クリヴァンデッド (ネム男)
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1話 『俺の友達は吸血鬼』

自分の趣味を込めた作品です。バトル物は初めてで、まだ下手な所もありますが、頑張っていきます。


  20xx年---

 p.m.19:50

 

 夜になって、すっかり暗くなった都市。そこにはある武装集団と、1匹の大型な虎の姿をした獣がいた。

 

「おいお前ら!何をしている!すぐに体勢を立て直せ!」

 

「そこ!銃撃を緩めるな!すぐに装填して攻撃を続行しろ!」

 

 獣は前脚の鉤爪を、指揮官である1人の男に振り下ろす。指揮官は前側に飛び込んで、回避した。

 

(くそっ、聞いてないぞ!こんな所にB級クラスのクリーチャーが出るなんてっ……!)

 

 指揮官の男が率いる班は、小型魔物の掃討の任務を受けたのだが、目的地には小型魔物の姿はなく、巨大な虎の姿だけだったのだ。

 

(とりあえず……あの班が来るまで、なんとかしてこいつを食い止めないと……!)

 

 指揮官の男はサブマシンガンを構えて、獣に向かって射撃する。

 

「こっちだ!化け物さんよ!」

 

 無数の銃弾が獣を襲うが、お構い無しに指揮官の男に襲いかかろうとする。

 

(やばっ!よけられないっ……!)

 

 そう悟った指揮官の男だが……

 

 

 

 

 1発の銃声が鳴り響いた。

 

 すると、指揮官の男に飛びかかってた獣が目の前で倒れる。獣の首元には、銃弾に被弾したような穴があった。

 

 

「A班、神咲結衣。B班に無事合流しました。このまま、目標を駆逐します」

 

「おぉ!神咲!」

 

 真紅色の長い髪に一部の髪を束ねて、残りの髪をダウンさせていて、スナイパーライフルを持ったひとりの女性、神咲 結衣(かんざき ゆい)がいた。

 

「油断しないでください!まだ生きてます!」

 

 獣は起き上がり、雄叫びを上げる。

 

「うおっ……」

 

 大きな声量だったため、思わず指揮官の男は耳を両手で塞ぐ。

 

「……こいつは、私がやります。指揮官は他の人たちに指示をお願いします」

 

「お、おう!任せたぞ!神咲」

 

 指揮官は前線から離れ、自分の隊の体勢を立て直そうと、必死に隊員達に指示を出す。

 

 結衣はライフルを地面において、息を整える。

 

 

「……《VW(ヴァンパイアウェポン)》、起動」

 

 

 そう呟くと、結衣の両手にそれぞれ一瞬で現れた黒紅色の拳銃が握られる。

 

 獣が距離を詰めてくると結衣は離れて、一定の距離を保ちながら、交互に射撃する。

 結衣の拳銃が放った弾は獣の体のそれぞれの部位に命中していた。

 

 獣の動きが鈍くなると、結衣は片方の拳銃に魔力を溜める。

 

(奴の弱点は……)

 

 獣は力を振り絞って、全力で結衣に飛びかかってくる。結衣は魔力が溜まっている方の拳銃で、獣の頭を狙って撃つ。

 

 発射された魔弾は獣の頭に命中し、脳を通って貫通した。獣は力無く倒れ、身体が徐々に腐っていった。

 

「任務完了……」

 

「はぁ〜……終わったぁ……」

 

 指揮官の男が安心したように座り込む。他の兵士達も安心したように座り込んだ。

 

「いやぁ、ありがとう神咲。助かったよ」

 

「いえ。B班の隊長こそ、お疲れ様でした」

 

「あぁ。お疲れ」

 

 結衣は持っていた拳銃を消し、地面に置いていたスナイパーライフルを担いで、帰還して行った。

 

「よし、任務完了だ!全員帰還しろー!」

 

 指揮官の男がその場にいる皆に声をかけ、兵士達は本部へと帰還して行った。

 

 ------

 

 翌日--

 

『おはようございます。では、最初のニュースです。魔物討伐軍《CPF》が昨晩、19時50分にS区に現れた魔物を見事に討伐しました。民間人に被害はなく、CPFにも被害者は居なかったようです。では、次のニュースです---』

 

 今日本はどこかの別次元の魔物さん達と戦争中だ。

 

 俺が生まれる約10年前くらいに、別次元から突然現れては、街を破壊したり、人間を喰ったりしていたらしい。

 

 そしてその魔物達に立ち向かおうと作られた《CPF》という組織。ここS区に本部があり、今では全国に支部が建てられている。

 

「ほら柊夜!はやく朝ごはん食べて学校行きなさい!遅刻するわよー!」

 

