貞操観念が逆転したアイドルマスターミリオンライブ! (Fabulous)
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世界が変わっても就活は就活

あべこべは良い文明


朝起きると世界が少しおかしい。

 

だがそれがどうした。私は今日就職のための大事な面接があり、多少世界が変わったところで私は就職活動に勝利しなければならないのだ。だから女性アイドルが男子中学生との不純異性交遊が明らかになり謹慎するとか男性保護法改正に国会紛糾とか全く私に関わりない。

 

きっかけは昨日両親から大学卒業後どうするのだと聞かれ就職するとうっかり答えてしまいじゃあどこに就職するのだと聞かれ手近にあった求人雑誌から765プロと答えてしまったのがことの始まりだ。

 

私の現状を説明すると大学進学のため実家から引っ越し大学近くのアパートに住んでいる。そして現在入学から既に四年が経過している。大学卒業は問題ないが問題は未だ就職が決まらないことにある。もちろん就職活動は他の就活生同様に就活をしていたが何故か連戦連敗。友人たちが次々に内定を決定していく中今日まで内定0の燦燦たる事態に私自身危機感を抱いていた。

 

今までの育ててもらい現在も大学近くの賃貸アパートに暮らす援助をしてくれている両親のためにも私は就職しなければならない。またそれとは別に少し年の離れた妹のためでもある。妹は中学生でそろそろ反抗期がきそうな年齢だが幸いなことに妹は兄のひいき目を除いても一般的な女子中学生に比べ非常に純真無垢で私のような内定0男にも好意的に接してくれる。(この前も落選の書類を送付され落ち込んでいる私に励ましのメールをくれた)

そんな両親と妹の期待のためにも何としても内定を獲得しなければならない。

 

 

 

 

もうこんな時間だ。こうしてはいられない。私は身だしなみを整え面接会場である765プロに行くため家を出た。

 

私の住む賃貸アパートから765プロまでは少し距離があるので移動手段は万が一も考えて遅延証明ができる公共交通機関を使う。最寄りの駅まで徒歩で行きそこから電車に乗るが普段使わない移動ルートの為私は前日に一度765プロまで出向きしっかりと予習を済ませたので問題はない。

 

時間通りに来た電車に乗る。よし予定ピッタリだ、と思っていたがここで想定外の事態。下見の際は昼間に行ったせいで電車の混み具合を考えていなかった。午前の時間に加えて就活シーズンのため皆リクルートスーツを着た大学生が電車に乗り込んでいる。車内がOLや就活生で満杯になり女性だらけなのは些か気になったがきっとそういう時間帯だったのだろう。見れば就活生達はこれから私と同じように面接に行くのか皆一様に緊張した様子だ。気持ちはいたいほどわかる。私の周りの人達など混雑して密着してしまう始末で男としてちょっと嬉しい反面痴漢と疑われてしまうのではないかと非常に動揺した。

 

これはまずい。就職もできずに痴漢冤罪の濡れ衣を着せられたら両親や妹に顔向けができず、もう二度と妹の笑顔が見られない。

 

そんなこと考えていた私だがどうやら彼女等は私などまるで眼中にないようだ。吊革を持つ手は小刻みに震えるか万力のように握りしめている。聴こえる息遣いは荒く密着している部分は汗で蒸れているようだ。驚くことによく見れば彼女らは皆とても美人だ。私はなんとも言えない不条理さに嘆いた。彼女等のような華の女子大生がどこの誰かが始めたかは知らない就活などというものによってその美貌をゲドゲドに緊張させているのは実に忍びない。是非とも応援をしたいところだか悲しくも今は就活戦争。今日の戦友が明日敵に変わるかも知れぬ哀しき闘争。残念だが彼女等と内定を奪い合うことが無いように祈るしか私には出来ない。許せ就活生達よ、これも全て就活が悪い。

 

 

 

その後目的駅で下車し765プロへ再び徒歩で向かいようやく面接会場である765プロへと到着した。予定外のトラブルもあったがあんなのは些少だ。これからが本当の戦いの始まりだ。

 

面接という限られた時間の中、如何にして面接官に好印象を与え自社に率いれたいと思わせられるか、成功させるには高度のコミュニケーションスキルが要求される。多くの就活生同様に大学での模擬面接に苦しんだ私だがここまで来ればもはややるしかない。

 

私は飲食店の二階に上がり765と書かれたドアをノックし要件をドア越しに伝え返事が聞こえたことを確認し開ける。返事の声がおかしかったのは気にしないことにした。

 

中に入るとそこは意外なほどこぢんまりとしておりアイドル業界を躍進している765プロのイメージとは程遠い。そもそもこの建物も正直どうみても吹けば飛ぶ零細企業のようで昨日下見の際に初めて目にしたときは本当にこの会社に就職しようか迷った程だ。

 

しかし最早私に退路はない。両親や妹にも765プロの就職面接に行くと連絡し期待してくれ、と大見得をきった手前ここで敵前逃亡するわけにはいかない。

肌に感じるエアコンの空気はさながら戦場の空気そのものであり私の覚悟を試している。何度か他の企業の就職面接に参加した経験からいえば覚悟なきものはこの時点で激しく動揺し結果戦場に屍を晒すことになる。

大丈夫だ。両親と妹のためにも私の覚悟は既に完了済みなのだ。

 

私の前に二人の女性が立ちはだかる。事務員風の女性とどこかで見た覚えのある眼鏡の女性だ。

事務員風の女性の案内に従い机と椅子がおいてある面接室に通される。

 

後で気づいたことだか眼鏡の女性は765プロのアイドル兼プロデューサーの秋月律子だとわかった。

 

この時点でわかるかもしれないが私はアイドル関連というか芸能関係に非常に疎い。765や961や346などのプロダクションや日高舞等の超ビックネームは知っているがそれ以外は顔と名前が一致してなかったりそもそも知らなかったり酷い有り様だ。大学の友人が熱心に応援しているアイドルの魅力を私に語っていたが私は既にそのアイドルの名前を忘れていたのは内緒だ。

 

よくもまあこんなふざけた奴がアイドル事務所の面接に恥ずかしげもなく来れたものだなと自分でも思うが背に腹は代えられない。どんなに不純な動機だろうとも内定をゲットすればこちらのものなのだ。

その友人も内定を獲得するために面接官に、やったこともないボランティアやお涙頂戴の感動秘話をしゃべりまくったそうだ。確か父親が蒸発して母親が獄中出産だったかな。

 

彼曰く就活は最早戦争であり就活戦争で馬鹿正直にフェアプレーなどしていたらたちまち他の就活生達に食い殺されると血走った目で私に言っていた。

それを聴いた際はそこまでするかと友人の倫理を疑ったがいざ自分の身になれば彼の言ったことがあながち間違いではないと私は考える。

昨日の今日とはいえこの瞬間のため私は蔵書の『これで面接官も即堕ち!悔しいのに内定決定しちゃう』ハウツー本を読み直し一般的な受け答えをマスターした。今の私は就職希望理由から恋人の有無まで淀みなく受け答える自信がある。まあ、恋人などいないが。

 

眼鏡の女性が口を開く。いよいよ面接の始まりだ。さあどんな質問でも完璧に答えようではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り765プロ

 

二人の女性が頭を抱えていた。

 

「どうします?」

765プロ事務員音無小鳥が呟く。

「どうするもこうも、面接をするしかないですよ…」

もう一人の女性、秋月律子が陰鬱な表情で答える。

 

「でも私…男の方なんて最近は社長以外まともに話したことが…」

 

「そんなの私だって同じようなものですよ!最近はいとこともなんだか疎遠で…」

 

「せめて社長がいてくれたら助かるんでしょうけれども急な面接で連絡がつかないんですよね」

 

「確かに事務員とプロデューサーは募集していますけど前日いきなり面接希望の連絡でしかも男性の方からなんて想定外ですよね…」

 

そんなやり取りを朝から続けている二人だが次の瞬間彼女等の動きが止まる。

 

「失礼します。本日御社の就職面接に参りました春日ですが」

「はっはぃぃ!」二人の声が重なる。

 

 

現れたのは予想以上の人物だった。

 

見た目は悪くない。というかかなりいい。身だしなみはきちんとしているし身長は175~180程で体型は肥りすぎず痩せすぎずといったところで正に女の理想的体型だ。

私のいとこが庇護欲をそそるなら彼はダイレクトに女の本能を刺激する。

まずい、顔が火照ってきた。秋月律子は目の前に現れた就活生を冷静に分析しようとするが理性と本能のせめぎ合いに苦しんだ。因みに音無小鳥は彼を案内した後では私はこれで…律子さん後はお願いしますといって席を離れたが実際は即トイレに駆け込んでいた。

 

小鳥さんの裏切り者ぉ!彼女は心の中で慟哭した。

ひとまず面接をしなければと彼を席につくよう促し自分も席についた後彼女は己の間違いを悟った。

 

めっちゃ近い!

 

そう、彼と律子はテーブルを挟んで向かい合っている。こんなことなら面接会場のレンタル代をけちったりしなければよかった。秋月律子は激しく後悔したが最早遅い。律子の目と鼻の先で彼の瞳や唇、呼吸の度に膨らむスーツが彼の胸板を暗に主張していることが見てとれる。

 

秋月律子此の場にあの子達がいなくて良かったと思っていた。

 

自分ですらこんな状況なのに彼女達が彼と対面したらどうなるか分かったもんじゃない。通報ものだ。

 

しかし公私は切り替えねばならない。発足当初に比べれば現在は業界で一定の地位に位置している765プロだがまだまだ慢心はできない。しかも今年から新たに新アイドル達を大量に売り出していく予定であり、いくら男性とはいえそれだけで採用するわけにはいかない。

芸能界は厳しい。男性であることがイコールプラスになるとは限らず、むしろ逆効果になる危険性をはらんでいる。

もっとも考えられるのは自社他社関わらずのアイドルへの悪影響だ。間近に彼のような男性が居ればそれこそまだまだ子供の彼女達はきっと舞い上がりアイドル活動に支障をきたす恐れがある。さらには仮に他社のアイドルとのスキャンダルが発覚すれば業界のなかで765が弾き出されかねない。そんな事態はなんとしても避けたい。

 

 

よし、残念だけど断ろう。そもそも男性が芸能界なんて…

きっと彼も何かの気の迷いだったのだろう。当り障りのない質問でお引き取り願おう。

そう結論付けた律子は彼に向かい口を開く。

 

 

「えーと…春日さん。なぜ我が765プロをご希望に?」

 

「御社のアイドルに対するプロデュースの在り方に大変感銘を受け御社に入社し私もアイドルを支えゆくゆくはプロデュース業を通して御社のアイドル活動を更なる高みへ引き上げたいと考えております」

 

 

律子は初め彼が何をいっているのか理解できなかった。幻か何かを見ているように茫然と口をパクパクさせ普段の彼女を知っているものが目にしたならば信じられない光景だった。

 

 

なんなのだ。この人は?

 

「で、ですが失礼ですが芸能界は貴方が考える以上に…」

 

「もちろん理解しています。ですがそのためならば私は御社のためにどんな苦労も困難も厭わず765プロそしてアイドル第一をモットーとして働きたいと考えております」

 

 

信じられない…何でも?どんなことでも?ならあんなことやこんなことや…

 

そこまで考え律子は正気に戻る。

 

いけない。これじゃあまるで亜美と真美がふざけて言っている妄想みたいじゃない。

 

 

でもこれは予想外。まるで想定していない。こんな(ひと)が本当に存在するのか?もしこんな(ひと)と一緒に仕事ができたらそれこそ…

 

 

様々な希望・展望・妄想が律子の脳内を駆け巡る。

採用か不採用か。

 

彼女の口が開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし今のところうまく答えられているな。

 

私は面接官の二つ目の質問に答えたあと心のなかで静かに安堵していた。しかし本番はここからだ。最初は当り障りのない質問でこいつはまともな奴かどうかを調べてくるがおそらく次からは会社の色によって違ってくる変則的質問だろう。ここで動揺してはいけない。面接官はその揺れを見逃さず減点してくるだろう。しかし残念だが私はすでに退路を断った背水の陣を敷いている。どんな質問でもお望み通りの答えを聴かせよう。

 

「もう結構です」

 

ん?

 

「もう十分です。春日さん」

 

私は背筋が凍った。どういうことだ。まさかもう面接が終わりだということなのか?そんな…まだ二回しか答えていないのに。ひょっとして私は知らない間に地雷踏み抜いてしまったのか?ただのテンプレート質問だと思っていた面接官の計二回の質問は実は巧妙に罠を張り巡らした地雷原だったのか―――っ!?嵌められた。面接官は敵でも味方でもない中立の存在だと思っていた私が馬鹿だった。

結局私は狼にも蛇にも成れないただの羊だったのだ。

 

そんな絶望の淵に立たされていた私に面接官は思いもよらない言葉を言い放つ。

 

「我が765プロはあなたを採用します。詳しい内容につきましては後日書類を送付させていただきます。本日はありがとうございました。気を付けてお帰り下さい」

 

「…あ、はい」

 

 

 

 

お父さんお母さん妹よ

765プロ就職決定しました。

 

 

結果的に私が質問に答えた回数は二回。

 

たった二言で面接官をおとした私はサイキッカーなのか?それとも事前に読んだ就活ハウツー本が素晴らしかったのか疑問は残るがそんなことはどうだっていい。とにかく就職決定だ。急いで両親と妹に報告しなければ。

 

765プロを出て早速両親には電話、妹にはメールで内定の旨を伝えたところ何故かとても驚かれ就職などしなくてもいいから家に来いと両親に言われた。なるほど。私自身親離れがなかなか出来ないと思っていたが両親も私を心配してあえてそんなことを言っているのだろう。私は心配いらないと安心させ正式に就職した後また改めて連絡すると両親に伝え電話を切った。その後妹からメールではなく電話で返信が来た。妙に上擦った声だったが私の就職を喜んでくれた。ただ妹からも私を心配する声を聴いたがきっと芸能界という未知の世界に足を踏み入れる兄を気遣ってくれているのだろう。妹よ。心配ご無用だ。芸能界といっても私自身が商品になるわけではなくあくまでサポート、裏方役だ。そんな心配するようなことは起きないと伝えると、妹は何故か渋々わかったと言い電話を切った。

 

 

何はともあれ就職できたことに変わりはない。人生思い立ったが吉日というが本当にそうだったようだ。私はなんだかとてもうれしくなりお気に入りのうどん屋に祝杯をあげに行った。そのうどん屋は都内でも穴場のうどん屋で卵を繋ぎとした細麺はしっかりとコシがついており、アワビ、ネギ、昆布、キジなどの多様な素材をじっくりと煮込んでうまみを抽出した汁との調和はまさにパーフェクトコミュニケーションというべき逸品だ。

 

店に付き暖簾をくぐると木材をふんだんにあしらい畳や障子など純和風に統一された店内が一層うどんの味を引き立てる。早速テーブル席に付き注文を終えると向かいの席に客が座っていた。これはいけない。あまりのうれしさと注文のことで頭がいっぱいで図らずも相席になってしまった。私は席を移すため立ち上がろうと思った時丁度店内に団体客がどっと入ってき、ほかの空いている席を占領してしまった。

私は席を移すのをあきらめ向かいの客に相席の許可を取りうどんを待った。

失礼とは思ったが他に見るものもないので向かい客をよく見れば妹と近しい年代の少女だった。醸し出す雰囲気からしておそらく妹より一・二歳年上だろう。髪は背中まで掛かるロングで細身。全体から清楚な感じや育ちの良さが感じられる。妹が愛らしいなら彼女は凛々しいといったところか。そんなことを考えていると

 

 

 

「あの…何か御用でしょうか?」

 

注視していた私を不信に思ったのか彼女の方から訪ねてきた

 

これはいけない。アイドル事務所に就職が決定して舞い上がっているとはいえついプロデューサーのまねごとをしてしまった。しかし正直に話すのもややこしくなるしここは多少かいつまんで…

 

 

「失礼しました。御用というほどではありません。ただあなたがとても魅力的に思え、それこそアイドルのようだと見惚れてしまいました」

 

言っておくが私は正気だ。これは愛読書の一つである『フランス人に学ぶセリフ一つで劇的男女の良好な関係指南』にも載っている答え方だ。

 

「ええぇ!?」

 

何故か彼女は驚きの声を上げてまだうどんも食べていないのに顔を赤面させた。

 

「じょ…冗談はやめ…」

 

