として体の方が限界なのだろう。

動きに精彩が無くなってきた。

立て直すのも一苦労―――そんな動き方だ。

 

どうも痛みや疲労といった類は―――――薬か何かなのだろう―――――そういった物で誤魔化している様だが、それ以外は誤魔化しきれていないらしい。

具体的には―――やっぱ出血とかだろうな。

そうじゃなければ骨折とかか。

 

どちらにしろ、これ以上続けるのは無理だろう。

 

と、なれば――――

 

 

「―――やっぱトドメはきっちりしておかにゃあ、礼儀がなってねえよなぁ?」

 

ビームサーベルを構え、狙いを定める。

残っているビームガンで蜂の巣にしてもいいが、それは少々あんまりだろうからな。

 

意外に思われるかも知れないが、俺は手前を楽しませてくれた奴にはキッチリと敬意は示す。

それはさっきまで殺りあっていたあの狙撃型のガンダム然り、モラリアの時の『アレ』然り。

無論、目の前のコイツもそれに入る。

(とはいえ、クルジスのガキは微妙だな。やはり手の内が解りきってる奴と殺りあってもイマイチ楽しめない。今後の成長に期待ってところか)

 

…と、向こうも体制を整え切った。が、やはり鈍いねぇ。出来ればもちっと楽しませて貰いたかった所だが……まあ、手負いの獲物相手にコレ以上は贅沢かね?

 

 

「んじゃ、アバヨ。楽しかったぜ獣野郎」

 

サーベルを掲げて、振り下ろすモーションをしながら突っ込む。

向こうもサーベルを振ってるが、この間合いとあの速度じゃチト遅い。

良いトコ行って柄で此方を打ち据えるだけになるだろう。

相打ちには程遠い。

 

そう思っている間に既に相手は目の前だ。こっちの鋒は正確にガンダムのコクピット辺りを。

向こうの鋒は案の定塚が当たる位置にこっちの胴体が来ている事で空を切っている。

 

獲った。

 

確信がある。事実この状況から抜け出すには、第3者の介入が不可欠になる。

この状況下で介入できる人間なぞ、そういやしない。

そもそも介入するとしても、その手立てがそこら辺に転がっているわけが――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――っ!!!

 

 

ほぼ反射だった。

突然の警告音に、俺は直ぐ様機体を動かしその場を脱した。

ガンダムにトドメは――――――させていない。

それを認識して舌打ちするのとほぼ同時に、目の前をピンクの閃光が通り抜ける。

大出力の粒子ビーム。しかも狙いは正確だった。確実に俺だけを殺しに来ている!!

 

「チッ!何処だ!何処から!?」

 

機体の目を光らせてそこら中を見渡す。

が、映る物はデブリとガンダム。そしてさっき俺がぶっ壊した、あの狙撃型のガンダムが使っていた大型の追加兵装の残骸程度――――――

 

 

 

 

 

 

(……ん?)

 

違和感を覚えた。

追加兵装の残骸?

確かに俺はファングであの兵装の基部部分を破壊し、バラバラにした。

それは確実だ。

 

……しかし、アレは今居る宙域から少し離れた所での話だ。

流れてきたとは言っても、こんな都合良く、しかもこっちに向けて暴発なんぞする訳が無い。

 

――――――だと、すれば?

 

 

機体のカメラを望遠モードにして、その残骸に注目する。

なにか、妙だ。

野性的な自分の勘に従い、その残骸を目を皿の様にして見る。

 

 

 

 

…すると、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ハハッ…マジかよ………」

 

 

―――居た。

残骸の上に立ち、狙撃銃のような形の特徴的なコントローラと残骸をコードで接続して、

 

 

 

「……まあ、邪魔してくれたのはその根性に免じて許してやるよ」

 

 

緑色のノーマルスーツを着ている人影が、

 

 

「…だがな!!」

 

 

殺意を隠そうともせずにこっちを狙っていやがった!!

 

 

 

 

「そっからどうするつもりだ!?ええ!?同じ穴の狢さんよォォォ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーし、おしおし……やっぱコッチに来やがったな」

 

 

その様子を見ながら、俺は自嘲すると同時に頬を緩めた。

案の定奴を葬るための『手』――――――GNアームズの残骸はデュナメスから程近い所に浮かんでいた。

しかも中に入っている圧縮粒子は丁度2発まで打てるというだけの量というオマケ付きだ。

どうやら此処に至って漸く神様が何かサービスしてくれたらしい。

まあ、元々艦隊の旗艦をぶっ潰す為の粒子チャージ完了直後に壊されたのだ。

こういう偶然があっても可笑しくはない。

 

システムチェック用の接続ラインを用いてスコープシステムを砲に直結するという、突貫作業も良いとこの状態だったが、思いの外不具合はなく、絶好調だった。

作業自体もものの数分で終わった事を見る限り、どうも緊急時にはこうやって使用する事も想定されていたようだ。

……とはいえ、想定されていた“だけ”で、実際に使う気なんぞ無かったんだろうが。

 

(…まあ、いいさ)

 

そう心の中で自己完結してから、俺はスコープに映るツヴァイに目を移す。

左腕以外に四肢はないが、それ以外に大きな損傷は認められない。

つまりはさっきのあの化物と奴はグルだったということなのだろう。

…どうでも良いか。

 

「……」

 

狙いを合わせる。

一直線にこっちに向かってきている分、ロックするのは容易だ。

だが、外せば終わる。相打ちすらできずに、終わる。

 

「…はは…」

 

思わず声が漏れた。

緊張から来る物ではなかった。

ただただ、自分が滑稽でバカバカしくて――――――そこからでた、自嘲だった。

 

「何、やってんだろな。俺は……」

 

 

たった一人で、こんな、味気も何もない、殺風景で、圧倒的な場所で。

 

だが、やるしか無いのだ。

そうでなければ…俺は………

 

 

「……先には進めない?」

 

バカが。そんな訳あるか。

こんなくだらねえ復讐なんぞやらなくても、人は前に進めるんだ。

それをそうやらないのは、俺がまだガキだからだ。くだらねえ、自己満足の為に自分の命を掛金にして、人を一人殺そうとしている。

家族の敵を討つ、なんて、大義名分に酔っている。

 

そんな自分が、酷く矮小だと実感した。

 

 

「……それでも、よ」

 

ゆっくりとトリガーを引き絞る。

そう、それでもやらなきゃ成らねぇんだ。

自己満足とかそういう問題じゃなく、な。

 

そう考える脳裏に、過去の光景が流れていく。

 

幸せだった、家族と一緒に生活していた子供の頃。

 

そんな家族が双子の弟と自分を置き去りにして黄泉路へと旅立っていった、あの自爆テロ。

 

無数に並ぶ黒い袋。

 

動かない家族の遺体。

 

五体満足じゃない遺体。

 

無力感に苛まれていた自分。

 

(…ああ、そういう事か)

 

 

そこまで思い出して、自分のやってる事が一体何であるのかを俺は理解した。

 

何の事はない。

ただの――――――ケジメだ。

俺が、世界と向き合う為の――――――過去の整理を付ける為の、ケジメだ。

 

 

世界があの時のテロを過去の物として整理したように。

俺自身も、あの過去に整理を付けなきゃならない。

 

 

あの時の、無力で、何もできず、誰も救えず、

 

只々呆然としていた、あの頃の自分自身に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――ケリを付けなきゃあならない!!)

 

 

 

 

 

「だからよぉ――――――――!!」

 

 

 

 

 

 

ツヴァイがビームガンを構えた。

撃ってくる。

 

(上等!!)

 

早打ち勝負にも似たこの状況。

呼吸が一瞬止まる。

 

 

 

 

 

―――だが!

 

 

(っ!!)

 

 

突然ツヴァイに何かが組み付いた。

―――ザフキエルだ。

背後から残った左腕と胴体で必死に組み付いている。

その結果―――ツヴァイの動きが、鈍った。

 

絶好のチャンス―――だが、そのまま打てば確実にザフキエルも吹き飛ぶ!!

 

(―――どうする!?)

 

一瞬の逡巡。

だがこれを逃せば確実に次はない。

―――しかし、打てば確実にあのパイロット―――ザフキエルの奴も死ぬ!!

 

 

 

 

…その時、不意にザフキエルの翡翠色の目と俺の目が合った。

その瞬間、俺は全てを理解する。

頭ではなく、心で――――――アイツの覚悟を理解した。

 

 

故に――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――狙い撃つぜェェェェェェ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に気付いた時には、俺はGNアームズの砲から投げ出されていた。

見れば、その中心部分にビーム粒子独特の弾痕がある。

 

目を動かせば――――――在った。

 

 

スローネの残骸だ。胴体部分を丸事消失しているようだ。

 

しかし奇妙なことに、何処にもザフキエルの物と思わしき残骸が見当たらない。

あの距離、あのタイミングでは避けれているとは思えない。

……つまり、跡形も残らず、消し飛んだという事なのだろう。

 

 

(……すまん)

 

目を閉じ、謝罪を述べる。

と、同時に俺は吐血した。

バイザーの下半分が鮮血で染まる。

……コイツは内蔵をやられてるな。どうやら投げ出された時に残骸でも当たったのだろう。

体も、自由に動かないと見るあたり、どうやら本気で限界を超えているようだ。

 

(…ん?)

 

ふと、宇宙空間にキラキラと光る物を見つける。

星の光?……いや、違う。GN粒子の残滓だ。

それが周囲に漂って、何もない宇宙に僅かな彩を加えている。

まるで雪みたいだ。

俺の故郷、北アイルランドの冬は厳しく、その時期になると豪雪によって交通機関が麻痺することもザラだ。

それでも、子供の頃の俺達にとっては遊びに新しい要素を与えてくれる嬉しい存在でもあったし、同時に家族で食卓を囲み、美味しい料理に舌づつみを打つ、とある時期の到来を知らせる待ち遠しい存在でもあった。

 

瞼の裏に、その光景が思い出される。

それはクリスマスだったか―――それとも新年を祝うニューイヤーパーティーだったか?

ライルと一緒にケーキやチキン、ローストビーフやサラダを取り合う、そんな平和な時間も、もう過去の事になってしまった

 

そんな記憶に、笑顔の父、母、そして妹。

今は亡き、愛する家族の姿が映る。

記憶にある、十年前と変わらぬ見た目だった。

思えば当時の両親に歳は近づき、妹とは随分離れている。

思わずそう想うと涙が出た。

 

 

「…わかってるさ……ああ、そうだ………わかってたんだ………」

 

時間は戻らない。例え復讐を果たそうが何をしようが、死人は元には戻らない。

 

「こんな事しても……何も変わらないんだ……そんな事、とっくに解ってたんだ……」

 

過去は変わらず、取り戻したい物を取り戻す事は出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――でも。

 

 

――――――それでも。

 

 

 

「―――――これからの、あいつらの明日は――――――ライルの生きる、未来は―――」

 

 

双子の弟―――唯一の肉親の名を呟いた。

あいつは、俺がこんな所で、こんな事をしているなんて知らない。

今も、AEUの大手商社で、退屈ながらも穏やかで平和で――――尊い、普通の生活をしているはずだ。

そんなライルの未来に影を差すような物を残したくはなかった。

あいつは、俺とは違う。

俺みたいに後戻りの出来ない所で四苦八苦しているような、愚かな事はしない。

アイツはどう思っていたかは知らないが―――――俺からしてみれば、アイツの生きる道はとても眩しかった。

復讐に囚われず、自分の道をキチンと歩めているアイツが――――おれは、酷く羨ましかった。

 

―――と、そう思う俺の視界の隅に、緑色の閃光が映る。

オリジナル太陽炉の光―――――青と白の機体―――――あのきかん坊の乗るエクシアだ。

こちらに近づいてくる。

 

口元が緩んだ。にっと笑みを浮かべる。

そしてこう言ってやる。

 

 

「―――刹那――――――答えは――――――出たか?」

 

 

―――いや、聞かなくていい。

答えが出ても出なくとも、いい。

 

刹那。お前気付いてるか。

お前は今、昔の自分から新しい自分へと変わろうとしてるんだ。

ガンダムで―――いや。

 

自分の力で、な。

 

 

反面俺はダメな奴だ。

あの、家族の死んだ十年前から何一つ、俺の時間は進んじゃいなかった。

世界を変えようとしているのに、自分が変わろうとしてないんだぜ?滑稽だろ?

 

 

「……だから、お前はそのまま変わっていけ」

 

大きくなって、過去の自分なんか置き去りにして行っちまえ。

 

「…変われなかった…俺の、代わりに、な」

 

変なこと押し付けるようで申し訳ないけど。

 

 

 

その時、何故か分からないがその横にあるもの―――青い球体が―――――地球が、目に止まった。

 

命が生まれ、生き、そして死に、また新たな命が生まれる星。

 

生まれ育ったはずのその故郷は、酷く遠い所にあったが―――だが、掌に収まりそうなほどに小さかった。

 

だが、その星が放つ輝きは霞まない。

 

それがきっと、命が放つエネルギーなんだろうな、とぼんやり思う。

 

 

 

だからこそ、こう言わずにはいられなかった。

変われなかったからこそ、その世界を見続けてきたからこそ――――言わずには、いられなかった。

 

 

刹那やティエリア、ユリにアレルヤ、フェルトにスメラギにラッセにクリスにリヒティにおやっさんにモレノ先生に―――――あの不審者野郎も含めて、皆が立ち向かおうとしているからこそ、言わなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よう、お前ら……」

 

 

 

 

ゆっくりと、ギリギリ動く左手で拳銃の形を作る。

 

 

 

 

 

「満足か…………こんな、世界で………」

 

 

 

 

下らない争いが続き、あまつさえ自分達の様な―――ソレスタルビーイングなんてものが出てきてしまう世界で―――

 

 

 

 

「俺は――――――」

 

 

 

 

 

狙いを、定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だね」

 

 

そして、指を跳ね上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その言葉、直接言ってあげれば如何ですかね?』

 

 

 

 

瞬間、体を何か大きな物に抱えられた。

なんだと思うと、直後何もなかった空間に、そいつが現れる。

 

 

 

緑色の目。

頭からスッポリ被った外套――――――見覚えが、あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オイ。折角人が格好良く決めたのに邪魔するなよ」

 

『カッコ付けて死のうとしないで下さいね。あーあーボロボロでやんの』

 

「うるせぇんだよ」

 

そう言いながら、俺は軽く笑った。

 

まあ、こうやって生き残るのは何とも腑に落ちない…というか、何と言うかアレだが、まあ、仕方ないな、と諦める。

 

 

 

『…んじゃ、プトレマイオスまでお送りしますよ。残念ながらコクピットは満員なのでシートベルト無しの手の平でご容赦下さいね。あと、あまり睡眠も無しの方向で』

 

「わかったわかった……んじゃ、安全運転で頼むぜ」

 

『えんまーい』

 

おい、どう言う意味だそれ、と苦笑しながら上を見る。

エクシアが近づいていた。

 

地球も―――相変わらず、綺麗なままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ネーナ」

 

「…何?」

 

「………すまん。間に合わんかった」

 

「……ううん。いい。いいよ。アムロが悪いわけじゃないし……」

 

「……そこは、少し罵ってくれた方が嬉しかった、かな」

 

「じゃあ、絶対に罵ってあげない」

 

「…すまん」

 

 

……結局、こうなった、か。

プトレマイオスへの連絡もそこそこに駆け足の百倍くらいの速度ですっ飛んできたが――――――――結局、結果はこれだった、と。

 

 

「……相棒」

 

「……高エネルギー反応確認済ミ。照合完了。ザフキエルト一致」

 

「…そう、か…………帰るぞ」

 

「了解」

 

 

そう言いながら、ロックオンから言われたように、安全運転を心がけてプトレマイオスへと向かった。

ネーナの顔は見えなかったが……泣いているというのは、メットの中に浮かぶ水滴で分かった。

対照的に、涙どころか何も感じない自分が、ひどく腹立たしかった。

 

 

 

 

 

 

「………ごめん、なさい」

 

 

 

最後にボソッとそう呟いて、俺はその場を後にした。

 

……ひどく胸が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの数年後。俺はこの時悲しんだことを全身全霊を持って後悔することになるのだが――――――それはまた、別の話である。

 




というわけで如何でしたでしょうか。
どうも、雑炊です。

大叔母が死んだり業務内容が変わったり現場が変わったり書類作業やったりと、かなりドタバタしていましたが、やっと書き上げられました。
とりあえずロックオン兄貴は生存とのことだったので、今後は生存ルートで話を進めていきます。
……とは言っても、おそらく戦線復帰は絶望的でしょう。
以降は完全に裏方に徹して頂きます。

というわけで解説。



生体CPU
→今回最も悩んだ部分です。結局先行公開と同じような感じにして出させていただきました。
この人の正体は……まあ、大体お判りになりますかね?
なお、今回の一件で師匠は完全にこの手の手法は止める事になりそうです。

ミハエルの修行
→アムロはこれの数倍酷い物がデフォ。ついて行けてるのでこうならないだけです。
で、途中でミハエルがぶち込まれたものは………まあ、これも予想が付くかと。
それでも圧倒するほど、この世界の焼け野原ひろしは強いです。ガチで。


ミハエルくんはどうなったのか?

→一応書けたのですが、お話としての文量が少ないので、そのうち番外編か、外伝か―――――或いは活動報告の部分に小さくひっそりと上げるかも知れません。
真面目に分量が少ないので。
少なくとも結果だけ言うと、彼もまた生きています。
最後のアムロのセリフがヒントですね。
あと以前取ったアンケートもそうです。


という感じですかね?
同時にちょっと宣伝を。
現在アンケを2種類ほど活動報告の方でしておりますのでご興味のある方は是非ご覧下さい。
内容はこれまでのラフ的なアレの処遇と、全回初出のやつの処遇です。


……え?記念小説?………あ~…実はまだオチが定まってないので、しばらくお待ちくださ、い。


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閑話その2というか本当の意味で本編には全く影響のない話Part2
2013年大晦日特別編……だと……?


「…え?あれ?もうカメラ回ってんの?マジかよ……」

「ちょ、ちょっと待って。もうちょっと待って。この寒空に着物一丁は寒すぎっから…」



「あ、え、もうダメ?………分かった分かった分かりましたよ!うっしやったるでぇぇぇ!!!」


「「ガン、マイ、ラ、ジ、オ」」

 

 

 

「「in 大晦日ー」」

 

 

 

 

 

 

「というわけで始まってしまいましたガンマイラジオ特別編。司会進行は私、主人公のアムロ・レイと」

 

どうも。作者の雑炊が師匠代理としてお送りいたします。

 

 

 

 

「というわけで作者」

 

なんだ主人公。

 

 

 

 

「……寒いから早く家の中入ろうぜ」っ気温5度

 

同感。

 

 

 

 

 

「……はぁ………というわけでお汁粉食みつつおこたから今回はお送りします。というわけで今回やる事なんだけど……」

 

まあ、なんというか、ねぇ……とりあえず、こいつを見てくれ。

 

「ん?どらどら………は?」

 

 

 

 

 

っ『ガンマイお気に入り登録読者人数600人突破』という文字が書かれた画用紙

 

 

 

 

「……マジで?」

 

マジでまじで。というわけで今回のゲストは影の薄いヒロインこと、ユリ・花園にお越し頂いております。

 

 

「……どうも、“影の薄い”ヒロインこと、ユリ・花園です……」

 

………あの、なんか、ごめん。

 

「お前そこで謝っちゃダメだろ。色々と駄目だろ」

 

 

 

 

 

 

「よし、気を取り直していこう。…と、いうわけでさっきの画用紙に書かれたみたいな事態が起こってしまったんだが……」

 

「うん……まあ…うん……」

 

 

「「……どんな気持ち?作者」」

 

 

ぶっちゃけ予想外過ぎて呆然としてる。

 

 

「「だろうね(な)」」

 

 

 

 

 

 

「で、んなわけだから今回記念のお話として&ちょうどいいし大晦日特別編として次から始まるものが書かれてるわけだが……俺らこのエセラジオコーナーで何すんの、今回?」

 

「というか何故私が……?師匠とか言う人はどうした?」

 

ん。なんか別の先生の書いている小説で小物化してたり、第2次スパロボZで小物化してたりと色々と不満があったみたいだから、今次元の壁をどうにか越えようと画策中。

 

「いや、止めなくて良いのか?」

 

アレは神だろうと止められないという存在になってるから、無理。

 

「……一切否定できん…」「そうなのか!?」

 

 

 

 

「で、今回一体何をするのかといえば……」

 

「…まさか対談、か?」

 

いや、それは1期編終わってから。

今回二人にはちょっとした仕事をして頂きたい。

 

「「…仕事?」」

 

うん。具体的には其処に居るフルメタルな人を止めて頂きたい。

 

 

 

??・?・????「………」(GNソードⅤらしきものを持って仁王立ちしております

 

「………え?」

 

「え、ちょ、ま、え?なんでいんの?」

 

まあ、それは次に示すお話に原因があってだな……では、スタート。

 

 

「ちょ、ちょ…「目標を駆逐する!!!」って、うわぁァァァ!!!こっち来たァァァァ!!??」

 

「仕方ない!対応するぞ、アムロ!!」

 

「無理言うなぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突破記念及び大晦日番外編

 

『アムロとヒロインその1の話』

 

 

 

 

 

 

 

「アムロ」

 

「んー?」

 

 

 

「デートしてくれ」

 

 

視界の隅で姉が茶を吹き、ユリが小指をタンスにぶつけ、相棒が壁ドンを行い、フェルトが信じられない様な物を見る目でこっちを見ているが、仕方ないと思う。

…仕方ないんだが…………

 

 

 

 

 

「……刹那」

 

「なんだ?私とデートは嫌か?ぶっちゃけ私は顔もスタイルもそこそこ良いぞ。それとも何か?あなたは特殊嗜好持ちだとでも言うか?」

 

「………その手のチラシに写ってるものが食いたいだけだろお前」

 

「当然だ。ハッキリ言ってそれ以外に理由はない。が、あなたも私みたいな美少女とデートできるのだから、そこまで不満はないだろう?」

 

「……お前って食物が絡むと途端に残念になるよな…」

 

 

そう言って頭を抱えた俺は決して悪くはないと思う。

 

 

 

 

 

非リアになんて優しくないイベントやってんだアイス屋というツッコミ入れつつ情報閲覧後準備して二人で出かける。

ぶっちゃけるとそこは何とビックリ俺の家からかなり離れた所にあった。

……とは言っても、実質車で1時間、電車で30分ちょいだったので、そこまでではなかったんだが。

 

「……で?」

 

「うむ。ここだ」

 

