やはり俺が私立グリモワール魔法学園に転校生と一緒に入学するのは間違っている (水無月ゲンシュウ)
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第一話 魔法使い覚醒
私、千葉市立総武高校二年F組所属比企谷八幡は強制的に入部させられた奉仕部の部員二名、宇宙一かわいい妹、大天使戸塚、葉山グループと千葉村に(半ば強引にではあるが)ボランティアに来ていた。そこでいくつかのトラブルはあったが無事解決し今回のボランティア活動は終了した。その帰り道に……
人生初の霧の魔物と遭遇した。霧の魔物、三百年前突如出現し人類に対して牙をむいた謎の存在。この謎の存在は通常兵器では倒すことは不可能ではないが難しく、人類は魔物が出現するたび、その生存権を奪われてきた。
とっさに俺は魔物の注意を引く。霧の魔物は習性上元となった生物に近い行動をする時が多い。今回俺が遭遇しているのはクマに非常によく似た個体で、全長は三メートルほどだろうか、でかい。クマは目の前で動く物体を襲うという話を聞いたことがある。
「お兄ちゃんっ!」
「八幡っ!」
「比企谷!」
遠くで俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。どうやら誘導はうまくいったようだ。俺も隙を見て逃げなくては……
その一瞬の気のゆるみが命取りだった。地面のくぼみに足を取られ、よろけたところに魔物の攻撃を食らってしまう。腕による薙ぎ払い攻撃が腹にクリーンヒットしその衝撃で崖へと転落していく。攻撃を食らった時点で内臓や肋骨には相当なダメージが入っており、くわえてこの高さからの落下だ。まず助かるまい。
「比企谷君!」
「ヒッキー!」
意識が薄れゆく中、彼女たちの必死の声が聞こえたような気がした……
「……っは!」
目が覚める。というより自分という自我がある。つまり……俺は生きてる?周りには医療用の機具と思わしきものがある。ほのかに薬品の匂いが鼻をくすぐる。腕には点滴が付いており、ここまでくれば誰もが自分がいるのが病院だと気づくであろう。どうやらあの後、自分は幸運にも死なず、かつ、人に見つけられ救急車をよんでもらったということだろう。いや呼んだのは雪ノ下達か……そうだよね?などと考えているとドアが開き人が入ってきた。やたら度の強そうなメガネをかけたショートカットの女性?だ。白衣を着ているあたりこの病院の医師かなんかなのだろうか。
「宍戸結希よ。いまからあなたのこれからについて説明するわ」
「はぁ」
おそらくリハビリやら検査についてだろう。さすがに後遺症がないなんてことはないだろうし。生きていただけ儲けもんってものさ。とにかくリハビリをとっとと済ませ、小町と戸塚に会いたい……
「あなたは魔法使いに覚醒した。なので退院次第私立グリモワール魔法学園に入学してもらうわ」
「……はい?」
……予想を裏切る衝撃の事実だ。霧の魔物の出現と同時期に人類側が得た新たな力、魔法。それを使う人間を総称で魔法使いと呼ぶ。魔法使いが放つ魔法は霧の魔物に対して最も有効であり、人類が魔法使いを対霧の魔物戦の切り札として使うようになるのにそう時間はかからなかった。ちなみに魔法使いに覚醒した人間の比率はおよそ一万分の一。日本は総人口約五千万人に対し魔法使いは約三千人。俺はその一人になったわけだ。
「あなたは霧の魔物に襲われ崖からの転落中に魔法使いに覚醒したの。そして魔力で強化された体は運よく落下時の衝撃からあなたを守ってくれたわ。そのうえ近くにいた人の応急処置がよかったのもあなたが生存した一因ね」
「…そっすか」
どうやら俺は雪ノ下たちに助けられたようだ。
「あら、意外に落ち着いてるわね」
「まぁ、魔法使いになっても進路に問題ありませんし」
「軍人志望だったの?」
「いえ、専業主夫です」
「……詳細を説明するわね」
……スルーっすか
彼女に詳細を説明された翌日、魔法使い特有の回復能力の高さのお陰で比較的短期間で無事退院した俺は学園行きのバスに乗っていた。説明を聞く限りいかにも都会にありますよアピールだったので、暇つぶし機能付き目覚まし時計で学園を検索してみたら……見事に山の中でした。正直な話そんなことはどうでもいい、今現在俺が最も意見を言いたいのは他のバスの乗客についてだ。現在バスには俺を含め三人乗っているのだが、なぜか俺の近くの席に座ってきたのだ。別にそこに座らなくてもよくないですかね。俺がそんなことに頭を回していると突然バスが激しく揺れたかと思うと道路からわきへと突っ込んでいった。
「いってぇ……」
頭をぶつけ、その痛みに軽く悶えていると外で戦闘音がした。
「やぁ!」
どうやらバスに乗っていた女子生徒が戦闘音の発生源のようだ。いかにも魔法少女みたいな服装だ。そしてその後ろでなんかやっている?男子生徒がいた。
「当てます!」
その掛け声とともに女子生徒から放たれた一撃は霧の魔物に深刻なダメージを与えたようで魔物は一度うなった後森へと消えていった。てか最後に放った一撃今まで放っていたのより普通に威力が高かったんですけど。あれなの?ピンチになるとどんどん強くなる少年漫画の主人公的な奴なの?
「あ、あなたは……バスに乗ってた方ですよね?ケガはありませんか?」
周囲に他の魔物がいないことを確認し終えた少女がもう一人の乗客の俺に気づいてしまったらしい。
「あ、あぁ」
「その制服、もしかして転校生の方ですか?はじめまして、私、南智花って言います!」
「ひ、比企谷八幡でしゅ」
あ、噛んだ。ここでも安定のコミュ障っぷりだなおい。
「それにしても珍しいですね。男子生徒が一度に二人も転入するだなんて」
なんかいきなりなれなれしいなこの人、友達なのかと勘違いしちゃうだろ。
「ん?二人?」
「はい!こちらの方も今日転校してきたんですよ」
コク
これが俺とのちの転校生との初めての出会いであった。
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第二話 変態兎との出合い
森の中での戦闘をかろうじて切り抜けた転校生たち、後のことを応援に来た学園生たちに任せ学園へと向かっているのだが……
「魔法使いって男子が極端に少ないんですよ~」
「そうなんすか」
……比企谷八幡は柄にもなく女子とのおしゃべりにいそしんでいた。本来、孤独であることに何の抵抗もなく、他人との会話すら必要としない八幡であったが会話せざる負えない状況に追い込まれているのだ。さっきからずっと無言を貫いている転校生の存在である。
こいつ、本当にしゃべらない。意思表示は首を振るといった行動で示す。まぁ人間の会話の七割ほどはそういったものの情報で構成されているのだし、それでもいいのか、と自分を納得させる八幡。実際のところ今この場で南と転校生が全くしゃべらない理由はさっきの戦闘中に転校生が南のある部分を鷲掴みしてしまい、そのせいでお互い気まずくなっているだけとは八幡は知る由もない。
「話しているうちに学園についちゃいました。ようこそ!私立グリモワール魔法学園に!」
「ここがグリモアか……」
「……!」
ここが世界中にある魔法学園の中で唯一の私立であるグリモアか……中世ヨーロッパの城のような外見からも金をかけている感が出ている。なんでも初代学園長がわざわざヨーロッパにあったこの建物を運んで再活用したとのことで、異国情緒溢れる装いとなっている。転校生も声には出さないがスケールのでかさに驚いているのであろう。俺たちが学園の外見に驚いている間に南が誰かを連れてきたようだ。
「転校生さん!比企谷さん!紹介します!進路指導の卯之助さんです!」
「よっ!お前たちが転校生だな俺は卯之助だ!説明の通り生徒指導をしている、他にも悩み相談とかも受けてるから、好きな子ができたときには俺に相談しろよな!」
「……なんすかこの兎のぬいぐるみ」
「…………………………」
え、魔法って無機物に命を与えることまでできるの?学園見たときよりもこっちのほうが衝撃が強いわ。俺たちの気持ちを察したのかこの反応に馴れているのか南がこの変なうさぎもどきについて説明してくれた。
「えっと卯之助さんはもともと魔法使いだったんですけど第三次大規模侵攻の時に戦死して意識だけを機械の体に移植したんです」
「どーだ、すごいだろ!ま、自分でもその辺のことよくわかんねーけどな!」
威張って言うなよ……とにかく今日のところは簡単な説明と手続きだけを済ませて学園の寮へと案内された。寮内は必要最低限の生活用品は完備されていて、日常生活についての心配はなさそうだった。と、いうより一人暮らしの寮生活にしては豪華なほうだろう。トイレ、風呂にキッチンまである。正直実家の俺の部屋よりでかい。新たな寝床に潜りながら俺は明日の予定について考えていたが戦闘の緊迫した雰囲気にあてられたのか、すぐ寝てしまった。
翌朝
「……朝か」
前の学校に通っていた時の名残で予定よりも早く起きてしまった。昨日買っておいたパンを食べて着替え、時間もあることだし歩くことにする。そういえば総武高校時代は登校初日に事故ったんだっけ?今では懐かしい思い出だ。
彼の他にもちらほらと登校している生徒が多数いる。部活の朝練だろうか。一見順調に思えた登校であったが彼はある違和感を覚えていた。
(なんだ?さっきから視線を感じるんだが……別に自意識過剰とかじゃなく、明らかに観察するかのような……)
ちょうどいいところに卯之助を見つけたので試しに聞いてみる。
「お、比企谷か、おはよう!転校初日から早めの登校、いい心がけだな!」
「おはようございます……ぼっちにとって遅刻は厳禁ですからね、そんなことよりちょっと聞きたいことがありまして」
「おう…なんかすごいカミングアウトがあったんだが、なんだ?」
「俺の勘違いじゃなきゃさっきからやけに視線を感じるんですけど、俺制服かなんか間違った着かたしてます?」
「あ~それについてか、別に見た目については眼以外いたって普通なナイスガイだ」
一言多いわ。
「じゃ、なんで俺のこと見てるんですかね」
「まぁいい機会だし説明してやろう。魔法使いは戦う運命を背負っている。それは学園生も同じだ。まぁ学園にいる間は俺たちができる限りフォローするが、それでも死ぬ奴はいる」
「……そうっすね」
確か年間を通して五人ほどの戦死者が出ている。
「そんな彼女たちだからこそ、この学園生活を充溢させたいと誰もが思っている、まぁ簡単に言えば青春を謳歌したいと誰よりも思っている。それにはもちろん恋愛面においてもだ……だが学園の男女比率は2対8だ」
南が男が少ないと言っていたがこれほど少ないとは…というより話の結末がよくわからん。
「……それとこれがどういう関係が?」
「つまり彼女たちは……お前のことを異性として興味を持っているんだ!」
「………………」
「待て待て待て!無言で立ち去ろうとするな!」
「冗談に付き合ってる暇はないんで」
こんなよくわからん兎モドキに相談した俺が馬鹿だった。明らかに人?選ミスだった。
「冗談じゃねぇ!ようは男でいうアレだよ!死ぬ前に卒……」
おい馬鹿ヤメロ、俺がそう口に出すよりも早く、その言葉を遮った声があった。
「おーやおーや、一体なんの話をしてんですか?」
あ、なんか関わっちゃいけないタイプの人が出てきた。
久々の投稿
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第三話 鬼の風紀委員長
前回のあらすじ!俺、比企谷八幡は自称元魔法使いのウサギもどき卯之助のくだらない冗談に付き合っていた!すると金髪ツインテールの少女が出てきた!
「おーやおーや卯之助、一体何を卒業するんです?」
声の主の方向へゆっくりと首を向ける。身長は百五十㎝くらいだろうか、金髪をいわゆるツインテールでまとめており、左側のもみあげ付近の髪を三つ編みにしている。材木座あたりが彼女を見ればツンデレとかいってそうだが、目の前の少女からはツンデレのツンデレすら感じられない。それどころか全く別の雰囲気を醸し出している。けだるそうな雰囲気を纏いながらもその本質は違う。ハンターだ。獲物が油断するのを待っている捕食者。
俺がそう思考を巡らせていると、その少女と視線があった。笑顔を向けられたが、それに返す余裕もない。なぜなら今目の前で捕食者による狩りが行われているのだから。
「いや、風子これはだな…そう!言葉のあやってやつだ!コイツの質問に答えてたらうまい言い回しが思いつかなくってな!」
そう卯之助が釈明するようにしゃべると、風子と呼ばれた少女は、「ほう…」とつぶやきながら言葉を続けた。
「そんじゃ、どんなことを話したっていうんですか?」
「あぁ…コイツ今日から転校することになってるやつなんだが登校中に変な視線を感じるっていうからさ」
「……それで?」
雰囲気が尋問している人そのもなんですけど。
「俺はこういってやったんだ!それは女子がお前のことを異性としてみてるって!」
「………………………」
その言葉を聞いた途端風子さん?の表情がわずかにだが険しくなったのを俺は見逃さなかったが、どうやら鈍感な卯之助は変化に気づかず、そのまましゃべり続けた。
「そしたらコイツ冗談はよせって言いだして、よくする話をしたってわけだ」
「……そーですか、よーーくわかりました」
何がわかったんでしょうか。
「な?誤解だったろ?」
「あんたさんが校則で禁止されている不純異性交遊を助長するような言動をしていることがよーくわかりましたよ」
「……え?」
「この件は委員会で話し合いたいと思います。卯之助をこのまま朝の時間に校門に立たせていいものかと」
ギャー!と卯之助が割と本気でおびえているのを不思議に思って眺めていると彼女の標的が俺に移った。
「それとそこのアンタさん、今回は転校初日ですし、卯之助の発言を気にも留めていなかったので不問にしますが次今回みたいな発言をしてたらちょーばつぼー行きですからね」
えっ!?これ俺にも飛び火するんかい。
「はぁ…」
とりあえず覇気なく俺がそう返事をすると彼女は校舎の方に歩いて行った。俺もうなだれている卯之助を無視して校舎のほうへ向かう、俺が六年間通うクラスへと。
正直なところ期待もあった、ここでなら本物をみつけることができるかもと。だがその期待を押しつぶすぐらいの不安があった。このような変わった時期の転校、当然クラスにはとっくの昔にグループができている。そんな所へ俺のような異物が紛れ込んで、今まで通りとはいかないだろう。さらにここは男子の数が少ない。つまりそれだけで目立ってしまう。
不安を胸に抱えながら俺の編入するクラス‟リリィ”の前まで来たがそこには見覚えのある顔がいた。名前は……何だっけな。まぁ転校生と呼んでおこう。転校生から少し離れた位置に立つ。
「……………………」
「……………………」
沈黙が続く、お互い全く知らない人ではないゆえに発生してしまう微妙な空気。幸い担任の先生が来たことで沈黙は破られた。その人に連れられ教室へと入る。簡単な自己紹介の後、席へと座り朝のホームルームが終わる。俺の予想通りに転校生がクラスの女子から質問攻めにあう。話を聞く限り転校生は特殊な体質らしい、そのことでいろいろと聞かれているようだ。
他人事のように思っていると俺の新しい暇つぶし機能付き目覚まし時計兼財布が震えた。確認してみるとどうやらクエストが発令されたらしい。そのまま読み進めていると指名されている人の名前が出てきた。
指名 南 智花 神凪 怜 岸田 夏海(転校生の名前)比企谷八幡
………いやなんで?普通に考えておかしい。まだ訓練すら受けていないのにいきなり実戦に出すとはアレなんですかね。上層部は習うより慣れろとか、実戦あるのみとか平気で言っちゃうタイプなんですかね。
そう思っていると、転校生の方でも俺の名前が載っていることに気が付いたのか俺のほうによって来る。ついでに南?も。こっちくんなよ、注目されるのはボッチには厳しいんだよ。
「あの比企谷さん…でしたよね?よろしくお願いします!一緒に頑張りましょう!」
とりあえずクエストに出たことのある南の指示を受けながら簡単な支度を終え、集合場所に指定された校門前につくと南と転校生、あと残りの二人も来ていた。
「お、アンタがもう一人の転校生ね!アタシは岸田夏海、報道部よ!あとでいろいろ取材させてよね!」
「お前に話すことは何一つない」
チッ、一人はマスゴミか、変なこと話して面白おかしく書かれるのはごめんだ。抗議している彼女をよそにもう一人が挨拶をしてくる。
「神凪怜だ。風紀委員に所属している……お前が委員長が言っていた男か…」
風紀委員か……俺とは縁のない委員会だな、目を付けられなようにしよう。一通りの挨拶が進んだところで岸田が俺の疑問についての話題を提供してくれた。
「今回のクエストってさ、転校生の実力図るためだよね」
「そうだな、対象の霧の魔物の戦闘時に居合わせた智花と念のために私達二人が選ばれたのだろう」
「そんで比企谷はついでにって感じだよね」
「いや俺のあの場所にいたし」
「……そうだったわね!」
こいつ本当に報道部か……?まぁ実際のところここまでの戦力を用意しているんだ、俺は本当についでなのかもしれない。余裕のある時に実戦を経験させておきたいのだろう上は、と自分を納得させる。
「それじゃあ、行きましょう!」
南の掛け声で皆歩き始めた。雰囲気を見ているとこれから戦闘をしに行くとは思えないほどリラックスしている。
「比企谷」
「なんだ?……神凪?」
「そう緊張することはない、この戦力だ。それに転校生の魔力供給がある。お前に魔物が近づくことなんかないさ」
本当にそうだといいんですけどねぇ……
~少女達戦闘中~
………疑ってすみませんでした。これが魔法使いの戦闘か。想像以上に三人とも強かった。三人とも在学五年目だそうで学園内ではベテランになるらしい。一般人なら逃げ惑うしかない存在をあそこまで簡単に仕留めるとは…魔法使いを恐れる人間が出てくるのもわかる。人は己と違いかつ力を持つ存在を嫌うものだ。
特に転校生の魔力供給がどれほど貴重なものかをこの目で確認した。あれはいわばロールプレイングゲームでいうМP無限回復のようなものだ。
戦闘が終わり転校生と楽しく会話をしている三人の話を聞いていると、どうやら三人は同じ年に入学したらしい。道理でタイプの違う三人がまとまっているわけだ……こうやって日常をのぞいてみると、魔法使いの少女達も普通の高校生で、あそこまで互いを信頼している三人をみて本物とはあのようなものなのかと思ったりしていたのだ。
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第四話 自分の体質について
転校初日から何故か知らないがクエストに行くこととなった転校生御一行、そしてその中にはさらに何故だかわからないが参加を命じられた比企谷の姿もあった。
一行は今から命の危険もあるクエストに向かうというのに、その足取りはまるでピクニックに行くかのような軽さであった。比企谷はその態度に不安を覚え口を開けた。
「なぁ、これから戦いに行くのにどうしてそんなに軽い気持ちで行けるんだ?」
比企谷の質問に答えたのは報道部ゴシップ班所属の夏海だった。
「まぁこの戦力だしね、今回の討伐対象は智花と転校生二人でも相手できた魔物よ?それに手追いだし。だから念のために怜と私をつけてついでにもう一人の転校生であるアンタもって感じなんじゃない?」
「……そうか」
一抹の不安は残るが戦う本人がこう言っているのだし、これ以上素人の俺が口をはさむべきではないと思い、四人の少し後ろを歩いていると神凪がハンドサインをだした。
「…いたぞ、今回の標的だ」
三人は目くばせだけすると━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━谷!比企谷!」
「はいっ!」
「何をぼーっとしてる。会長が話しておられるのだ、しっかり聞け」
「……うす」
二日前の戦闘を思い出していた俺は生徒会書記の結城聖奈の声で現実へと引き戻されていた。あの後あっさりと……とまではいかなかったが魔物を倒し、学園に報告すると授業が免除されたのですることがなく寮に戻って寝た。今日は授業を受けようと思ったら生徒会に呼ばれここにいる……どうやら生徒会長の武田虎千代の話が終わったようだ。
すると別の生徒が何やら一緒に呼び出されている転校生の体質について話しているようだ。改めてその有効性と特殊な体質を見込まれて生徒会にスカウトされているらしい。
俺ここにいる必要なくね?と思い始めたころに声がかかる。
「比企谷君、あなたの体質についても話しておかないと」
「はぁ、俺もなんか特殊なんすか」
「えぇ、彼と比べるとたいしたことないように聞こえるかもしれないけど」
そういうのは言わなくていいんだよ。きずつくだろ。一瞬期待したのに。
「まずあなたの魔力量ね、これは…彼を除く学園生の中では文句なしのトップよ」
…なるほど、確かに魔力は多くて困ることはない。これはうれしい情報だ。
「そしてあなたは新種の非現象魔法の使い手よ」
……なにそれ?
