東方賭博奇譚 (シフォンケーキ)
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1話・ある女と出会ったら世界が変わった。

この作品は東方projectの二次創作となります。
・オリキャラ
・独自解釈
・原作との設定の違い
・キャラ崩壊
などが含まれている場合がございます。
よって至らぬ点が多々あるかもしれませんので予めご了承ください。


とある日、騒がしい街の中でさらに騒がしい店の中から一人の男が出てきた。

男が出てきたのは公営ギャンブルの一つ、パチンコ店である。男はにやけた顔をしながら機嫌の良さそうな声で呟いた。

「勝った、勝った、勝っちまった。今日はついてるぜ」

男の声が薄暗い路地裏に響いた。

端的に言うとギャンブルで大儲けした。ただそれだけである。

男の名は高橋。二十三歳独身、彼女いない歴=年齢、仕事は便利屋をしており、そして根っからのギャンブラーである。

ここ最近、彼はまともな仕事の依頼もなく、ただ毎日ギャンブルに明け暮れていた。

「・・・つまんねぇなぁ、空から金でも降ってこないもんかな」

そんなありもしないと分かりきってることを呟きながら歩いていると高橋はあることに気がついた。

(誰だ?この女)

高橋の目の前にはこの辺りでは見ないような格好をし、日傘を持った女が高橋の進路を阻むように背中を向けて立っていた。

そして女はゆっくりとした口調で振り返りながら告げた。

「貴方が高橋 愛乃(たかはし よしの)で間違いないわね?」

高橋 愛乃と言うのは確かに自分の名前であっている。しかし高橋は目の前の女に自分の名前を教えたことはおろか、過去に会った記憶もない。

そこで高橋は感じた。目の前の女から発せられる謎の威圧感を。全身を硬直させられるような圧迫感を。

(こいつはヤバイ!肌でわかる!何かはわからんがとてつもなく怪しい凄みのようなものがある・・・!)

そこで高橋がとった行動は至ってシンプルなものだった。

高橋は身体を反転させ来た道を全力疾走した。

(こんな怪しい奴に構ってられるか!)

三十六計逃げるに如かず、俗に言う逃走である。

「あら?何もしてないのに逃げ出すなんて流石にひどいんじゃないかしら?」

背後で女が何か言っていたが高橋は聞く耳を持たずにひたすら走った。幸いにも高橋は足には自信があった。日頃鍛えている成果から逃げきれると考えた。事実、高橋を追い負かすことは並みの者には不可能と言っていいだろう。

それから数分ほどして人気のない公園で高橋は足を止めた。どうやら逃げることに成功したようである。

「取り敢えずは撒いたか、あの女は一体何だったんだ?まぁ、もう会うこともないだろうがな」

逃げきりに成功した安心感からかそんな事を考えた。

 

だが、高橋は一つ、致命的なミスをした。ある事を忘れていたのである。

 

「あら?鬼ごっこはもうお終いなのかしら?」

途端に背後から声がした。

 

勝負事において、忘れてはいけない事を高橋は忘れていた。

 

「嘘、だろ・・・」

 

結果を見る前に『勝った』と慢心した時、それはつまり、

 

「改めて言わせてもらうわ。初めまして、高橋 愛乃さん」

 

自らが『負け』を受け入れるという事であると。

 

そこには先程撒いた筈の女がつまらなそうな顔をして立っていた。

 

意味がわからない。高橋は最初にそう思った。

目の前の女は確かに撒いた筈であった。特別身体能力は高くも見えない。それどころか女は走って追いかけたとしても息が上がってすらいないのである。

(どうやって追ってきた?落ち着け、落ち着いて考えろ。逃げられないなら先ずはそこから考えるんだ)

高橋は動揺した心を落ち着かせるように自分にそう言い聞かせた。

「あんたは一体何者だ?どうやって追いついてきた?何のために俺に近づいてきた?」

高橋は怒鳴るように問い詰めた。すると女は呆れたような顔をして言葉を返した。

「人に質問をしたいなら先ずは会話をする姿勢を見せなさい。それと質問は一つずつにしてくれると助かるわ」

「ふざけるな!いいから答えろ!」

高橋は苛立ちながらそう言い放った。すると女は然程気にもせず飄々とした態度で言葉を返してきた。

「あまり人に怒りの感情を見せない方が賢明よ?相手に自分を弱く思わせるし、まともな思考も出来なくなるのだから」

女はハァと一息つくと、

「まぁそれは今は良いわ。私に聞きたい事があるのでしょう?一つずつで良ければ、歳とスリーサイズ以外は答えてあげるわよ?」

高橋は苛立つ感情を抑えながら考えた。確かに今ここでこの女に憤慨したとして、自分に得などない。ならばここは素直に相手の言う通りに疑問を解決させ、話を早々に切り上げた方が幾分もマシである。

高橋は一度深呼吸をして再度疑問を投げ掛けた。

「ならまず一つ目だ。あんたは一体何者だ?」

「あら、思ったよりも聞き分けは良いのね。少し安心したわ」

女は小さな子供を褒めるようにそう言うと続けて言った。

「私の名前は八雲 紫。少し事情があってあなたの事を探していたのよ」

高橋は女が言った名前、八雲 紫の名を頭の中で思い浮かべたが、やはりそんな名前に心当たりはなかった。

「なら二つ目だ。そのあんたの事情とやらになぜ俺が巻き込まれなければならない?」

「それは貴方の力が必要だからよ」

紫は端的に答えた。

「俺の力?ちょっとばかり足が速いだけで特になんの取り柄も無い俺に大それた力なんかあるわけないだろ?」

「それはどうかしら?。それは貴方が一番わかっているのではなくて?貴方自身の『特別な力』なのだから」

どこか不敵な笑顔を浮かべながら紫は答えた。

全てを見透かしているかのようなその瞳に高橋は素直に恐怖心を抱いた。

確かに高橋には人にはない『特別な力』があった。幼い頃からその身に宿っていた力。おそらく紫はそのことを言っているのだろう。

(この女、どこまで知っている?)

高橋の恐怖心と疑問は依然として消えはしなかった。

(俺の力のことを知っている?だとしても、この女が俺に寄ってきた意味がわからない・・・。そして、だからこそ、余計に怪しい・・・)

大前提として、高橋は過去に自分の力について他人に話したことは一度もない。親にも友人にもである。

にも関わらず、この八雲 紫は高橋 愛乃の力を知っている。これに対して疑問や恐怖心を抱くなと言う方が無理な話である。

「・・・どうして俺の力のことを知っている?」

高橋は諦めるように紫に聞いた。

否、実際問題として、高橋は諦めたのである。逃げる事も叶わず、自身の秘密も知られ、挙句に相手の素性もあかせていない。そんな状況を打開できるほど高橋は強くはないからである。

「これはさっきの貴方の質問の答えにも繋がるのだけど・・・」

たっぷり間をあけて、紫は続けた。

「特別な力を持っているのが自分一人なんて、そんな事はあるはずがないでしょう?」

その言葉を聞いた途端、高橋は頭の中にある仮説を立てた。

『特別な力を持っているのは自分だけではない』

『先程の質問の答えにも繋がる』

(幾つか疑問は残るが、もしかして・・・)

高橋は曖昧ながらも閃いた答えを口にした。

「あんたも特別な力を持っている。それもひとつじゃない。恐らく、瞬間移動とか読心能力とかな、他にも何かあるはずだ」

「その考えの根拠は?」

紫は表情を変えずにそう聞いた。

「あんたが言った、さっきの俺の質問の答えにも繋がるってのは、『何故俺の力のことを知っているのか』だけじゃなく、『どうやって追いついてきたか』にも当てはまるからじゃないのか?そうでなきゃ、そんな言い方しないだろうよ」

「あら、思ったよりもちゃんと頭を働かせてくれたようね。でも残念、その推理では百点とは言えないわね」

「何?」

「確かに私にも貴方の言う『特別な力』が宿っているわ。けど私の持つ力はたった一つだけよ」

「・・・」

高橋は言葉を詰まらせた。話を聞けば聞くほどに頭が痛くなっていた。

「話が逸れたわね。貴方の力のことを知っているのは色々と調べさせてもらったからよ。その上で協力者として貴方に白羽の矢が立ったと言うわけよ」

「プライバシーも何もあったもんじゃねぇな」

高橋は忌々しげに呟いた。

「つうか、その協力者の条件ってのは何だよ?別に俺以外にも候補なんざいくらでもいるだろうよ」

「条件っていうのは単純よ?こっちの話に食いついてきそうなギャンブラーである事。できる限り強者の方が理想的だったわ。そして貴方には『特別な力』が備わっていた。これも貴方を選んだ理由に含まれるわね」

「俺よりも強いギャンブラーが良いなら一人心当たりがあるから紹介してやろうか?周りからは『超高校級のギャンブラー』とか言われてるよ。あれはもはや違う意味で人間離れしてるけどな」

「それが残念な事に笑顔で断られたわ。協力してもメリットがない、とね。それにこれは貴方への便利屋としての仕事の依頼と思ってもらって構わないわ」

ここまでの話を聞いて高橋は思った。これより先の話を聞けば後戻り出来ないのではないかと。自分の日常が壊れるのではないかと。

「・・・一つ、大事な事を聞き忘れてたな」

「何かしら?」

しかし、心とはうらはらに高橋は口を開いた。何か不思議なものに魅入られたかのように。

「あんたの依頼内容とやらについて、詳しく話せ」

紫はその言葉を待っていたとばかりに怪しく、妖しく微笑んだ。

「私からの依頼はたったひとつよ。私達の住む世界である事件が起きているのよ。だから私達の住む世界を、“幻想郷”を救ってくれないかしら?」

“幻想郷を救ってくれ”

その一言で高橋は自分の中の世界が音をたてて崩れていくのを感じた。

(俺の日常ってのも簡単に壊れたな)

高橋は目の前に立つ紫を見つめて思った。

(いや、この女に目をつけられた時点で、俺の世界は、日常は壊されてたんだろうな)

高橋は素直にそう考えた。現に高橋の思考は紫と会話するにつれて少しずつ変わっていった。先ほどまで抱いていた恐怖心などとうになく、怒りの感情は微塵も無くなっていた。

そして今、高橋が思った事はひとつである。

(最高に面白くなってきやがった!)

その顔はとてつもなく眩しく思えるほどの笑顔であった。

「その様子だと、この依頼を受けるかどうかを聞くまでもなさそうね」

紫も紫でとても嬉しそうに笑っていた。

「あぁ。まだ幾つか話を聞かせてもらうが、こんな面白い話を無駄には出来ねぇぜ」

この時、高橋の日常は、世界は、完全に壊された。

否、日常を、世界を壊したのは間違いなく、高橋自身であった。

ーーー八雲 紫の話に賛同する事によってーーー

 

「取り敢えずは協力してくれるようで助かったわ。ありがとう」

紫は笑顔を浮かべてそう告げた。

「いや、礼を言うにはまだ早いだろ?俺はまだ世界を救うどころかあんたから話を聞いてすらいねぇんだから」

「それもそうね。では世界を救う前に他に聞いておく事はあるかしら?」

「勿論あるさ。質問は大きく分けて二つだ」

高橋は指を二本たててそう言った。

「何かしら?」

「一つ目、あんたの言う“幻想郷”とやらについて教えてくれ。そして二つ目、その“幻想郷”での事件と俺は何をしたら良い?」

「質問は一つずつになさいとさっきも言ったでしょう?」

紫は笑いながらそう言った。さっきとは違い、冗談を言いあうような、そんな軽さだった。

「そう言えばそうだったな。失礼したよ」

高橋もその意図を察したのか、先ほどと違い笑って返した。

「では、そうね。まず一つ目、“幻想郷”について。そこから話しましょうか」

紫は指を一本たててそう言った。

「“幻想郷”とは私が管理している、こことは隔離された世界のことよ。そしてそこには主に、妖怪や存在を忘れられた者達が多く存在しているわ。勿論、貴方のような人間もいるわ」

更に紫は指をもう一本たてた。

「そして二つ目、これが一番大事な部分。幻想郷で起きている事件と貴方のするべきことについて。私達は異変と呼んでいるのだけど、この異変を解決するのが貴方への依頼よ」

「その事件、いや、異変ってのはなんなんだ?」

「まず私達の住む幻想郷では人や妖怪達の決闘の手段として、『弾幕ごっこ』というのがあるわ」

「弾幕ごっこ?シューティングゲーム・・・みたいなもんか?」

高橋は頭の中で想像しながらそう聞いた。

「大方その解釈で問題ないと思うわ。けれど、その『弾幕ごっこ』がある日、誰かによって別のものに変えられてしまったのよ」

「・・・大方、その変えられたものがギャンブルってわけか?」

「ええ、その通りよ」

「それでその異変を解決させる為に仮にもギャンブラーである俺を訪ねたってわけか」

「あら?最初に比べて察しが良くなってきたようね」

紫は感心したように笑っていた。

「あんだけわかりやすい話し方してりゃあガキでも気づけるさ」

多分この女は自分で答えを教えるより相手に考えさせる方が好きなんだろうと高橋は内心で考えた。

「細かいことはまた向こうで自分なりに調べなさい。あと他に質問はあるかしら?」

紫の言葉に高橋は指を一本たてて応じた。

「なら最後に追加で一つ。その世界、幻想郷は俺を楽しませてくれるのか?」

高橋の質問にはつまりとして、『今の世界は退屈である』『自分の世界を楽しくしたい』という意味が含まれていた。

だからこそ彼は紫の誘いに乗ったのである。

そんな質問に対して、彼女は、八雲紫は今までで一番の笑顔で、

 

「安心なさい。幻想郷は全てを受け入れてくれるわ。貴方一人の願いくらい、容易く受け入れてくれるわよ」

そう言い放った。

 

その答えを聞いて、高橋は笑顔を浮かべた。幼い少年の如く、無邪気な笑顔だった。

「そいつは良いね。世界を救うなら楽しい世界でなくちゃ面白くねぇ」

「それじゃあ、今から貴方を幻想郷へと送るけど、本当に良いのね?」

紫は確認を取るように尋ねた。

「今更わかりきったことを聞くなよ。依頼は受ける。こんな退屈で仕方ねぇ世界より早く向こうに行きたいぜ」

相変わらずの笑顔で高橋は答えた。

(最初にこの女を見た時はまともに口も聞かずに逃げたってのに、まさかこんな展開を自分で選ぶなんて、人ってのは短時間で変われるもんだな)

高橋は自分の変わりように驚きながらも紫に告げた。

「もし幻想郷を元に戻せたら、成功報酬としてなんか俺の願いを一つ叶えてくれるか?」

「私にできる範囲であれば、そのくらいはしてあげても良いわよ?」

高橋はそうかと呟いて続けた。

「じゃあちょっくら、世界を救ってくるぜ」

「ええ、では改めて、よろしくお願いするわね。高橋 愛乃さん」

紫がそう言うと同時に高橋の足元に空間に裂け目の様なものが生まれた。言うまでもなく、紫の力である。それを見た高橋は驚きながらも瞬時にひとつの疑問を解決させた。

(俺を追ってこれたのはこの力のお陰ってわけか。やっぱり瞬間移動じゃねぇか)

徐々に沈んでいく自分の体を見ながら、これからのことに胸を躍らせた。

(ギャンブルだらけの世界なんて最高だぜ!待っていろよ、“幻想郷”‼︎)

そう思うと同時に高橋の体は完全に沈んでいった。

今この瞬間に、ギャンブラー・高橋愛乃の世界を救う挑戦が始まったのである。




お恥ずかしながら書かせていただきました、東方賭博録。これを読んで楽しんでいただけたなら幸いでございます。
誤字、脱字又はご意見ご感想ございましたらお願いいたします


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2話・幻想郷と言う名の楽園で二人の女に会った。

1話投稿から約二ヶ月かかりましたがなんとか2話が出来ました。今回から幻想郷が舞台となりますので、お楽しみいただければ幸いです。


 「ん?」

 高橋が目を覚まして最初に見たものは天井だった。

 「・・・夢オチだったのか?」

 もちろん違うことは高橋も理解していた。

 「ここは何処だ?紫の奴もいねぇようだし」

 辺りを見回すと純和風の造りの家の様だが、高橋以外に人の姿はなかった。

 そして高橋が最初に取った行動は至ってシンプルなものだった。

 「おい、誰かいるか?」

 高橋は近くの襖を開け、他に人がいないか捜索を始めた。

襖を開けた先の部屋に二人の少女がいた。

 「あら?もう起きたのね」

 紅い巫女服の少女が高橋に向けてそう告げた。

 「いや〜さっきは驚いたよね〜。空から人間が、しかも女の子じゃなくて男が降ってくるんだもん」

二本のツノを生やした少女が笑いながら言った。

「期待に応えられなくて悪かったな。幾つか聞きたい事があるんだが良いか?」

「答えるのは構わないけど、あんた、名前は?」

「おお、自己紹介がまだだったな。俺は高橋 愛乃、愛乃で良いよ。助けてくれたようでありがとうな」

「別に良いわよ。私は博麗 霊夢。ここ博麗神社で巫女をやっているわ」

「まともに参拝客が来ない貧乏神社だけどねー」

ツノを生やした少女が瓢箪に口をつけながらそう言った。

「余計な事言うんじゃないわよ!そもそもあんた達が毎回毎回馬鹿騒ぎするせいでしょうが!」

霊夢が貧乏神社と聞いた途端に怒りをあらわにした辺り、この単語は彼女にはタブーらしい。

「賽銭なら後で入れてやるから落ち着けよ。話が進まねぇだろ」

高橋が言うと霊夢は諦めたように言葉を止めた。

「全く、霊夢はおっかないね〜。私は伊吹 萃香。酒を飲むのが好きな鬼よ」

「鬼?俺の知ってる鬼とはえらく違うんだな」

「どんなのを想像したのかは知らないけど想像と現実は必ずしも一緒じゃないからね」

「夢を壊すような事言わないでくれるか?それよりもさっきの話だが、幾つか聞いて良いか?」

「落ち着きがないわね。答えられる範囲なら良いわよ。何かしら?」

「先ずは一つ目、ここって幻想郷であってるか?」

「・・・確かにここは幻想郷であってるけど、あんたは幻想郷に来るのは初めてよね?」

「ああ、その通りだ」

高橋が幻想郷の名を口にした途端、霊夢の表情が僅かに変わった。

「なんで初めて来たはずのあんたが幻想郷を知っているのかしら?」

そう告げた霊夢から高橋はある感情を感じた。未知のものに対しての自己防衛の感情、警戒心である。

(明らかに警戒されてんな。当たり前か、知らないはずの事を知ってる奴がいるんだ。警戒されてもおかしくねぇ)

一方の萃香はと言うと、話を聞いているのかいないのか瓢箪で頻りに何かを飲んでいた。

「俺が幻想郷を知っているのは紫の奴から聞いたからだ」

「紫から?もしかして今回の異変について?」

「察しが良いな。どうも俺には『特別な力』が有るからとか色々あって紫の奴にこの幻想郷の異変とやらの解決を頼まれたんだよ」

「力ねぇ・・・。取り敢えず信用はしておくけど、あんたは幻想郷について何処まで知ってるの?」

霊夢から警戒の色が消えたのか先程まであった威圧感は既になかった。

「八雲 紫が管理していて、妖怪や存在を忘れられた者達が多く存在する世界である事。現在、謎の異変によって『弾幕ごっこ』とやらがギャンブルに変わっている事。以上だ」

「そう。先ずは何処から説明しようかしら」

「ならその『弾幕ごっこ』とやらについて教えてくれ。少しばかり興味があった」

「はいはい。簡単に言えば『弾幕ごっこ』はこの幻想郷で用いられる決闘手段の事ね。妖怪や人間の力関係を対等にするためのルールよ」

「対等にするためのルール、ね。それは確かにありがたいな」

「そしてこの弾幕ごっこのもう一つの特徴としてスペルカードがあるわ」

「スペルカード?」

高橋は霊夢の言葉を繰り返した。

「スペルカードは自分の技を記したもので、予め使用枚数を決めておいてこれを相手に全て攻略されたら負けになるわ」

「『弾幕ごっこ』ってのもなかなかに楽しそうだな。それがどうギャンブルに変わったんだ?」

「きっかけはこれよ」

そう言うと霊夢は一枚の紙を寄越して見せた。その紙には以下の文が綴られていた。

 

《新たなるゲームへの変更》

本日より、幻想郷の全てにおいて一切の『弾幕ごっこ』を禁止する。これにおける期限はないものとする。

それに伴い、今後の争いの解決には全て、賭けを用いたゲームをする事。

ルールの詳細については下記の通りである。

 

・対戦者はゲーム前に予め何かを賭けてからゲームを始める事(当人達が同意すれば如何なるものでも構わない)。

・ゲームの勝敗によって決められた内容は倫理等に反しない限り、絶対遵守される。

・ゲーム中の暴力行為、及び不正発覚は如何なる場合であってもその者の負けとする。

・原則として、ゲームの制限時間は最長で二十四時間とする。それでも決着がつかない場合、他のゲームでの再戦とする。

・ゲーム中の能力の使用は原則として不正にはならないものとする。

・『弾幕ごっこ』に戻したいのであれば私とのゲームに勝つこと。

 

以上のルールに従って、素敵なギャンブルライフをお楽しみ下さい。

ゲームマスターより

「なんだ?このふざけた一方的なラブレターは」

高橋はため息をつきながらその紙を霊夢に返した。

「一週間くらい前にその紙が幻想郷中のあちこちで配られたみたいよ」

「取り敢えず大まかなことはわかったが、これからどうすりゃ良いんだ?」

「まずは実際にやってみたら?でなきゃ異変解決どころでもないでしょう」

「確かにそうだな。なら霊夢、なんかゲームをしようか」

「ええ。何をしようかしら・・・」

と、霊夢が周りを見渡すと不意に萃香が口を開いた。

「その勝負、私にやらせてよ」

「萃香?急にどうしたのよ」

「いやさ、二人の話聞きながら酒飲むのも少し退屈だからね」

「俺は別に構わねぇよ」

高橋が賛成すると萃香は飲んでいた瓢箪から口を離した。

「なら早くやろっか。私が勝ったら美味い酒でも奢ってよ。愛乃は何を賭ける?」

高橋は少し考えるとニヤつきながら萃香に告げた。

「なら俺が勝ったら一週間萃香は酒禁止な。それか俺の言う事を一つ聞くかだな」

笑いながら言う高橋の言葉を聞いて萃香の顔が凍った。

「それ良いわね。こっちも毎日ここで飲んだくれられて困ってたのよ」

高橋の言葉に霊夢も同意の形を見せた。それには流石の萃香も動揺を隠せないようだった。

「いくら何でも一週間ってひどくない!?私にとって酒は命だよ!?」

「嫌なら勝てばいいじゃない。そうすれば愛乃からお酒貰えるんだから文句ないでしょう?」

霊夢の正論に萃香はぐうの音も出ないようで諦めるように頷いた。

「わかったよ。勝って勝利の美酒に酔いしれてやるさ」

萃香は覚悟を決めたと言わんばかりに真剣な目をすると、高橋に対して告げた。

「この私を怒らせたことを後悔させてやるよ!」

 

「符の壱『投擲の天岩戸』!」

 

萃香が自身のスペルカードを叫ぶと同時に辺りは光に包まれた。

「ん?」

光が消え、高橋が目の前を見ると先程まで何も無かった卓袱台の上にある物が置かれていた。

「これって、サイコロか?」

高橋が卓袱台を見ると丼と三つのサイコロ、それと何枚かのコインが置かれていた。

「サイコロね。と言うよりチンチロリンかしら?」

「そうだよ。チンチロリンのルールは知ってるかい?」

「何度かやった事はある。ヒフミで倍払い。シゴロは2倍、ゾロ目は3倍、ピンゾロは5倍の取りであってるか?」

「ついでに言うと、親がヒフミ、一の目もしくは六の目以上なら子は振る事はないってのもわかってるよね?」

確認を取るように萃香は聞いた。

「大丈夫。その辺もわかってる」

萃香の言ったチンチロリンとは、親と子(カジノなどで言うディーラーとプレイヤーの様なもの)の互いが出したサイコロの出目の強さを競う代表的なサイコロ賭博の一つである。

チンチロリンのサイコロの出目とは丼の中にサイコロを三つ投げ、うち二つが同じ目の場合、残ったもう一つの数字が出目となる。

例えば、サイコロを振って三つのサイコロが二、二、五となった場合は五が出目となる。

目の強さは一が一番弱く、六が最も強い。だがこれ以外にもいくつかの役がある。

それが先程高橋が言った、ヒフミ、シゴロ、ゾロ目、ピンゾロである。

最初にヒフミとはサイコロの出目が一、二、三の目で作られる役の事であり、最悪の役である。この役が出てしまったら賭けた(若しくは賭けられた)金額の倍の額を支払うことになる。

次にシゴロ。これは三つのサイコロが四、五、六の目で作られる役。この目が出た場合、賭け金の倍の額を手にすることができる。

そしてゾロ目。これは三つのサイコロが全て同じ目で作られる役。この場合は賭け金の三倍の額を手にすることができるが、一の目のゾロ目、俗に言うピンゾロは特別。掛け金の五倍の額を手にすることができる(ゾロ目の額はローカルルールなどによって様々である)。

この様にそれぞれのプレイヤーは最大三回のうちにいずれかの役を作らなければならない。

 

「確認も済んだしさっさと始めようぜ。親はどっちにする?」

賭け金代わりのコインを互いに配り終えたところで高橋が問うた。

「それもこれで決めようよ」

丼の中からサイコロを一つ取りながら萃香が答えた。

高橋も残ったうちの一つを手に取ると二人ともサイコロを振った。

二人の手から離れたサイコロは徐々にその動きを止めてやがてその運命の目を露わにした。

「四か」

萃香の出目は四。そして対する高橋の出目は、

「・・・おいおい、マジかよ」

一だった。

「はっはっは、早速ついてないね。それじゃあ遠慮なく振らせてもらうけど、いくら賭ける?」

手の中でサイコロを転がしながら萃香は笑って聞いてきた。

「(コインの数はそれぞれ三十枚。流れを掴む前に馬鹿みたいに賭けるのは危険だな)」

高橋は積まれたコインの山から一部を取ると萃香に質問した。

「始める前に確認したいんだが、賭け金の上限と親の継続についてだ」

「んー、別に特に考えてなかったけど、なら賭け金の上限は十枚。親は連続で二回までにしようか」

「はいよ。なら俺の賭け金は五枚にしよう」

そう言って高橋は五枚のコインを置いた。

「それじゃ、今度こそ始めるよ」

そう言って萃香はサイコロを丼の中目がけて振った。甲高い音を鳴らしながら転がるサイコロ。次第にその力を失い次々と目を天に向けて一つ、また一つと動きを止めていった。

そして運命の一投目。

その結果。

 

「おいおいおいおい、何だよこれ」

 

萃香の一投目、なんと初っ端から六のゾロ目、三倍役。つまりは高橋はコイン十五枚を失ったことになる。

 

「ど頭から不運だね〜。もう一回やったらもしかして次で終わりなんじゃないの?」

萃香はあからさまに馬鹿にした様な笑顔を見せてきた。

「幾ら何でもこれはひどいわね」

霊夢もどこか呆れ顔で言った。

「まだまだ始まったばかりだろうが。勝った気になるには早いだろ」

「そりゃそうか。でももう一回私の親があるのは忘れてないだろうね?」

「勿論わかってる。次は二枚賭ける」

そう言って二枚のコインを高橋が出すと萃香は途端に口を開いた。

「何さ愛乃、さっきまで強気だったくせにもう弱腰じゃん」

「言ってろ。こちとらこれでも今出せるギリギリのラインだ。もし三枚以上賭けてピンゾロなんてことになったらその時点で俺の負け。サイコロも振れないで負けなんざまっぴらごめんなんだよ」

萃香の言葉に高橋は忌々しげに答えた。

そして二度目の萃香の親。その一投目。出目は四、二、一。メナシである。

「んー。さっきので運が尽きたかな」

続けて二投目。三、二、五。またもやメナシ。

後が無くなった萃香、続く三投目。六、四、そして最後の一つは、

「六か」

出たのは六、四、六。つまり出目は四となった。

「惜しいなー。六の目だったらそのなけなしの二枚も手に入ったのに」

明らかな皮肉を込めながら丼を渡してくる萃香。

「今から取り返せば問題ないさ。俺の勝負強さを見せてやる」

そう言ってサイコロを強く握りしめると丼に向かって振った。

「やれるもんならやってごらんよ」

萃香の言葉を気にもとめず丼の中で転がるサイコロを真っ直ぐ見続ける高橋。

一、六、と二つのサイコロが動きを止め目を出すと、残る一つのサイコロに全員の視線が集まった。

そして、やがてその最後の一つが徐々に力を失っていく。

そして、

「一だ。一が出た」

出目は六。それを見るとえらく間抜けな声で高橋が口を開いた。

「せっかく勝っても張りが小さいと意味がないよね」

小馬鹿にした様子でコインを寄越しながら萃香は笑った。

「取り分はどうであれ、勝ちに変わりはないだろうよ」

そして巡ってきた高橋の親。それに対して萃香の賭け金は、

「七枚賭けるよ」

言って萃香は七枚のコインを差し出した。残りの枚数が十七枚の高橋からすればゾロ目を出された時点で負けが決まると言う危機的状況である。

「(この親番、ここが最初の分岐点だな)」

そう考えれば必然的にサイコロを持つ手に力が入る。だが、高橋に焦りの色はない。

そして緊張の第一投目、高橋は丼の中へとサイコロを振った。丼の中で縦横無尽に転がるサイコロが一つ、また一つとその動きを止める。

やがて最後の一つもその動きを止めたサイコロを見るや否や、その場の全員が驚いた。

丼の中には四、五、六の目を出したサイコロ。つまりシゴロ、二倍役である。これによって萃香から賭け金の二倍、十四枚が高橋へと支払われる。その結果、高橋の残りの枚数は三十一枚となった。

「流石だね〜。初っ端から勝負を巻き返すなんて」

「これぐらいないとつまらないだろ?」

萃香の軽口に高橋も適当に返した。

続く二度目の親。萃香は賭け金に先程と同じく七枚を差し出した。

「その運が何処まで続くか見ものだね」

そして親の高橋の一投目。サイコロを振って出たのは六、五、六。出目は五であった。

それに対して萃香の一投目。

三、三、二。出目は二となった。

こうして高橋は更に七枚のコインを手に入れた。

それから数分後、未だに二人の勝負は続き、どちらも引かぬ一進一退の攻防となっていた。

現状、互いのコインは萃香、四十四枚。高橋、十六枚。

枚数差こそあるものの、高橋は一つ気掛かりな事があった。

それは萃香が親の際、こちらが賭け金を高く張った場合にゾロ目が多く出ている事だった。無論それが偶然ではなく萃香が何かしらしている事は察しているが、肝心の内容が未だにわかっていなかった。

そして高橋はある一つの仮説に確信を持っていた。

 

伊吹 萃香は高橋 愛乃を舐めている。

 

こちらが高く賭けた時にゾロ目を出すくせに時折こっちが負けない程度に手を抜いていること、そして自分の親の時にのみ行っていること。その二点がこの仮説を裏付けるにこと足りていた。

でなければ、萃香がもし本気なのだとしたら自分はとっくの昔に負けているはずであるからだ。

この事実を知って高橋の中にある感情が浮かんできた。

それは勿論怒り、憤怒の感情。

 

などではない。

 

「(これはもしかしたら好機かもしれない)」

寧ろこの状況を喜んでいた。

何故なら、如何に萃香に遊ばれていようと、勝負はまだついていないのだから。

まだ勝てる可能性が残っているのだから。

「(此処ら辺が正念場ってやつか・・・)」

「長考もいいけどあんたの親だよ」

高橋が内心で考え込んでいると、萃香が丼を寄越しながら言った。

「ああ。それにしても良くもそこまでゾロ目を連発できるな。イカサマでもしてるんじゃないだろうな?」

「馬鹿も休み休み言いな。そんなんじゃない。念力みたいなものさ」

「念力?」

「そうさ。念力がサイの目を左右するんだよ」

萃香が何処ぞの班長のような事を言ってきた。

「とかなんとか言ってどうせ何かしら汚ねぇ小細工のイカサマだろう?そんなつまらない嘘はやめろよ」

高橋は萃香を煽るように笑いながら聞いた。案の定、萃香の顔が険しくなった。

「ふざけるな。私たち鬼は嘘が嫌いだ。だからその鬼の名に誓って言うよ。私はあんたの言うイカサマなんてしちゃいないよ」

「なら今までお前がやったのはやっぱりお前自身の能力。どう言うわけかそいつでサイの目を操ってるってわけだ」

予想通りの結果に納得したように高橋は笑った。

「・・・ああ、そうだよ。私の能力は“密と疎を操る程度の能力”。物質だろうと何だろうと萃めるのも疎めるのも私の思うがままになる。それでサイコロの目を萃めたのさ。私がその気になれば何もしないであんたを負かすことも出来たのさ」

余計なことを口走ったと思いながら萃香は答えた。

確かに萃香の言う様にこれが彼女の能力によるものならば先程霊夢が見せた紙にもある様にイカサマでは無い。

「へえ。流石は鬼の子、とんでもない能力をお持ちのようだ」

依然として煽る態度をやめない高橋に怒りが募る萃香。

「それなのになんでそうしなかったのかわかる?あんたみたいな奴に全力を尽くすなんてただの弱い者いじめ。そんなの鬼の名折れよ」

「はっはっは!」

それを聞いた高橋は突然笑い出した。

「何が可笑しいのさ」

「とうとうおかしくなったのかしらね」

萃香と霊夢が笑い出した高橋を不安な様子で見ていた。

「いや、悪い悪い。萃香の冗談があまりに面白すぎてツボに入った」

「冗談?」

霊夢が繰り返す様に問うた。

「ああ。そうだよ。だってそうだろ?相手の実力もわかってないくせに弱い者いじめとか言いだしてんだからな」

「それじゃあ何さ。この状況で私に勝てるって思ってるの?」

萃香が苛だたしげに聞いた。

「思ってるさ。少なくとも流れは今俺に来てる」

萃香の質問に高橋は怯むことなく答えた。

「嘘だと思うなら一つジャンケンでもしてみようぜ」

「何で態々やるのさ」

「なに、俺に流れが来てるってのを証明するだけさ」

言われるがままにジャンケンをすると萃香はグー、高橋はパー。無論高橋の勝ちだった。

「見ろよ。やっぱり俺に流れが来てる」

「たかがジャンケンに勝っただけでそこまで言えるなんておめでたいね」

「いいや。充分すぎる程だよ」

まるで既に勝ちを目前にしていると言わんばかりに高橋は言った。

その姿見た霊夢はあることに気がついた。

「(あら?今愛乃の目が光ったような・・・)」

ほんの僅かな瞬間、高橋の目が黒から青く光ったのである。一方の萃香はというと、高橋のその変化に気がついてはいないようであったが。

「で、俺の親だが萃香は何枚賭ける?」

「(愛乃のあの態度、何か企んでるのは確かだ。ならここは低く賭けて様子を見ようか)」

「まさかとは思うがさっきまで人を弱者呼ばわりしてたくせに様子見だなんてことはねぇよな?」

萃香がコインを置こうとした時、途端に高橋が口を挟んで来た。

「人を小馬鹿にしておいて自分は逃げ腰とは鬼ってのは大したことないのかな?」

高橋の言葉を聞いた萃香の眉がわずかに動いた。

「舐めるなよ!あんたなんか相手に私は逃げも隠れもしないよ!」

こうなればもう売り言葉に買い言葉、萃香は上限いっぱい、十枚のコインを叩きつける様に置いた。

「これなら文句はないよね」

「当たり前だ。ここまでしてもらっておいて文句も何もあるかよ」

「そう、ならいいわ。けどわかってるよね?」

「何がだ?」

「人をそこまでバカにしておいて負けましたで済むと思ってるの?」

「・・・何がお望みかな?」

萃香の質問の意図を察したのか高橋は端的に尋ねた。

「賭け金の追加だよ。私が勝ったら本当なら攫っておくとこだけど、酒と追加で腕一本。それで勘弁してあげるよ」

「萃香、それは幾ら何でもひどいんじゃないの?」

萃香の提案に霊夢が口を挟んだ。

「わかった。それでいい」

が、高橋はこれを二つ返事で受け入れた。

「偉大なる鬼に喧嘩吹っかけて負けたんだ。命があるだけ儲けもんだろ」

高橋の発言に霊夢は呆れるしかなかった。

「とはいえ、痛いのは好きじゃないんでね。ここは是が非でも勝たせてもらうよ」

「だから、そんなにうまくはいかないんだって」

「そうかな?」

萃香の言葉に高橋が疑問符で返した。

「ならそろそろ決着をつけてやるよ」

そう言って高橋はサイコロを取ると勢いよく振った。

「(馬鹿なやつだ。そんな都合良くわけがないんだ)」

萃香がそんな事を考えていると、次第にサイコロがそのは動きを止めた。

─── その結果 ───

 

「嘘でしょ・・・」

丼の中を見た萃香は無意識的に呟いた。それは見ていた霊夢も同じだった。

二人の顔を見た高橋は笑いながら、

「なんて言うか、『目には目を歯には歯を』ってやつかな」

そう告げた。

高橋の一投目、その結果は、

「ピンゾロで五倍だ。文句無く俺の勝ちだよな?」

丼の中には一の目を出したサイコロが三つ。これによって萃香のコイン全てが高橋へと移された。

つまり、この勝負は高橋の勝利で決着が着いた。

「・・・私の、負け?」

未だ呆然としたまま、萃香が聞いた。

「残念だがその通りだ。そう言うわけで、約束は守ってもらうぞ」

「わかってるよ。私も約束したからには守る。一週間酒我慢するよ」

萃香が覇気の無い表情で答えた。その姿はまるで泣きそうな子供そのものだった。

「何を馬鹿なこと言ってんだよ萃香。人の話は最後まで聞くもんだぜ」

萃香の言葉を否定しながら高橋は笑いながら言った。

「確かにそうね。あんた、何か忘れてない?」

高橋の言葉の意味を理解したのか霊夢も乗ってきた。

「あっ」

記憶を辿ると答えは簡単に出た。

『なら俺が勝ったら一週間萃香は酒禁止な。それか・・・』

「言う事を一つ聞くか・・・」

納得した萃香は思わず呟いていた。

「わかったか?例えお前が負けたとしても俺はお前から酒を取り上げるつもりは最初からなかったんだよ」

いたずらが成功した子供のような顔をしながら高橋は言った。

「なんだよ。愛乃って意外と意地悪なんだね」

萃香も笑って返した。

「不思議なことによく言われるよ」

「それで?愛乃は私に何を命令するの?」

「そうだな。幻想郷の案内も兼ねて萃香、俺とデートしないか?」

「そんなのでいいの?」

「愛乃ったら思ったより大胆ね」

「ははっ、それで萃香、どうする?嫌なら酒一週間我慢でも俺は構わないぜ?」

萃香と霊夢のそれぞれリアクションに苦笑いしながら高橋が再度問うた。

「もちろん行くよ」

「ならさっさと行こうか。んじゃ霊夢、ちょっと出かけて来るな」

「ちょっと!先にお賽銭入れて行きなさいよ!」

「帰ってからな〜」

霊夢の叫びを適当に返しつつ二人は博麗神社を後にした。




自分の書きたいことを書いては消して、書いては消して、そして考えては艦これに逃げていたら約二ヶ月がたっていました。文才の無さに泣きたくなります。

お気に入り登録していただきました夕音さん有難うございます。

誤字、脱字、ご意見、ご感想などありましたらよろしくお願いします。

次回は萃香との人里デート(?)となります。
それではまた次回


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3話・人里へ行ったらまたギャンブル。

第2話から長いこと間を空けてしました。
これからはもう少し早く更新できるようにしていきたいと思います。
それでは本編をお楽しみください


「さて、デートするのは良いが、これから何処に行こうか」

博麗神社の長い階段を下りた愛乃と萃香はこれからの行き先を考えた。

「それは愛乃がどこに行きたいかなんだけど、どこ行きたい?」

「取り敢えずこれからこっちの世界で世話になるんだから人の多いところに行きたいな。異変の話も調べたいし」

「なら先ずは人里だね。これから何かと行くだろうし」

「だったら決まりだな。その人里まで案内してくれよ」

「わかったよ。じゃあ、はい」

そう言って萃香は手を差し伸べた。

「?急にどうした?」

差し伸べられた手を取って愛乃は尋ねた。

「いやさ、ここから人里まで歩いて行くのは遠いから飛んで行こうかなってね」

「は?飛んで?」

高橋が聞き返そうとした瞬間、視界が大きくぐらついた。自分の体が浮いているのである。

「うおぉぉーーー!高ぇぇぇー!」

「ちょっと愛乃、あんまり暴れるなよ。落としたらどうすんのさ」

「急に飛ばれたら誰でも驚くわ!そもそも俺の世界では飛べるような奴なんかいやしねぇよ!」

「幻想郷じゃ飛べないと不便だから飛べる様になりなよ」

ゆっくりと飛びながら半ば呆れる様に萃香は言った。

「簡単に言ってくれるなよ。こっちはただの人間だぞ」

「ただの人間が紫に幻想郷の異変解決なんて頼まれるわけないじゃん」

高橋の反論も虚しく呆気なく萃香に論破されてしまった。

「それより一つ聞きたいんだけど良いかい?」

「お好きにどうぞ」

萃香の言葉に愛乃はつまらなそうに言った。

「最後に愛乃が言った、『目には目を歯には歯を』ってどう言う意味?」

「どう言う意味って?」

「ただ偶然にピンゾロが出たならわざわざあんなことは言わない。だったら愛乃があの時に何かしたって考えるのが当然だよ」

「なかなか悪くない読みだが、何処に自分の秘密をバラす奴がいるんだよ」

「私だって教えてやったんだから教えてくれても良いじゃん」

「まあ確かに、そのおかげで勝てたようなもんだから教えるついでに反省会といこうか」

「反省会?なんでわざわざ反省会なんてするのさ?」

高橋の言葉に萃香は疑問を抱いた。

「俺が勝てたのはお前のお陰って事さ」

「はっ?」

「俺の能力は簡単に言うと相手の能力をコピーして使えるって能力さ」

そう。これが高橋 愛乃が持つ能力である。子供の時ある日を境に手にした能力だ。

「てことは私の能力をコピーしたの?」

「ああ。だけど困ったことに肝心のその能力が何かがわからなかった。何かをしているのは間違いないのにそれを知る術がないんだ。そして考えた。だったら萃香に教えてもらえば良いんだってな」

「・・・」

萃香は無言で返した。

「それでお前を怒らせようと軽く挑発したら予想以上の反応をしてくれたからな。助かったよ」

「成る程ね。私はまんまと愛乃の策に嵌ってペラペラ喋ったってわけだ」

「頭に血が上ったやつにまともな思考が出来るわけないからな。油断させるって狙いもあったし」

(紫に言われた事をそのままってのが癪だがな)

「だからお前の能力がわからなかったら負けてたよ。コピーした後もちゃんとやれるか不安だったしな」

「ならなんであの時に腕一本なんて馬鹿な条件を受けたのさ」

「俺が思うに博打ってのはな、例え自分が死ぬ直前だとしてもそれを相手に悟られちゃあいけないもんだと思ってる。相手に自分が弱いと思われた時点で負けに近づいてるからな。だから無茶だとしても虚勢を張らなくちゃいけないんだよ。それに」

「それに?」

「不条理に身を委ねるのがギャンブルの本質ってやつだろ?」

高橋は迷いなく答えた。

「本気で言ってるとしたら本当に馬鹿だよね」

高橋の言葉に毒づきながらも萃香はどこか楽しそうな顔をした。

「はい、反省会終了。それより萃香、人里ってのはあとどれぐらいだ?」

「もう着くよ。ほらあれさ」

萃香はすこし離れた場所を指差した。

 

「ここが人里か」

人里に到着した高橋は呟いた。

そこはまるで一昔前にタイムスリップした様な光景だった。

「思ったより悪くないな。余計なものは無いし、何より空気が良い」

「気に入ったんなら良かったよ」

「それじゃあ萃香、案内よろしくな」

そうして二人は里の奥へと進んで行った。

それから数十分、萃香に案内されながら高橋はあちこちを見て回ったが、異変解決の手掛かりになるような物は見つからなかった。

「なんか一つくらい異変解決のヒントくらいあるかもと思ったんだがなぁ、情報無しかよ・・・」

 

「おい逃げんじゃねえ!待ちやがれ!」

 

と、高橋が項垂れていると背後から男の怒声が聞こえた。

「なんだ?」

振り返ると二人の男が高橋達の方へと走ってきた。と言うよりは先に走っている男をもう一人が後ろから追っているようだ。

「そこのお兄さん、そいつを止めてくれ!」

後ろから追っている男が高橋達に向かって叫んだ。

「退け!このクソガキ供!」

追われている男も高橋達に叫ぶと、それを聞いた高橋は無言のまま男の前に立った。

「退けって言ってんだろうが!」

自分の進路に割って入ってきた高橋に男は勢いよく殴りかかってきた。

男の右腕が高橋の顔めがけて迫って来る。しかし、高橋は動じない。

数瞬後、ゴンッと鈍い音が響いた。

それは高橋から()()()()

殴ってきた男の方からである。

 

「黙って寝てろよ。クソ野郎が」

高橋がつまらなさそうにいうと同時、男は意識を失いゆっくりと倒れた。

「見たか。これが必殺のクロスカウンターだ」

高橋は男の拳が自分に当たる直前にその拳に合わせて自分の左腕で男を殴りつけたのだ。

「止めろって言われたから殴り飛ばしたけどこれで良いのか?」

「先に殴ってきたのは向こうだしね。にしてもなかなかやるね」

「なんだ惚れ直したか?内角をやや抉るようにして打つのがコツだな」

高橋が言いながら左腕でジャブを打っていると後ろから追っていた男が話しかけてきた。

「お兄さん、その男を捕まえていただきありがとうございます」

「いや、俺はただそいつが殴ってきたからやり返しただけですよ」

「それでも助かりました。本当にありがとうございます」

「そうかしこまらんでも。えーと、あなたの名前は?」

「申し遅れました。私、この先の賭場で働いています兵八と言います」

「ご丁寧にどうも。俺は高橋 愛乃、そっちは萃香だ。それで兵八さん、こいつは何をやらかしたんだ?」

「実はこの男、博打で負けたのに金が無いって逃げ出したんです」

「そいつは穏やかじゃないな」

「ええ。なので本当にありがとうございました。もし機会があればうちの店にお越し下さい」

「そん時は世話になりますよ」

「はい。ではこれで失礼します」

言うと兵八は倒れていた男を引きずりながら来た道を帰って行った。

「んじゃ、気を取り直してまたどっかぶらつくか。・・・どうした萃香?」

「愛乃、さっきの奴どう思う?」

先程から黙ったままだった萃香が口を開いた。

「・・・どう思うったって」

言われて高橋は先程の男、兵八のことを思い返した。人当たりの良さそうな物腰や態度、そして今までの会話で感じたことは一つであった。

「多分萃香が思ってることと一緒だよ」

「・・・そう。それで、この後はどうする?」

「まぁせっかく誘われたんだ。早速その賭場に行ってみるか」

そう言って二人は先程兵八が戻って行った方へと向かった。

暫く進むとそれらしき二階建ての木造の店が見えてきた。

「店の名前が『運否天賦』とはまた酷いセンスだな」

「まんまだね」

二人は看板に書かれた店の名前を見るとそんな感想を言いながら暖簾をくぐった。

「結構空いてるな」

「まだ昼だからね。夜になればもっと此処も混んでくるんじゃない?」

店の中に入り、辺りを見渡すとちらほらと人の姿を見る程度でそこまで多くはいなかった。

「おや?貴方は先程の高橋さん。それに萃香さんも。早速お越し頂きありがとうございます」

高橋達の姿を見ると先程の男、兵八が相変わらずの態度で話しかけてきた。

「ああ。折角招待されたのに来ないってのも失礼だろうってね」

「そんな、とんでもございません。我々は皆様が好きな時にお越し頂き、この店で楽しんでいただければそれで幸せでございます」

「そうかい。なら遠慮無く遊ばせてもらうよ」

そう言って店に上がると高橋と萃香は店の中へと入っていった。

店の中を見渡すとポーカーやブラックジャック、丁半博打などが店のあちらこちらで繰り広げられていた。

「ここは二階建てみたいだが二階は何か無いのか?」

「二階は雀荘となっておりますよ。残念ながら開くのは夜だけですが」

「そいつは残念だ。なら何をするかな・・・」

「お決まりになられていないのであれば僭越ながら私からよろしいでしょうか?」

「ん?何ですかな兵八さん」

「私と高橋さんとで一勝負いたしませんか?勿論高橋さんが勝てば金を稼ぐ事も可能ですよ」

「そう言われると一ギャンブラーとしてはやらざるを得ないな」

兵八の言葉に高橋は軽く笑って返した。

「では決まりですね。お手柔らかにお願い致します」

「それで?これから始めるゲームは?」

「我々の間では『高低博打』と呼ばれているものでございます。こちらです」

高橋達を先導しながら告げる。

「丁度場所も空いたようです。早速始めましょう」

二人が話していると、丁半博打をしていた客が帰るのを見て兵八はサイ振りをしていた男に話しかけた。

「辰さん、これからこちらの方と『高低博打』をしたいので、すみませんがサイ振りをお願いできますか?」

「あいよ。俺はいつでも構わねえ」

辰と呼ばれた男は表情を変えることなく答えた。

「では、ルールの説明を致します。今から高橋さんには二つのサイコロを振り、出た目の合計がいくつかを予想していただきます。二から六なら『低』、七から十二なら『高』となり、そのどちらか片方に賭けていただきます。『高』か『低』に賭け、予想が当たれば賭け金と同額を得ることができます」

「成る程、だから高低か」

「はい。そしてここからが最も大事な部分になりますが、もし出目が十二か二の時に高橋さんが『高』か『低』かを的中させられれば、賭け金の三倍を得られますが、その逆ならば賭け金の三倍をお支払いいただきます」

「じゃあもし仮に俺が『低』に一万賭けて出目が十二なら三万を失うってことか?怖いルールだな」

「一度に大金が動けばそれだけで皆様のギャンブルに対する熱は増しますからね。それとこの博打に賭け金の上限はございませんので、ご自由にお張り下さい」

「ああ、わかった」

「それから一つ。始める前に重要なことを言っておきます」

先程までとは違い、影が指した様な雰囲気で兵八は言った。

「通常、現在の幻想郷のルールにおいて、不正の発覚はその時点で敗北となりますがここではそれはございません。その代わり、いかなる理由でも罰則金として現金で百万円を支払っていただきますがよろしいですね?」

「成る程、負ける代わりの罰則金(ペナルティー)か。良いよ、その代わりそっちも同じ条件を受けるんだよな?」

「勿論でございます。と言っても私達はイカサマなど致しませんし、高橋さんがその様なことをなさるとは思いませんが、ここの規則ですので何卒、お気を悪くなさらないで下さいませ」

「そっちこそお気になさらず。それよりさっさと始めましょうや」

「では始めましょうか。辰さん、お願いします」

「サイコロ入ります」

辰の一言でサイコロはツボに入れられそのまま床に敷かれている白い布の上に伏せられた。

「さあ、張った張った!高か、低か!」

「さあ高橋さん、一回目、どうなさいますか?」

「じゃあ手始めに高に五万賭ける」

兵八の言葉を聞きながら高橋は答えた。

「開きます」

そう言い、辰はツボを開く。

「一、二の低!」

出目は低。よって今回は高橋の負けとなった。

それを隣で見ていた萃香がここに来て初めて口を開いた。

「愛乃、あいつ何か怪しいよ。気をつけな」

そんな事を小声で高橋に言ってきた。

「安心しろ。わかってる」

言われずともわかっていると言わんばかりに高橋は答えた。だが、それも当然と言えるだろう。なにせこれは相手が用意してきた博打。イカサマや裏があると考えるのは大前提である。

続く二回目、辰がサイを振ると同じく高橋は高に五万を賭けた。

「三ゾロの低!」

結果はまたしても低。

「しかし高橋さん、なかなかついていませんね。確率五十パーセントとは言え、立て続けにはずれとは」

兵八が見え透いた嫌味を言ってきたが、高橋は気にもとめず一つのことを考えていた。

「おや?何を悩まれているんですか?」

「いや、大したことじゃない。さっさと続けようぜ。次は高に六万賭ける」

高橋、三回目にしてまたしても高を予想。

高橋が答えると辰がツボを開いた。

「一、二の低!」

「おやおや、残念でしたね。なんと不幸か」

サイの目を見るや否や兵八が明らかに嘲笑った様子で言ってきた。

「なに言ってんだ、俺はまだツイてるさ。だって今のがピンゾロだったら俺は十八万も持っていかれてたんだからな。しかし、こうも負け続けると泣けてくるな」

「もうお辞めになりますか?」

「いや、ただ一つ言いたいことがあるんだがいいか?」

「ええ。構いませんよ」

「なら遠慮無く。そのクソ下手な芝居はやめろ」

高橋の言葉を聞いて、兵八は言葉に詰まった。

「何を仰りたいのかよくわかりませんが?」

「鬼の前で嘘はつくもんじゃねぇよ。お前、演技下手過ぎんだよ。そのいい人ぶった態度をやめろ」

先程萃香が高橋に聞いた『さっきの奴どう思う?』とはこの事を指していたのである。萃香も最初に出会って会話している時から兵八の違和感に気づいていた。

「仮にあなたの言う通り、私が演技をしていたとして、何の得があると言うのですか?」

「んー。例えばの話だが、相手に好印象を与えておいて、油断させてから店に招いて有り金を搾り取れるだけ搾り取るって魂胆なのかもなぁ」

「・・・」

兵八の顔が大きく歪んだ。明らかな動揺、図星である。

「沈黙は是なりだ。何をしようと勝手だがお前なんかじゃ俺には勝てねぇよ」

「・・・調子にのるなよ、クソガキが」

途端に口調が変わった兵八が唸るように言った。

「俺の演技に気づいたからって勝った気になってるようだが、現にお前はこうして俺とギャンブルしてる!それは罠にかかってるも同じだろうが!」

「自惚れるなよ。お前程度のおつむで俺を罠にかけれるなんて思うな。俺達がここにいるのはお前に騙されたからじゃない。お前を潰す為だ」

「は?」

「人を簡単に騙せると思ってるその考えが気に入らない。だから俺はお前を潰す為に来たんだよ」

「俺を潰す?能書きはいい!未だに一銭たりとも稼げてねぇ奴がやれるもんならやってみろよ!ほら、さっさと賭けな!」

さっきまでとは打って変わり、凄まじい剣幕で食ってかかって来た。(元々こちらが本性ではあるが)

「高に二十万」

ここに来て高橋は最高額二十万を賭けた。

(クズがっ!人を散々コケにしやがって。だがお前に勝ちはない。その金はいただいた!)

「開きます」

兵八が考えていると同時にツボは開かれた。そして、

「二、四のて・・・」

辰がツボを開き、出目を確認しようとした時、高橋が動いた。辰が持っているツボを奪い取ったのである。

「貴様、何をしやがる!」

辰が怒鳴りながら高橋に殴りかかったがその拳が高橋に当たることはなかった。

「大人しくしてなよ」

隣にいた萃香が高橋に当たる直前で止めたからである。

「助かったよ萃香」

「惚れ直した?」

「これ以上ないぐらいにな」

萃香の軽口に答えると兵八が口を開いた。

「これは一体何の真似だ?クソガキ」

「その質問にはお前が答えろ。さっきあんたは確かに言ったよな、『私達はイカサマなど致しません』と。ならこれはどういうことだ?」

そう言って高橋は奪い取ったツボの中へ手を入れると中から何かを引きちぎり、兵八へと見せた。

それは細い糸だった。

「こういうのは『毛返し』っていうんだっけか?」

高橋が言う『毛返し』とは丁半博打などで使われるイカサマの一つである。ツボの中に糸を張っておき、その糸にサイコロを引っ掛けて出目を変えるというものである。

「慣れてるやつならある程度はサイの出目を操れると聞いたことがあるが、これはその保険か?」

「何のことかわからんな」

「惚けるな。お前がこの店の人間って時点でそこの馬鹿とグルなのは必然だ。『私達』と言ったのが何よりの証拠。兵八さんよ、イカサマは現金で百万だ。きっちり払ってもらうぞ」

「ッチ、クソが」

毒づきながら兵八は現金で百万を放ってきた。

「これで気はすんだろ。さっさと帰ってくれ」

兵八がその場を離れようとした時、

 

「ふざけるな、この百万でもう一勝負だ」

 

「はっ?」

兵八は自分の耳を疑った。

「聞こえなかったのか?百万を賭けてもう一勝負だ」

「お、おい。待ってくれよ。こちとらその百万でも大問題なんだ。もしもこれ以上負けて損害を出したら俺は・・・」

「んな事俺の知った事じゃねぇ。最初に言ったよな?俺はあんたを潰す為に来たって。そもそもこうなったのはお前自身のせいだろうが。そのくせ自分が危なくなったら命乞いだ?通るかよ、そんなもん!」

「・・・」

高橋の言葉に圧倒された兵八は渋々ながらも元の席に着いたが頭を抱えて俯いていた。

それは自分のこの現状に危機感を感じているから()()()()

(やった!うまくいった!計算通りだ!)

