腐り目悪魔のダンタリオン (silver time)
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SideStory,フリード・セルゼン 狂人神父は夢を観る。
daydream syndrome


エクスカリバー編終盤に差し掛かりましたが、ここで番外編です。ちょっと色々妄想していたらなんか書きたくなってきました。
本編も現在書いているので、もうしばらくお待ちください。

次はすぐ出来ると思う。多分、きっと、でいどぅい。


 

 

 

 

 

 

 

今思えば、彼の歩むべき道筋は初めから決まっていたと言える。

 

何故なら、彼はどこまで行っても単なる作り物の命でしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が生まれた時、一つの生命の誕生に立ち会ったのは白衣を着た大人達だった。

彼等の出で立ちは医者のそれではなく、どちらかと言えば科学者のようなものだった。

 

そしてその彼が産まれたのは母親の子宮からではなく、無機質な鉄の子宮だった。

そう、彼は産まれたというより、生み出されたのだ。

それを望んだ創造主達の思惑によって。

 

それこそが、彼等『シグルド機関』が望んだ、最高の機体(こども)

フリード・セルゼンと名付けられた一人の暴力装置の生い立ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリード・セルゼン。

 

協会より追放されたはぐれ悪魔祓いであり、悪魔とそれに関わる人間達を無差別に殺して殺して殺し尽くし、殺戮の限りを尽くした狂人。後に殺害に快楽を見出し始めた彼を教会は異端と断じ、彼を追放した。その実力は教会所属の悪魔祓いや執行者の中でもトップクラスに分類される。独特の戦闘センスと身体機能、そして容赦のない戦い方やそれを活かした奇抜な戦術を巧みに使いこなす当代最強とも言える悪魔祓いだった。

教会の暴力装置として知られるデュランダルの前所有者、ヴァスコ・ストラーダをして「才能のある者」と太鼓判を押す程には、彼の戦士としての力は折り紙付きのものだった。

それだけに、教会にとって彼を手放すのはかなりの痛手とも言えた。

 

そんな快楽殺人者として、生粋の狂人として知れ渡ったフリードにも、純粋と言える時代あった。

 

むしろ、彼の働きぶりを見ていた同期の者達からすれば、どうしてあんなことになったのかと口をそろえて言うくらいだ。

 

そして、彼が今のような狂人に成り果てたきっかけ、彼の元の人となりを知っている同僚達は、あの事件が引き金だろうと誰もが確信していた。

 

 

 

 

 

 

それではお聞かせしよう。

神を信じ、友を信じたが故に、神を捨て、信じることを辞めた一人の男の話を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が物心ついた頃、細かくいえば彼が7年の時を生きた頃に、自分自身が生まれた意味をその身をもって知ることになる。

 

もうお気づきの者もいるだろうが、結論を述べると、フリード・セルゼンはいわゆるデザイナーベビーという存在である。

そう、作り出された命であり、生まれた時から兵器としての役割を担わされた哀しき命だ。

 

そして、フリードを創り出した『シグルド機関』の研究者たちは、彼を最高峰の生体兵器に改造するための施術を施し始めた。

 

『シグルド機関』。

 

教会の戦士養成機関であり、現役の悪魔祓い達を輩出するこの機関。そもそもの始まりは魔剣グラムを扱える真の英雄シグルドの末裔を生み出すための機関だったが、その完成系と言えた存在、ジークフリートの生誕を以て、彼らの宿願は果たされた。

 

彼らにとって、その後の研究は単なる遊びと言っても過言ではないのかもしれない。

 

戦士育成機関としてのシグルド機関のその裏には、人徳に反する実験にまで手を伸ばす秘密研究機関としての面を持っていた。

 

フリードはその実験体の第一号にして、シグルド機関が望んだある意味での完成例の一つだった。

彼に施された施術は様々だが、主に特筆するならば自然治癒能力の向上として、彼を設計した段階で細胞単位に埋め込んだ再生術式の活性化を促進。

更には筋力増加のための薬物を投与、脳の思考処理を最適化するための記憶領域、思考能力の拡張。及び武器の扱いや戦い方を予めインプットさせる記録処置。また第六感に近い超感覚を再現するための五感の強化。これらの施術を研究者達は少しづつ彼に施し、最高峰のキリングマシーンの完成を目指した。

 

その結果として、フリード・セルゼンという殺戮兵器の下地が完成したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァチカンの教会本部では今日も多くの信者達が祈りを捧げ、それぞれの任を全うすべく動いていた。

 

教会本部の廊下を歩く白髪の神父が一人、実に爽やかな面持ちで、大理石の床をカツカツと音を打ち鳴らしながら廊下を歩いていく。紙の束を抱えていて使えない腕の代わりに、片足を使って木製の扉を開け放ち、軽快な挨拶をかけた。

 

「おっはよーございまーす!」

 

「おーっすフリード。今日もお疲れ様ー。」

 

「ハイハイそれじゃあバイちゃ──って何やらすんすか!」

 

「ほんとにノリいいなお前は。」

 

「誰のおかげっすか全く。」

 

「わりぃわりぃ。ちょっとからかいたくなっちまってな。」

 

部屋の中は整頓されているとは言えそうになく、調度品があちらこちらに散乱していた。部屋の中には金髪の筋肉質な男性が一人、本を片手に座っていた。手にしているのは聖書······ではなく肌色多めな女性がプリントアウトされた表紙の本を開き、それ明らかに色欲の罪に問われるのではないか、というかあんた神父だよね?と問い詰めたくなる感じで堂々とエロ本を読み漁っている男は悪びれた様子もなくケラケラと笑っていた。

 

「まあいいや·········それよりリチャード、また苦情が来てくれやがりましたんスけど?またか?またッスか?またそこら辺のシスターナンパしてんスか?」

 

「何でそれが苦情になっちゃってる理由!?別にいいだろが!それくらいしてもさ!」

 

「被害報告。ミーナちゃんからはすれ違いざまに尻を触られた。クリスからは酒を飲まそうとしないでくださいと。アンタ本当に神父っすか?そして事務担当のアリアさんからは「その不愉快な視線をどうにかしてください」等など──」

 

「OKOK!分かった!ほんとに悪かったスマン!というかアリアのヤツ!なんか俺を目の敵にしてねぇかな!?視線どうこうはどうすりゃいいの!?」

 

その男。リチャード・レグナント。

 

フリードの若き日の同僚にして、最高の親友と呼べた存在であった者。

 

狂人神父が過ごした、かつての輝しき日々(幻想)残香(残滓)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァチカン本部直属独立機動神父隊特務一課。天命十字隊(スターダストクルセイダー)

 

それがフリードの所属する部隊の名だった。部隊員構成は彼を含めたったの四人。

されど侮ることなかれ、なればこその4人であり、所謂少数精鋭の部隊である。

 

そんな天命十字隊の隊長、その名をリチャード・レグナント。

お調子者な性格で酒と女があれば生きていけると豪語するほどの酒豪であり女好き。役割は近接戦闘役で、総合戦闘力は隊の中でも抜きん出て高い。

いつも腰に下げている無銘の剣をエクスカリバーと名付け、戦場を縦横無尽に駆け回るその様も相まってか、人は彼を獅子心王(ライオンハーテッド)とよぶ。

 

Amazing grace(アメイジング・グレイス).how sweet the sound(なんと美しい響きであろうか)

That saved a wretch like me(私のような者まで救ってくださる)~♪」

 

イヤホンを耳につけて賛美歌を口遊み、自分の世界に浸る黒髪の男。

ウィリアム・マッケンジー。

光槍の使い手であり、恐らくは教会史上最速を誇る悪魔祓いである。が、いつもいつも聖歌や賛美歌を口遊んでおり、会話が成立しなかったりと残念な人認定されている男。付いた渾名は光芒の騎士。

 

「ところで、今回こっちに回されてきたのは一体どんな仕事?」

 

そう声をかけるのは紫のロングヘアをポニーテールのように一括りに纏めた男。

ジェルマーノ・サヴィーナ。

神父でありながら魔術に精通しており、自身も簡単な魔術を扱う事が出来る。

頭脳労働を担当する後方支援役であり、S&W M945とトーラス・レイジングブルmodel480を改造した儀礼法式洗礼銃を使用する。本人曰く魔術は敵に使ってくる者がいるだろうから対抗する術を模索するために学んだと言っている。のだが、その知識と技量は既存の魔術師すらとうに超えており、お前本業魔術師だろと陰で噂されている。通り名は明星のサンジェルマン。

 

「いつものッスよ。いつもの。」

 

そして、フリード・セルゼン。

儀礼法式洗礼銃と光剣を使用する万能型遊撃手。隊の中ではジェルマーノと同じく常識組。しかし好物のスモークチーズが絡むとてんで役立たずになってしまうという残念属性を持ち合わせている。ちなみに通り名は銀の弾丸(シルバーブレッド)

 

と、以上の四人で構成された部隊であり、戦闘力の高さはダントツであるが、上記したように全員が何かしらの残念な欠点を持ち合わせてしまっているのが唯一の残念ポイント。故にいつからか残念隊と言われるようになってしまったという裏話があるが、敢えて割愛させていただく。

 

「ふむふむ·········まーたはぐれ討伐かよ。」

 

「ちょっと面倒臭いな。」

 

「~~~♪」

 

「いい加減取れ。」

 

「あだっ!ん?何か?」

 

「話聞け。またはぐれ討伐だとよ。」

 

「ああ〜はいはい。」

 

「っつう理由で、さっさと行くっスよー先輩方?」

 

「さーてお仕事お仕事。」

 

「神父なのに社畜同然の働きぶりだよね······」

 

I shall possess, within the vail(主は私の盾となり、私の一部となった),A life of joy and peace(命の続くかぎり)~~♪」

 

「どんだけ歌ってんだよ···」

 

至って普通の神父達、とは言えないが。とても物騒な雰囲気を纏っているようには見えない彼らではあるが、そんな彼らの本来の姿は(おしえ)に仕える教会の戦士。

 

天命十字隊は教義を護り不浄なる存在を祓うべく、今日も先行きの見えぬ道を征く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Holy(聖なるかな), holy(聖なるかな), holy(聖なるかな)! Lord God Almighty(全能の神なる主よ)~♪」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!?」

 

All thy works shall praise thy name, in(あなたが創造なさった総て、地、空、海) earth, and sky, and sea(あなたの御名を讃美します)

 

薄暗い夜闇の中、男の鼻歌とザシュッという切断音と共に上がる断末魔のみが耳に残る。

一人、また1人と、はぐれ悪魔はその数を減らしていった。

 

「この、クソ神父──」

 

「邪魔。」

 

鼻歌のリズムで槍をぶん回し蹂躙するウィリアムを背後から強襲するはぐれ悪魔だが、ジェルマーノが弄ぶ右の手のS&W M945の銃口から吐き出された光の弾丸によって頭蓋を砕かれ絶命した。

続いて襲いかかる者も四肢を撃ち抜かれ、無防備に晒した左胸にトーラスレイジング・ブルの凶弾(きば)が突き立てられる。

 

「何なんだコイツら!こんなデタラメな──」

 

「余所見は禁物、ってなぁ!」

 

フリードの振るう光剣と銃によって切り裂かれ、穿たれるはぐれ達。

最早戦いにすらなっていない、一方的な蹂躙劇だった。

 

「数が多いだけ。冷静に対処できれば簡単。」

 

Holy(聖なるかな), holy, (聖なるかな)holy(聖なるかな)! merciful and mighty(全能たる神なる主よ)!」

 

「危なっ!ちょいとウィリアムサーン?!敵と味方の区別ついてるっすよね!?」

 

「(´・ω・)スマソ」

 

「その顔文字みたいな表現方法わかりずれえぇっす!」

 

文句をたれてはまた一人、左手の拳銃で頭蓋をぶち抜く。そして余裕すらも感じさせる、いや余裕しか感じられない会話を他所に、はぐれ悪魔の数はどんどんとその数を減らしていく。

 

「クソ!何でだ!何で何もかも上手くいかねぇ!クソッタレ!この力があれば何でもできるんじゃなかったのか!」

 

「知ったこっちゃねえよ、クソッタレ。」

 

遂には最後の一人になってしまったはぐれ悪魔の筆頭らしきもの、本体は壁際でへたりこみ、キャンキャンと負け犬の如く吠えていた。その眼前にリチャードの剣を突きつけられている状態で。

 

「クソっ!クソっ!テメェらみたいな脆弱な人間共に、敗れるなど···!」

 

「悪いな。もうお前は、俺たちにゃ救えねぇよ。」

 

救えない者へと向ける憐憫の視線。

叶わぬ願いをに苦悩し続ける諦観の目。

哀しき目で罪人を見据えて、断罪者は言う。

 

「だからよ───

 

 

 

これがせめてもの救いだ。今度はマシな人生歩んどけ。」

 

剣を振り、顔が恐怖に歪むはぐれ悪魔の首を裁断し、その息の根を止めた。

 

「───あっ、そういえば悪魔は転生しないんだっけか。」

 

あっけらかんと断罪者は言い放つ。

その軽い口調とは裏腹に、目は憂いを帯びたままだった。

 

「状況終了。さってと、帰ったらまた始末書だろうな。」

 

「~~~♪」

 

滅ぼすべきものとはいえ、たった数秒前まで(タマ)の取り合いを繰り広げたというのに、終わった途端殺気は形を潜め普段通りの呑気なオーラへと早変わりしていた。

 

「ほんっと、うちの隊はイカレてるっすわ。」

 

その内の一人ではあるが、こうも切り替えの速さを見て自分が身を置いている環境がいかに異常かを再認識する。

慣れというのは本当に恐ろしい。

 

彼らが出てきた都内の廃工場には、数百体に及ぶはぐれ悪魔の分身体が存在していた。自身の人格を分裂させ、分身体を作り出す能力を手にしたはぐれ悪魔だったが、そんな彼の群体意識とも呼べた影の軍隊は、一つの人格も残らず全て、ただの塵に変じた。

 

暗闇の中にポツリと佇む廃工場の奥に遺るのは、最初の一人(オリジナル)の物言わぬ死骸だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またここに居たのか。」

 

陽光が眩く照らす昼下がりの礼拝堂にて、白髪神父は祈りを捧げていた。

 

筋骨隆々(筋肉モリモリマッチョ)(変態)リチャードはその様子を扉を背もたれにしつつ眺めていた。

神父である自覚があるのかないのか、仮にもリーダーを務めるこの男が礼拝を行っている所すら見ることがない。主へと祈りを捧げるどころか信仰心がそもそもあるのかと疑われているのだ。

 

「よくもまあ飽きないねぇ、そんな毎回真剣に祈っちゃって。」

 

「信徒であるなら当然というか、そもそも神父のアンタが主へ祈りを捧げないっていうのがそもそも不思議なんすけど。アンタホントに何で神父になったんすか。」

 

ジト目で睨みつつ今更ながらの疑問を投げ掛けるも、''暴食''と''色欲''の大罪にどっぷりと浸かっている破戒神父は豪快に笑い、

 

「俺は別に、ただそれが向いていたってだけだよ。もちろんカミサマだって信じてるし、信仰心もある。」

 

「そうっすか、何とも適当な受け答えなことで。」

 

「お前信用してないなさては。」

 

もとより信用されることをしているのだろうかこの同僚。そう思ったフリードは間違ってはいないはず。

 

「·········俺もアンタみたいに気楽に生きられりゃいいんすけどね。」

 

「·········やっぱ気にしてんのか?」

 

「嫌な記憶ってのは、簡単には抜け落ちてはくれないんで。」

 

苦々しい顔で脱色したかのように真っ白な髪を弄りながら、フリードは呟く。

 

一つの素体として完成を喫した後に、彼は戦士の養成を兼ねている寮制の学校へと通わされることになり、戦士としての道を進む事を義務付けられた。

 

そして、生まれ持った白髪と赤い目の彼を、共に切磋琢磨する筈の仲間たちは歓迎してはくれなかった。

 

人間の集団心理というものはどこまでも自己の確率と保身、そして異常と異端の排除、排斤を突き詰めてしまう。

 

詰まるところ、フリードはその大多数の者達から異端(あく)として切り捨てられたのだ。

 

''こいつは悪魔の子だ''だの''我らが主に逆らう愚者の分際で''だの宣い、徹底的にフリードを拒絶、いや、攻撃していた。

 

これをフリードは最初、自分が弱いからだと断じた。力の無い者に居場所はないのだからと教えようとしている、そう解釈した。だからこそフリードは修練を積み、主の教えを守り、いち早く一人前の戦士となろうとした。

 

だが、フリードへと向けられる敵意はちっとも変わることがなかった。

 

むしろ今まで向けられていた畏怖の目が、嫉妬の入り交じった視線に変じただけだった。

 

それからは特に嫌がらせが顕著になっていった。

 

主の教えに反している、七つの大罪を犯している、食べ方が汚らしい、髪を切れだのとひたすら粗を探しては指摘し、花瓶を割った、部屋を汚したと謂れのない罪まで被せようとしてくる。

 

大多数の総意(正義)切り捨てられた者()を討つ。

そんな定められたような人々の在り方に、フリードは若くにして絶望した。

 

力をつけても認められず、常に自分たちが正義だと示し虐げ、みっともない自尊心を満たす者達に苦を強いられる日々。

この時点で、フリードの人格は一つの方へと定まりだした。

 

天に使えるべき者達が集う聖域は、ある種の地獄よりもおぞましい人の業が煮えたぎる釜と化す。少なくとも、切り捨てられた少年にはそう感じられた。

 

 

 

それも、異端が彼一人だけの話ならば、である。

 

「だからこそ、アンタらに救われて今は良かったって思ってやすけど。」

 

大多数が一人を切り捨てるのを正義だと言うなら、オレはソレを正義だとは認めない。

 

かつてそう言ったバカが居た。

 

彼が主の教えに反しているのなら、彼に救いの手を差し伸べずに排斤するのを良しとしたお前達は、果たして主の教えを全うしていると言えるのか?

 

かつてそう言ったインテリが居た。

 

主は何者にも平等である、なら彼も私達と同じく平等である権利があるはず。それを貴方達は彼から奪い取ろうとしているなら、私はこの槍を貴方達に向けます。

 

かつてそう言った後の聖歌ジャンキーが居た。

 

自らを正義と主張する多数の意を、彼ら三人の異端が堂々と否定する。

そして切り捨てられた少年へと告げるのだ。主はお前を救ってくれる、と。

 

「そうだっけかな?」

 

「別に今更惚ける必要ねェでしょうに。」

 

今の同僚達のお陰で、今の自分がある。

それを感謝せずにはいられなかった。

 

何より、フリードは自分という異常な生い立ちを経た得体の知れないモノに分け隔てなく接してくれるリチャード達との出会いによって、歪み荒みゆくはずだった心は正常を保っていられる。

そしてこう確信するのだ。コイツらとならどんな所でもやって行ける。と。

 

 

ちなみにフリードを虐げてきた者達は極小数はそれなりに活躍しているが、フリード達天命十字隊と比べれば微々たるものであり、大半は技量不足で殉教、若しくはそもそも事務仕事で書類の山に埋もれる日々と、散々な目にあっている。ざまぁ。

 

 

「あっそうだ、確かミリアルドさんからお前の好物のスモークチーズが届いてた──」

 

「それを早く言えよそっちの方が急務だろうが何処だ何処にある!」

 

「急務じゃねえだろ。」

 

 

チーズと聴き血相を変えて礼拝堂から走り去るフリード、そしてそれを呆れ顔で追いかけるリチャード。その目はこの弱点が無けりゃマジで完全無欠の人材なんだがな······と憂いを帯びていたのは明らかであるが、それを知る者はいない。

 

 

間違いなく幸せと呼べた時代。そんな微睡みの時が、かつての彼にも存在していた。

 

 

 

 

 

「それとさフリードくん?ついでにこの書類の束肩代わりしてくれると先輩嬉しいかなって。」

 

「却下で。あと殆ど同期でしょうが。」

 

 

 

 

 

そんな白昼夢の如き時間も、もうすぐ終わる。




フリードって結局どうしてあんな狂人になったのか、割と不思議な筆者でございます。元からああだったのか、それとも何かきっかけがあったのか。
少なくともあの髪の色からして真っ当な幼少期を過ごしたとは思えんのでした。
何より原作読んでると救われる者と救われない者の差が激しい気がしてなりませんでした。
あれが勧善懲悪な内容なら納得はできますけど、最初期は割とギャグテイストにシリアスを混ぜ込むような炊き込みご飯風だとすれば、後半からシリアスが顕著になってきてそして差別問題にも触れてきたりと、路線がシリアス寄りになってきた、のですが、なんというか途中から要らなくなってきた余分な要素を取り込みすぎて何が何だか分からない闇鍋ーな感じが否めなくなってきました。特に筆者が思ったのは、一誠がはぐれ悪魔の問題に関してどうにかしようといきり立っていましたが、その手の問題にはそれ以降触れていないように思えてならないのです。そんでもって救われる者達は大体正義側、というか一誠サイドですが、はぐれ悪魔の方の問題はこれどうにか出来なかったのん?と疑問を感じずには居られません。少なくとも何かしらの行動をして欲しかった。

少しどころか大脱線してしまい申し訳ございません。
まあ詰まるところ、本編では救われることのなかったキャラにも何かしらの焦点を当てていきたいと思います。ただ原作の方うろ覚えなのもあって少しづつ原作から乖離して行きますが、その第1弾としてフリードの過去編、つまり伏線?の設置です。
現在のフリードのように狂人と化したのは何故なのか?私なりに書いてみました。
これともう一つ、後日投稿する後編にてそれを語りたいと思います。Silverは語りたい。
あとは廃人化してその先が分からないレオナルドを初めとした英雄派の面々とか、はぐれ問題としてオリキャラのはぐれ悪魔とか、その他諸々です。
え?リゼウィム?あいつは知らん。

長々と書きましたが、これからも投稿頑張って行きますのでどうか暇つぶし程度に見てやってください。それが作者にとっての歓びです。語り続ける歓びを!

