外の気温が暖かくなって草花や妖精が顔を出し始めた頃、博麗神社には二人の巫女がいた。
1人は背が高く黒く美しい艶のある長い髪をした女性。
「それにしてもいきなりね。お父さんが帰ってくるだなんて」
「あら、霊夢は知らないかもしれないけど、お父さんいきなり行動するからいつものことよ」
「そう、私は小さい時の記憶しか無いからはっきりと覚えていないのよね」
「まあ、そうでしょうね。霊夢が3歳の時に外の世界に行ったんだから」
思い返すように天を仰ぐ朱鳥。溜息を吐きながら呟いた。
「もうあれから10年が経つのね……」
振り返って霊夢に笑顔で言った。
「あの人に『お父さ~ん、怖いよ~』って泣きついていた霊夢がねぇ、こうやって博麗の仕事頑張っているの見たらどんな反応するのかしら」
「む、そんなこと私いってたの!?お母さん!」
「ふふ、雷にビビってお父さんに抱きついてピーピー泣いて困らせたのよ」
「ぐぐぐ、お、覚えてない」
顔を赤くして箒を握り締める娘の仕草に、母は笑っていた。
すると鳥居のしたに1つの線が引かれ空間が開く、そこからはオレンジのシャツに青い羽織を着た黒髪の男性が出てきた。
空間の中にはスキマ妖怪の紫が居て、少し言葉のやり取りをした後、スキマが消えた。
男性は左手を掲げて言った。
「よお、……ただいま」
「それじゃあ、私は寝るから」
「ああ、ありがと紫。お休み」
「ええ、お休みなさい」
俺はそう紫とやり取りした後、境内にいる家族の元へと足を進める。
俺の名は
生まれも育ちも幻想郷、しかし、霊夢が生まれてしばらくした後、外の世界からやってきた吸血鬼との戦いで呪いを受け、俺は外の世界で心臓病の治療をしなければならなくなった。
外の世界では心臓病の薬もあるし、何より呪いとかの影響を受けないし呪い自体が消滅するから治療さえすればまた幻想郷に帰って来ればいいとのことで10年間外で暮らしていた。
しかし、霊夢に泣き付かれたときは心が傷んだ。泣きながら「お父さん行っちゃやだ!」て言われたら誰だって躊躇うだろう。
この時霊夢は3歳だったはず。霊夢には辛い思いをさせてしまった。10年経って俺を父親と見てくれるか心配だ。
2人は俺のことに気づいている。ここでなんて言えばいいのか解らない。とある蛇みたいに「待たせたな」というべきか、普通にただいまっていうべきか。そうこう迷っているうちに自然と言葉が出た。
「よお、……ただいま」
くっそ、やっちまった。何照れてんだ俺!ふつうに言えばいいのに間を空けてしまった。朱鳥め、照れた事に気がついて、にやにや笑っているし霊夢は……って、涙目!?
「お父さん……お父さーーん!!」
泣きながら俺に向かって突っ込んでくる娘をしっかり抱きとめてあやす。
「おー、よしよし、ただいま霊夢」
「ううっ、おかえりっ……」
「……大きくなったな、霊夢。見違えたぞ、母さんにそっくりだ。目は俺に似ているかな」
「そんなことはないわ。霊夢が貴方に似ているのは勘が当たるだけね」
俺の言葉をバッサリ否定しながら笑顔なのは我が最愛の妻の朱鳥。10年間見なかったけど何も変わっていない。胸も小さいままだ。
「なんか無性にあなたを吹き飛ばしたくなってきたわ」
「気のせいだ」
やはり、あいつも感がいいな。主婦の勘ってやつか?
「女の勘よ」
無い胸を張る朱鳥。怖い、怖いよ……朱鳥。
「お父さんはこれからどうするの?」
ふと霊夢がそんなことを聞いてきた。なんか不安そうな顔をしているし、俺がどこかに行くのが怖いのか?
「いや、霊夢と一緒にいるよ。嫌か?」
霊夢の頭を撫でながら聞くと霊夢は嬉しそうに「ううん、それがいい」って抱きついてきた。ふふ、可愛いな霊夢。
10年ぶりに全員集合だぜ。
「よお、……ただいま」
黒いシャツを着たお父さんが少し照れながら挨拶をした。
顔はなんとなくしか覚えてなくて、声もなんとなくしか覚えてなくて、ハッキリ覚えているのが私の頭を優しく撫でてくれた大きな手の感触だけで。この人が私のお父さんだって言える証拠は私の記憶には無いけど、それでもすぐに私のお父さんだって理解した。
物心ついた時には、お父さんは気づいたら目の前からいなくなってて、お母さんしかいなくて、どこに行ったのかわからなくて、外の世界に行ったのが判ったけど私のことを忘れていないか心配になったりして、怖くなって。泣いてお母さんに迷惑かけたりして、そんな色々な思いとかが込み上げてきて気が付いたらお父さんに飛びついていた。
お父さんはそんな私を昔と同じように優しく頭を撫でてくれた。泣いているのを起こらないし笑わないし、ただ優しく頭を撫でてくれた。
今日だけは思いっきり泣いてもいいよね、お父さん。甘えてもいいよね。
心の中でお父さんに聞きながら私はお父さんの腕の中で泣きじゃくった。
「お父さんはこれからどうするの」
落ち着いた私は不安になって聞いた。お母さんと一緒に人里の家に行くのかどうか。すると、お父さんは私の思っているのを見破ったのか微笑んで「霊夢と一緒にいるよ。嫌か?」と言ってくれた。
「ううん、それがいい」そんなこと言った私は恥ずかしくなってお父さんの胸に顔を埋めてしまった。
晩飯を食べ、風呂に入った俺は、自分の部屋へと向かったが1つ変わったことがある。
俺の部屋が、霊夢の部屋になっていた。
別に霊夢が使っていいのだが、俺はどこで寝ればいいのか。朱鳥と寝れば勘だが明日俺はイっているだろう。どこへとは言わないが……。
仕方がない、明日は犠牲に……。考えていると突然後ろから霊夢が声を掛けてきた。
「どうしたの?お父さん、私の部屋の前で」
「ん、ああ、ここは俺の部屋だったんだが、そういえば霊夢の部屋になっていたんだな。今夜は母さんの部屋で寝ようかと考えていたんだ」
すると、霊夢が俯いて何か考えているようだ。まさかね、「一緒に寝ようよお父さん」って言うか迷ったりしてないよね。
ダメだ、何考えてんだ俺。こんなこと霊夢に知られたら、渋谷の女子高校生みたいに「マジうちの父親キメーわ」って言われそう。(注:綱吉の勝手な考えです。)
そうなったら、俺が異変起こしちゃうよ、マジで。題して「泣き目のおっさん異変」
……慧音先生に俺が居たという歴史自体が消されるね。絶対。
すると霊夢が何かを決意した表情で言った。
「お、お父さん……そのね、い、一緒に寝よ」
「は?」
うおえええ!!当たったよ、俺の勘当たったよ!やばい、冷たく返事してしまった。霊夢がハッて顔してる。
「すまない、なんて言ったんだ。よく聞こえなかった」
うん、聞こえていたのにこの誤魔化しかたはひどいね。霊夢ごめん。
「うっ、……べ、別に寂しいわけじゃないのよ?そ、その、ね?」
「ん?いやいや、何言いたの。ハッキリ言いなさい」
いきなり誤魔化し始めた霊夢に突っ込む俺。悪いのは俺だぜ、勿論。
「うう~、今晩一緒に寝よ」
半分泣き目になってたのは俺の気のせいだろう。勿論、霊夢にはイエスと答える。
「ああ、そうだな。一緒に寝るか」
笑顔で言ったら、霊夢も可愛い笑顔でうん!と返事をした。
そうそう、女の子は笑顔が一番だぜ。
お母さんと食器の片付けをして部屋に戻って着替えて、お父さんの所へ行こうと思ったら、私の部屋の前で何か考えてるお父さんがいた。
どうしたんだろう。そう思ってお父さんに声を掛けた。危なく昔みたいに飛びついて「おとーさんどーしたの?」って聞きそうになったけどそこは理性でなんとか抑える。
「ん、ああ、ここは俺の部屋だったんだが、そういえば霊夢の部屋になっていたんだな。今夜は母さんの部屋で寝ようかと考えていたんだ」
そう言ったお父さんの言葉に気が付いた。そうだった、ここはお父さんの部屋だった。今でも部屋の中にはお父さんが読んでいた本とか使っていた箪笥とかそのまま置いてある。
別に、私と一緒に寝ればいいじゃないの?