この現状が自分の狙いだと気づかれないようにである。

元々兵八はさっきの勝負、イカサマがバレても構わないと考えていた。つまり、百万を取られても問題無いと思っていたのだ。答えは簡単だ。

たとえ今取られてもその後で倍にして取り返せばいいのだから。

(あいつは今イカサマを見破って気が緩んでいるはずだ。そのスキをつけば勝てる)

兵八が用意していたイカサマは一つではなかった。寧ろ先程の『毛返し』はもう一つのイカサマを疑われない為のブラフである。

「・・・本当にその百万を賭けるのか?」

「しつこい。あんたが潰れるまでやるんだ。もちろん百万賭けるさ」

高橋の言葉を聞いて兵八は内心でほくそ笑んだ。この馬鹿めと。

「サイコロ、入ります」

辰がサイコロを振り、ツボが置かれた。

「その前に萃香、一ついいか?」

「何さ?」

「──────────── 。頼めるか?」

高橋が萃香に何かを耳打ちした。

「後で酒奢ってくれるならね」

「何を話してるか知らないが、高か低か早く賭けてくれ」

まるで覇気が無い声で兵八は言った。

「高」

高橋が迷いなく言った。

「それではツボ開きます」

辰がツボを開き、出目が姿を見せようとした時、またしても動きがあった。

しかし今度は萃香が動いた。

目の前の床を勢いよく殴りつけたのだ。

「「何っ!?」」

突然の萃香の奇行に兵八と辰は驚いた。

床を殴った事で凄まじい轟音と砂埃が舞い上がった。それにつられ、周りの客たちも集まって来た。

「これで良いの?」

この行動の理由は勿論ツボが開く前、高橋が萃香に言ったからである。『ツボが開く時に床に穴を開けてくれ。頼めるか?』と。

床に大穴をあけた張本人は何もなかったかのように高橋に尋ねた。

「勿論だ」

高橋がつまらなさそうに言った。

「この野郎!またふざけた真似しやがって!」

兵八が高橋に向かって叫んだが、気にも留めずに返した。

「それはこっちのセリフだ。このタコ」

「んだとコラ!」

「キレるのは勝手だがその前にこれはどういうことか説明しろよ」

そう言って高橋は先程萃香があけた穴を指差した。

そこには気絶して倒れている一人の男がいた。

「イカサマも結構だが、やるならもっとうまくやるんだな」

「穴熊ってやつだね」

萃香の言った『穴熊』は先程の『毛返し』よりも有名なイカサマと言えるだろうものである。壺振りの目の前に敷かれている布の下の床に小さな穴を開けておき、床下に潜んだ人間がその穴から針などでサイの目を変える。これが大まかな『穴熊』の流れである。

「さて、イカサマのペナルティーだ。もう百万いただこうか」

この言葉を聞いて兵八は初めて演技ではなく本心から恐怖心を覚えた。しかし、それも無理のないことだろう。自業自得とはいえ、立て続けに二百万もの負債を店に与えたのだ。そうなれば、この後の自分の身の安全も保障できないのだから。

(ダメだ、これ以上こんな奴に関わったら、殺される。食い殺される・・・)

当然、兵八にしてみればこれ以上の損害は良いはずがない。だが、自らが提示したルールによって払わなければならない。罰則金を。

(どうしたら良い?これ以上騒ぎが大きくなれば店の信用問題になる。だが、金を払わずに済ませられる方法もない・・・)

「これは一体何の騒ぎだ?」

 

声のした方を見ると一人の男が店の奥から出て来た。

「か、貸元!」

貸元と呼ばれた男の顔を見るや否や、兵八が今まで以上に焦りの顔が見えた。

「何の騒ぎだと聞いている」

「これは、その・・・」

兵八が言葉に詰まる。当然だ。自分から勝負を仕掛け、イカサマをした挙句に二百万程負けましたなどと誰が言えようか。

(右目に刀で切ったような傷、見るからにヤクザ顔だな)

一方の高橋は呑気にそんなことを考えていた。

兵八の明らかな焦り顔を見ると貸元と呼ばれた男は高橋へと視線を向けた。

「兵八が答えないのならば仕方がない。客人、一体何があったのですか」

「そこの馬鹿が二度続けてイカサマ仕掛けたは良いがそれがバレて二百万程俺にプレゼントしてくれたってだけですよ、旦那」

「ほう、今の話は本当か?兵八」

名前を呼ばれた瞬間兵八の体が大きく震えた。それだけこの男の言葉には威圧感があった。

「・・・はい。その男の言う通りです。誠に申し訳ございません」

言って兵八は深く頭を下げた。

「ふむ。ではその床の穴も客人がやったのか?」

「イカサマを暴く為に少々手荒にやったが俺は悪いとは思ってませんよ」

「いや、それに関してこちらは言及するつもりは無い。それより二、三よろしいか?」

貸元は兵八の隣に座ると高橋に尋ねた。

「答えられる範囲でよければ」

「では単刀直入に聞こう。なぜイカサマに気づけたのか」

貸元の質問に高橋は少し考えた後に答えた。

「今回の博打、『高低博打』は一見丁半博打とルールは似ているように見えるが実際はそんなことはない。さっき兵八が言っていたが、確率五十パーセントってのはあり得ない」

「なぜそう思う?」

「紙にでも書けばわかりやすいがサイコロを二つ振った場合、組み合わせは全部で三十六通りある。そのうち六以下がでるのは全部で十五通り。つまり六、七割の確率で高が出る筈なんだ。だが、何度やっても出るのは低だけだった。そこでイカサマを誤魔化すための嘘だとほぼ確信した」

「成る程。兵八、口を滑らせたな。お前のその油断が負けに繋がったのだ」

貸元の言葉に兵八はぐうの音も出なかった。

「後はそこのツボ振りのミスにも救われた」

「俺が?」

突然自分に話を向けられて辰も焦った。

「あんたがサイ振りをして、開く時にあんたはサイよりも毎回ツボの中に視線を送っていた」

「どういう事さ」

隣にいた萃香が聞いた。

「普通ツボが開く時ってのは皆、サイコロに視線が行くもんだ。でもこいつはサイコロよりもツボを先に見ていた。しかもツボの中を俺には見えない様にな。そんな事をするのは何かイカサマをしてるって証拠だろうが」

「辰、お前さんまでなんてザマだ」

「・・・申し訳ありません」

辰も兵八同様深く頭を下げた。

「それで客人、お前さんは『二度続けて』と言ったな。二度目は『穴熊』であろうが、それはどうやって見破ったのだ?」

「これに関してはそこで寝てる奴に後で言っといてくれ。『二度とやるな』って」

「何故かな?」

「床下で隠れてる奴が物音たててりゃそりゃあイカサマもバレるって話ですぜ」

「・・・お前達三人、後で話がある。顔を貸せ」

貸元があからさまな呆れ顔で二人に言った。

「そいつらの処分なんざどうでもいい。それより兵八、この二百万でもう一勝負だ」

兵八達の会話にしびれを切らした高橋が口を挟んだ。

「まっ、待ってくれ、もうとても出来る状況じゃない。わかるだろ?」

「わからねぇな。イカサマのタネが無くなったら勝負は出来ないってか?俺は一度でもこれでやめだなんて言った覚えはないぞ?それに賭けるだけの金はあるんだ、ゲームを続ける権利くらいはあるだろう?」

「だ、だがよ!」

「兵八よ、受けてやりなさい」

貸元が兵八の言葉を遮るように言った。

「ですが貸元!」

「この男の言い分、儂にはわかる。確かに彼に権利がある以上、こちらの勝手な都合で中断ともいかぬ。それにこれ以上事を荒立てれば周りの客への店の信用問題になる。ならばこれはもう受けるしかあるまい。何も難しいことはない。お前が勝てば良いのだ」

「流石は旦那、話がわかるぜ。さあ早くやろうぜ」

貸元がこう言ってしまえばもう兵八には逃げる術などなかった。よって、渋々高橋の勝負に応じるしかない。

「勝負はさっきと同じ『高低博打』一回きり、賭け金は二百万で良いな?」

「好きにしろ」

やさぐれた態度で言葉を返す兵八。

「ならもう一つ追加だ。サイ振りはお前がやるんだ。自分の運命を賭けるんだ、自分でやれば文句もないだろ」

「チッ。ふざけやがって!あとで後悔しても文句言うなよ!」

言って高橋から渡されたツボとサイコロを受け取り、兵八はサイを振った。

「さあ高か低か!」

兵八の言葉に対し、高橋の答えは。

「低だ」

ここにきて初めての低予想。

「開きます」

そう言って兵八は手にしていたツボを開いた。高橋は金を、兵八は自身の今後を賭けた一戦。その結果は。

「ほう、なんと劇的なことか」

「やっぱ面白いやつだね、愛乃は」

二つのサイコロが出した目は赤のピン。ピンゾロ。高橋の勝ちであった。

「そんな、・・・夢だろ?」

「ところが残念、これが現実だ。さて、三倍ルールで六百万いただきます」

「そんな、嘘だ、こんなことあるわけがない!何でこんな都合良くピンゾロが出るんだよ!」

「それはお前の運がないからだろ。それを証拠もなくイチャモンつけんじゃねぇよ」

「んだと!」

「見苦しいわ。兵八よ」

駄々をこねる兵八に怒りを込めた口調で貸元が口を開いた。

「お前さんは二度もイカサマを暴かれこの醜態を晒し、剰え相手の情けで得られた唯一の好機すら逃した。そんな無能にこの店にいる資格は無い。後で荷物をまとめて出て行け」

情けのカケラも見せずに貸元は言った。

しかし、この短時間で六百万もの損害を出したのだから無理もない。

「だからと言ってお前が出したこの損害が無くなるわけではない。それは必ずお前に支払ってもらうぞ」

「・・・う、そだ」

一言そう言うと兵八はそのまま気を失って倒れた。

「ふん、情けない男だ。客人よ、おめでとう。六百万であったな。辰、取ってこい」

「は、はい!」

「しかし、よくもまあ此処までやってくれたものだ。この短時間で六百万などという大金を稼いだ奴はそうはおらん。お陰でこっちは大損だ」

辰が店の奥へ行くと貸元が言った。

「それは褒め言葉として受け取らせてもらいますよ」

「ところでどうだ、その六百万で一つ儂と勝負をせんか?お前さんが勝てばその金が千二百万まで跳ね上がるぞ?」

「せっかくのお誘いですが、お断りします」

「訳を聞こうか」

千二百万。誰もが浮かれるであろう大金。そのチャンスを何故自ら捨てるのか。それに対して高橋は一言で答えた。

「水を求め過ぎれば水に溺れるんですよ」

高橋が言うと同時に店の奥から辰が戻って来た。

「ほら、約束通り全部で六百万だ」

そう言って辰は高橋の目の前に百万の束、計六百万を差し出した。

「確かに。それじゃあ俺たちはこれで失礼しますよ。行こうぜ萃香」

差し出された金を上着の中へしまうと高橋と萃香は店を後にした。

「水を求め過ぎれば水に溺れる、か。ふふ、若僧が生意気なことを言う」

「どう言う意味ですか?」

「人間にとって金、もっと細かく言えば欲というのは人を動かす活力の根源じゃ。それ無くして人は生きられん。しかしそればかりを求め過ぎてしまえば破滅へと繋がりかねん。奴はそれを水に喩えたんじゃよ」

人は水が無ければ生きられず、水に飲まれれば溺死する。それと同じ様に人は欲という活力が無ければ生きられず、欲に飲まれれば破滅する。それが高橋 愛乃の考え方である。

「ようするに何事も引き際が肝心ということじゃ」

そう。要約すればただそれだけのことなのだ。考えればそれほど難しいことではない。なのにそれを皆出来ないのだ。

「一度欲に溺れればもう助かる事はおろか、引き返す事も出来ん。まだいける、まだいける筈と在らぬ幻想を求めてしまうからな」

「でもそんな奴らがいるお陰で俺たちが儲けられるんですよね」

「良くわかっておるな。その通りじゃ。だから儂等は客を大事にせねばならん。それだけは忘れるなよ」

そう言って貸元は気絶している兵八を抱えて店の奥へと戻っていった。

 

 

 

「ところでさ、愛乃」

「ん?」

「さっきの勝負の最後のピンゾロって愛乃が何かしたの?」

店を後にしてしばらく歩いていると萃香が突然聞いて来た。

「いや、ただツイてただけさ」

戯けた様に答えた高橋を見て萃香は「そっか」と軽く笑うとどんな酒を奢らせようかと考えながら人里の案内を再開したのであった。




書きたいことを詰め込んだら文字数が一万を超えてたり、萃香とデートとか言いながら「あれ?萃香のセリフ少なくね?」となったり文才の無さが目立つ気がする・・・。
あと、お気付きの方もいると思いますが、タイトルを一部変えさせていただきました。理由としましては最近同じタイトルの作品があることを知った為です。(もっと早く知っとけよ)

お気に入り登録していただいた自由マークIIIさん、ありがとうございました。

では次はなるべく早く更新したいと思います。


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4話・博麗神社は客は来ても参拝客は来ないらしい。

今年初の投稿となります。
出来ればもっと早くに投稿したかったのですが、ネタが纏まらなかったり新年早々インフルエンザにかかったりとで遅くなりました。(言い訳)
それでは本編をどうぞ。


「流石に動き回ったから少し疲れたな。何処かで一休みしないか?」

賭場を後にして人里の散策を再開していると高橋が萃香に聞いた。

「丁度昼時だしせっかくだからなんか食べて行こうよ。愛乃の奢りで」

「さりげなく人に奢らせようとすんなよ。金は有るけど」

「だってこれってデートなんでしょ?だったら愛乃が出してよ」

「男女平等なんて言葉はこの世界には無いのかよ。元より出すつもりだったけどさ」

そう言いながら高橋と萃香は近くの店に入っていった。

「いらっしゃい!」

店に入って直ぐ様店長らしい人が勢い良く言ってきた。

「ようオヤジ!来てやったよ!」

「お、萃香の嬢ちゃんじゃねえか。久しぶりだな、お連れさんはお前さんの彼氏かい?」

「まぁね。今日はこいつとデートなんだよ」

萃香の言葉を聞くとオヤジさんはニヤつきながら高橋へ視線を移した。

「へぇ、そいつはめでたいな。で、何にする?」

「私は肉うどん一つ。愛乃は何にする?」

「俺も同じのを」

「あいよ。ちょっと待っててくれ」

そう言うとオヤジさんは店の奥へと姿を消した。

「そんじゃ来るまでの間今後の話でもするか」

近くの席に座ると高橋が告げた。

「今後のって言われてもねぇ〜」

「あからさまに面倒がるなよ。とりあえず幾つか確認するとしようか」

「殆どはさっき霊夢が説明したと思うけどね」

「そう言うなよ。状況確認は何においても大事なことさ」

高橋は一呼吸おいて話を続けた。

「まず今から一週間ほど前から弾幕ごっこがギャンブルに変わった。そして元に戻すには黒幕であるゲームマスターとやらを倒さなきゃならない。ここまではあってるよな?」

「うん。確かにあってるよ」

「そこで一つ疑問なんだが、そのゲームマスターとやらが誰かわかってるのか?」

「さあ?」

「さあって、解決する気あんのかよ」

萃香の答えに高橋は呆れて言った。

「それがわかってりゃ苦労しないよ。それにみんな実際たいした被害とかないからさ、危機感とかって無いんだよね」

萃香の気の抜けたような言葉を聞いて高橋は頭を抱えた。

「これでどうやって異変解決しろってんだよ。手掛かりひとつ無いんだぞ」

高橋が項垂れていると店の戸が勢い良く開いた。高橋が入り口に視線を向けると白と黒を基調とした服を着た金髪の女が箒を片手に立っていた。

「いらっしゃい!」

二人ぶんの料理を持って来るとオヤジさんがさっきと同じように言った。

「ん?萃香じゃないか。こんなところで会うなんて珍しいな。しかも男連れか?」

萃香の姿を見るや否や金髪少女がそんなことを言ってきた。

「まあね。今こいつとデート中なんだよ」

「こいつは驚いた。萃香に酒以外に好きなものができるなんてな」

大袈裟に驚くような素振りをしながら金髪少女が言った。

「なんでも良いんだがとりあえず注文してくれないか?」

二人分の料理を運んできたオヤジさんが呆れるように言った。

「折角だから私もうどんにするぜ」

言いながら萃香の隣に座る彼女が高橋へ視線を向けて聞いて来た。

「それでお前、名前は?」

「高橋 愛乃。ついでに言っておくと人に名前を聞く時は自分から名乗るもんだぜ、金髪少女」

「私の名前は霧雨 魔理沙。魔法使いだ」

「魔法使い?鬼だの妖怪だの魔法使いだの、幻想郷は本当になんでもありだな」

「まあ幻想郷ってのは私達みたいな妖怪達の為にあるからね」

「ところで、愛乃?だっけ?見た所外来人みたいだがなんで幻想郷に来たんだ?」

「紫に異変解決を頼まれた」

高橋はうどんを頬張りながら答えた。

「よくもあんな奴の話に付き合おうと思ったな」

「成り行きで仕方なくな。それにちゃんと報酬が出る依頼だからな」

「依頼?」

「ああ。俺は向こうの世界で便利屋やってたんだ。だが、最近はまともに仕事が無くて暇してたんだよ」

「それでわざわざ幻想郷にまで来るなんて変わった奴だな」

高橋の言葉に呆れる魔理沙。

「退屈なだけの毎日なんて生きてる意味が無いだろ?」

「その意見には納得するぜ」

(とか言いながら、紫に会った時にはビビリまくって逃げたけどな)

内心で自分に毒突く高橋に魔理沙が聞いてきた。

「それで?これから異変解決についてのアテはあるのか?」

「残念ながら無いな。そもそもそれを探す為に萃香とデートしてたからな」

「なんだそりゃ。それでどこまで知ってるんだ?」

「ほぼ何も知らないと言って問題ないだろうな。ある程度は霊夢や萃香から聞いてはいるが」

「なんだ、霊夢にも会ったのか?」

「俺が目が覚めた時には博麗神社だったからな。どうも二人が助けてくれたらしい」

高橋は丼の中の汁を飲み干して答えた。

「そいつがなんでデートする事になったんだ?」

「愛乃に勝負で負けてね。酒飲めなくなるのが嫌ならいうこと聞けって脅されたんだよ」

「すげぇ聞こえが悪いな」

「でも間違ってはないよ」

どうも自分は女相手に口では勝てないようだと高橋はふと思った。

そんなことを考えていると魔理沙が唐突に言ってきた。

「なぁ愛乃、ここの代金を賭けて私と勝負しないか?」

「別にいいが何やるんだ?」

「それなら私に考えがある。おい、オヤジ!トランプあるか?」

「おう。ちょいと待ってろ」

魔理沙の言葉に答えると、オヤジさんがうどんと一緒に持ってきた。

「ほらこれでいいか?」

「ああ。ちょいと借りるぜ」

「それで何をするんだ?」

トランプをシャッフルしている魔理沙に愛乃が聞いた。

「シンプルにポーカー一回でどうだ?」

「それで良いよ」

愛乃の返事を聞くと魔理沙はカードを配り始めた。

「チェンジは一回だぜ」

「わかってるよ」

(初手は2のワンペアのみか・・・)

ペアがあるだけマシとも取れるが、そのペアが最弱な事を考えれば喜べはしないだろう。

「三枚チェンジだ」

愛乃は揃っていない三枚を捨て、山札から新たに三枚を引いた。

(2のスリーカードかよ。さっきよりマシだけど・・・)

一方の魔理沙を見てみると手札を四枚捨て山札から新たに引いていた。

(何で一枚だけ残した?あれがジョーカーか勘で残したか・・・)

「私はこれで良いぜ。勝負するか?」

「ああ。俺もこれで良い」

そしてお互いの手札が開かれた。

その結果、勝ったのは───

 

 

「はっはっはっ!悪いな愛乃、奢ってもらったりして」

勝負から数十分後、店を出ると魔理沙が大笑いしながら言ってきた。

「勝負の結果だ。気にすんなよ」

「勝った私が気にするわけないさ」

悪びれる様子もなく言って返してきた。

(何で四枚チェンジしてストレートフラッシュになるんだよ)

三人分の代金を支払うと愛乃は毒づいた。

大方イカサマでもしたんだろうと内心で考えていたが、正直彼からしてみればそんなことはさほど問題では無かった。それよりも彼が気にしているのはイカサマをされたとして、それに気づけなかった自分の不甲斐無さにだった。

(まあ、今更言っても手遅れで、仮にイカサマでも証明のしようもないか)

結局、勝負の世界ではイカサマを見破れなかった者が間抜けで、負けた方が悪いのだ。ただそれだけ。

「それじゃ、私は帰るけどお前達はどうするんだ?」

「俺たちはまだ残るよ。なんせ愛する彼女に貢がなきゃならんからな」

「なら精々高いもんでも送ってご機嫌を取るんだな」

言って魔理沙は手にしていた箒に跨がると空高く飛んで言った。その姿は確かに魔法使いそのものだった。

「さて、約束の酒を買いに行くぞ。萃香」

「お酒、お酒〜」

そうして二人はまた人里へ歩いて行った。

 

 

愛乃達が魔理沙と別れてから数十分後、愛乃と萃香は再び博麗神社へと戻った。

「おい霊夢戻ったぜ」

「ただいまー」

愛乃と萃香が神社の中に入ると二人の姿があった。

「あら、お帰りなさい」

一人は霊夢だった。そしてもう一人は、

「よう、数十分ぶりだな」

先程別れた魔理沙だった。

「なんだ魔理沙、来てたのか」

「おう、ここは私の家みたいなもんだからな」

「いつからここはあんたの家になったのよ」

魔理沙の言葉に霊夢はジト目で言った。

「細かい事を気にするなよ。私と霊夢の仲だろ」

「人の家に来たと思ったら勝手にお茶と煎餅食べだす奴と仲良くなった覚えはないわね」

「そんな不届きな輩がいるのか。そいつは大変だな」

霊夢が何を言っても特に気にしない様子の魔理沙。おそらく彼女には何を言っても聞く耳を持たないのだろう。

「で、萃香は何を買わせたんだ?」

「決まってんじゃん。お酒だよ」

萃香は手に持っていた酒瓶を見せつつ言った。

(ニ本で十万を超えるとは思ってなかったよ・・・)

隣で笑ってる萃香をよそに高橋は苦笑した。

「なら今夜はそれを皆で飲もうぜ」

「勿論、皆で飲んだ方が美味いからね」

「それよりも愛乃、さっきの約束・・・」

と、霊夢が言いかけたところで、外から声がした。

「霊夢さーん、いますかー?」

「ん?誰か来たみたいだな」

「・・・あの声は文ね」

声のする方へ視線を向けると霊夢は外へ出た。それにつられるように三人も外へ出た。

「どうも霊夢さん。何か面白そうなネタはご存じ無いですか?」

外へ出ると先程霊夢を呼んだらしい少女がカメラを片手に立っていた。

「さあね。あんたの好みに合いそうなネタはうちには無いわよ」

「つれないですね〜。あやや、魔理沙さんと萃香さんもご一緒でしたか。ってあれ?」

高橋の姿を見た途端、ほんの僅かに少女の動きが止まった。そして一瞬のうちに高橋の前に立っていた。

「はじめまして!私、鴉天狗の射命丸 文と申します。外来人の方ですよね?少々取材にご協力お願いしても良いですか?」

「相変わらず一方的ね」

「愛乃、そいつに話すと有る事無い事書かれるぞ」

「話さなくても好き勝手に書いてるけどね」

それは最早取材の意味はないだろうに・・・。

「ご丁寧にどうも。俺は高橋 愛乃だ。面倒だし疲れてるから断るって言ったら諦めてくれるのか?」

「確認を取ったと言うことは実際には問題ないと言うことですよね。それでは取材協力お願いします!なんなら私にできることなら何でも後でお礼します!」

「・・・本当か?お前の取材に協力すれば、本当に何でもしてくれるのか?」

文の言葉を聞いて高橋の顔が少しだけ真面目な表情になった。

「はい!取材協力に対するギブアンドテイクです。なのでお願いします!」

「だが断る」

「えっ!?」

「この高橋 愛乃が最も好きな事のひとつは自分の思い通りになると思っているやつに『NO』と断ってやることさ」

「おー、なんか無駄にかっこいいな」

「どうしても取材したかったら、ギャンブルだ。それが嫌なら帰れ」

「ここで引き下がったら新聞記者の名折れ!受けて立ちましょう」

「なんでそこまで俺に固執するんだよ」

「貴方からは面白そうなネタの匂いがプンプンするんですよ」

「・・・新聞記者の嗅覚ってやつか?何でもいいが、やるってことでいいんだよな?」

「はい。私が勝ったら私の気がすむまで取材に協力してもらいます」

「もし俺が勝ったら?」

「先程も言ったように私が出来る範囲で貴方の言う事を一つ聞きましょう。ゲームはどうしますか?」

文が言うと高橋は辺りを見渡して一つのものを見つめた。

「よしこうしよう。制限時間三十分以内にあの賽銭箱にこの神社にやって来た参拝客が金を入れたら俺の勝ち。時間が経っても参拝客が金を入れ無かったら君の勝ち。これでどうだ?」

「構いませんけど、本当にいいんですか?」

「何がだ?」

「だって、この博麗神社に参拝客なんて殆ど見た事ないですよ」

「無いね」

「参拝客がこの神社に来るなんてそれ自体が異変だぜ」

三人がそれぞれ失礼極まりない事を言い出した。

「あんた達後で泣かすわよ」

巫女さんが物騒な事を言い出した。

「今まで来なかったからってこの後も来ないとは限らないだろ?」

「それで良いならこちらは構いませんが・・・」

こうして、双方同意のもと賭けが始まった。

だが、

「もう十五分経ちましたよ」

「いや、まだ十五分あるだろ」

誰一人来る気配もなかった。

 

更に五分後───

「やっぱ誰も来ないね」

「だから言ったんだ。来る方が問題だぜ」

 

更に五分後───

「後五分ですよー」

「なんで誰も来ないのよ!」

「どうなってんだよこの神社は!」

誰一人として来ない現状に霊夢と高橋は怒りに任せて叫んでいた。

「誰でも良いからこいよ!」

言うと高橋はその場から離れ、博麗神社の階段を降りて行った。

「待っててもどうせ来るはずありませんよー」

文が言い終えると同時に高橋が階段から戻って来た。

「どうやら諦めたみたいですね」

「そりゃ後五分も無いのに一人も来る気配が無いんだ。諦めるに決まってるぜ」

文と魔理沙の話を他所に高橋は賽銭箱に向かって歩いて行った。そして上着の中から札束を取り出し、そのまま賽銭箱に放った。

「二礼二拍手一礼だっけか・・・」

一通りの作法を終え、高橋が振り返ると霊夢が満面の笑みを浮かべていた。

「霊夢、これで俺も参拝客って言えるよな?」

「もちろんよ。ありがとうございますお客様」

「だそうだ。これで俺の勝ちだな」

高橋は文に向かって自慢げに行った。

「ちょ、ちょっと待ってください!なんでそうなるんですか!」

「なんでって、まだ五分はある。時間切れじゃないんだから勝ちだろうが」

「そうじゃなくて!どうして貴方がお賽銭を入れたら貴方の勝ちになるんですか!」

「そりゃあ、俺が参拝客だからな」

「え?」

「おい、魔理沙。俺がさっき言ったこの勝負のルール覚えてるか?」

「ああ。『制限時間三十分以内に博麗神社に来た参拝客が賽銭箱に賽銭を入れたら愛乃の勝ち、来なかったら文の勝ち』だぜ」

「そうですよ。現にまだ誰も来てないじゃないですか」

言い迫ってくる文に対してハァとため息をつくと言葉を返した。

「察しが悪いな。おい文。いつ誰が、『この場にいる奴らは含まれない』って言ったよ?」

「っ!」

「俺は一度博麗神社から離れてからもう一度ここに来て賽銭箱に賽銭を入れた。これなら参拝客と言っても問題ないだろ?」

「・・・」

「沈黙は肯定なりってな。そう言うわけだ。残念だが俺の勝ちだ」

文は彼の言葉に対して何も言えなかった。心の中で認めたのだ。自分の負けを。

「ちゃんと考えれば気づけたんでしょうけどね完全に油断してましたよ」

「そうだな。もし俺がお前の立場なら時間切れまで誰一人、賽銭箱に近づけさせなかったろうよ」

「いや〜、悔しいですね。それで貴方は何を命令するんですか?」

「何も」

「何も?」

高橋の言葉を繰り返し言った。

「ああ。あるとしたら、これからもよろしく頼むよ。射命丸 文さん」

高橋の言葉を聞くと文はニヤニヤと笑い出した。

「愛乃さんってちょっとキザですよね」

「うるせー」

茶化された高橋が視線を賽銭箱に向けると霊夢が賽銭箱の中を漁っていた。

「愛乃ー、お賽銭に入れたお金、今更返せって言われても返さないからね。良いわね?」

札束を片手に興奮気味に霊夢が言って来た。

「ああ良いよ。帰って来たら賽銭入れるって言ったし、少しばかり稼いで来たからな」

「それじゃあ魔理沙に萃香、今日は宴会よ!皆で盛大にやるわよ!」

「「よっしゃ!任せとけ!」」

霊夢の言葉を聞いた途端、魔理沙と萃香は勢い良く飛んで行った。

「それじゃあ私は宴会の料理の準備するわ。あんた達も手伝いなさいよ」

「わかったよ」

「いえ、私は取材に行かなければならないので。宴会には参加させていただきますので!」

言うだけ言うと文も魔理沙達同様に飛んで行った。

「ったく。逃げ足が速い奴・・・」

「元気な奴らが多いな、幻想郷は」

そう言って高橋も霊夢の手伝いに向かった。

 

 

─── その夜の博麗神社 ───

 

 

八雲 紫が言っていたがこの幻想郷には確かに妖怪の類が多いらしい。そのことを高橋は改めて実感した。

「この殆どが妖怪かよ・・・」

宴会の行われている博麗神社の部屋の中には大勢の人やら妖怪やらが酒を酌み交わしていた。

「おい愛乃、ボサッとしてないでお前ももっと飲め飲め」

右隣にいた魔理沙が酒の入った瓶を寄越してきた。

「お前さんが噂の外来人かい?話によるとお前さん、萃香に勝ったそうじゃないか」

魔理沙から渡された酒瓶を受け取ると後ろから声がした。振り返ると額に赤い角を生やした長い金髪の女性が立っていた。

「私は星熊 勇儀。地底に住む鬼さ。ちょいと隣、失礼するよ」

言って星熊 勇儀と名乗った女性は高橋の左隣に腰を下ろした。

「はじめまして勇儀さん。俺は高橋 愛乃。これからよろしくお願いします」

「そんなにかしこまらなくて良いよ。勇儀でいい。それより折角の酒だ、堅い話は無しで楽しく飲もうや」

酒の入ったグラスを片手に勇儀に言われ、高橋も酒の入ったグラスを持つと互いにグラスを合わせ、乾杯した。

 

─────────────

─────────

 

それから数十分後、彼は別の部屋の隅で酔い潰れていた。

「・・・飲み過ぎた。気持ち悪い」

あの後高橋は勇儀にわんこそば並みの速さで酒を飲ませて来たのだ。断る訳にもいかずに飲み続けた結果がこのザマであった。

「外の空気でも吸うか・・・」

高橋が部屋から出ようと襖を開けようとした途端、襖が唐突に開いた。反対側から誰かが開けたのだ。

「高橋 愛乃さん、少々よろしいでしょうか?」

襖が開いた先にはメイド服を着た銀髪の女が立っていた。

「別にいいけど、俺に何か用か?」

「私、紅魔館でメイド長を務めさせていただいています十六夜 咲夜と申します」

十六夜 咲夜と名乗った女は丁寧に頭を下げた。

「それで一体メイド長さんが何の用ですか?」

「実はお嬢様が貴方へお話があるとの事です」

「お嬢様?」

よく見れば彼女の後ろに背の低いコウモリの様な羽を生やした少女が一人立っていた。

「はじめまして、貴方が高橋 愛乃ね。私はレミリア・スカーレットよ」

「・・・はじめまして。俺に話があるってのは君か?」

「ええそうよ。少しお邪魔するわね」

そう言って二人は部屋の中に入ってきた。

「魔理沙から聞いたのだけど貴方、外の世界から来た人間だそうね?」

「ああ、その通りだ」

「そして外の世界では便利屋をやっていたようね?」

「そうだ。俺が幻想郷に来たのも紫から異変解決を依頼されたからだよ。仕事の依頼なら喜んで話を聞くが?」

高橋が問うとレミリアは首を横に振った。

「残念だけれど今は言えないわ。大した話ではないのだけれど、盗み聞きしている不届き者がいるようだから」

レミリアが言うと背後に立っていた咲夜はどこから取り出したのか、手にしたナイフを入って来た襖へ投げた。

『あやや⁉︎』

投げたナイフが襖に刺さると襖越しにそんなマヌケな悲鳴が聞こえてきた。盗み聞きの犯人は何処ぞの新聞記者らしい。

「・・・なるほど、なら細かい話はまた日を改めてって事で」

「ええ。出来れば私の屋敷がいいのだけれど構わないかしら?」

「屋敷?さっきそこのメイドさんが言ってた紅魔館って所か?」

「そうよ。場所はわかるかしら?」

「いや知らん」

「ここから西にしばらく飛んだ所に湖があるわ。その先にある紅い屋敷が我が紅魔館よ」

「あ、やっぱり皆さん『飛ぶ』が前提なんですねわかりました」

「あら?貴方は飛べない人間なのかしら?」

「強ち無理でもない」

「そう。なら明日の昼、屋敷で待っているわ」

「失礼します」

言って二人は部屋を後にした。

「・・・騒々しい奴ら」

一人取り残された高橋はそう呟くと自分も部屋を後にした。

 

「ふぅ」

外に出て縁側に座ると一息ついた。

 

「どうだったかしら?幻想郷は」

 

と本来いるはずない隣からそんな声がした。

「!?紫、お前いつの間に」

「あら?私はずっと隣にいたわよ」

あからさまな嘘を言いながら紫は小さく笑った。

「それより、人の質問に答えなさいな」

「・・・退屈はしないですみそうだよ」

「それだけ?」

「楽しいよ楽しいですよ。これで満足か?」

「よろしい」

高橋が忌々しく答えると紫は小さく笑って答えた。

「それより、なんで今まで姿を見せなかった」

「だって私が動いたら貴方へ依頼した意味がないじゃないの」

「お前、楽がしたいからって俺に依頼してきたのかよ」

「どうかしらね?それよりせっかくの宴会よ。飲みましょう」

言って紫はどこから取り出したのか酒の入った瓶とグラスを差し出してきた。

「ったく。自由な女だな」

紫からグラスを受け取ると一気に飲み干した。

「ところで紫、お前───」

「おい愛乃、そんなところにいないでこっちでもっと飲もうぜ」

高橋が言いかけたところで部屋の中から魔理沙が呼んできた。

「今行くよ。それより紫、ってあれ?」

高橋が魔理沙に答えて再び紫の方を見ると既に彼女の姿はなかった。

「本当、自由な女」

一人呟くと彼は部屋に戻り、夜遅くまで皆と酒を飲み明かした。




4話が終わってようやく一日分が終わりましたね。いや、長かった。次は誰が出てくることか・・・。まぁ紅魔館のキャラ達でしょうけどね。
それでは次回もお楽しみに。


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5話・幻想郷に来て初めての依頼を聞きに行く。

前回の投稿から約2ヶ月とこの作品では早め?の投稿ですね。
今回は紅魔館が舞台となります。
では第5話、本編をどうぞ。


「・・・朝か。ん?」

博麗神社へ差し込む朝日に照らされ、高橋は目を覚ました。すると、彼の右腕に異常な重さがあった。

「なんで魔理沙が人の腕を枕にして寝てんだよ」

俗に言う腕枕の状態で魔理沙が隣で寝ていた。どうやら彼女も飲んでる最中に寝てしまったようだ。

「まだ起きそうにないし、起こすわけにもいかんよな」

魔理沙を起こさないように彼女の頭から腕をどかそうとしていると途端にパシャッと音がした。

「ふっふっふ。撮りましたよ決定的瞬間を。そしておはようございます」

音のした方を見るとそこにはカメラを片手に笑っている文が立っていた。

「おいコラ朝から何だ。あとおはよう」

「いえいえ、昨夜はお楽しみでしたね」

「ああ宴会のことな。確かに楽しんだよ。あと適当なこと言うな」

「あまりこの射命丸 文を舐めないで下さいよ。調子に乗ってるとこの熱愛写真を幻想郷にバラ撒きますよ」

唐突の脅迫だった。いや、相手を怯ませられていない時点で脅迫でも無いのだが。

「何が熱愛写真だ。そんなもん昨日幻想郷(ここ)に来たばかりの俺が相手じゃ新聞記事としてはインパクト低いだろ」

「では、先ずは貴方の取材をしましょう。それなら問題ありませんよね」

「まだ諦めてなかったのか・・・」

「当然です。諦めたらそこで取材終了ですよ」

「終わってもらって一向に構わないんだよ。こっちは」

自分への取材を諦めていない文に呆れながらも寝ている魔理沙の頭から腕を外した。

「あんた達、人の家で何騒いでるのよ」

「おうおはよう霊夢」

「霊夢さんおはようございます」

高橋と文が話していると奥から霊夢がやって来た。

「おはよう。魔理沙はまだ寝てるのね」

「みたいだな。ところで萃香は?」

「愛する彼女が心配かしら?夜中に勇儀達と飲み直すって出て行ったわよ」

「あっそ。それより朝飯まだか?」

「・・・図々しいわねあんた。今から作るからその間に魔理沙を起こしときなさい。文もいるでしょ?」

「は、はい。いただきます」

文が答えると霊夢は再び奥の部屋へ姿を消した。

「どうした?」

隣で驚いている文に高橋が聞いた。

「いえ、霊夢さんが朝ご飯を出してくれる事に驚きまして」

「昨日俺から金貰って飯代の心配が無いからだろうな」

文の発言に高橋も失礼な返答だった。

「それよりも愛乃さん。色々聞きたいんですが、萃香さんとお付き合いしてるんですか?」

「想像に任せるよ」

「そうなると、萃香さんというものがありながら魔理沙さんにも手を出したんですか。とんでもない最低男ですね」

「とんでもないのはお前の頭の悪さだよ。おい魔理沙、そろそろ起きろよ」

「・・・んん。なんだよ愛乃、私の寝込みを襲いに来たのか?」

寝ていた魔理沙を起こすとアホな事を言ってきた。

「なんで俺がお前の寝込みを襲わなきゃいけねぇんだよ」

「それは私がいい女だからだな。邪な思いを持つのも仕方ないさ」

「よし、もう一回眠りたいみたいだな」

魔理沙の答えに高橋は拳を握った。

「女性に乱暴するなんてやっぱり最低男ですね」

「お前もう黙ってろよ」

高橋は頭を抱えて言ったが当然文がそれで黙るわけがない。

「なら代わりの話題として、貴方のことを教えて下さい」

やはりどう足掻いても取材は諦めていないようだ。

「もうそれでいいよ」

「昨日はギャンブルまでして阻止したのに結局取材させていただけるんですね」

半ば投げやり気味に言ってきた高橋に文が笑って言った。

「俺はギャンブルができればそれで良かったからな。だから本当は取材を受けても良かったんだよ」

「・・・ただのギャンブル中毒ですか」

「失礼な記者だな。で、何を聞きたいんだ?」

「昨日の宴会でレミリアさんとの話を盗み聞・・・、偶然聞いたんですが愛乃さんは外の世界で便利屋をしていたとか」

「今盗み聞きって言ったよな、おい」

高橋のツッコミも気にせずに文は続けた。

「そして妖怪の賢者こと、八雲 紫さんに異変解決をするように言われてこの幻想郷に来た、と」

手帳に書き記しながら確認をするように言った。

「最初に紫さんに会った時はどんな感じでしたか?」

「どんなって言ってもなー。最初は紫のオーラに圧倒されたよ。正直ビビった。こいつはヤバイって」

「それでは何故紫さんからの話を受けようと思ったんですか?」

「あいつの話を聞いてたら興味を持ってな。元の世界に少し飽きていたし、それに・・・」

「それに?」

「紫の言葉に魅入られたってところかな」

「ご飯用意できたわよー」

高橋が笑っていうと同時に霊夢が朝ご飯を持って来た。

 

──────────────────

 

朝食を食べ終えてから数十分後、博麗神社には霊夢、高橋、魔理沙の三人だけとなっていた。食べ終わると同時に少しばかり文からの取材攻めの後、「これから新聞作りに忙しいので!」と言って帰ったのだ。

「それで、愛乃はこれからどうするつもり?」

お茶を飲みながら霊夢が聞いてきた。

「レミリアって奴に昨日の宴会で紅魔館に来いって言われたから今日はそこに行く」

「ならこの魔理沙様が連れて行ってやるよ。丁度、私も紅魔館に行くからな」

そう言って魔理沙は外へ出た。

「悪いな、助かる」

「またパチュリーから盗むのね」

「盗むんじゃない。死ぬまで借りるだけさ」

世間ではそれを窃盗という。

「まぁ案内してくれるなら何でもいいさ。それじゃあ行こうぜ」

「おう。なら早く後ろに乗りな」

霊夢と魔理沙の不穏な会話を聞かなかったことにして高橋は言われた通りに箒に跨った。

「振り落とされるなよ!」

魔理沙が言い終わると同時に箒は高度を上げてものすごい速さで空を飛んで行った。

 

──────────────────

 

魔理沙に案内され暫く空からの景色を楽しんでいると少し先に大きな湖が見えた。

「あれが霧の湖だ。そしてその先にあるのがお目当の紅魔館だぜ」

魔理沙が指差した方を見ると確かに湖の奥にやたらと豪華な屋敷があった。

その名に違わぬ紅い屋敷、紅魔館。

(どんな奴らがいるのか、どんな依頼をして来るのか、どんな未来が起こるのか、本当に楽しみだ)

昨日会った彼女がどんな依頼をして来るのか高橋は内心楽しんでいた。

高橋が一人で考えているといつの間にか紅魔館の門の前まで着いた。

「ほら着いたぜ。私は先に中に入ってるから精々頑張りな。あそこの門にいる門番に言えば良いだろうさ」

「魔理沙はその門番さんに会わなくて良いのか?」

「なんだ、一人じゃ寂しいから私にも着いて来てほしいのか?生憎と此処では私は顔パスなんだよ」

そう言うと魔理沙は箒に乗り直して屋敷の中へと飛んで行った。

「・・・多分あいつ不法侵入なんだろうな」

一人寂しく呟くと高橋は歩き出した。

「すみません。今日此方に来るようレミリア・スカーレットに言われて来た高橋ですが・・・」

門の柱に背中を預けて立っていた中国服を着た赤髪の女性に話しかけるとそこで高橋はあることに気がついた。

「寝てやがるよ、この門番」

門番らしき彼女は器用に立った状態で眠っていた。(魔理沙に侵入された時点で最早門番として機能していないが)

顔を覗き込んだり顔の前で手を振ったりしたが起きる様子はまるで無かった。

「魔理沙みたいに勝手に入る、訳にはいかないよな」

人としての常識的な観点からもそうだが、相手からの信頼が命とも言えるこの仕事で最初から相手へ心象を下げる真似はなるべくしたくは無い。

とは言え、依頼人をあまり待たせたく無いと言う思いも確かにあるので、このまま待っている訳にもいかない。

「誰かその辺に歩いてたりしないか?」

寝ている彼女の横を通って門に触れようとした時、高橋は直感的に勢い良く頭を下げた。

「 ─── っ!」

「今のを避けますか。なかなかやりますね」

先程高橋の頭があった場所には隣で寝ていたはずの女の拳があった。

背後という絶対的死角からの攻撃。

(避けてなかったら後頭部直撃だぞ!食らったらシャレになんねぇ!)

「それで、どう言ったご用件でしょうか?なるべく手荒な真似はしたく無いんですが」

背中を預けていた壁から離れて高橋の前に立つと女はそう言った。

「待て!待て!俺は今日ここの主のレミリア・スカーレットに来るように言われた高橋 愛乃ってもんだ」

これ以上の面倒事はごめんな為、高橋は慌てて答えた。

「そう言えば咲夜さんからそんな話が確かに。失礼しました。普段感じない『気』がしたのでつい」

「ついで命に関わる一撃をもらったらたまったもんじゃないぞ。それで、あんたの名前は?」

紅 美鈴(ほんめいりん)と申します。この紅魔館で門番をしています」

美鈴と名乗った彼女は深々と頭を下げた。

「いや、門番が寝てたらダメだろ」

「あはは・・・。それより、案内しますから中へどうぞ」

高橋のツッコミに美鈴は苦笑しながら門を開けた。

美鈴に連れられて門をくぐると、空から見た時は紅い屋敷へ目が行ったが中庭もなかなか立派なものだった。

「綺麗な花だな。見たことないのもあるけど。手入れが行き届いているんだろうな」

案内されている途中に見えた庭園へ視線を向けると素直に感想を述べた。

「ありがとうございます。実はあれは私が育ててるんですよ」

高橋の言葉に美鈴は少し照れながら言った。

「さ、どうぞお入りください。中でお嬢様がお待ちですよ」

館の扉を開けると美鈴が入るようにすすめてきた。

「それじゃあ、お邪魔します」

一言言ってから中へ入ると高橋は驚いた。外から見た時も思ったが、建物の中も外と同じ程紅かった。

少し悪趣味と思ったのは内緒の話である。

(どこもかしこも真っ赤だな。早く慣れないと気分が悪くなりそうだ)

辺りを適当に見回していると二つほど気になる点があった。

「この屋敷にはあまり窓が無いんだな」

「ええ。なんせお嬢様が吸血鬼ですからね。極力太陽の光が入らないように造られてるんです」

(あいつ吸血鬼だったのか)

言われてみれば確かにあのコウモリのような羽は吸血鬼っぽいと高橋は考えた。

まぁ、今まで吸血鬼を見た事はもちろん無いのだが。

そして、もう一つの疑問を口にした。

「外から見た時よりも広くないか?」

外から見た時も十分紅魔館は広く感じたのだが中に入ってみると明らかに空間の広さに違いがあった。

「あー、詳しい事は私も知りませんがここには空間をいじってる人がいるんですよ。だから外から見るより広いんです」

二人がロビーの真ん中で話していると途端に別の誰かの声がした。

「お待ちしていました。高橋様」

「あ、咲夜さん。お客様をお連れしました」

声のした方を見ると階段の上に昨日のメイドさんが立っていた。そしてその後ろにもう一人。

「レミリア・スカーレット・・・」

その姿を見て高橋は思わずその名を口にした。

「そろそろ来る頃だと思っていたわ。ようこそ我が紅魔館へ」

ゆったりとした口調でレミリアは高橋に言った。

「こちらこそお招きいただきありがとうございます。レミリア・スカーレット様。それで、本日はどう言ったご用件でしょうか?」

高橋もわざとらしい口調で返した。我ながらこの喋り方は少し鼻に付く。

「そのことなのだけど、少し気が変わったわ」

「何だ?まさかここに来て依頼取り消しか?」

「違うわ。一晩考えたら思ったのよ。『貴方の実力を見てみたい』と。『私が依頼するに足る相手なのか』と」

ゆったりと階段を降りながら言って来たレミリアの言葉に高橋は僅かにイラついた。

「だから今ここで貴方の実力を見せてくれないかしら?」

「つまり、今から俺にギャンブルをやれってことで良いんだよな?」

「ええ。相手は美鈴がやるわ」

「わ、私ですか!?」

突然呼ばれた美鈴は当然驚いた。

「何か問題があるかしら?門番をサボって寝ているならこのくらいしていた方が時間を有意義に使えるでしょう?」

「ま、まあ別に問題はないですけど・・・」

渋々といった感じで美鈴は承諾したが、高橋はそうはいかない。

「おいレミリア、何でお前の知的好奇心を満たす為に俺が協力しなきゃいけねぇんだよ」

「同じことを二度も言わすのは間抜けのする事よ。言ったでしょう『依頼するに足るか』って。なら信頼を結果で証明するのは当然じゃない」

「ッチ。わかったよ。やればいいんだろ、やれば」

恐らくこのまま言い合いを続けても埒があかないと考え、仕方なくと言った感じで高橋も承諾した。

「その代わり、俺が勝ったらそれなりの見返りはもらうぞ」

「貴方が勝てたら、ね。さあ美鈴、遠慮はいらないわ。好きにやりなさい」

「・・・わかりました。では僭越ながら、彩符『彩雨』!」

美鈴が自身のスペルカードを唱えると彼女を中心に辺りは光に包まれた。

そして光が晴れると、今回のギャンブルに使われる道具が現れた。

「貴女らしいと言えば貴女らしいわね」

それを見て咲夜が言った。

そこに置かれていたのは一つの四角いテーブルと椅子、そしてその上にはギャンブルではメジャーな麻雀の牌だった。

「麻雀か・・・。またシンプルだな」

「高橋さん、麻雀のルールはご存知ですか?」

「一通りは知ってるよ。問題無い」

卓の上の麻雀牌を弄りながら答えた。

「でも麻雀って言ったら普通は四人でやるもんだろ。後の二人はどうするんだ?」

「それなら心配ありませんよ」

高橋が聞くと美鈴が言った。

「それはどう言う・・・」

高橋が言いかけた時、左側の廊下から二つの影が飛び込んできた。

「魔理沙!?」

「よう愛乃、さっきぶりだな」

一つは箒に乗ってやって来た魔理沙だった。そしてその後に見知らぬ姿の女が現れた。

「待ちなさい!パチュリー様の本を返しなさい!」

長く赤い髪に、背中に羽が生えた如何にも悪魔と言うような風貌の女が魔理沙の後を追うようにやって来た。

(霊夢の言ってた盗むってこう言うことか・・・)

「これで人数は揃いましたよ。さあ、始めましょう」

「みんな揃って何か始めるのか?」

美鈴の言葉に魔理沙が問うた。

「今から俺とこの門番が麻雀で勝負するんだ。それでお前達二人はその頭数ってことらしい」

「面白そうだな。私はいいぜ!」

「私もですか!?」

高橋の言葉にそれぞれ反応した。

「初めまして、俺は高橋 愛乃って言います。文句なら此処の主人に言ってくれ」

「は、初めまして。小悪魔と言います・・・。私もいいですけどそれより本を返してください!」

少し緊張気味に高橋に答えると再び魔理沙へ言いよった。

「『返せ』と言われて返すくらいなら初めから持って行ったりしないもんだぜ。嫌なら実力で取り返すんだな。お前がこの勝負で私に勝てたら返してやるよ」

「馬鹿にしないでください!やってやりますよ!絶対にその本を返してもらいます!」

自分の犯行を棚に上げて言う魔理沙の言葉に小悪魔は見事乗せられていた。

「お二人共、これからやるのは『消失麻雀』ですがよろしいですか?」

「構いません」

「私もだ」

「なんだ、二人共知ってるのか?」

「知りません(知らないぜ)」

「・・・説明頼む」

二人の答えに高橋は反応に困りながらも美鈴に言った。

「はい。このゲームは基本的には通常の麻雀と変わりませんが、唯一違うところは一度あがり牌に使った牌ではそれ以降あがることができない。それだけです」

仮に一人のプレイヤーが待ち牌の三萬でツモあがりしたとする。その場合、それ以降全てのプレイヤーは三萬でツモ、ロンが出来なくなるという取り決めである。

「なかなか面倒なルールだな。でもまぁわかったよ。互いの勝利条件は?」

「どちらかが一位で終わりにしましょう。なので仮に私が二位で高橋さんが三位みたいな時は仕切り直しとしましょう」

「わかったよ。確認だが、ダブロン有りか?」

「ダブロンは有り、持ち点がマイナスになった時点で対局終了とします」

「さっさと始めようぜ!」

手近な椅子に座ると待ちきれないとばかりに魔理沙が言ってきた。

 

「始まるようね」

少し離れたところで椅子に腰掛けていたレミリアが静かに言った。

「お嬢様は美鈴とあの男、どちらが勝つと思いますか?」

隣に立っていた咲夜が唐突に聞いてきた。

「そうね、ただ予想するだけではつまらないわ。咲夜、どちらが勝つか賭けてみましょう。貴女が好きな方を選びなさい。私はその逆でいいわ」

「では ── で」

「そう。なら ── が勝ったら私の勝ちね。負けた方は ─────── をするっていうのはどうかしら?」

「・・・お嬢様は冗談がお好きですね」

「あら?私は本気よ。無論私が負けたらちゃんとやるから安心なさい。それと紅茶をお願い」

「・・・かしこまりました」

こうして高橋達本人の知らない所で静かに賭けが始まった。

 

場所決めが終わり、それぞれが目の前に牌を積んでいる最中、高橋は他の三人を見回した。因みに席の順番は高橋から時計回りに見て、高橋、魔理沙、美鈴、小悪魔となっている。

「ん、どうした?美少女三人に囲まれて緊張でもしてるのか?」

こちらの視線に気づいたのか魔理沙が言ってきた。

「ああ、こんな美少女三人と一緒に麻雀なんてなんて出来ないからな。ちょっとばかり緊張してるよ」

高橋は適当に答えたが、無論そんな理由で見ていたわけでは無い。相手を観察する為だ。

見る、観察する。一見単純だが、勝負ごとにおいてこれ程効果的で重要なことは無いだろう。

見られていれば相手はイカサマを容易く出来はせず、観察していれば相手の癖や心理も読めてくる。つまり、それだけで相手より有利に立ちやすくなるのだ。

それでも高橋にはいくつか不安要素があった。

(イカサマをしている様子は無さそうだがこのゲーム、圧倒的にこっちが不利かもしれないな

この勝負の終了条件は高橋、美鈴のどちらかが一位で終わらせる事である。で、あるならば隣に座っている小悪魔は無理に勝とうとする必要は無い。自分の点棒をそっくりそのまま美鈴へ渡せばそれで良いのだから。

ならばこちらもそうすれば良いのでは?と考えたい所であるが、この魔理沙がそれを良しとするだろうか?知り合って間もない高橋でもそれは無いと断言できる。

(多勢に無勢ってのはキツイな。取り敢えず点は低くても確実にあがっていくべきか?)

高橋がそう考えている間に親が決まり、それぞれ配牌が終わった。

東一局 0本場

ドラ{八}

親 小悪魔

高橋の手牌

{一一二六⑤⑦⑨4499中中}

(あがりだけを考えるなら中のみか七対子(チートイツ)か?それとも少し粘って対々和(トイトイ)・・・)

「リーチです」

「は?」

隣からそんな声が聞こえて思わず高橋は間抜けな声をあげた。

小悪魔が第一打、手牌から四萬(スーワン)を捨てリーチをかけたのだ。

(ダブルリーチ!?ど頭からそんなの有りかよ!)

小悪魔のダブルリーチに思わず目を疑ったが、間違いなどではなかった。

そして美鈴が山から牌をツモるとその手が止まった。

「ダブルリーチとなると待ちがわかりませんね」

言って美鈴は手牌から一枚を捨てた。

三索(サンゾウ)は大丈夫、みたいですね」

「こんな読みもきかないリーチに考えても時間の無駄さ」

美鈴の言葉にそう言うと魔理沙も山から一枚引き、特に考えることもなく手牌から一枚を捨てる。一萬(イーワン)だ。

「通ったぜ」

そして高橋の番になり、山から牌をツモる。

(あがらなきゃ勝てないが、欲かいて負けましたじゃそもそも話にならない。ならここで捨てるのは・・・)

少し考え、高橋は魔理沙と同じ一萬を捨てた。これでもう一巡は稼げる。

 

だが、それはあくまで自分への直撃を避けただけである。

 

「ツモです。ダブリー、一発、ツモ、平和(ピンフ)、ドラ二、・・・親の跳満で六千オールですね」

小悪魔の手牌

{一二三八八④⑤345789横⑥}

 

二巡目にして小悪魔がツモあがったのである。

開始数分でいきなり場の流れが変わった。高橋は直感でそれを察した。

 

残り持ち点

高橋 19,000点

小悪魔 43,000点

美鈴 19,000点

魔理沙 19,000点

「あがり牌が六筒(ローピン)ってことはこれ以降六筒であがれないって事だよな?」

「はい。その通りです」

牌を混ぜながら聞くと美鈴が答えた。

「これで六筒単騎待ちなんて事になったら笑えないよな」

山をつくりながら隣の魔理沙が笑って言ったが高橋はそれより気掛かりな事があった。

(俺はてっきり小悪魔が美鈴のアシストに徹すると思ってたが違うのか?俺に勝つなら適当に美鈴へ自分の点棒を渡して一位にさせればそれで済む。となるとこの二人は組んでないってことか?)