では後編でお会いしましょう。それでは。ノシ


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異譚挿話のダンタリオン(プロローグ)
ビリーバーズ・ハイ


お久しぶりです。
結局こちらを連載することになりました。
どうかこれからもよろしくお願いします。

PS:ぐだぐだ本能寺は何とかクリアできました。
+新宿のアーチャー、ゲットだぜい!









笑顔も涙もきっと全て、君に出会う為だった。




首都・リリス

 

冥界という世界に存在するその都市の、近郊に存在している一つの街。

 

規模はそこまで大きくは無いが、そこの住人達は活気に溢れていた。

そして何より、この街には他の都市とは一線を画す違いがあった。

 

この街に住み、働いているのは悪魔達だけではないのだ。

それこそいろんな種族、妖怪、妖精、獣人、吸血鬼、さらにはドラゴンも極僅かにだが、その街に住み着き、生活している。

 

 

これを他の悪魔が見たらどう思うか、少なくともいい顔はしないだろう。

むしろ、この状況にある都市を受け入れられる貴族悪魔はほとんど居ないはずだ。

 

それが許されているのが、この街。

 

 

 

多種族連合都市・シャイターン

 

 

唯一、それが許されている街。

そしてこの街は、悪魔たちの中ではかなり重要な立ち位置にあるのだ。

 

昨今の冥界においての物資の流通の大半を、この街が担っているのだ。

それもその筈、多種族という他には無い異色さが、この街にはある。

 

その種族の特産品や名物など、そうそう行き渡らない物品が、この街から他の都市へと回されている。

詰まるところ、この街が今の冥界の生命線、もとい、ぶっとい動脈なのだ。

 

だからこそ、ほかの貴族悪魔はこの街についてとやかく言うことは出来ないでいた。

 

そして、そんな街を治めているのもまた、貴族。

ソロモン72柱が一柱、序列71位の大公爵

 

知識の悪魔、ダンタリオンが治める都市なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな感じで今日も賑わっている都市、シャイターンの中心にそびえ立つ屋敷、ダンタリオン邸の一室で無数の本に埋もれながら読書を敢行する一人の目腐り悪魔がいた。

 

まさに本の虫、そんな言葉を頂戴しそうな程に、目の前の文字の羅列に目を走らせていく。

 

「·········」

 

時折、すっかりと温くなった紅茶をちびちびと飲みながらも、ページを捲る手は止めない。止めるつもりもない。

このペースで行けばあと数十分で読み終わるだろう勢いだ。

 

「······」

 

物語が架橋に入ったのだろうか、ページを捲る手にも力が籠る。

綴られている言葉たちはその複雑な情景を描き、光景を表現し、背景を鮮明に想像させ、登場人物達に動きをもたらす。

そして主人公は遂に、物語の核心へと迫る。

 

そして遂に、そのベールが暴かれようとした瞬間――

 

ドタドタドタ!と、間違いなく慌てていますと激しく自己主張する足音が徐々に近づいていき

 

ドバンッ!と豪快な音が炸裂し、扉が開かれた。

 

 

「お兄ちゃん大変!大変だよお兄ちゃん!」

 

 

その足音の主、扉を蹴破らん勢いで開け放った可愛らしい声の主は、先程まで読書に勤しんでいた腐り目悪魔へ向けて大声でそう告げた。

 

 

そう告げられた、お兄ちゃんと呼ばれた腐り目の少年はというと、面倒くさそうな表情を浮かべながら、楽しみを邪魔された子供のように不機嫌になっていった。

 

 

「一体何が大変なんだよ?コマチ。領地にドラゴンでも落ちてきたのか?」

 

 

トコトン不機嫌に、それでいてまだ冗談を投げかける余裕はあったそうだ。

 

「そんなの今月になってもう三回目だけどね。最近リンドブルムさんが酔っ払って住宅街に落ちたのが二回、用水路に落ちたのが一回······」

 

「それもう禁酒させるように言った方がよくねぇか?」

 

「それもそうだね······」

 

 

······どうやら冗談ではなかったようだ。

 

 

「ってそうじゃなくて!大変なんだってば!」

 

「ッチ、覚えてたか」

 

「忘れないよ!というか忘れられないよこんなビックリニュース!ほら!本なんか読んでないでこっち来てよ!」

 

 

あと少しだったのに···とぼやいている腐り目悪魔をお兄ちゃんと呼ぶ、コマチと呼ばれた少女は無理矢理に部屋から連れ出そうとする。

少しばかり抵抗するが、悲しきかな、人間よりも地の力が強い筈の悪魔の身でありながらも成人男性の平均並みしかない彼の地力では、長年兄を引っ張り連れ回してきたお兄ちゃん専用牽引機コマチを止めることは出来ない。

 

諦めが肝心である。

 

 

そんなこんなでようやくコマチは四六時中自室で本に埋もれつつ読書に耽っていた兄を引きずり出すことに成功した。

 

 

その悪魔、名をハチマン・ダンタリオン

 

 

これは後に四人目の超越者として名を知られる彼と、その友人とも呼べない腐れ縁の幼馴染とその眷属たち、心を許した家族と自身の眷属たち、その他諸々の者達と共に紡ぐ一幕の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「婚約、ねぇ······」

 

場所は変わって、ダンタリオン邸の居間に相当する部屋。

連れ出されたハチマンはというと、そのビッグニュースを聞いて微妙な顔になっていた。

 

「まぁ、いいんじゃねえの?アイツにもいつかは来る話だったんだろ」

 

まぁ、彼はそのニュースには全く関係がないとは言い切れないが、明らかに自分は蚊帳の外な情報(ニュース)が書かれた紙を手に、曖昧な回答を返していた。

 

 

 

リアス・グレモリーとライザー・フェニックスの婚約を賭けたレーティングゲーム開幕!

 

 

目の前で誰の目から見てもやる気のない兄の為に、号外新聞のようにそんな見出しがデカデカと書かれた報告書のようなものを見て、彼は呆れていた。

 

 

「気にならないの?幼馴染の事なのに」

 

「幼馴染だからってあれこれ気にするようなものじゃないから。というかどうしようもないだろ」

 

まったく、と額に手をやりながら溜息をつく。

気にならないわけでは無いが、どの道部外者である自分たちが介入できる余地はないのだ。

 

「まぁいい、ちょっと整理しようか。読書明けにはキツイ。·········ヴァルケンハイン、紅茶を頼む。今回はローズヒップでな」

 

その言葉に答えたのは、彼の右斜め後方に控えていた執事服に身を包んだ高齢の男性だった。

彼は一言、畏まりました。と言葉を残しその場をあとにした。

 

そして――

 

 

「さて、

 

 

 

何故に一同が集結したか理由を聞いてもいいか?」

 

 

自身が座る席から、その他の席に座る自分以外の人物達に視線を向け、言葉を促した。

 

 

「私は、慌てて走ってきたコマチさんに緊急事態、広間へ集まって欲しい。と、そう言われたので、召集に応じたのですが···」

 

 

最初に返したのは、落ち着いた感じのするピンクに近い髪色の少女だった。

 

学生服のような衣服の上に白衣を羽織り、眼鏡をかけている彼女は率直に、自分がここへ呼ばれた経緯を話す。

 

やや困ったような笑みを浮かべているようで、自分が呼ばれる必要性があったのかと疑問に思っているようだ。

実際、必要は無いのだろうが。

 

「その、なんというかスマンな······」

 

「いえ、私としても少し気になりはしたので。リアスさんが婚約を賭けたレーティングゲーム······果たして勝てるでしょうか?」

 

「どうだろうなぁ······それじゃ、大尉は何故に?」

 

「···············」

 

 

"大尉"と呼ばれた軍服のようなオーバーコートを着込んだ大柄の男は何も言おうとしない。

 

ただ、無口な口に似合わず手は流暢なようで、身振り手振りで何かを伝えようとしていた。

 

 

その手はスッと、自分の妹を指さしていた。

 

 

「大尉もか·········なんか悪いな、ホントに」

 

「お兄ちゃん、その本当に申し訳なさそうな顔するの止めてよ。だってビッグニュースじゃん。ねー延珠ちゃん?」

 

「妾はどちらでもよい」

 

「延珠ちゃんが冷たーい·····」

 

 

ツインテールの幼げな子供にも素っ気なく返され、テンションダダさがりなコマチであった。

 

 

そんな雑談とも言えない会話を交わすこと数分、失礼します、と断りを入れ、広間の大扉が開かれ先程出ていった執事が入ってくる。

 

 

「お待たせ致しました、ハチマン様」

 

 

「ん」

 

 

如何にも熟練と言わ占めるに相応しい手早さで、紅茶をティーカップへと注いでいく。

コトっと眼前に置かれたティーカップを手に取り、中身を軽く喉に通す。

 

ローズヒップの仄かな香りが鼻腔を擽り、その丁度いい温度は彼の体に暖かみをもたらした。

 

「···········ふぅ、流石だな。ヴァルケンハインの淹れた紅茶は、何度飲んでも飽きが来ないな」

 

「光栄に御座います」

 

一通り紅茶を堪能すると、ティーカップを置き、掛けている眼鏡の位置を直しながら

再度、本題に戻る。

 

「それで?この二人が結婚したとして、俺はどんな反応を返せば良いんだ?」

 

「お兄ちゃん冷たすぎ···そりゃコマチも、どう言えばいいか分かんないけど」

 

「この場合は祝うべき···では、無いんでしょうね」

 

「レーティングゲームで決着を付ける、という時点で片方が拒んでいる、というのは明らかでしょう」

 

「その場合は、リアスさんが拒んでいる、と言うことでしょうか?」

 

「別にいいんじゃねえのか?フェニックス家はフェニックスの涙で結構利益を上げてるし、安泰だろ」

 

 

兄の言葉に妹のコマチは確かにそうなんだけど···と言葉を濁し、そして言った。

 

 

「そのフェニックスの所の三男さんって女好きで有名なんだけどさ」

 

「三男ェ···せめて名前で呼んでやれよ。というか、それを言ったら殆どの男連中が女好きだろ」

 

「それが結構行き過ぎてるんだよね。コマチも前口説かれたし」

「オウコラトリコラ何ウチのエンジェルを口説いてくれてんの?目の付け所は認めるがそんなモンお兄ちゃんの目の黒いうちは絶対に認めんぞ何処だそのなんちゃらフェニックスは野郎ぶっ殺してやんよ!出てこいクソッタレェェェェェ!あれっ?コマチはというか俺達は悪魔なのにコマチは天使とはこれ如何に」

 

「先輩、目がマジです。今すぐにでもその三男さんを呪い殺しそうな程に怨念タップリです」

 

「·········」

 

「なんだ?妾にくれるのか?」

 

「·········」

 

「おお、ふとっぱらだな大尉!それじゃあ妾がそのチーズケーキを貰うぞ!」

 

「·········」

 

 

会議は踊る。正にその言葉がドンピシャだった。

 

いつの間にかあちらこちらがカオスに包まれ、もはや何をしたいのかさえ不明となった。

 

 

「···結局何だったのでしょうか」

 

「今日も相変わらずのようで。大変よろしいかと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでね、明日で全部が決まるの。これからの私の人生が』

 

 

夜遅くのダンタリオン邸。暗闇が支配したその一室にはあるはずの無い女性の声が、闇の中に溶けていく。

 

「······心配なのか?」

 

『·····当たり前よ。向こうはプロで、コッチはずぶの素人。最初から勝敗なんて決まっているようなものよ』

 

『まぁでも、諦めるつもりは毛頭ないわ』

 

声の主は何処か心細そうな、それでも自分を奮い立たせようと必死になっていた。

それに返される言葉は、

 

 

「まぁ、頑張れよとしか言えないがな。お前が本当に勝ちたいと、自由を掴みたいと思うなら」

 

それに返される言葉は、優しげでいて、他人事のように、当たり障りのない言葉だった。

 

『冷たいわね···他人事のように』

 

「実際、他人事だからな。それで、もういいか?一応明日も執務の手伝いがあるんだよ」

 

 

そして、突き放すように。

そう言葉を投げかけた。

 

『······そうね、ごめんなさい。ハチマンも忙しいわよね。·········頑張ってみるわ』

 

 

その言葉を最後に、電話は切れてしまった。

 

 

「·········」

 

 

彼は受話器を戻し、暗闇の中目を閉じる。

 

望まない婚姻、貴族であるならばそういったものもあるだろう。

寧ろ、そんなことばっかりだ。

それが不幸にも、彼女に訪れてしまった。

 

 

「·········」

 

 

きっと、どうしようもないのだろう。

 

ただ、間違いなく不利という点はあるが、勝てばその婚約をなかったことに出来る。

それだけでもマシな方だろう。

 

 

少なくとも、彼女が吉報を持ってくるのを待つとしよう。

そう決めて、ベッドに潜り込む。

 

果報は寝て待て。

文字通り、良い知らせを期待して目を瞑り、意識を暗闇の中へと溶け込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、その翌日。

 

リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームはライザー・フェニックスの勝利となった。

 

 

 

数日後に結婚式を控えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わかっていた。

 

わかりきっていた。

 

わかっていた事だった。

 

 

何度もレーティングゲームを経験し、尚且つ接待勝負以外では全て白星をおさめていた、実質全勝のライザーとではその下地が違っていた。

フェニックスの不死身の能力、そして何より多対多という状況を経験しなかった事による練度不足も要因だろう。

 

 

結局の所、彼女は負けたのだ。

 

自由を掴み取る最後のチャンスを。

 

 

「·········」

 

 

そして今、その幼馴染にして彼女とは対極な存在。

常に冷静に、感情を理性で押さえ込む事の出来る冷血漢。

それでいて己を情を捨てきれない半端な未熟者と断し、自分の理想を何処までも追い求める熱血漢。

 

ダンタリオンの名を継いだ一人の悪魔。

 

ハチマン・ダンタリオンは一つの手紙と同封されていた記録結晶を手に、言葉を発さず沈黙を貫いていた。

 

手紙に一通り目を通し、読み終えた手紙を暖炉の中へと放り込んだ。

続いて、手に取った記録結晶を机の上に置き起動の呪文を紡ぐ。

 

すると空中に映画のスクリーンに上映されるかのように映像が映し出された。

 

その映像はまず見覚えのあるロングの黒髪に巫女服の幼馴染と、見慣れないもう1人の黒髪の女性が空を舞い、映像を稲妻と爆発が覆い尽くす場面。

 

その場面で、相対しているライザーの眷属である女性が何かを懐から取り出して、それを使っている姿を確認した。

 

「······」

 

 

その次、場面は切り替わり見覚えのある緋色の髪を靡かせる幼馴染の後ろ姿、そして彼女が見据えている先、相対している白のスーツをわざと着崩した、ホスト崩れのような男。件の三男坊が見せびらかすように何かを掲げ、それを使用した場面。

 

 

そして、

 

 

 

「――ここか」

 

 

 

見つけた。

 

 

 

彼は記録結晶の映像を切りワイシャツの胸ポケットへと仕舞い込み、扉へと歩んでいく。

 

 

 

「······待ってろ」

 

 

思い出すのは、先日の泣きそうになるのを必死に押し殺した、か細い幼馴染の声。

 

思い出すのは、映像に映っていた彼女の横顔。目尻に涙を僅かに浮かべ、投了(リザイン)を宣言する彼女の姿。

 

 

 

 

思い出すのは、子供の頃に交わした、誰もが本気にしないであろう、それでいて誰もが覚えているであろう、

 

そんな約束。

 

 

 

 

 

『ハチマンって、おんなのこにモテそうにないわよね』

 

 

 

 

『しょうがないわね、わたしがいっしょにいてあげる!』

 

 

 

 

 

『いまはわたしが、ハチマンをひっばってあげる』

 

 

 

 

 

『だから――』

 

 

 

 

 

 

そして、扉を開ける。

 

 

大義名分は得た。

 

普段から動こうとしない彼が動く理由は十二分にある。

 

あとは、己の心に従うだけ。

 

 

 

 

「貴族としてはあるまじき事だろうが――」

 

 

拳を握れ。

 

 

歩を進めろ。

 

 

アイツの意志を取り戻せ。

 

 

 

 

 

「せめて、お前が自由に生きられるようにする事ぐらい、俺が何とかしてやるよ」

 

 

 

 

 

 

知識と芸術の悪魔が、動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の冥界は賑わっていた。

 

今日この日をもって、新たな夫婦(めおと)が生まれるからだ。

レーティングゲームの勝敗が付いたその日、二人の婚姻の話が冥界中を電撃が走るように速く広まっていった。

悪魔社会の新たな世代、その一躍を担うのやもしれないのだ。詳しい事情を知らない者は、とにかくめでたいと祝杯をあげた。

 

 

その当事者である彼女の眷属達はその逆、気丈に振舞ってはいるが、その表情はどことなく暗い。

敗北したという事実と、どうしようもない無力感に打ちひしがれている。

 

時間が巻き戻る訳がなく、無慈悲に一秒一秒を刻みゆく時計の針。

近付いてゆく婚姻までの時間。

 

そしてその時は、訪れる。

 

 

結婚式会場の広々とした空間、そこには数多くの関係者や来賓が訪れており、その一室を数多くの貴族が埋め尽くす。彼らは嬉嬉として語り合い、グラスを満たすワインを煽る。

 

様々な喜びの感情が溢れかえるその様は、もはや何かを祝うための儀式だった。

 

 

その中で、貼り付けたような笑みを浮かべ話しかける貴族達に対し、これまた貼り付けた笑みを浮べながら適当な挨拶を返す者達。

 

その裏では、悔しさという感情を滲ませ、崩れそうになる表情を必死に取り繕おうとしていた者達がいた。

 

 

「もう······どうしようもないんでしょうか···」

 

一人の少女が小声で呟いた。

つい最近悪魔に転生したばかりの、彼女の眷属の少女だった。その声には悔しさと、諦観の色が見える。

 

「決まってしまった以上は、もう駄目でしょうね」

 

「無念だけど、僕達にはそういった権限が無いからね······」

 

 

答えたのは二人の少年少女。

 

公の場で着るようなドレスに身を包んだ少女と、礼服を着た少年。

 

彼らの表情も暗く、無念という感情が見て取れるような声色だった。

 

 

 

「······あの人は、来ないんですか?」

 

また一人、声を上げた。

 

こちらもまた公の場で着るようなドレスに身を包んだ小柄な少女だ。

 

 

少女の言うあの人、

 

彼が来た時彼女は、自分たちの主はどんな顔をするだろうか。

 

 

「······どうでしょう、単に面倒臭がって来ないのか、幼馴染だからこそ、見たくはないのか、私も彼とは幼馴染のような関係性ですけど、よく分からないですわね」

 

 

「彼なら、どうにか出来たのかもしれないね。普段は全く動かないけど、彼が動いた時は大抵なにかしらの成果がでるから」

 

 

未だ、その彼は来ず。

 

契りを交わす花嫁と花婿を待つこの時間すらもどかしく感じる。

寧ろ台無しにしてして欲しい。

 

 

さらには――

 

 

「アーシアちゃん、イッセー君はまだ目覚めませんか?」

 

 

もう一人、居るはずの眷属がここには居ない。

 

数日前のレーティングゲームが自分達の敗北を、拒んでいた婚約を受け入れることになってしまったその日から、今ここにはいないもう一人の眷属は目を覚まさず、今も眠り続けている。

 

 

「はい·····まだイッセーさんは眠ったままです·········」

 

 

このねじ曲げようの無い運命を変えてくれるかもしれない、ジョーカーを持つ二人の少年はこの場に居らず。

彼女達は目の前の仮りそめの幸福を祝うしかないのだ。

 

