魔女幻想 ~ fantastic Magus (神風雲)
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無我夢中の炉心 ~ mother to my heart
一話「恋色マジック」


 

 

 

 とある村外れの森

 

 

 

 「ねえ魔理沙」

 

 「何だアリス」

 

 白いエプロンをかける金髪の少女と、同じ金髪のグリモワールを持つ少女が二人並んで森を歩いていた。陰湿で圧迫感のある森林を軽い足取りで進んでいた。

 

 「魔理沙って魔法どこで覚えたの?」

 

 「なんだよ今更だな」

 

 「気になったのよ。魔道書を普通の人が読んだところで分かるはず無いもの」

 

 「それは、私が人間の中でも一段と――」

 

 「はいはいそう言うのいいから。それで本当は?」

 

 冗談すら言わせない勢いで迫る少女。その眼差しに白黒少女は両手を挙げた。

 

 「どうせ私の家まではまだあるんだから。暇つぶしに話してよ」

 

 「わかったよ」

 

 話に聞き入るように〝アリス”と呼ばれる少女は耳を傾けた。

 片手に箒を持つ少女〝魔理沙”は空を仰ぐように両腕を伸ばし、指で作るフレームの中に太陽を入れた。

 

 「あれは8歳のころだ」

 

 

 

―――

 

 

 

「私の名前は霧雨魔理沙!魔法使いさ!」

 

 左手に箒、右手におもちゃの宝箱を持ち、黒い布をマント代わりにしてポーズを決める。わざわざ持ってきた「石浦みかん」と書かれた箱の上に乗って小さな体が吠える。

 

 「やーい魔女が出たぞ―」

 

 「魔女じゃない!魔法使いだー!!」

 

 近所の同年代の子供が魔理沙をいじめてくる。だが負けじと魔理沙も箒を股に挟んで追いかける。

 その様子を遠い目線で見守る少年と母親らしき女性。

 

 「魔理沙ー!」

 

 「あ!」

 

 その存在に気付いた魔理沙がマントをなびかせながら走ってくる。

 そして母親に抱きつく・・・・かと思ったが、狙いは隣の少年へ。

 

 「こーりん!!」

 

 「グヘェ!?」

 

 股に挟んでいた箒が落ちずに少年の股間に直撃した。

 少年はもがきながら魔理沙を撫でて倒れた。

 

 「あらら・・・」

 

 「どうしたの?」

 

 「な、なんでも・・・なっ・・・い」

 

 少年の意識が途切れた。

 彼の名前は「森近霖之助(もりちかりんのすけ)

 霧雨道具店に住む後継ぎの一人。現在は修行中で主に魔理沙の御守をしている。そのおかげか魔理沙に好かれて止まない。

 そして魔理沙自身も霧雨道具店の後継ぎに入るのだが、まだ幼いため親族は霖之助と結婚させようと言う考えがある。結論的には許嫁になるのだろう。

 実は霖之助は人間とは少し違うのだ。人妖と呼ばれる人間と妖怪のハーフで、近年このような異種族のハーフが増えていると言う。

 だが彼には大きな夢と悩みがあった。

 

 「御母さん、少しお話しが」

 

 そしてついにそのことを明かした。

 

 「そうね。あなたももうそんな年だし。一人立ちさせてもいいかもしれないわね」

 

 「はい。申し訳ありませんが、ここでは少し力不足と思いまして」

 

 一人前になるための店を持つこと。だが表は単に営業範囲を拡大することだ。

 霖之助は物の取り扱いに長けていたため、人一倍商品の説明や扱いが上手かった。

 

 「いいわ。あなたの好きにしなさい。ただし」

 

 「ただし?」

 

 「魔理沙を連れて行ってちょうだい」

 

 「・・・・・」

 

 言葉を失った。半分あの子から逃げるつもりでいたのに、またあの子の世話をしないといけないとは。

 結局魔理沙を連れていく羽目に。

 

 

 

 「はぁ・・・先が思いやられるなぁ・・・」

 

 目指すは村や町と言った人が多く住む場所だ。とはいえ幻想郷ではその様な人口密集地帯自体少ない。霖之助が居た場所は人口200人程度の商人が集まる場所だった。村の商人たちは本来その場所から動かず、一つの拠点を軸にして動くのだが、近年は妖怪の活発化に伴い、霖之助のように村を出る者も少なくは無かった。

 そして魔理沙の母も子孫繁栄のため、村から出したという事だ。魔理沙の父は数年前に妖怪退治に出かけ、既に亡くなっていた。単純に考えると人の多い所へ逃がしたかったという事だろうか。

 地図を見ながら霖之助は考えた。魔理沙が安心して暮らせる場所は一つしかないと。

 

 「博麗の巫女が管理する人里へ行こうか、魔理沙」

 

 少女は手を繋いでいた少年を見上げ、体を震わせながら大きく頷いた。

 

 「うん!」

 

 推定1500人が集うその人里は、商売と娯楽と美味い物が交差する幻想郷の言わずと知れた中心部であった。

 商売をするには悪くない。そう思い、霖之助と小さな魔法使いは着実な歩みを幻想の大地へ刻んで行った。

 

 

 

 

 

 




 初投稿です。これからも色々至らない点があると思いますが温かい目で見守ってやってください。なるべく原作重視にしてますが一部違う可能性があります。


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二話「Dim. Dream」

 

 

 

 

 

「へ、へえ。あなた霖之助さんの嫁だったの・・・へえ・・・」

 

 「まあ今は知らないけどな。それに今の仲はどっちかっていうとお父さんみたいな感じだし」

 

 「だから今は霧雨道具店をあんなところでやってるのね」

 

 「来るのはお前とか妖怪ぐらいだけどな」

 

 「それで。話の続き」

 

 「おお、そうだった。それで私達は旅に出たんだけど、案外早くあの場所を見つけたんだよな」

 

 「香霖堂ね」

 

 「そう。それで今度は私が一人立ちしたいって言いだしたのがきっかけなんだ」

 

 

 

 

―――

 

 香霖堂

 

 

 「俺もそろそろ一人立ちしたいぜ!」

 

 「駄目」

 

 このような会話を一日に何回と繰り返す。これを毎日だ。

 魔理沙も11才になり、そこそこな思春期だ。それ故好奇心と冒険心が暴走しかけている。

 そんな状態で旅にでも出させれば魔理沙も後悔することとなるだろう。そうして後から「どうして止めてくれなかったんだ」と言われても大いに困る。

 

 「なんでだよ!俺だって冒険したいぜ!探険したいぜ!宝物引き当てたいぜェ!!」

 

 「はぁ」

 

 たしかにこのままでは箱入り娘となってしまう。だからと言って軽々に「はいどうぞ」と言えるはずもなく。

 そして霖之助の頭に一つの案が思い浮かんだ。

 

 「魔理沙。一人立ちしてもいい」

 

 「本当か!?」

 

 「ただし条件がある」

 

 「なんでも言ってみろ!!」

 

 そして店の奥に行き、木製の小さな箱と古びた紙を取り出した。

 紙には謎の文字と図形が書かれている。

 

 「この紙は特殊な紙で燃えないんだ。そしてこっちは」

 

 小さい木箱を開けて中から八角形の金属を取り出した。

 

 「これをお前にやる。これを使いきれるようになったら一人立ちを許そう」

 

 一見何を言っているのか分からないような魔理沙。だが汗をかきながら八角形の金属を手に持ち

 

 「こ、こんなのすぐに使い古してやらぁ・・・・えーと」

 

 カチャカチャと弄りながら調べているようだが今の魔理沙には到底分からない代物。悪く言えば豚に真珠だ。だがこれも魔理沙の頑張り次第で真珠どころかダイヤモンド並の力を発揮する。

 

 「それは八卦炉と呼ばれるものの縮小版『ミニ八卦炉』だ」

 

 『八卦炉』とは、中国に伝わる神話に出てくる炉であり、八本の柱を立体的に表した金剛金属。八本の柱はそれぞれ「乾・坎・艮・震・巽・離・坤・兌」を表し、内部にもこれと同じ方向が書かれている。

 ただこのミニ八卦炉は炉口から炎を出す火力調整機で、小さい炎から山をも消し飛ばす大火炎まで出すことが出来る。

 そうとは露知らず、魔理沙は「使い古す」等と軽々しく答えてしまったのだ。

 

 「まあ使いたいのであれば、ある人に弟子入りするといい」

 

 「弟子入り?」

 

 発言に疑問を抱いていると。

 

 (出番かねぇ)

 

 どこからか女の声がした。

 

 「おいおいちょっと早いっ――」

 

 霖之助が急いで古い紙を地面に敷く。すると間もなく紙が光り出し、輝く光の線が星型を描いて空間に広がった。

 その光の中から緑の髪色をした綺麗な女性が現れた。その女性に足は無く、代わりに大きなスカートの中から白い煙のようなものが出ている。右手には三日月型のオブジェクトが付いた杖を握っている。その見た目は魔理沙が夢にまで見た魔法使いや魔女の類に似ていた。

 女は静かに目を開き、フッと笑って大声で

 

 「我が名は魅魔!魔界に集いし邪霊なり!」

 

 そう名乗ったのだ。

 

 「はぁ・・・魅魔さんは早とちりですかぁ・・・・」

 

 「ワー・・・・・」

 

 霖之助は頭を抱え、魔理沙は口を大きく開けたままポカーンとしている。

 そこへ魅魔のげんこつが振り下ろされた。

 

 「イタッ」

 

 「いってー!」

 

 「この魅魔を召喚したというのに・・・・地上の者は礼儀がなってない!」

 

 (勝手に来たんでしょうが)

 

 (いきなり現れて何言ってんだこの人)

 

 二人の意見が初めて合った。

 その後魔理沙に二人からの説明があった。

 

 まずこの女性「魅魔」は、魔界に住む霊的存在で、一種の神様らしい。今は地上で生活しているそうだ。話では博麗神社に祀られている祟り神の一人らしい。元々は全人類に復讐するために博麗の力を得たらしいが、今はどうでもいいと言う。

 そんな彼女だが得意とする能力は月の加護を受けて発動する「魔力」を利用した「魔術」。そのために星を利用した物が多いそうだ。

 魔術師として君臨する中で位があるらしいのだが、その中で「メイガン」と呼ばれる位らしい。

 

 「そうだ。そしてこの私がここに来た理由は・・・」

 

 魔理沙を指さして

 

 「貴様を鍛えるためだ。話じゃ冒険するために八卦炉を使うそうじゃないか。中々良い度胸だ。だからこの私が鍛えてやる。徹底的にな」

 

 「うぅ・・・」

 

 冒険に出たいのも事実。八卦炉を使いこなすと言ったのも事実。だがどうしてこうなった。

 そう心で嘆いていると。

 

 「どうやらかなり失感しているようだが、私は容赦せんぞ?」

 

 「なっ・・・」

 

 心を読まれた。と言うか表情で分かったのだろう。

 

 「まあやるなら本気でやろうじゃないか」

 

 「もしかして俺がなるのって・・・・」

 

 「もちろん、魔女の一つ下の位。『魔法使い』だ」

 

 「ぜ・・・ぜ・・・・ぜぜぜ・・・・」

 

 かなり面倒なことに巻き込まれてしまった魔理沙。そこからの訓練と練習の日々は苦しいものになるんだろう、と想像しながら泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「なあ魅魔さんよぉ」

 

 「馬鹿者!魅魔様とお呼び」

 

 (そんな団長みたいなこと言われても・・・)

 

 「この服装には意味があるのか?」

 

 それは黒い服に白色のエプロン、そして小さい頃被っていた白黒の魔女っ子帽。

 

 「魔法使いになるんだから形だけでも見せておいた方がいいんだよ。それにその服装に色々思い出もあるのだろう?」

 

 ニヒヒと美貌に合わない笑い方をする魅魔。たしかにこの服装は小さい頃、魔法使いごっこをしていた時の服装によく似ている。

 だが何故それをこの魅魔が知っているのだろうか。疑問に思っているうちに

 

 「さあ着いたよ。ここがお前の修行場『五行山』だ」

 

 そこは果てしない程広い空間で、底なしの断崖絶壁。所々に岩柱が立っているが心許無いところだ。さらに霧が濃く、見通すのも一苦労だ。

 そして五行山と言う名前。これはその昔「西遊記」に出てきた山で、孫悟空を閉じ込めた山だ。その時魔理沙の脳内に一筋の光が迸った。五行山は八卦炉で炙られているところを逃げた孫悟空を閉じ込めた山。そして魔理沙がバッグに入れてある『ミニ八卦炉』とは切っても切れない表裏一体の存在と言っても過言ではない。

 

 「つまり俺を鍛えるのに格好の場所ってわけだな!やる気が沸き出るぜ」

 

 と、また意気込んでしまった。

 

 

 

 

 




 五行山のあたりはよくわかっていません。間違っていたらすみません。
 俺魔理沙はグレてる?感じを出すために使ってみました。






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三話「オリエンタルダークフライト」

 

 

 

 

 一週間目

 

 「まずは空中浮遊からだ。箒に跨って飛ぶことだけを意識しろ」

 

 「そんな無茶な!いきなりかよ」

 

 最初はとにかくイメージを具現化することだった。その初段として魔法使いの代名詞「空中浮遊」をすることになった。

 魔法の中でも「物体浮遊法」に当たる魔法で、主に半径二メートル圏内の物体を浮遊させるとこが出来る。杖等の遠射法を使えば遠くに飛ばせるが、魅魔の話だと魔理沙は小火力を苦手とする体質らしい。

 

 「私なんぞ今なら力も要らずに飛べるぞ」

 

 「それは足が無いからだろ!!」

 

 結局一週間での習得は無理だった。羽や石ころ程度なら少し浮くようになって来たのだが、如何せんコツが上手くつかめない。

 

 

 二週間目

 

 「今日から一週間。魔力の増強に入る」

 

 「えー、めんどくさいぜー」

 

 魔力と言うのは主に背中辺りから放出される、そこから空気中の魔素を吸収するため常に魔力の通気口「魔口」が開いている。

 初心で魔法が上手く操れない場合は魔力の放出量を整える必要がある。特に魔理沙は魔力の放出量に大きなバラつきがあり、これでは大火力を一瞬にして発生させるミニ八卦炉を操ることなど叶うこと無い。

 

 「とにかくこの一週間はキノコを食べて魔力を付ける事」

 

 「何でキノコなのぜ?」

 

 「キノコは魔術界での必需品だ。実験にも使うし、魔力の補充にも使う」

 

 キノコは魔術界で『気の子』と呼ばれており、魔力のみならず様々な能力値を底上げしてくれるらしい。ただキノコを食べても効果は一瞬で、魔力の放出量を上げるにはキノコを食べ続けて魔力の通しを良くすることが必要らしい。

 ただ毒キノコは特別な魔素を含んでいるらしく、食べると体の到る所に症状が出るのもそれが原因だと言う。

 

 「これはアカヤマドリ。こっちはクギタケ。おっ!見ろ、これはサクラシメジと言ってな。魔術界では卑猥の象徴とされて―――」

 

 (魅魔様って中身ただのオバさんだよな・・・)

 

 一週間だけでなく常にキノコを食べることを強いられた魔理沙であった。だが不覚にもキノコのことを嫌いには慣れなかった。

 

 「キノコおいしー」

 

 

 

 三週間目

 

 「今日は実戦的な魔法を使ってみよう」

 

 「ついに本格的な魔法か!」

 

 箒で飛ぶことも十分本格的な魔法なのだが、この日は攻撃魔法。物体に対して衝撃を与える魔法「物理魔法」を習得する。

 と言っても物理魔法は体内の魔力を一点集中して放つ初歩的な攻撃方だ。さらに物理魔法には専用の物があるため、知識さえあれば誰でも使えるのだ。

 

 「まずは腕に魔力を込めて私に殴りかかって来い」

 

 「いくぜ!」

 

 腕に魔力を入れるイメージを起こす。キノコを食べたおかげか、体の調子がよく、力が体の中に存在しているのが体感して分かる。

 そして魔力を込めた力一杯の拳で魅魔を殴り付けた。

 

 バシッ!!