「いきなりあんな役出すなんてなかなかやるな」

「何としてでも貴方に勝ってパチュリー様の本を返してもらいますからね!」

(っ!そうか、そう言う事か!)

魔理沙と小悪魔の会話を聞いて高橋は先ほどの会話を思い出した。

『「返せ」と言われて返すくらいなら初めから持って行ったりしないもんだぜ。嫌なら実力で取り返すんだな。お前がこの勝負で私に勝てたら返してやるよ』

『馬鹿にしないでください!やってやりますよ!絶対にその本を返してもらいます!』

 

(そうか。小悪魔からして見れば俺達二人の勝負なんて()()()()()()()()()

そう。小悪魔からすれば高橋と美鈴の勝負など二の次なのだ。そんなことより彼女からして見れば一刻も早く盗られた本を取り返す事の方が重要なのだ。だから彼女は今、麻雀をしているのだ。

(そりゃあ点棒を捨てるような真似するわけがねぇよな。そのパチュリー様って奴の方が大事なんだからな)

思った以上に厄介な勝負になりそうだ。




今回はギャンブルでは割とメジャーな麻雀をテーマにしてみました。
流石に1話で終わらせると長くなりそうなので続きは次回へ。
そして気がつけばこの作品の投稿を始めてもうすぐ1年が経ちます。(1年経ってまだ5話かよ)
未熟ながらも何とかここまでやってこれました。ありがとうございます。
これからもこの作品を見て下さる方がいることを願って稚拙ながらも続けて行こうと思っています。
長くなりましたがではまた次回。


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6話・ギャンブルに対する考え方は人それぞれである。

どうもお久しぶりです。
今回はいつもより早く更新しようとしたら結局いつもと変わらない期間になってしまった・・・。
違うんですよ、別に話がまとまらなかったとか、ゲームに夢中だったとかそんなアレでは無いんですよ。
では本編どうぞ。


高橋の予想とはうらはらに、小悪魔の初っ端からダブルリーチの一発ツモにより、開始からいきなり大きく点差をつけられてしまった。

(ならこの勝負、小悪魔は一位で勝ち抜けるつもりなのか?)

そう考えると同時にそうでは無いだろうと考えた。

確かに魔理沙に勝つならば一位であれば文句無しではあるが、この二人の間には高橋と美鈴の様な順位の指定は無いのだ。つまり最終的に魔理沙に勝ってさえいればそれで良い。

(今のうちに点棒を稼いでおいて後から美鈴へ点棒を送ればあの二人は問題無いって事か)

小悪魔が美鈴のアシストについているのかどうか、未だにはっきりしていないが、それでも高橋がしなければいけないことに変わりは無い。

そう、美鈴に勝つ事だ。勝てば全てが正しくなる。

東一局1本場 ドラ {①}

親 小悪魔

高橋の手牌

{一一一①①①⑤⑦111東東}

高橋、配牌でまさかの聴牌(テンパイ)。自分の最初のツモであがれば地和(チーホー)、役満である。

だがここで先程の魔理沙の言葉を思い出した。

『これで六筒(ローピン)単騎待ちなんて事になったら笑えないよな』

(六筒単騎ィィィィィィ!)

こともあろうに高橋の待ち牌はあがれぬ牌、六筒であった。

『消失麻雀』の特殊ルールによって無残にも殺された役満への可能性。

不運。圧倒的不運。

「どうした愛乃。まるで自分の不幸を呪っている様な顔だぞ」

「イヤ、ソンナコトナイゾ」

魔理沙の言葉に思わずカタコトになって返してしまった高橋。ポーカーフェイスも何もあったものではない。

そして高橋以外の三人は確信した。

『こいつ(この人)六筒単騎待ちだ・・・』

案の定と言うべきか、全員に高橋の待ちがバレてしまった。

そして親である小悪魔の一打目は六筒だった。

「これは通りますよね、高橋さん?」

わざとらしく聴いてくる小悪魔に少しイラつく高橋。

続く美鈴と魔理沙はそれぞれ、二筒と八萬を捨てた。

そして高橋の一巡目、引いた牌は東だった。

高橋の手牌

{一一一①①①⑤⑦111東東東}

(・・・これで五筒か七筒でリーチをかければ四暗刻単騎でダブル役満か)

再度訪れた役満への可能性。もしこれで高橋があがれば64,000点を得ることになり、勝ちが確定する。

(このチャンスを逃す手はねぇぜ)

そして七筒を捨てた。

「リーチだ」

「それロンです」

高橋が牌を捨てた途端、隣からそう聞こえると同時に牌が倒された。

「断么、三暗刻(サンアンコウ)、対々和で満貫ですね。一本場で12,300点です」

小悪魔の手牌

{二二二⑤⑤⑦⑦333888横⑦}

「これがツモだったら文句無いんですけどね」

もしもこれが小悪魔のツモだったなら四暗刻、役満である。そして皮肉な事に、高橋がどちらを捨ててもあがられていたのである。

残り持ち点

高橋 6,700点

小悪魔 55,300点

美鈴 19,000点

魔理沙 19,000点

今のあがりで10,000点以上が小悪魔へと流れてしまった。

(下手したら次でお終い(ハコテン)だな)

そして、このまま小悪魔が美鈴へ点棒を送る作業が始まってしまえば高橋が勝つ可能性は極端に下がってしまう。

(いつでも俺をやれるってところかな)

すずめの涙程度しかない高橋の点棒を削り取るなど造作もない。

だが、そんなことよりも高橋には考えなければならないことがある。

(小悪魔のやつ、幾らなんでも聴牌速度が早過ぎる。てことは何かしらのイカサマをしてるってことだ)

一度ならまだしも、二度も続けてのあの早さのあがりは運がいいと言うだけでは説明できない。

(本来運という曖昧な概念に理屈を求める方がおかしいのだろうが)

 

(大方美鈴も協力しているんだろうが、恐らくは『積み込み』か・・・。クソッ、見ていたにも関わらずイカサマされるとか油断するにも程があるぞ、俺)

手積みの麻雀では代表的なイカサマの一つ、『積み込み』。自分の目の前の山を積む際に自分に都合のいいように牌を仕込んでおくイカサマである。無論、自分で積み込んだ牌の並びを覚えておかなければいけない。

 

「これで七筒も使えなくなりましたね」

これにより、六筒と七筒の二つがあがれぬ牌となった。

そしてそれぞれが再び山を積み始め、高橋は先程以上に注意深く二人の動きを観察した。先程の流れはどう考えても小悪魔と美鈴のからかい半分の挑発だ。小悪魔と高橋の役の形が同じだったのが何よりの証拠だし、リーチをかけなかったのも高橋の持ち点を考えてのことだろう。

そして現状において、高橋に出来ることは大きく分けて二つある。

 

一つ、このまま小悪魔や魔理沙に自分の点棒を渡してどちらを一位にさせ次の勝負に持ち越すこと。

一つ、負けたままでなるものかと逆転を目指しこのまま勝負を続けること。

 

だが、この考えには両方共問題点がある。前者の場合、今回は良くても決定的な解決策がない限り、問題を先送りにしているだけであるということ。

そして後者の場合、小悪魔が美鈴に点棒を差し出しても此方はそれを防ぐ術が何一つないということだ。俗にいう絶体絶命というやつである。

 

───────────────

 

高橋が美鈴達を観察しながら考えている時、美鈴も高橋の視線に気づいた。

(流石に此方のイカサマには気づいたようですね)

高橋の予想通り、小悪魔と美鈴は確かに積み込みをしていた。無論、それだけではない。もう一つ、『通し』である。

『通し』とは、自分と仲間だけにわかるように言葉や仕草で伝える合図のことである。これにより、二人は積み込む際のやり取りをしていたのだ。

そして美鈴は小悪魔の方をちらりと見た。

(美鈴さん、そろそろ終わらせますか?)

(そうですね。油断して負けでもしたらお嬢様に怒られてしまいますから早く終わらせましょう。役はどうします?)

牌を混ぜながら美鈴が見ると小悪魔は少しだけ考えて答えた。

(美鈴さんのあがりで役は大三元、地和)

もし仮にこのまま小悪魔の言う通りにこの役が決まればダブル役満となり美鈴には64,000点が入り、高橋の持ち点がマイナスとなる。

(これが決まれば美鈴さんが一位であがってあの人はハコテン。文句無しに私達の勝利です)

小悪魔からの通しを読み取ると小さく頷き、必要な牌を集めて山を積んだ。

(これで仕込みは完了。後は小悪魔さんが二の目を出せば私達の勝ち)

親がサイコロ二つを振り、それから牌を取る山が決まる。二の目が出たなら美鈴と小悪魔が積み込んだ山から順に牌を取ることになり、後は美鈴の手番が来て牌を引けば地和、役満のあがりで終了である。

(このままなら貴方の負けです。どうしますか?高橋 愛乃さん)

高橋の方を見たが特別動きがある様にも見えなかった。

そして運命を分ける小悪魔のサイ振り。その出目は ───

(ニ!出た!勝利の目!)

小悪魔が出したサイの目を見た瞬間自身の勝ちを確信した。当然である。自分達の勝ちに必要な課題を全て達成したのだから。

 

東一局 2本場 ドラ{南}

親 小悪魔

そして配牌を終え、全員に牌が行き渡った。美鈴がこの手配を開けば大三元の手が姿を現わす。

そのはずだった。

(なっ、なんですかこれは!?)

美鈴の手には大三元とは程遠い配牌だった。

(あり得ないっ、私も小悪魔さんも『積み込み』も出目も完璧だった。なのにこの手牌はっ!)

 

美鈴の手牌

{一九①⑤⑧37899東北白}

何度確かめても美鈴の手牌は仕込んでおいたものとは全く違っていた。

(なんでこんなことになった?出目は問題無い。私の積み込みも同じく。となれば小悪魔さんの積み込みミス?)

一瞬美鈴の脳裏にそんな事を考えたが、それはないと切り捨てた。確かに小悪魔のミスなら辻褄があうかもしれないが、そもそも美鈴自身が積んだ山から取った牌ですらバラバラなのだ。小悪魔のミスで片付く話ではない。

「なんだ、意外そうな顔だな。美鈴」

美鈴が考えていると隣で座っている魔理沙が突然言ってきた。

 

「三人だけで楽しむなよ。私も混ぜろ」

 

今まで動かなかった魔法使いがようやく動き出した。

 

(こいつ、やりやがった)

自分達の勝ちを確信し、油断していた二人は気づいていなかったが、隣で見ていた高橋にはわかっていた。

山を積む時、美鈴と小悪魔が『積み込み』をしている事には魔理沙も気づいていた。そして美鈴が三元牌を集め、積み込んだのを見た時、それを利用する事を考えたのだ。みんながサイコロの出目を見ている一瞬の隙に自分の山から四牌を美鈴の山へと付け足したのだ。

当然取る牌も二列ズレる。つまり、美鈴へ行くはずの牌は魔理沙の元へ行くという寸法である。

「ところで一つ小悪魔に言いたいんだが、私がお前に勝ったらどうなるんだろうな?」

「何が言いたいんですか?」

魔理沙の問いに怪訝そうに小悪魔が言った。

「お前は私に自分が勝ったらパチュリーの本を返せって言ったんだ。お前は勝った時のメリットがあるのに私には何も無いなんてそんなのギャンブルとしておかしいよな?」

「そ、そんなのただの屁理屈じゃないですか!誰も認めませんよ」

「小悪魔、残念だがそれは無理だ」

小悪魔の言葉に高橋が言った。

「無理?」

「ああそうだ。確か弾幕ごっこからギャンブルに変わった時のルールにあったよな?『対戦者はゲーム前に予め何かを賭けてからゲームを始める事』って。お前が何も賭けないならそんなものに強制力も意味も無い」

「・・・」

高橋の言葉に小悪魔は黙るしかなかった。自分自身納得してしまったからだ。

「勝って私から本を取り返したいなら私からの条件も飲むしかないぜ」

「何が望みですか」

「私が勝ったら今後パチュリーの本を借りていくことを邪魔するな。それで勘弁してやるさ」

この一言に小悪魔は悩んだ。確かに小悪魔は魔理沙から本を取り返したい。だが、だからと言って魔理沙に協力する様な事はしたくないし、その可能性に繋がる様な真似もしたくない。それは彼女からしてみればパチュリーに対する裏切りにも等しいからだ。

「わかりました。それで構いません」

だが、それを踏まえて尚、彼女は勝負に応じた。

別に自暴自棄になった訳でもパチュリーに対しての考え方が変わった訳でもない。ただ単純に思ったのだ。『勝てばいいじゃないか』と。

「やってくれるのはいいが早くしろよ」

「五月蝿いですよ。捨てればいいんでしょ」

魔理沙の軽口にイラつきながら小悪魔が牌を捨てた。七萬だ。

「はははっ」

それを見て魔理沙が笑い出した。

「ついに頭がおかしくなったんですか?」

「いや、まさかこうもうまくいくなんて思わなくってな」

小悪魔の言葉を対して気にもせず魔理沙は続けた。

「それ、ロンだ」

言うと同時に魔理沙は牌を倒した。

魔理沙の手牌

{七①②③白白白発発発中中中横七}

「大三元だ。この場合、人和(レンホー)はどうなるんだ?」

「・・・残念ですが、私達の間では人和は認めていませんよ」

 

人和とは子が配牌で聴牌した状態で、最初のツモより前に捨てられた牌でロンした際に成立するローカル役である。

 

「何にしても役満だ。小悪魔、気をつけないとすぐに負けるぞ」

 

残り持ち点

高橋 6,700点

小悪魔 22,700点

美鈴 19,000点

魔理沙 51,600点

魔理沙の作戦により、小悪魔から大幅に点数を減らすことが出来た。

だが、これで安心というわけではない。美鈴が点の高い役を決めればそれで終わり。やはり気は抜けない。

「こんなのイカサマじゃないですか!」

そんなことを考えていると隣の小悪魔が声を荒げて言ってきた。

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。イカサマの証拠でもあるのか?」

「ふざけないで下さいよ。大三元に人和なんてイカサマしてるとしか思えないじゃないですか!認めませんよ、こんなの!」

 

()()()

 

「!?」

高橋の静かな一言で小悪魔はその先を言えなかった。会って間もない彼女でも分かる程度に彼はキレていた。

「さっきから黙って聞いてりゃ都合の良い御託をペラペラ言いやがって。イカサマは認めないってお前だってイカサマしてんじゃねぇか」

「何を証拠にそんなっ」

「証拠なんて無いさ。だから俺も魔理沙も何も言ってなかっただろ?しょうがない。だって証拠が無いんだからな。けどそれはお前も同じ筈だ。適当な御託や半端な憶測で勝負を中断なんか出来やしない。それが、‘‘真剣勝負(ギャンブル)’’ってもんだろ?」

「はっはっ、確かにその通りだ!」

高橋の言葉に魔理沙が笑った。

「で、どうする小悪魔。自分の都合通りにいかないからってここで諦めるか?」

聞かれるまでもなく彼女の答えは決まっている。

「勿論やりますよ。でもイカサマを疑われるのも嫌なのでオール伏せ牌で、ですけどね」

「おいおい、相棒の許可も無しに勝手に決めてもいいのかよ」

「別に私は構いませんよ。どうせ勝つのは私ですから」

特に気にする様子もなく、それでいて挑発的に美鈴は答えた。普段の彼女からして見れば珍しい。

 

───────────────

 

それからしばらくして魔理沙と高橋がそれぞれあがったが、点数では魔理沙がトップのままだった。

残り持ち点

高橋 12,700点

小悪魔 18,700点

美鈴 13,000点

魔理沙 55,600点

 

そしてやって来た高橋の初の親番。

オール伏せ牌が効いているのか、先程までのような勢いは美鈴達には無いようだ。だがそれでも高橋は安心することはなかった。

(麻雀のイカサマなんて積み込みだけじゃない。他にもやろうと思えばいくらでもやりようはある)

先程の『通し』に始まり、やり手によってイカサマの手口は多岐にわたる。その全てを封じるなど不可能に近い。油断したら一瞬でやられるのだ。

東四局 0本場 ドラ {三萬}

親 高橋

 

高橋の手牌

{三三四四八九①③⑤⑦⑧257}

(何とも言い辛い配牌だな・・・。取り敢えずは安くても親を守る事だけ考えるか?)

 

因みに現在までの消失牌は六筒、七筒、七萬、東、五索の五枚である。

少し考え、高橋は手牌から一枚を捨てた。一筒(イーピン)だ。

(それにしても妙だな。美鈴の奴、何かを仕掛けてくる気配が無い)

高橋からしてみれば美鈴のこの姿はただただ不安でしかない。対戦相手の思考がまるで読めないのだ。

(これからイカサマを仕掛けてくるのか、それとも既に何かされてるのか・・・)

 

───────────────

 

美鈴はこの現状に少し焦った。

魔理沙のイカサマから状況は一変、美鈴達に前半の様な勢いが完全に無くなってしまったからだ。

(しかし、目の前の勝ちに目が眩んでイカサマを見逃すなんて・・・)

一度考え出してしまえば後悔はとどまる事はない。

なぜもっと早く勝負を切り上げようとしなかったのか。

なぜ相手のイカサマに気がつかなかったのか。

たった一度の油断から全ては崩れた。

だが、ここにきてもまだ美鈴は冷静であった。

(なってしまった事は仕方がない。問題はここからどう巻き返すか)

美鈴の手牌

{六八九⑥⑥⑦⑦2367東東}

一見するとある程度纏まっている様にも見えるが、待ちに消失牌が含まれていることを考えればあまり喜べない手牌である。

そして高橋が一筒を、続く小悪魔は西を捨てた。

肝心の美鈴の最初のツモは八筒だった。

(上手くいけば三色や一盃口にいけるかな?それとも確実に役牌のみであがって親を流すか・・・。このままだと流れが来る前に負ける可能性がある。どこかで流れを変えなきゃ)

流れを変える、と一言で言ってもそれはなかなか簡単な事ではない。流れというものは何気無い行動一つで良くも悪くも変化する。だから皆、あの手この手で流れを自分へ向けようとするのだ。

(でも下手なイカサマは自分の首を絞めかねない)

ならばどうするべきか、美鈴の答えは決まっている。

 

(イカサマせずに勝てばいい!)

 

小細工が自身の危険を招くのなら、そんなものこちらから御免被る。

そもそも、高橋の予想は大前提から間違っていたのだ。

 

(私、イカサマってあまり好きじゃないんですよね)

ギャンブルにイカサマはつきものとはよく言われたもので、ギャンブルをする際はまず先にイカサマの危険を考えるものである。その理由は言わずもがな、その行為一つで互いの有利、不利が大きく決まるからだ。

だが、当然ながらそれがギャンブルの全てではない。

イカサマで勝つ者もいれば、自分のつくりあげた理論や確率論を用いて理詰めで勝つ者、運が全てだと考えて勝つ者もいる。美鈴からしてみればイカサマだけに頼りきっている者など程度が知れている。

(まぁさっきはイカサマに頼りきって足をすくわれたんだけど・・・)

内心で自分の言っている事とやっている事の矛盾に毒づいた。だがレミリアが見ている手前、そう簡単に負けるわけにもいかないのだ。うん、仕方がない。

(とは言え、あまり時間をかけると勝っても負けてもお嬢様に怒られそうだしな〜。なんとかしないと)

主人の機嫌をとる。勝負にも勝つ。『両方』やらなくっちゃあならないってのが従者のつらいところである。

そして美鈴はニヤリと笑いながら高橋に向かって言った。

「そう言えば高橋さん、私達もお互いに何も賭けていませんよね。何か賭けましょう」

「確かに言われればそうだったな。いいぜ、賭けよう」

高橋の言葉を聞いて美鈴が続けて言った。

「では勝った方が相手を一日中好きにできるっていうのはどうですか?」

「やれやれ。可愛い顔して何を言うかと思えば、意外と過激な要求するな。俺もそれで構わんよ」

「過激な方が男性は嬉しいんじゃないですか?色々と」

「否定はしません」

高橋の返答に美鈴は軽く笑うと手牌から一枚を手に取り、

「覚悟はいいですか?私は出来てます」

と言った。




今回で麻雀編終わらせるはずだったのに書きたいこと書いたら終わらなかった・・・。
次で終わるだろう(多分)
話の所々に好きな作品のネタ入れるの楽しいわー

ではまた次回。
ご意見・ご感想などがあればお願いいたします。


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7話・長く感じた麻雀勝負もようやく決着がつくようだ。

本編の前にお詫びを。
ご存知の方もいるかと思いますが、以前、製作途中で7話を投稿してしまい、申し訳ありませんでした。本作品をご覧頂いている皆様へお詫び申し上げます。こんな作者ではありますがこれからも作品を読んでいただければ幸いです。
簡単ではありますが謝罪の文とさせていただきます。
では本編をどうぞ。


「覚悟はいいですか?私は出来てます」

その一言を聞いて高橋は胸が高鳴るのを感じた。

(やっぱり良い。このスリル!)

高橋が思うに、ギャンブルをする者が求めるのは結局のところ、二つしかないと思っている。

 

金と危険(リスク)

 

金を求めるのは自分の人生を物理的に満たす為(場合によっては金だけとは限らないが)。

 

危険を求めるのはその危険を回避し、勝利した時の自分の心に与える快楽、安心感、達成感などで精神的に満たす為。

 

贅沢にもこの両方を味わえる。こんなにも楽しい事があるだろうか?

なので美鈴の質問に対しての答えなど決まっている。

「当然。ここに来た時から覚悟は出来てる」

「その強気の姿勢がいつまで持ちますかね?」

あからさまに煽り立てる美鈴。そしてそんな美鈴の態度を特に気にする様子のない高橋。

「その言葉、そのままお前に返すよ」

そんな余裕そうな高橋の言葉に少しムッとしながらも手に取ったその牌を捨てた。九萬だ。

(これで三色や一盃口の可能性が出てきた。最悪両方を無理に狙わなくても東のみでもいい。気持ち的には楽な方か)

点数でこそ負けていないが、大きく点差がない以上、あまり危険な真似はしたくない。

(・・・動くにはまだ早い。ここで動いても意味がない)

美鈴は静かにその時を伺っていた。

 

───────────────

 

美鈴が牌を捨て、続く魔理沙も牌を捨てた。そしてやってきた高橋の二巡目。引いた牌は發だった。

(この状況でこんな牌・・・。流石に美鈴の流れを崩しただけでこっちが有利、なんて上手いことにはならないか)

文句を言いながらも高橋は今引いた發を捨てた。すると隣の魔理沙が動いた。

「それポンだ」

魔理沙が鳴いて手牌から牌を捨てた。一索だ。

(なんだ?魔理沙の奴、安手であがってリードを保つってか?)

そして再び高橋のツモ番、引いたのは六索だった。

(役牌で鳴かれると手が読みにくいからやりづらいな)

順位トップ者の場合、役の多さよりもスピードさえ考えればそれで良い。当然だ。最終的に誰よりも点棒を持っていれば良いのだから誰が態々遅く打ち回して相手にチャンスを与えるものか。

そして高橋は手牌から二索を捨てた。

が。

「ポン」

再び魔理沙が鳴いた。早くも二鳴きである。

これを見て高橋に僅かに不安が宿った。

(・・・まさかな)

心の中で否定するも、拭いきれないある予感。それは高橋だけではなく美鈴と小悪魔も当然感じていた。

 

役満、緑一色(リューイーソー)の気配。

無論、これはあくまで可能性に過ぎない。魔理沙の手が必ずしも緑一色とは限らない。この鳴きは実はブラフでなんて事のないゴミ手かも知れない。だが、僅かにでも不利になる可能性が有るのならばそれを回避しなければならない。

(事実にしてもハッタリにしてもここであがられたら完全に俺の勝ちへの流れは消えるだろうな)

魔理沙が手牌から牌を捨て、またしてもやってくる高橋のツモ番。こうも立て続けに繰り返されると何もかも魔理沙に仕組まれている錯覚さえ覚える。

そして引いたのは一索。魔理沙が既に捨てた現物である。勿論高橋にも不要牌なのでここで捨てる。

(防戦一方じゃ駄目だ。勝つにはこっちから動くしかない)

頭ではわかっていても知らず知らずのうちに気持ちは弱気になっていく。とは言え、それも仕方がないと言えなくもない。圧倒的な点差で勝っている魔理沙の役満の気配。それに、数局前にイカサマではあったがあがった役満、大三元。その時の場面が魔理沙以外の全員の脳裏に焼き付いてしまっているのだ。99%無いと確信しつつも自分の感情は1%の疑念にあっさりと敗北していく。

この疑念に勝たなければこの勝負に勝つことは到底出来ないだろう。

だが、小悪魔と美鈴はそんな疑念、あっさりと解消した。二人にはあるのだ。高橋には無い対処法が。

 

『通しサイン』だ。

 

小悪魔と美鈴にはそれぞれ互いの手牌を通しを使って知る事が出来る。それだけで自分達に掛かる負担は極端に下がると言って良いだろう。

(見るからに露骨な染め手。一番警戒するのはやっぱり緑一色だけど・・・)

頭の中で考えながら小悪魔は自分の手牌を見た。

 

小悪魔の手牌

{33445669中中中南南}

小悪魔の手牌には緑一色に必要な牌が含まれていた。この手牌と美鈴の手牌を合わせて考えれば緑一色の危険などあるわけがない。

(どんな手かは知りませんけどそんな偽りの役満(緑一色)には掛かりませんよ)

そして小悪魔が引いたのは四枚目の中だった。

これで小悪魔の手は現状混一色となった。

(これで私は混一色が確定。あの魔法使いに緑一色はあり得ない。あるとしたら發のみか混一色、対々和くらいか・・・)

いずれにしてもこれ以上点差を離されてはこちらに勝ち目はない。つまり結論はこうだ。

 

『やられる前にやってやれ』

 

そう考えたら小悪魔の行動は早かった。

「カン!」

四枚の中を使っての暗カン。そして新しく引いたのは南だった。

(これでこのままいけば混一色、中、南で満貫は確定。でも・・・)

「リーチ!」

そう言って手牌から九索を捨てた。更に幸運なことに新ドラは南だった。

(倍満確実の手!まだ流れは切れてない!)

元より小悪魔は安い手なんかに興味は無い。勝負をかける時はどこまでもがめつくあるべきなのだ。それを小悪魔は感覚として知っていた。勝ちに消極的な者にどうして流れが掴めようか。そしてその気配を美鈴も感じた。

(小悪魔さん、今ので役が跳ね上がった。先に魔理沙さんの点棒を減らさないとこの勝負は終わりそうにないし、手が速いなら先にあがらせるべきでしょうか)

美鈴はそんな事を考えたがすぐにその考えを捨てた。

(いやいや、下手に長引かせちゃダメなんだってば。お嬢様に怒られる)

ギャンブルをしてる本人が参加すらしていない相手を気にしなきゃいけないとはこれ如何に。

だがここで美鈴はある重大なミスに気がついた。

 

()()()、ではなく、()()()()ミスに。

 

(これはダメだ!このリーチは絶対に悪手だ!)

小悪魔の待ちは二索と五索。それは『通し』を使って美鈴も知っていた。そしてその片方のあがり牌である二索は美鈴の手の中にあるが、残りは魔理沙が鳴いているので実質この一枚のみである。だが問題なのはもう片方のあがり牌の五索、これが曲者なのだ。なぜなら・・・。

(・・・五索は既に消失牌。ツモもロンも出来ない死んだ牌。せっかくの役が無駄になってしまう)

当の本人である小悪魔は倍満確実という手にテンションが上がっているせいか美鈴の方などまるで見ていない。それどころかこの惨状にも気がついていない様だ。

(ダメだ、場を見ていない。これじゃ見えてるものさえ見落とす)

なんとかして打破しようにもリーチと言ってしまった以上、待ちを変えることはできない。ならば美鈴が自分から差し込めば良いのでは?いや、残りの点棒を考えればそんなことはできない。

(やはりここは私がやるしかない!)

そこで美鈴はある作戦に出た。まず、自分の手牌の不要牌を一枚を隠し持った状態で山から牌を二枚引く。この時、手に隠し持った一枚をさり気なく残しておく。

『握り込み』というイカサマだ。

牌を引く時に同時に二枚引くのを見られればそれまでなので下手なものがやればすぐにバレてしまうが、このイカサマが成功すれば、不要牌の処理と手を早く進めやすいという二つの利点がある。

そして美鈴が山に残したのは小悪魔の唯一のあがり牌、二索。

(上手くいった。これで魔理沙さんが引くのは二索。それを加槓すれば槍槓(チャンカン)がつき、ただ捨ててもロンで終わり。そうなれば文句なく小悪魔さんの逆転)

逆転への道筋を考えながら引いた牌を見ると引いたのは七萬と八索。なんと言う事か、待ちに待っていた牌が同時に来たのだ。これによって聴牌の形になった。

─── 僥倖!圧倒的僥倖!

思わず大喜びしそうになるが、そこで美鈴はある思考に至った。

 

(いくらなんでも都合が良すぎる)

 

無論それがただの考え過ぎと言えばそれまでだ。だがそれで済ませられるほど美鈴は楽観的ではない。積み込んだわけでもないのに狙ったかの様にやってくる牌やドラ。疑いを持っても致し方ないとも言える。

(嫌な気がするなぁ。取り敢えずリーチはしないでおこう・・・)

そう考えながら手牌から三索を捨てた。

だが。

「悪いな。それロンだ」

「え?」

美鈴の声と同時に高橋が手牌を倒した。

高橋の手牌

{三三四四五五⑥⑦⑧3567横3}

「タンヤオ、一盃口、ドラ二。満貫だ」

 

残り持ち点

高橋 25,700点

小悪魔 17,700点

美鈴 1,000点

魔理沙 55,600点

 

高橋からの親の満貫を喰らい、美鈴の持ち点が残り1,000点になってしまった。

(・・・おかしい。あの捨て牌で三索を待ちにするなんて不自然だ)

残りの点棒が僅かになった事よりも美鈴はその事に違和感を感じていた。三索が手元にあるのなら、手牌から二索と一索を捨てるのはわざわざ手を遅くする事になる。果たして彼がそんな回り道をする様な真似をするだろうか?

(いや、恐らくそんなことはしない)

美鈴はすぐにそう考えた。無論、あって間もない相手の考えを完全に理解など出来はしないが、彼女はそう結論づけた。となれば、残っている可能性は一つ。

(・・・イカサマか)

最も可能性が高いイカサマを疑った。恐らく高橋は隙を見て自分の積んだ山から必要な牌を集めたのだろう。だが、仮にそうだとしても一つの疑問が出てくる。

(どうやって牌を確認したんだろう?)

そう。一番の問題はそこなのだ。仮に自分の積んだ山に欲しい牌があったとしても、山を積む時は全員がオール伏せ牌をしている為、確認する事は出来ない筈である。であればそこから考えられる可能性は限られてくる。

 

彼は何かしらの能力を使っている。

 

問題はその能力がどんなものなのかと言う事だ。美鈴は高橋がどんな能力を持っているのか何も知らないのだ。何か透視の様な能力か?それなら牌が見えなくても好きな牌を確認できる。俗に言うガン牌だ(本来のガン牌とは違うが)。

(そっちがその気なら、こっちもそろそろやらせてもらいましょうかね。目には目を、ガン牌にはガン牌を!)

今こそ仕込んでいたあの技を使う時が来た。

実はこの勝負が始まった時から美鈴はある事をしていた。自分の力を活かす為の下準備である。

美鈴の能力、『気をつかう程度の能力』。これを利用した。

まず最初に牌の種類毎に違う量の妖力を流し込む。そしてその妖力を自身の能力で探知する。これによって美鈴はどこにどの牌があるのかある程度把握できる。そして既に美鈴は全体の過半数を把握している。そのままそれを頼りに山を積み込んで行く。

 

東四局 1本場 ドラ {白}

親 高橋

 

(だいたいの牌の位置は特定できる。これなら牌のすり替えもできるし、相手の手牌もより読み易い)

美鈴が考えていると全員が山を積み終えて高橋がサイコロを振った。出目は三。その結果、美鈴が積んだ山はほとんど消えてしまった。

(狙い通りは有り難いけど手元に牌が無いとすり替えし辛いなぁ。・・・出来なくはないけど)

泣き言を言っても仕方がないので大人しく美鈴は手牌を見た。

美鈴の手牌

{東東東南南南西西西北北中中}

作戦が功を奏し、美鈴の手牌は字一色(ツーイーソー)小四喜(ショースーシー)のダブル役満確定の聴牌だった。場合によっては大四喜(ダイスーシー)、四暗刻も狙える手だ。

(上手くいった。イカサマはあまり好きじゃないけど、能力を使うのはイカサマじゃないから良いよね?)

役満目前の手に浮かれる気持ちを抑えながらそう考える美鈴。高橋の方はと言えばあまり良い手では無さそうだ。少しばかり高橋を挑発でもしてやろうか。

「高橋さん、早く牌を捨ててくれませんか?あなたが捨てないと始まらないんですよ」

「ん?まあそうだな。そうしたいんだがよ・・・。あがってんだよ」

美鈴の言葉に対して高橋はつまらなさそうに答えた。

「なんですって?」

高橋の言葉に美鈴達三人が耳を疑った。

「こいつは天和(テンホー)ってやつか?」

言って高橋は手牌を倒した。

高橋の手牌

{22444666888発発発}

「天和。ついでに緑一色、四暗刻のトリプル役満だ。これで対局終了だな、お疲れさん」

三人からそれぞれ48,100点オール。美鈴と小悪魔がハコテンになってしまった。そこで美鈴はあることに気づいた。

(彼の手牌が変わっている!それも()()!)

そう。高橋の手牌は配牌直後に読み取った時と今とで全く違うのだ。明らかなイカサマである。だがそれでも美鈴はその場で怒鳴り立てたりはしなかった。

(例えイカサマをしていたとしてもそれを見抜いて止められなかった私が悪い。こうなる可能性を予め考えていれば何かしら対処は出来た筈だ。それが出来なかった私の負けだ)

「お疲れ様です。おめでとうございます。高橋さん」

心の中で反省した後笑顔で美鈴は言った。

 

対局結果

一位 高橋 170,000点

二位 魔理沙 7,500点

三位 小悪魔 -30,400点

四位 美鈴 -47,100点

 

これによって高橋の勝利が決まった。

「あー、負けた!ところで愛乃。最後のアレ、どうやったんだ?イカサマしたんだろ?」

対局終了後、魔理沙が聞いてきた。

「ん?まぁもう勝負も終わったしネタバラシしてもいいか。ああ、確かにイカサマをやったよ」

「一体どんな・・・」

高橋の言葉に小悪魔も問うた。

「燕返し、ですよね」

小悪魔の質問に美鈴が答えた。

「ご名答」

 

『燕返し』とは、配牌時に他のプレイヤーが自分の手牌に集中している間に予め山に仕込んでおいた十四枚と手牌の十四枚を全て入れ替えると言う麻雀において最高難易度のイカサマである。

 

「それよりどうやってあの牌を積み込んだんですか?やはり透視かなにかですか?」

「想像に任せるよ」

美鈴の質問に高橋はそう言って答えた。

「終わったようね」

そこに観戦していたレミリアと咲夜がやって来た。

「おうお嬢さん。これで満足かい?」

「ええ。まさかこんな大差がつくとは思ってはいなかったけれど」

「これが俺の実力って事さ。それより、約束は忘れてないだろうな?」

「安心なさい。私は自分の言った事に責任を持つ女よ」

高橋の問いにレミリアは軽く笑って答えた。

「それで?勝った見返りに何をくれるんだ?」

「そうね、こんなのはどうかしら?喜んでもらえると思うわよ?」

言いながらレミリアは高橋の隣を指差した。つられて隣を見るといつの間にかそこには咲夜が立っていた。

そして次の瞬間、高橋の頰に何やら柔らかい感触がした。

 

まるでキスでもされたかのような。

 

いや、実際されているのだが。

「!?」

突然の咲夜の奇行に高橋は面食らった。

「フフッ、喜んでもらえたようで良かったわ」

驚く高橋の顔を見てレミリアは笑ったが、高橋にはそんな言葉は耳に入っていなかった。

「あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ!『俺は麻雀を終えたと思ったらいつの間にか隣に立っていたメイドさんから頰にキスされた』。な・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・。頭がどうにかなりそうだった・・・催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・」

「さ、咲夜さんがあんな事を・・・」

「・・・だ、大胆」

「咲夜の奴、愛乃に惚れたのか?」

高橋を含め四人が驚きの表情を見せた。

「咲夜、良くやったわ」

やらせた張本人であるレミリアだけはご機嫌であった。

「お前の差し金か!」

「酷い言いようね。賭けの結果なのだから仕方ないわよ」

「は?」

「実は貴方達がゲームを始める前に私と咲夜で賭けをしたのよ。貴方と美鈴のどちらが勝つか、と言うね」

そう。咲夜が唐突に高橋にキスをした理由、それはゲーム前にしたレミリアとの賭けによるものだ。レミリアは高橋に咲夜は美鈴に。そしてレミリアはその後にこう言ったのだ。

『負けた方は勝った者にキスをするっていうのはどうかしら?』

その結果、咲夜は高橋にキスをする事になったのだ。

「いくらなんでもそこまでせんでも・・・」

「賭けの結果ですし、何よりお嬢様の命令ですから」

「顔赤くして言われても説得力ないぞ」

高橋の言葉に咲夜はさらに顔を赤くした。それを見て意外にも可愛いところがあるもんだと高橋は内心で思った。

「それにしてもこんなに大差がつくなんてね」

「申し訳ありません。お嬢様」

レミリアの言葉に美鈴が頭を下げた。

「まあ、それなりに楽しめたし良しとしておくわ」

「お話中悪いがそろそろ本題に入ってくれるか?」

「気が短い男ね。それでは女の子にモテないわね」

「ほっとけ」

レミリアは拗ねたように答える高橋の顔を見てケタケタ笑った後、漸く本題に入った。

「依頼、と言うほど大袈裟なものではないのだけど簡単に言うなら、そうね」

少し間を空けてレミリアはその続きを言った。

 

「私の妹を黙らせなさい」

 

どうやら今回の依頼は穏やかではなさそうだ・・・。

 




前回の投稿から時間は空いてるわ、誤って途中で投稿するわと問題だらけな作品で申し訳ありません。
美鈴の能力を使ったイカサマに対して「これおかしくね?」と思った方もいるかと思いますが、それに関しては以前にも独自解釈などの事前注意はさせてもらっていますので悪しからず。
それではまた次回。


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8話・妹様と話をしに行く。

今年最初の投稿ですね。
今年も気長にやっていきたいと思います。
それでは本編をどうぞ。


「私の妹を黙らせなさい」

レミリアのその一言に高橋は思わず耳を疑った。

「なんだよその物騒な物言いは」

「またフランの奴暴れてるのか?」

「フラン?」

魔理沙から出た聞き慣れない名前に高橋は聞き返した。

「フランドール・スカーレット。レミリアの妹さ」

「それでそのフランドールさん?とやらを俺にどうしろと?」

「人の話も聞かずに暴れまくっているのよ。流石に相手をするのも面倒になったから貴方に妹の遊び相手になってもらいたいのよ」

「それが姉の言葉か」

レミリアの言葉に思わず高橋はツッコんだ。

「愛する妹の為に出来る限りの事をしてあげたいという姉の気持ちがわからないのかしら?」

レミリアの態度にこれ以上言っても時間の無駄だと判断した高橋は話を続けた。

「で?俺はその妹さんを大人しくさせればいいのか?」

「ええ。あの子を傷付けること以外なら大概の事は許可するわ。尤も、貴方にあの子をどうこうするなんて無理でしょうけどね」

「そんな恐ろしい子なのか、フランさん」

「悪い奴じゃ無いんだけどな。ちょいとばかり気がふれてる」

「超怖ぇ」

「それで結局この依頼を受けてくれるのかしら?怖いから嫌だと言うなら無理強いはしないけど」

「いちいち煽るなよ。まぁ、折角来たんだ、やれるだけやるさ。だが成功報酬は高いよ?」

「そう。別に構わないわよ。なら美鈴、彼をフランの所へ案内しなさい」

「わかりました」

「門番の仕事はさせなくていいのかよ」

「仕事をしないで寝てるくらいなら他に何かさせたほうがマシよ。それに美鈴がいればフランも喜ぶでしょうしね」

「なんだよ。美鈴と仲が良いのか?」

「私の次に、ね」

「ふーん。ならとりあえず行くとしますか。魔理沙はどうする?」

「私はここの図書館にまた行くさ」

「・・・止めたいけど止められない」

魔理沙の言葉に小悪魔が不満そうに言った。

(またなんか盗む気だな・・・)

「それではお嬢様、行ってきます」

そう言って二人はフランの元へ、魔理沙と小悪魔は図書館へと向かった。

 

 

「お嬢様、一つお聞きしても?」

四人の姿がなくなってから咲夜が口を開いた。

「何かしら?」

「あの男を妹様に会わせて大丈夫なのでしょうか?」

「キスした相手がそんなに心配かしら?」

揶揄いながら言ってくるレミリアに咲夜は反応に困った。

「冗談よ。それに彼なら心配いらないわ。彼にそんな運命は見えないもの」

「運命、ですか」

「ええ。仮に彼の身に何かあっても所詮その程度の男だったというだけの話よ」

 

 

「ところでフランって奴について教えてくれ」

高橋と美鈴は魔理沙達と別れ、フランのいる部屋へと向かう途中にそんな話し合いになっていた。

「どうしたんです?急に」

「これから会う相手の情報は必要不可欠だろ?」

「確かに。それで、何を知りたいんですか?」

「一通りのプロフィールだな。性格や好み、能力。知れる限りは知っておきたい」

「フランドール・スカーレット、さっきも言いましたがお嬢様の妹で勿論吸血鬼です。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持っています」

「よし帰ろう」

そう言って逃げようと後ろを振り向いた途端、美鈴に肩を掴まれた。

「まぁ待って下さい。別に目が合った途端に殺されるって決まったわけじゃないんですから」

「その言い方だと幾らかの可能性で俺は殺されるって事だよな!?」

美鈴の言葉にツッコミを入れると美鈴が苦笑いしていた。

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。妹様はお優しいですから」

美鈴の一言に安心する高橋。だがその後の言葉に耳を疑った。

「他に言うとすれば495年程家から出ていなかった事くらいですかね」

「495年?」

「はい。妹様の能力や性格の問題でお嬢様がそうさせていたんです。と言っても、妹様本人もそこまで屋敷から出る気もあまり無かったそうですが。まともに人間を見るのは魔理沙さんや霊夢さんが初めてだったらしいですよ」

「おいおい、家庭内で監禁事件ですか?」

「どちらかと言うと幽閉ですかね?」

「たいして変わんねぇよ」

高橋が言うと先導していた美鈴が扉の前で立ち止まった。

「ここが妹様のお部屋への道です」

美鈴が扉を開けながら言ってくる。よく見て見るとそこは地下へ続く階段だった。

「なんだ?監禁場所は地下室か?定番といえば定番だが」

「何の定番ですか・・・」

言いながら二人は薄暗い地下への道を歩いて行った。何とも薄気味悪いうえに予想以上に長い螺旋階段に高橋が嫌な顔をしていると唐突に美鈴が止まった。

「ここが妹様のお部屋ですよ」

そう言って見せられたのはなんて事はない普通の扉だった。だがその扉の奥から何とも恐ろしい気配を感じた。

(ビビってどうなる。何もすぐに殺されるって決まったわけじゃないんだ)

高橋が考えていると美鈴が扉をノックしていた。

「妹様、お客様がいらしてます」

すると中から扉越しに声が聞こえた。

『・・・お客様?』

「はい。初めての方です。妹様にお会いしたいとのことです」

美鈴が言うと少しして中から「入っていいよ」と聞こえた。

「失礼します」と一言言って美鈴は扉を開けた。するとそこにはレミリアと然程背丈の変わらない金髪の少女がいた。吸血鬼と言うからレミリアと同じ様な翼なのかと思っていたが羽の部分には左右それぞれに宝石の様なものが付いていた。

(あの子がフランドール・スカーレット・・・。パッと見は普通の可愛い女の子って感じなんだがなぁ)

部屋に入り、フランの姿を見ると高橋は内心でそう考えたがそれより気になったことがあった。

(・・・部屋の中がひどい惨状だな)

高橋の目に入ったのは壁の所々が抉れ、床の彼方此方にヒビが入っている惨状だった。予め話を聞いていなければ彼女が暴れてこうなったなど到底信じなかっただろう。

「それで、私に会いに来たのってあなたの事?」

フランがつまらなさそうな顔で高橋に聞いてきた。

「初めまして、フランドール・スカーレットさん。訳あって貴女に会いに来ました、高橋 愛乃と言います」

高橋は出来る限り丁寧に挨拶をした。決してフランに対して恐怖心を抱いてこんな態度を取っているのではない。これが彼の仕事の際のいつものやり方なのだ。

「それでは私は部屋の外にいますので何かあれば呼んで下さいね」

高橋たちを二人にしようと考えたのか、それとも単純に場の空気に耐え切れなかったのか、美鈴は部屋から出て行った。そして残された二人の間には重い空気だけが残った。

「それで?人間が態々こんな所に来て私に何の用なの?だいたい想像は出来るけど」

相変わらずつまらなさそうな顔で言いながらフランはベッドに座った。

「多分想像通りだよ。君の姉に依頼された」

「依頼?」

「俺は元々外の世界で便利屋をやってたんだ。まぁ今は色々あって幻想郷で仕事中だったんだが、あのお嬢様から君の相手をしろって言われてな」

「やっぱりお姉様か。どうせ暴れてる私をなんとかしろって話でしょ?」

「話が早くて助かるよ。フランドールはそもそもなんで暴れてるんだ?」

「だって最近なんでか知らないけど弾幕ごっこが出来なくなったのよ。だから退屈でイライラするの」

どうやらフランは弾幕ごっこがギャンブルに変わったことを知らない様だ。

「姉さん困ってたぞ」

「だからこそ暴れるの。お姉様が困るなら私は面白いもの」

「イカれてやがる」

「っ!」

高橋がそう言うとフランはゆったりと自分の右手を閉じた。するとそれと同時に高橋の足元にあったぬいぐるみが突然弾け飛んだ。

(怖ぇぇぇ!これがさっき言ってた『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』ってやつか!?・・・多分これは警告だな。これ以上煽ったらマジで俺がやられる)

「悪かった。流石に言い過ぎた」

高橋もまだ死にたくは無いので素直に自分の非を認めた。

「そう。ならそのままお姉様の所に帰って」

「残念だがそうもいかないさ」

「ならあなたがストレス解消の相手になってよ。そうしたらさっきの話考えてあげる」

「他に誰かいないのかよ」

「お屋敷の皆は誰も相手してくれないし、家から出るのも禁止されてたのよ?誰もいないわ」

「・・・どうしたらフランドールのストレスは無くなるんだ?」

「フランで良いよ。思いっきり暴れ回るか弾幕ごっこが出来ればストレスが無くなるかもね」

「その両方が出来ないから困ってるんだろ?」

「それをなんとかするのがあなたのお仕事でしょ?」

「・・・」

「・・・」

二人の間にまたしても沈黙が生まれた。

(まるで俺に興味を持ってないな。単純に俺に興味が無いのか、姉貴の差し金なのが気に入らないのか)

如何にか会話の糸口がないかと頭を捻っているとあることを思いついた。

「フラン、弾幕ごっこが出来なくなった理由、知ってるか?」

フランが弾幕ごっこが好きだと言うならあえてそれをネタにすればいい。簡単な事だった。

「知らない。能力は使えるのに弾幕が全く出ないの。スペルカードも変だし。多分お姉様が何かしたのかもね」

案の定、フランは此方の話に食いついてきた。

「実は最近、弾幕ごっこがギャンブルに変わったんだとよ。とある奴の所為でな。スペルカードとやらもギャンブルをする時にしか使えないようだぜ。内容も変わっているみたいだけどな」

そう言って高橋は懐から出した例の紙を手渡して見せた。予め紅魔館に来る前に霊夢から貰っておいたのだ。

「誰が何の為に?」

「そいつを突き止めて元の弾幕ごっこに戻すのが俺の本来の役目なんだが、いかんせん俺はこっちに来たばかりで幻想郷(ここ)の事をよく知らないんだよ」

「それで?」

「フランさえ良ければ協力してくれないか?」

「あなたに協力したら弾幕ごっこが出来る様になるの?」

ここに来て初めてフランが高橋の言葉に興味を示した。

「そればっかりは今後の努力次第って所だな。だが味方は多いに越した事はない。どうだ?協力してくれるか?」

「・・・嫌」

少し考えた後、フランは高橋の提案を断った。

「理由を聞いても良いか?」

「だってそもそもあなたの言ってる事が本当って証拠が無いもの。もしかしたらお姉様が私に嫌がらせする為に仕組んだ事かもしれないし、本当は弾幕ごっこが出来なくなったって言うのも嘘かもしれないじゃない」

「そんな事の為にあの女が俺やこんな紙を用意したって思うのか?」

「それだって証明は無理でしょ?仮に本当だったとしても皆で私を騙してるって私が思ったらそれでお終いだもん」

警戒心が強いのか、疑い深いフランはどう足掻いてもこちらの言い分を認めようとはしない様だ。ここまで言われるともはや泣けてくる。そしてそれを聞いて先程のレミリアの言葉を思い出した。

(何処が仲が良いんだよ、この姉妹・・・)

「ならどうしたら信じてもらえるんだ?」

「その勝負(ギャンブル)?であなたが私に勝てばいいのよ。そうしたらあなたの言う事を聞いてあげる」

何とも上からな言い分だが彼女の立場からしてみればそう考えても仕方がないのかもしれない。無論高橋も断れる立場では無いのでフランの言葉に同意するしかない。

「わかった。ゲームはフランが決めな。但し、俺が圧倒的に不利なのは勘弁な」

「はいはい。なら鬼ごっこにしましょう。私が逃げるから、貴方が追いかけるの。制限時間は三時間でその間に貴方に捕まったら私の負け。逃げ切ったら私の勝ち。それでいい?」

「それでいいよ。もし俺が負けたら俺が出来る限りでフランの言う事を聞こう。その代わり、フランが負けたら俺の言うことを聞く。構わないか?」

「ええ、いいわよ。それじゃあ・・・、ゲームスタート!」

そう言ってフランは勢い良く部屋から飛び出して行った。すると部屋の外から騒ぎが気になったのか美鈴が心配そうにやって来たのだ。

「何かあったんですか?今妹様が出ていったようですけど」

「今から俺とフランとでギャンブルするのさ。どうやら命がけの鬼ごっこらしいけどな」

「命がけ!?」

高橋の冗談を聞いて美鈴が大声で叫んだ。いきなり命がけの勝負などと言われたのだから無理も無いだろう。そう思って部屋の外に続く扉を開け部屋を出た。

その直後だった。

 

───背後の扉が爆破したのだ。───

 

突然起きた爆破による爆風に高橋は勢いよく吹き飛ばされた。

「っ!?ガハッ!んだよこれ!」

吹き飛ばされた際に床を転げ回ったが、骨折などの大きな怪我は無いようだ。当然全身が痛みはしたが。

「大丈夫ですか!?」

部屋の中から美鈴の声が廊下へと響いた。

「な、何とか死なずには済んだよ。しかしこりゃ確かに命がけだ」

跡形もなく吹き飛んだ扉を見て少しばかり恐怖を覚えたが、今更そんなことを言っても仕方がない。まさか適当に言った自分の冗談が本当になった事に恐怖しながらも高橋は再び階段を上って行った。

「・・・本当に大丈夫かなぁ」

そんな彼の背中を見ながら一人残された美鈴はぽつりと呟いた。

 

 

フランの部屋を出て長い螺旋階段を登り終えた後に高橋がやって来たのは先程美鈴達と麻雀勝負をした場所だった。

「これからどうしたら良いもんか。俺、この屋敷の事碌に知らないんだよなぁ」

何処にどの部屋があるかすら知らない高橋にとってこの状況は非常に良くないものだった。

つまりは軽い迷子状態である。

「屋敷のどっかにいるのは間違いないんだから隠れられそうな所を虱潰しに探していくしかないか」

そう言って高橋は手当たり次第に部屋を調べて回った。そうしていくうちに他とは違う扉を見つけた。

「ん?なんだここ。まぁ入ればわかるか」

そう考えて扉を開けて入るとそこには見上げる程の高さの本棚とそこに収められた大量の本があった。恐らく此処が魔理沙の言っていたこの屋敷の図書館なのだろう。

「こんな所にフランがいるのか?それにしても広い部屋だな。本棚は壁みたいに天井くらいまであるし、本はやたら多いし、こんな量の本は一生かけても読みきれないな」

元々本が好きな性格の高橋はそんなことを言いながら辺りの本を見回した。出来ることなら今から読んでみたいのだが、人様の物を勝手に見る訳にもいかないし、そもそもそんなことをしていたら気がついた頃には制限時間を過ぎてしまうだろう。

「あ、貴方は先程の」

背後からそう言われて振り向いたら先程麻雀をした小悪魔がいた。

「おうさっきぶりだな。ここがさっき言ってたパチュリー様って人の部屋か?」

「よくわかりましたね。そうですよ。ここがパチュリー様の図書館です」

「て事はここの本全部がパチュリー様とやらの物か。これだけの本をよく集めたな。幾つか読めなさそうな本もあったけど」

「ここには普通の物語の本以外にも魔導書や魔法に関わる本など様々な種類の本が有りますからね」

「すげー読み漁りたい。出来る事なら一日中小説とかその魔導書とか読んでたい」

「う〜ん。それにはまずパチュリー様の許可をいただかないといけませんね。それに魔法に関する本は読めるかすら怪しいものもありますし」

高橋の言葉に苦笑しながら小悪魔が答えた。

「そうなのか?」

「はい。全てではありませんが、一部の魔導書には魔力が無ければ一文字も読めなかったり、普通の人が読めばそれだけで精神に異常を及ぼす物もありますから」

「物騒すぎるな。わかったよ、下手な好奇心で迂闊に手を出さないようにするよ。そういや、魔理沙がここから本を盗んでるんだっけ?」

「そうなんですよ。何度も被害にあって困ってるんです。それに一向に返す気配も無いんです。そうだ、良かったら今からパチュリー様に紹介しましょうか?もしかしたらここの本を読むのを許可してもらえるかもしれません」

「いや、折角の御言葉に申し訳ないんだが、今フランを探さなくちゃいけないんでな。悪いがその後か後日でいいか?」

「妹様をですか?」

小悪魔が可愛らしく首を傾げて聞いてきた。

「ああ。今フランと勝負しててな。時間内にあいつを探し出さないといけないんだよ」

「なるほど。では終わったらまた来て下さい。その時にはまたパチュリー様にお話ししますので」

「その時は頼んだよ」

そう言って高橋は図書館を後にした。

 

その後ろ姿を見つめる人影に気付くこともなく。




年明けから結構経ちましたがようやく更新できました。
これからも遅いながらもやっていきますのでよろしくお願いします。
ご意見、ご感想などあればお願いします。
ではまた次回。


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9話・ そろそろ鬼ごっこも終わりにしたいものだ。

書こう書こうと思っていたらいつのまにか一年経過していた・・・。
(書くの辞めちまえ)
次からはもうちょい真面目にやります。
では本編どうぞ


フランの捜索の為、図書館から出た高橋は当てもなく紅魔館の廊下を彷徨っていた。

「しかしこれからどうしたもんかな」

そんな事を呟いたが、その言葉に返事をする者は誰もいない。それよりも高橋は先程から考えている事があった。

(・・・誰かに見られている気がする。まさかフランか?)