「へーい」

 

 母親に急かさせられた俺は、朝食をさっさと食べ、学校へと向かった。

 

 4月の中旬、ついに高校生活も3年目を迎えた俺こと月影 柊夜(つきかげ しゅうや)は、悩んでいた。勉強はそこそこ頑張ってる方で成績は普通の方だし、人間関係と言っても俺には友達があまりいないため、特に悩んではいない。

 

 じゃあ何故かというと、進路のことについて少しうんざりしていることがある。

 

 だいたいこの時期になると、先生と生徒でこれからどう頑張っていくのか、進路先に向かってどうするかを話し合う二者面談がある。俺はこの面談が嫌なのだ。

 

 授業は5時間目まで行き、今日のこの時間は二者面談の日である。出席番号順からどんどん呼ばれ数分後、ついに俺の番が来た。

 

「失礼します」

 

 先生とは別の教室で話し合うことになっている。俺は用意された椅子に座り、先生の言葉を待つ。

 

「月影は、成績も申し分ないし、内申点もいい。この調子で頑張れば、大学も夢じゃないだろう」

 

「ま、まぁ……」

 

「ただな……」

 

 先生は俺の成績表は机に置くと、手を組んで俺の方を見つめる。そして、またこう言ってくるのだ。

 

「お前は運動能力が抜群に高い、ここの強豪剣道部でも副将で、全国大会に優勝して活躍している。どうだ?お前もCPFに就職するというのは--

 

「嫌です」

 

「うぐっ……しかしだな?」

 

「CPFに入る気は一切ありません。僕は大学に進学して、普通に勉強して、普通に就職します」

 

「しかし、学校からCPFに就職希望している生徒は多い。なにも月影1人というわけじゃ--

 

「単に命をかける仕事が嫌いなだけです」

 

「……そうか、わかった。そろそろ時間だから次の人を呼んでくれ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 二者面談になると、先生は俺にCPFに就職しないかとしつこく勧めてくる。俺はそれが嫌なのだ。

 

 俺の親父もCPFの兵士だった。家に帰るのは1年に1度だけ。あまり家族全員でどこかへ旅行へ行くということが無かった。

 

 親父は相当腕が立つ兵士だったらしい。そとため色々なところに引っ張りだこで、小型の魔物から大型魔獣、ゴブリンや、吸血鬼などを討伐していたみたいだ。

 

 だが俺が小学4年生の頃。突然、親父は死んだ。

 

 親父が死んだその日は母の誕生日であり、魔物達が大量発生した大事件の日だった。

 

 その日は地獄みたいだった。外には小型魔物から巨大な大きさを誇る魔獣。さらにはゴブリンや吸血鬼などが街を支配し、あたり一面は業火の海。死者も大勢出た3日間、魔物との全面戦争が続いた。

 

 その日以来、俺とは母親にCPFには絶対に入るなと毎日のように言われた。親父が死んだ報告を受けた母親の荒れようは酷かったが、俺は泣かなかった。親父の事をあまり知らなかったせいだったのかもしれないが、大事な人を亡くすということはこれほど悲しいことなんだ、という事だけはその時分かった。

 

 その日から俺は、命を懸ける仕事はしないと決めた。母親をこれ以上悲しませたくないからだ。もうあの時の母親の姿は見たくないし、させたくない。そう思っている。

 

「はぁ……」

 

「ふふっ、また先生に言われたのか?」

 

「まぁな……もううんざりだよ。嫌だって言ってるのに、何回も勧めてくるんだぜ?」

 

「柊夜も大変だな」

 

 今俺の愚痴を聞いてくれているのは、隣の席の女子であり、剣道部主将の黒沢 優花(くろざわ ゆうか)。綺麗な黒髪のロングヘアーに、白い花の髪飾りをしているのが特長だ。

 

 彼女とは小学校の剣道大会で知り合ってから、中学、高校までずっと仲良くしてきた数少ない親友だ。

 

「優花はもう進路はどうするのか決めてるのか?」

 

「そうだな……私はまだこれとした目標がなくてだな。決まるのにはまだ時間がかかりそうだ」

 

「気をつけろよ〜?お前も運動神経は結構いいんだからCPFに入るのはどうかーって言われるかもしれんぞ?」

 

「そうかもしれんな?ふふふっ」

 

「あはは」

 

 優花とは結構長い付き合いになる。彼女は美人であり、雰囲気も大人な感じで、付き合いたい、彼女にしたいなど男子からの人気は高いほうだ。それなのに優花本人は「彼氏はいないし、そもそもそういうのには興味が無い」と俺に断言している。

 