そうこうしているうちにお目当てのうどんが運ばれてきた。汁と麺以外ネギすら無く、うどんに麺と汁以外なにが必要か、と言わんばかりのシンプルな一品。汁を一口すすり口の中と鼻腔でその芳醇なダシを堪能する。(この時点で向かいの客への意識は消失した)

あえて薄口の汁はダシ本来のうまみの味が十全に引き立てられこの汁の前では添加物など立ち入るスキがない。

汁の次は麺をすする。店長自家製の麺は一本一本手作りでありながらすべて均等の長さと太さであり大量生産品では決して出すことができない舌触りとコシで食感を刺激する。箸がどんどん進む。最後の一本、一滴に至るまで食べ尽くして540円(税込み)ワンダフォー…完璧だ。

 

器をカラにした後顔を上げると向かいの少女にすでにうどんが運ばれていたが、一切手を付けていなかった。

 

「冷めてしまいますよ」

 

親切心から指摘すると彼女はハッとしたようにうどんを啜り始めた。

 

 

 

大変満足して店を出た後、家に帰ろうと駅に向かうところ急に天候が怪しくなる。これはもしやと思い足を速めるがすぐに雨が降り始め数分後には傘が無ければ全身ずぶ濡れになってしまうほどの大雨になっていた。

 

だが私は焦らない。こんな時の為に私は鞄の中に折り畳み傘を年中持ち歩いており死角は無い。突然の自然の猛威にも打ち勝つ私にさらに機嫌がよくなる。そんな時―――

 

 

「あーあ、もうこんなに降ってきちゃった。どうしようかなぁ」

 

 

ふと見ればシャッターの閉まった店先の雨よけの下にこれまた妹世代の少女がいた。妹やうどん屋の少女以上により男性に人気があるだろう容姿や雰囲気をしていて可愛らしいといえる。どうやら急な天候変化により立ち往生しているようだった。しかも見れば彼女の手にはショッピングの結果と思しき紙袋が握られており、今日買った品物を雨で濡れさせたくないから雨宿りをしている事が推察される。

 

私はしばし逡巡した後彼女の下に駆け寄り、

 

「大丈夫ですか?雨で大変でしょう。差し支えなければどうぞこの傘を使ってください」

 

『気になるあの娘と100点相合傘』のワンフレーズを応用しながら引用する。

 

これならどこからどう見てもただの親切な素敵紳士だ。

 

「え…どうして?」

 

当然相手は突然のことに動揺する。しかしこういった事態もハウツー本にしっかりとは対処法が書かれてある。

 

「勿論です。私は駅に向かうのですがひょっとしてあなたもですか?」

 

「うん…そうだけど」

 

「なら丁度いい。どうでしょうあなたさえよろしければこの傘を二人で使いませんか」

(この時点で私はハウツー本のセリフをそのまま引用してしまっていることに気づいていなかった)

 

「へ?」

 

 

「…本当にいいんですか?」

 

「もちろんですよ。私もそれを望んでいますので」

 

「…うん!分かりました」

 

 

ほら。完璧だ。見事不憫な少女に傘を使ってもらえるように説得したぞ。やはり私の持っているハウツー本は完璧なんだ!

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ♪」

どうしてこうなった…

 

 

あの後傘を少女に渡し颯爽と雨の中に消えようと思っていた私はなぜかその少女と腕を組み相合傘をしている。

なぜだ、いったいどこで間違えたんだ…

 

 

相合傘とはいえ所詮折り畳み傘なので二人が入る面積は無くどうしてもお互い密着してしまい彼女も不快だろうと思っているとさらに私の腕に寄り添う形で密着を強め私は少女とは思えない少女の豊かさに感嘆と驚愕と感動で半ば思考停止しながら駅まで彼女と相合傘をした。

 

別れ際の際何故か名残惜しそうにする少女にせがまれ連絡先を交換しさらに半ば強引に別れのハグまでされてしまったのは秘密だ。信じてくれ…勿論最初は断ったが最終的に彼女が上目遣いで「…ダメぇ?」などと言われてしまっては私も抗うことは出来なかった。

それにしてもいくら少女が私に恩義を感じていても流石にヤバイ。知り合いの童顔のおまわりさんに見つかったら間違いなく職質案件( シメられる)だ。

 

 

 

 

 

そんなこんなで紆余曲折あったが私はようやく家に帰ることができた。

 

 

今日の面接を振り返る。

そう遠くない日に私は765プロの社員になるのか。不純な理由ではあったが採用してくれた以上私の精一杯を仕事に活かそう。それが私を評価してくれた面接官に出来る恩返しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の興奮冷めやらぬ中私は枕元で愛読書の一つ『70億人から選ぶディスティニー・これであなたも愛情いっぱい』を読みながら

 

 

ところでアイドルとのロマンスはありえないとしても恋人は欲しいなあ。

 

 

なんてことを考えていた。

 

 

 




主人公は基本この調子です

デレやMはメインでは出ません。フレーバー程度です
シチュエーションやキャラの要望は活動報告でお願いします


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信号機の中身が気になる

不定期とはいえ土曜日には投稿するつもりでした。違うんや、エイプリルのぷっぷかさんが可愛すぎてずっとぴょんぴょんしてたんじゃ^~。


朝、太陽が昇り人々が活動を始める時、一人の少女がベットの中で惰眠を貪っていた。既に時刻は7時50分を過ぎたがこの少女は未だ夢の中にいる。

 

「でへへ~♪お兄ちゃん~♪」

 

どのような夢を見ているかはあえて指摘はしない。つまるところ少女は今夢の真っ只中ということ。そして彼女の夢はさらに加速して行く。

 

「お兄ちゃんだめだよう~♪私達兄妹なのにぃえへへ~」

 

まさに幸せの絶頂。しかし世界は彼女の幸せをこのまま許しはしない。

 

時刻が8時を回る。そしてベッド上部にある目覚まし時計が鳴り響き、彼女の理想郷は終わりを告げる。

 

一瞬で覚醒する脳波。そして今しがた自分がいた世界は夢幻だった事に気づくと同時にその夢を終わらせた存在に怒りを覚え力任せにアラーム停止ボタンを叩く。

 

「うぅっ…折角いい夢見てたのに~。っ!うわぁ!もうこんな時間だ~!」

 

彼女はベットから跳ね起き急いでパジャマを脱ぎ、椅子の背もたれに掛けてある制服を掴み着替える。

着替え終わり一階に駆け降りると既に母親は仕事に出ておりキッチンで洗い物をしている父親に彼女は挨拶をする。

 

「おはようお父さん!」

「おはよう未来、休みなのに随分早いな。朝ごはん出来てるぞ」

「お父さんありがとう!いただきま~す。おいしい~♪それじゃいってきま~…あれ?休み?」

 

 

矢継ぎ早に挨拶を済ませ彼女は食パンを口にくわえ勢いよく家をでようとするが父親の言葉を聴き足を止める。

 

「やれやれ。相変わらず落ち着きがないな未来は...兄妹でも兄とは大違いだな」

 

「え、えへへ…」

 

 

 

私の名前は春日未来!14歳の女子中学生!

 

私は今自分がいっちばん楽しく頑張れることを探していろんな部活を掛け持ちしています!今はテニス部、陸上部、ソフトボール部、生活部に所属していて、学校でいろんな人やいろんな仕事を経験出来てとても楽しく学校生活を過ごしていいます。今の生活は私、とっても大好きです! でも一番好きなのはお兄ちゃん!

 

お兄ちゃんと私は少し年が離れていて今は大学に通うために独り暮らしをしてます。男の独り暮らしなんて凄く危ないと私は思ったけどお兄ちゃんはしっかり者だからお父さん達も納得してくれました。でもやっぱり私はすごく不安になっちゃいます! お兄ちゃんは凄くカッコいいし妹の私や他の女の子達にもとっても親切にしてくれるんです! 私の友達はみんないつも、未来はあんなにカッコよくて優しいお兄ちゃんがいて羨ましいというんです。私ももちろん大賛成です! 私のお兄ちゃんはカッコよくて優しい世界一のお兄ちゃんです!

 

でもそんなお兄ちゃんが最近元気がないんです。就職活動がうまくいっていないらしくて昨日もお父さんと電話でそのことを話してました。でもその電話によると今日就職面接に行くみたいなんです。どんな会社なのかはお父さんもお母さんも詳しく話してくれなかったけどきっとお兄ちゃんなら大丈夫! 

 

「がんばれ~!お兄ちゃーん!」

 

 

「いきなりどうした未来?」

 

 

「あ」

 

気づけば私はリビングで朝食を食べながら席を立ち叫んでいた。

 

「なっなんでもない!」

 

お父さんのに恥ずかしいとこ見られちゃって私は真っ赤になりながら席に着いた。

 

 

ううっ‥恥ずかしい。でも応援してるよお兄ちゃん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最上静香はうどんが好きだ。

 

彼女の体はうどんで出来ている。例えどれほど多忙で疲労していてもうどんのことを考え、食し、愛していた。この人類が生み出した偉大な発明、うどんを彼女は体型が変わらなければ3食1年365日1095食うどんで生きていきたいという思いを抱く程うどんに毒されていた。そして今日も彼女は未知なるうどんを求め、放浪していた。

 

 

都内某所

 

「フフフッ♪」

 

この日を私は待ちわびていた。前々から口コミネット等で話題に上がっていたうどん屋に私は惹かれ、いつか行ってみようと思っていたが今日ついにその日がやってきた。

 

外観は地味だ。最近はどこも店先に料理の写真やショーケースに食品サンプルを展示している飲食店が多いがこの店は『うどん屋』の、のれんただ一つだけ。あたりを見渡してもメニュー表示の看板もない。本当に客を呼び込む気があるのか疑うほどの質素さだ。

 

面白い…っ! こういった店ほど穴場であることは私は己の経験則に従い期待を膨らませる。だが同時に外れも多くこういった外見の場合当りと外れの落差も大きい。ハイリターンを求めるならばハイリスクは当然ついてくる。私は己の敗北・敗戦・敗走の歴史を脳裏で呼び起こし奥歯を噛み締めた。

だが私に不安はなかった。私には自信があった。このうどん屋が当りであることを。

 

「聴こえる…うどんの声が…私を呼んでいる…」

 

そう。私は度重なる戦いを乗り越え通常の人間達がたどり着けない極致へと至ったのよ…っ!

 

「さあ、声のもとに行こう」

 

 

私は引き扉を開け店内に入る。そこはまさしく私の求めるEdenだった。落ち着いた店内。テレビすらなく聴こえるの調理場にいる職人気質と思われる料理人の作業音と沸騰するお湯の音のみ。うどん生地を捏ね均等に引き延ばし麺を切っていく。彼女は私に気づくと小さく「…いらっしゃい」と呟きまた作業に戻る。

私はとりあえず手近なテーブル席に座りメニューを開く。メニューには『かけ(温・冷)540円税込み大中均一・小-50円』とだけ書かれていた。

 

戸惑い店主を見るが彼女はうどんに神経を集中している。

 

 

なるほどね。私は少し甘く見ていたようだわ。これほどシンプルで挑戦的なメニューはいまだ見たことがないわ。だがこれで私の自信は確信へと変わったわ。フフフ…楽しみだわ。どんなうどんが出てくるのか…。

 

私はかけ(中)を注文して店主が調理する作業音を聴きながら期待に胸を躍らせていた。この時までは…。

 

引き戸が開かれる。それは新たな来店の知らせ。

 

引き戸の音につられ目を向けた瞬間私の思考は一瞬停止した。

 

入ってきたのは若い大学生ぐらいの男性だった。

 

お…男の人…っっ!

 

私にとってまさかの事態。なぜなら私は男性と触れ合った機会がほぼないに等しい。私のうどん放浪記は孤独な一人旅。雑念などなくそこに男の影など皆無だった。それに身内である私の父とは進路について折り合いが悪く最近は口を開けば喧嘩ばかりしてしまう始末。

 

どっ…どうしてこんなところに男が…

 

困惑したまま注視してしまう。突然の来客は何故か妙にニコニコした顔で近くの席、つまり私の座っているテーブル席に近づいた。

 

ええぇっ!ちょっと待って!まさかあの(ひと)ここに…っ

 

 

 

 

そのまさか。彼は私と向き合う形で座り店主に注文をしたが、私を見つめ何かばつが悪そうに「すみません」と謝り、辺りを見渡しながら立ち上がる。

 

 

なるほど。どうやらこの男性は非常に信じられないことだが私に気づかずに席に着いてしまったのだ。それでたった今私に気づいて席を立ったんだわ。ようやく謎が解けた。それもそうだ。いくら私のような学生に結婚適齢期の男性一人で近寄るなんて…まったく人騒がせな(ひと)だわ。

 

そんなことで安堵していた私だったがなんと彼が立ち上がった瞬間に一体どんな確率なのか店に大勢の客がやってきたのだ。どうやら彼らは地元の老人クラブか何かのようでここで食事をしに来たらしい。

それを見た彼は再びばつが悪そうに席に座り直し、

 

「すみません、相席よろしいでしょうか?」

 

と聞いてきた。

 

「い、良いですよ…」

 

私は首を縦に振るしかないが心中では、

 

 

ふぁっ!?なんで?どうして!?こんな営業努力の欠片も無い店によりによってこのタイミングで来店なのよ!それにそもそも男の人が連れもいないのにどうして一人でうどん屋に来店して女の私がいる席になんでわざわざ相席するのっ!?

 

しかも彼はまったくの初対面である私に対して全く物おじせず先ほどから不自然な笑みを浮かべている。

 

わ、わからない…。

 

怖気づく私はテーブルの下でじっとりと汗ばんだ両手を握りしめ小刻みに震えていた。

 

耐えられない…なんなのよこの仕打ちは…私が何をしたっていうの…私はただ…ただ…。

 

 

この拷問のような現状に耐えきれなくなった私はついにカオスの元凶に尋ねる。

 

 

 

「あの…何か御用でしょうか?」

 

やった!言ったわ…ついに言ってやったわ…っ!

 

勇気を振り絞った一言。しかし次の彼の返答に私の喜びは更なる混沌によって塗りつぶされる。

 

 

 

「失礼しました。御用というほどではありません。ただあなたがとても魅力的に思え、それこそアイドルのようだと見惚れてしまいました」

 

 

 

 

「‥‥‥」

 

瞬間、世界が止まる。

 

 

 

「ええぇ!?」

 

衝撃。サッと顔に血液が昇る

 

「じょ…冗談はやめ‥」

 

最期まで言えず呆然とする。

 

 

ありえない。およそ私の人生で決して現実の男性から言われたことがない言葉に戦慄する。

最近は規制が厳しくなってドラマや映画すら遠回しにやんわりな表現が多いのに。

 

 

今までの人生で最も親しい異性といえば父しか挙げられない私。そんな春の欠片もない私に自分よりも一回り年上の男性がこんな創作物でしか目にしない歯の浮くようなセリフを淀みなくすらすらと自信満々に言ってくれる人はいない。

それこそ漫画やアニメの世界でしかありえない展開だ。クラスメイトはよくその手の話題を教室の隅で話しているがそんなオカルトはありえないと、不可能を妄想し続けている彼女等を私は憐れんでいた。そんなことよりうどんが食べたかった。それなのに…。

 

 

 

 

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

困惑の中うどんが運ばれてきた。私はその言葉と目下のうどんを目にしてうどんを注文したことを思い出す。慌てて受け取ろうとするが店主は何故か向かいの男性にうどんを渡した。ちょっと待て。どう考えても私の注文が早かったでしょ。

店主にを非難を込めて見れば私が来店したときは営業スマイル一つしなかった仏頂面が今や気持ち悪いほど緩みまくってデレデレな笑みを浮かべていた。なるほど。メンズファーストというものですか。確かに私のような女子を相手にするよりも目の前の男性の方にいい顔した方がいいに決まっている。

 

 

 

不満ではあるが店主の気持ちは分かる静香であった。

 

 

 

失礼とは思ったが彼を見れば運ばれてきたうどんを見て満面の笑みを浮かべる。彼はまずレンゲでダシを掬い口に運ぶ。次にうどんを箸で啜る。見ただけでツヤとコシの良さが分かるうどんが彼の口元に運ばれつるんと音を立て吸い込まれる。真向いのため彼の咀嚼音も耳をすませば聴こえており濡れそぼった唇やうっすら火照る顔が私の前で…

 

いけないっ!これじゃまるで覗き、変態じゃない…いくらうどんが好きでも私はうどんフェチではないはずよ‥

 

 

 

 

「冷めてしまいますよ」

 

突然向かいの男性からの言葉に私は返答できず顔を向けるだけで精一杯であり、その言葉によって私の席にうどんが運ばれていることに気づいた。あの店主、私には一言も無いのか。最早食欲などどこかに行ってしまったが食事をして時間を消費しなければこの異様な空間に私は耐えられなかった。

 

緊張と焦燥感で動悸と箸を持つ手の震えが止まらなかったが私はうどんをすする。

いったい何を食べているのかまったくわからなかった。

 

 

私より先に食べ終えた彼は店主にまた来ますと言い店を出た。店主は先ほどのように頬を紅潮させ彼の食べ終えた食器類を何故か洗い場ではなく店の奥に持って行った。

 

店主の行動はどうかとは思ったがそれより気になったのが彼が去り際に言い残したまた来ますという一言。彼の態度から言ってこの店は初めてではなく彼の行きつけの店ということだ。つまり彼はまたこの店に来店する可能性が非常に高い。

 

 

 

「‥‥‥また来よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに一人の少女がいる。名を伊吹翼。通っている学校では男女問わず人気者で特に異性の注目と好意を集めることに熱心であり本人もそのことに快感を感じている。彼女は日々異性にモテることを研究し続けている。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、最悪」

 

今日はとってもいい日になるはずだった。今日のためにピックアップしていたお店に行く計画をちゃんと立ててお気に入りの服を着て好きなフレーバーのアイスクリームを買ってちょっとオトナっぽい服も買ってこれでもっとモテモテになれるって思ってた。最高の一日になるはずだったのに…

 

 

 

ショッピングして沢山遊んでもう帰ろうって時に急に雨が降り出すなんて聞いてないよぉ~。

天気予報でも今日は晴れますって自信満々に言ってたのに~!

