幻想神刀想〜その刀、神に至りし者〜 (梛木ユー)
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第一章 幻想の始まり
【始符】プロローグ


    幻想郷…そこは、幻想が生きる世界。存在を否定され忘れ去られた者達の理想郷…。

  神や妖や妖精に人間が共存する世界。そんな幻想郷にまたひとつ新たな幻想が幻想入りを果たす。

 

 

 _______________________________________

 

  朝早くに人里から少し離れた位置に一つの屋敷が出現した。奥ゆかしい雰囲気の和風の屋敷だ。広さは、そこまでないだろうあるのは道場らしきものと蔵と家主が生活するであろう母屋だけだ。庭には見事な枯山水があり手入れが行き届いているようだ。

 

 

  その屋敷には人間はいない、正しくは半妖が二人と妖怪が複数だ。

 半妖のふたりは、姉弟のようで歳は二十代前半と十代後半のようだ。

 

 

 

 

  姉は、背中の腰に届くか届かないか位の長い白髪のストレートヘアで身長は百五十センチ程度、スタイルはよくまだ少女と言っても通じる程幼さがのこる。一言でいうなら、出るとこは出ていて平均的と言った所だろう。若干出ている部分は平均を越しているようだがきっと気の所為だろう。

  姉の雰囲気は、優しく人に慕われるような雰囲気を纏っている。

  弟は、姉と同じく白髪の長髪を後ろで結っている。姉と同じく幼さが見られる、優男というやつだ。身長は姉よりも高くその年齢の平均程度の身長である。

 

 

 

 

 

 

  幻想郷の管理者、八雲紫は二人の姉弟をそう評価した。

  他にも付近にいくつかの気配を感じているが敵意はないようなので無視をする。突然結界に亀裂が入ったかと思えばいきなり入って来るのだから、全くとんだ化け物が来たこと…でも…

 ……これは面白くなりそうね…

  八雲紫は、新しく幻想郷の住人となる者達が起こすであろう異変(へんか)に期待していた。

 

 

 

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  四季亭の主であり春夏冬流の十九代目の当主、春夏冬(あきなし)颯華(そうか)は、()を読む程度の能力という春夏冬流の当主のみが扱える能力を持つ。

 

  銘を読む程度の能力とは、春夏冬家に伝わる妖刀アキナシを始めとして、春夏冬を名乗り始めた初代当主にして刀鍛冶師春夏冬(あきなし)村正(むらまさ)が造り出した刀や西洋の刀に秘められた力を扱う程度の能力、最も刀に限らず村正が()を与えたものなら何でもいい。例えばそこらへんの妖怪に村正が銘を与えれば銘を読む程度の能力が使える者ならその妖怪の能力を使うことが出来る。

 

 

 俺の姉、春夏冬颯華(あきなしそうか)は幼い時から天才の()を欲しいままにしてきた。剣の腕前はさることながら能力の扱いも完璧だった。七歳になり能力を扱う訓練を始めて八歳になるころにはほぼマスターしていた。弟である俺はせめて剣の腕前だけは負けるまいと思い必死に剣の鍛錬を繰り返した。だが、姉に勝つことはできなかった。俺が十歳になったその年から毎月一回決闘を挑み続けても十六歳になるまでの、あの日までの六年間一度も勝つことはなかった。

 

 

 

 俺たちの家、四季亭は当主である姉の提案の下、幻想郷という場所に行くことになった。移り住む一族以外は一応現代とのパイプ役としても必要な為残してきている。何故、現代からわざわざ移り住むのかというと段々と生きづらくなってきているから、今時、剣道ではなく実戦用の剣術があること自体珍しいだろう。もちろん剣道も表向きの為指南することはできるし春夏冬家では男女問わず必ず習う。

 

 

 そういった理由の為幻想郷に移り住むのだと、姉は言っていた。移り住むのは本家の者である姉と俺そして家の管理の為の従者として幾人かのみ。残りは現代でパイプ役として残る。幻想郷に行くといった姉はそこへの行き方をその時こう説明した。

 「いい?蒼矢、作戦はこうよ。まず幻想郷へは陸路でも空路でも海路でも行くことはできない。なんでも妖怪の賢者が幻と実体の境界を張って幻想郷を幻の世界にしてしっまったから人間が簡単にはいけなくなってしまったらしいのさらに百数十年ほど前に常識と非常識を分ける結界(博麗大結界)というものを張ってしまったの。その結界はこちらの世界の常識を幻想郷では非常識に、こちらの世界の非常識を幻想郷の常識にする結界を張ったのよ、最もこの世界での本物(・・)の剣術なんてのは実質非常識もいいところだから向こうに行くのは簡単よ。

  ここからが本題なのだけど、屋敷ごと移住するつもりなのだけれど結界と境界を越えるときは私がこの刀の力で二つとも切れ込みを入れて侵入するのだけど、そのあとがどうなるかわからないのよね。だからもしもの時は頼んだわよ」

 

 

 

 で、うまく侵入したはいいけどどうするつもりなのだろう我が姉は。目の前にはうちの料理長より明らかに上な妖力を持った大妖怪、多分こいつが妖怪の賢者なのだろう、と言ってもただの勘でしかないが。

 いきなり現れたかと思ったら人を観察してだんまりだ。せめて挨拶の一つくらいしてもらえないものだろうか。

 なんてことを思っていたら、我が姉は微かに笑い、そして倒れた。

 

 

 「あー、疲れた。蒼矢疲れたから、後の事宜しく私は寝るから」

 そう一言残すと、スー、スーと寝息をたて始めた。

 すると、大妖怪は一瞬呆けた顔をして扇子で口元を隠し笑い始めた。正直にいって恥ずかしい、先程まで一触即発な空気さえしていたのに今の姉の行動により先程よりだいぶましな空気になった。

 これが計算した行動だとしたら、とてもじゃないが博打もいいとこである。

 

 

 仕方ないので今も機嫌がいいのかわからないがにこやかな表情だと思われる妖怪の賢者の相手をする。

 「姉が目覚めるまでこのままというわけにもいかないでしょうし、お茶でもいかがですか?」

 正直、妖怪の賢者の相手はしたくないがそういうわけにもいかないのでお茶でも出して待たないか?と誘ってみる。

 しかし、妖怪の賢者は扇子で口元を隠したまま、こちらをみて。

 『いえ、お誘いはありがたいのだけど急用ができたからお暇させてもらうわ。後で私の式にこの世界のルールの説明に来させるからそこで寝ているお姉さんの面倒見てあげて、それでは』

 そういうと、空間に謎の割れ目を作りその中に入って行ってしまった。

 

 

 

 

 「あーあ、帰っちゃった。せっかく妖怪の賢者用の部屋用意したのに、蒼矢がうまく引き止めないから無駄になっちゃったじゃない」

 「姉さん起きてたんだ…。てっきり寝たのかと」

 「なに言っているのよ、あの程度で疲れるわけないじゃない。全部芝居よ、芝居。最もあいつは気づいていたようだけど」

 し、芝居?じゃあもしかして妖怪の賢者もそれがわかっていて帰ったというのか、というかなんだよ妖怪の賢者用の部屋って、いくつかの疑問が残るが姉さんは話はそこまでという風に部屋から出て行った。

 俺は今後起こるであろう幻想郷での生活に不安を抱きつつ自身の部屋に向かった。

 

 

 



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【香霖堂】幻想郷の古道具屋

 

 あれから、妖怪の賢者もとい八雲紫の式八雲藍が現れたのはすぐの事だ。八雲藍は幻想郷の一通りのルールを説明するとすぐに去っていった。まるで、ここにはいたくないかのような早さで去っていった。

 これといってすることがなくなった俺は屋敷にある道場で瞑想と毎日欠かすことない素振りとストレッチを三十分ほどやり少し小腹がすいたので台所へ向かった。

 

 

 

 台所では、昔からうちに仕えてくれている小妖怪達がお昼の準備をしていた。その小妖怪達に指示をだしながら自身も料理をしている料理長、千秋(ちあき)の下へ行く。

 「千秋、すまないが何かすぐに食べれるものはないか?」

 秋は調理の手を止め一言。

 「蒼矢様、でしたらそちらのおにぎりでも食べていてください」

 「ああ、ありがとう千秋」

 そう言い残し机の上にあるおにぎりを一つつまんでいく。ついでにもう一つ手に持って。

 

 

 

 

 

 

 

 食事の間に行くとそこには畳に死んだように仰向けに寝転がっている姉の姿があった。全くこの人は…いつも言っているのに。

 「ほら、姉さんそんなところで寝転がっていないで座って待つことが出来ないの?」

 「んん~、蒼矢ぁぁおなかすいたー、しぬぅぅぅ」

 「はいはい、ここにおにぎりが一つあります。さてさて欲しい人いるかなー」

 すると今までの死にかけ具合から一変して驚異的な速度で迫ってきておにぎりを一瞥すると素早く俺の手から奪い取り食い始めた。

 みるみるうちにおにぎりは姉さんの胃袋の中に収納された。その速度時間にしてわずか二秒である。

 

 

 

 

 「おかわりは?」

 「台所にあるよ、でもしばらく待てば多分…あ、来たようだね」

 小妖怪が皿に山盛りの料理をどんどん運んでくる。その量は確実に一日のお昼に食べる量ではなく、一日の三食分並みの量になっている。

 そのほとんどを姉さんは食べる。それも一時間程度で、正直一体どうやって胃の中に納めているのかとても気になる。

 

 

 

 食事は料理長の千秋と姉さんと俺の三人で食べる。千秋は別に食事をしなくても問題はないのだが、姉さんが無理やり決めて今ではもう習慣になった。千秋の食べる量は俺よりも少なく、一番多いのは姉さんだ。千秋はすぐに食べ終わると台所に向かい、この後食べ終わる俺達の食器を片付ける準備のためにいつもすぐに行ってしまう。

 

 

 

  

 昼食も食べ終え午後はこれと言ってすることがないので近くを散歩する。現代(もとい)外の世界ではなかなか見ることのできない風景、見渡す限りの自然風景。

 因みに、四季亭は人里の西にあるらしく、それより西は魔法の森と呼ばれる、瘴気が森に漂う場所が広がっているらしい。

 

 

 

 しばらく歩いていると何やら建物が見えてきた。近づいてみると香霖堂と書かれた大きな看板がある家?についた。多分、堂というのだから何かの店なのだろうがなんの店だろう。

 「なんの、店だろう。まあ、気になったら確かめるのが一番だ」

 

 

 

 

 「こんにちわー、誰かいませんかー」

 香霖堂のドアを開け店内に入る。店内は様々なものが置いてあり、外の世界のものもちょくちょく見受けられた。あ、いつの時代は知らないが週刊誌がある。などと店内を見ていると、奥から店主と思しき青年が現れた。

 なぜ、青年が店主だと思ったのかは、この店の中にある気配が一つしかないのと妖気を感じたのとあとは勘である。

 銀髪のショートボブに特徴的なアホ毛が一本、かけている眼鏡からは金色の瞳をのぞかせている。黒と青の左右非対称のツートンカラーをした洋服と和服の特徴を持った服装の青年店主(予想)は今まで何か探していたのか少々服がうす汚れていた。

 

 

 

 「いらっしゃい、何かお探しかい?」

 「いや、たまたま通りかかって気になったものだから覗いただけだ」

 「そうかい、しかしお客さん見かけない顔だね」

 「ああ、今日こちらに越してきたのでね」

 「ふむ、と言う事は外から来たのかな」

 ああ、そうだ、とうなずく。

 「自己紹介がまだだったな、俺の名前は春夏冬蒼矢(あきなしそうや)だ」

 「これはご丁寧に、僕の名前は森近霖之助(もりちかりんのすけ)香霖堂の店主をやっているよ」

 

 

 

 やはり予想は当たったようだ。青年店主改め森近霖之助は少し疲れているのかけだるそうにしている。

 「その、森近はここでは長いのか?」

 「ああ、長いよこれでも半妖でね。それこそ博麗大結界が成立する以前から幻想郷で暮らしているよ。ああ、あと霖之助で構わない」

 「そうか、霖之助はこのあたりで暇がつぶせそうな場所をしらないか?」 

 霖之助は少し考えるそぶりを見せ、多分幻想郷の地図と思われるものを出しながら説明した。

 

 

 

 「一番は人里かな、あそこならある程度のものが揃っているし暇をつぶすなら無難なところだろう。」

 人里か…。

 「ありがとう、霖之助早速行ってみるよ」

 そういうと、香霖堂を後にして人里に向かう。人里へはさほど遠くないので歩いていても一時間もしないうちにつくだろう。にしても、香霖堂か外のものがたくさんあったからまた行ってみるかな。

 

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます!今後とも幻想神刀想(略をよろしくお願いします。


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【守護】人里の守護者

戦闘シーンは難しいです……。


 香霖堂を離れてしばらく歩き続けていたら人里が見えてきた。人里は江戸時代風の建物が多く立ち並んでいた。非常に活気にあふれたところだと思う。外ではここまで活気にあふれたところはないだろう。

 さて、人里に来たはいいがどうしようか。などと考えつつとりあえず小腹がすいたので茶屋に入る。

 

 

  

 「すいませーん、団子くださーい」

 「あいよ、団子だね」

 茶屋のおばちゃんは俺が出した声よりもさらに大きな声で答えた。さすがに少し驚いてしまった。

 「お兄さん見ない顔だね、はい団子だよ」

 「ええ、最近こっちに来たので」

 「そうかい、なら一度寺子屋に行くといい、そこに住んでいる先生がこっちの事いろいろ教えてくれるだろうからね」

 「ありがとうございます」

 「そう思ってくれるならこれからもうちを利用しておくれ」

 そういうと茶屋のおばちゃんは店の中に入っていった。正直、こっちの事は賢者の式に聞いたので問題ないのだがせっかくだからその寺子屋によってみよう。そう決めると団子をすぐに胃の中にしまい込み寺子屋を探す。

 

 

 

 十分程かかったが目的の寺子屋についた。しかし、今はお昼は過ぎたとはいえ寺子屋である以上、学校とさほど変わらないのだから人里の子供たちが授業をしている時間帯である。少なくとも夕方になるくらいまでは待っていなければならない。

 今は、よく晴れたお昼過ぎ風も吹いてはいるが心地よい程度。つまり、絶好の昼寝日和である。ここで昼寝をしないやつは人間ではない。

 

 

 

 なので、寺子屋の少し離れたところに寝転がり昼寝をする。あとは睡魔に身を任せるだけだ。ほら、やってきた…。そこで俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………、一時間ほど寝ていただろうか。何やら騒ぎ声が聞こえる。というか騒いでいる。しかし、完全に寝るつもりはなかったのにまさか一時間も無警戒で過ごすとは…。

 もし、ここに姉さんがいたら斬り殺されていただろう。これは比喩ではないし誇張しているつもりもない。俺の姉というのはそういう人間なのだ。人が気持ちよく寝ていたかと思うといきなり竹刀で頭をはたいてくるし。今では寝ていても常に周囲の警戒だけはしているのでよけることはできるが、昔はよく竹刀ではたかれていた。最初のころは多分はたいても手加減をしていたのだろう。今では俺がよけるものだから本気で撃ってくる。しかもその竹刀斬れ味が本物と同じなのでいろいろおかしい。

 

 

 

 なんて、どうでもいいことを考えながら目を覚ます。すると、目の前で野を駆け回って遊ぶ子供達…ではなく、子供達より一歩前に出て俺の様子をうかがっている女性がいた。

 その女性は腰まで届こうかというまで長い、青のメッシュが入った銀髪で頭の頂に赤いリボンをつけ、六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の青い帽子を乗せている。

 服装は胸元が大きく開き上下が一体になっている青い服で袖は短く白。今は春だが少し肌寒くはないのだろうか。襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っていて胸元に赤のリボン。

 スカート部分には幾重にも重なった白のレースが付いている。イメージとして一言でいうなら清楚が最も当てはまるだろう。

  

 

 

 

 

 「お前は何をしにここに来た?そして何者だ」

 返答次第ではただでは済まさないというのが感じることが出来る、女性の言葉に少々詰まる。何をしにと言われても暇をつぶしにとしか言えないし、何者と聞かれてもつい最近というか今日来たばかりのただの半妖だとしか言えない。

 「ほう、つまり暇をつぶしに子供たちを襲いにきた、半妖と言う事か」

 あれ、どうやら口から洩れていたようだ。

 

 

 

 「ならば問答無用、覚悟しろ!!」

 そういうや否や、銀髪女性は何やら紙を取り出すと宣言をする。それと同時に子供達も距離を取り銀髪女性を見守り応援をしている。

 「スペルカード!産霊「ファーストピラミッド」」 

 すると、彼女の周囲に三角形に布陣を組んだ魔法陣から丸弾を撃たせ、さらに俺めがけて大玉を三方向に発射してきた。

 

 

