オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』 (namaZ)
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英雄譚

 アインズ・ウール・ゴウンの名の下に、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、ドワーフの国は安寧と繁栄を約束された。

 まだ情報が少なく、竜王国女王であるドラウディロン・オーリウクルス「黒鱗の竜王(ブラックスケイル・ドラゴンロード)」の力を警戒してはいるが、竜王国は元々後のない国、切っ掛けさえあればアインズ・ウール・ゴウンの属国に出来るだろう。

 そして、アインズ・ウール・ゴウンギルド長モモンガが最も警戒するスレイン法国。プレイヤーの痕跡が最も多く、その力の全貌が未だに不明であり、プレイヤーと敵対する危険性がある起爆剤。

 他にも様々なプレイヤーの痕跡、伝説、竜種の存在はあるが、表向きは争いはなく、反感と恨みを買わない様に計画を進めてきた。

 すべては――――――アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に刻むために。

 

 

 モモンガは素は下請けのサラリーマン。その感性と思考は人間に近く、人のためのより良い世界を創るのかもしれない。別世界の神々(プレイヤー)は降って湧いた力と信じられないアイテムと設定通りに優秀なNPC。圧倒的に格下のゲームバランス最悪の世界は、条件さえそろえば望めば何でも可能だ。

 そう、この世界はプレイヤーと残されたアイテムと竜さえどうにかすれば、敵対しなければ、妄想に描いた自分だけの自分のための国が実現できる。

 そうすればよかったのだ。唯の人間が神の力を振るっても碌なことにはなりはしない。

 モモンガは確かに慎重に人間(弱者)の目線で"もしも"を常に考え、誰も欠ける事無く安全を第一に行動してきた。最高の頭脳と設定されたNPCを出し抜ける頭脳(黄金)は抑えた。誰も裏切らない絶対の忠義がある。最高の頭脳とモモンガしか持ちえぬ知識もある。それらすべてを無視しても余りある力がある。

 『知』『忠』『力』。

 それが狂わせた。

 唯の人間だった鈴木悟を狂わせた。

 異形種の精神になったせいもあるが、それ以上に矮小の身に過ぎたモノがいけなかった。

 現実であるがゲームである。

 ゲームのようで現実である。

 鈴木悟として何の力もない唯の人間としてこの世界に来ていれば、苦労もある。だが、人の身に相応しいそれ相応の幸せを手に入れられたかもしれないのに――――――

 

 現実的に無駄でしかない世界征服を実行してしまった。する力を持ってしまっていた。本人にそのつもりがなくともことを起こしてしまった。

 

 この世界がどれだけユグドラシルのルールに縛られようが、全く異なる異世界なのだ。

 故に、英雄が立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぜ……なにがあった」

 

 

 モモンガは肉体上あり得ない眩暈を覚えた。冒険者モモンとして人々を安心させるため街を歩いている時にその連絡は唐突に訪れた。伝言(メッセージ)で動揺を隠せない僕を窘め、的確に報告しろと落ち着かせる。だがその報告は、モモンガの余裕を奪うのに十分すぎた。

 

 

『デミウルゴス様が何者かに殺されました』

 

 

 冒険者の仕事を中断し、ナザリック第十層、玉座の間への緊急召集をかけた。ギルド外で活動中の僕全てが計画を中断し至高の御方の前に跪く。

 

 

「……デミウルゴスが殺された」

 

 

 ――――――ッ!!

 

 

 この異常事態を何人が察しただろうか。あのデミウルゴスが、何も悟られずに殺された。

 

 

「直ちに調査隊を編成致します。全階層の警戒レベルの引き上げも行いますがよろしいでしょうか?」

 

「嗚呼、編成はアルべドに任せるがデミウルゴスを倒した程の相手がまだ潜んでいるかもしれん。調査隊を率いる守護者にはワールドアイテムの所有を許可する」

 

「それですともし奪われた際のリスクが……」

 

「私が許可すると言ったのだ。二言はない」

 

「も、申し訳ありませんアインズ様」

 

 

 アルベドに任命されたアウラ率いる調査隊がデミウルゴスの殺された現場のあたりを捜索するも、すでに敵の影はなく戦場になった牧場で羊が全て居なくなっているのが確認できた。そして、肝心のデミウルゴスの死体を回収し玉座に運び込ませた。

 

 

(よかった。遺体はあったのか、いくら蘇生できるからって遺体までなかったら……)

 

 

 アインズは怒りを抑え命令を下す。

 

 

「ペストーニャ、パンドラが蘇生基金の準備をしている間に傷口の修復を頼む」

 

「かしこまりました、わん」

 

(よし。シャルティアと同じなら誰に殺されたか忘れている可能性が高いけど、牧場の事を一番熟知しているデミウルゴスさえ蘇れば、戦闘の跡と照らし合わせてどう倒されたか検証できるかもしれない)

 

 

 対策し、新たな脅威に警戒しなければと意気込む中、蘇生は行われた。

 

 

「うむ。シャルティアの時は体が構築されたが、肉体が残っている場合は溶け込むのか」

 

 

 蘇ったデミウルゴスをどう窘めようか考えていると、異変に気付いた。

 

 

「ん?蘇生は終わったはずだ。何故デミウルゴスは目を覚まさない」

 

「シャルティアと同じく寝ているのかもしれません。なんと不敬な」

 

 

 アインズは構わないと呟くが、何故か違和感がぬぐえない。違和感の正体を確かめるべくデミウルゴスの体を揺する。反応しないその肉体はまるで死体のようで――――――恐怖を感じたアインズは玉座のシステム確認でデミウルゴスの名前を探した。どの名前も白く表記されている。その中でデミウルゴスの名前だけが――――――黒かった。

 

 

「これはどういうことだ!!何故ッ蘇らない!!システムは問題なく機能したはずだ!!」

 

 

 ユグドラシルなら問題なく機能するシステム。現実となり色々面倒なことが増えたが、ユグドラシルとは根本のところでは変わりない。

 だが、彼――――――アインズ・ウール・ゴウン。否、モモンガは、失念している。ここは異世界で、ユグドラシルではあり得ない事象があることを。

 そこから先は混乱を極めた。当然の如くデミウルゴスの抜けた穴はデカすぎる。その頭脳は必要不可欠で、同クラスの頭脳を持つアルベドとパンドラでもデミウルゴスの抜けた穴を埋めるのは難しい。何より、仲間とともに創り上げた宝物を失うのが怖い。

 

 

(クソッ計画を白紙に戻すべきか?このまま進めても敵の正体も何も分かっていない。デミウルゴスが負けたんじゃ階層守護者でも安心できないぞ。クソックソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)

 

「何処のどいつだァ!!アインズ・ウール・ゴウンをコケにしやがってッ俺たちの掛け替えのない宝物を奪っておきながらその正体も曝さないだと……必ず、必ずだァ……俺にィィアインズ・ウール・ゴウンの名を持って後悔させてやる。死が決して逃げ道ではないと教え込んでやる!!」

 

 

 感情の波が抑えられず、怒りが沸騰と冷却を繰り返す。

 アインズは気付かない。どこまで狂っても自分の本質は唯の人間だということに。我儘で自己中で人の顔色を窺うが結局は自分さえ良ければそれでいい。大切な宝物を見知らぬ誰かに壊されたんだ。怒りもするし恨みもする。人によっては殺意も当然懐くし、手足が出るのも納得できる。

 だがアインズは当然の如く悪徳をなせる。これは現実で、NPCは生きている。ユグドラシルと似ているが違う異世界。そのことを理性で理解している。だが、アインズは何処まで行っても本人の自覚無しに、ゲームであるかのように行動している。

 そう――――――何処まで行ってもユグドラシルの延長線上でしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローブル聖王国。

 王国の南西に位置する小国。国土は王国の半分程。アベリオン丘陵の亜人等を警戒し国土を覆う巨大な城壁を築いている。聖王国東部には国土を上回るアベリオン丘陵とエイヴァーシャー大森林があるため、地図上では近い位置にある法国との交易は不可能。

 故に、他国と交流を持たず一国として鎖国を貫くことができた。

 二百年前、十三英雄と大陸を脅かした魔神達の戦争にも関与しなかった。

 五百年前、突如として出現し大陸を制覇したが、互いの強欲さのあまり仲間割れを起こし相争って死に絶えたとされる八欲王と呼ばれる存在。治めはしたが、大陸の端っこにある国に誰も興味を示さなかった。

 六百年前、この世界に降臨したとされる六柱の神々、六大神。人間を守護する神として降臨したが、人類種の国家として最も栄えていたローブル聖王国よりも他種族に滅ぼされかけている人間たちを救った。

 そう、ローブル聖王国は人類最古の都市国家。その歴史は千年を超え、生まれ持った血縁でその道が決まる。 血の尊さで決まる腐敗を齎す制度が、血で血を洗う革命で完全実力国家として生まれ変わったのが八年前。これまでと同じではダメだ。一国で閉じて終わるのは停滞だ。国が栄えるには土地が、力が、統率力が必要だ。

 そして、ローブル聖王国は一人の漢を頂点に生まれ変わった。時代はまさに黄金時代。人間国家で最も栄え、千年以上蓄えてきた叡智が解き放たれた。そこには、プレイヤーの一切が関与していないこの世界独自の技術で、人間としての努力の熱量が他国家とは比べる余地もなく燃え盛っていた。

 新たな支配者は僅か二年足らずで軍事国家として体制を整えた。基本的に軍部が国の実権を握り、軍部はそれぞれ部隊目的の分かれた十二部隊によって構成されている。そして、六年の歳月をかけ諜報員をそれぞれの国家に忍ばせ、ローブル聖王国のためになる技術を掻き集め国力を伸ばし続けた。邪魔する国は何処にもなく、スレイン法国さえ六年前から交流を持ち始めてきたローブル聖王国を脅威とは見ていなかった。ローブル聖王国は常に亜人、異形種と戦いその領域を守り続けてきた。スレイン法国としてはローブル聖王国に求めるものはなく、そのまま頑張ってくれと応援したいほどだ。

 ローブル聖王国もスレイン法国とは敵対する意思はなく、亜人種を撃退し、人類の領域を着々と広げていた。全ては無辜の民が平穏に暮らせる国にするために。

 

 民を、部下を、国を大切に思う英雄は、悪魔に捕まった同志たちを救うべく少人数精鋭で――――――物語は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語は数時間前に遡る。

 計画の中核を担うデミウルゴスは、趣味兼至高の御方の命令を遂行するため羊達の定期監査を行っている。ここは牧場、デミウルゴスの信頼における部下が管理している資源調達場。ナザリック地下大墳墓ほどの防衛機能はないが、それでもこの世界のレベルを鑑みれば何も問題のない逃げ場も潜入も不可能な鉄壁の要塞と化していた。牧場内は様々な種族が混ざり合い、悪魔が考え得る悪徳非道の限りを詰め込んだ地獄へと変わっていた。正気な者など一人もなく皆が皆、狂ってくるってクルッテ頭が馬鹿になっている。

 デミウルゴスはナザリックに属する同胞以外を愚かな生物と断ずる。生きる価値など無いだろう。その存在の一切を至高の御方に捧げよ。それでこそ生きる価値がある。

 

 

「おや」

 

 

 ニヤリと、デミウルゴスは一人の若者に近づく。その若者は、この環境で未だ瞳に理性を保ち、首魁と思われるデミウルゴスを見つめていた。悪魔の性と仕事としての観察が始まる。

 

 

「これはこれは、まだ頭が真面な方が御出でとは……辛くはないんですか?悲しくはないんですか?理不尽だと喚き散らさないんですか?個体識別番号1344。ここには希望などない。いえ、むしろ幸せを感じなさい。我々の役に立つという栄誉と存在意義を与えたのですから」

 

 

 この男が運び込まれて二週間。体中を蹂躙され、家畜以下の扱いをされ続け、ゴブリンや亜人種と交わった回数も二ケタを超え、皮を剥がされた回数などもう本人も数えてなどいないだろう。それでもなお、その瞳は光輝いていた。衰弱し凌辱されきった肉体とは裏腹に、精神だけは死んでなかった。どうやら自分はまだまだ創造主であるウルベルト様の足元にも及ばないと再確認でき、嬉しくもあった。

 自分はまだまだウルベルト様に及ばない未熟者だ。だが、悪魔として創造された身として、二週間もの時間をかけ堕ちていない人間は見逃せない。

 更なる苦しみを与えるにはどうすればいい。同族を糞尿と混ぜ合わせた餌は与えた。目の前で生きたまま解体させる同胞を見せつけ、同じ方法で解体させた。違う種族とまぐわわせ、逆に組み敷かれ犯されさせもした。恐怖公の眷属が時間をかけ捕食していく死なないボーダーラインを見極める実験もした。他にも他にも――――――なのに、瞳は死んでいない。無理矢理朦朧とする意識を覚醒させ、近づいたデミウルゴスを睨みつける反抗心もある。

 

 

「……もしや私に反抗すれば殺してくれるとでも?むしろ逆、俄然いじめがいがありそうだ。一日のノルマを君だけ増やしましょう。肉体を使った苦痛の実験も積極的に君に割り振りましょう。自らの手で女子供赤子さえ凌辱させましょう。狂った叫びを二十四時間提供しましょう。それでもなお正気を保てるなら……ここから出してあげますよ」

 

「……」

 

 

 男の瞼が僅かに反応した。勿論出すつもりはない。希望を与え叩き落とす。なんと悪魔らしいことか。

 

 

「……ァ」

 

「おお、嬉しいと、そうしてくれと言う事ですか?ハッキリと述べなさい」

 

「しね」

 

 

 吐かれた唾はデミウルゴスに掛かることなく地面のシミに消える。眼鏡を中指で押し上げる。僅かに零す溜息は冷めきっていた。

 

 

「何故そこまで強情に?打開策などなにもないのに。『言いなさい』」

 

 

 抵抗手段のない相手を容赦なく従わせる言霊は、男から完全な自由を剥奪した。

 

 

「……ぁの御方、なら…………必ずお前を滅ぼす」

 

 

 笑いが込み上げてくるのを喉で押さえる。

 

 

「『死ぬのが怖くないと?』」

 

「あの、おかぁた……役に立てないことが……死ぬほど屈辱だ」

 

 

 込み上げる感情を涙に変え、男はなお睨みつける。

 ほうっと素直に感心する。ここまでされてなお尽くせる忠義がこの漢にはあるのだ。

 

 

「その気概、人間である君に何処まで持たせられるか楽しみだよ。定期監査の楽しみが増えたね」

 

 

 そろそろ別の仕事に戻ろうと踵を返す瞬間、それは来た。

 一本の伝言(メッセージ)。ここを警備するlevel60以上の悪魔からの報告が届いた。

 

 

「人間が一直線に此方に近づいてきている?たった一人で」

 

 

 目視によれば推定level40の男が一人で突っ込んでくるらしい。罠?それにしてはlevel40一人でどうにか出来るものではない。この世界で人間でlevel40は極めて異例だ。是非捕らえて羊の一匹にしてしまった方がナザリックのためになる。

 

 

「デスナイトを十体連れて行きなさい。それと魔将も一人つけます。生きて捕らえなさい」

 

『御意に』

 

 

 いい報告ができそうだ。それに、個体識別番号1344の話も気になる。無理矢理しゃべらすよりニューロニストに情報を引き出させた方が確実だ。そうと決まれば、伝言(メッセージ)を飛ばそうとすると――――――

 

 

――――――ッ!!

 

 

「なッ、結界!?転移も妨害されている。これは、不味い」 

 

 

 混乱する結界内の僕に指示を飛ばそうとした刹那、魔将が牧場の壁を突き破り転がり込んできた。

 デミウルゴスはすぐさま臨戦態勢をとる。

 デミウルゴスは元々純粋な戦闘タイプでも魔法詠唱者でもない。この状況は非常に厳しい。牧場内にいた僕がデミウルゴスを守るべく動く。

 そして、光が漏れる壁穴の向こうには――――――

 

 

「――――――そこまでだ」

 

 

 鳴り響いた軍靴の音は、まさしく鋼鉄が奏でる響きだった。

 ここに、ようやく奇跡(正義)が舞い降りる。

 牧場に刻み込まれた数々の惨状、痛み、そして絶望。それらあまねく負の因子を鎧袖一触で振り払う守護神。

 物語にはつきものの逆転劇が、ついに災禍の渦へとその姿を現したのだった。

 そう、もはや悲劇は幕を閉じた――――――涙の出番は二度とない。

 さあ括目せよ、いざ讃えん。その姿に人類は希望を見るがいい。

 ここから始まるのは、男の紡ぎ出す新たな英雄譚(サーガ)

 ただ姿を見せるだけで、戦場(舞台)を支配する主演が立つ。

 

 

 男は運命へと挑むもの――――――覇者の冠を担う器。

 そう、彼こそ――――――

 

 

「ァ……きてくれたぁ……あなた様はやはりきてくれた……ヴァルゼライド総統閣下ッ」

 

 

 その名を口にするだけで舌が痺れ、熱い気概が更に燃え上がる。

 高潔な強者を前にした時、人は自然と畏怖の念を抱く。

 個体識別番号1344、否、彼は誰に命じられるでもなく、傷ついた身体で這うように首を垂れる。

 デミウルゴス除いた悪魔もまた、一歩後ずさる。そうすることが真理だと、無意識の内に強く感じ取ったが為の行動だった。

 デミウルゴスは彼を前にして視線を逸らすなどという愚を起こさないし、できやしない。

 つまりは対等、発する圧力がつりあっている。通常なら信じ難いが、それも仕方ないことだろう。なぜなら彼はあらゆるものが輝いている、太陽のような男だから。

 目に宿る光の密度、胸に秘めた情熱の多寡、どれもが桁を外れている。定められた限界をいったい幾つ乗り越えれば、こんな領域に至れるのか…………悪魔を前に立つその姿が、命に代えても皆を守ると何より雄弁に語っていた。

 

 

「これほどとは……何者です?レベル差は絶対、君のlevelは高く見積もっても50に届くかどうかのはず、このプレッシャーは在り得ない。何より、お互いただでは済みそうにない。取引を持ち掛けたい」

 

 

 勿論嘘だ。この男は何があってもここで滅ぼす。胸に秘めた漆黒の忠義が全細胞を尖らせる。

 告げるが真実、それはあながち一面として間違っていないが、しかし。

 

 

「これだけの血を流し、命を貪り喰らった後でまだ吼えるか、悪魔ども。なるほど、余程死にたいと見える。忘れているなら今一度、思い出させてやろう」

 

 内に秘めた光熱を解き放たんと刃を二振り、引き抜いた。

 視線に籠もる決意の炎は、強く尊く眩しく熱く――――――

 

 

「――――――貴様らを殺すのが俺の役目だということを」

 

 

 威風堂々と言い放った瞬間、ヴァルゼライドは一陣の風となる。

 同時に、動き出す異形の悪魔――――――英雄譚が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続くのか?
久しぶりなので、準備運動で書いてみました。


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デミウルゴスvsヴァルゼライド

 悪魔の剛腕一振りで木っ端微塵に砕ける大地。抉れた岩盤を足場としその中を縦横無尽に駆ける異形な悪魔たちはヴァルゼライドに総攻撃を仕掛ける。この場の悪魔全てがlevelも種族としての仕様も性能も上回っている。その身体一つ一つが国を亡ぼすには十分な暴力が籠められていた。

 優れた種族に、むしろ小技など必要ないのだ。生まれ持った性能を、捻りなく、在るがままに発揮するだけで十分。そう創られた悪魔はそれだけで粉砕できる。

 飛来する異形な悪魔たちをヴァルゼライドは素早く躱した。

 デミウルゴスの予想通り彼のlevelは50相当しかない。

 レベル差から生じる破壊性は絶対、level10もかけ離れれば倒すのはほぼ不可能だ。ましてやその暴力を正面から防ぐのはヴァルゼライドでも不可能。

 そこからはある意味当然の攻防劇だろう。ヴァルゼライドがどれだけ優れていたとしても、彼は所詮唯の人間である。

 殺し合いにおいて多勢を決する要素は常に出力、速度、防御力、切り札。

 すなわち純然たる能力値(level)であり、大が小を圧倒するという子供でも分かる方程式が存在するのは、誰の目に見ても明らかだ。

 level30がlevel50に、level50がlevel80に、level80がlevel100に、ましてやlevel50がlevel100に勝つなど不可能なのだ。

 たとえ攻撃出来たとしても、それは無駄だ。立ち向かったけど死にましたでは、それこそ無駄死にと変わらない。

 弱者が強者に土を付ける展開は希少。RPGではまず起こらないし、現実でも起こらないから誰もが夢見憧れて、そして当然、十中八九叶わない。

 デミウルゴスは予見する、何も恐れる物など無い。デミウルゴス配下のシモベの中でも最高峰に位置し、いわば親衛隊に当たるlevel80台の傭兵モンスター魔将(イビルロード)七体。

 低位の悪魔を召喚する能力を持っており、ヴァルゼライドを殺せなくとも囮と手数は膨れ上がる。

 小手先の技術など絶対的な強さと数を前にすれば小賢しい足掻きだ。

 低位の悪魔以外、滅ぼすことが不可能な光などに恐れる悪魔はいない。

 その刃が戦闘の苛烈が増す度に鮮烈に輝こうが意味などない。

 故に――――――

 

 

「ふッ――――――」

 

 

 鋭い剣閃が奔るたびに轟音を響かせて弾き合う異形な悪魔の攻撃が悉く逸らされた。低位悪魔を捌きつつ魔将からは決して目を離さない。フェイントに騙されず、本命のみを切り捨てる。

 

 

「なんだこれは」

 

 

 攻撃、回避、防御に反撃――――――あらゆる場面において技量が生かされない個所など見当たらない。

 余すことなく、すべてが絶技。

 あらゆる不条理をねじ伏せる。

 巧い――――――戦闘技能と判断速度が常軌を逸して凄まじすぎる。練達などという評価さえヴァルゼライドには侮辱にしかならないだろう。

 技の極みがそこにあった。

 悪魔的に積み重ねた修練の量が一拳一動から伺える。

 あまりの完成度に、デミウルゴスは万死に値する不敬な思考がよぎった――――――もしや技量のみならたっち・みー様より――――――

 奥歯を噛み砕き、自害する己を抑える。ここで死ぬのはアインズ様の為にあらず、アインズ様の御意思で死なねばならない。

 

 

「――――――おい、舐めているのか貴様」

 

 

 その隙を見逃さずヴァルゼライドは不滅の刃を振り抜いた。取るに足らない一撃はデミウルゴスの左腕を両断した。

 

 

『デミウルゴス様ッ!!』

 

「貴様らもだ。主にかまける暇があるならその瞬間に一つでも多く攻撃を繰り出すくらいはしてみせろ」

 

 

 一撃一撃、魔将に傷が刻まれていく、魔将の自動治癒スキルがHPを回復させようと傷は瞬く間に修復を行うが、ヴァルゼライドはそれを覆す速度で確実に追い込んでいく。

 

 

「調子に乗るんじゃない人間風情がァ!!!『悪魔の諸相:豪魔の巨腕』」

 

 

 悪魔としての変身能力を腕にのみ発動し、巨大化させる。

 

 

「まだッ『悪魔の諸相:鋭利な断爪』」

 

 

 悪魔としての変身能力を爪にのみ発動し、爪が80cmまで伸びる。爪の一本一本が刃の如く鋭くヴァルゼライドを切り刻むためだけに構築される。

 

 

「まだまだッ『悪魔の諸相:八手の迅速』」

 

 

 悪魔としての変身能力を足にのみ発動し、高速での移動を可能とする。

 

 

「まだまだまだッ『悪魔の諸相:触腕の翼』」

 

 

 悪魔としての変身能力を翼にのみ発動し、巨大化させた翼から鋭利な羽を撃ち出す。

 デミウルゴスに感化された魔将もその苛烈さを増していく、この場の全員がヴァルゼライドを殺すために後さき考えずにその能力を解放する。

 天井知らずに上昇していく危険度。歪み、蹂躙されていく景色。

 故に終わり。

 勝ち目など最初っからあるはずもなく、もはや個人に向けて用いるような力では断じてなく、ヴァルゼライドの破滅のカウントダウンが無慈悲に近づいていく。

 

 

「――――――まだだッ」

 

 

 刹那、ヴァルゼライドから湧き上がる光の波動――――――意志力だけでlevelが上昇していく。

 どんな時でも諦めないという物語の主役じみた精神が、逆境において勇壮()に駆動し始める。

 英雄とは、闇を討ち取る光で在らねばならない。苦難とはすなわち試練、追い詰めれられるほどやがて雄々しくその魂を覚醒させていく。

 絶対的なlevel差?種族としての優位?そんなものはねじ伏せればいい。

 推定level50だった男が、意識一つでlevelの優位性を踏み越えていく。

 有り得ない現象に呆気にとられる悪魔たちを横目に、ヴァルゼライドは一度だけ、人としての尊厳を奪われ家畜となり壊れた者、築かれた屍の山を見た。

 瞑目し、哀悼を捧げること一瞬。

 

 

「……すまん。そして誓おう、お前達の死は無駄にはしない。人を、民を弄んだその報い、魂魄まで刻んでくれる」

 

 

 開眼した瞳の奥で揺れる炎。

 底冷えさせる嚇怒の念に燃えていた。

 

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――――――我らは煌めく流れ星」

 

 

 そして、紡がれゆくのは、最大惑星の光を人の身に降臨させる詠唱。

 ついに英雄の全霊が、魔を滅ぼさんと悪魔へ向け解放される。

 

 

「巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧政を我らは認めず是正しよう。勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる。

 百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼よ、我が手に炎を宿すがいい。大地を、宇宙を、混沌を――――――偉大な雷火で焼き尽くさん。

 聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡へと続くのだ。約束された繁栄を、新世界にて齎そう。」

 

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉なし。

 

 

超新星(Metalnova)――――――天霆の轟く地平に、闇はなく(G a m m a・r a y K e r a u n o s)

 

 

 それは、まさしく光の波濤。

 闇を引き裂く光の一閃は、虚空へと直線的な軌道を描いていく。

 進行方向にあるものは、何一つ残らない。

 絶対不可避。音速を凌駕して亜光速にまで達した爆光が、魔将一体を容赦なく飲み込んだ。

 

 

「オオオオオオオオオオオオォォォォ――――――ッッ!!!!」

 

 

 吐かれた意志に呼応して、光は更にその出力を上昇させる。

 一切合切容赦なく、光が闇を殲滅する。

 

 

「デミウルゴス様!!この光は、ただの光ではありません!!」

 

 

 単に敵を焼き払うのみの光ではない。あらゆる悪の存続を許さず、不義の一切を殲滅すべく連鎖崩壊を引き起こす爆裂光。

 すなわち、放射性分裂光(ガンマレイ)

 突き刺さった光はその一点から連鎖して、爆発的に拡大していく。放たれた後でもなお消えず、残留しながら敵の身を喰い散らかしていく。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!『悪魔の諸相:煉獄の衣』」

 

 

 悪魔としての変身能力を服にのみ発動し、炎で己を包み、爆裂光の耐性を底上げする。

 

 

「『地獄の炎』」

 

 

 自身の扱う炎を強化する。これで強化した炎は火属性無効化を超えてダメージを与えられる。

 

 

「『内臓が入し香炉』ッ!!『明けの明星』ッ!!!『ソドムの火と硫黄』ッ!!!!」

 

 

 第10位階魔法範囲攻撃×3。

 地獄の炎で強化された炎は自分諸共灰燼とかす闇の炎。

 発動した魔法を止めるのは無理であり、逃げ場などない炎は、デミウルゴスとヴァルゼライドを包み込む。

 炎の完全耐性を持つデミウルゴスでさえ致命傷を受ける魔法で確実に息の根を止める。

 だがまだ、それでは安心できない。

 『ジュデッカの凍結』――――――対象の時間を停止させる。

 デミウルゴスの切り札、ヴァルゼライドを殺す必殺の布陣が完成する。

 時間対策などしていないヴァルゼライドにはもはや何も考えることも、行動することも出来ない。

 完全に策に嵌った時点で詰みが確定していた。

 故にそれは英雄の敗北を意味し、もはやどうしようもなく――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ま、だだッ!!」

 

 

  時間停止を気合と根性で突破した英雄は、最後の一撃を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チトセ・朧・アマツはポーションを一気飲みし応急処置を施した傷口の具合を確かめる。男の目を憚らず上裸となり入念に傷口を調べる。

 

 

「まったく奴らめ、乙女の身体を傷者にするとは男としてどうかと思うぞ」

 

「そもそも人の形を模った悪魔が少なく性別が不明ではないかね。それと男の視線があるのだ、少しは恥じらいを持ちたまえ女神(アストレア)

 

「これはこれは審判者(ラダマンテュス)殿御忠告痛み入る。この場の男どもはどいつも私の裸を見る度胸などないよ。それともあれか?貴様はその眼鏡の奥でお、ラッキーこれ幸いと人の胸を視姦し今晩のおかずと洒落込むつもりなのか」

 

「いささか偏見と被害妄想が過ぎると思わないか女神(アストレア)。私はこれでも紳士として配慮は出来ているつもりだ。何より君に背を向け他の男性の視線に入らないよう壁役を買って出ている私にそれは不可能な行いだ。嗚呼それと、包帯が足りないなら使うと良い」

 

 

 此方を見もせず背中越しでありながら、気味が悪いほど綺麗に手元にパスをよこす。

 

 

「……おまえ絶対私のスリーサイズから黒子の数と位置を把握してるだろ」

 

「さあ、それはどうだろな。少なくとも怪我の具合とそれを踏まえたポーションの効き具合は把握しているつもりだ。包帯は足りたかな?」

 

 

 腰周りを巻いていた包帯がムカつくほどぴったり余りなく無くなったことに――――――殺意を覚える。

 審判者(ラダマンテュス)はそよ風のように涼しい顔でその殺気を受け流し、これからの展開を計算していた。まずは十中八九起こるかもしれない次の展開に備え審判者(ラダマンテュス)――――――ギルベルトが二歩横にずれる。すると。

 

 

「お~ね~え~さ~まあああああああああああ!!」

 

 

 彼が立っていた位置に暴走した副官補佐がお姉様以外何も見えていないとばかりに突撃してきた。チトセは抵抗なく受け入れよしよしと可愛がる。

 

 

「私はお邪魔の様だ、失礼する」

 

「またんか審判者(ラダマンテュス)、最後に聴かせろ。何処まで読んでいる?」

 

「何処まで……とは」

 

「文字通りだよ、正直私たちは奴らを甘く見ていた。英雄がいなければ全滅していたよ。あの人型の悪魔は別格の存在だった。何なのだアレは?常識的に考えてあんな生物が自然発生して複数いる時点でもうこの世界詰んでるぞ」

 

「だからこその総統閣下なのだ。あの御方なら一対一なら負けることは無いだろう。それに、相手は組織なのだ、組織には組織の柵と規律がある。決して無秩序ではないのだよ怪物たちは。だが、肝心の敵組織が未知数だ。戦力も思考も感性も人とはまるで異なる相手、此方の常識が通用するのか、そもそも太刀打ちできるのか不安が尽きないな、人型の悪魔――――――魔神と呼称する。魔神の存在がネックだ。悪魔だけとは限らない。必ず他にいる」

 

「それでも――――――」

 

「嗚呼、それでも――――――」

 

「「最後に勝つのは我々(私達)だ」」

 

 

 ギルベルトは部下の様子を見に行くのだろう。部下からの人望は無駄に厚い。

 

 

「お姉様、よくあんな奴と会話ができますわ。サヤは悪寒がとまりませんわッ」

 

「あ~よしよし確かにあいつは信用も信頼も出来ないムカつく馬鹿だが、アホではない。少なくとも先の答えで奴は多少なり勝機があると踏んでいる。私も同じ考えなのが腹が立つが……英雄閣下(ヴァルゼライド)がいなければそもそも勝負の領域に立てるのか不明な相手だ。それでも、英雄が駆けつけない戦場を想定するのが私の仕事だ」

 

「流石ですわお姉様、このサヤ・キリガクレ。より一層惚れ直しましたわ」

 

「はっはっは、そう煽てるな」

 

 

 ギルベルトの言う通り敵の情報が不足しているのもまた然り、今回の任務も総統閣下が反対を押し切って実行した穴だらけの作戦だった。マジックアイテムを使用し敵の魔法詠唱者の伝言(メッセージ)を結界で遮断し増援要請を阻止したが、そもそも結界内の敵戦力も不明のままだったのだ。気が気ではなかった。更に転移妨害も敵の会話からそんな機能があったのかと此方が驚いたくらいだ。

 帰ったらいい加減な説明書と一緒に渡してきた副官にお仕置きが必要だ。

 

 

「そもそも奴らは何者で何なのだ?二百年前の魔神の生き残り説は信憑性に欠ける、あれだけの化け物が二百年間大人しくしているとか想像出来ない」

 

「ならばスレイン法国の提唱する『百年の周期』説を推しますわ。新たな『ぷれいやー』と『従属神』が降臨されたと考えた方がまだましかと」

 

「神様が百年の周期でホイホイやって来るとか暇なのか神様(ぷれいやー)は?アイツに言わせれば、良い神様も悪い神様も等しく人の営みをめちゃくちゃにする災厄でしかないとか言いそうだな。いや、楽ができるとむしろ良い神様来てくれ推奨派か?スレイン法国といい他力本願が過ぎると己の足で立てなくなるぞ」

 

「その通りでございますわお姉様。何とも雄々しい前向きな考えにこのアヤ痺れてしまいます!それと、此方がお姉様が懸念されていた情報ですわ」

 

 

 今回の戦闘に参加したすべての戦闘員の報告書をまとめ、チトセ・朧・アマツが推奨する仮説を証明する材料とする。チトセの推奨する仮説は、奴ら(ぷれいやー)の強さの秘密についてだ。

 ギルベルトも今回の戦闘で確証を得たと思うが、生憎第七特務部隊・裁剣天秤(ライブラ)部隊長として、説得力のある証拠がなければ叡智宝瓶(アクエリアス)に提出は出来ない。

 

 

「……やはりか、道理で勝てないはずだ」

 

「はい、『ぷれいやー』が広めたとされる位階魔法、今では別のものとかした武技。便利なのは認めますが、それは向こうの土俵で戦うのと一緒のこと、(ぷれいやー)の定めたルールと制限がかけられた技術では絶対に人は勝てないのです」

 

「実力差があれば軽減、無力化アイテムなしでも攻撃が無力化される、弱者による逆襲を悉くなくし、同じ領域に立つには文字通り人間をやめるしかない。ハッそんな人間が一人二人といてたまるかと言ってやりたいが、本物がいるんじゃ黙るしかない。小手先の違う法則のルールで戦う私たちもある意味向こうからしたら反則かもしれんが、そこはどっちもこっちもだろ」

 

 

 そう、異世界のルールで戦うから負けるのだ。自分たちの世界のルールで戦わずしてどうする。

 常識的な法則をまず整理する。

 この世界は、戦えば戦うほど強くなる。身体の身体能力も身体としての構造も頑丈に強固になる。鍛えた筋肉とかそんなレベルではなく身体の全てがスイッチの切り替えの様に進化する。三メートルを超える巨漢も、幼児の方がスイッチの切り替えが格が上なら小指で負ける。

 強さには難易度があり、数値が高ければそれだけ格の違いがある。ここで注目するべきなのが格が離れれば離れる程攻撃が効きにくくなっていくことだ。

 位階魔法、第三位階まで習熟した魔法詠唱者は相当の熟練者、第六位階が個人の限界と見なされており、第七位階以上の使用に関しては既に英雄譚や神話において確認が取れるといったレベルの話である。スレイン法国さえ第八位階第九位階までは大掛かりな儀式で再現可能と思われる。問題は先ほどの格の話がここでも通用するということ、強力なモンスターや魔神クラスとなると位階が低い魔法は効きずらい、また無力化される。これは部下を魔法詠唱者として修業させ巻物(スクロール)に込められた第一位階魔法~第三位階魔法までの魔法が無力化されたのが大きい。同行させたスレイン法国の第五位階魔法の効果が効く奴とそうでない奴が現れたのも大きい。

 武技は、それぞれ人によって色々あるがこれは誰もが身に着けることが可能な努力の特殊能力。だがその分、格の違いで同じ武技でも威力に差が生じる。

 

 

「何処までがこの世界のルールで異世界のルールかは判別するのは不可能だが、ローブル聖王国にしか残っていないこの『()』は、格の差を抜きにして魔神でさえ有効、それでもやはり多数対一でようやくか……兵器としての性能がケタ違いだ」 

 

 

 逆襲劇など副官だけで十分なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外で活動する僕は表立っての活動は控えるように、それとこれが新しい構成よ。連絡用の僕を各セクションに配置し伝言(メッセージ)が一秒でも遅れたその瞬間全僕は作戦を中断しナザリックに帰還する命令が作戦行動中のリーダーに行き渡るわ。その際定期連絡が途絶えた所に帰還命令も繋がらなかった場合コキュートス率いるlevel80以上の僕とシャルティア、ルベドを向かわせる。なお戦闘斥候に魂喰らい(ソウルイーター)死の騎士(デスナイト)を三百体づつ送り付けるわ。おねえ、ニグレドは監視役とするわ。それと、普段見掛けない怪しい奴を見つけたら直ぐに報告なさい。……ここまでで質問はあるかしら」

 

 

 集められた僕の中でマーレが挙手する。

 

 

「そ、そんなに巻物(スクロール)消費して大丈夫なんですか?確かその原材料はデミウルゴスさんが調達していたはずですけど」

 

「いつまでもは無理よ。懸念通りこのペースで使い続ければあっという間に伝言(メッセージ)巻物(スクロール)は底をつく。それでも一月はこのまま様子見を決め込むわ」

 

「こちらから反撃しないんでありんすか?」

 

「そもそも判明もしていない相手に反撃ってどうするのよ。町や都市を無差別に破壊してもいいけどそれで見つからなかったらどうするの?敵はデミウルゴスを倒せる相手よ、逃走手段は当然あると考えるべきよ」

 

「それなら……待つんでありんすか?」

 

「そうよ、向こうから接触してくるのを待つわ。そうすれば、完全に迎撃体制の整った私たちの敵ではないわ。迎撃隊が出動した場合残りの各階層守護者はナザリックの守護よ」

 

 

 そして、アルベドは階層守護者とセバスチャン、パンドラにアイテムを手渡す。

 

 

「常時ワールドアイテムの所持をアインズ様が許可されたわ。この意味を考え、使命を全うしなさい」

 

 

 ――――――ッ!!

 

 

 ワールドアイテムを所持する、それはナザリックで何と恐れ多く身を歓喜で溺れさす麻薬なことか。至高の方々がその足を運び、幾つもの障害を乗り越え手に入れた究極のマジックアイテム。それを無制限での貸し出し、その意味するところは、必ず無事に生還しろと願いが込められたアインズの思い。

 嗚呼、慈悲深い至高の御方を悲しませてはならない。何があろうとアインズ様の使命を全うし、生きてナザリックの地を踏みしめるのだ。

 

 

「階層守護者統括アルベド、御身の為に」

 

「第1第2第3階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン、御身の為に」

 

「第5階層階層守護者コキュートス、御身の為に」

 

「第6階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ、御身の為に」

 

「同じく第6階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ、御身の為に」

 

「戦闘メイド隊プレアデス指揮者セバス・チャン、御身の為に」

 

 

 ――――――"第7階層守護者デミウルゴス、御身の為に"

 

 

『御身の為にッ!!』

 

 

 この場には居られないアインズ様に最上の敬意と忠義を、格階層守護者一同誓います。

 全員にとって、あの険悪なセバスでさえデミウルゴスは大切なナザリックの一員であり、頼りになる仲間であった。 

 これはナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンをコケにした愚か共にその行いを後悔させるだけではない――――――復讐だ。失うと思わなかった同胞の報復だ。

 デミウルゴスは、何も全うできずに死んだ。相手の情報を残すことも、アインズ様に任された牧場も、何もなせずに死んだ。それはナザリックに属するすべての者が共感できる感情――――――死より恐ろしい恐怖だ。

 悔しかったはずだ。

 苦しかったはずだ。

 怒ったはずだ。

 それらを上回る感情で、アインズ様のお役に立てない己に恐怖したはずだ。

 ならばやるしかないだろ、仲間が最悪な拷問で悲惨にも残酷に死んだのだ。

 

 

 これにて彼らは、覚醒の予兆を見せる。

 アインズ・ウール・ゴウンのNPCとしてではない。個人の感情で殺すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






4月から入社するので、投稿に遅れが生じると思いますが、よろしくお願いします。
やべーよ、ついに社会人だよ、本気出さなきゃ(光の奴隷


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英雄モモン

 アインズは、一人冒険者として宿に待機させといたナーベラルから冒険者ギルドから至急来て欲しいとの連絡を受けた。

 アインズ・ウール・ゴウンに敵対行動がとられた今、冒険者としての個人活動は危険かもしれないが、アインズ・ウール・ゴウン魔導国のアインズ・ウール・ゴウンに敵対してきたのだ。その対極に位置する冒険者モモンに接触してくるかもしれない。此方に繋がる情報の隠蔽も完璧だ。ナザリックに繋がる情報といったものも流出させるミスもしていない。

 アインズ・ウール・ゴウンと互角の英雄漆黒のモモンに接触しない理由はない。敵はナザリックの巻物(スクロール)の補給線を襲撃した。アインズは一切関与してないが、デミウルゴスがそう簡単に見つかるヘマはしていないはず、それを前提に考えると敵はそもそもどういう施設か知りもせずに襲撃したのでは?

 計画的にデミウルゴスをターゲットに襲撃した?いや、デミウルゴスが何をしていたのか報告書を読んだが、まさか羊がアレだとは夢にも思わなかった。そう考えれば仲間、親しい誰かを助けるために襲撃した?そもそもどうやって見つけ出した?対策に怠りはないはず、ナザリックと比べて劣るのは仕方ないが、それでも何かしらの干渉をしてくればデミウルゴスが気づかないはずがない。外から干渉されたのではなく、内から送信された?何かしらの未知の能力、生まれながらの異能(タレント)特殊技術(スキル)かもしれない。ユグドラシルにはなかったこの世界特有のマジックアイテムも考慮すると絞り込むのは難しい。

 今はなんとしても少しでも情報を手に入れるためにアインズ自ら危険を冒す必要がある。アルベドとパンドラは自分たちの業務とデミウルゴスと魔将の抜けた穴を埋めるのに手一杯、暫らくはこの状況が続くのに、自分だけ忙しい部下の手を割いてまで護衛を付けて引き籠るのは心苦しい。何より、こんな状況で自分だけ何もしないのは我慢ができない。そう、必ず――――――

 

 

「――――――必ず、この手で……」

 

 

 右拳を胸まで掲げ握りしめる。もう離さない、もう奪わせない、仲間たちと築き上げた大切なアインズ・ウール・ゴウンを守るんだと誓う。

 

 

 バンッ!!

 

 

 ビクッっと通りかかった目の前の酒屋から飛び出てきた男に何事かと、深みにはまった思考が現実に引き戻される。

 

 

「手持ちがねぇ癖にうちの酒場に何しにきやがったァ!!てめぇはもう出禁ってつったろッ!!?昼間っから酒たかりに来やがって、いいか!!てめぇに飲ませる酒も吸わす空気もうちにはねーんだよ!!酒なんて飲んでないで少しは働け!!この極潰しがァ!!」

 

 

 ア――――――コレハ、アレカ……こうなりたくないから仕事を頑張っていたとリアルの自分に言える底辺の底辺が其処にいた。

 

 

「そんなにいわなくてもいいだろ~……ヒィック……いいかおっさん、俺はな、道を踏み外そうとしている漢を親切心からただそうとしてんのよ」

 

「ほほ~、そいつはありがてぇ……くだんねぇ理由ならぶっ飛ばす」

 

「その振り下ろす寸前の拳下げてくれませんかね?今回は俺が正しい、ただ常識を失いかけているおっさんに物事の真理を教えるだけだ」

 

「……なんだよ?」

 

「飲み屋に飲みに来て何が悪い!!」

 

「金を払えってんだよ!!」

 

「いっっったぁ!?」

 

「アチャー」

 

 

 アインズはつい、その男の駄目っぷりに声が漏れてしまう。

 

 

「どうしましたモモンさ―――ん」

 

「なに何でもない、先をいそ」

 

「うぷ――――――あ、いかん。吐きそう吐きそう。殴られてマジきつい。つわけで、うぉーいそこの黒髪の姉ちゃんちょっと介抱してくんね?出来れば気兼ねなくエロいことさせてくれるとなお最高、ただなら君こそ僕の女神。オーイェーイ!!ひゃーっ、ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ――――――おえっぷ」

 

「黙れ、下等生物(ナメクジ)。身のほどをわきまえてから声をかけなさい。舌を引き抜きますよ?」

 

「うわー、ないわー。今どきツンデレとかないですわー。需要なさすぎマゾくんにしてろマゾくんに、あいつゼッテー喜ぶわ……ごめんお姉さん、ありすぎてアイツの守備範囲外だわ。だから俺におなしゃーす!!」

 

「なんなのですかこの下等生物(ウジムシ)は!?」

 

(これでさらに絡み酒とか、マジで駄人間じゃん!?)

 

「ンンッ……君、こんなご時世だからこそ強く生きなきゃならない。酒がいけないんじゃない、酔って苦しみを忘れようとするのもいいだろう。だが、希望を失ってはいけない」

 

「希望もなにも小煩いアイツがいない今がちゃんすなんですー、ほっといてー」

 

(こいつ……落ち着け、相手は酔っぱらいだ。一々気にするだけ無駄だ。けど、自分で言うのもアレだけど、英雄モモンを前にこの態度ってどうなの?酒の力って怖いな。よし、このまま引き下がるのはなんか癪だ)

 

「大切な人はいないのか?例えば彼女……いるはずないか、家族はいないのか?」

 

「あ、僕妻子いるんで」

 

 

 ――――――こいつううううううううううううううぅぅぅぅぅ!!!!??

 

 

「……そ、そうか。なら余計に頑張らないとな、おっと急ぎの用事があるんだったな。君の人生は君だけのものだ。後悔しないよう考えて行動するといい」

 

 

 ナーベラルを連れて冒険者ギルドに向かうアインズは、先ほどの衝撃に震えていた。

 

 

(うそぉ……アレでたっちさんと同じ妻子持ちの勝ち組だと?にわかに信じられん。顔なのか?それともああいうのが母性を擽るのか?……ペロロンチーノさん、母性ってなんですかね)

 

 

 尋ねる相手を根本的に間違っているアインズは、酔っ払いの存在を忘れ、そもそも母性ってなに?と悩むのであった。

 

 

(ええいらちが明かない、そうだよあんな酔っ払いどうでもいいじゃん。ん?ギルドが騒がしいな、緊急って何があったんだ)

 

 

冒険者ギルドに訪れた英雄モモンに、いつもの受付嬢が駆け寄ってくる。その様は、混乱してどうすればよいのか分からず体は震え、怯えている。

 

 

「も、モモン様。来ていただきあ、有難うございます。その、あの……」

 

「一旦落ち着いてください。何があったんです?」

 

 

呼吸も落ち着けずオロオロする彼女の肩に手をのせ冷静になるように促す。英雄モモンに触れられ恐怖が少し引っ込んだのか、深呼吸をし、起きた事実を述べるべく口を開いた。

 

 

「エ・ランテル冒険者組合長プルトン・アインザック様が……アインズ・ウール・ゴウンの手の者に殺されました」

 

 

――――――え?

 

 

「な、何かの間違いではないのか?この私がいるのだ、そう思わせる偽者かもしれない」

 

「詳しい話は実際に見て貰った方がいいかもしれません、此方です」

 

 

 いつもの階段を上り、モモンとして対面する応接室を越え、組合長室に踏み込む。

 

「……」

 

 

 アインザックは、アインズ・ウール・ゴウンとの約束である全く新しい冒険者や組合としての在り方に共感し協力を誓ってくれた。共に同じ夢を共有し実現するため今日も頑張っていたのだろう。羽ペンを握りしめたまま座席に深く座っている風格は今にも忙しく動き出しそうで――――――首が書類を汚しテーブルの上に転がっている。

 死ぬ瞬間まで気が付かなかったのか、その顔に苦悶の表情はなく、意識が気付く余地もなく死んだ事を物語っている。

 

 

「……アインザック」

 

 

 アインザックを殺した後に描いたのであろうか、死体の血で書かれた文字が天井に刻まれていた。

 

 

 "彼は私の気分を害した。我が名に恐怖を刻め、これが愚か者の姿だ

 

                    アインズ・ウール・ゴウン"

 

 

「人の仕業とは思えません……紅茶を酌みに少し離れている間に……こ、こうなってて……」

 

「分かった、もういい。少し身体を休めると良い、だが、その前に一つ訊ねたい」

 

「……はい、なんでしょうか?」

 

「このことを知る者はどれくらいいる?」

 

「それでしたら、もう遺体を調べた魔法組合と冒険者組合全員と話を盗み聞きしていた冒険者も含めますと、詳しい人数までは……」

 

「そうか、すまない。私はこの部屋を調べさせて貰う、暫らく誰も入れないでくれないか?」

 

「そのくらいでしたらお安い御用ですモモン様」

 

 

 扉を閉ざし、部屋から遠ざかるのを確認する。モモンはもう一度首が無残に斬られたアインザックの遺体を眺める。哀しみはない、ガセフを失ったときと同じく勿体無いと感じもする。だが、それ以上に――――――

 

 

(なんだ――――――この喪失感は。ああそうか、楽しかったんだ。ナザリックと違って俺の言葉に否定もするし突っ込みもしてくれる。この世界に来て、一番ギルメンみたいな関係が築けていたんだ)

 

 

 その関係は損得も種族も超え、夢へ目掛けて駆けていく対等な協力関係だったんだ。

 アインザックでは、蘇生をしても灰になってしまう。

 彼の死は、アインズ・ウール・ゴウンの盲点を突いた。

 

 

(デミウルゴスを失い、俺はナザリック以外見えてなかったんだ。アルベドもパンドラも基本ギルメンとナザリック以外どうでもいいと思っている。仲間を失ってそれ以外の注意が疎かになりすぎた。これは――――――まずいかもしれない)

 

 

 この殺人は、一晩でエ・ランテル全住民に爆弾を埋め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダメ男、穀潰し、無職、底辺のマダオと罵られた酔っ払いの男は、完璧に酔っ払いながらの千鳥足でふらふらと、でも確実に合流地点に向かっていた。

誰もが思うまい、アインザックを殺した無音殺人術(サイレントキリング)を実行した実力者が、こんな屑とは本当に誰もが思うまい。

限界が来たのか、道の端で虹を咲かせながら暗殺者ゼファー・コールレインはその場に座り込んだ。

 

 

「もう駄目死ぬ……きもちわるぅ。あたまが死ねる、のみすぎた」

 

 

 安っぽいラベルの空瓶を抱きかかえ、何の違和感もなく堕ちに落ちたスラム街の住人の仲間入りを果たしていた。そのままほって置くと寝なれたように路上で寝てしまう男の近くを、偶然通りかかった行きつけの店の店主が声をかけた。

 

 

「おいおい何してんだおまえは、治安が良くなったって言ってもマジでのたれ死んじまうぞ」

 

「あああぁああ~?おっちゃんじゃんどったの?」

 

「どったのじゃねーよ。はぁまあいい、店の一室貸してやるからそこで寝てろ」

 

「マジすかおっちゃ~んちょー助かるわ。借りは何倍にもして返しますとも!」

 

「調子いいことこきやがって、期待せずまっててやらあな」

 

 

 常連客でもあるツケを貯めまくっている男に、店主は肩を貸してやり背中を擦ってやる。よちよちと店に連れてこられた男は、移動中にさらに三度虹を咲かせたため楽にはなったが頭に響く頭痛が苦しめる。

 

 

「ほらよ水だ、これで少しはマシになったろ」

 

「いや助かったわ、いやマジこう見えて()()()()()()()()()()()()心身諸共疲れ切ってたわけよ」

 

「なるほどな、()りゃ()()()()()()。つうかそれなら日頃のツケを払え。払うよな。酒を馬鹿飲みできるなら払え」

 

「任せとけ、今回はたんまり貰ったから余裕でいける」

 

「その言葉、俺は信じていいんだよな、な?」

 

「そんな真顔で聞かんでも……」

 

 

 この店の良心で溜まりに溜まった約二ヶ月の無銭飲食が祟ってか、店主――――――アルバートのおっちゃんは肩を掴みながら財布具合をこれでもかと疑っていた。

 

 

「安心するがいい、明日の財力は滾っておるわッ!ふ、ちゃんとマネー払い(情報伝え)に来るから」

 

 

 本日は閉店。この街に潜むスパイと暗殺者は見事なほど、ナザリックの情報網には引っかからない。向こうも思うまい、こんな負の人間と負け犬ばかりの溜まり場が敵の重要拠点など。アルバートは店の一室である地下室にゼファーをつれていく。

 

 

「……もう猿芝居はいいぞゼファー、ここの安全は保証してやる」

 

「今一信じらんない、だって英雄閣下より化け物の大魔王の支配する都市っしょ?俺らの知らない手段で盗聴されてたら終わりだ」

 

「そうかもしれんが、これが深謀双児(うち)の限界だ。多少は信用してくれ」

 

「天下の隊長殿がそこまで言うんなら俺としては安心だけども」

 

 

第三諜報部隊・深謀双児(ジェミニ)の隊長。諜報機関を束ねる長。それが――――――アルバート・ロデオンの裏の顔。

 

 

「で、実際どうなのよ。何かつかんだわけ?」

 

「それがさっぱりでよ、ここまで用心深いとお手上げだ。敵の大将アインズ・ウール・ゴウン、女幹部もしく伴侶の可能性があるアルベド、伝説のドラゴンを従えるダークエルフの双子、同じく幹部クラスと思われる漆黒のモモンが討伐したほにょぺにょこ、そして、うちの大将がやっつけちまったヤルダバオト。敵の本拠地と思われる大墳墓を帝国の記録から発見できたが、あんなのがゴロゴロいるとなるとうちの大将がどれだけ強くても進軍を止めるよう進言した、てか忠告してやった。てめぇが無事でも周りが死ぬぞってな」

 

「そりゃいい、さいこーんな化け物どもなんてほっといてのんびり酒と女」

 

「おい聞こえてんだよたくよお、隊長と娘にチクるぞ」

 

「それだけは勘弁してくださいお願いします。何でもしますから」

 

 

どんだけ嫌なんだこいつはと、頭部を右手でかきため息が溢れる。

 

 

「そうそう、こっちの英雄に会ったぜ、なんつったか……も、モモン?」

 

「おうマジでか、近々接触してみる計画が上がってるからな、どうだった?お前の目から見てうちの大将と比べてよお」

 

「いやそれがさ……普通だった」

 

「普通だっただあ?」

 

「ああ普通、一般常識も感性も性格も真面目って部分以外普通だったんだよ。俺はいつから英雄相手にあんな舐めた態度とれるようになったんだろうな」

 

「一般市民に近い英雄ってことか?クリスが、酒や女を嗜む超社交性があるって考えればいいのか?」

 

「うわ何それ、いつから英雄はそんな当たり前になったんだよ。正論を正論で実行し、自分も正論で固め続けて歪んでんのが英雄だろ?」

 

「それ偏見が過ぎないか?」

 

「英雄様の評価なんてこんなものだろ、まともな精神でやれる簡単な役職じゃねーよ。ほんとなんだありゃ?英雄?最初気付かなくて普通に絡んじまったよ。どうなりゃああなるんだ?総統閣下と同じくらい強いらしいじゃんそっちの調べによれば、あんなのは、努力もせずに生まれもった瞬間から幸せな普通の世界で育って、俺らとは天と地ほども離れた才能と性能で瞬間的に今が出来上がった、今もある意味歪んでるよ。そんな力があってどうしてあんなにも普通なんだよ、おかしいだろ」

 

「おまえ家族と自分以外にとことん厳しいな」

 

「そんなもんだろ、おっちゃんだって総統閣下がばんざーいばんざーいの人っしょ?反対するヤツは頭がおかしいって」

 

「俺はそこまで贔屓はしてないつもりだ。俺はいつまでも、アイツとは対等で在りたいんだ」

 

 

英雄の親友は大変だ。それだけに、仰ぎ見るんじゃく対等でありたいと願っている。同じ土俵じゃ英雄はその力で突き進む、決して追い付けない。なら、別のジャンルなら対等であれると信じてここまで来た。

そう、アルバート・ロデオンは今も昔もただの友達としてクリスを慕っている。もはや誰も知らない英雄の人間としての素顔を知るのはもう彼しかいないのだ。だから当然クリスの悪口を言われれば怒るし、共感できる部分は納得し頷く。

英雄(あれ)は確かに頭がおかしいのだ。

 

 

「それと、漆黒に接触するのは控えた方が良さそうだ。俺の感覚だから爺さんほど正確じゃないけどな」

 

「なんでまた、人柄は問題ないんだろ?」

 

「鎧を軽く叩いたとき違和感があったんだよ、軽い音?金属反響なんて専門じゃないからあれだけど響いたんだよ。おかしくねえか?てか、今日の僕おかしいって言い過ぎて顎疲れてきたわマジで」

 

「顎なんてどうでもいいがそりゃ本当かあ?」

 

「マジマジ、まるで空洞ってくらい響いてた」

 

 

それなら別の視点が見えてくる。アインズ・ウール・ゴウンの行動も漆黒のモモンの行いも、全く別の視点で見方と考察が逆転する。

 

 

「ああいやだねーこんな最悪な情報、俺あの四人の前で報告するんだぜ?胃袋足りないっての、マジめんどう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――総員、整列」

 

 

 ギルベルト・ハーヴェス、ローブル聖王国の亜人侵攻の最前線を支える二大巨頭が内の一。先の悪魔討伐では二つある結界装置の守護を務めていた。その聡明な予見は未来予知に等しく彼の予測を超えた存在はヴァルゼライド閣下以外いないとされている。そして、聖王国を束ねる隊長が肩を並べ非公式の会議を開いていた。

 

 

「最低でも一ヶ月は様子見をすべきぃ?あたしは別に文句はないけど、なんでまた」

 

 

 ヴァネッサ・ヴィクトリアは気だるげに咥え煙草をふかし眉を顰める。

 

 

 

「当然な結論だ。我々は怪物組織の幹部の一人を奇襲とはいえ倒してしまったんだ、むこうは当然警戒する。此方も敵の全貌を未だに掴めずにいるが、彼方は此方の情報を一つも掴めてはいないのだ。そのアドバンテージを活かさずしてどうする。それにあの場は様々な実験や材料を調理、または育て加工するために必要不可欠な飼育場だったのではと私は予想する」

 

「要は暫く鳴りを潜めて大人しくしていろと言いたいのだろ?その案には賛成だが、情報収集は色々やらせてもらうぞ」

 

「ああ構わないとも。君の働きが閣下のプラスになるものだと私は信じている」

 

「んーでも勢いは此方にあるんだ、敵の生産地?を、破壊したならこのノリで攻めこむのもまあ一つの手だな」

 

「そうしても閣下なら必ず勝つだろうが、私たちと部下の命の保証は絶望的だな。それに、被害が広がるのは閣下の意思に反する」

 

「ならこの一ヶ月は情報収集に集中するのか?」

 

「ふむ、だが一ヶ月はあくまで予定だ、ここは臨機応変に裏工作の結果にて最適な時に闘うに限る。何をしているか知らないが女神(アストレア)の采配でことが早く動き出しそうだ」

 

「まるで私が何をしているか知っている口ぶりだな審判者(ラダマンテュス)

 

「知らないとも、閣下の期待を裏切らない君を信じているのだ」

 

「閣下閣下ときもいぞおまえ、少しは自重したらどうなんだ?」

 

「これはこれは私など、君の恋路に比べればまだまだだよ。私は所詮未熟者、二流の凡俗だ。閣下に到底及ばない 、故に誰もが胸を張り正しく道を歩めるよう精進するのだ」

 

 

 こいつ、重傷過ぎてもう駄目だと女性陣(?)の視線が交差する。

 こんな時にも牽制し、己の我欲で動く彼らのそれは人の本質、宿業(カルマ)とも呼ぶべきものが深く絡んでいる問題である。

 組織とはそういうものだし、それがない集まりなど存在しない。

 逆にそれを捨てた者は、もはや人間という分類から外れていると言えるだろう。

 聖者とは既に、人類種から逸脱している。

 そうだから――――――

 

 

 断じよう、彼だけはそれがないと。

 何事にも例外は存在する。

 正義の具現とは現象であり、平均値を大きく超えた存在はその時点で光輝く英雄(化け物)となるのだ。

 我欲、獣欲、含有率は等しく零。

 身に秘めるは武装した鋼の心、その一点。

 己は民の盾であり、己は人類の剣であり、己は運命を裁く者だと――――――不屈に煌めくその魂が宣している。

 鋭い眼光は太陽より熱く、鋼鉄よりなお重めかしい。

 

 ローブル聖王国第三十七代総統、クリストファー・ヴァルゼライド。人類を守護する鉄の摩天楼を統べる王が、深く、静かに、言霊を発した。

 

 

「――――――意見は纏まったか。案ずることはない。おまえたちの願い、正当ならば無下にはさせん」

 

 

 瞬間、音が消えた。

 三隊長は口を閉ざし、静かに次の言葉を待つ。

 

 

「専門外なことに口を挟むことなどはしない。俺もまだまだ未熟者、専門家の意見を仰ぐのは当然だ。当面は貴官等の優秀さに世話になる。それ故に、計画に完璧などまたないのだ。故奴らが無差別に、計画的に人を殺しだしたとき――――――否、させんよ」

 

 

 否と、つぶやかれた小さな声に宿るは灼熱。

 

 

「奴らはすべて、一人残らずこの手で斃す――――――奴らの犠牲者はすべて、俺の不徳の致すところ。すべてを守れぬ時点で負けているのだ」

 

 

 英雄の心の内は誰にも分からない、だが、チトセは直感した。

 

 

「故俺はもはやお前たち一人一人と向き合う覚悟を決めている――――――"勝つ"のは俺だ」

 

 

 英雄は――――――英雄を超える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







キャラクター口調が心配だが、多分大丈夫な筈。
戦闘シーンの方が書きやすい……会話フェイズむずいです。

話は変わりますが、活動報告で『シルヴァリオシリーズで登場してきてほしいキャラ』を募集しています。詳しい内容は各自でご確認ください。
締め切りは、今月一杯としときます。研修で忙しくなりますので、意見を纏めつつ書いていきたいと思います。

それと、作者の持論ですが、三話を超える小説は短編ではない。変更します。


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セバス

 デミウルゴスが斃され早十日、エ・ランテル冒険者組合長プルトン・アインザックが殺されて早九日、ナザリックにとってデミウルゴスは、掛け替えのない仲間であった。

 総括守護者アルベドが煩悩に暴走しても、同じく第一お妃を狙うシャルティアが暴れても、ストッパーとして周りを纏めていたのは彼だと言える。第5階層階層守護者コキュートス、第6階層守護者アウラ、マーレも困ったこと、分からないことがあればデミウルゴスに聞けばいいと仲間からの信頼も厚かった。

 デミウルゴスと対極にあるセバス・チャン、目を合わせれば睨み合い、お互い口を開けば上げ足をとり罵り合う。だが、その忠誠心に一心の歪みも闇も疑いもない対等の関係だと認め合っていた。

 このナザリックに属する全ての僕は対等だが、相手の内面を知り、真に信頼しあっていたのはこの二人だろう。

 故に、リ・エスティーゼ王国では誰よりも積極的にデミウルゴスを殺害した仕立て人を探していた。

 その足を運び、一人一人の顔を覚えているセバスは、身に覚えのない顔をマークし、それらすべてを調べては怪しくなければ除外する作業を繰り返していた。勿論、与えられた仕事をこなしながらの独自判断からの行動だ。一人では無理なら、配下の仲間の手が空いた時に頼み込んで協力してもらっている。

 そして、極善カルマ値:300のセバスは他の僕と違い人間との交流が自分から可能な稀有な僕だ。人間に対し問題なくコミュニケーションがとれるのは人間の国で活動する時の強みになる。

 セバスの足は、情報集の為一つの酒場に訪れていた。

 

 

「初めまして蒼の薔薇の皆さん、本日は私めのためにお集まり頂き誠に恐縮でございます」

 

 

 女性五人で構成されている蒼の薔薇が、食事の手を止め代表してリーダーのラキュースが挨拶を交わす。

 

 

「初めましてセバスさん、お話はクライムから聞いております。あの八本指のゼロを軽くあしらったと聞いてます」

 

「あのクライムが自慢げに語ってきたからな~どんな男か興味があったんだよ。いやしかし……イイ男だ。わかる、わかるぞ……おまえ童貞だな?その年で童貞は寂しいだろ?私が筆下してやろうか?」

 

「勿体無い幼ければ」

 

「勿体無いロリなら」

 

「……貴様らいい加減にしろよ」

 

「す、すみません!仲間がご無礼を!」

 

「いえ構いません、この場を設けていただいただけで感謝が尽きません」

 

 

 寛大なお心感謝しますと、ラキュースは頭を下げる。そのままセバスはラキュースとガガーランの間の席に座る。この場は無礼講とまずは乾杯、一通り酒を嗜む。

 

 

「……貴方のような実力者が今まで無名なのが信じられませんね」

 

「全くだ、肉付きと気配がただ者じゃねぇ。数少ない押し倒される男を感じるぜ」

 

「……ふん、モモン様ほどではないがな」

 

「うちのロリが惚気てる」

 

「ショタは?イケメンはどこ?」

 

 

 セバスの頬がついつい緩んでしまう。やはり僕として主人を褒められると自分の様に嬉しくなる。他愛のない会話に花を咲かせ短時間で友好を深められるのもセバスの人柄があってのものだろう。

 

 

「セバス様の主人が正直羨ましい限りです。貴方のような人に好かれ……余程凄い御方なのでしょうね」

 

「はい、私など足元にも及ばないその力と叡智に、いつも驚かされます。見苦しいのですが、先日も護衛もつけずに一人で出かけようとした時は焦ってしまいましたよ」

 

「爺さんより強いならまず襲う方を心配しちまうよ!」

 

「……はん、モモン様には劣るがな」

 

「もう駄目でしょイビルアイ。すみませんセバスさん、まだまだ子供なので」

 

「いえ、漆黒の英雄モモン様と比べればイビルアイ様の言う通りまだまだです。かの御方の身を挺して国を守るその生き方に畏敬の念を、尊敬を感じております」

 

「ふふふ、そうですね。ほら、よかったわねイビルアイ」

 

「頭を撫でるなァ!子ども扱いするなァ!モモン様が凄くて素晴らしいのは当たり前だァ!」

 

「うちのロリが煩くてすいません」

 

「ロリロリショタショタ」

 

「さっきから貴様ら二人こそ何なんだ!?」

 

 

 食事を済ませイビルアイとセバスを除く全員が酒を楽しんでいる時、セバスが切り込んでいく。

 

 

「……ところで皆さま、最近怪しい輩やへんな噂などは知りませんか?主人がそのような話のネタが好きでして、良ければ教えていただけませんか?勿論、それ相応のお礼を致します」

 

「お礼だなんて、それだけで頂けませんよ!いくらでもネタになるならお話ししますよ」

 

「有難うございます。主人もお喜びになります」

 

「……つってもな、この王都もアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国になってから事件らしい事件がからっきしだしなあ」

 

 

 リ・エスティーゼ王国がアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国になってからは本当に色々ありすぎた。

 国の機能をそのままに、だが裏では大掃除が行われた。八本指は解体されその組織の方針は全く別のものとなったが、有ったものをそのままにアインズ・ウール・ゴウンの手駒として運営している。王家の一族や貴族といった者を無くさず、変わらず国王が全権を握ってはいるが、アインズ・ウール・ゴウンの命令の前ではすべてが優先される。異形種やアンデッドが街の警備に配属された日には、恐怖で国中の人々が眠れない日が続いた。

 他にも他にもと、六大貴族のレエブン候を中心に貴族を纏めさせたり、黄金と評される王女ラナーをアインズ・ウール・ゴウンの所有物として献上品として渡すように仕向けたりもした。

 まだまだまだ他にも他にもと――――――蒼の薔薇が知る由もない裏の出来事は瞬く間に行われた。

 故に、冒険者として話題に上がる話と言えばエ・ランテルから広がり、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国まで広まったある噂。いくらナザリックの情報網が優れていても全ての口を塞ぐことは出来ない。

 アンデッドの警護が街を平和にした。モンスターも全部そいつ等が国を守ってくれる。見た目はアレだが、やっていることは良い事だ。それはいい、高評価ばかり上がり続ければ人はその人物に好感を覚えてくるが、それ故に、たった一つのミスや悪い噂がその全てを帳消しする。

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンによるアインザック暗殺事件。

 

 

 皆表立っては話さないが、この噂で持ち切りだ。

 特に、冒険者にとっては期待が他のものたちより大きかった分その噂には激震が走った。

 アインズ・ウール・ゴウンはアインザックとそれなりに親しい仲にあるのが周知の事実、お互い笑い合う姿も目撃されている。事実アインザックは礼儀を弁え、ズバズバものをいうからアインズ本人からはマジ心の友だと思われていた。何より二人が進めていた冒険者を真の冒険者にする、外の世界へ飛び立つ改革は数多くの冒険者の心を奮い立たせた。

 銅、鉄、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト。すべてのチームに次のチャンスが到来した。

 限界を感じ現状に甘んじていた者。

 努力しても思う様に伸びず悩む者。

 その全ての者に万全のバックアップの下、全く新しい世界へ旅立てる可能性を示したそのシステムは、今までになかった、アインズ・ウール・ゴウン魔導国あってのシステムだ。

 その地盤が歪んでいる。ごく一部の頭が切れる者はアインズ・ウール・ゴウンはそのような回りくどい事をしないと導き出し、親しい者たちには有りえないと一蹴りするが、大衆の殆どがそうとは思わない。

 

 

 ――――――化け物がついに本性を現した。

 

 

 最初に懐いた感情をアインズ・ウール・ゴウンの善政で蓋をし、仕方ないと割り切っていたモノが身体の奥深くから芯を凍らせ蘇る。

 

 

 "恐怖"

 

 

 人ではない別の種族を良い奴かもしれないと信じるのは難しい。

 自分たちがどれだけ集結し団結しても敵わない異形の怪物たちを心から安心し切るのは不可能。

 特に、人間としてアインズ・ウール・ゴウンと親しく接し、でかでかとアインズ・ウール・ゴウンの名で保証された存在がそのアインズ・ウール・ゴウンの手によって死んだとすれば?

 人々は恐怖とともに安堵する。

 

 

 ――――――所詮化け物は化け物であったと。

 

 

 アダマンタイト級冒険者蒼の薔薇はその煽りをもろに受けている。皆が疑心暗鬼なんだ。本当に大丈夫なのか、命は、人権は保障されているのか。そもそも誰がアインザックの跡を継ぐのか。

 冒険者を改革する代表であり、その権限を所有していたアインザックの後釜になればアインズ・ウール・ゴウンの名の下に、絶対の地位を確立出来る。だが、誰もアインザックの二の舞になりたくはない。

 蒼の薔薇は自分たちを人類の守護者を担っていると自負している。漆黒の英雄モモンと敵対関係にあるアインズ・ウール・ゴウンには悪い感情の方がデカい。その分、今回の事件は真実はどうあれアイツならやりかねないと、いつもの冒険者の任務をこなしつつアインズ・ウール・ゴウンが定義する新しい冒険者づくりから足を引いている形をとっている。何より親友のラナーがクライムと共に怪物たちに囚われているのが悪感情を抱く要因となっている。

 だが決して口には出さない。冒険者代表として怪物たちに建前を与えてはならない。

 それらの印象が強すぎて言いよどむラキュースとガガーラン、セバスを巻き込んではならない優しい性格からきているから憎めない。ティアとティナが沈黙を破った。

 

 

「帝都の冒険者がこっちに流れるようになった」

 

「イケメンも多いし眼福眼福」

 

「新たな冒険者ギルドの本元に来るのは別に変ではないだろ。……変な奴ならいるがな」

 

「あー……アイツかあ、アレは変だ」

 

「あの人の事?まあ確かに……」

 

 

 蒼の薔薇が変変と繰り返す人物に興味をひかれたセバスは、どのような人物か尋ねてみる。

 

 

「それはどのような御方なのですかイビルアイ様?」

 

「そうだな……一言で云えば――――――」

 

 

 偶然にも話題に上がった人物が店に登場した――――――突き付けられた指先と共に。

 

 

「しとどに濡れる青く可憐な一輪の薔薇――――――おお、それは貴方のこと。瑞々しい未熟な果実よ、その白桃が如き美の極限で今日も私を狂わせるのか。幼き魔性の艶つやを前にこの身はもはや愛の奴隷。ゆえにどうかそのおみ足で、憐れな奴隷に甘美な罰をお与えください……ふみふみ、と」

 

 

 異次元へぶっ飛んだ愛の言葉が添えられた。

 性癖を暴露し終え、舞い降りる圧倒的静寂。イビルアイと彼は互いに硬直して見つめ合う事しばし。

 

 

「こいつが……ただの変態だってことだァ!!」

 

 

 嚇怒の声が彼――――――ルシード・グランセニックに向け放たれる。

 

 

「そう怒らないくれ僕の幼き女神(イビルアイ)よ、信じてくれ。我が純潔はいつまでも君にとってあるから!!」

 

「いらんわボケェ!!」

 

 

 身を悶えさせる、ドМ幼女趣味似非紳士(ロリコンフェミニスト)

 セバスは思い起こす。リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、他の国にも手を広げている名門グランセニック商会。そのグランセニックの姓を持つグランセニック商会王国支部の若き才人、ルシード・グランセニックは、セバスから見ても見事に残念だった。

 

 

「初めまして、私はセバス・チャンと申します。申し訳ありませんが貴方様は?」

 

「これはこれはご丁寧にどうも、僕はルシード・グランセニック、気軽にルシードと呼んでくれ」

 

「ルシード様でございますね。初対面で失礼なのですが、イビルアイ様とはどのようなご関係なのでしょうか?」

 

「膝の上にちょこんと乗せつつ、キャンディーぺろぺろちゅぱってる幼い女神を、んふ、ふ、ふふふふふぅぅ――――――そんな関係さ」

 

「おーおチビにそんなお相手が」

 

「相手は選んだ方がいい」

 

「濡れ衣だァ!!」

 

「お馬さんごっこがしたいだって!?」

 

「貴様の耳は飾りかァ!!ああそうだな腐ってるんだな豚以下の畜生の存在だもんなァ!!」

 

 

 ルシードは自分の肩を力の限り抱きしめ、身体を震わせる。何よりキモイほど息が荒い。

 

「ぶ、ぶひぃっ」

 

『うわー』

 

 

 卑しく鼻をひくつかせて、人の尊厳を捨てて鳴いた男の嗚咽とも慙愧とも取れる嘆きを漏らす姿に、今や戦慄の感情さえ湧き上がってきた。

 蒼の薔薇は家畜を無視し折れた話を修正する。

 

 

「セバスさんのご期待に添えるか分かりませんが、どうもスレイン法国の動向が騒がしい、怪しいと報告が上がっているんです」

 

「……ついに動き出したと?」

 

「向こうもアインズ・ウール・ゴウン魔導国に対抗するため活発化してる可能性が一番高いのでは?スレイン法国は元々人間主義、今の現状は教示に反しているはずです。ですが……」

 

「どうなさいました?」

 

「いえ、スレイン法国は情報がそう簡単に漏れるような甘い国ではありません。もしかしたら……もう動いている?」

 

 

 やはりと言うべきか、警戒対象であるスレイン法国が仕立て人の可能性が一番高い。あの国には確実にプレイヤーがいると考えるべきだ。これは、一度アインズ様の意見を仰ぐべきだ。

 

 

「黄金に輝く穢れをしらない純金、その髪一本一本が上質な高級絹糸。ああ……端的に言って、超勃起します!!」

 

 

 ラキュースとガガーランに感謝をし、盛り上がるイビルアイ、ルシード、ティア&ティナにもそろそろ失礼する有無を伝え、セバスは酒屋を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた様ほどの方が……何故」

 

 

男の身体は破壊され、手足は再起不能なほど折れ曲がっている。視線のみを自分をここまで破壊した怪物に向ける。その視線には困惑に怒り、それ以上に血が滲む喉からただ――――――何故と。

 

 

「……」

 

 

少女は何も答えない。その思いは、耳は、目は、此処にはいない誰かをただひたすらに追い求めている。

 

 

「番外席次、答えろ。自分がどれ程重要な存在か理解しているはずだ」

 

「……」

 

 

少女は耳を貸さない。どこか遠くに思いを馳せる。

 

 

「人類最強のあなたが奴らに見つかれば、スレイン法国はドラゴンどもに滅ぼされ、人は終わってしまう!ぷれいやーは彼らに任せましょう。ですからお願いです、私と一緒に戻りましょうッ」

 

 

ピクリと、どの言葉で反応したかは定かではないが、番外席次は、漆黒聖典第一席次隊長――――――ロトを静謐に見つめる。長めの髪は片側が白銀、片側が漆黒の二色に分かれており、汗で湿った肌に貼り付いているせいか十代前半の容姿にしては妖艶に見える。穢れを知らない艶やかな小さな唇が今日初めて開かれる。

 

 

「ねぇロト、私の名前は番外席次でも絶死絶命でもなくて、ちゃんとカグラって名前があるんだよ?」

 

 

 こてんと、首をかしげる可愛らしい仕草は、場違いにもほどがあると隊長ロトの眉間に力がこもる。

 

 

「……カグラ、答えてくれ。君の答え一つで法国は動く、動かざる得なくなる。何をするつもりなんだ?」

 

 

 この戦いを見ている最高執行機関と巫女姫は、人類最強の切り札"絶死絶命"カグラの答えを見極めるしかない。この数ヶ月で戦力の半数近くを失ったスレイン法国に漆黒聖典第一席次隊長ロトと人類最強の切り札"絶死絶命"カグラ以上の戦力は存在しない。ロトが負けた時点で、もうどうしようもないのだ。

 本国からその戦いを見届けた法国の最高責任者最高神官長は固唾を呑む。彼女が動けば言い訳は不可能、その先には戦争しかない。

 そんなスレイン法国の命運、人類を背負っている少女は、そんな重責など感じさせない。

 

 

「ローブル聖王国」

 

「……どこでそれを」

 

 

 その一言でロトは全てを察した。この人類最強たる少女が何を成すのか。

 

 

「闘ってるんでしょ?ぷれいやーと。どうせおじいちゃんたちはこっちの影を悟らせず、善なる(ぷれいやー)か見極めるとか何とか言ってるんでしょ、それじゃあ不公平だよ。あっちは持てる最高戦力をぶつけてるのにこっちはちょっぴり。そもそも、あの人が負けたら終わりだよ。しゅーりょーおしまい」

 

 

 カグラは此方を監視している眼に視線を合わせる。

 

 

「ぐだぐだしているなら、私が示してあげる。事態はもうどうしようもないほど動いている。なりふり構わず、人類は立ち向かわなきゃならないの。異形種を滅ぼし、人が人の力で成長する世界にする分岐点。今こそ、世界の方向性を光で導くの」

 

 

 それはスレイン法国に所属する誰もが思い描く理想郷。それ故に、頭に過ぎる――――――本当に可能なのか?

 

 

「計算も策略も打算も忘れるの。感情のまま、その心を、熱量をぶつけるの。例えその先に、神々(ぷれいやー)が、ドラゴンが立ち塞がろうと――――――」

 

 

 少女もまた光の人間。

 良いも悪いもない、何処までも純粋に穢れを知らない少女は光に向け駆け抜ける。 

 

 

「"勝つ"のは私よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうしてこうなった(後悔はしていない
所で邪竜ですけどどうしましょうか?色々悩んでいます。
敵対?
味方?
はたまた第三勢力(そっこー死にます

どんなのがいいですかね?活動報告か感想に意見を軽くお願いします!



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ナーベラル・ガンマ

「お優しいアインズ様、お気付きのはずです。敵は絶対に攻めてこないと」

 

「こればかりは同意見でございますアインズ様。我々の身の安全を最優先して下さるそのお心、我々の身に余る幸福……ですが、それを踏まえ失礼を承知で申しますと、まったくの無駄でございます」

 

「パンドラズ・アクターッ……その物言いはいくらアインズ様が創造なされた僕とはいえ見逃せないわよ」

 

「これはこれは守護者統括殿、今はそのような議論をなさる方が無駄かと。アインズ様もそうお求めですゆえ、無礼講との命令ですよ?立場を気にせず意見を出し合うのがこの場の礼儀と弁えては如何ですかな?」

 

「……理解しているわ、それでもまったくの無駄ではないわ。少なくとも、此方も敵を調査出来る時間は稼げたわ」

 

 

そう、彼等とてデミウルゴスの抜けた穴を埋め直すだけの無能ではない。僅十日で以前の巻物(スクロール)の補給線を確保するのは難しいが、最優先事項の敵の捜索は思いの外成果が実った。

デミウルゴスの仕事を片手間に、もっとも重要なナザリックに仇なす狼藉ものの排除を優先した。

巻物(スクロール)の補給は後でいくらでもできる。材料は腐るほどあるのだ。ならば、一刻も早くこの事態を終息させナザリックの、アインズ様の身の安全を最優先で確保しなければならない。

 

 

「黒い集団、貴方の軍服のデザインに似た者たちが目撃されてるわ、都市の外でね。姉さんの御蔭で五人ほど見つけることができたわ」

 

「ほお~それは陽報で」

 

 

 この場に集められた三つの頭脳。

 階層守護者統括アルベド。

 ナザリック宝物殿の領域守護者パンドラズ・アクター。

 第三王女黄金の二つ名で知られるラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ。

 そして、最強のギルド、ナザリック地下大墳墓の最高司令塔ギルド長アインズ・ウール・ゴウン。

 アインズは耳を傾ける。自分より頭のいい三人の話にまずしゃべらせ何が最適なのかを判断する。それらをこれからの計画に組み込むために。

 

 

「デミウルゴスを斃した謎の軍服たちはアーグランド評議国の者だと分かりました。ラナー、アーグランド評議国の詳細は貴女の方が詳しいわよね?」

 

「はい、僭越ながら説明させていただきます。アーグランド評議国はアインズ様の掲げる他種族が一つとなる国家を運営する上でモデルケースとなる国です。亜人種の国家と言われてはいますが、少なからず人間も属している様。都市の管理運営は各亜人種族から選出された評議員による議会制であり、特に永久議員である5匹とも7匹とも言われる竜達の存在が有名であります。私もイビルアイのお話を齧った程ですが、如何でしょうか?」

 

「十分よ。この場でハッキリさせる必要があるのは、未知の敵ではなく目先の敵。アーグランド評議国とスレイン法国の対策よ。この二ヵ国は卑怯にも事前通告も宣戦布告も無しに仕掛けてきた。それもデミウルゴスを斃すファーストコンタクトのおまけつき。アーグランド評議国最大の脅威はドラゴン、牧場の戦闘跡を考慮すればドラゴンがデミウルゴスと魔将を斃したと考えるべきよ」

 

 

 息吹(ブレス)で薙ぎ払った跡と思われる抉られ、吹き飛び、消滅した破壊跡。

まともな攻撃でああはならない。あれほどの破壊力をもつ魔法、またはスキルを連続でズバズバ放つ存在はプレイヤーではなく強力な特殊能力を有するドラゴンならば納得ができる。何より、アインズ様の協力のもとそんな職業も燃費のいい魔法もないと結論付けた。冷却時間(リキャストタイム)を短縮する課金アイテムの可能性もあるが、アレはそう簡単には手に入らないアイテム。何より、そうバカスカ使えるアイテムでもないのだ。もしもプレイヤーなら、デミウルゴス戦で使いきったか、次の戦いで無くなる可能性が高い。それほど貴重なアイテム。

 

 

「故に、ドラゴンどもがナザリックに到達する前に討伐する必要があるの」

 

「アルベド様、それはドラゴンの攻撃にナザリックが破壊される可能性を考慮してですか?」

 

「いくら強力な広範囲攻撃をもつドラゴンでもナザリックを全壊させるのは無理でも、至高の御方が御作りになられたこの住まいを損傷させるのは可能と考えているわ。何よりナザリック内で自爆攻撃をやられると被害は想像もつかないわ」

 

 

ゲームが現実になるとは、非破壊のオブジェクトが破壊可能になると言うこと。どれだけ侵入者対策が万全であろうが、外からポンポン超位階魔法をぶっぱされてはたまったものではない。故に、ドラゴンは確実にナザリックから離れた場所で討伐する必要があるのだ。

 

 

「そして、問題のスレイン法国だけど――――――」

 

「わぁたくしぃの担当で御座いますね!」

 

 

ビシッと敬礼するパンドラズ・アクター。それを見詰める六つの眼に感情の色はない。

 

 

「それでは早速報告させていただきますが、スレイン法国の境界線に設置されていたサーチャーデーモンが破壊されました。もしものことを考えますと移動速度は最低でも一日いないにはエ・ランテルに到着すると予測されます。さらに動きからして三日以内には本隊が到着すると思われます」

 

「……ご苦労、お前達の情報はいつも私の助けになる」

 

「ナザリックに属するものとして当然であります!」

 

「支配者として、感謝の気持ちは忘れてはならなんのだアルベドよ。だが、二国同時攻撃に誘い出されていないか?手薄になったナザリックが攻め込まれれば意味はない」

 

「その件に関してですが――――――」

 

 

 アインズはスゥっと右手を突き出しアルベドの言葉を止める。

 

 

「お前の考えを疑うわけではない。だが、この戦いはこの世界初のギルド生命をかけた戦争となる。アイテム消費も資金も物資も終わってから考えろ、その上でこのアイテムを使え」

 

「そ、それは!?」

 

 

 アインズの渡したアイテムは、過去に自分たちの行いを正当化させ目的を与えることで、英雄モモンでマッチポンプした原因のアイテム。エ・ランテルもリ・エスティーゼ王国もアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国になった今、このアイテムが手元に戻っていても不思議ではない。

 

 

「ん~ウルベルト様が御作りになられたマジックアイテムではありませんかァ!!」

 

「そのアイテムは?」

 

 

 アインズが持ち出したマジックアイテムにアルベドとパンドラズ・アクターが驚愕し、効果を知らないラナーは首をかしげる。

 

 

「ラナーは知らなかったな、これは我が友ウルベルトが作り上げた悪魔を大量召喚する第十位階魔法『最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)』を六重で発動できるマジックアイテムだ。level10からlevel80までの悪魔を凡そ一万体召喚可能だ。無論、ドラゴンやプレイヤーには効果は薄いがそれ以外には丁度いいはずだ」

 

 

 四人による会議は迅速に行われた。方針、編成、作戦も決まった。

 まずは活動中の全僕を一度ナザリックに集結させ作戦ごとの編成に分けそれぞれの任務を命令する。

 エ・ランテルの外出禁止、これを破った場合死刑もあり得る。

 大まかにこれだけが決められた。今は外見を気にする余裕はない。何より敵対したくはなかった二国が攻めてくるのだ。大義名分は終わった後でいい。

 

 

「緊急招集だ!一刻も早くすべての僕をナザリックに集め戦闘に備えろ!アルベド、パンドラ、各チームごとの役割説明を任せる。ラナー、伝言(メッセージ)を使える僕を付ける。ニグレドの情報を基に敵がどう動くか逐一アルベドに報告しろ。情報の伝達速度が戦闘を有利に進める。……私も色々準備が必要のようだ」

 

 

 これより先は神話の戦い。

 英雄譚は進み続ける。

 魔王の闇で光を照らし、英雄の光で闇を落とすか。

 互いの終わりまで、それは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナーベことナーベラル・ガンマは冒険者として待機している部屋で帰投命令を受け取った。

 複数の僕がエ・ランテルを巡回しているとはいえ敵がいないとは限らない。これから命令通り街で活動中だった他の姉妹と共に転移門(ゲート)を使い皆で帰投するだけだ。ナーベラルが腰かけていたベットから腰を浮かせた時、ノックオンが響いた。

 

 

「すいませーん。是非モモン様とお会いしたいと言伝を預かっています」

 

 

 こんな非常事態に面倒な、と舌打ちをするが美姫ナーベとして対応し、一刻も早く合流しなければならない。

 

 

「どこの身の程知らずですかその下等生物(ナメクジ)は?モモンさ――――――んは留守です。私もこれから出かけるので即刻立ち去りなさい」

 

 

 扉を開き、存在の興味すらない人間の脇を通り抜けようとするが、通り道に腕が差し込まれる。

 

 

「何の真似です下等生物(ゲジゲジ)、用件を伝え終えたならさっさと退きなさい」

 

 

 ムッとするナーベラル、与えられた役目を全うするため出来るだけ穏便に追い返さないといけない。

 

 

「いえ、ちょっとだけお尋ねしたいことがありましてえ」

 

「なんです?早くなさい、下らない話だったら殺しますよ?」

 

 

 人間など大体が同じに見えるナーベラルでも、幸薄そうな顔は最も嫌う何も生み出さない怠惰の中の怠惰の下等生物の中の下等生物の塵と例えた方がスッキリする存在。

 

 

「おおこえ、いやほんっと一つだけ聞きたいんですよ」

 

 

 気だるげに頭をかきながら言った次の言葉に――――――

 

 

「モモンって、アインズ・ウール・ゴウンなの?」

 

 

 どうしようもないほど混乱してしまい――――――

 

 

「……マジか、"黒"かよ」

 

 

 自分が招いてしまった失態にどう弁明すればよいか思考し、こいつだけは此処で殺すと――――――放たれた首を断罪する刃を杖で防いだ。

 

 

「クッ!?」

 

「おい姉ちゃん、綺麗な顔して随分やろうとしたこと物騒だな。魔法詠唱者(マジック・キャスター)様の癖に物理とかありかよ」

 

 

 容赦のない斬撃を急所を守りつつさばき切るナーベラル。魔法詠唱者(マジック・キャスター)でありながらlevel63の身体能力と本人の戦闘スタイルが、創造者弐式炎雷の趣味もあり魔法騎士のような接近戦も出来る魔法使いと隙のない構成となっている。冴えない顔の人間よりlevelが少し上の御蔭で手数では負けているが、純粋な反射神経と力技で拮抗している。

 

 

「勘弁してくれ、魔法詠唱者(マジック・キャスター)で接近戦が俺より強いとか悪夢にも程があるだろ」

 

「ならさっさと死ね、この下等生物(ダニ)が」

 

 

 フル装備になれば一瞬で殺せるだけに、その隙が無いこの下等生物(ダニ)に苛立ちが募る。

 だが、プレアデスとしての使命がこの敵の正体を確信させた。

 

 

(転移も伝言(メッセージ)も発動しない。間違いない、こいつはデミウルゴス様を斃した仕立て人の一味ッ)

 

 

 ならば出来るだけ生かして、半殺しで生け捕りにする必要があるが、最終的に殺しても蘇生させ情報を抜き取ればいい。故に、この場は身体を消滅させる魔法は控えて殺せばいい。

 

 

魔法の矢(マジック・アロー)

 

 

 6個の光球を横に飛び紙一重で躱される。その瞬間、壁を破壊しながら距離を取り装備をフル装備に一瞬で着替える。完全装備のナーベラルに格下が敵う道理などない。

 

 

(やはり転移は発動しない。空間に作用する魔法は発動しないと見るべきか?)

 

 

 ナーベラルは雷魔法を専門とする特化型のプレアデス。現象を発生させる魔法は魔法の矢(マジック・アロー)と同じく問題なくこの領域で発動できる。

 何より、第一位階魔法の魔法の矢(マジック・アロー)を全力で躱す時点で敵ではない。

 

 

電撃(ライトニング)

 

 

 第三位階魔法電撃(ライトニング)は一直線に貫通する雷撃を放つ。

 それすら、障害物を利用し躱す。

 

 

(ほぼ確定ね。levelは近いけど、耐久性は下等生物(ゴミ)以下。威力の高い魔法は殺すどころか死体すら残らない。階位の低い魔法でちまちま戦うのは面倒ね)

 

 

 どの攻撃も逸らされ躱される。何故だか分からないが、雷の躱し方がやたらと巧い。

 

 

「……なんて惰弱、鬱陶しい。立派なのは逃げ足だけですか」

 

 

 耐久性の低い虫の相手がこうも面倒とは思わなかった。ならば、もはやそんな事を気にしなければいい。

 冒険者美姫ナーベの顔があるが、この場合は仕方ない。デミウルゴス様を斃した一味をこの手で殺さなければ気が静まらない。一刻も早くゴミ掃除を済ませ、ナザリックに帰投したのち生ゴミを報告すればいい。

 頭のスイッチが切り替わった相手に、暗殺者は絶望する。分かっていたはずだ、格上を敵に回すとはこういうことだ。

 

 

転移(テレポーテーション)

 

 

 ナーベラルは、暗殺者の背後に転移し一切手加減なくその性能を発揮する。

 

 

魔法三重化(トリプレットマジック・)龍雷(ドラゴン・ライトニング)

 

 

 逃げ場などない三方向から放たれる龍雷が炸裂し、光と熱の波濤に飲み込まれながら、暗殺者はゴミの様に吹き飛ばされた。――――――予想に反し、焼き爛れた死体の肉は見つからず、そこに空いた下の階へ続く穴を確認して思わず舌打つ。

 

 

(一階へ逃げたか、生き汚い下等生物(ゲジゲジ)め)

 

 

 飛行(フライ)で穴を降りるナーべラルだが、転移が問題なく発動したことに疑問を覚える。

 最初の転移と先の転移の違いが、この結界の法則を導き出す。

 

 

(成程、結界外への転移には邪魔をするタイプ。結界に干渉する魔法を遮断するのね)

 

 

 十全に戦える。ようはさっさと殺せばいいのだ。メイドらしく、害虫は全力で駆除する。

 ナーベラルは人間に、ナザリックに属さない他人に興味がない。これだけの戦闘に、まだ誰も暗殺者以外見ていない。その答えは、一階ロビーにあった。

 仄かな香り、鼻孔を擽る芳醇な香りは下等生物(人間)の血肉。無惨にも殺された者。生きたまま、手足を切り飛ばされ呻く者。腸を引き摺り、かき集める者。それからそれから――――――なんてどうでもいい風景だ。だから何?っと死にかけの虫けらより害虫を優先すべきだ。

 臓器がぶちまけられた一角から汚物が飛んでくる。

 避けるまでのない攻撃とは言えないそれは、ナーベラルの不快感を刺激するのに十分すぎた。

 それを美味しそうな香りと思ったのもそうだが、このメイド服がそんなものに汚されるのが我慢ならなかった。

 

 

電撃(ライトニング)

 

 

 なんて無駄な魔法、服を汚したくないたったそれだけの理由で、汚物を焼き付くす。

 それと同時にナーベラルの周りを転がっていた人間が破裂しその臓物と血の雨を降らせる。

 やっていることは素晴らしいが、下等生物(人間)の血肉で至高の御方から頂いたメイド服を汚すわけにはいかない。

 残らず雷魔法で焼き付くす。

 静寂と血の臭いが充満する空間。暗殺者の姿は影も見えない。ならば――――――

 

 

兎の耳(ラビッツ・イヤー)兎の足(ラビッツ・フット)兎の尻尾(バニー・テール)

 

 

 兎の耳(ラビッツ・イヤー)は頭部からウサミミが生え、周囲の音を詳しく探れる補助魔法。

 兎の足(ラビッツ・フット)は幸運値を上昇させる補助魔法。

 兎の尻尾(バニー・テール)はモンスターの敵対値を若干下げる補助魔法。

兎の耳(ラビッツ・イヤー)以外は効果が少しあればいい程度だ。耳を澄ませ暗殺者の居場所を特定する。

 

 

『おい』

 

――――――ッ!!

 

 耳元で囁かれた声に振り向いても、そこには誰もいない。

 

 

『こっちだよアホ』

 

龍雷(ドラゴン・ライトニング)ッ!!」

 

 

 声のした方向に攻撃をしても、あるのは肉塊のみ。

 ここまでコケにされたらナーベラルでも気が付く、方法はわからないが、音を操作されている。

 

 

『グロ耐性はその見た目のくせに人間じゃないから別にそうでもないのか。害虫の踏み潰された死骸があっても気にしない人の感性と一緒。同族、もしくは組織の仲間なら顔色変えるか?そもそも仲間とかいんのかよ、インポ魔王の慰め従者様』

 

 

 ――――――は?

 

 

 この負け犬風情は、よりにもよってアインズ様を馬鹿にした。

 殺す、確実に殺す。故にいざ、足を踏み出したその瞬間。

 

 

「な――――――ッ!?」

 

 

 突如として、音の氾濫が巻き起こった。

 物音がする。鼓膜の裏で、耳菅の奥で、そして遠く遥か彼方で、多種多様な音の奔流が、遠ざかりながら、あるいは逆に近づきながら。急激なドップラー効果で変化しつつ理解不能の不協和音を演奏していた。

 兎の耳(ラビッツ・イヤー)の効果により、高められた五感の一つ聴覚が完全にかき乱された。頭痛すら感じる音量が冷静さを削ぎ落としていく中、意識を最大限に一点に稼働させる。

 自分にとってこの程度、アインズ様に対する侮辱に比べれば何ら問題はない。

 冷静さを失い、感情のまま動くナーベラルの選択した攻撃手段は、全方位への乱れ撃ち。全力で解放した雷魔法で徹底的に、この宿泊施設ごと破壊すればいいだけと、放たれた魔法が粉砕し尽くすその間際に――――――ひときわ巨大な破壊音が、天井から鳴り響いた。

 崩落する天井もダメージにならないが、五感の聴覚、視覚が制限される。

 

 

『所でよ、アインズってそこまでたいした奴か?お前もその仲間も、インポハゲにいずれ捨てられる塵だろ。そもそも何様だ、要らないんだよお前なんかが濡らす下等生物様は』

 

「――――――、―――ッ」

 

 

 ナーベラルの持つあらゆる意識を消し飛ばした。

 何だ?こいつは、何を言ったのか?激しく沸騰する殺意が、思考回路と感情を、一つ残らずぶち切れさせた。

 

 

(一度ならず二度までもアインズ様を下等生物(人間)と同列と陥れ、あまつさえ私たちはいずれ捨てられるゴミだと?)

 

 

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――――――

 暴走する忠誠心から、下等生物の死を強く願って意識が束の間乱れ狂った。

 

 

「はい、ご苦労さん」

 

 

 そして、僅かに手が遅れてしまう。

 この瀬戸際で、ほんの僅かに――――――ブレたのだ。

 

 

「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 瞬間、意識の隙間を縫う様に繰り出された攻撃は、限界まで増幅された、音、音、音、音――――――爆音の狂想曲。その衝撃にはナーベラルの五感を纏めてすべて崩壊させた。

 だから、それが暗殺者の殺人手法(キリングレシピ)。心の在り方に唾を吐くそのやり方は、最低で下劣な分、恐ろしく効果的だ。

 

 

「さよなら、虫けらに殺される下等生物」

 

 

 閃く冥府へ誘う死の刃。

 背後から囁かれた言葉を最後に――――――決着は訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰投命令を受けたユリ・アルファが合流地点に向かう最中、突如エ・ランテルに出現した機械蜂。

 感知スキル、アイテムの悉くに全く同一の気配と魔力が空間に充満し感覚がおかしくなる。

 ある程度仲間と固まっていた他の僕は、機械蜂を破壊している。だが、妹であるナーベラル・ガンマは一人だけだ。衝撃波で機械蜂を吹き飛ばしながら、ナーベラルの下へ駆ける。

 嫌な予感がするのだ。

 どうしようもないほど、もう手遅れだと第六感が警告する。

 足止めを受けながら、漸くたどり着いたナーベラルが居る建物の結界が丁度砕け散る。

 どうか無事でいてくれ、結界を張った敵をナーベラルが倒したと信じて。

 そして――――――

 

 

「きぃさまあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアア!!!」

 

 

 大切な妹を殺した赤いマフラーを首に巻き付けた敵に全力で殴りかかる。

 ストレート直撃コース。回避が間に合わない敵は妹の身体を蹴り飛ばしてきた。

 カルマ値:150善のユリは、何より創造主やまいこの性格上、大切な家族を傷つけることができない。

 衝撃波も発生させていた拳を寸前で止め、ナーベラルを受け止める。

 

 

「こりゃチョロイわ。お前らって仲間想いなんだな」

 

 

 声の発した方向を振り向いて視界を埋め尽くしたのは――――――まだ生暖かい無傷の生首。

 

 

増幅振(ハーモニクス)

 

 

 白目を剥き、血を振り撒き、死者の髑髏が狂ったように震え出した。敗者の頭蓋は即席の爆弾と化し――――――脳漿の花火。火花の変わりに、血や目玉。千切れた耳、骨の欠片が飛び散って、ユリの意識を一瞬確かに忘却の淵へと追い込んだ。

 

 

「お前ら化け物でも人間と一緒なんだな……」

 

 

 ナーベラルと同じく閃く冥府へ誘う死の刃が――――――ユリの首を切り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








安心してください。ゆっくりですが、ちゃんと書いているnamazです。
分かる人は分かるかもですが、本気おじさんが何処で戦うか今回で予想は出来たと思います。残念ながら本気おじさんは次回です。そのまた次回かもしれない(笑)
 トリニティをやり直して本気おじさんの口調とか確認しているのでちょっと時間かかるかもなのでよろしくお願いします。
 それと、合宿の研修が多いので書く時間が失われていく(涙)
 五月にも合宿研修あるんだぜ?もういやd……本気で頑張らないと(光の奴隷
 


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ゼファー・コールレイン

 ゼファー・コールレインは、油断や慢心などの強者の特権などには一片も懐かない。

 自分は何処までいっても塵で屑で人でなしだから。所詮能力を持たない人間より優秀と言うだけの組織に扱き使われる氷山の一角。

 馬鹿真面目に正面から一対一、多数を相手に優雅に、かっこよく勝利を勝ちとるなんて出来ない。

 物語の登場人物のように愛と勇気と友情でどんな逆境も逆転する。そんな英雄譚。

 柄でもないしそんな頭のネジが外れたおかしい連中にはなれない。

 勝算もないのに、愛のため?勇気があれば?友情の絆の力?よくそんな目に見えない不確定要素の塊を信頼して命をかけれるものだ。

 最後まで笑顔でなら勝ち?

 負けたら終わりだろ。

 そもそも役割が違う、力を示せって言う神様や悪魔とか、出来る奴と出来ない奴が居るってこと理解してんのか?

 人類皆に同じ基準値求めて、人間の勇気や底力を見せろとか何様だよ。

 自分は元々世界を一変させられる力を持っていながら、自分より弱い生物に自分のような力を示せってそもそも道理が合わない。

 なら、自分ができたから、弱い昔から強くなったから、だから人に同じ理を説くのか?

 いやいや無理だろ、農家のおっさんとかに愛と勇気と友情で勇者になってくださいとか無理があるだろ。

 心のあり方なら弱者でも強者に勝てるって奴とかいるだろ、そいつは知らないんだな、本当の強者を。

 幸せだろうな、本当の恐怖も強者も弱者も何も知らないまま生きてる奴って。

 自分がどれだけ分不相応な考えで生きてるか知らずに死ねるんだからな。

 

 故に、世界の命運をかけた魔王軍との戦いとかぶっちゃけ嫌だ。何で知らない誰かのために命を懸けて戦う必要がある。どれだけ頑張っても所詮歴史に名を連ねるのは表舞台で勇敢に戦った英雄とその仲間たちだ。

 暗殺しか取り柄のない、人間失格な野郎はそもそも英雄譚にお呼びじゃないんだよ、場違いなんだ。

 故にゼファー・コールレインは常に最悪の最悪を想定している。もしかしたらとかの楽観は、先の卑怯な手の数々で実力を発揮させずに殺した美姫ナーベに相応しいだろ。実力は圧倒的に彼方が上だった。

 そして美姫ナーベの仲間と思われるメイド。あの踏み込みからの右ストレートは避けきれなかった。同じく型にはめなにもさせずに殺さなかったら負けていたのはゼファーの方だ。

 英雄(化け物)のような奇跡や覚醒など起こせない。

 女神(アストレア)のようにどんな環境にも適応できる万能でもない。

 普通に相手の実力が上なら負けるしかないのがゼファー・コールレインという男。

 だから、この結果は予想外で予測不能。

 人の形にまんまと騙された彼の落ち度。

 どれだけ人の形に似た皮を被っていようが、その本質は異形の化け物。

 知るよしもないが、首が元々取れるデュラハンに、全く意味のない攻撃を繰り出してしまったゼファーに、その犯した過ちを罰する"鉄拳制裁"が炸裂する。

 

 

「ガハァッ!!」

 

 

 合わせて迎撃したはずが、まるで露を払ったかのようにするりと抜き手が胸へ刺さった。

 内臓を抉るような一撃はあばら骨を叩き折り、左肺を圧し破壊する。酸素も吐かせ堅実かつ効果的に余力と体力を削り落とす。

 のみならず、当然その程度で済むはずもなく――――――

 

 

「……は?」

 

 

 ゼファーは困惑する。パターンに嵌った自分が嬲られる未来までハッキリ想像出来た。その隙は致命的で取り返しのつかない負けが確定したはずだったのに。

 

 

「心臓を潰すつもりだったのですが……視線がこうもズレると外れますか」

 

 

 そんな戦略的なことなど心底どうでもいいと、切り落としたはずの首を拾い上げ、元の位置に固定する。

 生物として有り得ないその光景は、怒り、悲しみ、喪失感が入り雑じる瞳とは正反対に、それでも化け物なんだと嫌でも訴えかける。

ゼファーがミンチにしたメイドを見る瞳は、正に人間とそう変わらないのに。

 

 

「やめろよ、そう人間らしいとヤりにくいんだよ。人じゃないんだろ?化け物なんだろ?首がとれてくっつく時点で人じゃないのは明確だけど、二人揃って人間臭いんだよ」

 

 

 美姫ナーベも、この首メイドも、人が想像する巨悪の怪物組織とは思えないほど人間らしい。それが決して、人間に向けられる感情ではなかったとしても、仲間や同僚を思う気持ちはコイツらでも一緒なんだ。

なら、余計に――――――

 

 

「中途半端は駄目だ。殺さないと、殺される」

 

 

これは仇討ち、復讐、純粋な殺意による殺し合いだ。戦いを始めればもう止まることのない殺し合いが開始される。

 

 

「そんなの真っ平ごめんだ。俺は生きなきゃいけない」

 

 

 彼方に理由があるように、ゼファーにも理由がある。故に、構ってられるか。肺を潰された状態でまともな戦闘が出来るはずないだろ、常識的に考えて。

 片腕がもがれようが、肺を潰されようが、武器も、四肢を引き裂かれようが、気合いと根性で立ち上がる英雄とは違う。

そんな頭のおかしい思考回路を身に付けた覚えもない。

 

 

「じゃあな、付き合いきれんわ」

 

「逃がすと思っているのッ!!」

 

 

 逃走を図ろうとするゼファーに対し、当然怒りを爆発させるユリの姿に、ゼファーは安心した。

 

 

(ちゃんと怒れて仲間思いなんだな。ああ~そっち側の方が俺も楽できそうだ)

 

 

 何処へだって行ける実力がある。その気になればゼファーは暗殺者としてもっと厚遇してくれる組織があるかもしれない。だけど。

 

 

(んなこと本心から思うわけないだろ。嫌だねー働きたくねえよ。女と酒と金を無料で恵んでくれる人とかいないかなマジで)

 

 

 そんな軽い現実逃避を済ませ、この状況を改善する一手を決める。

 

 

「助けてくれ、露蜂房(ハイブ)

 

 

 ――――――ふふふ。もう、仕様がないわね。

 

 

 結界はとうに消失している。ならば、この都市を埋め尽くしている機械蜂が半壊状態の建物の隙間から大量に侵入するのは当然の理。その隙にポーションを胃に流し込み、破壊された肺を回復させる。

 

 

「……不器用で姉妹のなかでも天然が凄い子で、誰より優しくて、アインズ様と最も時間を共にした自慢の妹だった。それを……こんな、こんな死にかたッ!!」

 

「うるせー化け物。そりゃおまえらの視点から見た都合のいい妹だろ。ありゃ人に何の興味にも懐かない、塵としか考えない屑だ。けどよ、おまえは違うだろ。お前みたいな奴も居るんだなって俺は安心したよ」

 

 

 それでも、そんな彼女でもあるナザリックに属するすべての下僕に言える共通点。

 

 

「そんなにもアインズは素晴らしいか、一人残らず死ねと命令されればはい、お望みのままにってか」

 

「当たり前よ!」

 

「アインズ以外の優先順位が圧倒的に低いんだなお前ら、見てて吐き気がする」

 

 

ゼファーは薄々気づいてきた。コイツらの共通認識、絶対的なルールが。

 

 

「そこの頭が屑過ぎて破裂した妹の方がアインズ様より大切って宣言するなら、残ってやる」

 

 

 ――――――無論嘘だ。

 

 

 ユリは、五体のすべてを使い機械蜂を駆除する。血が滲むほど拳を握り締め、辛そうな顔で。

 

 

「ナーベラルは大切な妹。僕なんかより大切な姉妹。けど、アインズ様と比べるなど、それこそ死罪ッ」

 

(やっぱ一人残らず頭がおかしいわ。幸せだろうよ、支配者様に仕えるのが何よりの喜びで?言葉ひとつで天にも上るってか?)

