やはり俺が戦車道で有名なのは間違っている (雨時々飴)
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俺が生徒会室に呼び出されるのは間違っている

導入部分は短めに


 青春とは嘘であり、悪である。青春を謳歌せし者たちは、常に自己と周囲を欺き、自らの取り巻く環境の全てを肯定的にとらえ、思い出の一ページに刻むのだ。

 青春を謳歌する者たちは自分達が誰かを踏み台にして、輝かしい青春を満喫出来ているなんて毛頭も思っていない。

 ノーベル賞を受賞した科学者しかり、戦車道で強豪と恐れられ名を連ねる多くの人々も、彼等を支えた人や地盤を作ってくれた人達のお陰で有名になれた。

 しかし、彼らにとってはただの裏方もしくは部下に過ぎない。

 リア充達もそうだ。

 自分達がリア充になれたのは周りの人達を利用したからだ。

 友に女を紹介してもらい、友が気になる意中の女子との距離を縮めるべく協力させて青春を満喫出来ている。

 それも気付いていないリア充共は絶対的悪だ。

 結論、リア充は罰せられるべき。

 

 

 

 

 

「比企谷ちゃん、なんで呼ばれたか分かってる?」

 

 

 県立大洗学園の一室。

 俺こと比企谷八幡は、パッと見小学生にしか見えない生徒会長角谷杏に呼び出されて生徒会室に赴いていた。

 見覚えのある作文を俺の目の前で振りながらしつもんされたら『Yes』、『はい』しか言えないじゃないですか。

 

 

「作文のことですよね」

「ううん、違うよ」

 

 

 違うのかよ!?

 えっ、じゃあなんで俺の作文持ってるんですかね!?私気になります!

 というか、作文でなければ呼び出される身に覚えがない。

 毎日迷惑かけないように誠心誠意努力してるし、自分で言っちゃなんだが一部を除けば成績優秀だ。

 

 

「じゃあなんで呼び出された理由が分かりませんね」

「ふーん、比企谷ちゃんさ。西住みほって知ってる?」

 

 

 西住みほ。

 戦車道を代表する流派の家系に生まれた次女。

 姉の西住まほと共に西住流を伝承する人間。

 そして、ある大会で失態を犯してこの学園に転校してきたクラスメート。

 知らない方がおかしい。

 

 

「まぁ、人並みには」

「西住ちゃんに聞いたんだけどね。比企谷ちゃん、戦車の整備が出来るんだって?」

 

 

 ここで一人の少年の話をしよう。

 少年も西住みほと同じく、戦車道と関わりある家系に生まれた。

 しかし、少年は生まれた性が男であった為に戦車に乗ることは出来なかった。

 少年の周りにいた大人は落胆し、何故に女の子が生まれなかったのかと嘆いた。

 しかし、その後妹が生まれ、周りの大人達は大いに喜んだ。

 妹は生まれた瞬間から戦車道に縛られる運命が決まった。決まってしまったと言うべきか。

 逆に少年は男で生まれた為に自由を約束された。

 由緒正しき家系で金の心配がなく、男である少年には構わない大人であったため

 門限もない。

 少年は男で恵まれた境遇に甘え、欲しい物を買い、毎日帰ってくる度に嫌な顔をする大人達から逃げるように外を徘徊した。

 しかし、ある日少年の人生は変わった。

 いつものように少年は日が暮れた時間に帰宅した。

 周りの家々は消灯してしまった夜遅く、流石に説教は避けられないのを避けるべく裏口から逃げ込もうと中庭に出ると、動き回る戦車。

 少年の家で戦車に乗るのは妹ぐらいだ。

 少年は思わず戦車に近寄り尋ねてしまう、『お前、何してんだよ』と。

 妹は戦車から顔を出し、『戦車の練習だよ』と答える。

 少年は言う、『練習って、お前戦車道嫌いだろ』

 少年は知っていた。無理矢理押し付けられた重圧に妹が苦しんでいる事も、重圧の原因である戦車道を嫌っていることも。

 少年はーーいや、俺はそれを知っていて、見ないふりをして逃げた。

 見ないふりをしていた事実に俺の心はすり潰されるような罪悪感に苛まれた。

 最低な兄、そんな兄に小町は何を言うのか恐怖が襲う。

 しかし、小町の答えは『私が頑張ればお兄ちゃんは自由でいられるでしょ?家の中じゃ疎まれているんだから、愛されている小町が苦労してお兄ちゃんを自由にしてあげないと不公平でしょ?』と素敵な笑顔で言った。

