あんさんぶるガールズ‼~転校生と少女たちの日常~ (ファントムベース)
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本編
第1話「2-A」


気休めの目的で書きましたので、ご気軽に見てください。


春が過ぎ、夏が近づいているその日の朝。

町の小高い丘にたつ『私立君咲学院』は、通う女の子たちの話し声で相変わらず賑わっていた。

 

そんな中、2-A教室で机に突っ伏している1人の男子の姿があった。彼の名は『黒崎裕也』、この学院唯一の男子だ。

というのも、君咲学院は去年まで伝統ある女子校だったが、時代の流れを受けて男女共学校になることとなった。その試験として転入してきたのが、彼という訳である。

 

 

「はあーぁ…」

 

「どうしたのユーくん。溜め息ついちゃって」

 

「なんか悩みでもあんの?よければ相談にのるわよ」

 

 

重い溜め息をつく彼に、幼馴染の『三波なつみ』とクラス委員長の『堀田さあや』が声をかけてきた。

 

 

「なつみに委員長…。いや、よくこの2ヶ月過ごしてこれたなって…」

 

「え?」

 

「どういうことよ」

 

 

なつみとさあやは顔を見合わせた後、裕也に訊ねる。

 

 

「だって女子の中に男子俺1人だぜ?ライオンの檻にウサギが放り込まれたような状況で、よくもったなと思っただけさ」

 

「あ、あはは…そ、そうだよね」

 

「その2ヶ月の間に生徒会長再選挙や帰宅部争奪戦とか、いろんな行事に参加しているんだからあんたはよくやった方よ」

 

「…そう言ってくれると気が楽になるよ」

 

 

そんなことを話していると、『春風なな』がさあやの背中に飛びかかってきた。

 

 

「あれ―っ!3人だけで何の話をしているんですかー、あたしも混ぜてくださいよーっ‼」

 

「あら春風、別にあんたには関係のない話よ」

 

「えー私だけ仲間はずれですか――っ!教えてくださいよーっ‼」

 

 

素っ気なく答えるさあや、子供のように彼女へ抱きついてくるなな、それを微笑ましいものを見るような目で見つめるなつみと裕也。

 

 

「それはそうと春風、1時限目の英語はテストよ。赤点取ったら補習って言われてるけど勉強したの?」

 

「ウェッ…⁉」

 

 

さあやが思い出したかのようにテストがあること(死の宣告)を告げると、ななは某オンドゥル王子のような声を上げてる。

なつみと裕也はいつの間にかノートを広げ、テスト前の予習をしていた。

 

 

「い、いいんちょっ、ノート見せてくださーいっ!全然勉強してませーんっ‼」

 

「はあ…」

 

 

涙目で懇願してくるななに、やはりかとさあやは呆れて溜め息をついた。そんな事をしている内に、授業のチャイムが鳴る。

 

 

「ガッテ―――ム‼」

 

『うるさい!』

 

 

教室内にななの悲鳴が響き渡り、そのせいでクラスの全員に怒られてしまった。なお、行われたテストでななが悲惨な点数を取ったのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて、昼休み。学院の生徒たちは食堂に行ったり、教室で持参した弁当や購買で買ったパンを友だちと一緒に食べていたりしていた。

 

裕也は教室で1人、持参した弁当を食べている。とそんな彼に近づいてくる女子がいた。三波なつみだ。

 

 

「ユーくん、一緒にご飯食べよ」

 

「おう、別にいいぜ」

 

「やった、じゃあ失礼するね」

 

 

なつみは自分の椅子を彼の席まで持ってきて座ると、自身の弁当を広げた。家事全般が出来る彼女は弁当も自分で作るため、相変わらず彩りが綺麗だ。

 

 

「あれ、ユーくんもお弁当?」

 

「あんず姉さんがさ、昨日の夜いきなり『ユウちゃんのお弁当が食べたい!』って言ってきたから、仕方なく朝作ったんだ。これはそのついでさ」

 

「あんずさんは相変わらずだね」

 

 

あんずとは裕也の姉のことだが、彼と彼女は血の繋がっていない…つまり義理の姉弟なのである。複雑な家庭事情があるようだが両親が家を空けていることが多く、大概2人で生活しているためか、仲は良好のようだ。

 

 

「まったくだよ。あの人は自由奔放過ぎて、疲れるぜ」

 

「そんなこと言ってるけど、ユーくんも本当は楽しいんでしょ?」

 

「…まあ、な」

 

 

目を逸らす裕也を、微笑ましい目で見つめるなつみ。と、そこへ前の授業で集めたノートを、職員室に提出して戻ってきたさあやが近づいてくる。

 

 

「あんたたち、2人だけで昼食かしら?まるで夫婦みたいね」

 

「「ち、違うから(な)(ね)⁉ただ一緒に食べていただけだから(な)(ね)⁉…あ」」

 

 

さあやに茶化され、過剰反応する裕也となつみ。そのせいで息ぴったりに叫んでしまった。

 

 

「息もぴったりなんて、本当に夫婦みたいね」

 

「う…」「あう…」

 

 

顔を真っ赤にして俯いてしまう裕也となつみだったが、時間もあまり無いため、とりあえずそのまま弁当を食べ続ける。さあやのせいもあるが、互いを変に意識してしまったのかその間に一言も喋ることはなかった。

 

 

「「ごちそうさまでした…」」

 

 

何やかんやで食べ終え、空になった弁当箱を片づけると裕也は「購買で飲み物を買ってくる」と言って、教室を出ていく。

彼がいなくなるとなつみは顔を真っ赤にして、さあやに詰め寄った。

 

 

「もーっさあやちゃん!変なこと言うから、ユーくんと気まずくなっちゃったじゃん‼」

 

「あら、あたしは思ったことを言っただけど?三波と黒崎が勝手に意識してただけでしょ?」

 

「う…それはそうだけど…」

 

 

正論を言われ、返す言葉がないなつみ。確かに勝手に互いに意識し合っていたのは2人であって、さあやには何の罪状もないのだ。

さあやは「はぁ」と溜め息をつくと、なつみに謝った。

 

 

「まあ、あたしもちょっと意地悪すぎたわね。悪かったわ」

 

「べ、別に怒ってるわけじゃないから謝ることはないよ、さあやちゃん。裕也くんも怒ってないと思うし」

 

「…それもそうね。でも一応謝っておくわ、何だか悪いし」

 

 

なつみの言う通り、おそらく裕也も彼女と同じことを言うだろうなとさあやは思った。その寛大さは良いところでもあるが悪いところだとも思えるが、だからこそ彼が皆から好かれるのかもしれない。

 

 

(そう、そんな黒崎だからこそ私は…)

 

 

彼に対する()()()()()を胸の内に隠しながら、さあやは裕也が戻ってくるのを待つ。

 

そして、その裕也はというと…

 

 

「おい、下僕くん!このせいとかいちょおにジュースを買ってほしいのだあ‼」

 

「だから『下僕くん』って呼ぶのやめてくれませんか。あと生徒会長の権限使って後輩に飲み物ねだらないでください、新聞部とれいか先輩にチクりますよ?」

 

「そ、それだけではやめてほしいのだあ!」

 

 

購買近くの自動販売機で、生徒会長の『鶴海ひまり』ともめているのだった。

 

 

次回に続く…




という訳で、ノリと勢いで書いたあんガル小説でしたがいかがでしたでしょうか。
余談ですが後半の時、ななは英語の先生にこっぴどく叱られています(笑)

あんガルの子はみんな可愛いですよね。皆さんは誰がお好きでしょうか?
作者ははじめちゃんとあずさちゃんが大好きです。他にもたくさんいますが…

あと『この子とこの子の話を書いて!』みたいな要望があれば答えたいと思います。詳細は活動報告に書いておくので、確認してください。

ちなみに次回は放送部の話を予定しております。ではでは。


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第2話「放送部」

今回は放送部です。
では、どうぞ。


ある日の昼休み。

 

 

「あれ?」

 

 

なつみはいつものように、裕也と一緒に昼食を食べようと席へ向かったが、彼の姿が見当たらなかった。何処に行ったのだろうと辺りを捜していると、さあやが声をかけてきた。

 

 

「どうしたのよ三波」

 

「さあやちゃん、ユーくんが何処に行ったか知らない?」

 

「黒崎?あいつなら、さっき教室を出ていったわよ。購買かトイレにでも行ったんじゃない?」

 

「うーん…かなぁ?」

 

 

とその時、教室の校内スピーカーから軽快な音楽が流れ、放送部による昼の校内放送が始まった。

 

 

<やっほーい!お昼休みの時間を比較的どーでもいいトークと音楽で演出する、君咲学院放送部青春RADIOー♪>

 

 

校内スピーカーから響き渡る明るい声は、放送部の1年生…『丸子みさき』のだ。

 

 

<みんなにハイテンションな昼休みを届けるのは、お馴染みワタクシ丸子みさきと―――>

 

<今日も丸子さんの手伝いをしている、軽音部の藤猪しずくです>

 

 

明るくテンションが高いみさきとは逆に、やる気のない小声で話すのは同じ1年生の『藤猪しずく』だ。『君咲学院放送部青春RADIO』はこの2人で行われているのだが、今日の放送は何かが違っていた。

 

 

<そして今日はなんとなんと、スペシャルゲストをお呼びしています‼>

 

<それではゲストの方、どうぞ~>

 

『??』

 

 

放送を聴いている生徒たちは首を傾げた。スペシャルゲストとは誰だろう?、と全員が思っていると意外な声が流れた。

 

 

<どうも。君咲学院唯一の男子、黒崎裕也です>

 

『!?』

 

<というわけでスペシャルゲストは今学院を騒がせる台風の目、黒崎裕也先輩です!いぇーい‼>

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、放送室。

放送機材に繋がれたマイクが置かれた小さな机にみさき、しずく、そして裕也が囲むように座っている。

 

 

「いやー、黒崎先輩が来てくれるなんて嬉しいかぎりです!今日は先輩に色々と聞きたいと思うので、よろしくお願いしますね!」

 

