人理修復に芸術家を入れてみた (小野芋子)
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人理修復に芸術家を入れてみた

俺の名前はぐだ男。

周りからはマスターとか坊主とか色々なあだ名?で呼ばれているが一応はこの名前で通っているのでこう名乗らせてもらう。

 

さて、それでは早速だが俺の愚痴を聞いてほしい。

 

今までは人理修復のために四苦八苦していてこんな感じで愚痴をこぼす暇も無かったから溜め込んでいたものが多いのである程度は覚悟しておいてくれ。

 

 

 

それじゃあ早速俺とそいつ、今回の人理修復で俺とともに戦ったもう一人のマスターの出会いについて話そうと思う。

 

 

 

第1印象はそうだなあ。

 

変なやつだ。

 

まあカルデアに来て速攻床で寝ていた俺が言えることでもないがそれでもそいつはそんな俺が普通に見えるくらいには変人だった。

赤い髪に中性的な童顔。

身長は160前後と少々低めの背をしたそいつは黒い生地に所々赤い雲の絵が浮かび上がっている独特なマントを身に纏って廊下を歩いていた。

 

というより逆走していた。

 

っというのも俺がマシュやあの忌々しいレフに連れられてオルガマリー所長の説明会に行くために歩いていたらそいつは向こう側、つまり俺たちの目的地の方面から歩いて来たのだ。

 

この時点ではただの素行不良の少年。

まあ見た目が完全に子供だからやんちゃ盛りの少年という印象だったのだがそいつがマシュを見るなり

 

『お前の絵が描きたいから今から俺の部屋に来い』

 

と言ったその瞬間、俺のその印象は180度変わった。

 

ああこいつ変人だと。

 

余談だがこの時俺の存在はおろかレフの姿すら目に入っていなかったと気付いたとき俺のこいつの印象は悪い方に上方修正された。

 

 

 

 

けど、あらかじめマシュから魔術師は変なのが多いと聞いていたのでこのときはまだ変人とはいっても魔術師の中では普通な方だろうとそう俺は思っていた。

むしろそう言い聞かせていた。

じゃないの胃が痛くなりそうだったから。

 

だが甘かった、こいつはドがつく変人なのだ。

まずレフが話しかけても無視する。

やっと反応したかと思えば

 

『全身緑のセンスのかけらもない美しくもない汚いおっさんと話すつもりはない。早々に消え失せろ』

 

と一蹴。

当時は同情したけど今なら言える。

 

レフざまぁ、と。

 

結局はマシュの説得。

というよりも自らの体を売って(決してやましい意味じゃない)なんとか説明会に行ってくれるようになったがそこでもこいつはやらかした。

俺の隣の席だったこいつはオルガマリー所長の説明をガン無視して在ろう事か所長をスケッチしていたのだ。

分かるか?一番前の席、それも所長の真ん前というある意味での特等席に座ったこいつはスケッチしていたのだ。

当然怒った所長が喚き散らすがこいつはそれを無表情で無視。

どころか身振り手振りして話している所長に

 

『喋るのは構わんが口以外は動かすな。描きにくいだろ』

 

っとまさかの逆ギレ。

 

そこで俺は完全に悟ったのだ。

魔術師がおかしいんじゃなくてこいつがおかしいのだと。

まあその後になぜ説明中に絵を描いているのかと問われた時に淡々と美しいものを描くのに理由などいらんと返されて赤面した所長はチョロいと思う。

 

 

 

 

とまあこれが俺がこいつと初めて会った時の話だ。

どうだ?愚痴りたくもなるだろ?

しかもこんなでもマシュ以上に優秀な魔術師なんだぜ?

Aチームのリーダーなんだぜ?

それをマシュから聞かされたときは本当に絶望した。

 

しかも本人は招集をガン無視、って訳でもないけど所長の絵が描きたくなったからという意味の分からない理由で起爆粘土で作った自身の分身と所長の分身をレイシフトに向かわせるという舐めた真似をする始末。

おかげで所長もこいつも爆発から逃れたからなんとも言えないのが非常に歯がゆい。

 

まあ今ではある程度は弁えてるからまだマシなんだけどな。

っとマシュに呼ばれているから今回はこのくらいでおしまいだ。

まだまだこいつの変人エピソードはあるからそのときは是非とも俺の愚痴を聞いてほしい。

それじゃあ俺はここで失礼するよ。

 

 

 

 

 




主人公
名前 サソリ
あだ名 芸術家

サソリ デイダラ 2つの記憶を持つ。
性格はサソリよりで、見た目はサソリ。ただし傀儡ではない。
固有結界をもち詠唱ではなく口寄せの印によって発動する
能力は傀儡と起爆粘土を操ること。
英霊エミヤのように基本は魔力を消費して現実世界に生成する。
固有結界の中には万を超える傀儡と起爆粘土で出来た土があるためほぼ無敵。
魔力は多め。


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セイバーオルタ編

短編なのにプロローグという題名をつける過ちをしてしまいましたが多めに見ていただけると幸いです


今回は初めてのレイシフト。つまりは冬木の地で俺が体験した出来事について愚痴りたいと思う。

 

今でこそこんな感じで話すことができるが当時はそれはもうみっともないくらい焦った。すぐそばにマシュがいたからまだ発狂するような真似はしなかったが多分一人でレイシフトされていたら俺は何も出来ずに死んでいたと思う。そういう意味ではやっぱり俺やマシュと出会うまでたった一人で生き残っていたあいつは優秀な魔術師なんだと思う。

まあ当時あいつの能力をまるで知らなかった俺はこいつの周囲に大量のクレーターが出来ていたことに思わず変な声を出して驚いたのだがそれはまあ置いておこう。そのせいであいつに気に入られてしまったのだから置いておける問題ではないと思うが今は関係ない。

それから道中カルデアの索敵範囲ですら届かない位置にいる敵を『マシュに汚いものを見せるわけにはいかない』という理解できるような出来ないような理由で爆撃したことについても今は置いておく。

通信で所長やDr.ロマンに聞いたところカルデアではマシュのお兄ちゃん的な立場にいたと聞いたときは驚いたが取り敢えず置いておこう。話が逸れて愚痴れなくなってしまえば俺の胃が大変なことになると思うからだ。

 

 

それで、話を戻しておいてなんだが、合流した後Dr.ロマンや所長から指示で色々と頑張ったのだがその辺りはあまりよく覚えていない。

やはり初めてのレイシフトというよりも初めて命をかけたやり取りを行なって精神的にかなり参っていたのか記憶が曖昧になっているのだ。

まあそんな感じの精神状態の俺が今もハッキリと覚えているのだ。それだけでいかにあいつが変人か理解してもらえると思う。

 

それは最終決戦。聖杯を守るために俺たちの前に立ちふさがったセイバーオルタと出会った時の出来事だ。

 

キャスニキと出会い、擬似とはいえマシュの宝具も解放できるようになり、戦力としては当時できる最高の状態で挑んだのだがそこで事件は起こった。

どういうわけかはじめはマシュやキャスニキに指示だけを飛ばしていたのだがある程度戦闘を見てマシュが戦いに慣れ始めた時あいつは突然固有結界を発動してオルタ共々姿を消したのだ。

それはもう焦った。なんせ敵は冬木の最終ボスにしてこのカルデアでも上位に入る実力者なのだ。そんな存在と一対一それもいくら強いとはいえただの魔術師が戦うのだ。キャスニキは笑っていたが普通に笑えない。命を諦めたと受け取られてもおかしくない行為だが結局あいつは帰ってきた。

普通に重傷を負っていたが『いい作品ができた』と子供のように笑うあいつを見ていたら何も言えなかった。

 

その後あいつ以上にボロボロになったオルタが現れたときは軽く引いたが満足そうな顔をしていたのでまあいいだろう。

ちゃっかり触媒を貰っていたあいつが後日召喚するのだがそれも今は置いておこう。

 

余談だが召喚されたセイバーオルタにあの後何があったのか聞いたら顔を真っ青にしてマナーモードよろしく震え出したので結局何が起こったのかは当時は知らなかった。後日とある事件をきっかけに何が起こったのか知ることになるのだがそれはまた時が来たら話すとしよう。

 

そんな感じで心臓に悪い初めての人理修復が完了した訳だが事件はそこでも起こった。といっても今回は先ほどとは違ってむしろ気持ちがスッキリしたので問題があるわけではないのだがまあ愚痴っておいて損はないので語らせて貰おう。

 

セイバーオルタを倒した俺たちは早速聖杯をとってカルデアに帰ろうとしたのだがそこで今回の事件の首謀者であるレフが現れたのだ。

気持ち悪い笑顔をこちらに向けて現れたと思ったら今度はあいつを見て忌ま忌ましそうに顔をしかめた。

その後よく分からないことを自慢げに話した後、後ろに何やら危険な雰囲気漂う空間を作りあげてあいつに向かって『貴様を永劫の地獄に放り込んでやる!!』と叫んだところを爆撃されて後ろの空間に吸い込まれて消滅したのだ。不謹慎だが笑った。それはもう爆笑した。おかげでさらに気に入られたがそれが気にならないくらいにはツボにハマってしまったがこれは俺は悪くないと思う。だってマシュもちょっと笑ってたし。

舌打ち混じりに『マシュに気持ち悪いもん見せてんじゃねえよ』といってたけどそれはあの謎の空間のことだよね?決してレフ本人のことじゃないよね?頼むから前者だと言って欲しい。じゃないと俺が笑い死ぬ。

 

そんな感じで最後までやりたい放題やっていたあいつだがここで召喚後のあいつとセイバーオルタについて話したいと思う。

 

はじめこそあいつに苦手意識を持っていたセイバーオルタだがあいつの芸術家魂はそれはもう凄かった。

『嫌がる女を描いて本当に美しいものが描けると思うか?』という理由で令呪こそ使わなかったがだからこそタチが悪かった。

聞いてるこっちが思わず恥ずかしくなってしまうくらいにセイバーオルタを褒めはじめたのだ。それも外見だけでなく中身も。それにセクハラまがいの質問までする始末。曰く『性格の悪い女ってのは絵からも滲み出るものだ。もちろんだからと言って作品の質が落ちる訳ではないし、それを分かった上で描くやつもいる。だが個人的に外面と中身が大きく異なる作品を俺は作る気は無い。考えても見ろ?例えばマルタ。彼女を描く時ニコニコ笑っているのとファイティングポーズをとってるのどっちの方が美しいと思う?つまりはそういうことだ。俺にとって初対面だろうと相手の内面を理解する能力は必須だ。だがそれも絶対では無いし、やはり絵を描くにあたって本人の口から自分のことを話して貰えればこちらのモチベーションも上がるというものだ。.....レフ?確かにあいつに裏があることは知っていたがそれを抜きにしてもあいつはダメだ。あの顔で全身緑とか頭沸いてるとしか思えん。そのくせやたらとマシュの近くにいたから何度殺そうと思ったことか』だそうだ。

言ってることはなんとなく筋が通ってると思うし、納得もいくがだからと言って食堂であれこれ聞くのは理解できない。見て見ろよセイバーオルタを。顔真っ赤どころじゃ無いぞ?『病的なほどに白い肌というのも美しいものだがそれに朱色が乗るとさらに美しくなるんだな。成る程これは勉強になった』じゃねえよ!!褒められ慣れていないセイバーオルタさんをこれ以上褒めちゃまずいぞ!!セイバーオルタさんも早く逃げてください!!

え?これが終わったらあいつ手作りのハンバーガーが貰えるって?あんたそれで買収されたの?!もっとこう英雄としてのプライドは無いのか?!

プライドで飯が食えるかって?その通りすぎて何も言えねえ?!

 

 

さて長々と愚痴らせて貰ったがこの後あの芸術バカ主催の花火大会に呼ばれているので俺はここで失礼させてもらおう。

ん?どうしたのセイバーオルタさん?あっ浴衣姿可愛いですね。え?あいつは褒めてくれるかだって?まあなんだかんだ言ってあいつはあなたのこと見てますし褒めてくれるんじゃ無いですか?いや、お世辞じゃないですよ。あの芸術バカですから。ほらあいつも呼んでますよ?だから変じゃ無いですって。

 

 

お?マシュも浴衣着てるのか?ん?もしかしてあいつに見立てて貰ったのか? いや、なんとなくそうじゃ無いかと思っただけだどやっぱりそうだったのか。悔しいけどこと人を美しく魅せることに関して言えば俺はあいつ以上にすげえ奴を知らねえからな。っと花火が上がるぞ。

.........ああ綺麗だな

 




オリ主
遠、中距離戦を得意として基本的に物量にものを言わせた戦闘をする。宝具では無いためヘラクレスを殺すことは出来ないが時間制限を設ければ英雄王とも打ち合うことが出来る。
近接戦闘は回避に専念すれば英雄相手でも時間を稼げるが反撃は出来ない。基本接近されたら被弾覚悟で爆撃して距離をとる。
傀儡は一人の時しか使わない。理由としては毒により味方が負傷するのを防ぐため。
レイシフト中は周囲に四体以上の粘土分身をおきなおかつ上空にも数体見張りを置くという徹底ぶり。変人のようでいて最善は尽くしている。

今回セイバーオルタに対して一対一に持ち込んだのは勝てると判断したのと精神的にマシュが限界であることを悟ったため。
なんだかんだ言ってマシュには甘いシスコン。ただしレフ、てめえはダメだ


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ジャンヌ・ダルク編

しばらくは物語に沿ってキャラをだしていきますが全員がヒロインというわけではありませんので悪しからず。


今回は第1特異点。

即ちフランスで起こった出来事について語っていきたいと思う。

 

 

 

冬木とは違い正式な手順によってレイシフトされた俺たちの前に現れたのはあちこちから火の手が上がっているパリの様子だった。

冬木に比べればまだマシだと思うかもしれないが冬木の時とは違い今回は生存している住民がいるため正直精神的にはこちらの方がこたえた。

不謹慎だがあちらこちらに人の...その....死体が転がっていると言うのは平和な日本の地で悠々と暮らしてきた俺にとってはあまりに現実味がなくいっそ作り物だと思わないと崩れてしまうくらいには俺の精神は削られていた。

 

あいつがそんな死屍累々とした光景を見ても眉ひとつ動かさなかったときは思わず敵のスパイかと疑ってしまったが、さり気なくマシュの視界から死体を隠すように動いていたのに気づいて直ぐに疑念は晴れた。

 

それにこんな状態でも変わらずにマシュを心配するあいつを見て俺の精神もだいぶマシになったのだからこの時は素直に感謝した。

 

そうこんな状況でもこいつはまるで変わらなかったのだ。

 

 

そりゃあ俺やマシュの負担を減らすために遠距離にいるワイバーンを処理してくれていたことには感謝するし、ゾンビ兵を請け負ってくれたことにも感謝はしている。

いくら普段の行いがあれとはいえそこに感謝の念を持たないほど俺は腐ってはいない。

 

 

問題はその先だ。

 

とある都市を訪れた際にルーラーのサーヴァントとして召喚されたジャンヌ・ダルクを見た途端瞬間移動のごときスピードでジャンヌの前に移動したと思ったら開口一番

『俺の作品(もの)になれ』

だぞ。

 

普段通りすぎて逆に引いた。

俺の感謝の念を返せ。

そりゃあ、あいつの功績に比べれば誰かにモデルとなってもらうという報酬は割に合わないかもしれないけどそれでも言わせて欲しい。

 

お前何やってんの?!、と。

 

 

 

まあ俺がいくら吠えたところであいつが言うことを聞くわけもなく

 

『さすが聖女と言われるだけのことはある。誇っていいぞジャンヌ・ダルク。俺がこれまで出会ってきた人間の中で外見も中身も美しい女などお前が初めてだ』

 

とかいう始末。

おい周り見てみろよ。

セイバーオルタさんとか聖剣構えてるぞ。

思わず通信を切ったが所長がキャンキャン喚いてたぞ。

マシュもほお膨らまして怒ってるぞ。

 

なんとかしろよ芸術バカ!!

 

そう思わず言ってしまったが

 

『どうしたマシュ?ほおを膨らませて。何?自分は美しくないのかだって?バカを言うな、お前はまだ可愛いの域を出ていない。中身も外見もまだまだ発展途上の段階だ。けどまあこの俺が目をかけているんだ断言してやるお前は必ずいい女になる。中身も外見もな。それからセイバーオルタ、お前もその聖剣をしまえ。確かに武器をとるお前の姿は思わず息を呑むほど美しいがそれを周囲に晒すことは控えろと言った筈だ。少なくとも今はお前の全ては俺の作品(もの)だからな。もっともこれから先も手放す気は無いがな』

 

最後にやけに様になっているニヒルな笑みを浮かべながらそう言った芸術バカに思わず周りが赤面してしまう。

 

なんとかしろとは言った手前強くは言えないがそれでも言うよ。

 

お前に羞恥心という感情は無いのか?!なんだそのセリフ?!ジャンヌさんも思わず赤面しちゃってるよ『ほう、美しいな』じゃねえよ!!まじで誰かなんとかしてください!!この変人俺の手には負えません!!

 

 

 

 

 

うん当時を思い出して愚痴って見たがよく俺あいつと旅ができたな。

因みにだが所長は『早くお前の絵が描きたいよ』のひと言で機嫌を直したらしい。

所長がチョロすぎて将来が不安になるよ。

まあなんだかんだ言って気に入ったものには病的なまでに甘いあいつだから万が一は無いと思うが。

むしろそのせいで所長に対する不安がさらに募っていくのだがこの際そこには目を瞑ろう。

 

 

 

 

 

さてそれでは現在の話をしよう。

というのも今俺の前であいつはジャンヌの絵を描いている訳だが、その周りの空気がヤバイ。

普段無表情のくせに絵を描く時だけ男の俺ですら思わず見惚れるくらいの真剣な表情をするのだが、それに当てられてダウンしている女性サーヴァントが数人ーーフェルグスさんが意味深な目であいつを見ているが無視する。

それと絵なんて描いてないで遊ぼうと誘っている子供サーヴァントが数人。

約1名アヴェンジャーの聖女様もそれに混じっているがそこは暖かい目で見ておこう。

仕方ないよね、あいつの起爆粘土で遊ぶのも最後に爆発させるのも確かに楽しいもんね。

 

話を戻そう。

他にも芸術家のサーヴァント数名が興味深そうに見ていたり。

バーサーカーズがおとなしく様子を伺っていたり。

食事を楽しみながら野次馬よろしくこちらの様子を覗いているサーヴァントがいたりとまあ何が言いたいかっていうと今現在食堂にはカルデア全てのサーヴァントがいるのだ。

 

もっと言おう珍しくも全てのサーヴァントが集まっている食堂のほぼ中心で男の俺ですら思わず見惚れるほどの真剣な顔でジャンヌの絵を描いているのだ。

それも時々独り言のようによく通る声でやはり美しいなとかいう始末

 

分かるか?

 

つまりはジャンヌがものすごく居た堪れない状態なのだ。

まじでジャンヌ可哀想。

まあ助けずにマシュと仲良く食事している俺が言えた道理は無いんだけどね。

頑張ってくださいジャンヌさん。

そいつが満足するまで耐え抜いてください!!

 

 

余談だがどうして食堂で描くんだと聞いたところ

 

『じゃあどこで描けばいい?マイルームだと?俺にその気は無いとはいえマイルームで男と女の二人きりになれば意図せずとも緊張するだろう?バカかお前』

 

と正論で諭された。

妙にムカつくが反論できなかった。

 

 

 

 

 

 




主人公
美しいものには目が無いけれど周囲の状況を見張らせたり半径数キロを常に警戒していたりとなんだかんだ言ってやることはやっている男。もっとも弁えていないのは事実だし言ってることも本心なのでタチは悪い。


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マリー編

これまで愚痴を聞いてくれたみんなに朗報だ。

今回は数少ないあの芸術バカが苦手としているサーヴァントについて話したいと思う。

 

 

まず言いたいのはあいつが苦手にしているということがどれだけ珍しいかということについてだ。

 

あいつは基本合理主義者だが付き合いのある奴や気に入った奴には甘い性格をしている。

だが逆にいえば嫌いなものには徹底して冷めた態度か最悪無視を決め込む人間だ。

まあサーヴァントというのは殆どが麗しい見た目やたくましい外見、中身だって一癖も二癖もあるがなんだかんだ言って憎めないようなのがゴロゴロいるから現在カルデアにいるサーヴァントの中にあいつが嫌う存在はいない。

 

だからこそ苦手というのは珍しい。

苦手というのはつまりは嫌いでは無いが好んで接触するわけでも無いということだ。

つまり好きか嫌いという極端な性格をしているあいつからすれまずありえない立ち位置だ。

それにあいつは見た目がよければそれでいいという性格でも無い。

さて長々と話したがではあいつが苦手とするのはどんな人間か。

 

それはまあ簡潔にいうと向こうからガンガンくる人間だ。

 

例を挙げるなら源頼光さんやナイチンゲールさんのような感じの人だ。

特にナイチンゲールさん。

作品に没頭して睡眠を忘れたり食事を忘れたりすることが多々あるあいつだからこそナイチンゲールさんは大の苦手だ。

この前強制で眠らされたしな。

それも薬によるものじゃなくて拳によって。

あの時は素直に同情した。

まあそんなことがあっても作品作りをやめないあたりあいつも筋金入なんだけどな。

 

 

 

話が逸れたが、早速本題に入りたいと思う。

 

舞台は前回に引き続きフランス。

ジャンヌと合流した俺たちは時々やってくるワイバーンを危なげなく倒しながら現地にいる野良?のサーヴァントと合流し、少しでも戦力を上げようと考え行動していた時。

 

そんな時に出会ったのがアマデウスさんとマリーさんだ。

 

ここまではいい。

別に流れとしておかしくないし、戦闘向けでは無いとはいえ戦力になる人材であるのも事実なのでこの出会いに文句はない。

 

まあ誰と出会おうと貴重な経験だから文句をいうつもりは無いがそれは置いておこう。

 

あの芸術バカがあいも変わらずマリーさんに声をかけたのもまあいい。

短い付き合いだがあいつがその行動をとることに不満こそあれど不思議では無いからだ。

 

問題はその先。

 

少し想像してほしい。

 

あの芸術バカは確かに変人だがこと容姿に関していえば上の中かそれ以上に当たるくらいには整っている。

それに身長は160前後と年齢に対して低め、童顔で中性的な顔立ちをしていて下手をすれば小学生と間違われるくらいには幼い外見をしている。

そんな少年が無表情ながらにキラキラした目で詰め寄ってくるのを果たして母性溢れる女性が見たらどうなるか。

 

答えは猫可愛がりをする、だ。

 

俺はあの時の出来事を未来永劫忘れることはないだろう。

なんてったってあの常に無表情な芸術バカが目を見開いてぽかんとした表情を浮かべたのだから。

もちろんそんなことを気にするマリーさんではない。

惚けている間にも頭を撫でたり抱きついたりベーゼしたりとやりたい放題だった。

 

因みに俺とマシュはその様子をガン見しながら聖剣ブッパしそうなセイバーオルタさんを命がけて止めていた。

確かにあいつを救出したほうが早いかもしれないが好奇心には勝てなかった。

 

その後ようやく意識が回復したあいつが珍しくも顔を真っ赤にしながら距離をとっていたが色んな意味で遅かった。

マリーさんが完全に狙いを定めたという意味でもDr.ロマンが録画したという意味でも。

 

 

 

 

 

 

 

どうだ?