だが、時々振り返ってみてもそこに誰かがいるような様子は無かった。

「・・・気のせいか」

そう結論づけて再び歩き続けたが、やはり誰かに見られている気配がしたままだった。

(誰が何の目的か知らんが、確かめてみるか)

そう考えると同時に高橋は走って曲がり角を曲がった後に足を止めた。よくある古典的な罠だ。するとそれを見た後ろの誰かさんも案の定つられるようにして高橋を追いかけた。

「俺に何か用か?」

後からやって来た人物の姿を見て高橋はそう言った。だが、その人物は残念な事にフランではなかった。現れたのは金髪の魔法使い、霧雨 魔理沙だった。

「魔理沙?何で俺の後をコソコソ追ってきたんだ?」

「図書館にいたらお前が入ってくるのを見てな。小悪魔との会話を聞いて面白そうだから後をつけてたんだ」

「全く気がつかなかった」

周りには気をつけていたはずだったが思っていた以上に油断していたようだ。

「それで?お前は俺の邪魔をしに来たのか?それとも手伝いに来たのか?」

「どちらでもないんだぜ。お前達の勝負に私が水を差す理由もお前に肩入れする理由もないさ」

「そりゃそうだ」

言われてみればその通りだ。フランは兎も角、出会って間もない高橋相手に魔理沙がそこまでしてやる義理は微塵もない。

「まあ、あえて言うなら最後まで見届ける傍観者ってところだな」

ニヤリと笑いながら言ってくる魔理沙の顔を見てつられるように高橋も笑った。

「ならついでにこの屋敷の案内人をやってもらえるとありがたいんだがな。なんせこんな広い場所じゃあどう動いていいかもようわからんのだ」

「悪いがそれは出来ない相談なんだぜ」

高橋が聞くと、魔理沙はあっさりと断った。

「そうかい。まぁそれも仕方ないな。ここで俺を手伝えば俺に肩入れするって事だもんな」

「そういう事さ。残念だが私はお前に力を貸さない」

「チクショー。魔理沙にフラれた」

「はっはっ!私は他の女の尻を追いかける様な男に興味はないのさ!」

高橋の冗談に魔理沙が高笑いして返すと高橋は再び歩き出した。

「何だ?来ないのかよ魔理沙」

振り返るとその場から動こうとしない魔理沙が気になった。

「いや、気にしないで行ってくれ。私は勝手に付いていくからな」

「そうかい」

そう言って歩き出した高橋を悲劇が襲った。

 

突然天井の一部が崩れ落ちたのだ。

 

「はっ!?」

いきなりの出来事に高橋は回避することができなかった。唯一できたのは体を丸めて衝撃にそなえる程度だ。

「う、っぐ、ってぇな!」

幸いと言うべきか、高橋は然程大きな怪我などはなかった。あるとすれば頭を守った際に瓦礫にやられた左腕くらいだろうか。折れてはいないようだが、動かす度に痛みが走っている。

「これで死んでないって俺はラッキーなのか?」

落ちてきた周りの瓦礫を見ながら呟くと魔理沙が駆け寄ってきた。

「おい愛乃、平気か!?」

「なんとかな。左腕が多少イカれた様だが何とかなるだろ」

軽く左腕を動かしながら答えた。やはり動かすだけで痛い。

「今度腕のいい医者を教えてやるよ」

「助かる」

高橋の返事を聴きながら魔理沙は高橋の左腕を触ってきた。痛いのでやめてほしい。

「すげぇ痛いんだけど」

「良かったじゃないか。痛みを感じるって事は生きている証拠だ」

そんなことを言いながら周りの瓦礫を避けながら魔理沙は今来た道を戻って行った。

「おい魔理沙、どこ行くんだ?」

「このまま先に進んだら次は何が起こるかわからないぜ?他の場所を探したほうがいい」

「そうかい」

短く答えると高橋はそのまま先へと進んで行った。

「おいおい、人の話を聞けっての。そっちは危険だって」

高橋は小さく息を吐くと魔理沙に向かって言った。

 

「黙ってろよ。()()()()()()()

 

高橋の一言に魔理沙は驚いた。

「いきなり何を言い出すかと思えば、何で私がフランの手先なんだよ」

「ふざけろ。少なくともお前はさっき天井が崩れてくることを知っていた。だからあの時お前は途中で立ち止まったんだ。自分も被害に遭わないように」

「なるほど、確かにそれならお前がそう思うのも無理はない。だけどそれだけじゃ私がフランの手先とは言い切れないんだぜ?」

「理由はもう一つある。お前、今来た道を戻ろうとしたろ。それはその先にフランがいる、もしくはフランにつながるヒントがあるからだ。だからお前は俺にそれを気づかれない為に来た道を戻ろうとした。違うか?」

「違うかと聞かれて違うといったところで、愛乃はそれを信じるのか?」

「お前に俺の意見を否定出来るだけの証拠があるならば信じるぜ?」

「そいつは最初から信じてないって言ってるのと同じなんだぜ?」

高橋の言葉にやれやれと言った様子で魔理沙が答えた。

「面倒だから素直に認めるよ。確かに私はフランに肩入れしているさ。しかしよくそれだけでわかったな」

「違和感ならまだあったよ」

「なんにだ?」

高橋の言いたいことがイマイチわからずに魔理沙は聞いた。

「お前、さっき俺が、俺の邪魔をしに来たのか?と聞いた時こう答えたよな?『お前達の勝負に私が水を差す理由もお前に肩入れする理由もない』と」

「確かに言ったさ。それの何がおかしいんだ?」

「一見するとおかしな点は確かに無い。だがお前は最初に『お前達の勝負に』と言ったのに対して、その次は『お前に肩入れする』と言った。そこに違和感を感じたんだ。まるでフランに肩入れしている事を否定しない様だった。そこに僅かながらに違和感を感じたんだよ」

「そんな小さなことで私を疑ったのか?人間が小さいぜ」

「ギャンブルやる奴のほとんどはロクな人間じゃないさ。それに、俺は自分の感じた事はどんな小さなことでも大事にするんだよ。自分の感性すら疑うようじゃ何も出来ないからな」

「例えその感性が結果的に間違えていてもか?」

「その間違えた経験を次に活かして成長するのが人間の強みであり、偉大さだと俺は思っているよ」

「いちいちカッコつけて言うなよな」

魔理沙が苛立ち気に言うと高橋は然程気にも止めずに先に進んだ。

「ところで魔理沙、何でフランに協力したんだ?まぁ昨日今日会ったばかりの俺とこの屋敷に頻繁に来て会っているフランとじゃ差が出るのも仕方がないことだとは思うよ?だがやるからには何かしら理由があるはずだ。それが何か知りたいんだ」

「お前、意外と細かいことを気にするんだな」

高橋の後を歩きながら魔理沙が言った。

「知らない事があるっていうのは人からしてみりゃ恐怖だよ。知らなきゃ対策もできないんだからな。だから俺は少しでも恐怖を消す為に色々知識を得たいんだ。知っていることが多ければ自分に出来ることも増えるしな」

「なるほど。お前の言い分はまあ少しくらいは納得したぜ。ならお望み通りに教えてやるさ。フランに協力して時間稼ぎをしたらあいつがこっそり隠し持ってるパチュリーの本を貸してくれるって言うからさ」

「盗んでるのはお前だけじゃないのかよ」

まさか身内にも犯人がいたのかと、内心会ったこともないパチュリーさんに高橋は同情した。

「てか、よく考えたらフランがこっそり隠し持ってても結局は魔理沙が盗んだって思われてるんじゃないか?お前、常習犯なんだろ?」

「・・・あっ」

高橋の言葉を聞いて魔理沙が間抜けな声を出した。

「気づいてなかったのか?」

「・・・ああ。てことは私はフランに良いように使われたってことか?」

「まぁそうだろうな。仮に魔理沙にそのパチュリーさんとやらの本を渡したところで自分のものじゃないから被害もないし、パチュリーさんに本が無くなったのがバレても十中八九魔理沙が疑われるだろうからな」

「あ、あいつ!よくもこの魔理沙様をコケにしてくれたなあ!」

「いや、最初の段階で気づけよ」

高橋のツッコミも魔理沙には聞こえていないようだ。

「このままコケにされっぱなしなのは納得できない。だから愛乃、お前に協力してやるぜ」

「そりゃどうも」

なんとも上からな言い分だが、人手が増えるので高橋はとりあえず大人しく礼を言うことにした。

「ところで愛乃、フランを捕まえる策はあるのか?」

「そんなもんあればこんな所うろついてねぇよ」

「何でそんなに偉そうなんだよ」

魔理沙につっこまれても特に気にも止めずに高橋はその場で立ち止まった。

「人の話を聞かない奴だな!これからどうするかって話だろ!まだフランを見つけてもいないんだぞ」

「捕まえる策は無いけど探すのはそう難しくないと思うぞ」

「なんでそう思うんだ?」

「恐らくだが、さっきの天井の崩壊はフランの仕業で間違いないだろう。そしてフランがやってるならどこかで必ず俺達の姿を見てるはずだ。つまり、少なくとも俺達を隠れて観れる範囲にフランがいる。でなきゃこんな狙いすましたように仕掛けてこれないからな」

「相変わらず遠回しな言い方するな、お前」

「推理ってのはいつもそんなもんだよ」

そう答えながらも辺りを見渡しながら探したが、無駄に広い紅魔館は隠れられそうな場所も多かった。

「制限時間は残り約一時間。流石に一つ一つ部屋を虱潰しに探してたら時間が足りないな」

「もうさっさと諦めて負けを認めろよ。こっちも飽きてきたぜ」

先を歩いている魔理沙が言ってきた。たいして時間も経っていないのに先ほどと言っていることが正反対である。

「馬鹿なこと言うなよ。負けられねぇんだよ、こっちは」

当然負けるわけにいかない高橋は降参などするはずがない。

「そもそも飽きたなら別に無理して俺に付き合う必要もないだろ。魔理沙はこのゲームに参加してるわけでもないんだし」

「フランのやつにいいようにされたのが気に入らないんだよ」

「だったら文句言わずにお前も手伝え」

魔理沙の小言にイラつきながらも高橋が言った。

「手伝えって言っても何をどうすればフランを捕まえられるんだよ」

「ほー、俺よりフランのことを知ってるのにそんなことも考え付かないのか魔理沙様は」

高橋が煽るように大声で言った。

「なっ!ポーカーひとつまともに私に勝てなかった奴が偉そうだぜ!」

「ポーカーで一度勝ったくらいででかい口聞くなんて魔理沙ちゃんはやっぱ子供ですねぇ」

ケラケラ笑いながら言ってくる高橋の言葉に怒りが募った魔理沙が言ってきた。

「だったら大人な愛乃の対処法ってのを見せてもらおうか」

こう言われてしまうと煽った手前、高橋としては何としても勝って終わらねばいけなくなってしまった。

「まぁ慌てなさんな。焦ったら勝てるもんも勝てねぇぞ」

「だから何でそんなにお前は偉そうなんだよ」

「そうカリカリすんなよ。俺の作戦はすでに始まっているんだ」

壁に背を預けながら高橋が言った。

「始まってるって、まだ何もしてないだろ?」

「よく考えてみろよ。詳しくは無いが吸血鬼ってのは凄まじい生命力と身体能力をもってんだろ?そんな奴と、ちょいとばかり運動神経に自信がある程度の人間風情が真っ向から勝負して敵うと思うか?」

「殴り合いになれば話にならないな」

「だから真っ向勝負はやめることにした」

「やっぱり諦めたんじゃないか」

「いやいや、そのうちわかるよ」

高橋が言い終わると同時に物陰からある人物が飛び出してきた。

金髪の吸血鬼少女、フランドール・スカーレットだ。

「ちょっと!いつまで待たせるのよ!」

どうやら高橋の予想通り陰で様子を見ていたが痺れを切らして出てきたようだ。

(そうか、これが高橋の作戦か。追って駄目なら向こうから来てもらえばいい。そして隙をついて捕まえればいい。なるほど、簡単で尚且つ、フランの様なタイプには効果的かもしれないぜ)

二人のやりとりを見ながら魔理沙は内心でそう考えていた。確かにフランはどちらかと言うと我慢が出来る方でもなければ気が長い方ではない。そして身体能力で劣る高橋からすれば悪くない作戦かもしれない。

鬼ごっこは鬼が追いかけるからみんなが逃げるのだ。なら逆に追わなければいいのではないだろうか?

だがこれには一つ決定的な問題がある。

(こんなあからさまな作戦、余程のバカでもない限り通じないぜ。仮に通じてもバレたらその時点でまた逃げられてお終いだ。しかも二度目はない)

そう。この作戦は一度見破られたらそこまでなのである。そしてどう考えてもフランがこんな単純な策に嵌るとは魔理沙は思えなかった。

そして当然の事ながら、フランもその策を見抜いていた。

「そんな見え見えの手になんか引っかかるわけないでしょ!」

そう言いながら、高橋が動けば即座に逃げれるギリギリのところフランは止まった。

「やっぱこんな作戦は無理があったんだぜ」

魔理沙も呆れながら言った。だがそれでも高橋は相変わらず目を閉じて壁に背を預けたまま動こうとしなかった。

「?」

流石にその様子にフランと魔理沙は疑問を覚えた。

「おい、聞いてるのか?愛乃」

と魔理沙が聞くと同時に異変が起きた。

 

ゴンッ!

 

と言う鈍い音がフランの方から響いてきたのだ。

「痛っ!何よこれ!」

魔理沙が振り返るとフランが頭をおさえながら喚いていた。フランの足元を見ると先程までなかったはずの瓦礫の一部が転がっていた。おそらく原因はこれだろう。自然に落ちてきたわけでもなさそうなところを見るとやった犯人は一人しかいない。そしてそう考えると同時に、

 

「悪いな。これで俺の勝ちだ」

 

フランの肩に手を乗せた高橋 愛乃の姿があった。

「え?」

フランが背後に立った高橋の姿を見ながらそんな間の抜けた声を出した。不意を突かれて負けたのは理解できる。だがその過程の手段がわからなかったのだ。

「今のどうやったの?」

「ただの手品だよ。タネも仕掛けも御座いません」

「どっかのメイド長みたいなことを言うな」

興味津々で聞いてくるフランの質問を適当に返すと魔理沙がそんなことを言ってきた。

「なんだそりゃ」

メイド長と言うと咲夜の事だろうと高橋が考えていると、またフランがしつこく聞いてきた。

「ねぇさっきのどうやったのか教えてよ」

「どんだけ知りたいんだよ」

「知らないことがあるなら知りたいと思うのは普通じゃない?」

「確かにその通りだぜ。しかもさっき似たようなことを聞いたな」

フランの言葉に魔理沙も同意した。

「あまり自分の手札を教えるのは好きじゃないんだがな」

「ケチ」

「うるせぇ。教えるのは良いがフラン、先に確認したいんだが」

「何?」

「この勝負、俺の勝ちでいいんだよな?」

「うん。良いよ、あなたの勝ちで」

この時点で正式に高橋の勝ちが決まった。そもそも誰が何を言おうと、フランを捕まえた時点で高橋の勝ちなのだが。

「それじゃあ、教えてよ。あなたのその手品」

「種明かしは手品のタブーなんだけどな。まぁ俺はマジシャンじゃないからいいけど」

「サーストンの3原則か」

魔理沙が言ってきた。

「よく知ってるな。・・・と、話が逸れたな。まぁ簡単に言うとこんな話だよ」

そう言って高橋は近くに転がっていた瓦礫に手をかざした。するとゆっくりと瓦礫が浮き上がった。

「とまぁ、種明かしにもならない俺の手品でした」

「なるほど。これでフランの頭の上から瓦礫を落としたってわけか」

「バレないかヒヤヒヤしたよ」

高橋が笑いながら言った。

「・・・こんなので負けるなんて」

「油断して近づいたりするからだよ。それにやられたらやり返すのが俺の理念だからな。何にしろ俺の勝ちだ。約束は守ってもらうからな」

「わかってるわよ」

どこか不満そうにはしているものの、仕方なくと言った感じでフランが答えた。だが、どこか満足そうだとも高橋は感じた。

「とりあえず、レミリアの所に報告に行くか」

高橋が言うと三人はレミリアに会うため、その場を後にした。途中で高橋があの崩れた瓦礫はどうするんだろうかとふと思ったが、まぁどうでもいいかと切り捨てた。

 

 

 

「おかえりなさい」

三人がレミリアのところへ行くと優雅に紅茶を飲みながら開口一番にそう言った。

「おう。約束通り大人しくさせたぞ」

「ご苦労様。思ったより早かったのね。驚いたわ」

「本当に苦労したよ。何度か死ぬかと思ったしな」

「あら、そうしたら問答無用で貴方の勝ちだったじゃない。確かあったはずでしょう?『ゲーム中の暴力行為はその時点で負け』って」

「それで死んだら元も子もないだろうが。こちとら死んでも生き返ったりしないぞ」

ゲーム中のことはフランも高橋も直接相手に危害を加えたのではないので問題無しという判定だ。グレーな判定ではあるだろうが。

「全く。好き勝手暴れてくれたものね。人の話も聞かないでよくあそこまで暴れられるものね」

今度はフランの方へ視線を向けながらレミリアが言った。

「でもお姉様、お陰で退屈しなかったでしょ?」

「ええ。フランのお陰で頭が痛くなって仕方がなかったわ」

「何だその皮肉の言い合い」

「冗談よ。フランも満足してるみたいだし、良しとしましょうか」

「それじゃあ、早速で悪いんだが、仕事の話をしてもいいか?」

「わかっているわ。報酬でしょう?一体いくら欲しいの?」

レミリアは言わなくてもわかると言うように紅茶を飲み干しながら言った。

「残念だが金じゃない。今それ程金に困ってるわけじゃないんでな」

「そう。なら何が望みなのかしら?」

「取り敢えず今後この屋敷の出入りの自由と、あと腹減ったから飯食わせてくれ」

「そんなのでいいの?」

「ああ。むしろそれが良い」

「何でだ?」

魔理沙が聞いてきた。

「理由は大きく分けて三つ。一つは今言ったように然程金に困ってないから。二つ目は出入りが自由になれば俺の活動範囲が広がるから。三つ目は公式に認められれば周りからの信用や評価に繋がるからだ」

「周りからの評価?」

いまいちわからないと言った様子で魔理沙が聞き返してきた。

「俺の活動が今後どうなるかはまだわからないがこの仕事(便利屋)は信用が命なんだよ。そうなると周りからの評価の基準は実績と能力だ」

「実績と能力?」

「『過去にこの人はこんな仕事をしてこんな成果を出したんだ』と分かればそれは信用につながる。信用が増えればその分だけ次の仕事につながるってわけよ」

「それはわかったがそれと紅魔館の出入り自由がどう関係するんだ?」

「紅魔館というよりレミリアの影響力がどんな程度なのかは知らないが、決して小さくはないんだろ?となれば『あの』紅魔館の主、レミリア・スカーレットが認める程度の存在って事を事実として残せる。多少大袈裟な点はあるかもしれないが、影響力を持つ人物の屋敷に出入りできる程には『信頼』と『実績』がある人間って事になるのさ。それを明確に残せるだけでも次につなげるきっかけになる」

「長々と御高説ありがとう」

魔理沙が嫌味ったらしく言ってきた。

「あくまで俺の理論だけどな」

「自分なりの理論を立ててそれを全う出来るのは誇っていいことよ」

「それには同感だな」

レミリアの言葉に魔理沙も同意してきた。二人が素直に褒めてくるものだから流石に照れる。

「それよりもフラン、約束通りもう暴れんなよ」

照れているのを二人に悟られないように高橋はフランへ話を振った。

「わかってるわよ。あなたの言うように大人しくする」

「愛乃でいいよ。これからもよろしくな」

「うん。よろしく、ヨシノ」

そんな二人の様子をニヤつきながら見つつ、レミリアが言った。

「さて、話も終わったことだし、色々と外の話も聞きたいのだけれど、どうかしら?今夜は泊まっていかないかしら?」

「女の誘いを断ったら失礼だしお言葉に甘えるよ」

「そう。なら咲夜、部屋の用意と夕食の準備をお願い」

「畏まりました」

答えると同時に咲夜の姿はどこにも無かった。ついでに言うと先程まであった筈のティーセットも消えていた。

「・・・何、今の」

「咲夜のタネ無しマジック?」

フランが答えた。

「私も世話になるんだぜ」

「そうだろうと思ってたから安心なさい」

レミリアが呆れながら言った。魔理沙のこの図々しさはある意味素晴らしいとも思えた。

「悪いがもう少し屋敷を散策してもいいか?」

「私は部屋で休ませてもらうから好きになさい」

「ありがとうよ。フランも来るか?」

「退屈だから行く」

「私はまだやる事があるからまた後でな」

(図書館か)

(図書館ね)

(図書館だ)

全員の予想は一緒だった。勿論その予想は当たっているのだが。

「ならまた後で会おう」

そう言ってそれぞれはバラバラに行動を開始した。

 




前書きでも言いましたが次からは真面目にやります。
もう亀というよりカタツムリ並みの遅さやな。
ではまた次回


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10話・図書館へ行こう。

また載せるのに時間がかかってしまった。


レミリアと魔理沙と別れた後、高橋とフランはあてもなく紅魔館を彷徨っていた。

「ねぇヨシノ」

「ん?」

「さっきのヨシノの能力ってどうやって手に入れたの?それとも生まれつき?」

「いきなりだな」

突然のフランの質問に高橋は考えた。

(さて、どう答えたものか・・・。別に適当に答えてもいいんだがあまり嘘は好きじゃないんだよなぁ)

高橋としては自分のこの力のことはあまり人に言い広めたい訳ではない。人に広まれば対策を練られる可能性も有るのだから(既に一人には言っているが)。

「後天的だよ。ガキの頃に色々あって手に入れたんだよ」

「ふうん。ヨシノって外の世界ではどんな仕事してたの?」

「そんなに俺に興味あるのか?」

「ええ。だって面白そうなんだもん」

「モテる男は辛いなぁ」

「それともう一つ聞きたいんだけど」

「・・・ツッコミがないって辛いなぁ」

ボケに対してツッコミが無いというのは予想以上に虚しいのだ。

「それで?もう一つ聞きたい事って?」

「今好きな人いる?」

「なんで急にそんな事聞くんだ?」

「レディにそんな事言わせる気?」

頬を赤らめて俯きながらフランが言った。

この瞬間、高橋の脳内で緊急会議が開かれた。

 

(これはまさかのフランからのアピールでは!?)

高橋Aが脳内で叫んだ。

(落ち着け俺!これはフランの悪ふざけの可能性が高い!今日会ったばかりの奴にそんなステキイベントが起こるはずないだろ!)

高橋Bが止めにかかる。

(だが世の中には一目惚れと言うものが存在すると聞く。それが今起きたとしても何ら不思議ではないのでは?)

すかさず高橋Cが割って入った。

(貴様正気か?お前は誰かに一目惚れされる様なツラしてんのか?いっぺん鏡見てから出直して来いや)

高橋Cの言葉に高橋Dが言った。

(では性格から好きになったと言うのはどうだろうか?短い時間とはいえ会話もしたんだ。その可能性はないか?)

高橋Eが聞いた。

(そんなので惚れられるくらいなら今まで彼女が出来なかったのはどう説明する気だ?)

高橋Fの言葉を最後に、その場の全員が黙った。

(こうなっては仕方ない。これが本当にフランのアプローチかそれとも単なる彼女のイタズラなのか、多数決を取りたいと思う。これがフランのアプローチと思う者は挙手を)

高橋Aが言うとAを含め、三人が手を挙げた。

(イタズラだと思う者、挙手を)

残りの三人が手を挙げた。

共に三対三、同数だ。

(これでは決まらんではないか!)

高橋Aが叫ぶと高橋Bがやれやれと言った感じで提案した。

(こうなったら仕方ない。ここは一つ、これで決めよう)

高橋Bの手には一枚のコインがあった。つまりはそう、コイントスだ。

(表ならgo、裏はstay。それでいいだろ?)

言い終わると同時に高橋Bがコインを打ち上げた。全員の視線が宙を舞うコインを追いかける。その結果 ─────

 

「そんなハニートラップは効かねぇよ」

約三秒の脳内会議の結果、高橋はなるべく平然を装って答えた。

「なんだ、つまんないの」

やはりと言うべきか、フランの悪ふざけだった様だ。

(ほらね!思った通りだ。所詮は子供のイタズラだな。大人としては少し引っかかってあげるべきだったかな?俺もまだまだだなぁ。・・・別に悔しくやんてねぇし)

気のせいだろうか、二つの目からなぜか水が流れていきそうに感じるのは。

「そう言う冗談は俺だけにしとけよ。他の奴に言ったら面倒ごとにでもなりかねん」

「強ち冗談でもないかもよ?」

「本当に好きになるぞ?」

「良いよ?」

「なんだこの会話」

高橋がそう言うとフランも笑った。

「あーあ、折角彼女が出来るチャンス逃したね」

「まだ続けんのかよ、この会話」

「いや?」

「面白いから良しとするよ」

「ならいいじゃない。このまま歩くだけも退屈だし」

「それもそうだな。・・・あ」

フランと適当な話をしていると高橋はあることを思い出した。

「どうしたの?」

「いや、悪いんだが、ちょっと行きたいところができた」

「どこへ行くの?」

「門番さんのとこ」

「吸血鬼に対して外に出ろって気は確か?」

「無理についてこなくてもいいんだぞ?」

「そしたら暇じゃない」

「日傘とかねぇの?」

「あるわよ?」

「なら使えよ。持っててやるから」

「あれどこにあったっけ?普段外に行かないし使わないからわかんないや」

「それならもういっそのこと捨てちまえ」

「嫌よ。いざっていう時に困るもの」

「そのいざって時が今なんじゃないですかねぇ?」

「なら探して来て」

「そういうのは咲夜さんにでも頼め。依頼なら聞くけどな」

「優しくないのね」

「生憎とろくでなしな人間なものでね」

「嫌いになっちゃうわよ?」

「そいつは困った、なら探してこよう」

流石の高橋も美少女に嫌われるのは御免だ。

(まぁ無理に今門番さんに会う必要もないんだけどな)

そう考えると不思議と後回しにしてもいいかと思うのは高橋の悪い癖だろうか。

「やっぱ今日はいいや。よく考えたら明日帰る時にでも済む話だ」

「そ。ならそうしましょ」

そう言って結局二人は館の中をまた歩き回ることにした。

 

 

それからしばらくして歩き回った後、夕食の為に再び全員が集まり、食事を楽しんでいた。

「この料理、どれも美味いな」

「勿論よ。なんせ咲夜の作る料理だもの」

えらく満足気にレミリアが言った。自分の従者が褒められたのだから主としても嬉しいのだろう。

「ところで早速で悪いのだけれど、外の話を聞かせてくれないかしら?」

「私も聞きたい」

「俺に答えられる範囲でいいならな」

「なら一つ目、普段どんな依頼が多いのかしら?」

「基本的にはいなくなったペットの捜索とか特定の人の身辺調査とか、言わば雑用に近いことがほとんどだな。あまり話しても面白いもんじゃないけどな」

「何か事件に巻き込まれるとかなかったの?殺人事件の解決とかその犯人探しとか」

レミリアに続いてフランも聞いてきた。

「フラン、それは便利屋の仕事じゃなくて探偵の仕事だ。またの名を死神とも言う」

「死神・・・」

「でもやってることはどっちも大して変わらないんだな」

隣の魔理沙が言う。

(まぁ全く無かったと言えば嘘になるんだけどな)

内心で嘘は言ってないからいいかと高橋は割り切った。

「なら今までで一番印象に残った仕事は?」

今度は魔理沙が聞いてきた。

「今までで、ねぇ・・・。とあるお偉いさんのフリをした事かな」

「え?何でさね?」

「決まってんだろ。身代わりだよ」

その言葉を聞いた途端、全員の顔色が変わった。大方の予想は容易いだろうから無理もないことではあるが。

「そのお偉いさんがある奴等から命を狙われててな、そいつらを誘い出してとっ捕まえる為に俺を替え玉にしたんだよ。皮肉な話でそのお偉いさんと俺の顔がよく似てたからな」

「よくそんな仕事引き受けたわね」

「俺だって最初は嫌だったさ。流石に死ぬのはまだ勘弁したいからな。だがちょいとばかり断れない状況になってな」

「どうして?」

「そればっかりは黙秘するよ。俺にも言いたくないことはあるからな」

「え〜、そんな〜」

「止しなさいフラン。無理に聞くだなんてレディのする事じゃないわよ」

「はーい」

レミリアの言葉に渋々と言った感じでフランが答えた。レミリアの方を見ると意味ありげに笑っていた。高橋の言いたくない理由を察したのだろうか?

そうして食事が終わるまでの間、高橋は三人からの質問責めに言える範囲で次々に答えていった。

 

 

そしてしばらくして解散となり、それぞれが部屋に入った頃、高橋も用意された客室で休んでいた。

「流石に疲れたな。頭使って身体動かして、飯は美味かったけど」

そんな独り言を言いながらベッドの上でゴロゴロしていると左手に激痛が走った。

「っつう。そういや、怪我してんの忘れてたわ。多少はマシになったけどこれはやっぱ一度見てもらったほうがいいかな。大袈裟かもしれんがなんかあったら怖いし」

明日魔理沙にでも聞こうかと思った時、ドアの方からノックの音が聞こえた。

「愛乃、起きてるか?」

魔理沙の声だった。とりあえず高橋は扉を開けて魔理沙を中へと入れた。

「魔理沙?なんだこんな時間に。夜這いにってわけじゃねぇよな?」

「なんでこの魔理沙様がお前の寝込みを襲うんさね」

「魔理沙が俺に惚れたから?」

「疑問形で言ったらもうダメだろ」

ご尤もな事を言われて高橋は黙った。

「で?要件は?」

「寝れないんだ。相手してくれ」

「帰れ。そして寝ろ」

「なんだよ。素っ気ないな」

「眠いし左手が痛いしでご機嫌斜めなんだよ」

「なら明日早速医者に見てもらうといいさ。その魔理沙様が連れて行ってやるからな」

言い終わると魔理沙は帽子を脱いでその場に座った。意地でも帰る気はないらしい。

「そうか。それはありがとう。なら明日に備えて早く寝よう。おやすみ」

「おいおい、女の子をそんな扱いしていいのか?寝れなくて困ってるんだ。明日連れて行く代わりに寝れるまで相手してくれよ」

えらくしつこく言ってくる魔理沙に高橋は諦めた。

「わかったよ。何をする?」

「トランプをしよう。持ってきたんだ」

そう言って魔理沙はポケットからトランプを出した。

「えらく準備がいいな」

「もっと褒めていいぞ。ポーカーでいいか?」

「お好きにどうぞ」

高橋が言うと魔理沙はカードをシャッフルした後にカードを配った。

(何でこうも俺に付いて回るのか。俺に惚れてるか、俺を監視してるかの二択かな。極端な話だが・・・)

無論、魔理沙の言うように寝れないから暇つぶしの相手にされている可能性もゼロではないが、それ以外に思いつくことはなかった。

(監視する理由としては魔理沙かもしくは他の奴がまだ俺を完全に信用していない為、俺が何をするかを見張ってるってところかな。となればそれを疑っているのは魔理沙以外なら誰だ?出会った人数も多くないから選択肢は少ない)

魔理沙を除くとして、高橋を疑う者がいるとしたらその数は当然絞られる。

八雲 紫。いや、これはあり得ない。何故彼に依頼した当人が彼を疑う必要がある。彼女の話では以前から高橋の事は調査済みのはずだ。ならばそんな必要はどこにも無い。

博麗 霊夢。可能性はある。出会ったばかりの頃よりは自然に接しているが、紫から依頼されていると言うのは高橋が言っただけで紫から説明があったわけでは無いのだ。心の何処かで疑いの心があってもおかしくは無い。

「愛乃、チェンジするか?」

「あー、二枚チェンジだ」

言って高橋は手札を二枚入れ替えた。

伊吹 萃香。まぁここは疑わなくてもいいだろう。嘘が得意なようにも思えない。

射命丸 文。彼女の場合は新聞の記事を書く為のネタを引き出そうとしてる可能性の方が高い。その為に魔理沙に協力を頼んだとしたら辻褄は合うようにも思える。

あと残るは今日会った紅魔館のみんなだが、ここに至っては判断材料が少ないので何とも言えない。無論、多少なりとも不信感を抱かれていて、それ故の監視という可能性もゼロではない。

「勝負だ。愛乃はどうする?」

「俺も勝負でいいよ」

でもそれなら魔理沙ではなく紅魔館の誰かが監視につくはずだ。これが全て高橋の考えすぎであるならそれで構わないのだが。

「フラッシュだ!」

「そうか。俺はストレートフラッシュだ」

「何!?」

とは言え、出会う人間全員を疑ってかかるのは相手との信頼関係に関わるし、何よりこちらの精神がもたないのでほどほどにしておこうと高橋は考えるのをやめた。

「おい、愛乃!お前イカサマしたろ!」

「うるせぇな、夜にデカイ声で騒ぐなよ。あと、仮にそうでもイカサマをされたお前が悪い」

「なんだって?」

「イカサマはバレなきゃただの技術。勝つ為のテクニックなんだよ。イカサマはバレて初めてイカサマになるんだ。言ってる意味わかるよな?」

「それは・・・」

「それに、俺はイカサマを使わないと判断した時点で魔理沙が悪い。俺だってお前の言うイカサマくらいする。それは麻雀勝負した魔理沙がよく知ってるだろ」

初めは食ってかかってきた魔理沙も徐々に黙って聞いていた。

「それにお前が初めて俺とポーカー勝負した時、負けても俺は文句一つ言わなかったろうが。イカサマされた俺が悪いんだから。負けた後にグダグダ文句しか言えない奴はただの負け犬だ」

「ああそうかい。イカサマされたこの魔理沙様が悪いってんだな。いいぜいいぜ、敗者は大人しく帰るさ。遊びと勝負も区別出来ない奴にはもう用はないぜ。愛乃のバーカ!」

そう言って魔理沙は置いてあった帽子を掴んで部屋を出て行ってしまった。

「あー、やべぇ。流石にやりすぎた・・・。ちょっとからかうだけのつもりだったんだけどなぁ」

ご機嫌斜めだなんだと言ったが、自分でも思っている以上だったようだ。流石に大人気無かったと高橋は反省した。

「あれじゃ今から行っても話は聞いてくれねぇわな。明日朝から謝るとして、早く寝ちまおう、って、ん?」

よく見ると先程魔理沙がいた辺りに一冊の分厚い本が置いてあった。魔理沙が忘れていったものだろう。

「これってまさかここの図書館の本だったりするのか?だとしたら、明日図書館に持っていくか」

そう言うと今度こそ高橋はベッドで眠りについた。

 

一方その頃、魔理沙の部屋。

(チクショウ。何もあそこまで言わなくてもいいじゃないか。私はただ、愛乃と遊びたかっただけなのに。愛乃の馬鹿野郎・・・)

魔理沙は一人そう考えながら眠りについた。

 

 

翌朝、目が覚めた高橋はその日のやる事を頭の中で順番に考えた。

一つ目は昨夜の事を魔理沙に謝る事。

二つ目はこの紅魔館の図書館へ行き、閲覧の許可を得ること。

三つ目は魔理沙とともに医者に行く事。

(二つ目は交渉次第でどうにかなるとして、問題は残りの二つだな。流石に昨日は勢い任せに言いすぎたから許してくれなきゃそこまでなんだよなぁ。医者の方は最悪放っておいてもそのうち治るかもだけど)

そう考えながら部屋を出た。するとドアの前にある人物が立っていた。

「ん、咲夜さん?」

「おはようございます。高橋様」

「おはよう咲夜さん。突然で悪いんだけど魔理沙ってどこにいるか知らない?」

「彼女なら朝食の準備が出来ていると言ったら広間の方に」

「そっか。ありがとう」

そう返すと高橋は広間に向かって歩いた。

(やべぇ。朝飯って事は他の奴らの目もあるんだよなぁ。流石にそこで謝るってのはなかなか気恥ずかしいんだが・・・。とは言え、悪いのは俺だしな。素直に謝ろう)

広間に着くとそこにはレミリアと魔理沙の姿があった。

「あら、おはよう。よく眠れたかしら?」

「ああ、お陰様でな」

高橋の顔を見るとレミリアが言った。魔理沙に関しては目も合わせようとしなかった。

「おはよう、魔理沙」

「・・・おはよう」

渋々と言った様子で挨拶を返した。余程怒ってるようだ。

「昨日はその、悪かったな。大人気なくお前にあたる様な真似して」

「・・・」

(わぁ、ご機嫌斜めぇ)

自業自得なのでこればかりはなんとも言えない。

「あら?昨日何かあったのかしら?」

小声で言ったつもりだったのだが吸血鬼の耳は誤魔化せなかったようだ。

「いや、気にすんなよ」

「そう」

そう言うと興味を無くしたのかレミリアはそれ以上聞いては来なかった。

 

それからフランもやってきて朝食を食べ始めてから時間が経ったが、魔理沙は一向に高橋と口を聞こうとしなかった。レミリアやフラン達とは普通に会話していたが。

「ねぇ愛乃。貴方はこの後どうするつもり?」

フランと魔理沙が広間を出た後、高橋はレミリアに呼び止められた。

「ちょいとばかりここの図書館にいるって言うパチュリーさんとやらに会いに行こうと思う。その後は帰るさ」

「パチェに?別に構わないけどどうしてかしら?」

パチェと言うのはレミリアのパチュリーさんの呼び方だろうか?

「図書館の本の閲覧許可が欲しくてな。単純にあれだけの本を管理してるって人にも興味があったしな」

「パチェがそう簡単に許可を出すか疑問だけど・・・。ならもう一つ聞いて良いかしら?」

「どうぞ」

「昨夜、魔理沙と何があったのかしら?」

ニヤつきながらレミリアが言った。

(最初からそれが狙いだろうが)

高橋は心の中で舌打ちした。

「何もない。では帰さないわよ」

「お嬢様がお気になさる事は何もございませんよ」

「ふざけてる?」

「別に。ちょいとばかり魔理沙と口論になっただけだよ。大人気なくアイツにあれやこれやと言いまくって不機嫌にさせちまった」

「反省はしてるみたいね」

「まぁな。まさかあそこまで口を聞いてもらえねぇとは思ってなかったけどな」

「それは自業自得でしょ。精々頑張りなさい」

「わかってるよ。なんとか機嫌直してもらうよ」

そう言うと高橋は広間を後にした。当然レミリアが一人残った。

「全く。世話のかかる奴」

少し笑いながらそんなことを言った。

 

 

レミリアと別れた後、高橋はとりあえず自分が泊まった部屋に戻った。昨日魔理沙が忘れていった(恐らくここの図書館の)本を回収する為だ。

「こいつはパチュリーさんとやらに返しておこう」

部屋に入ると置いてあった本を手に取りながら言った。とりあえずはこのまま後で本を返しに行こう。

コンコン。

と思っていると部屋の扉を叩く音がした。

「はい?どちら様?」

扉を開けるとそこには魔理沙がいた。

「魔理沙?どうしたんだ?」

「・・・いや、レミリアの奴が高橋が私に用が有るらしいから部屋に行けって」

高橋から視線を逸らしながら魔理沙が言った。

(・・・あのお嬢様に助けられたって事かな)

後で礼を言いに行こうと心の中で思った。

「それで?何もないなら私は帰るぞ」

「あーいや、あれだ。昨日は言い過ぎた。すまん」

高橋は素直に頭を下げた。

「もう良いよ。私こそその、さっきは悪かったな」

「・・・ふっ」

「・・・なんだよ」

突然笑い出す高橋に魔理沙が聞いた。

「いや、なんかこう言うのって俺達らしくないと思ってな」

「言われてみればそうかも知れないな」

「互いにごめんなさいしたんだからこれ以上言いっこなしにしよう?」

「そうだな。愛乃はこの後どうするんだ?」

「ここの図書館にでも行ってみようかってな」

「・・・そっか。なら私は外で待ってるぜ」

「なんだよ、一緒には行かないのか?」

「流石に毎日行くわけじゃないさ」

「毎回やってたらすぐ捕まるもんな」

「そう言う事じゃないんだけどな」

「まぁそう言う事ならあまり遅くならないようにするさ。適当に待っててくれ」

「わかった。適当にその辺をうろついてるんだぜ」

こうして魔理沙と仲直りを終えて、高橋は一人、図書館にいるというパチュリーさんとやらの元へと向かった。

 

 

「何度見てもやっぱ広いな・・・」

魔理沙と別れ、本を持って再び図書館へとやってきた高橋は思わず呟いた。取り敢えずは小悪魔を探せばパチュリーさんの所へ案内してくれるんだろうか?そんなことを考えながらフラフラと歩いていると都合良く小悪魔を見つける事が出来た。

「あ、高橋さん。今日はどうしました?」

「今日はパチュリーさんにお願いに来たよ。ここでの閲覧許可をもらいにな」

「わかりました。ではパチュリー様に紹介しますから付いて来てください。一応貴方の事は説明してますから」

「えらく準備がいいこった」

言いながら高橋は小悪魔の後について行った。

(一応この人の事は説明したけどパチュリー様がそんなにすぐに許可を出すかな?厳しいと思うけど・・・)

後ろを歩く高橋をチラリと見ながら小悪魔は考えた。実際問題会ったばかりの人間に自分の大事な本の閲覧許可などそう簡単に出すとは思えない。

しばらく歩き、図書館の最奥まで辿り着くと一人の少女のような見た目の女性が椅子に座りながら本を読んでいた。こちらには気づいていないのか、目も向けてこない。

(・・・全体的に紫だ。・・・しかもぱっと見かなり華奢だな)

パチュリーを見た瞬間の高橋の素直な感想だった。髪も紫色なら着ている服も紫だった。ゆったりとした服が彼女の雰囲気とあっているような感じがして個人的には好きだった。

「パチュリー様、お客様ですよ」

「・・・」

まるで反応がない。完全なシカトだ。

「あー、これは完全に本を読むのに没頭してますね」

「なるほど、これじゃあ魔理沙に盗まれる訳だ」

高橋がそう呟くと、先程までこちらに無関心だったパチュリーさんが漸くこちらに視線を向けた。

「あなたが小悪魔の言ってた、あの泥棒の手下?」

あの泥棒と言うのが魔理沙の事だと言うのはすぐわかった。一体彼女は今までどれだけの犯行に及んで来たのだろうか。

「友達であっても手下じゃないですよ。むしろ俺は貴女の味方になれると思うんですけどね?」

「味方?」

その言葉にパチュリーが聞き返した。

「はい。つまりこう言う事です。これは貴女の本ですよね?」

そう言って高橋は魔理沙が昨日忘れていった本を差し出した。瞬間、パチュリーの顔つきが変わった。

「・・・あなた、これをどうやって?」

恐らくどうやって取り返したか、と聞きたいのだろう。当然か。昨日魔理沙が盗んでいった物をその翌日に自分の所に戻ってきたのだから驚くのも無理はないだろう。

「昨晩魔理沙が俺の部屋に忘れていったのを回収しておいたんですよ。多分ここから持っていった物だろうと思って」

「だったらおかしいじゃない。魔理沙が忘れていったのを知っているなら魔理沙に渡すのが普通じゃないの?友達なら」

「まぁそうするのが普通かも知れないんですけどね。でも俺だって下衆な人間です。これをどう使えば損をするか得をするかくらいは考えますよ」

「何を言いたいの?」

何となく察しているであろうパチュリーが聞いた。

「簡単な話ですよ。これを魔理沙に返して泥棒の手下になるより、これを持って貴女に取引をした方が俺にとって得だと判断したので」

「一応聞くけど、仮に取引をしてあなたは何を望むのかしら?」

「ここの本をいつでも自由に読める閲覧許可をいただきたい。そして魔法についても色々教えてもらいたい」

「・・・もしも断ったら?」

「このままこの本を魔理沙に返すだけですよ。どっちに渡しても俺は困らないので」

「ずるい言い方するのね」

「優しい人間じゃないので」

「・・・わかった。でも条件があるわ」

少しだけ考えてから、パチュリーが言った。

「条件?」

「ええ。私が許可する範囲でならここの本は読んでいいわ。でも魔法は別よ。魔理沙から本を取り返して来てくれたらその度に教えてあげるわ」

「おー依頼ってわけだ」

「依頼?」

パチュリーが聞き返してきた。そう言えば彼女には高橋の仕事については話していなかった。

「実は俺、便利屋なんです。報酬に応じて依頼を受けるってわけですよ」

「この紅魔館にもレミリア様からのご依頼でお越しになった様ですよ」

隣にいた小悪魔が補足するように言った。

「そう。なら依頼という形でお願いするわ。本が無事に帰ってくれば問題ないもの」

相変わらず本を読みながら淡々と彼女は言った。

「はい。交渉成立です。俺が本をここに返しに来たら魔法について教えて下さいね」

「わかったわ。あと、本を読むのは構わないけど、丁寧に扱って。あと私が許可してない本は読んじゃダメ」

「危険な魔法の本が有るんですか?」

「自分の体で試してみる?」

「やめときます」

まだ死にたくはない。

「そ。取り返してくれる事を期待してるわ」

「はい。それと名乗るのを忘れてたな。俺は高橋 愛乃って言います。何かあればいつでも言ってください。報酬次第では請け負いますから」

「・・・パチュリー・ノーレッジよ。お願いする事はあまりないと思うけど」

二人の会話を聞いて隣にいた小悪魔は少しばかり驚いた。

(まさかパチュリー様を相手にこうもあっさりと条件付きとはいえ許可を取るとは)

「なら今日はこれで帰ります」

「そう。次来る時は本を持ってきてね」

そんな会話を交わしながら高橋は図書館を出て行った。

 

 

「どうでした?彼」

「どうって?」

高橋が出て行った後、小悪魔がパチュリーに聞いた。

「初めて会った感想とかですよ」

「何とも言えないわね。本を返してくれた事には感謝するけど」

「でも本を取り返してもらう為とは言え、よく魔法を教えるのを許可しましたね」

「仮に教えたからと言って必ず魔法が使えるわけじゃないわ。それにもし使えたとしても少しかじった程度の魔法じゃ特に何も出来ないわ」

「?」

いまいち理解していなさそうな小悪魔。

「つまり、まともに使えるようになるにはある程度教わらなければいけないの。そうなれば彼は嫌でも何度か私に本を持ってくる」

小悪魔は先程パチュリーが言った言葉を思い出した。

『魔理沙から本を取り返して来てくれたら()()()()教えてあげるわ』

そこで小悪魔も気がついた。誰も一度で全て教えるとは言っていないのだ。教える範囲はパチュリーのさじ加減なのだ。

「これで多少はあの泥棒から本を取り返してくれる可能性が上がるわね」

少し笑いながら彼女は本のページを捲った。

どうやらこの魔女の方が一枚上手だったようだ。

去って行った高橋にほんの少しだけ同情する小悪魔だった。




長々書いてる割にはあんま話し進んでない気がしてきたな・・・。
まぁゆったり書いてるんでもしよかったら次も見てやって下さい。

誤字脱字、ご意見ご感想などあればよろしくお願いします。
ではまた次回。


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11話・竹林の奥であれやこれやと。

東方ロストワードって何で好きなキャラ程ガチャで当たらないんでしょうね?(紫様が出ないんや)
皆さんは誰推しですか?

まぁそれはそうと本編どうぞ。


 パチュリーとの話し合いも終わり、図書館を出た高橋は紅魔館の中を一人寂しく歩いていた。

 正確に言うには迷っていた。

(ちゃんと覚えときゃよかった。出口どこだっけ?)

 辺りを散策していると偶然にも咲夜と遭遇した。

「高橋様、どうかなさいましたか?」

「いや、ちょっと迷ってて。それとレミリア知らない?帰る前に挨拶しておきたいんだけど」

「お嬢様なら自室でお休みのはずですが、ご案内致しましょうか?」

「お願いします。あと出来ればその堅苦しい喋り方何とかならない?名前も呼び捨てで良いし」

 高橋の言葉に少し考える仕草をしながら咲夜が答えた。

「ならこんな感じでいいかしら?愛乃」

「それで」

 そんなやり取りをしながら二人はレミリアの部屋まで移動した。

「お嬢様、高橋様がお嬢様にお話があるそうです。入ってもよろしいですか?」

 数回のノックの後、咲夜が告げた。

『わかった。入って良いわよ』

 数秒後、レミリアの声がして咲夜が扉を開けた。そして高橋はそのまま部屋の中に入った。

「何か用かしら?」

「いや、帰る前に一言挨拶しておこうと思ってな。世話になったわけだし」

「良い心がけね。こちらこそ世話になったわね。また何かあった頼むわ」

「おう。当分は霊夢の所で世話になってると思うから何かあったら博麗神社にでも来てくれ。なるべく厄介じゃない依頼だと俺も嬉しいんだけどな。じゃあ帰るわ」

「ええ。咲夜、途中まで見送ってあげて」

「かしこまりました。愛乃ついて来て」

「あら、呼び方変えたのね。咲夜」

 咲夜のその一言をレミリアは聞き逃さなかった。

「はい。彼にそうしてくれと言われましたので」

「人のメイドをナンパする気?」

「バーカ。堅苦しい喋り方が苦手なだけだよ」

「それを口実に咲夜に言い寄って・・・。なんて事を考えているんでしょう?」

「考えてないから安心しろ」

 会って間もない相手に手を出す程高橋も節操なしではない。

「それじゃあまたね」

「ああ。フランにもよろしく言っといてくれ」

 そう言い残し、今度こそ二人はレミリアの部屋を後にした。

「退屈しなさそうだな。この屋敷の連中は」

「お嬢様自身が退屈を嫌うからね。思いついたら色々やるもの」

「何とも想像通りな性格だな」

 そんな他愛も無い会話をしているといつのまにかロビーまで辿り着いていた。

「ここでいいよ。それじゃあ、世話になったな。レミリアにも言ったけど何か用があったら言ってくれ」

「わかったわ。気をつけて帰りなさいよ」

「一応心配してくれるんだな」

「仮にもキスした相手ですもの」

 咲夜の軽口を聴きながら外につながる扉を開いた。まだ一日しか経っていないがようやく太陽の光をまともに浴びた気がする。

「あ、高橋さん。お帰りですか?」

 花の手入れをしていた美鈴が高橋に気づいてこちらに近づいてきた。

「ああ。色々とやる事もあるからな。また来るよ」

「はい。今門を開けますね」

「その前に一つ、大事な話がある」

「?」

「麻雀勝負の時、俺は勝ったけど結局美鈴さんからは何ももらって無いと思ってさ」

「・・・あー、言われてみれば確かにそうですね」

 そう。あの時、高橋と美鈴の間には何も無かったのだ。あの時は高橋も咲夜との一件ですっかり忘れていた。

「だからちょっと勝者の権限でお願いでもしておこうかなってな」

「まぁ負けたのは事実ですからね。私にできる範囲なら良いですよ?」

「ならたまにでいいからスパーリングの相手してくれないか?」

「スパーリングですか?」

 高橋の意外な発言に美鈴はキョトンとした。

「ああ。仕事柄体を鍛えるようにしててさ、格闘技とかもやってたんだけど体が鈍らないようにしたいんだよ」

「そう言う事でしたら構いませんよ。私も手合わせ出来る相手がいるのは嬉しいので」

「ならまた来た時にでも頼むよ」

「はい。楽しみにしてますね」

そう言って彼女は門を開けた。

「悪いな魔理沙。待たせた」

「おう。本当だぜ。女を待たせる男は最低だって相場が決まってるぞ」

 互いにそんな軽口を言いあう。今朝とはえらい違いだ。

「それじゃあ、さっさと行くか」

「頼んだ」

 言いながら高橋と魔理沙は箒に跨った。そして数秒後には二人は宙を舞う。

「それじゃあしっかり掴まってろよ」

 言い終わるや否や、目的地を目指して飛んでいく。

「それで?その腕の良い医者って何処にいるんだよ?」

「行けばわかるさ。無事に辿り着いたらな」

「何その不安になる一言」

 その先は魔理沙は答えなかった。ただケタケタと笑うだけだった。

 

 

 暫く飛び続けると魔理沙達はとある竹林の前で降りた。

「ここか?」

「おう。正確に言うとこの奥だな」

 鬱蒼と生茂る竹林を見て高橋は苦笑いを浮かべた。

「迷いそうなとこだけど、道覚えてるのか?」

「いや?と言うより覚えようとしても覚えられないさ」

「なんでだよ」

「ここって意外と地面の高低差があって感覚が狂うんだ。しかも竹もすぐ成長するからどれがどれだか覚えられやしない」

 そういえば昔何かで筍の成長速度は早いだなんだと読んだ気がする。

「ならどうする?適当に歩いて運頼りで探すのか?」

「それでも構わないけどな。ここには案内人がいるからそいつに会えれば問題ないさ」

「案内人ねぇ」

 そんな会話をしながら二人は竹林に入っていった。

 そして数十分後。

「見事に迷ったんだぜ」

「馬鹿野郎」

 軽く遭難していた。

「まさかこんなに早く迷うとは流石は『迷いの竹林』。看板に偽りなしだぜ」

「いや、うるせぇよ」

 そんな事を言ってる場合か。

「これからどうするよ?」

「心配は要らないらしいぞ」

 後ろを見ていた魔理沙が言った。それにつられる様に高橋も後ろを振り返る。

「あら魔理沙。永遠亭に何か用?」

 後ろからやって来た少女がそう聞いた。

 どうにも目立つ少女だった。

 薄い紫の長い髪、ブレザーの制服を連想させる服。だが、高橋にはそれ以上に気になる部分があった。

(でかいうさ耳だ・・・)

 頭から生えているあのでかいうさ耳は本物だろうか?そればかり気になって仕方がない。

 そう言えば前に宴会の時にもいた様な気がする。

「ちょっとばかりこいつが腕を怪我をしてな。心配だって言うもんだからお前の所に連れて行こうと思ってさ。今後世話になるかもしれないし」

 魔理沙が高橋を指差しながら言った。

「あ、その人外の世界から来た人よね。この前の宴会にもいた」

 どうやらうさ耳さん(高橋命名)も覚えていた様だ。

「はじめまして。高橋 愛乃って言います。職業は便利屋、趣味はギャンブルと読書。よろしく」

「はじめまして。私は鈴仙・優曇華院(れいせん うどんげいん)・イナバって言います。この奥にある永遠亭で師匠の手伝いをしたり薬を人里で売ったりしてます」

「師匠?」

 聴き慣れない言葉に高橋が聞き返す。

「これから行く永遠亭の先生だ。薬を作ったり医者みたいな事をしてる天才だ」

「スゲェ」

 思わず口に出していた。

「永遠亭に行くなら案内するけど?」

「お願いします」

 高橋はそう答え、二人は鈴仙の後について行った。

「よくもまぁこんな分かりにくいと言うか、住みにくい場所で生活できるな」

「隠れ家的なところで良いでしょ?」

「的って言うより完全に隠れ家だろ、これ」

高橋のツッコみに鈴仙が笑って返した。

「と言うか、空から行けなかったのか、魔理沙」

「あんな竹だらけで視界の悪い所にお前を連れて上から突っ込んだら下手すりゃ辿り着く前に大怪我だぜ」

 言われてみればその通りか。

「怪我したって言ってたけどどんな感じなの?」

「左腕をちょいとな。動かすだけで馬鹿みたいに痛ぇ。折れてはないと思うけど何かあったら流石に怖いんでな」

「そうね。何かあってからじゃ遅いものね」

 鈴仙も高橋の意見に納得した様に答える。

「さっき言ってたこの竹林の案内人ってのはこの娘の事か?」

「いいや、違うぜ。そいつは藤原 妹紅(ふじわらのもこう)って言うんだ」

 魔理沙の口からまた聞き覚えの無い名前が出てきた。

「鈴仙達とその妹紅さんってどんな関係なんだ?」

「あー、うん。ちょっと説明しづらい関係よ」

「・・・そうか」

 苦笑いする鈴仙を見て高橋はそれ以上聞くのをやめた。会って間もない奴が聞くことでもなかった。

「それより高橋さんは異変解決の為に幻想郷に来たのよね?」

「愛乃でいいよ。って何でそれ知ってんだ?」

 そんな多くの相手に話した記憶は無いが。

「今朝の新聞に書いてあったのよ。『八雲 紫の切り札にして、外の世界の問題解決のエキスパート、満を持して幻想郷の異変解決に参戦!』って」

「は?」

「あー、あのブン屋の仕業だな」

「もしかして文の事か?」

「他に誰かいるのか?」

 当たり前の様に言う魔理沙。そんな言い方をされたら何も言い返せなくなるから困り物だ。

「満を持してってなんだよ」

「私に言われても知らん」

「・・・一応、その記事後で見せてくれるか?」

「良いわよ」

 そんな会話を続けながら右へ左へと進むとやがて大きな屋敷があった。屋敷と言っても紅魔館とは真逆に和風建築であったが。

「でっか」

「中もかなり広いんだぜ」

 ポツリと感想を零す高橋に魔理沙が言った。

「案内するから入って、二人とも。それと魔理沙は勝手に盗んだりしないでよ」

「人を泥棒みたいに言うなよ」

 それ以外の何者でもない。

 そしてしばらく歩くととある部屋の前で止まった。

「さ、入って座って待ってて。今師匠呼んでくるから」

「ほいほい。失礼しますよっと」

 中に入ると、どうやらは診察室の様だ。言われた通りに適当に椅子に座って待つ事にした。

「ここに入るのも久しぶりだぜ」

「あまり来ないのか?」

「私は至って健康体だからな」

「あ、そう」

 なんか面倒に感じたので適当に流す高橋。

 すると同時に鈴仙が一人の女性を連れて戻ってきた。

 長い銀髪の女だった。着ている服も印象的で右半分が赤で左半分が青になっている。一体どこのキカイダーか。しかも面白い事に下がスカート状になっているその服は腰から下の配色が逆になっていた。つまり右半分が青で左半分が赤だった。少なくとも以前の宴会の時には姿を見た記憶は無い。

「貴方が高橋 愛乃ね。初めてまして。八意 永琳(やごころ えいりん)よ」

「ご丁寧にありがとうございます。高橋 愛乃と言います。今回の異変解決の為に外の世界から来ました」

 永琳の挨拶を聞いた途端、何故だかわからないが高橋も丁寧に挨拶をしなければと思った。礼儀だなんだと言うのも有るが、考えたら答えは単純で、高橋が永琳の放つオーラに圧倒されたのだ。初めて紫と会った時と似た感覚だ。

(少なくとも今この人と勝負しても俺は勝てないな)

 そんな事を考えた。相手の気迫、オーラに圧倒されてしまったら普段のパフォーマンスなんて出来るはずがない。まぁ今回に限って言えばする必要もないのだが。

「つまりあの新聞の記事は本当だったってわけね。それで今日はどうして此処へ?」

「昨日ちょっと紅魔館へ行った時に左腕をやらかしまして。動かすだけでまあまあ痛みが走るんで見てもらおうかと」

「なるほど、わかったわ。見てみましょう。それから魔理沙は部屋から出て行きなさい」

「はいよー」

 言われるままに魔理沙はその部屋を出て行った。

 そんなこんなで高橋の治療が始まった。

「腕以外に痛みや変わった様子は?」

「いえ、何も」

「紅魔館で腕を怪我したって言うけどどんな感じ?」

 言われて高橋は着ていた上着を脱いで左腕を見せた。痛みの所為か動きが少しぎこちない。

「ちょっとばかりギャンブル中にアクシデントが起きましてね。咄嗟に頭を庇ったらこのザマです」

「・・・何が起きたのよ」

「天井が崩れ落ちてきたんだ」

 側から聞いたら頭のおかしな表現に聞こえるだろうが事実なのだから仕方がない。

「それで左腕だけで済んだなら幸運ね。死なない限りは大概は治してあげるから」

 永琳が笑いながら言う。何とも頼もしい医者だ。

 そんな会話を続けながら数十分、高橋は永琳からの診察と治療を受けた。結局左腕にはヒビが入ってるそうで暫く安静にして薬を飲めとの事だ。

 治療代を支払い部屋から出るが、魔理沙の姿が見当たらなかった。

「ここで放置されたら迷子確定だぞ」

「どこかに出掛けてるのかしらね?」

 後ろにいた鈴仙が言った。魔理沙からしたら暇だろうがこっちからしたら困った話だ。

「なら暫くここで待たせてもらっても良いか?暫くしたら戻ってくるだろ。なんだったら幻想郷の事を色々教えてくれ」

「私は良いけど、霊夢や魔理沙から聞いてるんじゃないの?」

「霊夢や魔理沙だってなんでも知ってる訳じゃ無い。それに語り手が変わればそれだけ見方や考え方も変わるだろ?」

「まぁそういう事なら良いけど」

「ついでにさっき言ってた新聞も見せてくれ」

「はいはい」

 そう言い、鈴仙は近くにあった新聞を高橋に手渡した。

「これが今朝の新聞よ。大きく載ってるのがあなたの記事」

 鈴仙の言う通り、高橋に関する記事が一面にでかでかと写真付きで書かれていた。

「好き放題書かれてるな。こんなカッコつけたセリフ言った覚えはないんだが」

 新聞には『八雲 紫の涙ながらの頼みについ断る事が出来なかった。女の頼みには答えてやらなきゃ男じゃない』と高橋がコメントしたとある。誰がそんな事を言うか。そもそもあの女が人前で泣くものか。

「今度会ったら説教だな」

 心に誓う高橋だった。

「言うだけ無駄だと思うけどね」

 苦笑いで言う鈴仙。どうやら幻想郷ではお馴染みらしい。

 イラつきながら新聞を見ていると二人の元にまた一人加わった。魔理沙ではなく、永琳だった。

「退屈なら私も会話に混ぜてくれないかしら?」

「俺は良いですよ?」

「勿論です」

 特に断る理由が無い二人は永琳の言葉に賛同した。高橋としても聞きたい事は沢山あるのだ。

「ならついでにお茶にしましょう」

 鈴仙が言い、三人はお茶の間へと移動した。

「今お茶いれてきますね」

 そう言って鈴仙がいなくなった為、必然的に高橋と永琳の二人だけになった。

「いくつか貴方に聞きたい事があるの」

「答えられる範囲であれば。俺も色々聞きたいこともありますし」

「勿論構わないわ。私に答えられる事ならね」

 やはりこの人と話すと紫の時と似た感じがする。相手を支配するオーラとでも言うのだろうか?