 

その一方で、彼女の幼馴染である一人の少女は貴族としての付き合いからだろうか、作り物の笑顔で他の貴族達に挨拶して回っていた。しかしその心情は穏やかでは無く、一人の友人として彼女を救ってやりたかった。

 

さらにもう一方、自分達から主を奪っていった男、その妹は申し訳ないと言いたげな表情を浮かべ、頭を下げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お集まりの皆様方、本日は私ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの結婚式にお越しいただき、誠に有難うございます」

 

 

 

そして、時は来た。

 

 

 

「それでは時間もいい所で、本日の主役であり私の花嫁、リアス・グレモリーの登場です!」

 

 

 

 

終わりの時が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず初めに、来賓の貴族一同の目に飛び込んできたのは一人の花嫁だった。

 

特徴的な緋色の髪とは正反対な純白のウェディングドレスを纏いそこに佇む姿は、世の女性の理想像と言っても過言ではなかった。

女性なら誰もが羨み、手を伸ばすだろうその煌びやかなウェディングドレスは、この時の為だけに生まれてきたと、そう伝えられる程にしっくりきていた。

 

その場にいる全ての男性は勿論、女性迄もが魅入っていた。

 

言葉を以て表現しようにも、語彙力が足りない彼らにはただ一言、

 

美しい、と。

 

それ以外の言葉が見つからなかった。

 

これ程の晴れ舞台で婚儀を執り行う。

女性にとっては一つの夢だろう。

 

今宵一人の少女が、一人の女性へと変わるその瞬間。

 

その時がついに来たのだ。

 

ようやく、彼らは拍手でそれを迎える。

 

少女はそれに笑顔で答える。

 

場の盛り上がりは、間違いなく最高潮を迎えていた。

 

 

ウェディングドレスを纏い、その祝福を一身に受ける彼女の表情に影が差した瞬間を、誰も見ることは無かった。

 

 

 

彼女は会場を見渡す。

 

 

小さい頃からお世話になった人達の、心から祝う感情が見て取れる。

彼らは心の底から、彼女を祝っていた。

 

昔からの幼馴染も、こちらを見て笑っている。

それが偽りのモノであることは、しっかりとわかっていた。

 

自分の眷属達を見る。

その表情は暗さが目立つが、何とか拍手を送っていた。

 

 

 

その中に、彼の姿はどこにも無い。

 

 

 

(······当たり前よね。今の今まで、彼を避けていた私に、助けを求める資格なんて···)

 

 

今思い返せば、何を意地になっていたんだろうか。

 

 

昔から、彼は魔術の才がずば抜けて高かった。

簡単な魔法、複雑な魔術、さらには人が編み出した魔術、そして自作した術式。

 

どんどんと、彼はその才を開花させていった。

古きを知り新しきを見つけ、さらにはそれを組み換え、組み合わせ、今やどれだけの術式を編み出したのかも分からず、その方面で彼はめきめきと頭角を顕にした。

 

遂には四人目の超越者候補だ。

 

同年代の悪魔はそれはもう彼を羨んだ。

 

彼に憧れ、尊敬する者もいれば。

彼を嫉み、敬遠する者達もいた。

 

そして自分も、彼を敬遠した一人だった。

 

 

幼い頃は、もう二人の幼馴染と共に遊んで回った記憶がある。

彼が習ったばかりの魔法を見て、皆で盛り上がったこともあった。

そんな昔からの付き合いであったにも関わらず、彼を敬遠していた理由、それは

 

 

 

(今更ね······)

 

 

――やめた。

 

いつまでも感傷に浸っている訳にはいかない。

その楽しかった思い出を、自分が覚えていればいい。

 

さあ、現実と向き合う時間だ。

 

今までの自分と決別する、決断を下す。

 

 

 

 

 

············

 

 

 

 

 

 

その直前だった。

 

 

 

「····?」

 

 

「何でしょうか···これ?」

 

 

「今のは····?」

 

 

「···これは、まさか······」

 

 

「···この魔力、まさか!?」

 

 

「ん···?」

 

 

 

 

 

 

「────えっ?」

 

 

 

 

 

拍手の響き渡っていた会場の、その中心に、一つの魔法陣が出現する。

 

 

その色は、限りなく黒に近い灰色。

 

表すのは、序列71位の悪魔。

 

 

 

「まさか······でも···何で?」

 

彼女はそれに、見覚えがあった。

 

彼が魔法の練習を見せてくれた時、手のひらから浮かび上がった魔法陣のそれと同じだった。

 

 

困惑する者達を余所に、魔法陣の中心に膨大な魔力が集まりつつあった。

 

それが作り出したのは、黒い光。

 

集まりゆく魔力は黒い光という矛盾した光景を生み出し、目に収めることが出来る鈍いその光は、人一人分の大きさの繭のような何かへと変じていく。

 

 

遂には、その光は一際大きな輝きを放ち周囲へ徐々に溶け込むように霧散していく。

 

 

後には一人の少年が残った。

 

 

 

昔から変わらない、頭頂部からアンテナのようにピンと立つ特徴的なくせっ毛。

本人はアホ毛と言っていた気がする。

 

彼の見た目の中でも一際目立つ、死んだ魚のような目。

その特徴的なとしか言いようの無い目は、普段は掛けないであろう眼鏡を掛ける事により、その腐った目を鋭いツリ目へと変貌させた。

 

さらには、最後にあった記憶の中の彼、気だるげさを隠そうともしない、若干猫背気味だった彼の立ち姿。

それがどうだ、猫背気味の姿はその影すら見せずに、背筋をピンと伸ばして、だらしの無い格好もちゃんとした正装へとかえていた。

 

一瞬誰だと思ったが、直ぐに確信に変わる。

 

見間違えようのない、もう一人の幼馴染。

 

最近まで敬遠していた彼。

 

 

「······遅くなってしまい申し訳ない」

 

 

彼女の、初恋の人。

 

 

「もう始まってしまっただろうか?」

 

 

ハチマン・ダンタリオン。

 

 

腐眼の悪魔(ロッテンアイズ・デーモン)』と恐れられ、『聡明なる書架の守り手(サンクチュアリ・ガードナー)』、『千の魔術を携えし者(グランドキャスター)』等々の異名を知らずの内に獲得した超越者候補。

 

 

彼がその地へと降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場は混迷を極めた。

 

突如として現れた一人の悪魔。

魔法陣が表すのは序列71位の大公爵。

滅多に表には出ようとしない変わり者が、今こうして自分達の目の前に立っていた。

 

そうそう着ないであろう、ダンタリオン家の者としての正装をして。

 

正装と言っても、催し事や会議などに着てくる黒一色のスーツにネクタイ、といったいかにもお堅い格好をしている訳では無い。

 

灰色のワイシャツに黒のネクタイ、黒のズボンとベルトを締めて、そして一番目に付くだろう上半身をすっぽりと覆う黒のポンチョを纏っている。その背面にはダンタリオンを表す魔法陣の模様が描かれており、その本気具合が伺える。

 

 

彼はダンタリオンの者としてここに来たのだ。

 

 

誰もがその結論にいたる。

そうでなければ、わざわざダンタリオンのそれを表す格好で来るわけが無いのだから。

 

そして彼女は、リアス・グレモリーは希望をもちかけて、その希望になりうる憶測を手放した。

 

ダンタリオンの家の者として来たのは間違いない。

なら彼が言いに来た言葉は一つ。

 

 

少年は歩き始める。

周囲の困惑の視線をものともせずに、会場の中心から真っ直ぐと歩んでいく。

 

黒のポンチョを靡かせて、堂々と歩いていき、止まった。

 

 

「御挨拶が遅れて申し訳ない。本日の主役様、並びに魔王様。見ての通り、ダンタリオンの名を継ぐ一人のしがない悪魔でございます。名をハチマン・ダンタリオンと申します、以後お見知りおきを」

 

 

儀礼に則った、完璧な口上だ。

 

普段は極度のコミュ障な上に、対人スキルはナメクジ以下だと自他ともに認めていた割には、その片鱗を全く見せない振る舞いを見せつけている。

 

 

「あ、ああ。そうか、ダンタリオンの所の者か。あー、ゴホンッ、俺がライザー・フェニックスだ。わざわざ御足労だったな」

 

咳を一回、自身の困惑を隠し思考を切り替えるように仕切り直す。

取り敢えず、主催としての言葉を口にする。

 

「ダンタリオンの家からも祝われるとは、魔王として、一人の兄としても嬉しく思うよ。それで、遅くに来たとも言えないが、遅れてしまった理由を聞いてもいいかい?」

 

誰かが口を開き、質問を投げかける。四大魔王の一人、リアス・グレモリーの兄にしてルシファーの名を襲名した冥界の長、サーゼクス・ルシファーが、彼にそう問いかける。

 

 

 

 

(ホント、知っているくせに顔色一つ変えずにそう口に出来るんだから、魔王様は凄いわ。いやマジで)

 

 

 

 

それでも、その言葉を待っていたと言わんばかりに、口元を僅かに三日月の形に歪める。

それに気付いた者は、いない。

 

 

 

「ええ、少しばかり準備をしてきたもので」

 

「準備?一体どんなモノを用意してくれたんだ?」

 

ライザー・フェニックスは察したという風に、わざとらしくそう聞いた。

 

サプライズ、というには違いないが、それは違う意味でのサプライズ(驚愕)だ。

それに、彼は気付かない。

 

「まずは、ライザー・フェニックス様、リアス・グレモリー様、ご結婚おめでとうございます」

 

 

そう、建前の言葉を並べ。

 

 

「そして――」

 

 

切り出す。

 

 

 

 

 

「私、ハチマン・ダンタリオンは、ダンタリオンの名において――

 

 

 

 

 

 

 

 

――先日のレーティングゲームによる決着に異議を申し立てる!」

 

 

 

 

さあ、反撃の時間だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライザーは、遂に訳が分からなくなった。

 

遅れて登場したダンタリオンの家の者が祝福の言葉を送った後に、つい先日のレーティングゲームに対して異議を申し付けてきた。

思考と感情がごちゃ混ぜになる様な感覚を覚えた。

だって、意味不明なのだから。

おめでとうございますと笑顔を浮べながら握手を求めてきて、その握手に応じた瞬間に隠していた方の腕でアッパーカットを打ち込まれたような、形容しづらい感覚。

 

要するに不意打ちを強烈に食らったようなものだ。

 

「······は?」

 

ようやく、口から音を発することが出来た。

 

「何を言ってるんだ?レーティングゲームの決着は着いたんだぞ。何故異議を唱えられなければならな――」

「そのレーティングゲームに、何らかの不備があったからこそ言っているのです」

 

不備、その言葉に会場の来客一同、眷属一同も首を傾げた。

 

特に、当事者である眷属一同はその言葉に疑問を浮かべ尚且つ、続くであろう彼の言葉に期待した。

自分たちでは気付かなかった、あの決着方法の不備。

それが、自分達の主を救い出すキッカケになる。

 

続けて、知識の悪魔は言う。

 

「今回この場に赴いたのは今言った通りの事を、先日のレーティングゲームに腑に落ちない(・・・・・・)点があった為に、その事を伝えるために参った次第です」

 

それに、魔王が問い返す。

 

「不備?私が見る限り、あの決着に不備は無かったはずだ。その結論に至った経緯を示してもらえるかい?」

 

自然な、そう全く自然な受け答えだった。

 

問い、答えるタイミングが完璧過ぎるほどの、自然な受け答え。

その内心で、魔王は笑い。

腐り目悪魔も、また笑う。

 

「·····不備があるだと?言い掛かりよしてくれ。先日のレーティングゲームに不備は全くない。

是非とも証拠を提示して欲しいものだ」

 

不死鳥もまた笑い、余裕を持った表情で、釈然とした態度のまま語る。

 

その裏で、少しばかりの動揺を押さえ込みながらも、眼前の目腐り悪魔を見る。

 

 

「コチラに」

 

 

少年は一つの封筒を取り出す。

 

「コチラの封筒、つい二日ほど前、私宛に届けられたもので、

 

 

依頼書にございます」

 

 

それを掲げ、言葉を続ける。

 

「送り主は不明、依頼者も名前を載せていない匿名で、ただ一言、『先日のグレモリーとフェニックスのレーティングゲームの不備について調べてほしい。』と、そう書かれておりました」

 

「それを調べたのか?送り主不明の依頼を受けた、と?余程暇なんだな」

 

「執務さえ終えれば後は暇ですので。その間に研究を進めることもできますから、私としてはとても重宝しています」

 

ライザーの皮肉とも呼べない言葉にも、どこ吹く風というように淡々とスルーしながら、さらに続ける。

 

「本来ならば受ける必要は無いのですが、丁度手が空いていたので、それらしい資料を漁りました」

 

暇潰し程度に、と思っていたのですが···そこで一度区切り、息をを溜めて、告げる。

 

 

「少しばかり、違和感を覚えたのですよ」

 

 

一度言葉を終え、眼前のホスト擬きから視線をずらし、ウェディングドレスに身を包んだ幼馴染に対して、問いかけた。

 

 

「リアス・グレモリー様、一つ聞きたいことが」

 

「え?え、ええ。何かしら?」

 

普段聞かない幼馴染の丁寧語と、いつもとは違う雰囲気を纏ったその不自然さに呆然としたが、すぐに持ち直す。

 

幼馴染は問いかける。

 

 

 

「先日のレーティングゲームの折に、フェニックスの涙は配布されたでしょうか?」

 

 

その言葉に、全員が疑問を持った。

 

約一名、その表情が何処と無く堅くなった者を除いて。

 

隣の暫定的に花婿である、隣の不死鳥の様子に彼女は気づくことは無く、ホスト擬きが何かを言おうとしたそれよりも早く。

 

 

「いえ。フェニックスの涙なんて貰わなかったわ。そもそも、私達が持っていなかったからじゃないの?」

 

なんの気兼ねなく、そういった。

 

 

 

 

言質獲ったッ···!

 

 

 

 

 

「あれ?······おかしいですね」

 

 

 

 

さあ、逃げられねえぞ? 不死鳥。

 

 

 

 

「確か、資料を見る限りだと――」

 

 

 

 

 

ふんぞり返って勝利を確信すんのも、ここまでだ。

 

 

 

 

「両陣営に対して、フェニックスの涙が各陣営に二つずつ配布されているはずなんですが」

 

 

 

 

「これはどういう事でしょうか?」

 

 

 

会場に、違う空気が流れこむのを感じた。

 

 

「記録ではライザー様側にはフェニックスの涙が配布されており、尚且つ使用した記録があります」

 

「ですが、リアス様側にはフェニックスの涙は配布されておらず、さらには配布される旨すら伝わっていない」

 

 

 

「これは不備ではないでしょうか?」

 

 

 

ライザーは言葉を詰まらせる。

 

言い逃れようがない、確証。

不備はあったのだ。と。

 

不備があった。それは認める。

 

 

認める、が。

 

 

「······どうやら、本当に不備があったようだ。改めて謝罪させて貰おう」

 

しかし

 

 

「だが、それで?不備があったとしてどうするつもりだ?」

 

不死鳥は嗤った。

 

不備があった事は逃れようのない事実。

だが、それで結果は変わるはずのない。

だからこそ、彼は尚も嗤う。

 

「こっちがフェニックスの涙を使わなければ、若しくはリアス達に配布されていれば、勝敗は変わっていたと。そう言いたいのか?」

 

「可能性は十分にあります」

 

極めて冷静に、少年は答えた。

 

「リアス様側には神滅具(ロンギヌス)の一つ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の所有者、今代の赤龍帝がいます。神すら殺せる力。その権能、場を変えるには十分過ぎるほどのジョーカーがいました。いくら不死とはいえ、それすらを上回ることは可能ではないでしょうか?」

 

可能性は十二分に有り得た。

 

だからこそ、不死鳥はまた言葉を詰まらせた。

 

そして――

 

 

「では、もう一つの、不確定要素をご覧ください」

 

 

彼はポンチョの内側へと手を突っ込み、ワイシャツの胸ポケットから一つの結晶を取り出した。

 

「それは?」

 

「先ほどの依頼書と同封されていた記録結晶です。最大で12時間相当の映像を記録可能なこの記録結晶、シャイターン製の一級品です。各都市にて販売されており、尚1200デモンというお手軽価格でにて販売中です。記録を残したい方は是非」

 

······話がズレたが、取り敢えずもとに戻そう。これで記録結晶の有用性も示せるし、隠された一つの疑問が浮き彫りなるし、少年の懐も温かくなる。まあさておき。

 

「こちらの映像には、当日のレーティングゲームの様子が記録されております」

 

re:load。と起動の呪文を口にし、会場の空間に巨大な映像が投映される。

 

最初に映し出されたのは、二人の女王(クイーン)の一騎打ち。

画面の八割ほどを爆発と稲妻が彩り、激しくも、華やかな戦いを繰り広げている。

 

そして、ついさっきまで爆発の華を咲かせていたライザーの女王が雷の一撃を貰い、地へと落ちていく寸前。

 

映像が止まる。

 

「stop。ここで、ユーベルーナ様がフェニックスの涙を使用しています」

 

再び、絵画のように空中に映し出されていた絵が動き出すと、フェニックスの涙を使い、それに一瞬の油断からなった隙を、爆発の魔術に飲まれていった巫女服の女王。

 

ここで重要なのは、フェニックスの涙を使ったという事。

続いて、映像が倍速されていき、再び元の速さへと戻る。

ホスト服の不死鳥が何かを見せびらかすように掲げ、それを使用した。

 

「ここで二つ目が使用されました」

 

「それがなんだというんだね?」

 

そう聞いたのは、一人の男性。

初めて響いたその声色の持ち主は、ライザーの父親にしてフェニックス家の当主。

 

フェニックス卿が口を開いた。

 

その言葉に、少年はこう言う。

 

「確認のためです」

 

確認···?とフェニックス卿も含め、会場の一同が再び、首を傾げた。

 

ライザーは再び、その表情がさっきとは比べ物にならないほど堅く、青ざめていた。

 

映像は再びその光景を加速させ、一つの場面にたどり着いた。

 

そして、気付いた。

 

「お気づきになられたでしょうか?」

 

その場面、赤龍帝の籠手によって強化されたであろう、リアスが持つ滅びの魔力。

 

その緋き魔力の奔流がライザーを飲み込まんとしたその一瞬。

 

処理落ちの影響か、画面が僅かに見づらくなる。

その中で、ライザーの右手にいつの間にかあったその茶色のような入れ物。

何かの液体を入れる容器のような物体。

 

「ライザー様が持っているこの物体。

 

 

フェニックスの涙ではないでしょうか?」

 

場の空気が、明確に変わった。

 

来賓の貴族達の間でどよめきが広がり。

彼女の眷属達は、その怒気をもはや隠そうともしなかった。

もう一人の幼馴染も、静かな怒りを抱き。

不死鳥の妹は信じられない表情を浮かべ、自分の兄に疑問の目を向けた。

 

「そ、そんな筈はない!持っていたフェニックスの涙は二つだけだ!」

 

「では、この時に手に握っていたのは何だったのですか?」

 

弁解しようとするが、言葉は見つからず。

それは···と言葉を濁すことしか出来ずにいた。

 

貴族達の、そして自分の親から疑問の視線が向けられる。

 

 

 

王手。そして仕上げだ。

 

 

 

 

「静粛に!!」

 

魔王の一声で、混乱の渦中にいた者達の声が静まり、騒めきは落ち着きを取り戻した。

 

魔王は言う。

 

「この映像のノイズが激しく、ライザー君が三つ目のフェニックスの涙を使ったという事を立証するのは難しい」

 

さらに、言う。

 

「しかし、レーティングゲームに不備があったのは明確だ。このままでは両方に禍根が残る事になる」

 

「ならば、どうするか?どういった方法で、お互いに納得の出来る決着を付けられるか」

 

「故に聞きたい。ハチマン君、今回の件、如何にして決着をつけるのが最善だと、君は判断するかい?」

 

 

条件は揃った。

 

 

舞台は整った。

 

 

後は、提案(確実に)するだけ。

 

 

 

「ハチマン・ダンタリオンは、今回の件の決着として、グレモリー陣営、フェニックス陣営の双方から一名の代表を選出し、一騎打ちによる決着を望みます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一騎打ち···か。それで、細かいルールはどうするんだい?」

 

「レーティングゲームと同様に。フェニックスの涙を含めたマジックアイテム、及び魔道具の使用はOK。意識を失った方を負けと判断します」

 

一騎打ちによる決着。

 

娯楽に飢えている悪魔ならば、これに乗っからない訳が無い。

「との事だが、ライザー君はこれに応じるかい?」

 

サーゼクスはライザーに問う。

 

これに応じる必要は、別に無い。

しかし、周囲の貴族は疑問の目を向けている。何よりも逃げたという事が広まっては、フェニックス家の名折れだ。

 

だから、応じる以外の選択肢はない。

 

「わかりました。これに応じましょう。

このライザー・フェニックス、身を固める前の最後の飛翔をお見せします」

 

「なら、君が出るんだね」

 

「もちろんです」

 

ライザーが応じ、後はこちらの切り札の到着を待つのみとなった。

 

「ああ、少し待て。この一騎打ちにリアス側が勝てばどうなる?」

 

「その場合は、レーティングゲームでのリアス様の要求、婚約の破談となります」

 

そう、ここまでの会話は、この状況を作り出し、もう一度仕切り直す舞台を作ることが、そもそもの目的だった。

 

ライザーに対するは、ジョーカーを持つ未到着の眷属。

 

後はそいつが来れば、少年はお役御免だ。

 

後は知らずの内にそいつにフルバフ(強化魔術を付与)して無双してもらうだけ。

 

それが、大体の筋書き(シナリオ)

 

「なら、オレが勝った場合はどうなるんだ?何も無いってのは不公平じゃないのか?」

 

その言葉も、予想の範囲内。

 

向こうからしてみれば、自業自得ではあるがいちゃもんを付けられているようなもの。だからこそ、その答えも用意してある。向こうにとって呑むしかない報酬を。

 

「その場合は、ダンタリオン家が管理するグリモワール大魔導図書館より、未踏領域(アンノウンクラス)迄の魔導書を無償でお貸しします」

 

今度は会場の貴族達の間で驚きの声が漏れる。

 

当然だ、ダンタリオンが管理する魔導書郡の中でも、未踏領域(アンノウンクラス)の魔導書を無償で読むことが出来るのだから。

 

世の悪魔が、人が、たどり着くことが出来ないとされた未踏の魔術。

 

それが記された著者不明の魔導書。

彼らにとっては喉から手が出るほどに欲しい物。

 

それを無償で?