スッキリしただろ?

まさかあの変人にそんな弱点があるとは思っていなかったから当時はそれはもう浮かれたものだ。

 

まあ録画された映像をDr.ロマンが高値で取引していたこと知った時はドン引きしたがそれは置いておこう。

 

じゃあ現在あいつはどうなっているのか。

 

答えはこれだ。

 

誰が書いたのか、いつの間に貼られていたのかはわからないが廊下に貼ってある《廊下を走るな》と言う忠告を無視して起爆粘土で作った小さめの鳥に乗って追いかけてくるマリーから全力で逃走している。

 

いやある意味忠告は守ってるのか?

確かにあいつは走ってはいないか。

 

まあどうでもいいな。

そんな感じで逃走しているあいつだが結果は見えている。

 

なんせあいつの向かう先には対芸術バカに特化したサーヴァント、アタランテ様がいるからな。

何やら遠くから

 

『俺はもう16歳だ!!子供では無い。だから離せ!!おい!!どこへ連れて行く気だ!!なぜマイルームにメディアがいる!!その服はなんだ!!おいお前たちなぜそこで見ている!!俺を助けろ!!くそ!!こうなれば令呪で!!.......ルールブレイカーだと?!やめろ!!こんなものは芸術ではない!!ダヴィンチのやつが仕立てようが関係ない!!だからやめろ!!やめろおおおおおおおおお』

 

とか聞こえるが気のせいだ。

 

心なしか遠い目をした男性陣があいつのマイルームがある方面から歩いてきているが気のせいだ。

 

フェルグスの兄貴が数人がかりで取り押さえられているがあれは見てはいけない。

神話の益荒男たちは両刀が多いと聞くがそれも関係ない。

関係ないったら関係ない。

だからマシュ今日は外に行こうか。

ん?あの芸術バカは大丈夫なのかって?

大丈夫だよ。

あいつは強いやつだから。

.....きっと大丈夫だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ぐだ男
なんだかんだ言ってカルデア内で一番仲がいい。
最近冗談をいうようになったり。感情豊かになりだしたのは基本こいつとマシュのおかげ。
たまにエミヤに愚痴をこぼすとやけに優しい顔をされるのだが原因は分かっていない。


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マシュ・キリエライト編

抜け忍になってもなおデイダラ兄と慕われ、土影とも普通に仲良く話すデイダラに、傀儡になってもなお肉親を殺せなかったサソリ。
やっぱり芸術家コンビは最高ですね。


午後の訓練を終え多くのマスター候補者たちが雑談を交わす食堂にその少年はいた。

身長は160前後と周りの候補者に対して頭一つ分低いにも関わらず中性的な童顔と血のように赤い髪の毛をもち、黒の生地の上に所々赤い雲が浮かぶ独特なマントを羽織った少年は周囲から少し浮いていた。

成績は優秀。

他とは一線を解す独自の能力を有していながらその能力を誇ることも、他者を嘲ることもしていないにも関わらずしかし少年は周囲から距離を置かれていた。

いや、はっきり言おう少年は周囲から嫌われていたのだ。

そこには彼の能力に対する嫉妬や、僻みといった負の感情からくるものも存在するだろうが一番はやはり口数少ない彼が口を開けば罵倒の言葉しか言わないことが原因だろう。

 

けれど、マシュ・キリエライトは知っている

少年の優しさを

オルガマリー・アニムスフィアは知っている

少年の正しさを

ロマ二・アーキマンは知っている

少年の強さを

 

だからこそ彼は、彼女達は少年と言う存在に惹かれていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュ・キリエライトが少年と初めて出会ったのは事故が発生する2週間前のことだった

 

その人生の大半を病室で過ごしていた彼女は外の世界というものを知らなかった。

出会って来た人間だって両の手があれば数えられるくらいしかいなかった。

だからこそ彼女にとって不謹慎だが人理の崩壊によって幾らかの魔術師達がカルデアを訪れることは喜ばしいことだった。

 

けれど同時に彼女は知っていた。

魔術師というものがどこまでも血統を重んじ、そのためなら非道徳的な躊躇わずに行う存在だということを。

魔術の素養や才能こそあれ血統をもたないマシュでは彼らに疎んじられることは避けられないことであることを彼女は知っていた。

 

だからこそ、その噂を聞いた時彼女は衝撃を受けた。

 

曰く、血統も過去も不明な独自の魔術を使う魔術師がいる、と

曰く、その魔術師は所長のお気に入りであると。

マシュはオルガマリー所長のことを少なからず知っている。

だからこそ理解できなかった。

あの所長がいくら独自の魔術を使うとはいえ血統をもたないような魔術師を気にいるようなことがあるのか。

所詮は噂だときって捨てることも可能だったが、純粋なマシュはどうしようもなくその魔術師に会いたくなった。

 

 

 

(身長は160前後。赤い髪。黒の生地に所々赤い雲が浮かぶ独特なマント)

 

カルデアで支給される礼装ではない独自のマントを着用する赤い髪の少年。

周りに比べ身長が低いとはいえマシュと同じかそれ以上はある上に目立つ見た目をしている魔術師なら簡単に見つけられる。

 

そう思ってかれこれ1時間もカルデアないを探索しているが一様にその魔術師は見つからない。

 

初対面の彼女がいきなりマイルームに行くのも憚られたのでこうして歩き回っているが思わずその魔術師の外見を反芻し本当に存在するのかと疑ってしまうくらいには彼女は疲れ果てていた。

 

「あれ?マシュ、こんなところでどうしたの?」

 

声を掛けてきたのはカルデア医療班のリーダー、ロマ二・アーキマンだった。

いつものようにどこかフワフワとした雰囲気を感じるその青年に思わず気が抜けてしまうがそこで本来の目的を思い出し、彼なら知っているのでは、と軽い気持ちで聞いてみる。

 

「......もしかして芸術家くんのことかい?彼なら今所長の部屋にいると思うよ」

 

芸術家?

 

「ああ、いきなり言われても分からないか。あのダヴィンチちゃんですら認める作品を作っていたから僕たちの中ではそう呼んでいるんだよ。まあ百聞は一見に如かず、気になるなら会いに行ってみるといい。きっと今頃は所長の絵を描いているからね。それに.......」

 

?

 

「.......マシュならきっと、彼に気に入られると思うよ。.......まあ彼は変人だから注意してね」

 

どこか嬉しそうに笑うロマ二を見て、ますますその芸術家と言う少年に会いたくなる。「廊下を走ったら危ないよ」と言う忠告を思わず無視して走ってしまう程にマシュは自分の気持ちを抑えられないでいた。

 

 

 

幸いにして所長の部屋は近場にあったため3分とかからず到着したはいいが、マシュにはこの部屋に入る口実がない。

ロマ二の話を信じるのであればここに自分の探している少年がいることは間違いないが別にその少年と面識がある訳ではないし、所長に用事がある訳でもない。

廊下ですれ違ったら話そうと楽観的に考えていたマシュはマイルームにいるのでは、と思うことはあるが所長の部屋にいるとは微塵も思っていなかったのだ。

 

こんなことなら部屋を行き来できるくらいに所長と仲良くなるべきだったと謎の後悔をするのマシュだがここまできて引き下がるつもりは毛頭ない。

 

(.....女は度胸です!!)

 

と自らを奮い立たせドアに触れる。

本来であれば入居に際して所長本人の許可を求める必要があるが、どういう訳か突然開くドアに思わず驚いてしまう。

少しの抵抗を感じつつも募る好奇心には勝てず小さな声で挨拶をしつつ恐る恐る部屋に入る。

周囲を見渡しながら部屋の中央に目を向けると、どこか上機嫌に椅子に座る所長と、その様子を正面から真剣な眼差しで観察しながら手元の用紙の上で素早くそれでいて丁寧に手を動かす、どこか幼さを感じる赤い髪少年が座っていた。

 

(赤い髪。それに黒の生地に所々赤い雲が浮かぶ独特なマント。身長は座っているから分かりませんがそれ以外の外見的な特徴は一致していますね)

 

もっともこれ程に特徴のある少年がこのカルデア、どころかこの世界に何人もいないことは明白だが世間知らずのマシュはそのことにはまるで気付かない。

少しの間所長を観察している少年を観察していたマシュだがそこでふと所長と目があった。

突然の来訪に驚く所長だが少年の「じっとしてろ」の一言ですぐに気を取り直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ時間が経ったのか暫く鉛筆の走る音をBGMに少年を観察していたマシュだが作品が完成したのか突然少年の鉛筆が止まる。

なんとなく出来上がった作品が見たくなって思わず覗きこんでみて思わず息を呑む。

絵と現実の区別がつかないほどに精巧に描かれたそれはまさしく芸術と呼ぶに相応しいものだった。

マシュ同様作品を覗きこんだ所長も先ほどよりも上機嫌なのがみて取れる。

 

だが少年はその作品がお気に召さなかったのかどこか不機嫌な様子でスケッチブックから描かれた絵を切り取り投げ捨てるように所長に渡した。否、投げ捨てたのだ。

その行動に理解が及ばず固まる二人だが早々に復帰した所長が食ってかかるが少年は気にした様子も見せず淡々と述べる。

 

「てめえの注文通り座ってるてめえを描いてはみたがやっぱりダメだな。こんなの真の意味で美しくねえ。てめえはちょっと背伸びをして偉ぶって指揮してる方がよっぽど美しくなる。素材はいいんだ、もっと自分が美しく輝ける役割を理解しろ。そのためなら俺はどんな協力も惜しまない。精一杯頑張るてめえを俺は肯定してやる」

 

聞いているだけのマシュですら思わず赤面してしまうようなセリフに当事者たる所長は今度こそ固まってしまった。

次第にゆでダコのように顔を真っ赤にしていくが当のセリフを吐いた本人は特に気にした様子もなく

「その表情もありだな」

とニヒルに笑う始末。

 

 

 

 

 

 

暫くの間マシュにとって少々居心地の悪い沈黙が続くがそこでようやく気づいたのか少年がマシュへ顔を向ける。

無表情とはいえその整った容姿で顔を覗き込まれ思わず目をそらすマシュ。

 

「お前、いつからカルデアにいる?」

 

突然なんの脈絡もなくそう問われたマシュは半ば叫ぶように一年前からここにいたと告げる。

そこでふと少年に目を合わせると心底後悔しているように

 

「これ程の素材を見逃すとは俺もまだまだだな。全くくだらない雑魚どもなんぞ相手にしなければよかった」

 

とそう呟いた。

 

素材とはどういう意味なのか思わず訪ねてみたくなったが突然体の自由が奪われてしまい開いた口はかわりに驚愕の声を発する。

そうしている間に気付けば先ほどまで所長が座っていた椅子に座らされていたが気が動転してうまく頭が回らない。

食い入るような目で少年が自分を観察しているが不思議と恐怖は無かった。

 

 

 

暫くの観察していた少年はおもむろに

 

「お前、家族はいないだろ?」

 

と楽しげに笑うとともに何気なく告げられたその質問にマシュは自身の目が見開くのを感じる。

質問のようなそれはしかし確信を持って告げられていた。

図星を刺されて驚くマシュのその反応がお気に召したのか上機嫌になった少年はしかし淡々と言う。

 

「お前の目は、愛情に飢えた者の目だ。毎朝嫌という程目にするからか、俺にはよく分かる」

 

 

その言葉に僅かな疑問を感じたがそれすらも見越していたのか

 

「俺にも家族はいない」

 

どうでもいいことのようにそう告げるその少年がなぜか泣いているように見えて

 

「お揃いですね」

 

とマシュは笑って言う。

 

そこで初めて少年の無表情が僅かに驚愕に染まる。

それは一瞬のことだったがマシュは見逃さなかった。

 

 

またしても訪れる沈黙。

先に沈黙を破ったのは少年だった

 

「お前は今日から俺の妹だ。拒否権はない」

 

唐突に告げられたやや強引だが優しさを感じるそのセリフにマシュもオルガマリーも思わず固まる。

 

いいんですか?

 

家族を知らないマシュはなんの抵抗もなくその言葉を受け入れていた自分に驚くがそれでも少年をまっすぐ見据える。

 

「お前はまだ蕾だ。だがただの蕾ではない、この俺が期待するほどの大輪を咲かせる蕾だ。いいんですか、だと?逆に聞くがお前の成長を兄という立場ほど、家族という立場ほど近くで見れる場所があるか?だから何も心配するな、俺はただお前という蕾の成長を特等席で観察するだけだ。そのための肥料は俺が用意してやる。水やりはオルガマリーやロマ二がなんとかするだろ。一番重要な太陽は、そのうち向こうからやってくる」

 

なんですかそれは.....

 

「いいか、本当に美しいものには向こうから来るものだ。花の蜜に蜂が誘われるように、お前という蕾に俺が誘われた。太陽よりも価値の高い俺が誘われたんだ、太陽がこない道理などない。俺の芸術家人生を賭けてそう断言してやる」

 

......レフさんはどうなるんですか?

 

「ああ?あんな全身緑の葉緑素がいたらお前の栄養まで取られてしまうだろ。だからこれからは絶対に近づくな」

 

なんですか.......それは......

 

「そういえばお前の名前を聞いていなかったな。兄であるのに妹の名をならぬというのもおかしな話だしな、聞こうお前、名前は?」

 

今日初めてその存在を知って、今日初めて出会って、今日初めて会話した。

にも関わらずよく分からない理由でズケズケと人の心の中に入って来る少年。

どこからどう見ても変人だ。

けど、なぜか安心してしまう。

そんな暖かさを持った少年でもある。

 

家族がいないことに不安を感じなかったわけじゃない。

けどロマ二がダヴィンチがそれに不器用ながら所長がいつも自分を気にかけてくれた。

 

だからそれでよかった。

それ以上を望む気も無かった。

 

けど、ただの言葉でも、ただの気まぐれでもどうしようもなく嬉しかった。

真剣な眼差しで自分だけを見てくれる少年が、態度が大きいのにどこか不安げな少年がどうしようもなく愛おしかった。

 

視界が滲む。

 

早く自分の名前を教えたいのにうまく口が回らない。

 

一度大きく深呼吸をして少しだけ落ち着いた。

念のためもう一度、先ほどよりも深く息を吸い込む。

俯きかけた顔を上げてまっすぐ少年を捉える。

 

「私の名前はマシュ・キリエライトです。あなたの名前はなんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マシュどうしたんだ?所長室の前で立ち止まって」

 

先輩!!

 

「えっ!!な、なんですか?」

 

先輩は私の太陽ですね!!

 

「お、おう。............え?」

 

今日は桜が綺麗らしいですから、一緒にお花見行きましょう!!

 

「それはいいんだけど。さっきの太陽ってのはいったい.....ああうん、もうどうでもいいや。じゃあ行こうかマシュ」

 

はい先輩!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい芸術家くん?さっきからマシュちゃんの方じっと見て」

 

「......ダヴィンチか。いや何、美しい花が咲いたと思ってな。思わず見惚れてしまっていたんだ」

 

「ああ確かに、美しいね」

 

「当然だ。この俺が認めたんだからな。.......本当に、美しいな」

 

 

 

 

 

 




主人公
魔術を使った擬似チャクラ糸を使用して対象を操ることができる。
基本生成した傀儡はチャクラ糸なしで操れるが使用した場合能力が桁違いに上がる
指一本で操ることも当然可能


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戦闘編

誤字報告並びタグ修正の報告ありがとうございます。


おっすおらぐだ男。まあ冗談はさておきこの愚痴を聞いてくれているみんなはセイバーオルタがマナーモードと化すほどのトラウマについて覚えているだろうか?ぶっちゃけ俺はこの目でその景色を見るまで普通に忘れていた。なんだかんだで優しいあいつだからきっと本気で怒ることは無いんだろうとそう思っていた。

その認識が甘かった。もちろん俺があいつをキレさせるようなことはしていない。けど俺は見た、見てしまった。本気で怒るあいつを。情け容赦なくただただ敵を蹂躙するあいつの姿を。

 

 

舞台は第1特異点、フランス

ワイバーンのボスにして伝説のドラゴンファブニールを現地で交流した竜殺しの英雄、ジークフリートとともに辛くも勝利を収めた俺たちカルデア一行は敵の本拠地であるオルレアンに潜入し、道中襲いかかってくるバーサーク化した敵サーヴァントをなんとか退けついにこの戦いの最後の敵、ジャンヌ・オルタとジル・ド・レェの元へと辿り着いた。

隣でジャンヌ・ダルクとジャンヌ・オルタをあごに手を当てつつ観察していた芸術バカを無視していざ決戦を始めようとした時、突如笑い声が響く。

あまりに突然のことで俺たちどころか敵も固まるなか、当の笑い声をあげた張本人たるあいつはその笑い声とは裏腹にまるで笑っていないその目に確かな怒りを滲ませてジル・ド・レェを睨む。

そのあまりの剣呑さにとっさに海魔を召喚するジル・ド・レェだがあいつの操る起爆粘土により数瞬で爆破される。

爆破によってより無惨な姿になった海魔を見てあいつは心底つまらなそうに『貴様の芸術はもう飽きた。はじめこそ新しい形だと思ったが、今じゃまるで心踊らない。センスも魂も感じない作品など何度作っても同じだ。早々に消え失せろ』唾でも吐き捨てるかのように放たれたそのセリフにさしものジル・ド・レェも怒りを露わに声を上げようとするがどこまで冷え切ったあいつの視線がそれを許さない。

『もういいだろ?三流芸術家。くだらない人形ごっこはここでお終いだ』やはりつまらなそうに言うあいつの言葉にジル・ド・レェの表情が今度は驚愕に染まる。事態にまるでついていけていない俺たちはただただ疑問符を浮かべるだけだ。唯一納得の表情を浮かべているジャンヌが説明してくれたことによるとなんでも俺たちの目の前に存在するジャンヌ・オルタは聖杯によって作られた偽物らしい。その事実に思わず顔を見合わせったら俺とマシュだがジル・ド・レェの叫びがその意識を現実に引き戻す。

『このフランスはジャンヌを裏切った!!この国を救ってくれたジャンヌに対し、その恩に報いず在ろう事か罰を与えた!!たとえジャンヌ本人がそれを許そうとも、この私が許さない!!ジャンヌを殺したこの国も!!そこに生きる民も!!この世界共々滅べばいいのだ!!そのために私は、私の思うジャンヌを作り出した!!この国に復讐を願う、この国に裁きを加えるジャンヌをだ!!』

あまりに身勝手なその叫びに答えたのはやはりあいつだった

『くだらねえ。心底くだらねえよお前。死んだ人間は生き返らない。たとえどれだけ精巧に作っても所詮はただの人形だ。糸が切れたら動かない、ただのガラクタだ』

まるで自分に言い聞かせるようにそう呟くあいつになおもジル・ド・レェは食ってかかるがそれを睨んで黙れせたあいつはさらに続ける

『愛情ってのは向こうが答えて初めて意味をなす。一方的な愛情などただただ迷惑なだけだ。しかもそれを死人に向けるなんてあまりにくだらなすぎて言葉も出ねえよ。いい加減現実見ろよ三流、お前の隣に立っているのはただの人形で、お前のやってることはただの自己満足だ。そこに魂もなければ、当然意味もない』

それは果たして敵に向けられた言葉なのか、なぜか俺にはその言葉全てがあいつ自身に向けられているような気がしてならなかった。

『お前はこの俺直々に殺してやる。くだらない人形ごっこの先達者として、俺自ら引導を渡してやる』

 

『亥・戌・酉・申・未…………口寄せの術!!』

 

親指を噛み、あいつが印と呼んでいたものを一瞬のうちに組み終えその右手を地面に叩きつけた瞬間、叩きつけた地面に浮かぶ魔法陣のようなものを中心に世界が変わる。

俺たちを囲んでいた城内の壁は消え去り地平線が見えるくらい広く平坦な世界が広がる。赤褐色に染まる土の上にまるで死体のように転がる数え切れない数の人形。上を見上げれば血のように真っ赤な空に黒い雲が浮かんでいる。おおよそ一般的な空間とは大きく異なるそれがあいつの持つ固有結界の景色だった。

 

暫く呆然とその景色を眺めていた俺たちだがそこで隣にあいつの姿が無いことに気付く。

僅かに聞こえる戦闘音を頼りにあいつの姿を探していると小高い丘の上からジル・ド・レェを見下すあいつがそこにはいた。

指先から出る細い糸のようなもので黒いボロボロの布を身に纏った【風影】と呼ぶ人形を操るあいつは敵の操る海魔を、生成した鳥型の起爆粘土で迎撃しながらジル・ド・レェ本体を時に爪で切り裂き、時にクナイで突き刺し、時に叩きつけたりと一方的蹂躙していた。