 優花は男子との交流が主に俺や剣道部の部員達しかなく、他の男子と話している所なんて見たことがなかった。

 

「………」

 

 優花は微笑んだ表情で俺の方を見つめてくる。

 

「ん?どうしたんだ優花?俺の顔になにかついてるか?」

 

「……いいや。なんでもないさ……ふふっ」

 

 しばらくして、全員の二者面談が終わり、今日1日の授業が全て終わる。後は掃除をして、帰りのホームルームが終わったら、下校の時間だ。いつもならこのまま部活に直行だが、今日はある用事がある。

 

「ん?柊夜、今日部活には来ないのか?」

 

「あぁ、ごめん。今日はちょっと用事があってね」

 

「そうか……。夏の大会もすぐ来るんだから、なるべく部活には来るんだぞ?」

 

「わかってるって。じゃあな」

 

 俺は早足で教室から出て行った。

 

 

(……今日、柊夜は来ないのか……つまらないな……)

 

 

 

 学校を出て、徒歩で約10分で着く商店街。そこにある1件のドーナツ屋。今日、この時間がタイムセールでドーナツ全てが安くなっている。

 

 早速そのドーナツ屋に入り、焼きドーナツを10個購入する。

 

 その後は家であるマンションまで10分近く歩く。家の近くには1件空き家があって、もう随分手入れされてなく、木々の繁みに被われていた。ここら辺は都会と田舎の境界線みたいなところだからあまり不自然に感じなかった。

 

 空き家の裏口から入り、薄暗い繁みを抜けると、空き地が見えてくる。

 

 俺には秘密がある。

 

 何故部活をサボってまでこんな所に来るのか?

 

 それは、ある人物に会うためである。

 

 俺のかけがえのない親友。まるで、妹みたいな存在。

 

 その空き地には1人の少女が座っていた。

 

 美しくて長い金髪、白い肌に、紅い瞳、フリフリの白と黒のドレスを着ていた。

 

 少女がこちら側を振り向くと、満面の笑顔になって、勢いよく抱きついてきた。

 

「柊夜ー!会いたかったぁ!」

 

 

 俺の友達は、吸血鬼だ。

 

 

 ------

 

 9年前。

 

 彼女との出会いは、魔物大襲撃事件があった1ヶ月後の事だ。

 

 俺は元々C区のマンションに住んでいた。だが襲撃があったため、俺達一家はS区にあるマンションに引っ越した。

 

 そして引っ越した数日後。新しく通う学校に慣れ始めた頃に、母親からおつかいを頼まれた。余ったお金は好きなように使っていいと言われたので、頼まれたものを買った後に、俺の好物のドーナツを買った。

 

 そしてお使いから帰っていると、空き家の近くで、1人の少女が倒れていた。長い金髪はボサボサで、服もボロボロになっていて、肌も少し汚れていた少女を見て、俺は心配になって声をかけた。

 

「だ、だいじょうぶ?」

 

「……お……」

 

「お?」

 

「おなか……空いた……」

 

「……へ?」

 

「おなかすきすぎて……もうだめぇ……」

 

「……ドーナツいる?」

 

 俺は、自分のおやつに買ったドーナツを袋から取り出して、少女に見せる。

 

「いいの……?」

 

「うん、なんかつらそうだから。きみにあげるよ」

 

「……ありがとぅ……」

 

 少女は泣きながら、袋に入っていたドーナツを全て平らげた。

 

「ほんとにありがとう!えっと……あなた名前は?」

 

「柊夜だよ。きみは?」

 

「わたしはエリナ!よろしくねっ、柊夜!」

 

 これがエリナとの出会いで、それから次第に仲良くなっていった。

 

 それから4年後。中学2年生のある日、その時は外でエリナと遊んでいると、急に雨が降ってきたので、急いで空き家の奥にある空き地に戻ったが、お互い服はビショビショに濡れていた。

 

「あちゃー……結構濡れちゃったなぁ」

 

「うぅ、冷たいぃ。脱いじゃえ」

 

 エリナは濡れた服を脱ごうとしていた。

 

「ばかおまっ、隠れて脱げ……って、え?」

 

 エリナの背中には、2つの小さな羽が生えてたのを見てしまった。

 

「あ……っ」

 

 エリナはサッと脱ぎかけの服を着なおした。

 

「エリナ。今の羽……」

 

「き、気の所為なんじゃない!?わたしの背中についてたのはただのゴミよ?うん」

 

「………」

 

「ね、ねぇ……柊夜?」

 

「エリナ……お前は……何者なんだ……?」

 

「………」

 

 するとエリナは俺に力強く抱きついてくる。腕の力が強すぎてほどくことができない。

 