「聞きたい事って言うのは?」

「言ってもそんな大袈裟な話ではないわ。今回の異変についてよ」

「『弾幕ごっこ』ってやつがギャンブルに変わったって話でしたよね」

「ええ。貴方は紫から頼まれて異変解決の為に幻想郷に来たそうだけど、その進捗はどうなのかしら?」

「幻想郷に来て三日目ですよ?残念ながら全くですね。今は取り敢えず幻想郷と言う世界を知る為にコネクションと情報を増やしてる最中です。所謂土台造りですかね」

 つい忘れそうになるが、高橋は異変解決の為に幻想郷に来たのだ。だが、右も左もわからない状態ではそれは100%不可能だ。その為には先ず何よりも大事な「情報」を集めなければいけないのだ。

「だから少なくとも一週間くらいは情報収集に費やそうと思ってます。もしかしたらそれでも足りないかも知れませんけどね」

 淡々と答える高橋に永琳は少しだけ感心した。

(思ったより真面目に異変解決に取り組んでいるのね。しかもそれに対しての不満や愚痴も溢さない。私が初対面の相手だからかも知れないけど)

 本来、人間という生き物は言い方は悪いが、下衆な生き物だ。問題が起きたら言い訳をし、時にはその責任を他人に擦り付けたりもする。問題の対象が大きければ大きい分だけその行動に移る可能性も高くなる。それに今回の彼への依頼は『異変解決』などと言う大規模なものだ。例え自分で承諾して受けた仕事だとしても現実にその規模の大きさが分かれば面倒な気持ちが湧いてもおかしくはないし、文句の一つくらい言うのが人間としては当然と言えるだろう。

 だが、その行為は実は自身への信頼に影響してしまう。

 過程はどうであれ、依頼内容が何であれ、受けた依頼に対して他の人物に文句を零す人間に仕事上の信頼など得られる訳がない。それが会って間もない相手なら尚更だ。

 だが、高橋はそんな事はせず、今後の明確な行動目標を決めている。そんな事、と切り捨てられるかも知れないが、そんな当たり前の事が大事なのだ。

 まぁそれを判断したからと言って、永琳は何をするわけでもないが。

 強いて言うならば、『高橋 愛乃』と言う人物の情報収集と言ったところか。

「今後、何か困った事が有れば頼らせてもらうわ」

「俺に頼る前に大概の事は貴女が解決しそうですけどね」

 永琳の言葉に高橋が笑って答える。

「私はただの薬師よ。トラブル解決は専門家に任せるわ」

 ここで「自分では解決出来ない」と言わないあたり、やはり大概の事は解決出来るのだろうと高橋は予想した。

「こっちからも質問いいですか?」

「良いわよ」

「今回の異変が起きてから永遠亭が受けた影響や被害、そして貴女から見てこの異変に対する意見は?」

 永琳同様、高橋も情報収集に努める。

「うちは特に被害は無いわね。元々そこまで多くの人と関わっていなかったのもあるでしょうけど。私の意見としては、色々と『わからない』と言うのが本音ね。この異変を起こした犯人もその動機、目的、こんな事をして何のメリットがあるのか、その全てがわからないわね。これに関しては私は別に解決しようとしていないから、詳しい情報を持っていないから、と言うのが理由ね」

 どうやら彼女は詳しい事は知らないようだ。まぁ自分達に深く影響しない事なら細かく調べたりしないのも仕方のない事だろう。なんせ自分に被害が無いのだから調べる必要性がない。

(これと言って収穫は無しか。まぁ治療のついでに調べてる様なもんだし、永遠亭の人達と繋がりが出来ただけ僥倖か)

 鈴仙に聞いても然程変わらぬ答えが返ってくるだろうか?いや、彼女の方が人里に出向いている様だから何かしらの噂話などは聞いているかもしれない。

「お茶入りましたよ」

 そんな事を考えていると、タイミングよく鈴仙が戻ってきて人数分のお茶を差し出した。

「なぁ鈴仙、急で悪いんだが、聞きたい事がある」

「何?」

「今起きてる異変に関する事で噂や人里での被害とかってあるか?」

「被害ねぇ・・・」

 お茶を飲みながら少しだけ考え込む鈴仙。すると思い出した様に口にした。

「被害って言うか、トラブルは起きやすくなってるみたいね」

「トラブル?」

「うん。今まで私達の間では『弾幕ごっこ』がトラブルや異変の解決に使われていたの」

「うん」

「でも今はその『弾幕ごっこ』が無くなって代わりに『ギャンブル』が幻想郷全体に使われてるのよ」

「そこまでは聞いた」

「そして『ギャンブルの結果は絶対遵守』って事は今まで『弾幕ごっこ』に関わって来なかった人達にもこのルールは適応されるの」

 これが今の幻想郷での大きな変化だろう。

「つまりあれか?どんな内容でもこの幻想郷にいる限り、老若男女問わずギャンブルに強制参加か?」

「参加は勿論自由だけどね。でもやっぱり賭け事で解決すると何かとトラブルも増えてるみたい」

「そりゃ至る所で絶対遵守のギャンブルなんてやられたら経済は回らないからな」

 仮に飲食店に入った客全員が店主と代金を賭けて勝負をし、その結果店主が全敗でもしたら店は一気に大赤字だ。

「ギャンブルに言葉巧みに誘導して、後はイカサマでも仕込んでから勝負させればまず有利だからな」

 四六時中そんな事が繰り返されたら人の生活など機能しなくなる恐れもある。

「まぁ今のところはそんな極端な事にはなってないから大丈夫みたいだけど」

「けど、実例はあったんだろ?」

「・・・うん」

 今軽く聞いただけでこの考えが浮かんだのだから、人里の中に同じ事を考えている輩がいても不思議ではない。

(さて、どうする?その点に関しては俺が関わる必要はない。俺が行っても解決できるとも限らないし幻想郷に来たばかりの俺が何か言っても誰も耳を傾けてくれやしないだろう)

 仮に今から高橋が人里に行って「ギャンブルで荒らす様な真似はやめよう」などと言ったところで逆効果になりかねない。寧ろ「その手があったか」と刺激する可能性もある。

(でも、問題が起きてからじゃ遅いよな)

 高橋が内心でそう結論づけた。

「どうするか決めたのかしら?」

 永琳が言ってくる。

「とりあえず人里で今言ったトラブルが起きない様に考えてみますよ」

 面倒臭げに答える。

 放っておいてもいいかと考えたが、これから長い事活動するのだから人里が荒れてしまっては困る。面倒事は先に処理しておきたい。

「人里で活動するなら慧音を頼ると良いわよ」

「けいね?」

 鈴仙から聞き慣れない名前が出た。

上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)。人里の寺子屋で子供達に勉強教えてるわよ。あの人、顔が広いから何かあればある程度は何とかなると思うわよ」

 つまり悪い言い方をすれば上手い事使えば便利だから利用しろと言った所か。

「他にあても無いし、とりあえず人里に行って情報収集かな」

「無闇矢鱈と歩き回るよりかはマシでしょうね」

『おーい、愛乃ー。どこだー』

 永琳が言うと同時に、遠くから魔理沙の声が聞こえた。

「迎えが来たみたいだし、失礼ながら今日はこの辺で帰ります」

「そう。何かあればまた来なさい」

「そうします。それじゃあ俺はこれで失礼します」

「ええ。優曇華、彼らを竹林の外まで案内してあげなさい」

「わかりました」

 そうして鈴仙と高橋は途中で魔理沙と合流して永遠亭から出て行った。

「彼にこの異変が解決できるのかしら。それに何故紫はわざわざ彼を選んだのかしらね」

 一人残された永琳は暇つぶし程度にそんなことを考えるのだった。




そう言えば前回の投稿の時点でこの作品始めてから3年が経ってましたね(遅すぎワロタ)。
例えギャンブルが名ばかりな作品でも亀更新のタグに偽り無しって事で(ちゃんとギャンブルもせぇよ)。
もうちゃいまともなネタ考えて次も書きますんでもし良かったら次も期待しないで読んでやってください。

そして最近言い忘れていたのに気づきましたが、お気に入り登録してくださった
すーみん様
Aiki178様
平哲様
遅くなりましたがありがとうございます。

ではまた次回。


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12話・二度目の人里で先生と出会った。

だんだんとギャンブル自体が思いつかなくなってきた。


「さて、次は人里か」

 竹林の外まで案内してくれた鈴仙と別れ、高橋と魔理沙は次の目的地を話し合った。

「何で人里なんだ?一度萃香と来たろ?」

「人里にいる上白沢 慧音さんって人に会いたくてな。色々と人里に顔がきくらしいから話を聞こうと思ったんだ」

「成る程な。だったら寺子屋に行くか。あそこに行けばまずいるだろ」

 魔理沙曰く、そこまで遠くないそうなので歩いて移動する事にした。

 

 

「こうも早くまた来る事になるとは」

 人里に来て開口一番に高橋はそう言った。

「前回は萃香で今回はこの魔理沙さんって、お前は出歩く度に女を取っ替え引っ替え忙しいな。次は霊夢か?」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

「女ったらしの遊び人」

 遊び人って点は合っている。

「お前が男だったらどつき回してたよ」

「図星を突かれたからって暴力に走るのは感心しないぜ」

「そんな事ばっか言ってると男も寄ってこないぞ」

「今私に寄って来てる男が隣にいるぜ?」

「俺はガキに興味はねぇよ」

 誰が好き好んでこんな小生意気なガキに惚れなきゃならんのだ。

「それより、早くその慧音さんとやらに会いに行こうぜ」

「そうだな。こっちだ」

 更に歩くと一軒の建物の前で二人は足を止めた。

「ここだぜ」

「まさかこの歳になって勉強の場に来る事になろうとは」

 寺子屋の入り口を見ながら高橋が言う。やはり昔ながらの木造建築だった(人里の殆どがそうなのだが)。

「何だよ、愛乃は勉強は苦手か?」

「人並み程度には出来るよ。勉強も嫌いじゃなかったしな」

 正確に言うと新しい知識が入るからと言う理由で勉強は好きな方だった。

「つまらない奴だな」

「もしかして魔理沙って俺の事馬鹿だと思ってるか?」

 魔理沙の顔を見ると、よくわかってるじゃないかと言わんばかりの表情で返された。

「まぁ、んなこたぁどうでもいいや。早く入ろうぜ。授業中なら待つしかないけど」

 ここで立ち尽くしても仕方ないので二人は静かに寺子屋の中に入って行った。

 中に入ると部屋から何人かの話し声が聞こえた。中の様子は障子に遮られていて見えない。

「お、慧音の声だぜ。授業中だな」

「終わるまで待つとするか」

「いつ終わるかわからないけどな」

「なら待ってる間、昼飯賭けてギャンブルしようぜ」

「乗った!」

 高橋の提案に賛成する魔理沙。

「ならどうやって勝負するか。コイントスか、ポーカー・・・はトランプが無いから無理か。ならこうしよう。あの部屋から最初に出て来るのが男か女か」

「私達以外のってルールをちゃんと付けとけよ」

 文の時と同じ手は使えない様だ。まぁ魔理沙の目の前でやっていたのだから仕方がないが。

「わかった。なら今あの部屋にいる人物で、最初にあの部屋から出て来るのが男か女か。そしてこのギャンブルの間、俺達は部屋の中にいる人達に対して一切のアクションを禁止。これで良いか?」

「勿論さ」

「魔理沙が決めな。俺はその逆でいい」

 その一言を聞いて魔理沙は考える。どちらを選ぶのが正しいか。

(確かここの子供達は男子の方が多かったな。そうなれば確率的には男子の可能性が高いか?)

 朧げな記憶を頼りに考える。魔理沙達からは中の様子は障子に遮られていて男女の数はわからない。

(でも最初に出て来るのが子供とは限らないか。最初に慧音が出てきたらその時点で子供の割合なんて関係なくなる。生徒が出て来るとなったら十中八九男子だとは思うんだが・・・)

 この時点で魔理沙の中では『出て来るのが男か女か』から『出て来るのが男子生徒か慧音か』に変わりつつあった。ならば終わると同時に慧音をすぐに呼び出して部屋から出させるか?いや、それではルール違反になって魔理沙の負けとなってしまう。

(失敗したな。最後のルールだけ無ければ上手く誘導出来そうなものなのに)

 文の時の様な動きを封じようとして動いた後にそこで満足してしまった自分のミスだ。慢心して高橋の最後の提案に乗ってしまった決定的なミス。勿論これは高橋の第二の策でもあった。

 常に策は二つ以上用意しなければ、勝てるものも勝てないのだ。

 しかもこの慢心は高橋の一つ目の策を封じた事によるものだけではない。

 以前、魔理沙は初めて会った時に高橋とのポーカー勝負に勝っている。その時の事が脳裏によぎっていたのだ。そして魔理沙は無意識に考えてしまった。

 

『そこまで考えなくてもまぁ勝てるだろう』と。

 

 自分は一度勝っているのだから確かにそう思ってしまっても仕方がないのかもしれない。だが、勝ちを常に信じて求めるのと、手を抜いて勝利を求めるのとでは雲泥の差だ。

 それを感じて魔理沙は昨夜のポーカー勝負を思い出した。あれだって油断して彼のイカサマを見逃して負けたのだ。危うく同じ様な事を繰り返すところだった。

 昨日と違うとすればイカサマの余地が無い点だろうか。

 いや、今更そんな事を思い出しても仕方がない。本題に戻ろう。

(確率は五分五分か?いや、そもそも慧音が最初に出て来る可能性は本当にあるか?)

 一つ一つの可能性を思案する魔理沙。数多くの可能性を考え出したらキリがないかも知れないが、考えない事には始まらない。

 そしていつだったか、授業が終わった時の慧音を見た時の事を魔理沙は思い出した。

(そうだ。確かあの時、慧音は子供達が居なくなってから最後に部屋を出てた!だったら今回も同じ可能性があるぜ)

 予め慧音の元に会う約束が有ればこの仮説は崩れるかもしれないが、今回は突然の訪問だ。当然慧音に連絡などしていない。

 そうなればさっき魔理沙が考えた『出て来るのが男子生徒か慧音か』と言う前提が崩れる事になる。そうなれば当然人数の多い男子生徒の方が出てくる可能性が高い。

 つまり魔理沙の答えは、

「男だ」

「わかった。なら俺は女の方だな」

 高橋が答えると部屋の中から障子が開けられた。授業が終わったのだろうか?

 

 そして中から出てきたのは ───

 

「お前達、そこで何をしているんだ?」

 上白沢 慧音だった。

 

 

「成る程。今回の異変について私に話を聞こうと思って来たのか」

 先の件から数十分後、二人は慧音にここに来た目的を話した。

 因みに二人は教室の中で正座させられている。理由は単純。

「会いに来るのは勝手だが、人の授業の邪魔をするんじゃない」

「「はい」」

 結果として言えば、賭けは高橋の勝利だった。魔理沙の推測は悪くは無かった。寧ろ順当に行けば間違いなく魔理沙が勝っていただろう。だが、今回は魔理沙の推測に一つだけ落とし穴があった。

『授業が終わった際に誰が出て来るか』と言う点しか考えていなかった事だ。

 つまり授業が終わる前に誰かが出て来る可能性を考慮していなかったのだ。

 そして高橋は何となくだが慧音が出て来る気はしていたのだ。何故なら、

(そりゃ、授業中に外から五月蝿い話し声が聞こえたら気になって出て来るよな)

 ある意味当然と言えば当然の結果だった。

 そしてお互いの自己紹介が終わると同時にお説教へと移行したのだ。

「それで高橋 愛乃と言ったか?私に聞きたい事と言うのは?」

「異変が起きてから人里にも多少なりとも影響が出てると聞いたから人里の事に詳しい慧音さんに話を聞こうかと」

 高橋の言葉を聞いて慧音は少しだけ考える素振りをした。

 それは高橋を疑っているからなのか、どう伝えれば上手く説明出来るかを考えているからなのか、高橋には判断出来ない。

「人里での影響と言ったが、お前はどこまで知っているんだ?」

「あくまで噂程度だが、今回の異変を利用してギャンブルで悪事を働いたりしている輩がいるって位だな」

「因みにそれは誰から聞いた?」

「永遠亭の鈴仙から」

「成る程」

 そう言って彼女は再び考え込んだ。

「お前の言う通り、今回の異変を利用する輩が里の中にいたのは事実だ。だがなぜそれで君が動く?仮にもお前は外の世界の人間だ。ここで何が起きても然程関係無いように思うが?」

 当然の疑問を聞いてくる慧音。

「これでも一応今回の異変解決が俺の仕事なんでね。長期間幻想郷にいるつもりだ。そうなれば俺だって人里で活動する事だってある。それなのに人里がまともに機能してませんってなったら俺自身困るんでね」

 自分は決して優しい人間では無いと高橋は自覚している。だから見知らぬ誰かの為に世話を焼いてやろうとか手を貸してやろうなどとは思わない。あくまでこれは自分への後々の不利益などを考慮した上での行動だ。間違っても『優しい人』だとは高橋は思われたくないと思っている。だから自分の考えは大概相手に伝える様にしている。

「利害は一致してると思うんだけどな?このまま放っておけば良くない事を企てる奴は増えるかも知れない。そうなれば里の人間で困る奴も増える。そうなれば遅かれ早かれ俺も困る事になる。まぁそれを利用して依頼料取って仕事するって言うのも手かも知れないけどな」

 再度説明する様に高橋が言った。それを聞いて慧音も考える。

(この男の目的は今回の異変解決。なら確かに活動範囲が狭まるのは彼としても困る。だったら問題が起きる前に対策をしておこうと言うこの男の言い分は尤もか)

 高橋の言葉に裏が無いか、矛盾が無いかを考える慧音。

(聞いた話では今この男は霊夢の所で世話になっているらしいな。何かしら裏が有ったとしても霊夢がそれをみすみす見逃すとも思えない・・・。ならば少なくとも今は信用してもいいか)

 渋々と言った感じで慧音はそう結論付けた。慧音個人としては軽薄そうな高橋の事はまだ信用していないが、会って間もないのだから仕方がないと言えるだろう。

(わぁ、明らかに俺を疑ってるよ。少なくとも俺個人を信じてねぇな。霊夢の時と同じ雰囲気だよ、これ)

 その気配を高橋も感じ取っていた。

「わかった。ならお前にも里で何かトラブルが有れば解決を頼もう」

「その代わりと言ったら何だが、今後色々と情報提供なんかをしてくれるとありがたい」

「情報提供?」

「何処かで変わった動きが有ったとか、異変が起きてからこんな噂を耳にしたとかそんな事さ。生憎とこっちは異変解決を頼まれはしたけど幻想郷について殆ど何も知らないんでね。些細な事でも知りたいんだよ」

「てっきり解決してやる代わりに金銭でも差し出せと言うかと思ったんだがな」

「それでも良かったが、今後を考えたら力のある人との繋がりと確かな情報が欲しいからな。それに生憎と今は金には困ってないんだ」

 そもそも人とのコネクションを作るのに必要なのは信用だ。それに金で作られる信用なんてものは有りはしないし、仮に有ったとしても脆すぎる繋がりだ。そして信用を作るのは確かな実績だ。

「なんせ仕事が便利屋なもので、人からの信用が大事なんですよ」

「便利屋、か。何かあれば私も依頼しても良いか?」

「報酬さえいただければ」

「わかった。それはそれとして、知りたい事は他にあるか?」

 なんだかんだ言いながら、慧音の対応が少し柔らかくなった様に感じた。少しは高橋に対する警戒を緩めたのだろう。

「取り敢えずその悪事を働いた奴の事と被害を受けた店側の事を教えてくれ」

「悪事を働いたとされているのが銀太と言う青年だ。以前から度々悪さをしていたようだが、今回の異変を知ってお前の言うように店側と勝負をして店側に被害を与えたようだ」

「でもただ店の奴とギャンブルしてるなら言う程問題でもないんじゃないか?イカサマだってバレなきゃ問題ないんだろ?」

 ここに来てようやく魔理沙が口を開く。

「それだけなら確かにそんなに周りも騒ぎはしないだろうな。ちょいとばかり店側の方が運が悪かったとか言ってな。でも問題は多分そこじゃ無いんだろ?」

 言いながら高橋が慧音へ視線を向ける。

「・・・ああ。問題は賭けをする前なんだ。どうやら初めは店側も勝負を断ったらしいのだが、どうも青年の方が賭けを断れない様に動いていたらしい」

「脅迫って事か?」

 魔理沙の問いに無言で頷く慧音。

「つまりはこういう事か?そいつは店に入ると同時に『ギャンブルに参加しろ。でなきゃ店を荒らすぞ』みたいな事言って無理矢理させたって言うのか?」

「まぁそう言う事になるんだろうさ」

 元より評判の悪いらしいそいつならそんな事を考えついてもおかしくは無いかと高橋は内心で思った。

「まぁギャンブルで負けたのは店側の責任としても、流石にそんな真似を今後もやられたらこっちとしても迷惑だな。飲食店全部でそんな真似されたら里の店が全部潰れるぞ」

「どうするんだよ?」

「ん?パッと思いつくだけの案ならまずは被害が悪化しない様に店の人間がギャンブル出来ない様にするか、直接その銀太って奴の所へ殴り込みをかけるかだな」

「やり方は任せるが、あまり手荒な真似はするなよ」

「わかってるよ。俺だって無駄に反感を買いたいわけじゃないからな」

「それならいいが」

「それと、その被害を受けたって店の名前を教えてくれ。今から行って話を聞いてくる」

「ああその店なら ─── 」

 

 

「ここかよ」

 慧音から話を聞いて言われた店に来た途端、高橋は呆れた様な声を出した。しかしそれも仕方ないだろう。何故ならその店は高橋が萃香と共に来た店だったのだから。

「あのオヤジ、まんまとカモにされたってわけだな」

 隣にいた魔理沙が笑った。

「まぁ昼飯のついでに話を聞くとするさ。可愛い魔理沙ちゃんの奢りだしな」

「嫌な事はよく覚えてる奴だぜ」

「そう褒めるなよ。照れるぞ」

 魔理沙の嫌味を軽く流しながら二人は店の中へと入って行った。

「いらっしゃい」

 入ると同時に店主が元気よく言ってきた。

「お?こないだの兄ちゃんじゃないか。今日は萃香の嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」

「こいつ、今日は私とデートしたいって言い出したんだ」

「兄ちゃんも若いねぇ」

「お前ら適当な事言いすぎだろ」

 もう解決するのやめてやろうかと少しばかり思う高橋。

「取り敢えず俺は肉うどんで」

「私も」

「あいよ。ちょっと待ってな」

 注文を聞くと、オヤジさんは調理を始めた。

「にしても相変わらず客少ねぇな。この店」

「悪かったな。人気のねぇ店で」

 どうやら聞こえていたらしい。

「挙げ句の果てにはギャンブルで負けてタダで飯食われてるんだもんな」

 今度は聞こえる様に言った。

「お前さん、どこからそれを聞いた」

「里の何人かは既に知ってるぜ。何処ぞの悪ガキに一杯食わされたってな」

 高橋の代わりに魔理沙が言った。

「でまぁそんな悪ふざけを何とか止めようと俺らが来たってわけだよ」

「何?」

 オヤジさんが聞き返す。

「どうする?オヤジさんが望むならそいつに仕返し出来るけど?」

「本当か?」

 料理中のオヤジさんの手が止まる。

「信じるか信じないかは貴方次第」

「なら是非とも頼む!」

 オヤジさんが頭を下げながら言ってくる。余程悔しいのか、状況が切羽詰まっているのか。高橋からして見ればどちらでも構わないが。

「ならその依頼、受けましょう。依頼料は成功報酬で飯奢ってくれりゃいいよ」

「依頼?」

「俺、便利屋なので」

「便利屋、か。まぁ飯奢る程度で解決するなら安いもんさ。頼むぜ、兄ちゃん」

「なら取り敢えずオヤジさんにギャンブルを吹っかけて来た奴の事とそいつとやったギャンブルの内容を教えてくれ」

「内容?」

 二人分の料理を運びながらオヤジさんが聞き返す。

「どんな勝負をしたのか、何を互いに賭けたのか。正確に知らなきゃ対応に問題が出るからな」

「そりゃそうだな」

 高橋と魔理沙が言い終わると二人は肉うどんを頬張った。

「ええと、あの時は俺が勝ったら飯の代金を倍に、俺が負けたらその時の飯代をタダにするって内容だったな」

「それで終わりか?他に付け足されたルールは?」

「いや、それ以外はねぇな。断ったら店が営業出来ない様にしてやるって脅されはしたが」

「でもよく考えたらそれってルール違反じゃないのか?」

 オヤジさんの言葉に魔理沙が疑問を浮かべるが、それを高橋が否定した。

「いや、ゲーム中の暴力行為なんかはルール違反になるが、ゲーム開始前に誰が何をやろうとルール違反だなんて書かれて無かったよ。いかにも悪ガキが考えそうな事だな」

「感心してる場合じゃないぜ。それでどんな勝負だったんだよ?」

「トランプを使った簡単な賭けだったぞ。シャッフルして裏向きになったカードの中からアイツが絵札を当てれるかどうかってな」

「絵札をって事はジョーカーを抜いていたとしても確率は12/52ってところか。そのトランプって向こうが用意した物か?」

「いや、それはうちにあったやつを使ったさ。持って来たもんを使われたらイカサマされてるかもしれないからな」

「流石のオヤジもそれくらいは考えついたか」

「まぁ警戒して負けてりゃ世話ねぇけどな」

「お前達、さり気なく人を傷つけないでくれるか?」

 オヤジさんが言うが二人は当然の様にこれを無視する。

「カードをシャッフルしたのもオヤジさんか?」

「ああ。アイツがカードに触れたのはカードを引く時だけだったぞ」

「それで負けた、と。単純に運が悪かったんじゃないか?」

「そうかも知れんが、アイツの自信ありげな顔がどうにもなぁ。始める前からまるで自分が勝つのが当然みたいな顔だったな」

「運を呼び込む為に普段から強気な態度でいるギャンブラーってのも少なくはないけどな。つい最近起きたこの異変でその反応は確かに妙な違和感はあるな・・・」

 仮にその銀太と言う男がイカサマをしたとして、どんな方法を使ったのか?その男に萃香やフラン達の様な能力が無い前提で考えてみよう。

 一つ目はあらかじめカードを隠し持っていた可能性。これなら選ぶフリをして隙を見てカードを用意しておいた絵札とすり替える事は出来るだろう。だが、先程言ったようにカードを引く時だけしか触れていないならそれは難しいだろう。

「なぁ、カードを選ぶ時、どういう風にカードを取ったんだ?テーブルに並べてか?」

「いや、カードの束は俺が持っていた。・・・こうやって裏側にして広げる様にアイツに見せてな。勿論選んだカードはその場で確認したから特におかしな事はしていないと思うが」

 言いながらオヤジさんは店にあったトランプを持ってきて再現した。まるでカードマジックでカードを選ばせるマジシャンみたいだ。

「カードは相手にもオヤジさんにも見えてなかったのか。ならすり替えは無理か・・・」

 と考えた所で高橋はある可能性を思いついた。

「なぁオヤジさん。そいつ、カード選ぶ時、やたらとカードを触らなかったか?」

「ん?ああ。何度もカードを弄ってカードとカードの間を広げる様な事してたな。特にカードに特徴的な傷とかも無いんだが」

「それ、片手でじゃなかったか?」

「確かにそうだが、もしかしてわかったのか?」

「まぁな。えらく単純なイカサマだな」

「何だよ。透視でもしたってのか?」

 魔理沙が言った。

「そいつが透視出来るならカードをいちいち触る必要もねぇだろうさ。実際にやってみようか。魔理沙、試しに俺に向かってカードを広げてくれ」

「ああ。わかった」

 高橋の指示を受け、オヤジさんからトランプを受け取った魔理沙は先程のオヤジさん同様、カードを広げて高橋に向けた。

「これでいいのか?」

「ああ。この中から絵札を取ってみせよう」

 まるで予言のように高橋が言う。そして右手で何度かカードを広げると、その中から一枚を抜き取った。

「ほら。この通り」

 引いたカードをそのまま二人に見せた。するとそのカードはスペードのキングだった。

「おお!すげぇな兄ちゃん」

「いや、よく観察したらバレる簡単なイカサマだよ」

 驚くオヤジさんに高橋が否定する様に言った。

「寧ろこれに気付かなかったオヤジがおかしい」

 魔理沙も呆れ顔で続く。やはり気づいた様だ。

「どういう事だ?」

「オヤジ、愛乃の左手を見てみな」

「左手?・・・あっ!」

 魔理沙に言われるまま高橋の左手を見ると同時にそんな声を上げた。流石の彼にも分かったのだろう。この手品の種が。

 高橋の左手にはある物が握られていた。

 そう。それは小さな鏡だった。

「右手でカードを選ぶフリをして左手に隠し持っていた鏡を使って下からカードの絵を確認したんだよ。わざわざカードを広げたのは、重なっていて絵札かどうか分からなかったからだ」

「カードの陰とは言え、目の前で堂々とイカサマされるなんてオヤジも舐められたもんだぜ」

 全くだ。だが、実際に見抜けなかったのだから彼の負けだ。

「とまぁ種明かしはこんなもんだけど、問題はここからだ。取り敢えずこのままだったらオヤジさんはまた同じ目にあって毎日の様にギャンブルを吹っかけられる事になる」

 例え銀太と言う男を退けても同じ事を考えた人間に狙われないとも言い切れないし、常に高橋が守れる保証もない。

「な、なら俺はどうしたらいい?」

「簡単さ。今後ギャンブルに乗らなければ良い」

「まぁそうなるよな」

「だが無理矢理にでも参加させられたらどうしようもないぞ」

 成る程。現時点で既に自分が負けた時の事しかイメージ出来ていない。これでは負けても仕方ないかと高橋は考えた。

「関係ないさ。無理矢理にでも参加出来ない状態にすればいい」

「そんな事が出来るのか?」

 今度は魔理沙が聞いた。

「俺の予想が当たればな。オヤジさん、俺とギャンブルしよう。勝った方が負けた方の言う事を一つ聞く」

「何?それが関係あるのか?」

「大有りだ。勝負はジャンケン。俺がグーでオヤジさんがチョキな?」

「あ、ああ」

 言われるがままにジャンケンをし、話の通り高橋はグー、オヤジさんがチョキ。当然高橋の勝ちだ。

「俺の勝ちだな。ならオヤジさんに命令だ。『今後オヤジさんは俺、高橋 愛乃の許可無しに一切のギャンブルに参加する事を禁止する』」

「それで本当に大丈夫なのか?」

「多分な」

 魔理沙の問いにそう返すが、特に変わった様子などは無さそうだ。

「これで何が変わるんだ?」

「試さないと確かな事は言えないけど、これでオヤジさんはギャンブルが出来ない筈だぜ」

「何でそう言い切れる?」

「あの紙にあったろ?『ゲームの勝敗によって決められた内容は絶対遵守される』って。あれは多分俺らが気付いていないだけで、行動や思考すらもあのルールで多少なりとも操作されていると思うぜ。だから皆、どんな結果になっても相手が出した指示に従ったんだ。無視出来たなんて話は調べた限りじゃ聞いた事ないからな。仮に何とかしようとしても結果は変わらないんじゃないか?」

「しかしよくそんな事思いつくぜ」

 実を言うとこの可能性は昨日の時点から考えていた。正確に言えばフランとの勝負の後にだ。

 あの我儘で人の話を素直に聞かなかったフランが勝負の直後には素直に高橋の言う事を聞いていた。その点に僅かながら違和感を覚えていたのだ。

「幻想郷は何でも有りだ。ぶっ飛んだ能力を持った奴らが沢山いるんだから、人の思考や行動を操作出来る奴がいても不思議じゃないだろ?」

「まぁこんな異変を起こすくらいだからな。それは確かに言えてるぜ」

 これで一先ずオヤジさんの被害は無くせるだろう。

 後は銀太とやらを叩きのめすだけだ。

 




ギャンブルも思いつかなきゃ後書きに書く事すら思いつかなくなってきたや。
思いつき次第書きますんでその時はまた見てやってください。
そう言えばUAが1000件超えまして皆様ありがとうございました。

お気に入り登録してくださった
マイアーレ様
純金製様
有り難う御座いました。

誤字脱字、ご意見ご感想等有りましたらコメントお願いします。
ではまた次回。


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13話・悪ふざけの代償をガキに教え込もう。

今月が終わるまでにはこの話を投稿しようと思ってたら最終日のこんな時間ギリギリになるとは。


 オヤジさんへの対策を一先ず終え、残る問題は今回の騒動を引き起こした銀太とやらへの対応だけとなった。

「それでこれからどうするんだ?」

 少しばかり心配そうな顔をしながらオヤジさんが聞いてくる。

「安心しろって。後はその銀太って奴に二度とふざけたマネ出来ない様にお説教するだけだからよ」

 何をしようと自由だが、大人を舐めたからにはそれなりの覚悟を持ってもらわなければ困ると言うものだ。

 人に喧嘩をふっかけたのだ。当然やり返される覚悟はあるはずだ。

「何する気だ?愛乃」

 魔理沙が尋ねる。

「目には目を歯には歯を、ギャンブルには勿論ギャンブルだよ」

「これで負けたら笑い者だな」

「絶対に負けないから安心しろって。どうせ向こうから負けに来るんだから」

「何で言い切れるんだ?」

 今度はオヤジさんが尋ねる。

「前回オヤジさんとの対戦で向こうは特に何の問題も無くあっさり勝った。となればそれに味をしめてまた同じ事をしに来る可能性が高い。だから俺達はここで待ってりゃ向こうから勝手に来るって訳さ」

「そんな上手い事いくか?」

「上手くいくさ」

 高橋は断言した。これに関しては高橋は絶対的な自信があった。

「俺とそいつは似てるからな」

「は?」

 高橋の言葉に魔理沙がそんな間抜けな声を上げる。

「そいつと俺の思考はよく似てる。だから次にどう動くかもある程度予測ができる」

「似てるか?そいつと愛乃」

「似てるさ。俺もそいつも同じクズだからな」

 好き好んでギャンブルに手を染める奴にまともな人間はいない。それが高橋の考えだ。

「そうなれば後はギャンブルでの経験と実力差の問題だ。ギャンブルをする事の大変さって物を馬鹿に叩き込んでやる。慧音先生じゃ出来ない特別授業さ」

 そう言って数十分後、店の入り口が開く音がした。

 そこには背の低い丸坊主の男がいた。見た目で言えば歳はまだ二十にもなっていないだろう。

「へへ。おいオヤジ、今日も来てやったぞ」

 気味の悪い笑顔を見せながら男が言ってくる。

(成る程。こいつが銀太って奴か。案の定、味を占めたってわけだ)

「客だったら喜んでもてなすんだがな。お前さんはそんなつもりはないんだろ」

 露骨に嫌な顔をしながらオヤジさんが言い放つ。すると男はニヤケ面をしたまま返す。

「馬鹿言わないでくれよ。前にも言ったろ?アンタが勝てば俺は代金を倍にして払ってやるって」

「そんな羽振りがいいならギャンブルなんてしないで普通に金を払って食ってくれた方が俺は嬉しいね」

「おいおい、そんなつまらねぇ事は言っちゃいけねぇよ。そんな事言ってると、明日にはこの店無くなっちゃうかもよ?」

「ッチ。口の減らねぇガキが」

「ま、そう言うわけで、今日も一勝負しましょうぜ」

「残念だがそれは無理な相談だな」

 会話を遮る様に高橋が言った。

「あ?誰だテメェ」

「人に名前を尋ねる時は自分から名乗れよクソガキ。俺は便利屋をやってる高橋って言うもんだ」

「あ?あーお前か。外から来たって奴は。そんな便利屋様が何で人の話に首突っ込んでんだ?部外者は引っ込んでろよ」

「自己紹介も出来ねぇド低脳に説明してやる義理は無いんだが、まぁ寛大な精神で教えてやるよ。さっきオヤジさんは俺との勝負に負けて俺の許可無しにギャンブルは出来なくなった」

「はぁ?そんな訳あるかよ。適当な事言ってんじゃねぇよタコ」

「なら試してみろよ。勿論俺は許可しないけどな」

「誰がテメェの許可なんざ取るか。おいオヤジ、さっさとやるぞ」

「仕方ねぇ。やってや・・・」

 言いかけて、オヤジさんはそこで言葉を止めた。

 否、その先が言えなかったのだ。

「え?」

 真っ先に驚いたのはオヤジさん本人だった。まるで声が出なかったのだから。

「おいオヤジ、何ふざけた真似してんだ」

「い、いや、そんなつもりは・・・」

「おい愛乃、これって」

 魔理沙が聞いてきた。

「ああ。やっぱ思った通りだ」

 高橋の予想した通りの結果になった。

 

 オヤジさんは挑まれたギャンブルに同意出来ない。

 

 互いの同意が無ければこの異変の効力は適応されない。何故ならそもそもギャンブルが行われないのだから。

 結局、何度やろうとオヤジさんが同意する事は無かった。

「気は済んだか?」

 高橋が煽る様に言った。

「ふざけんな!今すぐ許可しろよ!」

「ふざけてんのはお前の方だ。何で俺がお前の命令に従わなきゃならねぇんだ?そんな義理は勿論ねぇよな?」

「・・・」

 男が沈黙で返した。さて、ここからが本題だ。

「それでもギャンブルがしたいって言うなら俺と遊ぼうや」

「は?」

「まぁそう警戒すんなよ。お前が勝ったらこれをくれてやる」

 言って高橋は上着の内ポケットから百万の束をテーブルに放った。それを見た男の目つきが明らかに変わった。

「・・・マジかよ」

「勿論。ただし、ゲームはこっちで選ばせてもらう。お前が勝ったらそれを持って行ってくれて構わないさ。ただし、俺が勝ったら俺の命令を三つ聞いてもらう。さぁどうする?」

 高橋が言い終わると同時に男は即答した。

「やるに決まってんだろ。お前のその金、望み通りに貰ってやるよ」

 こうして二人の勝負が決まった。

「で?何で勝負するつもりだ?」

「その前に、俺は名前も知らない奴と勝負する気は無いんでな。お前の名前は?」

「銀太。山  銀太(やまぎし ぎんた)、歳は18だ。これで良いか?」

「ああ。ならゲームをしよう。オヤジさん、悪いけどトランプ貸してくれ」

「わかった」

 オヤジさんからトランプを受け取り、高橋は今回のギャンブルの説明を始めた。

「今回やるのは『High&Low』ってゲームだ。使うのはジョーカーを含めた計五十三枚一組のトランプ。これを使う」

 ルールは以下の通りだ。

 

・まず、裏向きに置かれた山札の一番上のカードを表にして場に出す。

 

・互いのプレイヤーは場に出たカードの数字より次に捲るカードの数字が高い(High)か低い(Low)かを予想して山札からカードを捲り、場に出す。

 

・これを一枚ずつ交互に繰り返していく。

 

・数字の強さはAが一番弱く、Kが一番強い。

 

「大事なのはここからだ。例え予想が当たろうと外れようとその時点で次は相手のターンになる」

「ちょっと待て。外れても続くならどうやって勝敗をつけるってんだ」

「まあまあ説明は最後まで聞くもんだぜ」

 このゲームにおいて、負けとなる条件は以下の二つだ。

 

・相手より先に三回予想を外す。

 

・ジョーカーを引く。

 

 このどちらかだ。

「これだとジョーカーを引いたらその時点でお終いだからつまらなくないか?」

 隣にいた魔理沙が言ってきた。確かにこれでは予想をすると言うよりジョーカーを引くか否かの運の勝負だ。

「ああ。だから互いのプレイヤーは『パス』をする事が出来る。勿論条件付きでな」

「条件?」

 今度は銀太が聞き返す。

「さっき三回予想を外したらって言ったよな?つまりライフは三つあるって事だ。だからパスの条件は一度につき一つ、このライフを失う事だ」

 つまり最初の段階でいきなりパスを使ってしまえば、二回予想を外した時点でそのプレイヤーの負けとなる。

「ゲームが進めば進む程ジョーカーを引く確率も上がる。でもビビリまくってパスをしまくれば予想を外して即負けって事か」

「その通り」

 魔理沙の言葉に高橋が肯定で返す。

「どうする?このゲームにのるか?それともやめるか?」

 聞いて尚、高橋はこの男がやめるとは思っていなかった。百万と言うデカい餌が銀太を逃れなくさせている。だから彼の返事は決まっている。

 

「やるに決まってんだろが」

 

 ゲーム開始だ。

「一つ聞きてぇんだけどよ、もし場にある数字と捲った数字が同じだったらどうなるんだ?」

 テーブルの向かいの席に座る銀太が聞いてきた。

「その時はノーカウントでそのまま同じプレイヤーがもう一度予想する。その時は勿論パスしても構わない。それと互いにイカサマ出来ない様に魔理沙、カードをシャッフルしてくれないか?」

「ああ。良いぜ」

「待て。何でそいつがやるんだよ」

「何だ?自分がシャッフルしないといけない理由でもあるのか?例えばイカサマとか」

「ッチ。好きにしろ」

「心配しなくても彼女にはシャッフルと準備をしてもらうだけさ。一応言っておくが、カードを捲る時以外互いにカードに触れるのも禁止だ。カードに触れるのは予想を宣言してからだ」

「わかったよ」

 苛立たし気に答えると、魔理沙がシャッフルを終えてカードの束をテーブルの中央へと置いて、一番上のカードを捲った。♠︎の5だ。無論魔理沙は高橋が有利になる様な細工はしていないしするつもりもない。

「先攻は譲るよ。好きに予想しな」

 先攻は銀太。

「Highだ」

 宣言して捲る。出たのは♦️のKだった。次は高橋のターン。だが、考える必要も無い。

「Low」

 K以上の数字は無い為、当然の予想だ。出たのは♣︎の7。

 それを見ていたオヤジさんは考える。

(・・・7か。中途半端な所だ。どっちが出てもおかしくない。これなら外す可能性も高いはずだ)

 オヤジさんからして見れば高橋に勝ってもらいたいので当然の考えだ。

「Highだ」

 捲られたのは❤️の10。残念ながら銀太の予想が的中した。

「Lowで」

 続く高橋のターンで出たのは♠︎のA。よりにもよって相手にとって絶対安心のカードだ。

(このゲームでAとKを引くのは、相手に楽をさせるだけの行為だ。問題はそれをいかに相手のターンで消化させるか)

 二人の動きを見ながら魔理沙がそう予測する。確かにこのゲームでAとKは相手にとって絶対安心のカードでしか無い。

(それでも唯一安心出来ないカードはある・・・)

 そのカードは言うまでもない。『ジョーカー』だ。

 なんせそれは一撃で自分の首を切り落とす死神の札なのだから。

(そしてもう一つ安心出来ない展開。それがもし自分のターンで来たら厄介だ)

 魔理沙が考えていると、その展開が現実に現れた。

「Highだ」

 絶対安心のAが出た事で、銀太は迷わず宣言した。だが、出てきたのは、

「ッチ」

 ♣︎のAだった。

 これが魔理沙が考えていた厄介な展開。

 一見すると何も問題が無いようにも思える。同じ数字が出た時は続けて同じプレイヤーがもう一度予想するのだからまたHighを宣言すれば良いだけの事だ。だが、問題はそこじゃ無い。

(このゲームで大事なのはいかに予想を当てるかじゃない。いかに()()()()()()()()()、だ)

 確かに予想を当てる事も大事だ。だが、いくら予想を多く当てれても『死神の札(ジョーカー)』を引いてしまったらそれまでだ。そしてその確率はカードを引けば引く程高まるのだ。

(イカサマでも無い限り全てのカードを予想するなんてまず無理だ。仮に出来てもジョーカーを引いたらそれまで。だから同じ数字のカードを引いて捲る回数を増やす行為は悪手でしか無い)

「Highだ」

 当然の宣言。出たのは♦️の7。先程の銀太と似た状態が高橋に戻ってきてしまった。

「Low」

 捲られたのは❤️のA。またしても相手に楽な状況になってしまった。

「ハッ。デカい口叩いた割にはえらく運が悪いじゃねぇか。いや、俺の運が良すぎるのか?Highだ」

 言って♦️の10が姿を見てた。

「Low」

 銀太の言葉には特に反応もせずにカードを捲る。♣︎の8。ギリギリだ。

(さっきから兄ちゃん、真ん中と端っこの数字が多いな)

 そんな事を何となくでオヤジさんは思った。

「Lowだ」

 ♣︎の2。ここまで二人ともミスなく続いている。

 そして高橋のターン。

「High」

 言ってカードを捲るが、出たのは❤️の2だった。よって、もう一度高橋のターンだ。

「High」

 次に出たのは♣︎の3。何とかクリアだ。

「High」

 ♠︎の8。銀太もクリアだ。

(ここまでで使ったのは十四枚・・・。カードも数字の強さはほぼバランスよく出て来てる。これは予想がし辛い上に油断したら即ジョーカーだ)

 魔理沙がカードを見つめながら考える。ジョーカーがいつ顔を見せるか、その危険を察知していつパスを使うか。中盤からはこれが大事になってくるだろう。

(それにしても二人共凄い勘だぜ。お互い合わせて十枚近くミスが無いなんて何かイカサマでもしてるのか?)

 あまりにも的中率が高すぎる為、魔理沙はそう考えた。確かに高橋なら何かしらのイカサマをしているかもしれない。彼にも何かしらの能力はある様だし、カードに触れなくても当てる策は有るやもしれない。だが問題は銀太だ。魔理沙が知る限り、あの男にそんな力が有るなんて聞いた事すらない(勿論魔理沙が知っている事が全てではないが)。

「・・・High」

 長考した後、高橋の宣言。だが捲られたのは♠︎の6だった。ここに来て初のミスだ。これで高橋はあと二回ミスしたら自動的に負けとなる。

「おいおい、強気な口聞いた割には早速ミスしてるじゃねぇか。やっぱこれは俺の勝ちが見えてきたんじゃねぇの?」

「御託はいい。早く引けよ」

「ッチ。Lowだ」

 顔色を変えない高橋にイラつきながら捲ると出たのは♣︎の6。更に銀太のターンだった。

 だが、ここに来て銀太も長考に入った。

(今確か全部で十六枚出てたな。大体三分の一が消えた。ならそろそろジョーカーが出てもおかしくねぇな。仮に俺がパスをして、アイツも続けてパスしてもアイツは一度ミスってる。て事はアイツは俺よりパス出来る回数が少ねぇって事だ)

 パスの申請はミス一回とカウントされるルールだ。

(つまり押し付け合いになれば当然アイツが先に折れるしかない)

 一回分自分が優勢と言う状況。これはなるべく維持すべきだ。だが、それに拘ってパスを拒んでジョーカーを引いたらマヌケも良いところだ。現に自分の勘がそろそろ危険だと言っているのだ。なら理論より自らの感性を信じないでどうするか。

 すると瞬間、高橋が口を開いた。

「まさかあれだけ人を舐め腐ってたガキがいの一番にパスなんて臆病者みたいな事しないよな?」

「あ?」

「自分の運が良すぎるだの、勝ちが見えてきたなんて大見得切った割には小物臭ぇ事しか出来ないのかと思ってな」

「喧嘩売ってんのか?」

「さぁな?」

 露骨な煽りに銀太は熱くなりながらも堪えた。ここで彼を殴り飛ばすのは簡単だ。だが今は勝負の最中。ここで彼を殴れば理由や過程は如何であれその時点で自分の負けとなってしまう。これは相手の罠だ。そう自分に言い聞かせた。我ながらよく耐えたと銀太は思った。

(ほぉ。殴って来ると思ったが耐えたのか。少しだけ感心したな)

 これには高橋も素直に驚いた。

 一度呼吸を整え、もう一度銀太は考えた。

(落ち着け。あんな奴の口車に乗るな。ここでアイツを殴れば百万が水の泡だ。なら何故アイツは俺を煽った?簡単だ。俺にカードを捲らせたいからだ)

 もし仮に今の様に銀太が高橋を殴ろうとせず、口車に乗っていたなら間違いなくパスをせずにカードを捲っただろう。ならどうしてそうさせる必要があった?

(決まってる。アイツにはあのカードがジョーカーだとわかっていたからだ)

 つまりはイカサマをしていると言う事だ。だが、その手段がわからない。これでは高橋を負けとさせる事は出来ない。

(だとしたらやっぱアイツはここで俺にカードを引かせたかったって事だ。挑発したのがその証拠。あれで俺が殴るか、耐えてカードを引くか。二段構えで俺を罠に嵌めるつまりだったわけだ)

 だがその策は通じない。何故なら銀太はその二段構えの高橋の策を読み切ったからだ。

 ならばここで銀太が取るべき選択は一つ。

「パスだ」

 死神の札(ジョーカー)を高橋に押し付ける事だ。

(これで俺もライフを一つ失ったが、押し付け合いになっても俺の勝ち。お前はもうカードを捲るしかねぇ!)

 この時、銀太と同じ結論を魔理沙も弾き出していた。彼が挑発する時は何かの合図なのだと察していたからだ。

 挑発する理由は何か?

 相手の思考を妨害する為。

 そして相手の行動を単純化させる為。

 大雑把に考えればこの辺りが真っ先に思いつくだろう。そして高橋はそれを実行させようとした。

(態々こんな事をしてるって事はイカサマしてあの上のカードがジョーカーだと知らなきゃ説明がつかない。そしてカードに触れられない以上すり替えも無理だ)

 詰み(チェックメイト)

 高橋の負けは明確だ。

 

 だが、

 

「『さっさとそのジョーカーを引いて死にやがれ』って思ってるだろ?」

「は?」

 訳の分からない高橋の言葉に銀太がそんな声を出した。

「次にお前は『グダグダ言わずに早くしろ』と言う」

「グダグダ言わずに早くしろ!っは!?」

「お望み通りに引いてやるよ。予想はHighだ」

 そう言って高橋はカードを捲る。しかし出たのはジョーカーではなく、❤️の7だった。

 それを見た銀太と魔理沙は当然驚いた。そりゃそうだ。なんせ二人はこのカードがジョーカーだと思っていたのだから。オヤジさんはイマイチ状況を理解していない様だが。

「どうした?お前の番だぞ?」

「う、っく、く」

 言葉にならない声を出しながら銀太は考えた。何故ジョーカーじゃなかったのか。そして何故高橋はそれをわかったか。

(やっぱアイツが何かイカサマをしたのか?いや、アイツはまともにカードに触れてすらいねぇ。すり替えすら出来ない筈だ)

 なら何故あそこまで自信満々に捲れた?ジョーカーじゃないと断言できた?そう考えて銀太はある可能性を考えた。

(元々ジョーカーは入って無いとしたら?)