聖杯による魔力の支援と、圧倒的な回復力を身につけているにも関わらずまるで手が出ない敵を見て顔を青くしてしまうが『ちょっとだけ本気を出すか』どこか楽しそうに告げられるその言葉を聞いて思わず敵に同情してしまう。いつの間にか隣に立っていたセイバーオルタが若干震えた声で『今回は随分と優しいんですね』と言うがあんた一体何されたんだよ。

 

そう思っている間にも戦況は大きく変わる【風影】の口が開いたかと思えばそこから黒い物体ーーセイバーオルタが言うには砂鉄をーーを放出し三角錐と直方体の形に砂鉄を固めたかと思えば俺の目では目視不可能な速度でジル・ド・レェめがけて放たれる。三角錐でえぐり、直方体で押しつぶすその攻撃は死なないように絶妙に加減されており抵抗もできないジル・ド・レェを何度も痛めつけていた。

もはや海魔を召喚する宝具すら奪われなすすべもなく一方的に蹂躙されるジル・ド・レェを冷めた目で眺めたあいつは一方的な虐殺に飽きたのか攻撃の手を止めて語りかける

『知ってたか三流。最初この世界には傀儡もなく青い空と白い大地が広がってたんだぜ?じゃあこの大地を、この空を赤く染め上げたものはなんだと思う?そこら一帯に転がっている傀儡はなんだと思う?俺の足元に転がっている俺そっくりな赤い髪のこの傀儡は一体なんだと思う?………ああ別に答えなくていいぞ。そもそもお前に聞いてるわけじゃねえしな。なに、ただの傀儡になりきれなかった愚かな男の末路だ、大したことはない』

こいつは誰だ?思わずそう疑ってしまうほど、そう語った時のあいつは小さく見えた。いつもの不遜な態度は鳴りを潜めどこまでも自嘲気味に笑うあいつはらしくなかった。

 

『…幕引きにするか』

 

その言葉と同時に宙を舞っていた直方体の砂鉄の上に三角錐の砂鉄が重なる。まるで雲のようにジル・ド・レェの上空に移動したそれは少しずつ雨のように砂鉄を降らせ

 

『砂鉄界法!!』

 

あいつの言葉を引き金に空中にいくつもの黒い線が走る。

蜘蛛の巣のように張り巡らされたそれは確実にジル・ド・レェの行き場を奪いその体に突き刺さる。空中に突然できた幾何学模様に思わず魅せられてしまうなかその様子を冷めた目で見つめるあいつはなおもジル・ド・レェに語りかける

 

『いいことを教えてやろう。今お前の周囲には砂鉄によって作られた結界が幾重にも重なっている。なに、大した結界じゃない。ただその空間を密閉するだけのものだ』

 

『そしてこの砂鉄だが2つほど仕込みをしている。1つは毒。と言ってもこちらも大した効果はない。血行を促進するだけの効果しかない比較的マシなもんだ。まあ量を工夫すれば呼吸困難に陥ることもあるがそれは今はいいだろう』

 

『ではもう1つの仕込みは何か。なに、これも単体では大した威力はない。微分子レベルまで小さくした起爆粘土が砂鉄に混じって今もなおその密閉空間を漂ってるだけだ。もっともそのあまりの小ささから皮膚の細胞や呼吸によって体内に侵入し血流に乗って体全体に行き渡るが……どうやら気付いたみたいだな』

 

『言っておくがサーヴァントだからと期待はするなよ?この起爆粘土に最高レベルのチャクラC4が込められている。C1程度で手も足も出なかった貴様に防ぐすべはない。……じゃあな』

 

『喝!!…………昇華』

 

それで戦闘は終わった。

塵芥のように消えていくジル・ド・レェをあいも変わらず冷めた目で眺めているあいつが見ていられなかったからか、らしくもないことだと自覚しながらあの芸術バカに近寄って乱暴に頭を撫でる。

無言で腹パンしてくるが全然痛くない。なんならあと100回殴られてもいいくらい…嘘です冗談です。だから全く同じところを何度も殴るのをやめろ。

『この俺が落ち込んでるとでも思ったかバカが。だからお前はダメなんだよ』

いつの間に回収したのか左手に聖杯を持ちながらあまりの痛みに這いつくばる俺を足蹴りして嗤う(誤字にあらず)

そのあまりのいつも通りさに思わず笑顔が……違うよ?これは足蹴りされて喜んでるとかじゃないよ?だからマシュ、そんな目で見るのやめて?ほんと違うからね?セイバーオルタもそんな目で……え?いつも通りだって?いつも俺をそんな目で見てたの?!やめろ!!セイバーオルタにそんな目で見られたら変な扉を開きそう……嘘だから!!なんでみんな一歩引くんだよ!!芸術バカも見てないで止めろよ!!『今のお前はこれまでにないくらい輝いてるぞ』じゃねえよ!!こんな状況で輝くわけが……え?嘘じゃないの?え?マジで?おい!!こっちを見ろ!!ジャンヌさんから触媒もらうのは後でいいだろ!!なんでジャンヌ・オルタからも触媒貰ってんだよ!!頼むから!!さっきから聖剣で背中グリグリされてんだよ!!あれ?レイシフトされてる?ちょっと待って。せめてジャンヌさんの誤解だけ解いて…………ちくしょおおおおおおおおお!!!

 

 

 

 

 




主人公 基本シリアスはサソリの過去が関係する
固有結界と言う名の異世界をもち、その中ではチャクラを使用して戦うことが可能。
そのため固有結界内であれば対魔力を無視した攻撃が出来、ヘラクレスを殺すことも可能になる。
ただ結界の維持にかなりの魔力を消費するため万全の状態でも1時間が限界。ヘラクレスと戦った場合魔力切れより先に固有結界が崩壊するため頑張っても5、6回殺せるか殺せないかくらい。
転がっている傀儡はサソリとデイダラが殺してきた忍びたち。
チャクラを消費すれば生きている人間の傀儡を生成できるが実力は格段に下がっているため基本使わない。また同様にチャクラを消費すれば傀儡の見た目を限りなく本物に似せることも可能。こちらも基本使わない。
ちなみにセイバーオルタと戦ったときはチャクラを大量消費して見た目そっくりなオルタ人形を使って戦った。
上からの砂鉄による攻撃、下からの起爆粘土による攻撃、横からは速さ重視の起爆粘土と大量のオルタ人形による攻撃。しかも砂鉄による攻撃はオルタ人形もろとも突き刺すと言う鬼畜仕様。
最初宝具による攻撃で重傷を負うがその後は宝具の溜めを与える隙もなく攻撃を続け最後には我らがデイダラの十八番を3発導入して試合終了。こりゃトラウマにもなりますわ


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日常編

トラウマ編はラストが適当になったのでもしかしたら修正するかもです。


それはある日の午後1時をすぎたあたりに起きた出来事だった。

昼食を終え特にやることもなかった俺は各々が自由に寛いでいる食堂の様子を眺めながら隣に座るマシュとともに特に中身のない雑談に興じていた。

 

前の席で子供サーヴァントとともに起爆粘土を使って何やら熱心に作品を作っている芸術バカに今日は絵は描かないんだな、なんて思いながら何気無く視線をやれば、普段利用している簡易なデフォルメのドラゴンではなく鱗の一枚一枚まで拘ったトグロを巻いた龍がそこには出来上がっていた。

まさしく東洋の龍といったそれは現在もなおあいつの手によってさらに洗礼された姿に変わっていく。

雄々しく空を駆ける姿を思わず思い浮かべてしまうほどの存在感を発揮するそれに男心が擽られてしまうが仲間に入れてもらうのはなんとなく癪なのでグッと我慢してチラ見をするだけに留める。

 

その間にもあいつの手は止まらず、ついに完成したのか満足げな様子を浮かべるあいつは何度か作品を眺めた後そっと横にずらし新しい粘土を手元に生成しまた何かを作り上げていく。

出来上がった龍を子供達が楽しげに眺めていることも気にせず自分の作品に集中する姿は素直に感服するがなぜ食堂で作っているのかという疑問が残る。

 

まあどうでもいいけど。

 

気づけば食堂にいたサーヴァントの大半が粘土で作られた龍を感嘆しながら眺めている中「そういえば」とクーフーリンが問いかける

 

「芸術家の坊主はヌードは描かないのか?」

 

瞬間時が凍ったのを感じた。

一瞬クーフーリンが新たに固有結界を身につけたのかと疑うほど先ほどまでの騒がしい食堂の雰囲気はすっかりなりを潜めていた。

取り敢えず言わせてほしい。

 

なぜ今聞いた。

 

いやそりゃさ、誰かの絵を描いてる時に聞いたらもっとまずい空気になるかも知んないけどさ、だからって今言うことじゃ無いよね?

しかもあいつ今作品に集中していてまるで話聞いてないよ?

とまあ脳内ではいくらでも言葉を紡ぐことは出来るが残念ながら現実ではそうもいかない。

取り敢えず普段からはだけている着物をさらにはだけさせている狐を抑えてもはや形容しがたい空気が流れる中、から笑いを浮かべながら出来るだけ明るい声でいきなりどうしたと問いかける。

 

「だってよ、芸術家だぞ?ヌードの1つや2つくらい描くもんじゃねえのか?」

 

思わず死ねといいかけてなんとか我慢する。

そして思うやはりケルトはどこかおかしいと。

戦闘狂と親指と下半身しかいないとかもう滅んじまえよ。

いやもう滅んでるのか。

なんだよマジで、まともなのディルムットしかいないじゃ無いか!!

いや、スカサハさんもまともですよ!!

だからその槍しまって!!

 

 

 

危うく死にかけたが状況はまるで変わっていない。

そろそろ狐を抑えるのもきつくなってきたが手を離してしまえば何をしでかすか分からない以上無理にでも抑えるしか無い。

 

本当ならここで常識人たる我らがエミヤが止めに入るのだがあいにく現在は厨房でおやつのケーキを作っているためあてには出来ない。

かと言ってここで何事もなかったかのようにマイルームに逃げてしまえば最悪芸術バカが食われる(意味深)かもしれないのでそうもいかない。

どこか抜けているあいつを放っておけるほど俺はまだ落ちぶれちゃいないのだ。

 

だが、と周りの様子を伺い比較的常識的なサーヴァントを探す。

その際 初心でちょろい所長が顔を真っ赤にしてヌードという言葉を反芻していたが無視だ。

所長には悪いが今はそこには構っている時間は無い。

無駄に器用で製作が早いあいつはこうしている間にも作品を仕上げてしまう恐れがあるからだ。

 

因みにこうしている間にもクーフーリンの質問は続いている。

幸いなことにあいつが作品に没頭していて声が聞こえていないのと、子供達が初めて聞くヌードという言葉に反応して質問しているため事態は拮抗を保っているがそれも吹けば飛ぶほどに脆いものだ。

早々に打開策を打ち立てなければこれに乗じたサーヴァントの手によってあいつが美味しく頂かれてしまうのは明白だ。

 

っとそこで俺の視界に顔を真っ赤に染めたセイバーオルタがこっそりと食堂を抜け出そうとしているのが見えた。

まさかな。

そんなはずは無い。

なんてったってあの芸術バカだ。

性欲?睡眠欲?食欲?そんなことより作品つくろうぜ!!

な、あの芸術バカだ。

仮にだ、百歩…いや一万歩譲ってヌードを描いたとしよう。

果たして欲情するだろうか?

いやしない。

 

いつものように聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフでその外見を褒めることこそすれど果たして手を出すような真似をするだろうか?

ちょっと想像してみたけど全然ダメだ。

 

襲いかかって来ようとしても

『今描いてるからじっとしてろ』

の一言で押しとどめる様子しか思い浮かばない。

 

いや、だとしたらセイバーオルタが顔を真っ赤にしてこの場から逃げ出す理由が分からない。

リリィあたりが真っ赤にして逃げ出してもある程度は納得がいくがあのオルタだぞ?

下ネタを口走った黒ひげに対して養豚場の豚を見る目を向けたあのオルタだぞ?

この程度の下世話な話なら無視してジャンクフード食べてるに決まってるだろ。

 

あれ?

 

ってことはそういうことなのか?

いやでも待て!!

結論を急ぐな!!

狭まった視野は時として判断を狂わせるとあいつも言ってたじゃないか。

冷静になって普段のあいつを思い出してみろ。

主観抜きにして客観的に分析してみろ。

 

朝、外の景色を眺めながらボーッとするあいつ。

 

昼、絵を描くか子供達と粘土で遊ぶかしているあいつ。

 

夜、【風影】の傀儡を弄って何やら細工をしているあいつ。

 

なんだよどこをどうみても変人じゃないか。

そうだよな、第1あいつは前に言ってたじゃないか、あいつにその気がないとはいえマイルームで男と女の2人きりになれば意図せずとも緊張して

 

………あれ?

 

それってつまりあれか?

そういう意味なのか?

そういう雰囲気になるという意味なのか?

そういうことちゃんと分かってますという意味なのか?!

いや待て!!

結論を急ぐな!!

もっと思い出せ!!

例えばそう、あいつがセイバーオルタに対して放った発言とか!!

そういえばあいつセイバーオルタに対して

 

『病的なまでに白い肌というのも美しいが、そこに朱色がのるとさらに美しいのだな』

 

 

 

………………………アウトォォォォオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

思わず叫んでしまった俺にこの場にいる全員がこちらを向く。

が、そんなもの気にせずいつの間にか作品作りを終えいつかみたファブニールの一万分の一スケールのような西洋のドラゴンの製作を終えたあいつに鬼気迫った表情で問いかける

 

お前、誰かのヌード描いたことあるか?

 

「あるが?」

 

それは、その………セイバーオルタか?

 

「ほう、よく分かったな。で、それがどうした?」

 

………………描いただけか?

 

「………どういう意味だ?」

 

だからその……なんだ、手は出さなかったのか?

 

「随分下世話なことを言うな?そんなこと聞いてどうする?」

 

いいから答えろ!!

 

「…まあいい。お前がそこまで食いつくのも珍しいからな答えてやろう」

 

おう。早くしろ

 

「手は出した。……これでいいか?……なんだその顔は?まさか俺が僧か何かだとでも思っていたのか?バカめ、俺にだって欲も煩悩もある。そもそもそれがなければ作品なんぞ作れないからな。俺がセイバーオルタを好ましく思っているのも事実だし、それに前にも言ったろ?セイバーオルタはあの白肌の上に朱色がのったほうが

 

ストップゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!!

 

なんだ?質問してきたのはお前だろ?せっかく俺が今節丁寧に教えてやろとしているのにそれを止めるとはどういう了見だ?」

 

うるせえよ!!ここどこだか分かってんのか!!周りにどれだけ人いるか分かってんのか!!

 

「食堂だが、それがどうした?むしろこれだけの人数にセイバーオルタの美しさを語れるんだ場所としては最適だと思うんだが?」

 

誰かこの変人止めてええええええええ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

え?あの後どうなったかだって?

そりゃもうヌード絵希望の嵐ですよ。

まあ「これから作ったドラゴン打ち上げるから後にしろ」の一言で黙らせましたけどね。

 

いや綺麗でしたよわざわざ固有結界発動させた時はこいつはバカなのかと思ったけど赤い空に向かい羽ばたくドラゴンが遥か上空で様々な色合いを出しながら爆発しその軌跡によってできた滝を龍が登っていき美しいと大輪を咲かせた時は思わず鳥肌が立ちましたよ。

 

セイバーオルタさんですか?

さあ?気づけば食堂から姿を消していましたら存じ上げないですね。

ただアルトリアズ並びに謎のヒロインXが出撃しましたから生存はちょっと厳しいかもしれないですね。

 

 

 

 




ぐだ男
むしろ人理修復終わってからの方が精神的疲労がやばい
唯一の癒しはマシュだけ。


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番外編 呼ばれてますよ芸術家さん

とある館の一室に凛とした声が響き渡る

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

ゲンを担ぐ意味合いも兼ねて遠坂の家に代々伝わる魔石を握りしめ

 

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

自身が描いた魔法陣を強い意志を持った瞳で捉え

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

少女は叫ぶ

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

  汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

まばゆい光とともに輝き始める魔法陣を前に成功を確信して思わず握りこぶしをつくってしまう。

 

………………

 

魔法陣からの光がようやく収まったことでそれまでそらしていた視線を戻す。一体どんな強力なサーヴァントが召喚できたのか、そんな期待とともに向けられたその視界には初め描いた時とまるで変わらない魔法陣とその周辺の景色が浮かぶだけだった。

力が抜けて尻餅をついてしまうがそれを気にしている余裕はない。《常に余裕を持って優雅たれ》という家訓すら忘れてしまうほどに少女は精神的にも魔力的にも消耗していたのだ。

 

っとその時ドスンという音が下の部屋から聞こえた。

 

もしかして?

 

淡い期待を込めつつ思わず走り出してしまったがそれを注意する人間は誰もいない。部屋から階段までの道がやけに遠く感じてしまい魔術を使用しそうになったがさすがに控える。飛ぶようにして階段を駆け下りいつ付けたのか光が漏れでている部屋の扉を力いっぱい開き中を覗く。

 

が、散らかった後はあるとはいえそこに人の影はおろかネズミ一匹いなかった。

 

「何よ!!期待して損したじゃない!!」

 

思わず叫んでしまったがそれも仕方がないことだろう。なんせ彼女はこの度の聖杯戦争に参加するため血の滲むような努力を続けてきたのだ。それが蓋を開けてみればどうだ?膨大な魔力を消費したにも関わらず召喚は失敗。物音が聞こえたからもしやと思いきてみればなぜか散らかってるとはいえそこにはネズミ一匹いない始末。さしもの聖人君子ですら思わずため息を吐くくらいには手酷い仕打ちである。今も握りしめている魔石を思わず叩きつけたい衝動に駆られるがなんとか理性で食い止める。

 

「うるせえな」

 

耳に入る少し低めの声に思考が止まる。ありえない。一瞬とはいえ部屋全体を注意深く見渡したはずだ。触媒を使用していないためどのサーヴァントが来るのかは分からないがそれでも普通召喚されるのは英雄だ。反英雄というものも召喚されると聞くがどちらにせよ過去に偉業を成し遂げるなり神話にのるなりした英傑達だ。果たしてそんな存在を見逃すだろうか?気配遮断を持つアサシンなら或いはその可能性もあるが初対面のマスター相手に姿を隠すなど信頼に関わるような真似はしないはずだ。じゃあ一体どんな英雄なのか期待と不安がない混ぜになって荒ぶる心を抑え込み俯いていた顔を上げる。

 

「せっかく人が芸術鑑賞していたのにそれを邪魔するとはどういう了見だ?」

 

子供だった。

自分と大体同じくらいの160前後の身長に赤い髪と中性的な童顔をして、黒の生地に所々赤い雲が浮かぶ独特のマントを身に纏った子供だった。

取り敢えず今見たあまりにも特徴的すぎる外見に類似する英雄を記憶の中から探り出すが該当する人物がまるでいない。

もう一度今度はさっきより顔を近づけてよく観察する。

逆に観察されているような気もするがそれは今はいいだろう。

腕を組みその賢い頭脳をもう一度フル回転させるがやはり該当する英雄はいない。そこで、そういえばまだ真名どころかクラスすら聞いていないことに気づく。

 

「あんた、自己紹介くらいはしなさいよ!!」

 

つい強く当たってしまったことに反省するが、まあ自己紹介の1つもしないこいつが悪いと思い直す。

 

「お前、なかなかいいな。素材としても十分だしそのどこまでもまっすぐな目、本当に美しいよ」

 

「は、はああああああ!!!!い、いきなり何言ってんのよあんた!!バカじゃないの!!」

 

「その照れた顔も美しいな。どうだ?お前俺の作品(もの)にならないか?」

 

「だ、だから」

 

「安心しろたとえ絵に描いたものだとしてもお前の美しさが変わることはない」

 

「あ、あ」

 

「いや待てよ?確かに今も美しいが……どうやらまだ開ききってはいないようだな。ふむ、だとしたらもう少し待つのもいいかもしれないな」

 

「………れ、令呪をもってーーーーーーーー」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーー

 

ーーーー

 

 

「全く、危うく貴重な令呪をくだらないことで使用しそうなお前をわざわざ止めてやったというのになぜ俺はこうして紅茶を注がないといけないんだ?」

 

うるさいわね!!あんたがあんなにガツガツ来るのがいけないんでしょ!!

 

「仕方がないだろ?お前は照れれば照れるほどその美しさを増していくのだ。なら照れさせようとするのは当然の行いだとは思わないか?」

 

そう言ってマスターである自分よりも先に紅茶を口に運ぶ姿に思わず自害を命じそうになるがなんとか堪える。

 

遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ、遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ

 

「なんだそれは?自己暗示か何かか?」

 

あんたには関係ないでしょ、そう言うとはなから興味が無かったのか特になにを言うでもなくまた紅茶に口付ける。その際やはりうまいなと聞こえたがいちいち反応していたらきりが無いので勤めて無視する。

目の前においてある紅茶を口にいれそのあまりの美味しさに思わず美味しい、呟いてしまい急いで口を塞ぐが遅かった。

ムカつくことになぜか似合うニヒルな笑みを浮かべながらその顔もいいな、と囁きその突然のセリフに顔が赤くなるのを自覚しながらなんとか話題をそらそうとして、結局目の前で紅茶を啜る男についてなにも知らないことを思い出す。が、素直に聞いても答えないことも容易に想像できるので正直打つ手がない。だがこのまま名もクラスも知らない男に命を預けるわけにもいかない。ならどうするか、散々悩んだが結局は無難に自分から自己紹介をすることに決める。

 

私の名前は遠坂凛。遠坂家当主を務める魔術師よ

 

「なんだ藪から棒に。まあいい、それにしても凛、か。名は体を表すというがなかなかどうして、似合っているじゃないか」

 

やはりダメだ、まるで会話になってない。もしかしてこいつはバーサーカーなのだろうか?だとしたら色々納得もいくが、だが見たところ理性を失ってるようには見えないし……って

 

え?

 

「どうした?惚けている顔はお前には似合わんぞ?」

 

じゃなくて!!なんであんたのステイタスが分かんないのよ!!

 

「知らん。………嘘だ。だからそう睨むな」

 

説明しなさいよ?!