とか言って彼女が指差した先にあったのは、駅から程近い…というか真っ隣の建物の入口横にあったアイス屋である。

彼女が持っているチラシに載っている名前と比較しても、ココがそうであると言うのが分かった。

 

…しかし……

 

 

「…結構、並んでますねお嬢様…」

 

「問題は無い。別に1日限定何食という物は決められていない」

 

そういう彼女は呆れている俺の手を掴んで列へと向かっていく。

ああ、やっぱり並ぶのね、という俺の心の声など確実に聞こえていないどころか、解ろうともしてないんだろうな、という勢いでズンズン進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「何せ、“カップル限定”のアイスだからな。目当ては」

 

手を引く刹那のその言葉が、やけに耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端はスメラギ・李・ノリエガのこの一言だ。

 

 

『刹那、ちょっと聞きたいのだけれど…』

 

「どうした?」

 

『あなたの面倒を見てくれている、あの“アムロ”って子…アナタと同い年なのよね?』

 

「…そうらしいが…」

 

 

 

『ぶっちゃけ、アナタ彼の事をどう思ってるの?』

 

 

 

「………は?」

 

 

ここで思わず唖然としてしまった私は一切悪くない。

 

 

 

 

どうも話を聞く限りでは、先日些細な話題から私が彼に対して特別な感情を抱いているのではないか、という疑問が噴出しトレミー内で盛大な議論が交わされたらしい。

しかし、何時まで経っても納得できるような答えがでなかったので、結局ロックオン・ストラトスの鶴の一声で私に直接訊くことになったらしい。

(何故言い出しっぺの彼が質問しに来なかったのかというと、スメラギ曰く「彼は男だから」だそうだ。……意味が分からん。)

 

……で、まあそこら辺は置いといて……だ。

 

「……アムロの事をどう思っているか、か」

 

『そうそう。ほら、アナタ彼の事だけは大体名前呼びじゃない?ちょっと位はそういう気持ちあるんでしょ?』

 

「ム」

 

…言われてみればそうかもしれない。

最近は彼をロックオン・ストラトスやティエリア・アーデのように、名前と苗字を一緒に呼んだ事が無い。

ユリやフェルト、クリスと同じような感じだ。(とはいえ。三人を名前呼び出来る様になったのは知り合ってからかなり経ってからだが)

 

そう考えると不思議である。

何故自分はあの男を短期間で名前呼びしているのか、と。

 

…とはいえ、気持ちがあるわけではないが思う所はあるのだ。

 

 

あの男、何故か何と無くだけとはいえ、嘗ての私が『大好きだった人』に“声と顔の形だけ”は似ているのだ。

 

…無論、そこ以外はあまり似ていない。

肌は私と同じように浅黒かったはずだし、髪はもっと長かった。

性格もあそこまでフワフワしていない。

 

……何よりも違うのは、目だ。

 

目つきと言う意味ではない。

正真正銘“目”が違うのだ。

 

エイジの目は……私と同じ赤色だ。

彼の様に黒くは、無い。

 

だからこそ、初対面のあの時に一瞬で彼がエイジではないという事が解ったのだ。

そもそも、エイジはあんな無気力だったり、情けなかったりする声を出したりはしない。

 

 

 

……そう、解っている筈なのに…

 

 

(………未練、か…)

 

己の中で、私はそう当たりを付けた。

 

目の色などカラーコンタクトで変えられる。

髪は切ればいい。

肌の色など私の見間違い、或いはただ単に薄汚れていただけで、本当はもっと明るい色だったかもしれない。

性格だって演技なり何なりで幾らでも誤魔化せる。

 

そう思って……いや。

“思い込んで”アムロを見れば、彼は本当にエイジだと思える。

 

 

…だが………

 

 

―――それは、駄目だ。

 

 

心の中の冷静な部分が、そう告げる。

そうなのだ。

それをやってしまえば、私は歪んでしまう。

歪んだ思いを、彼に向けてしまう。

 

他人(アムロ)大好きだった人(エイジ)として見てしまう。

 

それは、今を生きているアムロの人生を侮辱する事だ。

自己満足の為だけに他人の生を蔑ろにする行為だ。

 

そんな事は、したくないと言うのが本音だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――だが、心の片隅では『それでも』と言い続ける自分がいる。

 

それは、私が未だ子供で、『いい女』ではないという証明みたいな物なのだろう。

 

 

 

「……」

 

『…どうなの?』

 

…それを自覚しているからこそ、

 

「……そう、かもしれない」

 

私は、スメラギ・李・ノリエガの問いに対してこう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

返して、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………』

 

「……ど、どう、した?」

 

無言の彼女が、怖い。

なんと言うか、こう、良からぬ事が這い寄って来ているような気がする。

アムロ風に言うならば、「こいつはくせぇーッ!!面倒事の臭いがプンプンするぜぇーっ!!!!」か?

 

……ちがうか。

 

 

 

 

 

 

――――――が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…い………』

 

「い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――イィィィィィィヤッホォォォォォォォウゥ!!!!!!!!!!!!!!!酒の肴ゲットォォォォぉ!!!!トレミー大人組全員私の部屋に集合!!!!緊急ミッションよ!!』

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 

…面倒事、という表現は一切間違っていなかったようだ。たぶん。

 

そしてスメラギ・李・ノリエガの召集の直後約2秒後におそらくトレミーの大人全員(というかティエリア以外)が一斉に入ってきた。

…ということは、彼ら全員どうやらドアの前で出歯亀していたらしい。

驚きで呆然となりながら、最後にティエリアが仏頂面で入ってきた辺り、私に味方は居ないと悟ってしまった。

 

…多分、今なら神だって殺せるような気がした。

 

 

 

 

 

 

以降の事は言いたくない。というか思い出したくない。

 

少なくとも言える事は、今回の『デート』は彼らの無用な気遣い(具体的には『末っ子(この表現にはフェルトが居るので少々語弊があるが)の恋を成就させよう』というなにいってんだかちょっとわからんぞというもの)の産物だということ。

 

…そして、それを盤石にする為に、多分いつもよりも数倍気合を入れて練られたのであろうミッションプランに従ってこれを遂行することが私の今回の任務だということ。

 

 

 

…なのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やってんの師匠」

 

「バイト」

 

「ちょっと何言ってるかわからないですね」

 

「チッ解ったよ……はんせいしてまーす!!」

 

「何も責めていないのに反省された。この複雑な気持ちは何処へやったら良い」

 

「ゴミ箱にぽいすればいいと思う件について」

 

「「取り敢えず目当てのアイス

 

さっさと出せ……ん?」

お待ちどう……ん?」

 

「…………ハァ……」

 

 

…どしょっぱなから、ミッションプランが通用しないこの現状に、私は人知れず溜息を吐いた。

 

とりあえずそこのバカ師弟自重しる。

 

 

 

 

 

 

 

「まさかのデートプランが筒抜けだった件について」

 

「僕欺こうとするとかいい度胸してるよね君の保護者達は」

 

「んなこたいいから俺にもアイス寄越せや刹那。なんでお前抱えとるん。もう半分無いじゃねぇかよ」

 

「知らん」「オイ」

 

 

言いながら私はアイスを食べ続ける。

一応ミッションプランに従って、この後は近くのショッピングモールに行く事になっているのだが、如何せん予想外にも『師匠』が着いてきてしまうという珍事に陥った。

これでは最早デートではなく、ただの友達との遊びだ。そういう事に余り慣れていない私にとっては新鮮な感じがして良いのだが、これではミッションの遂行に支障をきたしてしまう。

 

…のだが。

 

「おっしゃゲーセン行くべー」

 

「フム…仮○ラ○ダ○のデフォルメフィギュアの新弾発売は今日だったかな……?」

 

「あれ、そうだっけ?今回何?」

 

「ちょっと待ちたまえ………お、鎧○だ。永遠のフルメモリもあるね」

 

「オケ、全狩り?」「当然」「資金は?」「バッチシ」「おし、刹那も手伝え………刹那?」

 

「………あ、ああ。わかった」

 

 

………一応は、楽しいから良しとしよう。

 

 

 

 

 

……で、結果はといえば――――――

 

 

 

「ゲシュテルベン改とエグゼクスバインのフルアクションフィギュア(1/144スケ)とか俺らの財布を殺しに掛かってるとしか思えないんだけど」

 

「まさかのクレーンゲームでヴェーダ使うとか思わなかったよ……日本のクレーンゲーム怖い」

 

「……いや、目的のフィギュア全部それぞれ1プレイで回収した後にその言葉は許されないと思う『紐引っ張って落とすのは慣れた人間にとてはボーナスゲームの一種だから』……そうか」

 

 

 

――――――傍目から見たら大勝利なのだが、獲得商品抱えながらウンウン唸って悶絶するバカが2名程出現してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

そのまま昼食である。

因みにトレミーの仲間が店を選んでくれたのだが、アムロ曰く

 

「高い」

 

との事なので、結局フードコートで食べる事になった。

ちゃんぽんが実に美味い。

 

因みにアムロは

 

「カプリのスパ専門店発見」

 

「マジでかGJ」

 

という師匠との会話の直後にそちらへとすっ飛んでいき、トマトと大蒜のスパゲッティを堪能している。

というか師弟揃って思考も動きもそっくりだな貴方達は。

 

「「そうでもない」」

 

褒めてない。というか地の文を読まないでほしい。

 

「う~ん10点。そこは華麗にスルーするというのが大人の対応というものだよ。刹那・F・セイエイ」

 

「余計なこと言うな師匠。そこが可愛いんだろうが………ちょ、ゴメン。フォーク奪い取って投擲のポーズは止めて刹那。謝るから」

 

「……」

 

…別に照れ隠しじゃないぞ?ただ単に、馬鹿にされたような気がするからこうしているだけだ。

べ、別に顔が赤くなっているとかそういうのもないんだからな!!

 

 

「仲良きことは良き事かな……あ、ごめんなさい。犠牲は馬鹿弟子一人で結構ですので僕のフォークを返してください」

 

「…………」

 

…本当に、失礼な連中だと心の底から思った。

 

 

 

「では僕はそろそろ帰らせて貰うとしよう」

 

「荷物は」「持った」

 

「夕飯は」「肉を所望」

 

「……味噌カツ?」「何故そんな事を思い浮かべたのかは不明だが取り敢えずGJ」

 

「オケ。材料買って帰るわ」「では、アドゥー!!!!」

 

 

そう言って声にエコーを掛けながら遠ざかっていく師匠という名のUMA(アムロ談)の後ろ姿を見ながら、なんだかなぁ、と黄昏てしまう。

どうも今の会話の内容からすると………………アレは今日の夕飯を我が家で食べていくっぽいし。

一方のアムロはアムロで既に買い物の用意を始めているし。

…というか、元々デートをする為だけに来たのにどうしてこうなった。

ミッションプランで達成できている物は、最初のアイスだけだ。

……美味しかったからそこはそこで良いのだが。

 

「…さて刹那。買い出しに行くぞ。ぶっちゃけここら辺のスーパーって色々有るっぽいから中々楽しめそうだ」

 

「ん、ああ。分かった…」

 

「…どうした?」

 

「いや……」

 

まあ、相手が彼という段階でミッションプランなど付け焼刃も同然…そういう認識だったのだ。

最初のあれだけでも達成しているのは、むしろ僥倖と言うべきだろう。

…そう、だと思う。

 

 

 

 

プトレマイオス ブリーフィングルーム

 

 

「フフフフフフフフ………甘い、甘すぎるわね刹那……こんな事最初から織り込み済みなのよ…?」

 

「スメラギさん。笑い方怖いですよ」

 

プトレマイオスのブリーフィングルームには今何とも言えない雰囲気に包まれていた。

…というのも、その原因は今変な笑い方をしていたミス・スメラギにある。

……いやね、実はというか何と言うか……以前のユリの時もそうだったが、何故かこういったデートイベントの際はその映像がヴェーダ経由のリアルタイムでこっちに流れてきてんだよ。

…因みに実行犯は知らん。大方クリスか誰かがハックしたんだろうが……ヤブヘビする気はないのであえてそこらへんスルーしている。

 

まあそれは兎も角として。

 

で、今回もウチの可愛い末っ子マイスターの刹那があのアジトに潜伏しているエージェント―――アムロ・レイとデートするということでプラン練ってアイツに渡して、そんで全員で前回と同じような事が起きるんじゃないかと思ってここで待機してたら――――――案の定、デートの映像が映し出されたのだ。

―――映し出されたはず、だったんだがなぁ…

 

(まさかの真っ黒キャベツ太郎が出てきやがるとは…)

 

……ここまで見てくれた読者の面々ならば分かるだろうが、要するにアレである。

当初予定されていたデートプランは最初の一項目以降全ておジャンになり、最終的には男友達の遊びに付いてきた女友達みたいな結果になっちまった。

 

無論、こんな事予測されてはいない訳だ。

 

一緒にプランを練っていたメンバーの一人である俺だから、その事はよーく解る。

 

…詰まる所、ミス・スメラギのさっきの一言は完全なる嘘。負け惜しみも良いトコなのだ。

 

ま、彼女の本来の分野はあくまでも『戦術』。

優れた天気予報士が同じ予報でも『戦術予報』が出来ない様に、優れた戦術予報士である彼女でも人の色恋沙汰の予報は無理だったという事、だ。

…とはいえ、彼女も色々な意味で経験豊富な『女』なので、ぶっちゃけ今回練られたプランがあのキャベツの妨害がなく、全て予定通りに進んでいたならば……おそらく、成功していた、か?

 

(……言い切れないのがキツイな…そもそも此処に居るメンバー全員に言える事だが、あの『アムロ』とマトモに話したことがある奴って俺を含めても……って、会話らしい会話したのって俺一人しかいねーじゃねぇか…)

 

致命的だった。

ここまで俺のこの独白を聞いている画面のそちら側にいる面々にはお気づきになっている方も多いと思うが、今回のデートプラン。実はアムロとマトモに会話した事のある人間は俺以外誰も参加せずに練られているのだ。

しかも俺も会話したのは以前の親睦会のあの一件以降一度も無い。

詰まる所、『アムロ』という人物についての情報は、1割有るかどうかの状態だったのだ。

 

(……そういやぁ、アイツ昼飯に選んだレストランの値段見た途端、『高い』って拒否ってたよな……?)

 

「…うわぁ……」

 

 

人知れず、俺は頭を抱えてそんな声を漏らした。

という事は今回のデートプラン。例えキャベ(ryの妨害がなかったとしても、ある程度の確率でデートに誘われた彼によって崩壊する危険性を孕んでいた事になる。

つまり、スタートダッシュの時点から色々とやばかったのだ。

最悪、二人の関係悪化という結果が生まれていたかも知れない。

 

―――そう考えると、本当に、本当に、本っっっっっっっっっっっ当に癪に障るが、あのキャ(ryのおかげで今回はそういった難を逃れた結果になったってわけだ。

 

 

「…ままならないねぇ…」

 

「? どうした、ロックオン・ストラトス」

 

「…いや…お子様なお前にゃまだちょっと解らない、大人の悩みって奴、さ」

 

「…何だそれは。何となくカチンと来たぞ」

 

「おっ…何だ、お前そんな言葉使いもできたのか」

 

「以前の親睦会でアムロ・レイから自分の感情を解り易く表現する為の手法として教えて貰ったのだ。今までは使うタイミングが無かっただけだ」

 

「……そうかい」

 

 

…何と言うか、あの(ry。本っ当に弟子の方だけは俺らに良い刺激を与えてくれてるみたいだな。

あくまでも『弟子の方』、はな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何やら微妙な事を言われた気がする」

 

突然そう言ってアムロが顔を顰めた。

不思議に思ったが…まあ、そこまで気にする事ではないのだろう。

直ぐに表情を元に戻して買い物に戻ったことからもそれは伺える。

 

 

私達はあの後、すぐ近くのスーパーに夕飯の食材選びに足を運んでいた。

……とは言っても、既に目的の物は籠に詰め込み終わっているのだが。

 

今は「ついでに何か買っていこう」というアムロの提案に乗って、何か無いかと二人で物色している。

特に目的もなしにブラブラしているだけに近いな。

 

 

…何?元々そんなもんだった、だと?

……まあ、そこら辺は否定しきれないな。

 

「…お」

 

まあそんな感じにブラブラしながら、丁度青果売り場に通りかかった時だった。

突然アムロが立ち止まる。

何かと思ってみてみれば、その目の先にあるのは――――――緑色の、網目模様の丸い物体――――――

 

「回収」「待て待て待て」

 

―――メロンだった。

 

 

「何故に?」

 

「いや、何故にって……」

 

「メロンですよ?」

 

「いや、メロンだが…」

 

「メロンなんですよ?」

 

「いや、それは分かっているんだが…」

 

「メロン何でございますよ?」

 

「いや、だから…」

 

「メロン」

 

 

「……わかった。わかった……買え」「うん」

 

 

 

……無理だった……あんな本気且つ澱んでも澄み切ってもいない、何だか良く解らない感情を宿した目に逆らうのは……

 

 

 

 

そんな感じで帰りだな。

…………中々大量に買い物をしてしまった。両腕に持ち切れないくらいに……

 

……そう、持ち切れないはずだったんだ。

 

 

 

「いやーバッグ(に相棒を隠して)持ってきておいて良かったわー」

 

「……ああ、そう、だな。そうなんだな」

 

……そう、なんだ。

突然アムロは大量に買ったそれらを突然あまり大きくはない……とは言っても、ハロが1体は余裕で入りそうなそれに詰め込み始めたのだ。

……そう、『ハロ1体余裕で入りそうなバッグ』に、だ。

 

……つまりそういう事だ。

 

 

 

 

 

「…帰ッタラ味噌カツヨコセヨ」

 

「バカ声出すな。当然くれてやるわ1枚丸々」

 

「ナラヨシ」(モゾモゾ

 

「傍から見て独り言喋ってるようにしか見えないから自重してくれ二人共……私が恥ずかしいだろう」

 

「「その(ソノ)()バケツプリン()()()わってから(ワッテカラ)って(ッテ)おうか(オウカ)」」

 

「……うむぅ……」

 

……反論できないのがとても悔しいな。

 

 

 

 

 

 

「たっだいまぁ~~~~~~………」「ただいま」

 

「おっかえりぃ~~~~~~………」「ああ、次は味噌カツだ……」「お、帰ったか」「お帰りなさい」

 

さて、帰宅である。

帰って早々リビングにてだらけ切った表情の姉さんと変な事のたまわる師匠が見えているのに一切動揺しないのはもう慣れたからだろう。

念の為予定よりも一人分多く材料を買っておいて良かった。

 

「それじゃ今から飯作るで、手伝える奴は手伝って。レシピは見たけど実は実際に作るのは初めてなんよ」

 

「フム、それじゃあ僕が手伝おうかな?―――――ただし分け前を増やしてくれるという報酬があればの話だがね「んじゃいいや」イヤンセメント反応!師匠泣いちゃう」

 

「キモイからやめーや。あ、姉さんはそのまま寛いでて。また炭は食いたくない」

 

「そりゃどういう事じゃクソ愚弟「うっせぇメシ抜きにすんぞ」私が悪ぅ御座いました」

 

そう言いながら床で土下座する姉さんとその肩をニヤニヤしながら叩く師匠を尻目に、俺は作業を開始する。

とは言っても、手を洗ったり、買って来たものの整理をするのが最初だ。

いきなり調理を始める訳ではない。

そもそも味噌カツとは言うが、実際には代表的な物として串に通してある物と無い物があり、そのどちらにするのかも決めていないのだ。

前者ならば肉を小さめに、且つ串に通す個数を決めねばならない。後者だと、肉は大きめに、且つ予め揚げあがったらスライスして食べ易くなる様にしなければならない。

一見すれば後者のほうが労力は掛からない様に見えるが、俺からしてみれば掛かる手間自体はどっちも同じだ。

しかも、ウチの連中の好みによってはどっちか作っても文句を言われるかもしれんしなぁ……主に姉さんとか姉さんとか姉さんとか。

 

(……ん?)

 

不意に袖を引っ張られた。

何だと思って目を向ければ、刹那がどこか影を帯びた表情で此方を見ている。

何だろうと首を傾げるが……うん。何も思い浮かばない。

となるとなんだろうか?このタイミングでコイツがこうしてくるとなると、一体何の用で――――――

 

 

 

(…あ、そういう事か?)

