新「艦娘グラフティ」(第12部) (しろっこ)
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序章<着任>

その夜、当直の艦娘である球磨と多摩は、謎の電文を受けて大淀さんを呼び出した。


 序章<着任>

 

 その夜の指令部の当直は球磨だった。彼女は持ち込んだラーメンをすすっていた。

「今夜も平和だクマ」

 

 本当は指令部で飲食……もちろんラーメンを食べることも禁止なのだが、球磨は大淀さんが何度注意しても聴く耳を持たない。

 結局、司令部が根負けして、以下のお約束となった。

 

1)端末の側では食べない。

2)汁を飛ばさない。

3)後片付けはきちんとする。

 

 この三項目を厳守することで、美保鎮守府ではオッケーとなった。(マジか?)

 

「多摩は食べないクマ?」

額から汗を流しながら球磨は同じ当直当番である多摩に聞いた。

 

 一方の彼女は、食欲はあまり無さそうだった。ただソファーにジッと座ってクッションを抱えて目をつぶっている。

しばしの沈黙の後、薄目をあけた彼女は、ひとこと言った。

「要らないニャ」

 

「ふーん」

球磨はラーメンの続きをすすりながら「多摩らしいな」と思うのだった。この二人が当直のペアを組むことは、ほぼ固定されていた。マイペースな二人にとっては、当直は至福の時間と言えるのだった。

 

 そのとき多摩は、いくつか並んだモニター画面が赤く点滅しているのに気付いた。

「何にゃ?」

 

 のっそりと起き上がって端末へ向かう多摩。その姿を見た球磨は言った。

「やっぱり目はつぶっても寝てないんだクマ」

 

それには応えず細い目を更に細めて端末の液晶画面を見詰める多摩。直ぐに怪訝な表情になった。

「えっと、『待たせたな、今行く……』何にゃ? これ」

 

ラーメンを机に置いた球磨も端末に近づいて、その電文を読んで言った。

「……謎だ、クマ」

「ダヨ?」

「取り敢えず、緊急性はないクマ?」

「でも、テロ攻撃の可能性は否定できないニャ」

珍しく悩み始めた二人だった。

 

 しばらく腕を組んでいた球磨は決断した。

「司令を呼ぶのは悪いクマ、大淀さんを呼ぶクマ」

「それが良いニャ」

 

 非常用の内線をかけた後、数分と経たないうちに眠そうな顔をした大淀さん(1号)が来た。制服ではなく寝巻きなのが可愛らしい。

「……その電文の発信元は確認しましたか?」

 

その問い掛けに顔を見合わせる二人。

「見てないクマ」

「忘れてたニャ」

 

「……」

基本的な対応事項をぶっ飛ばして叩き起こされた大淀さんは、ちょっとだけ憮然とした表情になった。

 

 しかし、マイペースな二人に何を言っても無意味だろう。眼鏡を掛け直した彼女は、端末の発信元に目を凝らした。

「一応、発信は軍令部ね。でも文面は、かなりふざけている感じね」

 

さすがの大淀さんも、この不可思議な状況には困惑するばかりだった。

 

 その時、別の端末に新たな反応があった。

「ん? ……美保鎮守府上空を輸送機が通過するニャ」

 

 それが単なる輸送機だったら、特に問題はなかっただろう。だがこれは新たな物語の単なる序章に過ぎなかった。

 

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新「艦娘」グラフティ:序章<着任>

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 多摩は再び端末のアラートの点滅を認めた。

「また?」

 

 今度は球磨が駆け寄った。

「えっと……今から降りる。受け入れ態勢は不要、哨兵への発砲禁止指示は、こちらから強制的に出すから悪しからず」

 

「クマ?」

坦々と文面を読む球磨には事態が良く飲み込めていないらしい。

 

 だが大淀さんは少し青ざめた。

「何? 相手は、こちらのセキュリティに強制介入できるって言うの?」

『はあ?』

 

マイペースな二人の艦娘は相手に出来ない。大淀さんはチラッと時計を見て呟いた。

「午前4時前か……副司令なら大丈夫かしら?」

 

 緊急回線を開いて誰かを呼び出す大淀さん。直ぐに出たのは……

「あ、寛代ちゃん? 副司令はいらっしゃる? ……そう、では今から緊急電文を転送するから、それを司令ご夫妻にお見せして判断を仰いで。そう……電文の緊急度がこちらでは判断出来ないの」

 

 通信を終わると安堵した表情になる大淀さん。

「はあ」

 

「何か分かったクマ?」

さすがに何かの緊急事態だと悟った球磨も不安そうな顔を見せる。

 

大淀さんは少しだけ微笑んで首を振った。

「ううん……これだけの情報じゃ、正直何も分からないわ。でも何となく意図的に、こういう情報の流し方をしているような感じね」

 

すると多摩も言う。

「ますます分からないニャ」

 

「はい!」

その時、大淀さん本人にダイレクトに通信が入ったようだ。彼女が反応する。

 

「あ、司令ですか? お早うございます……はい。はい、そうです……では? ええ、でも……。そうですね、分かりました。ではお待ちしております」

通信を終わった彼女は、今度は不安そうな表情になっている。

 

「どうしたニャ?」

多摩が聞くと大淀さんは苦笑して言った。

 

「これから、ココで起きることは、全て司令も、軍令部も了承済みなので私たちはただ、事実を受け入れるように……との指示でです」

 

『?』

上からの指示なら、素直に従うはずの大淀さんが、今日は変だなと当直の二人は思った。だが彼女がそういうなら、それ以外の選択肢はない。

 

 彼女は言う。

「哨戒中の艦娘にも伝えて」

 

「はい」

直ぐに鎮守府内外を哨戒中の艦娘に通達が出された。

 

 ほどなくして遠くから、低空を飛行する大艇か何かのエンジン音が響く。それは徐々にエンジンの回転数を上げている。

 

「上昇?」

大淀さんが呟く。

 

ハッとしたように彼女は球磨に指示を出す。

「球磨さん、念のために改めて哨戒部隊に指示、今から下りてくる艦娘は決して攻撃しないように言って」

「分かったクマ」

 

多摩が呟く。

「空から艦娘?」

 

 何となく、その指示で鎮守府内の当直や歩哨たちは、誰もが今、駆逐艦か誰かが空から降りてくるのだと知った。

 

 大艇らしきエンジン音がかなり近づき、やがてドップラー効果で遠ざかる。思わずナイトスコープを取ると窓を開けて空を見る大淀さん。

「……見えない」

 

多摩が言う。

「何か降りてくるニャ」

 

 しばらく夜空を見上げていた大淀さんは多摩の言葉で直ぐに顔をしかめると指令室の端末からコードを引っ張り出して自分の身体に繋いだ。

「索敵モード、電探に同調……居た!」

 

今度は直ぐに目標を発見したが。

「まさか?」

 

その言葉に球磨も言う。

「誰が来たクマ?」

 

「武蔵さん?」

絶句する大淀さん。

 

『!』

同様に言葉を失う当直の二人。さすがに空から帝国海軍の誇る超弩級戦艦が降りてくるとなれば、もはや普通でないことは分かる。

 

 直ぐに大淀さんは指示を出す。

「場内を哨戒している部隊とあなたたち、どちらでも良いから、直ぐにサーチライトを広場に向けて……あと、M-ATVにもライトは付いていたわね」

 

「クマ!」

「にゃあ!」

ここは動物園かと思わせるような返事をしつつ当直の二人は連絡を取ったり、退出して車庫へ向かうのだった。

 

慌てて飛び出す二人を見送りながら大淀さんは微笑んだ。

「さて……私も着替えますか」

 

 その笑顔は勿体ないくらいに可愛らしかった。

 




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第1話<武蔵着地>

 空からは、まさかの超弩級戦艦が降りて来るのだった。

さて、とんでもない人が降って来たクマ。

なぜ急に……しかも空から?

超弩級戦艦なのに、行動力も桁違いだニャ。



「はっはっは、最高の気分だ!」

 

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新「艦娘」グラフティ

:第1話<武蔵着地>

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「あっはっは」

 夜の美保鎮守府の上空からは、先ほどから超弩級の笑い声が響く。

 

「あ、あれは?」

「ひゃあああ」

 夜空を見上げて慌てふためく歩哨の艦娘たち。五月雨に朧……無理もない。輸送機が通り過ぎた夜空から、いきなり超弩級の武蔵様が降ってくるのだから。

 

 なぜ降下中の武蔵様が笑うのか? そこは『超弩級』の名に相応しくダイナミックな行動に自ら血が騒ぐのだろう。

落下傘をつけた戦艦武蔵が空から降りてくると言う構図からして尋常ではないのだが、それがまた板についてしまうのも彼女らしい。

 

「撃っちゃダメクマ」

自分は『ダメクマ』ではないと思いながら叫ぶ球磨。

 

 既に五月雨たちは腰を抜かして、それどころではない。もっとも彼女たちが撃とうとしても武蔵様が事前に美保のネットワークに介入していて、この広場周辺への攻撃は予め規制されていたから不可能なことだが。

 

「にゃあ!」

この多摩の叫びは特に意味はない。

 

 騒ぎを聞きつけた艦娘たちもパラパラと宿舎から出て来ている。索敵機の妖精さんから報告を受けながら利根が腰に手を当てて言う。

「あれは武蔵じゃな」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まあ……見れば分かりますね」

傍らの筑摩が苦笑している。彼女の言を借りるまでもなく遠目に見ても夜空から降りてきているのは明らかに武蔵様だと分かる。それがたとえ特殊スーツを着ていてもだ。

 

「あのスーツ、欲しいな」

これは川内。

 

神通が応える。

「まあ……あんなの着なくても、あなたは十分よ」

 

「ねえねえ」

これは那珂ちゃん。

 

「撃たなければ何しても良いんだよね」

神通が振り返ると、那珂ちゃんは探照灯を手にしている。もう片方の手にはなぜかハンドマイク。

 

やや苦笑気味に神通は応える。

「そうね……一斉に照らしましょうか」

 

そう言いながら彼女も懐から探照灯を取り出した。

 

 別に敢えて照らす必要はないと思うのだが、気がつくと四方からライトを浴びながら悠然と降りてくる武蔵様だった。

「皆さぁん、さあ。今日の美保鎮守府はとっても素晴らしいゲストをお迎えしまぁす!」

 

……よく分からないMCである。

 

「わーい」

 割と能天気な第六駆逐隊の艦娘たちも手を振っている。今は、ある種の『非常事態』だから起きだして来ることは軍としては悪いことではない。

 

「いつも寝坊しているのに……」

 寝巻き姿で寮の前に出て来ている彼女たちを見ながら大淀は苦笑した。行動の速さでは定評のある彼女は既に制服に着替えていた。

ふと見ると窓から指差しながら覗いている子も居る。これが外部からの侵入者なら、こんなにノンビリした対応は出来ないだろう。

 

 さすがに眩しいのだろう。空中の武蔵様はサングラスにかけ替えていた。それがまた特殊スーツと相まって妙に格好が良い。そんな彼女は何を思ったのか空中で堂々と手を振っている。

 

「わあ」

電チャンや吹雪は感嘆の声を上げている。

 

「はっはっは、最高の気分だ!」

そんな声が聞こえてきた。もちろん武蔵様だ。

 

 でも、こういった状況で脚光を浴びて気分が高揚するのは、やはり戦艦か正規空母以上の艦娘だろう……大淀は改めてそう思った。

巡洋艦以下の艦娘は、そもそも支援が主だ。ましてや潜水艦に至れば『脚光』を浴びないことが『栄光』なのだから。

 

 実際の時間は数分もなかったのだろうが、その場に居る誰もが長く感じただろう。何しろ相手は武蔵様。もちろん彼女はまだ美保には着任していない。

 

 しかしブルネイでの出来事を始めとして時代を超え美保司令とは何らかの因縁を感じさせる艦娘でもある。それは武蔵本人だけでなく美保所属の誰もが感じていることだった。

 

「司令ご夫妻、到着します」

いつの間にか霞ちゃんが受電していた。

 

「ありがとう」

大淀は、この子も成長したなと思いながら応えた。

 

「じゃ、ちょっと後をお願いしても良いかしら?」

頷く霞を見ながら大淀は指令室を出た。

 

 鎮守府本館から正面ロータリーに出ると、ちょうど司令夫妻と寛代がM-ATV装甲車で到着したところだった。

 

今日のドライバー兼護衛は不知火と時雨。最初に時雨が降りてドアを開ける。

 

降り立った美保司令に大淀は敬礼をした。

「司令……」

 

「ああ、あれには驚いたよね」

彼は敬礼をしながら苦笑した。

 

「まあ、武蔵らしいといえばそれまでだけどね」

そういう彼は嬉しそうだった。また続けて降りてきた寛代も何となく喜んでいるように感じられた。

 

『武蔵、着地』

無線が全体に流れた。本人の無線音声だ。

 

 大淀は直ぐに指令室に回線を開いた。

「霞ちゃん? ……広場に武蔵さんが着地したから有志のメンバーでサポートを……ええ?」

 

驚く彼女に寛代が親指を立てて笑っている。

「?」

 

不思議な表情の大淀に祥高が言った。

「ゴメンネ大淀さん、寛代から駆逐艦向けの周波数で広場の近くのメンバーに武蔵さんの補助を依頼してたの」

 

申し訳無さそうに言う副司令に大淀は「いえ……」と苦笑しながら返した。

 

 広場に着地した武蔵に周りから美保の艦娘たちが駆け寄って補助に入る。そのほとんどは駆逐艦娘であるが有志ということもあって、ある者は制服、また別の者は寝巻きや体操服と言う状況だった。

 

「まるで運動会の出し物みたいね」

その様子に祥高は笑った。

 

「運動会か。懐かしいな」

司令も同意している。

 

「うちも艦娘が増えたからな、ウチでもやりたいものだな」

なぜかまったく別の話題を振る司令。余裕である。

 

 運動会と言えば海軍の伝統行事だ。今、司令が呟いたように美保で訓練はするが大規模な運動会と言うのはご無沙汰だ。

イベントをするには艦娘の人数が揃わないことと、所属しているのが駆逐艦娘がほとんどという特殊事情もあった。

 

 広場では周りから来る艦娘たちに一瞬、驚いた武蔵だった。

しかし直ぐに状況を把握したらしく艦娘たちに落下傘の金具を外したりスーツを脱ぐのを任せていた。

 

「でもなぜ今、武蔵さんが?」

 大淀は不思議だった。事前に公文が流れていれば必ず目を通していたはずだが。もちろん通信記録にはそんな形跡はなかった。

 

「そうだな」

 司令夫妻も知らないはずだったが、以心伝心とでも言うのだろうか? この突然の来訪者にも、さほど驚いていないようだった。

 

 もちろんブルネイでの演習を始めとして美保司令と武蔵との縁は誰もが知っていることだ。それでもなぜ武蔵か?

理屈を超えた『縁』という繋がりが発生するプロセスについては大淀にも不思議に思えるのだった。

 

 そんな彼女の気持ちを察したのか美保司令は言った。

「大淀さん、頭で考えても分からないよ」

 

「はぁ」

ちょっと困惑する彼女に副司令も言った。

 

「理屈を超えた世界とでも言うのでしょうか……貴女も知っている通り、戦艦級の艦娘ほど感情や洞察力が深くなるわ」

 

「はい」

まだ困惑している大淀に祥高は言った。

 

「良いのよ、別にそれでも。そんなことで艦娘の優劣が決まるわけではないし、むしろ形式に不釣合いな感情を持つと、かつての大井のように暴走することもあるから」

 

「……」

口には出さなかったが、その説明でようやく腑に落ちたような気持ちになった大淀だった。

 

「ほら来たぞ」

司令の言葉に顔を上げると、島風に付き添われた武蔵がこちらに歩いてきた。

 




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第2話<奇襲>(改1.2)

そして超弩級戦艦が言うことは?

やっぱり迫力だクマ。

何か……深いお考えが?

やっぱり格好良いニャ。



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新「艦娘」グラフティ

:第2話<奇襲>(改1.2)

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 島風と何か談笑しながら美保司令の元にやって来た武蔵様。

 

夫妻の前に立つと互いに敬礼をした。彼女は言った。

「美保殿……いや父上、お久しぶりです」

 

「元気そうだな武蔵」

 その言葉に武蔵様は少し、はにかんだように微笑む。

 

 その場に居合わせた艦娘たちは、一部の者を除いて驚いた。

「あの武蔵様が?」

 

「まさか……」

 といった感じで。そもそも武蔵様が平時において喜怒哀楽の表情を見せることすら一般の艦娘たちにとっては意外なのだ。

 

 だが武蔵様は直ぐに、きりっとした表情に変わる。

「武蔵、美保に着任だ」

 

「そうか、歓迎する」

 美保司令は淡々と応える。

 

 だが周りの艦娘たちはちょっとした騒ぎになった。

「あの武蔵様が着任?」

「どういうこと?」

「なんで、こんな小さな鎮守府に?」

 

だが大淀を始めとして周りの艦娘たちは美保司令が、この事実にさほど驚かないことに気付く。つまり司令は事前に着任のことを知っていたのだろうか?

 

 そんな艦娘たちの気持ちを受けたするように島風が聞いた。

「司令、やっぱり……こうなったでしょ?」

 

その言葉に周りの艦娘たちがざわつく。

 

彼は応えた。

「ああ……正直ビックリしているよ。だが私の心のどこかにも、こうなることを予想していた自分が居たようだ」

 

「ふーん」

島風には人間の『直感』というものは分からないから不思議そうだった。

しかし彼女も、それ以上は敢えて突っ込まなかった。それは島風なりの心遣いかも知れない。

 

 武蔵様も改めて言う。

「突然で申し訳なかった。まぁ対外的なことも含めて事前告知なく『奇襲』させて貰った。

だがさすが島風は、極秘通信をキャッチしたようだな」

 

「えへへ」

島風は得意そうだ。

 

腕を組んだ武蔵様は言う。

「それを司令にキチンと報告していたことも良い対応だ」

 

司令も彼女に言う。

「では武蔵、着任手続きと詳しい話は今日、09:00から執務室で行う。それまでは休んでくれ」

 

「了解した」

再び敬礼をする武蔵様。

 

 祥高も近くの軽巡に言う。

「球磨さん、確か戦慣用の宿舎に空きがあったはずだから案内して頂戴」

 

「了解だクマ」

「にゃあ」

 なぜか多摩も揃って敬礼をしている。

 

 その場の一同が解散するとき武蔵様が言った。

「私のことは、ちゃんと呼び捨てにしてくれるんだな? 司令」

 

「ああ……お前の気持ちは尊重する」

 

 すると急に真っ赤になった彼女。

「嬉しいぞ……、父さん」

 

 そう言いつつ顔を背けるようにした武蔵様。そのまま島風と球磨に付き従って宿舎へと向かった。

 

 その後ろ姿を見送りながら祥高は言う。

「何か、丸くなったわね彼女」

 

「そうだな。ちょっと気になることもあるが。まぁ、後で確認しよう」

 

司令の、その言葉に副司令は直ぐに悟ったように応えた。

「アレですか? スキルのこと」

 

「ああ。以前、青葉か誰かが言っていたやつだ」

司令は腕を組む。

 

すると祥高は微笑んで言った。

「きっと……横須賀で新しい武蔵が着任したのでしょうね。だから彼女きっと、もう居てもたっても居られなくなったのでしょう」

 

「そうだな……比叡以上に、ストレートな子だからな」

 

「そういえば、ですねっ!」

 いきなり背後から青葉の声がした。

 

「うわ、ビックリした」

驚く司令。

 

「どうしたの? 青葉サン」

しかし祥高は驚くことなく振り返って青葉に問い掛けた。

 

 彼女はパラパラとメモ帳を手繰る。その頭にはLEDライト……まるで探検隊か丑の刻参りみたいだが……さすがだ。

「青葉が仕入れた情報によると横須賀に新しく武蔵が着任したのは事実です。そして……」

 

 だが司令はそこで彼女の報告を制した。

「良いよ青葉。その件は後で聞くから……君も09:00に執務室へ着てくれ」

 

司令の指示に急に嬉しそうな表情になった彼女。

「はいっ! 青葉、09:00まで大人しく待機します」

 

敬礼をすると青葉は、そそくさと行ってしまった。

 

「大人しく?」

司令がつぶやくように言うと祥高も微笑んだ。

 

「あの子らしい含みのある言葉ですね」

 

「まったくだ」

司令は明るくなりつつある東の空を仰いだ。

 

 そこには薄っすらと黒いシルエットを徐々に曙の空に浮かび上がらせる大山の姿が見えた。

「今日も慌ただしくなるな」

 




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第3話<願望と対価>(改1.3)

いよいよ超弩級戦艦が着任ですよ。

どうして美保に武蔵様が?