そう言おうとして気が付いた。何言おうとしてるんだ私。
私の同い年のやつらで親と一緒に寝る奴なんて居ないでしょ!
いやいやいや!待て、私は10年甘えていないからいいじゃないかしら。それなら誰も笑いやしないわ。って誰笑うのよ、誰も笑う人なんて…………居たわ。
霊夢の頭の中にはスキマ妖怪と友人の魔法使いの顔が出てきた。けれど、言わないでいつ言うの、今でしょ!?
「お、お父さん……そのね、い、一緒に寝よ」
勇気を振り絞ってとぎれとぎれ言ってみたけどお父さんには聞こえてないらしく「は?」っと低い声で言われてしまった。
お父さんは男だから声が低いけど、今のはちょっと以上に怖かった。なんというか、こう、背筋がゾクゾクッと寒気が襲った。そしたら、お父さんが苦笑いしながら「すまない、なんて言ったんだ。よく聞こえなかった」って言われてほっとした半分がっかりもした。
案外聞こえてたりして、って思ったけどもう一度勇気を振り絞って言おうとした。ところが、緊張してしまったため言い訳を言ってしまった。
お父さんがはっきり言えって怒ってたし、もうこの際いいわ。
「うう~、今晩一緒に寝よ」
半分涙目になりながら言ったら笑顔でいいよって言ってくれた。
あ~もう、お父さんの前では隠し事はできないな。正直でいよう。
――――深夜
ふと、霊夢は夜中に目が覚めた。暗くてよく見えないが、暖かい温もりに包まれているのを自覚した。
「おとう、さん」
その声で気がついたのか寝息を立てていた父が目を覚ました。
「む、ん?どうした、霊夢」
「ごめん起こしちゃった」
「ん、気にするな。まだ朝にはなってないから寝るぞ」
そう言って霊夢を抱き寄せる。霊夢は父の胸の中で意識を手放していく。意識が完全に落ちる前に霊夢は言った。
「おとうさん………だいすき」
霊夢は優しく頭を撫でられたような気がした。
博麗 綱吉 tunayoshi hakurei
能力:勘が当たる程度の能力
勘が当たる能力は、彼が『なんとなく』やピンと閃いて予想したのが当たる能力である。
例えば、『雨が急に降る』と思ったら当たるし、嘘も判る。
性格
基本的にあまり親しくない人には喋らないが、来たものは受け入れるため案外知り合いが多い。
あまり喋らなくても、心の中では騒いでいる。ただ単に騒ぐ自分を表に出したくないから、喋らないらしい。
戦い
人間なのに妖怪と互角、それ以上の戦闘が可能。妻が使うような札や結界は使わず、「波動」と呼ばれるエネルギーを使って戦う。
大きな岩を持ち上げたり、敵を氷漬けにしたりと話が人々のあいだで広まっている。
異変
「婚約異変」
これは、まだ綱吉が博麗ではなく、村上の性を名乗っていたとき、妖怪の賢者が彼に博麗の夫になって欲しいと縁談を持ちかけた。
ところが彼は「俺より強い奴しか興味がない。俺を気絶させたら受け入れる」と言って先代巫女と勝負を申し込んだ。
人里の人々が見守る中で決闘は行われ、最初の戦いは僅か9秒で彼が勝利した。
その結果に悔しがった巫女は後日再戦を申し込むが返り討ちにあい、彼女が勝利したのは28試合目だそうだ。
2人の戦いは人々の間で言い伝えられている。
対処
基本的に挨拶をすれば返してくれる。見方にすれば頼りになるが、敵に回したら恐ろしいこと限りない。
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2話 娘と嫁と宴会と
青く澄んだ大空に綿飴のような雲が漂っている。境内では朱鳥が今まで押し入れにしまっていた布団を物干し竿に掛けて干している。
俺と霊夢は部屋の片付けをしていた。
「お父さん、これはどうすればいい?」
「あ~~そこに置いといて、後で霖之助に売るから」
2人で掃除しながら、これから必要な物とそうでない物と分別していく。
「霊夢、何か欲しいモノがあったらあげるぜ」
「別に欲しいものなんてないわ」
「そうか、まあそれならいいk「あった!!」……何だ?」
霊夢の方を見ると手の中には小さなお賽銭箱があった。霊夢の目はキラキラ光っている。
「おとーさん、これ頂戴」
ああ、小銭入れね。
「その前に中身あんのか?」
「うん!けっこー重いよっ!!」
そう言って賽銭箱を軽く振ると箱の中からジャラジャラと音が鳴った。
「そうか、ならそれ全部お前にやるからな、大切に使えよ」
「うん!!ありがと!」
「ああ」
後ろではしゃいでいる霊夢に内心苦笑いしながら、部屋の掃除は一通り終わったことを確認する。
「さて、こんなもんか。案外物はなかったかな」
「何か面白いものが出てくると思っていたけれど、そんな事はなかったね」
「面白いものってなんだよ、霊夢」
「えっと、父さんから母さんへの恋文とか」
「そんな恋愛じゃあなかったからな、俺らは。毎回毎回ぶつかり合っていがみ合って戦って、一方的に俺が叩きのめしていただけだぜ」
「じゃあ、何で2人は結婚したの?」
「『喧嘩するほど仲がいい』って言うだろ」
少し照れていう俺に霊夢は笑った。
「さてと、いい天気だな、人里に行って挨拶回りでもするか」
俺は腕を伸ばしてあくびを一つしてそう呟いた。
「そう、それなら私もついて行くわ」
箒を手にした朱鳥がそう言ってきた。
「別に構わないが、お前やることは無いのか?」
「大半は終わらせたし、霊夢に頼んであるし一緒に行きましょ」
そう言って腕にひっついて来る朱鳥。なんかこうするの久しぶりだな、と少し感動してしまった。
「そうか、じゃあ案内頼むぜ」
「ええ、じゃあ飛んでいきましょ」
「ああ、そうしようか…………あ?」
「え?どうしたの?」
ここでふと気がついた事、俺は空を飛ぶことが出来るのか?10年間霊力とか波動が起こせない環境にいて空を飛んでない。
まぁ、感でやればいいか。
「いや、なんでもない。さぁ、行こう」
朱鳥から離れてズボンのポケットからグローブを取り出す。俺のマジックアイテム『波動グローブ』だ。
これは波動を何倍も引き上げ、コントロールすることができる能力を持つ長年の相棒だ。
両手に力を加える。すると両手が熱くなり波動が溢れてくる。赤く炎のような波動、別名:太陽の波動。これを球体にしたのを握り潰し、放つイメージをする。そうすると体は一気に空へと舞い上がる。
「っ!……ハハッ、ヒューー!」
外の世界では出来なかった事ができるようになってて心が弾んでいる。俺はしばらく空を駆け巡っていた。
「ったく、何やっているのかしらうちの旦那は。はしゃいで力が出ないってバカじゃないの?」
「……すまん」
頭を垂れて謝ってくる夫を叱っているのは私、妻の朱鳥です。理由は人里で挨拶回りをしている最中に夫が軽い貧血で倒れたため。原因は急に飛び回って体が付いていずに限界を超えたため、今は寺子屋の前で説教中です。
「大体、あんたはね――――……」
いつもは「こんなことはもうするな」って釘を刺す程度なのだけれども、昨日は私と一緒に寝なかった罰としてちょっと厳し目に説教中です。ええ、寂しかったですよ。
「悪かった、許してくれ」
土下座までやられたら許すしかないでしょうに。反省の色も出ているし、今回はこれで終いにしましょう。気が付いたら人が結構見ているし、慧音も微笑みながらこちらを見ている。ちと、ハズいわね。
「ならばよし。……本当に注意してよね、また、怪我されたら心臓いくつあっても足りはしないわ」
頭の中に浮かんできた光景は、血まみれになって紫のスキマから運ばれてくる綱吉。あの時は本当に怖かった。あんなことがもう一度起きたらと思うとゾッとする。
気が付いたら肩に手を置き、苦笑している夫がいた。
「ああ、いつも心配掛けてすまない。……これで借りができたな」
「いいえ、これも妻の仕事ですもの」
人がいるっていうのに恥ずかしいことを言ってる私、まぁ、久しぶりなのだからしょうがない。うん、だから周りはニヤニヤすんな。
慧音が困った様に聞いてきた。
「あのー、先代様?いいですか?」
「む、すまない。迷惑かけた」
「い、いえ、夫婦仲良くていいと思います」
「そ、そうか……で何だ?」
「皆さんが、綱吉さんが帰ってきたお祝いに宴会をしたいというのですが、どうでしょうか?」
「ふむ、どうする?やる?」
夫に聞く私。あの人は頷いて言った。
「ああ、いいぜ。場所は神社、1人酒とか料理とか持ってくること、後賽銭ね」
まあ、宴会参加費みたいなもんだな、と言いながらちゃっかり賽銭を要求するところは霊夢に似ているわね。
あれ?私に似ているって?……そうかしら?
