ISを動かした幼馴染に巻き込まれる話 (帝国過激団)
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1話前に移動させました。
初見さんは読んでも読まなくてもいいです、ネタバレが有るので注意。


名前:浅間 鉄平

年齢・15歳

身長:185㎝

体重:73㎏

好物:丼モノ

 

人物概要

現在高校一年生、全国で行われた男性IS起動検査によってIS適性を持つことが発覚し、幼馴染である織斑一夏とともにIS学園入試に入学する。

目つきが悪く、また遅くまで起きていることが多いので隈が濃い、中学時代はそのせいで何度か揉め事になったことがあった。

父が日本人、母がフランスのハーフ。

父親が外国へ行くことが多い仕事で、それについて行っていたので英語が得意。

両親は共に小学3年生の時に死去、それ以降は母の従兄弟の支援を受けて暮らしている。

 

搭乗機:ラファール・リヴァイヴver浅間鉄平専用機

 

機体概要:灰色にカラーリングされた浅間鉄平専用のラファール・リヴァイヴ、基本的な性能は通常の物と変わりないが、拡張領域の広さは通常のラファール・リヴァイヴを遥かに上回る。

シールド2枚、ブースター3機、シールドの裏にはどちらにもグレー・スケールが仕込まれているので、両手に武装を持った状態でグレー・スケールを利用できる。

ブースター3機を利用し、3度に分けた個別連続瞬時加速が可能、成功率は高いが練度が低いので速度、移動距離は低い。

 

武装

・ルイス軽機関銃×2 拡張領域に格納。

・デザートイーグル×2 太腿のガンホルスターに収納。

・対艦ライフル×1 拡張領域に格納。

・灰色の鱗殻×2 シールドの裏に格納。

・M20スーパーバズーカ×2 拡張領域に格納。

・シュトゥルム・ファウスト×4 シールドの裏、灰色の鱗殻の隣に2つずつ格納。

・グレネード×5 拡張領域に格納。

・ヒートホーク×1 腰に格納。

 

↓↓↓この下、ネタバレ注意↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラクター:灰色の看守

年齢:不明

身長:170㎝

体重:不明

好物:ゴールデンバット(煙草)

 

人物(?)概要

ラファール・リヴァイヴver浅間鉄平専用機のコア。

灰色の看守服を着た女性、灰色の髪をしている。

粗布で常に目を覆っているので目は確認できない。

その名の通り、IS内部で浅間鉄平を監視する役割を果たしている。

このシステムは、状況が違うが全てのISに存在する。

彼女たちISコアは、ISを動かす他にIS操縦者にとあるシステムを使用する許可を出す役割をしている。

灰色の看守の世界においては、彼女が浅間鉄平の入っている牢を開き、浅間鉄平を連れて看守室の外に出ることがシステム利用の条件。

気性の荒い性格をしていて、常に彼がシステムを解放することを望んでいる。

ラファール・リヴァイヴ浅間鉄平専用機は後に、彼女の名である【灰色の看守(グレイ・ジェイラー)】に変更される。



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IS学園入学前編
#1


どうもおはこんばんにちは。
唐突に書いてみた作品です、基本メインの作品の息抜きなので不定期投稿になります。


 人生というのはわからないものである。

 有名な大学を卒業した人物が犯罪を犯すこともあるし、元スラムの住民が石油王になることだってあり得る。

 後者の事例に比べれば俺に起こったことなど小さな出来事だが、それ以上に衝撃的だったかもしれない。

 織斑一夏… 俺の小3からの友人であり、歩くフラグメイカーとも呼ばれる男がいる。

 数々の女子を惚れさせ、更には無自覚でやってる上に死ぬほど鈍感なので数々の女子が枕を濡らしてきた。

 そんな一夏がまたやらかした。

 

「どう言うことだよ… ISに乗ったって…」

 

「いや、俺にもわかんないんだって!」

 

 IS、インフィニット・ストラトスは数年前に俺の知り合いである篠ノ之束が開発した宇宙での活動を目的としたマルチフォーム・スーツである。

 しかし現在は開発者の意に反して主にスポーツとして使われているが、その事に対し張本人は怒りまくって、世界レベルの家出をしている。

 そして目の前のこの男は、高校受験の際に受験会場で迷い、人に道を聞こうと適当な扉を開けたところそこがIS学園の試験会場で、そこにあったISを起動してしまったらしい。

 

「ったくお前は… IS学園には行くんだろ?」

 

「…ああ、そうらしい。 でも女子校だろ? ハァ…行きたくねえなぁ…」

 

「また何人もの女子が泣かされるのか…」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

 と、このように。 同性愛者を疑うレベルで女子に興味が少なく、更には都合の悪いことは全力で聞き流す構造の耳、極め付けはAPP17ぐらいはある顔。

 当然、こいつはIS学園でめちゃくちゃモテるのだろう。 そして数々の女子に勘違いをさせ、最後には泣かせる。

 こいつはそういう奴だ。

 

「つーか、ISについてはわかんの? お前の志望校藍越学園だったろ?」

 

 藍越学園、本来こいつが志望していた高校であり、卒業後の就職率の高さが売り。

 IS学園と名前の響きが似ているので、こいつが間違えた要因の一つに数えられるだろう。

 

「それも問題だ。 周りは世界中から集まった有能なIS乗り志望者。 そんでもって俺は何一つ勉強してない」

 

「まあ… なんだ、頑張れ。」

 

「お前と変わってもらいたいよ…」

 

「俺もお断りだ、弾の奴に言え」

 

 今会話に出てきた五反田弾とは、一夏の友人であり、俺のお兄さん。 そして極度の女好き… なのだが、いつも一夏の近くにいるせいで全ての女子を一夏に持ってかれる可哀想な奴だ。

 

「そんで、ちーさんはなんて言ってたんだ?」

 

「諦めろ、と。」

 

「相変わらずだなぁ…」

 

 ちーさんとは千冬さんのことであり、千冬さんは一夏の姉だ。

 ISの操縦に置いて世界一優れており、ISの世界大会"モンド・グロッソ"の総合優勝者に贈られる"ブリュンヒルデ"の異名を持っている。

 そんでもってブラコン。

 

「いや、もしかたらお前も乗れるかもしれない! 全国で男がISに乗れるか検査するんだろ?」

 

「お前そんなことある訳ねえだろうが。 ってかそうなったとしても俺は絶対にIS学園には行かねえ」

 

「お前がISに乗れるように祈ってる」

 

「その祈りを弾の方に向けてやれ」

 

 一夏がIS学園に行くと聞いて、血涙を流していた弾の姿を思い浮かべる。

 うん、あれはもう…

 

「確か蘭もIS学園志望だったろ?」

 

「あ、明日動かせること願いますわ」

 

 五反田蘭、先程の五反田弾の妹であり… 俺の恋人である。

 だから弾がお兄さん、な訳だ。

 

「つー訳で祈っててくれ、俺がIS動かすことを」

 

「おう、最大限祈っとくわ」

 

 目を閉じて合掌する一夏に苦笑を返して時計を見ると、もう帰らなければいけない時間になっていた。

 

「あっ、悪い。 俺もう帰らねえと」

 

「ああ、わかった。 じゃあ明日な」

 

 幼馴染と別れを告げ、家に帰る。

 確かにISを動かせれば嬉しいが、多分ありえないことだろう。

 一夏の建てたフラグが俺にまで作用する訳もあるまい。



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#2

 -ジリリリリリリリッ!!-

 

 鉄平は爽やかな朝に相応しくない、けたたましく鳴る目覚まし時計を叩き割る勢いで止め、布団から身を起こした。

 3月の朝、立春を迎えてはいるがまだ肌寒く、朝は布団から出たくもない。

 

「かっ怠ぃ…」

 

 カーテンの隙間から漏れる日光が嫌が応にも意識を覚醒させ、5:30という受験の済んだ中学三年生としては少し早い時間に目覚めた。

 眠い目をこすりながら階段を下りる途中で、昨日担任の言っていたことを思い出す。

 

「男性IS起動検査、か… なんでクソ寒い体育館でんなことしなけりゃなんねえんだ…」

 

 一昨日、公立前期試験の日に自分の幼馴染である織斑一夏がISを起動してしまったことにより、世界中でISを動かせる男性を探す検査が行われていた。

 将来はISに関連する企業に就職したいと思っている彼からすれば、ISの現物を見れるのは嬉しいがそれ以外はどうでもいいのである。

 そして、何気なくつけたテレビのニュース番組には例の幼馴染の顔。

 

「おーおー、また今日もあいつのニュースやってら。 なんで毎朝見知った野郎の顔を見なければいけないのかねぇ…」

 

 トーストを焼き、マーガリンとジャムをつけて齧りながら、朝に何をするのかを考える。

 先日のテストの自己採点の結果、特待枠での合格には申し分ないほどの点を取れていたし、成績も完璧。

 そもそも前期で特待枠合格ができなかったら後期は受けずにアルバイト。

 手持ち無沙汰になった彼はネットサーフィンに興じることにした。

 

 ☆★☆

 

「ん、もうこんな時間か」

 

 ブラウザを閉じ、時計を見やると既に登校時間の20分前になっていた。

 固まった体をコキコキと音を鳴らしながらほぐし、立ち上がる。

 

「えーっと、制服はっと」

 

 押入れの中のハンガーにかかったシャツと制服の上着を取り出し、畳んである制服のズボンを広げて履く。

 もうそろそろこの制服にも別れを告げるのだ。

 

「3年間、短かったなぁ…」

 

 思い返すと、それなりに充実していながらも短い3年間だった。

 きっと、完璧に全ての記憶が残っていれば途方もなく長く感じるんだろうが、断片的な記憶のみを思い浮かべると途轍もなく短く感じる。

 というより俺は卒業式でも無いのに何言ってんだ。

 

 少し毛が潰れた歯ブラシに歯磨き粉を適量、ゴシゴシと歯を磨きながら鏡を見る。

 寝癖は無し、昨日遅くまで起きていたせいか少し隈があるが、いつもの事なので気にしない。

 歯を全て磨き終わると、歯磨き粉を洗面台に吐き出し、口を濯ぐ。

 ガシガシと頭を掻きながら、軽い鞄を持ち上げる。

 受験が終わった今ではもう殆ど授業は無く、自習やオリエンテーションのみ。

 当然持っていく教科書類も少ないので必然的に鞄は軽くなる。

 

「行ってくる」

 

 誰もいない家に声を掛けながら家の外に出て、鍵を閉める。

 クソ冷たい風が吹いて、少しだけ震える。

 立春を迎えどまだ気候は冬のように思えて、さらに今日にIS起動検査があることを思い返すとさらに嫌になる。

 唯一の救いは自分の名前が"浅間 鉄平"である事。

 五十音順で出席番号を決める俺の学校では、自分の出席番号は2番。

 それでも前のクラスのやつが残っていて少しは待たされるだろう。

 

「憂鬱な…」

 

 IS検査自体は良い、むしろ乗りたい。 高校に行っても蘭と過ごしたい。

 

「でもあり得ねえしな。 もし乗れたとしても男子は2人だけだ」

 

 あり得ない事を仮定して憂鬱になるのはやめよう。

 憂鬱なのは寒い中で待つ事だけ、俺がIS学園に入学などはあり得ないのだから…

 

 ◇◆◇

 

「あっ、泉谷先生、2組の検査お願いします」

 

 隣のクラスの男子が、2組を呼びに来た。

 2組の男子は一旦自習を取りやめ、体育館に向かう。

 ザワザワと音を立てながら13人ほどの集団で歩いていると、その中から"ハーレム"だの聞こえてくるが、お前が言っても一夏に全部取られるだけだろう。

 俺がそう指摘すると、そいつは顔を覆って

 

「止めろ… 止めろよ鉄平。 夢ぐらい見させてくれ…」

 

 と言っていた。

 何を隠そう、その人物は弾なのだが。

 

「ってか良いよなお前は! 彼女がいてよぉ… いや、あんな奴だが」

 

「うるせえよ、ってかお前の妹だろうが。 そして"あんな奴"ってなんだ"あんな奴"って! 滅茶苦茶可愛いだろうが!」

 

「あんなののどこが良いんだよ!」

 

 ほう…俺に宣戦布告をするか… よろしいならば戦争(クリーク)だ!!

 

「そのオーラを引っ込めろ。 目付き悪いから睨まれると滅茶苦茶怖いんだよ」

 

「貴様は… やってはいけない事をした…」

 

「悪い、悪いって! ってか兄が妹に何言っても自由じゃ…」

 

「まあ良いだろう。 流石の俺もお兄様にそこまで噛みつきはしない」

 

「おう、よろしく頼むぜMy brother」

 

 妙に発音良く言った弾にチョップを食らわせていたら、体育館に着いていた。

 隅の方に仕切りがある、おそらくあの中にISがあるのだろう。

 

 俺たちはぞろぞろと仕切りの前まで行って、検査官の女性の支持にしたがって番号順に並ぶ。

 寒い、寒いよこの野郎。

 

 ようやく1組の検査が終わり、2組の検査に入った。

 

「相応 翔」

 

 俺の一つ前の番号の、出席番号で必ず1を取る事に定評のある翔が呼ばれた。

 翔はサムズアップをしながら仕切りの中に入って行き、次にはしょんぼりとした顔で帰ってきた。

 

「浅間 鉄平」

 

 同じく、出席番号1、もしくは2を取る事に定評のある俺が呼ばれる。

 仕切りの中に入ると、そこには鎮座するISがあった。

 これはラファール・リヴァイブか。

 

「じゃあ、このISに触れて」

 

「はい」

 

 試験官の女性の指示に従って、ISに右手を触れる。

 その瞬間、さまざまな情報が俺の脳内に流れ込んでくる。

 光に包まれたと思ったら、俺は気づいたらISに乗っていた。

 

「まさか… 2人目が…」

 

 2人目の男性IS操縦者が現れるとは思っていなかったのか、試験官の女性は少し唖然とした後、どこかに電話をかけ始めた。

 俺はISを解除して、地面に降りる。

 そして仕切りから上半身を出し、後ろで並んでいる奴らにサムズアップをした。

 

「マジかよ!」

 

「畜生鉄平この野郎! …いや、待て。 俺たちも可能性がなくなったわけではない!」

 

「鉄平が乗れたなら俺らが乗れてもおかしくねえ!」

 

 エキサイトする男子たちを尻目に、俺はISに目を戻した。

 …え、マジで入学しなきゃいけないの?

 

 ♤♠︎♤

 

 結局あの後、俺以外の適合者は見つからず、俺は1人でIS学園に送られた。

 世界で最も規模の大きい学校と言われて、即座に納得出来るほどの大きさをもつ。

 さて、俺はその学園の学園長室に通されていた。

 皆もわかるだろ? あの、悪い事してなくてもこう言う部屋にいると滅茶苦茶緊張するの。

 しばらく待っていると、良い服を着た初老の女性が現れた。

 自己紹介の後に、俺にIS学園に入学してもらうこと、それと学園についての説明が施された。

 一通りの説明を聞いた後は、応接間に通された。

 何をすれば良いのかが分からず、少しの間ボーっと待っていると、黒いレディースのスーツ着た女性、一夏の姉であるちーさんが現れた。

 

「まさか… お前までISを動かすとは…」

 

 頭を押さえ、ため息をつきながら、絞り出すように言うちーさん。

 まあ、実の弟がIS動かした上に俺まで動かしちゃうんだからな。

 処理だの何だのに追われて大変なんだろう。

 

「なんか… スンマセン」

 

「いや、気にしなくても良い。 しかしお前もIS学園に来るのか」

 

「そう見たいっすね。 ちーさんのクラスに割り当てられると良いんですが…」

 

 ちーさんは現在、IS学園で教職に就いている。

 おそらく一夏はちーさんのクラスになるのではないだろうか?