「エリナっ!?ちょ、苦し……」

 

「……今まで、黙っててごめんなさい。わたし、本当は吸血鬼なの……。向こうが嫌になって、こっちの世界に逃げてきた、1匹の吸血鬼……」

 

(エリナが……吸血鬼……)

 

「でもね、わたしは人の血を好まない種族なの!吸血鬼だからって、柊夜を血を吸ったり、食べたりなんかしないから!」

 

 

「だから……お願い……わたしを、ひとりにしないで……」

 

 エリナは泣いていた。正体を知られてしまったら嫌われると思ったのだろう。普通の人だったら今まで仲良くしていた人物が吸血鬼だったら逃げるに決まっている。

 

 

 だけど俺は、不思議と逃げようとは思わなかった。

 

「何言ってるんだよ、エリナを一人にするわけないだろ?大丈夫だよ」

 

「……へ?」

 

「なんていうか……俺も学校に友達あんまりいないし……エリナと一緒に過ごしてる時間が楽しいしな」

 

「わたし……吸血鬼だよ?怖くないの?」

 

「そうだな、お前じゃなかったら、めちゃくちゃ怖かったかもな」

 

「また……これからも、一緒にいてくれる?」

 

「あぁ。時間がある時は、必ず会いに行くよ」

 

「……ありがとう……うれしいっ……」

 

 ………

 

 こうして俺は、今でも時間を作ってエリナに会いに行っている。もちろん、今まで誰にも知られていない。この場所も、彼女のことも。

 

「んー♪やっぱりドーナツは美味しいなぁ」

 

 エリナは初めに会った頃から身長は変わっていないが、顔色がだんだんと良くなっていっているのがわかった。

 

「そういえば、柊夜も背ぇ伸びたよね〜。今どれくらいなの?」

 

「今は172cmくらいかなぁ……」

 

「おぉ!前に目標にしてた170越してるじゃん!」

 

「はははっ、まぁな」

 

 高校生になってから色々と忙しくなってきて、エリナに会える頻度は減り、今では週に一回程度だ。

 

 やっぱりエリナと居ると楽しい。時間を忘れて色々と話し込んでしまう。

 

 俺に妹がいたら、こんな感じなのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダー、見つけましたぜ。姫です」

 

「そうか。よし、案内しろ」

 

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 p.m.18:55

 

 時間はあっという間に過ぎ、日は落ちかけていた。辺りが薄暗い雰囲気で満たされようとしている。

 

「暗くなってきたし、そろそろ帰るかな」

 

「そうだね、今日はたのしかったよ!」

 

「俺もだよ」

 

 そう言って、俺はエリナの頭を撫でる。

 

「えへへ……♪」

 

 エリナは嬉しそうに頬を緩ませていた。可愛い。俺もその笑顔で癒される。

 

 

 

「ちょっとよろしいかな?」

 

 

 すると突然、後ろから男の声がする。

 

「!?」

 

 俺とエリナは声の主へと視線を向ける。そこには1人の男が立っていた。男は長めの銀髪で高身長みたいだ。

 

 そんな!?ここは俺とエリナしか知らないはず……。

 

「……見つけましたよ、姫……」

 

 姫?……まさか、エリナのことを言っているのか……?

 

 エリナは俺の後に隠れていた。

 

「さぁ、帰りますよ。姫の不在のせいで、兄様もお怒りですよ」

 

「知らない、あんた誰よ?わたしはあんたの事知らない。人違いじゃないの?」

 

 すると男はしまったという感じの素振りを見せると、自分の胸元に左手を置いて、話を続けた。

 

「申し訳ございません。自己紹介が遅れました。私は、アルカ・コーダルト。姫、エリナ・ブラッド様の兄様、ライカン・ブラッド様の命令により、姫様を連れ戻しに来ました」

 

 よく見ると、アルカと名乗る男から牙がチラッと見えた。雰囲気からしても、普通の人間とは違う。

 

 俺はエリナとは違う、本来の吸血鬼に出会ってしまった。

 

「絶対にいやよ!あんなところ、誰が帰るもんですか!べーー!」

 

「お、おい、エリナ……」

 

 エリナは舌を出してアルカを煽る。

 

「ふん……そこの人間よ」

 

 アルカの視線がエリナから俺に移る。

 

「はやくその子をこちらに渡せ。さもなければ、貴様の命を奪ってしまうぞ?」

 

 俺はエリナの方を見ると、俺の服をギュッと掴んで離そうとしない。相当嫌に感じてるみたいだ。

 

「どうした?早くしろ」

 