「じゃあ、今日は宴会するからな、来れる人は来るように。無理に来なくてもいいぜ、妖怪に襲われたら危ないからな。ふんじゃ、行こうか朱鳥。俺たちも準備しなくてはならないからな」
「え、ああ、そうね。それでは先生失礼します」
「はい、それではまた会いましょう」
慧音がそう言ったということは、今晩来るのね。久々に騒がしい夜になりそうね。
お父さん達がデート(?)に行った頃、お客さんが来ていた。白黒の魔法使いで私の友、霧雨魔理沙だ。
あいつは片付けをしている私を見て意外そうな顔をした。
「おいおい、珍しいな。こんなとこでお前が昼間っから片付けをしているなんて」
「うるさいわね、あんたみたいにゴミ屋敷は勘弁よ」
「おっと、ゴミ屋敷とは失礼な。私から見たら宝の屋敷だぜ」
「片付けが出来ないだけでしょ」
「片付ける場所がないんだぜ」
「ハァ~、もういいわ。今日は忙しいの、用がないなら帰って」
「そりゃないぜ、しかも忙しいなんてこれまた珍しい、なんでなんだ?お袋さんと何かあったか?」
「いや違うわ、お父さんが帰ってきたよ」
「なんだ、親父さんが帰ってきただけか、そうか……って、ええ!?嘘ぉ!!」
「うるさいわね~、嘘ではないわ」
耳元で大声を出して叫ぶ魔理沙。お父さんがいることは知っているが私かお母さんから聞いた話しか無い。いつか会って話をしてみたいとは言ってたけれども、ここまで反応するとは。
「じ、じゃあ今お袋さんと出かけているのか?」
「そうね、人里に挨拶回りしに行ったからしばらくしたら帰ってくると思うわ」
「そうか、じゃあ今日はここにいるぜ」
「会って行くの?」
「勿論、なんせ魔法陣のノートをくれた人だからな」
「……お母さんが魔理沙にあげたやつね。あれは全部勘で書いたらしいわよ。魔法の知識ないらしいし」
「そうだってな、あれで、結構助かったりしているんだ。お礼を言わないとダメだぜ。後、『波動』だっけ?それについて色々とご教授願いたいぜ」
「そう、なら片付け手伝って」
「おう、任せろ!で、何をすればいいんだ?」
「そうねーー、じゃあこれをーーー」
お父さん達が帰って来たら、宴会になりそうだからそれの準備もしなくちゃ、魔理沙もいるし今日も楽しい夜になりそうだわ。
帰って来たら宴会の準備が霊夢と、霊夢の友達の手でできていた。
スゲェ、こいつら。
友達は霧雨魔理沙と言ってどうやら霧雨道具店の娘らしいが、あえてそこは聞かなかった。なんか聞かない方がいいかと思ったから。
最初は緊張してて、敬語になってたけど慣れてからは男の子っぽく「だぜ」口調になった。元気が良くて可愛い子だなと思った。
魔法使いに成り立てで、昔、俺が適当にそれっぽい魔法陣を書いたノートを見て独学で魔法の形に仕上げたと言う。いいセンスだ。
彼女曰く、「すごく大切に扱っている」らしい。俺も、波動は独学だったから一人でやることの難しさとか痛いほど判る。魔理沙とはいい酒が飲めそうだ。
日が暮れ、妖怪たちがそろそろ活動する時間に入ってきた。神社の道は霊夢が道の整備をサボってたらしく獣道になってたので急いで俺が道を切り開いて、宴会に参加する人たちの護衛をした。
慧音先生も来たので皆は安心して来れたと言うからホッとした。
怪我されたら本当に楽しい宴会が一瞬でダメになるからね。
ざっと数えて150人位。慧音先生や昔世話になった人たち、妖怪退治を生業にしている友人などが来てくれてた。どうやら、スキマ妖怪の紫は来てないらしく姿は見えなかったが……まぁ、あいつのことだ、日常生活でいきなり現れるだろうから気にしなくていいだろう。
「さて、じゃあ今日は主役の綱吉にご挨拶といこうじゃないか」
酔っているのかいつもより饒舌に喋る慧音先生。いつの間にか司会みたいなことをやっている。
俺は立ち上がりみんなの前に移動した。そして一礼していった。
「あ~、どうもお久しぶりです。ようやく幻想郷へと帰ってきました。10年前、俺は吸血鬼との戦いで重症の怪我を負い皆さんに心配かけた事をお詫びいたします。今日は皆さん飲んで騒いで楽しんで下さい。それでは……」
そう言って俺は手に持った盃を少し掲げる、するとみんなも待ってましたと言わんばかりに少し腰を浮かせ盃を手に取る。
俺はみんなが盃を手に入れたことを確認して大きい声で言った。
「乾杯ーー!!」
「「「かんぱぁぁああい!!」」」
「親父さん!!波動について教えてくれ!」
「お父さん!じゃんじゃん飲んでね!!」
「なぁなぁ、外の世界ってどんな感じなんだ?」
「それは僕も気になるね。是非、教えてもらいたいところだ」
「こらこら、一気に話したら困るだろう。落ち着け」
皆一斉に話してくるから何にどう答えればいいのか解らない。朱鳥は微笑みながらこっちを見ていて助けてくれそうもない。慧音先生が皆をなだめてくれて本当に助かった。
っていうか、
「霖之助、来ていたのか」
香霖堂の店主、森近霖之助が来ていたのは驚きだ。すると霖之助は溜息を吐いて言った。
「まあね、なんたって魔理沙と霊夢が来るように言ってくるもんだから、出てきたよ。流石君の子だね、性格がそっくりだ」
「フフ、そうか来てくれて嬉しいよ。じゃあ、外の生活について話をしよう。何、時間はあるんだ、ゆっくり話していこう」
こうして俺たちは朝まで飲み、語り合った。
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3話 過去の記憶
「たいよぉぉおおおけぇええんん!!!!これで最後だぁ!くたばれクソコウモリィ!!!!」
『豪炎:天照』
「ぎゃあああああ!!熱い焼かれるぅぅ!!おのれ綱吉、綱吉ぃぃいい!!」
「うぐっ⁉何だこの牙は!気が遠くなる」
「おとうさん、死なないで!おとうさぁぁあん!!!!」
ーーーー
「っ!夢か……」
目がパッチリと開いて綱吉は眠りから覚醒した。額には玉のような汗を滲ませ、心臓はバクバクと音を鳴らしている。
――――懐かしい夢を見たものだ。
布団から這い出て障子を開けて思う。幻想郷に帰ってきたからか、見たくないものを見てしまったと後悔してしまう。だがそれは悔いても仕方がないこと、寝ているあいだに汗をかいたので喉がカラカラになっている。
時間は大体5時くらいだろうか、二度寝するにも胸糞悪い物を見たので寝れる気がしない。外に出て新鮮な空気でも吸って気持ちをリセットしよう。
そう心の中で結論を弾き出し、台所にある水瓶からお椀一杯分の水を飲んだ。喉を冷たい水が通って体の熱を下げていく。
寝巻き姿のまま、下駄を履き外へ出て、新鮮な空気を深呼吸で取り入れる。頭の中はスッキリとしているが心のモヤモヤは晴れない。
―――らしくないね。
内心苦笑しながら、ちょっと朝の運動ということで空を飛ぶことにした。
神社から飛んで人里に向かっているとふと気になる疑問が浮かんだ。
――――俺が吸血鬼と戦った場所はどうなっているのだろう。
大きな湖の近くで吸血鬼と多くのゾンビ相手に素手で戦ったあの時。習得したての太陽拳で吸血鬼と渡り合い、大きな傷を負い、満身創痍のところを倒したと思った敵から呪いの牙を喰らい、心肺停止の状況に陥り……。
俺の人生が大きく変わった場所。
今どうなっているのか気になって仕方が無い。まだ、霊夢も朱鳥も起きていないし朝ごはんになるのにまだ時間はある。行ってみることにした。
大きな湖に着いたが霧が出ていて周りがよく見えない。10m先は霧で覆われている。
「すごい霧だ、これではどこにいるのかが解らない。そして、腕時計も持ってくるのを忘れているし、装備も不十分だ。ここは引くか」