 「ちょ、ま」

 当たりそうな弾幕は刀で切り落としよけていく。なんとかすべての弾幕をかわし切り、体勢を立て直す。

 『春夏冬流 閃華』

 使いなれた技である春夏冬流閃華、刀を正眼に構えて撃ちだすこの技は連続で敵に向けて斬り付ける。それはまるで一瞬の間に咲き乱れる華の様に。俺はそこに霊力を込めて弾幕として撃ち出した。

 

 

 

 

 銀髪女性は避けようと動こうとするがそうはさせない。閃華を撃つ順番を変えて外から左右への退路を断つように弾幕を放ち一瞬遅れて真ん中への斬撃が飛ぶ。

 よけられないとわかるとスペルカードを取り出し宣言をする。

 「スペル、野符「将門クライシス」!!」

 左右にそれぞれ三つの魔法陣を配置して回転させ、そこからの弾幕と自身も弾幕を放ち相殺する。

 

 

 

 

 「待ってくれ、別に子供たちを襲うつもりでもないし、ここに来たのは人里の人にこちらの事を聞くといいと言われたから来ただけだ」

 「なに!?」

 そういうと銀髪女性は立ち止った。

 「つまり子供達を襲いに来たわけではないのだな」

 「ああそうだ」

 「そうか」

 そういうと、彼女は戦意を収めた。なので刀を鞘に納める。

 

 

 

 

 「先ほどはすまなかったこちらの早とちりだったようだ。私の名前は上白沢慧音(かみしらさわけいね)だ、ここの寺子屋で教師をしている」

 「いや、こちらも疑われても仕方のないことだから。俺の名前は春夏冬蒼矢(あきなしそうや)だ、今日こちらにきたものだ」

 「蒼矢か今はまだ授業が残っているから話はあとでもいいかな」

 「ああ、構わないここで待っているよ」

 「そうか、ではあと二時間ほど待ってくれ」

 

 

 

 そういうと銀髪女性基上白沢慧音は寺子屋の中に子供達を連れて戻っていく。さて、あと二時間どうしようか。

 瞑想でもしてるかな。そうきめて、さっそく瞑想を始めて上白沢女史の授業が終わるまでの時間をつぶす。

 暇つぶしに来たけどまあまあ楽しめそうだな。

 

  

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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【寺子屋】ちょっと残念な半人半獣

完璧な人よりもちょっと残念な位がちょうどいいと思う今日このごろです。


 あれから二時間程経ち、寺子屋での授業も終わり子供達を人里まで送るときの護衛をして寺子屋に上白沢女史(かみしらさわじょし)と共に戻ってきた。因みに人里までの護衛でもう一人白髪の少女がいたが子供達を送るとどこかに飛び去ってしまった。更に因みに何故俺が女史などと敬称をつけているのかと云うと全て彼女のオーラというか雰囲気がそうさせているのだ。あちらでもそういう人物はいたからよく分かる、ああいう人には大抵の奴は頭が上がらなくなる。

 

 

 寺子屋の客間に通され一息つく。さて、ここまで来たわいいが正直聞く事といってもこちらの基礎知識?は賢者の式に教えてもらえたから聞く事はさほどないと言っても過言ではない。せいぜい聞く事とすれば暇つぶしになりそうな場所や人物を聞くくらいだろうか。

 

 

 

 「さて、蒼矢君だったな。君も聞きたいことはあるだろうがこちらの質問にいくつか答えてもらおうか」

 「ええ、問題ないですよ」

 「まず、一つ目今日来たばかりと言っていたがそれは自らの意思で来たのか?」

 「まあ、仕方なしですが少なくとも誰かにさらわれたとかじゃあないです」

 俺の回答を聞くと考える仕草を見せ言葉を続ける。

 「ふむ、二つ目だほかに一緒にこちらに来たものはいるのか」

 「ああ、家族と一緒にね、屋敷ごと来たよ」

 「三つ目だ八雲紫、この名前に聞き覚えは?」

 「ある」

 

 

 

 そう答えるとまた上白沢女史は考える仕草を見せる。四、五分経っただろうか上白沢女史は納得のいったような様子でうなずいた。そこに何の意味があるのかは知らない、けれど何かわかったのだろう。

 「私にこちらの事を聞きに来たはずなのに質問ばかりですまないな」

 「いえ、いきなり押し掛けたこちらが悪いのですから大丈夫です」

 「そうか、今度はそちらの番だ。こちらの事を聞きたいのだろう?私が答えられる範囲でだが答えよう」

 

 

  正直に言ってしまえば聞く事と言えばさっきと同じだが暇つぶしになりそうな場所を聞くくらいだ。

 「なら、まだこっちに来たばかりだから危険な場所や観光出来そうな場所を教えてくれないか」

 

 

 

 

 女史は少し考える素振りを見せ危険な場所から丁寧に説明してくれた。内容は大体賢者の式と同じなのでスルーする。

「………観光出来そうな場所だが基本人里がこちらで一番安全な場所だからな、まあ、半妖の君なら下手な事をしなければ大丈夫だろう。剣の腕もかなりのもののようだし…」

 

「候補としては紅魔館、ここはあまり近づくのを主に面倒な主がいる為すすめないがあの紅い城は一度見てみるといい。門番は気のいい妖怪だから危険も少ないしな。

 妖怪の山もその一つだろう。ここからでも見えるが近くで見たらもっと迫力があって見応えがあるだろう。哨戒の天狗がいるからあまり近づき過ぎても危ないが。

 あと、迷いの竹林も観光目的ならば悪くないだろう。最も名前にある通り迷うから気をつけないと危ないところでもあるけどな。

 本来なら止めるべきなのだろうが君の実力なら今のルールを守らない輩程度は簡単に倒してしまえるだろうからこういうが本心としてはあまり危険な所に言って欲しくはないよ」

 

 

 

 「さて、他にも聞きたいことはあるか?」

 明日以降の暇つぶしが見つかり特に聞くことはあまりないのだが、そうだ。

 「聞きたいことというより頼みたいことなのだけど、俺はまだこちらに来て日が浅いだから、弾幕ごっこのやり方を教えてくれないか?」

 

 

 

 上白沢女史に聞きたいことというか頼みを言ってみたのだが、どうだろうか。寺子屋の教師でもあるから色々と忙しいかもしれないが今後の事を考えたら戦い方位は知っておいても悪くは無い。

 なんでも弾幕ごっこのルールとして美しさが重要なことらしいので実戦的なものではなくなるべくこちらの世界に合わせたやり方を学んでおきたい。

 俺ができるのは実戦的なもののみで美しさを求められてもなかなかどうして難しいものだからだ。それにさすがに姉さんは家で寝ているだろうから今から練習すればもしかしたらもしかしたら姉さんにも勝てるかも知れない分野かもしれないし。

 

 

 

 「時間があるから構わないがその必要はないと思うが必要なのか」

 「どうしても勝ちたい人がいるのでね、それに時間は気にしないでできる場所がある。だから問題ないよ」

 「そんなところがあるのか!それなら私は一向に構わない」

 「じゃあ早速始めようか」

 「え?」

 

 

 

 そう上白沢女史に伝え能力を使う。ありとあらゆるものを断ち斬る程度の能力。その能力を特殊なお札に込め寺子屋の周辺に結界を作り出す。そこには時間、結界外からの他者の認識、他者の結果解除などを断ち斬るようにできている。

 これで準備完了だ、妖力の消費がなかなかだが一度断ち斬れば永続してくれるから鍛錬にはもってこいの空間だ。これでよく姉さんに使わされて一緒に鍛錬したっけ。なんだかよく分からない力でよく分からない技名を唱えながら極大のビームを飛ばすわ、ジャンケンとかいいながらエネルギー弾を飛ばしたりと、全く訳が分からない。

 最もあれは鍛錬という名の虐殺だったが。

 

 

 

 上白沢女史はと言うと、は?え?はわわ…などと実に可愛らしい反応をしている。

 眺めていてもなかなか面白そうだけど目的は弾幕ごっこの練習なので現実に帰ってきてもらう。

 「上白沢女史、大丈夫ですか?初めて来ただろうから慣れないかと思いますけど練習したいので落ち着いてもらえます?」

 「ふぇ?あ、ああ大丈夫だ大丈夫だ、これは夢…これは夢……」

 

 

 

 あ、これダメだ。その時そう思った俺は決して悪くないだろう。やはり常人はこういう反応だろう、時間そのものを断ち斬ったこの世界は元々いた世界とは違う括りで景色などはほぼ同じだが、元々いた世界であって元々いた世界とはまた違うのだ。

 まあ、簡単に言うと何をしても本質が変化することない世界とでも言おうか。細かい理由や構造はまだわからないけど姉さんはそう言っていた。

 

 

 

 この世界を見つけたのは姉さんだった、しかも俺は初めて来た時泣きまくったのにあの人は第一声が、この世界にいたら太らなくね!

 正直普通そこはまず考えないと思う、最も、肉体への変化はある。だから多少の怪我もする、ただし姉さんの言う通り肉体の中身は変わらない。要は太らない。

 しかし外の世界でやるよりは傷が浅いのだ。ちなみにこの世界は初めて来た時に並々ならない違和感を与えてくる。ただの人間が来れば今の上白沢女史よりももっと酷いものになる。少なからずある程度の妖力、霊力、魔力を持たなければ意識などとても保てない。

 大体のやつはパニックになるか、泣くか、と大体症状は決まっている。

 

 

 

 ただ、現実逃避する人は初めてだった。なにせ、そうか、これは夢なのか夢なら早く覚めなくてわな。などと言い寺子屋の壁に頭突きをしている。寺子屋が揺れている気がするのだが気のせいだろう、なにせここは変化を拒む世界なのだから。

 

 

 

 

 体感にして一時間だろうか、最も時間がないから関係ないのだが、上白沢女史をどうにか落ち着かせることができた。

 その時のことは、女史の名誉の為に言わないでおく。

 

 

 

 

 「ふう、さて弾幕ごっこの練習だったな、なに私に任せておけこれでも教師なのだから教えることは得意だからな安心してくれ」

 既に無くした大人の雰囲気をなんとかあらわそうとしているが立ち直る時の状態を見た者はこう思うことだろう。

 なんか可愛いな、と。

 

 

 

 

 

 




次回!ちょっと涙目になりながら蒼矢君に弾幕ごっこについて教える慧音先生…長い長い座学をへてようやく実践!果たして蒼矢は慧音先生にかてるのだろうか!?



ちょっとした次回予告を入れるのも楽しそう。


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【スペル】初めての弾幕ごっこ

 

  さすがに寺子屋の中では練習はできないから普段は子供たちが遊んでいるであろう寺子屋の広場で練習をする。

 因みに今上白沢女史によるありがたーいサルでもわかる弾幕ごっご講座を聞いているところだ。しかも黒板にご丁寧に図がついての説明だ、かれこれ体感でだが三時間位だろうか…きっと地獄の閻魔様も驚く事だろう。

 「さて、ここまで幻想郷での弾幕ごっこが生まれるまでの歴史を話したが続いて弾幕ごっこをするうえで守らなければならないルールを説明していこう」 

 

 

 

 前言撤回、どうやら地獄の閻魔も泣いて逃げ出すことだろう。早く練習したい…

 結果実に六時間にも及ぶ上白沢先生のサルでもわかる弾幕ごっこ講座は終わりを迎えた。改めて弾幕ごっこ基命名決闘法のルールなどをおさらいさせられている。 

 

 

 命名決闘法基弾幕ごっこ

 理念

 一つ、妖怪が異変を起こし易くする。

 一つ、人間が異変を解決し易くする。

 一つ、完全な実力主義を否定する。

 一つ、美しさと思念に勝る物は無し。

 

 

 ・決闘の美しさに名前と意味を持たせる。

 ・開始前に命名決闘の回数を提示する。

 体力に任せて攻撃を繰り返してはいけない。

 ・意味の無い攻撃はしてはいけない。

 意味がそのまま力となる。

 ・命名決闘で敗れた場合は、余力があっても負けを認める。

 勝っても人間を殺さない。

 ・決闘の命名を契約書と同じ形式で紙に記す。

 それにより上記規則は絶対となる。

 この紙をスペルカードと呼ぶ。

 

 

 

 因みに上白沢女史はというと、とてもやり切ったというような感じでご満悦の様だ。次は実技に移るようだ。もう、帰っていいですかね。

 

 

 

 

 

 

 「さて蒼矢君、これから実際に弾幕ごっこをするわけだが一つ言っておこう。私は手加減は一切しないからな」

 「結構ですよ、こちらも手加減はしません」

 

 「カード宣言の回数は二回、残機は一といったところか。これでいいかな蒼矢君」

 「ええ、大丈夫です」

 

 

 

 

 

 「では、いくぞ」

 そういうと上白沢女史は自身の周囲に魔法陣を展開し弾幕を放ってくる。この程度の弾幕は難なくかわせる。女史の弾幕を避けつつ式紙を周辺に放ち反撃させる。

 因みに式紙は常に持ち歩いている。陰陽術は姉さんが使えていたから俺も千秋から教わり基本的なことはできるようにしている。最もその秋も陰陽術の基礎しか知らないようだが。

 上白沢女史は俺が式紙を使ったのが意外だったのか驚いているようだ。まあ、初めて会った時は刀で応戦したからな。

 

 

 

 

 スペルカードは美しさが基本らしいからな、美しさ…ありとあらゆるものを断ち斬る程度の能力を合わせた何か…。とりあえず能力を合わせたスペルを考えながら別で考えていたスペルを発動する。

 「スペルカード!!」

 【式符 炎桜華(えんおうか)

  五芒星に模した配置に式紙を配置し回転させながら炎を咲き乱れる桜が散るように弾幕を放つ。一つ一つが桜の花びらを模して対象を包み込むように弾幕を展開する。今、ネーミングセンスが無いなとか言ったヤツ出てこい、細切れにしてやんよ。

 

 

 

 

 上白沢女史は最初はうまくかわしていたようだがスペルが終盤になり密度が増しこれ以上かわせないと判断したのかスペル宣言をした。

 「スペル!!」

 【国符 三種の神器 鏡】

 三種の神器である八咫鏡もした鏡を自身の前に展開し弾幕を相殺する。

 

 

 

 

 

 

 「さすがに一撃じゃあやられてはくれないか」

 「ふふ、舐めてもらってはこまるな、これでも何度か弾幕ごっこはしているのでね」

 

 

 

 お互いに残るスペルは一つ、先に出した方が負けるか?いや使うスペル次第でなら押し勝つことも可能か。しかし流石にさっきのスペルは力を使いすぎたな何せ全力のほぼ三分の一を込めたのだから、残る残量からしても無駄遣いはできないし。 

 さて、どうしたものか…残っているのはさっきのスペルには使わなかった式紙四枚と、愛刀のみか。女史もあまり余力がないとみる。

 

 

 「楽しい時間も終わりだ蒼矢!」

 「スペルカード!!!」

 【終符 幻想天皇】

 女史の左右と上下に魔法陣が展開されレーザーが放たれる、と同時に自身も全方位に鱗弾を放つ。今までで一番の密度を誇り今までで一番の威力を秘めているであろうそれは一直線に俺に向かってくるものもあれば左右を固める様に向かってくるものもある。

 こんな美しいものを魅せられたら諦めそうになるじゃないか。だけどここであきらめるにはせっかく作ったスぺルがもったいないじゃないか。

 せっかく作ったのだからちゃんと見てもらわないと。

 

 

 

 

 右前方からと上正面から飛んでくるレーザーを式紙を当てて相殺する。続いて飛んでくる鱗弾を最低限度の回避のみでかわす。能力ありとあらゆるものを断ち斬る程度の能力を込めたお札を体に貼り発動、俺から速度の限界を断ち斬る。これはあくまで一時的なものなので早くしないと効果は切れてしまう。

 一気に女史までの距離を詰める、女史も驚いた様子で動きが一瞬止まる。その隙は逃さない。

 「スペル!!!」

 【断符 孤独の王】

 愛刀を片手に握り最後の式紙を取り出しあらん限りの妖力を込める。すると式紙がは光を放ち今まで周囲にあった女史の弾幕をすべて消し去った。いや、正しくは断ち斬った。妖力の込められた式が剣を持った人型を取る。光を後光の様に放ちながら人型のそれは剣を女史へと振りかざす。そこに防御は意味がない。孤独の王はすべてを断った、家族も愛する妻も、信頼していた家臣も、孤独の王はすべてを拒み断ち斬る。 

 王の一撃の前に何一つの行為は無に帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 

 

 

 

 さすがに危なかったか、もう妖力もないしいくらお札で間接的にやったとはいえども限界を断ち斬った反動で動けないし。どうしたものか…。初めての弾幕ごっこだったが殺し合いとは違うし試合とも違う…とても楽しかった。遊びと侮ることなかれ、そこには一人一人の全力が込められていると言う事だろうか。

 そういえば上白沢女史は大丈夫だろうか、弾幕ごっこだからさすがに致命傷になる技は使ってないと思いたい。

 あと、二時間は寝ていないと動けないだろうな。さすがに、ねむいや………。

 

 

 

 

 

 

 