 五十枚以上あるトランプだ。一枚くらい入っていなくてもわかりはしない。それに銀太は一度もトランプを確認していない。つまりあの中にジョーカーが入っている根拠は無いのだ。

(って事はジョーカー云々のルールは無駄に俺にパスをさせてライフを削らせる策って事かよ。そして後が無くなった所で予想を外して負けさせる。そんな算段かよ。どっちが小物だよ)

 そうと分かればもうパスする必要など無い。ライフ一つ分のアドバンテージを失ったのは痛いが、振り出しに戻っただけと思えば大した事では無いだろう。

「Highだ」

 迷わずカードを捲る。出たのは❤️の8。またしても予想的中だ。

(やっぱ運は俺に味方してる。純粋な予想なら俺はまだ一度も間違えてねぇ。このまま行けば俺の勝ちだ)

「High」

 高橋もそう宣言して捲る。♠︎のQ。

「Low」

 宣言して捲るが、出たのは♦️のQ。またしても銀太のターンだ。

 だが別に気にする事もない。ジョーカーが入っていないのだから気にする理由が無いのだ。

「Low」

 もう一度同じ宣言をして捲った。今度は❤️の4だ。

「パスだ」

 高橋の宣言はそれだった。それを聞いて銀太は何も言わなかったが、内心で高橋を嘲笑っていた。

(いつまでそんな嘘をつくつもりだよ。お前の策なんざとっくに破綻してんだ。精々そのみっともねぇ策に縋ってろ)

「Highだ」

 そう宣言し、カードを捲ろうとした時、高橋が言った。

「覚えとけよクソガキ。お前じゃ俺には勝てねぇよ」

「黙れよホラ吹き野郎のクズが。精々よく見て次の予想でもしてろ」

 そう言って今度こそカードを捲り、そのカードをテーブルに勢いよく叩きつけた。

 

 死神の札(ジョーカー)を。

 

「は?」

「残念だが、予想の必要は無くなったな。お前の負けだ」

「んなわけあるかよ!何でジョーカーがあるんだよ!」

「最初に言ったろ。ジョーカーを入れた五十三枚を使うって。だったら入ってるに決まってるだろ」

 至極当然の話だ。

「お前の考えはすげぇ読みやすかったよ。途中で俺が挑発したのは何故か?お前に殴らせるか、冷静さを失い、口車に乗ってカードを捲らせる為。何故そうしようとしたか。それは次のカードがジョーカーだと何らかの理由で知っていたから。なら自分はどうすれば?簡単だ。パスをして目の前にいるホラ吹き野郎のクズに押し付けたらいい。だが実際にはジョーカーでは無かった。ではどう言う事か?そうか、このホラ吹き野郎は得意の嘘で自分を騙し、ライフを削らせる為にパスをさせたんだ。そもそも最初からジョーカーが有ると言うのが嘘だったんだ」

 高橋がまるで事件の真相を解き明かす探偵かの様に語る。

「だったらパスなんてもう使う必要は無い。何故なら最初からジョーカーは存在しないんだから。目の前に座るクズの嘘なのだから。ならば自分は予想を外さない事だけを考えればいい。目の前のクズがまだ必死に嘘を吐こうとパスなんて真似をしているが、そんな事はもう無意味。だが捲ってみたらどうだ?有る筈のないジョーカーが出てきやがった。っと、ここまで俺なりにお前の思考を推理してみたが、合ってるか?間違いがあるなら教えてくれ」

「・・・あ、合ってるよ」

 忌々しげに銀太が答える。

「す、すげぇ」

 オヤジさんが思わず零す。

「だから言ったんだ。お前じゃ俺には勝てねぇって」

 こうして、高橋の勝利が決定した。

 だが、それを素直に受け入れる程、銀太は真面目でもない。

(クソッ!何で俺がこんな奴に負けなきゃいけねぇんだ!)

 そう考えた直後、銀太が取った行動はシンプルだった。

(こいつを貰って逃げれば済む話だ!)

 テーブルに置かれた高橋の金に手を伸ばしたのだ。

 だが、その手が金に触れる事は無かった。

「お前の考えは読みやすいって言ったろうがっ!」

 金に触れる直前に高橋の拳に殴り飛ばされたからだ。

「ガハッ、ゴホッ」

 痛みでのたうち回る銀太の胸倉を掴みながら高橋が言う。

「おまえが負けたらどうするか、俺が考えてないとでも思ったか?それとも隙を突いたら金盗んで逃げられるとでも思ったか?あ?お前が何処で何をやろうとお前の自由だ。お前が賭けで勝った後に何を要求するのもお前の自由だ。だがな、負けた後の責任も持てねぇガキが偉そうな顔して賭け事に手を出すんじゃねぇよ」

「・・・ッ」

「お前が何で今まで痛い目に合わなかったかわかるか?それはお前が強いからでも偉いからでもねぇ。周りの大人が優しかったからだ。周りの大人が許してくれたからだ。あまり大人を舐めるなよ、クソガキが」

 そう言い放ち、高橋は銀太から離れて元の席に座った。対する銀太は力無くその場で寝転がったままだ。

 その姿を見て、魔理沙は少し驚いた。出会ってまだ日は浅いが、高橋 愛乃という男がここまで他人に怒りの感情を見せた所を見た事が無かったからだ。それも、ただ単に自分を舐めてかかった相手に憂さ晴らしをする為だけではない。

(ついさっき知り合った奴にお説教なんて、どんなお人好しだよ)

 最初高橋は自分と銀太は同じだと言ったが、赤の他人に説教する奴が銀太と同じだとは魔理沙には思えなかった。

「さて、高橋先生の特別授業が終わった所で、本題に入ろうか」

 魔理沙のそんな考えなど知らず、高橋は話を進めた。

「約束通り、命令を三つ聞いてもらうわけだが、オヤジさんは何かあるか?」

「・・・いや、目の前であんなモン見せられたらもうよくなって来た。お前さんが好きに決めてくれ」

 オヤジさんも流石に彼を可哀想に思ったのか、そう返した。

「そう言うんなら仕方ない。俺が全部決めよう。なら一つ目。銀太、お前は今後、俺の許可無しにギャンブルで勝つな。勝てる場面でもわざと負けろ」

 これで実質的に銀太はギャンブルが出来なくなったと言ってもいいだろう。

「二つ目。二度と他人に悪事を働くな」

 態々こんな事を命令しなければならないのがなんとも馬鹿らしいがこれで周りへの被害は出ないだろう。

「そして三つ目。今まで迷惑を掛けた里の人達全員に謝ってこい」

 果たして全員が彼を許してくれるかは疑問だが、里の連中が優しければ許してくれるだろう。それこそ彼にとっては賭けかもしれないが。

「・・・オヤジさん、本当にすみませんでした」

 ゆっくりと立ち上がると、銀太は深々と頭を下げてそう言った。

「おう。もういいよ。次は普通に食いに来いよ」

「はい。ありがとうございます。失礼します」

 そう言い残して銀太が店を出ようとした時、高橋が呼び止めた。

「おい銀太。リベンジしたくなったらまたかかってこい。相手してやるから」

「・・・次は勝つ」

 今度こそ銀太は店から出て行った。

「兄ちゃん、お前さん優しいな」

「だな」

「何言ってんだお前等」

「だってそうだろ?少なくとも最後の命令なんて必要あるか?何だったら今後ずっと自分の命令を聞けって言えば幾らでも命令出来るぜ?」

「あんなクズは奴隷にもしたくないってだけの話だよ」

「そう言う事にしておいてやるぜ」

 何を言っても認めないだろうと思った魔理沙は笑いながらそう返した。

「しかし疲れたな。オヤジさん、悪いけどもう一杯肉うどん追加で。どうせ魔理沙の払いだ」

「はいよ!ちょいと待ってろ!」

「お前全然優しくないな!」




今回の話はそれなりに楽しく書けたけど次の話どうするか全く考えてないや。まぁなんとかなるか!(要望とかあればコメントください)
ネタが思いつき次第また書きますのでよかったら次もまた見てやってください。

ご意見ご感想、誤字脱字等あればコメントお願いします。
ではまた次回。


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14話・お山の神様達とお喋りでもしよう。

気がついたら投稿期間だいぶ空いてましたね。
まぁ更新が遅いのはいつも通りって事で許していただければ幸いです。
では本編どうぞ。


 魔理沙の金で腹を満たした高橋は次の行動をどうするか考えた。

「この後どうすっかなぁ」

「知らん」

 向かいの席に座る魔理沙様が如何にもさっきから御機嫌斜めだった。さっき肉うどんを追加で頼んだのを根に持ってるんだろうか?

「兄ちゃん、有難うな。お陰で助かったよ」

「いや、良いっすよ。仕事をしただけですから。約束通り今度来た時奢ってくれればそれで良いですから」

「しかし、よくあいつの考えをあそこまで読めたな。何をしたんだ?」

「実は俺、透視能力があって、あのトランプの数字とマーク、確認しなくてもわかってたんですよ」

「そりゃ本当か!?」

「って言ったら信じますか?」

「嘘かよ」

「誰も嘘なんて言ってないですよ。信じるかを聞いただけです」

「あれを見せられた後なら信じるかもな」

「でも透視能力があったとしてもあいつの考えが読めるって事にはならないだろ?さとり妖怪でもあるまいし」

 魔理沙が言ってくる。

「さとり妖怪ってのはよくわからんが確かに俺はあいつの考えを読んじゃいない」

「でもお前さんはあいつの考えを完璧に読み取ったんだよな?」

 オヤジさんが再度聞く。

「そういや、あいつと愛乃が似てるって言ってたな」

 思い出した様に魔理沙が言った。

「ああ。俺とあいつは似た者同士さ。だったら考える事も必然似てくる」

「遠回しな言い方だな」

「まぁ簡単に言えば似た様な事を俺も昔経験したって話だよ。俺の場合はあいつと違って何とか勝ったけどな」

「結局自慢話かよ」

 魔理沙が苛立たしげに言った。

「だが、まだ半分だ」

 今度はオヤジさんが言った。

「お前さんがあいつの考えを読み取った理由はまぁ納得した。でもだからってそれでもトランプの中身を言い当てた理由にはならないだろ」

 そう。問題はその点だ。いくら高橋が銀太の考えを読み取った所でカードの予想を外してしまえば何も意味はない。だが彼は確かにそれすらも当てた。それから考えると、

「イカサマか?」

 魔理沙が言った。それに対してオヤジさんが異議を唱えた。

「いや、でもこの兄ちゃんはカードを俺から受け取った時に触っただけだ。後はカードを捲ってただけで特に怪しい動きはしていなかったぞ」

「そう言えばカードを切るのも私にやらせてたな」

 思い出す様に魔理沙が呟く。カードに満足に触れていないのだからイカサマを仕込む余裕があるわけが無い。

「カードには特別目印になる様な傷も無い、か」

 カードの裏を見てもそれらしい物は無かった。

「愛乃がこの店に来たのは今日が二回目。そして使ったトランプはこの店にあった物だし・・・。ん?」

 呟いて魔理沙はある事を思い出した。

(そう言えば前に来た時・・・)

 以前この店に来た時、自分と愛乃は・・・。

(そうか!あの時、愛乃は既に何かイカサマのトリックを仕込んでたのか!)

 以前魔理沙と愛乃が対戦した時、確かに魔理沙が勝った。だがそれは愛乃にとってはどうでもいい事だとしたら?前回の勝負の後、何か仕掛けておいたとしたら?

(いや、考えすぎか。仮に仕掛けておいたとしてもそれを次に必ず使うかなんてわからない。そんな不確かな物の為に面倒な事をするのか?)

 一瞬、そんな事が有るかと思った魔理沙だが、即座にその考えを訂正した。

 

 高橋 愛乃(こいつ)ならやりかねない、と。

 

(一見愛乃は馬鹿で調子の良い奴だがこう言ったセコい真似は抜かりない奴だ。もしもの時の為に何か細工をしててもおかしくないぜ)

 そしてもしそれが違ったとしたならば、残った選択肢は一つだけだ。

(こいつの言う通り、透視能力を認めるしかない)

 別に魔理沙は高橋が透視能力がある事を否定したいわけじゃない。でももし仮に彼に透視能力があるとしたら?最初から使っている筈だ。そうなれば予想を外すわけがない。だって答えがわかっているんだから。

(でも何度か外してたよな?って事は透視能力の線は薄いって事になる)

わかっているのにわざわざ外す必要なんて有る筈が無い。と思った瞬間、魔理沙はある事を思い出した。

(そう言えば紅魔館での麻雀勝負、こいつはどうやってか最後に役満を和了ってたな)

 最終局面での高橋の天和。あれは明らかなイカサマだった。それは本人も認めている。しかもあの時はオール伏せ牌だ。どれがどの牌かなんてわかる筈が無かった。それでも彼は積み込みをし、そして役満を和了ったのだ。そうなれば答えはひとつだけだ。

「愛乃、やっぱりお前は透視出来るんだろ?」

「名探偵魔理沙ちゃんの推理を聞こうか」

 軽く笑いながら高橋が言った。

「本来なら透視が出来る奴がさっきのゲームで予想を外すなんてあるわけがない。誰だってそう考える。でもそれは自分が透視出来る事を誤魔化して相手を油断させる為のフェイクだ。その証拠にお前は紅魔館での麻雀勝負の時、その透視能力を使って牌を積み込んで天和を和了ったんだ。でなきゃ牌が確認出来ないあの状況で積み込みや燕返しなんて芸当出来る筈が無いんだぜ」

「ご名答。その通りだ」

 笑いながら高橋が答える。

「いつかバレるとは思ったが、やっぱ隠し通すのは無理だったな。魔理沙の言う通り、やったよ。透視」

 高橋が軽い口調で言うが、そうなるとやはり疑問は残る。

「だったら何でさっきは何度か間違えたんだ?答えがわかってるなら間違える必要なんか無いだろ?」

 実際、透視が出来るのなら麻雀勝負の時もあそこまで不利になる事も無かったはずだ。

「そんな能力を使わなくても勝てるってか?」

オヤジさんが言ったが、それに対して高橋は首を横に振った。

「そんな相手を舐める様な事、俺はしませんよ。ただ俺はビビリで卑怯な人間なんで自分から動かないんですよ」

「ビビリならそれこそ真っ先に能力を使いそうなもんだけどな」

「相手がどんなイカサマを仕掛けているのか、またはどんな能力を持っているのかもわからないのに先にこちらが能力を使ったら相手に対応されて負ける可能性が増えるだろ?さっきのだってあいつがもし何か能力やイカサマを仕掛けていたら俺が負けていたかもしれない。だから俺は無闇に先に動く事はしたくないんだよ」

(まぁ俺の能力の関係も多少はあるけどな・・・)

 魔理沙には説明していないが、高橋の能力は相手の能力をコピーする能力だ。

 だが、どんな物にもそれを満たす為の条件は存在する。高橋の能力の発動条件の一つとして、相手の能力を知る必要がある。コピーする対象がわからなければコピー出来ないのだ。

 だから高橋は相手の能力を知ってからその後で対応する。言わば後出しのジャンケンに近いプレイだ。自分からは動かず、相手の手を見てから思いつく最善手を打つ。

「でもよ、愛乃の言う様に相手が先に仕掛けたとして、そこで勝負がついたらどうするんだ?必ず自分の番が来るとも限らないんだぜ?」

「説明の仕方が悪かったな。ゲーム内容等によって勿論勝てるなら最初から勝ちに行くさ。でもそれは後にリスクを背負う可能性だってある」

「リスク?」

「ああ。もし最初に図に乗って自分の能力をひけらかす様に振る舞ったとしたらそれ以降の勝負で相手に分析・対策されるかもしれない。それが怖いからなるべく能力を使わずに勝負したいんだよ」

 高橋としては自分が能力を使わずに速攻で勝てる勝負をする事が理想だが、勿論そんな都合のいい事が毎回起きるわけがない。寧ろ勝てない勝負の方が多いだろう。

「なら相手が何も能力を持ってなかったら自分も使わないのか?」

「逆だな。相手が何も能力を持ってないとわかれば俺が能力を使ったとバレない様にして勝つ。勝たなきゃいけない勝負になれば尚更な」

「面倒な奴だな」

「そいつは失礼」

 魔理沙の文句を高橋が適当に流す。

「と、そんな事はどうでも良い。問題は今後どう動くかだ」

 高橋は話題を切り替えて今後の方針を考え始めた。

「と言ってもお前は別に異変解決の為の行動らしい事してないじゃないか」

「手厳しい事を言うなよ魔理沙さん。これでも新参者の高橋さんはまずはこの幻想郷の住民達に覚えてもらう作業に必死なんだぜ?情報収集とコネクション作りは必須条件だからな」

「つまりはこの魔理沙ちゃんに今後も幻想郷の観光案内をしろって言うのか?」

「是非ともお願いします」

 魔理沙の問いに高橋は素直に答えた。

「何で私がそんな面倒な事を」

「忙しいのか?」

「暇だけどな」

 不貞腐れながら魔理沙が言った。どうやら魔理沙お嬢様は未だにご機嫌斜めな様だ。女心は難しい。

「なら仕方ねぇ。最悪霊夢か萃香にでも頼むさ。魔理沙にフラれたから相手してくれってな」

「元カノの萃香にでも情けなく泣いて縋り付くんだな」

「そんで一人になった時にふと今の彼女の魔理沙ちゃんの事を思い出して寂しくなって泣いちまうかもな」

「それで煽ててるつもりか?」

「覚えとけ。男ってのは意外と惚れた女の事をずっと思ってるもんだぞ」

「可愛らしい生き物だな。男ってのは」

「嫌われるよかマシさね」

 気がつくと話がすぐに脱線する。

 話を戻して。

「人脈作りと俺の事を宣伝しないとな」

「宣伝の必要ってあるのか?」

「宣伝しないと仕事が増えないからな。仕事が無いと金を稼げない。金を稼げないと生活に困る」

「そりゃそうだ」

「てなわけで俺はこれからも知人を増やしたいんでお手伝い願えますか?魔理沙お嬢様」

「仕方ない。この魔理沙様が付き合ってやるぜ」

「お前さん達仲良いな」

 二人の茶番を見ながらオヤジさんが笑って言った。

「なら近い所から行くとするか」

「何処に連れて行く気だ?」

「お前と同じ、外の世界から来た奴の所さ」

「それはそれは話が合いそうなこった」

「なら早く行こうぜ」

「そうだな。それじゃあオヤジさん、俺達はこれで失礼します」

「おう。またいつでも食いに来な」

 そう言い合って高橋と魔理沙は店を後にした。

「んじゃ、さっさと行くぜ。しっかり捕まってろよ」

 魔理沙が言うと同時に二人は空高く飛び上がって行った。

 

 

「ここだ」

 目的地の上空へ辿り着くとゆっくりと降りながら魔理沙が言った。そこは山の上にある神社だった。しかも湖まである。かなりの広さだ。

「博麗神社以外にも神社ってあったんだな」

「霊夢の所と違って活動的だけどな」

 そんな下らない言い合いをしていると神社の中から一人の少女が出てきた。緑の髪に白と青を基調とした巫女服の少女だ。確か先日の宴会にもいたはずだ。

「あ、魔理沙さんこんにちは。今日は何か御用ですか?」

「いや、大したようじゃないんだけどな。こいつがどうしても私とデートしたいって言うから幻想郷の案内をしながら他の奴らに挨拶に回ってるのさ」

「それはおめでたいですね!式はどこで挙げるんですか」

「話を飛躍させ過ぎだ」

 流石に高橋もツッコまずにはいられない。

「この前の宴会でも会ったよな。改めまして高橋 愛乃です。愛乃でいいよ」

「ご丁寧にありがとうございます。ここ守矢神社の巫女の東風谷 早苗(こちや さなえ)です」

「あの時は他の奴等とも喋ってたしあまり一人一人と話せなかったからな。急に来て悪かったな」

「いえいえ、気にしないでください。私も外の世界から来た人とお話ししてみたかったですから。宴会の時は私はすぐに酔っ払っちゃいましたし」

「酒苦手なのか?」

「嫌いじゃないんですけどね。どうにも弱いみたいです」

「まぁ無理して飲むものでもないからな」

「それで結局どんな要件で来たんですか?」

「愛乃の奴が女をナンパしたいって言うから連れてきた」

「平然と嘘をつくな」

 これでは話が進まない。

「ええと、俺が何で幻想郷に来たかって聞いてるか?」

 話をするならそもそもの部分からするべきかと高橋は聞いた。

「確か紫さんに頼まれて異変解決の為に来たって聞きましたよ」

「その通り。今回のギャンブル異変の解決が俺の仕事だ。他にも何か依頼があれば話は聞くから遠慮無く言ってくれ」

「はい。その時はお願いします」

「そういや、お前の所の神様は今日は居ないのか?」

「神様?」

 魔理沙の言葉を繰り返す高橋。

「この神社にいる神様だよ。洩矢 諏訪子(もりや すわこ)八坂 神奈子(やさか かなこ)って言うんだ」

「あー、そう言えばその二人も宴会に来てたな。名前しか聞かなかったけどあの二人神様だったのか」

 朧げな記憶を辿りながら高橋が言った。そう言えば確か山に住んでいると言っていたが、あれはこの神社の事だったのか。

「お二人は今用事があるとかでお出かけしてますよ。その内戻ってくると思います。あ、そうだ愛乃さん」

「どうした?」

「よろしければ是非とも我が守矢神社に入信しませんか?」

「俺にここの信者になれってか?」

「はい!」

 真っ直ぐな目で高橋を見る早苗。元気な子だ。

「悪いが断る」

「な、何でですか!もしかして霊夢さんに気を遣ってですか?」

「そういえばこの前愛乃、博麗神社の賽銭箱に100万放り込んだよな」

「やっぱり霊夢さんの方が良いんですか!」

 その100万というのは文との勝負の時の話だろう。確かに事実ではあるが言い回しに悪意を感じるのは高橋だけだろうか?

「別に霊夢に肩入れしてるってわけじゃねぇよ。その100万だってちょっとした勝負に勝つ為に放ったもんだしな」

「では是非とも我が守矢神社に!」

「いや、だから断るって」

「何でですか!」

 このままでは同じ事の繰り返しになりそうなので高橋は理由を答えた。

「別に神様ってのを信じてない訳でもないさ。それでも俺は神様には祈らないよ」

「何でですか?」

「まぁ普段からギャンブルにハマってる人間だからな。そんな人間は神様に限らず、何かに祈っちゃいけねぇんだ」

「いまいち言いたい事がよくわからないぜ」

「賭け事、勝負事ってのは自分と対戦相手との知識、知恵、洞察力、集中力、運、人脈、技術、身体能力とかってそう言ったものの積み重なりを比べ合うものだと俺は考えてる。だったら勝負の席に着いてすらいない相手に祈り、頼るのなんざ愚の骨頂と言わざるを得ない」

 ギャンブルなどと言う物は聞こえはいいかも知れないが、蓋を開ければ実際は騙し合いや腹の探り合いが殆どだ。そしてそんな物を好き好んでやろうとする人間にロクな連中はいない。汚く言ってしまえば所詮はクズの集まりが殆どなのだ(中には例外的に神に愛されているのかと思う様な運などを秘めた者もいたが)。

 そんな人間が崇高な神様に対して信仰を捧げる?笑い話にもならないだろう。

 だから高橋は早苗の勧誘を断ったのだ。

「まぁあくまでこれは俺の自論だから他人に強要する気も無いけどな」

 長くなった説明を終えながら高橋は二人の顔を見る。

 と言うよりも、二人の反応を伺うと言うべきか。

 すると、鳥居の方から声が聞こえた。

「早苗ただいま」

「ただいまー、早苗」

「お帰りなさいませ。神奈子様、諏訪子様」

 声のした方を見ると二人の女が立っていた。いや、この場合は二柱と言うのが正しいのか。

 片方は注連縄を携えた背の高い神様。八坂神奈子。

 もう片方は何か変わった帽子を被っている背の低い神様。洩矢諏訪子。

 初日に会った際に受けた印象がそうだった(その時は神様だとは知らなかったが)。

「おや?お前は宴会の時の・・・」

「確か愛乃だっけ?」

 二人が高橋の顔を見ると同時に思い出す様にそう言った。軽く挨拶をして一杯交わしただけなのでお互いに深く相手の事を知らないままだった。

「二日ぶりですね。御二方。改めまして高橋 愛乃です。職業便利屋、趣味は読書とギャンブル。好きな言葉は一攫千金。今後ともどうぞよろしくお願いします」

「丁寧な奴だね」

「よろしくねー」

 高橋が挨拶を終えると二人も軽く返した。

「しかし御二人が神様だったとは」

「おや、言ってなかったかい?」

「そう言えば名前しか言ってないんじゃない?それで少しお酒飲んでたら愛乃が他の奴らに連れて行かれてたし」

「確かにあの時の愛乃は人気者だったからな」

 魔理沙が茶化す様に言ってくるがここはスルーした。

「さっきも言った様に何か困り事でも有れば何時でも言ってください。その分いただくものはいただきますけどね」

「ほう。どんな事でもしてくれるのかい?」

 ニヤリと笑いながら神奈子が聞いてくる。

「依頼内容とこちらに差し出せる報酬に応じて、と言っておきましょう」

 安易に何でもやると言ってしまうと後でどんな依頼をされるかわかったものではない。

「何にしてもよろしくね」

 今度は隣にいた諏訪子が言ってくる。

「当分は博麗神社に厄介になってると思うんで何かあったら博麗神社に来てください」

「それより愛乃さん、是非外の世界の話を聞かせて下さい!」

 早苗が食い気味に言ってきた。こちらとしても親睦を深めるには悪くないので拒否などしない。

「そう言えば外の世界から来たんだっけ?」

「はい。元々私達は外の世界に住んでいましたけど色々有りまして、湖と神社ごと引っ越して来たんです」

「湖と神社ごと!?そりゃすげぇ・・・」

 そう言えば紅魔館の連中も館ごと幻想郷に来たと言っていたなと思い出した。

「良ければ中でお茶でも飲みながらどうぞ。魔理沙さんもご一緒に」

「勿論そのつもりだぜ」

 魔理沙がそう答えると一行は神社の中へと入っていった。

 

 

「それで何から聞きたいんだ?」

 茶の間に案内された高橋は差し出されたお茶を飲みながら聞いた。

「まずは外の世界の科学の進歩を!」

「テンション高ぇな」

「最新ゲーム機はどうですか!プレイステーシ◯ンはいくつまで出ましたか!」

「真っ先に聞くのがそれかよ・・・。最近はP◯5がどうとかって話は出たよ。詳しくは俺も知らん」

「任天◯はどうなんですか?」

「そっちも色々出したけど何だかんだでいつも通り人気だよ」

 その後で色々と社会問題になったりしたのだが、それを話すと長くなるので今はしなくていいだろうと高橋は敢えてそこは省いた。

 それから数十分、外の世界の話を三人とした後、神奈子が言った。

「お前さん、今回の異変をどこまで突きとめてるんだい?」

「ほぼ全く、と言った所ですね。お恥ずかしながら」

 元々この数日は人脈作りがメインなので異変解決と言える動きを然程していないのが現状だ。

「そんなんで解決出来るの?」

 諏訪子も心配そうに言ってくる。開始からほぼ何も進展が無いのだから言われても仕方がないが。

「まぁ仕事を受けた以上ちゃんとやれるだけの事は勿論しますよ」

「しかし紫の奴も何で態々愛乃なんかに依頼したんだろうな?今までどんな異変が起きたって外から誰かを呼んで解決の依頼なんてさせた事無いのに」

 魔理沙が首を傾げながら言う。

「そうなのか?」

「はい。今まで異変が起きたら霊夢さんや魔理沙さんが異変解決に動いてました。そもそも異変が起きたら解決するのが霊夢さんの博麗の巫女としての務めでしたから」

「何だよ、職務放棄ですか?あの野郎」

「今回ばかりは流石の霊夢でも無理みたいだぜ?勿論この魔理沙様にもな」

「どう言う事だ?」

 そう言えば霊夢にその辺(かこの異変)の話をちゃんと聞いていなかったと今更ながら高橋は思い出した。

「今までの異変ってのは、起きたら大概首謀者ってすぐわかったんだよ。寧ろ待ち構えてるって感じでな。レミリア達も昔に異変を起こしたぜ」

「とんでもねぇ不良娘かよ」

 聞けば永遠亭や他の連中もかつて異変を起こしたらしい。異変と言うのは誰でも起こせるのか?

「異変が起きて、その首謀者のところへ行って霊夢や私が弾幕勝負で決着をつける。これが今までの流れさ。でも今回の異変では明確に今までと違う点が二つある」

「『弾幕ごっこ』ってのがそもそも出来ないってやつか?」

「ああ。もう一つは何かわかるか?」

「そもそも俺は過去の異変も大して知らないからな。比べる対象が無いからわからん」

「首謀者がわからないんだよ」

「・・・」

 高橋が黙って話を聞く。

「誰が起こしたのか、そしてその首謀者が今どこにいるのか全く謎なんだ」

 倒すべき相手が誰かわからない。それが霊夢達が解決出来ない決定的な理由だった。

「勿論こんな事が自然に起きるはずがない。だからどこかに首謀者はいるはずなんだ」

 そう言えば前に霊夢や萃香も似た様な事を言っていた気がする。

「例え仮に相手が楽に倒せる相手だとしても倒すべき目標が分からないのだからどうしようもないってか」

 そんな八方塞がりのまま時間は流れ、そして紫が高橋の元へと現れたのだ。

「まぁいきなり大元を探そうって考えがそもそもダメなんだろうな。この場合は」

 恐らく霊夢達は今までの異変解決は『即座に元凶の所へ行って親玉をさっさと倒す』と言った考え方で行ってきたのだろう。だから今回もいつもと同じ感覚でやろうとした。しかしさっきも言った様にそもそもの親玉が誰かすらわからない。故にどうして良いかがわからない。

 その方法しか知らないから今回の様な特例の対処法がわからない。

 恐らくはそういう事だろう。

「ならどうするのさ」

 退屈そうな顔で諏訪子が聞く。

「まずは異変が起こる前と今との違いを比べます。それも出来る限り細かく」

 小さな事でも今の高橋からしたら宝の山の様な情報源だ。

(これがそもそも『解決されるのが前提』若しくは『解決する事が可能』な異変であるなら何かしらのヒントがあるはず。まずはその取っ掛かりを見つけなければ100%解決は無理だろうな)

「それをして何の意味が有るんだい?」

 今度は神奈子が聞いた。

「大抵何かしらの行動を起こすには大なり小なりそこに自分に利益があるからやるのが理由です。金品が欲しいから盗みをしたり、相手に損害、被害を与えたいから相手を騙したり」

「確かにそうですね」

 早苗が賛同した。

「つまりは異変前後の差から得をしない人物を除外していって残った奴等が容疑者って事か」

 高橋の考えを読み取った魔理沙が言った。

「そういう事だ」

 その容疑者をリストアップする為にも、やはりまずはこの幻想郷に住む人物達の事を少しでも知らなくてはならない。

「当たり前だけど、俺はまだ知らない事が多過ぎるからな。まずは人脈と情報の収集が不可欠だ」

 その点では初日に活動資金として数百万を稼げた事はかなりの僥倖と言える。当面の間、金に困る事は無いだろう。

「考える事が色々多そうですね」

「まぁな。一見地味だが、それが俺の仕事だしな」

 少なくとも、これから高橋が続けなければいけないのは大きく分けて三つ。

 

・幻想郷、及び過去の異変についての情報の収集と整理。

 

・幻想郷に住む人物達との人脈作り。

 

・幾つか湧いている疑問の解決。

 

「やっぱ当分は退屈しないで済みそうだよ」

「えらく余裕だな」

「余裕を持ってないといざと言う時にまともに動けなくなるからな」

「相変わらず気取った事を言う奴だ」

 魔理沙がそんな悪態をつくが高橋は聞かないフリで流した。

「そんなわけで良かったら色々と話を聞かせてもらいたいんですけどいいですか?」

「うん。良いよ」

「構わないよ」

「私も構いません」

 それぞれ三人が答えた。

 さて、神様達とお勉強会の始まりだ。




書いてる話数の割には作中の時間経過が遅すぎるのが最近の悩みだったりしますね。(作中ではまだ一週間も経ってませんからね)まぁダラダラと書き続けてるのが原因なんですが。
でもまぁこれがこの作品の書き方と割り切るしかないか。
そんなグダグダな作品ですが次回も読んでいただけたら嬉しいです。

ご意見ご感想、誤字脱字等有ればコメントお願いします。
ではまた次回。


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15話・神様達と考察しよう。

皆様、あけましておめでとうございます。
まぁ年が変わったからと言って何が変わったわけでも無いんですけども。
相変わらずの遅い更新頻度ですが、今年も読んでいただければ幸いです。
では本編をどうぞ。


 高橋は今後の進展の為にも幾つかの知識を得なければならないので、お勉強会が始まった。

「そもそも、異変ってのは何なんだ?」

 まずは幻想郷では当たり前と言うか日常茶飯事の出来事である事を学ぼう。

「基本的には妖怪達が気まぐれや何かしらの目的の為に起こす怪事件だな。まぁ気まぐれと言っても確かに愛乃が言う様に多少なりとも理由があって起こしてるのが殆どだけどな」

 魔理沙が簡単に説明した。

「改めて考えると色んな異変が有りましたよね」

「早苗も異変解決とかしたことあるのか?」

「はい。確か何度か咲夜さんも異変解決に動いたりもしてましたよ」

「あのメイドさんがねぇ」

 彼女についてそこまで詳しい訳ではないが、それでも高橋からしたら意外だった。レミリアに動くように言われたのだろうか?

「他にも色んな異変で色んな人が動きましたけどね」

「霊夢が動くのは仕事だからわかるが、何で魔理沙や他の奴らも異変解決に動くんだ?」

「趣味と実益を兼ねて」

 お前はどこぞのヒーローか。

「自身の鍛錬と信仰集めの為に」

 思ったよりえらく真っ当な理由だった。

「他の奴も大体そんな理由だろうさ」

「そう言うもんなのか?」

「そう言うもんさ」

 実際に体験してもいない高橋としては今一つピンと来ない。

「レミリアが起こしたのが『紅霧異変』だぜ。幻想郷の空を紅い霧で覆っちまったんだ」

「太陽の光を遮ろうってか?」

「察しがいいな。この時からだったな、スペルカードルールが使われ出したのは」

 確か以前霊夢からも似た話を聞いた。人間と妖怪の戦いのパワーバランスを対等にする為の取り決めだった筈だ。

「他にも冬が終わらずに春が来ない、なんてのもあったぜ」

「そんな事したら冬眠中の熊達はいつ起きたら良いんだよ」

「問題はそこじゃないだろう」

 神奈子がツッコむ。

「後はいつまで経っても夜が明けないとか色々だ」

「どれもこれも規模がデカいな」

「その後くらいだよな。早苗達が幻想郷に来たのは」

「はい。最初は慣れない事ばかりで大変でしたけど今では楽しく過ごさせてもらってます」

「でもこっちに来て早々に霊夢に喧嘩吹っかけてたよな」

「超ワルじゃねぇか」

 意外と早苗はヤンキーだったのか?と高橋は意味のわからない想像をした。

「何だっけか?さっさと博麗神社を取り壊してその土地を守矢神社に寄越せだったか?」

「いや、地上げ屋じゃねぇか」

「そんな事言ってませんよ!」

「でも半分くらいは合ってるだろ?」

「取り壊しなんて言ってません。営業停止をお願いしただけです」

(大して変わらねぇよ)

 高橋は口に出そうになった言葉を何とか抑えた。

「でもまあ今では仲良くやってるんだから良いじゃん?」

 誤魔化す様に諏訪子が言う。本人達が納得してるなら確かにそうなのだろう。

「『弾幕ごっこ』ってのも見てみたかったんだけどなぁ」

「だったら早く解決しないとですね」

「だからこそ疑問を一つずつ消化していかないとな」

「どんな疑問だ?」

「第一に、今回の黒幕は一体何を目的としてこんな異変を起こしたのか」

 例えばレミリアの場合で言うならば『太陽の影響を受けずに外を移動したいから霧で空を覆った』とでも言えば納得は出来なくても理解は出来る。

 だが今回は態々『弾幕ごっこ』を『ギャンブル』へと変更させた。そこにどんな理由が有るんだろうか?

「不思議な事にギャンブルに変わったってスペルカードとやらは健在みたいだしな。内容は違う様だが」

「もしかしたら黒幕は普通の人間達を巻き込むのが目的なんじゃないですか?」

 早苗が思いついた事を言う。

「どう言う事だ?」

「今まで『弾幕ごっこ』は誰でも出来る訳では有りませんでした。と言うより、スペルカードを持っていなければスペルカードルールの対象外です。だからスペルカードも無い、弾幕も出せない里の人達には弾幕勝負は出来ません。でもそれが『ただのギャンブル』なら里の人達でも出来ます。だって勝負内容は何でも良いんですから」

「なら寧ろ黒幕は里にいる人間達の中にいるって考えた方が自然かもな」

 魔理沙がそう言うが、だとしたら更に疑問が出る。

「里の人間にこんな大それた事が出来るのか?それにこんな事をして何の得が有る?」

 賭け事がしたければ個人間で勝手にやればいい。態々こんな手間の掛かる事をする必要など無い。

「言われてみたらそうか」

 そう考えれば早苗の言う様に人間達を巻き込んで何かを企んでいると考えた方が自然か。

(でも里の人間を巻き込んでどんな事が起きるって言うんだ?)

 考えれば考える程謎が増える。

「里の中にだって何かしら能力を持った者はいる。そいつが黒幕、若しくは黒幕の協力者の可能性だって有るね」

 神奈子が言う。確かに現状ではそうと考えるのが妥当と言えるかも知れない。でももし仮に魔理沙の言う様に人里の中に黒幕がいたとしたら?

「・・・黒幕は目的達成の為に『弾幕ごっこ』から『ギャンブル』に変える必要があった?」

 高橋がポツリと零した。

「どう言う事だ?」

「いや、何も確信なんて無いけど何となくそう思ったんだよ。黒幕側としては多分『弾幕ごっこ』、と言うよりはスペルカードルールだったか?じゃダメだったんじゃないか?まぁ面倒だから以降は『弾幕ごっこ』で統一するが、魔理沙が言ったみたいに里の人間達の中にいるか、若しくは『弾幕ごっこ』が出来ない立場の奴が黒幕ならば・・・」

「待て、それだと話がおかしくなるぞ。『弾幕ごっこ』はあくまでも異変解決の手段にしか過ぎない。なのに手段を変える事が目的でそれが全て、なんて異変と言うにもお粗末と言うか、もう無茶苦茶じゃないか」

「それにその程度の事だったら即座にあのスキマ妖怪が対処していそうなものだけどね」

「手段を変える事だけが目的じゃなかったとしたらどうだ?仮説だが、もしも黒幕が『弾幕ごっこ』が出来ない立場の者だとして、何かしらの目的を達成させるには幾つかの条件がいる。そしてそれを満たす時間稼ぎか何かの為に今回の様な異変解決手段の変更をした。そうすれば異変の問題は『ギャンブルに変わった事自体』だと周りに錯覚させられる」

「ちょっと待ってください。さっき愛乃さんも言いましたけど、態々ギャンブルに変えるなんて大それた事をする必要が有るんでしょうか?」

 一つ説を考えれば次から次へと矛盾や疑問が生まれてしまう。

「一つ聞きたいんだが、もしも異変を起こした黒幕が『弾幕ごっこ』が出来ない場合はどうやって解決するんだ?」

「そりゃお前、説得か力づくで、だろうさ」

「何だか余計に分からなくなってきますね。こんな事をした人ならそれなりの力が有るのは確実なのに態々『弾幕ごっこ』を出来なくするなんて」

「力が強いからって必ずしも弾幕勝負が強いってわけじゃないって事だろ」

 早苗の言葉に魔理沙が返した。

「あくまでこの異変を起こす力を持っているのは主犯ではなく協力者、って考えたらどうだ?若しくはこの力は何かをきっかけに得た一時的なものって線もある」

「何にしてもこの件の中心には『力が弱い者、又は元々弾幕ごっこが出来ない立場の者』が関わっているのはほぼ間違いないだろう」

 神奈子が断言した。

「確かに、そうでもなければ態々変える必要性が分からないな。そうなると相手さんは余程ギャンブルに自信があるのかも知れない。『弾幕ごっこ』で負ければ異変を終わらせるしかないが、『ギャンブル勝負』で負けなければ黒幕は異変を終わらせる義務も無くなるって考えたのかも知れない」

 何にしても確信に至るまでの情報が現状では不足している。これではどれも推測の域を出ない。

「それより問題はどうすれば黒幕に近づけるか、じゃないの?」

 諏訪子の言葉に他の全員が黙った。どうすれば黒幕に近づけるのか、確かにそれが一番の問題だ。なんせ黒幕に繋がるヒントなんて現状では一つも無いのだから。

(確かにその通りだ。人脈を増やすのも大切だがそれもチンタラやって万が一にも何かが手遅れになったら目も当てられない)

 言われて高橋も己のミスを再認識した。時間がいつまでもあると何故言い切れるのか。人脈作りをする事で『自分は仕事をちゃんとこなしている』と思い込んでいたのではないか?

 何が起きるか分からない、右も左も分からない。そんな状態で少しでも『まだ大丈夫』と思っている自分が馬鹿だった。

(・・・何事もスピードが大事。そんな事分かっていた筈だ)

 再度自身の反省をし、次の手を考える。いつまでも失敗を悔やんでいても仕方がない。

「どうすればって言われたって何もヒントも無けりゃ、そもそも見つけられる確証も無いぞ」

「いや、会う事は恐らく出来るさ」

 魔理沙のぼやきに高橋が否定する。

「パズルは解かれる為にある。事件は解決される為にある」

「どう言う事ですか?」

 高橋の呟きに早苗が聞いた。

「正体がバレたくないならヒントなんか何一つ用意しないだろうけどさ、この黒幕は『元に戻したかったら自分とのギャンブルに勝て』って態々明言してやがる。これはつまりどうやってかはまだ分からんが黒幕に近づく事自体は可能だって証拠だ」

 ルール変更の説明の紙に書かれていた事だ。

「だとしてもどうやれば黒幕に近づけるかはわからないままだよね。若しくはこいつは絶対に自分の正体がバレない自信があるのか」

「ゲーム的に考えて良いなら隠された達成条件を満たせばヒントとかが出てくるんだろうけどその達成条件もわからねぇしなぁ」

「隠された条件って?」

「例えば一定回数以上勝負で勝てとか、特定の人物と勝負しろ、とかだよ」

 何か隠された達成条件が既にあるのか、若しくはこれから何かしらの達成条件が出されるのか、と言うのが高橋の予想だった。

「異変が起きてからあのルール変更の紙以外に配られた物とか無かったか?それか身の回りで何か変わった事とか」

「と言っても何も無かったよ?」

「思い当たる事は無いね」

「私もわかりません」

 残念ながらめぼしい情報は無いようだ。

(だとしたら達成条件は他にあるのか?それともそもそもそんな物は無いのか・・・)

「ここでも情報が無いなら他を当たるか?」

 考えていると魔理沙が言ってきた。

「他?何か思い当たる節でもあるのか?」

「そんなもんは無い。でもいつまでも同じ場所に留まっていても仕方ないだろ?」

 魔理沙の言う通りだ。

「これから行くのか?」

「馬鹿言え。あっちこっち飛ばされて流石の魔理沙様もお疲れだぜ。また明日だ。明日」

「何だつまんねぇ」

「お前、後で山に捨てるぞ」

「怖っ」

 何とも物騒な発言だ。

「そう言えば愛乃ってギャンブル好きなんでしょ?何か賭けて勝負しようよ」

 諏訪子が言い出した。

「構いませんけど何します?」

「えーと、家に何かあったっけ?」

「トランプくらいなら置いてありますけど」

「トランプだと何か在り来たりだよね。他に何か無かったかな」

「だったらスペルカードでも使ってみたらどうだい?異変後まだ使った事は無かっただろ」

「それもそうだね」

 神奈子の提案に諏訪子が賛成した。

 そう言えばスペルカードを使ったギャンブルは萃香と美鈴だけだったなと高橋は思い出した。

「なら始める前に何を賭けるか言っておこうか?愛乃は何を賭ける?」

「何でも良いんですか?」

「うん。流石に用意出来ない物とかは無理だけど」

 言われて少しだけ高橋は考えた。

「なら勝ったら早苗のおっぱい触らせて下さい」

「え!?」

 当然言われた当人の早苗は驚いた。しかし高橋本人の目は真剣だった。

「性欲に正直だな。愛乃」

「そう簡単に早苗のおっぱいを触れると思う?」

 諏訪子も真剣な表情で答える。

「簡単に触れないからこそ価値がある」

「おー、カッコいい」

「ただの変態だろう」

 神奈子が呆れる様に言った。

「だったら私も勝ったら早苗のおっぱい触らせてー」

「何でですか!」

 本人の意見などお構いなしに話が進んで行った。

「勝負はどうします?」

「いっそ将棋でもやる?」

「それ漫画じゃないですか!昔読みましたよ!」

「結構漫画もいける口か?趣味が合いそうだ」

 よく知ってるもんだと高橋は思った。

「おっぱい賭けて将棋って一回やってみたかったんだけどなー」

 神様、アンタも読者か。

「だったらやりましょう」

「うん。やろう」

「やめて下さいよー!」

 結局、対戦方法はスペルカードではなく普通に将棋となった。

 早苗の訴えも虚しく、二人は勝負の為の準備を始めるのだった。

 

 

 数分後、準備が終わった二人は勝負を始めようとしていた。

「ルールの確認。勝った方が早苗のおっぱいを触る。いいね?」

「はい。勿論」

「全然良くないですよ!何で私の意見は通らないんですか!」

「嫁入り前の娘にさせる事では無いね」

「そう言う割には神奈子は止めないんだな」

「だって恥ずかしがってる早苗、可愛いじゃない」

 欲望に正直なのは神様も同じらしい。

 そう言ってる間に、二人の勝負は始まっていた。

 

 

 その数十分後、決着はついていた。

「おー柔らかい!早苗、ちょっと大きくなった?」

「ちょっ、ダメです。そんなにしたら、はうっ!」

 諏訪子に胸を触られ、早苗が恥ずかしがりながら抵抗していた。それでも諏訪子は離れずに堪能していたが。

「ちくしょう。もう少しであそこにいるのは俺だったのに」

 一方の高橋は部屋の隅で寝転がりながら将棋盤と胸を触られている早苗を交互に見ていた。盤上の王は見事に詰まれていたし、巫女さんの胸は諏訪子に揉まれていた。

「残念だったな、愛乃」

 魔理沙が笑いながら言ってきた。だが高橋からしたら笑い話では無い。男のロマンを目の前で奪われたのだから。

(いや、でも見た目幼女の相手に胸を揉まれている巫女さん。・・・絵としては悪く無いな)

 これはこれで一つの男のロマンかも知れない。

「それで?何か新しい発見は有ったのかい?」

 神奈子が聞いてきた。男のロマンに夢中で考えるのを忘れていた。

「何も変わった様子は無さそうだな。やっぱただギャンブルをすれば良いってわけじゃないのか?」

 そう呟いた時に、ある事を思いついた。

「スペルカードを使ったギャンブルってまだそんなにやって無かったな」

 高橋が経験したのは萃香と美鈴の時だけだ。

「それが何か関係あるのか?」

「わからん。でも話は戻るが態々『弾幕ごっこ』から『ギャンブル』に変えたんだ。なのにスペルカード自体はそのまま。やっぱこれを試せって言っている気がしてならねぇよ」

「ならまた何かギャンブルでもやれば良いのか?」

「それで予想が外れたらまた一から情報収集だけどな」

「面倒くせぇ」

 魔理沙が心底面倒そうに言った。毎回同じ事の繰り返しだと言われている様なものだから仕方がないのかも知れないが。

(そういや、もう一つ疑問があったな)

 高橋はふと思い出した。

「一つ聞きたいんだが、皆『弾幕ごっこ』から『ギャンブル』に変わってから自分のスペルカードの変化って理解出来てるのか?」

「どう言う事?」

 早苗の胸を堪能しながら諏訪子が聞く。

「スペルカードを使えばそれに応じてギャンブルに必要な物が出てきたりします。けど少なくともそれは相手からしたらスペルカードを使われるまで何が出てくるかわかりゃしない。でも持ち主本人は使わなくとも理解出来てるのかと思いましてね」

 高橋がスペルカードを使っての勝負をしたのは萃香と美鈴だけだが、二人ともスペルカードを使った直後に内容に驚いた様子は無かった(無論そのスペルカードを以前に使っていた可能性もあるが)。

「ああ、それなら何となくは理解している」

「大雑把にこんなゲームだってのはわかってるよ」

 神奈子と魔理沙が答えた。

「持ち主は大まかな内容やルールは一通り見る前から把握しているって事か」

 言われてみればそうでもなければ誰もスペルカードなど使う事は無いだろう。自分ですら内容が分からないものをゲームに使うなどリスクを跳ね上げるだけだ。

「なら私と勝負しましょう!」

 漸く諏訪子から解放された早苗が着崩れた服を直しながら言ってきた。

「ああいいよ。ただ、スペルカードは使ってくれ。何か起こるかも知れん」

「わかりました」

 高橋の提案を了承すると、早苗は自身のスペルカードを唱えた。

 

「神籤『乱れおみくじ連続引き』!」

 

 唱えると同時、今まで同様、辺りは光に包まれた。

「これって御神籤の筒か?」

 置かれていたのは神社でよく見る様な御神籤を引く時に使われる筒だった。それが二つ置かれている。

「あー、あれか。二人で同時に引いて、先に特定のやつを引いたら勝ちみたいな?」

「はい。でもこの場合は『大凶』を先に引いた方が負けです」

 なるほど、至ってシンプルな勝負だ。

「普通御神籤って棒に番号が書かれてるんじゃなかったか?」

「今回はギャンブルの為の物なので簡略化されてるんですよ」

「成程、なら早速やろうぜ。その前に何を賭ける?」

「ではもし私が勝ったら今後私からの依頼を全て無料で請け負って下さい」

「おお、意外と現実的な要求だな」

 てっきり守矢神社の信者にでもなれと言われると思っていた高橋は驚いた。

「今後どんな事が起こるかわかりませんし、そんな時に一緒に動いてくれる人がいたら何かと都合が良いじゃないですか。あ、でも本当に無理なお願いとかはしませんから大丈夫ですよ?」

 至って可愛らしい笑顔で早苗は話すが、それを聞いた高橋は苦笑いで返した。

(・・・つまりは程の良いパシリが欲しいって事ね)

 一瞬断ろうかとも思ったが、一度受けた勝負を降りるのも個人的に気が進まないので、その考えを即座に捨てた。

「それで、愛乃さんはどうするんですか?」

「そうだな。俺が勝ったら今度こそ早苗のおっぱい触らせてもらう」

「な、何でそうなるんですか!」

 言うと同時に先程同様、早苗が叫んだ。

「そこにおっぱいがあるならば、触りたいと思うのが男の宿命よ!」

「全然カッコよく無いですよ!」

「うるせぇ!お前に男のロマンがわかるか!」

「わかりたく有りませんよそんなロマン!」

「馬鹿程どうでも良いな」

 魔理沙が冷めた笑い声を含ませながら言った。やはり男のロマンは女にはわからんようだ。

「何でもいい。さっさとやろうぜ」

「・・・わかりました。早くやりましょうか」

 渋々と言った表情で早苗が二つある内の一つの筒を取ろうと手を伸ばした。

「ちょっと待て」

 それをすかさず高橋が止めた。

「どうかしましたか?」

 早苗が聞くが、高橋は二つの筒を見たままだった。

「早苗、そっちを俺が使ってもいいか?」

「?構いませんよ」

 高橋の言葉にキョトンとしながら早苗が答えた。それを見ていた魔理沙は高橋の考えを推察した。

(大方、片方に何か細工がされていて何も細工がされていない方を早苗が取ろうとした。とか考えてるな)

 確かに細工のしてある方を高橋に差し出せば単純だが早苗の勝率は格段に上がるだろう。それを即座に考え、高橋は待ったをかけたのだ。

「いや、やっぱこっちでいいや」

 しかし結局高橋は早苗が取ろうとした筒を残した。早苗の表情から仕込みは無いと判断したからだ。

「では同時に行きますよ。まず一回目!」

 早苗の掛け声と共に二人は同時に筒を振った。

「大吉です」

「俺は凶だな」

 二人の結果だけ見るなら高橋の負けだが、この勝負ではどちらかが『大凶』を引くまで終わらない。

「では二回目です」

 続けてまた引くと今度は早苗が吉、高橋が凶だった。

「また凶かよ」

 どうやら運に見放されているらしい。

「おやおや、幸先不安ですね」

「うるせぇ。最後に勝ちゃ良いんだよ」

 言いながらまた二人とも引くがまたしても決着がつかない。

(これ本当に『大凶』入ってるのか?)

 やはりその考えに至ってしまう。

 だが、そんな答えの見えない問題を考えていても仕方がない。自分か早苗が引かない限りこれは続くのだから。

 となれば彼が心に思うのはそんな猜疑心などでは無い。

(必ず勝って早苗の胸を揉む!)