下駄が湖に落ちないように足の指で下駄紐を掴みながら浮いているのもいささか面倒だ。綱吉は回れ右をして今来た道を引き返した。
神社に帰って朝ごはんを食べ終わった時、朱鳥が机を布巾で拭きながら訪ねてきた。
「どうしたの?貴方らしくないわよ」
「何が?」
「様子がおかしいわよ、霊夢が話しかけても、聞いてなかったりボーッとしてたり。まるで心此処にあらずって感じだったわよ」
「そうか……」
「何かあったの?妻なんだから相談してよね」
胸を張って言い切る飛鳥に、綱吉の心が暖かくなる。
「ふふ、そうだな…………実は――――」
自分のことを想ってくれている嫁に感謝しつつ夢のことを話した。
「……なるほど、昔の夢ねぇ」
「ああ、しかも心に引っかかるんだ。また何か起こりそうで」
「ヤダ、やめてよ。貴方がそう言うと現実になるんだから。第一私もあなたも引退するべき者よ。霊夢に引き継いで行かなくてはならない。それは解っているでしょ。」
「ああ、それは理解している。だが、まだ俺にはやるべきことが残っている。紫が言っていた『スペルカードルール』。そのルールに基づいて霊夢や魔理沙が妖怪退治をしていく時代へと変わっていく。新しい時代だ、俺はそれを受け入れよう。だが、それを拒む妖怪が出てくる。そいつらと決着をつけたら俺の役目は終わって引退だ。近いうちに俺と戦う奴がいる。これは俺の勘だが、俺の勘は絶対に当たる!……戦う時まで鈍った体を昔みたいに動けるようにしなくてはならない。修行をしなければ」
「そう……それならくれぐれも無茶をしないこと。いいわね」
「ああ、約束する」
拳と拳をお互いに合わせて約束をする二人。すると、霊夢が茶の間に戻ってきた。
「片付け終わったわ。ってなんかいい雰囲気?イチャイチャするなら他所でやってよ」
「霊夢がそれ言う?お父さんにベタベタくっついている人が?」
「べっ、別にいいの!お父さんの子なんだからいいの!」
「いいかしら、霊夢。貴方のお父さんの前に、私の男よ。そこ忘れないでね」
「う、うん」
妙に威圧のある声で霊夢に釘を指す飛鳥に内心ビビっている霊夢と綱吉だった。
「それじゃあ、全力で行くから」
「ああ、来い」
神社境内で2人は相対していた。綱吉が全盛期の力を取り戻すには本気の朱鳥と戦ったほうが早いと思い、手合わせをすることにした。
神社には霊夢と魔理沙の2人がいるが、2人には「自分の身は自分で守れ」と言っている。つまり、子ども2人を気にかける余裕は無い。神社の中にいるという選択もあるのだが、2人はそれを選択しなかった。
「よし!まずは『霊術:月霊モード』!」
「フン、こちらも全力で行く!『太陽拳』!だぁありゃあーー!!」
朱鳥の目は銀色に輝き、陰陽玉が浮かぶ。一方綱吉からは炎のように赤く輝く波動が吹き出す。2人からは見るものを圧倒する気迫が出ていた。
「行くぞ!『博式封魔陣』と『氷河千本』!!」
「フン、『百式:炎手拳』!!」
大量の弾幕と氷の針が綱吉を襲う。それを炎の百烈拳ですべて打ち落とす。それでも構わず朱鳥は弾幕を張りつつ印を結ぶ。
『守式:一夜城』
氷のバリアーが展開され、そして更に宣言する。
『博式:四十結界』
氷のバリヤーの上に結界を張る。大妖怪でもなかなか壊せない結界だ。その上外にある陰陽玉は綱吉に向けて弾幕を放つ。
それを空中で躱しながら綱吉は陰陽玉を破壊するために波動の槍を形成する。そして思いっきり投げつけた。
波動の槍は弾幕を切り裂き跳ね返し、陰陽玉の1つを貫き破壊する。
「へぇ、鈍ったて言う割には動けてるじゃないの」
「ふん、てめぇには負けねえぜ。そぉら!」
一気に陰陽玉に近づいて破壊する。
「こいつで2つ!」
顔面に弾幕を放ってくるのを躱し、波動の槍を形成し放ち破壊する。
「これで3つ!」
最後に残った陰陽玉を膝蹴りで破壊した。
「こいつで全部だ!そろそろ決着をつけてやる!」
一旦距離を取り一気に結界前に近づき、そして――
「おらぁ!!」
正拳突きを思いっきりぶつけた。その衝撃と波動が勝負を見ていた魔理沙と霊夢を襲う。
「魔理沙!」
「解ってらぁ!」
「『霊符:夢想封印』!!」
「『恋符:マスタースパーク』!!」
2人は自分の技で最高級に当たる技で衝撃から身を守った。
朱鳥の結界はヒビが入り粉砕してしまう。
「嘘!?」
「終わりだ!!」
驚愕する朱鳥に対して攻撃の手を緩めない。目の前に両手を突き出し波動を一点に集中する。
『豪炎:天照』
両手から放たれる金色の波動は氷のバリヤーを破壊し、朱鳥を飲み込んでいった。
「何が鈍ったのよ~、前より強くなっているじゃない。私もそれなりに強くなったと思ってたのにそんなことなかったわ、グスン」
「おいおい、こいつらの前で泣くなよ」
朱鳥は体に擦り傷を負って綱吉に手当をしてもらっていた。負けて悔しいのか泣き言を言う朱鳥に戸惑っていた。
「せっかく貴方の『太陽拳』を参考にして『月霊モード』を完成させていじめられると思ったのに」
「おい、なんだって?」
「婚約の時のリベンジが出来ると思ったのに、悔し~!」
「まぁ、強かったよお前も」
「まぁ!?まぁって何よ!それとあっさり結界打ち破ったあなたが言う!?」
「あ、あ~~……」
その様子を見ていて魔理沙が霊夢に言った。
「親父さん困っているみたいだぜ、助けないのか?」
「今あの中に割り込んだらお母さんに何されるかわからないわ。関わらないほうがいいの。それに――」
「それに?」
「お父さんとお母さんを一緒にしてたほうがいいでしょ、お母さんだって甘たいのよお父さんに」
「ふ~ん、それじゃあその言い方だと霊夢は親父さんに甘えっぱなしだったって事か」
「まあ、一緒に寝てたりしたけど…………ッハ!」
自分の言ったことの重大さに気がついたのか魔理沙の方をみる。魔理沙はニヤニヤしながら霊夢を見ていた。
「へぇ~~霊夢は甘えん坊だったのか」
「なっ、ちょっ、ち、違うわよ。ただ、その、……あれよ!寝たかったから一緒に寝ただけよ!」
「まあまあ落ち着け霊夢、自爆している」
「ああ~もう!別にいいじゃない親子なんだし!!」
「ハハ、まあいいんじゃないか?」
「なによ~その言い方!!」
霊夢はひとつ札を取り出して叫んだ。
「これでも喰らえ!『霊符:夢想封印』!」
「なっ、やめろ霊夢!落ち着けッ……ぎゃあああああ!!」
爆音とともに魔理沙は人里の方へ吹っ飛んでいった。
「おい、霊夢。魔理沙はどうした?」
綱吉が朱鳥の手当てを終わらせ霊夢に訪ねた。
「ん?魔理沙なら今帰ったわよ」
笑顔で霊夢は嘘をついた。それに気づかずに綱吉は残念そうに眉尻を少し下げ、
「そうか、せっかくだから人里に行って魔理沙も一緒に晩飯を食べようかと思ったんだがいないなら仕方がない。霊夢と朱鳥と俺と3人で食うか」
この後、木に引っかかった魔理沙を発見・回収し、結局4人で食べることとなった。
食事中に霊夢の目線が怖かったと魔理沙は後に語った。
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4話 赤い屋敷での戦い・前編
急いで書いたので誤字脱字があるかもしれません。
今日はやけに肌寒い。
そう思いながら俺は朝早く布団から這い出た。となりには霊夢がすやすやと寝息を立てている。その姿に苦笑しながら起こさないよう注意する。
「うう〜ん、お父さん待ってぇ……」