「ああ。出来る範囲ではあるが、頑張って答えていくよ」

 

「よーし!挨拶を終えたところで、早速質問していこう!ちなみにこの質問は、事前にみんなから集計したものでーす」

 

 

そう言ってみさきはBGMを流し、質問を集計した紙を読み始めた。

 

 

「えーっと、では最初の質問。『黒崎先輩はこの学院に来る前はどのような高校に通っていたのですか?』ですって」

 

「前に通っていた高校は一応進学校だったけど、言うなれば変わった奴ばっかの男子校だったな。ここの女子みたいに明るいのもいれば、ヤンキーやらメカオタクやらホモやら…」

 

「ほ、ホモ?」

 

「ああ。そいつと仲が良かったんだが、一度だけ襲われたことがあってな。あやうく大切な何かを失うところだったよ…まあいい思い出の一つさ…ははっ…」

 

「こ、個性豊かな人たちに囲まれて生活していたんですね…」

 

 

思い出したくもないことでもされたのか、裕也は遠い目をしていた。しずくはそんな彼の頭を「よしよし」と撫でてあげた。

これ以上は触れないほうが彼のためかもしれない、そう思ったみさきは別の質問をする。

 

 

「じ、じゃあ次の質問にいきましょう!えっと『黒崎先輩の趣味を教えてください』」

 

「趣味ね…ギターと料理、あとは…ダンスとかかな」

 

「ギターが弾けるってことは、歌も歌えるんですか?」

 

「まあ一応。時折姉さんに聴かせたり、軽音部の部室でしずくと一緒に演奏したりしてるな」

 

「そうなの、しずくっち?」

 

 

みさきが尋ねると、しずくは「うん」と頷いた。

 

 

「すごいんだよパ…黒崎先輩は。とても綺麗な声だったから、思わず月永さんと聞き惚れちゃったよ」

 

「ほうほう、それは聞いてみたくなるわね。というわけで先輩、いきなりですがここで歌ってもらえないでしょうか!」

 

「ここでか⁉ま、まあ…別に構わないが」

 

「さっすが先輩!てなわけで皆さん、少し準備をするので暫しお待ちを!」

 

 

みさきがそう言うとマイクの音声を一度切り、演奏のための準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

「へー黒崎って無茶ぶりにも答えんのね」

 

「でもユーくんが人前で歌うなんて、珍しいよ」

 

「あら、そうなの?」

 

「うん。『人前で歌うのは恥ずいから無理!』って言ってた」

 

「…あいつもやけくそなのかしら」

 

 

 

 

 

 

準備を終え、みさきはマイクをONにして再び話し始める。

 

 

「さてお待たせしました――!今日限りかもしれない、黒崎先輩と藤猪しずくによる青春RADIO生演奏です!先輩としずくっち、準備はいいでしょうか‼」

 

「OK、いつでもいいぞ」

 

「こっちも大丈夫だよ」

 

 

ギターを持った裕也とドラムのバチを持ったしずくは、みさきにOKサインを出す。

 

 

「では歌ってもらいましょう!どうぞ!」

 

「それでは聴いてください、『恋の魔力』」

 

 

みさきの合図の後、2人は演奏を開始する。

 

 

「――――♪―――♪」

 

 

裕也の歌声とギター演奏、しずくのドラムがスピーカーを通して学院内に響き渡る。しずくの言う通り、彼の歌声は透き通るような綺麗な声だった。

 

 

「すごっ…黒崎くんギターと歌上手すぎじゃん」

 

「どうしよう。私、裕也くんの歌声の虜になっちゃいそう…」

 

「藤猪さんのドラムも凄いわ、息ぴったりだし」

 

 

その圧倒的な歌声に、生徒たちは聞き惚れてしまう。中には卒倒してしまう者までいる始末だった。

そして演奏が終わると、校舎内から拍手が巻き起こった。

 

 

「いやー、素晴らしい演奏と歌声でした!黒崎先輩としずくっち、ありがとうございました‼」

 

「こちらこそ聞いていただき、ありがとうございました!」

 

「ありがとうございました」

 

 

裕也としずくがマイクに向かってお礼をすると、再び拍手が起きた。

 

 

「さて、誠に残念ですがお時間が来てしまいました!皆さん、午後の授業も頑張っていきましょう!青春RADIO、お送りしたのは放送部の丸子みさきと」

 

「軽音部の藤猪しずくと」

 

「ゲストの黒崎裕也でした」

 

「では皆さん、また明日のお昼にお会いしましょう‼」

 

 

皆の熱狂が冷めやらぬまま、昼の校内放送は幕を閉じた。マイクとBGMを切り、放送を終えたみさきは興奮したまま2人に近づく。

 

「凄いよ先輩としずくっち!私思わず熱くなってきちゃったよ!」

 

「…実は俺もだよ。まだ体が熱い」

 

「私も…ドラムでこんなに疲れたの久しぶり…」

 

 

2人もまだ興奮しているのか、顔が赤くなっていた。

 

 

「ねえ2人とも、今度は3人でカラオケに行きましょうよ!」

 

「お、それいいな。しずくは?」

 

「うん私も行きたい。いつにします?」

 

「テスト期間があるし、テスト明けの休日はどうだ?」

 

「ちょうどいいですね!じゃあそうしましょう!」

 

「うん、私もそれで大丈夫だよ」

 

「よし、決まりだな。じゃあ楽器片づけて教室に戻るとするか!」

 

「「はいっ!」」

 

 

3人は楽器を片づけ、各自の教室へと戻っていくのだった。

ちなみにこの後、教室に戻った裕也は女子たちからサインを求められたのはまた別の話である。

 

 

次回に続く…




途中からなんかおかしくなってしまった…
けどやりきったので、後悔はしていない。
しずくちゃん、ほんと可愛いですよね。一度でいいから、『パパ』って呼ばれたい。

次回は今のところ、未定です。
あと大学で多忙になるので、不定期になるかもしれません。ご了承ください。
ではでは。


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第3話「保健委員」

今回は保健委員会の2人、つゆちゃんとあずさちゃんの回です。まあほとんどつゆちゃんがメインですが…

では、どうぞ。


「コホ、コホ…ねぇ黒崎くん。ちょっといいかな?」

 

 

ある日の休み時間。次の授業の準備をしていた裕也は、クラスメイトの『八朔つゆり』に声をかけられた。

 

 

「どうしたの八朔さん」

 

「今日保健委員会で保健室の整理があるんだけど、いつものメンバーしかいないから手伝ってほしいんだ。その…私はこんな体だし…」

 

 

そう言ってつゆりは「コホ、コホ…」と咳をする。つゆりは生まれつき身体が弱く、学校も休みがちだ。今日は比較的体調が良いため、何とか登校できたらしいが重い荷物を運ぶなどといった作業は彼女には無理である。

そのため、男子である裕也はよく頼まれごとをされることが多いのだ。

 

 

「わかった。俺でよければ手伝うよ」

 

「ありがとうね黒崎くん。それじゃあ放課後によろしくね…コホ、コホ」

 

 

つゆりはつらそうに咳をしながら自分の席に戻る。と、入れ替わるようになつみが彼に話しかけてきた。

 

 

「ねぇ裕也くん。放課後にななちゃんと繁華街に行くんだけど、一緒に行かない?」

 

「悪い。すでに先約があるから、断らせてもらうよ。それとなつみ、話すときは屈んでくれ。首が痛くなる」

 

「そっか、それは残念…って最後私のこと遠回しにおっきいって言ってるよね⁉」

 

「マッサカー、ソンナコトハナイヨー。オレガソンナコトイウワケガナイジャナイカー」

 

「棒読みになってる時点で隠せてないよ⁉ねぇ!」

 

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐなつみに、教室内の全員はまたかと苦笑する。もはや裕也となつみの夫婦漫才は2-Aクラスの名物となっていた。

 

 

「まったく…何してんだが…」

 

 

自分の席から見ていたさあやは呆れて溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

放課後。裕也はつゆりと共に保健室へと向かう。その間につゆりは苦しそうに何度も咳き込んでいた。

 

 

「コホ、コホ」

 

「大丈夫?八朔さん」

 

 

裕也はつゆりの小さな背中を優しくさすってやる。その度に背後からナイフのように鋭い視線を感じるが、とりあえず気にしないでおく。

 

 

「うん。ごめんね黒崎くん、気を遣わせちゃって」

 

「気にしないで。それに八朔さんが倒れたりしたら、皆が心配するからね」

 

「そっか…黒崎くんは本当に優しいよね、だから皆が信頼してくれるのかもね」

 

「うーん…そうかな?」

 

「きっとそうだよ。あ、保健室に到着したね」

 

 

会話しているうちに2人は保健室へ到着した。扉を開けようとした瞬間、「きゃ――っ⁉」という声と共に物凄い物音が中から聞こえてきた。

 

 

「「………」」

 

 

裕也とつゆりは顔を見合わせる。扉を開けて保健室に入ると先生の姿はなく、床一面には備品が散らばっている。そして彼らの目の前には、包帯でミイラのようになっている1年生の『小鳩あずさ』がいた。

 

 

「あ、つゆり先輩にお兄ちゃん☆こんにちは☆」

 

 

ぐるぐる巻きになって動けないにもかかわらず、あずさは穢れを知らない天使のような笑顔を2人に向ける。

 

 

「えっと…あずさちゃん、何をしてるのかな?」

 

「これはですね、つゆり先輩が来る前に少しでも片づけておこうとしたんですよ☆そしたら転んでこうなっちゃいました☆」

 

「転んでそんな風に絡まるか、普通…」

 

 

あずさがこんな状態では手伝いどころではないので、裕也はとりあえず彼女に絡まっている包帯を取ってやる。その際に余計に絡まって、あずさが同人誌のようないけないシーンのようになったりしたが、数分ほどかけてようやく包帯を全て取ってやった。

 

 

「これでよし。次は気をつけろよ」

 

「はい☆ありがとうございます、お兄ちゃん☆」

 

 