 そのクラスに俺が入れると良いんだが…

 

「私がそうするように掛け合っておこう。 それと、今日は私が家まで送ろう」

 

「あ、はい。 ありがとうございます」

 

 ちーさんは少し黙り込み、思いついたような顔をして俺に言う。

 

「だが鉄平よ。 このIS学園は思春期の男子としては嬉しいんじゃあないか?」

 

「… と、言いますと?」

 

「いやなに、周りが一夏以外女子だけなのだ。 俗に言うハーレムと言うものも作れるのではないか?」

 

「いや、大体の女子が一夏に持ってかれますよ。 ってかそんなことしたら蘭に殺されますし」

 

 ちーさんは意外そうな表情をした。

 

「ふむ、昔からの知り合いの贔屓目なしに言っても、お前はそれなりに良い顔をしてると思うが?」

 

「いや、それでも一夏には敵いませんて。 それに俺、目付きも性格も悪いから大半には怖がられるでしょうよ。 実際ちーさんも顔は良いのに未だに男がいませんし…」

 

「ほう。 それは私の性格が悪いと?」

 

「悪いわけじゃあないんですが、男からしてみると強か過ぎるんじゃないですかね? ある程度の可愛げがないと」

 

 笑顔とは威嚇の表情に由来すると言われるが、まさしく今のちーさんが浮かべるのはその表情だ。

 この人にとって"恋人"や"婚期"などは地雷だったな。

 

「これでも気にしているんだが…」

 

 俯いたちーさんがモゴモゴと何かを言う。 残念ながら聞き取れなかったので何を言ったのかと聞くと

 

「鉄平、お前も一夏に引けを取らないよ…」

 

 と言われてしまった。 失敬な、あの歩くフラグ建設機の朴念神と一緒にされるなど。

 

「そもそも俺はもう彼女いますし、フラグも鈍感も関係ないですよ」

 

「そうだったな」

 

 気を取り直したちーさんが顔を上げながら言う。

 俺から視線を逸らしているが、時計を確認しているのだろうか?

 顔も赤いようだ。

 

「何ですか、今の話題で顔赤くして、もしかして俺のこと大好きですか?」

 

「ば、ばっ、馬鹿を言うな! お前は弟の幼馴染だ、それ以上でも以下でもない!」

 

「いや、以上でも以下でもなかったら何なんですか…」

 

 俺の最後の発言は無視され、車に連行された。

 そんなところが持てない原因じゃ…

 そう言おうとしたが黙って飲み込み、車の助手席に座る。

 さっきの発言で場を気まずくしてしまった…

 無言のドライブは約30分間続き、ちーさんは俺を家に送り届けて帰って行った。




読んでいただいてありがとうございます。
今のところちーちゃんはヒロインにするか迷ってるところです。
ちーちゃんとくっ付けちゃったら鉄平が彼女がいるのに幼馴染のお姉さんに手を出す最低野郎になるし… ここまでやって何もなしだと物足りない…


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#3

 俺がISを動かしてしまった翌日。

 昨日と同じでネットサーフィンの後、身だしなみを整え家の外に出た俺は、大量のマスコミに囲まれていた。

 

「あっ! 出てきたぞ!!」

「カメラ回せカメラ!」

「浅間さん! 今のお気持ちは!?」

 

 お気持ち? 最悪に決まってんだろハゲ。

 そう言う前に扉をバタンと閉め、リビングに戻り学校に電話をかける。

 

『はい、もしもし。』

 

「すんません。 3-1の浅間ですが泉谷先生はいらっしゃいますか?」

 

『わかった。 すぐ変わるから待ってろ。』

 

 すぐに電話に応答があり、出たのは体育教諭の沢宮先生だった。

 担任である泉谷先生を出して欲しいと言ったら、ちょうど職員室にいたようですぐに変わってくれた。

 

『おう、変わったぞ浅間。 んで、どうしたんだ?』

 

「助けてください、家の外に大量のマスコミが居て出られません。」

 

『ちょっと待ってろ… うわっ。』

 

 しばしの沈黙の後、泉谷先生が声を上げる。

 何を見ているのだろうか?

 

『テレビつけてみろ、ニュースなら何でも構わん。』

 

 そう言われて、テレビをつけてみると…

 

「ふぁ!? 俺の家ですやん! え? 何あいつら傍迷惑なことしてくれてんの!?」

 

 映っているのは俺の家と、大量のマスコミであった。

 うん、問題を起こした政治家の気分。

 

『全国のお茶の間に生放送されているらしい… ひとまず警察を呼んで追っ払って貰え。 特例ってことで遅刻にはカウントしない。』

 

「ありがとうございます!」

 

 先生に礼を言い、電話を切る。

 つぎに110と電話機に打ち込み、警察に電話を掛ける。

 

『はい、こちら横浜警察。 事故ですか? 事件ですか?』

 

「事件です! 家が大量のマスコミに囲まれてるんです! 助けてください、住所は---」

 

 ♧♣︎♧

 

 住所を伝えると、程なくして二台のパトカーがやってきて、中から出てきた男性の警官がマスコミを散らした。

 本当マジありがとうございます。

 

「大変だったね。 学校まで送ろうか?」

 

 遠慮しようかと思ったが、マスコミがまだそこら中に溜まっている可能性がある。

 確かに、このまま1人で行ってはまた捕まるだろう。

 

「よ、良ければお願いします。」

 

「うん、じゃあ乗って。」

 

 若い警察官の人は笑顔で、パトカーのドアを開けてくれた。

 うん、なんかこう… パトカーの後部座席に乗るのって複雑だね。

 前に職業体験で乗ったことはあるけどさ。

 数分ほどパトカーに乗っていたら、俺の通っている学校の前に着いた。

 降りようとするとドアが開かなかったが、若い警察官の人が外から開けてくれた。

 

「災難だったねぇ。 きみ、2人目の男性IS操縦者の子でしょ?

 

「あ、はい。 そうです。」

 

「ふふ、じゃあ頑張って、女尊男卑をちょっとでも弱めてくれ。 じゃあ。」

 

 敬礼をする警察官の人に感謝の言葉とともに深く礼をして、回れ右して校門をくぐる。

 やばい、もう遅刻だ。

 出来るだけ急いで階段を上り、教室の扉を開ける。

 

「おはよう… ございます…」

 

 教室では、1時間目の学活が始まっていて、球技大会のチーム分けなどを話し合っていた。

 泉谷先生から話は聞いていたようで、俺に同情するような目を向けている奴が多い。

 

「よ、鉄平。 大変だったな。」

 

 相応が俺の肩に手を置いて言う。

 

「ああ、本当もう大変だ。 日本のマスコミは腐ってやがる! そして警察官万歳!」

 

 ☆♣︎☆

 

 受験後の授業である、レクや校内清掃や卒業式練習を終えた俺は、軽い鞄を背負って、一夏と談笑しながら校門に向けて歩いていた。

 

「ん? あの車はちーさんのじゃねえか?」

 

 校門の前の道路に、昨日も乗ったちーさんの車があった。

 その運転席の窓からはちーさんが顔を覗かせている。

 

「来たか鉄平、一夏。 ちょっと来い。」

 

 ちーさんに呼ばれて、一夏と共に車のそばに行く。

 

「鉄平、お前しばらくはうちで暮らせ。」

 

「へ?」

 

 素っ頓狂な声を上げた後、考える。

 ああ、なるほど。 一夏は特に問題なく登校できたって言ってたな。

 つまり、ブリュンヒルデたるちーさんのそばにいればマスコミも迂闊に手を出せないわけか。

 

「その通りだ。 さあ乗れ。」

 

 考えたことを伝えると、肯定と共に急かされた。

 一夏と共に車に乗り込む。

 

「ああ、一度、お前の家の前で止めるから荷物はその時に持っていく。」

 

「あ、はい。 わかりました。」

 

 ♤♣︎♤

 

「あー、必要なのは洋服と… 貯金箱と… パソコンと…」

 

 家の中にある生活必需品たちを思い浮かべて、回収していく。

 特にパソコンは大切、これがなきゃ死ぬ。

 そんな時に、押入れの戸を開けるちーさんが見えた。

 

「ちょっとちーさん何してるんですか!? ストップ、ストーップ!! 男子中学生の押入れはマジでやばいから!!」

 

「ほう、何がやばいというのだ? もしやいかがわしい本でも隠し持っているのか?」

 

 ニヤリと笑いながら問い掛けてくるちーさん。

 俺にちーさんを止めることなどできず、ついには奥の段ボールが見つかってしまった。

 

「ちょ、一夏! 早くこの人止めろ!」

 

「あははー、ちょっとそれは無理だな。」

 

 苦笑いをする一夏に助けを求めるが、応じてくれない。

 クソ! この世に神はいないのか!?

 

「ほう、こう言う趣味だったか…」

 

「ストーーーップ!!!」

 

 最終的に、いけない御本をちーさんに掘り起こされて、引越しの作業が進むのはかなり後になった…

 

 ♣︎♧♣︎

 

「うう… ひどいですよちーさん…」

 

 引越しの作業を終え、俺は今織斑家にいる。

 ここからしばらく、具体的には卒業式まではここで暮らすそうだ。

 織斑家よりも安全という理由で、卒業式が終わったらIS学園の寮に他の生徒よりも早く入れるらしい。

 

「昔から千冬姉はああいう人だから…」

 

「そうだったな、傍若無人で冷却非道。 それこそが織斑千ふ…」

 

 ここまで言ったところで、背後に凄まじい気配を感じた。

 ち、千冬さん。 IS学園に帰った筈じゃ!?

 

「残念だったなぁ… トリックだよ…」

 

 元ネタよりはるかに絶望的な台詞だ。

 ちょ、止めて。 背後に般若らしきものが見えるから。

 スタンドにでも目覚めたの? つまりそれが見える俺もスタンド使い?

 なるほど、スタンド使い同士は惹かれ合う運命に---

 

 -パァン!-

 

 ちーさんの見事な張手が俺の頭部に決まる。

 そんじょそこらの芸人よりもはるかにいい音が鳴り響く。

 そして…

 

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 滅茶苦茶痛い。 そうだ、この人IS着てなくても世界一級だった。

 

 ♢♦︎♢

 

 早いもので、既に俺たち三年生は卒業式を迎えていた。

 在校生の作る花道を歩き、式の行われた体育館を出る。

 

 ザワザワと騒々しい他の生徒たちの中、この騒がしさも終わりかと思うと若干の寂しさを感じる。

 

「お前らはIS学園行きだろ? いいなぁ、ハーレム。」

 

 相応がそう呟くと、周りも騒ぎ出す。

 やっぱりもうこんな五月蝿いのはいらねぇ!!

 

「変われるもんなら変わりてえよ、俺、今日からIS学園行きだぜ?」

 

「じゃあ変わってくれよ!」

 

「無茶言うなハゲ。」

 

「ハゲてねーし!」

 

 馬鹿どもに別れを告げて、一夏と共に帰る。

 さて、今日から俺はIS学園の寮で暮らすわけだ。

 全くもって面倒臭い…

 

「それにしても… IS学園か…」

 

「ああ、本当に行きたくねえ。 なんで俺たちを女子校にぶち込むんだ…」

 

 ただ一つだけ、IS学園に行くに当たって楽しみなこともあるんだがな…



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#4

主人公君はめちゃくちゃ目つきが悪くて背が高いです。
髪は黒で、適当に目に触れない程度に切っているので余計怖いです。


「鉄平、本当に行っちゃうの?」

 

「ああ、IS動かしちまったからなぁ… まあ、休みに外出許可を取れたら会いに来る。」

 

 今俺が話しているのは、赤い髪に紫のバンダナをした一つ年下の超絶美少女、彼女の蘭だ。

 IS学園行きの電車に乗る前に、彼女の家に最後の挨拶に来た。

 

「私、絶対IS学園合格するから!」

 

「おう、一緒に高校通うの、楽しみにしてるぞ。」

 

 精一杯の笑顔でそう言うと、蘭は俺の胸元に抱きついてきた。

 蘭も身長が低い訳ではないが、俺はそれなりに背があるためこれぐらいになる。

 

「せめて… 鉄平分の補充を…」

 

「んじゃ俺も補充しとこう。」

 

 そのまましばらく抱き合っていると、部屋のドアを開けて弾が入ってきた。

 

「ヒュー、お熱いねぇ。」

 

「うおっ!?」

 

「ひゃっ!?」

 

 お互い、驚いて距離をとった。

 ノックをしろよノックを!!

 

「だってノックしたら2人とも止めちゃうだろ? 折角茶化しに来たんだからな!」

 

 ドヤ顔とともに高笑いをする弾の顔を殴り飛ばしたくなるが、我慢だ。

 代わりに蘭が殴り飛ばしたからな。

 

「も、もう! 勝手に入って来ないで!!」

 

「いってぇ! 相変わらず容赦ねえなぁお前!」

 

「そっちが悪い!」

 

 口喧嘩を始める蘭と弾。

 そして一通り話して満足したのか、弾がこちらを向いて言う。

 

「まあ、鉄平。 俺も一応幼馴染なんだ、別れの挨拶ぐらいさせろ。」

 

「おう、あばよお兄様。」

 

「ああ、行ってこい弟。」

 

 蘭と弾に挨拶も済ませたし、もう行くか。

 

「んじゃ、行ってくるよ。 休みがあれば来るから、またな。」

 

「うん! またね!」

 

「おう、またな。」

 

 2人に別れを告げ、五反田家のから出る。

 

「鉄平! 頑張ってね!」

 

「…おう!!」

 

 玄関の外まで見送りに来てくれた蘭と弾に手を振り、今度こそ別れを告げる。

 そのまま駅まで歩き、IS学園のモノレール乗り場行きの電車に乗る。

 近くに優先席も無いようなので、携帯を弄っていることにしよう。

 

 ♤♠︎♤

 

「おお。」

 

 モノレール乗り場から見えるIS学園に、思わず感嘆の声を出してしまう。

 一度来たことはあるが、あの時は暗かった。

 もちろん、それでも圧倒的な存在感を放ってはいたが、やはり太陽が昇っている時間だと違う。

 

 遠くに見えるIS学園を眺めていると、モノレールがついた。

 そのモノレールに乗り込み、今度は携帯を取り出さずに、だんだんと近づいて来るIS学園を眺めていた。

 モノレールがIS学園に到着し、動きが止まる。

 開いたドアから外にでると、予めちーさんに渡されていた地図を見て寮の方に歩き出す。

 世界中の生徒が集まって来るのだから、当然校舎は途轍もなく大きい。

 

 島の中心あたりにあるモノレールの駅から、島の端の方にある寮に行くにはかなり時間がかかりそうだ。

 景観を楽しみながら歩いていると、寮に着いた。

 幸いなことに上級生に見つかることはなかった。

 

 寮の自動ドアを潜ると、そこには黒いレディーススーツを来たちーさんがいた。

 

「こんちは、ちーさん。 やっぱそのスーツ似合ってますね。」

 

「そうか、ありがとう。 早かったな、鉄平。 部屋に案内する、ついてきてくれ。」

 

 踵を返して歩き出すちーさんに後ろから付いて行き、何階か階段を上る。

 

「ここの部屋だ。」

 

 ちーさんが一つの部屋の前で立ち止まり、俺に鍵を渡してくる。

 鍵を受け取って、部屋の扉を開けてみる。

 

「おお…」

 

「中々に広いだろう? 入学式にはペアの者もこの部屋に入るから綺麗に使うように。 それと部屋のものは壊すなよ?」

 

「当たり前ですよ、しかし本当に広いですね。」

 

「私も当初は驚いた。 流石はIS学園とな。」

 

 この人でも驚くことがあるのか?

 と心の中で思った瞬間、後ろからパンと頭を叩かれた。

 流石はブリュンヒルデ、読心術まで使えるのだろうか?

 

「私も人間だ、驚きもする。」

 

「いや、本当なんでわかるんですか… ところで今のちょっと背伸びして頭叩くの、本当に可愛かったのでもう一回やってくれませんか?」

 

 冗談のつもりでそう言ったら、某一歩なみに見事なリバーブローが突き刺さった。

 

「お、お前は何を言っている!?」

 

「グッ… グオオオォォォォォ… 冗談、ほんの冗談です。 脇腹にブローは止めて…」

 

「お前が悪い!」

 

 腹を抑えてうずくまる俺に、蹴りでも入れてきそうな雰囲気のちーさん。

 顔が赤くなってませんか?

 ちなみに身長は俺185cmに対してちーさん166cm、日本人女性にしては高めだが、俺からしたら結構低い。

 

「おほん。 で、では私は職務に戻る。 何しろ多忙な物でな。 荷物は部屋の中に運び込まれている筈だ。」

 

「はい… 頑張ってください…」

 

 よろよろと立ち上がり、ちーさんを見送る。

 

「あ、危ねえ、あのまま立ってたらガゼルパンチからのデンプシーロールを喰らうところだった…」

 

 チャンピオンの必勝パターンをなんとか回避した俺は、靴を脱いで部屋の中に入る。

 部屋の中は凄いの一言に尽きる、部屋の中にあるキッチン、さらには風呂も部屋の中にあるようだ。

 かなり大きなサイズのベッドが二つに、机には2人分のパソコンがある。

 さらにタンスが二つに本棚。

 なんだこれめちゃくちゃ豪華じゃねえか。

 そして床に置いてあるこの段ボールたちは俺の荷物だろう。

 

 それにしてもこれ、2人部屋にしても大きすぎんだろ。

 

「まずは物の整理をするか…」

 

 段ボール箱の中一つを開けると、中に洋服類が入っていた。

 普段着が数着とIS学園の制服が上下二着ずつ。

 あとついでに貯金箱も。

 次の段ボールの中には教科書と参考書と本と、ノートパソコンが入っていた。

 

 ひとまずこの2つを整理しよう。

 服はタンスに、本は本棚に、ノートパソコンは… 充電しておこう。

 

 さて、残ったのは段ボール一つと小包一つか。

 段ボールは多分趣味の裁縫のセットだろう。

 ならもう一つはなんだ?