うん、可愛いです。寝言の言う霊夢は可愛い。普段は凛としていて、何の色にも染まらない白って感じが俺と2人っきりになると甘えん坊になる。嫁にはこの前「子供じゃないんだからお父さんにベタベタくっつかない」と言われたが、そんなことは気にしないで隙あれば引っ付いてきます。ただ、外の世界で暮らした為か未成年の霊夢が酒を飲むのはなぁ、嬉しさ半分悲しさ半分ってとこかな。
幻想郷にはお酒はハタチからってのが存在しないからしょうがない。
さて、なんというか嫌な気がして起きたがやっぱり気になってくるのが10年前の戦いの場所。やっぱり嫌な予感しかしない。ただ、気に食わないってこともあるのだけれども。
「勘が当たる程度の能力」は便利だけど、妄想とか空想は当たることがないからたまーに外れるのがある。あまりこの能力を過信しすぎては痛い目にあう。
洋服着込んであの場所に行きますか。そう思いながら静かに部屋を出た。
空を飛びながら真っ直ぐに目的地へと進んで行く。大きな湖を超え視界に現れたのは真っ赤な洋風の屋敷。壁やら屋根やら全部真っ赤。……趣味悪いな。
大きさ的には学校の校舎くらいかな、周りには門が壁で囲まれて門がある。門の前に降り立ったけど、門は閉ざされていた。当たり前だけどね。
校舎位の大きさでありながらヒトの気配はしない。……無人の屋敷なのか?気になって外壁を飛び越え屋敷に侵入した。
この屋敷、あまり窓がない。屋敷内に入ろうとするのに時間がかかった。
廊下に降り立ったが壁に備えてあるロウソクがゆらゆらと頼りなく輝いていた。
……お化けでも出んじゃね?
グローブを装着し何が出てもいいようにする。妖怪とか出てきともおかしくない。
カツカツ、カツカツ。靴の音が軽く響く。ここまで静かのはおかしい。しかもこの廊下長い。どの位歩いただろうか、部屋の扉が見つからないし、分岐点すら出てこない。ここまで大きい建物なのにいくらなんでもおかしすぎる。
そこで気がついた。
「結界か……さて、鬼が出るか蛇が出るか」
このまま俺は進むことにした。
しばらくして廊下の突き当りに大きな扉が備え付けられていた。押し開くとそこには地下に続く階段があった。
「誘っているのか?……何かとてつもない事が起きそうだ」
引き返そうかと思ったが結界の中にいるのだからそれは不可能だろう。溜息をついて俺は階段を下りていった。
目が覚めたらお父さんがいなかった。
「む~、どこいったんだろ?」
のそのそと布団から出て、ふぁあ、とあくびをして布団を畳む。
「……何か、寒いわね」
ボサボサの頭を手櫛で整えながら、台所に向かった。
「お母さんおはよう」
「ああ、霊夢。おはよう、……お父さん知らない?」
「ん?知らないわよ」
「そう、じゃあどこいったのかしら?」
フライパンでもやしを炒めながら軽く考えたみたいだけど、すぐ結論を出したのかお母さんは鼻歌歌いながら調理に専念した。
「霊夢、さっさと顔洗って服着なさい」
「ふぁーい」
「ねぇ、お父さんってふらりとどっかに行っちゃう人なの?」
「ん?そうねぇ、でも日帰りよ」
「お父さんてお金持ちなの?」
「ん~、どうだろう。結構いいもの買ってくるけどね。ステーキとか普通に自分で焼いて食べてるし、金持ちじゃない?」
野菜炒めを食べながらそんなことを話す。まだまだお父さんのことを知っていない、それにお父さんはあまり自分のことを語らない。お母さんもだけど……。
「ああ、霊夢。後片付けはお願いね」
「分かった。はぁ~異変でも起きないかしら、退屈だわ」
青い空を見上げてそう呟いた。……すると、赤い霧が空を覆っていく。
「お母さん!」
「ん?!異変ね」
私は急いで自分の皿にある野菜炒めを食べた。
大きな鉄の扉の前に俺は立っていた。ここからは大きな殺気、狂気、血の気配が立ち込めている。覚悟を決めて扉を押し開いた。
ギギィ……。
音を軋ませながら鉄の扉が開く。そこは赤い絨毯の敷かれた部屋だった。大きなぬいぐるみ、本がたくさん並んだ本棚、天蓋のついたベッド。お姫様が過ごす部屋のように豪勢なものだが、明るいイメージは無く、薄暗い部屋だ。
「だぁれ?」
幼い声が部屋に響いた。
「お客さんかな?」
そう言って現れたのは小さな女の子だった。
「……」
俺は言葉が出せなかった。見た目は幼い女の子だが、背中には木の枝のようなのが生えていて七色の宝石が着いていた。赤の目にキラリと光る歯。鋭い爪に、どこか強者の風格が漂う。俺はこいつを見たことがある。いや、俺はこいつに似た奴を倒したことがある。
吸血鬼の女の子。
ハハ、鬼じゃなくて別な鬼が出やがった
「ねぇ、おじさんだあれ?」
「ん、ああ、俺は…………綱吉って言うんだ」
「綱吉叔父様?」
「ああ」
ただでさえ混乱状態だってのに「おじさん」かぁ~、もう俺おっさん扱いなんだな。
「ふう~ん、どこから来たの?」
「人里から来たんだが迷ってね、気が付いたらここにいたのさ」
「そうなんだ!」
すると女の子は目を輝かせた。
「それじゃあ、お外の事を教えて欲しいな。フラン、ここに閉じ込められて全然知らないんだもん」
「何だって!?」
「それよりも、ねぇねぇ、お話しようよ」
「そうだな、その前に君の名前を知らないよ」
「あ、そうだね!私はフランドール・スカーレットって言うの」
スカートの裾をつまんで挨拶をした。
フランは狂気とはかけ離れた明るく元気な子だった。好奇心旺盛で色々と気になることは納得いくまで質問してきた。
ある程度話をして俺は切り出した。
「なぁ、フラン。お前はなんでここにいるんだ?」
フランは俯いて言った。
「お姉さまが外は危険だからダメって出してくれないの」
「危険?」
「うん、たまに家の中を出歩くことを許すくらいでいっつも部屋の中にいるの」
「どうしてだ?フランは何か理由は分かるかい?」
「多分、皆私のこと怖いんだ」
「フラン?」
きつく拳を握るフランからは微かに狂気を感じた。
「私ね、能力が『ありとあらゆるものを破壊する能力』なの。だから、お姉さまはそんな私を化物扱いするの。友達なんてだァれもいないの!」
両目には涙を湛えて言った。
「そうか、そういうことだったのか」
俺は優しくフランを抱きしめた。
「あっ……」
「よしよし、辛かったな。寂しかったな」
「ううっ……」
「俺も小さい時は化物扱いされたことがあったから気持ちは分かるよ」
「本当!?」
「ああ、だからフランの気持ちは痛いほど分かる。もし、良かったら俺の友達になってくれるか?」
「っ、うん、いいよ!お友達になろ!」
「じゃあ、握手しようか」
「うん!」
フランは涙を拭って右手を差し出した。俺はその手をしっかりと握る。
「ねぇ、友達になったんだから一緒に遊ぼうよ」
俺は気がついていなかった。
「そうだな、何して遊ぼうか」
あの狂気の大きさを。
「ふふ、それはねぇ……」
フランの心の傷の大きさを。
「これだよ」
気づいた時には遅かった。
「アハハハ!」
「なっ!」
弾幕が腹部に炸裂した。
「――――ガハッ……」
「アハハハ、どうしたの?ねぇ、遊ぼうよ!!」
腹に激痛が走り、痛みにこらえながら何とか立ち上がる。
「今までに、何人かここにヒトが来たけれど、みぃんな友達になるって言っていなくなっちゃったの!!ねぇ貴方はどう?綱吉叔父様ぁ!!」
「グッ!?くそったれ!」
口に充満した血を吐き出し構える。フランは宙に浮いていて羽を羽ばたいている。カランカランと不協和音を奏でながら狂気に満ちた笑顔を見せる。
「アハハハ!いっくよー!」
「っ来い!」
目の前には辺りを埋め尽くす弾幕が張られた。多く小さく殺傷能力を持った弾幕。それを最低限の動きで躱していく。
「アハハすごいすごい!避けたね!!でもまだまだだよ!」
「……」
集中しろ、前を向け!攻撃パターンを見極めろ!