 

ざわめかない訳が無い。

ライザーもこの答えは予想して無かったのか、若干唖然としていた。

そんな事はどうでもいい。

とにかく、後は勝って連れ返せばいいだけ。

そのためのジョーカーも、もうすぐ············

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(······来ねぇ············?)

 

 

 

 

 

 

 

そっと、視線を魔王様へと向けてみる。

 

その顔は相変わらずの接待スマイル。

 

 

その下で、あまり不自然にならない程度で、腕を下げたまま両の人差し指を交差させていた。

 

 

(·········詰んだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーゼクスは焦っていた。

 

切り札が来ない。

不死に打ち勝てるかもしれない要素を持った、妹の眷属が。

彼の傍には妻のグレイフィアが付いているが、彼女からの連絡も来ない。

 

どうしたものかと頭を悩ませている魔王の姿があった。傍から見れば魔王らしい立ち振る舞いをしているが、内心はかなり焦っていた。

 

『聞こえますか?サーゼクス』

 

どうしようかと焦っていたそんな時、丁度良いタイミングでグレイフィアからの通信が来た。

 

(ああ、聞こえるよグレイフィア。それで、赤龍帝君はどうだい?)

 

そう聞いたところで、サーゼクスは気づく。何故わざわざ連絡してきたのか。

起きたのならばすぐ様コチラに向かうのだろうが···嫌な予感がする。

 

(それが······)

 

嫌な予感フラグ、さらにドン。

正直次の言葉を聞きたくなかった。

 

(一向に起きないので、強制的に起きてもらおうと腹部にズドンしたのですが······

逆に深い眠りに落ちてしまったようで)

 

 

···············

 

 

 

ちらっと前を見れば、妹の幼馴染が視線を投げかけていた。取り敢えず、下げた腕でバッテンを作っておいた。

僅かに彼の頬が引きつった。

 

 

 

 

(どうしよう)

 

 

最後の最後で、バトンが繋がらない。

折角作り上げた妹奪還の舞台が、始まらないまま終わるという最悪なシナリオも十分に有り得た。正に絶望的な状況。

 

そんな時だった。

 

「こっちから一つ要求がある」

 

ライザー側から一つの要求が提示された。

 

それどころじゃないサーゼクスはその要求を聞く前から突っぱねたかったが、魔王という立場もあり、仕方ないのでその要求の先を促した。

 

「グレモリー側の代表は、お前が出ろ。ダンタリオン」

 

 

 

 

······彼の表情が死んだ。

 

 

 

一瞬の空白、魔王の頭の中の司令官が、私にいい考えがある!と叫びはじめた。

 

「いや、それはおかし――」

 

「それは面白い。魔王権限で承諾しよう」

 

やや被せ気味に肯定の言葉を紡ぐ。

すぐ近くでファッ!?という短い悲鳴が上がった気がしたがそんな事はどうでもいい。

チャンスがさらに舞い込んだからだ。

それも敵さんの方から歩いてきた。

 

(おい、サーゼクス本気か!?俺にヤレと!?)

 

意識通信が飛んできた。

かなり焦った感じで抗議してくるがそんなものは関係ない。

 

何より、これで元々の第一希望を取らざるを得ない大義名分が出来た。

 

それに――

 

(赤龍帝君には悪いが、不確定要素よりも幾らか希望のある不確定要素を選ぶ方がまだいい)

 

様々な憶測が飛び交う彼の風評、その中にはあながち間違ってはいないものもある。

その僅かな希望に、賭ける。

 

「知識の悪魔と不死の悪魔。不死身が知識を押しつぶすか、知識が不死身を打ち破るのか。面白い対戦カードじゃないか」

 

魔王様からの直々なオーダーからは逃げられない。

さあ、覚悟しよう。

一度やったなら、終いまで。

 

その手で、運命の渦中から一人の少女を引き上げろ。

 

「期待しているよ、ハチマン君」

 

 

「······わかりました。それじゃあ――」

 

 

 

さあ、戦え。

 

 

 

「ソロモン72柱、序列71位大公爵。

ダンタリオン家次期当主、

ハチマン・ダンタリオン。

 

 

 

 

卑屈に、卑怯に、真正面からコソコソと、不死の鳥を狩ってみせよう」

 

 

 

 

Now it is time of war(さあ、戦争の時間だ)()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両者が降り立ったのは、中世に存在したような闘技場(コロッセオ)を再現したような場所。

その中心に、お互いの距離が数十メートルほど離れた場所で、両者は睨み合っていた。

 

「指名しておいてなんだが、戦えるのか?ダンタリオンの悪魔」

 

早速、ライザーが煽ってきた。

お前なんて瞬殺できるとでも言いたげだ。

 

 

(あめ)ぇよ。

 

 

「心配しなくていい。自分がいかに貧弱か理解してるからな。人の心配するより自分の心配すれば?」

 

「ッ·········そっちが素か。

どうでもいいが、大した自信だな。果たしてオレを殺せるか?」

 

「殺せないならそれはそれでやりようはある。死なない=負けないってゆう方程式は間違いだぞ?」

 

「フンッ、減らず口を······」

 

 

売り言葉に買い言葉、一触即発。

お互いにボルテージが高まったところで、グダグダと戦闘が開始された。

 

 

「先手は譲ってやるよ。ダンタリオン」

 

 

先手、ハチマン・ダンタリオン。

 

 

「それじゃあ、遠慮なく──────」

 

 

ハチマンが右腕を真上へと掲げると、小さな魔法陣が展開される。

召喚の際の魔法陣と同じ、黒に近い灰色。

その魔法陣の中から一冊の本が顔を出し、掲げた右手へと落ちてくる。

ハチマンは難なく本をキャッチすると、それを開き、準備を終わらせ――

 

 

wi#**&@£§º¢(風の鞭よ、蹂躙しろ。)

 

 

意味不明、いや、むしろ発声不可能な謎の声音、謎の言語を呟き。

 

 

 

ビュオッッ!

 

 

鋭い(・・)風の吹き荒れる音が耳に届いた。その直後。

 

 

「───────あっ?」

 

 

気付けば、ライザーの左手の肘から先が宙を舞っていた。

 

 

「なっ、なんだ今のは──────」

 

waº¢ªъютmx(水よ、矢となり降り注げ。)

 

 

間髪入れずに、彼の上空に無数の水適が浮かび上がり、それらは無数の鏃と化し、一斉にライザーへと殺到した。

 

「ッ――!」

 

すぐに後方へと下がるが、それでも避けきることは出来ずに、雨の如く降り注ぐ無数の水滴の矢はライザーの体を穿ち、無数の穴を開けていく。

すぐさま、体中の穴を炎が覆い尽くし、失った左手の肘から炎が伸び、腕の形をとっていく。

次に、ライザーは炎を纏いハチマンへと突撃をかける。

猛スピードで突っ込んでくる人間大の砲弾をものともせず、極めて冷静に言葉を紡ぐ。

 

 

aiёДйЖ#\∀md(空よ、我が身を守る盾となれ。)

 

ハチマンの体に炎の砲弾が届く直後、透明な壁のようなにかが二人の間に立ち塞がり、攻撃を失敗させる。

 

 

続いて、彼は本を捲り、唱えた。

 

 

 

「全ての文明の礎、原初なる炎よ燃え盛れ!」

 

ハチマンの両脇に、二つの魔法陣が現れる。

色は赤色、示すのは炎の紋章。

 

「灰燼に帰せ、炎の剣(ブラスト・ファイヤ)!」

 

魔法陣から放たれるは炎の剣、その地面ごと、ライザーの体を抉り斬る。

 

「ハァァァァァァァァ!」

 

 

燃え盛る炎の中から、ハチマンが放った炎を吸収したのか、紅蓮の焔を纏い飛翔するライザーが上空へと舞い上がる。

 

「喰らえェェェェェ!」

 

腕に該当するであろう二本の棒が向けられ、膨大な熱量を伴った炎の柱が迫り来る。

 

「···ッ、絶対不可侵領域(リジェクター・フィールド)────」

 

対するハチマンは、掌から魔法陣を出現させ、地面へと叩きつける!

 

色は白、示すのは空の紋章。

 

結界三重層(トリプルドライブ)!」

 

ハチマンを起点とし、半円球(ドーム)状の魔法陣が三つ重なるように展開され、ぶつかり合う。

炎の柱と魔法陣の障壁は数十秒間ぶつかり合い、ドーム状の魔法陣を一つ破壊し、ようやくその威力を収めた。

 

「······訂正する、お前は全力で潰してやる」

 

「そうか、まあ頑張れよ。こっちは色々仕掛けさせてもらうけどな」

 

勝負はまだ、始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは苛烈を極めた。

 

不死鳥が放つ炎が空中で不自然にかき消され、腐り目の悪魔がいくつもの魔術を同時に発動させ、徐々にダメージを与える。

その様子を彼らは見ていた。

その戦いに魅入っていたと言ってもいい。

 

片や炎を纏い突撃し、片や防ぎながら確実に魔術を叩き込んでいく。

その光景は、一対一(タイマン)の殴り合いの如く強烈で、目が離せない。

だが、そんな二人の戦いも少しづつ変化を見せた。

腐り目の彼が、押され始めた。

 

様々な魔術をふんだんに振るい、一度として同じ物のない攻撃はひたすらにライザーの体を抉り、穿ち、潰し、もはやダメージを受けていない所などなかった。

それでも、彼はその勢いに衰えを見せず。

尚も優勢と思えるほどだ。

 

また、攻撃が当たった。

 

不死鳥の彼にではなく、少年に。

 

ボロボロ、とまでは行かないが、ズボンはところどころが焼け、黒のポンチョは少し煤けた程度だが、微かに燃えた後が残っている。

首元から除く黒のネクタイは既に無く、若干焼けてしまった襟を見れば、どうなったかは明白だろう。

そして、彼が掛けている眼鏡のフレームが熱で歪み、レンズにもヒビが入っている。

その顔もところどころが煤だらけになり、汚れている。

この勝負、ライザーに軍配が上がるだろう。

 

 

 

だが、そんな中で違和感を持っていた者達がいた。

 

 

彼の幼馴染である三人の少女だ。

 

ボロボロに近い(なり)へと変わっていき、必死に魔術を振るう、そんな姿。

そんな彼の姿を見て抱いた感想は。

 

 

遊んでいる。だった。

 

 

彼は本気だが、若干遊びが混じっている。

いくつもの魔術起動させ、攻撃を加えていくが、それらは有効打となりえなかった。

 

だがそれに戸惑った様子はなく、むしろ当然だと言わんばかりに、冷静に次々と攻撃を加えていく。

詰まるところ、彼は不死身(じっけんだい)に魔術の効果を試しているのだ。

そう理解していた彼女達には、この一方的な展開がある意味可哀想に見えた。

ライザーを嫌っていたリアスでさえ、同情を覚えたほどには。

 

だって、口が三日月状の形に歪んでいるんだもの。

 

そうしてかれこれ三十分近く続いたこの一騎打ちも、終わりが近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初にハチマンが使った特殊言語、『省略言語』による即席魔術、『過程不要(スキップスペル)』について、少しだけ説明しておこう。

 

過程不要(スキップスペル)は、まず普通ではどうやっても発声することが不可能な省略言語を使うことで発動できる魔術だ。

 

この魔術の利点は二つ。

 

使用する魔力が極めて少ない事。

 

発動に至る時間が発声からほぼノータイムである事。

 

この二つだ。

 

この過程不要はそもそも、五大元素に少量の魔力による司令を送ることで一つの魔術として具現化させる現象だ。

 

例えば、先ほど使った水の矢の雨を降らせた魔術。あれなどは空気中の水分に魔力を通じて働きかける事で、人の目で視認出来るほどの水滴になるまで集めることが出来、それを矢として射出させた訳である。

 

ハチマンが実戦で使ったのはこれが初めて。故にこの魔術のメリットとデメリットを使いながら模索していた訳だ。

 

そしてこれのデメリットは。

 

(一回一回の威力が弱い···)

 

予想通りのデメリット。

簡単に、何度も撃てる。

一発の威力はそこまで無い。

対策されれば、かすり傷程度しか与えられなくなる。

まぁそんなことはお構い無しに撃ち続けて、具合を見ているのだが。

 

「どうしたどうしたァッ!!」

 

対して、ライザーのテンションが無駄なまでに上がっていた。

なんだこいつと思ったハチマンは正常、でありたいと思いたい。

なんでこいつこんなにテンション高いんだ?

 

気付けばもう既に三十分近く時間を使っている。

流石にもう終わらせなければ。

 

「そろそろか······」

 

決着の下準備に移ろうか。

 

(さて、と。

 

 

悪いが起きてもらうぞ、『天の鎖(エルキドゥ)』)

 

 

 

 

(ああ、いいとも。君の好きに使ってよ。宿主君?)

 

 

 

直後、ハチマンの体から、厳密には黒いポンチョの袖の中から、無数の煌めきが飛び出した。

 

 

「っ!?」

 

飛び出した無数のそれらは槍の如く殺到し、ライザーの体を穿った。

 

その正体は、金色の輝きを放つ鎖。

 

「ちまちま戦うのも飽きた」

 

「とっとと終わらそうぜ」

 

天の鎖(エルキドゥ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れが、変わった。

 

一方的のように見えた戦いが、遂に変化を見せた。

黒一色の体から放たれる金色の無数の鎖。

それらはライザーを猟犬のように追い立て、時に噛み付くようにその先端の鏃を突き立て、時に絡みつくようにその手足を縛る。

逃げても追いつかれ、容赦なくそれを振るわれる。

 

四方八方から襲い来る金色の流星群。

ポンチョの袖から伸びる鎖は時に複雑に絡み、捩れていき、一本の巨大な柱のようになり、地面を抉る。

これが、腐り目の少年だけから発せられたのならどれだけ良かったろうか。

ライザーを囲むように出現した魔法陣から、全く同じ金色の鎖が顔を出し、発射される。

 

色は金、表すのは天。

 

休む暇なく飛んでくる鎖は、容赦なく不死鳥の体を貫いた。

しかし、そんな中でも徐々に対策を覚えてきたようだ。

もはや自身の体を穿つ鎖を無視し、再生させながら突っ込んでくる。

 

逆に、ハチマンの逃げ場が狭められた。

 

 

が、それはハチマンの予想通りだった。

 

 

 

一直線コース、お互いを阻む障害は無く、不死鳥は最高速度で迫る。

距離はおよそ三メートルにまで縮まり、一秒も経たずに、その悪魔の中でも貧弱の部類に分けられるだろうその体を引き裂きにかかる。

 

これで、避けられない。

 

「──────?」

 

彼が気づいた時には既に遅く、何もすることは出来ない。

その一瞬。

 

少年の胸元、その中心にあるのは、一つの魔法陣。

 

色は深緑、表すのは――

 

 

蛇の紋章。

 

 

そしてインパクトの直前、その魔法陣から飛び出した一本の鎖。

深緑の瘴気のようなナニカを纏った黒い鎖がライザーへと伸び、喰らいついた。

 

 

「──────ッ!!!???」

 

 

そして、不死鳥が纏っていた炎が突如霧散し、バランスを崩し軌道がズレ、お互い激突した。

 

炎が霧散したとはいえ、それでも相当な速度はそのままでハチマンの左腕にぶち当たった。

もちろんタダでは済まず、左肩が脱臼しただろう。

 

ぶち当たった瞬間、ハチマンは勢いよく右回転しながら地べたを転がり、左腕を抑えながら声にならない悲鳴を漏らす。

 

そして、そのままの勢いで地面へとダイブしたライザーは。

 

 

 

 

「うっ···がァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!????」

 

 

 

凄まじい悲鳴を上げた。

 

観戦に徹していた者達の間で困惑が拡がった。

彼は一度として悲鳴を上げなかった。

呻き声を僅かに漏らしはしていたものの、ここまで明確な悲鳴、それも絶叫に分けられる程の叫び声。

その状況に理解が追いつかない。

 

その絶叫の発声元はというと、

胸の中心を掻き毟り、地べたを転がりながらも、正体不明の激痛に意識を失いそうになりながらも、考える。

 

何が、起こった?