 アルカは俺を睨みつける。蒼くて鋭い眼光が人生で1番恐ろしく感じる。脚がわずかに震えて、その場から動くことが出来ない。

 

「お……俺は--

 

「えいっ!」

 

 何かを言おうとすると突然、少数のコウモリ達がアルカの顔に襲いかかる。アルカは腕を横に1振りすると、コウモリ達は灰になって消えていった。

 

「逃げるよ!柊夜!」

 

 エリナが俺の手を引っ張って、空き地のさらに奥に行こうとするが……

 

「へっへっへ」

 

「逃がすとでも思ったかぁ?」

 

「なっ……」

 

 既に空き家は吸血鬼達によって包囲されていた。

 

「フフフ……そこまで帰りたくないと言うか……ならば仕方あるまい……」

 

 アルカの殺意がゾッと伝わってきた。あの殺意は俺に向けられていると分かった瞬間、何を感じたのか、俺は咄嗟に行動していた。

 

 

(このままじゃ……殺される……!)

 

 

「逃げるぞ!エリナ!」

 

「うん!」

 

 俺はエリナの手をしっかりと握りしめ、空き地の奥へと走る。

 

「逃がすかよぉ!」

 

 下っ端吸血鬼の1人が鋭い鉤爪で切り裂こうとするが、

 

「邪魔よ!」

 

 エリナが複数のコウモリを生み出し、下っ端吸血鬼の視界を奪う。

 

「ぎゃあああっ」

 

「ナイスエリナ!」

 

「にひひっ」

 

 俺達は無我夢中で走った。空き地の奥は一本道になっていたため、真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに走った。

 

 途中、犬の姿をした魔物が襲いかかってきたが、俺はちょうど落ちていた鉄パイプで、迎撃した。

 

 小型の雑魚だったのか、意外にも魔物達の身体は脆いのか、鉄パイプで思いっきり殴っただけで魔物達は身体を灰にして崩れ落ちた。

 

「はあっ……はあっ……よし、走るぞ」

 

 俺が再び逃げようとすると……

 

「柊夜!前!!」

 

 

 俺の目の前に、アルカの姿があった。

 

 

「ご苦労様」

 

 

 一瞬。

 

 攻撃を防ごうと鉄パイプでガードしようとするが、ほんの一瞬で、鉄パイプは真っ二つに別れ、胸元にアルカの腕が突き刺さっていた。

 

 

「が……は……」

 

 

「まさか、ただの民間人が小型の食屍鬼を倒すとはな……少し驚いたぞ」

 

 

 アルカの腕が俺の胸から抜ける。貫かれた胸元の穴から血がドクドクと流れている。

 

 

 

(あぁ……俺……死ぬの……か……な……)

 

 

(エリナ……に……もっと……色んなところに……連れて……行きたかった……な……)

 

 

「眠れ、永遠にな」

 

 

 そして、俺は、その場で倒れ、意識を失った。

 

 

 ------

 

 

「あ……あ……しゅう……や……」

 

 柊夜はアルカに貫かれ、倒れた。エリナは信じられないといった感じで、倒れた柊夜を見つめている。

 

「ふん。我ら吸血鬼に逆らうからこうなるのだ……さぁ、お前達。餌の時間だ」

 

 アルカが指をパチンと鳴らすと、四方八方から食屍鬼(グール)化とした犬達がゾロゾロと姿を現す。

 

 柊夜の遺体をじっと眺め、涎がだらだらと垂れていた。

 

「そこの遺体はお前達の餌だ。うんと食べるがよい」

 

 アルカがそう言うと、食屍鬼達は遺体に向かって飛びかかる。

 

 

 

 

「……触るなっ!!雑魚ども!!」

 

 

 エリナが叫ぶと、遺体の周りに一瞬でコウモリ達を出現させ、飛びかかっていた食屍鬼達の身体を貫き、破裂させた。

 

「ほぅ……それが、姫の本当の姿」

 

 

 エリナの服装は黒一色になって、背中の2つの羽が大きくなっていた。

 

 

「わたしの柊夜に……触るな!!」

 

 

 エリナが手を伸ばすと、そこから無数のコウモリ達が束となって、レーザー砲の様に撃ち出される。

 

 アルカがジャンプをしてエリナの攻撃を躱すと、撃ち出されたコウモリ達は散開して、アルカに襲いかかる。

 

「ふん!」

 

 アルカは手から冷気を広範囲に放つ。コウモリ達は凍ってしまい、そして崩れ落ちた。

 

 

「……ちっ、逃がしたか……」

 

 

 アルカがコウモリ達を掃討している隙にエリナは柊夜を抱えて逃げていた。

 

 

 

 

 ------

 

 

「柊夜……」

 

