この素晴らしい世界に鉄華団を!! (北岡ブルー)
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#1 この男に終わりを

 このすばにハマった直後でオルガのアレ…、
 オルガにはぜひ、この素晴らしい世界で一息ついて欲しい…。そう願って書きました。




 ―――パンパンパンッ!!―――

 

 誰もいない静かな火星の都市『クリュセ』に、無数の銃声が響く。

発砲音が鳴りやんだ後に残ったのは、血の池に膝をつくスーツの青年と、後ろの二人だけだった。

 

「だっ…、団長…?」

 

 オレンジ髪の少年――ライド・マッスが力なくへたりこみ、大量の涙が溢れ出る。隣にいる黒肌の青年――チャド・チャダーンも同じだ。

 なぜなら、今まで彼らを、『鉄華団』を導いてきた男の灯火が、今にも消えそうだったから。

 

「なんて声出してやがる…ライド、オレは鉄華団の団長オルガ・イツカだぞ。このくらい何てこたぁねェ…」

 

 この紫かかった白髪を持つ男…『オルガ・イツカ』は、基地で敵に囲まれている仲間のため、アドモス商会に駆け込んだ。

 そこで見つけたのは、世界中に犯罪者として睨まれる中、手を差しのべてくれる旧友たち。

 

 彼らのお陰で、家族が生き残れる可能性が見えた。無駄ではなかったのだ。今まで紡いできた道は。

 

 だが、光が、希望という名の足掛かりが見えたその時。何者かがアドモス商会の前に刺客を送りつけ、オルガはライドを庇って何発もの凶弾を受けたのだ。

 

「そんなっ…、オレなんかのために……!」

「団員を守るのがオレの仕事だ。いいから行くぞッ!みんなが、待ってんだ。それに――」

 

 お前に責任はないとライドを諭し、オルガは赤い足跡を残して前へと進んでいく。いつものように大きな背中を団員たちに見せつけて。

 

 しかし、戦いに身を浸してきた少年兵(かれ)らは悟ってしまう。背中の傷がもう手遅れである事を。だからこそ彼らは様々な感情をない交ぜに、涙をこぼすことしかできなかった。

 

(ミカ、やっとわかったんだ、俺たちに『たどり着く場所』なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい!とまんねぇ限り、道は…、続く――!)

 

 もう、痛みは感じない。耳も遠くなってきた。後ろで嗚咽を洩らす団員たちの声も、届かない。

 

 今のオルガを動かすのは、商会へ向かう前に交わした親友との、『約束』だった。

 

――あやまったら許さない。――

 

 オルガの親友、三日月オーガス。人一倍小さな彼の力強い目は、今際の際まできても忘れられない。

 

(ああ、わかってる)

 

 時に脅されるように。時に決断を訪ねるように向けられた三日月の眼。

 良くも悪くも、あの眼を向ける親友には最初から最後まで背中を押されてきた。

 

 もちろん、他の団員達にも。

 

 彼らには大きな迷惑をかけた。自分が決断を間違えたせいで何度家族を失い、涙を流させてきたことか。

 それでも付いてきてくれた者たちのために、自分は示さなければならない。自分が得た答えを伝えるのだ。

 

 進み続けろと。生きる限り叫び続けろと。

 

 それが団長としての、最後の仕事。

 

「オレは止まんねぇからよ。お前らが止まんねぇ限り、その先にオレはいるぞ!!」

 

 最期まで家族を、団員たちを想い、空高くへ吼えた男は鉄華(はな)を散らす。

 

 前に倒れ、突き出した手。指した指から続く赤い道。その先に続くのは何か。

 

 

 

 

それを(つづ)った男は、もういない。

 

 

 





 オレは 掴み損ねちまったな せっかくアジーさんやタカキがチャンスをくれたってのによ

ミカはオレが死んだ事を知れば メチャクチャに暴れまわっちまうよな 止めてくれよユージン お前が新しい団長だ

 お前らはしっかり掴むんだぞ みんなが出してくれた手を 離すなよ



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#2 この宇宙ヤクザに異世界転生を!

原作絵の女の子たちかわえええええ!!!
こんな子たちがMだったりゲロ吐いたりすると思うと原作売れるのも納得ですな!!


しかし、その時オルガに不思議なことが起こった。

 

「――ん…っ、何だ?どこだここは…」

 

 知覚する間もなく、オルガはいつの間にか見知らぬ場所にいた。暗黒の世界の中、小さな星が浮かぶ地平など、宇宙の中にいるようだった。

 遅れて伝わってきた感触から、自分が椅子に座っていることはわかる。

 

「―――――ッ!?」

 

 しかし、それ以上におかしな事が山積みだ。意識のハッキリしてきたオルガは上を見上げて立ち上がり、背中をまさぐる。

 

「んなバカな!オレはあの時間違いなく死んでたぞ!?背中に弾を受けて ―――はぁ!?」

 

 ない。背中に受けた銃弾の跡も、血も、それに当たる感触が何もない。いつも通りに着ている深紅のスーツだ。

 

「どうなってんだ…、こりゃあ…」

 

 これが噂に聞く『死後の世界』なのか。辺りを見回すオルガには検討がつかない。もしかしたら先に死んだ団員たちも同じ目にあっていたかもしれないが、聞けるはずもない。死人に口はないのだ。

 

 だが、オルガ(死人)に話しかける人間はいた。

 

「それは私が説明しましょう」

「ッ!?誰だテメェ!」

 

 チャキッと、オルガは声のした方向に銃を向ける。

 

 そこには、白い椅子に座る水色の髪の少女がいた。目が覚めるような綺麗な顔、カラフルな明るい服装。

 銃を向けているというのに少女は眉一つ動かさず、余裕の表情だ。その表情はかつて死んだ兄貴分『名瀬・タービン』を思わせる。

 

 その表情は、『上』にいる人間がする独特の顔だ。

 

(動じねぇな――。腹が座ってんのか、オレが撃たないと思ってんのか)

 

 撃つか。と物騒な考えを浮かべ、引き金を引きかけた所で、オルガは首を振る。

 

(いや違う、落ち着くのはオレだ。コイツを殺しちまったらここからどう出るのかわからねぇ。ミカでもそのくらい判断できんだろ)

 

 思考を落ち着けたオルガ。判断がつけばやることは一つだ。

 

「――銃を向けて悪かった。何せこちとら死んだ身なんで訳が分からなくなって、気が動転してたんだ。詫びを入れさせてくれ」

 

 最大限の礼儀と謝罪を示すため、頭を下げる。相手が何者であれ、まずは情報がいる。今までの経験則だ。

 女と無縁な人生を歩んできたオルガだが、少女の纏う雰囲気が変わったのは見てとれた。お偉いさんとの顔合わせも無駄ではなかったという事か。

 

「……落ち着いたようですねオルガ・イツカさん。では率直に言います。貴方は先ほど、不幸にも死にました」

「やっぱり…、そうか」

「ええ、残念ながら」

 

 間違えるはずもない。オルガ自身、間違いなく死んでいたと確信している。全ての感覚が遠く、細くなっていき、プツンと途切れる感覚。今まで自分たちが敵に与えてきた『終わる』感覚。

 

 家族みんなで笑うという夢も、もう叶えられない。

そう思うと、思わず自分の胸を、自分の手で締め付けてしまう。顔を下に向けてしまう。

これが『無念』か。

 

「………」

「えっと…?オルガさん?」

「…そ…」

「へ?」

 

水色の髪の少女が、顔をふせたまま動かないオルガに近づき髪をつつく。すると近づいた分、蚊の泣くような小さな声がよく聞こえた。

 

「くそっ…、ちくしょう…っ!ここまで来て…やっと気づけたってのによ…っ!」

 

 顔を伏せて見えないオルガの瞳から、ポツポツと涙が落ちる。その一つ一つが赤黒いスーツに吸い込まれ、消えていく。

 かつては団員の期待を一身に背負い、一大組織『ギャラルホルン』の名を地に落とした鉄華団の団長。オルガ・イツカ。そんな彼も、文字通り全てを奪われれば一人の人間でしかない。

 

 歯を食い縛り、顔を上げない男を前に、水色の髪の少女は一つの提案をする。

 

「それでは、その気づいた事を世界に広めてみてはどうですか?」

「はっ?いや…、オレはもう死んでるハズじゃ――」

 

 その先を口にする前に水色の髪の少女は言葉を続ける。

 