○能力を込めた式紙は蒼矢と姉の颯華の陰陽術のもう一人の先生が作った特注の式紙なので枚数に限りがありそうそう使えるものではないのとある程度の代償は必要なので過度なチート性能は持っていません。能力に関しても何でもかんでも(主に蒼矢君の実力の問題で)断ち斬れる訳では無いので幻想郷の強さで言うなら上位には入りますけど負ける時は負けます。


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【夢符】あの日の記憶

【陰陽】春夏冬家の知恵所の前に本来入る予定だった話でした。普通に忘れていました。すいません。


   夢を見た…いつ頃のだろうかまだ父様がいて母様も生きていたころだ。千秋も今よりは柔らかい表情だった。あの時は幸せでいっぱいだった。朝早くに起きて父様、姉さんと一緒に朝の訓練をする。秋と母様で朝ごはんの用意をしていてくれて家族全員で食卓を囲んでいた。毎日が幸せだった。

 

   あの日が来るまでは……

 

 

 

 

 

 そう、あの日はいつものように変わらない日でいつもと何処か違う一日だった。

 

 例えば、千秋が何処か暗い表情だったり。母様もどことなく何かを憂いているようなそんな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 夜になって、いつもの様に寝ようとしたところそいつはやって来た。縁側から侵入したのかいきなり現れたと思ったら俺を庭へと蹴り飛ばし道場へと向かって行った。反応出来なかった、何よりもそのことを悔いながら意識を失った。

 

 

 

 気が付くと目の前で父様とナニカが戦っていた、父様はすごい勢いで攻撃するもすべてがいなされていた。きりがないと思ったのか刀を構えさっきよりも速い速度で斬りかかった。しかし、それさえもナニカはいなしそして父様の持つ刀を弾き飛ばした。そしてナニカは一瞬で距離を詰めると父様の胸元に刀を向け心臓を狙い貫いた。

 

 

 

 

 その間俺は見ていることしかできなかった。まるで身体が一本の刀になってしまったかのように。そしてそのナニカが持つ一振りの刀が父様を貫く瞬間を。「父様!!」声をかけるも届かないことはわかっていた。いくら半妖とは言え心臓を疲れたらひとたまりも無い。ナニカは俺を一瞥すると直ぐに姿を消した。父様は倒れてからもわずかに意識があった様でこちらを見つめて手を伸ばすとそこから柔らかな光が俺に向けられ身体を包んだ、すると段々と意識が薄れていき気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

そして気が付いた後知ったことだったが…母様もその日死んでいた…正しくはナニカに殺されたと思われる。父様の元へ行く前に殺されていたのだろう。姉様は千秋と共にいたようで無事だった。警察は何もしなかった。結局二年で捜査を打ち切りにして去っていった。

 姉さんは頑張った。春夏冬の当主として、たった一人の家族として、姉として…。俺も頑張った…もし、もう一度ナニカが現れても彼奴が現れても…そう、一瞬で殺せる様に。姉さんを奪わせはしない。姉さんだけは奪わせてはならない。

 

 

 

 「蒼矢…蒼矢…起きて蒼矢…」

 

 

 

 なんだい姉さん…朝起きるのは五分待つっていう約束だろ…

 

 

 

 「おきろ!蒼矢!!」

 

 

 

 再度呼びかける声とともに額に衝撃を受け意識が覚醒する。

 

 目を覚ますとそこにいたのは姉…ではなく心配そうにこちらを見る上白沢女史であった。では、先程の額への衝撃はなんだろうか…。それと微かに女史の額が赤い気がする。

 

 

 

 

 

 「ああ、大丈夫ですよ。それより上白沢…女史は大丈夫ですか?」

 

 「ああ、大丈夫だ、これでも半妖だからな。それに上白沢なんて他人行儀ではなく慧音とでも呼んでくれて構わないのだが…」

 

 「え?はい、上白…慧音がそういうならそれでもいいで…いいけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 ダメだ先程の衝撃のせいなのかまだ頭がフラフラする。だからか口調も安定しないな。

 

 しかし、見た限り…慧音の様子も問題なさそうなのでよかった。しかし慧音の額が赤いのは何故だろうか…知らない方が幸せな気がする。

 

 

 

 

 

 いつまでも地べたに寝転がっていても良くないので起き上がる。その時に足に激痛が走るも我慢できないほどではないので我慢する。しかし、慧音に気づかれたのか慧音は、怪訝そうな顔つきでこちらを見てくる。

 

 

 

 

 

 「ほんとに大丈夫か?何やら足が痛そうだが」

 

 「ああ、大丈夫、大丈夫。いつものことだから暫くしたら治るさ、い、痛!」

 

 

 

 立ち上がる際に激痛が走る。

 

 

 

 「やはり、足を痛めているのだな!それならそうと無理をするな!全く…」

 

 

 

 

 

 どうやらカマをかけられたようだ。バレては仕方ないので大人しく慧音に支えられる。因みに慧音に起こされてからは時間の断ち切りをすでにやめている。後は慧音に軽く治療をしてもらったら、さっさと家に帰らねば、姉さんに小言を言われてしまう。

 

 

 

 「慧音いろいろとありがとう、このお礼はまたする」

 

 「別にかまわないさ、無理にお礼はしなくても」

 

 「そうはいかない、近いうちに必ずお礼がしたい」

 

 

 

 

 

 本当にいいのだがな…と慧音は困った様に笑った。少ししつこいだろうか、本当に感謝しているのだがな。どうしたらいいだろうか。慧音は一つ思いついたように、それなら、明日にでも私が人里を案内するから、代わりといっては何だがそこで一つおごってもらう、というのはどうだろうか。

 

 彼女の妥協案なのか、人里の案内の代わりにおごってもらうという、それではお礼をしたいこちらとしては本末転倒な妥協案だった。

 

 

 

 

 

 

 

 それでは、意味がないのに。いやでもこれが幻想郷の人里の守護者の姿なのだろう。普通であればそんなことはしないだろうに、会って初日の男に傷が残らないとはいえ弾幕ごっこの練習につき合わされたというのに…。

 

 それでも、慧音が納得するのであれば別にお礼としては及第点だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わかった、じゃあ明日ここに来ればいいのか?」

 

 「ああ、明日はちょうど寺子屋も休みだからな、時間はそうだな…なるべくたくさん見てほしいから朝早めに来てもらえれば構わない」

 

 「わかった。一応事前に式を一つ飛ばそう場所は覚えたしな」

 

 「そうかそれは助かる」

 

 

 

 

 

 

 

  それじゃあ、というと同時に我が家に向けて飛翔する。行きと違うのは、そろそろ晩御飯が出来るから早めに帰らねばならないという問題があるから。仕方なしだ、仮に歩いて帰って晩飯にあり付けなかったなどというのは勘弁してもらいたいし。

 

 一気に速度を出して家へと急ぐ。千秋が今日は少し豪勢にした晩御飯を用意すると言っていた、早くしないと姉さんがすべて食べてしまうかもしれない。それだけは阻止しなくてはという謎思考に包まれたまま家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 晩御飯に間に合えたかどうか、そこはどうでもいいので語らない。ただ四季亭でその日ひとりの男の泣く声が聞こえたそうな。

 

 



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【陰陽】春夏冬家の知恵所

 慧音に弾幕ごっこの練習の相手をしてもらった翌日、いつもの様に日の出とともに起きて日課の鍛錬をする。そしてちょうど鍛錬が終わるころに千秋が朝食の準備をしてくれる。いまだに寝ている姉を叩き起こし、朝食を食べる。

 

 ついでに出かける前に我が家の頭脳ともいえる…言いたくはないが、頭脳の陰陽師(ニート)の下へと行く。そんな憂鬱な感じになりつつも屋敷の奥一つの扉の前へと来る。

 

 

 

 

 

 あいつにノックなどというものはいらないので思いっきり扉をあけ放つ。部屋の中は薄暗く本来幻想郷(こちら)ではあることはないだろうはずの精密機器やテレビなどが置かれている。こちらでも意味があるのかわからないがルーターなどもおいてありコンピューター系統の物はほぼすべて置いてある。部屋の隅の方には本棚が置かれており様々な本が置かれている。

 

 

 

 そんな幻想郷では場違いな部屋の中央に置いてある机の上でPCゲームをしている、少女が一人。ヘッドフォンをして一人の世界に旅立っているようだ。

 

 

 

 少女の肩を叩き様子を見るも反応はない…ゲームに集中しているようだ。何度か同じことを試したが、反応が見られないのでヘッドフォンの元を抜き取る。

 

 

 

 すると、大音量でPCからゲームの音が漏れてくる。全く、いつものことながら少しは学習してほしいのだが…。少女はいきなりヘッドフォンから聞こえていた音が聞こえなくなり代わりにPCから聞こえてくる音に気づきこちらを振り返る。

 

 

 

 緋色のクセのある髪に緋色の瞳。髪は腰に届こうかというほどの長さでどうせ縛るなら全てまとめればいいのになぜか一房だけ縛っている。服装はなぜそのチョイスなのかわからないがセーラー服だ。全体を紺色を基調としスカートにはフリルが付いている。身長はさほど高くはなくその容姿の年齢に対し平均よりやや低めだろう。

 

 

 

 

 

「冬摩…なんどいえば理解してもらえるんだ。お願いだからゲームをするときの音量は気を付けてくれとあれほど言ったじゃないか」

 

 

 

 ニート…基冬摩と呼ばれた少女は、不満げな様子で顔をそらした。

 

 

 

『別によいじゃろうが…ここは(わらわ)の空間じゃ、世界なのじゃ。それに前来た時よりは小さくしておるわ』

 

 

 

「へーそれはどれくらいなんだ?ん?」

 

 

 

 少しすごみを効かせた調子で聞くと冬摩はしどろもどろしだし、また顔をそらした。

 

 

 

『そ、それはじゃな……』

 

 

 

 続く沈黙。それが答えだった。

 

 このダメダメニート少女だが、呪術、陰陽術等の扱いは家でもトップクラスだ。何せこいつは平安時代安倍晴明のライバルとしていた、蘆屋道満の亡霊なのだから。と自身が言ってはいるが俺はそこまで信用していない。何せ蘆屋道満は男のはずだ本人は家の事情でとか言ってはいるが俺からしたら半信半疑だ。

 

 

 

 因みに今は三宅冬摩と名乗っている。なんでもご先祖様につけてもらったのだとか。しかしこんなダメダメニートではあるが家の知識どころだ、俺の式紙もその元をつくってくれたり家の結界の維持などもしてくれている。で、なぜ俺がこんなところに来たのかというと、新しい式紙の為の御札をもらいに来たのだ。今後弾幕ごっこを挑まれることもあるかもしれない。そのためにもなるべく多めに持っていたいのだ。

 

 

 

「まあ、それはまた話すとしていつものくれよ。数は…百は欲しいかな頼むよ」

 

 

 

 『え……。何この間補充したばかりじゃろ、百とか…さすがに妾の在庫でも…』

 

 

 

 「なんだ…もしかしてないのか?」

 

 

 

 申し訳なさそうにうつむく冬摩、もしかして在庫がないとかそういうことなのか?いやきっとあるはずそうやって俺を騙すことなんて今までにも何回かあった。例えば、千秋が作ってくれたお菓子を隠して探させたのに結局お菓子は隠したのではなく冬摩が居間で食べていたというその時の俺と姉さんの怒りの心は今でも忘れない。

 

 しばらく黙って疑いのまなざしを向けているとやがてあきらめ観念したのか冬摩は肩をすくめた。

 

 

 

 『冗談じゃよ、百程度ならいつでも用意しているわ。何なら念をもって五百持って行くか?』

 

 

 

 にやにやと笑みを浮かべ余裕をかましている、正直うざい、とてもうざい。本気と書いてマジとよんで殴りたいこの笑顔。多分殴れないだろうけども…。

 

 ならばいいだろうあえて千頂いて行こうじゃないか。

 

 

 

 「なら、千枚でいいぞ、いや千枚くださいお願いします。かの蘆屋道満ともあろう術師がもしかして千枚の御札程度用意できないとでも?」

 

 

 

 軽い挑発をかましたら見事に釣れたようだ。一瞬固まったかと思うとプルプルと震えだして顔を真っ赤にして冬摩は『ふ、ふふ…この蘆屋道満に不可能はない!!!いいだろう千枚でも万枚でも持って行くがいいわ!!』そういうと同時に俺に向かって御札の束を投げつけてくる。

 

 

 

 それを、軽くかわしつつ必要な数だけ回収していく。五分くらいだろうか、大きく肩を揺らしながら顔を赤くしている冬摩がそこにいた。今回は勝った、その事実が自身に高揚感を与える。

 

 

 

「じゃあ、俺行くから。あとは自分でどうにかしていってくれよ先生」

 

 

 

『…っ!とっとと失せやがれクソがきーーーー!!!』

 

 

 

 冬摩の怒声を背に札が散乱した部屋から出ていく。部屋の外にはまるでこうなることを理解していたのか千秋がいた。その手には冬馬の好きなコーラが注がれているグラスがある。もう片方には部屋に散らかった札を片付けるための道具を持って。

 

 

 

「千秋…すまないな…」

 

 

 

『そうおっしゃるなら冬摩を怒らせないで下さい。なだめるのにも一苦労なのですから』

 

 

 

「ははは。それは無理」

 

 

 

 千秋の溜息が聞こえるが無視だ無視、あれは一種のコミュニケーション(俺がそう思っているだけ)だからな。まあ、ほんとに嫌われたら部屋には入れないし、なんだかんだ言って楽しんでくれているのだろう。さあ、慧音も待っているから早くいかないと。

 

 

 

 蒼矢が出かけたあと、四季亭では壮年の燕尾服の男性が緋色の髪の少女をしばらくなだめるのに時間がかかりその男性が落ち着けたのは昼がすぎた頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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【霊符】博麗の巫女さん

 (四季亭)からでて急いで慧音の下えと向かう、冬摩の所で時間をかけすぎたから少し急ぐ。え?移動手段?地べたを猛スピードで走ってますが何か?普通に飛ぶより走る方が早いのでそうしているだけだ。

 

 そもそも、人間よりの今は飛ぶことになれない…というか苦手だ。いまいちイメージできないからなのか明らかに走る方が早くなってしまった。戦闘は問題はないのだが長距離移動では不便だから便利な方を優先した。

 

 

 

 

 

 体力に関してはこの程度の距離なら問題ない範囲で移動が出来る。なんてことを考えながら走っていると人里が見えてきた。人里の門を潜り急いで慧音のいる寺子屋へと向かう。

 

 

 

 

 

 寺子屋の前まで来る頃には速度を落とし呼吸を一応整えておく。まだ外には慧音はいないようでしばらく空でも眺めて時間を潰す。雲を眺めながら数を数えたり、時たま上空を通る黒い影(天狗だと思われる)を眺めて待っていると寺子屋から慧音が出てきた。

 

 

 

 

 

『遅くなってすまないな、少し仕事があってな時間がかかってしまった』

 

 

 

 

 

 申し訳なさそうに謝る慧音…俺としては別にそのくらい気にしていないのだがむしろ謝るのはこちらだろう…それなのに慧音に謝られるのはなんとなくむしろこちらが申し訳なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 「いいや、いいんだこっちが無理を言ってしまったから。こちらこそすまない慧音…」

 

 

 

 

 

『蒼矢は気にすることは無い…これは私がやりたくてやっていることなのだからな感謝こそされても謝られる謂れはないよ。さあ、行こうか…』

 

 

 

 

 

 そう言うと慧音は人里の中心に向かって歩き出す。俺は慌ててその後を追う。その様子が面白かったのか慧音は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 慧音に連れられて人里の様々な所を回った、貸本屋や人里でも一二を争う甘味処、他にも生活をしていく上で必要そうなものを売っている店など、昼が過ぎて昼食をちょっとしたお店で食べてそこの店で慧音といた所をお店の店員さんに茶化される等とあったが得るものは多かった。

 

 今度千秋にも教えて買い物に来るのもありだと考えていると八百屋の所に赤い巫女服の少女が居た。

 

 

 

 

 

 その少女は何やら八百屋の店主に対して値切りを行っているようだ、しかし傍から見たそれは値切りというよりも脅しという方が正しいようだ。するとこちらの視線に気づいたのかこちらを振り向く、しかしすぐに興味を失った様で店主に対して値切りという名の脅しを行い続ける。

 

 

 

 

 

 慧音は俺が八百屋の所に視線を向けているのに気がつくと、そちらに視線を向け少女が店主に対して値切り(脅し)をしているのを目にすると大きな溜め息を吐き店主と少女の元へと向かう。その際に俺はここで待っていてくれと言われたがなんとなく気になったので慧音の後をついていく。

 

 

 

 

 

『おい、あまり店主を虐めてやるな、それにこの間も値切りと称してほぼ無料で八百屋の野菜を持っていっただろう…それはどうしたんだ?まさかあの量を食べきるにはまだ早いだろう?レイム』

 

 

 

 

 

 レイムと呼ばれた少女は慧音の方を振り向くと明らかに嫌そうな顔をして慧音の疑問に対して答える。

 

 

 