まだ……長門も日向も居ないクマ。

でも、やっぱり格好良いニャ。



「艦娘は一途だから……」

 

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新「艦娘」グラフティ

:第3話<願望と対価>(改1.3)

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 美保司令と副司令は執務室へ戻ってソファに対面で腰をかけた。

直ぐに鳳翔さんがドアをノックしてコーヒーをもって来た。

 

「ありがとう、早朝から悪いね」

「いえ……」

いつも通り恥ずかしそうな表情を見せる彼女。

 

応接セットの机にコーヒーと茶菓子を置いた鳳翔さんは、お盆を抱えたまま軽く会釈をして退室した。

 

 コーヒーにミルクを注ぎながら副司令の祥高が微笑む。

「やっぱり……武蔵には驚きましたか?」

 

 制帽を脱いだ美保司令は、ため息をついた。

「そりゃね。ここは最大で百人が精一杯だから。そこに武蔵様だろう? いくらあの子が私たちを慕ってくれているとは言え簡単に配置転換なんか普通は出来ないよね」

「そうですね」

 

ここで少し思案をする司令。

「でも、さっきも言ったように島風からは『来るかも知れない』という話は聞いていたから」

 

頷く祥高。

「やっぱり情報の早さも島風らしいわね」

 

司令も苦笑する。

「君は寛代から聞いたんだろう?」

 

そこまで言って彼は気付いた。

「あ、そうか……祥高さん自身は、いろんな情報源(チャンネル)があるんだよね」

「済みません」

 

苦笑して頭を下げる彼女に司令は続ける。

「いや、情報は重要だ。特に美保は、そういう鎮守府だから……」

 

司令もコーヒーを口にする。

「さっきも言ったけど、そもそも長門や日向も居ない小さな鎮守府に大和型が来るってのが異常だよね」

 

「そうですね、私も初めのことです」

祥高もコーヒーを口にして苦笑した。

 

「まぁ着任指令書は追って来るだろうケド……やっぱ何かのミスかな? って思うよね」

 

司令の言葉に祥高は言う。

「後で大淀さんから連合艦隊司令部や軍令部にも確認は入れてみますけど」

「そうだな」

 

 窓からは明るくなっていく空と、大山の稜線が美しい。

 

数秒、それを見ていた司令は気を取り直したようにコーヒーを再び

手に取って言った。

 

「ますます美保は『特異』鎮守府になっていくな」

その言葉に苦笑する祥高だった。

 

 

 朝、司令夫妻が食堂に下りると、ちょっとした騒ぎになっていた。

武蔵様の周りに美保の艦娘たちが群がっている。特に第六駆逐隊の艦娘を中心にワイワイやっていた。

 

以前、美保に数日間、立ち寄ったとはいえ、超弩級戦艦の武蔵様ともなれば誰もが驚く。

そして量産化が進んだとはいえレアな艦娘であり、興味は尽きない。

 

 ただ司令が言った如く海軍の着任体制を知る者なら、この命令に疑問を抱く。

『なぜ美保に武蔵様が着任するのか?』ということだ。

 

鎮守府の規模、既存の艦娘履歴から見てもアンバランスだ。

仮にその武蔵様が量産型だとしても……である。

 

 もっともブルネイへ遠征したメンバーたちは薄々納得していた。

この武蔵様が美保に妙に執着していたこと。彼女のその想いは時を経るごとに強くなって行ったのだ。

 

遠巻きに武蔵様を見ながら吹雪が言う。

「これで美保は戦力増強ですね!」

 

すると意外にも青葉は複雑な表情で応えた。

「いや……それは微妙かも知れません」

 

「へ? それは、どういうことですか?」

 

 青葉は頭をペンで掻いた。

「うーんと、まだ確証が無いから言い難いけど、あの武蔵様は、ひょっとするとですね、あまり戦力にならないかも……ってことです」

 

 するとそこに駆逐艦のように小柄な時雨が来て言う。

「艦娘はさぁ、自分の願いを通そうとすると、それと引き換えに何かの対価を支払わないといけないんだよ」

 

「え? 願望?」

 ちょっと驚いたような吹雪だったが美保の妙に小柄な時雨の姿を見て何かを悟ったようだ。

 

「それじゃ?」

 同じ思いを抱いていた金剛姉妹たちも一様に頷いていた。

 

前髪を気にしながら榛名が言う。

「艦娘は一途だから、いろんなことが起きますね」

 

 続いて二人の比叡が口を開く。

 

まずは比叡改2。(いわゆる1号)

「そうですよ。私も、かなり無理を言ってねじ込んだから」

 

「はい、もう絶叫モノですから」

これは後から来た比叡2号。まだ改だが1号に負けないパワーの持ち主。

 

 総括するように霧島が言う。

「ここは小さいけれど、いろんな艦娘がいますからね」

 

 ただ長姉の金剛は腕を組んで複雑そうな表情だった。

「あの武蔵は、いつか来るかと思ったケド……私、彼女の気持ちは分かるネ」

 

榛名が振り返る。

「そうですか?」

 

「ウン……あの武蔵はサ、赤城1号とか、前に沈んだ赤城2号と、何かが似ているヨ」

その言葉に姉妹たちは、感慨ひとしおな表情になった。

 

 金剛は何かを思い出すように言った。

「きっと、たくさんの悲しみを越えて来たネ。だから……今の私は心から歓迎してあげる」

 

「お姉さま」

榛名は呟くように言う。金剛姉さまもまた美保に来てイロイロ経験して成長しているんだと彼女は思うのだった。だから自分も頑張ろう……と。




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第4話<願望と成長>

美保鎮守府の艦娘たちは変人だらけ?

 いや、それは誤解だクマ。

 でも……人数が少ないから目立つのかも。

 どこの艦娘もオカシイのニャ。



「私って割とストレートでしょ?」

 

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新「艦娘」グラフティ

:第4話<願望と成長>

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 早朝にも拘らず食堂の片隅では空母の艦娘たちが集っていた。

 

加賀は言う。

「早朝からゴメンなさいね。今朝、武蔵が着任したようだけど、気になる情報があったから、早々に正規空母だけでも意識を合わせて置こうかと思って」

 

 そういう彼女を横で見ながら赤城は感心した。同じ一航戦でありながら、こういった根回しは自分には出来ないなと。

 

「翔鶴さんが情報を手に入れたの。説明して頂戴」

加賀に促されて翔鶴が口を開いた。

 

「実は島風さんが気になることを言っていました」

加賀以外の正規空母たちは固唾を呑んで待ち構える。

 

「常識では考えられないことが……あの武蔵さんは能力がほぼゼロだとか」

『え?』

驚く空母たち。

 

翔鶴は反応の大きさに慌てて否定する。

「ううん、ゼロは言い過ぎで……建造直後の基本的スキルしか無いみたいです」

 

やはり赤城たちは驚く。

「えぇ? でもあの武蔵さんはブルネイで出合った本人ですよね?」

 

加賀は冷静に頷く。

「それは間違いないと思うけど……要するに艦娘の能力を移動させる技術が確立したってことね」

 

突然、飛龍が食いつく。

「ええ? そんなことが可能なんですか?」

 

「そんなことが出来たら……便利だなあ」

これは蒼龍。

 

 加賀は続ける。

「詳しいことは私にも分からない。ただ中央では、かなり艦娘の技術研究が進んでいるようなの。だから……」

 

 何となくこちらに聞き耳を立てている青葉をチラッと見ながら加賀は間を置いた。気付かれていると悟った青葉は思わずメモ帳で顔を隠した。

 

 だが加賀は軽く微笑むと、青葉に構わず続ける。

「今の時代は私たちが願えば、かなりのことが叶うってことね。それは確かだと思うの」

 

 その場に居た空母たちは加賀の言葉に頷く。

 

 青葉は、その場で加賀に質問して、もっと詳しく聞きたかったのだが自分の腕時計を見て、もう上がる時間だと気付いた。

「うーん、残念!」

 

 呟きながらショルダーバックを抱えて食堂から出て行く青葉。

それを見送る空母たち。

 

 加賀は言う。

「金剛が言う通り、あの武蔵もイロイロ潜り抜けて来たのよ」

 

 隣に居た赤城が頷いた。

「だから私たちも武蔵さんを心から歓迎してあげましょう」

 

「そうね」

 軽く頷く加賀に、翔鶴も呟くように言った。

 

「そう。願いは叶う」

正規空母たちは頷いた。それは隠すべき秘密というよりは、新しい時代の覚悟か、或いは責任のようなものを感じさせるのだった。

 

 

 隣のテーブルで聞くとも無しに彼女たちの話を聞いていた大井親子。

 

「そうなの? お母さん」

娘の伊吹が小声で問う。

 

大井は微笑む。

「そうみたいね。でも私たちは、ただ周りの状況に流されるだけではダメ。自分自身が強い意志を持てば艦娘は、どこまでも成長し続けるの」

 

「ふうん……」

 

「あの寛代ちゃんだって」

大井は司令夫妻の脇で黙々と食事を取っている寛代を示した。

 

「司令夫妻の姪でしょ?」

返事をした伊吹に大井は言う。

 

「あの子は特別に強い意志があるようにも見えないけど、その潜在能力は私でも計り知れないの」

 

そこまで言って彼女は娘に微笑む。

「もちろん、あなたにもね」

 

頷いた伊吹は、母親に言う。

「私、思うんだけどサ」

「なぁに?」

 

遠い目をする彼女。

「オスプレイで時々、フィリピンの海兵隊に戻ると普通の人間もたくさんいるんだけど……結構、海兵隊とかもみんな個性的なの。そういう点では、艦娘も人間も変わらないかな? ……って」

 

大井は微笑む。

「そうね。本質的なところは、何も変わらない……ひょっとしたら敵の深海棲艦だって」

 

 自分で言いながら、この発言はかなり際どいかな? と心配した大井だった。

 

しかし娘の伊吹は意外と平然と応えた。

「そうね。海兵隊でも心理学のレクチャー受けたけど結局、敵も私たちもコア(核心)部分は変わらないって。ただ方向性が違うだけみたい」

 

「そうね」

相槌を打ちながら娘のしっかりした意見に大井は母親として少し誇らしく思った。

 

「早苗はさぁ、結構おっとりしていて、お嬢さんタイプだけどさ」

急に伊吹は笑いながら話題を変える。

 

「私って割とストレートでしょ?」

大井は苦笑した。そこは母親譲りだろうか。

 

「でもさ私こんな性格だから日本よりもアメリカ軍のほうが過ごしやすいかも」

それを聞いた大井は苦笑した。

 

何となく武蔵の話をする艦娘たちの雰囲気を察した祥高は美保司令に言う。

「武蔵の件は大丈夫でしょうか?」

 

「そうだな……。でも島風だけじゃない。加賀も大井も察しているな」

頷く秘書艦。

 

司令は続ける。

「正直、私も武蔵のスキルのことは信じられないが……ま、朝の点呼の後で、事情を聞けば分かるだろう」

 

祥高も頷く。

「そうですね」

 

やがて朝の点呼のラッパが鳴り響いた。

 

 




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第5話<武蔵様の挨拶>

そして超弩級戦艦が言うことは?

やっぱり迫力だクマ。

何か……深いお考えが?

やっぱり格好良いニャ。



「私たちは何も心配しなくて良いのだな」

 

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新「艦娘」グラフティ

:第5話<武蔵様の挨拶>

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祥高が司令に聞く。

「点呼は私が確認しますか?」

 

腕を組んで少し考えた司令は答える。

「そうだな」

 

すると、二人の処へ武蔵がやって来た。

「少し早いが……良いかな?」

 

彼女の顔を見た司令は立ち上がった。

「祥高さん、直ぐに大淀さんに言って、今朝の点呼しているメンバーは全員、その場で待機させてくれ。武蔵を紹介したい」

 

「ハッ」

敬礼する祥高。しかし武蔵が目を丸くしている。

 

「いや、急にそれは……」

彼女の目には全員の前に出るのは遠慮したいという雰囲気に満ちていた。

 

少し怪訝(けげん)そうな表情をした司令だったが、改めて彼女に諭すように言った。

「君にも、いろいろ事情はあるだろうが今は私に全てを預けてくれ。何事も、けじめは必要だろう?」

 

「けじめか……そうだな」

割と杓子定規な武蔵は、そう言われると反論は出来なかった。

 

司令は頷いた。

 

 二人のやり取りを見ていて祥高は、やはりこの武蔵は何らかの方法で建造直後のスペックにまでスキルが戻されているに違いないと確信した。

 

そこで彼女も言った。

「武蔵さんの不安も分かります。でも思い出して頂戴。貴女は司令の元へ馳せ参じるために全てを捨てる覚悟を決めたのでしょう?」

 

その言葉に驚いたのは武蔵、そして司令も同様だった。

 

 彼は秘書艦の洞察力の鋭さにはいつも感服する。それはまた美保鎮守府の艦娘たちを束ねる大きな統率力へと繋がっているのだ。

 

武蔵は頷いて言った。

「なるほど、祥高殿が居る限り私たちは何も心配しなくて良いのだな」

 

続いて笑顔を見せた彼女の瞳には、もう迷いがなかった。

 

そして、武蔵は改めて眼鏡の中央を押さえながら言った。

「分かった。参ろう」

 

 哨戒や休暇のメンバーを除いた艦娘たちは本館前の広場に集っている。各班長からの報告を受けている大淀さん。霞がその傍でタブレットを片手に、気付いた点などをデータを入力している。

 

 点呼が終了する頃に、司令と武蔵が並んでやって来た。広場では静かな、ざわめきが広がる。

まずは大淀さんが敬礼をして報告。司令は確認して頷く。

 

 それから司令は何かを伝える。大淀さんは頷くと霞に何か指示を出す。彼女は直ぐに近くのショルダーバックからタイピンマイクを取り出した。それを数秒、調整した上で司令に渡した。

 

彼はそれを胸元に着けると改めて国旗と海軍旗に敬礼をしてから広場の朝礼台へと上がった。武蔵は台の後方に続いて控えた。

 

「皆さん、静粛に」

大淀さんが手を上げると、ざわつく艦娘たちは静かになった。

 

司令は口を開いた。

「一部の者は既に知っているが、ここにいる艦娘が誰か……直ぐに分かるだろう。今日は彼女の着任について皆に告知しておく」

 

艦娘たちは固唾を飲んで見ている。

 

司令は武蔵を振り返る。

「何かひと言、あるか?」

 

すると、それまでうつむき加減だった彼女は顔を上げて壇上へと上がった。司令は壇の後方へ下がる。そのまま司令がマイクを渡そうとすると武蔵は手を振って断る。

 

「地声で十分だということか」

司令は苦笑した。

 

『やはり武蔵様は何か違うのだろうか?』

その様子に広場の艦娘たちは少し緊張した。だが島風などは平然として頭の後ろに手を組んでいる。連装砲ちゃんたちも首を傾げたりお互いにつつきあっている。

 

「私のことは皆、良く知っていると思う……だが過剰な期待はしないで欲しい。今の私は事情があって全てのスキルを外され建造直後の実力しかないのだ」

武蔵はノーマイクで腹の底から響くような声を出す。それは広場の後ろまで良く通った。

 

当然ざわつく艦娘たち。だが島風を筆頭に一航戦、五航戦の空母たちも、驚かなかった。もちろん大井親子も。

 

「情報の差か」

彼女たちの姿を見て司令は呟いた。良し悪しはともかく諜報活動が主たる美保鎮守府として、この温度差は、まるで何かを象徴しているようだった。

 

司令も改めて武蔵の横に立つと言った。

「突然のことで驚く者も多いだろう。だが私たち美保にとっては大切な仲間だ。数値だけのスキルが問題ではない。この武蔵という個性を大切にして、受け入れて欲しい」

 

 意外にも島風と加賀から拍手が始まった。それが徐々に全体に広がっていく。

 

なるほど、この二人が受け入れれば、ほぼ問題はないな。司令は、そう思った。

 

武蔵は壇上で全員に向けて手を上げながら言った。

「よろしく頼むぞ」

 

「しかし武蔵はマイク無しで実によく声が通るよな。さすが超弩級戦艦だ」

司令は感心する。はにかんだ様に頬を少し赤らめてうつむく武蔵。

 

その時だった。演台の手前に寛代が近寄って来た。そして司令にメモを差し出す。

「何だ?」

「また輸送機が来る」

 

「は?」

司令には最初、その意味が分からなかった。だが、ちょうどその時、遠くから輸送機らしきエンジン音が響く。

 

そして寛代を始め一部の艦娘にも、制限された無線が入ったようだ。

 

「副大臣が来るってよ」

島風が笑う。

 

「あいつか……面倒だな」

司令は、また何かが落下傘で降下すると察した。そこで広場の艦娘たちを解散させることにした。

 

「簡単だが武蔵の紹介は以上だ」

「全員、司令に敬礼!」

大淀さんの号令で全体が敬礼をして、そのまま解散となった。

 

暫く壇上で無線に耳を傾けていた武蔵が腕を組んで言った。

「なるほど、副大臣と共に風雲と清霜が来るらしいな」

 

「風雲……新しい艦娘だな?」

「ああ。そういえば清霜は以前、美保にも来た事があるらしいな」

 

司令は思い出した。

「そうだな。あの時も副大臣と一緒に来たな」

 

「え? 清霜が来るの?」

そう聞いてきたのは秋雲だった。

 

「へえ、何だかワクワクするね」

これは巻雲だ。

 

だが司令は、ふと考え込んだ。

「もしかして……清霜もスキルゼロで来るのか?」

 

「……」

武蔵は答えなかった。ただ清霜に関しては、何となく武蔵を慕って、付いて来たのではないか? そんなことを想像した。

 




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第6話<武蔵とミサイル>

また輸送機ですか?

目まぐるしいクマ。

一体……軍令部は、いや北東アジアはどうなっている?

仲間が増えるのは良いことニャ。



 

「特に北方共和国はミサイルの開発に力を入れている」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第6話<武蔵とミサイル>

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秘書艦の祥高がやってきた。

「今日は目まぐるしいですね」

 

「しかも全員空路って、どういうことだろうな」

美保司令は半分、呆れ顔で言った。

 

だが彼は無線に耳を傾けながら驚く。

「この周波数は……米軍機か?」

 

そこで武蔵は眼鏡の中央を軽く指で持ち上げながら司令に話しかけた。

「実はな司令、今日実施した私の降下と次に来る輸送機からの降下は意図的に違う機体で行う」

 

「……?」

 

訝(いぶか)しがる司令に武蔵は続ける。

「これは機密に近い事項だが司令には話しても良いだろう」

 

「機密?」

「ああ、米軍の指導で来月には木更津にわが国初のオスプレイ専用部隊が配備されることになった。順次、舞鶴、岩国、佐世保と配備されていく」

 

その情報に司令も驚いた。

「それは聞いてないな」

 

だが秘書艦は、さほど驚いていない。当然といった雰囲気だった。

 

 納得していない司令を見て武蔵は改めて申し訳なさそうな表情を見せた。

「済まないな司令。祥高殿は知っていたようだが……今日の着任は降下テストも兼ねて緊急で行われた」

 

「緊急?」

「……ああ、先般の日本海でのシナの動きもあるが今、深海棲艦とシナが手を組んでいるのは明白だ。彼らは特殊な潜水艇を開発して戦車などの上陸部隊を電撃的に侵攻させる準備を着々と進めている」

 

司令は驚いた。

「特殊な潜水艇……噂は聞いているが、まさか、もう実用化されていたのか?」

 

武蔵は腕を組んで子供のような素朴な表情を見せる。

「相変わらず鈍いな親父は……」

 

 司令はいつもの武蔵らしからぬ雰囲気に思わず苦笑した。なるほど本音が出るときは親父か。

 

彼女は少し表情を緩めて続ける。

「そもそも親父が暗殺されかけた、あの時期には既にシナでは試作艇が投入されていた。そしてブルネイの提督が来る頃には実戦投入されていたんだ」

 

そこに秘書艦が割って入る。

「レールガンがなければ、あのときの上陸作戦は食い止められなかった可能性は高いわね」

 

武蔵は頷く。

「そう、だからこそ原潜『曙』が日本海、特に山陰には不可欠なのだ。これは元帥の肝入りだろう?」

 

司令夫妻は頷く。ただ司令は正直、そこまで考えていなかった。

「やはり元帥か……」

 

武蔵は後ろで聞いている大淀と霞をチラッと見ながら続ける。

「シナは北方共和国とも関係が深い」

 

「北方共和国……まさか?」

司令の表情が固まった。

 

武蔵は腕を組んだ。

「その『まさか』だ。諜報に戦闘能力と、全てにおいてシナを上回るとされている。幸いまだ彼らが深海側と手を組んだという情報はないが……」

 

秘書艦も頷く。

「時間の問題でしょう。状況から考えるとシナ経由で既に何らかのパイプは有ると考えるべきね」

 

武蔵は真剣な眼差しになる。

「特に北方共和国はミサイルの開発に力を入れている。あれは艦娘にとっても都合が悪いんだ」

 

それを聞いた司令はブルネイの戦いを思い出した。

 

「ブルネイの……」

言い掛けた司令を見て武蔵は頷く。

 

「そう、あの時はタンカーからシナのミサイル攻撃だったな。そのシナは北方共和国へミサイル技術を提供しているらしい。その上で、かの国は独自に技術を向上させている」

司令は内心驚いた。武蔵は、なぜこんな情報を知っているのだ?