「改めまして迷える魂よ。私の名前はアクア。日本において若くして死んだ者たちの転生を担当する女神よ。あなたは日本の生まれではないけど、特別な許可をもらえたの」

「日本?女神?転生?アンタなにいって――」

「日本の事は置いといて…、女神はこの私。転生はアナタたちの言い方でいうと生まれ変わりのことね」

 

 口調を柔らかくして接してきた水色の――、否。アクアを名乗る女神の『生まれ変わり』というキーワードに、オルガはある会話を思い出す。

 

 それは、宇宙海賊ブルワーズとの戦いの後の事―――

 

 

 

『俺の弟の…、昌弘が死ぬ前に言っていたことなんだがな。世の中には『生まれ変わり』って言葉があって、死んだら別の誰かに産まれ直す事で新しい人生を始める…って考え方なんだそうだ。』

『明弘、その話をなんでオレに?』

『…悪い、アイツとまともに話せた話だから、残したいって思ってるのかもな。気分を悪くしたならあやまる』

『あやまるこたぁねぇよ。良いじゃねぇか生まれ変わり。そういう奴らと、いつかまた会えたらいいな』

 

 

 

「生まれ変わり…か」

 

まさか、生まれ変わりが人にしてもらう事だったとは。と、オルガは思わず鼻で笑ってしまう

 

「それが嫌なら天国で永遠にのんびりするっていう選択肢もあるのだけれど…」

「いや、頼む。お願いします。オレを…転生させて下さい」

 

 オルガは、顔を上げると両膝に手を置き、アクアを名乗る女神に頭を下げる。

 

 その姿勢を椅子に戻ったアクアは静観し、交差した脚を切り替えて尋ねた。

 

「本当によろしいのですか?私が転生させられる世界は一つだけ、アナタの常識が通じない魔の世界です。そこは魑魅魍魎が行き交う地獄のようなもの。それでも行くというのですか?」

 

 女神は目を細めて警告する。目が細くなった事で醸し出された女神のオーラが、オルガに直接叩きつけられる。

 しかし、オルガの意志が変わる事はなかった。

 

「アクア…さんって呼んでいいか?オレは死んで、やっと気づけたんだ。オレの、俺たちの居場所はどこかに立ち止まって終わりじゃねぇ。進み続けること、それが本当の居場所だって事に」

 

「オレはもうあいつらに顔を合わす事はねェし、出来ねぇ。死んじまったんだからな。ならオレは死んでも前に進み続けて、アイツらの『先』にいる道を選ぶ」

 

「それがあいつらを置いて死んじまったオレの『けじめ』だ」

 

 アクアの水晶のように丸い瞳と、オルガの鷹を思わせる鋭い眼光が互いに交差する。

 

 一刻置いて、アクアが立ち上がった。

 

「あなたの覚悟、身に染みてわかりました。それでは転生特典をお選びなさい。あなたの旅の助けになることでしょう」

 

 バサバサッと、手元にあった本が一枚一枚の紙になって舞い飛び、オルガの下に集結して並べられる。

 紙自体見たことがないオルガは、一人でに並ぶ紙に驚き、言葉もでない。

 

「先ほども言いましたが、転生する世界は魑魅魍魎の世界です。心して選びなさい」

 

 紙にはオルガの文化にあわせてアルファベットの文字が書き込まれており、『筋力チート』や『永遠無敵』など、見知らぬ言葉がズラリと並んでいた。

 

 一通り目を通したオルガは気まずそうに頭をかき、それらを指差してアクアに訪ねる。

 

「あ~…、あのすんませんアクアさん。持ってくモンなんですが…」

「決まりましたか?」

「……コイツで良いですか?」

「え?」

 

 チャキッ…と、オルガは最初に向けた銃を上向きに構えた。

 

「コイツはオレの相棒の…、ミカってヤツの銃なんです。持っていけるならオレは、コイツを選ぶ」

 

 掲げた銃は何十年も使われ続けたせいか、細かいところに傷がついたり擦りきれてたりしていた。上から見上げてみるとさらに目立つ。

 だが、この銃はまだ生きている。力を持っていくなら『ちーと』や『むてき』などの聞き慣れないものではなく、長年相棒の身を守ってきたコイツがいい。そう考えていた。

 

(悪りぃなミカ。返し損ねちまった)

 

「まぁいいでしょう。お好きになさい」

「……ワガママいってすんません。転生の事といい恩に着ます。この恩は必ず―――うおっ!?」

 

 感謝を告げるオルガの足元に緑色の魔方陣が出現し、そこから無数の光が吹き上がる。

その効果かは分からないが、魔方陣の上に立つオルガの体から重みがなくなり、どんどんと上へと浮かんでいく。何かがエイハブリアクターのように重力を操っているのだ。

 

「すげぇ…!どうなってんだこりゃあ…!」

 

 オルガの目から、全てのものが小さくなっていく。アクアや自分が座っていた椅子も、今の自分から見れば小石のように小さい。

 

「さようなら、オルガ・イツカさん。あなたの旅立ちに栄光あらんことを」

 

 アクアが男の門出を祝福し、両手を暗黒の空にかかげる。

 すると花開くように異次元の扉が開かれ、オルガはその先に引き寄せられていった。

 

 目指すものなど、なにもない。

 

 それがどうした、これから見つけるさ。

 

「お前ら、オレは進み続けるからよ。オレがいなくなったからって止まってんじゃねぇぞ!!」

 

 




 オルガの姿が見えなくなるまで手を振り続けたアクアは、オルガを異世界に送りこんだ後、一仕事終えて「ふうっ」と息をつき、白い椅子にもたれ掛かる。

 そして一言。





「あ――」




「ぶわぁあ"あ"あ"あ"あ"ァあ"ッ!ごわ"がっだ"ぁッ!!あ"の"人ごわ"がった"ぁあぁぁあ"あ"!!!殺さ"れるかど思っだあぁぁあ"あ"あ"!!!」

 締め付けるほど強く自分の肩を抱き、鼻水やら涙やら様々な体液を垂れ流して絶叫するアクア。
 実は結構ガマンしていたのだ。恐怖とか泣きたい気持ちとかモロモロを。

「な"んな"のよ"ォあの子ォ!!女神た"るあだじにいぎなり"銃むげる"どがぁあ"!!!あ"り得ない"でひょ普通ゥ!!ざら"にヴぁ怖い目でギロギロ睨み付けでぐるしぃ!?「フッ」って"バカにして"ぐるしぃ!?果てには"な"ンなの"よォ!!チートどか無敵と"が大盤振る舞いしたのに「オレはコイツでいい」って銃も"ってぐどがぁあぁああ!!ナメてんの!?あの子私のことナメてんのぉぉおおお!?」

 それはそれは、今までの凜とした姿が嘘のような泣きっぷりだった。

 そもそも、事の始まりは異世界の死者の転生を担当するエリスの不在から始まった。
 たまたまその時にエリスが不在で、代わりにお前がやれとばかりにあの男を押し付けられたのだ。

その時はまだ「胸パットのこといじってやるわ!」といつも通りだった。

 しかし、転生を担当する神は効率よく相手を転生させるため、対象がどう死んだかを自動で『見る』事になる。そこからアウト。

 のんびりと休んでいる時に、突如映像が流れこむ。映ったのは日本ではありえない銃撃戦。
 アクアにその映像は刺激が強すぎた。例えて言うなら幼稚園児が任侠映画を見るようなもの。
 バスバスと命中し、血霧をあげる男。頭を撃ち抜かれたヒットマン。神の目は高クオリティで抉れた肉やら吹き出た脳汁なども映し出す。

 本来アクアが見るグロ映像はモザイクがかかるのだが、日本ではないからか無修正だった。

 特に脳汁のくだりは脳ミソは青白いなど、知りたくもない情報をアクアにブチ込んだ。
それを見せた張本人に銃を向けられて怖くないハズがない。ぶっちゃけちょっぴりモレた。

 こんな殺人鬼を目の前に送り込むとか上は何考えてるのか。ゴッドスレイヤーでも作りたいのか。

 そんな彼女を支えたのは女神としての誇り。女神らしく堂々と対応したが、いつこの男に襲われる(物理)か気が気でなかった。何個か言うべき事が抜けたが全部上が悪い。
 脳内で何度「銃取り上げてからよこしなさいよッ!!!」と上に怒りをぶつけたことか。

 もうとにかく、今回の転生は色々シャレにならん。目が真っ赤になるほど泣き晴らしたアクアは

「あの上げ底エリス覚えときなさいよッ!!帰ってきたらとことんやってやるんだからぁぁぁああああああああッ!!!」

 と髪を逆立てて怒り狂い、サンドバッグ兼バカタレ後輩の帰りを待ち続けたのだった。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その頃エリスは下に降りて冒険中♪(はぁと)

Q:何でオルガは銃を持ってこられたの?
A:ヒント・いらない子


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#3 この子羊オルフェンに神のお導きを!