 

 取り敢えず、一つ開けてみることにした。

 中には予想通りの裁縫セット。

 ひとまず机の上に置いておく。

 

「んで、最後はこれか… なんだろう?」

 

 最後に小包を開封すると、中には俺の家の押入れの奥に置いてきた筈のエッチィ本たちが入っていた。

 荷物を用意したのはちーさんだろうから、これもちーさんの思惑だろう。

 畜生、物理だけでなく精神でも仕返しをしてくるとは…

 

 取り敢えず、俺はイケナイ本たちを小包に入れ直し、見つからないようにタンスの下に隠した。

 大丈夫だ。 同室は一夏だろうし、タンスは個別の物だ。 見つからないだろうし見つかっても問題ない。

 

 ちーさんの不敵な笑みを思い浮かぶ。

 畜生め!!

 

「あー。」

 

 ベッドに倒れこんで天井を見上げていると、不意に腹が鳴った。

 そういえば1時ぐらいになるが昼飯を食べていないな。

 足を振り下ろし、その弾みで立ち上がる。

 春休み中も学食は使えるらしいし、財布の中には十分な金が入ってる。

 よし、飯を食いに行こう。

 

 ♧♣︎♧

 

 さて、食堂に来て昼飯を取る俺は、早々に後悔をした。

 いや、飯がまずい訳ではない、むしろ『IS学園学食万歳!!』と、声を大にして言いたいレベルで美味い。

 ならば何故後悔をしているのかというと…

 

「ねえ、あれ2人目の子よね?」

「目つき悪いけどかっこいいわね。」

「えー、私は1人目の方がいいと思うけど…」

 

 見物人がめちゃくちゃいるのだ。

 俺は上野動物園のパンダか?

 むしろパンダの方が人語を理解できない分マシな気もする。

 何故ここまで人が集まっているのかというと、それは俺が食券機の前で悩んでいる時まで遡る。

 

 レパートリーの多い料理を見ながら、何を食うのかを決めていた時に、おそらくは食事を終えたであろう先輩に会った。

 

「え? 君もしかして… 2人目の男性IS操縦者!?」

 

「あ、はい、そうです。 浅間 鉄平って言います。」

 

 俺の存在に驚いた先輩は、自分の名前を言ったら一目散に走って行ってしまった。

 おそらく、その先輩のせいで噂が広まってしまったのだろう。

 ちなみに、最終的にカツ丼を選んだ。

 

「にしても… この状況は…」

 

 帰る時にまた面倒なことになりそうだ。 と思いながら箸を進める。

 最後の一口を食べて、合掌をしてから立ち上がる。

 トレーを返して、料理をしているおばちゃん方に挨拶を忘れずに。

 

 そして、食堂の入り口…

 これは非常にまずい、20人ほどの先輩方が溜まっている。

 

「あの、すいません。 開けてもらえますか?」

 

「あっ、うっ、うん!」

 

 道を開けてもらうようにお願いすると、素直に退いてくれた。

 まるで海を割るモーセのような気分だ。 いや、こっちの方はスケールがめちゃくちゃ小さいけど。

 

 ザワザワという女子の声に混じって、ある発言が聞こえた。

 

「男の癖にIS学園に入るなんて… 身の程知らずな…」

 

 その言葉に反応して、つい、ついだ。

 後ろを向いて声がした方向を睨みながら…

 

「あ"?」

 

 威嚇してしまった。

 中学の時は喧嘩を売られたら必ず買うスタンスだった為に、体が勝手に睨んでしまった。

 

「ひっ。」

 

 恐らくは発言したであろう先輩が一歩後ずさって恐怖の声を上げる。

 

「あっ、すいません。 体が勝手に反応しちゃいまして。」

 

 一応謝っておこう。

 "2人目の男子は超DQN"なんて噂が立ったら嫌だし。

 

 そのまま、できる限り周りを意識しないようにして寮に帰る。

 そして、部屋に戻ってベッドに寝転び

 

「これ、毎回こんな注目受けなきゃいけないの…?」

 

 軽い絶望とともに溜息をついた。



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#5

 IS学園2日目、結局昨日の晩飯を食堂で取り、それだけで心が疲れてグッスリ寝ることができた。

 いや、嬉しくねえよ。

 

 そして朝早く起きて、寝癖を直し、歯を磨いてからパソコンを弄っている時に扉がノックされた。

 

「空いてますよ。」

 

 そう言うと、扉がガチャ、と開いてちーさんが入ってきた。

 パソコンを閉じて、椅子から立って対応する。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう、鉄平。 ところで、今日からお前のISの訓練ができるが… やるか?」

 

「え、マジですか!?」

 

「マジだ。 アリーナの使用許可はもうとってある。」

 

 なんだかんだ言って、IS学園に入学することは嫌でもISを動かすのは楽しみだったのだ。

 いや、ロボットに乗って戦闘なんて男のロマンだろ?

 

「何時頃からやる?」

 

「今すぐにでも!」

 

 ちーさんの問いに答える。

 楽しみなことはとっておけない主義なのだ。 例えそれが逃げ出さなくてもな。

 

「ふむ、では朝食をとってからアリーナに向かうか。 少し部屋の外に出ているから急いで着がえろ。」

 

「了解!」

 

 パソコンをシャットダウンし、ちーさんが部屋から出たのを確認してタンスからIS学園の制服を取り出す。

 一応、これを着た方が良いだろう。

 少し特殊な制服に苦戦しながらも、着替え終え、ベルトを締めて扉を開ける。

 

「お待たせしました。」

 

「おお、似合っているじゃないか。」

 

「そうですか? 俺、白は似合わないってよく言われるんですけど。」

 

「問題ない。」

 

 2人で並んで寮の廊下を歩いている時に、思い出した。

 

「そういやちーさん! 俺のイケナイ本どうやって持ってきたんですか!?」

 

「いや、お前の鍵がたまたま見つかってな。 入り用かと思って荷物の中に入れておいた。」

 

「要りませんよ! 特にIS学園では!!」

 

「ふむ、では捨てるか?」

 

「…取っときます。」

 

 少しの間の後、そう答えた俺の頭をちーさんは叩こうとするが…

 昨日のことを思い出し、少し顔を赤くして脇腹に弱めに肘を入れてきた。

 

「チッ、またあの姿が見れると思ったのに…」

 

「黙れ。」

 

 世界最強の冷徹な一言。

 うん、従わざるを得ないよね。

 

 暫く歩くと、食堂についた。

 結構早い時間だから野次馬はいない。

 よし、これでゆっくり食べられそうだ。

 

 食券機の前で少し悩んで、サンドイッチとコーヒーを選んだ。

 ちーさんは焼き魚の定食。

 …普通逆じゃね?

 その疑問を飲み込み、おばちゃんから受け取ったサンドイッチとコーヒーの乗ったトレーを適当な机に置くと、ちーさんは俺の向かいに座った。

 合掌し、食べ進めていると、不意にちーさんが話しかけてきた。

 

「ところでIS学園の寮で1日過ごした感想はどうだ?」

 

「感想、ですか… ああ、上野動物園のパンダにでもなった気分ですね。 自分の名前をパンダ風に改名するか迷っていたところです。 昨日はパンダ風の名前を夜通し考えていて一睡もできませんでしたよ。」

 

 上野動物園の〜、の下以外は嘘だが、ちーさんは少し笑って言い返してくる。

 

「ほう、それでいいアイデアは思いついたのか?」

 

「いや、それが自分の名前から取ろうとするとなかなかいいのが無くて。 よければちーさんが名前をつけませんか?」

 

「いや、止めておく。 お前は鉄平のままでいいよ。」

 

 そこから会話が途切れ、食事に戻る。

 殆ど同時に食い終わった俺たちは、トレーを返してアリーナまで歩く。

 

「ちーさん、俺のISってどうなるんですか?」

 

「今のところ、お前は量産機を与えられる予定だ。 ラファール・リヴァイヴと打鉄の2種類から選べる。」

 

「なるほど、俺のタイプ的にはラファールですかね。」

 

 他にも、いろいろと質問をしながら歩いていると、アリーナについたところで、ちーさんが俺に鍵を渡してきた。

 

「ロッカールームでISスーツに着替えてこい。 この鍵のロッカーに入っている。 私はピットで待っているぞ。」

 

「わかりました。」

 

 アリーナの案内板を見て、ロッカールームとピットの位置を確認して、ロッカールームに急ぐ。

 

 それにしても男子のISスーツはどうなるのだろうか? 確か女子の物は結構露出が多かった気がするが…

 出来れば背中は見られたくないしな。

 

 そう心配をしながらロッカーを開け、中のISスーツを手に取る。

 良かった、露出はかなり低い。 水着のラッシュガードのようだ。

 

 設計者に心の中でサムズアップをしながらISスーツに着替える。

 着替え終わって、少し体を動かしてみるとかなり体にフィットした。

 

 ロッカールームを出て、ピットにつくと。

 そこにはちーさんと、2機のISがあった。

 先ほどちーさんが選択肢としていたラファール・リヴァイヴと打鉄だ。

 

「さて、どちらから乗る?」

 

「じゃあ… まずは打鉄で。」

 

 ちーさんに乗り方を教えてもらいながら、鎮座する打鉄に乗り込む。

 コックピットに背を預けると、頭の中に大量の情報が入り込んできた。

 

「良し、まずは歩いてみろ。」

 

「はい!」

 

 ISには手足を拡張する装甲がついているので、やはり普通に歩行するのとでは感覚が違う。

 一歩、右足を踏み出した時によろけてしまう。

 

「緊張するな。 IS自体がお前に合わせてバランスを保ってくれる。」

 

 ちーさんの言う通り、段々とマシに歩けるようになってきた。

 5分ほどで、少なくとも歩行は十分にできるようになった。

 

「次は走ってみろ。」

 

 ちーさんにそう言われ、歩行のスピードを上げて走り出す。

 バランスにはもう慣れたのでよろけることもなかった。

 

「最後だ。 あそこから出て空を飛んで見せろ。」

 

 ちーさんが指差すのはピットの出口、戦闘用の空間に続く一本道だ。

 どうやら地面が磁力を使ってカタパルトのようになっているらしい。

 ちーさんの指示に従い、カタパルトに足をセットする。

 

「では、鳥になってこい。」

 

「はい!」

 

 次の瞬間、勢いよく体が前に飛び出た。

 そして、光が段々と近づいてくる。

 地面を蹴り、PICを起動。

 空に飛び出た俺の体と打鉄は、重力に逆らい空中にとどまった。

 

「おお!」

 

 眼下にはかなり遠い地面、そして横と上を向けば空が広がっている。

 なんと表現すればいいのだろうか、このISに乗っている時は、空が近く感じる。

 もちろん、今飛んでいる時よりも高い場所に行ったことはある。

 それでもだ。

 ただ、堅牢さが売りの打鉄だけあって、装甲が多いのか少し動きが重い。

 

『良し、よく出来ているぞ鉄平。 それでは一旦戻ってこい。』

 

 ISの個人回線でちーさんからの指示があり、俺はそれに従ってピットに戻った。

 俺はちーさんのいる辺りまで歩き、打鉄をしゃがませてから停止する。

 

「さて、次はラファール・リヴァイヴに乗ってみろ。」

 

 今度はラファール・リヴァイヴに乗り込む。

 また、情報が流れ込む感覚だ。

 なるほど、こいつは打鉄よりも【拡張領域(バススロット)】の容量が大きいのか。

 反対に装甲は少ないようだ。

 立ち上がり、先ほどと同じように歩行して、走る。

 感覚は打鉄のときに掴んでいたので、すぐに乗りこなすことができた。

 そして、次はいよいよ飛行だ。

 

 カタパルトに接続し、勢いよく飛び出す。

 そして地面を蹴り、PICを起動。

 ちなみにPICとはパッシブ・イナーシャル・キャンセラーの略だ。

 これは物体の慣性がなくなったような現象を起こさせる装置で、これと推進翼を使うことでISは空を飛ぶ。

 

『打鉄とラファール・リヴァイヴ、どちらがいい?』

 

「戦ったことがないので装甲の厚さについて考えずに言うとラファール・リヴァイヴですかね。 一応こいつも柔らかい部類ではないのでしょう?」

 

『その通りだ。 ラファール・リヴァイヴはパッケージによって遠〜近距離全てに対応できることが売りの機体だ。 だから拡張領域が広く、尖った性能もない。』

 

 ISについての情報は知っていたが、実際に体感するのとではわけが違う。

 空中を飛び回りながら、体を慣らしていく。

 暫くの間空を飛んでいると、ちーさんからピットに帰って来い、と通信が入った。

 速度を落としながらピットに着地し、指示に従ってISを解除する。

 

「では次は射撃の訓練だ。この画面から好きな装備を選べ。」

 

 目の前の画面には、ジャンルごとに分けられた様々なISの武装が映っている。

 ISの後付けの武装は、その武装のデータをバススロットにインストールし、それを実体化させることで使用可能になる。

 

 さて、どの武器にしようか。

 画面に目をすべらせていると、一つの銃が目についた。

 89式小銃だ。

 自衛隊、海保、SATなどで使われる日本製の自動小銃。

 いや、ISの場合でも"made in Japan"は安心するだろ?

 

 それだけの理由でこの武器を選び、ISのバススロットに二丁インストールする。

 あとは拳銃も二丁、SOCOMピストルを。

 最後にナイフをインストールして、ISに乗る。

 

「よし、では武器を実体化してみろ。」

 

「はい… どうやればいいですか?」

 

「出したい武器を思い浮かべろ。」

 

 ちーさんに言われ、先ほどみた89式小銃を思い浮かべる。

 すると、手にIS越しで重さが伝わった。

 

「おお!」

 

「5秒か… まあ、初見で無言ならばかなり早い方だろう。」

 

「無言ってどう言う意味ですか?」

 

「基本的に初心者は武器の名を言って実体化するんだ。 まあ、今回無言でできたから次からもそれで練習しろ。 目標は1秒以内だ。」

 

 1秒か… 達成出来る気のしない目標だが、ちーさんの言うことだ。 恐らく練度を高めれば出来るものなのだろう。

 

「さて、では訓練に移ろう。 幾つかターゲットを出すからそれに向けて撃て。」

 

「わかりました。」

 

 ちーさんの声とともに、7つのバルーン型のターゲットがフィールドに現れる。

 すかさず、それに狙いをつけて引き鉄をひく。

 ターゲットとの距離は約70、とても初心者が当てられる距離ではないが、ISのアシストによって狙いが定められて、弾丸は的に向かっていった。

 次に89式小銃をしまい、SOCOMピストルを2丁実体化させる。

 そして狙いを定め、射撃。

 結果は全弾命中、だがターゲットの中心に当たる弾は少なかった。

 ちーさんによるとISで大まかなアシストをしても、結局はパイロットの技量がものをいうらしい。

 

「よし、次は実戦だな。」

 

「…え? あ、相手は?」

 

「私だ。」

 

「嘘でしょ?」

 

 今日初めて動かした、ようやく初心者になったような俺と、世界大会優勝者。

 確実に負ける。

 それどころか、ちーさんの試合を見たことがある俺には、一撃も喰らわせることが出来ないような気もした。

 

「良し、では始めようか。」

 

 ピットから打鉄をまとったちーさんが飛んでくる。

 その手には近接ブレードの"葵"を握られている。

 ちーさんはISの世界大会、モンド・グロッソを、近接ブレードである"雪片"のみで勝ち抜き、優勝した。

 その優勝には相手のSE(シールドエネルギー)を直接減少させる、武器自体の特性も関わっているが、ただのブレードだけでも十分に化け物クラスだ。

 

 ISの戦闘では、先ほど言ったSEを全損させた方が敗北となる。

 ISは攻撃を受けるとSEがバリアとなり操縦者を守る。

 しかし攻撃を受けるごとにSEが減っていき、最終的には機能を停止する。

 

「では、試合… 開始だ!」



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#6

「試合、開始だ!」

 

 試合開始の声を発しながら、ちーさんが消えた。

 いや、消えたのではない、ハイパーセンサーがちーさんの場所を示している。

 

「背後か!」

 

 振り向くと、そこにはブレードを構えたちーさんが居た。

 俺はその瞬間に前方、つまりちーさんの方に飛ぶ。

 俺がまともにやって勝てるわけがない、それならば行動の不意をつき、出来る限り善戦する。

 体当たりによってSEが少し削れるが、問題ない。

 

「ほう、なかなかやるな。」

 

 ISのハイパーセンサーがが視力をアシストし、獰猛な笑いを浮かべるちーさんの顔がよく見える。

 笑いは元々、相手に対する威嚇を示すと言うが、成る程、これが笑いによる威嚇か。

 

 ちーさんが体制を整える前に、89式小銃を構えて引き鉄を引こうとした瞬間。

 

「…へ?」

 

 SEが全損した。

 目の前にはブレードを振り切った体制のちーさん。

 

「…まさかの一撃ですか?」

 

「いや、一撃ではないぞ。 一瞬で5回切ったのだ。」

 

 越えられない壁を感じながらも、ISから降りて立ち上がる。

 やっぱ化け物だこの人。

 するとちーさんもISから降りて、俺の前に立つ。

 

「まあ、一瞬でも私に本気を出させたのだ。 なかなかに良い発想だった。」

 

「まあ、世界最強のSEをほんの少しでも削れたんだから良しとしますか…」

 

 腕を組むちーさんの不敵な笑みが、若干ドヤ顔に見えて少しだけムカついた。

 良し、仕返しをしよう。

 

「ところでちーさん。」

 

「ん、なんだ?」

 

「めちゃくちゃ獰猛な笑顔だったけど、可愛かったですよ。 今度は可愛らしく笑ってくれませんか?」

 

 俺が言い切ると、ちーさんは顔を赤くして、少しの沈黙の後。

 

「ふん!」

 

 すばやい上下のワンツーを喰らわせてきた。

 間違いない、これはホワイトファングだ!