 エリナは柊夜を抱きかかえて、よく一緒に遊んでいた公園に逃げてきた。アルカに見つかるまでは時間の問題だろう。

 

「どうして……こうなっちゃったのかな……」

 

「わたしがいけないのかな?わたしのせいで……柊夜は……」

 

 公園のベンチに柊夜の遺体を置いて、エリナはブツブツと独り言を言っている。

 

「嫌だよ……柊夜が死ぬなんて……いや……絶対にいや……」

 

 すると柊夜の手がエリナの頬に触れる。

 

「エリ……ナ……」

 

「柊夜っ!」

 

 柊夜はもう死ぬ寸前で意識を取り戻し、エリナに語りかけようとする。エリナも触れてくれている柊夜の手をギュッと握る。

 

「ごめん……な……もっ……と……いろんな……とこ……連れて……行きたか……ったの……に……」

 

「ねぇ柊夜!死なないでよ!ひとりにしないでよ!ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃん!ねぇ!ねぇってば!!」

 

 柊夜の体温がどんどん下がっていくのがわかったエリナ。何度も何度も柊夜の事を呼びかける。

 

「……たす……け……て……」

 

「………」

 

 柊夜からその言葉を聞いたエリナは、あるひとつのことを決意した。

 

 

「……ごめんね、柊夜……こうでもしないと……柊夜が死ぬなんて……絶対に嫌だから……」

 

 

 エリナは薄々とアルカの魔力を感じ始めていた。もうすぐでここが見つかるかもしれない。

 

 もう、迷えなかった。

 

 

「……さよなら、柊夜。またいつか、何処かで会いましょ?」

 

 

 エリナは自分の唇と柊夜の唇を重ね、舌を柊夜の口内に入れ、舌を出すと、エリナは牙を柊夜の舌に刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、ある住宅地の公園のベンチに、柊夜はぐっすり眠っている。

 

 あけられたはずの胸元の穴は塞がっていた。

 

 

 




これからも、この作品をよろしくお願いします┏○┓


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2話 『覚醒』

「ちょっと、大丈夫ですか?起きてください!」

 

「ん……」

 

 重い瞼を開ける。視界に映ったのは、綺麗な夜空と、心配そうにこちらを見ている宅配便の男の人だった。

 

「!」

 

 バッと勢いよく起き上がる。あたりを見渡すとそこは家の近くにある公園だった。よく、エリナと一緒に遊んだ公園だ。

 

 確か俺は吸血鬼に襲われて、それから……

 

「あの、大丈夫ですか?その服の汚れって血じゃ……」

 

 やばい……さすがにこれはごまかさないと……!

 

「え、あ、あぁ!トマトジュースですよ。後輩がドジっ子で、こけちゃった拍子にジュースがかかっちゃって……」

 

「そうでしか。もう暗いので早く帰ってくださいね?」

 

「ええ。すみません」

 

 宅配便の男は疑うこともなく去って行った。今この場にエリナの姿は無く、うまく逃げてくれたのか心配だ。

 

 公園にある時計で時間を確認する。時計の針は8時を指していた。あれから、1時間くらい眠っていたのか……。

 

「………」

 

 なんで、胸の傷がないんだ……?

 

 あの時、確かに俺は吸血鬼によって、胸を貫かれて、意識を手放した。死んでもおかしくないほどの致命傷だったはずなのに、触ってみるとそんな傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

(そろそろ帰らないと、母さんが心配する。とりあえず、向こうに置いてきた荷物を取りに行こう……。)

 

 あれこれ考えるのは後でにしようと思い、俺は公園を後にした。

 

 帰宅中、体が物凄く気だるかった。

 

 

 ------

 

 

 翌日--

 

 昨日は色々と散々な目にあった。吸血鬼に襲われ、犬の化物にも襲われ、エリナは行方不明になり、1度命を落としたはずなのに何事もなくこうして生きている。

 

「………」

 

 パジャマから制服に着替える途中で、自分の胸元を確認する。

 

 まだあの感覚を覚えていた。吸血鬼に手刀で胸を貫かれた時の痛みと、熱さと、息苦しさがまだ頭から離れない。

 

「ゔっ……」

 

 思わず食べたばかりの朝食を吐き出しそうになる。あまり寝付けなかった所為でもあるのか、今日はあまり気分が優れない。

 

 支度をして、家を出る。エレベーターに乗り、1階まで降りて外に出る。

 

「1……2……1……2……」

 

 外で一人の少年が竹刀を持って素振りをしている。いつもの光景だ。

 

「よっ。頑張ってるな、小僧」

 

「あっ!柊兄ちゃん!」

 