カズマの身長がどんなものか調べてみたら165cmと出た。けっこう低い?
    ↓
対してオルガは200
    ↓
 「ハァ!!?」


「ッ――!」

 

 オルガの頭上に青い空と太陽の光が差す。眩しさからその光に手をかざすと、指の間から鳥の影が見えた。

続いて出迎えるのは川のせせらぎと人の賑やかな声。首を左右に向けると、西洋風の家々が建ち並んでいた。

 

「ここが新しい世界ってヤツか…。地球に似てるな」

 

 オルガは不毛の土地である火星に生まれ、そこで生きてきた。地球に来たのは鉄華団が誕生してしばらくの事で、その時も諸々の事情で周りの風景などロクに見ていなかった。

 

 改めて火星を思い出しながら見てみると、地球に似たここがどんなに恵まれているかよくわかる。

水は透明で泥色ではなく。風も優しく砂が混じっていない。子供は銃を持たず遊び回り、大人はみな暖かい笑顔を浮かべている。

 自分をここに転生させてくれた人物、アクアは『魑魅魍魎の世界』と呼んでいたがとんでもない。オルガには、ここが平和な楽園のようにも思えた。

 

「―――良いトコじゃねぇか」

 

 オルガは目を細め、どこか穏やかな顔で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 ―――「あ~…。このすば」byオルガ――

 

 

 

 

 

 

「なんかこの町、モビルスーツみたいな奴がわんさかいるな…」

 

 しばらくポケットに手を入れ、この世界に見とれていたオルガだが、今は奇抜な格好をした人々に紛れてこの町一帯を散策していた

 

 理由は単純。腹が減ってきたのだ。

 

 この世界がどんなにいい所であろうとも腹は減る。ポケットマネーもあるし、ここがどんなものか見るついでに何か食べようと、オルガは人混みの中を歩いていく。

 

「よぉコワモテの兄ちゃん。ウチは道具屋だよ。よかったらなんか見てかないかい?」

「そうだな。なぁオッサン。ここらで食える店知らないか?」

「それならまっすぐ行って右だよ」

 

「やだ、レア物なワイルド系男子っ!よかったらウチよってかない?」

「すんません。オレ男には興味なくて」

「残念ねぇ~」

 

「ほぉ~、その仕立てなかなかいいねぇ。貴族の人かい?」

「いや、そう言うわけじゃないんですが、珍しいんすか?」

「そりゃあ目利きできる奴にはわかるね。そんな質のいい服貴族くらいしか着ねぇし、始まりの町アクセルにはめったにそんなのこねぇからなぁ」

「アクセルの町…か。わかりました。気ぃつけます」

 

「おかぁさんヤクザ~」

「こらっ!見ちゃいけません!」

「……ヤクザ?」

 

 こうして地元の住民と言葉を交わしたのち、飲食店らしき店を発見。入店したオルガは従業員からお客として明るく歓迎される。

 しかし、金を出したオルガはここで致命的な問題に直面することになる。

 

「これで適当なモン見繕ってくれ」

「あの~、すみませんお客様。この町ではこのお金は使えません。どこの国のお金なんでしょうかコレ❔」

「―――は?」

 

 そう。ここではオルガの世界の通貨・ギャラは使えないと拒否されてしまったのだ。

店の前に出たオルガは唖然とする。

 

(金がねぇ…だと…!?)

 

 そう、その問題とは長い間、鉄華団を悩ませてきた資金難である。

古くは設立当初の資金盗難・退職金・補修の三連星に始まり、犯罪者の金として口座を凍結される事で終わるこの問題は、下手をすればギャラルホルンよりも因縁深い宿敵。

 

 それが世界の垣根を越え、オルガ・イツカに襲いかかってきたのだ。

 

「おいおいシャレになんねぇぞ…!とにかく働き口を見つけねぇと!」

 

 幼少の経験で空腹の怖さを知っているオルガは、鬼気迫る顔で近場の人間を……、気弱そうな黒髪の少女を捕まえて話しかける。

 その顔はこれからの事も関わっているのと相まって、餓えた狼を思わせた。

 

「すまねぇそこのアンタ!!一つ話を聞いてくれねぇか?」

「ひっ!?すみませんごめんなさい殺さないで売らないで!」

「殺しもしねぇし売らねぇよ!ここのどこかで戦って金の手に入る…。そんな仕事ここらにねぇか!?」

「えっ?戦ってお金が入る…?あっ…!それならえっと、この先に《冒険者ギルド》があるんだけど…」

 

 黒髪の少女はプルプル震えながらも、控えめに指を指して《冒険者ギルド》のある方向を指す。

 オルガはその先を振り向き、一際大きい建物を確認した。

 

「そうか…!あそこに冒険者ギルドがあるんだな。悪い助かった!」

「あっ、あのよ…ヨロシければ私と一緒に登録して――いいえ違うわこれじゃお誘いみたいになっちゃう!もっとフレンドリーにここはこう…!」

 

 少女は何か話そうとしてたが、オルガは急ぎ故、すぐさま差した方向に走り去り、残っているのは土煙だけ。

そしてその土煙も、目をつむったままの少女…、「ゆんゆん」に見られることもなく、空しく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれ…?あの人どこ?byゆんゆん――

 

 

 

 

 

 

 

「くそ…このままじゃヤベェ、せっかく生き返ったってのに死んじまう…ッ!」

 

 空は夕焼け。帰る家もないオルフェンはカラスの鳴き声をBGMに、人の少なくなった広場を歩いていた。

 

 冒険者ギルドに辿り着いたはいいものの、そこでは《冒険者カード》という物が必要不可欠らしく、それの発行にお金がかかるため、結局冒険者にはなれなかった。

 

 いろんな所に雇ってもらおうと走り回ったのだが、見返りはゼロ。どこも間に合ってると雇ってもらえず、今ここでさまよっている。

 

 思い出してみると、最後に食べたのはいつだろう。ギャラルホルンから逃げている間様々な対処に追われて、全く食べていなかった気がする。

 

「ツっ…!」

 

 空腹で倒れそうになるものの、膝に手をつけ、意地で耐え抜いたオルガ。

 このスーツは兄貴分である名瀬・タービンから昇進祝いとして贈られた品だ。本来ならすぐ着替えたい所だが、金も服もないオルガにはそれすらできない。

 

 今出来るのは、この服を汚さないよう噴水の縁を手で払い、腰をかける事くらいだ。

 

「仕方ねぇ、また明日職探しだ…」

 

 ガキの頃は何も食べられないのが普通だった。そう自身に言い聞かせながら息をつく。

 

 すると、だんだん眠くなってきた。

 

(なんか、こんな感じ前にもあったな。そうだ。この感覚はアクア…さんに会う前にあった…切れる感覚…)

 

 意識が遠のく。眠るように視界が細くなって、力が入らなくなっていく。そして――――

 

「おっと」

 

 

 

 女性の胸に、顔を受け止められた。

 

 

 

「……悪りぃ」

 

 強烈な間を置いて、オルガの額に一筋の汗が流れる。

女性経験のないオルガでもこれがマズイのは分かる。だが起き上がろうにも力が入らない。

 

「いえいえ。お疲れですか?」

 

 胸に顔を埋められたというのに柔らかな笑みを崩さない女性は、オルガの肩を持ち、倒れた姿勢を元に戻す。オルガは朧気でも女性の姿を覚えておこうと、目を動かした。

 

 年齢は20~30代辺りに見える金髪の女性で、顔のパーツはなかなか整っている。濃い青色に金の淵がある帽子と肩掛けが特徴で、体を覆う白のローブが神聖さを感じさせた。

 オルガはその包容力と相まって、ぐずった子供たちをあやしているメリビットさんやクーデリアを思い出す。

 彼女らは今、無事だろうか。

 

「ああ、腹が減って力がでねぇんだ……」

「そうですかそうですか。これも何かのお導き。それではコレを貴方に」

 

 女性がオルガの手を取り、何かを手に置く。その人肌ではない温かさと匂いに、オルガの目は見開かれた。

 

「っ!コイツは…!」

 

 それは紙に包まれたパンだった。拳大の温かさが紙を通して、心を震わせる。

 

「食って…、いいのか…」

「ええ。思う存分食べてください」

「……!!」

 

