この鬼殺隊士に祝福を! (冬威)
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プロローグ
「
真っ暗な空間の中に、俺と目の前にいる女性の周りだけ不自然に明るく、小さな机と椅子だけが置かれていた。
目の前の女性は一言で言うと美少女で、綺麗な水色の長い髪と瞳。青を基調とした服に、淡い紫色の羽衣。
その女性は椅子に座り、優しく俺に人生終了を告げた。
(…俺はいったい?)
ーーーーー
「よっしゃ!新刊ゲット‼︎」
俺、倉富 真路郎。14歳。中学3年生になったばかりだ。部活の帰りに本屋に寄り、友達に勧められてハマった「鬼滅の刃」の新刊を買って浮き足立ちながら、人気の無い夜の公園を横切っていた。
(本誌で読んでるけど、やっぱ単行本で読むのも楽しみだよな〜。ん?)
暗くてよく見えないが、正面から人が来たので避けた。
はずだったのに…。
ドン、
「…えっ?」
急激に脇腹が熱くなり、冷や汗が溢れ出す。ぶつかって来たのはパーカーを被った男。その男は手にしていたものを更に深く突き刺す。激痛が走る。
その場に膝から崩れ落ち、脇腹に刺さったもの…。包丁にソッと手を添え男を見上げると…。
男の口元が歪み、笑みを浮かべていた。
(そう、いえば…。最近不審者が出るって。…マジ、かよ)
そのまま男は立ち去り、去って行くその背中を見つめることしか出来なかった。
(…あ、あぁ。
記憶の最後にあるのは、男のパーカーの文字だった。
ーーーーー
(ああ、俺は本当に死んだのか)
「突然の事で戸惑っているでしょうが、先ほども言いました通り、貴方は不幸な事故で「事故⁉︎あれ事故だったの?通り魔に刺されて死んだのかと…」」
「「……」」
水色の女性は机に置かれた紙に目を移し、静かな時間が流れる。
「貴方は通り魔の快楽殺人により、亡くなってしまいました。…私は女神アクア。日本で若くして亡くなってしまった人を導く女神です。これから貴方に二つの選択肢を渡します」
ニッコリと微笑み、何事も無かったかのように話を進め出したアクアと名乗る女神。
(…快楽殺人て)
「一つは生まれ変わり新たな人生を歩む。二つ目は天国的な所でお爺ちゃんみたいな生活を送るかです」
「…天国って行きたいって言って、行けるんですか?閻魔様とか四十九日だとか…」
よくある閻魔様の話とかを聞いてみると、女神は少し焦りながら話を進めた。
「ま、まぁ、いいじゃない細かい事は!因みに天国はテレビとか漫画やゲームなんて娯楽は一切無いわよ?」
(いきなりフレンドリーになったよ)
「それは…。ちょっと嫌かな」
「でしょ?そこでいい話があるの!貴方を別の世界に送ってあげるわ‼︎この世界はね魔王に滅ぼされかけてるの!そこで貴方には勇者候補として頑張って欲しいの‼︎」
聞いてもいないことをベラベラと喋り、訳の分からない選択肢を出して来た。
「はっ?魔王?勇者候補?」
「そう!それでね!転生者には特典として"チート"を一つあげるわ‼︎この中から好きなのを選んでね‼︎」
(…すんごい分厚いカタログを渡された。国語辞典以上だろ。どんだけチートあるんだよ…。)
異世界転生は確定されたらしい。
カタログをめくっていくと、「聖剣エクスカリバー」や「神槍グングニル」なんてファンタジーのメジャーどころから、よく分かんないがゲームやアニメの武器や能力なんかもあるみたい。
「ねぇ?決まった?私、退屈なんですけど〜。何か喋りましょうよ〜」
(…退屈て。そうだな〜)
「さっき何で死因間違えたんですか?」
カタログをペラペラめくりながら、疑問に思った事を聞いてみた。
「そっ、それはアレよ!資料にちゃんと目を通すのを忘れてて、大体事故死でしょうと思って‼︎ほら、多いから‼︎」
凄い慌て出した。聞かないほうが良かったみたいだ。
「…俺より先に転生した人もいるんですよね?どんなの持って行ったんですか?」
「そうよ?うーん、大体の人は聖剣だとか魔剣だとか強い武器か、魔力カンストとか身体能力チートとか、好きなアニメのキャラの能力かしらね」
(…そんな凄そうなチート持ちが何人もいて、魔王は倒せない?それってメッチャ強いって事?)
「どう?決まった?」
「…いやぁ、この中に書かれてる事が、よく分かんないんですよ」
凄そうなのは分かるが、それがどれ程の強さなのか分からない。そもそも強力な力なんて使いこなせそうにない。そして危険な世界に持って行くものを適当に選ぶ事も出来ない。
「そうなの?だったらそれ以外でもいいわよ?」
「いいんですか?じゃあ、刀…」
と、言いかけて俺は考えこむ。
「あっ、デザインとか凝りたいので、紙に書いた内容をくれませんか?」
「いいわよ?じゃあこれに書いて!あっ、性能もちゃんと書いてね!そして書きながら私とおしゃべりしなさい‼︎」
それからは紙に特典で欲しい刀を書きながら、アクアと他愛のない話をしつつ、その異世界の情報を集めた。
どうやらこれから行く世界はLv.があり、魔法があり、冒険者になりスキルや魔法を覚える。亜人と人間が暮らし、そしてモンスターがいる。まさにゲームのような世界だ。
「あの、出来たんですけど…。これって特典二つになるんですか?」
俺は書き上げた紙をアクアに渡した。
「鬼滅の刃」の色変わりの刀【日輪刀】
・絶対に壊れない
・熟練度により攻撃力上昇
刀身に「悪鬼滅殺」と刻まれ。鞘は立ち拵えの黒。鍔は丸型に半円を描くように藤の透かし。柄糸は白の刀が描かれていた。
「絵上手ね。別にこのくらいどおって事ないわよ!てゆうかコレでいいの?」
「はい、
「分かったわ、
アクアに渡した紙は光となり、俺の手元にとんできた。そして、足元に青い魔法陣が浮かび上がり輝き出した。
「さあ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補の中から、あなたが魔王を討ち滅ぼす事を祈っています。…さあ、たばち、旅立ちなさい!」
(フツーの所で噛んだな…。それにしてもバレてないみたいだけど、本当に特典は
こうして俺は異世界に転生した。
このすば!のアニメをみてどハマりしました。あんなに笑えるアニメを久しぶりに見ました。
タグに関してはこれから増えていく予定です。また、このタグをつけたほうが良いとご意見あればどうぞよろしくお願いします!
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異世界の出会いと初クエスト
「おお、本当にファンタジーな世界だ」
俺は女神アクアの魔法陣で送られ、目を開けるとそこには石畳の街並みを車ではなく馬車が行き交っていた。
ふと自分の姿を確認してみる。
服装は剣道の稽古着に部活指定のジャージの上着。学校指定のスニーカー。ファンタジー感の欠片もない。
そして左手に握られた一振りの刀。今すぐ抜いてみたいが、流石に街中で刃物を抜くのはまずいと思い後回しに。
(さて、取り敢えず冒険者にならないと…。ギルドとかそうゆう施設に行けばいいんだろうけど…、冒険者っぽい人を探して聞いてみるか)
街中を歩き始めてすぐに、トンガリ帽子にマント。そして長い杖を持った、いかにも魔法使いっぽい人が前を歩いている。
「あの!すいません教えていただきたい事が…⁉︎」
「はい?何ですか?」
魔法使いっぽい人に話しかけたはいいが、振り向いた瞬間にしまったと思った。
(やばい、女の子だった。ナンパと思われなければいいけど…)
その少女は真路郎と変わらない年齢で、身長も僅かに低い位。容姿は黒髪に赤い瞳、左目に眼帯を付けた可愛らしい美少女だった。
「「……」」
二人の間に僅かな沈黙が流れる。しかし、魔法使いの少女によって沈黙は破られた。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を操るもの‼︎」
マントをばっと翻し、眼帯を付けている顔を僅かに手のひらで隠すポーズをとり、高らかに宣言した。
「あっ、すいません人違いでした」
さっと回れ右をしてその場を去ろうとしたが、ジャージを掴まれてしまった。
「おい、何か言いたい事があるなら聞こうじゃないか!…というか聞きたい事があったのでわ?」
あまりの出会いの衝撃に忘れかけていた。
「えっと、冒険者になりたくてこの街に来たんですけど、どうすれば冒険者になれるのかな?と思いまして」
「成る程。冒険者になるにはギルドで登録する必要があります。…私もこれから行く予定なので一緒に行きますか?」
変な自己紹介だったが、良い人みたいだ。
「はい!お願いします。自分は倉富 真路郎です。あの、めぐみんって…」
「本名ですよ?何か言いたい事があるなら聞きますよ?それに私から言わせれば貴方の名前の方が変わってますよ?」
(マジかよ。めぐみんの名前がスタンダードなの?)