『ココ最近、宴会ばかりで家の食料が枯渇気味なのよ…アイツら食うだけ食ったら後片付けもしないし、勝手に人の食料漁るし…だから私はここの店主さんにお願い(脅迫)をしているのよ?』

 

 

 

 

 

 はぁ、と慧音の溜め息…それに対してレイムと呼ばれた少女は特に気に求める様子もなく店主に対して値切りを続ける。

 

 

 

 

 

『ねぇ?いいでしょう店主さん?この間ここに入り込んだ妖怪を追い払ったのは誰かしら?まさか恩人のお願いを聞けないようなひとではないでしょう?』

 

 

 

 

 

 店主さんはオロオロして対応に困っている。正直可哀想だ…ならばここは一つ助け舟をだすとするか…。

 

 

 

 

 

 「なぁ、そこの赤い巫女服の少女よ、そんなに食料に困ってるなら家の分を分けようか?幸い家にはブラックホール()が一人いるから食料は常に備蓄があるから余裕もあるし、どうだ?」

 

 

 

 

 

 俺が突如として話しかけたことに驚くもすぐに落ち着きを取り戻したのかこちらを見てから少し考える素振りを見せた。

 

 

 

 

 

『あなた、名前は?』

 

 

 

 

 

 

 

 「俺か?俺は春夏冬蒼矢だ。ココ最近こちらに越してきた者だ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

『……別に私はあなたとよろしくするつもりは無いし、食料が貰えるならそれでいいわならあなたの家に案内してちょうだい。私は博麗霊夢よ』

 

 

 

 

 

 博麗霊夢と名乗った少女は俺を急かすように外へと押しやる。しかしこのまま慧音を一人にしとくわけにも行かないし…。

 

 

 

 

 

 「慧音、すまないけど俺はこれから博麗を家に案内してくるから、今日はここまででもいいかな?ごめんな勝手を言って」

 

 

 

 

 

 そう言うと慧音は問題ないと一言いい、気おつけて帰れよと言うと人里の人混みの中へと消えていった。

 

 

 

 

 

『さあ、はやくしてよ。私は食料確保を済ませて神社で落ち着きたいの』

 

 

 

 「さいで、じゃあ行きますか…。店主さん失礼しました」

 

 

 

 

 

 そう言うと博麗と共に家を目指して一直線に飛んでいった。

 

 残された店主は呆然としばらく立ち尽くしていた、立ち直ったのは客が来てからしばらくしてからのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼矢君は基本初対面の方は苗字呼びになります。
ある程度仲良くなっても基本的に苗字呼びで名前で読んで欲しいと言われたら変えたりしています。霊夢は何となくこんな感じなんじゃないかなーと思いだしました。


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【恋風】天狗と魔法使いと

  慧音と別れ家へと向かう俺と博麗は終始無言で空を飛んでいた…。別に何を話すわけでもなく、また話す必要もないと思われているのか、それとも口下手なのかはわからないが博麗は無言で飛んでいる。

 

 

 俺はと言えば、何故か博麗と同じ…かはわからないが少なくとも特に話そうとは思わず無言を貫いている。因みに、飛んでいると妖精やら妖怪やらがたくさんよってくるのだが、それを片っ端から博麗が弾幕で撃ち落としている。弾幕ごっこはとても強い部類にはいるのだろう。

 

 

 今の俺には空中でそこまで器用な動きはできないがまあ、練習すればいつかは上手くなるだろう。寿命(時間)はたくさんあるのだから。

 

 

 そうして飛んでいると家が見えてきて、家の付近に何やら白黒の魔法使い…と思われる人物と、あれは天狗というのだろうか、それらしい人物と二人が家に張ってある結界の前で立ち往生しているのがわかる。

 

 

 それと同時に博麗からため息が聞こえた気がしたが、きっと気の所為なのだろう。ある程度近づくと向こうも気がついたようでこちらによってくる。多分博麗の知り合いなのだろう、霊夢ーと手を振りながら近づいてきている。

 

 一人は全体的に白と黒のカラーリングのいかにも魔法使いが着そうな服にこれまた魔法使いの特徴でもある黒のとんがり帽子をかぶっている。髪型は、ウェーブのかかった、金髪のロングヘアーの少女が箒に乗っている。

 

 

 

 もう一人の少女は、黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ。赤い靴は底が天狗の下駄のように高くなっている。

 瞳の色は赤で、髪型は黒髪のセミロング。頭には赤い山伏風の帽子(頭襟)をかぶっている。天狗と思われるのはこちらの方だ。

 

 

 しかし天狗の方は何やらカメラを取り出ししきりにこちらを撮ってくる。何がしたいのだろうか…。そして、第一声を放ったのは白黒の魔法使いと思われる少女だった。

 

 

『いやー霊夢久しぶりだな、いつもは出不精のお前がこんなところにいるなんて珍しいじゃないか。その後の男は誰だ?もしかして外来人か?いやでも外来人は飛べないか…』

 

 

 「マリサあなたが言う久しぶりとはつい昨日あったばかりの相手に言うことなのかしら、それに出不精は余計よ。私は神社(あそこ)で満足しているのだから。彼は外来人よ、そして私は彼の家から食材を分けてもらうのよ、何処かの誰かさん達が毎回毎回宴会をするものだから」

 

 

 するとマリサと呼ばれた少女は、納得したようでしきりに首肯を繰り返している。しかし、博麗は出不精なのか…神社で満足…俺なら外に出たがるがそういうのもいるものか、いや出不精という所は冬摩と似ているのかもしれないな。そして天狗と思われる少女が続いて博麗にではなく俺に対して質問をした。

 

 

『あややーどうやら天は私を見捨ててなかったようですね。はじめまして私伝統の幻想ブン屋こと清く正しい射命丸文と申します。早速ですけど取材…させてもらってもいいですかね?』

 

 

 「取材?いやそんな大層な人間(半妖)ではないから取材はお断りするよ」

 

 

『ふむふむ…性格は幻想郷にはなかなかいない部類の方ですか…なるほど…で、人里の慧音さんとは一体どういった関係で?』

 

 

 驚愕…と共に射命丸への警戒心を一段階あげた、慧音とは知り合ってまだ二日しかたっていない。なのに俺と彼女との関係を聞いてくるということはどこかで見ていたということ…少なくとも俺が人里に入った頃から見ていたのだろう。

 

 

 「………何のことかな、それに取材は受けないと言ったはずだよ。それにこれから博麗に家の食材をわけなければならないから何を言っても無理だよ」

 

『でしたら!ぜひ私もつれて「断る」即答ですか…というか最後まで言わせてくださいよ』

 

 ぶーぶーと文句を言っている射命丸はほおって置いてマリサと呼ばれた少女に視線を向けここに来た理由と目的を聞く、内容によっては家にあげるのもやぶさかではないし。多分こっちの天狗よりかはましだと思いたい。

 

 

 「マリサ…だったかな君はどうしてここに?何か目的でもあるの?」

 

 

『ああ、自己紹介がまだだったな普通の魔法使いの霧雨魔理沙さんだぜよろしくな。どうしてと言われてもな適当に飛んでいたらそこの天狗が居て面白そうだから一緒に行動していたというわけだ。目的…特にないがお前の家に魔道書とかあれば(死ぬまで)借りていきたいぜ』

 

 

 「そうか、魔理沙よろしく。俺は春夏冬蒼矢だ、魔道書はあるかはわからないがなんなら家を見ていくか?」

 

 

『いいのか?』

 

 

 「ああ、そこの天狗を連れていくよりはマシだと思ったからな、それに(ある程度の期間)借りていく程度なら問題はないかなと思ったからな」

 

 

 

 すると、魔理沙は言質をとったと言わんばかりの勢いで俺に迫り早く家に行こうと急かしてくる。きっと妹とかいたらこんな感じなのだろうなと思いつつ博麗もついて来るように促して家へと向かう。

 

 

 

 

 

 家の前まで来て後ろからついてきている二人に札を取り出し手渡す。魔理沙は疑問なのか頭の上に?マークを浮かべているような気がする、

 博麗は特に疑問は無いようでで早くしろと言わんばかりにこちらを見てくる。

 

 

 

 「魔理沙それはな、家に張ってある結界を通れるようにするための札なんだよ、だからポケットか何処かにでも突っ込んで置いてくれ」

 

 

 なるほどなーと言うと自身のポケットに札を突っ込んだ、博麗も同じように巫女服のポケットに札をしまった。端の方にいる天狗…基射命丸の分も用意してそこら辺に落としておく。きっと勝手に入って千秋あたりから手痛いお仕置きをくらうことだろう。

 

 

 「さあ、行こうか」

 

 

 そう言って家の門をくぐる。魔理沙は門をくぐってからキョロキョロと周囲を見回している。博麗は特に興味がないのか視線を周囲に移すことは無い。

 

 

 

 少し進んで玄関付近まで来ると千秋がどこからともなく現れて一礼して挨拶をする。まるでここに二人が来るのが分かっていたようだ。使い魔でも使って見ていたのだろうか…。

 

 

『博麗様に霧雨様ですね、博麗様の分の食材は既にご用意しております。案内はこちらのものにさせますのでどうぞ、霧雨様は少々お待ちください』

 

 

 そう言うと千秋は使い魔の小鬼を呼び出し博麗の案内をさせる。俺は魔理沙と共に客室に向かう。そこでも魔理沙はキョロキョロと周囲を見ていた。

 

 

 客室でしばらく待っているとボロボロになった射命丸を片手に千秋がやってきて、ポイッという音が聞こえそうな感じで射命丸を床にほおり投げた。どうやら奥の方へと行ったようだ、家には家宝…春夏冬の家の初代とも言われる人物が使っていた刀が眠っている。それを使えるのは当主のみで俺でも見たことは無い。噂では、初代は刀の中に眠っているとか言われているが実際どうなのかはわからない。

 

 

 

 あそこの警備はとても厳重で千秋の能力と冬摩の結界術で守護されている。とてもじゃないが突破できない。まあ、妖怪の賢者あたりならできる気がするが、それほど厳重なのだ。天狗一人では突破すらできず千秋に見つかり仕置きをされる。

 

 

 

 魔理沙は何事かと驚いているが、千秋はそれを流し魔理沙の目当てである、魔術書を持っているであろう可能性のある冬摩の元へと案内する。俺は射命丸が起きるのを待つと魔理沙に言うと千秋と共に冬摩の元へと向かって行った。

 

 

 

 「起きているのだろ、そんな寝た振りなんかするなよな」

 

 

 そう言うと観念したのか射命丸は身体を起こし、たはは。と笑う。魔理沙は気づくことは無かったがこいつは始めから気がついていた。千秋もそれに気づいていたしそれをあえてほおって置いている気がした。

 

 

『流石ですね、いつからです?』

 

 

 「そんなの最初からだよ。で、何のようだよわざわざ千秋に捕まって回りくどい方法で俺と話すつもりなのか?あんたなら捕まらないように調べることはできたはずだし」

 

 

『鋭いですねぇ、でしたら!取材…受けてくれますよね?』

 

 

 

 先程とは違う、永きを生きた妖怪を思わせる雰囲気を纏い一切の断りを言わせないように射命丸は言ってきた。断る(たつ)のは得意だ、だけどここで断っては行けない気がして、了承をしようとしたところに介入者が現れた。

 

 

 

『そうや〜なさけないわねぇ〜その程度断ら(断ち斬ら)ないでどうするのよ?最も彼女は少なくとも千年は生きる大妖怪だから呑まれても仕方ないけども』

 

 その聞きなれた声を聞いたと同時に意識が戻る。確実に俺は呑まれていた、射命丸(大妖怪)の雰囲気に。それを止めたのは姉さんだった。射命丸の顔には驚愕を浮かべている、年齢を当てられたからだろうか…。

 

 

 「姉さん…どうしてここに…いつもなら寝てるか寝てるか寝てるか何か食べてるか、しかしてないのに…」

 

 

『貴方…ずいぶん余裕あったのね、姉に対してそんなこと言ってられるようなら』

 

 

 「でも、事実だろう?」

 

 

『それは!そうだけど…もう、蒼矢のせいで折角の登場が台無しじゃない』

 

 

 先程までのシリアスな雰囲気はどこの吹く風、姉さんもいつもの駄姉さんだ。射命丸も馬鹿らしくなったのか笑い始めた。

 

 

『なるほど、なるほど、わかりました。貴方がたがどういった目的でここ(幻想郷)に来たのかはこの際どうでもいいです。上には適当に報告するとしましょう。第一私は新聞記者なので、記事にならないことは聞かない性分なんですよ』

 

 

 射命丸は何やら納得がいったのか警戒を解いた。しかし上に報告ってやっぱり天狗が差し向けたものだったのか…しかし、何を納得したのかはきちんとOHANASIしなくてはならないようだ。主に姉さんがだったが。

 博麗達が戻ってくるまでOHANASIはずっと続いた。

 

 

 

 

 



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【スペル】対普通の魔法使い

 射命丸とOHANASIをしていると、博麗が戻ってきてその後続くように千秋と魔理沙が戻ってきた。博麗は俺にお礼を言ってきた、その後姉さんに気づき挨拶をしていた。魔理沙はというと、冬摩の所で魔術書を借りられたのかほくほく顔だ。

 

 

『そういえば蒼矢、お前強いんだってな。冬摩が言ってたぜ、戦闘センスはかなりあるってな。それに聞いたぞ慧音と弾幕ごっこの練習をしたそうじゃないか。なあ〜私ともしようぜ〜』

 

 

 

 一体何処からそんな話が漏れたのかはもう気にするのをやめた。この幻想郷では常識という物は無きに等しいようだ。それに冬摩め、朝の仕返しのつもりか!俺は別にそこまでして戦いたい理由でもないのにどうせそれで問い詰めたら訓練だのと言うつもりなのだろう。断ることもできたが経験を積んでおくのも悪くないと思い了承した。

 

 

 

 「ああ、いいけど家の中では無しな。やるなら外でやらないと、被害が出ても困る」

 

 

『私は困らないのぜ』

 

 

 「俺たちが困るんだよ、だからやるな外でな」

 

 

 ちぇー、と不満げな魔理沙まったく結局は戦うのだから文句などないだろうに…。博麗は帰るのだろう用意してもらった食料片手に出ていくようだ。部屋から出ていく時、思いだしたように一言残して去っていった。

 

 

『今日も宴会だろうから暇なら来るといいわ、食料のお礼というわけで訳でないけど』

 

 

「そうか、ありがとうな」

 

 射命丸はお二人の戦いを見てから帰りますねと、いいまだ居座るつもりのようだ。姉さんは…どうやら珍しく弾幕ごっこを見ていくようだ。

 

 

 ○○○○○○

 

 

 屋敷の敷地から外に出てやや開けた場所にきてお互いに戦闘準備を始める。準備と言っても大した事はしないし、せいぜい刀の調子を再度確認する程度…問題は無い。

 

 

 

 魔理沙は空中に箒にのり佇んでいる。俺としては地上戦がいいがまあそこは仕方あるまい。と、諦めつつ魔理沙と同じ位の高さまで飛翔する。

 

 

『さて、準備はできたか?剣士と戦うのは二度目だけど蒼矢の場合、前の奴よりも強いだろうから魔理沙さんは始めから本気で行かせてもらうぜ』

 

 

 「その話は興味があるけど、出来れば御手柔らかにお願いしたいものだな、正直空中戦は苦手なんでねッ!」

 

 

 

 先手を打ったのはこちら、まずは広範囲に弾幕を張り魔理沙の戦い方を見る。しかし、この程度では普通の魔法使いを満足させられないようで易々とすべて避けられてしまう。ならば!早速一枚目のスペルカード宣言、式紙を飛ばし自身の正面に結界を展開そして、そこから鳥を模した追尾性の弾幕を放つ。名前はまだ特に決めていないがとりあえず仮称になるが。

 

 

 

【式符】「彗星火鳥(すいせいかちょう)!!」

 

 

 

 炎を纏った彗星のような鳥が魔理沙を目掛けて一直線に迫っていく。流石にこれは防げないと思ったのか、スペルカード宣言を行い弾幕の相殺を狙う。

 

【儀符】『オーレリーズサン!!』

 

 自身の周りに複数の球体を作り出しそこから弾幕を放ち相殺させる。その魔理沙の姿は自身を太陽と見立て、その周りを惑星が公転しているようにも見える。その様子はとてもきれいだと思った。続け様に魔理沙はスペル宣言を行う。

 

【魔符】『スターダストレヴァリエ!!!』

 

 

 広範囲に大きな星をばらまかれる。サイズはバラバラで軌道もバラバラな弾幕たちは俺の下に迫って来る。追尾性ではないようなので、集中していれば避けられそうでもある。直撃をくらいそうなのは弾幕で相殺させ弾幕をかわしていく。スペルの硬化時間が終わり周囲にあった弾幕は消える。

 

 

『なかなかやるじゃないか、だけどこれならどうだ!』

 

 

 

【恋符】『マスター…スパーク!!!』

 

 