 芳ばしい匂いを放つパンは、たったの二口でオルガの中に沈んだ。

 何日ぶりかの食事で力がみなぎるのを感じたオルガは立ち上がり、パンをくれた女性に礼を言う。

 

「すまねぇ…飯を食わしてもらって助かった。この恩は返す!」

「いいえ、私は何もしていません。全てはアクア様のお導きのままに…」

「…アクア様?」

「知らないのですか?貴方が座る噴水に象られている女神像こそ、水の女神アクア様なのですよ」

 

 オルガは後ろに振り返る。

 そこには夕日に照らされた壺を高く掲げ、そこから水を噴き出している彫像の姿があった。

 自分が出会ったアクアとは髪型や服装、身長などまるで違うが、その像はただ壺だけを見つめている。

 

「そういえば貴方、仕事を探しているんですよね?」

「は?何でそれを?」

「アクセルの町では噂が広がるのも早いんですよ?ぐうぐうお腹を鳴らしながら仕事を探し、歩き回る男がいるってね」

「んなっ…!?」

 

 そんなに腹をすかせていたのかと、オルガは恥ずかしさの余りに頭を手で被い、染まった頬を隠す。

 そこに愛らしさを感じたのか、クスリと笑った女性は続ける。

 

「そんな貴方に朗報です。我らがアクア様を信仰する《アクシズ教》に入りませんか?」

「アクシズ教?」

「はい。今ならアクア様の素晴らしさを説くだけでお金を貰える仕事を募集中です。いかがですか?」

「…いや、悪りぃがオレは教養がなくてな。そういう仕事はオレに勤まらねぇよ」

「アクア様の素晴らしさなら、私がそれについての本を貸してあげます。勉強の間に石鹸洗剤を売る仕事も受け付けているのですよ?配れば良いだけです」

「んん……っ」

 

 オルガは、神に対してなんの意識もすることはなかった。姿も見せない者に頼るなど、毎日を生きるのに精一杯な自分には考えられないものだったからだ。

 だが、この世界の神は実際に姿を表し、死んだ自分にもう一度進み続けるチャンスを…、得た答えを試すチャンスをくれた。

 神に祈る気はさらさらないが、何かあの人に恩を返せる時が来たら、近い方がいい。

 

 恩を返せずに別れることもあるのだから。

 

(そうだな…。受けた恩を返さなきゃオレらしくねぇ…!)

 

「なぁ、アンタの名前は何て言うんだ?」

「!っ……私の名前はセシリーです!受けてくださるのですか?」

「頼むのはこっちの方だ。金もいるし、アンタやアクア…、さんに恩を返してぇ…」

 

 オルガは、自身のこだわりである筋を通すため、神との契約を結ぶ。

かつて、三日月・オーガスという《悪魔》に乗り込んだ少年と、同じように。

 

 

「オレを…、アクシズ教徒に入れてくれ!!」

 

 

「はいっ!ではその紙にサインを!」

「紙…?は!?この包み紙サイン書かよ!」

 

 自分が入ろうとするのを予測していたのか?オルガは思わず苦笑いしながら、ヨレヨレになったサイン書に自分の名を書き込んだのだった。

 




その後、アクセルの街を後にしたセシリーの叫び

「ヒャァァァアアアはぁぁぁああああ!!!やったったぞエリス教徒どもめ!貴方たちが我々の契約書を包み紙にしてくれていたお陰でェ、アクセルの町に記念すべき一人目のアクシズ教徒が生まれたわぁぁああああ!!あっ、そういえばエリス教徒から配給されてたパンを使ってしまったんだったわ!ヤツらにイタズラするついでに新しいの貰わないと!」


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#4 この前髪ブレードに仕事という名の日常を!

※最期辺りが雑かもしれませんのでご了承ください。いつか直します(フラグ)


 この世界に来てから1ヶ月後。セシリーやアクアに助けられた恩を返すためアクシズ教に入信したオルガは、資金集めのために新しい仕事を見つけた。

 

 そこでの朝は早い。毎日4時起きで、新入りであるオルガは3キロ先の井戸まで走り、水を汲まなければならない。それを3往復してやっと朝の分になる。

 

 作業場所は、『モンスター』という生物がたむろする町の外側。先輩方の中には傷があるものも多く、どの人もオルガ以上の巨漢だ。

 初めて会った時に明弘に勝る筋肉を持つ彼らを見て、開いた口が塞がらなくなったのは記憶に新しい。

 

 さて申し遅れたが、オルガが見つけた仕事というのは……。

 

「おうオルガ。ツルハシぶん回して頑張ってんな」

「あぁおやっさん!」

 

 壁の建築である。もっと言うと労働者だ。

 

 先程も言ったようにモンスターのいるこの世界では、防衛のため『壁』が円を描いて町を囲んでいる。無論壁はそれを越えようとしてくるモンスターのせいで傷だらけだ。

 だからこそ年に何回か、冒険者が周りのモンスターを全滅させ、再び増えるその前に壁を補強・強化する必要がある。

 

 だがたまに、強力なモンスターが出現して死傷者が出る事もあるという。そのためこの仕事に就く者はそう多くなく、故に万年募集中なのだ。

 

「前は壁の中で仕事を探してたからな、外にある仕事は手付かずだった…。それに、この世界の学がねぇオレにはこの仕事が向いてるッ!」

 

 ガツンッ!!と、降り下ろしたツルハシが地面にめり込む。

 

 今オルガが作業しているのは、地面を潜るモンスター用の壁だ。固められた地面を掘り進み、その中に壁を通すという重労働。しかし、だからといって手を抜くオルガではない。

 

 この風景と賑わい豊かな町を守るこの仕事が、オルガはなかなか気に入っていた。今まで作る事と無縁の人生を歩んで来た反動だろうか。

 

 そして、オルガのモチベーションが崩れないもう一つの理由がある。それは…。

 

「おいコラ新入りィ!!ぶっ続けで働きやがっていい加減休みやがれ!こっちに来て昼飯だ!!オメェはボーナスで大盛りにしといやるよ!」

「はい!ありがとうございます!」

「へっ!べっ、別にお前の事心配していってんじゃねぇんだからな!!」

 

 周りの先輩方が親身に接してくれるからだ。

 

 汚したくないスーツの代わりに正社員用の服を与えてもらい。工具の扱いやコツ、注意すべき所など様々な課題をタダで教えてもらった。今では分からない事があれば先輩方や親方――おやっさんに聞くほど信頼している。

 

 前にオルガは、なぜこんなに親切にしてくれるのか尋ねたことがある。

 新参者が恨まれるのは名瀬の件で痛感していたし、厳しい環境という事でCGSを思い浮かべたからかもしれない。

 

 すると巨漢たちは語ったのだ。

 

「なに言ってんだよ新入り!ここじゃあチームワークが命!そんな事してたらモンスターに食われちまうよ!いちいちちいせぇ事を気にしてんじゃねぇ!」

 

 と笑い、オルガの背中をバシンと叩いたのだ。これが効いた。

 

 恩を返す事を信条とするオルガの火に油を注いだのだ。信頼できる大人たちに囲まれて、気負う事がなかったのも大きいかもしれない。

 

 そんなこんなもあって、時は夕焼け前。

 

 ここを仕切る棟梁…オルガがおやっさんと呼ぶ人物が高台の上に上がり、すんぐりとした大きな声で作業の終了を伝えた。

 

「よぉし、お前らよく頑張ってくれたな。夕焼けになればモンスターが活性化すっから今日の仕事は終わりだ。」

「ん…?おやっさん、まだ早くないですか?いつもならまだ作業をしている気がするんですが…」

 

 オルガが違和感を感じ、上の棟梁に話しかける。それに周りの先輩方はニヤニヤ笑っていた。

 

「どっかのバカのやる気が飛び火して、早く修復が終わったからな。明日はゆっくり休んで、次の日来い」

「わかりました。先輩方、おやっさんもご苦労さんでした!」

 

 一応の理解をしめしたどっかのバカは、先輩方の工具をもらい受け、それぞれの安置場所へと置いていく。もちろんその時に水筒を渡すのを忘れない。

 

 最後に不要品である接着土や塗料、レンガなどを持てば、ここの仕事は終了だ。

 

「悪いなオルガ。ゴミ押し付けちまってよ」

「そんな事はないです。ありがたくもらっていきます」

 

 オルガはそれら全てを袋に詰めこむと、背中に背負って立ち上がった。

 

 

 

 

 

 ――このすばぁあああ!!byオルガ――

 

 

 

 

 

「よっ…と、なかなか大量じゃねぇか」

 