裕也に笑顔で感謝するあずさ。これでやっと整理が出来ると思ったが、『氷野くるみ』と『夢路まりあ』の2人がまだいないことに気づく。

 

 

「ねぇ、あずさちゃん。他の2人はどうしたの?」

 

「えっーとですね。くるみちゃんとまりあ先輩は今日は体調不良でお休みだそうです☆」

 

「え、じゃあ保健室の整理って…」

 

「俺たちだけでやるってことだな…」

 

 

まさかの保健室メンバーの4人中2人(くるみとまりあ)が休みという事態。助っ人の裕也を入れても3人しかおらず、さらにつゆりの身体のことを考えるとあずさと裕也の2人で整理をしなければならない可能性だってあるのだ。

 

 

「とりあえず役割分担して片づけよう。そうした方が八朔さんへの負担を減らせていいと思うんだ」

 

「はい、あずさはそれがいいと思います☆」

 

「私もそれでいいよ」

 

 

裕也の提案につゆりとあずさも賛成し、作業を開始した。

 

 

 

 

 

 

それから数分後。役割分担をして片づけたこともあって、すぐに終わらせることができた。

 

 

「ふぅ、ちゅかれた…」

 

「そうですね~、あずさも疲れちゃいました☆」

 

「そうか?俺は全然平気だぜ」

 

 

疲れてベッドの上に座るつゆりとあずさ。裕也も椅子に座っているが全く疲れる様子もなく、ケロッとしていた。さすが男子である。

 

 

「コホ、コホ…ちょっと動いたら喉が渇いちゃった。あずさちゃん、ちょっと購買で飲み物を買ってきてくれるかな?」

 

「はい、わかりました☆あずさにお任せください☆」

 

 

つゆりに頼まれたあずさが飲み物を買いに、保健室を出ていく。彼女がいなくなると、つゆりは裕也に小さく頭を下げた。

 

 

「今日は本当にありがとうね。黒崎くんが手伝ってくれたから、すぐに終わることができたよ」

 

「だからそんな気にしなくていいって。俺は困ってる人の手助けをしたい、ただのお節介焼きだよ」

 

「そんなことないよ、黒崎くんは本当に…あっ」

 

 

ベッドから立ち上がるつゆりだが、立ち眩みを起こして倒れそうになる。裕也は咄嗟に椅子から動き、つゆりの背中に手を回して支える。

 

 

「八朔さん、大丈夫?」

 

「ご、ごめんね。ちょっと立ち眩みがしただけだか…ら…」

 

 

つゆりは言葉が途切れ途切れになり、顔がほんのり赤く染まった。

 

 

「どうした?どこが具合が?」

 

「く、黒崎くん。その…顔が近いよ///」

 

「あ……」

 

 

言われて裕也は気づく。咄嗟に支えたため、今2人の顔はキスできそうなくらいに近かった。

 

 

(ど、どうしよう。このままだと私、黒崎くんとキスしちゃいそうだよ///)

 

(こ、こういう場合はどうすればいいんだ俺!ここで離したら八朔さんが倒れてしまう、マジでどうすれば!)

 

 

と保健室の扉がガラッと開き、ペットボトルを抱えたあずさが戻ってきた。

 

 

「只今戻りました――☆ってあれ?」

 

「「あっ…」」

 

 

あずさに今の状態を見られ、顔を真っ赤に染めて固まる2人。

 

 

「きゃ――っ☆つゆり先輩とお兄ちゃんがラブラブしてます――☆あずさはお邪魔になるので、ここで失礼しますね☆」

 

「ま、待てあずさ!これは誤解だ―――‼」

 

 

裕也はつゆりをベッドに座らせると、あずさの誤解を解くために保健室を出ていく。

 

 

「はぁ…さっきのはちょっとドキドキしたなぁ…」

 

 

1人残されたつゆりはベッドに横になり、保健室の白い天井を見上げる。

病気のせいであと何年生きられるかわからない自分。そんな運命がとても恐ろしくて、苦しくて、逃げ出したかった。

でもここ(君咲学院)で出会ったクラスの友達や委員会のみんな、そして転校生の裕也のおかげで、もっとみんなと一緒に生きていたい、思い出をいっぱい作りたいと思わせてくれた。

 

 

「私、とっても幸せ者だなぁ…」

 

 

つゆりは小さく微笑み、天井に手を伸ばす。彼女の心は今、幸せという気持ちでとても満たされているのだった。

 

 

次回に続く…




あんガルがまさかのサービス終了…実に悲しいものです。
ですが私は、たとえあんガルが終了してもこの小説を書き続けます。これを楽しみにしている方でもそうでない方でも、彼女たちが恋しくなったらぜひ読んでください!
…何を言っているんだ、私は。

とりあえず次回は早めに投稿しますので楽しみにしていてください。ちなみに予定は3年生の誰かと考えております。

感想やご意見、お待ちしております。
では、また次回。


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第4話「王子様」

今回はみつるちゃん回です。


一通りの授業が終わった放課後。校舎では生徒たちが教室で仲良く談笑しあっていたり、ユニフォームに着替えて部活動に向かったりしていた。

そんな中、裕也は生徒会からのパシリ…もとい手伝いで、副会長の『四方みつる』と共に部活動会議で使用する書類の山を運んでいた。

 

 

「すまないね裕也くん。手伝ってもらって」

 

「別に構いませんよ。それに先輩1人じゃ、何度も往復することになって大変でしょうし、このくらいならお安い御用です」

 

 

本来なら他の生徒会メンバーがやるべき事なのだが、生徒会長のひまりは危なっかしくて頼めないし、書記の双子はまず生徒会にほとんど来ない。書記の『悠木ともこ』も剣道の大会が近いとのことで部活に行っているらしく、頼めるのが彼しかいなかったらしい。

 

 

「みんなが噂している通り、裕也くんは本当にお人好しなんだね」

 

「自分でもそう思っているので、否定はしません」

 

「そして学院の女の子をとっかえひっかえして、いやらしいことをしているとか…」

 

「ちょっと待ってください⁉何かあらぬ誤解を招くような噂まで流れてません⁉」

 

 

男の威厳を損なうような噂が流れている事に、軽くショックを受ける裕也。

そんな彼を見て、みつるは「ふふっ」と小さく笑う。

 

 

「冗談だよ。本当にそんな噂が流れていたら、君は今頃風紀委員のお縄についているはずだよ」

 

「た、確かに…」

 

 

みつるに言われて、裕也は気づく。確かにそんな噂が広まっていたならば、彼を捕まえるべく風紀委員が探しているはずだ。

 

 

「だとしてもそんな冗談を言わないで下さいよ、めっちゃ焦ったじゃないですか…」

 

「はっはっは、ごめんごめん。少し場を和ませたかったのさ」

 

 

裕也に睨み付けられ、みつるは笑って謝る。そんなやり取りをしているからか、廊下や教室にいる生徒たちが2人に注目しており、何やらキャッキャと話している。

 

 

「ねぇ、あれ見て。黒崎くんと四方先輩よ」

 

「ほんとだ!学院屈指のイケメン同士が並んで歩いているわ!」

 

「誰かカメラは持ってないの!2人を写真におさめないと!」

 

「そして薄い本の資料に‼」

 

「「………」」

 

 

何か聞こえてはいけない単語が聞こえた気がしたが、2人はとりあえずスルーして生徒会室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

到着した裕也とみつるは生徒会室に入るが、中にはひまりの姿はなかった。彼女は定期テストの点数が悪かったため、補習に行っているらしい。それでいいのか生徒会長、と裕也は心で呟いた。

 

 

「これで最後っと…」

 

 

運んできた書類の山を長机の上に置く。長机には書類だけでなく、資料などが山積みになっており、少しでも動かしたら崩れてしまいそうであった。

 

 

「今日は本当にありがとう。はい、お茶だよ」

 

「あ、どうもです」

 

 

裕也にお茶の入った湯呑みを渡し、みつるは彼の隣に座った。

 

 

「こうやって君と2人きりになるのは初めてだね」

 

「そういえばそうですね」

 

 

大抵は生徒会室にひまりやともこがいるため、みつると2人きりでいるのは何気に初めてである。それを認識した瞬間、裕也とみつるは変に互いを意識してしまい、顔を背けた。

それもそのはず。個室に男女で2人きりなんてシチュレーションにドキドキしない人間がいるだろうか。いないはずだ…おそらく。

 

 

(やべ…なんかドキドキしてるぞ俺)

 

(ど、どうしよう…男の子と2人きりの時って、何を話せばいいのかな)

 

 

特に話すこともなく、ただお茶を飲むだけの2人。さすがに気まずいと思ったのか、みつるから話題をふった。

 

 

「そ、そうだ裕也くん、今日はお礼をさせてよ。いつも手伝ってもらったのに、僕たちからは何もしていなかったからさ」

 

「うーん、いきなり言われましても…」

 

 

お礼と言われて考える裕也だが、やってもらいたい事が何も思いつかなかった。

 

 

「何でもいいんすか?」

 

「うん。けど僕の出来る範囲まででお願いね」

 

「それじゃあ…」

 

 

裕也は湯呑みを机に置くと、みつるに顔を近づけて言った。

 

 

「俺、みつる先輩が欲しいです」

 

「うん、わかった…え?」

 

 

一瞬2人の間を静寂が包んだ刹那、「え、えええぇぇぇっ⁉」とみつるの絶叫が生徒会室に響き渡った。

 

 

「ぼ、ぼぼぼ僕が欲しいって、本気で言ってるの⁉」

 

「本気で言ってたら…どうします?」

 

「えぇ…⁉」

 

 

キスしてしまいそうなくらいに顔を近づける裕也に、みつるの鼓動はどんどん早くなる。

 

 

(ど、どうしよう!このままじゃ僕、裕也くんに…)

 

 

もはやどうすればいいかわからず、顔を真っ赤にしてキュッと目を瞑るみつる。しかし裕也は何もせずに、彼女から顔を離した。

 

 

「冗談ですよ。本気でそんなこと言ってみつる先輩を独占したら、先輩のファンに怒られちゃいますからね」

 