 だが、攻撃が来ることをわかっていた俺は、少し後ろに下がりながら両腕で顔を覆い、防御をする。

 ホワイトファングを打った後のちーさんが懐に飛び込んできて、右の脇腹にリバーブローを連発する。

 

 だがそれも予測済み! 右手で脇腹をガードする。

 しかし次の瞬間ーーー

 

「グッ!?」

 

 顎に衝撃が走る。

 これは、まさか…

 

「ドラゴンフィッシュブローだと!?」

 

 ボディーを連発し、相手の注意を引きつけた後に死角から頭部へのブローを放つ技。

 その技をちーさんは習得していた。

 

「お、お前は… な、何を言っている!?」

 

 完璧なボクシングの後に、顔を赤くして叫ぶちーさん。

 昔、だいたい俺が中1の頃からこうしてからかうとこう言う風に、顔を赤くして照れるのだ。

 何も本気で口説こうとしてるわけではなく、たまに仕返しとしてやっている。

 まあ、その後に模範とも言えるボクシングを食らうのだが。

 

「し、真実じゃないですか… それにしてもボクシング技術本当にヤバイですね…」

 

 顎を抑え、立ち上がりながら言う。

 

「ほ、本当にお前は昔から… 良し、今日はISで思いっきり扱いてやろう。」

 

 あ、これ満足するまで付き合わされるやつや…

 

「良いでしょう! 今日中にはまともに一撃喰らわせられるようになってやりますよ!」

 

「ほう、ならば来い!」

 

 お互いISに乗り込み、武装を実体化する。

 この時に降参していれば、もっと楽に1日を終われたのかもしれない…

 

 ☆★☆

 

「うおおおおお…」

 

 結局あの後、12時までずっと試合をして、昼飯を食い、その後アリーナに連行され、7時まで試合をして、晩飯を食い、10時まで試合をした。

 おかげで実体化は0.5秒を切り、さらにISの操作技術である瞬時加速(イグニッション・ブースト)を習得した。

 結果としては、一度だけちーさんのSEを1/5まで削ることができた。

 ちなみに、試合を終えたあと、ピットでちーさんがちょっとシュンとした顔でやりすぎだったと謝ってきた。

 適度に休みはくれたし、その時の顔が可愛すぎたので許す。

 その時に頭を撫でたら顔を赤くしたちーさんの利き腕での低空スマッシュが俺に炸裂した。

 

 時計を確認すると、時間は10時。

 まだ眠気が残っていたのでシャワーを浴びることにしよう。

 パジャマを脱いで、新しいパンツを持って風呂場に行き、シャワーを出す。

 手の先に当たる水が少しずつ暖かくなっていくのを確認し、浴槽のふちに座って頭から水流を被る。

 

「あ"あ"あ"あ"」

 

 溜息と共に変な声が出る。

 そのままぼうっとシャワーを浴び続け、立ち上がってシャワーを止めてタオルで体を拭く。

 パンツを履き、タンスの中を探して適当な私服を選んで着る。

 

 時間は気付いたら11時、俺は1時間シャワーを浴びていたのか…

 財布を探していると腹がなった。

 11時ならば昼飯を食べるのにもいい時間だ。

 

 鍵を持って部屋から出て、食堂に向かう。

 今日は… 親子丼にするか…

 

 ♡♥︎♡

 

 俺があの後、食堂で親子丼を食べていると1人の先輩が近づいてきた。

 

「ねえ、あなた2人目の男性IS操縦者の子よね?」

 

「あ、はい。 そうです。」

 

 小豆色の髪を頭の右側で結んだその人は黛薫子と名乗り、俺のことを浅間くんと呼んでいいか聞いてきた。

 質問に了承し、話を続ける。

 

「でさ、私は新聞部の副部長なんだけども、あなたのことを新年度1発目の記事にしたくてさ。」

 

「取材ですか? 良いですよ。」

 

「ありがとう!」

 

 黛先輩が笑顔で言い、取材が始まる。

 

「じゃあまず… 彼女とかいるの?」

 

「1発目からきますね… 普通は趣味とか特技とかからでは?」

 

「いや、やっぱりみんなが注目することから聞いてきたいじゃない? それで、どうなの?」

 

「います。」

 

「へえ、本当? どんな子?」

 

 いつの間にか近くに来ていた周りの先輩方から"残念"だの"1人目の方にいくか…"だの"彼女がいても関係ない!"だの聞こえるが無視だ。

 まあ一夏が来たら全員そっちに行くだろ。

 そして俺は質問に、蘭の顔を思い浮かべながら答える。

 

「五反田 蘭って言いまして、親友の妹で可愛い子です。 普段は男勝な子なんですけどたまに見せる弱気な表情とか、甘えてくる時の態度とかがそれはもう…!!」

 

「へえ、彼女思いなのね。 ぶっちゃけキスとかした?」

 

 その質問に、俺は飲もうとした水を吹き出しそうになった。

 

「な、内緒です。」

 

「へえ… 否定しないってことは?」

 

「さ、さて次の質問いきましょう!」

 

 全力で話をそらして次の質問を要求する。

 先輩はニヤニヤしながら、次の質問をしてくる。

 

「じゃあ趣味とか特技とかは?」

 

「趣味も特技も裁縫ですね。 幼い頃に母に習ってはまりました。」

 

「へえ、どれぐらいの物を作れるの?」

 

「そうですね… こんぐらいの縫いぐるみは作ったことがあります。」

 

 自分の腰から首あたりまでを手で示す。

 黛先輩は驚いた顔をしている。

 

「凄っ! その縫いぐるみっていまIS学園にある?」

 

「今はないですね。 あ、でも裁縫の道具はあるので作ることはできますよ。」

 

「じゃあ今度時間があったら作ってくれないかな? 記事に載せたいの!」

 

「なら今日から作りますか、春休みですから時間もありますし。 なんの縫いぐるみが良いですか?」

 

「じゃあ… 兎とか?」

 

「わかりました。」

 

 兎ならば作ったこともある。

 1日ですぐ作れるだろう。

 

「それじゃあ次の質問! 昨日織斑先生と食堂に来て、その時に"ちーさん"って呼んでたらしいけどどう言う関係?」

 

 その質問には、周りの女子も興味があるようでざわめきが収まった。

 

「まずちーさんの弟である一夏とは幼馴染なんです。 それで、もう1人幼馴染がいるんですけども、そのもう1人の幼馴染のお姉さんがちーさんを"ちーちゃん"と呼んでまして。 だったら俺はちーさんと呼ぼうってことでして。」

 

 答えた後、周りがもう一度ざわめきだす。

 羨ましがってる内容が多いな。

 

「じゃあさ、随分親しそうだったけど… ぶっちゃけ恋情とかあるの?」

 

「恋情はないですかね。 まあ、可愛いとは思いますが。」

 

 黛先輩がガタッと立ち上がる。

 周りの先輩方も今まで以上にうるさい。

 

「どう言うところが!?」

 

「そうですね… 例えば、ちょっとからかうと顔を真っ赤にするところですかね。 まあその後酷いしっぺ返しを食らうんですが。」

 

 次の瞬間、空気が凍りついた。

 どうしたのだろうか?

 そう思って先輩方の方向を見た瞬間…

 

「鉄平よ… 覚悟はいいか?」

 

 鬼がいた。

 

「ちーさん、どの辺からいましたか?」

 

「ピンからキリまで聞いていたぞ?」

 

「…じゃあ俺はこれで。 縫いぐるみの製作にかからないといけないので。」

 

 - 待 て -

 

 恐ろしい、地獄の閻魔も裸足で逃げ出しそうな声が聞こえた。

 それは本能的な恐怖であった。

 

 ちーさんが俺の肩を掴み、引き摺られる。

 

「さて、黛よ。 このことを記事にしたらどうなるか… わかっているな?」

 

 黛先輩が顔を真っ青にしてコクコクと頷いている。

 誰か… 助けて…

 

 この後どうなったかはあえて言わない。

 結果として、俺の武装の展開速度が0.2秒を切り、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を習得した。



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#7

4/5誤字修正しました


 カーテンの隙間から光が漏れる部屋の中で、俺は目を覚ました。

 頭を掻いて、時間を確認すると5時半。

 随分と早起きしてしまったな…

 

 寝起きでは極端にIQの低い俺は、何をするかを空っぽの頭の中で考え、昨日の約束を思い出した。

 縫いぐるみを作らねば。

 

 裁縫用具を取り出し、作業を始めた。

 久しぶりの縫いぐるみ作りだったので、楽しみながら作業をしていると、扉を叩く音がした。

 

「はい。」

 

 作業を中断して扉を開けると、その先にはちーさんがいた。

 

「ああ、おはようございます。」

 

「鉄平… 昨日は悪かった。」

 

「ああ、別に構いませんよ。 半端なくISの操作技術が上達しますし。」

 

「いや、だが…」

 

「いいんですよ、俺もちーさんと入れて嬉しいですし。」

 

 俺の発言を受けて、ちーさんは少し顔を赤くして俯いた。

 その動作があまりにも可愛かったので、頭を撫でてしまった。

 

「お前は…! どうしてこう… !」

 

 反応できない速度で顎を殴り抜けられる。

 少し蹌踉めくが、倒れることなく止まった。

 

「いや、可愛いものにはちょっと悪戯したくなっちゃうじゃないですか?」

 

「な、か、可愛い…」

 

 ちーさんはさらに顔を赤くして、俺の胸ぐらを掴む。

 次の瞬間、無限の打撃が俺を襲う。

 そして、ちーさんは俺に背を向けて立っていた。

 これは… 瞬獄殺だと!?

 

「やりますね… ちーさん。 まさかはじ○の一歩だけでなくスト○ァイ技まで使ってくるとは…」

 

 背を向けたちーさんは顔を見せてくれない。

 そのまま少したち、いつもと変わらない涼しい顔をしたちーさんが振り返った。

 

「む、縫いぐるみを作っていたのか。」

 

「あ、はい。 ところでちーさんって縫いぐるみとか好きですか?」

 

「いや、興味はないな… どうしたんだ急に。」

 

「例えばね、いつも硬派なちーさんの部屋に行ってみたら、棚の上に縫いぐるみが。 なんてなったら男は果てしなく萌えます。 ですので俺は婚期を逃しかけてるちーさんを手伝おうと…」

 

 言い切る前に、俺の体を無数の拳が襲った。

 例えるならば… ショットガン!

 ちなみにちーさんは顔を赤くはしてない、つーか怖くしてる。

 愛のない打撃は痛いのでやめてください…

 

「さて、ついて来い鉄平。」

 

「…まさかまたぶっ通し練習メニュー!?」

 

「ああそうだ。 …と言いたいところだが、今日はラファール・リヴァイヴを正規にお前の専用機にすることになっている。」

 

「え、じゃあ色とか弄っていいんですか?」

 

「構わない。」

 

 ちーさんの後をついていくと、IS整備課のドッグについた。

 個室となっている部屋を一つ開けると、そこにはラファール・リヴァイヴが鎮座している。

 

「よし、では手早く済ませて訓練に移るとしよう。」

 

「結局訓練の方はするんですね…」

 

 また今日も死にかけるのかと思うと、軽い… いや、重い絶望に苛まれた。

 心の中で悲痛な叫びをあげる俺をよそに、ちーさんがラファール・リヴァイヴのそばの端末を操作して何かの画面を俺に見せてきた。

 

「ISの待機形態の一覧だ。 好きなのを選べ。」

 

 画面にはピアス、イヤーカフ、ネックレス、指輪などの結構な種類が表示されている。

 イヤーカフは落としそうだから却下。

 ピアスは穴開けたくない。

 指輪も落としそうそして忘れそう。

 よし、ネックレスにしよう。

 

「じゃあ、これでお願いします。」

 

 結局選んだのは、指輪にチェーンが通っているタイプのネックレスだ。

 ちーさんが端末を操作すると、目の前のラファール・リヴァイヴはネックレスに変わった。

 ネックレスを手に取り、首にかけてみる。

 

「まあ制服の中に隠せるし、丁度良いですわ。」

 

「そうか、では訓練に…」

 

「ストップ!」

 

 静止の声をかけた俺を、ちーさんが怪訝そうな目で見てくる。

 いや、別に訓練を遠ざけてるわけじゃない、したくないのは真実だけど。

 

 俺はISを装備はせずに展開し、肩から伸びているシールドを指で指す。

 

「このシールドの中に灰色の鱗殻(グレースケール)仕込めませんか?」

 

 灰色の鱗殻(グレースケール)、それは第二世代のISで扱える武装の中で、最も高い攻撃力を有するパイルバンカーだ。

 俺がちーさんに善戦した時も、この灰色の鱗殻が不意打ち気味に当たったからだ。

 しかし、戦闘中に出そうとすると少しのタイムラグがあるし、武器を扱う手が足りない。

 それならばシールドの内に仕込めばいい。

 シールドは自由に操作できるので、使用する時に相手に当たる場所に動かせば良い。

 

「成る程、面白いな… だが、お前それできるのか?」

 

「…一応知識はありますが、自信はないです。」

 

 俺の夢はIS関連の仕事で、知識は仕入れていたがそれを実際に使うことはなかった。

 あ、後今更だけど受験した私立高校には特待で受かってた。 今となっては意味がないが…

 

「そうか… ならば、彼女を呼ぼう。 ラファールについては私よりも詳しいし、確か整備や改造についても詳しく勉強していたはずだ。」

 

 ちーさんは携帯を取り出し、どこかへ電話をかける。

 話の内容からして相手は同僚、そして後輩のようだ。

 知識を頼りに、ちーさんとともに改造に必要なパーツを揃えていると、部屋に1人の女子が入ってきた。

 背が低く、童顔、そしてデカイ、何がとは言わないがデカイ、説明不要。

 

「あ、織斑先輩、彼が浅間くんですね?」

 

「あ、どうも。 浅間 鉄平と申します。」

 

「そうだ。 電話でも話した通り、彼のラファールの改造を手伝って欲しい。」

 

 その先輩と思われる女子は山田 真耶と名乗った。

 そして俺にどのように改造すれば良いのか、と聞いてきた。

 

「ここのシールドに灰色の鱗殻仕込みたいです。」

 

「あー、成る程。 それなら結構すぐ終わりますよ。 まずはここをこうしてですね…」

 

 先輩から解説を受け、作業を進めていく。

 方法を教えてもらい、時には先輩も手伝ってくれて40分ほどで両方のシールドの改造が終わった。

 

「いやあ、助かりました。 凄いですね、山田先輩。」

 

 俺がそう言った瞬間、部屋の空気が凍った。

 え? 俺なんか地雷踏んだ?