 小町の言葉に俺は涙していた。

 俺の事を思ってくれる人がいたのが嬉しかった。

 そして、俺はその時に決めた。

 小町の誇れるような、そして支えになれるような兄になろうと。

 そして、戦車の整備の本を片っ端から読みふけ、両親に土下座して現役の整備士の弟子入りをした。

 そして、なんか凄いことになった。

 昔話長いなおい。もうちょっとコンパクトに話せなかったのかね。

 まぁ、この話には続きがあるんだけど長々と思い出に浸ってしまって会長がイライラしてるし、また今度感傷に浸るか。

 

 

「まぁ、人並みには」

「いや、人並みなら普通は戦車の整備なんて出来んぞ」

 

 

 俺の言動に呆れたように口を挟んできたのは河嶋桃。

 生徒会の一員で、会長から信頼を得る広報担当。

 堅物キャラで口煩いが、案外ポンコツで俺が転校してきた初日からポンコツを発揮してきた。

 衝撃的過ぎて、河嶋さんには忘れろと言われたが忘れられない。意外に清楚系の白だった。

 

 

「その返事はイエスと取っていいんだよね」

「まぁ、はい」

 

 

 会長が急にニヤニヤし始めたんですが!

 嫌な予感しかしない!というか、この人に関わると嫌な事しかあった事がない!

 

 

「じゃあ、比企谷ちゃんも戦車道やろっか」

 

 

 What?

 この人今なんって言いました?

 センシャドウヤロッカ?何処かの国の有名人かな、変な事言う会長だな〜・・・。

 

 

「はぁぁああああ!?戦車道を俺がやる!?」

「うわぁ!?びっくりしたぁ」

 

 

 俺の声に驚く小山柚子さん。

 常識から頭のネジ一つ外れた生徒会の唯一の常識人。

 性格よしスタイルよしで男子生徒からは絶大な人気を誇っている生徒会副会長。

 驚かしてすみません。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!この学校は戦車道はないはずじゃ?」

「あー、今年から作ったの」

 

 

 軽い。

『あそこのコンビニ寄ろ』って誘ってくる友達並みに軽い。

 いや、友達いた事ないから知らんけど。あれ、なんか目から汗が・・・。

 

 

「なんでですか」

「うーん、説明するのはいいんだけど先に返事が欲しいな。関係ない人に教えていい話じゃないし」

 

 

 知りたいなら相応の対価を払えやオラって事ですね。

 これが恐喝と言うやつか(違います)、初めてされたからオラワクワクすっぞ。

 やばい、混乱し過ぎて脳内がキャラ崩壊を始めてる。

 

 

「すみません、手伝えません」

「へぇ、それはどうして?」

 

 

 尋常じゃない程の圧力(プレッシャー)

 真顔で目を細めているだけなのにひしひしと伝わってくる。

 ここで下手な理由を口にすれば酷い未来が待っているだろう、

 けど、俺には断らないとならない事情があった。

 

 

「すみません、バイトがあるので」

「バイト?うちの学校ってバイトしてよかったっけ?」

「先生に事情を話したら特例で許可がおりました」

「そっかー、事情があるなら仕方ないよね・・・。あぁー、西住ちゃんと比企谷ちゃんが揃えば優勝も夢じゃないと思ったんだけどな」

「西住も戦車にはもう乗らないと思いますよ」

 

 

 西住はこの学園に転校してきた原因。

 それを知っている俺は、少し濁しつつ生徒会長に伝える。

 

 

「西住ちゃんなら確保したよ」

 

 

 えっ、戦車道から逃げてこの学園に来た西住が、逃げ出した先でも戦車道に関わるとはどんな心境の変化だ?

 

 

「そうですか。それでは、俺が戦車道の誘いを断ったのは西住には内緒にしておいて下さい。多分、責任感を感じてしまうと思うので」

「分かったよ」

 

 

 俺はそれの言葉を残し、生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

「会長、どうします?」

 

 

 比企谷が生徒会室を出て行った後、河嶋が重々しい雰囲気を纏って口を開く

 

 

「ん?どうするって?」

「整備士の事です。この前自動車部に頼みに行きましたが、戦車の整備は専門外と断られた上に最後の希望でした比企谷八幡にも断られてしまいましたので」

 

 