「ふ、ふぇ…?」

 

 

どうやら裕也はさっき廊下でみつるが言った冗談のお返しをしたかったらしく、彼女をからかったようだ。

と、制服のポケットに入れてた裕也のスマホの着信音が鳴った。

 

 

「あ、ちょっとすいません(ピッ)。もしもし?おおなつみか、どうした。…今日夕食を作ってあげるから、一緒に買い出しに行こう?なんで俺が行かないといけないんだよ。…はいはい、わかりました行きますよ行けばいいんだろ。…はいはい、じゃあな(ピッ)」

 

 

電話相手はなつみだったようだが、何やら無理矢理買い物に行く約束を取り付けられたらしく、すごく嫌そうな顔をして電話を切る。

 

 

「すいません先輩。お礼はまた今度お願いしますね、それじゃ」

 

 

そう言い残して裕也は生徒会室を出ていく。顔を真っ赤にしたみつるは、その場にへたり込む。

そこへ補習を終わらせたひまりが駆け込んできた。

 

 

「い、今戻ったぞミッチー!すまん、補習に時間がかかってしまった…ってどうしたのだ?」

 

「え、いや何でもないよ⁉それよりもひまり、来たならこの書類の確認を早くやっちゃうよ」

 

「む、そうだな!よーし、せいとかいちょお頑張っちゃうぞー‼」

 

 

やる気満々にひまりは書類の確認に取り組む。みつるも椅子に座って取り掛かるが、先程の事で頭がいっぱいであった。

 

 

(僕が欲しいなんて…そんなこと言われたら本気にしちゃうじゃないか。裕也くんの…馬鹿)

 

 

そこにいるのは『王子様』としてではなく、『お姫様』としての四方みつるであった…

 

 

次回に続く…




書いていて気づいたんですが、前回と展開が若干被っていました(笑)
次回は裕也の話を予定しております。あと、6話についてアンケートを取ります。詳しくは活動報告を見てください。
感想、ご意見お待ちしております。
では、また次回。


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第5話「休日(前編)」

今回は転校生こと裕也の話です。
少し長くなってしまいましたので前後編に分けさせていただきます。アンケートを書いてただいた方、もう少しだけお待ちください!

では、どうぞ。


皆さん、休日はどう過ごしていますか?

友だちと遊ぶ、買い物に行く、家でゆっくりするなどと、人によって様々です。

ではこの物語の主人公である『黒崎裕也』は休日をどのように過ごしているのでしょうか。

少し彼の生活を覗いてみましょう。

 

 

 

 

 

 

午前6時30分。

スマホの目覚ましアラームが鳴り、裕也は目を覚ます。

 

 

「…もう朝か」

 

 

裕也はベッドを出て着替えると、自分の部屋を出た。そして1階に降りて洗面所で顔を洗うとダイニングキッチンへ向かい、朝食を作り始める。

両親が長く不在のため、現在裕也は姉の『黒崎あんず』と2人で暮らしている。なので食事や洗濯などの家事は当番制で行っているのだ(ただしたまにあんずがめんどくさがるため、殆ど裕也しかやっていない)。

 

「よし、今日は目玉焼きとベーコンにしようかな」

 

 

今日の朝食はトーストに目玉焼きとベーコン、さらに自家製のヨーグルトと黒崎家では定番の内容に決定した。

朝食を作り終え、裕也はテーブルに運んでいるとちょうどあんずが起きてきた。寝起き直後なのか、髪は寝癖でぼさぼさで「ふあぁ~…」と大きな欠伸をした。

 

 

「おはよ~ユウちゃん」

 

「おはよう姉さん…って寝癖くらい直したら?」

 

「え~ユウちゃんやってよ~」

 

「(この人は…)はいはい、じゃあ朝飯の前に顔ぐらい洗ってきてね」

 

「は~い」

 

 

あんずが洗面所に行って顔を洗っている間に、裕也は全ての朝食をテーブルに並べる。

程なくしてあんずが戻ってきたので、2人は「いただきます」と言って朝食を食べ始める。

 

 

「姉さん、今日の予定は?」

 

「ちょっと用事で学校に行った後に、クラスの友だちと遊ぶ予定だよ。そういうユウちゃんは?」

 

「特にないから家でゴロゴロするか、家事でもしてるよ」

 

「え~普通休みの日は学校の子とデートとかしないの?」

 

「ないよ。第一そういう人いないし」

 

「えぇ~ほんとでござるかぁ~?」

 

「…………」

 

 

あまりにもしつこく聞いてくるので、裕也は何処からともなく某2人で1人の探偵ライダーに出てくるスリッパ(『ええかげんにせい‼』と書かれている)を取り出し、あんずの頭をスパーンッと叩いた(手加減はしている)。

 

 

「いったぁーい‼」

 

「次しつこく聞いてきたら、今日の晩飯抜きにするからね」

 

「うぅ~わかったよ~」

 

 

流石に夕食を抜かれるのは厳しいので、あんずはこれ以上聞かないようにした。

朝食を食べ終えて食器を洗った後、裕也は制服に着替えてきたあんずの髪を櫛でとかしてあげる。

 

 

「そういえば姉さん、少し髪伸びた?」

 

「やっぱユウちゃんもそう思う?昨日学校でも友だちにも言われたんだけど、そろそろ切ったほうがいいのかな」

 

「俺は今のままでもいいと思うけど、姉さんの好きでいいんじゃない?ほら、終わったよ」

 

「ありがとうねユウちゃん」

 

 

裕也に髪を整えてもらったあんずはバッグを手に持つと、玄関へと向かう。

 

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

「行ってらっしゃい。晩飯までには帰ってきてよ」

 

「わかってるって。じゃ、行ってきまーす‼」

 

 

あんずは手を振りながら、玄関の扉の向こうへと消えた。姉を玄関前で見送ると、裕也は残った家事を終わらせるために行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

それから1時間後。

洗濯に掃除、ゴミ出しなどのやるべき家事を全て終わらせた裕也はソファでくつろいでいた。

 

 

「あ~終わった終わった。さて、この後は何してようかな…」

 

 

この後の予定はどうしようかと考えていると、裕也のスマホの着信音が鳴る。スマホを手に取って確認すると、画面には『黒森すず』の名前が映し出されていた。

 

 

「もしもし黒森先輩?」

 

『やぁ弟くん。僕なんだが今日は暇かい?』

 

「はい。一応暇ですが…」

 

『だったら遊びに行っていいかい?破壊と混沌で満たされていないこの世界は僕にとってt「俗に言えば先輩も暇なんですね?」うぐっ…ま、まあそういうことだな!』

 

「はぁ、まあいいですよ。今日は姉さんがいないですけど、それでも構いませんか?」

 

『構わないよ。何時くらいに行けばいいかな?』

 

「うーん、とりあえず10時以降ならいつでも」

 

『わかった。それじゃ弟くん、また後で』

 

 

通話が切れると、裕也はスマホをテーブルの上に置いた。

 

 

「やれやれ、黒森先輩は相変わらずだな」

 

 

すずの中二病発言に内心呆れつつ、彼女らしいと裕也は思った。

元々彼とすずが出会ったのはあんず関係からであった。とある事で裕也があんずの弟だと知ってから、すずは裕也を『弟くん』と呼んで可愛がっているのだ。

裕也自身も彼女をもう1人の姉のように接しているが、実質すずの方が姉だったらいいのになと最近感じているのだった。(あくまで感じているだけなので口にはしていない。言ったらあんずが泣くので)

 

 

ピンポーン♪

 

 

と玄関の呼び鈴が鳴った。壁時計を確認すると現在の時刻は午前8時15分、すずが来るにはあまりにも早すぎる時間帯だ。

世話好きななつみでも来たのだろうと思いつつ、裕也は玄関へ向かう。

 

 

「はい、どちらさまでしょうか?」

 

 

ガチャッと扉を開き、そこにいたのは―――。

 

 

「おはようございます、()()()♪」

 

 

派手、という言葉が非常によく似合う元生徒会長の3年生…『円城寺れいか』であった。

裕也は何事もなかったかのように扉を閉めようとしたが、れいか(と裕也から見えない位置にいる執事)によって阻まれてしまう。

 

 

「逃がしませんわよ♪」

 

「くっ、まさかよりによって今日来るとは…!」

 

 

笑顔のれいかに反して、苦い顔をする裕也。なぜなられいかが黒崎家に来る理由はただ1つ、それは。

 

 

「ふふふっ。さあ、今日はたっぷり()()()()()もらいますわ」

 

 

裕也(お兄様)に甘える』。ただそれだけの理由で黒崎家にリムジンで来るのだ、この円城寺れいかという少女は。

ちなみになぜれいかは裕也の事を『お兄様』というのかは、後で語るとしよう。

 

 

「セバス、帰る時には連絡するから貴方はもう帰っていいわよ」

 

「かしこまりました、れいかお嬢様」

 

 

セバスと呼ばれた執事はれいかに一礼すると、リムジンに乗って走り去っていった。

 

 

「さ、家の中に入れてくださいなお兄様♪」

 

「…はい」

 

 

半ば諦めてれいかを家の中へと入れる裕也。

しかし裕也は知らなかった。この後、自宅が(ある意味)修羅場になることを……

 

 

次回に続く…




皆さんは夏休みをどう過ごしましたか?
自分は大学生なのでまだ夏休みですが、祖父母の畑の手伝いやらなんやらで忙しいです。
あとは夏コミに1日目だけ行ってきました。去年も行きましたが、いやー人が多くて毎度毎度びっくりしてました。

では後編もお待ちください。ではでは。


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第6話「休日(後編)」

すまない…投稿が遅くなってすまない…

いやマジですみません。だからステラやバスター的な何かを撃たないでください。

とりあえず本編、どうぞ。


「お兄様、頭を撫でてくださいな♪」

 

「はいはい、これでいいですか?(ナデナデ」

 

「~~~~♪」

 

 