 

「あー… 鉄平、山田君は教員だ。 ちなみに教師として見られないことを結構気にしている。」

 

「良いんです。 どうせ私なんて子供っぽくて…」

 

 ああ、やばい! よくはわかんないけどこれはまずい。

 

「だ、大丈夫ですよ! 山田先生は十分大人っぽいっですって!」

 

「ど、どこらへんがですか?」

 

 山田先生が顔を上げて、俺の目を見て聞いてくる。

 若干涙目だ。

 涙目上目遣いとかふざけんじゃねえぞ!

 

「…ハート(胸部装甲的な意味で)とか?」

 

 ようやく絞り出した言葉がこれだ。

 よし、これならば問題なく誤魔化せる!

 

「ハート(精神的な意味で)ですか!?」

 

 良し、完璧な食い違いが起こった。

 山田先生は喜んでいるし、俺も嘘は言っていない。

 全員がハッピーで終われる最高の選択肢だ。

 

「ハァ… では鉄平。 そのシールドの試運転も兼ねて練習だ。」

 

 おそらく今の会話を、俺の意味の方で解釈したであろうちーさんが呆れ顔でため息をついた後、俺の首根っこをガシッと掴んだ。

 え? 俺このまま連行されるパターン?

 

「さっさとISを待機形態にしろ。 あ、山田君、手伝ってくれてありがとう。」

 

「ありがとうございました。」

 

「いえいえ、いいんですよ! 私は大人ですから!」

 

 その分厚い胸部装甲に手を当てながら言う山田先生。

 いや、目の保養にはなるんですがある意味では毒なんですよ。

 俺はできるだけその胸を見ないようにして、ISを待機形態のネックレスにして、首にかける。

 

「じゃあ、本当にありがとうございました。 助かりました。」

 

 山田先生に頭を下げて礼をする。

 この人がいなければ上手く改造ができていなかったのだ。

 山田先生は微笑んで、俺に言葉を返してくる。

 

「また何かあったら頼ってください。 私は先生ですから。」

 

 そう言って、俺がはいと返すと去っていった。

 ちなみにこの部屋は俺専用のドッグとして使えるらしい。

 ちーさん部屋の鍵を手渡され、鍵を閉めてからアリーナに向かおうとしたところで、俺の腹がなった。

 

「そういえばまだ朝飯食ってませんでした。」

 

「そういえば私もだ。 よし、練習は朝食をとってからだな。」

 

 俺はそのまま、ちーさんとともに食堂に向かった。

 その後一日中ISを乗り回し、灰色の鱗殻を使いこなせるようになった。



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IS学園一学期編
#8


 ここ、IS学園寮に来てから十数日。

 取材を受けたり、一日中ISの試合をしたり、ぬいぐるみを作ったり、一日中ISの試合をしたり、謎の青髪赤目の人物に襲撃を受けたり、一日中ISの試合をしたり、ちーさんを愛でたり、一日中ISの試合をしたりした。

 あれ? 俺この春休みほぼ毎日一日中ISの試合してね?

 

 休んだ記憶のほとんどない春休みを思い返しながら、ネックレスを首にかけ、制服を着る。

 何度か着用した制服だが、それでもまだ真新しい。

 睡眠から覚醒するために全開にしたカーテンの先の窓から日光が当たる。

 

 あくびを一つして、今日必要な道具を鞄に入れて、一度ベッドに座り込む。

 そう、今日がIS学園の入学式だ。

 ハードなことに、ここIS学園では初日から授業がある。

 分厚い教科書の入った鞄は重く感じられた。

 

 部屋の隅に置いてある結構な数の段ボールは、今日から寮に入るであろう一夏のものだろう。

 

 時計を確認してから部屋を出る。

 この時間ならば十分余裕を持って教室につける。

 

 本校舎に続く道を歩き、自分のクラスである1-1の扉を開ける。

 教室の中には誰もいない、どうやら俺が1着のようだ。

 誰もいない教室というのは少しテンションが上がる。

 前の黒板に映る席順を示す画面を見ると、自分は窓側の一番後ろ。

 最高の席だ。

 指定された席に腰を下ろし、鞄から教材を取り出して机の中に入れる。

 時計と時間割を見ると、ホームルームまでは結構な時間がある。

 早く来すぎたか…

 本でも読んで時間を潰すとしよう。

 

 ボーッと本のページをめくっていたら、周りがザワザワとしてきているのに気づいた。

 他の生徒たちが登校してきたのだろう。

 時計を見ると、ホームルームまであと2分。

 教室を見回すと、俺の周り数メートルに見えない壁でもあるのか、円の形になって女子たちが俺を見ていた。

 

「おはよう、そろそろ席に座らないとホームルームが始まるぞ?」

 

 挨拶と、ちょっと遠回しにそんな見んな、と言う。

 いやね、マジでパンダ風の名前考えることになるのは嫌だから。

 それに俺は一夏の奴とは違う。

 おそらくあいつならこの状況、何も言わずに黙って見られていると思うが、俺は初対面の女子に対してコミュニケーションを取れる男!

 

「う、うん。 じゃあ隣座るね!」

 

「浅間鉄平、よろしく。」

 

「あ、うん! 私は千堂 薺だよ! よろしくね!」

 

 会釈をして教室の前に視線を移す。

 と、その時に一夏が前の扉から教室に入ってきた。

 遠目でもわかるほどにガッチガチに緊張していて、足取りがおぼつかない、そのまま倒れこむように最前列ど真ん中の机に座り込む。

 

 周りの女子たちは一夏を注視して、それが一層一夏を萎縮させる。

 そんな時間が少し続き、俺も数人の注目を受けたが気にせずに窓の外を眺めていると、教室の扉が開く音がした。

 

 もう一度前に視線を移すと、山田先生が教室の前の扉から入ってくるところだった。

 乳が揺れ… いかん、蘭に殺される…

 

「全員揃ってますねー。 それじゃあSHL(ショートホームルーム)始めますよー。」

 

 微笑みながら言う山田先生だが、それに対する反応はない。

 全員の意識が一夏に集中しているせいで…

 

「それではみなさん、1年間よろしくお願いしますね。」

 

 笑顔を繕って言う山田先生、反応0。

 俺としては反応したいが、そうしてしまうと周りの視線が俺に集まる可能性がある。

 すいません、山田先生、それと一夏、俺の心の平穏のための贄になってくれ…

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。 えっと、出席番号順で。」

 

 そろそろ狼狽える先生が可哀想になってきた…

 それにしてもデカ… いかん、まだ死にたくない…

 1番最初に呼ばれたのは廊下側最前列の相川さん、ハキハキと自己紹介を終えて席に着いた。

 それと同時に、俺の机に【回答者】と書かれた… なんだろう、立体映像の三角柱? が浮かぶ。

 すごい技術だなおい。

 三角柱を眺めた後、立ち上がる。

 教室の女子の視線が俺に集中した… 成る程、一夏はこれを常に味わってるのか… ザマァ。

 

「あー… 浅間鉄平です。 趣味は裁縫、特技も裁縫。 一応ISについての勉強はしてありますが、色々とわからないところもあるかもしれないんで、迷惑かけるかもしんないけどよろしくお願いします。」

 

 取り敢えずそう言って席に着く。

 うん、よくやったよ俺は。

 席に座るなり、視線を視線をグリンと70度ほど左に移し、空を見る。

 ああ、晴れてるなぁ…

 

 自己紹介は続き、一夏の番が来た。

 

「じゃあ次は、織斑一夏くん。」

 

 一夏は名前を呼ばれても反応しない。

 あ、これ緊張しすぎて周りの音が入ってきてない感じですわ。

 

「織斑一夏くん、織斑一夏くんっ!」

 

「は、はいっ!?」

 

 裏返った声で反応する一夏、あ、これ失敗するな。

 一夏はそのまま思案を続ける、おい、自己紹介しろよ。

 

「あっ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。 お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑君なんだよね、だから、ね、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

 先生、それは教師が教え子に対してとる態度じゃないです。

 ってか一夏も一夏であんま困らせないであげろよ…

 心なしか、一夏への注目が強くなった気がする。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても… っていうか、自己紹介しますから、先生落ち着いてください。」

 

「ほ、本当? 本当ですか? 約束ですよ! 絶対ですよ!」

 

 なんか… どこかズレたような感じの人だなぁ…

 でもあれは庇護欲を掻き立てられる。

 

「え……えっと、織斑一夏です。 よろしくお願いします…」

 

 名前と挨拶、そして特大の間。

 教室の空気が凍り、まるで【開戦を決定する会議を見守る軍人達】のようだ。

 いや、それとは比べものにならないほどにしょうもないことだが、それぐらい神妙な雰囲気が教室を包んでいた。

 

「…い、以上です!」

 

 間を終わらせてそう閉じる一夏。

 同時に数名の女子がずっこける。

 

「あ、あのー。」

 

 涙声感が増した山田先生の言葉。

 そして、教室の机の間を黒いレディーススーツを来た女性が一夏に向かって歩いていく。

 そして出席簿を構え…

 

 -パアンッ!-

 

 と、音が響く。

 例えるのならば… 風船が破裂する音か?

 まるで壊れたブリキのおもちゃの首を回すように、ギギギ、と振り返る一夏。

 あの振り返りかたって漫画だけじゃなかったのか…

 

「げぇっ、関羽!?」

 

 2人の英雄がそこにいた。

 一夏(命知らず)と、その姉である関羽(三国志の英雄)…おっと、ちーさん(ブリュンヒルデ)だ。

 ちなみに今俺が途中で言い直したのは、ちーさんが出席簿を構えたからだ。

 え? 何? そこから投球してくるの?

 

「あ、織斑先生。 もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田君。 クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな。」

 

 優しい声で山田先生に答えるちーさん。

 関羽はどこかへ消えたようだ。

 

「キャーーーーー! 千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

 直後、教室内に超音波が響いた。

 脳みそを直接抉るような黄色い歓声から逃れるために耳を塞ぐ。

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

 その歓声に対し、ちーさんは羽虫でも見るかのような目をする。

 

「…毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それともなにか? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

 おそらく前者かと。

 ISの戦闘において世界最強を謳われるちーさんは、当然下手なアスリート… どころか超一流のアスリートよりも人気と知名度が高い。

 当然、ISの道を志す生徒たちがそれを知らない訳もなく、それどころか先程のようにちーさんの指導を求めてこの学園に来る人もいる。

 因みにこれはフリでも何でもなくマジで鬱陶しがってる時の態度だ。

 恐らく今、一夏は『もうちょっと優しくしようぜ?』とか思ってるだろう。

 甘い、ほぼ砂糖水の御坂神社の甘酒より、五反田食堂のカボチャの煮物より甘い。

 

「きゃああああっ! お姉様! もっと叱って、罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけ上がらないように躾をして〜!」

 

 こ れ が ち ー さ ん だ。

 

 言動の一つ一つがこの歓声たちを引き起こすのだ。

 何故だろう、本当にこの学園には馬鹿者しか来ていないのか?

 

「で? 挨拶も満足にできんのか、お前は。」

 

 一夏を振り返りながらいうちーさん。

 あの人は弟に甘くなるタイプじゃない、寧ろ厳しく当たるタイプだ。

 

「いや、千冬姉、俺はーー」

 

 パアンッ!

 ちーさんの必殺技、出席簿での強打が響く。

 え、待ってちーさん。 それ出席簿煙吹いてね?

 

「織斑先生と呼べ。」

 

「…はい、織斑先生。」

 

 そしてこのやりとりで、教室中に一夏とちーさ… 織斑先生が姉弟なのがバレた。

 

「え…? 織斑くんって、あの千冬様の弟…?」

「それじゃあ、男でISを使えるっていうのも、それが関係して…」

「ああっ、いいなぁっ、変わってほしいなぁっ。」

 

「あれ? それなら浅間くんはどうしてISを動かせるの?」

 

 そのセリフのせいで、教室中の視線が俺に向く。

 頬杖をついて、適当に会話を聞きながら窓の外を眺めていたが、それには気づいた。

 

「…知らん、俺はそこの一夏とは幼馴染だが身内にヴァルキリーやブリュンヒルデはいない。」

 

「へえ… あれ? でもそれは織斑先生と昔から関わってきたってことよね?」

 

 紺色の髪の女子が頬に指を当てながら言う。

 いや、知るかよ。 俺としては天災の兎が何やかんやした可能性が大だ。

 

「IS適性が関わってきた人間にも移転する… 報告は上がってないはずだ。」

 

「ふーん… そっかぁ〜。」

 

 と、そこまででチャイムが鳴る。

 

「さあ、SHRは終わりだ。 諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。 その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。 いいか、いいなら返事をしろ。 よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ。」

 

 と、ありがたいお言葉。

 どうやら織斑先生の教育方針は軍隊で培ったもののようだ。

 数年前に、1年間ドイツで軍のIS操作の教官をしていたし、ISは言ってしまえば兵器だ。 この教育方針も間違ってはいないのだろう。

 

「席につけ、馬鹿者。」

 

 その言葉を受け、一夏は席に腰を下ろした。



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#9

ちょっと修正入れました。 後々の物語で矛盾が生じてしまいますので。


 SHRの後、1-1はIS基礎理論学の授業を終わらせて休み時間に入っている。

 そして、教室内には異様な雰囲気が流れている。

 ちなみにだが、IS学園ではコマ限界まで授業をするために、入学式当日から普通に授業があった。 学校の案内はもう1日じゃ終わらないので地図を見ろとのことだ。

 そして、廊下には先輩方、当然女子が溢れかえっている。

 一夏と俺がISを動かした、というニュースは世界的に報道され、世界中のIS学園関係者… どころか、大体の国の言葉や文字を理解できる人物が知っていることだろう。

 

 そして俺はその雰囲気に耐えられなくなり、休み時間が始まって3分頃に席を立って一夏のところへ行く。

 

「よう、調子は?」

 

「良さそうに見えるか?」

 

 見るからにグデーンとした一夏が問い返してくる。

 

「ああ、最高に見えるよ。 コング少佐の最期ぐらいには元気に見える。」

 

「最高級のテンションだな。」

 

 信じられるか? あれ恐怖で叫んでんじゃなくて、喜びのあまり帽子振り回して叫んでるんだぜ?

 …と、分かりにくいネタを披露してみても緊張はほぼ薄れない。

 

「…ちょっといいか?」

 

 突然話しかけられる。

 女子の『あなた話しかけなさいよ。』と『ちょっとまさか抜け駆けする気じゃないでしょうね?』的な牽制の中、勝ち抜いた猛者がいたとは。

 そう思いながら振り向くと、昔の記憶に残る人物がいた。

 

「…箒?」

 

「箒ちゃんか。」

 

 篠ノ之箒、俺と一夏の共通の幼馴染であり、一夏が昔通っていた剣道道場の子だ。 ちなみに一夏にホの字。

 不機嫌そうな面と目つきをしているがそれは生まれつきだそうだ。

 俺が言えたことじゃないが。

 昔とある事情で引っ越したのだが、面影が残っていたのでわかった。

 

「久しぶりだな、鉄平。 … 一夏を借りてもいいか?」

 

「おう、連れてけ連れてけ。」

 

 一夏の背を押して箒ちゃんの方に行かせる。

 ちなみに俺が箒ちゃん、と読んでいるのは幼少時代の名残だ。

 変えろと言われたら変えることにしよう。

 

「廊下でいいか?」

 

「早くしろ。」

 

「お、おう。」

 

 箒ちゃんに促されて、その後をついていく一夏。

 スタスタと箒ちゃんが歩いて行くと、そこに集まっていた女子がざあっと道を開ける。

 春休み中の俺みたいだな、モーセ、っていう表現はもう使ったか。

 

「…あいつら、俺を敵地に残して行きやがった…」

 

 今更気づく、一夏達の方に流れていった先輩方もいるが、クラスの女子と結構な数の先輩方が遠巻きからこちらを見ている。

 取り敢えず机に戻るか…

 

 俺が机に戻ろうとすると、その周りにいた女子がサアッと散る。

 …いや、わかるよ? 別に物珍しさってのはわかるんだ。

 流石にその反応は傷つくからやめてくれ。

 

 そう口に出すかどうかを迷っていると、2時間目の開始を告げる予鈴が鳴った。

 周りの女子と、先輩方がワラワラと教室、または自分の机に帰って行った。

 ただその中で、一夏だけが席に着かない。

 

「とっとと席に着け、織斑。」

 

「…ご指導ありがとうございます、織斑先生。」

 

 ◇

 

「ーーであるからして、ISの基本的な運用は国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられーー」

 

 教卓に出て、板書を書きながら教科書を読み上げるのは山田先生だ。

 なかなかにわかりやすい授業だと思う。

 因みにここはIS学園に入学できた生徒ならば余裕で分かるところだ。

 板書は基本丸写し、先生の細かな発言までメモを取って後に整理用ノートに要点をまとめながら書き写す。

 なのでこのノートの字は自分で分かる最低限の物でいい。

 それにISの勉強は前々からしてある、問題はない。

 

 さて、問題はーー

 

「織斑くんはなにかわからないところがありますか?」

 

「あ、えっと…」

 

 明らかに挙動不審な一夏に気づき、山田先生が笑顔で声をかける。

 

「わからないところがあったら訊いてくださいね。 なにせ私は先生ですから。」

 

 そう言って、胸を張る山田先生。

 しかし山田先生、そいつをナメちゃいかん。

 

 一夏は暫くあたふたとした後、何かを決意したかのように前をむく。

 

「先生!」

 

「はい、織斑くん!」

 

「殆ど全部わかりません…」

 

 ーーやっぱりあの馬鹿(一夏)か!!