「大まかにいうと現象魔法には自然魔法、強化魔法、召喚魔法という比較的わかりやすくまとめられるものと、それに当てはまらない非現象魔法があるの。で、あなたのはこっち。その魔法というのは……『光魔法による光学迷彩よりも完璧な隠密系魔法』と『風魔法の音波系よりも優れた索敵魔法』よ」
……すっげー微妙だなおい。
「どちらも今まで報告がない珍しい系統の魔法よ、新しく魔法辞典に掲載されるわ。ただ問題が一つあって」
「なんすか問題って?」
微妙な性能なうえに問題まで抱えてるの?この魔法。
「あなたはこの二つの魔法をうまくコントロールできていないようなの。具体的にいうと無意識のうちにこの二つの魔法を同時に発動させているわ。そのうえこの魔法がすごく魔力効率が悪いわ」
無意識にステルスヒッキーしているとは、俺もいよいよプロボッチを名乗れるな。だが効率が悪いというのはいただけないな。プロボッチは自分のためなら努力は惜しまない。改善できるならとっとと改善しよう。
「具体的にどのくらい効率が悪いんです?」
「さっき伝えたあなたの学園トップクラスの魔力量を一般的な魔法使いの魔力量以下にするくらいには」
効率悪すぎるだろ。
「さらにあなたは現象魔法との相性もあまりよくないわ、はっきりと言えば一般的な魔法使いの苦手な魔法を発動した時の威力以下よ」
これ以上うまく使える魔法がない。衝撃の事実を聞かされ、八幡は軽く頭を抱えながら生徒会室を後にした。自分を狙う影あるのも知らずに。
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第五話 風紀委員
生徒会室を後にした八幡は先ほど伝えられた事実によって生じる未来設計図(クエストでお金を稼いでその財産を餌に働いてくれる女性探して専業主夫計画)の予定変更について頭を回していた。
(他の魔法がうまく使えないとなると他の物を武器として使用するしかない。手っ取り早い方法は銃火器か……今のとこは保留だな、確か結構面倒な手続きをしなくちゃいけなかったはずだ。しばらくは練習も必要だと思うし。その次に有効なのは実戦経験を積むことだが…俺が学園のやつらとうまく連携をとれるわけがない、なんせクエストには最低でも二名で受けなくてはいけないからな。…とりあえずは招集のかかったクエストだけ受けるか。だが経験というかけがえのない武器が手に入れられない以上他に役立つもの、例えば知識を人より多く得るとか…………)
「ーーーーのあなたっ」
八幡はこの時考え事に熱中するあまり、一人の少女が声をかけているのに全く気付いていなかった。その理由の一つに普段声をかけられる機会がないということも要因になっているのは触れないで上げていただきたい。
「そこのあなたっ!」
(だがそうすると時間が圧倒的に足りない、どうすれば……)
「無視しないでくださいっ!!」
(たしか学園の中には授業を免除される生徒もいるよな、それを使えば……)
比企谷の思考がようやく収束しそうな時、さんざん無視された少女の堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしてください!」
「うひょい!」
「あなた、何なんですかその態度!風紀委員室でお話を聞かせてもらいますっ!あとその目、明らかに普通の人の目ではありません!そのことについてもお話を聞かせてもらいます!」
「は?いやなんで?」
突然の出来事で返答に困る比企谷。怒っている彼女の様子から察するに声をかけていた彼女を無視していたようだ。確かに無視したことについては考え事をしていたとはいえこちらに非があると思ったが、眼は関係ないだろっ!と内心で突っ込んでみたり。あれよこれよとしているうちに風紀委員室に連れてこられてしまった。
そこには友好関係が狭い(というかほとんどないに等しい)比企谷の知っている人物がいた。
「ん、比企谷じゃないか。どうしたんだ風紀委員に何か用か?」
「神凪か…いや用というよりはこの人に無理やり連れてこられて…」
「あぁ……氷川、比企谷が何か問題でも起こしたのか?」
どうやら俺をここまで連れてきた人の名前は氷川というようだ。
「問題を起こしたも何も彼は問題だらけじゃありませんか!まず服装!ネクタイはちゃんと締めてないですし、ブレザーのボタンはしてません!衣服の乱れは心の乱れです!次に姿勢!猫背が癖になっています!そして何よりもこの眼!何なんですか!風紀を乱すためにあるかのようなこの濁ったまなざし!このような人を見かけて見過ごせるはずありません!」
いや、どんな理論だし。
「とにかく、風紀を乱していることは明確ですし反省文は書いてもらいます!」
俺が人の話を聞かないこの女の相手をしているとまた新たに部屋に入ってくる影があった。そいつこそが俺の今後の学園生活に影響を与える人物だと、俺は一目見たときからそう思った。
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第六話 鬼の風紀委員長との駆け引き
前回、風紀委員である氷なんとかさんに無理やり風紀委員室に連れてこられ、説教?を受けていると新たに部屋に入ってくる人物がいた。そしてその人物は俺が見たことのある人物でもあった。
「おや、どーかしましたか氷川」
「い、委員長」
部屋に入ってきたのは、どうやらこの委員会の長らしい。いったいどんな奴かと確認しようと思ったが、俺はその人物のやたらけだるげなしゃべり方に聞き覚えがあった。(正式な)登校初日に兎のぬいぐるみもどき(確か兎ノなんとか)に絡まれた(話しかけたのは俺だが)際に助けてくれた?人物だった。まさか風紀委員長だったとは……まぁ前回も懲罰房が何とかって言ってたし。そういえば腕に腕章もつけていたし。あの時は文字まで見ることができなかったからな。(位置的に)
俺が相手のことをそのまま見ていると委員長さんも俺に見覚えがあることを思い出したらしい。
「おや、アンタさんはたしか……卯ノ助と猥談をしていた生徒さんじゃありませんかー」
「ものすごい悪意のある事実の歪めかたなんですが……」
「じょーだんですよ、じょーだん……ところでなんでここにいるんです?また猥談でもしてたんですか?」
彼女の冗談についてはこれ以上付き合うことなく、正直に事実を伝えた。
「服装が乱れているとか言われてそこの人に連れてこられました」
「ほー……さいですか。猥談では飽き足らず服装まで乱すとは……すっかりその目に似合う不良っぷりじゃぁありませんか。前回は初犯ということで甘めに見ましたが……これはブラックリストいり決定ですかねー」
なんなの?最近俺の目のことdisるの流行ってんの?あれ?目から塩水が……そんなことより気になる単語が。
「ブッラクリスト?」
「そのまんまのごそーぞーの意味ですよ。校則違反を繰り返したり、注意しても行動が改善されないような人たちを要注意人物として学園内にある掲示板にのせるんですよ」
なるほどなるほど、つまり、
「見せしめってやつですか、風紀委員に従わないやつを衆人の前にさらして。なかなかしゃれたことしますね」
「……ほう?」
俺の一言をきっかけに部屋の温度が下がったような気がした。逃げ出してぇ。ちなみに最初から部屋にいた神凪は見回りかなんかでもうこの部屋にいない。どこか抜けているところがあると思っていたがこの空気に気づかず、部屋を出ていけるとは相当な胆力の持ち主だ。
「ちょっ!?なんてこと言うんですか!」
氷なんとかさんんが何か言っているがかまっている暇はない。目の前にいる鬼の対応で精いっぱいだ。
「だって実際そうじゃないっすか、自分たちの権力に屈しない人間をさらしてあなたたちに何の利益があるっていうんですか?別に他人に危害を加えてるわけでもないんでしょ、それはそいつ自身の問題ですよ。むしろ自分たちの力不足が露呈するだけじゃないっすか」
「どうやらアンタさんにはちょうーばつぼーのほうがいいみたいですね」
……どうやら鬼の風紀委員長はこの程度の揺さぶりでどうこうできるタイプの人間ではないらしい。一見やる気のなさそうにして相手を油断させようとしているが俺にはきかない。が、どういうわけが自分から地雷原を足元を見ずに全速力で突っ込む並みのことをしでかしたようだ。だがその程度の脅しに屈するような俺ではない。そうであれば俺は当の昔に立派な社会の歯車に慣れていただろう。見せてやるこれがっ!俺のっ!本気のっ!
「調子乗ってマジスンマセンでした。それだけはマジ勘弁してくださいっ!」
土下座だっ!!!
「「……………………」」
流石に予想外だったのか二人も言葉が出ないようだったが、委員長のほうがわずかに早く思考を回復させたようだ。
「アンタさんなかなかおもしれーですね。気に入りました。ウチもそこまで鬼ではありません。今回はまだ入学してから日も立ってませんし、大目に見ましょう……ただし条件があります」
俺の渾身の土下座は鬼を譲歩させることに成功したらしい。しかし条件か……まぁせいぜいトイレ掃除とか、靴舐めとか、踏み台とか、椅子替わりだろう。
「アンタさん風紀委員に入りなせー」
「……は?」
この日が八幡の学園生活を大きく左右した日だと、のちに彼は語るのであった。
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第七話 条件
「風紀委員にはいりなせー」
風紀委員、その仕事は校内の風紀を維持することであり、特に不純異性(同性)交遊、魔法の不正使用に対して厳しく取り締まり、場合によっては上位組織である生徒会にすらたてつくとすら噂されている委員会である。また魔法学園という性質上、違反者の中には許可なく魔法を使用した者も含まれており、その場合は力づくで取り押さえることもいとわない集団である。
つまり、拘束系に類するそのたぐいの魔法がほぼ使えない俺はこの委員会において役立たずであり本来ならお声がかかることなんてないはずなのだが、(こっちからも願い下げだが)少し考えればわかることである。
「危険人物に首輪をつけておきたいってことっすか」
「まぁそれもありますけどねー、目的は別にあるんで」
それもあるのかよ。しかし他の目的と来たか……見当もつかない。
「まぁ簡単に言っちゃえば生徒会へのけん制ですよ」
「俺なんかがけん制の道具にはなるとは思えないんですが……」
控えめに言っても多少の隠密と索敵能力しかない俺がけん制としての道具の役割を果たせるとは思えない。すると委員長は俺の思考を読んだのか、疑問に答えてくれた。
「まぁ、それは建前なんですよー、本当の目的は報道部にアンタさんを取られたくなかったんです。ただでさえ遊佐という厄介事を抱えているというのにそこにアンタさんのような隠密に優れた人物が加わっちゃぁたまったもんじゃねーです」
報道部か……確かにあそこに厄介になるよりましか、あそこ絶対労働基準法守ってなさそうだし。だがタダで労働するほど俺はボランティア精神には富んでないのでね。
「なら俺からも条件があります」
「おや?入ってくれる気になりましたかぁ?何です?あんま無茶な要求じゃなきゃ大丈夫ですよ」
「銃火器の所持と一般授業の免除をお願いします」
俺の提示する条件はこの二つだ。俺には魔法使いとしての才能がない。才能という言葉で一つにするのもどうかと思うが少なくとも俺には魔法だけで魔物を倒せるだけのポテンシャルはない。このままではそう遠くない未来に戦死者のリストに俺の名前が刻まれることになる。その差を埋めるために俺は一つの策を考えついた。それが銃火器だ。銃には魔法にないメリットがある。それは持ち主によって威力が変わることがない。一見当たり前のように思えて魔法使いにはないメリットだ。魔法使いは自分自身の魔力が尽きれば回復するまで何もできないのだが、銃の場合は仲間からもらえればその場で補充できる……まぁくれる仲間なんていないんですけどね。特にこの学園では。それに前者のほうも転校生とかいう規格外の存在の登場でその定義が崩れ始めているし。
二つ目の授業の免除は戦いに関する知識を多く得るための勉強時間の確保だ。そして数学を受けずに済むという下心もある。この二つが許可されれば少なくとも自分の身は守れるぐらいにはなるだろう。
「あぁ…そーいや、アンタさん魔法のほうがからっきしでしたねぇ……ちょいと手続きはめんどーですが出来ますよ。授業のほうは……まぁ苦手らしい数学と実技科目以外は良いでしょう。それなりの進学校にいたみたいですし。でもいちおー定期テストは受けてもらいますよ」
まぁそのくらいはやむを得ないだろう。しかし数学は残るのか……背に腹は代えられん。
「じゃ、それで」
「うちもちょーど男手が必要だったんですよー、よろしくおねげーします」
ここに俺、比企谷八幡の風紀委員入りが決定した。
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第八話 町の襲撃にも関わらず彼は自分のために行動する
晴れて?なのかどうかはわからないが無事もろもろの手続きを終えて風紀委員となった比企谷は風紀委員長水無月風子の指導の下、風紀委員としての仕事をつつがなくこなしていた。
「ほんじゃ、こっちの資料もコピーしといてくだせー」
「うす」
「それが終わったらこっちの資料にハンコ押しといてくだせー」
「…うす」
「それが終わったら風紀委員室の掃除おねげーします」
「………これ俺がやる必要あります?」
書類整理、いわゆる雑用である。最初の数日こそ風紀委員としての仕事内容や規則といった、覚えねばならぬことを教わったり、実際に見回りなどを委員長随伴でやったりしたのだが(この時に写真を撮ってスクープ!スクープ!って言ってはしゃいでた岸田覚えておけよ)彼が風紀委員という組織に慣れてきたあたりから彼のやる仕事の内容があからさまに雑用へと変わってきた。
「えー、あんたさんが一番向いてそーな仕事を割り振ったつもりですが、不服でも?」
「もしかしてアンタは雑用係がほしかっただけなんじゃないですか?」
不満ならこうして学園の機構の中で働かされていることに不満を感じているわ。だが与えられた仕事を放棄するのは流石にまずい。別に仕事を放棄して風紀委員を辞められるのならとっくに行動を起こしていたのだがこちらの条件を飲んでもらっている以上辞めにくい。それに風紀委員には頭の固い氷なんとかさんがいるからな。むしろ逆効果でより俺の生活の自由がなくなる気がしてならない。ありとあらゆる部分の管理をされてそのうちご飯とかも用意してくれるかも。あれ?なんでも世話してもらえるって実は超楽なんじゃね?実質養ってもらっているわけだし。
「スンマセン委員長、ちょっと養ってもらいに仕事さぼります」
「はいはい、おふざけするヨユーがあるならちゃっちゃと済ませちゃいましょうねー」
「……うす」
こうして順調に委員長に飼いならされる八幡であった。
「やっと終わった………」
彼が仕事を終えたころにはすでに日が傾きかけ始めていた。彼は身支度を整えるとまっすぐと帰路に……は付かづ、訓練場へと足を運んだ。国からようやく武器が支給されたのだ。魔法をうまく使えない八幡が生み出した答えの結果を確認しに行ったのだ。
(もしこれでだめならあきらめてヒキニート生活をしよう)
しかし訓練所には先客がいた。明らかに一般の生徒とは異なる戦果を重視した連携の取り方、一人一人の連度も高い、精鋭部隊だ。その中の一人がこちらに気づいた。
「お?こんな時間に訓練に来る真面目ちゃん……にはちょっと見えねぇなぁ?オメー何しに来たんだ」
いやその真面目に訓練しに来た生徒何ですが……
「いや射撃練習をしに来たのだろう」
「魔法使いなのに銃?」
注目される中、訓練場の一番端へと向かい武器を取り出す。使い方は一通り覚えた、あとは実際に撃ってみるだけだ。マガジンに弾が入っていることを確認し、本体に挿入する。コッキングし、その後、初弾が確実に装填されていることを確認し安全装置を掛けてホルスターへと戻す。ウィーバースタンスで構えホルスターから引き抜き目標に向かって狙いを定め放つ。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
初弾は的のほぼ中央に命中し、その後の二発はやや、ばらけた。はじめてにしては我ながらいいセンスだ。
「へー、いい筋してんじゃんか、まぁ筋力があるってのもあるけどよぉ」
「あぁ、いくら魔法使いになったと言っても45口径を連続で撃って目標に当てるにはそれなりの技術が必要だ、彼は見かけによらず、細かい力の加減がうまいようだ」
明らかにその道の方二人が何やら弾の口径で言い争っていたが、魔物が町に現れたかなんかで訓練所を後にした。俺には関係のないことなのでその後も射撃の練習を続けた。
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第九話 冬樹イヴは案外ポンコツなのかもしれない
町への襲撃から幾日が立った。魔物によりそれなりの被害が出た風飛市であったが、さすがに対魔物戦に特化した都市なだけあり、町にはすでにいつもの日常が取り戻されていた。しかし周囲がいつもの日常に戻っていく中ここに一人、日常へと戻れない男がいた。
「あの委員長、俺今日非番のはずなんですけど」
休日返上とか立派な社畜じゃないですかーやだもー。労働基準法先生しごとしてくださいよー全く。
「あんたさんがそーゆー性格なのは重々承知なんでいいんですが、少しはクエスト掲示板とかしっかり見てくだせー。町に続いて人気の多い神凪神社に魔物が現れました。今普通じゃないことが起きていやがります。わかりますよね、このような出来事が過去にもあったことを」
「………大規模侵攻っすか……」
大規模侵攻、確認されているだけで六回。魔物が群れをなし、人類に牙をむく。大規模侵攻のたび、人類は負け、その生息域を狭めていった。既に南半球は魔物に占領され第六次侵攻で日本は北海道を奪われた。その大規模侵攻が再び起きる。魔法使いである以上、生徒であろうと戦う義務が発生する。過去にも生徒が駆り出され少なくない犠牲者が出たらしい。しかし、それが俺の休日出勤とどう関係があると言うのか、いやない。
「それで、俺が休日返上な理由は?」
戦争に駆り出されようが何だろうがそんなことにいちいち目くじらを立てるつもりはない。この世の中不条理であふれかえっている。だが、そうであっても俺は俺の休日のために心血を注ぐ!