 

 「なかなかじゃないか。この短期間でここまで魔力を溜めたか」

 

 「マジ?」

 

 「筋はあると思うぞ」

 

 魔理沙の言う「マジ?」はどちらかと言うと拳を片手で受け止めた魅魔のことなのだが。そういうことにしておいた。

 続いて強化魔法。先ほどの物理魔法と似て異なるものだ。

 魅魔の持つ杖にも強化魔法が掛けられているらしく、基本メインアームに使う魔法。この魔法をかければ強度・性能が飛躍的に上がるらしいのだが・・・

 

 「もう一度!!」

 

 「うおおおおおおおおおおおおーーー!!」

 

 力一杯小枝に魔力を注ぐ。

 そして魅魔が枝を持ち、つまんで曲げる。すると簡単に折れてしまう。

 

 「もう一度!!」

 

 「ぬおおおおおおおおおおおおーーー!!」

 

 これを何度も続けていた。

 

 「どうやら強化魔法は向いていないようだな」

 

 「ぜェぜェ・・・マジでェ?」

 

 要領は同じなのだがどうしても魔力が小枝に伝わらない。

 物質の中には魔力が伝わりづらい物もあるが、この小枝は中でも伝わりやすい物だ。だが魔理沙の魔力は小枝に保存されない。

 

 「おかしいな。普通なら伝導した魔力は魔素として物質に保存される魔力保存の法則があるのだがな・・・」

 

 前に香霖堂で読んだ外の世界の本に「質量保存の法則」と言う物を見たが、それと同じような物なのだろうか?と思いながらキノコを食べて気力を上げる。

 

 「仕方ない。防御に少し難があるようだが攻撃で防げば問題無い」

 

 「お!遂に攻撃系か!」

 

 「とりあえずは、な。来週から始めようか」

 

 「うっしゃあッ!!」

 

 気合いと根性だけはあるのだが、魔法と言うものは難しい。

 

 

 

 四週間目

 

 「では“魔法”をお前に教えよう。今までやってきたことは単なる準備運動に過ぎないぞ」

 

 「わっかりましたー!!」

 

 身形で敬礼し、目を輝かせて魔法習得に挑む。

 今までの「物理魔法」や「強化魔法」は単に魔力を注ぐだけのストレッチのようなものだ。そしてこれから行う「魔法」は「特殊魔法」とも呼ばれる魔力を具現化する方法だ。

 

 「まずは物理魔法と同じように腕に魔力を溜めて」

 

 「フゥゥゥゥゥ―――」

 

 「その力を指先に集中させて解放させる。やってみて」

 

 右腕に溜めた魔力を手の平へ注ぎ、五本の指先から流れ出すように解放させる。イメージ通りに行く感覚が神経を伝って目に浮かぶ。

 それぞれの指先から淡い光が漏れだし、手の平に光の球体が形成される。

 

 「これは・・・」

 

 「どうやら魔理沙は魔法を『光』と思っていたようね」

 

 「え?」

 

 「魔法の第一段階『魔力生成』は本人のイメージで決まる。たとえばそれが『炎』だったら、『水』だったら」

 

 そして魔理沙の手の平に浮かぶ魔力の塊は眩い光を放つ光球。

 

 「光は進む者を照らし、直線を描いてまっすぐ進む。それがお前の属性でもある」

 

 「属性?」

 

 「つまりお前は光の属性魔法なんだよ。練習すればそれ以外も出せるが、基本お前は光をベースに魔法を生みださなきゃいけない」

 

 昔から魔法使いと言えば常闇を彷徨う流れ星のようなイメージがあった。そのおかげだろうか。

 その後も魔力を放つ練習をし、魔法を更なる形へと変化させていった。

 

 「今日はここまで」

 

 「えーまだやりてぇのに」

 

 「駄目だ、適度に休まないと明日出来ないぞ」

 

 「わあったよ」

 

 魔理沙が意外と努力家だと分かった魅魔は体調管理と生活だけは徹底していた。

 

 「キノコスープまだー?」

 

 「はいはい今持っていくから」

 

 まるで親子のような生活をしていた二人。窓からあふれ出る木漏れ日のような光は温かく濁りのない風景だった。

 それはまるで親子の様―――

 

 

 五週間目

 

 「お前の体はすでに並の人間を越えていると言っても良いだろう」

 

 「マジかよ。魔法って一カ月で覚えられるほど楽なんだな」

 

 「そ、そんなことはないぞ・・・」

 

 幻想郷に魔法はまだ普及していない。その理由は「魔法を伝える人がいない」ということが主だろう。最近では僧侶が魔法を取得しようとしているという話を聞いたことがある。

 実際、魔法習得には才能が必要だ。まず魔法と言う存在を否定していないことだ。魔法使いを夢見ていた魔理沙はそれだけ魔法への関心が強かった、魔法習得には魔法をどれだけ信じているかが関わってくる。通常なら信じていないため、より魔法は人々に通じにくい。

 

 「それで?今日は何すんの?」

 

 「お前は物覚えが良かったから意外と早く済んだ。だから今日は―――」

 

 「ゴクリ・・・・」

 

 「箒に術式を掛ける」

 

 「・・・・・・・」

 

 魔理沙は思った。

 

 八卦炉どうした?

 

 と 

 

 「あー、うん。わかりましたー」

 

 ついこの間までしていたような地味な作業になりそうだった。

 

 「お前のために新しい箒を作ってやった。こいつは魔力伝導率が高いから一定範囲内ならお前の魔力に従ってくれるだろう」

 

 真新しい箒を受け取り、いつも通りに魔力を注いでみる。すると

 

 「うわっ!!」

 

 空中に一気に吹っ飛んだ。右手に握りしめた箒を両手で掴み、必死にしがみつく。

 みるみる地面が小さくなっていき、遠くに見えた山が平らに見えてくる。その浮遊感に心臓の鼓動が速くなる。

 

 「魔理沙ッ!!」

 

 とっさに魅魔が飛翔する。だがその速度は遅く、近づくことが出来ない。すると脳内に魅魔の声が響いてきた。

 

 (魔理沙!少しづつ魔力を抜くんだ!)

 

 「わ、わかった!」

 

 魔理沙も魅魔もかなり動揺していた。言われた通りに少しづつ力を抜く、だが間違って一気に力を抜いてしまった。

 されるがままに急降下する。その時、体が箒より上に持っていかれ、そのまま魔力を僅かに込めた。すると箒の落下スピードが落ち、手元に近くなった箒に跨った。

 

 「よ、よし。あとは・・・」

 

 魔力を少しだけ箒に注ぎ、頭の中で前進するようにイメージする。すると箒は動きを止め、前へ進み始めた。

 

 「よっしゃ!成功したぜ」

 

 それを下で見守っていた魅魔

 

 「やるなあの子は・・・」

 

 その時魅魔は魔理沙の中に眠る可能性に賭けてみたくなった。

 あれだけの事を初見で出来るなら頭の中にイメージは大体固まっているはずだ。そう魅魔は考えたのだ。八卦炉の習得をまだしていないのもそれが理由の一つだ。

 

 「魅魔様~!」

 

 ふと顔を上げて空を見上げると、元気な子供のようにはしゃぐ魔理沙がいた。空を自由に飛べることがよほど嬉しいのだろう。岩場だらけの黄色い空を元気いっぱいに飛び回っていた。

 魅魔は空を舞う魔理沙に片手で大きく手を振った。

 

 




魔法系については勝手に妄想したものです。


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四話「星の器 ~ Casket of Star」

 

 

 

 山奥月明かりが眩しいほどの幻夜に一人だけ到る魅魔。微かに残る霞と打ち解けそうな星々の煌き。そんな幻想風景の中魅魔はある人物を待っていた。

 

 「そろそろ出てきたらどう?紫」

 

 誰もいない空間に対して魅魔は聞く。すると魅魔の左側の空間が裂け、目が大量に映る空間から一人の女性が這い出てきた。

 

 「あらバレてた?」

 

 「あんたがスキマを歩く音気持ち悪いほど聞こえるからね」

 

 「それ霊夢にも言われたわ。博麗人には聞こえるのかしら?」

 

 八雲紫。彼女は幻想郷の結界を維持するのに欠かせない存在だ。スキマを操って好きな空間に行くことが出来るが、スキマの中は現世と同じ広さがある別次元のため、実際に歩いて行くことが出来る。今回の場合はイタズラで歩いていたのだろう。

 

 「さあ。で、今日は何の用?」

 

 「あの子、どうなの」

 

 「どうなのって・・・」

 

 「私が見るにあの子はあなたが昔――」

 

 「それ以上は言わない方がいいわ」

 

 目と口で威嚇しておく。その言葉には魅魔を怖がらせる何かがあるようだ。

 

 「そう。まあ大体分かったわ」

 

 「それだけかしら?」

 

 「もう一つ」

 

 今度は畏まった表情で魅魔に告げる。

 

 「冥界の庭師を消したわ」

 

 重く告げられたその事実に魅魔は

 

 「・・・・・・そう」

 

 とだけ伝えておいた。

 少しの間を置いて紫が動いた。

 

 「言いたいことはそれだけよ。それじゃあ」

 

 「紫」

 

 「なに」

 

 俯いて表情が見えない。普段通りの落ち着きある声で聞く。

 

 「今度は私かしら」

 

 その質問に対して紫は何と返していいのか分からなかった。

 だから

 

 「私は違うと思うわ」

 

 そう言う事しかできなかった。紫自身がそうしたかったからだ。

 

 その後、いつの間にか紫は姿を消していた。

 魅魔はその場で立ち尽くし、静かに泣いていた。それが何を指して泣いているのかは誰にもわからない。ただ涙が溢れてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 「魅魔様ー」

 

 朝、元気な黄色い声が聞こえた。

 木造の階段を下りる音が聞こえ、途中からリズムを崩して大きな音を立てた。

 

 「朝っぱらから騒がしいねぇ。何してんだい」

 

 「いって―よ!5段目だけ妙に深いぞ!?」

 

 「そりゃそんなこともあるだろうよ。ここは私が作ったんだから」

 

 「どうりで欠陥住宅なわけ・・・」

 

 「そんなことより朝ごはん食べな。もう出来てるから」

 

 「おー!腹減ってたんだ」

 

 二人が朝食を食べながら魔理沙は今日のことを話す。

 

 「今日は何するんだ?」

 

 「今日はこの五行山の奥地にある棒を取ってきてほしい」

 

 「?。わかった」

 

 疑問を抱きながら魔理沙たちは朝食を食べ終えて、外へ出た。

 

 

 空は快晴。季節は秋で山が色付き始めていた。

 

 「それでどんな棒なんだ?」

 

 「如意金箍棒って言ってね。所々に金色の装飾があってね、この先を行ったらそれっぽい祠があるからきっとすぐ分かるよ」

 

 「分かった。そんじゃ行ってくらー」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 箒に跨って飛翔する魔理沙。あれから物体浮遊法もすぐ習得し、コツが掴めたようだった。おかげで箒を操縦することも慣れたようですっかり魔女っ子だ。

 地上から魔理沙に手を振って見送る。何処か母親のような事をしている自分が馬鹿馬鹿しくなって笑った。

 

 

 

 「さ~て、そのなんたら棒ってのは何処かな~」

 

 涼しい季節の五行山は霧が晴れており、大きな山にある遺跡らしき穴はすぐに見つかった。奥地と言うからにはここからだろう、というかそれ以外は山が囲っている。

 

 遺跡の前まで来ると『如意豪符部間』と書かれた石碑が見えた。

 

 「うわー、何て読むんだコレ。つーか汚ねぇ・・・」

 

 そう言いながら石碑を触っていると「ガタッ」と大きな音を立てて目の前の石壁が両側へ開いた。

 それを見て魔理沙は目を輝かせた。

 

 「おお!なんか探検家っぽくていいじゃん!コレだよ俺がしたかったのは」

 

 心躍らせながら中へ入って行くが、直後に入ってきた入口の扉が閉まり、好奇心は不安と絶望へと変わった。

 

 「・・・・・・・」

 

 扉を見つめて立ち尽くす。石壁を触ってどこかに装置が無いか調べるが、真ん中に丸い窪みがあるだけでただの石壁だ。

 人間誰しも密室に閉じ込められると咄嗟に脱出手段を考えようとする。外に出られないとはそれほど人に大きな感情の淀みを与えるのだ。

 仕方なく先の道を進むことに。先は暗闇でひたすらに続く石廊下。暗くて見えないため、覚えたての初歩魔法「光源(ライト)」で道を照らす。

 すると光が見えてきた。

 

 「スン・・・・なんか水の匂いがするな・・・」

 