 

「え……、ぜ、全部、ですか…?」

 

 先生の顔が引きつる。

 多分あいつ、入学前に渡された参考書読んでないだろ。

 

「え、えっと… 織斑くんいがいでは今の段階でわからないって人はどれくらいいますか?」

 

 シン、と静まり返る教室。

 次に一夏が声を上げた。

 

「え!? 鉄平は大丈夫なのか!?」

 

「…当たり前だ。 俺の進路は元からIS関係だったし、不本意と言えど入学が決まれば勉強もするに決まってんだろうが。 こちとら私立校の特待受かっといてここ(IS学園)にぶち込まれたんだぞ? 全力で教科書とノートに八つ当たりしたわ。」

 

 因みに、一応IS学園の入試問題も受けた。

 点数は合格ギリギリのラインだったそうだ。

 ま、まあ、設計者とパイロットじゃ科目が結構違うからね? それに俺は高校から本格的に始めようと思ってたからね?(震え声)

 

「…織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

 教室の端で腕を組んで授業を見張っていた織斑先生が一夏に問う。

 

「古い電話帳と間違えて捨てました。」

 

 パアンッ!

 出席簿の音が響く。

 なんていうかもう… いっそ清々しいを通り越して更に一周回って清々しいわ。

 

「必読と書いてあっただろうが、馬鹿者。」

 

 何をどうやったら参考書を古い電話帳と間違えるのか…

 いや、確かに馬鹿みたいに厚かったがそれなりにきちんと解説してるいい参考書だったのに…

 

「後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。 いいな? 浅間も手伝ってやれ。」

 

「い、いや、あの分厚さを一週間はちょっと…」

 

「何を言っている、浅間はお前のせいで時間を潰されるのだぞ?」

 

「え? 俺が教えるの確定なんですか? 拒否権は?」

 

 織斑先生がこちらを見据える。

 その瞳には、その鋭い瞳には、果てしなく強い意志で『ない』と刻まれている。

 一夏の野郎… なんか奢らせる…

 

「あると思うか?」

 

ja(ヤー)…」

 

 軍隊だ、これはもう軍隊だ。

 というわけで、ドイツ語で返事をしてみた。

 織斑先生はひとつ頷き、口を開く。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。 そう言った『兵器』を深く知らずに使えば必ず事故が起きる。 そうしないための基礎知識と訓練だ。 理解ができなくても覚えろ、そして守れ。 規則とはそういうものだ。」

 

 やはりここは軍隊で間違いないようだ。

 

 ◇

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「へ?」

 

「あ?」

 

 2時間目の休み時間、一夏に取り敢えずのISの知識を教えていた時に1人の女子が話しかけてきた。

 青い瞳に綺麗な金髪、肌の色も見ると白人か。

 金髪には僅かにロールがかかっていて、それが高貴な雰囲気を漂わせる。

 そして… 恐らくだが、こいつは女尊男卑的思考の持ち主だろう。

 

「ひっ…訊いてます? お返事は?」

 

「あ、ああ。 訊いてるけど… どういう用件だ?」

 

 おい待てお前今俺の顔見てたじろいだだろ。

 一応傷つくんだよ。

 

「まあ! なんですの、そのお返事。 私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら? そ、それに貴方もなんですの? あの野蛮なお返事は。」

 

 しょうがないだろ、癖なんだよ。

 しかし… ここまで自信があるってことは、代表候補生かただの馬鹿か、その二択だろう。

 

「悪いな、俺、君が誰か知らないし。」

 

 取り敢えず俺は空気になっておこう。 いらないことして敵視されるよりかは頭のいい作戦だ。

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

 正直知らない。 イギリスのISについては知ってるが代表候補生についてはそこまで有名ではない。

 そんでもって自己紹介の時にはこいつのとこに行く前に終わったし、入試の順位なんて張り出されない。

 しかし、主席は素直に凄いな。

 

「…なあ鉄平、代表候補生ってなんだ? そんなに偉いものなのか?」

 

 呆けた顔してこっちに質問を投げてくる一夏。

 こいつは…

 

「字面から想像できんだろうが、国家代表の候補生… 説明したらそのままになっちまうな… まあ、そんなところだ。」

 

「あ、貴方の方はそれなりの知識を持っていらっしゃるようですわね! しかし… 極東の島国というのはここまで未開の地なのかしら。 常識ですわよ、常識。 テレビがないのかしら…」

 

 常識を強調して、大げさな手の振りで話すオルコットさん。

 いや、まあ確かに普通知ってることだが…

 ってか俺に話しかけるたびに吃るのやめてくれます?

 

「悪いな、オルコットさん。 こいつ、頭はそこまで悪くないが昔から日常生活において決定的に何かが欠けてるんだ。」

 

「それは酷くないか!?」

 

「酷くねえよ、何度お前のせいでいらない喧嘩に巻き込まれたか…」

 

 馬鹿で愚直で、それでも正義感は人一倍とくる。

 それに昔からつるんでる俺もこいつに協力して、さらには後始末までやる羽目になって、親がいない俺を叱るために呼び出されたちーさんに拳骨をくらったりするのだ。

 こいつは俺の二倍近く拳骨を頂いているが。

 

「まあ、代表候補生自体はそこまで有名にはならないな。 国が自慢したいのはあくまで技術力で、パイロットについてはある程度の功績を立てないと国が大々的に宣伝することはねえな。 だがまあ、入試主席ってとこも見るとなかなかに優秀だと思うぞ。」

 

「へえ、そうなのか。」

 

 詳しく調べあげれば代表候補生のトップぐらいはわかるが、そこまで重視されるものではない。

 

「貴方は見る目があるようですわね。 そう、わたくしはエリートなのですわ!」

 

 ビシッと、一夏に対して人差し指を向ける。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じにすることだけでも奇跡… 幸運なのよ、その現実をもう少し理解していただける?」

 

「そうか、それはラッキーだ。」

 

 何でもないように答える一夏、おいおい… それは下手すりゃ煽りに取られるぞ?

 

「…馬鹿にしていますの?」

 

 ほらやっぱり、頼むから今回は俺を巻き込まないでくれ。

 

「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。 世界でたった2人のISを操縦できる男の1人と聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれですわね。」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが…」

 

「ふん? まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。」

 

 成る程、代表候補生は先ず、優しさについての教育を受けるのか。

『高飛車に、傲慢に、女尊男卑的に相手に接するのが優しさです』ってところか?

 

「ISのことでわからないことがあれば、まあ… 泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。 なにせわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから。」

 

 唯一、をものすごく強調して言う。

 因みに俺は入試の戦闘試験を受けていないのでわからない、ずっと織斑先生とアリーナで殴り合ってたんだよ仕方ないだろ。

 

「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」

 

「それ以外に入試などありませんわ。」

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官。」

 

「は……?」

 

 鳩が豆鉄砲食らったような顔をするオルコットさん。

 まあ、その勝ちの内容も『相手が勝手に壁に突っ込んで機能停止』らしいが…

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

 

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

「…そ、そう! あなたはどうですの!?」

 

 今度は俺に指を向けてくるオルコットさん。

 

「俺は先ずISの戦闘の入試を受けてねえな。 多分今持ってる専用機なら勝てるが… 初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)も済んでない訓練機となると… わかんねえな。」

 

 言い切ったタイミングでチャイムが鳴る。

 

「ふ、ふふ。 まあ当たり前ですわね! また後で来ますわ! 逃げないことね、よくって!?」

 

 逃げると言ってもどこに逃げるのか、その疑問に答えてくれる人物はいるのだろうか?

 黙って席に着くとしよう。

 この授業は織斑先生の担当のようだ。 喋っていたら出席簿が降ってくる。

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する。」

 

 教室の端を見ると、山田先生までノートを用意している。

 よっぽど重要な授業なのだろう、心して受けねば。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。」

 

 思い出したかのように織斑先生が言う。

 そういや試合中も言ってたな、まあその文字のままにとれば問題ない。

 

「クラス対抗戦とはそのままの意味だ。 対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席… まあ、クラス長だな。 ちなみにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決めると一年間変更は出来ないのでそのつもりで。」

 

 織斑先生の言葉の後に、ちなみに委員会長の役職を持つ生徒はクラス代表者にはなれない、と付け加える。

 正直クラス代表者にはなりたくないな…

 教室が騒めきだし、1人の女子が挙手をする。

 

「はいっ。 織斑くんを推薦します。」

 

 勝った! あいつが最前列に対して俺は最後列の端、顔も明らかにあいつの方が良い。

 この状況で俺が選ばれる訳がない。

 

「私もそれが良いと思います!」

 

「じゃあ私は浅間くんを推薦します。」

 

 …幻聴ですか?

 

「はい、織斑先生。 俺への推薦を放棄します。」

 

「却下だ。 推薦の放棄は出来ん。 さて、他にはいないのか? 自薦他薦は問わないぞ?」

 

 要求をすぐさま却下され、話の流れを次に持っていく。

 あ、これちーさんが人に文句を言わせない時につかうやつや。

 

「お、俺!?」

 

 ガタッ、と立ち上がる一夏… え? 今更?

 

「織斑。 席につけ、邪魔だ。 さて、他にはいないのか? いないなら織斑と浅間への投票で代表を決定するぞ。」

 

 そうだ、まだ希望はある。

 一夏に過半数の票が行けば!

 

「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらなーー」

 

「自薦他薦は問わないと言った。 先程も言ったが他薦されたものに拒否権などない。 選ばれた以上は覚悟をしろ。」

 

 その覚悟は犠牲の心の方だと思うんですが、俺は暗闇の中に進むべき道を切り開く覚悟をしたいんですが。

 

「い、いやでもーー」

 

 諦めない一夏の声を、甲高い声が遮る。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 オルコットさんか… やる気があるのだから彼女に任せて良いのでは無いだろうか?

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか?」

 

 …前言撤回、あいつにやらせちゃだめだ。 人を仕切らせちゃいけないタイプの子だったわ。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこの島国までISの修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 おうオルコットさん、俺らの目の前にいる教師を見て見てくれ、あれは表情にはあまり出していないがちょっと腹が立ってるときの表情だ。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 まあ確かに代表候補生である彼女がこのクラスではズバ抜けて強いのはわかっている。

 しかし、さっきの織斑先生の話を聞いていなかったのか? これになるべきは実力者よりも人望があるやつだと思うが…

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛でーーー」

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。 世界一まずい料理で何年覇者だよ。」

 

 さすがにキレたのか、ギリギリ聞こえるレベルの声で一夏が言った。

 よし、良いぞ!

 

「なっ……!? あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 そしてさらに切れるオルコットさん。

 あれ、これ喧嘩に発展しないよな? さすがにあの間に入って止めたくないんだけど…

 

「決闘ですわ!」

 

「おう、いいぜ。 四の五のいうよりわかりやすい。」

 

 俺はここで空気になっておけばとりあえず救われるだろう… クラス代表については2人で頑張ってくれ。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い… いえ、奴隷にしますわよ。」

 

「侮るなよ。 真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない。」

 

「ですが、まぁ… 何にせよちょうどいいですわ。 ハンデでもつけてあげましょうか? そちらの腑抜けさんもいることですし。」

 

 そして、俺を指し示すオルコットさん…

 畜生! ここで巻き込まれた!

 

「何か言ったらどうですの? それともわたくしが怖くて何も言えなーーー」

 

 -チッ-

 

 …やばいやばいやばいやばいやってしまった!

 正直俺も結構怒ってた、それのせいでつい舌打ちをしちまった!

 

「…じゃあ言わせてもらうがよ、腐れジョンブル女郎。 お前、何を思って国辱なんぞした?」

 

「な!? 誰が腐れジョンブーーー」

 

「質問に答えろよ。」

 

「くっ… わたくしは正しいことを言っただけですわ!」

 

「正しいこと… 正しいことねぇ… じゃあ聞くがよ、ISを開発した人物は誰で、どこの国の人物だ? ブリュンヒルデと呼ばれる最強のISパイロットはどこの誰だ?」

 

「……………」

 

 沈黙か。

 

「両方日本人、お前の言うところの極東の猿。 ならよ、極東の猿なんぞに先を越されたジョンブルの皆さんはどんだけ間抜けなんだろうな?」

 

「あ、あなたもわたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「ん? すまないな、君の態度を見るに、イギリスの由緒正しき挨拶とは相手の国を侮辱することだと思ってな。 何てったって『イギリス代表候補生』殿のすることだ、間違いはなかろう? 違うのか? だったらよくお前が代表候補生になれたな… 選考員がおかしいのか? どうやらイギリス料理を食い過ぎると舌だけでなく脳みそまでイカレちまうようだ。」

 

「結構ですわ! あなたも、捻り潰してさしあげますわ!」

 

 もう… いいや、受けちまおう。

 

「上等だジョンブル。 知らねえのか? 喧嘩ってのはふっかけた方が負け何だぜ?」

 

「ふっ、来週までその余裕が続けばいいですわね! 首を洗って待ってらっしゃい!」

 

「そんならお前も、存分に覚悟するといい。」

 

「さて、話はまとまったな。 それでは勝負は一週間後の月曜。 放課後、第三アリーナで行う。 浅間と織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。 それでは授業を始める。」

 

 少しの沈黙を打ち破って、ちーさんが手を鳴らして話を締める。

 さて、今は授業に集中するか…



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#10

 結局あの後、授業は滞りなく進み、俺は今は放課後を迎えている。

 昼休みに食堂に行ったらモーセの海割りや大名行列が見えたが… まぁ特筆すべきことじゃないだろう。

 そして、寮へ帰ろうとしている途中。

 

「ハアイ、浅間くん。 元気かしら?」

 

「こりゃあどうも、更識先輩。」

 

 目の前に現れたのは水色の髪に赤い目をした先輩。

 この学園に生徒会長であり、最強。

 ちなみに俺に襲撃をかけてきたのは彼女である。

 そして彼女がバッと、手に持った扇子を広げるとそこには『風紀委員』の文字。

 

「風紀委員、なってくれない?」

 

「随分と唐突ですね、どうしてまた?」

 

 嫌な予感がするが気のせい、きっと気のせいだ。

 

「いえ、男子が2人も入学してきて、いろいろと問題が起こるかもしれないじゃない? 今の生徒会の人数じゃ対応できないから、風紀委員を立ち上げようと思ってね? それで、風紀委員長はある程度の知名度があって、実力も伴っている人物がいいなぁ…ってなったら浅間くんじゃない?」

 

「実力云々は買い被りですよ。 しかし… 風紀委員…」

 

 あれ、待てよ? 確かに委員会ってクラス代表になれなかったよな?