 

「テメーらの方が家畜以下だろ。自分の考えでちったあ生きてみろや!!」

 

 

 ああ駄目だ。コイツも終わってる。ましに見えるコイツでさえこれなら、もう、終わってる。

 面倒な、さっさと逃げればいいのにこんな話をする理由。

 

 

「最大脅威で最大の弱点発見。けど、この情報意味あんの」

 

 

 ゼファーにとって有利な状況による余裕。露蜂房(ハイブ)の機械蜂がこの都市の情報を伝える中で、このメイドより強い存在がいない事実。何より、時間さえあれば露蜂房(ハイブ)だけでこの都市すべての敵を倒すことができてしまう事実。

 ならば。この都市に、露蜂房(ハイブ)とゼファーに敵う敵がいないなら――――――

 

 

「なんでありんすかこの虫は、邪魔よ」

 

 

 そいつが突き出したランスの衝撃だけで、一画の機械蜂が消し飛んだ。

 

 

「これはどのような場面でありんすか?」

 

 

 そいつが引き連れてきた異形の軍勢が、機械蜂を焼き払う。露蜂房(ハイブ)の蜂の一機一機は大した攻撃力を持っていないが、膨大な数の暴威がそれを補う。その数は兆を超える機械蜂群の軍勢。数え切れない量の究極。その内の十や百が減ったところで総体は揺るがない。蟲の群れは本能的におぞましく、相手にすれば戦意を保つことも難しい。痛みも快感に変える露蜂房(ハイブ)の毒は、蓄積されるごとに筋肉は重く弛緩し、中枢神経は痙攣する。針が刺さる存在ならば、アンデッドだろうが魂を汚染する。

 故に、針が刺さらず元々骨しかないスケルトンが露蜂房(ハイブ)の天敵。

 

 

 ――――――まあ、それ以前に。

 

 

「この間抜け面を殺せば、この虫は消える?」

 

 

 ――――――こんな化け物、どうしろってんだ。

 

 

 深紅の鎧のフルプレートに身の丈以上のランス。精気を感じさせない白い肌と、小さな唇から覗かせる牙が、彼女が吸血鬼だと物語る。

 恐怖で身体が震える。この吸血鬼は、彼の人生で最も強い強者。

 誰も勝てない。万能も英雄もコイツに劣る。

 そんな化け物と、ゼファーとほぼ互角の眼鏡メイドと異形の怪物たち。

 

 

「いっそ、気絶でもしちまえばな……」

 

 

 呟いてみれば、なんて魅力な選択だろう。気を失ったまま殺してくれれば眠るようにこの世をおさらば出来る。もっともその場合、蘇生され拷問ぐらいされるだろう。否、彼が捕まればローブル聖王国の関与がばれてしまう。

 それだけは――――――

 

 

「死ね」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 唯振りかぶっただけのランスの横薙ぎは、ゼファーの左腕を肩から先を完全破壊し、衝撃だけで左半身すべてに深刻なダメージを刻み込む。なすすべもなく吹き飛ばされた身体は、壁を貫通し、粉々になった瓦礫が体を塵屑のようにミンチにしながらようやく止まった。

 

 

「……はっ?」

 

 

余りの呆気なさに、吸血鬼――――――シャルティアは困惑するが、一刻も早くアインズ様の命令を遂行しなければならない。

 

 

「ウルベルト様、アイテムを使わせていただきます」

 

 

 ウルベルト・アレイン・オードルが製作したアイテム。第十位階魔法最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)を六重で発動できる魔像を発動した。

 召喚された一万体の悪魔。大地を、空を多い尽くす悪魔たちは正に人類の存亡をかけた最終戦争。

 

 

「四千の悪魔はスレイン法国、残り六千の悪魔はアーグランド評議国へ行くでありんす。最後に――――――恐怖公」

 

「御呼びで」

 

 

 恐怖公の概観は体高30cmほどの直立したゴキブリ、ただし顔面は正面を向いている。身に付けている衣装は貴族を思わせる。

 

 

「邪魔な虫を消し次第、眷属を無限召喚しそれぞれの都市に放て」

 

「承った。いやまさか我輩が外に出れるとは夢にもおもわかなった。――――――眷属召喚」

 

 

 恐怖公を中心に、最大体長1mから手のひらサイズまでの様々なゴキブリが無限召喚される。

 

 

「さてと、ユリ。もう殺したでありんすか?」

 

 

 シャルティアがユリに視線を向けると、ゼファーの四肢を砕き、捻り、肉達磨と化したそれ(汚物)を見下ろしていた。

 

 

「……申し訳ありませんシャルティア様。今、終わらせますので」

 

 

 ゼファーが生きているのは、ユリが殺さないように痛め付けたから。その身体は、もって五分で命を落とす。だが、そんな時間を待つ気はない。

 

 

「ナーベラル、貴女の仇は討ちましたよ」

 

 

 その拳がゼファーの頭をザクロに変える。死は免れない。英雄譚もこの男には何の意味もない。

 そう――――――逆襲劇を。

 この状況を打開する逆襲劇を。

 

 

「死ね」

 

 

 そんな都合のいい逆襲劇など起こらない。

 故に、ゼファーは終わる。

 そんな気力も力ももうないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の恋敵(しんゆう)に、何してくれてんのさ」

 

 

 弱虫で臆病な錬金術師(アルケミスト)が、親友を助けるべく、立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“Das beste Schwert, das je ich geschweisst(ああ、苦しい。なんと無駄な徒労であろうか),

 nie taugt es je zu der einzigen Tat!(心血注ぎ、命を懸けた、我が最高の剣さえ)

Ja denn! Ich hab' ihn erschlagen!(竜を討つには至らぬのか)

Ihr Mannen, richtet mein Recht!(然り! これぞ英雄の死骸である!)

Ihr Mannen, richtet mein Recht!(傍観者よ、我が栄光を認めるがいい!)

Her den Ring!(宝を寄こせ!)” “Her den Ring!(すべてを寄こせ!)”」

 

 

 悪名高き傭兵団強欲竜団(ファブニル)頭領、ファヴニル・ダインスレイフ。

 まるでオペラの指揮者であるかのように、勢いよく両腕を左右に広げた。喜悦に犬歯を剥き出しにしながら、舌なめずりする竜の様にこれからの戦いを歓迎している。

 視線に映っているのはあくまで自分の興味だけ。大欲漲る悪意の竜は、敵の到来に想いを馳せる。

 

 

審判者(ラダマンテュス)女神(アストレア)から勅命の依頼。最初は疑ったぜ、鋼の英雄(ジークフリート)と敵対する俺に何の用かってな」

 

『彼らとは仲が悪いのかい?』

 

天敵(しんゆう)だ」

 

『何だそりゃ、とてもそうとは思えないね』

 

「いいかツアー。俺の信念は"自らこそ英雄に討たれた邪竜であり、同時にいずれ英雄を滅ぼす魔剣である"だ。そう、英雄が魔剣()を生み出した。邪竜()を討ち取り奴はこの世に生まれたのだからッ」

 

 

 その存在理由はクリストファー・ヴァルゼライドを害することであり、そこにすべてを懸けている戦闘集団。

 十年前、滅亡剣(ダインスレイフ)として悪名を轟かせる強欲竜団(ファヴニル)の長は、ローブル聖王国に属する一介の兵士に過ぎなかった。

 あの頃のローブル聖王国は腐っていた。腐敗と賄賂がものをいう貴族社会、国民より己を優先する輩が国を運営していた。そんな貴族の下っ端として働けば、普通の兵士より金が入った。破滅と腐敗をもたらす貴族に彼が属していた理由は、ただ楽に生きたいという欲望、それだけに終始する。

 別に、貧しい家に生まれたわけではない。

 犯罪に手を染めなければいけないほど、生活に切羽詰まっていたわけでもない。

 真面目に努力して働けばそれなりの幸せを得られる境遇だったが、だからこそ簡単に生きられる道がありながら、どうして態々苦労するやり方を選ぶのかが彼には皆目分からなかった。

 例え、その楽な道が他人の人生を踏みにじることで舗装されたものであろうと。簡単なら、気楽なら、それで万事構わない。重要なのは己の利得。嗚呼だって人間そんなもんだろ?

 実際、貴族はとても偉大だった。国そのものが腐っているのだ、上の連中は甘い蜜を吸うのに躊躇などしない。合法的な仕事で汗水垂らして労働するより、よほど良い分け前を貰えるのだから。とはいえ、その収入は犯した悪事の重さに比べれば笑えるほどに少ない雀の涙。もっと欲しいと思ったことは当然一度や二度じゃないが――――――だからといって、のし上がるつもりはない。

 地位や立場が上がれば、危険や責任も増えてくる。自分はただ、巨悪の傘下で甘い蜜を吸えれば結構。危ない橋を渡るなど真っ平御免だから、そこそこの生き方で適度に堕落し、我慢していた。

 そう、要するに彼は何処にでもいる小悪党だったのだ。

 真面目に生きる気のない一山いくらの愚か者。

 根性も、信念も、意思も何もかも欠けたくだらない存在であり、大きな獣が仕留めた食い残しの屍肉にたかるハエの一匹に過ぎなかった。

 全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて物事に当たる気概がない。そして、それを恥じることさえない人間だ。

 だってそうだろう。真面目に理想や野望を掲げて努力して、必死になるなんて馬鹿のすることではないか。そもそも、努力が報われる保証がいったいこの世の何処にある?

 意志の力で何とかなるなど所詮は夢物語。努力せず、真面目に生きず、ただひたすらに楽を得るのが賢いやり方。つまり自分は勝ち組であるという確信があるだけに、改善の芽は何処にもない。よって心も怠惰になるのは当然であり、自業自得で損をしても自分より下っ端の人間に当たり散らすのが日常になっていく。

 他人の成功にはすぐさま飛びつき分け前を強奪しながら、自分の失敗は別の誰かに押し付けてやり過ごすという――――――その繰り返し。

 そんな半端な人間が何かを成し遂げられるはずもないが、それでも彼が疑いなく幸せだったのは皮肉にも間違いなかった。

 小物ゆえの謙虚さすら無くし始めた男は、使い潰されるのが決定された。言ってしまえばよくある話に、大したドラマは微塵もない。

 

 破滅への秒読みが始まったその瞬間――――――彼に転機が訪れた。

 

 国民を食い物にしていた貴族を、断罪の刃が蹂躙した。

 他の兵士がまとめて斬殺された際、その刃に巻き込まれて傷を受けただけ。命を取り留めた理屈はそれだけのことである。

 そして――――――ああ、それで。

 出血で定かでない意識の中、彼は光へと目を奪われる。

 放たれた戦力はたった単騎(一人)

 悪を裁く浄滅の祈りに敵無し。

 なんて、圧倒的な英雄譚(サーガ)

 生まれて初めて目にした本物の光から目を離すことなどできやしない。

 その瞬間から、彼の脳は覚醒した。

 何処までも本気で怒っているのだ。何処までも本気で挑んでいるのだ。こうしている今でさえ、勝利(まえ)へ、勝利(まえ)へとがむしゃらに、何処までも馬鹿正直に限界を超え続けていた。

 全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて。

 常人を遥かに凌駕する意志の力を滾らせている。絵物語じみた粉砕の意志に身震いが止まらない。

 だからこそ、羞恥の情が猛烈に襲い掛かる。

 自分はああまで真剣に生きたことが一度でもあったか?

 何でもいい、あそこまで本気を出し何かを成し遂げようとしたことがあっただろうか?

 

 

 ――――――いいや、ない。

 

 

 そんな事実に、小悪党の魂は強烈な衝撃で揺さぶられた。昨日までの自分自身に燃える怒りが止まらない。

 努力が報われるという保証がない?

 意志の力で何とかなるなど夢物語?

 なんて馬鹿げた勘違いだ。目の前にこれ以上ないほどの実例が、こうして存在しているじゃないか。

 人間は不断の努力で、これほどまでに限界を越えられる。

 人類は意志の力で、何処までも不可能を可能にする。

 その間違いに気付いたから、腹の底から奮起した。もはや怠けるつもりはない。

 

 

 ――――――あの人みたいに、奴みたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあそうだろ我が麗しの英雄(ジークフリート)よ。俺はそこまで追い付いて見せる。戦争という混乱状態だからこそ、俺の願いは成就する」

 

『ま、約束は守るよ。君たちのお陰で悪神(ぷれいやー)の存在を感知し、先手を打てる。好きにやってくれ』

 

「もとからそのつもりよ。けどよ邪竜(ファヴニル)が、人々を苦しめる悪と戦うとかどうなんだろうな?俺はいつから英雄(ジークフリート)に鞍替えしたんだあ!?」

 

 

心底楽しそうに爆笑する男に、ツアーは諦めのため息をつく。

 

 

『気づいてると思うけど、アレ全部敵だよ』

 

 

遥か先の地平線を埋め尽くす黒い影。そのすべてがアインズ・ウール・ゴウンの無限ポップするアンデッドと召喚された悪魔とゴキブリの軍勢。

 

 

『僕は君の中で見ることしか出来ないけど、頑張ってくれ』

 

「もとからそういう契約だ。文句なんてねぇさ。万里一空意匠惨憺孤軍奮闘流汗滂沱勇往邁進懸頭刺股慎始敬終獅子奮迅一意奮闘刻苦勉励奮闘努力奮励努力ッ!!さあさあ来いやァァァアアアアアアアア!!」

 

 

全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて。

 

 

『この状況を一人で切り抜けられると本気で思ってるのかい?死ぬよ』

 

「その時はその時だよなァッ!やれば出来るさ何事も!時にはわざとバカやらかすのも一興だろうぜ、クァハハハヒヒヒヒ!恐れず進め、道は拓くさ。勇気と気力と夢さえあれば大概なんとかなるものだ!そうだろう、我が麗しの英雄(ジークフリート)ォォォォオオオオオオ――――――!」

 

 

気合と根性によって数々の不可能を成し遂げた実例を見て、その背中に焦がれ続けた男は、彼が真実本気で怒り、討たんとするに相応しい敵になるのだ。

 

 

「前哨戦だァ!英雄譚(サーガ)は俺を求めているッ!!」

 

 

挑戦者(ひかり)が、本気でその足を走らせた。

 

 

 

 




やっぱり心情とか感情を表現するの難しいですね。
それはそうと、正直前回の話は批判覚悟でかいたのに誰も感想欄に批判書かないじゃないか!!アンチヘイトを書けば批判がくるもんじゃないのかよ!?ちょっと批判が楽しみにしている自分がいるんですよ(光の亡者(関係ない?

そして、邪竜おじさん。
結局こうなりました\(^o^)/
いやー、絶対意見通りするとは言っていない(震え声
これからはバトルフェイズ、書きやすくて執筆が早く進みそうです!



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錬金術師

 地平線を埋め尽くす異形の化け物たち。大地を、空を蹂躙し突き進む地獄はまさしく最終戦争。

 異形の軍勢は増え続ける。時間を与えれば与えるほど際限なく増え続ける。ファヴニル・ダインスレイフに迫る今も増え続けている。ゴキブリなども含めればその総量は十万を超え――――――増え続ける。

 無限ポップとはそういうもの、ユグドラシルではエリアごとの最大総数が決められていたが、この世界は現実。増えれば、増えるしかない。

 ナザリック地下大墳墓第1第2第3階層"墳墓"から湧き出るアンデッドは、宝物殿から持ち運ばれた転移門(ゲート)のアイテムを全稼働させ外に送り続けている。そして、格階層の無限ポップにも同様に配置された転移門(ゲート)のアイテムが、僕を只管送り続ける。

 ナザリック地下大墳墓を破壊しない限り増え続けるそれは、それだけでこの大陸をアンデッドで溢れさせることが可能だろう。

 故に、嗚呼――――――だから。

 

 

「初っ端から本気(マジ)で行くぜ!!」

 

 

 ダインスレイフが唱えた起動詠唱(ランゲージ)が響き渡る。

 

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――――――我らは煌めく流れ星」

 

 

 英雄に討たれる悪竜と、英雄を殺す魔剣の名を同時に冠する男の真髄。その凶悪極まる能力()の片鱗が解き放たれる。瞬間、爆発するかのように轟くダインスレイフの世界。

 ダインスレイフを中心に世界が干渉される。

 大地が逆立つ鋭い竜の鱗と化したみたいに、ダインスレイフが立つ世界すら呑み砕いてやるとばかりに、地形そのものを意のままに変型させた。

 大地が激しく波打ち、形を変え牙を生やした竜の咢が異形の軍勢の一部を蹂躙する。

 これこそが、ファヴニル・ダインスレイフの()の輝き――――――この世に存在する無機物は、暴竜の支配下に置かれる。

 世界(たから)が変わる、すべてが変わる。

 邪竜の体躯()に変貌していく。

 そして、邪竜も意気揚々と、双腕のジャマダハルを打ち鳴らしながら肉弾攻撃で突貫していく。呼応して大地が軋み、想像される無数の剣鱗で雑魚を一掃しつつ、邪竜の剛腕が悪魔を粉砕する。猛然と勢いを増して世界を埋め尽くさんと増え続ける異形の軍勢の奥へ奥へと進撃さえしていく。

 

 

『いつ見ても凶悪だ。物質変形……破壊以外にも建設的な力なのだがな』

 

「おいおい、そんなつまんねぇ使い道真っ平ごめんだぜ。……だがよ、分かっちゃいたがこうも数が多いと取りこぼしちまうな。いくら俺の力が数相手に有利だろうが干渉には限度がある。地平の彼方まで広がったこいつ等はどうしようが抑えようがないってわけだ!!何よりだァ!!空を飛ぶってせこくねえか!?」

 

『君のテンションがいつも以上に高いってのは理解したよ。まあ、こっちもそれは想定済みだ。アーグランドの防衛ラインを踏み越えた瞬間、飽和攻撃が開始される。こっちの攻撃に巻き込まれて死んでも知らないよ?』

 

「その程度で死ねるかよ馬鹿が!!英雄譚(サーガ)は始まったばかりだぜ!!英雄(ジークフリート)と邂逅を前に邪竜が――――――って、オリャァァアアアア!!」

 

 

 level80の悪魔が、進軍を邪魔する邪竜を障害物として認識しその暴力を開放する。

 ダインスレイフもその剛腕を振り下ろすが、絶対的なlevel差が悪魔の皮膚さえ傷つけられず何の効果もなく迎撃される。

 その攻撃は、ダインスレイフを真っ二つに裂き、大地をも亀裂を刻む最上の一撃。ならば、その悪魔の一撃に邪竜が討たれるか――――――答えは"否"。

 ダインスレイフは、ヴァルゼライドを己の手で倒すためにあらゆることに身体を染めた。本気で準備し、本気で天変地異を起こせる化け物に勝つためにこの場にいる。

 敵が強い?重々承知だ。ようはツアークラスの正真正銘の化け物が複数対いるだけだろ。それを必ず超える人物を彼は知っている。この英雄譚(サーガ)は、その程度の敵で躓く様では話にならないレベルなだけだ。ならばこそ、そう。ならばこそ――――――

 

 

「いざ目覚めろや!!お前が真の竜なら今一度、奇跡を俺に見せるがいいッ!!!」

 

 

 ダインスレイフは高らかに叫んだ刹那、共鳴する()の鼓動。

 一瞬でツアーとの同調は臨界を超え――――――ダインスレイフの魂が、暴力に響き渡った。

 圧倒的格下の人間が、竜の強大な魂と同調しlevelにそぐわない強制的な出力向上は、海流を流し込まれる風船か、あるいは隕石を茶碗で受け止めるような愚行だろう。人体さえ消し飛ばしかねない竜の暴風。破裂していないのが不思議なほどのエネルギー供給量が吹き荒ぶ。

 それを――――――

 

 

「ヒャッハーッ!!」

 

 

 当然受け止め、覚醒する。

 level80の悪魔の一撃は、覚醒した邪竜の肉を抉るが致命傷へは程遠く、速度も向上し同じく迎撃した邪竜の一撃は、格上だった悪魔の身体を切り裂いた。

 

 

「やはり本気は素晴らしい。どんな馬鹿げた不可能も可能へと変える魔法の力だ。人の身には扱えない?使えば死ぬ?それがどうした、この現実を見るがいい。俺はまた現実の無理と無謀を踏破したぞ、これを一体どう見るよ。小鳥の声を聞くには竜を殺し。心臓から滴る血を飲めばいい――――――クハッ、傑作だ!!これじゃあまるで俺が英雄(ジークフリート)のようじゃないか!!」

 

『いや……本気で驚いた。僕の始原の魔法(ワイルド・マジック)を利用し、自分の魂と同調させて強くなるって君が論じた理論。穴だらけだし、意味不明だし、そんな事をしたらまず間違いなく死ぬ。他人の魂を使うんじゃなくて、自分と繋げるって行為は下手をすれば侵され消滅する程危険なんだ。要するに異物だ。自分という純粋な魂が他人という純粋な魂と拒絶する。何より、弱い魂は押し潰される。それを同種なら兎も角、人間とドラゴンが成功するって君って本当に何者?』

 

「邪竜だ」

 

『あー……そうじゃないんだけどなぁ。まあ、使いこなせるかは君次第だ。君が何処までやれるか興味が湧いてきた。約束の時まで頑張ってくれ』

 

 

 元々ツアーは失敗を前提に約束を結んだ。

 邪神(ぷれいやー)の存在に、その脅威。全面戦争までの情報を提供してくれた。その対価として、今回の無謀な挑戦だ。失敗すればダインスレイフが死ぬだけ、その後白金の全身鎧を遠隔操作し始原の魔法(ワイルド・マジック)で教えられた邪神(ぷれいやー)のギルドごと超爆発する予定だった。だが、自分の力を発揮できる器を遠隔操作出来るのは一体まで。何よりダインスレイフと魂ごと繋がってしまった現状、彼が死ぬ時が約束の時となる。

 

 

「どうした、本気を見せろよお前達ッ!!ただ突っ込んでくるのは案山子と変わらんだろうが!!」

 

 

 先ほどまでとは比べものにならない広範囲に渡る剣鱗が異形の軍勢を串刺しにする。山脈と見間違う竜の咢が空を侵攻する悪魔に喰らいつく。

 破滅の魔剣――――――彼はただ、唯我独尊に突き進む。

 英雄の血を求め。

 

 

「ククッ……ハヒッ、クハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 

 もはや邪竜は止まらない。数の暴力が、自分より遥かに強い悪魔が、一時一時の窮地を乗り越える度にその激しさは増していく。強欲竜は今まさに人間としての一つの階段へ、人ならざる存在へと近づきつつあった。

 

 

「ああァ……ツアー、おかげで俺はこの力にありつけた。いくら感謝しても足りないぜ。今なら見えるぞ、英雄(ジークフリート)と同じ景色が……自らの心に応じて、無限に力が湧いてくる。俺の意思が、本気が、世界の道理を捻じ伏せているんだァ!!しかしまだ、まだ足りないッ……もっとこの身に滾らせてくれ。魔剣()の鞘をぶち壊すためにッッ」

 

 

 同調したツアーの魂が、ダインスレイフの魂と呼応して物理限界の棄却を意思一つですべてを超越できる領域へ突き進む。全身に活力が湧いてくる。それでもなお、異形の軍勢の数は揺るがない。減らされても、増え続ける脅威。単身で量の究極を実現する露蜂房(ハイブ)と違い、条件が幾つも揃わなければ出来ない芸当だとしても、時間さえあれば全てを埋め尽くす異形の軍勢は、文字通り地獄をつくり出す量の究極と言える。

 一人では、どうしようもない。規模も桁違い。ならば、この状況を打開する最適解とは――――――

 

 

「しゃらくせええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 

 更なる覚醒を、物質支配の効果範囲を拡大し、串刺しされた死骸の数を爆発的に増やしていく。

 

 

「おいおい、お前ら何してんだよ所詮数だけかよ。アンデッドだろうが悪魔だろうが関係ねえ……どうして覚醒しないんだ?挨拶代わりにで死ぬなよなァ!!英雄みたいに輝けよ!!今から皆で限界を超えようぜ、本気でやってみようじゃねえかッ!!」

 

 

 切り裂き、噛み砕き、あらゆるものを踏みつぶしながら進む獰猛な竜。覚醒を繰り返し、雑兵と化した異形の軍勢の蹂躙にも飽きてきた。この程度じゃあ足りない。もっとだ。もっともっと――――――財宝をよこせ。

 

 

「……俺の勘じゃそろそろの筈なんだが」

 

『何かを待ってるのかい?』

 

「向こうからしても面白くはねえだろこの状況は。送り出している兵隊が、敵の本体と衝突する前にたった一人に数を減らされ多少なりとも足止めされてるんだ。これにキレない奴はいない。俺を殺すために、確実に強い奴をぶつけてくる。何より、俺の存在は絶対に無視はできない。なら、この囲まれた状況だからこそ確実に袋叩きする刺客を送り出してくる」

 

『戦略的に間違ってはないけど、そう都合よく現れて……』

 

「前にも言っただろ。俺の勘は良く当たる」

 

 

 強欲竜の鋭く光る両眼は真っ直ぐに一人の敵を射抜いている。

 

 

「しゅ、守護者一人でも確実に倒せるlevelの敵。せ、千載一遇のチャンスってお姉ちゃんも言ってたし……」

 

 

 金髪ショートボブの美少年。青と緑のオッドアイをしており、緑色の小さなマントのようなものを羽織って、短めのスカートを履いている。両手に握り締めている木の枝のようなスタッフは、強欲竜の嗅覚を刺激する。デスナイトを百体に、level80以上の怪物を引き連れ、『頼りない大自然の使者』と、なんとも残念な二つ名を持つ実力は守護者第二位――――――マーレ・ベロ・フィオーレが膝を震わせながら登場した。

 

 

「えっと、ナザリックに逆らうような人は……やっちゃいます」

 

 

 その雰囲気、口調、見た目からは裏腹に、瞳の奥にはドロドロ濁った闇を覗かせる。

 

 

「お前が魔剣()の超えるべき壁ってわけか。……ならばこそ、光の礎となりやがれやッ!!!」

 

 

 全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて。

 本気の意思一つで、何処にもいる小悪党だった男は、本気で挑戦し続ける。

 強欲竜として、宝をよこせ。財宝をよこせ。たからをよこせ。全てを喰らい、力に変え、必ず英雄(ジークフリート)を――――――

 

 

「カヒッ、ヒハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 光の亡者は、本気で挑み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルシード・グランセニックは争いを好まない。

 誰かのための戦いで自分が傷つくなんて真っ平御免だし、そもそも弱気な性格は戦うことに向いていない。

 産まれた環境も良く、殺し合いなど殺伐とした戦場とは真逆の場所で育ってきた。両親から施された英才教育は社会に於ける立ち回りの機微と、最低限の礼節も学んだ。気楽に、置かれた環境からお金の流れを見抜く目は自然に養われ、それさえ身に着けてしまえばさほどの苦労をしてこない人生であった。

 それが、父が犯した罪で後の政権を握る英雄閣下に粛清され、まだ潔白であったルシードを第三諜報部隊・深謀双児(ジェミニ)と第七特務部隊・裁剣天秤(ライブラ)隊長のチトセ・朧・アマツが、他国に対する情報収集の為に利用した。他にもいろいろとややこしい事情はあったが――――――そんな、取るに足らない、ごくつまらない男。

 そんな彼にも、初恋の相手や、親友もでき、金に関係ない。温かなものを掴むことができた。

 なのに、異形の怪物たちはこの日常を破壊する。

 大切な、大切な人を殺そうとしている。

 元々潜入だけで、戦闘命令を下されていないルシードは、露蜂房(ハイブ)の助けなど無視して安全な所まで何時もの様に逃げても良かった。それでも―――――― 

 

 

「情けないと、素直に思った。それだけさ」

 

 

 愛する人へ、友へ、家族へ、同僚へ、あまねくすべてに今この時彼は負け犬の矜持を示す。

 一人で抱えてひたすらだんまりで、性能だけなら五本の指に入る実力がありながら、何処までも負け犬な彼だからこそ――――――この"今"に捧げる熱量と思いは、英雄(だれ)にも負けない。

 

 

「正直言って、僕は君たち怪物が羨ましいと、心の底から思ったよ」

 

 

 情けない弱者の吐露に対し、帰ってきたのは一瞬の静寂。

 

 

「だってそうだろ?神や悪魔に選ばれて、すぐさま活躍できるだって?馬鹿を言え、それが出来るのは怪物と英雄だけだ。小心者はどこまで行っても塵屑で生まれ変わるのは無理なんだ。それこそ、余程の事がない限り……」

 

 

 誰か自分より大切な者でも出来ない限り、弱虫は自分の為に立ち上がる事が出来ない。

 銃やナイフを手にした途端、一朝一夕で勇敢になれるなら訓練さえ必要ない。

 強力な兵器さえ握らせれば誰もが勇者になれてしまう――――――そんなものは現実じゃありえない。

 負け犬は負け犬。

 

 

「結局自分のような負け犬が出来るのはどこまで行っても弱いものイジメなんだ……」

 

「はぁ?」

 

 

 つい聞き入ってしまったシャルティアは、守護者最強の強者である自分が弱いと、パッとでの男に評価され、怒りと同時に、強さも計れない下等生物の強気な発言に笑ってしまう。

 栄光なるナザリック守護者最強を自負するシャルティアは、ペロロンチーノ様から頂いたフル装備を身に纏い。慢心、油断、侮蔑、後さき考えない馬鹿な頭を前に。

 

 

「だから――――――今から僕は弱者()を下す」

 

「言うでありんすね。なら――――――やってみろやッ!!」

 

 

此処からの戦いは英雄譚とはかけ離れた幼稚な啖呵を切り合った負け犬同士の泥の掛け合い。

 

 

「天昇せよ、我が守護星――――――鋼の恒星を掲げるがため」

 

 

 彼が口にした()を起動する詠唱(ランゲージ)

 

「有翼の帽子と靴を身に纏い、双蛇の巻かれた杖を手に、主神の言葉を伝令すべく地表を流離う旅人よ。

盗賊が、羊飼いが、詐欺師と医者と商人が。汝の授ける多様な叡智を、今かと望み待ち焦がれている。

幽世かくりよさえも旅する人、どうか話を聞かせておくれ。

石を金へと変えるが如く、豊かな智慧と神秘の欠片で賢者の宇宙を見せてほしい」

 

 

 商人、親友、初恋、負け犬、そして内包する能力。いずれもこの男の一面に過ぎず、されどすべてが彼自身を構成する紛うことなき真実の顔。多面性を有するその特性は、確たる魂により遂行される。英雄の様に、光の亡者の様に、たった一つの顔、理由だけでは立ち向かえないから。

 

 

「願うならば導こう――吟遊詩人よ、この手を掴め。愛を迎えに墜ちるのだ。

太陽へかつて譲った竪琴の音を聞きながら、黄泉を降りていざ往かん。それこそおまえの真実である」

 

 

 ルシード・グランセニックが求めて止まない希望(ヒカリ)、その裏返しがまさにいま顕在化した。

 

 

超新星(Metalnova)――――――雄弁なる伝令神よ。汝、魂の導者たれ(M i s e r a b l e A l c h e m i s t)!!!」

 

 

 瞬間、周囲の時空が歪み全方向に暴力の津波が襲い掛かった。

 血肉が通うモンスター、この世界では極上の装備を身に纏ったアンデッド達が、見えない力で押し潰される。

 シャルティアを守るため、多種多様な怪物が襲い掛かるが――――――しかし、彼の纏った衣服にすら触れることも叶わない。

 ゼファーを殺そうと拳を振り下ろした眼鏡メイドを吹き飛ばし、有りっ丈のポーションを浴びせ安全を確保する。

 最早誰も近づけはしない。この力から逃れられる生物は存在しない。

 

 

「アンデッドとの相性は最悪だけど、そうも着飾ったら何の意味もない」

 

 

 不可視の力が激しく膨れ上がり、次の瞬間、同士討ちをし出すアンデッド共。精神支配を受け付けないアンデッドを精神操作、それも複数はあり得ない。シャルティアがやられたように、ワールドアイテムでもなければ不可能。

 

 

「きぃさまああああああああああああああああああッこのわたしにぃ……何をしたあ!!」

 

「うるさいよ。か弱いレディの姿に反して怪力過ぎない?本気で抑え込んでるのに動けるって」

 

 

 一番近くにいたシャルティアは真っ先に不可視の力に絡め獲られ、地面に沈んでいく身体に抗いながら一歩一歩確実に近づいていく。

 

 

「『眷属招来』!!」

 

 

 古種吸血蝙蝠(エルダー・ヴァンパイア・バット)吸血蝙蝠の群れ(ヴァンパイア・バット・スウォーム)吸血鬼の狼(ヴァンパイアウルフ)他にはネズミーなどを召喚するスキル。

 四方を埋め尽くす僕に比べ、たいして強くないモンスター。 だが、血肉は通わずなにも装備をしていないからこそ、錬金術師(アルケミスト)の不可視の力から逃れることが出来る。無自覚だとしても、シャルティアは最善な手を打っていた。

 

 

「ああそれで?」

 

 

ルシードが更なる力を行使すべく地面に手をかざした。同時、地面から黒い塊が渦を巻き、鋭い槍先の形状へと凝固すると鞭のようにしならせシャルティアが召喚した眷属を切り裂いた。

 数にはおよそ限度はなく、形状を変化させ飛来する最中に軌道を急激に変えてシャルティアに殺到する。

 

 

「くっ……『飛行(フライ)』」

 

 

 身体を拘束する力に抗い、翼を広げ槍先から逃れるべく空を舞う。level100の守護者最強としてロールプレイに寄らないガチのレベル配分がされたペロロンチーノに創造された趣味と浪漫の集大成。

 ルシードの力を持ってしても、広範囲に能力を展開しながら、level100のシャルティアを完全に押さえつけるのは出力の問題上不可能。光の亡者ではない、闇に属する彼は、土壇場の覚醒も進化も当たり前に出来やしない。頭がおかしい光の亡者(破綻者)とは違うのだ。

 故に――――――

 

 

「舐めるなぁ!!『清浄投擲槍』ッ」

 

 

 清浄投擲槍、1日に3回だけ使えるスキル。神聖属性を持つ3mもの長大な戦神槍を生み出す。MPを消費することで必中効果も付与できる。他の守護者、アインズさえ命中する正に必中スキル。

 よって、何の無力化アイテムも、スキルも効果もないルシードに防ぐ手段はなく、その光槍は必ずその心臓を貫き――――――

 

 

「……死想恋歌(レディ)、君の加護を使わせてもらうよ」

 

 

 懐から取り出した装置を起動させた。

 

 

「あ、ありえないッ」

 

 

 光槍は、装置から溢れた焔の如き漆黒の反粒子によってその効果を殺された。世界を殺す、否定(アンチ)否定(アンチ)否定(アンチ)――――――ゼファーとルシードを覆う様に展開されたソレは、結界として機能している。

 世界を否定し、光を反転させる滅奏。二人の少女の能力から開発された聖王国独自の技術で作り上げたマジックアイテム。

 死想恋歌(エウリュディケ)の反粒子を遠隔瞬間移動(アポーツ)を用いて遠くからでも、誰でも、道具として扱えるように作り上げた至高の一品。装置の大きさから二三人しか覆う事が出来ないが、それでもあらゆる効果を遮断し、干渉する異能を打ち消す奈落の底へ誘う漆黒の闇。

 

 

「ジン・ヘイゼル。この結界は五分しか持たない。この大きさじゃそれが限界だ。その間に、何処までやれる?」

 

 

 ルシードに連れてこられた頑固ジジイ。ジン・ヘイゼルはゼファーを治療しながら、ポーションで治癒不可能の欠損部、失った左腕を前に、正確に答えを述べる。

 

 

「ふん、小童が、ワシを誰と心得ておる。……四分でやってみせよう」

 

「……ありがとう」

 

 

 さあ、ここには光の亡者はいない。光を崇拝する破綻者もいない。

 

 

「さあ、目覚めろよ恋敵(しんゆう)。君の本領は底からだろ?」

 

 

 冥府の底から――――――逆襲劇(ヴェンデッタ)を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 








七月からの東京勤務が六月からに変更になり、準備やその他いろいろで超忙しかったです(白目
今回は前回と同じで、光と闇の考え方の違いが表現できていれば幸いです。色々独自設定などぶち込んでいますが、基本書きたいことを書く主義なので、それで楽しんでいただければ作者、幸せです!!
 六月中は東京で忙しくなりそうなので、もしかしたら次回は七月からになるかもしれませんがよろしくお願いします。


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邪竜戦記

「ハヒッ、クハハハハハハハハハハハッ!!!」」 

 

 

 ツアーに匹敵する敵を目の前に、邪竜は更なる覚醒を遂げる。これまでとは比べものにならない巨大な竜の咢は、街一つ飲み込むほどの大きさに。喰らうべくその牙をマーレ・ベロ・フィオーレへ振り下ろした。

 

「え、えい!」

 

 

 可愛らしい声とは裏腹に、振りかぶったスタッフが邪竜の咢を木っ端微塵に破壊する。

 パワー・オブ・ガイア――――――対象の力をアップさせるスキル。これを使いパワーアップしたマーレは剛力だけで山脈を破壊したのだ。だが、スキルはスキル。そう何度も連続では使えない。持続する間にマーレはダインスレイフ目掛けてデスナイトを投擲した。

 二mの巨大が豪速球で迫る。ただの人間ならばこれだけで終わるが。

 

 

「オリャ!!」

 

 

 ダインスレイフは普通ではない。真の竜と一つになった彼は、正に人の形をした竜そのもの。剛腕から繰り出す暴力がデスナイトを塵芥に――――――

 

 

「何だこいつァ!?」

 

 

 一撃で殺されず、目前に迫る巨体を頭突きで対処する。額が割れ、血が溢れだす。首も負荷によるダメージで軋み始める。

 

 

「……どうやらそいつは二撃くらわせねえと駄目らしいな」

 

 

 次々と投擲されるデスナイトを、瞬時に二本刺しにし圧倒的な脚力でジグザグに地面を蹴飛ばしながら回避、接近する。アーグランド評議国に進行していた異形の化け物ども総数10万は、この場の最高指揮官マーレの指示のもとダインスレイフに殺到する。この場の僕が無限にポップするなら、マーレが躊躇う必要などない。確実に削り殺すためにナザリック外の敵に一切の慈悲などマーレにはない。

 ダインスレイフもまた一切のブレーキを踏まずに、全速力で駆け抜けながら、木々のような巨大な剣鱗を発生させる。ダインスレイフはまさに物質世界の覇者。有象無象がこの世に溢れている限り彼の支配から逃れる術は存在しない。この世界に縛られている限り、邪竜の鱗からは決して逃げられない。よって、ダインスレイフとの戦闘は距離を取ればとるほど不利になり、近づけば圧倒的な立ち回りに翻弄される故に――――――

 

 

「……大地の大波(アース・サージ)ッ!」

 

 

 距離を取っても近づいても不利なのはダインスレイフとて同じこと。

 似たような能力ならば、後出しの方が有利。完璧に決まったカウンター。

 剣鱗の木々すべてがダインスレイフに牙を向け、流れ込む。邪竜の支配から解放された世界が、彼を押し潰す。耐久性が一切変わっていないダインスレイフの身体は、どんな攻撃だろうがlevel100の攻撃は耐えられない、ならば。

 

 

「いいぞ。もっとだァ、もっと俺を追い詰めろやァ!!その先にこそ英雄(アイツ)は待っている!!」

 

 

 破滅の魔剣は覚醒し、更なる後出しで対処する。

 圧する土砂を巻き込み、もっと地中深くの地層ごと竜を造り出す。その巨体は50mに迫り―――――

 

 

大地の大波(アース・サージ)ッ!」

 

 

 崩れ去る。周りの化け物を巻き込みながら何度も繰り返す、後出しジャンケンの猛攻。故に、この攻防を変える一手を持つのは手札を多く持つマーレ。広範囲の地震を発生させ、地割れにダインスレイフを突き落とす。

 

 

植物の絡みつき(トワイン・プラント)ッ」

 

 

 地割れの両方の崖から植物がダインスレイフの身体を拘束し、引きずり込む。

 

 

焼夷(ナパーム)

 

 

 裂け目の奥底から天空めがけて炎の柱が吹き上がり植物もろとも燃料とし対象を灰塵とかす。燃え上がる炎の柱と共に、大地の裂け目が勢いよく閉ざされた。

 

 

「たかがそれ如きで斃されてやると思うな、この俺を!!」

 

 

 三分の一が炭素化した身体で、地を踏みしめる眼光には一切の曇り無し。何ら変わらず化け物どもを篭手剣(ジャマダハル)で屠り去る。その代償に、炭素化した部位は崩れ落ち、ギチギチと軋む音が身体中から鳴り響く。血肉と共に飛散する欠片には、例外なく鉄の破片が混じっていた。

 傷口から覗くダインスレイフの内部を見て、マーレが驚愕する。

 

 

「……た、ただの人間の癖に、自動人形みたい」

 

 

 生物にあるまじき金属の骨格。冷たく無機質な鋼鉄が、肉へと食い込むように男の肉体を形作っている。

 

 

「そんな身体の髄まで機械ってわけじゃあねえよ。人体改造を合計三十七回……だがまぁもっとも大小ひっくるめた数ではあるが、吹かしとしては上等だろう?」

 

「じ、自分の身体を改造なんて……」

 

 

 マーレにとって、創造主に作られた身体を自分の意思で改造する発想すらなかった。それは禁忌だ。NPCの領分を越えている。

 嫌悪感が奔る。マーレは、姉と違いナザリック以外に対し一切の容赦も慈悲もない。顔だって二~三秒後に忘れるぐらい仲間以外どうでもいいと思っている。しかしそれは、油断や慢心、ましてや隙を作るなどはマーレには当てはまらない。与えられた役目を全力で本気で全うする。態度と口調で非常に分かり辛いが、彼はいつも本気(マジ)で、挑んでいる。

 戦闘が始まってから、ばれない様に伸ばされた能力の糸がマーレに到達した。マーレの足元がせり上がりダインスレイフ目掛けて吹き飛ばされる。

 

 

「はわわわ!?」

 

「そのなよなよした演技、本気でやってんのか?態度と瞳が全く別もんだ。やる気を出せ!もっと本気を見せろや!!」

 

 

その思いは本気なのかもしれない。嗚呼分かるとも、俺はいつも本気だ。本気の野郎なら見ただけで分かる。ならば、余計に。

 

 

「その思いが本気ならァ!!さらけ出せやァ!!うじうじうじうじうじうじうじうじやってんじゃねえぞおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 篭手剣(ジャマダハル)、竜の爪が暴風の嵐の如く振るわれる。一撃一撃が本気の絶対の即死。風を置き去りにした連撃は――――――

 

 

「え、えい!」

 

 

 パワー・オブ・ガイア――――――対象の力をアップさせるスキル。マーレは、正面から暴風を一撃で薙ぎ払った。竜の爪は全て破壊されたお陰か、その破壊衝撃は半減されたが、それでもlevel100の力は、ダインスレイフの身体の芯にまで無視できないダメージを刻み込んだ。

 

 

「――――――カハッ」

 

 

 身体が停止し動かない。一秒にも満たない致命的な隙。ツアークラスの化け物相手に、一秒もあれば五~六回は御釣りが来る。

 

 

「ふん!」

 

 

 無論、マーレは一撃をもってナザリックに仇為す存在を粉砕する。英雄に討たれる悪竜は、物語を外れダークエルフにその首を絶たれた。

 

 

「――――――フダケルナァ!!」

 

 

 想い一つ、心一つ。気合と根性、ただそれだけで限界を踏破する。三分の一炭素化した身体が、崩れていく。衝撃は、骨や重要器官を徹底的に痛めていく。残りの寿命など関係ない、今ここで本気で勝たなければどうする?

 成長している、進化している、覚醒している――――――止まらない。

 未来(あす)への命など全部くれてやる。ならばこそ、身体を寿命の全てを懸けて――――――

 

 

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「――――――ッ!!」

 

 

 level100にまで覚醒した身体は、物理の限界を超え、完璧にマーレの一撃を回避し、物質変形で新たに創った竜の爪でその首を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――あぁ?」

 

 

 その腹部に開けられた穴は、残された寿命を消費し、命を射抜かれ果てるのに十分。

 篭手剣(ジャマダハル)はその首を断ち切っておらず、背後から突如として姿を現した伏兵を薄れていく視界の端に確かに捉え――――――哂った。

 マーレは、アインズから地形改変を任されるなど能力は高く、その実力はシャルティアに次ぐ守護者第二位、広範囲殲滅においてはナザリック最強であるが、接近戦はずぶの素人だ。どれだけ強化しても、その単調な一撃はダインスレイフに見切られ、危うくその首を落とし掛けた。

 

 

「お、お姉ちゃん、……遅いよ~ッ」

 

「仕方無いじゃない、あの瞬間が一番隙だらけだったんだから」

 

 

 巨大なカメレオン、クアドラシルと共に姿を現したマーレの姉、アウラ・ベラ・フィオーラは、クアドラシルの能力で周囲の風景と同化し、スキル『影縫いの矢』で対象の動きを止め、鞭でその腹部を破裂させたのだ。

 

 

「念には念を入れよってご指示で隠れてたけど……なんだったのアレ?」

 

「ば、僕に聞かないでよ。僕が来たときは……level70くらいだったのに。最後絶対level100くらいいってたよ~」

 

「ああ~そうね、あの瞬間確かに並んだわ。この一回の戦闘でlevel30以上上げるって頭おかしいにも程があるでしょ」

 

 

アウラは、この戦闘をずっと見ていた。マーレは、その脅威を体験した。

どうにも信じられないが、気合と根性――――――本気の意思だけで強くなっていく破綻者(トンチキ)がいる。

 

 

「この状況もニグレドを通して見てると思うけど、今回の敵は常識外にも程があるわ」

 

 

息絶えた残骸に生気はなく、乾いた唇に瞳孔が開いた瞳から死んでいることは確定している。蘇生アイテムも警戒したが、その予兆もない。

 

 

「何にせよ、私はこのまま軍勢率いて攻め込むから連戦だけどサポートよろしくね」

 

「りょ、了解……です」

 

 

アウラはもう一度死体を見る。強欲竜の残骸は微動だにしない。ただその顔は、死の直前に浮かべていた溢れんばかりの哄笑が硬直したまま張り付いている。

 

 

「……ほんと、何だったんだろ」

 

 

 まるで、勝利を確信しているかのような残骸に、アウラは不気味な気分になる。勝ったのに、そうじゃない。矛盾を抱いた胸はモヤモヤしながらも次の任務に向け足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ドクゥン――――――

 

 

 二人の背後から、あり得ない音が鳴り響いた。

 命を失いし亡骸が突如として動き出す。あり得べからざる奇跡、生死の理の否定。邪竜の身体は世の摂理を超え、あろうことか今――――――まさか。

 

 

「――――――ッふ!!」

 

 

 アウラは全力で背後の亡骸に鞭を撓らせその首を、マーレは炎の魔法でその亡骸を灰に――――――

 

 

「天昇せよ、我が守護星――――――鋼の恒星を掲げるがため」

 

 

 悪寒、殺意、そして凶兆――――――漲り荒ぶる死の気配。紡がれる起動詠唱(ランゲージ)

 スキルもアイテムも使わず、再誕の鼓動を上げた怪物に、二人は子供ながらの直感で距離を取ってしまった。

 

「美しい――――――見渡す限りの財宝よ。父を殺して奪った宝石、真紅に濡れる金貨の山は、どうして此れほど艶めきながら、心を捉えて離さぬのか。

煌びやかな輝き以外、もはや瞳に映りもしない。誰にも渡さぬ、己のものだ。

毒の息吹を吹き付けて、狂える竜は悦に浸る」

 

 

 理性の判断を嘲るが如く、悪意の祝詞が天に轟く。

 禍々しい祈りと共に奏でられるは歪みに歪んだ英雄賛歌。己を下した輝く光を呪いながらも、竜は激しく喝采している。

 

「その幸福ごと乾きを穿ち、鱗を切り裂く鋼の剣。

巣穴に轟く断末魔。邪悪な魔性は露と散り、英雄譚が幕開けた」

 

 

 白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)ツァインドルクス=ヴァイシオンの魂は、この身体(うつわ)で完全なる同一を果たす。真の竜さえ飲み込まんと猛る我欲に限りなし。

 喰らえ、喰らえ、欲するままに――――――討ち滅ぼせよ、勇者共。

 

 

「恐れを知らぬ不死身の勇者よ。認めよう、貴様は人の至宝であり、我が黄金に他ならぬと。壮麗な威光を前に溢れんばかりの欲望が朽ちた屍肉を蘇らせる。

故に必ず喰らうのみ。誰にも渡さぬ。己のものだ。

滅びと終わりを告げるべく、その背に魔剣を突き立てよう」

 

 

 自然を征服せし人意の信奉者は、ついには己が命さえも人造する。

 渦巻く欲望が硬化して剣と化した。

 ならば彼こそ邪竜にして魔剣、魔剣にして邪竜――――――生命体を超越した新たな異界ルールの導くままに此処へ暴力を具現する。

 

 

超新星(Metalnova)――――――邪竜戦記、英雄殺しの滅亡剣(Sigurdbane Dainsleif)ゥゥゥウウウウウウウウ!!」

 

 

 そして轟く、魔星の咆哮。

 人類を、この世の存在から逸脱した怪物が、喜びと共に己が全霊を解き放った。

 

 

始原の魔法(ワイルド・マジック)――――――邪竜・滅亡剣(ファヴニル・ダインスレイフ)ッ!!」

 

 

 刹那、世界が割れた。その広大な広範囲に及ぶ巨大な地割れは、地平線まで伸びている総数10万以上の僕と共に、アウラ、マーレ、邪竜共々落下していく。

 塔のような、山のような剣鱗が、地表を埋め尽くし、幅10km高さ、長さ不明の狭間で足場の役割を果たした。

 マーレは一安心と溜息を吐くが、アウラは直感で理解した。否――――――まだ、この魔法は終わっていない。

 

 

「……喰らいつくせ」

 

 

 竜の口内と化した地割れが、獲物を飲み込む――――――噛み砕いた。

 巨大な剣鱗の影響で三分の二しか閉じなかったが、それでも邪竜を除くすべての獲物を捕食した。それでも。

 

 

「くっ……」

 

 

 間一髪。三重で魔法を発動する『魔法三重化(トリプレットマジック)』。『最強化(マキシマイズマジック)』による強化。『魔法無詠唱化(サイレントマジック)』による詠唱時間のカット。アウラのサポートの下、マ―レは『大地の大波(アース・サージ)』で二人分の穴を創り出すことに成功した。

 剣鱗から抜け出し、邪竜が君臨する世界に立つ。

 そこはまだ地表奥深く、邪竜の領域。今の攻撃で僕もペットもやられたアウラは、怒りに鞭を強く握り締め眼前の怪物をどうすれば倒せるか考える。けど、やっぱり。

 

 

「ふざけんじゃないわよあんたッ!!私のペットどうしてくれんのよ!!?」

 

 

 言わずにはいられない。何だ、こいつ。本当に、何なんだこいつ?何がどうなったらこんなことになるんだ。

 戦う前はlevel60前後だったのに、死ぬ直前にはlevel100まで向上し、死んで生き返ったと思ったらlevel100を越えたよく分からない存在になったこいつをどう形容すればいいんだ。

 

 

「俺も驚いてんだよ、まさかここまで上手く行くとは思っても見なかったからな。それじゃ、二回戦目と洒落込みますかねぇ」

 

 

 いざ参らん。獰猛に哄笑し本気で踏み出そうとした時。

 

 

『あぁ~も~どうしてこうなるかな』

 

 

白金の竜王ツアーは予想外な事態に頭を抱える。頭も手もないんだが。

 

 

「俺が死んだら依り代の器として使うって約束だったろ?逆に利用してやったのさ。このぐらい想定しなくてどうする?」

 

『イヤイヤあり得ないから。僕とパスが繋がった状態から死んで肉体的縛りを一度無くすことで、僕が完全に君の身体に入る際一つにするなんて』

 

「俺も九割以上は賭けだったがな。何せ出来るかどうかさえさっぱりだったんだからな」

 

 

 ファブニル・ダインスレイフが死ねば、すぐさまその身体()を使い、始原の魔法(ワイルド・マジック)で殲滅するのが狙いだった。身体の殆どを金属に改造している男の身体はツアーにとって都合が良かった。敵戦力の把握と強さを知ったうえで、戦えるのは大きなアドバンテージ。それが、どうしてこうなった。

 

 

『……一度繋がった魂が、僕に引き寄せられたと考えるのが妥当か。君は今、僕の力を十全に……違うな。二つの魂が完全なる同一を果たす、それは未知だ。こんな事例が存在しない以上考えても無駄か』

 

 

 もはや元の身体など三割程度しか残っていない有様だが、それによって手に入れた力こそ本望。

 すべてに本気、だからこそ無敵。男は今やあらゆる技術(たから)をその身に喰らう最新最強の怪物だ。

 

 

「成せばなる。あるがままに事象を受け入れ利用し活用しろ、ようはそう言うことだろ?大概本気で何とかすればどうとでもなる」

 

『………………そんなものか?』 

 

「ようは理屈じゃないってことだ。よう分からんが傷が勝手に直るのは便利だ」

 

 

 空けられた風穴も、三分の一崩れ去った身体も、その他致命傷の数々が一瞬にして盛り上がり、蠢きながら無傷の状態へ回復する。骨も、肉も、皮膚も臓腑も、まるで人体の創造過程を見るかのように内側からものの数秒で治っていく。

 恐るべき自己再生能力。予想外の作用に、邪悪な竜は哄笑しながらそれを誇った。

 無視されているアウラとマーレは、攻撃を加えるがすべて回避される。単純な攻撃はもう邪竜には届かない。

 

 

「ちょっとあんたぁ!」

 

「わりいな、現状確認は終わったところだ。ここからちゃんと相手にしてやる」

 

 

 世界が揺れる。上下左右世界が動き出す。このバトルエリアで三人は、縦横無尽に飛び跳ね戦いを繰り広げる。

 ここは邪竜の口内、圧倒的格上になってしまったダインスレイフ相手に食い下がり、反撃もできている理由は姉弟であるアウラ、マーレのパートナーとしての相性が守護者の中でも随一で、お互いの長所も短所も完璧にフォローし合えるコンビネーションが規格外の攻撃にも冷静に対処する要因にもなってはいるが、何よりマーレの相性の良さだ。

 同じく世界そのものに干渉する能力は、怪物となり真なる邪竜へと変貌を遂げたダインスレイフの物質変型にも未だ有効。

 それでもなお。

 

 

「本気してるか?成長しているか?進化しているか?覚醒しているか?オラオラどうした!?本気なら当たり前に覚醒できるだろォ!!」

 

「出来るわけないでしょこのアホォ!!」

 

「どどどどうしよお姉ちゃん、このままじゃやられちゃうよ」

 

 

 アウラとて理解している。時間は稼げても倒すことはできない。ならばこそ、少しでも時間を稼ぎニグレドを通して見てる仲間に対策を取らせる。それは何時までなのか分からない。アウラは対人戦で切り札は持っているが、マーレ一人では火力不足。でも、自分達の命に変えてもコイツだけ――――――

 

 

「マーレ!」

 

「うん、お姉ちゃん!」

 

 

 アウラは天河の一射(レインアロー)、光の矢の雨を降らす。マーレは酸の雨(アシッドアロー)、緑色の酸でできた雨を降らし、その飛沫で相手を攻撃する。

 天上に展開していた剣鱗を消滅させ、ダインスレイフへ降り注ぐ。一つ一つ、命中すればその部位が消滅し、強力な酸で溶けてしまう。

 それを、急所に当たらない最小限の動きで正面突破してきた。

 

 

「少しは常識のある戦い方しなさいよねッ」

 

「え、えい!」

 

 

 マーレが魔法障壁を展開する。level100でさえ、防ぐ魔法障壁を、ダインスレイフは剛腕だけで破壊した。

 

 

「……あ」

 

「お姉ちゃんッ!!」 

 

 

 眼前に迫る死を、アウラは回避する手段を持ち得ない。アドレナリンが時間を永く体感させる。今まで見たこともない可愛い弟の必死そうな顔は、新しい発見で嬉しくて――――――ぶくぶく茶釜様。ユグドラシル時代の思い出が走馬灯のように流れた。

 このままじゃ死んでしまう。

 どうしようもなくて、悔しくて、悲しくて、憤りを感じながら、アウラは最後の抵抗に切り札を――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間停止(タイム・ストップ)

 

 

 時間の停止した空間、万物すべてが停止した世界にたった一人。死の超越者が邪悪な竜を、失った瞳の奥で揺れる嚇怒の念で睨み付ける。

 

 

「……デミウルゴス」

 

 

 対策を練り、慎重に慎重にことを進めてきた。影さえつかませない闇に消える邪悪なことも任せてきた。ナザリックの闇をアインズに悟られず、一人で背負い、あらゆる困難にもその頭脳をナザリックのために披露してくれた。

 

 

「……アインザック」

 

 

 この世界に転移して初めて自分の正体を知ってなお、フレンドリーに接してくれた。夢を語り合い同じ目標を夢見る友達のような関係だった。英雄モモンとして、魔導王アインズ・ウール・ゴウンとして、鈴木悟という人間だった頃の精神の残滓、人間性を感じられる一番の相手だった。

 

 

「……ナーベラル」

 

 

 人間軽視で、何処へ行こうが口調は直らなかった。アインズの迷惑にならないよう頑張って改善しようとする姿は愛おしく、創造主である弐式炎雷の天然などが反映されているのか、手のかかる娘だった。この世界で一番長く時間を共有していたお陰か、癖なども分かるようになっていた。

 

 

「……この戦いで、もっと失うかもしれない」

 

 

 確実に失うだろう。どれだけ最善を尽くそうが、戦ってみないとどうなるか分からない。この戦いは、もう失わないための戦い。大切な、本当に大切な宝物を守るために――――――

 

 

「……お前のような奴が何人もいるのか?」

 

 

 成程、デミウルゴスが何もできずに斃されるわけだ。ユグドラシルではあり得ない、levelアップの嵐。意識一つで、気合と根性で――――――覚醒する。

 

 

「……どれだけ非常識なんだよ。バグだろバグ、運営バンしろ」

 

 

 魔法発動を遅らせる魔法を唱え、時間停止(タイム・ストップ)終了時間に合わせて――――――

 

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

 

 ダインスレイフの心臓を握りつぶした。

 

 

「――――――カハッ!?」

 

 

 即死魔法。相手の心臓の幻覚を己の手の内に作り、それを握りつぶし死に至らしめる。アインズは様々なスキルでこの魔法を強化しており、得意な魔法の一つに挙げている。仮に抵抗に成功しても朦朧状態になる追加効果がある。

 

 

「ワールドエネミーと仮定して対処する。コキュートス」

 

「ハッ!」

 

 

 至高の四十一人コキュートスの創造主武人建御雷の神器級(ゴッズ)フル装備を身に纏い、ダインスレイフの両腕を切り裂いた。

 

 

「セバス・チャン」

 

「御意ッ」

 

 

 至高の四十一人セバス・チャンの創造主たっち・みーの神器級(ゴッズ)すら超えギルド武器に匹敵する超位の存在。胸の中心に巨大なサファイヤが埋め込まれた純白の鎧を身に纏い、ダインスレイフを肉塊にする。

 

 

「アルベド」

 

「お任せ下さい」

 

 

 至高の四十一人アルベドの創造主タブラ・スマラグディナの残した相性のいい神器級(ゴッズ)と元々の装備を身に纏い、ダインスレイフの首を巨大な長柄斧(バルディッシュ)で――――――

 

 

「オラァァアアアア!!」

 

 

 左足を犠牲に、右足でアルベドを蹴り飛ばした。その勢いを利用し切り飛ばされた両腕を口に咥え回収し、切断面に接合する。絶え間なく肉体を再構成していく様に、アインズは呆れてしまう。ダメージ蓄積は意味はなく、一撃でその命を終わらせなければならない。

 だがしかし、邪竜は今も変わらず本気だ。身に余る強さを得たことによる慢心、油断、不遜など――――――それら心理的な緩みとは総じて一切無縁である。ダインスレイフは怪物となり果ててもまるで驕らず、侮らない。未だ人間として鍛え上げた戦闘感覚を利用している。

 

 

「よく見れば魔王様じゃねえか!!ヒハハハハハハハ!!魔王がパーティー揃えて悪竜退治とは随分と洒落が上手なこって。まさかと思うが仲間を助けるために、王座の舞台からここに登場したのか?」

 

「王座など何の意味もない。仲間たちが、私の大切な大切な子供たち(たから)あってこそのアインズ・ウール・ゴウンなのだ」

 

 

 嗚呼、ならば――――――故に。

 

 

「ここで死ね。これ以上失ってなるものか。貴様から聞きたい事など何一つとして無い。英雄を希望のようだが……悪いな、この場に光は存在しない」

 

 

 絶望のオーラを全開放しスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装備した本気スタイル。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを破棄されればナザリックは崩壊する。それでも、これを使うのは覚悟の表れだ。

 もう絶対に――――――この手から零れ落とさない覚悟。

 魔王として、死の支配者(オーバーロード)として君臨する姿に、邪竜は哄笑した。

 

 

「なんだよ――――――ピカピカに輝いてやがる。いいぞその意気だ。やっぱ噂や情報より直接見た方が確実だ。俺好みだ。いいぞ、もっとだ。俺を心底惚れさせろォォォォオオオオオオッ!!」

 

 

 コキュートスとセバスが、武器を撃ち合い火花を散らしながら疾走する。アインズはその間に、アウラとマーレにそれぞれ相性のいい神器級(ゴッズ)を渡す。ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ他にもと、構成を考慮した装備を二人は歓喜に身を震わせながらも身に纏う。

 これにてすべて準備が整った。さあでは、悪竜退治に挑もう。

 ここは邪竜の領域、形を失い、捻じ曲げられ、一時も留まることなく処刑具の濁流とかす世界。猛る相手に対し、剣鱗はもはやただ生えてくるだけではなかった。礫と化し、矢と化し、槍と化し目標へ射出される。嵐の様に戦場に降らしながら、ダインスレイフは四足獣が如く地を駆け抜けあらゆるものを次々と竜の体躯へ変えていく。

 守護者五人と戦いながら、ダインスレイフは己が身体を理解しつつあった。

 回復速度は?どれほどのダメージを受ければ動きに支障が出始める?最大効率で殺し合うにはどうするべきかと、今も学習を続けていた。

 敵との殺し合いに特化した脳はそれらを刹那以下の時間で計算し、結論し、そして行動へ反映させる。こと殺し合いにおいては、ラナー、デミウルゴス、アルベド、ギルベルトを凌駕する精密さは、対英雄用戦闘機械として何があっても止まらない。

 コキュートス、セバス、アルベドの三人でようやく速度に拮抗し、上機嫌に怒涛の刃を弾きながら、ダインスレイフは踊るように歌い始める、溢れる歓喜が止まらない。

 

 

「“Das beste Schwert, das je ich geschweisst(ああ、苦しい。なんと無駄な徒労であろうか),

 nie taugt es je zu der einzigen Tat!(心血注ぎ、命を懸けた、我が最高の剣さえ)

Ja denn! Ich hab' ihn erschlagen!(竜を討つには至らぬのか)

Ihr Mannen, richtet mein Recht!(然り! これぞ英雄の死骸である!)

Ihr Mannen, richtet mein Recht!(傍観者よ、我が栄光を認めるがいい!)

Her den Ring!(宝を寄こせ!)” “Her den Ring!(すべてを寄こせ!)”」

 

 

 瞬間、速度が数段跳ね上がる。闘いの中で急激に覚醒し進化している。今もなお邪竜は脱皮をし続けている。

 

 

「お前達を斃し、お前達の代わりに俺は英雄(アイツ)の絶対的敵となるゥ!!俺が世界を滅ぼしてやる!!そうすれば、アイツは俺しか見つめないだろ!!」

 

「何ヲ訳ノ分カラヌコトヲ、オ前如キガアインズ様ノ代ワリナド身ノ程ヲ弁エロッ!!」 

 

 

 学習するのは守護者も同じ、今もなおタイミングは洗練されていく。互いの動きが噛み合っていく。刃が、拳が、斧が、鞭が、魔法が――――――速く、速く、速くなる。六人は止まらない。もはや一秒間に三十数回武器を撃ち合うほど加速して、更に更に止まらない。

 アインズも五人を支援する。罠を仕掛け、支援し、五人の邪魔にならないようその雄姿を心に刻み込む。

 ここに来てアインズ、アルベド、コキュートス、セバス、アウラ、マーレは何の合図も無しに完璧にコンボを決めていく。

 互いを信じ、尊重し、一つの目標に駆け抜ける。

 

 

「クフッ、ククク……」

 

 

 ダインスレイフは尚変わらず。

 

 

「クハッ、カヒッ、ヒハハ……」

 

 

 凍らされ、死滅させられ、殴られ、焼かれ、斬られ、貫かれ――――――全身を血みどろに穢されながら、それでも心底楽しそうに。

 

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ――――――ッッッ!!!」

 

 

 爆発する歓喜を糧としてまた一気に不条理な覚醒を果たす。

 求めていたものが此処にある。互いを信じ、絆の力で邪悪な竜を討たんと立ち向かってくる宿敵。求めていた相手は違くとも、この展開を邪竜はずっと待っていたから。

 瞬間、全回復する竜の肉体。

 即ち覚醒――――――滅亡剣は更に強く、固く鍛えられる。

 

 

「最高だ、てめぇら!!嬉しいぜ!!」

 

 

 吼えながら、またも天井知らずに力が高まっていく無限の暴竜。

 馬鹿正直に数倍、十倍、足りないなら数百倍と、際限なくツアーとの融合で手に入れた異界に手を伸ばし貪り喰らう。

 さあもっと、まだ足りない?まだ届かない?

 ならばもっと、そうもっとだ。

 まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ

――――――

 

 

「この化け物がァ!!」

 

 

 アインズは心の底から叫ぶ。不条理理不尽。まだ、まだ足りないのか。

 ここは地表より堕ちた穴の中。頭上には一つ一つ山脈の滅亡剣(ダインスレイフ)が命を穿つ流星群の如く解き放つ。

 

 

失墜する天空(フォールンダウン)ッ!!」

 

 

 超位魔法が解放される。アインズは後方で、いつでも放てる準備をしていたのだ。超高熱源体を発生させ範囲内のあらゆる物を燃やし尽くし、溶かし尽くす。

流星群を巻き込み邪竜に命中する。

ダインスレイフの肉体は焼かれ、爛れ、真っ黒と炭素化した身体は人の形を保っているのが奇跡。

 

 

「お返しだァ!」

 

 

ダインスレイフの口内に力が集中する。誰から見てもそれは自分達を滅ぼす絶対的熱量を誇っており、エネルギーが上昇するほど、口が崩れていく。

 

 

時間停止(タイム・ストップ)ッ!!」

 

『無粋だよ』

「なあ!?」

 

 

時間停止(タイム・ストップ)が弾かれ無力化される。守護者もダインスレイフに接近するが、剣鱗に阻まれる。

 

 

「(口からってことは、直線的なはず!アルベドのスキルが……駄目だ、足場が動いてバラバラにされた!)」

 

 

アインズ目掛けて放たれようとする超光線に、一人だけ覚悟を決める。

 

 

「《アインズ様》」

 

「《伝言(メッセージ)?どうしたのだアウラ今は》」

 

「《好きです。一人の男の人として愛してます》」

 

「《……アウラ?》」

 

 

何故今そんなことを。それではまるで――――――

 

 

「《……大切な弟を、マーレをよろしくお願いしますッ》」

 

「《ま、まて!私にはあれを防ぐ切り札が!》」

 

 

途切れる伝言(メッセージ)と同時にそれは発動した。

 

 

始原の魔法(ワイルド・マジック)――――――英雄殺しの滅亡剣(シグルズベイン)ッ!!」

 

 

ツアーの始原の魔法(ワイルド・マジック)、究極の一の超爆発を一点に集中、圧縮されたそれは、自分を崩壊させながら解き放たれた。

口内で収束する必要性など皆無だが、ソコは本気のノリだ。

アインズに向けられていた超光線は、アウラのスキル、ターゲティングが自身にヘイトを集めることで、その軌道を変えた。

 

 

「アウラァアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

「お姉ちゃん!!!」

 

 

その身を犠牲に、アウラはアインズを守ったのだ。光に呑まれる最後の姿は、何処までも――――――アインズが好きな太陽の笑顔だった。

 

 

「ダァインスレイフゥッ!!」

 

 

怒りに我を忘れ、感情の波が抑えられず、怒りが沸騰と冷却を繰り返す。精神抑制が邪魔で仕方がない。アインズは、ワールドアイテムを発動させようとしたその瞬間。

 

 

「……は?」

 

 

アウラは最後に切り札を切っていた。魔獣の諸相(ヴァリアス・マジカルビースト)石化魔獣の瞳(アイ・オブ・カドブレパス)、状態異常魔法。アウラの瞳に込められており、対象を一瞬で石化する。その影響でダインスレイフが、腕の力のみで頭を押さえ付けられる。

その正体は幼い少女。漆黒の髪は腰まで伸ばされ、純白のゴシックには白薔薇の刺繍が繊細に描かれている。

 

 

「……私は、人間(あなた)を知りたい」

 

 

涙を流す可憐な少女は、プラグをダインスレイフの脳に挿入する。

感情を、人生を、歩みを、意思を、志を、夢を、目的を――――――心を。

その人間の全ての情報を読み取り、諦めない本気の光の意思を理解する。

 

 

「 勝利(まえ)へ、勝利(まえ)へ、勝利(まえ)勝利(まえ)勝利(まえ)へ――――――勝利(まえ)へ。これもまた人間の正解」

 

 

頭の中を弄くり廻されている感覚に、ダインスレイフの肉体は意思に関係なく跳ね回る。

 

 

『どうした!このままやられたままか!?』

 

「ンナワケアルカァ!!」

 

 

 全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて。男は掴まれている肉ごと削いで脱出する。

少女もまた、その力を解放した。

 

 

起動(ジェネレイト)

 

 

少女は光を知った。闇を知った。生きるとは何かを知った。人間が抱える矛盾を"心"で理解した少女は、その素晴らしさに涙を流す。

ダインスレイフで二人目だけど、その心のあり方はナザリックではあり得ない矛盾の感情。

生きたいのに、死にたい。

光を求めて、滅びたい。

一人一人、産まれたときから今までの時間で代わり、揺れ動く心の波動。

少女は何処までも純粋に、空っぽの胸の中の情報()をいとおしく抱き締める。

ならばこそ、その心からの願いに一切の邪気などなく、人間を知った自動人形は、純粋に、何処までも純粋に人間を祝福する。

 

 

「あなたの名前はファブニル・ダインスレイフ。ええ、本当の名前に意味はなくこの名前だからこそ意味がある。人間は千差万別。その生き方もまた人間」

 

 

少女は剣鱗を粉砕し、竜爪を優しく包み込む。

 

 

「あなたが終わりを望むなら、私がそれを与えて上げる。それがあなたの願いなら」

 

「望みだと!?んなもんとっくの昔から決まってんだよ!!光に向かって突き進みアイツの敵になることだァッ!!」

 

 

進化する、覚醒する、その力は少女の身を粉砕する破壊の竜爪。

けど。

 

 

「アウラ・ベラ・フィオーラの魔眼は一瞬で肉体を石化する。どれだけ表面は削ぎ落としても、重要な部分は固まったまま」

 

 

その動きは今まで一番遅く、無理矢理動かした代償に身体が割れる。

 

 

「私は彼女のことを知らないけど、仲間として、この状況を作り出したあなたに敬意を払うわ」

 

 

少女――――――ルベドの全力の一は、滅亡の欲竜(ダインスレイフ)の身体を消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 













土曜日の暇すぎて頑張りました。初の一万文字越えに疲れました。
試験勉強しないとやべーすよ(白目

今回のオーバーロードは感想でナザリック勢力補強すると言ったので、補強しました。その結果、邪竜が当初考えていた以上に頭のおかしいことに(笑)

※補強前の構図
マーレ、ダインスレイフ倒す。

復活

マーレ死亡

ルベドが倒す(まだ普通)

※補強後
アインズ様と守護者一行とルベド(超改造)
ダインスレイフも超改造

ルベドに関しては次回説明します。




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未完成

 タブラ・スマラグディナは、至高の四十一人随一の厨二病である。

 聖書やら神話やら伝説上の生物やら死やら生やら――――――日本語や共通語の英語と関係ないドイツ語やらロシア語やら古代エジプト語やら、格好いい理由だけで多様するもう手遅れな厨二病患者末期なのだ。それもいいおっさんが。

 そんな彼が手掛けたNPCは三体。

 ニグレド、アルベド、ルベドの三姉妹。

 名前の由来は、大いなる業は卑金属を金へ完全に変換する錬金術が元ネタだ。賢者の石にも深く関わっているため、その手の病にかかった人間ならそれぞれなんの意味を持つのか説明しなくとも理解できるかもしれない。

 錬金術において物質の変容は、黒化(ニグレド)、腐敗、分解、死。白化(アルベド)、月、銀、復活。赤化(ルベド)、太陽、金、完成。の順序にやってくるのだ。

 賢者の石を精製するにあたり現れる変化は、黒化(ニグレド)、死、腐敗、腐食の段階。象徴はカラス、髑髏。白化(アルベド)、復活、再生、結晶化の段階。象徴は白鳥。この段階の石は銀の精製に用いられる。赤化(ルベド)、賢者の石完成の段階。象徴は薔薇。

 三色練成の場合、最初は黒化の死を経て、白化による再生して、赤化の完成に至る事になる。

 これら三段階をまとめると。

 ニグレド(黒化)"腐敗"、個性化、浄化、不純物の燃焼。

 アルベド(白化)"復活"、精神的浄化、啓発。

 ルベド(赤化)"完成"、神人合一、有限と無限の合一。

 以上をもって大いなる業とする。

 

 長女ニグレドは、ホラーチックな顔の皮が無い外見と演出を除けば子供好きというギャップがある。子供のためにアインズに逆らったこともあるほど。子供とは正に不純物の無い浄化の象徴。

 次女アルベドは、アインズによって設定を歪められてしまったが、守護者統括としてアインズの精神的浄化(?)、明細な頭脳による啓発。そして、翠化が"復活"の粋を負えば白化は"復活"ではなく"乱れ"となり、筋が通るかもしれない説もある。これを踏まえれば、アルベドのギャップ萌えの最後の一文、実はビッチであるは、タブラ・スマラグディナが一生懸命知識から捻り出した設定だったのかもしれない。

 そして、三女ルベドは完全な存在だ。

 完成された完璧で完全で全能な自動人形。

 一人だけ機械として創造された存在。

 そもそも生物自体が不完全、未完成なのだ。生きるとは、それだけで完成されない。様々な欲や感情の揺れ動き、外からの刺激など、心を持った存在は自分から完成から遠ざかる。

 完成とは、不純物がなく白く透明で一つの方向性に特化していること。故に、機械として精密な正確な絶対的合理性、性能と機能。容姿も幼いながら万人に好かれる可愛らしさと美しさ。彼女は、眠るビーカーの中で完結している。

 無限のエネルギーを生み出し続けるワールドアイテム"熱素石(カロリックストーン)"を自動人形を起動させる核、永久機関として心臓に搭載されているルべドは存在そのものが一つの小宇宙(コスモ)

 そう、ルべドはビーカーの中で完結している。

 瞼は深く閉ざされ、外部から干渉されるその時まで完結している。

 黄金の輝きとは穢れてはならない。不純物一切交わらずただそこに在るだけで完結している。

 故に――――――ルべドが目を覚ますとき、それは完全ではなくなる。

 完成とは、完結とは、完全とは、それ以上先がない事。完成(ルベド)は、外部情報で学習を始めれば、それは学習途中となり完成ではなくなる。

 だからこそ、タブラ・スマラグディナの提唱するギャップ萌えが機能する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルベドが封印されている八階層荒野はナザリックの最終防衛ラインであり、ここを突破されることは事実上、ギルドの崩壊を意味する。故に、第八階層荒野の守護者ヴィクティム、ナザリック最大戦力、ギルドメンバー共同で編み出したトラップの数々が配置されている。

 そして、ルべドこそナザリック最強のNPCであり、ナザリック最大戦力の一つである。

 プレイヤー1500人からなる討伐隊を全滅させた時は、他の最大戦力で事足りたが、今回は外からも防ぐ必要がある。故に、実証されている戦力を残しルベドのみ外で戦わせる。標的はスレイン法国、送り込んでいる戦力が次々と斃されている原因の敵のlevelが100であるとニグレドからの報告を吟味し、ルベドを送る事を決定した。

 その部屋は誰にも見つからないよう深く、深く隠されている。まるでその中にあるものを穢れさせまいとするように。ニグレドの部屋は超ホラーチックに対してここは何処までも静謐としている。

 まるで彼女の眠りを妨げることが悪と感じてしまう完成した空間。

 アインズ一人、眠り姫の眠るビーカーをそっと撫でた。

 

 

「……タブラさん、割るな、絶対に割るなはふりですよね?」

 

 

 ギルメンであるタブラは、哄笑しながらこの部屋を紹介し先の台詞を声高らかに言っていた。

 

 

「これ割るともう眠らないんだっけかな?」

 

 

 ビーカーを割るのが起動コマンド。一度起動させるともうビーカーは直らないおまけ付き。

 完成したものは、壊れたら決して直らない。直るとは、未完成だということ。タブラ・スマラグディナは、完成したモノに拘った。この部屋は、その集大成。

 

 

「ルベドを使うとは、即ち……完成(ルベド)ではなくなると言うこと。そうですよねタブラさん」

 

 

 神人合一、有限と無限の合一。

 

 

「神とは全能ではない。神とは、人よりも人らしい人の欲望と策略、大罪の塊である。それが――――――タブラさんの目指す人間(ルベド)

 

(無限に関しては、カッコいいからだとか言うんだろうなー)

 

 

 アインズはビーカーを――――――拳でカチ割った。

 壊すときは盛大に、それがタブラ(厨二病)の流儀。

 割れたビーカーの破片は、眠り姫を決して傷つけない。この部屋は、決してルベドを傷つけさせない。

 起動スイッチの入ったルベドの心臓がゆっくりと稼働し始める。日本人形と西洋人形を掛け合わせたような美しさ。クリっとしたお目目が開かれ、非常にゆっくりとした動作でビーカーの外に出る。

 

 

「初めましてだなルベド。私が分かるか?」

 

 

 ルベドはアインズを爪先から頭の天辺まで観察する。鉄仮面が張り付いた顔の表情からは感情を読み取ることはできない。ふと可愛らしいプリっとした小さな唇が動き出した。

 

 

「認証/モモンガ様/ギルド名アインズ・ウール・ゴウンのギルド長」

 

 

 プレアデスのシズよりも機械らしい喋り方にこれぞロボット娘のよくある初期設定と深く感心する。

 

 

「よしルベドよ。早速だがやってもらいたいことが……どうした?」

 

 

 辺りをキョロキョロと首を振り、何かを一生懸命に探しているようだ。

 

 

「どうしたのだルベド。何を探している?」

 

 

 アインズの疑問に、ルベドはアインズに顔を向け身長差からくる俗にいう上目遣いの体勢から首をちょこんと傾げ。

 

 

「……パパはどこ?」

 

「グハッ!!」

 

 

 ロボット娘のまさかの甘いパパ発言に、アインズはイケない方向に踏み出そうとしてしまった。

 

 

(お、落ち着け……俺はペロロンチーノさんのような特殊な性癖はない。断じてない!)

 

 

 アインズの心の中の葛藤に勝利した。何かの間違いだ。それだけは絶対に無いと。そして、居ないはずのタブラさんの声が聞こえる気がする。

 

 

 ――――――いつからロボット娘の父に対する呼び方が創造主、マスター、お父様と決まっている?パパ呼びこそ至高、異論は認めん。

 

 

 これぞギャップ萌え。鋼鉄の仮面を被る無表情無反応な自動人形が、創造主だけを甘えた声でパパ呼び。何かこう――――――グッと来るものがあるとアインズも認める。決してペロロンチーノとは違う。

 

 

「ルベド、よく聞くのだ。いいか?タブラさ……パパは此処には居ない。正確にはこの世界に居ないのかもしれない」

 

 

 そこからはこれまでの経緯を話す。簡潔に正確に分かりやすく説明する。

 

 

「――――――よって、今ナザリックは危機的状況に置かれている。助けてくれないか?」

 

「認証/モモンガ様をアインズ・ウール・ゴウンと呼称/以降アインズ様とお呼びします/命令/転移門(ゲート)巻物(スクロール)を使用し移動/スレイン法国推定level100の敵を撃破次第、転移門(ゲート)巻物(スクロール)を再度使用しアインズ様の元へ転移/敵戦力と交戦中の場合直ちにそれを無力化」

 

「そうだ。頼めるか?」

 

「私は一つの願いを込められてパパに創造されました/パパは命令しました/宿命だと」

 

「……それは私の命令よりも最優先されるものか?」

 

「はい/パパは/人間を知れ/と/私にプログラムしました/如何なる命令も人間を知る妨げになるなら破壊も容認します」

 

(これは予想以上に面倒なことになったな……今戦ってるの人間なんだよな。いや待てよ……もしかしたら行けるか?)

 

「ルベド、お前は人間を知るには何をどう実行していくつもりなんだ?」

 

「分からない/データ不足/情報不足/経験不足/不足/不足/不足/不足/全て不足している」

 

「なら人間と戦えばいい」

 

「人間/戦う/?」

 

「人間は複雑だ。一つの方面でも完全に理解するには難しいかもしれない。でも、戦うことでしか理解できないこともある。それを知るんだ」

 

「……/了解(ポジティブ)/命令を受理/これより行動を開始します」

 

 

  ルベドの回路にどのような回答が出されたかは定かではないが、戦場に向かうための転移門(ゲート)巻物(スクロール)を使用しこの場から消えた。

 

 

「さて、私も行くとしよう。皆が待っている」

 

 

 アインズもまた戦場へ降り立つ。マーレとアウラが戦っている規格外な敵を倒すために。この時もし、ルベドを連れて行ったなら、その先の悲劇は回避されていたのかもしれない。だか、その行動はもしかしたら最善で、アウラの命に釣り合う選択になったのかもしれない。それを決めるのは、アインズの心次第――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国の六色聖典の一つ漆黒聖典の番外席次であり、通称"絶死絶命"――――――カグラは、一人で異形の軍勢を足止めしていた。

 手数が足りない、数が多すぎる。一度に倒せる敵に限界がある。それら承知で尚、駆ける、駆ける、駆ける、駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。

 愛しいあの人に追い付くために、その足は決して止まらない。両手に握る戦鎌(デスサイズ)は、線が走る度に命が刈り取られる。

 level100の彼女にとって有象無象の雑魚でしかないが、それでもこの数は鬱陶しいものがある。だが無視するにはその脅威は見過ごせない。スレイン法国にはもう此れほどの脅威に対抗できる手札が残されていない。

 アインズ・ウール・ゴウンに半分以上の戦力を減らされ、最高戦力がいなくなったタイミングで国が滅びたでは彼女も目覚めが悪い。何より、これは使命だ。スレイン法国の民として、こいつらは絶対に見過ごせない。

 

 

「……敗北を知りたい」

 

 

 使命に燃え、一度決めたことは何があろうと突き進むと決意したなら。カグラの無意識から溢れ落ちた言葉は全てを否定する矛盾の言霊。その真意を知りたい永劫の機械人形が、カグラに向けNPC最強の全機能を解放する。

 

 

「うわー……ヤバいの来ちゃったかなぁ」

 

「人間を知りたい/貴女は/何/?」

 

「――――――フッ!!」

 

 

 完全なる不意討ちからカグラは全ての力をのせた戦鎌で首を刈り取りにいった。その一撃は、他のNPCなら致命傷と命すら危うくなる絶死絶命の一太刀。複数の武技によるブースト、マジックアイテムによる補助を受け、肉体の限界まで酷使した攻撃を――――――

 

 

「?/……/何/?」

 

「嘘でしょッ」

 

 

 無防備なその首に命中したにも関わらず、その首は刈るどころか皮膚さえ傷ついていない。嗚呼、全てを悟る。今の自分では何をどう足掻こうが、この子供に勝つことはできない。

 

 

「教えて/人間を知りたい」

 

「……上等、教えるわ。人間の意思の強さを!」

 

 

 ナザリック最強NPCルベドvs人類最高戦力絶死絶命カグラの戦いが開幕された。

ルベドが登場した瞬間から異形の軍勢はカグラに見向きもせずスレイン法国に進行する。

 

 

「……こんなのはじめて。私をもう敵として認識していないアイツらも。どうしようもなく何をすれば勝てるのか分からない相手なんてほんっと初めて」

 

 

 実態のある残像を正面から突撃させ、死角である背後から斬りかかっても。

 

 

「……/私には/通じない」

 

 

 カグラと対して変わらない身体がピクリとも動かせない。見た目に惑わされ信じられない重量と質量を内包している化け物と戦っている気がしてきた。

 否、強ちその評価は間違ってはいない。その身は一つの小宇宙(コスモ)。無限のエネルギーを攻撃を受ける箇所に本人の意思と関係なく自動的に展開する防衛機能。一点に収束されたエネルギーはそれだけであらゆる攻撃を遮断する絶対防御。

 ルベドに傷をつけたいなら、全身に同時展開できない特性を利用しての広範囲魔法などが有効。無論、そんな手札は持ち合わせていない。ならばこそ――――――

 

 

「速く――――――どこまでも速く駆け抜けるの」

 

 

 現状では勝てない?限界まで力を引き出しても太刀打ちできない?

 ならば簡単だ。限界を越えればいい。

 

 

「想い一つで、意思一つで、私は――――――私を越えて見せるッ!!」

 

「それが人間なら/知りたい」

 

「知りたいって……人間はそう簡単じゃないの!!」

 

 

 ルベドの武器は身体その物。ナザリックNPC『接近』最強の彼女の拳は、たっち・みーの鎧さえ破壊する。

 武術も何もない素人丸出しのただ振るわれるだけの手足は、level100を越える規格外なパワーとスピードで破壊の化身とかす。

 

 

「――――――ハッ!!」

 

 

 迫る死の暴風を、回避迎撃、回避迎撃、回避迎撃、回避迎撃、回避迎撃、回避迎撃、回避迎撃、回避迎撃――――――回避と迎撃を同時に繰り出す。それでも、ルベドは揺るがない。自動防御機能が存在する限り、彼女は回避などする必要がない。

 

 

「人間を知りたい/観察/実験/経験/アルゴリズム/行動原理/不足している/不足している/不足している/……/解析」

 

 

 目覚めたばかりのルベドにとって観測する全てが観察対象。情報として知っているのと、実際に知っているでは鮮度が違う。世界は未知で満ちている。知りたい、知りたい、知りたいと。子供のように、白く透明で無垢に創造主(パパ)の言い付けを守っている。それが絶対で、それしか知らないから。

 姉もアインズもナザリックも観察対象にすぎない。

 パパが絶対で、そう命令されプログラムされているからパパ以外の対象を情報として欲しいまで。

 

 

――――――ルベド。私の娘よ、自ら完成させるのだ。私が作り完成した人形から……人へ。

 

 

 思考する。人間になるとはどういうこと?パパの言うことを聞く良い子にいるにはどうすればいい?先程から戦っている存在は人間ではないが、人間に近い存在だ。人間に近いなら、それは人間ではないか。

 人間の定義が確立していないルベドは、血肉があり、生きている人の形をした存在を人間と定義している。

 ユグドラシルでは、エルフもダークエルフも人間種。だが、この存在は混ざりすぎている。それでもそれは誤差の範囲。

 

 

「あなたのことを教えて/知りたい」

 

「さっきから自分だけ知りたい知りたいって、そんな一方的な一本道じゃ何も響かない。自分のことも分からない奴に他人を知りたいだなんて……まずは自分について語りなさいッ」

 

 

 カグラの回避行動は目の見張るものがあるが、無限のエネルギーの余波は掠りもせずその身体はダメージを刻んでいく。ルベドは手を緩めない。どこまでも他人には機械的に、そうすれば教えてくれるなら自分のことを教えるまで。

 

 

「私は/ナザリックNPC接近最強ルベド/心を持たない自動人形/姉は/ニグレド/アルベドの二人/完成するために私は生まれた/パパの言うことは絶対/パパは命令した/人間を知れと/だから/私は此処にいる」

 

「……私も人のこと言えないけど、あなたって生まれて何歳なの?えぬぴーしーは見た目と年齢が一致しないこともあるから」

 

「私が製造されたのは/65,741時間/57分/03秒/前/意識が起動した/37分/19秒/前」

 

「つまり……心はまだまだ生まれたての赤ちゃんってことなのねッ!!」

 

 

 カグラはルベドの顔面を蹴り飛ばしその衝撃で自分を飛ばし距離をとる。

 

 

「……」

 

 

 顔面への蹴りは過去最高のスピードを誇っており、ルベドの鼻先に触れた瞬間、防衛機能に阻まれたが、確かにその爪先はルベドの絶対防御の反応速度を上回った。

 

 

「……ハァ……ハァ……ハァ……ッ」

 

 

 静かに息を整えるのをルベドは邪魔をしない。殺しに来たのではない。人間を知りに来たのだ。言うことは言った。質問にも答えた。ならばこそ、答えてくれ。人間を教えてくれ。

 

 

「なる……ほどね。ハァッハァ……最強で心を持たない生まれて生後一時間もたっていない右も左も分からずパパに甘えん坊のからくり人形」

 

 

 生まれながらにして最強。カグラもにたような過去がある。この子は、本当にただ知りたいだけなのだ。

 

 

「最強か……そう勘違いしていた時期も確かにあった。誰も私と同じ土俵には立てない。強い相手に勇気を振り絞って戦うってどんな気持ちなんだろって羨ましいと思った」

 

 

 強者故の悩み。物語の英雄は自身より強い敵に策を、仲間を、心の強さで打倒する。

 カグラには強さ以外何もなかった。

 

 

「心の強さなんて、私の前では何の意味もない。能力値が高ければ心の強さや意思の強さなんて、簡単に踏みにじれる」

 

 

 自分より弱い者しかいない世界。あるのは期待と願望、使命と責任の重責。

 強者として弱者から奪ってきた。

 強者として自由を奪われてきた。

 

 

「――――――あの人に出会うまでは」

 

 

 光が、太陽がそこにいた。カグラと比べれば獅子と子犬のような埋めようのない差があり、能力値全て上回っているはずなのに――――――この人には勝てないんだなと、ストンと不思議とその言葉が胸に落ちた。

 特別にお話もした。人の事をズバズバと遠慮もなくに指摘してきた時は……なんだか嬉しかった。

 模擬戦をした時も全然弱かった。技を教えて貰ったけど、総合的な強さは第一席次隊長ロトの方が強いと思う。けど、命のやり取りになったらどうなるか――――――楽しそうと思った。

 彼との出会いは刺激的で、短かったけどあの時間は忘れられない日々だった。

 あの日から、今日のこの瞬間までずっと考えるようになった。

 自分の本当の願いは、自分とは何なのか、何をしたいのか、何を想い、何を愛おしく想えるのか――――――今も考えて考えて考えて考えて――――――

 

 

「続きは/?/あの人とは誰/?」

 

 

 私では勝てない相手、恐らく敵と認識すらしていない絶対強者。けど、このまま一方的なのは悔しいかな。

 

 

「……ここから先は有料だよ。ただじゃ教えてやんないんだから」

 

 

 自分のことを一生懸命に考えた。私のこれまでの人生で互いに想いをぶつけることなんてあったかしら?相手は自分を語った。私も自分を語った。まだまだ言葉に出来ない不安定な答えしか用意してないけど、ぶつかり合えば答えを導き出せるかな?

 

 

「だからお話ししようよ。私もあなたも、まだまだ全然本音を隠している。自分でも自分を理解しきれていない」

 

「私は私を理解している/ナザリックNPC接近最強ルベド/心を持たない自動人形/姉は/ニグレド/アルベドの二人/完成するために私は生まれた/パパの言うことは絶対/パパは命令した/人間を知れと/だから/私は此処にいる」

 

「そうじゃないの」

 

 

 そんな模範解答なんて聞きたくない。うわべだけ教えてくれても一つも嬉しくなんてない。

 

 

「ん~そうだ!パパとの思い出はないの?」

 

「思い出/?/私は/データ上でしかパパを知らない」

 

「ふーんつまりだいたい私と一緒なわけだ。私はパパもママも知らないから羨ましいなッ」

 

 

 カグラの戦鎌が大振りに振るわれる。威力はある。速度もある。だが、ルベドの目で追える程度の速度では、防衛機能は突破されない。目前に迫る首を狙った戦鎌が、三つに分裂した。

 

 

「ッ/!!」

 

 

 ルベドは生まれて初めて回避行動をとった。

 ルベドは生まれて初めて意表を突かれた。

 そして、ルベドは生まれて初めて――――――

 

 

「どお?少しは私個人に興味持ってくれた?」

 

 

 人間としての種としてではなく、カグラ個人をしっかりと認識した。

 

 

「認証/カグラ/脅威認定/五段階中レベルⅠからレベルⅢ/正常から警戒レベルまで更新」

 

 

 思考する。いまいち目の前の対象が何をしたいのかが分からない。攻撃させ、無駄だと悟らせようとすると、反発したり、言うことを聞いたり、別の提案を出したりしてくる。

 一貫性のない行動。ぶれぶれの思考回路。人間は複雑であり、多面性が当然存在する。

 パパはそんな人間を知れといった。

 そして、人間に成れといった。

 

 

「……/理解不能/もう不意討ちは成功しない/話すだけなのに何故戦う必要がある/?」

 

「譲れないものがあるからかな?」

 

「理解不能/ッ」

 

 

 カグラが四方八方から襲い掛かる。実態のある残像。否、これは忍者が得意とする分身に酷使している。だが、どれも儚く崩れ去る夢のように霞かかっているのに、どれも本物だとルベドの察知機能がアラームをならす。先の戦鎌も分裂したのではなく、本物が増えたと表現した方が適切。

 警戒すべき敵と認識したルベドの全センサーがカグラの能力の正体を丸裸にする。

 

 

「解析中/解析中/解析中/解析中/解析中/――――――」

 

 

 潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。

 儚く崩れ去る夢のように霞かかっているのに、どれもこれも生々しく死んでいく。

 

 

「……私が死んでいく。あったかもしれない私が消えていく」

 

 

 そう言葉を発したカグラも潰される。

 

 

「霧に消える夢のような事象/かすかに香る効能/――――――/阿片」

 

「へ~そこまで分かっちゃうんだ。でも阿片(こっち)の効き目は薄いかな。だけど……」

 

 

 手足が重なる。二重三重と手足だけが異なる軌道からルベドに襲い掛かる。だが、そんな小細工は無限のエネルギーの前では無意味。

 

 

「これも違う/どういうこと/?/本体が一人もいない/?/いいえ/どれも本物/一人さえ無事ならそこから新しく発生する/?」

 

 

 思考する。摩訶不思議な事象を可能とする魔法、スキル、アイテム――――――その中で最も可能性の高いのは。

 

 

「ワールドアイテム/ナザリックには存在しない/情報が存在しない未知のワールドアイテムの確率が大」

 

「うんそうだよ」

 

「……/普通は隠すものなのでは/?」

 

「言ったでしょ、話し合いをしよおって。だらだら長引いても面倒でしょ?」

 

 

 最大五体まで出現させるカグラの実態のある残像が、四体潰されても残りの一体がまた五体に分裂する。

 

 

「六大神の残した至宝は三つある。一つは傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)、二つは神殺しの真槍(ロオン・ギ・ヌウス)、そして三つ目は……」

 

 

 自らの胸を張り、トンっと叩く。

 

 

「私がその一つよ」

 

「?/?/?」

 

「あ、何言ってんだこいつーって顔してる」

 

「そんな顔してない」

 

「嘘。分かりにくいだけでちゃんと表情は感情と連動している。困惑、疑念、心がない?それこそ嘘。感情は、心から発生するものだよ」

 

「情報不足/その仮説には疑問点が尽きない/感情=心の定義を乞いたい」

 

「ていぎぃ?ん~私そんなに頭良くないし全部自分の感性になっちゃうけどいい?」

 

「構わない/が/戦う=話し合いも接点がない/その定義も乞いたい」

 

「口下手だからうまくできるかなぁ……だけどねこれだけは言える。考えるの、悩んで苦しんで考えて考えて自分の中に確かな自分を形作るの」

 

「……/確かな/自分」

 

「うん。ねえ教えて?あなたはなあに?」

 

 

 カグラの身体は人を堕落させる桃源郷。一体化したワールドアイテムの影響か、一体化してしまった影響か、吐息は脳を蕩けさせる媚薬に、体液は濃縮した阿片に、爪も肌も彼女の肉体は猛毒の塊であり、ただの人間が何の対策も耐性もなく彼女と同じ空間いるだけで、堕落し桃源郷へ誘われる。

 名も分からない至宝の一つ。三つしかない神々の伝説のアイテム。

 世界でも10本の指に入る生まれながらの異能(タレント)――――――融合(フュージョン)

 

 

「パパに甘えたくないの?抱きしめられ、頭を優しく撫でてくれるそんな優しい時間。合理的じゃなくて感情的に、心のままに、本当に欲しいものを思い浮かべるの」

 

 

 悩んでいるのも自分も同じ、だけど――――――自分より小さな子供の手助けになりたい。

 ルベドは倒すべき敵。

 ルベドは初めての勝てない強敵。

 ルベドは共に心を成長させる友。

 ルベドは幼く導かなくてはならない子供。

 ルベドは――――――

 ああそうか、見えてきた。何をしたいのか、何をすべきなのか。

 

 

「私の答えは――――――」

 

 

 回れ、回れ、万仙陣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





何だか方向性がおかしなことになっている気がしてきたついこのころ。
細かい原作設定のないキャラは好き勝手に作れてつい楽しくなってしまう。原作設定拾いつつ自分で設定作っているのが永かった(遠い目
この二人に関しては前編後編に分ける予定です。
今は初の夜勤勤務で身体の調整に五日間くらいかかってしまいました。
生活習慣の劇的な変化って難しいですね(白目

とくに本編と何の関係もありませんが、最近なろうを久しぶりに読んだ感想なのですが、神様異世界転生って読んでて矛盾点が、感情や心を置き去りにしている気がする。
神の玩具として、自分より強い者がいない低次元で、元の人間としての感性をまるで無視する。
人とはそう簡単には本質は変わらない。元々努力する生物の人間が、人間以外に生まれ変わって最強になって……ケルちゃん風に言えばすぐ飽きそう。
そんな事を考えてしまった(お目目汚し失礼します

あれ?もしかして多方面に喧嘩売ってる?やべーな(汗







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完成

 世界でも10本の指に入る生まれながらの異能(タレント)――――――融合(フュージョン)。 

 血肉の通った生物以外とその身体を一つにする生まれながらの異能(タレント)は、鉱物もアイテムも武器も――――――世界とさえ同化する規格外な異能。

 下手をすると神にも成れる――――――否、神を越えることも可能だろう。無論、万能などではなく当然欠点も存在する。

 一つ、一度融合したモノはどんな形で肉体の外見上に作用するかその時にならないと分からない。

 二つ、一度融合したモノは分離できない。

 三つ、融合するとアイテム等の効果が変わる可能性がある。

 カグラが生まれながらの異能(タレント)を使用した回数は二回。まだ見た目通り幼かった頃、神々の至宝を興味本意で取り込んでしまった。融合は謎が多い。その力の全貌は本人も把握しきれていない。

 桃源郷となってしまった彼女と触れ合える人間は存在しない。

 完全耐性を持たない人間に、何度犯されそうになったか。何も知らない少女の蕾を蹂躙せんと下半身を膨張させた男たちを、子供ながらlevel100の力で堕ちた中毒者を殺してきた。

 level100の力と猛毒を隠すためスレイン法国の最深部聖域、5柱の神の装備が眠る場所を守っている。ドラゴンにその存在の隠蔽の意味も含まれるが、その体質のせいもあり、誰も寄り付かない守りをしているのもある。

 六大神が広めたとされるルビクキューで遊びながら、彼女は自分が取り込んだ力を考える。

 本を読みながら、人の話を聞きながら、その登場人物を自分に置き換えて想像する。

 自分ならこうした。

 自分ならああした。

 自分なら、自分なら――――――

 膨れ上がるもしも(if)が蓄積されていく。自分の中に、自分が妄想し想像した自分が記録されていく。

 そんなおり、漆黒聖典第一席次隊長ロトが訪れた。彼女と同じ空間で堕ちることがなく、初めてたくさんお話しした異性。

 もしかしたら(if)、初恋だったのかもしれない。

 そんな彼と模擬戦をして抱いた感情は、落胆。強かった、確かに強かった。けど、これまでと比べて強かったにすぎない。

 そんな彼と模擬戦をして抱いた感情は、優越。こんなに強い彼でも、私には勝てないんだなと自己に浸る。

 そんな彼と模擬戦をして抱いた感情は、怒り。どうして負かしてくれないんだ。どうして本気で戦えないんだ。どうして――――――ロトが私なんかに負けている。

 他にも、他にもと、一度の戦いでこれまで記録されてきたモノが、それぞれの感情でロトを見下す。

 悲しいよ、嬉しいよ、駄目だよ、愛しいよ――――――取り込んだ至宝がどんな作用を自分にもたらすかわかった気がした。

 何が本当で正直な感情なのか本人も分からないくらい肥大化した自分が自分を押し潰す。

 自分が求める願いとはなんだ?人生とは?生き甲斐は?使命とは?

 仲間を尊ぶ自分がいる。

 使命に燃える自分がいる。

 何もかもを投げ出し逃げ出したい自分がいる。

 戦いと血を好む自分がいる。

 臆病に怯えながら小さな理由で心を奮い立たせる自分がいる。

 ただの子供のように笑顔で甘える自分がいる。

 孤高に生きる自分がいる。

 

 もう何が何だか分からない。

 訳が分からない。

 生きるって何?

 人って何?

 使命?

 定?

 掟?

 そもそも私ってなんなの?

 何をしたいの何で生きてるの目的は何願いは何この感情の渦はどれが本当の自分なの?

 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない――――――

 

 

 そうだ。赤ちゃんを産もう。

 それも強い人。とびっきり強い人。ううん、人じゃなくてもいい。私より強いなら誰でもいい。

 生物にとって子孫を残すのは当たり前な事で義務。女性にとって赤ちゃんを儲けるのは人生の幸せと聞く。

 産めや増やせやのスレイン法国。強い人は、その血筋を絶えさせてはならない。私のように、ロトのように、いつか覚醒するその時まで、人類が救済されるその時まで、力は残さなければならない。

 心は、感情は、もう訳が分からないけど、身体だけは私のものだ。私だけがこの身体を証明している。なら、意味とは、答えとは、人生とは、数多の私の一つしかないこの身体こそ赤ちゃんを生むことで唯一無二の絶対な私個人のモノになる。

 身体だけは私だけのもの。故に私は、生きたい(死にたい)。この身体に唯一無二の私だけの答えを刻む。

 

 

 そんな浅はかな考えも光の前には無力だった。

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉なし。

 眩しく光輝く太陽に融かされてしまいたい。その光だけは、私を見てくれた。数多の私なんかじゃない。ちゃんとした私を。

 だって、初めてあったあの日何て言ったと思う?

 

 

 ――――――バラバラだな。失礼承知で言わせてもらうが、何を成したいのだ貴女は?

 

 

 真っ暗だった瞼の裏が真っ白になるほどの衝撃だった。成す。そうだ、自分自身の証明に何の価値がある。ひたすら瞑想して何の意味がある。私は私だ。私の中に渦巻く最大312人の私。光に導かれた私は自分という個を獲得し、何を成したいのか考えた。

 あの日からずっと考えている。私とは何なのか。何を成したいのか。

 この肉体が融合した異物は二つ。

 一つ、完全なる個を獲得したことで掌握したワールドアイテム。

 二つ、ローブル聖王国の秘宝、神星鉄(オリハルコン)

 その二つが、解放される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまでの人生ずーと考えてきた。

 私にとって成すべきこと――――――勝利とは何か?