カルチャーショックを受けながら冒険者ギルドに案内してもらった。ギルドは街の中でも大きな建物で中もとても広かったが、あまり人がいないようだった。
「奥のカウンターで登録するんです。付いてきてください」
めぐみんに案内され、カウンターにつくと美人の受付嬢のお姉さんがにこやかに挨拶してくれた。
「こんにちは。本日のご用件は?」
「冒険者登録をお願いします」
「冒険者登録ですね。登録料は1,000エリスになります」
(えっ!金掛かるの?…しまったな考えてなかった)
どうしたものかと黙り込んでしまうと、めぐみんが察してくれたようだ。
「ひょっとしてお金持ってないんですか?」
「…無一文です」
真路郎の返答に少し考えたあと、めぐみんは財布から1,000エリスを足り出した。
「私が出しましょう」
「いや、でも悪いですよ」
「構いませんよ?…ただ登録が終わったあと、簡単なクエストに付き合ってくれませんか?」
「クエスト?俺なんかで良ければ…」
「ふふ、決まりですね」
めぐみんは何処か嬉しそうに笑うと、受付嬢のお姉さんに登録料を渡した。
「では、この用紙にお名前と身長、体重、年齢。それに身体的特徴を記入してください」
身長158センチ。体重48キロ。黒髪黒目。
「はい、次にこちらの水晶に手をかざして下さい。初期のステータスを読み取ります」
受付嬢のお姉さんに言われるまま、水晶がはめ込まれた不思議な機械に手をかざす。
「魔力が平均を少し低いですね。知力と運が平均的…。おお!筋力、生命力、器用度に敏捷性が平均を上回っています!特に筋力と敏捷性が高いですね‼︎これなら殆どの職業につけますよ‼︎」
少し興奮気味に説明してくれたが、魔力が低い事が微妙にショックだった。一度は魔法を使いたいものだ。
「職業は何に、なれるんですか?」
横で見ていためぐみんが話を進めてくれた。
「そうですね。下級の前衛職なら全て可能です。上級職はソードマスターにクルセイダーですかね。…あら、キサツタイシ?下級職のようですが始めてみる職業ですね」
鬼殺隊士。受付嬢のお姉さんは、受付を長い事しているが初めてみる職業に困惑している。
「それでお願いします」
「えっ!いいんですか⁉︎」「ソードマスターにも慣れるのに⁉︎」
受付嬢のお姉さんとめぐみんが驚いた声をあげるが、おそらく特典に関係する事だから是非ともコレにしたい。
「はい!」
ニツと爽やかに笑い、無事に冒険者になる事が出来た。
冒険者登録の後、受付嬢のお姉さん。ルナさんから冒険者と冒険者カードに付いて説明を受け、めぐみんが選んだ「ジャイアントトード。2匹討伐」のクエストを受けた。このジャイアントトードは巨大なカエルで繁殖期が近い為、人里付近に現れ人や農家のヤギなどを狙うらしい。その駆除の依頼だ。
(てか、受付嬢のお姉さんの名前、普通じゃん。…めぐみんってなんだ?)
めぐみんと歩きながら色々教えて貰っているが、初対面で根掘り葉掘り聞くの失礼だと思い、今は取り敢えずスルーで。
それに冒険者カードを作ってから、異様に鼻が効くようになっている。
(なんだろう。めぐみんは良い人なのは間違いない。…けど、何故か残念な人な気がする。あの自己紹介の事もあるし)
「鬼滅の刃」の主人公、炭治郎が匂いで人の本質を嗅ぎ分けていた。
「あっ!いましたよ。アレがジャイアントトードです」
めぐみんの指差し方に目を向けると巨大なカエルがいた。
「…でかくね?」
予想以上の大きさだった。
「私は魔法を打つ準備をします。それまで足止めをお願いします!」
「りょ、了解」
いきなりの初クエストで初戦闘。取り敢えず足止めなら文字通り足を狙って動きを止めれば良いだろう。
ふーと息を吐き、腰に差した【日輪刀】を鞘から引き抜く。色変わりの刀【日輪刀】は持ち主によって刃の色が変わる。真路郎が刀を構えると、刃の色が藤色へと変色した。
息を整え、回り込むようにジャイアントトードの死角から、足を斬りつける。途中めぐみんの厨二病ぽい台詞が聞こえたが、今はカエルに集中。
「グァ⁉︎」
不意打ちを食らったジャイアントトードが、真路郎をその巨体で踏み潰そうとするも、すぐさま後ろに回り込みもう片方の足に斬りかかる。
「下がってください。魔法を放ちます!」
めぐみんの声にを聞き、全力で充分に距離をとった。めぐみんが紅い瞳を輝かせ、カッと見開き
「『エクスプロージョン』!」
膨大な光がめぐみんの杖から放たれたと思うと、凄まじい轟音と爆炎を巻き起こし、更には爆風に煽られる。魔法が直撃した場所に大きなクレーターが出来、カエルは見るも無残に四散していた。明らかにオーバーキルだ。
(…すげー。これが魔法)
始めて見る魔法に感動と恐怖を覚え、改めて異世界に来たのだと思い知らされ、ほうけてしまった。
「ッ!すごいな‼︎めぐ…みん?」
我に帰りめぐみんの方に少し駆け寄り、足を止めた。丘の上から魔法を打っためぐみんは、うつ伏せに倒れ草原を僅かに滑り降りていた。
「ふ…。見ましたか我が最終奥義!爆裂魔法はその最強の威力と引き換えに、魔力消費も莫大なもの…。ゆえに限界を超える魔力を使った我は身動き一つ取れません」
「マジかよ」
そんな事を話していると、ひょこりとめぐみんの背後から2匹目のジャイアントトードが現れた。
「ッ⁉︎」
全力疾走でめぐみんの元に駆け寄り、今にも長い舌で食らいつこうとしていた所に間一髪で滑り込みめぐみんを回収した。
「ねえ、ホントに動けないの⁉︎」
「はい、動けません」
はいじゃないよ!と心の中で愚痴り、はぁーと溜息を吐く。仕方がないのでめぐみんをおんぶし、左手で支え右手に日輪刀を構える。
先ほどと同じ要領で、動きを抑えてから止めをさす。
これで初クエストが完了し、一気に疲れが出て来た。
(大丈夫か?俺の異世界生活…)
早速ヒロインである、めぐみんを登場させました。めぐみん可愛いですよね。顔とかセリフとか声とかetc.
真路郎がアクアから貰った特典は何か?なるべく早めに出したいですが、話の流れに合わせて今後出していく予定です。
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爆裂少女とパーティを!