「冬樹イヴを風紀委員室に連れてきてくだせー。彼女は呼び出しても来ないでしょうから、直接連れてきてくだせー。ちなみにできなければ仕事増やすんで」
職権濫用だろ………しかしここで騒いだところで俺の休日は帰ってこないのであきらめて与えられた仕事をこなすとしよう。
流石に学園全体を見て回っては日がくれるので冬樹がおそらくいるであろう場所を、委員長に教えてもらいそこへ向かった。
目的の場所に行くと探し人は思いのほか早く見つかった。え?なんでボッチの俺がすぐに見つけられたかって?理由は簡単な話だ。基本的なボッチの行動パターンなんて大して変わらない。この学園は無駄に広いせいで一人になれる場所には事欠かない。それは図書館でもいえることで、俺の予想通り冬樹は自習スペースのやや端の机で勉強していた。まぁ俺ぐらいのプロボッチになれば勝手に一人の空間ができるんですけどね。
「おい」
「…………なんです?私に、何か用ですか?」
「用がなきゃわざわざ声をかけるような面倒なことしねぇよ。委員長がお呼びだ」
「私は在籍しているだけでいいといわれているのですが」
何それ羨ましい、ぜひとも変わっていただきたいね、そのポジション。
「今回はそうはいかないらしい……ここだけの話委員長は大規模侵攻を危惧してる」
「っ!……そうですか……なら仕方ないですね」
「別に勉強忙しいなら俺から委員長に行っとくぞ、やる気のない奴のへまをフォローするなんて面倒だしな」
「別にこの程度のことで勉強に支障はありません。それに私はへまなんてしません。エリートですから」
………なんだろう、このしくじらなくてもわかるポンコツ感は。一抹の不安を残しながら彼女とともに風紀委員室へと向かった。
冬樹イヴとの本格的な絡みは次回に
Twitterアカウント載せてる他の方は凄いなと思った今日でした。(語彙力)
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第十話 やはり冬樹イヴはポンコツのようだ
冬樹と移動中、ふと気になったことがあったが、彼女と俺の(というよりこの学園の)生徒と大した関係でもない(それをいうなら関わりすらない)俺が、個人的なことを聞くのは何か間違っているような気がして聞くことをやめたタイミングで彼女の方から話しかけてきた。
「あなたは彼とは違ってていいですね」
「彼?」
「転校生さんのことですよ。あの人は私とあの子との関係にずかずかと入ってきて……」
「あぁ、あいつか……お前個人の事に踏み込む理由がないからな、誰にだってさわってほしくない黒歴史の一つや二つあるだろ。それにお前と俺は親しいどころか同じ委員会に所属しているだけの他人だしな」
「他人だと言うことには同意ですね、ですが勝手に黒歴史だなんて言わないでくだひゃっ!」
ん?くだひゃ?
「………今のは忘れてください」
今の、とはおそらく会話の内容からするに黒歴史を今ここで製造したことについてのことだろう。だが彼女の心配するようなことにはならないと思う。
「安心しろ、俺にはお前の黒歴史をしゃべるような間柄の奴なんていないからな。このことは俺の胸の内にしまっといてやる」
冬樹はまだ何か言いたい様子だったが風紀委員室の前まで来たので、会話は自然と消滅した。扉をノックし、中に入る。
「連れてきたぞー」
「ごくろー様です。これで全員揃いましたね……比企谷どこ行きやがるんですか?魔法を使った認識阻害まで併用して」
ちぃ、ばれたか、流石魔法の不正使用を取り締まる側の人間だな。だが魔法に関しては垂れ流しなので勘弁していただきたい。垂れ流しの分まで摘発されたら俺たぶん一生懲罰房での生活になると思うし。でも、一生懲罰房でお世話されるのも悪くないかもしれない。
「気のせいですよ、魔法に関してはまだ制御できませんし、勘弁してください」
「ま、冗談はその辺にしておいて本題に入るとしましょう。現在クエストで神凪神社の魔物討伐が行われているのは比企谷以外は知ってると思いますが、その前には町にも魔物が出現しています。恐らくですがいずれそう遠くない内に学園にも魔物が出現するとうちは思っています。早い話大規模侵攻が起きると言うことですね。ですのでそれに対応出来るよう警備体制を強化してーと思います」
委員長はてきぱきと役割分担をしていく。その中には俺が連れてきた冬樹もいた。あとさりげなく俺のことdisるの辞めてくれません?
「冬樹は図書室付近を中心にやってくだせーな」
まぁ妥当な判断だろう。あの付近は冬樹もよく利用する所だし本人としても図書室が使えなくなるのは困るだろう。それにしても俺の名前が呼ばれないな。あれかな、遂に存在まで忘れられちゃったのかな?このまま俺帰ってもいいんじゃね?
「最後に比企谷、あんたさんには服部と一緒に偵察ついでに訓練をしてもらいます」
「は?」
「よろしくお願いします!せーんぱいっ!」
この声、ものすごく既視感があるような、あと雰囲気も。
どーもお久しぶりです。グンリー現地からの投稿となります。
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第十一話 魔法使い忍者はどことなくいろはすに似ている。
現在、俺は委員長の立場を最大限に利用した命令でクエストに向かっている転校生の監視と言うクエストですらない、つまり時間外労働かつただ働きを強いられている。なんせこの学園ではクエストをすればお金がもらえるしな。何でも魔物が町に再度現れたらしい。例によって転校生はクエストに出て馬車馬のごとくこき使われているので、その戦闘の記録をするのと同時に魔物の出現状況を確認する。俺は隠密という名のボッチ特有の目立たなさを利用されているというわけだ。しかも護衛には忍者であり魔法使いでもある偵察から暗殺までなんでもござれの服部梓が付いてくるおまけつきである。正直、俺必要なくね?と思うところもあるのだが悲しきかな、いつの世も上の立場の人間の言葉は絶対なのである。
「せ~んぱいっ!疲れてませんか?けっこー自分飛ばしてるんですけど」
正直こいつは苦手だ。正確にいえば人類全員が苦手なのだがなんかこう、ものすごい既視感があるというかなんというか……後輩という立場といい、あざとかわいいとことか、声とか……
「まるで、いろはすみたいだな……」
「およ?誰っスかそのいろはすってのは」
「ん?あぁ……口に出てたか………前の学校にお前と雰囲気の似たあざとかわいい後輩がいてな、ちょっと思い出してイラっとしてただけだ」
「えぇ~先輩、自分のことかわいいっておもってくれたんスか~?嬉しいっすねぇ~。でもこーんなかわいい女の子と一緒にクエストに来てるっていうのに他の女の子のこと考えるのはどうかと思うっス」
「……ふざけてないで仕事に戻るぞ」
だからそういうことを軽々しく口にするなよ、勘違いして告白して振られちゃうだろ……振られるのね俺。そうこう話しているうちに町全体が見渡せる木の上に到着したので双眼鏡を取り出していると、服部のほうは単眼鏡を取り出していた。持ち運びやすさを重視したのだろう。本来なら俺もそうすべきなのだろうが、今のところ戦闘力皆無な俺にしてみれば敵に見つかれば即撤退なので素早く敵を見つけることのほうが重要なのだ。それに今回は偵察任務だし、全体を見ての分析もしておいたほうがいいしな。いい加減な報告書を提出して仕事増やされたくないしな……仕事を増やさないために仕事をまじめにやる……俺も立派な社畜になったもんだなぁ(白目)
「さてと魔物の動きはと……特に変な行動をしてるやつはいないみたいだな。おいお前はどう思う?」
「え~名前で呼んでくださいよ~梓って」
「えーと同行者が仕事をしていないっと」
「わーっ!ごめんなさいっス!冗談ですって~冗談、魔物は成長が早いかなぁーってとこ以外問題はないっス」
流石委員長の威光。ふざけている人間には効果抜群のようだ。俺は長いものには巻かれないが使えるものは使う人間なのである。
「比企谷先輩は他校の女子のことを考えて鼻を伸ばしていたっと……」
「おい」
鼻なんて伸ばしてねぇよ……なんでうちの委員会は事実を捻じ曲げる人が多いんだ?不正を取り締まる委員会なのに不正が横行しているんですが。あれですか、悪を滅ぼすためならどんな手を使っても許されるっていう。
「ところで比企谷先輩って先輩と同じで魔法があまりうまくないんですよね?」
「ん?あぁ、アイツほどじゃないけどな。俺の火魔法はお湯を沸かすのにちょうどいいし、水魔法は手を洗うのにちょうどいいし、風魔法は髪を乾かすのにちょうどいいぞ。ほかにもちょうどいいのがあるが……聞くか?」
「いや……いいっス」
そう、あれから俺は地道に魔法の特訓をしたのだ。どうしてもあきらめきれなかったのだ。柄にもなく本気で。だって厨二心くすぐられるじゃん魔法って。その結果判明したことは俺はこれ以上魔法が上達しないことが分かった。転校生のように最初から全くと言っていいほど使えないならあきらめたかもしれない。だが、なまじ上達してしまったがゆえに諦めきれずにもいた。それがコンコルドの誤りだとしても。そうして俺はついに編み出したのだ。日常生活魔法をっ!将来専業主夫になる俺に実にピッタリな魔法であると我ながら思っている。
この男、完全に努力する方向が斜め下であった。と、若干気が緩むところもあったが比企谷の偵察兵としての初任務は忍者目線から見てもなかなかのものであり、それゆえにこれから仕事が回ってくることにも彼は気づいていなかった。護衛は審査員も兼ねていたのだ。そのことを全く気付かせない服部は流石プロ、と言えるが今回に関しては比企谷が僅かにだが緊張していて他のことに気が回らなかったのも要因の一つであった。
比企谷は努力の結果日常生活魔法(比企谷命名)を使えるようになりました。
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第十二話 転校生は実は結構腹黒いのかもしれない
偵察任務からしばらくした後、俺はいつもと変わらず書類仕事に雑用に忙殺される毎日を送っていた。あの後、しっかりとクエスト報告をし、さて休日を謳歌しようと思った矢先、この仕打ちである。委員長に直談判しに行って得られた解答は要約するとこうである。
魔法使いは社会全体への奉仕の責務を負っている。
だそうだ。それと俺の仕事が増えるのに一体どんな関係があるんでしょうかねぇ。
まぁ、俺なんかはまだましな方であって転校生なんかはあの後、日をおかずに他の生徒とクエストに行ったそうだ。よくやるものだ。そのあとに、クエストに行った女子生徒とデートまでするというのだから全く………リア充め、爆発しろ。
俺も現実逃避をしたいがしたところで目の前の書類がなくなるわけでもないので、おとなしく書類仕事に明け暮れることに…………
「比企谷さんっ!いますか!?」
……人が集中しようとしたときになんだ。
「何か用か?」
「用も何もデバイス見てないんですか?学園に魔物が現れました、風紀委員は全員持ち場につくようにメールが届いています!」
そう言われてデバイスを確認する……本当だ。俺にメールや電話があまりにも来ないせい(あってもせいぜい仕事関係)だけであったので最近は一日に一回開けばいいほうなのでまったく気づかなかった。
「すまん」
「とにかく行きますよ!」
「あぁ」
氷川についていきながら俺は戦闘服に着替える。俺の場合銃器を使う関係上、マガジンポーチなどは戦闘服の上から別途でつけねばならず、めんどくさいのでハンドガンとナイフに関しては常に携帯しているほどだ。デバイスを操作し戦闘服へと変え、素早く装備類をつける。
持ち場につくと、俺は自分の獲物であるレシーライフルを組み立て始める。レシーライフルは特殊部隊が使用する偵察狙撃銃である。パーツ一つ一つを綿密に精査することにより、アサルトライフルでありながら高い命中精度を誇っている。ちなみにこれを購入するのに俺の労働に対する対価がほとんど吹き飛ぶ羽目になった。官給品ではないのでその分は自腹、ということらしい。実際軍隊でも官給品以外は隊員の自腹だそうで、少しでも生存確率を高めるために多くの隊員たちは装備を追加で購入しているらしい。
バイポットを立てスコープを覗く。魔物は学園内の薔薇園に出現したとのことで園芸部が中心となって戦っているようだ。
「ん?あれは……」
スコープを調節して確認する。魔物は変化した元の物体の特徴が出ると推測されている。今回の魔物は薔薇に酷似している。そのため周囲の本物の薔薇の中に紛れていて戦っている奴らも苦労しているようだ。
そのうちの一体が転校生の後ろをとったようだ。背後から転校生へと攻撃せしめんとする。
「……今回だけだぞ」
誰かに聞こえるように言ったわけではない。これは俺の気持ち的な問題だ。いくら俺が究極のボッチだとしても自分のミスで人が死ぬなんてのはごめんだ。
一発でいい。一発であいつらに気づかせる。それで俺の仕事は終わりだ。
弾丸を魔法で強化し、魔物に向かって発射する。着弾と同時に魔法が発動目がくらまない程度の光が戦っている生徒たちへと降り注ぐ。それだけで、転校生は気づいたのか振り向く前に指示を出し、自分の背後にいた魔物を倒させていた。
戦況を確認しようとスコープをのぞいたら、スコープ越しにあいつと目が合った気がした。一瞬笑みを浮かべるとその視線は戦場へとむけられていた。
その後、無事に魔物は転校生たちによって討伐された。そういえばさっき生徒会長がなにか放送していたような気もするがまぁいいか。
余談だがあの後なぜか転校生に呼び出され薔薇園の修繕を手伝わされた。その時見せた腹黒い笑顔を俺は忘れない。転校生めぇ…俺の休みが……
グリモアのリアイベ楽しみです。
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第十三話 大規模侵攻開始
緊急事態宣言が発令され、俺だけの休日が奪われ、(全授業や対抗戦が中止されたため)特急危険区域へのクエストに同行させられて休日が奪われ、(生徒会の新戦力の朱鷺坂チトセの実力を見てこいと我らがボス水無月風子委員長に言われて)生徒会長救出作戦で休日を奪われ(ちなみに朱鷺坂は休暇を貰えたらしい、許さん)そして第七次進攻で発生した魔物の偵察任務である。ちなみに偵察に思う向いた場所は小鯛山で風飛市に向かって南下しているらしい。数は通常の42倍。過去最大級の大規模侵攻だ。
「何があんたさんの魔法なら敵にばれないし適任でしょ。だよ。もっと適任な奴がいるしそいつに全部任せりゃいいだろ」
まったくもって理解できん。
「ねぇ先輩?なんか見えたっスか~?」
なんでこいつとまた組まなくちゃいけないんですかねぇ。一人じゃ心配ですからって言ってくれた時は珍しく優しいなと思った俺の気持ち返せ。明らかに嫌がらせ目的じゃねぇか。俺の身が心配ならもっと防御魔法が得意な方をぜひ護衛につけてほしかった。
「休みてぇ」
「大丈夫っスか……戦争始まる前にそんな精神状態で……」
「大丈夫なわけないだろ、魔物を発見次第帰って休む」
「あれ?確か委員長が先輩の配置場所風紀委員の持ち場の最前線だって会議で言ってた気が……」
「あの野郎…………」
どうやら俺の職場には休暇という概念はないらしい。俺の上司は戦闘で役に立たない俺の扱い方を大変よくわかってらっしゃる。でも俺がいると現場の士気が下がると思うんですが。
さすがに弾薬が尽きたら補充するために後退させてくれるよね?……………くれるよね?