 

その原因を探す余裕はなく、ひたすらに声を上げて精神を守ろうとする。

 

その視界の端に、左肩を押さえながらもこちらを見る腐り目の悪魔。

それと、その足に絡みつく黒い鎖。

 

「···なん、だ······そ、れはっ···!」

 

それは、深緑の瘴気のようなもやを纏った黒い鎖。

その先端には、蛇の頭を象ったアンカーらしきものがあり、自らの主の足に絡みつくようによじ登り、胴体、そして肩から頭に当たるだろうアンカーを出してこちらを見つめる様、それらはまるで生きた蛇のような、生物的な動きをする不思議な鎖。

 

この世を覆う毒蛇(ヨルムンガンド)

 

ハチマンは、その黒い鎖をそう呼んだ。

 

 

「ヨルムン···ガン··ド、だと···?」

 

ヨルムンガンド。

 

またの名をミドガルズオルム。

北欧神話に登場する怪物の一体。

その巨大な体躯と、神をも殺す毒の息を持ち、軍神トールと何度も引き分けた筋金入りの怪物だ。

 

それが、黒い鎖に与えられた名前。

 

「だからといって、これがヨルムンガンド、もといミドガルズオルムそのものな訳じゃないがな。暫定的にそう呼んでるだけだ。今は数十メートル程の長さしかないが、実質こいつの長さは無限大だ。最近の最長記録はリリスからシャイターンの距離まで難なく届いたからな」

 

一拍おいて、語る。

 

「恐らくは、ミドガルズオルムの力の片鱗だったものだと、俺はそう思っている」

 

力の片鱗だったもの。

それが神話に名を残したものの力ならば納得できる。

 

「そしてコイツの権能は、精神に対して直接的な攻撃をする事ができる。生きとし生ける者の精神を蝕み破壊する、毒を持った蛇」

 

「どうだ?自分の精神にガツンとこられた感想は」

 

 

その力は、不死であるライザーに対して有効打になりうる切り札(ジョーカー)

 

決着は目前だ。

 

「そ、そんな物をなんでオマエが持っている!?」

 

一気に劣勢に立たされたライザーはそう疑問を口にした。

 

確かに、貴族ではあるが一介の悪魔である彼がどうやってそれを手にしたのかは気になるところである。

 

ハチマンは、当たり前のように答える。

 

「そんなモン、産まれたときから持って(・・・・・・・・・・・)るから(・・・)に決まってるだろ」

 

生まれ持った力。

 

それはライザーのもつ不死と似ているようで、違う。

 

ライザーの持つ不死は、フェニックスとして生まれたからこその能力。

 

対して、ハチマンが持つ力はその血から受け継いだものでは無い。別の力。

 

ライザーはそれに唖然とし、途端に目の前の腐り目の悪魔に対して恐れを抱き始めた。

 

圧倒的な力、その差を埋められる要素を、彼は持っていなかった。

 

ハチマンは歩を進める。決着を付けるために。

 

「 ま、待て! お前、この婚約が冥界でどういう意味を持つかわかっているのか!? 悪魔の将来のために必要なことなんだぞ!?」

 

ライザーに残されたのは、言葉を投げかける事。

 

不死というアドバンテージが意味をなさない今、逆転の手段は一つも無く。

反撃も無意味。

 

「お前は、冥界の未来を一時の感情で潰そうとしてるんだぞ!?純血同士の結婚がどれだけの意味を持つのか、理解しているのか!?」

 

「·········」

 

少年は答えない。

少しづつ歩を進め、距離を詰めるだけだ。

だが、口を開く。

 

「それは別にお前じゃなくてもいい話だ」

 

少年は言う。

 

「純血同士が前提なら、他の所の奴でも問題は無いわけだ。少なくとも、アイツはお前を拒絶している」

 

「なら、別に結論を急がずともいいんじゃねえの?まぁ、早いことに越したことは無いけどな」

 

「だが――」

 

 

 

 

 

 

 

「結局は純血同士の結婚っていう条件前提で、アイツの未来を無理矢理にでも決めようってんなら、

 

 

取り敢えず俺はコイツ(この話)を潰すぞ」

 

蛇のように動く黒い鎖がしなり、ライザーの右足を絡めとると、ハチマンは悪魔の翼を背から出し、急上昇を始める。

気分は後ろ向きのジェットコースター。登り始めから猛スピードで上昇していくという鬼畜仕様。

 

······やっぱどちらかと言ったらタワーオブテラーでロープで足を繋がれて急上昇させられる逆さ吊り(ハングドマン)擬きの拷問が近い気がする。

 

 

ハチマンはコロッセオの外壁の高さにまで到達すると、その場で急制動をかける。

 

引っ張られていたライザーは上へと上がっていく慣性に引き摺られ、急制動したハチマンに近付いていく。

 

 

砲弾加速(バースト)拳打鉄槌(ストライク)――」

 

腕を空へと掲げ、拳を握り、引き絞る。

 

狙うは一点、ど真ん中。

 

間に見えるのは、四重に重なった術式。

 

これまでのとは違い、円形の魔法陣ではなく六角形のもの。

 

色は白、表すは空の紋章。

 

引き絞った腕は、最高速で術式へと放たれ、通過した術式を割りながらライザーへと迫る。

 

狙いは鳩尾。

 

必殺の一撃。

 

「――四連層(クアッドアクセル)!!」

 

直後、地面へと有り得ない速度で墜落する不死鳥が一羽。

 

その様は一筋の流星のようだった。

 

ドゴォン!!と映像作品なんかでありそうな破壊音を響かせて、仮りそめの闘技場のど真ん中に巨大なクレーターが完成した。

 

「さて、と」

 

左肩をゴキゴキと鳴らし、ガチッと関節がハマった感覚を認識すると、左腕を軽く振るって動きを確かめる。

問題は無いようだった。

 

 

そして、彼は宣言する。

 

「終わりだ、不死鳥」

 

右手を水平に、真横へと掲げる。

その掌の先に深緑の魔法陣が出現し、黒い鎖はその魔法陣の中へと帰って行く。

 

告げる。

 

 

「この世覆う世界蛇よ、神をも殺す毒蛇よ。深き眠りより目覚め、終焉の鐘を鳴らすがいい」

 

深緑の魔法陣が巨大化し始めた。

大きさはざっと見て、直径二十メートル近くの大きさにまで広がり。

 

深緑の、この世界すら覆い尽くせる蛇が、向こう側からこちらを覗き見ていた。

 

「我が眼前には打ち倒すべき者有り、その力、厄災を引き起こす体躯を以て、

蹴散らし、貪り、蹂躙しろ」

 

「次元連結、召喚――」

 

 

「世界蛇=ヨルムンガンド」

 

 

現れた。

 

世界を覆える毒蛇が。

 

終わりを告げる巨大蛇が。

 

死神なんて生温い、本当の死の恐怖がそこに居た。

 

「──────」

 

何も、言えない。

その光景に、己の死さえ覚悟した。

 

「──ふざけるな······」

 

だが、まだ終わってはいない。

 

「ふざけるなァァァ!!!」

 

意気消沈しそうになる己の心を、必死に奮い立たせる。

炎を再度纏い、天に吠える。

 

「まだ、終わってなんかいないぞ!」

 

不死鳥の炎は、未だ燻らす。

天に向けて、燃え上がる。

己を見下ろす蛇を、焼き尽くさんとたちあがる。

 

「···一つ聞いてもいいか?」

 

「結局な所、お前はアイツのどこに惚れた?」

 

後は鉄槌振り下ろすだけ。

その直前に、幼馴染の少年は聞いてみた。

単にあの容姿にやられたのか、それとも内面に惹かれたのか。

元々婚姻の話を纏めたのは両家の現当主で、婚姻の話もリアスの卒業後にという話だ。

それを早めてまで、ここまでこだわるものなのかとふと疑問におもった。

 

「何でそこまでアイツとの婚姻にこだわる?」

 

その問いかけに対し、ライザーは笑みを浮かべて宣言するように、口を開く。

 

 

この場で言うべき言葉など、決まっている。

 

 

俺がリアスを愛しているからだ!

 

 

完璧な問答、一途に女を追いかける愚直な男。

誰もがそう思うだろう。

 

誰しもが彼のことを女好きと認識してはいるが、その言葉は場を沸かせるには充分な引火剤だ。

 

例えこの戦いに敗れても、彼の印象はそう悪くならないはず─────

 

 

「あの瑞々しいほどの、美しい肢体を嬲るように味わい尽くしたいに決まってる!」

 

 

 

 

凍った。

空気が凍った。

 

容姿に惚れた、それから始まった恋だ。

とも言わず。

彼女自身の内面に惹かれた。

でも無く。

欲望を満たすために、手に入れる。

言外にそう言ったようなものだった。

 

来客一同、ライザーの女好きは周知の事実で、分かりきっていた事だった。

容姿に惚れたとかならまだいい。

さっきの言葉も、ある意味受け止めきれた。

 

だが、一つ見逃せない言葉があった。

 

嬲るように?

 

その時点で彼女も、彼女の眷属達も、そして幼馴染も、怒りが頂点すら突破しそうだった。

 

そして決して表情には出していなかったが、超絶シスコン魔王ことサーゼクスがコレをスルーするわけがあるだろうか?

 

いや無い。

 

現に、その内心では最早真っ黒どころか色んなものが混ざりに混ざっていき、ドス黒い通り越してグロテスクな位にヤバイモノへと化していた。

 

簡単に言えば、かなりの純度にまで押し固められた濃厚な殺意。

 

そして、もう一人の幼馴染は、

 

 

「·········そうか」

 

 

これまた無表情。

それでいて怒りは隠さず。

滲み出る静かな怒り。

 

「自分の欲に素直で大変よろしい」

 

無慈悲に、鉄槌を振り上げる。

 

「い、いや違う!今のは俺の本心じゃない!オレはリアスを愛して、あの極上な身体を組み伏せてオレだけの······違う!」

 

「何でだ、何で違う言葉しか出てこないんだ!?」

 

ライザーは、混乱した。

 

言おうとした建前が言えず、奥深くに閉まっているだろう本音の言葉が漏れ出すように出てくる。

 

本当の心情を木箱に詰めて接着剤で蓋をして、二つの南京錠のついた箱に放り込み別々に鍵をかけ、さらにその箱を金庫の奥へとやり、元より覚えるつもりの無い暗証番号をデタラメに設定して、同じ物をいくつか用意して見分けがつかない様にするくらいに厳重にしまわれていた心情。

 

それが、自ら飛び出してきたかのように。

 

 

所で皆様は、ダンタリオンという悪魔の権能について知っているだろうか。

 

ダンタリオンという悪魔は、右手に本を持ち、おおよそ人間が浮かべる全ての表情を携えた人間に近い悪魔。

 

そして、ダンタリオンが持つ権能は三つ。

 

一つは、知識や芸術を他者に教え、授けることが出来る。

教鞭に豊んだ権能。

 

一つはこの世のどこにでも、いくらでも幻像を映し出せることが出来る。

最高峰の幻術を行使できる権能。

 

そして、相手の思考を操作することが出来る権能。他者の記憶、感情を捏造し植え付けることすら可能な、催眠術なんか生温い思考操作。

 

ハチマンは、それを限定的に使用した。

 

このダンタリオンの能力、思考操作は実をいうとそこまで便利ではない。

 

行使する際にはいくつかの条件があり、その一つは、対象の心情を不安定にさせること。

今回で言えば、ライザーは謎の黒い鎖によって精神を直接攻撃され、その心情は乱れに乱れていた。

 

だからこそ、この権能を発動させられた。

 

仕上げに、ハチマンはライザーの思考を少しばかりいじった。

さっきの言葉を言うように仕向けたのではなく。

ライザーの無意識下で、考えた建前と本音を逆転させ、口にする言葉が隠された本音

という、どれだけの詐欺師でも対抗することが出来ない状況を、作り出された。

 

そして、飛び出した本音を聞いて彼は怒りを覚えた。

 

関係が希薄になりつつあった幼馴染が、好きでもない男の下へと嫁ぐことは彼の中でもそんなものだろうと許容できた。

いや、許容するべき感情だった。

何故ならば、それは一つの義務だからだ。

今更貴族達上流階級による統治だの政略結婚だの、古き者達である彼ら悪魔とはいえ何時までも古臭いしきたりに囚われている悪魔の現状がどれほど悲惨かは、はぐれ悪魔の対処やその未然の予防策も無く、自らの地位や財を守る為だけに暗躍する者達がいる事で想像がつくだろう。

 

それでも。

 

それでも、最早この感情を抑え込むことは、彼には出来なかった。

 

こんなのはただの自己満足。

感情に任せてこの婚姻を破談にするのは、悪手に近い行いである事は明白だ。

だが、それでいいとは思わなかった。

 

最早、容赦はなく。

鉄槌は天高く掲げられ、見下ろす蛇はその鎌首をもたげて、その巨大な口を開く。

 

「喰らい潰せ」

 

遂に、判決は下った。

 

深緑の世界蛇は一直線に、地に落ちた炎の鳥へとその大口を開けて飛びかかる。

 

「···あ、ああ」

 

地に落ちた鳥に、逃げ場は無かった。

 

ズバムッ!

 

ライザーの下まで到達した世界蛇は、その地面ごとライザーを丸呑みにすると、再び空へと飛び上がり、その巨大な体躯を丸めていく。

 

そして、終幕を告げた。

 

「────オペレーション、D(ディプライブ)D(・ディナイ・) D(デストロイ)

 

一つの球体の如く身を丸めたその体が、一際大きく緑の光を発し始める。

その光が極限まで高まり、爆発した。

 

凄まじい衝撃と音を伴い、闘技場の外壁が吹き飛ばされていく。

 

決着は、着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇が爆ぜ、闘技場は崩れ、空間が消えて行く。

 

ガラスが割れるような音を発し、空間と空間の境目がひび割れる。

ハチマンは背から翼を広げゆっくりと下降し、数十分前までいた会場に静かに降り立った。

 

途中で、何も無い虚空から炎が噴き出し、人の形を型どり始めたそれを、すっかり煤だらけに汚れたポンチョの袖から金色の鎖を数本だし、落ちてくる人型の炎を受け止めて、地面へとそっと置いた。

 

「───っ、勝者、ハチマン・ダンタリオン!」

 

我に返ったサーゼクスが勝者を告げ、静寂が支配していた場にぽつぽつと、小さな拍手がなり始める。

 

「·········はぁぁぁぁぁ······」

 

安堵からか、盛大に息を吐き、すっかり歪んでしまった眼鏡を顔から取っ払い、煤だらけの顔を拭う。

そして、意識を手放したライザーへと近付き、肩を貸すように地べたから起こした。

 

「うわっ、結構重」

 

まあしかし、悪魔の中では貧弱な筋肉。

尚且つ戦闘明けの体では無理があったようだ。

その自分よりも大きい体を引き上げるだけで精一杯だった。足がフラフラなので何度もバランスを崩していた。

さっきまで絶戦を繰り広げ、勝利を収めた少年とは同一人物とは思えなかったことだろう。

 

「ライザー様!」

 

一人の女性が駆け寄ってきた。

映像にも映っていた、ライザーの女王。

自らの主を心から心配していた。

よく出来た眷属だな、とハチマンは思う。

これだけ想われて、身を案じている彼女、いや、彼女達には敬意を払うべきだろう。

 

「後は頼んだ。アンタらの主なんだろ」

 

ライザーの女王、ユーベルーナは支えを失い倒れそうになる自らの主を抱きとめた。

心から、主の身を案じていなければ、これ程までに深い抱擁をしないだろう。

 

「······いずれ、レーティングゲームで再び(まみ)える時は、此度の屈辱を晴らさせてもらいます」

 

尚且つリベンジ宣言ときた。

本当に、いい眷属だことで。

 

「勘弁してくれ。こっちは出来れば、もう試合たくねぇよ」

 

面倒くさそうに、それでいてもうコリゴリだと言いたげに、その場を去る。

向かうのは、壇上にいる幼馴染の下。

 

「よぉ」

 

取り敢えず、話しかけてみた。

しかし、返事は無い。

ただのしかばね――ではないが。

その目には信じられないという感情が浮き彫りになるかのように、目を見開いてこちらを見ている。

 

「······どうして?」

 

帰ってきた言葉は、疑問の問いかけ。

それにまた返す言葉は、

 

「·····仕事だよ」

 

仕事だよ発言。

その冷たい返答に、リアスは心が温かくなるのを感じた。なにせ、あからさまに目を逸らし、若干返答に間があった。その頬も煤で汚れているが、僅かに赤みを帯びている。

 

要するに照れ隠しだ。

それも極めて分かりずらい、彼の妹命名の捻デレという謎ジャンル。

幼馴染だからこそ、分かるものなのだ。

 

「さて、と。フェニックス卿。

此度の、貴方のご子息の結婚式を結果的に潰してしまい、申し訳ありません」

 

佇まいを直して、ハチマンはフェニックス卿へと向き直り、頭を下げて謝罪の言葉を口にした。

 

「構わんよ、寧ろ今回の事でライザーも分かっただろう。フェニックスの不死も絶対では無いと」

 

対してのフェニックス卿の表情は柔らかく。特に気にした様子はなかった。

しかし、それはそれで貴族間の繋がりとして禍根が残る。

だからこそ、ハチマンは一つの案を提示した。

 

「そういう訳にもいきません。ですので、グリモワール大魔導図書館より原書領域(オリジンクラス)迄の魔導書を数冊無償でお貸しします」

 

ライザーが勝利した場合よりは少しレベルが下がるが、原書領域迄の魔導書の貸出を許可する。これだけでも充分に凄い事だ。

 

「君はいいのか?初めの辺りでも言っていたが、君の一存で決めてしまって」

 

「親父···父から許可はとっています。寧ろフェニックス家と繋がりを築いてこいと」

 

一瞬フェニックス卿は呆気にとられたが、厳格な堅い表情は破顔し、貴族らしく、それでいて豪快な笑い声をあげた。

 

「そうか、いかにもダンタリオン卿が言いそうな事だ。

よし分かった。ならば有難く利用させて貰うとしよう」

 

「それでは後日、詳しい話を」

 

話は終わり、ハチマンはもう一度、自分の幼馴染を見やる。未だにどうしていいか分からないといった表情をしている。

 

「·········」

 

頭を掻いて、嘆息しつつも、右手を差し出して取り敢えず言った。

 

「······ほら、帰るぞ」

 

後は、もう戸惑う必要は無かった。

 

周囲の目も構わずに、飛びかかって抱き着いた。

腐り目の幼馴染がカエルが潰れたような呻き声をあげた気がするが、関係なしに抱きしめる。

 

「さぁ、お姫様を取り返したら、後は分かるね?」

 

「······うっす、はぁ···」

 

魔王様からの命令(オーダー)に応えるとしよう。

ハチマンは右手に一冊の本を喚び出す。

戦いの際に用いていたものとはまた違う物の様だ。

 

本を開くと、紫の魔法陣が展開される。

 

「我、汝を呼び覚まし、使役するもの。

汝、我が呼びかけに応え、力を振るうもの。

大空を裂く大翼の主よ、吹き荒れる風を打ち消し、その威を知らしめよ」

 

魔法陣は巨大になっていく。

魔力が集まり、何かが降誕せんとする。

 

「仮契約執行!ヴェズルフェルニル!」

 

その名を喚ぶ。空を駆ける者の名を。

 

喚びかけに応じて魔法陣から出現したのは、巨大な鷹だった。

紫の羽毛に覆われた巨大な体。

翼を広げればその大きさは会場の横幅までの長さにすら余裕で届くだろう。

 

その光景に呆然とする貴族達。

流石の魔王様もこれは予想しておらず、ただ笑うばかりだった。

 

「ほら、掴まれ」

 

なれた様子で巨大な鷹の背に乗り込み、手を差し出してくる幼馴染。

リアスは支えきれるのだろうかと少しばかり不安になったが、その手を掴むと普通に引っ張り上げられる。

 

「だ、大丈夫よね?」

 

「心配すんな、もう何度も乗ってる」

 

「大丈夫よね?本当に大丈夫なのよね?」

 

「そんなに心配かよ·····」

 

見下ろすと結構な高さになっているようで、自然とその背中にくっつく力を強めてしまう。

 

自分の眷属達を見つけた。

眷属になったばかりの後輩は眩しいほどの笑顔をしていた。

神器持ちの騎士も笑みを浮かべていた。

幼馴染の彼女も、笑っていた。

一際小柄な後輩も明確に笑ってはいなかったが、安堵の息を吐いていた。

 

諦めていた未来が、今訪れた。

 

「さて、出るから掴まってろ」

 

体が揺れる。自分たちが乗り込んだ巨大な鷹が、動き出す。向かうのはかなりの大きさの窓。

ヴェズルフェルニルがギリギリ通れる位はある大窓に、歩き出す。大窓をくぐり抜ける直前に、もう一人の幼馴染の姿が見えた。ヴェズルフェルニルの頭が窓から出る直前に

 

 

今だけは、リアスに貸してあげます。

 

 

そんな声が聞こえた気がした。

 

リアスは苦笑した、普段はしっかりとした真面目な優等生であるが、その実独占欲というかなんというか、その辺りの欲が結構強い彼女から、そう言われてしまった。

後で何を言われるか分かったものじゃない。

 

そんなことを考えていると不意に、前方から強烈な風が押し寄せてくる。

思わず目を瞑り、しばらくするとその風も緩やかなものへと変わっていった。

 

「───」

 

瞑っていた目を開ける。

 

視界に広がったのは懐かしい背中。

その端に見える冥界の夜景。

見慣れた筈の冥界の空、だがそれでも、こうも違って見えるものだろうか。

 

「·········」

 

耳に届くのは風を切る音だけ。

たったそれだけなのに、喧騒に包まれるパーティ会場よりも居心地がいい。

 

「···ありがとう」

 

「何がだよ······」

 

「こうして助けてくれた事」

 

「だから····仕事だって言ってんだろ······」

 

「ハイハイ、ちゃんとわかってるわよ」

 

「何がっ、ちょっ待て!バランス崩れる!」

 

ああ、懐かしい。

そう率直に思う。

こんな感じで、彼の捻くれた言動を聞きつつも、三人で笑いながらからかっていた。

そんな昔の、懐かしい記憶を思い出して、

 

ふと、思い出す。

 

「ねぇ、子供の頃にした約束って、覚えてる?」

 

子供の頃に交わした、微笑ましい約束。

成長した暁には見事な黒歴史に昇華されることだろうそれを、目の前の彼は覚えているだろうか。

 

「·········」

 

返事は返ってこずに、数十秒たっぷりと間が開く。

 

(······覚えてるわけない、わよね)

 

覚えていない、若しくは本気にしていないのか。

彼がこうして助けてくれた事は素直に嬉しかった。

それでも、どこか寂しさを覚えた。

自分から避けていた癖に、なんと身勝手で愚かしい女だろうか。

そう自分で自分を結論づけた。

 

(·········待って、そもそも私は、

 

 

何でハチマンを避け始めたの?)

 

途端に、自分が分からなくなった。

理由はある。

あったはず。

そうでなければ、そもそも彼を避けたりしない。

なら何故?