 

彼の疑問には構わず武蔵は続ける。

「だから、もはや我が国だけでは北アジアにおける戦いは、かなり不利に傾いているのだ」

 

司令はハッとしたように頷く。

「なるほど。レールガンにオスプレイ、それに原潜か」

 

武蔵は相槌を打つ。

「そう、美保でのオスプレイ運用実験は、かなり良いデータが取れたと聞く。その基礎があっての導入計画だ。親父は誇っても良い……いや祥高殿か早苗たちか」

 

司令は苦笑した。秘書艦も言う。

「美保は弓ヶ浜半島に砂浜。そして山陰海岸は入り組んだ地形……この鎮守府でのオスプレイ運用での艦娘の移動、回収訓練は島嶼防衛を前提とした敵に対する訓練に、とても有効だわ」

 

「なるほど……」

いや司令は実は半分も分かっていない。秘書艦には、いつもテキパキと話を進められていて……結局、頭が上がらない。

 

「島嶼防衛か……学生時代はまだ、あまり重要視されていなかったから単位もいい加減に取ったんだよなあ」

 ついつい、苦しい言いわけをしてしまう。

 

すると珍しく秘書艦が司令に言った。

「時代は刻々と変わっています。指揮官がそれでは困りますね」

 

この祥高のキツイひと言には、その場に居た他の艦娘たちは驚いた。だが司令は、ただ「ゴメン」と言うだけ。その瞬間、上官と部下というよりは普通の夫婦だった。

 

武蔵は再び穏やかな眼差しになる。

「親父……我が国を取り巻く状況は日に日に悪化していると考えるべきだ。美保鎮守府への脅威も増している。だから私が美保に来た理由は、この山陰の防衛を祥高殿だけに任せて置けない、その想いからだ。それに早苗と伊吹……艦娘の二世も支えていきたいからな」

 

「そうか」

押し掛けというよりは彼女の心からの国と艦娘を憂う想いからの行動だったか。彼女のその熱い気持ちに司令は胸が震える想いだった。

 

霞が呟く。

「オンナたちの尻に敷かれているオトコ」

 

「こら……」

大淀が慌てて後ろから小突く。

 

 もちろん人間の司令よりも艦娘である秘書艦のほうが建造年数から見ても遥かに年上である。そうは言っても海軍の司令たる者が秘書艦に言い負かされている構図は珍しい。

 

「これは美保名物……」

「シッ!」

度重なる霞の言葉に、再び慌てる大淀。

 

 ただ大淀は思った。さっきの武蔵のひと言もそうだったが親子、夫婦という関係があると軍隊の階級を飛び越えて直言出来るのだな……と。

 

彼女の気持ちを察したのか霞が言う。

「どうかしたの?」

 

「ううん」

大淀は微笑む。

 

「やっぱり武蔵さんは凄いなって」

「……?」

不思議そうな表情の霞に彼女は応える。

 

「彼女の大きさは外見や装備だけじゃない。その心情の幅も広いのよ」

大淀の言葉に霞も頷いた。

 

「でも、それを束ねる司令夫妻あっての美保鎮守府だね」

この言葉に大淀も頷くのだった。

 

 




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第8話<視察兼、着任>


司令 え? まさか

クマ 今度は誰クマ。

タマ 新しい艦娘……ニャ?

大淀 そう、来たのね(笑顔)




 

「旗艦か……良い響きだな」

 

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新「艦娘」グラフティ

:第8話<視察兼、着任>

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 大山(だいせん)の方向に白い機体、オスプレイが見えてきた。

 

「司令、たった今、艦隊総司令部より指示が入電。武蔵に続いて駆逐艦、清霜と風雲が着任予定とのことです」

タブレット端末を見ながら霞が報告する。

 

「なるほど」

アゴに手をやりながら司令は応える。

 

武蔵が問い掛ける。

「霞、もう一人いないか?」

 

霞は改めて端末を見る。

「いえ……」

 

「そうか」

武蔵は軽く頷きながら言った。

 

「来ている筈(はず)だがギリギリでねじ込んだからな……あいつらしい」

 

司令は武蔵を見た。

「あいつ?」

 

だが彼女は

「まぁ、ふたを開けてのお楽しみだ」……と応えるだけだった。

 

ふと見ると秘書艦は何となく察している雰囲気だ。その表情は明るかったので司令は「心配ないのだろう」と思った。

 

 やがて普通の無線に『彼』の声が入り始めた。

『おーい皆の衆、今月も視察兼、着任の引率で来てやったぞ!』

 

司令は苦笑した。

「また来ましたか?」

 

無線の主は苦笑したように応えた。

『相変わらず連れないなぁ、可愛い艦娘たちのために中央で頑張っているんだ。少しは労(ねぎら)ってくれ』

「はいはい」

 

 そうこうしているうちにオスプレイは鎮守府の間近まで来た。

相手の操縦士と霞が英語で交信している。それを聞いていた司令は何かを伝えようとしていた霞に手を上げた。

 

「全て、オスプレイの指示通りでOKだ」

司令の指示に頷く霞。

 

 続けて司令が秘書艦を振り向く。彼女も頷いて大淀に指示した。

「副大臣は鎮守府の広場に降下します。ほか3人の艦娘は日本海に順次降下しながら、そのまま弓ヶ浜への上陸訓練を敢行。鎮守府より砂浜へは回収部隊を派遣します」

 

「了解しました」

大淀も敬礼をする。

 

「では私たちは司令部で統括しましょう」

「はい」

秘書艦たちは司令部へ戻る。

 

「では我々は副大臣を直接、出迎えるか」

司令と武蔵は直ぐ側の広場へ足を向ける。

 

「私たちも良いですか?」

そこに付いてくる秋雲と巻雲。

 

「あ、ホラホラ、もう来ている」

 鎮守府の近くまで来たオスプレイは一旦、機首を西の方角、即ち弓ヶ浜半島へと向けた。

 

コックピットには一瞬、操縦士の姿が見えたが、そのまま機体は日の光を反射させながら海岸線と平行に南下して行く。

 

「あれぇ?」

「……そっか、先に降下作戦だよ」

「ふうん」

秋雲と巻雲が話している。

 

武蔵は言う。

「そろそろ降りるぞ」

 

「でもさぁ」

秋雲が口を挟む。

 

「着任するのが清霜と風雲でしょ? でもさっき『3人の艦娘が日本海に降下』って言ったよね。もう一人は誰?」

 

すると武蔵はフッと表情を緩めた。

「清霜が私と縁があるように、3人目は秋雲、お前と縁がある……もちろん美保司令にも」

 

それを聞いた秋雲の表情が変わる。

「えぇ? もしかして」

 

「ああ……」

微笑む武蔵。

 

困惑した表情の巻雲。

「えぇ? 分かンない」

 

武蔵は振り向く。

「どうだろう、司令……この二人を引率して私が降下場所へ出向いても構わないか? 何しろ戦艦様の着任だからな」

 

司令は答える。

「それは構わないが、迎えはトラックを出さないといけないが」

 

すると彼女は微笑む。

「案ずるな。私だってトラックくらい運転できるぞ。清霜にも早く会いたいからな……それに『あいつ』だってトラックくらい運転できるはずだ」

 

「おいおい、着任早々トラックを運転させるのか?」

少し慌てた司令に武蔵は笑う。

 

「無理強いはしないが……あいつなら淡々とした表情で受けそうだ。並みの艦娘とは鍛え方が違う。何しろハイブリッドだからな」

 

「ハイブリッド? ……まぁ、そうとも言うか」

司令と武蔵は笑った。

 

「よし、司令部に変更を連絡する」

司令は直ぐに無線で回収部隊の隊長が武蔵に変更されたことを伝えた。『了解』との返事が入る。

 

司令は改めて武蔵に言う。

「本館の横に車庫があるから、そこでトラックに乗車してくれ。鍵は夕張が持っている」

「了解だ」

 

武蔵は軽く敬礼すると二人の駆逐艦に言った。

「では行くぞ」

 

「ハイ」

ダブダブの袖で敬礼する巻雲。

 

「武蔵さんが回収部隊の『旗艦』ですねぇ」

秋雲の言葉に彼女は微笑んだ。

 

「そういうことだな……」

そう応えながら、ふと立ち止まった武蔵は言った。

 

「旗艦か……良い響きだな」

そういう彼女は、とても嬉しそうだった。

 

やがて武蔵の引率で回収部隊は弓ヶ浜の砂浜へと向かう。

 

 オスプレイは美保湾で水平飛行に入っていた。

 

埠頭へ移動した司令は双眼鏡を取り出して苦笑した。

「本当は私も行きたい所だがな、日向」

 




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第9話<強かな青葉>

司令 ついに来たか。青葉はどうする?

クマ また今度は誰だクマ。

タマ 新しくもない艦娘……だニャ?

大淀 そう、情熱を秘めたあの子ね(笑顔)



「知って下さるのは司令だけですから」

 

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新「艦娘」グラフティ

:第9話<強(したた)かな青葉>

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 ふと艦娘の気配を感じた司令は横を見た。青葉だ。

 

彼は言った。

「お前も弓ヶ浜へ出て行って取材しなくて良いのか?」

 

「まぁ現場が一番ですけどね」

そう言いつつ彼女は双眼鏡を取り出した。

 

「失礼ながら司令への取材も敢行いたしたく青葉は、ココから降下作戦を俯瞰(ふかん)しながら取材と致します」

 

司令は苦笑した。

「今さら私を取材することがあるのか?」

 

含みのある彼の言葉に青葉も意味ありげに笑う。

「そうですねえ……司令と日向の関係は、もぉ諳(そら)んじられるくらい調べ尽くして覚えてますからねえ。でも問題はその後でして……」

 

 その時、美保鎮守府のオスプレイが飛び立つ。

 

青葉が言う。

「あれは米軍機の支援任務ですね」

 

 鎮守府上空で、ゆっくりとローターを前転した機体は、そのまま美保湾へ向かう。

オスプレイの排気臭の混じった海風が吹き渡り青葉の青い髪がサラサラとなびく。

 

彼女の姿を見詰めながら司令は言う。

「艦娘のスキル移動……いや、リセット技術というべきか。それのことだな?」

 

青葉は頷いた。

「はい……さすがにこれは軍部のトップシークレット事項ですから。青葉としてはノウハウはともかく、そういった事実を知りたいのですが……公には全く情報が出てきませんので」

 

再び双眼鏡を覗きながら司令は言った。

「お前の新聞記事なら軍部で流布しているゴシップレベルで十分じゃないのか?」

 

彼の言葉に青葉は少し肩をすくめた。

 

双眼鏡を覗いている司令を見て、ちょっと諦めたような彼女。仕方なく司令と同じ方向へ双眼鏡を向けると彼と並んで降下作戦を観察し始めた。

 

青葉は言った。

「表面的な記事だけなら、それでも良いんですけど……でも記者でもある青葉としては正確な情報を把握して置きたいんです」

 

 その言葉に司令はふと顔を上げた。

 

青葉は彼の反応を感じて内心ほくそ笑んだ。それでも双眼鏡を覗きながら続けた。

「それが記事の説得力に繋がるんですよ。それこを青葉の命です」

「お前の命か……」

 

 ちょうどその時、美保湾では次々とオスプレイから艦娘たちが降下する姿が遠くに見えた。艦娘たちは美保湾に着水直前に次々と煙幕を張った。

 

 さらに見ると埠頭に手の空いた艦娘たちが何人か並んで降下作戦を見学し始めていた。

 

中でも特に金剛姉妹は目立つのである。

「本格的ですねえ、お姉さま!」

「新しい子が来るネ?」

「急に決まったのでしょうけど、皆さすがですね」

「今後の参考になるかしら……ねえ、誰かビデオを撮ってる?」

 

 最初の降下作戦を終えたオスプレイは、日本海側に向けて大きく旋回をする。続けて弓ヶ浜半島へ反転すると砂浜から垂直に松林上空へ侵入して艦娘たちの上陸を支援する体勢をとっている。

 

 その光景を見ながら司令は思い出したように言った。

「負けたよ青葉」

 

その言葉に青葉も微笑んだ。

 

しかし彼は申し訳無さそうに続ける。

「だが艦娘のスキル移動については、私も何も知らない。むしろ秘書艦の方が何かを知っているかもな」

 

「あぁ、やっぱりぃ」

落胆したような顔をする青葉。

 

「何だよ、それは」

予想出来るのなら、改めて私に聞くなよ……と突っ込みたくなった。

 

彼の表情を察したのか彼女は少し慌てたように弁解する。

「いえ、そのぉ秘書艦のガードが固いのは司令もご存知でしょう?」

 

その言葉に彼は「あ、そうか」と苦笑した。

 

「武蔵さんも同じで、なかなか喋ってくれないんですよ」

彼女は口を尖らせた。

 

司令は子供のような膨れっ面をしている青葉に言った。

「では、この訓練が落ち着いてから、当事者である日向に聞くのはどうだ?」

 

その言葉に彼女は激しく手のひらを左右に振るのだった。

「ダメダメ! あの人って基本的に寡黙でしょ? その上、川内並みの『隠密』の達人ですから……いやぁ厳しいなあ」

 

「あはは、そりゃそうだな」

彼は笑うしかなかった。

 

「でも日向は私の前では結構、喋る子だけどな」

「……」

司令の言葉に青葉が何故か、ムッとしたような顔をした。

 

思わずフォローすべきか悩んだ彼は言った。

「何だ、怒っているのか?」

 

「ううん……」

急に子供口調になった青葉の表情が変わる。

 

「青葉の事情を一番良く知って下さるのは司令だけですから」

「え……」

まったく青葉め……その言葉に弱いなと彼は思った。

 

 だが司令は、そんな青葉の強(したた)かさ……暗にプレッシャーをかけてくる姿に苦笑したが、同時にこれが青葉なんだと改めて思うのだった。

 

「分かったよ青葉。それがお前らしい態度だ。私もお前の為に、いろいろ努力してみるから」

 別に彼には青葉に反撃するとか何も意図もかった。しかし何故か今度は青葉が真っ赤になった。

 

 そして彼女は小さな声で答えるのだった。

「はい……司令」

 

そのとき急に金剛が声を出して指差した。

「オスプレイがこっち来るネ」

 

その白い機体は弓ヶ浜の松林上空から機銃掃射するような体制を取りつつ鎮守府へと向かって来た。

 

 司令は制帽を被り直す。

「さて、最後は広場で副大臣様のへっぴり腰でも見物するか!」

 

「イエース!」

司令の言葉に金剛を始め艦娘たちは広場へ向けて動き出す。

 

霧島が言う。

「副大臣って落下傘で降りたことあるのかしら?」

 

その台詞に榛名が静かな口調で質問する。

「米軍機は、ここに着陸しないのですか?」

 

すると比叡がカットイン。

「そうですよっ、米軍機がここに着陸するだけでも手続きが面倒だから……ですよね? 司令」

 

こいつ何処でそんなこと覚えたんだ? ……と思いつつ彼は応えた。

「まぁ、そういうところだ」

 

今度は平常に戻った青葉が補足する。

「書類上の手続きだけでなくても米軍側も時間の拘束、燃費の悪化……着陸を避けたい理由は、いろいろありますよね」

 

さらにゴソゴソとバックからカメラを準備しながら彼女は続ける。

「でも青葉が想像するに本来は新しい子たちが列車か何かで来るべきところを副大臣がたまたま飛ぶ米軍機を見つけて訓練名目で、ねじ込んだ……ってところデショ?」

 

「Oh!」

感心する金剛。

 

「彼の場合、それは十分に有り得ますね」

霧島もメガネを抑えながら言った。

 

(それはリアルすぎる)

司令は青葉の洞察力には脱帽するばかりだった。

 

すると突然、彼に近寄った彼女はカメラを片手に言う。

「司令、いろいろな努力、期待してますから」

 

「あ……あはは」

変な笑いになった。

 

 米軍のオスプレイは高度を保ちながら広場の上空に差し掛かっていた。

 

 




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第10話<降下着水>

司令 やれやれ、また来たか。

クマ 副大臣ってヒマなんだクマ。

タマ それならタマの手を貸しても良いニャ。

大淀 無事に降下できるのかしら?



「タマには痛い目に遭ったら良いと思うヨ」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第10話<降下着水>

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「この広場は、さほど広くない。私でもちょっと緊張したくらいだがアイツは大丈夫かな」

広場の横に来たとき武蔵が言う。

 

「でも昨夜のお前は余裕タップリに見えたが」

司令が言う。

 

彼女は少し恥ずかしそうに答える。

「いや……アレは実は強がりでな」

「へえ?」

 

軽く咳払いをして武蔵は続ける。

「戦艦の場合は特に動きが緩慢になり易い。日頃の鍛錬が欠かせないのだが、さすがに初めての場所に夜間降下するのは緊張するんだ」

 

「ウン、それ分かるネェ」

いきなり突っ込んできたのは金剛。

 

「ワタシも長女として頼られることが多いケド、ホントは不安に思うこともたくさんあるヨ」

その言葉に武蔵が金剛を見て頷く。

 

なるほど……戦艦というのは頼りがいが有る反面、メンタルはむしろ繊細だから人知れぬ気苦労もあるのだろうと司令は思った。

 

「来ました、来ました!」

比叡がオスプレイを指差す。

 

この比叡にしても同じ金剛型とはいえ、その挙動は、まるで一番末っ子のように見えるよなと司令は苦笑した。

 

しかし減速しない機体を見て秋雲が言う。

「オスプレイは減速しないんだ」

 

すると霧島が反応する。

「本来なら着陸すべきところを敢えて落下傘で降下するから速過ぎず遅すぎず……と言ったところね」

 

「副大臣さん、大丈夫かしら?」

榛名が心配する。

 

「アレはネ、タマには痛い目に遭ったら良いと思うヨ」

金剛の意外な発言に司令は目を丸くした。

 

「ニャア?」

何故かそこに居た多摩。

 

金剛型の姉妹たちはウフフと笑っている。そんな彼女たちを見て司令は思った。

 

 金剛も戦艦だ。合同作戦のときにも感じたが彼女には片言の日本語の端々に見え隠れする深い心情の世界があるんだ。

 

それを考えれば、たまに毒付くことがあったとしても何となく、それも含めて理解できるのだった。

 

 十分な高度を取ったオスプレイの後部から落下傘で降下する人影があった。

 

「あぁ、降りた降りた!」

巻雲が袖を振り回しながら言う。

 

武蔵も腕を組んで観察する。

「なるほどタイミングさえ合えば何とか行けるかな?」

 

 副大臣を無事に放出したオスプレイは、そのまま出雲方面へと飛び去る。同時に通常無線で艦娘たちにも聞えるように「サンキューという」通信が入った。

 

『あ』

それは美保の艦娘たちの多くが聞き覚えのある声……ケリーだった。

 

「なぁんだ、どうせ来ているなら降りたら良かったのに」

秋雲の言葉に、その場の艦娘たちも頷く。

 

「副大臣だけじゃない。ケリーも強引に『参加』したようだな」

司令も笑った。

 

 降下作戦を補佐するように周回をしていた美保鎮守府のオスプレイ。

弓ヶ浜の艦娘たちが無事に着水、回収されたのを確認して美保湾からルートを変更した。

 

 オスプレイの早苗から通信が入る。

『今回の美保湾での降下訓練は着水した艦娘の回収を以って無事に終了しました』

 

続けて伊吹。

『先のケリー中佐及び米軍司令部の指示により私たちは、もうしばらく周辺の警戒を続けます』

 

『了解』

司令部から大淀が答える。

 

青葉が呟く。

「なるほど……2機のオスプレイでキッチリ情報収集をしたようですね」

 

「そうだな。まあ大義名分がないと米軍もホイホイと出動できないだろ」

司令も応える。

 

続けて武蔵から入電。

『こちらも回収完了。感度良好だ……これより鎮守府へ戻る』

『了解』

 

「何とか終わったようだな」

司令はホッとしたように制帽を取った。

 

すると榛名が声を掛ける。

「あの……副大臣は結局どうなったのでしょうか」

『あっ』

 

全員が思い出したように声を合わせたとき寛代からボソボソとした声の通信が全体に入った。

『副大臣、埠頭前の海に着水したよ』

 

『着水?』

その通信に全員が顔を見合わせた。

 

「じゃ、私たちが回収に向かうネ!」

金剛の言葉に比叡が応える。

 

「はい! お姉さま」

高速戦艦たちは小走りに埠頭へと向かう。

 

「これは決定的瞬間のチャンスです!」

青葉も慌てて走り出す。

 

「やぁ、悪いことしたな」

司令は呟く。

 

すると秋雲が言った。

「でも……たまには必要なお灸だと思うなぁ」

 

「アハ、そーだね」

同意する巻雲。

 

「誰かタオル持ってきてくれるかな?」

司令が言うと寛代から入電。

 

『副大臣の回収開始……タオルは有るよ』

彼は苦笑した。

 

 美保の艦娘たちも、それぞれに強くなっているなと思う司令だった。そして彼らもまた広場から埠頭へと向かった。

 

「おぉい……」

直ぐに情けない声が無線に混じる。

 

 




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第11話<副大臣>

司令 
副大臣はちょっと変わったか?