ちなみに転校生は二日間も洞窟に閉じ込められておきながら、持ち前の魔力でぴんぴんしてるらしく、すでに本部で待機をしているらしい。周りに女子(護衛)を侍らして。
あいつの場合戦闘が始まれば馬車馬のごとくこき使われるのだからそれぐらいの対応は当然か。
また、今回の戦闘には転校してきたばかりの人も駆り出されるそうだ。全く魔法使いってだけで人使いが荒い。いや、魔法使いは人として見られてないのかもな。
「お、国軍が到着したようだな」
国軍。正式名称日本国防軍。日本の防衛の要であり、北海道の魔物の南下を食い止めている。その約50万人の兵士のトップに君臨するのは園芸部の野薔薇一族だ。戦力の大半を東北に置いてあるとはいえ、流石に首都東京に進攻してくる魔物を食い止めるためにそれなりの数は用意してあるようだ。
「じゃ、俺は持ち場に戻るわ」
「了解っス。自分は引き続きここで戦況の報告をするっス」
「……無理するなよ」
風紀委員の同僚である忍者娘に別れを告げる。優秀であり、生き延びて情報を伝えるのが至上とされる忍者である彼女ならおそらく生き延びれるだろう。
「あれぇ?もしかして先輩、自分のこと心配してくれてるんですかぁ?嬉しいっスねぇ」
「…まぁ、最後かもしれないしな、一応」
「……先輩それ本気でいってます?」
服部の口調がきつくなる。無理もないだろう。このタイミングでシャレにならないジョークを飛ばせばだれだってそうなる。それに俺はジョークでいったわけではないし。
「事実だろ。おそらく俺はこの戦いで生き残れない。なぜなら俺は常に最善の結果を得るためなら手段を択ばないからだ。俺は、俺のやり方で戦うだけだ」
そうだ。俺はボッチだ。人とのなれ合いを好まず一人で生きることに誇りを感じる一匹狼。戦えないからと言って彼女たちに迷惑はかけない。それが彼女たちへの借りの返し方だ。
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第十四話 第7次侵攻
服部に別れを告げた後、自分の持ち場へと向かう途中で前線近くに進軍する精鋭部隊と出会った。どのメンツも面構えが違う。志願制で募集するだけあってどの生徒もやる気に満ち溢れている。それにその自信を支えるだけの場数を踏んできているのであろう。変に絡まれる前にその場を離れようとしたが運悪く見つかってしまう。最近ステルスヒッキー人に対して効果薄くなりすぎじゃありませんかね。
「ん?貴様は確か前に訓練場で会った生徒か。何をしているこんな最前線で」
「さっきまで偵察に出てたんすよ。俺はそれぐらいしか役にたてないんでね」
「いや、十分な事だぞ。偵察で得た情報の精度が高ければ高いほど作戦は成功しやすくなる。貴様は自分にできる最高の仕事をこなしただけだ。誇っていいぞ。帰ってゆっくり休め。いずれまた偵察に出されることもあるだろうしな」
予想だにしなかった反応に俺は一瞬思考が停止していた。戦場で思考を放棄したら敵から容赦のないツッコミが飛んでくるところだが。俺はいつから人の役にたてるような人間に、人に必要とされる人間になっていたのだろう。いてもいなくても変わらない存在。それがボッチと言うものだ。彼女たちは軍隊で育った。軍では連携が重視される。仲間の為に命を捨てることができるか、ということだ。一人の負傷兵を助けるために三人の兵士を犠牲にする。そんな環境で生きてきた彼女には役に立たないという考えがないのかも知れない。そのうえ休めと言ってくれた。ここ最近掛けられたことのない言葉だ。兵士には休息が大事だということだろう。そのあとに仕事があるからという言葉がなければ手放しで喜べたものなのだが。
「そっすか」
「戦闘はアタイらに任せてとっとと後方に引っ込んでな」
彼女なりの優しさなのだろう。戦えないなら後方支援でもしておけという。ただ俺の配備はここの割りと近くなんですけどね。距離が空いているとはいえ。
精鋭部隊と遭遇するというアクシデントはあったが無事に配置場所につくことができた。
「おやおや、ずいぶんとおせー出勤じゃねーですか」
「それがさっきまで仕事をしていた人間への労いの言葉っすか」
相変わらずのやり取り。雪ノ下もそうだが立場上俺の上司になる人は総じて当たりが強いんでしょうかねぇ。それを言ったら社会の当たりがボッチには厳しいんですけどね。だが、そのやり取りにホッとする自分がいた。少なくともいつもの軽口を叩けるぐらいには余裕があるということに。
遠くで戦闘の音が響き始めた。小銃から排莢される空薬きょうが地面に叩きつけられる音。後方からの支援砲撃。自らを鼓舞する声、仲間を 咤激励する声。
「始まりやがったですねー。しばらくしたら国軍がわざと魔物を後ろに逃すと思うんでそしたらうちらの出番です。ま、それまでゆっくりとしてましょーや」
緊張のし過ぎもよくない。適度に休めるときに休む。ボッチの場合倒れても誰も助けてくれないからな。ペース配分は非常に重要だ。休めるときにしっかり休もう…………………………………………………と思ってた時期が俺にもありました。戦い初めて3日目だけど魔物の数…多くね?あと時々強い個体混じってるんですけど。これ明らかにタイコンデロガ級じゃね?前線で何か問題でもあったのか?それにそろそろ弾薬が尽きる。出来ればここら辺で補給したいところだ。だが戦闘中の補給というのは非常に難しいものだ。簡単にできるとは思えない。どうやって補給しに行くかを考えていると転校生たちの補給部隊がやって来た。非常にベストタイミングだ。できれば俺の弾薬も持って来てくれると嬉しい。しかし都合のいいことばかり起こるはずもなく、彼らはよくない情報と共に来た。
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第十五話 比企谷は己の信念を貫き通す。
第七次侵攻三日目。ここまで順調に見えた防衛線に遂に綻びが生まれる。ここまで持ちこたえた国軍の一部が魔物の突破を許した。いや一部という情報はいらないか。背後を取られるということは今まで気にしていない部分にまで気を使わなくてはいけないということで、そのような状態に一部でもなるということは、素早く態勢を整えなければそのまま包囲、殲滅されかねない。人類が古来より多用してきた戦術を偶然ながら相手に使われた形となったのである。
その情報を受け取った俺たち風紀委員会は即座に撤退の準備をしていた。しかし既に最初に突破した魔物の一部が目と鼻の先まで来ていた。
「こりゃ、ちょいとまずいですねー。とっとと撤退して防衛ラインを構築しますよー」
水無月風子風紀委員長。学園の風紀を守る集団をまとめ上げている学園内でも指折りの実力者。生徒会長から直々に次期生徒会長の座を指名されている学園の中心人物。リンゴに目がなく食べている間は目を輝かせながらおいしそうに食べる一面も持ち合わせている少女。
「いまこそ魔法使いの義務を果たすときです!皆さんいいですねっ!」
氷川紗妃副委員長。彼女の取り締まりが厳しいことは有名で鬼の副委員長とも呼ばれている。彼女の働きあってこそ学園の風紀は守られているともいえる。実は友達と呼べる人が少ないという悩みを持っている。
「……あの子のもとへは行かせないっ」
冬樹イヴ。幽霊委員であるが、その実力は精鋭部隊とやりあって引き分けるほどに強い。双子の妹がおり絶賛大ゲンカ中。隠し切れないポンコツぶりとシスコンオーラを放っている。
ここには今いない、神凪怜。ボッチへのかかわり方を分かっている少女で俺に対しても絶妙な距離感で接してくれた少女。実はカナヅチ。
今も最前線近くで活動しているであろう服部梓。いろはすを思い出させるので正直イラっとしていたがそれでも仕事のパートナーとして俺にはもったいなくらい最高だった。
ボッチであり、異物であった俺を温かくかどうかは微妙だが向かい入れてくれた風紀委員の面々。ここは非常に居心地がいいと思ってしまった。ここでなら本物を見つけることができるかもしれないと。だが現実は違った。いや気づいてしまった。たとえ見つけられても、手に入れても、失ってしまっては意味がない。彼女たちが死んでしまえば、それは結局のところまやかしでしかなかったのだ。俺に居場所を作ってくれた借りは返す。養ってもらいたいが施しは受けない。どんな時でも俺は俺のやり方を貫く。
「委員長たちは撤退しろ。殿は俺が引き受ける」
「アンタさんいったい何言ってるんです。アンタさんに殿が務まるわけねーじゃねーですか。ここは迎撃しつつ撤退するのが最善です」
我ながら柄にもないことをいうものだ。
「追撃を受けながらの撤退戦がどれほど厳しいものかアンタにはわかるはずだ。このメンツで戦力的に欠けても問題ない俺が時間を稼ぐのが合理的だ」
そうだ、委員長、お前が決定すればみなそれに従う。だからとっとと命令してくれ。俺にここで死ねと。
「比企谷さん!」
「氷川、集団には規律が重要だ。その規律に当てはまらない俺がやるのが一番いい方法だ」
氷川、ここで頑固さを発揮するな。
「比企谷さん…あなたって人は」
「冬樹、お前はエリートになるんだろ、だったら戦場でこういう判断をする時が来るはずだ。その時の予行演習にちょうどいいだろう?」
冬樹、妹と仲良くな。
「風紀委員長としては命令します。一緒に……」
こんな俺をまだ委員会の仲間として扱ってくれる委員長。恐らくだが今の戦力で立ち向かえば死人が出る。それだけは避けなければならない。
どんな手を使ってでも。
「アンタらみたいなうざい連中でも俺の目の前で死なれると俺の責任になるからな。関係のない奴らはとっとと逃げろ」
今の関係が壊れたとしても。
「……っ…さい…ですか…………」
まだなにか言いたそうだったが、言葉を飲み込み他の風紀委員へ指示を飛ばす。これでいい。これでいいんだ。少なくともしばらくは大丈夫だあれだけの面子がいれば魔物の奇襲にも十分に対応できるはずだ。
彼女たちが居なくなったのを確認し、俺は戦闘態勢に入る。ここまでの戦闘で弾薬はほぼ使い果たした。転校生たちが僅かに持ってきてくれた弾薬だけが頼りだ。今の俺に出来るのは一分でも、一秒でも長く、ここに魔物を足止めすることだ。前からは四体、全てタイコンデロガ級だ。一般的にタイコンデロガ相手に一般人ならデクと呼ばれるパワードスーツを着た兵士十人、生徒会長なら一人が等しい戦力と言われている。魔法使いでありながら満足に魔法が使えない俺がどこまでやれるか。
比企谷に魔物が接近してくる。その背後には新たな魔物の姿も確認できた。
死んだな、これは。小町、先に死ぬ兄ちゃんを許してくれ。覚悟を胸に武器を構える。
しばらくしたのち、水無月風子から連絡を受けた武田虎千代が目にしたのは、様々な手法で動きを封じ込められた十数体の魔物と、おそらくそれを一人で成し遂げたであろう少年が地面に伏しているところであった。
彼の健闘により風紀委員の撤退時における負傷者はゼロ名であった。
それから七日後、第七次侵攻は無事に防衛したという形で終了したのであった。
おそらくですが、ちょくちょく内容を変更したりします。この後は回想シーン的なものを投稿する予定です。
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第十六話 爪痕
第七次侵攻は、国軍の損傷三割、世界的にも各国の軍隊はダメージを受けたがどこも人類の居住権を奪われることなく、またグリモアも学園生の死者ゼロ人という奇跡に近い戦果で人類の勝利という形で幕を閉じた。表向きは。
現在生死の境をさまよっている生徒が一名ほどいる。先の侵攻で風紀委員の殿を務めた比企谷八幡だ。風紀委員各員を無事撤退させたのち、増援の部隊が到着するまでの間多数のタイコンデロガ級を含む魔物の群れ相手に一人奮戦。増援が到着したときには一般人なら死んでもおかしくないほどの傷をおった比企谷と動けなくなった魔物だけが存在していた。
彼はあえて霧を払おうとはせず、手足に当たる部位を集中的に狙うことにより弾薬の消費を抑え、かつ殿としての役目を全うしたのだ。
そんな彼の病室には彼の所属する風紀委員の長、水無月風子が今なお眠る彼を見守っていた。
「比企谷さん……ごめんなさい……ごめんなさいっ………!」
彼女は今激しく後悔していた。なぜ自分が殿を努めなかったのかと。クエストに一回しか行ってないという明らかな経験不足なのも、自分が置かれている立場も頭では理解している。風紀委員長という、責任のある立場。自分が残れば恐らく他の委員も残ると言い出すことも容易に想像がつくことだ。だが、だとしてもそんな理由で一人の生徒が自分の為に生死の境をさまよう羽目に逢うのは間違っている。自分に命を賭ける価値などないというのに。
「……また来ますね」
後悔を胸に抱いたまま彼女は病室を後にする。
その後も彼の病室には様々な彼と関わりのあった生徒が決して多くはないが来ていた。その中でも転校生よりも多く来ていたのは水無月風子だけであった。
彼が眠る間も時は止まることなく、魔法使いに覚醒してない科学者が転校してきたり、旧科研に調査に向かい、霧の護り人の痕跡があったり、人型の魔物が出たりしてで気付けばクリスマスシーズンへと突入していた。
町はすっかりお祝いムードが漂い、彼がその状況を見れば「リア充め」などといいそうな雰囲気。先の侵攻の勝利も相まってかなりの賑わいであった。
もちろんそれは町に限った話ではない。学園でもにぎやかにパーテイーが行われていた。このように学園性が楽しくクリスマスパーティーを過ごす中、風紀委員総勢15名は鳥取で発生したのち真っすぐと学園に向かってきている魔物の集団の対応をしていた。その中に比企谷の姿はなかった。
「そんじゃ、ちょちょいと片付けましょーか」
風子の号令で風紀委員各員は戦闘に入る。ある者は連携し、またある者は単独で。討ち漏らしは後方にいる服部や精鋭部隊が対処し、魔物の数を着々と減らしていった。だがうまくいっているときはどんなに訓練した兵士でもわずかに集中力が切れるというもので、まぁ正規の部隊などならその気のゆるみを上官が引き締めるのであろうが、風紀委員を指揮する水無月風子は公式、非公式合わせてまだ二回しかクエストの経験がなく、今回の作戦を指揮するうえで若干の経験不足感が否めなかった。結果的に彼女の失言は冬樹イヴの怪我につながることとなり、また水無月風子自身も窮地に立たされていた。
(ちょいとマズいですねー。どうにかして距離を取らねーと)
そんな彼女の思惑を感じ取ったのか、一発の弾丸が今まさに彼女を攻撃せんとしていた魔物を吹き飛ばした。
(いったい誰が?メアリーでいやがりますか?)