 河嶋の言う通り、生徒会の面々は自動車部に赴き比企谷に頼んだ事を頼みに行ったのだが、結果はあえなく断られてしまう。

 戦車と自動車は似て非なるものであるらしく、自動車部の面々でもお手上げらしい。

 戦車道において戦車がなくてはならない。それは当然で、戦車がなければ折角復活させた戦車道で優勝し廃校回避の一縷の望みも断たれてしまう。

 そこでダメ元で西住に整備の方法を知っているか尋ねると、西住家では優秀な専属の整備士がいるらしく整備に関わった事がないらしい。

 その話をしてる最中に名が挙がったのは比企谷八幡。

 西住は整備の修行で西住家に訪れていた比企谷と面識があるらしく、整備士である事も知っていたらしい。

 そして、比企谷を生徒会室に呼び出したのだがあえなく惨敗。

 これで戦車道の道は断たれたのだがーー

 

 

「うーん、困った事になったよね。今日見つけた戦車も全て錆び付いて使い物になりませんし、新しい戦車を買うお金もありませんよ」

「大丈夫じゃないかな」

『えっ』

 

 

 ーー何かを確信した表情を浮かべた角谷が言う。

 その言葉の真意を読み取れない二人は、間抜けな声を漏らす。

 

 

「まぁ、これからの事は明日考えようか」




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過去と現在

一ヶ月弱ぶりの投稿
色々と私用で忙しくと言い訳を述べさせて頂きます


「はぁ・・・」

 

 

濃厚な鉄と錆の匂いに思わず漏れるため息。

俺が今いるのは自動車部が使用するガレージ。

錆びつきが酷く走るのに支障をきたす恐れのある部品を取り替え終え、戦車の下から身体を出す。

あれ?戦車の整備の依頼断った記憶があるんだけど、なんで俺は戦車を整備してるんだ?

社畜なの?あの小町に毛嫌いされてる、愛だけ空回りするバカ親父と同類なの?

小町に俺も毛嫌いされちゃうな、なにそれ辛い。

 

 

「にしても、五両か」

 

 

ガレージいっぱいに並べられた五両の戦車。

一つの戦車を除く四つの戦車は乗り捨てられていたために、取り替えないとならない部品ばかり。

変えの部品は戦車が保存されていた倉庫にあったので困らないが、なんせ人手と時間が足りない。

一両終わらせるのにおおよそ二時間弱。

しかも、整備の全てが終わったわけではなく、自動車部でも整備出来る場所は後回しにして、俺しか整備出来ない場所を優先的に整備して二時間弱。

今のペースで整備を続ければ整備が終わるのは八から九時間。

携帯を開いて時間を確認すると、最終下校時間を容易に超えた夜の七時。

全ての車両の整備を終えるのは深夜三から四時になる計算。

先生に事情を話して泊まり込みとシャワー室の許可は得たものの、徹夜で作業となるとペースが落ちて登校時間に間に合うか怪しい。

それでも、俺には戦車を整備する選択しか選べない。そして選ばない。

 

 

「はぁ、ちゃっちゃと終わらせないと錆臭いまま授業受けなくなんじゃねえか。早く終わらすか」

 

 

 

 

「で、終わったわけだが・・・」

 

 

あれから十時間、不眠不休で整備に全身全霊の限りを尽くし、予定よりも一時間遅いながらも整備を終わらせるのに成功した。

思った以上に損傷が激しく、時間を食ったが登校時間までに終わらせた達成感に酔いしれて戦車の中で休憩していたのだが、疲れが溜まっていたのもあってか寝てしまった。

そして、時は午後の四時。

あれー、おかしいぞ?登校時間に間に合うように全力を出したのに寝て学校すっぽかすって頑張り無意味じゃないの?

まぁ、一日休んだぐらいで揺らぐ成績じゃないし、合法的に休めたからwin-winだな。

褒美なしで働かされた挙句、欠課時数が加算された何処に俺の勝利が存在するんだ・・・。相手の一人勝ちにしか思えない。

 

 

いや、そんな事は今はどうでもいい。

欠課時数が加算されようが、社畜よろしくとばかりにサボり精神旺盛な俺が働いた事実は今の状況では小さい。

今大切なのは、俺が寝ている間に戦車の外で女子達が水着に着替えているみたいです。いやいや、どうしてそうなった。

確か、周りが騒がしくて目を覚ました。普通なら戦車内では外の声は聞こえないはずなんだが、入り口の蓋を開けっ放しにして声が車内に侵入していたようだ。

その時はまだ、寝起きで意識もはっきりしてなかったから、『女子が外にいる』としか思わなかったが、次の瞬間に意識が覚醒する一言を耳にする。

「じゃあ、水着に着替えよっか」と。

いやいや、おかしいおかしい。

戦車道に水着?地上を走る乗り物に乗るのに、水中を泳ぐために着用する服を着るなんておかしいだろ。

車内が暑いから薄着に着替えたの?ふざけんな、今こっちが熱くなってるに決まってるだろ。

だから、クールダウンするんだ我が分身よ。お前が覚醒したら俺×手錠の素敵なカップリングが出来上がってしまう。

俺が分身との格闘に奮起している間に、戦車の外では着替えが始まってしまったようで、服が擦れる音が聞こえる。

 