クマ 
いや、もともと変わっているクマ。

タマ 
でも、いつもお土産くれるニャ。

大淀 
無事に降りて良かったですね。



「一瞬、殺意が芽生えたが」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第11話<副大臣>

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 司令が到着する頃には埠頭では、ちょっとした騒動になっていた。

そこには手の空いた艦娘たちが群がっている。

 

彼女たちの声。

「副大臣さん落下傘なんてスゴイですね」

「えぇ? でも大臣さん軍人じゃないクマ」

 

「でも元々は兵学校も出ていたんですよ……確かぁ途中から政治の道へ」

傍で聞いているだけでも、あらゆる情報が錯綜(さくそう)している。

 

艦娘たちの会話は続く。

「何で海に落ちたの?」

「ホントは広場に降りる予定だったんでショ?」

 

「オスプレイから飛び出すタイミングを間違えたのかなぁ?」

「えっへっへ、ケリーさんがワザと遅らせたんじゃない?」

もう何でもアリになって来た。このままではケリーさんが悪者になりそうだ。

 

ふと見ると金剛と比叡の服が少し濡れている。

「ダイジン、スリムで助かったヨ」

「ホント、私とあまり変わらない?」

 

司令は思わず突っ込みを入れる。

「え? 本当にお前たちが引き上げたのか?」

 

ウインクする金剛。

「YES! 艦娘なら埠頭から降りて直ぐデスから」

 

「そう、お茶の子さいさいですよ!」

【挿絵表示】

 

変な言葉を使うな。

 

すると全身ずぶ濡れでバスタオルを羽織った副大臣が司令に応える。

「オウ、王子登場か!」

 

この人も相変わらずだなと思いながら彼は応える。

「何ですか? 王子って」

 

すると副大臣はバスタオルで頭を拭きながら含み笑いをする

「中央ではお前、引き寄せの美保鎮守府ってことで有名人なんだぞ……何しろ横須賀からは武蔵に続いて日向の『引き抜き』だ!」

 

「……あぁ」

司令は制帽を軽く持ち上げた。

 

「いずれこうなると思っていましたから予定調和ですよ」

「ふっふーん」

副大臣は鼻で笑った。

 

「連れない奴だなぁ……まぁ良い」

 

彼は改めて髪の毛をバスタオルでクシャクシャと拭きまわしながら言う。

「今回は参ったよホントに!」

 

司令は苦笑した。

「大変でしたね」

 

「あぁ、海に落ちたときは死ぬかと思ったけどな……あの装備は水に浮くんだな」

副大臣の視線の先には榛名と霧島が黙々と片付ける落下傘の装備があった。

 

司令は続ける。

「そうですね。確か米軍のもので……あの国の装備は日々、改良されてますから」

 

副大臣は腕を組んで何度も頷く。

「そうだな。元帥閣下のお陰で米軍の装備が使えるというのは有り難い事だ。こういう体験は政治の場でも大いに野党連中への説得材料になるからな」

 

彼は、しみじみと感心している。

「まぁ人生塞翁が馬だ。ケリーに突き落とされたときには一瞬、殺意が芽生えたが結果的にはイロイロ悟りを得た」

 

(何だ、やっぱりケリーさんが突き落としたのか?)

 

ヤレヤレと思いつつも一応、司令は聞いてみた。

「ケリーさんとまた何か、あったんですか?」

 

「……変なことしたんでしょ」

すかさず巻雲が突っ込む。

 

すると副大臣は平然と応える。

「オスプレイに、たまたま米軍の艦娘が一緒でね。とてもグラマーな姉ちゃんだったからさ。ちょっとイチャついただけなのに……ケリーさん怒り出してね」

 

司令は呆れた。

「そりゃ当然でしょう?」

「いや、オレには艦娘は世界共通に扱えるかと思ったんだがな」

 

バカじゃないだろうか?

「壮大な勘違いですよ」

 

「むふふ、ピチピチな享楽……艦娘をきっかけに日米協定まで想いを馳せるわけだ」

 

話がいきなり飛躍し過ぎて司令は少し引いた。

「そう言う割には嬉しそうですね」

 

彼の言葉に副大臣はニタニタして言う。

「ああ、やはり日本男児にとっては大和撫子(やまとなでしこ)たる艦娘が最高だな。特に金剛と比叡……人生、苦有れば楽アリだ。実年齢は分からんが彼女たちのムチムチボディは……」

 

「ストーップ!」

慌てる美保司令。

 

「ちょっと……艦娘の手前って事も考えてくださいよ!」

今さら副大臣の尻軽さを咎めるつもりはないが美保鎮守府には秩序が必要だ。

 

気がつくと、この妙な光景を青葉が盛んに撮影していた。更にその周りを暇な艦娘たちが見物している。 

 

「やれやれ」

司令は肩をすくめた。

 

さすがに空気を読んだ副大臣も応える。

「ああ失敬、失敬。まぁ、お前みたいな堅物が仕切っているから美保は上手く行っているとも言えるだろうし……済まなかった。細かい事は執務室で話そう」

 

そこで金剛が言う。

「ダイジンは丸くなったネ?」

 

その言葉に急に笑顔になる彼。

「えぇ? そうかぁ?」

 

比叡が続ける。

「そぉですね。前だったら、きっと海に落ちただけでも激怒されてたと思います」

 

「あはは」

頭をかきながら副大臣は笑う。だが確かに彼女たちが言う通り彼はちょっと変わったかも知れない。

 

すると落ち着いた風に彼は言う。

「オレも最近、時間があれば艦娘の訓練を見学するようになってね……海軍省の役人としては水に落ちたくらいでガタガタ言うのは見苦しいと思ったのさ」

 

『ほう』

この言葉にちょっと感心する司令と艦娘たちだった。

 

「まあ、お陰で今日は金剛姉妹のムチムチボディに……」

言いかけた彼は、司令の覚めた目にハッとした様に頭をかいた。

 

「済まんな、オレは病気だ」

自分で言っていれば世話はないな。司令は苦笑するばかりだった。

 

 




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第12話<保護と救出>

司令 副大臣は相変わらずだな。

クマ お土産くれるクマ?

タマ お土産は忘れないニャ。

大淀 副大臣もいろいろあったようですね



「美保に建造施設を置かないのは、そういう理由か」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第12話<保護と救出>

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 副大臣と美保司令は本館の執務室へ向かう。廊下で彼らは大井とすれ違った。

 

彼女は言った。

「新しい子と日向が……戻ってくるのね?」

 

「ああ」

司令は立ち止まる。

 

彼女は窓の外に視線をやって呟くように言った。

「そうね……ここは弓ヶ浜ですから」

 

 そのまま彼女は立ち去った。司令には彼女の言葉の意味が分からなかった。

思わず副大臣を振り返るが彼は肩をすくめるばかりだった。

 

 執務室へ戻ると秘書艦が書類を整理していた。副大臣は彼女を見るなり「あっ」と言った。

 

「どうかされましたか?」

秘書艦の言葉に彼はポケットをあちこち探り始める。

 

「艦娘たちへのプレゼントの事を言おうとして思い出した。君へ軍令部からの指示書やら最近のアップデートファイルやらのUSBが、どこかにあったんだ」

 

そんな彼のアバウトさに苦笑する司令と秘書艦だった。

 

「あった、あった」

彼は内ポケットから密封されたケースを取り出す。

 

「ああ」

思わず声を出す司令。

 

「海に落ちたからデータもダメかと思ってましたけど」

 

その言葉に再びニタニタする彼。

「こう見えてもオレだって中央で戦っているんだ。抜け目はないよ……それにこれは海軍省で技術の連中から直接貰ったんだ。あいつらもデータ保護には気を遣うさ。なにしろ舶来品だからな」

 

そう言いつつ彼は英文と白頭鷲の刻印されたケースのふたを開けてUSBメモリーを確認する。

 

「OKだな」

それからケースごと秘書艦に渡した。

 

祥高も確認をしてから、ふたを閉めた。

「確かに受け取りました」

 

彼は続ける。

「今回は出掛けにバタバタしてね……祥高なら聞いていると思うが日向の件だ。お陰でお土産を買う暇もなかった」

 

 彼は一呼吸置くと、ため息をつきながら再びソファに座る。秘書艦の祥高は内線を取って霞を呼び出し指示を与えていた。

 

司令は言った。

「日向か……順を追って説明してもらえると助かります」

 

「ああ」

副大臣は頭の後ろに手をやって話し始める。

 

「実は武蔵の着任も急だったんだが、それには前振りがあってな」

「前振り?」

司令が聞くと副大臣は少し身を乗り出した。

 

「ここは小さな鎮守府だから良くあると思うが戦場で救出された艦娘は、他所の鎮守府へ転出することが多いだろう?」

頷く祥高。

 

司令が口を開く。

「美保の艦娘枠は最大百人ですけど実用的には90人ちょっとが適正ですね。建造施設がないので解体も出来ませんから自動的に転出になります」

 

それを聞いた副大臣は腕を組む。

「なるほど……美保に建造施設を置かないのは、そういう理由か」

「……」

 

黙った司令に副大臣は言った。

「いや、良い。それがお前の優しさだからな」

 

言いながら彼はふっと窓の外を見詰めた。

「それがなければ、あいつらだって……」

 

 執務室内に沈黙が流れた。

微妙な雰囲気になる直前に「おほん」と軽く咳払いをしてから彼は続ける。

 

「普通、従順な艦娘が自分から配置転換を言い出すことは滅多に無い。以前、秋雲の脱走事件で日向が代わりに横須賀へ行った事例くらいだな」

 

その言葉に司令は元帥を思い出した。元はといえば彼が発端だが。

 

 そこで副大臣は声を潜める。

「そういえば日向の転出の入れ知恵したのも武蔵だったな……実は、その武蔵型の艦娘が先月横須賀で偶然にも『救出』されたんだよ」

「えっ、救出?」

 

司令の言葉に彼は応える。

「今は量産化が進んでいるからな。太平洋側では重巡くらいまでは、けっこう沈んだらしい子も敵との交戦結果によって『保護』されることがある」

「……なるほど」

 

「だが戦艦や空母……特に正規空母クラスになると量産化もまだ不十分だ。もちろん新造は不可能ではないが意外と『資源(コスト)』が掛かる。おまけに狙って出せるわけではない……我々にはそこまでの技術力が無いからな」

 

司令は苦笑する。

「はあ、その辺りはピンと来ませんね」

 

副大臣は司令を見て言った。

「ここは建造もしないからな。そっか、山陰の海では海戦も少ないから保護される子も限られるよな」

 

すると祥高も応える。

「そうですね。軽空母くらいまでなら比較的よく保護されますけど」

 

その時ドアがノックされて霞が「失礼します」と言って入ってきた。

手には、お茶を持っていた。

 

 お茶を入れる彼女に祥高は言った。

「霞ちゃん、副大臣がデータファイルを持ってきてくれたから後でアップデートをお願いします」

 

「はい……指令室の端末からで宜しいですか?」

「そうして下さい」

「了解です」

彼女が敬礼をして退室しようとしたとき副大臣が手を上げる。

 

「おっと待って、霞ちゃん!」

「はい?」

少し面倒臭そうな表情をした彼女に副大臣はニタニタして言う。

 

「あはは、君の反応も変わらないなあ……お土産は別便で送ったから、それらしい荷物が着いたら代理で受け取っておいてくれ」

 

「……はい」

ホンの少しだけ照れ隠しのような笑顔を浮かべて霞は退出した。

 

 




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第13話<回収された艦娘>

司令 
そうか、武蔵はやっぱり。

クマ 
え? 武蔵ってすごいクマ。

タマ 
よく分からないニャ。

大淀 
武蔵さんもすごいですけど……。



「密かに建造された子が運悪く太平洋かどこかで轟沈させ」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第13話<回収された艦娘>

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 微妙に呆れたような空気が流れた。

 

副大臣は弁解のように説明をする。

「美保以外の鎮守府では規模も大きいからな。こういうフレンドリーな付き合いが出来ないんだよ……いや何度も言うがオレはな、美保は、これで良いと思うんだぞ」

 

美保のことを褒められて機嫌を良くしたのか微笑んだ祥高が言った。

「お茶をどうぞ」

 

「ああ、では遠慮なく」

お茶をすすった彼は、ちょっと天井を見上げてから続ける。

 

「予算配分の厳しい昨今では他の鎮守府が建造して轟沈した子を何とか『回収』して復活させるって感じかな? ちょっとセコイが、まぁ現実的に、ほとんどの鎮守府が、それを狙っている」

 

「へえ」

司令は苦笑した。

 

「ただ、この回収も相当困難だ。何しろ敵だって弾が当たれば轟沈だからな……その上に運よく保護された子だって、顔かたちは艦娘でもスキルも記憶も無い。まっさらの状態……いわゆる『スキル・ゼロ』だ」

 

祥高が補足する。

「それは、ほぼ新造艦に近い状態ですよね」

 

「そうだな……まぁ、どういう理屈なのかは謎だが」

 

それを聞いた司令はかつてブルネイでの「復活」を思い出した。いわゆるサルベージ……狙って出来るほど簡単なことではない。

 

彼は言った。

「美保は小さいから意識した事はありませんが他の鎮守府は軒並み規模が大きいから建造を含めて艦隊運営も大変でしょうね」

 

司令の言葉に頷く副大臣。

「ああ。だから大和型なんて新造だとしてもホイホイ出来る物じゃない。ところが実際に回収された艦娘が武蔵だったから横須賀では大騒ぎになったんだ」

 

「つまり?」

 

「少なくとも横須賀以外のどこかの鎮守府……呉か神戸か……まぁ今さら追求はしないが、どこかの鎮守府で密かに建造された子が運悪く太平洋かどこかで轟沈させられて……それが、たまたま元に戻って保護されたのだろう」

 

祥高が口を開く。

「その武蔵は保護されてから順調に成長したのですか?」

 

副大臣は頷く。

「もちろんだ。当然、武蔵と大和でみっちり仕込んでいたが……半月ほど前かな? 元から居た武蔵が急に妙なことを言い出したんだ」

 

「いわゆる人為的な『スキル・ゼロ』に基づく配置転換願いでしょうか」

 

祥高の言葉に頷く副大臣。

「そうだ。やっぱり祥高は知っていたな……あの武蔵は賢い。自分の後継者が出来たからスキルを渡す代わりに自分を配置転換させてくれと言い出した。しかも先ずオレを捕まえて密かに申し出てきたんだ」

 

何かを言いかけた司令を、やんわりと押さえるようにして祥高が言う。

「スキル移動の技術は、あの舞鶴から来た医師だけが持ってますよね」

 

その言葉に副大臣は一瞬、驚いた。

「お前は本当に良く知っているよな……まぁ姉妹たちを思えば当然か」

 

それから直ぐに頷くと応えた。

「このことは元帥とオレと、祥高を含めてごく一部の人間しか知らないはずだ」

 

 苦笑する二人。やや蚊帳の外に置かれた司令。ただ彼は別段、疎外感も覚えなかった。彼が祥高と出会ってから万事がこの調子だから、そういった分野は完全に秘書艦に任せているのだ。

 

副大臣は続ける。

「祥高は当然としても解せないのは武蔵だ。あいつがなぜスキル移動のことを知っているのか? 大和ですら知らなかったんだぞ」

 

ちょっとボーっとしていた美保司令に副大臣は問いかけた。

 

「美保司令も知って居るだろう。君の顔見知りの舞鶴の参謀……アレの兄が医師でその技術と引き換えに司法取引、いわゆるクーデータの罪を逃れたことを」

頷く美保司令。

 

「彼は元気ですか?」

 

副大臣は続ける。

「ああ……まぁ彼については憲兵が四六時中、張り付いて監視しているが根は技術オタクだ。元々彼単独で国家転覆を図る気はない。軟禁状態であっても文句も言わずに仕事をこなしているよ」

 

美保司令は思い出した。

「そういえば、ここの正規空母たちの多くは彼の技術で……」

 

「え?」

それは知らなかったらしい副大臣は驚いた。

 

「何だ? アイツそんな技術も持っていたのか」

それを聞いた美保司令は、あの医師も実は、まだまだ手の内を隠している。思った以上に、したたかなのだろうと思った。

 

「いや……今は余計な事は後回しだ」

副大臣は頭を振って言った。

 

祥高が聞く。

「それで結局、武蔵はどうなったのですか?」

 

ちょっと表情を緩めた副大臣。

「ああ……スキル移動技術は公になっていない中で彼女としては一種の取引のつもりだったのだろう。オレに声をかけて後は頼む、という腹だろうと理解した」

 

「では、おじい様に?」

祥高の言葉に頷く副大臣。

 

「実質的に引退したとはいえ元帥の海軍での影響力は大きい。実は武蔵回収の件も公には伏せられていたのが幸いしてな。そのスキル移動を使って実質的には『すり替わった』んだ」

 

さすがに顔を見合わせた司令と秘書艦。

 

副大臣も頭を軽く叩いた。

「あとは元帥経由で米軍と話をつけて……闇夜に紛れて一気に美保へ移動だ。何しろオスプレイは静寂な上に脚が長いからな」

 

『……』

あまりにも見事な武蔵の作戦に言葉を失った司令と秘書艦だった。

 

副大臣は肩をすくめた。

「とにかく武蔵は策略家だよ。結果的には自分の願いを果たした上に、表面上は無用な混乱を抑えたわけだからな。ああいった戦艦クラスになると頭も切れる。しかも洞察力、先見性、思慮深さ……正直、あいつが人間だったら良い政治家になったと思うくらいだよ」

【挿絵表示】

 

 

彼の言葉には、その場の全員が苦笑した。

「だが実際には祥高が、一番切れるけどな」

 

『……』

その言葉に無言になる秘書艦と司令。彼は意味深な発言だなと思った。

 

司令は聞いた。

「で、日向は?」

 

「それだ! ……それが今回の肝だな」

副大臣は、改めてニタニタした。

 




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第14話<生真面目な艦娘>

司令 
日向と清霜か

クマ 
お土産くれるクマ?

タマ 
艦娘は、くれないニャ。

大淀 
ウフフ、艦娘が最高の贈り物よ



 

「暗躍するのが好きな人ね」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第14話<生真面目な艦娘>

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 ニタニタした副大臣は、ちょっとリラックスして言った。

「日向って子は本当に武蔵とは違うよな。見事に正反対な性格だ」

 

「それは分かりますね」

司令は頷く。

 

「真面目を絵に描いたようで、しかも表面上はとっつきにくい」

副大臣の言葉に司令と秘書艦も苦笑する。

 

「いわゆるツンデレって奴かなあ……鈍感なお前は知らないだろうけど、あの艦娘の美保への想いってのは痛々しいくらいだったぞ」

「えぇ?」

やや複雑な表情を見せた司令に副大臣は、さらにニタニタしながら言う。

 

「なんていうかナ。そういう方面の不器用さも含めてあの日向って子は、案外お前と良く似ているよな……」

「はぁ」

 

さらに副大臣は調子付いて、お喋りを続ける。

「ちょっとオタクっぽいところも」

「……」

 

すると痺れを切らしたように祥高が強い口調で言う。

「それで彼女はどういう経緯でこちらへ来るようになったのでしょうか?」

 

「あ、そうだったな。スマン、スマン話を進めよう。あっはっは」

そんな副大臣を見ながら美保司令は、彼がつくづく軍人を辞めて政治家になって正解だったと思うのだった。

 

「そもそも、お前たちが始めた養子縁組。あれを言いだしたのも彼女だよな」

「そうですね」

 

副大臣は記憶を手繰るような顔をする。

「それを聞いた武蔵も、確か元帥を立会人にして手続きをした。今、思えばその時点で武蔵もマークしておくべきだったな」

「マークって何をですか?」

 

司令の言葉に彼はニタニタ笑う。

「愛の脱走兵予備軍だよ」

 

「は?」

話が飛躍しすぎて司令はワケが分からない。

 

「ふざけないで」

祥高が注意すると彼は、ちょっと舌を出した。

 

それを見た司令は、その反応はまるで青葉のようだなと思った。

そうか、二人はよく似ているのかと妙に納得もした。

 

「強引で行動力もある武蔵に比べて控えめで大人しい日向。でもあの子は意外と……って奴でな」

そこまで言った彼は祥高が白い目で見ているのに気付いて少し慌てた。

 

「えっと、分析はこのくらいにして……日向、日向」

彼はお茶を含んでからメモ帳を取り出した。

 

(メモ帳……)

秘書艦と司令は、お互い心の中で苦笑した。

 

 そこまでの彼の話が記憶だけを頼りにしたものだったのか? ということと、彼も政治家だけあって意外とマメな性格なのかも知れないという事だ。

 

 彼は目的の項目を見つけたらしく、ようやく話し始める。

「まず日向としては海軍省とか軍令部からの移動の指示があるまでは当面、動くつもりは無かったようだ」

 

「彼女の性格なら、そうでしょうね」

司令も頷く。

 

「これに波風を立てたのが武蔵でね……」

言いながら副大臣はメモの数ページをめくり始める。

 

「武蔵がオレに直訴して、元帥令が出て武蔵のすり替えまでは話したな。問題はその後だ」

司令と秘書艦は固唾を飲んだ。

 

「横須賀の提督は武蔵を手放したくなかったんだよ。だが本人と元帥の意向ではどうしようもない。そこで彼が動いた……っていうか、また俺が廊下で彼に捕まったんだ」

「捕まったって……横須賀の提督に、ということですか?」

 

彼はニタニタして頷く。

「そういうことだ。オレは横須賀でも人気者だからな」

 