 今大事なのは目の前の勝利(おっぱい)だ。

 そして繰り返すこと数回。

 

「ちくしょう!負けた!」

 

 高橋の負けだった。

「欲に目が眩むからだぜ」

 魔理沙が揶揄い半分に言ってくるが高橋の耳には入らなかった。

「さあ愛乃さん、約束通り今後私からの依頼は無償でお願いします!」

「わかったよ。無理な依頼は流石に断るけどな」

「わかってますよ」

「あー、おっぱいの夢がー」

「まだ言ってるんですか!」

 早苗の予想以上に高橋の諦めは悪かった。

「はぁ。気分萎えたぜ。帰るわ」

「完全に拗ねてやがるぜ」

「お気をつけてー」

「また来てね」

「気をつけて帰りなよ」

 守矢一家の面々に見送られながら高橋と魔理沙は守矢神社を後にするのだった。

 

 

 それから数十分後。

「霊夢ただいまー」

「今戻ったぜー」

 夜になり二人は博麗神社に戻った。

「いつからここはあんた達の家になったのよ」

 お茶を飲みながらジト目で霊夢が言ってくる。

「良いじゃないか。私と霊夢の仲だろ?」

「俺行くあて無いし」

「一晩帰って来なかった奴がよく言うわよ」

「おい愛乃、彼氏の浮気に霊夢様がご立腹だぞ」

「怖えな。また賽銭箱に札束放り込んだら機嫌直してくれると思うか?」

「やらないよりはマシだな」

「モテる男も辛いねぇ」

「取り敢えずあんた達引っ叩いていい?」

 霊夢様の恐ろしい一言に高橋と魔理沙はキャーキャーと悲鳴を上げた。

「はぁ。それで、何か収穫はあったの?」

 茶番に付き合うのも馬鹿らしくなった霊夢が聞いてきた。

「取り敢えず色んな奴らと顔を合わせて挨拶回りはして来たよ。目立った進展は特に無いが」

「私は愛乃に飯奢る羽目になったしな」

「あんた達何しに出掛けたのよ」

「紅魔館で腕怪我して飯ご馳走になって、翌日医者に行った後に飯食って説教された挙句に巫女さんの胸揉み損なった」

「いっぺんに言うんじゃないわよ。わけわかんないから」

「簡単に言えば幻想郷を練り歩いてたな」

「楽しんでないで異変解決しなさいよ」

「おいおい霊夢、人生は楽しまなきゃ損だぞ」

「そうだぜ。どんな事も楽しめてこその人生だ」

「何であんたらはそんなに意気投合してるのよ」

 どうにも馬が合う高橋と魔理沙だった。

「そんな嫉妬するなよ」

「しやしないわよ」

 高橋の軽口に適当に遇らう霊夢。

「あんた達、夕飯は?」

「いる」

「と言うか二人分の夕飯出せるだけの余裕がこの神社にあったのか」

「魔理沙はいらないのね」

「そうムキになるなよ霊夢。お茶目な冗談じゃないか」

「だったらあんたも少しくらい手伝いなさい」

「仕方ないな」

 そう言って二人は部屋の奥へと行った。

「俺はどうしようかな」

 一人残された高橋はそう呟き、そして外に出た。

「宿代にしては奮発してんだ。札束じゃないけどこれで勘弁してくれよな」

 言いながらポケットから一万円札を二枚出して賽銭箱に入れた。

(まるでキャバ嬢に貢ぐ客みたいだな、俺)

 そんな皮肉めいた自虐に笑いながら高橋は部屋へと戻って行った。




最近書いてて「霊夢の登場シーン少な過ぎだな」と思いながらも中々登場出来ない霊夢さん。まぁ主人公が他の女の所を練り歩いてるから仕方ないよね(決して作者が霊夢を嫌ってるわけじゃ無い)。
さて、次の話は誰をメインに出そうかな。
てなわけで次ももし良ければ見てやってください。

ご意見ご感想、誤字脱字やコメント等有ればお願いします。
ではまた次回。


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16話・またしてもラブレターが送られてきた。

今回は割と前回から間隔を空けないで早めに投稿出来たかなと思います。普段からこれ以上のペースで書けたら良いんですけどいかんせんネタが纏まらんのよな。
では本編どうぞ。


「愛乃ー、早く起きなさいよ」

 そんな霊夢の声で高橋は目を覚ました。

「ん。あー、おはよう霊夢」

 寝起きで少し重たい体を起こしながら高橋が言った。

「ええおはよう」

「愛する霊夢に起こしてもらえるなんて俺は幸せ者だなぁ」

「寝起きからよくそんな冗談が言えるわね」

「はー、人の純粋な思いを冗談だなんてお兄さん泣いちゃうねぇ」

「馬鹿言ってないで顔でも洗って来たら?」

「はいはい。魔理沙は?」

 記憶が確かなら昨夜は魔理沙も博麗神社に泊まっていた筈だ。

「隣の部屋でまだ寝てるわよ。ついでに起こしてきて。あんたの彼女でしょ」

「・・・こうやって冗談言ってるとその内本当に俺が色んな女に手を出してると思われそうだな」

「嫌なら今度から気をつけるのね」

 至極真っ当な指摘だ。

「まぁ良いけどな。好きな奴には好きって言いたいし。俺は基本的に可愛い子はみんな好きだし」

「あっそう」

 これ以上付き合いきれないと言いたげに霊夢は部屋を後にした。

「さて、魔理沙を起こしに行くか」

 魔理沙を起しに行く為、高橋は隣の部屋へ向かった。

「おい魔理沙、そろそろ起きろよ」

 襖を開けて部屋の中を見ると、案の定魔理沙は布団の中でまだ寝ていた。

「あらあら、可愛らしい寝顔しちゃって。野蛮な男に襲われても知りませんよー」

 冗談で言ってはいるが、そんな気は勿論無い。

「おーい魔理沙、朝飯の時間だぞ」

 何度か魔理沙の体を揺すると漸く目を覚ました。

「んー。愛乃?」

「おう。おはよう」

 それから数秒間。やっと意識がはっきりしたかと思えば魔理沙の顔が急に赤くなった。

「な、何でお前が私の部屋にいるんだ!」

「落ち着け。ここはお前の部屋じゃねぇし俺は寝てるお前を起こしに来ただけだ」

「・・・え、起こしに?」

「昨日の夜、お前も遅くまで酒飲んで博麗神社に泊まったろうが。思い出したか?」

「あ、ああ。そう言えばそうだった。昨日あのまま霊夢の世話になったんだった」

 状況を把握したのか、さっきより落ち着いた魔理沙。

「ほれ、飯の前に顔洗いに行くぞ」

「・・・わかった」

「しかし、朝から良いもん見たぜ。顔を赤くしてる魔理沙も可愛いもんだな」

 揶揄う様にニヤつきながら言う高橋。

「お前、それ他の奴に言ったらタダじゃおかないからな!」

「わかってるって。俺だけに見せてくれる愛する魔理沙ちゃんの可愛らしい一面だもんな」

「やっぱここでぶん殴る!」

 魔理沙が怒り任せにフルスイングで殴って来るが、それを軽く去なす高橋。

『あんた達朝からうるさいわよ!』

 魔理沙が冷静になったのはそんな霊夢の怒声が響いた後だった。

 

 

 なんだかんだで朝食を三人で済ませ、その日をどう過ごそうかと考えていた時、霊夢が言った。

「そう言えば、さっきお賽銭箱の中を見たら二万円入ってたけど、あれ入れたのあんた?」

「ん?あー。昨日の晩にな。飯代と宿泊費代わりだと思って貰っといてくれ」

「そんなの別に気にしなくても良いのに。その内お金無くなっちゃうわよ」

「可愛い女の子の為なら本望だよ。それにギャンブルで得た金は周りに還元するもんだよ」

「そんなものなの?」

「そんなものさ。こういう時は黙って受け取るもんだよ」

「そう言う事なら有り難くいただいておくわね」

「霊夢にしては珍しくしおらしいじゃないか」

「あんたと違って礼儀がなってるのよ。無断で人様から盗むコソ泥には分からないでしょうけどね」

「盗んでなんかいないさ。死ぬまで借りるだけさ」

「立派な犯罪だな」

 考えるまでもない。

「それで?仮に持ち主が返せって言えばちゃんと返すのか?」

「そりゃあ私だって鬼じゃない。返す時はちゃんと返すさ」

「そんな事殆ど無いじゃない」

「寧ろ魔理沙がどんな物を盗んだのか見てみたいな」

「なら見てみるか?家にあるから特別に見せてやるよ」

「そう言う事ならお言葉に甘えるとしよう」

「ちょっと、異変はどうするのよ」

「心残りを宿したままじゃ仕事も上手くいかないんだよ。今日は仕事はやめだ。可愛い魔理沙ちゃんのお家にお邪魔する!」

「ダメだこいつ」

 呆れ果てる霊夢だった。

 

 

 それから一時間後、高橋は魔理沙に連れられて魔理沙の自宅へとやって来た。

「まぁ散らかってるけどゆっくりしていけよ」

「いや、散らかりすぎだろ」

 魔理沙の自宅内に入った高橋は驚いた。なんせ部屋の中は色々は物で溢れ返って足の踏み場が無かったからだ。

「やたら本が多いけどこれも借り物か?」

「ああ。殆どがパチュリーから借りた本だな」

「ちゃんと返してやれよ」

 部屋に無造作に置かれていた本の数は十や二十どころでは無かった。

「ちゃんと整理しておかないと無くしても気が付かないぞ、これ」

「あー、片付けようとは思ってるんだが、魔法の研究を始めるとあれこれ本を広げるからつい面倒でな」

「ったく。片付けないといざって時に目当ての本を見つけられなくなるぞ」

「確かに、そろそろ片付けるか、ってちょっと待て!」

 足元の本を無意識に手に取って開こうとした時、魔理沙が血相を変えてその手を止めた。

「な、何だ、どうした?」

「お前、魔法に関して何も知らないだろ。下手に魔法に関する本を知識も無い素人が読んだらどうなるか分からないぞ。まぁこの本だったら大丈夫だろうけど」

 そう言えば以前に小悪魔も似たような事を言っていたなと思い出した。

「気をつけろよ。下手に読んでお前に何かあったら私は悔やんでも悔やみきれないぞ」

「それは俺に惚れてるから?」

 そんな軽口を叩いてみる。

「ああそうさ」

「え?」

「惚れた男が自分の所為で大変な目に遭うなんて耐えられる訳ないだろ」

 魔理沙のその一言に驚く高橋。見れば彼女の顔は真剣な目だった。

(え?マジで?マジで魔理沙は俺に惚れてんの?でも会ってまだ数日だぞ。いやいや、それよりそんな事言われても歳の差が有りすぎだろ。確かに魔理沙は可愛いけど・・・)

「っぷ。アハハハハ!」

「は?」

 急に笑い出した魔理沙を見て高橋は驚いた。

「アハハハハ。何本気にしてるんだよ。冗談に決まってるだろ」

「・・・こんにゃろう」

「そう怒るなよ。今朝の仕返しだ。それに、お前に何か有ったら嫌だって言うのは本音さ」

「・・・可愛くねぇ」

 本当に、可愛らしい事を考える魔法使い様だ。

「兎に角、少しくらい片付けをしよう。これじゃあ生活もままならない」

「そうだな。手伝い頼むぞ愛乃」

 そうして二人で部屋の片付けを始めた。

 

 

 それから数十分後、粗方片付け終わり、漸く一息ついた頃に二人は休憩がてらにお茶にする事にした。

「にしてもよくここまで集めたな。本に実験器具に、あとよくわからん道具まで」

 片付けた物を眺めていくとやはりと言うべきか、圧倒的に本が多かった。

(これの殆どがパチュリーさんの本だと思うともう同情するな)

「幻想郷は珍しいに事欠かないからな。色んな物を調べてると新しい発見があって退屈しないんだぜ」

 自慢げに語る魔理沙の姿は自分の宝物を見せびらかす子供の様だった。

「ほどほどにしておかないと何時かトラブルになっても知らねぇぞ」

「その時は愛乃に助けてもらうさ」

(俺は別に弁護士って訳でもねぇんだが・・・)

 そもそもこの幻想郷に裁判などが有るのかも疑問だが。

 それにしても、と高橋には一つ気になる事が有った。

「この家の周り、矢鱈と薄暗いし変な感じなんだがこれは一体何なんだ?」

「ん?ああ、ここは魔法の森って言ってな。色んな茸の胞子が飛び交ってるんだ。だから余り無闇に近づかない方が良いぜ。普通の人間なら直ぐに体を悪くして永琳の世話になるだろうさ」

「何でそんな所に住んでるんだよ」

「ここの茸は魔法の材料にもなるし私くらいになると特に問題も無いからな。でも絶対に森に生えてる茸には触れるなよ。大概の茸は食えたもんじゃないからな」

 言われなくても誰が食べるか。

「何にしても危険な場所だって事は理解したよ」

「あ、そうだ。魔法の森と言えば愛乃、この後まだ時間あるか?」

「ん?そりゃあ暇だから時間は有るけど?」

「なら丁度いい。ちょいと行こうぜ」

「行くってどこにだよ」

「ついて来ればわかるよ」

 行き先も聞かされないまま、高橋は魔理沙の後を追って家を出た。

 

 

 歩く事数分、二人は目的地に着いた。

(・・・何だここ)

 辿り着いたのは一件の店だった。店には『香霖堂』と書かれていた。

「よっす、香霖。来てやったぜ!」

 魔理沙は店の中に入ると同時にそう言った。

「・・・誰も君を呼んではいないんだけどね」

 店内にいたのは白髪で眼鏡の男性だった。

「そう言うなよ。私とお前の仲じゃないか。それに前に言った男を連れてきてやったぜ」

「はじめまして。高橋 愛乃って言います」

「・・・はじめまして。僕は森近 霖之助。魔理沙とは昔からの付き合いだ。君が外の世界から来たって言う人だね」

「はい。今回の異変解決の為に八雲 紫に呼ばれて来ました。普段は便利屋として働いてますんで何か依頼が有ればその時は言って下さい」

「うん、ありがとう。その際は頼むよ」

「ところで依頼って、どの程度の事ならしてくれるんだい?」

「遊びの相手から人探し、夜逃げの手伝いまで、あからさまな犯罪以外なら大概やりますよ」

「生憎と夜逃げの予定は僕には無いね」

 苦笑いで霖之助が答えた。

「そりゃ失礼。まぁ用が有れば博麗神社に来て下さい。今は霊夢の所に居候してるので」

「わかったよ。そうだ、外の世界から来たならこれの使い方わかるかい?」

「使い方?」

「香霖は初めて見た物でも物の名前と用途がわかる能力を持ってるんだよ」

「便利そうな能力だな」

「いや、わかるのは名前と用途だけで肝心の使い方はわからないんだよ」

「・・・成程」

「因みに香霖はああ見えて手先が器用でな。私の八卦炉もあいつが作ったんだぜ」

「マジか。手先が器用って言うかよくこんな便利な物作れるな」

「まぁこれでも色々勉強しているんでね。君に見てもらいたいのはこれなんだよ」

 言って霖之助が見せてきたのは高橋のいた世界で流行っていた携帯ゲーム機だった。

「PSVIT◯か」

「PSVI◯A?」

 魔理沙が聞き返す。

「俺のいた世界で流行ってたゲーム機だ。で?これをどうしろと?」

「さっき魔理沙が言った通り、僕には使い方が分からなくてね。君に教えてもらいたいんだ」

 霖之助の話を聞きながら高橋はそのゲーム機を軽く見て調べた。

「残念だけど、今この状況じゃ無理だな」

「無理?」

 今度は霖之助が聞き返す。

「だってこれ、そもそもバッテリーがねぇ」

「バッテリー?」

 いまいち理解出来ていない様子の魔理沙。

「あー大雑把に言えばこいつを動かす為に必要なエネルギーが入ってない。魔法もどれだけ覚えていたって魔力が無きゃ使えないんだろ?それと同じ様なもんだ」

「ならどうすりゃ使える様になるんだ?」

「専用の充電器がいるんだが、そんなものここにあるのか?」

「残念ながらそれらしい物は無いね。そのゲーム機に関する物はそれだけだ」

「それじゃあ使えねぇな。あ、でも外の世界から来てる早苗なら充電器持ってるんじゃないか?このゲーム機持ってるかしらねぇけど」

「何にしても今は使えないって事でいいのかい?」

「残念ながら」

 霖之助の質問に端的に答える高橋。バッテリーが無ければ何も出来ない。

「そうか。ならこれは仕舞っておこう。いつか使える様になるかも知れないし」

 そう言って霖之助は再びゲーム機を店の奥に仕舞った。

「にしても色んなものがあるな。置いてある物に統一感がまるでねぇ」

「当の店主は殆ど売る気は無いけどな」

「何で店やってるんだよ」

「売る時はちゃんと売ってるさ」

「半分も無いだろ」

「道楽かよ」

 やはり幻想郷には変わった奴が多いようだ。

「また何か新しい物を手に入れたら君に使い方を聞くよ」

「わかりました」

 それから暫く三人は他愛無い話をして、高橋と魔理沙は帰って行った。

 

 

「ただいま」

 魔理沙とも別れ、高橋は博麗神社へと戻ってきた。

「あら、お帰り。魔理沙は?」

 中に入るとお茶を飲みながら霊夢が言ってきた。

「何か用が有るって言って何処かに行った」

「つまりフラれたわけね」

「ああ。だから霊夢に相手してもらおうと思って帰ってきた」

「寂しいわね。誰にも相手してもらえないなんて」

 遠回しに霊夢にもフラれた。

「あ、そうだ。あんた宛に手紙が来てたわよ」

 そう言って霊夢はちゃぶ台に置いてあった未開封の封筒を差し出した。

「俺宛?誰からだ?」

「さあ?外を掃除して戻ってきたら置いてあったのよ。掃除する前は無かったのに」

「その間誰も神社に来てないのか?」

「ええ。参拝客すらね」

 自虐的な発言はこちらも虚しくなるのでやめていただきたい。

「まぁそれは別として見てみるか。もしかしたら仕事の依頼かも知れないしな」

 しかし封筒を見ても宛名らしいものは書かれていなかった。書かれているのは表面に『高橋 愛乃様へ』とあるだけだ。

「どれどれ?・・・ほぅ」

「どうしたのよ?」

「中身は送り主からの素敵なラブレターだったよ」

「ラブレター?」

 意味がわからない霊夢が繰り返して言った。手紙にはこう書かれていた。

 

『高橋 愛乃様、突然の無礼をお許しください。この様なお手紙を送られてさぞ驚かれている事でしょう。高橋 愛乃様のご活躍は今では幻想郷中に知れ渡っている事と思います。八雲 紫に頼まれ、この幻想郷へと来て私が起こした異変を解決すると言うこの依頼。貴方に達成する事が出来るでしょうか?貴方の今後のご活躍を期待して高みの見物とさせていただきます。

 ですが、流石の高橋 愛乃様も何も今後のヒントが無ければ解決は困難だと思い、細やかながら私からヒントを随時プレゼントしたいと思います。

 

 おなけずふておけおのせうけそにけに

 

 簡単な暗号ですので貴方には余裕ですよね?

 今後私から送られるこの課題をクリアしていけば私の元まで辿り着ける事をお約束します。

 私の元に辿り着く日を楽しみにしております。

          愛しのゲームマスターより』

 

「何これ?」

「だからラブレターだろ」

 手紙の文面を見ながら答える高橋。

「書き方は丁寧に書いてあるけど所々挑発するみたいに書いてあるわね」

「だな」

「それより途中のこの文字の羅列は何なの?暗号ってあるけど」

「雑な作り方だけど多分これはシーザー暗号ってやつだな」

「シーザー暗号?」

「一見意味のない文字の羅列をそれぞれ一定の文字数前か後にずらす事で本来の文章になるって言う昔の暗号だよ。ご丁寧に平仮名でって事は五十音順でずらせば良いんだろうな」

 本来はずらす数字のヒントが有るのだが、何も指定がないとなれば三文字ずつずらせば良いのだろう。

「それで?結局どんな文になったの?」

「あー、ちょっと待てよ。これだと『五日後の大会に参加して勝て』かな。送られて来たのが今日だから今日から五日後に行われる大会か・・・。なぁ霊夢、五日後に行われるイベントとかって知らないか?」

「・・・五日後ねぇ。そういえば人里で賭博の大会があった筈よ。詳しい内容までは知らないけど」

「成程。その大会に出て勝てって事か」

 となれば五日後までは今まで通り人脈作りに専念して問題無さそうだ。

「勝つだけで良いのかしら?優勝じゃないなら楽に思えるけど」

「出るからには優勝を目指すさ。それに勝てとは有るけど負けていいなんて書かれてないからな。途中で負けたからとか難癖つけられて次のヒントを出さないって言われるのも癪だし」

 逆に言えば『負けてはならない』とも書かれていないのだが。

「それもそうね。なら精々頑張ってきなさい」

「お前は参加しないのか?」

「賭博に興味は無いもの。彼女の魔理沙でも誘ったら?」

「いつまでそのネタ引っ張るんだよ」

「あら?また新しい彼女でも出来たの?」

「目の前にいるじゃないか」

「幻覚が見えるなら永琳の所に行った方が良いわよ」

「ガードが硬いなぁ。この巫女さんは」

 霊夢のデレ期はいつ来る事やら。

「悪いけどまたちょっと出掛けて来るわ。夜には戻るからよ」

「無理に帰って来なくても良いわよ」

「そうなると俺から霊夢への収入が無くなるな」

「遅くならないで気をつけて帰って来てね。あんたに何か有ったら心配だから」

(金に関してはチョロ過ぎるなぁ。この巫女さんは)

 今朝と言っている事が矛盾している気がするが、まぁ細かい事は気にしないでおこう。

 金の力を再確認して博麗神社を後にする高橋だった。

 

 

 それから暫くして高橋は目的地へと辿り着いた。

「まーた寝てるよ。この門番」

 壁にもたれ掛かって寝ている美鈴を見ながら呆れ顔で高橋が言った。

「おーい美鈴、起きてくれー。ついでにこの門も開けてくれー」

「・・・ん?」

「やっと起きたか」

 何度か肩を揺すっていると漸く美鈴が目を覚ました。

「あ、愛乃さん。おはようございます」

「いや、もう昼だよ」

 体を伸ばしながら言ってくる美鈴に高橋がツッコむ。

「今日はどうかされましたか?お嬢様達からは何も聞いてませんけど」

「ちょっと用が有ってな。約束はしてないんだが入って良いか?」

「はい良いですよ。でも私が寝てたのは咲夜さんには内緒でお願いしますね」

「わかったよ」

 高橋が答えると美鈴が門を開け、彼は中へと入って行った。

 館の中に入ると高橋は偶然にも咲夜と出会った。

「あら愛乃?どうかしたの?今日来るなんて話は聞いて無いけれど」

「ちょいとばっかパチュリーさんに用が有ってな。用が終わったら勝手に帰るから気にすんな」

「客人を相手にそんな対応はしないわよ」

「そうかい。取り敢えずレミリアの所に顔出すかな。人の家に来て家主に挨拶も無しって訳にもいかないし」

「殊勝な心掛けね」

「仕事柄、相手に不快な思いをさせて悪いイメージを広めない様にしてんだよ。仕事は信用が必要だからな」

「お嬢様が態々悪評を広める様な方だと?」

「俺の意識の問題だよ。それにレミリアがしなくても仮に誰かが俺を恨んで嘘の悪評を広めようとした時に、当の本人の俺が普段から人に信頼されない存在だったらその嘘を誰も疑わないからな」

「それもそうね」

 そんな話をしながら歩いているとレミリアの部屋まで辿り着いた。

「失礼しますお嬢様、愛乃がお嬢様にお会いしたいと来ていますが」

『入れて良いわよ』

 中からレミリアの声がして咲夜が部屋の扉を開けた。

「ようレミリア。久しぶり」

「最近うちに泊まったばかりでしょ」

「可愛い女の子にいつでも会いたいって思うのは男の願望だぜ?」

「欲望の間違いでしょ。それで?今日は何の用で来たの?」

「ちょいとばっかここの図書館に用が有ってな。その前に家主に挨拶に来たんだよ」

「そう。態々ご苦労様」

「あれからフランは大人しくしてるか?」

「ええ。少なくとも暴れ回る様な事は無くなったわね。代わりに貴方にまた会わせろって五月蝿いけれど」

「・・・後でフランの所にも顔出すか」

「モテる男は大変ね」

「本当にな。あれから何か変わった事有ったか?」

「特に無いわね。平和を通り越して退屈なのが最近の悩みよ」

「平和なのは良い事じゃねぇの」

「退屈は心を殺すのよ」

「物騒な話だな」

「だから偶にでいいから暇つぶしに付き合いなさいな」

「気が向いたらな」

 そう言って高橋は部屋を後にした。図書館へ向かう為に。

 

 

「あ、愛乃さん。いらっしゃいませー」

 図書館に入るとすぐに小悪魔と出会った。

「おう。また来たよ」

「今日はどんな御用で?」

「パチュリーさんに話があってな」

「パチュリー様に?」

「ああ。前の約束を守ってもらいにな」

「?ではご案内しますね」

 小悪魔に先導されながら図書館の奥へと進んで行った。

「パチュリー様、お客様です」

「あら、また来たのね。それで今日は何の用?」

 本を読んでいたパチュリーはちらりと高橋を見ると再び本へ戻る。

「以前の取引を果たそうかと」

「つまりは私からの要求は達成出来たと言うことかしら?」

「勿論。約束の物はここに」

 高橋は上着の中に忍ばせていた物を差し出した。

 以前魔理沙に盗られたパチュリーの本だ。

「・・・よくあのコソ泥から取り返したわね」

「ちょいとばっか魔理沙の家に行く用が有りましてね。魔理沙が目を離した隙にいただいたんですよ」

「手癖が悪いのね」

「ついでに言うと性格と頭と女癖も悪いですよ」

「でも口は達者の様ね」

「そんな事より、約束は覚えてますよね?」

「貴方が魔理沙から本を取り返せたらその度に魔法を教えてあげるって話よね」

「その通り」

「まぁ、約束だから魔法について教えてあげるわ。でもその前に二つ言っておく事があるわ」

 読んでいた本から目を離さずに言った。

「何でしょう?」

「一つ、魔法の適性が全く無い者は幾ら魔法を学んでも全く魔法を使う事は出来ない。二つ、仮に魔法の適性があっても全ての系統の魔法を覚えられるとは限らない」

「魔法の系統?」

「ええ。魔法には火や水の様に属性魔法と言ったそれぞれの系統があるの。人間にも運動が得意だったり勉強が得意な人で個人差があるでしょう?それと同じ様に覚えられる魔法、魔法の威力や精度は個人差が出るのよ。まぁ学び方次第である程度は改善出来るでしょうけど」

「成程。でも魔法が全く使えなくても知ってるだけで役に立つ事も有りますよね?」

「例えば?」

「相手に魔法を使われた時、それがどんな物か判断出来れば対策も取りやすいし、相手の弱点を突くきっかけになるかも知れない。どんな物も最強無敵なんて事は無い。知られていないと言う立場が相手にそう思わせるだけで」

「考え方としては悪く無いわね」

 何事も知らない事には何も出来やしないのだ。

「じゃあ、始めましょうか」

 パチュリーの一言を聞き、これから始まる魔法の適性テストに高橋は少しだけ胸が高鳴ったのを実感していた。




どうにかもっと多くの人に読んでもらいたいなと思いながらもそもそも話が書けてないと言うのが一番の問題ですね。
そもそも作中の話の速度が遅いのよ(今更)。
とか適当な事言ってますがこれからも好きな様に書いていきます。
もうちょい話進んだら番外編みたいなのも書こうかな。

ご意見ご感想、誤字脱字やコメント等有ればお願いします。
ではまた次回。


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17話・楽しい魔法のお勉強を始めよう。

まず本編の前に、前回からかなり時間が経ってしまい申し訳ございません。この話を覚えてる方はおられますか?忘れてしまった方の方が圧倒的に多いとは思いますが、覚えていていただけたら幸いです。
次からはもう少し早く更新しますのでよろしくお願いします。


「さて、これから貴方の魔法の適性検査を始めるのだけれど」

 読んでいた本を閉じてパチュリーが言う。

「始める前にこれを噛まずに飲み込んで」

 そう言って差し出されたのは金平糖の様な小さな粒だった。

「何です?これ」

「体内に眠る魔力を引き出す為の薬みたいなものよ。体に害は無いから安心しなさい」

「・・・まぁ、そう言う事なら」

 パチュリーの掌からそれを取って高橋は口にして飲み込んだ。それと同時にパチュリーが言った。

「その代わり凄く苦いけどね」

「ガハッ!ゴホッ、ゲホッ!超苦げぇ!」

 あまりの苦さに高橋は噎せかえった。

「だから言ったじゃない」

 呆れた様子で言ってくるが、そもそも忠告が遅いだろと高橋は内心で毒づいた。

「それじゃあ次ね。小悪魔、お願い」

 パチュリーが言うと少ししてから小悪魔がやって来てある物を机に置いた。

「これって水ですよね?」

 高橋が聞く。小悪魔が持って来たのは水が入れられたグラスだった。

「貴方にはこれが血に見えるの?」

「・・・誰が見ても水でしょうね」

「それを使って試すのよ。水の上に紙片を置いて、その反応で貴方の適性の有無や得意な系統を判断するのよ」

「いや水見式かよ」

 どこぞの人気漫画の様な診断方法だ。

「水見式が何なのかは知らないけどこれが簡単でわかりやすいのよ」

「・・・まぁいいか。それで俺はどうしたら良いんですか?」

「グラスを両手で掴んで自分の中にある力を注ぐイメージをしなさい。適性が有れば何かしら反応がある筈よ」

 つまり反応が何もなければ魔法の才能が全く無いと言う事か。

 高橋は言われた通りにグラスを両手で掴んだ。

(・・・力を注ぐイメージ、か)

 目を閉じてイメージする。

 

 体中のエネルギーを両手へ。

 

 更に両手のエネルギーをグラスへ。

 

 注ぐイメージ。それだけを意識して行ったが、高橋の自覚としてはあまり変わった様子は無い。

「もういいわ。目を開けて」

 パチュリーに言われ、目を開けた。見たところやはり変化は無いらしい。

(置かれている紙にも水にもパッと見た限り変化は無いか)

 試しにグラスの水を舐めてみたが、甘くなったわけでも無い。温度が変わっている様子も無い。

「何も無いみたいですけど、俺って才能無いんですかね?」

「まぁこうなるとは思ってたわよ」

「え?」

「だってこんな方法嘘だもの」

「何じゃそりゃ!」

 思わず高橋は叫んだ。

「退屈凌ぎに揶揄っただけよ。それにそろそろ良い時間みたいだし」

「時間?」

「手を出して」

 先程と同じ様に言われ、再びパチュリーに向けて手を差し出す。またあの苦いのを寄越す気だろうか?

「苦いのは嫌いなんですが」

「もう食べなくて良いから安心して」

 しかし予想に反してパチュリーはそう言った。そしてパチュリーはそのまま高橋の手を掴んだ。

「今から貴方に魔力を流すから、頭の中に浮かんだイメージがあったら答えて」

「今度は本当ですか?」

「勿論よ。目を閉じて」

 言われて今度こそと思いながら目を閉じた。

 するとパチュリーに掴まれていた腕がほんのりと暖かくなっていく感覚がした。それは腕から肩へ、そして次第に体全体へと流れていった。

(・・・あ、何か頭に浮かんできた)

 浮かんできたのは真っ暗な空間にいる自分。

 不思議な感覚だった。時間が経てば経つ程自分の意識が現実から離れていく感覚だ。沈む様に、溶けていく様に。

 そして目の前には蒼い宝石の様な物が出現し、目の前で浮かんでいる。

(触れたら良いのか?)

 右手を伸ばして恐る恐るそれに触れてみると、触れた途端にそれは溶ける様に消えた。

 いや、溶ける様に、より触れた高橋の手から体の中へと流れる様に、と表現した方が正しいか。

「もういいわ。目を開けて」

 言われて高橋はゆっくりと目を開けた。

「どんなイメージが出た?」

「暗い空間にいる自分、そこに蒼い宝石みたいなのが出てきて、それに触れたら俺の体の中に入っていきました」

「なら問題無さそうね」

「え?」

「その宝石が貴方の中にある所謂魔力の結晶。それが見えて触れられて何も問題が無ければ魔法の適性があるって事よ」

「つまり俺にも魔法の適性が有るって事ですか?」

「ええ。蒼い宝石って事は恐らく貴方の得意とするのは水系統の魔法ね」

「水系統?」

「水系統は属性魔法の基礎の一つ。水は色々な魔法と組み合わせる事が出来れば便利な系統魔法よ。良かったわね」

「水か・・・」

「不満かしら?」

「いえ、水は人を生かす事も殺す事も出来ますからね。それに注ぐ器によって様々な形に変えられる。一先ず文句をつける点は有りませんよ」

「変幻自在って言いたいの?」

「そんな万能でも無いでしょう。注ぐ器がなければ形も留められないんですから。注ぐ水がなければもっと意味をなしませんけどね」

(まぁその辺は俺らしいと言うべきか)

 自分の能力を考えると、なんとも自分らしいと思えなくもない。

 

 自分という器に他者の能力という水を注ぐ。それにより水は形を成す。

 

 そして器は器としての役割を、意味を為す。

 

 注ぐ水(他者の能力)が無ければ器(自身の能力)としての意味をなさない。

 

 空っぽの器。

 

それに対して自分の系統魔法が水と言うのだから皮肉が効いている。

「さて、貴方の系統がわかった事だし、次に進みましょう」

 そう言いながらパチュリーは近くにあった紙にペンで何かを書き込み始めた。暫くして待つと書き終えたそれを高橋に差し出した。

「これを持って、さっきみたいにこの紙に力を送るイメージを思い浮かべて」

 その紙を受け取り、高橋は言われた通りに行った。

 すると数秒後、高橋が手にしていた紙が光り、近くに置いてあった先程のグラスの水が浮かび上がった。

「うおっ!?なんじゃこりゃ!」

 グラスの上を浮かぶ水の玉を見て高橋は思わず声を上げた。

「素人にしては中々ね。もう良いわよ」

「もう良いと言われてもこれをどうしたら良いかもわからんのだが」

「持ってる紙を破りなさい」

 パチュリーに言われ、高橋は指示された通りに持っていた紙を破いた。それと同時に先程まで浮いていた水の玉が重力に従って呆気なく落ちていった。その水は机に触れると四方八方に飛び散った。

「小悪魔、拭いておいて」

「はーい。かしこまりました!」

 いそいそと拭き始めた小悪魔を横目にパチュリーが続けた。

「今回は初めてと言う事で魔法の式を描いた紙を使ってやってもらったけど、魔法の基礎が出来ればあんな紙が無くても今くらいの事は簡単に出来るようになるわよ」

「本当ですか?魔法って慣れない物に触れたせいか、何かワクワクしてきますね」

「最初の頃はそうでしょうね。何かを学び始める時はその感情は大切ね。それは立派な原動力になるもの」

「自分が出来る事が増えるのを実感出来るってのが尚良いですね」

「ふふっ。楽しそうで良かったわ。では次は試しに貴方の今の魔力の総量を測ろうかしら」

「魔力の総量?俺がどれだけの魔力を持っているかって話ですか?」

「ええ。魔力の総量が多ければ多い程魔法を使える数も増える。逆に少なければ簡単な魔法一つですぐに魔力が尽きてしまうわ」

 自分の現状を知らなければ何も出来ないのは魔法も同じである。

「それで、俺は次に何をすれば?」

「じゃあ次はこれを持って」

 次にパチュリーが差し出したのは短冊の様な細長い紙だった。裏返してみても何も書かれていない。両面真っ白な紙だ。

「今度はその紙に魔力を流すイメージをしなさい。上手く出来たらその紙が貴方の総量を教えてくれるわ」

「この紙に魔力を・・・」

 言われるがまま、高橋は目を閉じて集中し、魔力を流すイメージを整えた。

「もういいわよ」

 数秒後、パチュリーに言われて目を開けると、持っていた紙が赤く染まっていた。

「何だこりゃ?」

「その紙は魔力の量に反応して色を赤く染めるのよ。下から上にね」

 言われてみると紙全体のうち、上の方はまだ白いままだった。

「ちょっとそれを見せて」

「はい」

 言われた通り、紙を差し出す高橋。

「貴方、本当に魔法の知識や経験は無いのよね?」

「?はい。まともに触れたのも今日が初めてです」

「・・・そう。」

 高橋の返事を聞いて考え込むパチュリー。

(初めてにしてはかなりの魔力量ね)

 当然、ちゃんと魔法を学んでいる魔法使いと比べたらまだまだではあるが。

「因みに貴方の能力ってどんなものなのかしら?」

「それを無条件で人に教える程俺は優しくも馬鹿でもないですよ」

「ならどうしたら教えてくれるのかしら?」

「こちらの質問にパチュリーさんが答えてくれるなら」

「答えられる範囲なら構わないわ」

「なら貴女のスリーサイズと好きな男のタイプを」

「真面目にやりなさい」

「これでも至って真面目なんですけどね?」

 真顔で答える高橋の発言にパチュリーは馬鹿馬鹿しくなった。

「スリーサイズは教えないわよ。でも少なくとも会って間もない相手にそんな事を聞く男は好きではないわね」

「あーあ、フラれた」

「フラれたくないのならそれに見合った行動をしなさい」

 至極真っ当な意見だ。

「貴方、もしかして女好き?」

「美少女は国の宝ですよ?知りません?」

「知らないし知る気も無いわ」

 段々とパチュリーの対応が素っ気なくなってきたので真面目に話すとしよう。

「ではパチュリーさんの能力は?」

「新たに質問を追加するのはズルくないかしら?」

「一度こちらの質問を拒否したので一度くらいなら問題無いと思うんですけどね?」

「ああ言えばこう言うとは貴方の為にある様な言葉ね」

「紅魔館の人達には負けますよ」

 あんな個性の強い連中を前にしたら高橋など霞んで見える。

「それで、今の質問には答えてもらえるんですか?」

「『魔法を使う程度の能力』。それが私の能力よ。主に属性魔法が多いわね」

「さっきの水とかと同じやつですか?」

「そんな解釈で良いわよ。細かい事を言っても今の貴方にはわからないでしょうしね」

「やっぱ難しいもんなんですね。魔法って」

「当然よ。一から何かを学ぶのだからそう簡単に理解されても困るわ」

 簡単に会得されては魔法使いとしての立場が無い。

「それで、ここから俺は一体何を教えてもらえるんですか?」

「今日はここまでよ」

「え?」

 突然の授業中止に高橋は驚いた。

「前にも言ったでしょう。『魔理沙から本を取り返して来てくれたらその度に教えてあげるわ』って」

 確かに以前彼女はそう言っていた。

「成程。どの程度教えるかは貴女の自由って事ですか」

「理解が早くて助かるわ」

 高橋も口では理解した様ではあるが、その内心で舌打ちした。

(上手く動かれたもんだ。いや、交渉が多少有利に動くと予想して油断した俺のミスか)

 別段、高橋に損は無いのだから良い様にも思えるが、そうでもない。

 まず第一に前提として魔理沙からパチュリーの本を取り戻さねばならない。これが中々に面倒だ。前提としてまず魔理沙と接触し、その上で本を魔理沙から奪還せねばならないのだから。

 そしてもう一つ。それは高橋が主導権を握られたと言う点だ。

 

「いつでもこちらの都合で教えてもらう」

 

「条件を満たせば教えてもらえる」

 

 言わなくてもわかる通り、この二つは明確に違う。

 一つ目は高橋に主導権があると言う事。

 二つ目はパチュリーに主導権があると言う事。

 片方が一方的な主導権を握ってしまえば、その相手に選択肢は殆ど無くなってしまう。その選択肢を減らさない為の交渉だったが、これは高橋の言う様に完全なミスだ。

 だが、相手にこう言われてしまった以上、このまま言い合いをしても意味は無い。

「わかりました。ではまた本を取り返したらその時は是非お願いします」

 高橋が軽く頭を下げて言った。

「ええ。その時が来るのを楽しみにしているわ」

 少しだけ笑いながらパチュリーはそう答えた。

「ええ。どうぞ期待して下さい」

 心の中で再度舌打ちをしながら強がりで高橋はそう答えた。

「では今日はこれで失礼します」

「あ、ちょっと待ちなさい」

 そう言い残して図書館を立ち去ろうとした時、パチュリーが思い出した様に言った。

「どうかしましたか?」

「二つだけ貴方に言っておく事があるわ。一つ、無闇に魔法を悪用しない事。二つ目、私が出す課題を必ずこなす事」

「課題?」

「ええ。別に貴方がこれ以上魔法について勉強したくないと言うのなら無理にとは言わないけれど」

 そんな事を言われずとも高橋の答えは決まっている。

「勿論、やらせてもらいますよ」

「そう。なら暫くはさっきの紙無しで水を操れる様にしなさい。やり方は後で教えてあげる」

「わかりました」

 素直に従う高橋。

「当面の目標はバケツ一杯分の水を五分間操れる様になりなさい。貴方の魔力量ならそれくらいは出来る筈よ。他を教えるのはそれが出来てからね」

「それと、俺が魔理沙から貴女の本を取り返してから、ですよね?」

「よくわかってるじゃない」

 そう言われ、高橋は内心で思った。

(食えない女だ)

 そして魔法の練習法を聞き、図書館を去ろうとした高橋をパチュリーが止めた。

「待ちなさい」

「?」

「貴方、まだ肝心な事を答えていないじゃない」

「肝心な事?」

「貴方の能力」

「あー、覚えてましたか」

「誤魔化せると思ったの?」

「可能性はゼロではないでしょう?」

 これ以上言い合いをしていても仕方ないと判断した高橋は素直に答える事にした。

「相手の能力をコピーする。それが俺の能力です」

「えらく便利な能力ね」

「元の世界じゃ案外そうでもなかったんですけどね」

 苦笑いしながら答える高橋。

 それもその筈だ。確かに相手の能力をコピーする。そう聞けば誰でも便利なチート能力だと思うが、それでもこの能力には少なからず条件があるのだ。

(そもそもコピーする能力が無きゃ話にならないからな)

 そう。これがそもそもの大前提。いくらコピーをしようとも、その対象物が無ければ出来るものも出来るはずがないのだ。

「その能力を発動するのに必要な条件は?」

 パチュリーが続けて聞いた。

「そんな便利な能力、普通ならノーリスクで使えるとは思わないのだけど」

(良い勘してやがる)

 確かにパチュリーの言う様に、高橋の能力はノーリスクではない。

「予め対象者が持つ能力を知るのが俺の能力を発動するのに必要な条件ですよ。知らない事にはコピーなんてしようがありませんからね」

「それだけでは無いはずよ」

 今度は質問ではなく断言した。

「・・・何故そう思うんですか?」

「簡単よ。貴方が今言ったのは『能力の発動条件』であって、『能力を使うにあたるリスク』ではないもの」

「・・・やれやれ。やっぱ誤魔化すのは無理みたいですね」

「幻想郷ではこれくらいはいつもの事よ。もう少し話術を鍛えなさい」

「これでも人並み以上にはあると思ってたんですけどね?」

「人並み以上の存在が多いもの」

「そりゃそうだ」

 言われてみれば妖怪やら何やらが多く存在するのが幻想郷だ。危うく忘れる所だった。

「それで?結局その能力のリスクは?」

「失礼ながら黙秘します」

「リスクが有るのは認めるのね。一応聞くわ。何故拒否するのかしら?」

「自分の弱点をベラベラ喋る馬鹿はいないでしょう?それに、俺が最初に聞かれたのは『俺の能力が何か』です。それ以上の質問に答える義務は有りませんよね?」

「それもそうね。それじゃあその話はいいわ」

 あっさりと引き下がるパチュリー。これには高橋も意外だと思った。

「ならギャンブルで勝って教えてもらうわ」

 これまた意外な一言だった。

「パチュリーさん、ギャンブルに興味ありましたっけ?」

 前回話した時の様子だと然程興味など無さそうに感じたのだが。

「ギャンブル自体には興味は無いわ。でもそれで知識欲を満たせるならやっても構わないのよ」

 彼女の根幹は金や名誉より知識を満たす事にあった。

「貴方、ギャンブルが好きみたいな様だし、のってくれるわよね?」

「因みに俺が勝った場合は何をしてくれるんですか?」

「次に貴方がここに来た時に無条件で一日中魔法について教えてあげるわよ」

 それを聞いて高橋はふと考えた。

(・・・悪くないな)

 自分の隠しておきたい情報を天秤に掛け、得られるかもしれない権利が釣り合うかを考え、高橋は自分にとっては充分に釣り合うと結論付けた。

「交渉成立の様ね。ゲームは貴方が決めて良いわよ。カードにする?それとも他にする?チェスくらいなら有るけれど」

 決まった途端に今までで一番饒舌に喋るパチュリーに高橋は少し驚いた。彼女自身も無意識に勝負に対してのテンションが上がっているようだ。

(まぁ、自分が勝つ事を疑ってないんだろうな。既に勝って俺から話を聞ける事を想像してんだろうよ)

 ゲームの選択権を高橋に譲った事から間違いないだろうと高橋は予想した。

 そしてその予想は間違ってはいなかった。パチュリーは自分が勝つ事を疑ってはいなかったし、寧ろ当然だと思っていた。

 簡単に言えば高橋 愛乃と言う男を下に見ていた。しかし、それも無理のない事だ。相手は自分よりも圧倒的に短い時間しか生きていないクソガキで有る上に、何かあってもこちらには魔法が使えると言う明確な力の差があるのだから。

 人生経験、そして大差で開いている技量、ちからの差は誰が見ても明白だ。

(なら俺は何を選ぶのが正解か・・・)

 数少ない情報から自分が勝てそうな答えを考える高橋。

(この手の相手にはこれだろ)

 そう結論づけて高橋は言った。

「魔法、及び能力の使用無しの純粋な身体能力のみの100m走勝負で」

 それを聞いた瞬間、パチュリーの表情が固まった。普段から無表情の彼女にしては珍しい。

(やっぱりな)

 高橋の予想通りの反応だった。

(パチュリーの今の反応と普段の様子からして身体能力は極端に低いと予想出来る。となれば体力勝負に持ち込めばまず負けは無い)

 そうと決まれば自分の得意分野に運ぶのは当然だ。

 数秒間考え込んだ後、諦めるように、いや、覚悟を決めたようにパチュリーは口を開いた。

「いいわ。やりましょう」

 そうして魔女対人間の100m走が決まった。

 

 

 そして二人が外に出た時、偶然にも美鈴と出会った。庭の手入れをしていた様だ。

「パ、パチュリー様!?お外に出られてどうかしたんですか!?」

「今から彼と勝負をするのよ。100m走の真剣勝負よ」

「正気ですか!?」

「驚き過ぎじゃねぇか?」

「何を言ってるんですか!パチュリー様に100mを走らせようなんて、子供にスピリタスを一気飲みさせる様な暴挙ですよ!」

(どこまで運動神経に問題あるんだよ)

「五月蝿いわね。いいから美鈴は勝負の判定役でもしてちょうだい」

 高橋の考えを他所にパチュリーは美鈴の抗議を押し退けて勝負をしようとしていた。彼女なりにプライドを賭けている様だ。

「・・・わかりましたけど、無理だけはしないで下さいね」

 渋々ながらも従い、美鈴は二人から離れた所に立った。丁度100mくらいの位置だ。

「では私が合図したら走ってくださいね。先に私の横を通り過ぎた方が勝ちですよ」

 美鈴が叫びながら説明する。

「覚悟は良いですか?」

「五月蝿いわね。気が散るわ」

 あからさまにイラついた表情で言われた。

「良いですか?レディー、ゴー!」

 美鈴の声が響いた途端、高橋は全力で駆け出した。自分でも悪くないと思う程のスタートだ。

 十数秒後、高橋は美鈴の横を駆け抜けた。結果は高橋の圧勝だった。

(・・・ふぅ、ベストタイムは出せなかったが勝ちは勝ち、だよな)

「パチュリー様ー!」

 高橋がそんな事を考えていると背後から美鈴の悲鳴じみた叫び声が聞こえた。振り返るとスタート地点から10mくらいの場所でパチュリーが倒れていた。

「おいおい!まさか死んでねぇだろうな!」

 慌てて高橋も駆け寄った。

「勝手に殺さないで下さい!生きてますよ!」

「・・・うう、中々やるわね。・・・今日はこの辺で・・・勘弁してあげる、わ」

 パチュリーは一言そう言い残すと気を失った。

「パチュリー様ぁぁぁ!」

(・・・まさかここまで虚弱だったとは)

 ここまで来ると些かながら申し訳なさを感じる高橋だった。

 

 

 パチュリーが目を覚ましたのはそれから一時間程経った頃だった。

「・・・ん。あら、ここは?」

「あ、目が覚めましたか?ここは図書館の中ですよ」

 寝ていたパチュリーにそばにいた小悪魔が言った。

「少し前に愛乃さんがパチュリー様を抱えてここに来たんです。驚きましたよ、パチュリー様、気を失ってたんですから」

 言われてパチュリーは思い出した。そうだ、自分はあの男と勝負をして負けたのだった。

「全く。無茶しちゃダメですよ。心配したんですから」

「・・・悪かったわね、心配させて。あの男は?」

「愛乃さんなら少し前に妹様に会いに行きましたよ。多分まだお屋敷の中だと思いますが」

「そう。なら彼が帰る前にここに連れてきてちょうだい」

「?わかりました。少し探してきますね」

 そう言い残して小悪魔は図書館を出て行った。

「・・・我ながら情けないわね」

 一人残った図書館でパチュリーは呟いた。

「でも負けた時の約束はちゃんと果たさないとね」

 パチュリーなりの意地であり、相手への自分なりの敬意の表れでもあった。

「面白い男だったわね」

 誰に言うわけでもなく、再度パチュリーは一人呟くのであった。

 

 その顔が笑っていた事を彼女は自覚してはいなかったが。




まさか前回から約半年も経ってから投稿するとは・・・。
遅すぎだろうに。
もし今までの話を忘れた方は是非過去の話を読み返してみてください。
コメントもいただければ幸いです。
ご意見ご感想、誤字脱字等有ればコメントお願いします。

お気に入り登録していただいた
風見不鶏様
tkeido様
ありがとうございます。

ではまた次回。


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18話・妹様と再び。

長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
恐らく過去一更新頻度を空けてしまいました。皆さん本編の内容覚えてますか?もし覚えてなければ最初から読んでみてください(面倒だわ)。
まあでも次の更新までの間に全部読めるでしょう。そう思ってるなら早く書けって話ではありますが。
長々と話しましたが本編をどうぞ。
あ、あと今更ですがあけましておめでとうございます(遅すぎるわ)。


 パチュリーが図書館で寝ている時、高橋はフランの部屋の前に来ていた。

「フランいるか?」

『ヨシノ?入っていいよ』

 扉をノックして尋ねるとフランが扉越しに返してきた。

「どうかしたの?」

 部屋に入ると同時にフランが聞いた。

「紅魔館に少し用があってな。ついでにフランにも顔を見せようと思って」

「またお姉様に見張るように言われたの?」

「いや、今日は仕事抜きだ。可愛い可愛いフランの顔を見たかっただけだよ」

「ヨシノったらどれだけ私の事好きなのよ」

「そりゃこんな薄暗い地下に一人で来るくらいにだよ」

「モテる女の子って大変ね」

「俺はモテない男で良かったよ」

「向上心の無い男は成長しないって咲夜が言ってたよ?」

「大言壮語なだけの男はもっとタチが悪いってあのメイドさんに言っといてくれ」

「?わかった」

 いまいち理解していないフランが答えた。

「じゃあヨシノ、私と遊んで」

「おう。何する?」

「弾幕ごっこ」

「いや無理じゃん」

「冗談よ。なら私とギャンブルして」

「おお、ギャンブルに手を染めるなんて悪い子だ」

「だって私は血を吸う悪魔だもの。良い子なわけないわ」

 可愛らしく返すフラン。

「やるのは良いが、何を賭ける?金、って言ってもフラン自身はそんなの持ってねぇよな?」

 無い物を賭けるわけにもいかないし、こちらが金を賭けてもフランが金回りに困っているとは思えない。

「なら私が勝ったらヨシノが私の言う事を何でも聞いてよ」

「この前の仕返しってわけか」

「そうかもね」

「なら俺が勝ったら同じ条件で良いんだよな?」

「勿論」

「なら何で勝負する?また鬼ごっこか?それともカードか?シンプルにコイントスってのも有りだが」

「なら私のスペルカードを使おう」

「フランのスペル?別に良いが何でだ?」

「だって『弾幕ごっこ』が『ギャンブル』に変わってから一度も使った事が無いもの。どんな風になったか試してみたいわ」

「あー、成程。でもどんなものかはある程度把握してるんだよな?」

「うん。でも使わないと分からない事ってあるじゃない?」

「確かにな」

 どんな事にも経験に勝るものは無い。

「じゃあ始めようよ」

「いつでもどうぞ」

 高橋がそう答えるとフランが自身のスペルカードを唱えた。

 

「禁忌『禁じられた遊び』!」

 

 スペルカードを唱えた直後辺りは光に包まれ、その光が収まると、周りの景色が変わっていた。

「何だここ?フランのスペルカードの影響か?」

 高橋が立っていたのは先程までのプランの部屋ではなく、四メートル四方の簡素な部屋だった。部屋にあるのは木製の机とA4サイズの白紙の紙が数枚。そして本棚に納められた大量の本だけだった。

「フランはいねぇし窓も無し。唯一出入り出来そうな扉が一つ、と。・・・って鍵が掛かってやがる」

 部屋を見渡しながらそう口にした高橋。現状この部屋から出る事は出来ない様だ。

(禁じられた遊びって事は何かを制限した上で行われるゲームって事だよな?まさか俺の動きを禁じますってオチか?)

 つまらない冗談を思いながら机に置かれた紙を一枚ずつ眺めていると一枚だけ書かれた紙があった。

 

『このゲームでは各部屋の謎を解き進み、全ての謎を解き明かしゴールの部屋にいるフランドール・スカーレットの元へと辿り着く事が出来れば貴方の勝ちとなります。

しかし、各部屋毎に貴方には禁止事項が課されます。それを犯してしまった場合はその時点で貴方の負けとなりますのでご注意下さい。

 

 この勝負での貴方の敗北条件は以下になります。

・制限時間内にクリア出来ない。

・自身に課された禁止事項に抵触する。

・各部屋内での能力の使用

・ゲーム中のギブアップ宣言

 以上の点に気をつけてゲームをお楽しみ下さい』

 

「なんだこの脱出ゲーム」

 思わずそう呟いてしまった。そして次の瞬間、高橋の体に異変が起きた。

「っ痛!」

 急に右手の甲に痛みが走った。見てみると『3:59:54』と書かれており、一秒毎にカウントが減っていた。

「成程、これが制限時間ってわけか」

 つまりは約四時間でこのゲームをクリアしなければならないわけだ。

「で、問題はどうやればここから出られるかって事だよな」

 ここから出る為のヒントがわからない以上どう動いて良いかもわからない。であればまずはそのヒントを探すところから始めよう。

(まずは目の前の紙の束からっと)

 とそこで高橋は手を止めた。大事な事を忘れる所だった。

(まずは脱出のヒントよりこの部屋での禁止事項を調べるのが先だな)

 もしここでの禁止事項が『本に触れる』や『扉に触れる』であれば無闇に動くのは危険である。

(仕方ねぇ。まずは見える範囲で調べるとするか)

 まずは先程も見た扉を見た。すると何も無かったはずの扉に文字が書かれていた。

 

『・禁止事項 床に手をつける。

 この部屋では如何なる理由でも床に直接手が触れた時点で負けとなりますのでご注意下さい』

 

「そんなので良いのかよ」

 と思わず口にする高橋だったが、まだゲームは序盤。この禁止事項もお遊び程度と思って良いだろう。

(禁止事項が必ずしも一つだけとも限らない。注意していくとするか)

 そう考えて机の上の紙も見てみたが禁止事項の様なものは何も見つからなかった。

「さて、そうなると次は無難に本棚だな」

 そう言いながら本棚の中から一冊を手に取って中を確認する。

(内容は普通の小説か。じっくり読みたい所ではあるがそんな時間は流石に無いわな)

 パラパラとページを巡り、大まかに確認し終えた本を棚に戻した時、高橋はある事に気がついた。

(背表紙に書かれているタイトルの下に数字?)

 棚に並べられた本を見るとそれぞれの本のタイトルの下には確かに別々の数字が書かれている。

(でもタイトルはそれぞれ違うからシリーズ物ってわけじゃないよな?・・・となると)

 少し考えて高橋は本棚の本を番号順に並び替えた。

「えらく簡単な謎解きだな」

 並び終えた本を見ながら高橋は少し笑った。

「『白紙の紙全て床に落とせ』か」

 それぞれの本を番号順に並び替え、それぞれのタイトルの頭の文字を読むとそんな文章が出てきた。そしてその命令通りに数枚の白紙の紙を全て床に落とした。すると扉に新たに文字が浮かんでいた。

 

『今落とした紙の中から赤い紙を折り目を付けずに扉に押し付けよ』

 

「うわぁ、面倒せぇ」

 思わずそう言わずにはいられなかった。

「だから態々紙を床に落とさせたのかよ」

 この部屋での禁止事項を考えながらそう呟いた。

 この部屋では床に手をついてはいけない。だからその禁止事項に触れる様に仕向けたのだ。

「まぁ、これくらいなら能力使わずとも何とかなるけどな」

 そうは言っても油断するとすぐにアウトになってしまう。

 まずは指定された赤い紙だ。先程床に落とした紙に視線を移すと、床に落とした五枚の紙は色が変わっていた。左から青、黒、黄色、赤、緑だ。

 まず高橋は落ちていた紙を足で挟みながらゆっくりと足を閉じる。そして後は浮き上がった部分を掴み床に触れずに取るだけだった。

「念の為、他の紙も集めとくか」

 次に何があるかわからない為、やれる事はやっておこう。そう判断した高橋は同様の手順で残りの紙も拾い集めた。

「んで、この赤い紙を扉に、だったな」

 拾い上げた紙の中から赤い紙を取り出して扉に押しつけた。

 

『ガチャ』

 

 それと同時に鍵が開く音がした。試しにノブを回してみるとすんなりと扉が開いた。

「さっさと次のも終わらせるか」

 扉を開けるとその先には同じ様に窓の無い部屋が繋がっていた。

「この繰り返しってわけね。あと幾つ続く事やら」

 そんな事を呟きながら高橋は次の部屋に入って行った。

 

 残り時間『3:32:48』

 

 高橋が謎解きを楽しんでいる時、ゴールとなる部屋に一人いたフランは人知れず後悔をしていた。

「たーいーくーつー」

 部屋で一人大人しく待っていなければいないと言うこの現状に早くも飽きていた。

「こんな事なら違うスペルにすれば良かったわ」

 今更言っても仕方ないと分かっていながらもそう零すフラン。

「早く来てくれないかなぁ」

 一人呟くが、それに応える者は誰もいなかった。

 

 それから暫くして高橋は四つ目の部屋へと来ていた。

「あと幾つあんだよ!」

 終わる気配のないこのゲームに高橋が叫ぶが、こちらも誰かが応える訳でもなかった。

 文句を言うくらいならさっさと終わらせようと新しい課題に取り組むのだった。

「『この部屋にある物で最も薄い物をテーブルに置け』?何だそりゃ」

 部屋を見渡すが、この部屋にはテーブルに本棚しかない。それに禁止事項も無いようだ。

 そこで高橋はある事を思い出した。

(一番薄いってこれもだよな?)

 最初の部屋から持ってきた紙を取り出しながらそう考えた。物は試しだと高橋はその中の一枚を乗せた。

「あれ?」

 しかし何も起きる事はなかった。

「何でだ?他に同じくらい薄い物なんて・・・」

 頭を掻きながらそう呟いた時、閃いた。

「これでどうだ」

 そう言って高橋がある物をテーブルに乗せた。

 

 『ガチャ』

 

 どうやら鍵が開いたようだ。

「え、こんなのでいいのかよ」

 単純すぎる結末に戸惑いを隠せない高橋だった。

「まぁ楽に進めるならそれに越した事はないか」

 先程高橋が乗せたのは自分の髪の毛だ。紙でダメなら髪で行くと言う寒い冗談だ。

 やはり吸血鬼と言えど所詮子供。この程度で勝てると思っている辺り、可愛いもんだ。

 そう思いながら次の部屋に入り、扉に浮かんだ文字を見て絶句した。

 

『この部屋に入った瞬間から二時間、この部屋以外への出入りを禁ずる』

 

 扉にあったのはその一文のみ。試しに扉を開けてみたが鍵は掛かっていないようだ。

「二時間待機ってどんなゲームだよ」

 右手の甲を見ると残り時間は2:27:14となっていた。ここで二時間消費してしまうと残り時間は殆ど無いと言っていいだろう。

「いくら何でもパワープレイにも程があるだろ。こんな脱出ゲーム聞いた事ねぇよ」

 こんなルールが認められて良いのかと意見したいが、言った所で仕方がない。

「他に禁止事項も無いし、次の手について考えるか」

 動けないにしても考える事は出来る。この時間を少しでも有効に使うのだ。

(今までの課題は然程難しい物は無かった。これは単純にフランが適当に用意した勝負だからか?いや違う。スペルカードは持ち主の意思で全てが変えられているわけじゃない。持ち主自身も『大体の内容を知っているだけ』だ。だからそれを試す為に今俺はフランと勝負をしている。ならスペルカードがギャンブルに変更される際の定義って何なんだ?勿論名前に関連する内容に変えられるとは思う。でもだからと言って今回のこのスペル、規模がデカい割に内容がお粗末すぎる)

 態々別の空間に移動したにも関わらず、この単純さだ。

(内容も他の何かに影響されて作られているのか?そもそもフラン自身が勝つ気が無いからこんな単純な物ばかりなのか・・・)

 仮に高橋の言う様に今回のゲームが単純にスペルカードを試すだけの消化試合の様な物ならお粗末な内容にも納得が出来る。

(それとも屋敷に篭ってばかりのフランは知識や情報が少ないからこれくらいしか作れないとか?)