 

「どうする!?」

 

 

流石に今バレれば誤解が生まれるのは避けられない。

しかし、この場から着替えをしている最中の女子達に気付かれる事なく、ガレージ外に逃げ出すには不可能に近い。

この場合、逃げるのは悪手、最善の手は逃げるのではなく誤魔化すである。

そして、この場合に誤魔化す手として使われるのはNE☆TA☆HU☆RIである。

というわけで、おやすみなーー

 

 

「な、なんで八幡君がいるの!?」

 

 

必殺技を使う前に見つかりました☆

声に釣られて上を見ると、驚いた顔をした西住がいたが。

 

 

「水着じゃない!?」

「八幡君、何を言ってるの!?」

 

 

やばい、思った事が口に出てしまった。

しかし仕方ないと思う。

俺も男だ、女子の水着姿に興味が無いと言えば嘘になる。

それに西住みほは可愛い部類に入る女子だ。

そんな女子の水着姿を見たいと思わない男がいるか?いや、いない(反語)

しかし、目の前に姿を見せた西住は体操服姿。その悲壮感に本音を漏らしたのを誰が責めようか!

 

 

「みぽりん、ちょっと退いてね」

 

 

選ばれたのは目の前でハイライトを消失された女子でした。

あっ、死んだわ。

 

 

 

 

「八幡君、大丈夫?」

「これが大丈夫に見えるか?」

 

 

戦車を洗う為に戦車倉庫の前に出された戦車の目の前で簀巻きにされ転がされた俺は、感情が死んだ表情で西住の問いに答える。

その表情を見てか、西住は「あはは」と苦笑いを浮かべた。

ごめんなさい。こういう時、どういう顔をすればいいのか分からないの。

笑えばいいよってか?この状況で笑ったらただのマゾヒストじゃないのん?

というか、西住が隣に座ってかれこれ十分以上は経過してるけど、それ以外話さないの?

簀巻きにされてるから気まずさで逃げたくてもこの場から離れられないんだけど。

お願い、なんか喋って!!

 

 

「ねぇ、八幡君・・・」

 

 

遂に西住がやっと口を開いた。

 

 

「ごめんね」

 

 

やっと口を開いたと思ったら、飛び出してきたのは予想もつかなかった言葉。

俯いた西住の顔は見えないが、多分泣きそうな表情をしてる。

彼女はいつでもそうだったから俺には分かる。

人の悲しみもまるで自分に降り掛かったように悲しみ、苦しむのが西住みほという人間であるのは知っていた。

 

 

比企谷八幡。

俺の名前は男でありながら、戦車道に全力を尽くす者にとっては一度は耳にした事はある名。

戦車道の申し子とまで呼ばれた天才少女ーー比企谷小町の実の兄で、一年にして黒森峰高校の整備士を纏めてあげていた。

妹が生まれながらの天才と呼ばれていたのに対して、兄は努力の凡才と呼ばれていた。

凡人は妹に誇れる兄であろうと努力に努力を重ね、天才に並ぶ技術と集中力を手に入れた。

そして、兄は親の勧めで黒森峰高校に進学し、西住家のご好意で西住家を下宿先としていた。

そこで西住みほと知り合った。

そして、十連覇をかけた去年の戦車道大会決勝戦。

俺は選手ではないが整備士の代表として大会を見守っていた。

そして、決勝戦の結果は優勝を見逃し、惜しくも準優勝。

なんでも、川に落ちた仲間を助けようとフラッグ車に乗車していた西住が、フラッグ車を放棄したのが敗因と聞いた。

しかし、戦車道大会決勝戦の翌日に川に落ちた戦車に整備ミスが存在した事を見つけてしまった。

それは自分が整備を施した訳ではない戦車。

しかし、俺は整備士達の代表として整備士を辞め、戦車道のない大洗学園に転入した。

その事が西住に罪悪感を植え付けてしまったと気付いたのは、西住が俺と同じクラスの転入生と紹介された時。

西住の俺に気付いた際に見せた罪悪感に苛まれている苦しそうな表情。

 

 

ーーあぁ、また間違えた。

 

 