祥高が呆れたように言う。

「よほど横須賀(鎮守府)に入り浸っているようですね」

 

ちょっと苦笑した彼は続ける。

「まあね……要するに彼が言うには『法律的にもっと艦娘の移動制限を厳しくして欲しい』ということだった」

 

「?」

顔を見合わせる司令と秘書艦。

 

副大臣は続ける。

「簡単に言うと法律的に艦娘の所属変更に伴う移動法には結構穴があってね。まさか武蔵みたいな頭の切れる艦娘が『悪用』するという事までは想定していなかったんだ」

「……」

 

「そこで横須賀の提督が法整備……特に、移動条項の厳格化を直訴して来たんだ。まあ法整備は議員の仕事だからな。嫌とは言えない」

「そうですね」

 

そこで副大臣はまたニタリとする。

「ただ先に知った情報は、しかるべき人には伝えるべきだろうと俺は思った」

 

秘書艦が言う。

「それで日向を焚き付けたんですか?」

 

彼女の言葉に彼は肩をすくめた。

「その言い方は人聞きが悪いな。それにもしあの子が後から移動禁止令を知ったらどう思う?」

 

「あぁ……静かに嘆くでしょうね」

これは司令だった。

 

その言葉にニンマリとする副大臣。

「だろ? 善は急げだよ。しかも横須賀の提督、俺に別の条件を出してきてな」

「条件?」

 

副大臣はソファーに深く腰をかけた。

「実は武蔵を回収した際に、何隻かの艦娘も併せて救出してたらしくてね。横須賀の艦娘枠が少々オーバーしていて軍令部から横須賀に艦種を特定しない移動命令が出ていたんだ。まあこれはオマケみたいな緩い命令で期限は90日以内に任意の鎮守府に打診した上で二隻の移動するというものだ」

 

ここで不思議そうな顔をする司令。

「武蔵の回収は伏せられていたんじゃ?」

 

「そこだよ。あの提督もずる賢いというか武蔵ほか数隻の回収を軍令部に報告せずに居たんだ。結論としては、そのもみ消しも含めて俺に相談してきたんだよ」

 

「はあ」

これには再び顔を見合わせる司令と秘書艦だった。

 

「そこで俺は美保の名を出した。山陰の片田舎の鎮守府なら揉み消しには最高だろうってところだ。もちろん提督としては二つ返事でオッケーだ。してやったり、あっはっは」

 

「本当に貴方は、昔から暗躍するのが好きな人ね」

祥高の言葉に副大臣は嬉しそうに応えた。

 

「まあね。政治家なんてそんなものだよ。それに君だって……ね」

「……」

苦笑した祥高は否定しなかった。

 

 そのやり取りを聞いていた司令は改めて二人が旧知の仲であることを思い出すのだった。

 

(きっと祖父である元帥と祥高さんには、いろいろなやり取りがあるのだろう)

 

そう思う司令だったが、不思議と詮索する気持ちにはならなかった。

 

むしろ、そこは彼女を信頼する想い……彼女は決して国家を裏切ることはないだろうという確信があったからだ。

 

 その時内線が鳴った。秘書艦が受ける。

「はい……そう、分かったわ」

 

受話器を置いた彼女は言った。

「日向の部隊が到着したみたいね」

 

司令は言う。

「そうか……声を掛けてやるかな?」

 

その言葉に、秘書艦と副大臣も頷くのだった。

 

 




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第15話<決断と葛藤>

日向の様子に心配する司令……そして?

司令 
日向……

クマ 
どうしたクマ?

タマ 
様子が変だニャ。

大淀 
そうね……やはりアレは普通じゃないのよ。




(日向も大井のようになってしまうのだろうか?)

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第15話<決断と葛藤>

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 鎮守府全体が急に騒がしくなった。

 

「到着したようだな」

副大臣がニタニタしている。

 

直ぐに内線が鳴った。秘書艦が受ける。

「日向さん到着ね? 分かったわ。下で全員待機させて」

 

電話を置いた彼女は言う。

「日向たちの部隊も到着しました」

 

司令と副大臣は一瞬、顔を見合わせた。

「来たな」

「ああ、降りよう」

 

 本館の正面玄関ロビーは既に艦娘たちで、ごった返していた。

 

「押すなよ!」

ひときわ通る声で注意を喚起しているのは武蔵。

それでも駆逐艦娘を中心として艦娘たちが群れている。

 

司令たちが近づくと日向は改めて敬礼をした。

「司令……」

 

報告しようとした彼女は、なぜか言葉に詰まる。日向にしては珍しいなと司令は思った。

 

 すると彼女の隣に居た髪の長い駆逐艦が代わりにシャンとなって報告する。

「えっと、横須賀から着任しました。日向隊長、以下駆逐艦2名です!」

 

「ご苦労」

司令は敬礼を返した。

 

「この清霜はな、私と縁がある子なんだ」

出迎えていた武蔵が言う。

 

「はい。武蔵さんと一緒になれてとても良かったです」

清霜も嬉しそうに言う。

 

「超弩級戦艦の武蔵さんと射撃の名手、日向さんと一緒に着任できるなんて最高じゃないですか?」

 

……その言葉に苦笑する武蔵と日向。

 

 途中までニタニタして聞いていた副大臣も、さすがにバツが悪そうな表情に変わる。

敏感な艦娘たちも、その空気の変化に不思議そうな顔をして互いに向き合う。

 

祥高が言う。

「清霜と風雲は大淀さんに着任手続きをして貰ったら休んで下さい」

 

『はい』

敬礼をする二人。

 

続けて祥高は日向を振り返る。

「執務室で貴女の詳しい状況を聞きましょうか? 日向さん」

 

「はい」

秘書艦に促されて2階へ向かう彼女。

 

 その後姿を見送りながら周りの駆逐艦娘たちが不安そうな表情をしている。

 

司令のそばに副大臣が近寄ってきて言う。

「そういえば日向って無愛想な雰囲気に似合わず不思議と駆逐艦たちから好かれるんだよな」

 

司令は応える。

「横須賀でもそうだったのですか」

 

「ああ……ただそれは彼女に高度な能力があればの話だ。恐らくそれが無くなった今、彼女がどうなるか……」

 

司令は聞いた。

「では、これから一緒に彼女の話を聞きますか」

 

副大臣は頷いた。

「ああ、そう願いたい。実はオレにしては珍しく、彼女の件では未だに悶々としていてね」

 

「彼女に良かれと思ってやったのでしょ?」

「そりゃそうだが」

 

副大臣は顔をしかめた。

「良心の呵責って言うと大げさだが。戦艦とはいえ艦娘にスキル移動という、あまりにも大きな決断と葛藤を背負わせてしまったかな? ……ってね」

 

「……」

司令は黙って腕を組んだ。

 

 二人が執務室へ入ると日向と秘書艦、それに武蔵が居た。

 

祥高が口を開いた。

「武蔵さんも同席を希望されましたが」

「ああ、構わない。いわゆる『先輩』としての意見も伺いたいところだ」

 

司令の言葉に頷く彼女。

「ああ、心得た」

 

 祥高は室内の全員を改めて見回してから日向に言った。

「艦娘のスキル移動と共に配置転換を願う流れは私たちも大まかに聞き及んでいます。貴女からは、むしろ個人的な心象を聞かせて下さい」

 

「はい」

淡々と、しかし元気なく答える日向。

【挿絵表示】

 

 

 美保司令が意外に思ったのは日向の変わりようだった。

 

 今までの彼女は控え目とはいえ、ほのかな自信すら感じられる安定した雰囲気を持っていた。

 

 ところが今の彼女は、少々おどおどしたような状態だった。

 

その姿を見て彼は、ある艦娘を思い出すのだった。

(まるで、かつての大井みたいだな)

 

 彼は、ふと嫌な予感がした。

 

(ひょっとして……日向も大井のようになってしまうのだろうか?)

 

 




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第16話<青葉、泣き笑い>

司令 
日向は大丈夫だろうか

クマ 
同一人物クマ?

タマ 
うん、間違いないニャ。

大淀 
何か、とんでもないことが起きているのかしら……



「ここはもう他所(よそ)の鎮守府じゃないのだから」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第16話<青葉、泣き笑い>

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 執務室は妙な緊張感に包まれていた。

 

 そもそも、いつもは能天気な副大臣からしてシリアスな表情な上に久しぶりに顔を合わせる日向は、まるで別人かと思わせるくらいにオドオドして陰鬱な雰囲気だ。

【挿絵表示】

 

 

 武蔵は腕を組んでいる。もっとも、それは威圧しているわけではなく、彼女の標準的なポーズである。ただ、それがまた余計に特異な感じを引き立てる。

 

 そんな空気を感じたのだろう。秘書艦は内線で、お茶を頼んだ後に、口を開いた。

「日向さん、正式に転属になっているし、貴女にとっても、ここはもう他所(よそ)の鎮守府じゃないのだから、もっとリラックスして良いのよ」

 

「……はい」

やはりオドオドしている日向。

 

 するとドアをノックする音がした。

「はい」

 

「失礼します」

入ってきたのは青葉。その瞳は、何かを掴んだようにキラキラしていた。

 

 お茶を配る彼女に司令は問い掛けた。

「その目は何か情報を得たって感じだな」

 

「えへへ」

いつもの笑い声で彼女はニタニタしている。

 

司令が秘書艦に何かを聞こうとすると彼女は気を利かせて言った。

「では青葉さんも、同席して頂きましょうか」

 

「はい!」

……と言いながら既に彼女は、ちゃっかりと自分のお茶も準備していた。

 

 美保司令は改めて室内を見た。

 

 今、執務室に居る中で最も中央の情報に近いのは副大臣だ。

同時に彼は政治力も持ち合わせているから、かなりダイナミックな情報収集が可能だ。

 

 次に元帥閣下の孫であり中央参謀たちを姉妹に持つ秘書艦の祥高。

艦娘でありながら、なぜ孫なのか? それは美保鎮守府に有るような養子縁組なのか、それとも違うのか?

 

 その点は美保司令自身も追及したことが無かった。考えてみれば謎の多い彼女だ。

ただ美保司令も、あまり彼女の素性は知らずとも美保鎮守府の組織運営には困ることも無かったため敢えて触れなかった。

司令でありながら余りにも能天気といえばそれまでなのだが。

 

 そして当事者である艦娘、武蔵と日向である。

特に今回のスキル移動に関しては、当事者である彼女たちに関しては、あまりにも不明な点が多過ぎた。

 

 また、ほぼ同時期にスキル移動したはずなのに、現れた反応の違い……武蔵はいつもと変わらないのに、逆に日向の性格の豹変振りは何故だろうか?

 

 司令は、このときばかりは青葉が、お茶を配り終えるのを、まどろっこしく感じた。

 

(早く調査結果を聞きたいな……)

 

彼だけではないく室内の全員が同じ想いだっただろう。

 

 そんな中でも日向だけは、いつもと違ってオドオドした雰囲気のままだった。

 

それでも時々司令に向ける彼女の眼差しの奥には、かつて美保鎮守府で活躍していた頃の雰囲気を、ふと感じさせるのだった。

 

(それだけが最後の希望か)

 

そう思わざるを得ない司令だった。

 

「えっと……」

ようやく青葉がメモを開く。思わず全員が身を乗り出す。

 

「今回は青葉が持っている全てのコネクションを総動員して……いやはや大変でしたよ」

 そう言いながら彼女は、お茶をすすって、ため息をついた。

 

「おい、もったいぶるなよ」

副大臣が痺れを切らしたように言う。

 

「いえ、そのぉ」

 すると彼女は、ちょっと困惑したような表情を見せる。

 

「この件に関して司令にご相談が」

「何だ?」

 

青葉は尚もモジモジしている。

 

「ああ、やっぱりやめようかな」

 

(なんだ……日向に引き続いて、こいつも変になったのか?)

 

司令が訝(いぶか)しんでいると武蔵が声を出した。

「親父、こいつは必死で調べるあまり今回は、内外ともに相当苦労したんだぞ」

 

「あ、そうか」

司令は自分の察しの悪さに恥ずかしそうに頭をかいた。

 

更に武蔵は続ける。

「艦娘は給料も安定していて、一部のバカ共を除けば、無駄遣いすることもない。むしろ青葉のように趣味と実益を兼ねて適切に消費する方が望ましいくらいだ。だが青葉は……」

 

「武蔵さん」

 更に何かを言いかけた武蔵を青葉が止めようとした。

 

しかし武蔵は手の平を上げて軽く制した。

「いや言わせてくれ。今回は日向や私だけではない。艦娘という存在意義にも関わる内容だ。……もちろん青葉自身も、その事は承知の上で果敢に切り込んだのだろう」

 

彼女は眼鏡越しに鋭い眼差しを全体に向ける。

「そして有益な情報には資金……お金がかかるものだ。美保のような諜報部隊が自ら動くのであれば、その心配は無いのだがな」

 

思わず顔を見合わせた副大臣と美保司令。

「そうだな」

 

 ここで武蔵は、お茶をすすった。

「今回の調査は命令でも何でもなく軍部としてはむしろ触れて欲しくない部分だ。そこを切り崩そうと思えば時間だけじゃない。他にもイロイロ必要になる……分かるな?」

 

『……』

一同、沈黙。

 

「軍規スレスレという危険度に加えて青葉自身、誰にも相談出来ない孤独と葛藤。それでいながら自身も記者だから個人的に知りたくて仕方がない部分もあったことだろう?」

 

「えっと……まぁ」

武蔵の言葉に青葉は恥ずかしそうに頷いてうつむいた。

 

「そういう個人的な感情で動けば、なおさら手弁当でやらざるを得ない」

それまで鋭かった武蔵の瞳がふっと、穏やかになる。

 

 ここまで話すと青葉は下を向いたままボロボロと涙を流し始めた。

 

 これには司令も副大臣も驚いた。

 

(……そうか、青葉にも相当な重圧と苦労だったか)

 

その場に居る艦娘たちはむしろ青葉の苦労が分かっているように頷いていた。

 

 秘書艦が口を開く。

「貴女の苦労は察して余りあるものがありますね」

 

司令も続く。

「そうだな……済まなかった青葉」

 

彼が詫びると青葉は首を左右に振った。

 

「いえ……武蔵さんも仰ったように、これは青葉が自主的に調べたことですから……そりゃ正直、資金も援助してもらえると嬉しいのは確かですけど……ああ、言っちゃった」

 

泣き笑いの表情の青葉から率直な言葉が出て一同は笑った

【挿絵表示】

 

 その時司令は日向も笑顔になったのを見て安堵した。

 

(まだ笑う余裕は残っているのだな)

 

 その弱々しいまでの彼女の雰囲気は艦娘というよりも普通の少女そのものだった。

 

 




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第17話<死神博士>

司令 
死神博士か。

クマ 
ホントに人間かクマ?

タマ 
うん、間違いないニャ。

大淀 
ちょっと、不気味なあだ名ですね。




「ブルネイのアイツだろ? ……オレも小耳に挟んだよ」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第17話<死神博士>

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 青葉が言う。

「今回はホントに大変でしたけど……武蔵さんが言ったとおり、これは艦娘の存在意義そのものを問われる重要な内容でしたよ」

 

司令は副大臣を見て言った。

「スキル移動については海軍省でも分からないのですか?」

 

「ああ、あくまでも実験中という位置づけだからな」

彼は肩をすくめる。

 

「これは例の『死神博士』が絡んでいるのだろう?」

意外な事を武蔵が言う。

 

「死神……」

日向がボソッと反応する。

 

その雰囲気が山城に似ているので司令は苦笑した。

(まあ日向も基本設計は扶桑形だけどな……)

 

青葉が言う。

「クーデーター騒ぎの件は中央に居られた副大臣の方が詳しいでしょうけど」

 

秘書艦が口を開く。

「姉も一時、陸軍に拘束されて大変だったようです」

 

「陸軍?」

司令が反応すると副大臣が続けた。

 

「ああ。機敏なオレは間一髪、海軍省から逃げ出して難を逃れた……というか娘が機転を利かせてね。助かったんだが」

……ニタニタする彼。

 

司令は直ぐに、それが祥高の妹の石見であることを察した。

 

武蔵が言う。

「大体、軍の反乱なんて歴史的にも上手く行った例(ためし)が無い。今回も連中は軒並み逮捕され首謀者は誰かに狙撃されたらしい」

 

その説明に司令は「あっ」と思った。ブルネイの金城提督を思い出したのだ。ハッキリとは聞いていないが今回の騒ぎでは確か裏で彼が動いたという噂は聞いた。

 

それを察したのか副大臣もニヤリとした。

「ブルネイのアイツだろ? ……オレも小耳に挟んだよ。だいたい今回はブルネイ王室が突然、政府に揺さぶりをかけてきたのが効いたからな」

 

「は?」

事情が分かっていない司令だった。

 

青葉が補足する。

「我が国とブルネイの関係は良好なのはご存知ですよね?」

 

「ああ」

「特に原油の輸送では艦娘の護衛が重要で、それを一手に引受けて居るのが金城提督の鎮守府で」

 

司令は頷く。

「それは知っているよ。だから彼には色んな噂も付きまとう……私には、とても真似できないな」

 

司令が肩をすくめたのを見ながら武蔵が言う。

「あの提督はブルネイ王室とも関係が深いというが、まぁそういうことだな」

 

青葉も頷く。

「はい。実際、彼の存在は今回だけでなく、ブルネイを中心とした地域の安定に重要な役割を果たしているとも言われてます」

 

これには一同、頷いた。

 

 司令は、ふと思った。

(金城提督についてはこの場の全員が面識があるわけだ)

 

青葉は口元を押さえながら言う。

「実際、今回もブルネイの大淀さんを介して、いろいろ情報収集の便宜も図ってもらいましたから」

 

「へえ……あの大淀さんも元気そうだったか?」

司令が聞くと青葉は微笑んだ。

 

「はい。いつもの杓子定規な……あ、これはウチも同じですね」

青葉の言葉に副大臣も笑う。

 

「ブルネイもアレだけの規模になると集まる人や情報、カネも膨大だ。彼が悪代官にならないことを祈るばかりだ」

副大臣は冗談とも本気とも分からないことを言う。

 

「ブルネイ……」

ふと日向が呟く。場の空気が少し変わった。

 

司令は思った。

(過去の話題に触れると彼女の感情が動くのだろうか?)

 

 過去の記憶……それは彼に、あの舞鶴沖から始まる大井との出来事を思い起こさせた。

 

「話を戻しますと……」

やや間を置いてから青葉が言う。

 

「艦娘のスキル移動技術そのものは理論としては昔からあったようです。でもそれを実用レベルに引き上げたのが、あの『死神博士』こと舞鶴にいた軍医ということになります」

 

 話が一気に核心に来た。

ただ司令は、その軍医のあだ名は知らなかったので確認してみた。

 

「彼は『死神博士』って呼ばれているのか?」

「はい」

青葉は頷く。

 

「仕事以外は無頓着な雰囲気と、その姿から、いつの間にかそんなあだ名が付きました。もちろん彼が独自に進めていた研究にも由来するでしょうけど」

 

司令は更に聞いた。

「その軍医はアレだよな。私と同期で舞鶴にも居た作戦参謀の……」

 

彼女は微笑む。

「はい……確か舞鶴の参謀は以前に視察で、ここにも来られましたよね。彼と軍医は兄弟で性格から何から正反対で、それも軍では有名らしいです」

 

「へえ」

知らないのは自分だけだったかと司令は思った。

 

 ただその時、日向が少し身体を震わせているのに彼は気づいた。

「どうした? 日向」

 

「死神……」

彼の呼びかけには反応せず彼女は別のことに意識が行っているようだ。

 

 秘書艦も聞く。

「調子が悪いのですか? 日向さん……大変なら席を外してもらっても構いませんよ」

 

その言葉にハッとして反応する彼女。

「いえ……大丈夫です」

 

(どう見ても異常なのだが)

 と司令は思った。

 

ただ恐らく彼女自身もスキル移動については知りたいのだろう。

 

 武蔵が口を開く。

「親父も気付いているか? 同じスキル移動をしたのに私と日向でなぜ、こうも反応が違うのか」

 

「ああ」

こいつも、いきなり核心を突いてくるなと彼は苦笑した。単刀直入なのは彼女らしい。

 

 そのときだった。

「パパ……」

「はい?」

 

 他の者たちは、その呼びかけには違和感を覚えただろう。普段の日向の性格からは想像できない単語だ。

 

 だが司令は覚えていた。これも日向なのだ。自分の宿舎でのことを思い出しながら彼は応えた。

「どうした?」

 

「……パパ」

彼女は再度、そう言うと、さめざめと涙を流し始めた。

【挿絵表示】

 

 

 それを見た彼は、不安ではなく安堵した。

 

(日向自身も今回、イロイロ葛藤したのだろう。もし出来ることなら今、この場で全て吐き出したら良い)

 




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第18話<ケッコンとリコン>

司令 
まったく厄介だな。

クマ 
スキル移動って便利クマ。

タマ 
ホントにそんな事が出来るニャ?