ジャイアントトード2匹の討伐を終え、「駆け出し冒険者の街 アクセル」へと帰路につく。
魔力切れを起こし、動けないめぐみんを背負いながら歩いている。
「あのさ、色々と聞きたい事があるんだけど…」
「ッ⁉︎…何ですか?」
一瞬ビクッとめぐみんは震えたが、平静を取り繕おうとしていた。今から言われる言葉に心当たりがあるのだろう。
「あの爆裂魔法がすごい事は分かった。でも、カエル1匹になんであの魔法を?明らかにオーバーキルじゃない?」
「私は爆裂魔法しか使えません」
ピタッと足を止め、そのまま質問を続ける。
「…なんで?」
「私は爆裂魔法が好きなんです!他の魔法を覚える気はありません‼︎これだけは譲れないのです‼︎」
人の背中で熱く語るめぐみん。あの魔法しか使えないって事は毎回倒れて動けなくなるという事では?
「でも、魔力切れで倒れるんだよね?それなのに冒険者になったばかりの俺にクエストの同行を?危なくない?」
「うっ、それはそのう…、もう何処のパーティーにも拾って貰えず。丁度、前衛職でパーティーを組んでくれる人を探しているところにシンジロウが…」
そこから先は黙り込んでしまった。要は一発で倒れるめぐみんは、言い方は悪いがパーティー内で使い物にならず、何処にも入れてもらえないと。それでたまたま声を掛けてきた駆け出しの中の駆け出しの俺を捕まえたと。
「…クエストの前に言って欲しかった」
「…ごめん、なさい」
はぁとため息を付き、再び歩き出す。
(めぐみんの残念な感じの正体が分かった…。悪い子ではないんだけどなぁ。どうするか)
ギルドにつき、受付でクエストの完了報告を済ませる。冒険者カードに討伐したモンスターが自動的に記載されるようで簡単に完了報告が出来た。
ジャイアントトード2匹目で10,000エリス。2人で割って5,000エリス。めぐみんに借りた登録料1,000エリス。手取りは4,000エリス。
これで、今日の宿が取れればいいが…。その前に。
ギルド内の設置されたテーブルの一つで俯きながら待っていためぐみんに報酬を渡し、席につく。
「それで?めぐみんは今後も他の魔法を覚える気はないんだよね?」
「…はい、私は爆裂魔法を極める為だけにアークウィザードになったんです!そこを曲げるつもりはありません‼︎」
とても真っ直ぐな目をしていた。本当に真剣なのだろう。
「…俺1人じゃ、カバーするのは無理だよ」
俺の言葉にめぐみんは再び俯いてしまった。
「だから、他にもパーティーを組んでくれそうな人を探そう。せめて後1人は欲しい」
驚いた表情をしためぐみんが顔を上げ、すぐに嬉しそうに笑った顔はとても可愛らしかった。
「いいんですか⁉︎逃がしませんよ⁉︎シンジロウは我と爆裂魔法を極める道を、共に歩んで行くのです‼︎」
「いや、俺は爆裂魔法使わないから、使えないから」
「ふふふ、シンジロウは今日この時から私のパートナーになったのです!これからよろしくお願いしますね、シンジロウ‼︎」
「うん、よろしくな。めぐみん。…ところで、めぐみんってなんだ?」
俺はずっと思っていた事をついに口にした。
「おい、本名だといっただろう。私の名前に言いたい事があるのなら聞こうじゃないか」
さっきまでの笑顔が一瞬で消え去り、ジト目で睨みつけてくる。
「ちなみに両親の名前は?」
「母はゆいゆい!父はひょいざぶろー‼︎」
「…それより、お腹空かない?」
「おい、私の両親の名前に言いたい事があるなら聞こうじゃないか‼︎このちょび眉‼︎」
「…今、何て言った?」
そう、今まで黙っていたが俺の眉毛は麻呂ではないが、範囲が狭くちょびっとしかない。剃っているわけでもない。コンプレックスだ‼︎
シンジロウはめぐみんの顔にアイアンクローをかまし、ギリギリと力をいれる。めぐみんは抵抗するも力の差で焼け石に水だ。
こうして俺とめぐみんはパーティーを結成する事に。
アイアンクローの後、ギルドで食事をしながら、聞けなかった事を聞いた。
名前から始まり、めぐみんは高い知能と魔力を持ち、里の殆どがアークウィザードという、魔法のスペシャリストである紅魔族らしい。
紅い瞳が特徴で、魔力を高めると紅く輝くらしい。そして、話を聞く限り感性がとても残念な一族のようだ。
一通り話し終え、スキルの取得を勧められ冒険者カードを見てみるとレベル3に上がっていた。
筋力と敏捷のステータスが他よりも伸びている。それにもとからあったスキルポイントに加算されポイントが4に。試しに取得できるものはないか、スキル欄を見てみると…。
《水の呼吸 》 2ポイント
《壱ノ型 水面斬り》 1ポイント
《弐ノ型 水車》 1ポイント
(おお、カードを作った時には無かったスキルが出ている)
俺は全てのスキルポイントを使って取得した。《弐ノ型 水車》まで取得すると、新たなスキル《参ノ型 流流舞》 1ポイントと《壱ノ型》、《弐ノ型》それぞれの+1が現れた。
(強化出来るってことか?どちらも必要ポイントは3ポイントだ)
「シンジロウは変わったスキルばかりですね?それは鬼殺隊士の専用スキルでしょうか?」
ジャイアントトードの唐揚げを頬張りながら、めぐみんはカードを覗き込んできた。
「そうみたいだね。基本の型はポイント少ないけど、強化するにはポイントが沢山いるんだろうな」
「そうですか…。ところで気になっていたのですが、シンジロウが持っている剣の色が変わってませんでしたか?紅魔族的に凄く刺激されるのですが」
最後の一言はともかく、めぐみんに日輪刀について簡単に説明をする。
「成る程、持ち主によって色が変わる。それは何とも良いですね。シンジロウの紫はきっと闇の力をしめしているのですよ!」
「あっ、自分そんなんじゃないんで」
一通り食事を終えるとギルドを後にし、街を案内してもらう。取り敢えず、何か防具が欲しいので武器屋に行ってみたが…。
手持ちで買えそうなのは無かった。コツコツと貯金するしかないな。
最後に駆け出しの冒険者が泊まれる場所を教えて貰うと、基本的にお金のない冒険者はタダで泊まれる馬小屋を使うらしい。
手持ちのお金で、宿に泊まれないこともないが1日が限度。そうなると馬小屋しかないな。と考えているとめぐみんが一つの提案をしてくれた。
「私の泊まっている宿は、格安で狭くて最低限の物しかありませんが。1ヶ月分を前払いして泊まれるんです。人数が増える分は1,000エリス払えば毛布を貸してもらえます。一緒に泊まりますか?」
「それは嬉しいけど、いいの?俺は一応男だよ?」
「構いませんよ。シンジロウの事は信用していますから!」
そう言うとめぐみんは、本日何度目かの笑顔を見せ、俺の手を引っ張り楽しそうに走りだした。
一つしか貰えない特典。それをどうやって武器と能力持ってきたか?皆さん大体気づいているでしょうが…。
そして、めぐみんとの同せゲフン、ゲフン!ルームシェアが始まりましたが、14歳と13歳だから、ロリコンじゃないから。うん、後悔はしてない。
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盗賊少女にお宝を!