すぐさま索敵用の魔法で眼にスコープ機能を与える魔法を発動し、弾丸が飛んできた方向を見る。
「比企谷……さん………?」
そこには対物ライフルを構えた比企谷八幡がいた。
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第十七話 またも彼は同じ過ちを繰り返す
「比企谷さん………」
今まさに霧の魔物に攻撃されそうであった風子の窮地を救ったのは、本来、侵攻時の怪我でいるはずのない比企谷八幡であった。
風子の方を一瞥すると、何も無かったかのように立ち去る比企谷。彼の援護もあり、窮地を脱した風子。彼にいろいろと聞きたいこともあった風子だが、ともかく今は目の前の魔物に集中する。これ以上同じミスは繰り返さないように。その後の魔物討伐は前線のアクシデントを察知した精鋭部隊の援護もあり、問題なく終わった。最終的に風子の左手首骨折を含めた軽症者十名という結果でクエストは無事終了した。
クエスト終了報告後、風子は比企谷を探した。わざわざ呼び出さずなぜ委員長自らが探すのかというと、比企谷の性格上呼んでもおそらく来ない。それを分かったうえでの行動であった。短い期間であったが比企谷をこき使った人なりの間違った信頼の仕方だ。いそうな場所にも見当がつく。人があまり寄り付かなく、かつ一人でいるのに最適な場所。風子の予想した通りの場所に比企谷はいた。
彼はマッ缶を片手にいつも以上に目を腐らせていた。
「ここにいたんですか、比企谷さん……お久しぶりですね」
緊張で声が震える。彼は自分を恨んでいないのだろうか。彼をおいて逃げた私のことを。彼に死ねといったのと大して変わらない命令を下した自分を。
「………ん、委員長か、ご無沙汰してます」
侵攻前の彼と大して変わらない挨拶。覇気のないやる気のない挨拶。一つ違う点があるとすれば侵攻前以上によそよそしいということだ。それこそ初対面の時以上に。
「……いつ目が覚めたんです?」
先ほど救援に来た時からの疑問。少なくとも自分たちにクエスト依頼が来た時には意識は回復していなかったのは断言できる。なぜならクエストが発令されたとき私は彼の病室にいたからだ。
「ほんとについさっきですよ、宍戸博士から風紀委員がクエストに出ているって聞かされて、自分も風紀委員なんで……一応」
ここでマッ缶を口に含む。練乳の甘さが口の中に広がる。ホットで購入したがこの寒さでやや冷めている。だがこの生暖かさがまたマッ缶の甘さを際立てる。至福のひと時だ。
「さいですか……体の具合どうですか?」
目が覚めたばかりの彼の体はいくら魔法使いに覚醒しているとはいえすぐに戦闘できる状態でないことは誰にだってわかることだ。
「まだ何とも言えませんね、明日精密検査を受けるまでは何とも。それにしても珍しいっすね。委員長が俺の体の心配してくれるなんて」
「部下の健康ぐらい気を付けるのは当然のことですよ」
違う。本当はそんな崇高な理由なんかじゃない。ただ彼の安心を聞いて自分の罪を軽くしたいだけだ。本当に自分が嫌いになる。こんな時でも自分の保身が先に出てしまうなんて。
「そりゃわざわざ……元部下に対してありがとうございます」
「……え?」
元部下?
「水無月委員長、今日をもって俺は……風紀委員を辞めます」
その日、比企谷八幡は 風紀委員を辞めた。
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第十八話 彼はまた手放す。
突然風紀委員を辞めると言い出す比企谷八幡。今までいろんな理由をつけては仕事をさぼろうとしてきたがその大半は彼なりのコミュニケーションの一つであり、(まぁさぼりたいのは本当なのだろうが)少なくとも風紀委員の仕事がいやで言っていることではなかった。仮に今回の言動が真実であったとしても委員長である風子が認めるはずもなくその理由を問いただした。
「辞めるって……いったいどういう心境の変化なんです?」
心臓の鼓動が早くなるのを嫌でも感じる。聞かなくたって理由は私が考えうる限り一つしかない。彼を見捨てた私への失望だ。常識的に自分を捨て駒にした人間を恨まないはずがない。たとえ彼からの申し入れがあったとしても、本当に見捨てるとは、また彼も見捨てられるとは思ってもいなかっただろう。彼からのどんな言葉も受け止めよう。それが彼への贖罪になるのなら。それが罪人である私への罰になるのなら。
「侵攻の時、俺は俺の意思であの場に残りました。それは断言できます。なので怪我をしたのは俺のミスであり、自業自得です」
そこで一息つく八幡。彼女を見つめるひとみは普段と変わらず腐ってはいるがその奥底にはゆるぎない決意をちらつかせていた。
「俺が病院にいる間、お見舞いに来てくれていたそうですね」
その情報を漏らしたのは宍戸だろう。彼女のことだ、おそらく事務的な報告感覚でしゃべったのだろう。別に彼女を責めるつもりもないが、自分の知らないとこで自分の行いをばらされるのは恥ずかしいものだ。などと考えている場合ではない。私が見舞いに行っていることを知ったうえで辞めるといっているのだ。そしてそれをわざわざ私に面と向かって言ってきたのだ。覚悟はできている。
「前に行ってた学校でも諸事情で入院していたことがありましてそん時は誰も来なかったので、ちょっと驚いていますね」
これは本当のことだ。正直誰も来ていないものだと思っていた。嬉しくない、といえば嘘になる。だからこそ。
また、ここでマッ缶をあおる。
風子自身も驚いていた。てっきり罵倒されると覚悟していたのに、驚いた、とだけ。
「ですが……俺が怪我したことに同情しているならやめてください。そんな理由で無理に俺に関わろうとしなくて結構です」
だからこそ、彼女が俺のことで苦しむことだけは避けなくてはならない。たとえ一時的に、いや永久的に彼女を傷つけることになったとしても。彼女が罪の意識に苦しまないのなら。俺が風紀委員を辞めることになってもだ。別にまた一人になるだけ。一人は慣れてる。
「うちはそんなつもりで………」
そこで彼女は言葉を飲み込んだ。加害者である自分の言葉はどんなに取り繕っても彼には決して届かない。ましては偽りの言葉など、それこそ彼への冒涜でしかならない。
「……わかり…ました…あなたの風紀委員脱退を…………認めます」
私にできることは彼の望みを聞くことだけだから。
そう言い放ち、その場を離れた彼女の顔は泣いていたのかもしれない。だがそれを知るのは彼女だけなのだから。その場に残された比企谷も一つの大仕事を終えたのかごとく、大きく息を吐き、マッ缶をあおろうとするが中身はとっくのとうに空になっていた。
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第十九話 つながり
比企谷の突然の風紀委員脱退は一人の少女を傷つける形で幕を閉じた。しかし彼はこれでよかったと信じている。このまま風紀委員に居続けるよりは、彼女の心の傷をえぐることとにはならないと。
そんな比企谷だったが、風紀委員脱退後の学園生活はというと特に目立った変化はなかった。必要最低限の授業に出席し、それ以外の時間は図書館で勉強か、訓練所で訓練、就寝時間になれば寮に帰って寝る。その繰り返し。今まで風紀委員の仕事にあてていた時間がそのまま勉強や訓練の時間に代わっただけであり、誰も彼が風紀委員を辞めたとは(まぁそもそもどれだけの人が彼が風紀委員であったとしていたかは別として)思いもしなかっただろう。一部の人間をのぞいて。
今日もいつもと変わらない一日が終わった。風紀委員の仕事がなくなった最初のうちは空いた時間を有効に使うことにてこずったりしたが、ボッチは単独行動のプランを立てるのはうまいものだ。まぁそれ以外の選択肢がないから必然的にプランの作成が自分一人分で考えるように訓練されるからなんですけどね!とまぁ特に何の面白みのない日常だということにしているがそうとんとん拍子に話が進むわけもなく、トラブルや厄介ごとというものは向こうからやってくるもので。
「比企谷さん!」
ほら、向こうから来た。
「あなた風紀委員を辞めたそうですね!しかも委員長を傷つけるようなことまで言って、いったいどういうつもりですか!」
氷川紗妃。風紀委員の中で一番校則違反の取り締まりが厳しいことで有名でついた二つ名は『鬼の副委員長』そんな仕事一本な性格ゆえか、友達と呼べる人物が転校生ぐらいしか上げられない俺とは違うベクトルのボッチだ。これまでは風紀委員で培ったどこで校則違反がよく起きるかのデータのおかげでそこから逆算して風紀委員の巡回経路を割り出し遭わないようにしていたが、ついに見つかってしまった。
「なんか用か?」
そんな彼女が俺に関わってくるのは彼女の責任感故の行動か、はたまた単なる同族嫌悪によるものなのか。それを俺に判断することは出来ない。何故なら俺は彼女についてなにも知らないことを知っているからだ。いわゆる無知の知ってやつだ。ただ、一つだけ言えることがあるとすればこの会話は結論が出ずに終わるということだ。
「用があるからあなたに話しかけているんです!先程も聴きましたがなぜ風紀委員を辞めたのですか?侵攻の際委員長はあんな指示を出したかったわけではないのはあなたもわかっていたはずです!」
「だからこそ、俺は風紀委員にいるべきじゃないんだ。俺と顔を合わせればいやでもそのことを思い出すだろ。だから辞める。それだけの話だ。用件が済んだなら俺は行くところがあるんで」
「ちょっと!まだ話は……」
後ろでまだ何か言っている気もするが俺には関係のないことだ。そう、関係ないんだ。氷川を振り切り、図書室へと向かう。最近読んでいるのは戦闘時における銃の構えによる戦術の違いについての本だ。これを習得することが出来れば銃を手足のように扱うことができる。侵攻時は最低限の知識しか形にできなかったので苦労した。特にウィーバースタイルは利き腕側への向きの調整が難しくそこで襲われかけたこともあった。
「比企谷さん」
……どうやらここにも俺に話しかけてくる奴がいるようだ。
「どうした、冬樹姉」
「あなた、風紀委員を辞めたそうですね。人をさんざん煽っておきながら……どういうつもりです?」
「辞めたくなったから辞めた。ただそれだけだ」
どうしてこう、ボッチに声をかける人が俺の周りには多いんですかねぇ。冬樹姉との会話も疲れたので寮へと帰る。ただ二度あることは三度あるというもので、自室でマッ缶を飲んでくつろいでいると、チャイムがなった。まぁ無理に出る必要もないし、とりあえず寝ていることにして、後日何か言われたら「ごっめーん、寝てたっ」で済ませればいいか。
「ピーンポーン」
……………
「ピンポピンポーン」
………………
「ピポピポピポピポピポピポピポピポピポ」
………………………しつこいな
仕方なくドアの覗こうとしたら俺の暇つぶし機能付き目覚まし時計兼財布にmore@に着信があった。恐る恐る携帯を開くと、転校生からであった。
-今君の部屋の前にいるよ
こわっ!メンヘラみたいな文章送るんじゃねぇよ……
さらに着信が来る。
-ねぇいるんだよね?
コイツ精神的に疲れてるのか?
-でろ
その着信と同時に玄関のドアが強くたたかれる。文面の迫力におされドアを渋々開ける。するとそこにはバラ園の手伝いをさせてきた時と同じ顔をした転校生がいた。
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第二十話 けっこう転校生は怒らせると怖いのかもしれない。
「よう……転校生」
玄関のチャイムに対し、居留守を試みた比企谷。しかしチャイムを鳴らした転校生の予想外なMore@の文面の圧力によりカギを開けてしまう。比企谷の運命はいかに。
入ってもいいかとジェスチャーで確認する転校生。ドアを開けてしまった以上無下に追い返すこともできず、彼を部屋へと招き入れる。転校生は非常に慣れた手つきで俺の部屋へと上がると「つまらないものですが」といいながら手土産を渡してくる。これ確か最近新しくできたスイーツ専門店の商品じゃねぇか。普段から女子生徒を侍らしているだけあって、こういう店の情報もよく耳にするのだろう。またこういった店に一人で入ることにも抵抗がないようである。伊達に学生生活の大半を女子とのデートやその他それに準することに費やしている男なだけある。なんでも転校生とのデートなどの予約は結構先まで埋まっているらしく、逆をいうとそれだけ転校生自身の一人でいる時間が少なくなるというもので、そんな転校生がわざわざ一人の時間をつぶしてまでここに来るということは、それなりに重要なことなんだと思う。むしろそうでなくては転校生の貴重な時間を奪った罪で転校生のハーレム要員に俺が殺されかねない。
「マッ缶でいいか?」
とりあえずお客様に何も出さないのはまずいと思い千葉のソウルドリンクであるマッ缶を提案した後に軽く失敗だなと思った。ケーキとマッ缶を同時に飲食するのは千葉県民でもない転校生には無理だと思ったからだ。しかしそんな心配は杞憂に過ぎず、転校生が買ってきたケーキはどれも甘さを控えたものとなっていた。紅茶を混ぜたケーキや酸味の強い果物を乗せたケーキなど。俺がマッ缶を提供するのを読んでいたかのような品揃えだ。おそらくこういったささやかな気遣いが女子生徒の心を鷲掴みにしているのだろう。それでいて嫌味がないとならばそりゃもう男の俺でも惚れそうになるほどだ。
いくつかの他愛のない会話をしたのちに転校生は本題を話し始めた。
「俺が風紀委員を辞めた本当の理由?」
転校生はいつになく真剣なまなざしで聞いてくる。
「割といろんな人に行っていると思うが委員長に迷惑かけたくないのと、あの戦いで自分の力不足を痛感したから。それと正直もう働きたくないでござる」
と、冗談っぽくいってみるが転校生は首を振る。それを嘘だと思わないが本当の理由は?としつこく聞いてくる。それと委員長を泣かせた件についてもといただいてきた。コイツ妙に勘がいいからな、少しカマかけてみるか。
「なぁ転校生……お前はどこまで知っている?」
もしかしたらこいつは俺の隠している秘密に気づいたのかもしれない。
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第二十一話 八幡の秘密
「お前はいったいどこまで知っている?」
俺の目の前にいる転校生と呼ばれる少年。計測不能なほどの魔力を保有し、かつそれを他人に譲渡できるという世界にただ一つだけの力を持つ少年。その性格は極めてお人よしかつ天性の女たらしの才能を持つ。その女たらしの才能を生かした彼の人脈は軍、政治、産業の要人の御息女たちとも親交が深いなど、既に一般人の領域を超えたものとなっている。そんな彼にかかれば俺の隠している秘密など簡単に暴いてしまうだろう。
そう問われた転校生は少しの間悩み、決断したのか口を開いた。
「体内に霧が入り込んでいるってことくらい」
「………………そうか」
やはり、知っていたか。俺が霧に侵されていることを。
大怪我をしたとき、あるいはものすごく霧の密度が濃い場所などにいたりすると、稀に体内に霧が侵入することがある。一度侵入した霧は、体内で血液と同化し、体中を駆け巡る。霧は霧を呼び寄せる特徴があり、外部からどんどん霧を吸収する。その結果、霧に侵された人間は霧の魔物となる。現在有効な治療法は確立されておらず、霧の吸収を抑える方法として魔法による障壁を展開して霧の侵入を止める。定期的に体内の血液を入れ替えて霧を薄めるといった方法が存在する。
「誰から聞いたんだ?」
このことを知っているのは生徒会や宍戸などごく一部の人間だけだ。
「卯ノ助から」
「あの変態ウサギめ…………」
俺が風紀委員を辞めたことに対して卯ノ助が何のアクションを取らないことを不思議に思い、問いただしてみたところ、白状したらしい。
転校生は俺のこの事情を知っていてなおも俺の辞めた本当の理由を問いただしてくる。
八幡は観念したかのようにポツリ、ポツリと話し始めた。
「……風紀委員は久しぶりに居心地がいいと感じた場所だった。俺みたいな人間を理解しようともしてくれた……………怖いんだ。あいつらが俺が霧の魔物になりかけだと知った時の反応が、拒絶されるかもしれない、気味悪がられるかもしれない、死ねといわれるかもしれない………それを恐れるくらい俺はあの場所に馴染んじまったんだよ。それにいつ俺が魔物になるかわからない。あいつらに迷惑をかけるのはごめんだ。ましてやあいつらを手にかけるのも、あいつらにかけさせるのも」
ここまでの八幡の会話を聞いた転校生は、なぜ風子にきつく当たったのかを問いただした。
「実は俺結構前から意識が戻っててな、ただ体内の浸食度の具合を経過観察しなくちゃいけなくてな、大体誰か来たときは寝たふりをしてた。そしたら委員長が結構な頻度で見舞いに来るんだよな。俺を置いて行ったことを謝罪しながら。すげー苦しそうに、深刻な表情でさ。もしあいつが今の俺の現状を知ったら間違いなくあいつは死に走る。それだけは避けなくちゃならない。俺のせいで人が死ぬのはごめんだ」
そこまで聞いた転校生が出した結論はいたってシンプルだった。
比企谷は風紀委員に戻るべきだ。そして風子にしっかりと謝ること。そのためには、
「デートしてきなよ。仲直りを込めて」
「は?」
風紀委員長、水無月風子とデートをしろという提案だった。
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第二十二話 委員長とデート?