 

雨宿りは出来たけどお気に入りの服は濡れちゃうし全然雨止みそうにないしどうしよう。無理やり駅まで走ったらせっかく買った服が台無しになっちゃう…

 

 

こんなことになるなら家でゆっくりしてればよかったなぁ。

 

 

 

今の天気みたいなわたしの心、でもそんなわたしの心を一発で晴らすような出来事がこのあと起こった。

 

 

「大丈夫ですか?雨で大変でしょう。差し支えなければどうぞこの傘を使ってください」

 

それはわたしがいつも夢見ていた理想のシチュエーションだった。

雨の中困ってる女の子に傘を差し出してくれる男なんているわけない。わたしがいつも理想を喋っているとよく家族やクラスメートに言われた。そんな男は少女漫画の世界にしかいないって…。

 

わたしもなんとなくそんな気はしてた。でも今よりもっとモテモテになったら理想の王子様がいつか来てくれるって信じてた。

 

 

嘘じゃなかった!本当にいたんだ。わたしの目の前に!

 

 

でも困ったな~。わたしはとっても嬉しいけどいくらなんでもわたしだけ傘を使ってこの人を置いてなんて出来ないよ。相合傘をすればいいけど初対面の男の人にそんなこと言えないし…

 

 

「どうでしょうあなたさえよろしければこの傘を二人で使いませんか?」

 

 

信じられない。わたし、今オトナの男の人と相合傘してる!しかも腕を組んで!

学校で仲のいい男子はいるけどここまではしてくれない。でこの人はわたしがくっついても何にも言ってこない。それどころかわたしが濡れないように寄り添ってくれる。スゴイ!スゴイ!本当に王子様みたい♪

 

気づいたらもう駅に着いちゃった。もう~なんで着いちゃうかな。もっと遠くに建っててよ~。

 

わたしはダメもとで連絡先を聴いてみた。流石に渋ったようだったけど本気で嫌がってはいないとわたしは思った。よし、もっと押してみよう。わたしは結構こういうのはうまいんだ。

王子様は連絡先をくれた。LINEだけだけどわたしと連絡してもいいってことだよね♪調子に乗ってついでにハグもしてみた。

 

王子様と別れた後、わたしは体がとってもポカポカしていることに気づいた。そっか。わたし今日、スゴイこといっぱいしちゃった…。

スゴク優しい(ひと)だった。そしてとても押しに弱いことが分かった。

大丈夫かな…悪い女に捕まっちゃうかも…

 

「でも大丈夫。わたしの王子様はお姫様がちゃんと守ってあげる♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

あのあとお兄ちゃんからメールが来ました。内容は無事内定が貰えたそうです!でも気になったのはその会社名。

765プロ。

内定がとれたことは嬉しいけどまさかあの天海春香や星井美希がいるアイドル事務所に就職するなんて…。

 

 

 

お母さんが仕事から帰りお父さんが夕食の支度をする。私はリビングに降りたけどお父さんとお母さんが言い争いをしていた。

 

 

「そもそも私はあの子が一人暮らしを、するのも反対だったんです。今回だって無理に就職する必要はないと言ったんです。それなのにあなたが!」

「まあまあ。確かに母さんの気持ちは分かる。今の時代、男のあいつが社会に出て働くのは大変だと思ったが僕はあいつの自主性を尊重したいんだ。それに僕だって若い頃は働いてたし」

「それは国が出資している公企業でしょ!あなたの部署はみんな男性だったじゃない。私だって絶対に働かせないと言うつもりはありませんがせめてあの子にもっとふさわしい職場があるでしょう!何も芸能事務所なんて…芸能界のよくない噂はいくらでも聞いたことがあります。不埒です」

「確かに聞いたことはあるがなにもあいつがアイドルになる訳じゃないだろ?あいつからは事務員やプロデュースの手伝いだと聴いている」

「あの子を野獣の巣に放り込む気ですか!?」

「少し落ち着いてくれ。僕も訳の分からない会社にあいつをやる気はないよ。でも765プロはちゃんとした会社だし在籍アイドルだって最近は何処でもでずっぱりじゃないか。潰れる心配はないし人気や信用が一番の業種だから自社の男性社員は特に大事にしてくれるさ」

 

怒っているお母さんをお父さんが説得しています。でもお母さんの言っていることは分かる。たしか765プロのアイドルは全員女の子だったと思う。そんなところにお兄ちゃんが…

 

私は胸が苦しくなるような不安を覚えた。

 

 

 

 

「それにたしかあの会社は社長が男性だ。周りが異性でもきっとフォローしてくれるよ」

 

「間違いが起きたらどうするんですか!?」

 

 

その言葉にお父さんは飲んでたビールを吹き出し私も箸が止まる。

 

 

「ゴホッゴホッ、母さん!未来の前で何てことを言うんだ…」

 

「いいえ。言わせてもらいます。あの子をもし傷物にされたらと考えると私は夜も眠れないわ!母親の贔屓目を抜きにしてあの子ほど良い男はいないわ!いくらアイドルとは言えハ、ハレンチなことを仕出かさないとは限りません!!」

 

 

 

「そ、それは僕も心配じゃないと言えば嘘だがあいつだってもう大学を卒業して立派な社会人だ。ちゃんと育ててきたつもりだし将来の相手だって自分で見つけるかもしれないよ」

 

「しょ、将来の相手なんて駄目です!認めません!社内恋愛なんて不潔です!不浄です!不埒です!」

 

「でも母さんは僕を会社で口説いたじゃないか」

 

「え!?お母さんそうなの!??」

 

私は突如明らかになった事実にとっても驚いた。だってお母さんはお父さんと運命で結ばれたとしか言ってくれなくて詳しいことは絶対に教えてくれなかった。

 

お父さんの一言でお母さんは急に顔が赤くなり恥ずかしそうに取り乱す。

 

「あ、あなた!なんてことを…未来には…子供達には言わないでと約束したじゃないですか…」

 

「すまんすまん。でも事実じゃないか。しつこすぎて危うく警察沙汰になりかけたところを僕が観念して付き合い始めたから未来達が産まれたんだろ」

 

え!?お母さん、もう少しで犯罪者だったの!??

 

私は知られざる両親の馴れ初めに衝撃を受けた。まさかいつも真面目なお母さんがストーカー一歩手前だったなんて…

 

 

「とにかく。あいつが自分で選んだ道なんだ。応援しようじゃないか。辛くて帰ってきたら優しく迎え入れれば良い。恋愛だって今のところ世の中自由恋愛推奨なんだからあいつに任せよう。女性の趣味は悪くないはずさ。さあ、食事の続きだ」

 

お父さんの締めの言葉でお母さんは渋々引き下がった。私も表面上はいつも通りだけど心のモヤモヤは益々大きくなっていた。あの優しいお兄ちゃんが誰かのものになる。私より大事な人がお兄ちゃんに出来る。私の知らないところで。

 

 

そんなの…嫌だよ…お兄ちゃん。

 

 

 

 

 

 




本作はギャグです。ご安心ください

個人的なフェチですが私はいつも明るい妹に彼女が出来ましたーと言ったら嫉妬で大反対されたいです。ラーメンとか食べてる無防備なキャリアウーマンとかJKが素敵です。イケメン女性にカッコよく傘を差しだしてもらって「帰ろうか」とか言ってもらいたいです。

アホな男なんです私は。

だいたいここからキャラ崩壊が激しくなります。全然アイドルをマスターしてませんが次辺りからマスターします。


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純黒のCEOと残念な美人をリクルート

本作はミリオンライブのアイドル達を全員扱うつもりですが作者の好みにより出演シーンが増減します。


 激しい頭痛によって目を覚ます。

 私はこの感覚を知っている。二日酔いだ。

 

 ズキズキと痛む頭と全身の倦怠感はいつまでたっても馴れない。大学卒業祝の飲み会で、かねてから気になっていた数少ない同輩の男性が結婚更には相手の妊娠も発表し私は独り酒に逃げた。どれだけ飲んでも悲しみは消えずむしろ悪化していく始末。

 私の人生、思えばこの23年間の人生に春が訪れたことがない。でも私だってただ突っ立ってた訳じゃない。容姿にはそれなりに自信があったし勉強だって頑張った。オシャレにも気を使ったし男の子が喜びそうな仕草も研究した。だけどもそれが実った試しがない。友達からは莉緒は美人で性格も良くてモテるでしょと言われるがそれが役立ったことはないしモテたこともない。

 

 最近はこのまま独り寂しく老後を迎えてしまうと本気で思っている。そこに来て昨日のあの告白だ。

 

 生きてくのが嫌になった。もうアルコールと結婚してアセトアルデヒドを産もうと思った。

 

 さすがに昨日は自分でも飲み過ぎたと反省した。店で飲んでた記憶はあるがそれ以降の記憶がないのだ。あれだけ飲んでよく自宅まで帰れたなと私は昨日の自分に感心すらした。

 

 ひとまずシャワーを浴びよう。メイクも落としてないし髪もごわごわだ。

 そう思い莉緒はベットから身を起こし固まった。

 

 

 

「あれ?ここどこ?」

 

 私が帰った家は自分の家ではなかった。私が寝ていたのは自宅のベッドではなかった。

 

 後頭部を殴られたような衝撃を感じたが断じて二日酔いの痛みではなかった。

 

 

 嫌な汗が出る。どう見てもラブラブなホテルだ。まさかこんなコッテコテな大人のホテルがまだあるなんて驚きだわ。つまり私は酔って近くのホテルに泊まっちゃった?

 とにかくまだ頭が痛むけど家に帰らないと。

 

 その時私はトイレが流れる音を聴いた。

 

 

 ぼやけた思考でもはっきりと認識する。この部屋には自分以外の誰かが存在している。

 

 

 え?どゆこと?

 

 何故自分以外の存在がここに?いや、私がいるのも自分で納得はできないがとにかく意味がわからない。

 

 

 その時部屋のドアが開かれる。

 

「っ!……、」

 

 

 

 ドアを開けた人物は私を見て目を見開いていた。だが私はもっと驚いた。

 

 お…男…っ。

 

 男がいた。二日酔いの幻覚ではない。明らかに人が、それも私と同世代位の若い男がいた。

 

 

 お互い黙り見つめ合う状況。

 

 なんでこんなところに男がいるのよ?しかもよく見たらけっこうカッコいい……!…。

 

 やばっ…うぇ…、

 

 

 極度の緊張と不安が彼女を襲いアルコールの抜けきらない彼女の食道を刺激し急激な逆流現象を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し経ち、

 

 盛大にぶちまけてしまった私は謎の男と一緒に掃除をしたあと謝罪した。

 

 男は気にしないでくださいといってくれたが私は気にした。男の前で戻してしまうなんて一生トラウマものだわ。きっと内心軽蔑されてしまった。やっぱり私は男に縁がないんだわ…。

 

 私が自己嫌悪に陥っているとそれまで沈黙していた彼が口を開いた。

 

「き…気がつかれましたか。ところで昨夜のことを覚えていますか?かなり酔っていらっしゃったと思いましたが」

「ご、ごめんなさい…私、お店を出てからの記憶が…」

「そうですよね。泥酔してましたから」

 

 うげ…やっぱり昨日の私そんなに酔っぱらってたの?だとしたら何か彼に失礼なことを…?

 

 

「あの、私…昨日あなたに何かしちゃった?」

 

「え?いや~確かに大変でしたけど…あはは…。」

 

 何故かお茶を濁す彼。やっぱり私なんか仕出かしちゃった!?

 そこで私はある最悪の想像が頭をよぎった。実を言うと掃除している間も私は少しこの状況を冷静に考えて、ひとつのとんでもない結論から目を逸らしていた。

 

 

 泥酔。見知らぬベッド。見知らぬ男。欠落した記憶。

 

 

 ‥‥‥‥。

 

 

 

 

 いやーまさか私がねー。しかもあんなカッコいい男となんてねー。奇跡ってあるんだなー。

 

 神様は私を見捨てなかったんだわ!ありがとう神様!

 

 

 んなわけないでしょ!?

 

 

 ……あれ?ひょっとして私、ヤっちゃった?間違い起こしちゃった?

 いわゆるワンナイトラブってやつ?

 

 私はまたも後頭部に衝撃を受けた。ヤバい…ヤバいわよ…酔った勢いで男に手を出すなんて…私昨夜本当に何してたっけ??

 

 どうするのよこれ!?私みたいな女とこの(ひと)が昨日初めて会って合意であはんうふんしたなんて誰が信じるの!?私だって信じられないのに!ここはまず確認しないと…。

 

「あの!私…昨日あなたと…その…本当に…」

 

 言えないぃ!何て言えば良いのよ!?

 

「あはは…確かに昨日はその…凄かったです」

 

 止めてえぇぇ!目を逸らしながら言わないでえぇ!てゆーか凄かった!?私凄かったの!?

 

「とても印象的で…多分昨日の夜のことは一生思い出になりますよ」

 

 何で!?何で顔を赤らめながら言うの!テクニック?!私って結構テクニシャン!?

 

 お、終わった。私の人生。きっとこのあと警察に連れられて監獄送りになるんだわ。お父さんお母さんごめんなさい。孫の顔も見せれずに新聞に載る親不孝な娘を赦して…。

 

 あ、ヤバい、お酒が抜けてないから涙腺が…。

 ポロポロと涙が溢れる。思えば私の人生男に全然縁がなかったわ。でも最後にこんなカッコいい男と出会えたからオールオッケー?残りの人生生きていけるかも…?

 

 私が一人覚悟をしていると、男が私に近づく。なにかと思うと彼は私に跪きハンカチを差し出しこう囁いた。

 

「どうか涙を拭いてください。貴女のような美しい(ひと)にそんな涙は似合いません。今回のことは私も不注意で非があります。私に出来る謝罪なら何でもします」

「そ、そんな…私が悪いのに…」

「女性に責任を押し付けるのは好きではありません。そんなことをしたら家族に顔向けできませんから」

 

 暖かい。男性にここまで優しい言葉をかけられたのは父以外にない。

 

「さあこれで涙を…。謝罪します。貴女の涙が止まるまで」

「ち、違うわ。これは嬉しくて…」

 

 悲しい涙はとっくに枯れて感動の涙がさめざめと溢れた。

 

 

 

 

 ようやく涙が止まり落ち着く。我ながら大泣きした。

 

 

「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は春日と申します」

 

「春日…さん」

 

「春日で結構ですよ。改めまして今回のことは大変申し訳ありません。お巡りさんや救急車を呼ぶのはどうかと思った私が軽率でした」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 春日さんから詳しい事情を聴き恥ずかしく情けなく死にたくなった。どうやら私は昨日の夜お酒に酔って動けなくなった所を彼に助けられたとのことだった。

 

 彼は「私も軽率でした」と言ってくれたがそもそも彼が助けてくれなかったら今頃自分がどうなってたかわからない。自業自得の私を助けてくれるなんていったいこの人は何者なの?天使?