この世界に来て1週間がたった。
今の俺の日課は朝早くに起き、部屋着からジャージとこっちで買ったズボンに着替えて、刀の基本的な動きの確認をし、その後は軽いランニング。
途中で荷馬車に荷物を積み込む手伝いでちょっとした小遣い稼ぎ。そのままパン屋に行き開店準備の掃除と、仕入れた小麦粉等の重い物を運んだりして前日に余ったパンを貰って宿に戻る。
めぐみんが起きる前に、汗を拭いて剣道の稽古着に着替える。
「う、ん〜。…おはようございます、シンジロウ。今日の朝ご飯は何ですか?」
「おはよう、めぐみん。今日はクリームパンとハムレタスサンドを貰ったぞ」
「おお!中々豪勢ですね。シンジロウが来てから、朝ご飯を食べる事が出来て助かります」
身支度をしながら、めぐみんは朝からご機嫌だ。因みにめぐみんは左目に眼帯を付けているが、別に目が見えないわけではない。初日に判明したのに疲れてて聞けず仕舞い。今更聞くのも何だからスルーしている。
なんとか生活は回っているのだが…。
冒険者稼業の方は少しも変化がない。2人でこなせそうなカエルのクエストを受け、俺が足止め、めぐみんがカエルに爆裂魔法を打ち込み、倒れためぐみんを背負って帰る。
一向にパーティーを組んでくれる人が見つからないのだ。
「…あっ!めぐみん。言い忘れてたけど、俺今日は別行動とるから」
「却下です。シンジロウが居なくては、爆裂魔法が打てません」
テーブルの向かい側に座るめぐみんは、クリームパンを頬張りながら、さも当然の様に返答した。…ほっぺたにクリーム付いてるぞ。
「いや、昨日の夜ギルドで会った盗賊の人と、俺だけで行こうと思っ「何故ですか⁉︎私と言うものがありながら、他の人と2人で冒険をするつもりですか‼︎」
俺の肩を掴み、どこにそんな力があるのだと思うぐらい、ガクガクと揺さぶってくる。
「まぁ、落ち着け。実は昨日なーーーー。
1週間たって俺のレベルは5。スキルポイントを使って《参ノ型》、《四ノ型》を覚えた。
だが、下級職の低レベルにも関わらず、レベルの上がりがあまり良くない。このままではいかんのでは?と思いクエストボードから、1枚の依頼書を取り考えていた。
(…『遺跡に住み着いたゴブリンの討伐任務』。これならカエルより報酬がいい上に経験値も稼げそうだな)
しかし、ゴブリンの数は5匹確認済みとなっている。本来なら10匹ぐらいで群れを成すようだから、恐らく遺跡内部まで未確認のようだ。
更にクエスト内容をよく見ると、遺跡を出来る限り傷つけないでほしいとのこと。めぐみんの爆裂魔法では遺跡ごと吹っ飛ばしてしまう。
(…受けたいけど、俺1人じゃムリかな?)
うんうん唸りながら、クエストボードの前で固まっていたら後ろから声を掛けられた。
「ね、ねぇ、どうかしたの?」
はっと我に返り振り向くと、軽装の防具に身を包み、頬に傷がある銀髪のスレンダーな美少女が立っていた。
「あ、私はクリス。フリーの盗賊だよ」
「えーと、俺は倉富 真路郎。職業は鬼殺隊士です」
「キサツタイシ?聞いたことないね。」
ふとクリスさんは俺が持つ依頼書に目を移した。
「…それ私も受けようと思ってたんだけど、良かったら少し話さない?」
クリスさんの話によると、その遺跡は少し前に山賊が根城にしようとしていたらしく、そこをゴブリンに襲われて追い出されたのではないか、とのことだ。
そして、山賊のお宝が残っているかもしれないから、このクエストを受けたいらしい。
次に俺の職業の事を聞かれ、鬼殺隊士について分かる範囲で説明し、何を悩んでいたのかも聞かれたので今の状況を説明した。
・パーティーは2人だけで、相方は爆裂魔法を1回使うと倒れて動けなくなる。
・倒れた後は自分が背負って戦っている。
・ゴブリン討伐のクエストを受けたいが、爆裂魔法が使えないこと。
・かといって1人で大丈夫なのか
クリスさんは俺の話を、苦笑いしながら聞いてくれた。それから少し考え込んだ。
「よし!君1人でいいのなら、私と一緒にこのクエストを受けてみよう!勿論、分け前は折半で‼︎」
「本当ですか⁉︎ありがとうございます‼︎」
願っても無い提案だったので、二つ返事で受けた。
ーーーーと言う事があったんだよ。今日の夜までには帰るよ」
俺の話を黙って聞いていた、めぐみんの頬は限界まで膨らませてムスッとしている。
「…そんな顔してもダメだから」
俺は両手でめぐみんの顔を挟み、膨らんだ頬を潰した。
「プヒュゥ〜。…む〜」
「経験値稼いでレベルも上げて、習得したスキルもきっちり使いこなせるようにしたいの!」
「それは…。ちなみに、その盗賊の方と、その、今後も組んだりは…?」
「ああ、クリスさんはフリーで活動してるから、固定のパーティーには入らないそうだよ」
「そう、ですか。…今回だけですよ?ちゃんと戻って来て下さいね?」
一応納得して貰えたみたいだ。
「うん。じゃあ、めぐみんは俺の居ない間もパーティーを組んでくれる人を探しといてね」
異世界に来て初めての遺跡に行く。ダンジョン探索みたいで、正直ワクワクだ。
ーーーーー
アクセルの街を出て、俺とクリスさんは街から離れた森に来ていた。
「もう少し入り込んだところに遺跡があるんだけど、今の内に確認しておこうか?」
「はい、クリスさん」
「クリスでいいよ、シンジロウ。あと敬語もいらないよ」
俺とクリスは歩きながら、昨日ギルドで打ち合わせした内容を反復する。
今回のゴブリン討伐は、5匹確認出来ているだけで、通常の群れ10匹はいる。またはそれ以上の数かも知れない。逆に逸れのゴブリンであれば5匹倒せば終わり。
遺跡は3階建だが、3階は崩れている。それに地下は無いらしい。古くなり所々崩れている為、昼の内は明るいので松明やランタンなどは不要。
まずは盗賊のスキル《潜伏》を使い、気配を消しながら遺跡に侵入。この《潜伏》は使用者に捕まっていれば、スキルを持っていなくても気配を消すことが出来る。
更に、《敵感知》でゴブリンに奇襲を掛け、できるだけ小分けして倒す。遺跡の様な狭い場所での戦闘に慣れていない俺は前衛を務め、クリスが遊撃でフォローに入ってくれる。
「ここまでは問題ないかな?」
「うん、大丈夫」
「そして、忘れちゃいけないのが…。初心者殺し」
この初心者殺しと呼ばれるモンスターは、サーベルタイガーのように大きな二本の牙を持っている。ゴブリン等の雑魚モンスターの周りをうろつき、それを借りに来た初心者の冒険者を狙ってくるそうだ。知能も高く、動きも素早い。
「初心者殺しが出た時は、出来るだけ交戦を避けて、逃げる事を考えて」
「うん、分かった」
打ち合わせの確認が終わる頃に、遺跡の姿が見えてきた。
「今のところ、初心者殺しの反応は無いね。遺跡の中には居ないと思うから、今の内に中に入ろう」
俺は無言で頷き、クリスの肩に手を置く。《潜伏》を発動させ遺跡へと侵入した。
「…《敵感知》に引っかかった。右の部屋に2匹いるね、反対の通路の奥、階段手前に3匹。…この分だと10匹以上いるかもね」
クリスは小声で情報を伝えて来た。この場合は2匹を素早く倒して、3匹を倒さないと挟み討ちにされてしまう。
「俺が2匹まとめて倒すよ。クリスは部屋の入り口で見張りを」
「うん、なるべく静かにね」
部屋の中を覗き込むと、2匹のゴブリンが向かいあって木の実を食べていた。2匹は距離が近いため、まとめて一掃できそうだ。俺は刀を抜きスキルを発動させる。
「《水の呼吸》」
ヒュウゥと僅かに風の音が鳴る。足に力を入れ一気に飛び出す。腕を交差せるように構え、首元に狙いを定め
「『壱ノ型 水面切り』」