猫のように甘えてくるれいかの頭を撫でてあげると、とてもご満悦な表情を浮かべる。彼女が来てからまもなく2時間が経過しようとしているのだが、裕也はれいかに抱き着かれていて動けずにいた。

今日はすずが来るため、早い所お引き取り願おうとする裕也であるが。

 

 

「あの~れいか先輩。そろそろ帰っていただけないでしょうか?」

 

「嫌ですわ。たとえお兄様が何と言おうとも、今日1日ずっと甘えると決めているんですもの」

 

 

と言った感じで頑なに離れようとしないのである。

ちなみにれいかが裕也を『お兄様』と呼ぶ理由は話すと長くなるので簡潔に言うと、

 

『兄の不在で幼児化したれいかを慰めたら、何故かお兄様と呼ばれるようになった』

 

という訳である。いったいどういうことだってばよと思うかもしれないが、あまり深く突っ込まないでいただきたい。

しかしこの状況は今の裕也にとって、非常にまずいものであった。もしこの状況を取り巻きの2人(春秋コンビ)執事(セバスチャン)に見られたなら、社会的に消されてしまう可能性があるのだ。

 

 

「ふふっ、お兄様♪」

 

 

しかしそんな事はおかまいなしと言わんばかりに、れいかは密着するように裕也に抱きつく。そのたびに彼女のふくよかな胸の感触を腕に感じ、健全な男子である裕也はそれに必死に耐える。

 

 

(どうすればいい!どうすれば先輩は帰ってくれるんだ‼)

 

 

すずが来る前にどうにかれいかに帰ってもらう方法を考える裕也だったが、時は既に遅し。

 

 

ピンポーンッ♪

 

 

玄関の呼び鈴が鳴る。

…後に裕也はこの時聞こえた玄関の呼び鈴の音が、死を告げる鐘の音に聞こえたと語るのだった。

 

 

 

 

 

 

すずは約束の時間通りに黒崎家の玄関前へと来ていたが、2度目の呼び鈴を鳴らしても反応がなかったので首を傾げる。

 

 

「あれ、おかしいな…。弟くんったら何してるんだろ?」

 

 

行くことは事前に連絡していたのに、家の中から反応がない。不審に思ってドアノブに手をかけてみると、ドアに鍵はかかっておらず、普通に開いていた。

マイペースな(あんず)とは違ってしっかり者である裕也が、1人でいる時に玄関の鍵をかけないでおくのはおかしかった。

 

 

「おーい、弟くん。いるのかーい?」

 

 

玄関を少し開け、家の中を覗き込むすず。そこで彼女は玄関に見慣れないハイヒール――あんずの物ではない(もちろん裕也の物でもない)、かなり高そうなブランド物――があるのを見つける。

さらに奥のリビングから、何やら言い争う男女の声が聞こえた。

 

 

「だーかーら!ほんのちょっとだけでいいですから、離れてくださいって‼」

 

「嫌ですわー‼お兄様と離れるなんて絶対に嫌ですわ―――‼」

 

 

1つは裕也の声、そしてもう1つはすずにとっては聞きたくない人物の声だった。

 

 

「っ!」

 

 

その瞬間、すずは自分でも不思議なくらい迅速に動けた。家に上がると廊下を駆け抜け、リビングの前で立ち止まる。そしてそこですずが目にしたのは、床に倒れ込んでいる裕也とその彼を押し倒すように背中に抱きつくれいかの姿だった。

 

 

「なっ…!」

 

「あっ…」

 

「あら、すずさん。ごきげんようですわ」

 

 

すずの姿を見た裕也は固まり、れいかは何事もなかったように笑顔で挨拶する。

ついに裕也が恐れていた事態になってしまった。実はすずとれいかは非常に仲が悪いのである(と言っても、すずが一方的に嫌っているだけなのだが)。

 

 

「な、なんでお前が弟くんの家にいるんだ、円城寺れいか!」

 

「そんなの決まっていますわ。もちろんお兄様に甘えるためでしてよ?」

 

「お、お兄様だと⁉どういうことなんだ弟くん!」

 

 

半分涙目で裕也の方を見るすず。正直どう説明すればいいのかわからないので、裕也は押し黙るしかなかった。

 

 

「とにかく今日は僕が弟くんと遊ぶんだ!部外者はさっさと出ていけ‼」

 

「ちょ…⁉黒森先輩⁉」

 

 

すずは素早くれいかから裕也を奪うと、渡さないと言わんばかりに彼を抱きしめる。れいかほどではないが彼女の柔らかい胸の感触を顔に受け、裕也はドキッとしてしまう。

 

 

「嫌ですわ!お兄様は今日1日私と一緒にいるんですの‼」

 

 

れいかも負けじと裕也の腕に抱きつく。美女2人に抱きつかれるという世の中の男子たちが見たら非常に羨むだろうが、彼自身そんな余裕などない。

 

 

「「ぐぬぬぬっ…!」」

 

 

すずとれいかは互いに譲らんとばかりに、抱き着いたまま裕也を離そうとしない。全身で受ける女の子特有の感触に、もはや限界が近い裕也。

 

 

「(や、やばい!このままだと俺の理性が…)く、黒森先輩もれいか先輩も一旦落ち着いて…⁉」

 

 

何とか2人を落ち着かせようとした瞬間、その時背中を刺すような冷たい視線を感じ、ゆっくりとその方角に目を向ける。リビングの入り口前、そこには笑顔で立っているなつみの姿があった。しかしその目は笑っておらず、背後には某ジョ〇ョのス〇ンドのような何かが見えた気がした。

 

 

「ねぇユーくん。何をしてるのかな?」

 

 

笑顔のままこちらを見ているなつみだが、その言葉にはとてつもない圧が感じた。そして何かを察したのか、すずとれいかはそっと裕也から離れていく。

 

 

「あの…なつみさん?何でここに…?」

 

「あんずさんにね、『今日はユウちゃん1人だし、良かったら家においで』って言われたの。だから来てみたんだけど、これはどういうことなのかな?」

 

(あんの人はぁぁぁっ‼)

 

 

弟にそれを連絡しないとはマイペースにも程があるだろうと(あんず)を恨む裕也だが、今はそれどころではない。

笑顔でいるのも限界がきたなつみは涙目で彼を睨み、そして。

 

 

「ユーくんの…バカぁぁぁぁっ‼」

 

 

なつみの叫び声は黒崎家を通り越して、外まで聞こえた…

 

 

 

 

 

 

 

それからかーなーり時間が経ち、夕方。

すずとれいかが帰った後、裕也はなつみと2人きりとなった。なつみはまだ機嫌が直っておらず、ソファの上で頬を膨らませてそっぽを向いていた。

 

 

「なぁなつみ、いい加減機嫌直してくれよ」

 

「……(プイッ」

 

「はぁ…」

 

 

どうしたものか、と裕也は頭を悩ませる。昔からなつみは機嫌を損ねるとこうしていじけるので、そうなった場合の対応は非常に面d…ゲフンゲフン、非常に難しいのだ。

と、そっぽを向いていたなつみが少しだけ首を動かして言った。

 

 

「…デート」

 

「はい?」

 

「今度の休みにデートしてくれたら許す…」

 

「…はい」

 

 

次の休みにデートするという約束でなつみは許してくれた。こうして裕也のドタバタ(?)な休日は終わるのだった。

 

 

次回に続く…




リアルがマジで忙しすぎて中々投稿出来ずにすみません。
アンケートしてくれた話は近いうちに投稿します。気長にお待ちください。

ではまた次回に。


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第7話「大切な人」

更新が2ヶ月も遅れてしまい、スンマセンでした。
さて今回は黒と影さんのリクエストである、そらちゃん回です!

では、どうぞ。


午前の授業が終わり、お昼休みの時間。

裕也は購買で昼食のパンと飲み物を買うと、自身の教室ではなく屋上へと向かった。特に理由はないのだが毎日女子に囲まれている生活を送っているため、たまには1人でいたい時がある。それに屋上は校則上あまり近づく生徒がいないので、1人になるにはもってこいの場所なのだ。

屋上に辿り着くと、裕也は錆びた出入口の鉄扉を開ける。

 

 

「…あれ?」

 

 

屋上に足を踏み入れた裕也は、自分以外の人物がいた事に気づく。艶やかで長い銀髪に背が高く、全体的に浮世離れした女の子…3年の『時国そら』は1人ベンチに座り、ポーッと空を見上げていた。彼女の傍らには購買で買ったパンが入ったレジ袋があるので、裕也と同様にここで昼食をとるつもりのようだ。

とそらは裕也に気づいたらしく、出入口に目を向けた。

 

 

「あ、転校生くん…」

 

「どうもっす時国先輩。1人で昼食ですか?」

 

「そうだよ。もしかして転校生くんも?」

 

「まあそんなところです。あ、隣いいですか?」

 

「うん、いいよ」

 

 

裕也がそらの隣に腰掛けた所で、2人の会話は止まってしまう。

 

 

「……」

 

「……」

 

(うう…この沈黙はきついなぁ…)

 

 

沈黙がつらくなり、彼女が好きそうな話題を考えるが何も思いつかない。

 

 

(そういえば時国先輩って何が好きなんだろう…?)