 

フッと頭に閃いた物があった。

その答えをこれまでのコイツの行動に当て嵌め、推測するに――――――多分、こういう事だろう。

 

そう思うと、コイツもなかなか可愛い所があるじゃないかと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、刹那」

 

「……何だ」

 

「……安心しろ」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どの道お前の味噌カツは一番デカいのにしてy「そういう事じゃないわ朴念仁!!!!」アバラッ!?」

 

 

あれー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……本っ当にコイツは失礼な奴だと思う。

いや、まあ、確かに味噌カツは初めて食べるものだったからいっぱい食べたいというのはあるが、それにしたってあの回答はない。

女心を分かってないというか、何と言うか……

 

「…………あのー………刹那・F・セイエイさん……………?」

 

「何だ」

 

「…いや…そのー……それ、ご飯何杯目なのかなー「8から先は忘れた」……そうかい」

 

オイ、何だその呆れたような何かを悟ったような顔は。

失礼じゃないか師匠。

別にヤケ食いなんぞそう珍しい事ではあるまいに。

 

「いや、珍しいからな。幾ら普段お前がご飯に目がないといっても、普通に珍しいからな刹那」

 

「そうか?」

 

ユリにそう言われたが、イマイチ納得がいかない。

そんな事はないよな、と、そんな思いを乗せてフェルトに視線を送ったが……目を逸らされた。

…そうか。私のヤケ食いは珍しいのか……

 

「まあ、動いて燃やせば問題ないな」

 

「アンタそれ喧嘩売ってる?」

 

そう言いながら私をヒリング・ケアが睨んでくるが、知った事か。

第一あなたは間食が多いから太るのだとそこでノビているアムロが以前言っていたぞ。

自業自得ではないか。

 

「っんのバカ愚弟がぁぁぁ!!!!何人のプライバシーコイツに教えてんだァァァ!?」

 

「辞めたまえヒリング。今日はアムロ頑張ったんだから。君より遥かに頑張ってたんだから。寝かせてあげなさい」

 

言いながら一向に止める気配を見せず、淡々と料理を食べ続けるこの男は色んな意味で凄いと思う。

 

 

 

あの後、私に殴られた際に意外と疲労でも溜まっていたのか、アムロは一気にフラフラになっていた。

とは言っても、その状態でキッチリ夕飯を作り上げ、自分の分を食し、片づけを終えたその上でソファーにぶっ倒れて気絶してるのだから器用だと感心せざるを得ない。

しかし、意外とダメージがデカかったのか、倒れてからは一向に動く気配が無い。

正に、『ただのしかばねのようだ』状態である。

……ただ、その枕元に何故か目覚まし時計が置いてあるのは……一体なんなのだろう。アレ。

 

 

「…っと。ごちそうさま」

 

と、そんな事を考えている内に食べ終わったのか、ユリが箸を置き、そのまま食器を纏めて洗い場まで持っていった。

次いでフェルト、ハロ、師匠、そしてヒリング・ケアの順で皆食べ終わり、食器を洗い場へと置いていく。

 

一方の私はまだ食べていた。

 

とは言っても、既におかずは全て腹の中へと仕舞っている。

文字通り、今食べているのは白米のみだ。(無論、アムロが炊いたものだ。超ウマイ)

……しかしいい加減白米だけでは飽きるな。

そろそろ私もごちそうさまするか。

そう思いながら丼の中の米を全て胃袋の中に納める。

ン。満足。

後は風呂にでも入ってからノンビリするか。

 

そう思いながら箸を置き、一言。

 

「ごちそうさまでした

 

 

今日も美味しかったぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そりゃ、どうも」

 

聞こえてんだよ。バーロー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むくっと起き上がる。

実は気絶なんぞしてなかったり。

ただ、起きてたら起きてたで面倒なので速攻飯等食ってブッ倒れたのは事実だが。

 

「あ、やっぱり起きてたかい」

 

「まあね。気づいてたろ?」

 

「当然ね」

 

そう言いながら師匠が近づいてくる。バスタオルを肩に掛けてるということは風呂にでも入ったか。

まあ、誤魔化しきれるとは思っていなかった。

この人に関しては本当に規格外だと思う。

 

「いや、君の方も中々だよ。なんで心拍数低下してるのさ。体温が30度ギリになった辺りで不味いかなと思ったんだけど」

 

「師匠は呼吸も止めるよね」「当然」「即答すんな」

 

そんな遣り取りしながら食器を洗おうとキッチンへ。

案の定手付かずである。

この時期(冬)の水は冷たい。

幸い俺の手はそこまで皮膚が弱くないのか皹等になる事はない。

が、女子連中はどうだか解らない。

特にフェルトみたいなずっとコロニー暮らしとかは特に心配である。

 

そこで、大体のこういった仕事は我が家では俺の仕事となっている。

…まあ、色んな意味で適材適所というべきか何と言うか……少なくとも、アレだ。

 

何か最近、刹那以外の女性陣から複雑な目で見られるようになったのは、何とも言い難い。

 

 

 

…………うん。本当に。

 

「………」

 

……本、当に……

 

 

「…………」

 

 

…………ほ、んとう、に……

 

「………」

 

「……」

 

……ええい!!!

 

 

「だああああああああ!!!!!!刹那!!!!!なんでマッパでそこ(台所の入口)に立ってるんだ!!!!あと隠しなさい!!!」

 

「見なければ良いだろう」

 

「それ以前の問題じゃ!!!!風邪を引くだろうが!!!!」

 

「だが嬉しいだろう」

 

「堂々とし過ぎてて逆に有り難味がないんだよ!!!と言うかテメェの被保護者の裸なんぞ見ても欲情なんかせんわ!!!もっと女らしくなってから来いや!!」

 

「これでもか?」(ズイッ

 

「近寄られても変わらんて!!…というかどした?マジなんで裸なん?バスタオルは?」

 

マジで何故?たぶん裸ということは風呂にでも入ろうとしてたんだろうが……バスタオルは確か出してたはず……師匠さっき肩に掛けてたし…

 

 

 

 

「出てない。先程師匠が持ち出した物がラストだったようだ。あと風呂が湧いてないんだが「最初に言いなさい!!!!!」…すまない」

 

 

 

 

オイィィ!!!!!師匠何やってんだ!?

と言うかアレか!!さっきのアレはシャワー浴びてただけか!!ああもう俺のバカ!!!あの寝起きモドキ状態だとホントに思考能力低下すんな俺!!!

 

「兎に角刹那、今すぐタオル出すからそれ巻きなさ…っ!!」

 

「なっ!?」

 

と、ここで不幸が。

と言うか、俺のとある癖が発動した。

 

現在、俺の目の前にはマッパの刹那。

無論、何も付けてない訳だ。

 

そして俺はエプロン装備な上、手は先程まで食器洗いの際に冷水を使っていたので冷たくなっている。

…まあ、こんな手で触ったら、冷たいじゃん?可愛そうじゃん?

 

で、手で触ろうとしないように動こうとして…、さ。その……エプロンを踏んでしまいまして……その………ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとは察しろ。言わせるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アムロ。その頬っぺたの紅葉は一体どうしたんだい?」

 

「お察しください」

 

「ああ、うん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『~~~~~~~~~~ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

「風呂場から刹那の叫びが聞こえるんだが…」

 

「お察しください」

 

「え、私にもか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ニエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

「…あの、刹那、一体どうしたんですか?」

 

「察してあげて」

 

「あ、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アムロ!!!アイス食べたい!!!!!!」

 

「ああ、ハイハイ」

 

「……アンタ一体何したのよ?」

 

「年頃の娘には色々あるんでしょ…「ほら、行くぞ!!!」あ、買いに行くんですか…」

 

「いってらー。モナカアイス買ってきてー」

 

「ハイハイ…」

 

 

 

 

 

夜の街中は風もそこそこあるせいか、キチンと着込んでおかないと寒い。

近くのコンビニまでは少し歩くので風呂上がりの私は特に着込まねば湯冷めしてしまうだろう。

 

「だからといって何故貴方のコートを着なければならない」

 

「お前の持ってる奴が軒並み生地薄いからじゃ。良いから着とけ」

 

「…ムゥ…」

 

…まあ、否定はしない。

というか、何だコイツのこのコートは。

ポッケ色々在るのは良いとして、モコモコしてるし……

 

「で、何食べたいんだ?」

 

「ガリガリ君」

 

「お金は」

 

「貴方が出せ。それでチャラだ」

 

「へいへい……」

 

アムロは私にそう言いながらコンビニの中へと入っていく。

というか、本当に悪いと思っているだけでそれ以外に何も思ってる感じがしないな。

……あんな事やらかしといてそれというのも何か……なんだろう?

不愉快というか、何と言うか…

 

「ホイ」

 

「ひゃっ!?」

 

突然頬に何か当てられた!

冷たい!

何だと思って顔を向ければアムロがその手にアイスを持って立っていた。

どうやらもう買ってきたようだ。

恨めしげに睨むが特に効いたような様子はない。

いつも通りな表情だった。

それが何か気に食わない。

取り敢えずアイスをひったくって齧り付く。

 

「コラコラ」

 

そう言いながら、アムロはゴミを私の手から取って近くのゴミ箱に捨てに行こうとする。

 

 

 

…かにみえたが、突然立ち止まった。

何だろう?

そう思いながらも、私は家に向かって歩き出す。

彼の足なら直ぐに追い付くと思ったからだ。

 

というか、彼の身体能力は色々とおかしい。

マイスターである以上、私やユリ達は過酷な訓練を通して、そこらの軍人程度なら軽く超える程度の身体能力は獲得できている。

…筈、なのだが、彼はそんな私達を軽く追い越す程度に身体能力が高い。

日常な些細な部分から推測する程度ではあるが、な。

 

閑話休題

 

 

兎も角、彼の足ならば私程度には軽く追い付けるだろう。

そう思ったからこそ彼と少し距離をとった。

 

 

 

 

 

 

 

そのタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…昼間は、色々すまんかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は、キチンと二人で行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

振り返ると、彼は何事もなかったかの様にゴミを捨てて、こっちに歩いてきていた。

そんな彼に対し、何か言おうとしたが、言葉が出てこない。

 

「ほら、ボーっとすんな。帰るぞ」

 

「え?あ、い、今?え?」

 

「おいなにキョドってんだ。帰るぞって」

 

「あ、ああ……って、そうじゃなくって!」

 

「っせぇなぁ……」「今なんて言った!?」「ハイハイ…」「オイ!?」

 

 

……多分気のせいだ、よな?この男が、そんなこと言うわけ……無い、ものな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……というわけで終了です。

 

「……実際問題、あの時何をしたんだアムロ…」

 

「……お察しください…」

 

ハイハイ変に凹んでないでさっさと進めるよ。

 

「そうだ、な。取り敢えず今回は特別編という事なので時系列とかは考えないで行くが……」

 

「と言うかアレコレ中継されてたんかい……犯人大体解るけど」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「へっくし!…む?誰か噂してるのかな?……まあ、良いか。さて、さっさと作業しないとな………待っとれよ平行世界の僕共め……本当のラスボスっていうのがどんな物だか思い知らせてやろう……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「オイ、今なんか聞こえたんだけど」

 

気のせいじゃないの?

 

「……オイ。西の空に巨大なドリルが浮かんでるんだが……」

 

「ちょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、来年度の方針だが…」

 

「……やるのか?クロス」

 

打診だけはしてみようと思う。

 

「外れろ…外れろ……!これ以上俺に面倒事が降りかかりませんように……!!!」

 

「どれだけ必死なんだ……で、やるとしてあの話どうなったんだ?構築できたのか?」

 

できたよ。

 

「「できてるの!?」」

 

うん。

 

「で、どうなんだ?難易度は」

 

以前の鬼畜ジミたのよりかは優しくしてある。

 

「あ、んじゃ安心だ」

 

うん。少なくとも導入段階でSAN値が減ったり、日常と見せかけた惨殺死体の落下とかはない。

 

「おい何だその卓。私生きて帰れる気がしないんだが」

 

「安心しろユリ。これ序の口」

 

「何一つ安心できない!?」

 

 

 

 

 

さて、年越し蕎麦啜りつつガキ使見てるわけだが…

 

「…何すんの、後は」

 

「というか、今後の展開で私って死ぬのか…?」

 

それは言えん。とりあえずこの後はスペシャルゲストも交えて雑談だ!!!正月特別編の事もあるしな!!!

 

「スペシャル…ゲスト………?」

 

「……なあ、ツッコミたくなかったんだが……何か家に入ってきた辺りから、視界の隅にチラチラ人一人は入れそうな袋が転がってんだけどまさか……」

 

よく気づいたな。では、レッツオープン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」←黄色い服着た髪の長い女の子が縄とかでグルグル巻きにされ、口にギャグボール噛まされた状態でグッタリしながら入っている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「オイ作者ァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

……あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……とりあえず気を取り直して雑談…と行きたい所でしたが、肝心のゲストが気絶しているので本日はここまで!!

では皆さん、良いお年を!!!!!!(チッ…あのバカ球体もっと優しくしとけと言ったのに…姿が見えないと思ったらこれかい!)

 

 

 

 

 

 

「ふっざけるな作者あああああああ!!!!!!!!!!!!!!こんな状況で締めるなァァァ!!!!」

 

「すみません大丈夫ですか!?自分の事分かりますかお姉さん!?」

 

「……」←返事がない。気絶しているようだ…

 




さて、如何でしたでしょうか。
どうも雑炊です。

兎も角、ちょっとしたアクシデントもありましたが、無事に大晦日特別編が終わりました。
ああ…次は正月特別編だ……

で、最後の彼女ですが……彼女は次の正月特別編で頑張っていただきます。
誰なのかは……この段階で分かった人、いるかなぁ…
ヒントは本編に出てきていないという事です。
それだけです。

それで黄色い服なので……おや、誰か来たようだ。

「待って、ダメですって!!!さっきのアイツの心の声聴いてる限りだとあなたがあんな状態になったのむしろ自分の相棒のせいかもしれないし!!!」

「放してください!!このままでは失態を晒し続けた上、新しい汚点を増やしてしまうかも……そうなる前に元凶を叩きさえすれば…!!」

「落ち着けというに!!!というか初対面の人間に組み付いて止めるとか初めての体験だがこんな体験したくなかった!!!」

…テラカオス…




何はともあれ皆さん。改めまして…

「「「「良いお年を!!!」」」」


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正月とか節分とかバレンタインとかごっちゃになった結果何故か鬼ごっこをやる事になった話

大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。
結局いろいろと混ざった番外編になってしまいましたが、取り敢えず何とか書き上がりました。

「え?何でこいつらが居んの?」と思った方は、嘗ての活動報告からラフを探して頂ければ大体解るかと。




要するに、彼らは2期編の外伝でレギュラー確定です。




というわけで本編をどうぞ。



それは唐突に始まった。

 

 

 

『『ガン・マイ』』

 

『『番外編』』

 

『新春大遅刻&節分もくっそ忌々しいバレンタインも一緒に来ちゃったぞ特別企画!!ガンマイ本編外伝まだ未登場組含めて“ドキドキ!地獄の鬼ごっこ(仮)”大会~~~~!!!!!』

 

『師匠。大多数がわけわかめって顔してるから自重』

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都江東区青海1-○-○:要するにお台場、○イ○ー○テ。○。○。。○。

 

 

 

 

突如外壁に取り付けられたオーロラビジョンから聞こえてきたそんな声に本当にその場に居た者達は訳が解らないという顔をしていた。

 

 

 

 

 

………というか、マジで意味が解らなかったのだ。

 

何せ此処に居る一部の者はヴェーダからの緊急ミッションだという事で、指示された場所へと行ったら何時の間にやら全員眠らされ、気づけばこんな状況だったし、一部の者は自分の1日の仕事を終えてさあ休もうと寝床に入り気が付いたら此処に居たのだから。

 

 

しかしそんな彼らの混乱など何処吹く北風小僧の寒太郎。

声の主達は我関せずの眼中無し。

思うがままに我が儘に、コタツの中に入ったままさっさと話を進めていく。

 

 

 

 

『さて、予想通り混乱しているだろうから、アムロ説明』

 

『ハイハイ……え~、皆さんお忙しい中このような茶番に巻き込んでしまい、申し訳ございませんでした。(特に前回の特別編に出てきたお姉さん)

 

 

 

まず、今回の趣旨を説明いたしますと、まあ、要するに皆様に鬼ごっこをして頂きます。捕まったら即時罰ゲーム。キツーいお仕置きを受けてもらいます。

 

制限時間は………その、誠に申し上げにくいのですが、自分の隣にいる、この緑髪の鬼畜大魔王ラスボス師匠の“気が済むまで”となります。

 

 

……え~………それでは、趣旨の説明を終わります。何か質問等などございま「「「「「「いや、ありすぎるから!!!!」」」」」」……ですよね~…』

 

そう言いながら画面の中の少年―――――アムロが頭を軽く抱えて机に突っ伏す。

 

同時に頭の中でこう思った。

 

 

どうしてこうなった、と。

 

 

 

 

 

 

事の始まりは前回の大晦日特別編終了後まで遡る。

あの後作者への暴挙を成し遂げようとしていた特別ゲストをユリと共に何とか落ち着かせ、やっとこさ終わったと息をつこうとするも、間を置かずに師匠が乱入。

そのまま三人纏めて小脇に抱えられた後Iガンダムに乗せられて、アムロ以外の二人はこの建物の前に置いてかれ、そのまま彼自身は師匠と一緒にちょっとしたドキドキワクワクぱるぱるぱるぱるぱるぱるな冒険に連れて行かれ――――――

 

 

(……帰って早々こんなトコまで連れてこられて、薯蕷ご飯と七草粥を作れとか言われるとは思わなかった…)

 

 

―――――やっと戻ってきたらこれである。

流石に長い事師匠の弟子としてやって来た分超展開には慣れきっていたが、流石に今回は予想外だった。

 

 

 

(―――とはいえ、去年の年越しと比べたら遥かにマシか)

 

そう思いながら脳裏に浮かべるのは―――あの意味不明な初夢である。

あの後段々と薄れてきたんだか逆に鮮明になっていったんだか分からない“夢”。

の割には妙にリアル且つ明快な夢は、明晰夢と切って捨てるには違和感が残る物であった。

今でも、あの時の奇妙な会話を忘れる事は、出来ていない。

 

(……ま、今は関係無い、か)

 

そう思いながらモニターに目を戻す。

映し出されているのはオーロラビューのモニターを睨む、幾つもの双眸。

力強い、意志を感じさせるそれら。

この状況下に置かれていても、怯えを感じないのは流石であろう。

思わずアムロは「敬意を表するッ!」と叫んで直立したい気分になったが、それを必死に抑えつつ、彼らの抱く問いを聞き出そうと話を促す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…え~……では、質問タイム。制限時間10秒。よーいドン』

 

「お前もキャベツ太郎に負けず劣らずフリーダムだなオイ!?とりあえず終わったら帰れるんだろうな!?」

 

「つーか俺前回くらいで結局どうなったんだよ!?早くしねぇと読者にどやされんぞ!?」

 

「ミハにい何ワケわかんない事言ってるの?取り敢えずアムロ、お店のスイーツって、買って食べても良いの?」

 

「アムロ!この目の前の建物はショッピングモールか!?つまり鬼ごっこが終わったら中で買い物していいんだな!?」

 

「刹那・F・セイエイ。ヨダレを拭け」

 

「あ、そっち冷静に突っ込むのかティエリア。……とりあえず、私は出番があれば良いかなぁ……作者からも影薄いって言われてる分、あると良いなぁ…」

 

「ユリ。僕は君のその切実過ぎる願望に哀れみを覚えるんだけど……とりあえず、今回の参加者って僕達マイスターズとこの人達だけ?」

 

「指を指すな指を!!というか大尉!?あなた一体何をなさってるんですか!?昨日の事に関しての説明もしてくれるのですよね!?」

 

「落ち着け唯依!!あと昨日の話ってなんだ!?後でkwsk!」

 

「いや、そーじゃねーだろユウヤ!ってか、ここどこだよ!?」

 

「落ち着きなさいタリサ。慌てても何にもならないわよ」

 

「そーそー。アレだ。もう色々諦めて状況を楽しんだ方が楽だぜ。きっと」

 

「お前らは落ち着き過ぎだろ!?アレか!?混乱し過ぎて一周回って冷静になったんですかコノヤロー!!あとユウヤは後で中尉から聞いた話をこっちにもkwsk!」

 

「クリスカ、見て見て!鳥が飛んでる!!あれが鳩っていうんだよね?」

 

「うん、そうだよ。他にも色々いるみたいだから、後でゆっくり見ようね」

 

 

 

『オイコラ明らかに質問という単語に関係無い事喋ってる奴が居るんだけど何だコレは。あと本当にこれ10秒で収まってるって凄くねぇか地味に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――え~……うん取り敢えず質問に対する答えがはっきりしたから順を追って説明するぞ。あと女子は数名はちょっと自重しる』

 

 

そういう返しに対する反応は様々だ。

不満げに黙る者も居れば我関せずで別の物に興味を向けている者も居るし、ただただ状況について行けずにぼーっとしている者もいる。

一方のモニターに映るアムロは……何故か七草粥を作り、鏡餅を叩き割っていた。

理由?察してください。

 

『……何もないみたいだから始めて行くな。まず、帰れるかどうかだが、普通に終わったら返してくれるみたいだ。まあ、当然だわな』

 

その事に皆明らかにホッとしていた。

そりゃそうだろう。

ワケ解らない所に行き成り連れてきて帰れませんではシャレにならない。

 

『で、次。なんか知らんが買い物の時間は後でキッチリ取るみたいだから心配すんな』

 

これにあからさまに反応したのは3人の少女。

1人は目を輝かせつつ涎をすすり、1人はショッピングへの期待に興奮し、最後の1人はまだ見ぬ興味深い物に対する期待で目を輝かせた。

 

 

『…………無論、“時間が取れれば”、の話だがな』

 

一転、先の三人からブーイングが上がる。

無論、解答者はそんな物に心動かされることはない。

アッサリ『ハイハイ次行くよー』と流して話を進める。

 

 

 

 

『で、ミハエル。お前はもうちょっと待て』

 

次に出てきた回答はそんな物だった。

無論質問をした者からは「は!?」という声が挙がる。

それに追い打ちを掛けるように、アムロは至って淡々と、且つ何処か呆れたような表情をしながらカンペを取り出す。

それを見ながら喋り出したので、どうも回答者自身がそれに対する詳しい情報を持っていなかったようだ。

 

『どうも作者がオマケの方に困窮しているようだ。つい先日血迷って其処でTRPGやらかそうとしたらしい』

 

だからもうちょっと待て、とのことだ。

そう続けたアムロの目には呆れたような感情が浮かんでいた。

まあ当の質問者はその事に気付くわけもなく、ペタッとその場に座り込んだのだが。

 

 

「で、肝心の出番についてだが………」

 

一瞬でその場にいた数名が(何気に意外な人物まで)眼の色を変えた。

表情はそれこそ皆違うが、やはり気になるのだろう。

まあ、そりゃそうかとアムロは思う。

誰が出番このオープニング以外無しとか嬉しいというのだろうか。

じゃあ呼ぶなやと言うもんであろう。

フッと師匠の方に目を向ければ、きな粉餅にがっついていた。

今でこそこんな間抜け面を晒したり、普段からフザケまくっているとは言え、無駄なことは基本しないのがリボンズ・アルマークという人間だ。

たぶん連れて来たからにはきっと見せ場を作ってあげ――――――

 

 

 

「……あ、アムロ。今日の夕飯はアレにしようよ。カニ雑炊」

 

 

 

――――――てくれるのだろうか?

 

考えてみれば万年SAN値0みたいなこの鬼畜師匠の事なのだから、何と無く連れてきた、なんて事言い出すかもしれない。

その場合責任は………何処にも無いのでどうにもならない。

 

 

 

 

「……お察しください」

 

 

取り敢えずアムロはブーイング覚悟でそう言うしかなかった。

まあ、多分鬼に捕まったら確実に見せ場になるだろうと思ったが、言ったら今度は鬼ごっこのルールが破綻するような事態が起きるかもしれないという懸念があったので、口に出せなかったというのが正解か。

 

案の定聞こえてくる一部からのブーイング。

それを聞きながら、思わず腹部を抱えて机に突っ伏したのは、誰にも咎められないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『あー……もういいですか?』

 

「「「「もういいよーだ!!」」」」

 

『…はい。んじゃ次の質問ねー…』

 

誰かは本人の名誉の為に言わないが、アホかと思いながらユウヤは頭を抱えた。

だが、この訳の解らない状況下で段々と冷静になれて来ている自分も自分だとも思う。

確実にユーコンに来る前の自分ならばさっき叫んだ連中の様にカッカしていただろう。

そう考えれば……あの、事ある毎に尻をブッ叩かれたりタイキック食らわせられたりした地獄の日々は無駄ではなかったのだと思う。

 

……無駄ではなかったはずなのだ……!!!