 滝の目の前にいるとよく匂う水の匂いだ。そして同時にカビ臭くもある。

 光に向かって走って行くと、灯篭がいくつも置かれた明るい部屋へ出た。部屋の隅の方と魔理沙が今いる部屋の入口から滝のように水が流れている。

 

 「偉く豪華な部屋だな」

 

 奥まで目をやると、二つの宝箱に挟まれて縦に棒が飾られていた。

 祠と言うより飾られているようだった。

 

 「あれか。でも横の箱は何なんだ?」

 

 近づいて棒を取って帰ろうとすると、突然両サイドの宝箱から骸骨が飛び出してきた。

 

 「やっぱり来ると思ったぜ!」

 

 肩から下げるカバンから大きなフラスコ瓶を二つ取り出して両方の骸骨目がけて投げる。

 

 「そいつはくれてやる!おいしく頂いて――」

 

 炸裂と同時に後ろを振り向き、左手の親指を立てて下へ向けた。

 

 「死ねッ!!」

 

 骸骨達は瓶の中の爆液を喰らって吹っ飛んだ。爆風により骸骨達はバラバラに。

 

 「あー骸骨だからもう死んでるか」

 

 瓶に入っていたのはキノコから抽出した魔素を混ぜ合わせた爆薬。魔法の練習と同時進行で進めていた物で、分類的には魔術に入るそうだ。簡単に作れて魔法使いを目指す物は誰でも作れるそう。

 

 「なんちゃら棒も手に入れたし、帰り道探すか」

 

 ガタガタ

 

 嫌な音がした。

 振り返って見ると先ほど倒したはずの骸骨達がいない。

 嫌な感じがして振り向いてみると骸骨の一人が剣を振り上げて切り付ける瞬間だった。

 とっさに掴んだ如意金箍棒で骸骨のサーベルを受け止めた。鉄のように重量感のある音が部屋に響く。

 

 「クッ・・・この棒は・・・」

 

 見た目は錆びた鉄棒だったのが骸骨の一振りを受け止めた瞬間、赤い胴体と金の装飾が現れた。

 これが真の如意金箍棒の姿なのだろう。そして骸骨のサーベルを振り払い、懐にその一突きを入れる。その拍子、魔力を流し込んでしまった。すると如意金箍棒はグンと延び、骸骨を石壁に叩きつけて肋骨を粉砕した。

 

 「はぁはぁ・・・・たしかもう一体居たはず」

 

 魔力を頭に送り込むイメージをする、すると脳内にこの部屋の全てが見渡せた。感覚的には部屋の中にいる物の存在を見分けられるのだが。

 これは魅魔が教えてくれた技「魔力検知」だ。魔力を脳内に送り込み、全感覚で周囲の状況を目で見なくても把握することができる。魅魔が紫の存在に気付いたのもこれのおかげだ。

 

 「そこだ!!」

 

 宝箱の中に存在を察し、祠の右側の箱を如意金箍棒で貫いた。

 案の定、中には骸骨がいた。不意打ちをするために戻ったのか、それとも自動で戻るように作られているのか。分からないが知っているかぎりの骸骨は倒した。

 

 「ふぅ。これでやっと帰れ――」 

 

 ガダンッ!!

 

 再び嫌な音。同時に流れる勢いを増す流水滝。

 さすがにこの感じでは誰にでも予想は付く。これからここは水に浸かるのだ。依然入口は閉まっている、ここから出るには

 

 「とにかく出口まで走るしかない!!」

 

 全力で入口へ走る。他に出る道が無いのならここが出口だ。

 水はかなり早く流れており、石廊下を半分切ったところで水が溢れてきた。もはや魔理沙が今走っているのは廊下ではなく「水路」だ。

 

 「やばいやばい!間にあわないぃぃ!!」

 

 この速さだと出口まで間に合わずに水に襲われる。たとえ扉の前に着いたとしてどう開けばいいかわからない。だがその時魔理沙は思った。

 

 「そういえば扉にあった丸い窪みって丁度これと同じ大きさだったような・・・」

 

 その考えを疑う暇はない。そもそも出口の無い遺跡なら最初から罠としてあるはずだ。態々遺跡の中に骸骨を用意する理由が無い。

 一か八か、魔理沙は覚悟を決めた。

 

 「行けッ!如意金箍棒!」

 

 魔力を込めた、すると如意金箍棒は命令してもいないのに扉へ一直線に向かって行った。

 吸いつくように扉の窪みに入って行った。その勢いは魔理沙の方にまで来て、如意金箍棒に引っ張られるように扉へ向かった。

 扉にぶつかる直前で扉は開き、外へ放り出されるように飛び落ちていった。

 

 「で、出た!」

 

 空中で体勢を立て直し、今更箒の事を思い出す。

 箒に乗って素早く飛翔した。

 

 「ふぅ。助かったぜ」

 

 振り返ると、先ほどまで走っていた石廊下が洪水に溺れ、勢いよく出口から噴出していた。まさに危機一髪だった。

 かばんにはしっかり如意金箍棒と言うお宝を入れている。この手伝いを受けた時点で薄々気づいてはいたが

 

 「これって所謂『試練』ってやつか?だったら下手糞過ぎるだろ・・・」

 

 あの過保護なオバケが泣いて抱き付いて『よくやった!』等と言う姿を想像すると寒気と吐き気がする。

 そうしていると五行山の柱崖、一番高い頂点に魅魔の姿を捉えた。褒美と文句を言ってやろうと近づくと

 

 「取ってきたかい?」

 

 「ああ、この金ぴか如意棒だろ?」

 

 「そうだ。よくやったね」

 

 想像通りの発言。だがどこか重苦しい感覚に魔理沙は違和感を覚えた。

 

 「どうしたんだぜ?」

 

 「魔理沙・・・」

 

 魅魔は自分専用のロッドを魔理沙に向けて一振りする。するとかばんの中にあったミニ八卦炉が光り輝いて外へ飛び出していった。

 茫然としていると魅魔が杖をもう一振りし、八卦炉が分解して魔理沙の周りを八枚の板が浮遊し始めた。

 

 「な、なにするんだ―――」

 

 「これより!八卦の炉の中に霧雨魔理沙を封じ込める!!」

 

 一体何を言っているのか分からなかった。私が一体何をした?

 それよりも折角苦労して取ってきた如意金箍棒はどうした?

 様々な疑問が一瞬のうちに浮かんだ。それと同時に魔理沙の周りを浮遊していた八枚の板に挟まれ、八卦炉の中に封じ込められた。

 

 「おい!ここから出せよ!!おい!!」

 

 突然の出来事、謎の閉塞感、不安と焦りで頭の中が破裂しそうだった。

 気が強い魔理沙も心は純粋な乙女。体は幼い少女だ。恐怖に脆く、焦りに敏感になる。

 

 「クソッ・・・・あのオバケババァめッ!!」

 

 怒りが湧いて出る。何故自分がこんな目に合わなければならないのか、と。

 すると狭く暗い空間に突然眩い光芒が浮き出てきた。思わず目を瞑る、すると

 

 「目を逸らすな!!我を見よ!!」

 

 女の声。だが魅魔とは違う、何処か威厳のある声だ。

 目を開けるとそこには翼を生やした金髪の女性がいた。白い布の様な物を羽織っており、左手に大鎌を持っている。周りには絵に描いたような星が浮いている。

 

 「あ・・・・・んたは・・・・・」

 

 「我が名はミカエール・ルシフェル。又の名を『ミカエル』と書す者」

 

 「ミカエル・・・・ってことは。あんたは天使?」

 

 「否。我は血に塗れ、この魔の墓標に埋め立てられた堕天使。神の御膳する天使とはかけ離れた存在だ」

 

 「それで、堕天使さんは俺に何をするんだ?」

 

 魔理沙は以前神や悪魔に関する書物を読んだことがあった。一般的に普及している物でほとんどが神話にまつわるものだが。そしてその中でミカエルと呼ばれるものは天使に属していた。

 魔術や魔法に置いて、天使は悪魔の最上位に属する精霊の一種。悪魔は主に大魔術等に使われるが、天使はクラスが高いため、守護霊や祟り神として使われることが多い。しかし堕天使、これはクラス外で、天使の力量を持ち合わせながら自由行動を許された存在。故に堕天使は自らの能力を一つの生命体に依存させることができた。

 

 「貴様が“星の器”に相応しいか見極めるのが我の役目。貴様がここに来たと言うことは査定される権利がある」

 

 「星の器?また大したものに選ばれちまったぜ・・・」

 

 器と呼ばれるのは正にミカエルの依り代のことだろう。八百万系統ならば御神木等に憑依できるが、ミカエルは東の国に依存できない。

 つまり

 

 「貴様は星の器に相応しいか・・・・」

 

 ミカエルは魔理沙と魔術契約を結ぶことを審査している。

 魔理沙はごく一部の知識しかない、歳も若く、ミカエル程の大魔術を使える代物は宝の持ち腐れである。しかしここは幻想郷。どんな力も力のままに、使うがままに使われる世界。

 そんな神々も恋する世界で魔法に魅入られた少女はミカエルに堂々と一言叫んだ。

 

 「私の名前は霧雨魔理沙!恋と光の魔法使いさ!!」

 

 懐かしいこの響き、この叫びに魔力を込めて堕天使に吹きかけてやった。すると

 

 「よかろう。貴様の轟き受け止めた。貴様を星の器と認めよう、そして」

 

 続けざまにもう一つ別の存在を肯定した。

 

 「貴様を“メイガス”の騎士に認定しよう」

 

 「え?ちょっと、それな――――」

 

 光芒が激しくなり、爆発したように突風で八卦炉から解放される。その一瞬で堕天使は八卦炉に吸収され、同時に魔理沙の体は空中に放りだされた。

 

 「うあっ、ちょ、まてってッ!!」

 

 ドスッ、と腰に棒の様な感覚で受け止められる。よく見ると魅魔の左腕で魔理沙の体を受け止めていた。その顔には笑みが浮かんでいる。

 

 「よくやったな。魔理沙」

 

 魅魔は魔理沙を褒めた。魔法を覚えたわけでもなく、何かを成し遂げたわけでもなく。優しい笑みで魔理沙を抱擁した。

 

 「よく八卦炉を破った。これでお前は正式にミニ八卦炉を使える」

 

 「そうだったのか。だけどもうちょっとマシな方法あっただろ」

 

 「恥ずかしくてな。ゆるしてくれ」

 

 ふと堕天使に言われた言葉を思い出す。

 

 「なあ。堕天使が俺のことをメイガスだとか騎士だとか言ってたんだけど。あれはなに?」

 

 そのことを伝えると魔理沙を下ろし、ポケットから古い紙布を取り出して魔理沙に見せた。

 そこには謎の文字が書かれていて、魔理沙には読めない。

 

 「なんて書いてあるんだ?」

 

 「これは魔術文の原書だ。最初期に作られた魔術法の階級を表している」

 

 魅魔は話を続けた。

 魔理沙は読めないが、魅魔は読めるため、その階級を全て教えてくれた。

 世界を作ったと言われる神々の一人、法を培う者「マギ」が、自分以外の指導者を作る際に決めた階級。言い表せば、能力を備え優れた才を持つ者に与えられる称号、と言うことになるらしい。

 マグ・マゴス・マゴイ・メイジャイ・メイジャン・マグス・メイガン・モーリサァ・メイティ。そして“メイガス”だ。

 八卦炉を使うと言うことは所有者になると言うこと。その所有者、謂わば主を決めるのは八卦炉自体と言うことだ。その称号が

 

 「第五の有権者“メイガス”。それがお前だ」

 

 「一気に存在価値上がったな」

 

 「まあ八卦炉を使う者としては当然だろう。それにしてもお前が旅に出るための準備なのに八卦炉が必要とは、ハードルが高かったんだな」

 

 「魅魔様がそれ言ってどうするんだよ」

 

 魅魔様が高らかな笑いを上げる。

 その笑顔に釣られて魔理沙もほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 




 


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五話「メイガスナイト」

 

 

 

 

 朝。昨日あれだけ悲惨な目にあったのに対し、魔理沙の気分は高揚していた。その理由は

 

 「早く八卦炉撃たせろ!!」

 

 八卦炉から出る大口径レーザー。それを聞いたときから撃ちたくてたまらない。そもそも旅に出るなんてどうでもよくなっており、今は八卦炉を使いたいがために魔法を習ってるようなものだった。

 魔理沙自体魔法には興味があったため、魔法の練習はさほど苦にはならなかった。本を読むことも好きだったためか勉強も上手くいっていた。だが今の魔理沙には根本的な魔力が足りなかった。

 

 「どうやったら魔力増えんだよ。撃とうにも魔力が足りなくて出せないぜ」

 

 「おかしいねぇ。八卦炉の中には魔力が封じ込められてあるから魔力量は増えるんだけど・・・」

 

 前よりは飛躍的に魔力量が上がっている。だがそれでも中くらいの炎までが限界だった。

 魔力の出し方もあるらしいが、あまり出し過ぎると生命に関わるためすぐには出来ないと言う。

 

 「仕方ない。私の魔力を少し送ろう。そうすれば流れがよくなって出やすくなるかもしれない」

 

 「分かった、よろしく魅魔様」

 

 魅魔が魔理沙の背中に右手を添える。魅魔が力を注いだ瞬間魔理沙の体が大きくしなってその場に這い倒れ込んだ。

 見ると背中の魅魔が手を添えた辺りに電光が走っている。一体何をされたか分からなかった。とにかく背中から力が入らない。

 

 「大丈夫か!?」

 

 「な、何が、起こった、んだ」

 

 「すまん、少し配分を間違えて注いでしまった」

 

 魅魔ともあろう者が配分を間違えるとは。代わりの代償が動けないとなると重症だ。

 ヒクついて上手く動かせない右手の手の平を前に突き出し、魔力を込めて撃ちだした。すると今までに出したことが無い程の大きな光弾が放たれ、先にある崖に命中して砕けた。

 放った拍子で魔理沙の体が後ろへ吹き飛ばされ、魅魔の両腕に収まった。途端に体の硬直が溶け、魔力の流れが良くなるのを感じた。

 

 「び、びびったー」

 

 「だが魔力の流量は増えたようだ。結果オーライだな」

 

 「まあ、そう言うことにしておくぜ」

 

 やっぱり考えも無しに魔力込めやがったな。

 心の中で愚痴を吐き込み、立ち上がる。そのまま八卦炉を取りだし構える。

 