 閃いた。

 

「一週間後に答えを出させていただきます。」

 

「…ああ、なるほど。 そんなにクラス代表になりたくないの?」

 

「面倒くさそうですんで、だったら風紀委員長やらせていただきますよ。」

 

 この学園の校則は結構ゆるいから仕事も少ないだろう。

 部活に入る気もないので、風紀委員に所属さえしていればたまに働くだけで大丈夫なはずだ。

 

「それじゃあ俺は部屋帰りますんで、また。」

 

「ええ、今度はもっとお喋りしましょう?」

 

 微笑みながら言う更識先輩。

 何つーか… つかみどころのない人物だと思う。

 

 …止めだ、あの人について考えても何も浮かばねえ、寮に帰ろう。

 

「にしても… 何であそこで舌打ちなんぞしちまうかなぁ…」

 

 自分の行動を悔いながら歩いていると、自分の部屋の前に着いた。

 同室は一夏だろうし、一夏は一週間は自宅から登校するらしい。

 中には誰もいない筈だ。

 

 鍵を開けて、扉を開き、靴を脱いで部屋にあげると中にいたのは…

 

「あー、相川さんだっけ?」

 

「あ、浅間くん!? 何でこの部屋に!?」

 

 出席番号1番の相川さんだった。

 おい、一夏と同室じゃねえのかよ。

 

「…何ていうか、こう… よろしくお願いします。」

 

「よろしく… お願いします?」

 

 お互い深く頭を下げて、少しの沈黙が流れた。

 

 

 ♤♠︎♤

 

 

「いやー、驚いたよ。 まさか浅間くんが同室なんて。」

 

「俺も驚いたわ。 なぜ女子と同室になったよ。」

 

 結構打ち解けた。

 うん、こっちが話題振らなくても話してくれるから楽だわこの子。

 

「っていうか、浅間くんぬいぐるみなんて持ってるの?」

 

 彼女がそう言って指で示すのは、テーブルの上に置いてあるぬいぐるみだった。

 

「ん? ああ、あれは自分で作ったんだよ。」

 

「え!? 嘘!? 触ってみてもいい!?」

 

「いいぞ。」

 

 許可を出すと、彼女はぬいぐるみを触り始めた。

 まあそれなりに自信のある出来のウサギだ。

 

「女として負けた気がする…」

 

「そんな裁縫なんぞいらないだろ、掃除と料理ができればいいんじゃねえか?」

 

「浅間くんはその2つはどうなの…?」

 

「掃除の方は… 小2ごろからずっと自分でやってるから結構得意だな。 料理はそこまで得意じゃないが菓子作りには自信がある。」

 

 俺の言葉を聞いて、がっくりと項垂れる相川さん。

 

「完璧に… 負けた…」

 

「…今度教えようか?」

 

「是非! 是非とも!」

 

 取り敢えずフォローを入れてみたら、予想以上に反応してきて驚いた。

 

「あ、俺時間だからちょっと出るわ。」

 

「え? なんの時間?」

 

「アリーナの使用許可、春休みからここに入ってたからその時に予約取っといた。」

 

「へぇ… あれ? っていうことはISも何度か動かしてるの?」

 

「まあ… 100時間は動かした。」

 

 マジで100時間動かしたのだ。 ちーさんを怒らせて連行されて、を繰り返した結果操作時間が100時間を超えていた。

 

「えー、嘘でしょ?」

 

「…マジだ、大マジ。」

 

「どれだけハードにやってたの…」

 

「まあ、そのことについては後で話そう。 そんじゃあ行ってくるわ。」

 

「あ、うん。 いってらっしゃい。」

 

 部屋の鍵を持って外に出る。

 アリーナの使用時間は2時間ほど、射撃練習と近接練習をするには少し足りないがまあいい。

 

「あ、すいません。 予約取っておいた浅間ですが…」

 

「ああ、あなたね。 はい、どうぞ。」

 

 と言って、ロッカールームの鍵を手渡される。

 まあロッカールームで着替えなくとも、拡張領域の中に収納されているISスーツを装着すればいいのだが。

 それにしても受付の先生が女尊男卑をする人じゃなくて良かった。 最悪、予約すら取れないかもしれなかったからな。

 ロッカールームでISスーツを着用してピットに出る。

 

「んじゃまあ… 目標は3つぐらいでいいだろう。」

 

 自分の貸し出し区画の操作をして、バルーン型の目標を3つ用意する。

 ISを装着して、カタパルトからピットに出る。

 

 そしてアリーナ内に飛び出した瞬間、アリーナ中の視線が俺に集まった。

 …予想外だった。 まあそりゃあそうなるだろうとは思う。

 そのままISで目標のところまで飛んでいく。

 距離は30mぐらいでいいだろう。

 

 目標との距離を測り、ルイス軽機関銃を二丁実体化させた時に、背中に衝撃が走った。

 

「うっ!?」

 

 振り向くと、そこにはラファール一機と打鉄二機。

 ラファールはアサルトライフル一丁、打鉄はどちらも近接ブレード『葵』を装備している。

 

 その先頭に立つ、ラファールに乗った女がニタニタと笑いながら言う。

 

「あなた、イギリス代表候補生と試合をするそうじゃない? だから、私たちが練習を手伝ってあげようと思ってね?」

 

 見え透いた嘘だ… やりたいのは3人でのリンチだろうが。

 まあ、やれる限りは戦ってやろう。

 ってかそんなに話広まってんのか。

 

「んじゃまあ… お願いしますわ!」

 

 ラファールの女に突っ込んでいく。

 それに反応してラファールが銃を構え、両隣にいた打鉄が剣を振るおうとする。

 

 ……?

 

「あの、先輩。 手加減してるんだったら俺も抜きましょうか?」

 

「は!? 何を言ってるの?」

 

 ブレードを2つとも避けて、射撃をかいくぐってラファールの腹を蹴り飛ばす。

 

「うぐっ!?」

 

「先輩、もーちょい本気でいいですよ?」

 

「ふ、ふざけないで!」

 

 おかしい、ラファールも打鉄も、こんなに遅かったか?

 右側から接近してくる打鉄の動きが、いつもよりも遅く見える。

 …そうだった。 俺、いつもちーさんと練習してんだった。

 成る程、打鉄は普通瞬間移動まがいのスピードで背後に回り込みはしないのか。

 

「あー、成る程。 んじゃこっちも行かせて貰います。」

 

 ブレードを振るう打鉄の側頭部をルイス軽機関銃で殴りつけ、ひるむ先輩に銃口を向け、両手の引き金を引く。

 

「くっ!」

 

 もう一機の打鉄が来る前に、目の前の打鉄に向けて飛ぶ。

 

 ルイス軽機関銃をしまい、高熱によって敵にダメージを与える、ヒートホークを取り出しながら切りつける。

 首元を狙って振り抜き、もう一度振りかぶって脳天に振り下ろす。

 

 そのまま打鉄は地面に落下する。

 ラファールの射撃が横から飛んできた。 左手で打鉄の首を掴んで盾に使って防ぐ。

 

「なっ、何を!」

 

「甘えよ。」

 

 ヒートホークをしまい、今度は大口径の対艦ライフルを取り出す。

 そしてサイトの中にラファールを合わせて、射撃。

 轟音が響くとともに、ラファールが後ろに吹き飛んだ。

 

「ああぁぁぁぁぁ!!」

 

 ブレードを振りかぶりながら、もう一機の打鉄が突進してくる。

 だが遅い。 左手の打鉄を叩きつけ、手榴弾を取り出してピンを抜き、そこから離れると、程なくして爆発が起こった。

 おそらく、最初の打鉄はSEを全損させただろう、もう一機の打鉄にも、ラファールにも、それなりに威力の高い攻撃を当てている。

 

「喰らえ!!」

 

 叫びながら目の前に飛び出してきたのは体勢を立て直したラファールだ。

 右手に持っているのはアサルトライフルのヴェント、左手はショットガンのレイン・オブ・サタディか。

 敵が引き金を引く前に、すれ違うように個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)の一発目を発動する。

 まだ出来が不完全なせいで、加速や距離はただの瞬時加速(イグニッション・ブースト)には劣るが、問題はない。

 

「なっ!?」

 

 ラファールの横を通り抜け、振り向く前に個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)の二発目を発動し、タックルを食らわせる。

 

「ぐあっ…」

 

 爆発的な加速からのタックルで、ラファールが吹っ飛ぶ。

 そして、ヒートホークを再度取り出し、右手にヒートホーク、左手に対艦ライフルを持つ。

 三発目の個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を発動。

 体勢を立て直そうとしているラファールの背中を切りつけ、叩き落とす。

 そして右手の対艦ライフルを構え、照準を合わせる。

 

 -ズガァン!!-

 

 銃、というよりかは砲と言った方が伝わりやすいような轟音、銃弾は真っ直ぐに進み、巨大な銃弾がラファールの頭部に着弾。

 

「が…あ…」

 

 おそらくSEを全損させた。

 足元に転がるラファールを掴み上げ、先ほど手榴弾の爆発に巻き込んだ打鉄の方に投げ渡して睨みつける。

 

「どうします? まだやりますか?」

 

「…くっ!」

 

 先輩は苦虫を噛み殺したような面をした後、ラファールを地面に置いて近接ブレードで切り掛かってくる。

 

「遅いっつーの。」

 

 近接ブレードの間合いギリギリで後ろに下がり、刃が俺の体の前を通過した瞬間、対艦ライフルを槍のように突き出し、打鉄の腹に叩き込む。

 

「ぐっ…」

 

 そして銃身を蹴り上げ、打鉄を対艦ライフルで持ち上げた状態で、引き金を引く。

 

 -ズガァン!!-

 

 対艦ライフルの銃弾はゼロ距離で打鉄に搭乗する先輩の腹に炸裂し、打鉄が解除される。

 絶対防御により操縦者に傷はつかないが、それなりの衝撃を受けただろう。

 

「んじゃあ俺、自分の練習に戻りますんで。 ご指導、ありがとうございました。」

 

 顔を真っ赤にする先輩に背を向け、ターゲットの方に向かっていく。

 さて、イギリスの第三世代機対策の練習を始めるか。



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#11

俺、戦闘描写下手くそだってことが発見できました…

誤字直しときました。 またやらかしたよこいつ…


 翌週、俺はオルコットさんとの対決の日を迎え、一夏、箒ちゃんとともに第三アリーナのAピットにいる。

 そして現在、先に試合を予定していた一夏のISがまだ届かないまま、予定の時刻を迎えようとしている。

 

「なあ、箒。」

 

「なんだ、一夏。」

 

 一夏が箒に話しかけ、箒は一夏の方をむきながら答える。

 

「気のせいかもしれないんだが。」

 

「そうか。 気のせいだろう。」

 

 あっ、これ… 箒ちゃんなんかやったのか…

 

「ISのことを教えてくれる話はどうなったんだ?」

 

「………………」

 

「目 を そ ら す な。」

 

 そう、この一週間、一夏と箒は剣道しかやってなかったそうだ…

 

「し、仕方がないだろう。 お前のISもなかったのだから!」

 

 まあ、そのとおりで、この一週間一夏はISに乗ることが出来なかった。

 というのも、まずアリーナの予約が埋まっていたし、そもそも訓練機の貸し出しのために数十枚の書類を書いて提出しなければいけないのだ。

 

「まあ、そうだけどーーー じゃない! 知識とか基本的なこととか、あっただろ!」

 

「………………」

 

「目 を そ ら す な っ。」

 

 目を逸らしながら無視する箒ちゃん、いやおい一夏、自分でなんとかする努力もしとけよ…

 

「鉄平は何してたんだ?」

 

「あ? 俺は春休み中にアリーナの使用許可とって、専用機動かしてた。」

 

「あれ? 鉄平も専用機持ってるのか?」

 

「ああ… つっても、ラファール・リヴァイヴに塗装して、拡張領域(バススロット)をちょこっと広げただけだがな。」

 

 まあ盾にパイルバンカーやシュトゥルム・パンツァー仕込んでもいるが、切り札は言わないものだ。

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

 

  3度も一夏の名を呼びながらピットに駆け込んできたのは山田先生だ。

 転びそうでハラハラするなこの人…

 

「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸。」

 

「は、はいっ。 す〜〜は〜〜、す〜〜は〜〜。」

 

「はい、そこで止めて。」

 

「うっ。」

 

 一夏の言葉に、本気で息を止める山田先生。

 酸欠で顔がどんどん赤くなっていく。

 

「やめろバカ。」

 

 スパァァン、と織斑先生にはかなわないが、俺の手が一夏の頭を叩いていい音を鳴らした。

 

「…ぶはあっ! ま、まだですかぁ?」

 

 そして次の瞬間、破裂するような打撃音。

 そう、我らが帝王織斑千冬先生である。

 

「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者。」

 

「千冬姉…」

 

 -パァンッ!-

 

 もう一度、打撃音が響く。

 

「織斑先生と呼べ、学習しろ。 さもなくば死ね。」

 

 それが教職員の言葉ですか…?

 貴方そのせいで彼氏がいなーーー

 

「ふん、馬鹿な弟と喧嘩ばかりのその友人にかける手間暇がなくなれば、見合いでも結婚でもすぐできるさ。」

 

 その喧嘩ばかりの友人って誰のことですかね?

 全く見当がつかない。

 

「お前だ馬鹿者。」

 

「織斑先生、俺は自分から喧嘩をふっかけたことは一度もありませんよ?」

 

「その代わり相手から喧嘩を売ってくるのを待っている訳だ。」

 

 グゥの音も出ない、見透かされてんな。

 

「そ、そ、それでですねっ! 来ました! 織斑くんの専用IS!」

 

「よし、んじゃ俺が先出るわ。」

 

「え? ISは届いたぞ?」

 

「成る程、初期状態のISで戦うなんてさすが一夏さんだな。」

 

「あ…」

 

 今来たばかりの機体ではフォーマットもフィッティングも済まされていないだろう。

 

「ま、出来る限り時間は稼ぐわ、その間に済ましとけ。」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「ん。」

 

 一夏に向けて右手を掲げると、一夏も右手を持ち上げ、パァンと音を鳴らす。

 

「じゃあ行ってくるわ。」

 

「おう、頑張れ!」

 

 一夏の激励を背中で受け止め、ラファール・リヴァイヴをまとってカタパルトに立つ。

 

「うし、浅間鉄平、浅間鉄平専用ラファール・リヴァイヴ行ってきます。」

 

 段々と機体は加速し、フィールドに飛び出る。

 そこには青いISを纏ったオルコットさんがいた。

 ブルー・ティアーズ、イギリスの最新技術を駆使して作られた専用機か。

 

「あら? 先鋒は織斑さんでは? もしやわたくしを恐れてお逃げになられたのですか?」

 

「うんにゃ、専用機届くのが遅れてな。 俺が戦っている間に出来る限りフォーマットとフィッティングを済ませるってことで俺が出てきた。」

 

「専用機といえば… あなたのそれは量産機のようですが、ただの量産機でわたくしに勝てると思って?」

 

「さあな。 勝てるかどうかはわからんが出来る限り足掻いてやろう。」

 

「では、最後のチャンスをあげますわ。」

 

「へえ、チャンスっつうと?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ?」

 

 その言葉とともに、俺のISからロックオンアラートが流れる。

 この選択で否定をすれば射撃、か…

 上等じゃねえか!

 

 右手に対艦ライフル、左手にデザートイーグルを呼び出す。

 

「ボロボロにされるよりもここで謝ると方がよっぽど惨めなのさ。 誇りを掲げる英国淑女ならわかってくれるだろう?」

 

「勇気と無謀を履き違えておいででは?」

 

「ならば無謀のままに戦ってみせるさ、こいつ(ラファール・リヴァイブ)があればその伸びた鼻っ面叩き折るぐらいは出来るだろうよ。」

 

 ーー警告、敵IS射撃体勢に移行。 トリガー確認、初弾エネルギー装填。

 

「英国淑女は随分と野蛮なようで!」

 

 キュインッ!という音とともに放たれる青い閃光を避けながら前に飛ぶ。

 

 距離は50mほど、十分射程圏内だ。

 

 -バァン! バァン!-

 

 デザートイーグルから二発、実体弾を撃つ。

 オルコットさんはそれを避け、後ろに引きながら再度ビーム兵器を放つ。

 

「流石に避けられるか。」

 

「さあ、踊りなさい! わかくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる、円舞曲で!」

 

「悪いがダンスは踊れねえんだわ! だからこっちの得意な競技(喧嘩)で行かせてもらうぜ!?」

 

 何発も放たれるビームを避け、対艦ライフルを放つ。

 銃口の先から炎とともに巨大な銃弾が放たれ、オルコットさんへ飛んでいく。

 オルコットさんは回避起動をとるため、大きく左手へ飛ぶ。

 

 好機!

 

 -バァン! バァン! バァン!-

 

 デザートイーグルを三発、うち二発がオルコットさんに命中する。

 肩に一つ、足に一つ、大したSEは削れていないだろう。

 

 ーーーどうする? 一夏のために回避に徹するか? それとも倒しちまうか?

 

「織斑先生! 一夏のフォーマットとフィッティングは後どれぐらいかかりますか!?」

 

『少なく見積もって10分だ。 出来る限り時間を稼いでくれると助かる。』

 

 織斑先生に通信をつなぐとそう答えが返ってくる。

 

「了解!」

 

 体勢を立て直したオルコットさんの射撃を避け、後退する。

 

「それなりにはやるようですわね… こちらも少し、本気を出して差し上げましょう!」

 

 オルコットさんの背から、四つの青いビットが飛び出す。

 ブルー・ティアーズ、イギリスの特殊兵器だ。

 機体名と同じとややこしい名だが、このブルー・ティアーズを積んだ実戦投入の一号機なのでその名が付けられている。

 

「さて… 10分でも1時間でも持ちこたえてやろう!」

 

 ビットが撃ったビームが全方位から襲い掛かってくる。

 ハイパーセンサーにより全方位を見渡せる状態では、それらを避けるのはそこまで難しくない。

 

 一夏のフォーマットとフィッティングが終わり次第反撃に移ろう!