 

「…?ブリッジス少尉?何故泣いている…?」

 

「欠伸です。生欠伸です。噛み殺しました」

 

「…そ、そう、か…?」

 

「そうなんです」

 

そう言ってからユウヤはオーロラビューに視線を戻した。

無論、涙は拭ってある。

まさか唯依のやつに見られてるとは思わなかったので少し動揺したが…上手く隠せられただろうか?

そうだと良いが……いや、別に解ってくれてもこっちにはなんのデメリットもないのだが。

 

『―――で、参加者はな――――――お前達だけだそうだ』

 

と、少し意識を外している内に話は進んでいたようだ。

次の質問―――言葉から察するに参加者の人数だ―――の答えをカンペを見ながら呟く様に言っているあのチビ大尉の姿が見えた。

 

(と、言うことは……10人ちょいか。参加者)

 

周囲を見渡して顔ぶれを確認する。

大半は自分とは既知の仲だが、残る半分は全く知らない。男二人に唯依と同じくらいの女が一人。ついでにアムロにそっくりな少女が一人と、女だか男だか判別付き難いのが一人。

どうも全員アムロとは顔見知りのようだが……

 

(……何だ?この違和感?)

 

そんな感覚を、彼はヒシヒシと感じていた。

というか、オーロラビューのアムロ自体も何かおかしい。

何と言うかかんというか……自分の知るアムロと比べると……こう………

 

『あ。アムロ。甘酒プリーズ』

 

『いや、人が説明してるタイミングでそんな事言ってくんなや師匠。鼻に詰めんぞ?』

 

「……」

 

(……ガキっぽい、よなぁ……)

 

…そうなのだ。

どうもガキっぽい。

見た目とかもそうだが、どうも自分の知るあの『アムロ』と比べると、雰囲気が圧倒的に若く、青臭さがあるのだ。

それこそ、年齢で言えばイーニァを抜けば一番若いはずのクリスカや唯依のレベルで。

…否、下手をすればそれ以上か。

 

(とはいえ、演技でしたー…なんて言い出したらそれまでなんだけどよ)

 

そうポツリと心の中で呟く。

ただ、そうではないのだろうなと何処か理解している自分が居た事も確かだった。

 

「…」

 

ポッケからシガレット(砂糖菓子の方)のココア味を1本取り出して噛み砕く。

そうして空を見上げれば、丁度鳩が頭上を通り過ぎた所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃルールの説明しますよー。まずは右手の大階段をご覧下さーい』

 

そう、画面の中のアムロに言われ、空を見上げて黄昏ているのと初めて見る鳩に大興奮のお子様とその保護者以外は大階段の方を見やった。

 

 

……直ぐに目を逸らした。

 

 

 

何せ真っ黒な下地にドクロマーク。中央に観音開きと思われる扉のような物が見受けられ、その真上にご丁寧にも『鬼さん控え室』とか書いて有りやがるのだ。

……余計な事にハートマークで縁どられて。

しかも何故か紫色の髪をした少年っぽい何かが蓑虫のごとく荒縄でグルグル巻きにされた上に、口に大量の餅、鼻に3本の茄子、耳に数の子、そして丁度ケツの辺りに富士山と鷹の置物(しかも後者は2つ)ブッ刺さった状態でブラブラして絶賛放置プレイ中であった。

 

故の顔逸らしであった。直後に何人かは吹き出したようで肩が震えている。

 

が、アムロはそんな彼らの様子に気を配る事など一切無く、淡々とカンペの内容を告げていく。

(余談だがここでオーロラビューを見れば解ったかも知れないが、不運にも全員見ていなかったのでルールを告げていくアムロの目が死んでいる事に気付く者は誰も居なかった。)

 

『えー、その箱の中に“鬼”がいまーす。鬼に捕まると強制的に鬼の体に書いてある罰ゲームが執行されますので注意して下さいねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなかんじに』

 

 

 

 

直後にブシューという音と共に炭酸ガスが箱の上部から吹き上がった。

同時に扉が開き、中から全身黒タイツの人物が現れる。

胴体に書かれた文字は『タイキック』。

 

 

 

 

 

直後、参加者の数人が全力で駆け出した。

駆け出したのは刹那を始めとしたマイスターズ。流石は特殊な訓練を受けてるだけあって、色々一瞬で察したようだ。

次にユウヤ。流石に訓練で毎度の事ながらボコボコにされていた経験は伊達ではなかった。

……まあ、約7割程トラウマを刺激された事もあるのだろうが。

事実、タイキックという言葉が聞こえた時点で彼の顔面は死人の様に血の気が引いていた。

きっと、本人にはザァァという血の気が引く音が聞こえた事だろう。

 

 

で、その他の面々だが……残念な事に、まだこの事態をキチンと理解できていないのか、向かってくる鬼を数秒ではあるが凝視するという最悪の選択をしてしまった。

 

そして案の定、一番手近な所に居たお――――――タリサ・マナンダルがアッサリと捕獲された。

 

「え?え?」

 

そう、狼狽える事しかできなかった。

そんな彼女にユウヤは離れた所から合掌した。

 

鬼が構える。その構えは実に様になっていたので、どうやら心得があるようだ。

……ユウヤはその場で更に念仏を唱え始めた。

 

そんな彼の様子を咎める者など誰一人居ない。

 

やがて準備が終わったのか、鬼はタリサを自分の方へとケツを向けるように立たせ、そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんじゃ、その罰ゲームが終わった瞬間に鬼ごっこ再開ねー』

 

 

 

 

 

―――――そんな声がオーロラビューから聞こえると同時に、雲の少ない晴れ渡った冬空に、一人の背の低い女性の断末魔に近い悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5分後

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!』

 

「おー…頑張っとる頑張っとる」

 

モニターから聞こえる声に対し、アムロはそんな感想を漏らしつつ餅を口に運んだ。

砂糖醤油の塩っぱさと甘味の独特なハーモニーが後を引く。

続けてもう一つを付けて口に運んだ。

 

此処だけ見れば、のんびりとした正月の光景ではあるのだが、モニターに映る物はそんな物とは無縁の阿鼻叫喚の地獄であった。

 

ある者はアッツアツのおでんを無理やり食わされ、ある者はスナップを効かせた綺麗な往復ビンタを受け、ある者は猿轡を噛まされ、手足を縛られ定期的に微弱な低周波の電圧を体中に掛けられている―――者の前で優雅に昼食を取らされていた。

なお、その昼食には何気に師匠も混ざっている。

が、あまり料理に手をつけず、ニヤニヤ笑いながら縛られて悲鳴を上げている者を見ているだけなので、確実にこのドSには堪らない光景を間近で見に行っただけである。

流石はガンマイ世界の愉悦部部長といった所か。

 

 

 

 

 

『待たんかミハエルゥゥゥ!!!!!!』

 

『アイエェェェェェ!?兄貴!?兄貴ナンデ!?』

 

『今回の番外編において鬼役として限定だが蘇ったのだ!!!!という訳で逝くぞ弟よ!!これが私の!!!天!翔!蒼!破!斬!』

 

『ヌギゴガァァアァァァァ!!!!!!!??????』

 

『み、ミハ兄ぃぃぃ!!!!』

 

 

 

 

「イーニァちゃーん。お餅新しく焼くけど食べるー?」

 

「食べるー!」

 

アムロは今一瞬自身の目に映った物を無視する事にした。

知らない知らない。中の人ネタと書かれた黒タイツの浅黒い肌の青年が、青い髪の青年を両手の木刀でぶっ飛ばした光景なんぞ知らない知らない。

 

 

 

「ただいまー……あれ?何故に此処にイーニァ・シェスチナが居るのかね?」

 

「あ、おかえりー。餅焼くけど何かある?」

 

「リボンズおかー」

 

「あ、うん、できればきな粉を……じゃなくて何で此処にこの娘が居るのさ。此処僕らと仕掛け人以外は立ち入り禁止でしょ?」

 

「初手で『ロリコン』食らってTKO寸前になった挙句、ジョイポリス上の中華街まで迷い込んでったから保護した。あとチョットほっといたら虹橋入ってたかも知れん」

 

「? 入ったらダメだったの?」

 

「一応ね……ん?どした?」

 

「……おかしいな?いつから僕はツッコミを入れる側に回ったっけか?」

 

 

モニターの向こうの地獄絵図に反して、モニタールームの中は至極平和だったというのは、もうお約束である。

 

 

 

「お、そうだイーニァちゃん。お年玉をくれてやろう。3千円とちょっと少ないけど。この後の自由時間で使いなさい」

 

「ホント!?貰っても良いの!?」

 

「よかよか。好きに使いなさい……って、師匠どうした?」

 

「……いや、ホントに何でも無いよ…」

 

「「?」」

 

(ヒント:アムロは外見含めて『16歳』。イーニァは『外見年齢10~14歳』)

 

 

 

 

 

「チッ…あの鬼ども意外と早いな……コイツは挟まれたら不味いかな?」

 

そうボヤきながら、ロックオンは建物の4階付近をウロウロしていた。

追いかけられた当初は必死こいて走っていたものの、今は周囲にそんな影も見えず、兎に角平和だ。

階下の何処かから変な叫び声が聞こえるが、聞き覚えのあまり無い声だったので無視してみれば、自分の足音以外、周囲に人の気配を示すような物はない。

 

(……ん?)

 

あ、いや、前言撤回。

正面からノンビリと……という訳ではないが、適度に周囲を警戒しながらこちらへと歩いてくる人影が二つあった。

それぞれ白人特有の肌に、片方は綺麗な金髪で、片方は黒髪。どちらもそこそこに髪は長い。

着ている物から、確実に鬼ではないということが解る。

同時に、マイスター関係ではない人間であるということも。

 

(確か……ヴァレリオとヴィンセント、だったか?)

 

記憶の片隅から、確かそんな名前だったという事を思い出す。

向こうもこっちに気付いたようで、気さくに「よう」と控えめながら手を挙げてくれた。

こちらからも軽く挨拶する。

 

「お疲れさん……確か、そっちのロン毛がヴァレリオで、もう一人はヴィンセント……だったっけか?間違ってたらスマン」

 

「サンキュ。名前は間違ってないな…ってか、自己紹介なんぞしたっけか?一応言っとくと、俺はヴィンセント・ローウェル」

 

「俺はヴァレリオ・ジアコーザだ。VGって呼んでくれ」

 

「これはご丁寧に…ロックオン・ストラトスだ。偽名ですまんが、こっちにも事情があってなぁ……あ、名前の方は、さっきあんたらのツレが呼んでたのを又聞きしてたんでな」

 

「「うへぇ、趣味悪ィ」」

 

「仕事柄、職業病みたいなもんさ…アンタ達にもあるだろ?」

 

まあね、VGが返したのを皮切りに他愛のない話が続く。

元々、社交性の高い3人だ。打ち解けるのは早かった。

無論周囲への警戒は忘れていないが。

 

と言っても、そういった訓練を受けていないヴィンセントは精々目視が良いトコである。

VGは戦術機に搭乗して戦場に出る手前彼よりかはマシであるが、やはりそういう方面のキチンとした訓練を受けたロックオンと比べれば少々生身の索敵能力は劣る。

特にロックオンはスナイパーだ。それはCBに入る前からもそうだった。

その経験から目、耳といった周囲の状況を確認する為の部分のスペックはただでさえ高いマイスターの中でも随一である。

 

 

故にこういった事に気付くのも、彼の方が一番だった。

 

 

 

(…ん?)

 

耳に届く微かな音。

どうも足音の様だ。

複数人かどうかは不明だが、テンポからして走っている事は辛うじて解る。

 

鬼か?

 

そうではないにしろ、追われているという事を仮定しておく。

 

目配せで二人に合図。

とたんに此方に怪訝な表情を向けつつ談笑していた二人が黙る。

それを見て満足げに頷くと、ロックオンは周囲を見やる。無論、音の出処を調べる為にゆっくりと首を回しながら。

足音はいまだ一定のリズムで続いている。

周囲の人影は無し。

耳を澄ませ、方向を調べる。

 

VGとヴィンセントも背中合わせになって警戒し始める。

自分達が今居るのは幸運な事に駐車場へと続く道のあるT字路から少し離れた場所。警戒するのは前後だけでいい。

とはいえ、左右には雑貨屋等があるので、そこから出てくる可能性もあるにはあるのだが。

階下の状況も知りたい所だが、吹き抜けまでは距離があるので、諦めるしかなさそうだ。

 

「ムッ…」

 

「おっ、どうした?」

 

「足音が変わった。硬い物を踏んでいる感じだ……金属だな」

 

「オイオイ良く分かるな…どっちのエスカレータからも確実に10m以上は離れてるのによ」

 

言いながらヴィンセントが茶化すが、ロックオンはそれに返さない。

変化した足音が本当にエスカレータなのか解らなかったからだ。

階段にだって、金属の部分はあるのだから。

 

(さて…どっちだ?)

 

息を潜めながら敢えて足音の主を待つ。

見た感じ、まだ人影は見えないが、果たして…

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな感じにシリアス入ってる3人が居た丁度真下。

いい感じに鯛焼き等を頬張りながら、全力疾走している少女が一人。

 

「…………!!」

 

意外な事にアムロ……ではなく、概ねの予想通りに刹那であった。

若干呼吸が苦しいのか、鼻息が何時もよりも荒い。

じゃあ食うなよ、と言ってやりたい所だが、言っても彼女は聞かないだろう。

 

そんな彼女の後ろからはこれまた案の定黒いタイツの集団が全力で走ってきていた。

 

 

もう一度言おう。『集団で(・・・)』走ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

あろう事かこの娘。どうやら追っかけられている内にドンドン引っ掛けてきてしまったようである。

 

 

 

 

 

しかも書いてある罰ゲームも様々なバリエーションに富んでいた。

原子力アンマにゴムパッチン(×5)。

デコピンウメボシ当たり前。

カンチョー猪木胴上げ祭り○○○マシーン昼食延髄切りetcetc……

ともかく色々居た。

 

という訳でおそらく捕まったら色んな意味で一貫の最後。

確実に再起不能リタイアは免れない。

正しくDEAD or ALIVE 。

自由時間過ぎても起き上がれないであろう自信が刹那にはあった。

 

(冗談ではない!!)

 

自由時間中の食べ歩きを楽しみにしていた彼女にとって、それは色んな意味で拷問にほかならない。

既に食ってるじゃねーかというツッコミは聞かない事にするが、兎も角そうなのだ。

 

しかし、ケツの一団はどう足掻いても彼女から離れない。ピッタリくっついてくる。

こうなればこの状況を打破する一つの方法として、他人にこの鬼共を擦り付ける必要がある。

しかし、さっきから何処をどう探しても擦り付ける生贄が見つからないのはどういう事だろう?

何か作為的なものでもあるんじゃないのかと疑う心すら出てくる。

 

 

 

 

「イーニァ!こんな所に……ッ!?大尉!?」

 

「あ、保護者さんチーっす。因みに大尉じゃないからね。そして良く分かったね。丁度お雑煮が出来た所よ」

 

「「O・Z・N!!O・Z・N!!」」

 

「ハイハイちょっと待ちなさい……あ、食べます?」

 

「……い、頂きます……」

 

 

 

 

 

「何だ今のハラ立つ光景は!!!!」

 

一瞬脳裏に映ったそれに刹那は咆吼した。

こっちがこんな死にそうな目に遭ってるのに何故アイツ等はあんなにノホホンとしているのだ!?

そんな恨み辛みの込められた咆哮である。

 

なお、今の一瞬で上の階にいた3人の内二人が、「あ、追われてるなコレ」と判断。直ぐ様離脱を開始した事など彼女は知りもしない。

知る必要もない。

 

 

「うおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

そんな雄叫びを上げつつ階段を駆け上がる。

既に買い食いしていた商品達は全て腹の中に収まったので、呼吸も出来るようになっていた。

リバースが心配になる状況だったが、彼女はお構い無しに駆け上がっていく。

 

一方の鬼達も綺麗に1列に並んで駆け上がって来ていた。

途中一瞬紫の眼鏡が黒の津波に飲み込まれたような気もしたが、鬼達の勢いが弱っていないので気のせいだろうと彼女は判断していた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

……無論、間違いではなかった。

偶々エレベータを使って降りてきたティエリアは、約5mあったであろう距離を一瞬で詰められて鬼に捕まり、しっかりと罰ゲームを受けていた。

 

なお、彼に下された罰ゲームは以下のようになっている。

 

『往復ビンタ・ケツバット・肋骨ギロ・耳掃除・目薬・足つぼマッサージ・┌(┌^o^)┐・ジャイアントスイング他3種』

 

所要時間は約30秒である。

 

「……ばんし…………」

 

そうか細い声で呟いて、ティエリア・アーデ。再起不能(リタイア)である。

この後救護班が来るまで彼はその場に完全放置(偶に暇になった鬼が片手間に罰ゲームしていく事を除けば、だが)。ゲームが終わってからも2時間ほどはピクリともしなかったそうな。

 

 

出番終了である。

 

 

 

 

そんな悲劇をほっておいてコチラは刹那サイドである。

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」

 

……何故か逃走者が増えていた。

鬼の数も増えていた。

 

 

まあ、簡単に言えばこうである。

 

声を上げるから他の逃走者が逃げるのだと思い至った刹那。黙って走り始める。

エスカレータの下から上がってきたユウヤと唯依にバッタリ。

仲良く逃走開始←イマココ

 

 

以上。説明終了。

 

 

 

「つかなんでお前はあんな量に追われてんだよ!?理不尽過ぎるだろ!?」

 

「やかましい!!私が知りたいわ!!!」

 

「黙って走れ貴様らァ!!」

 

三者三様にギャースカ喚きつつ施設の中を走り回る3人。

なお、此処に至るまでに既に数名を地獄に叩き落としているのだが、そんな事彼らが知る由もない。

 

 

 

 

地獄に叩き落とされた被害者達。

 

 

[ユリの場合]

 

「……ッ!…ッ!!………ッ!」

 

全身くすぐられた上に(以下検閲

 

 

 

 

 

 

[タリサの場合]

 

「グ……ゲ………ゴェ………」

 

低周波終了後発信機を取り付けられ、回転椅子をMAXスピードで大回転の刑。

 

 

 

 

 

 

 

[ヴィンセントの場合]

 

「うぅぉぉぉ……ちょ、ちょ、ちょちょちょちょ」

 

ロックオンとVGと逸れ、タリサと合流後、とばっちりで回転椅子とジャイアントスイング。

 

 

 

 

 

[アレルヤの場合]

 

「……世界の………悪意が………僕には見えるぞハレルヤァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

(いや、ちょ、キャラ変わってんぞ!?)

 

クリーム(悪霊)の刑でキャラ崩壊中。SAN-6で一時的狂気突入。

 

 

 

 

 

[ステラの場合]

 

「えっと……これはこっち?あ、違うの?ありがとう。それから……」

 

昼食準備と書かれた鬼複数に捕まり、現在彼らの昼食(恵方巻き)準備中。

 

 

 

比較的被害者が少ないと見るべきか、それとも多いと見るべきなのかは読者の皆様に任せるとして、これ以上ただ単に追いかけるのはダメだと判断したのか、鬼の一団の約半分が別方向へと駆け出した。

挟み撃ちにするつもりなのだろう。或いは別の獲物を狩りに行ったか。

どちらにせよ不吉である事には変わりなかった。

 

(チッ…)

 

それを見た唯依は舌打ちをしかけて飲み込む。

走っているのは2階のフードコート前の通路だ。挟み撃ちには最適の場所だろう。

 

拙い。

 

明確に理解できる。

これで正面から誰か走ってきているというのならばそれはそれで嬉しいのだが、そういう訳ではないのがキツイ。

後ろの一団は人数が少なくなった分、走り易くなったのか速度を段々と上げてきていた。

 

「クソッ!」

 

ユウヤもその事には気付いていた。

ジリ貧。その言葉がここまで似合う状況もないだろう。

かと言って諦めて捕まれば、間違いなく度を超えた地獄に叩き込まれるのは明確である。

タリサとヴィンセントが飲み込まれた光景を思い出して身震いする。

 

「―――ムッ!!」

 

と、ここでほぼ先頭を走っていた刹那が何かに気付いた。

そういえば、と二人は思い直す。

この少女、自分達よりも長く走っているはずなのに一向に疲れた様子を見せないのはどういう事なのだろう、と。

今はそれどころではないので直ぐにその疑問は何処かへと吹き飛んだが。

 

「クレープ発見」

 

「「オイ!!!」」

 

本当に疑問が全て吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ……」

 

モニタールームでそれを見ていたアムロは思わず溜息吐きつつ頭を抑えた。

何でそんな事を気にしたのだ。そんな感情を乗せて。

相変わらずと言ってはアレだが、流石の刹那さんです。

 

「思わず尊敬しちまうわ…」

 

「同感」

 

そう言いながら、雑煮を食べる彼らは実にだらけていた。

心なしか、その隣にいるイーニァもだらけている様に見える。

 

まあ無理もない。

ついこの間まで二人はあっちに行ったりこっちに行ったりと濃密な時間を過ごしていたのだ。

その後にこんな平和な時間が来るのだから、だらけても仕方はないだろう。

 

「……」

 

…約1名、腑に落ちてない顔をしている方がいるが。

 

 

 

~数分後~

 

 

「…あ、まだ逃げ回ってる。よく体力続くな」

 

「あ、ホントだね。今度はロックオン・ストラトスも増えているね」

 

「にゅ~…?」

 

「あ、起こしちゃったか?ごめんごめん……じゃねえよ。ほら、こんな所でそんな体制で寝るんじゃない。寝違えちゃうぞ?」

 

「た、大尉。出来れば優しくしてあげてください」

 

「うん、別に何もしてないからね?ただ単に体勢変えるの手伝ってるだけだからね?」

 

「…今の遣り取りに不健全な物を感じた僕達は心が汚れているんだなぁ…」

 

「え?師匠と同類扱いとか地味に嫌なんだけど?」「それは一体どういう事かな?」

 

モニターの向こうガン無視で一触即発の空気が辺りに立ち込める。

その冷たさたるや、傍に居たクリスカの背筋を凍らせるには十分だった。

思わず彼女は襲ってきた寒気に身を震わせる。

 

…のだが、アムロの隣にいるイーニァは特にそんな空気を感じる事もなく、気持ち良さそうにお昼寝タイムを続行していた。

どうやらこの馬鹿師弟。上手く彼女にプレッシャー等が当たらぬ様に配慮しているらしい。

器用な物だが尊敬は確実にできない。

(そこ、ロリコンとか言うな。子供に甘いだけだから。片方まだ16歳だから)

 

そのまま数秒の時間が過ぎる。

が、二人共相手から一切目を離さない。

微動だにせず、ただただ相手を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、飽きた。茶番終了。出番の準備しまーす」

 

「うーい」

 

「だああっ!?」

 

かと思いきや、行き成り再度ダラけきり一触即発な雰囲気は霧散。

そのままアムロはダラダラとプラカードと煎豆を手に持ってのそのそモニタールームから出ていく。

リボンズはそのままコタツの天板に顎を載せながら蜜柑を剥く作業を再開。

残るイーニァは気持ち良さそうに寝続け、クリスカは今の一瞬で緊張が一気に解けたのか、思わずその場に突っ伏した。

彼女が心の中で「もうヤダこの二人組…」と呟いていたかどうかは定かではない。

 

 

 

さて、一方こちらは未だ逃走中の主人公組。

 

(流石にいい加減不味いか!)