 夕焼けが極まる時、オルガは自分の住み()に不要品を運び終え、一息ついていた。

 

 ちなみに服は「汚くて使えやしねぇ!オラ新入り持っていきやがれ!」と渡された作業着だ。白のタンクトップとダボダボなズボンで構成されており、花の香りと日干しの暖かさを感じる。

 

 今のオルガの住み処は馬小屋だ。三日月が見れば「そんなオルガは見たくない」と気難しい顔をするだろうが、背に腹は変えられない。

オルガ自身も、ずっとこんな所でくすぶる気はない。まだやるべきことがあるのだ。

 

「さぁ次の仕事だ。気合い入れてかねぇとな」

 

 

 

 

 

――あぁんなに見てんだ新入り!このすばァ!!――

 

 

 

 

 

「五番テーブルからカエルのソテーにシュワシュワ3本注文入りました―っ!」

「新人くん鳥の丸焼き二体焼き上がったよ!それもって三番テーブルね!」

「了解!」

 

 日が沈み、アクセルの町の街灯が灯る頃。オルガは料理店のウェイターとして働いていた。

 

 今の服は紳士といった出で立ちであるが、その姿に高貴さはなく、どちらかというと戦える野生のジェントルマンを思わせた。

 

 事実、戦場で鍛えた足は寸分の狂いもない歩行を実現し、大きな料理を持ってもソレは崩れない。

 しかも、それを交代なしで続けられるタフネスが学も料理もないオルガをこの店に引き止めていた。

 

 ちなみにこの店。最初に金が無くて追い出された店だったりする。

 

「しっかしもったいないなぁ~。何でオルガくん冒険者やらないんだろ?ガタイいいし結構強そうなのに…。わお♪」

 

 緑のストライプパーカーの上からピンクのエプロンを羽織った少女、リーンがホットケーキをひっくり返しながら呟く。いい出来だからか、お尻から生えるタヌキ尻尾がフリフリ揺れた。

 

 リーンはこの町の冒険者で、それでは稼ぎが足りないとここでアルバイトをしていた。その道の勘というヤツがオルガの何かを察知したのだろう。

 

 それに対して糸目のマスターがコーヒーを煎れて諭す。

 

「こらこらリーン君。人とはそれぞれ道があるもの。人の選択をとやかく言ってはダメだよ?」

「ううっ、一理ある…。でも店長ぉ~、こんなボロボロの店であの子使い潰すのダメな気がするなぁ~」

「おい今なんつった君?」

 

 オルガはそんな会話があるとはつゆしらず、料理を次々と運んでいく。

 すると、ある男が店長の目についた。店長の目が開眼され、親の仇を見るように睨み付けている。

 

「あ。(きゃつ)め…、また来おったか…!」

「あぁ、あの客ですか…」

 

 オルガもその男の顔は見飽きてるため、あきれ半分でため息をついていた。その様子は「もういい加減にしてくれ」というような疲れを感じさせる。

 

「オルガ君。君を雇っているもうひとつの理由だ。やってくれるね?」

「あぁはい、わかりました。ったく、あきねぇなお前も…」

 

 オルガは、持ち上げていた皿をお客の所へ置いていくと、回り道をする形で皿の山に近づいていく。

 

 すると山の主はオルガの気配を察知したのか、大量の料理を食べるのをやめてオルガの方を振り向いた。

 

「んん?来たなオルガ!いつも通りオレに金はねぇ!今日こそはどっちがアクセルの町の元締めか…、決めようじゃねぇか!」

「なぁダスト。お前なんで店先で追い出されねぇんだ?不思議でたまらねぇよオレは」

「へっ!女のパンツを見るために滑り込みをマスターしているオレには、客の足下から侵入するなんざお茶の子さいさいよ!」

「お前のせいかよ客足が遠のいてるのは…、おい誰かサツ呼んできてくれ!」

 

 椅子の上でヤンキー座りをし、偉そうにしている青年の名はダスト。トサカのように跳ねた金髪と泣きボクロが特徴の冒険者で、ここらでは有名なチンピラだ。

 

 昔ここで無銭飲食を働いた際、オルガに蹴り飛ばされた過去を持ち、それ以来因縁をふっかけて邪魔してやろうとよく絡んでいた。

 

 まさしく、両者は天敵の間柄だったのだ。

 

「そもそもアクセルの元締めってなんだ?テメェの自称なんざ欲しくもなんともねぇよ。ツケを払いやがれツケを」

「払うかッ!!払わないでツケるのはオレ様の特権なんだよ存在意義なんだよ!!どうしても払って欲しけりゃリーンの奴に言え!」

「仲間にツケ払えってか?ったく、そんな奴がよく冒険者やってられるモンだな」

「ヤツじゃねぇですぅぅぅなんか文句あるんかぁ―――い!!」

「上等だ。払う気ねぇなら無駄食いされた店にムショで詫びてこい…!」

 

 冷静に睨みを聞かせ、合わせた両腕をパキパキ鳴らすオルガ。

 対してムカつくアヒル口とへの字目で挑発しまくるダスト。

 

 攻撃はほぼ同時。ダストが「あっエリス様のパンツあるぜ!」と窓を指差した瞬間、オルガが殴り飛ばした事で始まった。

 

 そこからはまさしく、拳飛び交う店内乱戦。

 

 後半からはダストが冒険者としての身軽さを生かして飛び回り、それをオルガが追いかける逃走劇。

 

 オルガが靴を掴むとダストは脱いで回避し、ステーキを焼く鉄板を踏んで絶叫を上げる。

 

 水をかけてオルガの目を潰すと、ダストはその様子を嘲笑ってバランスを崩し、股間を椅子に打ち付けた。

 

 果てに戦いは他の従業員とタダで食べたい派の無銭飲食軍団を巻き込んだ闘争へと発展し、鮮烈を極める始末。

 

 その戦いの結果は…。

 

 

 

 

 

 ――よっしゃあ言うぞ!このsパンパンパン!byダスト――

 

 

 

 

 

「…………」

 

 真夜中。オルガは石造りの腰掛けに座り、顔を両手で覆っていた。

 

 正面には先ほどまで戦っていたダストがおり、フレンドリーに話しかけてくる。ちなみにここがどこかと言うと…。

 

「いやぁ~今日のは凄かったな~!特にお前のアイスクリームによる突き攻撃!あれはうまかったぜ!!」

「テメェ生まれ変わらせてやろうか!?」

 

 両者営業妨害によるブタ箱行きである。これにはオルガも銃を持ち込むプッチンぶり。

 流石に我慢できなかったようで、向こう側の檻にいるダストを青筋立てて怒鳴っていた。

 

「ふざけた真似しやがって!冷凍庫に閉じ込めてケリつけたってのにサツが来た瞬間「ハイハイオレとコイツがやりました~」って共犯扱いか!?おかげで札付きだぞどうしてくれんだ!」

 

 オルガの顔はもともとしかめっ面な方だ。元が底辺の生まれとあって、金の入らない状況に引きずりこんだダストを般若の顔で睨み付けている。

 

 対してダストはどこ吹く風とばかりに横になってリラックス状態。図太いというかクズ野郎と言うべきか。

 

「いやぁ~オレの知り合いお前みたいな顔多くてさ!上手くいくと思ったんだよ!」

「そっちの話じゃねぇよ!ったく…、これから馬小屋の世話や牛乳配達のバイトがあったってのに…」

 

 今までゲラゲラ笑っていたダストだったが、その言葉にピシリと固まる。もう一度いうが今は『真夜中』だ。それを小窓を見て確認したダストはオルガの方を振り向き、改めて問う。

 

 その顔は青ざめていた。

 

「……は?ちょっとまでオイ。お前他にも仕事してんのか?」

「あぁ…、休日出勤前提で20件な…」

「ここで休め!休めよお前!仕事し過ぎ!!」

「仕事してねぇと身体がなまるんだよ!」

「冒険者であるオレと対等な勝負してる時点でなまるも何も無いと思うけどォ!?」

 

 結局オルガにとって不本意なことに、この夜中は仕事を行えることなく終わってしまった。

 

 ちなみに後日。オルガはリーンやマスターの弁明により檻から出ることになる。ダストはそのままで。

 




ちなみにオルガが普段着にしている作業着は、アクアが着ていたものと同じです。


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#5 このトラウマに怯えるぼっちに風穴を!