小町に戦車道を押し付けてしまった時同様に、俺はまた選択を間違えた。

だから、俺は断ったにも関わらずに戦車の整備をした。

俺が表立って整備をする姿なんか見せたら、西住はまた罪悪感を感じると思い人目がない時間を選んで行った。

結局、西住にも見られてしまい罪悪感をまた植え付けてしまった。

 

 

「謝る事ねえよ」

「えっ」

「何に対して誤ってるのか分からねえけど、もし俺が大洗学園に転入したのを誤ってるならいい迷惑だ。俺は自分の失態の責任を取っただけだ。西住がフラッグ車を降りようが降りまいが、整備不良は俺の責任だ。俺が大洗学園に転入する結果は変わらなかった」

「それでも、私は・・・」

「まぁ、謝るなって言っても気が済まないのは理解してる。俺でも気にすんなって言われても気になるもんは気になるからな」

 

 

気にしないでいいって言われた方が後の方まで気にしちゃうよね。

俺も昔クラスメートが「ヒキタニ君の事は気にしないでいいよ」って言ってたのまだ気にしてるもん。

あの時は悲しかったな。名前を間違えられたのも含めて悲しかった。

 

 

「悪いと思うなら・・・、この状況をどうにかして下さい」

 

 

周りから感じる複数の視線。

視線は決して歓迎するようなものではなく、侮蔑と言った負の感情が大いに宿った辛い視線。

それもそうか、あんな大声で水着じゃないと叫んだんだ。

侮蔑されても仕方ないよね!自業自得だけど悲しい。

周りで戦車を洗う女生徒達も、時折此方を心配そうに見てくる。この場合の心配そうな視線は俺じゃなくて、俺の隣に座っている西住に向けられてるんですよね僕分かります。

それに河嶋さんと小山さんが水着姿なのが目に毒だ。

なんであんなにも発育がいいんですかね。全くけしからん!

 

 

「八幡君?」

 

 

ごめんなさい、謝りますので今すぐに瞳のハイライトをお戻し下さい。

それと後ろでハイライトを消してる栗毛の少女も、もうそろそろハイライトを戻そうね?

目と目が合うその瞬間に、恐怖を覚えます。

周りから刺さる視線が痛い・・・・・・、ダレカタスケテ。

 

 

「まぁまぁ、比企谷ちゃんが困ってるしそこまでにしなよ」

 

 

笑いながら近付いてくる生徒会長。

まさかあなたが救世主(メシア)か!あぁ、あの会長が天使に見える。

 

 

「これから仲間になる同士仲良くしないとね」

「はっ?」

「えっ?」

 

 

救世主だったはずの角谷さんが一瞬で悪魔へと変貌する。

一度勧誘を断ったはずにも関わらず、仲間だと言い張る会長に反論しようとしたところでーー

 

 

「まさか、ない用事で断れるとは思ってないよね?」

 

 

ーー制された。

う、嘘がバレただと!?

会長の勧誘を断るために用意したない用事(うそ)

それが嘘だとバレた今、会長を納得させる手札は存在しない。

くそ、今日先生に事情を話して会長が尋ねてきても答えないように頼もうと思ったのに、寝てしまったが為に会長にバイトの申請が通っていないことがバレた!

 

 

「いや、あの、放課後はアレがアレでして」

「アレならアレしてアレしたよ」

 

 

アレしてアレしたよってどういうことだってばよ・・・。

 

 

「一人で整備するのは流石に無理が・・・」

「自動車部のみんなが手伝ってくれるって」

 

 

ふぇぇ、逃げ道が塞がれるよぉ。

今回は西住への償いのつもりで整備を請け負ったが、基本的に俺は働きたくない。

もし、ここで整備を手伝うのを承諾したら、放課後だけじゃなく土日まで潰れる可能性がある。

争いを嫌う平和主義者でも、自分の大切な物の為に戦わないといけない時がある。それが今だ!

 

 

「別に断ってもいいけど、全校集会の時に間違って比企谷ちゃんの過去の栄光を喋っちゃうかも」

 

 

未来の出来事を予知しちゃうとか会長は未来日記でも所持してらっしゃるのかしら。

未来を盾に脅すとか人が悪過ぎる会長。

過去の栄光と呼べるまでの栄光ではないものの、注目を集めるには充分すぎる内容が詰まった過去の栄光と言うよりも黒歴史。

それをバラされたら、八幡死んじゃう!

 

 

「比企谷ちゃん、整備を手伝ってくれるかな?」

「い、いいとも〜」

 

 

どうにでもなれ(泣)。




次回は会長視点のつもりです
アドバイス、間違いの指摘、感想を時間がある方はお願いします


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