自分に言い聞かせながら攻撃を躱していく。
「アハハハ、これも避けたね!それじゃあ……」
――ここだっ!
両手から波動を放ち一瞬で距離を詰める。
「キャッ!」
「ウラァ!」
波動を込めた拳はフランの腹に食い込み波動を流しぶっ飛ばす!フランは勢いよく本棚に突っ込んだ。
「……」
手加減はした。だから、
「アハハハハハハ!一発貰っちゃったァ!久々だなぁこんなの!!」
直ぐに立ち上がって来る。
「お姉様と喧嘩した時以来かな、強いね叔父様!」
「フランもな、手加減したとはいえすぐ立ち上がるとは流石だな」
「手加減?そんなことしてると死んじゃうよぉ!!」
フランは腕を振るう。すると赤と白の弾幕が覆い尽くす。
「ハッ!」
それを高速でかいくぐる。距離を詰めて殴ろうとするが「遅いよ!」躱された。そして至近距離で弾幕を食らった。
「グハッ!」
「フフ、どうしたの?傷だらけだよ叔父様」
フランは俺の腹に馬乗りになっていた。小さな見かけに反して岩のような重さで動きを押さえつけている。
「あ~あ、血が出ちゃってるね」
首筋に顔を近づけて言った。そして、
「いただきます」
ガブり。首に噛み付いて血を吸い始めた。
「うぐっ、くっ、邪魔だァ」
体全体から波動を放ちフランを引き離す。
「うん、うう~ん、実に馴染む。ふふ、おじ様の血は美味しいよ!」
口の周りを真っ赤にして言うフランは酔ったように頬を赤くして言った。いや、酔っている、俺の血で。
だが、状況は一気に不利になった。ダメージも大きい。俺は殺す気で戦うことに決めた。まずは、傷の回復をしなければ!
「『
これは自分を戦いの前と同じ状況に戻す技。
白い光が体中の傷を癒していく。
「わぁ、すごいね。こんなこともできるんだ」
「ああ、まあな。そしてこっからが本番だ!!」
「太陽拳!!」
地下室を震わせるほどの波動を放って身構える。
「さて、お遊びの続きと行こうか」
「アハハハッ、じゃあ第二回戦だね!」
そして2つの赤い光がぶつかった。
「とうとう、始まったわね」
「妹様が喜んでいるようですね」
「それはそうよ、一度同族を退けているのだからそれくらいやってもらわないと」
「……」
「咲夜、それじゃあ始めましょうか。此方も」
「はいお嬢様」
かくして異変は始まる。
「ホワイトゴスペル」!
幽波紋ではありませんよ
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5話 赤い屋敷での戦い・後編
幻想郷が赤い霧で覆われて行く。時は昼時に差し掛かったころには全域が霧で覆われた。その頃1つの戦いが終わろうとしていた。
地下で行っていたフランドールと綱吉の戦いだ。
戦いは第二ラウンドに入って大きく変わった。綱吉が僅かだが有利になっている。
「……おい、フラン。さっきまでの余裕はどうした?」
「アハハ、叔父様本当に強いんだね!私の攻撃を素手で止める玩具は初めてだよ!」
そう言って絨毯を強く踏み込み絨毯の下のタイルを破壊しながら突っ込んで来た。そして懇親の右ストレートを腹に繰り出した。
ズダァン!!
拳銃を撃ったような音が部屋に響く。が、しかし、俺の体はビクともしない。
「なっ!?」
「どうした、なぜそこで止める?」
「クッ!」
右!左!右!左!フランはラッシュをするが、痛みすら感じない。理由は波動で攻撃のダメージを受け流し緩和しているからだ。そこで俺はひとつ頷き右の拳を左で止めた。
「フム、いいかフラン。パンチってのはこう打つんだ」
優しく語りかけるように言って鳩尾に一発食らわす。ただの突きでは無く、波動を込めてフランの体の自由を奪う一撃だ。
「ガハッ!!!!」
フランは腹を抑えて膝をついた。
「フラン、何遠慮するな。今のうちだぜ、こうやって遊んでもらえるのは。大人だったらすぐに追い討ちをかけて殺しているぞ」
「くっ、じゃ、じゃあ叔父様は手加減してるって言うの⁈」
「当たり前だろ。ガキ相手に本気を出すバカがいるか?全力で相手にはするが、12割の本気は出さないさ」
「糞がぁ!」
フランはそう叫ぶや否や炎の剣を振りかぶり切りつけてきた。
「死ねぇ!」
上段からおおきく振りかぶっての正面斬りを俺は余裕を持って右手の人差し指と中指で白刃取りをした。
「フッ、気迫はいいが、女の子はそんな物騒な言葉を使ってはいけないな」
「く、ぐぐぐ……」
それでも何とか斬ろうと力を込める。
「…………はぁ、やれやれ」
手首を返して炎の刃をへし折ってフランに投げ返す。炎の刃は使い手に届く前に空中に消えた。
「流石にお前の武器では攻撃出来ないか。……次にお前は『子供相手に大人気ないね!』と言う!!」
「フンッ『子供相手に大人気ないね!!』……ハッ!?」
ふふ、セリフの先読みが決まった。フランの表情は驚きに固まっている。これでこの勝負はコッチのもんだ。大抵は、セリフが言い当てられた事によって動揺し、焦る。そして、何とか早く勝負を決めようと突っ込んでくるところをカウンターでぶっ倒す。博麗綱吉、ブランクはあるとはいえ、戦い方は益々健在と言った所か。フランは炎の魔剣を装備して、俺は右手から波動の炎で造った即席の剣で切り結ぶ。
「お前の運命は握られた!お前の運命はーー」
「くっそぉおああ!!」
フランは下段から俺は上段から振り下ろして互いの刃はガキッ!と音を鳴らしてぶつかった。
「『敗北』だ!!」
ーーーー
強い。だんだん戦って行くうちに、私の身体の中にある狂気が恐怖に変わって行くのを感じていた。
此方がいくら攻撃しても、いくら傷を与えても受け流し、躱され弾かれる。
まるで大きな雲に攻撃しているようだ。コッチの考えが読まれているようだ。
「子供相手に大人気ないね!!」
私はそう思い口にして挑発しようとしたら、逆に言い当てられてしまった。
「次にお前は『子供相手に大人気ないね!!』と言う!!」
ビシッと指を刺されて言われてしまった。その瞬間、目の前にいた叔父様が揺らめいて巨大な太陽に変化して行く様に見えた。
膝が震えるほど怖い。それでも私は吠えて魔剣を出現させて大きな太陽に突進した。
「『敗北だ!』」
敗北だ!敗北だ!敗北だ!敗北だ!敗北だ!敗北!敗北!敗北!敗北!敗北!敗北敗北敗北敗北敗北敗北敗北負け負け負け負け負け負け負け負け死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死死死死死死死死…………。
「あぁ、うがあああぁぁあああああ!」
私はめちゃくちゃに剣を振り回し斬りつけた。視界が霞み間合いが分からないけど、恐怖心を振り払うためひたすら魔剣を振り回した。
力無き魔剣は叔父様の剛拳に吹き飛ばされ天井に突き刺さった。
「っ!そんな!」
「いったんお前をさ、治したら卑怯じゃないよな」
そんなことを言って叔父様は両手を出し白い光を放った。光は私を包み傷を癒していく。これはさっき叔父様が使った技。
「覚悟はいいかぁ……!歯ぁ食いしばれぇ!!」
両手の拳に炎を灯し構えを取る。私はすぐ自分がどうなるか理解した、殺される。殺される!!