「風紀委員長とデートしなよ」
という「僕と契約して魔法少女になってよ」ばりの軽さでとんでもないことを言い出す転校生。あっさりと女子をデートに誘えというあたりに転校生のコミュニケーション能力の高さがうかがえる。しかしそれができるのは転校生のコミュニケーション能力あってこその芸当であり、俺を含め世の大多数の男どもはそこにたどり着く前にあえなく轟沈するのである。そしてその最筆頭でもあるプロボッチの俺にそんなことができるはずもなく、
「いや、無理だろ」
と、ごく普通の対応をしたのだが転校生の野郎「何いってんだコイツ」(・_・)みたいな顔してやがる。
「ただでさえ俺にそんなことができるような人生の生き方をしてないうえに俺と委員長の関係は今、最高に最悪な状態だぞ。そんな状態でデートに行きましょうなんて声かけられる分けねぇだろ」
「大丈夫、大丈夫。デートプランは僕が考えるし、いろんな伝を当たって最高のデートにするから!デートって言い方が嫌なら反省会ってことにしよう」
ちっとも安心できねぇし、大丈夫でもないのだが転校生の中では既に決定事項として計画は動きだしているようだし、もう止めることは出来ない。わずかに抵抗を試みたが「ん?」と笑顔で見られては俺にはもうどうすることもできない。俺は仕方なく転校生の策に乗ることにした。
転校生の伝とやらで白藤香ノ葉を紹介された俺は現在白藤の着せ替え人形と化している。
「ダーリンがウチを頼ってくたんよ?これは一世一代の大仕事やでぇ!」
と、言うことらしい。因みにダーリンとは転校生のことであり、アイツ彼女いるのに女遊びしてんのかと思ったが白藤が勝手にそう呼んでいるだけらしい。白藤に服選びを任せた結果、普段の俺なら決して選ばないであろう服装で決定していた。はっきりと断れよ、というかもしれないがちょっと考えてほしい。翌朝まで服選びに付き合わせられたら誰だってそうなる。
転校生が反省会の会場として選んだ店は季節限定のケーキを出すことで有名なカフェであり今月はリンゴの中でも今が旬の品種を使用したタルトが販売されていた。なるほど……確かに限定ものかつリンゴとなれば、委員長にも満足してもらえる可能性は十分以上に期待できるだろう。だがな転校生、お前は一緒に入店する俺のこと無視しすぎではありませんかね?このカフェは季節限定のスイーツを売りにしたカフェなだけあり、その利用者の多くは女性客である。そのうえ数少ない男性客の大半はカップルとしての来店であり、一人で来る猛者はほんの一握りである。つまり何が言いたいのかというと、俺の場違い感がとてつもない勢いでMAXになっているということである。
しかし、賽は投げられたのだ。今更あーだこーだ文句を垂れたところで状況が変わるわけでもない。後は審判の日を待つのみだ。
京都弁感覚で書いてるから間違いだらけかも……
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第二十三話 委員長とデート
私が普段通りに仕事をしていると転校生さんからmore@に連絡がきた。その突拍子もない中身に思わず笑ってしまう。
比企谷君と反省会しようよ!
あの一件以来、彼との関係は冷えきってしまった。今更何をどう取り繕えと言うのだろうか。
無理ですよ。
そう一言返信するとすぐに返信が帰ってきた。
大丈夫だって!自分も協力するからさ、嫌でしょう?彼との疎遠のままっていうのも。
それは否定できないことであった。あの一件に関して、このまま逃げ続けていいのかという思いが私のなかにあったのもまた事実だ。悩んだのちに私は一言こう返す。
いきますよ。
そう送ると、反省会の日時と場所が送られてきた。ぬぐいきれない不安を胸にかかえながら当日までの数日を二人は過ごした。
反省会という名のデート当日、待ち合わせ場所には既に転校生と比企谷がいた。転校生は普段とさして変わった点はないのだが、比企谷の服装は白藤監修のものとなっており比企谷なら決して選ばないであろう服装であった。二人で待っている理由はいたって単純。比企谷が二人きりは無理だと言ったのだ。そんな比企谷を転校生はジト目で見る。
「……そんな目で見てもなにもでないぞ」
転校生は貸し一つだといわんばかりの目線であったが気にせず受け流しておく。それからしばらくすると待ち合わせの人物がやってきた。忍者を連れて。
「……服部、なんでお前が?」
声をかけると服部は俺にすり寄りながら耳元で囁く。
「セ~ンパイ、いくら自分の可愛さに見とれたからと言ってデートの相手を無視するのは不味いんじゃないっスか?」
デートではない……と反論したいところではあるが今回反省会の相手である水無月を無視していることにはかわりはないので大人しく水無月の方を見る。
「…………よう」
久しぶりに見た彼女は心なしか以前最後に姿をみたときよりわずかだがやつれていた。それが雑用がいなくなったことによる肉体的疲労なのか、心的疲労なのか俺には答えを出すことは出来ない、いやその資格が俺にはない。少なくともそのどちらにも俺がかかわっていることは確かなのだから。
「…………お久しぶりですね比企谷さん」
久しぶりに見た彼は以前最後に姿をみたときと変わらずどこか落ち着かないような仕草をしていた。普段着ることのないであろう服を着ているのも彼の居心地を悪くしているのだろう。最も彼の負担を一番かけている私が言えることではないですが。
ふと周りを見渡すと転校生と服部の姿が消えていた。大方その辺に隠れて見ているのだろうがここに留まっていても意味がないので目的地に向かうことにする。
「…………行くか」
やられた。デバイスには一言「ガンバっ!」とだけ送られていた。
「………………そーですね」
沈黙の続く移動、しばらくすると目的地に着いた。店に入り席に着きそれぞれ注文を済ませる。
再びの沈黙。その沈黙を破ったのはウェイターが商品を持ってきてからだ。
「わぁ………!」
運ばれてきた商品をみて水無月が声をあげる。この季節が旬という珍しい品種のリンゴを使用したタルトだ。一口くちに運ぶとその顔が綻んだ。
「んふふふっ……………」
こちらの 視線に気付いたのかバツが悪そうにした。
「いや、うまそーに食うなって」
「リンゴはどんな形でも美味しーですからね………比企谷さん風紀委員に戻ってくれませんか?」
たたずまいを直してそう告げる。あれだけのことをした私が言うのもなんだが、彼は風紀委員に必要な存在だ。
唐突に告げられ一瞬固まる。あれだけのことをして今更どの面下げて帰れというのだろうか、この人は。
「悪いが戻るつもりはない」
「この通りです」
そういい、委員長は頭を下げた。いったいどんな利益があってこんな社会不適合者をわざわざ取り込もうとしているのだろか。
「打算なんかありません。うちがそーしたいからやってるだけです。うちは比企谷さんと一緒に仕事がしたいです」
……どう返答すべきだ。この場を確実におさめるためには。その為に俺が採るべき最良の選択肢はなんだ?俺は自分に嘘はつかない。俺がやりたいようにやるし、これまでそうやって生きてきた。これからもそうだ。俺が本当に求めているもの………それは………
俺ガイル三期おめでとうございます。グリモアも今後の展開が楽しみです。
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第二十四話 再び比企谷は風紀委員として活動する
俺は………
「……………戻っても………いいのか?」
俺に居場所があってもいいのか?
「勿論ですようちら風紀委員は比企谷さんの委員会入りを歓迎します」
正直断られると思っていた。嬉しい誤算です。嬉しさが顔に出たのを隠すようにタルトを口に運ぶ。口の中一杯にリンゴの甘酸っぱさが広がる。やはりリンゴは美味しーです。この美味しさは共有すべきですね。
「比企谷さん、あーん」
委員長の突然の奇行に思考が止まる。
「………は?」
ここまでうちをへこませたお返しです。
「うちらはデートに来てるんですよ?デートっぽいことしておきてーじゃねーですか」
「いや、デートじゃないと思うが………むぐっ!」
まだ色々と言っていた口にスプーンを無理やり突っ込む。
「美味しーでしょ?」
その後も二人は楽しんだ後学園へ帰宅した…………
「と、言う訳で復帰した比企谷先輩っス。先輩っ、何か一言」
「いや何がと言う訳だお前はいった何を見てたんだ」
全く、この忍者は何をみてたと言うのだ。どこからどうみても反省会をしていたじゃないか。こいつが説明した部分も罰ゲームの部分だろ。こいつがいる限り、プライバシーというものがあってない気がするのは俺だけだろうか。
「何って…………先輩と委員長がなかむつまじくデートしてる現場ッスけど?」
「服部、じょーだんはほどほどにしてくだせー、約一名じょーだんだと気づいてない者もいますし」
氷なんとかさん冗談だって気づいてなかったのかよ、危うく反省文書かされるところだったじゃねぇか。
「まぁそういう訳だ……………迷惑かけるかも知れねぇがよろしく頼む」
「私は別にどちらでも良かったったので、これで失礼します」
お前はそうだろうな。
「服部さんの言うことが本当だったら復帰そうそう反省文でしたね」
冗談ですんで良かった。
「これからもよろしくっス、先〜輩」
お前は俺の許さない奴ノートにランクインだ。
「またよろしく頼む比企谷。あれが捻デレというものなんだな、夏海が言ってたぞ」
岸田、覚えてろ。
「比企谷さん、お帰りなさい」
お帰りなさい・・・・・・か。そんな声かけられるのは自宅で小町だけだと思ってた。小町も結構な頻度で忘れたりするけど。ここは俺の変える場所か・・・・・・
「あぁ」
少しは本物に近づけたのだろうか。
比企谷の風紀委員復帰後、阿川奈での人を食べる霧の魔物騒動の中、霧の守り手幹部、間ヶ岾昭三の死亡が確認され、霧の魔物に食われたと思われたが検死の結果他殺であることが判明した。
運命の歯車が徐々に回りだす。
ちなみに余談だが彼と風子の反省会の写真は報道部によってゴシップとして新聞に載り、良くない意味で彼を知る人物が増えたのはまた別の話。
書けたので投稿
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第二十五話 バレンタイン
阿川奈事件の後、私立グリモワール魔法学園は一段と緊張を高めていた。テロリスト対策を率先して行うこととなった風紀委員も例外ではなく………
「・・・はぁ、なんでバレンタインなんていう俺とは縁遠いイベントの取り締まりをしなくちゃいけないんでしょうねぇ」
全くお菓子会社の戦略にはまったリア充どものイベント。しかし戦略だろうとなんだろうと一旦根づいてしまえばそれは立派な文化であり、また一種の宗教形態でもある。故にお菓子会社の戦略にはまったバカ乙などとこけにすることは出来ない。それがまかり通るなら伊勢参りもまた神宮の戦略にはまっているわけなのだから。だから関係のない人間は大人しく過ごすべきなのだ。
「どちらかというとチョコの数で賭け事をしている人間の方ですがねー」
そうこれはいわばチョコ賭博のようなものの取り締まりなのである。その年誰が一番多くチョコを貰えるかを賭けの対象とし、リアルマネーが動く。たかが学生の賭け事と甘く見てはいけない。ここは魔法学園、クエスト出動による報酬により、そこんじょそこらの学生を遥かに凌駕する程度には稼いでいる。当然かける額も増えるというものだ。因みに予想一位は転校以降恋する乙女をエースパイロットよろしく次々と撃墜している転校生。二位には就任以降一位であった生徒会長。三位以降はドングリの背比べといったところだ。
「比企谷さんは誰だと思います?」
「まぁ無難に生徒会長でしょうね、詳しくは分かりませんけど要は貰った総数で決まるんですよねこの賭博の勝敗は。だとすれば同姓である会長の方が渡しやすいでしょうし」
「ふ〜ん・・・・・・・で、本音のところは?」
「転校生、てめぇのせいでこっちは休暇無くなったんだ覚えとけよ」
そもそもあいつが目立たなければここまでオッズが荒れることもなかっただろうに。
「さいですか・・・ま、うちも委員長としての最後の大仕事になりそーなんで、あんたさんも頑張ってくだせーな」
委員長として最後か・・・噂によれば現生徒会長卒業後の新生徒会長として水無月が推されているらしい。本人は嫌がるだろうが。変なところで背負いこむ癖があるコイツはまず引き受けるだろう。
「そうか・・・」
まぁ、俺には関係のないことであるし、水無月が生徒会長になれば今よりも仕事はサボれるだろう。是非とも生徒会長に就任して頂きたいものだ。
結論を言うと、チョコを貰った数第一位は生徒会長だった。転校生に賭けていたらしいメアリーはかなり悔しがっていたようだか。
因みに俺は生徒会長に10K賭けた。対して増えなかったが、小金の錬金術師の名は伊達ではない。
「あ、そーいえば比企谷さん、虎に賭けていたそーじゃねーですか」
「あ」
「たっぷりとお話聞かせてもらおーじゃねーですか」
スンマセンでした。
5%には勝てなかったよ・・・・・・
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第二十六話 魔物の本拠地
バレンタインという名の悪魔のイベントも無事?に終わり(一部を除いて、残念ながら俺はこの一部に含まれている。小金の錬金術師の名はしばらく預ける羽目になった)学園全体の雰囲気もようやく卒業シーズンといった模様となっていた。しかし戦力面といったところではそう手放しに喜べるものではない。
今回の卒業で学園の戦力は大幅に弱体化する。軍隊では通常デクと呼ばれるパワードスーツを装着した兵士十人がかりで相手にするタイコンデロガを一人で相手にすることができる武田生徒会長、純粋な物理戦闘力ではその生徒会長よりも強い生天目つかさ。学園一の諜報能力を誇り噂では世界の首脳部すら脅していると噂されている報道部部長遊佐鳴子。普段全く面白くないダジャレを連発したり雪女だとうそぶいたり、魔法の不正使用を度々行い、変人を装っているが、氷系統の魔法適正が高く戦闘能力も申し分ない雪白ましろ。あと一人くらいいた気がするが……何か触れてはいけない気がするのでやめておこう。どの人物も第七次侵攻の際おもだった戦果、あるいはそれに準ずる結果を挙げた人物たちだ。そういう意味では侵攻は今年に起きて良かったのかもしれない。おそらくグリモア史上最も戦力が整っていただろう。
そんな学園であるが、闘技場の地下で何やら魔導書が見つかったのことだ。魔導書は新たな魔法の理論などか書かれており、悪用されると洒落にならないものもある。その性質上封印が施されている場合が殆どで現在、東雲と朱鷺坂の二人が解除に当たっていたらしい。それがどうやら解けたようで、その魔導書を媒体に別世界へと繋がっていた、そしてその別世界がどうやら魔物の本拠地とつながっているのでは?と正直霧の魔物宇宙人説のほうがまだ納得がいく。
そんな大きな話、俺には関係のない話だと思ってたのだか、俺の隠密性が偵察部隊としての召集理由となってしまった。まったくもって嘆かわしい。わずかな抵抗で弾薬関係の補給はどうするのか尋ねてみたところ、今回の偵察には国軍の中でも精鋭部隊が参加するらしく、そこから提供してもらえとのこと。なんでもその部隊、第七次侵攻で最も損傷率が少なかったらしい。そんな体育会系の頂点みたいなところに弾薬貰いに行くの嫌なんですけど。
学園生の中にはそんな体育会系を統べる野薔薇家の一人娘である野薔薇姫がいた。普通の家庭で娘に『姫』なんて名付けたりした暁にはキラキラネームの称号をもれなく貰い、かつ本人は名前と自分の容姿とのギャップに一生苦労するのであろうが、国軍のトップという誰から見ても名門の出、かつ本人の容姿も優れているともなれば全く問題ないのだろう。だが娘に姫と名付けるあたり、相当な親バカなのだろう。さっきから野薔薇の三人衆のしている会話の内容から察するにお姫様は今回の偵察には呼ばれていなかったらしい。おそらく野薔薇父が職権乱用しまくりで学園に圧力をかけたのだろう。大事な愛娘をそんな危険なところに行かせないために。
順次ゲートをくぐっていることだしいやだが俺も行くか。
会話がない……
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第二十七話 もう一つの世界
ゲートを抜けた先には、終末という言葉がお似合いな光景が広がっていた。見渡す限り荒廃した大地、そこら中に霧の魔物の原種と言われているブルイヤールがうようよしている。
偵察初日はその大半をゲート周辺の魔物討伐に費やした。流石に魔物の本拠地と言われているだけあってブルイヤールの強さも大垣峰のより数段強く、負傷者も多数出したがここでも転校生の魔力供給は無双しており学園生がフルパンよろしく魔物を倒していくものだから終わりのころになるとブルイヤールの強さがよくわからないことになっていた。