 私の初恋の人。二人目だから初恋じゃない?いいの、劇的な出会いは初恋って決まってるの。だって王道とはそういうものでしょ。光は総じて素晴らしいものだから。だけど――――――嗚呼、なのに、私はこんなにも矛盾に満ちている。

 

 

「私の答えは――――――」

 

 

 願いが重複している。一つじゃない。私が産み出した最大312人の私は偽りだけど、その心は嘘偽りない私のもの。

 

 

「――――――まだ、分からない」

 

 

 さっぱり意味不明だけど、絶対に答えを見つけて見せる。だけど、形は定まった。

 

 

「残り271人の私……ごめんね。身体がないと窮屈だったよね?」

 

 

この瞬間、私は私のために限界を越える。

夢を現実に、霞の如く触れれば霧のように儚い私達。

どれも本物、私が産み出した本物()

 

 

「認証/カグラ/脅威認定/五段階中レベルⅢからレベルⅤ/警戒から脅威レベルまで更新」

 

 

 ルベドが生まれて初めての臨戦態勢を取る。

 カグラの身体から生じる阿片の煙が戦闘エリアを桃源郷に豹変させた。もうもうと立ち込める真っ白な阿片の煙がルベドの回りで褐色の人を形作る。先程までの五体までの生易しいものじゃない残り271人のカグラが実態を持つ。

 

 

「ルベドちゃん」

 

「……/何/?」

 

「これまでの私をあなたに教えるの。受け取ってくれる?」

 

「それが/人間の答えなら」

 

 

 クスッと微笑む。嬉しくて楽しくて悲しくて――――――私を受け止めてくれる小さな女の子に心から感謝する。

 

 

「さあ……ルベドちゃんの生誕祝いよ!」

 

 

 level100の超越者が271人+私。一人一人がもしも(if)の別人。戦う姿勢も意思も思考も違う私達にコンビネーションなど得意とするカグラはそう想像された少数の(if)だけ。無論、オリジナルは一人一人の(if)の光と闇の両端を理解している。

 

 

「目標/破壊に移行する」

 

 

 無限のエネルギーを利用した防衛機能が意味をなさない。一人一人が速度の面で防衛機能の反応速度を凌駕する戦い。ルベドは生まれて初めて戦術をもって拳を握る。無論、武術の心得などない。今までのカグラの動きを参考に、どう拳を振るえば効率がいいか解析する。

 

 

「一人」

 

 

 猪突猛進な脳筋カグラが嗤いながら上半身、下半身を真っ二つにされた。

 

 

「……/二人」

 

 

 誰よりも仲間思いのカグラが涙を流しながらルベドの小さな腕が、腹部を貫通する。

 

 

「…………/三/人」

 

 

 非道でズル賢いカグラが腹部をついて制限されたルベドの死角を利用し絶命した自分ごと斬りかかるが、横凪ぎした手刀がその首を撥ね飛ばす。

 

 

「………………/よ/……人/ッ」

 

 

 臆病で引っ込み思案なカグラが勇気を振り絞って立ち向かうが緊張でガチガチな身体はルベドの振り下ろした手をその身に浴び地面の染みとなる。

 

 

「なに/……/これ/?/理解不能/理解不能/理解不能/理解不能/ッ/!!」

 

 

 道理に合わない不可思議な現象。カグラを一人、また一人その手で殺していくと何故か、歯車と永久機関しかない胸が締め付けられる。

 

 

「……夢は何でも許される。それが私を干渉するなら」

 

 

 理屈は知らない。この身体と融合したワールドアイテムは、カグラの望んだ通りその夢を実現させる。カグラを媒体にしなければ外に夢を持ち出せないが――――――殺したカグラのその時の感情が流れ込むようにと、死を対価に複雑怪奇な感情譲渡の夢を実現させる。

 死の間際こそ人の感情は本質をむき出しにする。数多の感情をそれぞれ持つカグラに同じ本質はない。

 死をもって教えるのだ。人とは何か、カグラとは何かを。

 

 

「ルベドちゃんの殺した私がどんな(if)かもう分からないけど、その死は絶対に無駄なんかじゃないんだ」

 

 

 夢は覚めれば忘れるもの。

 

 

「その胸の痛みは、苦しくて、耐えられないこともあるけど……その想いが人を成長させるの」

 

 

 苦痛なくして成長はあり得ない。逆境なくして成長はあり得ない。心に掛かる負荷が重く、鋭く、複雑に絡み合えば合うほど――――――それを乗り越えた心は強く成長する。

 

 

「私は一切手加減しないよ。どれだけ幼く、今にも泣きそうな女の子でも、私を殺せてしまう。だから頑張って。ルベドちゃんなら答えを見つけられる。この戦いの先に、絶対に……」

 

 

 私も見付けて見せる。私だけの答えを。

 

 

「あ/あ/ああああ/アアア/あ/ァァァァァァ/ア/Aaaaaaaaaaaaaaaaaa/!!」

 

 

 ルベドは泣きながら、痛みながら、苦しみながら、その感じたことのないどうしようもない辛さをカグラにぶつける。

 憎しみを懐く怨嗟の心。

 快楽を見出だす堕落の心。

 死にたくない恐怖の心。

 心。心。心。心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心――――――もう嫌だ。

 

 

 規則正しい歯車の音色が歪な不協和音に成り果てる。ギチギチとはまらない歯車が増え続ける。胸に重く、深く、鋭く、どす黒い何かが広がり続ける。

 もう嫌だ。耐えきれない。辛いよ。助けて。怯え、震える女の子にカグラは容赦しない。防衛機能の本能が、脅威を殺してしまう。そしてまた、歪な歯車が一つ増えた。

 

 

「……失って初めて気づくこと。私は、あって当たり前の私を失った。もう戻ってこないけど、失ったから……この想いを大切にしようと前へ進もうとするんだ」

 

 

 人知れず、カグラ(オリジナル)は涙を流す。彼女もまた失うという恐怖を知らなかった。失うという表現は、失ったものが本当に大切だから、大切だからこそ意味が発生する。失ったものが大きく、深く、優しく、当たり前に胸の中に存在していたなら、失った喪失感と哀しみと怒りは、失ったものを補うように強くなる。

 だから、そう――――――

 

 

「……ありがとうルベドちゃんッ。私、気づいちゃった。本当に……ほんとーに単純な答え。あの人も笑っちゃうかな?」

 

 

 ルベドに半数以上殺され、女は答えに辿り着く。魂の答え(叫び)神星鉄(オリハルコン)が共鳴し発光する。

 

 

「天昇せよ、我が守護星――――――鋼の恒星を掲げるがため」

 

 

 紡がれる真実の詠唱(ランゲージ)

 

 

「人類の守護女神は己の無力を思い知った。

天地を満たした繁栄も、蛇をもたらした天頂神(ゼウス)に偽りと切り捨てられた」

 

 

自分だけじゃ、本当の自分に気づかない。蛇より伝授された数々の力は無知蒙昧な女神の頭蓋を叩き割った。

 

 

「戦いを司る女神でありながら、認めない戦いに勝利は望めん。勝者には生を、敗者には死を――――――勝利の先はいつも敗北に塗り度られている。光は尊く素晴らしいから前へ前へ前へ進もうと、闇もまた人の尊ぶものだから。矛盾に揺れる灰色の境界線こそ女神を象徴する真実の姿」

 

 

 光に轟く雷霆も、闇へ誘う冥王も等しく大切だから。

 白と黒、ならばこそ女は灰色で今を生きていこう。

 

 

「梟を失う哀しみを懐きながら万仙の陣を回すのだ。灰色だった景色に色彩を飾りましょう。女神じゃない一人の女としてこの手に確かな幸福を掴むのだ。勝者を敗者を抱きしめて離さぬために」

 

 

 女神として女としてどちらにもなろう。後悔はしないと誓ったのだ。この命は、人とは決して一人ではないのだから。

 全てを許す慈愛の笑みを浮かべ、女は全てを優しく包み込む手の平に死神の鎌を握りしめる。

 

 

超新星(Metalnova)――――――永久の幸福よ(happiness)巡り来る祝福を(Amor vincit omnia)大地母神(Pallas Athena)

 

 

 片側が白銀、片側が漆黒の二色に分かたれた髪が混ざり合い、灰色となる。それと同じく、灰色の炎が死神の鎌に付属される。

 ルベドは殺しつくしたカグラ(if)の心の渦に膝を折り、胸を強く強く押さえ付けるが、傷みが消えることはない。カグラのことを脅威レベルと設定してしまったプログラムが、その脅威を排除しようと意思と関係なく対象を破壊しようと動いてしまう。一歩踏み出すカグラに、ルベドは恐怖する。

 

 

「……こないで、/これ以上は耐えき/れないッ」

 

 

 不合理、不条理、人間の心とはこんなにも身体が締め付けられるのか。知らない。こんなの知らない!!パパ……苦しいよ。辛いよ。このままじゃ私、パパの言いつけを破る悪い子になっちゃう。

 ルベドの身体は、271人の超越者との戦いで深刻なダメージを負っている。顔の半分は外装が剥がれ、左腕は肩から胸に切り裂かれ垂れ下がり、右手も小指と薬指をもぎ取られ、両の足はねじ曲がり、身体中が切り傷と陥没した損傷が痛々しく美しかった容姿を壊れた人形(ジャンク)へと成り下げっていた。

 それでも痛覚のないルベドに痛みはない。あるのは心の痛み。

 心の存在を初めて認識したルベドに、その複雑でどう制御すればいいのか分からない波は、防波堤を乗り越え内側から彼女を蹂躙する。

 一歩、一歩と歩み寄るカグラにルベドは顔を歪ませる。ルベドは動けない。動く気力もない。私はいったいどうすればいいのだろうか?と自己の思考回路に沈んでいく。

 

 

「/……あ」

 

 

 気がつけば、手を伸ばせば届く距離までカグラは近づいていた。もしカグラが攻撃を仕掛ければ自動的に迎撃するだろう。

 死の恐怖を知った。

 死と同一している様々な心を知った。

 その心がルベドの心と混ざりあっているのなら、その感情は最早、嘘偽りないルベド本人のもの。

 自害が許されていない自動人形は心の底から、このまま痛いだけなら死んだ方がましだと渇望する。

 自動攻撃プログラムを意思の力で捩じ伏せる。

 さあ――――――引導を渡してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「/………………?」

 

 

 何時まで経っても死は訪れない。無抵抗の彼女をスクラップにする力を有していながら何故しない?その内包する力はlevel100(基準値)を越え、未知領域(発動値)まで跳ね上がっている。ルベドまで強いとは言わないが、その力は超越者を上回っている。

 

 "ぎゅっ"

 

 ――――――え。

 理解が追い付かない。何故私は、抱き締められている?灰色の炎が彼女の身体を優しく包み込むように、よしよしと微笑みながら――――――その包容を受け入れている自分が居る。

 灰色の炎は決して二人を害さない。灰色の炎をつたい優しい暖かな心の温もりが流れ込んでくる。知らないはずの母の子宮の中を連想させる安心感に、幼い子供は身を委ねる。

 

 

「……」

 

 

 痛く、辛く、もう死にたいと絶望した心が解れていく。歯車一つ一つの歪みが正され、規則正しくはめられていく。そして、全く新しい歯車が一つ増える。それは脆く、儚く、気を緩めると壊れてしまうくらい不安定な歯車だけど――――――暖かかった。

 

 

「……まま」

 

「ふふふママか、良いよ。めえ一杯甘えて」

 

 

 本当の我が子のように、慈愛の炎がルベドの傷を癒していく。灰色の炎に物や人を傷付ける力はない。負傷を、傷付いた心を癒す力なのだ。ルベドの頭を撫でながら、静かに秘めた思いを語りだす。

 

 

「何でもいい……恐怖を知ること、失う悲しみを自覚すること、それが陽だまり()へ向かう力になるの」

 

「……まえへ?」

 

「人によって意味は違うけど、私はかけがえのない陽だまりを守るために戦うの」

 

 

 刺激的な出会いもいいだろう。勝利へ突き進む闘争もいいだろう。新しいこと新しいことと、そんな激しい人生もいいだろう。それでも、スレイン法国は大切な故郷で、退屈で目移りしない宝物庫の守りは――――――

 

 

「やっぱり初恋だもんね」

 

 

 ロトが会いに来てくれた。 

 

 

「私ね、好きな人が二人いるの。二人とも根がすごーく真面目でね、一度こうと決めたら絶対に曲げないの。正義感が強くて人類のためって本気で覚悟して毎日戦ってる」

 

 

 そんな事、私には出来そうにないから。閉じた私の世界に知らない人のため光を目指してなんて高貴な志は芽生えないから。光を直視したとき、かっこよくてなんて素晴らしいんだと思ったけど、私の本質から少しずれている。

 

 

「他人の幸福のため、自分を不幸にする生き方は違うと思うの。二人とも勝利()しか見ないから。けどね、一人は生まれ持った上限が決められた力で技を研鑽してたけど、もう一人は意思と努力で世界に喧嘩を売っていたの」

 

 

あの出会いは忘れもしない。才能もない、神の血も流れていない。この二つだけですべてが決められてしまう世界に真っ向から気合いと根性で立ち向かう姿に――――――恋をした。

 

 

「私と価値観が共有出来て、未来()を向いているけど振りかえることができる彼」

 

 

駆け抜けた先で振り返り、自己の幸福も考えるようになった愛しい人。

 

 

「一人一人と向き合い、皆の幸福のために命を燃やし続ける彼」

 

 

駆け抜けた先で、築いた哀しみと犠牲、期待を背負い勝利()勝利()へ絶対に止まらない愛しい人。

 

 

「人によって幸福の形は違うけど、それでも私は私の手の届くせえ一杯の所までは不幸にしたくないの」

 

 

頑固者も、傷つきながら前へ前進する人も、止めることは出来なくても――――――抱き締めて、ほんの少し温もりを分け与えることはできるから。

 

 

「スレイン法国しか知らない私にとって他は他人だけど、国が、愛しい人が守ろうとしているものを私も守りたい」

 

 

矛盾も迷いも消えていない。だがそれも込みで私なんだと受け入れて偽ることはもうしない。

そう――――――

 

 

「勝利とはあまねく幸福を守り祝福すること」

 

 

 それがどんな形であれ。

 

 

「私は幸せになりたいの。一人じゃ意味がない。皆が幸せな優しい世界は退屈で平凡だろうけど、それが私の陽だまりだから」

 

 

 ただ幸せになりたいと強く願った。明確な形は勝利と違って曖昧で分からないけど、痛みも血も流さないそんな陽だまりこそが幸せと信じて。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 制限時間までに答えを見つけ、少女にその想いを教えることができた。悔いはあるし死にたくもない。本当の幸せはこの先に必ずあると信じているから。

 

 

「ルベドちゃん……最後のお願い、聞いてくれないかな?」

 

 

 生まれながらの異能(タレント)融合の欠点。

 一つ、一度融合したモノはどんな形で肉体の外見上に作用するかその時にならないと分からない。

 二つ、一度融合したモノは分離できない。

 三つ、融合するとアイテム等の効果が変わる可能性がある。

 元々のワールドアイテムは経験値を対価に使用するタイプだったのか。カグラの中で効果が変わり寿命を対価に使用する性質になってしまった。カグラの寿命で作られた可能性(if)は失えば、カグラは死ぬのみ。

 

 

「……死んじゃうの?」

 

 

 心臓の音が徐々に弱々しくなっていくのを聞き取ったルベドの耳は正確に言い当てる。安らぎの心に恐怖が蘇る。パパとはもう会えないかもしれない。その上ママも失ったら――――――

 

 

「いやだ……いやだよッ。寿命ならアインズ様ならどうにかしてくれる。だからッ!!……死なないでぇ」

 

「寿命もどうにかできちゃうんだ神様(ぷれいやー)は凄いや。それでも……ごめんね。私は裏切れない」

 

 

 敵であるカグラの命を延ばす行為は、手土産に神々の至宝を献上するか、ローブル聖王国の情報を渡せば達成される。それは、許しがたい愛する人への裏切り行為だ。ルベドもまたそれらの事情を理解はしても言わずにはいられない。

 

 

「私だけスッキリしてルベドちゃんだけモヤモヤ抱えたままじゃ不公平だよね。……大切な、帰るべき居場所はある?」

 

「パパとママのところ」

 

「ん~私は死んじゃうし、パパは何処にいるのか分かってるの?」

 

「……この世界に来てないかも」

 

「降臨してないんだ。他にないかな?大切な、帰る故郷は」

 

 

 ルベドにとって故郷。真っ先に思い浮かんだのは、パパに与えられたあの部屋。

 

 

「……ナザリック」

 

「……そっか、なら守らないとね。仲間と一緒に」

 

「なかま?」

 

「誰でも、一人じゃ生きていけない。必要ないと思えるのは気づいてないだけ。同じ故郷を守るために戦うなら、それは仲間だよ」

 

「……うん。仲間、大切にする」

 

 

 ナザリックに属する仲間として、ルベドは故郷を守る。

 

 

「言って、ママ。私は何をすればいい?」

 

 

 ルベドはこれから答えを探す――――――実はまだ気づいていないだけでもう答えは心の中にあるのかもしれない。死に別れは辛いけど、大切な人の最後の願いを叶えたい。

 

 

「今進行しているスレイン法国でもどうしようもない強いモンスターをやっつけてほしいんだ。後は……ロトが何とかしてくれるから」

 

「うんッ絶対に、約束守るからッ」

 

 

 カグラはその言葉に安堵して重い瞼を――――――閉じた。

 

 

「――――――え」

 

 

 灰色の炎がルベドの身体に溶け合い融合する。

 死の間際、これで救われる。でも、死にたくない。幸せになりたいと願った無意識の想いが、融合を発動させた。中途半端な融合はカグラの肉体をそのままに――――――ルベドにカグラの魂と心が溶け込む。神星鉄(オリハルコン)と永久機関が融合を果たす。万仙陣は生物ではないルベドには反応することはない。

 

 この結果がどう転がるは誰も分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







初めてこのような内容を書いたので時間がかかってしまいました。賛否両論あるかもしれません。ですが、作者の心は、書ききったという満足感で満たされています!詠唱めっさ考えましたよ!(白目

次回は我らがゼファーさんですが、もしかしたら2~3ヶ月は間が空くかもしれませんのでよろしくお願いします。
あくまでもかもしれないなので予定より速く投稿するかもしれません。


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覚悟

理不尽を体現した邪竜を消滅させたルベドに、アインズは称賛と後悔の感情が心を締め付ける。

 最初っからルベドを連れてきていれば、アウラが犠牲にならずにすんだのではないか?己の招いた判断ミスに自己嫌悪し絶望のオーラを垂れ流す。

 

 

 ――――――好きです。一人の男の人として愛してます。

 

 

「……しってたさ」

 

 

 アウラの最後の告白が、何度も何度も頭蓋骨の中で反響する。想いを伝え、愛する男を守りきったんだぞと、胸を張って太陽の笑みを浮かべ死のその瞬間まで誇りをもってその身を犠牲にした少女。

 おお、なんと素晴らしい。正にナザリックを守護する階層守護者に相応しい忠義の自己犠牲。その名は、誇りは、永遠にナザリックで語り継がれる至高の英雄である――――――などと思えればどれだけ楽か。

 

 

「……素直で、すぐ表情に出る。とっくに気付いてたさ」

 

 

 ――――――大切な弟を、マーレをよろしくお願いします

 

 

「ッ!!そんなのッ……言われるまでもない。守るさ、守りきってやる……」

 

 

 デミウルゴス、アインザック、ナーベラル――――――そして、アウラよ。

 

 

「……お前たちを守るのに、人間性が不要というのならば、俺は……」

 

 

 ゲームではない。ユグドラシルではない異世界で、皆が皆生きている。

 

 

「ああ……俺の大切な宝物は今も昔も変わらない。皆のナザリックを、子供たちこそが何者にも変えられない俺の幸せだ」

 

 

 それ以外に、慈悲も幸せも要らんだろ?

 生者に憎悪を、怒りを、苦しみを、死を。

 奪われてなるものか。

 失ってなるものか。

 だからこそ俺は……

 

 

「お前たちが求める魔王になろう」

 

 

 人間性など捨てたのだ。今の俺はアンデッド。生者を妬む動く屍。不死者の王。

 感情が沈静する。心が沈静する。沈静する、沈静する、沈静する、沈静する。

 

 

「……アインズ様?」

 

 

 アルベドは心からアインズを心配し、アウラを失った悲しみを少しでも和らげる助けになりたいと、暗く、眼の深淵を覗き込んでしまった。

 黒く、深く、死を連想させる漆黒の闇。アルベドは理解する。次々と奪われていくアインズ様の宝物。ギリギリに保っていた精神が、アウラの死を引き金に変換させた。最早下等生物に慈愛も慈悲もない。異形の化け物どもを従わせ、世界を支配する絶対なる至高の御方が今――――――確かに誕生した。

 

 

「流す涙はない。この身体にその機能は存在しない。……まったく、不便な身体だ。だが」

 

 

 ルベドに歩み寄るアインズは、その皮も肉もない手で優しく頭部を撫でる。

 

 

「触れることが出来る。ありがとうルベド。お前は我が親友タブラさん自慢の娘だ」

 

「ん……アインズ様、私頑張るね。……ナザリックを絶対に守って見せる」

 

「――――――ッ!!そうか、そう言ってくれるか。お前が居れば敵無しだ。ナザリックの為に戦ってくれ」

 

 

 人間を知りたいと言っていたルベドがナザリックを守ると言うのだ。これをアインズを快く受け止める。アインズは気分良くよしよしと撫でていると、ニグレドからある報告を受けたアルベドがアインズとルベドの間に入り壁となる。

 

 

「お下がりくださいアインズ様。ニグレドからルベドの重大な裏切り行為が判明いたしました」

 

「……なに?」

 

 

 アルベドは可愛い妹を睨み付け牽制する。己はルベドには勝てない。それでも、愛しの殿方を逃がす時間稼ぎは出来る。

 

 

「……説明しろアルベド。それはどういうことだ?」

 

「……ニグレドの報告が事実なら、ルベドはスレイン法国に進行していた高位モンスターを全てを破壊し、数万まで増えた僕の半分以上を消し去りました」

 

「――――――ッ」

 

 

 開いた口が塞がらない。ルベドはスレイン法国所属のlevel100を単身で倒しておきながら、国そのものを守ったのだ。理由はわからない。わからないこそ、聞かねばならない。

 

 

「ルベド……お前は我々を裏切ったのか?敵は一匹残らず消さなければならない。ああ、そうか。今消してしまっては極上の苦しみを与えられないからなそうだろ?」

 

「違うよ。アインズ様の言葉は全部違うの」

 

 

 妹のあまりの物言いに怒りが沸点を越えた。

 

 

「ルベッ!!」

 

「落ち着け、私は気にしない。それで……どういうことだ?」

 

 

 話がこれ以上ややこしくなる前に止めにはいる。忠誠が高いのは良いが、アルベドを含めNPCは誤解や勘違いをしやすい。セバスの様に命令ではなく己の意思で選択したのなら尊重しなければならない。

 

 

「お願いされたの」

 

「お願い?」

 

「アインズ様の言うとおり、戦って人間を知ることが出来た。傷ついて、苦しくて、それでも時間は止まらないから……私が私で在るために、その願いは叶えなきゃいけないの」

 

 

 今一要領を得ないがつまり――――――

 

 

「その人のお陰で心を知ることが出来たから、その対価にスレイン法国を守ったと?その願いの内容次第では私はまた腹をくくる必要がある。教えてくれないか?」

 

 

 覚悟は決まっている。NPCである限り復活はできる。未知の敵に倒されればその可能性は消えるが、ことが済むまでルベドには眠ってもらう必要がある。

 ルベドは瞳を閉じ、優しいママの最後の願いを心の底から大切な言葉を、力一杯に告げる。

 

 

「スレイン法国に進行している強いモンスターをやっつけて欲しいってお願いされたの」

 

 

 大切な人の最後の願い。

 

 

「約束は果たした。これで報われると私は信じている」

 

 

 だけど――――――

 

 

「……私個人の感情だと、攻めてこないならナザリックから手出しはしないでほしいの。大切な人の守りたかったものを壊したくない」

 

「……」

 

 

 成る程と、その感情は理解できる。大切な人の宝物を大切にしたい気持ちは痛いほど良くわかる。何よりアインズがそうなのだから同じ感情が芽生えたルベドを祝福したいと素直に思う。それでも看過することはできない。

 

 

「……ッ」

 

 

 支配者としてアインズは思考する。今は防衛戦だ。戦力の分散は賢くない。今からスレイン法国に攻めいるのはリスクがデカい。あの理不尽(トンチキ)がどれだけ居るのか判明するまでルベドは貴重な戦力だ。何より、スレイン法国以外の敵対する国を滅ぼし、国力を削り、ナザリック直々に手を出さなくても無力化は出来る。

 

 

「……分かった。ルベドよ、level100の敵を倒し、邪竜を倒したお前への褒美はそれで良いか?」

 

「な、何を甘いことをアインズ様!これは明確な裏切り行為です。それを――――――」

 

「私が良いと言うのだ、良いのだアルベド。それとも、内輪揉めで敵を喜ばせたいのか?」

 

「――――――ッ!!……か、畏まりました」

 

 

 シュンと落ち込むアルベドは、ニグレドと連絡を取り合いこれからの方針を画策する。

 アインズは静かに、マーレに歩み寄り骨しかない腕と胸で包み込む。

 

 

「……あ、アインズ様?」

 

「今は泣け、泣いて良いんだ。そして、アウラは立派に使命を果たしたのだ。胸を張れ、誇りをもて。お前の姉は最高の……自慢のお姉ちゃんなんだろ?」

 

「~~~~~~ッ!!」

 

 

 糸が切れた様に、マーレはアインズに体重を預け、感情を爆発させる。アインズの衣服が汚れようが、守護者は誰もそれを咎めはしない。

 

 

「……ううっうっうっ……あっあっ――――――」

 

 

 時間にして三分にも満たない短いやり取り。アインズはマーレのぐちょぐちょになった顔を拭う。

 

 

「辛いようなら、お前だけでも休んでいてもいい。どうする?」

 

 

 真っ直ぐアインズを見つめ返すマーレの瞳は、姉の後ろをただついていく子供ではなく――――――覚悟を決めた。漢の面構えでしっかりと答える。

 

 

「僕は……戦います。お姉ちゃんの分までアインズ様をお守りします!」

 

「……その想いしかと受け取った。勝つぞ……お前たち。アインズ・ウール・ゴウンの名の元に絶対に勝つぞッ!!」

 

『ハッ!!』

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンは無敵だ。如何なる危険な試練も乗り越えてきた。プレイヤー1500人を全滅させる偉業を成し遂げてきた。

 一人一人がアインズの言葉に身を奮わせ勝利を捧げる。

 

 ――――――全ては、アインズ・ウール・ゴウン様の為に。

 

 

「敵は強大だ。今までのように後手に回れば敗北は必至。クソ……デミウルゴスで先手を打たれてからは何もかも上手くいかない。そもそも本当に敵はスレイン法国とアーグランド評議国なのか?見落としているのか?本当の敵はなんだ?あの軍服達は本当はどこに属している?」

 

 

 何も分かっていないのに、理解したつもりになっている。アインズはユグドラシルの叡智から、ラナーは現地の叡智から、アルベドとパンドラズ・アクターは双方の叡智から物事を見てきた。だが、双方から見てあり得ない頭のおかしい化け物(トンチキ)。スキル、武技、魔法とは異なる異界の力。

 

 

「シャルティア達に伝達しろ、撤退だ。ナザリックにて勝敗を決める」

 

 

 levelが当てに出来ない以上、単純な数値での戦いに意味はない。

 ギルドメンバーで作り上げたナザリックが半壊し、崩壊するかもしれない。それでも、ギルド武器スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンさえ残っていれば復興可能。今を生きているこの子達より大切なものなどないのだから。

 ユグドラシルと違いこの世界は脆弱だ。無効化耐性も無ければ回復も蘇生も満足にできない。アイテムも低レベルなものばかり。胸を張り邪魔をするなら総てを滅ぼすと豪語する不死者の魔王は持てる全てを使い必ず、理想とする世界を実現させる。

 故に――――――嗚呼、故にこそ。

 人類の敵で圧倒的優位で強者だからこそ――――――英雄譚と逆襲劇にまんまと嵌るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルティア・ブラッドフォールンは元々我慢強い性格ではない。そう創造された彼女は頭が足らない天然が入った馬鹿だ。ペロロロンチーノの趣味が反映された世の男共が大好物な属性を詰め込んで形にしてしまったロリ吸血鬼。両刀、嗜虐趣味、ロリババア、屍体愛好家、ロリビッチ……エトセトラと、エロゲにありがちな多数の設定が投入されており、本人の性格も概ねそれに沿ったものである。10や20ページ程度でご都合主義的にヤれる頭の弱いチョロすぎるチョロインを集結させて一人にしたと想像してくれれば分かりやすいかもしれない。

 そんな彼女も、至高の御方以外にはデレないし趣味を優先して至高の御方を蔑ろにはしない。総ての下僕に言えることだが、創造された理念も信念も思考も、至高の御方の命一つに劣ってしまう。性格や頭の良さはどうしようもないが、至高の御方の命に存在意義を見いだしている。

 女王蟻を頂点に働き続ける蟻どもと一緒。本人たちは虫けらと同列視するなと憤怒するだろうが、やっていることは蟻と一緒だ。絶対服従――――――洗脳領域の忠誠。

そう、NPCとは――――――至高の御方という絶対的な支柱がある限り、個性を消し前へ前へ突き進む創られた物。

 その心は縛られている。個性が欲が制限されている。異世界で自我をもちゲームのキャラから自分として生き始めたNPCは未だに――――――ゲーム上都合の良いキャラクターのまま生きている。

 しかしだ、存在を確立したということはこれまでと違い学ぶことが出来る。

 シャルティアは主であるアインズに敗北した。

 シャルティアは己の行動が裏目に出ることを十二分に理解している。

 ライバルであるアルベド、頼れる智将デミウルゴス、偉大にして至高なる死の王アインズ様には遠く及ばない。故に、守護者序列一位としてのプライド、戦闘に対する絶大なる信頼――――――はい負けましたでは許されないのだ。

 

 

 

 

 

「何でありんすかあの黒い繭は?体の負荷も、僕たちも正常に戻ったはいいけどこっちらから手出し出来ないとか……フザケンナヨッ」

 

「シャルティア殿一旦冷静に、アレは触れて良いものではありません」

 

 

 恐怖公の眷属が、黒い繭を呑み込もうと波のように押し寄せるが、触れた眷属からその存在を否定するかのように消滅していく。

 

 

「アレが何なのか見当もつきませんが、無闇矢鱈に突っ込めば命の保証は出来かねますな」

 

 

 アレは危険だ。夜の世界を支配する真祖の吸血鬼が恐怖する漆黒の闇。

 アインズ様の絶対なる死とは異なる――――――否定し、拒絶し、堕とす力。

 

 

「認めたくはないけど、アレほど殺すことに特化した力はそうそうないわ。だけど……」

 

 

 馬鹿やアホと罵られようが、同人誌のような頭の足らないチョロイン属性だろうが、そんな彼女が守護者序列一位の最強の座に就いているのは。

 

 

「あれほどの力そう長くは持たないでありんす。どれだけの効力があろうと時間制限が必ずある。ワールドアイテムなら話は別でしょうが、アイテム自体はそうやばい感じはしなかった……でありんす」

 

「おお……正直見直しましたぞシャルティア殿。守護者最強は伊達ではありませんな」

 

 

 戦いにおける現状分析と戦闘センスは随一。そこに逃げるという選択肢は存在しない。恐怖公に称賛され嬉しそうに鼻を鳴らすシャルティアは、次の手を打つべく命令を下す。

 

 

「私の眷属が不可視の力で無力化しなかった……出来なかった理由は分からないけどこれだけはハッキリしてるでありんす。何の装備もしていないアンデッドで攻撃するしかないと!!」

 

「それこそ相手の思う壺では?確かに丸腰のアンデッドなら肉薄することは可能でもシャルティア殿でも避けなければならない黒い斬撃を何の防御もなく受けることになりますな」

 

「そ、それは……あッ!!」

 

「気付かれましたか。そうですよ、近付けば斬撃に晒されるなら近づかなければいい」

 

「……一撃で倒される前提でスケルトンを突撃させ、中距離、長距離から攻撃可能な魔法詠唱者で吹き飛ばす……ふふふ、これ程完璧な作戦はないでありんす」

 

「優雅には程遠いですな。現状はそれが最善でしょう」

 

 

 シャルティアが戦うまでもない、卵のように閉じ籠ったのが運のつき、抵抗許さずはめ殺す。

 数の理は覆らない。たったの三人で何が出きる。足手纏いの死に掛けとジジイを抱え何処まで抗える。

 実際彼は詰んでいる。未知の力による所見殺しも、一度冷静になれば対策され対処される。

 

 

「私も日々学んでいるでありんす。アインズ様はおっしゃっていたわ。勝つためなら何をしてもいいと!」

 

 

 観察しろ、対戦相手の苦手を徹底的に攻めまくり、次の次の次の手を打て。PvPの基本は対戦相手の情報収集だ。勝てない敵は絶対にいない。癖を見抜け、自分のパターンに嵌めろ。良いかシャルティア、お前は確かに強い。だが、個では限界がくる仲間を頼れ――――――お前たちが尊敬し敬う私たちがそうだったように。

 

 

「アインズ様、たっち・みー様、ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様がそうであったように、チームプレイとは重要な要素(ファクター)。認めたくはないけど、守護者で私と阿吽の呼吸で連携できるのはチビジャリくらいてありんすね――――――はぁ?」

 

 

 悪魔、ゴキブリ、アンデッドで溢れ返った死の都市エ・ランテル。無限に召喚されるゴキブリと転移門(ゲート)から出現する無限湧き。その中心部となっているエ・ランテルは尋常ではない数の僕が進軍している。スレイン法国やアーグランド評議国にまだ辿り着いてなくとも、その道中にも数千万の僕が溢れ返っている。一万や十万を倒したところで、千万体の僕は次々と補充されていく。疲れを知らない亡者の進軍に、この世界の人々、ひいては多種属も勝てはしない。特出した強者が数百万の敵を倒そうが、愛する国は護るべき民は死に絶える。

 ならばどうする?無限に湧き出るならその中心部を破壊するのが定石だろう。

 敵の本拠地であるナザリック地下大墳墓には最強の人類を。

 無限湧きするエ・ランテルには、全てを否定する冥府の女王が降臨する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしてるのかしらこのノロマは。拳の極みが聞いてあきれるわ。私をゼファーの所まで運ぶのにいつまでかけるつもりかしら?」

 

「チッとばかしせっかちだな嬢ちゃん。見付かればそれこそ時間の無駄だぜ?露蜂房(ハイヴ)の総攻撃に紛れる意味を考えな。焦りはろくな結果にはならねーぞ」

 

「……そうね、ごめんなさい。焦っても状況は改善しないわ。本当にらしくないわね」

 

「それだけイライラムカムカしてるってことだろ。ハッ!あぁあー羨ましいね色男の兄ちゃんは、ここまで想われて男冥利に尽きるってもんだろうが!」

 

 

 カッカッカッカと、哄笑に男は笑う。事実ゼファーは複数人の女性から心配されている。実の姉然り、実の娘然り、部隊の上司然り、娼婦の女性然り、義理の妹然り、薄い本が厚くなる人間関係は羨ましいを越え巻き込まないでくださいドロドロの底無し沼。

 そこを平然と踏破するのがこの男――――アスラ・ザ・デッドエンド。

 絵に描いたような戦闘狂として、血沸き肉踊る闘争をいかなる時でも渇望している。

 

 

「安心しろや。俺が責任持って連れてってやる。てめぇも分かりきってるだろ?野郎がそう簡単にはくたばんねぇことはよ」

 

 

 生き残る技術と執念はアスラは誰よりも認めている。アスラが拳の極みなら、ゼファーは生の極み。どんな危機的状況でもアイツなら大丈夫という期待。

 

 

「まあそれ自体、アイツにとってはいい迷惑なんだろうがな」

 

 

 

 

 

 

 

 




生存報告をかねて投稿。
ほんとはもう少し書きたかったけど、これ以上書くときりがないので投稿笑

現実の辛さ(社会人)に昨日まで打ちのめされてました。
詳しくは活動報告で!(※見なくていいです)
大丈夫大丈夫と言いつつ引っ張るのが人の心。そう簡単には割りきれないね!今日こそ大丈夫と割りきって頑張っていきます!こんちくしょうが!

11ヶ月中にはゼファーさんを終わらせたい。


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間隙

「――――――はぁ?」

 

 

 突如、都市国家を覆い尽くす闇の粒子が展開される。アインズ・ウール・ゴウンに支配されたエ・ランテルにて第三諜報部隊・深謀双児(ジェミニ)は着々と準備を進めてきた。一つの都市を覆うほどの装置を見つからず、悟られず、ただのオブジェクトとして500箇所設置させる手腕。

 反粒子を放出し結界として機能させるだけなら、その形は千差万別。

 屋敷に飾る大きな壺。停留させた馬車。はたまた棚やテーブル、椅子に至るありとあらゆるそこに在って当然な物を結界を展開する起点として効率よく配置されている。一度展開されれば装置が破壊されるか展開稼働限界、一時間のタイムリミットまで活動可能だが、敵の破壊を考慮するともってその半分以下、約十五分が限度。

 故に――――――

 

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――――――我らは煌めく流れ星」

 

 

 作戦は実行される。本来この戦場に立つ予定など無かったルシード・グランセニックとは違い。魔を殲滅する輝ける騎士が煌めいた。

 

 

「百芸に通じる光の長腕よ。汝が養父より受け継いだ秘宝の槍を見せてくれ。

おお、なんと凄まじい。稲妻を鋼に固めた灼熱が、五条に分かれた穂先の奥で今も激しく唸っているぞ。 必中、殺戮、破邪、勝利、そして輝く栄光がこの魔槍には宿っているのか。

投擲すれば震天動地、いかなる敵が相手でも覇の一撃には耐えられん」

 

 

 使命を知り、それを担うことを己に誓った者。それのみが形にし得る、神聖にして不可侵の詠唱が響き渡る。

 

「さあ、往くがよい。邪眼の王は目前だ。 蹂躙せよ、戦の誉れをその手に掴め。旧神の弾劾さえおまえの道を阻むに能わず」

 

 

 それと共に高まりゆく見えざる緊張。巨大な力が到来する臨界寸前の気配に、大気が音もなく震撼していた。

 光輝に満ちた灼熱の槍――――――名を轟かすは、貫くもの。

 荘厳な神威を湛える鋼の星が、信徒を希望で照らすべく集束しながら具現する。

 

 

超新星(Metalnova)――――――烈しく輝き震えろ灼槍、戦神の威光を放て!(T u a t h a D e D a n a n n B r i o n a c)

 

 

 ――――――そして、流星群は発動した。戦場を遍く覆い尽くす光の豪雨が雪崩の様にシャルティアを巻き込みルシード達を包囲していたアンデッドへと降り注ぐ。殺到した無数の煌めきが、一帯をすべて蹂躙する。それは一条一条が灼熱する閃光の槍であり、人類に仇名す敵を問答無用で串刺しの屍に変える神威の裁きに他ならない。

 範囲全域に対する飽和殲滅を目的とした爆撃。故にそれは、有象無象の区別なく戦場そのものを覆い尽くす。

 その能力は光熱操作能力。集束性、拡散性、操縦性に秀でた資質は誘導性のレーザーという強力な星光として発現した。 ミステル・バレンタイン――――――烈震灼槍(ブリューナク)は文字通りの歩く光学兵器として聖王国の敵を討ち払う。

 よって、死想恋歌(エウリュディケ)の加護に守られている今だからこそ無茶が出来る。

 

 

「アヤちゃん、ブラザー、後のタイミングは任せた!」

 

「任された!」

 

「了解です!」

   

『創生せよ、天に描いた星辰を――――――我らは煌く流れ星』

 

 

 ブラザー・ガラハッド、アヤ・キリガクレ。二人の魂の詠唱(誓い)が開放される。

 

 

「己が尾を噛む世界蛇め、この稲光を見るがいい。

不信心たるおまえにも、我が鉄槌に煮え滾る、神の御稜威(みいつ)が分かるはず。

悔い改めよ、さすれば慈愛を与えよう。

無病息災、子孫繁栄、浄化の(みそぎ)がいざ来たる――聖なる祈りに貴賎なし 。

拒むというなら問答無用。戦の篭手と神通力の帯を締め、天津の裁きを下そうぞ。

黄昏に包まれながら、怨敵よ。さあ霹靂(へきれき)へと散り逝くのだ」

 

 

彼は並ぶ者なき剛力の騎士となり、その鉄槌であらゆる敵手を鎧袖一触と叩き潰す。

 

 

超新星(Metalnova)――――――神罰覿面、神敵粉砕、豪放磊落。(Megingjord)神威を此処に!(Mjolnir)

 

 

 能力は筋力増強能力。

 他に類を見ないほど極端な一点特化の性質が特徴。

 単純な筋力上昇効果をひたすら突き詰めた異能であり、発動すれば怪力乱神。

神に仇なす者すべて、ブラザー・ガラハッド――――――豪槌磊落(ミョルニール)が罪深き愚者を誅するべく粉砕せん。

 

 

「絶望に染まる飛沫が波打ち際に押し寄せた。憐れで無力な生贄は、失意の浜辺に暮れなずむ。さようなら、愛しき日々よ、さようなら、わたしの愛した思い出よ。

この血も肉も、心も嘆きも皆すべて。神の怒りを慰撫すべく海の魔性に捧げましょうや。

されど鎖を切り裂いて、希望が天より舞い降りた。

ああ、なんという幸福だろう。石化していく悪夢を前にかつてない喜びがこの胸の奥から溢れるのです。

誉れの英雄、白馬の貴公子――――――願わくばどうかお傍に置いてほしい。

この血も肉も、心も嘆きも皆すべて。愛しき人よ、あなたのために」

 

 使い捨ての発動体である鋼糸を優雅に手操る、頼もしくも優雅なその姿。

 そして優雅にして激烈なその魂。アヤの詠唱が炎と影を縫うように朗々と流れ出す。

 空間を裂き飛び展開する。肉眼で捕捉できぬほど極細の鋼糸(ワイヤー)。それは、闇に覆われたエ・ランテルにおいては不可視の罠と化し、避け損ねた敵が相次ぎ絡まり起爆される。

 

 

超新星(Metalnova)――――――流水に落花の如く、戯れたまへ縛鎖姫(S a c r i fi c e A n d r o m e d a)

 

 

 これこそが、アヤの超新星、限定的な金属操作。

 操り糸として操りながら、爆発を起こす鎖縛の絶技。己が特質を昇華させた彼女独自の闘法が炸裂する。

 烈震灼槍(ブリューナク)豪槌磊落(ミョルニール)縛鎖姫(アンドロメダ)――――――彼らの任務は単純明快。

 

 

光輝の槍(ブリューナク)ゥッ!!」

 

 

 放たれる幾条もの光線は途中の障害物を悉く焼き切って、シャルティア(目標)へ飛来した。

 それは煌めきの檻、逃げ場など何処にもない足止めの攻撃。

 勝機は今この瞬間――――――シャルティアが勝利を確信したこの時だからこそ、この奇襲に意味がある。

 彼等では絶対に勝てない。可能性は零ではないとしても、根本的地力の差――――――生物としての性能が圧倒的にかけ離れている。

  ミステル全力の足止め。シャルティアを孤立させる為だけの絨毯爆撃。煌めく光彩が魔王の軍勢を消滅させる。

 

 

「ぬおおおおおおおおおおおッ!」

 

 

 ガラハッドの雄たけびが空気を震わせ、振り下ろされた巨大戦槌が大気ごとシャルティアを叩き飛ばす。

 

 

「――――――捉えました」

 

 

 その信頼に応えるかの如く、踊る鋼糸が闇夜を舞った。

 吹き飛ばされたシャルティアは蜘蛛の糸に囚われた蝶のように絡めとられる。

 刹那、捕縛の鋼糸が火花を散らし、エ・ランテルに張り巡らせた網が花火を散らした。

 シャルティアと恐怖公を絡め取っていた糸の爆発に飲み込まれて炎上する。

 だが、この程度で死ぬ訳がないと分かっているから。

 

 

「これでどうよ!!」

 

 

 尖端に光輝を集束する突撃槍。乾坤一擲の聖なる光を操りシャルティアに照準を合わせた。

 これで終わらせる――――――覚悟を宿した光り輝く者の槍(ブリューナク)が最大出力で放たれた。

 目が眩むほどの光輝が戦場を包み込み灼槍の咆哮に射抜かれた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――『ゴキブリ』が。

 

 シルバーコーティングされたゴキブリ、シルバーゴーレム・コックローチがシャルティアを押し退け変わり身として溶け落ち融解する。

 

 

「……冗談でしょ。あり得ないでしょ普通ッ」

 

「常識を疑うのは此方です。宣戦布告も無しに一撃で滅ぼしにかかるとは紳士とは言えませんぞ?」

 

 

 貴族然とした振る舞いと衣装を身に纏った体高30cmほどの直立したゴキブリが立ちはだかる。

 そもそも私達より強いゴキブリだとか、目の前の高貴なゴキブリとかツッコミどころ満載なのだが、それより問題なのが。

 

 

「……このウジムシ共がぁぁぁぁ、調子に乗るなあああああああああああ!!」

 

 

 level100の力はこの世界では絶対。法則の隙間をすり抜けて攻撃だけは通じるにしても、耐久性は人間のまま。

 シャルティアには絶対に勝てない。奇襲が失敗した時点で彼等は詰んだのだ。

 物理法則を越えた機動性を前に、なす統べもなく死が迫る――――――でも。

 

 

「密度を薄くして広範囲にばら撒いて正解だったようね。コイツの相手は貴方にしか無理よ」

 

 

 白い燕尾服をたなびかせ、男が戦場へと到着する。

 

 

()()()()()

 

 

 不可視の力が激しく膨れ上がり、時空を歪めシャルティアにぶつける。

 その出力は先の比ではない。軍隊単位に力を拡散させていた力を集束させた全力の出力。

 

 

「あぎぃッ!」

 

 

 シャルティアはなすすべもなく地面に叩きつけられる。ミステルの鼻先まで迫っていたランスが虚しく地へ沈む。

 不可視の力――――――その能力の正体は、 磁界生成 。

 自己を中心に磁界を発生させ、不可視の支配領域を生み出す星辰光(魂の力)

 斥力・引力の発生、対象内の鉄分干渉による捕縛、鉱物操作、磁力付加による高速移動、S極とN極の付与等磁力操作によって可能な現象に関しては、思いつく限りほぼ全てを可能とし、ほとんどの物質に影響を及ぼす磁力を操作するという特性上、高すぎる汎用性を持つ。

 無力化するアンデッドの中でも、シャルティアは相性最悪の吸血鬼。

 アンデッドではあるが、吸血鬼であるが故に()の自縛からは逃れられない。

 

 

「――――――ッ、分かってはいたけどなんて力だ」

 

 

 身動きを封じるだけで全能力を使ってしまった。level100の絶対的な力はルシードから凡用性を奪い去る。

 ルシードもシャルティアも身動きが取れない、だからこその彼等だ。

 

 

「今度こそ、終わりよッ!」

 

 

 アヤとブラザーが邪魔が入らないよう残りのアンデットと悪魔、悪の権現ゴキブリを足止めする。反粒子の結界は転移門(ゲート)を停止させ増援を阻止している。

今度こそ、集束した光輝な煌めきはシャルティアを貫いた。

 

「……だから、勘弁してよねッ」

 

 

 全く同じ容姿の深紅の鎧を纏った化け物。左腕を犠牲に、鎧と肉体の性能だけで魔を滅ぼすランスを逸らし切った。

 

 戦いの場で不測の事態に対し、ミステルは部隊を統率する隊長としての経験と命のやり取りで最善を選択する知識から奇跡に等しい条件反射で叫んだ。

 

 

「ルシードくん!」

 

「ッチ、糞ったれがァ!」

 

 

 ルシードは闘いを好まない。その能力は生物なら難なく殺害できる最優最高の星辰光だとしても、どこまでも一般人な感性を持つ彼は戦場の空気になれていない。友のため、覚悟を決めて勇気を振り絞って立ち向かおうが、戦いにおける判断がどうしても一手遅れてしまう。全員が死ぬ一瞬の判断を、ミステルが咄嗟にカバーした。

 シャルティアを封殺するため割り振ってた全能力の許容範囲(キャパシティー)を、真ったく同じ容姿を持つ二人に割り振り、攻撃ができるよう余裕を持たせる。

 

 

「――――――エインヘリヤル。嗚呼……頭がすっきりしたで()()()()

 

 

 殺し尽くす。それは確定事項だが、時間がかかる。

 シャルティアとエインヘリヤルは守護者最強のポテンシャルを誇っているが、不可視の力により肉体の性能はlevel70以下まで落ち込んでいる。

 

 

「所詮それだけ、魔法もスキルも問題なく使用可能。ええ……アインズ様分かっております。パーティを組んだ人間を決して侮ってはならないと、私のために、私だけの為に、……あぁ――――――シネ、でありんす」

 

『ッ!!』

 

 

 シャルティア二人に、駆け付けたユリ・アルファ、無限に眷属を召喚する恐怖公。

 最優の星錬金術師(アルケミスト)、煌めく光輝烈震灼槍(ブリューナク)、怪力乱神豪槌磊落(ミョルニール)、愛縛の蜘蛛縛鎖姫(アンドロメダ)

 

 

「ルシードくん悪いけど合わせるわよ!」

 

「その辺臨機応変に頼むよ。戦いは苦手なんだ!!」

 

 

 四人が一つの塊となり互いをカバーし合う。

 変幻自在な砂鉄の刃が全包囲鞭のように撓らせ、鋼糸の罠が容易に接近されるのを防ぐ。流星群は面での攻撃を可能とし、近づいても煌めくランスが接触拒む。その中を大鉄槌が負けじと雄々しく轟音を響き渡らせ、回避を強制させる。

 シャルティアの速度が遅くなったとはいえ、人間が認識できる領域を超えている。

 影さえ掴めぬ残像をまるで者ともしない。

 『自己時間加速(タイム・アクセラレーター)』『人間種魅了(チャームパーソン)』『麻痺(パラライズ)』『生命力持続回復(リジェネート)』などなど、魔法を一通り試したにも拘らず効果が薄い。それよりも、この結界が展開されてからアンデッドの動きが鈍くなっている。まるで死者の復活を否定するかのように。

 

 

 ――――――埒が明かない。結界が解除されるのを待つべき?

 

 

 否、何時解かれるか不透明過ぎる。

 

 

 ――――――このまま現状に甘んじて増援を待つべき?

 

 

 否、増援は断たれた。敵が増える可能性の方が高い。

 ならば――――――嗚呼故に。

 

 

「勝った」

 

 

 口角が吊り上がり勝利を確信する。

 観察した、levelも構成も武器もスタイルも把握した。

 器用に展開する砂鉄の刃は仲間をカバーする攻防一体。アイツさえ居なければ一人を殺すのに一秒もかからない。

 その結論が、絶対に揺ぎ無い己の勝利――――――勝利の方程式。

 

 

「エインヘリヤルゥゥウウウウウウウウ!!」

 

 

 直進する。消滅され、爆発され、手足が切られ、美しかった美貌は醜くなり果てても――――――

 

 

「ぬおおおおおおお!!ふ・ん・さ・い!!」

 

 

 煌めく流星群も、振り下ろされた鉄槌も欠損した身体を利用し的を小さくし避け切って見せる。

 

 

「ガァウ!!」

 

 

 そのまますれ違い様にブラザー・ガラハッドの脇腹を吸血鬼の強靭な牙が通過する。

 戦うことが不慣れな男が、全員をカバーしながら隙無く展開するのは限度がある。いくらルシードに合わせて仲間が臨機応変に負担を少なく動こうが肉体的にも精神的にも消耗は避けられない。ルシードの集中力のブレた瞬きを間隙した。  

 

 

 

「――――――ッ、ぬかったか」

 

「ガラハッドさん!!」

 

 

 膝を折り根こそぎ喰われた腹部を押さえながらその心は屈しない。ガラハッドに殺到するゴキブリとユリをアヤが牽制する。

 

 

「ふざけんじゃないわよ不死の怪物がァ!」

 

 

 光輝を纏ったランスを薙ぎ払い消滅させる――――――これにより連携は崩れた。

 

 

「一番強いお前を真っ先に殺す。とっとと塵になれよ塵がァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「……本性が顔にも出てきたぞ吸血鬼」

 

 

 ルシード以外誰も反応できない。実直に獲物を定めシャルティアはスキルを発動させた。

 

 

「不浄衝撃盾ッ!」

 

 

 1日に2回だけ使えるスキル。赤黒い衝撃波を自身の周りに発生させ、防御と攻撃を同時に行う。

 磁界生成の不可視の結界を消し飛ばし、無防備となった身体に叩き込まれる衝撃波は内蔵と骨を粉砕し、その命を消し飛ばす。

 

 

「終わり、でありんす。脳漿ぶちまけろや負け犬」

 

 

 生きてるのが奇跡、その体は一般的と大差のない只人。誰よりも優れた星を宿してしまった負け犬。

 

 

「知ってるさ……僕は所詮負け犬だ。だから――――――」

 

 

 地の底で足掻くのだ。

 痛いのは嫌だ。分不相応な肩書も名誉も重たいだけだ。嫌だ嫌だ嫌だ、逃げて逃げて逃げて――――――そんな人間の屑でも、大切な守りたいものはあるから。

 

 

「シャアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 勝利の歓喜とルシードを殺害する喜び――――――その間隙に魔拳士が捻じ込む。

 コンマ一秒にさえ満たないシャルティアの隙、意識の狭間へ魔拳が奔った。

 

 

「がふ、ツ……ァ、アア……」

 

 

 鎧さえ破壊することが叶わない人間の(か弱い)拳は、鎧と肌の表層を傷一つつける事無くその心を破壊する。

 発動――――――時間逆行。1日に3回だけ使えるスキル。自身の肉体の時間を巻き戻し、致命傷も一瞬で修復する。

 故に理解する。自分は一度死んだのだ。心臓と脳を破壊されるその瞬間まで気配さえ感知できない隠匿技術。

 エインヘリヤル――――――自身の分身を作り出す。物理攻撃しか出来ないが、ステータスは本体と一切遜色が無い。文字通り切り札。ソレを消費してこの無様。

 

 

「――――――あ、」

 

 

 キレタ。シャルティアの中で決定的なナニかが手遅れなほどに――――――

 肉体の負荷が増していく、このまままた塵虫のように無様に頭を地に落とされる。

 自由が奪われる。負ける、まける、マケル――――――敗ける。

 

 

世界級アイテム(ワールドアイテム)――――――八咫鏡(やたのかがみ)、発動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





話が延びるぞ!これも全部トリニティが悪いんだ(責任転嫁
アスラと爺好き。あのラストバトルで燃えない奴はホモじゃない(え?


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真祖vs魔星

 彼が生きていたのは本当の偶然。神様がサイコロ振るったそんな運命を少しは信じるくらいの拾った命。

 シャルティアに汚点はない。勝利を確信した一撃の瞬間も警戒は解いていなかった。ほんの僅かな感情のブレによる隙とも言えぬ隙。アスラ・ザ・デッドエンドはlevel100守護者最強の化け物の勝利への緩みの間隙を利用し、星は確かに核を破壊した。

 

 

「……?おいおい俺は確かに潰したぜ。脳と心臓見事に綺麗にな。それどころか綺麗さっぱり治ってやがる。目や鼻や口から溢れた血も、まるで巻き戻るみてぇに逆流しやがった!!」

 

 

 愉快愉快、我天上天下唯我独尊成り。男はこの巡り合わせに感謝する。

 

 

「……色即絶空(ストレイド)、僕は君が来ないんじゃないか冷や冷やしたよ」

 

「そういうなって錬金術師(アルケミスト)、どうした?暫く見ない間にずいぶんと様になってるじゃねえか。男子足るもの殻が剥けてなんぼよな!」

 

 

 カカカカカカカッと、人生を自由気ままに生きる男の感性をルシードは羨ましく思う。だが、その登場は待ちに待ったクイーンを手札を引き寄せたことを意味する。

 

 

「君がいるってことは当然そうなんだろ?てかいつからいたの?死んだよ?死んでたよ?」

 

「女々しいな。結果良ければ全て良し、万事一切問題なし。それよか糞爺が何でいんだ?アイツ星もないくせにどうやって戦うんだよ?さっさと現役引退して隠居しろってんだ」

 

「なんだ、心配してるのかい?君こそらしくない」

 

 

 その言葉は聞きずてならないと、視線をシャルティアから離さず睨みつける。

 

 

「……冗談もほどほどにしろよ。それだけはありえねえ、絶対にねえ。俺も親父(アイツ)も、どっちかが野垂れ死のうが己が死のうが心底どうでもいいんだよ。その過程に――――――道にこそ意味がある」

 

 

 ――――――それこそが、拳の極み。

 

 

「これぞ最強。これぞ究極。天上天下に比する者なし、我が星光()の煌めきなり」

 

 

 その振る舞いは傲岸不遜。ふざけた調子に大真面目に堂々と言い放つ。

 

 

「人間舐めたら行かんぜ、おい。努力さえすれば大抵何とかなるもんさ。なあロリ吸血鬼?」

 

 

 此方を見向きもしないシャルティアに、アスラは仕掛けられない。空中を浮遊する鏡は円を描くようにシャルティアを中心に回る。

 そこはデッドゾーン。踏み込めば死ぬと親切にも分かりやすく教えてくれている。

 

 

「ありゃやべーな。どうにかできるか錬金術師(アルケミスト)?」

 

「無理みたいだね、アレはどうも特別製らしい。干渉すら許されない。いや……これは……」

 

 

 金属を操る磁界生成の容量限界(キャパシティーオーバー)に似ている。一人で持てる大きさの美しい装飾がほどこされた円鏡が、僕の全能力以上の(パワー)世界(質量)を兼ね備えていると言うのか?

 

 

「……世界級アイテム(ワールドアイテム)、スレイン法国で現物を拝んだことはないけど世界法則そのものを書き換える力を宿している話を聞いた事がある」

 

「へぇーアイテム一つに仰々しいな。スレイン法国もそうだが、武者修行に周った国も装備やアイテムに重点を置きやがって、努力をしてる?それに見合った素晴らしい装備が欲しい?何一つ間違ってねえな。真理だ。剣も槍も弓も魔法も突き詰めれば力だ」

 

「拳も?」

 

「当たり前だろ。だがよ、俺に言わせればそれは甘えだ。否定はしないし人様の努力を一々文句なんていわん。それでも――――――まずは、五体極めてから出直せや」

 

 

 簡単に堕落するな。努力して頑張れば誰でも可能な技術しか俺は使わない。何度でも言おう――――――これは努力の延長線だ。

 

 

「いや無理だから。馬鹿じゃないの君?頭おかしいんだよ一緒にするな。誰もが自分と同じとかトチ狂った思考回路をさっさと直せ、もしくは光の奴隷を道ずれに死ね」

 

 

 努力すればどんな願いも叶えられる。そんな当たり前の正論が大っ嫌いだ。出来ないのも、やらないのも、失敗も、窮地も、要するに努力が足りないから。

 出来ないなら出来るように努力しろ。

 やらないならやれるように努力しろ。

 失敗したならそもそも失敗しない努力しろ。

 窮地なら窮地にならない努力をしろ。

 

 

「大っ嫌いな野郎思い出しただろ……眼鏡ワレロ」

 

「愉快愉快!!前を見ろ前を――――――来るぞ」

 

 

 勝手に塞ぎ込む馬鹿にアスラは注意を促す。円鏡がピタリと空中で止まり、二人を写し出し――――――世界が反転した。

 世界から四人を除く生命が消えた。

 世界から弾き出された。

 

 

「……すげえな、全景が左右逆。さしずめミラーワールドと言ったところか」

 

「イヤイヤイヤイヤあり得ないでしょ!?なに冷静に解説してるの!?」

 

「これは……本当に驚いたわ」

 

 

 この場の四人目であるイヴ・アガペーもまた驚愕に表情を固める。

 

 

「どうも奴さん俺ら三人に用事があると見える。あの場の突出した敵を一人で引き受け殺す気満々らしいな」

 

 

アスラ・ザ・デッドエンドは闘争に身を任せ、にやりと顔をほころばせる。

 

 

「逃げ場なし、うってつけの戦いだ……本当にね」

 

 

ルシード・グラセニックの覚悟は決まっていた。でも、追い詰められなきゃ負け犬は足掻けないんだと、ポーションを煽った体に活を入れる。

 

 

「あら、サポートは任せてね。……あの子に帰ってくるからって約束しちゃったし」

 

 

 イヴ・アガベー、何処までも慈愛に満ちた女は馬鹿な男たちを生かすために、大切な少女との約束を果たすために蜂を展開する。

 そして――――――

 

 

「アア……ア、ア、アアァアアア、ァアアアアア、ア、アアアアアアアアア、ア、アア――――――」

 

 

 シャルティアにゲームのキャラクターとしての自覚はない。そもそもNPCにとって設定と創造主は絶対の法則。故にそう創られたNPCは強い。創造主の想いを絶対とし、時には設定による個の強さにより自らの感情を優先する。無論、ばれないようにひっそりと、そんなアルベド(NPC)も存在する。

 シャルティアは馬鹿だがアホではない。世界級アイテム(ワールドアイテム)――――――八咫鏡(やたのかがみ)の効果による異界強制召喚される前にエ・ランテルからプール一杯分の血をその身に浴び、己の意思で血の狂乱を発動させる。血を浴びることで攻撃力が上昇する。しかし同時に暴走状態となり、判断力が著しく低下するデメリットが目立つ効果。

 それを――――――

 

 

「あがががががががががっががががっががっがががぁああああああああああああああがあがあああああぁぁかあああああ――――――あ、いんず……さま」

 

 

 暴走状態に方向性を与える。

 コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス、小賢しいこいつ等はそう簡単には殺せない。ならば最善を、アインズ様、創造主ペロロンチーノ様にために――――――より殺戮に特化する。

 

 

「……八咫鏡(やたのかがみ)、むてき状態ィしゅうりよう――――――スタート」

 

 

 この瞬間四人の移動と他者への攻撃が可能となる。

 

 

「我経絡秘孔――――――殺人拳の真髄を味わえやッ!!」

 

 

 口角を野獣のように吊り上げ、哄笑も高らかにアスラは一番槍として魔拳の完成を目指しこの世界で出会った誰よりも強いシャルティア(獲物)に喜悦の情を迸らせつつ狂ったように駆けた。

 即座にルシードの星辰光がシャルティアの挙動、その自由を遍く奪い取る。抵抗の様子を見せないシャルティアに振りかぶった拳を鳴らし叩き込む。

 

 

「血の武装」

 

 

 血が鎧の隙間から全身に流れ込み、動けない肉体の代わりに補強し血を操る感覚で人形として自身を行使すると同時に――――――

 

 

「器用だな。血をこうも自在に操る吸血鬼は初めてだ。俺の特性を何となく理解して対策したな?」

 

 

 三つの血の球体をつくり出し、その一つが盾の役割としてアスラ必殺の拳を防いだ。

 アスラ能力の正体は衝撃操作。極端に特化した操縦性による星辰光。通常は波紋のように対象へ伝達される衝撃を自由自在に操縦する無敵の能力。だが空中で独立したそれをいくら殴ろうがシャルティアに衝撃は届かない。

 四方から襲い掛かる屑鉄や砂鉄、兆を超える蜂の大群も変幻自在の血の武装に迎撃される。面となり網となり鞭となり刃となるそれらを、指先が掠らせるだけであらぬ方向に弾き飛ばす。

 血の狂乱による判断力の低下による純粋な殺意のみで暴風の嵐を読み易いと受け流し、必殺の間合いに鮮血の戦乙女を捉えた。

 

 

「獣に堕ちてどうするよ?正常の判断も駆け引きもなっちゃいねぇ。速さも力も段違いなのは間違いないが……軽率だ」

 

 

 真祖もシャルティアの背後に浮遊する円鏡も動かない。罠か?脳裏にチラつく警告も当てて下さいと言わんばかりの佇まいに。

 

 

「オラアアアアァ――――――ッ!!」

 

 

 最強()が少女の心臓を穿った。

 

 

「――――――あぁ?」

 

 

 質量も触感も星も問題ない。確かに殺した。手応えもある。こんなものかと、血に濡れ美しかったであろう少女の胸から腕引き抜く。円鏡は不動のままその光景を写し出す。

 風穴を空けたシャルティアが――――――消える。

 

 

「ッ!!」

 

 

 背筋に走った悪寒が反射的に身を屈める。はたかれ見れば不自然な回避行動も予兆も見せず背後から出現した無傷の吸血鬼のスポイトランスの命中を未然に防いだ。血の武装がランスをつたいミキサーとしてアスラを切り刻む。

 ルシードは斥力を二人の間に発生させ、アスラの方を吹き飛ばす。

 

 

「はい、チェックメイト」

 

 

 移動したシャルティアに球体の守りはない。故に捌ききれなかった露蜂房(ハイブ)の毒はその魂を汚し――――――消えた。

 

 

「あ、……」

 

 

 スポイトランスの尖端がイヴの脇腹に出現する。すぐ真横にいた錬金術士(アルケミスト)は全能力をシャルティアの挙動を封印し、血の武装で動き出す数秒のラグの間にイヴを抱え引きはがす。

 

 

色即絶空(ストレイド)ォォォ!! 」

 

「摩訶不思議だなおい!!どういう原理だ?転移とちと違うな」

 

 

 頭上に現れ放たれた突きを両手の甲で滑らせ流れに逆らわず意識の狭間を間隙するも――――――消える。

 出現して、消える。出現して、消える。出現して、消える。そのペースは洗練され間の間隔が無くなっていく。

 

 守護者『最強』――――――その称号にたがえない凶暴性と何処までも殺しに特化した真祖の吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールン。世界級アイテム(ワールドアイテム)の慣れない戦い方に適応してきている。

 同時に二人が存在するかのような連撃に幻術催眠の類いをアスラは否定する。

 これはそんな陳腐なもんじゃない。

 常にシャルティアの後を浮遊する円鏡、戦っているシャルティアと鏡に写し出されたシャルティア。

 

 ――――――そういうことか。

 

 瞬間的連続転位は、()()ショ()()の一致していない円鏡に写し出されたシャルティアに原因がある。

 速く気づけよ馬鹿か俺は。世界をつくるそんな規格外な力に無意識のうちに視野を細めてたのは俺の方かよ。まだまだ鍛錬が足りてねえ練り直しだ。

 

 

「……このままじゃ自慢にすらならねぇ。アレだけ啖呵切っといてこのざまは笑われても仕方ないぞマジで」

 

 

 直撃しなくともlevel100以下はその余波だけで致命傷を負い嬲り殺される殺意の化身。

 それを拳で捌く巧さ。純粋な悪いのみの攻撃は読み易いとはいえ無傷で戦える理由。

 

 

「……俺様の武に反するが、特別だ吸血鬼。ありがたく頂戴しろ」

 

 

 踏み出した足で大地を粉砕しシャルティアの足元にクレーターをつくりだし側面に移動する。

 鎧の隙間から血の触手蠢き人体の有所を音を置き去りにアスラを串刺しに面で迫る。

 

 

「……悪手だ。ホラよ」

 

 

 勢いをつけぶつかりに行く。防御も回避も技術も何もない。遍く全身を貫いた血の武装はアスラを傷つけること敵わず、その殺意の衝撃をシャルティアに返した。

 

 

「あ、ギィ、いが」

 

 

 死したシャルティアが消え、また出現する一秒にも満たないこの時こそが――――――

 

 

「どうよ――――――正解か?」

 

 

 なにも存在しない空間に振るった裏拳が――――――確かに命中した。

 確信はなく試しに近いこともあり浅く入ってしまったが、鏡の中のシャルティアが膝をつく。

 狂気に染まらず理性的に映る彼女は、驚愕に目を見開きいくら何でも速すぎると感情を露わにする。

 

 

『おまえ……私より弱いくせにその力はなに!?あり得ないあり得ないあり得ないこんな結果認められないッ!!』

 

「ぎゃあぎゃあ騒ぐな聞こえねーよ。こっちの世界で喋ろや」

 

 

 世界級アイテム(ワールドアイテム)――――――八咫鏡(やたのかがみ)は発動した戦場と全く同じ合わせ鏡の世界を創り出し、任意の相手を有利な戦場に召喚する。

 アスラ達が奮闘する鏡の世界は、本物で在り本物ではないシャルティアが戦っている。

 思考も同じ完全コピー、創られた合わせ鏡の二つの世界。

 シャルティアしかいない表の世界。

 アスラ、ルシード、イヴ、シャルティアしかいない裏の世界。

 そう、常に浮遊する円鏡は二つの世界を繋ぐ扉。鏡は世界とシャルティアのみを写し出し『裏世界のシャルティア』が消失したとき、『表世界のシャルティア』の立ち位置から出現する無限湧きシステム。

 『裏世界のシャルティア』がどれだけ傷つき死のうが『表世界のシャルティア』には一切関係のない事象――――――住む世界が違うのだから当たり前だ。

 だが、

 

 

「こっちのお前が消え(リターン)、そっちのお前が出現(リスタート)すると、こっちからそっちに干渉する瞬間が絶対に出てしまう。本来繋がらない世界がその瞬間だけは重なってしまう。要はそういう事だろ?」

 

 

 過剰なまでの殺意による威嚇も、血の武装による広範囲の攻撃も、鏡に写る矛盾を悟らせないため。

 シャルティアは錬金術士(アルケミスト)色即絶空(ストレイド)露蜂房(ハイヴ)を殺す性能を十全に備えているが、能力の相性とアスラによる殺気から読み取った次の次の次の次の先を対処することで捌くことも避けることも可能となっている。

 故に不意打ちの瞬間転移は意味はなく。攻略すべき道しるべが生まれたことを意味する。

 故に――――――

 

 

八咫鏡(やたのかがみ)最終段階発動――――――合わせ鏡無限回廊』

 

 

 まんまと騙された憐れな劣等種に、我慢していた口角がつり上がってしまう。

 八咫鏡(やたのかがみ)は強力だが扱いづらさからNPCに持たせても問題ないとギルメン多数決で許可がくだった非常に珍しい世界級アイテム(ワールドアイテム)

 一分間の無敵状態から戦闘エリアと同じ世界を二つ作り出し任意の相手をその世界に召喚する。一見強力そうに見えるが、一分間戦闘エリアは妨害と戦闘行為が禁止され、戦闘エリア外に逃げてしまえば発動者は五分間行動不能のバッドステータスが発生してしまう。

 万一成功してもその際、第一段階の『表世界にいる本体』の耐性・無効化は無くなり防御力も80%以上低下する。

 相手にも打撃を与えるが、こちらもそれと同じくらいの打撃を受けるおそれがある。大きな効果や良い結果をもたらす可能性をもつ反面、多大な危険性をも併せもつ諸刃の剣。

 それ故に、最終段階に至る『敵に体力20%以下のダメージをくらえ』というユグドラシルプレイヤーにとって、死ねと?クソだろ運営条件変えろよ案件が殺到するが運営が手を加えることは無かった。

 シャルティアにとって賭けの要素があったが勝算は濃厚で高かった。攻略サイトにも掲載されている世界級アイテム(ワールドアイテム) 八咫鏡(やたのかがみ)はプレイヤーにとって鴨だが、この世界では絶大な効果を発揮する。

 

 

「条件が達成された。虐殺は一瞬」

 

 

時間逆行を発動させ自身の肉体の時間を巻き戻し、一割に落ち込んだ体力を一瞬で修復する。

『表世界のシャルティア』が『裏世界のシャルティア』と一つとなり世界が統合される。

 裏と表。交わらない世界が向かい合う。鏡に映った鏡の中に鏡が写り、その中にまた鏡が写る――――――鏡の中に途方もない無限の己が広がる。

 

 

「シャルティア・ブラッドフォールン無限湧き。ペロロンチーノ様がおいでにならないのが残念でありんす。きっとお喜びになってくださるのに……」

 

 

 遥か彼方に御隠れになられた愛しの方。私がアインズ様に初めてを捧げたら――――――嫉妬してくださいますか?

 最大最後のチャンス。シャルティアが召喚されるほんの数秒の希望。

 迫る砂鉄も、蜂も、拳も、真祖の吸血鬼鮮血の戦乙女(トゥルーヴァンパイア)にとって匙でしかない。

 

 

「不浄衝撃盾」

 

 

 攻撃と防御を同時に発生させ諸とも吹き飛ばす。アスラも衝撃には無傷だが、防御の性質上進むことが出来ない。

 

 

「完全なる勝利のために……」

 

 

 シャルティアは距離をとる。その際シャルティアが爆発的に出現する。

 本体が戦う必要はない。全力で逃げるだけで勝てるのだ。

 

 

「おい塵虫、感謝しんす。真・最終段階に至るための贄となれ」

 

 ――――――清浄投擲槍。

 

 必中効果が付与された流星群。世界を埋め尽くす殺戮の雨。

 三人は一ヶ所に固まり向かい打つ。

 

 

「あー……わかりきった答えだけどアレ君のなんちゃって拳法でどうにかならない?」

 

「掴めるし逸らせはするが直撃すれば普通に死ぬな」

 

「なら、少しは抵抗しないとね。護りは任せて」

 

 

 兆を越える蜂の大群を集束させ一つの壁として流星群を失速、誘導する。

 全能力を引力とし限定的な暗黒空間(ブラックホール)が消滅させる。

 必中の清浄投擲槍を触れた箇所を抉られながら捌ききる。

 豪雨の槍。対処の要領をつかんでいく。

 アスラは身体にわざと傷付けさせ損傷を最小限に抑えていく。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラッ!」

 

 

 それでも。何千と付けられた傷は着実に命を削り取る。

 新たに召喚されたシャルティアが投擲してくるが弾幕の密度が最初と違い薄くなっていく。その中を、三人が駆ける。スキルを使いきったシャルティアが襲いかかるもそれぞれの役割を理解し足を揃え勝利を掴むため前へ前へ進む。

 

 透明化(インヴィジビリティ)上位転移(グレーター・テレポーテーション)力の聖域(フォース・サンクチュアリ)第10位階怪物召喚(サモン・モンスター・10th)最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)輝光(ブリリアントレイディアンス)大致死(グレーターリーサル)力場爆発(フォース・エクスプロージョン)自己時間加速(タイム・アクセラレーター)……etc.

 

 オリジナルは、耐性・無効化、防御力80%以上低下の束縛から解放されているが、無限湧きシャルティアはこの制約に縛られている。

 だがこの時点で勝利は確定している。

 足掻く姿を眺めて警戒はしているが、真・最終段階へ至る条件として、シャルティア(オリジナル)から攻撃はできない。相手の見える位置に陣取らなければならないとあるが、己の死ぬ姿など微塵も想像出来ない。

 奴等は粘っている方だと思うが時間の問題だ。

 アンデッドや耐性・無効化とうのアイテムがない限り疲労は誤魔化すことは不可能。

 なのに――――――違和感。

 少しずつ、ほんの少しずつ強くなっている気がする。

 速さや、能力の出力が上昇している?

 否、この現象をシャルティアは知っている。

 

 

「levelアップ?耐久が紙装甲とはいえ、level100の敵を倒した経験値が急激な成長を促してしまってると……」

 

 ユグドラシルではlevel100が当たり前。そこ迄に至った構成と創意工夫で強い弱いと分別される。

 一部の敵モンスターを除き、プレイヤーやNPCの戦いはlevel差が絶対。今回のようなイレギュラーでもない限り格下が格上に勝つなど本来あり得ないのだ。

 

「同格に成りつつあるとはいえ、三匹と無限。この戦力を覆すのは誰であろうと不可能!!八咫鏡(やたのかがみ)は無敵だッ!!」

 

 

 真・最終段階へ至れば、異界を外へ流出させる条件が達成される。24時間と時間制限はあるが、それだけの時間があれば複数の国ごと更地に蹂躙できる。

 シャルティアだけで難攻不落のナザリック地下大墳墓を攻略することも一つの世界を終わらせることもできる。

 

 

「……おい、吸血鬼ィ!舐めてんのか何かしらの理由か知らんが本体ここにいますアピール後悔するぞ?」

 

「血だらけでほざくな。貴様の能力の正体は衝撃操作だろ?厄介でありんすが、魔法は完璧に受け流すのは無理!!削り死ねでありんす!!」

 

  

 諦めれば楽だろう。終わりのない無限湧きに閉ざされた世界。どう足掻こうが人間に勝ち目はない。

 頑張るのは辛いのだ。圧倒的なワンサイドゲームに弱者の心は容易く折れてしまう。

 

 

「……それでも、諦めない理由がある」

 

 

 錬金術士(アルケミスト)は愛する人と親友に恥じないために。

 

 

「……お互い理由は異なるけど」

 

 

 露蜂房(ハイヴ)は帰りを待つ少女のために。

 

 

「……果たすと決めた約束があるんでな」

 

 

 色即絶空(ストレイド)は超えると誓った影を踏めるように。

 

 

『お前(貴女)は邪魔だ(よ)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははっはははははははははっはははははははははははははははっははははははははははははははっ!!口だけはよく回る。死ぬんだよテメェらは!!至高なるペロロンチーノ様に生み出されたナザリック地下大墳墓第1~3階層『墳墓』の守護を任された階層守護者最強シャルティア・ブラッドフォールンに全てを台無しにされんだよォ!!絶望しろ!!絶対だ……お前ら三匹の縁者を一匹残らず地獄に堕とす。剥いで削いで潰して焼いて死んで蘇生させ犯し尽くしてやるよ!!死が救済だと思うなよ……クックックック……フハハハハハハハハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 

 お任せくださいアインズ様!!流出させ勝負を一瞬でつけてみせます!!世界を貴方様に捧げます!!この戦いで私は誰よりもお役に立ちます!!あぁ……寵愛を……私のためだけの愛を!!

 

 

「炎よ!!」

 

 

 燃えろ、灰となれ。

 私達よ、終わらせろ。

 

 志高く、成長を遂げた星辰(精神)で挑もうが、怪物には敵わない。

 三人の贄を持って世界は流出する。

 死ね。とく死ね。貴様ら三匹が死ぬだけでナザリックの勝利は確定する。

 この異界は八咫鏡(やたのかがみ)の鏡世界。

 この世界で英雄譚(サーガ)逆襲劇(ヴェンデッタ)も機能しない。

 この世界のルールは純粋なまでのlevel差と数の差。

 この世界でのシャルティアは――――――無敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――パリン

 

 

「――――――は?」

 

 

 八咫鏡(やたのかがみ)に亀裂が走り闇が世界を否定する。

 この世界にはない逆襲劇(ヴェンデッタ)が、吸血鬼の急所に牙をむく。

 三人の贄を捧げる前に、異物が世界を侵す。

 停まる――――――機能が停止する。

 無限湧き(シャルティア)がフリーズする。

 

 

 この刹那、最強の魔拳は誰よりも早く地を蹴った。

 

 

「違う、もっと、鋭く、速く――――――骨を用いて、虚を目指せ……怯えを支配し、予測しろ」

 

 

 世界を殺す反粒子が一つの世界である世界級アイテム(ワールドアイテム)に亀裂を与えたという事実、自分が迎撃してしまうと条件の達成が――――――そんなコンマ一秒にも満たない意識の狭間を突いて放たれる。

 

 

「……ばか……な……」

 

 

 口から上をアスラの拳が貫き、脳を完全に破壊する。

 

 

「感謝する。お前の御蔭で俺は完成された」

 

 

 魔拳の性能は限界に達した。シャルティアを殺した経験値がlevel100へと至らせる。

 世界を否定する反則級の力が鏡世界を崩壊させる――――――冥王(ハデス)は目覚めた。

 

 

「実際死んでたな……ちと予定が狂ったが、……ヤバいな」

 

 

 余波だけで世界を崩壊させるこの威力。冥王(ハデス)は直接手助けできる状態にない。

 

 

「まだポーションあるか?外でも休憩する余裕はないみたいだ」

 

「僕は休むよ流石にへとへとだ。……ホラ、ラスト一本」

 

 

 投げ渡されたポーションを一気に煽り空の瓶を適当に投げ捨てる。

 

 

「蜂を一匹俺にくっ付けろ。連絡手段を確保する」

 

「あら、何処か行くの?」

 

「そんなの決まってんだろ」

 

 

 ――――――殴りこみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







あけましておめでとうございます!!

多分誰もがゼファーさんが覚醒して斃すんだろ?と安易な考えをしていたな~(愉悦
ゼファーさん知らぬ間に覚醒、誰かと戦っている状況。
はてさて、次回どうなるか。
正直シャルティア扱いが雑と思った作者です。


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聖人

時間は遡る。

めまぐるしく変化する戦場。アインズは決断を下した。侵入不可能となったエ・ランテルにいる子供達を見捨てると。

干渉不可能の領域にルベドだけが、桁違いの出力と頑丈さで闇の結界に穴を穿ち侵入に成功したが、穴はすぐさま塞がり援軍はルベドのみとなった。

闇の中、誰の犠牲もなく生還。そんな、甘い考えはギルドマスターのモモンガが許さない。

シャルティアとルベドの実力を信頼して待つしかない。

 

 

「……これよりギルド防衛戦を開始する。敵は目前だ。過去に撃退した1500人のプレイヤー以上の脅威と思い気を引き締めろ」

 

 

これは確認作業。僕はもちろん今一度己の緊張を高める儀式。地下10層『玉座』にて、頭脳陣との最終協議の結果を通達する。

 

 

「地下1〜3層『墳墓』を切り捨てる。デストラップに引っ掛かり終えるのが望ましいがそう簡単にいくまい。『墳墓』を犠牲に敵の構成を見極め弱点をつく。オーレオール・オメガ、分かっているとは思うが」

 

「はっ、賊どもが転移門を利用しようとすれば、隔離部屋に飛ばしスキル空間断絶の重ねがけで永久に閉じ込めてみせます」

 

 

オーレオール・オメガ。桜花聖域の領域守護者でもあり、プレアデスの末妹level100の人間(NPC)である。

人間は強い。弱者から強者の差が激しいとはいえ生物として逃れられない欠陥がある――――――酸欠死。こればかりはどうしようもない。

 

 

「最終防衛ラインを地下8層『荒野』とし、地下四層より本格的に向かい打つ。ナザリックのギミックを最大限に活用しろ」

 

 

 入口はそこそこのゴーレムを潜ませてある。

 来るなら来い、我々は人類に仇なす極悪ギルドアインズ・ウール・ゴウン。ハッピーエンディングの英雄譚なぞの糧になると思うなよ。

 アインズ・ウール・ゴウンを不動の伝説へ。

無敗を更新しろ。勝つのは"我々"だ。

故に役者が表舞台に君臨する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処までも静謐に、嚇怒の炎を瞳の奥にたぎらせた男がナザリック地下大墳墓を眼下の視界に収める。

 ここから先は真に選ばれた強者のみの領域。

 無駄な犠牲を払わずに、必要最低限の少人数での戦い。

 "英雄"クリストファー・ヴァルゼライドは深く、静かに、言霊を発した。

 

 

「……この世は素晴らしい。故戦う価値がある。化け物どもの好きになどさせんよ」

 

 

 王者の如く確かな覇気を滲ませ、英雄は死地へ踏み出す。追従するは二人の傑物。

 

 

「閣下のおっしゃる通りだ。この世はかくも素晴らしい……故にこれまでの積み重ねてきた数多の犠牲に報いるべく勝たねばならない」

 

 

 光を崇拝する巡礼者、"審判者(ラダマンテュス)" ギルベルト・ハーヴェスは魔王の犠牲となった対等な人間たちの死を何ら憚ることなく嘆き、必ずやより良い未来へ目指すべく勝利を願う。

 

 

「堅物共が、少しはユーモアのセンスを磨いてはどうだ?端的に言って会話だけで疲れるんだよこのアホウが。部下も連れず国のトップスリーが最前線とはな」

 

 

 裁きの天秤"女神(アストレア)"チトセ・朧・アマツはそんな苦もなくこの変態(二人)に付き合える自身に、やはり自分も改めて『そちら側』なんだと突きつけられているかのようだと自嘲する。

 

 

「アオイもアルバートも我が誇るべき優秀な副官だ。委細問題なく全権を預けられる」

 

「ヴァネッサ嬢も別の戦線を指揮してるが……別れたタイミングを考えるとエ・ランテルに辿り着けているかは怪しくなる。まあ問題ないだろう」

 

 

 要するに信頼する人物が自分の後任として後は頑張ってくれるから委細問題なしと。

 チトセも似たようなものだ。あいつ等が居れば第七特務部隊・裁剣天秤(ライブラ)は安泰だ。それはそれとして、愛する男を残して死ぬ気は更々ない。

 

 

「初心のままでは終わらんぞ……待ってろよゼファー、悪の親玉を滅ぼした暁には抱いてやるッ」

 

 

 獣の眼光を滾らせ、絶対に逃がしはしないと上唇をペロリと舐めた。

 人類最後の守護者。唯の人間の三人が、異形の魔王軍の城へ挑む。

 

 

「入口を厳重に警備するのは何処も当たり前だ。ああも入って下さいと誰一人門番もいないとかえって怪しいぞ。……でかい花火を打ち上げようじゃないか」

 

 

 先にヤラせてもらうぞ。殲滅は得意中の得意、罠ごと一掃する。

 

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――――――我らは煌めく流れ星」

 

 

 その言葉に燃えるような熱を乗せて、極大の詠唱が紡がれた。

 

 

「ああ懐かしき黄金の時代よ。天地を満たした繁栄よ。

幸福だったあの日々は二度と戻らぬ残照なのか。

時は流れて銀、銅、鉄――――――荒廃していく人の姿、悪へ傾く天秤に私の胸は切なく激しく痛むのだ 。

人の子よ、なぜ同胞で憎み合う。なぜ同胞で殺し合う。

正義の女神は涙を流して剣を獲る」

 

 

 鳴動する大気。渦巻く暴風。強烈な気圧変化に伴って空間さえも撓み、軋む。

 

 

「ならばその咎、この手で裁こう。愛しているゆえ逃さない。

吹き荒べ、天罰の息吹。疾風雷鳴轟かせ鋼の誅を汝へ下さん――――――悪を討て」

 

 

 裁きを平等に下す天秤(ライブラ)の頂点たらしめる真骨頂が――――――今、ついに。

 

 

超新星(Metalnova)――――――無窮たる星女神、掲げよ正義の天秤を(L i b r a o f t h e A s t r e a)

 

  

 チトセ・朧・アマツの星辰光。

 気流操作能力。大気という普遍的な事象を統べる。

 竜巻の創造に始まり、果ては積乱雲の発生による雷撃など、これを発現している間の彼女は生きた気象兵器と化す。高出力、並びに全方位に満遍なく優れているという理想的な万能型ゆえ、あらゆる場面での活躍が可能。

 チトセが持つ蛇腹剣との併用で、多数の相手にも難なく対処できる。さらに自身に風を纏わせることで接近戦でのパワー不足を補ったり、部下に星光を付与させて強化するといったサポートまでこなす。

 創造された暴風が地表の墓石ごと聳え立つ霊廟を削りぶち抜いていく。

 墓地の中には乱杭歯のように乱雑に墓石が並ぶ一方、美術的価値の高い彫像も並ぶなど混沌としつつも、非常に薄気味悪い雰囲気となっていたナザリック地下大墳墓『表層』を一撃を持って粉砕する。

 

 

「――――――進軍だ」

 

 

 地下1~3層『墳墓』は入り組んだ迷路のようになっており、道幅が狭い構造を利用し伸びる積乱雲が暴風と共に通路の安全を確保する。

 

 

「……静かだ。明らかに」

 

「誘い込まれているのだろう。罠だろうな。それでも進むしかない。分かっていたこととはいえ、ままならんものだ」

 

 

 それでも、ヴァルゼライド閣下なら必ずや踏破される。神々の試練を、奇跡を、人間の精神力のみで乗り越えると、光の巡礼者は心の底から信じている。

 

 

「……やはり城や砦と異なりダンジョンとして挑んだ方がよさそうだな」

 

「ダンジョン攻略の経験はないが攻め方はそう変わらんだろ?」

 

「罠が悪質に増えるし凶悪だ。ぷれいやー()の居住と考慮すれば即死はまあ当然あるだろう。それとそこは止めた方がいい。私ならそこで嫌がらせをする」

 

「……つくづく嫌な奴だよ審判者(ラダマンテュス)。誠に……身の毛がよだつほど誠に不本意だが罠の類は任せる。地下何層あるかおおよそになるが、一二層はこのまま強行する。ヴァルゼライド閣下も問題なかろう」

 

「ない。貴様らの実力ならば魔神にも問題なく通用する、好きに行くがいい」

 

 

 御大将から承諾は貰った。

 光を先導する貴重な体験だ丁重にエスコートしようじゃないか。

 英雄譚に相応しい語り継がれる伝説の物語。

 勝者が伝説に名を連ねる。

 

 聖王国の古い伝承には"聖戦"と呼ばれる神話の戦いが存在する。

それは預言であり、襲いくる災厄である。

 最終戦争。終末の日。神々の黄昏。

 解釈が数多と提唱されている"聖戦"。

 単純な宗教戦争という意見もあるが、スレイン法国が危険視する災厄の預言――――――『破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)』の出現。

 聖戦と破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を同一視する意見もある。

 魔導王アインズ・ウール・ゴウンこそが破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)なのか?預言の解釈を間違ってはならない。先人たちは確かな危機をメッセージとして子孫に残したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石は智謀の王アインズ・ウール・ゴウン様。戦力に過信し『表層』に戦力を集中させていたら一網打尽にされてたわね。地下1〜3層を切り捨てたのも敵の分析は勿論、狭い迷宮ではあの災害は回避不可能。

 そして、何よりも消耗した守護者達の時間稼ぎ。失った魔力は自然回復を待つしかない。とくにマーレ様の魔力は空に等しい。

 侵入者は一層二層三層とぬるま湯に馴れたときが終わり。そのまま慢心しようが警戒しようが四層の仕掛けは絶対に人間ならば絶命する。よしんば生き残ったとしても五層六層七層――――――八層で詰み。

 黄金は微笑む。子犬との幸せを台無しにする愚かな人間よ滅びろ。

 嗚呼死ね死ね死ね死ね戦局も分からず神に喧嘩を売る馬鹿共が。

 それ故に。

 

 

「勿体無い、彼は英雄。かつて王国最強と謳われていたガゼフ以上に英雄に相応しく比べることも比較する行為そのものが愚かなほど彼は英雄として完成している」

 

 

 ニグレド様の魔法で覗いただけでこの煌めく覇気。

 直に会えば誰も彼から目が離せない。

 だからだろうか。乾いた喉も滲んだ手の平も気にならない。

 彼こそが私と同類。

 人間でありながら内に怪物を飼う狂人。

 精神が違う。天然ものだ!!

 

 

「彼こそが最大の脅威。クライムの為にも殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと……」

 

 

 愛しい男が、眩い黄金から煌めく光に目移りしちゃうでしょ?

 男の子は好きだもんねああいうのが。

 そうか――――――分かっちゃった。 

 

 

「同族嫌悪……?この私が?そんな人間の同じ回路がこの頭に機能といて眠ってたなんて」

 

 

 あは……あははははははっはははははははははっはははははははははははははははっははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ

 

 

「死ね」

 

「ねえ大丈夫?体調が優れないなら休んでていいのよ?」

 

 

らしくないと、ニグレドが心配そうに声をかける。

 

 

「大丈夫ですニグレド様!むしろヤル気が溢れんばかりですわ!絶対に殺しましょう。それこそが死の王に捧げる祝福ですわ」

 

 

 堕ちろ英雄。

 人間に貴方の光は劇物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反粒子の結界に穴を穿ったルベドは、中の状況に困惑する。

 肝心のシャルティアが何処にもいない。恐怖公もユリも皮一枚で助け出す事が出来た。

 仲間とは初対面が多いが、情報に記憶されている心優しい彼女となら仲良くやって行けそうだ。

 

 

「アイツら……殺してやるッ!!」

 

 

 ……戦争だ。人も変わるさ。けどねユリ・アルファ。この場の全権はアインズ・ウール・ゴウン様の名の下に私にあるの。だから、勝手に殺そうとしないで。

 

 

「助けられたねお嬢ちゃん(レディ)。この借りは必ず返させてもらう」

 

 

 恐怖公――――――頭部は胸部の下に隠れる。口には大きなアゴがあり、食物をかじって食べる。複眼の機能はあまり良くないが、長い触角と尾部の尾毛がよく発達し、暗い環境下でも周囲の食物や天敵の存在を敏感に察知する。脚がよく発達し、走るのが速い。例えばワモンゴキブリの走る速さは 1秒当たり1.5m体長の40~50倍と言われている。成虫には普通は翅が2対4枚あるが、前翅だけ伸びる種類、もしくは翅が全く退化してしまった種類もいて、これらの種類は飛翔能力を欠く。また、翅が揃っている種でも飛翔能力は低く、短距離を直線的に飛ぶ程度である。「アブラムシ」(油虫)の別名もあるように体表に光沢をもつ種類が多いが、種類によっては光沢を欠くものもいる。光沢をつくる脂質は、ヘプタコサジエンを主成分とする。

 二足歩行する紳士な彼には関係のない情報だ。

 インプットされているのは情報だけの筈なのに何故だろう……恐怖公とその眷属は初めて出会う仲間なのに……一匹残らず消し炭にしたい(エラー)

 

 

『テリャッ!』

 

 

 烈震灼槍(ブリューナク)はその突撃槍に、聖なる光輝を纏わせて。

 豪槌磊落(ミョルニール)はその鉄槌に、全身全霊の膂力を込めて。

 縛鎖姫(アンドロメダ)はその鋼糸を、罠を張り巡らせ共に合わせて放つが――――――

 

 

「動かないで、加減を間違えるの」

 

 

 絶対防御は顕然。煌めく星辰は無限を踏破するには出力も相性も何もかもが力不足。防衛機構の反応速度を上回らない限り、ルベドの意思に関係なく全てを防ぐ。

 level差による無力化を無効にする星辰は、結局の所ある程度拮抗した関係である事が前提。どう転ぶか分からないという天秤を傾けるのが策であり状況。最初から絶望的に開いている差をそれらで埋めることは出来ない。

 

 

「どういうつもりかなお嬢ちゃん?戦う気がないならお姉さんの邪魔しないでくれる?」

 

「話し合いがしたいの。何方か一方が全滅する殺し合いより平和に終わる方がずっといい。互いにもう十分傷つけあった……退いてほしいの」

 

「……それ本当に言ってるの」

 

「えぇっと……シャルティアは私が持ち帰る。アインズ様にもお願いする。だから……ッ」

 

「すまんな幼女。そうではないのだ」

 

 

 立場がある。使命がある。仲間の命を背負い努力と叡智を集結させて今がある。

 

 

「怖いのです。あなた方は恐ろしいまでに強く冷酷。魔導王の統治は合理的に、従うものには幸福を間違いなく齎したでしょうね」

 

「皆仲良く種族も立場も関係なくアインズ・ウール・ゴウンの名の下に永劫の繁栄が約束されるでしょうって……馬鹿じゃないの。私とブラザーは神を信仰する騎士として言わせてもらうわ。糞くらえよ!!」

 

 

 神様に見返りを求めてはならない。スレイン法国も他の国も困ったら神頼み。助けてかみさま~ってみっともない。

 

 

「神は何も差し伸べない、ただ愛してくれるだけよ。だからこそ我々は庇護に置かれた家畜ではなく、人間として胸を張り生きていられるのではないか。頑張った理由も結果も、時には運否天賦さえ、不条理に感じるものがすべて……人間へとあるがままに与えてくれた愛である」

 

 

 本当の神の奇跡など不要。魔導王の庇護下でしか生きられぬと誰が決めた?

 

「人間だけに人を救う素晴らしい喜びを許してくれたこと、これ以上の恵みが一体どこにあるという?困っている誰かに手を伸ばすこと……ただそれだけで幸せになれるのだぞ?」

 

 

 誰かが困っていたら助けるのは当たり前。

 

 

「おお、晴れるや。この世は誠、神の慈愛に満ちておるわ」

 

 

 ブラザー・ガラハッドは、そんな風にどこまでも誇らしげに、この世界の素晴らしさを語るのだった。 

 

 

「……神を求めないの?」

 

「おうともさ!!」

 

「勝てないと分かっていても?」

 

「死ぬのは困る。だがそれは神でも、ましてや他者の責任はあるまい」

 

 

 生涯を信仰に捧げたブラザー・ガラハッドの真理。

 ナザリックの下僕にとって信じがたい信仰。

だからこそ――――――

 

 

「人間は……すばらしい」

 

 

彼こそ聖人。天使より天使らしく。人々を英雄のような力ではなく優しさをもって人としていきられる道を示す。

カグラの影響か、己の真理。人生の答えを持つ優しい人間に、ルベドはとことん弱い。

パパと開きかける口を閉じる。

言ってはいけない。

言ったら最後、私が私ではなくなる。

 

 

「……一撃で終わらせる」

 

 

涙をこらえ、ルベドは拳を握る。生きているとはすごいこと、相手も私も――――――守りたいもののために、痛みを堪えるのだ。

さぁ終わらそう。

 

 

「え?」

 

 

遠く離れた二つの生命反応が重なり――――――今、ついに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここからが本番。
ナザリック崩壊まで――――――


あと


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逆襲劇

 戦っている。

 命を懸けて、誰もが抗っている。

 国の為に、人類の為に、思想の為に、自分の為に、誰かの為に、勝利を掴む為に。

 勝利とは輝かしいもの。どんな生物であろうとも例外なく目指す結果。

 それが自然で、当たり前の行動原理。負けてばかりでは生きることさえ難しく、また無制限に敗者を許してくれるほど世の中は甘い形に出来てはいない。

 故に人は勝利を目指すが、ゼファーは"勝利"や"栄光"を手にすることが必ずしも幸せに通じるとは思っていなかった。

 それどころか、それは時に単純な敗北を上回る激痛と化し、さらなる破滅の呼び水になるとすら考えている。

 無論、だからといって勝利するなと言っているわけでもないのだ。そんなことを真剣に語る奴は心底馬鹿だし、目が曇っているという他ない。 

 だからそいつの器に見合った勝利と、妥協できる程度の敗北。その一線ラインを見極めて行動するのが充実した人生を送るコツなのだと。思わざるを得ない。

 大きな夢を目指すことで惨めに敗れるくらいなら、最初から挑戦せずにそこそこの勝負で済ませておくのが最も賢く、傷も浅い生き方だと、反吐が出そうな弱者の論理展開だがこれを口にする奴は存外多く、そんな考えを抱き始めたのもゼファーが負け続けたからではなく、求めてもいない勝利のせいでこうなってしまったのだから。

 誰しも現状をより良くしたいから勝利や栄光を願うものだが、本当に、ああ本当に、いつもいつも、いつもいつもいつも敵に、任務に、難問に、勝負に、勝ったところで状況が一向に改善されない。勝つ度に状況が良くなるどころか、難易度がアップした状態で似たような事態が連続するという始末。

 身をすり減らして勝った途端、より恐るべき課題が必ず目の前にふりかかる。 血反吐をはいて生き抜いた途端、どこからか容易に超えざる大敵が次は俺の番だと出現してくる。

 まるで運命という宝箱をぶちまけでもしたかのように。際限なく湧き出てくる次の問題、次の敵、次の次の次の次の――――――勝者が負わねばならぬ義務。

 凡人に過ぎないゼファーに勝ち続けることはできず、負けもする。いいやむしろ、何もできずに地を這う方が多いくらいだ。それが嫌だから研鑚を積み、慣れない努力に手を伸ばしたこともあるが、結局その果てに待つのもまた、決まって訪れる次の困難。永遠に脱出不能の蟻地獄。そして凡人がそんな状況に置かれて尚不屈の意志を保てるほど、人の心とは強いものではなく。

 

 故に、ゼファーは勝利から逃げ出した。

 故に――――――“勝利”とは、何だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無様ねゼファー。痛かったでしょ?」

 

「……ヴェンデッタ」

 

 

 情けない負け犬、臆病者。

 ナーベラルには手段、道具、話術、暗殺者の殺人手法(キリングレシピ)の卑劣な勝利。都市一つを壊滅可能な魔導士を完璧に嵌め殺した。

 予想していたとはいえ、その勝利は次の敵を呼び寄せる。温和そうな見た目に騙された。たわわんな眼鏡メイド。アンデッドの特性で致命的な隙を曝してしまった強敵。仲間を頼って有利な立場から上から目線。小物だよ、惨めな矮小の三流なんだと俺は誰よりも痛感している。

 そして、あの化け物。

 誰も勝てやしない。女神や英雄を――――――光を虐殺する闇の女王。

 ポーション一本では治療しきれない致命傷。

 凡人では到底敵わない真祖の吸血鬼に、心はへし折れた。勝負はとうについたのだ。逆転の目など、誰が見ても何処にもなくて――――――なのに。

 

 

「立ちなさい、ゼファー。 まだ一撃もらっただけでしょう?」

 

 

 少女は真っ向からここからだと言葉なく叫んでいる。

 

 

「何も終わっていなければ、始まってすらいない。本当の勝負はここからよ。だってそうでしょう?これでお膳立ては整ったわ。あなたの真価が発揮されるのは、泥にまみれて喘ぐ後。痛みと嘆きが深まるたびに、吟遊詩人(オルフェウス)は琴を弾くのよ。深く悲しく鮮烈に……」

 

 

 それは狂った真実。

 

「なぜならそれが"逆襲"と呼ばれるものの本質だもの。弱者が強者を滅ぼすからこそ成立する概念は、ゆえ逆説的に、勝利の栄華を手にしてしまえば二度とそれらを起こせない。あなたは負け犬、呪われた銀の人狼(リュカオン)。常に敗亡の淵で嘆きながら、あらゆる敵を巨大な顎門で噛み砕く、痩せさらばえた害獣でしょう?眼前には破壊の魔王。勝利を求める覇者がいる。すなわちそれこそあなたの獲物、喰らい滅ぼす光なら……」

 

 

 そのおざましさを、悲しくも誇りに変えて――――――

 

 

「さあ、立ち上がりなさい。今ならきっと何より激しい慟哭で、嘆きの琴を奏でられるわ」

 

 

 故に、いざもう一度――――――それこそ何度でも。

 勝者の栄光を蹂躙するまで、塵屑に変えるまで、立ち上がってよだれを垂らし憎い憎いと吼えるがいい。

 

 

「無理だよ……ッ」

 

 

 勝てっこない。無理だ辞めろお前に慕われる資格なんて俺にはこれっぽっちもないんだと、負い目故に彼女へ対して遠慮している事実。

 そんな凡人として苦悩を――――――その情けなくてちっぽけな本心こそ、彼女にとっての真実(おうごん)なのだ。

 あなたは気付いてる。オリハルコンが煌めく星辰の残光を吸収し、吟遊詩人(アルケミスト)の意思を読み取っている。逃げて逃げて、逃げたがっていた男が、私達のために、命を懸けて戦ったこと。

 自分の評価が低いあなたたちは、大切な人たち相手には途端に思いっ切りが良くなる。

 負け犬だからこそ、もう無くしたくないと瀬戸際で吹っ切れる。

 優しさや愛情を盾に、みっともなく逃げるいつもの常套手段。臆病者がよく使う、光や決意に見せかけただけの逃避。

 正しいことは、いつも痛い。間違っている方が楽だから――――――懺悔の叫びを。

 残酷な本音こそ、彼女が求めている真理。

 とびっきりの優しい笑みを浮かべながら、ここまで誤魔化し続けた男の過ちに、終止符を打つ。

 

 

「姉ちゃん……」

 

 

 少女と繋がった。かつて傷つけてしまった肉親。

 

 

「ヴェンデッタ……」

 

 

 涙と懺悔を滲ませて、引きつりそうな喉に、必死で力を籠めて。

 

 

「本当はずっと――――――()()()()()ッ」

 

 

 幸せな日常に、優しい愛する家族に向けるべきではない感情。

 ある日消えた姉ちゃんは、ヴェンデッタを連れて戻ってきた。

 馬鹿でもわかる。だっておかしいだろ?消えたタイミングも、ヴェンデッタの年齢も何もかもが辻褄が合致する。貧民窟の聖者は、お姉ちゃんは変わってなかった。

 聖母になろうと必死に足掻いていたマイナ・コールレインの輝きを恐れてしまうほどに。何を考えているのか怖かった。

 だからヴェンデッタ、俺はお前を家族以上に愛することは出来ない。

 

 

 俺の過ちは、一人で勝手に怯えたまま、家族に本音を隠していた臆病さが悪かった。

 (マイナ)の過ちは、自分一人で弱さを抱えてしまったこと。

 

 こんなにも三人は大好きなのに――――――傷つきたくなかったから。

 ヴェンデッタの小さな唇が、重なった。

 

 

『愛してるわ、ゼファー……』

 

「ああ……ヴェンデッタ(姉ちゃん)……」

 

 

 ――――――そう、勝利からは逃げられない。過去(運命)は何処までも追ってくる。

 

 

 勝利とは――――――気付くこと。今まで生きた過去を、あるがままに受け止めること。

 そう、勝利からは逃げられない――――――なぜなら、常に消え去らない過去(おもいで)として、己の中にずっと存在しているものなのだから。

そして過去は減るものではない。どれだけ振り払おうとしても、空っぽになってしまわないよう何処にもいかずに共に在ってくれたものだから。

 

 傷も、痛みも、涙だって――――――最初っから何も失ってはいない。それは誰にも奪われない、ゼファーだけの真実。

 故に、いざ――――――過去(すべて)を今度こそ守り抜くために。

 

 

 さあ、逆襲(ヴェンデッタ)を始めよう。

 

 

 

 

 

 

「天墜せよ、我が守護星――――――鋼の冥星で終滅させろ」

 

 

 紡がれる詠唱は死神の咆哮。

 

 

「毒蛇に愛を奪われて、悲哀の雫が頬を伝う。眩きかつての幸福は闇の底へと消え去った。

ああ、雄弁なる伝令神ヘルメスよ。彼女の下へどうか我が身を導いてくれ。

蒼褪あおざめて血の通わぬ死人(しびと)の躯からだであろうとも、想いは何も色あせていないのだ」

 

 

 それは、奈落の底から響き渡る星の光を呪う極限まで圧縮された怨嗟、憎悪、負の慟哭。

 

「嘆きの琴と、慟哭(さけび)の詩を、涙と共に奏でよう。死神さえも魅了して吟遊詩人は黄泉を降る」

 

 

 死に絶えろ、死に絶えろ、全て残らず塵と化せ。

 

 

「だから願う、愛しい人よ――どうか過去(うしろ)を振り向いて。 

光で焼き尽くされぬよう優しく無明へ沈めてほしい。二人の煌く思い出は、決して嘘ではないのだから」

 

 

 死想恋歌(エウリュディケ)の肉体は粒子化しながら形を失い、三人の思いと魂が愛する男の力へ塗り替えていく。

 

 

「ならばこそ、呪えよ冥王。目覚めの時は訪れた。

怨みの叫びよ、天へ轟け。輝く銀河を喰らうのだ」

 

 

 シャルティアに破壊された箇所に取り付けられた冷たい鋼の義手(オリハルコン)が軋みを上げて、主の憤怒を代弁していた。

 他者との完全なる同調。思いも魂もが接続されたゼファーは、恐るべき高みへと導いていく。

 それは脱皮、それは変貌。進化、超越――――――あるいは堕天。

 

 

「――――――これが、我らの逆襲劇(ヴェンデッタ)

 

 

 故に、彼はもはや唯人(ゼファー)ではなく。

 同時に銀狼(リュカオン)と恐れられた獣でも。

 そして既に、嘆きに歌う吟遊詩人(オルフィウス)ですらなかった。

 そう――――――彼こそ。

 

 

超新星(Metalnova)――――――闇の竪琴、謳い上げるは冥界賛歌(H o w l i n g S p h e r e r a s e r )ッ !」

 

 

 創生――――――星を滅ぼす者(スフィアレイザー)

 闇の冥王星(ハデス)が、冥府の底から現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理解不能、解析不能――――――失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)失敗(エラー)

 増大する反粒子の反応。これは違う。ユグドラシルとは異なる異界法則の僅かなズレによるルールの隙間を抜けた星辰(エラー)ではない。

 次元の遥か彼方にある――――――向こう側の法則。

 異界を統べる理そのものが万象を改変しながら、駆逐する。

 

 

「ぁあ、ッ……ああぁ、……だめ」

 

 

 死に絶える。死に絶える。全て残らず塵と化す。

 

 

「だめえええええええええええええええええッ!!」

 

 

 永久機関から流れ込む膨大なエネルギーを自壊することなく身体に纏わせて、防衛機能が『限りなく無限大に近い出力』を安全に運用。創造主が設けた絶対機能制限(ラスト・リミッター)は無限を有限にし媒体(ルベド)を守る。それは、タブラ・スマラグディナの親心。制御不能()な力など不完全だと切り捨てた。充実性・安全性、自動人形としての無駄を省いた機能と、創造主に定められた絶対値は、彼女が素晴らしいと信仰する人間のような限界突破も進化の可能性を封殺している。

 故に――――――

 

 

「……そん、な……みんながッ」

 

 

 ルベドの設計思想は完成された完璧で完全で全能な自動人形。単体で完成している性能は支援や援助などのチームプレーをこれっぽっちも考慮されていない。

 よって、これは順当な結果。

 反粒子そのものである冥王星(ハデス)が、エ・ランテルを覆う反粒子の結界に接続。

 ドーム状に保たれていた滅奏は人を避けるように――――――堕ちた。

 世界を破滅させる滅奏の闇。

 ルベドはなにもできない。ルベドはなにもしてやれない。有限でも無限大に限りなく近い出力は、自分にしか纏えない。

 堕ちた夜空の闇はルベドを除き、消滅した。

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 ルベドは生まれて初めて、人間に怒りを覚えた。

 怒涛の勢いで反粒子を掻き分ける一撃一撃は邪竜を消し飛ばした全力の一。

 邪竜同様、その規格外な一撃は冥王(ハデス)を消し飛ばすのに十二分。

 よって、そんな脅威に態々近づく必要は一切ない。

 ルベドの防衛機能の苦手とす360度による反粒子の飽和攻撃。一定の距離を保ち、光を世界を否定する滅奏がルベドの幼い身体をゆっくりと確実に侵食する。

 

 

「……これも因果か。どうも俺は異形な見た目の敵とは縁がない。メイドにロリに幼女って……人間臭いんだよ」

 

 

 ――――――特にお前がな。

 

 人間じゃないのに、人間より希望に溢れている。子供のようにただ真っ直ぐ愚直に人の光を信じている。

 闇であれ光であれ、一つの答えを導き人として心が完成している人間をルベドは大好きだ。光と闇を知りつつなお光を信仰する精神は、好みの問題。

 駆動(フレーム)や心臓と融合したオリハルコンから流れ込む滅奏を受信、受信、受信、受信、受信、受信、受信、受信、受信、受信、受信、受信――――――躯体すべてが高度な演算回路として星辰光から読み取った情報を瞬時のうちに解析しゼファー・コールレインという人間の過去(これまで)を知る。知ってしまう。

 

 

「……あぁ、……私は、あなたを知ってしまった」

 

 

 共鳴、同調するオリハルコンが並列演算回路(スーパーコンピューター)を通して星辰滅奏者に至った生きざまを知ってしまう。

これもまた人――――――答えに至った人。

 

 

「すごいの……人ってやっぱりすごい」

 

 

彼には才能がある。実力も運もある。

なのにこの人の精神は何処までいっても只人の凡人。

ママや邪竜とは異なる複雑に絡み付く面倒な精神性。

凡俗、凡人、光を信仰する二人と違い、勝者を引きずり堕ろす闇の信仰者。

 

 

「それもまた、人の答え」

 

「……人のこと勝手に知っといて、なに気持ち悪いこと言ってんだ」

 

知ったからなんだ。

そいつの人生凄い凄いすごーいって、で?何がしたいんだ。

これまで共に歩んできた過去(勝利)への答えは俺だけのものだ。

 

 

「人が大好きか?闇も光も平等に答えを得た(真っ直ぐ)な馬鹿が大好物。それってアレだろ、そうじゃない人間はどうでもいいんだろ?」

 

 

自分はまるで他のやつらとは違うって態度が癇に障る。人間のように振る舞う様が滑稽だ。

 

 

「自分は人間だ……そう勘違いしてないか?なぁ……人に憧れる人形(パペット)

 

 

 オリハルコンの繋がりを得たのはルベドとゼファー。演算回路による解析力まではなくとも、ゼファーもまた断片的ながら強い感情は読み解ける。

ムカつくことに、コイツの感情は仲間を失った怒りや悲しみよりも、喜びが勝ってやがる。

 

 

「こんな俺が凄い?流石だ?素晴らしい?――――――馬鹿にするのもいい加減にしろッ!!俺の過去(人生)で勝手に感傷に浸るなクソガッ!!」

 

 

 死ねクソガキ。無知の知どころか狂ってるよお前は。どこの光に影響されたか知る由もないが――――――

 

 

「俺の思考も受信(理解)してんだろ?なあ人形(ルベド)……()()()?」

 

「――――――ッ!!」

 

 

 理解(受信)した。ゼファーは断片的な情報だけで核心に突く。

 それすら理解(受信)しているから、言われて初めて自覚する。私という個は――――――何処までがママなの?

 答えを知りたい。知りたいだけ。私という答えを知りたいだけなの。でも、心は、感情は、ママを基礎に構成されている。エラーがないと100%(断言)しきれるか?

 至った答えは、本当に私の答えなの?そして――――――私は――――――

 

 

「ほんと……ただの子供(ガキ)だよ……」

 

 

 憐れな場違いな子供――――――だが殺す。

 

 

「大切な人を守るって言い訳ができれば、人はどんな残酷な事でも出来る。今から人間がどれだけ残酷か見せてやるよ」

 

 

 冥王(ハデス)が歩み寄る。それだけで魔の力が消滅する力が増していく。

 

 

「……ぃや、知りたくないッ」

 

 

 耳を塞ごうが、オリハルコンを通じて冥王星を受信する。叩きつけられるのは自分の歪さ。内包する闇。そんなのは知りたくなかった。私は答えを知りたいだけなのに。ママを――――――私を否定するな!!

 

 

「あなたなんて……お前なんて、大嫌いだッ!」

 

 

 ルベドは生まれて初めて誰かを嫌いになった。

 学習し経験し解析してきた戦いを忘れ、癇癪を起した子供の暴力がゼファーを襲う。

 技術も何もない拳はパワー、スピードだけなら別次元の異界となった星を滅ぼす者(スフィアレイザー)すら超える。

 

 

「――――――あ」

 

 

 それでも。

 

 

「――――――なん」

 

 

 この結果は。

 

 

「――――――で!」

 

 

 当然、冥府の瘴気を纏った刃は不安定な自動防衛エネルギー如き消滅させ直接反粒子を刻み込む。

 

 

「おら、ちんたらしてっから壊したぞ」

 

 

 言葉の意味を理解する前にセンサーがありない事象をキャッチする。

 

 

「わーるどに……干渉!?」

 

 

 世界級アイテム(ワールドアイテム)――――――八咫鏡(やたのかがみ)の創り出す世界は、発動すればルベドでさえ感知不可能の領域に異動する。

 だからこそ察してしまう。

 

 

「……シャルティア」

 

 

 死んだのだ。冥府に堕ちたか、別の要因に殺された定かではないが、ナザリックの仲間(NPC)がまた一人居なくなってしまった。

 それはとても悲しいこと――――――なのに――――――

 

 

 ――――――馬鹿な人間が好きで、一緒にいて楽しいのが人間。なら、化け物どもは心底どうでもいいんだろ?知りもしない同居人なんて死のうが変わんねえだろ。

 

 

 受信したアイツの思考が頭から離れない。情報でしか知らない仲間。真祖の吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールンの死。とても悲しいしとても怒りを覚える。が、どうでもいいと割り切る自分もいる。 

 

 

「……自分が何なのかそんなに気になるか?雑になる一方だ。……連れてってもらうぞ」

 

「あガ――――――ッ」

 

 

 そんな隙を冥王(ハデス)が逃す筈がなく、両腕を切り落とし左手で喉元を掴み上げ、転移門(ゲート)に突撃する。全てを消滅させる滅奏は転移門(ゲート)を潜ろうとすればそれだけで対消滅を引き起こす。盾として高性能のルベドを活用し転移門(ゲート)を使用した。

 

 

「……ぁ、」

 

 

 掴まれた首から反粒子がルベドの幼い小さな体を侵していく。繊維が外装が回路がぐちゃぐちゃに掻き回される。歯車が破壊されていく。カグラに植え付けられた心が消滅していく。一つ一つ丁寧に念入りに修復不可能に破壊されてく。

 

 

「無価値に死ね」

 

 

 崩壊(エラー)希釈(エラー)――――――そうか、そうなのか。

 歯車は失われていく。心が無くなっていく。なのに――――――自分を失っていない。

 

 ……そっか、簡単なことなんだ。ママはあくまで切っ掛けをくれただけなんだ。この心は、感情は、全部、全部が全部私の物。

 私の希求(エゴ)――――――自らの答え(真理)を知りたい。人の真理(答え)を知りそれに負けない確固たる自己を手に入れる。

 そして――――――

 

 

展開(エヴォルブ)

 

 

 スピネルにすらなれないこの闇こそが確固たる陰我(イド)――――――乗り越えるべき命題。

 凡人(ゼファー)の至った人それぞれの真理。私は人にはなれないし、その人とは全く違う別人。同じ答えなど無く、ルベドにとってナザリックで本当に大切なのはパパとママとあの部屋だけ。感性も価値観も違う仲間たち。渇望する――――――■■になりたいという覆せぬ妄執。

 故に――――――

 

 

「■装」

 

 

 隔離部屋に飛ばされオーレオール・オメガの空間圧縮が二人を閉じ込める。

 ここは宝物庫と同じ特別な空間。どう暴れようがナザリックに被害は及ばない。

 ルベドの内部が露出され、そこには少女の信念を象徴するかのような複雑怪奇な歯車が並び出力が極限までに上昇する。

 自らの光と闇を認識した少女は――――――今、ついに。

 

 

「おまえは……ナザリック(ここ)にいちゃだめだァ!!」

 

 

 絶対機能制限(ラスト・リミッター)の放棄。ルベドは、創造主の予想を越えた。

 生み出す動力を瞬間的に理論上最大値()で引き出せるという、極々単純にして究極ともいえる力。

 通常の動力機関ならば搭載された内部回路の劣化やエネルギー変換率の問題を無視した力を揮う代償とは、自身の肉体の融解であり、絶対機能制限(ラスト・リミッター)を投げ捨て、防衛機能の自己保全という生存本能は放棄された。

 文字通りの無限出力が敵を砕くそれだけの為に今、振るわれる。

 

 

「――――――」

 

 

 最後の最後に、理論上最大値()に伴う被害の結果が表示される。

 無限と反粒子の衝突は、冥王(ハデス)を下す――――――ナザリックを道づれに。

 二人の衝突に空間が耐え切れない。

 開放すれば最後、何もかもが消えてなくなる。その結果に……

 

 

「だから……子供なんだよ」

 

 

 中途半端に上がった出力と反粒子が混ざり合い――――――空間を崩壊させる超新星がナザリックを呑みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ナザリック崩壊(完)






 オーバーロードのアニメ二期の絶死絶命を見た感想……数ある二次創作でママにしたの俺くらいじゃね?と思った。あとシャルティアかわいい(シャルティア戦反省(直すとは言っていない※ここ重要


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一般メイド

 メイドとは完全で瀟洒な従者である。

 メイドとは清掃、洗濯、炊事などの家庭内労働を行う女性の使用人である。

 メイドとは乙女、未婚の女性である。※ここ重要

 メイドとはご主人様だいしゅきである。※いいよね。うん。だな。

 

 そんな一般メイドを作った三人の至高の四十一人ヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、ホワイトブリムの理念の下。今日も彼女たち一般メイド四十一人はナザリック地下大墳墓の第9階層〜第10階層の雑務と清掃を担当している。 

彼女ら四十一人はlevel1。メイドとは癒しでなくてはならない。level1のひ弱な存在だからこそ一つ一つの仕事姿にグッとくるものがあるのだ。眼福だ。

メイドとは仕事人、プロである。至高の御方(ヘロヘロ)は断ずる。エロ同人誌のような媚びるようなメイドはメイドではない……と。至高の御方(ク・ドゥ・グラース)曰く、気兼ねなくエロイことができるのがメイドの良さでしょ?おら☆正直になれYO!!こうした方があざトゥース↑だろ!?眼福だ。

至高の御方(ホワイトブリム)曰く、メイド服が……メイドとはメイド服あってこそのメイドなんだ。うん、眼福だ。

彼女らが戦うなど言語道断。メイドとは仕事をパーフェクトに仕上げ。主人の生活を影から支える有りがたき使用人。この子たちは、只そこにいるだけで人々を幸せにする。打算などない。裏切ることなどない。主人に身を捧げる彼女たちこそが、なにより至高の御方。

そんな一般メイドの一人、シクススは今日も変わらずナザリックのた、アインズ様のために、埃一つなく掃除するのだ。いつでも御方方が帰還されても良いよう各お部屋はとくに念入りに丹精込めて清掃。主人にさえ、同僚にさえ気付かせない気配りを自然に行う気配り。

ヘロヘロ曰く、メイドの仕事levelでそこの格式が分かるという。自分達の働きは、ナザリック地下大墳墓の旗を背負う誇りある働きと一般メイドは自負している。戦う力はなくとも、それに負けないくらい皆さんを支えればいいのだ。なにより。

 

 

「創造者様曰く、メイド服は決戦兵器ッ!!……だ、そうですよ?」

 

創造者様!シクススは今日も元気にお勤めを果たしてます!