「あ……ああ、イヤァ!」
――――ぐしゃり。
「あ…………」
右手に伝わる感触。小さな球体を潰した感触。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』が発動した感触。
視線を右手から前方に移すとおじ様だったものが潰れ、血溜りとなり、肉片が浮いていた。
「ああ、あああ!……死んだ死んだ、かわいそう」
そう呟くと、お腹の底がウズウズしてくる。口角がつり上がっていくのが抑えられない。
「フフ、フフフ、そうよ。叔父様が調子に乗っているからこんなことになるのよ。アハハハハハ!!」
「アハハハハハハハハハハッ!!……そうだ血を飲みましょう」
そう言って一歩動こうとした瞬間。体が動かなくなった。
『動くな』
「な、何!?」
私が驚いていると後ろから声が響く。
「俺が『奥義』を使った。そして、脱出できた。やれやれだぜ」
後ろを振り向きたくても振り向けない。心臓がバクバクと音を鳴らしている。
「お前が壊したのは残像。これを見破れるのは嫁くらいなものだ」
低い声で言いながら死んだと思ったヒトが目の前に現れる。
「これからてめーを殺すのに、1秒ともかかんねーぜっ!」
鋭い目線でそう言った叔父様。その目は強い意志で燃えていた。
「……私の、負けです」
体中の力が抜けて蚊の鳴くような声で負けを認めた。目頭が熱くなって視界がぼやけてくる。
「……なさい……」
「……はい?」
「ごべんなさいっ!!」
「……フラン?」
「あだしっ、叔父様を、殺そうとして……!!」
「……そうか、わかった。俺も謝るよ、痛い思いさせてしまったな、すまなかった」
叔父様は、しゃがんで目線を合わせて言った。私はワンワン泣いていた。それを叔父様は優しく抱きしめて慰めてくれた。
暖かい感触。血の暖かとは違う感触。私が一番欲しかったもの。ずっとこのままいたいな……。
そう思ったら私の意識は闇に沈んでいった。
「寝たか」
いやー、死ぬかと思った、ガチで。『奥義』使って何とかしたが、できなかった場合を考えるとゾッとするぜ。腕の中で俺の服を掴んで寝ているフランを見ながら動かせる右手を使って冷や汗を拭う。……やれやれ、折角の上着がボロボロになっちまった。捨てるしかねぇな。
取り敢えずフランを楽にできる場所を探して寝させてやろう。そう思って室内見ると、案の定ひどい有様。戦闘の激しさを物語っている。それでもソファーは何とか原型を留めていたのでそこにフランを寝かせてあげることにした。
ゆっくりフランを抱えて、起こさないように静かに寝かせる。思いのほか、ソファーが大きいので俺も座らせてもらうことにした。
「やばいな、俺の波動がもう無い。フランみたいなやつがあと何体いるか。……しかも太陽拳がやはり全力を出しきれていないのが辛いな。フランの前で強がってみたのはいいが、ちゃっかり全力出していたし……。……何とかして全盛期の力を出さないと……。失敗したな、朱鳥がいれば助かるんだけどな。クソッ」
すやすや眠るフランを見て優しく頭を撫でる。
「10年か、失った時間は大きいな。フランより幼かった霊夢が大きくなって、たくましくなってしまった。俺は父親として一番いるべき時間にいなかったからな。寂しい思いをさせてしまった。全く父親失格だ。しかし、こんな俺を霊夢はまだ父と呼んでくれている。霊夢のためにも頑張らないと」
俺は拳を握り締めて心に言葉を刻み込み、少し休むため瞼を下ろし眠ることにした。
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6話 部屋から出るとき
博麗の先代巫女、博麗朱鳥は人里で印を結んでいた。人里には元々色々な結界が張ってあるが、妖怪が入れるように軽めにしてある。悪意のあるものを探知し人里を守っている慧音や妖怪退治を生業とする仲間に知らせる程度のもので普段はあまり活躍していない。しかし、今回の霧は妖気があってお年寄りや妊婦には危険なものだ。人々が被害を受けないように緩い結界をしっかりしなければならない。
霧は入ってこないようにした。しかし、今度は妖怪が襲いに来るかも知れない。そうなった場合の手段を講じなければ……。
「先代、この霧はおかしいですね」
慧音先生が現れた。
「おはよう、先生。ちょっとごめん、集中させて」
「あっ、すいません」
印を結ぶ。人差し指を合わせて意識を集中させる。
――守護結界発動。
印を解いて先生と向き合う。
「はい、ごめんね。この霧はちょっとね、これは危ないね」
「先代、すいません邪魔をして」
「や、いいんだよ。いつも手伝ってくれてありがたいし、朝早くからお疲れ様だね」
「先代こそお疲れ様です」
「まっ、仕事だしね。アハハ」
普段通りに会話をするが慧音先生には緊張が走っている。
「いやー、ここ最近ついていないね」
「どうかしましたか?」
「いやね、旦那が帰ってきたのはいいけれど、霊夢に取られちゃってちょっと寂しいのよね」
「プフッ、何ですかそれ」
「あっ、笑ったね。ふふっ、まぁいいけど。……霊夢ったらもうベタベタなのよ、綱吉に。今までだったら掃除もしないし料理も手伝わないのに、あの人が帰ってきたら掃除はするわ料理もするわで変わってね。あの人もそんな霊夢を褒めるから余計霊夢は頑張ちゃって、どっちが妻なんだか」
「へぇ、あの霊夢がですか」
「そう、あの霊夢が。おかげで子作りが出来ないじゃない」
「え、そこぉ!?」
慧音先生は顔を真っ赤にして言った。
「いや、10年だよ10年。私だってムラムラするわよ、仙人じゃあるまいし。男の子が欲しいなぁって思ってたとたん夫婦離れちゃったでしょ。霊夢も大きくなったし、弟とかができても大丈夫だと思うんだけどね」
「先代、そのような話は……」
「ん、どったの?人いないから大丈夫よ。私はこう見えて30ちょっとだからまだまだ産めると思うのよ」
「先代!!」
「ああ、はいはい。分かった分かった。この話はおしまい……だから頭突きはヤメテッ!!」
真っ赤な顔で肩でぜいぜい息を切りながら慧音先生は大きく頭を振った。
――ズゴッ!!
「痛ったぁ~~」
「ハレンチですよ、先代!!」
「ハレンチってもね、話しないの?そろそろ結婚したいとか、どういう旦那がいいとか」
「しません!!先代はTPOをご存知ですか?」
「知っているわよ、慧音先生が緊張しているからくだらない話をしたんじゃない」
「でも……!」
「はいはい、私が悪かったわ。それじゃ、私は分身残して旦那を探してくるからそれじゃあね」
髪の毛を抜いて一振りすると、白煙だして分身が出来た。それを見て印を結ぶ。
「『影潜りの術』」
ズブズブと体が自分の影に沈んで行く。そして私は別の場所へ降り立った。
――この部屋暑くね?