大淀 
信じられない話ですね。



 

「ホントに、どっちが親なんだろうな」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第18話<ケッコンとリコン>

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 艦娘も含めた執務室の面々は静かに涙を流す日向を見守っていた。

 

 そもそも負傷しても無い艦娘が涙を流す状況は珍しいことだ。

もちろん今は別の意味でも特異な状況といえる。

 

 つまり艦娘には明確な喜怒哀楽があること。この場に居る面々は多少なりとも、その事は理解していた。

 

 そして日向は目の前の出来事(痛み)に対してではなく、目に見えない思考=精神的な理由で感情的になっているのだ。

 

少し落ち着いた日向は呟くように言った。

「私は、とても幸せだと思う」

 

それは、およそ艦娘らしからぬ発言だった。人間臭いとでも言うのだろうか。

 

 それについて美保司令は差ほどでも無かったが副大臣は驚いた。

(艦娘が『幸せ』を感じるのか?)

 

 だが彼は直ぐに自分の娘……養子となった艦娘『石見(いわみ)』を思い出すのだった。

 

(そうか、彼女のことを思えば有り得る事か)

石見……祥高型三姉妹の末っ子であり、一番感情的な子だが、彼ら夫婦の前では意外なほど素直になり、冗談も言う。

 

(養子になってからの彼女はとても落ち着いたし、良い意味で感情が豊かになったよなあ)

そう思った彼は一人で、しきりに頷いていた。

 

元々副大臣夫妻には子供が無く、石見が養子になったことで彼ら夫婦の関係も以前より良くなった気がした。

 

「そうか、日向もようやく峠は越えたかな」

ちょうどその時、武蔵が意味深なことを言った。

 

「峠?」

美保司令が不思議そうな顔をする。

 

すると武蔵は苦笑した。

「親父の鈍さは天下一品だな」

 

「いや……すまん」

司令は苦笑した。

 

「日向が苦しんでいる事は知っていたが、その……」

 

武蔵は軽く手を上げて言った。

「良いよ親父。そういう鈍さも含めて個性だと思えば何でもない」

 

執務室の司令と日向以外の全員が微笑んだ。

 

「ホントに、どっちが親なんだろうな」

副大臣の言葉に美保司令も返す言葉が無かった。

 

 ただ、そうは言うものの副大臣自身、娘の石見には諭されることが少なくなかった。艦娘とは……特に、この祥高型というのは特異だ。

 

現役を退いても、なお最前線に影響を与え続けるという点。長女である出雲からして優秀だ。(性格に難は有るが)

 

副大臣がそう考えていると武蔵の表情が、鋭くなった。

「スキル移動の問題点は、そこだと私は考えるのだ」

 

全員が彼女に注目する。

「親父……いや美保司令も日向も生真面目だろう。これは裏を返すと特定のことに執着しやすいと言える」

 

 ちょっとボンヤリしていた日向も武蔵を見た。

 

 彼女はメガネの中央を押さえつつ言った。

「誤解しないで欲しいのは、それが悪いのではない。むしろ私のような大雑把な性格の方が軍隊組織では使い難いだろう」

 

一同は苦笑する。場が少し和んだ。

 

ここで武蔵は一呼吸置く。

「だがスキル移動では、その性格が災いするように感じる」

 

一同、固唾を呑んだ。

「日向は何かに固執するというよりは、向上心が強い性格だな。それがスキル移動では反動となって現れるようだ」

 

「つまり」

副大臣が口を開く。

 

「『反動』って言うのが鬱(うつ)みたいな症状が出ることか?」

 

彼を見て武蔵は頷く。

「そうだな。鬱もあるが逆……つまり躁(そう)に出ることもある。早い話が過度に感情的になることだ」

 

 ふと祥高が口を開く。

「まるで艦娘が離婚したときに似ていますね」

 

「そうだな、そういえば似ているな」

武蔵は腕を組んで頷く。

 

「リコン?」

不意に日向が呟く。

 

司令が言う

「そうか、日向は『ケッコン』や『リコン』は、よく分からないよな」

 

彼女は少し考えてから応える。

「いや、噂程度なら……横須賀でも良く聞いたし」

 

そう応える彼女は会話が増えるに連れて少しずつ表情が明るくなってきた。

安堵する司令。

 

それを受けて武蔵が言った。

「そういえば美保では司令夫妻以外のケッコン例は無いな」

 

「あー、そうだな」

直ぐに反応する副大臣。

 

すると、こういう情報に通じてそうな青葉も口を開いた。

「国内の主要鎮守府でケッコンしている提督のほとんどは、一対一が多いんですよ」

 

大きく頷く副大臣。

「そうだな……日本国内での提督の重婚は禁止されてはいないが原則、軍令部の許可制だ。それも敷居になっているようだが。何しろ艦娘とリコンするとするとイロイロと面倒だからな」

 

「そう……なんだ」

そこで反応する日向。やはり知らないのは彼女だけらしい。

 

「リコンすると……どうなるの?」

改めて質問する日向。

 

 




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第19話<痛みの記憶>

司令 
艦娘の伝統か。

クマ 
電灯? 何だクマ。

タマ 
違うニャ。伝統だよ。

大淀 
武蔵さんって、深いんですね。



 

「歴史的背景が私にはあるのだろう」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第19話<痛みの記憶>

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「リコンすると……どうなるの?」

改めて質問する日向。

 

これに祥高が応える。

「人間には何とも無いけど。リコンした艦娘は精神に破綻を来たす子が、ほとんどなのよ」

 

「……」

日向は無言だったが、ちょっと震えているようにも見えた。

 

雰囲気を和ませるように副大臣が大げさな口調で言った。

「祥高姉妹がケッコンがらみの法整備で尽力したんだよな」

 

「ええ……」

事実、そうなのだろうが少し恥ずかしそうな顔をした秘書艦だった。

 

「しっかし、よく分からんが」

副大臣がソファーに反り返って言う。

 

「リコンとスキル移動で現れる症状が似ているというのは妙だな」

 

「ちょっと気になるのだが」

ここで武蔵が深刻そうな表情になる。

 

「スキル移動の逆、つまり新たに他の艦娘のスキルを受けた者には似たような影響というのは無いのかな?」

 

司令も彼女に聞く。

「武蔵のスキルは、同じ武蔵に渡したんだよな」

「そうだ」

 

「それって、同型艦なら良いだろうが、もし仮に戦艦クラスのスキルを巡洋艦とか駆逐艦に移したらどうなるんだ?」

 

この言葉に一同はハッとした。

 

 一部の者は思わず祥高を見た。状況的に似ている……つまり祥高型とは試験的に戦艦の戦闘能力を巡洋艦に乗せたものだった。

 

「だが祥高たちが変になった事はない。むしろ頭脳も腕力も優秀なままだぞ」

副大臣の発言に、再び場が和んだ。

 

 武蔵が青葉に聞く。

「その辺りの情報は掴んでいないのか? 青葉」

 

「えっと……」

慌ててメモを開く彼女。

 

「そもそも的にスキル移動自体が公式的なものではありませんから……」

そう言いながらページをめくり続ける彼女。

 

「ただ……そのぉ、言い難いのですが」

青葉は特定の項目を見つけたようだ。

 

「あの大井さんって確か舞鶴に居ましたよね……司令もご存知でしょうけど」

 

「ああ……」

彼女に言葉に一瞬頷いた司令は直ぐにギョットしたような表情になる。

 

「おい、まさか……彼女が当時スキル移動をしてたとでも言うのか?」

 

「いえ……」

司令の表情に少し引き気味の彼女はそれでも続けた。

 

「あくまでも噂ですけど……いろんな情報を繋ぎ合わせると、どうも彼女はスキル移動技術を使ったような事例が多くて」

 

 すると突然、日向が頷く。

「その噂、聞いたことがあるな」

 

「まさか……」

美保司令は深刻な表情になる。

 

 確かに当時の彼女は妙に焦っていた。もともと彼女は感情の起伏が激しい子ではあったが。

 

「しかし、それが彼女の轟沈と関連があるのか?」

 

 司令は、ふっと大井が沈んだ冬の舞鶴の海戦を思い出した。彼にとっても痛い記憶だが、大井にとっても同様だろう。

 

秘書艦が言う。

「大井を、ここへ呼びますか?」

 

「いや……まだいい」

司令は否定した。正直、彼自身の整理が付いていないこともあった。

 

 それに、仮に事実がそうだったとしても、彼女がすんなりそれを認めるとも思えなかった。プライドの高い彼女であればなおさらだろう。

 

 祥高は話題を変えて日向に尋ねる。

「だいぶ整理が付いたのかしら、日向さん」

 

「はい」

 

やや間を置いてから彼女は口を開いた。

「横須賀でスキルを削除して、私は何て小さな存在なんだと思った。こんな状態で果たして異管する二人を連れて無事に美保へ行けるのだろうか……と葛藤もしたんだ」

 

執務室は静まり返る。

 

「だが先発した武蔵が言った言葉が……」

そこで何かを思い出そうとして詰まる日向。

 

 すると武蔵が腕を組んで口を開いた。

「我々は単なる兵器じゃない。生きて、姉妹として、新しい歴史を美保の地でつくろうぞ……と言ったな」

 

少し微笑む武蔵に、日向も笑顔で返した。

 

「へえ」

これは感心する副大臣。

 

日向は改めて続けた。

「私には、艦娘の新しい歴史といわれてもピンと来ない。でも艦娘という文化の流れ……姉妹は左右だが親子は上下関係だ。つまりそれが新しい歴史になるんだといわれた」

 

「へえ、凄いですね」

こっちも感心している青葉。

 

それを聞きながら、司令は言った。

 

「まったく……武蔵は哲学者のようだな」

 

「そうだな……きっと、そういう歴史的背景が私にはあるのだろう」

武蔵も微笑んだ。

 

 




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第20話<テスト艦娘>改1.2

司令
胸が痛いな。

クマ
病気か?クマ。

タマ
違うニャ、心だヨ。

大淀
艦娘もイロイロありますから。



「日向の気持ちはね、よく分かるヨ……」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第20話<テスト艦娘>改1.2

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思い出したように司令は聞いた。

「もともとあった日向のスキルは誰に渡したんだ?」

 

「……」

だが彼女は無表情のまま黙っていた。

 

「今、無理に答えなくても良いわ。後で個別に確認しましょう」

直ぐに秘書艦の祥高が気を利かせる。

 

「はい」

日向は少し明るい表情になって言った。

 

そのやり取りを見ていた司令は、彼女にはまだ心の傷があるのだなと理解した。

 

「そっか、そうなんだ……」

青葉が突然、妙に納得したようなことを言う。

 

副大臣が彼女を見る。

「どうした?」

 

「いえ……」

パラパラとメモを開きながら彼女は説明した。

「青葉が横須賀提督の周辺を調べていくと彼の言動には、ちょっと矛盾というか変だなって思うことがチョコチョコあったんですが……今のやりとりで何となく分かりました」

 

「?」

彼女の説明に首を傾げた美保司令。

 

だが武蔵も腕を組んで頷いていた。

「横須賀の提督は意外に人格者だからな。今回の件では私も彼を振り回すことになってしまって……結果的には、かなり迷惑をかけたと反省しているのだ」

 

 思わず顔を見合わせて苦笑する司令と副大臣。そんな気遣いの言葉が超弩級戦艦である彼女の口から出ることが意外だったから。

 

そんな二人に気付いた武蔵が反論する。

「何だ二人とも……見くびって貰っちゃ困るな。そもそも戦艦というのは戦闘能力だけでその名を掲げているわけではないのだぞ」

 

「確かにそうだ……艦娘を甘く見てはいけない」

「同感です」

二人の男性は頷き合った。確かに彼女の言葉には説得力があった。

 

資料をまとめながら祥高が言う。

「日向さんと武蔵さんは今日の午後、休暇扱いとします。後はゆっくり休んで下さい」

 

『ハッ』

秘書艦の言葉に敬礼をした二人。

 

『武蔵と日向、退室します』

退室しながら武蔵は軽く日向の腰に手を添えて気遣っていた。

 

執務室には司令夫妻と副大臣、それに青葉が残された。

 

 廊下で武蔵は言った。

「大丈夫か?」

 

「ありがとう」

頷く日向。

 

「体は何とも無いかと思っていたけど後からジワジワ来るね」

ポンポンと自分の体の各部を叩く彼女。

 

その言葉に軽く頷く武蔵。

「そうだな。スキル移動に関しては我々も軍部も、下手したらあの医師も何も分からない。最後は自分を信じるしかないだろうな……では私は失礼する」

 

軽く手を上げて立ち去る武蔵野の後姿を見つめながら日向は呟いた。

「確信か……」

 

「日向、ダイジョウブ?」

急に声がした。

 

その方向を振り向くと階段のところに金剛が軽く腕を組んで立っていた。

 

「うん、有り難う」

そう応えながらも日向は少し意外だった。金剛といえば豪放かつ大雑把な性格だ。意気消沈気味の自分の目の前に、わざわざ現れること自体が想定外だったから。

 

だが日向は、さっきの武蔵の言葉を思い出す。

『戦艦というのは戦闘能力だけでその名を掲げているわけではないのだぞ』

 

金剛も戦艦であり、しかも長女だ。一方の自分は……途中で改装されたとは言え、やはり戦艦には変わりない。

 

ただ疑問に感じたのは、なぜ金剛が自分を待ち構えていたのか? という点だ。

 

その疑問に答えるように金剛が口を開いた。

「日向の気持ちはね、よく分かるヨ……」

 

そう言いながら彼女はさりげなく周りを見回した。金剛にしては珍しく慎重だなと日向は思った。

 

 だが次の瞬間、彼女は信じられない言葉を耳にする。

「ワタシもね……英国でスキル移動のテストサンプルだったんだよ」

 

「え?」

驚愕する日向。

 

「ウフフ」

屈託の無い笑顔とは裏腹に寂しそうな表情を見せる金剛。

 

「ワタシ、日本からの発注だったでしょ? だから逆に英国海軍としてもテストしやすかったと思うネ」

 

「そう……」

それ以上は何も答えられない日向。だが金剛の普段のチグハグな言動の理由が何となく分かったような気がした。

 

 そんな日向の思いを悟ったのか金剛は妙に安堵した表情を浮かべた。

 

そういえば彼女はいつも大げさな言動で自分を誤魔化しているのではないだろうか? ふと、そんなことも感じた日向だった。自分はとてもそういう性格ではないが金剛のようなタイプならそれも有り得るのだろう。

 

 一方、執務室では青葉が司令から声をかけられていた。

「君も今回はイロイロ取材して大変だったろう。まずはご苦労さん」

 

司令の言葉に萎縮する青葉。

【挿絵表示】

 

「いえ……というか、むしろ青葉が勝手に動いた部分も結構、あったんじゃないかと恐縮至極です」

 

すると副大臣が自分の頭の後ろに手を廻しながら言う。

「いや、ブン屋(記者)は、そのくらいの勢いがあったほうが良いよね」

 

そんな男性二人を見て微笑み軽く頷く祥高。

「司令も仰ってましたが青葉さんも取材では取材費とかも大変でしょう。必要経費は今後は、こちらでも見ますから……もちろん内容は吟味しますが貴女の判断で必要なものは請求書を大淀さんや霞ちゃんに廻して下さい」

 

司令も言う。

「君の活動は取材という観点と同時に美保鎮守府の諜報機関としての内容も十分にある。そこは上手にやってくれることを信じているよ」

 

少し顔を紅潮させた青葉は小声で「はい」と頷いた。

 

「……諜報機関か」

副大臣がノンビリした口調で言う。

 

「まだ甘いけどな」

その言葉に苦笑する司令。

 

すると副大臣は身を乗り出す。

「これはオレの案だが……どうだろう、あの艦娘と一緒に居たドイツの諜報部員が居ただろう? 彼に協力を仰いだらどうか?」

副大臣の言葉に、顔を見合わせる司令と秘書艦。

 

彼は続ける。

「日独同盟は健在だ。今はアメリカも協力的ではあるが、ブルネイでお前も感じたと思う。あのドイツ人のプロとしての仕事っぷりを」

 

「……そうですね、彼は見事でした」

頷く司令を見て彼は立ち上がると窓辺に立つ。そこには大山が見えた。

 

「美保は地勢的にも日本海を挟んで舞鶴に継ぐ要衝だ。特に美保は海軍の拠点としての認識は、恐らくまだロシアにもシナにも薄い。それが逆に諜報部隊としては利点となる」

 

すると青葉。

「でも大臣、美保はシナに何度も攻撃されて……」

そこでメモ帳をめくりながら、ちょっと困惑したような表情になる彼女。

 

「どうかしましたか?」

祥高が聞くと、彼女はちょっと声を潜めるようにして言う。

 

「艦娘の技術、特に量産化については各国が注目しています。特にその軍事的な力に気付いたシナやロシア、北方共和国が動き出しているんです」

 

「……だろうな」

これは副大臣。

 

青葉は続ける。

「米国も喉から手が出るほど艦娘の技術は欲しいはずですが、恐らく元帥閣下がオスプレイなどの支援と交換条件で技術提供の話をつけたと思われます」

 

「その噂はオレも聞いたことがある」

窓辺に居た副大臣が祥高をチラ見しながら言う。秘書艦は少し苦笑していたが……その反応は、あながち見当違いでもないことを暗示していた。

 

それを受けるように副大臣は続ける。

「そのシナが何度も山陰に来ているのは、連中が舞鶴と美保をを取り違えているのか或いは、ここが艦娘を中心とする重要な拠点となりつつあるのを察知しているのか……省のお偉方は前者だというがオレは後者だと思うナ」

 

美保司令も腕を組んだ。

「それはつまり、シナの諜報能力も高いということですか?」

 

副大臣は立ったまま苦笑した。

「残念ながら、そういうことだ。だいたいシナやロシアは諜報能力には昔から長けている国家だ。我が国は艦娘が出現してからは、ちょっと軍事的に彼女たちに頼り過ぎてしまって、そこが弱くなったかも知れない」

「はあ……」

 

副大臣は司令に近寄って言った。

「おいおい、美保の司令がその反応では困るなぁ」

 

そう言いつつ彼は再びソファに座る。

「実は、一連の話はもっと深刻なんだ……スキル移動と艦娘の量産化から何か見えてこないか?」

 

『……』

全員がお互いに顔を見合わせる。無言の司令を見て、ちょっとため息をつく副大臣。ただ青葉だけは何かを察したようだった。

 

彼は今度は青葉を見て言う。

「もし、お前が海軍省のトップだったら、スキル移動と艦娘の量産化で何をしたいと思う?」

 

副大臣の言葉に彼女は答える。

「艦娘の口から言うのも何ですけど……青葉だったら、艦娘を量産化して無敵艦隊を作ります!」

 

「……」

ハッとしたように、しかし直ぐに表情を曇らせた美保司令。

 

それを見た副大臣は軽く頷いて真面目な顔で言う。

「そこだよ。軍部はスキル移動を使って艦娘を純粋に攻撃ロボットとして兵器量産の足掛かりにしようとしてる。兵士育成の合理化、つまりはシステム化だ」

 

司令は聞く。

「スキル数値そのものは量産化出来ないのですか?」

 

副大臣はため息混じりに言う。

「さすがにそこまでは、まだ無理らしい……だがな、スキル移動によって日向にも見られた現象、つまり記憶障害や鬱に近い症状も出るようだ」

 

「……」

司令は黙った。

 

青葉が付け加える。

「はい。量産化した艦娘でも精神不安定は出るのですが、特に初期型の艦娘(オリジナル)のスキル移動では激しい記憶障害が認められています」

 

司令は呻(うめ)くように反応する。

「ひょっとして……大井か?」

 

青葉は頷く。

「はい……大井さんは舞鶴でスキル移動の実験を受けたという噂で……それで性格が大きく変わった上に記憶が失われたんじゃないかと」

 

「そうなのか?」

司令は頭を抱えた。

 

ここで祥高が口を開いた。

「スキル移動は軍にとっては夢のような技術ですが、そのために艦娘の個性を著しく歪めること、つまり艦娘の個性や人格を押し潰す……端的に言うと『殺す』ことになります」

 

絶句する司令。

「危うく……日向は死に掛けたわけか?」

 

再び青葉。

「そのことに気付いた舞鶴の作戦参謀は大井さんやお兄さんを止めようとしたんです」

 

司令は青葉を見た。

「でも……止められなかったのか」

「はい」

 

美保司令の顔が苦痛に歪む。

「スキル移動……知らなかった」

 

少し考えて彼は呟くように言った。

「まさか私は、そんな状態の彼女を出撃させたのか?」

 

青葉が言う。

「大井さんの気持ちも分かります。私だって、そんな技術があったら飛びつきたい……ただ調べた結果はスキル移動の反作用の多さです。それに当時はまだ初期段階ですから、今以上に不安定だったと思われます」

 

「……」

司令は黙った。

 

副大臣が口を開く。

「お前も知っているだろうが海軍省内にも派閥があってね。スキル移動を推進する派と、そうでない派……元帥や舞鶴の作戦参謀は反対派だが、この前、反乱を起こした一派は推進派だ」

「……」

 

副大臣は続ける。

「青葉も言った通りスキル移動は、まだ未完成だ。だが一部のアホ連中がこれに浮かれてね。この技術で深海棲艦や、さらにシナやロシアまでも巻き返した上で世界制覇を目論んでいるようだ」

 

「それで反乱を?」

これは祥高。

 

「ああ……それに気付いた元帥閣下が阻止を図ったんだ。米軍と手を結ぶのもアホ連中の暴走を止めたいというのもあるようだが」

 

青葉はメモ帳を見てボソッと付け加える。

「舞鶴では大井さんと仲が良かった北上さんが一番心配していて……作戦参謀は以前美保に視察に来たとき、そのことも北上さんに、お詫びしたかったようです」

 

「……」

それを聞いた美保司令は、すべての糸がつながっていく感覚を覚えた。同時に、これだけで話が終わるはずが無いと思うのだった。

 

そのとき、司令と秘書艦の持っている端末がアラート信号を発した。

同時に直ぐ内線が鳴った。受話器を取った秘書艦。

「何事ですか?」

 

 




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第21話<オスプレイ墜落>

司令 
駆け引きか、苦手だな。

クマ 
えぇ? 司令は駆けっこするクマ?