 

 

「こんなときになんなのですが、実は私、こういう者なのです。よろしければ貴女のお名前も教えてはいただけませんか?」

 

 

 春日さんは名刺を取りだし私に差し出す。手に取り見ればなんとあの765プロの社員と記載されている。

 

「莉緒…百瀬莉緒よ」

 

 すると彼は少し考え込んで…、

 

「どうでしょう百瀬さん。貴女、アイドルになりませんか?」

 

 いきなりなんてことを言うのよこの(ひと)

 

 

「む、無理よ。私にアイドルなんて…」

 

「不安になるお気持ちは分かります。ですが貴女には他の人にはない魅力を感じました。それは私が保証します。」

「魅力…どんな…?」

 

 気が遠くなる。魅力なんてあるはずがない。今までモテた試しがない私にアイドルが務まるとは思えない。私の不安を知ってか彼は私に更に近づき語る。背…おっきいなぁ。

 

「‥‥‥‥‥これは受け売りですが…アイドルとは宝石のように星のように輝き、人を引き付け魅了します。私と貴女は出会って一日も経っていません。ですが百瀬さんのことを私は恐らくこれから一生忘れることはないでしょう。それは断言できます。もちろん良い意味で」

 

「!!‥‥‥」

 

「百瀬さん。貴女にはそれが有ります。人を惹き付ける輝きを、貴女をもっと知りたい思わせる力を私は感じるのです。ここで貴女を手放したらきっと後悔してしまう。だからもう一度お願いします。アイドルになりませんか?」

 

 

 撃ち抜かれちゃった。彼の言葉に…私の…。

 

「もちろん今すぐにとは申しません。貴女の人生は貴女のも…」

 

「…ます」

 

「は?」

 

「私、春日さんのアイドルになります。」

 

「…ありがとうございます?」

 

 その時のことを私は今でも忘れない。私の人生に天使が現れた。優しくてカッコいい天使…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中で誰かが私に語り掛ける。

 

 

「ちーひっひっひっひっ。あなた彼女が欲しいって言いましたよね~?そんなあなたに朗報ですよ~チーヒヒヒヒヒヒッ」

 

 私は謎の声に尋ねる。

 

「あなたは何を言っているのですか?そもそもあなたは誰なのですか?」

「ちひひひひっ、そんなのどうでもいいことじゃないですかぁ。とにかく私はあなたの力になりたいんです。人助けがぁ好きなんですよぉ私は~チヒヒッ」

 

 

 私はしばし考えた。確かに恋人が欲しいとは思っている。自慢じゃないが私は年齢=彼女いない歴の寂しい男だ。多分これは夢の中だが頼んでみても損はないかもしれない。

 

「損なんてありません!特にあなたのような男にお金なんて請求しませんよぉ。お金はね…チヒヒ」

 

「え?お代はいいのに私に恋人を授けてくれるのですか?」

 

「なんだ結構乗り気じゃないですか~もちろんですよ。この契約書に署名捺印してくれればあら不思議。目を覚ませばR-18指定コース直行です。エロm@sも孕m@sも真っ青なハーレム主人公になれますよ~。」

 

「…ちょっと何言ってるか分からないですね。とにかくハーレムは胃が痛くなりそうなので遠慮させてください。」

「え~楽しいと思いますけどね。それなら幼馴染との純愛コースにしましょう。ただそのかわりちょっとお願いしたいことがありましてぇ。実は私映画が趣味でしてあなたに主演男優として出演して頂きたいんですよぉ。女優の方々はこっちで用意しますので~。チヒッチヒッ。」

 

 

 あれ?なんだか不穏な空気になってきたぞ…。両親からうまい話は信用するなと教わったが私は以前読んだ本を思い出す。お金に困ったヒロインが優しいおじさんに援助してもらう代わりに自宅やホテルに連れられ部屋の扉を開けるとそこには沢山の優しいおじさん達が……、

 

 

 

 不味い…。きっとこの声の主は私を助けるふりをしてどこぞのタコ部屋や地下に送る気なんだ!そうでなくとも只より高い物はないと昔から言われている。夢の中とはいえ悪夢は御免だ。そうと分かれば私のとる手段は1つ。『現代意訳悪魔祓い。鬼も悪魔もマニー次第』に従い、

 

「あ!あんなところに石油王が!」

「えっ!?どこですか!どこどこ!」

 

 私は急いでその場を離れる

 

「あ~!騙しましたね!待ちなさーい!」

 

「助けて―!消費者相談センター!」

 

 

「はっ!?」

 気が付けば私は汗だくでベットから転げ落ちていた。手には見覚えのない『広川せんち 著 マニーのためならなんでもするズラ』を握り締めていた。

 

 

 携帯で時刻を確認すれば3:45

 少し早く起きたか。しかし悪夢のせいで二度寝する気は起きなかった。何故か頭が痛い。手で頭を触るとコブが出来ていた。何故だろう?

 

 まあいい。少し早いが起きるか…。

 そう考えまずはベットを直そうとするが手が止まる。

 

 ここはどこだ?

 

 見たことがないシーツ。明らかに自宅ではない部屋。しかもドギツイピンク色の蛍光配色のギャグのような()()()()ホテルの一室。しかも…。

 

 

 

 動いていた。ベットのシーツの中で明らかに人と思われる物体がもぞもぞと動いているではないか!

 …きっとこれはまだ夢の続きなんだ。ベットに戻って寝よう。目を覚ませばいつもの現実に…。

 

「う、う~ん…」

 

 前言撤回。夢じゃない。人がいる。それも女性が…。

 

 落ち着け。こんなことがなんだ。こうしてる間にもアフリカのどこかで子供が泣いており太陽消滅の時は刻々と近づいているのだ。

 

 思い出せっ…昨日は確か…、

 

 

 

 

 あの衝撃の就職面接から少し経ち、765プロから書類が送付されてきた。中身は765プロの正式な内定決定を伝える書類。私はその書類を何度も見返しこの待ち望んだ幸福を何度も反芻した。

 これだ。この薄っぺらいたった1枚の紙に私は今まで人生を生きてきたのだと言っても過言ではない。ついに、ついに手に入れた。内定。就職。おめでとう私。Congratulation(コングラッチュレーション)Congratulation(コングラッチュレーション)!いやぁ素晴らしい。

 なんだか目の奥から熱いものがこみ上げそうになっているときに突如携帯が鳴り響く。私はこの至福の時を邪魔され無視しようかなとも思ったが着信を見れば就職面接の最期に面接官から「電話で連絡することもありますから」と言われ登録した番号であった。祝賀ムードから一転慌てて電話に出ると765プロ事務員からであった。

 

 やっぱりあの内定ナシで。とか言われやしないかとヒヤヒヤしたが電話の内容としては以下の通りであった。

 

 1つ 送付した必要書類に記入してほしい。

 2つ 私のことを知り興味を持った765プロ社長が是非会いたいといっている。

 3つ 上のふたつを遂行するため近日もう一度765プロに来てほしい。

 

 とのことだった。

 

 

 

 1と3は問題ない。それくらいは想定済みだ。だが2は違う。さらっと電話越しに伝えられたがよくよく考えると尋常ではないイベントだ。入社もまだの内定者に企業のトップが会いたいと言っている。ここで社長に気に入られれば今後の会社でのおぼえもめでたくなるが万が一失礼があったら内定取り消しのバットエンド直行だ。

ここまで来て神はまだ私に試練を与えようとしているのか。だが負けられない。

 

 

そして765プロ。

 

 

 

 765プロの扉を開けると以前の面接官の隣にいた事務員さんがいた。

 

「先日はどうも。」

「いえいえ私も()()()()()()…ピヨピヨ」

 

 

 

「改めまして音無小鳥です。今、社長を呼びますね。社長ー!」

 

 事務員もとい音無さんがそう叫ぶと事務所の奥から男性が勢いよく現れる。

「おお!君が春日君か!待ってたよ!」

 

 

 それは社長と言うにはあまりにも黒すぎた。黒く、不鮮明で、謎で、そしてやっぱり黒すぎた。

 

 

 

「ど、どうも春日です…。社長…?」

 何かのドッキリかなにかだと思いもしたが周りの様子を見るとそうでもないらしい。

 

「男の身でありながら芸能界の仕事に就くなんて気に入ったよ。さぁさぁこっちで男同士あつーく語ろうじゃないか!」

 

 そのまま社長室に連れられて私は社長の話を嫌と言うほど聴かされた。分かったことはこの黒すぎる社長の仕事に対する情熱は本物と言うことだ。明らかに私より社長の方が喋っていたが社長曰く私が社長の従兄のようで、私の入社にとても喜び期待しているとのことだった。(私は黒くはないのだが)

 

 

 あれから社長と話が盛り上がり帰る頃にはすっかり外は暗くなってしまっていた。

 

「どうだろう春日くん。今夜は男同士飲まないかね?」

 

 早速ノミニケーションがやって来たか。

 

「はい。喜んで。」

 

 私は酒に弱いが自社の社長に誘われて断るわけにはいかない。

 

 

 酒の席で社長は更に熱く自分の理想を語った。私は最初のビール一杯で既にへべれけだが社長の話に相づちをしながら付き合った。

 

 

 店を出た頃には既に辺りは煌びやかなネオンに彩られ夜の街に変わっている。社長は上機嫌であり私もアルコール特有の作用で気分が明るくなる。

 

「遅くなってしまったな。タクシーを呼ぶから春日くんはそれで帰りなさい。」

「御気遣いありがとうございます。ですがここからなら駅も近いですし結構です。」

 

 人の行為は素直に受けとるものだが受け取り過ぎるのもどうかと思いここは断る。飲み代を奢ってもらったうえにタクシー代は貰いすぎだ。

 

「いやはや君は実に謙虚な若者だ。会長にも君を会わせたい。きっと気に入るはずだよ。最近では珍しい若者だがそれは誇れる美徳であると共に欠点にもなることも忘れないことだよ。」

「心得ています。それでは。」

 

 

 社長と別れ駅に向かう途中、私はなにかうめき声のようなものを聴いた。

 

「う...うぇぇ...、」

 聞き間違いではない。

 耳を澄ませばそれは近くの路地裏から聞こえる。

 九分九厘酔っぱらいのサラリーマンか何かだろうと私は思ったが万が一急病人であった場合一刻も争う可能性も捨て切れず、私は『死亡確認こそフラグ、これであなたもスーパードクター』を頭の中で思い出しながら声のする路地裏に進む。

 

 路地裏は夜ということもあり明りに乏しく携帯の明かりを頼りに進んでいく。少し進むと足元に缶酎ハイや缶ビール、おまけに一升瓶が転がっておりあたり一面に強烈なアルコール臭をまき散らしていた。

 やはり酔っぱらいかと引き返そうかとも思ったが急性アルコール中毒であった場合も考えてここは臭いの中心に足を進めていく。それと同時にうめき声もどんどん大きくなり間違いなく近くに人がいることがわかる。

 とうとう路地の行き止まりにたどり着く。携帯の明かりで照らすとそこで私が見たものは、

 

 

 大量の酒瓶と共に寝っ転がっている女性だった。

 

 

 

 

 私はしばし目の前の光景が信じられず固まっていたがすぐに気をとりなし女性の状態を確認する。

 

 

「すみません。聴こえますか?大丈夫ですか?」

 

 肩を叩きながら女性の意識の有無を調べる。そうすると、

 

 

「...どうせぇ私はぁ...モテない女よぉ、」

 

 酒の臭いプンプンさせながら答えた。

 

 なるほど。どうやら殆ど私の当初の予想通り酔っぱらいのようだ。ただ違っていたのはサラリーマンではなくウーマンであったことだが...、

 

 しかしどうしたものか。この女性...意識はあるようだがとても一人では歩くこともままならないだろう。仮に私が介助してもどこにあるとも知れない彼女の家まで送るのは無理があるしタクシーを呼んで乗せたところでこの泥酔具合ではまともな会話すら不可能だ。一番確実なのは警察あるいは救急車を呼びあとは公的機関に任せることだが見る限り彼女の体には外傷は無いしただの酔っぱらいだ。そんな人物を日々国家の平和の為に働いているおまわりさんの手を煩わせたくはないし同じく救急隊員の方々にも酔っぱらい程度で出動して他に救急車を必要としている人の所に行けない、なんてことにはさせたくない。

 

「死ぬぅ…お酒で死んでやるぅ、」

 

 だがこのまま捨て置けない。私は考える。女性を運ぶのはいいが完全に酩酊状態でありどうしたものかと困っていたらなんとなく目の前にホテルがあった。私自身も酔っていたこともありフラフラとチェックインをした。そして部屋まで行き泥酔女性をベットに寝かせようとしたとき、

 

「えへへ~♪いい匂い~はむぅ。」

 

泥酔女性に後ろからいきなり抱きつかれ首筋を舐められた。私は驚き飛び上がりベットの上部に頭を…。

 

 

 

 …思い出した。思い出したくなかったけど。

 

 

 

 

 

 一応言っておくが手は出していない。神と悪魔に誓ってもいい。

 いくら女性に縁の無い人生を送ってきたからといって寝込みを襲うほど堕ちてもいない。

 しかしあんな路地裏で寝ていたらそれこそ犯罪に巻き込まれかねない危険な行為だ。起きたらそれと無く注意しよう。そしてホテルを出よう。うん、完璧だ。

 

 

 

 違う。そうじゃない。

 

 

 

 

 泥酔していたとはいえ彼女にしてみれば自分を無断でホテルに連れ込んだ(ケダモノ)だ。言い訳したいがかなり苦しい。我ながらなぜあんなことを?私自身酔っていたとはいえ浅はかすぎる。しかもバランスを崩して頭をぶつけ気絶とは…滑稽だ。切腹ものだ。

 

 

 社長に期待していると言われたその日の内に不祥事なんて笑えない。酔っていたとはいえ彼女が会社や警察に訴え出たらクビにされても文句は言えない。ひょっとしたら両手が後ろにまわるかもしれない。

 

 いやだ。そんなことは断じて避けなければならない。ここはなんとか彼女に私の正当性を訴えなければ。

 

 胃が痛い。頭痛も吐き気もしてきた。とりあえずトイレにいって全部出そう。頑張れ私。

 

 

 

 

 

 なんとか全部出し切り一応スッキリして部屋に戻ると彼女と目が合った。なんで起きてるの???