 

「このマントには認識阻害の術がかかっているからおそらくそれのせいだ。思い出してみろ?あの部屋で俺が声をかけるまでお前は俺に気づかなかっただろ?」

 

あっ

 

そういえば、とあの部屋で最初こいつの姿が発見できなかったことを思い出す。これほど目立つ外見をしているのだ今にして思えば発見できない方がおかしいというものだ。

 

「マスターというのはサーヴァントを見ただけでそのステイタスが分かると聞かされていたから自己紹介なんて面倒なことは避けられると思ったんだがな……まあいい、また令呪を使われそうになるのも面倒だし取り敢えず名乗っておこう。サーヴァントアーチャーだ、取り敢えず絵を描きたいから鉛筆と紙を貸してくれ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

穂群原学園のいくつかあるうちの1つの校舎の屋上で遠坂凛は突如声をかけてきた男に視線を向ける

最悪だ。目の前の降り立った全身青いタイツで真っ赤な槍を肩に担いだサーヴァント、ランサーを見て思わずそう呟く。

目の前立つその男は口調こそ軽いがその目は油断なくこちらを伺っており、遠距離からの狙撃を警戒してか常に迎撃態勢を取るその姿からかなりの経験を持つ英雄だと推測できる。

その気になれば自分の命などすぐにでも葬り去るであろうその男に嫌な汗が背中を伝うのを感じながら逃げるタイミングを計る。

校舎に入るのは不可能だ。ちょうど男は唯一の出入り口の前で陣取っている。ではどうするか決まっている逃げるためには、生き残るためにはもうそこしかない。

加速の魔術を足に施し、駆ける。

なるべく男から離れて尚且つ近場にあるフェンスに向けて駆け抜ける。

悪寒を感じとっさに転がると先ほどまで自分がいた床が大きく削れていた。思わず止まりそうになったが気合で乗り越えフェンスに近づき飛び越える

 

「アーチャー!!着地は任せた!!」

 

なにもない空間に叫ぶ姿は間抜けに見えるかもしれないが自分には分かるそこに自身のサーヴァントがいると。

僅かに空間が歪んだと思えばそこから現れる赤い髪に独特なマントを身に纏った己がサーヴァント。そのままお姫様抱っこの要領で自分を抱き上げ音もなく着地。上空から襲いかかって来るランサーを警戒してその場からすぐに離れ一言

 

「重いな」

 

思わずぶん殴りたくなったが今はダメだ。ムカつくがこいつがいないと冗談抜きで死ぬ恐れがある。

そのままボソボソと文句をいう自身のサーヴァントを無視してアーチャー同様音もなく着地したランサーを睨む。っというかいい加減下ろしてほしい。こいつはいつまで抱き上げているつもりだ?

 

「ん?いやなに、見ているだけではわからないものもあるだろ?だからこうして………わかった、下ろすから手に持っている魔石を離せ」

 

ようやく下ろしたアーチャーをジト目で睨むが当の本人はまるで気にしていない様子。そろそろ本気で自害を命じるか悩むところだがそれはここを切り抜けてからでいいだろう。

とそれまでこちらの様子を伺っていた男が口を開く

 

「随分小せえ身なりじゃねえか。お前ほんとにサーヴァントか?」

 

「そういうお前こそついぶん奇抜な服装じゃねえか。参加する大会間違ってんじゃねえのか?」

 

「服装云々についてはお前もとやかく言えねえだろうが。似たようなもんだろ?」

 

「流石に全身青タイツと一緒にされたくはない」

 

「この戦闘服を侮辱したな?どうやらよほど殺されたいらしいな?」

 

「元々聖杯戦争はそういうもんだろ?」

 

「へっ違いねえ。………そう言えばお前さっきそこの嬢ちゃんにアーチャーって呼ばれていたな。てっきりキャスタークラスだと思ったがまあいい。そら、弓を構えな!!それくらいは待ってやる」

 

ついていけない。

いや、だがこれは己のサーヴァントの実力を計るいいチャンスではないか?認識阻害のマントによってステイタスこそ分からないもののついさっきまでの行動を見ても戦いに慣れている様子はうかがい知れる。

だとしたら

 

「アーチャー!!援護はしないわ!!あなたの実力、私に見せて!!」

 

『……無理』

 

「………は?」

 

突然念話で話しかけてきたと思ったらまさかの戦闘拒否に思わず間抜けな声が出る

 

『だから無理だと言ったんだ。相性を考えても立地を考えてもこちらに分が悪すぎる』

 

「え、でも…」

 

『校舎が更地になってもいいならやるが?』

 

「え?」

 

更地って、え?どういうこと?

 

「おい、さっきから何コソコソ話してやがる!!さっさと弓を構えろ!!アーチャー!!」

 

「……忘れた」

 

「は?」

 

「家に忘れた。取りに帰るから5時間ほどここで待ってろ」

 

「いやいやいやありえねえだろ!!百歩譲ってお前の弓を忘れたという戯言信じるとして、サーヴァントが往復で5時間もかかるわけがーー」

 

「うちのマスターはな………重いんだよ」

 

「は?」

 

「ちょっ!!」

 

「さっき抱き上げた感じだとそうだな、だいたいーー」

 

「うわあああああああああ!!!!」

 

「痛いな。いきなり石を投げつけるな」

 

「あんたがいきなりそんなこと言うのが悪いんでしょ!!」

 

「なにを言う?お前のその体型で体重が「ああああ!!」なら別におかしなことはないだろ。むしろ理想の体型と言ってもいいくらいだ。なにも恥ずかしがることはないと思うが?」

 

「あんたにはデリカシーってもんがないの!!」

 

「おいアーチャー、流石に女の体重をバラすのはまずいだろ?」

 

「そうか?十分誇っていいもんだと思うが、やはりその辺の女心とやらは理解に苦しむな」

 

「もういい!!私帰る!!」

 

「だ、そうだがどうするランサー?」

 

「今から戦闘ってノリでもないしな、まあいい今回は戦闘は無しだ。ただし次はねえからな?今度会った時は容赦なく殺すから覚悟しておけよ?」

 

「まあいいだろう。その時は俺も相応の覚悟を持って挑むとするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続かない

 

 

 




本当なら勝手に学校についてきて桜に対して興味を持つところとか
「お前は美しい。だが何かがその美しさを汚している。言ってみろ、お前の美しさを邪魔するものはなんだ?それがお前の美しさを汚すのなら、俺は世界だって滅ぼしてやる」とか言って間桐家に十八番ぶち込んで一夜で滅ぼすシーンとか書きたかったですが、最後のシーンを見てわかる通り地の分がログアウトするんで断念しました。


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芸術家編

「ちょっといいですか?」

 

「どうしたマシュ?何か困りごとか?」

 

「いえ、実は所長たちから学校に行ってみたらどうかと言われまして。せっかく体も良くなったんだから一度それらしいことをしてみるのも良いだろうって」

 

「ほう、学校か。まあ確かにオルガマリーの言うことも一理ある。経験とは存外バカに出来ないものだからな。それで?困りごととは今手に持っている数学のことか?」

 

「はい。実はこの問題が良く分からなくて…」

 

「貸してみろ……この問題はここにある公式を使ってだなーーー」

 

 

カルデアの廊下を歩いていた時偶然だがマシュとあの芸術バカが会話をしている姿が目に入った。

どうやらマシュがあいつに質問しているらしいがマシュのもつ教材は一介の学生で出来るようなものではない。

っと言うのもなんだかんだで天才のオルガマリー所長と、あのダヴィンチちゃんが手がけた問題だ。

俺も一度だけ見せてもらったことがあるけれどだんだん数学が現代文に見えてきたのでやめた。

それぐらい一学生には手に余る問題だ。

 

っと言うことはだ。

その問題を見て特に頭を悩ませることなくスラスラと解いていくあいつって一体どれだけ賢いんだ?

いや、あいつが優秀であることは知っている。

魔術師の腕も時計塔で確固たる地位を築いているオルガマリー所長をもって自分より優れていると言わしめるほどだし。

芸術家としての腕だって万能の天才であるダヴィンチちゃんが認めるほどだ。

おそらく売りに出せばそれだけで一生遊んで暮らせるくらいの莫大な資金が集まることだろう。

 

ん?

あれ?

もしかしてあいつってめちゃくちゃスペック高くね?

 

いや落ち着け。

勉学も魔術師の腕も、芸術家としての腕前も確かに優秀、と言う言葉すら生温いレベルであることは分かった。

だが他はどうだ?

別に他人の粗探しが趣味だとか、あいつの欠点をあげて優越感に浸ろうと言うわけではないがあんな変人に劣っていると素直に認めるのは癪だ。

それに別に無理に欠点を挙げずとも普段のあいつの行いを振り返れば勝手に浮き彫りになるに決まっている。

なんだかんだいっても結局あいつは変人なんだ。

 

思い出してみろ

 

朝、外の景色を眺めてボーっとしているあいつ。

そういえばそのとき隣を歩いていたダヴィンチちゃんが

「いやー、絵になるねぇ。手元にキャンバスと筆がないのが恨めしいよ」

なんて言ってたな。

 

……ん?

 

昼、絵を描くか子供達と粘土を使って遊んでいるあいつ。

そういえばその真剣な表情に何人かの女性サーヴァントは骨抜きにされてたな。

 

……あれ?

 

夜、【風影】の傀儡を弄って何やら細工をしているあいつ。

細工がうまくいったて楽しそうな笑みを浮かべた時。

そう言えばそれを見た何人かの女性サーヴァントが母性本能を刺激されていたな。

 

………おやぁ?

 

 

おかしいな。

いや確か黒ひげも同じことやってたしな。

それと比較すれば意外と大したことないかも……

 

朝、外の景色、というより早朝トレーニングを行っている女性サーヴァントを見て

 

「眼福でごじゃる」

 

と呟く黒ひげ。

と、それをゴミを見る目で睨みつけるオルタ達。

 

昼、あいつの粘土を借りて何やら卑猥なものを作る黒ひげ。

と、それを生ゴミを見る目で睨む女性サーヴァント。

因みに黒ひげ製作の作品は完成間近で爆破された。

一応あいつに悪意はなく、ただ外で作品を爆破させた際に巻き添えをくらって爆破したとだけ言っておく。

 

夜、エロ本をもって何やら弄っている黒ひげ。

もはや周囲に人はいなかった。

 

 

うん、これは黒ひげが悪いな。

つまり比較対象が悪い。

そうだな……我がカルデアが誇るイケメン、ランスロットと比べてみよう。

 

 

 

朝、外の景色、というより早朝トレーニングを行っているマシュを見て

「逞しくなったな」

と涙ながらに呟くランスロット。

と、それをゴミを見る目で睨む騎士王。

 

昼、あいつに借りた粘土を使って割とクオリティの高いマシュを作るランスロット。

と、それを生ゴミを見る目で睨む獅子王。

因みに黒ひげ同様製作間近で爆破され、

「マシュゥゥゥゥウウウウ!!!」

と叫びながら血涙を流していた。

そのあとあいつに食ってかかろうとして円卓組とアルトリアズ、挙げ句の果てにはバーサーカーの自分にすらボコボコにされていたが今は良いだろう。

 

夜、マシュ相手に

「1人で眠れるか?」

「子守唄を歌ってあげようか?」

「なんなら一緒に眠ってあげようか?」

と付きまとい養豚場の豚を見る目でマシュに睨まれたあと

「うざい」

の一言で切って捨てられ意気消沈するランスロット。

 

 

 

因みに俺が全く同じことをやろうとしたら周りから生暖かい目で見られたあとマシュから

「先輩には似合いませんよ」

と慈愛を込めて言われた。

 

あれ?

なんだろう、比較対象が悪いせいか、まともなサーヴァントがカルデアにいないせいか相対的に見てあいつって結構まともなんじゃないかと思ってしまう。

 

……………いや待て!!

正直この流れには身に覚えがあるが結論を急いじゃいかん!!

そうだ!!

もっと身近なものを考えてみよう!!

例えば……料理!!

 

いや、でも確かあいつ料理できたよな…。

この前

『料理を食っているその姿が美しい女がいてな。ならその料理が美味ければもっと美しくなると思って一時期料理ばかりを作っていた時期がある。まあ3年である程度までいって辞めたんだがな』

とか言ってたしな。

因みにある程度ってのは我がカルデアの料理長たるエミヤが舌を巻くレベルだ。

つまり世界レベルといっても遜色ない美味さだ。

 

………うん別のやつ探そう。

 

掃除!!

……はあいつなんだかんだで綺麗好き、っというよりも汚れが見逃せない性格だからいつも身の回りは清潔になっているし。

洗濯も同様だ。

 

変人だが気に入ったものにはとことん甘い性格をしている上に、女性を芸術的な意味では見ているが、いやらしい目で見ることもない。

多くの女性サーヴァントを口説いてきたがそれも下心なく純粋な気持ちで行ってることだし………。

いや待て!!

認めるのはまだ早い!!

……そうだ!!

カルデアには最終兵器たるエミヤにプロトアーサーがいるではないか!!

 

 

 

そうだ、あの2人の方が優しいし…

 

『苦しそうな顔はお前には似合わん。話せ、それでお前が美しくなるのなら悩みくらい聞いてやる』

 

 

 

……ふ、2人の方が強いし、

 

『お前がいるだけであいつの美しさの妨げになるんだ。そういうわけだから今ここで消えてもらう』

 

 

 

…………

 

『睡眠不足は美容の天敵、つまり美しさの妨げになる。それでお前が眠れるならば、いくらでもそばにいてやる』

 

『荷物くらいは俺が運ぶ、無駄な筋肉がついてその整った体型が崩れたら大変だからな』

 

『おい、口元に食べかすがついているぞ。………やはりお前は照れている顔がよく似合う』

 

『俺に惚れたか?それも良い。女ってのは恋をすればさらに美しくなるものだからな』

 

 

 

 

なんだこのイケメンは!!!!

どこの少女漫画の主人公だよ!!

そのうち

『芋けんぴを頭に付けた方が、お前らしくて美しいな』

とか言いそうで怖いわ!!

 

 

 

「先輩?どうしたんですか?」

 

マシュ?!

 

「?」

 

質問は終わったのか、どこか満足げな表情を浮かべるマシュだが、突然話しかけるのはやめて欲しい。

いや、この場合は廊下で立ち止まってボーッと考え事をしていた俺が悪いのか?

うん、絶対俺が悪いな。

今度からは気をつけよう。

 

それで何か用か?

 

「いえ、特に用があるわけでは……。ただボーッとしてる先輩も珍しいのでつい話しかけてしまっただけです」

 

そうか、それはごめんね。ちょっと考え事をしてたんだよ

 

「考え事、ですか」

 

そう言えば女の子の目線から見たらあいつはいったいどう映るんだろうか?

俺1人で考えるよりも別の視点から見たあいつの様子を聞いて見るのも良いかもしれない。

そう考えて早速マシュに問いかける。

マシュの目から見てあいつはどういった存在なのかを

 

 

「そうですね。はじめは変な人だと思いましたけど、関わってみると面白い人でしたね。あの人が私に宣言した通りまさしくお兄ちゃんって感じで、いつも私のそばに居てくれました。今じゃこのカルデアに人が増えて構ってもらえる時間か減ってしまったことは寂しいですけど。それでも、私が本当にいて欲しい時は決まって隣に居てくれました」

 

なんだよただのイケメンじゃねえか。

性格はいいけどどこか控えめなマシュをしてここまで言わしめるなんて相当なもんだぞ。

悔しすぎて文句の1つも言えないじゃないか。

軽くショックを受けている俺にけど、と小さいけどよく響く声で呟いたマシュはいつもと違う優しげな笑顔をこちらに向ける。

 

 

「それは先輩も同じです。先輩もいつも私のそばに居てくれます。いつも私に笑いかけてくれます。あの人とは違う太陽のような笑顔を見せてくれます。だから、私は、先輩のことがーー」

 

マシュ………ちょっと待って。

 

「………へ?」

 

惚けた顔のマシュも可愛いな、なんて思いながら先程から俺とマシュの様子をそれはもうマジマジと遠慮なく見ながら絵を描く芸術バカに顔を向ける。

 

…おい

 

「気にするな。続けろ」

 

そこで漸く気付いたのか、顔を真っ赤にして俯くマシュを尻目になおも手を止めない芸術バカに思わず手が出そうになったが、マシュの手前なんとか堪えて睨みつけるだけにとどめる。

 

……おい!!

 

「気にするなといっているだろ?せっかく俺の作品にお前が描かれるというのに、そのチャンスを不意にするのか?」

 

白々しくもそれは当然のことのように俺たちの絵を描くこいつに、ついに堪え切れなくなったのか真っ赤な顔のまま堪らずマシュがこの場から逃げるように駆け出す。

さすがにそれを止めるようなことはせず姿が見えなくなるまで見送ったあと今度は先程よりも気持ち凄みを増した目で睨みつける。

だがあいつはそんな俺の視線を飄々と受け流し、ムカつくことにその顔によく似合うニヒルな笑みを浮かべて歩き出し、すれ違いざまに耳打ちする。

 

「よかったな、好きな女から告白されずに済んで。やはりこういうことは男からするものだからな。俺に感謝しろよ?」

 

思わず唖然とするが、そんな俺の様子に特に気にするそぶりも見せずに歩き出す。

そのまま数歩歩いたところで振り返りやはりムカつくニヒルな笑みを浮かべて

 

「俺が、気付いていないとでも思ったか?バカめ」

 

そういってまた歩き去っていくその小さな背をしばらく眺めやがて見えなくなったところで天井を見上げる。

 

 

 

 

 

クソイケメンが!!!!!

 

 

 

 

 

 




主人公
地味に人の感情の機微に聡い男であり、それをみてそれを傍目から見て楽しむいい性格をしている。愉悦愉悦


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ネロ・クラウディウス編

後半部分がごっそり抜けていたので訂正しました。



あの芸術バカが気に入っているのはいったい誰か?そう聞かれたら全員が全員こう答えるだろう。

マシュであると

 

事実気に入ったもの全てに甘いあの男だがマシュに対してはその差が目に見えて明らかなほどにはドロドロに甘やかしていると言えるだろう。

もっとも、甘くすることだけを良しとしないあの男は時に厳しく接することもするが、比率で言ったら8:2ぐらいには甘やかしている。

それは偏にあの男がマシュに期待をしているのもあるだろうが、その境遇が似ていることがその理由の大半を占めると個人的には思う。

あいつのマシュに向ける愛情とでもいうものが家族愛のそれだからあながち間違いということもないだろう。

 

話が逸れたな。

 

ではあいつの一番気の合う存在は誰か?

もっと言えばあの男がもっとも気を許せる存在は誰か?

そう聞かれた場合、おそらく全員が頭を悩ませそれぞれ異なる存在をあげると俺は思う。

あくまでこれは俺の個人的な見解だが、あいつが一番心を許しているのは恐らくネロだと思う。

 

いくつか理由はあるが、やはり一番の理由はあの男とネロの美的感覚とでもいうものがもっとも似ているからだ。

事実基本鉛筆による絵を描くことが多いあいつが、たまに絵の具を利用してキャンバスに景色を描く時そばには必ずネロがいる。

それもただいるだけじゃなく普段なら作品が完成するまで食事や睡眠すら忘れるあの男が時々手を止めてはネロに意見を求めていたのだ。

 

天上天下唯我独尊とまでは言わないが、それでも基本自己解決するあの男が時々とは言え意見をもらう存在。

当然そんな存在はいくらカルデアに有能かつ万能の能力を持つサーヴァントが多いとは言え片手で数えられるくらいしかいないだろう。

 

さて、別にあの男の交友関係に興味がない俺がなぜ今こんな話をしているのか。

ついにデレたか、などという馬鹿げた声が聞こえた気がするが別にそんな理由ではない、これはただの現実逃避だ。

 

目の前の光景から目をそらしたいがための防衛本能だ。

 

そう、豪華な食事が並んでいたテーブルの向こう側で酒の肴にとエミヤが作ったスルメや枝豆を適当につまみながら、恐らく新しく作る作品の構想でも考えているであろう芸術バカに

「いつになったら余のヌードを描くのだ」

と詰め寄るネロから必死の思いで目を逸らしている俺の努力の結晶なのだ。

ってかそれってヌードを描くだけで終わるやつだよね?

明らかにその先の魔力供給(意味深)まで狙ってそうだけどそうじゃないよね?

俺はただ純粋に自分の肢体を描いて欲しいだけだと、そう信じてるよ?

 

「セイバーオルタだけズルイ!!余もお主とまぐわりたい!!」

 

……(ローマ)は死んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は俺と芸術バカが珍しく並んで歩いている時のことだった。

会話という会話こそないが、不快ではない沈黙の中を歩きながらダヴィンチちゃんの工房の前を通り過ぎた時、

「このままじゃカルデアがヤバイ」

とどこか焦りを感じる叫びに近い声が聞こえてきたのだ。

 

つい最近人理修復が終わったばかりだと言うのにまた何か発生したのかと焦る俺をよそに、特に驚く様子も見せないあいつは迷わず工房の中へと足を進める。

慌ててそれについていき中に入った俺の視界にはその整った容姿を歪め涙目になりながら頭を抱えるダヴィンチちゃんと険しい顔で資料を眺める所長が座っていた。

 

何事かと聞く俺に答えたのは所長だった。

曰く、これまで金銭面をサポートしてくれていたパトロンが突然契約を打ち切ってきたとのこと。

その後まるで図ったようなタイミングで、魔術塔にいるとある名のあるお家柄から

金銭を免除する代わりに特異な魔術を操る芸術バカとデミとは言えサーヴァント化したマシュを差し出せ

と言われたらしい。

どう考えてもその名のある家とやらが一枚噛んでる様子だが残念ながら証拠はない。

それにどのみち金がなければカルデアを存続できないのも事実だ。

狡いが有効な手を打ってくるあたり魔術師というのは碌でもない存在だと改めて思う。

当然目の前で悪どい笑みを浮かべる芸術バカを含めてだ。

 

何か思いついたのか?

