藤原肇の『ロス;タイム;ライフ』 (凍風)
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藤原肇の『ロス;タイム;ライフ』

「よい...しょっと...うん、完成♪」

 

私はろくろを回す手を止め、笑みを浮かべた

 

目の前には茶碗が二つ、私の分と...プロデューサーさんへの分

 

「後はこれを焼き上げて...釉薬を塗って完成っと。喜んでくれるかな、プロデューサーさん」

 

私は茶碗を手に取り、竈に歩きながらふと思い出した。

 

「そういえば今度プロデューサーさん陶芸やってみたいっていってたから...今度誘ってみようかな」

 

そう思いながら私は竈に陶器を入れ、焼き上げを始めた

 

 

陶器を入れた窯が突然爆発した、

窯の破片がゆっくり私のほうに飛んでくるのが見える

 

私の頭の中に今までの思い出が思い浮かぶ...これが走馬灯なのかな?

私は目をつぶり、最期の時を待った

 

が、破片はいつまでたっても飛んでこない

 

次の瞬間、ホイッスルの音とともに、4人の黒子が出てきた、一人は電光掲示板を持っている。

 

『さて、今回も試合開始のホイッスルの音が鳴りました、今回の選手は藤原肇、窯の爆発に巻き込まれ死亡、今回の時間は...』

 

電光掲示板には【3;00】と書かれていて、刻一刻と減っている。

 

「なに...これ...私...助かった...の?」

 

すると黒子の一人が出てきて合掌し、空に指を挙げた

 

ああ、やっぱり死んじゃったんだ...

あれ?でもなんで私今いるのだろう

 

その疑問に答えるようにもう一人の黒子の人が腕時計を指さし、走る動作をした。

 

「腕時計...時間が減る...走る...ロスタイム?」

 

先ほどの黒子の人が頷く。

 

『おっと藤原選手、ルールを理解したようです、ここまで5分、上々の滑り出しですね』

 

『そうですね、これは今までで一番いい結果になるのではないでしょうか』

 

つまりあと私にのこされた時間は2時間55分...

 

私は迷わず携帯を取り出し、プロデューサーに電話する

 

「はいもしもし?肇か?どうしたんだ?」

 

私は覚悟を決めて話す

 

「実は私...」

 

と黒子の人の一人がホイッスルを鳴らし黄色いカードを挙げた

 

『おっと、イエローカードが出ました、いけませんねぇ、自分の死を伝えるのはルール違反です』

 

『毎回出ますよね、この手のイエローカード』

 

自分の死を伝えてはいけない...のかな?

 

「どうしたんだ?」

 

「あーいえ...前にプロデューサーさん陶器作りたいとおっしやってたじゃないですか、今から作りませんか?」

 

「今からか...わかった、今ちょうど仕事が終わるからそのあと向かう、だから多分1時間後かな?」

 

「わかりました、私の家で待ってます。」

 

そういって私は電話を切ると、ろくろの準備をしていつでもできるようにした。

時間を見るとあと2時間30分になっていた。

 

「黒子さん、手紙は大丈夫?」

 

黒子の人は頷いた。

 

私は机から紙とペンを取り出して、いろいろな人に手紙を書いた

祖父や父さんや母さん、そしてプロデューサーさんやほかの子たち

そうして書いているとインターフォンが鳴る音がした

時間はあと1時間半

 

「こんにちわ、プロデューサーさん」

 

「こんにちわ、にしても急だな...何かあったのか?」

 

心が痛む...けれど正直には言えない

 

「いえ...今日は天気がいいので陶芸日和なので...そしてプロデューサーさんが前に陶芸をやってみたいとおっしゃっていたのを思い出して...つい」

 

「そうか...まあいいや、お邪魔するぞ?」

 

「どうぞ、すでに用意は完了してますよ。」

 

そして私はプロデューサーさんに陶芸のコツを教えつつ、茶碗が完成した。

プロデューサーを送るころには時間はあと5分と迫っていた。

黒子の人は...寝ちゃってますね

 

「それでは、プロデューサーさん、焼きは時間がかかるのでまた後日、持ってきますね?」

 

「わかった、楽しみに待っておくよ。それでは、また明日」

 

「はい、また明日」

 

玄関の扉が閉まる

私はその場にうずくまる

 

「嫌だ...死にたくない...」

 

目から涙がこぼれてくる

 

『おっと藤原選手、のこり5分ですがここで感情が一気に出てきたか?』

 

『まあ普通に考えて残り5分で死ぬという現実は辛いですからね』

 

「だけど...行かなきゃ...せっかく与えてくれた機会なんだから...」

 

私はあの竈に行き、時間を待つ

 

残り10秒、皆の顔を思い出しながら思い出が頭に流れる

残り5秒、お父さんやお母さん、祖父や祖母の顔を思い浮かべる

残り1秒、プロデューサーさんの顔が思い浮かんだ

 

残り...0秒

 

そして、藤原肇は死亡した

 

 

 

 

 

 

 

 

3年後

 

「もうあれから3年か、早いものだな、なあ...肇。」

 

俺は写真に向かって語り掛ける。

俺が帰った後、窯が爆発したらしい、俺は急いで病院に駆け付けたがその時にはすでに事切れていた

 

そして翌日、俺やほかのアイドルあてに手紙が見つかった

 

事故死だったのにまるで予測していたかのような...そんな手紙だった

 

祭壇の前には、あの時作った茶碗が置いてある。

俺はそこに水を注ぎ、置いた

 

「それじゃ、仕事...行ってくるよ。」

 

どこか、写真が笑っているような、そんな気がした。




今回台本形式ではないため配役が若干分かりにくいかと思います

「」がプロデューサー、肇
『』は実況解説です


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