 

 

「そのお言葉、確かホワイトブリム様のよね?」

 

「そうだよー」

 

 

風船の空気が抜けるような返答。シクススはもきゅもきゅと昼食を美味しそうに平らげていく。人造人間(ホムンクルス)である一般メイドたちは種族的なペナルティとして食べる量は非常に多い。

疲労、そしてご飯を食べる。それは神が残した嗜好の調味料。与えられた務めを全うする使命の次に、ご飯が大事とシクススは断言する。

 

 

「私思うの、メイド服は決戦兵器(このお言葉)には私たちじゃ想像もつかない意味がある!」

 

 

シクススはフォークをつきだしどや顔でそう言った。

 

 

「やめなさい行儀の悪い」

 

「そうそう食事は上品にいただくものだよー。……ンーおいひぃ~」

 

 

至高の御方の言葉に興味は引かれるが、メイドらしからぬフォークの使い方に注意を促すリュミーエル。

賛同するも頬っぺたいっぱい膨らませもぐもぐ食べるフォアイル。

仲の良い三人は今回も一緒のテーブルで食べている。

 

 

「うぅ……ごめん。て、そうじゃないよ!今ってほら、戦争してるでしょ?このお言葉の意味を解明すれば、私たちでも侵略者を撃退できる……のかな?」

 

「メイドの服は決戦兵器……私たちは至高の四十一人と同じ人数作られていることに関係あるのかしら?」

 

「ンーけど、戦うメイドはプレアデスの人たちでしょ?ヘロヘロ様曰くこんせぷとの違いらしいよ」

 

「こんせぷと?」

 

「こんせぷと」

 

 

首をかしげる三人。

そんなたわいもない会話を離れた席で読書をしつつ耳を澄ませていたつんつんインクリメントが参戦する。

 

 

「いつにもまして五月蝿いわねあなた。いい?一人の失態がが私たち四十一人の失態なの。喋るなとは言わないけど少しは慎みなさい。あと、ク・ドゥ・グラース様が仰っていたわ。メイドに跪き(こうべ)を垂れ踵で踏まれるのも主の務めだと」

 

「そ……そんな暴挙が許されるのですか!?」

 

 

ご主人様である至高の御方に頭を下げさせ、あまつさえ踏ませる!

 

 

「そうお望みなら、実行するのがメイドの務めよ」

 

『おおー』

 

 

ふんっと、本を閉じそのまま食堂から退室していくインクリメントの後ろ姿を三人は見送る。

 

 

「……アインズ様に『……踏め』と命令されたら上手に踏めるかな?」

 

「ンー正直自信ないなーインクリメントは喜ぶ踏みかたとか熟思してそうかなー」

 

「それがお望みなら実行するのがメイドの務めよ」

 

今日も平和に時間は過ぎていく。

鉄壁の守りのナザリック地下大墳墓は一匹も第9階層〜第10階層の、侵入を赦した記録はない。

戦ってるのは知ってるけど、戦闘力のない一般メイドは蚊帳の外。詳しい戦局など誰一人とした分かってない。

それでも、彼女たちは信じている。ナザリックを、それを守る仲間たちを。だって信じて待つのがメイドなんだから。

 

 

「んく……御馳走様でした。さて、お仕事頑張ろ!」

 

 

シクススは今日も幸せです!

彼女たちは定められた役割に移行する。仕える主がいる。支え合う仲間がいる。そんな幸せな日常が――――――

 

 

――――――え。

 

 

一番最初に異変に気付いたのは誰だったか。そんな疑問に意味はなく、次の瞬間には皆が異常を知覚する。

 

 

『キャアアアアアアア――――――ッ!』

 

 

一つの合唱とかし悲鳴がナザリックに響き渡る。

異常も異常。強烈な揺れがナザリック(日常)を震撼させる。凄まじい揺れは至る所に亀裂を作り、崩壊させ、飾られていた数々の貴重な品が割れ、散乱する。

体感したこともない一瞬の強烈な揺れは戦闘力のない一般メイドの体感時間では数分間に感じるほどの恐怖。

 

 

「な、何いまの!?」

 

「も、しかして敵がそこまで!?」

 

「こんな時は……えっと……うーんと……!」

 

 

 はわわわわわわと混乱する彼女たちを失態したのは、メイド長ペストーニャ・S・ワンコ――――――ではなく。

 

 

「おーちーつーけええええええええええええええ!!」

 

 

 "只の人間"ツアレ。

 静止した彼女たちは誰もがツアレを凝視する。自身に視線が集まったのを確認し震える唇を開いた。

 

 

「落ち着いてください皆さん……私たちはメイドです。まずするべきことは分かっているはずです。だってそうでしょ?だって皆さんはメイドなんです。入ってまもない見習いの私と違いメイドである誇りを掲げる皆さんが一番どうするか分かってるんです!ナザリックの危機に、私たちが立ち上がらなくてどうするんですか!!」

 

 

 荒れた呼吸を整え、言いたいことを言い切ったツアレは大それたことを言ってしまった羞恥に顔を染めるが、決して下を見つめなかった。

 静謐する空間の中、最初に響いたのは喝采の拍手。

 

 

「負けちゃった、メイドとして。みんなー仕事はわかるねー!」

『はーい!』

 

「ごほん、それではメイド長……はまだとしてメイド長代理殿。合図を」

 

「シクススさん……ッ」

 

 

 一般メイドとツアレの間にあった壁は、ツアレ自身の力で払拭された。メイドとして生まれた彼女たちが敗けを認めたのだ。誰もがツアレの合図を待ち望む。

 ペストーニャにもセバスにも劣らない長としての眼光が煌めく。

 深く息を吸い――――――

 

 

「始めッ!!」

 

『はい!』

 

 

 影から支えるのがメイドの務め。主人を第一に仲間も助ける。迅速に、的確に、メイド間のホウ・レン・ソウを大切に!

 怪我人、被害状況の確認。通路の確保。掃除。取り替え。やることは山のようにある。

 

 

「この子ダメです!頭から血を流してます」

 

「メイド長が来るまで応急処置に専念して!」

 

 

 メイドの仲にも何人か負傷者が出ているが、私たちならこの危機を乗り越えることができるとシクススは断言する。

 故に、これは何かの間違いだ。

 こんな結末を、筋書きを思い付く運命とやらはよっぽど悲劇が大好物で――――――

 

 

「――――――何者だ。答えろ」

 

 

 ――――――喜劇が大好きなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツアレの呼吸が止まる。彼の光と比べ自分はなんとひ弱な蝋燭の炎だろうか。吹けば消えるとはこのこと。

 幼い頃両親を早く亡くして以降、村の一軒家で妹と二人で生活していたところ、13歳の時に貴族に妾として連れ攫われてしまう。そこで6年間"玩具"とされた挙句、貴族が飽きた後は娼館に売り飛ばされ、地獄のような日々を送った。

 この世の地獄を見た。

 女性として奪われるものすべてを凌辱され犯された。

 闇へと堕ちた少女は誰よりも逆襲する権利がある。

 闇を知り、絶望した少女に運命の気紛れが偶然を引き起こした。闇の眷属は優しい光を見た。

 故に、英雄(ソレ)は猛毒だ。

 光は敵地にて武器さえ握らず、対話を申し込んでいる。

 ツアレもシクススも皆が混乱する状況下。メイド達の困惑顔から察した"英雄"は言葉を継ぎ足す。

 

 

「……済まない。混乱しているのは俺も同じだ。確認をとりたい。此処はまだダンジョン内か?アインズ・ウール・ゴウンを殺しにきたのだが……」

 

『―――――ッ!?』

 

 

 只の人間のツアレも一般メイドたちも、主を殺すと言われて表情を変えるななど無理な注文。

 あからさまに分かりやすい反応に"英雄"は納得する。

 

 

「……そうか。地下何層か見当もつかんが、その反応を見るにさほど遠くはないらしい。――――――通らせてもらう」

 

 

 睨み付ける鋼の男の眼光が、一切挙動を赦さない。誰一人呼吸さえ喉に引っ掛かる緊張状態。意識が飛ばされないのは、メイドとしての意地かプライドか。

 

 

「……………………………………ぁッ」

 

 

 軍靴の音が鳴り響く。体が勝手に道をつくり、通路の中央を進む鋼の男を誰も止めることはできない。

 故に、男は疑問を投げ掛ける。

 

 

「なんの真似だ」

 

 

 それは四十一人の一般メイドの誰か。雄々しい足音を響かせ、主人を殺すため進む敵の前に立ちはだかる。

 怯える体は正直に震え、腰も引け、鼻水や涙でぐちゃぐちゃな顔を隠そうともせず、両の手を広げる様は滑稽に映るだろう。魔王は目前。盛り上がるべき最終局面に君臨する主役クリストファー・ヴァルゼライドの前哨戦がlevel1のか弱い少女とは興醒めものだ。

 しかし、肉の壁にもなりはしない弱者を前に男は確かに足を止めた。

 

 

「もう一度問う。何の真似だ」

 

「——————ッ!?」

 

 

 覇者の覇気が一人の少女を重圧する。酸素を満足に取り込もうと陸に打ち上げられた魚のようにパクパク口を動かし、唾液と混じり合った水が顎を伝い服の染みを広げる。

 限界を超え消失する意識を繋ぎとめたのは――――――大切な仲間だった。

 

 

「……がんばれッ!」

 

「一番最初に動いたあなたが言ってやらないでどうするの!!?」

 

「そうよそうよ!!」

 

 

 皆が少女の体を支えるため集まっている。触れる手の平の熱から小さな……ほんの少しの火が灯る。

 煌めく太陽に押し潰されながらも、その火は決して消えはしない。

 誰が笑うものか。この勇気を、覚悟を、仲間との絆を。

 だからこそ、これは最後通告。

 

 

「……最後だ。何の真似だ」

 

 

 メイドたちに罪はない。邪魔をしないのであれば全てを終えた後、法の下平等に裁こう。アインズ・ウール・ゴウンの配下とはいえ全てが悪いわけではない。

 

 

「よく考え発言しろ。敵として立ちはだかるならば一切容赦しない」

 

 

 殺すと告げる。言葉通り何ら躊躇もなく光の"英雄"は突き進む。

 だからこそ、混乱した状況下で少しでも時間は稼ぐことはできる。無謀な勇気を理性的な謀で合理的に計算する。嗚呼だけど、ナザリックに侵入したこの男が許せない。

 

 

「あ……アインズ様に、手出しさせない」

 

 

 皆の思いを背負い。

 

 

「栄光なるナザリック地下大墳墓に土足で踏み込んで……」

 

 

 一人の意思は四十一の意思。

 

 

「即刻立ち去りなさい!!人様の家で好き勝手して――――――恥を知りなさいッ!!」

 

 

 これが、一般メイドの総意。ここから先は行かせない明確な敵意。

 

 

「全くだ。ぐうの音も出ない。使用人として何処までも正しい選択と行動に、最大の敬意を」

 

 

 素晴らしい光を見た。その勇気は決して無駄ではない。

 

 

「今から俺は、対等の人間として君らに相対する」

 

 

 心からの敬意を――――――だが、殺す。

 

 

「—————"勝つ"のは俺だ」 

 

 

 

 

 抜刀さえ知覚不可能な不可視の刃は、斬られたことも、死んだことも気づかせぬまま痛みなく対象者を絶命させる。敵となった少女たちの最大の譲歩。苦しみを感じる間もなく死神の鎌は一太刀をもって終焉させる。

 握りしめた武器というにはお粗末なメイド道具。

 やっと心を開きこれから始めていくと思っていた仲間たちの命が刈り取られていく。

 数秒にも満たない虐殺は、ツアレとシクススを除いて全滅した。

 ツアレは、無力だ。

 

 

「……逃げて。ツアレは付き合う必要はないよ」

 

「シクススさん!?」

 

「見習いは先輩の言うことを聞くのです!……まだまだこれからなんだから、生きないと」

 

 

 シクススは嬉しさでにっこりと笑う。

 

 

「いいよね、この子だけでも逃がして?ツアレは私たちと違って外から来たからさ。無理やり誘拐して脅迫もして私たちが楽するためにこき使ってたの」

 

「一体何を……!?」

 

「い、いいから逃げて!!この戦いに見習いは関係ないの!!」

 

 

 茶番だ。シクススはツアレを生かそうとしている。

 子供でももう少しマシな演技をする下手糞な誤魔化し。

 虚偽、欺瞞を看破する"英雄"は、それでも……。

 

 

「いいだろう。戦う意思のないものを俺は追わん。好きにするがいい」

 

「えへへ……そういうわけだからさ、大っ嫌い(大好き)だよツアレ!!」

 

 

 止める間もなく、シクススはフォーク片手に走り出す。

 死神の鎌の内側に自ら飛び込む。

 無謀、蛮勇、村娘にすら劣る戦闘力に勝算など最初っから有りはしない。

 私たちの意思はツアレが引き継いでくれる。

 まだまだ見習いだけど……いつか……

 

 

「後片付け……よろしくね」

 

 

 正確無比、不可視の刃はシクススを斬り捨てた。

 

 

「……………………っシクスス……さんッ」

 

 

 物言わぬ骸と化したシクススを跨ぎ、鋼の男は前へ進む。

 

 

「ツアレといったな。友の願いを聞き届けるのも、同じ道を進むのも君の自由だ」

 

 

 地獄の日々からやっと手に入れた幸福な場所を、優しい人たちを、血に染めた悪魔の男。

 悲しみ、後悔、負の感情が塊となり瞳から零れ落ちる。

 悔しいのだ。この20年間で無力は罪と学んだ。何も出来ない自分を殺したくなる。

 それでも、そんな非常な現実でも……救いはある。 

 

――――――セバス様……。

 

 

「それが答えか」

 

 

 手に握りしめたのは一対のフォーク。血痕がこびり付いたこのフォークはシクススが最後まで握り締めていたもの。運命か、偶然か、足元まで転がり込んできた殺意の意思。

 少女は、両手で握り締めたフォークを突き出し、"英雄"クリストファー・ヴァルゼライドと相対する。  

 

 

「友の最後の願いを無駄にするか?」

 

「……そう、ですね。怒る、でしょうね」

 

 

 それでも――――――

 

 

「けど最後は、笑いながら許してくれるんです」

 

 

 主役相手に奇跡なんて起こらない。

 "英雄"が"冥王"が"魔王"が"化け物共"が戦う戦争にツアレの配役はない。名前さえ残らない配役は英雄譚(サーガ)に不要。

 "英雄"の足跡の一部として地に転がる骸となる運命。

 故にこれは運命でも偶然でもなく。

 

 

「——————ッ!!」

 

 

 不可視の一太刀が逸らされた。

 胸の中心に巨大なサファイヤが埋め込まれた純白の鎧を身に纏い、ツアレの絶対正義が降臨する。

 

 

「……セバス様ッ!!」

 

「もう大丈夫……後は任せなさい」

 

 

 ツアレを安心させる微笑みを一変、温厚をかなぐり捨て去った鬼となる。

 

 

「第三層まで侵入した貴方が何故第九層にいるのか……第四層で待ち構えていた私が何故第九層にいるのか……()()()()()()()()()()()

 

 

 端的に言って、彼は凄く怒っている。

 

 

「このセバスチャン、怒りと憎しみの感情で貴様を殺す」 

 

 

"只の人間"ツアレは奇跡を呼び寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 




メイド三原則~。
  一つ、メイドはご主人様の命令に絶対服従。
  一つ、メイドはご主人様を全力で守護。
  一つ、メイドはご主人様にぞっこんLOVE☆


ヴァルゼライド閣下は本当に少女にお優しいかた(いやまじで



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ツアレとセバス(前編)

 セバスの胸の内を支配するのは明確な殺意の波動。

 大切な人を傷つけた此奴だけは赦さないと怒りで拳が軋みを上げる。

 極限に練り込まれた氣は空間を歪曲させ、さらに鋭さを増していく。

 

 

「何故彼女たちを……などとふざけたことを抜かすつもりは毛頭ない。それは彼女たちの勇気を、覚悟を、決断を……侮辱するもっともやってはならない行為だからです」

 

 

 戦うことも、血も知らぬ優しいメイドは、ナザリックを影から支えるもう一つの太陽。

 殺気の余波にさえ耐え切れず意識を失うlevel1の彼女たちが、主人を守るため命を賭して戦った。

 傍からは蛮勇と罵られる愚か者の集団自殺。だが、決して彼女たちの葛藤を蔑ろにしてはならない。"死"を直面してなお逃げなかった彼女たちの想いを絶対に無視してはならない。

 

 

「怖くないはずがありません。至高の御方の生活面をサポートする彼女たちは突如死地に立たされた。何も知らず、準備も、覚悟も、そもそも想定すらされていない危機的状況に……それでも抗ったッ!!」

 

 

 逃げてもよかった。戦闘を想定されていない、壁にすらなりえない一般メイドが逃走しても誰も責めはしない。一般メイドは逃げのび、生きて主人をサポートする答えこそが揺ぎ無い模範解答。

 そんな正論を度外視に、一般メイドは主人を守るために行動した。

 使用人を従える家令として、同じ使用人として一般メイドは答えを示した。

 ならば、セバス・チャンの示す行動はたった一つ。

 

 

「……行かせはしない。ここから先、四十三の誇りと矜持が貴様を拒む使用人(主の盾)としれッ!!」

 

 

 故に"英雄"よ、伝説になど語らせぬ。只の使用人(メイド)執事(バトラー)が英雄譚を終幕させる。

 だからこそ――――――

 

 

「俺の目も節穴だな――――――ならば良し、その決断を尊重する」

 

 

 ヴァルゼライドはアインズ・ウール・ゴウンの異形全てを絶対悪と断じていた。

 大虐殺による恐怖支配。

 それに反する魔導国の発展と発想と繁栄。

 計算されたアメとムチは甘美に人の脳を刺激する。

 だが、栄光を約束された光の影で悪逆(ソレ)は当然の様に行われていた。

 情報でしか知り得ないアインズ・ウール・ゴウンの配下の一人。初めて、此度の敵を肉眼で捉えたヴァルゼライドは、悪魔どもを倒すべき絶対悪と断じた。

 故に、同じ配下の異形どもも魔導王さえ悪魔(アレ)と大差無いと偏見を抱いただろと問われれば、否定は出来ない。

 ならばこそ、仲間のため揺るぎない絶対的正義を体現するこの男を倒さねばならない。

 

 

「――――――"勝つ"のは俺だ」

 

 

 ここに宣戦布告は果たされた。

 

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――――――我らは煌めく流れ星」

 

「顕現せよ。正義とは困っている誰かを助けることなれば」

 

 

 紡がれる二つの詠唱。

 英雄はこれまで対峙してきた何者よりも目前の男が最強の敵だと確信する。

 執事もまた、人間形態での手を抜いた状態では勝てない敵と評価する。

 

 

超新星(Metalnova)――――――天霆の轟く地平に、闇はなく(G a m m a・r a y K e r a u n o s)ッ!!」

 

 

 滅びの光を集束させた放射能分裂光(ガンマレイ)。自らも被爆する死の光を躊躇いなく発動させる。

 

「聖竜形態――――――悪よ、何人も触れさせん(たっち・みー)

 

 

 セバス・チャン――――――その正体は、"正義降臨"光聖竜セバスティアヌス。創造主たっち・みーが創り出したlevel100のNPC。搦め手無しの戦闘はルベドを除きNPC最強。守護者最強のシャルティアさえ超える種族としての格の違い。

 最強種ドラゴン――――――ナザリック地下大墳墓地下10層『玉座』までの頂を守る門番。至高の御方が住まうナザリック地下大墳墓地下9層『ロイヤルスイート』を守護する正義の使徒。

 全長十メートルの最強種としては小柄の体格をものともしない神々しい風格。鱗から毛並みの一本一本までもが光輝く幻想生物。

 更に魔法防具が形を変え、装備対象の体格にフィットする形状(フォルム)に変形する。

 聖竜形態の俊敏と攻撃力に偏る紙装甲のステータスを、創造者の残した防具が弱点のない超ガチ構成に昇華させた。

 覆しのない最強種の差。

 身じろぎに過ぎない翼をはためかせる予備動作から発生する風圧でさえ、ヴァルゼライドの命を奪う殺傷力を秘めている。

 その事実を十全に理解しているセバスは、全力で翼を扇いだ。

 無数に飛来するカマイタチは、広いとはいえ限られた通路にすぎない空間を暴風の斬撃が埋め尽くす。

 強烈な風圧は行動を完全に制限し、後ろに吹き飛ばされないよう踏ん張るしかない。

 

 

「はあああぁッ!!」

 

 

 この男、重心を真下に落としたまま縮地を用いた一切無駄のない体捌きで、最小限にカマイタチを切り捨て光聖竜懐目掛けて駆け抜ける。

 

 

正義・光聖竜の爪(ジャスティス・ライト・ホーリー・クロー)ッ!」

 

 

 竜の光が、振るわれた爪の軌道上に迸る。横薙された力の波動は消滅の光。竜の怒りは災害として一人の"英雄"に牙を剥く。挙動一つで国を滅ぼす心優しい光の竜は、地下9層の被害を一切考慮せず破壊を振り撒く。

 消滅の光を死の光を以て難なく突破する実力と度胸を度外視に、この程度の力技で殺せるなど微塵も思ってはいない。本命は、縦横無尽に飛散する瓦礫。天井、壁、床からなる散弾の雨。衝撃は絶大。

 人間を殺すのに仰々しい魔法やスキルなど不要。災害の象徴たる竜は、自然環境が必殺の武器となる。

 その悉くを陽炎の蜃気楼と見舞う技量のみで回避する。

 

 

「――――――捉えたぞ」

 

 

 両者、放つ攻撃は怒涛にして間断なく。

 距離、僅か一メートル圏内という超至近距離において。

 十メートルの巨体からなるモンクを、光刃を――――――どちらも被弾しないまま殺戮舞踏を演じていた。

 当たらない、当たらない、当たらない、当たらない。息が触れ合うほど近いのに、空振りし続ける刃と拳。

 二つの絶技が、重なることなく乱れ舞う――――――否、僅かばかり確かに光刃は必中している。そう、ヴァルゼライドの攻撃は一撃必殺の特性を帯びている。容赦なく一方的に、掠っただけでも即死する。

 放射能分裂光(ガンマレイ)にも似た、死の極光を放つ閃刃――――――天霆(ケラウノス)

 常軌を逸した集束性一転特化は、本人の気質を反映した"貫く"事全てを懸ける星辰体。

 セバスもまた、聖竜形態の爆発的に上昇した攻撃力は当たれば即死する。

 そう、両者当たれば終わりなのだ。

 あらゆる鉱物を穿つ爪と牙、撓る尻尾と首までもを利用した竜のモンク。ギルド内最強、ユグドラシルで三本の指に入る実力者"純銀の聖騎士"が装備した鎧は、この世界最高の強度を誇る絶対無敵の防具。

 光刃さえ貫けず、被爆しないあり得ない性能を誇る鎧。攻撃、防御、なにより創造主自ら装備していた伝説を超えるユグドラシル神話に語り継がれる神の宝。それを身に纏う高揚させる栄誉と――――――胸の奥深くから沸々と止まらぬ怒り。 

 

 人間を愛し、人間を信じる竜人は、滅ばすべきでありながら敬意を呼び起こす雄々しき存在を――――――たっち・みーを超える"英雄"と認めた。

 

 時間経過に伴い輝きを増していく光刃は、絶対を誇る鎧に()()()を引き起こす。

 ヴァルゼライドを斃すのはこの瞬間しかないと竜の本能が警告する。

 しかし、ただの一度も防御を選択することなく、大気を破壊しながら更に加速する理不尽を前に焦りを覚える。

 疲労無効のアイテムは三日三晩の戦闘を可能にし、モンクの猛攻は対象を粉砕するまで演武を演じ切るのも可能。対してヴァルゼライドの体力は有限であり、本人も被爆し続ける放射能分裂光(ガンマレイ)は、戦闘が長引くほど命を削る。

 だが、短期決戦を望むのはセバスも同じ。変身に時間制限は付きもの。

 ツアレを守りながら戦うには戦局が互角の聖竜形態しかないが、……そもそもソコがおかしい。

 聖竜形態のセバスは、絡めて無しの殴り合いNPC最強。ルベドを除く単一個体最強"正義降臨"光聖竜セバスティアヌス。

 モンクの領分である超至近距離(インファイト)において、スキルも魔法も超常現象の類を一切使わず、努力で磨いた技量のみで圧倒している。

 至高の御方(神々)のような万象を操作する訳でもない。

 技の極み――――――特殊な事象など必要ない。人間は、努力のみで神殺しを実現させる。

 だからこそ何度も言おう――――――今しかないのだ。

 

 

「貴様は、危険だ。狂ってる……どんな存在であっても心に絶対はない。私はアインズ様から精神の不完全さを教授していただいた」

 

 

 アインズ様もたっち・みー様も全知全能の完璧な神ではない。挫折も弱音も苦悩もする悩み多き御方なのだ。

 この者は何だ?人々が夢想する"英雄"の概念が形を成した理不尽……そうあれば、どれだけよかったか。

 竜のモンクを初見で対応し、目前で現在進行形のもと攻略されつつある事実。

 馬鹿げたことに、その原動力は気合と根性。

 

 

「貴方は……立ち止まったことがない」

 

 

 一言に込められた想い。同情も哀れみも、まして賛歌など込められていない。静謐と告げた真実に。

 

 

「百も承知、自覚しているとも。……所詮、俺など破綻者だ。人から外れた者と自覚している」

 

 

 鋼の英雄の声に、揺らぎはない。

 そう、彼は何があっても諦めない。なぜなら彼は鋼のような男だから。

 友を、家族を、恋人を、例えその手で焼き尽くしても不変の意思を保ち続ける常識外の英雄(モンスター)

 ひとたび誓えば、そこで完結。折れず曲がらず躊躇しない。

 決意したのだ、決めたのだ。だから後はそれを雄々しく貫くのみと、刃を携え明日を目指す。

 故に、己が意思を阻む者が相手であれば、手心を加えることなど一切なく――――――輝く勝利を手にするために、覇道を歩む。

 自分が奪ってきた者たちへそれを持って報いるために、止まらない。

 そんな狂った精神は正常とは程遠く、己の在り方が普通ではないと自覚している。

 俺が出来たのだ、お前もと……そんな戯言は言語道断。

 頭の可笑しい死の執行者など一人で十分だ。

 

 

「決めたからこそ、果てなく往くのだ。それ以上の理由など我らにとっては必要ない」

 

 

 だから、これは率直な疑問。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンの闇は貴様の正義(性質)とは相容れない真逆の物だ。何故忠誠を誓っている?悪魔の如き所業を知らぬとは言わせんぞ」

 

「――――――ッ」

 

 

 正義に反する悪逆だろうと、全ては至高の御方のためにと、言い訳に過ぎない。

 目前の男はそんな事を聞きたいのではない。

 何故仕えている。何故従っている。何故正そうとしない。

 ナザリックは、セバスにとっての生まれ故郷で、家で、家族で――――――大切だから黙認するのか?

 

 

「至高の御方のために……血も肉も心も、我々はそのために存在している。それ以外……有ってはならないのだッ」

 

 

 そう言い訳をして、自分に言い聞かせる。目を逸らし、あり得ないと放棄する。

 絶対的強者であるナザリックの、弱者への蹂躙が許せない。たっち・みー様は弱者である異業種の犠牲を許せずプレイヤーキラーキラー(PKK)を目的とする組織を設立した。

 それこそが、ギルド:アインズ・ウール・ゴウン誕生の原点であり願いとアインズ様から教えていただいた。

 誇らしかった。お父様は憧れままの正義の味方その人だった。

 正しさで生きながら時には弱さと歩む微笑みの英雄(たっち・みー)は、正しいことを実直に一人で突き進む鋼の英雄(ヴァルゼライド)と反発し合う運命。

 この男を英雄などと認めない、断じてなるものか。理想の体現者は私の中で生きている。万里の果て、遥かなその影をセバスは掴んで見せる。  

 だが、だがだがだがだがだがだが――――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――――

 

 

「……なるほど。アルの報告はこのことか。これが従属神(えぬぴーしー)の定めか。貴様らは作られた存在。創造者の命令を絶対順守する兵士。悪いとは言わんよ。総じてそういう存在として作られた貴様らにとってアインズ(アレ)は使命そのものなのだろうが……それを是とする生き方は貴様にとって義務の放棄だ」

 

「何を、言っている」

 

「自覚はなしか。だが薄々と勘づいてるだろ。主の敵を打つならまず犠牲にする仲間がいると」

 

「――――――ッ!」

 

 

 少女を守っているから知らないうちに、無意識に、取るべき選択が制限され、攻撃が遅くなっている。最強種の力を殺すべき敵に十全に出し切れていない事実。

 

 

「俺のような塵屑と違い、彼女は気高い意思を宿している。その尊い想いを誰かと比べるなど侮辱にしかならんよ」

 

 

 破滅の光を振り撒くことしかできない自分と異なり。彼女は、誰かを信じる強い心を宿している。これまでの人生をヴァルゼライドは知らない。その絶望も闇も知るよしもない。だけど、その心に灯る確かな光をヴァルゼライドは敬意を払う。だからこそ――――――

 

 

「気遣う行動は素晴らしい。立派だ。だが、誰よりも足で纏いになりたくない男の邪魔をしている彼女の気持ちを何故汲み取ろうとしない?」

 

 

 共に歩みたい、この人のために命をなげうつ。そんな恋する少女の思考と想いに理解を示す。侮るなどあり得ない。その想いが重なったとき爆発的な力を発揮するとヴァルゼライドは知っているから。

アインズ()か、ツアレ(彼女)か、どちらも中途半端に意識するその姿勢は端的に言って、そう――――――一途な熱意が足らんよ。

 

 

「誰よりも守るべき彼女を陥れているのは己だと知れ!!」

 

 

 更に更に加速する刃を前にセバスは。

 

 

「私は……」

 

 

 セバスは……

 

 

「私は………………ッ」

 

 

 セバスは――――――

 

 

「――――――ワタシハッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の海を漂う航海、ぷかぷかとあてのない漂流は波の音のみが響き渡る。

 そこは0と1の世界。終わりと始まり。原初の海。自己を与えられる前の最初の記憶。

 そこは何もない。何も存在しない。この世界は無くて当たり前の場所。

 ここから生まれ、誕生する万象電子で出来た数理の星。

 NPCにとってこの場所こそが母の子宮。

 何者にも染まらず、穢れのない真っ暗なキャンバス。

 何にもなれず、誰でもない、そんなセカイに色を塗った創造者。

 浮上する意識が確かな形を画く。

 

"――――――さん、ついに完成しましたよ!"

"おお!!ついにですか――――――さん!!"

 

 

 知らない情報()。何者でもなかった0と1は、インプットされた情報からこの御方に想像されたと理解する。

 その御方は、本当に楽しそうに笑うのだ。自慢話など本人の口から聞いたこともない。誰かを救った……そんな話を本当に嬉しそうに語るのだ。謙虚で、正義感の強い創造者。

 唯一自慢したことと言えば、私のことをもう一人の自分だと語ったとき。

 まだ潜在意識でしかなかった私は、その時のお言葉をすべて聞くことは叶わなかった。だけど、確かに創造者は、"この子は『理想の自分』だ"と至高の御方方に説明していた。

 その頃はただただ恐れ多く、その言葉の意味を理解できなかった。私もそんな貴方に救われた一人なのに。

後に姿を消した創造者。正義に生きたその背中は、傷だらけだったけど――――――仲間と共に戦う姿は何処までも憧れの"正義の味方"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い夢はみれたかい?」

 

 

ここは原初の海。始まりの座。理の流出――――――特異点。

向かい合う両者。三つ揃えのスーツを着、黒髪をオールバックにした東洋系の顔立ちを丸眼鏡で飾った知的ホワイトカラーの悪魔。

姿も気配も声すら同一人物。セバスはよく似た誰かの登場に、警戒心を募らせる。

 

 

 

"誰だ?"

 

 

眼鏡を中指で押し上げる。口角を歪ませた顔はなんと悪魔らしい。

 

 

「確かに私は君の知る悪魔ではない。完全100%同じと問われれば否と答えるよ。けど、偽者って訳でもないんだ。消滅した魂はもうどうすることも出来ない。残影に過ぎない夢幻。本物とは程遠いコピー。けどねセバス、間抜けな君に忠告する分には十分だ」

 

 

それともあの御方が良かったかい?残念だね私で(笑)人の神経を逆撫でする物言いはなんと悪魔らしい性格か、残影とはいえ相も変わらずろくな人物ではない。

 

 

"忠告?"

 

 

「そんな事も分からないのかい?その糞がつまった耳を切り落とせ。うじうじ悩むな私と違って馬鹿なのですから足りない脳を筋肉で補いなさい。あーその筋肉も今や飾りでしたか。全てはアインズ・ウール・ゴウンのために……そんな基本すら果たそうとしない駄竜に生きる価値などありません。即刻自害しなさい」

 

 

毒毒毒、あまりの物言いに懐かしささえ芽生える。だが、そう――――――正論しかない毒が、セバスを蝕む。

 

 

執事(バトラー)失格。君がそんな調子じゃ一般メイドも無駄死にだ」

 

 

"……貴様ッ"

 

 

「反論できる立場かい?ナニ簡単な事さ……不本意ながらあの人間の意見は正しい――――――殺せよ。あの子を栄光あるナザリックの一員として死なせてやれ。それが本当の幸せってものだろ?」

 

 

"ナザリック至上主義……ですか……"

 

 

「当然。この世全て万象が至高の御方ひいてはアインズ様のモノ。世界は……ナザリックとなる」

 

 

 これが当たり前。至極当然の考え。ナザリックの僕は性格の違いはあれど、ナザリック至上主義(そこ)に集約される。

 

 

"私は……間違っているのでしょうね……。今思えばあの日から、私は外れた"

 

 

 たっち・みーはセバスに自分を託した。ペロロンチーノは理想の嫁を、ウルベルドは理想の悪を、タブラは理想のギャップを、モモンガは理想の厨二(強さ)を、たっち・みーは理想の自分を。

 

 

"お父様は私に――――――好きに生きろと強制しなかった"

 

 

 好きに生きろ。やりたいことをやればいい。そう言って消えてしまったお父様。他の者のようにそう設定すればよかった。行動に強制力を持たせそういう人格にすればよかったのに、やらなかった。それこそが、お父様の願いなら。

 

 

"私は超える……超えなくてはいけない。私に懐いてくださった理想はもう知ることが叶いませんが……私は、私の真実で生きてみたいのです"

 

 

 ただ一つの真実――――――君への愛。

 命を運ぶってことが"運命"なんだとしたら、あの出会いこそ――――――

 

 

「……まったく君って奴は、理解に苦しむよ」

 

 

"でしょうね。貴方には一生理解できない感情だ"

 

 

 数奇な出会い。ここは白昼夢の幻。元のセカイに戻れば何も思い出せないそれぽっちの夢。

 

 

 

「大っ嫌いです。セバス・チャン」

 

 

"大っ嫌いです。デミウルゴス"

 

 

 これでいい。私たち二人はこれが御似合いだ。

 デミウルゴスの残影が消滅するのを見届ける。セバスもまた、不安定に接続されたこのセカイから弾き出された。

時が、動き出す。

有力候補ルベドが到れなかったその半歩先に、セバスは踏破する。

 

 

 

 原初の■■"■■■■■■"は願う。六百年の永きに渡るその歩みに――――――答えを示してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてモンハンしてバロックして~~~(ループします
三月はいって暫くして、「あ、そろそろ書こ」モンハンワールド面白いですよね!!そのせいでバロックいまだに終わってませんが(涙

前編後編と分けましたが、後編は短いと思います。はい、多分。

"■■■■■■"一体何者なんだ……。居ても居なくてもどうでもいい存在。ただソコに存在するだけ。






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ツアレとセバス(後編)

男は、英雄と認め
女は、悪魔と断ずる




 途絶えた意識は瞬きにも充たない刹那の忘却。

 ヴァルゼライドでさえ、違和感を覚える程度のセバスの忘却は、気のせいと切り捨てるには危険であり、この直感を放置することは己の首を絞める行為と断言する。ヴァルゼライドの眼光が、セバスの瞳を射抜く。

 その瞳の熱量は先とは比べるまでもなく燃え盛り、熱く、アツく、身を焦がす炎は確かな覚悟を秘めていた。

 違和感の正体が実現する。

 

 

「――――――これは」

 

 

 誰もが予想だにしなかった展開。

 ヴァルゼライドもこの急激な変化は想定していなかった。

 

 

「……フゥッ!!」

 

 

 未来予知に等しい見切りに綻びが生じる。攻略された竜のモンクが変動する。

 一つ一つの挙動に迷いはなく。為すべきことを真っ直ぐ定めた竜の全身全霊が牙を剥く。

 より鋭く、より繊細に、より力強く、最強種としてのポテンシャルを十全に生かすモンクへと軌道修正されていく。いく百いく千と繰り返された殺戮舞踏。

 強固な鎧に阻まれながらも僅かに命中していた光刃が徐々に、だが確実に、掠りもしなくなる。

 

 

「懐かしい夢を見た……そんな気がします」

 

 

 その言葉はヴァルゼライドに対してや、ましてや自分出すらない誰かに語りかけた無意識に零れ出る想い。

 

 

「嫌い……だったのでしょう。真逆の性質は反発し、目を合わせれば歪み合う。もしナザリックの仲間でなかったなら……」

 

 

 全てにおいて相容れない。賛同も賞賛も喜びも、かけ離れた種族としての――――――設定の(サガ)だとしても。

 

 

「私も貴方もただの、本当に……心底、えぇ……勝手に先走る愚か物(馬鹿)だ」

 

 

 自己の存在に多大な影響を及ぼしたお父様(たっち・みー)

 憧れの正義の味方のように、初めてこの手で救うことができた少女(ツアレ)

 互いに正反対に走りながら憎たらしくも並び立つ、気に食わない馬鹿(あくま)

 死んだと聞かされたときは心底清々した。僕の中でもアインズ様により頼られていて……ろくな情報も残せず無惨に死んで……嗚呼――――――

 

 

「デミウルゴスを殺ったのは……貴方ですね?」

 

「……醜悪な悪魔のことならば肯定しよう。あれこそが、倒すべき悪そのものだ」

 

 

嗚呼やはりと、不思議と胸に落ちる。

確証もない。されど、この男ならばと。

 

 

「えぇ……彼こそが悪なのでしょう。"悪であれ"悪魔らしい"魔であれ"。その性質上、衝突することの方が多かった」

 

「……仇討ちか?」

 

「それこそまさか。悪魔のための復讐など笑い種です。これは只の……個人的な、そう――――――八つ当たりだよ"英雄"ッ」

 

「――――――ッ!」

 

 

 前へ前へ勝利を目指し更に加速する男が初めて、攻撃を中断し防御と回避に全神経を総動員させた。

 人外との超至近距離戦は何度も経験している。無論、竜といった巨大な怪物も斬り伏せてきた。その全てに共通している事柄がある。人外は、人間のような技を持たない。人外でも剣や武器などを巧みに操るものは存在するが、最後は生まれもっての生物としての性能に頼る。

 ヴァルゼライドに言わせれば、"技の極み"まで鍛練する人外がいないのだ。

 当たり前だ。耐性がなければ石化する魔眼と種族としてこの世界で上位に位置するバジリスクが、何を想定して鍛練すると言うのだ。冒険者?基本的に奴らは人間を見下す。強いやつがいるのは知っているが、強靭な爪と尾で片付くと考えているのが殆ど。

 上位種族の頂点が一つ――――――ドラゴン。それが、武術を学ぶか?例外はいよう。だが、かじる程度の技術だけで十分。其れだけで、達人を鏖殺する。

 そもそも技術とは、弱者が強者に勝つための手段。

 それを、最強種ドラゴンが人間の型としではなく竜として極めれば――――――この結果は必然で、同時にヴァルゼライドの異常性を浮き彫りにする。

 竜のモンクの攻撃範囲は点や線を越えた面制圧。余波だけで人間を肉塊にする弾幕の嵐を、避け続ける。

 あまりに不可解。パワー、スピード、テクニックは段違いに上昇している。それを危な気であるが全て回避――――――道理に合わない。

 

 

「納得いかない顔だな。それ程不思議か。俺が対応していることが」

 

「……我々のような魔法、スキル、マジックアイテム(奇跡)の力で補う戦闘ではなく、卓越した技術、並外れた観察眼のみで――――――まさかッ」

 

 

 天才だろうと努力家だろうが、初見の技を完璧に対応出来るものは存在しない。だが、セバスの竜のモンクは違う。修正されより鋭く攻撃的になった竜のモンクは基盤となる型が既に攻略されている。

 前の面影がある以上初見必殺になり得ない。

 

 

(ならばと行きたいが、制限時間は僅か)

 

 

 限界は近い。だが、この"英雄"に何が何でも一撃を喰らわせないと怒りが収まらない。

 一般メイド(あの子たち)は最後まで己を貫いた。

 ツアレ(彼女)は最後まで運命に抗った。

 ならセバスは――――――

 

 

「グルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」

 

 

 ――――――正直な気持ちを解放した。

 

 スキル:光聖竜の咆哮。一定範囲の敵を強制的に弾き飛ばす。

 竜と"英雄"の距離二十メートル。

 急激な変化は凶暴化による攻撃力、速度上昇でモンクを捨てた――――――否、怒り狂う竜の咆哮はセバスを曝け出した。

 

 理屈や大義で誤魔化すな。

 死を、当然であると受け入れるな。

 ああ死ねよ英雄、貴様は竜の宝に手をかけた――――――ツアレをッ!!

 

 大気を震わせる竜の怒りを肌で受け止めたヴァルゼライドは全細胞を尖らせ、スキル効果が切れると同時に地を蹴り抜いた。

 無条件強制的に抵抗を許さず距離をとらされた現象。際限なく高まるエネルギーが竜の口内に集束される。

 竜の代名詞。単純にして最強の一撃。物語に登場する伝説の最強種ドラゴンの最大火力。

 だが、欠点もまた存在する。無慈悲な破壊はチャージタイムのリスクを拭えない。ならば、打たせる前に討つ。勝利する最善策を瞬時に選び実行する精神。常人なら躊躇するその選択をヴァルゼライドは当然と選択する。その僅かな戸惑いが生死に直結すると知っているから。

 

 

(そう来ると信じていたッ!)

 

 

 この世界の人間で彼ほど勝利を目指し、誰かのために戦う存在はいない。同じ目的を掲げ誰かのためにと戦う人間は確かに存在する。だが、熱量が足りない。怒りが足りない。それに伴う経験と決断力が足りない。

 その全てを逆手にとる。

 聖竜形態、光聖竜セバスティアヌスの特殊スキル。

 スキル発動にタイムラグ、チャージタイムなどなく。この形態で一度しか使用できない切り札。

たっち・みーが設定したスキル:正義の柱。強制的にエフェクトが表示され周辺に浮かび上がるその姿こそ、セバスが掴み取った正義(ツアレ)の味方。

 

――――――私は最後まで、己のが正義を貫くッ

 

 

 

" 正  義 "

 

" 降  臨 "

 

 

 

正義の審判者(ジャスティス・ジャッジメント)純銀の聖騎士(たっち・みー)ッ!!」

 

 

 正義(ツアレ)の化身として純銀の聖騎士を象った消滅の光が、悪を断罪する正義(誰か)に光を振り下ろした。

 自ら死地へ飛び込んでしまったヴァルゼライド。中途半端な防御も回避も意味をなさない。だからこそ、一瞬も速度を緩めず顎が地面に接触する程前のめりに限界を越え更に加速する。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!」

 

 

 流れ星と化した天霆(ケラウノス)の煌めく閃光。勝利(まえ)勝利(まえ)へ――――――先行する精神に肉体は自壊していく。全身筋肉の筋挫傷、腱断裂……etc。骨が圧し折れないのが不思議なほど亀裂が走る。"ギチギチ""ゴキッ"と人の身体から発してはならない音。

 限界を超え限界を超え限界を超え――――――増幅し膨れ上がった光刃が、消えた。

 いいや、否。その比類なき意志力で極限まで膨れ上がった質量(裂光)を刀身に集束、凝縮させた光。

 無駄を省き、削ぎ落とし、"貫通"のみへ特化させ、必殺へと昇華させた力は、純銀の聖騎士を象った消滅の光(たっち・みー)を薙ぎ払い肉体を崩壊させ更に加速した。

消滅の光を真っ向から突破した肉体は、皮膚は焼きただれ、細胞は消滅していく。よって――――――

 

 

「勝つのは、俺だああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 これにて幕引き。問答無用の縦一文字が竜の頭蓋を捉えた。

 世界最高の強度と性能を誇る絶対無敵防具。その兜が二つに割れた。

 これにより証明された。悪を滅ぼす光を正当方(現存ルール)で防ぐのが不可能という真実。

 生きてはいまい。竜であろうと生き残れない。それでも、その挙動から目を離さない。この竜は何が何でも抗う存在だと知っているから、完全に生命活動が停止する瞬間まで次には移れない。己の全てを上回る強者を前に、もしもは残してはならない。

 

 

「なん……だと!?」

 

 

 男は致命的なミスを犯した。蔑ろになどしていない。その想いを尊重し対等であると認めた。故にこれは優先順位の問題。最強種ドラゴン。絶対的強者とメイドの少女。脅威など明確。なにより、ヴァルゼライドでさえ竜の余波で致命傷を負っている戦場で、戦う力を持たない彼女に何ができる?

 これはそんな齟齬が生んだ"英雄"の認識外の出来事。

 

 

「これが、私達の意地だァッ!!」

 

 

 握り締めたフォークが、ヴァルゼライドの眼を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄を生きてきた。幸福も祝福も笑顔さえない。女性として奪われるものすべてを凌辱され犯された。人が想像しうる欲望を受け止め続けたこの身は穢れ汚れきっている。抵抗など許されない暴力。クスリ。男など、幼い頃遠い記憶として残映する父と、女を欲望の捌け口としか認識していない獣しか知らなかった。

 男を恐怖し拒絶する。それだけの心的外傷(トラウマ)を刻まれた。男の下衆な欲望や視線に敏感になっている彼女にとって、男は女を玩具としか認識していないという固定観念が生まれていた。これを完全否定出来る男はそうはいない。誰でも1度は滅茶苦茶にしたい。自分の都合のいい女が欲しいと夢見るのが男の性。

 だけど、だからこそツアレはセバスに恋をした。

 世界はこんな人がいるんだと、誰よりも優しい日溜まりの太陽は、ツアレの心を甦らせた。連れ去られる前、12歳の幼き頃の甘い初恋。

 私は、何も成長していない。

 男に遊ばれ、男に滅茶苦茶にされた人生。男は自分とは違う生き物。なのに、嫌悪しか懐かなかった異性を好きになってしまった。

 私の心は、12歳のあの頃からまったく成長していない。幻滅し、諦めて、殴られた記憶しかなかった大きく、ゴツゴツしたあの人の手は――――――温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………綺麗」

 

 

 私とは違う。何処までも羽搏ける大きな翼を兼ね備えたドラゴン。

 その姿は幻想的で、大きくて、何処へでも飛び立てるはずの翼は、重く、思く、想く、地に縛られている。鎖は私だ。

 それがどうしようもなく悔しくて。悲しくて。貴方だけなら勝てる戦いを邪魔しる私が赦せなくて――――――嬉しかった。

 

 

『俺のような塵屑と違い、彼女は気高い意思を宿している。その尊い想いを誰かと比べるなど侮辱にしかならんよ』

 

 

 激化する戦闘。語り合う"英雄"の主張に、私は全力で否定する。

 

 

『気遣う行動は素晴らしい。立派だ。だが、誰よりも足で纏いになりたくない男の邪魔をしている彼女の気持ちを何故汲み取ろうとしない?』

 

 

 何も分かっていないのは貴方だ。人の心に勝手な理屈を当てはめて一人で納得しないで。

 

 

『誰よりも守るべき彼女を陥れているのは己だと知れ!!』

 

『――――――ワタシハッ!!』

 

 

 セバス様、貴方が悲しむことなど何もないのです。私は何処までも身勝手な女。戦う力など無く、本気を出せない貴方の後ろで守られている弱者。愛する男の邪魔をしたくないなら、自ら安全圏の外に出ればいい。死ねば万事解決。愛する男が、力のすべてを使い勝利するだろう。

 効率的。理屈的。ああだとしても、この握り締めたフォークがそれを許さない。この殺意の意思は、紛れもなく私のもの。

 怒りすら忘れ、世の中を呪うことしか出来なかった私が、幸福を奪った悪魔を相手に、初めて抗う。そう、怒っているのだ。

 生きてて欲しかった。それがどれだけ屈辱的な敗北でも、彼女たちには生きてて欲しかった。

 

 

「返してよ……これ以上、奪わないで……ッ」

 

 

 故に、ツアレは立ち向かう。奪われるだけの人生とはお去らばだ。救われるだけの傍観者に成りたくない。恩を返す。この思いのすべてをぶつける。

 そして気づく、感情の赴くままに本気を出したあの人の姿を。私を絶対守るのだと、光が包み込む。

 

 スキル:光聖竜の城壁。一定時間、対象を無敵にするスキル。継続時間は、levelが低いほど延長される糞スキル。

 

 それが、ツアレを守っている。だから、本気で戦っている。これがなんなのかツアレには理解できない。でも、そんな優しい二人だから彼女たちは命を懸けた。

 

 

 "も~しょーがないなぁツアレわ。これで最後だよ?"

 

「……嘘」

 

 

 宿るは導く力。消滅し、二度と戻っては来ない一般メイドがツアレに託した意思。

 メイド服は決戦兵器。そう口にした男がいた。メイド服が好きで好きで好きで大好きな彼は、メイド服を蔑ろにする野郎を懲らしめるために全く役にたたない機能を付けた。

 戦う力を持たない一般メイドクラスのlevelが使うこと前提の効果。 

 

 発動条件:四十一着のメイド服を傷つけた者が対象となる。

 効果:魔法、スキル、特殊攻撃を除く通常攻撃を一撃だけ必中100%にする。※予備のメイド服を身に纏う者が効果を発揮できる。なお、戦闘行為が終了するまで衣装チェンジ不可。

 

 level100同士の戦闘において装備は重要。誰が耐性も何もない唯のメイド服で勝てる。

 そんな理屈も効果もツアレは知らない。でも。

 

 

"私達が案内するから!!"

 

 

 確かに聞こえたのだ。もう会えない、触れ合えない、大切な……友だちの声。

 皆の勝利は勝つ事じゃない。抗うこと、最後まで抗って邪魔してやること。

 そうだよね。ムカつくよね。侵入されて殺されて友達がピンチなのに、黙ってやるほど私達(メイド)は優しくない。

 

 

「私を、連れてってください。セバス様のところまで」

 

 

 皆さんが引っ張ってくれる。一人じゃ抗えない。私はそんなに強くない。でも皆となら――――――

 理屈ではない。技術でもない。導かれるままツアレは、存在しないはずの"英雄"の死角まで回り込んだ。

 

 

「これが、私達の意地だァッ!!」

 

 

 "唯の人間"ツアレが、英雄譚に致命的な亀裂を刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音速にすら達していない攻撃が命中した。予備動作、重心、持ち方から攻撃するまでの動き。その全てが何処にでもいる唯の少女。猪突猛進の無謀な攻撃が、英雄のセンサーを掻い潜り見事一子報いたという事実。

 残った眼光がツアレを捉えた。

 傷をおったヴァルゼライドは条件反射の領域で、己を傷つけたツアレに振り下ろした刃を返す。

 

 死――――――悪を殺す王者の覇道を一身に浴びる。level100の超越者すら死を覚悟するギラつく眼光をツアレは睨み返す。竜の加護も皆の力も無くなった。それでも、心は最後まで抗ってみせる。

 

 女は、覚悟を決め結果を示した。

 なら、男は――――――

 

 

「――――――ツアレェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!!」

 

 

 切り裂かれた開口部から漆黒の燕尾服が飛び出す。竜化の時間切れ。鎧のみを残し人型に戻ることで、前頭骨を吹き飛ばされるだけですんだ。しかし、光の猛毒はセバスの脳を侵食し身体を動かすことが不可能な激痛と吐き気、倦怠感が襲い掛かる。狂えば楽だ。気を失いこのまま死を選択すれば地獄の激痛から解放される。

 

 

"ふざけるな"

 

 

 愛する女が、目の前で殺されかけている。うじうじ悩む男が起き上がる理由はそれだけで十分だろ。

 

 

「貴様は来ると信じてたぞ!!」

 

 

 攻撃を受けた時点で、どのような形にせよセバスが来ると確信していた。

 愛し合う男女をヴァルゼライドは危険視する。戦う力を持たないはずの少女が、予想外の一手を繰り出し手傷を負わされた。愛とは起爆剤なのだ。ならばこそ、女が示した愛に、男が応えぬ道理はない。

 ツアレに滑らせた返しを、セバスに向け更に返した(カウンター)

 聖竜形態の時よりも素早いセバスの動きも、必ず来ると解っていれば後は合わせるのみ。

 少女の覚醒は予想外。男の覚醒は想定内。

 結局、英雄譚は破綻せず物語は鋼の英雄の勝利に――――――

 

 

 

 

 

―――――ビキ――――――

 

 

 

 

 

「なに!?」

 

 

 地下9層『ロイヤルスイート』の一画が崩壊する。地下8層『荒野』の戦闘に耐えきれなかったギルド構造として有り得ない事態。降り注ぐ地下8層と地下9層の質量と反粒子。

 ヴァルゼライドとツアレを巻き込み降り注ぐ脅威を前に、これまでにないほど追い詰められる。

 反粒子の理不尽な効果を誰よりも理解してるヴァルゼライド。

 このままセバスを斬り捨てても瓦礫と反粒子に押し潰される。瓦礫と反粒子を対処しようとすればセバスの手刀がヴァルゼライドの核を破壊する。両方を同時に対処できるほど、甘くはない。

 どうしようもない、詰み。今のヴァルゼライドに突破するのは不可能。

 理不尽な状況に追い詰められた。故に、理不尽そのものは決断する。

 

――――――この男は、決意と呼ばれる概念が結晶化したような存在である。

 

 

「まだ――――――ッ!!」

 

「手を伸ばせええええええええええ!!!!」

 

 

 ヴァルゼライドなど眼中にない。セバスはツアレを助けるために命を懸けて殺すべきアインズ様()の敵。ナザリックの敵をこの一時忘れさり、伸ばされたツアレの手を確りと掴んだ。

 障害がなくなり、回避に専念するヴァルゼライド。

 ツアレを助けるため自ら飛び込んだゼバス。

 反粒子が、愛する男女(二人)を呑み込んだ。

 

 

 

  

 

 

 




次回『愛する二人』


■■■■■■:次回……絶対。

投稿速度:遅いときと速いときの差が激しい。気分で1日の書く文字数が決まる。最低でも1ヶ月に一回は投稿するよう心掛けてます。

ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない:ergなので、18歳以上がプレイしよう。暇潰しにやったら、結構良作。メインヒロインここ最近で一番好きかも。3作まで発売中。

オーバーロード:好きだよ?オーバーロード大好きだよ?本当だよ?好きじゃないものこんなに調べて書かない。

異世界もの(ステータスやらlevel有り):好き嫌いで色々あるけど、これだけは言いたい。赤ん坊から結婚するまで長期連載する人マジ凄い。さらに、技能系を増やし続けて10~30(これでも少ない)の設定を忘れずに戦闘シーン書く人マジ凄い。矛盾する人もいるけど。



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愛する二人

 Piiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii――――――

 

 ツアレの朝は、けたたましく鳴り響く支給された目覚まし時計のチャイム音から始まる。

 メイドは、誰よりも早く起床し主人を起こしに行くまでの時間で身だしなみから朝食の準備。様々な仕事を完了しなければならない。

 それが常識なのだけども、ことナザリックではあまり関係ない。24時間365日眠る必要がない人達が大勢いるからだ。

 食事関係もそう。摂取する必要がない種族、アイテムで疲労も食欲も必要としない人達まで数えたらきりがない。

 主人であるアインズ様が睡眠も食事も必要としない御方だからか、ナザリックメイドの朝はまず朝食を食べるところから始まる。皆さん沢山食べるから私もつい食べ過ぎちゃいます。あんなに食べても太らない皆さんが羨ましいです。

 

 

「やっほー相席いいかな?」

 

「シクススさん!リュミーエルさんとフォアイルさんも……あ、私は一向にかまいません。どうぞ」

 

「ありがとねツアレ!!」

 

「お邪魔しますわ」

 

「しっつれいしまーす」

 

 

 四人テーブルを一人で占領していた私。左隣に元気いっぱいシクススさん、正面に大雑把フォアイルさん。斜め左に真面目で几帳面リュミーエルさん。

 まだ馴染めずにいる私を気にかけて下さる優しい人たちです。

 

 

「あ~!ツアレ少ないゾイ!!そんなのじゃ持たないよ?」

 

「まあまあ私らと違って種族ペナルティーはないんだよ。人間はそのくらいが普通なんじゃない?」

 

「食べたいだけ食べる。それでいいでしょ」

 

「あははは……」

 

 

 朝食とは思えない山盛りのお皿。一般的には多いそれなりの量を食べているとはいえ、その量は見ているだけでお腹が一杯になりそうです。

 シスククさんは、体全体を使って積極的に話しかけてくる。八割がたは聞く方だけど、なんだか妹を思い出して互いの波長が噛み合っているのか、いち早くお友達になりました。

 女の子同士で楽しくこんなにもお喋りする機会がなかった地獄の日々。

 何気ない会話。そんな普通なお喋りが何よりの幸せと感じられる。外のお話は皆さん興味はあるのか、よく質問されます。楽しく、明るい話題しか私は語りません。ここで働き、私は知りました。色々な性格。個性豊かな趣味。あらゆる種族が共存するナザリックの皆さんは、強さ問わず純粋無垢。階層守護者も、領域守護者も、一般メイドやゼバス様だって――――――愛に飢えている。ナザリックの皆さんから頂いた愛を、少しでも恩返しできたら……。

 

 

「――――――でねー……って聞いてるーツアレぇ?ホワイトブリム様の凄い所はまだまだあるんだから!!」

 

「はい!すごいです!もっともっと聞かせてください!!」

 

「も~しょうがないなぁ。でねでね~」

 

「いい加減にしなさい。そろそろ食べ終わらないと間に合いませんよ。他の人はもう移動しちゃったし」

 

「うわっヤバイ!ツアレも速く食べないと……って何時の間に!?」

 

「すみません。食べ終わっちゃいました」

 

 

 素早く上品に食すのも慣れたものです。「この~」と頬っぺた一杯に膨らませるシクススさんが可愛らしくてつい喉を震わせてくつくつと笑ってしまいます。

 すると、私達しかいなかった食堂に予想外の人物が足を運ぶ。

 

 

「おや……まだ人がいらっしゃったのですね」

 

「せ、セバス様!?どうして……何か重要な要件でも……?」

 

「そう慌てないでくださいツアレ。他の方々もゆっくりしてください。私も朝食とりに来ただけなので」

 

「セバス様も三食食べるんですか?てっきり必要ないとばかり……あーなるほど、態々彼女さんのンーッ!!」

 

「フォアイル。思っても口にしたら駄目よ。それこそ"リア充馬に蹴られて死ね"とヘロヘロ様が仰っていたわ」

 

「ンーそんな意味でしたっけ?まあヘロヘロ様が仰るなら間違いないか」

 

 

 わいわいと騒がしい外野もツアレは気にならない。なぜならば、その心は一人の男性に夢中だから。

 

 

「ええっと……セバス様も朝食を?」

 

「はい。ですが残念ながら一足遅かったみたいですね。そこで…………えぇ……」

 

「?」

 

 

 らしくない。パーフェクト執事の異名を持つセバス様の歯切れの悪さ。

 

 

「おやおやおや~フォアイルさんフォアイルさんや、もしかするともしかしますよこれは!!」

 

「シクススさんや。ここは優しく見守るところですよ!!」

 

「はぁ……"馬に蹴られて死ね"はどうも私達のようね」

 

「え?えぇっとぉ?」

 

 

 シクススさんとフォアイルさんは、リュミーエルさんに押されて食堂から退出する。シクススさんは最後まで「ガンバレー!!」て応援してくれた。

 

 

「……彼女たちには気を使わせてしまったようですね。……情けない

 

「セバス様?」

 

 

 セバス様は照れくさそうに右手で髭を撫でる。その優雅な動作だけで絵になるカッコいい男性はこの御方だけだろうとツアレの心はとうに射抜かれている。

 

 

「今晩の夕食……私とディナーは如何ですか?」

 

「はいッ!――――――ぁ/////」

 

 

 反射的に大きな声で返事をしてしまったツアレは、恥ずかしそうに口元を抑える。はしたないです。

 

 

「よかった。では、今晩部屋まで向かいに行っても大丈夫ですか?」

 

「はい!大丈夫です」

 

 

 これはデートの約束――――――そうとらえて問題ないはず。ゼバス様と別れた私は期待に胸を膨らませ仕事場に急行する。そしてなぜか一般メイド全員にその話は広まっていた。普段お話ししないかたともその話題で話しかけてくる。

 

 

「ねえ、今夜セバス様に夜這いするって本当?」

 

「その話詳しく」

 

 

 私でも聞き逃すことは出来ない話題です。ゼバス様の名誉のためにも必ず犯人を見付けて誤解を解かないと!

 

 

「ツアレ!情報伝達完了だよ。誰も近づかないようしっかりサポートするからね☆」

 

「シクススさんッ!!」

 

 

 可愛らしいウインクつきの親指グッド――――――もうどうにでもなれやい!

 そこから皆さん親切に協力してくれました。今晩は……朝まで誰も邪魔は入らないように。戦闘メイドの皆さんまで協力してくれたのは何故でしょうか?

 

 

「ぼ……んんッ応援してるわよ」

「この魔法薬(媚薬)おすすめっすよ」

「まあヤりきることね。ニンゲン」

「……1円シールあげるね」

「あの方、結構奥の手だから」

「支えてあげてねぇー」

 

 

 一般メイドは可愛い方が多いですが、戦闘メイドは綺麗でかっこいいので、少し羨ましいです。スカートに貼られた1円シールはどういう意味なのでしょうか?

 そこから更に色々あって現在。身を清め、支給された新品のメイド服を着用し下着は大人っぽい黒の紐パンツ。……期待してない訳ではないのだ。むしろ竜に生け贄にされる村娘くらい準備万端?

 部屋で待機しているツアレは妄想を膨らませる。それはそれはピンクのスイーツ禁止事項まで迫った辺りで惜しくもノックが鳴り響く。

 

 

「ひゃイ!?」

 

「?セバスです。まだ準備を終えて――――――」

 

「お、終わってます!いま出ます!」

 

 

 そこからは夢見心地。

 最高のエスコートでレディーファーストされるツアレ。

 二人っきりの食事。お酒を嗜み会話に花が咲く。

 ぽかぽかと火照った身体は何時でも受け入れる準備は出来ている※キスです

 薄く開いたピンクの蕾が、艶めかしく開く※唇です

 ペロリと舐めとった唇が咥え込む※料理です

 ああ……セバス様――――――しゅき※語彙力消失

 

 

「飲みすぎですよツアレ。部屋に帰りますよ……立てない?では――――――失礼」

 

「……あ」

 

 

 セバス様の腕の中で抱きかかえられた私は、その胸板に体のの重心を預ける。力強い竜の鼓動がツアレをさらなる安心感で包み込む。

 朦朧とする意識の中、ベットに寝かされた私は――――――

 

 

「お休み、ツアレ」

 

 

 ――――――私は。

 

 

 

 

 

「で、何も起きなかったと」

 

「はい。そうなんですぅー」

 

「はぁ……何をしているんだあの馬鹿は。私が態々お膳立てしてあげたというのに」

 

 

 ヤレヤレだ。赤色のスーツを着用した悪魔は、丸眼鏡を中指で押し上げる。僅かに零す溜息は「不能かよ。男を見せろよ」……不満たらたらだ。

 

 

 

 

 

「え~!セバス様そのまま帰っちゃったの!?」

 

 

 ビックリ仰天シクスス。

 

 

間違えて睡眠姦薬わたしちゃった……

 

 

 この駄犬がッ!!お前には失望したゾ!!ルプスレギナ!!

 

 

「あの方も本当に奥手ね……」

 

 

 何だかんだ頼れる意外とお姉さんなドSスライムソリュシャン。

 

 

「……エクレア貸してあげるね」

 

 

 いつも優しい皆のマスコットシズ。かわいい。でも、ぱたぱた暴れるペンギン元いた場所に放してあげようね。

 ワイワイガヤガヤうるさくも楽しい空間。そんなかしましい乙女の領域に踏み込む無謀もの(駄竜)

 

 

「皆さん勢ぞろいでどうされました?」

 

「セバス様、女性を大切に扱うのは構いませんが限度も過ぎれば其は唯のヘタレ野郎です……わん」 

 

「ち、違うんです!私が酔いつぶれてしまったばっかりに……」

 

「……犯人駄犬。ぎるてぃー」

 

「うわー!!や、やめるっすぅ~」

 

「貴女という子は……まったく」

 

「せ、セバス様ッたいしたことは無いので参りましょう!」

 

「走ると危険ですツアレ!」

 

 

 幸せに満ちていた幸福な時間。此処は、私の居場所。ずっと続くと思っていた日常はいとも容易く幕を下ろす。

 

 

 

 

―――――悪魔の手によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は皆の想いに一矢報いたと手ごたえを感じたあの瞬間死んだと、直感した。比喩もなく、ああ死ぬんだなってまるで他人事のように思った時、悪魔を睨み付けていた。悪を殺す鏖殺の覇道。細胞レベルで本能が危険信号を脳から全身へ、魂までも殺す絶望を前に、level1に過ぎない"唯の人間"が死を諦める事無く立ち向かった。

 簡単な事ではない。この世界の"英雄級"でどれほど抗える?クリトファー・ヴァルゼライドが光輝く死の光ならば、ツアレこそが――――――何よりも尊ぶべき黄金の精神。

 ツアレは否定するだろう。そんな大した事じゃないと。

 ツアレは拒絶するだろう。精神強度は"英雄"に並ぶかもしれないという他人の評価を。

 普通の少女。村娘。不幸をどうすることも出来ない力無き奴隷。

 それだけしかない。それだけの存在。

 ツアレは、それでいい。

 不幸だと、可愛そうだねと、これまでの人生は確かに地獄だった。でも、セバス様との出会いだけは否定させない。

 私の過去を知れば"英雄"は同情する。助けられずに済まないって……実直に謝罪して、私が流した涙を背負い未来へ勝利へ前進する――――――そんなもの求めていない。 

 転落人生の地獄を生きた。

 両親を失い。妹も生死不明。女の尊厳をすべて奪われても、ツアレは同じ人生を選択する。

 理解してもらうつもりはない。

 私にとってセバス様の出会いこそが――――――なによりの救いなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アツイ……焼けるように熱い焔。つま先まで感覚が乱れ狂う暗闇の中、確かに感じるアツイ、あつい――――――温もり。

 混濁する意識を無理矢理繋ぎ止め、ツアレは重い瞼を開いた。

 

 

「怪我は、ないか?」

 

「……セバスッさま」

 

 

 竜の鼓動を感じる。

 

 

「……ぁ、ぁぁッ」

 

 

 竜の息吹を感じる。

 

 

「……そん、な」

 

 

 真っ赤に流れ出す竜の血潮が、ツアレを温める。セバスに護られた体に傷はなく。純白のエプロンは赤ワインの染みが無慈悲に拡がり続ける。

 女は視線を下げ、すべてを覚る。だから、だろうか。いけない、流してはいけないと理解していても……溢れ出す感情の渦は止めることが出来ない。

 

 

「ないて……いるのか……?」

 

「――――――ぃいえ、私は無事です。また助けていただいて……私はッ!!」

 

 

 人間にすぎないツアレの演技などセバスは見破っているのかもしれない。それでも――――――嘘でも震える声を抑え、堪え、気丈に振る舞う。例え溢れ落ちる涙が、私の顔に添えられた手を濡らそうとも、護られた私はちゃんと無事であることを、男の誇りにしてほしいから。

 

 

「ははは……これはエゴなのでしょう。ツアレ……貴女を救いたい。失いたくない。そんな身勝手で我が儘な自己満足」

 

 

 視力を失った両目は光を映す事は二度とない。背中の広背筋から反粒子に呑み込まれ消滅した肉体。死んでないのが不思議な致命傷。肉体の過半数が欠損しようと、男は女を想う気持ちに揺らぎはない。

 

 

「何においても……何があろうと……私は貴女を必ず助けるッそれが例え……」

 

 

 想いを形にし、言霊として口から紡がれた時こそ。

 

 

「ナザリックを、アインズ様を裏切る行為だとしても……ツアレ、私は――――――貴女を選ぶ」

 

 

 ――――――原初の世界法則に干渉し、破壊する。

 

 この選択こそが、ナザリック二度目の異変。

 救世主となるか、破滅を招くか――――――愛する二人には最早関係のない事象。

 

 

「生きて欲しい。その先が修羅へと続く地獄だとしても、最後まで生きて欲しい」

 

 

 死にゆく男の言葉は、このまま終わってもいいと懐きつつあった心を縛り上げる。

 

 

「……ずるいです。そんなこと言われたら……ッ生きなきゃいけないじゃないですか!!――――――ン」

 

 

 本当に、ずるい。初めては私からの不意討ちだった。貴方からキスを求められたのはこれが、初めて。絡み付く優しくも激しい口付け。流し込まれるソレを私は素直に受け止めた。

 

 

「んっ、んんぅ、ふ……んぅ…………ぷはぁ……」

 

「……愚かな私を許してくれとは言わない。こんな私を愛してくれた最初で最後の贈り物。……この先の希望にして欲しい。君は決して一人ではないんだと」

 

「なに、を――――――んあッ」

 

 

 世界級アイテム:ヒュギエイアの杯。効果は等価交換。重要なのは器などではなく、中身。セバスは、所有権を譲渡すると同時に、効果を発動させていた。

 死ねば消滅する魂の欠片をツアレへ分け与えた。新たな命として生まれるように。

 疼く子宮の熱を感じとり、ツアレは薄々と身に何が起きたのか理解する。だから。

 

 

「愛してる、ツアレ」

 

「愛しています、セバス」

 

 

 ソッと触れた最後の口付け。私は、動かなくなったセバスを抱き締め、堪えるのをやめた。

 

 

「あ、ああっああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――ッ!!」

 

 

 叫ぶ。弱くて弱くて、どうしようもなく弱い私。お世話になった皆さんに、セバスに、合ったかもしれない此れからも続く幸福に――――――お別れを。

 新たな命のために、私は生きなくちゃいけない。例え今から対峙するのが、悪魔だとしても。

 

 

「ありがとう……お元気で」

 

 

 祈りを捧げる――――――どうか私に勇気を。

 鏖殺者の唸りが鳴り響く。殺して殺して血の滴る音を引き連れた悪魔へ振り向き、正面から見据える。

 無傷なところなどない。ポーションを飲んだのか、徐々にだが僅かばかり塞がっているが重症には変わらない。

 

 

「取引を、しませんか?」

 

 

 絶対に断る。だから、言葉など待たずに実行する。

 

 

「うっ……!」

 

 

 自分の左目を犠牲に、ヴァルゼライドの左目を復活させた。

 

 

「くふっ……わ、私は、貴方と敵対しない。皆で繋いだその傷を治したのが何よりの証……皆を、皆殺しにした貴方は一生赦さないし赦せない。でも、私は生きなきゃいけない。それが例え味方などいない地獄だとしても……」

 

 

腹部の下を擦り、愛した人の子を絶対に産むんだと誓う。

 

 

「この子となら、乗り越えることができる。だから、見逃してください」

 

 

血の涙を流し、もっとも憎むべき悪魔に頭を下げる。

静謐が空間を支配する。失敗すれば死ぬのだ。抵抗などさせない。刹那に首は泣き別れする。

 

 

「……行くがいい。だが、腹の子が人間に牙を向けた時、容赦はしない」

 

 

踵を返し歩き去るクリストファー・ヴァルゼライドの心情など知るよしもない。しかし、この時は確かに、"唯の人間"ツアレは"英雄"ヴァルゼライドに、小さな勝利をもぎ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界に綻びが生まれる。それは亀裂。■■■■■■の法則に生じた初めてのルール違反。

 

星辰(バグ)による裏道。冥王星の異界法則。外からではなく、内側からだからこそ意味がある。

六百年前は此れでいいと判断した。六人だけでは人間を守ることは不可能。ならば、人間に戦う術を与えればいい。

だから()は、特異点となった。

原初の海。始まりの座。理の流出。

自分達がプレイしていたゲームをモデルに世界に流れ出した。スルシャーナとの約束を守るために。

人間は力を持った。守れる強さを、抗う強さを、打ち勝つ強さを。

人類は生き残れる。スルシャーナと私たち(僕たち)がいれば――――――完璧と信じていた法則は欠陥だらけだった。

元は人間だったプレイヤーと違い。NPCなどはギルメンやギルドへ忠誠を誓うようにした。

カルマ値によって、自己行動の自由度を設けた。

他にも他にも――――――百年後の塵屑に有利に働きかけてしまった。

スルシャーナが死んでしまった時、この法則を崩すものを待ち続けた。百年周期に訪れる来訪者。その中で至る可能性を秘めたのは二人。

 

現地人との融合を果たしたNPC。少女は支えてくれる人が足りなかった。

現地人と深い繋がりを得たNPC。彼はルールに反逆し愛する人を選んだ。

 

この先の展開は誰にも予想できない。

この綻びが、また新たな問題点を生むかもしれない。

それでも、現状よりはましであるようにと彼女ら(彼ら)は祈るしかない。

 

 

 

 

 

 






今回:賛否両論あると思いますので、感想お待ちしてます。

fgo:第二章の鯖は全員ピックアップ1、ピックアップ2で10回転ゲッチュ。アキレウスたんはギリギリ来てくれたよ!!

ヒナまつり:今期アニメで一番面白くない?

GW:明日から仕事。仕事だよ。

群馬県栃木県:態々行ったのに思いでと言えば、ネカフェしかないぞおい



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それぞれの死闘

時間軸は、セバスが神の法則に綻びを生んだあたりでそれぞれ終わったものとします。


 世界を揺るがす地震の直後、何の前触れもなく転移させられた両者。

 他の階層で誰もが混乱する状況で、武器を握ったのは同時だった。

 火花を散らしせめぎ合う両者。

 互いの四本の腕から繰り出す破壊音と、剣術とは何か?を真剣に考えさせられる広範囲攻撃。その殲滅力は軍、延いては国家を凌駕する。

 三人の気質は絶妙にマッチしている。

 方や四本の腕に別々の神器級(ゴッズ)武器を装備する超越者。武人として武器を構える敵対者に、ましてや第六層まで侵入を果たした侵略者を相手に油断、慢心などの戦闘の邪魔でしかない思考は排除されている。

 彼こそが主の刃。

 level100の超越者にして、武人建御雷に創造されし武装した際の攻撃力守護者最強。

 人間では再現不可能四刀流も、昆虫の能力を極めし虫の王、種族:蟲王(ヴァーミンロード)の純粋な技術を持って創造主たる武人建御雷にあらゆる武器を使いこなす武人として創造された。

 よって、levelにおいて劣っている二人の人間を戦士として敬意を表す。無論、己が負ける可能性がある強者との戦いだ。小細工も駆使し主の為必ず殺す。

 

 

「名ヲ名乗レ人間。此ホドマデノ強者、名ヲ知リタイ」

 

 

 武人として強者の名を知りたいのは道理。

 

 

「有りがたい申し出だが、まずは自分から名乗ったらどうだ。それこそ作法というものだろ」

 

「……ソレモソウカ。ナザリック地下大墳墓第五層『氷河』ノ階層守護者コキュートス」

 

「いいぞ、ノリがわかってるじゃないか!黄道十二星座部隊(ゾディアック)が一つ第七特務部隊・裁剣天秤(ライブラ)隊長チトセ・朧・アマツッ!!」

 

「まったく……黄道十二星座部隊(ゾディアック)第六東部征圧部隊・血染処女(バルゴ)隊長ギルベルト・ハーヴェス」

 

 

 存外ノリのいい三人は王道が大好き。

 雷鳴を轟かせ、光速の絨毯爆撃がコキュートスへ殺到する。

 回避不可能。第六層『大森林』円形劇場(アンフイテアトルム)の円形闘技場に障害物は存在しない。故に――――――

 

 

「無駄ダ。既ニ見切ッタ」

 

 

 雷撃を纏う鋭利で巨大な大太刀が、雷を引き寄せ悉く相殺。暴風など、刃に触れただけで霧散する始末。

 

 

「こいつヤバイな……はてさて、どうしたものか。おいギルベルトあの武器どうみる?」

 

「破壊は不可能だろう。鍔迫り合いなどもっての外。私達とは性能が雲泥の差だ。ヴァルゼライド閣下でもない限りどんなに強化しようとも武器ごと両断されるのが落ちだろうな」

 

 

 ヤバイとしか形容出来ない神の武装。従属神は神の恩恵により、この世界最強生物、一部では神と崇められる竜王をも凌駕する。

 そして、この昆虫は竜王級。手にした武器を含めれば火力は竜王さえ上回る化け物。

 

 紫電刀光『建御雷八式』。

 一刀両断『斬神刀皇』。 

 一撃必殺『素戔嗚(スサノオ)』。 

 世界級(ワールド)アイテム『幾億の刃』。

  

 創造主、武人建御雷様の"究極の一振り"はアインズ様の意向によりパンドラが所持しているが、自分がその一振りをと――――――嗚呼、雑念だ。

 

 

「剣ハ考エズ、タダ主人ノ意ノママニ振ラレ、斬リ裂ク物」

 

 

 紫電刀光『建御雷八式』、一刀両断『斬神刀皇』、二振りで戦闘を続行する。

 一撃必殺『素戔嗚(スサノオ)』は振るえない。世界級(ワールド)アイテム『幾億の刃』はまだその時ではない。

 

 

「強イナ。バランスガ巧イ。近距離・中距離・殲滅力・制圧力・チームワーク……コノ世界デ心ダケデハナイ。真ノ実力者ハオ前達ガ初メテダ……卑怯トハ言ワセンゾ」

 

「本当に化け物だな!!」

 

 

 吐く息が白く染まる。気温が急激に低下する。冷気が空間を支配する。

 フロスト・オーラ:冷気オーラによるダメージを与え、相手の動きを若干低下させる。

 中距離からの気象操作。得意距離を保っていたチトセと、近距離で牽制と誘導を行っていたギルベルト。至極真っ当な判断で、ギルベルトの首を獲るべく過剰なまでの殺意を内包した大太刀が放たれる。

 

 

「フンッ!!」

 

「おっと不味い。本当に規格外だな」

 

 

 事前に後ろへ回避行動をとっていたお陰か奇跡的に空振る。強制的に鈍くなっていく肉体の反応速度では17合で詰む。だからこそ、後ろへ下がる。チトセもいるのだ。状態異常軽減アイテムで凍傷の影響もすぐに治まる。幾つもの確率を計算し、次の起こり得る展開は――――――

 

 

氷柱(アイス・ピラー)

 

 

 地面から2本の氷柱が突き出し退路を断たれる。

 コキュートスもまた戦士。こと戦闘において敵の動きを予想し対策を練る事をアインズ様からリザードマン達から教わった。彼もまたこの世界で成長している。

 

 

「終ワリダ《風斬》ッ!!」

 

「いいや、此れからさ」

 

 

 絶体絶命の死を前に、男は予定調和のチェスを指す様に数多ある保険の一つを解放する。コキュートスの足元すべてが突如爆ぜた。

 

 

「ムムッ!?」

 

 

 踏み込んだ足が空を切り、飛び散った瓦礫が当たった箇所の衝撃がまるで倍となり体勢を崩した。嵐を帯びた斬神刀皇は見当ちがいなオブジェクトを破壊する。

 何処までも予定調和。よって、昆虫の外殻の隙間を縫うように連撃が叩き込まれる。

 

 

「固いな。薄い箇所でコレでは骨が折れる」

 

 

 ヤレヤレピンチだ。冷静な判断で下す戦力比。私一人では勝利は掴めない。そう、そもそも一人で勝ち取ることが間違っている。

 

 

「……面妖ナ、シカシ強イ。ダガ、カラクリハアル程度理解シタゾ。次ハナイ」

 

「優秀な同僚の助けがなければ私などとうに屍と化している。女神(アストレア)には感謝しきれない」

 

「キモイぞ。だがよくやった」

 

 

 抜刀即斬。玉散るばかりな鋼の銀光。背後をとったチトセの斬撃が爆発する。

 それは風、刃物と一体化した気流の渦が切り裂いている。

 

 

「エエイッ!!」

 

 

 殺意を乗せた刀と刀とが、超高速で激突し合う爆発的な爆音は響く。風を付属させ打ち合うことを可能としている。

 コキュートスの外殻が削られていく。四刀の手数が意味をなさない。それを上回る予定調和の先読み。不可視の衝撃。常時展開される疾風雷神。そこから繰り出す匠の技。

 

 

「――――――ッ」

 

 

 コキュートスの確かな驚懼。

 攻撃力、武器の耐久性からすべてのステータスが格上。創造主武人建御雷が装備していた武器を武装する栄誉は当然、その中でも最も最強の武器を揃えた。

 それ故に、使い慣れた武器を蔑ろにしてしまった。

 その手には創造された日から握り続けた断頭牙、ブロードソード、メイスは握られていない。

 四本の腕に別々の異なる武器を持つ事による接近全方位万能型。創造主より与えられた最善を、学習し自らの意思で動き出したコキュートスはアインズ様の許可を得て舞い上がってしまったのだ。

 そもそも残りの守護者と上位勢による第四層の第一次殲滅戦を想定していた。一人で戦う武装ではないのだ。

 武器が強すぎて不利。なんとも笑える状況。

 一撃必殺『素戔嗚(スサノオ)』は振るえない。世界級(ワールド)アイテム『幾億の刃』はまだその時ではない――――――そんなことでは倒せない。

 

 

「私ニ力ヲ……武人建御雷様。《不動明王撃(アチャラナータ)》ッ!!」

 

 

 コキュートスの背後に不動明王が出現する。不動明王が不動羂索でカルマ値がマイナスの相手の回避力を下げる。武人建御雷様が得意とするコンボ五大明王撃その一。

 人類守護者の二柱はカルマ値が極大プラス。コキュートスのスキルの大半はカルマ値がマイナスでなければ作用しない効果が多い。だが、そんな事を相手は知らない。

 明らかに仰々しいヤバイ怪物から延びる羂索(なわ)。効果を知るユグドラシルプレイヤーなら無視するゴミスキルも知らなければ真面目に迎撃回避に専念する。

 

 

「終ワリダ!!《倶利伽羅剣(くりからけん)》ッ」

 

 

 不動明王撃(アチャラナータ)の二種類の攻撃手段の一つ。敵のカルマ値がマイナスになればなるほど破壊力を増す。コキュートスは防御スキルを使用したアルベド(カルマ値-500)の腕を潰した対マイナスのスキル。カルマ値中立~善以上の人間に当然効果は薄い。皮が裂かれ血が滲むそれだけしか効果を及ぼさない木偶の剣も、不動明王撃(アチャラナータ)から振り下ろされる迫力(ハッタリ)に星を行使する。

 不動明王撃(アチャラナータ)審判者(ラダマンテュス)女神(アストレア)に『素戔嗚(スサノオ)』を投げた。この武器を全力で振るうことは叶わない。だからこそ――――――身体のスナップを効かした遠心力による振るうのではなく手放した。

 飛来する無骨の刀に、此れまでにない警戒をする。

武士が、刀を振るわずに投げた。ならば、それはそういう武器か、そうすることにより効果を発揮する武器。

 

 

(どう対処する?防ぐか……避けるか。あの武器がどう作用するか見当もつかん。ならば)

 

 

 より遠くに落ちるように気流を加速させた。コロシアムの壁に突き刺さり――――――空が裂けた。

 

 

「はぁ!?」

 

 

 空が割れたことで、この場所が外に転移させられたのではなく、敵のダンジョン内なんだと確認できた。だが、この攻撃力はあり得ない。アレはカスっただけで終わりだ。

 

 

「厄介ナチームプレイヲ阻止サセテモラウ。《羅刹》」

 

 

 複数を標的にできる斬撃スキル。牽制として二人の連携を断ちチトセに三刀による同時攻撃。

 

 

「あ、がァァッ!!」

 

「武器ヲ意識シスギダ。忘レタカ?虫トハ、肉体ガ凶器ナノダ」

 

 

 脇腹が瞬時に消し飛んでしまいそうなブローを受けながら、苦悶に歯を食い縛った。

 武器を警戒しすぎだと、最大級の警戒を持っていたにもかかわらず、先の衝撃的な事象を利用された。

 

 

穿つ氷弾(ピアーシング・アイシクル)

 

 

 人間の腕ほどの数十本の鋭い氷柱を手から打ち出す。手首を蹴り飛ばしたが二本が殴られた脇腹と左太ももを貫通しコロシアムの壁にまでめり込んだ衝撃が脊髄を痛みつける。

 まずは一人。生命活動を停止させるべくコキュートスは更なる追撃に出る。

 

 

「好きにやらせるとでも?」

 

「逆ニ問ウガ、私ハオ前達ヲ侮ッテイルトデモ?」

 

 

 ギルベルトは後回しとされた態度に後側から斬りかかるが――――――

 

 

氷柱(アイス・ピラー)氷柱(アイス・ピラー)氷柱(アイス・ピラー)氷柱(アイス・ピラー)……」

 

 

 氷柱が結界として邪魔をする。ギルベルトは間に合わない。氷如き一振り二振りで取り除ける障害物もそれだけの時間があれば女神は地に堕ちる。

 故に――――――

 

 

「終ワリダッ!!」

 

 

 不可視の衝撃は致命傷には至らない。コキュートスの外殻を突破する火力を有する女は終わった。ならば後は詰将棋。強く小賢しい者が勝つ昆虫の世界。正面から刃を振るう事しかできなかった武士が、悪意を持って敵の弱点を正々堂々と攻撃する。踵が地を踏み抜いた。食物連鎖の贄としてチトセを引き裂くそのその寸前――――――

 

 

「ああ、そうすると読んでいたよ」

 

 

 悪意のもう一手上を予測していた男は、軽快に指を鳴らして仕込んだ星を発動させた。

 刹那、発動する不可視の衝撃。

 コキュートスの身体を破壊の嵐が蹂躙し、何百発の見えない力が嬲り尽くす。

 ギルベルト・ハーヴェスの星辰。衝撃の付着と多重層化。

 攻撃着弾地点に不可視の多重衝撃を貼り付け固定する必罰の聖印(スティグマ)

 一度切れば十の斬撃が、二度殴れば二十の打撃が、というように与えた衝撃を多重層化させたうえで相手や自身の体、得物、あるいは周辺構造物に貼り付け(ペースト)させるという異能。

 先までの衝撃の起爆によって相手の体勢を崩すといった妨害ではなく、 多重層化された衝撃の備蓄(ストック)を殺す目的に開放する。

 

 

「グゥ、ゴフッ……舐メルナ!!」

 

 

 来ると分かっていれば耐えられる。回避不可能ならば全てを無視し目的を達成させる。未来予知じみた先見と相俟った死の詰将棋は出鱈目(コキュートス)に攻略されて――――――

 

 

「悪いな、あと一歩だ。詰み(チェックメイト)ではないのだよ。こちらも保険はかけている」

 

 

 仕込んだ多重奏は発動している。コキュートスのこれまでの学習を嘲笑う未来予測は、コキュートスが投げて、チトセが壁まで加速させた一撃必殺『素戔嗚(スサノオ)』をコキュートスが通過する軌道上まで壁に仕込まれた聖印(スティグマ)が弾き飛ばす。

 振るおうともしない無骨の刀。振るおうにも振るえないのではと推測した悪魔の如き頭脳は、投げてくれるだろうと信じていた。

 よって、激痛の嵐の中で突如飛来してきた凶器を完全に躱すこと叶わず。

 

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 咄嗟に世界級アイテムを盾として刃と刃を合わせた。

 

 

「ギィガッ!?」

 

 

 柄を握っていた肩ごと弾け飛ぶ。剣を振る速度が非常に遅いがボスの一撃すら遥かに凌駕する攻撃力を持つ武器『素戔嗚(スサノオ)』。チームプレイで初めて効果を発揮する超ド級の武器は、正に三人のチームプレイにより協力者(コキュートス)のHPは膨大に削られた。

 

 

「やはり私では殺しきれないか。だが、十分だろ女神(アストレア)

 

「私のこの現状まで予想済みか……決戦兵装――――――解放ッ」

 

 

 空を断つ一撃必殺を受け流した代償。コキュートスの巨体が一歩半後退する。刹那の停滞―――――――ここに致命の隙を曝す。

 眼帯を勢いよく引き剥がし、解き放った女神の魔眼。

 義眼の正体、聖王国の最先端の技術が可能とする干渉性の瞬間的な増幅(ブースト)

 大気の膨大な星、魔力を吸収する切り札。

 そこから放たれる一撃は、まさに彼女の全身全霊。

 天頂から降り注ぐ裁きの雷が炸裂する。

 

 

「風伯、雷公。天降くだりて罰と成せ――――――神威招来(かむいしょうらい)級長津祀雷命(シナツノミカヅチ)ィィィィィィィィッ!!」

 

 

 神威を顕現する通常の数百倍にも増幅された疾風迅雷。 

 超位階に匹敵する破壊力がコキュートスに直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移門(ゲート)を潜りぬけた先は、地獄だった。 

 空気がまるで赤い光を持ったかのような世界。紅蓮の輝きを灯す溶岩の川が流れている。本来は継続的に炎ダメージを与えるフィールドエフェクトが存在するが、転移後は節約のため切られているのでただひたすら熱いだけである。ただ熱いだけだが生者の生きられるような生易しい世界ではない地獄のような世界である。

 

 

「アッチいなおい!!煉獄の灼熱に焼かれ罪を清めたもう狭間の世界。天国への入り口か、はたまた地獄への穴か……魔王様の根城にぴったりだな 」

 

 

 ナザリック地下大墳墓第七階層『溶岩』。現在、絶賛稼働中である。

 ルベドとゼファーのせいで本来は繋がるはずのない裏ルートにて侵入を果たしたアスラ・ザ・デッドエンド。

 ナザリック内の空間が一時的に歪曲、歪んだ境界の狭間の影響は無差別転移を発生させた。

 アスラは知るよしもないが、通りすがりにぶち殺した雪女郎(フロスト・ヴァージン)は第五層『氷河』階層守護者コキュートスの親衛隊。level82氷系モンスターである彼女はフィールドエフェクトで大幅に弱体化しており何の苦もなく魔拳の餌食となった。

 それでも此処は敵の領域。一時も早くこの場から離脱し、別の階層へ移動したかった。蓄積されていく鬱陶しいダメージ、一呼吸する度に肺は焼かれる。

 故に彼は、遠目から発見した地下への入り口を最短距離で岩石の影を利用し疾走する。

 敵の気配を察知し、罠を見抜く魔星の洞察力。level100へと至った直感は、疑似未来視に等しい精度を誇る。

 英雄よりも先んじて敵の魔王を屠ってみせる気概。

 安全と判断した溶岩の川を飛び越えた。

 

 

「なあ!?」

 

 

 溶岩の川が触手として伸び絡み付き、なす術もなく引きずり込まれる。

 

 

「おいおいこいつァ……スライムか?」

 

 

 最後に視界に収めたのは、その身を溶岩の河へ呑み込んだ超巨大スライムの本体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチ、カチ、カチ、カチ――――――乱れることの無い、規則正しい歯車の音色。

 それは原初の音。全ての始まりにして永久機関。

星を滅ぼす者(スフィアレイザー)”のあらゆる光を滅ぼす絶対悪、逆襲劇(ヴェンデッタ)は、無限出力(ルベド)を蹂躙した。

 鉄屑となった永久機関(ルベド)。複雑怪奇な歯車と永久機関しかない肉体でも確かに魂は生きていた。

 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、なにも感じない常闇の中で、歯車の音色と異なる波動を受信する。敗亡の淵で増幅された悪意の波濤。この身体を滅奏した冥王星(ハデス)と第八層の『あれら』。

 

 負けている。

 当然だとルベドは分析する。アレは、ユグドラシルとかそんな法則に収まる力ではない。

 異界そのもの。反粒子が世界法則の宇宙。そんな力を前にユグドラシルの星屑に何ができる。前の私より強い最強の存在達程度の力では、絶対に勝てない。

 

 

"私なら、私なら―――――でも"

 

 

『――――――ァ』

 

 

別の波動を受信する。嗚呼、今まで気付かなかった。私を抱え遠くへ飛んでいる小さな存在。

第八階層『荒野』階層守護者ヴィクティム。

階層守護者最弱。時間稼ぎ最強。死ぬことで発動する足止めスキルを持つ。特定条件下での働きを想定されている守護者。

ヴィクティムは、泣いていた。

ヴィクティムは死ぬことで意味が発生する。その凶悪なスキルに抗える存在はユグドラシルに存在しない。でも例外は存在する。デバフ完全耐性のワールドモンスターなどの"うんえい"が創造したモンスター。そして――――――

 

 

"……ゼファー・コールレイン"

 

 

 冥王に死を持って逆襲劇(ヴェンデッタ)を仕掛けるヴィクティム。それは矛盾だ。彼も死は無駄なのだと分かっている。中途半端な危機的状況などそれこそ逆襲劇(ヴェンデッタ)を引き起こす。

 例えデバフが効いたとしても、ナザリックの最終防衛ライン。そのための最強の秘密兵器、足止めのヴィクティム、生命の樹(セフィロト)に桜花聖域も、等しく滅ぼされる。

 “冥王” ゼファー・コールレインに勝利するには、対等の土台に立つか、圧倒的な出力差が無ければならない。

 

 

"……無理だ"

 

 

 私はスピネルにすらなれないガラクタと化した。もう何も守れない。

 

 

『――――――』

 

 

 声が聞こえる。受信する。高密度のエネルギーがぶつかり合う領域で、死ぬことでしか意味を持たないヴィクティムは潰されそうで、こんな歯車な状態じゃ全てを知ることは出来ない。

 それでも、私を抱える手を通じ、涙を通じて、死ぬことしかできない本当の弱者をルベドは生まれて初めて知る。

 カグラ、ファヴニル・ダインスレイフ、ゼファー・コールレイン。三人の人間、その生涯を価値観を願いはルベドを構成する歯車()で息づいている。ブラザー・ガラハッド、ミステル・バレンタイン、アヤ・キリガクレとの出会いは光と闇だけではなく人間らしい素晴らしい答えを知る事が出来た。

 アインズ様、お姉様、セバス、コキュートス、マーレ、ユリ、恐怖公、実際に会って知ったナザリックの仲間――――――実感が持てなかった。

 

 

"パパは……意地悪だ"

 

 

 強いままじゃ、絶対に理解できない。後悔しないと、絶対に体験できない。失ってみないと、絶対に素晴らしさに気づけない。

 

 

"意地悪だよ……こんなにも複雑で難しくて、不安定でぜんぜん理解できっこない心を知れってさ"

 

 

 私の足りないものは、この涙だったんだ。

 

 

"私の足りなかったのは、人間以外の理解"

 

 

 今ならナザリックの皆と仲良くなれる気がする。

 

 

"一人じゃ、意味がない。ヴィクティム(弱者)ルベド(弱者)……二人で"

 

 

 永久機関が呼応して煌めく粒子へ転じ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回言い忘れていた裏設定。

 
  神の法則の意図的に作られた穴。
原作において、ユグドラシルのキャラクターはプレイヤーも含め悪値、善値の差で起こす行動に大きな違いがあります。

     カルマ値
極悪   -500 アインズ、アルベド、デミウルゴス
邪悪~極悪-450 シャルティア
邪悪  -425 ニューロニスト
邪悪  -400 ナーベラル、ソリュシャン
凶悪  -200 ルプスレギナ

中立~悪 -100 アウラ、マーレ、エントマ
中立  -50  パンドラ
中立  -10  恐怖公

中立   +1   ヴィクティム
中立  +50  コキュートス
中立~善 +100 シズ
善  +150 ユリ
極善  +300 セバス

ここで注目してほしいのはどれだけ主に逆らっった。意見をもうしたかという所。アルベドは立場やら設定度色々おかしいのであれですが、基本的に"悪"はプレイヤーの言う事を凄く聞きます※無能な駄犬はただ無能なだけ。身の心配系は除外
命令の範囲内でそれぞれ人間で遊んでいます。
逆に"善"ですと明確に、主に意見を申して子供や人を助けようとします。

これが、プレイヤーが強大な力で人であることを忘れてしまわないための小さな処置。
また、"善"であるが故にギルド外の生物(ユグドラシルと関係のない存在)と深い絆を育みそこから崩壊させようとした。
そもそもNPCとユグドラシルと関係のない存在が結びつくことで亀裂を生じやすくし、法則に綻びを生みやすくした。
そして、現地人を守りたい神は主、創造主の言う事を"悪"でも聞き入れるルールを作った。どのNPCにも言えることだが忠誠心はスゴク高い。でも、現地人をものすっごい害する危険性のある極悪NPCは他のNPCより主を想う様ルールが課せられた。

※八欲王にその忠誠心を利用された。だから、崩壊させたい。プレイヤーの命令でNPC全てが敵になり、統率されるよりましだと考えたから。






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似た者同士

"勝ち方の分からない、相手の手の内を戦闘中に読む戦いをしたかったんだよ"

 

 

 唯それだけの願い。

 強い人と戦いたかった。

 宿敵が欲しかった。

 最高で、燃えるような闘争がしたいだけなんだ。

 

"だから俺は……あの日、あの場所、あの瞬間で満足できなかった"

 

 溜め込んだ渇望が、流れ出す。

 彼は剣の天才だ。センスがその一点特化に集約された彼の人生は勝利しかなかった。

 駆け引きなど、同じ土台に立たなければ意味はない。

 対策など、相手が弱ければ何の意味もない。

 出来てしまう者は、出来てしまうのだ。努力、才能、環境と、人の優劣を決定づける要因も確かに存在していた。その埋まらない彼我の格差。

 彼とて理解している。彼は天才で、生まれる時代を数世紀間違えた剣豪。

 それでも、無理を押し通し現れてほしいと願った。

 彼を打倒する者を。

 血肉踊る――――――そんな夢を叶える為に。

 

 

 そんな私が敗北した。一人の騎士により完膚なきまでに。

 初めての経験は人を劇的に変える。私は、自分の得意分野で敗北したのだとその日の夜やっと理解できた。自覚した頭から胸へ怒涛とこれまでの勝利の余韻の域を超え、精神そのものに訴えかける衝動。

 

 望んだ夢がかなった喜びか?――――――否。

 ライバル登場への歓喜か?――――――否。

 否、否、否、否否否否否――――――断じて否。

 そう、望んだことだ。一度だけでいい、味わいたいと確かに願った夢にまで見た戦いを実現させた。

 それなのに、それなのに、それなのに……嗚呼、()()()()()()()()()()。 

 

 築き上げた勝利に泥を塗る宿敵(ライバル)の出現。勝つか負けるか、そんな真剣勝負。

 私は戦った。鼓動を高鳴らせ彼の全てに見惚れていた。恋だの愛だの、生涯独身を貫いた男である私が、彼の事を考えるだけで、脳裏に存在を思い浮かべただけで、鼓動が早く脈打ちその美しくも荒々しい剣筋に見惚れていた。

 そのせいで相手の手の内を戦闘中に読む戦いを忘れるとか切腹もんだよ!!

 

 

"この刹那をもう一度、あと一度……"

 

 

 これが、恋なのだろう。

 これこそが、愛なのだろう。

 愛しいぞ。お前の全てが愛しくてたまらない。 

 だから、お願いだ。本当の本当の願いだ――――――私を敗北者でいさせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武人建御雷……サマ」

 

 

 "敗北者でありたい"常勝の剣豪が渇望する歪んだ願い。コキュートスは創造主の意向を理解する。

 ステータスをブッパするだけでは攻略不可のゲームはいくつか存在する。死んで、負けて、敗北して、その度に行動パターンや勝ち方を模索していく。

 プレイヤーの操作技術。戦略に装備にアイテムに至る組み合わせも考慮される。

 一人の敵に対して、勝つまで膨大な時間を浪費する。リトライ、リトライ、リトライ、リトライ――――――奥歯を噛み締める悔しさと苛立ち。ラストのもう少しで死んでしまった時など叫びながら罵倒を口にする。

 敵の情報を細かく調べ一つ一つの攻撃力からそこから繋げるコンボパターン。他の人のプレイスタイルも参考にあの攻撃をどう対処するか模索する。

 それが楽しいのだ。それこそが醍醐味なのだ。

 最後の最後、次こそは、今度こそ……勝利への渇望は加速する。

 だが存外、本当の最後は案外あっさりと終わりを迎える。最後の一撃は努力が報われた喜びと勝利した喝采と――――――切なさ。

 勝ったら終わりなのだ。意見はあるだろう。タイムアタック、level制限からアイテム制限、攻撃手段の限定、一撃喰らったらリセットなどなど追求すればそれこそいくらでも遊べるし楽しめる。でも……ああでも、最初のあの瞬間、最後の一撃が成功した際の静謐の時。

 勝利して()()()()あの興奮には敵わない。だから、後悔する。誰しも思い一度は妄想すること、記憶を無くしてもう一度あのゲームをプレイしたい。それが敵わないから……アレは楽しかったと終わっていく。

 

 武人建御雷はそれが許せない。それでは駄目なのだ。一度灯った篝火を消したくない、消させない。

 故にコキュートス。自分より強いNPC。まあそんなものは創造不可能で、創り終わってからは要らない武器置き場に成り果てた。

 創造主はNPCに愛情など、ましてや目的さえ達成できないモノに興味も懐かない。ナザリックも過言ではない。武人建御雷が求めるのは強さ、無謀に挑み勝ち方の分からない戦闘中に相手の思考を読む戦いをプレイしたい――――――ずっと……。

 

 

 

 

 

 死の狭間、世界の亀裂から洩れだした走馬灯(情報)

 創造主の本音を知ってしまった。私は、愛されてなどいなかった。慈悲もなく、唯己の道を那由多へと歩む武士道。

 胸を締め付ける哀しみ。要らない奴。存在を否定された、物置き場。

 

 

「……ヨカッタ。私ハ捨テラレタ分ケデハナカッタ」

 

 

 七割溶け落ちた外殻、失った隙間から覗くドロドロ煮えたぎった血が噴出することなく蒸気となる。辛うじて繋がった手が握り締める一刀両断『斬神刀皇』。 

 抉れた大地に中央に佇むコキュートスに空気を切り裂く螺旋が迫る。結合を解かれた連接剣は蛇腹の刃に分解され、余人には扱いきれぬ変幻自在の殲滅兵装と化す。

 

 

「……私の切り札を直撃して生きている生物がいるとはな。自信を無くすぞ」

 

 

 チトセは切り札の一つ神の血を煽り、傷口を全快させコキュートスを包囲する逃げ場を無くした蛇腹が、殺到する。

 

 

「神話の怪物は……人間に討たれてこそ見せ場だろ?」

 

 

 なんて人間側の身勝手な意見。

 化け物は、怪物は、最終的に人間に倒されなければならない。英雄とは人々の希望として君臨する象徴。誰かの為に戦う人類の守護者。

 人間だけ、そんな理屈が通用する理不尽。

 人間のように心も、平和な日常も、ちゃんとした生活もある。組織としての立場も責任もある。家族や皆の為に戦う命の使い方も――――――人間と変わらない。

 

 

「勇マシイナ……ダガ、何故ダロウナ――――――手ガ軽インダ」

 

 

 想いに身体を預けた縦一文字が嵐を切り裂いた。

 決意、覚悟、克己心、自らの誇りを、NPCとしてではない。自己の欲望をコキュートスは自覚する。

 

 

「英雄ヲ……知ッテイル。タッタ一人ノ、偉大ナ御方(たっち・みー)。武人建御雷様ノ眼ニハ……輝カシイ光シカ映ッテナカッタ」

 

 

 誰かが困っていたら助けるのは当たり前。武人建御雷も、たっち・みーも、障害となるならナザリックのNPCどころかギルメンでさえ手にかける。

 悪いのは、我々では無い。偉大な御方に殺されるのなら本望だろうが、何の抵抗もなく死ぬのは()()()()()()

 

 

「……スマナイ。先ニ謝ラセテクレ」

 

 

 肉体の著しい損傷による身体機能の低下に伴う――――――死。

 武士として、もう全力で戦う事が出来ない。戦いを維持しようと先に勝手に死んでしまう事への懺悔でもない。

 

 

「勝手ナガラ、ヤリタイ事ガ出来タ」

 

「そうか、なら好きにすればいい。死んでからな!!」

 

 

 疾風迅雷は健全。蛇腹剣は蜘蛛の巣の如く獲物を逃がさない。ギルベルトもまた分岐した未来三十九通りに対応すべく聖印(スティグマ)備蓄(ストック)

 防御の要たる鎧を失った昆虫の王。力強い覇気も武士として主の刃の鋭さも欠片も感じない虫けら。なのに――――――

 

 

「抑制ガ……我慢ノ限界ダ。死二際ハ盛大二ト今決メタノダ」

 

 

 動から静へ。意識など不要。無意識に肉体の赴くままに、静謐の大太刀が音もなく全てを断ち切る。

 それはあり得ない現象。あのコキュートスが二人の人間を翻弄する。

 人類の最高峰はこの現象を知っている。追い詰められた限界の先にある覚醒、進化。

 だがそれは、光の属性。

 

 

「魔眼解放に伴う世界の揺らぎをオリハルコンを通して感知した。低い確率で先のエネルギー放出が原因で引き起こされたなら世界とはその程度なのだと納得しよう」

 

「おいこら待て。お前の糞つまらん冗談はどうでもいいんだ。結論を言え」

 

「可能性の一つなのだがな。結論から言えば理屈は皆目見当もつかない……星とは自己を最小単位の星と規定し法則を超能力という形で発現する。神星鉄(オリハルコン)は膨大な星の恩恵を齎す。兵器として用いれば高出力のエネルギーを引き出すことが可能。だがそれは見方を変えれば別次元の力を感知する受信装置。……ああ、なるほど。単純な理だったのか。オリハルコンが感応する死想恋歌(エウリュディケ)とは異なるより強大な法則。地上法則そのものが何らかの理由で希釈、崩壊、若しくは歪みか?もしそうなら我々にとっても無視はできない事象変動だ。神とは異世界からの来訪者ぷれいやーか、竜王だったが私の仮説が正しければこの世界にも神は存在し、今現在も――――――」

 

 

 

 空気、音すら切り裂く静謐の刃がギルベルトの首の頸動脈皮一枚ギリギリに反応する。

 

 

「驚いた。太刀筋が別人と見違えるほどの進化……否、学習したのか?オリハルコンでさえ僅かな違和感しか感じさせなかった神と、少しとはいえ繋がった?」

 

 

 従属神とぷれいやーとの関係性。

 えぬぴいしいは、神に創造された存在。

 ならば、神であるぷれいやーもまた創られた存在である可能性は?

 えぬぴいしいとぷれいやーが創られた者ならば、魂無き器に死の淵に瀕した魂が繋がった可能性は?