 

 待て。まだ慌てるような時間ではない。

 

 ここはなんとか彼女に説明して理解してもらおう。『謝まり方で万事を決めるできる男』にも載ってるやり方だ。まずはやんわりと相手方の非を伝えよう。

 しかし小心者の私は相手を責めるような言い方はなかなかできない。ついつい口ごもってしまう。なるべ~くなるべ~くオブラートに‥‥、

 

「ふぇ‥‥!」

「え?」

「ふぇええええええ‥‥‥‥!!」

 

 泣かしちゃった。

 

 目の前で泣きじゃくる女性を見て私の思考は過去に遡る。思い出すのは小学校。あれは体育の時間のドッチボールだった。好きだった女の子の顔面に思い切りボールをぶつけてクラス中の女子から非難轟々の的となりめでたく失恋し、暫くの間男子からもハブられ孤立した暗黒のトラウマ。

 

 まずい。やっぱり強く言いすぎてしまったか。こうなったら作戦変更だ。さっきの作戦は16ページ目。今回は312ページ『ひたすら紳士的に謝り倒そう。仏国貴族みたいに。』だ。

 

 なんとか落ち着かせることには成功した。

 しかし失礼な話だが先ほどの泣いている彼女の顔は実に様になっていた。はっきり言ってとても綺麗だ。未来とはまるで違う美しい大人の女性だ。アイドルだってやれそうだ。

 

 そこで私は天啓を授かる。そうだ、スカウトしよう。

 

 

 社長曰くティンときた!だが私の場合は頭にガンガンきた。断じて二日酔いの頭痛ではないと信じたい。

 

 

 こんな時の為にと765プロを出る際に音無さんから貰った私の名刺を取り出し彼女に渡す。

 しかし彼女は半信半疑。当然か。それもそうだ。どんな美男美女もアイドルなんて高校大学の進路相談で先生から進められる職業ではない。

 しかし社長の思いを聴き私は考えた。アイドルも捨てたものじゃない。彼の見た目は黒いが夢は輝いていた。嘘のような巨大な夢を本気で考えているのだ社長は。これまで芸能界などまるで興味はなかったが何故か私は社長の夢を笑うことはなかった。力になりたいと思った。

 

 

 だからこそ目の前の彼女はその夢を叶えるための一人になるのではないのかと感じた。

 

 社長が私に語ったこと私の言葉で彼女に伝えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は待ちに待った765プロ初勤務日だ。長かった。本当に…長い就活だった。これからは会社員としてリストラの憂き目に遇うことがないよう頑張らなければならない。

 

 またも765プロ前にスーツを着て慣れないワックスでセットした髪でやって来た。電話では普通に入り口から入ってくださいとのことだが一つ注意事項を言われた。今回は事務員や社長以外にも在籍アイドル達が数名いるので注意して下さいとのことだがなるほど。在籍アイドル達に失礼があっては確かにお互い今後の仕事で多く接触するのだ。ギクシャクしては確かに良くはないな。

 

 

 

 二階の扉から入ろうとするため階段を上がる。その途中上方で人の声が聞こえた。女性の声…?それも複数…二人いや三人か?二階に上がると扉の前で三人組の見知らぬ少女達が楽しそうに会話をしていた。

 少女達は扉の前に陣取り会話を続けており私はどうしようかと階段手前で逡巡していた所少女達の中の一人が私に気づいてくれた。

 

「琴葉~緊張してるの?」「アハハ♪ここまで来たら絶対男の新入社員さんに一番乗りで会うヨ!」「やややっぱり止めましょう二人とも!新入社員の方に失礼よ…っ!?」

 

 私の存在にいち早く三人組の中央の少女が気づき、続いて両脇の少女達が私を認識する。一気に六つの瞳が私に向けられる。ムム…どうやら会話の腰を折ってしまった。彼女達が恐らく765プロのアイドルかその候補なのだろうと推測する。彼女達の見た目は妹の未来より年上に見える。JKというものだろう。これは私の偏見もあるかもしれないがJKというのは魅力的な響きだが同時に恐ろしい存在だ。彼女達がその気になれば私のようなしがない男は一瞬で社会的に抹殺されてしまう。そして必ずと言っていいほどJKは徒党を組む。集団JKはもはや男一人では到底勝ち目などなく対抗しうるのは国家権力ぐらいだ。彼女等の機嫌を損ねてしまうのは私にとって不都合しかない。以前JKに囲まれカツアゲされた苦い記憶が蘇る。なんとかことを荒立てないようにしなければ。私は彼女たちに近寄り…、

 

「お話の最中にすみません。私はこの春から765プロに入社します春日と申します。」

 

 

「ワオ!ホントに男の人だよメグミ♪」「でしょでしょ♪事務所でも噂になってたからね~。」「二人とも彼の前で失礼よ!すみません。私は田中琴葉と言います。」

 

 あれ?意外と掴みは好印象?

 

「お気になさらず。ご丁寧にありがとうございます。それでは私は事務所に出社しなければ。さすがにいきなり遅刻はまずいので。」

 

「あっ、すみません。入り口の前で私達邪魔でしたよね。」

 

「あなた達、なにやってるのよ?」

 

 面接官…ではなく秋月律子が事務所のドアを開けて此方を睨んでいた。

 

 

「新入社員の春日さんに失礼があったら駄目だって言ったでしょ!」

 

 フム…私のせいで彼女らが怒られてしまった。ここはフォローしなければ。

 

「まあまあ、彼女達も悪気があったわけじゃないのですからここは穏便にどうか。」

「それに初出勤で緊張していましたが彼女達のお陰でリラックスできました。」

 

「春日さんがそう言うなら…。では事務所にどうぞ。社長や他のみんなも貴方を待っていますから。」

 

 

 

 

 

 新入社員が扉の向こうに消えた後、残された少女達は姦しく各々の感想を述べた。

 

「うわぁ…あの(ひと)、紳士だよ。琴葉。」「これが二ホンダンジってものだよネ。コトハ♪」

「もぅ、二人ったら…。でも確かに優しい方だったと思うわ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場を収め気を取り直して私は765プロのドアを開ける。そこには――――――

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

「へ?」

 

 

 扉を開けるとそこには妹がいた。

 

 

「未来…な、何故ここに?」

「でへへ~実は私アイドルになるため765プロのアイドル募集に応募したんだよ♪」

 

「アイドル!?未来が!?」

 

 

 私は驚愕した。あの未来がアイドル。しかも私が働く765プロの…。

 

「父さんや母さんは…、」

「未来の好きにしなさいって言ってくれたよ♪」

 

 実際は息子を守るため母親の強烈な要望によって父親が折れた。

 

 

 

「未来…どうしたの?っあなたはうどんの!?」

 

 

「なになに~、あ!王子さま♪」

 

 

 未来の後ろから以前出会った少女達が表れる。と言うことは彼女達も…、

 

 ざわ…ざわ…  ざわ…ざわ…

 

 

「おおっとぉ!あの(ひと)が茜ちゃん達のプロちゃん!?」

「私は事務員さんって聴いてるけど…病院だとあんまり男の人とは関われなかったし緊張します…。」

「う~ん…ザ・普通な見た目の(ひと)ですね♪」

「ままま、ましゃかアイドルちゃんだけでなく男の人も撮影できるなんて天国です~。」

「あ、あの程度の男性ならわたくし、ま‥毎晩のように社交界で会っていますわよ!」

「ふーん。あんな若い男の人が芸能界でやっていけると思ってるのかな?」

 

 なんだか色んな視線や気配や悪寒を感じるのは気のせいだろうか。いやいやきっと気のせいだろう。

 

 

 私が固まっているとそこに社長が現れる。

 

「春日くん待ってたよ。紹介しよう。彼女達こそ我が765プロが今期より手掛けるアイドル達だ!」

 

 

 

 

「これからよろしくね♪お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 早速カウンセラーに相談したくなった。




莉緒さんを秘書にして仕事がしたい(願望)


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野獣達の巣窟

シアターデイズのPVをずっとリピートしてました。
未来ちゃんの表情がまるで主人公のようだ。


本日も私は仕事の為765プロへと出社する。

 

 

この仕事をして分かったことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロデューサーという仕事は私に向いていない。

 

 

 

だってそうじゃないか…秋月さんの仕事を拝見すればプロデューサーの仕事は各アイドルのスケジュール管理に仕事先との交渉などまるでマネージャー兼管理職だ。

プロデューサーとはもっとクリエイティブな業種だと思っていた私は初日から肩透かしを食らった。

 

しかもプロデューサー業務は大学で習ったことが何も生かせられない。学校では仕事先の監督やスポンサーとの正しい会話方法など教えてくれない。十代の少女に対する正しい接し方なんて教えてくれない。

 

 

数ある私の蔵書を駆使しても八方塞がりであり、未だ現代の日本男子達が解決できない問題をこの仕事では嫌でも日常業務になってしまう。

 

 

入社時からは幾分か仕事にも慣れ、アイドル達との交流も深まりようやく全員の顔と名前を一致させることが出来たのは数少ない良い成果だ。

とは言えシアターアイドル達はまだ世間に殆ど認知されておらずそのための私だと高木社長に期待されるのは嬉しいが、プロデューサーとしての仕事は未だ律子さんの付き添いやレッスンを見る事しか出来ず、つい先日まで大学生だった私にいきなり任せられた重責に胃が痛い日々が続いていた。だが弱音を吐くわけにはいかない。

やる気がないと判断されてはもしもの時の真っ先なリストラ対象だ。今の世の中再就職先が直ぐに見つかるとは限らない。

 

だから私は今日も笑顔で入社する。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は765プロの個室に秋月さんから呼び出しをされている。

 

何か叱責を受けるのかと身構えたが秋月さんの嬉しそうな表情を見る限り、そうではないようだ。

 

 

 

 

 

 

「テレビ出演?本当ですか秋月さん。」

「そうです!我が765プロが今期より始動する劇場とシアターアイドル達を宣伝するために〇〇局でシアターアイドル達に出演してもらいます。」

「なるほど。凄いですね。いきなり出演出来るなんて。」

「と言っても春香達の番組の抱き合わせ出演ですけどね…」

「それでも凄いことですよ。まだ4月ですしシアターアイドルの殆どがテレビどころか本格的なアイドル活動もしていませんからね。」

 

自社のアイドルがテレビに出演出来るのは喜ばしいことだ。いくらバーターとはいえ専門チャンネルに出ることすら簡単ではないことは私でも分かる。それが地上波テレビに出演とは改めて765プロの業界での影響力を認識する。

 

「それでどういった内容の番組なんですか?」

「春香達の番組のアシスタントとして登場してもらう予定です。番組の最後には劇場の宣伝をシアターアイドル達に任せるつもりなんです!」

 

 

まだ新設間もない劇場の知名度を上げるためには地上波テレビでの宣伝はまたとないチャンスだ。ついでにシアターアイドル達も紹介出来れば当に一石二鳥だろう。

 

「それじゃあ早速皆に伝えてきますね。今日はレッスン室にシアターアイドル達が結構居ますので…」

 

「ストップです!春日さん!」

 

レッスン室に向かおうとした私を律子さんが制止する。

 

「どうしたんですか?まだ、何か?」

 

「話はここからです。実は出演出来るのはシアターアイドル達全員じゃないんです。」

「あ、なるほど…確かに全員はさすがに大所帯ですよね。」

 

所謂「765PRO ALLSTARS」と呼ばれる先輩アイドル13人に対して「765THEATER ALLSTARS」通称シアター組は37人だ。いきなり37人全員がスタジオに押し掛けるのはいくらバーターとは言え物理的にも番組的にも厳しいだろう。

 

 

「そうなると何人か出演アイドルを選別すると言うことですか。」

「まだ出演アイドルは決まっていませんがそうなりますね。なので今彼女達に伝えると余計に意識してしまうと思うので出演が決まるまでは教えないつもりなんです。」

 

「伝えた方が皆やる気が出るのではないでしょうか?」

「そういうメリットもありますけど殆どのシアター組はアイドル経験がありませんし所々でまだ集団に馴れていないアイドル達も居るのでここでいきなり彼女達同士で競わせるのはあまりいい影響を与えるとは思えなくて…ならいっそ秘密裏に選んだ方が恨まれるのは私達で済みますので少なくともアイドル同士でギスギスする事は無いかなと…」

 

秋月さんの考えは最もだろう。そして同時に自分の浅はかさを反省する。彼女達はまだ10代の超新人アイドルだ。仲間内で競争することもいずれは避けられないがまだ時期尚早だろう。

 

 

「そこで春日さんにも協力してもらって候補を何人か選んで欲しいんです。」

「私がですか?ですが私はまだ経験が浅いですし私で良いのでしょうか?」

 

「だからこそです。春日さんもプロデューサーとしての目を養うためにも仕事やレッスン中にこれだ!と思う娘を報告して下さい。責任を感じるかもしれませんがプロデューサーとしての第一歩だと思って頑張ってくださいね。」

 

さらっと頼まれたがこれは責任重大だ。テレビ出演が叶えばそのアイドルは他のシアター組と違い明確に大きなリードを手にいれるはずだが選ばれたアイドルにとっても大きなプレッシャーでもあるはずだ。

律子さんも言っていたが選ばれなかったアイドル達からは何故に自分を選ばなかったのかと非難されるかもしれない。

 

「お兄ちゃん、どうして私を選んでくれなかったの?もうお兄ちゃんなんて嫌い…」

 

 

 

「……」

胃が痛い。

 

「大丈夫ですよ!春日さん!この前も早速新しいアイドルをスカウトしてきたじゃないですか!社長も喜んでいましたよ。」

 

 

以前のゴタゴタによって急遽スカウトに成功した百瀬莉緒さんはあれから熱心にレッスンに励んでいる。あの時は酔っている姿しか見ていなかったが素面の彼女は見た目に反して実にしっかり者であり年長者として年少組をよくサポートしてくれて私はとても助かっている。

少し困っているのは何故か私に対してボディタッチが多くて困っている。百瀬さんのような美人にグイグイ迫られては向こうが冗談とは言えこちらがつい勘違いしてしまう。

それにあまり一人のアイドルに構い過ぎると他のアイドル達が良い顔をしないのだ。特に妹の未来や伊吹翼や最上静香等はすぐに機嫌が悪くなってしまうので贔屓はしないよう十分に気を付けている。

 

 

 

 

「今の話本当ですか律子さん。」

「志保!?…あなたいつの間に…」

 

振り返るとそこに居たのは北沢志保だった。

 

北沢志保。

 

中学生だが初めて目にした際は高校生かと思った程大人びていた少女。一言で彼女を言い表すなら、一匹狼、といったところか。しかし別に集団行動が出来ないわけではない。レッスンには真剣であるし私や秋月さんの指示にも一応なりとも聞いてくれる。私は何故か無視されることが多いが‥。

私の被害妄想かもしれないが彼女は私を煩わしく思っているようでまだ出会って間もないが私は彼女に嫌われている節がある。先ほども述べたが私の指示は無視するか素っ気ない態度をとるが同じことを律子さんが指示すると素直に従うのだ。何故だ…。

 

「盗み聞きは感心しないわよ志保。」

「すみません。でもテレビ出演と聴こえればアイドルとして気になるのは当然だと思いますが。」

「…しょうがないわね。まだ出演メンバーは決まってないからこのことは私たちが発表するまで秘密よ。」

「その出演メンバーの一人に私を出させてください。」

「あのね志保…はいそうですかって決めれるわけないでしょう。それにこんな決め方であなたを選んじゃ他の皆に角が立っちゃうでしょ?テレビに出たいのは貴女だけじゃないのよ。」

 

 

そうなのだ。北沢志保の特徴としてこの上昇志向は外せない。とにかく野心的と言うか仕事に対してストイックでありやる気に満ちている。新人アイドルとしては良いことかもしれないが今回のようにその熱意が行き過ぎてしまうことが稀に見られるのが彼女の欠点だと私は憂慮している。

 

「志保さん。秋月さん言う通りですよ。ここは私たちの選考に従ってもらえませ…」

「律子さん、私はレッスンでも同年代の誰より上だと考えていますしトレーナーの方の評価も高いと自負しています。遅いか早いかの違いです。なら今私を出演させると決めたっていいじゃないですか。」

 

これだ、彼女はことあるごとに私を無視する。明らかに意図的だ。今も目も合わせてくれない。

『落とし神の恋愛指南~THE GOD WORLD~』ではそういった娘は総じて恥ずかしがりやであり脳内ではあべこべにキツい態度をとっている主人公にデレデレなので思いきってアプローチしてみようと記されているが、北沢志保に限ってそんな事はあり得ないだろう。

 

志保の言動に律子さんも苛立ったのか語気を強める。

 

「いい加減にしなさい。そんなこと出来るわけないでしょ。それに自信があるなら回りくどい事しないで何時でも仕事が来てもいいようにレッスンをしてなさい。」

「…わかりました。失礼します。」

 

そう言い志保は不満げながらも去って行く。私は何も言えずその背中を見送る。

 

「まったく志保ったら…すみません春日さん。あの娘もやる気があるのは良いことだけど…」

「そうですね。彼女のやる気がもっと良い方向に向かうことが出来るように私もプロデューサーとして頑張りますよ。それと秋月さん、私のことはわざわざ名前で呼ぶ必要はありません。プロデューサーで結構ですよ。」

「そ、そんな…なら私のことも秋月じゃなくてり、り、り、律子と呼んでください。」

「いいんですか?なら、律子さん。プロデューサーとしてこれからも頑張りますのでどうか私にご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。」

「!…はい勿論です!私、プロデューサーにたっぷり指導しますね…たっぷり…ね?」

 

 

 

寒気がしたがきっとまだ春先だからだろう。

 

 

 

 

 

「うわ~律っちゃんデレデレだよ~亜美?」「デレデレだね~真美。」

 

「しょうがないよね~今までアイドルやプロデューサー一筋で頑張ってたもんね。律っちゃん。」

「そこに来てあのプロデューサーだもんね~そりゃ運命感じちゃうよね~。」

 

「それに新人ちゃん達も大分デレデレだよね~。これは一波乱あるかもしれませんな~♪」

 

「にシシシッたーのしぃ!わくわくが止まりませんな~♪」

 

二人のトリックスター達はこれから押し寄せるであろうハチャメチャに胸を踊らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は律子さんに謝罪しその場を去りレッスン室へ向かう。だが胸中は穏やかではない。

 

律子さんも甘い人だ。能力が優れた人間がより先頭に立つのは当然の事なのに…妙な気遣いでレベルの低い人間に合わせられるのは癪に障る。

 

 

レッスン室に入るとちらほらとアイドル達が思い思いのレッスンをしている。一部妙な輩も居るが…もう慣れた。いや、慣れてしまった。

 

 

まったく…もう戦いは始まっているのにどうしてここのアイドル達は皆能天気なの?