 

「別に。ただ、俺1人が差し出されるのはいい。何かしようものなら魔術塔もろとも十八番をぶち込めばいいだけだからな。だがマシュに手を出そうというなら話は別だ。まずはその浅はかな作戦を正攻法で粉微塵に変えたあと、とっておきのプレゼントを届けることにしよう」

 

あっ、死んだな

 

ラスボスも裸足で逃げ出すであろう残虐な笑みを浮かべるあいつを見て、俺は静かに顔も知らない犠牲者のご冥福を祈った。

ざまぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからわずか2週間という日数で問題は全て解決した。

が、それはもう酷かった。

スキル直感を持つアルトリアズを使って株を行い、始めつぎ込んだ10万という種は大量の0を養分に花を咲かせ

黄金律を持つギルガメッシュが外を歩けばそれだけで家1つ買える莫大な資金が手に入り。

名目上その金全てを抱える所長の家、アニムスフィア家は世界的に見ても5本の指に入る資産家へとその姿を変えた。

しかもその影で地味に自身の作品を売り出していたあいつは俺が一生をかけても稼げないであろう金額を手に入れており、それを使って2つ目の目的、即ち喧嘩ふっかけてきたバカを叩き潰す計画を実行していた。

 

 

 

 

計画の詳細はこうだ

主犯の身元を洗い出し、そこにある女性関係の情報を主犯の妻に密告。

そのあと口八丁手八丁、挙げ句の果てには魔術を使った軽い洗脳すら行い主犯との離婚を決意させる。

 

が、あえてそれを押しとどめ暫くの間こちらで手配した屋敷で暮らすよう進言。

当然洗脳も行なっているため相手はこれを快諾。

主犯の妻にその息子、果ては使用人すらも洗脳したあいつは主犯が暫く留守にしている間に引越しを決行。

その能力で作り出した主犯の妻そっくりな傀儡を玄関に吊るし主犯の自室にその他屋敷で生活していた人間の傀儡を撒き散らし終了。

後日泡を吹いて倒れる主犯に対して脅しと言う名の洗脳をかけセルフギアススクロールに一筆書かせゲームセット。

 

 

色々言いたいことはあるが、取り敢えず契約の内容が地味にえげつなかったとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

そんなこんなで事件は無事解決し。

どうせならと今日、そのお祝いパーティーのようなものを決行していたのだ。

始めの方こそみんなで楽しくワイワイやっていたのだが、だんだんと酒が回って来たためか酔いつぶれて部屋まで介抱してもらうものが増え、最後には未成年ゆえに酒が飲めず、必然酔うこともない俺、マシュ、芸術バカと厨房で後片付けをしているエミヤとキャス孤。

芸術バカにくっ付いて離れないネロが残った。

ちなみに時間も時間なんで子供達はすでに自室に帰してあるし、酒を飲んでいないサーヴァントもそれに付き添う形で帰っていた

 

余談だが酔いつぶれたサーヴァントはあいつが作った何体かの鳥型の起爆粘土に運ばれており、嬉々としてそれに乗り込んで帰っていく子供達の姿にほっこりした。

 

 

ここまでは良かった。

 

いや、あいつに抱きつくネロに対して思うことがないとは言わないが、今の状況に比べればここまでは許容できた。

問題はその先だ。

酔い潰れてこそいないが、ろれつが回っていない程度には酔っ払っているネロはそれはもう絡み続けた。

はじめこそ肩がぶつかるだけで赤面していた王様は、今ではあいつの腕に抱きついて上機嫌なくらいには酒に飲まれていた。

だが、そんな羨ましい状態でも表情1つ変えず適当につまみを食べるあいつに流石のネロも怒ったのか

 

「余を見ろ!!」

 

「余を構え!!」

 

「余にも食べさせろ!!」

 

と食ってかかる。

いや、本人としては怒っているつもりなんだろうが側から見たらただ甘えているだけだ。

 

その微笑ましい光景にマシュ共々暖かい目で眺めていたら冒頭の爆弾が投下されたと言うわけだ。

 

「余の裸体を描きたくないのか?」

 

その豊かな双丘を押し付けながら詰め寄るネロをその口に手に持っていたスルメを咥えさせることによって黙らせたあいつは、あいも変わらぬ無表情で

 

「また今度な」

 

とだけ言って新しいツマミに手を出す。

 

それに対してスルメを咥えたまま抗議するネロだが何を言っているか分からない。

暫くしてようやく飲み込んだネロは再度詰め寄る

 

「余を描け!!」

 

「今度な」

 

「今すぐ余を描け!!」

 

「今度な」

 

「なら余を抱け!!」

 

「今度な」

 

「………」

 

「今度な」

 

表情はいつも通りの無表情だし、体がふらついている様子もない。

が、どうも様子がおかしい。

今だって

「今度な」

としか喋っていないようだし、もしかしてこいつは酔っているんだろうか?

酒を飲んでる様子はなかったが俺だっていつもこいつを見ているわけではない。

未成年に酒を飲ませるわけはないと思いたいが英雄にその常識があるとは思えない。

ケルトあたりならむしろ水の感覚で勧めてくるだろう。

だとしたら、だ。

 

おい

 

「なんだ?」

 

お前、酔ってるのか?

 

「酔ってない」

 

……体に異常はないか?

 

「頭がふらつくことと、体温が高くなっていること、判断能力が低下していることを除けば特に異常はないが?」

 

OK酔ってる。

確実に酔っぱらってる。

むしろそこまで分かっていて酔っていないと言うこいつが分からない。

まあ酔っ払いほど自分は酔っていないと言うものだし案外そう言うものなのかもな。

 

どうでもいいな。

 

取り敢えず目の前に座る芸術バカが酔っ払っていると言うことはわかった。

ならば心優しい俺がやることは1つだ。

この機会に弱みを握ってやる!!

 

お前、好きな人はいるか?

 

「俺は美しいもの全てが好きだ」

 

その中で一番は誰だ?

 

「美しさは千差万別だ。そこに甲乙を求めるのはくだらない凡人のやることだ」

 

なんだこいつ、ほんとに酔ってんの?

なんでこんなキザなの?

爆発してくんねえかな?

だが、そんな俺の心情が伝わるわけもなくもはや作業のようにつまみを食べる芸術バカ。

その様子を見て漸くあいつが酔っていることに気付いたのか勢いを取り戻したネロがここぞとばかりに攻め立てる

 

「余を抱け!!」

 

「今度な」

 

撃沈。

ってかネロはバカなのか?

もう少し頭を使って遠くから徐々に徐々に外堀を埋めていけば或いは

って俺は何を考えているんだ?

別にあいつの味方をしたい訳ではないが、だからとってネロの味方をする必要もない。

 

むしろネロの発言の刺激の強さにキャパオーバーしているマシュを宥めることを優先した方が絶対いいに決まっている。

まあ、このままだとネロが可哀想なのも事実なので、もう少し遠回しに攻めるようにと助言してもはや気絶しているマシュをお姫様抱っこの要領で抱えて食堂を出る。

時刻はもう11時をすぎた時間帯だ。

仮にナイチンゲールさんに見つかれば拳で眠らされてしまう。

 

全く俺も甘くなったものだと自嘲しながらマシュを部屋まで送る。

幸いにしてパスワードは教えてもらっていたのですぐに鍵を開け部屋へと入ろうとしたところで視線を感じ、そちらに目を向ければそれはもう美しい笑みを浮かべた清姫と目が合い、現状の自分の姿を思い出す。

 

マシュを抱えている

 

まあ気を失ってるから仕方ないよな。

 

マシュの部屋に入ろうとしている

 

まあ気を失ってるから仕方ないよな。

 

年頃の男と女

 

………あれ?まずくね?

 

「ますたぁ?」

 

いや待て待て違うんだ!!これには海より深い事情があってだな!!

 

「ますたぁ?」

 

下心はないし、やましいことをしようとしている訳でもないんだ!!

 

「ま・す・た・ぁ?」

 

おやすみなさあああああああああい!!!

 

幸いにして近場にあったベッドにマシュを放り投げて猛ダッシュ。

途中上機嫌なネロとそれに連れられておぼつかない足取りで歩く芸術バカがいたが無視だ。

 

こんなことなら今朝令呪によるブーストをかけたらライダーはどれだけのスピードでチャリを漕げるかなんてやらなきゃよかった。

 

後悔するがもう遅い。

礼装によってる出力を上げているがそれでもサーヴァントには及ばない。

徐々に距離を詰めてくる清姫に恐怖しながら限界突破する俺。

そして前方から接近してくるナイチンゲールさん

 

あっ、おわた。

 

 

 

 

 

 

 

 




その後ぐだ男を見たものはいない


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番外編 相談室だよ芸術家さん

今回は会話のみです


「相談室?」

 

「ああそうだ。より素晴らしい作品を描くためには人の心情を理解する力も必要だろ?」

 

「まあそれは一理あるが、それがなぜ相談室につながる?」

 

「ただのついでだよ。君は人の気持ちを理解する力が身につく。相談者は相談に乗ってもらえる。ほら、ウィンウィンだろ?」

 

「………まあいい。たまには息抜きも必要だ。暇つぶしがてら相談室とやらもやってやるよ」

 

「さすが芸術家くん、話が分かる!!ああ、君の声はボイスチェンジャーで加工されている上に翻訳機によって相談者には敬語で話しているように聞こえるから君は普段通りの対応をしてくれていいよ!!それから初回ということで相談者は外部の人間にするから知り合いもいないし気楽にやってくれていいよ!!」

 

「どうでもいい」

 

「君らしいね。それじゃあ明日の朝9時にそこに書いてある場所に行ってくれ」

 

「了解した」

 

「頑張ってね!!」

 

 

 

 

 

「さて、明日が楽しみだな♪」

 

 

 

 

 

 

case1 夫との関係

 

『わたくしとますたぁの関係について相談したいことがあるんですがよろしいですか?』

 

「ここはそういう場所だ、好きにしろ」

 

『ありがとうございます。実はますたぁ、あっ!!ますたぁはわたくしの旦那様なのですがいつまでたってもわたくしに手を出してくださらないんです』

 

「へー、で?」

 

『どうにかして関係を進められないでしょうか?』

 

「じゃあこれを貸してやる」

 

『これは?』

 

「媚薬だ」

 

『へ?で、でもそれじゃあ無理やりそういう気持ちにさせているようで心苦しいのですが?』

 

「バカが、結婚しているのにいつまでたっても手を出さないお前の旦那とやらが悪い。挙句の果てにこんないい女が人に相談するほど追い詰められていることにも気付かない始末だ」

 

『で、でも』

 

「人というのはな、やりたいことやってる時が一番美しく輝くものだ。何をためらう必要がある?」

 

『そうですね!!ありがとうございます!!早速今晩使ってみます!!』

 

「それでいい」

 

『それでは失礼します!!相談に乗っていただき有難うございました!!』

 

 

 

 

 

 

 

case2 ツンデレな彼女が最近冷たい件

 

『相談というのは他でもない(オレ)のセイバーについてだ』

 

「聞こう」

 

『セイバーが(オレ)のことを好いておるのは間違いないのだが、照れているのかどうにも最近(オレ)への対応が冷たくなって来ていてな』

 

「それで?」

 

『原因は分かっているあの芸術家なるものがセイバーを誑かしているからだ。この(オレ)にも見せん笑顔をその男に向けていたのだまず間違いない。全くその作品の数々でこの(オレ)を興じさせてくれるあやつのことは気に入っていたのだがな……だがそれとこれとは話が別だ。セイバーに手を出すのであれば仕方がない。この(オレ)手ずから裁きを下さねばなるまい』

 

「それは相談に来る必要はあったのか?」

 

『何、ただの気まぐれでここを訪れただけのことよ。英雄王たるこの(オレ)が気まぐれとはいえわざわざここを訪れたのだ感謝するがよい』

 

「……コンクリートに咲く花がなぜ美しいか分かるか?」

 

『許す、話せ』

 

「別に難しいことじゃない。コンクリートという場所で懸命に花を咲かせるからこそその花は美しいのだ。だが、その美しさを得たいがために摘み取ってしまえばその花に価値はなくなる」

 

『なるほどな。要はその美しさが欲しければコンクリートごと奪い取ればいいということか。いいぞ、なかなかに面白い意見だ、褒めてつかわす!!褒美をやろう。なに遠慮はいらん、さしあたり我が財宝の中でも特に上等な酒をやろう。じゃあな顔もわからぬ雑種よ』

 

「ああ」

 

『芸術家ごと貴様を我がものとしてやるぞセイバー!!フハハハハハハ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

case3 人間関係について

 

『相談というのは他でもありません。私の上司と娘についてなんですが』

 

「構わん、言え」

 

『有難うございます。では先に娘についてなんですが、どうにも私を避けているようなんです。毎朝部屋から出て来たところを挨拶するんですが無視されてしまって』

 

「毎朝?」

 

『ええ、娘が部屋から出るのを毎日部屋の前で待っているんですよ。恥ずかしながら初めての娘でして接し方が分からず、取り敢えず毎朝の挨拶だけはしておこうと思いまして』

 

「まあ挨拶は大事だな」

 

『そうですよね!!やはり礼儀を重んじることは大切なことですよね!!ではなぜ娘は私を無視するようなことを……』

 

「朝に弱い体質なのかもな」

 

『なるほど!!それは盲点でした。これからは少し待ってから挨拶をした方がいいのかもしれませんね』

 

「それで、もう1つの悩みってのはなんだ?」

 

『ええ、実は私の上司のことなのですが。実は私の上司はある男に恋をしているようなんですね』

 

「ふーん、それで?」

 

『恋すること、それ自体は喜ばしいことなんですよ。なんせいつも仕事ばかりでそういった浮ついた話を聞かない人ですから』

 

「問題はその男にあると?」

 

『ええその通りです。なんでも道行く女性全てに声をかける軽薄な男だと聞いているので』

 

「お前の上司はそういった男が好みなのか?」

 

『いえ!!むしろ誠実でいて男らしい男が好みだと』

 

「ならどちらかが間違いなんだろ。実際にお前は確かめたのか?」

 

『いえ。そうですね、噂だけで判断するとは私もまだまだ未熟者なようだ……。ありがとうございます、参考になりました。なにぶん不器用な私ですから言葉による会話ではなく拳によって語らってみたいと思います』

 

「まあそれでいいだろ。一応言っておくがその結果がどうであれその上司がその男を選ぶのであれば……」

 

『分かっています。大人しく見守ることにしましょう。今日は相談に乗っていただき感謝します』

 

「別にいい。これも仕事だ」

 

『それでは早速あの男を探して来ますので、ここで失礼します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

case4 Arthur

『Arrrrrthurrrrr……!!!!』

 

「……」

 

『Arthur………!!!!!』

 

「………」

 

『Arrrrrrrrrthurrrrr………!!!』

 

「………」

 

『Ari……gato……u』

 

「別にいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

case5 割と切羽詰まってます

 

『頼む俺を匿ってくれ!!』

 

「構わん、話せ」

 

『いや、そう言うんじゃなくてだな!!今弓を持った女に追われているんだ!!人ならぬクマ助けだと思って俺を匿ってくれ!!』

 

「何か悩みでもあるのか?」

 

『強いて言えばまるで話を聞かないお前を説得する方法かな?!』

 

「取り敢えず落ち着け」

 

『落ち着いてられるか!!死んじゃうよ?俺死んじゃうよ?!外でたら廊下に大量の綿が散らばっていても知らないからな!!』

 

「悩みは無さそうだな」

 

『何をみてそう判断した!!悩まず逝けってか?死んだら悩みも無いってことか?!』

 

『あっ!!ダーリンこんなところに居た!!』

 

『出たああああああ!!』

 

「新しい客か。悩みはなんだ?」

 

『違うよ!!あれはどちらかと言うと人を悩ます方だよ?!』

 

『うーん。ダーリンともっと親密になりたいことかな?』

 

『それってダーリン間に挟んで聞くことじゃ無いよね?なに?遠回しにもっと親密になれと言いたいのか?!』

 

「ならこの媚薬を使え」

 

『なんでだあああああ!!!色々段階すっ飛ばしすぎだろ!!物理的に親密になれってか?!親密(物理)ってか?!』

 

『ありがとう!!早速今日一服盛ってみるね!!』

 

『怖くて今日何も喉を通らねえええええええええ!!!』

 

「頑張れよ」

 

『それはどっちに向けられた言葉だ!!俺か?俺なのか?!』

 

『じゃあ行こっかダーリン!!』

 

『誰か助けてええええええ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

case6 近々友達の誕生日なんですが

 

『実は相談というのは俺の……と、友達についてなんですが…』

 

「構わん、言え」

 

『ありがとうございます。その…近々そいつの誕生日があってサーヴァント達と祝おうと思っているんですけど、なにぶんそいつは変人なんで何をあげれば良いのか…』

 

「そんなもん俺が知るか」

 

『全く持ってその通りです……。けど、友達に誕生日プレゼントをあげること事態が初めてなんで、無難なもので良いので何か意見を貰えないでしょうか?』

 

「はぁ……。そいつの趣味は?」

 

『作品づくりです』

 

「ほう、気が合いそうだな。まあいい、ならば実用性の高く尚且つ長期に渡って使えるものを買うのが良いだろう」

 

『成る程。確かにその方があいつは喜びそうですね』

 

「まあ喜ぶかどうかは知らん。が、そういうのは祝われただけで嬉しいと聞くが?」

 

『いえ、そいつ変人なんでその辺はどうなんでしょうね……』

 

「おかしな奴もいるものだな…」

 

『そうなんですよ!!あいつはほんとおかしいんですよ!!この前だってーーーーー

 

 

ーーーーーーってこともありまして………あっ!!すいません。つい話し込んでしまって』

 

「別に良い。これも仕事だ」

 

『そうですか。ってヤベッ!!もうこんな時間だ!!すいませんが俺はここで失礼しますね!!』

 

「プレゼントの件だが」

 

『?』

 

「今筆が痛んでいてな。ちょうど新しいのが欲しかったところだ」

 

『へ?……え?お前まさか……?!』

 

「じゃあな」

 

『ちょっ!!待てっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところに居ましたか芸術家殿!!さあ私と勝負です!!」

 

「なんだ?」

 

「何を言っているんだランスロット卿!!いいからアロンダイトをしまえ!!」

 

「ええい離せガウェイン卿!!私には確かめねばならないことがあるんだ!!」

 

「「「「「ほう、それは是非とも聞きたいものだなランスロット」」」」」

 

「あ、アーサー王…?!」

 

(あっこれランスロット卿死んだな)

 

「マスターよ私はハンバーガーが食べたい。だから食堂に行くぞ」

 

「?…別にいいが」

 

「待て芸術家殿!!私の用はまだ終わっていない!!」

 

「……ガウェイン卿」

 

「な、なんでしょう王よ?」

 

「そのランスロット(バカ)をフェルグスの刑に処しなさい」

 

「わ、分かりました」

 

「や、やめろ!!ガウェイン卿!!その手を離せ!!王よ!!慈悲を!!」

 

「「「「「ギルティ」」」」」

 

「あなたには(ヒト)の心がわからない!!」

 

「さあ行くぞランスロット卿」

 

「やめろガウェイン卿!!芸術家殿!!私と決闘を!!芸術家どのおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ芸術家!!あいも変わらず(オレ)のセイバーを誑かしおって」

 

「私はお前のものではない」

 

「しかし(オレ)も寛大だ。今回は目を瞑ろう」

 

「私はお前のものではない」

 

「だが貴様にはセイバーとともに来てもらうぞ。これは王たる(オレ)の決定だ。拒否権はない!!さあ来い芸術家!!セイバー共々この(オレ)手ずから可愛がってやる!!」

 

「ギルガメッシュ…君もそっちに目覚めてしまったんだね…」

 

「どうした我が友よ。その鎖はなんだ?」

 

「大丈夫だよギルガメッシュ。痛くはしないから」

 

「待て我が友よ!!(オレ)はそいつらに用が……いないだと!!」

 

「さあ行こうかギルガメッシュ」

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ますたぁ♡」

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」

 

「ダーリン♡」

 

「うわあああああああああああああああ!!!!!」

 

「今日は騒がしいな」

 

「そうですね。それよりもハンバーガーを食べたいです」

 

「少し待ってろ。今作る」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 




ツッコミ不在の芸術バカを書きたかっただけなのに何故こうなった?