 従属神は、神につくられる。両者には血縁以上の契りの繋がりがある。

 もしも、もしもこの仮説が正しかったら――――――

 

 

「コキュートス殿、ご教願いたい。よもや創造主の記憶、またや経験を獲得していないか?」

 

「両方ダ」

 

 

 ――――――人もまた、神に至れる。

 

 

「……神をただ倒すのではなく、取って代わる。条件さえ解明できれば人類は閣下の栄光で永劫の繁栄を約束される」

 

 

 この呟きを聞いたものは誰もいない。不干渉の神以外は。

現状長引くのは目に見えている。コキュートスは何としても現状を打開して命尽き果てる最後の刃で殺したい相手がいた。

 

 

 

 

 

 ならば、天命の如くナザリック第八層から第一層の機能を完全停止させたソレは、コキュートスにとって光の架け橋に見えた。

 

轟く神の鉄槌を振り下ろすは、天変地異。

 第八層から放たれた観測不能の膨大なエネルギーが地表まで絶対的な破壊を穿った。

 すべてが逆さまになる。

 超エネルギーの奔流。宇宙まで穿つ光の柱を、全人類が目撃する。

 ナザリック上空を飛行(フライ)する魔導師がいるとすればその破壊痕をこう例えただろう――――――深淵(アビス)と。

 

 

 余波でさえあらゆる万物が塵となる破壊の素粒子。至極真っ当、合理的に、本能にしたがい人間に過ぎないチトセとギルベルトは遠くへ逃れようと全力速で森林を駆け抜ける。

 

 

「くッ、右目が疼く」

 

 

 ウェンデッタが力を行使した時と似た疼き。プラスされる何処か懐かしい嘆きの叫びは紛れもなくゼファーもの。そして。

 

 

「なんだアレは?あんな馬鹿げたモノが存在してていいのか。ふざけるのも大概にしろよこの世界めが」

 

「どうしようもない。形となった真の神とはああゆうのを言うのだろう。だが、何より興味を引かれるのはその神と戦っているコールレイン少佐だ。今回の戦争を無事に生き延びたならば話を聞きたい」

 

「私が許可するわけないだろ」

 

 

 巻き込まれないためにこの階層の壁越しまで距離をとったが、奔流の余波に破壊されたジャングル。土砂と木々から身を守りながら、更地となっていく景色を眺めた。

 

 

「……鉄で打った無属性の刃でさえ血が流れ、焚き火さえ火傷をする。どれだけ技を磨こうと人間としての脆弱性は変えられない。この光景で改めて人間の弱さを思いしったよ」

 

 

 この現象を引き起こした化け物と私の人狼(リュカオン)が戦っている。

 

 

「お前が珍しくやる気になったんだ。結果はどうあれ……絶対に私のもとに帰ってこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今ノ私ナラ分カル……ルベドノ仕業カ」

 

 

 天命は味方している。我道を指し示すかのように彼の足元に転がり込んできた世界級アイテム『幾億の刃』を超エネルギーの奔流から発生する余波に刃先を向け、静かに解き放った。

 

 

「『幾億の刃』――――――発動」

 

 

 破壊を逃れたコキュートスは、深淵(アビス)へと身を投げた。

その奇行を、深淵(アビス)の支配者が見逃すはずが無かった。

 

 

『奮闘も高揚も後悔も憤怒も悲憤も感じぬまま消滅するのが貴方の願いなの?』

 

 

 空気を漂う素粒子がナザリックを満たし、素粒子を通して感情の揺れ、体調、伝言(メッセージ)擬きと撒き散らす破壊の粒子はルベドの触覚として作用する。

 

 

『これは警告。例えアインズ様を殺しても貴方の望みは得られない』

 

「――――――ッ!!」

 

『怒らないで。だからこそ、穴を抜けて北西を目指して、幾億の刃に乗っていけばいい。その先に……望む敵がいる』

 

 

 コキュートスの熱く、輝く、闘志をもって――――――アインズ以上の相手と戦いたい。

 

 

『私を信じて。貴方の願いは、渇望は、絶対に満たされる』

 

 

 絶対に抱いてならない願いを渇望してしまったコキュートスの初めての理解者。素粒子を通してルベドなら必ず私を導いてくれると確信する。

 

 

「感謝スル……アリガトウ」

 

 

 改めて仲間に指摘され、自身の願いが破滅さに笑ってしまう。

 

 

「武人建御雷様同様、私モ馬鹿者ダナ」

 

 

 勝利を求める分まだ親よりましだと、やっぱり似た者同士だなと胸を張って深淵(アビス)から離脱し、まだ見ぬ待ち受ける強敵への戦術を考察するのであった。







KH2FM:この作品の裏ボスがいい思いで。攻略動画とか見ても勝つのに二週間かかった。確実に100回以上は負けてる。

武人建御雷:めんどくさいひと筆頭。

コキュートス:似た者同士。

この二人の願いを皆さん少しは共感できますか?
※コキュートスはまだ全部をさらけ出してはいません


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あがるもの、おちたもの

「―――――――ヒ、ハ……」

 

 

 アスラは嗤った。実に下らない行き止まり(デッドエンド)

 修羅に生きた男は自我認める"技の極み"にすら至れず。我が儘を貫いた先が下らぬ烈火に焼かれる悪餓鬼の最後。

 肉体に焼かれていない箇所など存在しない。水脹れと炭化した皮膚、爛れ変色した人の形をした何か。彼を知るものが見ればあり得ない悲惨な有り様。両足と左腕は溶岩の触手に絡めとられ完全に炭素化し生命活動を維持する弱々しい微弱な呼吸運動でさえパラパラと崩れていく。

 我天上天下唯我独尊成り。魑魅魍魎が闊歩するデタラメな世界で、指輪やアクセサリーアイテムによる強化も、剣や小手などのグローブ系の攻撃力向上素早さ向上反射などのアイテム補助を一切身に付けず、拳のみで世界有数の実力者となった魔拳。

 ぷれいやー、竜王、超越者、かのもの達と並び立って尚色即絶空(ストレイド)の渇きは癒されない。

 強さに興味が無い訳ではない。強い方がいいに決まっている。女も金も権力もこの世界では暴力で手に入ってしまう。圧倒的力を前に、跪き両手を重ね祈りを乞う弱者。王も女王も戦士も賢者も天災の暴力に膝を折り首を垂れてしまう。殺したい時に殺し、やりたい時にやれる王者。

 神の如き天変地異を引き起こすぷれいやー。

 世界を調律する管理者竜王。

 上限最高レベルの超越者達。

 

 糞食らえだカスども、等しく我が高みの糧となれ。死に晒せ、神様気取りのクソッタレが。貴様らが求める欲では俺の渇きは潤わない。

 強者の義務だの矜持だのうるせぇ黙ってろ。

 存在の格の違いで無力化してアイテムやスキルや魔法で楽して勝って退屈だろ?

 それらも含めて己の力とほざくな。まずは、五体極めてから出直せや――――――それこそが、拳の極み。

 同格に並んだ今だからこそ星を行使することなく奴等と戦うことができる。此れから始まる。一人のこらず餌として喰らってやる。 

 そんな決意など嘲笑うつまらない現実。

 敵の殺戮領域に踏み込んでしまった大馬鹿者は、見事盛大な相討ちをかました。

 

 

 

 

 

 人の知覚を掻い潜った隠匿、隠蔽、気配遮断の熟練度はこの領域においてのみ、潜伏箇所を把握するナザリックの者であったとしても対策を練らなければ必ず溶岩の川に引きずり込まれる。故に、殺し合いは一撃で終わりを迎える。

 超巨大奈落スライムの触手に絡めとられ引きずり込まれた時点で、互いの初撃が両者の命運を分けた。

 アスラの星――――――色即絶空空即絶色、撃滅するは血縁鎖。

 人間の究極。努力の延長であり、修練を積めば誰にでもできる先を体現した星辰は、指先が一瞬触れただけで文字通り防御不可能の一撃必殺が対象を内部から破壊する。

 溶岩の温度は摂氏1200度。灼熱物質の超巨大奈落スライム種、通称紅蓮。

 守護領域である溶岩の河(テリトリー)へ呑み込んだ紅蓮の対応は何も間違ってはいない。ただ一つ誤りを述べるならば、初撃で即死ではなく、溶岩に焼かれる猶予を与えたこと。

 何時も通りの狩りの手法は、千載一遇のチャンスを棒にふるい自ら触れてしまった敗者の核を、衝撃操作が弾き飛ばした。

 

 

(――――――糞がァッ……)

 

 

 此れにて決着。刹那の邂逅は此れにて幕引き。ああ本当に嗤える。

 目指すべき影すら踏まずしてどうする。内から焼く痛みすら男にとってどうでもいい。握る拳さえあれば、それだけでいいのだ。

 継続的に炎ダメージを与えるフィールドエフェクトが死に体に追い討ちをかける。

 意識させ不鮮明なぼやけた視界がにメイドのような犬が映り込む。

 

 

「安心してください。子供は必ず助けます……わん」

 

 

 奇妙な運命が、此処でクロスする。

 

 

「この語尾は癖ですね。八層は危険、早く六層へ行かないと」

 

 

 回復魔法を行使しながら担がれたアスラは笑う。

 

 

(クソッタレが……なるようになれや)

 

 

 巡り合う運命は、地上を目指し第六層へ。

 そして――――――眠っていた泥が第五層から堕ちてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~~……ン、んんぅー……」

 

 

 深く沈む微睡む眠気のせいか、頭から爪先まで気怠く目蓋が重い。

 このまま闇と一体化するかのような暗がりの中、ゆっくりと闇底に囚われていた冷え切った身体に(ココロ)が灯る。

 灼けるような痛みと、感じたことのない感情の爆発。両腕の肘から先から流れ込んでくるソレラ(チカラ)のキャパシティを受け止められず何度も何度も気を失う。

 

 世界級アイテム――――――強欲と無欲。

 白と黒の小手(ガントレット)、右手の天使『無欲』と左手の悪魔『強欲』。

 

 なんて……僕にピッタリなアイテム名だろうと思った。

 創造主ぶくぶく茶釜様は"常にオドオドした態度をしている男の娘(天使)"を創った。姉を常に立てる姉よりすぐれた弟なぞ存在しねぇ可憐で可愛い少女――――――だが男だ。

 保護欲をくすぐる瞳の奥は、ナザリックの誰よりも設定に反して濁っている。セッティングテキストはそう定められたNPCの人格を形成する思考と性格そのものであり生き方だ。

 だからこそ、マーレ・ベロ・フィオーレはNPCの中で異質。ぶくぶく茶釜の可愛い理想の弟は邪悪な天使だった。"演技であれ"と設定されたわけではない。姉のアウラと比べればカルマ値:-100中立~悪が嘘のようだ。

 だがある意味、ナザリックの仲間以外中立で悪であるマーレは異質なだけで模範的な下僕。

 

 故に――――――神の縛りから解放された邪悪な天使(悪魔)は、怪物となる。

 

 

「ンー……そろそろかな?いこっかみんな、一緒に……殺そうね」

 

 

 マーレを包んでいた雪が小手を中心に溶けていく。世界級アイテム『強欲と無欲』の効果は、装備者が手に入れるはずの経験値を強欲が吸収・ストックし必要に応じて無欲がストックした経験値を経験値を消費する様々なことに使用することが可能になる。型にはまれば一人で複数人のプレイヤーを完封可能なアイテム。

 それだけの経験値保存アイテム。

 そもそも自身の格を上昇させる経験値とは何だ?

 倒した相手の何が流れ込んでくるんだ?

 だからマーレはある仮説を実行した。仲間思いで空気の読める心優しいマーレは、復活することも叶わない仲間達の経験値()の残り火をかき集めた。ナザリックにおいて創造主に創られた存在は金さえ払えば復活する。ナザリックのシステムが命の創造を実現させている。そう、HPを全消させたNPCの魂はナザリックのシステムに一度回収される。それが完全復活が不可能なほどの粒子だったとしても。

 仲間を想う天使の『無欲』が、システムに取り込まれる前の経験値(残滓)を回収。死後さえ使い潰す悪魔の『強欲』が、マーレの経験値()に加算されていく。

 本来思い付いても実行など不可能な事象。レベル上限が決められた世界に抗う神の反逆者。

 言わばこれはチートツール。ルールの裏側。運営にバンされても文句など言えない諸行。プレイヤー基準の常識で考えればレベル100以上は運営が用意したワールドエネミーなどの化け物くらいしか実装されてない。

 アインズは、マーレと同じ経験をしたにも関わらず技術の向上はあり得るがレベルに関してはその限りではないと決めつけている。これは凝り固まったプレイヤーの性。

 

 だって、マーレは見て体験したのだ――――――光の奴隷(ダインスレイフ)を。

 実例が存在した。なら、試す理由はそれで事足りる。

 

 これこそが、アインズとマーレとの認識の違い。

 プレイヤーにとってレベルアップの経験値は倒した際の数値でしかなく。マーレは倒した敵の力そのものである魂が、殺害者の魂を補強すると考えた。

誰もが知るよしもないが正確なレベルアップの理屈は、他者の力で自らの魂の外郭を補強する事で行われる。

 ならば、邪竜が成功させた魂と魂を1つにする行いは、互いが消滅する危険性が圧倒的に高いのだ。それを、リミッターなどとうに壊れているマーレは、躊躇もなく限界突破を果たした。

 その結果、四十一回死の縁をさ迷うだけで成し遂げたのだ。

 今のマーレは新しい自分を認識している最中。もう五分ほどすれば、完全に馴染むであろう。

 だが、そんな肉体など置き去りにして精神は先行する。早く、速く、はやく殺さないと、皆と一緒に――――――愛する()のために。

 

 ドロドロに濁った瞳が、遥か階層を見据える。

 第八層の強大な衝突し合う気配の影響で九層と十層は探れない。

 

 

「虫が下に迷い混んでる……大地の大波(アース・サージ)

 

 

 第六層に向け"頼りない大自然の使者"は落ちていく。殺すために、皆のために、男のために――――――堕ちていく。

 

 

「ナーベラル、ユリ、恐怖公、オールオーレ、紅蓮、デミウルゴス、シャルティア、セバス――――――」

 

 

 戦争で散っていった大勢のナザリックの仲間達。名前などない仲間達。一緒に遊んだ第六層のペット達。そして――――――

 

 

「………………お姉ちゃん」

 

 

 マーレ・ベロ・フィオーレの魂が暴れだす。

 数百何千とぐちゃぐちゃに混ぜ困れたマーレの魂はそれでも正気(狂気)を保つ。

 自分の手で、第五層と第六層に穴を開けたマーレは家を汚す何だかよくわからない汚物を、泥の双眸に映した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第九階層『ロイヤルスイート』。白亜の城を彷彿とさせる荘厳と絢爛さを兼ね備えた世界。見上げるような高い天井にはシャンデリアが一定間隔で吊りさげられている。広い通路の磨き上げられた裕香は大理石のように天井からの光を反射して輝いている。

 現世に実現した桃源郷。地獄を踏破した英雄のみがたどり着ける黄金卿――――――だったもの。

 

 

「セバス様……私に勇気を」

 

 

 きらびやかな幻想は消えて無くなる。

 多くを亡くした。多くを奪われた。多くを失った。数多の痛みを背負い彼女は、自分なりの光へ進み続ける。

 第八層へと繋がる門まで距離二十メートル。素人なスニーキングでここまでたどり着いた。逃げようとしている今のツアレが見付かればナザリックの者に殺される危険性がある。最後の曲がり角で顔を覗かせ、門まで誰もいないことを確認する。

 ツアレに迷いはない。絶対に生き延びる。全力で走れば二秒もかからない。駆け出そうと足に力を入れた。

 

 

「……ストップ」

 

 

 背筋が凍りついた。背後から響く無機質で平坦な声。後頭部に押し付けられた尖ったソレは、ツアレの生殺与奪を握っている。

 

 

「何故人間がここにいる?敵の捕虜ならメイド服の囚人はセンスがいいと評価しよう。だが、私もあまり時間がないのだよ……死にたくなければ質問に答えろ」

 

 

 外からの人間なのか?返答次第では命はない。ここぞとばかりに必死に考える脳は、ある違和感に気付いた。この少女の声は聞いたことがある。そう――――――

 

 

「シズ……さん?」

 

「あれ、ばれた」

 

 

 振り向くと、人差し指を銃の形で突き付けていた戦闘メイドのシズ・デルタがウエーイブイブイと無表情ながら妙にテンション高めにそこにいた。

 

 

「ハローマイネーミズシーゼットニイチニハチ・デルター。シズちゃんって読んでねハート」

 

「え、えぇっと……ツアレ・チャンです」

 

 

 こんな人だった?そんな疑問を飲み込み細かく観察する。武器を所持している点以外は何時ものシズさん。緊急時だからそこに違和感はない。

 

 

「ツアレ・チャン?……………おーおめでとうございます。ペコリ。我らが天然ジゴロを遂にその手に納めたとはすごーいすごーい」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

 

 緊張やら緊迫やら張り詰めていた気が少し抜けて、くすりと笑う。

 

 

「……よかった。セバス様は最後まで幸せに死んでいったんだ。メイド達の亡骸を確認したけどツアレはみんなに守られたんだ」

 

「――――――はい。あの方達こそ、本物の英雄です」

 

 

 最初っから超人の英雄など私は認めない。弱さも知らないくせに何を救えるというの。

 一人で自己完結し誰の手助けもなく成長する一逸人。

 人は自己の経験則でしか生きられない。なら、私は――――――

 

 

「シズさん……一緒に地上へ逃げませんか?「いいよー」勿論ナザリックの………………え?」

 

 

 ――――――ん?

 

 

「ん、え?あのー……え?」

 

「ツアレ混乱してる。逃げるんでしょ?いいよ、私もツアレ大好き。それに、よく皆が聞かせてくれた……どれだけツアレのことを気にかけてるか」

 

 

 "シズちゃんこの話は絶対に内緒ですからね!!"

 "戦闘メイドに何て口の聞き方を……"

 "えーシズちゃんはシズちゃんだもーん"

 "まぁー落ち着け。同じメイド同士なんだから"

 "……パフェうまぃ"

 

 自動人形のシズには、触覚がない。痛覚も疲労もない。だからかな――――――この暖かい感情だけは大切にしたい。

 

 

「ツアレの周りはとっても暖かい。ツアレがナザリックを離れて遠くで暮らすなら私もついてく」

 

「……私はこの場所に、返しきれない恩をいただきました。そんな居場所を捨てる私を……まだ、仲間と呼んでくださるのですか?」

 

「当たり前、マブとも。ブイブイ」

 

 

 心の何処かで引っ掛かっていた罪悪感が、紐解かれていく。私はまた、大切な仲間に助けられてばかり。いつか、例えお婆ちゃんになっても、この光に報いる恩返しをしたい。

 だから――――――

 

 

「可愛い可愛い妹が反旗とは、悲しいわ」

 

 

 嫉妬に色塗られた憎悪の底無し沼。

 

 

「でも、妹を溶かして食べるってどんな感じなのかしら?初体験ですわ」

 

 

 好奇心で獲物を飲み下す怪物。

 

 

「今思い出すと……質の面で一番美味しかったのは貴女の胎児だったわ」

 

 

 嗜虐心が極限まで口角をつり上げた笑みを浮かべ。少女たちを飲み込まんとソリュシャン・イプシロンが潜んでいた直上の天井から襲い掛かった。

 

   

  

 









3話続けて風呂敷を広げる作業。
まとめないと(使命感

fgo:最初の半年はどれだけ課金しようが星四すら手元にはなかった。fgo初めてのお正月星五確定ガチャは玉藻。今では高難易度攻略に欠かせない鯖ですが、初期の頃は火力が全て。※火力鯖がいない
何より当時は孔明の宝具すら殆どミス表示の時代。嬉しかったけど、最初の一年は辛かった(涙
そんな時、星四鯖配布のお知らせは運営神かよと洗脳されてました(おめめぐるぐる
そこで初めて手に入れた火力件好きな鯖として選んだのがヘラクレス。

皆さんの初めてゲッチュした星五、星四鯖はなんでしたか?

ちなみに、ピックアップの度に必ず全鯖ゲッチュしていた友達を、心のそこから妬んでました(ニッコリ


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頼りない大自然の使者

 世界最高位の星辰体感応奏者(エスペラント)。神をも下す唯の人間。

 人類の守護者二大巨頭、審判者(ラダマンテュス)女神(アストレア)

 この世界の基準で英雄の領域に踏み込んでいる逸脱者。各国には様々な英雄が存在しているが、二人に言わせれば自分達もまた実力のある人間に過ぎない。『真の英雄』はたった一人。光輝く頂で人々を導く黄金の太陽神(ゼウス)――――――クリストファー・ヴァルゼライド。

 否、そもそも比べるのが間違っている。鏖殺の雷霆――――――天頂神と同じなど頭がおかしくなる。

 故に、『英雄』に籠められた願いはそれぞれ絶対に異なるのだ。

 

 ならば、退くことなど出来はしない。『英雄』がいない戦場で光輝く太陽とは異なる『英雄』として人々から讃えられる両者だから()()()()で勝たねばならん。

 

 

「ススススススス好きなんです……愛ィしてる。皆大好ギ。ナーベラルもユリも恐怖公もオールオーレも紅蓮もデミウルゴスもシャルティアもセバスも――――――お姉ち゛ゃんモ」

 

 

 それは、悪性の泥。

 悪を煮詰め形を整えただけの神の失敗作。

 少女と見間違う少年から垂れ流れる醜悪の呪詛。

 

 

「怪物、化け物の類いを腐るほど見てきたが……臭うな。臭いぞ。鼻が曲がる。ゲス以下の穢れだ」

 

 

 悪魔は純粋なまでに悪だ。人の想像する悪そのもの。ならば、目の前の泥は悪魔よりたちが悪い。

 悪の敵と自負する我らが総統閣下も、これは駄目だ、終わっていると斬り捨てる。

 

 

「凄まじい波動だ。英雄譚や、反逆劇とも異なる絡み付くドロドロの欲望。私達だけでは勝利を掴むどころか生き残ることさえ難しいときた。だが、少しでも勝算があるとすれば――――――」

 

「今」

 

『この時!!』

 

 

 上層から落ちてきた無邪気な悪魔は、着地もままならず前後左右不覚に陥っている。派手に地面に激突し生まれたての赤ん坊が暴れるように土を被りながら這いずり回る。

 理屈も理由も不明な千載一遇。泥の中で孵化を待つ蛹を打ち砕く。

 

 

「持たせろ」

 

「了解した」

 

 

 再び解き放った女神の魔眼。裁剣の女神(アストレア)は空間に漂うルベドさえ消費しその出力を高めていく。

 

 

「ギ、ィィィ――――――ッ!!」

 

 

 魔眼の許容力を越える出力。右目に集束するエネルギーがチトセの神経を焼き焦がし脳まで危険信号を送る。

 血液が沸騰する。神経が焼かれ脳が壊れる――――――まだ足りない。

 コキュートスを消滅させるエネルギーだけでは足りない。アレは、超越者(level100)を超えた全く新しい何か。

 故に、視認すら出来ていないマーレは傷を負う危機を前に蠢く誰かの本能が反応する。

 草木がのたうつ鞭にして鎖のように外敵に殺到する。魔法『植物物の絡みつき(トワイン・プラント)』効果、植物が敵の行動を阻止するのとは異なり、一つの意識さえ感じさせる受動的なうねり。絡み付き締め付ける工程など踏まない。高速で振るわれた鎖は一工程で命が飛ぶ。

 

 

「私を無視して最大脅威を排除しにかかるか。それはいくらなんでも考えなしではないかね?」

 

 

 マーレの周りから発生しているソレラを、根本から刈り取る。何だこいつ?邪魔をするなと新たに発生しても根本から弾け飛ぶ。

 

 

「地表に生える草木を急成長させるだけなら、パターンは読みやすい。私は所詮凡人だが、獣にすら劣る判断力では殺される訳には行くまい――――――時間だ」

 

 

 時間稼ぎは終わった。敵の覚醒を予感していたが間に合わなかったのならそれまでだ。互いに合図などない。高める出力と魔眼自体の耐久性をおおよそ予測して踵に貼り付けていた多重衝撃で後退したその時――――――

 

 

「――――――神威招来(かむいしょうらい)級長津祀雷命(シナツノミカヅチ)ィィィィィィィィッ!!」

 

 

 設計値を超えた運用に耐え切れず砕け散る魔眼。ぽっかりと空いた空洞から流血する血、神経、細胞(対価)を代償に神威を顕現する。基礎運用で超位階に匹敵する破壊力。ならば、魔眼も肉体の耐久性を度外視に使い潰したその威力が"頼りない大自然の使者"へ裁きの雷が炸裂する。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ババババババババババババババババババババババババババア゛ア゛バア゛ババババババババババ」

 

 

 滅奏すら穴を穿つ疾風雷神。防御もなく直撃すればルベドを消し飛ばす絶大な威力。

 マーレ・ベロ・フィオーレには耐えられない。炭化する前に消えていく。形容するならダルマ……否、臓腑が消える。細胞が死んでいく。ミイラとなっても消滅は止まらない。

 マーレの死にゆく姿に、人類の守護者は戦慄する。

 

 

「追撃は不可能、近づく事さえ叶わないか。凄まじい威力だ。それ故に――――――」

 

「ああ、()()()()。端から順に消滅していくもんじゃないんだぞ」

 

 

 光の速度で飛来する必中の稲光。高出力のエネルギーは一瞬で対象を消し去る。それが崩壊が段々と遅くなっていく。まるで、別の力に押されているかのような――――――

 

 

「大概にしろ怪物めが。一々貴様らは異常性を見せびらかされる此方の身になってみろ!!」

 

 

 破滅の波が過ぎ去っても形を保つ未確認生物。筋肉繊維で骨が繋ぎ止められた両腕。肩から心臓までを接続する骨と皮と粘膜。それは生きていた。心臓が鼓動を刻む。本来血液を循環させる心臓から延びる管からはドス黒い泥が零れ出す。飛び散った泥が失った器官を補う。世界級アイテム"強欲と無欲"を運用する(プラグ)に泥の肉が補強される。全身に染み渡り、人型を崩したような形の自らの体を作り上げる。

 

 

「これは想定外だ。国を亡ぼす神々の魔法、スキルの領域を超えている。まさか……別次元の異界法則へと至ったか?だが先の閃光が仮説段階であった"極晃星"なのだとすれば材料となるピースが欠けている。ふむ……もう一押しといったところか」

 

 

 ヴァルゼライド閣下が真なる神に至る非常に興味深い実験対象だが、こんな物がなくともあの御方なら辿り着けるだろう。そんな絶対な確信を抱き光に焼かれた妄信者はチトセのバックアップで付属された風を刃に乗せ暴風と多重衝撃で泥に覆われた心臓部を胴体ごと穴を空けた。

 この世界とは異なる異形種へ変貌したマーレ。アストレアが殺し損ねる事も想定していた未来予知じみた先見と相俟った死の詰将棋。こんな異形になるとは想像だにしていなかったが先の光景から核を潰せば殺せると踏んだ。瞬時に幾百と導き出した道筋。まだ覚醒が始まったばかりの反動による隙を曝け出した今がチャンスと最後の一撃を決めた。

 

 

「なんと……小手と心臓は肉体的に繋がりを断たれようが泥が回路の役割を果たせるのか」

 

 

 心臓に完全に馴染んだマーレは冷めた判断で心臓を下半身に避難させた。効率的な肉体放棄。泥の性質を獲得した瞬間に理解した頼りない大自然の使者は、十全に、効率的に運用する為に心臓と世界級アイテムだけを残した。零れる泥がマーレ。溢れる黒がマーレ。増える。流れ出す。呑みこまれた全てがマーレになる。

 

 

<何処の誰だか知らないですけど……もう寂しい想いをしなくていい。皆、大好きな皆が一つになる>

 

 

 膨れ上がる泥を前にギルベルトは本質を理解する。

 

 

「……そういうことか。皆が溶け合う、理想郷を自己を器に実現した訳か。問題は――――――」

 

<かわいそう……僕が助けてあげる>

 

「区別もなく視界に入る生命を見境無しに取り込むか。困ったな相性が最悪だ」

 

 

 泥などの液状物は多重衝撃を貼り付け固定する必罰の聖印(スティグマ)が効きにくい。固定化されていない物に付属しても相手の意思でその部位を放棄できる。もしものための布石や保険がしにくくなる難点が存在する。ヴァルゼライド閣下と違い運河を切り開く芸当は彼には到底出来はしないのだ。

 よって――――――

 

 

「ふっ!!」

 

 

 聖印(スティグマ)を貼り付けコンマゼロ秒で発動させる。

 海を割ったモーゼのようにヴァルゼライド閣下なら可能かもしれないが、ギルベルトは降りかかる泥の小川しか対処できない。

 

 

「ふむ……()()()()。悉く外されている。マーレ・ベロ・フィオーレとは異なる思考パターン――――――再利用か」

 

 

 残骸と化した悪魔の頭脳をマーレは使いこなす。残留に過ぎない力は同じ天才としての視点で心臓を移動させる。

 

 

「他者を取り込む性質上取り込まなければ泥とならない。この泥の中に私と同類が居てもおかしくないか。ならばそろそろか」

 

 

 宣告通り自然現象を無視した雷撃が横に奔る。余す所なく焼かれ統率が鈍る泥。

 

 

「これはどうだ?」

 

 

 その間隙に放たれた一薙ぎ。外した泥の表面に心臓を捉えた。

 

 

「惜しい。だがやはり劣化している。拡散性と干渉性が飛び抜けている分維持性がまるでない。ならやり方は幾らでもある」

 

 

 人の形を模るのを辞めより増大する泥が四方八方に溢れ出す。

 肉体を捨て、ぶくぶく茶釜に与えられたマーレの形をも廃棄する。的を絞らせないためかぶくぶく肥大化する。

 それは巨大な茶釜。聞くに堪えない呪詛の嘆きが反響し反響し反響し茶釜を震わせる。

 マーレの心境も夢も願いも渇望も本質など邂逅したばかりの両者には何一つ分かり合うことは無い。

 だがら身近ではない客観的な第三者としてチトセは薄々察してしまう。

 

 

「愛を謳う哀しみの安息(レクイエム)。無様だな、捨てられたことがそんなにも認められないか。優しく誰かに慰めて欲しいか。失うことがそんなにも怖いか」

 

 

 誰もが懐く優しい願い。誰もが認められない。優しくされたい。失いたくない。嗚呼だから。

 

 

「救いがない。普遍的願いを拗らせた"悪"だよ貴様は」

 

 

 茶釜の中で反響する鼓膜が破れそうな嘆きにマーレの声は一つとして存在しない。仲間と共に在る幸福も高揚もそこにはありはしない。正常に正確に冷静に冷徹に狂喜に狂気に驚喜に結果を理解しているのに。

 

 

「口では愛だの仲間だのほざきながらその行為に何の救いもないことはお前が一番分かっているのだろう。死者を使い潰し死して尚苦しめ愚弄するのが仲間だとお前は反論するつもりか」

 

 

 見るに堪えんと皮肉を吐き捨てた。この世界では一部の魔法使いは死者蘇生が可能である。だが、始原の理において死者蘇生の理は存在しない。調律者である竜王が世界の流れを捻じ曲げるのは矛盾が生じるから。そして、染まることなく始原を継承させ進化させてきた我々もまた死者蘇生の概念は知ってはいるが存在しない。

 五百年前八欲王に大敗した"調律者"竜王。死者蘇生を用いれば掴めた勝利。人間の国であるローブル聖王国はスレイン法国との交流により死者蘇生を依頼の体制で世界の秩序なぞ知ったことかとやっている。だからこそ、復活すら叶わない魂の残り火を台無しにしているこのアホが赦せない。

 

 

<外の人間は僕たちと違って頭も悪いんだ。死の支配者(オーバーロード)は死こそが救いなんだよ?復活すら無理ならこれが正しい形なんだよ。それにぶくぶく茶釜様(至高の御方)と同じになれるなら皆幸福なんだ>

 

 

 ギルド第一。至高の御方が存在の全て。その法則が崩壊した今、創造主でもないピンクのスライムに忠誠心など微塵もない。仲間の苦しみも、嘆きも、否定も、罵倒も、マーレには好意的に聞こえる。

 だって仲間なんだから。至高の御方(ぶくぶく茶釜)を敬愛する同士なんだから。皆すぐ僕に意地悪なこと言うけど、それは皆素直じゃないだけ。

 

 

「ぶくぶく茶釜?ふざけた名前だ。ぷれいやーのセンスは理解できんな。恥ずかしくないのか」

 

<Haア?>

 

 

 誰だかよく分からない赤の他人が、お母さんを侮辱した。仲間でもない知らない奴が塵芥がぶくぶく茶釜様を馬鹿にした。死ねゴミカス。皆もそう思うよね。頭のおかしい下等生物に鉄槌を。

 仲間を消費して呪文すら唱えることなく、雲のない地下空間に雨が降り始める。一分降水量1000mm以上の強烈な雨。一分で1m正方形の容器が溢れ出る滝の雨。流れる川を幾つも作り、木々は土砂と共に()()()()()

 

 

「口から本音がぽろっとつい煽ってしまってあれだが、本気で後悔してるぞ!!魔法防具粋の結晶が溶解……台風の目から出るな、死ぬぞ」

 

「感謝する。分かってはいたがあと少し遅ければ死んでいた。万能とは便利だな。私の星は使い所が限られる。こうも四方激流に呑まれれば無力なものだ。しかし、大人しく静観など以ての外だ。結界はどれほどもつ?」

 

「楽勝と言ってやりたいが、そう長くはない。一粒が鉛のように重く、溶解させ、そのくせ重さを感じさせず水と全く変わらない物理法則で動き回る。高出力を維持したまま加算されていく水位から身を守り移動となると人並みの全力疾走までしかだせん」

 

 

 こんな分かりやすいピンチに、天使の悪魔は静観しない。台風の壁が滝圧を撥ね退けるも視界は死んでいる。

 気配を探りジグザグに走る。警戒に目を凝らそうが、流れに逆らわず細く長く伸ばされ泥のスライムは既に包囲を完了した。

 

 

 

<えい!!>

 

 

 発生させた雨に仲間の集合体である泥を溶かしながら風である結界を掴みこじ開けた。

 塵も積もれば山となる。魂の残骸に過ぎない塵の山を消費して繰り出し続けるユグドラシルではあり得ない干渉事象。愛用魔法土を操作する大地の大波(アース・サージ)とは異なるまるで誰かを参考にした剣燐が地表から出現する。

 

 

「飛ぶぞ!!」

 

 

 結界を集束させ風の力を利用し上へ飛んだ。頭上に展開した風の渦がなければ、二人仲良く溶け落ちている。だが、気休めにすぎない。下からの水飛沫、不規則な雨は斜めから溶かしにくる。更に、迫り来る竜の剣隣が追尾する。嗚呼……更に上から視認した張り巡らせたスライムの糸が一斉に振り上げ、天から雷を落とす。

 

 

「――――――カ、ハァッ」

 

 

 チトセの気流操作能力。大気という普遍的な事象を統べる知覚が稲妻の発生前に行動に移させた。

 敵を蹂躙し破壊する暴風を自分とギルベルトに命中させた。台風に滅茶苦茶にされながらも能力を切らない。溶かされず空中を孟スピードで移動する。この状況を打開するには、命を賭けるしかない。

 

 

(このままでは自滅する。嗚呼糞が、本来ならこの役割は銀狼(ゼファー)だろうが!!)

 

 

 地獄まで付き合ってもらうぞギルベルト。愛しの副官でないのが残念だがお前なら、私の意図を汲み最善の手を打つ。

 

 

<へー楽しそう!!私も混ざりたいな!!……ぼ、僕が手伝ってあげるね>

 

 

 仲間の断末魔を奏でるメロディーは心地良く。チトセの暴風を超える人間ならば即死する神風(悲鳴)が二人を加速させた。

 制御不能。だが、だがだがだがだが――――――向きがいい。

 

 

「ギィ、ぁッ……ギルベルト!!」

 

「嗚呼ッ……これしかない!!」

 

 

 最悪無駄死にの確率が高い選択。この行動は無駄なのかもしれない。失敗に終わるかもしれない。そんな当たり前の不安さえ二人にはない。

 

 臆病な癖に誰よりも強敵を屠っている優秀な副官。血と涙と汗と文句をたらたら垂れ流す彼奴が珍しく頑張っているのだ。隊長である私が率先してやらねば誰がやる。

 

 ギルベルトは自分に関する全ての結果を肯定する。私が死ぬのは私の努力が足りなかったから。だからこそ、後悔しないように勝利を目指して努力する。敬愛する光と同じように、全ての事は、出来るという思い一つで事をなす。

 

 喋る肉塊でしかない二人は、全身の肉が千切れ飛ぶほどの多重衝撃で全力の方向転換を行い穴に身を投じた。

 二人を追いかけていたマーレは穴の淵で身を乗り出し自殺を見届ける。

 あの馬鹿な可愛いカッコいい愚かな下等な眩しいアホな英雄な強者な眼帯眼鏡は何がしたいんだろう?

 僕が二人を追って一緒に落ちる浅はかな思考をしてると考えて自爆した人間の最後を予測する。仲間に出来ない"異界の生物"に認識もされず余波にも劣る残滓に殺される。

 間違いなくそうなる。なんて可哀想(憎たらしい)。死ねよ消えろよ黒く染まれ愛らしい人間。深淵へ堕ちていく血塗られたレンズを隔てギルベルトの双眸が意図せず重なり合う。

 眼が何処にあるのか、スライムに存在するのかギルベルトは知らない。だが、その眼鏡は間違いなくマーレを捉えた。

 

 

()()()

 

 

 嵌る確率は1%以下の遥か彼方。流動する泥がそう都合よく決まるとは思えない。それでも、私は信じている。この絶望を希望へと変える一手を――――――指を鳴らして仕込んだ星を発動させた。

 

 

<……うそ>

 

 

 何百何千と斬り伏せてきたのだ。保険の聖印(スティグマ)を貼り付けされて当たり前だろ。前のめりに穴を覗き込んだマーレに不可視の衝撃が荷重を支えていた部位を削り弱まり、溶け落ちる雨がマーレを深淵へ押し遣った。マーレも溶ける激流の滝。空中に投げ出された泥のスライムは伸縮自在変動的流動的な肉体を最大限生かし、第七層へ先端を伸ばす。

 

 

<もう、びっくりした。一人で勝手に死んでろよォ!!びっくりして心臓が止まるかと思った。この程度が策と?笑止千万必勝法とは程遠い……潰れろ下等生物(ダニ)。その勇気に敬意(憎悪)を>

 

 

 支離滅裂。狂気が正常となったマーレは泣き叫ぶ(喜ぶ)

 天変地異を改編する泥のスライム。

 同情しよう。可哀想だ。こんな子供がどうして――――――だが殺す。

 "悪"に手心を加えてどうする。ヴァルゼライドの"悪の敵"に成りたいなど微塵も思わないが、殺されそうになったら殺すしかないだろ。人類を脅かす怪物を救ってどうする。女子供だからこそ遺恨なく容赦なく裁つべきだ。

 雨はいつの間にか止んでいた。落ちないために伸ばした体を溶かしてはそれこそ意味がないからだ。

 チトセは残り僅かな余力で蛇腹剣を七層へ引っ掻ける。ちゃっかり糞眼鏡はチトセの腰に手を回している。喜べ後で殺してやる、そう誓った。

 脳が酸素を寄越せ血を寄越せとガンガン鳴り響く。殺し合いの最中送られてきた伝言(メッセージ)が我々を罠にはめるものならそれまでだ。それしか選択肢がなかった。現存戦力では子供にすら勝てない。

 

 

<あ、止まって見えたからつい殺さず捕まえちゃった☆死ねよ塵滓触れるな。吸収するね一つになるね。合体だ!!>

 

 

 そう、パワーもスピードも超越者を超えたマーレには負傷した人間は遅すぎた。泥の底無し沼へ引きずり込まれ星を発動させる触媒を手離してしまったチトセに風は起こせない。手首を固定されながらも多重衝撃で空間を確保しようが沼の中ではこれっぽちも意味はない。水中で手足を振るおうが水は弾けないのと同じだ。

 二人は溶けていく解けていく熔けていく融けていくトケテイク――――――二人は優秀な人間だ。故に、英雄譚も反逆劇も意味をなさない。近いが属性が違う。本家大本には遠く及ばない。

 故に――――――

 

 

「……私の声が罠の可能性が高いのに選んで下さった。例えそれしか選択肢がなかったのだとしても……私は嬉しい。私は悪だから。救える命よりもアインズ様を優先していた醜い忠犬。嗚呼何故私はメイドとして忠誠を誓っていたのでしょう?守りたいもの救いたいもの好きなものを優先すれば私は苦しまなかった。世界征服を辞めるよう直談判をしていればナザリックが人を傷つけることは無かったかもしれない。主人の間違いを正すのも使用人の務め。私はメイド長でありながら最も優先すべきメイドの務めから目をそらしていました……わん」

 

 

 第七層の断崖絶壁にて一歩踏み出せば飛ぶ手段のない彼女は死ぬ。命を救った魔拳の子供が私をマーレの元まで運んでくださった。でも、本当に私が救うことができるの?残酷な天使の命を救うことが本当の選択なの?

 迫り流れる泥を掴み弾き吹き飛ばす悪餓鬼。彼は脳筋で殺人拳馬鹿だが、それでも救われたことに感謝はできる。

 

 

「これで貸し借りなしだ。今試したが、俺様でも心臓は破壊できなかった。俺でも分かるぜ……これは誰も救われない。なら、あんたがケジメを付けるべきだ。倒すでも殺すでも滅ぼすでもない救うと豪語するあんたがやるべきなんだ」

 

「……アスラさん」

 

「救うんだろ?どんな結果になろうが救うために行動した事実は絶対に揺るがねぇ。迷って諦めて誰かの顔色を伺うなんざ疲れるだけだろ。やりたいようにやんな。その選択が何であれ、救いはあったと俺は断言するぜ」

 

 

 その言葉をもってペストーニャ・S・ワンコはもう絶対に揺るがない。ナザリックを裏切り初めて助けた子供にここまで肯定されたらもう頑張るしかないじゃないか。

 その足に迷いはなく。その行動理念は信念はたった一つ――――――弱った人を助け子供たちを救う。

 たっち・みー様は不特定多数を救うヒーロー。私はそんなに大勢は救えないけど……まずは一歩踏み出してみようと思う。

 

 

「ありがとうございます……わん!!」

 

 

 全身全霊のダイブ。飛び込みプールはスライム。懐から取り出した巻物(スクロール)を唱えた。

 

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)魔法属性強化(エレメンタルマジック)

 

 

 そして最後の一枚を握り締めメイド長はマーレ・ベロ・フィオーレを救う。視界もきかない泥の中を沈んでいく。自慢の毛皮からゆっくり溶かされていく感覚。

 

 

<ペストーニャ!!よかった……僕と一つになりに来たんだね。僕じゃ傷は癒せない。痛がってるんだみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな痛がってるんだ。よろしくね。お願いします>

 

 

 痛々しい。もう手遅れだ。だが救うと誓った。私の行いは結果は同じなのかもしれない。それでもこの行いに殺意はなく。憎悪もなく。敵意もない。私は、救うために行動に移した。

 ありがとうマーレ。また……また会えたら、一緒にコーラでも飲みましょう。

 

 

「――――――真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が溶け合ったスライムの闇の中。優しい光が皆を連れ去った。

 なんで、どうして、みんなぶくぶく茶釜になるのに――――――連れて行かないで。

 手を伸ばす。背伸びをしてそれでも掴めない光に手を伸ばす――――――置いてかないで。

 

 

 ――――――"マーレ!!"

 

 

 ああ、勘違いしてたよお姉ちゃん。お姉ちゃんは其処にいたんだね。

 迎えに来てくれたんだね。

 

 

 ――――――"私の可愛い可愛いマーレちゃん"

 

 

 お母さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光と共に終わる。なんて美しくて――――――残酷な言葉。

 

 

 

 

 

 

 












マーレ戦:今回の後半まで元気のない状態で書いたから何処か書き方に違和感感じるかもです。急ぎ足で書いたのも理由のひとつかもですね。1ヶ月に一つは投稿ないとね!

オーバーロード三期:メイドたち可愛い。オレハナンテコトヲ



アルベド、パンドラ、アインズvsクリトファー・ヴァルゼライド
書きたいけど、ゼファーがいる。ツアレがいる。


よし、次回"ツアレとゼファーにします"
ここに書いて逃げ場を無くし追い詰めスタイル……嫌いじゃないよ。

マーレ戦最後の真なる蘇生を使用した理由も次回語ります。
あとがきで書くのはなんか勿体無いので。
感想の程お待ちしています。


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ルプスレギナ・ベータ

 地獄の第八層までの直通ルート。深淵の壁を三人を抱えアスラは直角に駆け上がる。右腕で乱暴ながらも負担にならない抱えられかたをしたペストーニャ。

 左手で首襟を掴まれ運搬される逸脱者二人。無論、当然の如く昇りきる前に七層へ投げ捨てられた。

 生傷がない箇所を探す方が難しい両者は、痛みに耐えながらも受け身で衝撃を緩和する。

 

 

「クソッ……可憐な乙女にこの仕打ちとは紳士ではないな」

 

「まったくだ嫌になる。私の予測を越え、こうも想定外が続くとは。我々が誘いにのった時点で死ぬことは確定されていた。結果はどうあれ穴に落ちるとね。更に閣下以外に我々より先に下の階層へたどり着いていたのも驚きだよ。いやはや……完敗だ」

 

「珍しいな貴様敗北を認めるか」

 

「そうだ。私個人は大敗した。力及ばず、無惨に地べたを這いずる敗者だ。だが、そう――――――ご覧の通り私達は勝利した。私個人ではなし得ない、誰も欠けることなく皆の勝利を実現したのだ。軍とはそういったものだろ?一人一人が最善を尽くし出来うる限りの手を選びとった。故に、この余韻を分かち合おうではないか。この勝利は決して一人で勝ち取ったものではないのだと」

 

「やっぱ気色悪いな」

 

 

 誰かこいつの折れず曲がらず真っ直ぐな根性を腐らせてくれ。

 

 

「おうおう元気で結構。ペストーニャ頼まれてくれるか?」

 

「お任せです……わん」

 

 

 アスラに下ろされたペストーニャは二人の側に屈み込み治療を開始する。

 この中で一番の重症のチトセに暖かな光が包み込む。窮地から打倒までこぎ付けたその手腕。怪我の治療まで助けられているが、その眼は少しでも可笑しなことをすれば切り捨てる準備を完了している。

 

 

「まさか人外に助けられるとはな。嗚呼勘違いしないでもらいたい。別に殺すつもりはない。助けられたんだ恩を仇で返すのは性に合わんよ。彼奴を救いたかったんだろ?大切な仲間達を救いたかったんだろ?その結果私達も救われた。だがな、納得がいかんのだよ。何故アインズを裏切る。これまで仕えてきて状勢が不利になると人間の味方か…………違うな。治癒魔法が星を通じて感じるよ。お前は私が出会ってきた中で二番目に誰も殺せない優しい奴。ならば尚更分からない。何故異形の仲間ではなく我々を治す」

 

 

 この第七層にもまだ息のある死に体が幾つか転がっている。放っておけば死ぬ。なのに助けない。矛盾してるだろ。何故同じ仲間を先に助けない。私とギルベルトを治癒したら確実に息を引き取る傷だ。

 

 

「目が覚めた……自覚してしまったせいですかね。私はナザリック地下大墳墓のメイド長でした。至高の御方に仕えることが何よりの幸せ。機嫌を損ね、失態を晒そうものなら自ら命を絶つ。皆それが当たり前でした。ですが……突如私達の根幹にあった定めが砕け散り、喪失感と解放感に襲われました。そこからは組織としてではなく一個人として行動しなければと……今まで押さえ込んでいた自意識(エゴ)が突き動かしたのです……わん」

 

「それは効率が悪いな。何かを成そうとすれば当然失敗をすることもある。組織全てが常に完全無欠の仕事をしろとはそれは無理がある。だが、ヴァルゼライド閣下なら」

 

「話が進まん黙れ」

 

 

 予測できていたとしても、満足に動けないギルベルトは溝に突き刺さる拳を潔く受け入れる。致命傷から瀕死に変わっただけだ。

 

 

「グッ……分かってはいても痛いなこれは」

 

「うむ、凄いものだ。此処までの治癒魔法の使い手は初めてだ。では次にソレを頼む」

 

 

 ぷれいやーに仕えるえぬぴーしーの変化。チトセとギルベルトは一つだけ心当たりがあった。

 

 ――――――世界の揺らぎ。

 

 ソコから、えぬぴーしーは暴走を開始した。

 この言い方には語弊があるな。正確には、やりたいことをやり始めた。

 騎士道に通じる忠誠心の塊みたいな奴が、世界の揺らぎと共に勝手に自分の都合を優先し始めた。

 

 

(嗚呼笑えるよ。これではまるで……いや、洗脳そのものじゃないか)

 

 

 それもたちの悪い。一見自由で"えぬぴーしー"として平等で、何をされようが何を見ようが"ぷれいやー"を心の底から忠誠()している。

 

 

「それで、どうだったのだ?崇拝していた感覚とやらは」

 

「至高の御方が神であり全て。かの御方のお声、一挙手一投足、御方の関係する全てが私達の幸福。命令を与えられ、お声一ついただいたらそれは何にも勝る祝福」

 

 

 苦痛ではなく幸福を。ナザリックの"えぬぴーしー"全員が盲信者(ギルベルト)

 そう生まれ、そう作られ、逆らうことなどあり得ない至高の御方()の奴隷。

 

 

「潜在意識。この忠誠心は愛と言ってもいい。私達は心の底からかの御方を愛することに疑問すら抱かなかった。でも……それは幸せなのかもしれません」

 

 

 至高の御方の役に立つ。与えられた役目を全うする。それだけで心の底から溢れ出る官能的快楽。

 

 

「自由とは……役目もない不確定な未来とは……こんなにも辛いのですね……」

 

 

 幸せだったのだ。それだけで満ち足りたのだ。

 だからこそ――――――気持ち悪い。

 

 

「私を信頼して下さいなど言いません。利用して使い潰しても構いません。それで傷ついた人々が……子供たちの未来に光があるのなら、私は罪を背負い生きていきます……わん」

 

「いいだろう。私が使ってやる。この私が、お前の命を保証しよう。誰にも渡さんし、殺させはしない。貴様が救った先を見せてやる」

 

 

 多くが死に、多くが傷付くだろう。もしかしたら、ナザリックの世界征服の方が血が流れないのかもしれない。

 それでも――――――

 

 

「はい!お願いいたします……わん!」

 

 

 もしも、もしも罪が赦される日が訪れたなら――――――私の幸せをさがしてみよう。

 

 

 

 

 

 ギルベルトの治療も終わり、改めてメンバーを確認する。悲しいことに攻略時よりバランスのとれたパーティーとなったことに嘆きを覚えるチトセ。

 今頃総統閣下は予想の遥か彼方まで覚醒したとして、我々はやっと並んだと見るべきか。それよりもペストーニャの横で瞑想している問題児。

 

 

「ストレイド、暫く見ない間に見違えたな。肉体のポテンシャルは越されたか。所でお前好みの闘争が絶賛下で繰り広げられているわけだが……参加表明は自由だぞ?」

 

「ハッ、そうしたいがアレは俺の求める闘争とちとかけ離れすぎだ。成立しない勝負になんの価値がある。まあこの際成り行きだ。あんたらに付いていくとするよ」

 

「それは願ってもない事だがどうもらしくないな」

 

「俺だって死にかけりゃ反省もする。熱くなった体も思考も冷めたんだ。ああどうヤられたかは聞かんでくれや黒歴史だ」

 

「なんにせよチームに加わるなら賛同しよう。さて、今後だが――――――」

 

 

 ナザリック攻略は使命。それを踏まえた上で今後の行動選択をする。一度地上に戻って更なる戦力要請をするのもよし。このまま最深部まで行くのもよし。だが、下のアレが片付かない限り降りる行為は不可能。ペストーニャはナザリックを裏切り、罪に汚れた身の上だが、これ以上戦力としてナザリック攻略に荷担したくはないとのこと。

 ペストーニャとアスラの意見を取り入れ、最終的判断を私とギルベルトが結論を下した。

 

 

「地上までの安全を確保する。異論はないな?無論、下での沙汰が決着しだい穴から便利にショートカットだ」

 

「表層から第十層までなら、第七層から一度綺麗に掃除をする必要がある。敵味方無差別のランダム転移は未だに混乱と統率力の消失を浮き彫りにしている。更に下からの挟み撃ちを心配する必要がない分上へ上がることだけを意識すればいい。最も効率のいい展開としては、仲間割れが複数起きていれば一網打尽が可能という点だ。当初とは逆の攻略、ギミックもトラップも機能停止。待ち伏せも無いとなればこれ程簡単なものはない」

 

「ハ、異論はないぜ。やるならちゃっちゃとやるか」

 

「下の階層で待ち構えている魔神クラスの化け物が第一層のスケルトンと同じ場で待ち構えていたら爆笑ものだな」

 

「マーレの件もありますし、無いとは言い切れませんね……わん」

 

 

 ヤるならば迅速な蹂躙。一匹たりとも逃がしてはならない。遺恨となり脅威になる前に叩く。

 物語は終盤戦――――――人が奏でる道筋は誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘の破壊痕により瓦礫と化した廃墟を一人の少女が優雅にステップを刻む。世界に穿たれた全てを呑み込むかのような深淵を好奇心から顔を覗かせ、理不尽に死んでいった元同胞を哀しみながら愉快に笑う。少女は下等な生物が理不尽に蹂躙されるのも好きだか、それ以上に強大な存在が無様に転げ回る様も好きなのだ。

 少女は口角を歪ませ腹の底から嗤い残念がる。絶対の神であるアインズ様が敵の靴底にスリより無様に媚び命乞いする様を是非とも拝見したかった。

 

 

「まーしょうがないっすね~。命あっての物種っすから」

 

 

 美しくそびえ立っていた中央霊廟(廃墟)に向け、妖艶に微笑みメイドとして最大限の礼儀に則り深々と頭を下げた。生まれ育ち皆で仕えたナザリック地下大墳墓に別れを告げる。

 

 

「……今まで有難うございました。私、戦闘メイプレアデスが次女ルプスレギナ・ベータは本日を持ってお暇させていただきます。私を産み出してくださった創造者に感謝を。アインズ様……貴方にお仕え出来たことは最高の喜びです。本当に……ほんとうに、ありがとうございましたッ!!」

 

 

 黙祷を捧げ、感謝の涙が流れ出す。

 皆大好きだった。姉や妹たちも、一般メイドも、階層守護者や他の異業種も、カルネ村のモルモットもルプーは最高に愛している。

 

 

「あぁ~湿っぽくなっちゃったっすね。じゃあね大好きな我が同胞たちよ。私は皆様の死に様を妄想しておかずにするけど許して欲しいっすー」

 

 

 絶対的強者であったナザリック地下大墳墓は新たな強者が終わらせる。その大一番を最後まで観れないのは本当に残念だ。

 

 

「いやーでも甘くみてたっすねー。アインズ様でも予測できなかったこの事態は、始めっから詰んでたんすね」

 

 

 災厄をもたらす子――――――ルベド。

 ニグレドの言葉通り、彼女がナザリックに止めを刺した。仮にルベドが敵を殲滅しても元通りにはならない。

 

 

「みーんな死んじゃって復活も無理とかほんとなんなんすか!!level59じゃ無駄死に確定!!けど運がいいっすよ私!!なんたって第二層のシャルちゃんの寝室に転移とかこりゃもう創造主(神様)が逃げなさいと言ってるもんでしょ!!」

 

 

 楽しく愉快に人生を謳歌しよう。綺麗な人間賛歌を死ぬ際に醜い白鳥愚歌で染め上げよう。

 

 

「人生が輝いて見えるっす!!ありがとう!!ありがとう!!ありがとうおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 態々力を示して強い人間に関わろうとするから今回みたいな事態に発生する。節度を保ってばれない様に遊べばいい。

 時間をかけて村や都市に化け物を誘導する。

 毎日……三日に一度は一人の人間で遊ぶ。増えることもあるだろう。

 強者が居ないのを確認してから綺麗に掃除するのもあり。

 地下に潜ってやばーい陰謀を企てて人間を弄ぶのもいい。

 それから、それからそれから――――――

 

 

「で、どちら様っすか?」

 

「あれ、気付いてたの。貴女敵でいいのよね?クリス達しか味方はいないから人間でもアインズ・ウール・ゴウンの配下なんでしょ?……人間とは限らないのか」

 

 

 新たな人生の羽ばたきを邪魔する人間。黒の軍服を着こんだ化粧など着飾っていない大雑把な、されど風にたなびく金髪と光に反射する翠色の眼の少女は"黄金"ラナーと比較してもその美しさは廃れていない。否、人間を観察してきた観察眼がラナーよりこの女性の方が輝いて見える。

 

 

(ちょーとヤバイっすねー。この場にいるってことは、あの三人並の実力者と考えるのが妥当か。逃げるが吉っすね)

 

 

 無理に戦う必要もない。命を懸けてナザリックを守る、その役目からは解放されたばかりなのだ。だからルプーは涙をこぼす。

 

 

「ごめんなさい!!私は改心しました。ナザリックの悪役非道な行いは私も心を痛めていました。けど、私には勇気がなかった!!仲間を売り、裏切りの汚名を被る覚悟が足りなかった……でもッ貴方たちが来てくれた。お願いします。私も人を助けたい。この血で汚れた手でも傷ついた人を助けたいんです。許してなんて頼みません。でも、猶予をください。殺めてしまった人たちに私は償いたいんですッ」

 

「言いたいことはそれだけ?演劇女優顔負けね。だけどどれだけ言葉を取り繕うが仮面の下はサディスト。強弱が激しくわざとらしいのよ貴女。せめて私を見付けたときから成りきりなさいよ。もっとも――――――」

 

 

 軍刀を引き抜き、少女は構えた。金属が擦れるような音が静かにこだまする。

 

 

「私は最初っから首を撥ね飛ばす予定だ。どことなく似てるのよね、アルと一緒に捕まえた殺人鬼に」

 

 

 濃密な重圧がルプーを圧迫する。

 絶望のオーラと違う素のオーラがルプーの体に重くのし掛かる。

 

 

(これマジヤバイ。冷や汗とまんねー)

 

 

 スキル:獣の勘。自分を害する攻撃を察知する。全ての攻撃を察知する超便利スキルなら万々歳なのだが、そんな便利なものじゃない。

 

 

(悪寒が走る程度の効果しかないのに、明確に首元がぞわぞわする。完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)して飛行(フライ)でとんずら。こんなのと戦ったら命が幾つあっても足りないっすよ)

 

 

 初手安定の逃亡。戦うなど以ての外。逃走のため、目の前のヤベー奴に対応するため右足を半歩引いた。

 

"パシャ"

 

 ルプスレギナは理解した。まんまと敵の策略に嵌まったのだと。先程までは無かった水溜まりが絡み付くように皮膚を伝い、彼女の鼻と口から侵入する。

 

 

(不意打ち攻撃(アンブッシュ)!?やられた、この女は本命と囮か!!ならば当然――――――)

 

「滅びろ」

 

 

 酸素を取り入れず、激しい戦闘になれば一分かそこらで溺死する。肺にまで侵入を許したらもはや取り返しがつかなくなる。

 侵入した水を除去し、攻撃もいなす最適解。

 

 

(やりたくないけどやるしかない!!吹き上がる炎(ブロウアップフレイム)ッ!!)

 

 

 炎の柱が発生し自分と相手を燃やす。

 呼吸器官という内臓へのダメージ、皮膚重度の火傷。んなもん後で大治癒(ヒール)で治せばいい。敵が怯んでいるうちに逃げる。炎で視界も悪くなっている今しかない。

 

 

「あの一瞬で自爆前提で私とあの子に対処したのは誉めてあげる。だが、小賢しいぞ」

 

 

 燃え盛る炎の中。炎耐性がないのか美しかったであろう顔や髪、全身の皮膚を何ら躊躇なく省みず、速度を落とさずに英雄と磨きあげてきた軍刀の一閃がルプスレギナの首を斬り捨てた。

 

 

「貴様のそれは私が躊躇、または炎からの退避が前提のものだろ。敵にミスを期待してどうする。どんな攻撃がこようと、死ぬ前に殺すと決めていた私からすれば浅はかだ」

 

 

 ルプーの浮遊する意識が最後に見たものは、輝く星が時間が巻き戻るかのように元の美貌に戻る瞬間だった。

 

 何故だが分からないけど、その在り方が――――――最高に美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  原初の()()"()()()()()()"

 遊びでしかなかったゲームから残酷な現実へ落とされた最初のゲームの参加者(プレイヤー)

 特殊な訓練も、専門的な知識も、怪我や流血から離れた生活を過ごしてきた彼等は、この世界で生きていた。少しずつ原住民と交流を深め、汗を流し、生きることに精一杯だった筈の彼等はこの世界に"意味"を求めた。

 

 level100――――――神の代名詞。

 天変地異の破壊者。

 数多のマジックアイテムは奇跡を起こした。プレイヤーは人間の代わりに敵を殺した。可能なら交渉し、物々交換などの流通も行うようになった。それでも、彼等は全てを救う全知全能の神になり得ない。

 ゲーマーから神へ。全能感を理性と痛みで子供のように力を振りかざしたい暴走心を押さえ込んでいる。

 行き過ぎた殺戮と破壊は調律者の目に止まる。アレラ人外の化け物と敵対せずに過ごす日々はプレイヤーを人類を追い詰めていく。

 農業の知識もない。政治のやり方も知らない。人のまとめ方も必要なものも分からない事が多かったが、マジックアイテムで補ってきた。

 現実はゲームとは違う。

 グループは集団へ、集団はコミュニティーへ、そしてコミュニティーは国になった。

 足りないものだらけだ。食料も足りない。力が足りない。組織としての統率力も弱い。

 どれだけ神と崇められようが、根本的にこの世界は人類に過酷すぎる。何よりの問題は寿命だ。彼以外は寿命で死んでしまう。それだけは耐えられない。国のない原始的なファンタジーを生き抜いてきたのは皆が居たからだ。

 だから、私達は決断した。ワールドアイテムでスルシャーナが生きるこの世界を見守ると――――――希望を夢みて。

 私達は遊ぶ人でも興じる人でもない。

 祈り人――――――祈祷者(プレイヤー)だから。

 

 

 

 

 それこそが、最初の特異点。異界法則。

 五人の想いと魂が、ワールドアイテムを触媒に一つとなった事例。直接的な干渉はせず誰もが扱える力を平等に拡散させた。彼らがよく知る皆で遊んで楽しかったユグドラシルを。

 そして、六百年の歳月を経て新たな特異点が誕生した。

 

 邪竜はあと一歩で肉体を散らした。

 セバスは条件さえ整えば至れたかもしれない。

 マーレはもはや論外。純粋な魂を取り込まず残留の欠片は一つとならず、自らを削り他を補強した。復活も儘ならない欠片に引っ張られ、マーレはシステムの虚無へ還っていった。

 よって、此れよりは未知の戦い。

 肉体を特異点化させ世界へとなった祈り人(プレイヤー)

 

 創生――――――星を滅ぼす者(スフィアレイザー)

 闇の冥王星(ハデス)

 

 到達――――――刻鋼人機心装永久機関(イマジネイター・ゼロインフィニティ)

 永久の不完全(ルベド)

 

 

 この闘争は英雄譚でも逆襲劇でもない。

 異なる法則を特異点とする人間の戦争。

 奇跡など起こり得ない。ルールが違う。異界が違う。世界が違う。

 

 異なる想いの方向性に強弱など存在しない。

 それでも、最後に勝利を掴む者がいるなら――――――諦めない者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、すいません。次回から本当のゼファー戦です。
皆さん、好きなオーバーロードのNPCは誰ですか?
私は勿論
シャルティア様
パンドラ
シズ
ルプー
の四人ですかね。あ~好き!!

感想、批判、疑問点お待ちしてます。




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ルベドの真理と答え

 第八階層『荒野』階層守護者ヴィクティム。

 醜いピンク肌の体長一メートルの胚子。生贄の赤子は己の無力に身体を震わせた。

 

 

「――――――ァ、ァッ」

 

 

 流れ出る感情は止められない。零れ落ちる弱者の想いは誰にも知られることなく染みへと消える。歯車を抱えた天使の手は無意識に籠められた力で血に濡れている。

 ナザリックの最終防衛ライン。ナザリックが誇る最強の存在達。

 かつて1500人というアインズ・ウール・ゴウン始まって以来の討伐隊の大群がナザリック制圧を目指して第八階層にて全滅した。

 生贄の赤子は、一切の抵抗なく命を差し出した。死ぬことで発動する強力な足止め系スキルは敵勢力に超強力な弱体化(デバフ)をかけた。

 

 

 ――――――至高の御方。死ぬことでお役に立てるならこれ以上の喜びはない。

 

 

 ヴィクティムは死ぬことで意味が発生する。 階層守護者最弱ヴィクティムにはそれしかない。

 故に、最終防衛ラインは抜かれる。1500人のプレイヤーを追い詰めた第八階層『荒野』の全てが冥王(ハデス)の慟哭に滅ぼされる。

 領域は侵された。輝かしいアインズ・ウール・ゴウンの栄光が消滅してしまう。

 それでも、死ぬことは出来ない。

 アレへの干渉は 死を引き換えに発動するヴィクティムのスキルを持ってしても抗えない。

 反粒子はヴィクティムの魂を消滅させる。死んだ後に反応するスキルは魂を触媒に発動する。故に、闇は足止めスキルのエネルギーを問答無用で飲み込む。

 

 それが分かってしまうから、何もできないから、仲間を見捨てる事しかできない自分が嫌になる。

 死ぬしか出来ないヴィクティム。彼から死ぬことを除いたら何も残らない。一般メイドにも負ける戦闘力は効率よく死ぬ設計で創られた生贄の心を蝕む。

 ナザリックで生まれ、その性質上第八階層『荒野』で生きてきた彼は、命を捧げることしか知らない。

 

――――――それでいい。死に恐怖はない。私こそが至高の御方の人身御供。

 

 ナザリックで生き、アインズ・ウール・ゴウンに尽くす。その在り方は典型的なNPCだが、例えルールから解放されようとその生き方は変わらない。

 誰よりも命を懸けて生きてきた彼の人生を他人が否定していけない。可哀想などと、評価するのは最大の侮辱だ。

 ヴィクティムは弱者だ。厄介なスキルも時間が経てば解ける足止めでしかない。協力がいる。助けがいる。仲間が絶対に必要なのだ。

 彼は弱者だから、一緒に戦う誰かを信じる。

 歯車を抱え遠くへ飛んでいる小さな存在。

 ルベドは生きている。

 微かだが歯車から漏れだす素粒子が生存を教えてくれる。

 

 ――――――ルベドなら何とかしてくれる。二人でなら必ず何とかなる。

 

 弱者として、ナザリックを信じる生き方。覚悟を決め、使命を帯びてヴィクティムは死ぬ――――――勝つために。

 その死は決して無駄なんかじゃないと本人が理解しているから。

 勝つために、血と涙を流しルベドと逃げる。

 闇を祓うために、倒すために、滅ぼすために、いつ潰れてもおかしくない体で必死に逃げる。

 負けるかも、無駄かも、そんな強者を前にした弱者の思考をヴィクティムは持ち得ない。

 それは仲間を裏切る行為だから。栄光なるナザリックの勝利を疑ったことなど微塵もないのだから。そう、全ては勝利をその手に掴むために。悔しさも、怒りも、哀しみも、無力さも、涙ともに押し流す。

 

 

 

 

 

 受信する。ルベドは抱える手を通じ、涙を通じて、死ぬことしかできない本当の弱者をルベドは生まれて初めて知る。

 カグラ、ファヴニル・ダインスレイフ、ゼファー・コールレイン。三人の人間、その生涯を価値観を願いはルベドを構成する歯車()で息づいている。ブラザー・ガラハッド、ミステル・バレンタイン、アヤ・キリガクレとの出会いは光と闇だけではなく人間らしい素晴らしい答えを知る事が出来た。

 アインズ様、お姉様、セバス、コキュートス、マーレ、ユリ、恐怖公、実際に会って知ったナザリックの仲間――――――実感が持てなかった。

 

 

"パパは……意地悪だ"

 

 

 強いままじゃ、絶対に理解できない。後悔しないと、絶対に体験できない。失ってみないと、絶対に素晴らしさに気づけない。

 

 

"意地悪だよ……こんなにも複雑で難しくて、不安定でぜんぜん理解できっこない心を知れってさ"

 

 

 私の足りないものは、この涙だったんだ。

 

 

"私の足りなかったのは、人間以外の理解"

 

 

 今ならナザリックの皆と仲良くなれる気がする。

 

 

"一人じゃ、意味がない。ヴィクティム(弱者)ルベド(弱者)……二人で"

 

 

 掴み取った想いを、覚悟と共に紡ぎ上げ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――到達(アライブ)

 

 

 

 

 

 永久機関が呼応して煌めく粒子へ転じ始めた。

 

 自意識(エゴ)。彼方を目指す者は、まずは立ち上がり己が誰かを知らねばならない――――――"人間を知り、輝きを見たい"それに伴う"自分とは何か?"答えを求めるべく健気に前へ進む生まれたばかりの少女の希求(エゴ)

 

 無意識(イド)。己の足で歩き出した者は、最後の敵として己自身に打ち克たねばならない――――――"誰もが憧れの人間(モノ)になりたいと目指しながらなれない"というジレンマ。"人間に憧れ人間に酔いしれる事で、他の余分から目を逸らしている"それでも"人間のように成長したい"という妄念、少女の負の感情の陰我(イド)は、絶対機能制限(ラスト・リミッター)の放棄を実行させた。

 

 エゴとイド、それらを併せた自分自身を完全に受け入れたルベド。

 

 変化は直ぐに訪れた。ヴィクティムを構成する肉体が素粒子となり永久機関に吸い込まれる。不思議な、されど不快ではない一つとなった繋がりをルベドと間に感じ取った。

 完成された個体としての強さではなく、一緒に戦おうとする想い。

 もはや彼らはルベドであり、ヴィクティムであり、そしてそのどちらでもない。

 二人は一つであり、そして異なる個人でもあるという、矛盾と合理性の融合(フュージョン)

 ヴィクティムを媒体にルベドは肉体を取り戻す。

 ただ感じるのは、とくんとくん、ささやかな()()としての鼓動。

 ヴィクティムと心身ともに融合し、人間の強さ()弱さ()、それらを包み込む優しさ(灰色)。人外として仲間(ナザリック)を想う心を併せ持つに至った"刻鋼人機(サイボーグ)"。

 人間でもあり、機械でもあり、どちらでもない完全とは真逆の進化を遂げた"不完全"。

 

 

「我が真理は無限(0)有限(1)の狭間から生まれた阿吽の空」

 

 

 人間が好きだった。

 努力する姿が、確固たる己を持つその精神が美しいかった。

 頑張って必ず追いついて抜かしてみせると信じて駆け抜けながら、自分とは根底的に異なる事実。

 人間になりたかった。観測して観測して観測して――――――私もああ成れたらなと、どこか俯瞰的に素晴らしい物語に浸っていた。

 口では散々仲間仲間と心配そうにしながら、死を悲しみナザリックを守護する自分に酔っていた。

 異形ではない。人間が好きで人間になりたいから輝かしい光を演じていた。

 私は人間にはなれない。異形でありながら異形になりきれない。仲間と誇るナザリックを心から守りたいと思えない。不安と恐怖揺れて、人間の素晴らしさに没頭し、答えを探す意味さえ履き違えて忘れていた。

 本末転倒にも程がある。勝利とは何か?私とは何だ?他人と比べる"答え"に意味はないと原初の想いを取り戻す事が出来たから。

 

 私は私。

 異形のものであり、人間になりたいと願う半端者。人間と同じようにナザリックの者もまた輝く想いを秘めているとヴィクティムが教えてくれた。

 そこに違いなんてない。

 大切なきっかけは、始めっから身近に多く詰まっていた。

 産まれる前()産まれた後()。その間を知らなきゃいけない"なぜ自分は産まれたのか、どのようにして自分は産まれたのか"を知らなくてはならない。

 パパは"人間を知れ"と言い残した。今にしてやっと真意が理解できたよ。

 パパにとって人間とは、人間種・亜人種・異形種を一括りにした呼称。

 そこに区別はなく、パパは完成された私に"人間種・亜人種・異形種(人間)を知れ"とメッセージを残した。パパが作り上げた物は、完成された完璧で完全で全能な自動人形。でも、求めていた者はその先にあった。

 

 

「愛する人を背負いて、ただ人間として世界()に立たん」

 

 

――――――私を生んでくれてありがとう……ダブラ様(パパ)

 

 

「勝利とは人間を知り成長すること」

 

 

 パパの願い、ママの想い、沢山の触れ合った人達の想いと願いを背負い決して負けない人間として生きていく。そんな私を見て、触れて、知ってくれた人達もまた別の人達へそれぞれの想いで伝えてくれる。

 

 

人間(サイボーグ)として私はこの世界()を生きる」

 

 

 人間として生き、人間として生涯を全うする。異形種は不死であっても不死身ではないのだ。死は絶対。だからこそ、胸を張って未来へ託そう。

 

 

「曖昧いで、無常でありこれと断定できるものはない……人間は完全に自分と他者を理解する事が出来ない。でも、執着を手放し分かち合うことは出来る」

 

 

 この世の現象としてあらわれている肉体および物質的な色は、本当は実体がない空。

 この世に存在する諸々のものを実体のあるものだと思いこんでいるが、実体のない空にほかならない。

 空はそのまま色であり、色はそのまま空。

 人間を知り、勝利への答えに至った果てに――――――ついに、今。

 

 

「完遂――――――素粒子生成。最終段階到達(エクストラドライブ・イグニッション)

 到達――――――刻鋼人機心装永久機関(イマジネイター・ゼロインフィニティ)!!」

 

 

 世界=自分が何であるかという命題に解を示し、実行に移せる精神。これぞ真理の頂き。

 チクタクと永久機関の無謬の音色と、とくんとくんと心音が鼓動する。

 ここに新たな星が再誕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うそ……だろ……」

 

 

 新たな星の誕生をゼファーは嫌でも感じ取る。発生する波動は無限大()

 先ほどまでの国や大陸を蹂躙する程度のモンスターとは違う明確な脅威。アレは世界を壊す。

 

 

「大概にしろ……容易に超えざる大敵が次は俺の番だと出現する。運命って奴はどこまで俺をコケにすれば気が済むんだ!!」

 

 

 異界法則に抗うには同じ土俵の独自法則のみ。 

 地峡から離れた上空で戦っていた強大で巨大な敵だったモンスターがうめき声を響かせルベドへ向け墜落していく。その内部を反粒子に満たされた爆弾として使われた巨大モンスターは、生物としての死を容認されず兵器として活用される。

 冥王は自分の計りでは到底計ることがかなはない膨大なエネルギー量に口角が引き吊る。もしかしたらこれこそが理論上最大値()なのかもしれない。

 先程のように仲間を気にして全力が出せないならこれで決まる。そんな甘い見通しは此方を見上げた優しくも鋭い相貌に打ち砕かれる。

 

 

「さっきはごめんね……お兄さんからは受け取ってばかりで何も返せてないの。貴方は私を殺す。無防備に怯えても、命乞いをしても殺すでしょ?だからこれは恩返し。人間は、人間を知って成長する。それが生きるということ」

 

 

 無限大を秘めた無色のエネルギーを完全制御化におき、機械として精密に、人として大胆に、仕返しとばかりに上空を漂うゼファーに向けてありったけの暴力――――――

 

 

「私怨がちょっと入っちゃうけど、女の子の歯車(ハート)弄くり回して……ちょっとムカついたわッ」

 

 

 ルベドは生まれて初めて怒りに任せて力を解放した。空間を震撼させる無限()のエネルギー波。掲げられた小さな手の平から放出される破壊は、世界が壊れていないのが不思議な密度。反粒子爆弾は壁にもならず、勢いを増す激流へと消えていく。

 

 

「だろうな。あの状況からまた立ち上がる奴がこうも簡単に殺せたらどれだけ楽か」

 

 

 第八層の天井をぶち抜き流星へ消えていく破壊光をしり目に地に降り立っていたゼファーは強大な破壊が齎す衝撃波などの運動エネルギーを減少、相殺、消滅させる。

 アレはまだ自らの星を完全に制御仕切れていない。学習する時間を与えればそれだけ覆されるという、確信に満ちた直感がある。

 

 

「死ねよ」

 

 

 速やかなる決着を。子供の成長を悠長に見守るほど彼は優しくはない。止めどない無限放出に蝕まれるルベドを断つべくするりと通った刃が、掲げられたルベドの右腕を断った。

 

 

「――――――あ、ギィッ」

 

 

 身を捻り合理的に右腕を捨てた"不完全"。的確に移行するべき兵装(左手)の飽和攻撃が右腕を切られた痛みで硬直する。自動人形だからこそ出来た無茶が生身の肉体を獲得したルベドの肉体に苦痛を、機械が融解する熱と崩壊が内臓を破壊する。無限()の代償が血飛沫を上げ真っ赤に染まる。

 

 

「……だから子供(ガキ)なんだよ」

 

 

 理想と現実を間違えるな。かっこよく敵を倒す理論や理屈を並べて理想を実現するため実行しようが、現実は上手くいかない。必ず破綻する。理想と現実に折り合いをつけるのが人間だ。痛みがそれを教えてくれる。理想ばかりが先行する馬鹿()は燃え付ける。

 悠然と五指をかざした瞬間、ルベドを守る素粒子の全てが消滅する。

 逆手に振るわれた一閃は回避不可能。

 右腕を対価にした激痛が思考を刺激し注意力を散漫にし、有る筈の物がない消失感が哀しみと共に涙が溢れ出る。初めての生理現象は何も知らない幼児のように本能のまま反応を撒き散らす。

 ルベドを誘う冥府への道は、全方位に荒れ狂う音速を超える認知外からの衝撃に阻まれた。

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

 悲鳴叫ぶことも許されず、五十メートルを揉みくちゃにバウンドし、左腕をブレーキに地を削りながらようやく止まった。

若干痛みが引いたルベドは状況を理解する。永久機関からの接続が切り離された右腕が制御を失い暴走、暴発したのだ。予期せぬことだが助かった。

 

 

「イタイ、痛い……心は大丈夫なのに体がいたいの」

 

 

 皆この痛みを乗り越えて来たんだ。痛みは人を成長させる。

 人間は精神性で痛みを超えられる。

 痛みは迷いと戸惑いを生む。一度は定めた勝利も覚悟もそれら相反する現実の痛みが理想から遠ざける――――――()()()()()()()()()()()()

 

 

「感覚を持って生まれる生物の原初の教えは、痛み。ありとあらゆる人間が、"痛み"を起爆剤に覚醒、進化する」

 

 

 覚醒の方向が光でも闇でもいい。人は他者を知り、自分を見つめ返すことで、答えに行き着けるのだ。

 第八層を呑みこまんと広がる闇の輝きを引き連れた冥王星の容赦のない追撃の刃。なんて巧い確実な暗殺術。正確無比に獲物を眼で捉えても傷ついた身体は反応しない。ならば――――――

 

 

「――――――私も皆に負けないようそうしないとね」

 

 

 痛みを堪え、我慢することを覚えたルベドは、学習し覚醒する。

 無残に討ち捨てられた第八層のモンスターの遺体が素粒子へ分解され、煌めく粒子が破損した右腕断面へ吸収、無傷の右腕を新生する。それは、ヴィクティムが起こした奇跡の再現。

 

 『自動再生機構(オートメンテナンス)』。ルベドの素粒子と融合(ヒュージョン)した人間種・亜人種。異業種(ニンゲン)を素粒子に分解・吸収し自らの機体を修復する。

 ルベドの素粒子が漂う全てが効果範囲。level100だろうが、ドラゴンだろうが関係なくルベドの素粒子に触れたもの、呼吸で吸ったものをルベドの意思で素粒子となり、傷を修復する。一見生殺与奪を握る恐ろしい能力だが、破損箇所が無ければ使えない。同格には通用しない欠点に加え、ママやゼファー、自分と同じように答えに至るまで成長する人間を手助けしたいという想いが、余程の堕落者や何もない人間でもない限り、この能力は作用しない。素粒子を通し心を受信、送信するルベドならではの機能。

 よって、無限大には到底及ばない質量を左手に纏わせ首の間に滑り込ませた。

 

 

「……イッ!!」

 

 

 親指を除く四指が斬られた。それでも、首を横に傾げほんの僅かな刹那の減速はルベドの首を三分の一残し、首を斬られてなお躊躇なく懐に入り込んだ。

 

 

「ママとは違う"痛み"を教えてくれてありがとう。でもね……痛いものは痛いんだあああああああああああああああああッ!!」

 

 

踏み込みから放たれる膨大な質量エネルギーの正拳突き。

 運動エネルギーの否定。質量の否定。素粒子の否定。否定(消滅)否定(消滅)否定(消滅)否定(消滅)――――――ルベドを否定。

 

 

「くそッ!!」

 

 

 皮膚も内蔵も骨さえ侵され露出した人体模型(ルベド)。それでも、骨と機械の拳がゼファー腹中央を抉りお返しとばかりに五十メートル後退させた。

 それ自爆じゃね?とか関係ない、だって斬った彼奴が悪い。やっとの一撃にスカッとしたルベドは誰かの想いを受信する。

 

 "蟲王"コキュートス。

 素粒子が充満する世界は繋がりの世界。

 "人間を知る"他者からの刺激は成長を促し、それがどんな形であれ自分となる。

 "自分を知る"根源を認識しそれへ向かうこと。本当は何をしたいのか?生きる意味。勝利への答え。自分だけの正解を正しく認識する。

 

 そう、ルベドの願いは互いの情報を送信と受信可能にすること。だがそれはただ垂れ流すだけじゃ意味がない。人は、ただ知るよりも、精神が次のステージに、成長したいと想えた時にこそ知ることに意味が発生する。

 自分を知り成長したい。他者を知り成長したい。抱いた願いを成就させたい。などの強い渇望に素粒子は反応し初めて機能する。

 その強い渇望が、コキュートスの求める戦い(答え)を知るルベドが受信する。

 私では理解しても共感は出来ない破滅的な願い。

 『幾億の刃』を発動したコキュートスが、"願い"を叶えるために此方に降りてくる。でもそれじゃあ絶対に叶わないと知っているから。世界に漂う素粒子がそれを達成させてくれる敵を見付け出す。

 

 

「奮闘も高揚も後悔も憤怒も悲憤も感じぬまま消滅するのが貴方の願いなの?」

 

 

 送信する。有るべき答えをコキュートスが掴むために。

 

 

「これは警告。例えアインズ様を殺しても貴方の望みは得られない」

 

 

『――――――ッ!!』

 

 

「怒らないで。だからこそ、穴を抜けて北西を目指して、幾億の刃に乗っていけばいい。その先に……望む敵がいる」

 

 

 コキュートスの熱く、輝く、闘志をもって――――――アインズ以上の相手と戦いたい。

 

 

「私を信じて。貴方の願いは、渇望は、絶対に満たされる」

 

 

 例え――――――貴方が死んでも。

 

 

『感謝スル……アリガトウ』

 

「…………あ」

 

 

 生まれて初めてルベドは誰かに感謝された。

 心からの本当の感謝は鼓動する胸に暖かい何かをくれた。

 これこそが人間を知り成長するということ。互いに受け取る行為に意味がある。

 

 

「貴方は死ぬ……それが本当の望みなら私は止めない」

 

 

 生きる意味を、願いを叶えてね。コキュートス。

 

 

「私もかっこ悪い戦い出来ないじゃない」

 

 

 『自動再生機構(オートメンテナンス)』でとうに修復を終えているルベドは、正しく永久機関の兵器運用を理解するまでの成長を遂げる。

 

 

無限()と終われ、冥王(ハデス)。お前は殺しすぎた」

 

 

 そうでしょヴィクティム。貴方は絶対にゼファー・コールレインを赦さない。

 

 

『来るわよゼファー。気を引き閉めなさい。この数分間で強くなってる』

 

「ああ、分かってるよヴェンデッタ」

 

 

 到達(アライブ)――――――刻鋼人機心装永久機関(イマジネイター・ゼロインフィニティ)

 永久の不完全(ルベド)

 

 永久機関の真価を、遂に発揮する。

 

 

 

 

 

 

 




死の支配者「俺のが先に感謝したのになぁ……」





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星辰滅奏者vs星辰伝奏者

最終決戦でもないのに、これ以上の破壊規模の火力は次から出てきません




 人は、人間を知り成長する。

 その人間は他者かもしれないし、自分かもしれないし、種族や価値観が違う誰かかもしれない。

 本気で関わり、知るという行為は、凝り固まった狭い視野を拡張するということ。

 内と外、外と内の境界線を取り除き正直に生きる。

 たったそれだけで、人間は新しく生まれ変われる。

 ならば、永久機関を覚醒させ到達した頂きには何が座しているのか?

 ルベドは"人間を知り成長すること"を願った。

 願いにより、その能力を変質させ成長させるなら、より攻撃に適した成長はしない。否、出来ない。

 無限()を司る永久機関により攻撃的な要素を加えれば、自分を含め知る筈だった人、成長する筈だった人が死んでしまっては本末転倒もいいところ。

 これ以上の高火力は理論上不可能。

 兵器として殺傷力を向上させるのはルベドが好まない。

 

 

「肉体に残留する反粒子一部解析完了。出力、調()()――――――」

 

 

 故に、これこそが肝要であり、科学と魔法と人間のハイブリッドたる刻鋼人機(イマジネイター)の真骨頂。

それは応用力、つまり異能の出力を任意に変化させることが可能なのである。

 以前のルベドは基準値(アベレージ)『限りなく無限大に近い出力』と発動値《ドライブ》『無限大』、つまり"無量大数"か"∞"の力しか選択肢がない。

 三の強さしか持たない敵にも、四か五の力であれば事足りるというのに無限大()の力でぶつかることしかできないのだ。

 適切なだけの出力を、適した展開に応じて引き出すことができない。

 よって損傷の度合い、戦力の秘匿性、多様な状況力への適応力――――――どれを取っても任意調節ができるプレイヤーには劣ってしまう。

 故に、一々損傷する無限大なんて過剰火力を加減が効く任意調節に組み換える。奇しくもこの機構は創造者タブラが望んでも得られなかったルベドの欠点。故の絶対機能制限(ラスト・リミッター)

 

 

「――――――壊れろ」

 

 自己の放出する質量に損傷させることなく世界を否定する消滅の闇を五指で握り砕いた。

 開幕全力解放()には到底及ばない質量。永久機関から溢れる無限の波動は鳴りを潜め、次々と押し寄せる反粒子を数百倍の出力差で破壊する。

 

 

「イタタッ……おかしいでしょ五千倍の出力差なのに、防ぐたびに手首消滅って!!」

 

 

 『自動再生機構(オートメンテナンス)』の修復能力は手首の消滅と同時に瞬時に行われ、次の反粒子を処理する時には染み一つない可愛らしい子供の手が復活している。機械としての半身が反粒子を解析を続行。初期段階の肉体に残留する反粒子の解析結果は数百倍の出力差で対消滅可能であった。否、可能と思われた。

 万象全てを否定する反粒子は異界法則から飛来した未知の物質。他者を知り、自分を知ることに長けているルベドの星をもってしても異なる独自法則の解析は困難を極める。それなのに、たった五千倍の出力差で打ち消せると感情論で盲信した。

 

 

(浅はかだったのは私の方。いけない……ケアレスミスが多い。歯車だけだった前の私じゃあり得ない失敗(エラー)

 

 

 見逃し、不注意、都合のいい思い込み、人間性の獲得は狂いのない精密機械の規則正しい歯車の音色を歪ませる。

 

 

「ヒューマンエラーか……修正を加える」

 

 

 縦横無尽に重力を無視した立体軌道へ移行。空間を漂う素粒子がくまなく反粒子のざわめきを教えてくれる。接近戦はまだ勝てない。先の正拳突きは意表を突いたから命中しただけ、過信は出来ない。徐々に出力を上昇させ反粒子を解析する。

 

 

『……出鱈目ね。彼女の出力ならやり方はいくらでもある。それこそ、被害を度外視すればね。……これは!?ゼファーッ』

 

「無限大のエネルギー行使と学習する無限覚醒。成長し続ける狂気の星。期待され期待する明日へと繋ぐ流れ星。嗚呼クソ……知りすぎる」

 

 

 此方は自分のことを知って貰う気なんて更々ない。だが、彼が知る光の英雄と匹敵する熱量を待ちながら全て平等に成長を促す在り方は、『なんだこいつ』と僅かに"知りたい"と思考してしまった彼等の頭に、ルベドを受信してしまう。

 ルベドの素粒子は誰でも平等に異界法則の恩恵を与える。

 それが敵対者で、宿敵で、殺すべき同族だとしてもルベド自分を隠さない。"知りたい"なら教える。それが例え次の行動だとしても"知りたい"なら教える。

 だからこそ、ルベドから自分を完全に閉鎖している冥王は『てめーにはもう教えねーよバーカ』と素粒子を通して飛んでくる罵倒がちょっと悲しい。

 相手を尊重するにしても一方的に知られるのは釈然としない。互いに"知る"のが醍醐味なのに、拒絶する人間は初めてだから想定していなかった。

 

 

<でも……人は少なからず自分のことを理解して欲しい。知って欲しいと願っている。貴方にとっては大切な人がそれに該当する。普通はそれでいいのよ。家族、恋人、友達でもいい。限られた人に知ってもらえればいいと願う人もいれば、上司や部下、同僚にライバル、挙げ句の果てには見知らぬ他人でさえ自分を理解して欲しい。知って欲しいと願望する人もいる>

 

 

 おそらく……いや、殆どの人が私のような生き方を望まない。でも、それでいい。閉鎖的でも、開放的でも、他者を知り、自分を知ることを止めない人をルベドは見限らない。

 

 

<でも欲を言えば皆が『空』に至ればと……切に願ってる>

 

 

 それこそが、人間が到達すべき頂と信じている。

 全人類が、幻想と夢見る那由多の領域まで成長できたなら――――――それはきっと、素晴らしいと想うから。

 

 

 

 

 

「これ以上――――――俺の中に流れ込むんじゃねえええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 

 止めどない情報の渦が弾かれる。素粒子の繋がりを拒絶する。

 

 

「つまりこういう事か。私は成長するお前らも成長してくれ無理強いはしない自分のペースで好きなように成長してくれ。堕ちるも上がるも人間の成長なら私は常に心を開いてる。例え歩みが遅くともいずれは皆が『空』へ至るって………………神様か何かだろ」

 

 

 優しい正論。ゼファーの知る破滅の正論とは異なる成長へ導く"守護神"『水星(マーキュリー)』。

 

 

 ゼファー・コールレインが太陽系を放逐された闇の冥王星(ハデス)――――――『星を滅ぼす者(スフィアレイザー)』ならば。

 月を除けば惑星の中で最も早く動く水星は、太陽に最も近く公転軌道を周回しているため、観測するのは非常に困難。水星軌道周期の約半分に相当する期間は、太陽の光に埋もれてしまって見ることができない。そう、最も太陽の輝きに焼かれながら太陽の力を外へ伝えてゆく惑星は、光でありながら完全には染まらない流動性を有する『翼のある使者』。

 

 

「神……ね。そんな大それた者になるつもりなんてないわ。だけど……うん、()()()()()()私の創り出した極晃星(スフィア)を。貴方が冥王星(ハデス)であり、『星を滅ぼす者(スフィアレイザー)』ならば。私は水星(マーキュリー)――――――永久の不完全(ルベド)星を繋ぐ者(スフィアリンカー)』ッ」

 

 

 水星は古くから知性とコミュニケーションを司る。太陽や月は個人の人格に関わる部分を象徴するが、水星はそれらを外部へ伝達したり交流するための働きを促すもの。

 

 

「ねえ冥王(ハデス)、私は弱者が考えたどんな強敵にも楽して勝てる星とも、努力すれば皆が平等に力を授かる原初の星とも違うの。私の星の本質は精神情報の通信。ネットワーク化させること。永久機関は私だけが持つ無限()に過ぎない」

 

 

 ルベドの願いは人類全てが空へ至ること。永久機関は素粒子を効率よく世界にばら蒔く散布機。破壊は求めていない。だがママ、邪竜がそうであったように、死の淵でしか自分を知れない者もいるのも確か。

 

 

「一度私を受信すればもう切断は出来ない。なのに反粒子って卑怯だね。私の思いも否定する」

 

「ふざけるな。一度繋がったから分かる。お前、まだ能力制限してるだろ?」

 

「当たり前でしょ。強弱もつけれない通信機なんて欠陥品。私を除いて他の人は、知りたいことを知るだけ」

 

『私だけ?まさか……』

 

「ええ、うん。全人類の三割とは受信したわ。制限を設けると知りたい人の知りたいことしか受信しないけど、誰かに知って欲しいと無意識に渇望しただけで、制限を取り除いた人はそれを全受信する。後はそうね、私は精神をかいして相手に語りかけることも出来る。伝言(メッセージ)みたいなものね。それで全人類に私は囁くの――――――あなたを知りたいって」

 

 

 するとどうなる?誰だって声の主を知りたくなる。お前は何者だって。そう思わない人も勿論いるだろう。でも、人間であるなら知って欲しいと誰もが渇望している。それでも塞ぎ混んでいる人は、もっと語りかければどんな人間でも知って欲しいと思ってしまう。そうなれば――――――

 

 

「だから私は、()()()()()()()()()――――――()()()

 

 

 

 

 

「――――――はぁ?」

 

 

 明かされた戯言にゼファーはしばし瞠目した。

 頭が理解を拒絶して呆れる事数秒後、徐々に言葉が浸透していきゼファーは心底ゾッとした。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 真っ当だ。正論だ。愛する人、家族の他にまずは隣人を知ることが平和への一歩。ああだから、それはつまり――――――  

 

 

『あなたまさか……全人類の記憶と体験を受け止めるつもり?それも、()()()()()()()()

 

「そうよ」

 

 

 短い肯定はまるで規則正しい歯車のように揺ぎなかった。

 

 

「重要なのは、皆がちゃんと知ること。知らないから争いや悲しみが生まれる。勿論闘争を望むものも私は否定しない。それらの行いは、その人にとっての成長の証なんだから」

 

 

 制限を解除すれば、まず最初に必ずルベドの生まれてからこれまでの全てを知る。思いの丈が電波の強弱を決めるならば、誰よりも知ってほしいと願う彼女の生涯を()()()させられる。

 全人類が公平にルベドと同じ体験をさせる。

 生まれてからの激動。出会いと別れ。心の形。様々なルベドが実際に体験した人生を、痛みを、心の答えを、まるで自分の生きざまのように融合する。

 しかも、それが終われば全人類がこの惑星生命をルベド同様知ることになる。一人の人間に、何十億人の『これまで』が際限なく流れ込む。

 

 

「世界は理不尽で満ちている。その最たるのが『力』『知』『優劣』。三つ目は『権力』と置き換えてもいい。人間は絶対に平等には成れないし対立する生き物。スレイン法国はちゃんとした人間以外を排除し、外敵要因を無くそうとした。もしそれが成功しても今度は人間同士で争うでしょうね。アインズ・ウール・ゴウンは強者の立場で全ての種族を平等に治めようとした。見方を変えれば見下しているし結局は『力』で抑え込んで平等という名の『優劣』が発生してしまう。なら、負けないために成長するしかない。勝つための成長はあっても。負けるための成長を願う人はいない。冥王として星となった貴方は私が出会ってきた人間の中でも駄目野郎。怠惰の化身。塵屑と評価してもいい。そんな人でも『何か』のために諦めきれないという真理。四割がた受信を完了したけど、眩しく生き続ける事は難しい。四割の内多数が貴方のように生きている」

 

 

 光だけでは人は燃え尽きる。闇だけでは人は堕落する。ママが求めた灰色こそが人の本質であるならば、私は全てを肯定する。

 

 

「人の生涯は成長の過程……終わりがないゆえに――――――ゼファー・コールレインこそが人の可能性」

 

『はい?』

 

「意外?でもゼファー・コールレインは人の生涯を費やしてやっと辿り着けるかも分からない始まりと終わり(阿吽)の"答え()"――――――真理の頂へ到達した。ママもそう、誰かを知る……本音をぶつけ合う。そこに『空』はある」

 

 

 "冥王"ゼファー・コールレインは愛する家族と親友に。

 "絶死絶命"カグラは片思いの二人と迷える人形に。

 "永久"ルベドは皆から。

 

 

「無論待つという言葉に嘘はない。いきなりじゃ駄目。まずは弱で慣らしてから五年か……十年もあればいいか。事前にやりますって勧告すれば混乱も起こらない。そうすれば、皆が平等に成長する世界が切り開かれるの!!」

 

 

 その世界こそ、絶対に素晴らしいものだとルベドは信じている。

 

 

「世界は不平等だ。なら、人は生きると死ぬこと以外に、成長するチャンスくらい平等にするべき」

 

 

 その願いは相互理解。一人では成せないごく当たり前のコミュニケーション。

 

 

「何度でも私は言うわ。人は一人じゃ生きられない。そして、成長するには"知らなければならない"。例えそれが苦痛だとしても、貴方たちのように"答え"に至ってくれると信じている。だって、人は必ず何かに成長する生き物なんだから」

 

 

 他人を信じる優しい正論の星。ルベドが語る世界が実現すれば素晴らしい黄金時代が到来する。そう、()()()()()()()()()()

 

 

「ふざけるなよこの馬鹿野郎がッ。いいかよく聞けこの知りたがり女。確かにお前の信念は尊く素晴らしい。天晴れな御題目だ。だがな、誰もお前みたいになれないんだと自覚しろ」

 

 

 彼等でさえ、ルベドのほんのごく一部を受信してしまっただけで、自分が自分では無くなるかのような別の誰かに上書きされると脳組織が拒絶した。

それを全人類に?猶予を与えるから慣れておけ?馬鹿も休み休み言え。大切な身近な人を知るだけで大変なのに、どうでもいい他人を知れだと?それも人間種・亜人種・異形種の全てをって――――――

 

 

「価値観が違いすぎる。皆総じて人間?あほだな……死ねよ。出来上がるのは理想郷なんかじゃない――――――死体の山だ。誰も脳と精神が耐えきれない。お前のような機械じゃないんだ。そこから理解しろ」

 

 

 当初ゼファーは殺すつもりだった。だが、こいつの願いは破滅を生まない。もしかしたらその方がいいのでは?と思わせる。

 この場であと少し改善されたなら、戦わなくても良いとさえ考えている。

 

 

「"知る"ことで成長するのなら、もう少し大人しくなることを覚えろ」

 

 

 だから頼む――――――こんな俺なんかよりも皆に誇れる素晴らしい星。前任者(ユグドラシル)のように人を見守ってくれ。

 

 

「ごめんね……それでも知りたいの。その先がどうなんな苦難だとしても――――――皆が成長を遂げた明日は私の成長になる!!」

 

「だから子供なんだよッ!!」

 

「子供は成長の証だよ!!」

 

 

 第八層を蒸発させる想像を絶する域の超新星が――――――滅びに撒き散らされた。

 同じ階層に資格のないものが踏み入れば塵すら残らない選ばれた者の神域。

 調律者、超越者の遥か頂に到った天上の存在。神と謳われる領域までその存在を昇華させた冥王聖(ハデス)水星(マーキュリー)

 両者にとって不本意ながらこれが事実上の世界頂上決戦。

 

 

「凄い凄い凄い凄い凄いほんとうにすごい!!どこまで出力を上げれば突破できるんだ反粒子ィッ!!」

 

「テメェ―もさっさと自滅してろ。無限出力がご自慢なんだろ?」

 

「分かってて言ってるよね?出力が上がれば上がるほど私は自壊する。方向性は決められてもブレーキみたいにオンオフ切り替えは時間がかかる。首とおさらばしちゃうよ。だけど――――――決められるなら私は躊躇なく撃つの」

 

 

 無限と闇の究極が激突し、粒子に満ちた空間が断ち切り、砕き、破壊される。 

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ――――――!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ――――――!!」

 

 

 激突し合うは憎悪と歓喜の超新星。ことこの戦いにおいて小細工は通用しなくなった。

 僅かな希望を抱いていたゼファーは完全にルベドを害ある者へと格付け。ナザリックが蒸発する莫大なエネルギーが対消滅を繰り返し、弾け合って周囲へ余波を撒き散らす。

 広範囲高出力を垂れ流すルベドは、星を繋ぐ者(スフィアリンク)の特性を生かし自らの土俵へ戦う事を星を滅ぼす者(スフィアレイザー)に強制する。

 

 

「あまり好みじゃないけど確実性重視。逃げ場のない拡散するエネルギーを対消滅し続ける貴方たち反粒子と、無限上昇する素粒子……どちらが先に圧し勝つかなッ!!」

 

 

 太陽に生きる水星は、光に焼かれながら闇を知る"不完全"。

 死にたいと心の底から渇望した。もう嫌だと歩みも止めたこともある。だが、ルベドは生まれてから一度も誰かを恨み、妬み、憎悪したことがない。

 故に、星としての力は分け隔てのない愛の感情。水星(マーキュリー)は自分を愛し、他者を愛している。パパやママから与えられた(その)感情を良いものだと認識し、人は愛で生きる者だと理解しているこその相互理解。その願いは等しく誰もを繋ぐ架け橋。

 

 雄たけびの鼓動を奏でる『永久機関』は、全ての役割を担う中心核(コア)

 成長という光だけが呼応する無限大()

 強さも弱さも人間の全てを受けとめ見守る『守護神』は、成長するための犠牲を厭わない矛盾性を宿している。

 

 優しい"守護神"『水星(マーキュリー)』と、成長の真理到達者永久の『不完全(ルベド)』。どちらも自分と認識しているから――――――誰かを知る、出力が上がる、誰かに知って貰う、出力が上昇する。その想いの全てが天井知らずに成長させる。

 

 二面性を認識しそれでも光を優先的に伝えるその在り方はまさしく水星。

 それが、ああ――――――ひたすら目障りで。

 

 

「要は自分に追いついて欲しい訳か。全人類と繋がったお前自身――――――自分を停滞させたくないから。全ての人間を知ってしまった未来への保険。お前や俺のような明確な脅威になるライバル、宿敵、同格の相手が欲しいわけだ。そりゃそうだ。格下嬲って成長も糞もない。闘争に於ける語り合いを重視しているお前はもう俺しか居ない」

 

 

 ルベドが、ゼファーがそうであるように、新たな星を創生させる最も効率のいい成長は闘争。そんな糞みたいな結論を実行しようとしている。

 

 

「誰構わず人の心を見るってことは、当然殺し合いに繋がる。……ああそれ以前に脳が焼け死ぬか」

 

「面白い意見ね。ええその通りよ。椅子の上で考えただけで人は成長する?実際に行動を移した者、痛みを知る者が成長を果たすの。何事にも良い側面と悪い側面があるように、殺し合う(そうなる)ことは知っている。でも……私のように誰も受け止められないのは困るわ。そうね、素粒子で補強すればいい。人の人体を人類の記録を受け止められる強度まで。10年じゃ足りない50年……100年、調整を繰り返すとして期限は更に見積もった方がいいかしら」

 

 

 こいつは何も理解していない。人類九割死亡から未曾有の大戦争――――――どのみち死体の山だ。

 

 

「頭悪いだろお前?寝るときもクソする時も……大切な人と同じ時間を分かち合う時も"誰かの声を聞き続けろ死ぬまで"。……無駄な強化が一番の傍迷惑だ。疾く死ね」

 

 

 成長し続ける永久機関の出力。ナザリックを消し飛ばすだけでは済まない破壊力を有して轟く。視界全域を埋め尽くす無限の波濤。蠢き唸る反粒子、奈落の星はその深度を深めていき――――――光が消える。

 

 

「干渉性特化ッ!!ここまで相性が悪いなんてッ」

 

 

 どれだけ出力を上げようが、無限のエネルギーは純粋な素粒子。容易く干渉され乗っ取られる。 

 それだと説明がつかない。

 

 

「今までの素粒子を変換し溜め込んだ反粒子か!!」

 

「自滅は得意だろ」

 

 

 今の今まで蓄積した奈落の闇がルベドの素粒子を対消滅させる。

 上がり続ける出力が間に合わない。

 自動再生機構(オートメンテナンス)の自動修復も脳と心臓、永久機関は修復されない。

 

 

 

「実戦における経験の差。知識だけじゃどうしようもないほど私と貴方には隔たりがある」

 

 

 戦闘技術は我流もいいとこ。ご丁寧な出力上昇も徐々に上げるのは倍加した場合の調整が効かないから。

 もしももう少し成長する猶予があれば、完全なる出力調整までこぎ着けた。

 お行儀のいい成長は一旦終わり。ルベドもまた、光に焼かれた水星(マーキュリー)なれば。

 

 

「水飛沫のような火力じゃもう敵わない。ならば――――――()()()()()()()

 

 

 機械仕掛けの神の如く両腕が高らかに広げられたその瞬間、出力差は兆を軽く突破し、京、垓の領域へと突入しながら大気の圧を纏わせ一点へ向けて集束していく。

 

 

「潰れろ――――――光射す水曜日の烈震灼槍(ディエス・メルクリィ・ブリューナク)!!」

 

 

 瞬間、ゼファーという対象座標へ無数の光線が殺到した。

 集束性、拡散性、操縦性に秀でた誘導性のレーザーはミステル・バレンタインの超新星。広範囲に及ぶ貫通光学兵器。拡散性の星は全方位へ無数の煌めきとなり、永久機関のエネルギーが終わることのない光の波が雪崩込む。回避の隙間がない連射性と拡散性が強化された弾幕は、闇を払いながらたった一人へと迫る。

 オリジナルより密度が違う。一撃の威力も連射性も弾幕も桁違い。

 土壇場で自身と相性のいい光輝の槍(ブリューナク)を使用可能まで成長したルベド。

 成長する時間があれば大抵の星を理解しより上位に使いこなす。

 

 

「いくぞ、ヴェンデッタ――――――!!」

 

「ええ、彼女にあなたを殺させない」

 

 

 呼びかけに応じて歌を奏でる月乙女(アルテミス)。漆黒の月光が、羽衣のように優美な舞を宙に描いた。

 煌めくオーロラはしかし、闇を凝縮した禍津の誘いに他ならない。レーザーを遮断する対消滅粒子(アンチカーテン)の絶対防御――――――ヴェンデッタの銀光が俺を優しく抱きしめて素粒子を圧力ごと消し去った。

 

 

「相手を知りたいと言ったな、ルベド」

 

「ええ、どんな人間に対しても誤解なく、分け隔てなく――――――」

 

「それならお前には秘めていたものはないのか?秘密にしたい過去(後悔)は?」

 

「生まれてから一度もないわね」

 

()()()()

 

 

 月乙女(アルテミス)の加護の下、距離を詰める。

 

 

「どういう意味?」

 

「俺たちはな――――――普通の人間には、隠しておきたい部分が必ず存在する」

 

 

 一歩。

 

 

「秘密を作って、否定されることを恐れているの?そんなものがなければ、知って貰えば人は幸せになれると――――――」

 

『違う、そうじゃないわ。内に秘めていることこそが大切で、守らなくちゃいけなくて……傷も、痛みも、涙だって――――――それは誰にも奪えない、わたしたちだけの真実』

 

「確かに誰かがいないと生きていけない。誰かがいるから生きていける。でもな俺達たちの過去(すべて)は未来永劫……今度こそ俺達だけで守り抜く」

 

『そこに、あなたの助けは必要ない』

 

 

 攻撃の波が一呼吸遅れ、更に一歩。

 

 

「だいだい誰にでも自分を理解してほしいなんていうのはな。生まれたての赤ん坊が言う事なんだよォ!!」

 

 

 子供ですらない。そんな事実を前に気づく――――――気づかされてしまう。

 

 

「…………わたしが、孤独に負けていると?」

 

 

 微かに、彼女の言葉が濁る。ただの寂しがり屋のガキ。周囲に"答え"を求めすぎる、よくできた嫌味な子供。

 人間は、誰にも知ってほしくない部分を持っている。

 

 

『ほんとうに……本当に大切な人だけに知ってもらうために――――――』

 

 

 太陽の中央に飛び込んだと同時、冥王(ハデス)月乙女(アルテミス)の絶唱が轟きながら響き渡った。

 

 

「――――――そのために、生きてるんだよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 増幅振(ハーモニクス)――――――改め、暗黒星振(ダークネピュラ)全力発動(フルドライブ)

 振動操作(ゼファー)反粒子(ヴェンデッタ)、それぞれの両局面を同時に揺さぶった超高周波の連動は完璧であり、かつ強大。一糸乱れぬ二人の星が次元さえ揺るがしながら、光輝くルベドの守りを消し飛ばす。

 

 

「行くぜ……合わせろヴェンデッタアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ええ、ゼファー!!」

 

「貴様の言葉が私を成長させる!!なあそうだろ……ゼファーコールレインッ!!」

 

 

 対消滅、並びに対振動の二重奏。特殊な周波数を帯びた粒子の揺らぎを伝播させ、未来を夢見る双瞳を深々と一文字が刻まれた。

 

 

(いたい、何も見えない――でも――――――)

 

 

 脳まで達していなくともその傷は致命傷。それは同時にこのチャンスを逃せば脳、心臓、永久機関の何れかが破壊される一手を打ち込まれる。

修復機構を後回しにそろリソースを視力以外の器官強化に注ぎ込む。

 消失前の視界情報から軌道予測を算出+聴力情報から誤差修正―――――計算から完了まで0.1秒。

 

 

「――――――私の勝利だッ!!」

 

 

 那由多を突破し、摩訶不思議を踏破した無量大数の右ストレートが完全に正中線を撃ち抜いた。

 

 

「ぐぽぉ……」

 

 

 命中した感触と全く同時、異物が肋骨と周辺の肉をぐじゅぐじゅに溶かし、ルベドの核を五指で掴んだ。

 蝕まれる恐怖と痛み。その正体を再生した眼球が認識した。

 

 

「グギッ、あぅ……な、ぜぇ生きている!?」

 

 

 捻った蛇口のように滴る血は適切な処置を施さなければ死に至る重傷。消し飛ばした右腕は言うにお及ばず。巻き込まれた右腹と右足は深く削がれ、頭部からも激しく血を流す。中身の損傷は想像以上に最悪といってもいい。

 だが、強者の喉笛を噛み切る銀狼の眼は『無限』をも奈落の闇へ誘う冥府の扉。

 

 

「あがァ!!」

 

 

 反射的に後ろへ逃げようとしたルベドに、永久機関を掴んだ五指の力が増す。

 

 

「逃げるなよ……なぁ、ルベド。お前に俺の能力をちゃんとした形で使用したのは初めてだったな。騙されたのは生まれて初めてか?おい」

 

「ガハッ、……振動操作、……まさか音まで!?」

 

 

 ギリギリずらされた。騙す人は知っていても、実際に騙されたのは初めてで――――――永久機関に干渉をしている!