彼女等はまるで部活動でもしているようで見ているだけで腹が立ってくる。

私達は友達を作りに来たんじゃない…アイドルに成りに来たんだ。それに低ランクアイドルで終わるつもりはない。やるからにはトップアイドルになる。一位に成れなかったけど二位だから良いなんて、そんな妥協は絶対にしない。

 

 

 

 

「あれ?志保ちゃん、どこ行ってたの?」

「可奈…別にどこでもいいでしょう。」

 

矢吹可奈…その能天気なアイドルの一人。個人的にはアイドルと言うか、アイドルのような娘の一人。ボーカル組としてレッスンをしているがお世辞にも上手いとは言えない。と言うか酷いレベルだ。よく合格したものだと思っている。しかも現在まで大して上達していない。

 

 

「よっしゃ!バッターアウト!」

「うわー!歩の投げるボールほんとに曲がったぞ♪」

「へへーん!どうだ環!これがカーブだぞ!」

 

そしてレッスン室で何故か野球をやっている二人は大神環と、永吉昴。アイドル以前の問題だ。

 

「だーかーらー!茜ちゃんの可愛さを広めるためにまずは劇場に茜ちゃんショップを開店してね~」

「それがOKならロコはロコミュージアムを作ります!」

「なら私はアイドルちゃん達のお宝ショットを展示した写真展を…ムフフフフ~♪」

 

馬鹿なこと言ってるのが野々原茜、ロコ、松田亜利沙の三人組。この三人は見ていて頭が痛くなる。

 

「星梨花ちゃん。あのアニメ見た?」

「はい♪育ちゃんに進めて貰ったアニメ、とっても面白かったです♪」

 

箱崎星梨花と中谷育。

年齢的にしょうがない部分もあるがここは小学校の休み時間じゃない。

 

 

ここに来て最初に分かったこと、

 

 

765プロはどうかしている。

 

 

 

 

けど、田中琴葉や高山沙代子など、しっかりしている人達も居るには居る。だが、そんなまともを塗り潰すほどのおかしなアイドル達でシアターアイドルは構成されていた。初めて彼女等と対面したときはこの空間だけ別の国のような、まるで私だけが異邦人になってしまっているような感覚を覚えた。

しかも悔しいのは、そんな彼女達のアイドルとしての能力が私を上回っていることだ。

 

先程の律子さんへのアピールは少し誇張がある。私のアイドルとしての能力は高いと自負しているがそれでもまだまだ足りないところが多くある。

ダンスでは翼に遅れを取るし、ボーカルでは北上さんの方が上だろう。ビジュアルは…豊川さんにまだ勝てない。勝てないがまだであって絶対ではない。あと2、3年経ったらきっと勝てるはずだ。

 

自信のある演技でも周防桃子には劣っている。

 

事務所の中にも強敵は居る。だからこそまずは事務所内で優位を決定付けないとそもそもの仕事のチャンスが回ってこない。だからこそ私は彼女等より一歩でも先にでなくてはならない。ならないはずなのに彼女達は何の危機感もなく今も無駄な時間を浪費している。

 

……別に構いやしない。ライバルが減るのは私にとっても良いことだ。彼女等が努力を怠っている間に私は更にレベルアップをする。

幸いと言うか春香さん達先輩方にそれほど文句はない。強いて言えば私達に甘すぎる節が在るのは事実だが其処はポジティブに捉えている。先輩等がトップアイドルであるのは間違いない。そんな先輩達の後ろ姿を間近で見ながらアイドル活動が出来るのは大きなアドバンテージだ。

 

 

 

 

 

 

 

だが、最後にとても大きな問題がある。最近の私を悩ませ続けている問題が……

 

 

 

 

「ね♪ね♪志保ちゃん!プロデューサー見た?今日も素敵だよね♪」

 

「そ…そうかしら?別にいつもと同じでしょ…。」

 

 

 

 

そう。プロデューサーだ。一番の問題…諸悪の根元、もとい男のプロデューサー。

 

初めて目にしたとき私が思ったのは、

 

「男のプロデューサーが居るなんて聞いていない!」

だった。

確かに高木社長は男性だが所属契約を結ぶ際は、プロデューサーが若い男の人なんて何処にも書いていなかった。(書いてたら書いてたで問題だが…)

 

10代の女達が集まっているこの職場で20代の男を一緒に働かせるなんて高木社長もプロデューサーもどうかしていると言わざるをえない。

 

 

「カッコいいよねー、未来ちゃんのお兄さんなんだよねー、いいなぁ羨ましいなぁ。」

「貴女いったい何しにここに来てるのよ…男なんかにうつつを抜かしている暇は私達には無いのよ?」

 

嘘だ…本当は私も興味津々だ。うつつをヌキまくっている。

 

「うぅ…それは分かってるけどさぁ…プロデューサーさんみたいな男の人、私…テレビや漫画の中でしか見たことなくて…」

「男のプロデューサーに舞い上がる気持ちも分からないでもないけどいい加減冷静になりなさい。そんな浮わついた気持ちじゃいつまでたってもステージに立てないわよ。」

 

会うたびに興奮している。弟以外の身近な異性、大人の男性に私は毎日舞い上がっている。

 

「は~い…。それにしても志保ちゃんはクールだよね。プロデューサーが来てから事務所のみんなも様子が変わったよ?美奈子さんは毎日すごい量の料理をプロデューサーさんに作ってきて律子さんに怒られてたし、昴さんはプロデューサーの前だと急に女の子らしくなるし…他にも色々…」

 

「全くどうかしてるわ!これからアイドルデビューするアイドルが担当プロデューサーとどうのこうのなんて現実的に無理があるしあり得ないでしょっ。絵本だってもっとましな展開をするわ。」

 

期待している。スマートフォンで閲覧しているえっちなサイトにある荒唐無稽なとんでもな展開を毎夜毎夜ベットで妄想して悶えている。

 

「志保ちゃんの言うの通りだけどやっぱり気になっちゃうよ。だって男の人なのに凄く優しいんだよ?紳士だよ!日本男児だよ!それにすごく無防備でこの前なんか…シャツの第2ボタンまで外してたんだよ!む、胸板とか結構見えちゃってたよ!」

 

「プロデューサーの仕事だからよ。勘違いしない方がいいわよ?それにあまり露骨に見たらセクハラよ可奈。」

 

羨ましい!私もその場に居たかった…

 

可奈の言っていることは間違ってはいない。プロデューサーは私が出会ってきた男性の中で家族を除き堂々の第一位に輝く素晴らしい男性だ。しかも…しかも…滅茶苦茶エッチだ。無防備だ…誘っているとしか思えない。事務所のメンバーの何人かは露骨にプロデューサーを狙っている。私はもう眺めているだけで幸せだ。しかしどうしてももっと近くで眺めたいもっと近くで触れ合いたい…だけど…、

 

「みなさーん、お疲れ様です。」

 

「あ!プロデューサー!」

「プロデューサー!オレ…っじゃなくて、わっワタシ、レッスン頑張ってるぜ…ます。」

「アハハ♪すばる~また変なしゃべり方してる~。」

「う、うるせぇ!…ウルサイデスヨ…タマキサン。」

 

「プロちゃんプロちゃん!やっぱり茜ちゃん人形を全面にプロデュースすべきだと思うよ!」

「アカネ、抜け駆けはBANですよ!それよりプロデューサーはロコミュージアムに展示する裸夫画のモデルに…」

「ななななならっ亜利沙のプロデューサー写真集の作成に協力をっ!」

 

「プロデューサー♪わたしと星梨花ちゃんのデビューまだなの?」

「早く育ちゃん達とステージに立ちたいです♪」

 

「あはは…皆さん落ち着いて下さい。そんなに一度に聞けませんよ。」

 

 

プロデューサーがレッスン室に来た途端これだ。皆目の色が変わっている。

 

 

「あ…志保さん。」

 

「!…なんですかプロデューサー。いつかのチャンスのために私はレッスンで忙しいんです。」

 

「そ、そうですか。頑張ってください…。」

 

私の馬鹿…どうしていつもいつもプロデューサーに素っ気ない態度をとってしまうの?さっきもそう…結局恥ずかしくてまともにプロデューサーを正面から見れないし声もどもっちゃうから必要最小限でしか会話もしていない。折角アイドルとプロデューサーと言う絶好のシチュエーションなのにこれじゃプロデューサーに嫌われちゃう…。そうなったらテレビ出演のメンバーにも選ばれないかもしれない…。

 

 

 

 

レッスンが終わり皆一様に帰路に着く頃、私は一人レッスン室で自主トレをしていた。結局あの後もプロデューサーとはまともな会話も出来ず別れてしまった。

 

 

 

「どうしたら…」

 

 

一人レッスン室で弱音を吐く。その時…

 

 

 

 

「「しほりん、その願い聞き届けたり~!」」

 

 

「双海先輩!?」

 

現れたのは先輩アイドルの双海姉妹だった。

 

 

「んっふっふ~♪プロデューサーとお近づきになりたいんだよね~しほりん。」

 

「な!?そ、そんなこと…」

 

「隠さなくたって良いじゃんしほりん。兄ちゃんのこと狙ってるライバルは多いよ~?」

 

「そうそう!もたもたしてると誰かさんに兄ちゃん、お持ち帰りされちゃうかもね~?」

 

「それにライバルは事務所の中だけじゃないもんね~。兄ちゃんみたいな男が居るって知ったら怖~い芸能界が黙ってないよ~?」

 

「そんな!?…あ!いやっこれは…」

「ぐふふ、いやいや~いいんだよそれで~。」

 

 

「わっ私は別にプロデューサーの事は只のビジネス上の付き合いであってそれ以上なんて私は…私は…」

 

「何で否定する必要があるかな~?しほりんも兄ちゃんが危なっかしいのはよく分かってるよね?あんなに不用心だと今の世の中生きていけないよ~?」

「あんなおいちぃ獲物はすぐに狼女達の餌食だよね~。」

「いいのかな~?しほりんみたいな綺麗な女の子が黙って指をくわえて見てるだけ?」

「何を迷う必要があるかな~。奪いとっちゃえば~?」

 

「「今は悪魔が微笑む時代なんだよ!」」

 

 

「しっ失礼します。」

 

私はレッスン室を飛び出しそのまま逃げるように家路に着く。

 

道中私の心はぐちゃぐちゃだった。

 

 

プ、プロデューサーが私の物に…そうなったらあの肢体を思う存分…あの本やゲームみたいな事を…フフフ、フフフ…

 

 

 

そういえばプロデューサーは度々私達の胸をチラチラ見ていた。特に風花さんや可憐さんなどを…

以前母が女は男に見られると分かると言っていたがどうやら本当のようだ。

 

プロデューサーは女性に興味がある、そしてその視線はスタイルの良い女性に向けられている。この事から導き出される答えは1つ。

 

 

つまりプロデューサーはおっぱいフェチということなのよ!

 

 

私は店先のショーウィンドーに全身を写した。

 

スタイルなら自信はある。自分の体形が同年代に比べ突出している事は分かっている。風花さんや可憐さんには敵わないが私もプロデューサーの興味の対象なのは間違いない。

 

 

なら、やりようはいくらでもある。私は帰りを待つ弟のもとへと急ぐ

 

「…待っててね。もうすぐ貴方にお義兄さんが出来るわよ♪あと甥っ子も♪…フフフ♪。」

 

 

 

 

 

「もぅ…恵美ったら…。」

 

私は自室でスマフォのメール添付画像を見ながら狼狽した。視線の先には私達のプロデューサーが写っている。しかし画面のプロデューサーはカメラ目線ではなく明らかに隠し撮りされたのワイシャツ姿の写真が納められていた。

 

メールにはこう記されている。

 

 

ヤッホー\(^o^)/琴葉♪

亜利沙が激写✨した超お宝写真あげるよ~♪

これで夜が寂しくなくなるね(*´ω`*)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ゴクリ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこれぐらいにしておこうかな。」

 

私は部屋での自主レッスンを切り上げタオルで汗を拭きシャワーを浴びにバスルームへ向かう。

眼鏡を外し衣服を脱ぎ去り、シャワーのバルブを回す。

 

 

汗と一緒に疲れも洗い流すようなシャワーの心地好い温かさが全身を伝う。

 

湯船に肩まで浸かりホッと一息を着く。

 

 

 

 

先輩達や他のシアターアイドルを見れば嫌でも分かる…私の実力はまだまだだ。

今の私じゃとても事務所の看板を背負ってステージやテレビにはとても出演出来ないしさせてはくれないだろう。

今日も課題のダンスで脚がもたついてしまい律子さんに怒られてしまった。

 

だけど私は絶対にへこたれない…っ!

あの子との約束を守るためにも!

 

 

 

 

 

決意を胸にお風呂から上がり自室へと戻ると携帯がメールの受信を知らせていた。

 

 

 

……来たッッ!!

 

 

 

私は猛獣の如く携帯に飛び付きメールを確認する。正しくはメールの添付ファイルを。

 

「ふあぁ…すごい…っ、本当にプロデューサーのワイシャツ生写真だ…。」

 

 

 

送られてきたのは亜利沙ちゃんから一部を除きシアターアイドル達に無料配布されているプロデューサー秘密写真集『今日のプロデューサー』だ。

 

 

そのクオリティーは下手なグラビア雑誌やDVDを軽く凌駕していて女子中高生の夜に欠かせない存在となっている。

 

 

「えへへ♪私は今日も頑張りました。一杯褒めてください♥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

またも寒気がした。というかここ最近、765プロに入社してから謎の寒気が頻発している。一度に病院に行ってみようかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちーひっひっひっ!ちょっと手違いもあるようですが良い夢見てますね~♪でも私からは逃げれませんよー。」




リクエスト話も書いておりますので気長にお待ちください。


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リクエスト
シアターアイドルたちとプロデューサーがダイエット


大分間隔が開きましたが猫派で猫アレルギーさんのリクエストを元に投稿いたします。雑ですみません。

ミリシタ面白いなあ。


「健康診断ですか?」

 

「はい、会社としてアイドルたちや従業員の健康診断をしないといけませんからね。学校に通っている娘は学校が健康診断をしてくれていますので診断書を事務所に提出するだけでいいのですがそれ以外の人は会社が指定した病院で健康診断をしてほしいんです。」

 

ある日まだ入社間もない頃、音無さんから電話がかかってきた。

 

なるほど。確かに社会人として体は資本である。人間いよいよとなったとき最後に頼れるのは己の肉体だと多くの蔵書でも語られている。それらの本の中では人間は生身で宇宙遊泳やTレックスを捕食できるらしい。

私は無理だが。

 

 

アイドルにとってもプロポーションは大事だ。妹も中学生になりお洒落やダイエットに関心を示しやはり女の子なのだなと感慨深い思いをしたものだ。

しかしだ。しかしである。そも日本人女性の平均身長はだいたい155~160程度である。体重は約53㎏ほどであるが、日本人女性の特に十代から二十代は諸外国に比べて痩せすぎとの指摘もある。これは貧困による栄養失調というよりは現代社会の過度な美容による若い女性の間違った体重認識にあるのではないかと私は考えている。

 

その証拠に765プロに在籍しているアイドルたちもスタイルに特に気を使う職業であるという点を考慮しても多くのアイドルは痩せすぎであると言わざるを得ない。如月千早など特にその傾向が顕著であり162㎝の41㎏でBMI 15.62という痩せすぎというかガリガリである。体重など平均的女子高生の10㎏以上下回っており良い言い方をすればスーパーモデル並みのプロポーションだが悪く言えば拒食症或いは虐待の疑いすら持ってしまう。流石に芸能人の公式プロフィールのであるから幾分かのご愛嬌あるかと思っていたが律子さんや小鳥さんに聞いたところ765プロはそういったことは無いらしい。そうなるといよいよアイドルたちの健康が心配である。特に如月千早が。

 

「わかりました。今週中には病院にいきます。連絡ありがとうございます。音無さん。」

 