意識を闇に落として僅か1分と12秒ほどで意識が戻りました。
おかしいな、普通だったら『はっ、ここはどこだ!?』みたいな展開で目が醒めるんだろうけど、そんなことは無かった。
戦いの余熱で部屋はサウナのように暑く、過ごしにくい。フランも暑そうに寝ている。っていうか暑いなら起きろよ。俺の所為で寝ているんだけど。
暑いな、クーラー無ぇもんな。どうにかしないと……おお、そうだ。月の波動使えばいいのか!
両手に力を込めて波動を出す。金色の炎が拳に灯る。これが太陽の波動。今度はその逆、金の炎が銀の冷気へと変化する。そのまま腕を一閃、冷気が部屋を駆け抜け熱気を奪う。それを見届けると地面に影沼が出来た。そこから現れるのは嫁の朱鳥。
「っと、寒っ。あっ、あんた朝飯食べないでなにやってんのよ‼」
「げぇ、関羽!!」
しまった、口が!!
「誰が三国志の英雄か、バカ亭主!」
札を投げつけてきた。ちょっ、危な。明らかに機嫌が悪くなってる!
「あんたはね、いっつもいっつもふらっとどっかに行って面倒事に巻き込まれては私や周りの人達に迷惑かけて……!!少しは自重しろ!!」
「うおおおおお!!」
怒鳴りながら胸ぐら掴んで揺らすのやめてぇ!!分かったから!!
「ご、ごめっ…………悪かっ……ケホッ!」
何とか声を出したら揺らすのやめてもらいました。く、苦しい、苦しい。
「ハァハァ……死ぬかと思った」
「ふんっ、次やったら潰すぞ」
一息置いて。
「玉を」
「すみませんでしたぁーー!!!!」
気が付いたら土下座をしていた。玉はやばい、玉は。朱鳥は本気でやりかねないから怖い。
「で、ここはどこ?」
「ん、コイツの部屋」
質問にフランを指差して答える。すると朱鳥が睨んできた。
「あんた……」
「おいおいおい、なんだよその『とうとう幼女に手を出したか』みたいな目は」
「霊夢がいるのに……」
「いやいや、人の話聞けよ。こいつに殺されかけたんだって、それにこいつは吸血鬼だぜ!!」
「ふぅん」
――夫が殺されかけたってのに『ふぅん』ですか、そうですか。
「ま、無事で良かったわ」
「ふぁっ!?」
――あれ、まさかのツンからデレですか!?とうとう幻想郷にもツンデレのブームが来たのか!?
「寝てるわね」
「寝ているな」
「叩き起そう」
「何故!?」
「この子には聞くことがあるのよ。お嬢さん起きて」
寝ているからそっとしておこうって考えは浮かばないんだよな。霊夢も「お父さんのお金?じゃあ私が貰ってもいいわよね」とか普通に言うからな。遺伝って怖いわぁ。っていうか、霊夢は俺に甘えすぎだな、後でちょっとお灸を据えるか。
「ん、ううん?さく……や?」
「残念、先代の博麗の巫女よ」
「博麗の……巫女?……叔父様!!」
「ああ、おはよう。悪いな倒れてすぐ起こして」
「叔父様!!」
「おっと……」
フランは俺を見るなり飛び込んできた。それを見た朱鳥はジト目で見てくる。
「やっぱり手を……」
「出していないから。フラン大丈夫か?」
「ん、ちょっとクラクラするけど大丈夫。このおばさんだれ?」
「おばっ、まぁいいわ。この人の妻よ」
「ふーん、綺麗な人だね叔父様」
「うえっ!?ま、まあな」
幼い子は不意打ちが飛んでくるんだった。俺の顔熱いな。
それを聞いた朱鳥の奴機嫌よくなってるし。
「やぁねぇ、全く可愛い子だね。うふふ」
「えへへ叔母さまにそう言って貰えて嬉しいな」
えへへ、うふふ。何か仲いいなこの二人。
「フランちゃん、赤い霧がお外で広がっているのだけれど、原因知らない?」
「んー、わかんない。だってずっとここから出たことないもん」
「え、なんだって?」
まぁ、そうなるわな。フランが真顔で引きこもり発言すると。
「お姉様が『外が危ないからでちゃいけない』って言ってた」
「お外が危ないっていつから?」
「んー500年なるかなぁ?」
「「はぁ!?嘘だろ!!」
これには夫婦そろって驚いた。
「いつからこの部屋にいるんだ?」
「気がついたらここにいたよ」
「姉貴ぶっ飛ばして部屋から出ようと思わなかったのか!!」
フランがここに気が遠くなる位ここに幽閉されていたと知り怒りが込み上げてくる。ついつい言葉がキツくなる。
「だって、だぁってぇ……そんなことしたく無いもん」
――俺の馬鹿ァ!!!
「そうよね、お姉ちゃんと喧嘩したくないもんね。優しいわ、フラン」
朱鳥が優しくフランの頭を撫でながら言った。
「よし、それなら一緒にこの部屋から出ましょ。大丈夫、心配しなくていいし怖がる必要もないわ。あたしとこの綱吉叔父様に敵う奴なんていないんだから」
「えっ、でも……扉には何でも跳ね返す結界があって、私の能力でも壊せないんだよ」
フランは焦りながら説明する。それを聞いた俺の感想は、なんだ、その程度か。
「おーそれは凄い。でも俺達はもう経験済みだ。丁度波動も少ないし補給するにはちょうどいい」
「『あれ』をやるの?」
「ああ、『あれ』だ」
「じゃあ巻き添え喰らわないように離れていましょ、フラン」
「ねぇ『あれ』ってなに?」
フランの質問に夫婦そろって言った。
「「『回転、うっしゃあー』」」
フランが頭上に?マークを沢山出しているのを見てまたまた夫婦そろって笑った。
俺は大きな部屋の扉の前で自然体で立っていた。朱鳥とフランは部屋の端に立っている。
作成はこうだ。フランの能力が結界で跳ね返ってきたエネルギーを波動に変換しつつ、それを跳ね返す。それだけだ。朱鳥がこの部屋に入ってきた術で脱出してもいいのだが、それだと後々の戦いで俺がガス欠で足手まといになってしまう。だからちょっとエネルギーを補給しておくためにこの作戦で行くことにした。
「よし、準備はいいかフラン?」
「うん、良いけど叔父様ぁ……」
「怖いかフラン?」
俺は優しく言った。
「大丈夫、これからフランに世の中にある沢山の楽しみを伝えるまでは死なないから」
そもそも霊夢が結婚するまで死ぬ気はないけどね。
「……うん、わかった!叔父様頑張って‼」
「さぁフラン、サポートはあたしがするから安心して」
朱鳥はフランの肩に手を添える。
「じゃあ行くよ!」
「応、来いっ‼」
『キュッとしてドカーン』!!
瞬間、扉の前に光の筋が走ったと思った時には衝撃が津波の如く目の前に迫っていた。
「回転っ…………‼‼」
右腕を振りかぶり反時計回りに回転する。右腕に衝撃を全部受け止めながら、ぐるりと回り勢いを保ちつつ扉に突き出す。衝撃は波動となり、右腕に集中し、それでも溢れるエネルギーは身体一杯に溜まる。
――今回の俺のパンチはちょっと強ぇえぞ‼
「うっっしゃぁああああああ‼‼‼」
轟音とともに金の波動が結界に蜘蛛の巣のようなヒビをいれる。
「うおおおおおおおらあああああああ!!!!!!!」
駄目押しに腰を入れ拳を突き出す。波動は結界を完全に吹き飛ばし、外の時空間結界すら吹き飛ばした。
――やべぇ、やりすぎた。
壁と屋根が吹き飛び、半壊した屋敷から見える赤い霧を見て俺は冷や汗が止まらなかった。
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