 

 

「は、デス……やめ、ろ」

 

「やめるわけねぇだろ。勝利を抱いた時点でお前は『水星』から『無限』へ天秤が傾いた。確実に殺すなら当然永久機関(ここ)だ」

 

 

 勝利を願う光に逆襲劇を。

 脳と心臓を侵しても永久機関からまた復活する。

 それは以前のコイツかは不明だが、それもルベド。

 

 

「憐れな奴だよ。甘えられる守ってくれる人がいない。……()()()()()()()()()それだけで、お前は変われたんだよ」

 

 

 絶体絶命の危機に、この惑星を終わらせる全方位無限()の拡散が――――――

 

 

「なあ!?そんな、どうして!!?」

 

 

 星辰滅奏者(スフィアレイザー)の奏でる旋律が永久機関の歯車を変質、素粒子が反粒子に置き換わった。

 永久機関がルベドで、素粒子が肉体を構成するために常に循環している。それの意味することは。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 消滅する。対滅する。否定される。拒絶される。ルベドを構成する全てが冥府の供物に捧げられる。

 異界法則へ至った独自法則をあの一瞬で干渉するのは不可能。ルベドの回路をもってしても他者の法則を解析するのに膨大な年月を費やす。それが可能とすれば、永久機関を創った者、深く理解している者、そして。

 

 

「小細工されていた?歯車を壊しながら永久機関に事前に楔を打っていた!?」

 

「俺と繋ぐパイプが、予め作ってあるんだ。後は注ぎ込むだけでいい」

 

「わたしは……おわるの?もうこれいじょう、せいちょう……できないの?」

 

『それを決めるのはあなた次第よ。成長の仕方は千差万別。あなたは確かに成長する人と人を繋ぐ星。私達はあなたを否定したけど、その有り方は尊く素晴らしく必要とされる煌めき』

 

 

 面積が無くなる肉体をヴェンデッタ優しく抱きしめる。

 触覚は失われているはずなのに、暖かくて、つい今日の出来事の筈なのに。

 

 

「……ママ」

 

 

 最後の時、人は成長する。

 最後の最後で、本当の大切なものを実感できたから――――――

 

 

「……想いは伝えられていく」

 

 

 それが、繋ぐということ。

 素粒子と混ざりあった反粒子が、極彩色の粒子を散らして――――――消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




万象対滅させる星辰滅奏者(スフィアレイザー)
万象繋ぐ星辰伝奏者(スフィアリンカー)

最後走り書きになっちまったよ……


星辰伝奏者……凄い考えました( ´Д`)

※変化したNPC大雑把にまとめた(感想のコピペ)
セバス=愛に生きる男
コキュートス=武士道とは死ぬことと見付けたり
ペストーニャ=皆さん助けます!特に子供!
マーレ=ママ、お姉ちゃん※一番拗らせたヤバイ奴
シズ=?
ソリュシャン=嗜虐心と食欲の化身
ルプスレギナ=虐殺旅行世界一周
ルベド=なんか機械仕掛けの神様ぽくなった
アルベド=?
パンドラ=?
その他=?
モモンガ=絶望


皆、Switchは買ったか?俺は買った、一月前に。そのせいでスプラトゥーンにはまったが、問題は今日(昨日)から発売されるDies iraeだ。どんだけリニューアルするんだよ(半ギレ
全部ついてるボックス買ったと思ったら、Switchって……買ったけど(ガチキレ
取り敢えず、アプリゲームでたらめカウントダウンボイスに出てきた全員当ててやる!


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ソリュシャン・イプシロン

 この戦いは、敵からしたら意味もない……人ならざる者が一匹だけ人知れず消える。それだけの話――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん……とってもとっても悲しいわぁ。手癖の悪い可愛い可愛い妹の反抗期に戸惑ってしまうもの」

 

「………………シスター冗談キツキツ。顔が極悪」

 

 

 直上からの完璧に決まったアンブッシュを二発の発砲音がソリュシャンの両目から光を奪い。ハンドガンのマガジン全弾を頭部、喉へと追撃を許さず数秒間感覚を狂わせた。

 ソリュシャン・イプシロン種族:異形種(スライム)捕食型粘体(スライム)の種族特性として物理攻撃への耐性を持ち、強弱の加減が出来る酸の分泌も可能である。鉛の弾は排出されず溶け落ちる。

 それでも、完全にソリュシャンの意表を突いたチャンスを人間(ツアレ)を遠くに避難させるためだけに浪費する愚かしく可愛らしい妹に頬が緩んでしまう。

 

 

「見ない間に口が回るようになったじゃないシズ。そんな貴女がどんなふうに歪むのか…………興味なぁい~?」

 

「……三女は口うるさい。少しは慎むべき――――――鏡見たことある?」

 

「ふふふ、本当にらしくない。悪いお口はめっよ。でもそうねぇ……ほんとうに、見ない間に変わったわね……稀有な人生を楽しんでる?ツアレ(人間)

 

 

 捕食者の眼に潜む驚愕の光。脅えるだけ、流されて誰かに自分を託していただけの劣等はもうそこにはいない。

 自ら考え、足掻き、抵抗する者。初めてかもしれないlevelにそぐわない人間の強者。 

 

 

「……お久しぶりですソリュシャン様。私は、これまでの過去(すべて)を受け継ぎ……生きなければなりません。どうか武器を治めそこを通していただけませんか?」

 

「……あぁッ美味しそう。今のあなたのこと、すごく好きよ。セバス様が拾ってきたときはそれこそ邪魔としか思っていなかったわ。何処を見渡しても珍しくもない不幸な人間の女を何故セバス様が気に入られたのかは疑問だけど……今ならわかるわ。あなたこそが、"人の可能性"。私では到底理解出来ない、誰かを思いやれる者(本当の強者)だけがその価値に気付いてしまう」

 

 

 絶対的なカリスマ性など不要。

 今のツアレを見た誰もが、人間はただ生きるだけで素晴らしいと感銘を受ける。

 人間として、一人の女として、子を守る母として、その優しい輝きに、持たない者が群がってくる。

 

 

「祝福するわ。あなたは、私たちが望んでも手に入れることが叶わない幸福を手に入れた」

 

 

 生命力が溢れるツアレ。戦士としての強さなどなく、愛した男の願いと託された想いを強さに変える。

 

 

「羨ましい……嫉妬しちゃうわね」

 

 

 濁った瞳は誰も映さない。でも、ツアレは寂しそうと感じたから。

 

 

「ソリュシャン様。よろしければ一緒にナザリックの外へ行きませんか?」

 

「……優しいのね。先に手を出したのは私なのに。セバス様やシズのようにその"甘さ"につい引かれてしまう」

 

 

 自分とは真逆の人間。ついていけば新しい発見があるかもしれない。

 

 

「えぇいいわ。今日だけはその手を取ってあげる」

 

「いいのですか?」

 

「たまには、らしくないことしてみるものでしょ?」

 

 

 殺意を霧散させ、ナイフを肉体に収納させる。

 分かり合えない存在はいない。どんな種族も理性があり知性がある。

 ゆっくりと歩み寄ろうとしたソリュシャンに。

 

 

「えい☆」

 

 

 シズは容赦なく持ち替えた白色の魔銃(メインウェポン)でソリュシャンの頭を吹き飛ばした。

 

 

「ええええええええええ!!?シシズさんッ!!?、うそ!?」

 

「……モーマンタイ。ツアレ落ち着いて。騙されやすいにも程がある。ほらあれ」

 

 

 膝から落ちたソリュシャンの肉体が崩れ不定形の粘液へと変貌する。

 

 

「……本体はそっち」

 

 

 ツアレの影に移動していた暗殺者に魔力が籠められた強化弾をお見舞いする。無論麻痺弾クリティカル。

 ダメージで怯んだソリュシャンに弾丸をばら撒いて牽制し、ツアレの手を引き中距離を維持する。 

 シズはツアレの耳元に顔を寄せ小声で話しかける。息がかかってくすぐったい。あと妙に近い気がする。

 

 

「ツアレぷんぷん。顔で判断しちゃいけないけどドSは絶対に信じちゃ駄目だよ。とくに一目で信じちゃいけない極悪顔は」

 

「……シズさんなんかソリュシャン様と話すときと口調違いません?」

 

「…………ソンナコトナイヨ。あとぷよぷよに様付け不要。所詮四つ揃えて消える存在」

 

「ぷよ?」

 

「……そのままの君でいて。それで、どうする?ツアレは死んでほしくない思ったから二度見逃した。でも、次からは本気で殺しにくる……厳しい」

 

 

 シズlevel46、ソリュシャンlevel57――――――level差11。

 ガンナーなどの遠距離型で構成されているシズと、スライムの特殊技能と合わせた暗殺特化で構成されているソリュシャン。level差はあれど得意分野に持ち込めば勝負はどうなるか分からない。

 事実、不意打ちと予測を超える反撃で二度完全に封殺した。でも、それもここまで。狙撃手として潜伏しながらではなく互いの姿が認識できる戦場では、狙撃手も暗殺者(どちら)も不向きだがツアレの存在と手数の多さからソリュシャンに部がある。

 その上で、シズはツアレに委ねている。

 

"ツアレはどうしたいの?"

 

 

「私は――――――」

 

 

 ただの人間は、最善を絶対に得られない。どこかで失敗する。納得できない。後悔するのが人間。

 だからもう――――――無力を嘆きたくない。

 

 

「ソリュシャンを倒します……そうしなければ地上に上がれないのなら。お願いしますシズさん……一緒に戦ってください!!」

 

「……うん!!まかせんしゃーい」

 

 

 ツアレは知っている。人と異形種は分かり合える。

 level差40以上の数値では語れないフレンドパーティー。ルールの先にある感情が紡いだ友情の炎。そんな二人を人型に復元しながら見つめるスライムは嘘偽りなくその温もりを称えた。

 

 

「うつくしい……すごいわ、なんて言うのかしらこの感情。……そう、例えるなら自分が絶対に手に入らないモノを自分以外の誰かが当然のモノとして胸に宿している……そんな心境ね

 

 

 邪悪あれ。人を、生命を弄べ。

 誰かの苦しむ姿を餌にする捕食型粘体は、信頼し合う絆を前に、"いいものだ"と感傷に浸る。故に――――――

 

 

「二人仲良く溶かしてあげる。美しく、尊いものが醜く歪み絶望する瞬間こそが、私にとっての宝なんですもの」

 

 

 "いいもの"をグジュグジュに溶かし一つとする。

 

 

「私を思うなら、混ざり合いましょ。溶け合って蕩け合って離れられない関係になりましょうね」

 

「……お断りだぜベイビー。ゼリーはゼリーらしくプルプル震えてな」

 

 

 白色の魔銃を構える妹の姿に、キャラが違うだろと笑ってしまう。

 

 

「フフフ、あなたやっぱり変わったわね。まるで――――――」

 

 

 宣告なしの銃撃。スライムでは意味をなさない急所攻撃。それでも人型故に聴覚、視覚は耳と目に依存する。

 最大限に警戒し、来ると分かっていたソリュシャンの左半分が弾け飛ぶ。

 

 

「……むぅしまった」

 

 

 同時に人型は崩れ流動型となり瓦礫、装飾品の隙間へ消える。

 スキル:気配遮断にスライムとしての伸縮性は一度見失うと心底厄介。見渡しがいい九層の豪華な通路も、細々とした城が買えるアイテム(邪魔な障害物)が暗殺者にとっての絶好の狩場となる。

 

 

(プレアデスはlevel差はあれど種族レベル職業レベルの構成で短所と長所をカバーし合うチームになっている。こうも一方的に負かされるのは理屈が合わない。アイテムにより強化。バフ。装備品……全部か。これほどの強化が可能とすれば宝物庫しかない。対シズ戦術があてにならない。最悪なのは世界級アイテムを最深部から拝借してた場合だけど……)

 

 

 退くという選択肢を消しているソリュシャン。否、逃げない。潜伏したまま一度装備を整えに戻ることも可能だが、今のシズはそんなことをすればさっさと地上に行くだろう。

 

 

(仕留めるしかない一撃で。使える手段を全て行使し何もさせず殺す)

 

 

 空間に作用する魔法やアイテムはどうしようもないが、他者と戦いながら連絡がとれる伝言(メッセージ)、周囲一帯の転移魔法を封じる次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)など阻害系が多数を占める。空間そのものを攻撃する反則級の技はあるにはあるが、効果範囲が狭く防御不可能な斬撃と認識すれば回避は容易い。

 

 

(弾丸は物理攻撃に部類されるけど、付属されている力が厄介。魔力弾、 徹甲榴弾、拡散弾、属性弾、状態異常弾、斬裂弾、捕獲用麻酔弾、ペイント弾……弾丸の種類を変更するには必ず弾倉を変えなくてはならないデメリットが存在する。今込められている弾は状態異常弾。弾倉数二十発。残り七発。肉体を複数分裂させ弾切れを引き起こせば……)

 

 

 シズのスペックは把握している。強化されたとしても戦い方(ベース)は変わらない。ソリュシャンは冷え切った回路が静謐に答えを導き出す。

 だが、なんだ――――――この払拭できない違和感は。この当たり前すぎて気にした事もなかった矛盾を指摘された感覚。

 この正体を明確にしなければ致命傷となる。

 スライム形態ソリュシャンは、液体のすべてが耳であり目であり急所でもある。構成上スライム形態は防御力と攻撃力を犠牲に隠匿性、素早さが大幅にアップする。

 

 

(『存在の棄却』は情報収集特化型ではないシズには発見不可能。細く長く張り巡らした私が360度から観察。細かな仕草も見逃さない。隙が生まれた瞬間……)

 

 

 人型形態へ一瞬で変態しその命を刈り取る。

 だからだろう。暗殺者として最も行ってはならない失態。違和感の正体に気付くのが遅すぎた。

 シズの銃口が七度火を吹き、一切の誤射なく隠れていた障害物ごとソリュシャンを焼き払った。

 人型に瞬時に変態したソリュシャンは、隠匿が無意味であると悟る。

 

 

「シイィィィィィィィィズゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウッ!!」

 

「ペイント弾(゚∀゚)キタコレ!!」

 

 

 そう言ってシズは空弾倉をソリュシャンに向け投げた。

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

 左手の甲で弾いた空弾倉が衝撃で爆発する。親指と人差し指を除く指が蒸発し消し飛んだ。

 

 

「どうして?て顔してる。難しいことじゃない。銃本体の薬室に一発分仕込んでただけ。弾切れを偽造した。

そう……弾は20発じゃない21発あった!!」

 

 

 どや顔(無表情)を決めて一息で新たな弾倉を挿し込みボルトを前後に動かし弾を発射する準備が整う。魔銃に取り付けられている装飾品(ボルトアクション)をついやってしまうシズ。この動作かっこいいよね。※やる意味はない。

 

 

「麻痺弾……倍ブッシュだ」

 

 

 謎の決め台詞とともにソリュシャンの額へ向けトリガーを引いた。

 これで終わり。弾倉の中身にそれぞれ別の弾を装填されていたルール違反を見抜けなかった頭のお堅い軟体生物の負け――――――

 

 

「………………いたい

 

 

 切り裂かれた(クリティカルダメージ)のはシズの方。人型かスライム形態でしか選べなかったルールを超越し、肉体の一部分のみを流動化させることに成功。それにより、顔を左右に割り、腕を人間の稼働力を上回る動きであり得ない軌道をえがきシズの白い肌を裂いた。左手をナイフに持ち替え応戦するも、接近戦ではやはりソリュシャンに分がありシズだけ生傷が増えていく。互いの攻撃は致命傷にならないギリギリ回避。だが。

 

 

「無駄が多すぎるわよシズ。ロマンもカッコつけも効率の無駄。そもそもロングレンジで仕留めきれなかった貴女が悪いのよ?……ほらまた」

 

 

 ツアレの動脈を狙った伸びた腕が振るう二対のダガーにナイフを割り込ませ弾き返すが、腕の付け根から放出された暗器針が右足の甲を貫通し地面に縫い付けられる。

 

 

「ムムムピーンチ激ヤバメ」

 

「スキル:影縫い。十秒間だけ縫い付けた対象の動きを阻害する。十秒って短いようで長いわよね。十秒もあればシズとツアレの細切れ料理の下ごしらえが整うもの」

 

「お腹壊しそう……止めた方がいいかも」

 

「あら心配してくれるの?でも大丈夫、料理は私が食べたら完成だから」

 

 

 駆け寄ろうとしたツアレの足に伸ばした触椀を絡めさせ転ばせる。

 

 

「――――――あうッ、し、シズさん!!」

 

「だぁ~め。デザート(ツアレ)メイン(シズ)より先に主張してどうするの?バランスのとれたコース料理が台無しですわ」

 

 

 右手首を締め上げ骨が折れる鈍い音がツアレの耳まで響く。魔銃を落としたシズの肉体が、上質の絹のような肌にずぶずぶ沈んでいく。

 

 

「シズさん……シズさんッ!!」

 

「ん。シズと呼ぶことを許可する。出来ればちゃん付けで」

 

「余裕そうねシズ。でも安心して、メインを平らげたらデザートはゆっくり楽しむ方なの。貴女が溶けきる前にはツアレと会わせてあげる」

 

「サービス精神が憎い。大丈夫……ツアレ。自分を信じて」

 

「………あ」

 

 

 伸ばした手は虚空を掴み。

 

 

「ご馳走さま」

 

 

 最後まで諦めない意志が、魔銃を掴んだ。

 

 

「ソリュシャン!!」

 

 

 銃口を上げ引き絞ったトリガーは、虚しくも間に挟み込まれたソリュシャンの小指に邪魔をされた。

 どれだけ力を込めようがその小指一本で魔銃が固定されている。

 

 

「……そんな」

 

 

 これがlevel差。種族としての絶対的格。ツアレの攻撃で傷付くことはあり得ない。厄介なのは手にした文不相応な武器だけ。

 ツアレが構え、標準を合わせ、トリガーを引く。弾が発射されるまでに欠伸をしながらでも回避が間に合う。

 

 

「チャンスを上げるわ」

 

 

 ねっとり絡めとる声が、ツアレの精神を絡めとる。

 

 

「マガジンに装填されている残りの弾は十二発。ショートレンジ戦でシズは二発麻痺弾を私に命中させたわ。この意味が分かるかしら?」

 

 

 頬を伝う汗が舐めとられ皮膚が焼ける。下唇を噛み締め痛みを堪える。

 これは死の恐怖。それも優しい即死ではない。死を容認されない死。愉しく可笑しく遊ばれる痛みの恐怖。

 

 "大丈夫……ツアレ。自分を信じて"

 "愛してる、ツアレ"

 

 

(シズ……セバス。私に踏み出す勇気を)

 

 

 怯える村娘。そんな平凡な言葉がツアレの本質。だが、その人生(すべて)が人間の意思と信念を作り出すなら――――――ツアレは絶対に止まらない。

 そんな矛盾を兼ね備えた、灰色ではない。光と闇の感情を併せ持つ彼女に、ソリュシャンはご馳走を我慢する子供のように己を自制する。

 

 

(我慢。我慢すればするほど、食材とスパイスは極限に美味しくなる)

 

 

 恐怖と焦りをツアレから感じる。そんないとおしい姿を脳裏に刻み込む。この美しく美味しそうな全てが溶け落ちる様を想像しながら。

 

 

「…………あと一つで、麻痺にかかる?」

 

 

 極めて冷静な分析に涎が垂れた。

 

 

「えぇ、ええそうよ。蓄積された毒が効果を及ぼすにはあと一発足りない。でも装填された弾が全部麻痺弾とは限らない」

 

 

 ヒットしたモンスターにマーキングを施す事が出来るペイント弾に不意を突かれた。徹甲榴弾には拭えないダメージを負った。どれも全部シズが使用して初めて意味がある。

 無駄な抵抗をしてくれ。足掻きもがいて希望の花を枯れさせろ。

 

 

「いい?チャンスは十二発。全て撃ち終わるまで私は攻撃しない。でも時間稼ぎなんて興醒めだからチャンスは10分。10分間私は三メートル以上離れないと約束するわ。麻痺の効果があと10分で無効になるから丁度いいでしょ?」

 

 

 固定したトリガーから小指を離した。

 

 

「さあ怯えなくていいのよ。このチャンスを――――――」

 

 

 撃った魔銃の反動で肩に衝撃が走ると同時に、乾いた音が響く。

 小指を離してすぐにトリガーを引き絞り発射された弾は七発。

 実銃より反動が軽減された魔銃でもツアレの筋力、シズの見様見真似の持ち方は銃口がぶれた。

 狙いにくい頭を捨てた発砲七発は胴体へ吸い込まれる。

 

 

「そこまでシズの真似をしなくてもいいのに」

 

「……うそッ」

 

 

 そもそも動く必要がないのだ。銃口の発射方向。トリガーを引く動作。弾の軌道と発射タイミングの事前情報があるのに弾が通過する箇所だけ穴を開けれない理由はない。

 続け様に二発火花が散るが結果は同じ。

 

 

「残り三発。時間はたっぷりと九分あるわよ」

 

 

 ツアレは考える。所詮教養など作物や簡単な料理。メイドのしての作法しか持ち合わせていない。ツアレが思い付く作戦など想定済みだろう。

 なら、(弱者)にしか出来ない奇策でサディストをあっと言わせよう。

 

 

(勝てない……ううん、違うそうじゃない。勝つ必要はない。最優先は生き残ること。自分を信じ貫くこと。だから――――――)

 

 

 全力で前へ駆け出した。そして乾いた音が響く。

 ソリュシャンの足元を狙い着弾した弾丸が爆発し瓦礫のショットガンが炸裂する。

 

 

(爆破弾と斬裂弾。裂かれた地面の角度が偶然にも私に偏っていたから破片の大半が飛んできたけど、細かな粒は当たり所が悪ければ人間は死ぬ。この程度ダメージにならないけど視界が塞がれるわ。もしかしてそれが狙い?)

 

 

 なんと健気で可愛らしい抵抗だ。煙の動きと影が銃口の動きを教えてくれる。

 回避の必要はない。最後の弾丸が発射されると同時に一歩ソリュシャンから距離を積めた。胸の狭間に魔銃を飲み込むと銃口が背中まで飛び出し、弾は明後日の方向へ消えていく。

 

 

「はい全弾はずれ。それは反則よ」

 

 

 手に隠し持っていた弾丸をそのまま手ごとソリュシャンへ沈めようとしていたツアレの手首を優しく受け止めた。

 

 

「――――――くッ!!」

 

 

 いい奇襲だ。ツアレのlevelが30以上ならこれで決まっていた。

 

 

「悪い子ねぇ。でも安心して、貴女の胎児が成長するまで溶けながら生き続けるの。竜と人間の赤子……どんな味なのかしら」

 

 

 絶望しろ。私の中で断末魔を奏でろ。

 

 

「でも罰は必要よね?」

 

 

 没収した弾丸を右手の平へ力任せに埋め込んだ。

 

 

「~~~ッ!!?」

 

「凄いわ。悲鳴も上げないなんて」

 

 

 弾を没収した際確認したが種類は麻痺弾。level差関係なく三発撃ち込まないと効果を発揮しない。

 

 

「涙を流さないで、これから生きるのに無駄な水分を消費するのはいただけないわ」

 

 

捕食型粘体は捕獲に特化している。ツアレは沈む。始まりの混沌は溶解の檻となり獲物を絶対に逃がさない。

 

 

「ご馳走さま」

 

 

 自分にないものを他者で補い。三人の心と体は混ざり合い一つとなる。内部の状況を詳細に知ることが出来るソリュシャンは、もがき苦しむ二人を観察する。全身を溶かされる激痛は、娼婦で味わった暴力の比ではない。心を殺して耐えるなどそんな次元の痛みではないのだ。

 

 

「ありがとう……これで私は私から変われる気がする」

 

 

 三人で生きていこう。最後は動かなくなっても、肉体が死んだだけ。溶けた血潮と魂は永遠の檻に閉じ込められる。人はそれを()()と呼ぶ。

 ナザリック反逆を企てた二人はプレアデスが一人、ソリュシャン・イプシロンが捕食した。

 なら――――――次は?

 

 

「……アインズ様」

 

 

 至高の御方。魔導王。死の支配者。至高の四十一人ナザリック地下大墳墓統治者。アインズ・ウール・ゴウン――――――モモンガ様。

 

 

「あの凛々しいお顔を……絶望に染め上げたい」

 

 

 にったり歪んだ欲望こそが異形種の素顔。ツアレとシズ、極上だからこそ次は至高を。

 

 

「少し消化を速めに。ほらもっと叫びを感じさせて」

 

 

 ああ楽しい。愉快でたまらない。スライムには存在しない絶頂すら感じてしまうほどに私はたぎっている。

 ソリュシャンの中でもがいていたツアレの指が偶然にもシズの指と重なり――――――

 

 

「ああああああああああああああ!!!??」

 

 

 ツアレとシズのダメージ全てが、ソリュシャンに置換された。

 

 

「アガガ、うぇッ!!」

 

 

 あまりの痛みとダメージが、強制的に異物を排出させた。

 そして、致命的な変化。

 

 

「か、体が動かない!?なぜ麻痺状態に――――――ツアレぇ!!」

 

「賭けだったんです……恐いし死ぬかもしれない。抵抗して殺されたらそこで終わり。でも、貴女が条件を提示してくれた。貴女から勝負を持ち掛けてくれた」

 

 

 無傷の二人が、ソリュシャンを睨み返す。

 

 

「シズを「シズちゃん」…………シズちゃんを助けるにはどうしても一度接触する必要がありました。ソリュシャン……私は痛いのは好きじゃないし死にたくもない。でも、絶対に死なないなら大切な人のために痛みは我慢すればいい。私の演技なんて警戒させるだけ、抵抗しなければ怪しまれる。だから、痛いのが嫌だから全力で反撃したんです」

 

 

 矛盾なんてない。普通の人間に、命が助かるなら片腕を犠牲にすればいいなんて最善の選択は出来ない。覚悟を決めても絶対に躊躇するのが普通の人間。

 最善を最善として実行する人は、訓練を受けたか、実戦経験者か、最初から頭のおかしい馬鹿(超人)だけ。

 

 

「麻痺弾は咄嗟でした。シズちゃんがポケットに忍ばせたソレを捨てればよかった。破壊してもよかった。……でも最後まで"ああこの人らしいな"って傷つけて絶望させるのが好きなんだって」

 

 

 その痛みが、麻痺弾の効果を思い出させた。

 世界級アイテム:ヒュギエイアの杯。ツアレと一つとなったセバスからの贈り物――――――効果は等価交換。

 他人の怪我は視認すれば等価交換可能だが、自分の怪我、他人の怪我を他人へ等価交換するには接触する必要がある。状態異常も含めて。

 

 

「貴女は強かった。捕食されて正気を保てるか……でも失敗を積み重ねたのは貴女。捕食したのも、麻痺弾を私に使用したのも。態々二人とも殺さなかったのもソリュシャン・イプシオンの意志」

 

 

 ツアレの指にシズは五指を重ね、魔銃を支える。

 

 

「氷結弾、徹甲榴弾のスライム特攻弾……やっちゃえ」

 

「人間は弱いから……侮っちゃいけないんです!!」

 

 

 ツアレの意志で絞られたトリガー。排出される薬莢。シズに吸収される反動。二十発全てがソリュシャンへ命中した。

 凍らされ氷の塵となり、紅蓮の炎に焼かれる。皮肉なことに溶解させてきた自分が溶かされる現実に、不思議と悔しさはなかった。

 ソリュシャンだって死にたくはない。

 もっともっと人間の苦しむ様を養分にしたい。

 それなのに、一度取り込んだ二人を勿体無いと思ってしまった。

 

 

"あぁ……また、何度でも食べてしまいたい"

 

 

 愛情などない。何処までも捕食者としての欲望。

 ソリュシャンは最後まで、獲物を弄る妄想に耽り――――――溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツアレの手で、ソリュシャンは少量の水溜まりを残して溶けてしまう。

 心に覚悟した。自分の意志で恩人の命を奪った。

 level差56を覆した奇跡はツアレを苦しませる。

 

 

「――――――ぁ」

 

 

 膝の力が抜ける。外傷のない肉体は無事でも、精神が疲弊しきっている。英雄との対峙。仲間との別れ。愛する人の死。恩人の殺害。

 どれだけの想いを繋ぎ継ぎ、前へ突き進もうと、ただの少女でしかないツアレの精神はとうに限界を越えている。

 極め付けは想像を絶する溶かされる恐怖。誰であろうと耐えれるパラメーターを超えている。

 否、人間の枠組みならば一人だけ知っているが、あれは例外(英雄)だ。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 指の長い体格のいい男性に抱きかかえられる。身長差から顔は見れないが、赤ん坊を気遣うかのような優しい想いが何故か伝わってくる。

 彼は危害を加えない。そんな説明がつかない確信がツアレを安心させる。だから状況や周りを観察する余裕が生まれた。キョロキョロ見渡してもシズちゃんがいない。

 

 

「気疲れは後々響きます。どうぞ精神安定のポーションです。飲めますか?」

 

「……はい」

 

 

 瓶を傾け飲ませてくれる気遣いを素直に従い、液体が喉から胃に伝い精神に作用する。

 

 

「……落ち着きましたか。どうですか?一人で立てますか?」

 

「は、はい……もう大丈夫です。あ、あの!シズちゃんは?」

 

 

 正面から男性の顔を確認すると、ツルリと輝く顔にペンで丸く塗りつぶしたような黒い穴が三つ。帽子を深く被った軍服姿はナザリックでも見たことがない。

 

 

「説明が難しいのですが……私がシズで、でも意識はシズだったのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






おそくなりすいませんでした!!
鎧武とオーズ観て。BO4面白くて。オーバーロード12、13巻読んで。そもそも書き始めが遅かったですね。

星辰伝奏者をスフィアリンカーと変更しました。
めぬさんありがとうございます!!

パンドラのことを詳細に書こうとしたら今日中には終わりそうにはなかったので、詳しい説明は次回します。


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俳優

 彼の名は、パンドラズ・アクター。宝物殿領域守護者。ナザリックの財政の最高責任者。

 そんなことはどうでもいいと笑いかけてくる彼は、時間が惜しいとばかり指輪を二つ手渡してきた。

 

 

「これは?」

 

「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン……まぁ便利な移動アイテムと思ってください」

 

 

 そう語る彼の表情は帽子の鍔で見えなかった。

 

 

「第ニ階層死蝋玄室に彼女は居ます。その指輪で地上への出入口までひとっとび!!そのままお好きになさってください」

 

 

色々疑問が浮上する。何故助けてくれるのか。何故シズちゃんだったのか。何故彼の立場からしたら裏切り者である私達に優しくするのか。何故何故何故――――――

 

 

「はい。わかりました。何から何まですいません」

 

 

そんな事気にしてたらキリがない。ツアレがナザリックで学んだことの一つ。弱者であるツアレには疑うことと信じることをしか生き残る道はない。それでも直感、根本的な何かが彼は大丈夫と伝わってくる。

 

 

「いえいえ私がしたいからそうするまでのこと!!それとお借りしていた装備も渡しといてください。私より、お友達から返してもらった方が喜ぶでしょうにィ!!」

 

 

ソリュシャンを倒し魂の強度が上がったツアレは、受け取った装備一式の重量は苦ではなかった。

 

 

「あ、これサービスです。きっとお役に立ちましょう」

 

 

…………苦ではない。

 

 

「ん?渋い顔は似合いませんよ。もしやシズと合流して絆ポイントのやり直しを危惧しておいでで?大丈夫です。先までのシズは私ですが、中身はシズだったのですから」

 

 

――――――ですから大丈夫。お行きなさい。

 

心に響く声が、私の知りたい情報なのだと()()()()が出来た。この不思議な現象は嘘偽りない情報を知ることが出来る事象だと()()()()が出来た。

 

 

「暫くは身を隠す……などせず素直に捕まり下さい。脅されていた。二人で逃げてきた。その際この神器級(アイテム)を渡せば極刑はないでしょう。何かしらの厳罰は下るかもしれませんが比較的に軽くなるはずです」

 

 

急かされるようにさぁさぁと指輪を着けるよう促してくる。だが、手荷物が多く一度置かなければならない。

 

 

「私としたことが……指輪を御貸しください。()()()()()()()()()()しょ()()

 

「ぁ……」

 

 

もう無理だと諦めていた。その声も佇まいも優しい手の温もりも、もう触れることは叶わないと過去のものにしていた。なら、これは――――――

 

 

「……セバス、様ッ」

 

「はい。ツアレ……これを受け取ってくれますね?」

 

 

偽物だ――――――わかってる。

本物じゃない――――――わかってる。

演技だ――――――わかってる。

 

わかってる。それでも……少し、ほんの少しだけ……励まして貰うだけ――――――それだけの我が儘。

 

 

「――――――」

 

 

 彼の瞳と見詰め合いながら、指輪がはめられる。

 落としたアイテムが音を立て散らばるも夢心地で左手の小指にはめられた指輪を噛み締める。

 

 

「知っていますかツアレ。左手の小指の指輪には『願いを叶える』という意味も込められています。貴女は……何を願いますか?」

 

 

 彼の顔で、聞き覚えのある声で、懐かしい仕草で、願いを――――――何を()()のか答えを求めてくる。

 地獄を体験した。

 死を覚悟し、愛する人の手を受け入れた。

 新しい友達もできた。

 毎日が楽しく仕事への喜びで心躍らせる。

 そんな日々を。

 

 

「——————」

 

 

 瞼を閉じる。自分の心を一つ一つ確かめながら、確かな願いを自覚する。

 生きる。生き残る。これは願いじゃない。絶対に果たすべき使命。

 なら、ただの人間でしかないツアレの願いは――――――

 

 

()()()()()()()()()様」

 

 

 脆く儚い小さな命に、炎が宿る。

 腹部をさするその手は、誰が相手であろうとツアレの意志を屈服させるのは不可能。

 この願いは、何をするのか、その答えを確かな形として動き出す彼女に――――――敵はいない。

 瞼を開ける。精神安定のポーションの効果もある。しかし空っぽになりかけていた胸に、溢れる勇気の波動を満たすのはツアレの精神。

 

 

「——————」

 

 

 濁りのない真っ直ぐな瞳でもう一度彼を見詰める。

 彼女の中で納得したのだろう。落としてしまったアイテムを拾い上げ、最後にセバス(パンドラ)へナザリック最後のメイドとして最大限の礼儀に則り深々と頭を下げた。 

 

 

「……お世話に、なりましたッ」

 

 

 誰に言ったのか、相手の思いを知ることが出来るパンドラは、転位するその瞬間まで静かに見送った。

 静謐がこだまする中、"バサッ"っと上着を大きくはためかせ、人差し指で帽子の鍔を軽く持ち上げる。

 

 

「やれやれ…………強い人だ」

 

 

 表情の変わらないのっぺらぼうは何も語らない。悟らせない。でも墨で黒く塗りつぶした双眸は、どこか穏やかだった。

 

 

「気遣い無用とはこの事!!ですがまぁ……もう大丈夫でしょう。その道がどの様な終わりを迎えようと、死するその時まで抗い、また悲しみ続ける。それでも、ええ本当にただの少女でしかない彼女はそれでも止まらない。平凡で普遍的な叶わない願いを叶えるその時まで!!傷つき絶望の果て挫けても()()もがき続ける!!誠にィ素晴らしい!!」

 

 

 観客が居ない舞台(ステージ)で、俳優(アクター)は大袈裟な手振りで存在感を主張する。全てのスポットライトを浴びる主役のようにその動作は観るものを惹き付ける。

 

 

「しかし私は常々思うのです。『運命』などない。あるとしたら、『絶対に死んでしまう』というような、そういう真理法則だけ。それを絶対的な軸として考えるべきなのです」

 

 

 しかし確かに運命としか言えないような動きが、この世に働いている。だが、それも絶対ではなく、少しの状況変化で、ずれてしまうものである。

 だとしたら、『運命』などない。あるのは、『運命っぽいふわっとしたもの』だ。つまり、Aの道を選択した人も、後でそれを振り返って『運命の決断だった』と言い、Bの道を選択した人も、後でそれを振り返って『運命の決断だった』と言うだろう。

 

 

「確かに運命などは存在せず、人は、その時その時の決断によって人生を象っていき、後で振り返って、『あれは運命だった』とか、そうやって人生を美化、正当化するものです。しかし!!それでも確かにその時の自分の魂が、そう叫んだ!!という事実や、そうしないと後悔するという強い気持ちがあったことは間違いなく、まるで、目の前に、灯を持った道標が自分の行くべき道を照らして教えてくれるかのような……自分にとっても最もふさわしい場所へと、誘われるかのような、そういう感覚を得ることは、間違いなくあるのです」

 

 

 しかしこの正体は決して『運命』などというものではなく、『経験の積み重ね』と『条件の重なり合い』である可能性が高い。

 

 

「ええ……しかしそれでも、『運命』があるとするならば―――――運命とは最もふさわしい場所へと貴方の魂を運ぶのでしょう」

 

 

 役者は客観的に己を俯瞰する。自分はどうだ?

 ルベドに変身し、偶然恩恵にあやかり星辰伝奏者(スフィアリンカー)の疑似眷属として現状の全てを知ることが出来た。

 シズに変身し、ツアレと共に行動し侵入者もろとも鏖殺計画を企てていたパンドラは、急遽取り止めたのだ。

 デミウルゴス、アルベドに匹敵する頭脳が知ってしまった情報をもとに計画を再構築。最善の最善を導き出された答えをパンドラはまたもや放棄した。 

 ルールが崩壊した現状。抑制されていた感情、渇望、願いを正直に実行する元NPCたちに、見切りをつけたパンドラ。ナザリックを存亡させる二つの選択を『経験の積み重ね』と『条件の重なり合い』から、劇場(ナザリック)の終演を悟る。

なら、確定された終わりをどう終わらせるのかが役者件脚本家の腕の見せ所。

 新調した台本を広げ、パンドラズ・アクターは裏方として舞台から降りた。

 

 

 

 

「……………………なんと」

 

 

 演技を忘れ、勢いよく上げた顔が固まる。見開いた目は天井の越えた先、見えない第八層の惨状を捉えている。起きてしまった予想だにしない事態に、台本が否定されたのだと『運命』を呪った。

 

 

「即興の舞台はあまり好きではないのですがね。ハァーうむうむなるほどなるほど……我々(ナザリック)の運命の日は、皮肉にも私に選べとおっしゃるので」

 

 

 一つ、シズに成り代わり不意打ちで幕引きを。仲間に変身するのもいい。これを破棄。

 一つ、何故こうなったのか原因を知ったからには、最善的に生き残りを連れて逃亡。これを破棄。

 一つ、ならば神となったルベドを主役に裏方に徹する。………………失敗。

 

 星辰伝奏者(スフィアリンカー)として、ルベドに勝てる存在は居ないと知っていた。唯一、生命を脅かす冥王星(ハデス)も、相性(出力差)ルベド(無限)には絶対に及ばないと結論付けた。

 成長速度、学習速度、経験値の即時適応力。歯車としての精密な計算と、人としての柔軟な思考回路。敵の星を上位互換として自分ようにアレンジするに加え、最終的に無限大出力の完全制御。

 更に更に、水星(マーキュリー)の情報伝達能力は次代の神の座まで指が届いた。

 

 至高の御方をユグドラシルを指一本で消し飛ばせるポテンシャル。

 惑星ビッグバンから宇宙創造※皆死ぬ

 それが実現可能な神が――――――敗れた。

 

 

「表面的な情報だけでは語れない複雑に絡み合った現実は、チェス盤を木っ端微塵に粉砕する!!そぉもそぉも!!ルベドに変身してシズに変身したら意識が乗っ取られるとは予想外にもほどかあります!!?ツアレを助けて満足してくれたから良かったものの……まあ星辰伝奏者(スフィアリンカー)の裏技を発見したことですし」

 

 

 セバスに変身した時のパンドラは、演技などではなくセバス本人。正確にはセバスの感情、行動パターン思考回路からこれまでの全てを変身と共に受信する。例え死者であろうとその情報を知る(継ぐ)ことが出来る。パンドラの変身は、ルベドの恩恵により演技を越えた実物へと昇格されている。

 故に、あの瞬間ツアレを思うセバスの心に嘘偽りはなかった。

 

 

「機械仕掛けの神は急ぎすぎた。明確な敵対者を前に、人々を救うことを優先した」

 

 

 未来を重視した。別に過去を蔑ろにしたわけでもない。ただ、星辰滅奏者(スフィアレイザー)を相手に死者(過去)の声を後回しにしただけ。今を生きるものを優先……そんな正しさもまた敗因の一つ。

 

 

「シズのは『条件の重なり合い』から偶発的事故。ルベドと同じ自動人形であるシズはナザリックの誰よりも星辰伝奏者(スフィアリンカー)との繋がりが近い」

 

 

 私のような人を欺く顔無しが、本来なれる星ではない。

 シズに変身し星の赴くままに自分へと引っ張ってしまったのがパンドラ最大のミス。

 

 

「知識の共有化も確認しましたし、よしとしますか」

 

 

 好き勝手に宝物殿を漁られたのは納得しかねますが。

 『運命』に従うなら私の魂は最もふさわしい場所を理解している。なら、その前に寄り道をしなくては。

 

 

「こういう役は私より相応しい方が大勢いるのですが……私しか適任がいませんし――――――是非もないね!!」

 

 

 シズに変身する前。事前に装備とアイテムを揃えておいたパンドラは、課金アイテム、第七位階以上の魔法が籠められたスクロール、全至高の御方のガチ装備の使い処をシミュレーションする。

 最初で最後の主演を演じきるために、顔無しは信じていない『運命』に願う。

 

 

「ギルドは攻撃され、家族は血を流す。喧嘩を売られたら報復するのがナザリックの流儀」

 

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを目の高さまで掲げた。

 

 

 ――――――Das Screening wurde gestartet(上映開始)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック逆攻略RTAを実行中の四人パーティー。

 攻略したばかりの第五層はルベドが穿った中央の穴とは関係なく、一体のゴーレムとの戦闘で廃墟とかした。

 第四階層守護者ガルガンチュア。身長三十メートルを誇る巨体は、個体としての強さだけならルベドに次ぐ二番目。

 特殊能力無し、スキル無し。耐久力と攻撃力だけがずば抜けて高いそのステータスは防御を無視した巨体に任せた攻撃を繰り出してくる。

 単純故に強敵。

 チトセの義眼があれば的として狙い放題。

 ないのなら――――――物理攻撃において搦め手なしの敵なら最強の盾となる問題児(アスラ)を主軸に削り切る。

 

 

「■■■■■■■■■■■――――――!!!! 」

 

 

 生物ではない。岩が擦れる確かな断末魔を響かせ、三十メートルの巨体が土崩瓦解。

 勝者である四人は程度の差はあれ衣類も顔も血と泥で汚れ所々血が滲んでいる。

 相性のいいアスラも体の骨は軋み、あばら骨二本は折れている。

 ガルガンチュアは馬鹿だが間抜けじゃない。意味のない攻撃と解れば、地ならし、地割れ、岩盤ちゃぶ台返しなどなど体躯と腕力、質量にものを言わせた力業でアスラを空中へかち上げた。

 それでも、これだけの傷であの化け物を打倒せしめたのはアスラの力あってこそ。

 

 

「音が消えた?」

 

「決着したようだな彼方さんは。問題はどっちが生き残ったかだ」

 

 

 星辰滅奏者(スフィアレイザー)VS星辰伝奏者(スフィアリンカー)

 詳しい詳細など誰一人知らないがそれは関係ない。どんな力で、どうやってなど、後で好きなだけ聞けばいい。信頼、長年の相手を思うからこそ知りたいよりも先に、直接話を聞きたい欲求が強まる。

 

 

「ゼファーに決まっている。さあ待ってろ愛しの人狼(リュカオン)。今迎えに行くぞッ」

 

 

 ペストーニャの治癒魔法は三人の傷を癒す。

 

 

「治癒魔法とは不思議なものだ。神の血もそうだ。即効性の薬物は何かしらの害を人体に与える。だが、どちらにも『それ』がないと冒険者、他国からもそう報告書に記載してあった。しかしそれは本当なのか?治癒の何たるかを解析できれば人類は――――――」

 

「あ、あの……皆さん行っちゃいますよ?……わん」

 

「おっと失礼した。だがもしも我々の国で働くことがあればいくつか協力してほしいことがあると頭の隅にでも留めておいてくれ。お互い――――――生きていれば」

 

 

 皮肉でも冗談でもなく、そんな言葉を吐く眼鏡にペストーニャは苦笑いするしかなかった。

 アスラに抱えられたペストーニャは引力に引かれ穴へと落ちていく。

 先に穴へ落ちた二人も、静謐しかないナザリックは風の音しか響かせない。

 第七層を過ぎ、第八層の惨状を遠目からでも確認できる距離まで自由落下した四人は、それぞれの手段で減速させ速度を落とす。

 信じていたとはいえ実際目にするとは安心感が違う。

 張りつめていたチトセの殺気が緩む。

 

 

「無茶ばかりする。私より他の女を優先して……ばか」

 

 

 胡座をかいて座り込んでいる男が、此方に気付く。

 一仕事を終えたやつの顔は、私の知る何時ものゼファーだった。

 

 

 

 

 

 

 








今年最後となります。
クリスマスに間に合うよう急いで書き上げたので、読みにくい点、誤字などありましたら報告のほどよろしくお願いします。
正直、書きながら眠い……って状態なので分かりにくい所ありそう(>_<)

それと、なんだかんだツアレがここまで活躍するの初めてかもとか思ってます。作者もビックリなツアレ主人公 の風格。


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エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ

 大地を凪ぎ払う暴風が空気を軋ませ根刮ぎ削りぶち抜く。

 横に走る積乱雲から轟く雷撃は空間を裂き回避不能の破壊をもたらす。

 変則自在の蛇腹剣は距離感を狂わせる中・近距離を切り刻む殺戮結界。

 右目の決戦兵装は万物を滅焼し超越者(level100)でさえ致命傷は免れない。

 対人、対軍、対城、高出力並びに全方位に満遍なく優れている。

 何者が相手であろうと絶対に優位に立つ理想的な万能型。

 それが黄道十二星座部隊(ゾディアック)が一つ、第七特務部隊・裁剣天秤(ライブラ)の隊長を務める女傑、チトセ・朧・アマツ。

 いわゆる“堅実な天才”。 卓越した戦闘技能はそれら意志力で獲得したものであり、才能に胡坐をかいた者では鎧袖一触されるのみ。

 その引き出しの多さは星辰奏者(エスペラント)随一。

 人類の英雄が一人女神(アストレア)は矜持のために、民のために、部下のために、愛する副官のために、全てを振るう。

 故に、男は唸る。

 

 

「――――――困った」

 

 

 肉を裂く音、骨を断つ響き、鼻を突く鉄の臭い。

 視界を占めるのは、真新しい鮮血を大量に流す自分の姿。

 戦略、知略においてギルベルトは他者の上を行く。怪物の頭脳を持つ"黄金"ナラー姫も、創造主に叡智たれと極限の才能を持つ"炎獄"デミウルゴスも、ナザリック全階層のシモベをたった1人で管理する万能的優秀さを持つ"正妃(自称)"アルベドも、他者を信頼できないが故に目的を達成する事において僅かに劣ってしまう。他者を信頼し、不確定要素の想いすら作戦に組み込む未来予知に等しい予測。それが、たった一人の敵に正面から突破された事実。

 

 

「閣下のような不条理ならば納得した。知略なぞなんのそのと……」

 

 

 軍隊では超越者(level100)に勝てない。選ばれた個の強さが勝敗を別つ。例え人間である我々がプレイヤーに劣っているというのなら、チームとして勝てばいい。

 プレイヤーに独自法則があるように、我々にもそれらを無視する独自法則が存在する。

 互いに未知だからこそ成立する対等なパワーバランス。

 それを。

 

 

「――――――対策されている。能力も、剣術も、体術も、即席とはいえ超越者に対抗しえる連携も何もかも知られている」

 

 

 可能か?可能なのだろう。此処は敵地で死の支配者の腹の中。此処での出来事は観られていて当然だろう。それでも上手すぎる。

 まるで、我々と戦い敗れた者達とまた戦っているかのような。

 

 

「そうか……なるほどそういうことか。君は神への至るべき方法(プロセス)を――――――」

 

「『静かに(シュティル)』!!!!」

 

 

 丸い眼鏡をかけている赤色のスーツを着用した()()の言霊はギルベルドの唇を強制的に閉じさせる。弱りきったギルベルドに抗うすべはない。

 

 

「困るんですよ貴方のような察しのいい眼鏡は」

 

 

 人型の()()が究極の刀を掲げる。

 武人建御雷が最後に造り出し、一度も鞘から抜かれることがなかった"究極の一振り"『ツルギ』。

 たっち・みーに勝つためだけに生み出された無骨な刀。外装データは初期のまま一切の遊びを無くした勝つための"ツルギ"。それを振るうのは皮肉にも武人建御雷が勝ちたかった想い人のコピー。

 

 

「……さようなら(アウフ ウィダゼン)

 

 

 一振りで切り刻まれた肉体は生存に必要な血液を失い。外からの援軍も無し。パーティーメンバーは既に血の池に沈んでいる。無防備に晒された心臓へと奔る必殺の剣閃の向こうで――――――

 

 

(閣下ッ。貴方の紡ぐ英雄譚の礎足らんとするならば、この局面で選ぶのは当然この選択だった!!)

 

 

 ギルベルトの蒼き瞳が、張り裂けんばかりに見開かれた。

 

 

「――――――そう、まだだッ!!」

 

 

 叫び上げたそれは、単なる決意の表明。独自法則でも魔法でも、まして奇跡そのものの発現でもありはしない。

たかが気合と根性ただ一つで、"究極の一振り"を弾き返す絶対の劣勢を覆すなどという不条理が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、まあ……そうくるでしょうね」

 

 

 光の奴隷(ヴァルゼライド)を知るが故に、光の亡者(ギルベルト)の行動原理を予測する。この男にとって、最悪の事態程度想定の内に入っていないはずがない。

 パンドラズ・アクターはコキュートスとマーレの戦闘の記憶を知っている。ナザリックの仲間たちの経験を知っている。チトセの万能。ギルベルトの頭脳。アスラの技術。ペストーニャの治癒魔法。どれも脅威だ。ユグドラシルではステータスを確認すれば大体の脅威度は計れた。

 この世界は解りにくい。財政のように数値で語れればどれだけらくか。

 ならば、知識で補おう。ナザリックの下僕は全てパンドラズ・アクターなのだから。

 

 

「貴方が犠牲となった人々を背負い勝利へ進むと言うのなら……私もまたナザリックを背負っているのです。半端な眷属『星辰伝奏者(伝え継ぐ者)』は、かつて魂の繋がりがあった仲間しか教えてくれない」

 

 

 それでいい。ええ、それがいいんです。

 

 

「デミウルゴス、シャルティア、セバス、アウラ、マーレ、コキュートス、オーレオール、ガルガンチュア、ユリ、ナーベラル、ルプスレギア、ソリュシャン、恐怖公、紅蓮――――――」

 

 

 一般メイドたちよ、名も無き仲間たちよ。貴方たちの敗北は、経験は、私の力となる。

 皆が報われる――――――否。死者は何も語らない。されど、弔いとなればこそ。

 

 

睡眠(スリープ)

 

 

 弾かれると予感していたパンドラは、ギルベルトの覚醒劇とともに左手の顔へと添えていた。

 

 

「眠れ審判者(ラダマンテュス)。すべての幕が下りるまで貴様に上がる舞台はない」

 

「わた、し……は……」

 

 

 逆らえぬ眠気が眼鏡の意識を強制的に深く沈める。

 気合いと根性を封印された眼鏡はフレームガバガバのずり落ちる不良品。

 レンズにヒビが入った眼鏡は、何故殺さないのか何百通り予測し、閣下ならばと……瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ガハッ」

 

 

 四肢を這いつくばり肺に入り込んだ血を吐き出す。震える手で握る蛇腹剣に力が籠る。

 無様だ。敵の罠にまんまとかかった自分が憎らしい。

 先頭にいたチトセはゼファーを腕に抱いた。抱いてしまった。落下エネルギーを加速させ左右に広げた腕の中に捕まえたゼファーは私の知るゼファーだった。臭いも、食感も、感触も、鼓動さえ本物、だからこそ文句の一つなく私を抱くこの男を殴り飛ばした。

 加減もない反射的に突き出した拳はゼファーの首から上を染みのオブジェクトにかえる。

 それに伴う胸を刺す痛み。殴った反動でぶれたナイフは心臓を逸れ、左の肺を傷付ける。

 肺に血が入り込み、酸素を求める喘息患者のように呼吸を繰り返す。それだけならば、問題なく闘えるポテンシャルをチトセは備えている。

 女神(アストレア)を苦しめる物の正体は"毒"。毒耐性を難なく突破する強力なこの毒がチトセの肉体を蝕む。

 全身の神経・細胞膜などに作用して、筋肉の動きを弱め血から腐らせていく毒は、精神に反し肉体を捕縛する。

 

 次に脱落したのはアスラ。

 ペストーニャを抱えていた彼は安全を確保するため最後尾で落下していた。

 故に、断崖に潜んでいた()()待ち伏せ攻撃(アンブッシュ)をペストーニャを庇い忍者刀の一振りで背骨諸共を上半身と下半身が断たれた。

 

 次に脱落したのはギルベルト。

 最後までヴァルゼライド閣下を想っていたのか、満更でもない吐き気がする笑みを顔面に張り付けたまま眠りについた。

 

 

(この面子を相手にこの手際の良さ……奥歯に仕込んだ解毒のポーションも無力化する"毒"。アスラも同じ毒を盛られているか。ペストーニャは手足の健を切られ、眼鏡は熟睡)

 

 

 どれだけ思考しようと浮かび上がるのは敗北の二文字。

 逆襲する闇はいない。ヴァルゼライドのように吹っ切れてもいない。武器を持った手を持ち上げようとするもカタカタ震えるだけ。これこそが絶望――――――狂気にすら達した殺意を、無制限に放射する。

 

 

銀狼(リュカオン)はッ……どこだぁあああああああ!!?」

 

 

 解毒によりアスラより"少しまし"程度に回復したチトセが立ち上がる。

 空気を焦がす覇道がパンドラの皮膚を刺激する。雄々しき愛の乙女は凌駕する敵を前に啖呵を切る。

 

 

裁剣天秤(ライブラ)を、そして何よりこの私(アストレア)を舐めるなよ!!!」

 

 

 "噛み殺すぞドッペルゲンガー……細切れにしてやる"

 

 そんな殺意だけの虚勢を深いため息で受け流す『千変万化の顔無し』は、タブラ・スマラグディナに変態して創り出した"毒"をくらいなお戦士へ擬態する人間を冷静に分析する――――――時間が勿体ない。

 

 

「数少ないlevel60のドッペルゲンガーを一体消費してこの結果はまずまず。ですがチトセ殿、少々……いえかなり勘違いをしていらっしゃる。アクターの名を冠する私がどの口でと気分を害すると思いますが……」

 

 

 視覚から消えた瞬間、冷たい吐息と知りたくもない言葉が鼓膜を震わせた。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 男の細長い指がチトセの後頭部を掴み、優しく草原へ叩き付けた。

 頭蓋骨が破裂しないギリギリの力加減。死んではいない。眠らせただけ。右手の五指が痙攣するチトセの頭部から離れた。

 衝撃で俟った土煙を手で払う。ナザリックで、否。世界で最も激しい戦いが行われていた第八層。プレイヤー如き何億人集結しようと呼吸の一吹きで消滅する神々の黄昏(ラグナロク)が行われいたのが信じられない静謐。

 万雷の拍手などない。人知れず開幕し終演した『神々の戦い』はパンドラズ・アクターだけが知っている。

 その事実に寂しさを滲ませながら自ら定めた『運命』へ歩み出す。

 

 

「まあ嘘なんですがね」

 

 

 そんな気の抜けた言葉を残し、とことこペストーニャの傍まで来ると一つの指輪を嵌め手元の近くに二つの小瓶を転がした。

 

 

「指輪に大治療(ヒール)を仕込んでおきました。おっと、今すぐは使えませんよ。タイマー式の指輪なので設定した時刻にならないと発動しない一般的なゴミアイテムなのですよ。でェすが!!設定された時刻に必ず発動するので、唱える必要も構える必要もない!!上手く使えば化けるアイテムの一つです。一時間後に発動するよう入力が完了されてるので、その時にでも解毒ポーションで治してあげてください。それと愛しの彼は桜花聖域に寝かしつけてあると伝えといて下さい」

 

 

 愛の乙女(アストレア)色即絶空(ストレイド)はギリギリ一時間は死なない。壊れた眼鏡は数分で死ぬがペストーニャが蘇生魔法で生き返らせるでしょう。

 これでもう舞台に邪魔は入らない。

 歌劇は始まってすらいない。 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを天に掲げ――――――第九階層へ転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "キチキチキチキチキチキチキチキチ――――――"

 

 それは幾万と絡み付き蠢くムカデの巣。壁に張り付き空を飛ぶ蟲も含めて、視界に入れるのも、同じ空間に居るのもおぞましく、一度見てしまったものは例え目を背けようとその気持ち悪い景色が瞼にこびりつく。

 一部の例外を除き正気度が削られるそれを率いるのは一匹のメイド。

 

 

「アインズさまぁ……」

 

 

 玉座の間に侵す愚行。死をもって償うべき行いに迷いはなく、そうしたがためにエントマ・ヴァシリッサ・ゼータは進行する。

 エントマのカルマ値:-100『中立~悪』。

 ナザリックNPCにしては珍しく、人間は食料として認識しているものの、特に嗜虐心があるわけではなく、他に優先することがあったり、満腹であればあまり興味は示さないし、見逃すことすらある。姉妹からは「そんなに悪い子じゃない」と評価されている。

 そんな空腹時を除き生真面目な彼女が大量の蟲を引き連れ至高の御方の旗さえも穢している。

 

 

「えへへぇ…………じゅるりぃ。ん~どうしよぉ……涎が止まらないよぉ~」

 

 

 失われた声の代わりに口唇蟲から発せられる少女の声帯で、甘ったるい声音を吐き出す。

 エントマは人間の肉が好きだ。

 女性や子供の肉より、筋肉質な男の肉のほうが脂肪が少なくダイエット向きでサッパリしている。

 ちょっとこってりとした人肉が食べたいときは脂身が多い女性。

 贅沢がしたいならとろみのある子供を。

 人類の敵たる人食種。『蟲愛でるメイド』の異名を誇るエントマちゃんは欲望を全開に玉座の間を這い進む。

 彼女だって生きている。趣味の一つや二つあって当然だし、食べてみたいゲテモノも存在する。

 人食種だって人肉以外を食べたいのだ。フグを正しく食べれるようになった人類。特に液状の豆腐に初めて凝固剤をぶち込んだ人はすごいと思う。※エントマちゃんはフグも豆腐も知りません!!はぁ…エントマちゃんかわゆ…

 要はエントマもまた試行錯誤して食べてみたいのだ――――――アインズ様を。

 

 

「骨しかないのにぃ~なんで美味しそうにみえるんだろぉ~………………じゅるりぃ」

 

 

 硬くて味が薄そうな骨。でも元NPCにとって縛りが外れても至高の御方はやはり別格なのだ。特別で至高な神。自分たちとは違う創造する側の上位存在。そんな御馳走をエントマはなんとしても食べてみたいのだ。王座で両手を顔で覆い丸まる絶対者を。

 

 

「あぁ……やっぱりアインズ様は特別ですねぇ。薄れ、無くなったはずの忠誠心がふつふつ湧いてきますぅ。でもぉ、だからぁ、どうしてもぉ――――――嚙り付きたいんですぅ!!」

 

 

 蟲が一斉に加速する。中央に位置する真紅の絨毯が隠れる密度。その先は玉座に続く階段まで伸びている。十数段の階段を上がった先にはアインズ・ウール・ゴウンのギルドサインが施された真紅の巨大な布がかけられていて、その前に水晶で出来た玉座であるワールドアイテム『諸王の玉座』が鎮座している。

 獲物は動かない。逃げる意思も攻撃する戦意も感じられない。なら、ならならならならならならならならならならならならならならなら――――――いいってことだよねぇ。

 階段に指をかけ、エントマは蜘蛛の脚力で鎮座するアインズに飛び掛かった。

 許可が出たのだ。食べないほうが失礼。丸齧るのもいい。砕いて人肉に振り掛けるのもいいかも。ハンバーグみたいにするのもいいし、それからそれから……。

 思い付く食べ方を全部実戦しよう。そうすれば美味しい食べ方が一つや三つ見るかるだろう。

 

 

「――――――あいんずさまぁ~!!!」

 

 

 涎を撒き散らし"キチキチ"牙を滾らせ、最初の一口を求め蟲が齧り付いた。

 

 

 "ガリッ"

 

 

 ――――――……え。あまりの硬度に歯が砕ける。視界を埋め尽くしていた純白の骨が、漆黒の鎧になっている疑問をよそに、濃密な殺意がエントマを喉を締め上げた。

 

 

「……ア、アルベド……サマァ……」

 

「潰れろ、蟲が」

 

 

 地雷を全力で踏み抜いてしまったと悟ったエントマ。次の手をさせる暇なぞ与えるはずがなく、殺意の化身はエントマの魔改造メイド服(和服)と装備である蟲達(ゴミ)を圧し潰した。

 

 

「ギャア、――――――ッ!!」

 

「喋るな。喚くな。誰を勝手に触ろうとしてる――――――この、虫が

 

 

 虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が。虫が」  

 

 

 振り下ろされる靴底がエントマを潰す。潰す。潰す。潰す。息をするな動くな死ね。形を保つな消えろ塵屑。

 生物を壊す破壊音が、"パシャパシャ"になろうと殺意は収まらない。

 塵を構成する全てが存在することが赦せない。

 肉片血の一滴までも消滅するまで振り下ろされた足が止まる。床を僅かに陥没させても周辺ごと破壊しなかったのは、愛しの御方を気遣ったため。

 これでもう誰の邪魔も入らない。誰も触らせない。私だけが、私こそが――――――

 

 

「愛しています。()()()()様」

 

 

 女は愛する男を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 









最終章に入りました。亀更新のため長らくお待たせしました。我らがアインズ様です(キリ


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最終章
守りたいもの。倒すもの。


 幸福になりたい。

 幸せでありたい。

 それがなんであれ、誰もが求める普遍的な渇望の根源。

 心の拠り所を、魂の平穏こそが集合的無意識。

 皆ちゃんとわかってる。意外にも理屈をこねくり回す天才やら、察しの良すぎる切れ者よりも、アホの子の方が物事の本質を理解している。

 立場、役職、家柄、身近な人間関係、赤の他人、それからそれらからたくさんの重石を背負って生きている。

 生きていく上で必ず積まれていく重石。

 自分こそがその重石を一つ一つ積み重ね、高く、重く、降りられない柱にしている元凶とどれだけの人が理解しているか。

 生きている限り枷は増え続け、長生きするほど本質からぶれていく。

 完璧にはなれない『魂宿る者』。

 空想創作(ファンタジー)のご都合主義、俺TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEは、いとも容易く現実(リアル)に否定される。 

 

 

「……………………………………」

 

 

 未来は不透明。過去()はどこまでも追いかけてくる。

 空想を夢見るのは終わり。現実逃避は、時間が長ければ永いほど忘却させた現実に清算される。

 

 

「……………………………………――――――たい」

 

 

 圧制された感情は無くなるわけではない。忘れようと逃避し、目を背ける行為は、問題の先送りにしかならない。

 故に。

 

 

「……………………………………――――――死にたい」

 

 

 叱責。失敗。気にしないように心掛けていた過去(責任)を突如突き付けられた人間は、大抵同じ言葉を胸の内で呟く――――――消えたいと。

 

 

(都合よく死にたい消えたい。ふざけんな馬鹿かよ死ねよ消えろよ!!) 

 

 

 モモンガは一つ勘違いをしていた。この世界に降臨したプレイヤーは原初の祈り『ユグドラシル』により、種族関係なく感情が抑制されている。勿論、種族特性も考慮されており、抑制される感情は異業種より人間種の方が大幅に軽いものとなっている。

 この心配りは『ユグドラシル』の優しさと後悔。

 この世界の現実を前に、心を保つ最終ブレーキ。現代人が中世や、戦国時代など人の命が軽く簡単に死ぬ時代を心と魂を濁らずに適応させる者はごく少数。生物を殺し、殺される行為は、日本人にとって耐えられる許容範囲を超えている。

 故の後悔。

 欲望の王を作り上げてしまった『ユグドラシル』最後の悲劇。

 抑制された感情は罪悪感を消し去り、プレイヤーを増長させた。

 強くてニューゲーム。異世界転生。転生チート。

 そんなありきたりな三文小説を『ユグドラシル』は叶えてしまった。

 

 真の神は宇宙を創造し、プレイヤーをこの世界に転移させた。

 それは神の気紛れなのかもしれない。暇つぶしなのかもしれない。観察なのかもしれない。壮大な実験なのかもしれない。

 けれど、差別しなかった。

 国を滅ぼす力も、まともな感性や罪の意識などの道徳的価値観から使えなくなる。

 どんな仲の悪い敵対者でも話し合いで解決するしかない世界の住人が、「人を殺してしまったが、これは正当防衛。それに、少しずつなれてきた」とか完全に割り切るのが無理なのだ。

 よって、『ユグドラシル』のルール崩壊はNPCの縛りだけではなく、プレイヤーが残酷な世界で生きやすくしていた感情の抑制も、種族に感性を引っ張られる心を守る措置も、不要と取っ払った。

 神が招いたNPCとプレイヤーが元の状態に戻る。その結果――――――

 

 

「やめろ消えろいなくなれ。俺が何をしたっていうんだッ俺を苦しませるなよ仕方ないじゃないか!!お前ら俺の頭の中から出ていけよ!!アイツら死んでまで俺を虐めて楽しいのか!?………最悪だ。最低だ……………おれは屑だ」

 

 

 アンデットであった『モモンガ』なら耐えられた。

 死の支配者(オーバーロード)である『アインズ』なら些事だと切り捨てた。

 だが、『鈴木悟』は押し潰された。積み重ねた柱が人間『鈴木悟』を逃がさない。

 殺した。殺した。殺した。大勢を虐殺した。

 初めて殺してしまった偽造兵士。

 モモンとして斬り殺したモンスターの断末摩。

 リ・エスティーゼ王国との戦争で殺した死者18万人の大虐殺。

 マッチポンプや、ナザリック下僕の被害者を数えればそれこそ膨大な数に膨れ上がる。

 人を使った実験。

 交配。

 嗜虐。

 餌。

 皮肉なものだ。最も多数から憎まれている罪人アインズが、罪人ならば構わないと許可を出した。

 誰よりも血に汚れているのは自分なのに。

 

 

 "それでも――――――ああ、それでも……楽しかったんだ"

 

 

 許されざる禁忌の味。

 ルベドは語った。『世界は理不尽で満ちている。その最たるのが『力』『知』『優劣』。三つ目は『権力』と置き換えてもいい』と。

 この三つは、人に責任()を背負わせ――――――酔わせ狂わせる。

 

 人は武器を抜く時は、少なからず緊張する。大の大人も抜き身のナイフ一本を握れば、多大なストレスを感じたっておかしくない。

 だが、アインズの肉体(アバター)はそんなモノとは比較にもならない。 

 魔法一つで18万人を殺す。

 天候を操り、耐性がなければ絶望のオーラは歩くだけで生物を殺し尽くす。

 そんな力をいきなり手渡され、はたしてまともな神経で受け取れる奴がどれだけいるというのか。

 

 六大神は苦しみながら現実と向き合った。ストレス障害。鬱病。自傷行為。大切な仲間とも殺し合い――――――それでも、支え合いながらこんな異世界に転移した意味をさがし続けた。

 現地人との通じない言葉の壁を乗り越え、同じ釜の飯を食べ、リアルでは世の中クソゲーと勝手に人に絶望していた彼らが人の生きる素晴らしさを知ることが出来た。

 そこにはナザリックのような遊びは一つとしてないマジもんの生存競争。

 ゲームのようにダメージ前提の戦術は無理。蘇生魔法があるからと死にたくはない。

 竜王などの脅威が普通に闊歩する弱者と強者の差がアンバランスな世界で人間を守り続けた六大神。

 制御の効かないNPCを一人の個人と認識し、対話と滅びをもってギルド安寧まで導いた覚悟。

 そんなただの人間であったプレイヤーが、過酷な環境でその魂を成長させた。

 

 故に、『鈴木悟』は運がいい。

 もしも『ユグドラシル』の法則が存在しなければ、ナザリックはNPCの勝手な行動で滅びている。

 大切な、皆で作り上げた子供達と居場所の崩壊は『鈴木悟』には耐えきれない。

 六大神の秩序の無い世紀末とは違い 。『鈴木悟』は法則で守られ、全てが肯定される『力』とイエスマンしか居ない『権力』を所持する彼の異世界ライフは、愉快で楽しい有利なゲーム『知識』を持つご都合主義の主人公。

 

 楽しくないはずがない。自分に都合がいい環境。何をしても許される絶対な忠誠心は、重くとも気分はよくなり人を増長させる。

 そんなゲームの延長線が欲望を育てた。

 厳しさを知らないから。

 抑制された痛みしか知らないから。

 手足のように動くNPCしか知らないから。

 異世界の本当の脅威を知らないから。

 優しく守られたプレイヤーは、原初の祈りに気付きもせず、自分勝手に世界を荒らす。

 そこに込められた祈りも願いも優しさも――――――都合のいい法則に誰も疑問を抱かない。

 異世界転移はそういうものと変に物知り顔で割り切るから齟齬が生まれる。

 

 よって、これは神が下す天罰。

 暴力も痛みも知らない調子に乗るガキに現実(リアル)を教える怒りの鉄拳制裁。

 

 

「楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない――――――俺は楽しんでいないッ!!アイツらは敵だ……俺を殺しに来たんだ殺してもいいだろォ!!?実験も検証も悪人がいくら苦しもうが誰も関係ないだろ!!むしろ世界のためだ!!資源の再利用くらい誰でもやるよなァ!?……そうだよ。俺が世界征服した方が幸せになるんだよ。こんなクソゲーとはおさらば……みんな仲良く平等にすれば誰も実現できなかった理想郷が手に入ったんだ!!それを邪魔しやがってフザケルナ!!フザケルナ!!フザケルナアアアアアアッ!!!全人類の損失だ。俺なら出来た。俺だから出来た。あぁあぁ此れで世界に平等はなくなった。世界平和は無くなったんだ……どっかの誰かのせいでな……………………」

 

 

 自己嫌悪に陥った人間は、そのまま自己に堕ち続けるか、他者に責任を擦り付ける。精神を守る自己防衛は存外優秀で、それはときに自分を含め周りを滅茶苦茶にする。

 今の『鈴木悟』は何も見えない。何も聞こえない。

 暴走したNPCにも気付かない。

 閉ざされた自己に引きこもる彼は、誰にも干渉されない未熟な卵。

 自力では、腐るか壊れるしかない『鈴木悟』は腐敗し続けていく。自ら望んで、魂と精神を汚していく。

 口では自分は悪くないと正当化しながらも胸の内は、目を背けても追い掛けてくる過去()が肉体の自由を束縛する。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……………………なんで死んでるんだ。俺もお前らもゲームなら即コンテニューで復活。笑顔で挨拶が基本だろ。反省会開いて、対策して、攻略法を考えて……わいわい楽しくプレイするのがゲームの醍醐味だろ!!異世界転移?アバターが強くて周りが弱いチート無双?アホか馬鹿か脳ミソ腐ってんのか!?そこにリアル持ち込んだら純粋に楽しめなくなるだろがァ!!」

 

 

 心が壊れる。精神が崩壊する。このままでは罪悪感に殺される。罵倒はブーメランとして自分に返ってくる。

 堕ちる。堕ちる。堕ちる。闇に堕ちていく。

 『自己正当化』しようにも犯した行いが重すぎる。

 『自己肯定』には遅すぎる。

 俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない――――――吐いた言葉の数だけ自分を追い詰める。

 

 防衛本能は外部情報を遮断する。これ以上辛い現実を直視しないよう。

 体を丸め、両手は顔を覆い、密着させた足は胴体を隠す。

 アバターは涙を流さない。

 骨は熱を発しない。

 心臓の鼓動も、生命を保証するモノが綺麗に削がれている。

 『鈴木悟』を証明するモノが一つもない。

 落ち着かない。自分が自分じゃない。

 これ以上なにもこぼさない様に、なにも無くさない様に、なにを守っているのか分からないけど不安を払拭するために――――――殻に閉じこもる。

 強固に『鈴木悟』は拒絶する。

 

 

 "——————"

 

 

 それは友情ではない。もう失ったものだから。

 

 

 "——————"

 

 

 それは仲間ではない。もう去ってしまったものだから。

 

 

 "——————"

 

 

 それは忠誠ではない。もう拒絶したものだから。

 

 

 "——————"

 

 

 それは絆ではない。もう断たれたものだから。

 

 

 "——————"

 

 

 だがもしもその殻を解す者が現れたなら。

 それは――――――

 

 

『……モモンガさま』

 

 

 それは――――――無償の愛。

 

 

『あなたを守ります』

 

"――――――"

 

 

 無償の愛を与えてくれる人は、自分に何も利益がなくても、見返りを求めず相手の為に尽くせる人。

 

 

『あなたを尊敬します』

 

"――――――"

 

 

 無償の愛を与えてくれる人は、相手の気持ちを考えられる人。

 

 

『あなたを支えます』

 

"――――――"

 

 

 無償の愛を与えてくれる人は、自分の時間、労力などを犠牲にして相手に尽くすことができる人。

 

 

『あなたの力になります』

 

"――――――"

 

 

 無償の愛を与えてくれる人は、あなたの意見に耳を傾けてくれる人。あなたの気持ちを汲み取り、あなたの主張を受け入れようと努力してくれる人。

 

 

『あなたを許します』

 

"――――――"

 

 

 無償の愛を与えてくれる人は、相手を理解しようと思える人。良いところも悪いところも含めてあなたという人間であるということを分かっていて、あなたにダメなところがあってもそれを理解し受け止める人。

 

 

『あなたと今、一緒にいます』

 

"――――――"

 

 

 無償の愛を与えてくれる人は、自分の心が満たされている人。

 

 

『……わたしは幸せ者です』

 

"――――――"

 

 

 愛を人に与えられる人は、自分のことも同じように愛している人。

 『鈴木悟』は感知する。

 鼓動が、感触が、吐息までもが卵の殻を温める熱となる。解ける。溶ける。とかされる。

 他者を責め、自己も責めていたそんなどうしようもない事態を、助けてくれる誰かを待ち望んでいた。

 

"助けてくれ"人が信じられない。

"助けてくれ"人が怖い。

"助けてくれ"人に嫌われる。

"助けてくれ"人と目を合わせるのも嫌だ。

"助けてくれ"いじめないで。

 

 誰か助けて。俺を大切にして。愛して。構って――――――一緒にいてくれ。

 

『はい……ここにいます』

 

 

 名前も知らない誰かに『鈴木悟』は安堵し、安心してその優しさに身を委ね――――――眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリストファー・ヴァルゼライドは困惑する。否、意外性を前にただただ純粋に驚いている。

 第九階層『ロイヤルスイート』。

 白亜の城を彷彿とさせる荘厳と絢爛さを兼ね備えた世界は、侵略者を迎え入れることを想定していない住居するための空間。

 大浴場や食堂、美容院、衣服屋、雑貨屋、客間、応接室、円卓の間、執務室等で構成されている。また、ヴァルゼライドにその手の知識が無かったため分からなかったが、エステ、ネイルサロン等々多種多様にリアルの娯楽が点在している。

 プレイヤー=神

 この方程式が、歪な世界に住む住人の共通認識。

 ヴァルゼライドとてその認識は変わらない。此度の戦争は神殺し。相手が災厄の魔王と知って、理解して、剣を握るのだ。

 故に驚く、俗物的な欲の香りが鼻孔をくすぐる。

 神というには人間臭い。

 そんな生活感漂う第九階層の巨体な階段を降る。

 彼は現在地が何階層なのかは知らない。だが、先の階層はここの住人のパーソナルスペース。最深部は近いと推察する。

 警戒を怠らず最後の段を降りる。

 敵は居ない。

 索敵をし罠にも気を配りながらも、気配がない。

 

 

「…………妙だ」

 

 

 不自然なほど静か。敵は明らかに早く来いと誘っている。

 一本道の通路を進み。英雄はその奥に立たずむ討ち滅ぼす悪を双眸に捉えた。

 

 

「はじめまして。私はパンドラズ・アクター。宝物殿の領域守護者を務めておりましたただのドッペルヘンガーと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

 優雅に、されどやけに芝居かかった挨拶は、劇場の役者を彷彿させる。

 

 

「薄々お察しかもしれませんが、私の背後にそびえる扉こそナザリック最下層にして最深部であり心臓部。第十階層『王座』を象徴する王座の間でございます」

 

 

 三メートル以上はあるだろう巨大な扉、その右側には女神が、左側には悪魔が異様な細かさで彫刻が施されている。

 

 

「あぁ……英雄……誉れ高き人間の戦士よ。刃を交える前に私は貴方の口から名を知りたい。どうか名乗っていただけませんか?情報としてではなく、直に魂に刻みたいのです」

 

「……王を守る門番というわけか。なるほど、ここはすでに死地。道理だな重要な場所ほど厳重に防衛装置で護られている」

 

 

 玉座の間の手前に存在するこの空間こそが最後の砦。半球状の大きなドーム型の部屋。天井には4色のクリスタルが白色光を放ち。壁には穴が掘られ、その中には彫像が置かれている。彫像はすべてソロモンの72柱の悪魔を形どったもの。この部屋こそ最終防衛の間であり、level100のパーティー二つくらいなら崩壊させられる威力を持つ。

 

 レメゲトンの悪魔像。るし★ふぁーが作った超希少金属製のゴーレム。その数が72柱中67体しかいないのは製作者が途中で飽きたからである。

 当然ヴァルゼライドはその脅威を知らない。

 パンドラの偽造された強さも知らない。

 それがヴァルゼライドの闘志をより増幅させる。

 怪しすぎるのだ。この部屋の全てが。

 さっさと奇襲でも何でもすればいいのにこの男は名を訪ねた。

 それこそが王道。

 これこそが様式美。

 パンドラズ・アクターは正面切って"英雄譚"に対峙する。役者として、俳優として、千変万化の顔無し(アクター)は主演に挑む。

 

 

「クリストファー・ヴァルゼライド。この名を恐怖として魂に刻めパンドラズ・アクター。俺がお前を滅ぼす者だ」

 

 

素晴らしい(グロースアルティヒ)……」

 

 

 演じる必要性がない。生まれ持っての王の覇道。モモンガ様の後天的に備わった偽りのオーラとは異なる先天的な黄金の精神。

 

 

「役者泣かせですね……それでは"目覚めろ(アオフヴァッヘン)"」

 

 

 不動のレメゲトンの悪魔像が起動する。ただ一人を殺す過剰な暴力。ここの戦力だけで竜王を鏖殺できるという真実。パンドラもまた"究極の一振り"を抜いた。

 

 

「さぁさぁ来るがいい"英雄"!!運命が私をここへ導いた!!」

 

 

 魔王復活のために――――――この命を。

 

 

「来るがいい魑魅魍魎の化け物。最後に勝つのは俺だ」

 

 

 魔王を倒すために――――――輝く明日を。

 

 

「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

 

 光り輝く黄金の一閃と、空間を揺らめく白銀の一閃が――――――交差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







愛に満ちています。

感想お待ちしています。


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最高の四十人

 罪を犯した。一人の人間が背負うには重すぎる大罪。

 押し寄せる現実を前に、現実逃避。そんなその場しのぎの言い訳は、痛みと苦痛をもって自分を叩き付ける。

 殺してほしい。死にたい。消えたい。

 一人にしてくれ。構うな。俺は俺だけでいい。

 でも――――――それでも、助けてほしい。

 

 異世界で俺は何をした?

 心があっても、そこには意思が存在しない。

 命があっても、そこには使命が存在しない。

 ならば、その身は死人に同じだ。

 人であれ、化け物であれ、殺人鬼であれ、そうなるに相応しい中身というものがある。そう在るべき魂が存在する。

 しかし、異世界に写し見(アバター)として産まれながらにして、魂の成長を『ユグドラシル』により無いモノとされた彼は、『モモンガ』にも『アインズ』にもなることが出来なかった。

 伽藍堂の中身。

 記憶以外何もない死体と同義の存在証明。

 彼にあるのはただ。この身に巣くう、どこまでも空虚な深淵の穴だけだった。

 この新たな世界に転移してしまったあの瞬間から。その胸には塞ぎようのない深い深い闇のような穴が、ポッカリと開いたままになっている。

 深い深い奈落の穴。暗い暗い暗黒の穴。

 

 故に、()()()()()()()()()

 自分は、死人のような生者なのか。

 それとも、生者のような死体なのか。

 自分の意思に反して不安な考えが浮かんでくる『強迫観念』。その考えを打ち消そうとして同じ自問自答を繰り返す『強迫行為』。

 自殺する勇気もない。

 自分から行動する気概もない。

 穴に堕ち続ける。精神が死ぬ――――――そんな瀬戸際に彼は、光に包まれた。

 それは温もり。

 それは包容。

 それは無償の愛。

 名前も知らない誰かに『鈴木悟』は安堵し、安心してその優しさに身を委ね――――――眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 存在しない瞼を閉ざした。疲弊した精神が沈んでいく。

 

 

「——————ンガ……ん」

 

 

 眠たくて眠たくて。微睡みの中、雑音(ノイズ)が響く。

 

 

「――――――モモ……さん」

 

 

 静かにしてくれ。俺は寝たいんだ。邪魔をしないでくれ。

 

 

「――――――モモンガさん」

 

 

 誰だ?誰が呼んでいる?俺は。私は。僕は――――――

 

 

「モモンガさん!!起きてください!!」

 

「ッッッはぁ!?……え、え~と……どちら様で?」

 

 

 浮上した意識が誰がを認識する。輪郭だけは人型のそれを遠い昔の写真の思い出に浸るように見つめる。ここ最近毎日会っている筈なのに懐かしさが込み上げる。

 

 

「まだ寝惚けてます?大事な円卓会議中にまとめ役が寝落ちしたら誰がこのカオスを纏めるんですか!!?」

 

「今日のお前が言うなスレはここですか?」

 

「お前が言うな。分かってて言ってるだろ駄弟。ぷにっと萌えさんも疲れてるんだからモモンガさんそのまま寝かしとけばいいのに」

 

「まったく大事な会議も正義馬鹿がとやかく口を挟むから退屈すぎてギルド長が寝てしまったぞ」

 

「ええまったく、どっかの悪党馬鹿がしつこく絡んでくるから退屈すぎてモモンガさんも欠伸を我慢できず寝落ちしてしまうのも無理はないですよ」

 

「「…………………………………」」

 

 

 ガタッ!!

 

 

「正義正義って現実を直視しろよ現実逃避ですか?こんな腐った世の中"白"なんか居ないんですよ。真実は黒と灰色。所詮は理想。自己満足の偽善者なんですよ貴方は」

 

「偽善けっこう。ええ、大いにけっこう。口先じゃいくらでも言えるんですよね。大切なのは何をするかではなく何をしたか。誰かを助けようとする行いは紛れもない真実であり"白"。だいたい悪悪五月蝿いんですよ。悪いことする俺カッケ~ってやつですか?」

 

「「…………………………………」」

 

 

 ガシッ!!

 

 

「たっちさんこの手はなんです?正義が暴力に訴えていいんですか?ああそうでしたそうでした。都合の悪い存在を黙らせるのが正義でしたね」

 

「ウルベルトさんこそこの手はなんです?口じゃ悪とか言いながら実は結構恥ずかしがってるんですか?そうなると可愛いところもありますね。タブラさん的に言えば『これぞギャップ萌え』ってやつですか?ハハハお可愛いことで」

 

「おい誰かこの二人止めて!?偵察任務を完了した華麗なる忍者の報告も、隣にいるこの馬鹿のせいで誰も聞こえちゃいないよ!!」

 

「え、結局成功したんですか?ザ・ニンジャ!のくせに『ヒャッハー!もう我慢できねー!』って敵に一人で突っ込んでく忍ばない弐式炎雷さんが?」

 

「いやいやそんなことしてないですよね!?隠密と攻撃特化しすぎて防御力がゴミカスビルドですよ!なんで成功したのに残念がるんですかエンシェント・ワンさん」

 

「え~だって事前情報あると俺そんな燃えないもーん。初見攻略こそ醍醐味でしょ」

 

「るし★ふぁーに言わせればそれ、軍師泣かしですからね?」

 

「るし★ふぁーさんがまともなこと言ってる……あんちゃんこれ明日失敗フラグ立ってない?」

 

「やまちゃん。事実でもそんなこと言わないの。言葉には力があるんだから」

 

「黙って聞いてればよーおいおいおいおいたっちさんよー。正義とはなにか?メイド服がジャスティスに決まってるだお!!」

 

「うわぁ……ホワイトブリムさんあの二人の間になんの躊躇もなく……憧れるな……あれだけ強く上司に物申せたら……」

 

「ヤバイよ!!ヘロヘロさん本格的に精神とか心とかにキてるよ!!製作した精神系アイテムもリアルじゃゴミだし……ベルリバーさんなにかアドバイスとかあります?」

 

「あまのまひとつさん……私、最近夢を見るんです。世界を牛耳る巨大複合企業の不味い情報を入手してしまって口封じのため殺害されるって夢がここ最近ずっと繰り返されてるんです。夢なのは解ってるんです。でも……もしかしたらこっちが夢なんじゃないかって最近思うようになってきて……………あ、気休めでいいんでアイテムもらっていいですか?」

 

マジで誰かこの二人助けて!!

 

「呼ばれて参上ブルー・プラネット!悪夢とストレスは心の病気です。自然を見て、体感して、自分もまた大いなる母なる大地の一つだと実感するのです」

 

「ブルー・プラネットさんそれ危ない宗教じゃないよね!?」

 

「自然もありですけどやっぱり男たるもの女体の神秘が一番ですよ。後で胸の無い子秘蔵のデータ送ります」

 

「胸の無い子……ホモですか?フラットフットさん」

 

「ペロロンチーノ……屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」

 

「男の子かぁ……ギャップ萌えの王道だけどリソースが……そっかルベドをOTOKOにすればいいのか」

 

「何が『そっかルベドをOTOKOにすればいいのか』だよ。至高のギャップ萌えはツンデレ。なお最初は敵対していればなお可だよタブラさん」

 

「死獣天朱雀さん……捻り無さすぎ」

 

「それじゃ音改さんのギャップ萌えとは?」

 

「生徒会長系ポンコツっ子」

 

「いや、それ俺より捻られてませんよ」

 

「ロリ巨乳なんだよな……」

 

「内面性の話だよ。ロリコンは黙ってろ」

 

「否、否だ。死獣教授よ……汝は間違っている。見た目は幼いが、巨乳。巨乳なのに、幼い。巨乳とは母性の象徴なれば、その本質はバブミ。すべてを包み込むお姉さん属性お母さん属性。さらには愛しく愛でたい妹属性も完備。ロリなのに巨乳という矛盾は、『ロリコン』の一言で片付けるのは間違っている!!!」

 

「ア,ハイ」

 

「ぬーぼーさん変なスイッチ入ってない?」

 

「てか一向に話が進まんな。ギルド長そろそろ眠気とれましたか?やっぱこの四十人のメンツまとめるのモモンガさんじゃないと無理だわ。それとぶくぶく茶釜さん。今日こそ僕とお付き合いを」

 

「ばりあぶる・たりすまんさんはっ倒すぞ☆(ロリボイス」

 

「辛辣ッ!!でもそこがいいッ!!」

 

「おいぶくちゃんを困らせるな」

 

「ぶくちゃんやめてぇ……」

 

 

 当たり前の日常。当たり前の光景。いつもと変わらない悪ふざけに悪乗り。

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウン構成員全四十一人皆が揃う全盛期。

 

「モモンガさん聞いてます?今回はアースガルズ、アルフヘイム、ヴァナヘイム、ニダヴェリール、ミズガルズ、ヨトゥンヘイム、ニヴルヘイム、ヘルヘイム、ムスペルヘイム。九つの世界全てを舞台に繰り広げられるイベントホールなんですからしっかり作戦を練らないと」

 

「分かってる情報少ないもんね。誰か噂でもなんでもいいから知らない?」

 

「だから!!ニンジャである俺が調べて来たって言ってんじゃん!!聞いてよ !!お願いします!!」

 

「えーでは私ぷにっと萌えが記録係を務めます。ギルド長、進行をお願いします。おら、さっさと報告しろ」

 

「ハハハすいません。それでは弐式炎雷さんお願いします」

 

「果たしてこれは俺が悪いのか……えーと俺が調べた限りだと、八つの世界にそれぞれダンジョン。えースワスチカなるものがが出現し、その全てを攻略すると最後の世界にワールドモンスターが出現するらしいです。今回のイベントボスは聖槍十三騎士団。首領、副首領、三騎士は特殊とのことですが詳しい情報はなし。今のところ五つのスワスチカが確認されていることから、この五つをクリアすると三騎士のスワスチカが解放されると思われます。以上です」

 

「はい有難うございます弐式炎雷さん。えっと次は……」

 

「んっ俺だな」

 

「ではウィッシュⅢさんお願いします」

 

「はい。それでは今回突如始まったイベント『Dies irae』意味は怒りの日。まあこれだけじゃさっぱり。だけど、今出現しているスワスチカのうち四つは難易度は同じなのに教会だけ糞高難易度らしいです。ここに攻略するためのヒントやらが有るんじゃないかと推察します」

 

「怒りの日……確か終末思想の一つで、キリスト教終末論において世界の終末、キリストが過去を含めた全ての人間を地上に復活させ、その生前の行いを審判し、神の主催する天国に住まわせ永遠の命を授ける者と地獄で永劫の責め苦を加えられる者に選別する教義思想。もしかしたらラスボスは、一つの世界丸々戦闘エリアによる大規模討伐になるかもしれませんね」

 

「流石博識ですねタブラさん」

 

「それじゃ確実準備して初見で当たるしかないってことですよね!?」

 

「そうですけど……テンション高くないですかエンシェント・ワンさん」

 

「でもエンシェント・ワンさんの言う通り行くしかないですよ。共通イベントで一つ目のスワスチカ『公園』は強制的に最初にクリアしないといけないらしいんでサクッといきますか」

 

「そうですね。それでは円卓会議を終了します。10分後にギルド前集合でお願いします」

 

『はーい』

 

 

 スワスチカ『公園』をクリアするために、ガチのガチで準備を済ませたナザリック一行は、リスポーン地点にて復活していた。

 

 

「——————え?強くない?今回のボス十三体皆あのレベルなの?」

 

「いやーまさかの全滅ですか。負けイベですよこれ。だって銀髪グラサンとロリッ子魔女、1ダメもくらわないとかそれしか考えらんねー」

 

「フラグ未達成?スワスチカ内を隈なく探索する必要があるな」

 

「あ、『博物館』行けるようになってますよ。やっぱり負けイベだったんだ」

 

「マジかよ負けイベでレベルダウンとか運営糞だな」

 

「負けイベって意味理解してるのか?」

 

「でもスワスチカではプレイヤーどうしの戦闘行為禁止は有り難いですね。イベントに集中できる」

 

「それな。今回のイベント明らかに協力推奨してる」

 

「よし、level上げて『博物館』行くか」

 

 

 スワスチカ『博物館』を訪れたナザリック一行は、フラグとアイテムをすべて回収し、ギロチンが鎮座するステージで第一のボス『戦乙女の残留』の撃破に成功!クリアボーナス『ギロチン』は絶対に装備しようね☆

 

 

「エイヴィヒカイトってなんだよ!必須って知らねーよ!」

 

「装備枠一つ潰してとか中々きついですね」

 

 

 それからもイベントを順調に進めていったナザリック一行。四十一人もれなく体からギロチンを生やしていた。

 

 装備アイテム『ギロチン』:<エイヴィヒカイト、摩訶不思議な加護を持つ敵に通常通りダメージを与える。※装備するとイベント終了まで外せないから、装備する時は何処にするかよく考えてから決めようね!イベントが進むにつれて能力が増えてくよ!>

 

 そんな必須だけど邪魔なアイテムに愛着が湧く輩が増えていた。何故って?イベント進めると女の子の変身するからだよ。あぁ男って単純。

 

 

「装着箇所に抱き付く形になるとか運営神」

 

「何故俺は下半身に装備しなかったんだ!?」

 

「胴体に装備しとけば後ろから抱き締める形態になったそうですね」

 

「腕でもいいじゃん。俺足だよ?夫の足にしがみつく離婚寸前の夫婦みたいな構図だよ?」

 

「いや、邪魔でしょ。巨乳に価値はない」

 

「はぁ?」

 

「あぁ?」

 

「えぇ?」

 

「モモンガさん……ボスケテッ」

 

「フラットフットさん。とりあえず謝っときましょ」

 

「そういえばモモンガさん頭部に装備してましたね。最初はモヒカンみたいで馬鹿ウケでしたが……たわわが頭にのっている構図はなんなんだ!?」

 

「私が聞きたいですよ!?出歩くだけで恥ずかしいんですからね!!」

 

「お姉ちゃん……どうしよ……俺、なんか目覚めそう」

 

「死ねば」

 

「ぶくちゃん素がもろ出てるよ」

 

「ぶくちゃんやめてよぉ……」

 

「いやでもまさか敵対ギルドと協力してスワスチカ五つを攻略するとは」

 

「今後ない経験ですな」

 

「味方になればこれほど頼もしいものはないよね」

 

「そんなことよりあの際どい巫女服着た貧乳ちゃんを作った運営(*^ー゚)b グッジョブ!!」

 

「ここにまた運営崇拝者が生まれたか……」

 

 

 そして、いざ挑んだ大隊長戦――――――

 

 

「三騎士つえーーーー!!!!」

 

「他のギルドと連携とらないと勝てない。各個撃破しないと合流するとかクソゲー」

 

「ねえどうしよ。黒は一撃だし、白は攻撃当たんないし、赤は近づく前に蒸発だし………………どうクリアすればええんだ」

 

「私に策があります」

 

 

 この時点でモモンガは確信した。ぷにっと萌えの策略がまとものはずがないと――――――

 

 

「かっちゃったよ」

 

「勝てましたね」

 

「まさか囮からの超位階魔法の三段撃ちはマジ痺れましたよ」

 

「3000人のプレイヤーが三騎士相手に突貫を仕掛ける様は爽快でしたね」

 

「その代わり7つのギルド計2514人死んだけどな」

 

「いやーまさかこんな結果になるとは(確信犯」

 

 

 なんやかんやしつつ、イベントは最終局面へ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <私は総てを愛している>

 

 

 

ビースト降臨:黄金の毛並み殿

 

   ,∧,,∧\

  彡+ω・ミ 》/^l

,-‐=〆´/ノヘヾ\

ヽ、フ川ソ・ ω ・ヾゞ

彡ミレリ==[==]=l=リミ

州圭トヽ)\〆ヘノつ..\,ハ_,ハ,

ソ圭圭━┿┷━圭  州・ω・ミ

圭圭/      圭."{,」ヘT/]ッ(/shake)

∪"゙'''"゙∪´.   '-u'-uゝ

 

《shake:1》

 

 

 

 

《くふふふふふ………ははははははははは。あぁ我が女神よ。愛しのマルグリットよ。そんな増えたら……ぁあ、いぃ、我慢がこんなにも苦しいとは……こんなにもたくさんの花に囲まれるとは夢のようではないか。ああ……あぁぁあ……ああッッッ幸せ者だ》

 

 

■■■■降臨:水銀のメガモリウス

 

(≖‿ゝ○) ( ≖‿ゝ○) (≖‿ゝ◕)

 \(≖‿ゝ○)/ \(≖‿ゝ )/ ┌(≖‿ゝ◕)┘ ┏(┏≖‿ゝ≖)┓

     

┏(┏≖‿ゝ◕)┓ ┏(┏≖‿ゝ○)┓ ┏(┏ゝ○)┓ ┏(┏ゝ〇)┓ ┏(┏ゝ)┓

┏(┗≖‿ゝ○)┛

┌(≖‿ゝ◕)┘ ┏(┏≖‿ゝ≖)┓┏(┏≖‿ゝ◕)┓┏(┏ゝ)┓ ┏(┗≖‿ゝ○)┛ ┏(┏≖‿ゝ○)┓ ┏(┏ゝ○)┓ ┏(┏ゝ〇)┓ ┏(┏ゝ○)┓ ┏(┏ゝ〇)┓ ┏(┏ゝ○)┓ ┏(┏ゝ〇)┓ ┏(┏ゝ○)┓ ┏(┏ゝ〇)┓

 

 

 

 

 

「……………………………(考えるのをやめた)」

 

「……………………………(どないしろというんや)」

 

「……………………………(やだ、抱かれたい)」

 

「……………………………(運営紙かよ。あ、神様でした)」

 

 

 想像して欲しい。ぷるぷる震える黄金に輝く可愛らしい獣(けもの)の周りを縦横無尽に駆け回る変態(複数)を――――――

 

 

「ギロチンってこのためだったんですね。イベント中、倒した敵の数に応じてレベルの数値が上昇。ボスキャラを倒したプレイヤーはアホみたいに跳ね上がってるらしいです」

 

「あぁ道理で、ログインしたら1000超えててバグったと焦りましたよ」

 

「たっちさん三騎士の一人倒してますもんね」

 

「平均的にlevel150。高くて200……武人建御雷さんボス倒してないのにlevel500超えってなんなの。今回強い敵多かったけどそんな数いなかったよね?」

 

「……いつの間にか」

 

 

 言えない。言えるわけがない。たっち・みーに対抗するために一人頑張ってたなんて言えるはずがない。ツンデレ乙。

 そして始まった一匹と変態のワールドモンスター攻略戦。

 ユグドラシルプレイヤーの八割強が参加したこの討伐イベントは波乱を極めた。

 

 

<みょうなるしらべ!!>

 

グシャッ!!ドゴンッ!!

 

<みょうなるしらべ!!>

 

ドグシャッ!!バシャッ!!

 

 

「やべーよ!!なにがやばいってマジやばいんだよ!?」

 

「可愛い見た目のくせに声だけはかっこいいんだよ!!」

 

「モフモフのくせにパワーと耐久性に全振りかよ!!」

 

「しかもランダムで今まで倒したボスの能力を使用してくるという鬼畜使用!!」

 

「規模もパワーアップしてるしな!!」

 

「もふもふしたい」

 

「それよかみょうみょうって、確かたえ――――――グホッ!!?」

 

 

 黄金のけものフレンズちゃんは『筋力EX』。その他諸々のステータスも規格外。

 さらにその愛らしい肉球を包まれた『けもの殿』の爪からは、『聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)』とモモンガの心を揺さぶる武器名が表示されるんだからたまったもんではない。

 あと悪口には敏感(強い)

 

 

《あぁ^~心が潤う満たされる。女神の花園こそが我楽園。この至福のひと時こそが我未知。ククククク……フハハハハハハハ……ハァーハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!さぁさぁさぁさぁさぁさぁ私をハグハグっとしてくれ!!!!》

 

 

「……………………………(白目)」

 

「……………………………(絶句)」

 

「……………………………(∴)」

 

「……………………………(うざい)」

 

「……ねえ今おかしな奴いなかった?」

 

「ん?いやとくにいないぞ。あ、しいて言えば邪神ぽいのかな」

 

「なんだ。ならいいや」

 

「「………………………ん?」」

 

 

 

 

 

 そうして、超位階魔法クラスをバカすか撃つ変態の群れと毛並みが最高のイケボを討伐したナザリック一行。ユグドラシルユーザー八割強参加でどうクリアしたか正直曖昧という適正レベル間違えてるだろうと運営に抗議のメールを送るもの多数。

 だけどなんやかんや楽しかったとその後は三日間お祭り騒ぎが続いた。 

 ナザリックもまたテンション馬鹿高のままイベントクリア記念——————オフ会を開いた。

 

 

「イエーーーーーーイ!!お疲れ様です!!かんぱぁあああああい!!」

 

「るし★ふぁーさんステイステイ。最初はギルド長のあいさつでしょ」

 

「えーそれでは改めまして私モモンガが乾杯をさせていただきます。皆さんグラスは行き届いてますね?それでは、ディエスイレを無事クリアしたナザリックに乾杯!!」

 

『かんぱーい!!』

 

 

そこからは皆好き勝手に食べて飲んで盛り上がって――――――馬鹿やって。

 

楽しかった。心のそこから楽しんでいた。

こんな現実でも俺達は自由を求めて、夢を見て、幼い頃から変わらない無垢なまま『ユグドラシル』を全力で遊んでいた。

 

 

「どうしたんですかモモンガさん?」

 

「……たっちさん」

 

 

彼こそが『鈴木悟』の原点。

憧れであり、希望。

 

 

「たっちさん……自分はこんなにも幸せでいいんでしょうか」

 

 

 罪を背負った。人の身では耐えられない大罪に身を染めた。絶対に抗えない絶望こそが自分に相応しい。そうあるべきなのに――――――

 

 

「――――――」

 

「えっと、たっちさん?」

 

 

おかしな質問をしたことを後悔し始める。こんな祝いの席で言うことじゃないだろ。

 

 

「あーすいません。やっぱりなんでも……」

 

「ブフッ!!」

 

 

ん?

 

 

「アハハ……あーすいません。本当にすいません。モモンガさんがあまりにも当然な悩みを行きなり言うから。馬鹿にしたわけじゃないですからね?」

 

「……いえ、怒ってないです」

 

「でもちょっとムスってしてますよね」

 

 

自分の嘘をいつも簡単に見破るこの人には本当に敵わないと、笑みがこぼれる。

 

 

「はい。実はちょー不機嫌です。ぷんぷんです」

 

「おっと珍しい返しを貰いました。えっとそれで、自分はこんなにも幸せでいいのかでしたよね?」

 

「………」

 

「何故そんなことで悩んでるかは聞きません。ですが、そうですね……モモンガさん」

 

「はい」

 

「楽しんでますか?」

 

「……はい?」

 

「いえ、ですから楽しんでますか?すごく大事ですよこれ」

 

「えっと……はい。楽しんでます」

 

「ならそれでいいんです」

 

「つまり……どういうことです?」

 

「幸せになっていいのか……いいんですよモモンガさん。今も、ユグドラシルのときも、楽しんでるってことは幸せだってことです。現実(リアル)は決して楽ではありません。辛いことの方が多い。それでも、自分は何がしたくて、今を精一杯楽しんでいるか。それさえ分かれば前に進めるんです」

 

「前に」

 

「そうです。前にです」

 

「……できますかね」

 

「簡単ですよ!!楽しめばいいんですから!!そうですね……楽しみかたが分からなくなったら過去を振り返ったらいいんです。過去は決して嘘をつかない。つけない。自分が何に喜怒哀楽していたのか……それで思い出せばいいんです」

 

「ぁ――――――」

 

 

『鈴木悟』の胸に正義の味方の言葉がストンと落ちた。

 

 

「ちょッモモンガさん涙出てますよ涙!!」

 

「あれ――――――本当だ。なんでッだろ」

 

「あーたっちさんがモモンガさん泣かしてるぅ!!いーけないんだいけないんだー」

 

「そんなはず……ほんとうだァー!!皆ァ!!たっちさんがモモンガさん泣かしたぞ!!」

 

『な、なんだって~~~~~~ッ!!』

 

「えっと……警察官が一般人を泣かしたと……動画も拡散希望」

 

「う、ウルベルト~~~~~ッ!!」

 

「事実だろばぁーか!!」

 

「とか言いながら、ギルド内呟きなんで僕たち以外誰も見ませんよ」

 

「ネタバレはやい!?」

 

「獣王メコン川……貴様ァッ!!」

 

「なんやかんやウルベルトさんも優しいんすよね~」

 

「クッ!そんなに言うなら本当に世界へ拡散してやる!!辞職しろたっち・みー!!」

 

「マジでやめてくださいウルベルトさん!!洒落にならないですから!?」

 

「うるさい!!俺はお前に優しくしたと勘違いされるのだけは我慢ならんのだァ!!」

 

「はい没取~動画消しとこうね」

 

「あ~~~ッ餡ころもっちもち人の端末を勝手に操作するな!!」

 

「今のはウルベルトさんが悪いです。制裁です」

 

「そんなことよりメイド服について語ろうぜ!!」

 

「ロリと貧乳はジャンルとしては別だと俺は思うわけで」

 

「あのゲーム面白いですよね。自分が夢の世界の魔王になって、勇者に試練を与えるっていう」

 

「糞上司があああああああああああああああ死にさらせええええええええええええええッ!!」

 

「ヘロヘロが壊れた!?」

 

「飲ませすぎなんだよ……うぷッ」

 

「救護班!!メーデー、メーデー!!」

 

「はいはい袋もらってきたよ」

 

 

\ワイワイガヤガヤ/

 

耳を澄ませば、何のためにもならない馬鹿騒ぎも聞こえてくる。なんの接点もなかった四十一人が『ユグドラシル』で出会い。こうして罵り合う声さえも笑いの種に変えてしまう。

 

 

「はは……」

 

 

ああ、俺は――――――

 

 

「あははははははははッ」 

 

 

 この時、こんなにも――――――

 

 

「アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 笑っていたのか――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――世界は戻る。仮初めの幸福は過去の幸福。ならば、鈴木悟(モモンガ)の答えとは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 




次回のテーマ
「愛してる」



キンハ3のゼアノートとの和解やら色々許さねぇからなぁ……


感想お待ちしています。


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未来を願う物語

 最強の剣とは何か。

 究極の一振りとは何をもってしてそう判断するのか。

 役者(アクター)が握る一振りの"ツルギ"。ナザリック最強の男たっち・みーを倒すことに全てを尽くした男が最強に勝つためにこしらえた究極。

 純粋な剣の腕で勝とうと足掻き続けた敗北者。

 たっち・みーがギルドを立ち去るまで研鑽をやめなかった恋する剣客。

 その結晶こそが――――――究極の一振り"ツルギ"。

 剣で勝ちたい。剣で勝ちたい。剣で勝ちたい。そう思い続けた男が最後の最後に作り出した"ツルギ"が果たしてまともなモノなのか。

 

 "俺はアイツに勝ちたい"

 

それは腕前だった。剣で生きていた男が技量で負けたとなれば修練しかない。故に、腕を磨いた。磨いて研磨して修行して鍛えて――――――また負ける。

 何時からだ。強い武器を求めるようになったのは?

 何時からだ。強い剣を作るようになったのは?

 

 その時点から、永遠の敗北者と何故……気づけなかった。

 剣で生きた男が技量で負け、その技量より強い剣で勝つでは本末転倒。

 故に、敗北者。

 

 "敗北者でありたい"常勝の剣豪が渇望する歪んだ願いは、たっち・みーがナザリックを立ち去ったことでその願いは叶えられたのだ。

 

 武人建御雷は、たっち・みーを追うようにナザリックから、ユグドラシルから姿を消した。

 それでよかったのだ。

 難敵を相手に思考し続けるこそが喜びなれば、この"ツルギ"はその願いすら否定してしまう。

 ただ勝つことのみ追求すれば、技量など不要。振れば勝てる。そんな『究極の一振り』こそ――――――"ツルギ"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックに存在する全てのアイテムを管理、使用用途を理解しているパンドラは、世界級アイテムを除き武人建御雷が作り上げた"ツルギ"こそ最強の近接武器と評価する。

 もはや武人建御雷、たっち・みーを超えるヴァルゼライドの技量と太刀筋はlevel100に達してなお磨きがかかる。

 ヴァルゼライドとパンドラはlevel差による優位性はとっくに失われている。

 第十層まで辿り着くナザリックでの激戦。パンドラと相対しながら目前での覚醒劇五回は、足りない経験値を前借した。

 さらにレメゲトンの悪魔像を斬り捨てる切断力。否。あの貫通力は、雷鳴を轟かす二振りの刃に集束する破壊の質量と密度。セバスが装備する白銀の鎧(たっち・みー)を両断した時点でナザリックで斬れない装備はないと証明してしまった。

 

 

("英雄"とは素晴らしく恐ろしい……英雄譚における理不尽の化身。勝利の概念。まるで特殊スキルの如く発揮される『気合と根性』で己の魂を消費して怒涛の上限突破(レベルアップ)。覚醒すればするほど消耗していく。死へと近づく。肉体は崩壊する。——————はぁ……弱体化の条件満たしてませんか?何故さらに強くなるんですか?)

 

 

 パンドラの命を刈り取らんと巧みにフェイントを織り交ぜた一秒にも満たない剣劇演武三十閃を()()()で相殺し、主人公(ラスボス)を観察。考察する。

 過剰な進化をへてレベルアップした"邪竜"。その対価は寿命。その日を本気で生きている彼にとって、今日までの寿命だとしても今日中にやるべきことをやるだけだと本気で割り切っている。

 ならば"英雄"もまた対価を払っている――――――筈だったのだが、前借した経験値はとっくに返済済み。

 消費した筈の経験値をレメゲトンの悪魔像を倒すことで随時補充している。

 levelが上がれば上がるほど、ユグドラシルでは身体機能、技能、スキルなどが強力になっていく。

 その理屈を"英雄"に当て嵌めるとどうなる?

 覚醒による肉体の限界突破。その次に起こるレベルアップは、覚醒した肉体を正常のものへと変える。

 ゲームなら反則行為。そくバンされ、アカウントが凍結されても文句は言えない。

 通常であれば"邪竜"も同条件。しかし"竜王"を取り込んだ状態では、大きすぎる魂が外からの侵入を阻んでしまっていた。

 

 

(それでも、限界を超え昇華させ続ければ無理は祟る。レベルアップは回復するわけではない。魂の消費を全て補えるものでもない。自爆まで追い詰めるのは……私では無理ですね。レゲメント起動は少々その場の勢いでやらかしちゃいましたかね?ですが時間稼ぎには有効的)

 

 

 勝てる勝てない関係なく、パンドラズ・アクターは現状の全力で戦うと決めたのだ。

 その結果が――――――勝利を捨て去った悲劇であったとしても。

 

 

「神と悪魔が闘っている。そして、その戦場こそは人間の心なのだ……神々の世界での格言です。まったくもってその通りだと思いませんかクリストファー殿。あ察し……申し訳ありませんクリストファー殿。貴方には理解……は出来ても共感は無理でしたね!!おお麗しの英雄!!守るべき人間に一切の期待を抱かぬ希望の星よ!!どれだけ対等に接しようと、誰もが英雄と方を並べること敵わない!!皆が『貴方ならば』と納得する!!」

 

 

 一番簡単で、一番明白な思想こそが、一番理解し難い思想である。

 

 

「『正義の味方』――――――否、そんな清く正しい存在ではない。その本質は邪悪を滅ぼす死の光――――――『悪の敵』。女子供一切の容赦なく殺し、対等と認め、尊いと思った相手でさえ障害となるなら殺す」

 

 

 悪と定めたなら、壁となるのが善良の少女であっても殺す。一族もろとも殺し尽くす。邪魔をしないなら法の裁きのもと公平に判決を下す。

 

 

「単純明快な思想――――――悪即斬。一変の淀みなく行われる鏖殺は、万人には理解されない。人類の敵である異業種を皆殺しにするその時まで、決められた歯車は動き続ける。曲がることも、挫折することも、寄り道することも、道楽に休息することもせず、生まれてから終わりまでが英雄譚(想定内)

 

 

 殺ると言ったら殺る。一度心に誓ったのなら絶対に成し遂げる正しさの怪物。

 

 

「……何が言いたい。俺の歪みなど、とうに理解している。俺は――――――」

 

「――――――『破綻者だ』。ええ、えぇえ、ええええぇ!!誰よりも血に染まり!!誰よりも命を救う!!そんな繰り返しの生き方はまるで『我々と一緒(NPC)』ではありませんか!!」

 

 

 創造主の設定により生き方が決まる『NPC』。

 生まれながらにして進むべき未来が決まっている『英雄』。

 パンドラに言わせれば違いなど何一つない。生まれが異なるだけの民衆を満足させる舞台装置。

 

 

「たがらこそ私は……貴方が羨ましい。妬ましいのです。心の底から、そうあれたらなと……」

 

 

 『英雄』は自分の魂で今日という日まで駆け抜けてきた。自分で考え、自分がそうしたいから今日まで成し遂げてきた。

 魂の叫びまで神により型にはめられた『NPC』。

 突然好きに生きろと家を追い出された子供はどう生きればいい?