リアスはその理由が思い出せなかった。

 

もし、何の理由も無く彼を避けていたのなら――

 

「覚えてるに決まってんだろ」

 

「······え?」

 

答えが返ってきた。

覚えている、と。

 

冷静になって考えてみる。

こうしてたっぷり間を開けて返した時は、大抵悩みに悩んで返した本心だ。

その証拠に、少しばかり声が小さくなっていた。

それはつまり

 

「何で聞いたお前が疑問符浮かべてんだ···」

 

「えっと、それは······」

 

「·········忘れられるわけがねぇよ」

 

 

 

「だからこそ――」

 

 

 

 

 

『だから――』

 

 

 

 

 

 

「こうして迎えに来てやったんだろうが」

 

 

 

 

 

『大きくなったら、はちまんがわたしをむかえにきて!』

 

 

 

 

 

「────」

 

 

思い出した。

 

彼を避け始めた、その理由を。

彼に頼りきりになりたく無かったのだ。

彼が頼ってくるような、そんな大人になりたかったのだ。

彼の隣を、胸を張って歩けるように。

だからこそ、その不器用な優しさに身を委ねないで、自立したかった。

 

「─────」

 

なんとも馬鹿げている。

呆れたくなった。

その理由を今の今まで忘れていた自分に。

彼に認められる位、立派になろうとして、本来の目的を、理由を忘れていた。

 

抱きしめる腕の力を、ゆっくりと強める。

 

そして、改めて思った。

 

彼を好きになって良かった。と。

 

 

歓喜に震える心を、力一杯抱きしめる事で表した。

今すぐにでも、もっと違う形でこの歓びを表したい。

だがそれを、彼は望まないだろう。

 

まるでその空気に唆されたような事を、彼は望まない。

だから、今はこれで十分だ。

悪魔としての生、その時間はたっぷりとある。

ならば時間いっぱい、それを少しづつ築き上げよう。

最早、間を持たせる為の言葉など必要ない。

ただこれだけで、満たされるのだから。

 

「───きゃあ!?」

 

急に、風の勢いが変わり始め、さっきまでの進路とは違う方角へと飛び始める。

 

「な、何?一体どうしたの?」

 

「あーいや、ヴェズルフェルニルを喚んだはいいんだがな?このまま移動手段にだけ使って帰すってのはちょっとアレな訳で······まぁその――」

 

彼は言葉を濁して、小さな声で言った。

 

「コイツの気が済むまで飛ばすから、その······まぁアレだ、深夜の空中散歩、みたいな」

 

 

············翻訳開始。

 

コイツの気が済むまで=建前

 

空中散歩=ヴェズルフェルニルでドライブ

 

A/夜のドライブのお誘い。

 

 

「······それじゃあ、シャイターンまで飛ばしなさい」

 

「ハイハイ、ようそろようそろ」

 

気分は深夜のハイテンション。

プラスの想い人との空中散歩。

 

心が踊らないわけが無い。

 

後は、心ゆくまで楽しもう。

 

 

「ハチマンは最近何かあったの?」

 

「特にねぇ。本読んで実験して本読んで魔道具作って本読んで寝て······本ばっかり読んでるな」

 

「それ以外では?」

 

「だから無ぇよ。お前が期待してるようなものは·········あっ、そうだ。人間界の学校とかってどんな風だ?つーかお前上手くやれてんの?」

 

「どういう意味よそれは」

 

「お前タダでさえ目を惹く外見してんだから、人間の普通の友人が居なさそうだなと」

 

「······そんな事ないわよ」

 

「オイ、こっち向けよ」

 

「というか、コミュ力ゼロに言われたくないわよ。

正直、最初ハチマンが来た時思わず別人?って思ったんだから」

 

「あーあれか、自分の思考を操作して無理矢理冷静に振舞ってた。あれ結構キッついわ。不死鳥と戦うよりもそっちの方が辛かった」

 

「全く······まぁいいわ、教えて上げる。

向こうの事とか色々」

 

夜はまだ、始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長!大丈夫だったんすか!?」

 

翌日の放課後、少しばかりの間空けていただけなのに妙な懐かしさを感じさせるオカルト研究部の部室。

 

開幕そう尋ねてきたのは、八つのポーンを消費して転生した神滅具持ちの眷属。

変態として知れ渡る後輩の兵藤一誠。

先日のレーティングゲームの負傷で起きられなかった(最終的にトドメ刺したのは義姉のメイド長)彼は、結婚が破談になったと同居者のアーシアから話を聞き、その確認に参った次第だ。

 

「ええ、綺麗さっぱり白紙に戻ったわ」

 

「それじゃあ、これからも?」

 

「大丈夫よ。しばらくはこんな話来ないでしょうし」

 

本人から話を聞くやいなや、イヤッフー!と何処ぞの配管工のような歓声を上げ喜んだ。うるさいです。と小柄な後輩によりドデカイのを一発貰って沈黙したが些細な事だ。

 

「そういえば、あれからライザーはどうなったんですか?」

 

騎士の木場が主に聞いた。

強烈な負け方をしたライザーはどうなったのか、と。

リアスは特に気にした様子はなく、ああ、あれなら、と前置いて、言う。

 

「何だかあれから『蛇が蛇が蛇が蛇が蛇が蛇が蛇が···』って呪詛のように呟いてて、長い物とか緑色の物とかを極端に怖がっているらしいみたい。

かなりトラウマになってるみたいで、蛇って単語を聴いただけで身構えたり、トイレに入る度に『トイレットペーパーってなんで長いんだろうな······』って言うようになってて」

 

······想像以上に酷かった。

あれだけの事をされれば誰でもそう思う。

自業自得なのだが、これには流石に同情を覚えたグレモリー眷属一同であった。

 

いつの間にか復活した兵藤が、そういえばとリアスに聞く。

 

「結局なんで婚約が無くなったんすか?」

 

何も知らない兵藤にして見れば完全にヤム○ャ視点だ。

 

リアスはそんな兵藤に、それはね、と笑顔でこう言った。

 

 

「頼れる幼馴染が、助けてくれたのよ。

 

私の、大切な幼馴染が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へくしゅっ!!」

 

 

くしゃみが響くダンタリオン邸の自室。

ハチマンは相も変わらず読書に熱中していた。

埃っぽいのか······?と思い、今度また掃除をしておこうと脳内決定を下し、また読書へと戻る。

 

「全く、昔から変わらねぇな。アイツのお転婆具合はよ」

 

昨日の大立ち回りを思い出して、余りにも自分らしくのない自分を黒歴史認定初段にしておいた。

 

他のものは·········今はまだ、語られない方が良いだろう。

 

「まぁ、いいか」

 

 

ともかく、いつも通りの日常が、戻ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、ホントに素直じゃないなぁ、お兄ちゃんは」

 

「それでこそ先輩じゃないでしょうか?」

 

「······それもそうだね。素直なお兄ちゃんはそれはそれで良いけど、お兄ちゃんらしくないか」

 

「えっと、それでコマチさん?その紙は一体······?」

 

「ふっふっふ·····マシュさん、コマチは考えました。リアスさんが婚約してたんだから、お兄ちゃんにも婚約の話が来てもいいのではと」

 

「······コマチさん?この流れからしてそれはまさか···」

 

Exactly(その通り)!!故に、お兄ちゃんにも春を、そしてコマチのお義姉ちゃん候補をゲットするため······」

 

「コマチさん、一回落ち着きましょう?それだと先輩が――」

 

「さぁ善は急げ!早速お父さんやお母さんに伝えないと!!」

 

「ちょ、待ってくださいコマチさん!!それってつまり先輩とリアスさんが――」

 

 

 

 

 

平和とは、長続きしないものである············

 




お疲れ様です。
毎度あっちこっちフラフラな駄作者で本当に申し訳ない。(博士)

あ、次の話はもう出来てるので近いうちに投稿しますよ~。
誤字修正などがあるのでね、あとサメ映画を消化してないのじゃ。サメを殴れ!スッパシャ!

あと何故かこれ(本赤の方で書いた番外編)を書いたあとでガチャしたらエルキドゥが出てきた。小説で書いたものなら出るのかな······?なりゃば次は玉藻······ムリだ玉藻のキャラ書けない。

それはさておき、四月に入り進級したり進学したりと、新たな生活が始まる頃合ですね。
もう私も今年から受験生·········皆で頑張っていきましょう。

それではまた次回で!|・x・)ノシ






この前の反省会(様式美)

silver「うん、そういう訳で······データ飛んじゃった。」

友人B「お前はアホか?」

友人C「処す?処す?」

S「許してヒヤシンス☆テヘペロ(・ω<)★」

B「D、卍固め。」

友人D「OK!(グワシッ」

S「うがああああ!」

友人E「汚い·········」

B「で?どうだ?直りそう?」

友人F「無理だねぇ。バックアップも取ってないなら手の施しようがないや。データは電子の海に藻屑と消えたよ。というか俺パソコンとか得意じゃないのになんで俺にやらせて見せるのかな?かな?」

B「この中で一番パソコンに強いのはお前だろ。まあ無理なら仕方ないか、おいバカ?さっさとお前の記憶片っ端から引っ張り出して復旧作業に移るぞバカ。」

S「バカって言った!?親父にも言われた事ないのに!」

C「ひでえ名台詞パロだ······」

B「小便は済ませたか?神様にお祈りは?真っ暗な部屋でガタガタ震えて復旧作業に勤しむ心の準備はOK?」

S「NO!」

B「OK(ズドン!」

S「ギィヤァァァァァ!(ショーリューレッパー!」



終われ。



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月光校庭のエクスカリバー
super driver


第二話目でございます。
引き続きsilverの迷走ワールドをお楽しみください。


PS:サブタイトルに付けた曲名分かりますかね?


「·········待て親父。今なんて言った?」

 

「だから、明日からお前も人間界に行くんだよ。リアスちゃんやソーナちゃんと同じ駒王町にな。何度も言わせんなメンドクセェ。」

 

 

 

 

ダンタリオン邸の一室。古びた品々に彩られたその薄暗くも威厳を感じさせる部屋。ダンタリオン卿の自室には今現在、二人の悪魔が居た。

 

片や椅子の背もたれを前にして、腕と頭を上に乗せてだるい雰囲気を垂れ流すおっさんと、つい先日大立ち回りをしたばかりの目の腐った悪魔が、そのおっさんが口走った言葉にポカーンとしていた。

 

鳩が豆鉄砲を食らったような顔でしばらく固まっていると、眼前のおっさんから軽めのチョップを食らい強制的に再起動させられる。

 

この二人、未だに言葉を発せないハチマン・ダンタリオンとその親、ダンタリオン卿ことガミル・ダンタリオンである。

まずは、何がどうなっているのかという話だが、表にするとこうなる。

 

呼び出されるハチマン。

自室に入り次第本題に入る。

明日から人間界行ってきて。

フリーズ。←今ココ。

 

 

······理由は?

 

 

 

「···何で俺が行かなきゃならねぇんだよ。」

 

「ずっと家に篭ってちゃ勿体ねぇだろお前の人生。コミュ力ゼロなのは知ってるがな、ずっとその力(家の血)に頼ったままじゃ根本的な解決になりゃしねぇよ。

要は対人スキルを身に着けてこい。」

 

「ぐっ······だ、だが契約の事がまだ終わって無ぇんだ。時間を空けるわけには――」

 

「契約遂行なら問題無ぇよ。必要な研究道具一式ぐらい持って行け。

向こうに人間界用の家もあるからな、後はそこで自由にやっていいからよ。

工房に改造するなりなんなり好きにやっちまいな。

契約にもしっかりと専念できるだろう?」

 

「······なら俺の――「言っとくがこれは俺だけの話じゃなくてな、サーゼクスとセラフォルーの嬢ちゃん達からの命令でもあるんだ。理解したか?」

 

 

逃げ道を、すべて塞がれた。

 

理由は正当に片付けられ、契約の遂行も問題無く行える環境を手配された。

 

オマケに魔王達からの強制命令。

 

 

 

うん、詰んだ。

 

「つー訳で、行け☆」

 

 

引き篭もり超越者候補は、親から実に憎たらしい笑顔で送り出された。

 

慈悲がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「·········ひ、比企谷八幡です······よ、よろしくお願ひしまひゅ·········」

 

 

 

そして、自己紹介という彼からしたら一種の拷問という試練で盛大に噛みまくり、見事に大爆死を決めたハチマン・ダンタリオンこと比企谷八幡。

人間界生活の初日から前途多難であった。

 

 

尚、これにクラスメイトとなる人間の同級生達は大笑い。

見知った顔の幼馴染達三人は笑いを噛み殺す様に顔を俯かせていた。

 

帰りたいと思った彼を責められる者はいるだろうか·········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰りたい······」

 

「初日からなに弱音吐いてるのよ。」

 

「初日からこの有り様だから言ってるんじゃねぇか······」

 

「まあ、あれがきっかけですぐに馴染めましたから······きっと必要な犠牲だったと思えば。」

 

「恥ずかしすぎる·········誰か、スコップ貸してくれ。穴掘って地面に埋まるから···」

 

「凄い落ち込みようですね······これがつい先日大立ち回りを演じた人と同一人物だと思えません。あ、羊羹食べますか?」

 

「······貰う。」

 

 

······部室に入れば、こんな状態。

余りにもカオスな空間。

そして知らない人物が増えていた。

脳に叩き込まれる多くの情報。

 

いっせいはこんらんした!

 

 

「えっと、部長?何故彼がココに?というか何でそんな落ち込みオーラを放ってるんですか?」

 

一誠と同タイミングで入ってきた木場が尋ね、一誠も嵐に掻き乱されている思考の海から緊急浮上し、その返答を待つ。

ついでに誰ですかその男何で部長が頭撫でてるんすか今すぐそこ変われという感情があったりなかったり。

 

 

「えっとね、今日から転校してきたんだけど例の如く自己紹介で噛みまくっちゃって······」

 

「······お察しします。」

 

「えっと、ドンマイ···ですよ。」

 

部長が説明した。

木場が納得した。

アーシアが慰めていた。

体操座りの男が放つオーラがさらに淀んだ。

 

まあとにかく。

 

 

「あの部長、結局そいつ誰なんすか?」

 

いい加減その辺りを把握しておきたい。

自分以外の全員が知っているというヤムチャ状態から脱したいという切実な願いがあった。

というか何故にアーシアまでその男を知っているようなのかが気になったのだ。

 

これは嫉妬ではない、親心なのだ!

というのは本人の弁。

 

「そうね、紹介するわ。

彼はハチマン・ダンタリオン。私の大切な(・・・)幼馴染で、この前の婚約を白紙に戻してくれた功労者よ。」

 

「······へーそーなんすかー······」

 

 

部長の大切な幼馴染···

 

大切な幼馴染······

 

() () () 幼馴染·····

 

 

(コイツ、敵か!)

 

激しく、嫉妬の炎が燃え上がる。

 

(種蒔鳥野郎の次には······コイツが部長を···)

 

ハーレム王目指している目の前の思春期の少年(世界一馬鹿な生き物)はそれはもう嫉妬の炎を燃え上がらせた。

 

というか、自分たちの主を窮地から救い出した恩人に向けて発していい感情じゃないだろうに。

 

 

「――俺は兵藤一誠。ハーレム王になる男だ!」

 

と、一端心の奥に嫉妬の炎を閉まっておいて、手を差し出しながら自己紹介。

実に健全な少年だ。うん。

 

言ってることは健全ではないが。

 

「···························ハチマン・ダンタリオン。人間としての名は比企谷八幡。まあよろしく頼む。程々に。」

 

握手には応じなかったが、そう彼は返す。

 

赤き龍(ウェルシュ・ドラゴン)を宿す兵士(ポーン)緑の蛇(ヨルムンガンド)を宿す(キング)が、初めて邂逅した瞬間だった。

 

「さて、なんで呼ばれたのか聞いてもいいか?」

 

「それなら······もうすぐ分かるわよ。」

 

「······?」

 

説明などする暇がなかったが、ハチマンが此処オカルト研究部に居るのは呼ばれたから、というのが理由だ。

あの落ち込んだテンションの状態だったので空返事しか返しておらず、此処まで引き摺られて連れてこられたという経緯がある事をここに記しておく。

 

さらに言えば今回ハチマンが連れてこられた理由を本人は説明されていないのだ。

 

······ハチマンセンサー(頭頂部のアホ毛)が嫌な予感を感知した。

 

······なんか見知った魔力の固有波が近づいてくる。

 

「······悪いリアス、家に帰るわ。まだ引越しの片付けやら終わってねぇし。自分の眷属(かぞく)と水入らずで楽しんでくれ。という訳で比企谷八幡はクールに去るぜ――「悪いんだけど、そういうわけにもいかないのよっ、だから大人しくしててもらえるかしら!」なっ、何をするだァー!はっ、離せェ!嫌な予感しかしない!近づいてくる魔力の波長がめっちゃ見知った奴のなんだけど!しかも嫌な臭いがプンプンするヤツが!」

「私だって悪いと思ってるわよ!だけど後でなんて言われるか分かったもんじゃないし!ハチマンには色々と聴いておかなきゃいけないことがあるってスゴイ笑顔で言ってたし!」

「それヤベェやつじゃねぇかよ!アイツ唯でさえ生徒会長なんて役職で書類やら何やら捌いてるって聴いてるけど!仕事が終わらないって何度も愚痴言うために執務の最中でも構わず通信掛けて来たんだぞ俺宛に!絶賛不機嫌真っ只中のアイツのストレスの捌け口にされるのがオチだ!勘弁してくれよタダでさえそのストレス発散方法がアレだっつうのに、そこまでぶっ飛んでる訳じゃねぇけど俺にはキツいんだよ!」

 

全力退避を試みるハチマンとそれを後ろから両脇に腕を通して抱き着く形(つまり羽交い締め)で引き留めようとするオカ研部長。

一誠とアーシア以外の面々はそれを微笑ましく見ていた。特に副部長の朱乃は恍惚の顔で眺めていた。このドSめ。

 

そして天使の様な笑顔を見せてくれる元シスターの眷属悪魔、アーシアでさえもどうしていいか分からず、オロオロとしていた。こんな惨状を目の当たりにすれば当然ではある。

兵藤の方はというとパルっと嫉妬の炎が燃えかけたが、二人のその必死の形相に、あっ······本当にヤバそうと何かを察した。

 

 

二つの騒ぎ声が木霊する部室に、失礼します。という凛とした声が響くと同時に扉が開く。

ピタリと、喧騒は止まりその発生源だった二人は開かれた扉へと目を向ける。

 

 

「···生徒会長?」

 

入ってきたのはこの駒王学園の生徒会長。

支取蒼那だった。

その外見、真面目な立ち振る舞いからなにまで正にいいんちょ属性な彼女が、自然な笑みを携えてそこに立っていた。

世の男どもならば誰もがやられおっふと呻くことだろう。

実際兵藤と彼女の後ろにいる付き添いの少年にはクリティカルヒットしたようだ。

 

だが、幼馴染たちは知っていた。

その笑顔の裏、さっきまで騒いでいた二人にはそれが貼り付けられた笑顔で、物凄い黒いオーラが可視化する位に滲み出てゴゴゴゴという擬音が付属してきそうな、そんな風に彼らには見えた。

 

「い、いらっしゃいソーナ。」

 

「よ、よう。久しぶり···だな。」

 

「ええ、失礼しますよ、リアス。それと久しぶり······本当に久しぶりですね、ハチマン君?」

 

さっきまでは不穏な魔力の波動だったが、現在は如何にも私不機嫌ですな黒いオーラが垂れ流れており、なるべく地雷を起爆させないように発する言葉を厳選していく。

これ以上不機嫌さが天元突破したら黒を超越した何かに変化しそうで恐ろしいのだ。

 

「えーと、それでソーナ?今回来たのは何でなのかしら?」

 

「······お互いに眷属が増えたようなので、その挨拶に来たんですよ。

それに近いうちに球技大会もあるので、その宣戦布告に。」

 

「そ、そうなの。私も近いうちに紹介しようと思ってたのよ······うん。丁度いいわね······」

 

「ええ、そうですね。リアス。

 

 

 

所でいつまでそうしてるんでしょうか二人共?」

 

「「············あっ。」」

 

今気付いたらしく、慌てて離れる赤と黒の男女。

それを見届け、小さなため息を吐くと目に見えていたオーラが霧散したように感じた。

······危ない所だった。

 

「んんっ、それじゃあ改めて紹介するわね。新しく入ったアーシアと一誠よ。」

 

「えっと、よろしくおねがいします···」

 

「よ、よろしく、おねがいします!」

 

なんか知らないが流れに任せておこう。

とにかく危機は脱したようだ。と一誠は二人の表情が安心したものへと変わった事に心の中で息を吐く。

 

 

 

·········あれ?なんか引っかかって······

 

 

「え?あの部長、今お互いの眷属って、それってまさか······」

 

「ええそうよ。ソーナも私と同じ悪魔よ。それも純血の。」

 

「え?···············えェェェェェェェェ!!」

 

初耳な情報に一誠はただただ驚愕した。

だって学園の生徒の中枢が悪魔である事に驚きを持たない方がおかしいだろう。元人間として。

 

「それで······ソーナの眷属はそこの子かしら?」

 