祝!!ランキング2位!!こんな駄文が二位なんて頭おかしい!!!(大歓喜)


「フゥ…」

 

 タチの悪さでいうならトドに勝る男、ダストに苦労させられた翌日。オルガはタンクトップとダボついたズボンの作業着姿であぐらをかき、アゴに手をやって考え事をしていた。

 

 知らない人が見れば、鋭い目付きと相まって作戦を立てているヤクザのようにも見えるだろう。背景が馬小屋でなければもっと完璧だった。

 

 オルガが悩んでいるのは、この世界に生まれ変わらせ、『前に進み続ける』チャンスを与えてくれた女神アクアについてだった。

 そのアクアの下につくアクシズ教徒の末端として、オルガは頭を悩ませていたのだ。

 

「一体、どうすりゃ売れんだかなぁ…」

 

 目の前にある石鹸洗剤の山、それが三つ。それらが減らない事にオルガは頭をかいていた。

 

「これじゃいつまでも見習いのまんまだぞ…」

 

 1ヶ月前、オルガは自分を助け、住み処となる馬小屋を提供してくれたセシリーの言葉を思い出す。

 

『入りたての貴方はまだ見習いです。正式にアクシズ教に入信するなら、石鹸洗剤を100個売り、100万エリスを稼ぐこと。それが見習いから信徒になる唯一の方法です。それでは頑張ってくださいね』

 

 そう言って微笑みを浮かべた彼女は、山ほどある石鹸洗剤とアクシズ教についての(マンガ)本を残し、次の日にはどこかにいなくなっていた。後は自分でどうにかしろと言う事だろう。

 

「まさかこんな事になるなんてな…。物を売るってのは難しいもんだな…」

 

 だが頭にシワが寄り、険しいオルガの顔から察せるように、その活動は難航した。

 

 販売方法やアクシズ教の行動方針は、セシリーが与えてくれた(マンガ)本のおかげで理解できた。

 この世界の文字が読めないオルガでも分かる《絵》が基本の内容は、知識を必要とする宗教の先入観をうち壊し、オルガを驚かせた。これなら文字が読めないヤツでも理解できると、アクシズ教の配慮に感心したものだ。

 

 前世の世界のように、周りの状況が悪いのではない。問題はオルガ自身にあった。

 

「なんで町の奴らは、オレのことをアクシズ教徒って信じてくれねぇんだ…?」

 

 いくら言っても、いくら宣伝しても、このアクセルの町に信じてくれる者が出てこないのだ。

 

 セシリーにパンと寝床をもらった夕暮れ時。オルガはそれで力を振り絞り、5件の仕事を手に入れた。

 すぐに販売を初めていたら違ったのかもしれないが、恩義ある人の仕事を全力でやりたいと考えたオルガは、ポテンシャルを上げようと生活圏を整える方を優先した。

 

 その結果。

 

「おいおいテメェがアクシズ教徒だと!?働いているオメェがなに言ってやがる!悪い夢を見てんなら教会でお祓いして、ポーション飲んで寝てやがれ!!」

 

「ひどい…!ひどいですそんなこと言うなんて!いくらお金がないからって自分を乏しめないでください!」

 

「お前それ他のヤツに言いふらすんじゃねぇぞ!?オレの終生のライバルがアクシズ教徒なんてエイプリルフールでもゴメンだからな!?」

 

「オルガ君。弱みでも握られて言わされてるんだろう?大丈夫だ。そんな言葉を信じるヤツなんてこの町にはいないよ。君は頑張りやさんだからね。所で今からダストハンバーグを焼かないか?」

 

「ふざけんじゃねぇよオルガの兄ちゃん!ウソはだめだって…、スジをとおすのが男だって言ってたじゃんか!そんなウソついてもオレはオルガ兄ちゃんのこと信じてるからな!それがスジだ!!」

 

 女子供からあのダストに至るまでが、オルガがアクシズ教徒だというとメチャンコ否定してくるのだ。これでは石鹸洗剤を売っても、オルガがアクシズ教徒ととして評価されるか怪しい。

 

 このままでは恩義を返すどころか、アクシズ教の名前もろくに使えない。

 こんな八方塞がりな状況では、オルガも頭を抱えたくなるだろう。

 

「なんでだ、どうしてこうなったんだ?わけわかんねぇぞ…!」

 

 見知らぬ人にパンを与え、食事を与え、果てまでは仕事を与えてくれるアクシズ教徒。

 見返りは戦いの捨て駒でもなく、危ない手術をさせるでもない。ただただ力を貸してくれと手を伸ばすだけ。

 

 CGSから汚い所を除いて倍クリーンにしたような組織なのに、なぜみんなして邪険にするのか?この町に住むものが基本善人なだけに、オルガは(はなは)だ疑問であった。

 

「待てよ…?セシリーの姐さんが女だ。タービンズみたく女しか入れない組織じゃねぇのか?いや、それじゃあオレが勧誘された理由が分からねぇし、町の奴らの反応に納得いかねぇ…」 

 

 オルガは少ない知識をフル回転させて、様々な可能性や理由を思案する。しばらく考え込んだ後、オルガは一つの可能性に突き当たった。

 

「もしかしたらテイワズのトコみたく、組織が一枚岩じゃねぇのかもな」

 

 その予想とは、一般的に知られているアクシズ教徒の人格が最悪という考えだ。

 

 かつてオルガは、テイワズの傘下であるタービンズと兄弟盃を交わし、世話になっていた事がある。そこのリーダーである名瀬・タービンは、未熟者である自分に真摯に語りかけ、未来を案じてくれた初めての『大きい大人』だった。

 

 自分たちを白い目で見ず、正面から向き合い、テイワズの傘下に入る事を、そして仲間たちとの関係を『家族だ』と教えてくれた最高の恩人だった。

 

 しかし、彼は殺された。同じテイワズの傘下であるジャスレイ・ドノミコルスという男によって。つまらない考えの踏み台として謀殺されたのだ。

 

 あとでその男を殺し、仇は取ったものの、名瀬が喜んでくれたかは分からないが……。

 

 話を戻すと、この町、もしくは世間にそんなジャスレイのような奴がアクシズ教徒のスタンダードとして認識されているのかもしれない。

 オルガも、初めてあったテイワズの傘下がジャスレイ率いるJTDトラストだったら、間違いなくいい印象は抱かなかっただろう。

 

「オレは、セシリーの姐さんに会えて運がよかったのかもしれねぇな」

 

 無論、今オルガが推測している考えは予想に過ぎない。だが、そう考えると一番現実的でありうる話だ。

 真実を確かめるためには、上に登って見渡す必要がある。そこでもし、自分の考えが正しければ――――

 

「ちょっと待て。オレはまた上に登って…、どうすんだ?」

 

 そこでオルガの指針が揺れる。

 

「今のオレには、ミカやユージンも、昭弘もいねぇ。それどころか鉄華団もねぇんだぞ…?」

 

 額を抑えるオルガの言葉は、先ほどと比べて弱々しかった。

 上に行く。その結果起こった様々な憂き目を思い出してしまったのだ。最高の上がりだとして『火星の王』を目指した、あの日々のことを。

 

 ろくに知りもしない上を目指して、結果あったのはなんだ?

テイワズの縁切り、無造作に詰められた家族の死体、大量に潰れたモビルスーツ、居場所、ホタルビ―――

 

 シノの死―――

 

「―――――――くッ!!!」

 

 ギリリッと歯が軋み、脳に歯が擦れる音が響く。また性懲りもなく同じ事を繰り返し、全部失うのかと警告するように。

 

「だから…、だからって見捨てんのか!?もし考えが正しけれりゃオレは…、オレはアクアさんやセシリーの姐さんを見捨てろってのか!?」

 

 溢れ出した過去のトラウマは行き所を失い、オルガを憤らせ叫ばせる。

「うるせぇぞ!!」と後ろで怒鳴り声が響いたが、オルガには蚊帳の外だった。

 

「クソ…!ちくしょう…!!違うだろ…!オレは、オレは…!」

 

 オルガは、自分が知らない間に立ち上がっていた。そこから空気が抜けるように、干し草ベッドへと腰を預ける。

 

 その時だった。

 

 

 ―――パァンッ!!―――

 

 

「うおっ!?」

 

 オルガの腰かけたベッドから、甲高い射撃音が響いたのは。

 

「なっ…!?なんだ?」

 

 オルガは、不意の事態に片足を上げたまま硬直する。下を見てみると、何個か落ちている石鹸に小さな風穴が空いていた。

 

「まさか――!」

 

 即座にアレを思いだし、オルガは先程まで腰かけていた干し草を掻き分ける。するとそこには、護身用に隠していた三日月・オーガスの拳銃が口径から細い煙を吐いて横になっていた。

 

 おそらく、トリガーに折れ曲がった茎が入り込み、オルガが腰かけたことで指のようにしなって拳銃を引いたのだろう。どこかの誰かのように軽い引き金だ。

 

「はっ、ははは…!全く、悩む事も許してくれねぇのかよお前は…」

 

 まさかの暴発という偶然に、乾いた笑いが漏れるオルガ。いつでもコイツはオレの想像を越えていきやがると、今まで悩んでいたことが吹っ飛んでしまった。

 

「悪かった…。悪かったよミカ。立ち止まるこたぁねぇ、オレは『進み続ける』。オレが立ち止まってちゃ、お前らが先行けねぇもんな」

 

 足元に転がる一つの石鹸を拾い上げる。体の臭いや汚れを取り、緊急時には食べられるという代物。

これを作った者は飢える苦しみを知っていて、食べられるようにしたのだろうか?