 もしもスペルカードの内容が持ち主の知識や経験、性格などから情報を自動的に引き出されて作られているならば、閉じこもってばかりのフランにはそれを作り上げる材料は少ないと言って良いだろう。

「・・・これからはスペルカードについてももっと調べる必要が有りそうだな」

 今後の課題が一つ見つかった。

「さて、残り時間をどう過ごそうかな。能力や魔法の練習・・・はやった瞬間俺の負けになるのか」

 部屋の中での能力の使用は負けとなってしまう。なのでこの部屋で出来る行動は殆ど無い。

「クソ暇だな」

 部屋に監禁される苦痛を何となく理解しだした高橋。成程、普段のフランはこんな心境だったのか。

「よし、寝るか」

 何を考えたのか、突然そう思った高橋はそのまま床に大の字に寝転がり目を閉じた。

「あ、寝過ごして負けってのも嫌だしタイマーつけとくか」

 そう言ってスマホを取り出してアラームをセットすると今度こそ彼は眠りについた。

 

 

 懐かしい記憶を思い出した。

 元の世界、そして自分の店。自分がその日暮らしの為に始めた便利屋。そこによく来ていた一人の人物がいた。当時は確か高校二年生だったろうか?しかし見た目の幼さ故に、中学生と言われても納得してしまいそうな容姿だ。

(あー、これ夢か)

 その人物の顔を見た途端、高橋は断言した。それも当然だ。何故なら本来なら二度と会う事はない相手だから。

「人の夢に出てくるとかどんだけ俺の事好きなんだよ」

「アンタが私の事好きなんでしょ。だからいなくなった後もこうして夢に駆り出されてるんだし」

 少女は自分の意見に間違いが無いと言わんばかりに言った。

「相変わらず口の減らない奴だな。まあ夢だから当たり前か」

「そ。当たり前」

 目の前の少女は簡単に受け流す。

「で?お前は俺が寝てる間の暇つぶしに付き合ってくれるのか?」

「どうしてもって言うならそうしてあげるわよ」

「なら頼むわ」

 高橋は言い合いするのも時間の無駄と判断した。

「今のアンタ、結構楽しそうじゃん」

 少女が言う。

「ああ、見るもの全てが新鮮だからな。飽きる気がしないね」

「昔のアンタとは大違いね。私の知る限りそんな楽しそうな顔見た事ないし。それに可愛いの子達に囲まれてるみたいだし」

「嫉妬か?」

「バーカ」

 シンプルな悪口だ。

「何だよ。昔はあんなに俺に好き好きって引っ付いてきたくせに」

「いつの話してるのよ」

「女との思い出ってのは男からしたら永遠の宝なんだぜ?」

「男ってバカね」

「当たり前だろ」

 男が馬鹿じゃなかったらこの世は終わってると高橋は勝手ながらに思っていた。

 そんな話は置いといて。

「一つ聞いていいか?」

「何?聞きたい事って」

 記憶の中の相手に質問なんて無駄だとわかってはいたが、思わず高橋は聞いた。

「わかってんだろ。あの日、何でお前は()()()()()

「七年も前の事なのに、未だに気にしてるんだ」

 そう。彼女が言うように、高橋は今から七年前の出来事を一度たりとも忘れた事は無かった。

「当たり前だろ。あの時の事は結局未だに謎だらけ。まともな手掛かりも拾えない。それなのに何を忘れろってんだよ」

「私の事を、だよ」

 少女は即答した。

「本当は私達が出会う事なんて無かった。自分達の意思で巡り合ったわけじゃない。他人や神様のせい。だから居なくなった奴の事なんて、死んだ馬鹿な女の事なんてさっさと忘れちゃえばいいんだよ」

「それが出来るならどれだけ楽だったろうな」

 高橋が呟く。しかしそんな事、彼には出来なかった。

「大事な奴を忘れられる程、俺はお気楽な性格してねぇよ。結構繊細なんだよ」

「そっか。そうやって思ってもらえてたなら良かったかも」

 笑いながら答える少女に高橋は悲しげな顔を見せた。

「そんな顔しないの。アンタはこれからも好きな様に生きていけばそれでいいんだから。何があっても悪いのは死んじゃった私で、アンタは何も悪くないんだから。いつも通り自分勝手に人生を楽しめばいいんだよ」

「死んだ奴に励まされてもなぁ。まあ少なくとも俺はお前の事を一生忘れる気はないし、一生引き摺って、その上で身勝手に生きてくよ」

「うん。それでこそアンタだよ」

 少女がそう言うと、部屋の様子が変わり、辺り一帯が白く変わっていった。

「そろそろ時間みたいね。久々に会えて楽しかったよ。それじゃあ、精々人生楽しんでね」

 言い終わると同時、彼女の姿も消えて無くなった。

「若くして死んだ奴に言われるとは思わなかったぜ。・・・あの日、何も出来なくてごめんな、ユキ」

 誰もいない白い空間で高橋がポツリと零した。

 

 

 目を覚ませばそこは先程の便利屋の部屋ではなく、ギャンブルの為に入った窓の無い部屋だった。

 傍らにはスマホのアラーム音が鳴り響き、自分の存在を主張していた。どうやら本格的に寝ていたらしい。

「ここじゃ連絡手段としては使えねぇが、こう言う時には役に立つな」

 いつバッテリーがなくなるかもわからない為、大切に使わねば。

「モバイルバッテリーでも有ればなぁ」

 そんな無い物ねだりをしながら高橋は携帯を上着のポケットへと仕舞った。

「残り時間は三十分。どうするかなぁ」

 そんな事を呟いたが、高橋は先程の夢の事が頭から離れなかった。

「・・・何で今更あいつの事を」

 何故このタイミングなのか、それが一番の疑問だった。

 忘れられない理由は分かりきっている。

(・・・俺はずっとあいつの事が好きなんだろうな)

 それが恋愛的意味なのか、人としてなのかは自分でも分かっていないが。

 ある日突然、二度と会う事が叶わなくなってしまった少女に対し、言ってやりたい事はもっと沢山あった。しかし、夢の中で幾ら言った所でそれが本物の彼女に伝わるわけではない。何故なら彼女はとっくに死んでいるのだから。そんな事は高橋自身よく分かっている。

 質問の答えははぐらかされてしまったがそれも当然だ。あれは夢の中の出来事で、彼女が何故死んだのか。それは今でも高橋は知らないのだから。

 しかしいつまでもその事に囚われるわけにもいかない。今はギャンブル中なのだから。

「もうそろそろ二時間が経つ。そうすりゃなるべく無駄無く動かなきゃ終わりだ。問題はこれからがどうなるか、どんなお題が出されるかだな」

 それから数分後、指定の時間が過ぎると扉に浮かんでいた文字が消えた。

「これでもう次の部屋に行っても良いんだよな?」

 恐る恐る扉を開けて次の部屋へ足を進めた。特に問題は無いようだ。

「何だこの部屋?」

 次の部屋に入った途端、高橋は眉を顰めた。しかしそれも当然だろう。なんせこの部屋には・・・。

「次の部屋への扉が無い」

 そう。部屋のどこを見ても今までのような扉が無いのだ。つまりはこれで最後という事だろうか?

「まあ時間も余裕は無いから有り難いと言えば有り難いが」

 呆気なく最後に辿り着き拍子抜けする高橋。

(でも可笑しいな。これが最後ならどうやってフランのいる部屋に行くんだ?)

 何処かに次の課題でも見つけられないかと部屋を見渡したらあっさりと見つかった。

「あ、あった」

 今しがた入ってきた扉を見たら課題が書かれていた。

『これで最後の課題です

 次の文章の(?)を全て埋めなさい。

 その後、この部屋からフランドール・スカーレットのいる部屋に行きなさい。

 

 フランドール・スカーレットが幽閉されていたのは(?)年。

 

 フランドール・スカーレットが住む屋敷の名は(?)。

 

 フランドール・スカーレットのスペルカード『禁忌「恋の(?)」』。

 

 フランドール・スカーレットはその部屋にいます。

 頭を使って考えて下さい』

 

「・・・」

 なんだか頭が痛くなってきた。

(まず一問目。フランが幽閉されていたのは確か495年。次が紅魔館。・・・でも俺フランのスペルなんて知らないんだよなぁ)

 しかしある程度答えがわかれば先の展開も予測は出来た。

「この答えがヒントになるってのはあからさまだ。となればあとはそれが何を意味するか・・・」

 他に気になる部分は無いか丁寧に見ていく。すると答えがわかった。

「なんだ。単純な謎解きじゃねぇか」

 そう言って高橋はその部屋を出て次なる目的地へと向かった。

 

 

─── 愛しいお姫様(フランドール・スカーレット)に会う為に ───

 

 

 丁度その頃、フランはベッドに仰向けで寝転がっていた。

「・・・暇すぎて死んじゃう」

 我慢の限界が近づいていた。

「二度とギャンブルでこのスペル使わないんだから!」

 自分のスペルカードに憤慨しながらもフランにしては大人しく待っていた。

 

 そしてその直後、

 

「待たせたな。フラン」

 

 待ち人(高橋 愛乃)が現れた。

「時間ギリギリ間に合ったな」

 右手を見て残り時間を確認すると『00:10:47』とあった。

「ヨシノ!」

「退屈してたろ?遅くなって悪かったな」

「本当。レディを待たせるなんて紳士失格よ」

「それはキツイ一言だ。女を待たせるのはしないようにしてたんだがなぁ」

「でもよく最後まで出来たね」

「あぁ。最後の問題はちょっと困ったけどな。俺お前のスペルカード知らないし」

「教えた事ないもんね」

 最後の問題。それは(?)に当てはまる言葉を導き出した時に出てくる言葉を使えば良いのだ。一つ目は495、次は紅魔館、そして最後は迷路(高橋は答えを知らなかったが)。しかしそれだけでは足りない。『頭を使って』考えるのだ。

「あれは要はそれぞれの答えの頭文字を使えって事だよな?」

 それぞれの答えの頭文字を取ると『4コメ』となる。つまりは四つ目の部屋にフランがいる、という事だ。

「最後にしてはちょっと無理矢理な感じもしてたんだけどね」

「それより先にハッキリさせたい。このゲーム、俺の勝ちでいいんだよな?」

「うん。約束通り私に会いに来てくれたもの」

 もう一度右手を見てみると先程の残り時間を示すタイマーが消えていた。

 そして次の瞬間、辺りの空間が変わり、元のフランの部屋に戻っていた。

「あー、退屈だった」

 フランがベッドに倒れ伏しながら言った。

「ただ待ってるだけ、だもんな。フランからしてみれば」

 付き合いが短い高橋でもフランが気長に待ってられる性格でない事はすぐわかる。

「さて、それじゃあ勝った事だし、どんな願いを叶えてもらうとするかな」

「エッチなのはダメだよ」

「バーカ。俺はガキには興味ねぇよ」

「あー、嫌われたぁ」

 言い終わると互いに笑っていた。そして高橋は閃いた。

「それじゃあフラン。今度俺とデートしよう」

「あれ?ガキには興味無いんじゃなかったの?」

「フランはガキじゃなくて素敵なレディだろ?」

「まぁね。それでどこへ行くの?」

「それはフランに任せるよ。紅魔館から出たくないならそれでも良いし、どこか行きたい場所があるなら僭越ながらエスコートさせてもらうよ」

「特に思いつかないけど折角のデートだもん。外に遊びに行きたいわ」

「うーん、フランとで歩いて楽しめる事・・・。何かあったか?あっ」

 丁度良さそうなイベントを思い出した。

「フラン、今日から五日後、人里に行こう」

「人里に?何かあるの?」

「五日後、人里でギャンブル大会があるんだ。良かったらそれに一緒に出ないか?」

「良いの!?出たい出たい!あ、でもお姉様が文句言ってきそう」

「・・・後でレミリアにも話しておくよ」

「お願いね。私の自由がかかってるんだから」

「今はそんな話よりもっと楽しい話題を考えようぜ」

「うん」

 それからしばらくの間、二人は他愛もない会話を楽しんだ。

 

 

「んじゃ、また来るよ。次は多分五日後のデートかな。朝から行くから寝坊するなよ」

「毎日来てくれても良いんだよ?寝てたらヨシノが起こしてね」

「寝てるフランにキスでもしてやりゃ良いのか?」

「やる時はお姉様にバレないようにね」

「例え冗談でもこんな話を聞かれた時点で殺されそうだがな」

 無防備に寝ている妹を襲う男。うん。どう足掻いてもレミリアからの判決は死刑以外に無いだろう。

「兎に角、まずはレミリアと話してフランが出掛けられるようにしとくよ。だから大人しくしてろよ?」

「うん。約束する」

「じゃあまたな」

「またね〜」

 軽く挨拶を交わした後、高橋はフランの部屋を後にした。

「さて、お姉さんに許可貰ってくるか」

 紅魔館を出るのはもう少しかかりそうだ。




今回は少しばかり主人公の過去を掘り下げてみました。今後もちょこちょこ出てくると思いますので覚えてもらえるとありがたいです。
話を考えてると書きたい事が増えて新しく作ろうかなんて思ってしまいますね(そんな時間あるなら早く更新しろ)。
次回も楽しみにしていただけたら幸いです。

誤字脱字、ご意見ご感想等有ればコメントお願いします。
ではまた次回。


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19話・可愛い女の子とのデートの予定が確定した。

やっぱ他で色んな事やってると半年はあっという間に経っちゃうねぇ。
これ以上のつまらない言い訳は抜きで本編をどうぞ。


 フランと別れ、次に高橋はレミリアの部屋に訪れた。

「レミリア、いるか?」

 扉をノックして確認するが、中からの返事は無かった。

「いねぇのか?勝手に入る訳にもいかんしどうするか」

 流石にこのまま帰る訳にもいかない為、早々に途方に暮れる高橋。

「最悪咲夜でも見つけて聞くとするか」

 と考えていると廊下から都合良くレミリアが現れた。

「人の部屋の前で何をしているのかしら?」

「おう、レミリア。お前にちょっと用があってな。今いいか?」

「まあ入りなさいな。部屋の前で立ち話も無いでしょう」

 促され高橋はレミリアの部屋へと入った。

「それで?態々話って何かしら?」

 部屋の中の椅子に座るや否やレミリアが聞いた。

「ちょっとした頼みだよ。五日後、朝から一日フランを借りたい」

「人の妹を物扱いしないでもらえるかしら?理由は?」

「お前の素敵な妹さんとデートしたいから」

「揶揄ってるの?」

「これが本気なんだよ」

「はぁ。つまりはフランを外に出す許可を出せって言いたいのでしょう?素直にそう言えないのかしら?」

「これでも素直に言ってんだぜ?フランとデートしたいってのは事実だしな」

「ふーん。そんなにフランが良いんだ」

「自分が選ばれなかったからって拗ねるなよ。俺はお前の事も好きなんだぜ?」

「姉妹を相手に浮気だなんて大した根性ね」

「愛が届かねぇなぁ」

 不貞腐れた様子のレミリアに高橋が言うが簡単にあしらわれてしまった。

「もし仮に許可を出したとして」

 レミリアが言う。

「あの子が何か問題を起こしたら勿論貴方が責任を取ってくれるのよね?フランの彼氏さん?」

「お姉様公認とは嬉しいねぇ。ああ、その場合は連れ出した挙句に何も出来なかった俺の責任だ」

「大した自信ね」

「俺はフランが問題を起こさないって信じてるだけさ」

「あの子の何を見てそう思えるの?」

「フランは根は良い子だからな。それに根拠もある」

「根拠?」

「初めてフランと勝負した時に暴れないように言ってある。ここではギャンブルの結果は絶対なんだろ?」

「はぁ。上手くあの子を丸め込んだものね」

「フランが聞き分けのいい子だったってだけの話だろ」

 軽く笑って答える高橋。

「だったらまぁ大丈夫でしょう。良いわ、フランとのデートを許可してあげる」

「話のわかる上に優しいお姉様で良かったよ」

「あら、レディを見る目は有る様ね。そこに『とても美しい』と言う言葉があれば尚良かったのだけれど」

「才色兼備という言葉はレミリア様の為にある言葉です」

「正直なんだから。良いわ。改めてフランを連れて行くのを許してあげる」

 そんなやりとりをしていくうちにレミリアの機嫌が良くなったのか、遂にレミリアからの許可が正式におりた。

「話のわかる素敵で美しいお嬢様で良かったよ」

「その代わり、何か有れば貴方が全て責任を負うのよ?」

「わかってるよ。愛しい彼女の問題は俺の問題だ」

 そう言って高橋は席を立った。

「もう帰るの?」

「ああ。その前にフランへの報告とパチュリーさんに会ってくるけどな」

「パチェに?何故?」

 何も知らないレミリアが聞く。

「さっきパチュリーさんと勝負したんだ。その結果俺が勝ったから約束を守ってもらおうと思ってな。それと様子を見に行くって感じかな」

「パチェがギャンブルするなんてね。何で勝負したの?」

「俺の提案で100メートル走一本勝負」

「・・・よくやる気になったわね、パチェ」

 流石のレミリアも呆れ顔だった。

「そんなわけで一日中魔法のお勉強に付き合ってもらえる事になったんだよ」

「あら、貴方魔法が使えるの?」

「使うだけならな。これからの練習でどれだけ幅を増やせるかは知らんが」

「まあ精々頑張りなさいな。その方が私も面白いから」

「期待に添えるよう頑張るさ。それじゃあまた来るよ」

 そう言って高橋はレミリアの部屋を後にした。

 

 

──────────────────

 

 

「あ、見つけた!愛乃さん!」

 図書館に向かう途中、小悪魔に呼び止められた高橋。

「あれ?小悪魔?どうかしたか?」

「先程パチュリー様が目覚められまして、愛乃さんを呼んで来るように言われたんです」

「そうか。パチュリーさんの様子はどうだ?元気そうか?」

「ええ。起きたらいつも通りでしたよ」

 それなら良かったと一安心する高橋。これでもし彼女に何かあれば高橋としても寝覚めが悪い。

「それで?何で態々俺を呼んでるんだ?」

「そこまでは」

「まぁ行きゃわかるか」

 そして高橋はそれ以上考えるのをやめ、小悪魔と共にパチュリーの元へと向かった。

「それより、今後はパチュリー様相手に体力勝負はやめてくださいね」

「ご主人様が心配か?」

「当然です!」

「可愛い女の子からの頼みじゃ断れねぇな。わかったよ。今後は体力勝負は仕掛けねぇ」

「お願いしますね?」

 再度念を押された高橋。仕方がないとはいえ、そこまで信用はされてないようだ(全く信用されていないわけでも無いようだが)。

 そんな雑談を交わしながら進んでいると、遂に図書館へと辿り着いた。

「パチュリー様、愛乃さんを連れてきました」

「ありがとう。それじゃあ愛乃、さっきの続きを始めるわよ」

「それより動いて平気なんですか?」

「馬鹿にしないで。あれ位大した事無いわ」

 であれば倒れないでもらいたい。

「さっきの続きって言うと、魔法の扱い方ですよね」

「ええ。さっきは貴方に魔力がある事が分かったから後は扱い方だけ」

「・・・扱い方」

 高橋は再度繰り返す。これから本格的に魔法について学べると言う現実に胸が高鳴っていた。

「慣れれば簡単な物は細かく意識しなくても出来る様になるとは思うけど、まずは基礎からね。小悪魔、あれを持ってきて」

「はい」

 パチュリーが言うと小悪魔はその場を離れた。そしてすぐにある物を持って戻ってきた。

「バケツと水?」

 小悪魔が持って来たのは水がいっぱいに入れられたバケツと空のバケツだった。

「当面の目標はこのバケツの水を空のバケツに移す事。勿論自分の魔力を使ってね」

「つまりさっきみたいに紙を使わずにって事ですよね?」

「ええ。本来は魔法を使うなら魔法に関する術式を覚えないといけないわ。慣れてくれば簡単な物は無意識に出来るでしょうけど」

「如何にも魔法の勉強って感じがしてきたな」

「浮かれるより先に、魔法の術式について覚えなさい」

「それを覚えるのってどれくらい大変なんですか?」

「内容にもよるけど、新しい言語を学ぶ程度、とでも思ってなさい」

「言語を覚えてそれで更に計算式を組み立てろって話ですか?」

 高橋はパチュリーが曖昧にした部分を聞いた。

「組み立てるのは高度なレベルの魔法を使う際だけよ。今の貴方には必要無いから覚えなくて良いわ」

 成程、まだ何も知らない高橋が手を出した所で確かに身に付かないだろう。

「納得したなら続けるわよ。先ずはこの本を貸してあげるから順に覚えなさい」

 そう言ってパチュリーが手近にあった一冊の本を高橋に差し出した。

「これは?」

「それは魔法の基礎が詰め込まれた本よ。その本の通りに勉強すれば基本的な魔法の事は理解出来るわ」

「読んでも理解出来なければ?」

「その時は諦めなさい」

「うわー、キツイ一言」

 そんな事を言いながらも高橋は本のページを捲っていった。当たり前だが、基本的な事すら知らない今の高橋には全く理解出来ない。

「つまりは言語を覚えて更にこの本の内容も覚えなきゃいけないと。覚える事だらけだな」

「退屈凌ぎにはいいでしょう?」

 皮肉めいた声でパチュリーが言う。

「まぁ、勉強ってのは別に嫌いじゃないので構いませんがね」

「あらそう。なら早速お勉強の時間よ」

 少しむすっとした顔でパチュリーが言ってきた。こんな顔もするのかと高橋は内心で驚いていた。

 

 

 それから数時間後。

「あー、疲れたぁ」

 パチュリー先生の講義の元、無事に魔法の術式の基礎を覚えた高橋が言った。

「貴方、覚えるのが早いのね。ひどいと数日掛けても覚えられないって人もいるのに」

「これでも一応記憶力には自信があるのでね」

 とは言え、右も左も分からない事を頭に叩き込んだ為、高橋もかなり疲弊していた。

「でもこれで最低限、魔法を覚えるのに必要な知識は覚えられたって事でいいんですよね?」

「ええ。これで術式を覚えて実践して身につけば、貴方もそれなりに魔法が使えるわよ」

 それを覚えるのが大変なのだが、と思う高橋だった。

「まあ色々出来る事が増えたら自分なりに色々試してるみる事ね」

「その前に言われた課題が出来る様になってからですけどね」

「そうね。なら勉強の成果を見せてもらおうかしら。さっき教えた通りにやってみて」

 言われると同時に高橋は床に並べられたバケツの前に立ち、頭の中に覚えた術式を思い描く。

「 ─── ッ」

 そしてバケツに向かって手の翳し、更に意識を集中させる。その数秒後、バケツの中の半分程の水が塊となって浮き上がった。そしてそのままゆっくりと隣のバケツへと向かっていく。空のバケツの中へとゆっくり運び、無事にゴールを決めた。

「・・・ふぅ」

 一度息を吐く高橋。

(一度で出来るのはバケツの半分程度の水か。あと移動速度も遅い。実用的になるまでは先が長いな)

 結果を振り返り、自分なりに判断する。こればかりは練習を繰り返していくしか無いだろう。

「初めてにしては及第点ね。今の扱う感覚を忘れずに毎日繰り返しなさい。次第にもっと出来る様になる筈よ」

 一連の動きを見ていたパチュリーが言う。一先ずは赤点判定されなかった事に安堵するべきかと思う高橋だった。

「あと、練習するのは自由だけど一度に無理して魔力を使い過ぎると魔力が尽きて疲労で動けなくなるわよ」

(まぁ、今の貴方の魔力ならそうそうならないでしょうけれど)

 後半の部分は伝えずに内心に留めたパチュリー。もし仮に最後まで言えば確実に無理をしてでも練習をするだろう。教えている立場からすればそんな馬鹿な理由で倒れられるのは勘弁願いたい。

「言われなくても無理はしませんよ。たった一回で軽く疲れが溜まっていく感覚がしてますから」

 慣れない事をした所為か、全身に軽い疲労感が出ていた。

「取り敢えず感覚は掴めたかしら?目標としてはさっきも言ったけどバケツの水全部を一度に運べる様になる事ね」

「手厳しいですねぇ」

「それで?結構時間も経ったけどこの辺でお開きかしら?」

「まさか。折角一日中魔法について教えてもらえるのにこれだけじゃ物足りないですよ」

 先程の勝負で勝った為、無条件で魔法の修行が出来る。それを無駄にしてなるものか。

「夜通しやるつもり?」

「今夜は寝かせませんよ?」

「馬鹿なのかしら?」

 軽く流される高橋。

「流石に二十四時間丸々付き合ってもらう気はありませんよ。無理にやっても効率が悪いだけですから」

 何事もやる時は一定のペースで続けるのが大事なのだ。しかし、基礎知識を頭に入れるのは大事なので勉強して損はない。

「と言っても今の貴方がやれる事も多くないでしょう。すぐに魔力量を増やしたり出来るわけでもないし」

 魔力量が少なければ魔法の練習も出来る幅が決まってしまう。

「魔力量を増やしていくにはどうしたらいいんですか?」

「毎日魔力が尽きるまで魔法を使いなさい。そしてゆっくり休めば日に日に総量は増えていくわよ」

 まるで筋トレだ。と内心で思う高橋だった。

「ならさっき水を運んだのが上手くいかなかったのも魔力量が少ないからですか?もっと魔力があったら安定させられるとか」

「考えとしては間違ってないけど貴方の場合は単に慣れていないから、つまり経験不足ね。その内徐々に安定してくるでしょうから安心しなさい」

「なら、コツコツやっていきますよ。コツコツと」

 そう言って高橋は再度水を操るトレーニングに挑んだ。

 

 

 そして時は経ち、夜を迎えようとしている紅魔館で遂に高橋の魔力が尽きた。

「・・・疲れた」

「数時間ずっとやれば当然よ」

 図書館の床に倒れ込む高橋を見てパチュリーが言う。

(まぁ、一度も休まずに数時間続けられるだけでも充分なのだけれどね)

 心の中で思ったが、それは決して口に出さなかった。

「それで、もうすぐ夜なのだけれどまだ続けるのかしら?」

「魔力が尽きた上にこれだけ疲れてると何を聞いても頭に入りませんよ」

 これ以上何かを続けても集中出来る気がしない。

「流石にこれ以上は迷惑でしょうからもう帰ります」

「待ちなさい」

 言って高橋は図書館を後にしようとした時、パチュリーに呼び止められた。

「どうかしましたか?」

「貴方に次のステップを教えてあげようと思ってね」

「でも俺、まだ言われた課題完璧に出来てませんよ?」

「今日一日の結果を見てたらそう遠くない内にクリアするでしょうから、今のうちに教えておくのよ。嫌ならいいけど」

「ぜひお願いします」

 願ってもない展開だ。

「次は水を立体的に操れる様になりなさい」

「立体的に?」

「ええ。ただ操るだけなら基本的に円形になるけど、そこに操作を組み込むと四角や星形なんて物も出来るのよ」

「面白そうですね」

「・・・意外ね」

「何がです?」

「大抵の人は『そんなの覚えて何になるのか?』って聞くのよ」

 素直に興味を持つ高橋のリアクションはどうやら珍しいらしい。

「出来る事の幅が広がるのは良い事なのでは?」

 知らない事、出来ない事が少ない方が良いのは当然だ。

「それもそうね。やり方は単純。自分の作りたい形をイメージするだけ。と言ってもそもそもの水の操作が完璧に出来ていなければまともに形を作るのは無理でしょうけどね」

「つまり今の俺には無理だと」

「簡単に言えばそうね」

 パチュリーが少し笑って言った。

「・・・パチュリーさんの予想だと俺が出来る様になるのはいつだと思いますか?」

「今日と同じ程度の練習を毎日やったとしたら三、四日くらいかしらね」

 思っていたより早い予想に正直高橋は驚いた。

「わかりました。次に来た時には立体的に操れる様にしておきますよ」

「えらく自信があるのね」

「魔法の練習は楽しいので。楽しいと思えている時の人間の精神は最強なんですよ」

「ふふっ。面白い事言うじゃない」

 パチュリーが小さく笑い、つられて高橋も小さく笑う。

「それじゃあ、今度こそ帰ります。次もどうにか魔理沙から本を取り返してからね」

「ええ。期待しているわ」

 お互いに言い合って、高橋が図書館から去って行った。

「パチュリー様、楽しそうですね」

「人に何かを教えるのが新鮮なだけよ」

(それを楽しんでるって言うと思うんですけどねぇ)

 パチュリーの顔を見てそう思う小悪魔だった。

 

 

 図書館から出た高橋はそのままフランの部屋へと来ていた。レミリアからの許可が出た事をフランに伝える為だ。

「フラン、今いいか?」

『はーい。良いよー』

 ノックした後、中からそう聞こえた為、高橋は扉を開けた。

「ヨシノ、どうだった?」

 部屋に入るや否やフランが聞いた。

「安心しろ。素敵なお姉さんがデートを認めてくれたよ」

「やったー!」

「その代わり、はしゃぎ過ぎて暴れ回ったりするなよ?」

「勿論!」

 本当に大丈夫か心配ではあるが、何とかなるだろう。

「それじゃ、五日後の朝に迎えに来るから楽しみに待ってろよ」

「うん」

「そんじゃ、名残惜しいが帰るよ」

「もう帰っちゃうの?」

「ああ、霊夢が俺の帰りを待ってるからな」

「浮気?」

 高橋の発言にフランが訝しげな目で見てきた。

「馬鹿。霊夢に夜には帰るって言っただけだよ。どんな相手でも女との約束は俺は守る派なんでね」

「うわーん。浮気された〜」

「破局なら五日後のデートも取り消しだな」

「ヨシノは浮気なんてしないってフランは信じてるから」

 素敵な掌返しだ。だが可愛いので許そう。

「気をつけて帰ってね」

「おう。また五日後な」

 そう言って高橋はフランの部屋を後にした。

 

 

──────────────────

 

 

「ただいまー」

 博麗神社に戻った高橋が中に入りながら言う。

「あらお帰り。遅かったわね」

「寂しかったか?」

「馬鹿なの?」

 お茶を飲みながら言ってくる霊夢。

「それで何か収穫はあったの?」

「まぁそれなりにな。五日後は朝から忙しいよ」

「あー、例のギャンブル大会ね」

「ああ。あとその日はフランとデートだ」

「また彼女変えたの?」

「俺にとっては美少女全員が彼女だよ」

「都合が良いわね。その内誰かに刺されるんじゃないの?」

 物騒な事を言う巫女さんだ。

「もしそうなったらそれは満足させてやれなかった俺のせいだ。だったら刺されても仕方ないだろ」

「精々夜道には気をつける事ね」

「他の子ばかり見てるせいで霊夢が刺しにくるのか?」

「本当にやってあげましょうか?」

「こっわ」

 流石に刺されたくはないので今後の行動には注意しよう。

「あー、あと少しだけだが魔法が使えるようになった」

「魔法?」

「ああ。紅魔館でパチュリーさんに教わってな。簡単に言えばこんな事が出来る」

 言って高橋は霊夢が手にしていた湯呑みに手を翳した。するとゆっくりと湯呑みの中のお茶が宙に浮きはじめた。

「今の所はまだこれくらいしか出来ないけどな」

 言い終わると同時に浮いていたお茶が湯呑みの中に戻っていった。

「パチュリーが教えてたにしては地味ね」

「まぁ基礎からだからな。いきなり大技なんて教えてもらえないさ」

「そんなものかしら?はいお茶」

「そんなもんさ。ありがとう。俺がいない間にまた何かあったか?」

「何も。参拝客が来ないところまでいつも通りよ」

「悲しい事言うなよ」

 反応に困る事この上ない発言だ。後でまた賽銭箱に入れておこう。

「あんたもさっさとお風呂入って寝なさいよ」

「飯ある?」

「もう食べ終わっちゃったわよ」

「くそ、晩飯には間に合わすつもりだったが失敗した」

「自分で勝手に作って食べなさい。私はもう寝るから」

「霊夢ちゃんの手料理が食べたいなー」

「気色悪い事言うんじゃないわよ。もしかしてあんた料理出来ないの?」

「出来るわい」

 実は自炊はそこそこ好きな高橋だった。

「なら明日何か作ってみなさいよ。美味しかったら認めてあげる」

「あ、結局晩飯は作ってくれないのね」

「・・・はぁ。作ってあげるからその間にお風呂入ってきなさい」

「なんだかんだで優しい霊夢ちゃんが大好き」

「本当、馬鹿じゃないの?」

 呆れ顔のまま台所へ歩いていく霊夢を見つつ、高橋は風呂へと向かうのだった。

 

 

 翌日、朝から高橋は悩んでいた。

「さて、一体何を作れば霊夢が満足するのか」

 幸い作るのは夕飯のみなのでまだ時間はあるが何を作るかが全く決まっていなかった。和、洋、中。どれを作るべきか。

「そもそもこの家にまともに食材がねぇな」

 となれば先ずは食材調達から始めよう。途中で何を作るか考えればいいだろう。

「霊夢、ちょっと食材買いに出掛けてくる。晩飯楽しみにしとけよ」

「ならついでに瑛琳の所で胃薬貰ってきてね」

 どうやらカケラも期待されていないらしい。これはやはり霊夢に美味いと言わせなければ気が済まない。

 そのやる気を胸に高橋は人里へと食糧調達に向かうのだった。




こっちの更新もしない。もう片方の作品も更新しない。この馬鹿作者は一体何やってんだよ。
そもそも今回ギャンブルしてねぇや。
いやぁ、流石にサボりすぎだなぁ(毎回言ってる気がするけど)。
まあのんびりと書いていきますんで良ければ次も読んでやってください。

誤字脱字、ご意見ご感想等有ればコメントお願いします。
ではまた次回。


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20話・手料理を振る舞う為に食材調達をしよう。

まず初めに、更新頻度がめちゃくちゃ遅くて大変申し訳ございませんでした。全然ネタが纏まりませんでした。
今までの話をもし忘れてると言う方がおられましたら大変お手数ではありますがもう一度読み返していただけたらと思います。
では本編どうぞ。


 成り行きから霊夢に手料理を振る舞う為、人里に買い出しに来ていた高橋だったが、未だに何を作るか決まっていなかった。

(何を作るかなぁ。霊夢の奴は好き嫌い無いって言ってたしその辺は気にしなくて良いんだろうが)

 金銭面は問題無いのだが、かと言ってあれこれ買って料理を作っても「食材が良いだけ」と言われる可能性もある。それでは意味が無いのだ。

(選択肢がありすぎるってのも悩みもんだな)

 昔母親に言われた「何でも良いが一番困る」という言葉の意味をこの時初めて理解した高橋だった。

「せめて和、洋、中のどれかにするかくらいは早く決めないとな」

 基本的に和食が多そうなイメージがある霊夢に対して中華や洋食で攻めるのも邪道な気がする。となれば和食で攻めるのがベストだろうか?

「まぁ、店眺めて思いついたもん作るか」

 そう言って高橋は人里の店を眺めて回る事にした。何か一つに拘る必要はないのだ。ようは霊夢に美味いと言わせればいいのだから。

「やっぱ肉料理は一つくらい作りたいよな。次いでにサラダでも作って、と」

「おい高橋」

「ん?」

 背後から声をかけられ、振り返るとそこには慧音がいた。

「あら先生。どうかしたか?」

「何、お前の姿が見えたからな。調査の方はどうなったかと思ったのさ」

「成程。それなら最近、黒幕さんとやらから素敵なラブレターを貰ったよ」

「ラブレター?」

「ああ。今度人里でやるギャンブル大会に勝てだとさ」

「成程、あの件か。しかし手紙を貰ったという事は黒幕の顔は見れたのか?」

「いや、いつの間にか博麗神社に置かれてたらしい。霊夢も気がつかなかったって言ってる」

「黒幕についてはまだまだ謎のままか」

 慧音も頭を働かせるが、続きを語る事は無かった。答えを出すには情報が無さすぎるのだろう。

「そういえば、銀太を倒したというのは本当か?」

「ん?ああ、アイツあれからどうしてる?」

「里中を歩いて回って謝って今では真面目に働いているよ」

「そいつは結構なこった」

 やはり現在の幻想郷のルールは絶対遵守されるようだ。

「それでお前はこれからどうするんだ?」

「ん?まあやっぱまずはギャンブル大会次第だなそれまではいつも通り過ごすさ」

「つまりは当日までは暇という事なんだな?」

「今日はダメだぜ。愛する霊夢の為に飯作らなきゃいけないから」

「安心しろ。本格的に要があるのは明日だ。お前の出番さ」

「・・・何が言いたい?」

 周りくどい言い方に少し高橋はイラっとした。

「簡単な話だよ。お前に依頼したいんだ」

「依頼?」

 慧音の急は言い分に繰り返して言う高橋。

「ああ。簡単に言えば寺子屋で一日だけ子供達に勉強を教えてやってほしい」

「何で俺が」

 当然ながら高橋は教員免許など持っていないし、子供に勉強を教えた経験も無い。

「何、別に小難しい話をしてくれと言っているんじゃない。普段のお前の話をしてくれれば良いんだ」

「俺の話?」

「ああ。どうやらお前の存在を子供達も知ったようでどんな人なのかと聞かれてな。それで子供達がお前と会ってみたいと言ってきたんだ」

「俺はアイドルか何かかよ」

 自分で言って高橋は苦笑した。似合ってないにも程がある。

「やるのは良いが、先生は代わりに何してくれるんだ?俺がタダで引き受けるなんて思ってねぇだろ?」

「勿論。その分の金は払うよ」

「いや、金はいい。他で支払ってもらいたい」

「私の体が目的なのか?男というのはそんな事ばかりしか考えていないのか」

「バーカ。そんなんじゃねぇっての」

「ふふっ。わかってるさ。それで、何が良いんだ?」

「報酬は後払いであんたの能力を教えてもらう。そして俺とギャンブルしてくれ」

「そんなので良いのか?」

「それが良いんだよ」

 高橋の能力を知らない慧音が不思議そうに聞いてきた。

「お前がそれで良いなら私は構わんが。では明日、頼んだぞ」

「おう。っと、その前に俺は何時頃行けば良いんだ?授業の事とか何も知らねぇし」

「明日の昼に寺子屋に来てくれたらそれで良い。場所はわかるだろ?」

「勿論」

 一度魔理沙と行っている為問題無く辿り着ける。

「そういう訳で、明日は頼んだよ」

「あいよ。確かに引き受けた」

 そしてそのまま慧音はその場を後にした。こうして明日の予定が決まった。だが、そうだとしても今晩のメニューが決まった訳ではない。

「・・・危うく飯の事忘れる所だった」

 その時ふと思いついた。

「丼物にするか」

 特に理由はないがそう閃いた。決まればあとは材料を買い集めるだけだ。

「カツ丼でも作るか。普段アイツ肉食ってなさそうだし」

 何とも失礼な独り言を呟きながら必要な食材を買って行く。

 

 だがそこで問題が起きた。

 

「何で何処行っても肉が売り切れなんだよ」

 そう。何故かは知らないが、行く店全て肉類が品切れなのだ。

「どうすんだ?これじゃカツ丼作れねぇ」

 いくら料理スキルが高かろうが食材が無いのであれば話にならない。そして一度これを作ろうと決めた高橋には他のメニューを考える気はサラサラ無かった。

「どうも誰かが買い占めてるらしいがそんな事をする馬鹿野郎は何処の何奴だ」

 腹立たし気に言うがそれに答える人物はいなかった。

「誰かに言って肉分けてもらうしかねぇか」

 そしてそのまま高橋はある場所へと向かった。

 

 

「オヤジさん、いるか?」

「いらっしゃい。おや、誰かと思ったらお前さんか。今日は一人か?」

「まぁな。それよりオヤジさんに頼みが有るんだが」

「おう、どうした?」

「少しで良いから肉を分けてくれないか?買い物に来たんだが何処の店も肉だけ品切れときやがった」

「あー、お前さんもか。悪いが無理だな。俺も肉が無いんだ」

「・・・マジかよ」

 当てが外れて高橋は頭を抱えた。

「全く参ったもんだ。これじゃ商売にならねぇ」

「確かに飯屋に一部とは言え食材が無いってのは致命的だわな。しかもメインの肉が」

「なぁ兄ちゃん、犯人探し頼めねぇか?もし今後もこんな事が続いたら洒落にならねぇ」

「依頼ってんなら聞くけど報酬は?」

「犯人が見つかったら一日タダで好きなだけ食わせてやる」

「その話乗った」

 二つ返事で了承する高橋。労働後のタダ飯ほど美味い物もない。

「しかし問題は何処のどいつがこんな馬鹿をやりやがったかだよな。もう一度そこら辺の店行って証言でも集めるかな」

「それならある程度わかってるぞ。何か刀を二本持った女の子らしい。名前とかは知らんが」

「そんな特徴があればすぐわかりそうだな。知ってそうな奴にでも聞いてみるか」

 そうと決まればまずはその女の子の情報集めから始めるべきか。

「折角来たんだ。肉はねぇが何か食って行けよ」

「ならうどんで」

「あいよ」

 そして暫くしてから差し出されたうどんを平らげて高橋は店を後にした。

「さて、お探しの女の子とやらは何処の誰だろうか」

 やはりまずはそのこの事を知ってそうな人に聞いて回るしかないだろう。

 その人物に会う為に高橋は歩き出した。

 

 

「先生、いるか?」

 高橋が来たのは慧音のいる寺子屋だった。

「おや?さっきぶりだな。どうかしたのか?」

「いや、ちっとばっかトラブルが起きてな。先生は今人里で起きてる事件って知ってるか?」

「人里から肉類が一斉に買い上げられたという話か?」

「ああ。それの犯人探しと言うか解決を依頼されちまってな。先生は刀を二本持った女の子って知らねぇか?」

「思い当たる人物ならいるな。会いに行くのか?」

「まぁな。そうしないと色々と困るんでな」

 適当に返す高橋。

「で、どこに行ったら会える?」

「確実なのは冥界だろうな」

「冥界?」

 聞き馴染みの無い言葉に再度聞き返す。

「冥界は罪の無いものが成仏や転生をするまでの間を幽霊として過ごす世界だな」

「そんな場所に行けるのか?」

「冥界には結界があるんだがその結界に穴が空いているんだ。それで行き来は然程難しくない」

「成程」

 何にしろ行ける場所ではあるらしい。

「先生、一緒についてきてくれないか?流石に見知らぬ土地を一人では行きたくないんだが」

 それが冥界という場所なら尚更だ。

「生憎と私もそこまで暇ではないんでな。他の奴に頼んでくれ」

「あーあ、フラれた。でも忙しいなら仕方ない。そんじゃまた明日来ますよ。・・・誰に頼むかな」

 寺子屋を後にしてふと考え込む。限られた高橋の交友関係では頼れる人数にも限りがある。最悪相手が見つからなければ単身で乗り込む事も視野に入れなければならない。

「仕方ねぇ。魔理沙でも誘って行くとするか」

 人里からだとそれなりに距離があるが仕方がない。

「私がどうかしたか?」

 背後から声をかけられ、振り返ってみるとそこにはお目当ての魔理沙がいた。

「おー魔理沙、いい所に来た。今から一緒に冥界に行ってくれねぇか?」

「冥界?何でそんな所に行きたがるんだ?」

「何か人里中の肉を冥界にいる刀を二本持った女の子に買い占められたらしくてな。それについて問題解決を依頼されたんだが、俺は冥界について何も知らんし何処にあるかも知らないんだ」

「成程。この魔理沙様に冥界までの道案内をしろって事か」

「話が早い魔理沙ちゃん大好き」

「ったく。調子の良い奴だよ。ほら、連れて行ってやるから乗りな」

 そうして二人は冥界へと向かった。

 

 

「ほら、此処が冥界だ」

「何つうか、不気味な所だな」

 初めて来た冥界を見渡しながら高橋が言った。

 辺り一体は暗く、僅かに肌寒さを感じる。これは気温のせいと言うよりこの場の雰囲気がそう感じさせるのだろう。

「で、さっき言った女の子ってのはどこにいるんだ?俺は名前も知らんが」

「それも知らずに会いに行こうとしてたのかよ。そいつの名前は魂魄 妖夢。白玉楼に住んでる庭師だ」

「白玉楼?」

 またしても聞きなれない名前に聞き返す高橋。

「この冥界にあるデカい屋敷さ。そこに住む主人の名前は西行寺 幽々子。亡霊だ」

「本当に幻想郷は何でもありだな」

 神様に妖怪、亡霊まで品揃えが豊富だ。

 話しながら歩いているとやがて長い階段に辿り着き、その階段を登って行く。

「その西行寺 幽々子さんとやらはこの冥界で何してんだ?」

「ここにいる幽霊達の管理だとさ。詳しくは知らん」

 言われてみれば先程から「いかにも幽霊」の様な白いのが辺りを飛び回っていた。

 やがて階段を登り終えると和風の屋敷が見えた。

「ここか?」

「ああ。ここが白玉楼だ」

「それで、肝心の探してる女の子ってのはどこにいるんだ?」

「それを探す為に来たんだろ?入ろうぜ」

 言われてしまえばそこまでの為、高橋は何も言えず、入っていく魔理沙の後ろに続いた。

「止まりなさい!」

「お、お探しの女が出てきたぜ」

 敷地内に入るや否や、高橋達に立ちはだかる様に一人の女の子が現れた。

(銀色の髪に側には白い霊魂みたいなのが浮いてんな。それよりも、刀が二本。オヤジさんが言ってたのはこの子の事か。この前の宴会の時には確かいなかったな)

「あれ、魔理沙?何の用?と言うか後ろの人は?」

「はじめまして。八雲 紫に言われて外の世界から幻想郷に来ました高橋 愛乃と言います」

「は、はじめまして。この白玉楼で剣術指南役兼庭師をしてます。魂魄 妖夢です」

 妖夢と名乗った少女は軽く一礼すると再度聞いた。

「それで二人は今日は何の用でここに?」

「君に会いに来た」

「私にですか?」

「お前さん、人里の肉類を一人で買い占めたらしいじゃないか。その訳を聞かせてもらおうと思ってな。あと出来たら一部分けてもらいたい」

「そ、その件でしたか。申し訳ありません。今後この様な事はしませんのでお許し下さい」

 丁寧に頭を下げて謝罪する妖夢。

「いや、別にだからってお前さんをどうこうする気は無いんだけどよ。俺は目的を知るのと肉を少し分けてもらえたらそれでいい」

「・・・実はここの主人である幽々子様が『お腹いっぱいお肉を食べたい』と仰いまして。それで里で売ってるお肉を買えるだけ買いました」

「人里中の肉って一人で食い切れねぇだろうに」

「いや、あいつならやりかねねぇ」

 何処か納得がいったように魔理沙が一人頷く。

「なんかよく分からんが、その幽々子様とやらに会わせてもらってもいいか?人様の家に来たのに主人に挨拶も無しってのも失礼だしな」

「でしたらこちらにどうぞ」

 妖夢に連れられて、高橋と魔理沙は屋敷の中へと入って行った。

 

 

「幽々子様、お客様が幽々子様にお会いしたいそうです」

妖夢が障子越しに語りかける。

「お通しして〜」

 返事が聞こえて障子を開くとテーブルいっぱいに並べられた料理を頬張る一人の人物がいた。

 桜色の髪に白と水色を基調としたフリルの様なものが付いた着物を着ていた。彼女がこの白玉楼の主人、西行寺 幽々子だ。

「食べながらでごめんなさいね〜」

 言い終わると同時に彼女はテーブルの料理を全て平げ終えていた。

「いえ、此方こそ急にお邪魔してすみません。はじめまして。高橋 愛乃って言います」

「知ってるわ。私はここ、白玉楼の主人、西行寺 幽々子よ。貴方は紫に言われて幻想郷に来たのよね?」

「はい。今回の異変解決を頼まれてます。ですが今回白玉楼(ここ)に来たのは別件ですけどね」

「あらあら、何かしら?」

 大方予想はついているであろう幽々子が聞いてきた。

「そこの庭師が人里にある店全部でありったけの肉を買い込んだ所為で商売にならねぇって聞いたんで犯人探しをしてたんですよ」

「あらあら〜。妖夢ったら悪い子ね〜」

「聞く所によればそれを指示したのはその主人らしいんですが?」

「そんな迷惑な指示をするなんて信じられないわね〜」

 尚も食べながら幽々子が答える。

「いやあんただろ」

 思わず高橋はツッコんでいた。

「今回限りだから安心して」

「なら良いんですけどね。あと出来たら肉を少し分けてもらえると助かるんですが?」

「迷惑かけちゃったみたいだし、良いわよ」

「ありがとうございます」

 案外あっさりと話がついた。

「その代わり、色々貴方のお話も聞かせて」

「構いませんよ」

「ならその間に妖夢は差し上げる準備をしておいて」

「わかりました」

 言って妖夢がその場を後にした。

「妖夢が戻って来る間、お喋りしましょうか」

「では先ずは何から話しましょうか?」

「そうね〜。じゃあ自己紹介からお願いしようかしら」

「高橋 愛乃。ギャンブルが好きで外の世界にいた時は便利屋をしていました。さっきも言った通り、八雲 紫に依頼されて異変解決の為に幻想郷に来ました」

「異変解決の進捗は?」

「残念ながらまだまだですね。まだ犯人の影も掴めてませんよ」

「あらあら、ならこれからに期待ね」

「なので今は幻想郷での交友関係を増やしてる所ですね。知り合いもいないんじゃいざって時に何も出来ないので」

 自嘲気味に笑う高橋。言っている間に妖夢が戻ってきた。

「ご用意が出来ました」

 言いながら妖夢は風呂敷に包まれたそれをテーブルに置いた。

「まだ手をつける前の物を用意致しましたのでどうぞお納め下さい」

「どうも。では有り難く」

「その前に」

 差し出された風呂敷に手を伸ばそうとした時、その動きを止めるかの様に幽々子が言った。

「どうかしましたか?」

「まだ貴方の事についてのお話が終わってないわ」

「他に聞きたい事でも?」

「貴方、賭け事が好きって聞いたのだけれど本当かしら?」

「本当ですよ。元いた世界でも賭け事ばかりしてました」

「かなり強いって話だけどそれも本当?」

「まぁ人並みにはって所ですかね」

「人並みな人を態々紫が選ぶかしら?」

「さあ?気の迷いってのが有ったんじゃないですか?」

「あらあら、紫ったら酷い言われ様ね」

「まぁ頼まれたからには仕事はちゃんとしますけどね」

「ふふ。素晴らしい事ね。そこで一つ提案なのだけれど」

「何でしょう?」

「今から私と賭けをしないかしら?」

「構いませんよ」

 ギャンブル好きの高橋からしてみれば断る理由も無い。

「なら早速やりましょう」

「何をするんです?」

「これよ。最近ハマってるの」

 そう言って幽々子は近くの棚にあった物を手に取った。

「花札ですか」

「ええ。ルールはわかるかしら?」

「はい。何度かやった事はありますから」

「なら問題はないわね」

「こいこいで良いかしら?」

「構いませんよ」

 聞きながら花札の束をシャッフルする幽々子。

 花札は一種類につき四枚、十二種類の計四十八枚を使うゲームだ。親と子がそれぞれ自分の番に手札から一枚を場に出し、同じ種類の札があればその札を二枚一組として自分の物に出来る。次に山札から一枚を捲って同じ様に繰り返す。これを交互に繰り返して役を作っていくゲームである。

「お願いします」

「はい、一枚選んで」

 束から二枚を裏向きに置いて言ってくる。先攻後攻を決めるのだ。

「ならこっちで」

 片方の札を捲る。描かれていたのは紅葉。十月の札だ。

「なら私はこっちね」

 残った方を幽々子が捲る。出てきたのは桜。三月の札だった。つまり先攻は幽々子となった。

「持ち点二十点の争奪戦にしましょう。すぐに終わったらつまらないもの」

「わかりました。七点以上は得点二倍で良いんですよね?」

「ええ」

 幽々子が答えながら花札をシャッフルし、札を配っていく。

(・・・これは、勝ち目無さ過ぎだろ)

 配られた手札と場の札を見て内心で高橋は思わず溜息をついた。なんせ高橋に配られたのは大して役にもならないカス札ばかりだったからだ。

(これからデカい役を作るのはなかなかに厳しい。となればカス札だけを集めて役にでもするか?)

 カス札は十枚集めれば一点の役になるのだ。

 場に出ているのは八枚。

 

・松の二十点札

・菊の十点札

・松の五点札

・萩の十点札

・アヤメのカス札

・梅の十点札

・梅の五点札

・梅のカス札

 

(・・・どう攻めるべきか)

 そんな事を考える高橋に対して幽々子が笑って思考を止めさせる。

「ごめんなさいね。手四(てし)よ」

 言って幽々子が自分の手札を見せる。するとそこには三月を表す桜の札が四枚あった。

「は?」

 思わずそんな声を上げる高橋。手四とは最初に配られた手札に同じ月の札が四枚有ればその時点で六点の役として成立する役だ。

「なかなかに珍しい事を」

 あっさりと初戦が終わってしまった。

 

 幽々子 残り二十六点

 

 高橋  残り十四点

 

 そして続く第二ゲーム。

「次こそは」

 意気込む高橋だったが、これも呆気なく終わる事になった。

「ごめんなさい。くっつきよ」

「は?」

 またしても間抜けな声をあげる高橋。くっつきとは配られた手札が同じ月の札が二枚ずつ四組揃っていれば六点の役として成立する役だ。

 たった二ゲームで高橋は何も出来ずに十二点を失った。そこで考えた。

(もしかしてイカサマか?)

 真っ先にそう考えたが幽々子の動作に不審な点は無い。二度も立て続けに見逃す程高橋も間抜けではない。

(となれば能力か?)

 どんな能力を持っているのかは知らないが、それが何かを突き止めないと疑問も消えないだろう。

「幽々子さん、一つ聞いても良いですか?」

「私の能力は『死を操る程度の能力』よ」

 高橋が聞く前に幽々子が答えた。

「・・・何故そんな事を?」

「あら?そう聞かれると思っていたのだけれど。違ったかしら?」

 何も間違っていない。

「二度も続けて珍しい手が出てまず最初に疑うのは私がイカサマをしていたかどうか。でもそれらしい動きが見れらない。そうなれば何か能力を使っているのかも知れない。どこか違った?」

 これも何も間違いはない。

「『死を操る程度の能力』というのは?」

「言葉の通りよ。相手の命を奪う事が出来るの。あとは死霊を操る事も出来るわ。滅多にする事は無いから安心して」

「それは良かった」

 適当に返した高橋だが、内心ではそれどころではなかった。

(この一瞬で全て読まれてる。しかもこの雰囲気、紫と初めて会った時と似てやがる)

 たった二ゲームで戦況を固めた運。そして相手の思考を読んで先回り出来る程の洞察力。そしてこの場を支配するかの様なオーラ。

 

 この瞬間、西行寺 幽々子が高橋 愛乃よりも格上だと高橋本人が痛感した。

(・・・これは不味いな)

 自分自身で相手が格上だと知る。学ぶ。痛感する。これは勝負事において致命的と言っていい。何故ならそれは自分自身に『お前では勝てない』と言っているのと変わらないからだ。

 自分で自分の可能性、勝ち目を否定する奴に勝てる道理も、勝つ資格もない。

 可能性だけで言うならやり続けたらいつかは勝てるのかもしれない。十回に一回か百回に一回かはわからないが、いつかは高橋に勝ちが転がってくるだろう。

 だがそんな偶然の勝ちに価値は無い。自分の運と実力で勝ち上がらなければギャンブラーとしての価値は上がらない。

「さ、続きをしましょうか」

 言って札を配る幽々子を見て内心で焦りを感じる高橋であった。




前回の投稿から今回の投稿で10か月くらい空いてて「流石にやらかした」と思うのと同時に「そういや過去に丸々一年空いた事あったなぁ」と思い返して今更かと思う自分もいたりしました。反省はしてます。
作中の時間経過が遅すぎるけどこれをいきなり変えたらそれもそれでバランスが悪くなりそうって言うのが最近の悩みだったりしますね。
あと今回の本編の最後の部分、一部とある曲の歌詞から連想してたりします。もしわかったらコメントなどしていただけたら幸いです。

誤字脱字、ご意見ご感想等有ればコメントお願いします。
ではまた次回。


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