 

そう考えているのは先程合流した巻き込まれたロックオン。

理由は刹那の顔が限界寸前のリレーランナーの如き状態になっているからだ。

他の2人も差異はあるがそんな感じだ。

この調子を見るに、きっと今まで休憩など取れていなかったのだろう。

 

チラと後方を確認する。

鬼の数は………先程よりも減っていた。

人数は、6。

思わず顔が苦々しく歪む。

間違い無くおかしい。

何せ自分とVGが合流したときはゆうに10を越える数は確実にいたのだ。

…と、いう事は…

 

(考えられる事としては罠か、ただ単に追い掛けるのを諦めたか!)

 

後者ならば良い。後は逃げ切るだけだからだ。

だが前者は拙い。更に警戒しながら逃げ回りつつ、ルートを確保し、向こうの仕掛けたトラップに引っかからないように行動せねばならないからだ。

 

――――――クソッ!

 

思わず悪態が出そうになる。

が、今はそんな事をしている場合ではない。

 

何故ならば出そうになった瞬間、刹那の足が縺れたからだ。

 

 

「…!!!ちィィ!!!!」

 

「んなっ…?」

 

確認した瞬間のロックオンの行動は早かった。

まず彼女の襟首を引っつかむと、そのまま手元まで引っ張る。

後は膝下と背中に手を回して横抱きで抱えるだけだ。

 

所謂、お姫様抱っこである。

 

「ロ、ロロロロックオン!?」

 

「叫ぶな黙れ動くなとまれ!!こっちだって苦肉の策でやってんだ!!回復したらすぐ言えよ!?下ろすから!!」

 

言いながらもペースを乱さず走れているのは流石にマイスターズの兄貴分の面目躍如といった所か。

全力疾走するその背中には男気が溢れている。

流石は皆の兄貴ロックオン。

 

 

思わずその背に見惚れてしまった後ろの3人の内、VGが天井から降ってきた人影に福豆をショットガンで脳天にぶち込まれて再起不能になったのも仕方ないと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」「え?」「お?」「は?」「ウェイ?」

 

 

 

 

その場に居た全員が固まる。

くるっと回れ右して後ろを振り向くと、そこに鬼の姿はない。

しかしおかしい。

 

一切逃げ切ったような気がしない。

 

 

 

 

 

 

 

というか、何か視界の隅に『節分』と書かれたプラカードと、明らかにプラスチック製とは判るものの、明らかに物騒なショットガンを手にしている背の比較的小さな少年が、自分達と一緒に後ろを向いているというのが、これ以上無い程に恐怖である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後そいつはくるっと回れ右。自分達の方を見る。

成程、格好は何処にでも居そうな普通の少年だ。違和感はない。そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし超が付く程にキューっと口角を吊り上げた三日月型の笑みを浮かべるその顔は、正に邪悪其の物であり、同時に刹那とロックオンとユウヤと唯依に最悪の結果を思い浮かべさせる。

 

 

 

 

 

 

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ第2ステージ、始めまーす♪」

 

 

そんな言葉と同時に、ショットガンから日本の風習である『節分』の際に使われる煎られた豆、『福豆』が放たれ、情け容赦なく一番手近な所に居たユウヤと唯依を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒャッハー!!!!鬼は外~、福は内~、夷大黒豆上がれ~ってなぁ!!!ギャーハハハハハハ!!!!!!!!』

 

「う~ん何と言うクレイジーっぷり。溜まってたのかなぁ?」

 

「……」

 

その時、クリスカ・ビャーチェノワは今初めてさっきまで自分達の隣にいた少年に対する恐怖を思い知った。

本当にイーニァが寝てくれていて良かった、と心の底から安堵していた。

 

何せ画面の向こうに居るのは正しく『夜叉(確か日本の妖怪だったはず)』。

おとぎ話や創作物の中にしか居ないはずの『ソレ』は、正しく今自分達の良く知る人間の若い頃の見た目であろう肉体を寄り代にして顕現していた。

 

読める色は『百々目色』。赤黒青紫緑――――――兎に角様々な色が入り混じり合い、もう何と形容すれば正解なのかが解らない色だった。

つまり、感情を彼女が推し量れるか否かといえば―――答えはNOだった。

当然である。

 

 

『ホラホラホラホラ後5分逃げ切ればOK何だからさぁ~タ~~~~~~~ップリ逃げ回ってくれよぉ~?』

 

『アンタ鬼か!?いや、言わなくていい言わなくても解るこの外道!!!ストレス発散に俺らを巻き込んでんじゃねぇよ…って危なァァァ!!!!ごめんなさい調子乗りましたこの3人生贄にするので許してくださいィィィィ!!!!!!』

 

『あ、テメ何俺ら売ってんだ!?ここまで来たらもう一蓮托生だろ!?諦めて逃げまくれ!!!VGの様になんぞ!?』

 

『ロックオン、バカは放っておけ!!というか下ろしてくれ頼む!!もう回復したから!もう回復したからってうがァァァァ!!!????』

 

『だ、大丈夫か…って、ま、豆が!?豆が足に減り込んで!?というか威力おかし過ぎるだろう!?アレ本当に豆か!?その中の物は本当に豆なのですか大尉!?』

 

『無論、手製の福豆ですが?後で皆で食べれるように丹精込めて作りましたが何かあります?…あ、そういえばそろそろ豆の中に幾つかチョコでコーティングしたのが入りますから当たった人はラッキーと思ってくださいね?』

 

『真顔でそんな事を言わないで下さい!?というか何でチョコ!?』

 

『ヒント。バレンタインデー』

 

『それもう答えだろ!?』

 

 

 

 

 

 

「………さて、僕らもそろそろ豆まきしようか。僕が鬼役やるから、君、僕に豆ぶつけなさい。あ、この子をその前に起こさないとね。頼めるかい?」

 

「…え!?あ、え………はい………」

 

本当にモニタールームは平和其の物であった。

なお、起きた後で初めて豆まきを体験したイーニァと、戸惑いつつもおっかなびっくり豆をまいていたクリスカの顔には、初めて体験する豆まきに対する楽しさから、終始笑顔が浮かんでいた事を此処に記しておく。

 

「コノ差ヨ」

 

部屋の隅で存在を半ば忘れられている球体がそう呟いたが、気にする者は居なかった。

 

 

 

 

 

ピピピという音が鳴る。

それを聞いたアムロは表情を元に戻し、一息吐いてからいつも通りの口調でこう言った。

 

「はーいしゅーりょー。おつかれさまでしたー」

 

言いながらもショットガンに豆とチョコを詰めるのを忘れていない辺り、この男、結構外道である。

とは言っても、目の前にあるのは疲労困憊になってブッ倒れている屍が4体あるだけだ。

その体の至る所に豆が減り込んでいたり、潰れたチョコが張り付いている事から、本当に限界のようだった。

おそらく後ちょっと終了が遅ければ、全員纏めて再起不能にさせられていただろう。

……豆とチョコでコーティングされた豆で。

 

「……お、終わった……」

 

「うん。終わったねー」

 

「…も、もう、逃げなくていい、のか?」

 

「うん。もう逃げなくて良いねー」

 

「……つ、疲れ、た……」

 

「この後休憩しながら昼食だから安心しろー」

 

「……オイ。俺は良いんだが刹那とこのお嬢ちゃん大丈夫か?若干痙攣してるんだが「あ、自分が運びますねー」…お、おう」

 

言いながら目の前でショットガン片手に人二人抱えるアムロを見たロックオンの胸中如何ばかりか。

少なくとも、唖然としているのは確かである。

とはいえ、同時にお姫様抱っこなんて器用な真似出来る訳もなく、頭の上に刹那。左肩の上に唯依を乗っけているのでぶっちゃけとてもバランスが悪そうにしか見えない。

 

((……落とさないよな…?))

 

奇しくもユウヤとロックオンは素直にそう思った。

というか刹那の腹にアムロの頭が減り込んでいる様に見えるのは錯覚だろうか?

 

「ほら、行きますよー」

 

そんな彼らの心配などを余所に、アムロはスタスタ歩き始める。

意外とゆっくり目なので、どうやらこっちにも気を使ってくれているらしい。

それを受けて残された二人は何とか力を振り絞って立ち上がり、肩を組み合ってフラフラしながらも彼の後を追う。

 

時刻はそろそろ11時で、稀ながら一般客の姿も見え始めていた。

 

……皆、通りすがりにアムロや自分達の事を二度見していくのは、些か複雑な物だった。

 

 

 

「……? あ、コラ、写真は撮らないで下さいね。見世物じゃありませんから。純粋な救命活動ですからコレ………ちょ、警察呼ぼうとするな」

 

「「「「……」」」」

 

 

……前言撤回。複雑通り越して凄く嫌だった。

 

 

 

「というわけで昼食ですよ」

 

「恵方巻きを作ってみた。因みに今年は東北東だよ」

 

「あっちだな」

 

「ゴメンちょっと待って。なんで刹那いきなり復活してるの」

 

アレルヤのツッコミはこの場にいる全員の心を代弁していた。

 

「私だからな」

 

「「「「「「「ああ、納得…」」」」」」」

 

「「「「「ファッ!?」」」」」

 

が、その一言でマイスター及び主催の馬鹿師弟は全員納得(ただしマイスターの内1名は今だに気絶中)。

一方で彼らをよく知らないTE組(イーニァ、ステラ、クリスカ除く)は驚きの声を上げて彼らを見る。

 

が、その何かを悟った様な目を見て直ぐに思考を放棄した。

 

『とりあえず、そういう事なのだ。』

 

そう理解した。

 

 

「更に今回はデザートとしてチョコフォンデュも作ってみたぞ!!」

 

「みたぞー!!」

 

そんな彼らの困惑っぽいものを余所にして、アムロ(と、何故かイーニァが)更に出してくるのは茶色い液体がなみなみと溜められたボールだ。

甘い匂いが周囲に充満している。

という事は、これがフォンデュ用のチョコなのだろう。

何故固まらないのかは不思議だが、これもそういう物なのだ、と考える事にしようと一同は思った。

雄叫びを上げながら何かしている球体なんて、彼らは目にしていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なお、こちらのチョコ。バレンタインということで、本日の番外編企画の開催地日本ということで、このチョコは監修:俺、製作:イーニァちゃんとなっております」

 

「がんんばったぞー!」

 

「女ノ子ノ手製チョコトカナニソレ裏山フォォォォォ!!!!!!」

 

 

何も目にしていないし、何も聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで昼食終了後の自由時間。

また、これもかなり大変な物になったが、今回は割愛させて頂く。

ぶっちゃけ迷子が多くなり過ぎてえらい騒ぎとなった事だけを此処に記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、全てが終わった後は、キチンと師匠が全責任を持って『お土産ごと』『次元掘削ドリル』で向こうの世界へと送り届けてあげた様です。

 

 

 

「結構こうやってみると師匠って鬼畜よね」

 

「いや、君も結構負けず劣らずだからね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかどこかの未来

 

 

 

平行宇宙

 

西暦2000年○月×日朝8時

 

 

「で、なんだこの状況」

 

目が覚めた“彼”は真横を見てこう呟いた。

確か自分は昨日の夜、粗方仕事を終わらせ今日の朝食の仕込みも終わらせた後、相棒を抱き枕がわりにたった一人で布団に潜ったはずである。

 

 

それが今はどうだろう?

 

アルゴス小隊の衛士3人に始まり、暫定婚約者の少女にアルゴス小隊及び米軍より預かっている馬鹿2名。

更には自分が師匠の謀略によって面倒を見ることになった銀髪姉妹も一緒になって自分の布団に潜っていた。

 

げに恐ろしきは自身の手製の布団。

自分含めて9人の体をスッポリと覆えてしまっているとはどういう事だ。

確かに完成直後にデカ過ぎると反省はしたが、まさか此処までのモノとは。

 

そう思いながらも時計を見た直後、「あ、やべ」と呟いて彼は布団から離脱し、テキパキといつもの服に着替える。

白地の三色で彩られた専用のBDU寝巻きの代わりに着込むと、即座に何処かへと電話をかけ、同時にまだ寝ている残りの8人から布団をひっぺがす。

その下から現れた彼らの服装に、“彼”はおや?と首を傾げる。

 

寝巻きのままかと思いきや、8人とも何故か普段着のままだ。

酒でも飲んでたかと思ったが、その割には匂いもしない。

ただ、よほど楽しい夢でも見てるのか、全員の口元には(あの堅物の唯依やクリスカまで!!)柔らかな笑みが浮かんでいた。

 

それを見た“彼”はフッと笑う。

しょうがないなぁ、と呆れるように。

幸せそうだなぁ、と羨む様に。

 

「……起こしたら可愛そうかな?」

 

そう呟いて、彼は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、相棒。REC」「モウヤッテルゾ」「流石は相棒」

 

――――――実に邪悪な笑みを浮かべながら、そう宣った。

相棒の球体も、やるべき事をやっている、と言わんばかりに堂々としている。

 

「んじゃ、あと頼む」

 

そう言ってから、彼は今日の仕事に取り掛かるべく、部屋を出ていった。

 

 

部屋に残された8人が「いい加減に起きろ」、と早朝(?)バズーカを実行されて目を白黒させながら飛び起きるまで、残り1時間。

 




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

「主人公のアムロです」

「ラスボスのリボンズです」

さて、結局作者のリアルの影響もあり、こんな時期にこんな内容になった番外編なわけですが。

「正月要素が細々としかない件について」

「そもそも七草粥とか解る人居るのだろうかね?」

さあ?そこは私も分かりかねますね。

「「投げやがったよコイツ……」」

うっさい。



まあ、そんなこんなで番外編なわけですが。

「なあ、これ、どっちかといえばこっちじゃなくて『外伝』の方に上げた方が良かったんじゃねぇの?ほら、あっちの皆さん大量に出てきてるし」

「……という意見があるのだが、ソノ心は」

ぶっちゃけマイスターズ出てるので……

「「理由ショボっ」」

うっさいよ。






「で、ラストのアレは……」

「あ~………なんというか、ねぇ?」

少なくとも彼は着々と師匠と同レベルの何かになってきております。
…当の師匠は更に上を行くけどな!!

「………………俺は今、泣いていいと思う」

「ドン( ゚∀゚)bマイ」

「うっさいわい!!」





というわけで如何でしたでしょうか?
ちょっと期間も空きすぎ、私もも若干スランプ入っていたので徹底的に番外編のノリで突っ走ってしまいましたが……

「個人的には向こうの連中VSアムロとか見てみたかった件について」

「やめて師匠!!俺の胃袋死んじゃう!!!」


あ、それは外伝で普通にやるからいいかなと思ったので今回は省きました。

「だって?」(ニッコリ

「嫌だァァァァァ!!!!!!」


そんなこんなで今回は此処まで!!
次回からは再度本編へと戻っていきます!!

「いよいよクライマックスだね……どうなるのか、僕も楽しみだ」

「……お願いですから、後生ですからこれ以上俺に迷惑事を持ってこないで下さい……!!」

そこら辺は受諾しかねまっす。
頑張らない奴など、主人公じゃないしね!!

「もう俺十分頑張ってると思うんだ!!」

「いやいや、まだまだでしょう」

その通り!!!!
というわけで皆様、あらためまして、新年今年も宜しくお願い致します!!!


「「というわけで、次回をお楽しみに!!」」


















「と、最後に一つだけ。

今回、僕の弟子が福豆をエライ勢いで人にぶつけていたけど、アレはあくまで“小説内のネタとして”行っているのであって、実際にやると場合によっては危険な行為となります。

豆まきは常識の範囲内で、みんなで楽しく、家族や友達、自分を取り巻く様々な人達の今年一年の健康や幸せを祈りながら行いましょう。

師匠とのお約束だ!!」


「あと、鬼のやっていた罰ゲームも結構危険なものが入ってるからな。遊びで安易に真似をしないように。

軽くても、本当に危ないのは簡単に怪我ができるんだからな。絶対に安易な気持ちでやるんじゃないぞ?」


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色々と終わりに向かって来た頃の話
二十四話――――――間抜けに顔バレし真実知って


大変遅くなってしまいました。

仕事が忙しくなったのもありますが、ちょっとそれ以外にも要因あるかなー?と自分では考察しています。

……というか、なんか↑の文章もなんか変な感じ……


まあ、そんな事は置いといて。

というわけで最新話です。
内容は……題名からわかるかなーという感じですね。
では、本編をどうぞ。


逃げ道など無かった。

 

そう思いながら自分の状況を鑑みる。

パイロットスーツを着たまま、相棒共々ココ(独房代わりの一室)に閉じ込められている。

そもそもの段階でアイツを連れてアイツが居る此処に来たのが間違いであった。

精神的に不安定になってる女の子を連れて動き回りすぎた自分にも原因があると思うが、兎に角その時点で逃げ道はなかったのだと思う。

 

相棒共々開かぬドアを見上げる。

固く閉ざされてはいるが破壊できぬわけではない。

が、その結果として起こるゴタゴタを考えると、どうしても実行に二の足を踏んでしまう。

 

 

 

どうにもならん。

 

 

 

そう心の中で呟いてから、俺は再度相棒とともに溜息を吐いた。

 

 

……というかお前そんな機能まで追加していたのか。

なんかシュールだ。

 

 

事の起こりは約3時間ちょいほど前に遡る。

 

「OよりPへ。お宅の緑が満身創痍で宇宙に漂っていた。燃え尽きてはいない。着艦を許可されたし。繰り返す」

 

言いながら幼児をあやす様にネーナの背を叩く。

おそらくは、まあ、限界だったのだろう。

先程から必死に声を出さないようにしていたが、ボロボロ涙を流して泣いていた為に仕方なくメットを外してあげて、そのまま泣かせていたのだ。

 

……前みたいにしがみついて来て離れなくなったのは誤算だったが。

 

「裏山ギリィ」

 

「それ以上言ったら戦争だかんな相棒」

 

言い合いながらもキッチリ操縦とサポートが出来てる辺り俺らだなぁなどと思いつつプトレマイオスへと着艦する。

ここからが面倒である。

 

何せ今回は以前とは違って身バレの可能性が異常に高いのだ。

理由は言わずもがなネーナである。

この状態、不安定な精神状態の彼女に何を言った所でその信頼性は低い。

些細な事からボロが出る可能性がある。

一応出る前に言い含めてはいるが………ぶっちゃけ信用はできない。

 

「…………ままならねぇなぁ……」

 

そうポツリと呟いて虚空を見る。

 

誰からも返事は来ない。

 

解っていた事だがそれは少しの寂寥を心に感じさせた。

 

 

プトレマイオスに着艦した後はとりあえずネーナを降ろした後、相棒と共にロックオンさんをOガンダムの手の平から地面へと移す作業が始まる。

無重力状態なので地上と比べれば負担は減るが、それでも意外と重労働である。

ただ単に手を引けば良いというわけではない。

というか相手が怪我人の時点でそれはダウトだ。

先ずはコクピットから簡易のストレッチャーを引っ張り出す。

折りたたみ式にしてアルミ製。

多分ちょっと力を込めれば一気にヘシ折れそうな見た目に反して、ある程度の剛性を持つように各パーツが構成されているので、何気に鈍器としても使用可能な一品だ。

 

……何故こんな物がOガンダムに突っ込まれているかなどは知らん。

というかいつの間に突っ込まれていた?

何気にあそこも相棒の中と同じように、最近若干四次元ポケット化してるんじゃないかと思ってしまう。

 

……無いよね?

 

 

閑話休題(それは兎も角として)

 

 

「ドーモ。キュウゴ=ハンです」

 

「なんだその言い方はオイ。何処のニンジャだお前さんは」

 

「失敬失敬……何分、ちょっと気分を変えたかったので」

 

思わずポロっと漏れた。

おっと、と呟いて口元を抑える。

どうやら俺もそこそこにショックを受けていたようだ。これは拙い。

 

深呼吸を一つしてから再度ロックオンさんに顔を向ける。

バイザーのお蔭でこっちの表情は読み取れないはずだが、向こうはそんな俺の様子を見て、少し顔を伏せていた。

 

「…スマン」

 

「キニスンナ。キニスンナ」

 

「相棒、それ俺のセリフ」

 

言いながら相棒を小突く。

…と、同時に相棒の声にいつもよりも力が入ってない事に気付く。

コイツにしては珍しく空気を読んだのだろうか?

……或いは?

 

(…まさか……ね?)

 

フッと浮かんだ事を頭の隅から追い出す。

そんな事に構ってる暇は無いのだ。

 

「相棒、そっち持て。ストレッチャー開くから」

 

「OK。OK」

 

言いながら相棒と共にストレッチャーを開いて、その上に目標の怪我人を乗っける。

マジックテープ付きのベルトで体を固定するタイプなので、あまり締め付けないように固定する。

それでも少しキツかったのか、バイザーの下でロックオンさんが顔を歪めた。

 

「グッ」

 

「あ、失礼」

 

「っ……いや、大丈夫だ。ちょっと腕が痛んだだけだ」

 

「いや、駄目でしょ」

 

そう言いながら相棒と共にストレッチャーを移動させる。

目指すはDrモレノ氏の城である医務室である。

状況が状況だけに若干急ぎ気味なのはしょうがない、としても傷に響くのでそんなに無茶なスピードは出したりしないが。

 

 

 

医務室に到着すると中から金色の短髪にサングラスで白衣というこう言うとアレだが中々特徴的な男が飛び出してきた。

みんなお馴染みプトレマイオスの医務室の王、Dr.モレノである。

おそらく現在のCBにおいては最も医学に精通し、同時に人の扱いに長けている人間と言える。

…あと、何気にイノベイドのことについて気が付いており、専用の医療マニュアルで組んでいるというのだから驚きである。

ちょっと師匠対策のために拝見したいと思うのは悪いことなんだろうか?