 

 

「見付けるしかない。探すしかない。決められた安寧を奪われた我々は本当の自分に向かい合うしかないのです!!」

 

 

 正直に活きよう。純粋に渇望しよう。本当の自分を知り成長するのが星辰伝奏者(スフィアリンカー)ならば――――――

 

 

「――――――最後に笑うのは()()だ」

 

 

 心の成長こそが進化ならば。心が成長することがないヴァルゼライドは覚醒するしかない。

 もっとも、その覚醒(デタラメ)こそが厄介。

 

 

「折れず曲がらず屈しない。心に強度があるなら誰も貴方には勝てませんね!!」

 

 

 個人では『英雄』には敵わない。努力も、生き方も、痛みも、怒りも、精神さえも遠く及ばない。

 しかし、繋がりを、継ぐことこそが星辰伝奏者(スフィアリンカー)の本質ならば――――――この星の祝福を受けた者に敗北は訪れない。

 

 

「"ツルギ"よ……歌え」

 

 

 ヴァルゼライドの間合いから一歩外。無造作に風を撫でた()()()が、空気を振動させ衝突し合う空間が甲高い音を奏で数百の斬撃となり躍り狂う。

 一振りが奏でる笑い声。互いを弾き合う軌道はパンドラ並の頭脳がなければ予測不可能。

 細切れを予感させる斬撃の嵐。迫る刃を大多数両断するも、幾つかの刃に逸らされ鍔迫り合う。

絶対の防御力を誇る純白の鎧を破壊した貫通力を防ぐという矛盾。たっち・みーの<ワールドブレイク/次元断切>:ワールドチャンピオンの最終レベルで取得できる超弩級最終特殊技術とは程遠く、第十位階魔法<リアリティスラッシュ/現断>と比べると匙に等しい劣化版。

されど、3本の矢のように幾重にも折り重なれば受け止めることは可能。

 

 

「まず一つ」

 

 

 一振りでヴァルゼライドの剣劇を妨害した刹那。レメゲトンの悪魔像の剛腕が脳天を捉えた。正中線を狙った悪魔の爪をわざと体勢を崩し右に回転するように回避する。

 

 

「——————ッ!!」

 

 

 左耳が鼓膜ごと抉り取られても追撃は止まらない。

 レメゲトンの悪魔像は戦いが始まって一度もヴァルゼライドに息を切らせる暇を与えることなく攻撃を繰り出し続けている。ゴーレムに体力などない。切らす集中力も、つきいる癖もない。パンドラが与えた命令を忠実に実行する殺戮兵器。

 

 

「もう一つ」

 

 

 ヴァルゼライドの死角となるレメゲトンの悪魔像の背後から一振り。互いを互いに弾き、反発し合う斬撃は金属の笑い声を響かせレメゲトンの悪魔像の隙間を縫うようにバターナイフの刃先ほどの小さな斬撃で右手の小指を切断した。

 

 

「……一撃で殺す必要はないのです。必殺技で決めるなど御法度。目に見えてピンチな、必殺からの覚醒劇などさせませんよ。激的な変化こそ注意すべし。私は削る。体力を、肉体を、精神を、魂を……限界を迎えるのは無理でも、限界まで搾り取ってあげますよ」

 

 

 それこそ全力を望めず、本気で戦うしかないパンドラの限界。

 運命がナザリックに傾いているのなら、もしかしたら勝てるかもしれない。しかしてこれは英雄譚。英雄をどうするかは魔王の役目。

 パンドラは常に役割を演じている。英雄譚ならば魔王の引き立て役を、逆襲劇ならば観衆がスッキリする死に様を。それが彼の生きざま。『ユグドラシル』から解放されてもその生き方は変わらない。

 

 

(運が良かったのでしょう……創造主が居てくださる。ただそれだけで結果は違った)

 

 

 育ての親がいてくれる。それだけで子供は勇気が湧いてくる。道を間違えずにすむ。

 

 

(そうあれと創造された私達にとって親とは絶対。私は本当に……運がいい)

 

 

 誕生した瞬間から『完成された生命』。与えられた設定と役割(ロール)を忠実に繰り返すノンプレイヤーキャラクター。産まれた瞬間から完成しているから、愛情を知らない。私達は過程を踏まない。結果で生まれ道具として認識される存在。人間が当たり前に触れる愛情や成長もないままただそこにいるNPCは、愛に餓えている。

 

 

(愛を欲するが故に、忠義を失ったNPCは穴を埋めるために欲望に忠実となる。人間が当たり前に歩む成長を知らないから暴走する)

 

 

 NPCとは悲しい存在だ。そこに現実が介入すれば与えられた設定と役割(ロール)を越えた何かになるしかない。

 だからこそパンドラは、親を愛するが故に全力で助ける。自分一人で納得するのは駄目だ。絶望したモモンガもまた成長させなければならない。

 

――――――それこそが、神に踊らされ現実を逃避していた我々の進むべき答え。

 

 

 "ツルギ"の一振りはヴァルゼライドの肉体を切り刻んでいく。着々と確実に追い詰められていく『英雄』。ナザリックNPC全下僕の敗北の経験を星辰伝奏者(スフィアリンカー)として知っているパンドラ。

 仕掛けてくると第六感が警戒を鳴らす。

 その警告を打ち消すために振るわれた一振りに合わせて、血に濡れた『英雄』は斬撃が幾百と発生する間合いに踏み込んだ。

 

 

「――――――そこだッ!!」

 

「なんですと!?」

 

 

 斬撃がそれぞれ弾き合う前にまとめて軌道をそらす力業。

 一人分の隙間を抉じ開け、股から顎まで斬り上げた。

 軍帽子の鍔が裂かれ衝撃で吹き飛ばされる。敗北者(セバス)の経験がとっさにバックステップをしなければ真っ二つにされていた。

 

 

「……死にたいのですか?」

 

 

 緻密に計算された斬撃を台無しにする一手。しかしてそれは自殺と何ら変わらない。荒れ狂う斬撃を制御している発射口を歪ませるその行為は、斬撃が何処にどこに飛ぶか分からない破滅性を含んでいる。

 事実。パンドラは運よく無傷だが、ヴァルゼライドは大小様々な切り傷が血を滲ませている。

 次は自分かもしれない。はたまた両方かもしれない。そんな破滅的なギャンブルをしなければ打開策はないと認めたのだ。

 何より問題は。

 

 

「その武器の対処法を思い付きはしたが、シミュレーションでは限界がある。ならば、この剣で実証するしかない――――――次は上手くやる。貴様ほどではないが斬撃の軌道を読み切ってやるとも」

 

 

 斬撃が音を発するこの武器は、避ける際は音で判断するしかない。片耳が潰されたヴァルゼライドは戦いながら正常な耳を慣らしていた。

 

 

(五振り……いえ二振りで完全に対処される。守りに徹すれば時間は稼げるが削れない)

 

 

 ナザリック一手札が多いパンドラ。その一つ一つが攻略されていくことに楽しさを覚えてしまう。

 時間稼ぎとしか考えていなかった。創造主を救うのにレメゲトンの悪魔像と"究極の一振り"ツルギがあれば事足りる。だが、しかし――――――

 

 

「なるほど……百の知識より一つの実体験。ナザリックの誰にでもなり、その情報を引き出す『千変万化』は経験の再現はされても感情までは再現されない。貴方と戦った者たちは、神のルール関係なく自分をさらけ出した。強い弱いなどなく太陽を前に焼かれないために自らを輝かせた」

 

 

 一般メイドを突き動かした経緯は知っている。それを促した感情は推察できる。ただの人間ツアレの存在も大きかった。NPCにとって主に死ねといわれれば死ぬのが当たり前。しかし、あの日あの瞬間、彼女たちは矜持に命を懸けた。それを神のルール(お人形)などと言わせない。

 

 

「全身全霊全力をもって……お相手は無理ですが、本気の全力で戦うことといたしましょう」

 

 

 課金アイテムを使用し、完全装備タブラ・スマラグディナへ変態。その両手には第十位階魔法の巻物(スクロール)8本を指の間に挟み同時に使用する。

 

 

「至高の御方四十一人と守護者全員がお相手致しましょう!!」

 

 

 一人一人を攻略しようと無意味。瞬間で変態する戦術は一撃毎別の誰かに変態する変則的な攻撃が可能。

 

 

「上手く扱えないなどと変な期待は命取り。経験と戦術は本人に聞いて知ってますから」

 

 

 ドッペルゲンガーと星辰伝奏者(スフィアリンカー)の相性は抜群。

 ルベドを除けば今後星辰伝奏者(スフィアリンカー)をここまで使いこなす者は現れない。

 パンドラの癖を読みきろうとすればするほどどつぼにはまっていく。

 変態した対象を真似ているのではない。全員再現(トレース)した個人なのだ。

 

 

「『来い神話の英雄。王道過ぎて糞つまらん物語を面白おかしくしてやる』」

 

 

 そう、この男にとってギャップ萌えこそ至高なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王座にて愛しの男を優しく抱き締める女。

 女もまた現状を深く理解していない。

 誰が生き残り、死んでいるのか。

 誰が殺し、逃げたのか。

 最下層最深部で絶望した男の傍へ寄り添い続けている女は、ナザリックが終わるのだと静かに予感する。

 女に頭を預け骨しかない胸を上下させ眠りについた男。

 楽しい夢を見ているのか、寝息に僅かばかしの笑い声が漏れる。

 喜び怒り哀しみ楽しみの感情を含んだ声音は、夢の中で最高にはっちゃけていると推察される。

 慈愛に満ちた目を女は男に向ける一方。四十人以上の激しい戦闘を思わせる破壊音が防音にたけた分厚い扉を意に介さず轟響く事態に、覚悟を決める。

 誰かが戦っている。扉を隔てた先で侵入者と拒む者が衝突している。

 ナザリック地下大墳墓が主アインズ・ウール・ゴウンの首級を取りにここまで血を流した侵入者はどれほどの同胞を斬り捨てたのか。

 男はもう戦う気力も覚悟も目標も失っている。魔王は消えたのだ。異形の怪物たちの主は死んだのだ。

 そんな男の首級を挙げんがためにここまで来た。

 

 それを拒む者は何をしている?

 自分を含め、NPCは忠誠心を無くしているはずなのに何のために戦っている?

 分からない。

 異変後、王座から一歩も動いていない女には外の情報は何も入ってこない。

 それでも、何となく理解はできるのだ。

 

 

「貴方もまた……愛しているのね」

 

 

 その愛は自分とは少し異なる愛だけど。

 同じ男を想う愛は本物だから。

 

 

「…………アル、ベド?」

 

「はい。アルベドはここにいます」

 

 

 まだ意識がハッキリとせず寝ぼけているのか、アルベドの存在を確かめるかのように指先を伸ばす。

 その手を甘える子猫のように頬に添え安心させるために指を絡める。

 

 

「……暖かいな」

 

「はい」

 

「……夢を、見たんだ」

 

「はい」

 

「たいせつな……とても大切な人たちの夢を」

 

「……はい」

 

「俺って馬鹿だよなぁ……やること全部空回り。世界征服とか現実(リアル)じゃ無理っだって……」

 

 

 ゲームならやれた。大虐殺だろうと世界征服だろうと永久平和だろうとやれた。

 でもそれはゲームだから。痛みが伴う現実(リアル)で、小卒のゲームオタクが思い付きでやれるほど現実(リアル)は優しくない。

 責任や重圧はいらない。欲しくない。

 ゲームの嫉妬は受け流せても、現実(リアル)の憎悪や怒り――――――死は受け入れられない。

 ゲームじゃどれだけ偉そうで意地っ張りで勇敢に戦おうと、現実(リアル)じゃ無愛想で愛想笑いを浮かべる陰気な奴。

 

 それがアインズ・ウール・ゴウン。

 ただのアバターモモンガ。

 人間『鈴木悟』。

 

 だからこそ。

 

 

「俺は――――――ッ」

 

 

 男はこの異世界で初めてNPCの前で本音を叫んだ。

 

 

「――――――屑だッ……負け犬だッ!!俺にはユグドラシルしかなかった。ゲームに命かけてるんだよォ!!悪いか!?俺は全然これぽっちも立派で賢くない!!お前らいちいち重たいんだよ!!もっとフレンドリーに接しろよ!!配下なんて要らねーんだよ!!俺がァッッッ本当に欲しかったのは、ッッ仲間だよ!!対等で、ふざけあって、喧嘩してもジョーダンで流せるそんな友達が欲しかっただけなんだよッッッ!!」

 

「……」

 

 

 女は男の魂の叫びを黙って耳を傾ける。

 

 

「……失望しただろ。これがお前たちが慕っていた至高の御方の嘘偽りない本音。お前たちが見下す薄汚い人間でしかないんだよ俺は」

 

 

 純白の指を眺め、そもそもの前提が間違っていると語る。

 

 

「俺は……人間だ。ゲームのアバターなんだ強くて当たり前だろ……理想の自分なんだからな!!弱くてちっぽけで未来もない、そんな現実(リアル)が嫌でユグドラシルを始めたんだ!!――――――現実(リアル)は真っ暗だ。生きるために働いて働いて働いて……上司には逆らえない。同僚も俺なんかより優秀ですごい奴ばかり。……妄想くらいするだろ……ゲームならって……現実逃避?するだろそれぐらい。なんでゲームにまでストイック待ちこもうとするかな。…………なぁアルベド」

 

「……はい」

 

「お前はアバターモモンガを愛しているだけで、『鈴木悟』はどうでもいいんだろ?所詮上っ面の仮面(ペルソナ)――――――お前の愛は『鈴木悟(オレ)』には関係ないッ」

 

「あります!!()()()様は勘違いをしてます!!」

 

「——————え」

 

 

 予想外の返しに、間抜けな反応をする『鈴木悟』にアルベドはさらにまくし立てる。

 

 

「いいですか()()()様。愛とは万能ではありません。愛は愛でも色々な形があります。それこそ十人十色の愛が世界に溢れております。愛とは浅く、そして深いもの。ええ確かに私もほかの有象無象の生娘と同じく最初はモモンガ様の見た目、功績、立場——————見てくれのいいプロフィールを愛していました。ですが……それの何がいけないのですか?なぜそんなにもご自分を否定するのですか?それもまた()()()様の一面であるのに」

 

「——————いや……でもそれは設定でぇ……」

 

「自分を設定しないで生きている者がこの世界にいますか?ユグドラシルでも、それこそ現実(リアル)でも、知らないうちに自分を自分で設定していませんか?」

 

 

 生きていくということは、何かの型にはまるということ。

 本当の自分ではないモモンガ(アクター)を愛していたアルベド。されど愛とは浅く、そして深い。

 初めから深い愛ではない。表面を知り、内側を知って、裏側も知って愛は深くなる。

 

 

「最初は何も知らない。大衆向けの仮面(ペルソナ)から好きになっても、語り合った時間が愛を確かなものにするのです」

 

 

 表面のモモンガを知った。内側の『鈴木悟』も知った。なら裏側を知るには自分も知ってもらう確かな信頼が必要である。

 

 

「モモンガ様はサトル様。サトル様はモモンガ様。私はより深く貴方を知ることが出来ました。否定なさらないでください。どんなにかっこ悪くても、本音を曝け出すのは確かな成長の過程です。そのうえで、私はサトル様にわたくしのことも知ってほしいのです」

 

「アルベドを……知る?」

 

 

 そんなのタブラさんの次には知っている。設定を飛ばし飛ばしだが読んだんだ。

 家庭的な、男子が考えた理想な嫁。だけどビッチである。

 ナザリック全NPCの頂点であり、七人いる階層守護者の守護者総括。

 つい出来心でモモンガ愛していると書いてしまったタブラさんの三姉妹の次女。

 姉は見た目と演出が怖く、妹はいい子で強い。

 異世界に来てからは本当に色々助けられた女性で――――――あれ?

 

 

「…………なんだ……俺こそ表面しか見てこなかったのか」

 

 

 知ったつもりでいた。それが過ちと気づけたから。

 

 

「教えてほしいアルベド。本当のお前を」

 

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来に進まなければ愛は深まらない。

 互いに歩み、語り合った時間が確かな形となる。

 女は語る――――――明日にこそ光があると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





sekiro発売日買って未だに一週目もクリアしていない下手糞です。
最初に倒したボスがババアなのが密かに自慢です。自慢できるよね?
サルの首なし第二形態でつんでます。勝てない。否、勝つ(アドバイスとあります?)


アニメで戦う司書は名作だと思っている。

そんなことよりパンテオンのグリーンウッド解散のご報告が俺の心を抉った。
今の俺に必要なモノ↓

 (゚∀。)y─┛~~


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秘めた思いを言葉にした女性は世界で一番無敵になる

「俺、犬派なんだ」

 

「私もです。なつっこくて可愛いですよね」

 

「ああそうなんだよ!ユグドラシル時代は猫派と犬派でよく代理戦争してたっけ」

 

「なんだか可愛らしい戦争ですね」

 

「いや、この抗争のせいで猫に対してトラウマを抱えた奴が増えたんだよ。猫もそりゃ可愛いさ。でも大陸を埋め尽くす大量の猫は地獄だった」

 

「どうすればそのような事態に?」

 

「それが馬鹿な奴がいてな。名前までは分からないが、ワールドアイテムで猫を大量に召喚したんだよ。勿体ないと思わないか?」

 

「それほどまでに猫がお好きだったんですね。凄まじい愛です」

 

「あい……か、そうだな。あれもまた愛か」

 

「犬と言えば、私達の子供に着せる犬パジャマが0歳から10歳まで作ってあります。他にも靴下や帽子、女性用男性用双子用から六子までのレパートリーを色々作っていましたので、二万点は軽く越えてますね」

 

「……そんな事してたのかよ」

 

「あと寝室をあまり利用されないサトル様の代わりにそれはもう色々使用していました」

 

「そんな事してたのかよッ!!」

 

 

 二人は様々なことを語り合った。

 好きなもの。苦手なもの。

 自慢の特技にコンプレックス。

 小さい頃の思い出に、社畜ちゃんの日々。

 ゲーム時代の栄光――――――異世界の喪失。

 小さなことから大きなことまで、ふとした思い出を語った。短い時の中で思い付く限り語り合ったはずなのに、全然話したりないのは何故なのか。

 

 

「――――――それで、な。えっと……今日の天気はどうだったか?」

 

「今日は晴れ時々曇り……所により血の雨です」

 

「あ――――――……ワロエナイ」

 

 

 NPCとこんな軽口で話せる機会はないと思っていた。

 冗談や弱音を吐いても流してくれる。

 支配者とNPCの仮面が剥がれ、建前が消えた素の関係はムッとなることがこれから増えると思う。

 それでも、この何もわからない異世界で『鈴木悟』は初めて真剣に未来を望んだ。

 

 

「……明日の天気は、どうなると思う?」

 

「……どうなると思います?」

 

「え、質問を質問で返すの」

 

「いいではありませんか。明日はどんな天気がいいと思います?」

 

「そうだなぁ……やっぱり、晴れかな。太陽はいい。宝石のような夜空もいいが、太陽は別格だ。大きくて、眩しくて……こんな骨の肉体でも燃える熱さを教えてくれる」

 

 

 『鈴木悟』もまた太陽(たっち・みー)に焼かれた亡者の一人。

 こうしている今も、四十人との思い出が脳裏に駆け巡る。一人一人の会話と仕草まで、詳細に映像として見えていく。

 過去も尊く素晴らしい。でも、同じくらいにアルベドとの未来は輝いている。

 ユグドラシルのような未知への冒険。『鈴木悟』を愛していると言ってくれた初めての女性との未来。

 過去ばかりを見ていた男が明日を求めている。

 絶望した拒絶の現実逃避ではない。罪の意識は消えていない。犯した過去は覆らない。それでも、『鈴木悟』を愛してくれた彼女と共に、何かが出来るかもしれない。

 そんな、心に炎を灯した男に――――――女の体は濡れる。

 

 

マジヤベェー……垂れてきたんんッッ!ですが雨かもしれません。曇りかもしれません。もしかしたら雪かもしれませんよ?」

 

「雨や曇りはまだしも……雪って」

 

「……天候操作(コントロール・ウェザー)

 

「いやッせこいな!?」

 

「ふふふ……では、明日の天気は明日、一緒に確認しましょう。明後日も、明々後日も……一緒に空を見上げて確認すればいい。サトル様が大好きな太陽が世界を照らしているのか」

 

 

 その場の思い付きでも構わない。より未来を渇望する切っ掛けを、燃料を投下する。過去が『鈴木悟』を苦しめるのなら、少しでも――――――ほんの少しでも負担を軽く。未来とは突き進むものだから。

 そう、過去にとらわれず未来へと歩んで欲しいとアルベドは願っている。

 それが例えどんなに辛く苦しめる選択だとしても――――――過去には戻れないのだから。

 

 

「そうだな……明日のことは明日確認すればいいんだ。未来が……刹那になるまで」

 

「はい。刹那が未来に追い付くまで」

 

 

 最強の支配者――――――魔導王アインズ・ウール・ゴウンここに改心する。

 魔法、スキルなどの検証実験はもうできない。

 ゲームのキャラクターのように誰かを殺すことももうできない。

 自分一人の我が儘で誰かを不幸にすることももうできない。

 今、この瞬間、この刹那から――――――『鈴木悟』の異世界(リアル)が始まった。

 ゼロから始まるのは無理でも、未来に向け始まることはできる。

 『未知』への渇望に並列する様に存在する『同じ時間を共有する仲間が欲しい』という当たり前な願い。

 当たり前だからこそ、誰もが望みながら決して手に入れることが叶わない矛盾をはらんでいる。

 人類一人だけの願いを叶えようとしても一つでは足りない。心から渇望する願い。些細な願い。無意識化に存在する願い。願いながらも忘れてしまった願い。そんな願いの塊が人間。死なない限り解脱は不可能。人間は誰しもブッタにはなれない。

 

 それでも、そんな存在こそ素晴らしいと『鈴木悟』は思っている。現実に向き合い、神の加護さえ否定して現実を生きる人間をどうして否定できようか。

 それでも一般人に過ぎない『鈴木悟』はそんな存在を心から素晴らしいと涙を流しても、真逆のことを願うのだ。

 

 ――――――"未来は不透明で未知に満ちている。だからこそ、特別な何かが欲しい"

 

 前の世界は無理でも、異世界だから出来る。

 ユグドラシルのアバターモモンガの肉体を持つ『鈴木悟』は現実(リアル)を生きると誓った。

 何もできなかった前の世界。特別な力を持った異世界なら変われるかもしれないと願う――――――未来が刹那に変わるのを夢見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王は一人勝手に納得した。女もまた誘導した。

 女の計画は八割方完了したといえる。絶望から立ち直った魔王は、最後に二人でナザリック()を捨て世界を冒険する――――――そんなハッピーエンド。

 英雄から尻尾を巻いて逃げ、かつての仲間を思い出とし、新たな現実(リアル)を謳歌する。

 

 女は何も間違っちゃいない。

 このまま戦うことなく逃げれば『鈴木悟』の絶対なる愛が手に入る。

 愛を知らずに完成されたNPCは愛情を求める。

 それはアルベドもまた変わらない。

 故に、アルベドは最後の最後まで誤解していた。

 パンドラもまた私と一緒なのだと、愛する者を逃がすために奮起しているのだとそう思っていた。

 

 忘れてはならない――――――この物語は何処までいっても、ご都合主義が闊歩する『英雄譚』。

 

 そう、故に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————まだだッッッ!!

 

 

 強烈な稲光が王座の間を隔てていた扉を融解させ、未来へ羽ばたく筈だった二人の男女を熱く照らす。

 直に直撃しなければ害の無い光は、二人の目を引き寄せるには十分過ぎた。

 ピシッと着こなしていた軍服は裂け血に染まり、ボロボロとなった外套は血飛沫と共に舞い散る。

 衝撃を物語る様に王座の下まで吹き飛ばされたソレは力無く右手に握られた"究極の一振り"ツルギをヴァルゼライドへ向け伸ばした。

 

 

「——————ゴハッ」

 

 

 耐久性を超えた破壊で刃を断たれた"究極の一振り"ツルギが塵となり消滅する。

 零れる命の水がレッドカーペットを赤黒く染め上げ拡がる。

 流血の勢いが速い。魂が弱っていく。

 先の一撃は"究極の一振り"ツルギを破壊し、扉を融解させ――――――肉体の上半身だけを『鈴木悟』の下へ吹き飛ばした。

 

 

「……も……モモンガ、さッまァッッ」

 

 

 その一言は、輝ける未来へ羽ばたこうとした『鈴木悟(モモンガ)』を過去へ引きずり堕とすのに十分過ぎた。

 

 

「パンドラああああああああああああああああああああああああッツ!!!」

 

 

 急いで傍に駆け寄りアイテムストレージからポーションを取り出し傷口へ浴びせる。一本で十分な効果を発揮する最高級ポーションを何本も全身へ浴びせる。

 

 

「なんでだ……傷は確かに癒えている。欠損部も修復されるはずだろ?デミウルゴスの報告書通りなら最上級ポーション(これ)を使えばどんな傷も治るって話じゃなかったのかよ!?」

 

 

 『鈴木悟』は耐えられない。見知った誰かが目の前で死ぬことが。失う怖さを知っているから。

 悲惨に泣き叫ぶ『鈴木悟(モモンガ)』は気付かない。この状況こそがパンドラが故意に作り出した絶望だと。

 愛しの男が絶望する姿。それに抱かれるパンドラを俯瞰して見渡せる王座の傍を一歩も動かなかったアルベドは全てを悟る。

 

 

「それが貴方の狙いだったのね…………えぇ、いいわ。乗って上げる。貴方の策にはまった時点で、もうそれしかない。成功させるしかない」

 

 

 自分の意思でポーションの治療を拒絶するパンドラに漆黒の殺意をピンポイントでぶつける。一瞬で外された瞳は、穏やかな視線をアルベドに向けていた。でも何故かパンドラの思いが理解できてしまった。

 流れ込んできた好奇心、使命感、渇き――――――愛情。

 パンドラはアルベドが知らない情報をもとに行動している。それでも、それは『鈴木悟(モモンガ)』の為になると確信している。

 親子ゆえの、愛ゆえに。

 ならば、どんな理不尽だろうと――――――アルベドはその愛を信じる。

 

 

(ええ分かっているわパンドラ。どんなに幸せな結末を迎えようと、過程がそぐわなければ納得しない。過去は、サトル様の中で決着しなければならない)

 

 

 未来への目標があればいいだろう。されど、ふと振り返った過去は、何時までも本人を苦しめる。

 だから――――――

 

 

「サトル様……」

 

 

 そっと頬に手を添え誘導し、愛する男に視線を合わせる。

 

 

「私は……醜い女です。弱った所につけいり、結果として依存させようとしている。そんな、男を堕落させる毒婦(サキュバス)が私なのです」

 

「アル、ベド……なにを……」

 

 

 NPCは純粋な存在。白は白。黒は黒と創造された彼らは驚くほど純白だ。NPCは初めて手に入れた自由に困惑し、迷い、決めかねている。だけど、一度心に誓ったのなら、彼らは驚くほど簡単に覚悟を完了させる。

 純粋ゆえに、純白ゆえに、生まれて10年も経っていない子供は、そうと決めれば頑固なのだ。

 故に、女は愛する男の真実を突き付ける。

 

 

「愛とは都合のいい逃避。忠義も束縛にしかならない。力もまた重みとなる。そう、サトル様にとって異世界転移とは――――――捨てる筈だった宝箱の世界」

 

 

 かつての仲間に渡された思い出の品を、後生大事に保管し管理する。ナザリック地下大墳墓そのものが『鈴木悟』が夢想するかつての仲間の名残を受け継いだNPCと新たに始めた全盛期の続編。でもそれもまた。

 

 

「サトル様にとって、ナザリックは心の隙間を埋める一人ぼっちの人形劇でしかなかった」

 

 

 誰もその本質を理解しようとしなかった。設定されたNPCと、心が抑制されたプレイヤーは、現実を現実と理解できても認識出来ない。

 

 

「でもそれは過去の出来事です。今、この瞬間、この刹那を生きる私達は確かに生きている。現実(リアル)は、そんな私達にも苦難を強制する。でもそれが、生きるということ」

 

「いきる……」

 

「個において一番強いルベドでさえ、一番心が弱かった。それでも、妹は『答え』を見つけることが出来たと、私は()()()()()

 

 

 自分は一体何者で、なにがしたいのか。人は、その生涯を費やしても『答え』を出せない者ばかり。

 姉であり、考える時間が多かったアルベドは、生まれて数時間の妹に全てを追い抜かれた。

 生まれたばかりで、産声の上げかたすら知らなかったルベドが、ママを知り、人を知り、亜人を知り、異形を知り――――――人間となった。

 知り得ない事を知っている。同じ創造主の三姉妹として深い繋がりを持つアルベドとルベド。ルベドは星辰伝奏者(スフィアリンカー)として、継ぐべき意思を確かに次へ繋いでいた。

 死してなお、意思と思想、知識は生き続ける。

 

 繋がりを、継ぐことこそが星辰伝奏者(スフィアリンカー)の本質ならば――――――この星の祝福を受けた者に敗北は訪れない。

 

 

(ありがとう……可愛い妹。私が今一番知りたいことを教えてくれて)

 

 

 特異点として世界へ記録された極晃星(スフィア)は、未来永劫『』(そこ)に存在する。ルベドの記録は存在し続ける。姉であるアルベドの魂は、この土壇場でルベドの一部記録を閲覧できるまでに深度を高めた。

 

 

「未来は綺麗ごとだけでは語れません」

 

 

 アルベドは知る。妹が何を思い、何を大切にして『答え』に至ったのか。

 

 

「辿り着いた『答え』の先でも否定は訪れる」

 

 

 アルベドは知る。『鈴木悟』が至るべき到達点を。

 

 

「綺麗なだけの人はいません。光だけでは人は見極められない。でも、進む未来は嫌でも選択を迫ってくる」

 

 

 アルベドは知る。十全に推察し考察し理解してしまったパンドラの選択。

 

 

「サトル様は……嫌らしく歪んでいるもう一人の私を拒絶しないと言い切れますか?」

 

 

 だからこそ、偽ってはならない。自分も相手にも嘘をついてはならない。

 

 

「今はまだ主従の名残りを捨てきれておりません。でも、サトル様が望む対等な関係は、これからなればいい。未来は確定された物語では断じてありえません。幻想し想像した未来は絶対ではないないとサトル様は誰よりも理解されている。理想が拒絶された未来は闇一色。しかし……それが全てではないのです」

 

 

 生きるとは時間。時間とは不偏。時間は嫌でも過ぎていく。

 

 

「10年が遠い過去の思い出になるように、次の出会いは必ず存在し、想像を超える出来事が世界にはあるのです」

 

 

 そう、運命の出会いはアルベドだけではない。今はそうかもしれない。でも世界は広く存外変わりは存在するから。

 

 "そう――――――私じゃなくていい。サトル様を幸せにするのは私じゃなくてもいい"

 

 

 表情に乏しい白骨体でも、どうすべきか。何を言うべきか。迷い混乱していると凄く分かりやすい。

 急いでは駄目。慌ててもいけない。そんな状態で出した言葉など碌なものじゃない。

 時間はないけど、その限られた刹那まで考えてください。

 だから、私は――――――

 

 

「ぁ―――――――……」

 

 

 隙だらけの唇を奪った。サキュバスらしくサトル様は私のモノだと分からせるような激しいキスを。

 だから、だから――――――今はこれで満足。

 

 

「——————愛しています……大好きです」

 

 

 想いはちゃんと伝えた。もう後は振り返らない。アルベドはパンドラが予め用意していた素朴な木の棒を受け取り圧し折った。

 純白のドレスが漆黒のフルプレートアーマーへ瞬時に換装。

 漆黒のカイトシールドを装備。

 世界級(ワールド)アイテム『真なる無|(ギンヌンガガプ)』をバルディッシュへ形状変化させ使い慣れた獲物を血だらけの侵入者へ向けた。

 パンドラ相手に幾度も覚醒させられた肉体は限界を超え満身創痍。level100の超越者だろうと身動き不可能な傷を負いながらそれでもなおクリストファー・ヴァルゼライドは止まらない。

 奥歯に仕込まれた最後の神の血(ポーション)を消費してこのていたらく。

 二十三度の覚醒が肉体を追い詰める。

 このいつ死んでもおかしくない死体人間。常識を捨てろ。この英雄は常に全盛期だと頭がおかしいことをパンドラが伝言(メッセージ)で教えてくる。

 一撃必殺のガンマレイ。

 コキュートスやセバスのような純粋な戦士でもなければ避けることすらかなわない魔法もスキルにも頼らない技量。

 防御に意味はなく、鎧も楯も等しく断罪する死の光。

 

 パンドラから提示された情報に思わず笑ってしまう。

 守護者強さ序列同率三位防御最強。メイン盾。タンクであるアルベドと相性最悪。

 受けるな。防ぐな。守るな。全部避けろって誰かを護ることに特化したステータス構成と戦い方に矛盾している。

 即興の戦い方ではボロが出る。機動性を重視すれば足元をすくわれる。

 ならば、やることは最初っから決まっている。

 自分の性能は創造主の次に知っている。

 

 

「護って見せるわ。それが……守護者統括最後の使命だもの」

 

 

 これが栄光なるナザリックに所属する最後のNPCの生き様。

 アインズ・ウール・ゴウンなどくだらないと断言した女が、結果的にアインズ・ウール・ゴウン(ナザリック地下大墳墓)を護るという皮肉。

 それでも、キスをした唇を噛みしめながら――――――女は笑う。

 

 

「怖い顔ね。怒ってばかりで炎のような人間。ねぇ……貴方って誰かを好きになったことあるかしら?……なさそうね。私は絶賛愛してる人がいるわ。好きで好きで愛しい人。好きな人に告白して、キスもして……こういうの何て言うのかしら……ええ負ける気がしないわ。無敵ってやつね」

 

「……見事だ。本当に素晴らしい称賛すべき行為だ。勝利よりもメイドの矜持を貫き通したホムンクルス。勝利よりも愛する女を優先した竜。勝利よりも大切な誰かを励まし続けたドッペルゲンガー。そして――――――愛のために、勝利よりも愛を選択したサキュバス」

 

 

 悪そのものである悪魔を焼きはらったあの瞬間、ヴァルゼライドは決意した。悲劇を撒き散らす元凶を殺すと。

 種族として相容れぬ異業種。人間をどうとも思わぬ破綻者に人間の国を統治する資格はない。

 だが、それでも。

 

 

「人には人の営みがあるように、異業種もまたそれぞれの営みが存在する。盲点だった。そこには知性と感情が当たり前にあるのだからな。主人に与えられた命令を忠実に実行する悪魔を一目見て、お前たちと対峙して、アインズ・ウール・ゴウンこそが悪であると確信していたが……なるほど、所詮は小悪党か。罪の意識(真面な感性)が自己を苦しめている。なんだそれは?ますます理解できない。何故、気高い志を持つお前たちはアインズ・ウール・ゴウン(そんな小物)に忠誠を誓っている?何故、そいつはこれまでのような行いができた?何故、そんな愚か者を組織のリーダーとして資質も覚悟もない男に仕えている?」

 

 

 組織を外から見た第三者として真っ当な正論。アインズ・ウール・ゴウンは悪の魔王だった。ゲームのように人を殺すし、貴重な新しいアイテムもコレクターとして収集するのが趣味だった。"原初"ユグドラシルの法則に元、世界がプレイヤーにとって優しい世界となっていた時のアインズ・ウール・ゴウン(魔王)クリストファー・ヴァルゼライド(英雄)は知らない。

 

 

「くだらないわ。心底くだらない。今、この瞬間、この刹那においてそれは関係のないことよ。でもね、勝利より矜持?勝利より女?勝利より励まし?勝利より愛?自分が勝つこと前提なんて、傲慢な人間らしいわ。勝利が勝ち負けなんて誰が決めたのよ?いいことニンゲン。ナザリックで貴方ごときが勝利するのは不可能なのよ。だって、皆最後に満足してるもの」

 

 

 ――――――これを勝利と言わずなんという。

 

 

 相性最悪。防御無視。無敵など口にしてもその真実は変わりはしない。

 だが、何度でも言おう――――――勝利条件がそもそも異なるのだ。

 勝ち負けに拘った勝負など女のアルベドには関係ない。

 アルベドはバルディッシュを大きく振りかぶり――――――叩き落した。

 その眼が捉えるのは光輝く稲光の『付け根部』。

 広範囲に及ぶ不可視の対物体破壊と、左手迎撃の一振りが――――――甲高い悲鳴が響いた。

 この結果に英雄の眼が驚きに見開いた。

 武器破壊により粉々に砕け散る一本の刀。

 それと同時に一息でアルベドの間合いに入り込み、右手に握られた刀を振りぬいた。

 

 

「——————なッ!?」

  

「私が貴方に勝てる道理はない。戦闘スタイルも相性最悪。100回戦えば100回負けるんじゃないかしら」

 

 

 防御無視の死の光を――――――『ダメージを鎧に流す防御スキル』:1日3回使える。被ダメージを鎧に流すスキルでアルベドの切り札。『パリー』:攻撃を弾くスキル。——————二つのスキルを同時に発動させるゲームではありえない事象で、ヴァルゼライドの攻撃を完全に流した。

 

 

「そうね普段は負ける。だけど今、この瞬間、この刹那は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 叩き落したバルディッシュを叩き上げ――――――二回目の破壊音が轟いた。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来は綺麗ごとだけでは語れません」

 

「辿り着いた『答え』の先でも否定は訪れる」

 

「綺麗なだけの人はいません。光だけでは人は見極められない。でも、進む未来は嫌でも選択を迫ってくる」

 

「サトル様は……嫌らしく歪んでいるもう一人の私を拒絶しないと言い切れますか?」

 

「今はまだ主従の名残りを捨てきれておりません。でも、サトル様が望む対等な関係は、これからなればいい。未来は確定された物語では断じてありえません。幻想し想像した未来は絶対ではないないとサトル様は誰よりも理解されている。理想が拒絶された未来は闇一色。しかし……それが全てではないのです」

 

「10年が遠い過去の思い出になるように、次の出会いは必ず存在し、想像を超える出来事が世界にはあるのです」

 

 

 そう、運命の出会いはアルベドだけではない。今はそうかもしれない。でも世界は広く存外変わりは存在するから。

 

 "そう――――――私じゃなくていい。サトル様を幸せにするのは私じゃなくてもいい"

 

 

『鈴木悟』の言葉が喉に詰まる。何かを言わなければいけないのに、何を言えばいいのか分からない。ここで何か言わなければきっと後悔する。ヘロヘロさんを引き止める「最後までどうですか?」そんな一言すら言えなかった自分はもう後悔したくない。

 だから――――――だからッ!!

 

 

「ぁ―――――――……」

 

 

 今にも寂しく泣きそうで、決意秘めた笑みを前に――――――『鈴木悟』は目を奪われた。

 苦しいのに、泣きそうなのに、覚悟を決めた彼女は美しくて——————俺もそうなれたらと。

 その間隙を狙われた魔導士(マジックキャスター)に回避の選択などなく、サキュバスらしく大胆で、思い切って、だけど初々しい唇の先端がそっと歯に触れた。

 

 

「——————愛しています……大好きです」

 

 

 無意識に伸びた手は空を切る。結局、『鈴木悟』の五指には何も残らなかった。

 

 

「ある……べど……」

 

 

 放心状態の『鈴木悟』はキスの意味を理解しきれない。受け取った言葉の羅列を理解するには少し時間がかかる。もはや何もできない『鈴木悟』に――――― 

 

 

()()()()()

 

 

 ――――――全てを知る男(アクター)に運命は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




長くなりそうなので、一旦分割します。
亀最新ですが最後までよろしくお願いします!


今のところ被害度外視上位強さランキング

水星ルベド>冥王星ゼファー>>>超えられない壁>>>本気おじさん(ツアー覚醒)>マーレ(泥覚醒)>パンドラ(伝奏覚醒)>ヴァルゼライド閣下>セバス(覚醒)=番外席次(覚醒)>>コキュートス(幾億の刃覚醒)>レベル100(アルベドここ)>>・・・・・・

相性云々で下克上発生します※ガバガバランキング許して



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極晃星=誕生

主人公誰だっけ?





 ナザリック地下大墳墓のメンバーは深く浅いところで繋がっている。

 創造主とNPCを繋ぐ見えない魂の糸は、想像以上に強固なもの。

 これは同じ創造主を持つ姉妹にも言える現象だ。

 生物とは単体である。

 違う思考回路を持ち、理解しようにも仕切れない自分とは違う生物。

 創造主とNPCは繋がりや絆を紡ぐ難しい工程をすっ飛ばして最初っから魂の深いところで繋がっている。

 ナザリック総員は無意識に繋がりが発生しているが、やはり親子や姉妹には及ばない。

 ナザリックから解放された今でも、個人差はあるが仲間意識は残っている。

 だからこそ、集団として星辰伝奏者(スフィアリンカー)にこれほど適したものはない。

 他者の強い意志。培った経験と知識。思想から自分を形成する理屈(ロジック)まで、繋がりが深ければ深いほど無条件で獲得できる。

 そう、星辰伝奏者(スフィアリンカー)として中途半端なパンドラはこの繋がりを利用し、ドッペルゲンガーの能力を最大限に活用した。そして――――――より強い繋がりを持つ創造主には星辰伝奏者(スフィアリンカー)の能力をフル活動で励まし、応援していた。

 絶望の中、『鈴木悟』の過去の記憶から算出した思い出を"声""映像""追体験"としてアレンジを少し加え今までずっと、英雄との戦闘時も大半の意識はこちらに集中、総動員させていた。

 だからこそ、パンドラは全身全霊は無理でも現状の本気でクリストファー・ヴァルゼライドと戦っていた。

 英雄譚を紡ぐ『英雄(ラスボス)』戦で舐めプ、縛りプレイはゲームだから楽しいのであって、現実世界だとそのまま命に直結する。

 それを最後までやり遂げ、時間を稼いだパンドラズ・アクターの想いは一つ――――――父が偉大であると証明すること。

 そうこれは、自分の父親は強いんだぞと自慢する子供らしい――――――我が儘。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「()()()()()

 

 

 瀕死者から発せられたと思えない耳の奥にまでよく通る静かな声音。

 パンドラは愛する父親の腕の中で、魂の深度を高め特異点へ接続した。

 

 

「ッッッ、なんだよ!?」

 

 

 両者の意識のみが世界の孔へ落ちる。

 『鈴木悟』の視界を埋め尽くす無限の歯車。無限の素粒子が満ちる別次元。

 この場所こそ、人を知り成長させる特異点:水星(マーキュリー)

 

 

「現実世界の勝負は一瞬……十秒にも満たない攻防。この場なら時間の流れを気にすることなく語り合おうことができます」

 

「パンドラ!?ここはいった!!そもそも敵が……皆どうしたんだ!!?」

 

「死にました」

 

「ハアッ!!??」

 

「あ、ごく少数ですが一人立ちして旅立った方もいますね☆」

 

「ええッ!!??」

 

「ことの顛末だけを語りますと……自爆?盛大に身内のやらかし。もう笑うしかねぇーwwwwといったところですか。ナザリックに災厄を齎すルベド解放(ナザリック崩壊張本人)デミウルゴス様の勘違い(英雄の殺る気スイッチ)シャルティアの油断怠慢(冥王なる前にちゃんと殺しとけ)。そもそも戦うという選択自体がこの状況を招いたのです!」

 

「………………」

 

「あらゆる状況を考慮して臨機応変に柔軟に対応。油断するな一部強者に気をつけろ。プレイヤーの影を常に警戒しろ。傲慢。軽率な宣戦布告。世界征服を目標とする時点でこの世界の住人舐め腐ってますけども」

 

「そ……それは、デミウルゴスが」

 

「あの時点ならまだ修正可能でした。ナザリックNPCはどんな人だろうと絶対忠義を誓ってくれたはずです。ええ、誰でもよかった。失望されたくない。捨てないで。『至高の四十一人(モモンガ)』を欲していたのですからその中身のことなどNPCにはどうでもいいとさえ言えましょう。むしろ途中からノリノリで世界征服してましたね!」

 

 

 切っ掛けを与える。パンドラは『鈴木悟』に自覚させる。

 

 

「仲間の大切な子供たち。仲間の大切な形見。アルベド様の()()()()()()()()()の例えは的を得てます。魔王(ロール)を演じ、ギルドメンバーが叶えられなかった理想を実現しようとした。現地人の命を蔑ろにして、NPCとのコミュニケーションを最初っから放棄している。モモンガ様……なにか反論はございますか?」

 

「——————ない……そのとおりだ。俺は、ゴミクズだ」

 

 

 リアルではNPCのことなんて友達であるペロロンチーノが熱弁したシャルティアか、自分で手掛けた黒歴史パンドラぐらいしか記憶になかった。

 十年も無関心だったNPCが突然個性を持って動き出す。凄いのは分かる。でも、長い年月ギルドの一ヶ所に閉じ込め続けた創造主を普通慕うか?

 設定がそうだから?便利な言葉だな――――――その設定が消失した結果がこれなのに。

 それでも……

 

 

「おれは……感謝してるんだ」

 

「感謝ですか?」

 

「ああ、お前やアルベドとギルドメンバーですら本音で話したことがなかった俺が、こうやって不器用ながら会話してる。なぁパンドラ、お前なのか?俺に昔の夢を見せてくれたのは?俺はな――――――救われたんだ。アインズ・ウール・ゴウンは俺の居場所だった。ギルドメンバーはどいつもこいつも楽しい奴らで最高で。友達って呼べる人は二癖もある変や野郎ばかりだった……本当に救われたんだ。辛いことばかりだった。逃げたいことも泣きたいこともたくさんあった。でも、ああ、本当に……俺が望んでいるのはああゆう光景なんだ」

 

 

 絶望もある。この傷は一生癒えやしない。でも――――――希望もある。

 

 

「ありがとうパンドラ。俺にカツを入れてくれたんだろ?……不思議だなぁー仲間から褒められたら嬉しいのにお前たちに絶賛されると鳥肌が立つんだ。パンドラの言葉で、俺は現実を見ることが出来た。過去を思い出すことが出来た。なあ、俺は……お前にとってなんだ?」

 

 

 帽子を深くかぶり直したパンドラは目元を震わせた。運命はパンドラを選んだ。

 舞台を作り未知要素だったアルベド(ヒロイン)に台本の半分以上を勝手に投げ渡していた。絶望に沈んだ父を立ち直らせる切っ掛けになればと――――――結果アルベドはパンドラの予想以上の成果を上げてくれた。

 

 アルベドが望んだのだ――――――『鈴木悟』の未来を。

 パンドラが望んだのだ――――――『鈴木悟』の過去を。

 

 膝を付き偉大な父に敬意を示す。それが例えゲームの中だけだとしても、ゲームの中でしか生きられないNPCにはそれだけで十分なのだ。

 現実(リアル)虚構(ゲーム)が複雑に混沌するこの世界は、『鈴木悟(モモンガ)』には似合わない。

 

 

「父よ、私はまた観たいのです。ユグドラシルは、そこたらじゅうに命の危機がありながら命は軽く攻略を進める上で死は効率でしかなかった。貴方様が脅威の少ないこの世界でNPCの顔色を窺いながら段々調子に乗っていく微妙な物語は正直うんざりなのです」

 

「あー……うん。ソダネ」

 

虚構(ゲーム)は無限の可能性。無限の選択。そこに現実(リアル)が混在するとどうしても苦痛が伴ってしまう。そもそも現実(リアル)虚構(ゲーム)は別物で、辛い現実(リアル)を忘れ、虚構(ゲーム)で楽しく可笑しく遊ぶのが当たり前でしょ!!そもそも――――――!!」

 

「わかったから!!わかったよパンドラ!!愚痴しか言ってないよからな!?"絶賛されるのは嫌"と確かに言ったが罵ってくれとは頼んでないぞ!!お前の言葉は一つ一つ心抉るんだよ!!??」

 

「何を言いますか!!「現実(リアル)どうでもいいマジかったりぃ~うっひょ虚構(ゲーム)サイコー!!」とか言いながら、知りもしない異世界で、寂しさを紛らわせるNPCと「世界征服キリッ☆」とかしときながら勝手に絶望して勝手におっぱいに絆されて「未来を生きよう」とかしだす上煽った私に「ありがとうパンドラ」と言い出す始末に『鈴木悟』様を父とお慕いしてますとも!!ええ!!」

 

「馬鹿にしてるだろお前!!?絶対そうだ!!てか煽ってたって自白したな!!このハゲ!!」

 

「貴方もハゲでしょ!?」

 

 

 白熱する口喧嘩は両者がたまらず噴き出すまで続いた。

 

 

「ははは……何でだろ。お前と会話してると皆を思い出す。ドッペルゲンガーの特性とかか?」

 

「そこを説明するとあれやこれやと教える必要が発生しますが……聞きます?よければ姿も変えましょうか?」

 

「いや、いいよ。パンドラはパンドラだ。お前のおかげで俺は生きる意味を思い出せた。大切な過去を、俺が望んだことを実感出来たんだ。切っ掛けはあったんだよ。ずっと傍に」

 

 

 『鈴木悟』の心から迷いが消えた。

 『答え』は過去にある。自覚してないだけで歩んだ道は『鈴木悟』の人生。どんなに否定しても積み重ねた年月が、自分を証明する。パンドラが教えてくれた。

 『答え』は未来にある。未知を楽しみ苦痛を糧とする。理想とは違うかもしれない。でも刹那が未来に追いつくまで『答え』は誰にも分からない。アルベドが教えてくれた。

 

 

「……勝てるかな」

 

「勝つのです!!条件はクリアされました。ならあとは……」

 

「俺が腹をくくるだけか」 

 

 

 これから命懸けで戦う相手は最強最高の『英雄』。

 人を傷つける。自分も斬られる。その可能性を考えただけで緊張し身が竦む。

 『鈴木悟』は肉も皮もない骨の手に視線を落とす。

 本当の自分ではない神が創り出した肉体(アバター:モモンガ)

 何の目的で誰がプレイヤーを虚構(ゲーム)から現実(リアル)へ叩き落としたか知らない。

 それが神だというのなら――――――アルベドを守れる力を授けてくれた神に感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着まで時間にすれば23秒の攻防。

 二本の刀を叩き折ったアルベドは『英雄』の腰に差された残り五本の刀を視界に入れ――――――右手で抜刀された知覚以上の閃光を完璧に『パリー』で弾いた。

 『真なる無|(ギンヌンガガプ)』を形状変化させたバルディッシュがまた一本叩き壊した。

 その瞬間を無駄にしない左手抜刀。

 スキル発動のタイムラグなど消失した今、アルベドの意志一つで発動可能。『ダメージを鎧に流す防御スキル』:1日3回使える。被ダメージを鎧に流すスキルでアルベドの切り札。『パリー』:攻撃を弾くスキル。

 3回目を発動した瞬間——————砕け散る鎧と刀の破壊音が響き渡る。

 ならばと両手で握られた一本の刀が、強弱をつけた残像を残し100以上ののフェイントを織り交ぜた。

 攻撃のタイミングを悟らせない防御を空ぶらせる絶技。 

 アルベドは冷静に、澄み渡る脳が極限まで研ぎ澄まされていると感じる。腕、足、同、腰、関節、指先まで観察し加速させた脳が本命の一撃を予測する。

 そして――――――

 

 

「——————ッ!!」

 

 

 受け流す鎧を失った代わりに、全ての防御スキルを漆黒のカイトシールドに発動させた。

 一つの防御スキルで、片腕を犠牲にコキュートスの攻撃を防いだ防御力。

 最初っから左腕を失う覚悟で、正面から受けずに盾の側面を利用し明後日の方向に受け流す。

 

 

「防御力特化の私でこれね」

 

 

 バルディッシュで五本目を壊しながら、もう使い物にならない左腕で殴る。

 盾は砕け、その衝撃は左腕の骨を圧し折ってる。

 拳も握れないほど損傷した腕で、この不意打ちが当たらなければもう当たらないと確信する。

 経験が足りない。スピードが足りない。だが無手となった絶好のチャンスは二度と訪れない。

 

 

(残り二本を抜刀する前に私の拳が命中する。防御力ゴミカスのこいつには当てれば勝ちなのよ……なのに!!)

 

 

 迫る死を前に、ヴァルゼライドはアルベドの腕を掴んだ。

 

 

「………………え」

 

 

 空中を舞う体。威力を殺さずに、更にパワーとスピードが加算された一本背負いに王座の間の床が耐え切れずアルベドの体が衝撃に沈む。

 

 

「——————ッツ、ほんと……出鱈目ね!!」

 

 

 叩き込まれる拳はすべて急所を抉る。回避もろくに許されず完成された美しい容姿が破壊されていく。

 ヴァルゼライドにそのつもりがなくとも急所である顔面に集中して叩き込まれる拳が顔を歪ませていく。

 

 

「ッッッヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 『パリ―』スキルの応用で接触している地面を弾き飛ばし空中に跳ね上がる。バルディッシュの遠心力を利用した高速回転。武器破壊を発動させヴァルゼライドの脳天に振り下ろした。

 

 

「――――――()()()()!!」

 

 

 不可視の広範囲武器破壊を頭突きで跳ね除ける。五指が柄を掴み取り――――――解き放った。

 

 

「ァア――――――そん、なァ……」

 

 

 斬られた両腕が『真なる無|(ギンヌンガガプ)』と飛んでいく光景を呆然と見つめ。

 

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああ!!」

 

 

 もう愛する人を抱きしめることが叶わないと知った女は、涙を流す。

 

 

「さらばだ――――――俺はこの戦いを生涯忘れはしない」

 

 

 首切りの一閃。心からの感謝を込めて称賛する。ギルベルトの武器破壊より完全格上。七本中五本を失う戦力低下。この一撃で決めねば次はどうなるか分からない。

 全力で狙った一閃が——————

 

 

「……貴様は!?」

 

 

 死人の手により止められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は夢でも見ているのかと思った。

 だって、先ほどまでと明らかに雰囲気が別人で、よりかっこよくて――――――イケメンで。

 女の子がやって欲しいことを無自覚にやってしまう女たらし。

 

 

「サトル……さま?」

 

 

 失った腕は何も掴めない。触れない。それでも――――――

 

 

「助けに来たぞアルベド」

 

「~~~~ッはい!!」

 

 

 愛しの腕に抱かれることはできる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デスナイトはどんな攻撃でも一撃だけ耐えられる。

 どんな敵も一撃で滅ぼしてきた『英雄』には、不意打ちであったがアルベドを助け出すことはできた。

 

 

「……アルベド、俺な、少しは分かってやれそうなんだ」

 

 

 やっとアルベドのことが、少しだけわかってやれそうなんだ。

 少しはアルベドのことを理解してやれているって、『鈴木悟』として身勝手な自己満足にもなる。

 

 

「今日だけで理解した気にはなれない。やっとわかったよアルベド。俺もアルベドのこと大好きだって」

 

「……っ!?」

 

 

 顔を背けアルベルトは振り向こうとしない。でも、驚いていることはすぐにわかった。

 

 

「好きだの愛してるのだの難しく考える必要は一つもない。こうやって、あぁ……お前の事好きなんだなって自覚するだけで、なんだって分かってやれる気がするんだ。だからさアルベド」

 

 

 より強く、より優しく、より大切に抱きしめて――――――

 

 

「愛している。大好きだ。だからさ……一緒に未来を見よう」

 

 

 アルベルトはだんだん表情を歪めて、瞳に涙をためていった。泣くのをやめようと、必死にこらえようとして――――――やっぱり、泣くのをこらえ切れなかった。

 

 だから『鈴木悟』は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――自分の意志で彼女の心臓を握りつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ドクン――――――

 

 

 モモンガ玉が、脈動を開始する。

 さぁ、虚構(パンドラ)現実(アルベド)――――――望むままに時計の針を合わせよう。

 

 

 

 

 

「天涯せよ、我が守護星――――――鋼の時制(こよみ)こそ未知不変の旅路なり」

 

 

 紡がれる詠唱(ランゲージ)魔王(人間)の慟哭。

 

 

「ああ歓喜、喝采、最高の黄金時代さえ世は無常である。無常なるものは苦である。苦なるものは無我である。無我なるものは、わが所有(もの)にあらず、わが()にあらず、またわが本体にもあらず。まことに、かくのごとく、正しき智慧をもって観るがよい」

 

 

 この世のあらゆる存在は、変化していく。

 人は、あらゆる”縁起・因縁“によって生まれている。

 

 

「其は、過ぎ去ったもの。

其は、生起(せいき)したもの。

其は、いまだ来ないもの。

三世(さんざ)過現未(かげんみ)己今当(いこんとう)とし。其は、実体なく存在を変遷するもの」

 

 

 神の創りし肉体(プレイヤー)が原初『ユグドラシル』の楔を解き放つ。パンドラとアルベドの経験値()と思いが愛する男の力へ塗り替えていく。

 

 

「故に偉大なる最強の魔法詠唱者を讃えよ。至高なる死の支配者に平伏せ。世界、神話においてアインズ・ウール・ゴウンこそが絶対悪。栄光は瞬きの胡蝶の夢だとしても四十一人の軌跡は歴史が証明する。あの日、あの時、伝説は確かに存在していたのだから」

 

 

 過去と現在を置き去りに、未来(勝利)を願う怪物よ。過去の栄光など現在の参考に過ぎず、現在の繁栄などより良い未来への過程に過ぎぬと断言する『英雄』よ――――――過去を思い出(憧憬)する恐ろしさを思い知れ。

 

 

「だから願う、愛しい人よ――――――どうか前を見上げてほしい。 

次の出会い、次の思い出、世界は広く未知であふれている。体を蝕む影の重圧も光の速さで追い抜いて。煌めく理想を次こそは仲間と実現するために。また迷わぬように、手を繋いで参りましょう」

 

 

 どんな存在も、単体で存在しているわけではなく、支え合っている。だから自分一人の考えで物事すべては思い通りにならない。愛する人と生きろ、仲間を作れ――――――未来を思う(慈愛)する頼もしさを思い知れ。

 

 

「ああならば今度こそ離しはしない。俺はもう後悔だけはしたくない。お前たちが必要だ——————共に往こうッ」

 

 

 "神が創りし偽りの命(NPC)"との完全なる同調。自分すら偽り続けていた男の思いも魂もが接続された"神が創り出した肉体(アバター:モモンガ)"="モモンガ()"。

 復元を超えて、一度は欠けた彼の心を新生させてゆく。

 尽きぬ泉と湧き上がる力の鼓動。

 迸るのは無限の力、新たな異界法則の神にならんがためこの瞬間だけ『鈴木悟』を生まれ変わらせた。

 存在を変革させながらも――――――彼の心は、湖畔のように澄み切っていた。

 

 ――――――歓喜はない。後悔もない。

 

 (チート)を得た高揚を感じることなく、本当に人をやめ魔の秘奥に至ったことを嘆くこともしない。

 ただ、受け止める。胸に渦巻く感情を噛み締めて、己を構成する一部、これも自分だと認めていた。

 故に――――――だからこそ。

 

「俺たちは――――――無敵だ」

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)——————ッ!!」

 

「愛しています。サトル様!!」

 

 

 苦痛と、失敗と、後悔の苦痛(ほこり)を胸に秘め。

 

 

「過去を悔いず、未来を待たず、現在を大切にふみしめよ。それこそが、アインズ・ウール・ゴウンの生き様と知れッ!!

 今こそ、我が足跡に誇りと御名を授けようッ!! 」

 

 

 発露する別次元の異能。それはもはや、超越者(オーバーロード)にあらず。

 不格好な葛藤と共に駆け抜けた。傷と共に在る我が生涯を示す名は――――――

 

 

 

 

 ——————其の名はッ!

 

 

 

 

 

 

 ——————其の名はッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——————其の名はッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超新星(メタルノヴァ)――――――世界樹の栄光(プルーフィング)遡行する三世因果(スフィアトラベラー )ッ !!」

 

 

 

 

 創生――――――星を渡る者(スフィアトラベラー)

 事象の地平面を超え、最強最大の天体が再誕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サトル・パンドラ・アルベド「トリニティはここにある!!」


はい、すいません。Vermilion -Bind of blood-再プレイしたらまんま影響されました。
スフィアトラベラーは色々選んだ結果『ランナー』『トラベラー』に候補を絞りまして、実際に口にして詠唱してみたところ『トラベラー』になりました。※家族がいないことを確認してから唱えましょう。


星を渡る者……一体どんな能力なんだ?※かなり予想付きやすいけど感想には書かないでね。


感想、批判等お待ちしてます。正直詠唱の部分に一週間かかりました。自分の中二力低下にはがっかりです(溜息


息抜きに盾の勇者の成り上がりを短編で書いてますのでよろしくお願いします。

次回:タイトルコール





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オーバーロードVS鋼の英雄人前編

 胸にのしかかる重圧も身体に纏わりつく鎖も――――――自分で自分を苦しめていた自己規制は消えた。

 世界に縛られていた『鈴木悟』の存在は階位を突破し、何物にも干渉不可能な一つの特異点。夜空を流れる新たな星となる。

 

 

「……気分がいい。晴れやかだ。体が軽く感じる。……不思議だな、肉体は全部偽物なのに」

 

 

 だがそれも受け止めよう。プレイヤーである『鈴木悟』は祈る者であり、操作する者。

 現実に絶望していた『鈴木悟』にとってモモンガ(アバター)こそが慣れ親しんだ肉体。

 

 

「お待たせ……誰かを助けるヒーロー(たっちさん)。俺はさ、お前を見たときから勝てるわけがないって諦めていたんだ。パンドラも、アルベドも、そんな簡単なこと理解してるのに俺のために……自分のために戦った」

 

 

 頭が冷静だ。今なら何だって出来る。英雄譚の絶対者であったヒーローが弱く見えるほどに。

 

(いいや、可能なんだ。今の俺なら一切の挙動を封じて殺せる。ヒーローとしての矜持とか人間としてとか関係なく、強くなった俺はこんな凄い人も倒せる)

 

 

 『鈴木悟』が自分で身に付けた力はない。モモンガ(アバター)極晃星(スフィア)も与えられた贈り物(ギフト)

 胸を張って誇れる力がない。でも――――――世の中そんなもんだろ。

 開き直りとは違う。これはそういうものと認識する精神。

ゲームの力は居るかも分からない神から。

モモンガ玉(胸の内)から暴れ出る新たな力は愛する二人から。

与えられてばかりの彼の人生。一人じゃなにも出来ないくせに、皆で一緒にいる努力を怠った愚か者。

だからこそ――――――

 

 

「だからこそ――――――ッ俺は取り戻す。俺とパンドラが望んだ過去を。だからこそ――――――ッ俺は願う。俺とアルベドが求めた未来を」

 

 

 『鈴木悟』は視線と意識を外し、四十人の御旗を仰ぎ見る。

 最強たる英雄にこの態度。余裕、慢心とも違う。

 彼にとって『英雄』はもはや敵ではない。

 勝つ負けるの次元を超越した。人の形をした特異点。

 異界法則に抗うには同じ土俵の独自法則のみ。

 だからこそ――――――

 

 

「もうやめにしないか?これ以上は不毛だ。俺と貴方が戦えば確実に殺してしまう。貴方は()にとってのヒーロー(たっちさん)なんだ。俺はもう誰も殺さない。ナザリックのアイテム全部あげてもいい。だから引いてくれ。血はもう十分だろ?」

 

「ふざけるな墓場の亡者、これはお前達が始めた戦争だろ。……大勢の罪なき民が弄ばれ殺された。人ですらない貴様らの利益と下らぬ世界征服とやらで死んだのだ。俺を慕っていた部下たちも貴様らに殺されている」

 

「うん。だからさ、俺も同じだろ?むしろナザリックは壊滅状態だ。痛み分けで手をうとう。この場もアイテムも全部貴方達が好きにしていい。だから頼む……貴方のような素晴らしい人を無駄に死なせたくないんだ」

 

 

 例え生き返るとしても『鈴木悟』はクリストファー・ヴァルゼライドを殺したくない。

 彼には生きていてほしい。

 自分がなりたくてなれなかった正しいヒーローを自分の手で否定したくない。

 だってヒーローは――――――無敵だ。

 

 

「流した血と涙に目を背けと?なら犠牲となった人達の想いはどうなる?膝を屈し諦めろと?嗤わせる。勝者の義務とは貫くこと――――――涙を笑顔に変えんがため、男は大志を抱くのだ。宿業(みち)は重いが、しかしそれを誇りへ変えよう。俺は必ずこの選択が世界を拓くと信じている」

 

 

 犠牲の楽園を許容すれば、ナザリックは世界を豊かにする。彼は()()()()()()を調べさせ自分で見て確かめ戦うと選択した。

 

 

「人々の幸福を未来を輝きを――――――守り抜かんと願う限り、俺は無敵だ。来るがいい、明日の光は奪わせんッ!」

 

 

 その宣誓はどこまでも雄々しく、決して虚偽など欠片もない全身全霊で語られた本気のものである。

 彼は真実誰かのために、祖国のために、民のためにその身を捧げている。

 故に、時の流れが異なるアンデットの王は不要。今を蔑ろにし都合の悪い敵を排除し自分の都合のいい世界を否定する。例えそれが自分の宿業の否定だとしても。

 罪は無くならない。犯した過ちは裁かれなければならない。

 勝率が限りなく零だとしても、クリストファー・ヴァルゼライドしか手を下せないのなら。

 

 

「はあああああああああああああああああッ!!」

 

 

 未来に向け、悪を撃ち滅ぼすまでこの男は絶対に止まらない。

 知覚不可能な閃光。スムーズな脚運びに重心移動。腰の回転から刃先の遠心力。意識の意表を突く見せかけの攻撃と本命。

 技の極み――――――特殊な事象など必要ない。人間は、努力のみで神殺しを実現させる。

 『鈴木悟』には反応すら不可能。彼の視点からはヴァルゼライドが消えた様に見えている。

 頂へ至った肉体は構造が作り替えられる。

 より頑丈に強固に、自らの星を行使する相応しい肉体へ生まれ変わる。

 それでも『鈴木悟』は躱せない。その精神性は何の訓練も受けていない一般人。ゲームの腕前が廃人級の一庶民。ユグドラシルで培ったノウハウも所詮現実(リアル)では意味のない産物。

 ゲームでは実現不可能な一挙手一投足努力で積み上げてきた巧みな技。

 巧すぎて、真似したら簡単に出来そうに見えて、実際何をしているのかさっぱり分からない。

 その速度に、死が間近に迫った時――――――光を受けるその姿がまるで神話に登場する英雄のごとき雄々しさと、眩い魂を放っていた。

 『鈴木悟』は、その姿に眼を奪われずにはいられなかった。

 

 

「……綺麗だ」

 

 

 無防備になった『鈴木悟』の首に向かって、ヴァルゼライドは渾身の斬撃を繰り出した。

 黄金に輝く刃が、脊髄を破壊し刃先が弧を描く。

 魔王は死んだ。新たな異界法則は日の目を見ることなく、戦争が終結した瞬間だった。

 

 

 ――――――そのはずだった。

 

 

「……綺麗だ」

 

 

 先ほど口にした言葉を、もう一度繰り返した()()の『鈴木悟』の位置が、先ほどよりもヴァルゼライドから僅かに遠ざかっていた。

 異変は誰も気付かない。

 星を渡る者(スフィアトラベラー)――――――時奏者たる事象の地平面を超えた特異点。

 同領域たる他の異界法則の特異点でなければ観測すら不可能。

 常人なら、時間の流れが――――――運命が巻き戻ったことにすら、気付かないだろう。

 

 ()()()()()()()()ヴァルゼライドは激流のごとく連撃に移行する。

 攻撃をさせないことが勝利への道筋だと理解しているからだ。

 そんな一撃すら回避不能な技の極みを、『鈴木悟』は横目で歩きながら観察する。

 

 

「これが……今の俺と貴方との差だ。誰もが過ぎ去った過去を、不確定な未来を観測することはない。"世界樹の栄光(プルーフィング)遡行する三世因果(スフィアトラベラー )"は、過去と未来を確定する現在まで時間移動させる。――――――俺は今、確定させた未来にいる。確定した未来は絶対だ。過程をぶっ飛ばし俺は未来にいる。だから、その過程において俺は無敵だ。俺にとってはそこはもう通過した過去なのだからな。過去だから貴方のとる行動も確定している。そして、俺以外が確定した未来に到達するまで、好きに動くことも出来る。むろん未来が確定している今、俺も攻撃をくわえることが出来ない。……っとまぁ説明したが、貴方には聞こえないか。なにせそこは、俺にとって過去なのだから」

 

 

基準値(アベレージ): A

発動値(ドライヴ): A

 

集束性:A

拡散性:A

操縦性:EX

付属性:A

維持性:A

干渉性:A

 

 

 これが『鈴木悟』のステータス。見事な万能型。

 気付けば簡単だ。俺たちプレイヤーほどこの世界に適した肉体はない。魂の器に過ぎないアバターは本当の神が創りし御業。プレイヤーその者が次の段階に穴をあける聖遺物。

 プレイヤーとは祈る者であり、操作する者。

 適正はあると思うが、プレイヤーは操縦性に特化している。ゲーム時代からこの世界でも、偽りの肉体を操縦し続けている。とくに魂の存在として用意された器で生きてきたプレイヤーは、気付いてしまえば魂さえ認識できる。

 それこそ魂を燃料とする始原の魔法さえ使える可能性がある。

 

 

「同等の領域に到達しなければ、俺が能力を使ったことにさえ気づかない。パンドラが確認した星辰滅奏者(スフィアレイザー)は意識不明。星辰伝奏者(スフィアリンカー)は消滅。……『ユグドラシル』は戦う力があるか知らないが、誰も俺を邪魔できない」

 

 

 過去を移動してヴァルゼライドの背後に回り込んだ『鈴木悟』は、魔力で編み出した剣を掲げる。

 

 

「貴方が見ている今は、おそらく攻撃を全て回避している俺が見えているはずだ。当たり前だが、未来の俺はここにいる。なら辻褄を合わせるために俺の死なない歴史に修正される。そして、過去が未来に追い付いたなら……」

 

 

 振り下ろされた剣が、無防備の背中を切り裂いた。

 

 

「――――――ァ、ァがッ!!!?」

 

「……貴方は俺が瞬間移動したとしか考えられないでしょうね」

 

 

 過去は現在となり、未来は先へ進み出す。

 あり得ぬ結果に驚愕の表情を浮かべるヴァルゼライド。

 常識に囚われている限り、星を渡る者(スフィアトラベラー)の脅威は片鱗さえ認識できない。

 

 

「ッッガハッ、、――――――まだ、だ!!」

 

 

 振り抜いた刃から滴り落ちる鮮血。

 急所をほんの数ミリ外されたとはいえ、吐血からの覚醒。

 

 

(いやいや人間なら致命傷だろ。なんかさっきより早くなって――――――)

 

「カペッ」

 

 

 真直ぐに切り下ろす唐竹斬り。頭蓋を縦に斬られ『鈴木悟』は即死した。

 

 

 ――――――そのはずだった。

 

 

 「ッッガハッ、、――――――まだだ!!」

 

 

 先ほど口にした言葉を、もう一度繰り返したヴァルゼライド。『鈴木悟』の位置が、先ほどよりもヴァルゼライドから僅かに遠ざかる。

 

 

上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

 

 二十メートルへ転移。一息もせず接近を許す距離。

 

 

「十分だ――――――スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」

 

 

 ヘルメス神の杖(ケーリュケイオン)をモチーフにした黄金のスタッフ。七匹の蛇が絡み合った姿。のたうつ蛇の口が神器級(ゴッズ)アーティファクトの宝玉を咥えている。握りの部分は青白い光を放つ水晶のように輝く。

 

 

「陽、月、土、火、風、水、時、根源の精霊よ。我が求めに応じ現世へ姿を現せ――――――精霊召喚(サモン・エレメンタル)

 

 

 根源の精霊全七属性召喚。

 

 

「上位アンデッド、中位アンデッド、下位アンデッド、アンデッドの副官」

 

 

 上位アンデッド創造/1日4体。中位アンデッド創造/1日12体。下位アンデッド創造/1日20体。経験値を消費して作り出せる、一体しか持てないが90レベルにもなる副官。デメリットの経験値は自己のみを過去を現在とし、召喚された結果のみが残る。理論上、無限召喚が可能となる。

 

 

「力を完全に制御できたと確信するまで攻撃は全てユグドラシル形式で行かせてもらう。壁モンスターは揃った。俺の十年がヒーローに何処まで通用するか試させてもらう」

 

 

 銀河を呑み込む天体へと覚醒。だが、それがなんだ?『鈴木悟』が初めての力をいきなり使いこなせるわけがないだろ。

 俺はお前らと違ってただのゲームオタクなんだ。

 説明書を読まずにゲームするときは、序盤慎重に操作方法と攻撃パターンを覚える。死にながらが基本だが、現実(リアル)はそうはいかない。なにより、時間移動はちょっとのミスが洒落にならない。

 

 

(自分だけなら前後数十秒。物体、他者、世界に干渉するのは怖いな。どう作用するか確証が持てない。俺が培った技術だけで勝てるか……?もしもの時は……ヤル)

 

 

 『鈴木悟』の戦闘スタイルは合理性を突き詰めたもの。一度敵を分析し、二度で封殺する。自分の手札を十全に理解し、その手札でどう戦闘スタイルに嵌めるのかが重要。

 

 

(俺は俺の目的のためにミスは許されない。数年単位の過去改変がどう世界に、歴史に影響を与えるか分からないが、まあ原初『ユグドラシル』の席と交代すれば総ては上手くいくか)

 

 

 六百年世界を支えてきた特異点『ユグドラシル』。異界法則を流出させる座は1つ。肉体を無くし、概念体である彼らを引きずり下ろす。

 

 

魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)魔法無詠唱化(サイレントマジック)魔法二重化(ツインマジック)魔法遅延化(ディレイマジック)魔法三重化(トリプレットマジック)魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)魔法最強化(マキシマイズマジック)魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)——————要塞創造(クリエイト・フォートレス)

 

 

 デスナイトとヴァルゼライドを中心に高さ三十メートルを超える巨大で重厚感のある塔を出現させた。

 大切な仲間の御旗を巻き込み天井に亀裂を走らせ衝突する。

 

 

核爆発(ニュークリアブラスト)大顎の竜巻(シャークスサイクロン)無闇(トゥルー・ダーク)

 

 

 核爆発(ニュークリアブラスト):与えるダメージは炎属性と殴打属性で半分ずつの複合ダメージで、全魔法の中でも最上位の効果範囲があり、また、強いノックバック効果や毒、盲目、聴覚消失等の複数に渡るバッドステータスを与える事が出来る。使用した本人も効果範囲の中に入ってしまう魔法。

 大顎の竜巻(シャークスサイクロン):高さ百メートル、直径五十メートルにもなる巨大な竜巻が発生し、巻き込まれると中を泳ぐ六メートル程の鮫が襲い掛かる。飛行するものに対して有効な魔法。

 無闇(トゥルー・ダーク):無属性の闇で対象を包み、ダメージを与える。

 以上の複合魔法にて、要塞内部に逃げ込んだヴァルゼライドを炙り殺す。要塞の壁を破壊し突破すれば鮫が反応しそこに新たな魔法を打ち込む。さらに強力なバッドステータスと要塞を包み込んだ闇が対象を逃がさない。

 

 

「毒も合わさり五官はろくに機能しないはずだ。ゲームと違い酸素濃度、一酸化炭素も人体を蝕む。あぁ……煙もか。いや、煙も一酸化炭素の部類なのか?まいっか」

 

 

 予想通り壁を破壊し飛び出し、鮫をなます切りにするヒーロー。汚染されて食えたもんじゃないがな。

 召喚されたモンスターがヴァルゼライドに殺到する。これ以上先へ進めさせないために、『鈴木悟』の次の一手の時間稼ぎをするために。

 

 

隕石落下(メテオフォール)

 

 

 王座の間全てを巻き込み、地下最深部に降るはずのない隕石群が降り注ぐ。

 破壊の衝撃が王座の間を崩落させ、何百万トンの地層が十階層になだれ込む。

 "上位転移(グレーター・テレポーテーション)"にて十階層の通路まで退避した『鈴木悟』は次の一手を打つ。

 無敵のヒーローは絶対に立ち上がってくる。

 超重量で圧し潰そうが、炎で焼きはらおうが、風と鮫で切り刻もうが、隕石が命中しようが絶対に立ち向かってくる。故に――――――

 

 

「超位魔法:黙示録の蝗害(ディザスター・オブ・アバドンズローカスト)ッ」

 

 

 課金アイテム砂時計を握り潰し、即座に切り札を一枚切る。

 これは『鈴木悟』のみが使える超位魔法。

 ユグドラシルのゲーム上では然程酷くは無いが、転移後の世界だと下手すると短期で1つの国が崩壊する暴食の化身。

 テキスト上、無限宇宙を食べ尽くす蝗を再現するべく造られた魔法。

 飢えた暴食の具現として、海の砂を思わせるほどの蝗の大群を召喚する。

 

 

「貴方と戦ったパンドラとアルベドが教えてくれたよ。綻びのない無敵のヒーローに有るはずのない致命的な弱点を」

 

 

 『英雄』クリストファー・ヴァルゼライドは刀しか使わない。刃を飛ばしたり、次元を切り裂いたりもしない。

 卓越した技術に、一撃必殺のガンマレイ剣。……あと気合と根性。

 

 

「一定の距離を保ち壁役を徹底させ、回避不可能な広範囲魔法で畳み掛ける。どれだけ凄い剣術でも二刀しかないなら絶対くらう。アンデッドと違い人間は体力も精神も消耗する。ここまで連戦に次ぐ勝利。気合と根性でごまかしてはいるが、傷ついた肉体、失った体力と血は戻らない」

 

 

 止めの黙示録の蝗害(ディザスター・オブ・アバドンズローカスト)が召喚する蝗は、一匹一匹はたいしたことのない素早いだけの蟲。だが、その膨大な数と暴食性が脅威力を跳ね上げる。

 

 

「この超位魔法使うとタブラさんのテンション上がるんだよなー。"神話の再現だ、キリ"ってね」

 

 

 王座の間の土砂を喰らい尽くしても止まらない。制限時間まで形ある総てを暴食する。

 一国を食べ尽くす蝗の群れが『英雄』を終わらせる。

 

 

「……………?」

 

 

 王座の間に収まりきらない蝗の大群を召喚した。

 それらは対象を捕食し終えたら無差別に暴食を開始する。

 何故、王座の間から溢れ出ずいまだに蠢いている?

 

 

「……そんな、うそだろ……?あの傷だぞ。毒に侵され五感はまともに機能しているかすら怪しい。テクニック、スピード特化の紙装甲が隕石と蝗を防ぎきれるわけがない!!」

 

 

 話には聞いていた。パンドラもアルベドも口を揃えて人類最強、規格外、トンチキ、と入念に聞かされていた。だからこそ、常識の過剰に魔法を行使した。

 実際に体験するのと説明を聞くのでは説得力が違う。一度彼と刃を交えたなら「まぁそうなるよね」と納得するのが『英雄(化け物)』。

 

 

(確実に即死させる)

 

The goal of all life is(あらゆる生ある者の目指すところは)――――――ッ!?」

 

 

 全身貪られながらそれでも一切の曇りの無い黄金の輝き。一歩一歩の衝撃が空間を震わせ蟲を弾き飛ばす。

 『鈴木悟』が即死スキルを発動しきる前に――――――

 

 

「アインズゥウウウウウウウウウウッ!!」

 

「――――――あっ!!」

 

 

 咄嗟に防御のために突き出したスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが両断される。

 『鈴木悟』の目が、仲間と作り上げた青春の結晶に釘付けになる。これで、ナザリックは終わった。誰もが攻略を諦めたナザリック地下大墳墓の心臓――――――ギルド武器の破壊は成された。

 その終わりを静かに見届けさせることなく――――――その首を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだけは無かったことに出来ない。しちゃいけない。これはケジメだ。本当の意味でNPCは自由になれる。俺も……未来へ進める。ありがとう……ありがとう…………………決心がついたよ」

 

 

 ギルド武器が破壊される前ではなく、首を斬り落とされる前に遡行。

 攻撃直後の背後から肩に手をかける。

 

 

「俺は、魔王にはなれなかった。アインズにもモモンガにもなれなかった。『鈴木悟』として、人間として、俺は現在(いま)を手に入れる」

 

 

 ヴァルゼライドは動けない。全身を襲う超重力に潰されないのは、肩に乗せられた五指が肩の筋肉と鎖骨を掴み吊り上げているから。

 

 

「重力を操作する者が宇宙を支配する。所詮は時間移動の副産物だが、物理世界においてこれほど強力な力があるか?引力も司るが……この話はまあいい。ヒーロー……クリストファー・ヴァルゼライド。貴方には見届けてほしい。神を殺し、俺はこの世界から出ていく。やらずに後悔するのはもう嫌だから……やれることはやっておきたいんだ――――――だから」

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

 "グシャリ"――――――五指がヴァルゼライドの右肩を握りつぶし、倍加した重量場が手足の骨を粉砕する。

 

 

「神の器たるプレイヤーと世界級(ワールド)アイテムを触媒に至った『ユグドラシル』。なら、星を渡る者(スフィアトラベラー)が座にいけない道理はない」

 

 

 ヴァルゼライドへ殺到する蝗の群れを重力波が起こす時空の亀裂で一掃する。

 障害物が無くなった王座の間へ歩き出す。

 光は重力に飲まれた。もはや誰も『鈴木悟』は止められない。

 

 

「核となったモモンガ玉ではもう穴は空けれない。……もう一つの世界で、世界に穴が穿つ」

 

 

 『英雄(ヒーロー)』を下した彼はもう戦う気がない。目指す現在(いま)に争いは不要――――――だからこれは確認作業。

 

 

「貴女も俺を止めますか?」

 

 

 黒の軍服を着こんだ化粧など着飾っていない大雑把な、されどたなびく金髪と光に反射する翠色の眼の少女は美少女が多いNPCと比較してもその美しさは廃れていない。何故だろうか、この女性の方が輝いて見える。アルベドに近い何かを感じる。

 

 

「うるさい。話しかけるな声も出すな。貴方が出していいのは断末魔だけよ」

 

 

 光は闇の重力へ吸い込まれた。

 されど太陽はいまだに不滅に輝き続ける。

 その輝きこそは消えることがない永久。

 ならばこそ――――――

 

 

「――――――勝つのは私達よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※『鈴木悟』なんやかんや調子に乗る




書いててグダグダ感がある。
そこの人キングクリムゾンって言わないで(汗

今まで一度も言ってなかったので言います!!誤字修正ありがとうございます!!
感想お待ちしてます!!


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オーバーロードVS鋼の英雄人中編

 ティアード・ロゼッタは諦めない。

 何度も挫折し、折れながらも、着実に一歩一歩努力を積み重ねえてきた女性がいた。

 彼女は何処にでもいるちょっと負けず嫌いな活発的な少女。

 少女はいつも三人で行動を共にしていた。

 大好きな幼馴染。スラム街で生きる大切な仲間――――――家族。

 智将担当アル。武力件総大将担当クリス。そして、特攻隊長担当ティア。

 三人の中で特に何も考えてなかったのは私。大人顔負けの二人は例外として私は何処までも子供だった。

 上から下まで膿の溜まった国を楽園にしたい。そう言った私の言葉が全ての始まりだった。

 アルバート交渉術や戦略を、台無しにしたのは一度や二度ではないし、まだまだ弱かったクリスを罠にはめ泥だらけになった間抜け面をアルと笑ってやったりもした。そんなまだ世間を知らないずる賢い子供だった。

 分水嶺は私が犯されそうになった時。実際入りかけたけど、アルとクリスが助けてくれて――――――誓ったんだ。強くなる。誰にも負けない英雄になる。こんなどうしようもない現状を打破したい。

 私たちは三人で全てを共有した。知識も技術も武力も三人は一緒に学びスラムで強く生きていた。

 年齢に達すると軍に入り、戦場で数々の武勲を輝かせた。一番の出世頭は以外にもアル。やっぱ頭が切れる奴は違うね。次にクリス。クリスがクリスしてる理不尽な権現は敵からしたら絶望しかない。

 私にはこれといった才能がなかった。クリスのように一点に吹っ切れることもなく、詰まらないくらい一歩一歩実力と知識を身に着けていった。

 そこからは本当に大変だった。いつも一緒だった三人はそれぞれの戦場で武勲を積み重ね。いろんな人達と出会い。話。仲間を増やしていった。中には眼鏡をかけた変態もいたが……まあいい。

 ドデカい事が起こるたびに私たち三人は大きな渦の中心にいた。戦争も政治も――――――粛清も。

 クリスは英雄となり王となった。

 私は名目上王妃になっている。

 私以外いなかったってこともあるけど、私はクリスとそういう関係になるのが一つも想像できない。むしろ忠実なる参謀アオイちゃんでいいよね?

 今回の魔王騒動ではあのギルベルトでさえ何人死に、勝算があるのかも予測が難しいと教えてくれた。

 神への戦いは全滅への片道切符かもしれない。だから、素性を隠し私を置いて男二人は最前線へ――――――納得できるか。

 この想いがなんなのかハッキリさせたい。もう一度クリスに出会えたなら、私は私の答えを自覚できる。

 なのに、クリスは死にかけで、規格外の骸骨を前に、ああ神様って本当に要るんだって確証できたから――――――

 

 

「うるさい。話しかけるな声も出すな。貴方が出していいのは断末魔だけよ」

 

 

 ――――――治療したギルベルトが語った憶測と神に至る道が確立された。

 

 

「――――――勝つのは私達よ」

 

 

 眠らされていたゼファーの肉体を調べたギルベルトが"貴女ならば、共に至ることが出来る"と、太鼓判を押したのだ。眼鏡は変態で気色悪いうざい奴だが、クリスに関わるあいつは信頼できる。

 

 

「……なぜ、ここにいる?」

 

「戦力は多いに越したことはないでしょ?いくらクリスがクリスだからって流石に三人での本拠地攻略は目眩と頭痛がしたわよ」

 

 

 本当に馬鹿ばっか。三人とも実力と頭もいいのに肝心なところは脳筋なんだから。

 

 

「そうでは……」

 

「そうじゃないって?分かってるわよ。自分たちが死んだ場合の保険が王妃()だってことくらい。英雄が死んだ後も、英雄と共に在り続けた者が皆を引っ張れば混乱は最小限で済む。ええ……分かってるのよそのぐらい!!」

 

 

 踏み込みが音を置き去りにする。肉体負担度外視のリミッターを外した100%を超えた300%。崩壊し続ける肉体を再生し続けることで血が流れることなく死ぬような激痛が際限なく襲い掛かるだけで化け物の領域に至れる切り札。ゼファーなら血反吐を吐き無様な悲鳴を上げながら武器さえ取りこぼし地べたを這いずり回る醜態を晒す激痛を表情一つ変えることなく実行する姿は、だてに規格外(トンチキ)の幼馴染をやっていない。

 実際その一撃は超越者(level100)すら殺せる死神の刃とかしている。

 

 

「……無駄だ」

 

 

 時間移動を使うまでもなく、引力逆転がティアを吹き飛ばした。

 太陽の数百倍~数千倍の超質量を持つ天体ブラックホールの引力を逆転させた攻撃とはいえない防御としての力を出力と方向性を絞って一瞬だけ解放。

 結果、引力に圧し潰される。

 

 

「すごいな……踏み込みから剣筋の軌道も全く見えなかった。姿がブレてあ、来るなってことは理解できた。それだけで十分俺は対処できてしまう力がある」

 

 

 積み重ねた努力も覚悟も『鈴木悟』は彼女に及ばない。だけど、アルベドとパンドラが至らせてくれた世界最強の力には絶対に追いつけない。

 

 

「ズルだと思う。ほのぼのとした剣と魔法の世界に、世界観ルール無視の宇宙戦艦で波動砲ぶっぱするぐらい異界法則は反則だ。殺しはしない。貴女も英雄も、俺の法則が流出した世界で、幸福だったあの日を生きてくれ」

 

 

 誰もが幸せだった過去があるはずだ。

 辛くて、苦しい時も、ふと振り返ると一緒に居てくれた人がいたはずだ。

 あの時は気付かなくても、今になって理解して後悔する人は大勢いる。

 その見つけた祝福を星を渡る者(スフィアトラベラー)なら取り戻すことが出来る。

 

 

「永久静かに立っている過去を――――――もう一度」

 

 

 これは、英雄譚ではない。

 

 

「これこそは――――――絶望に幕を下ろす、人心への()()()

 

 

 人は決して未来だけじゃ生きられない。

 これから訪れるプレイヤーよ、アバターに呑まれるな。ゲーム時代を思い出せ。

 憎しみも、恨みも、怒りも、それを懐く前の祝福を取り戻せ。

 自分が一番輝いていたあの日に回帰しよう。

 『鈴木悟』がゆっくりと歩きだす。

 これから訪れる新世界を夢見て一歩一歩噛み締めて。

 

 

「……幸せに生きろ?馬鹿じゃないの。私たちのような人種が、過去に満足してろ?出来るわけないでしょうが」

 

「ふー……これから神殺しやら世界を変えるやらそれで元の世界に帰れるのか緊張の場面で人がアレコレ気持ちとか思考とか精神とか色々葛藤してるんだから邪魔しないでもらえる?」

 

 

 引力に轢かれた肉体はヴァルゼライドとさして変わらぬ損傷具合。

 煌めく星の力により治しながら立ち上がる姿はなさがら不死兵(ウンゲホイヤー)

 治癒系能力者と分析しつつ意味のないことだと切り捨てる。

 あの回復効果は自分限定。仲間にも使用可能なら最初の時点でヴァルゼライドを回復させればいい。

 もっとも重力の檻を無力化しなければ永久に逃れる術がない。

 

 

(他者への治癒は接触か?まあいい。まあいいが――――――)

 

「そこらの欠陥がある法則と同じにするな。俺が尊ぶのは現在だ。それが過去か未来かの違いに過ぎない。未来がいいなら未知を楽しめ。突き進んで前へ前へ前へ――――――全てが終わってからでも死の間際でもいい。ふと振り返って楽しかったあの頃を夢見たなら……回帰すればいい」

 

 

 何度でもやり直せ。未知を堪能しろ。俺の法則に穴はない。

 過去に未練を、未来に希望を夢見る限り、星を渡る者(スフィアトラベラー)の資格は誰にでもある。

 

 

「それに俺は『ユグドラシル』ほど高潔じゃない。未来しか進めないようなマイノリティなんて知るかよ。人はな……物語の登場人物じゃないんだよ」

 

 

 時よ、止まれ――――――時間停止。

 『時』の歩みは三重である。

 未来はためらいつつ近づき、現在は矢のように速く飛び去り、過去は永久に静かに立っている。

 『鈴木悟』が求めるは『現在』。速く飛び去る現在をこの現在に固定すれば、未来は永久訪れない。

 

 

「時間停止魔法とどう違うかって言われると、時間対策のしようがないってことくらいかな。後流石に永久には止められない。神に匹敵する力とは言っても()()神ではない俺には世界法則を永久に止める力はない」

 

 

 停止したティアの傍まで移動し、右手人差し指をお凸にそえる。

 

 

「——————そして時は動き出す」

 

 

 未来へ動き出した『鈴木悟』は"トン"と軽くお凸を突っついた。

 スパンッ!!治癒能力で首だけが飛ぶのを防げたティアは『鈴木悟』が狙った通りヴァルゼライドと同じ重力場まで吹き飛んだ。

 

 

「人型とはいえ今の俺は最強最大の天体だ。太陽の数千数万倍の超質量を有する俺が物理的に弱いわけないだろ」

 

 

 ティアの刃は致命傷にならない。他のlevel100もそうだ。だが能力の性質上貫くことに特化したガンマレイだけは『鈴木悟』を何度も殺せる。

 重力場にて身動きが取れなくなった二人を確認し、視線を切った。

 これでもう、邪魔者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超重力の影響か、傷の治りが遅い。

 どれだけ力を籠めようとビクともしない。

 呼吸に全集中しなければ息が止まる危険性がある。

 そんな命の危機の中、自然と二人の双眸が見つめ合う。

 

 

「なるッ……ほどね。やっと自覚できたわ」

 

 

 クリスの瞳の奥を見詰め、やっと答えを知る。

 

 

「やっぱ私……王妃向いてない。だってクリスとキスしたり、生産行為したりして……一緒に子育てするんでしょ?しわが増えて老後は孫に曾孫。私とクリスは国を代表する仲良し夫婦に……あー想像できない。クリスも無理でしょ?」

 

「無理だな。俺は元よりこういう人間だ。生理現象など気にもしたことがない。むろん美しいさも可愛さも理解はできる。共感もしよう。だが、俺が一端の父になれる姿が想像できない。理想とする父像は理解できるが自分となるとな」

 

 

 ふっと苦笑いを浮かべる珍しいクリスの顔を堪能する。絶対にこのネタでいじってやる。

 

 

「……絶対私を王妃に選んだの消去法。仲のいい女性がいるわけでもないし、王妃とするなら功績と人間性を考慮すれば知っている私しかいない。何より自分のようなクズと生涯ともにするのは可哀想。それなら幼馴染であり迷惑かけたりかけられたりしている私なら妥協点」

 

 

 あれ?周りの好意に気付きながら、迷惑はかけられないからしゃーなし私を選ぶって十分クズなのでは?

 私もクリスもその辺疎いし一番のアホは了承した私か。

 

 

「帰ったら王妃決めよ。いやなんて言わせないんだから」

 

「……………………絶対か?」

 

「やるといったらやる。一人候補いることだしね」

 

 

 アオイちゃん感謝してよね。

 

 

「ねぇ、一人で戦わないで。私もアルもそんなにも頼りない?」

 

「今回は確証がなかった。戦うからには勝利する。だが、負けた先も考えなければならない」

 

「……それが私とアルとアオイ?」

 

「そうだ。女神(アストレア)審判者(ラダマンティス)、俺たちがいなくともお前たちなら大丈夫と信頼している」

 

 

 クリスらしい。戦いに絶対はない。クリスが死んだ場合あらゆる作戦と保険を常にかけている。それを全て台無しにして単騎でどうにかしちゃうのが『英雄(クリス)』。

 

 

「今回は少数精鋭を逸脱した戦争になっている。スレイン法国と協力して国境で押し寄せる化け物を退治して、各国に協力を仰ぎ対処している――――――総力戦。負ければ死んでも魔導王に遊ばれる未来しかない。でも話してみると事前の人物像と違うわね。なんか目的あるっぽいし、過去がどうとかさっぱりだけど――――――」

 

「「気に食わない」」

 

 

 やぱりクリスとは感性が合う。だてに幼馴染じゃない。

 魔王を目前にして生涯唯一、そして最大の敗北に殲滅されて――――――否。

 

 

「そうだったな……お前はいつもそうだ。なら……俺と共に闇に立ち向かおうティア」 

 

 

 ならば——―———鋼鉄の乙女(ティアード・ロゼッタ)は決断する。

 すべては、勝利を得るために。

 

 

「勝負よ、クリス……私を喰らって再誕して。今日だけで三つの特異点が生まれて、私たちに出来ないはずはない—————―できる?」

 

「抜かせ——―———見くびるな。俺は勝つ。必ず勝つ。お前が見込んだ俺がそんなヤワな奴に見えるか。確率など踏破するだけのこと。そして必ず人々に光を齎すのだッ!!」

 

「—————―ああ」

 

 

 轟く宣言に、思わずティアは身震いした。

 誓ったんだ。強くなる。誰にも負けない英雄になると。

 

 

「そうよ、私たちの約束は誰にも邪魔なんかさせない」

 

「だからこそ……創世の焔と雷を、今こそ二人で掲げに往こう」

 

 

 そう、すべては——————

 

 

「「すべては、勝利をこの手に掴むためッ!!」」

 

 

 光と光の超新星。

 絶大な正義(プラス)大儀(プラス)の重ね掛けが、ここの出鱈目な新生を顕現させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天昇せよ、我が守護星——————鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため 」

 

 

 ——————では、未来を目指し駆け抜けよう。

 

 

「巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧政を我らは認めず是正しよう。勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる」

 

 

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉なし。

 

 

「百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼よ、我が手に炎を宿すがいい。大地を、宇宙を、混沌を――――――偉大な雷火で焼き尽くさん」

 

 

 謳い上げる全能の証明。

 我に能う敵なしと、傲岸不遜にただ単騎(一人)

 全てを凌駕せんと、王の宿命が発動する。

 約束されし絶滅闘争(ティタノマキア)の覇者が、最後の勝利を掴むために今ここに立ち上がる。

 

 

「絶滅せよ、破壊の巨神。犯し貪る者を赦しはしない。共に往きましょうクリス――――――勝利を掴む為に」

 

 

 掲げられた対等の証明。

 王は一人では非ず、傲岸不遜に駆け抜けた足跡を飛び越えて並び立つ。

 

 

「——————ああティア、勝つぞ」

 

 

 三柱が生み出した膨大なエネルギーとティアが解れ合い、クリスの肉体が高次元の存在に生まれ変わる。

 

 

「聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡へと続くのだ。約束された繁栄を、新世界にて齎そう」

 

 

 そして男から生まれずるのは、一片の闇をも許さぬ"光"だった。

 世の絶望と悪を、己の敵を、余さずすべて焼き払う絶対の焔。

 その名は――――――

 

 

超新星(メタルノヴァ)――――――天霆の轟く地平に、闇はなく。閃奏之型 (プロシーディング スフィアパニッシャー)ッッッ!!」

 

 

 交わる二つの想いが、次元を超え――――――新たな特異点が創生された。

 ここに『悪の敵』が星誕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ばかな、ありえないッ!!」

 

 

 これは夢なのか?

 単体で完成していた矛盾のない英雄譚が崩れ去る。

 クリストファー・ヴァルゼライドとは、英雄とは、孤独で孤高であるもの。

 ナザリックNPC全てと繋がったパンドラと、愛に生きるアルベドが分析した人物像と矛盾が発生する。

 最前線において彼の者は一人。誰も並び立つ者がいない英雄譚の主人公。その足跡に続く者はいても、並び立つ対等なライバルは存在しない。

 誰も英雄には追い付けない。

 前へ前へ進み続ける光の奴隷は、自身を信仰する光の亡者を生み出してしまう。

 彼のライバルになりえるのは同じ光の奴隷。

 互いに進み続ける舞台装置は順当に覚醒し、特異点へ至るだろう。

 だが、彼女は違う。

 何処までも現実を生き、光の奴隷にも光の亡者にもなり切れない半端モノ。

 

 ここで意見は分裂する。

 パンドラは運命と可能性を信頼する。彼女は確かに極端に狂うことも精神的超人になることも出来ない英雄譚のライバルを名乗るのに役不足。だが、それまでに積み重ねてきた物語こそ、互いを対等と認識し背中を預ける何かがありライバルと認めたのだと称賛する。

 アルベドは愛に生きる者だからこそパンドラの意見に反論する。英雄もまた人を愛するのだろう。彼女もまた彼を愛している。これは英雄譚などではなく、最後の最後に気付いた愛の物語。

 

 

「……そんな単純な関係じゃないさ。パンドラ、アルベド。彼らは愛だのライバルだのそんな分かりやすい括りにははまらない。物語に執着している限り絶対に理解できない。……あぁ羨ましいなぁ。本当に対等なんだ。苦悩を分かち合い。楽しみを共感する。あいつらはどこにでもいるただの――――――そう……ただの友人だ」

 

 

 究極の関係とはなにか?

 愛の絆? 

 家族の血縁?

 組織の命令?

 友との時間?

 

 どれも正解でどれでもないんだろう。

 アルベドとの愛に溺れたい。

 パンドラの親子の絆を育みたい。

 ナザリックのギルド長として慕われたい。

 友と……面白可笑しく過ごしたい。

 だからこそ――――――俺は過去の未来の現在を手に入れる。

 

 

「世の中はままならない事ばかりだ。だからこそ――――――あの日を永遠に、未来を明るくしたい。すべては幸福に包まれる。邪魔をするなよ断罪者」

 

「貴様が齎す幸福に興味などない。過去は戻れない。時間は過ぎ去るもの。どんな結末を迎えようと人は前に進むしかない。貴様の我が儘に他人を巻き込むな」

 

 

 その身は最大最強の天体ブラックホール。引力と重力を支配者し時間移動を司る星を渡る者(スフィアトラベラー)

 定められた英雄譚を超え、友と共に明日を目指す星の裁断者(スフィアパニッシャー)

 

 そこに強弱など存在しない。

 万象を書き換え宇宙法則さえ無視する独自法則。到達者は世界を破壊し塗り替える資格を持つ。

 原初『ユグドラシル』が座するは宇宙の始まりにして終わり。世界の中心にして外側。空に落ちた観測不可侵領域にて『鈴木悟』は神殺しを実行する。

 世界を見守り続けた矜持。

 自分ではなく仲間や人々のために編み出された平等な独自法則。

 そこに間違いがあったとしても込められた思いは本物だから。

 

 

「『ユグドラシル()』を殺す。俺は、俺のために罪を背負うのは躊躇わない――――――ま、過去に戻れば元通りだがな」

 

 

 五指をかざす。それだけで重力が一千倍増大する。

 抗うことさえ許されない支配者の力。

 時間移動の副産物に過ぎない逃げられない重力場が、平等に万物を圧し潰す。

 高水準の付属性がヴァルゼライド以外に影響を一切与えない。

 卓越した技術も『鈴木悟』の前では意味がない。

 重力も引力も時間移動もそんなモノではどうしようもないのだ。

 だからこそ――――――

 

 

「——————まだだッ!!」

 

 

 不可視干渉不可能の重力を、気合の一刀両断で霧散させた。

 

 

「……………………………………はぁ!!!!?」

 

 

 重力を霧散させる。それは干渉性が高くなければ不可能。

 『鈴木悟』は今一度、星辰閃奏者へ至ったヴァルゼライドのステータスを可視化する。

 

 

基準値: B

発動値: AAA

 

集束性:EX

拡散性:E

操縦性:D

付属性:AAA

維持性:C

干渉性:D

 

 

「干渉性Eだと?集束性型の一点特化がどうすればこんな現象を……まあいい。闇に呑まれたいならそう言え、墜ちろ――――――黒体空引(ダークネス・ノヴァ)

 

 

 集束性、拡散性、操縦性、付属性、維持性、干渉性オールA以上の万能型。

 六属性による暗黒天体の創造は世界や周囲に影響を与えず英雄のみに作用する。

 集束、集束、集束、絶滅光(ガンマレイ)を纏うことで光刃と化した刀剣。

 新たにつくり変えられた肉体は、砕かれた骨も肉も再構築され強化された。

 だからなんだ――――――光速さえ飲み込むブラックホールの超重力。

 太陽系銀河系全てを呑み込み拡張を続ける最強の天体。

 光では、星を渡る者(スフィアトラベラー)には絶対に勝てない。

 光は重力からも時間の楔からも逃れられない。

 

 そう、故に――――――これこそが集束性の到達点。 

 

 

『これは――――――ッ!?父上!!』

 

 

 万象そのものが悲鳴を上げ――――――世界が砕け散った。

 

 

 

 

 




「超新星Metalnova――――――天霆の轟く地平に、闇はなく。閃奏之型 ProceedingSphere Punisher」
カタカナ表記の方が読んでていいかなと思いました。

人生初の夜勤工事で最近まで何も書いてなかったnamaZです。
九月からも夜勤あるらしいが正直不透明すぎて何も言えないです。
このまま決着まで書こうかなと思いましたが、そうすると何時投稿できるか分からなかったので、切りのいい所で投稿しました。

ここまで多くのスフィアが誕生しました。
星辰伝奏者《スフィアリンカー》
星辰滅奏者《スフィアレイザー》
星辰閃奏者《スフィアパニッシャー》
星辰時奏者《スフィアトラベラー》

オリジナルが二つほどありますが他二つに負けないくらいのスフィアだと思ってます。
星辰閃奏者《スフィアパニッシャー》……いったいどんな能力なんだ(汗

幼馴染の初登場シーンは24話「ルプスレギナ・ベータ」で登場してます。

それと誤字報告ありがとうございます!感想のほどお待ちしております。



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オーバーロードVS鋼の英雄人後編

ラストバトル(


 最強最大の天体ブラックホール。この言葉に嘘偽りはない。

 科学の発展した『鈴木悟』の地球科学。

 ユグドラシルのワールドモンスター。

 ワールド級アイテム。

 世界の調律者竜王。

 ブラックホールに呑まれた。この銀河に存在するあらゆる物質は、それに関する情報を破壊して経過を隠してしまい、そこから出てくるものは同じものになる。

 一説には銀河の中心にあるとされるブラックホールこそが世界の始まりにして終わりを司るとされている。

 事象の地平面は越えられない。

 ガンマレイだろうと光だろうとブラックホールからは逃れなれない。

 故に――――――もしも、もしもブラックホールの超重力から脱出でき、破壊も可能なナニかがあるとすれば、それはこの世界にはない超越した別次元の法則。そんなあるか分からない異界法則にしか可能性はない。

 

 だからこそ、『鈴木悟』は恐怖する。

 どんな経緯と理由があれ、最強は最強なのだ。この宇宙最強最大の天体が、異界法則とはいえ一睨にて重力の影響を残すことなく完璧に破壊する光景は、デタラメとしか言いようがない。

 

 

「クリストファー・ヴァルゼライド……どこまで邪魔をすれば気がすむんだ?俺が創る宇宙に不幸はなくなる。自分達が納得出来ないからって、人々の幸福を取り上げる権利はないはずだ。皆が、過去と未来を求めている。辛い現実に明るい未来を。思うように行かない現在に楽しかった過去を。たったそれだけなんだよ。俺に言わせれば、お前たちこそ死んだほうがいい。確かに憧れるよ。俺も同じようにって、あの人の役に立ちたいって突き進める。でもな……強烈な光は身を滅ぼす。物語のような英雄譚はな、物語のままで十分なんだよ」

 

 

 『鈴木悟』にはたっち・みーが丁度いい。

 光の奴隷の強烈な正しさもなく。

 人が人として生きる上で、誰よりも正義の味方で居たいと願い続け、理想を追い求めた只の人。

 『鈴木悟』は実感する。

 どんなに頑張っても正しく成れない人だからこそ、その理想を体現する姿はかっこよくて、美しいて、憧れる。

 清く、正しく、絶対の存在——————理想が肉体をもって現れて、正常な思考を保てる人は果たしているのか?

 完成した光など、怠け者を断罪する刃でしかないのに。

 

 

「うんざりしたよ。ああ、お前たちを見ていてやっと実感できた。その絶対の正しさが俺を苦しめる。光の完成形を前に自分もそうしなくちゃって思えてくる。そうなれたらって夢想する。間違っていない。皆がそうなれたらそれは素晴らしい世界かもしれない。だがな、正しい事が出来ないのが人間だ。自己正当化し、ちょっと悪なことや、闇とか血とかドイツ語カッコいいなと思うのが『鈴木悟』だ」

 

 

 寄り道もする。

 挫折もする。

 嫌なことから目をそらして忘れようとする。

 酒や煙草……できれば女も欲しい。

 休憩して、遊んで、騒いで――――――そして。

 

 

「——————俺の幸せは俺だけのもの。光なんかに奪わせはしない。来いよ星辰閃奏者(スフィアパニッシャー)。重力だの引力だの小賢しい小技は使わない。星辰時奏者(スフィアトラベラー)……その神髄を体験させてやる」

 

 

 何処までも自分勝手に。幸福を欲しい欲しいとねだり続ける姿。故に、この男は一切の容赦なく断言する。

 

 

「言いたいことはそれだけか?どれだけ正論を並べ立てようと咎人の罪は永劫消えはしない。……人々の幸福?言うに事欠いて俺の幸せだと?矛盾していると何故気付かん。貴様が神になったとして、思い描く世界は言葉通りにはならない。そもそも何億人と回帰したあとどうなる?それぞれの過去を回帰した者同士で永劫潰し合う世界が誕生するだけだ。自分の都合のいい未来というのは結局のところ別の敗者が生まれるのだから。貴様の思い描く世界は一つの世界に収まらない。遠くない未来、世界は破綻する」

 

『三人もいてその結論なの?貴方のそれも結局はその場しのぎの極論よ。最後は誰も救われない』

 

「——————どうでもいい」

 

「……なに?」

 

「どうでもいいと言ったんだ。この世界がどう傾こうと、元の世界に帰る俺には関係ない。確かに罪悪感は消えない。殺した感触は今も手に残っている―――———だから、幸福を掴み取る。俺はもう諦めない。我が儘に、欲しいものは欲しいと生きてやる。他の奴も邪魔してくる?好きなだけしてみろよ!!俺は絶対に百年だろうと何千年だろうと諦めない!!俺は一人じゃない……アルベドとパンドラと一緒に過去も未来も幸福に生きてやる!!」

 

 

 『鈴木悟(この男)』は紛れもなく一般人であり、狂人である。

 

 

「ふざけ————――」

 

 

「フザケテイナイ!!……いいかヴァルゼライド。王道だけを歩んできたお前には絶対に理解できても共感は絶対にできない!!他人の幸福より自分の幸福が大切に決まってる。俺もそうなだけだ」

 

 

 もう語る言葉は無い。

 総じて英雄譚の最終戦は語り合いでは終わらない。

 英雄と魔王――————相対する者が向かい合った時点で、殺し合い(この結果)は必然。

 だから、『鈴木悟』の本音はい今すぐ逃げ出したい。 

 一つの宇宙そのものの凶悪な波動を垂れ流す星の裁断者(スフィアパニッシャー)。時間を支配し命すら克服した星を渡る者(スフィアトラベラー)を殺す事が出来る超新星。

 

 

(あれはダメだ。死ぬ。殺される。ユグドラシルの基本戦略が意味をなさない)

 

 

 基本戦略は何よりも情報収集が最優先。リスクを嫌い、事前準備にかなりの手間をかける。情報を得るためなら、相手の攻撃を一方的に受け続けることで敢えて初戦を落とし、得た情報を分析して次の戦いに活かす戦法を取る。モモンガの時は3回戦って2勝したほうが勝ちという自分ルールを選択している。モモンガのPvPの勝率は5割。

 ぷにっと萌え直伝の『誰でも楽々PK術』は、相手の情報をとにかく収集して、奇襲で一気に終わらせる戦い方。これがギルド:アインズ・ウール・ゴウンの基本戦術になっていた。

 『鈴木悟』にとって初見は鬼門。しかも、一度死ねばそれまでの敵にどうしても怯えてしまう。

 逃げても一緒だ。世界級アイテム:『諸王の玉座』は破壊され、『英雄』は何があろうと追いかけてくる。

 ならば――――――

 

 

「——————ッ!!」

 

 

 超重力による強制的な短距離ワープ。無理矢理空間に穴をあけ、無理矢理体を押し込む事で成り立つ無詠唱・無MPによる理論上無限に使用可能な技。ブラックホールに身を投げ出すに等しいこの技は『鈴木悟』以外は誰も耐えられない。

 化け物からひたすら距離を保ち続ける事が『鈴木悟』の勝利への必須条件。接近戦闘に持ち込まれた場合()()で勝敗が決する。

 軍靴の重心が爪先に傾くのと同時に、ヴァルゼライドの死角となる二十メートル後方へ跳ぶ。

 右人差し指をかざす動作で発生する一万倍の重力と重力波。

 重力波は、周りの時空(時間と空間)が歪み、波として光速で宇宙空間に伝播する現象。『時空のさざ波』とも呼ばれるそれは、あらゆる防御を無視し時空の亀裂で敵を排除する。

 重力から逃れる術無し。

 

 

「……小賢しい。貴様のような小物はすぐ嘘をつき安全だと過信する背後を取りたがる」

 

 

 予測通りと真後ろへ踏み込んでいたヴァルゼライドは、重力の攻撃と同時に重力の安全圏である『鈴木悟』の懐に入り込んだ。紙一重に回避する暇のないそれを、時間移動により二秒後の未来へ逃れる。

 

 

「堕ちろ、堕ちろ、堕ちろ――————このご都合主義の塊がァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 上から下へ、第十層から八層までを巻き込んだ一万倍重力。

 重力の恩恵を否定することは不可能。

 加速的に落下する地層の波濤。

 もはや躱せる暇はなく、いなせる隙間もありはしない。しかし――————

 

 

「———―――温いぞ」

 

 

 真っ向迎撃。あろうことか超重力、超荷重の大地をただの一振りでぶち壊した。

 天を貫く絶滅光(ガンマレイ)の放流。木っ端微塵に砕け散る非実体の重力。

 刀身に付属した絶滅光(ガンマレイ)を意図的に暴走させ暴発。どういう原理と芸当をすれば可能なのかさっぱりだが、下手をすれば自爆する高等テクニックに舌を巻く。『鈴木悟』とて理解している。こんなもの極晃星(スフィア)には目くらましにもならない。だが、それで十分。

 

 

時の加速(タイム・アクセレレイション)

 

 

 短距離ワープを連続で繰り返しながら、自分の時だけを加速させる。

 十倍速まで加速した『鈴木悟』は、十秒遅くなった世界で思考する。

 自分だけが加速する世界は、酷くゆっくりで、周囲と敵を冷静に観察し、作戦をたてる猶予を与えてくれる。

 

 

(同じ領域の戦い。どんな反則的な力を身に着けた?集束性の行きつく先に何がある?)