 

 

 ☆★☆

 

 

「ハア… ハア… なんで、なんで当たりませんの!?」

 

 何十回目かの一斉射撃を回避する。

 避けるだけならば簡単だ。

 

『浅間! 織斑のフォーマットとフィッティングが終わった。』

 

「そいつは朗報だ!」

 

 全方位射撃を回避し、前方に飛び出す。

 

「なっ!」

 

 狙うはビットだ。 あれらがあっては邪魔で攻勢に移れない。

 

 俺から逃れるためにビームを撃つビットの一つにデザートイーグルの銃弾を叩き込む。

 ビットは少し落下したのちに爆発した。

 

「なっ、ブルー・ティアーズが!?」

 

 狼狽えるオルコットさんを尻目に、二つ目に移る。

 どうやら、このビットは逐一オルコットさんが集中して命令をしない限り、動けないようだ。 しかも命令をしている時はオルコットさんは動けない。

 

 近場のビットに狙いを定め、対艦ライフルの引き金を引く。

 

 -ズガァン!-

 

 次の瞬間、ビットが吹き飛んだ。

 

「くっ、戻りなさい! ブルー・ティアーズ!」

 

 オルコットさんの命令に従い、残り二機のブルー・ティアーズがオルコットさんの元に戻る。

 俺は右手をヒートホーク、左手をルイス軽機関銃に持ち替え、前方へ飛ぶ。

 

 放たれる青いビームを体を捻って避け、ルイス軽機関銃の引き金を引く。

 

「くっ…」

 

 オルコットさんは射撃から逃れるために右側に飛び始める。

 それを追いかけながら射撃を続け、弾が切れたタイミングで対艦ライフルに持ち帰る。

 

「?」

 

 オルコットさんが振り返り、こちらにライフルを構える。

 そのライフルから放たれる射撃を避け、対艦ライフルを構えた瞬間。

 

 ーーー笑った…?

 

 オルコットさんが笑みを漏らした。 勝利を確信した、といった笑みを。

 

「ブルー・ティアーズは六機ありましてよ!」

 

 先ほど仕留めそこなった二機が飛び出し、スカート状のアーマーの突起が外れ、こちらを向く。

 そこから放たれたのは… ミサイルだ。

 

 まずい、回避だ。

 一旦前進に回しているエネルギーを切り、スラスターに集中させる、間に合え、間に合わせろ!!

 

 ミサイルがISの装甲に触れる直前、あと0.1秒でもあればミサイルが直撃していたタイミングで、機体が殺人的な加速で背後に飛ぶ。

 

「ぐ…」

 

 無理な軌道をした負担で、体から軋む音が聞こえる。

 しかし、ラファール・リヴァイヴはミサイルのスピードを超えた。

 

「い、イグニッション・ブースト!?」

 

 後退にエネルギーを回しながら、対艦ライフルを構える。

 

 ーーーその驚いた面、打ち抜かせてもらうぜ?

 

 言葉に出たか、心の中でだけ思ったことかはわからない。

 アイアンサイトの先にオルコットさんの顔を捉えて、躊躇なく引き金を引く。

 同時に、左手のヒートホークをミサイルに投げつける。

 

 バレルの先が炎を噴き、銃弾が発射される。

 それは、風を切って回転しながらオルコットさんの顔に進んで行き、回避のために右へ飛ぼうとする彼女の頭に直撃した。

 

「なっ!?」

 

 同時にミサイルの1つが投げられたヒートホークにより二つに割れ、同時に爆発する。

 もう1つのミサイルを対艦ライフルを持ち替えてストックで殴って爆発させて、再度瞬時加速(イグニッション・ブースト)で加速。

 

「い、インターセプター!」

 

 オルコットさんが近接用のブレードを実体化させ、迎え撃ってくるが、対艦ライフルを盾にして防ぐ。

 

「隠し玉ぁ持ってんのはーーー」

 

 シールドの装甲が弾けとび、両方のシールドについた灰色の鱗殻(グレー・スケール)が露わになる。

 

「ーーーお前だけじゃあねえんだよ!」

 

 オルコットさんの首を右手で掴み、同時に灰色の鱗殻(グレー・スケール)を叩き込む。

 

「くっ… わたくしは… まだ…!!」

 

 インターセプターの攻撃を腹に受けるが、大したダメージはない。

 手を離さず、攻撃を続けーーー

 

 《試合終了。 浅間鉄平くんの勝利です!》

 

 ーーーアリーナに山田先生の放送が響いた。

 オルコットさんの首を離し、地面に戻る。

 

 試合が終わったことで素に戻った俺は、急にさっきまでのセリフがこっぱずかしくなってきた。

 

「あー、オルコットさん、すまなかった。」

 

「…構いませんわ。」

 

「そ、そうか… 怒ってる?」

 

「いえ、怒ってなど… いませんわ。」

 

 まずい、煽りにとられたか?

 …ああもういい! ピットに帰ろう!

 

「んじゃ、また後で。」

 

「ええ、また、後で。」

 

 ISを再び飛ばしてAピットに戻る。 オルコットさんも向かい側のBピットに帰って行った。

 

「終わりましたよ、織斑先生。」

 

「ふむ… まあ、及第点だろう。」

 

「えー… 直撃は一度も受けてないんですが?」

 

「それでも数度掠っただろうが。」

 

「返す言葉も無い…」

 

 俺を迎え入れたのは織斑先生のスパルタンなお言葉だった。

 これだけやって及第点ってお前…

 

「だがまあ… よくやったな、鉄平。」

 

「ええ、やってやりましたよ、ちーさん。」

 

 ちーさんが差し出す拳に、ISを解除してコツン、と拳を合わせて答える。

 

「凄えな鉄平! 勝っちまうなんて!」

 

「ああ、まあな。 んで、次はお前の番だ。 頑張ってこいよ。」

 

「あ、ああ。 そうなんだが…」

 

「どうした? なんかあったのか?」

 

 ISに不備でもあったのか、一夏は浮かない顔をしている。

 

「それが… 俺のIS、白式っていうんだけど… ブレード以外の武装が無いんだよ。」

 

「…逝ってこい。」

 

 一夏の肩にポン、と手を置いてもう片方の手でサムズアップしながら言う。

 いや、スナイパー機に対して近接オンリーとかそれなんて無理ゲー…

 

「…まあ、出来る限り足掻いてみせるさ。」

 

「おう、行ってこい。」




一夏の戦闘!? カットに決まってんだるぉ? 原作通りだよ、寧ろそれより酷いよ! 慢心がなくなったオルコットさんにフルボッコだドン!


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#12

「鉄平、ダメだったよ…」

 

「お、おう。 ま、まあよく頑張ったと思うぞ?」

 

 一夏はオルコットさん相手にある程度は粘ったが、やはりほぼ初搭乗の機体で代表候補生を相手取るのは難しいらしい。

 …敗因が『自らのSEを削って攻撃する武器』を使ってSEを全損させる、という負け方が余りにもかわいそうだった。

 さて、この後は10分の休憩の後俺対一夏。

 

「あー、んじゃ俺あっちのピットに移動するわ。 次は俺とお前の対戦だ。」

 

「おう、わかった。 …お手柔らかに。」

 

「任せろ。」

 

 一夏に背中を向けて手を振り、Bピットに向かう。

 一応、対戦選手同士は別々のピットから出ることになっているそうだ。

 アリーナの曲がった廊下を歩き、Bピットに着くと、ベンチに座るオルコットさんがいた。

 

「浅間さん? 何故こちらに?」

 

「次は俺と一夏の試合だろ? 一応対戦者同士は別のピットからでるっつーことになってるらしいんで。」

 

 そうですか、とオルコットが俯きながら言う。

 …やっぱりなんかやっちまったか?

 

「…浅間さん。」

 

「あ?」

 

「何故、あなたはそこまで強いのですか?」

 

 顔を上げながら言うオルコットさんの目には、意思が宿っているように感じた。

 しかし… 強いのか、と言われてもなぁ…

 

「大して強くもねえよ。 自分のやりてえことやっただけだ。」

 

「やりたいこと、ですか?」

 

「ああ、まあ操縦技術の向上については織斑先生のお陰だが… そうだ、一夏はどうだった?」

 

「織斑さんですか? 彼は… ISの操縦については失礼ですが初心者そのものです。 戦いの心得もない。」

 

 オルコットさんはそこまで言葉を紡いだ後に、しかし、と付け加える。

 

「決意の、篭った目をしていましたわ。 それがどういった物かもわかりかねますが…」

 

「ま、そういう事だろ。 決意のある人間が強えとは言わねえ、だがよ、少なくとも何もねえ奴よりかは足掻けるはずだ。 …多分、あの馬鹿は誰かを守る決意でもしてたんだろうさ。」

 

「守る、ですの?」

 

「ああ、まあ決意の内容についてはどうでもいいさ。 しかしよ、オルコットさん。 あんた、何を思って戦ったんだ?」

 

 俺の言葉を聞いて、オルコットさんは再び俯いてしまう。

 

「わたくしは、オルコットの誇りを… イギリスの誇りをのために…」

 

「そうか、しかしよ、あんたが宣戦布告の時に言った言葉は、果たしてその誇りのための物だったか? 他国を落とす事が誇りじゃあねえだろ?」

 

「わたくしは…」

 

「その先は俺が聞いてもどうにもできねえ、ただこれだけは言わせてくれや。 決意ってのは、ピンからキリまで貫かねえと意味がねえ。 人間はよ、決意だとか、意地だとかのために限界を超えられる生物なんだから。」

 

「決意を、貫く…」

 

 オルコットさんが言葉を反芻した時、放送が響いた。

 俺と一夏の試合の開始を予告する放送だ。

 

「んじゃ、行ってくるよ。 オルコットさん。」

 

「は、はい。」

 

 ISを纏い、出撃の準備をする。

 と、その時、後ろからオルコットさんが声をかけてきた。

 

「あ、あの。 鉄平さんとお呼びしてもよろしいですか!?」

 

「構わねえ。」

 

「で、では鉄平さん。 わたくしの事をセシリア、と呼んでいただけませんか?」

 

 ファーストネームでか… 正直、女子を名で呼ぶのは照れくさいんだが…

 

「わかったよ。 セシリアさん。」

 

 俺に名を呼ばれて、少し表情が明るくなるセシリアさん。

 ったく、こんな野郎に名を呼ばれるのが、そんなに嬉しい事かね?

 

「じゃ、行ってくる。」

 

 カタパルトが作動し、フィールドに投げ出される。

 PICを起動して宙に浮き、目の前を見据える。

 

「よう、一夏。 待たせたか?」

 

「いや、俺も今来たばっかりだ。」

 

 などと、カップルのデートのようなやり取りの後、俺はルイス軽機関銃を二丁、一夏は唯一の武装だという近接ブレードの『雪片』を構える。

 

『試合、開始です!』

 

 山田先生の放送が、試合の開始を知らせる。

 その瞬間。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「んじゃまあ… 確実に勝たせてもらうわ。」

 

 雄叫びを上げながら接近してくる一夏に対し、正々堂々もへったくれもない引き撃ち。

 速度のスペックではあちらの方が上だろうが、おそらく操縦の腕ではこちらが上。

 

 一夏は弾幕の合間を縫って肉薄してくるが、それでも結構な数の弾に被弾している。

 

「待てぇぇぇぇぇ!!」

 

 こいつ、回避を捨てやがった!?

 回避を諦めた一夏はブレードで出来る限りの弾を弾きながら近づいてくる。

 最新の第三世代機と、第二世代機のスペック差では、すぐに追いつかれてしまう。

 

 なら、こちらから出向いてやろう!

 PICの向きを反転、一夏の方向へルイス軽機関銃を乱射しながら全力で飛ぶ。

 

「ぜあぁぁ!!」

 

 一夏の間合いに入ろうとした瞬間、一夏のブレードが青い輝きを放ち始める。

 これが一夏のIS、『白式』のワンオフアビリティ、『零落白夜』!

 ワンオフアビリティとは、ISと操縦者の適合率が高まった時に起こる『第二形態移行(セカンドシフト)』をした際に、まれに顕現する文字通りそのパイロットにしか扱えないISの能力だ。

 それを一夏は第一形態の時から持っていた。

 そしてこの零落白夜の怖いところは、下手に当たればこちらのSEが一撃で全損する可能性があることだ。

 

 そして、青く輝く刀身が迫り来る。

 

「そんなんじゃまだ当たれねえなぁ!?」

 

 後方に瞬時加速(イグニッション・ブースト)をして回避、同時に一夏にルイス軽機関銃を投げつけ、対艦ライフルとヒートホークを呼び出す。

 

 -ズガァン!!-

 

「うっ!?」

 

 轟音が響き、一夏が吹き飛ぶ。

 当たり前だ。 この至近距離で対艦ライフルを顔面に食らったのだから。

 

 体勢を立て直して、突進してくる一夏。

 それに対し俺は、ハイパーセンサーを高速軌道専用のものに切り替え、ハイパーセンサーの視覚を360度から正面のみに絞り、色覚をシャットアウト。 そして瞬時加速(イグニッション・ブースト)で前方に飛ぶと同時にPICも切断。 余ったエネルギーを全て高速軌道専用ハイパーセンサーに集中させる。

 視界が歪み、白黒になる。 数瞬遅れて、周りの全てがスローになる。

 これが俺が織斑先生に対応するために生み出した技術、オーバーアシスト。 エネルギーを極限までハイパーセンサーに集中させることで反応速度を大幅に上げる技。

 

 -遅えよ!-

 

 蟻のように遅い一夏に、俺の感覚ではゆっくりと、しかし本来のスピードなら猛烈な速さで対艦ライフルを突きつける。

 

 -ズガァン!-

 

 銃口から漏れる火も、反動により持ち上がる銃身も、至近距離で食らった弾丸に仰け反る一夏もスローになっている中で、確かな着弾を確認した俺はオーバーアシストを終了、通常モードに戻る。

 

「オラァ!」

 

 対艦ライフルを仕舞い、左手で一夏の首を掴み、ヒートホークを頭に叩きつける。

 

 -ガァン! ガァン! ガァン!-

 

 何度も金属音が響き、そして俺の勝利を知らせる放送が鳴った。

 

「…痛て、やるな、鉄平。」

 

「そりゃあ、お前の姉貴と死ぬほど試合したからな。 んじゃ俺はピットに帰るわ。」

 

 倒れた一夏を助け起こし、背を向けて手を振った後にBピットに飛ぶ。

 

「お、お疲れ様です、鉄平さん。」

 

「あー、ありがとう。」

 

 ピットに帰った俺を迎えたのはセシリアさんだ。

 

「見事な試合でしたわ。」

 

「そうか、そりゃあ重畳。」

 

 ISを解除しながら返事をして、帰ろうとしたところで、セシリアさんに呼び止められる。

 

「あ、あの。 鉄平さんはどんな決意で戦っていらっしゃるのですか?」

 

 俺の、決意。 そんなもん決まってる!

 

「俺にはよ、付き合ってる奴がいんだわ、俺には勿体ねえようなめちゃくちゃ可愛いやつ。 だから俺は、そいつが恥じねえように強くて優しくて格好良くなりたいんだ。」

 

「お付き合いをしている人が?」

 

「おう、今度写真を見せてやろう。 スペシャル可愛いぞ?」

 

「は、はい。 それはまた今度…」

 

 俯いて黙りこくるセシリアさん。

 負けたのがよっぽどショックだったのか?

 

「んじゃ俺、この後しなきゃいけないことあるんで帰るわ。 セシリアさんも早く帰れよ?」

 

「は、はい。」

 

 んじゃ、と右手を上げてからピットを出る。

 因みに、制服はISの拡張領域から直接着用した。

 ポケットから取り出したるは携帯電話。 そのアドレス帳のある番号をタッチすると、2コールで電話がつながった。

 

「あ、更識先輩ですか? …ええ、浅間です。 …はい、御察しの通りで。 ええ、はい。 …この後生徒会室ですね、わかりました。 失礼します。」

 

 電話を切って、ポケットに再度しまう。

 さて、俺がクラス代表になることはないだろう。



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