 「あまり気を詰めなくていい。八卦炉はお前の精神を伝って光の導きを示す。変に魔力を込めても暴走を引き起こすだけだ。落ち着いて行け」

 

 「わかった」

 

 落ちつけと言われてもそんな突然落ちつける訳がない。人間は意外なところで不便だ。

 ひたすら心に言い聞かすが、鼓動の幅が大きくなるばかり。途端に言い聞かすのを止め、目を瞑り音を聞く。

 

 「フゥゥ――――」

 

 心が落ち着いて行く。そして目を瞑っていても八卦炉の居場所が分かるようになった。目の前の手にかざす八卦炉を目視し、一点に魔力を注ぐ。目標は前方に見える山の頂。

 

 「来たぜ!行けッ!!」

 

 掛け声と共にミニ八卦炉から極太のレーザーが発射された。

 

 「おお!これは・・・!!」

 

 山頂に真っすぐ伸びていき、散布された光線を浴びて土煙が舞った。間近で見た光景は光の道の中に星屑が散らばっている様。

 

 「やっほーーい!!」

 

 魔理沙はその興奮を抑えきれずにその場で高らかに叫んだ。

 この喜びを誰かに伝えたかった。

 

 「魅魔様見た!?今の凄かった!!」

 

 子供のように無邪気な笑顔。大きな何かを成し遂げた達成感をその小さな身で体感しているのだろう。もう魅魔には味わいにくい感覚だ。若さが物を言うそれは魅魔にとって邪魔な物だった。

 心の中で、歳は取りたくないな。とありがちなセリフを吐き溜めるのだった。そして魔理沙の純真無垢なその笑顔に向けて

 

 「うん。そうだな、実に見事だったぞ」

 

 そう言って魔理沙の頭を撫でた。

 その行動にきょとんとして撫でられた頭を自分の手で確かめる。初めて感じた感触。母親のように優しさがこもった、まるで赤子をあやす様な温もりを感じた。

 それ故拒むことも出来ず、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 

 「どうかしたのか?」

 

 魔理沙の反応に魅魔もまたきょとんとする。咄嗟に魔理沙は、なんでもねえよ、と言って家に入ろうと歩み始める。

 

 「さっきの撃ったら腹減った」

 

 魅魔には見えないように、去り際に伝える。赤くなった頬を見せないように、後ろを向いて大声で叫ぶ。

 

 「だから!いつものキノコスープと山菜サラダ作ってくれよな!!」

 

 それを言うと余計恥ずかしくなる魔理沙。

 きょとんとした顔を起たせ、魅魔は

 

 「わかったよ、今日はいつもより多めにキノコ入れてやるさ!」

 

 魔理沙の肩を叩いて背中に抱きついた。その時、両者の目が合い、どうにもならずに二人は大声で笑った。

 

 

 

 

 翌朝。魔理沙が五行山に来て一年ほどが経過した。魔理沙自身も早く感じており、何故なのかと考えていると

 

 「生き物は楽しいと感じると時間の経過が早くなるんだ。皆が感じている時間と私達の時間が違うのは、それだけ有意義に過ごせていると言うことだな」

 

 と前向きな発言をされた。だが少し嬉しかったのは魅魔様が楽しい時間を「私達の時間」と言ってくれたことだった。魔理沙の行いは少なからず魅魔に楽しさを与えているのだろう。と魔理沙は一人で納得していた。いつも迷惑かけているお礼でもしたいところだ。

 

 「自分でも思うけど俺ってこういうとこ優しいよな~」

 

 「何を言っているのか知らないけど、そう言うことは自分で言わないんだよ」

 

 「突っ込みありがとう、魅魔様」

 

 「あんまり嬉しい気がしないな・・・」

 

 そんな平凡な生活を送っていたのだが。

 それから三日後。何でも問題と言う物は大体三日後に来ることが多い。そんな嫌な予感を気にしていたのだが。

 

 

 ズドンッ

 

 

 底腹に響く大きな物音。振動の仕方から家の中では無い。外からの影響だ。

 魅魔は玄関から出て外へ、魔理沙は二階の出窓から箒を構えて外に出ようとした。するとそこには見慣れない光景が広がっていた。

 

 アウゥゥゥゥゥゥ―――――

 

 聞いたこともない鳴き声。そして目の前の広場に横たわる龍の様な謎の物体。魅魔が見るにそれは鉄だ。

 

 「魅魔様!あれは――」

 

 「絶対出てくるんじゃないよ魔理沙!!こいつはスケールが違いすぎる!!」

 

 初めて見た。あんな鬼の様にしわを寄せた魅魔の顔は。

 

 

 ガゴンッ

 

 

 鉄の龍の一部が吹き飛んだ。そして中から霊装を着た九本の尻尾を持つ謎の人型が出てきた。その構え方はオオカミのような威嚇する形で這い出てきた。

 

 「話が違うじゃないか・・・・あのスキマ妖怪めッ!!」

 

 忌々しげに魔理沙の知らない言葉を吐き捨てる。そして杖を構えて魔法陣を出現させる。

 

 「一気に勝負を付ける。その気で来たなら慈悲など乞わないだろう。穏便に済ませたいのだが、そうもいかないようだし」

 

 目を赤くし、牙を向けるその“猛獣”は駆除する対象に入った。瞬間目の前が煌めき、魔法陣から複数の閃光が飛び出る。

 誘導軌道に乗ってレーザーが堕狐に命中する。派手に土埃を撒き上げて魅魔の視界が眩む。

 

 「面倒な狐だね・・・」

 

 魅魔には分かった、その土煙がただの煙幕に過ぎないと。

 土埃が上がった瞬間、狐の気配が消えたのだ。そして徐々に広がって行く土煙は魅魔を囲う様にドーナツ状に広がって行った。見え見えの罠だが、存在を消した狐がどこにいるかわからない以上、無闇な攻撃は通用しない。

 

 「なら全てに当てればいいじゃないか」

 

 魅魔にとってそれは分身を増やして身代わりを出しているような面用なことだった。

 同時に魅魔の体の周りに光の球体が生まれ、体の周りを浮遊してレーザーを放った。それは回転する光線、土煙を引き裂いて、その中を漂っていた狐に直撃した。

 

 「ヲオオォォォォォッ!!」

 

 獣の雄叫びが五行山に響き渡り、魔理沙は思わず耳を塞いだ。その瞬間、魔理沙の脳内にある記憶が呼び出された。

 前に香霖堂の書籍で見た事のある妖怪の特徴にそっくりだったのだ。堕狐、妖力、そして何よりあの九本の尻尾がそれを象徴している。

 

 「九尾・・・・伝説の妖怪なのか・・・?」

 

 九尾、その名の通り、九本の尻尾を持つ狐である。各地に様々な伝説や言い伝えがあるが、そのどれもが九尾を恐れていた。つまりその存在は最強クラスに匹敵する妖怪なのだ。

 だが目の前にいる九尾は人型をしており、尚且つ九本の尻尾と大きな狐耳を持っている。これは幻想郷に来た影響か、もしくはさらなる妖力を手にして制御出来ない状態なのか。

 どちらにせよ、魔理沙はおろか、魅魔にすら倒せるか分からないレベルの敵だ。魅魔が先ほどから連射しているレーザーを数十発、数百発当ててもその突進は止まらないかもしれない。

 

 「でも、もしかしたら・・・」

 

 八卦炉なら、八卦炉の極太レーザーをあの狐に叩きこめば倒せるかもしれない、そうでなくとも当てさえすれば体力は削れる。だがそうなると魔理沙の魔力も底を尽きる。そうなれば魔理沙の体も危うくなってしまう。

 すると魅魔がこちらに睨みを利かせて

 

 「変な事考えるんじゃないよ!!ここは私が何とかするんだ、お前は山を下りて助けを呼んでこい!!」

 

 「そんな!魅魔様を置いていけないぜ!!」

 

 「こんなときにふざけるんじゃ無いよ!ここでお前もやられたら誰もこいつを止められない!だったら巫女でも魔女でも呼んでこい!!」

 

 そこへ九尾が爪を立てて襲いかかる。

 

 「危ない!」

 

 危険を察した魅魔は杖を槍のように狐に差し込む、先の三日月部分で鉄棒を受け止め、先端から熱線を吐く。

 だが貫通した先には空虚が広がっていた。それが分身だと分かった時には既に魅魔の体が空を舞っていた。

 

 「魅魔様!!」

 

 「クッ・・・この私が」

 

 狐が魅魔を追撃する。爪を煌めかせてレーザーでも攻撃してくる。

 

 「この程度の妖獣なんぞに!!」

 

 命中する寸前で体を覆うほどの大きさの結界を展開した。

 結界は、霊術、妖術で使われる防護術で用いられるものだ。つまり魅魔は今魔法ではなく博霊の力で戦っていると言うことになる。もちろん魔法や魔術にも防護法はある。だが火力に物を言わせる魔術学では余りに乏しいものなのだ。

 ちなみに、この世には魔力、妖力、霊力、気力、神力が存在し、どの生物もそれぞれを持っている。そしてこの属性には相性があり、魔力は妖力に弱く、妖力は霊力に弱い。つまり

 

 「行け!妙哭一閃!!」

 

 博麗の力で強化された霊力の塊が駄狐を襲い、激しく振動した空気が魔理沙に届いた。

 帽子が飛ばされそうになり、飛んで行くのをなんとか防ぐ。そうしているうちに堕狐の光線乱舞が目の前を迸った。その眩しさに思わず目を伏せた。

 

 「ギャアァァァァギギギギィィィィィ!!」

 

 人の形をしている狐から聞いたこともない断末魔が聞こえ、その一瞬で魅魔が勝ったと悟った。

 だが堕狐は大量に出血しているだけで生存しており、逆に魅魔が地面に倒れていた。

 

 「魅魔様!!」

 

 一体何が起こったのか分からなかった。あの攻撃戦で明らかに勝っていたのは魅魔だった。なのに何故。

 その理由を魅魔は攻撃を喰らわせたときに見た。

 

 「まさか・・・本当に私の番が来るとはね・・・・」

 

 堕狐は動物的な行動をしていなかった。むしろ人間の様な意識を持って、袖に腕を入れて素立っていた。

 その胸元に見える赤い御札。落書きのように殴り書かれた血の文字。それが呪いだと分かった時にはすでに堕狐を撃っていた。そして魅魔は全ての霊力を吸い取られ、動けなくなった。

 

 「魅魔・・・・様・・・・」

 

 魔理沙は、何を言えばいいか、何をすればいいか分からなかった。今出れば堕狐に殺られる。だが今出ないと魅魔が死ぬ。

 魅魔なら魔理沙の命を最優先して近づく事を許さないだろう。だがだからと言って捨てて逃げ出すのは無様極まりない。

 だから魔理沙はミニ八卦炉を取り出して飛びだした。

 

 「馬鹿ッ!!お前が出てきたら」

 

 「何も言わずに任せてくれ魅魔様!こんな時ぐらい頼ってくれよ」

 

 怒りの表情が徐々に不安へと変わって行く魅魔を見て、魔理沙は頼られているような気がした。

 そうは言ったものの何の策も考えずに飛び出してしまった。今の魔理沙にある考えは駄狐にミニ八卦炉のレーザーを当てることのみ。

 その考えがまとまる前に魔理沙は箒で空へ飛翔した。それを追うように堕狐の尻尾からレーザーが発射される。

 九本の尻尾から出たレーザーは魔理沙を追尾していき、それを巧みにかわしてなんとかすり抜ける。

 

 「クソッ、何か、何か考えは・・・」

 

 ただレーザーを避けているだけでは埒が明かない。魔理沙は八卦炉を撃つタイミングを探すためにバッグの中に入れてあった魔力瓶を三本投げた。適当に投げたため、何の効果があったかは忘れていたが、一つは堕狐の前で爆発した、もう一つは地面に絡みつく蔦を生やして堕狐を抑えつけた。最後の一つは堕狐が正面を向いた瞬間に炸裂し、激しい光を出した。それが堕狐の目を一時的に眩ませたのか、両腕で目を擦って唸る。

 

 「運は俺の味方みたいだぜ!」

 

 勝利が見えた気がした。それを見て、魅魔にも少しの自身が出てきた。

 魔理沙なら出来るかもしれない、と思い始め、それを心の中で祈っていた。

 もがく堕狐は目を瞑ったままレーザーを展開してきた。それはまるで光の幕のよう、正しく“弾幕”だった。

 

 「うわっ!このッ!!」

 

 弾幕の中を駆け抜け、再び立ちふさがった壁にどう対抗しようか考える。そして駄狐の一点レーザーが照射された。それに対抗しようと魔理沙はターレットを呼びだす。

 「ターレット」とは、魔理沙の両サイドに召喚する光の砲台だ。これは攻撃魔法と強化魔法の応用技で、簡単な部類でも強力な魔法だ。

 単にレーザーを撃つのではなく、貫通力の高い高出力レーザーを照射できる。だが魔力の消費が速いため、数秒のチャージ時間が本来かかるのだが、魔理沙の場合は魔素の吸収スピードが速いため、一瞬レーザー照射が途切れるだけで済む。

 ターレットと同時に体から尖らせた魔力刃を飛ばす事で、魔理沙の考案した戦闘スタイル「イリュージョンレーザー」が完成した。

 

 「やるぜ!この霧雨魔理沙様が立派に討伐してやるぜ!!」

 

 まるで猪や鷹を狩るかのように意気込む。そうでもしないと気が持たないのだ。堕狐から放たれる妖怪のオ―ラは尋常じゃなく、魔理沙はこのプレッシャーを小さな体で受け止めていた。

 それでも進むことを止めない。弾幕の中を巧みに潜り抜け、ミニ八卦炉は堕狐の胴体を捉えた。魔力を込めようとした時、ふと先ほどの魅魔を思い出した。

 

 たしか魅魔は堕狐に攻撃した時に吹き飛ばされた。そして今目の前に見える堕狐の胸元の御札。それが何を意味するのか、魔理沙には分からない。だが魅魔が行動不能に陥る程の物だと言うことは見て分かる。それが分かっている以上、今撃てば魅魔の様になるかもしれないのだ。

 魔理沙も知っている通り、魔力と妖力では妖力が勝る。魔理沙にとって未知の能力である妖力には何があるか分からない。それ故の戸惑いだった。 

 その思考回路は一週周り、わずか数秒で結論を行動に移した。その結果

 