 魔理沙は箒の上に立つと同時に何やら両手で構えて超極太のレーザーを撃ちだす。まっすぐに俺の下へと向かってくる。さすがにこれは避けることはできないだろう。なら最高の一撃で迎え討つのみ。そう覚悟を決め刀を抜く。

 俺に出来ることはただ目の前の物を断ち斬るのみ…。

 

 

【断符】「断月(だんげつ)!!」

 

 

 

 愛刀をただ横に振るうその動作は一切の無駄なく行われた。その斬撃のは妖力を帯び三日月のような形をしておりレーザーと正面からぶつかる。ただそれだけで周囲に爆風を起こし、斬撃とレーザーはせめぎあっている。すでに斬撃を放った者の手からは離れているはずなのだが斬撃は勢いを衰えるどころか次第に増してきている。レーザーを放った少女の顔からは焦り、驚愕が浮かんでいる。自身のレーザーに対して自信を持っているからだろうか、それともただ刀を横に振るっただけ(・・・・・・・・・・)でこれほどの威力を出すことに驚いているからなのか、それがわかるのは彼女自身だけだろう。

 

 

 

 

 しかし、もし後者ならばそれは彼にとっては何よりの喜びだろう。彼…彼らにとって人間の畏れ(自身に向けられた感情)とはなによりも最高の褒美になるのだから。それが、恐怖か、親愛か、憎悪か、尊敬か、悲しみか、そんなものはとても小さなことで誰も気には留めない。

 

 

 

 

 せめぎあっていた弾幕は大きな爆発を起こし先ほどとはけた違いの爆風を周囲にまき散らした。そしてその勝者はレーザーだった。レーザーは斬撃という防波堤を失い荒れ狂う波がごとく彼へと迫る。それはレーザーを放った少女の性格を表しているようで一直線に彼へと向かっていく。

 彼はもうすでに避けることはあきらめているようで、その場にたたずみそしてレーザーに飲み込まれた。

 

 

 

 

 



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【終符】幻想の始まり

第一章の終わりになります。次話にとある方達の視点話を挟んだ後第二章に入る予定です。


 目が覚めたら見知らぬ天井…なんてことはなくよく知る我が家の天井が見えた。身体を起こし記憶を整理する。俺は霧雨魔理沙と弾幕ごっこをし、そして負けた…。そこは覚えている、しかしわからないことがある。何故あの時よけずに攻撃をくらってしまったのだろう。さすがに完全には避けることはできなくとも被害を少なくすることはできたはずなのに…。(人間)には分からない事なのだろうか、あの時の俺は断月を放ったあの瞬間は妖怪であった。

 

 

 全くわからない、でも微かに自身の中に残る妖怪としての幸福、それは確かに刻みこまれていた。畏れられる喜びこれがわかるときは来るのだろうか、それは俺には分からないままだ。

 

 

『蒼矢様、目が覚めたのですね』

 

 

 その声のする方を見ると千秋が部屋の入口に立っていた。今が何時なのかはわからないがきっとまた心配をかけて島たのだろう、その程度はいやでもわかる。何年も過ごしていれば自然とわかってくるものだ。

 

「ああ、心配をかけてしまってすまないな、今は何時なんだ?」

 

 

『もう夜です、あれから三時間ほど眠っておられましたよ。颯華様は博麗神社に行ってしまいましたよ、蒼矢を任せたわよ、と一言残し霧雨様たちと共に』

 

 

 

 そうか、と答えておく。千秋は蒼矢様も行ってきてはどうですか?というなら千秋もというと屋敷を守るものがいなくなってしまいます、なので私は留守番をしていますよ。というがなら留守番は冬摩にでもやらせればいいという。少し困ったような顔をしたが俺が続けてこれは俺を貶めた冬摩への罰だというと千秋は苦笑を浮かべ、でしたら仕方ありませんねという。

 

 

 

 沈黙が月明りのさす部屋に漂う。外はやけに静かだ、元々現代とは違い静かなところであるから静かなのは間違いないがそれでもいつもより静かであるのは間違いないだろう。千秋は…千秋ならわかるだろうか俺が感じた妖怪としての感情を、わかるのだろうか。

 

 

 

「なあ、千秋…千秋は妖怪としての喜びがなんだかわかるか?」

 

 

 

 千秋は少し困った様になったがそうですね、と考えるそぶりを見せて、言葉をつづけた。

 

 

『私にはそんなものを味わう時間はあまりありませんでしたから、蒼矢様の望むような答えは得られないかもしれませんが、人から…恐れられたときはとても生きているなと感じられたものです。妖怪は恐れられることが存在意義ともいえます、人からの感情を感じることで何よりも幸福に感じることが出来ます。向けられた感情は何であれとにかく認識してもらえたと感じられたんですよね』

 

 

 

 千秋の言っていることは妖怪を表しているなと感じた。人からの感情…あの時確かに魔理沙からの向けられた感情それを感じて確かにうれしいと感じた、生きていると感じられた。そういっても差支えはないだろう。だからそのあと気になっているもう一つの疑問も聞いてみる。

 

 

 

「もし、もし仮にそんな感情を向けられた人間と戦って満足のいく相手に倒されるとして、妖怪はそれをおとなしく受け入れるものなのか?」

 

 

 

『すべてがそうとは言えません。ですがそういった者がいるのもまた事実ですよ、鬼などが特に顕著でしょう?』

 

 

 確かに鬼と言われたら人間との交流(殺し合い)をよくしていた…と聞いたことあるしまさしく妖怪を表しているとも思った。だとしたら一部かもしれないが妖怪とは…人間に倒される(人間に認識される)のを喜びとしているのだろう。だから外の世界では妖怪は少ない。外の世界で妖怪が認識されにくくなったからだろう。

 私は出かける準備がありますので。といい千秋は部屋から出て行った。残されたのは俺一人。

 

 

 そろそろ出かける準備を俺もするか、若干身体のあちこちが痛むがその程度は抑え込んで布団から出る。服は寝間着になっていたのでいつも来ている外に出る様の服に着替える。

 

 

 

 玄関に行くと頬を赤く染めた姉のふらつく姿が見えた。何故ここにいるのか?どうしてふらついているのかは近づいてすぐに気づく。もしや、心配してくれたのか…なんてそんな淡いを通り越してもはや絶望とも言えるであろう期待は予想を裏切らず。きっかりと現実を突きつけた。

 

 

 

 頬を染めて、ふらついているのは酔っているからで既にだいぶ出来上がっていた。姉さんは先に宴会場である博麗神社に向かったはずなのに何故ここにいるのか…それは視界の先にある空間の裂け目のようなものが答えてくれた。姉さんはふらふらとしているが自身が今どこにいるのか気づいているのだろうか。明らかに気づいてはいないだろう、なにせ杯を片手に────魔理沙〜何処に逃げた〜わたしの飯をもってこーい!などと言っているのだから。まあまだ呂律が回っているだけましなのだろう。

 

 

 

 倒れそうになる姉さんを支え、どうも、と礼を言われる。そして数秒後俺に気がついたのか────あれれ〜?なんでそうやがここにいるの〜?と小首をかしげている。多分年頃の男であれば少なからず意識するであろうその仕草は弟である俺からしたら少し不安に思う。普段は…いや、普段もだらしがなくぐーたら姫の姉さんであるがやる時はしっかりしてくれるし心配はしていない…しかし、こういった時などふとした時に限って本当に姉なのだろうかと疑いかける時もある。

 

 

 酒の所為にしてしまえばそれっきりだから気にはしないだが日常からたまに不安になる時がある。本人は気がついていないものののそのギャップは激しい。二重人格ではないか?と疑う事もある。とりあえず姉さんが家に帰ってきた理由を聞く。多分何か忘れ物だろうと推測するも酔っている姉さんの考えていることは聞かない限りわからない。

 

 

 「姉さんはどうしてここへ?何か忘れ物でもあったの?」

 

 

 ────忘れ物〜?とまたしても小首をかしげる姉。しばらくウンウンと唸る様にしてから思い出したのかいきなり顔を上げ言葉を続けた。

 

 

『そうそう、そうやをね迎えに来たの〜』

 

 

 ────全くお姉ちゃんを心配させるなんてダメな弟ね〜。早く宴会場に戻って春夏冬の一族に相応しい風格を持ってして幻想郷を制服するのよーー。とちょっと訳の分からない理由だが俺を心配していてくれたのは本当の様で穏やかな眼差しを俺に向けてくる。

 

 

 「わかったよ姉さん。今千秋も来るからそうしたら宴会場に戻ろう」

 

 

 

 

 幻想郷(ここ)に来る前はまた、姉さんの訳の分からない遊びに付き合わされるのかと思ったりもしていたけど、たった数日だけどあちら(現代)よりは楽しく過ごせそうな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで一章幻想の始まりが終わり、二章へと移ります。二章はあの人()の異変となります。春夏冬がいることで少し原作の異変とは違いが出てきます。


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【閑話】人里の守護者と八雲の式

 それぞれの視点からの春夏冬についての印象を伝えるお話し。


 私…こと上白沢慧音は幻想郷という忘れ去られた者達の楽園で人里の寺子屋の教師をしている。また、里の守護者とも呼ばれているが私はただの人間…とは少し違い半獣半人というなんともまあ中途半端な存在だ。せいぜい、女性としては嬉しいが容姿に老いという変化が訪れない…ことと非常に癪だが人に教えるというのが少し…ほんの少し下手なだけだ。そうだったらそうだ。

 

 

 

 ココ最近は異変が続いているものの人里はいつもの様に穏やかな日常を過ごしている。スペルカードルール…これが広まったからだろうか…ある程度の知性ある妖怪達はこれを重んじて…いるとは思いたいが現状ルールは守られている、為妖怪からの被害は以前よりも少なくはなってきている。だからといっても知性のあまり無い妖怪達の被害は変わらない。

 

 

 

 いつもの様に寺子屋で授業をしていたらそいつは現れた。昼休みの時間だろうか子供達が何やら外で騒いでいるのでそろそろ授業だと注意しに行ったらそいつはそこで寝転がっていた。冥界にいるという庭師と似たような色の白髪で体つきから男であると思われるも変装さえしてしまえば女と言われても頷けるであろう、その容姿。明らかに人間のものでは無いそれは慧音の警戒レベルを一段上げさせた。

 

 

 

 幸い寝ているようなので慧音がここに来るまで何も無かったが起きてから何かあってはとても困る。人型ではあるので妖怪だとしてもそうでなくともそれに類するものならば話は通じるだろう。そう思いつつ様子を伺う。

 

 

 

 

 そいつは目が覚めたようで身体を起こす。子供達には離れる様にいったのでもし仮に襲おうとしても私が阻める様にしてある。私は起きたその人物に何故ここにいるのかと聞いた。

 

 

 

 今でも思うがその時の私はいつもの悪い癖で早とちりをしてしまい、勘違いしたまま、その人物を子供を襲う危険な妖怪として退治とまでは行かなくても時間稼ぎ位はと弾幕で仕掛けた。結果は逆に返り討ちにされてしまったが、本人は気にしてはいないといった。

 

 

 春夏冬(あきなし)という稀有な苗字を持ち最近幻想郷入りしたという半妖。春夏冬蒼矢との出会いはこんなところだ。はじめは勘違いしてはいたものの弾幕ごっこの練習に付き合っている内に悪い人ではないというのに気づくのは早かった。

 

 

 

 今日とて、勘違いのお詫びということで里の案内をするついでに練習のお礼をしてもらったが優しい性格なのだろう、私と二人でいたところをからかってきた里の人達のことを上手くやり過ごしてしまうのだから大したものだと思う。

 

 

 

 そういった意味ではないが個人的にも好ましく思うので彼とは今後も永い付き合いになるのだろうとなんとなくそんな気がした。

 

 

 

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 私の名前は八雲藍(やくもらん)…幻想郷の創設者の一人とされ、管理者の八雲紫様(やくもゆかり)の式である。妖怪の賢者と称される紫様は私の憧れであり目指すべき場所でもある。最近は博麗の巫女…博麗霊夢にご執心の様で随分と可愛がっておられるもその殆どが空回りに見えてしまうのは私だけなのだろうか…。

 

 

 普段紫様は私に幻想郷の管理を殆ど任せ自身は幻想郷の何処かにある家でぐうたらしているか、博麗霊夢の元へと行って遊んでくるだけだろう。本当にこの御方は…と何度も何度も自身に問いかけ悩んだ時期もあった。でも、最近は任されているというのは信頼されているのだろうと、そう思う事にして諦めた…。

 

 

 春雪異変と呼ばれる異変も終わり、一息ついた頃それは幻想郷に侵入してきた。博麗大結界を切り裂き擬似的なスキマを作り出し屋敷ごと幻想入りしてきたそれらを見過ごす訳にはいかず対処しようとした所。紫様は単身その屋敷へと乗り込んで行ってしまわれた。帰ってきた紫様はご無事で問題は無かったようだった。式でありながら不遜ではあるが心配してしまった。

 

 

 

 紫様は私に、その者達へ幻想郷のルールを教えに行けと命じられると何処かへ行ってしまわれた。正直紫様の手を煩わせた者達になど会いたくはないが命じられた事はこなさなければならないので直ぐに説明にいった。一通りの説明をすると私はさっさと屋敷から出る、やはり私はあの家の者達を嫌っているようだ。特に命じられ無かったが私はその者達…春夏冬家の者達の監視を行った。

 

 

 

 しかし、特に何を起こそうとするでもなく積極的に動いていたのは春夏冬の弟であった。他のものと言えば従者のような恐らく鬼はいつもと変わらぬようになのか屋敷の管理をしていたり、ぐうたらしている当主がいたり、部屋にこもりっきりの少女がいたり。最も今はまだこちらに来て時間もたっていないだから大人しくしているのは当たり前かと思い出す。

 

 

 

 暫くは警戒を続け様子を見るが怪しい行動にでたらすぐにでも対処できるようにしておく。紫様が苦労してやっとここまで来たのだそれを壊そう等と不埒な考えの持つものなら直ぐに対処しなければ。

 私はそんな使命感…の様なものを抱き今日も結界の様子など幻想郷での出来事の観察と春夏冬の監視を続けた。

 

 

 

 

 




次回から二章に入ります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。


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第二章 幻想萃夢想
【始苻】人形の魔法使い


 幻想郷…忘れ去られた者達の楽園と呼ばれる理想郷に春夏冬という銘の者達が移住してきて数週間、幻想郷の各勢力は各々の判断の元春夏冬に接触を計っていた。

 

 

 紅い吸血鬼の勢力は春夏冬の料理長と気のあった自身の特別なメイド長に関わりを持たせ半ば放置している。吸血鬼の当主は今は博麗の巫女にご執心の様で判断を後回しにしているようだ。

 妖怪の山の天狗は特に関わろうとはせずに静観を決め込んでいる。最も烏天狗の一人は自身の新聞の為にと断られてもめげずに取材をしている。

 冥界の亡霊姫とその半人前従者は主に亡霊姫が当主と関わりを持とうとしているようだ。

 

 

 

 

 

 

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 幻想郷の境目ともされる場所にある博麗神社…ここでは最近三日おきに宴会が行われていた。そこにいる面々はとても楽しそうに宴会を楽しんでいるものの一部の者達は既にこの状況が異変であると見抜いている。見抜いた上で静観しているのは、結局のところ博麗の巫女が動かない…この一言に尽きるだろう。

 

 

 幻想郷のバランサーでもある博麗の巫女は異変が起きたら異変を解決すべく動く。つまり逆に捉えれば巫女が動かなければ異変であっても異変ではないのだ。巫女が動くのは幻想郷に危険が及ぶ可能性があるからであり、動かない異変など異変であっても程度が違う。よって一部のものが気づきつつもそれを放置しているのである。

 

 巫女には一切伝えずに…伝えれば巫女はなんだかんだ言いながらも最終的には動くだろう。それではこの楽しい宴会に終わりが来てしまう…それは嫌だ。というのが気がついている者達の中の大体の意見であった。誰でも祭りは楽しみたいのであえて放置しているのだからなかなかどうして巫女からしたら迷惑だろう。

 そんな自由気ままな幻想郷の住民は今日も気ままに宴会をする。

 

 

 

 

 

 

 そんな宴会の席に幻想郷の新参者の半妖の青年は一人月見酒をしていた。(現代)ではまだ飲酒してはいけないはずなのだが此処(幻想郷)では気にするものはあまりいない、すべて自己管理しなくてはならない…というのは言い過ぎだろうが自身の行動に責任が付いてくる。最も見た目がまだ十代後半だとしても過ごしている時はそこら辺の人間の倍くらいだろう。彼と彼の姉は彼の能力を利用して時間を断った空間でかなりの期間修練をしていた。どこかのバトルマニアな戦闘民族あたりが聞けばさぞうらやましがるだろう、なにせその中では肉体的な老いは来ないのだから。

 

 

 

 姉さんは宴会の中心で知り合ったばかりの(主に人外)と共に宴会を最も楽しんでいる。元々姉さんは人づきあいがうまかった、大体の人間とは初対面でもすぐに仲良くなり遊び回っていた。対照的に俺は人見知りが激しく友達も数が少なかった。別に友達が少ないことに対しての嫉妬とかはないのできにはしていない。