交差した腕を勢いよく水平に振りきり、2匹まとめて首を切り裂いた。ゴブリンは一呼吸おいて、動かなくなる。
「うわ〜、君スゴイね。まとめて首切っちゃったよ」
クリスは俺の所に寄ってきて、ゴブリンの死体を見て…。若干引いているように見えたけど、気のせいだよね、うん。
「ふぅー、他のゴブリンは?」
「今のところ、変化無しだよ。多分階段を上がった広間に溜まってるんじゃないかな」
君ならどうする?と問いかけるようにクリスは見てきた。
「…気付かれる前に行った方が良い、かな?」
「うん、正解だよ。じゃあ行こうか」
同じ要領で近づき奇襲。階段前にいたゴブリンも2人で簡単に倒せた。
階段を少し上ると、敵を感知したもよう。その数は15。先に倒したものを合わせて20、どうやら二つの群れが合わさっていたようだ。
「…少し多いね。いけそう?」
《水の呼吸》を習得してから、少しずつ炭治郎と同じ「隙の糸」の匂いが分かるようになってきた。それがピンと張られた時に刀を合わせて振るえば、最適な攻撃ができる。
俺は少し緊張するも、深呼吸をして頷く。
「手筈通りシンジロウが前で、私が後ろ。好きに動いても良いけど、私の声がちゃんと聞こえるように集中し過ぎないようにしてね」
「うん」
「よし、行くよ」
階段を上ると直ぐに広間の入り口に差し掛かる。ゴブリンは彼方此方で、くつろいでいた。
クリスとアイコンタクトをとり、俺は広間に飛び込んだ。
「ギャギャ!」
俺達に気付いたゴブリン達も動き出す。《水の呼吸》を切らさないように、近くにいた1匹を斬り捨てる。勢いを殺さないように型に繋げる。
「…『参ノ型 流流舞』」
「ギャッ⁉︎」
流れる様な足運びで、回避と攻撃を兼ね備えた技。俺に襲い掛かってきている、ゴブリンを先頭から順に爪での攻撃を避け、すれ違い様に切る。4匹撃破。
一度その場から後方に飛び退き、周りを見る。クリスは俺が戦い易いように、俺の死角から襲おうとしたであろうゴブリンを3匹狩っていた。これで残り7匹。
残り全てを視界に入れると、7本の糸が見える。
刀を構える。
「『四ノ型 打ち潮』」
淀みなく動き、斬撃を繋げることで複数の首を狩れる技。7匹のゴブリンの間を無駄なく動き、隙の糸を辿りながら首を狩りとっていく、が…
最後の1匹が視界から外れてしまった。
(ッ⁉︎しまった‼︎)
糸が切れ慌てて辿ろうとするが、もう遅い。ゴブリンの爪が目の前まで迫ったいた。
爪先が頬に触れた瞬間、ゴブリンは横に吹き飛んだ。
「ちょっと‼︎今のは危なかったよ‼︎集中し過ぎないでって言ったでしょ‼︎‼︎」
声の方を見ると、いかにも怒っていますといったクリスが、何かを投げたようなポーズで立っていた。ゴブリンの飛んだ方を見ると。脇腹にナイフが突き刺さっていた。
「…ごめん、クリス。助かったよ」
ゴブリンの爪で切れた頬を拭いながら、なんだか申し訳ない気持ちになった。きっとクリスは俺に声を掛けて危険を知らせていたのだろう。
「ふぅ、もう良いよ。次は気を付けてね」
「…うん」
「さて、お宝♪お宝♪」
クリスはゴブリンに刺さったナイフを回収し、楽しそうに何の迷いもなく広間の奥に進んでいった。すると床を調べ始め、慣れた手つきで床板を剥がす。
「お宝発見‼︎‼︎」
剥がされた床を覗くと、エリス金貨が入った袋が2袋。宝石や指輪等貴金属が数個。そして古びた皮のケースがあった。中を開けると豪華な装飾が施された鞭が入っていた。
「鞭?これがお宝?」
「そうだよ。これはちょっとした力がある鞭なんだ!…ねぇ、他のお宝あげるから、この鞭は私が貰っていい?」
「う、うん。鞭なんて使えないから、別に良いけど…。それ売ったら高かったりする?」
俺の問い掛けにクリスはそーと、目を逸らした。結構なお宝っぽいな。
「まあ、助けて貰ったし、俺は何も文句はないよ」
「ホ、ホント⁉︎ありがとう〜。シンジロウは優しい子だよ」
よっぽど欲しいのか、わざわざ褒める必要も無いのに俺の頭を撫でてきた。完全に子供扱いされてる。少しイラっとした。
「よし!じゃあ帰ろうか」
上機嫌なクリスの後に続いて広間を出る。その時吹きさらしの窓から、風にのって外の匂いが飛んできた。
(…この、匂いは?)
今回はクリスとの出会いです。遺跡なんてのは勝手につくりましたが、真路郎のスキルを使った戦闘シーンを書きたかっただけです。この冒険は次回まで続きます。…その頃のめぐみんは?
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盗賊少女にお宝を!2
めぐみんside
私は今、ギルドにきています。
朝食を食べ終えた後、シンジロウは直ぐに出かけてしまいました。1人残った私は、シンジロウに言われた通りパーティーメンバー探しを始めたのです。
…ですが、街で出会う冒険者達に声を掛けて回り、もうすでに半日が経ってしまいました。
(…どこも取り合ってくれませんね)
私がこのアクセルの街に来たばかりの頃は、アークウィザードで爆裂魔法を使えると言えば、直ぐに入れてもらえたのですが…。
爆裂魔法
(シンジロウくらいですね。私の本質を知っても一緒にいてくれたのは…)
偶然声を掛けてきた、無一文のシンジロウに下心満載でお金を貸し、一緒にクエストへ。あの時もいつものように断られるのでは無いかと思いましたが、それでもパーティーを組んでくれました。
そして、今は他の人とクエストに出ています。このままでは…。
悪い考えを払うように頭を振り、よし!っと気合いを入れて立ち上がり、ギルドでパーティーを募集していないか探してみようと思います。
(シンジロウは大人ぶったところがありますが…。私と一つしか変わりません。大人ぶっている分、まだまだ子供なんですよ。私が側にいてあげないといけませんね‼︎)
そして現在、ギルドのボードでパーティーメンバー募集の紙を見ています。
『パーティーメンバー募集‼︎アークプーリストである女神アクア様と一緒に魔王をしばいてみませんか?パーティーはアットホームで和気あいあいです‼︎』
『※上級職に限る』
…これなら私でも入れそうですね。シンジロウは上級職ではありませんが、このパーティーには最弱職の冒険者もいるみたいなので、押せばいけそうですね。
募集されてる方は…。あの方達ですね。
ギルドを見渡すと、隅のテーブルに寂しそうに男女が座っていました。
(待っていて下さい、シンジロウ!必ずパーティーに入ってみせます‼︎)
私は気合いを入れ、口上に問題が無いか確認した後声を掛けました。
「パーティーメンバーの募集を見てきたのですが、ここでよいのでしょうか?」
「えっと、はいそうですが」
私の問いに緑色の変わった服をきた男の方が返事をしました。年は16〜17くらいでしょうか?水色の髪の女性も同じくらいですね。
おや?男の方はシンジロウと似た様な、異国の風貌ですね。来ている服もシンジロウが持っている上着に似ていますね。…おっと、話が逸れましたね。
それでは…。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者…!」
(ふっ…。決まりました!完璧です‼︎わたしの口上の素晴らしさに声も出ないようですね)
「……冷やかしにきたのか?」
「ち、ちがわい‼︎」
(マズイです!この流れはダメです‼︎…しかし負けませんよ絶対に‼︎)
こうして、私の戦いは幕を開けたのです。
ーーーーー
シンジロウside
ゴブリンの討伐を終え、無事にお宝をゲットし遺跡を出ようとしている。
(あの匂いは、なんだったんだろ?)