捜索を進めていくにあたって違和感が脳裏をちらつく。何か大事なことを見落としている気がするのだが……だがこう魔物が多いとこの疑問を解決しようにも思考を割く余裕がない。
三日目にして少しだがこの場所について判明したことがあった。辺りに散乱していた瓦礫らしきものの成分検査をしたところ、コンクリートでできていたそうだ。その結果からこの世界にも人間、あるいは同等の知的生命体が存在していたことが確定的となった。
「実はここ南半球でしたってオチだったりしないんですかね」
「お前もか……それはありえん。もし仮にここが南半球だった場合、気候が変すぎる」
アメディック隊長にそうバッサリと切り捨てられてしまった。ちなみに俺以外にも同様の考えに至った輩がいるらしく、それがあのウサギだというのだから何とも言えない。
その後生天目が強化魔法を重ね掛けする『鯨沈』なる技を使用した衝撃で大地がぱっくり割れ、それに野薔薇のとこのお嬢様が巻き込まれ(ご愁傷様です)なぜかその捜索に俺も駆り出され(とんだとばっちりだ)その間に服部が何やら重大なものを発見したようだ。救出も無事に終え、撤退のため本隊へと合流すると続々と新情報が得られた。
「ここが地球であることはほぼ間違いないわ」
宍戸が星の位置などから計測した結果ここは地球であることが確定した。そしてここが埼玉県風飛市であるということも。そして服部が持ってきたものに書かれていた『私立グリモワール魔法学園』の文字。報道部部長遊佐鳴子はかつて霧の嵐(一時的にゲートが開く現象のことらしい)に巻き込まれこことは別の世界で訓練していたこと。
以上のことから導かれることはここは魔物の本拠地などではなく霧の魔物に敗北した別世界の地球であるということ。ここにはおそらく同姓同名の人物がいた可能性があるということ。
もやもやの正体はこれだった。
これまでに投稿した分加筆修正しました。
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第二十八話 三月三十一日
前回の探索で発見された裏世界。霧の魔物との戦いに人類が敗れたもう一つの世界。俺たちの世界と同じ人物が存在し、そして霧の魔物によって俺たちと違う結末をたどった俺たちがいるとされる世界。報道部部長、遊佐鳴子によれば極まれに起こる霧の嵐によって行方不明になる人のほとんどがこの裏世界へと飛ばされるんだとか。彼女もその口であり、その反動で魔法使いとして覚醒、裏世界の生き残りの人類に生き方を教わり、そして運よく霧の嵐に再び巻き込まれこちらの世界に帰ってこれたとのことだ。衝撃的な事実ではあるが他にも根本的なことで気になることもある。それは歴代生徒会長と報道部部長はゲートの存在を知っておきながら、なぜか第七次侵攻まで探索をさせようとはしなかった。ここから導かれる仮説はこちら側に来た人間がいる、ということだ。そのうえ、この第七次侵攻が人類の転換期であるということ知っている人間が。そのうえで第七次侵攻を乗り越えられるだけの力がなければ探索をする意味がないということを知っているということを。
その上彼女の口振りから察するに裏世界と呼ばれるものは複数存在し、今回俺らが捜索した世界はその内の一つに過ぎないということだ。パラレルワールドっていうやつだな。別に魔法なんてトンデモ理論で発動するものが存在する時代だ。異世界の一つや二つ存在したところで今更驚くことはない。問題は今回の捜索から得られた知識からそう遠くない未来に人類は魔物に敗北するという事実を突きつけられたのだが。来年に大規模侵攻があると正直学園は厳しいだろう。なんせ今年の卒業生に学園の主力が多く存在しているからな。
色々な問題はまだ残っているが、無事卒業式も終了した。俺の近辺で主だった変更は水無月が生徒会長へと就任が決定。そのため繰り上がりで氷川が風紀委員長へとなる。それにより風紀委員は今まで以上に過激路線へと走ることとなる。
「比企谷さん」
俺が部屋で物思いにふけているとドア前から声が聞こえた。
「ん、委員長か、なんか用ですか?こんな夜中に」
「うちは用事がなくちゃアンタさんに会いに来ちゃいけねーんですか?」
まぁアンタが来る時は大体用事がありましたからね
「少しおはなししましょーよ」
そう告げられ、渋々委員長を部屋に入れる。
「お邪魔します。随分と片付いてますねー、普段からよく人が来るんですか?」
「いや、委員長が初めてだ」
「ほぉーさいですか・・・ふふふ」
「こんなものしか出せませんが」
部屋に常備しているマッ缶を温めたのを出す。委員長も流石に慣れたのか特に何も言うことなくマックスコーヒーを飲む。
「それで、お話というのは」
「そんな大した事じゃねーですよ。ちょっとグチに付き合ってもらおーかと思いましてね・・・・・・ねぇ比企谷さん、ウチに生徒会長なんて務まると思いますか?」
・・・ヘビーな話題だな、さてどう答えるべきか。彼女が求めているのは同情や励ましの言葉ではないだろう。そんな安っぽい言葉は今の彼女の心に何も響くことはないだろう。かと言って否定するのも違うだろう。おそらく彼女が求めているものは、
「委員長のやりたいようにやればいいじゃないんですかね。無理に今のようなスタイルを取る必要はないですよ。あれは武田虎千代というチート人間がいて初めて成り立つ手法ですからね。むしろ委員長が同じやり方をすれば会長との差が明確に出る。それよりは委員長の持ち味を活かした運営をするべきです」
「ウチの持ち味・・・」
「それに一人でやるわけじゃないんですから、俺が言っても説得力皆無だと思いますが使える人間は使うべきですよ」
「・・・生徒会長になった後もアンタさんをこき使ってもかまいませんか?」
「しょっちゅうは困りますがね」
「・・・ありがとーごぜーます。なんだか気分が楽になりましたよ」
「そっすか」
結果的にありきたりな事しか伝えられなかった。委員長は俺とは違う。俺のように一人でもやれるタイプではない。彼女を見送った後(正確には見送らせられた)俺は布団へと潜り込む。新たな年度を迎えるために。俺が眠っている間に世界に大きな変化が起こるとも知らずに。
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第二十九話 四月一日
四月一日、新年を迎えて初の授業…ではなく当直できている。魔法学園ではいつ魔物が出現してクエストを発令されても問題なくクエストを受注できるように休日も交代制で学園に常駐することが校則で定められている。新年早々から仕事で登校しないといけないとは学生のころから軍人としてやっていけるようにするとはグリモアおそるべし。実際のところ日本にいる魔法使いの総数3000人のうちおよそ300人弱がグリモアに所属しているので単純に戦力として数えられているのだろう。そしてこれから六年間、魔法使いとしての必要な知識を学ぶこととなる。校門に着くと中等部の風槍が何なら騒いでいるが、いつものことだ。しかしここで放置すると後々委員長にどやされることになる。
「どうした、風槍?なんかあったのか」
「おぉ!丁度良い所に来たぞハチマン!聞いてくれっ!何故か生徒会長が卒業してないんだ!」
天文部の部長を務めている風槍は中二病を発症している少女で俺の黒歴史部分を大変刺激してくるのでなるべくかかわらないようにしているのだが俺の名前を聞きつけて八幡大菩薩と絡めているらしい。やめろ風槍、その組み合わせは俺に効く。
「武田会長が?そりゃ会長は今年卒業だからな」
「うぅ〜ハチマンまでそうやって我のことを騙そうとするっ!もう知らないっ!」
そういうと、風槍は走り去っていった。
「ありゃいったいなんだったんだ」
「俺も不思議に思ったんだよ。ミナは普段ふざけてはいるがああいった冗談は普段言わないからな」
確かにあいつはよく風紀委員のお世話にはなっているが、今回の類のことで問題になった覚えはない。何か理由があるのだろうか。今は友達がいる風槍だが、材木座的言動が多いことからボッチだった経験もある。そんな彼女がわざわざ友達を減らすようなウソをつくのであろうか。その確認をしようと俺が声をかけようとした矢先に風槍は学園内へ走り出してしまった。
転校生にも聞いていたようなので尋ねたかったところだが、生憎クエストに行ってしまった。なんでも神宮寺の御令嬢が試作武器を無断で持ち出し、 転校生を連れて行ったらしい。相も変わらず女子から人気のようである。しかし神宮寺は中等部。手を出したら犯罪だぞ。
「すみません。比企谷八幡様でございますか?」
突然後ろから声を掛けられる。昔の俺であれば驚きのあまり声を出していたところだろう。しかし風紀委員という職業上突然声を掛けられる機会も増えた。
「どちら様でしょうか」
「初音様付きのメイド、月宮と申します。本日は比企谷様に折り入ってお願いがございまして」
ろくでもないことに巻き込まれる予感が…
お久しぶりです。
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第三十話 やはり美人の誘いには裏がある
「初音様が転校生様とクエストに行かれたのはご存じかと思われますが初音様が当社製の新型兵器を無断で持ち出して実地テストをされております。私は初音様専属のメイドとしてその身を守る義務がございます。しかし初音様の行動を阻害するなどもってのほか。そこで陰ながらサポートをしたいと考えております。比企谷様は隠密系の魔法に長けていらっしゃるとのお噂を聞きましたのでぜひ協力していただきたいのです。あいにく私魔法はあまり得意ではないので」
学園生であるのだから歳は自分とそう違いないことは想像に難くない。しかし彼女が発する落ち着きをはらんだ柔らかな物腰、丁寧な言葉使いから彼女がその歳に見合わない厚みを持つ女性であることも感じられた。そのような彼女に軽はずみな対応をすれば損をするのは自分だということも。手短に伝えたいことだけを伝える。
「手伝うことによって俺に何かメリットでも?親父から美人からの相談には気をつけろと教わってるもんでね」
「御冗談を。……ご協力していただけるのでしたら武器弾薬を社員割引で販売させていただきます」
その提案は非常に魅力的であった。専業主夫としての道を断たれかけている比企谷は現在セカンドプランとしてクエストで得た資金を貯金しニート生活を画策していたのだ。しかし比企谷の戦闘スタイル上銃火器を使用しなければならず魔法使い、ましてや軍属ですらない彼にはそれが支給されることはなかった。つまり自腹なのである。自分の命を預ける以上生半可なものなど購入できずまた最近ではセットアップに凝り始めてしまいこれがさらなる出費へとつながっていた。端的に言えば金欠なのである。
「ま、ただより怖いものはないっていうしな。その条件で引き受けるわ」
「ご協力感謝いたします」
挨拶もそこそこに準備をして現場へと向かう。移動中ふとした疑問が浮かび月宮に尋ねる。
「そういえばいつクエスト受注したんだ?」
「受けておりませんよ。受注すれば初音様に気づかれてしまいます。言っておりませんでしたか?」
さも当然だと言わんばかりに彼女はそう言い切った。聞いてねえよと内心毒づきながらやはり美人のお願いには裏がある。そう強く実感させられた一日であった。魔物討伐に関しては月宮の銃火器の取り扱いのうまさに驚きながらも特に問題なく終了した。しかしそれで何事もなく終わるはずもなくクエストを受けないでの魔物討伐は校則違反に当たるので委員長たちにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
そのしばらくのち転校生が突然姿を消し、突然帰ってきたがそれはまた別のお話。
実際ポーチとか銃のパーツは万単位が基本ですし、スコープに関しては10万は簡単に越しますからね。どうなってるんでしょうね学園生の懐事情。
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第三十一話 神宮寺茉理はかわいい女の子が好き
転校生失踪事件から幾日か経ったある日のこと、転校生はいつものように女子生徒を連れて2人きりでクエストへと向かっていた。一方比企谷のほうはというと……
「ぐへへっ!この先にきゃわいい女の子たちがっ!私のパラダイスが!」
「誰かこの変態を止めろ……」
とある来客の対応に追われていた。さかのぼること数十分前~
「おいーっす。JGJインダストリー私立グリモワール魔法学園対策開発局局長…神宮寺茉理、到着しましたー」
「おっ。時間通りだな。ええと…なんだって?」
「JGJインダストリー私立グリモワール魔法学園対策開発局局長」
「舌噛みそう…初音のお姉さん、でいいんだよな?」
「そーよ。そっくりでしょ?」
「うーん初音とはタイプが違うがこれはこれで…」
「その辺にしとけエロ兎」
巡回中に卯之助が訪問客にまたセクハラまがいのことをしていると思いどうやら珍しく違ったらしく、今日から常駐することになった神宮寺の姉貴らしい。学園に入る際の注意事項などを説明していく卯之助。こういうところを見ているとしっかり仕事をしているのだと見直す。しかしこいつのセクハラ関係で俺の仕事が増えているのでプラマイマイナスなのに変わりはない。
「およ?君のそれうちの商品じゃん、しかも二世代も前の、君魔法使いだよね?」
「あいにく攻撃魔法が得意ではないんでね。必ずしも最新鋭の武器が兵士に喜ばれるとは限らないでしょ。前線で命を預ける武器に求めるのは確実に動くという信頼性ですよ」
ま、実際のところはお財布と相談した結果、安くなっていた型落ちを購入しただけなのだが……
「……それは聞き捨てならないなぁ。うちの最新鋭の子たちは信用できないってこと?」
藪蛇だった。こういったタイプの人間には冗談が通じないのは宍戸で経験済みだ。前に生活魔法を編み出したときに宍戸にそう命名したことをメディカルチェックした時に伝えたら「魔法使いの一般生活への浸透として使えるかもしれないわね」と真顔で返された。おとなしく本当のことを言うか。
「ま、本当は金欠で最新のを変えなかっただけなんですけど……」
「でも確かに従来のシステムや姿を踏襲したモデルのほうが売り上げはよかったわよね……その辺どうなのか学園生に聞いてみたいなぁ。そういえば国連軍出身の生徒がいるって噂だし…ぐへへっ!」
で、冒頭に至るわけである。比企谷が神宮寺茉理の相手をしている間、遊佐は宍戸に情報を与え、神凪は風槍の言動の真意を探るために動き出し、落ち着きを取り戻した神宮寺茉理が一般人でありながら魔法を使う転校生如月天のデウス・エクスを見て興奮するのもまたのお話。
学園生の首脳部がループ事象と裏世界からの介入を行うものが別人であるという認識をし、双美が転校生へ自分の身を守ることを強く訴える中、私立グリモワール魔法学園学園長の死がメールにて報告された。一つ学園を守る盾が消失した瞬間であった。
これにて瑠璃色万華鏡をのぞき第三部完です。
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第三十二話 瑠璃色万華鏡
「あぁ今日もマイシスター秋穂がかわいいわぁ」
「分かる」
「あぁ?何よアンタ」
「妹って目にいれてもいたくないくらいかわいいよなぁ」
「あんたも妹居るの?」
「おう、小町は…」
妹談議で意気投合する二人であった
犬川学園長、二回ほどしか顔を合わせたことはなかったがなかなか食えない爺さんだった。愛娘のために病気のことを隠してやがったのか。その学園長がなくなったとはいえ一般生徒である俺に直接的な関係はなく転校生や瑠璃川姉妹と共に碧万千洞へとクエストに来ていた。
「なにここ。霧の濃度が高すぎる…クエストのレベルじゃない。どうしてこんなに調査が雑なのよ」
「お姉ちゃん、どうしたの?立ち止まっちゃって」
「なんでもないよぉ!秋穂は心配しなくていいからね!転校生と比企谷にお話があるから、ちょっとだけ見張りしておいてもらえない?」
「あ、うん。わかった」
「転校生。すぐにここを出る。いったん退却するわ。こんな場所に秋穂を長い間いさせるわけにいかないわ。まだ突入して三十分。すぐに出られる。入り口に戻るまで、秋穂が傷つかないように守るんだ。比企谷はあたしと一緒に周囲の警戒をやれ、いいな?」
瑠璃川姉に呼ばれたかと思えば退却をするとのことだ確かにここはいささか霧が濃い。霧過敏症でもない瑠璃川姉が感じられるくらいなのだからよほど濃いのだろう。撤退を開始しようとしたら突如爆発音が鳴り、俺は下へと落ちていった。
崩落から四時間後、転校生が新たな転校生、ヤヨイ・ロカとの合流を果たし、別動隊も残りのメンバーを探していた。一方比企谷は……
「……くそっ、とっさに障壁で身を守ったが片足持ってかれたか……あれは瑠璃川妹?気を失っているのか」