 

…とと、思考がズレた。

 

「せんせー、急患でーす。ハンコお願いしまーす」

 

「宅配業者か!?……ってグゥォォォォォ……」

 

「ナイスツッコミと褒めたいですが状況をもっと鑑みましょう」

 

「…その言葉は君に贈られるべきだな。ともあれロックオン。皆を心配させた上にこうやって死ぬ一歩手前の状態で此処に居るんだ。今のはその罰と思って素直に受け止めなさい」

 

そう言いながら彼はロックオンさんをストレッチャーから診察台へと移す準備を始めた。

俺も慌ててそれを手伝う。

何と言うか大人だなと思って暫し呆然としてしまった。

あんな事が言える大人になれればなぁ……少なからずそう思う。

 

……忘れられてはいないと思うが、俺まだ16のガキだからね?

 

 

 

アムロの背中が遠くなっていく。

ストレッチャーに緑色のノーマルスーツを着た人を乗せて、運搬していく。

その行動自体に恐怖は湧かないけれども、そこから連想されることに恐怖を抱いてしまう。

 

「――――――」

 

何かを呟こうとして口を開いて―――何を呟けば良いのか解らなくなって、口を閉じる。

さっきからこれの繰り返しだ。

Oガンダムの足に寄りかかりって、そうしている様を客観的に見るとバカみたいだと思う。笑えてくる。

 

でも、口からは乾いた笑い声すらも出なくって。

 

「……」

 

視線を彷徨わせて何度も確認する。

もしかしたら、これはにいにいズとアムロが仕掛けてきている盛大なドッキリなんじゃないかと思って、今にでもミハ兄とヨハン兄がひょっこり出てくるんじゃないかと―――

 

 

 

 

 

 

 

(――――――バカじゃないの?)

 

 

 

 

 

心の中の冷静な部分にそう言われて、一気に現実に引き戻される。

そう、馬鹿なんだ。

二人は死んじゃったのだ。それを認めたくないから、そんな馬鹿な事を思っているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっかのいつかのどっか

 

 

「ブェックショイ!!!」

 

「うわ、きたねえ!!」

 

「何やってんだよロン毛!」

 

「…っ。うっせぇな……誰か噂してんだろ」

 

 

 

 

 

 

今なんか見えたがぜったいに幻覚だと思う。

 

そう思うことにする。

 

「…ハァ……」

 

泣くだけ泣いたからか、涙は出ない。

代わりにどこか穴が空いた様な気分で憂鬱になる。

さっきまでの、あの本当に身を掻き毟りたい程の悲しい気持ちが、まるで溶けて無くなったのかのようだ。

悲しいという感情はあるのに、それがそこまで表面化しない。

 

 

 

『人間は慣れる生き物だ』

 

アムロやミハ兄と一緒にあのCBの施設に居た際、暇潰しに目に入れた本に載っていた言葉が思い出された。

旧時代―――とは言っても、21世紀初頭に売り出された物だ―――のロボットアニメのノベライズ本に書かれていた一節だったと思う。

その本の中では、その言葉を言った中年の男が初めて人を撃った時には手が震えたのに、段々と震えなくなっていったという体験談が一例として出されていた。

 

そこまで思い出したところで、こう思う。

 

 

 

自分も、そうなんじゃないのか?と。

 

 

 

ひゅっと息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。

言葉が、出ない。

否定しようとしても、何も思い浮かばない。

自覚があるからだ。

 

考えてみれば、ヨハン兄の時もそうだった。

あの時は酷く悲しくて、悲しくて、情緒が不安定になっていたと思う。

 

でも、今はどうなんだろう?

 

 

「…………」

 

目を閉じて、ヨハン兄を思う。

確かに悲しみや寂しさは感じる。

あの声がもう聞けないし、話す事も出来ない。それを再度理解して、涙が滲む。

 

 

でも、それだけだ。

 

あの時みたいに、取り乱したりはしない。

 

 

自覚する。

あたしは既に、“家族の死”に慣れている、と。

 

 

「……っ…ハ……ぅ……」

 

途端に酷い吐き気を感じた。

それは自分自身に対する……嫌悪から来る物だったのか。

それとも、人という個体に対する嫌悪感か。

 

考えてみればおかしいのだ。

自分以外の人間も、家族が死んで悲しむが、大体の連中はそう時間も掛からぬ内に立ち直る。

ドラマとかだといつまでも引き摺る人がよく描かれているが、現実ではどうなのか?

きっと、そう言う人は極少数なのだと思う。

或いは、支えてくれる人が居らず、自分一人で何とかするしかなかった人なのだろうか?

 

考えが纏まらない。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッ………う………ぁ……」

 

動悸が早くなり、マトモに居られない。

ひどく気分が悪かった。

酷く自分が気持ち悪かった。

 

 

 

 

安心したかった。

誰か近くにいて欲しい。

誰でも良いから。

 

 

 

誰でも良いから、今のあたしを慰めて欲しかった。

 

 

 

 

ロックオンさんの搬入(失礼)も終わり、俺は今ブリーフィングルームで相棒と共に残りのマイスター達、そしてスメラギさんと打ち合わせ…と言っていいかは疑問だが、そんな事をやっていた。

 

「―――というわけでこちらに残っているのはオーバーホール中のスローネドライ。それから、私の扱っているOガンダムだけです。実質動かせるのはOだけなので、事実上は1機だけと考えて頂きたい」

 

「…キツいわね…敵の殲滅を考えなければ何とかはなる……そう考えたいけれど」

 

「十中八九そうは行かないでしょう。次は相手も本気でしょうし」

 

「…そうね……」

 

相手―――つまりは国連大使。裏切り者である。

師匠からのGOサインが出たことで、あたかも最近知りましたと言う風に向こうに報告する。

少々の嘘と大半の事実―――これで大体の人間は騙せる。

或いは惑わせる。

信頼関係があれば、騙せる方向で事を進められる。

 

師匠から習ったことだ――――――だが、この状況ではリスクがデカイ。

無論、原因はネーナだ。

 

さっきチラとバイタルチェックをしたら、脳量子波が乱れ、他のバイタルも乱れているのが確認できた。

思わず汗が流れる。

これが吉とはならない事はもう余裕で推測できる。

だとすれば、今やらねばならない事は何か――――――

 

 

「……まあ、今ここでこうしてウダウダしていても何も変わらないでしょう。兎も角、こちらは一旦戻らせていただきます。Oガンダムを本気で動かすならば、今の兵装ではあまりにも不安要素が大きい。なればこそ、万全の状態にして、直ぐにバックアップに当たれるようにしたい」

 

そう言いながら、スメラギさんを見る。

向こうもその事には理解を示してくれている。

こくりと無言で頷いてから、アイサインでOKを出してくれた。

それに片手を軽く上げる事で感謝を示すと、踵を返して部屋から出る。

 

……が。

 

 

 

 

 

「刹那。見送りお願い」

 

「ああ……は?」

 

「ハイ?」

 

そんなスメラギさんの一言で、一瞬動きを止めてしまい、俺はそのままドアの向こうの壁に激突した。

 

 

 

 

 

 

アムロと刹那が退室したブリーフィングルーム。

そこでスメラギは一人、難しい顔をしながら黙り込んでいた。

 

しかし、それは今の状況に対しての物ではない。

先程の人物についてだ。

 

「……やっぱり、妙よね」

 

「? 妙…って?」

 

そう、ユリが訊ねてくる。

それに首肯しながら、スメラギは淡々と言葉を紡いだ。

 

「まず第一にさっきのあの情報。おそらく、あれ嘘よ。…とは言っても、全部が嘘じゃない。おそらく、最近知ったという事が嘘なのよ」

 

その言葉に、ティエリアとユリが目を剥いて驚く。

アレルヤはどうやらその事に気付いていた様で、神妙な顔で頷くに留まったが。

 

「…スメラギ・李・ノリエガ。それは本当か?理由は?」

 

「人生経験って、意外と馬鹿には出来ない物なのよ………理由としては、まあ簡単に言ってしまえば同族嫌悪」

 

「…同族嫌悪、だと?」

 

そう怪訝な顔になるティエリアに対して頷きながら、スメラギはなおも言葉を続ける。

 

「……褒められた事ではないけれど、私自身嘘を吐いて情報収集をしたこともある。そういう時に使った嘘の中で相手に信用されやすい嘘って、真実に少し嘘を混ぜた物なのよ。相手がこっちを信頼してくれていれば信じられ易いし、信頼されて無くても惑わすことぐらいは出来る……今更彼がこちらを潰しに回る事はないと思いたいけど、さっきみたいな事を言われた以上、完全に信頼するというのは少々危険」

 

「……刹那を使って、ボロを暴ければそれでいいということ、ですね?」

 

アレルヤがそう言う。

それに対して、スメラギは苦笑いをしながら、肯定の意を示した。

 

今まで嘘を幾つも吐いた、女の顔だ。

ユリは無意識にそう思った。

 

 

 

そんな会話がブリーフィングルームで行われているとは露知らず、前を進んでいく白いノーマルスーツの人間を見ながら、私はボンヤリとスメラギの言った言葉の真意を読み取ろうとしていた。

 

(見送り…とは…?)

 

これまで彼を見送りに誰か出された事があったのだろうか?と考えてみるものの、前々回は兎も角、前回はアリー・アル・サーシェスの機体から受けたダメージの所為で自分は気絶していたのだったと思い至る。

…では、前回から見送りが付いたのだろうか?

そう考えてみるも、それもないと否定する。

考えてみればあの場に居たティエリアとユリも驚いた顔をしていたのだ。

起きた時に自分を看病してくれていたユリは兎も角、確実に会談の場に居たであろうティエリアが驚いているとなると、確実に前回はそんな事がなかったのだという予想が立つ。

 

――――――では………何だ?

 

そこまで考えて思い当たるのは―――疑念。

つまりスメラギは、目の前の人物―――O-01に対して、疑念を抱いているという事。

 

(……何に対して?)

 

そこから先を考えようとした所で格納庫に到着してしまう。

スペースがない為に彼の機体はトレミーの中央部分に格納されている。

中央部分は他のコンテナと比べるとブリーフィングルームからの距離が近い。

なので普通に向かうと軽い考え事1個考える余裕もない。

 

「すまんな」

 

「いや、こっちこそ。仲間を助けてもらってありがとう」

 

「気にするな。仕事なのでな」

 

そう言いながら、白いノーマルスーツが外套を纏った機体の腹部へと飛んでいく。

それに吊られる様にして、私も機体を見上げた。

該当を目深に被っているせいか顔はよく見えない。

が、シルエットからしてどこかで見た事があるような気がする。

とても懐かしいような、新鮮なような、不思議な感覚だ。

 

「…ふん」

 

そう呟いてから、私は踵を返した。

なんとなく、こんな事をしている場合じゃないなと思ったからだ。

自分の機体のチェックなど、やる事は山ほどある。

余計な時間など食ってはいられないのだ。

 

 

 

 

 

『……うぉっ!?』

 

が、直後そんな声が聞こえて私は振り返る。

視界の先では、O-01が機体のコクピット内に強引に引きずり込まれるようにしている。

 

(…なんだ?)

 

純粋な好奇心が鎌首を擡げる。

今、あそこにはネーナ・トリニティしかいないはずだ。

だとすれば……彼女が引きずり込んだ?

また何故?

 

(……よし)

 

それはちょっとした好奇心だった。

二人には悪いと思ったが――――――まあ、これでも私も女子だし。

そういう事に興味がないという訳ではない。

 

ありえないとは思うが―――まあ、後学の為にもなるだろうし?

 

そう思いながら機体の腹部へと飛ぶ。

無用心にもハッチは開いたままだ。

なのである程度近付くと段々中の会話が聞こえてくる。

 

……んが、想像していたものとは違い、聞こえてきたのは揉めている様な声。

どうもO-01が必死に誰かを引き剥がそうと―――つまり、ネーナ・トリニティを引き剥がそうとしているような声が聞こえてきたのだ。

そっと覗いてみる。

見ればO-01がシートに陣取ったネーナ・トリニティに思い切り抱きつかれていた。

 

「はーなーしーなーさーい~~~~~~~!!!!!!」

 

「い~~~~~~や~~~~~~だ~~~~~!!!!」

 

「オイチョットソコ変ワレヤ相棒ゥ……」

 

……思わず溜息を吐いた。

ガキの喧嘩か。ガキの。

そう言いそうになったが、グッと我慢する。

まあ、頃合を見て仲介してやろうと思い直して経過を見守ることにした。

この男が狼狽しているのは珍しいからな。(メットで本当に狼狽しているかはわからないが)

 

そう思いながら入口近くで二人と1体を見守る。

…しかし、完全にこっちに気付かないというのも何かアレだな。

こう、腹立たしいな。

 

そう思った私は、ふと、ある事に気付く。

 

O-01のメットとノーマルスーツの間。

二つを繋げる為の固定具が、解除されている事に。

はて、さっきまでこんな状態だったのだろうか?

そう疑問に思って考えるも、さっきの通路に居た時はそうではなかったと思いだせる。

 

では、ついさっきだろう。

そう結論づけて、再度二人を見る。

 

見れば先程よりも二人の戯れあいはエスカレートしており、ネーナ・トリニティのメットがガツゴツ当たり、O-01のメットはかなりズレていた。

時折直しているが、あまり効果はなさそうだった。

 

 

………そこで、私の中に一つの疑問が浮かび上がる。

 

 

そういえば、こいつ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんな素顔をしてるんだろうか、と。

 

 

 

 

 

 

 

二人は私に気付いておらず、私は丁度奴の真後ろにいて、手を伸ばせば即座にメットを取れる距離だ。

万が一ヤバかったのだとしても、直ぐに戻せば問題あるまい。

最悪、どさまぎでネーナ・トリニティのせいにすればいいしな。

 

そう考えた私は早速実行に移る。

ゆっくりと手を伸ばして、メットへと近づく。

気づかれていない。

 

メットに手が触れる。

気づかれていない。

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、

 

 

 

 

瞬間的にメットを持ち上げて、即座に手を離し、入口まで戻って今来たばかりなように見せかけ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んお?」

 

 

 

 

――――――瞬間、私は固まった。

 

聞こえた声はとても聞き覚えがあるもので。

同時に、見えた髪の色と肌の色はある人物をとても想起させるもので――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アム、ロ………?」

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

思わず出た問い掛けに奴は答えなかった。

そのまま固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先はもう何が何やら。

 

気が付けば私は奴の手を無理やり引っ張ってスメラギ・李・ノリエガ達の前に引っ立てて、それから事情を聞くために奴を営倉代わりの一室にぶち込み、それからネーナ・トリニティを連れてきて――――――

 

 

 

――――――那。刹那!」

 

「……はっ!?」

 

――――――あの外套を纏った機体の近くでぼーっとしていた。

アレルヤ・ハプティズムに肩を叩かれて、やっと自分が棒立ちになっていたと自覚できるとは……どうも、思っていたより精神的にストレスが大きかったらしい。

 

「どうしたの?何かあった?それとも彼についてまた何かあったのかい?」

 

動揺を表に出さないように努める。

いつも通りに、冷静に。

 

「………うん。まずはその表情をなんとかしようか」

 

鏡を見なよ、と言われて手渡された折りたたみ式の手鏡を見て、私は驚いた。

映ったのは、いつもより無表情で、それでいてちょっと目元の潤んでいる女の顔。

 

馬鹿馬鹿しい事だが、一瞬それが誰だか解らなくなる。

 

そしてそれが誰の顔だかわかった瞬間に、私は首を傾げた。

なんで自分はこんな表情をしているんだろうか、と。

 

「…………」

 

「……刹那」

 

「…………顔を洗ってくる」

 

「あ、うん」

(…これは重症かな……?)

 

そう言葉を交わしてから、私は自室へと戻る。

そうしてから洗面所に何故か駆け込み、蛇口の水を全開にして、そのまま手で掬って顔にぶち当てた。

何度も、何度も繰り返す。

 

6回目を越えた辺りだったろうか。

ふと、鏡の自分の顔が目に入った。

 

…………ビショビショに濡れていて、泣いていても判らなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

「……では、君達も彼の正体を知ったのは最近ということか?」

 

「う、うん……でも、元々“O-01”っていうのは複数人で担当を請け負ってたみたいで……」

 

「……彼自身が嘘を言っている可能性もあるからその情報は鵜呑みにはできない。それに、毎回声が違っていたのもそれなら頷けるが、ボイスチェンジャーを使っていたという線も捨てきれない」

 

「う……」

 

そう言って黙り込むネーナ・トリニティを見ながら、スメラギは考えていた。

おそらく、今彼女が言った“複数人居る”という情報は確率として低い部類に入るだろう。

ボイスチェンジャーを使っているのは先程確認できていたし、そもそも身長などもほぼ同じ、挙句MSの操縦技能までも高レベルかつほぼ同じ人間を何人も用意するのは不可能だろう。

それこそクローン技術などの応用をしなければならない。

 

……もしもそれが可能だとしたとしても――――――

 

 

「……アレルヤ。刹那の調子はどうだった?」

 

仮説を幾つも立てて混乱している暇はない。

そう判断して彼女はアレルヤにそう問いかける。

O-01―――アムロ・レイという少年と付き合いが長いのは、この中ではユリと刹那、それからフェルト程度だ。

その内一人は先程満身創痍以上の状態で帰ってきたおバカの傍に付きっ切り。

あとの二人も……

 

「……こう言うとアレですけど………あれは重症ですよ。自分で自分の感情に気が付いてないっていうか何と言うか……」

 

「少なくとも、今は下手に会わせることは出来ない?」

 

「そこはスメラギさんの方が解るんじゃないですか?」

 

苦笑いでそう返される。

スメラギはそれに苦笑いで返すしかなかった。

確かにそうだ、と自分でも納得してしまったからだ。

 

「それじゃあ……ユリ?」

 

「やっぱりそうなるのか……まあ、別に大丈夫ですけれど」

 

次に白羽の矢が立ったのは付き合いが長い最後の一人。

幸運にも、彼女自身はそこまでダメージはないらしい。

溜め息一つ吐いてから、踵を返してアムロが収監されている営倉替わりの部屋へと歩を進め始めた。

 

「悪いわね」

 

少しだけ申し訳なさそうに、スメラギがその背に呟く。

それに対してユリは軽く苦笑いすることで返した。

 

 

「……さて、とは言ってもどうしたものか…」

 

あいつが居る部屋へと向かいながら、私はそう独り言ちた。

何と言うか、アジトで共同生活(ほぼ居候みたいな状態だったが)をしていた頃からだが、私はアムロに対して口で勝った事は一つもない気がする。

…………というかあれか。口論や口喧嘩を殆どした事がないからか。あいつとは。

 

(刹那達とは違って、比較的最初からオープンだったからな。)

 

それが演技だったとしても、と心の中で付け足すことは忘れない。

というか、真面目に最初会った頃の刹那とかティエリアとかフェルトといった“トレミー三大無愛想”と比べれば、どんな人間もあそこまで可愛く見えるというものである。

フェルトは兎も角刹那はガンダムの事で頭がいっぱいでガン無視とかあったからな。

 

………いかん。思い出したら泣けてきた。

 

 

「……っと……もう着いてたか」

 

部屋の前に着いたところでハッと現実に戻る。

あの頃の事は……うん、やめよう。

思い出したらまた泣けてくる。本当にあの3人は成長したと思う。

 

「…よし」

 

気合を一つ入れて身構えながらドアを開ける。

もしも襲いかかられても対処できるようにだ。

付き合いがある程度はある、といっても、本当にあの時見せてくれていた顔が素であるかなどはまだ分からない。

演技じゃないなどとは言い切れない。

そう自分に言い聞かせる。

 

 

そんな私の目に、飛び込んできたのは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バッ!ちょ、相棒隠せ隠せ!!俺まで疑われる!!!」

 

「ダガ断ル。私ノ自由ハ止メラレナイ!!」

 

「お願い自重してぇ!!!!製作者からのお願い!!!」

 

 

……大量のエロゲーをうず高く積み上げている一つの球体と、それを前にして撃沈しているアホの姿だった。

……何してるんだ?お前ら………?




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

というわけでアムロは顔バレです。
次回から、尋問が始まりますかね。
まあ、絶対に平穏無事では終わらないでしょうが。


と、今回はこんなところで。
では、また次回。


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二十五話――――――これは尋問とは言わない(byユリ) 一体いつから私がコミュ障じゃないと錯覚していた…?(by刹那)

大変、本当に大変遅れてしまいました。
今回は一応終始トレミーでのお話になります。

また、作者スランプのため、文法その他がおかしくなってる可能性があるので、気になる場所があれば指摘して頂けると嬉しいです。


しかも短いという。


しかもいつもよりも短いという。

では、本編をどうぞ。


「………で?」

 

「あれは断じて俺の私物ではない」

 

「ああ、それはわかってる……で?」

 

「………なんか、ごめんなさい」

 

そう言って頭を下げる少年の姿に、私は溜息を吐きつつ頭を抑えた。

既に尋問部屋替わりの一室にはこれでもかというほどR-18お断りなアレコレが軒を連ねており、そのど真ん中で黄緑の球体が悦に浸っている。

 

なんなのだろう。このカオス。

ぶっちゃけ今直ぐ部屋を飛び出してスメラギさんに土下座し、尋問役を誰かに代わってもらいたかったが、ぶっちゃけこの惨状の前だとそう言う願いも逃げ出してしまう。

 

 

――――――誰が好き好んでこんな変態の巣窟に仲間を引きずり込めるか!

 

 

ぶっちゃけ今の私を支えているのはこれだけである。

これでその最後の砦も崩されたら真面目にやばい事になる。

幸運にも、ここにはアムロという比較的マシな存在がいるので何とかなっているが、これは拙い。

主に私の精神状態的な意味で。

 

「………よし、尋問始めるぞ。というか始めさせてくれお願いします……!」

 

「泣くなや!?というか立場が逆になっとるぞ!?立て直して!ほら!?」

 

尋問の相手に背中をさすられつつ励まされて立ち直るとか尋問官失格だろうが、と心の中の冷静な部分が囁くがぶっちゃけ私は謝らない。

というかさっきからエロゲの音が酷いんだ……!なんでよりにも寄って鬼畜改造陵辱系なんだ……!対○忍とか女子の前でやるような内容じゃないぞあの球体……!!

 

「…相棒。せめて音はなくしなさい」「羞恥で涙目hshsprpr」「(#゚Д゚)ゴルァ!!」

 

「………」

 

「あ、ほら、泣くな泣くな!?立場逆だから……相棒はさっさとそれらをしまえ!!話が進まん!!!」

 

………畜生、畜生!!