 「轟けッ!マスタースパーク!!」

 

 魔力を一斉に込めると同時に八卦炉の小さな砲門から極太のレーザーが照射された。さらに堕狐との距離、わずか2mの至近距離でこの特大ビームを直に受けるとなるとただでは済まないことは確かだ。いくら御札の加護があるからと言っても多少なりともダメージを負うはずだ。

 そして八卦炉から出たレーザー「マスタースパーク」

 これは魅魔の撃ったレーザーを真似て付けた魔理沙ならではの技であり、発射と同時に星型のレーザーを飛ばすことで攻撃範囲を広げているのだ。

 マスタースパークは確実に堕狐に命中した。それどころか周りの大地も溶かして吹き飛ばしてしまう程の威力だ。

 だがそこにあったのは服が焼け焦げたみすぼらしい姿の駄狐だった。あれほどの威力のレーザーを喰らって依然健全とは恐れ入る。魔理沙の予想ではあの御札がダメージを肩代わりして消えたのだろうと言う。事実堕狐の胸元にあった御札が焼け千切れている。

 

 「まだ生きてるのか!しぶといやつだ」

 

 悪態付いていると

 

 「そちらも、手段が汚いぞ」

 

 「!?」

 

 堕狐が発声した。テレパシーのように脳内に直接聞こえるのではなく、まるで人間のように口で発生したのだ。別に不思議ではないが、普通神様と言うものは常人に対して会話することが出来ないようになっている。神聖な神の領域では常人が生きられないため、同じ言語が通じないそうだが。

 恐らく、堕狐は“疫病神”なのだろう。神聖な階級から“堕落”した狐は疫病神として祀られる、または封印されたのだろう。

 それ故同じ階級であるヒトと会話することが出来るのだ。

 

 「しゃ、喋れるなら話し合いぐらいさせてくれてもいいじゃないか・・・だぜ」

 

 「あなた達と話す必要はありません。私は今、その確信を得ました。そして」

 

 堕狐は背後に横たわる鉄の龍を片手で持ち上げて

 

 「潔く、ここで死んでください」

 

 何のために、誰がそんな事を頼んだのか。それとも堕狐自身の意志なのか。

 ただ分かることは確実に二人を殺しに来ていると言うことだ。その証拠が、堕狐の持ち上げる鉄の龍「電車」だ。

 魔理沙たちは電車と言う存在を知らない。明治時代初頭から時代の進歩が乏しい幻想郷では、現世にある電子機器や通信機器等の近代産業による産物が全くない。もちろん「電車」などと言う自走車などあるはずが無く、鉄の龍のように見えてしまう。

 

 堕狐が振りかぶり、電車を放り投げようとする。その時

 

 「トワイライトブレイク!!」

 

 電車に向けて放たれた光筋は、着弾して青白い光を発生させた。まるで花火の様な美しさで弾けた。その射線を辿っていくと攻撃したのは倒れていたはずの魅魔だった。

 

 「魅魔様!大丈夫なのか!?」

 

 魅魔は足を生やし、優雅に魔理沙の横に立った。

 

 「お前が時間を稼いでくれたおかげでな。魔力の回復に時間がかかった」

 

 魅魔程にもなれば空気中の魔素を体内へ誘導し、魔力の回復を早めることが出来る。今の魅魔はほぼ万全の状態だった。

 

 「話は後だ、あの鉄龍は意外と硬い」

 

 先ほどの衝撃を与えたのにもかかわらず、電車は半壊しただけで意外と丈夫だった。

 さてと、と言うと魅魔は黒マントを翻し、邪悪な悪魔の翼を生やし立てた。まるでコウモリの様なその翼は正しく魔女であり、これが本当の姿なのだと魔理沙は頷いた。

 

 「私が突撃する。魔理沙は援護を頼む」

 「俺が先走るから魅魔様は後ろで撃ってくれ」

 

 同時に発音したため、両者顔を見合わせた。

 にやりと笑い、じゃあそういうことで、と言い合わせた瞬間に両者とも駆けだした。

 

 「無様ですね。本当に」

 

 四両列車の二両を切り分け、軽く振りまわす。

 それを素早く避け、かわし、お互い照準を定める。

 

 「ネプチューンストライカー!」

 

 魅魔が杖から流星を放ち、一両に命中して弾け飛ぶ。その火花は黄色に色付き、焦げ付いた鋼を融解させた。

 魔理沙も負けじとターレットを一点に集めて集中突破を図る。

 

 「シャイニングファクトリー!!」

 

 二つのレーザーが回転しあい、一つのレーザーと成って二両目の車両を貫く。堕狐は命中する前に車両を手放し、被弾を避ける。

 だがそうしているうちに魅魔は再度攻撃を仕掛ける。

 翼を大きく広げ、翼に光の種子をいくつも纏わせる。

 

 「ネクロハート」

 

 そう呟いて翼を一振り。すると纏った光弾は白く淡い光を散らしながら堕狐を蜂の巣にして破砕する。

 だが破れたのが結界だと分かると、堕狐は残りの車両をこちらに投げつけて尻尾からカラフルなレーザーを照射してきた。指先からも細かい弾幕を張り、接近を許さない。

 

 「続いて、リーインカ―ネイション!!」

 

 魅魔がさらに技を叫ぶ。

 するとそのレーザーに対抗するように激しい光芒が瞬き、両者の攻撃がぶつかり合った衝撃波が発生した。それに合わせて小弾も宙を揺れ、地面にいくつもの穴を開けた。

 激しい轟音が鳴り響く後ろを魔理沙が飛翔し、堕狐の背中を捉える。同時に魅魔も翼を展開した状態で杖を突き出した。

 

 「マスタースパーク!!」

 「ミッドナイトスパーク!!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉から、魅魔は杖のオブジェクトから大出力の大型レーザーを繰り出した。

 堕狐の前後を捉えた激しいスパーク光線は体を包み込み、レーザーの衝撃で出来た力場に押しつぶされる。その瞬間、光芒の中に異空間への出入り口が召喚された。それに焼き消されるように堕狐は消えていった。

 消滅したのだ。

 

 「ふぅ――――」

 

 一件が決着し、落ちついてため息を吐くと

 

 「この大馬鹿者がぁ!!」

 

 がつんと頭部に一撃。

 

 「ッ――。何すんだよいきなり!!」

 

 「何するってお前が無謀なことするからだよまったく!!」

 

 「助かったんだからいいだろ!」

 

 「よくないわよ!!」

 

 まったく、と言って静かに魔理沙に駆け寄り。

 

 「本当の大馬鹿者なんだから・・・」

 

 悲しげに、だが嬉しそうな表情で魔理沙を抱擁した。

 魔理沙もその温かい体に包まれ、ひと時の幸せを感じた。

 

 

 ――――ああ、家族ってこんな風なんだな

 

 

 何故か、どこかそう感じた。その温かい抱擁に、母親を求めてしまうのは何故だろうか。自分の親はもっと優しく、可憐であった。

 だが魅魔に、同じような感情を寄せてしまう魔理沙。

 

 「わるかったな、大馬鹿者で」

 

 「いいわよ。あなたらしいもの」

 

 「へへ、訳分かんねえぜ」

 

 そう言って二人は再び家へと入って行った。

 

 この日、魔理沙は魔法使いとして、そして人間として随分な成長を遂げた。

 魔法使いはいずれ“魔女”となって世の中に威厳と歴史を残すだろう。その一人に成れるかは“メイガス”の騎士次第だ。

 

 

 




 ちなみに私はキノコ嫌いです(どうでもいい)


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六話「恋色マスタースパーク」

 

 

 

 

 「へえ、その魅魔って人すごいわね」

 

 グリモワールを両手で抱え込んで魔理沙の顔を覗き込むアリス。

 

 「まぁな、私のお師匠様だし。おかげで今じゃこいつは欠かせないぜ」

 

 そう言ってポケットに入れてある八卦炉を服の上からポンポンと叩く。最近は八卦炉とは呼ばず、マスタースパークを縮めた「マスパ」と呼ぶことが多い。

 そして何より大きいことは、魔理沙の八卦炉のおかげで魔術界に激震が走ったのだ。

 

 「魅魔様はその後どうしたの?」

 

 「ああ、実は私のマスパが新しい魔素を含んでいるらしくて、その後魅魔様は魔界へ連れ戻されたってわけだ」

 

 「何があったの?」

 

 不思議そうに八卦炉を見つめる。

 

 「アリスも使ってるだろ。これと似てる魔法」

 

 少し考え、まさかと言って口に出す。

 

 「“魔砲”なの?」

 

 「ピンポン!正解。実は魔砲の始まりはこの八卦炉なんだぜ」

 

 驚くアリス。話をまとめると

 

 世界には魔術と魔法の二つがあるとされていた。それらを用いて使用する超常現象を“魔術法”とまとめていた。

 しかしそこへ「ミニ八卦炉」と言う外部からの魔力伝達による新たな魔術法が出来てしまった。これにより魔界に存在していた魔術学研究本部は魔理沙を育成した保護者である魅魔を呼び戻し、実験を行うための立会人としたのだ。

 本当のところは魔理沙を連れて来たかったのだが、魔界にヒトを連れてくることはダメらしく、仕方なく研究材料として五行山を持ちかえったそうだ。

 そしてその後に付けられた新たな魔術法の名前は“魔砲”。その名の通り「魔術法による魔力砲台」。つまり兵器だ。

 

 「魔理沙も大変だったようね」

 

 「それほど大変じゃなかったぜ。なにせスキマ妖怪が圧力掛けたみたいでな」

 

 「余計駄目じゃない・・・」

 

 「そう言えばアリスは何で魔砲使えるんだ?」

 

 「そ、それはあれよ、グリモアがあるからよ!」

 

 何かを必死に隠そうとしている。だが鈍感な魔理沙はそれが分からなかった。

 普通、魔砲は魔界の人間にしか使えない。これは基本的な魔力量と流れている魔力質が違うためと言われている。

 今のところ、魔理沙が知る限りで魔砲が使えるのはアリス・マーガトロイドと風見幽香のみだ。

 風見幽香は魔界人という話があるためほぼ確定だと分かる。だがアリスは

 

 「それより!もうそろそろ私の家が見えてくるわよ!」

 

 「あ、本当だ。じゃあ早く行って御茶でも飲もうぜ」

 

 「はいはい、お菓子もあるから」

 

 二人は緑生い茂る森の小道を駆け抜け、その先にある湿地の家に入って行った。

 魔界と地上界を行き来していた“人間”がすぐ近くにいることを、まだ魔理沙は知らない。

 

 



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余談「ランページファントム」

 

 

 魔界へ帰ってきて早数年。あれから地上界には訪れていない。

 魔理沙のことも心配だった。だがスキマ妖怪の目的が私の排除ならばこれが正解だったのだろう。それに博霊に魂を売った私は何処にいても幻想郷と繋がっている。そう思うと私は魔理沙と同じ空を仰いでいるのだと感心する。

 

 

 ―――――魅魔様!魅魔様ー!

 

 

 嗚呼、今日も教え子の呼ぶ声がする。

 毎日毎日、馬鹿な人間が私の元へ訪れる。だがその誰にも魔理沙の様な高揚感は籠らなかった。

 ただ空しく込み上げてくる寂しさに幾度となく枕を濡らした。偉大な魅魔が何と言う無様。みすぼらしい自分を誰かに罵ってもらいたかった。

 そうでもしないと気が晴れないのだ。

 

 「あなたが魅魔?」

 

 そこへ、いつもとは違う生徒が訪れた。違う感覚、いやこれは、この少女から放たれているプレッシャーか。 

 青いスカートを着こなすカチューシャの少女がいた。両手に大きすぎる魔道書を持って。

 

 「そうだが。何か用か?」

 

 その少女は睨みを利かせてこう言った。

 

 「私に、魔法の全てを教えて」

 

 と。

 久しぶりに私は腹を抱えて笑った。少女は何がおかしい、と不満顔になっていた。

 今までここを訪れた生徒は皆魔法を教えてとは言わなかった。口々に『強くしたい』と言うのだ。だか少女は『魔法を教えて』と言った。つまり魔法を使えないのだ。

 魔界の人間のすべてが魔法を使えるわけではない。生まれつき使えるものもいれば教えれば使えるようになるものも大勢いる。だがそれは人間の才であり、態々魔法を使おうとするものはいない。生活の一部にしかない魔法など、高等魔術による政治に比べれば必要のないことなのだ。魔法と魔術の違いはこの利用価値の差だ。例えるならば魔法は拳銃の弾丸であり、魔術は大きな爆弾のような存在だ。

 その違いすらも分かりきったかのような澄んだ瞳で少女は私に『魔法を教えろ』というのだ。この程度の人間にこう言われては笑うしかない。しかもその様子では魔導書は読めなかったようだ。だから私は少女にこう発言した。

 

 「わかった、私が教えられることのすべてを貴様にくれてやろう。ただし」

 

 「ただし?」

 

 「必ず、お前のやりたいことをしてみせろ」

 

 少女のしたいこと、言い方を変えれば夢だ。何のために魔法を使うのかはわからない。だが不思議と彼女からそんなオーラがあるように感じたのだ。

 確かな意志をもって、自らがしたいことを成す為にこの少女はここまで足を運んだのだ。この小さな足で。その勇気と強い意志を見据えての発言だった。

 すると少女は小さな体を震わせてこう言い放った。

 

 「分かりました。かならずしてみせます!叶えて見せます!」

 

 思いが通じたのかはわからない。だが彼女はそう意気込んだ。前に誰かさんも同じような大口叩いていたな、と思い出を探る。

 その顔を見て、私は手を差し伸べて見せた。その手を少女が受け取り、よろしくお願いしますとお辞儀した。

 

 「名は?」

 

 深く息を吸い込んで、少女はこう名乗った

 

 「“アリス”と申します」

 

 今夜も魔界の夜は長い。

 

 

 




 魔理沙編完結です。至らないところ多々あると思いますがこれからもよろしくおねがいします。


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少女転生 ~ Descent angel
其壱「夜が降りてくる ~ Empty road」


章で区切りながら暇なときに投稿して行こうと思いました。
所々日本語がおかしい部分やよくわからない物語や設定がありますが追々修正していきます


 

 

 

 「全く、自分の尻ぬぐいもできないなんてとんだ弟子だよ」

 