 彼は隣に住んでいる小学5年生の男の子だ。いつも朝は学校行く前から剣道の素振りをしている。なんか俺に憧れて剣道を始めたとかなんとか。

 

「みてろよ!いつか柊兄ちゃんをこえて、強くなってやるからな!」

 

「おー、やってみろ。何年後になるかわからんが待ってるぞ」

 

「あー!信じてないなー!」

 

「ほら、早く行かないとお前も学校遅刻するぞ?」

 

「あっ、やべぇ!じゃあね、柊兄ちゃん!」

 

 男の子は焦った様子で、マンションに入って行った。さて、俺も早く行かないと遅刻してしまう。少し歩くスピードを早めた。

 

 学校には、なんとか遅刻せずに済んだ。いつもは着いた頃には少し疲労を感じるのに、今日は一切感じなかった。気分は悪いのに、身体の方はいつも以上に調子がいいみたいだ。

 

 

 --3時間目 体育--

 

「オーライ!オーライ!」

 

「こっちだ!」

 

 今日の体育の授業は、バスケットボール。自分的には結構好きな方のスポーツである。と言っても素人だから、あまりでしゃばるような真似はしない。少し後ろで、敵チームの1人をブロックする。

 

「月影!」

 

 すると、ボールがこちらへ渡る。味方にパスしようとするが、距離は少し遠くて難しい。とりあえずドリブルして前に進もうと試みる。

 

 敵チームの1人が進行を塞ごうとする。だけどなんだろう……。今日はやけに目が良く見える。それに、相手も遅い……?

 

 ドリブルしながら、最小限の動きで、ブロックしてくる敵メンバーを抜き去る。

 

「なっ!?はやっ……」

 

 そしてゴールへと高く飛び、ボールをリングに入れた。

 

「ナイッシュー!月影。お前ジャンプ力すげぇな」

 

「あ、いや、まぁ……」

 

 ……どうして今日は俺の身体はこんなにも調子が良いのだろう。

 

 試合終了1分前。敵チームの1人でバスケ部の奴が迫ってくる。俺はゴールさせまいと、そいつの前に立つ。

 

「へっ……」

 

 バスケ部のやつが素早いドリブルで抜こうとする。いつもならあっさり抜かれてしまうところだが、今日は調子がいい。

 

 相手の動きが遅く見える。タイミングを見計らって、俺は相手が持っていたボールを弾いた。

 

「なにっ!?」

 

 もう時間が無い。即座にボールを引き寄せて、遠く離れたところからシュートを打つ体制に移る。

 

(……いける……)

 

 高くジャンプして、シュートを放つ。ボールは高く上がり、自分のチームのリングに見事入った。

 

「おおおお!?」

 

 周りから驚きの声があがる。

 

「月影ぇ!お前どうしたんだよ!?すげぇやん、今の!」

 

「今日のお前、なんか調子いいな!」

 

「さっすが月影!よっ、副主将!」

 

「是非バスケ部に!」

 

 わからない。人間、調子がいい日というのはここまで動けるのか?今まで生きてきた中で、初めての経験だった。

 

 ------

 

 今日1日の授業が終わり、放課後が始まる。部活生は部活へ、用事も何もない人達は下校の時間だ。

 

「柊夜。今日は行くだろう?部活に」

 

 主将の優花に部活へ行くかどうかを聞かれる。俺は荷物をまとめながら、「おう」と一言で返事をする。

 

「じゃあ早く行こう。今日のお前は体の調子がいいらしいからな。剣道でもどんな動きをしてくれるか期待してるぞ?」

 

 優花はイタズラじみた笑顔で言う。そうたいして変わらないと思うんですけどねぇ……。

 

 

 

 p.m.19:30

 

 今日も1日の稽古が終わり、今は優花と一緒に帰宅している。

 

「それにしても、今日の柊夜は凄かったな。柊夜の運動神経はそこまで良かったか?」

 

「さあ?俺にもよくわかんないや。こんな日もあるんじゃないか?」

 

「そうだな。今日のバスケの試合。私も見たかったな」

 

「残念だったな。俺今日ブザービート決めたんだぜ」

 

「ふふっ、さすがだな」

 

 今日にあった出来事など、他愛のない話をする。普段はおとなしい優花でも、この時間はよく笑顔になって話している。こうしてみると、改めて美人だなぁと思ってしまう。

 

「ん?どうした柊夜。私の顔になにか付いているか?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

「そうか。……あ、じゃあ私、こっちだから」

 

「おう、またな」

 

「うん。また明日」

 

 途中の十字路で俺と優花は別れる。ここまで来ると家はもうすぐで着く頃だ。

 

「………」

 