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番外編 こっちでも呼ばれてますよ芸術家さん

今回は文字数多めで御都合主義がある模様。


激しい光と爆風の後描かれた魔方陣の中から1人の人間が現れる。

身長は160前後。

血のように赤い髪に中性的な童顔で、黒の生地に所々赤い雲が浮かぶ独特なマントを身に纏った少年。

その少年は今どこまでも冷たい目で私、間桐桜を睨む。

いや、よく見ればそこに私は写ってはいない。

ただの風景。

あるいは空気程度としか認知していないのかもしれない。

暫く無言を貫いた少年はようやく口を開く

 

「醜いな」

 

たった一言放たれたその言葉に体が震える。

そんなことは自分が一番分かっている。

いや、分かっていたつもりだった。

にも関わらず初めて出会っただけの少年に全てを見透かされたように言われただけで、これまでの頑張りが否定されたような気がして、これまで耐え忍んでいたいいたものを嘲笑われたような気がして心が砕けそうになる。

それでもやらなければならないことがある。

だから私は目の前の少年を睨んで声を上げる

 

「あなたは誰ですか?」

 

精一杯出した声はたったそれだけの言葉を紡いで終わる。

そんな自分が恨めしいが、これが私の限界だ。

私のような弱い女は1人では何もできないのだから

「生憎だが醜いものに名乗る名は持ち合わせちゃいない」

そういってこちらに手のひらを向ける少年。

それだけで体は硬直して指1つ動かない。

ああ私はここで死ぬのか。

どこかボンヤリとそう思いながらこれまでの人生を思い出す。

子供の頃は楽しかったはずなのにこの場所に来てから全ては崩れ去った。

悲劇のヒロインぶるつもりはないがせめてもう少しだけ楽しい時間が欲しかった。

たった一度でいいから自分だけを大切にしてくれる誰かと出会いたかった。

本当の愛情が欲しかった。

まあそれも今となっては遅いのかもしれないけれど。

込み上げてくる思いを感じていると唐突に吐き気を催して思わず吐き出す。

何度も、何度も吐き出す。

ようやくそれが終わり、心なしか力が抜けた感じがすると目の前にはこれまで私を散々苦しめて来た蟲の死骸が転がっていた。

 

「本当に醜いな。これほど美しい女にこんな醜いものを入れるとはどういう了見だ?なあ、おい、聞いているのか?」

 

少年の視線の先を追うとそこには本来私の頭に寄生している筈のお爺様の本体である蟲がそこにはいた。

 

「まあいい。返事なんて期待していないし醜いお前の声など聞きたくもない。早々に……死ね」

 

それで終わり。

抵抗する間も無くお爺様の本体である蟲は、いつからそこにいたのかわからないが黒いボロボロのマントを身に纏った人形の手によってバラバラにされてしまった。

 

「どうやらこの家にはまだ似たようなのがいるようだな。チッ仕方ねえ掃除するか」

 

それだけ言うと彼の周囲に20近くの人形が現れ、ゆったりとした動作で移動を開始して、やがて姿を消した。

遠くから聞くのも悍ましいような蟲の悲鳴が聞こえてくるがどうでもいい。

今はただ目の前の少年と話がしたい。だから私はもう一度問いかける。

 

「あなたは誰ですか?」

 

先ほどと同じ、でも先ほどより縋るような気持ちで問いかけた私の姿が初めて私を見た少年の瞳に映る。

 

「サーヴァント、ライダー。それが俺の名だ。美しい女よ、お前の名前を聞かせてくれるか?」

 

どこまでも私だけを見つめるその視線に先ほどとは違う意味で体が固まる。

けど、今言わないと恐らく2度とこの少年に名前を呼んで貰えそうにないから勇気を振り絞って答える。

 

「間桐…桜です。私のことは桜と呼んでくださいライダーさん」

 

「桜…か」

 

「どうしました?」

 

「いやなに、同じ名前の女を思い出しただけだ。といってもお前とあいつでは天と地ほど違うがな。特にスタイルが」

 

「……へ?」

 

「こちらの話だ。それより桜、紙とペンを貸してくれないか?お前の絵が描きたい」

 

何だろう。

この人グイグイ来る。

さっき無表情でお爺様を殺していた人と本当に同一人物なんだろうか?

どうでもいいか。

どちらにせよこの少年が私を救ってくれたことに変わりはない。

なら私は私にできる精一杯で恩返しをするだけだ。

例えそれが聖杯戦争という短い期間であったとしても……やっぱりそれはちょっと寂しいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお桜。サーヴァントを召喚したんだって?僕に貸してくれよ?」

 

いきなり部屋に入るなりそう言って来たのは私の義理の兄である間桐慎二。

私のことを道具か何かだとしか思っていないようだが彼も私と同じお爺様の被害者だ。

無下にはできない。

けど今の私は口以外動かすことを禁止されている。

現に今だって入って来たお兄様に条件反射で立ち上がろうとしたら止められた。

おかげで無視するような形になってしまったためお兄様の機嫌がどんどん悪くなっていく。

 

「おい桜?僕を無視するとはいい度胸だな。そんなに殴られたいのか?」

 

「殴るだと?」

 

お兄様などいなかったように絵を描き続けていたライダーの手が止まる。

それと同時に部屋の気温が低下していくがお兄様は気づかずに自慢げに続ける

 

「ああそうだ。

何ていったって桜は僕の道具だからな。

僕の憂さ晴らしに付き合うのは当然のことだろ?

ああそういえばお前桜のサーヴァントだっけ。

ってことは桜の下僕だろ?なら僕の下僕でもあるわけだ。取り敢えず紅茶を淹れてくんない?そのくらいお前程度でも出来るだろ?」

 

この兄はバカなんだろうか?

ライダーの機嫌がみるみるうちに悪くなっていることになぜ気付かないのだ?

先ほどまで家中の蟲を殺していただろう彼の人形も帰って来て出口を塞いでいるし。

お爺様を殺した、彼が【風影】と呼んでいた人形もライダーの横に控えている。

お爺様になにを吹き込まれたのか分からないが随分とサーヴァントを下に見ているようだが、このままだと自分が死ぬかもしれないことに気付いていないのだろうか?

もし殺しそうになったら止めるつもりではあるがこれ以上機嫌を悪くさせれば令呪でも使わないと止まらないような気がする。

 

「壊れた人形か、つまらんな早々に失せろ。お前のような出来損ないでも一応は桜の兄だ。殺して桜の美しさが色褪せれば俺が困るからな」

 

どこまでも自分勝手なようで、それでいて私を心配してくれるライダーに思わず頰が緩む。

けどやはりその態度が気に入らないのか当然兄が食ってかかるが、先ほど同様ライダーが手のひらを向けただけで動きが止まる。

その後軽く指を動かすとお兄様が突然自分で自分の首を絞め始める。

当然私はそれを止めようとするがライダーは視線だけで私に待つように言うと苦しそうに呻き声をあげる兄に近づく。

そのまま耳元まで口を寄せ一言二言口にするとみるみるうちに兄の顔が青ざめていきそのまま飛び出すように部屋を出ていく。

その際入り口で待機していた人形を見て情けない悲鳴をあげるが一体ライダーはなにを言ったのだろうか?

確かめたい気もするが、もう興味もないのか再び紙とペンを持って真剣な眼差しで私を観察する彼を見てどうでもよく感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーさんは聖杯になにを望みますか?」

 

ライダーを召喚してから何日か経ったある日の夕方。

私の隣で夕食を作るライダーにふと気になって尋ねてみる。

因みに兄は今リビングで私の宿題の答え合わせをしている。

あの日ライダーに何かを言われてから私への態度がどこかよそよそしくなった兄だが最近では良き兄として私と接してくれている。

未だにライダーを見ると体を震わせることがあるがお爺様から解放してくれたことには感謝しているのか、ぶつくさ文句を言いながらもライダーに何かを言われたら即座にそれに従う兄を何度か目撃している。

 

「別に望みなんてものはない。第1芸術家とは自らの手で作り出していくものだ。誰かに願って手に入れたものなど必要ない」

 

「ライダーさんらしいですね」

 

ここ数日でライダーはかなりの変人だと言うことを理解した。

学校に行く日は毎日付いて来る。

護衛なら仕方がないと思うがこの前屋上で風景画を描いていたのを見るにもしかしたらただ絵の素材になりそうなものを探しているだけかもしれない。

あと時々兄の挙動がおかしくなるときは大抵ライダーの仕業だ。

突然掃除を始めた兄を見て悪い笑みを浮かべていたのでまず間違いない。

 

「そう言う桜はどうなんだ?」

 

こちらを見ずにそう言うライダーだが言葉の端々から興味津々なことが分かる。

それに今の私の願いは決まっている。

あの地獄のような日々から救ってくれたライダーに恩返しをしたい、ただそれだけだ。

けどそれには聖杯戦争と言う期間はあまりにも短すぎるから…だから私は

 

「私は…もっとライダーさんと一緒にいたいです」

 

それが私の願い。

あまりにもちっぽけで、それでいて大それた願い。

本来死人であるライダーと一緒にいたなんて余りにも尊大で、それでいて聖杯に願うには余りにも小さな願いだ。

 

「受肉か……悪くないな」

 

そんな私の心情を知ってか知らずか軽い感じでそう言うライダーに知らず張っていた力が抜ける。

本当に彼は聖杯戦争を分かっているのだろうか?

とてもじゃないがそんな風には見えない。

けどライダーはいつもこんな感じだ。

呆けているようでその実重大なことは見逃さない。

初めて私と出会ったときすぐに蟲の存在に気付いたのがいい例だ。

今もテキパキとお皿に盛り付けているライダーを見るとただの子供のようにしか見えないが。

 

「って何やってるんですか?!料理がとんでも無いことになってますよ!!」

 

「芸術的だろ?」

 

「いろんな意味で食べ辛いです!!あとどうやってリビングまで運ぶ気ですか!!」

 

「慎二にやらせる。少しでも崩れたらそのぶんペナルティだ」

 

「僕だけとんでも無いとばっちりなんだが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同盟……ですか?」

 

「ああそうだ。これでも俺は現実主義者でな。少しでも勝ち残る可能性をあげるために組んでおいて損はないだろう。誰か知り合いに参加者はいないか?」

 

真面目な顔でそう尋ねてくるライダーだが顔が近い。

ソファーの上で食後のまったりとした時間を味わっていた私に紅茶の差し入れをしたと思えば、隣に座り込んで突然質問をして来たのがつい先のほどの出来事で、今は半ば押し倒しそうな勢いでこちらに迫っている。

これで当の本人は無自覚なのだからタチが悪い。

別に期待しているとかそう言うことはない。

私はそんなにチョロい女では無い……と思う。

最近先輩の家に通う回数が目に見えて減っているがそれも別にライダーと料理をするのが楽しいからでは無い。

無いったら無い。

これはそう……目を離した隙に何をやらかすか分からないからそばで見張っているだけだ。

だからライダーと一緒に寝るのだっておかしなことでは断じてない!!

私は誰に言い訳しているのだろうか…

 

「桜?」

 

その言葉にようやく現実世界に引き戻されたが、ライダーの顔が先ほどよりも近くて思わず気が遠くなる。

少しでも顔を動かせば唇が触れ合いそうだ。

これは事故を装って……って何を考えているんだ私は!!

 

(違うんです!!これはライダーさんが悪いんです!!私は決してはしたない女なんかじゃ無いんです!!)

 

羞恥で悶える私だがこちらを妙に似合うニヒルな笑みを浮かべて見るライダーにハッとなる。

まさかこの人わざと…?!

 

「俺に惚れたか桜?なるほど聖杯に俺の受肉を願う理由はそう言うわけか」

 

「ち、違います!!そ、それよりも心当たりですが1人だけいます。私と同じ学校の生徒なんですが」

 

「ああ、あの遠坂っていうお前の姉か?随分と慎二のやつがお熱だったからよく覚えている。それともお前の尊敬する先輩のことか?令呪こそ無かったがあいつの体からは聖遺物とやらに近いものを感じた。そう遠く無い未来あいつもマスターとなるだろう」

 

「え?それはどう言う……って参加者がいることに気付いてたんですか!!それならなんで私にそんな質問を……。まさか?」

 

「たまには桜の照れた顔を拝みたくてな。いや、普段から俺が近づくだけで顔を真っ赤にしているのには気付いていたが、なかなか正面から見ることは珍しくてな。この機会にじっくりと眺めておこうと思っただけだ。やはりお前は照れた顔も美しいな」

 

なんでも無いように言うライダーだがその一言一言に顔が赤くなる自分が悔しい。

赤い髪に天然なところが先輩にそっくりだと思っていたがもしかしたら彼は計算してそれをやっていたのかも知れない。

だとしたら私は見事にその策にハマっていたのだろう。

なんだかムカつく。

 

「そう拗ねるな桜、せっかくの美しい顔が台無しだぞ。いや、だがこれはこれでいいな。よし、そのままじっとしていろ。いいな、動くんじゃ無いぞ」

 

………本当にムカつく。

 

「あれ?もしかして僕の存在忘れてる?僕はずっとリビングにいますよー。え?今すぐ紙を持って来いだって?ああはいはい分かりましたよ行けばいいんでしょ行けば!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりあなたも選ばれたのね間桐さん」

 

「桜……」

 

「遠坂さん…先輩……」

 

あの日から数日が経過し、そろそろ同盟の話を持ちかけようと考えて遠坂さんに近づいたが少し遅かった。

すでに先輩と同盟を組んでいた遠坂さんは現在対峙するように私とライダーの前に立っている。

そのすぐそばに赤い外套のアーチャーが控えており、先輩の前にもセイバーと呼ばれる金髪の女性がおそらく剣であろう不可視の武器を構えてこちらを油断なく見ている。

絶体絶命のピンチであるが隣で面白そうにその様子を眺めているライダーを見ると安心する。

 

「兄弟、姉妹がここまで揃うとはなかなか絵になるな」

 

そうこぼすライダーの呟きにアーチャーが肩を震わせる。

 

「急いで倒すぞ凛!!あの男はまずい。私の第六感がそう囁いている!!」

 

「はぁ?」

 

取り乱すように叫ぶアーチャーだが何かおかしなことでもあったのだろうか?

確かにこの状況で笑うライダーは相手側からすれば脅威に映るだろうがそれでも三騎士のうちセイバーとアーチャーが揃った状態でここまで取り乱すのは少し不自然だ

 

「構いません凛。このままいけば面白いことになると私のスキル直感が囁いています」

 

「はあ?どうしたんだよセイバー?」

 

意外にもそれを止めたのは同盟相手のセイバーだったがこちらも少し不自然だ。

まるで誰かに入れ知恵されたようなその言動に私同様疑問を抱いた先輩が問いかけるが、そこでふとセイバーの口周りにクリームが付いていることに気付く。

まさか、いやそんなことはない筈。

確か昨日ライダーがケーキを作っていたがそれは関係ないだろう。

 

「あれ?セイバーお前は口に何かついてるぞ?これは……クリーム?」

 

「ち、違いますよシロウ。これは決して今日の昼に家で留守番していた私の元にライダーが届けてくれたケーキのクリームなんかじゃありませんからね!!」

 

見事に自供してくれたセイバー。

それを呆れたような目で見つめる先輩と遠坂さん。

アーチャーはその間にもなんとかしてライダーの口封じを考えてるようだが多分もう無理だと思う。

事実ライダーの顔が兄を弄って楽しんでいる時のそれになっている。

 

「どうした?早くも内部分裂か?まあいい。なら微力ではあるが俺もその手伝いをしよう」

 

どこまでも悪どい笑顔でそう告げるライダーに聖杯戦争だからと肩に力が入っていた自分がバカらしくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「あらお帰りなさい桜。ちょうどクッキー焼けたところだから手を洗って待っていなさい」

 

「はーい」

 

色々あって先輩とお姉ちゃんと同盟を組んでから2日が経った今日。

珍しく学校について来なかったライダーを不思議に思いつつも帰宅。

エプロンを付けた青い髪で尖った耳をもつ美しい女性が言うことにはちょうどクッキーが焼けたようなので手を洗いに行く。

手を洗ったあとリビングに行くとそこには焼きたてで少し湯気が立つクッキーを頬張りこんでいるセイバーと、紅茶を淹れいてるアーチャーと上機嫌にそれを飲む姉さんがいて、外を見ると紫の髪の長髪を後ろで1つに束ねた、長身で美形の男性が先輩相手にやけに長い刀のようなものを構えて剣術の指南をしていた。

 

「どうした桜?いつまでもそんなところで立ち止まっていたらクッキーを全てセイバーに食べられてしまうぞ?」

 

新しく焼きあがったクッキーを持ちながら問いかけてくるライダーに取り敢えず聞いて見る。

 

「あの人たち誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーまあそんな感じだ」

 

「ふーん」

 

なんでも昨日雨の中出かけたライダーが森の中で綺麗な青い髪の女性を見つけ、すぐさま保護したところその女性はキャスターのサーヴァントだったらしい。

 

その後簡単な手当てをしたライダーを、怪しんだキャスターがなぜ助けたか問いかけたところ

「雨の中血まみれで倒れるのはお前には似合わない」

と答え

「俺がお前が美しく輝く場所を提供してやる、お前に拒否権はない、ついて来い」

と強引に誘ってここまで来たらしい。

その日はまだ休養が必要だったとかで私は会っていないが昨日からキャスターが家にいるとか聞いていない。

あと勝手に口説くのを是非ともやめて欲しい。

しかも裏が無い分さらにタチが悪い。

おかげでキャスターはライダーにゾッコンだ。

さっきからクッキーを食べさせようとしている。

 

ムカつく。

 

因みに外にいるのはアサシンのサーヴァントらしく間桐の家を媒介に召喚したらしい。

 

どうでもいい。

 

今はそんなことよりライダーだ。

いつまでもキャスターにデレデレしていて面白く無い。

少し説教が必要だ。

 

「ライダーさん」

 

「どうした桜?」

 

「あーん」

 

「は?」

 

「あーん」

 

「あ、あーん……?」

 

うん、これでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい桜。今日はケーキを作ってみたから早く手を洗って来なさい」

 

「はーい」

 

「あれ?僕は?僕も帰って来てますよ?ちょっと酷く無い!!」

 

キャスターが家に住み着いてからさらに数日が経った今日。

同じ時間帯に学校が終わったはずなのになぜか私より早く家にいる姉さんと先輩はサーヴァントを連れて今日もこの家にいる。

随分賑やかになったことだ。

 

外を見るとアサシンと2mを超える大男が剣術の稽古をしているがこれは無視でいいだろう。

手を洗いリビングに行き自分の席に座る。

横にはライダーが座る私だけの特等席だ。

前の席には白い髪の子供とその後ろに控える従者のような女性が2人いて、優雅に紅茶を飲む少女の姿は洗礼されていて育ちの良さが伺える。

暫く眺めたあと手元に置かれたケーキを一口つまみその美味しさに舌鼓を打ったあとライダーを見て一言

 

「説明してくれるよね、ライダーさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはバーサーカーのマスターらしい。

ついでに言えば幼い見た目に反して私よりも年上だという話だ。

 

なんでも今日の夕飯の買い出しに行っていたライダーが偶然街で遭遇し連れて来たらしい。

いい加減頭が痛くなって来たが理由ならちゃんとあるようでそれを聞くために私が帰ってくるまで待っていたようだ。

 

「単刀直入に言うが、お前人形だろ?」

 

一切の迷いなくそう告げるライダーに2人の従者は肩を震わせるがイリヤは特に反応もなくそれを肯定する。

 

「それにその体は普通の人間よりも成長が早い、いや寿命が短いというべきか?まあそんな感じだ、どうだ間違っているか?」

 

その言葉には流石のイリヤも驚いたのか目を見開く

 

「なに、人形には少し詳しくてな。そのくらいお前を初めて見たときから気づいていたよ」

 

淡々と言うライダーを警戒気味に見据えるが彼はそれを無視して尚も続ける。

 

「どうだ俺に任せてみないか?儚く一瞬で散るのもまた美しいが、ライダークラスで呼ばれた俺には性に合わん。永久に変わらぬ美の方が今の俺は好きなんでな」

 

もちろん後ろの2人も合わせてな。

 

そう言って締めくくったライダーに今度こそ3人は驚愕を露わにする。

私にはよく分からないが魂の入れ替えは一流の魔術師でも不可能らしく、仮にできたとしてもそれを入れる器が存在しなければ消滅してしまうらしい。

彼女の実家であるアインツベルンにはホムンクルスという技術があるらしいが、それでできた肉体の寿命は極端に短いため事実上不可能であると半ば諦めていたらしいが、一体ライダーはどうする気なんだろう?

 

「なに、それはこの世界の話だ。俺の世界なら魂の入れ替えなんてザラだ。それに俺の宝具を使えば完全な肉体。それこそ妊娠すらできるほどの肉体を生成することができる」

 

よく分からないが1つだけ聞きたいことがある

 

「それって聖杯に願わずとも受肉が出来るってことですか?」

 

「ああ、それがどうした?」

 

ムカつく。

 

「一応言っておくがその場合戦闘能力が大きく下がる。そうなったらせっかく受肉できてもすぐに死んでしまうだろ?」

 

でもムカつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争は終了した。

いきなりすぎて驚くと思うが私も驚いている。

 

 

 

宝具である固有結界を発動させたライダーはバーサーカー陣営の彼女たちにより正確にすると言う名目で頭に触れて(ムカつく)暫くすると彼女たちとそっくりの人間がライダーのすぐそばに生成されいざそこに魂を入れていた時、それは起きた。

 

野次馬根性か私やお姉さん、先輩とランサーを除く全てのサーヴァントが見守るなか、念のためとイリヤより先にその従者2人が魂の移し替えをしてもらい。

安全性と確実性を確かめたあと、イリヤの魂を移し替え終わったところ、もともとイリヤの魂が入っていた肉体からよく分からないが気持ちの悪い何かが出現した。

が、

「なんだこれ?見るに耐えんぞ」

と言いつつ何処から出したのかライダーが十八番と呼ぶ爆弾を数発連射するとそれは消えた。

 

そして突然消滅を始めたサーヴァント達。

どうやらあの気持ちの悪いものが聖杯と呼ばれるものだったらしくそれが消えたことによってサーヴァントが現界出来なくなってしまったらしい。

幸いにしてこの空間がライダーの固有結界の内部だったためすぐにサーヴァント全員の肉体を作り出して魂を固定。つまり受肉を果たしたために全員が消滅を免れた。

なぜかその場に全身青タイツの男がいたことには驚いたが、あの人は本当に何だったんだろう?

 

「いやーそこの嬢ちゃんの監視をしていたおかげで助かったぜ。これは俺の幸運もD、いやCくらいに上がったかもなガハハハハハハハ!!!」

 

姉さんを指差してそこの嬢ちゃん呼ばわりして笑っていたが本当に何だったんだろう?

 

まあどうでもいいか。

 

そんな感じで呆気なく幕を閉じた聖杯戦争だが私の戦い、正妻戦争はまだ終わっていない。

キャスター、メディアと今も尚ライダーを巡って争っている。

いや、ライダーは私のサーヴァントなのだから私のものに決まっているのでこれは一種の出来レースだ。そうに決まっている。

 

「俺の勝ちだ、アーチャー」

 

「そして…私の敗北だ」

 

「一番美味しいのはライダーの料理ですね」

 

「当然だな」

 

「「おのれライダァァァァァアアアアア!!!!」」

 

キッチンで料理対決をしている先輩、アーチャー、ライダー。そして審査員のセイバー。

 

出来る嫁としてライダー用の新しい服を仕立てている私とメディア。

 

イリヤと一緒に魔術の練習をする姉さん。

 

それを見守るセラさんとリーゼリットさん

 

庭で戦っているランサー、アサシンそれと狂化を解かれたバーサーカー、あとこれまたなぜかいるライダースーツの金髪の人。

 

それを眺めるランサーの元マスターであるバゼットさん。

 

 

 

 

平和だ。

 

すごく平和だ。

 

時計塔とか言う場所からは戦力が集結しすぎて危険視されているみたいだけど、常にサーヴァントが睨みをきかせているために何も出来ないでいる。

 

「まあ頭の固いビビリなんて2、3言脅せばすぐに黙る」

 

とはライダーの談である。

 

どうでもいい。

 

今の私にはライダーさえいてくれたらそれでいい。

 

これから先の長い未来、私の側にライダーがいればそれだけでいい。

 

だってライダーは私のもので、私はライダーのものなんだから。

 

今はまだ正妻の余裕としてよそ見をすることも許してあげるけど、私が高校を卒業したら、わかってるよね?