 羽のようなマントを靡かせて飛ぶ魅魔。その視線の先にいる少女、全身紫の装いをした金髪少女だ。

 太い木の枝の先端に水晶が付いている杖を持って浮遊している少女の名は「霧雨魔理沙」

 魔界に依存している魔法使い、魅魔の弟子的存在で、その能力も魅魔に偏っている。

 

 「そうかしら?一度は魔界最強になったのだから少しは認めてくれてもいいのに」

 

 「最強なら後ろのあいつらをなんとかしてくれよ魔理沙」

 

 そう言って振り向くと背後には大量の使い魔達が迫っていた。コウモリや幽霊等、様々なモンスター共が寄り添って追いかけてきている。

 

 「もちろん無視するに決まっているわ。あんなの相手にするぐらいならアリスに新しい魔法聞いた方がいいわよ」

 

 「まだ魔法覚えるつもりなのかい・・・」

 

 「当り前よ!何事にも好奇心を持って探求しないと」

 

 「なら一つ提案だ、今からどっちが多く敵を倒せるか競争するっていうのはどうだい?それなら自分がどれだけ強いか、どこが弱いか分かるだろう?」

 

 「乗ったわ。我ながらチョロイわね私」

 

 魔理沙は飛行速度を下げ、反転して拡散レーザーを大量に発射し始めた。速度は魅魔に劣るがモブを倒すのは魔理沙の得意分野だった。

 逆に魅魔の場合、一点集中系攻撃のため、雑魚を態々倒している暇がない。だが性能面では魔理沙以上である。

 

 「キリがない戦いっていうのは好きよ。”リトルデビル”」

 

 背中から生々しい翼が生え、光の粒が無数に発生し始めた。ある程度の大きさになったところでそれはレーザーとなって敵軍へ照射された。

 

 「ほとんど真似した技ばかりなのに使い方だけは一人前なんだから。ほんと器用よね」

 

 「誉め言葉として受け取って置くわ」

 

 「なら私も負けてらんないねぇ。”ネクロハート”」

 

 魔理沙と同じように翼を広げ、纏わせた光弾を次々に発射する。まるで流星群のように光が落ちてくる。

 魔界の夜は長く、その間に起こる戦闘は星空の瞬きだった。

 

 

 事の発端は魔理沙が魔界一の魔法使いになったことだった。

 

 「魔法を極めし者は魔女となり、夜を支配する。その際、汝には神の称号が与えられる」

 

 という事だった。魔理沙はアリスのグリモワールから人間には習得できない魔法を無理やり習得し、魔界の隅っこで日々研究に勤しんでいる魔術法学会に問い合わせた。

 見事、魔理沙は魔女に認められ「メイガス」の称号を得たのだが、魔界外からのアクセスが多数あることが発覚。侵略行為と見なされ、即刻称号剥奪をしようとしたが魔理沙がそれを拒否。

 最終的には呪いをかけられ、次の満月までに魔界を出ないと堕天してしまうという事まで発展してしまった。

 

 「いやほんと魔界って怖いねぇ」

 

 「笑い事じゃないよ魔理沙。修業が足りないってあれだけ言ってきたけど違うね、性格の問題だったわね」

 

 「最初は観光のつもりで神になりに来たんだけどなぁ」

 

 「それだけ聞いてると厄介な奴にしか見えないよ。全く連中も大変だね」

 

 「ってことで尻拭いよろしく魅魔様。大丈夫!向こうで元気に天使やるからさ!時々土産も持ってくるから」

 

 「魔理沙、あんたアホだね。魔理沙に味方してる私ももう魔界にはいられないよ。全くいっそ成仏したいよ」

 

 「あーわかるよ魅魔様」

 

 「あんたなんかに幽霊の気持ち分かってもらっちゃ困るよ」

 

 魅魔の緑の瞳が出口を捉えた。魔界の裏出口は洞窟になっており、何のバリケードもなく簡単に出入りできる。だが向こうからは入りにくい場所になっている。

 

 「じゃあここまでだね、魅魔様はこれからどこ行くの?」

 

 「さてね。元々私は博麗に取り巻く存在だ、無難に神社に住もうかね」

 

 「なるほど、私はどうしようかな。いっそ外の世界に行くのもいいね」

 

 「外の世界?・・・というと現世のことかい。また面倒なところに行きたいんだね」

 

 「好奇心さ、冒険に間違いはない!」

 

 追いかけてくる敵も徐々に力尽きていき、全力を出さなくても軽く逃げられるようになっていた。

 奴らは魔界を出て行けと言ったが本心は堕天させたいのだ。ヒトに組する者も含めて魔界から追放し、幻想郷でもつらい思いをして生きるように、という一周回って馬鹿になったような思考回路だ。

 

 「じゃあ行くよ魅魔様」

 

 「ああ、またどこかで会おう」

 

 お互いの笑顔が最後の土産となった。

 魔理沙と魅魔は幻想郷へ出ると魔界へのゲートを破壊し、二度と入れないようにした。

 

 

 

 「私も靈夢のとこにでも行こうかな。でもその前に」

 

 魔導書の片隅で見つけた誰かのメモ。それは幻想郷の結界を超えるためのメモであった。魔界の人間は態々超えようとは思わないだろう。何せ彼らは魔界にいること自体に誇りを持っているため、外は汚い世界だと決めつけ誰も出てこようとはしないし、出そうともしない。過保護っぷりもいいところだが。

 なら誰がこのメモを書いたのだろう。そればかりの謎が残る。

 

 「考えててもしょうがない。外に出てみれば分かるかな」

 

 「やっぱり気になる?」

 

 何処からか女の声が聞こえた。

 その声と同時に魔理沙の肩に一匹のコウモリが乗りかかってきた。平均より少し大きめのコウモリで、顔に赤い星のマークがついてある。

 

 「誰よあなた、というかこれは使い魔?」

 

 「あら意外と冷静なのね。あと使い魔ではないわ。訳合って姿を変えているの」

 

 「そうなのね、でそんな悪魔さんが私に何の用?」

 

 「悪魔っていきなり決めつけるの?」

 

 「使い魔でもなんでもいいけど魔界を出るってことは相当力がある者でないといけないもの。それにコウモリなんて分かりやすいわよ」

 

 「あら盲点だったわ。悪魔にはそういうこと分かりづらいのよ」

 

 魔導書の上に乗ったコウモリは自らページをめくり、あるページを魔理沙に見させた。

 

 「ここ、結界の破り方についてのページよ」

 

 「これぐらいなら普通にできるわよ?」

 

 「ええ、でも普通じゃない使い方をするの」

 

 魔界でいう結界の破り方は二種類ある。

 一つは高火力で結界を破壊するやり方だ。この方法は能力の属性にも比例するが一般的な結界ならば一番有効で妥当な手段だ。

 もう一つは結界に結界を同調させるやり方。このやり方はかなり高度な技になるが城壁などに使われている結界に有効な手段だ。破壊するのではなく、一部を自分の結界と同調させ、無効化することによりそこだけに穴が開いた状態になるのだ。この場合の結界は同属性でなければならない。

 

 「で、普通じゃないやり方って?」

 

 「後者の方の応用よ。結界の同調は結界に自らの能力を流し込むことで可能とされる技よ。よく結界を繋ぎ合わせる時にも使われるわ」

 

 「それは分かるけど、それをあの博麗大結界に仕掛けるの?無茶ってレベルじゃないわよ?」

 

 博麗大結界。それは幻想郷を覆いつくすほどの規模でありながらどんな妖怪も手を焼く程の強力な結界だ。それを破れる者ならいくらでもいるが長時間の末ようやく一部が崩れる程度である。例えるならば岩盤をトンカチで壊すような事だ。

 

 「それにあの結界は霊力、相性も良くはないわ」

 

 「でも悪くも無い。ならまだ勝ち目はあるわ」

 

 次のページを開いたコウモリはある項目を小さな足で指示した。

 

 「属力吸収(エナジードレイン)?こんなもの使ってどうする――」

 

 「これで結界を吸いつくすの」

 

 属力吸収(エナジードレイン)とは、対象に内蔵されている属力を体内を通して外部に排出する技のことだ。初歩的な事の応用なので誰彼構わず使うことができる。だが用途が限られるためあまり普及している技ではない。

 元々は気力使いに対して有効な手段であった。気力は妖力の発展型で、己の気を高めることで発動される。そして気力使いには格闘家が多いのだ。一度戦闘に発展すると逃げることが困難になるため、相手の間合いに入った状況下で上手く発動すると起死回生が見込めるのが属力吸収だった。

 一応誰かの属力を輸送する時にも使えるが、それは緊急時のみである。

 

 「そんな無茶苦茶な・・・」

 

 「無茶苦茶だから成功するかもしれないじゃない?理屈は分からなくても成功したらこっちの勝ちよ」

 

 「実証してないのね・・・」

 

 「だからそこまでは力を抑えてこの姿のまま。悪魔と言え私もそれなりに強いのよ?」

 

 「はいはい負けました。まさかこの私が押し負けるなんて・・・」

 

 魔導書を閉じてため息をつく魔理沙。コウモリは再び魔理沙の肩に乗り、少し翼を羽ばたかせた。

 

 「安心したら眠くなったわ。今日の宿を探しなさい」

 

 「何よその言い方、コウモリのくせに」

 

 「そういえば名前聞いてなかったわね」

 

 「人の話も聞いてないですよお姉さん」

 

 「私はエリス。額に星ついてるし分かりやすいでしょ?」

 

 「確かに。私は霧雨魔理沙。ついこの間使徒になったけど魔界を追い出されて堕天されるところだった」

 

 「結構大罪犯してるじゃない・・・」

 

 暗くなった森を浮遊し、満月の下寝床を探して彷徨った。

 月明かりだけが頼りの幻想郷の夜。その暗さはまるで夜が降りてきたようだった。

 

 

 

 

 

 




旧作魔理沙の口調って難しいですね。ついでにエリスも原作じゃ喋ってないのでどんな口調なのかイメージで書きました。
敢えて飛ぶシーンでは何で飛んでいるかは言及しませんでしたが旧魔理沙って箒で飛んでいるんですかね?小さい杖だけのイメージがあるんですよね。そうなると結構シュール


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其弐「シルクロードアリス」

 

 

 

 

 博麗神社

 

 

 「前回の異変を解決して早数年。あれから何事も起こることなく平和的な世界が守られていた」

 

 「そうだね」

 

 「だが今私の身に恐らく今年最大の災難が迎えている」

 

 「そうなの?大丈夫?」

 

 巫女服を着た少女は息を吸い込んで言い放った

 

 「あんたのことよ!!」

 

 「ええ・・・・」

 

 桃色の髪の毛に白と赤の典型的な巫女服を着こなす少女「博麗靈夢」

 博麗神社の巫女であり、幻想郷の異変を解決する要員である。だがその割には少々力不足であり、時々魔理沙や魅魔に手伝ってもらっている身だ。

 

 (ちょっと魔理沙!行く当てあるって言うから信頼してたのによりにもよってなんであの巫女の神社なのよ!!)

 

 肩に乗っかったコウモリ、もといエリスがテレパシーで伝えてくる。かなり焦っているようだ。

 

 「仕方ないでしょここぐらいしか思いつかなかったんだから」

 

 (自分の家は無いの!?)

 

 「あるにはあるんだけど何年も魔界(あっち)に居たから多分家じゃなくなってる」

 

 返答は無かったが白目を向いていたので察せた。

 

 「あら何そのちっちゃいの」

 

 「ああ、新しい使い魔よ。一流の魔女となればこのくらい必要だと思って」

 

 「へぇ~そうなんだ。あら、この子白目向いちゃってるけど」

 

 「寝てるんだよ」

 

 上手く騙せた魔理沙であった。

 

 

 

 

 

 「そういえば靈夢、魅魔様はいるか?」

 

 魅魔は博麗神社と繋がりを持っているため、自然とここが住みかとなるのだ。つまり魅魔がいる可能性が高い。

 

 「ああ、そういえばさっきまで居たけど久しぶりの幻想郷を見回りに行くって出て行ったわよ」

 

 「そうなのか。魅魔様もなんだかんだ楽しんでそうだな」

 

 (それより結界はどうするのよ、こんなところじゃ結界なんて破れないわよ)

 

 「え?知らないのエリス」

 

 (えっ?)