 そうしていると宴会の中心から俺とは別に離れたところに金髪のまるで人形のような少女が一人外れて宴会を眺めていた。その様子がなんだか気になりその少女の元へと向かった。近づけばさらに人形のように見えてしまいとても整った容姿をしていることがうかがえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その容姿は金髪のショートで赤のヘアバンドのようなリボンをしている。瞳の色はまるでガラスの水晶を思わせる深みのある青色で、服装は青のワンピースのようなノースリーブにロングスカートを着ている。その方には白を基調としたケープを羽織っていた。まるで人形のようできっと少女が身動きを微塵もしなかったら本当に人形と見間違えるだろう。

 

 

 

「君は混ざらないの?」

 

 

「私は別に…あなたこそどうなのよ。あなたのお姉さんは混ざっているわよ」

 

 

「…俺は…いいんだ、空気が俺には合わないから」

 

 

「そう…ならなぜ私にかまうのかしら?」

 

 

「それは…」

 

 

 

 言葉に詰まる…。何故と聞かれてもなんとなく気になったからであって特に何がどうと言う事はない。でも彼女はそんな答えは求めていないような気がした。あの日魔理沙に負けたあの日からどことなく自身の思考に(もや)がかかっていた。だからか人里の慧音にこの間の事を改めて謝ろうとした時も心配されてしまった。こんな時、俺の数少ない友達…親友と呼べる彼奴がいたなら彼奴はきっと思いっきり励ますなり何なりとしてくれただろう。こんなことを答えてくれるのは家にはいない。姉さんなんて持ってのほかだし、あいつらはきっと立場を考えて深くは答えてはくれない。

 …だからだろうか彼女なら答えてくれるのではないのかと、淡い希望のような勘が働いた。

 

 

 

 

 適当にごまかしてもいいことはないので思っていた通りの事を素直に告げる。もちろん相手からしたらそんな思いははた迷惑で答える義理もない。だから断られても、怒られても仕方ないと覚悟していた。しかし、それは杞憂に終わる。

 そのガラスの水晶を思わせる深い青色の瞳に俺はとらえられる。その瞳から感情をうかがうことはできず、今彼女が何を考えているのか俺には分からない。

 しばらく見つめられていると、彼女は突如として笑い始めた。その笑い方さえも上品でやはり人形のような印象を与える。

 

 

 

「ふふ…あなた、面白いのね。此処(幻想郷)でそんな考えをしている人は少ないというのに、ふふ。」

 

 

「ひとついいことを教えてあげるわ。ここではそんなに悩むくらいなら簡単な解決方法があるわ」

 

 

「それは、」

 

 

「焦らないの、第一名前も知らないような人には簡単には教えられないわ」

 

 

 

 そういわれて彼女に自身のな()を伝えていないことに気が付く。

 

 

「春夏冬蒼矢だ。宜しく」

 

 

 

「アリス・マーガトロイドよ、アリスでいいわ。宜しくね蒼矢」

 

 

「さて、その解決方法だけど…それを教える前に私と弾幕ごっこをしてくれないかしら?そうしたら教えてあげるわよ?」

 

 

 

 

 どうする?と聞いてくる彼女…基アリスは自身の周囲に人形を漂わせいつでも弾幕ごっこができるようにと準備している。ここで受けなければアリスはきっと答えてはくれないだろう。だとしたら答えるべきだしここで答えなかったら先に進むこともできない。アリスの誘いに答える様に俺は少し距離を取り刀を構えた。

 

 

 

 

 

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 宴会会場である博麗神社の上空で二つの人影が弾幕ごっこを始めた。一人は人形を操る少女で周囲に漂い弾幕を展開する人形たちはとてもじゃないが人形だとは思えないほどの精巧さだ。最も彼女の生い立ちを少なからずしる私からしたら笑い話だ。人形の少女(神の玩具)人形(完全な人)を作ることを目指して奮闘しているとはこれほどおかしな話はないだろう…。人形少女もなかなか面白いがこちらの少年…青年もまたなんとも笑わせてくれる境遇なのだから面白い。

 

 

 

 ()というまじない(呪い)に捕らわれたなんとも愚かな一族だ。姉の方は姉の方で気になるけどあれはなんというか今少女と戦っているやつ(青年)とは中身が違うというのだろうか、私の能力があるからこそ分かる。そういうレベルだ、多分私の知ってる中でこのことに気づけるのはごくわずかだろう。例えばあのうさん臭いスキマ妖怪とかスキマ妖怪とかスキマ妖怪とか…。

 

 

 

 

 にしてもいい戦いをする。私も混ざりたくなっちゃいそうだよ………。やっぱりいいねぇ、人間ってのは。最もどちらもその半端者だけどもイイ、最高だよ。私の中に流れる鬼としての血が古来より続いた戦い(死合い)を求めた。もうこうなったらただただ眺めているだけなんて我慢がならない。身体のいたるところが疼いて今にも暴れ出しそうだ。

 

 

 

 そうだ!どうせ殺るなら最高の舞台を整えようじゃあないか!人と妖の宴会それを飾る最高の(生贄)。なに私の能力にかかれば簡単だ。なんたって集める()のは私の領分なのだから。

 宴会会場に潜む鬼がイレギュラーである銘の一族の出現によって【原作】と呼ばれた話からずれ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
二章突入致しました。ちょっとどころではないかも知れませんが幻想神刀想のちょっと変わった萃夢想編をお楽しみください。


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【秋符】とある鬼と料理長

 鬼……古来より妖怪の中でも人間たちの恐怖の象徴ともいえた存在、人間を襲い人間と遊ぶ(殺し合う)嘘を嫌う。妖怪の中でも人間とのかかわりがとても強いと言えるだろう。幻想郷にも鬼は存在する、正しくは今は幻想郷の中でその姿を確認しているものはほとんどいない。人間など特にそうで世代交代を重ねるうちに鬼とは伝説上存在とされた。幻想郷に古くから存在する者たち、古参の妖たちなどは例外でかつて幻想郷に鬼という種族が存在していたことを知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 伊吹萃香は鬼だ、それもただの鬼ではなくかつて妖怪の山を統治していた四人の鬼、山の四天王の一人。密と疎を操る程度の能力を持ち地上に現れた鬼。萃香は最高の宴を行うべく鬼の古くからの人間とやり合うための準備、人攫いを行おうとしていた。しかし、なぜだか人を攫うことが出来ないでいた。原因は一人の人間だ、博麗の巫女…博麗霊夢である霊夢の能力かはわからないものの何らかの影響で人間を攫えなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうすべきか悩んでいたら、とても懐かしい存在を目にした。姿はずいぶんと老いたように見えるも直感が伝えていた、懐かしい懐かしい存在。人の身にありながら鬼へと成った存在。

 

 ついつい身体の一部を実体化させて懐かしい()を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

千方(ちかた)!」

 

 

 

 

 

 そう呼ばれたかつて人間だったものは振り返り萃香をその瞳の中に捉える。その瞳は萃香がかつて見ていた瞳とは少し違い昔より穏やかになったと思うも今はどうでもいいと切り捨てる。

 

 分身としてしか今は忙しく会えないものの向こうも私に気づいてくれたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「萃香か…久しいな。それと私は千秋だ、千方ではない」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、まあいいさわかったよ。千秋は今なにをしているんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

「今はとあるお方に仕えている。そういうお前こそお遊び(・・・)は程々にしておけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 千秋はそう凄みをきかせ萃香に自身が仕える主を思い脅す。しかし萃香は飄々(ひょうひょう)とかわし軽く笑うだけだ。鬼のなかでも少し異質である萃香にこの程度の脅しでは止まらないだろう。千秋は分かっていたからか気にせず続けて何を言うつもりはない。

 

 彼は彼の主が明日の宴会為の料理を作り置きとしていくつか作り続けるだけだ。萃香はつまみ食いを試みるも千秋がそれを阻み料理に触れない。余談だが、彼の料理の腕前はこの前宴会に来ていた亡霊の姫に気に入られその従者にはうちにこないか?と誘われたほどだったという。

 

 

 

 

 

 

 

「ケチな千秋…ちょっとくらいいいじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

 

「鬼につまみ食いを許したらすぐに宴会を始めるだろう、そうしたらすぐに作ってきた料理などなくなってしまう。だからだめだ」

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇ………。それと話しを変えるんだけどさ、ちょっと相談に乗ってくれよ頼む!」

 

 

 

 

 

 

 

 千秋は少し悩むそぶりを見せやがて溜息をついてあきらめたようで、今まで動かしていた手を止め萃香に相談の内容を聞く。相談の内容は千秋が想像していた通りで萃香のお遊び(・・・)についてだった。なんでもこの前の宴会中にあった弾幕ごっこにあてられて本気で異変を起こしたくなったようで手っ取り早い話人攫いをして戦おうとしたようだが博麗霊夢の能力かはわからないが影響で人攫いを行えなかったようだ。

 

 そうなってくるとどうしたものかと解決策を求めているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 本当はこうして考えるのは得意ではないのだが古い友の願いなのだから最低限は答えようと考える。一番無難なのは今萃香が行っている異変をさらに加速化させ、霧に妖力でも込めてその妖力を高めていればいずれというかすぐにでも博麗の巫女あたりが解決に乗り出すだろう。でもそれではきっと萃香は望まない。

 

 

 

 

 

 

 

 萃香が望むのはもっと派手で己に立ち向かってくる人間達の姿だろう。ならば考えうる上で派手そうなもの……あるにはある、これを利用すれば萃香が望むお遊び(異変)が行えるだろう。千秋はこの異変で自身の主がもう少し動くようになってくれればと思いつつ萃香に考えた計画を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 アリスとの弾幕ごっこから三日が経ち今日も今日で宴会が博麗神社で開かれる。結局のところアリスは俺と弾幕ごっこをしてその後に言ったのはたった一言でそれが何を示すのかはわからない。でも、アリスとの弾幕ごっこの後からあの靄がいくらか薄れた気がするのは間違いではないだろう。

 

 アリスから言われた言葉はただ———弾幕ごっこを楽しみなさい。という果たしてそれが解決になるのかと疑ってしまうものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、一応言われたことなのでこうして適当に道すがらの妖怪や妖精に弾幕ごっこを挑み遊び続けている。なんだか違う気もしなくはないもののこうして勢いだけで今のところ無敗を守り切っている。しかし、あまりにも挑みすぎたのか見かけただけで逃げられるという事態になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 宴会が始まるのは夕方からだが今から歩いて行けばちょうど着くくらいなので歩き始める。千秋と姉さんは多分まだ家にいてこれから出発の準備をするのだろう。家のなかでこうして外にでて活動するのは俺くらいで他はみんながみんな家で一日を過ごしている。

 

 別に博麗神社までの道のりにこれといった出来事なんて起こることもなく無事に予想通りの時間にちょうど着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこではすでに宴会が始まりつつあった。魔理沙や姉さん、射命丸など飲み始めており料理も手をつけられはじめている。そのすぐ後に紅魔館と呼ばれる館に住む吸血鬼を筆頭にその従者などが参加し始めた。そうして空が完全に闇に支配されるころになると殆どが揃ったようで、各々が飲み食い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスを見かけて杯を片手に近づいていく、向こうも気が付いたようでこちらを一瞥した。なんともそっけないが特に気にはせずアリスのそばの適当なところに座る。すぐそばにいるアリスの人形上海と蓬莱が近づいてくるので何故だか頭を撫でた。特に嫌がる様子もなくおとなしく上海と蓬莱は撫でられている。

 

 

 

 

 

 

 

「なんの用かしら」

 

 

 

 

 

 

 

「別に用はないけど、なんとなくだよなんとなく」

 

 

 

 

 

 

 

 ————そう。そうつぶやくとアリスは黙って静かに酒を飲む。なんとも言えない空気が場を包みしばらく時間が過ぎていく。なにか話そうと蒼矢が声をだそうとしたその時、突如として宴会会場の上空に陰陽玉のような印が現れたと思うと博麗神社周辺を結界が覆いつくしてしまった。それと同時にさらに会場の数人の足元に印が出たかと思うと姿を次々と消していった。もちろんそこには蒼矢も含まれており一瞬にして霧の立ち込める謎の場所に連れ去られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 そこに居たのは博麗と魔理沙、確か姉さんと同じかそれ以上の胃袋を持つ亡霊の姫の従者で魂魄妖夢とかいうのと吸血鬼の従者の十六夜咲夜、アリス、そして紫色のゆったりとした服装の少女…とそして姉さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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【萃符】鬼の四天王

 謎の霧に包まれた空間に強制的に召喚され何が起きているのか確認しようとしてところで霧の奥から少女…ではなく幼女が現れた。薄い茶色のロングヘアーを先っぽのほうで一つにまとめており、真紅の瞳を持ち、その頭の左右から身長と不釣り合いに長くねじれた角が二本生えている。服装は白のノースリーブに紫のロングスカートで、頭に赤の大きなリボンをつけ、左の角にも青のリボンを巻いていて三角錐、球、立方体、の分銅を腰などから鎖で吊るしている。

 彼女の頭に生える二本の角が鬼という種族であることをうかがわせる。

 

 

 

 

「ようこそ、人間達!私の宴へぜひとも楽しんでいってくれ(死んで逝ってくれ)!」

 

 

「お前は誰だ!」

 

 

「ふっ、ふっふ。よくぞ聞いてくれた!私の名前は【〔神霊〕夢想封印!!!】うわっ!いきなりなんだい人の名乗りを最後まで言わせないとは」

 

 

「うるさいわねぇ、私は今さっきまで楽しくお酒を飲んでいたっていうのに邪魔をして、あんたがこの異変の元凶でしょ!今すぐこの変な空間から私達を返しなさい!」

 

 

 

 

 そう鬼にスペルを飛ばしなおかつ鬼を脅すというなんとも博麗らしい姿に一瞬全員が動けずにいた。さすがにあまりにも鬼が不憫だ、という本来連れ去られた側であるのにおかしな思いが博麗と鬼を除く全員が思った。最も鬼を不憫にこそ思えども今までの異変(三日おきに宴会が行われる)の首謀者と思われる為すぐさま戦闘準備だけは行っておく。

 

 

 

「まあまあ、霊夢そうあわてるなよ。別に帰してもらうのにそいつを頼る必要もないだろう?何せここにはかなりのメンツがいる。とすればだやる事と言ったらここでこいつを倒してそれから帰ればいいだろ?」

 

 

「魔理沙さん!そうは言いますけど多分相手は鬼ですよ?ここに居る皆さんの実力を疑うつもりはありません。でもそう簡単にいくでしょうか?」

 

 

「そうね、鬼程度私だけでも問題ないのだけど、どんな能力を持っているかもわからないしここもどういうところかもわからない以上うかつには動けないわよね」

 

 

 

「同感よ、魔理沙どうするにせよこの空間での事はそこの黒幕さんに聞かないと」

 

 

上から、魔理沙、魂魄妖夢、十六夜咲夜、紫の少女だ。いきなりの出来事だというのに全員すでに脱出の事まで考えているあたり普通とは違うのだろう。姉さんはというとこんな状況にもかかわらず両手に持っていた宴会にでていた料理を食べている。アリスは静かに鬼と思われる幼女に対して警戒を強めている。

 ポツンと放置されていた幼女は先ほどまでポカンとしていたのだが意識が戻ってきたのだろう、突っ込みから入ってきた。

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなよ。なんでまだ私と戦っていないのにまるで終わりが確定したようにはなしているのさ!それに自己紹介位させろよな!て、なんで私が突っ込まないといけないのさ!!————ほんとはもっとかっこよく名乗るつもりだったのになんでこんなことに………」

 

 

 

 

「ま、まあいいさ。改めて名乗るよ、私の名前は伊吹萃香(いぶきすいか)お前たちの言う通り鬼さ。最もただの鬼だとは思わない方がいい、なにせ私は『山の四天王の一人なんですよね!!知ってますよ!ほかにも星熊勇義が四天王の一人でしたっけ?あれ?違ったかな?』なんでお前がそれを知っているんだい?お前さんたちはつい最近来たばかりだろう?」

 

 

 

 そう伊吹萃香と名乗った幼女の言葉を遮ったのはあろうことか姉さんだった。魔理沙や魂魄妖夢は、そうなのか!?と姉さんに聞くもほかのメンツは姉さんが何故そんなことを知っていたのかと疑いのまなざしを向けている。姉さんはそれに気づいているのかいないのかわからないものの魔理沙や魂魄妖夢が真相を聞こうとしているのを笑顔ではぐらかしている。

 

 

 「まあ、そんなことは追々聞くとさせてもらうか。とりあえず君たちをここに閉じ込めたのは私だ、そして最近の三日おきに宴会を起こさせていたのも私だ。そして帰りたければ私を倒すがいいさ、最もさすがに一度に全員の相手をしてあっけなく終わらせてしまうのはつまらないからちょっとした試練を受けてもらおう」

 

 