タマ 
違うニャ。魚釣りだニャ。
【挿絵表示】


大淀 
フフフ、どちらも違うわよ。でも……美保の課題ね。



「ほう、やはり宿毛に居たか」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第21話<オスプレイ墜落>

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 内線を受けながら秘書艦は少し深刻そうな顔をした。それを見ながら司令も専用端末の液晶画面を見た。

 

実は副大臣も海軍省が支給した同類の端末を持っていた。彼も自分の端末を見てから呟くように言った。

「おい」

 

「ああ……」

司令も頷く。二人の端末の画面は緊急事態を告げていた。

 

そんな二人のやり取りを見ながら内線電話を置いた秘書艦は青葉に言った。

「青葉さん、有り難う。戻って結構です」

 

「……は、はい」

【挿絵表示】

 

何か新しい情報が得られるかと思った彼女は、ちょっと残念そうに敬礼をして退出する。

 

それを見送るようにしてから秘書艦、祥高は口を開いた。

「お二人にも通達が来たと思いますが……ケリーさんのオスプレイが墜落しました」

 

二人の男性は頷いた。

 

司令が聞く。

「原因はまだ分からないよね」

 

秘書艦も頷く。

「はい……ただ場所が日向灘付近で、米軍の依頼で直ぐに宿毛湾泊地の艦娘部隊が救援に向かったそうです」

 

「宿毛湾か」

副大臣は少しホッとしたようだ。

 

その時、再び内線が鳴った。

「はい」

 

受話器を取った秘書艦は少しやり取りをした後、自分のデスクに移動した。

「……そうね。分かったわ、確認します」

 

恐らくまた緊急事態かと思った司令だったが、彼女はあくまでも冷静だった。

 

祥高は少しの間、自分の端末を確認してから顔を上げた。

「司令、この鎮守府のネットワークにもサイバー攻撃が仕掛けられています」

 

「何?」

反応する司令。

 

秘書艦は続ける。

「現状は大淀さんと霞ちゃんがブロックをしています。一部、侵入したウイルスも排除しました」

「そうか……」

 

「米軍からも注意を喚起するメールが来たそうです」

それを聞いた副大臣は何故かニタニタしていた。

 

怪訝そうな顔をする司令に彼は詫びた。

「済まん、政治家をやっているとな、こういう非常事態があるとつい、ニタニタするクセがついてしまってね」

 

その時、彼の携帯が鳴る。一瞬、画面を見た彼は呟いた。

「珍しいぞ……出雲からだ」

 

「姉から?」

祥高の返事を待つまでも無く、彼は電話を受ける。

 

「オレだ……」

最初はニヤけていた彼だったが、直ぐに深刻な表情に変わった。

 

「……分かった。直ぐに全軍に指示が出るだろう……ああ、オレも戻る」

 

電話を切った彼は言った。

「直ぐ中央に戻らないといけない」

 

司令は聞く。

「そちらも緊急事態ですか?」

 

「ああ、そのサイバー攻撃は、ここだけじゃない。軍令部、中央省庁、全ての公的機関に一斉に仕掛けられたらしい」

 

立ち上がって身支度を始めた彼は言った。

「オレの予想だと、オスプレイが落ちたのも無関係ではないかもな」

 

「なるほど……」

司令も頷く。

 

副大臣は続ける。

「出雲が言うには全鎮守府に、特命が出るらしい」

 

「特命?」

司令は不思議そうだったが、既に何かを知っているような秘書艦が補足する。

 

「各鎮守府から選抜隊を編成して反撃を加えます」

「反撃って……敵は?」

「まだ特定されていませんが、ほぼ見当は付いているようです」

 

副大臣も続ける。

「深海連中と、どこかの国が連合してるな」

 

その時、秘書艦が何かに反応する。

「どうしたの? 寛代ちゃん……」

 

それを見た司令は、きっと寛代が何か受信したのだろうと思った。

 

やり取りをする中で彼女の表情が次第に明るくなっていく。

「そう、それは良かった……引き続き新しい情報が来たらお願いね」

 

二人の男性は固唾を呑んで見守った。

 

祥高は口を開いた。

「ケリーさんたち、オスプレイの乗員は全員の無事が確認されました」

「ほう」

「それは良かった」

 

「……なお」

秘書艦は続ける。

 

「この安否情報は、現地に居た別の部隊から……」

そこまで言ったとき外線電話が鳴った。

 

「珍しいな」

司令が呟くと、いったん大淀さんが受けたらしい。直ぐに内線で呼び出し音が鳴る。

 

「はい……ちょっと待って下さい」

秘書艦が保留ボタンを押して司令に声をかける。

 

「司令にお電話です」

「こんな時に……誰だ?」

「ええ……」

困惑したような祥高に、取り敢えず司令は電話に出た。

 

『あらぁ、ボクちゃん。お元気だった?』

「あ……」

それは、あの『クネクネ武官』だった。

 

『やぁね、そんな顔しなくても良いじゃない』

まるで自分の反応を見透かしたような彼の台詞に司令は苦笑した。

 

秘書艦も困惑していたが、司令のやり取りを聞いた副大臣は内容を悟ったようだ。

「ほう、やはり宿毛に居たんだな」

 

意味ありげに呟く副大臣に秘書艦は問う。

「ご存知だったのですか?」

 

「ああ……」

彼は、またニタニタした。

 

「祥高は石見から聞いてなかったか? 宿毛にはイタリアだ。そして呉にはだな……」

そこで今度は司令の携帯に着信だ。

 

「はい?」

慌てた司令はイタリアとの電話を早々に切り上げて、直ぐに携帯を取る。そもそも彼の端末は、ほとんど軍関係……元帥や統括官ぐらいからしか来ないのだ。

 

だが受話器の向こうから聞えた声を聞いた彼は驚愕した。

『お元気かな?』

 

「……え?」

それは紛れも無く、あのドイツ武官だった。

 

司令の反応を見た秘書艦は、直ぐに事情を察した。

「呉にはドイツ武官と……U511ですか」

 

司令の電話の相手は続ける。

『ミス・ケリーは無事だ。また今回の背景は落ち着いて説明したいところだが……取り急ぎオスプレイの無事を伝えよう』

「有り難うございます」

『フフフ、相変わらずだな、君は……また近いうちに、再会出来ることを楽しみにしているよ』

そう言って彼は電話を切った。

 

「驚いたな」

呟く司令。

 

副大臣は言う。

「何となく察してくれたと思うが、宿毛湾近海をリベッチオとイタリアが、呉周辺にはU511とドイツが情報収集活動を展開中だ……もちろんもと元帥閣下は承諾済みだから誰も何も言わないよ」

 

少し肩をすくめて彼は続ける。

「恐らく彼らは相当な情報を集めている。そして、なぜ彼らは美保に電話をしてきたと思う?」

 

副大臣の問い掛けに司令は何かを察した。

「あ……そうか。意図的に傍受されることを?」

 

その答えに頷く副大臣。

「諜報活動とは、こういうことだ。高度な駆け引き……まあ人の良いお前が美保の司令官というのは未だに解せないがな」

 

その言葉に司令は、ただ苦笑した。正直それは彼が一番自覚している。

だが諜報部隊以前に、なぜ艦娘だけの鎮守府に自分なのか? それが一番理解し難かった。

 

それに以前、祥高姉妹に言われた言葉が気になっていた。

『貴方は艦娘との親和性が高いのよ』

 

その言葉の真意は彼自身、よく分からなかった。

ただ気がつけば彼は祥高とケッコンしていたし、娘も生まれた。

 

彼女たちは、そういったことも含めて未来まで見越した言葉だったのだろうか?

 

 

 ちょうどその頃、ブルネイの泊地でもネットワークから大混乱が生じていた。

 

「提督、大変です!」

【挿絵表示】

 

慌てふためいた大淀が執務室に飛び込んできた。

 

「hey、大淀。らしくないネ」

ソファで紅茶をすすっていた金剛が顔を上げる。

 

緊急事態とは裏腹に余裕タップリの金剛の姿……その落差に、戸惑う大淀だった。

 

「えっと……」

視線を上げた彼女は、金剛の向こうの窓辺に提督の後姿を認めた。

 

助けを求めるような声で大淀は言った。

「提督……」

 

窓の外を眺めなから腕組みをしていた彼は振り返る。

「金剛の言う通り『お前らしく無い』といえばそれまでだがな……事態は、かなり酷いか?」

 

既に、ブルネイの緊急事態を予測したような彼の言い方……

(ああ、これが私たちのいつもの提督だ)

 

彼女は何があっても動じない、いつもの彼の姿に心がスッと落ち着くのだった。

 

(なるほど、だから金剛さんも、いつも落ち着いて居られるのね)

すべてを包み込む大きな人……そんなことを思いながら彼女は報告をする。

 

「はい、緊急回線も含めた全てのネットワーク回線がダウン、一部にウイルスが侵入しています。明石さんと夕張さんが復旧を試みていますが……」

 

提督は問い掛ける。

「侵入経路は、まだ分からないか?」

 

「それが……」

やや言葉を濁らせる大淀。

 

だが提督は言う。

「あの美保から持ってきたシステムか?」

 

言葉を選ぶようにして大淀は説明する。

「恐らく……そうです。美保のデータ自体が巧妙なバックドアに成っていたようです」

 

直ぐに金剛が反応する。

「じゃ、それを作ったアメリカが犯人ね?」

 

すると首を振る大淀。

「いえ……攻撃を仕掛けたのは……」

 

そこで提督が口を開いた。

「第三勢力……恐らくシナ辺りだろ?」

 

彼の言葉に少し驚いたような大淀。だが、この洞察力の高さも提督なのだ。

 

彼は改めて全てを悟ったように頷いた。

「取り敢えずシステムの処置は、お前たちに任せる。オレはオレで動かにゃ成らんな……」

 

「はい」

事態は緊迫しているが、それでも大淀には安心感があった。

この提督の元に居る限りは、何が起こっても絶対に大丈夫だという気持ちになる。これがブルネイなのだ。

 

外の景色を見詰めながら思案をしていた提督は、結論を導くように言った。

「そうだな……いい機会だ。アイツを呼ぶか」

 

「アイツ?」

呟く大淀。

 

「ねえ、アイツって誰?」

金剛も問い掛ける。だが提督は、それ以上は何も言わなかった。

 

窓の外の椰子の木が、風で揺れていた。

 

 




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第22話<因縁>(改1.2)

司令 
そういえば祥高型姉妹って名前が不思議だな。

クマ 
えぇ? 司令は考えたこと無いクマ?

タマ 
そうだニャ。旧国名だニャ。

大淀 
そうね。でも秘書艦だけ名前が……。



「旧『出雲国』に絡んでいるのも、やっぱり偶然ですか?」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第22話<因縁>(改1.2)

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「さて」

スマホの画面を見ていた副大臣は立ち上がった。

 

「空軍美保基地の定期便に席を設けてくれるようだ。午後いちばんの便で入間(いるま)へ飛べる。そこから中央へ戻るよ」

 

「では空軍基地まで、誰かに送らせましょう」

司令が言うと副大臣は笑った。

 

「いや、陸軍からも今回、中央へ行く人が居るらしくて彼らの車が、ここに立ち寄ってくれる手筈(はず)になっているんだ」

その言葉に思わず顔を見合わせる司令と秘書艦。

 

祥高は微笑んだ。

「手回しの良さは、相変わらずね」

 

「ははは、祥高に言われると返す言葉も無い……ホラ、来たようだぜ」

窓辺から見下ろす副大臣。ちょうど陸軍の車が鎮守府玄関に到着したようだった。

 

そのことを内線ではなく無線を受けたらしい秘書艦も反応する。

「……あ、寛代ちゃん? そう、分かったわ」

 

それを見ながら司令は言った。

「この地域では陸海空の連携が取れているのが幸いですね」

 

それに頷いた副大臣。

「ああ、まったくだ。中央では何かと世知辛いんだよ。だからオレは美保に来ると、この土地の雰囲気にホッとするな」

 

「田舎だからですか?」

司令が聞くと彼は苦笑した。

 

「いや、ソレばかりじゃないんだけどね」

そう言いながら彼は鞄を抱えて軽く敬礼をする。

 

「迎えも来たようだから、失礼するよ」

 

司令も応える。

「せっかくですから私たちも降りて陸軍に挨拶しましょう」

 

副大臣を先頭に三人は揃って執務室を出ると、そのまま鎮守府の玄関へ向かった。

 

 階段を下りながら何気なく副大臣が言う。

「こういう小さい鎮守府も良いものだな」

 

司令も反応する。

「そうですね、最初は何かと違和感がありましたけど、慣れたら使い易いものです」

 

 一同が一階のエントランスホールから外へ出ようとすると、ちょうど訓練を終えた神通が入口から入るところだった。

 

彼女は言った。

「あ……今、お呼びしようと思っていました。陸軍の方が来られています」

「ああ」

 

 神通は微笑むと、副大臣に会釈をして自らドアを開いた。玄関近くには数名の駆逐艦娘が居たが彼らの姿を見てサッと後ずさりをした。

 

 正面玄関ロータリーには既に陸軍の車両が停まっていた。驚いた事は陸軍米子駐屯地の司令が、わざわざ降車して出迎えてくれたことだ。

 

困惑する美保司令と秘書艦を見て陸軍司令は敬礼をして微笑んだ。

「艦娘の皆さんにはお世話になっています。実は今回、私たちも市ヶ谷に行く用事がありましてね」

 

そう言いながら彼は軽く制帽を持ち上げて副大臣に近寄った。

「貴方も水臭いな。何度もこちらに戻って居るなら、私にも一声かけてくれれば良いのに」

 

それは意外にも少し砕けた言い方だった。

 

(この二人は何か関係があるのだろうか?)

美保司令は思った。

 

「あ、あはは……」

なぜか、やや硬直した副大臣。

 

陸軍司令が振り返る。

「お二人なら話しても大丈夫でしょう……この副大臣と私は旧知の仲なのです」

 

「へ?」

思わず変な声が出る美保司令。ただ秘書艦は知っていたらしく平然としていた。

 

 だが続けて発せられた副大臣の台詞に二人は驚く。

「いぁ、幼なじみが地元の指揮官になると、ちょっと抵抗感があるからな……」

 

『え?』

といった表情の海軍の二人に副大臣は言った。

 

「隠すつもりも無かったけどね。オレも陸軍司令も、ここの出身なんだよ」

 

「あ、そういえば……」

美保司令は地元の古い代議士を思い出した。

 

「ここの埋立計画を出した人……何十年も前の話だったかな? 地元初の総理になるって言われた破天荒な大臣が居ましたね」

 

すると副大臣は頷いた。

「ああソレ、オレの爺さん」

 

「え?」

思わず絶句する美保司令だった。

 

 陸軍の運転士に鞄を渡しながら副大臣は続ける。

「だから陸軍司令とオレたち……お前も含めた我々は、同郷の士ってことだ。まぁ、これに祥高も絡んでね……因縁めいた感じもするな」

 

「因縁ねえ……」

陸軍司令も苦笑していた。

 

「昔から、君が話し出すとキリが無いよな。そろそろ行こう」

「あぁ悪りぃ、悪ぃ。空軍も、あんまり待たせたら迷惑だからな」

 

そして車両に乗り込む直前に副大臣は美保司令に言った。

「だいたいオレとお前は、もう義兄弟なんだから……落ち着いたら、もっと驚くこともイロイロ話してやるよ」

 

そして見送りに出てきた数名の艦娘たちにも軽く手を振って彼らの車両は出発した。

 

「副大臣さんって相変わらずですね」

駆逐艦を連れた神通が苦笑している。

 

「トンだ義兄弟だよな」

司令も腕を組んで呟く。

 

 するとその様子を撮影していた青葉が近づいて来た。

【挿絵表示】

 

「あの副大臣も調べると相当な曲者ですけどね……とっても興味深いですよ」

 

「例えば?」

司令の返事に待ってましたとばかりニタニタする彼女。

 

「青葉も最初、彼が頻繁に美保に来るのは艦娘目当てだとばかり思ってたんですよ」

 

その言い方に司令は首をかしげた。

「え? 違うのか」

 

同じ思いは、神通をはじめその場に居た他の艦娘たちも同様だったらしく、お互いに顔を見合わせていた。

 

青葉は、やや得意になって続ける。

「一種のカモフラージュっていうか……もちろん下心もあるとは思いますが彼なりに諜報活動の下地を作ったりしているみたいです」

 

「諜報? 美保で」

司令はちょっと意外な表情だ。

 

「はい。そもそも美保は過去に何度も深海棲艦だけじゃなくて、シナの攻撃を受けました。それだけ艦娘は注目されているんです」

 

「なるほどね」

そうは言ったものの司令は半信半疑だった。

 

青葉はメモを開いた。

「シナだけじゃないンです。ロシアも、それに米国だって強い関心を持ってます。だから彼らの目を敢えて、この山陰地方に向けさせるために美保鎮守府を設置したという分析も出来ます」

 

「一種の囮(おとり)ね。わが国の中央から眼をそらせるために」

かつて横須賀に居た祥高は、まるで青葉に同調するかのように応えた。

 

しかし彼女たちの言葉が未だに飲み込めない美保司令。

 

「そりゃ考えすぎじゃないか?」

思わず否定の言葉が出る。

 

 しかし青葉は、尚もつけ加える。

「美保に来た、あの原潜も単独で建造されたとは考え難いですよ?」

 

「まさか……」

思わず秘書艦に視線を送る司令。

 

それに併せたように青葉は畳み掛ける。

「青葉の想像ですが、恐らく米軍は原潜建造は一隻だけという条件をつけたはずです。でも、せっかく貴重な技術供与を受けるんです。もし艦娘みたいにわが国が独自に姉妹艦を造っていたら……どうです?」

 

美保司令は思わず副大臣と彼の影に今なお暗躍しているだろう前の元帥を連想した。

しかも彼は祥高たち姉妹の祖父と言う、これまた理解し難い関係がある。

 

 そんな思いを抱く司令を見透かすように青葉が突っ込む。

「祥高型の二人の姉妹の名前が出雲と石見って、旧『出雲国』に絡んでいるのも、やっぱり偶然ですか?」

 

……この言葉に少しビクッとする祥高。

 

だが青葉は怯まずグイグイ来る。

「戦艦並みといわれた祥高型の三姉妹も未だに軍事関係者からは注目されているんです。それを誰が? なぜ? 意図的に封印したのかも気になりますし」

 

その言葉に、居心地が悪そうにソワソワし始める祥高。それは司令にも意外な反応だった。

 

(そういえば妻でもある祥高のことは私も、ほとんど知らないな……。元帥の孫らしい、とういことくらいだ)

 

まるで聞いてはいけないことを聞いてしまったと言う表情の神通。駆逐艦娘たちは、そもそもこの話の背景が理解出来ておらずポカンとしている。

 

「そのくらいになさい、青葉」

突然、凛とした声が響いた。全員が振り返ると加賀だった。

 

「加賀さん」

ホッと安堵したような祥高。残念そうな表情を浮かべる青葉。

 

落ち着き払った加賀は、その場を仕切るような雰囲気で言った。

「司令、この場はいったん、解散と言うことで宜しいでしょうか?」

 

「ああ。そうだな」

司令が言うと、加賀は頷いて神通や青葉に目配せをした。神通たちはさっと敬礼をした。青葉も渋々……といった表情で敬礼をして、立ち去る。

 

後には、美保司令夫妻と加賀だけが残った。

 

(そういえば、この加賀も祥高に匹敵するくらい、謎が多い子だな)

司令が、そう考えていると、加賀が口を開いた。

 

「勝手なことをして申し訳ありません司令。ただ、ある筋から私に打診がありました」

 

「打診?」

不思議そうな顔をした美保司令に、加賀は微笑んだ。

 

 




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第23話<提督からの打診>

司令 
ミステリアスな感じは加賀らしいな。

クマ 
ミステイク?

タマ 
違うニャ。ミスタイプ。

大淀 
(私も皆から、そう思われているかしら?)