 とすれば、こんなものを作り出すのにどれぐらいの道のりがあったことだろう。

 

 自分も負けてはいられない。先にあるのは何かは知らないが、進み続けると決めた以上、降りるわけにはいかない。

 

 オルガ・イツカは歩き続ける。

 

「その為の一歩だ…!」

 

 オルガは、石鹸を強く握りしめる。四角いマークが刻一されたソレは、銃弾によって風穴が開けられていた。

 

 

 

 

 

 ――こ~の~す~ばbyオルガ――

 

 

 

 

 

 それからしばらくして十分後…

 

 

 

 

 

「ビッ…!ビスケットォォオオオオオ!!!」

「んまい…!んまいわねカズマ!もっとちょうだい!」

「おうち帰りたい…」

 

 どうしてこうなった。

 




 ミカの拳銃。3発から2発に。
 次回『ビスケット死す』デュエルスタンバ…《パンパンパン!!》


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#6 この二人に未知との遭遇を!

やべ…、話の進行がつまってきた…!


(ちくしょう…!俺の…、俺の異世界生活はどこ行っちまったんだよぉ…)

 

 少年は泣いていた。憧れの崩壊に、夢と現実の違いに突き当たり。顔面をくしゃくしゃにして泣いていた。

 彼の名前は佐藤和真(さとうかずま)。茶色の主人公っぽい髪が密かな自慢の、死してこの世界にやってきた異邦人だ。

 

「クソ!クソォ!!こんな姿になっちまいやがって…!ビスケット…!!ビスケットォォオオオオオ!!!」

「ね~え~オルガさーん。その袋くれないとこっちのビスケット食べちゃうわよー?」

「なっ!」

「はむっ」

「ビ…、ビスケットォォオオオオオオ!!!」

 

 しかし、そこに広がる光景はカズマが思い描いた世界(もの)とは違っていた。

 

 自分に恋して手助けしてくれる美少女? 強敵との戦い? 広がる大草原?

 

 そんなものはない。

 

 あるものといえば、いつまでも冒険に出かけられず、お菓子を抱きしめて泣き叫ぶ頭おかしいヤクザと、それをおちょくって遊ぶ顔だけが取り柄の美少女。

 

 そして、それを白一色の生暖かい目で見るギャラリーの皆さんだった。

 

「殺せぇぇええええええッ!!!もういっそのこと殺してくれぇぇぇえええええええッ!!!」

 

 その状況に耐えられず、天上を見上げ、鼻水と涙をまき散らしながら叫びをこだまするカズマ。

 ド田舎ニート童貞16歳。彼の心は、異世界生活一日目にして粉微塵に砕けていた。

 

 

 

 

 

—―はぁはぁはぁぁン!?このすばァ!?ンなこと言ってる暇あるんだったら俺を美人で性格マトモな母親と幼なじみとおねぇさんと妹とライバル女子がいるbyガチギレズマ――

 

 

 

 

 

 

 惨状が起きる十分前のこと。暖かい陽気の中、一房の前髪を揺らすオルガは冒険者ギルドを目指し、町中を歩いていた。

 背中には金や石鹸洗剤を入れた袋が背負われ、ユサユサと揺れている。

 

「おぉオルガじゃねぇか!今日はどんな仕事をしてんだ?見たところ物運びって所か?」

「グンブさんか。まぁそんなとこだな」

「よっしゃあ!!今度の賭けはオレの勝ちだぜぃ!!」

「賭ける金も程々にしとけよ」

 

「あっオルガの兄ちゃん!なぁなぁ紙芝居見せてくれよ!」

「わりぃなジョン。今日は持ってきてねぇんだ」

「おれ楽しみなんだよ!毎週5時の《テツハナ団の冒険》!あれからどうなるのか気になってしかたねぇんだよ!」

「ハッ、そうか。アカツキがどうすんのか、楽しみにしとけよ」

 

「あ…あの…、お花のお兄さん…」

「あぁ、リーンさんの妹のリン…ちゃんか。どうした?」

「え、えと…。これ、お花とお菓子」

「コイツをオレにくれんのか?」

「ん…うん…」

「そうか。ありがとな、リン」

 

 道中で声をかけてくれる住人達に強面を柔らかくしたオルガは、女の子からもらった花を服の縫い目にに刺し、菓子を腰にくくりつけるとその場を後にした。

 

 念のために言っておくが、オルガがギルドを目指しているのは幼女からプレゼントをもらうためではない。

 新しい情報を得るため。そして、金が足りるなら自分が冒険者になり、外の世界を冒険するためである。

 金は情報料や登録のために持ってきたものだ。

 

「もしかしたら、この世界に飛ばされた鉄華団の団員が…、オレの家族が来てるかもしれねぇからな…」

 

 オルガはこの1ヶ月間、様々な仕事をこなしながら団員たちの情報を集めていた。

 

 自分がこうして生きているのだから、死んでいった家族がどこかで生きているかもしれない。そう考えるのに時間はかからなかった。

 

 オルガは、何も無造作に仕事を取っていたわけではない。

 牛乳配達の時も、町全体を周りながら前世で顔を合わせた奴がいないか確かめた。

 馬小屋掃除やウェイターなど、顔を合わせる仕事をたくさん取り、団員たちの特徴を伝えて情報をくれるよう頼んだ。

 

 しかし、それでも団員たちを見つけるには至らなかった。この町に彼らはいなかったのだ。

 

「ったく。こうなるんだったらLCSの一つでも持っとくべきだったな」

 

 オルガは今までの苦労を思い出して頭をかき、皮肉を言う。しかし、それでも歩みを止める事はしない。

 

 女神アクアは自分を送る際、この世界を魑魅魍魎の世界と呼んだ。もしかすると平和なのはこの町だけで、外は危険で溢れているのかもしれない。

 

 新しい世界にやって来てなお、団員達が過去のように苦しんでいるとしたら…。そう思ったオルガの目標は一つに絞られた。

 

「アイツらを守る。アイツらの居場所を…、今度こそオレが作ってやる!」

 

 そのために力を。仲間を守り、進み続ける力が欲しい。

 物思いにふけっていれば、もうギルドは目と鼻の先。オルガは今日、ここで冒険者になることを決めた。

 

 決意を新たにしたオルガは、生気溢れるたくましい顔で歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 ――このすばっ♪byアクア――

 

 

 

 

 

 オルガが到着する七分前の事。

 

「えへぃううぇへうえっ…!えへェいうえぃうえ…!!」

 

 もはや何を言っているのか理解不能なレベルで、アクアは泣いていた。悔しさや無念をゴチャ混ぜにした顔で目の前の怨敵をブンブン揺り動かし、怒り狂っていた。

 

「なぁんでよぉおおお!!何で私がアンタのオマケになんなきゃいけないのォ!?一人ぐらいいてもいいんじゃない!?同じ女神がここにいて元の場所に帰すとかミラクル起きてもいいんじゃなぁい!?」

「いや、それはさすがにムリだと思う」

「だぁあぁあああああああ!!」

「揺らすんじゃねぇ吐くぞ!」

 

 揺り動かされている張本人。カズマはよせばいいのに確信を突き、顔が無数の残像になる。

 ここは冒険者ギルドに置かれた待ち合い所。そのテーブルの端っこで、彼らは言い争いをしていた。

 

 カズマは冒険者になろうとここに来たのだが、冒険者になるには手数料がかかるらしく、一文無しの二人は途方にくれていたのだ。

 

「大体な?異世界の知識がない人間を放り込むって考えがおかしいんだよ!!なんだよジャージ一丁で放り込むって!ファンタジー感ブチ壊しじゃねぇか!?初期装備も金も無しってどんなクソゲーだよ!」

「知らないわよゲームなんて!創造神様がお決めになった事なんだから私に文句いわないでくれる!?」

「なんだよクソッタレがァ!!こんなことならお前連れて来るんじゃなくて何でも出せる道具もらっとくんだった!具体的には青は青でも金作りの手段いくらでもある青ダヌキもらうべきだった!!」

「私金ヅルだったの!?金ヅルとして寄生すること前提で巻き込まれたの!?女神様に寄生する虫なんてエンガチョよこのド田舎ヒキニート!