 

 「そんなくだらないことに私たちを巻き込まないでくれるかしら」

 

 

 「まあまあ、パチュリーそうあわてるなよ、結局のところ萃香を倒してから帰るのだからちょっとした試練位大した問題じゃないだろう?」

 

 

 

 魔理沙にパチュリーと呼ばれた紫の魔法使いっぽい少女はけだるそうに伊吹に向かって答えた。魔理沙は試練については気にしていない様でからからと笑う。パチュリーと呼ばれた少女は不服そうにしているものの帰るには鬼の話を聞くしかないと考えたのか黙り込む。こちらとしては早く戻りたいのでさっさと済ませてほしいと思うものの、萃香が鬼ということはそれだけ強いと言う事で時間はかかることが予想される。

 

 

 

 

 「なんにせよ、鬼の試練を乗り越えれば解放してもらえるのでしょう?ならとっとと終わらせてしまえばいいじゃない。それにお嬢様をあまり待たせてはいけないし」

 

 

 

 「そう…ですね。この白玉楼庭師兼剣術指南役、魂魄妖夢に乗り越えられない試練など…あんまりありません!!」

 

 

 

 

 「はっはは。妖夢は気合十分みたいだな。普通の魔法使いは例え鬼だろうと何だろうと売られた勝負は買っていく主義なんだぜ!」

 

 

 

 「とにかく私は早く戻って宴会料理で元を取らないといけないの、鬼の試練なんて知ったことではないけど終わらせるわよ」

 

 

 

 「まったく、これだからこうしたところに来たくなかったのに…。」

 

 

 

 

 「面倒なことになったものね」

 

 

 

 

 「そーや!!お姉ちゃんの代わりに精一杯がんばるのよーーーー!!」

 

 

 

 

 「いや、自分で動けし!!!」

 

 

 上から、十六夜、魂魄、魔理沙、パチュリーと呼ばれた少女、アリス、そして姉さんだ。全くほぼ全員がやる気を見せているというのになぜうちの姉はこうもさぼりたがりなのだろうか。隙さえあれば何か食べ物片手に休憩と称してさぼる姉さんだ、素直にこういう時位は働いて欲しい。

 そして、やる気にあふれているのはいいのだが萃香の話を聞いてやってほしい、もらなんかもう泣きそうな顔をしているだろ。あまりにも鬼というところに驚かれなかったのとさっきから誰一人としてまとまりを見せていないからか主犯なのに蚊帳の外状態だ。

 

 

 

 

 「ま、まあ。やる気があるのがいいだろうけどまずは試練の内容だとかいろいろ聞かないと」

 

 

 「そ、そうだよ。これから説明するからよく聞くがいいさ」

 

 

 

 助け舟を出したからかとても感謝を込められたまなざしで見られたが正直のところ早く話を進めたいからであるので何とも言えない感じだ。そしてその試練とはまあ、何とも脳き…コホン、正統派なもので、単純に萃香の

用意した相手を倒して最後に萃香と戦うというものだ。特に批判もなく、萃香にさえ勝てれば帰されるので全員心配などはしていない。最ももし帰れなくともその時はその時でどうにかするつもりなのだろう。

 

 

 

 

 「————————————というわけだ、せいぜい私を大いに楽しませてくれ………」

 

 

 

 

 そう言い残し萃香は霧に紛れるかの様に姿を消していった。それと同時に八つの門が現れ各人は誰がどこになどと言う事もなくほぼ同じようなタイミングで全員が門をくぐっていく。その時の俺は早く終わればいいかな、などととても適当な考えをしており後で後悔することとなったのは少し先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 




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【スペル】鬼の試練

 門をくぐりしばらく歩いていると、少し広い場所にでると黒のフードを被った人物がたたずんでいた。向こうはまだこちらに気が付いてないようだ。別に会ってすぐに戦闘なるわけではないと思うが用心するにこしたこたはない、そう思いながら少し警戒気味に近づいていく。

 向こうも気が付いたようでこちらを向く。フードを深くかぶっているため誰なのか確認することはできない。

 

 

 「あなたが試練の相手ですか?」

 

 

 

 「………」

 

 

 

 「だんまりですか…まあいいですよ俺も先を急いでいるのでちゃっちゃと始めますか」

 

 

 

 

 相手は理由は分からないがしゃべることなくうなずくだけで戦闘態勢に入る。その構えだけで相当な実力者だと言う事がうかがえる。相手は無手だが霊力なり妖力などの攻撃も気を付けないといけないので警戒を続ける。先に動いたのはフードの方で徐々に大きく広がっていく円状の弾幕が渦を巻く様に放たれる。それをどうにか隙間を縫ってかわしお返しにと式紙に霊力を込め数枚放つ。しかし、それはすべてかわされた。

 

 

 

 ならばと思い空を乱切りしその斬撃を飛ばす、しかしそれは両腕を覆うように込められたおそらく妖力ではたき落される。そうして左腕に込められたままの妖力(推測)を左腕を大振りに振るい妖力(推測)を直接飛ばしてくる。続いて右腕も振りぬく、飛び出した妖力の塊はものすごい回転を掛けながらこちらに迫って来る。急いでかわそうとするもかわし切れず服にかすってしまう。さらにそれが続けて連続で飛んでくるので避け続けるのに必死になり防戦一方になってしまう。

 

 

 「ちっ!!【式符 炎桜華(えんおうか)】!!!」

 

 

 五芒星に模した配置に式紙を配置し回転させながら炎を咲き乱れる桜が散るように弾幕を放つ。一つ一つが桜の花びらを模して対象を包み込むように弾幕を展開する。このままではまずいので状況を打開すべくすかさずスペルを発動し飛んでくる妖力(推測)の塊を相殺していく。

 

 

 

 遠距離だとまたあの妖力(推測)の塊を飛ばされかねないのでならばと思い弾幕どうしが相殺された際にフードのやつとの間に煙が発生したのでそれを利用して近づく、向こうもこちらが近づくのになんとなく気が付いたのかでたらめに先ほどと同じ弾幕(受けた場合のダメージ多分ただでは済まない)を放ってくる。何発かかすってしまったもののどうにかフードのやつのそばまで近づくことができ刀を抜きそのまま上段に構え斬りかかる。それは予想されていたのか後ろに引く形で避けられてしまう。斬りかかるときついつい(・・・・)勢いをかけすぎてしまい地面に切れ込みを入れてしまう。

 反す形刀を持ち替え続けて斜めに斬りあげるがそれもわずかにフードにかする程度で反撃されてしまう。こちら(幻想郷)に来てからの初めての強敵に蒼矢は知らず知らずのうちに頬を釣り上げていた…。

 

 

 

 

 

 

 

————————————————————————————————————————————————————————

————————————————————————————

 

 蒼矢がフードを被った人物との戦闘(弾幕ごっこ)に苦戦している頃、今回の異変の黒幕である伊吹萃香は幻想郷の管理者である八雲紫に予想外の出来事について問い詰められていた。

 

 

 「だから~しょうがないだろう、もう始めちゃったんだし。それに大丈夫さちゃんとルールは守る」

 

 

 「まったく、そういう話ではありませんわ。それに話していた内容といささか変更が見られていることについて聞いているのです。ルールを守るのは当たり前、そういう話で許可したのですから守らないなんて言うのはあり得ませんわ」

 

 「ん~だって~見て待ってるだけじゃつまらなくなったんだ、仕方ないだろう?」

 

 

 「仕方ないだろう?ではありません!まあ、そういう事ならいいですわ。…元から鬼がただ見て待つだけで満足するとは思ってはいませんでしたし」

 

 

 「何か言ったかい?」

 

 

 「いいえ~友人に振り回されるかわいそうな私を慰めてくれる人はどこかにいないかと言っただけですわ」

 

 

 「はっ、笑わせるつもりならやめてくれよ。紫みたいなやつ(胡散臭いやつ)を誰が慰めるんだい。あとその胡散臭いしゃべり方もやめな、わざとだろう?」

 

 

 「な!?どういうことですの!私みたいなやつってどういう事です!誰のためにわざわざ地底からの移動用にスキマを貸してあげたと思ってるんですの?」

 

 

 

 

 そう憤慨する紫だが萃香は正直のところ一度地底から出てしまえばしばらくは戻るつもりがなかったので一回だけ使えればよかったのだがそれではあまりにかわいそうだったのでわざと定期的に地底に帰るべくスキマを利用していただけなのだ、それを言うとまた怒りかねないので言わない。

 そう本来萃香は八雲紫との契約で新しいルールを守るうえでという決まりの元異変を起こしていた。別に黙っていてもよかったが後々面倒になりそうだったので話したのだ。ただ三日起きに博麗神社で宴会を行うように集めてわざと霧を出し徐々に妖気を込めていくというだけの異変だったのだ、それを変えて紫には告げていないとある協力者に頼み今起こしている異変に変えたのだ。

 

 

 

 

 「にしても、いいねえ…最高だ。私の目に狂いはなかったな」

 

 

 「彼のことね…。まったくこれだから鬼は面倒くさいのよ、こんなのに狙われた私の可愛い霊夢が可哀そうだわ」

 

 

 「………。彼だけではないけどね」

 

 

 「な、なによ、その目は…そんな親馬鹿を憐れむような目は!」

 

 

 「事実だろう?」

 

 「うっ…うーーー。もういいわよー萃香なんてしらないんだからー」

 

 

 そう言い残しスキマの中へと帰っていく紫、あれが幻想郷の管理者で妖怪の賢者なのだからまったく世も末だろう、そしてあれの相手を常にしているその従者たる式神には今度酒と油揚げでも差し入れに持って行ってやろうと思う。まあ、本当なら説教の一つや二つ覚悟していたのにそれをせずに冗談だけで済ませてしまうあたりやはりただの残念な賢者ではないのだ。しかし最後のあれはないだろうと思い聞こえているのか定かではないものの思った通りの事をつぶやく。

 

 

 「いや、さすがに『うーー』はないだろう。…年齢的にも性格的にも…」

 

 

 

 この最後の萃香のつぶやきが聞こえたのかどうなのは定かではないがこの異変の最中亡霊の姫に泣きつく妖怪の賢者の姿を見たものがいるとかいないとか…。



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【スペル】霧の鬼

 弾幕ごっこ(戦闘)を始めてからどのくらい時間が経ったのだろうか、最も今はそんなことを考えてる余裕はそこまで無くて愛刀で接近戦を挑み偶に勢い余って地面まで斬ってしまうこともある。霊力もまだ、残量はさほど気にはならいがこのままの状態だと危うくなってくる。このままでは埒があかないので一度距離を取って作戦を考える。

 一応考えはあるものの準備にはもう少し時間がかかってしまう。

 

 そしてそれは向こうも同じようなのか少し焦りが見られ始めた。札はまだ枚数に余裕はあるので霊力を込め投擲する。しかしそれは全て叩き落とされ地面に散っていく。全く…こんな戦闘を弾幕ごっこなんて呼ばない、いいや呼ばせない。正直に言おう明らかに向こうはやる気(殺る気)満々だろう、俺だけがそうなのかは知らないが少なくともこの試練では相手に弾幕ごっこをするつもりは無いのだろう。だからと言って俺が幻想郷のルールを守らない道理はないわけで面倒ながらも勝つための策を弄している。

 

 

 

 それに試練の相手にもおおよそ宛がついている、何故と疑問は残るがどうせいつもの様に姉さんが思いつきでやらせたのだろうということにしておく。何故なら今はそんなことどうでもいいしちゃっちゃと終わらせて帰りたい。という気持ちが強くなってきたのだ。

 しかし、相手はそんなことを微塵も思っていない様で逆にだんだんと攻撃が激しくなってきている。

 

 

 しかけた術を発動させるには一度距離を取る必要があり霊力を込めた爆発する札を相手に向かって投げ一度距離をとる。爆発による煙幕が晴れると同時にスペル(威力増し)を愛刀から放つ。

 

 

「【断符】断月!!」

 

 

 しかし、相手は両手を組むようにして前に出し堪える。それは計算道理続いて懐から札を出しスペルを発動。

 式紙を飛ばし自身の正面に結界を展開そして、そこから鳥を模した追尾性の弾幕を放つ。

 

 

 

 

【式符】「彗星火鳥!!」

 

 

 

 

 

 

 フードはそこまで予想していたのか妖力弾を放ち相殺しようとするも相殺しきれなかったのかいくつか被弾したようだ。そこから畳みかける様に用意していた仕掛けを発動させる。地面に刀で斬りこみを入れることで仕込んでいた結界が俺から放たれた霊力に反応し淡い光を放ち始める。

 

 

 

【断符】「五芒天雅(ごぼうてんが)!!」

 

 

 

 地面に霊力で描かれた五芒星の頂点に当たる位置から五色の龍が現れ対象であるフード相手にその牙を奮う。そして龍は一つとなり神の如き神聖さを持って対象へと降り注ぎ呑み込んだ。と同時に大きな五色の爆発が起こる。爆発による煙が治まったそこには倒れふすフードを被った蒼矢の試練の相手、もう既に気を失っているのか動く気配はない。

 

 

 「ハァハァ…どうにか勝てたか…というか、硬すぎだろ。絶対普通の弾幕ごっこ感覚だったら負けてた。霊力の消耗は…まあ半分も残ってれば大丈夫だろう。」

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 フード(試練の相手)を倒すと霧に囲まれていた一部が開けて通路のようになったので先に進む。予想だが姉さん当たりはもう着いているだろう、というかあの人が負けるというビジョンが見えない。後は、どうだろうか…博麗はまあ、姉さんと同じくであの鬼の元へととっくに着いているはずだ。他はどうだか分からない。

 

 

 正直顔見知りというだけの奴もいたし実力がどの程度あるのかわからない以上予想をつけられない。魔理沙も弾幕ごっこは強いがどうなのだろうか。とそんなことを考えているとやや開けた場所にでてそこには案の定、こちらに笑顔で手を振る姉さんと機嫌が悪そうな博麗、アリスはまだのようだ。それと、千秋と従者同士で仲が良さげだった十六夜がいた。

 

 

 

 「そーやー。遅かったじゃないの、全くお姉ちゃん待ちくたびれちゃったわよ」

 

 

 「いや、絶対早いほうだから。むしろ姉さんが早すぎるから」

 

 

 

 「えーでもそこの銀髪のメイドさんと霊夢ちゃんは私とさほど変わらなかったわよ?」

 

 

 

 「それは、人間やめ────危な!」

 

 

 「失礼。手元が狂ってナイフがあらぬ方向に。謝罪するわ」

 

 

 「イヤイヤ、今の手元狂ったレベルじゃないから思いっきり狙われたか────だから!危ないって!」

 

 

 「ちっ…惜しいわね」

 

 

 

 「ねぇ!今惜しいっていったよね?」

 

 

 

 何故か博麗と十六夜から攻撃を受ける。何故だ、ちょ、お札とナイフのコンボ良くないから!当たるから!そして、姉さんさり気なく俺から離れてさり気なく弾幕放たないで!地味に邪魔だから!博麗と十六夜と姉さんによる弾幕とお札とナイフのコンボを躱していると、魔理沙も来たお陰で仲裁してもらい、どうにか地獄から抜け出した。事の顛末を魔理沙に話すと、それはお前が悪いんだぜ。と言われた。ちくせう。その後魂魄も現れた。魔理沙と同じく、それは貴方が悪いと思います、と言われた。

 

 

 

 どうやらアリスと紫日陰少女は間に合わなかったようでこの異変の首謀者。伊吹萃香が現れる。片手に大きな瓢箪を持ち酒を飲みながらだ。その足取りは正しく千鳥足、正直これから弾幕ごっこするというのを理解しているのだろうか。

 

 

 

 「よく来たね!英雄達!試練を乗り越え選び抜かれたんだ、存分に楽しもうじゃないか。最高の宴の始まりだ!」

 

 

 その言葉を合図に英雄と萃香に呼ばれた人間達は動き出す。紅白の巫女服の少女は霊力の込められた札を飛ばし、銀髪のメイドが時を止めナイフを投げる、白髪の少女は自身の武器である二つの刀を構え斬撃を飛ばし、普通の魔法使いは色鮮やかな弾幕のビームを放つ。

 もちろん俺も霊力の込めた式紙を飛ばし攻撃する。姉さんもさすがにこのタイミングで攻撃しない訳にはいかないだろうからか弾幕を放っている。

 

 

 

 対する伊吹萃香は能力を行使しているのかぬらりくらりとかわしている。弾幕はかなり密度があったと思うのだがそれをかわされた。すると伊吹萃香の姿が揺らぎ伊吹萃香が六人になった。分身なのか幻術なのかわからないが伊吹萃香達は余裕そうに瓢箪の酒を仰ぐ。

 

 

 萃符【戸隠山投げ】

 

 

 六人になった伊吹萃香はどこから集めた(密めた)のか大岩を持っており俺達に向かって投げつけてきた。それをどうにか全員躱す。しかしバラバラに躱した結果全員互いに距離が出来てしまった。一人に一人ずつ伊吹萃香が付く形になってしまい一対一が六個出来上がった。