 

 

よくよく考えれば彼自身、そらの事についてほとんど何も知らなかった。知っていることと言えば、電波的な言動が多くて一部の生徒から変人や電波女扱いされていることと、3年の双葉姉妹のいるオカルト研究部に所属していることくらいだ。

 

 

(…いい機会だから、色々と聞いてみようかな)

 

 

裕也はそらの方へ顔を向け、言った。

 

 

「あの、時国先輩。聞きたいことがあるんですがいいですか?」

 

「いいよ。何かな?」

 

「あのですね、良ければですが時国先輩のこと色々と教えてくれませんか?」

 

「私のこと…?」

 

「はい。先輩の好きなものとか、色々と知りたいんです」

 

「…………」

 

 

そらは答えようとするが、躊躇うように口を閉じた。彼女はあまり自分のことを他人に話すのが好きではなかった。もし話した時に引かれたり、嫌われたりするのがとても怖かったからである。

でももしかしたら彼に…転校生(裕也)になら、自分のことを話すことが出来るかもしれない。

意を決したそらは裕也に自分のことを話した。自分の耳のことや家族のこと、周囲のことなどを洗いざらい全てである。

そらが話している間、裕也の顔は真剣そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

「そうだったんですか…先輩はそんな苦労をしていたんですね」

 

 

そらが話し終えると、黙って話を聞いていた裕也の表情は少し暗かった。

彼にそんな顔をしてほしくなかったが、自分のことを話す以上こうなってしまうことは覚悟していた。

申し訳ない気持ちでいっぱいのそらは彼に謝ろうとするがその時、裕也がそっと彼女の手を握り言った。

 

 

「ねえ時国先輩。だったら今から楽しい思い出を作りましょうよ」

 

「え…?」

 

「昔あんず姉に言われたんですけど、辛い事や苦しい思いがあったならその分楽しい思い出を作れって。だから先輩もこれから楽しい思い出を作っていけばいいんですよ」

 

「で、でも私に楽しい思い出を作れることが出来るかな…」

 

「きっと出来ますよ!人間は誰だって必ず楽しい思い出を作れるって、どっかの偉い人だったか学者が言ってました!たぶんですけど‼」

 

 

確証がないことを言いながら、笑顔でサムズアップする裕也。

だがそれだけでもそらは嬉しかった。誰も苦しむ自分に手を指し伸ばしてくれなかったのに、彼は手を伸ばし理解してくれた。それがとても嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 

 

「…そうだね。転校生くん、私いっぱい思い出作れるように頑張るよ。ところで転校生くん、その…そろそろ手を離してもらっていいかな」

 

「え?」

 

 

裕也は自分の手に視線を向けてハッとすると、握っていた彼女の手を離した。

 

 

「す、すいません!つい…」

 

「う、ううん。大丈夫だよ…」

 

 

変に意識してしまい、顔を赤くする2人。まるで付き合いたてのカップルのようである。

 

 

「ねぇ、今度はあなたのことについて教えてくれる?」

 

「俺のこと?」

 

「うん。私が教えたのに転校生くんが教えてくれないなんて、不公平だと思う」

 

「言われてみればそうですね。何から聞きたいですか?」

 

「それじゃあね…」

 

 

それから2人の時間はあっという間に過ぎていき、まもなく午後の授業が始まる時間になろうとしていた。

 

 

「もうこんな時間になっちゃった。教室に戻らなきゃね」

 

「そうですね。結局昼飯は食わずじまいでしたけど」

 

「ふふ、そうだね」

 

 

話をするのに夢中になり過ぎて、2人揃って昼食抜きで午後の授業を受けるはめになってしまったようだが、そんなことは気にもならない。

2人にとってさっきの時間は、互いを知ることが出来た貴重な時だったのだから。

 

 

「今度またここでお話ししようね、転校生くん」

 

「はい、その時はまたぜひ誘ってください。あそうだ、今度から俺のことは『転校生くん』じゃなくて、名前で呼んでください。それじゃお先に」

 

「うんわかった。またね、『黒崎くん』」

 

 

裕也が出入口の先に消えると、そらは再び空を見上げる。空は雲一つない、青く澄み渡った青天であった。

 

 

「黒崎裕也くん…初めて出来た私の大切な人…」

 

 

そらは初めて出来た自分の理解者である彼の名を呟く。その度に胸の奥で何か暖かいものが広がるのを感じた。

しかしこの時の彼女はまだ知らない。これがほのかな恋心であり、彼女にとっての初恋となることに。

 

 

次回に続く…




本当に更新が遅れてしまい、すいませんでした。
理由として、大学のレポート&テストの追われてたのとモチベーションがいまひとつ上がらずに書けなかったからです。
おかげで年末ギリギリに出すことになってしまいました。しつこいようですが、本当に申し訳ない…
これからも遅れてしまうかもしれませんが、頑張って投稿しますのでこれからもどうかよろしくお願いいたします‼

さて次回は、本気さんのリクエストであるしおんちゃん回です。

では読者の皆様、よいお年を!


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第8話「(元)図書室の怪人」

今回は本気さんのリクエストのしおんちゃん回です。
どうもコレジャナイ感がいがめない気がしますが、そこはご了承下さい。

では、どうぞ。


学院の図書室。

本を借りに来る利用者や授業で使われることが多いが、受験シーズンが近づくと3年生の勉強場となるこの場所に長い黒髪の少女…3年生の『峰山しおん』が1人で何かの本を読んでいた。

しおんは本に視線を下したまま、微動だにしない。そんな彼女が座る机の向かい側には、裕也が教科書と図書室にある資料を広げてノートに書き込んでいた。

 

 

「……………」ペラッ

 

「……………」カリカリカリ

 

 

無言のまま、刻々と時間は過ぎていく。ふとしおんは本から視線を外して顔を上げると、裕也に言った。

 

 

「おや少年。いつから私の前にいたんだい?」

 

「今気づいたんですか⁉」

 

 

図書室にも関わらず、大きな声を出してしまった裕也。慌てて辺りを見回し、自分と彼女以外に誰もいないことを確認しホッとする。

 

 

「駄目じゃないか少年。図書室では静かにしてなきゃ」

 

「す、すいません…じゃなくて、俺がいた事くらい気づいてくださいよ。峰山先輩の前に座ってかれこれ30分は経ってるんですから…」

 

「おや、そんなに経っていたのかい。すまなかったね」

 

 

特に悪びれる様子もなく(図書室なので)静かに笑うしおん。以前新聞部部長の『深鳥ふみ』から本に集中すると周りが見えなくなるとは聞いていたが、まさかここまでのものとは思ってもおらず、裕也は呆れるしかなかった。

 

 

「しかし君がここに来て勉強とは珍しいね。いったいどうしたんだい?」

 

「まあちょっと…教室にいるのが辛くなってしまって」

 

「うん?教室にいるのが辛いとは、どういうことかね?いじめにでも遭ってるのかい?」

 

「あ、いえそういうことじゃないんです!ほら、ここ(君咲学院)って男子は俺1人じゃないですか。そうするとたまには1人になりたい時があるというか…」

 

「…なるほど、そういうことか」

 

 

しおんは裕也の言いたいことが理解できたらしい。

 

 

「つまり少年は自分が彼女たちに思わず欲情しないよう、自制心を保つためにこうして1人でいるということか」

 

「先輩の言ってる事が俺の言いたい事と何1つ合ってませんけど⁉」

 

 

裕也は本日図書室で2度目のツッコミをした。普通なら騒がしいと注意されるが、ここには彼としおんしかいないのでセーフである(そんな訳がないが)。

 

 

「はっはっは、冗談さ冗談。君が言いたいのはずっと女子に囲まれた生活なのでたまに1人でいる時間がないと、とてもではないが心身ともにもたない、ということだろ?」

 

「…何か含んでるような言い方ですけど、まあそんなところです」

 

 

女子校に男子1人、なんてラノベの主人公みたいな状況に晒されているのもあるが、この学院の生徒は美人でかわいい子が多く、年が近いこともあってかなりフレンドリーに接してくる。それは非常に嬉しいことなのだが、その度に彼女たちの女性らしい身体つきを間近で見せられるのは、思春期真っ盛りの裕也には毒にしかならないのである。なので常に理性を保てるようにするため、こうして1人でいる時間が必要なのである。

 

 

「しかし聞いてから言うのもなんだが、君も苦労しているな少年」

 

「ははは…でも毎日が充実していて楽しいので、あんまり気にはならないんですけどね」

 

「ふむ…それで話は変わるが少年。君の好みは誰なんだい?」

 

「…はい?」

 

 

しおんの質問に目が点になる裕也。

 

 

「この学校は君の知ってる通り美女揃いだ。そうなれば好みの子くらいいるんじゃないかい?」

 

「いえ…別にいませんけど…」

 

「おや、本当かい?…ああそうか。少年はどちらかといえば無意識に女性を落としてしまうタイプだから、君に恋心を抱いた子の方が多いのかもしれないな」

 

「そうなんですかねぇ…」

 

 

しおんが言ってることに裕也はいまいち自覚がないようだが、読者の皆さんならわかるだろう。彼にほのかな恋心を抱く少女たちがたくさんいることを。

 

 

「やれやれ、君はどうやら相当恋愛事に鈍いようだね。仕方がないことだが、まあそういうことにしておくよ」

 

「は、はぁ…(あれ?今もしかして馬鹿にされた?)」

 

 

馬鹿にされたような気がし、軽くショックを受ける裕也。しおんは読んでいた本を閉じると、椅子から立ち上った。

 

 

「さて、そろそろ私はお(いとま)させてもらうよ。少年はどうするんだい?」

 

「あ、俺はまだ時間になるまでここで勉強してます。お疲れ様でした、峰山先輩」

 

「ああ。またね」

 

 

しおんが図書室を出ていき1人になった瞬間、裕也は「あー…」と気の抜けた声を上げて机に突っ伏した。

 

 

「完っ全に先輩に遊ばれてたな俺…」

 

 

机から顔を上げると、図書室の天井に向かって1人呟く。

 

 

「女の子って、難しいなぁ…」




今回は裕也がしおんちゃんに遊ばれる、という風に書いてみました。まあ、文章力がないせいで伝わらないかもしれませんが…

さて次回予告の前に、皆さんにご報告があります。
『あんさんぶるガールズ×ガンダムビルドファイターズ』のクロスオーバー小説を投稿する予定です。いつになるかわかりませんが、期待してお待ちください(期待ししなくてもいいです)。

次回は未定です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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第9話「『料理』と書いて『DEATH』と読む」

どうもお久しぶりです。5ヶ月近くも投稿しなくてすみません。
大学の実験レポートに加えて、モチベーションの低下やネタが思いつかないなどで中々投稿できずにいました。
夏休みに入れば投稿ペースは少し早くなるかもしれませんが、それでも遅くなるかもしれません。
まあ何はともあれ、本編へどうぞ。