そんな事を考えていると、前を歩くクリスがピタリと止まり、俺の手を掴みながら《潜伏》スキルを発動させた。
「シンジロウ。いま《敵感知》に引っかかったんだけどね、初心者殺しが待ち伏せているみたい。このまま行けば確実に狙われるわ」
「でも、出入り口はここだけだよね?それに森迄は少し開けているから、隠れる場所もないよ」
俺の言葉にクリスは頷き、真剣な顔で言葉を発した。
「…うん。森に入っても初心者殺しに補足されてたら、逃げきるのは難しいの。…だからね、遺跡の前の開けた場所で迎え討って追っ払った方がいいわ。君は大丈夫?」
先程の戦闘で体力が減っている上に、水の呼吸の連発で体のあちこちに痛みを感じる。だが、そんな事を言っていられる状況じゃない。
「大丈夫だよ。遺跡を素早く出て二手に散った方がいいよね」
「そうだね。固まっていたら2人とも囚われるからね」
互いに頷きあい、出口までそっと近づく。
「行くよ。…せーの‼︎」
2人同時に飛び出し、左右に別れる。俺達が飛び出して一呼吸おくと、森の中から俺目掛けて黒い獣が飛び出してきた。
「ッ⁉︎ぐぅ!」
刀を鞘ごと抜きガードしたものの、スピードの速さに反応しきれず組み伏せられてしまった。
「グルルルァ!」
押し返そうとしても、力が強く逆に押されてしまう。
目の前に大きな二本の牙が迫り、押さえ付けられた肩と肋骨あたりに鋭い爪が食い込む。俺を殺そうと殺気立った目が、俺を睨みつける。
「シンジロウ‼︎」
ザシュ!
「グギャン⁉︎」
クリスが初心者殺しの背後から、ナイフで切りつけた。初心者殺しは俺から離れ、一度距離をとった。
「大丈夫?立てる?まだ戦える」
「コホッ!だ、大丈夫」
クリスはナイフを構えながら、初心者殺しから目を離さず俺に問い掛けて来た。
「よし!私が気を引くから、シンジロウは止めをさして」
「了解」
俺が返事をすると同時に、クリスは初心者殺しへと真っ直ぐに突っ込んでいく。
俺は隙の糸を辿り、ピンとはる瞬間を待つ。その間に《水の呼吸》を発動さる。
《水の呼吸》。全集中の呼吸と言われ、体の血の巡りと心臓の鼓動を早くさせる。血の巡りが早くさせることで、全身の筋肉と骨は強く、熱くなる。
ヒュウウウ…。
今できる最大限を呼吸へと集中させ高める。
鼓動が早く脈打つ、
全身の隅々に血が通う、
筋肉が燃える様に熱く、
高鳴る…。
ピンッ
隙の糸が張った。
「『弐ノ型 水車』!」
初心者殺しがクリスのナイフを後方に飛んで避けた瞬間。俺は全力で地面を蹴った。
その勢いのまま体を縦回転させ、日輪刀を初心者殺しの胴体に叩き込む。
鮮血が飛び散る。
「グギャン‼︎‼︎‼︎」
ひとつ大きな悲鳴をあげ、初心者殺しは地面へと倒れ込み起き上がることはなかった。
「ッ!…ハア、ハア」
「シンジロウ!…待ってて、すぐに傷の手当をするから」
クリスはポーチから回復ポーションと包帯を取り出し、手際よく傷の手当を始めてくれた。
「…ありがとう、クリス」
「いいよ、気にしないで。…まさか初心者殺しを倒しちゃうなんてね〜。最後の一撃なんてスゴかったよ!」
「クリスが居てくれたからだよ。俺1人じゃ殺されてたよ」
「あはは、それでも凄いことだよ!…それより歩ける?」
「ちょっと、キツイかも…」
呼吸を使いすぎた反動なのか、全身がガッタガタだ。耳鳴りもすごく、鼓動音が全身で響いているようだ。
炭治郎達も修行を積んでなお、使い過ぎると動けなくなっていた。それをスキルで覚えたばかりの俺では、まだまだ体がついて行けない。
クリスに肩を貸してもらい、刀を杖代わりにしてなんとか歩くことが出来た。こうして俺たちは帰路についた。
…ドーーン!
途中、街の近くの平原と思われる場所から、爆発音が聞こえた。
街に着くと俺はクリスに宿まで送ってもらい、毛布にすぐさま倒れ込んだ。
(…なんか、帰る途中に爆発音が聞こえたけど、めぐみんだよな?パーティー組めたの、かな…)
すー、すー…
「あれ?寝ちゃったのかな…」
クリスは今日1日、一緒に冒険をした少年の顔を覗き込んだ。
(寝顔を見ると、まだまだ幼いね)
熟睡する少年に手を伸ばし、ちょびっとしかない眉をそっと指で撫でた。
「…良く頑張りましたね。あなたのおかげで一つ
優しい笑みを浮かべ、そっと呟いた。
ーーーーー
シンジロウが夢の中へと旅立っている頃。
「お、おい!放せよ‼︎…ちょっ、握力強っ⁉︎」
「見捨てないでください!荷物持ちでも何でもしますから!それに、私を仲間にして貰えれば、ちょび眉剣士も付いてきます‼︎だから私を捨てないでください‼︎」
めぐみんは粘液まみれの体で、本日パーティーを組んだ少年に離れまいと必死にしがみついていた。
「ーーやだ。あの男、あんな小さな子を捨てようとしているわ」
「ーー女の子2人とも粘液まみれじゃない。どんな変態プレイをしたのよ!とんでもないクズね‼︎」
周りからヒソヒソと辛辣な言葉と冷たい視線が飛び交う。これ幸いとばかりに、口元を歪めて笑いめぐみんは声を張り上げた。
「どんなプレイでも耐えてみせます!先程のようなカエルのヌルヌルプレイでも‼︎」
「よーし分かった!めぐみん、これからもよろしくな‼︎」
アクセルの街に1人のクズで変態な少年が誕生した瞬間だった。
ーーーーー
ヌルヌルプレイ騒動の後、めぐみんはギルドにある浴場で粘液を落とし、パーティーメンバーと食事を終えすぐさま宿に戻ったのだか…。
「やりましたよ、シンジロウ!遂にパーティーが決まり、まし、た…。あれ?寝ているのですか?」
そこには毛布に包まり、スヤスヤと眠るシンジロウの姿があった。
(…ふむ、疲れているようですね。それに怪我もしているようですし)
ふとシンジロウの枕元に、少し大きめな袋とメモが置かれている事に気づき読んでみると
『今日はお疲れ様。クエストの報酬は明日受け取りに行こうか。ギルドで待ち合わせね』
(一緒に冒険した盗賊の方ですかね…)
『ps.君の寝顔可愛いね〜。お姉さんドキッとしちゃった♡』
「……」
♡
グシャッ
めぐみんは何も言わずにメモを握りつぶした。
これでクリスとの冒険編は終わりです。
そして、次回からあの人達と対面です。
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パーティー
俺の名前は佐藤 和真。普段は学校に行かず、引きこもっていた何処にでもいる高校生。
ある日、おれはゲームの新作を買って帰る途中で、女の子がトラックに轢かれそうな所を助けて死んでしまった。
…と思っていたら、トラックではなくトラクターで、轢かれたのではなく轢かれたと思ったショック死だったらしい。
そんな俺に突如現れた女神により、チート特典と共に異世界に転生させてくれることに‼︎
だが、その女神の態度があんまりだったので、一緒にこの世界に引きずり込んでやった。
しかし、この女神は想像を絶する使えない駄女神‼︎2人では満足にクエストもこなせない為、仲間を募ったところ。現れたのは爆裂魔法しか使えない、ロリっ子魔法使い。
仲間にする気は無かったのに、周りの冷たい視線がヤバかったので結局仲間にしたのだが…。
「おい、本当に来るんだろうな?その、ちょび眉剣士は」
俺はテーブルの向かい側でせっせと料理をかきこんでいる、爆裂娘のめぐみんにジト目で問いかける。
先程まで、スキルについて教えて貰っていた。冒険者である俺は、教えて貰えさえすれば、どの職業のスキルでも覚えられる。
そうしたら、めぐみんは爆裂魔法ごり押しで、ロリっ子と言ったら落ち込んで…。復活しては料理に食らいつく。
駄女神は駄女神で二階の席で宴会芸を披露している始末…。