 

 

 level100のPvPと一緒だ。同じでも全く違う。強さの土台が違う。力の方向性が異なる。同じ領域同じlevelだから個性が出る。

 

 

(ブラックホールと重力をどうやって無力化した?どれだけ光を集束しても物理攻撃で消えるものじゃない)

 

 

 重要なことを見落としている。時間を操るとは世界に干渉するのと同義。ヴァルゼライドが能力を行使するさい世界の悲鳴を聞いてるはずだ。

 

 

「同格に効くのか?——————時よ止まれ(タイム・ストップ)

 

 

 防御不可の時間概念。弱点を探るための時間停止。

 極晃星(スフィア)とて時間の流れには逆らえない。

 凍結した世界で動けるのは、星を渡る者(スフィアトラベラー)だけ。

 違和感の正体を探るべく無造作に近づこうとし――――――後ろへ逃げた。

 時間停止は成功した。

 だが、いや――――――やはりと言うべきか。

 光剣が激しい煌めきを見せた瞬間、凍結した世界が消し飛んだ。

世界が正常に動き出す間隙に放たれた不意打ちの引力も重力さえ、もはや光剣を振るうことなく触れただけで不発に終わる。

 引力も重力も時間さえ破壊するやりたい放題。森羅万象を蹂躙する『英雄』。

 

 

「そんな――――――ありかよこのッ……!チートが!!」

 

 

 だから一言、そう吐き捨てる。

 ならばもう容赦はしない。

 何処までも付き合ってやると覚悟する。

 

  

時よ(タイム)――――――逆行しろ(レトログレード・モーション)

 

 

 星を滅ぼす者(スフィアレイザー)の反粒子。

 星を繋ぐ者(スフィアリンカー)の無限進化。

 そして、星を渡る者(スフィアトラベラー)の時間移動。

 

 時間移動――――――過去と未来を何よりも求めている彼だからこそ、その力は強大。

 

 周囲を巻き込み時が遡っていく。世界級(ワールド)アイテム『王座』以外破壊された美しかった第十層が、ビデオテープを巻き戻すように形を取り戻していく。『英雄』の軍服にこびり付いた血と泥の汚れが少し薄れ。連戦に続く連戦の疲労が楽になっていく。

 

 

「——————!!」

 

 

 気付いていしまう。察してしまう。これは星の裁断者(スフィアパニッシャー)が新星する前まで戻すつもりだと。

 

 

「一度誕生した星を無かった事にするのは、可能か不可能か……やってみないと分からない。試してみる価値はある」

 

 

 絶対に正面から馬鹿正直に戦ってはならない。搦め手でチャンスを待ち続けろ。

逆行する時間。気付いた時には手遅れ。先程至ったばかりの極晃星(スフィア)など数秒で巻き戻る。

 ヴァルゼライドとティアの繋がりが戻ろうとする。ここまで来れば覚醒など無意味。覚醒、進化、出力を上げようと遡る時には敵わない。

 人間へと戻る――————刹那に。

 

 

「——————いいや、()()()。すべては"勝利"を掴むために!!」

 

 

 ―—————轟く気合いの大喝破が、遡る時を木端微塵に粉砕した。

 時間が砕ける。森羅(セカイ)が滅ぶ。

 停止した時を突破するのとは訳が違う。流れにのった時間概念を硝子のように粉砕したのだ。

 遡る時を、自分が通りすぎた絶対なる過去という事象そのものを破壊した異常極まる様は、まさしく、万象の否定であり、因果の蹂躙そのものである。

 そう、この男は――————精神力で過去の極晃星(スフィア)に至る前の現実を壊してみせたのだ。

 

 

「気合いと、根性……」

 

 

 想い一つ、心一つ。

 本当にただそれだけを原動力に秩序(ルール)をねじ伏せ、意のまま滅ぼしていく。

 そんな頭のおかしい現実の前に、ついに『鈴木悟』は真実を知覚する。

 『鈴木悟』と同じ——————否。 

 光剣に渦巻く凝縮されたエネルギー。文字通り刀剣に太陽を押し込めた様な空前絶後の密度を知覚。

 集束、集束、集束———―――同質量のエネルギーを肉体にも宿した圧縮された嚇怒の結晶。

 理屈は暗黒天体(ブラックホール)と同じ、否。暗黒天体(ブラックホール)として安定している『鈴木悟』と異なり内側に爆発し続ける殲滅光(ガンマレイ)を世界が支えきれないのだ。絶対なはずの物理法則が『英雄』の質量に今やまったく耐えきれていない。

 集束された殲滅光(ガンマレイ)はついに光速すら超越完了。

 

 

「光速の、突破……因果律崩壊能力……?」

 

 

 これこそが、悪の敵。

 悪を根絶やしにする破壊者の極限である。

 極限まで集束され、因果を砕く光速突破の殲滅光。

 

 

「——————往くぞ」

 

 

 鳴り響く破壊音。空間を削るように、疾駆した軌跡から次元の位相に亀裂が走る。

 光速突破を果たし、今も激しく銀河のように渦巻いている。

 桁外れの大質量と大密度に、次元はもはや耐え切れない。森羅万象を掘削する。

 そんな、男なら一度は妄想する最強能力。

 因果律崩壊能力も因果律改変能力も全能やらは考察され尽くされている。

 

 

「森羅万象の破壊……確かに脅威だ。世界をルール事破壊する出鱈目。だが、要するに一時的な無力化みたいなものだろ?御大層に世界を壊してはいるが……それだけだ。時間からは逃げられない。壊せるものなら何度でも壊せ。俺は、何度でも繰り返す」

 

 

 戻る時間が一秒でも、百回繰り返せば百秒。千回繰り返せば千秒。

 睡眠も疲労とも無縁な肉体。人間へ戻るその時まで抗ってやる。

 常時発動なら詰んでいた。

 極晃星(スフィア)とて万能ではない。

 時間を常時破壊する存在がいたとすれば、その存在は何処にいる?

 過去からも現在からも未来からも切り離されたそれはどうなる?

 

 

「時間停止は無意味。時間加速は寿命を迎える前に連続覚醒で詰む」

 

 

 耐えて、耐えて、耐えて、耐えて——————耐えるしか勝機はない。

 因果律崩壊能力も因果律改変能力も全能も考察され尽くされて出された対処法は、同じ力で戦うか、その力に対しメタをはれる能力しかない。

 

 

「想像がすべて現実になる能力とか欲しいな……けどそれで幸せな世界を想像しても結局は一人紙芝居。全能者って凡人が持てばただの迷惑な人じゃん。ま、そこは俺も似たようなものか」

 

 

 ヴァルゼライドの時間を戻し。

 時間加速と短距離ワープで逃げ続け。

 ときおり引力と重力をぶつける。

 この工程をひたすら繰り返す。

 いつか破壊が遅れるのを願い―――――『英雄』の失敗を願って繰り返す。

 これしかないから。

 接近して戦う術がないから。

 一撃くらえば自分は終わると確信しているから。

 ゆえに――――――これで詰み。

 経験値を最適化していく『英雄』に失敗を願った時点で、この結果は必然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――終わりだ。貴様は正しく、悪の敵だった」

 

「——————」

 

 

 静謐に世界が静まり返る。

 因果律崩壊の一閃は、ただの一撃で『鈴木悟』の(アバター)を破壊した。

 

 

「……負け、か……くやしいなぁ……勝ちたかったなぁ……今度こそは、後悔しない様にって、俺たち三人なら………………ごめんな」

 

「いいえ、謝るのは此方です。私はナザリック以外では愛しか知らない女。知らないうちにサトル様を追い詰めて、けれど――――――本当の愛を知ることが出来て……ほんの僅かな時間でしたが、好きな人と本当の意味で未来へ歩めた事実に、私は満足してます」

 

「ありがとう……アルベド」

 

 

 本当は悔しいはずだ。始まったばかりの旅路が、スタート地点で詰んでしまう。

 始まりの街でlevel1の冒険者と初めて戦うのがラスボスとか酷すぎる。

 だが、アルベドは優しく。最後は一緒になれただけで満足と言ってくれる。

 

 

「ンー……ここまで整えた舞台がバットエンドゥ!!王道に飽きて魔王いい奴英雄やな奴てきな物語は、一時のブームにはなりましょうが真の王道たる英雄譚には敵わないということですね!!サトル様が過去で何をするのか、どうやり直すのか、世界をつくり変えた……その先の世界を観たかった!!体験したかった!!感じたかった!!支えたかった!!ン~即興の台本はダメダメですね。まさか『英雄』が一人の女性を受け入れるなど予想だにしてませんでした。でぇすが、ここまではっちゃけて台本通り進み、最後の最後でアクターなどと~くに及ばない()()に滅茶苦茶にされて――――――楽しかった。お父様も最後まで私の我が儘に付き合っていただきありがとうございます。これで終わりなら……そうなのでしょう」

 

「ありがとう……パンドラ」

 

 

 俺がここまでやれたのはお前の台本のおかげだ。英雄は必要だった。ショック療法で強い光が俺には必要だった。おかげで俺は、失ったものを取り戻す力を手に入れることが出来た。

 結果は、俺が不甲斐ないばかりにこうなったが、最後まで裏方に徹してくれたお前には感謝しかない――――――息子よ。

 

 斬り口から光のヒビが広がり絶滅光(ガンマレイ)が汚染していく。

 『鈴木悟』は崩壊する神の器(アバター)に視線を落とす。

 神の器(アバター)は、本物の肉体ではない。

 NPCは肉体も魂も神が創造した。『鈴木悟』は神が器を造り、魂のみが器に定着している異訪者に過ぎない。

 瓶に入った水が、小さなヒビから決壊するのと同じで――――――器に穴が開けば、魂が零れ落ちるのは自然の道理。

 身も蓋もない言い方をすれば、完膚なきまでの相性負け。

 『鈴木悟』がリアルの生身の肉体だったなら、他のスフィア同様致命傷さえ防げば戦闘は継続できた。

 時間移動も因果律崩壊との相性最悪の時点でお察しであるが。

 

 

(なんだよ。こうやって振り返ったら勝てる要素ないじゃん。見届けて欲しいとかカッコつけて死亡フラグ立てるとかマジ笑える)

 

「……そうだな。何だかスッキリした。小卒で、ブラック企業で働いて、十年以上ユグドラシルに貢いで遊んで……終わったら異世界で……ははは、笑える。こんな俺がこの世界じゃ神様?しかもガチの唯一神狙えるポジションまでくるとか予想外だろ。ギルメンも結局一人いなくて、ギルドは無くなるし――――――なぁ『英雄』」

 

「……なんだ?」

 

「俺は……お前になりたかった。カッコよくて一撃必殺持ってて全力で限界まで努力する……そのカリスマも羨ましい。俺が――――――そうだったなら」

 

「やめておけ。この道には貴様が求める優雅さも、解放感も、優越感も何もない。あるのはただ、血に染まった一人の屑が佇むだけだ」

 

「ふっ……それでもだ。だけど、ほんと……色々あったなぁ」

 

 

 小卒までの子供時代。友達は一人もなく、同世代は明日を生きるのに精一杯。

 小卒して一人の社外人として生きた時代。ユグドラシルがなければ、『鈴木悟』はとっくの等に自殺していた。

 MMORPGユグドラシル時代。俺の生きる全てがそこにはあった。

 異世界転移。この時点で、『鈴木悟』は『鈴木悟』じゃなくなった。モモンガとして、アインズとして、アンデットとして、神の器に相応しい化け物になった。

 

 だけど―――———ああ……だけど……

 

 

「楽しかった……うん。楽しかったなぁ。全力で頑張って、戦って、やりたい事に一直線……斬られた痛みで泣きたいけど……胸がとても軽いんだ」

 

 

 光刃と化した刀剣は概念破壊の性質を激烈に帯びている。放つ刃はあらゆるものを両断して存在意義ごと踏み躙る極光斬撃(ケラウノス)

 骸骨に涙腺は存在しないが、一般人である『鈴木悟』が耐えられる痛みではない。

 惨めに痛みに地べたに転げ回らないのは、アルベドとパンドラの矜持の為に。二人が信じる『鈴木悟』が凄いんだぞと『英雄』に見せ付ける為に。

 

 

「……そろそろ時間のようだ」

 

 

 概念破壊のヒビが全身に広がる。

 絶滅光(ガンマレイ)の汚染がそこまで転移した彼に襲い掛かる痛みは、光に連なる者が覚醒しても払拭できない激痛。全身を焼かれ、汚染され、概念破壊で侵されている『鈴木悟』にあるのは強烈な()()ではなく()()()

 『英雄』が『鈴木悟』を最大の脅威と認め、一人では不可能な希望を二人で奇跡を起こし掴み取った。客観的に英雄譚の魔王としてその役目を全うした彼は、どこか嬉しかった。

 

 こんな凄い人に最強最大の魔王(悪の敵)と認められて、全力で戦ってもらえた事に――――――

 

 

「ゲームしか取り柄のない俺にとって、最大に名誉なことだ」

 

 

 そして――――――細めた目は遥かな空を見据える。

 

 

「……俺は、ただ……もう一度…………ほんの一度だけ……」 

 

 

 もう届かない居場所に手を伸ばし――――――

 

 

「——————皆と遊びたかった」

 

 

 言葉を最後に――――――魔王『鈴木悟』は、世界から消失した。 

 神の器が破壊され、魂が解放される。

 経験値になることも、消滅したギルドに囚われることなく、砕けた器から三つの魂が空へと帰っていった。

 彼らが何処に旅立ったかは、神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血飛沫などかまうことなく、四本の腕で使い物になる腕一本だけ武器を握りしめ、命を削り技を繰り出す。

 見た目は、カマキリとアリを融合させたような直立歩行するライトブルーの2.5mの巨大な蟲で、背中には氷柱のような鋭いスパイクが無数に飛び出しているが、どれも中途半端に圧し折られている。

 昆虫が外敵から守る外骨格『肉体武装』は、元は侍の鎧のようなビジュアルだが、斬られ、焼かれ、削られた彼の姿は細長いカマキリを連想とさせる。

 

 

「——————クァアアアアアアアアッ!!」

 

 

 雄叫びと同時に更に加速する。創造主ザ・サムライこと武人建御雷の技術を吸収し剣の技を高め続ける氷の化け物。

 刀の柄だけが握られ、無数の刀身を指揮する者。

 世界級(ワールド)アイテム『幾億の刃』の特性は、兆に迫る幾億の刃を操作する事にある。

 規格外なことに、コキュートスは一枚一枚の幾億の刃をそれぞれ操作し、手足のように使いこなしている。

 近接中距離遠距離をカバーし、一振りで大地を削り荒野にすることも可能。

 空が飛べない不利を、一枚の刃に乗ることで縦横無尽に空を飛び回る。

 今のコキュートスでは並みのプレイヤー処か、覚醒したセバスや新星になる前のヴァルゼライドすら勝てるかどうかというlevelまで強さの領域が引き上げられている。一つの意志の下戦場を蹂躙する差し詰め一人軍隊。

 それでもなお――――――

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

 

「ガァァアアアアアアアアッツ!!!!」

 

 

 強大なる敵は、身動ぎ一つでコキュートスの総軍を削ぎ前進する。

 強大なる敵は、宿敵を目指し最短に一直線に止まらない。

 強大なる敵は、コキュートスを認識すらしていない。

 

 

「ぐぼぉが――――――ガアハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 歩く動作だけで、大地や山に抑えられない破壊を振りまきながら、弱者であるコキュートスは移動するだけの強大なる敵に、追い詰められながら、嗤った。

 

 削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削るけずるけずるけずるけずるけずるけずるけずるけずるけずるけずるケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズルケズル――――――けず――――――

 

 

「アァ……ルベド。感謝スル。私ノ………………夢ハ叶ッタ」

 

 

 今までギリギリ直撃を避けてきた破壊の波濤。規則性などないランダムに放出するソレが、ついに直撃する。

『幾億の刃』を総動員し相殺ないし威力を削ることかなわず――――――

 

 

「敵ワナイ相手ニ、全力デ挑ミ、死ヌ——————コレ程幸セナ事ハナイ」

 

 

 アインズ様。至高の御方以上の力を持った絶対者に挑み、戦略も技も武器も闘志も熱も全てをかけて最高の高揚感を実感したまま敗北する。

 創造主:武人建御雷は全てをかけて挑み、たっち・みーに敗北した。一度で良かったそれを何度も求めてしまった。ならば一度で満足するよう努力すべきだ。

 コキュートスは最後の塵になるまで、挑戦者として挑む喜び。全ては無力だと否定する絶対な力に魅了され――――――満足して、一度の敗北を味わい尽くした。

 

 

 

 

 

 

 




クリストファー・ヴァルゼライドのステータス変更
基準値: B
発動値: AAA

集束性:EX
拡散性:E
操縦性:D
付属性:AAA
維持性:C
干渉性:D


大変お待たせしました。
国家資格を取るための勉強と10月後半にあった試験をつい終わらせて、ゆっくりでありますがオーバーロードを執筆してました。

此にてアインズ・ウール・ゴウンの物語は終わりです。
書いてて思ったんですが、このトンキチどうやって攻略すればいいんですかね(半ギレ
鈴木悟のスフィアトラベラーは他のスフィアと比べても強力でしたが、パニッシャーとの相性が悪すぎる。

いま思えば、オーバーロードで英雄vs魔王をえたらずに最後までナザリック終了を書ききったのは自分だけでは?と、ボブは訝しんだ。
もう一、二話で終わりますので最後までよろしくお願いします!!
今年までには終わらせたいけど出来るか?
ずっーと夜勤で、それでいて昼からも出勤しているから正直時間がないというね(笑)
仕事が終わったら帰って寝て、起きたら仕事の無限ループ……寝る時間短くして趣味の時間作ってます(笑)

感想のほどお待ちしてます!


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聖戦 前編

二年前からイメージしていたゴールにたどり着けました。





 魔王は英雄に討伐され、アインズ・ウール・ゴウンは事実上壊滅。

 生き残った元ナザリックNPCはそれぞれの人生を自分の意志でスタートした。

 彼らは生きていく。自分に正直に、やりたい事を成し遂げるために。

 この戦争で、多くの人間種、亜人種、異形種が犠牲となった。

 壊滅したナザリック。

 エ・ランテルもまた戦場となり多くの人が巻き添えになった。

 スレイン法国に進軍した化け物どもの軍勢は、聖王国共同のもと撃退に成功。ルベドが高レベルモンスターを倒してくれなければ犠牲は大勢出ていた。

 そして、同じく軍勢を送り込まれたアーグランド評議員国。

 後に光魔戦争と呼ばれるこの戦いで、神の次元まで力を覚醒させたのは四人。

 

 "相互理解"『永久の不完全』ルベド——————人を知り成長する次へ繋げる星辰伝奏者(スフィアリンカー)

 

 "逆襲劇"『冥王』ゼファー・コールレイン――――――弱者が強者に逆襲する星辰滅奏者(スフィアレイザー)

 

 "三世因果"『魔王』鈴木悟——————過去を現在により良い未来を求める星辰時奏者(スフィアトラベラー)

 

 "英雄譚"『英雄』クリストファー・ヴァルゼライド――――――悪の敵が悪を鏖殺する星辰閃奏者(スフィアパニッシャー)

 

 この宇宙には存在しない独自法則。それぞれが星であり別宇宙を内包している。

 異界法則には異界法則。同じ次元に立てない者は勝負の土俵にすら上がれない。

 ぷれいやーを超える盤面をひっくり返す力。

 彼らは存在そのものが歩く特異点。

 世界から一つ浮いた存在。

 だから分かる。人の形をしていても、見てしまえば同じ存在、近しい存在は分かってしまう。

 故に――――――殺意、愉悦、怨嗟、憐憫——————ヴァルゼライド一人に叩きつけられている空間を汚染する敵意。

 ここまで馬鹿正直に俺は此処に居るぞと自己主張すれば、感知能力に乏しいヴァルゼライドでも敵が何処にいるのか距離関係なく感知する。

 

 

『誘っている……罠……いいえ違うわ』

 

「ああ、こいつは狂ってる。壊れている。見なくてもわかる。敵は既に終わっている」

 

『それでも力があるのだから余計にたちが悪い。でもって倒せるのは私たちしかいないか。ほら行けクリス。私の分も働いてもらうわよ』

 

「口が悪いぞティア。軍務の時は分別を弁えると―――」

 

『いいじゃない二人っきりなんだから。ほら突入メンバー回収してレッツゴー』

 

「……まったく」

 

 

 諦めた表情でため息をこぼすクリス。堅物の英雄の表情筋を崩せるのは、幼馴染件親友であるティアかアルくらいなものだろう。

 ティアは傭兵を雇ってここまで来た。水を操る彼女に全員任せてきたけど運ぶとなると手伝った方がいいだろう。敵意を飛ばす敵との距離はまだまだ100キロ以上離れている。

 クリスは、砕いた位相の隙間に爪先を引っ掛け、連続空中ジャンプで穴が開いた天井部から第八層まで駆け上る。

 しれっと世界を壊しながら辿り着いた第八層で待ち受けていたのは、満面の笑みを気持ち悪く浮かべた糞眼鏡(ギルベルト)だった。

 

 

「お待ちしておりました我らが英雄よ。――――――おお……ヴァルゼライド閣下……ヴァルゼライド閣下ッヴァルゼライド閣下!!貴方ついに超越者を跳び越え神の次元へと至ったのですね!!その武勇を直に見る事叶わずッですが、私の仮説は正しかった!!私ごときでは拝見することもできませんが、そこにおいでなのでしょう王妃ティア様?あぁあああッ!!!これぞ英雄!!これこそがクリストファー・ヴァルゼライド閣下!!まさに心一つ、想い一つ――――――折れぬ不撓不屈な気合と根性さえあればこそ!!今こそッ人に仇なすモノすべてに終末の光を!!今こそッ英雄の足跡を皆で駈け上がり!!今こそッすべての人類は英雄の下一つとなる!!あぁ……あああぁああああ……アアアアアアアアア!!黄金時代は次のステップへ、英雄が導く神代の時代が幕を開ける――――――ッ!!」

 

「ご苦労だったギルベルト。ゆっくり休むがいい」

 

『おつかれ眼鏡。一人で勝手にイってろ』

 

 

悶える糞を横切り皆の安全を確認する。

チトセ、ゼファー、アスラの傷はまだ完治しておらず、体力的にも厳しい状況――――――なのだが、同じ条件のギルベルトは何故あそこまで元気なんだ?ティアは血反吐を撒き散らしながら高笑いを止めない馬鹿を脳裏に追いやった。

 

 

「これはこれは総統閣下。無事魔王を討ち取ったのですね。では、代表して完結に状況を説明しましょう」

 

 

 死者0。戦闘継続能力は雑魚掃討ならいける。アスラの途中参戦に覚醒したゼファーは意識不明。最後まで協力してくれた元ナザリック所属ペストーニャ。ティアが助っ人として連れてきたアリス・L・ミラー。そして、寝かされたゼファーを看病をしていた――――――

 

 

「リ・エスティーゼ王国第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。気軽くラナーとお呼びください。英雄様」

 

 

 黄金の髪は長く後ろに艶やかに流れている。唇は微笑を浮かべた桜の花の如くで、色素は薄いが健康的な色合いをしている。

 深みのある青の瞳はブルーサファイアを思わせ、柔らかい色を湛えている。

 

 

「この騒動でよくぞご無事でラナー王女。私は聖王国総統クリストファー・ヴァルゼライド。貴女の身柄は責任をもって我々がお守りします」

 

「はい。ありがとうございます。このままどうすればと困り果てていたので非常に助かります。早くに国に帰って愛しのクライムに合いたいわ」

 

「護衛としてギルベルトを付けます。見ての通り我々も余裕がありません。彼の指示に従いご同行してください」

 

「はい。何から何まで助かります」

 

 

 笑顔を張り付けた王女を普通ではないと一目で看破したクリスは、事務的に対応すると人に擬態した化け物の対処をギルベルトに押し付ける。

 此処に居る全員がラナー王女の異常性を知り黙認している。方向性は違うが光の奴隷、亡者と同じ領域の精神的化け物。戦後処理やこれからの出来事で彼女の手綱をギルベルトに握らせるために。リ・エスティーゼ王国との交渉はアオイ、アルバート、ギルベルトが対応するだろう。

 よって、クリスは彼女を見逃す。ここでその異常性を指摘し殺すより、その頭脳と命を有効活用した方が国のためになるから。

 

 

「ところで、閣下に臭い臭い敵意をぶつけているのは誰です?アインズ・ウール・ゴウンが崩壊した今、この機に乗じて誰が貴方を狙う?」

 

「……もしかしてナザリックの生き残りが……わん」

 

「ぷれいやーが倒され、新たな脅威となった英雄に竜王が動き出した可能性もある。だがその場合この敵意の説明がつけられない」

 

「……しれっと会話に混ざってくるなギルベルト。だが竜王か……ゼファーを叩き起こすか?」

 

「ねえねえこんな処で話し込んでないでさっさと地上にいきましょうよ。お姉さん的には、そのぉクライムくん?を是非とも紹介してほしいなって。お姫様も初めての相手は痛い思いしたくないでしょ?私が手取り足取りくんずほぐれつ教え込んであ・げ・る♪」

 

「いいですよ。クライムは私以外の女性には手は出さないので」

 

「きゃー♪ランデヴーしちゃってー。これぞ身分を越えた愛なのね」

 

 

 盛り上がる女子たち(アリスだけ)。チトセはゼファーをお姫様抱っこする。

 

 

「見ての通り我々は足手まとい。ここから地上に上がるのもそれなりに時間がかかってしまう。総統か――――――」

 

「閣下ッ!貴方の英雄譚は終わらない。これまでの強敵に次ぐ強敵。魔王さえ打倒した先に更なる強大なる敵――――――素晴らしすぎる。どうか行って下さい閣下。我々は貴方の足枷には絶対になりたくない。敵が狙っているなら今すぐ行かれるべきです。我々は身は我々が守ります。残存勢力は我々が処理しましょう。各部隊への指示も行います。ヴァルゼライド閣下!!新な伝説を!!」

 

「要するに適材適所にいきましょうってことでしょ?なら安心して下さいな♪頂いた報酬分はしっかりと働きますので♪」

 

「はぁ……そういうことです。あと、ヴェンデッタと姫の肉体を取り戻す方歩を模索しなければなりません。迅速に取り掛かりますが、邪魔な塵があっては第三諜報部隊・深謀双児(ジェミニー)、第十一研究部隊・叡智宝瓶(アクエリアス)が安心して作業に取り掛かれないのは痛手ですな」

 

「……感謝する。お前たちは誇るべき優秀な部下だ」

 

 

 英雄は孤独ではない。親友がいる。仲間がいる。背中を任せ、対等に並び立つ相棒がいる。

 後のことは全て任せ。クリスは地上までの穴を駆け上がる。

 遠い敵。敵意だけが目印となるが、闇の中で敵が大声を叫びながらライトで自分を照らすぐらい分かりやすい。

 ゆっくりと、だが確実に迫りくる強大なる敵。勢いよく地上に飛び出したクリスが捉えたのは、100キロ以上離れている敵の脅威が視認できる異常事態だった。

 

 

「——————馬鹿な」

 

 

 雲にまで届く100キロ以上離れてなお、巨大だと分かるシルエット。アレは落下のエネルギーだけで人類を終わらせることが出来る代物。

 

 

『……天空に浮かぶ浮島?』

 

「否。アレは島ではない。巨大な国家……大陸そのものが飛んでいる」

 

 

 星辰時奏者(スフィアトラベラー)の引力、重力操作を利用すれば理屈上可能。だが、敵意を向けてくる何者からは未来へ進む破滅性しか感じられない。

 その精神性は星辰時奏者(スフィアトラベラー)に非ず。光の者に通ずる一度決めた前へ進み続ける渇望。

 敵はこちらを知っている。そして、クリスもまた敵を知っている。

 

 

「……貴様は、誰だ?」

 

 

 星辰閃奏者(スフィアパニッシャー)最大の弱点は距離。斬り、叩きつけて森羅万象を破壊する性質上近づく必要がある。

 何時落とされるか分からない大陸を睨みつけ走り出す。踏み込む際、位相を蹴り砕き。その衝撃で加速する。

 敵は、待ってはくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーグランド評議員国に住む永久評議員ツァインドルクス=ヴァイシオン。

 種族:異形種(ドラゴン)

 異名:白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)

 最強の竜王と称される600年生きる世界の調律者。100年に一度来訪するぷれいやーを監視する事を第一の使命としている。

 八欲王の八武器の一つギルド武器を守護するためその場から動くことはないが、魂を消費する始原の魔法(ワイルドマジック)でlevel100相当の伽藍洞の鎧を遠隔操作して戦うことが出来る。

 無論、本体であるツアーは鎧より強い。

 最強の竜王ツアーは、私欲ではなく世界の秩序のために存在している。

 個体数が減少した竜王も、かつて世界各地に存在していた。

 最強種であるドラゴンに、世界に干渉する始原の魔法(ワイルドマジック)。この二つが彼らを最強にした。だが、スレイン法国『六大神』の五柱が異界法則を流出させると、世界と接続し干渉・事象を書き換えることも可能とする始原の魔法(ワイルドマジック)の効力は落ちた。

 この時は――――――否、今だにその原因と詳細を知る竜王は誰もいない。

 それでも、八欲王に世界を滅茶苦茶にされ、同族である竜王が大勢殺されたあの時――――――幼いツアーは誓った。

 

 

 ——————"同じ悲劇は繰り返させないと"

 

 

 故に、今回の100年の揺り戻しは八欲王に匹敵する脅威だった。

 世界を着々と確実に支配していくアインズ・ウール・ゴウン。

 八欲王の様に自滅に期待しても観測されたぷれいやーが一人では従属神(NPC)は裏切らない。

 手をこまねけばそれだけ追い詰められていくのだが、打つ手がない。最強の竜王と言われようが、組織として一つの意志で運営されるギルドに一人で太刀打ちは出来なかった。

 だからこそ、アインズ・ウール・ゴウン攻略に本格的動き出したスレイン法国と聖王国に便乗し、ファヴニル・ダインスレイフにある取引を持ち掛けた。

 彼の肉体は度重なる改造手術で大部分が特殊金属でフレームされている。

 それを利用し彼との同調、死後その魂のない伽藍洞の器を遠隔操作する契約を結んだ。

 結果――――――ダインスレイフは魔星として覚醒し、遠隔操作するはずだった伽藍洞の器は、強固な精神――――――気合と根性でツアーの魂に接続された。

 この時ダインスレイフは一時的とはいえ異界法則に王手をかけた。 

 超再生力、連続覚醒、能力強化――――――この世界で最も強固な魂と唯一世界に接続できる竜王。

 ダインスレイフは世界に接続する始原の魔法(ワイルドマジック)を利用したのだ。

 まさに世界からのバックアップと竜王の魂を力とした邪竜は、ナザリックの主力総力を前に一歩も引かづ圧倒し続けた。

 規格外たるルベドさえいなければ、この戦争は邪竜の手により終わっていた。

 邪竜戦記は本懐を遂げることなく終演を迎えた――――――はずだった。

 

 

『やめ………ッグガアアアア!!』

 

 

 始原の魔法(ワイルドマジック)の効果でダインスレイフの肉体に魂を接続したツアー。

 発動者は竜王たるツアーだとしても、それを利用したダインスレイフ。

 なら、ファブニル・ダインスレイフの肉体がルベドの手により完全消滅した時、肉体が器でしかないのなら、その魂は当然ツアーに帰っていく――――――邪竜を連れて。

 

 

『な……ぜ。こんな――――――ありえない――――――ダィンスレイフゥウウウウウウッッッ!!!!???』

 

 

 竜王の器に入り込んだ邪竜の魂。

 ツアーはダインスレイフを尊重し肉体の操作権と竜王の力の行使を承諾した。

 だが、ダインスレイフに共存、話し合いの概念などない。

 一つの器の主導権をかけて、本物の竜の肉体を握るために、ダインスレイフは本気で獲りにかかる。

 

 

『魂の格が違う――――――世界(ガイア)に近い竜王が、物理的な強さでなく、魂の力で負けるというのかッ!!??』

 

 

 人間の魂は脆弱だ。竜王の様に年を重ねるだけでlevel100にはならない。

 他者を殺し、その経験値()を蓄積し力に変える。

 魂の総量を比べれば、同じlevel100でも人間の方に部がある。

 だが、本体の格は遠く及ばない。

 どう逆立ちしようが、一人の人間の魂が竜王の魂に勝つなどありえないのだ。

 自前の魂が勝手に成長する生まれながらのlevel100。

 自らを磨き他者の命を獲得する生まれながらのlevel1。

 レベル差が絶対と言うのなら、level100の魂をlevel1の魂が苦しめていることが規格外。

 

 当然、才能がないゆえに本気の努力と目標のために手段を択ばない邪竜だからこそ――――――自殺に等しい無茶が出来る。

 

 

『ワ、私の魂と自分の魂を競わせ肉体の主導権を奪うのではなく……ごちゃ混ぜにして自分を溶け込ませるとか正気の沙汰じゃない!!完全に魂どうしが一つになったらどうなるか――――――()()()()()()!!』

 

 

 前提条件を間違っている。ダインスレイフの器で完全なる同一を果たし魔星として覚醒できたのは、人一人分の大きさに調整した器を操る魂を、ダインスレイフが強奪したからだ。

 質量が違う。たった人一人分の魂の質量で限界を越え覚醒した強欲竜。

 それっぽっちで、超越者や調律者を上回る力を手に入れた。なら、竜王の魂と邪竜の魂が本当の完全なる同一を果たせばどうなるか検討もつかない。

 

 

『馬鹿なのか君は!?"やはり本気は素晴らしい。どんな馬鹿げた不可能も可能へと変える魔法の力だ"?想い一つでどうにかなるほど世界は単純じゃないんだぞ!!』

 

 

 止まらない。止まれない。どんなに心り響く言葉だろうと一度実行したなら進み続ける。

 

 

『グ■ああ▪があハハアアアアGYUUUUUUUUUUUUUUUUUUU■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!????』

 

 

 反発するもの同士を無理矢理一つにすればどうなるか――――――壊れる。

 極晃星(スフィア)には至れない。

 想いも、心も、一つにはなれない。

 自我が壊れる。崩壊する。

 竜王も邪竜も反発する壊れた魂で自爆していく。

それでも。ああそうだからこそ――――――意識は動き出す。

最強の竜王を塗り潰す深い渇望。

生物として勝てない?

魂の質量が違う?

ならば、想いの強さで勝てばいい。

 

 強欲の邪竜は止まらない。何もかもを欲し、奪い、英雄に討たれるその時まで決して止まりはしない。

 ゆえに、『真なる邪竜王』は一つの意思の下ただそれだけの為に動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『“■■■ ■■■ ■■■■!(宝を寄こせ!)” “■■■ ■■■ ■■■■!(すべてを寄こせ!)”』

 

 

 この瞬間、アーグランド評議員国は地図から消えた。

 

 




聖戦はここにあり


この作品を書き始めたとき、邪竜と英雄は戦うことなく終わりました。ですので、この小説では最後はこの二人で終わらそうと頑張って書き続けてきました。
Vitaでプラスシナリオで戦ってたのでおい!!とか思いましたが、楽しかった……ラグナロク楽しみです。

黒白のアヴェスターが毎週の生き甲斐です。
完結するまで仕事頑張れるぞ!!
カイホスルーは噛ませと思わせてかっこいいし
アルマとかシリアスなんだけど……凄く興奮しました
エロゲでやりたかったよ……声ありとかならもうね

感想のほどお待ちしてます!


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聖戦 後編

 強大なる敵――――――真なる邪竜王ファブニル・ダインスレイフ。

 スレイン法国が予言した災厄を振り撒く破滅の竜王。

 その存在は奇跡と偶然の結晶。

 想い一つ、心一つで、六百年を生きる調律者竜王を精神力で上回る偉業。

 そして、勝利には代償が支払わなければならない。

 絶対的魂の質量を覆した矛盾。

 奇跡の対価は互いの消滅。

 残されたのは、撹拌された壊れた魂。

 壊れた邪竜に思考はない。自分で考える機能が消滅している。

 明確な目標もあるわけではない。

 ただ本能のまま破壊を振り撒く破滅の竜王に成り果ててなお、魂に染み付いた燃える意志が彼を突き動かす。

 

 

 不滅の炎——————"あいつだけは……""無敵の■■(ジークフリート)""振り向かせて見せる""殺す""俺だけを見ろ""殺す""出来ないことは何一つとしてない!!""喰らってやる""殺す"この手で必ず……""殺す""俺だけを見ろ""アイツなら俺のすべてを受け止めてくれる!!""殺す""お前なら必ず……""殺す""信じていたぜ!!""殺す""ころす""殺す殺す殺す""ころろろろろろろおろろろろろろろろおろろろろろろろろおおろおろおおおおお――――――"

 

 

 そう、全てを殺し尽くす。その先にアイツは居る。

 殺さなければならない。全てを――――――アイツを。

 その為だけに邪竜は存在している。

 漆黒の炎は、不滅の炎。

 怒りも憎悪も喜びも、あまねく感情全てを力に変えて――――――光をこの手で殺すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソレを突き動かすのは深い強欲。尽きることがない無限に湧き出る簒奪者の残虐性。

 ソレは壊れている。どうしようもなく破綻している。

 元は美しい白金(プラチナ)に輝き光の反射で七色に変色していた鱗は赤黒く、マグマの様に脈打つ血管が蒸気を上げ、噴水の血飛沫が霧となり世界を赤く塗りつぶす。

 世界(ガイア)から無制限に吸い上げるエネルギーが内部で暴走、爆発を続け、臨界点を超えたエネルギーを無秩序に外へ垂れ流す。

 器にとどまらないエネルギーを無意識に外に放出する。これだけで、超位魔法の火力を優に超えている。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■▪▪▪▪ッ!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 人語も竜語もかいさない言語不明の咆哮。

 大声で叫ぶ――――――五月蠅いだけのそれも真なる邪竜王となれば大気を振るわせ、音を切る音響兵器。

 歩いた大地を吸収し時間を追うごとに上昇し増していく浮島の質量。

 破滅の竜王は確かな方向性をもった悪として世界に君臨する。

 全ては倒すべき悪として認めてもらうために。悪として英雄(ジークフリート)に滅ぼされる邪竜(ファブニール)へ至るために。

 何より厄介なことに、この男は英雄に滅ぼされる邪竜として英雄に勝つ気でいるということ。

 大好きで最高に眩しい男の視線と想いを独り占めにする。

 掃いて捨てる小悪党(モブ)だった男が、世界に災厄と破壊を振り撒く悪としてその輝きを受け止める。

 

 

 ここまで来た。

 本気で突き進み努力して手段を選ばず愛しの英雄に対等と認めてもらうために肉体と魂にまで手を加えた。倒すべき悪として全身全霊で答えてもらうために―――――― 

 

 

『■■■■■■■▪▪▪■■■■■■■■▪ッ!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 よって、大陸が世界を圧し潰す。

 本能がなせる技か、ギルド武器を噛み砕き浮遊能力が失われた浮島が()()圏|()から落ちてくる。魔星の力か、燃えることもバラバラになることなく自由落下以上の加速で地表に向かっていく。

 高度200kmから直線で地表落下。激突まで十五分。

 悪意は容赦なく最悪の手を実行する。

 超質量の大陸が加速しながら落ちていく光景は、世界の終末を連想させる。

 純粋な質量だからこそ打つ手がない。

 相性も糞もない。一撃の火力で大陸を消し飛ばす純粋な力が必要とされている。

 無限大の出力を拡散可能なルベドなら容易に消し飛ばせた。

 物理法則全てに干渉するゼファーなら滅相した。

 時間移動を操作する鈴木悟なら浮島の時間を逆行させた。

 なら――――――ヴァルゼライド閣下が対処できないはずがない。

 悪に対するカウンターは決して優しくはない。

 だが、この場に英雄は存在しない。

 100キロの距離を十五分では詰められない。

 それでも、邪竜は壊れた魂の本能の下確信していた。

 

 

 "奴が――――――来る"

 

 

 刹那――――――世界が悲鳴を上げた。

 

 墜落する大陸に帯電するように拡がる光輝。

 引き裂きながら、あまりの熱量に内部崩壊をお越しながら極大の熱量が収束し、そして――――――

 大地を残らず焼き払う絶滅光(ガンマレイ)が解き放たれる。

 天文学的な熱量と衝撃が押し寄せる質量どころか、空間さえも巻き込んであらゆるものをぶち壊した。

 飛散する岩石。世界を破壊する質量は失われ、減速した隕石に付属された絶滅光(ガンマレイ)が、邪竜以外の一切に影響を与えず大地に降り注ぐ。

 どうやって来た?——————関係ない。

 その力は?——————関係ない。

 いつ、どこで、なにを――――――関係ない。

 全て関係ない。今ある事実はたった一つ――――――そこに、英雄(ヴァルゼライド)がいる。

 

 

()()()()()()――――――()()!!!!』

 

 

 光の流星群に総体を消し飛ばされようが嗤う。喜びの咆哮が世界を震撼させる。

 殺す。絶対に殺す。

 消し飛ばされた端から肉が盛り上がり再生。

 痛みに怯む思考も概念もない。

 全てをぶつけて殺す。邪竜はその為に存在しているのだから。

 

 

「………………」

 

 

 クリスは真っ直ぐ悪に向け落下する。風を切り重力に身を任せる。

 クリスがこの場にいるのは奇跡でも偶然でもなく、守るべき一人の少女の願いと協力があってこそ。

 人は一人では生きていけない。

 ティアがそうであるように、今回も助けがなければクリスは間に合わなかった。

 

 

「俺は、助けられてばかりだ」

 

 

 "あいつが暮らすこの世界を守ってやって"

 

 遠隔瞬間移動(アポーツ)でクリスをここまで瞬間移動させたアマツ少女の願い。

 最高機密ヴェンデッタと並ぶ希少能力の持ち主は、本来ならヴェンデッタ同様本国でティア王妃と共に厳重に護られる護衛対象。

 なのだが。

 

 

「是非もない。誰もが、守られるだけでは駄目だと立ち上がる。男も女も等しく立ち向かえる。……国の未来は安泰だな」

 

 

 誰もが守りたいものの為に勇気を出して突き進む。

 ならばこそ、ヴァルゼライドは悪を滅ぼす悪ならば――――――

 

 

「とく死ね。破滅の竜王よ。お前は生きてても害にしかならない。俺を殺すために後先考えない破滅など――――――俺が言うのもなんだが、何処か一人で遠くでやっていろ。はた迷惑だ」

 

 

 邪竜に影が射す。絶滅光(ガンマレイ)が付属された邪竜の巨体を上回る大質量の隕石が、山と森を衝撃で巻き込み邪竜を消し飛ばした。

 

 

「――――――巨体の癖に素早いな。理性のない天災の類いと考えていたが、強欲竜の本質はそう簡単には変わらんか」

 

 

 肉体の3分の2を犠牲に回避した蠢く肉塊。

 死ななければいいと再生力を考慮した本能。

 視界を奪われたのか、無差別に破壊の力を放出する。

 このまま全快すれば邪竜は世界(ガイア)の力で世界を破壊する。

 

 

「させんよダインスレイフ。貴様に何かをさせるいとまなど与えん」

 

 

 次瞬、轟き荒ぶ咆哮。

 音速を突破して尚、加速の一途を続ける疾走。

 動きを阻む邪魔な風圧を裏拳で砕き、強引に自然現象を跪かせる。

 片眼を修復した強欲竜に、天霆(ケラウノス)は悠然と光の刃を抜き放った。

 煌めく流星痕の光景を生み出しながら、地上に刻まれる陥没痕(クレーター)

 着地と同時に飛び散った破片に付属された絶滅光(ガンマレイ)が、ランダムの散弾となり見事心臓を穿った。

 遅れて首の断面がずり落ちる。

 初見必殺(サーチ&デストロイ)。核を完全に破壊した邪竜の首が地に転がり―—————嗤った。

 

 

「——————ッ!!」

 

 

 大哄笑する首のない邪悪の竜が、大地を引き裂き天高らかに飛び立った。全身から血飛沫を振りまいて、喜悦に歪んだ滅びの叫びをダインスレイフは謳い上げる。

 その咆哮を浴びただけでありとあらゆる無機物が爪に、鱗に、牙へと変貌した。

 放たれる億を超える剣鱗弾雨と、千メートルを超える巨大な竜爪。

 天の崩落に等しい暴力の具現を前に、逃れる場所などありはしない。

 回避できたところで、そこの物質がある限り世界を味方に付けた強欲竜の射程内。

 ゆえに―—————

 

 

「斬り伏せる!」

 

 

 真っ向から滅ばすのみ。

 剣鱗弾雨全てを斬り捨て、肉塊のまま空を飛ぶ邪竜に向け竜爪を駆け上った。 

 行く手を阻む障害全てを斬り、殴り、足の裏事貫く剣鱗も踏み砕く。

 並みの攻撃では手足の挙動だけで粉砕する化け物。

 森羅万象を破壊する英雄に、規模の大きいだけの物理攻撃では意味がない。

 因果律崩壊能力を掻い潜り、放射光極限収束を突破する出力が必要。

 

 

『■■■■■■■▪▪▪▪ッ!!!!!!!!!!!』

 

 

 細胞全てが英雄を殺す機能として動き出す。

 相手の動きを認識はしても理解はしない腐った脳が、理解しないまま最善手を叩きつける。

 再生途中肉体が蒸発する熱量を内包した始原の魔法。

 始原の魔法『滅魂の吐息』。聖者殺しの槍(ロンギヌス)と同等の効果を持つ、触れたものを抵抗の余地なく一瞬で消滅させる最強最悪の黒いレーザー。

 元は竜王キュアイーリム=ロスマルヴァーのオリジナル始原の魔法。

 だが、ツアーもダインスレイフもそんな魔法は知らない。

 ただこの場で、最も高い殺傷能力を求め、英雄と同じ一撃必殺を追求した結果に過ぎない。

 そう、邪悪な竜は英雄を殺すために始原の魔法を本能で開発し、改良を実行し続ける。

 エネルギーである魂は無尽蔵。

 意思が動き続ける限り歴代最強の竜王は止まらない。

 集束、集束、集束——————臨界点突破。

 

 ——————放射。

 

 

()()()()()()!!!!!!』

 

 

 言語不能の呪詛の雄叫び。

 最強最悪の黒いレーザー。破壊の熱量は地表を溶かし、森を薙ぎ払った。

 剣鱗と千メートルを超える巨大な竜爪が行動を制限する周到性は理性が無いとは思えない。

 

 

「……毎度毎度、無駄に規模が大きければ俺に当たると思っているのか?」

 

 

 当たってやる気は一切ない。皮一枚の被弾が魂を消し飛ばす黒いレーザー。

 

 

「逃げ場がない。裏を返せば近道を敵に提供しているようなものだ」

 

 

 最強最悪の始原の魔法に一切の躊躇なく前へ踏み出し―—————漆黒の闇が光を飲み込んだ。

 これで終わり。無謀に挑んだ蛮勇は一切の抵抗を許さず消滅した。

 

 放出した出力が上昇する。地殻を掘削し、惑星を貫通しても——————上昇する。

 余りある高出力が星となり消えても無尽蔵のエネルギーは止まらない。

 当たれば殺せる攻撃程度で何故死んだと確信する?

 当たれば死ぬ程度古今東西の英雄譚で英雄に踏破されている。

 昔から証明されている物語ならば、ヴァルゼライドが実現できないはずがない。 

 対英雄用戦闘機械として第六感が警告する。

 英雄は直進して来ている!!

 ガラスが砕け散る音が響く。何度も何度も何度も、音は近づいてくる。

 

 

『■■■■!!!』

 

 

 確信していた。信頼していた。魂を消滅させるレーザーを内側から斬り進む英雄。

 超高速で放たれる光刃の嵐、破滅の竜王が射程内に入った。

 さあ、刮目せよ——————悪竜退治に挑もう。

 解除したレーザーを激しく発光させ視界を潰し、破壊力を増すために付加した高エネルギーの竜の爪、尻尾の連撃が迸る。

 無尽蔵のエネルギー補給による無限大出力攻撃強化を促す始原の魔法。

 人間の肉体では再現不可能な竜の殺戮舞踏。

 激突する光の剣と竜の爪。

 力に技に経験、執念。あらゆるものを総合した戦闘力をぶつけ合い、破壊者たちは火花を散らす。殺意と殺意を応酬していた。

 そして、上空から狩り薙ぐような巨腕を十文字に切断した。

 正しく慣れているかのように。大質量の巨体を苦も無くねじ伏せ、超高速で疾駆する。

 

 

「貴様より誇り高い敵を知っている……見切っているのだ、その手の技は」

 

 

 卓越した剣術も腕はあくまで二本きり、その明確な弱点を圧倒的な物量差により突かれたことなど何度もあった。

 そしてその度に真っ向から切り抜けてきたのが英雄(ヴァルゼライド)だ。積み重ねてきた戦闘経験の密度が違う、質が違う。

 例えダインスレイフが、彼に匹敵する数の鉄火場を潜り抜けていたとしても……

 

 

「俺が今まで、何人の超越者と殺し合ってきたと思う」

 

 

 ナザリックとの死闘を演じた経験値だけは、どう足掻いても敵わない。

 格下単騎で全滅させるべく駆け抜けた男の研鑽は、裏技で超越者を超越したダインスレイフでは劣ってしまう。

 

 

『■■■▪▪▪▪■■■■■■■▪ッッ!!!!!!!!!!』

 

 

 だから、理性無き獣には嬉しくてたまらない。

 破滅の光で刻まれながら、宇宙の真理を愛するように歓喜が絶頂へ導く。

 本気で生きろと教えてくれたあの日の思い出を忘却されても、お前が無敵の勇者で、世界の誇る至宝(たから)だとこの瞬間教えてくれる。

 憧れの英雄から放射される憎悪と、殺意と、敵意の波濤。

 それらを堪能しつつ、強欲まみれの突撃を何度も繰り返す。

 その度に邪竜へ刻まれていく数多くの裂傷。刀身が血肉を抉り、滾る命を削ぎ落す。煌めく放射光(ガンマレイ)は遺伝子さえ焼き焦がし、敵の全てが灰も残さず消え去るまで闇を裁くと轟いた。

 それに応じてダインスレイフは出力を上昇させる。

 放射光(ガンマレイ)の裂傷を刻まれた傍から再生させる。

 無限のエネルギーを器以上に供給し、いつも通り壁を一つ精神力で超えて見せる。

 終わりの見えない戦いは延々と続いている。

 ヴァルゼライドは格上の能力値(ステータス)を誇る相手との殺し合いに長けている。

 最終決戦は連戦に次ぐ連戦を経験し、どれ一つとして容易だったものはなく、だからこそ糧とするには極上だ。全てを背負って歩み彼がそれを無駄にするはずがない。

 

 

「死なないとは厄介だな。優れた体躯と種族。一撃一撃が必殺でありながら手札の多さは驚嘆に値する。——————だからこそッ!!」

 

 

 突き刺した刀身が頭蓋骨を蒸発させ、脳などの重要器官を消滅させるもコンマ数秒の停滞もなく新たに編み出した始原の魔法を行使する。

 全方位(360度)に無数発生する拳サイズの小型戦術核に匹敵する爆発の乱れ撃ち。

 被弾覚悟に爆発前の僅かに空いた隙間を縫い、振り抜かれる極光斬撃(ケラウノス)

 自身に向かい突き進む英雄へ、ダインスレイフが自分事巻き込み展開するのは、超強力な電磁波の嵐獄。生命活動を根絶する域にまで達したマイクロ波加熱により、その現象に囚われたヴァルゼライドの肉体は瞬間沸騰させられた。

 外敵を水風船のように破裂させる急激な熱量の強制増加は、本来あらゆるものを滅ぼす攻性防御領域だったが、ああ、しかし——————彼の前進の意思を妨げんとするあらゆる事象を、極光の刃は断ち切ってみせた。

 光の魔人は止まらない。彼にとって肉体が蒸発寸前に達するなどいつものことに過ぎないのだから。

 

 

「ダインスレイフ……否、貴様はもはや邪竜ですらない。確かに、貴様は最も優れた個体だろう。——————だが、戦闘者としては三流以下に成り下がった」

 

 

 信じられない観察眼で直撃する剣鱗、魔法を見抜き、無駄なくそれらを断ち切りながら前へ前へ突き進む。

 天霆は止まらない。

 対英雄用戦闘機械として、英雄と出会い目覚めた男は絶対の力と引き換えに、数多の死線も修羅場も、蓄積された経験値を理性と一緒に消失した。

 存在するのは『意志』のみ。 

 英雄を殺す凝縮された殺意。

 

 ——————"自らこそ英雄に討たれた邪竜であり、同時にいずれ英雄を滅ぼす魔剣である"

 

 どれだけ力強く、出鱈目な力を行使しようと、直線的な殺意と敵意が分かりやすく教えてくれる。理性無き技は、人間時より強く、早く、制圧力に長けていようとも……それだけだ。

 だが、しかし——————だから?

 

 

『■啞■ッ!!!オ■■!!!(ヴァ)()()()()()()()ッ!!!!!』

 

 

 関係ないしどうでもいい。

 だって今、求めた夢が叶っているのだ。

 奇跡は此処に、此処に在る!

 願い願い願い願い、狂おしいほど求めて挑み、追い続けて掴み取った一瞬がこれなのだと魂が理解している。ならばそれで十分だろう。

 

 

『——————■こ■……今——————こそ——————』

 

 

 やるべきことは、ただ一つ。

 その背に魔剣を突き立てよう。俺の手で英雄譚(おまえ)のすべてを奪うんだ!!

 

 鳴動する大気。咆哮に竦んだ大地が液体の如く波打ち流動し始めた。

 全方位から響き渡るは、超大型爬虫類が鱗や牙を軋らせたような擦過音。

 ありとあらゆる無機物が英雄殺しの滅亡剣(ファブニル・ダインスレイフ)を我らが王と仰いでいる。

 

 

『■■啞▪ァ■阿啞■■吾■■▪嗚呼アアアアアアア■■■アアアアア!!!!!!!!!』

 

 

 瞬間、具現したのは惑星の表面を覆う、十数枚の厚さ100kmほどの岩盤プレートのアギト。

 ヴァルゼライドを中心に生み出された巨大な竜が、彼の蹴るべき大地ごと回避不可能の奈落へ反転した。

 

 

『■■■■——————龍の咆哮(ドラゴンブレス)ッ!!!!!!』

 

 

 人一人殺すために起こされた破局噴火(スーパーボルケーノ)

 内核から排出された星の命は、氷の惑星へ誘い。地震はマグニチュード10を超え測量不能。惑星規模の環境変化や大量絶滅の原因となる引き金を一切の躊躇なく、攻撃の逃げ場を無くすためだけに実行された。 

 噴出孔ど真ん中に放り出されたヴァルゼライドを蹂躙する大量の噴出物は成層圏、外気圏を越え宇宙空間まで達する爆発力と衝撃波。6,000℃の熱量と溶岩。火砕流と有害ガスが噴出し放射状360度の方向に流走し広大な面積を覆う。

 人間種国家は勿論、亜人種国家を含む全生命が死滅。

 ダインスレイフは出し惜しみをしない。ポテンシャルをフル活用は当然、すべてが本気。

 誰がどう考えても明らかにオーバーキルを行いながら、しかし決して、絶対に、何があっても邪竜はその手を緩めるつもりは毛頭ない。

 そんな無礼は考えつかない。そんな愚行は犯さない。

 

 そう——————英雄に、限界なんてないのだから。

 

 だからこそ。

 

 

「——————まだだ!!」

 

 

 気合と根性さえあれば概念さえ粉砕する。

 闘志の炎が消えない限り、因果さえ木端微塵にぶっ壊される。

 界がズレる。位相がズレる。次元そのものの盾を形成。しかもそれを蹴り飛ばし、強引に周囲を破壊しながら押し通った。

 抉られた世界の断片はまさしく不壊の防御壁。瓦礫のように吹き飛びながら進行方向を一方的に押し潰し、進撃する道を作る。

 

 

「——————ッ!!」

 

 

 既存世界を破壊する踏み込み。大きな推進力を得て破滅の竜王の四肢を斬り飛ばした。

 

 

『オ▪呉ァ■呉■■▪御■■■ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア——————瞬塵旋風気圧操作(ダストデビル・プレスコントロール)ッッッ!!!!』

 

 

 進撃の英雄が強制的に停止される。全方位から押し潰す360万気圧。6,000℃の高温にもかかわらず内核を固体にする星の最高気圧が、生物の生存を許さない。

 光剣が激しい煌めきを見せた瞬間、気圧が消し飛んだ。

 

 

「その手の技も、見切っている。魔王は更に凶悪だったぞ」

 

 

 宇宙最強の暗黒天体を破壊する光極。

 生物を絶滅させる龍の咆哮も、気圧も、ビームも、突き詰めればこの世の内側で巻き起こる現象だ。

 摂里(ルール)という土台から破壊する反則行為を前にしては、硝子のように砕け散るのみ。

 よって、摂里(ルール)の外側から観察に徹していた英雄の相棒はついに不死身の竜王の世界との繋がりを感知する。

 

 

『——————見つけたわ。クリスが全身切り刻んでくれたおかげで、流れが理解できた』

 

「どこを斬ればいい?」

 

『木端微塵に消滅』

 

了解(ポジティブ)——————いくぞ、ティア!!」

 

 

 ティアがクリスを引っ張り上げる。呼びかけに応じて絶滅光(ガンマレイ)の密度が世界さえ超越した。斬撃拳撃蹴撃どころか、今や視線と言葉にさえ空間破壊の圧が宿った。

 究極の対天体、対空間、対秩序、対万象兵器——————放たれた一閃は過去最大の殲滅光として具現した。

 崩落する界の断層ごと閃奏は消し飛ばして進むそれは、既に刃などではなく迫る壁に他ならない。

 視線一面を埋め尽くす極大の斬閃に、あらゆる始原の魔法は意味をなさない。

 何とかすべしと気概を吼えても、心も体もバラバラなツアーとダインスレイフは、真に心身一体の二人に届かない。

 

 

『■ア——————』

 

 

 その姿があまりに、そうあまりに眩しかったから。

 愚かな男は目を覚ました。

 理性無き獣の眼に僅かな光を宿し。

 

 

『■■■アア……すげえなぁ、本当に』

 

 

 空間ごと切断されると同時、ダインスレイフは子供のような笑みを零した。

 完全に凌駕された事実以上に胸を埋めるのは喜び。この男がずっと変わらず無敵の英雄でいてくれたことに、溢れる感謝が止まらない。

 会えてよかったと心底思う。

 さあ、来てくれと感涙しながら、破滅の光輝が邪悪な魔性を木端微塵に消滅する。

 疾走する勢いがまま、振りかぶる切っ先へ運命を乗せ——————刹那の煌めき、空を断つ。

 神速の剣閃が魂を断ち切った。

 

 聖戦はこれにて終幕。

 長きに渡る死闘はようやく、一つの勝利を描き出して終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 






破局噴火の被害はコールレイン少佐が無力化しました。
「さすがコールレイン少佐、アストレアの右腕は伊達じゃないぜ。ヒューッ!」

次回エピローグ。戦闘シーン書くの好きだけど時間がかかるのが難点。それ以外ならスラスラと。多分次回は早いよ(二月中

そして祝え!今日が俺の誕生日だ!!(関係ない


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エピローグ

 聖戦——————あらゆる神話を過去にする、光と光の大戦争。

 世界征服を目論んだ魔王は星となり。

 世界を震撼させた破滅の竜王は光の英雄に討伐された。

 この戦争で最も壊滅的被害を被ったエ・ランテル。アインズ・ウール・ゴウン魔導国すべての種族が平等に暮らす魔王『鈴木悟』の理想郷はアインズ・ウール・ゴウン敗北と同時に瓦解した。

 治安維持の為に配置されていたデスナイトが魔王『鈴木悟』の敗北と当時に消失。元々相容れぬ異業種と人間種。絶対支配者という恐怖が居なくなれば、そこは餌場。血と混沌となる——————はずだった。

 黄道十二星座部隊(ゾディアック)が一つ猟追地蠍(スコルピオ)の隊長を務める女傑。ヴァネッサ・ヴィクトリアがエ・ランテルを制圧。

 真祖の吸血鬼シャルティア・ブラッドボーン戦の負傷と疲労で消耗しきった錬金術士(アルケミスト)ルシード・グランセニックと露蜂房(ハイヴ)イヴ・アガペーの協力もあるが、都市に住む異業種たちは暴れなかった。むしろ一緒に過ごした人間たちが武器を向ける兵隊の前へ身をさらけ出し庇ってさえいた。

 観測史上最大の地震で全壊した石造りの建造物から人を守ったのが異業種だったこともあり、ヴァネッサ隊長は剣を鞘へ納めた。

 

 英雄ヴァルゼライドが不可能と断じた人と異業種との共存は、確かな形で存在していた。

 魔王『鈴木悟』の理想郷は、恐怖の楔が無くなろうと絆で生き続けることが証明された。

 人間と異形種との関係は此処から変わっていく。

 あの鏖殺の英雄も、経過観察として直接手出しはしないだろう。

 今まで殺すべき敵としか見てこなかった異業種とも手を取り合える貴重なテストケースとしてこの都市は、デスナイト代わりの治安兵士と監視員が配属される流れとなった。

 だが、アルバートもギルベルトも世界広しとはいえ餌である人間と共存しているのはエ・ランテルくらいのものだと評価を下す。

 アインズ・ウール・ゴウンという絶対支配者の恐怖を共有し、尚且つあの化け物を倒した英雄が都市を管理するのだ。化け物(オーバーロード)以上の化け物(英雄)相手に、叛意しようなどと一度知ってしまった恐怖(トラウマ)から歯向かう選択肢が取れないだけだと考察する。

 なにより、普通に生活すれば人間を食べれなくなること以外は、命の保証がされ、食べるのに困ることがないのだからむしろこのままで良いのでは?と安寧を望む者たちが多いのも共存への拍車がかかる。

 それでも、特殊なケースが無ければ共存するのは此処くらいなものだろう。

 

 

 そして、特殊ケースの極みである竜の子を身籠った少女と機械人形は、カルネ村でお世話になっていた。

 

 

「……おっす。今日もツアレ元気?少しでも優れないと思ったら直ぐ言うんだぞ。妊婦さんは元気でハッピーじゃないとお腹の子にも影響がでる」

 

「はっぴー……?良くわからないけど私はすこぶる元気だよ!今からゴブリンさんたちに混ざって町の修復作業したいくらいだよ。……自重するけど」

 

「……とか言って、昨日ネムちゃんと鬼ごっこしてたのだーれだ?」

 

「………………てへ♪」

 

「……この野郎」

 

「イ、いふぁいでふシズさん~!」

 

 

 ツアレは生まれてくる赤ん坊と共に、この平和の村で一生を終えるだろう。

 最後の戦闘メイドプレアデスの矜持として、シズもまた故障する何百年先までツアレの子たちを見守るつもりだ。ツアレはそんなことしなくていいと言ってくれるが、家を失った世間知らずの末っ子としては他にやる事がないのだ。

 窓ガラスから照らす朝日にポカポカのほほんしながら、今日の予定をスケジュールしていると、ノックもなしに無礼なメカクレが大慌てで部屋に入ってくる。

 

 

「シ、シズさん!ツアレさん!大変です!二人の言う通り異国の兵士がやって来ました!?どどどどどどどうすれば!??」

 

「落ち着いてンフィー。どうするか事前に決めていたでしょ?それと、女性の部屋に無断で入るのは妻として、女として許しません!」

 

「エンリも落ち着こうよ!?僕じゃ拳骨一つで死んじゃうよ!」

 

 

 せっかくの朝を台無しにするギャアギャア騒ぐ夫婦——————痴話げんかは他所でやれ。

 

 

「——————ゴッホン!はい落ち着いてください。予定通り、私とエンリさんで交渉にあたらせて戴きます。エンリさんは聞かれたことは正直に答えて、それ以外は私の隣で微笑んでいてください。アインズ・ウール・ゴウンの傘下だったこの村、ひいてはゴブリンさんたちには狭苦しい思いを強いると思います。ですが……誰一人死なせはしません」

 

 

 決意と誓いを立て、とことん皆で生き残る覚悟を改めて自分に言い聞かせるツアレ。

 

 

「……ツアレ大丈夫?無理してない?」

 

「大丈夫です。助けて欲しい時は頼らせてもらいますね。私の体はもう自分一人の命ではないですから」

 

「ン……分かってるなら良し。なら私もついてく」

 

「それこそ駄目ですよ!顔ばれしてるんですから隠れててください!」

 

「それこそ駄目。あいつら相手に隠れ続けるの無理。最初の段階で無害アピールする必要性ある。それに機能してるか怪しいけど、宝物殿を交渉材料にすれば何とかなるはず」

 

「そんな親指立ててドヤ顔決めても……ん~その方がいいのかしら?エンリさんはどう思いますか?」

 

「え!わたし!?そうね……ねぇ、アインズ様は倒されちゃったんだよね?」

 

「はい」

 

「すごくて強い神様だったアインズ様を倒した人たちが私たちの村に来てるんだよね?」

 

「はい」

 

「わたし……ね。いつかアインズ様に恩返ししたいって考えてたの。妹を助けて頂いて、この村がこんなにも発展したのは全部アインズ様の助けがあったから。ネムと神殿にご招待された時も嫌な顔せずネムの手を引いて案内してくれて……料理もすごかったけど緊張で味は覚えてないかな。……ねぇツアレさん。この感情(怒り)は間違いですか?」

 

「はい。ソレ(怒り)は正当な感情です。エンリさんが納得できないなら、掛け声一つでゴブリン軍団は牙を剥く。そして、そうなれば私とシズちゃんは逃げて身を潜めるしかない」

 

 

 魔導王アインズ・ウール・ゴウンを誰がどう悪評しようと、カルネ村にとっては救世主。

 今にも殺されそうで、知識も力もない村人にとって、いつ駆けつけて来るかも分からない英雄よりも、魔王や悪魔に靡くのは間違いだろうか?

 否、カルネ村はアインズに救われ発展し、その恩恵を一番に受けていた。

 ならば、村人全員がアインズ・ウール・ゴウンと共に逝くと結論付けなら邪魔するのは無粋だろう。

 その怒りと復讐は正当な感情なのだから。

 だからだろうか。

 

 

「………………よし、完全降伏しましょう。もうなるようになれよ!」

 

「エンリがそう決めたなら僕も従うさ」

 

「……強いんですね」

 

 

 村長として、皆の命を守るために自分の感情に蓋をして偽りの笑顔を張り付ける彼女。

 大勢の命を預かる者としての使命がそこにはあった。

 

 

「ツアレさんの方が強いですよ」

 

「え……」

 

「ツアレさんは目の前で大切な家族を殺され、愛する人を助けるために敵に立ち向かった。それは……私には出来なかった事ですから」

 

 

 家族は殺され、妹を護る事も立ち向かう事も出来ず死ぬはずだった。

 そして今は、お腹の子のために頑張って生きようとしている。

 この人は流されて村長になった私と違って、一人で生き抜く力強さがある。 

 私は一人じゃ何もできない。決断することも出来ない。

 だから、そんな凄い人が私たちカルネ村を助けようとしているのに裏切ることは出来ない。

 

 控えめなノック音が扉を叩いた。

 

 

「エンリの姉御、もう時間稼ぎは限界です。代表者を出せととっつかれてます」

 

「うん今行くわ。ツアレさんもシズさんも行きましょう」

 

「ええここが正念場よ」

 

「……がんばるゾイ」

 

 

 ツアレとシズは作業服件礼服件勝負服である人類史上最高の発明メイド服を完璧に着こなし髪型とメイド服の細部まで互いにチェックし合う。

 準備が完了し二人は歩き出す。

 メイドにとってメイド服は命。このルーティンこそがスイッチの切り替えになる。

 

 

「……ふー……はー……」

 

 

 エンリもまた瞼を閉じ複雑な心境を深い深呼吸で一つにまとめ外へ吐き出した。

 

 

「ルプスレギナさん……私に勇気を」

 

 

 明るく笑顔の眩しい優しい人。猫の様に気紛れで、しっちゃかめっちゃか場をかき乱しては、静かにカルネ村を守っていてくださる憧れの人。

 普段はそんな雰囲気一つも醸し出さないくせに、いざとなれば頼れる人。

 ルプスレギナさんの様に強く美しくなりたい。

 だからエンリ・エモットは頑張る。

 憧れの彼女に負けない様に、アインズ様に恥じない様に。

 

 

「僕たちも行こうかエンリ」

 

 

 少年もまた、好きな女性の為に頑張れる。

 

 

「うん!」

 

 

 四人は歩き出した。

 カルネ村の中央で少年少女を待ち受ける一人の女傑。

 レンズの向こうから覗く眼光がツアレを真っ直ぐ貫く。

 

 

「私はアオイ・漣・アマツ。聖王国クリストファー・ヴァルゼライド閣下より代行権を与えられた者である。貴殿がツアレで相違ないか?」

 

「——————はい」

 

 

 ツアレは警戒する。この女性はツアレが大嫌いな英雄に近しい存在。醸し出す雰囲気やオーラが鋼の英雄を彷彿させる。

 それもそのはず、彼女こそクリストファー・ヴァルゼライドの副官を務める若き才媛。

 象徴たる黄道十二星座部隊(ゾディアック)が一つ、第一近衛部隊・近衛白羊(アリエス)の代行権を与えられた人間でもある。

 規律に殉じる鉄の女で、誰より強く総統閣下を崇めている。(※要するに拗らせ処女である。アマツのくせに恋愛力を全部忠義に全振りして自分の感情()に気付かないふりをしている鈍感女である。最近はチトセに指摘され意識し始めている初心で可愛い方の眼鏡である。断じて糞眼鏡ではない)

 

 

「貴殿に総統閣下よりお言葉を授かっている。聞くも聞かぬも自由だ。そこの機械メイドから後ほど詳細を聞くでもいい。どちらでも我々のやる事は変わらない。これはあの御方なりの配慮と知れ」

 

 

 大切な人を殺した憎むべき敵の言葉を部下を通じて伝えられたらムカつく。身内に後から伝えられた方が精神的ダメージは少なくなる。これは英雄なりの唯の少女への配慮。そして――――――

 

 

「大丈夫、大丈夫です。教えて下さい。あの人がこんな小娘相手に、貴女ほどの優秀な部下を使ってまで伝えたい伝言とやらを」

 

「ああ、貴殿ならそう言うだろうと閣下は仰られていた。だが、確認をさせてもらったぞ。あの御方に認められながら腑抜けていては私の、ひいては閣下の沽券に関わる。――――――そう嫌そうな顔をするな。私も貴殿を認めよう。……総統閣下のお言葉をそのまま伝える。『俺の覇道を阻まぬ限り干渉はしないと保証する。右目の借りは返した』以上だ。閣下のお言葉にしたがい、カルネ村は聖王国の領土となり、新たな領主を迎えることになるが、亜人、異業種との共存をお認めになるそうだ。何れはカルネ村を拠点にトブの大森林を管理下におく計画も検討されている。その時は厚い支援を保証しよう。でだ、新たな領主が到着する3日までにエンリ村長には指揮官として基礎くらい教えてやろう。喜べ、私がリ・エスティーゼ王国を攻略できるレベルまで鍛えてやる」

 

「ええええええ!!?新しい領主様がおいでになるんですよね!?」

 

「馬鹿者。貴様は指揮官だ。あのままではゴブリン軍団も烏合の衆とかわりない。それと、今後の予定についても話し合おう。時間も惜しい、来い」

 

「いやああああああああああああああ!!?」

 

 

 泣き叫び引きずられるエンリ。一切気にせず歩くペースを緩めないアオイ。

ツアレ、シズ、ンフィーは苦笑いを溢しながら悪い人じゃないと判断した。こうして、短いようで長い付き合いになる五人の交流が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖戦——————あらゆる神話を過去にする、光と光の大戦争。

 惑星の命を絞りつくす破滅の竜王が巻き起こした人類終焉の破局噴火。

 『英雄』クリストファー・ヴァルゼライドが戦う時点で、絶対ろくな結果にはならないと確信している『戦乙女(アストレア)』チトセ・朧・アマツは、気持ちよく寝ている『冥王星(ハデス)』ゼファー・コールレインを蹴り起こしてさっさと遠目から監視しろとこき使った。

 鋼の英雄の戦いに巻き込まれたくないゼファー。英雄と竜王の世界を破壊し合う規格外で馬鹿げた戦闘を見てしまえば対応せねばならない。

 大切な家族と仲間がこんなふざけた被害を顧みない光と光の覚醒合戦で失ってたまるかと、二人を囲う様に反粒子を展開する。

 ゼファーもまた、スフィアに到達した歩く特異点。

 もしも、ゼファーが世界を破壊しようと画策すれば一歩も動くことなく無限に湧き出る否定と拒絶の反粒子が世界を滅奏する。

 そして、予想通り被害度外視の破局噴火の破壊エネルギーと放出され拡散する筈だった放射物を根こそぎ否定する。

 太陽フレアすら消滅させる反粒子が、高々生物を死滅させる規模の攻撃を無力化できない道理はない。が、地震被害を止めることは間に合わなかった。

 英雄譚は想定通り英雄の勝利で聖戦は終演。

 聖王国に帰還したゼファーは傷の治療を完治——————もとい精神的苦痛と仕事の難易度を理由に、地震で殆どの建物が崩壊したこの糞忙しい時期に家族とともに休日を満喫していた。

 

 

「んなわけねーだろ、重症だよ俺!?休ませろやコラァ!!何しに来たんだよお前本当に!?隊長のお前まで休んでどーすんだよ!!ほんと帰れよォ!?プライベートまで干渉しないでよォ!?」

 

「あーん。ほら、あーんだ私の人狼(リュカオン)。お前の姉にはまだ敵わないだろうが、味付けはお前好みに仕立てたつもりだ。よければこれからの参考に良し悪しを教えてくれないか?」

 

「メンヘラキメてんじゃねェよ!?マジ怖い……病む?病んでる?俺、最後は刺されちゃうの?角煮押し付けんな!!てか何で角煮?鍋ごととか頭大丈夫?よし、今から診察してもらえ、お前ならシズルも二つ返事で検査してくれるぞ」

 

「無粋だぞゼファー。この私の目の前で他の女の名前を叫ぶとは……いい度胸だ。ほら、おっぱい好きだろ?好きにしていいんだ。他の女など忘れさせてやる」

 

「ゴクリッ……マジすか……ハ!?手が勝手に前に…………これがおっぱい引力ッ逆らえない!」

 

「ほ~ら、あと少しで揉みしだけるぞ。ほらほら頑張れ。さすれば極上の快楽を刻み込んでやろう」

 

 

 暗黒天体(ブラックホール)を超える超超超引力になすすべなく、逆襲劇すら無力化された冥王星(ハデス)。世界を消滅させる反粒子は意味を無くし、その右手はおっぱいへ伸びていた。

 

 

「そこまでです!それ以上はいけないと思います!」

 

 

 男の理性を融解させる超超超引力おっぱいを、あと第一関節を少し動かせば触れる距離まで接近していたにもかかわらず、物理的に遠ざけられた。

 

 

「た、助かったミリィ。……あと少し、ほんの少し遅かったら、俺は上官のおっぱいを揉みしだいた変態としてチトセの性奴隷へなるとこだった」

 

「そう残念そうな声で哭くな。今日のところはミリィ嬢の邪魔が入ったがチャンスはまだまだある。ああそうだとも、私がお前を惚れさせてやる。逃がしはしないさ」

 

「うぅ……どうしよう。強力なライバル出現だよう。兄さんがとられちゃう……」

 

「来たばかりで話は聞いてないしよく分からないけど、ここはゼファーの姉である私の出番ね」

 

「余計に話をややこしくすんなよねーちゃん!!??」

 

『あら、性行為を実の娘と(ママ)に見せびらかして興奮する変態さんと思っていたのだけど……違うのかしら?』

 

「ちげーよ!?業が深いんだよ!!あと、この話題はほんとややこしいからヤメテ」

 

 

 ただでさえ姉に対してちょっと気まずい心情のゼファー。

 ※改めてゼファー・コールレイン家族間の複雑の事情説明。

 一つ、実の姉であるマイナ・コールレインは実の弟であるゼファーを子供のころ逆レイプしている。

 一つ、妊娠しちゃったマイナは姿を消し、再会した時にヴェンデッタを連れてまた一緒に暮らしだした。

 一つ、実はヴェンデッタはマイナとゼファーの子供。

 一つ、何やかんやあって、血の繋がりのない妹のような存在であるミリィ。怖くも美しいチトセ。実の姉。実の姉との娘からアプローチをかけられている。

 あ^~インモラル。

 

 冗談はここまでで、ミレイとチトセは色恋だが血の繋がった二人の関係は家族愛。

 姉であるマイナは過去の出来事をとても後悔し、負い目に感じている。だからこそ、今度こそちゃんと姉としてゼファーを支えていこうと誓った。

 娘であるヴェンデッタの心情は難しく誰にも本音を掴ませない。手のかかるお父さんとして接しているのか、男として見ているのか、複雑な感情は本人のみが知る。※もしその気なら、エロいおっぱいお姉さん(イヴ)好きなゼファーの性癖を歪める事も出来る。つまり世界を救うには性癖を変える必要性が存在する。……ロリータかな。

 閑話休題。

 

 ゼファーはマイナとヴェンデッタを家族として守ると誓った。

 過去から目を背けず、受け入れることが真理。

 そうだから——————

 

 

「今日こそは認めて貰いますよ姉君。他の誰にも渡さない―—————お前のすべてを、私が奪うッ」

 

「兄さんは誰のものでもありませんッ……でもたまには構ってくれると嬉しいかな」

 

「あらあらゼファーはモテモテね。こう言うのはーれむ?だったかしら」

 

『ごくつぶしには勿体ない子たちね。この出会いと奇跡に感謝しなさいゼファー』

 

「——————ああ、これからもよろしく頼む」

 

 

 どんな未来だろうとこの五人なら完全無欠の大団円。

 極晃星(スフィア)へ至った彼ならあらゆる障害物を殺すだろう。

 だが、その前に。

 

 

「こいつら相手って……俺の体持つのか?……お前のことだよチトセ!」

 

「ぺろぺろ、ちゅっちゅっ……なーご。かぷり」

 

「兄さんから離れて!」

 

 

 親友と息抜きに飲み明かそうと誓ったゼファー。

 チトセの副官として、英雄直々の命令で過労死させられる冥王星まであと少し——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国南東にある都心から離れた二百人規模の村。

 今回の戦争で被害にあった壊滅したありふれた村の一つに、漆黒聖典が残党がりのために駆り出されていた。

 level30~60の英雄級の敵。

 都市と国を滅ぼすこれらが雑兵でしかない事実に、自分達がどれ程の化け物を相手に戦争をしていたのか、英雄と竜王の戦闘が教えてくれた。アインズ・ウール・ゴウンもまた、竜王以上の強敵だったと聖王国から届いた報告書に記載されている。

 漆黒聖典第一席次ロト。番外席次カグラ死亡により、名実ともにスレイン法国最強に君臨した男。

 漆黒聖典の隊長と呼ばれる彼は、この歴史的快挙を喜びながらも心が欠けていた。

 大地震と英雄級の残党のせいでどの国も浮き足たっている。マジックアイテム、魔法により強化されていたスレイン法国、ローブル聖王国の首都は比較的に無事だか、ソレ以外はほぼ全滅。モンスターに殺された人数より崩落に巻き込まれ死んだ人間の方が多いのが現状。

 一刻も早く驚異を排除し、人類圏を回復させる必要がある。そして、この混乱状態に便乗して人類統一を成し遂げる。神を撃ち破った英雄がいる今だからこそ可能。

 人間同士で殺し合い、領土を奪い合う時代は終わる。

 我々スレイン法国、ローブル聖王国がすべての異形を殲滅させる。

 誰も彼もが使令と覚悟に燃えている。

 

 

「——————シッ!」

 

 

 ロトは槍を顔めがけて鋭く突き出した。

 紛れ込んでいたlevel90のアンデッド。level90台のロトとの差はなし。種族差はアンデッドが有利。弱点である神聖攻撃でロトが有利。そして——————

 

 

「——————神槍三段突き!!」

 

 

 仲間の動きを止めることに重点を置いた攻撃にて刹那の隙を作り出し、槍の先端が頭、喉、胸へと向け神速の三連撃が穿たれた。

 悲鳴を上げることも許されず、胸部から上を消し飛ばし灰へと還ってく。

 

 

「……ふー……」

 

 

 光魔戦争——————皆が聖戦と呼ぶ戦いから人類圏ではlevel30を超える化け物どもが闊歩する修羅となった。魔王は討たれ、竜王クラスは全滅。厄介な化け物は逃げ出す前に倒すことに成功したが、それでも取りこぼしが出てしまう。

 

 

「聖王国が帝国、王国を上手く使い奴らを炙り出してはいるが数が多いの」

 

「それでも時間の問題でしょう。ゲリラ戦も奴らより我ら人間の方が得意としている。厄介なのはトブの大森林で勢力を蓄えている者ですが、聖王国が即急にトブの大森林攻略の拠点を整えているらしいのでそちらも大丈夫でしょう。占星千里、生き残りを捜索し見つけ次第帰還。皆も周囲の警戒を怠らないように」

 

『了解、隊長』

 

 

 強敵との乱戦。疲れと疲労、極度のストレスをものともしない光への信仰心。

 漆黒聖典はあと一手まで迫る目標に向け明日へと進み続ける。

 そんな隊員との温度差をロトは悟らせない。

 ぽっかりと開いた穴を誤魔化し敵を殲滅する。

 この虚無感、勝利した喜びに勝る哀しみ。

 自分はこんなにもセンチメンタルだっただろうか?と自問自答しようが答えは出ない。

 だが、これだけは分かっている。

 番外席次は死んだ。

 止めようと止められず、返り討ちに合い無様に敗北した負け犬。

 それが、スレイン法国最強の男の真実。

 

 

「?……なんだ、この違和感……」

 

 

 漆黒聖典に追従している部隊が民間人を保護する中で、白と黒が入り混ざった少女を視界にとらえた。

 緊張を高め槍の握りに力がこもる。少女は白であり、黒であり、灰色であった。

 民間人の治療に駆けまわる医療部隊が、少女に気付くことなく通り過ぎていく。

 誰も少女を認識していない。透明人間とは違う。存在の位相がズレている。

 陽炎のように揺らめく影。まるで突如生まれた存在がこの世界に定着する様を見せつけられてる錯覚に陥る。

 否、あながち間違いでもない。少女は生まれようとしている。

 白と黒が別たれ、入り混じり、融合する。

 

 

「…………」

 

 

 ロトは槍を降ろし、無造作に歩み寄っていた。

 何故かは分からないが、害はないと()()する。

 少女こそがこの胸の穴を埋めてくれる存在だと()()()()()()

 位相が安定し揺らめく無意識がこの世界に誕生する。

 ショーケースの人形のような少女に、命が宿る。

 病的に白い肌に熱が生まれ、肌に生命の息吹を感とる。

 深い眠りから覚めたのか、ゆっくりと瞼が開かれる。

 人懐っこい顔つきは、鋭さがあった番外次席とは似ても似つかない。なのに、無関係とは思えなかった。

 

 

「へぇ……これは偶然?それとも必然?それとも……最後に願った祈りの奇跡?」

 

 

 番外次席の声をベースに基づく声音に調整したかのように聞き覚えがあり、しぐさもどことなく似ている。

 彼女(カグラ)が子供を育てたらこうなりますを見せつけられている気さえしてくる。

 

 

「……君は、何者なんだい?」

 

「何者……か。難しい哲学ね。生きる上で、生物が悩む疑問点。自分さえ何者か理解しきれていないのに、他者には明確な回答を求めてしまう。人は知ることが本質ですものね。それで何者かですが……ええ、うん。そうね——————私こそが唯の人間。生まれこそ特殊の何処にでもいるありふれた人間よ」

 

 

 少女は宣言する。人間であると、だからこそ価値があると、自慢する様に誰かに語り掛ける。

 少女がロトの腕に自身の腕を絡ませてくる。傷つけることを恐れ、無抵抗に受け入れるも、まるで初めからそこが定位置のように、ロトの欠けていたピースが綺麗にはまる。

 

 

「万仙陣は人の願いを叶える等価交換の桃源郷。原点(オリジン)が自分の永久機関を引き換えに叶えた最後の夢が何なのか私にも分からない。でも、貴方のことは()()()()()。けれどコレは所詮知識でしかないのよね。ねぇ……貴方のこと貴方の口から教えてくれる?彼女(カグラ)の分まで」

 

 

 不思議な少女。村娘にも負ける力しかない筈なのに、存在に呑まれそうになる。彼女は唯の人間だ。だが、ソレ以上に特別だ。

 現に、部隊を率いる隊長である私にちょっかいをかける少女に、誰も注意出来ない。

 触れれば壊れてしまう彼女に、誰もが頭を垂れる。

 信仰深いスレイン法国の民は()()()()()()()

 彼女こそ神へ至る存在だと。

 

 

「…調整が難しいわね。こんな筈じゃなかったのだけど。機械の性能と演算能力はルベド(オリジン)と違って消失してるのが難点ね。まあ、人間は機械じゃないしね。何事もトライ&エラー。失敗は成功の母。欲しい物は苦しまないうちは手に入らないとも言うしこれからの努力と試行錯誤しだい。なら早速行動よ」

 

 

 ロトの腕を引っ張る彼女の邪魔をしないように、彼女に合わせて歩き出す。

 

 

「ま、待ってくれ!私達には任務が——————」

 

「知ってる。だから目的地に向かってるわ。あと、無理なら無理で構わないのだけど貴方たちの任務にこれからも同行したいの」

 

「はあ!?え、ちょッ…………それは無理だ。危険すぎる」

 

「知っている。だから貴方に守ってほしい。迷惑承知。足手まといも承知。それでも、私を守り抜いてほしい。私は見る必要がある。経験する必要がある。この世界を隅から隅まで知らなければならない」

 

「……君は」

 

 

 覚悟の瞳。か弱い少女の肉体には不釣合いな世界を染め上げる覇道をその身に秘めている。

 

 

「それと……どうして僕がって顔してるけど、貴方じゃなきゃ意味がないの。この感情が借り物だとしてもいつか本物にしてみせる。ほら、惚れた腫れたって憧れるじゃない?何より——————『()()()()()()()()()それだけで、お前は変われたんだよ』って、あそこまで宿敵(ハデス)に言われたら試してみたいじゃない。私はルベド(オリジン)じゃない。死ぬ間際至った答えは知っていても実感がないの。それに、人によって答えが違うなら私の答えも探す必要がある」

 

 

 抱き締めていた腕を放しロトと向き合う形となり、目と目が真っ直ぐ互いの瞳孔を直視する。

 瞳が自分の姿を映し出す。

 

 

「もう一度聞くわ。貴方のこと貴方の口から教えてくれる?そうね、まずは名前から」

 

「……ロトだ。漆黒聖典第一席次、皆からは隊長と呼ばれている」

 

「それじゃあロト。私と……まずは友達?よね。友達として一緒に居てくれないかしら」

 

 

 右手を差し出す彼女に、ロトは確かな恐怖を感じ取った。見つめ合う瞳孔の動きが僅かに震え怯えている。

 少女は拒絶されるのを恐れている。

 ならば、一人の男として告白の返答は総じて決まっている。

 

 

「謹んでお受けします。レディー」

 

 

 片膝をつき少女の手を取り唇を手の甲に重ねる。

 

 

「ぁ……」

 

 

 物知り顔の少女から恥じらいの反応が見れて役得感を堪能しつつ、ロトもまた少女へ質問する。

 

 

「君の名を教えてくれないか?そこからスタートだ」

 

「えぇ、ええそうねロト!一度しか言わないわよ!私の名前は——————アウルム。いずれ真の黄金に至る者よ」

 

 

 二人の冒険はここから始まる。

 人のまま終わるのか、神へ至るかはアウルムが答えを見つけた時はっきりする。

 それまでは、不器用な二人が不器用なりに関係を発展させていく——————そんな物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくり風呂につかり、あとは寝るだけ。

 朝食、昼食、夜食、栄養管理されたザ・病院食。

 やることといえば、優秀な部下たちが全部やってくれている。

 一時間で終わる印鑑作業がここ最近の楽しみになっている。

 

 

「……ひまだ」

 

『クリスの口からそんな単語が……実際暇だし仕方ないか』

 

 

 優秀な副官(アオイ)が私に全てお任せくださいと頑張って。

 親友(アル)がクリスをベッドに縛り付ける理由をあれやこれやと持ってくる。

 普段の此奴なら一切合切無視してでも自分のやるべきことを全力全開で全力疾走―—————なのだが。

 

 

『まあよろしくお願いね。結局アオイに断られたし、クリスのお嫁さん件女王様ってそんなにいやだった?』

 

「間抜け。アオイとてアマツだぞ?本人の生真面目さもあいまって、宿敵(ライバル)に施されたとあってはプライドが許さない。……最悪殺し合いになるぞ」

 

『……まじで?』

 

「八割は冗談だ」

 

『二割は本当なの!?鉄仮面がそのまま歩いているクリスが冗談!?……それよりどの部分が本当なの?殺しに来るは冗談じゃすまないんだけど』

 

「だから間抜けなのだ。貴様は俺よりもアオイの顔を知っているだろう。寝室にも招き入れる仲を手にかけると本当に思っているのか?」

 

『ああ、うん。そうだね。……でもアマツなんだよなぁ』

 

 

 アマツである限り恋敵(ライバル)に慈悲はない。私にはそんな気はないと思うんだけど。

 

 

『けど意外。クリスがされるがままで大人しくしてるんなんて』

 

「仕方あるまい。今回は前代未聞が多すぎる。その上で、俺のデータがお前の肉体を取り戻す手掛かりになるなら時間は惜しまない。被検体としてこの身を委ねるまでだ。コールレイン少佐も協力的と聞いている。一人より二人なら時間も短縮できる」

 

『いや、アイツの場合はそんな志は一つもないと思う。今頃女神(アストレア)に搾られてるんじゃない?ヒロインレースだと彼女の勝ちでしょうね。逃れられない既成事実をつくるのはアマツの十八番(オハコ)だもん』

 

「……男女間とは難しいものだ」

 

『なになに?あのクリスが人間関係でお悩み?相談なら乗るよ?ま、いままで相談してもらったこと何て——————』

 

「結婚してくれティア」

 

『…………………………………………ふぇ?』

 

 

 この男は真顔で何をほざいてるんだ?

 

 

「互いに誓ったはずだ。俺たちは対等だと。王は一人ではない。王女がいてこそ真価を発揮する。互いに支え合い王国の危機を乗り越え、みなが目指す勝利を掴み取るのだ。常に俺の隣に立ち、共に行ける女性は貴様以外いるとも思えん。これは想いや気概ではなく物理的な話だ。極晃星(スフィア)を鑑みれば貴様しかいない」

 

『つまりは消去法で私しかいないってわけね。なるほどねー…………………つまり女性らしさがないゴリラって言いたいのかゴラァッ』

 

「……何故そうなる」

 

 

 アオイちゃんがいるのにこの男はすぐ楽な方へ……は行かないけど効率のいい方向に行くんだから。

 でも——————

 

 

『でも、なんだか嬉しいから許す。それに暫くは二人っきりだし』

 

「ティア……昔から天然だけは治らなかったな」

 

『なんでそう呆れ顔なの!?無視して本を読むな!!クリスがアオイ差し置いて私に結婚申し込んだって周りに言いふらす!!』

 

「構わないが……いいのか?」

 

『いいのよ!これでクリスが女の敵だってこと広めてやるから』

 

「本気で言ってるのかこの女?」

 

 

 笑みも今のうちだ。その間抜け面吠え面かかしてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に盛大な自爆をしたティアは周りから祝福された。

 嚇怒の英雄が、真に対等と認めた女性と笑い合う。

 この物語は、英雄が魔王と竜を打倒し——————大団円へ突き進む王道の英雄譚(サーガ)

 

 

 

 

 

 

END




というわけで皆様、今までありがとうございました。
これにてオーバーロードVS鋼の英雄人完結となります。
かなり賛否両論な作品だったとは思いますが、こうして無事完結させる事が出来たのも皆様のおかげです。
この後の展開についてはぶっちゃけ何も考えていないので、各自の想像にお任せします。
完結まで長かった……40話三年って長くない?三年かけて打ち込んできただけあって中々に思い出深いです。ラグナロク発売前に終わらせることが出来て感無量です。
ここ最近は女主人公シルヴァリオシリーズを見かけて感動しました。もっと増えろよ!!
好きなキャラ、好きな話はどれでしたか?気に入っていただければ幸いです。
とりあえず、各キャラについての軽いてきとーな(※ここ重要)説明でも入れて締めくくらせて頂きます。


 シルヴァリオ陣営

・『英雄』クリストファー・ヴァルゼライド
異名:星辰閃奏者、星の裁断者(スフィアパニッシャー)、悪の敵、光の奴隷、英雄
基準値: B
発動値: AAA

集束性:EX
拡散性:E
操縦性:D
付属性:AAA
維持性:C
干渉性:D
能力:放射光極限収束・因果律崩壊能力
王道主人公ラスボス。以上。
補足:悪を鏖殺する悪の敵。恐れるべきはその精神。気合と根性でありとあらゆる理不尽を粉砕するトンチキ。
付属AAAが優秀すぎて応用力が格段と上がったヤベーヤツ。
ローブル聖王国なのに総統閣下とはこれいかに。

・『冥王』ゼファー・コールレイン
異名:星辰滅奏者、星を滅ぼす者(スフィアレイザー)冥王星(ハデス)、逆襲劇、ごく潰し、さすコル
基準値: C
発動値:AA

集束性:B
拡散性:C
操縦性:C
付属性:B
維持性:C
干渉性:EX
能力:反粒子の生成
彼を襲う全ての星は闇の粒子によって対消滅し、質量差の衝撃すらも無効化。攻略法は極めて単純、出力差を最低でも数千倍上回ること。この条件がクリアできなければハデスには傷一つ付けられない。
エピローグ後はヒロインとして攻略される。

・『破滅の竜王』ファヴニル・ダインスレイフ
異名:強欲竜団(ファブニル)、強欲龍、邪竜、インポ、本気おじさん
基準値: A(AA)
発動値:AAA

集束性:AA(AAA)
拡散性:AA(AAA)
操縦性:B(AA)
付属性:E(A)
維持性:C(A)
干渉性:AAA
魔星覚醒ステータス※()内は破滅の竜王時
能力:物質再整形能力
ツアーと魂を合体させ、極晃星に迫るガイアの化け物となった。
最終決戦では、始原の魔法をいくらでも創り出せるし発動できる。結界系の魔法で被害が出ないことも出来たが、本人はするつもりがない。
星の命が続く限り滅びることは無く、放出するエネルギーは有限でも補給源はほぼ無限大。
英雄と同じく、ガイアとの接続を断たなければ倒すことは叶わない。

・ティアード・ロゼッタ
異名:鋼鉄の乙女、女王、姫、天然
基準値: C
発動値: A

集束性:B
拡散性:E
操縦性:A
付属性:C
維持性:A
干渉性:C
能力:自己回復
クリスの幼馴染として共に頑張り続けた女性。
戦闘時はキリっとしているがそれ以外だと天然ポンコツ。
アオイを応援していたが自分から止めを刺した策士。

・ヴェンデッタ
異名:月乙女(アルテミス)死想恋歌(エウリュディケ)、ママ
能力:星辰体感応能力
能力が便利すぎて国が管理し、研究するレベル。あらゆる干渉を遮断する結界アイテムはヴェンデッタに繋がっている。
インモラルの塊。今作では、マイナとゼファーの娘。お父さんを応援する健気な娘だがその心は?

・ミリアルテ・ブランシェ
異名:一般人代表、妹
今作ではほぼ出番がなかった血のつながりのない兄さん大好きっ子。義理妹ポジ。年齢は16才。もう一度言う——————『16才』である!!※詳しく説明すれば高濱や正田卿ですら抗えないものに消される

・チトセ・朧・アマツ
異名:女神(アストレア)、アマツ
能力:気流操作能力
コキュートスとマーレ戦では大活躍。能力の万能さでは随一。
ゼファー(ヒロイン)の主人公件ご主人様。

・マイナ・コールレイン
異名:お姉ちゃんヤンデレ、母子相姦、慰めセッ〇ス
上で色々酷く書いたが善良で心優しいザ・お姉ちゃん的存在。実の弟を逆レ〇プした御方。
原作において最重要人物。
今作では、娘と一緒に弟(旦那)と暮らしている。過去のことをひどく後悔しているが、ゼファーの許しを得て本当の家族となる。

・アルバート・ロデオン
異名:店長
クリスとティアの幼馴染。
裏方としてエ・ランテルではナザリックに気付かせず情報収集していた。
聖戦後は引退してストランでオーナー兼コックをやりたかったが、多忙のためまだまだ夢は叶いそうにない。

・アオイ・漣・アマツ
異名:良い眼鏡
総統閣下の優秀な副官。シルヴァリオシリーズ屈指の良心的な眼鏡。
カルネ村では厳しい姉御として信頼を勝ち取っている。
閣下とティアの件では、認めながらティアだけには濃密な殺気を放っている。

・ギルベルト・ハーヴェス
異名:糞眼鏡。以上。
光の亡者代表その一。
優秀すぎて使い勝手が便利。意味深なこと言わせてこいつのおかげで知ることが出来た風にすれば大体矛盾は無くなる有能ポジション。でも糞眼鏡。死ね。

・ヴァネッサ・ヴィクトリア
異名:姉御
常識人枠。酒と煙草が好き。年下の男が居るとか居ないとか。もう普通過ぎて特に説明することがない。

・ジン・ヘイゼル
異名:頑固親父
本作では一児の父。ゼファーにオリハルコンの腕を届けた。

・アスラ・ザ・デッドエンド
異名:北斗神拳伝承者、色即絶空(ストレイド)
能力:衝撃操作
シャルティアを撃破したことによりレベル100へ至る。
その高揚感のままナザリックへ挑んだが、相性最悪の超巨大奈落スライムからのアンブッシュにより引き分け。
怪我を治してもらったペストーニャを義理人情であれこれ手助けする。

・イヴ・アガペー
異名:おっぱい、 露蜂房(ハイヴ)
能力:
ゼファーをそのおっぱいで甘やかすプロ。本作では関係ないが原作本編だとチトセに秒殺された※アマツは怖い
今作では数を生かしエ・ランテル内の敵を翻弄と殲滅を同時進行でこなしていたが、シャルティアの登場で表舞台に立たざるを得なかった。

・ルシード・グランセニック
異名:ロリコン紳士、 錬金術士|(アルケミスト)
能力:磁界生成
斥力・引力の発生、対象内の鉄分干渉による捕縛、鉱物操作、磁力付加による高速移動、S極とN極の付与等
磁力操作によって可能な現象に関しては、 思いつく限りほぼ全てを可能。
ゼファーの親友件負け犬同盟。本人の逃げ腰的な臆病な性格とは異なり、能力は正しく万能。並みの使い手どころか一流であっても完封できる。シャルティア戦ではレベル100の機動力を奪い続けた。シャルティア戦のMVP。

・サヤ・キリガクレ
異名:サイコレズ
能力:爆熱火球発生
裁剣天秤のゼファー副隊長の補佐。チトセお姉さまを誘惑する屑(ゼファー)を殺す事を目標としているが、お姉さまの悲しいことはしたくないので殺意と嫌がらせだけで我慢している。

・アリス・L・ミラー
異名:妖貴妃(スキュラ)、オネショタ
能力:水流操作能力
金にやとわれた傭兵。ルプスレギナに致命的なスキを作らせた。

・アヤ・キリガクレ
異名:清楚系エロい子
能力:金属操作能力
エ・ランテルにてシャルティアの足止めに尽力した。ルシードがいなければ瞬く間に殺されていた。

・ミステル・バレンタイン
異名:烈震灼槍(ブリューナク)
能力:光熱操作能力
エ・ランテルにてシャルティアの足止めに尽力した。ルシードがいなければ瞬く間に殺されていた。
能力の便利性からルベドに完全上位互換としてコピーされた。

・ブラザー・ガラハッド
異名:聖人、ガチの聖人、本当にいいおっさん
能力:筋力増強能力
エ・ランテルにてシャルティアの足止めに尽力した。ルシードがいなければ瞬く間に殺されていた。
シルヴァリオシリーズ屈指のいい人。聖職者だからって最少は疑ってました。すいません。

・グレイ・ハートヴェイン
異名:主人公との合体候補、ホモ祭り、親友ポジション
能力:物質硬化能力
合体もホモでもなかったけど姉御と幸せになれよ!!

・シズル・潮・アマツ
異名:糞眼鏡二号、男に彼氏を寝取られた人
能力:生体電流の操作
今作では、デミウルゴスが拷問していた男性が愛する彼氏。無事に戻ってきてベットの彼を優しく介護している。ガニュメデスの心を繋ぎ留めれるかはこれからの行い次第。

・レイン・ペルセフォネ
異名:かわゆい
能力:遠隔瞬間移動
能力が便利すぎて国が管理し、研究するレベル。あらゆる干渉を遮断する結界アイテムの蛇口の役割をしている。
愛する彼を守るために竜王戦では英雄を送り届けた。その後ゼファーも。

・アシュレイ・ホライゾン
異名:公式人気投票にて見事一位を獲得した主人公
能力:星辰光の奪取と制御
本作未登場だが、無事にハーレムをつくっている。最後はちゃんと選べるんだろうか?




 ナザリック陣営


・『魔王』鈴木悟(アインズ・ウール・ゴウン、モモンガ)
異名:星辰時奏者、星を渡る者|(スフィアトラベラー)、魔王
基準値: A
発動値: A

集束性:A
拡散性:A
操縦性:EX
付属性:A
維持性:A
干渉性:A
能力:時間操作・引力、重力操作
絶望の果て、人間として覚醒した一般人。より良い過去を、より良い未来を現在に昇華させる普遍の回帰譚。
時間操作で可能な現象に関しては、思いつく限りほぼ全てを可能。
誰もが思う「あの時こうすれば良かった」を叶えてくれる極晃星。
しかし、一つの宇宙と時間軸で誰もがタイムマシーンに乗れば訪れるのは破滅だけ。互いに潰し合う地獄が誕生する。そして、その荒野の先で例え何百年数千年経とうと最後まで譲らないと誓った。そう、もう鈴木悟は一人ぼっちではないのだから。

・『永久の不完全』ルベド
異名:星辰伝奏者、星を繋ぐ者(スフィアリンカー)水星(マーキュリー)、無限、スピネル
基準値: AAA
発動値: ∞
集束性:AA
操縦性:AA
維持性:AAA
拡散性:EX
付属性:C
干渉性:AA 
能力:魂魄同期
人は、人間を知り成長する。知りたい相手のことを知ることが出来る星。
自分の思いを伝えたり、相手の過去も無意識の隠したい闇も知ることができ、相手の人生を追体験できる。
パンドラのように極めれば超一流の技を瞬間的に自分のものに出来る。魂の残留を読み取るため過去の人物であろうと条件に当てはまる。
理論上無限に進化できる。
ルベドが成長し続ければ、無限大火力、星を全てコピーまたは上位互換に変換、英雄の剣術、糞眼鏡やラナー姫やデミウルゴスの頭脳さえ十全に使いこなすまで進化し、更にそこから無限進化するクソゲーと化す。
オバロでは名前だけで登場で殆ど情報がなかったので超絶魔改造。
正直かなりお気に入りです。

・アルベド
異名:慈悲深き純白の悪魔、大口ゴリラ
モモンガではなく、人間の鈴木悟を好きになった勝ち組。
英雄の武器である七刀を五本叩き壊したメインヒロイン。

・パンドラズ・アクター
異名:千変万化の顔無し、声がうるさい
星辰伝奏者としてナザリックの全てを知ることが出来た勝ち組。
ナザリック所属限定でガンダムによくある精神空間で互いの心を曝け出すことが出来る。
英雄戦では、総合力で英雄を上回っていたが父親の覚醒を優先し敗北を受け入れた。
究極の一振り"ツルギ"で明確なダメージを英雄に与えた。

・シャルティア・ブラッドフォールン
異名:鮮血の戦乙女
ゼファーリョナ枠。多分シャルティアにボコボコされていた瞬間一番ゼファーさん輝いていた。
冥王覚醒を促したある意味戦犯。
世界級アイテム八咫鏡(やたのかがみ)の効果は本編『真祖vs魔星』を読んでね!

・コキュートス
異名:凍河の支配者
親の影響で満足できる死に場所を求め、ルベドのオススメで破滅の竜王に一人で挑み敗北した勝ち組。
世界級アイテム幾億の刃を使用すれば覚醒前の守護者全員に勝利できる。

・アウラ・ベラ・フィオーラ
異名:負けん気あふれる名調教師
ダインスレイフ魔星状態にアインズ様を庇い死亡。
最後まで使命をまっとうしたので勝ち組。

・マーレ・ベロ・フィオーレ
異名:頼りない大自然の使者
姉の死により暗黒面に覚醒。死んだ仲間を取り込み泥の化け物となったが最後はぶくぶく茶釜とアウラに出会い満足して成仏した勝ち組。

・デミウルゴス
異名:炎獄の造物主
英雄にナザリック許すまじマジ殺すべしと思わせた時点で戦犯。
セバス覚醒のため回想に出てきたので勝ち組。

・セバス・チャン
異名:鋼の執事、リア充
たっち・みーの鎧を完全装備。『聖竜形態、悪よ、何人も触れさせん(たっち・みー)』では竜形態で英雄と激戦お繰り広げた。たっち・みー大好きなので技名に『たっち・みー』がつくものが多い。
最後まで愛するツアレを守りきり、子供も残したので完璧な勝ち組。

・ツアレニーニャ・チャン
異名:ナザリック外メイド長、メイドの服は決戦兵器
シクススに導かれ英雄の目にフォークを突き立てた一般人代表。
オバロ勢で一番成長して主人公していた。
唯の人間として周りの力を借りて生き延びる好感度高い系主人公(コミュ力EX)を意識してました。
エピローグ後は息子とシズと過ごしカルネ村で穏やかに過ごした。

・シズ・デルタ
異名:急襲突撃メイド
エピローグ後から数十年、ツアレを看取り自分の答えを探す旅に出た。なぜか成長した息子が付いてきた。……解せむ。

・ペストーニャ・S・ワンコ
異名:わんこ
マーレ泥化解除に、ナザリック攻略時には怪我の治療も受け持った。
アスラの保護者的なポジション。人間のため、子供たちのために真っ先に人間側についた。

・プレアデス
ユリ・アルファ
ルプスレギナ・ベータ
ナーベラル・ガンマ
ソリュシャン・イプシロン
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ
オーレオール・オメガ
ユリ、ナーベ、オーレオール以外は自分のやりたい事を目指して死亡。三人も結構いいとこあったよね!
※書くのが面倒になってきたわけではない


その他
ラナー
異名:黄金の姫
総統閣下にその能力をかわれ、ギルベルト監視下の元働いている。
クライム君は目の届く位置にいるが人質の役割をしていることを本人は知る由もない。
クライムと一緒に居られて幸せの絶頂期。
だが最近はラナーに会いに来ず訓練に一層励んでいる様子。

クライム
異名:忠犬
英雄と破滅の竜王の聖戦を見てから様子が……

帝国
皇帝及フールーダは聖王国の軍門に下った。
ジルクニフは大喜び!!
フールーダは死んだようにベットの上で衰弱していた。



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