 エリナは無事だろうか……。

 

 今日はそのことが頭から離れなかった。あれからどうなったのか。エリナはちゃんとあいつらから逃げているのだろうか。また会える日は来るのだろうかと考えていた。

 

 

 

 

 すると、近くで大きな爆発音がした。

 

 

 爆発がした方向を見上げると、黒い煙が上がっていた。煙の場所は家から随分近い。火事でもあっているのかと思い、家まで走って行った。

 

 

 

 

 

 しかし、俺は家に着いた瞬間、絶句した。

 

 

 

 燃えているのは、俺が住んでいるマンションだった。

 

 

 消防車の姿はなく、周りには昨日見たものとほぼ同じ、魔物達がゾロゾロといた。

 

 

「……なん……で……」

 

 

 近くのサイレンが鳴って、警告放送が流れる。

 

『魔物が出現しました。一般市民の人達は直ちに避難してください。繰り返します---』

 

 俺はその場から動けなかった。

 

 今日は、やけに身体の調子がいいだけじゃなく、目もよく見える。

 

 俺は見えてしまっているのだ。犬の魔物に捕食されている人達が。

 

 その悲惨な光景を遠くからでも見えてしまっている。

 

「ゔっ……おぇぇ」

 

 思わず吐き気がこみ上げて、我慢できずに嘔吐してしまった。

 

 こんなことしてる場合じゃない。早く逃げないと……

 

 

「はい、こんばんはー!人間君」

 

 すると、上空から1人の男が降りてきた。

 

 チャラい服装でロックな髪型に、肌は青白く、悪魔のような翼が生えていて、そのニヤけた口から牙が見える。

 

 

 運悪く、吸血鬼に狙われてしまった。

 

 

「君、変わってるねぇー!ほかの人間達とは違う匂いがする」

 

「は……?」

 

 吸血鬼は少し疑った表情をする。

 

「なんでだろうねぇー……君からエリナお嬢の匂いがするんだよなぁ」

 

「!!」

 

 今こいつは、エリナと言った。この吸血鬼は、エリナの事を知っている!?

 

「今、エリナって……」

 

「あれぇー?なんでお前がエリナお嬢のことについて知っているんだぁ?」

 

「お前ら、エリナに何かしたのか……?」

 

「あ?なんだその目は」

 

 瞬間。吸血鬼の蹴りがとんでくる。俺は咄嗟に両腕を交差させて防いだ。それでも、吹っ飛ばされてしまい、腕に激痛が走る。

 

「……へぇ、いいん反応してんじゃん」

 

 痛みで両腕に力が入らず、起き上がれない。

 

「くそ……」

 

「人間のくせに生意気なんだよてめぇ。俺を誰だと思ってる」

 

 吸血鬼が倒れている俺に紫色の槍の刃先を向ける。

 

 マンションの方はさらに炎が増し、徐々に広がっていった。

 

「あーあ、見ろよ。もうあいつら、あそこに住んでいた人間の半分は食い散らかしてるぜ。相当腹すいてたんだろうな」

 

 吸血鬼はヘラヘラしながら、マンションの住人が食い荒らされていく様子を眺めている。

 

 そんな様子を見て、俺はそいつへの殺意が湧き始めた。

 

 

「……なんで、こんなことをするんだ」

 

「あ?決まってるだろ」

 

 

 俺がつぶやくと、吸血鬼はゲスな笑みでこう答えた。

 

 

「楽しいからに決まってるだろぉ!?人間達を殺戮するのが、楽しいからだぁ!見ろよ!あの絶望に浸った死に顔!死にたくないともがいても犬達に食われていくあの泣き顔!たまらねぇぜぇ!ヒャハハハハハハハハ!!」

 

 

 吸血鬼がある場所を指して笑っている。

 

 

 そこは、俺の母親が既に食われていて、顔しか無い状態と、隣に住んでいた男の子が、犬の魔物に食われていく様子だった。

 

「…………」

 

 

 どうしてお前らは、そうやって人を殺す……?

 

 どうしてお前らは、楽しそうに人を殺す……?

 

 どうしてお前らは、俺の大切な人達を奪う……?

 

 どうしてお前らは、俺の大切なものを奪おうとする……

 

 

 

 ………許さねぇ……

 

 

 

「……許さねぇ」

 

 

「!!」

 

 吸血鬼が即座に柊夜から距離をとる。柊夜は起き上がって、吸血鬼を紅い目で、鋭く睨んでいた。

 

「まさか……お前……」

 

 

 柊夜の右手には、いつの間にか黒鳶色の刀が握られていた。

 

 

「お前らを……殺す……」

 

 

 

 

 

 



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