 

「青葉さん、記者として大切な事は?」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第23話<提督からの打診>

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「司令」

加賀は澄ました顔で彼を見た。

 

「その件については、ご相談を希望します」

周りを窺(うかが)うようにした彼女は小声で司令に言った。

相変わらずのポーカーフェイスだが決して怒っているわけでもない。

 

(この子は赤城さんと同じ一航戦ながら実に対照的だな)

彼は、そう思って一瞬静止した。

 

その様子に何かを感じたのだろう。加賀は少し首をかしげて言った。

「司令? 何か」

 

「あ、いや……分かった。執務室へ行こうか」

一瞬焦った彼は、それを隠すように体の向きを変えた。

 

歩きかけた司令は思い出したように秘書艦を振り返る。

「祥高さんも一緒に」

 

「はい」

彼らはエントランスから2階へと向かった。

 

やがて執務室に入った3人はソファーに腰をかけた。

司令と向き合うようにして加賀。その隣に祥高さん……内線で彼女は、お茶を頼んだ。

 

司令は受話器を置いた秘書艦を見詰めながら加賀の雰囲気は何処となく彼女にも似ているなと思うのだった。

 

すると当然、今度は秘書艦に突っ込まれた。

「あの……どうかしましたか? 司令」

 

「いや……」

少し慌てるようにした彼はメモを取り出して改めて加賀を見た。

 

「……で? 報告じゃなくて相談とは」

「はい」

彼女は澄まし顔で髪に手をやって思い出すような素振りを見せる。

 

(そもそも『相談』という物言いからして彼女らしいな)

彼は思った。

 

おもむろに加賀は口を開く。

「ブルネイの金城提督から『こっちへ来ないか』と打診がありました」

 

「へ?」

素っとん狂な声を出した司令。

 

「それは『遊びに来ないか?』という意味ですね」

直ぐに祥高さんが補足に入る。頷く加賀。

 

(いくら金城提督でも、いきなり他所の艦娘を分捕るような真似はしないだろう)……落ち着いて考えれば直ぐ分かりそうなことだった。司令は早合点した自分が恥ずかしくなった。

 

だが加賀は意味ありげに微笑んだ。

「……でも、『ずっとブルネイに居ても良いんだが』という彼の想いは伝わって来ました」

 

その言葉に慌てる美保司令。

「おいおい」

 

「冗談です」

ニコリともしないで応対する加賀。

 

「ははは」

乾燥した笑い声と共に脱力する司令。

 

(何だかこの子は……不思議だよな)

着任直後の加賀には、いかにも何かを隠している雰囲気に満ちていたのは確かだった。

 

さすがに今はそういった印象はなくなった。凛とした面持ちはそのままだが、明らかに心の壁は消えたように思えるから不思議だった。

 

一呼吸置いた彼女が続ける。

「話が前後しました……打診の内容は、表向きはブルネイ視察。でもホントの狙いは別にあるようです」

 

「別?」

汚い字でメモを取っていた司令は顔を上げた。

 

加賀は落ち着いて応える。

「はい。今回の大規模侵攻作戦に関連して私の手を借りたいそうです」

 

「へえ」

司令の手が止まった。

 

一瞬、考えた加賀は補足するように言った。

「私が行くことでブルネイにとっても実のある陽動作戦になるそうです」

 

「なるほど」

それを聞いた司令は直ぐに笑顔になった。転んでもタダでは起きない金城提督らしいなとも思った。この状況で、もしそれが他の人物だったら司令も厳しい表情になったことだろう。

 

祥高さんも微笑んで口を開く。

「ウフッ、こんなタイミングで、わざわざ加賀さんに声をかけて来る所が彼らしいわね」

 

その言葉に司令も苦笑しながら言った。

「もちろん、君一人じゃないよな」

 

「はい。二人くらい連れてきてもらえると助かると……人選は任せるそうです。じっくり考えて欲しいと」

淡々と応える加賀。

 

「じっくりねえ……」

その言葉は逆に緊急を要するという意味だろう。

【挿絵表示】

 

 

 これが普通の提督からの依頼であれば、失礼極まりないものだろう。だが美保司令にとっては金城提督からの依頼は逆に信頼の証に感じるのだった。

 

秘書艦は言う。

「加賀さん自身は、どう思われるの」

 

「私は……」

その時、誰かがドアをノックした。

 

「はい」

秘書艦が応えると、お茶を持って青葉が入ってきた。

 

しかもエプロン姿で。司令は呆れた顔をした。

「何だ? その格好は」

 

「えへへ」

いつもの笑みを浮かべながら、お茶を配る彼女は言う。

 

「司令……実は青葉、お願いがございまして」

「何だ?」

 

お茶を受け取った彼は彼女の顔を見た。

「オフレコにしますから、そのぉ青葉も、この輪に加えて欲しいなあ……って」

 

「……」

(何となく、そんな事だろうなと思った)

 

司令は秘書艦を見た。

「祥高さんは、どう思う?」

 

彼女は、お茶をすすりながら青葉を見た。

「青葉さん、記者として大切な事は?」

 

彼女はエプロン姿のまま、いきなり敬礼をする。

「はい、真実の追求と情報源の守秘義務です!」

 

こいつも真面目なのかふざけているのか、よく分からないなと司令は思った。

 

だが、それを聞いた祥高さんは微笑んだ。

「ウフ、貴女らしいわね……良いわ、座って頂戴」

「はい」

 

チラッと司令を見る秘書艦。司令も軽く頷いた。

 

座りながら一瞬ポケットをまさぐった彼女は直ぐに「あ」と小声で自分の手を押さえた。

そして『オフレコ……』と自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 この一連の騒ぎに全く動じることもなく澄ましたままの加賀。

 

場が落ち着いたのを見計らって、お茶を置いた彼女は口を開いた。

「先ほどのブルネイ行きについてですが私としては抵抗はありません」

 

「そうか」

司令は軽く腕を組んだ。

 

 金城提督と過去にイロイロあったにせよ、一度は彼を傷つけようとした『前科』もあるわけだが。それも含めてのことだろうか?

 

彼がそんなことを思っていると加賀は司令を見て答えるように言った。

「もちろん彼を傷つけようとした事は確かですが、だからと言って、このままずっと避け続けるのも得策ではないと思います」

 

「なるほど」

普段の物腰から何となく分かってはいたがハッキリした考え方だ。

 

(そして今ではそれをキチンと自分に伝えるようになったんだな)

その真っ直ぐな姿勢は加賀らしい。

 

青葉はメモを取りたくてウズウズしていた。

【挿絵表示】

 

 

「はぁ」

小声でため息を吐いた彼女。はやる気持を抑えるように、ちゃっかり持ってきた自分のお茶をすするのだだった。

 

 




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第24話<通う心の距離>

司令 
青葉とも、いろいろあったな。

クマ 
色々って、青色? 赤色?

タマ 
違うニャ。青葉だから緑色だニャ。

大淀 
うふふ、青葉さんって色彩豊かな印象ね。




 

「一航戦の二人は未だに『さん』付け」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第24話<通う心の距離>

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「青葉も大変だよな」

「え?」

司令の言葉に彼女は一瞬目を丸くした。

 

「あのぉ司令、大変って? どういうことですか」

瞬時にアレコレ考えを巡らせながら青葉は聞く。

 

司令は顎(アゴ)に手をやって彼女を見た。

「いま、加賀さんがブルネイへ行くかも知れない話が出ているんだが」

 

「はい」

彼女にも、それは分かる。

 

「君も一緒に行きたいか?」

「えっ」

これまた青葉には意外な問いかけだ。

 

「そりゃ正直、行きたいですけど……どのくらいの期間になるか分かりませんし」

 

司令は頷(うなづ)いた。

「君の言うとおりだ。ブルネイの金城提督は信用できるが、その周囲の情勢は極めて不安定だ」

 

「はい……」

ブルネイ周辺海域は、シナや各国の利権が絡んで常に緊迫している。

それは以前、美保のメンバーが遠征した際にも肌で感じたことだ。

 

「でも……青葉も記者ですから危険に飛び込まなければ良い情報は得られません」

そう言いながら自分で『シマッタ』と思った彼女。ちょっと格好つけすぎたか?

 

すると加賀は言った。

「見上げた心がけね」

 

加賀の言葉で、ふっと緊張が緩んだ。ホッとして救われた思いになる青葉だった。

 

「加賀さんの言う通りだな」

司令は軽く頷いている。

 

「そういえば司令は、一航戦の二人は未だに『さん』付けナンですね」

青葉は、ふと呟くように言う。

 

司令も微笑む。

「そうだな、着任した直後……君と埠頭で出会ったときは、まだ『さん』付けだった」

 

思い出すような彼の言葉に青葉も続ける。

「司令が艦娘を呼ぶ敬称は駆逐艦と一部の軽巡級の艦娘を除いて『さん』付けでしたっけ」

「あぁ」

 

もちろん、これだけでも軍隊では珍しい指揮官なのだ。だからこの鎮守府でも『さん』付けを喜ぶ艦娘も少なからず居たりした。

 

 とはいえ青葉にとっては正直どちらでも良かった。

 

記者の仕事をしていると必然的に他の艦娘たちよりも人間社会に出て他の組織機関と交わる機会が増える。

 

その際は軍部の広報班という肩書きになるから割と『さん』付けが多かった。

 

「でも秘書艦は今でも『さん』付けですね」

加賀の鋭い突っ込みに思わず全員笑った。

 

少し落ち着いてから青葉はポツリと言った。

「最近、司令と接する機会が増えて……いつの間にか青葉の呼称は『呼び捨て』になりました」

 

「あ? イヤだったか?」

司令が少し心配そうな表情を見せた。

 

彼女は慌てた。

「いえいえ、青葉としてはむしろ、その方が嬉しいです」

 

「君のように最前線で取材が可能な記者は貴重だ。人間にも出来ない事だ」

司令の言葉に恥ずかしくなる青葉。

 

 司令は口を開いた。

「私としては、国を守るために、率先して最前線に趣くのは当然だと思う。それは一般の艦娘であれ、君や夕張さんのように特殊任務に付く子であれ同じだ」

 

全員、頷(うなづ)いた。

「普段から切磋琢磨し、いざとなれば一人も欠けること無く最高の状態で出撃して防人としての責務を果たす。それがこの鎮守府の使命だ」

 

『……』

誰もが真剣な眼差しだった。

 

彼は続ける。

「私たちは単なる軍人ではなく、この国を象徴する存在だ。だからこの国の平和を脅かす存在に対して抵抗するのは当然だ。愛天、愛人、愛国の精神を以て戦い勝利を積み重なることで、この国が栄え、この鎮守府も発展していくと思う」

 

「意義ありません」

加賀は呟いた。

 

 その反応を見た青葉は、この空母の艦娘は、どれだけ深いものを持っているのだろうか? と興味が湧くのだった。

 

「艦娘との養子縁組を進めるのも、そういった考えが根底にある。無理強いはしないが、一つの家族としての絆を以て最後まで関心を持ち責任を持つつもりだ」

その言葉に青葉も加賀も、何か不思議な感覚に包まれる気がした。

 

 美保鎮守府と、司令夫妻。その背後に連なる人間、或は艦娘姉妹たちの関係。何か、果てしなく広大で深遠な世界を垣間見るような心地だった。

 

「ちょっと脱線したな」

司令は苦笑した。

 

「加賀さんがブルネイへ行く話の続きだが、そこに参加する編成を検討していて、君の名前も上がっている」

その言葉に青葉は、さほど驚かなかった。何となく予想はしていたのだ。

 

「でも……」

彼女は言いかけて口を閉じた。期間も不明だが、政情も不安定だ。

 

「恐怖心はないのですけど……何か引っ掛かるのです」

つい本音が出た。

 

すると秘書艦が微笑んだ。

「無理もないわ」

 




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第25話<火中の栗>

司令 
まぁブルネイには再び赴くことになりそうだ。

クマ 
ブルネイ?

タマ 
暖かそうだニャ。

大淀 
あそこの大淀さんは、策略家だとか……。



 

「むしろ波風が立つ方が嬉しくない?」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第25話<火中の栗>

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 かつてブルネイの演習に参加した者たち……つまり、この場に居る加賀を除いた全員が当時、青葉がどうなったかを知っていた。

 

不思議そうな表情をしている加賀に司令は説明した。

「青葉はかつてブルネイ近海で轟沈したことがあってね」

 

「そう」

『ブルネイ』と『轟沈』という単語に対して普段とは少し違った反応を見せる彼女。

 

司令は金城提督も絡めた加賀の複雑な過去を思い出した。

(そうか、この子にとってもブルネイは鬼門みたいなものか)

 

彼の想いを悟ったように彼女は少し微笑んで言った。

「過ぎたことです」

 

だが執務室の空気が重くなった。

 

すると今度は青葉が場の雰囲気を変えるように明るい表情で言った。

「司令、青葉の心配はご無用ですから!」

 

いつもの彼女とは違った不自然さを感じた司令と秘書艦だった。

 

「あ……」

二人の視線を感じた青葉は照れたように頭に手をやった。

 

「いえ、そのぉ青葉が気になるのはですね、私たちがブルネイへ行けば、またイロイロと波風が立ちそうだなーっていう。そんな心配です」

 

すると司令は言った。

「君にしては珍しい発言だな」

 

『え?』

……という表情を見せた青葉。

 

それを見た秘書艦も微笑んだ。

「青葉さん。記者は記事の為には危険にも飛び込むのでしょう?」

 

「えっと……そりゃ、まぁ」

また苦笑する彼女。

 

今度は加賀が続ける。

「むしろ波風が立つ方が嬉しくない?」

 

青葉は恥ずかしそうに頭をかきながら言った。

「えぇ……確かに面目ないです。ちょっと最近、田舎暮らしに慣れてしまって、ダメですね青葉も」

 

その言葉に微笑む一同。彼女は続ける。

「やっぱりここは心機一転、火中の栗を拾うくらいの気概が必要ですね」

 

すると加賀が淡々と呟いた。

「火中の栗……そうね。それも必要ね」

 

そんな二人の姿を見ながら司令は感じた想いを口に出した。

「青葉は記者だから経験豊富だが加賀さんも達観してるよな」

 

加賀は驚いたように目を丸くした。

「いえ」

 

相変わらずの硬い表情ながら彼女は恥ずかしそうな表情を見せた。

 

すかさず青葉が言う。

「加賀さんって同じ一航戦の赤城さんとは、また違った雰囲気ですよね」

 

「……」

すると加賀は司令のときとは、また違った顔をした。

 

 それは意識しないと分からないくらいに小さな変化だ。それに彼女は決して怒っているわけではない。

ただ口数が少ない分、不機嫌そうに見られるのは仕方が無いのかも知れない。

 

 司令は軽く腕を組んだ。

(加賀は、あまり自分自身が注目されるのを良しとしていない感じか?)

 

もちろん青葉には加賀に探りを入れるとか深い意図は無かっただろう。

 

それを知ってか知らずか青葉は続ける。

「もちろん赤城さんも経験は豊富ですよね」

 

『赤城』という名前を聞いた加賀は、また少し表情が緩んだ。

「そうね」

 

「光と影か」

思わず口に出た司令。その的を射たような表現に執務室はまた和やかになった。

 

 その発言の直後、司令は加賀が気分を害するのではないかと危惧したのだが、それは杞憂だった。

彼女は、そう表現されても気にしないようだ。

 

「影ね」

加賀は反復していた。

 

青葉も頷いている。

「そうですよ。赤城さんは親しみやすい反面、少しネジが」

 

危うく失言しかけた彼女は慌てた。

「……いえ、ちょっと大らかな所がありますよね」

 

それを聞いて苦笑した司令も言う。

「そうだな。加賀さんと赤城さんは、まるで正反対だからな」

 

秘書艦も頷く。

「そんな二人が同じ一航戦として仲良くやっているのは良いですね」

 

祥高の言葉に再び加賀は恥ずかしそうな表情をして真っ赤になった。

 

 司令は総括に入った。

「では基本的に加賀さんと青葉は遠征参加で良いな?」

 

『はい』

思わず二人揃って声を合わせた。

 

「私からは以上だが」

『はっ』

二人の艦娘は立ち上がって敬礼した。

 

司令に続いて秘書艦が補足する。

「二人とも直ぐに遠征に出るわけではありませんから詳細は追って通達します」

 

「えっと、よろしいでしょうか?」

青葉が軽く手を上げる。

 

「どうぞ」

書類を閉じながら祥高が促す。

 

「青葉と加賀さん以外には誰が参加する予定でしょうか?」

「ああ……」

 

司令は青葉を見た。

「敢えて今回は、川内と夕立も候補に上げている」

 

「え?」

さすがに青葉は驚いた。

 

すると秘書艦も微笑んで言った。

「武蔵さんと島風も同行する予定です」

 

「……」

青葉は絶句していた。まさに波風が起きそうな……。

 

すると加賀が口を開いた。

「司令は如何(どう)なさる御積りですか?」

 

「そうだね」

彼は微笑んだ。

 

 




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第26話<これが美保鎮守府>


司令 
毎回、青葉には参るよ。

クマ 
うんうん時々、困るクマ。

タマ 
でもそこが良いニャ。

大淀 
憎めない性格ね。




 

「これが美保鎮守府だな」

 

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新「艦娘」グラフティ(第12部)

:第26話<これが美保鎮守府>

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 司令は微笑んだ。

「私も行く予定だ」

 

『……』

加賀と青葉は少々驚いた。

 

「こ……」

思わず『懲りずに』と言いかけた青葉は口をつぐんだ。

 

すると場の空気を読んだように加賀は言った。

「もう出ましょう青葉さん」

 

「あ、はいはい」

意外な言葉を意外な人から聞いた青葉は、その言葉に押されるように敬礼して退出した。二人が退出して急に静かになる執務室。

 

 秘書艦が口を開いた。

「やはり行かれますか」

 

司令は頷く。

「そうだね。作戦というのもあるけど、やはり、この歳になっても事務は苦手だ」

 

祥高は微笑む。

「早苗も、そんなところがありますね。ジッとしていないというか」

 

すると司令は反論した。

「いや、君だって本来は前線タイプだろ?」

 

彼女は文具を筆箱に入れながら答える。

「そうね、出来れば私も行きたいところだけど」

 

その時誰かがドアをノックした。司令は直ぐにピンと来た。

(あいつかな……)

「どうぞ」

 

「失礼する」

低い声で入ってきたのは司令が察したとおり武蔵様だった。

 

司令は言った。

「君か」

 

武蔵様は軽く頷いた。執務室の二人は直ぐに、彼女に隠れるようにして付いてきている、もう一人の艦娘を見た。

 

祥高が口を開いた。

「あら、清霜さん?」

 

武蔵様は困ったような表情で言った。

「あぁ、例の遠征の話……既に広まっているのだが」

 

すかさず司令も笑った。

「それは青葉か……で、その子も行きたいと?」

 

武蔵様は頷く。

 

秘書艦が立ち上がって言った。

「二人とも入って下さい」

 

「失礼する」

「失礼します」

長身と小柄な艦娘たちは執務室へ入った。

 

「そこに座ってくれ」

「ハッ」

 直ぐに祥高は内線でお茶を頼む。

 

 艤装を外しているとはいえ武蔵様の存在感には圧倒されるなと司令は思うのだった。

 

軽くため息を吐いた武蔵様は、眼鏡を軽く持ち上げて言った。

「私の用件は察していると思うが……どうだろうか? まぁ私としては危険なことは十分に承知しているのだが」

 

「そうだな……ところで君は武蔵と行動を共にした経験はあるよな?」

少し不安そうな表情で見つめている清霜を見ながら司令は聞く。

 

その問いかけで急に目をキラキラさせる彼女。

「うん……じゃない」

 

清霜は頭を振った。その仕草は妙に可愛らしかった。

「えっと『はい』です! それに今回は特殊な任務と聞き及んでいますから!」

 

(誰に聞き及んでいるんだ?)と思いながら司令は言った。

「それなら安心だな……祥高さん、今回のリストにもう一名追加だ」

 

「はい」

秘書艦は改めて帳面を取り出すとサラサラと書き付けた。

 

一瞬、思案したような清霜は直ぐに笑顔になって頭を下げた。

「あ、有り難うございます!」

 

司令は微笑んだ。

「礼には及ばないよ。慣れた組み合わせの方が望ましい。それに……」

 

ちょうどその時、入り口の扉をノックする音がした。

「どうぞ」

 

祥高が応えると同時に扉が開いた。

「お茶です……済みません、何度も」

 

そこには少し焦った表情の青葉が居た。

 

「やっぱり……か」

司令は既に苦笑していた。

 

「え、へへ」

妙な笑顔で、お茶を配り始める青葉。

 

すると清霜が言う。

「青葉さん、今回は貴重な情報を有り難うございました!」

 

「す、ストーップ!」

慌てる青葉。その滑稽さに他の者は笑った。

 

武蔵様が腕を組んだまま青葉に言った。

「案ずるな青葉。情報源は皆、知っていることだ」

 

「あ、はは……」

バツが悪そうに苦笑する青葉。

 

「青葉さんも腰掛けたら?」

秘書艦の勧めに頷く彼女。

 

「では遠慮なく」

その姿には皆、改めて笑った。

 

「これが美保鎮守府だな」

司令は呟くように言った。

 

窓の外には久しぶりに大山が良く見えた。

 

(第12部:完結)

 

 





一旦、このシリーズは休止となります。

当面は
1)美保鎮守府サイトの拡充
2)過去作品の改訂
3)挿絵の色塗り、補充などを行う予定です。

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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/

最新情報はTwitter
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PS:「みほちん」とは
「美保鎮守府」の略称です。


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