 

「ライダー♡」

 

 

 

 

 

「ッ?!」

 

「どうしたライダー?」

 

「いや、なぜか寒気が」




クラス ライダー
真名 サソリ
筋力E 耐久 D 敏捷B
魔力 C 幸運 A 宝具 EX
単独行動 A 気配遮断 A 騎乗 B
対魔力 C 心眼 A


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ナイチンゲール編

人生には色々な出来事がある。

例えば偶々球場で野球をしていたら、それを偶々プロ野球選手が発見して、才能を認められてプロになることだったり。

なんとなくで始めた将棋が、気づけば自分の持つ最大の武器になったり。

ただの一般人だった男が、人理修復を成した立役者となったり。

 

無限の可能性に満ち溢れたこの世の中、何が起こるかも分からないこの世界。その中で生きることが、もしかしたら奇跡なのかもしれな「ま・す・た・ぁ?」あばばばばばばば

 

以上現実逃避終了(強制)

 

最近スキンシップの激しくなって来た清姫から逃げたと思ったらこれだ。

いや、あれが彼女にとっての普通なのかもしれないけれど『もっと触ってくださいまし』はアウトだと思う。

そんなわけで何度か説得を試みては失敗。

もう逃げるしかないよね?と言うわけで全力疾走。

隠れる

現実逃避

見つかる

の流れで今の状況に陥っている。

 

激しいスキンシップを正直鬱陶しいと思ったり、しつこいと感じることは無いけれど、そこは男と女だ。紳士たるもの淑女に対しては真摯に向き合わなければならない……とは思っているのだがやはり恐怖には勝てない。

今も俺の手をとって自分の胸に近づけている清姫を見ながら心底そう思う。

 

って何してんの!!

 

「胸がドキドキして苦しいので、ますたぁに撫でていただこうと思って」

 

それは多分鬼ごっこしたからだね。うん、だから大丈夫だよ

 

「いや、それは恋だな。清姫、そのまま続けろ」

 

お前も面白がってんじゃねえよ芸術バカ!!

 

今日も今日とて絵を描いている芸術バカに叫びながら自然な流れで手を離す。

寂しそうな顔を浮かべる清姫に思わないところがないわけでは無いが、ここで甘やかしたら彼女のために(ひいては俺のために)ならないと思い堪える。

このまま彼女にされるがままでいたら俺の身が危ない上に、芸術バカの格好の餌だ。

基本芸術のことしか頭に無いあいつだが、こういった状況に陥った俺を揶揄うか、バカにするかをするあたりなかなかいい性格をしている。

こちらはまるで笑えないというのに第三者とはお気楽なものだ。

 

そこでふと、本当に唐突に思いつく

 

清姫はヤンデレだ。

それはあの芸術バカも否定しないし、なんだったら清姫も否定することは無い。

だからこそ好意を向けている俺に、重すぎる愛情表現を向けてくるし、時には貞操の危機に陥ることも少なくは無い。

だからこそあいつが俺を揶揄う時は基本清姫との絡みが多い。

今さっきのように、清姫の行動を後押ししてそれによって焦る俺を見て楽しむことは今となってはそう珍しい光景でも無くなっている。

 

それと同時に、あいつはまた清姫の恐ろしさも理解している。

だからこそあいつは、後押しといっても俺自身が無事でいられる境界線を踏み外すほどのことはしない。

言い換えればあいつはヤンデレの恐ろしさを理解しているということでもある。

そしてあいつの余裕は、あいつ自身にはその重すぎるほどの愛情が向かないことを確信してのこと。

 

つまり、だ。もし仮にあいつに好意を向ける女性がヤンデレ化した場合、あいつは珍しく余裕を失うし、俺のこの危険さも理解するということだ。

 

ふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っというわけでダヴィンチちゃんに作って頂きました、ヤンデレの薬。

正確には人の持つ独占とか依存とかいう感情を増幅する薬らしいけど突き詰めて考えればヤンデレの薬だしそれでいいだろう。

効果はランダムというか、その人の持つ、いわゆる汚い感情と呼ばれるものの中で一番強いものを増幅させるために、誰がどうなるかは分からないらしい。

 

まあそこはどうでもいいだろう。

あくまで懲らしめるのが目的だが、もし暴走したら見捨てる心算だ。

いつだって現実は非情である。時には酷な選択をするのも人生には必要なのだ

 

まあ効果は明日からの3日間だから多分死ぬことは無いと……………思う。

 

 

 

そんなことを考えながら廊下を歩く。

未だに薬は使って無いが、出来れば普段大人しげで、あいつに好意を持っているサーヴァントが好ましい。

不意を突かれた時の反応が気になるというのもあるが、もしもの時を考えても比較的被害が少ないというのが一番の理由だ。

手元にある3本の試作品でどこまで暴走するかは分からないが、安全策を練っておいて損は無い。

そういう訳でその条件に見合うサーヴァントを探して廊下を歩いているのだが、なかなかいい人が見つからない。

英霊というだけあって皆が皆危険そうで仕方がないのだ。

特に源頼光さん。

既に三回は見ている

 

 

 

いい加減別の場所を探そう

 

そう思っていると靴音が近づいて来ていることに気付く。

取り合えずこの人で最後にしようと顔を上げ確認。

 

ナイチンゲールさんだった。

 

よし逃げよう。

 

「こんにちはマスター」

 

挨拶は返さないとね。よし、挨拶したら逃げよう

 

「手に持っているのは新しい薬ですか?」

 

うん、ある意味薬だけど、あなたに渡したらとんでもないことになりそうなんで薬ではありませんね。

 

「毒味します」

 

何故そうなった

 

 

手に持っていた全ての薬を飲み干したナイチンゲールさんを見て膝をつきそうになるのを堪える。

 

 

一応これでもナイチンゲールさんは芸術バカに好意を持っている。

それは彼女と出会った特異点で、大量に出た負傷者を自らの魔術を治したり、仮の医療施設まで起爆粘土で運んだりと1人でも多くを救おうと頑張っていたことも原因の1つだろうが、やはり一番はあいつの優しさだろう。

両親を失った子供を簡易な人形を使って笑わせたり、沈んだ表情を見せる現地の人々を得意の芸術で感動させたりしたあいつは、ナイチンゲールさんの『いつか病院が必要ない、全ての人が健康でいられる世界にしたい』と言う夢を聞いても決して笑わず『いい表情だ。夢を語るお前は、最高に美しい』そう言って微笑んだ。

 

あいも変わらずクサイ男だがそこまでされて、そこまで言われて惚れない人などいないだろう。

あまり表に出すことはないが、それでも今もカルデア内で人々の健康のために努力をしているナイチンゲールさんが、あいつの前だと雰囲気が柔らかくなることはここでは有名な話だ。

特に普段が厳しい彼女なだけにそのギャップは凄まじく、あいつを狙う女性サーヴァント達が戦々恐々としているところを何度か目撃しているほどだ。

 

もっとも、それでも厳しいことに変わりはないから生活リズムが壊滅的なあいつが苦手意識を持っていることは否めないが、まあそこは俺の干渉するところでは無いだろう。

 

 

うん。本日2度目の現実逃避はこの辺りにしてそろそろ目の前の現実に意識を戻そう。

普段は甘い感情を表に出さない彼女だが、人を殺してでも人を救おうとするレベルでは危ういことは周知の事実だ。

クラス、バーサーカーとして召喚されることからその辺のことは大体察してもらえるだろう。

 

じゃあその若干病んでる感のあるナイチンゲールさんが、ダヴィンチちゃん作のヤンデレの薬を飲んだ場合どうなるか。

 

あ、明日が楽しみだな(白目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、普段よりも1時間早くに目覚めた俺は、既に厨房にいたエミヤに手軽に食べられる朝食と普通の朝飯定食を頼み、現在目にも止まらぬ速さで定食を胃袋に収めている。

 

一応言っておくがこれは決して逃げるためではない。

いや、逃げたくないかと言われたら嘘になるがそれでもタネを蒔いた手前、逃げると言う選択肢を取れるほど人間として底辺にまで落ちたつもりはない。

早々に朝食を片付けてエミヤに作ってもらったおにぎりを芸術バカのマイルームへと持っていき、そのまま籠城するために急いでいるだけだ。

少なくとも現在食堂にはナイチンゲールさんはいないから時間的余裕はあると思っていいだろう。

 

「今日は起きるのも食べるのも早いようだな、マスター」

 

残っただし巻き卵を口にしながら手早く食器を片付けつつ、今後について頭を巡らせていると、自らの朝食を持って隣に座ってきたエミヤが声をかけて来る。

 

今日はやけに目が覚めてね。

 

適当に言い訳しながら、そういえば、と今日の昼と夜は芸術バカのぶんの飯は俺があいつの部屋に持って行くことを伝える。当然昨日のことは隠した上でだ。

 

「また彼は作品作りのために部屋に籠るのか。やれやれ、その集中力は尊敬に値するが、ナイチンゲールのやつに見つかっても知らないぞ」

 

はは、全くだね

 

思わずから笑いが漏れる。確かに見つかったらヤバイ。

 

「まあいい。手軽だが栄養価の高いものを作っておこう。もっとも彼の肥えに肥えた舌で満足できるかは分からないがね」

 

サンキュー、エミヤ

 

「礼には及ばない。彼のおかげでサーヴァントとなった今でも、料理の腕が上がっているのだからな。これほどの充実感が得られるのは、いつかの出来事いらいだ」

 

楽しそうに笑うエミヤにもう一度礼を言って食堂を後にする。

手に持つおにぎりの暖かさを感じながらあいつのマイルームへと向かい暫く歩く。少し早歩きになってしまったが、おかげで予定よりも早くに着くことができた。

 

過去に何度か打ち込んだパスワードを入力し、開いたドアを潜ろうとした時、突如悪寒を感じてすぐに辺りを見渡す。

 

よく響くヒールの音がこちらに近づいて来る。

 

ああ、この音の正体を俺は知っている。

これは死神の足音だ。人々を救済する、地獄の番人の足音だ。

 

「おはようございますマスター。そこで何をしているんですか?」

 

案の定現れたナイチンゲールさんの姿に背筋が凍るのを感じる。

普段は暖かいその目がまるで俺を写していないことが、ここまで恐ろしいことなのかと心の底まで凍りついた体でぼんやりと思う。

言葉は出ない。

もはや俺程度でどうにかなるものではない。

 

「私はその部屋に用があるので退いていただけますか?」

 

すんなりと道を開ける自分に腹がたつ。

俺はここまで弱かったのか、仲間1人も助けられない男だったのかと自己嫌悪に陥る。

こんな自分が身の程知らずにもあいつを助けようとしたことが間違いであったと後悔する

 

でも。

それでも俺は………

 

『ん?誰だ朝っぱらから』

 

『貴方に会いにきました』

 

『は?』

 

……………い

 

『さあ、私に甘えてください。貴方をドロドロに甘やかしてあげますから』

 

『おい、何があった。取り敢えずそれ以上近づくな』

 

……………ない

 

『怖がらなくて大丈夫ですよ。私は貴方の味方ですから。私だけが貴方のそばにいますから』

 

『薬か?………だとしたらダヴィンチか』

 

…………じゃない

 

『それ以上逃げたら撃ちますよ?大人しくこちらに来てください』

 

『手荒な真似はできねえな。チッめんどくせえ』

 

………なんかじゃない!

 

『捕まえました。……さあ無駄な抵抗はやめて甘えてください』

 

『くそっ抜け出せねえ!!」

 

間違いなんかじゃない!!

 

『ああ、愛しいですね。もっと私に甘えてください、私だけに甘えてください』

 

『頭がうまく回らない。……意識がボーッとして来やがる』

 

例えどれだけ現実が非常であったとしても!!

 

『そうです。そのまま私に身を委ねてください』

 

『……クソ………が』

 

例え俺がどれだけ取るに足らない()般人であったとしても!!

 

『甘えてください。ドロドロに甘やかしてあげますから』

 

この想いは!!

 

『私だけのそばにいてください。私だけの貴方でいてください』

 

あいつを救いたいというこの気持ちだけは!!

 

『ああ、愛しい貴方。ずっとそばにいてあげますからね』

 

決して……

 

『早く私だけの貴方になってくださいね?』

 

間違いなんかじゃないんだから!!

 

 

意を決して部屋の中へと飛び込んでいく。

既にあいつはナイチンゲールさんの腕の中で半分意識を失っており自力で脱出は不可能な状態になっている。

そのあいつを愛おしそうに抱きしめながら絶対零度のような瞳でこちらを睨むナイチンゲールさん。

 

だが俺はもう逃げない。例えこの身が朽ち果てようとも、俺は絶対に……

 

「何か用ですか?ああ、朝食を持って来てくれたんですか。でしたらそこに置いておいてください。ご安心を、私が責任をもってこの人に食べさせてあげますから」

 

ああ、安心した。

 

 

 

いただきますと言う言葉を背に、俺は静かに扉を閉めた

 

 

 

 





名言を連発していくスタイル。

追記
次回はもしも主人公がデイダラversionだったらをお送りします


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人理修復に芸術家を入れてみた デイダラver

主人公はぐだ子になります。デイダラ成分強すぎてもはやデイダラです。


まずは自己紹介をしたいと思う。

私の名前はぐだ子。

周りからはマスター、とか嬢ちゃんとか呼ばれているがこちらの方が通りがいいのでそう名乗らせてもらう。

 

 

さて、早速だが私の話を聞いて欲しい。

私が経験した人理修復の旅に対することでも、個性あふれるサーヴァント達に対する話でもなく、私とともに人理を救ったもう1人のマスターに対する話だ。

 

それでは早速だが彼との初めての出会いについて語ろうと思う。

 

身長は165前後と成人男性の平均身長に対して少し低めで、左目を隠す金に染まった長髪と好戦的なつり目をした、黒の生地に所々赤い雲が浮かぶ独特のマントを身につけている彼は、所長の説明会へと向かう私たちの向かい側からゆったりとした足取りで歩いて来た。

 

つまりはサボりだ。彼は説明会をほったらかして何食わぬ顔で歩いていたのだ。

そのことに少し驚いていた私をよそにマシュは彼へと近づいていった。

 

「デイダラ兄、何しているんですか?!」

 

落ち着いた印象を受けるマシュが声を荒げたことにも驚いたが、その内容にも驚いた。

 

デイダラ兄とはなんぞや。

 

「なんだマシュじゃねえか。急に叫んでどうしたんだ…うん」

 

「どうしたもこうしたもありませんよ!!今から説明会だって分かってるんですか!!」

 

「ああ、あれか。オイラにはじっとしてるなんて性に合わねえからな。部屋でアート作りをすることにした。見てみろよこの洗礼されたラインに、二次元的なデフォルメを追求した造形!まさにアートだ!!うん!」

 

「バカなんですかデイダラ兄は!!………いや、バカでしたね」

 

「おい!!それはどう言う意味だマシュ!!いくら寛大なオイラでも堪忍袋が爆発するぞ!うん!!」

 

「堪忍袋が爆発って………はぁ」

 

「マシュてめェ!!!」

 

どんどんヒートアップしていく会話を眺めながらマシュって意外と毒舌だったんだと現実逃避をする。

 

この時の私の彼に対する印象は、短気で髪を金髪に染めたなんちゃってヤンキー(笑)だった。

 

 

 

暫くして会話(と言う名の口撃)が終わり、冷静さを取り戻したマシュが少し恥ずかしげに謝罪して来たがあれは仕方がないと思う。

 

少なくともマシュが言ってたことは全て正論だったし

 

 

未だに機嫌の悪い彼をマシュが引きずって歩き目的地に辿り着いたのだが、前で立っているオルガマリー所長の機嫌が悪かった。

はじめは遅刻した私のせいかと思ったが、一目散に彼の元に向かったのでそれだけで理解する。

 

また彼がやらかしたんだと。

 

「あなたね。いきなり席を立ったと思ったらどこに行ってたのよ!!」

 

「所長。デイダラ兄はマイルームに戻ろうとしていました」

 

「はぁぁぁぁぁああああ?!この私の演説を無視して部屋に戻ろうとしたですって!!」

 

この人も大概苦労しているんだな

 

「うるせえな。お前のどうでもいい話よりアート作りの方が大切なんだよ…うん」

 

「あ・な・た・ねえ!!」

 

「所長落ち着いてください。デイダラ兄の頭がおかしいのはいつものことです」

 

「マシュ!!お前いい加減爆発するぞ!!」

 

「はいはい」

 

マシュの彼への対応が塩対応すぎて少し泣ける。

まあ悪いのは彼だから仕方ないよね。

 

いい加減説明会を始めて欲しいとざわめきたつ他のマスター候補達をガン無視して言い争う所長と彼だが、だんだんと内容がおかしくなっていく。

 

「だいたいあなたはいつもそうやって勝手なことばかりするんだから!!」

 

「やることはやってるだろ!!お前は根を詰めすぎなんだよ!!」

 

「あなたとは違って立場ってものがあるんだからしょうがないじゃない!!」

 

「だから少しは手伝うって言ってんだろ!うん!!」

 

「素人に任せる訳にはいかないのよ!!」

 

「それで無茶するのは違うだろ!!いい加減お前は正しい評価を受けるべきだ!うん!!」

 

「正しい評価って何よ!!」

 

「お前の努力はオイラが認めてやるって言ってんだよ!!うん!!」

 

「う、うるさいうるさいうるさいうるさい!!あなたの評価なんて要らないわよ!!」

 

「芸術家たるオイラの評価を要らないだと!!いいから黙って受け取ってろ!!」

 

「急に優しくすんなバカああああ!!」

 

お前ら彼氏彼女か!!

何叫びながら照れてんですか所長!!

周りみてくださいよぽかーんってしてますよ!!

あの高圧的な感じはどこ行ったんですか!!

それじゃただの素直になれない女の子じゃないですか!!

 

「あの2人はだいたいいつもあんな感じですよ、先輩」

 

マジか!!

 

 

 

 

 

これが彼と私の初めての出会いである。

 

廊下で出会った時と印象が180度変わって、面倒見のいい短気な兄ちゃんになったことをよく覚えている。

まあそれよりもオルガマリー所長の方が印象に残っているのだが、それはまあいいだろう。

 

 

あの後爆発に巻き込まれかけた所長を救ったのも彼だった。

彼自身爆発を得意とするためか、爆弾の存在に気付いた彼は全員を助けるのは不可能と判断して彼にとって仲のいい存在、マシュや所長、ロマンとたまたま近くにいた私を助けてくれた。

 

生き残ってしまったことに思わないことがないとは言えないが、『悪運ってのも才能だ。この程度で死ぬような奴が、この先生き残れるわけもねえしな』非情にもそう切り捨てた彼のセリフに少し救われて、結局人理を救うための旅に出ることを決意した。

 

 

 

 

 

以上で話は終わりだ。

それでは次は人理を救った後、つまりは現在について話したいと思う。

 

あの頃とは違い多くのサーヴァントで溢れかえっているカルデアだが、彼はまるで変わることなくあのよくわからないアート製作を続けている

 

現に今も食堂の中心で子供サーヴァント相手に自慢げに造詣がどうとかを語っている。

まあ子供達はそれを無視して粘土で遊んでいるが。

 

「デイダラ!!あなたまた変なもの私の部屋に置いて行ったわね!!」

 

怒鳴りながら所長が入ってきたが割といつものことなので誰も驚くことはない。

 

「変なのはねーだろ。まったく、これだから芸術が分からない素人ってのはダメだ、なあマシュ?…うん」

 

「そうですね。変なのを芸術と呼ぶ人はダメですね」

 

「まったくだ。…………ん?おいマシュ、今のは少しおかしくなかったか?…うん」

 

「さて、なんのことだか私には分かりませんね」

 

「あらら、反抗期か?目を見て会話はするもんだぜ?」

 

ちなみにマシュの毒舌は磨きがかかり出している。敬語で毒舌は意外と心にくるものがあるが、鋼メンタルな彼は腹立たしいことにまるで動じない。

っていうか大抵は「オイラのアートは時代の先を行くからな。理解に時間がかかるんだよ…うん」と受け流す。

ほんと腹立たしい

 

「そんなことはどうでもいいのよ!!これ以上私の部屋にあなたの作品を置いていかないでちょうだい!!」

 

「欲しいって言ったのはお前だろうが!うん!」

 

「あなたの作品を欲しいとは一言も言ってないわよ!!」

 

「じゃあ何が欲しいんだよ!!」

 

「そ、それは……えっと……」

 

「うん?」

 

口ごもる所長に周囲がざわめき立つ。

かくいう私もその仲間だ。

恋人みたいな会話をしながらその実付き合っていない2人にいい加減我慢の限界を迎えそうなのだ。

 

ついに結ばれるか。言っちゃう?あなたが欲しいって言っちゃう?

 

「あ」

 

「あ?」

 

あ?

 

「あ、」

 

「あ?」

 

あ!!