「いえ仕事ですから。それと健康診断は安心してくださいね。ちゃんとプライバシーに充分配慮するようにと病院には連絡しておきましたから。」

「そうですね。プライバシーは大事ですからね。それでは。」

 

全くもってそうの通りだ。昨今はプライバシーが漏れたり覗かれたりとアイドルにとっても女性にとっても不安な世の中だ。病院側には細心の注意を払ってくれなければならない。

 

 

 

そして当日。今日は健康診断に行くメンバーが纏まって仕事を早く切り上げ病院に向かうことになった。

私と共に病院に行くのは…、

 

「びょ、病院は以前勤務していたので分からないことがあったら何でも聞いてください。プロデューサーさん。」

「ウフ、レディの私に任せておきなさい♪」

 

 

 

ある意味もっとも対照的な二人を伴っていくことになった。

 

 

 

豊川風花

 

765プロの中でも抜群のプロポーションを誇る元看護婦アイドルだ。その特徴はなんといってもそのバスト。バストサイズだけなら765プロで三浦あずさを抜く堂々の93㎝であり更にはかわいさとセクシーさを兼ね備えた容姿を持ち間違いなくグラビアなら今すぐにでも大手雑誌の表紙を飾れると思っている。決して邪な目で見てはいない。本当だ。本当だとも。神には誓えないが……

 

馬場このみ

 

初めて彼女を目にした際は中谷育や周防桃子と同年代の年少組なのだと勘違いし仕事終わりにコンビニで酒を買う馬場さんを見たときは卒倒しそうになった。しかしだ、143cmの37kg。このスタイルでまさか24歳だといったい誰が信じるのであろうか。今でも信じられない。実は壮大なドッキリでしたと言われても納得できる。

 

この2人とは偶々偶然私の健康診断と日にちがブッキングし、ならば仕事終わりに一緒に行こうとなり現在指定病院に3人で向かっている状況だ。女性と健康診断など小学校以来だが平常心で望まねば。悲しいがアイドルとプロデューサーの恋愛などありえない。現実はファンタジーやメルヘンじゃないのだ。

 

 

「あの~プロデューサーさん……その……健康診断で分からないことがあったら何でも聞いてくださいね。私つい最近まで看護婦でしたので。」

 

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。健康診断くらい一人で受けれますよ。」

「……そうですよね。すみません。私なんかがしゃしゃり出て。」

 

「フフ♪風花ちゃんは随分プロデューサーに優しいのね。」

「べっ、別にいやらしい意味じゃありませんよ~!」

「いやらしいなんて言ってないわよ?」

 

 

(じゃましないでくださいよ、このみさん……。)

(風花ちゃんの思い通りにはさせないわよ。)

 

 

 

 

 

この通り大変仲の良い二人だ。

 

 

 

 

「へー結構大きな病院なんですね」

「そりゃプロデューサーがいますからね」

「え?どういう意味で……」

 

 

「「「お待ちしておりました!」」」

 

「765プロ様の春日さまですね!お話は伺っております!当医院に御越しいただき誠にありがとうございます!」

「え?え?」

「お連れ様もどうぞこちらへ。」

「はーい。それにしても流石ね。男の人がいると。」

「私が居た病院もこんな感じでしたよ。私も何度か担当になりましたけど気が休まりませんでした……。」

 

「あの、人違いでは……」

 

「いいえ!間違いございません!」

「当病院の威信を賭けて、全身全霊で検査させていただきます!」

 

「はぁ……よろしくお願いします?」

 

「「「お任せください!」」」

あまりの語気に鼓膜が震えた。

 

 

その後私は沢山の医師の方々に連れられ多くの検査を受けた。余りに大仰な病院の態度にひょっとして私の方をアイドルと勘違いしているのだろうかと思ってしまうほど懇切丁寧な健康診断だった。

 

 

 

 

 

 

「どうでしたかプロデューサーさん?」

 

 

「うーん、それが少し……。」

「えぇ!?どこか悪いですかプロデューサーさん!」

 

「いえ、大したことはないんですけど……内臓脂肪がちょっと多いらしいんです。」

 

「プロデューサーはそんなに太ってないわよね?」

「勿論あくまでも少しですけどね……きっとあれが原因ですし。」

 

「原因ですか?」

「大学卒業間近になって飲み会に出席する機会が増えたのが原因でしょう。それと美奈子さんが毎日大量に持ってくる手料理も大分お腹にきましたね……。」

 

「へ……へぇそれは大変ね……美奈子ちゃんには私の方からもせめて普通の量を作ってきたらって言っておくわ。」

 

(合コン!?合コンなのそれ!?てゆーかプロデューサーってそういう席に出てるってことは学生時代は意外と遊んでた?)

 

「そ、それって合コン……ですか?」

 

「結果的に合コンみたいな会も何度かありましたね。まぁ成功した試しはありませんけど。」

 

「そうですか、よかった……。」

 

(プロデューサーさん、どうせ無理だろうと思って諦めてた食事の御誘い……ひょっとしたらチャンスかも……。)

 

 

「お二人はどうでしたか?」

 

そう言ってから私は自分の失言に気づく。昨今は女性の年齢や体重を訊くのもセクハラと認定されてしまう世の中、健康診断の結果などまさにその基準にドハマリではないか……。

 

「すみません、失礼な質問で……」

 

 

 

「私は相変わらずの身長だったわ……。」

「私はまた胸囲が大きくなりました……ふえぇん……この前下着を新しく買い替えたばかりなのにですよぉ。」

 

「ちょっと風花ちゃん、プロデューサーの前でその……下着の話は……」

「あ、違うんですプロデューサーさん!別に変な意味はなくて、その、ごめんなさぃ。」

 

「いえいえ、お構い無く。」

さすが風花さんである。彼女は大変淑やかであり、成人男性としてはご褒美な情報を恥ずかしげに否定する女性なのだ。これは仕事の幅も拡げてみようかな……。

それにしてもまたバストが成長したのか……他のアイドル達も未だ未成年が殆どで日々成長しているはずだ。プロフィールを更新する必要があるかもしれないな。音無さんと相談してみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健康診断の翌日、今日も通常通り出社すると事務所の中が騒がしいのに気づいた。

 

 

 

「私……○○㎏だったよ……。」

「未来……貴女レッスンをちゃんとしてたの?」

「あははっ、みらいっちヤバイんじゃないの~。」

「う~。海美さんも●●㎏で青ざめてたって響さんが言ってましたよ。」

「ちょっ!?響さーん!」

 

 

「うぅ……胸がまたおっきくなってきたせいか○○㎏になってました……。」

「風花さんはまだましですよ~。女らしい体になっていくんですから結局+ですよ。アタシはただ脂肪だけが……」

 

「全く……アイドルとしての自覚が無いのかしらあの人達……。毎日規則正しく生活していれば問題なんて起きないのよ。」

 

 

 

 

 

「……入って良いのかな?」

事務所の中では非常にプライベートな女性同士の会話行われている。どうやら健康診断の結果を話しているようだ。

この部屋の中にいったいどうやって入れば良いのだ?とても男が入室できる雰囲気ではない。

 

 

「それにしても今日はプロデューサー遅いですね。いつもはこの時間にはもう出社してるのに。」

 

不味い。このままではアイドル達に私が職務を怠慢しているように見えてしまう。ここで立ち往生していても仕事にならない。仕方ない。恥を偲んでここは事務所に入ろう。

 

 

「おはようございます。皆さん。」

 

事務所に居たアイドル達が一斉に此方を向いた。

 

「あ!お兄ちゃんおはよう!」

「……おはようございますプロデューサー。」

「今日も格好いいねプロデューサー!」

 

 

 

良かった……扉の前で盗み聞きしていたのはばれなかったようだ。もしばれたらきっと軽蔑されてしまうだろう。志保なんかに知られたらプロデューサーの威厳など地に堕ちるだろう。

 

 

 

 

「お兄ちゃん聞いてっ、私ダイエットします!」

 

「ダイエット?」

「うん♪だから今日のレッスンはいつもの3倍でお願い!」

「おぉ~♪いいね未来、アタシも今日はいつもよりバリバリ動いちゃうよ!」

「のり子さんまで……無茶なこと言わないでよ未来。」

「えーどうして静香ちゃん?」

「どうしてって……そんなに直ぐに痩せられるわけないでしょ?日頃のレッスンや食生活を改善するのが一番よ。」

 

「あら?そう言う静香も最近むくんできたんじゃない?うどんの食べ過ぎで。」

「……志保、うどんのせいにしないで。うどんは悪くないわ。」

「そうね、ごめんなさい。うどんじゃなくて誰かさんの意思の弱さのせいよね?」

 

「…………」

「…………」

 

 

「し、志保ちゃん。静香ちゃん。落ち着いてくださいぃ。」

 

「「風花さんは黙っててください。」」

 

 

 

いけない、別の意味で不穏な空気になってきた。何とかしないと……

 

「そうだ、みんなでレッスンしましょう。最近のレッスンにもなれてきたようですしいつもよりもハードにしてやってみませんか?」

 

「あれ?でもプロデューサーさん、今日は自主レッスンの日でトレーナーさんは居ませんよ?」

 

「大丈夫ですよ。こんな時もあろうかとレッスン指導本を持ち歩いています。」

「流石お兄ちゃん♪」

 

 

765プロに電流走る。一拍置いて志保が狼狽しながら問い掛ける。

 

「プロデューサーが教えるんですか!?」

 

「ええ。私も律子さんのようにアイドルのレッスンを指導出来るようになりたいですから。」

 

これについては以前から私が思っていた事だった。律子さんは現在アイドル兼プロデューサーと言う非常に多忙なスケジュールをこなしながら竜宮小町のレッスンを自ら監督し更にはシアターアイドル達の指導も行っている。765プロのプロデューサーとしてあまりの圧倒的差を見せ付けられ意気消沈したのも事実だがそれよりも彼女の多忙すぎる業務を少しでも自分が肩代わりできたらと常々思っていた。

 

 

「ヤッター!お兄ちゃんが教えてくれる~♪」

「ちょっと未来落ち着きなさい。しょうがないわね。貴女じゃプロデューサーに迷惑が掛かるかもしれないから私も一緒に付き合うわ。」

「ずるいずるい!私も参加させて。プロデューサー、私脚線美なら自信が!」

「全くです。私もアイドルの一人としてレッスンを欠かす訳にはいきません。断じて。」

「プロデューサーとレッスンかー!アタシも気合い出てきた!」

「わ、私も参加しようかな~♪」

 

 

「そうですか、皆さんありがとうございます。」

 

みんなの反応は結構良い。私もようやくプロデューサーとしての信頼を得始めているのだろう。

 

 

早速765プロのレッスン室へと移動すると少し遅れてレッスン用の動きやすい服装に着替えた未来達が来た。

 

「よし、皆さん揃いましたね。」

「お待たせーってお兄ちゃんその格好でレッスンするの?」

 

未来の言葉で私は自分がスーツ姿だったのに気付いた。

 

 

(いけないいけない。早く着替えねば……)

 

私は上着に手を掛けスーツを脱ぎネクタイを緩めカットシャツのボタンを外していく。

 

「ぶっ!?」

「なぁ!?」

「お、お兄ちゃん!?」

 

「ん?どうした未来、皆さんも?」

アイドルが突然動揺しだし私は困惑する

皆、私に注目しているのだ。あの志保ですら私をまばたきもせずガン見している。

いったい何が?

 

「ここで脱がないでよ!お兄ちゃん!私達がいるんだよ!?」

 

「そ、そうだな……皆さんすみません。」

 

迂闊だった。確かに女性の前で着替えるのは失礼だろう。年頃の未来達にとっても男の着替えなど見たくはないはずだ。

「お待たせしました。」

そそくさと裏で着替え終え気を取り直して全員の前に立つ。ちなみに上着は季節も暖かいので半そでのスポーツインナー一枚を素肌の上に着て、下も同じくハーフパーツ着ている。

 

 

 

 

「お……お兄ちゃん……それでするの?」

「うわぁ……えっろっ。」

「インナー……ハーフパンツ……いい!」

 

先程とは違った空気が流れているのは何故だろうか?

 

 

 

「えー皆さん。ケガをしてかは元も子もないので先ずは簡単な準備運動から始めましょう。」

 

 

 

「「「イチニ!イチニ!イチニ!イチニ!」」」

 

 

おぉ。流石アイドル、皆すごい声量だ。やる気が満ち溢れているぞ。

 

「はい、準備運動は終わりです。いよいよ特別レッスンに移ります。まずは……」

 

私は資料を確認した。ちなみにこのレッスン本は普通のレッスン本だ。なんのへんてつもない。だからこれからするレッスンも普通だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

765プロへと続く階段で二人の女性が会話をしている。

 

 

 

 

 

「この前の健康診断もう大変だったわよ?」

「でもプロデューサーさんと一緒だったんですよね、このみ姉さん!」

「そりゃそうだけど本当に大変だったわよ?お医者さんは大勢で出迎えるしプロデューサーは患者服で薄着になって目のやり場に困ったし……」

「めちゃくちゃ羨ましいじゃないですかぁ!」

 

「まったくもう……莉緒ちゃんはプロデューサーにラブラブねぇ。」

 

 

莉緒ちゃんの気持ちは分からないでもない。確かにプロデューサーは格好いい。ついでにえろい。すごくえろい。アダルトな魅力に満ち溢れていて初めてみたときアイドルかと思った程だ。そんなプロデューサーに私を含めて好意を向けているアイドルは多い。一部はしばしばやり過ぎな行動をして怒られているが……。

 

 

「プロデューサーや他のみんなの前じゃちゃんと自重しないとね?」

「は~い。」

やはり女としてプロデューサーのような男が身近に居れば誰でも平静では居られないがここは大人組の一人として私や莉緒ちゃんはしっかりしないといけない。

 

 

「みんなープロデューサーただいま~、あれ、居ない?」

 

事務所の扉を開けるとそこには誰も居らずもぬけの殻となっていた。

 

「このみ姉さん、レッスン室じゃないかしら。」

「なるほど。行ってみましょ。」

 

 

私達は事務所3階のレッスン室に向かう。すると突然レッスン室の扉が開き誰かが倒れるように飛び出した。

 

 

「きゃっ、なに、いったい……」

「あれ?海美ちゃんじゃない。どうしたの?」

飛び地してきたのは海美だった。

 

 

「も……もうダメ……堪えられないよぅ……。」

 

見れば海美の顔は赤く紅潮し額に大量の汗を滲ませ荒く呼吸をしており明らかに異常な状態であった。

 

「だ、大丈夫!?どこか具合でも悪いの?」

 

「ちが……レッ……ス……ンが……プロデューサーが……」

 

 

「レッスン?プロデューサ?どうゆうことこのみ姉さん?」

 

「海美ちゃんがこんな状態になるなんていったいどんなレッスンをしたのよプロデューサー。ちょっと文句言ってくるわ!」

「あっ、待ってこのみ姉さん~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けるとそこは地獄だった。

 

 

 

 

まず最初に感じたのは部屋中に充満した熱気とむせかえるような女の匂い。思わず眉を潜めたがその次に目に入った光景に私は言葉を失う。

 

 

「あっ、このみさん、莉緒さん、お疲れ様です。実は今ちょっと困ったことになってまして……。」

 

 

 

「ぷ、ぷ、ぷ、プロデューサー!なんて格好してるのよ!?」

 

「これですか?実は今居るシアターアイドル達と一緒にレッスンをしていたんですよ。だから私も動きやすい服装に着替えて……」

 

 

「そう言うことじゃなくて!」

 

「どういう事ですか?」

 

「だから……その……汗で上半身が……色々見えて……」

 

「?」

 

プロデューサーの現在の服装はまさに常軌を逸している。スポーツインナーとハーフパンツ姿でただでさえ薄着になって露出が増えているのに加えて汗で上半身がモロに透けて見える。色つきならまだしも白と言うところが余計透過を鮮明にしていやらしさを増加させている。まるでそういうパッケージ写真のような非現実感と如何わしさがむんむんと醸し出されている。コンビニ雑誌の成人コーナーだってもっと節操がある。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……このみさん、邪魔しないでもらえますか?今レッスンの途中なので。」

「そ、そうですよ。プロデューサーさんのレッスン、もっと受けたいですし……。」

「あ、アタシもまだまだ全然イケるからもっと来て大丈夫だよ……はぁ……はぁ。」

 

「うぅ、皆お兄ちゃんを見ないでよ~。」チラ

「未来だってさっきから見てるじゃないの。すみませんプロデューサー、私は真面目に取り組んでいるのにみんなが騒がしくて。」チラ

 

 

酷い……とにかく酷い……。

 

 

そこにいたのはアイドルではなくただの女。皆異様に目をギラつかせ、獲物を狙い定めている。

 

いったい私達が来る前に何が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では始めに柔軟体操をしましょう。レッスン前にしっかりと身体を伸ばして怪我を予防しましょう。」

 

「あ♪柔軟なら私、自信があるよ~。」

「そうですか。なら私と一緒に手本になってくれませんか?。」

「はいはーい任せてね♪」

「ではオーソドックスな開脚ストレッチをしましょうか。海美さん、私が背中を押しますから。」

「アハハ♪私に補助なんていらないと思うけどね……っ!?」

「どうしました?」

 

私は海美の肩に手を置き補助体勢を取る。確かに海美の言う通り彼女の体は女性ながら非常に引き締まっておりそれでいて確かな柔らかさがある。通常、素人ならば開脚と言ってもほとんど出来ないものだが、彼女は既に百八十度足を開いておりバレエの経験があると聞いていたがその効果は十分なようだ。

 

「い、いや~あはは…あれー何だか体固くなっちゃったかな?プロデューサー、やっぱり押してくれる?」

 

(プロデューサーの手が私の肩に!ラッキー♪なるべく長く触って貰おうっと♪)

「?……そうですか。分かりました。では皆さんもよく見てて下さいね。」

 

(えーと本の中ではここで……)

《※》

『押すときは手を相手の腕か足を掴み胸で背中を押してあげましょう。あててんのよ。的な。』

 

(え!流石にそれはセクハラなのでは……。)

《※》

『大丈夫です。すべてはluckyとtroubleで誤魔化せます。それに相手も悪い気はしないですよ。』

 

(本当ですかぁ?)