「ええ、新しい眷属の匙です。匙、挨拶なさい。」

 

「わかりました会長!生徒会所属、ソーナ・シトリー会長の下僕になった、匙 元士郎です。よろしくおねがいします。」

 

匙と名乗った少年は自己紹介を終えると深々と頭を下げ一礼する。

その角度はジャスト45°と徹底されたおじぎだった。

この徹底されっぷりにはリアスも驚きを隠せないでいた。

生徒会長は当然だと言っているが、新人悪魔が此処までしっかりしているのはなかなかないと言っていい。

 

その賞賛されるべき本人はその頭を上げると、一誠を注視するように視線を送る。

 

「···ん?なんだよ、俺の顔になにか付いてるか?」

 

「まさかお前がリアス先輩の下僕になっていたとはな、兵藤!」

 

「えっと···」

 

「何でリアス先輩がお前を下僕にしたかは分からないが、精々足を引っ張らないようにな。」

 

「なんだよいきなり!なんでお前にそんな事言われなきゃならないんだよ!」

 

なんか知らんが一触即発、というか既に引火し始めた両者。

 

同期同士の確執か、というか匙が一方的に忌避していると言った方がしっくりくるか。

来たばかりのハチマンには知る由もないのだが、兵藤一誠という神滅具(ロンギヌス)所有者は駒王学園の全生徒から目の上のたんこぶに近い、というかそのまんまな扱いをされている。

その原因が日頃の行い故の事なので自業自得としか言いようがないのだが······

 

「俺は兵士(ポーン)の駒を四個使ってるんだ。つまり普通の兵士よりも兵士四人分の強さを持っているんだ!」

 

今度は使用した駒の数の話になったようだ。だがそれを言ってしまうと······

 

「フッ、甘いな!俺は八個全部の駒を使ったんだぜ!」

 

「はっ?はあっ!?嘘言うな!何でお前が、というか八個全部使ってようやく転生したっていうのか!?そんな話聞いた事も無いぞ!」

 

······まあこうなる。

まあその疑問はもっともだろう。

 

「匙、彼の言っている事は嘘ではありませんよ。実際に兵藤君は神滅具の一つ赤龍帝の籠手を所有しています。」

 

「なっ!?······コイツが赤龍帝って·········」

 

なんとか沈静化したようだ。

匙と言った少年はまだ若干認めきれていないようだが。

 

「·········納得できませんが、取り敢えず分かりました。それと、そこにいる男子生徒は一体誰ですか?見たところ悪魔の気配は感じられませんが······」

 

「匙、彼も悪魔よ。それも純血の貴族。」

 

「······えっ?」

 

匙少年、本日二回目の驚愕。

 

「いやでも、悪魔の気がまったくしないんですが。」

 

「······ハチマン君、ここではソレを外しても構いませんから。」

 

「······分かった。」

 

ハチマンは委員長属性持ちの幼馴染からの司令通りに、ソレと指さされた眼鏡を外す。

 

「――――っ!?」

 

するとどうだろうか、さっきまで自分の目の前に居たのは普通の人間の男子生徒だった筈が、凄まじい悪魔の気と膨大な魔力が瞬く間に部室を支配していく。

 

一瞬で膨れ上がった、ではなく押さえつけられていた魔力が一気に飛び出てきたかのように、その膨大な魔力は恐ろしい速度で部屋の空気に混じり、かれらの肺すらも満たすだろう。

 

「す······凄い。」

 

一瞬にして部室を満たした魔力の奔流に、新人悪魔の匙は圧倒されていた。

おおよそ個人で、これだけの魔力を持つことが出来るのだろうかと。

魔王、そう呼ばれる者達でなければ至れない領域。

その魔道の極地に、彼は居る。

手札の数と、あらゆる魔術や魔法、魔道を究めた者。

故の、超越者候補。

故に付けられた、千の魔術を携えし者(グランドキャスター)という渾名。

 

 

 

「·········ハチマン・ダンタリオン。人間としての名前は比企谷八幡だ。そこまで懇意にする事は無いだろうが、まあ宜しく。」

 

「······よろしくおねがいします。」

 

気だるげな雰囲気からは想像出来ない程の威圧感。

 

匙は目の前の目腐り悪魔に畏れを抱いた。

そして同時に、憧れを抱いた。

 

自分もこれ程の強い悪魔になれるだろうか

 

並大抵の努力ではその頂きにまで至れないだろう。

だからこそ、匙はいつかこの人と同じ景色を見れる事を夢見て、こう誓う。

 

今よりも強くなって、自分の主に振り向いて貰えるように、誰よりも強くなる。

 

そんな青臭い夢を、目標を、突き進むと胸に誓う。

恐れを抱き憧れをも抱いた、その悪魔の腐ったように見える無機質(・・・)な目を見ながら。

 

 

 

「それじゃあリアス、コレ借りていきますね。」

 

 

「·········は?ちょっと待ぐげっ!?」

 

ソファに腰を下ろし深く座っていたハチマンの制服の後ろ襟をガッシリと掴み、猫の首根っこ摘んでプラーンさせるように持ち上げると、そのまま部室を後にしようとする。

 

ついでに補足しておくと、持ち上げられた後に床へと尻から着地することになり、そのままズルズルと引き摺られて連行される憐れな上級生がいた。

 

「おい、ソーナ?ちょっと待って、何で連行されてんの俺は。」

 

「リアスから聞きませんでしたか?ハチマン君には色々と聴いておかなきゃいけないことがあるって。」

 

「·············································」

 

「ついでに書類の整理も手伝ってください。」

 

 

 

腐っている彼の目が一段とさらに腐ったように、オカ研の面々は見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、やっぱり着いてきて正解でしたね。」

 

「本当ですね、姉さん。私達がいなかったらあっという間にゴミ屋敷の完成でしたね······」

 

「············なんでお前らが居るの?」

 

「ガミル様から様子を見てこいとの命令です。というか、ハチマン様がだらしないおかげで私達が駆り出される事になったんですから。」

 

「····生活能力自体は悪くは無いのに、それを振るおうとしませんから、ハチマン様は······本当にもったいないですね······」

 

「······一人暮らしなら一人暮らしなりに楽しもうと思ってたのに······」

 

「「そう言って、どうせ引き篭もって研究三昧だったでしょう?」」

 

新しき活動拠点となるそれなりの大きさの一軒家へと帰還した家主は、ゲンナリとした様子で玄関を開ける。

あの後たっぷりと愚痴を聞かされたり今までの空白の三年近くを根掘り葉掘りと聞かれたり書類整理を手伝わされたりetcetc·····今朝の事も含めてそんなストレスオンパレードな内容の濃い一日から家主が帰還してみれば既に上がり込んでいた二人の小人(瓜二つの容姿から双子の妖精)が玄関を漂うように浮かんでいた。

 

それぞれ茶色の割烹着とメイド服を身に纏い、一際目立つ赤の髪を彩るのはそれぞれ青のリボンとホワイトプリムと呼ばれるフリル付きのカチューシャ。

 

格好が違う以外では後は瞳の色でしかどっちがどっちか判別出来ない位な程そっくりな双子の妖精がジトーっとした視線を向けている。

 

「·········分かった、分かったよ。お前らには隠し事なんざできねぇんだな····じゃあ頼むわ。琥珀。翡翠。」

 

「ええ!琥珀さんに全て(・・)任せてください!」

 

「······頑張る。」

 

その双子、名を琥珀、そして翡翠といった。

快活な笑顔で胸を張っているのが姉の琥珀。

大人しめで両手を胸の辺りでぐっと握っているのが妹の翡翠。

ダンタリオン邸でもそれぞれ給仕として仕えている姉妹妖精。

ダンタリオンのブラウニーというそのまんまな渾名を賜ったブラウニーという妖精の姉妹だ。

 

この二人、給仕もといメイドの仕事ぶりは申し分なく、評価も高いのであるが····この姉妹は共に両極端な厄介さを持っていた。

 

 

「それじゃあ琥珀は掃除禁止、翡翠は台所だけには立つな。本当に頼むから。」

 

「「·········はーい。」」

 

この姉妹、それぞれの腕はかなりいいと評判ではあるが、それぞれの得意分野と反対が壊滅的にひどいのだ。姉の琥珀が掃除をすれば逆に散らかる所か物品を破壊しまくる。

翡翠曰く「姉さんが箒を持つと館が壊れていく。」という散々な評価を頂戴し、琥珀が初めて掃除の仕事を請け負いいざ掃除を始めてみれば、その結果ダンタリオン邸の30%が機能停止し、ダンタリオン家秘蔵のインシデントファイルの一つとして、お掃除クライシスという事件名で登録されて以降、琥珀には箒を持たすな!というか掃除させるな!と厳しく通達がされた。

 

そして妹の翡翠はというと、料理の腕が壊滅的を通り越してもはやメシマズをも超越したナニカへと至っている。

その代表的にして一番の要因である彼女の自称自信作、梅サンドなるものを知ってもらえれば分かるだろう。

 

何もかもが赤赤赤。

梅酢の強烈な匂いと色彩が初手から視覚と嗅覚を刺激(劇物的な意味で)し、口にした者を食卓のヴァルハラ(物理的な意味で)へと誘う、翡翠以外には再現できない唯一無二の料理。

一度口にすれば二度と忘れることの出来ないその味は、味覚のパラノイアへと陥ることだろう。

 

ぶっちゃけた話、翡翠は料理が苦手だ。

しかも本人は自覚しているのだが、その酷さが翡翠自身の認識を軽く上回っているのだ。

 

結論、琥珀には掃除を、翡翠には料理をやらせるな。なんとしても。絶対に!

というのがダンタリオン家の総意だ。

 

取り決めが終わり、しっかりと役割分担を取り決めてから、荷をまだ箱から出し終わっていないのでその作業をするべくリビングへと向かおうとし――

 

チャイムが鳴った。

 

「はて、早速来客ですか?」

 

「·····ハチマン様のお友達?」

 

「あははー、翡翠ちゃんその冗談は面白いですねー。ハチマン様にお友達と呼べる人なんて皆無でしょうに、幼馴染を除いてですけど。」

 

「·········そうでしたね、姉さん······」

 

「その通りなんだけど止めてくれない?」

 

踵を返して、ハチマンは扉へと向かい取っ手に手をかける。

妖精であるブラウニー姉妹は一般人に今の姿を見られるわけにはいかず、ハチマンの背中に一時的に隠れた。

 

「······誰だ?」

 

気だるそうに、嫌そうに扉を開けてみればそこには――――――

 

 

「人間界の住み心地はどうかしら?ハチマン。」

 

 

見知った緋色の髪の幼馴染がいた。

 

 

「·········間に合ってるん「勝手に閉めないの。接客の態度としては最悪よ、それ。」·········いや待て、何できたんだよ······」

 

「あれ?リアス様じゃないですか!お久しぶりですね!」

 

「·····本当だ。お久しぶりです、リアス様。」

 

聞きなれた声に反応した二人の妖精メイドが少年の肩から飛び出し、緋色の少女の(もと)へと飛んでいく。

 

「あら、琥珀に翡翠じゃない。二人も来てたのね。」

 

「ええ。ガミル様からの命令でして、こうして人間界に参りました!」

 

「私達、ハチマン様のお世話係。」

 

「あー······そういえばハチマンって極端に面倒くさがり屋だったわね。」

 

「ところで、リアス様は何故こちらへ?

その大荷物と関係が?」

 

「引越し祝いですか?」

 

······ハチマンセンサーに再び反応。嫌な予感······

 

 

「折角だから私もお邪魔しようと思って。身の回りの物とか持ってきたの。いいかしら?琥珀、翡翠。」

 

 

ハチマン は にげだした!

 

しかしまわりこまれて(琥珀と翡翠に縛られて)しまった!

 

「良いですね!幸い家も広いですしどうぞお邪魔してください。」

 

「名案。ハチマン様を学校に連れていく牽引役、お願いします。」

 

「任されたわ。」

 

「任すな!というか良くねぇだろ!」

 

「それでは案内しますね。ついでにハチマン様の荷解きを手伝って貰えますか?」

 

「良いわよそれくらい。それじゃあ始めましょうか。」

 

「それではお願いしますね。翡翠ちゃんはハチマン様を連れてきてください。」

 

「了解。」

 

「いや待て!家主差し置いて勝手に決めんな!こっちにも話し通せあぢッ!?翡翠待て、引き摺るな!制服背中の方がめくれて肌が直に擦れてるから!」

 

「この大きさですので、引き摺るしか移動方法がありません。ご容赦を。」

 

「それ省エネモードだろ!仕事モードになれば良いだろ!人間大の大きさに!分かった、分かったから!認めるからせめて普通に運んでくれあぢぢぢぢぢぢッ!?」

 

 

 

 

 

一人暮らし、初日から終了。

厄介な同居人、三人追加。




お疲れ様でした。
初っ端からぶっ飛んでるんで理解し難いと思いますが、もうそこは考えるんじゃない、感じるんだ理論で受け止めて下さい。

これからも本作品をお願いします。
本赤?·····················まだ1割も復旧出来てませんぜ······泣きたい。

さあ果たしてこれからどうなるのか?ハチマンは平穏を掴み取れるのか?そして迫り来る厄介事をどう捌くのか?次回をお楽しみに。




琥珀と翡翠のキャラ、あれで大丈夫かしら?


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Heavy day

筆が乗ったので三話目でございます。
いつまで続くかなぁ·········






Let's rook!


「············」

 

カーテンの隙間から差し込む人間界の日光にその目覚めたばかりの顔を照らされながら、比企谷八幡もといハチマン・ダンタリオンは言葉を失っていた。

 

ベッドが置かれている部屋の一角を除いて、部屋の壁を覆い隠す本棚に隙間無く差し込まれた大量の本がある以外は普通の部屋。

実家の自室よりかはいくらか狭いものの、特に不便を感じることのない空間、カーテンの隙間から差し込む日光以外は実家の自室とほぼ変わらない。

 

では何故言葉を失っているのか?

 

「すぅ···········」

 

いつの間にか自分のベッドに幼馴染の少女が入り込んでいればそりゃそうなるだろう。

最近のラブコメはそういうのも多分にあるから、まだ予想できる範囲だろうが······?

まあしかし、その幼馴染が衣服を一枚も纏っていない産まれたままの姿、言葉通りにスッポンポンな状態でなければの話だが。

 

「···あーそういや、確か脱ぎ癖があるというか、服着たままだと寝付けないって言ってたな·········」

 

ハチマンは彼女の脱ぎ癖を失念していた。

とはいえ、一緒に寝たのももう5年以上も前のことだ。

その時に知った幼馴染の脱ぎ癖が未だに尾を引いているなんて想像できるわけがない。

 

ともかく、今更幼馴染の裸体を目撃しようが彼女の幼馴染として、まだ今の人格が形成しきる前から共にお風呂に入ったりしてきたハチマンには狼狽えさせる材料にもなり得ないだろう。

 

 

 

「············」

 

訂正、やっぱ無理。

いくら何度も見たとはいえそれは今よりも十年以上前の話だ。

 

女性が到達しうる体つきの完成系と言ってもいいそのプロポーションを前にして、邪な考えを持つなと言うのが絶対に無理だ。

 

「起きよう·········んで撤退しよう。」

 

という訳で、ハチマンは速やかに自室から退散しようとして、制服をハンガーから取り外して、部屋の扉に手をかけた。

 

 

「·········」

 

「「·········」」

 

扉を開けてから右方向、曲がり角から二つの赤が目に映った。片方は青いリボンが、もう片方は白いフリフリ付きのカチューシャが唯一の判別方法だろう。

 

家政婦は見たな二人の姉妹給仕は片やニヨニヨ、もう片方は変わらない顔でこちらを見て、

 

「「昨夜はお楽しみでしたね。/♪」」

 

余計な爆弾を投下した。

但しそれは自爆した感じの方だ。

 

 

「――――天の鎖(エルキドゥ)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

      [しばらくお待ちください]

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、こりゃまた凝ったもの作ったな。」

 

「あだだ······あの、ハチマン様?本当にすみませんでしたからこの鎖はずしてくらいだだだだ!?」

 

「······姉さんが海老反りになっていく。」

 

「何だ?おかわり追加?」

 

「違います違います!!というか昨日の報復も兼ねてますよね!?本当にごめんなさいでしたからはずしてぇ!?」

 

「ハチマン様大人気ない。」

 

「······分かったよ。」

 

 

場所は変わって一階のリビング。大きめのテーブルの上を占領する豪華な朝食達を一望し、ちょっとしたお巫山戯をした姉給仕を軽く折檻しつつも褒め称えるという高度なイベントを消化する悪魔ハチマン。

金色の魔法陣から出現した同色の鎖が琥珀の体をキツく縛っていたが、突如としてその鎖は金色の粒子となり霧散し、琥珀の体は自由を取り戻した。

空中で解放された琥珀は地面に落下し尻もちをつくことも無く、極めて慣れた様子でリビングのフローリングに着地した。

 

「にしても、本当に凝ったものを作ったもんだな琥珀さんや。」

 

「もちろんです。ハチマン様は基本的に朝食を摂らずに研究に没頭してますから、この際に生活を改めてくださいませんと。」

 

ほうれん草のお浸し、鰤の照り焼き、豆腐の味噌汁、出し巻き卵、野菜サラダという朝食にしては力の入った料理を見て、ハチマンは琥珀の料理スキルに改めて感心を覚える。

 

しかし。

 

 

「そして琥珀さんや、何故にこのサラダには赤い悪魔の果実(トマト)が入ってるので?」

 

ハチマン曰く赤い悪魔の果実が、野菜サラダの上に堂々と鎮座しているのであった。

そう、彼が唯一苦手とする食べ物こそが、サラダは勿論お弁当の彩りにも欠かせないトマトなのだ。トマト如きに悪魔である彼が悪魔と名付けている時点でどれだけ苦手としているか、容易に想像できるだろう。

 

「もちろんこれを機に好き嫌いを克服してもらいます。というかして下さい。」

 

「·········翡翠、」

 

「私は、何も、見ていません。」

 

哀れなり、千の魔術を携えし者(グランドキャスター)

逃げ場は何処にも存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようハチマン、琥珀に翡翠も。」

 

「おはようございます、リアス様。」

 

「おはようございます。」

 

「よっす。」

 

 

先のちょっとしたバタバタから少しして、制服に着替えたリアスが寝室から降りてきたのを確認し、琥珀は人数分のご飯とお味噌汁をよそい、全員が席に着く。

 

「「「「いただきます」」」」

 

声を揃えて様式美(いただきます)をし、四人は食事をとり始めた。(尚、約一名が野菜サラダを取り皿によそう際、あからさまにトマトを除けようとしていたのをバッチリ視界に収めた琥珀さんの手によって阻止された哀れな悪魔がいた事を、ここに記しておく)

 

 

「うん、とっても美味しいわ。」

 

「それはよかったです。リアス様のお口に合うようで。」

 

「ハチマン様、ちゃんとトマトも食べてください。」

 

「あ~············分かった、分かったから。」

 

約一名、渋い顔しながら一口サイズにカットされたトマトを口に放り込む様を見つつ、穏やかな笑いに包まれた朝の一時は緩やかに過ぎていく。

 

 

 

 

朝食を済ませ、時刻は七時の四十分を過ぎたあたり。

学校までは近いため、八時に出たとしても余裕で間に合う時間帯だ。

そんな中ハチマンは、いつの間にかテーブルの上に積まれた紙の束とにらめっこしていた。

あの顔で凄まれたらマジでちびる5秒前な事は確実だと思う。

 

「何をやっているの?」

 

単純にそうリアスは聞いた。

テーブルの上に鎮座する紙の山、その一番上の紙にはビッシリと文字が敷き詰められたように並んでおり、申し訳程度に写真がプリントされている。

そしてその写真に写っている風景に、リアスは見覚えがあった。

 

「これって、東の方の商店街?」

 

「ああ、そこで合ってる。んで何やってるかと聞かれれば管理だよ。」

 

「管理?」

 

他の写真を見てみればこれまた見覚えのある場所ばかり、ざっと見ても駒王全域の写真が紙一枚につき一つプリントされている。

 

「お前碌に管理の仕事やって無かったろ。」

 

「うっ······そんなことは「だったら何で堕天使が侵入してた事にも気付かなかったんですかねぇ。」···ゴメンナサイ。」

 

「まあそういう訳だ。俺がこっちに来た理由は単なる親父の言いつけだけじゃねぇ。サーゼクスからの命令もあってな、まだリアスの管理能力には些かの不安要素があるんでな、そのサポートをしろとの事だ。」

 

一ヶ月近く前の堕天使騒動の事もあり、今現在リアスの管理能力に不安要素が募りだしはじめた事で、サーゼクスはこれの対応策として管理のサポートを行える人材を派遣する事を決定した。

そのために、研究用以外にも色々な機材を向こう側から持ってきたのだ。

 

「······そっか。やっぱりそうよね。」

 

「まあ、未だに未成年な俺たちに管理の仕事を請け負わせる上の考える事は理解出来んがな。サーゼクスも最初はこの事に疑念を抱いてたし。」

 

あんまり気負うんじゃねえよと言葉を投げかけつつも、手元の資料に目を通していく。いつの間にか琥珀と翡翠も資料を手に取り、内容を簡潔にメモへとまとめていく。

 

「それにしてもこの資料ってどこから、というかどうやって作ってるの?」

 

「昨日のうちに駒王中にバラ撒いておいた観測機で24時間監視体制。異形の者が入り込んだ際はすぐさまアラートを鳴らして、こっちに知らせてくれる。僅かな魔力量の増減を感知するアートグラフィックカメラも仕込んである。

その観測した情報をそこの情報統括室に置いてある印刷機に送り込んで、必要な情報と何処からの情報かを判別する写真を添付した資料を作ってるんだよ。」

 

「ハチマン様、西にある公民館付近、駒王町記念館付近に異常は確認できません。」

 

「南方面、駒王駅を中心とした800メートル圏内、異常ありません。」

 

「了解、後は北の方だな。」

 

「·········」

 

これが、本来の管理者としてのあるべき姿なのだろうか。

普通の管理手順を一切合切無視したやり方なのは解ってはいるが、本来管理者とはこう在るべきで自分がどれだけ甘い生活を送っていたのかを嫌というほど思わせる。

自分では、何もかもが力不足だった。

今思えば、ライザーに負けた事は当然の帰結だったのかもしれない。

自分を見てほしい等と、グレモリーとしてではなくリアスという一個人を見てほしい等と言っていた自分が嫌になる。

当然の結果ではないか。

実力の伴っていない、管理者としての責務すら怠っていた自分では、仕方の無いことではないか。

こんな様で、よくも彼に頼られるような自分になりたい等と思えたものだ。

 

なら、このままでいいのか?