 

「あ、あなたにいうわけないでしょバカああああああ!!」

 

「何キレてんだよテメェ!!」

 

今回もダメだったよ。

 

「まあ見ていて楽しいんであの2人はあのままの方がいいですね、先輩」

 

マシュが変な愉悦に目覚めたあああああ

 

 

 




あとがき
やっちゃった感は否めませんし、締りのいいラストではありませんがこれで書きたいものは書けたんで今作は終了とします。あまりダラダラと惰性で書いても面白くありませんからね。
本当ならアルトリアズとの絡みとか全員ヤンデレの逃走劇とか書きたかったんですけど文章にできなかったんで諦めました。
文才なくてすみません。

たくさんの感想、評価ありがとうございました。



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番外編 劇場予告風だよ芸術家さん


タイトル通りです。
地の文は殆どありませんのでご注意ください

そして短い


2人の英雄の手によって人理が修復されてから幾ばくかの月日が経過した。

 

世界はあるべき姿へと戻り、人々は変わらぬ日常を過ごし、件の2人の英雄も各々が好きなように日々を送り、その日々は何時迄も続くものだと信じていた。

 

だからこそ気付かない。新たなる敵はすぐそこまで迫ってきていることに

 

 

 

 

 

「所長!!これは………!!」

 

「……!!緊急事態ね……。ダヴィンチ!!2人は?」

 

「来週に迫ったマシュちゃんの誕生日パーティの準備さ。まあ今となっちゃあその来週があるかも怪しいけどね」

 

「急いで召集をかけて!!また彼らの力が必要なの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね、またあなた達に頼ってしまって」

 

「問題ない。寧ろどこの誰とも知らぬやつに託す方が問題だ」

 

「そうですよ所長。俺らを信じて任せてください」

 

「…ありがとう。じゃあ所長命令よ!!マシュの誕生日パーティまでに無事に帰ってきなさい!!」

 

「了解です!!」「当然だ」

 

 

 

 

 

 

 

しかし、迫る脅威を前に人間はあまりにも無力であった

 

「なんだよこいつら!!チートじゃねえか!!」

 

「口より先に手を動かせ!!どのみちてめえの空っぽの頭で考えられた言葉なんざ大したことねえんだからな」

 

「相変わらずの罵倒で冷静になる自分が憎いぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、この俺が魔力切れとはな、いったい何時ぶりだ?おい」

 

「取り敢えず逃げるぞ!!作戦は『命大事に』だ!!」

 

「当たり前だ。マシュの泣き顔なんざ見たくねえからな」

 

「兄貴!!撤退だ。俺を担いでくれ!!」

 

「セイバーオルタ、撤退しつつトラップを仕掛けるぞ、手伝え!!」

 

「おう!!」「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルデアとの通信が切れた。現在動けるのは俺とお前、そして残ったサーヴァントだけだ。さてどうする?諦めるか?」

 

「芸術バカらしくねえな。諦めるなんて選択肢はハナから無いと思ってたんだが?」

 

「てめえのために用意してやったんだよ」

 

「なら余計にありえないな」

 

「いいのか?最悪死ぬぞ?」

 

「俺は死なねえよ。なんせマシュが帰りを待ってるんだからな」

 

「はっ、そりゃ何よりだ。なら作戦がある、成功すれば生き失敗すれば死ぬが…どうする?」

 

「生きるために成功させる。それだけだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カウントをとる。遅れるなよ?」

 

「誰にもの言ってんだよ?」

 

「………3」

 

「2」

 

「1!!」

 

「「令呪を以て命ずる(セット)!! ギルガメッシュ!!/アルトリア!! 宝具を以て対象を破壊しろ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ちくしょー!!何でだよ!!何でこうなったんだよ!!」

 

「………うるせえな、さっさと……しろ。」

 

「……ッ!!…………令呪を以て命ずる(セット)!!!!………敵を………芸術バカ(俺の友達)を!!!…………殺せ!!!!」

 

「……ああ、それでいい。……それでこそ、俺の友を名乗るに………相応しい」

 

「ああ……あああ………ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 





何だか書きたかったものと全然違うものになってしまいましたがしょうがないよね?劇場予告風って地の文が書けないからものすごく難しんですよ。
分かりづらければよくある戦場を思い浮かべてください。多分いけるはず
ただマシュの誕生日パーティがしたかっただけなのにな……


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番外編 遂にこっちでも呼ばれちゃったよ 芸術家さん

やってやったぜ


言峰綺礼は無表情ながらも優秀な神父である。

それは師である遠坂時臣も良く知るところであり、同時にそんな弟子だからこそ気に入っている節もある。

 

だからこそ遠坂時臣は困惑していた。

自らの愛弟子にして今回の聖杯戦争協力者である言峰綺礼が無言で麻婆豆腐を頬張る姿を見て。

いや、正しく言えば遠坂邸で勝手に食材を使って麻婆豆腐を作ったサーヴァントと、それを止めることなくむしろ嬉々として色々と教えていた愛弟子を見た時から言葉を失っていたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりは大体1週間前のこと

 

聖杯戦争で確実に勝利するために最強のサーヴァントであるギルガメッシュを呼び出した時臣は、念には念を入れて弟子である綺礼にもアサシンのサーヴァントを召喚させた。

聖杯戦争においてアサシンを呼び出すということはいずれかのハサンを呼び出すことであるため、失敗はないだろうと思いサーヴァントを召喚している弟子を静かに眺めていた中、それは起こった。

 

まずおかしかったのはその服装。

黒の生地の上に赤い雲が浮かぶ独特のマントを羽織ったその姿はお世辞にもアサシンのようには見えず、さらにその顔はどうあがいても十代かそこらの童顔。冷めきったその目つきはアサシンを思わせるところもあるが、少なくともハサンには見えない

 

「お前は、何だ?」

 

普段では見られないほどに動揺した綺礼が尋ねるが返事は無い。

どころか時臣たちをまるでいないものの様に扱って周囲を見渡している。

 

その行動にわずかに苛立ちを感じる時臣だが遠坂家の家訓を思いだし、少しずつ呼吸を落ち着ける。

そんな中一通り周囲を見渡したサーヴァントがようやく時臣たちに視線を向けその小さな口を開く

 

「ここはカビ臭くてかなわん。今すぐマシなところへ案内しろ」

 

あっ、キレそう。そう思った時臣であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、つまりお前は能無しというわけか」

 

互いの簡単な自己紹介ーーと言ってもアサシンは自らの真名を明かさず適当に受け流していたーーを終え、これからの作戦、つまり破門にした綺礼が時臣にアサシンは差し向け、それをアーチャーが倒しアサシンは敗退したと周囲に誤認させアサシンには情報収集に徹して貰うという旨を聞いたアサシンが最初に放った言葉がそれだ。

 

思わず手に持つコーヒーカップを握り潰しそうになった時臣が、あと一歩のところで踏ん張ったのは果たして意地かプライドか。

勤めて冷静なふりをしてなぜかと問う時臣の姿は、ギルガメッシュをして吹き出してしまうほどに滑稽であった。

 

「作戦が杜撰すぎる。正直言って幼稚園児の遊戯の方が完成度が高いほどだ。聞いていて気分が悪くなる、猿芝居にも劣る三文芝居だな」

 

「ハハハハハハハハハハ!!!!」

 

ツボに入ったギルガメッシュが転げ回りながら腹を抱えているのを尻目に、青筋を立てて自慢のステッキに若干のヒビを入れた時臣が立ち上がり

 

「優雅さはどうした?」

 

座り込んだ。

 

師よ、完全に弄ばれてますよ。

 

そう思いつつも、普段とはまるで違い優雅さのカケラもない自らの師を見て僅かに口角の上がっている言峰はすでに何かに目覚めていると言っていいだろう。

自らのサーヴァントの発した、師に対する侮辱をまるで止める素振りすら見せないのが何よりの証拠だ。

 

「この街を見てくる」

 

そんな3人を無視してマイペースにも勝手に外出しようとするアサシンだが、止められる者はいない。

勝手知ったる様に飛び出したアサシンと、部屋に残された三人。

1人は未だに笑い転げ、1人は下唇を血が流れるほど噛み締めて呪詛の様に「優雅たれ」と呟き続け、1人は無表情で何処からか取り出したビデオカメラで全く優雅じゃない自らの師を録画している。

 

完全にカオスである。

 

 

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。

作戦を少し変更しケイネスを襲撃して見事に死んだと誤認させたアサシンは独自の手段で情報収集を行いながらも暇さえあればこうして遠坂邸へと足を運んでいる。

 

なぜケイネスなのか?仕返しを目論むガキ大将の目をして問いかけた時臣に対して

 

「実力も名声もある一方で、自尊心が高く加えてサーヴァントとの仲は最悪。罠にハマったフリでもしてれば高笑いしながら自慢げに語る姿が目に見えるような男だ。三騎士であるランサーなら怪しいと思うだろうがそれに貸す耳がある様にも思えん。これ以上の優良物件が何処にある?」

 

正論で返した。

 

さらに加えれば参加者の中には生徒であるウェイバーもいる。ケイネスを尊敬している様には見えないが、その実力を知っているウェイバーならアサシンにやられて欲しいという思いとは裏腹に負けるわけもないとも理解をしている。

それは他の参加者も同様だろう。

 

唯一衛宮切嗣は気付くだろうが、それはもはやどうしようもないことだろう。いくら策を練ろうと常に最悪を考えている切嗣を騙し通すことはほぼ不可能だ。

 

それを踏まえて最善策を考えて実際に成功させたアサシンは非常に優秀と言えるが、時臣の表情は晴れない。プライドの高さならこの男も負けていないのだ。

 

「綺礼、なぜ我が家で食事を?」

 

冷静になった時臣は漸く口を開くが、顔が引きつっているあたりまるで冷静じゃない。

 

「そこに麻婆豆腐があったからです」

 

いや、無かったよね?材料勝手に使って作ってたよね?

 

キャラを忘れて突っ込みかけたが身に染みた家訓が寸でのところで時臣を止める。もはや家訓というより洗脳に近いが当の本人である時臣は気付いていない。

 

「それで、何か用があって来たのかい?」

 

心の中で優雅たれを反芻し、勤めて冷静さを装う。

手元のステッキに新しいヒビが入ったことには気付いていない。

 

「麻薬豆腐を食べに来ただけですが?」

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

その日、遠坂邸で狂った様に叫び声をあげる当主が目撃されたとか、そうでないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超coolだよ!!アサシンの旦那!!」

 

「不肖このジル・ド・レイ感服いたしましたぞアサシン殿」

 

「あの程度で感動するな。これから先身が持たんぞ?」

 

「超coooooooooooolだよ旦那!!!!」

 

なんだこれは。

 

その光景を見て時臣が最初に思ったのはこれだ。

既にアサシンのサーヴァントを召喚してから10日、七騎のサーヴァントが集まり、正式に聖杯戦争が始まって2日がたった今日、昨日に行われたランサーとセイバーの戦い、さらにその場に現れたライダーにバーサーカー、その分析を行いある程度まで真名を絞り終えたころそいつらはやって来た。

 

1人は最近よく見る顔だ。だが残りの2人がまるでわからない。

雰囲気を見る限り敵意はない様だが、それとは別の不気味さの様なものがひしひしと伝わるのを時臣は確かに感じていた。

 

現在切らした豆腐を買いに出かけたため綺礼はいない。そうでなくとも最近何かと反抗的な綺礼が時臣のために何かをするとは考えられないが、そこに思い至らないあたり時臣クオリティである。

 

「おいお前ら、自己紹介をしろ。どうやらこの家の家主様がお困りの様だ」

 

1番の悩み事、困りごとはお前だよ。

 

思わず口から出かけた言葉を飲み込み、できるだけ余裕を持ったふりをして笑顔を作る時臣。深く椅子に腰掛けているがその足はせわしなく動き続けている。

 

「俺、雨生龍之介です、ヨロシク」

 

「私、ジル・ド・レイと申します、どうぞ宜しくお願いします。あっ一応キャスターのサーヴァントを務めております」

 

「そうか、私は遠坂時臣、遠坂家当主を務めている。こちらこそ宜しく頼むよ」

 

貧乏ゆすりで発火するのではないかと思うほど速度を増したが、当の時臣本人は涼しい顔をしている。思考を放棄したとも言えるがそこを指摘するのは野暮だろう。

 

「おいアサシン!!昨日の続きだ!!我と勝負しろ!!」

 

え?勝負?昨日の続き?why?

 

思考を放棄して尚無視できない事態に完全にキャラがおかしくなっているが誰も気づかない。約1名気付いていながら無視するアサシンもいるが…

 

「いいだろうギルガメッシュ。俺に勝てるか?」

 

「戯けめ、昨日の我と一緒だと思うなよ?もはや貴様には一度の勝利すらくれてやらん」

 

「いらねえよ。俺の手で掴み取ってやる」

 

「よく言った、それでこそ我がライバルよ。だが果たして成長した我のクィングテレサのドライブテクに勝てるか?」

 

「そういうのは俺のヨッシィーに勝ってから言え」

 

「あっ、じゃあ俺永遠の2番手!!」

 

「では私はプィーチを使いましょうかな」

 

仲良さげに去っていく4人の背中を眺めながら遠坂時臣は考える。

 

聖杯ってそういう知識も与えるんだな、と。

 

 

 

 

数時間後、上等な豆腐を買って帰ってきた綺礼が見たのは、楽しげにムァリオカートをする4人の男と、うわ言の様に優雅たれを繰り返しながら苦しげに眠る師の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『昨夜未明、間桐邸が消滅しました。目撃者によりますと、一瞬だけ強い光を放ったと思ったら気付けば間桐邸が消滅していたとのことです。警察は新手のテロ…………』

 

生まれて初めて使ったテレビで、生まれて初めて見たニュースに流れる映像を見て静かに電源を消す遠坂時臣。おそらく彼はこれから先一生テレビを見ることは無いだろう。

 

そしてそんな彼を無視して仲良さげに朝食を食べる8人。

1人は時臣の弟子の言峰綺礼、そしてそのサーヴァントであるアサシン。

さらには時臣のサーヴァントであるアーチャーことギルガメッシュ。

なぜかいる犯罪者とそのサーヴァントであるキャスター。

本当に何故かいる間桐雁夜と間桐桜、サーヴァントであるバーサーカー。

 

カオスである。

そんな中、時臣は遠い目をして空を眺めている。ただの現実逃避である。

 

「ありがとうアサシン。まともな食事ができたのは久々だよ」

 

「まだ完全に蟲を摘出出来たわけじゃねえから、なるべく軽いものを食っておけよ」

 

「おじさんを助けてくれてありがとうね、アサシン」

 

「謝礼云々はもう聞き飽きた。さっさと健康体になって俺の絵の被写体になってくれりゃそれでいい」

 

「優しいんだね。それにすごく強かった」

 

「大したことはねえよ。ウジャウジャいた蟲はジルの宝具の餌になったし、黒幕を語るジジイだって所詮は雑魚。文字通り虫の息にしてから十八番で家ごとやっただけだ」

 

「我が出るまでも無かったな」

 

「うるせえよ、お前コソコソと金になるもん探してだろ」

 

「子は宝よ。これから先金に困らぬ様に手配するのは王として当然のことである」

 

「本音は?」

 

「強いて言えば新作のゲームでも無いかと探って見たがつまらぬ魔術書しかなかった故、燃やしてくれたわ」

 

あれ、今王はとんでも無いことを仰らなかったか?え?間桐家の魔術書燃やしちゃったの?あれ一冊にどれだけの価値があると思ってるの?

 

「だそうだが、良かったのか?」

 

「別に構わないさアサシン。桜ちゃんさえ無事なら、あの家がどうなろうとどうでもいいよ」

 

うるせえよ落伍者。お前全然価値わかってねえだろ

 

「まあ、桜のこれからの成長をモデルにできることを思えば、魔術書どころか聖杯戦争すらどうでもいいというお前の意見には賛成だな」

 

そこまで言ってねえだろうがアサシン。っつうかお前聖杯戦争なんだと思ってんだよ。

 

「確かに、麻婆豆腐に比べれば聖杯戦争などどうでもいいな」

 

お前は何の話してんだよ綺礼。最早訳分かんねえよ。ってか聖杯戦争と麻婆豆腐を同じ天秤に乗せるな。

 

「超cooolだよあんたら!!!」

 

うるせえよ犯罪者。お前が一番分かんねえよ。おとなしく刑務所入ってろや。

 

「………神よ」

 

何が?

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!」

 

日本語でOK

 

「これだけの人数がいればスムァブラwill Uができるな!!!早速準備をしろアサシン」

 

王よ。少し俗物に染まりすぎではありませんか?

 

「既に終わっている」

 

マジかよ

 

「やるな。ではいざ勝負だ!!!」

 

意気揚々と別室に向かうギルガメッシュとその後に続くサーヴァントとそのマスター達。全員がゲーム名を聞いてもまるで驚かない、どころかどのキャラを使うかを話し合っているあたり聖杯の与える知識が大きく偏っているのが伺える。唯一桜だけはついていけていないが目ざとく見つけたアサシンがしっかりとフォローをいれている。

それを受けてぎこちなくも笑みを浮かべる桜と、嬉し涙を流す雁夜。その肩を優しく叩く紫の長髪のイケメン。

 

いや、お前誰だよ。

 

時臣が気を失う前に出た唯一のツッコミはそんなくだらのないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウジウジと鬱陶しいんですよこの軟弱者が!!!」

「許すって言ったことをいちいち蒸し返すな女男!!!」

「泣くな円卓最強(笑)が!!!」

 

河原で殴り合う2つの影。夕日をバックに繰り返される拳打の応酬はひと昔前のヤンキーマンガを思い出させるものだった。

尤もそれはパンチ一発ごとにクレーターができ少しずつ地形が変わることを除けばの話である。

 

 

 

 

 

 

事の始まりは今朝、ツッコミも思考も放棄した時臣が優雅って何だっけ?と1人頭を悩ませていた時。弟子の綺礼に、少し気になることができたと言って昨日の夕方から留守にしていたアサシン(プラスα)が1人の幼女とライダー、そしてそのマスターを連れて帰ってきたところから始まる。

 

まず始めにそれを見て時臣が思ったことは「やった、これでアサシンを牢屋にブチ込める」という魔術士として完全にズレた思想であったがそれは置いておこう。

 

聞くところによると、間桐臓硯を尋問にかけたところ聖杯に関して何やら可笑しな話を耳にしたため、より詳しく知っているであろうアイツベルンの家に特攻を仕掛けたらしい。

 

この時点で思考を飛ばした時臣だが話は終わらない。

 

サーヴァント4騎という過剰戦力で遠坂邸を飛び出した彼らは、道中で出会ったライダー陣営にどうせならと声をかけ、一国すら滅ぼせるまでに戦力を高めて満を辞してアイツベルンへと向かった。

 

アイツベルン周辺には特殊な結界が貼られているがギルガメッシュを前にしては全くの無意味、あっという間に侵入し当主であるアハト爺を無事確保。「なんじゃ、切嗣の使者か!!イリヤがどうなっても!!あふん……」という言葉からイリヤという少女も重要人物らしいことを悟り、そちらも無事保護した。

 

そのあとはアサシンが尋問、というより幻術にかけて聖杯に関する全てを吐き出させ、泥と呼ばれるものがあることが判明した。

その後はアハト爺を犬神家状態にして帰ってきたようだ。

 

なぜ犬神家状態にしたのかと問われたアサシンが「芸術性のカケラもねえからせめて見れるようにしてやったんだよ」とどう考えても体勢との矛盾が生じる言葉を言っていたが気にしたら負けだ。

 

その後は緊急の会議を開き、対策が練られるまでの間聖杯戦争を無期限で停戦することを伝えそこでなんやかんやあってセイバーとバーサーカーに何やら浅からぬ因縁があることが判明。

じゃあ河原で殴り合いだな、となり現在に至る。

 

ちなみに河原での殴り合いを提案したのは桜だ。なんでも最近見た昼ドラでヒロインとその親友が夕日をバックに殴り合うのを見て思いついたらしい。時臣がテレビは絶対に見ないと再度固く誓ったのは言うまでもないだろう。

 

「キリツグ!!私ね、アサシンと結婚するんだ!!」

 

「え?」

 

「颯爽と現れて『お前を攫いに来た』って、まるで王子様みたいだったんだよ!!」

 

「……舞弥、僕の車のトランクからグレネードランチャーを持って来てくれないか?」

 

「嫌です」

 

「なぜ?」

 

「アサシンが消えたら美味しいケーキが食べられなくなります」

 

「既に懐柔されているだと!!おのれアサシン!!娘だけでなく僕の愛人までも!!!」

 

「あらキリツグ。妻である私を前に堂々と愛人宣言だなんて、嫉妬しちゃうわ。後でお話しましょうね♡」

 

「oh」

 

「言っておくけどアサシンは私のモノだから。イリヤちゃんにはあげないよ?」

 

「ああ桜ちゃん、そこまで感情を露わにできるようになったんだね?おじさんは嬉しいよ」

 

「お父さん的にはその男は辞めて欲しいかな?」

 

「遠坂さん家のおじさんは黙っていてください」

 

「oh」

 

「愉悦愉悦」

 

「あがりだ!!我の勝ちだ!!」

 

「まだ勝負は終わっておらんぞ?勝敗を分けるのはあくまで財産だ」

 

「この我が財宝で貴様に負けるとでも?」

 

「余をあまり見くびるなよ?」

 

「ライダーのマスターよ、このコマにはなぜか『上司の妻を寝取ったことがバレ、全財産投げ捨てて愛の逃避行』と書かれているのだが俺の見間違いか?」

 

「………」

 

「俺はライフゲームですら忠義を尽くせないと言うことか!!クソオオオオオオ!!!」

 

「いや、誰に忠義を尽くすんだよ誰に」

 

「悔しがる姿すら素敵ね、ディルムット」

 

「ソラウゥゥゥウウウウウ!!!」

 

「あなたが悔しがっても気持ち悪いだけよ?」

 

「oh」

 

「見てよアサシンの旦那!!この造形!!洗礼されたライン!!まさに芸術だろ!!」

 

「まだまだ細かいところはなってないが、まあここ数日では一番の出来だな」

 

「やりましたな龍之介殿!!」

 

「だからいつまで引っ張ってるんですか!!女々しいんですよ!!!」

 

「しかし王よ!!」

 

「うるさいロン毛が!!!」

 

「ブハァ!!!」

 

「アサシンは私のモノ!!」

 

「イリヤのモノ!!」

 

「「お父さんは許しませんよそんな男」」

 

「「うるさい部外者は黙ってて!!」」

 

「「oh」」

 

「愉悦愉悦」

 

冬木の街は、変わらず平和であった。

 




クラス アサシン
真名 サソリ
筋力 E 耐久 E 敏捷 B
魔力 C 幸運 A+ 宝具 EX
単独行動 A 気配遮断 A++ 幻術 B
対魔力 C 心眼 A

謎の疾走感と謎の達成感を感じる。



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