「ンだとやんのかコラ駄女神コラァ――ッ!!」

 

 言い争いはヒートアップし、牙を剥く両者はやがて竜玉を集める戦士のファイトスタイルを取る。

 アクアは人差し指と中指を額に当て、カズマはやめときゃいいのに手のひらに力を溜めようと構えた。

 

 各々の必殺技(エア)が放たれようとした、その時―――ッ!!

 

 《グギュルルルルル~~~》

 

 腹が―――減った。

 

「うぐ…!」「へううっ」

 

 技(エア)が放たれてもいないのに倒れる両者。戦いと腹の空しさを現すようにホコリが舞う。

 ホウキを持っている従業員が、それを邪魔くさそうな目で見ていた。

 

「う、ううっ…!このままじゃまずいわ…!ここは一時休戦よカズマ!ひとまずは飯の種を手に入れなければ飢え死にしちゃうわ!」

 

 激戦に倒れたライバルのように休戦を求めるアクア。その顔は床のホコリで汚れていた。

 

「なっ!自称なんとかがマトモな事を!でもどうすんだ?俺たちに金はないんだぞ!?」

「フフン。私はこの世界を統べる女神様よ!この私の手にかかれば…ッ!」

 

 自信ありげなアクアはヨロリと立ち上がって後ろを向き、雄々しい背中を見せて歩き出す。

 カズマはその後ろ姿を、床に張り付き、下から見上げる体勢で見ていた。

 

「お…、おぉほぉ~~!!」

 

 こうして見ると。やっとその美しさが見えてきた気がする。

 

 水色の髪は風にたなびいて川の如き輝きを放ち。黄色のラインと黄緑のリボンが藍色の服とのコントラストを成す。

 下から見上げるプロポーションも完璧で、初恋()の情熱が下半身からこみ上げてくるようだ。

 特に健康的な桃色と肌色、白玉の輝きを放つお尻は最高で。我ながらよく襲わなかったなと紳士な心に感心してしまう。

 

「さぁここに集まりし人間たちよ!私はこの世界の女神アクア!!アクシズ教が祭り上げる御神体そのものよ!!だからお願いします誰かお金を貸して下さい!こんなにたくさん人がいるなら1エリスでも大金になるはずだからぁ!!!」

 

 これで頭が良ければ完璧なのに。

 

(あろうことか懲りもせずに女神を名乗った上に頭を下げやがったァァァッ!!)

 

 一般的な女神とは高明で慈悲深く、人々に救いを与えるものである。断じて45度の礼をして金を恵んで貰おうとする人のことではない。

 

 無論。その代償は高くついた。

 

「バカー!アホー!このマヌケー!!」

「なんで俺たちが金出さなきゃいけねぇんだ!」

「オレはこの前アクシズ教徒に店を食い潰されたんだぞ!」

「ウチの従業員なんて『オレはアクシズ教徒なんだ』ってトチ狂ったコト言い出したのよ!?」

「ホントに神様なら脱げよ!神様はヌードが正装だろ!?」

「それになんだよ重力無視してるそのクルリンパな髪型はよぉ!!頭デザインしたヤツ頭おかしいンじゃねぇのか!」

「はいてない!はいてないぞこのドスケベ!」

 

 成したげたぜ。とキメ顔をしているアクアに、罵詈雑言の嵐が飛び交う。

 中にはアクシズ教の名前を使ったせいでシンパだと勘違いした人が続出し、ビール瓶や弓矢が飛び交う始末だ。

 

「あ…あれ?どうしてこうなるの?どこかで間違えちゃった??」

「間違うどころか地雷踏んだっぽいぞ!ここは退散だ!」

 

 様々な物が飛び交う中。パチクリと瞬きをするアクアの手を引っ張り、ギルドを出ていくカズマ。

 気のいいおじいさんが投げる人をなんとか止めようとしてくれたが、多人数の勢いを止めることは出来なかった。

 

 

 

 

――おい誰だパンツ投げたの!ありがとうございまぁす!――

 

 

 

 

 

「う…、ヒック…。グズっ…、スンッ…」

 

 ギルドの冒険者から追い出される形で逃げ出してきたカズマとアクア。

 特に涙脆いアクアは罵詈雑言の嵐がよほど効いたらしく、道端で座り込みぐずったままだ。

 

「にゃんでぇ…、にゃんでみんな私の事信じてくれないのぉ?女神だからぁ?あまりに神々しすぎるから一般人にはわかんないのぉ?」

「へいへい。100パーアクアのせいだけどこれでも食って落ち着け」

 

 さすがに泣いている女は堪えるのか、カズマは最悪の場合コッソリ食おうとしていたコンビニのお菓子を取りだし、アクアに与える。アクアは乱暴にソレを受け取ると、中のお菓子をポイポイ口の中に放り込みはじめた。

 

「ううっ…!しょ()()も私はヒキニートにほはしゃ(ほださ)れたりしない()…!!」

「フラグとして受け取っとくよ。あと口の中カラにして喋れっ」

 

 心の傷を癒やすためにバカ食いを敢行している女神をよそに、カズマは空を見上げてため息をつく。

 

「しっかし、こっからどうするかなぁー」

 

 金も家も、今日の飯も食えぬ一文無し状態。本来ならここから成り上がって最強勇者になるハズだったのに、どうしてこうなったのやら。

 

「今まで親と戦い続けた努力が報われないが仕方ない。働き口探すか」

「ええっ!?ヒキニートが働くとか存在意義なくしちゃうわよ!?そんなのダメ!カズマが消えちゃう!」

「いや概念的な存在じゃないからな?それにしても立ち直りが一瞬とは、このカズマ様でも予測つかなかったよ」

「フフンっ、元気百倍が取り柄のアクア様なんですからねっ」

 

 それなら非常食やったかいがあるってもんだ。とカズマは軽口を叩き、フンフン鼻歌を歌いながら歩き出した。

 

しかしその時。

 

「ブダぁッ!?」

「おっと」

 

 顔に何か固いものが当たり、弾かれるようにカズマは倒されてしまう。

 

「く、くそぅ!せっかく決まったのにこれかよ!誰だおま…え?」

「あ~もうカズマ大丈夫~?怪我してな…い?」

 

 倒されたカズマが思わず怒鳴ってしまうと同時に、言葉も詰まる。それはアクアも同様だった。

 

「あぁわりぃな、大丈夫か?」

 

 なんせ相手は、身長が200超えてそうな長身なのだから。

 わからない場合は通勤電車のドアを思い浮かべよう。それのてっぺんにモロ顔面をぶつける大きさだと言えば、その大きさがわかるだろうか。

 

 そんな巨体からヒュンと腕が伸びてきて、カズマの手を捉える。そしてそれに驚く間もなくカズマを立たせてしまった。

 

「うおおおおッ!?え?なんだ!?今何が起きた!?」

「あー、なぁ。アンタさっきからどうしたんだ?」

 

 カズマの驚きが今さら顔に出て、男が訝しげな反応をする。その顔はこの世界の人間ではないような、彫りの深い顔立ちをしていた。

 

 岩のように濃い褐色の肌とガッシリした体つき。目は刃物や猛獣を思わせるように鋭く、奥には金色(こんじき)の瞳が輝く。

 トゲトゲに尖った銀髪は白い山脈を彷彿させ、クの字に曲がった前髪は、さながら鍛え上げられた金属のよう。

 

 白いタンクトップとダボダボなズボンを合わせて、まさしく絵に書いたかのようなワイルドさを醸し出していた。

 

「そういえばアンタ、見ない顔してんな。ここに来たのは初めてか?」

「え?あっはいソウデス」

 

 威圧に圧倒されたカズマは、極力刺激しないように直立した姿勢を崩さない。模範的な回答に徹し、筋肉質な腕を組む男の返事を待つ。

 

「そうか。オレの名前はオルガ・イツカ。ここで仕事をやってるモンだ」

 

 驚きが抜けきらないカズマにその男…『オルガ・イツカ』は、片目をつむったニヒルな笑顔で自己紹介をした。

 




ビスケット死すと言ったな。あれは嘘だ。

 次回にすりかえておいたのさ!!


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