「わっせ、ほいせ、わっせ、ほいせ、…」

 

 

お昼休み。裕也は家庭科の先生から頼まれた段ボール箱を、家庭科室に運んでいた。段ボールの中には野菜や米、調味料といった食材が入っているらしく、次の授業で1年生が調理実習で使うものらしい。

 

 

「てかこの量、いったい何作らせるつもりなんだ先生は…」

 

 

段ボール箱の中の食材を見ながら、裕也は呟く。どう見ても1クラスで使いきれる量ではなく、どちらかといえば学園祭の模擬店とかで使う量であったからである。

料理研究部でも使うのだろうかと思いつつ、裕也は家庭科室近くまで来た。

 

 

「ふぅ、やっとついた。さて、とっとと荷物を中に…⁉」

 

 

家庭科室の前まで来た裕也は扉に手をかけるが、『ピロリロリーン!』とニュータイプ的な何かが彼に危険信号を知らせる。

人間としての…というより生物的本能がここ(家庭科室)に入ることを躊躇わせた。しかしいつまでもここに突っ立っている訳にはいかない。

 

 

「…ええい、ままよ!」

 

 

覚悟を決め、裕也は扉を開いて中へと足を踏み入れる。がその瞬間、部屋中に漂うこの世のものとは思えない悪臭が彼を襲った。

 

 

「うぐっ…⁉」

 

 

反射的に鼻と口を手で覆って意識を持ってかれるのを阻止しつつ、この悪臭の原因を探す。

 

 

「るんたった~るんたった~♪」

 

 

…と思ったが、案外一瞬で原因とその犯人を見つける。窓際の黒板に近いコンロで、謎の歌を口ずさみながら鍋の中をかき混ぜるのは『氷野くるみ』だ。

 

 

「…おい、くるみ。こんな所で何してる」

 

「あ、黒崎先輩!実はですね、身体の弱い八朔先輩のためにくるみ特製☆健康スペシャル料理を作っているんですYO!」

 

 

やたらハイテンションに満面の笑みで答えるくるみだが、鍋から漂う瘴気や毒々しい色合いのヘドロ状のそれは、どう考えても人間…というより生物が食べる物ではない何かだった。

これをもしつゆりが食べてしまったら、健康どころか悪化してしまいそうなのだが、これでも人のことを思って作っているようで『砂賀みどり』曰く「悪意がないから余計にタチが悪い」らしい。

 

 

「ちなみにみどり部長に試食してもらいましたよ。そしたら美味しすぎちゃったみたいで、その場に倒れ込んじゃいました♪」

 

「くそっ、既に犠牲者が出ていたか…‼」

 

 

出来れば被害ゼロでこれを処理したかったが、既に遅かったようだ。心の中で犠牲者を弔いつつ、裕也はこの殺人料理をどうするか考える。

 

 

「ところでくるみ。こいつにはいったい何を入れたんだ?」

 

「えっとですね、とにかく身体に良さそうなものをいっぱい入れましたよ~。タマネギやオクラなどの野菜に、納豆、鯖の缶詰、学園裏で採った草とか木の実を入れてみました!あ、それに蜂蜜とチョコレートも入ってますよ♪」

 

「…………」

 

 

自慢げに材料を説明するくるみだが、それを聞いている裕也は段々と気分が悪くなっていった。もはやこれを聞いて誰も食べたいとは…というか、見た目でまづ近づく者すらいないだろう。

だがこれを早くどうにかしないと、更なる犠牲者が増えてしまう。そこで裕也は1つの手段を思いつく。そう、それは…

 

 

(スケープゴートか…)

 

 

スケープゴート…それは全を助けるために一を犠牲にするという、ある意味残酷な最終手段だ。今回の状態に照らし合わせると、つゆりを助けるために、誰かがこの殺人料理を全て食すという事である。

だがこの場には犠牲に出来る者はいない。仮にいたとしても、絶対に裕也はしないだろう。何故なら――

 

 

「なぁくるみ。この料理、全部俺が食っていいか?」

 

 

――――彼自身が、その犠牲になるからだ。

 

 

「別にいいですよ~♪後でまた作りますから、たーんと食べてくださいね~」

 

「ありがとう。では…」

 

 

裕也は鍋を自分のもとへ持っていき、スプーンを手に取る。今までお世話になった方々、一緒にふざけ合った親友たち、そして両親と姉のあんずのことを思い返しながら彼は叫ぶ。

 

 

いただきますっ(南無三)‼」

 

 

 

 

 

 

「…ご馳走様でした」

 

 

わずか数分でくるみの料理を食べ終えた裕也は、どこからともなく取り出した紙に素早く何かを書き入れてくるみに渡した。

 

 

「くるみ、次作るときはこのレシピ通りに作れ。もちろん余計なものは入れるな、いいな?」

 

「うーん、よく解らないけどわかりました♪わたし頑張りますYO!」

 

キーンコーンカーンコーン…

 

 

と、ここでお昼休みの終了5分前を知らせるチャイムが鳴った。

 

 

「お、もうこんな時間になってたのか。後片付けはしておくから、くるみは先に教室に戻っていいぞ」

 

「ありがとうございます~。黒崎先輩、お言葉に甘えて先に失礼しますね~♪」

 

 

ペコリ☆、とおじきをしてくるみは家庭科室を出ていく。彼女の姿が見えなくなると、裕也は崩れ落ちるように膝をついた。

 

 

「へ、へへへっ…何だよ、俺も結構食えるじゃねぇか…!」

 

 

顔色が真っ青を通り越して白くなっていき、意識もいつ途切れるかもしれない中、裕也は最後の力を振り絞って前へ進もうとする。

 

 

「俺は止まらねぇからよぉ。お前らも…止まるんじゃ…ねぇ…ぞ…ゴフッ」

 

 

しかしその言葉を最後に、裕也は口から(マジで)吐血してその場に倒れ込み、そのまま目を閉じて動かなくなった…。

 

 

 

その後、彼の亡骸(?)は家庭科室にきた1年生たちに発見され、警察や救急車を呼ぶほどの大惨事になるのだった…

 

 

次回に続く…?




感想お待ちしています。


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第10話「人間魚雷」

どうもお久しぶりデス。4ヶ月近くもほったらかしにしてしまって申し訳ありません。
8月からバイトを初めまして、中々執筆できずにいました。なので若干文章がおかしいところがありますが、ご了承ください。

では、どうぞ。


7月も中程に差し掛かり、本格的に暑くなり始めた君咲学院。

じめじめとした日々が続く中、体育館近くのプールでは水泳部が部活を行っていた。その中に混じって裕也の姿もあったが、これは唯一の男子ということで授業にてプールが使えないため、特別措置として放課後のみ使用できるということになったのである(裏でれいかが教師陣をおd…話をつけてくれたらしい)。

 

 

「ひゃっほ―――☆ダ――イブだし☆」

 

 

そう言ってプールに勢いよく飛び込んだ“人間魚雷”こと1年の『鯱いかり』は大きな水柱が上がった後、水面に顔を出した。

 

 

「ぷはっ♪気持ちいいし☆」

 

「こらいかり。飛び込んだら危ないって、棗先輩に言われてただろ」

 

「にししっ、ごめんなさいし♪」

 

 

飛び込みは危険だと注意するが、悪びれる様子もなく笑顔でいるいかりに、裕也は「はぁ…」と呆れてしまう。

 

 

「ほらほら、ししょーも早くプールに入るし☆」

 

「はいはいわかったから、足を引っ張るな足を。その前にちゃんと準備運動をしなきゃな」

 

 

促されつつも、裕也は準備運動を始める。ちなみに2人の他にも水泳部部員がもちろんいるが、慣れているのか彼がいることを気にする者は特にいない。まあ中には彼の裸を見られて眼福、という部員はいるらしいが。

 

 

「いっちにぃさんし…。よし、準備運動終わりっと」

 

 

準備運動を終え、プールへ入る裕也。今日は特に暑い日だったからか、水の冷たさがとても心地よく感じた。

 

 

「とりゃあ~、ししょーに吶喊だし~☆」

 

 

とそこへ、いかりが魚雷の如く突撃してきた。しかしその動きを予想してらしく、裕也は避けるとそのまま彼女を小脇に抱えるように捕らえた。

 

 

「まったく、ほんといかりはマグロみたいに泳いでないと駄目なんだな」

 

「えへへっ、ししょーに捕まっちゃったし☆」

 

 

裕也に捕らえられてもなお、いかりは笑顔…というより嬉しそうである。そんなカップルのようにいちゃつく2人を、他の部員たちは羨ましそうな目で見ていた。

 

 

「いいなぁ鯱さん。黒崎先輩と仲良さげで…しかも肌が密着しそうなほど近いのに動じないなんて…」

 

「ほんとよね。私だったら気絶しちゃうかも…」

 

「てかあんな風に抱えられたい!」

 

「そしてそのままお持ち帰りされたい!黒崎くんの色に染め上げられたい‼」

 

 

後半の子が若干危ないことを口走っているが、慣れているからか裕也はスルーしていかりを解放した。

 

 

「さて、時間も少ないしちゃっちゃと泳ぐとしますか」

 

「ねぇししょー、だったら私と競争しましょうよ」

 

「お、いいぜ。言っとくが手加減はなしだからな」

 

「もちろんだし!今日こそししょーに勝ってみせるし!」

 

 

やる気満々で勝負を挑むいかりに、裕也は応じる。今ここに、裕也VSいかりの水泳対決が幕を開ける――――っ!