折れた足を引きずりながら瑠璃川のところへ向かう。傷の有無を確認する……後で瑠璃川姉に殺されそうだが緊急事態だやむを得ない。落ち方がよかったのか特に目立った外傷はない。細かいことは帰ってから検査でもすればいいだろう。しかし妙だな、霧が少しずつではあるが確実にここに集まってきてる。障壁はここに来る前にしっかりかけてきたんだがな。
「俺が原因じゃないとすると…瑠璃川…お前、もしかして……」
「秋穂っ!」
数時間後、春乃が秋穂の所に到着すると、転校生たちと衰弱した比企谷が待っていた。
「……瑠璃川姉、すまない。俺の技量じゃろくな障壁が張れなかった。ちゃんとした奴かけてやってくれ」
「比企谷…お前……転校生、頼む…魔力を……」
その後無事に救出された一行は無事学園へと帰投した。その学園の病室で瑠璃川姉と比企谷は話していた。
「比企谷、今回はお前に助けられた。礼をいう」
「あんまし役に立たなかったけどな。それに成り行きとはいえお前ら姉妹の秘密を知っちまって悪いな」
「仕方がない…秋穂のことを怖がらないで上げてほしい」
彼女は妹がいつ魔物に代わるかわからない危険因子として見られないように誰にもこのことを教えなかったのか。
「あぁ…俺も瑠璃川妹と同じ状態だし怖がるわけねぇだろ?」
「なに?」
「俺だけ他人の秘密を知っているのはフェアじゃないからな…誰にも言うなよ?」
二人が秘密を共有した瞬間であった。
春乃さんと比企谷はお互いシスコンということでクエスト前から関係が良好でした。だから春乃さんが名前を憶えていたんですね。
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第三十三話 パンドラ
碧万千洞での瑠璃川姉妹の一件からしばらくたったころ、二度目の裏世界捜査が実地されることが発表された。なんでも今回の調査では報道部部長、遊佐鳴子の協力者と言われている人物から裏世界に関する情報を入手することが目的らしい。その為、今回は遊佐鳴子がチームの指揮を執ることになるため、彼女との面識がほぼ皆無な俺が調査隊のメンバーに選ばれることはないと踏んでいたのだが……
「…遊佐先輩なんで、俺を選んだんですか?せっかく休日に撮りためたプリキュアを見ようと思っていたのに…」
「おや、僕が君を選んだことに何か問題があるのかい?僕は君が思っているよりも高く君のことを評価しているんだけどね。隠密関係に特化した魔法適正、あらゆるものを疑ってかかるその精神……水無月君に先手を打たれていなければ報道部に勧誘していたくらいにはね、何なら今からでも内に来ないかい?それなりのポストを用意しよう」
「委員長に殺されるので勘弁してください」
「ははっ、半分冗談さ……君は水無月君の大のお気に入りのようだしね。手を出した時の報復が想像つかない」
半分は本気かよ。あとお気に入りっていうのは仕事を押し付ける体のいい奴なだけですよ。
「実際の所今回の捜査では主に市街地での戦闘がメインになるだろうからね、あまりド派手な魔法は使えないのさ。その点君の魔法は転校生君に毛が生えた程度…ということになっているらしいしね、そもそも火器を使うみたいだしね。問題ないと判断したよ」
今回向こう側が指定したエリアは市街地を抜けた先の地下から出た部分だ。そして今回は裏世界のある団体がそれを妨害してくると予想されている。戦闘は避けられないのだが裏世界の損壊した家屋内での戦闘に武田会長などの攻撃は建物が耐え切れない。そこで強化魔法が主体の生徒や、俺のように攻撃魔法が貧弱な生徒が主体となって構成されている。
まぁ、選ばれてしまったのだから仕方ない。駄々をこねて仕事が増えても仕方がない。仕事に取り掛かるとしよう。
結果として遊佐鳴子の協力者は遊佐鳴子であった。裏世界のJGJの攻撃をしのいだ先にいた彼女は何も発することはなかった。そして裏世界の遊佐鳴子から持たされた情報は非常に価値あるものとなった。我々の世界と裏世界の生徒の違い。こちらにはいるのに向こうにはいない生徒。その中にはここまで獅子奮迅の活躍をしてきた転校生の名前も存在した。
「転校生君。君はいったい何者なんだい?」
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第三十四話 汐ファン襲撃
第二次裏世界捜索によってもたらされた情報。それにより得ることがかなった情報にはなかなか衝撃的な事実が記されていた。次の侵攻である第八次侵攻が第七次侵攻から約一年後の九月二十七日に起こるということ。その戦いで人類は壊滅的な打撃を受けるということ。そしてその大きな要因が人類側の不和であること。そしてその戦いで多くの学園生が戦死すること。私立グリモワール魔法学園が崩壊するということ。
その事実を知った一部の生徒が頭を悩ましている間、転校生の奴がまた霧の嵐に飲み込まれ、そして帰ってきた。飛ばされた先は第八次侵攻の直前。そこでいかに人類が劣勢に立たされているのかを改めて思い知らされたそうだ。そのような状況下ではあるが時の流れは止まるようなことはない。末期のガンでこの世を去った前学園長の愛娘である犬川寧々が新たな学園長として就任することとなった。流石犬川の爺さんの娘なだけあり、様々な業界の重鎮とのコネクションはばっちりであり幼いながら学園長という重責に耐えうる人材であることは予想できた。しかし、ちびっ子にそのような仕事を任せなくてはならないほど学園は危ういということである。幼かろうと実の娘にしか学園を任せられないほど、よその人員を選べない程度には。
夏にはハワイへと向かって現地のPMCと共同訓練を行うことが決定しているのだがそんなことよりも重要な任務が存在していた。裏世界で発見された資料に残っていた魔物による襲撃によって被害を被った施設の一つである、汐浜ファンタジーランドの警備クエストである。本来クエストは魔物が発生してから受注されるのが基本であるのだが、今回はヴィアンネの使徒であるシャルロット・ディオールの権限で無理やり警備クエストという形で少数を送り込むのに成功した。そして裏世界の資料通りに魔物が発生し、追加の人材も派遣されることになった。その中には銃火器を使用するため、結果的に建物への損害を軽減できるとの判断で比企谷の姿も存在していた。
比企ヶ谷生まれてこの方所謂テーマパークと呼ばれる施設への入場経験が皆無に等しいが故にふわふわしたアトラクション名を覚えるのに四苦八苦していた。
「えーと、俺の割り当てはナンタラのナンタラハウスだったよな」
「比企谷っ!ハートのお家だ!モタモタするな!帰るのが遅くなるだろ!?」
そう無線で連絡してくるのは楯野望。霧過敏症という霧が存在する場所にいるだけで体調が悪くなる引きこもりまっしぐらな病気を患っており、実際彼女は授業をほとんど欠席している。しかしながら成績は優秀なようでこれまで不登校には目をつぶられていたが、いよいよ出席必須な単位、つまりクエスト関係が危なくなってきたので今回駆り出されたらしい。日頃はネットゲームをして一日を過ごすというのだから実にうらやまけしからん。
さて今回出現している魔物だが発生直後であるためか弱い(通常より)。そのためか汐ファン内の着ぐるみに寄生し成長までの時間を稼ごうとしている。霧の魔物の特性として成長するまでは身をひそめることが確認されている。そのためか俺の持つ小火器でも十分に霧を払うことが可能だ。特に問題もなく魔物を討伐しているとハートのお家から人影のようなものが通り過ぎた。反射的に銃を構えるが明確に人であったため構えを解いた。無線で一名行方不明者がいたがおそらく彼女であろう。声をかけようとしたがどうやら混乱しているようで周りの確認もせず走り去ってしまった。慌てて追いかけると、案の定魔物に拘束された上に盾にされていた。その先にはすでに間方式を構築させおえた朝比奈がいた。このままでは直撃するかと思われたが、直前で軌道をそらし大事には至らなかった。
裏世界で得た情報により被害は最小限に抑えられた。そして裏世界がこの先の現実であるということに。
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第三十五話 社畜に休暇はない。
突然ですが皆さんは休暇、という単語を聞いて何を思い浮かべますか?日頃の疲れを癒すために好きなだけ寝る?積んで手も付けていないゲーム、本、ガンプラをやる?おいしいものを食べる?皆さん思い思いの休暇の過ごし方を思い浮かべたことでしょう。休暇とは本来、それぞれが思い思いに過ごすべきものであり自由でなくてはならないと常々感じている。ましてや……
「なぜ久々の休暇を警備クエストにあてられるのだろうか…」
汐ファンの騒動後、風紀委員も数多く出動したため事後処理などに追われていたのだがようやく終わり、比企谷にも休暇が与えられた。この時彼は久々の休暇に喜びを感じるとともにそれ以外が労働であるという現実にひきつった笑みが出てしまった。その休暇自体もさすが魔法学園というのだろうかクエストとセットである。何故田舎という魔物の出現率が高いエリアの警護任務が休暇になり得るかと言うと、警護対象である初田村は過去暫く魔物が出現していないらしいのだ。その為警護という名目で学生達の避暑地とされている。寝食を提供されるのだが、当然労働に対する対価なのであって・・・・・・
「比企谷っ、何サボっている、キリキリ働かないか」
・・・・・・こうして休日も働くことになっている。
「見ろ!見ろ!サーヴァント!山があるぞ!川があるぞ!あ、あれは、魔樹に宿りし双角の精霊…またの名をクワガタ!」
今回のクエストには最近特に忙しかったものなどが中心に集められている。言わずもがなクエストに引っ張りだこの転校生、近々に行われるハワイで行われる民間軍事会社との合同訓練に際して発生した多大な経費処理をたんとうした会計、結城聖奈。生徒の胃袋をつかんでいる里中花梨、最近何やら言動が不安定になっている風槍ミナ、そして唯一魔物の発生しないニュージーランドから覚醒したことによりやってきた西原ゆえ子、そして風紀委員の雑用係である比企谷である。
仕事をしながら年相応にはしゃいでいる風槍を眺めていると、西原に何かを渡されると動揺し始め、そののまま森の奥へと走り去ってしまう。そのままにしておくわけにもいかず探しに向かうが…
「あいつどんだけ奥深くに行ったんだよ……ん?ここどこだ?」
ミイラ取りがミイラになるとはこのことである。あれよあれよとする間にひな沈みあたりは暗くなる。緊急事態であるのでやむを得ず光魔法で明かりをともす。そうしてしばらくしていると足音が近づいてくる。そこには風槍を含め転校生などが集合していた。なんでも夕飯時になっても現れなかった風槍を心配して探しに行ったらしい。俺がなぜここにいるのかと尋ねられ理由をこたえると「デバイスはどうした?」と一言言われる。デバイスを持っていると仕事の連絡が来るという認識であったため無意識に電源を落としていた。
「キサマな…」
あきれる結城の小言を言われながら宿へと帰るのであった。
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第三十六話 比企谷人生初の海外へ
初田村でのクエストから暫くしたのち、計画されていた通り8月からのハワイへの出発の準備が進められていた。海外に行くから風紀委員の仕事が無くなるなんてことはなく、寧ろ出先で問題を起こす生徒が居ないようにするため、仕事が増える始末である。
「服部の奴、こんな忙しい時に何処で油売ってるんだか」
こんな忙しい時期にも関わらず服部の姿が見えない。どうしたものかと頭を悩ませていると生徒会から呼び出しがかかる。あれのことがバレたのかと思いつつもそんなヘマをした覚えもないが、呼び出された以上行くしかあるまい。生徒会室に入るとそこには生徒会のメンバーの他に、委員長と、服部がいた。
「よし、揃ったな。手短に話すと服部が転校生の情報を漏洩し、そのため謹慎処分となった。風紀委員には悪いが服部の抜けた分のスケジュールを調整しておいてくれ」
「謹慎?」
副会長の補足によれば、テロリストなどに対する撒き餌として、バレても問題ない情報を暗号付きで外部に漏洩させた。その結果、転校生の情報が喉から手が出るほど欲しい連中は夢中になって取り掛かり、時間稼ぎにはなったらしい。学園としても喜ばしい限りだが、規則は規則。何も罰を与えないというわけにもいかず、謹慎という形が取られた。
転校生を取り巻く状況などいち生徒からすれば知ったことではないが、アイツのせいで俺の休みが消えるのはけしからん。
当の転校生はというと、精鋭部隊隊長エレン・アメディックとクエスト中である。今日の午後にはハワイに向けて出発するというのに勤勉なやつだ。転校生を取り巻く環境は変わりつつある。転校当初は数少ない男子と会う物珍しさと魔力タンクとしての役割という見方であったが、転校生自身が力を付けていくにつれてあいつを中心とした一つの組織が形成されつつある。魔法使いの組織としては間違いなく世界最強の組織の完成だ。だがそれは良くも悪くも世界に影響を与えることになる。その時転校生に世界に抗えるだけの力がついているかどうか。或いはそれまでに
人類が残っているか。
「生徒会執行部会長の武田虎千代だ。学園生に通達がある。クエストに行っていない生徒は各々作業を止め、きいてくれ。8月に2回に分けてハワイへの旅行がある。その目的は民間軍事会社との合同訓練である。魔法使いではないが対魔物戦のエキスパート達だ。彼らとの合同訓練でレベルアップを図り我々は・・・・・・9月の第8次侵攻に備える」
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第三十七話 傭兵というものはある意味青春を謳歌しているのかもしれない
来る第八次侵攻に向けての学園全体の戦力増強を掲げて行われた今回のハワイへの旅行。一部の連絡事項を確認していなかった可哀想な人にとっては寝耳に水な今回の合同軍事演習は前半組と後半組に分かれての参加となる。理由はおそらくだが一度に大量の学園生を移動、宿泊させる分を確保できないという点。そしてこちらが本命であると思うが学園生といえど魔法使い。日本国内の十分の一にあたる貴重な戦力をみすみす海外で遊ばせる余裕はどこの国にも存在しないというのが本音であろう。
前半組に振り分けられている比企谷にとっては初の外国でもあるハワイであるのだが
「なんなんだあの筋肉ゴリラどもは、本当に非魔法使いなのか?」
現地の傭兵たちのおかげでバカンス気分には到底ならないようである。ハワイ到着して早々挨拶もそこそこにして早速訓練が始まった。訓練といってもいわゆる普通の人間に対しての訓練であるため、ひたすらトレーニング、食事、トレーニングの繰り返しである。魔法使いである比企谷ですらしんどいと感じるようなトレーニングを楽々とこなしている姿を見れば愚痴の一つもこぼれるものだ。中には傭兵に口説かれないことを嘆いているものもあるが。その上頭脳労働担当の連中はホテルでシュミレーションによる訓練をしていると聞く。比企谷としてもそちらに参加して涼みたいだろう。
しかし世界とは残酷なものである。こちらが訓練後でヘトヘトであろうが魔物は待ってくれることはない。デバイスに緊急連絡が入り海からの魔物襲来を伝える。現場指揮官には精鋭部隊のメアリーが当てられている。
「いいなテメェら、アタイら魔法使いは強ぇ!それこそPMCの連中の比じゃねぇ!それをこの戦いで自覚しろ!」
普段は楽観的な事を口に出さない彼女の口から発せられる強気な発言は一部の生徒のやる気を引き出す。俺達に与えられたクエストは住民の避難の支援。6つの班に分かれてそれぞれが持ち場を担当する。いつもなら偵察やらなんやらで最前線に放り出される所だが今回魔物は海から来る関係上偵察もクソもない。結果的に普段組まない転校生の護衛という役回りをやることになった。
順当に霧を払っていたが松島が特訓の成果を見せようとしてウィリアムズに止められていた。なんでも初めてやる事を実践でやろうとするなとするなという事だ。実際松島は瀕死の状態の魔物を倒すことも出来なかった。そのような状態で元気な魔物と対峙していたら少ない確率で死んでいただろう。自分自身の立ち位置を実感させつつ生き残らせる。新兵教育としては十分であるが東雲に鍛えられ成長を感じていた矢先の松島にとっては少し堪えたようだ。
結果的に今回の戦闘においてPMCに死者が六名出たぐらいが大きな損失であった。ハワイ側からの好意により一日宿泊期間が伸びた結果、軍人達と腕相撲させられたのは別の話。
九月二七日、裏世界での第八次侵攻がおきた日。グリモアは万が一に備えて全生徒が制服着用の上待機を命じられていた。風紀委員も侵攻が確認されると同時に職務を放棄するがそれまでは風紀委員としての業務をこなさなくてはならない。長い一日の始まりだ。
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