 しかし、特に慌てる様子は無い様で各々が自身が相手をする伊吹萃香と向き合い自身の武器を構える。

 

 

 

 そこからは防戦で精一杯の者もいれば互角、あるいは圧倒的に押している者もいた。もちろん俺は圧倒的になんて経験が浅いため無理なので互角といったところだろう。幾ら出鱈目な能力を持っていようともそれを活用するための経験が圧倒的に足りていないし、そも相手は六分の一とはいえ数百年生きた鬼だ経験差はとてつもない差がある。

 しばらく戦っていると唐突に伊吹萃香は戦いをやめ、悪いけど宴はここまでだ保護者がうるさくなってきたのでね。というと霧になり消える。ほかの戦っていた面々も同じようでいまだ戦っているのは博麗だけだ。

 

 

 

 

 六人に分かれていた伊吹萃香は博麗と戦っていた伊吹萃香の元に戻ると今まで防戦一方だった戦いが互角レベルまでに戻り博麗に対して反撃を始めた。博麗から放たれる弾幕を躱してゆく伊吹萃香、しかし追い詰められたのか針のような弾幕が伊吹萃香の頬を掠っていく。その隙を博麗が逃す筈もなくすかさずスペル【霊符】夢想封印を発動させる。回避は間に合わないと思ったのか伊吹萃香もスペルを発動させ相殺させようとする。

 

 両者のスペルは拮抗し相殺されるかと思われたが博麗の方に軍配は上がった様で爆発の後伊吹萃香に向かって勝ち残った博麗のスペルが飛んでいく。既に抵抗する気は無いのか真っ直ぐ突き進むスペルに伊吹萃香は呑まれ地に倒れた。長かったような、短かった異変はこれで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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【冥符】いざ白玉楼へ

 伊吹萃香の異変は後に稗田家が幻想郷縁起に霧の鬼異変と名付けられた。これは博麗の巫女がそうするように言ったようだ。当初稗田家としては三日起きに宴会を起こす異変と名付けるつもりだったようだが首謀者の伊吹萃香が博麗の巫女を初め数人の人間を霧の空間に閉じ込めてきたからとのことらしい。また何故か首謀者である伊吹萃香は博麗神社に住み着いたらしい。本人曰く本当は違うところがよかったんだけどねー、とのことである、違うところとは一体どこに住み着くつもりだったのだろうか…。

 

 ────

 「納得がいかねぇーなんで私の名前がまたないんだよ!」

 

 

 「知らないわよ、書いたのはあの天狗なんだから文句があるなら言ってくればいいじゃない。」

 

 

 文々。新聞を片手で掴みながら振り回す魔理沙と特にどうでも良さそうな博麗。異変が終わってから数日が経ち三日起きに宴会が行われることはなくなった。首謀者である萃香(そう呼ぶように言われた)は博麗神社の屋根の上で昼間からだというのに酒盛りをしている。あの異変からは考えられないほどおとなしくなっているが本人は満足しているのか博麗も特に気にせず萃香の居候を黙認している——————————様に見える。本音は多分いちいち追い出そうとするのが面倒になったのだろう。

 

「よし、蒼矢も一緒についてこい!あの天狗に文句言いにいくぞ!」

 

 

「え?っておい引っ張るなって、それに射命丸がどこにいるかなんてわからないだろ。あと天狗なんだから追いかけっこしても追いつけるかわからないだろ」

 

 

「そんなの飛んでいれば見つかるって。いいからいくぞ」

 

 

「わかった!わかったから引っ張るな!」

 

 

 もはや俺がついて行くことは抗えないようで仕方なく魔理沙の後を追うようにして飛んで行く。おかしい、俺はただ単に姉さんに言われて博麗に菓子折りを届けに来ただけのはずなのにおかしい。それにあの天狗は少し————いやかなり苦手だ…この間の事のせいなのかもしれないし、ただ単にあの雰囲気が苦手なのかもしれない。あんな姿でもかなりの年月を生きてるっていうんだから不思議だ。妖怪という存在が精神的な存在だからと言われてしまえばなにも言えなくなるけど——————————俺もいつか歳をとっても今と変わらない姿のままいるのだろうか…。

 

 

 

 博麗神社からとりあえず人里の方向を目指し射命丸が現れそうな場所を回って行く事になった。白玉楼→紅魔館→人里という経路でとりあえず探すことにした魔理沙は善は急げと言わんばかりの速さで白玉楼へと飛んで行く、もちろん俺もきちんとついて行っている。もちろん道中も一応は探しながら進んでいく。

 魔法の森を越えしばらくすると冥界への入口が見えてくる。何気に冥界に逝く————じゃなくて行くのは初めてなのでどんなところなのかとても気になっている。以前魔理沙は二刀流の庭師—————魂魄と異変で戦ったらしくいずれは一度どこかで手合わせしたいと考えてしまうのは剣の道にいる者としては仕方がないのではないだろうか。

 

 

 

 冥界に入ると外とは違い気温が少し低いのか涼しくなっている。魔理沙の後に続き飛んでいると和風の大きな門が見えてきた。魔理沙はまるで自分の家の様にどんどん進んでいく。しばらく白玉楼の中を歩いていると台所の方から何やら物音が聞こえてくるので魔理沙にもそのことを伝え近づいていく。台所には何やら料理をしている魂魄とたくさんの魂?がいた。

 

 

 

「よ!お邪魔してるぜ」

 

 

「勝手に入ってごめんな」

 

 

「魔理沙さん!?どうして平然と当たり前のようにここに居ることを聞いてもいいですか?蒼矢さんも…」

 

 

「ん?どうしてといわれてもなぁ。門が開いていたから入ってきただけだぜ。あ、これ少しもらえるか?お腹すいちゃって」

 

 

「実は魔理沙が天狗…射命丸を探していてな、いそうなところを探しているんだよ」

 

 

「なるほど…でしたらここにはいませんよ。特に今はね。後つまみ食いはだめです」

 

 

 魔理沙の答えに飽きれるように溜息を吐く魂魄、こうして料理をしていたのだから今はおそらく忙しいはず。そんな中こんなのが現れたらそれは溜息の一つや二つは出るわな。そんな魂魄には同情が禁じ得ない。しかしここにはいないのか…それになんだか魂魄は確実にいないことを知っているような口ぶりもしかして何か知っているのだろうか。

 

 

 

「なあ、何で今ここに射命丸がいないと断言できるんだ?何か魂魄は知っているのか?」

 

 

 

「私にはどこにいると言う事は言えませんが恐らく今の白玉楼には近づくことはありません。というか近づけません。何故なら——————————。」

 

 

 

『よぉぉむぅぅ!!!まだなのー!!』

 

 

 

「幽々子様がとてもお腹を空かせているからです。」

 

 

 

「な、なるほど」

 

 

 

 家にも同じような(大食らい)がいる為一瞬で理解できてしまった。仮に似たような状態の姉さんがいて今ここに天狗がいたら羽根に齧り付くぐらいは姉さんでもやらかしそうだしとても納得が出来てしまう。そうなるともう白玉楼には用はないのだが此処にはもう一人空腹を訴える魔法使いがいる。さて、どうしようか。

 

 

「いいんですよ、魔理沙さんと蒼矢さんの分が今更加わったとしても作る量からしたら誤差の範囲内です。ふふふ…」

 

 

 

 ま、まずい。あまりの量を作っていたからなのか魂魄は悟りの境地に達してしまっている。とても申し訳ないがお言葉に甘えていただくことにするが、せめて片付けくらいは手伝おうそう決めた俺だった。そうと決まると魂魄はお手伝いの魂達と共に追加の料理を瞬く間に作っていった。その光景に既視感を覚えてしまったのは仕方がないと思う。ただ違いを言うならば千秋の場合今の魂魄のような忙しさをあまり感じさせないところではないだろうか。

 

 

 

 「なあ蒼矢…」

 

 

 「なんだよ…」

 

 

 「妖夢って大変なんだな…」

 

 

 「ああ…」

 

 

 何がとは言わなかったが恐らく俺が思っていることと同じ事だろう。私には永遠にできそうにないぜ…なんていっている魔理沙だったが少しほんの少しだが羨ましそうに見えたのはきっと魂魄の立ち位置ではなく単純に料理の腕の上手さについてだろう。そうでなかったら俺は魔理沙との付き合い方を少し考えないといけなくなってしまう。

 

 

 作られた料理は魂達によって運ばれていく、途中手伝うべきか迷い魂魄に聞いたが一応客に当たるので手伝わせては幽々子様の顔に泥を塗ってしまうことになるからと断られた。普段食事をしているだろう部屋に行くとそこには目の前に御馳走を置かれお預けをくらっている西行寺幽々子がいた。目をまるで餓えた獣のように輝かせ待ってる姿はどこかの駄姉を彷彿とさせた。

 全ての料理の配膳が終わり運んできた魂達が去っていくと西行寺幽々子はこちらに気が付いたのか震える手をもう片方の手で押さえると顔に笑みをたたえ俺達の来訪を歓迎する。簡単なここに来た経緯を説明しようとすると手で制するようにした後、とりあえず食べ終えた後でもいいかしら?といった。それはきっと早く食べたいからではなくて冷めてしまう前に食べないともったいないという事だろう、きっと。

 従者である魂魄もいた方が食べ終えた後も話が早く進むと思い主である幽々子(そういうように言われた)に確認を取る。幽々子は気にしない様だったので魂魄も交えて昼食を頂くことにした。食事風景については普通だったと言う事にしておく、そうしないといけない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
二章は魔理沙のお陰でもう少し続くようです。


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【剣符】白玉楼の庭師の実力

 昼食を終え少し落ち着き此処に来た経緯を簡単に説明する。魔理沙が鴉天狗(射命丸)を探している為居そうな場所を当たっている。そう言うと幽々子は何故と興味を持ち聞いてくる。特に隠す理由もないので正直に話す。私達は(主に魔理沙が)鴉天狗(射命丸)の新聞に文句を言いたいだけ、と。もちろんそこら辺の話は魔理沙に全て説明させた、無理やり連れてこられた仕返しにもならないだろうが気分の問題なので問題はない。

 それを聞くと幽々子はあまりにもくだらなさ過ぎたのか笑い始めた。その反応に魔理沙はこっちは真剣なんだ、と憤慨していた。しかし、二人のやり取りを見ていて思うのが幽々子はつい最近異変を起こしたばかりで魔理沙もその解決に来たと聞いているのだが随分と仲が良さそうに見えるのは気の所為だろうか?

 

 

 

 「そうねぇ…。生憎とその天狗さんの居場所は知らないわ。あれは春雪異変?っていったかしら、それが終わって暫くたった頃に取材に来たっきり此処には来てないわ。ねぇ、妖夢?」

 

 

 

 「はい、あの件以降姿を見たことはありません」

 

 

 

 

 どうやら、というか予想はしていたが無駄足だったようだ。魔理沙もそれなら仕方ないと立ち上がり帰ろうとする。しかしそこに幽々子は待ったを掛けてきた。

 

 

 「あら、もう帰るの?もうちょっとゆっくりしていけばいいのに…。それにお昼を食べていったのだからそのお返しはあってもいいんじゃないかしら?」

 

 

 

 「お返しって言われてもなー生憎今は持ち合わせがないんだぜ。また今度じゃダメなのか?」

 

 

 

 そうねぇと悩むような素振りを見せる幽々子はチラッとこちらを見てくる。一体何を求めているのかは分からないがこれは俺が何か言わないといけないのだろうきっと。

 

 

 「俺も持ち合わせがないができる範囲でならなんでもしよう」

 

 

 幽々子はその言葉を待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに手を合わせた。魂魄がそんなことを言って大丈夫なのでしょうか?と言った様にこちらを心配そうに見てくる。多分、大丈夫だろうが不安は尽きない。

 

 

 

 「それなら、せっかくだし妖夢の相手をしてもらいましょうか」

 

 

 「ゆ、幽々子様?!」

 

 

 

 「だって妖夢最近、鍛錬でちょっと行き詰まってる様だったじゃない。せっかくだし相手をしてもらいなさいな」

 

 

 

 「何故それを…。はい、分かりました…」

 

 

 

 「よし、それじゃあ決まりだな。弾幕ごっこではないだろうけどこれはこれで面白そうだぜ」

 

 

 

 「蒼矢さんすいません」

 

 

 

 

 申し訳なさそうにする魂魄だが別に俺自身は元々1度くらいは戦って見たいとは思っていたから特にいうことは無いので問題ないことを魂魄に伝える。そして魔理沙これは今持ち合わせのないお前の代わりに試合をやるってことを理解しているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白玉楼の中にある広めの庭で俺と魂魄は互いに得物を構え戦闘態勢に入る。観戦者は魔理沙と幽々子と幽霊達。娯楽の少ないであろうこの冥界での試合ともなれば人…基幽霊が沢山集まるのも納得がいく。

 魂魄は緊張しているのか雰囲気が伝わってくる。もちろん俺だって緊張している人間以外を相手に試合なんて初めてなのだから当然だ。負けるつもりはない向こうでは姉さん以外に負けたことは数少ない。

 何度も繰り返したこの構えも意識などしなくとも構えるのは容易だ。

 

 

 

 

 「さて、用意はいいか?」

 

 

 

 

 「ええ、魂魄妖夢問題ありません!」

 

 

 

 

 「「いざ!!!」」

 

 

 

 

 魂魄は自身の愛刀である白楼剣と楼観剣を構えこちらへと駆けてくる。その速度はかなりのもので通常の姉さんの五分の一近くの速度で迫ってくる。そんな魂魄に対してこちらも踏み込み自分の利き手に収まる愛刀を右に薙ぎ払う。それに対して魂魄は二刀を前に出し受け止める。それは悪くないがダメだ。

 受け止めようとした魂魄だが予想以上に衝撃が強かったのか後ろに弾き飛ばされる。

 

 

 何故受け止められなかったのか?という驚きの顔が魂魄から見えるが説明するつもりはなく続けざまに魂魄へと迫る。上段からの振り下ろしに対して魂魄は二刀を交差させ受け止める…様に見せかけそれを受け流す。そして受け流した後反撃とばかりに二刀による連続攻撃を放ってくる。それをどうにか致命傷だけは避けるように捌いていく。

 

 

 

 

 「流石だな…向こうだったら今の二撃で大抵の奴は倒せてたのに…少し侮っていたみたいだ」

 

 

 

 

 「いいえ、それはこちらもです。さっきの連撃を全て捌かれるとは思ってませんでしたから」

 

 

 

 「そんなことないさ、ほらこの通り傷を負ってる」

 

 

 

 「でも、致命傷になりかねないものはありませんよね?」

 

 

 

 「……」

 

 

 

 「沈黙は肯定と見なしますよ?」

 

 

 

 

 そこから暫く互いに決め手となるものも打てずただただ互いの愛刀がぶつかり合う音が白玉楼に鳴り響くだけだった。打ち合ってどのくらいたっただろうか…。そんなにたってないようでそれなりにたったのではと思いながらも決め手に欠ける打ち合いを始めて白玉楼の主である幽々子からそこまでっ!という声がかかる。

 元々目的が魂魄の相手をすることであり倒すことでもなかったので試合中は能力は一切使っていなかった。幽々子が止めたということは魂魄にとって何らかの糧になったということだろうか…。それならなによりと愛刀を鞘へと収め魔理沙の元へと戻る。戻ると魔理沙は魂魄と俺の打ち合いに驚いたのかやや惚けた顔をしていた。仕方ないような気もする、何せスペルカードルールとはまた違うものだから驚いたのだろう。それなりに腕はいい方だと自負しているので驚いてもらえて何よりだ。

 

 

 

 「ほら、魔理沙どうしたんだそんな惚けた顔をして。ま、そうやって驚いてもらえて剣士冥利に尽きるってやつかな」

 

 

 

 「……妖夢の奴あんなに凄かったんだなそれに蒼矢も」

 

 

 

 「それは魂魄だって俺だって剣を扱う者として修練は怠ってないからな。スペルカードルールとはまた違ったろう?」

 

 

 

 「ああ…全く違った、ううん。スペルカードルールを美しさとするならさっきのは…」

 

 

 

 そう、魔理沙がさっきの試合を表現しようとしていると魂魄がやって来て試合に対する礼を言ってきた。魔理沙の感じたものも気になるが俺たちの目的を忘れてはいけないのでさっさとお暇することにする。

 

 「蒼矢さん。ありがとうございましたお陰様で少し悩んでいた部分が解消できた気がします」

 

 

 

 「ああこっちも楽しかったありがとう。それと役に立てたならよかった。ほら、魔理沙次に行くぞ?早くしないと日が暮れる。じゃあ魂魄またな」

 

 

 

 「あ、ちょ蒼矢まてって」

 

 

 

 「はい、また是非いらしてくださいね」

 

 

 俺たちは次の天狗がいそうな場所へと向かうのだった。




ここまでお読みいただきありがとうございます。
やはり戦闘シーンは難しく練習しようと思いました。
次回は今回みたいに長く開けないようにしたいです…。


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