俺の異世界生活は不安が募るばかり。
「モグモグ、…んぐ。昼も過ぎたので、そろそろ来ると思いますよ?置き手紙もしてきましたし…。それと、本人の前でちょび眉は禁句です。コンプレックスのようなので」
「お前がちょび眉剣士って言ったんだろうが‼︎」
ばん!っとテーブルを叩き、はぁ〜とため息をつく。めぐみんの仲間であるちょび眉剣士。一体どんな奴なんだ?こんな頭のおかしい爆裂娘とパーティーを組むなんて…。
…しかし、名前の響きが気になる。もしかして…。
「あっ、来ましたよ!シンジロウ‼︎コッチです‼︎」
どうやらちゃんと来たようだ。めぐみんはフォークを持ったまま立ち上がり、ギルドの入り口に向けて手を振っていた。
俺もそちらを振り向くと、この世界ではありえない格好をした少年がいた。
歳はめぐみんと同じくらいだろうか?黒髪黒目で髪は短く、まだまだ幼さが残る顔に絆創膏が貼られていた。見た感じスポーツ少年っといった雰囲気だ。
…眉毛の範囲が狭い。ちょび眉だ。
そして、なんといってもその格好!剣道の袴姿に、ジャージを羽織り、靴はスニーカー!更に腰には刀をさしていた‼︎
「おはよう、めぐみん。…こちらは?」
少し驚いた表情で、ちょび眉剣士は俺を見ている。同じことを考えているのだろう。
「おはようございます、シンジロウ。…ふっふっふ!紹介します!これから私達とパーティーを組む、カズマです‼︎…それと、アクアー!ちょっと来てください‼︎」
めぐみんは2階で宴会芸を披露している、駄女神を呼び戻した。
「ああ、俺は佐藤 和真。16歳。職業は冒険者だ。…ひょっとして、お前も?」
「倉富 真路郎です。歳は14歳。職業は鬼殺隊士。…そうですね、詳しい話は後で2人で」
俺たちは握手しながら、言葉をかわす。最後の方は小声でお互いに聞こえる程度に。
「どうしたのですか?2人とも知り合いでしたか?」
「い、いや!初対面だよ、な!」
「う、うん。初対面だよ。ただ、出身地が同じじゃないかなって…」
「ああ、2人とも変わった格好をしていますもんね」
「なになに?めぐみんも私の華麗な芸を見たいの?…あれ、あなた確か…」
駄女神ことアクアが、見当違いなことを言いながら降りてきた。真路郎の顔をみて、少し考え込んだ。
「えーと、お久しぶりです」
真路郎も一瞬驚いていたが、苦笑いしながら挨拶をしていた。
「ああ!思い出したわ!あなた、絵が上手いちょび眉じゃない‼︎なに?ひょっとして、このアークプリーストであるアクア様のパーティーに入りたいのちょび眉?しょうがないちょび眉ね‼︎私の肖像画を描いたら入れてあげてもいいわよっ⁉︎イタイ!イタアアアイ‼︎」
アクアがちょび眉と言った途端、額に青筋を浮かべ最初は我慢しようとしていたようだが…。
すぐに、アクアの顔面にアイアンクローを決めた。コンプレックスを連呼したんだ、アクアが悪い。
泣きじゃくるアクアを無視して話を進めて行く。
職業は鬼殺隊士と言って聞き覚えがあるものだし、恐らく転生特典か何かだろう。
今後パーティーに入ることに異論はないようだ。新たな仲間は、前衛の剣士と後衛のアークウィザード。
聞こえはいいが後衛はダメダメ。転生者である真路郎は何かしらのチート特典を持っているはずだから、是非とも期待したいところだ。
一通り話し終え、真路郎が覚えているスキルについて聞こうとしたのだか…。
「探したぞ」
「げっ!」
真路郎side
この世界にきて、初めて転生者に出会った。名前は佐藤 和真。そして、何故か俺をこの世界に送った、女神アクアと再会した。
色々と話をしたいがめぐみんがいる手前、話せるような内容じゃない。とりあえず話題としてスキルの話が出たが…。
「探したぞ」
「げっ!」
突然、後ろから声を掛けられ、和真は嫌そうな声を出した。振り向くと、金髪碧眼でフルプレートに身を包んだ美女がいた。女騎士を体現した見た目で、歳は和真より上かな?背も170はあるんじゃないか?
「昨日は酔ったと言って、帰ってしまったが…。私をパーティーに入れてくれないか?」
「お断りします」
和真の返答は早かった。見た感じ凄そうな騎士なのに、なんでダメなんだろう?
「即答、だと…!…ん、くっ。私の目に狂いはない」
なんか顔を赤らめながら、和真の肩を掴んでいる。それを引き剥がそうとする和真。これはどんな状況なんだろうか?
そんな事を考えていると、女騎士の後ろから知った声が聞こえてきた。
「あはは!ダクネス、いきなり困らせるようなことしたらダメだよ!」
「あっ!クリス」
「おっ!シンジロウ、怪我はもう大丈夫?早速、昨日のクエストの報酬を受け取りに行こうか!」
クリスはそう言うと、俺の手を掴みギルド受付まで引っ張っていく。チラッと見えためぐみんの視線が少し気になったが…。
クエストの報酬とゴブリン20匹に初心者殺し1匹。2人で分けても中々の額になった。更に山賊の残した金貨と宝石もある。これで防具の足しにできそうだ。
めぐみん達の元に戻ると、和真とダクネスと言う女騎士は今だに問答を繰り広げていた。
「ほら、ダクネスは落ち着いて。君達がダクネスの入りたがっているパーティーかな?シンジロウもこのパーティーに入ったの?」
「うん。て言っても、今日入ったばっかりだけど」
「そうなんだ。…ねぇ、さっきチラッと聞こえたんだけど、スキルについてお悩みかな?だったら、盗賊スキルなんてオススメだよ!」
スキルの取得に悩んでいた和真にクリスが提案し、盗賊のスキルについて大まかに説明した。
「和真さん、俺は昨日見たんだけど凄い便利そうだったよ」
「おっ、本当か?それなら覚えてみようかな…。後、さんはいらないよ。敬語もな」
「ふふ、今ならクリムゾンビア一杯で教えてあげよう!」
「安いな!すいませーん!こっちの人に冷えたクリムゾンビアお願いしまーす‼︎」
雑談をしながら一杯ひっかけた後、スキルを覚える為に和真とクリス、女騎士のダクネスはギルドを出て行った。
その間、俺はめぐみんに和真達とパーティーを組む経緯を聞いた。…アクアは宴会芸の披露に戻っていた。
・アクアが書いたパーティー募集を見て、声をかけた。上級職限定だったらしい。
…駆け出しの街で上級職なんて滅多にいないのでは?
・お試しとして、ジャイアントトードの討伐に。
・何時も通り、爆裂魔法で吹き飛ばしたこと。…あの爆発音はやはりめぐみんだったのか。
・動けなくなったところを、カエルに捕食されてしまい和真に助けだされたらしい。そして、粘液でヌルヌルのまま、街まで帰り和真を脅して仲間になったそうだ。
(…街で、クズだの鬼畜だの言われていたのは和真だったのか。なんか、申し訳ないな)
俺の方も昨日の事を一通り話すと、めぐみんは眉をひそめた。
「良いですか、シンジロウ。私のいないところで、危ない事をしないで下さい。いざという時に私の爆裂魔法で助けられないじゃないですか」
敵と近距離なのに爆裂魔法を打たれては困る。と思ったが、めぐみんなりに心配してくれているのだから言わないでおこう。
「うん、出来るだけそうするよ」
「分かればいいです!」
俺たちは何気ない話に花を咲かせていると、和真達が戻ってきた。
戻って来たのだが…。
今回は和真とアクア、そしてダクネスとの出会いでした。
次回は、みんな大好き!○○○泥棒です!
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パ○ティー
更新が遅くなりました。すいませんでした。
「う、うう…、ぐす」
和真にスキルを教える為に、ダクネスと共に出て行ったクリスが泣いていた。…スキルを教えるだけだよな?