《※》

『本当ですチヒ……おっとっと。本当ですよ未来の敏腕プロデューサーさん。さ、男は度胸、何でも試してみるものですよ。』

 

 

「分かりました。押しますよ。それ!」

私は本の指示通りそれほどでもない胸板で海美の背中を押した。

 

「はう!?」

 

「ちょっとお兄ちゃん!?」

「プロデューサー、なんてことを!」

 

海美が変な声を上げ未来と志保が驚いた。ヤバい、いくらなんでも怒られる……。

 

「す、すみません……海美さん。」

 

私は海美から離れようと手を離すと、

 

「ま、待って!プロデューサー、大丈夫!私大丈夫だから今の続けてちょうだい!」

 

「ちょ!?海美、あんたねぇ!」

「柔軟だから!何の変鉄もない只の柔軟体操だから!!」

「海美さん……最低です。」

 

「えーと……続けて良いんですか?」

 

「ももももっちローン!全然大丈夫だよ!てゆーかもっと押しても大丈夫だからぎゅ~とやって、お願いします!」

 

「それでは……そーれ。」

 

「ふおおぉ!?」

 

「もういっちょ」

「んああぁ!」

「ぎゅ~!」

「ああっ!ダメッヤバいってそこは……アッー!」

 

 

「ふう~流石は海美さん、関節の柔らかさは目を見張るものがありますね。……海美さん?大丈夫ですか?」

 

彼女は足を百八十度開脚して上半身を床に突っ伏したお手本のような姿勢から何故か起き上がらなかった。僅かに身体全体がビクビクと痙攣しているようにも見える。

 

「だ、大丈夫。それより……と……トイレに、行って……きます。んんっ!」

 

海美は内股になりながらレッスンルームから消えていった。ハテ……柔軟は無理をしなかったが本当に大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

「志保。」

「ええ……静香、分かっているわ。」

 

 

二人は既にこれがレッスンではない事に気付いていた。これは天国にして地獄。壮絶な生殺しのキリングルームた。

 

「海美さんは先走って欲に負けたわね。都合四度に渡るプロデューサーとの密着。プロデューサーの雄っぱいによる計八回の接触は16才のアイドルでは耐えられなかったようね。」

「全ては海美さんの浅はかさが招いた敗北。処女には濃すぎる体験だったようね。」

「海美さん処女なの?」

「そうに決まってるわ。あれが非処女の対応に見えた?」

「見えないわね。そうね、海美さんは処女。これが事実よね。」

「とにかく私達は出来るだけ長く理性を失わずにこのTo LOVEるを享受しましょう。良いわよね志保?」

「共同戦線ね。良いわ静香。」

 

 

(海美さん良いなぁ。あんなにプロデューサーに触ってもらえて私も……って何考えてるの私!そんなイケナイこと考えてるなんてプロデューサーさんに知られたら間違いなく嫌われちゃう……。)

 

 

(うぬぬ……おのれ海美のやつ~。私が未だ握手も出来ないのにあんな激しいボディタッチをするなんて……うーらーやーまーしーいー!)

 

(お兄ちゃん……全然嫌がってなかった。とゆーかみんなの雰囲気も何だか怪しくなってきた。お母さん、これが羊の皮を被った狼ってこと?)

 

早くも高坂海美が脱落したレッスンチームは一名を除き不穏な空気を漂わせながら次の段階へと移った。

 

「えーとでは簡単なステップから始めましょう、」

私は指導書を頼りに進めていく。

《※》

『この時指導者は手本となるように少しオーバーに見えるくらいにやりましょう。衣服がはだけるくらいに元気に跳ぶとなお良いでしょう。』

 

なるほど、それくらい勢いをつけろと言うことか。

 

「よっ、ほっ、はっ、」

 

身体能力では日々のレッスンで鍛えられている彼女達には叶わなず人に見られるのは気恥ずかしいがせめて元気だけは自ら手本となり示さねばプロデューサーとしての沽券に関わる。さあ皆、私の頑張りをしっかりと見てくれ!

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 

 

あれ?何故か無反応?

 

「お、お兄ちゃんっその、見えて、あの…。」

「未来は黙ってて。」

「そうよ未来。折角プロデューサーが私達にお手本を見せてくれているのにいくら兄妹だからと言っても失礼よ。プロデューサー、続けてください。」

 

「は、はい。では私が今行ったステップをワンセットとして皆さんもやってください。その後徐々に動きを増やしたりセット数を増やします。」

 

「なるほど~だんだん辛くなってくるやつだね。楽勝だよ!」

「うぅ……ダンスはそんなに得意じゃないですけどプロデューサーの為なら頑張ります。」

 

 

流石はアイドル達だ。私は見本のステップを軽く数十秒踏んだだけで早くも息が乱れてしまったが彼女達は難なくこなしている。ダンスタイプではないアイドル達も私など足下にも及ばないし十分伸び代がある。

 

 

 

 

「はい、ステップはそこまでです。次は音楽に合わせてもう少しダンサブルなレッスンをします。」

 

 

「ステップも良いけどやっぱり曲がないとノリが違うよね~。」

のり子のテンションが上がった。やはりのり子は元気が良いな。

 

「曲はTHE IDOLM@STERです。まずは私がお手本を見せます。」

《※》

この際思い切り仰け反ったり跳び跳ねて襟袖から素肌が見えるくらい見せ付けると興奮。

 

……興奮ってどうゆこと?まあ良い。こんな日がいつ来ても良いように密かに練習した私のダンスを見せる時か来た。行くぞ!

 

 

 

「うぇっ!?ちょっとプロデューサーそんなに仰け反ったら……」

「のり子さん……レッスン中の邪魔になりますから静かにしましょう。」

「いやでもあれは……てゆーか風花さんキャラちがくない?」

 

「なんで止めるの静香ちゃん志保ちゃん!お兄ちゃんが……お兄ちゃんがあんなことになってるのに!」

「よく考えて未来。この至高の時間を無にすべきじゃないわ。」

「そうよ。折角プロデューサーがレッスンをつけてくれているのよ?」

「絶対違うよ!皆お兄ちゃんをエッチな目で見てるでしょ!」

「まさか?プロデューサーに対してエッチな気持ちなんて無いわ。ねえ志保。」

「そうよ、えっちなのはいけないと思うわ。ねえ静香。」

「未来ちゃん、ちゃんと集中しなきゃダメですよ♪」

「えぇ!?風花さんナンで!?。」

 

「ゼーお……ハー終わりました。……ハーゼー皆さん……やってみて下さい……ゴホゴホ」

 

「大丈夫ですか?プロデューサーさん」

「風花さん……な、何のこれしき……いい汗をかきましたよ……オエ。」

 

(本当は今すぐ横になりたいが男の私が先にダウンするわけにはいかない。皆が見てるからつい張り切ってしまった……。)

 

だが流石に辛いので私の指示で皆が音楽に合わせて踊っている間に座り込み息を調えていると未来が近寄ってきた。

 

「お兄ちゃん。」

「未来?」

「無理しないでね。そんなに体力ないんだから。」

「うっ……気付いていたのか。」

「妹だもん。それに今なら皆がダンスしてるからちょっとぐらい休憩しても大丈夫だよ。はいお水。」

「未来……ありがとう。未来は本当にいい子だなぁ。」

「デヘヘ、どういたしましてお兄ちゃん♪」

 

 

全く本当に優しい妹だ。小さな頃はパパやお兄ちゃんと結婚するなんて言っていた未来も今やアイドルの卵だ。いつか未来も誰かと結婚すると考えると実に複雑だ。未来の男の趣味を疑うわけではないが金髪ピアス浅黒男なんて連れてきたらどうしよう。泣いちゃうかもしれない。マジで。

 

 

(うわあああ!汗だくのお兄ちゃんヤバい!エッチだよ!?スッゴいエッチだよーッ!首筋ヤバい!汗が伝って濡れて光ってるよ。舐めたい!ダメダメ私達は兄妹で血が繋がっててるからそんなこと出来ないよ!でも見るだけなら……見るだけなら大丈夫だよね!?)

 

 

春日未来14才。思春期に差し掛かった彼女の性癖は実の兄によって確実に歪んでいった。

 

 

「あっ」

 

小さな悲鳴を上げたのは風花さんだった。どうやら足がもつれて倒れてしまったようだ。

 

「豊川さん大丈夫ですか?」

「すみませんプロデューサーさん。私、ダンスとかステップはまだ上手く出来なくて……」

「大丈夫ですよ。そのためのレッスンなんですから。一緒に頑張りましょう!」

「は、はいっ!私、プロデューサーさんの為に頑張ります!」

 

 

 

 

(うわぁ……プロデューサーさんやっぱり格好いいなぁ。私みたいな胸のおっきい女にも優しくしてくれるし本当に好きになっちゃいそうだよぅ。)

 

自分でも中々の励ましだったと思う。これが社長の言うところのパーフェクトコミュニケーションと言うものだろうか。

 

しかしここで思わぬ事態が発生した。風花さんに近寄って分かったが、風花さん……むちゃくちゃエロい。

以前から分かっていたが薄着になったことによってどうしても93㎝のバストが自己主張を強めレッスンで若干汗ばんだ素肌に衣服が張り付き余計にシアターアイドルトップクラスのプロポーションが私の煩悩を刺激する。

 

(まずい……変な気分になってきた。ついつい視線が胸元に行ってしまう。だが女性はそういった視線に気付きやすいと聞く。だけど目が!眼球が勝手にあの双丘を視界に捉えて離さないんです!)

 

 

私は何とか他に視線を向けたがここでさらに悪いことに気付いた。

端的に言ってここにいるアイドル全員エロい。汗と薄着のコンボは強力だ。加えて疲労による意識の乱れからか普段よりも皆無防備で一瞬一瞬の仕草がとても健康的エロスに満ちていた。

 

(これ、写真集出したらスゴい売れるんじゃないかな?いやしかし未来のこんなあられもない姿を全国に晒すわけには……)

 

 

一通りダンスが終わるとアイドル達にもいくらかの疲労の色が出始めてきた。いつもならここら辺で休憩を挟むのだが彼女等たっての希望によって水分補給だけ取り次のレッスンに移った。

 

「そろそろ皆さんも疲労が溜まってきたと思いますがここで一気に負荷を掛けたいと思います。次はマリオネットの心を踊ってもらいます。」

 

 

「うわーその曲かなりキツいんだよね。」

「美希先輩でも息が上がるぐらいですからね。」

 

「大変だと思いますがここで頑張る事で皆さんの為になると思います。」

 

「よーし、春日未来!頑張ります!」

 

 

 

 

 

「ふにゃぁ……。」

「もう無理……足がパンパン……。」

「くっ……確かにかなり足と肺に来ますね。」

「一瞬うどんが手を降っているのが見えたわ……。」

 

 

曲が終わるとアイドル達は一斉にその場にへたり込んでしまった。

 

「皆さんお疲れ様です。かなりエネルギーを使いましたね。私も大分汗をかきましたよあはは。」

 

私はインナーをパタパタと上下させ熱気を逃がした。あまり見た目はよろしくないが女性には出来ない男性ならではの涼みかただ。

 

 

「「「…………」」」

 

おかしい……今日何度目かのいくつもの視線を感じた。

 

「……あの、何か?」

 

「いやいやっ何でもないよ!プロデューサー!」

「そっそうですよ。ちょっとうどんの精が見えただけです。」

 

「みんなお待たせ―!」

 

扉を勢い良く開けて先ほどトイレに向かうといった海美が戻ってきた。どことなくスッキリした顔だ。

 

「おっそいよー海美。もうレッスン終わっちゃたよ。」

「随分長いトイレでしたね。何してたんですか。」

「な、何って……トイレだよ。」

「へー」

 

「あ、あははは……いやーそれにしても残念だなー!私まだまだ動き足りないよー。」

 

海美の発言で私は良いことを思いついた。

 

「丁度いいですね海美さん。皆さんにアイシングを教えるので一緒に見本になってください。」

「へ?」

 

「アイシング込みのレッスンですからね。筋肉を酷使した後はしっかり休ませることも大事ですからね。さ、こっちに来てください。」

「へ、へ?」

「それは良いですね海美さん。是非私たちの手本になってください。」

「そうですね。私達にはとてもそんな刺激的な真似できないわ。」

「……ご愁傷さまです。」

「バイバイ海美。」

「お兄ちゃん……ひょっとしてわざとしてる?」

 

「……」

 

「海美さん、さあ此方に。」

 

 

 

 

 

「ウボァ―!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんなことが……」

 

あの後未来ちゃんに事の顛末を聞き私は頭が痛くなった。思春期まっしぐらの彼女達にとってプロデューサーのレッスンは刺激的を通り越して破壊的だろう。私だって今の話を聞いただけでちょっと興奮してきた。莉緒ちゃんはなんでその場にいなかったのかと壁を叩いて悔しがっていた。

 

「あの~このみさん。ひょっとして私、なにか間違ってしまいましたでしょうか?さっきから未来が口を聞いてくれなくて。」

 

そして最大の問題は当のプロデューサーが全くの無自覚だということだ。何なんだこの男は?自分の魅力に気づいていないの?馬鹿なの?

 

「とりあえず着替えたら?汗もすごいし。」

「あ、はい。」

「ここで脱がないで!」

「あ、すみません。」

 

プロデューサーは私たちの前で上着を脱ごうとしたので慌てて止めた。プロデューサーのうっすらと浮き出た肋骨が図らずも見えてしまい止めるのをやめようかとも思ったがもしそんなことをしたらレッスン室が血まみれになるか逮捕者が出てしまうのでしっかり止めた。見渡せば全員しっかりとプロデューサーを見ていた。マセガキ共め。

 

 

 

 

 

今日はかなりいい仕事をしたと思う。自分のやりたかった事を出来たし皆も頑張ってくれた。海美は少し張り切りすぎたようでダウンしてしまったが。反省はあまりよく理由が分からないが未来に嫌われこのみさんに「こいつ何考えてんだ」的な目で見られながら怒られた事だ。

 

 

「何はともあれいい汗もかいてプロデューサーの株も上がったかな。このレッスン本のお陰だな。この調子で今日も一日頑張るぞ!」

 

 

 

 

その日シアターアイドル達は若干下半身をモジモジさせながらアイドル活動をしたとかしなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 




ご要望に沿えたかどうかは分かりませんが暇潰しになれば幸いです。他のリクエストも忘れていないのでご安心下さい。活動報告でリクエスト受付中ですのでよろしければどうぞ。
ボチボチ他の作品も更新しようかと思います。もちろんこの作品も。(*´ω`*)


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