絶対に負けてなるものかよ!!!

 

 

 

 

「……同情を禁じえない」

 

「惨い………惨すぎる……」

 

「ユリ、ごめんなさい。マジでごめんなさい……!」

 

「……うん、ドン引き過ぎて声も出ないっす……」

 

「フェルト?見ちゃダメだからね?絶対に見ちゃダメだからね!?」

 

「……手を離してくれないと見えないよ?」

 

……なお、お解りの方もいると思うが一応説明すると、

 

アムロ達の居るこの部屋は『バッチリ監視されている』。

 

誰が誰の反応なのかはお察しください。

 

 

 

「……落ち着いた?」

 

「なんとかな畜生……」

 

何とか相棒の暴走を止めてユリが落ち着くのを待った結果、尋問開始から既に1時間近くが経過していた。

(あの大量のアレコレは全て相棒が自分の中に戻した。相変わらずの不思議球体である)

しかし傍から見てユリの精神状態はあまり良さそうではない。

おそらくこの部屋には監視があると想定すると、次何かやろう物なら保護者の皆様がすっ飛んできて尋問が拷問にクラスチェンジする可能性が出てくる。

 

個人的にそれだけは回避したいので、とりあえず今は彼女をあまり刺激しないようにする。

……というか、初めから俺は刺激するつもりなんて微塵もなかったんだけどね?

 

「え……っと?それじゃあ一体何から聞きたい?好きな事言ってみなさい。答えられる範囲で答えるから」

 

「………あ、ちょっと待った。まだ少し気持ちが……よし、落ち着いた。そしてらな…えっと……」

 

「ゆっくり考えるといい。あまり時間があるわけではないかもしれないけど」

 

「そこは嘘でもいいから時間があるといって貰いたかったな」

 

そんな言葉と共にジト目で睨まれる。

まあ、それもそうかとは思う。

こういう時に現実的な事しか言えないから、自分はダメなんだろうな。

……と、思考が少し脱線した。

 

「で?」

 

「…切り替え早いな……取り敢えず、何時からマイスターだったのかから話して貰おうか?」

 

「お前さんもいきなり確信突こうとするね……」

 

「結構重要なところだからな。ああ、言っておくけど複数人でやってたとか言うなよ。バイタルデータの履歴は調べてあるからな」

 

「ふーん」

 

……ブラフだな。

そう判断する。

 

明確な確証はないが、あれにバイタル履歴保持機能はなかったはずだ。

全部相棒の方に突っ込んでるからな。

よしんば俺が知らない内に追加されていたとしても、ダミーデータを入れておくはずだ。

……師匠なら敢えて入れずにまんまで追加しておくという手を使いそうだという懸念はあるが……

 

―――とはいえ、黙りっぱでは始まらないか。

 

さて、どう話したものかと頭を掻いて考える。

ぶっちゃけ最初からゲロってもいいだろう。

だが、世の中何がどう影響してどうなるのかは解らない。

ゆえに、手元に手札を残しておく事もそう悪い事ではないはずだ。

……多分。

 

「…ん~………とりあえず、スローネ合流時点では俺だった」

 

「……本当か?私はあの機体に乗った人間に計画発動前に接触してるんだが?言動もお前とよく似てたぞ?」

 

おそらく、最初に見に行ったテストのあれか。

そう判断して口を開く。

 

「俺の前に誰も乗ってなかったわけじゃないさ。師匠や姉さん、その同僚達も乗ってたことがある。その内の一人から計画発動前のミッションに立ち会った人が居るからその人だろう。言動も、なるべく“O-01”名乗る人間は合わせるように訓練させられるからな」

 

嘘は言っていない。嘘は。

ほぼ全部事実だ。

 

「……全部それは本当か?」

 

「この状況で嘘なんぞつけるか。全部本当だよ」

 

言ってから、ふとこう思い当たる。

 

……でも、よく考えたら向こうにも似たような人いっぱいいるから、今の策バレたんじゃね?

 

と。

 

 

「あ、今全部話してないわね」

 

「やっぱり分かるんですね。スメラギさん…」

 

「悪いけど、これでも戦術予報士なのよ?それに、言いたくないけど年の功なら私の方が上よ」

 

「……女ってのはやっぱり怖ぇなおい…(ボソッ」

 

(………ま、全く解らない、だと………?や、やはり僕は…俺は…私は……!?)

 

(あ、ティエリアダウナー入った)

 

 

変な光景見えたが無視。

 

「で、他には?」

 

「何でお前が質問してるんだ………じゃあ、擬似太陽炉が国連側に渡った理由というか……裏切り者?の正体とか……」

 

…そう来たか。

別にバラシても良いんだけれども、芋蔓式に師匠が関わっている事バレると面倒だな。

……あれ?別に従者扱いだからそこまで関係はないのか?

バレても命令だからで済むのか?

……うーん………

 

「……まあいいか」

 

どうせ師匠だし。

 

こういうことに関するアレに対する信頼度は多分この世の中どこを探しても超える者は居ないだろうと豪語できる。

 

だって師匠だし。

 

「は?何だって?」

 

「いや、なんでも……ああ、リクエストには答えるさ」

 

言ってから俺は再度彼女の目を見る。

少し威圧感も出してみるが……効いてるのかな。これ?

…まあいいか。

 

 

空気が変わった。

そう思った。

 

さっきまでのどこかヘラヘラしたようなものから、一気に剃刀の様な鋭さを感じられるほど、目の前の少年の表情が変わっていた。

思わず身を引き締める。

少なくとも、今まで一緒に生活してきた中でこんな表情はあまり見た事がない。

 

どこか無気力そうで、且つ気だるそうで。

 

それが私の中の『アムロ・レイ』だ。

 

しかし、今目の前にいるのは正しくエージェントと呼ばれるに相応しい顔つきと雰囲気を纏った『O-01』だ。

思わず私は唾を飲み込んだ。

 

そのまま少しばかり静寂が続き、ややあってアムロは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……裏切り者の名前は――――――アレハンドロ・コーナー。

 

 

 

元ユニオンのエースパイロットにして現国連の大使だな。そしてCBの創設時からのメンバーの一つでもあるコーナー家の現当主にして200年続く監視者の後継者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――そしてホモだ」

 

「おい、最後の情報そんなに重要そうに話すことか?」

 

絶対にいらないだろう。そこ。

 

 

 

 

あれから色々と話したけれども、特に有用な情報は得られなかった。

……一般エージェントの動向なんて教えられてもなぁ…

 

後はもうOガンダムのこれまでの動向程度しか訊く事がない。

ただ、それを聞いたからって……うーん……

……使われている太陽炉の出処を聞いておくか?

 

……誤魔化されて終わるような未来しか見えないな…

 

「……」

 

「……あ~……聞き出したい事が思い浮かばない場合はあまり無理矢理聞こうとしないほうが良いぞ?逆に情報を引き出されるからな。………聞いてる?」

 

「聞いてるさ……ただなぁ……」

 

ぶっちゃけこれで終わっていいのかという思いもあるんだよなぁ。

なんか、こう、まだ聞けてない部分がありそうな気がしてさ。

 

「………言っとくが、出せる情報は全部出したかんな?もうこれ以上は出ないぞ?」

 

悶々としているこちらの考えを察したのか、アムロは苦笑いを浮かべながらそう言ってくる。

……まあ、それもそうなの、だろうか?

 

……そうなんだろうな。取り敢えず聞きたいことは聞き出せたのだし、後は別室のスメラギさん達大人の仕事というべきだろう。

 

………というか、

 

「……そう考えると酷く疲れた……」

 

それに尽きる。

だって開幕のアレとかソレとか………男子は兎も角女子には相当な精神ダメージがあるぞ。

ぶっちゃけよくもまあ私自身あの段階で挫けなかったものだと思う。

 

……というか、アレ以降ハロがめっちゃ静かなのは何故だろう?

ナニコレ?フラグ?もしや新たなフラグなのか?

 

………え?何?まだなんか起こるの?

 

 

 

 

嫌だぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソンナ事ヲ考エテタンダロウナ」

 

「いや、うんそれは良いんだが相棒。いなくなった途端にゲーム再開はやめてくれる?」

 

最終的に何も起こりませんでした。

 

 

 

 

尋問が終わってから数時間が経った。

その間も、この部屋にはちょくちょく色々な人が俺の様子見という名目で顔を見せに来ていた。(無論ロックオン兄貴はいない。聞いた話によると今度こそ医療ポッドにぶち込まれたらしい)

……これはある程度警戒が薄まったということでいいんだろうか?

それともあれか?監視カメラに細工してると思われたか?

どちらにしろこっちは話し相手が来るような物なので歓迎するのだが。

それでも、一向に刹那だけは顔を見せに来ないのは何故だろうか?

こちとら一発くらいは文句を言いたいのだが。

 

そんな事を考えていた時である。

 

「……ん?」

 

ドアの外に気配。

さて今度は誰だとベッドから身を起こす。

 

…余談だが相棒も既にあの大量の物品を既にしまっており、今は俺と一緒にベッドの近くでスリープモードになっている。

飽きたのか、それとも別の何かか……まあ、どちらでもいいか。

 

「どーぞー」

 

のんきなものだと失笑する。

多分、大多数の人が『自分の立場を分かってないんじゃないか?』と言うこと間違いなしだ。

きっと師匠も笑うことだろう。

 

「……失礼します」

 

「………ど、どうも……」

 

と思ってたら入ってきた人――――――刹那に冷静に返された。

恐ろしく気不味い空気が流れ始め、最終的に俺は苦笑いしながらそう言うしかなかった。

 

 

 

きっかけは些細なものだった。

 

「あー……刹那。ちょっとアムロにあって来い」

 

「……は?」

 

偶々。本当に偶々自室から出た際にバッタリと会ってしまったユリの開口一番の言葉がこれだ。

思わずポカンと口を開けて、そのまま固まる。

 

「………」

 

「………」

 

そのまま双方黙りこくってしまう。

 

「………あ~………ほら、お前、アムロがアムロだってわかってから一回もあいつに顔見せてないだろ?思うところがあるのなら、いっそ全部吐き出してしまえばいいんじゃないかと思って、な」

 

「……ああ…」

 

ややあってから絞り出すように吐き出された彼女の言葉に、私は素直に納得してしまう。

確かに、と。

 

考えてみれば思う所なんぞありすぎるというくらいにある訳で、事実その事でさっきまで自室で呑気に悶々としていたのだ。

…とはいえ、いつまでもそうはしていられない。

あいつがこのままトレミーに乗り続けるという場合、今後嫌でも顔を合わせる事が多くなるのは目に見えている。

 

だから、全部吐き出せと言っているのだ、この姉貴分は。

 

うれしいと同時に少しこう思う。大きなお世話だ、と。

とはいえその世話好きに助けられている部分は大いにある。

たぶん彼女の助けが無ければ、今の私は此処に居ないのだから。もしかしたらもっと無愛想で、ロックオン達ともまともに会話を交わさない様な感じになっていたかもしれない。

 

…………それは無いか。うん。

 

「おい、今失礼なことを考えなかったか?」

 

「別に?」

 

しれっとそんな事を言い放てるようになれたのは何時頃だったのか。

少なくとも此処(CB)に入った直後はそんな余裕は無かったと思う。

……いや、多分入る前にはあったのだ。

 

あの日、“Oガンダム”に助けられる、あの一件があるまでは。

 

(……っ!)

 

軽く頭を振り、過ぎった光景を払う。

あんな事があった直後だからかは分からないが、さっきから妙に“彼”の顔が、一緒に居た頃の光景が浮かぶ。

感傷だと解っていても、どうにも振り払えないのはまだ未練があるからだろうか。

 

「………わかった。ちょっと行ってくる」

 

兎も角、このまま逃げていても意味はない。

今後の状況次第によっては背中を預ける可能性も出てくるのだ。(……多分)

故に今からこの調子ではまずい。

 

ただでさえ今の私達には味方が少ないのだ。

だから、こんな事で一々せっかく友好的になってくれるかもしれない繋がりを蔑ろにしてはいけないのだ。

うん。

 

だから話をしに行くのだ。

 

うん。

 

 

 

 

 

………後から冷えた頭で考えてみたら。この時の私は何を支離滅裂かつ訳の解らない理由付けしようとしてるんだと頭を抱えたくなった。

そこまで、私は混乱していたのかもしれない。

 

 

……そして現在。

 

「……」

 

「……」

 

「………」

 

「…………」

 

「………………………………」

 

「いや、折角来たんなら何か話しませんかねぇ!?」

 

「…………」

 

「無視ですか!?」

 

………こんなことに、なっている。

 

というか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…何を話せば、いいんだろう……?

 

 

 

 

 

「はーいこの中で刹那がコミュ障だと憶えていた人、挙手」

 

『…………』

 

「……うん、わかってた。わかってたけどせめてユリだけは憶えていて欲しかったなぁ……!」

 

「誠に申し訳ございません……!!」

 

今日もトレミーは平和である。(嘘)

 

 

 

 

さて、どうするべきかと俺も悩む。

というか刹那よ。

 

なぜお前がそんなに首を傾げる。

 

というかあれか。

 

なんとなく誰かから焚き付けられたから来た感じかお前。

 

「……ああ。その通りだ」

 

「地の文を読むな!?」

 

更に不思議そうにする刹那に思わず俺は頭を掻き毟る。

なんだか前に会った時より天然その他が進行してる気がするんですけどねぇ!?

そこら辺どうなの神様!?

 

(え?知らん。)by作者

 

サラっと出てくるんじゃないよ神様(作者)

もしかしなくてもアレか!?スランプ陥った弊害でキャラの書き方忘れたのか!?

 

あーもーっと頭を抱える。

考えてみたら俺、前のデートもどきの一件以来コイツとタイマンで話した事がない気がする。

いや、細かい所での会話はあるのだが基本的には食関係だ。

人間関係云々に関わるような会話はほぼ一切無い。

そしてそのままミハエルの特訓だなんだと言うイベントがドッカリ来てしまったので下手すると“アムロ”としての顔合わせなんて本当に久しぶりなのだ。

 

これでもしO-01という仮面があればおちょくるなり何なり出来るのだが、如何せんこの状況だ。

下手な事すれば一発で保護者降臨の上、手厚い歓迎(リンチ)確定である。

 

一人欠けてるとは言え俺は虐められて喜ぶ様なアブノーマル且つ倒錯的な趣味嗜好はないので、この場はそんな自体は丁重にお断りしたい。

 

とはいえ、このままでは流石に俺の精神が持たん。

 

師匠から伝染ったのかは知らないが、俺はこういう気まずい無言のとかが大の苦手なのである。

というか無言の空間が嫌だ。

まあ、前師匠達と居た頃は………というかウチの身内一人でも集まれば百パー五月蝿くなるわ。

どんなに些細なことでも五月蝿くなるわ。

 

そんな空間に5年以上もいればそりゃ無言の空間なんて苦手になるわ!

 

そもそも確か何かが原因で雑魚寝した事があったが、寝付かなければ3分持たずに枕投げか笑わせ合戦(無差別)が始まるような連中だぞ!!

静かに雑魚寝とかした事ないわ!!

なんであの連中俺よか歳食ってるはずなのに全員揃いも揃って学生みたいなテンションなのだ!?

意味がわからんわ!?特に師匠!!

 

「…………思い出したら腹が立ってきたな」

 

「え?」

 

「いや、こっちの話というか師匠絡みのエトセトラを思い出してな………今度寝てる間に小豆を詰めてやる……主に鼻の穴に。主に鼻の穴に。鼻の穴に!」

 

「大事な事だから3回言ったんですねわかります」

 

「それほどでもない」

 

「使い方が違っているぞ」

 

「そうですか」

 

「ああ」

 

………そして再び黙り合う。

 

………だ、誰か!!

 

 

誰か師匠呼んできて!!!

ここまであの人の顔が見たいと思ったこと今までの人生で一回もないと思うほどにあのクソ憎たらしい真っ黒スマイルが懐かしい!?

というか、あの人出てくればこの場も全部解決じゃん!!

主にネタ的な意味で!

 

主にネタ的な意味で!!!

 

 

 

 

「………」

 

「………アムロェ……」

 

どこかの外宇宙航行艦でその光景を見ていた紫ワカメヘアーの少年は思った。

 

あの弟分は、帰ってきたら絶対死んだ、と。

 

考えが顔に出ていると言ってやるべきなのかどうかは定かではないが、この笑顔(だいたいこんな感じ→( ^ω^) )を見る限り絶対ロクなことにはならないだろう。

 

だって目の前のずんだヘアーとあの少年は、曲がりなりにも親子の様な関係なのだから。

 

………とりあえず手に持っている『女子への対応マニュアル』という本は一体なんだと目の前のキャベツヘッドに問い詰めたくなったリジェネであった。

 

 




いかがでしたでしょうか?
どうも雑炊です。

何気なく死にかけながら前回の投稿日時見てリアルで吹きました。
やばいですね。マジで。

というわけでさっさと仏像(ネオジオ)建立して小説に専念できるようにしたいと思います。はい。



………現場が落ち着けばもっといいのですがね(血泪


ともかく。
一応予定では次回からまた本編に戻ります。
みなさんお待ちかねの戦闘シーン始まりますよー(予定

というわけでまた次回!


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二十六話――――――最終決戦  直前及び序章

この作品を楽しみにしてくださってる方々へ。

大変に遅くなり申し訳ありませんっしたァァァァ!!!!!!!!


いや、真面目に。



とりあえず、今回は最終決戦の直前から、開始直後までになります。
前回のあとがきで書いた戦闘シーンはありませんが(オイ)、久々にOガンダムが仕事をしてますのでそれでどうか……!


それでは本編をどうぞ。


「……結局何であいつ来たんだ?」

 

最終的にあの後、刹那とは二言三言(しかもほとんどネタ)交わしただけで終わった。

ネタの内容も会話と言えるほどの物じゃなかったし、もうわけわからんちん。

 

『まあ、今後に期待というところかな………死ねぇ!!』

 

「なんの回避ィィィィィ!!」

 

などと叫びつつゲシュテルベンにバレルロールをさせて斬艦刀を紙一重で躱す。

 

え?何をやってるかって?

 

相棒をモニター替わりにして師匠とスパジェネオンライン対戦ですがなにか?

 

「オオゥ……ダイナミック…」

 

「うっさいよ相棒」

 

なお、今回に限り相棒も参加できるというのには驚いた。

なんでもいつも自分の頭の中だけでゲームプレイをしているあれの応用らしい。

聞くところによると前回ユリの前であんなことをしたのは、これのテストのためでもあったらしい。

……いや、終始お前しかプレイしてねぇじゃねえかというツッコミは封殺されたが…

 

『今だ隙アリィィィィ!!!!』

 

「ところがどっこいいいいいい!!!」

 

見え見えのダイナミックナックルからのゼネラルブラスターを避けつつレールガンで応戦………うん、効いたように見えねえ。

さすがのDZG1号機だよダイゼンガー。現実だったらこんなのとは絶対に戦いたくない。

なお、このスパジェネにおいては最新作でまさかの斬艦刀使用時と非使用時(要は内臓武器だけで戦う状態)をコマンドでスイッチングできるという仕様になったため、手の内が読みにくい機体となっているダイゼンガー。

無論、強機体の一体に名を連ねていた本機ではあるが、今作以降は下手をすると公式大会禁止令が出てもおかしくない程に性能が上がっていらっしゃる。

……何があったのだろうか、むこう(開発側)は。

 

 

まあ、それはどうでも良い。

 

 

既にあれから3日ほどの時間が過ぎていた。

その間にあったことで特筆するようなことはない。

精々ネーナが何度か一緒に寝たいと言い出したり、プトレマイオスのブリッジクルーの何人かが話をしに来たり、或いはOガンダムのことで監視付きで呼び出されたりしたくらいだ。

 

ホントにそれくらいのことしか起きてないので、気味が悪いくらいなのだ。

 

(………うーん…)

 

嵐の前の静けさ、という言葉が何度も脳裏に過ぎる。

前回の戦闘で、国連軍は決して浅くはないダメージを負っているのは、端から見ても明白だ。

 

戦艦数隻に虎の子のGN-Xが数機。

そして多数の否太陽炉搭載機。

 

疑似太陽炉の量産がうまく出来ない筈の今、対ガンダム戦の要であるGN-Xの喪失は、それだけで戦略の瓦解を引き起こしかねない。

前回何機墜ちたかは把握していないが、少なくともミハエルが3機は落としていたはずだ。

 

国連に渡されたGN-Xの総数は30機なので、以前に俺やマイスター達が落としていることを鑑みるに、少なくとも5機以上、多くても15機以下撃墜していることになる。

 

とはいえ、肝心の疑似太陽炉が残っていれば予備パーツは在るはずだから修復は出来るので、完全に動けない、と言う機体の数は想定よりもっと少ないだろう。

パイロットだって、惜しくも初期メンバーからは漏れた、と言うような良い腕の人はいるだろうし。

 

…………いや。今後の主力を疑似太陽炉搭載機にするのであれば、リスクは大きいが、慣れさせる、という名目でそこそこな腕でも乗せてこれるか。

 

となるとやっぱり敵はまだ20は少なくても出てくると考えておこう。

 

と、なると、だ。

 

こっちの兵力は俺を除くとデュナメス無しで、計4機。

敵がGN-Xしか出してこなかったとして、単純に計算すれば戦力比1:5。

俺を出してくれたとしても1:4。

更にそこに敵の隠し玉やら、ロックオンさんが遭遇したという謎のガンダムタイプ(おそらく師匠の差し金)にそれから____

 

 

 

『Eセンサーに反応。敵部隊を捕捉しました』

 

 

そんな声が警報と共に耳に入る。

あ、と声を出す暇なくドアが開き、そこに立つ人影が見えた。

 

「………っんとうにお前ら自由だな……」

 

人影ーーーユリがガクッと肩を落とすのを見て、俺は苦笑を漏らす。

それから画面の向こうの師匠に顔を向けて、

 

 

 

 

「んじゃ、ケリは帰ってからってことで」

 

『オケ。早よ潰してきなさい』

 

そうお互いに言葉を交わしてからゲームの電源を切った。

それから立ち上がり、再度ユリの顔を見て問いかける。

 

 

 

 

 

「………で?俺は何をすればいいんだ?」

 

 

そのまま俺はユリに連れられて格納庫まで相棒と共に向かった。

 

到着と同時に周囲を見渡す。

ネーナの姿は……ない。

 

思わずその疑問を口に出す。

 

「ネーナは?」

 

「……さっき、破損したデュナメス、それから馬鹿な大怪我人と一緒に武装コンテナで離脱した。……生きて帰れる保証なんか、無いしな」

 

そういったユリを見やる。

いつもよりも、影のある表情だった。

不安なんだろう。それでもどこか達観したような、諦めたようなイメージを感じた。

 

「……そんな事言ってると、ほんとに死んじゃうぜ?もっと、こう、ポジティブに行かんと」

 

雰囲気が気に入らず、そんな言葉が口から飛び出す。

怒るかな?とは思ったが、弱気になってる奴にむしろもっと不安にさせる様な言葉は言ってはいけない、というのが師匠の教えである。

言い様があるかとも思ったが、思わず出た言葉なのであまり気にしない。

 

「…そうだな。確かにそう、か」

 

どうやら今回は成功したようだ。

ユリのそんな言葉に同意しつつ、内心ホッとする。

なにせ、作戦前に喧嘩別れ的なそういうのは遠慮したいからだ。後で遺恨が残るととても厄介だし。

 

(……っと、俺もちょっとネガティブ思考っと。戻せ戻せ)

 

一瞬だけどっちかがいなくなるような事が頭を過ぎる。

ただ、今回ばかりは可能性はなくはないのだ。事実、これまでのミッションにおいてもお互いに死にかけたことは何度かある。

 

………ある?