(内容は割愛させていただきます。ご了承ください)

 

 

 

 

ここだけの話だが、裕也は運動が得意というわけではない。だがそれを補えるほどの身体能力があるらしく、みつる曰く3年の『小松ぼたん』にも引けをとらないようだ。

まあそれはさておき、水泳対決の結果は裕也の勝利に終わった。内容を要約すると、最初はいかりが優勢だったが、中盤に裕也が逆転しそのままゴールといった感じである。

 

 

「うがぁ―――っ、また負けた!悔しいっし――――っ!」

 

 

プールサイドにて、裕也の前で駄々っ子みたいに悔しがるいかり。傍から見れば大人げなく見えるかもしれないが、互いに本気の勝負であるため、手加減する方が失礼というものだろう。

ちなみに2人はこれまでに3度の対決をしており、どれも裕也の勝利で終わっているらしい。

 

 

「ねぇししょー!悔しいからもう1度勝負してほしい!お願いしますっし!」

 

「えぇっ、俺もう疲れたから今日はもうやりたくない…」

 

 

3回も連続で負けて悔しいらしく、いかりは再戦を望むが裕也に断られてしまう。

 

 

「うぅ~っ。どうしてもやらないっていうなら…こうするっし!」

 

 

そう言っていかりは彼の左腕を掴むと、「ガブゥッ」と思いっきりかみついた。

 

 

「いってぇ⁉何をするんだいかり!」

 

「ししょーがもう1度勝負してくれるまで、このまま噛みついているしがぶがぶっ、がぶがぶっ‼」

 

「この、痛いからとっとと離れろ!」

 

「いーやーでーすーしー!」

 

 

腕に噛みついたまま離れないいかりと、彼女をひっぺがそうと躍起になる裕也。なんとも騒然とした光景を、他の部員たちはというと。

 

 

「すごいなぁいかりちゃん。黒崎先輩に噛みつくなんて…」

 

「ほんとよね。私もあんな風にしてみたいわ…」

 

「むしろ噛みつかれたい!そして「お前は俺のものだ」みたいなことを言われたい‼」

 

「そして薄い本的な展開へ持ち込まれたい‼」

 

 

…今日も元気であった。

なおこの後、先に折れた裕也が再戦を受け入れるが結局彼の勝利に終わるのだった…

 

次回も続く…のか?




そういえばアニメイトカフェショップにて、あんガルコラボカフェがあるんですよね。
こういった形であんガルが復活してくれるのはうれしいですね。でも遠いからいけないよぉ…(泣)

次回は未定です。

ではまた。


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番外編
番外編その1「バレンタインデー2018」


本当は昨日までに投稿するつもりが、謎のスランプで時間がかかってしまいました。
そして私の欲望ほぼ全開の内容…反省はしてるが、後悔はしてない。

注)番外編はIF設定です、ご了承下さい。


2月14日。

バレンタインデーともあり、君咲学院は非常に賑わっていた。元々お祭り事が大好きな学校であったが、なんせ今年は男子がいるおかげで去年以上の賑わいとなっていた。

 

 

「はぁ…」

 

 

しかしそんな賑わいの中、裕也は1人憂鬱になっていた。今彼の目の前に広がるのは、女子たちから貰ったバレンタインのチョコ…それも机の上に小高い山が出来るくらいの数である。

 

 

「うわっ、すごい量になってるね。それ全部バレンタインのチョコなの?」

 

 

と、そこへなつみが近寄ってきた。彼女も彼の机の上に建つチョコの山に驚いているようだ。

 

 

「ああ。朝学校に着いた瞬間に皆から渡されて、結果的にこうなった…」

 

「あ、あはは…」

 

 

チョコの山を前に若干虚ろな目をしている裕也に、なつみは苦笑いするしかない。ちなみにチョコは現在進行形で増えているので、学校が終わる頃にはいったい何十個になっているかわからない。

 

 

「そういえばユーくん。次の授業の音楽は視聴覚室でDVD鑑賞だってさ」

 

「うげっ、またかよ。あそこ暖房きくから眠くなるんだよな…」

 

「文句言わないの。ほら急がないと、先生に怒られるよ」

 

「へいへい」

 

 

チョコを持参してきたエコバッグにしまうと、裕也は席から立ち上がる。そして教室を出ようとした時、スマホにメールの通知が入った。

スマホと取り出して画面を確認すると、1年生の『北川ゆき』からで内容は、

 

 

『黒崎先輩へ

 

先輩、放課後は空いてますか?もし迷惑でなければ渡したい物があるので、コンピューター室に来てください。

 

  北川ゆき』

 

 

というものであった。

 

 

「放課後、しかもコンピューター室か。確か今日は特に何もなかったな、よし『了解した』っと…」

 

 

裕也はゆきに返信し、スマホをしまう。

 

 

(それに…俺自身もゆきに用があるしな)

 

 

 

 

 

 

それから時間が経ち、放課後。

裕也はゆきが指定したいつもの場所…コンピューター室の前に来ていた。

 

 

「おーい、ゆき。いるか?」

 

「はい、います。どうぞ入ってください」

 

 

扉を開いて中に入ると、中央の席にゆきの姿があった。さらに彼女は制服ではなく、以前なつみに作ってもらった黒と白のゴシックドレスに着替えていた。

 

 

「ゆき、それって…」

 

「風紀委員にバレないように、こっそり持ってきちゃいました。どうです、似合いますか?」

 

 

その場でくるくると回り、ドレスを見せるゆき。

 

 

「ああ。似合ってるし、とても可愛いよ」

 

「えへへ…先輩にそう言われると、なんだか嬉しいけど恥ずかしいです///」

 

 

裕也に褒められて恥ずかしいらしく、ゆきは頬をほんのり赤らめる。

 

 

「ところでゆき。渡したい物ってなんだ?」

 

「そ、そうでした。先輩、バレンタインのチョコです。どうぞ」

 

 

そう言ってゆきが彼に差し出したのは、赤いリボンとピンクの包装紙で可愛くラッピングされたバレンタインのチョコであった。

 

 

「ありがとう、これ食べてもいいか?」

 

「はい、いいですよ」

 

 

丁寧にリボンと包装紙を外し、箱を開けてみると中にはハート形のミルクチョコが入っていた。

 

 

「おぉ、すごいな。これ手作りか?」

 

「はい。でも私1人で作ったから、そんなに美味しくないかもしれませんけど…」

 

「そんな事はないさ。じゃ1口、いただきます」

 

 

そう言って裕也は彼女の前で、チョコを1口食べた。その瞬間、くちの中にほんのり甘いミルクチョコの味が広がる。

 

 

「…どう、ですか?」

 

「うん、うまい。ちゃんと出来てるよ」

 

「ほ、本当ですか!よかったぁ…」

 

 

チョコがうまく出来ていたことに、ホッと胸をなで下ろすゆき。

 

 

「ほら、ゆきも食べてみろよ」

 

「ふぇ⁉で、でもそれは先輩にあげたチョコだし…」

 

「そう遠慮するなって。ほら」

 

「うぅ…」

 

 

裕也が差し出されたチョコをジッと見つめるゆき。

 

 

(こ、これって先輩とのか、かかか間接キスだよね…⁉ど、どうしよう⁉)

 

 

どうすればいいか分からず、ゆきは頭の中がパニックになる。

 

 

(こ、ここで引いちゃ駄目よゆき!こんなチャンス、またとないのだから!)

 

 

ゆきは脳内で謎の格闘が繰り広げた後、覚悟を決めてチョコを1口かじる。

 

 

「どうだ?」

 

「あ、甘いです…(し、しちゃった。先輩との間接キス…///)」

 

「なぁ、全部食べていいか?」

 

「ど、どうぞ(えへへ、先輩と間接キス///)」

 

 

チョコがうまく出来たことより、裕也と間接キスが出来たことが嬉しかったゆきであった。

 

 

 

 

 

 

それからチョコを食べ終えた後、2人は時間を忘れて談笑した。気づく頃には、時刻は午後6時に差し掛かろうとしていた。

 

 

「あ、もうこんな時間か…そろそろ帰らないといけないな」

 

 

裕也が立ち上がろうとした瞬間、ゆきが制服の袖を掴んだ。2人の間に暫しの沈黙が流れるが、ゆきは意を決して言った。

 

 

「先輩、ずっと黙っていたんですけど…あの日聞けなかった、告白の返事を聞かせてもらえますか?」

 

「…っ」

 

「わかってました。先輩がいつまで経っても返事を聞かせてくれないのは、気を遣ってたんですよね。私を傷つけてたくなくて」

 

「…………」

 

 

裕也は黙ったまま、ゆきの話を聞く。

 

 

「私もどこかでそれに甘えてしまってのかもしれません。けどそれじゃ駄目だって…、いつまでたっても前に進めないって…」

 

「ゆき…」

 

「私だって覚悟は出来ているんです。だから聞かせてください、あの日の返事を…」

 

 

少し涙ぐみながらも、真っ直ぐな目で彼を見つめるゆき。裕也は頭をガシガシとかいて少し迷った後、口を開いた。

 

 

「…俺も馬鹿な男だな。せっかくゆきが告白してくれたのに、いつまでも答えを出さないでいてな」

 

「先輩…」

 

「実はな、俺がここに来たって告白の返事をするためだったんだが、まだ心のどこかで迷ってた。けどさっきのゆきの話を聞いて、俺も決心がついたよ」

 

 

裕也は目を閉じた後、ゆきに頭を下げて言った。

 

 

「ゆき、こんな俺でも構わないのならよろしく頼む」

 

「…っ!はい、こちらこそ…よろしくお願いしますっ…!」

 

 

裕也の言葉にゆきは口元を抑え、涙を流しながら答えた。そんな彼女を裕也は優しく抱きしめる。

しばらく抱き合った後、ゆきは彼の胸から顔を上げた。

 

 

「先輩…キスしてください」

 

「…わかった」

 

「ん…」

 

 

裕也は目を閉じ、ゆきと唇を重ねる。数秒の後、唇を離したゆきは満面の笑みを浮かべた。

 

 

「先輩、愛してます…♪」

 

 

 

バレンタインデー2018、完。




というわけで、バレンタインデー回でした。
ゆきちゃんにしたのは、個人的に幸せになってほしかったキャラの1人だからです。
え?口調?そこは愛でカバーしてください。

明日であんガルもサービス終了してしまいますが、投稿はやめないつもりでいます。少しでも彼女たちが恋しくなったら、ぜひ見にきてください。(宣伝乙×2)


では、また次回会いましょう。


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