 

 「幻想郷で最も結界の破りやすい場所。ここがその場所よ」

 

 エリスは黙った。

 

 「実際に幻想郷に来るのは初めてだからその反応も当然ね」

 

 幻想郷にはいくつか結界の繋ぎが緩い部分がある。その各所には要石があったり祠があったり将又神社が建っていたりする。その一つがここ博麗神社。

 巨大な結界は一つの壁だ。エネルギーの壁は中心部から発せられ、端に行くほど薄くなる。その薄い部分に補強役を添えることでなんとか結界を維持しているのだ。

 大結界と言われるのは大きさだけでなく、何重にも重ねて結界を張ってあることから大結界と呼ばれている。

 だが博麗神社の場合は違う。ここは外の世界と直接的に繋がっている場所でもあるため、幻想郷のどこよりもあちら側に行きやすいのだ。

 

 (なるほど・・・確かにこちらの知識不足だったわ)

 

 「ただここは靈夢もいるし魅魔様もいた。だからこっそりするのも難しいかなって」

 

 (リスクは高いけど外に行ける可能性では一番高いわね。大丈夫よ、短時間なら私で止められるわ)

 

 「エリスは行かないの?」

 

 (もちろん行くわ。でもまず成功例が無いとダメじゃない?」

 

 「実験体ですか・・・」

 

 (そういうこと、よろしくねかわいい魔法使いさん)

 

 「魔法使いじゃなくて魔女よ」

 

 (私からすればかわいい魔法使いよ)

 

 魅魔は出かけている、靈夢も夜は寝るため動かない。今晩が絶好のチャンスだった。

 

 

 

 

 

 夜 博麗神社

 

 

 「静かにね」

 

 (分かってるわ)

 

 月明かりだけが頼りの夜。迷いなど無く、参道の真ん中、正中を中心に大きく魔法陣を描く。

 コウモリは魔理沙の肩から降りて、空中で光の粒となって散会した。眩い光は徐々に量を増やし、人か悪魔かの姿をして形成された。

 赤いスカート、赤く大きな蝶ネクタイ、金髪をまとめる大きな赤いリボン。その容姿からは想像もつかないような大きな羽が背中から生えていた。頬には赤い星が描かれており、同じく星の形を模したステッキを持っていた。

 

 「どう?これが私の真の姿」

 

 「ほんとに悪魔なんだね」

 

 「当り前よ」

 

 よく見ると赤い花が金髪に映えており、赤が好きなのが伺える。ちゃんと女の子のようだ。

 

 「じゃ、始めるわよ」

 

 エリスは魔法陣の横に立ち、魔理沙は陣の内側へ入る。大きさ的にも一人ずつ送る感じだ。まだ成功するとも分かってないが魔理沙の心は好奇心と緊張で今にも跳ね上がりそうだった。

 

 「大気中の魔素を吸収・・・安定域を構成」

 

 ステップが進むにつれ、魔法陣は端から色を変えていく。魔理沙は詠唱の為に目を瞑っているが、瞼越しでもその輝かしさがはっきりと伝わっていた。

 

 「あともう少し・・・」

 

 その時、不運は訪れる。

 

 「あんた達!何やってるの!」

 

 「チッ、もう少しの時に邪魔してくるのね!!」

 

 エリスは魔理沙の援助を止め、大きな翼で魔理沙への視線を遮断した。

 

 「エリス!!」

 

 「あなたは続けなさい!巫女は私が食い止める!」

 

 悪魔の翼が両者の視線を遮り、エリスは二人の間で壁となった。

 

 「ごきげんよう巫女さん。こうして会うのはいつぶりかしら」

 

 「え?どこかであったかしら?」

 

 「覚えてないのね・・・でも、これを見れば思い出すんじゃないかしら!!」

 

 手のひらから貫通レーザーを放ちながら翼から小さな弾幕を撃ってくる。

 

 「パズルアスペクト!!」

 

 この世界にはまだスペルカードルールは存在しない。だがそれらしき技名を持った弾幕も少なくはない。

 

 「知らないわね!私の前から消えてくれると話が早く済むんだけど!!」

 

 陰陽玉を飛ばし、それをおとりにしてお札を連射する靈夢。だがその程度の子供だましでやられるほどやわな悪魔ではないエリス。

 霊夢は霊力を放出して攻撃する「霊撃」で戦闘を行う。楽天的な普段とは打って変わり、その戦闘スタイルは強者を叩き落とすためにある物であった。

 

 「さすがは博麗の巫女、前回に比べてかなり強力になっているわね」

 

 「昔はこんな力も狙われたのだけれど、所詮あなたたちは妖怪よ。退治される為に抗うの」

 

 「昼間に比べて随分冷静なのね」

 

 「ああ、もしかしてあのコウモリだったの。へえ、確かに似てるかもね」

 

 靈夢が一歩踏み出した瞬間、エリスとの間合いを一気に詰められ、胴体部に掌の一撃を加えられた。そのすぐ後に背後で踊り飛んでいた陰陽玉が靈夢の飛ばしたお札に弾かれエリスに向かって激突した。

 

 「クッ!スノウフレアッ!!」

 

 翼から大量の小粒弾を展開し、靈夢の接近を封じた。

 

 「あの一撃をもろに喰らって立てるなんて、どこかで会ったのは本当らしいわね」

 

 「え、えぇ」

 

 博麗の力は一度経験するとその強力さ故に脳裏に力が焼き付く。大抵の妖怪ならば消滅するが一部の生き残った妖怪は一瞬の恐怖を思い出し、咄嗟に防衛行動をするのだ。

 今のエリスもそれと同じ状態だった。

 

 「このままだと押し切られるわ。魔理沙、早くして頂戴」

 

 「全く、こっちに来て早々異変を起こすのかい」

 

 「こ、この声は・・・」

 

 エリスと魔理沙の鼓動が一瞬だけ重なった。

 それは第二ラウンドが発生した合図だった。

 

 「魅魔様ぁ・・・ちょっとタイミング悪すぎませんか?」

 

 「あんた自分から外の世界に行きたいって言ってたじゃないかい。折角他の異点を確認して回ったって言うのに。魔理沙、考え方が単調だね」

 

 「そういう魅魔様は念入り過ぎる気がするよ。現に私がここにいることが分からなかった。残念だけど私はここを出るよ」

 

 「別に私は魔理沙を止めに来たわけではないよ」

 

 その言葉に魔理沙は戸惑い、手元が狂いそうになった。

 

 「じゃ、じゃあ何しに・・・」

 

 「弟子の最後を見送ろうってんだ」

 

 「その言い方だと私が死ぬみたいになるでしょ!」

 

 「でも帰ってこれるか分からないんだろ?なら私は見送る側だ」

 

 その時丁度結界の一部が破れ、どこかへと繋がった。

 

 「あっ」

 

 徐々に魔理沙の体が薄くなり、ゆっくりとどこかの空間へ転送されていく。

 

 「どうやら成功したらしいね。頑張りな魔理沙。あたしゃどこからでもあんたを見守っているよ」

 

 「ありがとう魅魔様、土産話くらい聞かせてやるぜ!」

 

 「変な口調だね」

 

 魅魔は少し笑った。戦闘しながらそれを聞く靈夢とエリスは両者攻撃を止め、地へ足を下ろした。

 魔理沙の体が半透明を超えた時、魅魔に最後の笑顔を送った。

 

 「じゃあ私も行きましょう。ごきげんようさようなら!」

 

 エリスも魔法陣に飛び移り、透明になって向こう側へ消え去った。

 

 「結局行っちゃったのね」

 

 少し悲しそうな声で靈夢が呟く。魅魔も足を下ろし、靈夢に近づいて頭をそっと撫でた。

 

 「なによ」

 

 「意外とお前も行きたかったりしてな」

 

 「そんなわけ・・・ないじゃない」

 

 「悲しかったら泣いていいんだぞ?」

 

 にやけながら魅魔が靈夢をからかう。

 

 「うっさい!退治するわよ!」

 

 「怖い怖い」

 

 それでも少し悲しげで物足りなさを隠しきれていない靈夢。魅魔も、ほんの少し心の中の何かが抜け落ちた気がした。

 

 

 

 

 

 




途中から何書いてんだ俺みたいな感じ
暇なときまた修正入るんじゃないかなやる気があれば


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其参「魔女達の舞踏会 ~ Magus」

 

 

 

 

 激しい光に包まれて、最初に見えた光景は陸地に面した大きな湖だった。

 

 「う、うわぁ!」

 

 雲が手で掴めそうな高度から魔理沙の体は落ちていく。徐々に早くなっていく体を魔理沙は無理やり浮かせようとする。

 

 「ふう、いきなりフリーフォールとか一体どこに繋がったのやら」

 

 後から来たであろうエリスを探して魔理沙は見回す。

 辺りはハスやスイレンが咲き浮いている湖のようだ。陸地には神社に続くような石階段が見えるが本殿は木々に隠れて見えない。

 

 「おおっと、さっきぶりね魔理沙」

 

 「来たねエリス」

 

 コウモリではなく今は常時人型で現れたエリス。その姿は今まで通りで何の変化も無い。どうやら無事こちら側へ来れたようだ。

 

 「ここはどこなの?」

 

 エリスは周囲を見回して手掛かりになりそうな物を探すが、その地形は日本らしい風景ばかり。階段があるという事は少なからず人の手が入っている場所ということだが。

 

 「まあいいわ。私には関係無いだろうし」

 

 エリスは溜め込んでいた気持ちを吐き出すように溜息を付いた。そしてその顔から興味らしき物が消えていったような気がした。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「どうやら私が求めていたのはここじゃないみたい。仕方ないわ、私の力でなんとかする」

 

 「そうか・・・残念だな」

 

 「そうかしら?もしかして寂しいの?」

 

 「か、からかうなよ!悪魔!」

 

 笑いながら近づいてくるエリスは片手に持つ星のステッキを掲げて近づいてきた。

 

 「それより、あなたにはその姿は見合わないわね」

 

 ステッキを一振りし、眩い光が魔理沙を優しく包み込んだ。光は暗いドレスを彩り、白と黒のドレスへと変化させた。杖は短縮され、6つのカラフルな水晶玉と白い翼が背中から生えた。

 

 「これは・・・」

 

 「私が悪魔ならあなたは天使よ。そうでしょう?ミカエル」

 

 「ミカエルか・・・趣味が良いのか悪いのか」

 

 天使は翼を広げ、大きく空へ舞い上がった。今の魔理沙は魔術の中の最高潮を繰り出すことができる。それは唯一無二の存在で、正に神に似たるものは誰か(ミカエル)である。

 

 「じゃあ私はこれで、See you!」

 

 悪魔の翼は黒い霧を残して天空へ消えていった。彼女は一体何処へ行き、何をするのだろうか。それはまた別の話で語られることだろう。

 恐らく現世であるこの世界でまだ確認できていないことがある。それは文化レベルだ。一体この世界の人類はどの様な力を持ち、またどの様な文化を築き上げているのか。相手に寄ればいきなり死に直面する可能性も無きにしも非ず。

 

 「さて、まずはこの世界に溶け込まないといけないんだけどな」

 

 その時、水平線より遥か遠く、何かが高速で近づいてくる感覚が魔理沙を覆った。エネルギーの波が臭いのように五感を刺激し、独特な感覚が湖全体を囲んだ。それが人ならざる者という事は直感で理解した。

 

 「妖怪か?するとこの世界はまだ神の信仰が続いているのか?」

 

 近づいてくる気配は距離を縮めるにつれて存在を確かなものにしていく。それは妖怪でも神でもない。人類でもなければ生命体でもない。しかしそれは膨大なエネルギーを有した絶命体と推測できる。

 

 「兵器・・・もしくはホムンクルスの類か・・・?」

 

 視界に入った目標は、人の形をしていた。律儀に一定の距離を保って『少女』は浮遊している。どういう原理で浮いているのかは分からないが、メイド服を着た赤毛の少女は魔法使いのように箒を持っていた。形は歪だが。

 

 「とんでもないとこまで来てしまったかも・・・今日中に帰れるかしらん」

 

 咄嗟に植物の陰に隠れたはいいがどうやら気が付いていない様子だった。少女から聞こえる硬い音やよく通る声、そして微かに匂う鉄の匂いから魔理沙は彼女の存在を確信した。どこかの巫女も同じような物を持たされていたのを思い出す。

 思い切って魔理沙は機械少女の前へ飛び出し、こう告げた。 

 

 「撃つと動く!!」

 

 「!!?」

 

 驚く、と言うよりは態勢を変えたようだった。

 

 「初めまして、空飛ぶ機械ネズミさん。こんな辺鄙な所まで何の用かしら?」

 

 「おつかいです!・・・あとネズミじゃないです」

 

 「おつかい?何を」

 

 「聖杯を探しに来ました」

 

 聖杯とはキリスト教の儀式で使われる杯や聖遺物と言うのが一般的だが、魔理沙の知っている聖杯はもう一つあった。それは聖杯伝説に登場する聖杯である。争いの渦中に潜む聖杯は神秘的な力を秘めており、その力に人々は魅了され、争った。その存在すらも肯定されていないような不安定な存在を巡って人々は殺し合ったのだ。正に伝説上の幻である。

 

 「聖杯だ?そんなもん東にあるわけないだろ。頭使えよ、頭。もしかしてスペック低いのか?」

 

 その時、空気が変わった。

 

 「私の頭脳回路は全身に埋め込まれていますが、主に胸部に集中しております」

 

 少女から放たれるオーラは特有の物らしく。覇気と狂乱に満ちていた。その感覚に駆り立たされ魔理沙も態勢を変えた。

 

 「ほう・・・やる気満々のようだな?この体、この世界では初めての魔法だ。気ぃ入れて『逝き』な」

 

 「そうですね無いならすぐに他の場所に『行かない』と・・・ッ」

 

 全身の装備を使い、少女はレーザーを放つ。前面に展開される範囲の広い弾幕は容赦なく魔理沙の全身を包み隠し、魔力の壁に吸収されていった。

 撃つと動く、その言葉通り魔理沙は翼を羽ばたかせ、魔理沙を中心に5つのオーレリーズを展開する。

 力に執着する弾幕が機械メイドを掠め、難癖付けた紅夢の魔法使いが東の空を大きく高く飛翔した。

 

 

 

 

 




 分かる人は分かると思いますが旧作幻想郷から秋霜玉のEXステージに移行しました。なんかごちゃごちゃしてて分かりにくいかもしれませんが想像力をフルに活用して読んでいただけると幸いです。
 あと書き終わった後に思ったんですが、今話短いですね。話数が重なるごとに内容が多くなるのが特徴だったんですけど。読みやすくていいか。


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其肆「魔鏡 ~ Innocent Devil」

 

 

 

 

 

 空に残る魔力の残留素を辿り、召喚地点へ帰還しようとする蝙蝠少女。少女は残留魔法を使い、一度幻想郷へ戻るようだった。

 残留魔法と言うのは、魔法を発動する際に余分に発生する魔素や魔力の事である。特に大掛かりな魔法では余白が大きく存在する事が多い。これは術者の技量が高ければ高いほど少なくなるのだが、魔理沙は練習も行わず実践を迎えてしまったため通常より多量の残留素が大気中に放出されていた。

 

 「段々近づいてきたわね・・・」

 

 魔力を感知できるエリスには、その残りカスが明確に見える。海流のように風に魔力が吸い寄せられているため、後を辿れば元が発見できる。

 

 「見ぃつけた」

 

 インクが擦れて潰されたような魔法陣を発見した。これからこの魔法陣を復元魔法である程度形のある所まで復元する。その後、復元した魔法陣をベースに新たな魔術式を形成、魔術陣となった物に動作を加え、別ディメンションへ転移する。

 こういった複雑に絡み合った大型魔術陣・魔法陣のことをこの世界では『アカシックリング』と呼ばれている。

 転移方法は幽体離脱と同じように精神と肉体を切り離し、肉体をエネルギーに変換。精神、魂とも言うが、これはアジールコートと呼ばれる特殊な容器に保管され転移する。

 魔術式(マヌーヴァ)を精密に書き込み、指定した世界軸へ転移を開始した。陣が赤く発光し、光を強めながら回転する。中心部から光芒は激しくなり、竜巻のように周囲の空気が荒れ始めた。

 

 「来なさい、そして私を連れて行って」

 

 閃烈が大きく唸り、月よりも激しい光がエリスを吸い込んだ。瞬間、エリスの肉体と魂は分離し、跡形も無くその空間から姿を消した。

 同時に魔術陣もその空間から形を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1800年 イギリス

 