 

(…あれ?そういうの、俺だけ?)

 

考えてみれば実行部隊のマイスター達でそういう大怪我をしたのは今回既に離脱しているロックオンぐらいしか思いつかない。

電流ビリビリでブッ倒れたりとかは刹那だが、あれはあくまでそういうショック的なものなので、外傷における命の危険から生還したのは……あれ?ほぼ俺だけ?

 

………俺の人生は一体どんだけハードモードなのか。

16歳でここまで濃厚な人生送ってる奴など、早々居るものではない。

遥か未来でCBが笑い話の中だけで済むような存在になったら、いっそ自伝的なものを出版してみるのもありかも知れない。師匠あたりに止められそうだ……が?

 

あれ?その師匠自身かなりアレな人生じゃね?巻き込めば乗ってくれんじゃね?

 

 

「………俄然やる気が出てきたな」

 

そういうのも面白そうだ。あとやるんだったら姉さん兄さん全員巻き込もう。

きっと笑って参加してくれるはずだ。

 

……と、そんな事を考えながらフッとタラップの上を見たときに、それが目に入った。

 

グラサンと金髪に白衣という、ちょっと憶え易い見た目の男が、そこにいた。

 

手には何かのメモリ型記憶媒体。数は2本。

ユリが、あ、と声を出す。

それとほぼ同時に、向こうも気付いたのだろう。

片手を上げて、やあ、と挨拶してくれた。

 

「…何やってんすか、先生」

 

「いや何、野暮用……というより保険かな?ああ、ユリも一緒にこっち来なさい。大事な話があるからね」

 

JB・モレノ――――――またの名をジョイス・モレノという男が、そこにはいた。

 

 

「さて来て貰って早々だが、コイツを受け取ってほしい」

 

そう言ってモレノさんは3本のメモリスティックを、俺に2本。ユリに1本渡してくる。

 

「これは?」

 

俺が同じような疑問を言おうとする前にユリが代弁してくれた。

というか、何故俺には2本?

取り敢えず両方共相棒にブッ刺して、データ解析を行わせる。

相棒も珍しく空気を読んだのか一気に解析を終わらせてくれた。

 

口を開いた相棒の中のコンソールに映るのは……何かのデータ?

数値の値とかからして、医療データのようだ。

中身はどちらも全く同じものらしい。

ならば、片方はいらないだろうと俺は一本だけ引っこ抜いてノーマルスーツの簡易ポケットに突っ込む。

で、この調子だとおそらくユリに渡されたものも同じ物だろうとアタリをつけて、モレノ先生を見た。

 

正解、とでも言うかのように彼は微笑を口元に浮かべている。

ややあってユリが俺と同様に簡易ポケットにメモリを入れるのを見計らうように、彼は口を開く。

 

「なに、単純な保険だよ。どうなるかわからない以上、こういう風にするのは何も間違えちゃいないだろう?」

 

そう言っておどけた様に手を動かす。

その様子と今の発言から、俺はなんとなく今のデータが何なのかわかった気がした。

とはいえ、確証があるわけではない。

口に出して一応聞いておく。

 

「…ロックオンさんに対する治療のデータですか?」

 

「それもあるが、無論他にも色々と入れておいたよ。いざと言う時は役に立つはずだ」

 

“色々”。

 

引っかかる物言いである。

つまりは、彼が持っていた医療データ全てとでも言うか?

 

……何かが、琴線に引っかかる。

何か良くない事を感じているというか……そんな感じだ。

違和感ではない……こう………何かが心に引っかかる。

 

しきりに首を傾げる俺に対して、ユリが「どうした」、と声をかけてくれるが、こっちとしては感じている物がなんなのか解らない為、曖昧な答えしか返せない。

なんなのだろう、この感じ。

知ってはいるのだが、こう、出てこない。

その内、変な唸り声を無意識に出してしまう。

 

…そんな俺を見かねたのか、モレノ先生の口元に苦笑が浮かぶ。

 

「何、そこまで気にかけるほどの事でもないさ。これは保険だよ。万が一、億が一と言う事もあるからね」

 

「…なんですか、それ」

 

ユリが疑問の声を出す。しかしそれに対しても彼は苦笑のまま表情を変えることはない。

 

「そのまんまの意味さ。何も含むこともないただの保険……まあ、さっきも言った通り、万が一っていう事があるからね。それに次の戦いは確実に一大決戦って奴になるだろうし。…まあ、そうじゃなければロックオンを逃がす、なんて事しないしねぇ」

 

……まあ、納得はできる。

人生……というよりこの世の中というものは、未来で何があるかわからない。

言ってしまえばどんな事も起こりうるということだ。

絶対にそうだろう、というものはない。全て可能性の話になる。

そうなれば、彼も絶対に生き残れる、という保証はないのだから、そういう保険を少しでも後に繋げられるよう、そんな対策をするということもわかる。

 

…わかる、が……

 

(……何なんだ?本当に)

 

何かが引っかかるのだ。ひどく、何かが。

 

まるで、そう。

 

 

「ああ、じゃあ、私はこれで。時間取って貰って済まなかったね」

 

「あ、いえ、別にこれぐらいは」

 

「そうですよ。いつもお世話になってますし」

 

「ハハ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。それじゃ、二人共怪我なんかしないで帰ってきてくれよ。そうしたら、ご褒美にコーヒーでも奢るからね」

 

そう言って、モレノ先生は離れていく。

 

違和感の正体は、掴みきれなかった。

 

 

 

「……さて、気づかれなかったかな?」

 

ある程度離れた場所で私は呟いた。

万が一、とは言ったが、おそらく私の死は逃れられないだろう。

そういう物だと解る。

 

昔、それこそ太陽光発電紛争時代、CBにスカウトされる前に中東で国境無き医師団として、弟子とも生徒とも言えるテリシラ君と共に患者の治療を必死こいてやってる内に、私はとある能力を獲得するに至った。

 

……なんて、格好良く言えれば良かったんだろうけど、そんなふざけたファンタジーみたいな事ある訳がない。

実際の所は、なんとなくだが『人の死期』という物が薄らと解る様になった、という感じだ。

まあ、あれだけ散々人が死ぬ所を見てきたし、その治療、最悪の場合は介錯も行った。

何となく解る様になっても、まあ、不思議じゃない。

 

問題は、最近それがいろんな人間から感じられるということだ。

 

しかも、仲間――――――トレミーのクルー達からゴロゴロと。

 

特に――――――ロックオンからは。

 

 

 

 

 

 

だが、彼は今生還している。

彼がO-01―――アムロ・レイの駆るガンダム――――――Oガンダムの手の平に乗せられて戻ってきた時は、私も頗る驚いたものだ。

 

生還してきたどころか――――――あれほど濃厚だった死期の気配が、遠のいている。

 

思わずその時、私はOガンダムを見上げた。

かなり昔に見て以来、久々に見るその機体――――――色こそ変わってはいるが紛れもなくあの時のままだったそれは、その時の私には救世主の様に見えた。

 

 

(―――救世主、か)

 

 

言い得て妙だ。

考えてみればあのプルトーネの事件の時、シャルを助けてくれたのもOガンダムだった。

そして、先に仲間であるロックオンを助けてくれたのもまた、あのガンダムだ。

 

「――――――だからこそ、期待してしまうのかもしれないな」

 

はっきり言って、先程渡した保険は十中八九確実に必要になるだろう。

 

私が死んだ場合の話、という条件付きだが――――――まあ、間違いなく私は死ぬのだろうと感じる。

 

なんとなくだが。

 

 

だが――――――だとしても――――――

 

 

 

「……まあ、私も人間だ。偶には救世主に願ってもいいだろう」

 

 

そう呟いてから、私は私のトレミーの医務室(戦場)へと戻る。

どうか、祈りが届くようにと願いながら。

 

 

 

……流石に、おセンチが過ぎるかな?

 

 

 

 

――――――そうして、数分の時が流れる。

 

その頃には、アムロはOガンダムにガンビットを含めたいつもの装備に加え、GNスナイパーライフルを持った状態で、プトレマイオスと国連軍のから見て、丁度真横の暗礁宙域に隠れていた。

 

とはいえ、スナイパーライフルで国連軍の方を常に監視した状態。

射程からはギリギリ外れているとはいえ、あと少しでも国連側が近づけば、十分奇襲するのは容易な距離だった。

すぐ近くには、裏を読まれてそちらを奇襲されてもいいように、サキエルが護衛に当たっている。

 

……つまり、CB実行部隊側は実質3機で敵と当たらねばならない。

これは例えガンダムであったとしても、相当キツイ戦力差となる。

……それを補う為の先手を打つために、アムロ達がここに居るわけなのだが。

 

「………」

 

しかし、『ソレ』を目に入れてから、アムロは終始難しい顔で黙りこくっていた。

同様に、ユリもまた黙っている。

 

その原因は、スナイパーライフルを通した視線の先にいる――――――総数13機のGN-Xの中に、たった1機のみ存在しているデカ物――――――趣味の悪い、全身金ピカの手足がないカニのような存在だった。

 

後方から多量の擬似太陽炉特有の赤黒いGN粒子を大量にばらまいていることから、おそらく使われているドライブの量は1個や2個ではないのが伺える上に、明らかに胴体上部にMSの頭部のようなものが覗いている。

 

「……とうとう合体ロボまで出てきたのか…?節操がないぜ…」

 

思わずそうボヤくが、相棒のハロからの茶化す言葉はない。

どうやら同意見のようだった。

 

しかし、だとすると相当に拙い物がある。

あれだけの巨体となると、おそらく大出力の兵装を備えていても不思議ではない。

GNアームズなんかが良い例である。

あれだって、基本装備に大口径のGNキャノンが2門存在しているのだ。

 

ましてや相手はそれに直接動力が乗ったような存在――――――むしろ無い方が不自然というレベルである。

 

アムロは即座にハロとユリに指示を出し、プトレマイオスにデータを送った。

とはいえ、迅速に対応してくれるかは賭けだ。

何せ、ラッセやイアンといった一部のメンバーはともかく、それ以外の面々は元々民間人且つ、実戦経験も少なめ。

そもそも、プトレマイオス自体が『輸送船』メインの設計であり、武装も武装コンテナがなければ最低限しかない。

武器になるのはその足の速さ程度だ。

 

故に、取れる対策は避けるか逃げる。この二択となる。

 

――――――さて、どう出るか……

 

直後、アムロは頭の中でいくつかシミュレートを行う。

一つはあのデカ物の相手を自分が努めること。

 

一つは周りのGN-Xを引き受け、デカ物にはマイスター達を当てること。

 

一つは3人のマイスターに任せつつ、自分は援護に徹すること。

 

また、一つは――――――と、そこまで考えきったところで、

 

 

 

 

 

 

 

 

デカ物の、髑髏ジミた口が、開いた。

 

 

 

 

スメラギは―――否。

その時、トレミーのブリッジにいた面々は、その光景を忘れないだろう。

 

正面の黄金のMAが口を開いた瞬間、その隣にいたGN-Xに飛来する光弾。

それがスナイパーライフルの弾丸だと気付いた時にはもう遅く。撃たれたGN-Xがバランスを崩してそのままMAの口にぶつかる。

直後、その口から光が溢れるか否かのタイミング。

 

「っ!こなくそ!」

 

リヒティが一気に操縦桿を右に押し込んでトレミーを傾ける。

 

直後、

 

 

 

ゴウッ!

 

 

 

とでも音が付きそうなほどの勢いを持って、血の色の大出力ビームが船体の左側を掠めた。

 

 

 

ブリッジを激震が奔る。

だが、それに負けじとスメラギは腹から声を出し、吠えるように指示を出した。

 

「~~~~~~っリヒティ!!第2波に警戒!!!動きを止めないで!!!」

 

「アイアイ!!」

 

言われるまでもない、と言いたげにリヒティは操舵を続ける。手を休める暇はない。

そしてその指示が正しかったとでも言わんばかりに、2度目の赤い奔流が虚空を駆けた。

 

再度奔る衝撃。

それに歯を食いしばりながら、スメラギはダメージをチェックする。

 

損傷は――――――無し。

 

 

(上手い援護に感謝ね!)

 

そう心の中で呟いてから、彼女は次の指示を出す。

戦端はまだ開かれたばかりだ。

ダメージはこちらに無く、向こうは1機を失った。

 

――――――ここからが、勝負。

 

奇しくもブリッジクルーは、一様にそんな思いを抱いていた。

 

 

「チッ…」

 

一方国連側――――――黄金のMA、アルヴァトーレの中で、特注のノーマルスーツに身を包んだアレハンドロ・コーナーは今起きた事態に対して複雑な思いを抱いていた。

そう簡単に墜ちて貰っても楽しめないので困るのだが、かと言って必要以上に抵抗されるのも嫌という身勝手な思いを持ってこの場に臨んだ彼だったが、素人にしては思った以上の戦術を見せた彼らに対して感心するとともに、記念すべきアルヴァトーレの第1射を邪魔されたのには苛立ちを感じたのだ。

 

かといって、それでがなり立てたり、八つ当たりするようなチャチな男ではないと彼は自負している。

それは嘗てユニオンでエースパイロットとして名を馳せた誇りから来るものであったし、監視者として、ひいてはコーナー家の党首としての誇りから来るものでもあったのかもしれない。

 

ともあれ、今はそれに拘っている場合ではない。

いきなり仲間が一人撃たれ、なおかつそれを利用して自分達の切り札である存在の攻撃を逸らされた事で広がりかけた動揺。それの対処をしなければならない。

 

それは、かのロシアの荒熊が率いる人革連の連中よりも、ユニオンやAEUの連中に目に見える程度に現れていた。

その点では、アレハンドロは人革連の荒熊を高く評価している。

ああいう風に部下を即時に冷静に戻せる人間は現場では重宝されからだ。きっと、信頼も高いのだろう。

 

そう思いながら、彼も残る連中に通信を入れる。

 

「落ち着き給え。こちらの二分の一以下の数しかいないとて、相手はガンダムだ。残酷かもしれないがこの程度は想定内だったと割り切らねば、また、別の誰かが仕留められる。各自、氷の様に冷静な心を取り戻して欲しい。……マネキン大佐。済まないがそちらから何機か狙撃手が隠れていると思われるだろう暗礁中域の索敵に回して欲しい。大事をとって2機以上が出来れば望ましい………ああ、そうだ。最悪囮は私が引き受けよう。……ああ、頼むよ」

 

そう言って締めてから、彼はアルヴァトーレを前へと出す。

言ったからには有言実行。それは、人を引っ張っていく上で重要なファクターの一つだ。

 

国連大使、CBの監視者。そしてコーナー家としての事業の代表者。

どれも人の上に立つ仕事だ。

長年の経験で、彼は自然と人の上に立つにはどうすればいいのか。また、人から信頼を勝ち取るにはどうすればいいのかという術を身に付け、自分の物にしていた。

それは、こういった最前線でも応用が効くものだ。

 

「さあ、蹂躙を始めよう!こちらが一歩出遅れているとはいえ、十分にひっくり返せる範囲だ。それが諸君の腕ならば十二分に可能であると私は確信している!恐る事はない!!

 

 

性能がいい機体を持っているだけの素人集団(テロリスト共)に、軍人としての力と矜持を見せつけてやりたまえ!!」

 

 

 

 

 

宇宙に、GN-X乗り達の雄叫びが、響いた。

 

 

それを尻目にアムロ達はスラスターを一切吹かす事なく、AMBACとデブリを足場にした時の反動を使いながら位置を変えていた。

理由としては簡単で、さっきの狙撃が原因である。

もしも敵がそれなりなテロリストや小国の防衛隊とかならまだ良かったのだが、相手は仮にも三大勢力が集まった国連軍である。

もしかしたら、ではなく確実に位置は割られている。

 

と、なると索敵も来ているだろう。

スラスターを吹かすとその推進光で視覚的にバレる可能性が高くなる。

それを考慮した上での、AMBACだよりのこの動きである。

何気に他のガンダムよりも柔軟な関節を持っている(といってもエクシアとどっこいどっこいだが)サキエルと、無茶な操縦に定評のあるアムロに合わせてチューンされたOガンダムだからこそ出来る移動方法。無論、GN-Xが真似をしても上手いこと次の足場に飛び移るとかは至難の業である。

 

「……さて、撒けたかな?」

 

ユリはそんな中、少しだけ後ろを向いてそう呟く。

遠くに赤黒い光が見えたということは、索敵の機体が来た事を示していたが、動き方からしてこちらを見つけた様子はない。

 

そちらに目をやらず、アムロは淡々と言い放つ。

 

「どうかな?」

 

言葉はそれだけだったが、その裏にあるものを察してユリは再び緊張を感じ、唾を飲み込んだ。

 

つまりアムロはこう言いたいのである。

 

――――――ロックオンを狙った敵が、隠れていないとは思えないだろう?

 

と。

 

 

一方のアムロだが―――実は、襲った存在については既に目星が付いていたりする。

まあ、確実ではないが高確率で師匠の差し金か何かだろう、と。

(実際には黄金大使―――もとい、アレハンドロ・コーナーの差金なのだが)

 

面白半分か何かで差し向けたんだろーなーなどと考えられているあたり、この男の(仮にも一応育ての親に対する)信頼の度合いが伺えるというものである。

……どういったベクトルの物なのかは、明言しないが。

 

まあ、そんな予想が出来ている上にそっちに絶対の自信があるからこそある程度余裕を持って彼は動けていた。

 

事実、彼はスラスターを使わないまま移動を行うという、相当難しい動作を行っているにも関わらず、若干鼻歌が出てしまっている。

相棒のハロに至っては、周辺警戒の傍ら、動画鑑賞だ。

 

ピクニックかドライブじゃないんだぞ、と気付かれたら怒鳴られそうなことをしているのに同行しているユリに一切バレていない辺り、相変わらず無駄に技術と余裕を持つコンビだった。

 

 

 

 

と、そんな時である。

 

 

不意に動くものを視界の隅に捉え、アムロは即座にOガンダムをデブリの側面にぴったりとくっつけた。

さらにGNABCマントを深く被り、そのままステルスシステムも起動させる。

今までの軽やかな動きからは一転した、慎重かつ素早い動きに、ユリもその傍にピッタリ張り付き、GN粒子の調整を行ってステルスの範囲を自分も隠れられるギリギリまで伸ばす。

ただ、完全にはいかなかったのか、少し手の先などが隠れきれていない。

それに気づいたアムロがマントを少し広げ、サキエルを半分隠すように動く。

マントが広がったことで一瞬だけステルスが途切れたが、直後に再び周囲に溶け込む。

 

これで、ギリギリまで近付かなければ分からない程度に隠蔽が完了した。

直後、アムロはスナイパーのスコープを。

ユリはサキエルのライフルのスコープを銃身から取り外して伸ばし、光の反射に気を付けながら今さっき見えた物へと向け、その姿を視認する。

 

 

まだ距離があるのか、ある程度の精密射撃ができるはずのサキエルのライフルではぼんやりとしか映らなかったが――――――GNスナイパーライフルという超超高度射撃も可能な代物のスコープを介していたOガンダムには、その姿がバッチリと捉えられた。

 

 

白と赤とクリーム色のトリコロール。

四肢からは黄金の羽の様な物を伸ばし、背中からも似たような物を2本生やしている。

 

目を引くのは国連軍の流線が多めなデザインであるGN-X達とは違い、ガンダムの様に角張ったデザイン。

 

 

 

 

 

 

 

そして――――――額から生える2本の角。意志を感じさせる目。後頭部に生えた、まるでジャパンの中世にいたサムライの頭の様な突起物。口元にある、まるで獣の牙の様な物が生え揃った“クラッシャー”。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……いや、早くね?)

 

 

その存在を認識した瞬間、アムロは思わずそうボヤきそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場は、まだその先端を開いたばかりで、派手な音も、眩い光もさほど見えてはいなかった。




いかがでしたでしょうか?
どうも雑炊です。

相変わらず文法とかがおシャカになっているような気がしないでもありませんが、ともかくエタらないよう頑張ります……!

ともあれ今回の解説を。


感知センサーっぽい感覚

→これは現場の人から実際に聞いた話なのですが、実際に何となく分かる人は分かるらしいです。
霊感とかとはまた違う感じらしく、かなりボンヤリとしていて、少し経ったら気にならなくなる程度なんだとか。
ともあれ、興味深かったのと、もしかしたらモレノ先生も昔の経歴からしてそんなものあるんじゃないかなーという浅知恵からこんな形に。


とうのモレノ先生は盛大な死亡フラグを立てやがりましたが。

ほんと勝手に動かれると困るんすよ先生ェェェェ……!!



データ
→これはその内紆余曲折を得てテリシラあたりに届くと思います。
まあ、そこらへんは書く予定ありませんが(オイ


蟹のゲロビ
→今回はここら辺ちょっと変えさせて頂きました。
原作ではこれで少しトレミーが損傷するんですが、そこら辺無しに。
……まあ、そこまで重要な差異ではありませんが。

Oガンダムにスナイパー
→アーム保持はできませんが持たせられないわけでもないし使えないわけでもないので装備。威力はGNコンデンサの有無の関係でデュナメスより下がってます。
今回はちょい役でしたが、次回辺りからきっと活躍してくれるでしょう。
狙撃銃だからといって格闘ができないわけではありませんしね!!


というわけで今回はここまで。
では、また次回。


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