「あ、あのさ。何でクリスは泣いてるの?」
「いや〜、実はさ「うむ、クリスはカズマに盗賊スキルのスティールを教えた際に、公衆の面前でパンツを剥がれ、さらにあり金を毟り取られたのだ」お、おいあんた何言ってんだ!間違って無いけど待て‼︎」
和真が答えるより先にダクネスが説明してくれた。必死に弁明しようとしているが、ダクネスの言ったことに間違いは無いらしい。
……どん引きだ
「お、おい何だよ真路郎!その顔やめろ‼︎」
「う、ぐす。自分のパンツの値段は自分で決めろって、でないと我が家の家宝として奉られる事になるって。ぐす」
…ほんとどん引きだよ
クリスが更に和真の悪事を暴露し、和真は必死に取り繕うとするも周りの冒険者、特に女性からの視線が冷たくなっていく。
「ダクネス、私これから稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるね。下着を人質にあり金失っちゃったしね!」
「おい、待てよ!この状況放ったらかして行くなよ‼︎アクアとめぐみん以外の視線が冷たすぎる!」
開き直ったのかクリスは、金策に出掛けることにしたらしい。和真はクリスを引きとめようとするも、そそくさと去って行ってしまった。
「…それで、カズマは無事にスキルを覚えられたのですか?」
残された俺達の間には凄く気不味い空気が流れたが、めぐみんが話題を転換させた。
「あ、ああ!見てろよ?いくぜ、『スティール』!」
和真は叫び、めぐみんに右手を突き出した。一瞬眩く光ったその手には黒い何かが握られている。
すると、横にいるめぐみんの顔が赤くなり、俯いてしまった。
和真が盗ったものは…。
そう、パンツである。
……どん引きだよ!
「…何ですか?レベルが上がってスキルを覚えて、変態にジョブチェンジしたんですか?…スースーするのでパンツ返して下さい」
「あっ⁉︎あれー、おかしいな!盗めるものはランダムなはずなのに⁉︎」
慌てふためく和真は、テンパっているのかめぐみんのパンツを持ったまま、右往左往していた。
「和真。早くめぐみんに返せよ」
「あ、ああ、そうだな。…頼むからその顔やめろ。お前の視線が一番キツイんだよ!」
和真はめぐみんにパンツを手渡しながら、半泣きで訴えてきた。自分が今どんな顔をしているのか分からないが、表情筋が引きつっているのだけは分かる。
「ああ!こんないたいけな青少年が、あんなにも人を蔑んだ表情をするなんて‼︎」
ダクネスが何かブツブツと言い出した。そして意を決したように和真に詰め寄った。
「やはり私の目に狂いは無い!こんな幼げな少女の下着を公衆の面前で奪い盗るなど、なんて鬼畜なんだ!それに加えて少年の蔑む眼!…私を!私をあなた達のパーティーに入れて欲しい‼︎」
「いらない」
「んん…!くっ…!」
興奮気味に捲したてるダクネスに和真は即答。だが何故か顔を赤らめ身震いをしている。
そう言えばダクネスについて何も知らないな?俺と同じ考えなのだろうか、アクアとめぐみんも似たような表情をしていた。
「ねえ、カズマ。この人誰?昨日、私とめぐみんがお風呂に入っている間に来た人?」
「この方、クルセイダーではないですか!断る理由は無いのではないですか?」
ダクネスの冒険者カードを見ながら、めぐみんは頭を抱えるカズマを訝しんでいた。たしか、クルセイダーは戦士系の上級職だったはず…。
(なんで和真は頑なに嫌がるのだろうか?)
そんな事を考えていると…
『緊急!緊急クエスト!街の冒険者は各員、街の正門まで集まって下さい!繰り返します。街の冒険者は各員、街の正門まで集まって下さい‼︎』
ギルド職員の声と警戒音が、けたたましく町中に鳴り響く。
「一体何なんだ⁉︎」
突然の事に和真が声を上げる。
「何ってキャベツよ。キャベツ」
…今、アクアは何て言った。
俺と和真は、は?何言ってんだこの駄女神。といった表情をするも、ダクネスとめぐみん、他の冒険者はアクアの発言に意を返さぬように支度をし、正門へと走って行った。
ーーーーー
正門を出ると冒険者がひしめき合い、異様な空気が流れていた。
「今年は荒れるぞ」
誰が言ったのか分からない、その言葉にゴクリと喉を鳴らす者もいる。
「嵐が…、来る…!」
めぐみんの言葉で場の緊張はピークに達した。
(…何これ?)
隣に立つ和真も、俺と同じで場の空気についていけてないようだ。
「…なあ、和真?これ俺達がおかしいのか?後衛の魔法使いのめぐみんが、何で最前線でポーズとってんの?」
「すまん…。俺も分からん」
「二人共いいか?」
和真2人で状況についていけない中、ダクネスが俺達に話しかけてきた。
「このキャベツ狩りで、私のクルセイダーとしての力を見せよう。だから私のパーティー入りを考えてくれ…。しかとその眼で見極めて欲しい!」
そう言うとダクネスは最前線へと去っていった。その後ろ姿は正しくファンタジーに出てくる騎士だった。
「ごめん、和真。俺、キャベツ狩りで鬼殺隊士の力をどうやって見せれば良いか分かんない…」
「ああ、俺もどう実力を見極めたらいいか分かんねー」
2人で顔を見合わせていると、アクアがキャベツについて説明してくれた。
「あんた達は知らなかったわね。この世界のキャベツは、収穫の時期になると飛ぶのよ!食べられてたまるかとばかりに。だから私達は一玉でも多く捕まえて、美味しく食べてあげようってわけよ‼︎」
「俺帰っていいか?」
和真はやる気を無くしたのか帰ろうとし、それをアクアに引きとめられて喧嘩し始めた。
「来たぞーー‼︎‼︎キャベツ狩りじゃーー‼︎」
「マヨネーズ持って来い‼︎」
冒険者達の雄叫びあたりに響く。どうやら始まったみたいだ。
「キャベキャベキャベキャベキャベキャベ」
これは鳴き声なのだろうか?迫り来るキャベツの大群に目を向ける。
(…数多くないか?それに、なんか、かわいい顔してるな)
周りの冒険者達は一斉に飛び出して行く。だが…
「うわぁ!」「ぐっ!」
キャベツの突進攻撃で吹き飛ばされ、苦戦を強いられていた。予想以上の強さだ。そんな中、ダクネスが前に出た。
「セヤァァァ‼︎」
気合いが入った掛け声と共に、両手で握られた剣を振るい連撃を叩き込む。
「キャベキャベキャベキャベ」
「……」
ダクネスの顔が真っ赤に染まった。一撃も当たらなかった。嘘だろ?
和真も信じられない物を見る目になっていた。
「ぎゃぁっ!」「ぐわぁっ!」
「おい!逃げろ!」
何人かの冒険者がキャベツにやられ、起き上がれなくなっている。そこにキャベツの追撃が迫っている。
「くっ!ここは私が防ぐ‼︎その間に体勢を立て直せ」
間一髪でダクネスが間に割り込み、身を挺して冒険者を守った。大の男たちを吹き飛ばす攻撃を、防ぎきっていく。
(…すごい防御力だ)
俺はダクネスの強みは高い防御力なんだと、思わず感心して見入ってしまった。しかし、横にいる和真は何か違ったらしい。
「こいつアレだ。ただのドMだ…」
和真の発言にもう一度ダクネスに目を向けると…。
キャベツが当たるたびに、顔を赤らめ息を荒くしていた。
(そっかぁ…。うん、人の性壁をどうこう言ったらダメだよね?人に危害を加えているわけじゃないし…)
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を操る者!今こそ混沌の闇を払いし時‼︎『エクスプロージョン』‼︎‼︎」
ドカーン‼︎‼︎‼︎
…めぐみんがダクネスごとキャベツを吹っ飛ばした。爆裂魔法が直撃したにも関わらず、その表情は光悦とし普通に生きていた。
(うん、もういいや。俺もキャベツ狩りを始めよう)
こうして、俺の異世界て初めてのキャベツの収穫が始まった。
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