 

 

 「あるところに、背中に蝙蝠の羽を持つ少女がいました。少女は人間の血を吸う悪い悪魔でした」

 

 一人の女が紅い瞳の少女に語り聞かせていた。

 

 「少女は退屈していた生活から抜け出すために、少女は楽園を探す旅に出ました」

 

 「楽園って?」

 

 幼い少女が女に聞く。

 

 「自由に羽を広げられるところかしら?」

 

 「ふーん。続き聞かせて」

 

 「じゃあ続き。少女は旅の途中で出会った魔女と協力して楽園を探すことにしました。しかし辿り着いた場所は魔女にとっての楽園でしたが少女が求める楽園ではありませんでした」

 

 子守歌のように膝の上で寝る幼女に聞かせる。幼女は心地良さそうな顔で目を瞑って静かに聞いていた。

 

 「少女は魔女と別れ、再び自分の楽園を探すことにしました。少女は魔女が残した道具を使って世界中をあちこち探し回りました。そして遂に楽園を見つけたのです」

 

 「めでたしめでたし?」

 

 「もう少しあるわ。楽園を見つけ、住み着いた少女はそこで二人の竜の子供を産みました。楽園で少女と子供の三人は仲良く幸せに暮らしましたとさ」

 

 話の最後を括るように二人でめでたしめでたし、と言った。微笑みながら幼女は疑問を女に問う。

 

 「つまんないお話」

 

 「そう?」

 

 「その少女本当に幸せなの?他にやりたいことあったんじゃないの?」

 

 「そうね、そう思えばあるかもしれないわね」

 

 でも、と話をつなげる。

 

 「多分その少女は誰かとの幸せが欲しかったんじゃないかしら」

 

 「誰かとの?」

 

 「あなたは今幸せ?」

 

 幼女は女の問いに迷いなく答えた。

 

 「幸せだよ、私は」

 

 「そう、なら私も幸せよ。だから少女も幸せなんじゃないかしら」

 

 納得がいかない様子の幼女の頭を撫で、その内分かるわよと気持ちだけ任せた。

 

 「子供の名前は何て言うの?」

 

 「さあ、何が良い?」

 

 「じゃあレミリア!」

 

 「ふふ、好きなのねその名前」

 

 「もう一人は・・・弟?」

 

 「せっかくだから妹にしましょう。少し暴れん坊なかわいい妹よ」

 

 幼女は二人に姉妹を思い浮かべた。背中に蝙蝠の翼があり、牙を持ち、爪を持ち、紅い瞳の二人の姉妹を。

 

 「名前は・・・そうね。暴れん坊だから」

 

 二人はお互いに紅い目を見つめ合って、引き込まれそうな目を、引き込む目を。頬を撫で合って終焉を迎える。

 

 「フランドールにしましょうか」

 

 街外れの迷いの森の紅い館で家族は幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。

 

 

 




よくわからんです


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魔女大戦争 ~ The perfect world
Ⅰ「夜だから眠れない」


 下書きみたいなもんです。多分色々調整します


 

 

 

 ~アリス邸~

 

 

 

 「今日はありがとう、いい話が聞けたわ」

 

 「自分で言ったことだがなんか恥ずかしくなってきたな」

 

 「魔理沙の過去、興味深い物があるわね。本にでもしようかしら?」

 

 「やめてくれよ!」

 

 「ふふ、冗談よ」

 

 「アリスが言うと冗談に聞こえないんだよ・・・」

 

 過去を振り返っていれば既に時刻は夜更け。三日月が照らす草木は夜風に吹かれ、同時に魔理沙の帽子を捲ろうとしてくる。帽子を押さえながら箒に跨り、幻想の摩天楼を駆けていく。

 

 「すっかり遅くなっちまったな。だがまあ、魔法使いの真骨頂は夜からだ」

 

 本業は魔法使い、しかし一部からは便利屋、盗人、害虫と扱いは散々。いづれにせよ夜を生業とするのは性分のようだった。

 

 「今夜は何すっかなー」

 

 その時だった。突然体を揺さぶるような強烈なめまいに襲われた。耳鳴りと共に視界がぼやけ、箒を掴む手に力が入りにくくなっていった。

 

 「なんだ・・・この・・・気持ち悪い・・・」

 

 空間が歪むような感覚に頭がねじれそうだった。背筋を舐め回されるような感覚、音に近い感触だ。幻聴や幻覚が目の前をチカチカと出ては消え、それがどんなイメージなのかも理解する前に魔理沙の精神は肉体との通信を遮断した。気力を失い無力になった魔理沙の体が箒と共に地面へ向かって落ちていく。

 

 「ダメだ・・・ここじゃ・・・」

 

 辛うじて動く口を使い、微力な浮遊魔法を唱えた。魔理沙の脳は呪文詠唱をするためにだけ動き、詠唱が終わった瞬間を持って魔理沙の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

 

 「魔理沙!!」

 

 一方、アリスは自宅から魔理沙の姿を見送っていた。すると家を出た直後、森の中へ落下していったように見えた。直前の動きからしてただ事ではないと判断し、急いで落下地点へ向かっていた。

 

 「何したら森の中に落ちるのよ全く!」

 

 森の草木を掻き分けて進んだ先にようやく魔理沙の姿を発見した。横たわる魔理沙に傷は無く、地上に着いてから倒れたという事が窺えた。

 

 「傷は無いみたいだけど、鳥にでもぶつかったかしら?」

 

 魔理沙に触れた途端、アリスに大量のイメージが流れ込んできた。靄がかった膨大な情報量にアリスは困惑するが、妖怪に部類されるアリスのスペックではギリギリ処理できるものだった。

 

 「これは・・・マナクレーターね」

 

 マナクレーター。巨大な魔術や魔法を使う時には本来グリモア等の魔術形式が記された書物を使うのだが、技術を極めた者になると書物を必要としなくても魔術を発動できる。その際に使われる魔術式などは魔法陣等の発動物に保存されるが、技術が未発達であった場合、魔法陣が消えても陣に保存された術式が空間に残ってしまう。

 何処のヘタクソがやらかしたのかは知らないが、おかげで人一人、いや普通の魔法使い一人が死にかけている。やはり普通の人間には情報力が多くて処理しきれなかったのだろう。

 

 「それにしても尋常じゃない情報量ね。素人がするような失敗だけど素人ができるような魔術じゃないわ」

 

 受け入れた術式の履歴を辿る。魔術式は基本古代文字や数字で構成されているが、読めなくともパターンで覚えていれば良いため意外と簡単なのだ。

 アリスは術式を読み解きながら疑問も解こうとするが、術式には見たことはあるが知らない式や、全く用途の無い術式まで入っているためどんな目的で使われたのかが分からなかった。

 

 「あいつなら分かるんじゃないか」

 

 膝の上でむくりと起き上がった魔理沙にアリスは跳ね上がった。

 

 「急に起き上がらないでよ!」

 

 「いや気が付いたらそこに・・・ってまあいいや」

 

 箒を持って立ち上がる魔理沙。だがやはりまだ回復しきれていないのかよろついてしまっていた。

 

 「ああ!もう!行先教えてくれたら私が連れて行くから」

 

 「大丈夫か?」

 

 「一応死にかけなんだから気なんて使わなくていいのよ」

 

 「いやそうじゃなくて、箒に乗れるのかっていう・・・」

 

 「つ、つべこべ言わず貸しなさい!はい!乗って!!」

 

 世話が焼けるとイライラしつつ、箒に跨り低空飛行で空を行く。魔理沙より速力も安定感も劣っている操縦だが、大まかな動きは魔理沙の動きを見て把握しているつもりだった。これが意外と難しい。

 

 「それで、あいつって誰よ」

 

 「ほら、幻想郷で魔法使いと言えばそこそこ強いやついるだろ?」

 

 「あいつ(パチュリー)のことね」

 

 「そういうことだ。行くぞ」

 

 普通の人間ならば膨大な情報量の後処理で数時間は寝たきりなのだが、長年の行いの末なのか数分で立ち直る程魔理沙は成長していた。

 アリスは空路を紅の館聳える湖に向けて夜の空を裂いて行った。

 

 

 

 

  ~紅魔館~

 

 

 夜の暗さが似合う館へ降り立った魔理沙達。

 霧がかった湖に妖精は沸いていなかった。妖精にも時間という概念があるのだろう。

 そんな静かな館に大声で且つ大胆に魔理沙は扉を蹴飛ばして堂々と侵入した。

 

 「入るぞーたのもー」

 

 「ちょっと夜分なんだから静かにしなさいよ」

 

 「大丈夫だって、吸血鬼は夜行性らしいから」

 

 レッドカーペットに荒い足跡を付けながら館を進み、地下へと通じる階段を下って行った。カビ臭く、常にジメジメしている光の僅かな図書館に踏み入り、監視用の本をぶん殴って本の持ち主と顔を合わせた。

 

 「今夜はやけに荒立たしいわね」

 

 「おう引きこもり、折り入って話があるんだ」

 

 パチュリー・ノーレッジ。通称不動魔法図書館。

 幻想郷でも指折りに入る魔法使いである彼女は、その圧倒的な知識量と研究によって賢者にも届く程の力を持っていた。生粋の魔法を持つ彼女ならば、魔術の断片を見出すことができるのではないかと頼み込んだ。

 

 「謎の魔術跡ねぇ・・・術式を見てみないと何とも言えないわ」

 

 「アリス分かるか?」

 

 「ええ、さっき見た時のを覚えてるわ。たしかこんな・・・」

 

 机上に広げた洋紙にペンを滑らせるアリス。揺れる羽と記される文字はインクの中に細かく刷り込まれた魔法式が成り立たせる魔法線。癒着したインクと洋紙の間には魔力が伝い、少しの輝きを帯びていた。

 成立した文字は人が読めるものではない。どちらかと言えば絵に似ている。二重に書かれた円の間に蚯蚓が這ったような線があり、描かれた線は全て一筆で書かれた一線であった。

 

 「よく出来た模型ね」

 

 「あなたに褒められるとそれなりに誇って良い気がするわ」

 

 「あくまでも模型の出来を褒めたの。他が出来ないようじゃ誇れるような事はなくてよ人形さん」

 

 「あーっそう!」

 

 アリスが書いたのは術式模写。言わば設計図であり、実際に魔術や魔法が発動することは無い。

 魔理沙が場を静めながら話を進行させる。

 

 「それで七曜の魔法使いさん、どうなんだ?」

 

 「そうね・・・パッと見て思ったことは、どこもかしこも古臭い式ばかり使ってることかしら」

 

 「古臭い?」

 

 「相当古い物よ。今の魔法や魔術と言った類の原点レベルでね」

 

 「そんなに古い物なの?なら何故あんな所に・・・」

 

 古い、という言葉の意味はどの技術でも共通の意味がある。それは非効率的だということ。何代にも渡って研究され続け、今に渡るまでその技術は研ぎ澄まされ、効率的に伝えられてきた。

 しかし魔理沙が躓いたクレーターに本来施されていた陣の式はとてつもなく古い式を幾つにも繋ぎ合わせ、膨大な量で現在の魔術の領域を再現した代物だった。

 

 「ただの馬鹿か天才の真似事か。いづれにしても放って置ける話題ではなさそうね」

 

 「ええ、どこかの巫女に感づかれると一番に疑われるのは私達ですもの」

 

 魔法使いの事なんて考える気も無いどこかの紅白の巫女にこの案件が耳に入れば利益を得ようと寝首を掻かれる。見た目は優しい巫女でも中身は檻すら壊す猛獣だという事を妖怪たちは皆知っている。

 

 「まああの霊夢のことだ、感づいても変に悪徳出して失敗するのがオチと思うが」

 

 「油断はならないわね。まだヒトのカテゴリーに入っているからいいものの」

 

 「いやあれも十分人害よねぇ・・・」

 

 交互に愚痴った後、三人で様々な考察を行った。

 術式は当時のランクでは最高位魔術を軽く超える大魔術だという事。具体的な例で言うと世界の半分をひっくり返したり、空を落とすことができる程度に大魔術だ。

 それを行うには長期間に渡る呪文詠唱と高度な技術、そして集中力を要する。世界征服でも本気で行わない限りしたくない魔術だ。何せ食べもせず飲みもせず眠りもしないその様は人間を辞めている。と言えどそれくらいならばパチュリーにも可能なのだが。

 複雑に絡み合った糸を紐解くように術式を解読していく、最初は三人がかりで解読していたが、途中で魔理沙が飽き始めたため一時中断。

 

 「やっぱり魔理沙が先に落ちたわね」

 

 「うっせ!もうやだ目が疲れた」

 

 「仕方ないわね、あなた達は先に原物を調べてきなさい」

 

 「でも見えないのにどうやって探すんだ?」

 

 そう言うとパチュリーが待ってましたとばかりに引き出しから二つの宝石を取り出した。紅色の尖ったクリスタルだった。

 

 「これはマナホーンと言う生遺物。微弱な魔力にだけ反応する石よ」

 

 「ホーンってことは角なのか?」

 

 「ええそうよ。魔獣の角をベースに調合したから形が似てるの。魔獣の角には人や妖怪から出る微弱な魔力を感知するレーダー的機能を備えているの」

 

 魔獣、幻想郷では妖怪の部類に入る獣のことだ。角と言うが牙でも大丈夫らしい。

 

 「なるほど、これで探せってことだな」

 

 「大体の場所は分かってるんでしょ?なら迂闊に触れないように調べなさい」

 

 「了解だぜ!」

 

 張り切る魔理沙だがアリスが時刻を気にかけて止めに入る。

 

 「でももう夜よ?一度出直してきた方がいいんじゃない?魔理沙だって疲れてるでしょうし」

 

 「何言ってるんだアリス」

 

 パチュリーと魔理沙は立ち上がってアリスに指さして大きく告げた。

 

 「夜だからやるんだぜ」

 「夜だからこそやるのよ」

 

 キョトンとするアリスは現状を読み込めた後、深いため息とともに二人の意見を承諾した。二人は魔法と言う概念に取り付かれた存在、故に昼夜等関係ない。

 夜だから眠れないのだ

 

 

 

 




なんか自分が書く二次創作って色々付け足しすぎて蛇足感するのでいつか設定まとめとか書けたらいいんですけど
投稿というかほとんどオンラインストレージ感覚なので


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