 

「·········」

 

リアスはまだ手のつけられていない書類を手に取る。

 

否、このままで言い訳がない。

自分はまだ目指した場所にたどり着くどころか、スタート地点にすら立っていなかった。

なら、少しずつでもいい。

自分に出来る事を精一杯やる。やって見せる。

そうして、初めて自分は走り出せるのだから。

 

リアスは制服のポケットに仕舞われていた普段使うことのないメモ帳を取り出し、資料の内容を出来るだけ簡潔にまとめていく。

今はまだハチマンどころか琥珀や翡翠にすら届かないであろうが、自分にも出来る、これから出来ていく事を身につけるべきだ。

 

(このまま何も出来ない女でいるのは、絶対にイヤ!)

 

 

 

リアスが作業に参加した事で、予定よりも少し早く管理確認が終わり、ハチマンを引き摺る形でリアス達は学校へと登校して行った。

 

そして結局、作業に参加したリアスを見て微笑を零していたハチマンに、終ぞリアスは気付くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めっちゃ疲れた·········」

 

駒王学園三年生の教室で机の上ででろーんと疲れ果てた哀れな男がいた。

言わずもがな、比企谷八幡ことハチマン・ダンタリオンだ。

 

「何なのあの視線の数。ボッチの俺に対してクリティカルヒットなの分からないの?数秒で灰になる自身があるぞ。」

 

「数秒で灰って、流石にないだろ。あとボッチって、まだ登校二日目なんだからしょうがないだろ。」

 

「っていうか、アンタ誰?」

 

「アレ?まさかの覚えられてない系?」

 

机の上で伸びているハチマンに話しかけているのは一人の一般男子生徒だ。

ちなみにリアスはソーナと朱乃に連れられて絶賛尋問中である。

もちろん同棲についてのアレコレについて。

同棲してる事が即効でバレたので仕方ない。

 

「俺は国谷誠一(くにやせいいち)ってんだ。これからよろしくな、えーと···ヒキガヤで合ってるか?それともヒキタニって読むのか?」

 

比企谷(ひきがや)で合ってるよ。まぁあまり関わらんだろうがよろしく。」

 

「そんな寂しい事言うなよ~仲良くしようぜ新たなる同士よ。」

 

「何が同士だ。」

 

「それにしても羨ましい事この上ないぜ。まさか学園のお姉様と呼ばれるグレモリーさんと姫島さん、そして生徒会長の支取さんと幼馴染って、コイツさては人間じゃないな!?」

 

「発言が理解不能過ぎる······」

 

変な所で的を射ていて、されど明後日の方向へとすっ飛んでいく国谷という一般生徒の発言に辟易としていると、また一般生徒が何名かこちらへ来た。

彼らの表情は八幡と同じく、呆れたような表情だ。

 

「何やってんだよ国谷。比企谷が困ってんだろ。」

 

「しょうがないよ。国谷君はその場のテンションだけで生きてる節があるし。」

 

「取っ付きやすさはあるけれど、近寄り難くもあるのよね。」

 

「傍から見れば変人ね。」

 

「そこ!外野サイドうるさいぞ!今俺と比企谷はこれからに関わる重要な話し合いをだな、」

 

「その本人が置いてかれてるぞ。お前の無駄に高いテンションに。」

 

何をう!ととっかかってくる国谷を敢えてスルーしつつ、比企谷へと彼らは向き直る。それぞれ特徴的な色の髪の女生徒と眼鏡を掛けた黒髪の少女、そして中性的な顔立ちの男子生徒···いや、よく見れば女子物の制服を着ているので三人の女子生徒と、気だるげな雰囲気の特にこれといった特徴のない普通の男子生徒だ。

 

「ウチのバカ代表が悪いな。えっと、比企谷で、いいんだよな?」

 

「···おう。で?アンタらは?」

 

「俺は佐t「そいつはキョンだぜ。」······オイ国谷、ちょっと黙ってような。」

 

「えっと、俺は佐t「僕は猿渡銀兵衛春臣。これからよろしくね」······銀、お前もか。」

 

「····オホン、改めて俺は佐t「私は朝田詩乃。まぁよろしくね。」····詩乃、お前絶対狙ったよな?」

 

「·········佐t「あたしは仲村ゆり、これからよろしくね比企谷君。それとそっちのは国谷がさっき言ってたけどキョンよ。比企谷君もそう呼んであげて。」······もういいです。」

 

「·········まあ、がんばれ。」

 

「憐れむな!」

 

八幡は直感的に感じた。

あ、俺と同じようなヤツだ(苦労人的な意味で)、と。

 

「所で、もう学校には慣れたかしら?」

 

「·········退屈しそうには無いという事は分かった。」

 

「あー······その様子からして大変そうね。」

 

「まぁ、あの面子と幼馴染ってんならな······」

 

この学園の超有名人と幼馴染、それを知った駒王民が何もしない訳がなく······超越者候補と噂されるハチマンは早くも心労に押し潰されそうになっていた。

 

そら、早くも向こうの方で女の戦いが幕を上げようとしていた。

 

「あんなグレモリーさんと支取会長初めて見たわ。」

 

「姫島さんは·········いつも通りな気がするね。」

 

「そのうち新しい名物になるかもね。」

 

「一人の男を賭けて争うお姉さま方········何だか新しい扉を開けそうだ······」

 

「国谷ー、戻ってこーい。」

 

「·········寝よう。」

 

とにかく、今は目の前の状況から逃避しようそうしよう。

 

ハチマンは現実から逃げるように目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり帰宅した後の事。

要するに閑話休題。

 

 

「·········何故お前までここにいる?」

 

「さあ?何故でしょうか?」

 

オカ研副部長兼雷の巫女こと女王、姫島朱乃がそこに居た。リアスに追従する形で。

要するに付いてきたのだった。

申し訳なさそうにリアスが口を開いた。

 

「ごめんハチマン、今日から朱乃もここに住むって······」

 

「············理由は?」

 

「いくら旧知の仲とはいえ思春期の男女が同棲するのは不味いと思いましたの。お互いグレモリー家とダンタリオン家の次期当主ですし。」

 

「俺にそんな事する度胸があると思うか?」

 

「ありませんわ。」

 

「即答かよ。」

 

「それでも間違いがあってからでは遅いですし、そのお目付け役として私も同居(・・)させて頂きますわ。」

 

「·········ちなみに翡翠と琥珀、空き部屋は後いくつある?」

 

「地下も合わせれば軽く十部屋は空いてますね。」

 

「片付けが必要ですが·········姉さん?姉さんはじっとしていてくださいね?」

 

「アッ、ハーイ。」

 

「そういう訳で、これからお世話になりますわ。」

 

「·····胃が痛てぇ··················」

 

ダンタリオン邸(人間界別荘地)、加入者一名追加。

 

彼の気苦労は、これからだ!




嵐の前の静けさ、平穏な日常パートでした。

次回、エクスカリバー編のあの二人と邂逅します。
悪魔であるハチマンが介入することによって、物語はどんな変容を見せるのでしょうか?
次回もお楽しみに!








おまけのアホ共(馬鹿たちの宴)



silver「お前らぐだぐだイベント第二弾どっちに行く?」

友人A「俺は新選組。」

友人B「俺も新選組ー。」

友人C「俺織田幕府。」

友人D「俺も。」

友人E「俺も織田で。」

友人F「俺は新選組に行こうかな。」

友人G「俺織田幕府な。」

S「じゃあ俺は新選組でいいか。」

B「キレイに分かれたなー。」

A「頑張るとしようかね。」

D「それにしても土方さんが遂にサーヴァント化したねえ。」

E「声優は誰かねえ?」

S「杉田さんじゃない?あの人FGO出てるし、使いやすいやろ。」

A「いや、三宅さんだろ。イラストからみて渋い人を使うだろうし。」

B「安元さんだろ、ドリフ的に考えて。」

C「三木さんじゃねーの?」

D「いーや、櫻井さんを推すね俺は。」

E「ゆうきゃんとかも有り得そうだがな。」

F「いやいや、Fateと言ったら諏訪部さんでしょうが。」

G「中田さんだろ。Fate的にも渋さ的にも。」

「「「「「「「「あ゛?」」」」」」」」








その後、ルール無用のデスマッチ(スマブラ)に発展しぶっ殺死合い(画面の中にて)が行われたが、最終的に当たった人にジュースを奢ることで一応の決着がついた。


終われ。


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invoke

駒王学園の廊下をゆっくりとした足取りで歩いていくハチマン。

彼が向かう先は生徒会室。

呼び出し人はもちろん生徒会長。

校内放送で呼び出されたハチマンは、ああ、また何かあるのか、と半ば諦めの境地に至っていた。

腐り目と断じられる彼の目がさらに腐ったように見えたと、後にクラスメイトたちは語る。

 

「いったいなんだってんだ······」

 

面倒くさいオーラ全開で生徒会室へと歩みを進める。しかしそれとは別に、ある事について考えていた。

 

つい先日行われた球技大会、ドッジボールでは見事オカルト研究部が勝ちをもぎ取った。まあ元々の身体スペックが違うので仕方ないし、それどころか戦う前に棄権した者達が殆どだったが、それ以前にあまり当てないようにしている、若しくは兵藤に集中砲火をかましていたのでそれも原因ではある。

 

問題はその最中、木場が心ここに在らずといった感じだったのが気になった。

何かに意識を逸らされるように。

ただただ、目の前の事に意識が向かない様子だった。

 

(確かオカルト研究部の奴等が、兵藤の家に行った時だったな。何かあったのかのならそこか。だが何が原因なのか。)

 

仲違いした様子はなく、別のナニカに意識を割かれてる。

ハチマンの覚えている限りの情報で、祐斗にそれほど衝撃を与えた要因はなにか?そこで思い当たったのは。

 

(木場の過去、確か聖剣についての何かがあったはずだ。)

 

ハチマンに思い当たる節はそれしか無かった。

木場には聖剣との因縁、もとい聖剣への憎悪がある。

いわば、木場の根底に棲みついた行動理念。

聖剣への復讐。その一点のみ。

とはいえ、どういう経緯でそうなったのかをハチマンは詳しく知らなかった。

聖剣というものに対しての復讐心、それに至る動機等を彼は知り得ていない。

そして祐斗が日常生活において常に意識を割かれる事はまず無い。

あるとすれば、先に言ったような祐斗の過去にまつわる話だ。

もしも、一誠の家で聖剣に関するものを見聞きしたならば。

 

(嫌な予感がする······)

 

そう思考しているといつの間にか生徒会室の目の前まで到達した。

一旦思考を切り替え、ノックをしようとし。

 

「───ッ!?」

 

扉から飛び退いた。

 

「この気配、この感覚、聖剣か?」

 

自分達、魔に生きるものとは真逆の波動。

魔を滅し浄化する聖剣の波動を直感的に感じ取った。

 

「······はたして、聖剣とはいってもどれが来るか···」

 

意を決して、ハチマンは自分と生徒会室を隔てる扉をコンコンと叩き入室の許可を待つ。

やがて、どうぞと聞き覚えのある幼馴染の入室を促す許可を聞いて、失礼しますと声を掛け、扉を開いた。

 

 

 

「ほう······」

 

「ふーん、彼がそうなのかなゼノヴィア?」

 

「どうだろうな?だが、凄まじい力を持っているのは分かる。」

 

生徒会室に足を踏み入れると、幼馴染が生徒会長の椅子に座り、無表情で机越しに此方を見ている。

その左右、ソーナと机を隔て相対する二人の白いローブを纏った二人組。

顔はフードを深く被っているため分からないが声からして両方女性、さっき感じた聖剣の波動が僅かにだが二つ感じ取れる。

 

「教会勢力、執行者、聖剣使い···!」

 

今この場の状況を一言で言うなら、一触即発の空気だ、何がきっかけで戦闘が起こるのかも分からない。

 

「教会勢力が何をしにきた······」

 

そっと、魔力封じのアイテムである眼鏡を外し、一応の戦闘態勢を取る。

聖剣使いとはいえ、二人の人間に遅れをとる比企谷ではない。

だがしかし、今この場にはソーナがいる。

比較的戦闘には向いていない彼女を咄嗟に庇いつつも戦闘を続行出来るかは分からない。

だが、この線は限りなく低いと判断できる。

 

「待ってハチマン君。ひとまず魔力を抑えて。」

 

こんな白昼堂々といくら悪魔とはいえ人間界で、それも学校で殺人もしくは傷害未遂になれば、向こうにとっても望ましいものではないだろう。

その気になれば、僅かな情報から組織を特定する事も不可能では無いのだ。

今の時代ならば、それも可能かもしれない。

記憶操作や認識阻害を施せば話は別だが、一般人とはいえ大多数の人間に知られればタダではすまないからだ。

そんな無謀な事を実行しようとは思わないだろう。

ハチマンは一度大きく息を吐いて、魔力封じの役目を担う眼鏡をかけ直して、務めて冷静に言葉を発する。

 

「それで、教会の連中が何をしに来た。」

 

「君たちには関係はない、が、此処で動くための許可を取りに来た、と言っておこう。」

 

「信用出来るとでも?その背中に背負ったマジもんの凶器を持ってる時点で、信用の材料にはならねぇぞ。」

 

「今のところは、貴方たちに対してどうこうするつもりは無いよ。ただ、邪魔するならコレの矛先が向くのはそっちになるけど。」

 

「······」

 

僅かながら沈黙が場を支配する。

少しでも動けば本気の殺し合いに発展しそうな重苦しい雰囲気のなか、ソーナが言葉を発しこの空気を破砕した。

 

「ハチマン君、落ち着いて。今のところは彼女達は私たちに危害を加えるつもりはありませんよ。」

 

「······結局、何で俺を呼んだ。」

 

「この二人を、リアスの所へ案内して下さい。管理者のリアスに話があると。」

 

「·········了解した。教会の、着いて来い。」

 

さっきまで魔力封じを使用しても尚溢れ出ていた魔力は形を潜め、二人組に付いてくるよう促し生徒会室を後にする。

 

「······凄まじいな。あれが千の魔術を携えし者(グランドキャスター)か。」

 

「ちょっと危なかったかも······」

 

教会の聖剣使い二人組は安堵の息を吐くと、慌てて生徒会室から出たハチマンを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に此処にいるのだろうな?」

 

「人の寄り付かない旧校舎だ。人外が活動するには持ってこいな場所だと思うが?」

 

「うわぁ······アヤシイ雰囲気が全開だ。」

 

「イリナ、もう少し用心しろ。」

 

「大丈夫だよゼノヴィア。此処で襲ってくる程馬鹿な悪魔はいないでしょ。」

 

「まあ確かにそうなんだが、仮にも此処は俺たち悪魔の活動拠点だ。襲いはしないし、寧ろまだ気付いていないだろうが、もう少し気をいれるとかそういうのはないのか?」

 

「······なんか敵対してるはずの悪魔に説教されるなんて思わなかったなぁ。」

 

新校舎から移動して現在旧校舎の廊下。

 

教会の遣いである聖剣持ち二人組はハチマンの後を付いていくように、暗い旧校舎の奥へと歩みを進めていく。

時折足下から鳴り響く床の軋む音が、彼女達の来訪を拒んでいるかのようだ。

 

「そういえば、君の名前まだ聞いてなかったね。」

 

「何故敵対している者に名を明かさねばならない。それに、俺の正体は薄々検討がついてるんじゃないか?」

 

「まぁそうだな。だが、君の名前を私たちは知らない。千の魔術を携えし者(グランドキャスター)と呼んでいいのならばそうするが。」

 

「何故それを知ってる············というか何で教会(そっち)にまで広まってるんだ。」

 

「割と教会でもこの名は有名だぞ?力のある、特に魔術に精通した悪魔がいるらしい、その悪魔は千の魔術を携えし者(グランドキャスター)と呼ばれているらしいと。それでどうするんだ?」

 

「·········ハチマン・ダンタリオンだ。ダンタリオンでいい。」

 

「普通そこはハチマンでいい、って言うところじゃないの?」

 

「お前等にとって滅すべき相手に何を期待しているんだ······」

 

お前等本当に敵同士なのかとツッコミたくなる風景ではあるが、これでもお互いの腹を探りあっている状況なのだ。見たかんじそんな気は一切しないが。

 

そうして会話を繋げつつ(約一名はこの流れをぶった斬って無言を貫きたかった)歩いていくと、オカルト研究部の部室前に到着した。

 

少し待っていろと釘を指して、ハチマンは部室の中へと足を踏み入れた。

部屋の中には予想通り、オカルト研究部もといリアスとその眷属の面々が揃っていた。

 

「ハチマン?今日はどうしたの?」

 

やはりと言うべきか、最初にリアスがそう聞いてきた。

その傍らにはどこか影のある表情で立ち尽くしていた木場の姿も確認できた。

どうやらさっきまで何かしらがあったようだが、今は自分の仕事を終わらせるのを優先することにした。

 

但し、聖剣との因縁を持っている木場の取りうるであろう行動をどう対処したものかと内心嘆息しながら。

 

「お前にお客だ。それも訳アリの。」

 

この扉を開いた後の反応を想像し、面倒になるなと思い悩みながら、取っ手に手を掛けようと、

 

 

 

 

 

 

「邪魔をするぞ。」

 

 

 

 

 

 

······························は?

 

 

 

 

「なっ、なんで教会の遣いが!?」

 

 

 

 

 

 

さて、此処で今現在どんな状況で雰囲気になっているのか明記しておこう。

まず、ハチマンが会話の内容を脳内で組み立てながら、この先の流れを制御しようと決心し扉を開く前に、さっさと入ってきた聖剣使いの二人組の片割れの青髪の方。

これにはリアス達も警戒態勢。

一誠は二人を目にして驚愕の表情。

 

 

 

結果、ただならぬ一触即発の空気。

 

 

 

 

(早速この先の流れ破綻したァァ!?)

 

 

 

自分自身のキャラというか性格すら忘れるほどに、ハチマンは動揺した。

 

事前の説明やらなんやらを挟む事で気構えを作ろうとしていたのが仇となった。

こんな事ならば主題をさっさと言って後から補足すれば良かったと嘆くが既に遅い。

 

「失礼させてもらう。」

 

「イッセー君昨日ぶりだね。」

 

「······ハチマン君?ちょっとこっちに来てもらえます?」

 

場が混沌となりつつあり、ついでに副部長のヤバ気な視線がハチマンにロックオンされた。

 

「·········取り敢えず、説明させてくれ。」

 

兎に角、全力で状況説明に当たらなければハチマンはドSの攻撃を受けて死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「事情は分かったわ。ソーナが許可したのなら学園の来客としては問題ないわね。服装がちょっと問題大アリだけど。」

 

ハチマンによる数十分の状況経緯説明により何とか混沌としだした場は鎮静しつつあった。

ハチマンは内心あぶねーと冷や汗をかいたが。

そんなこんなで、改めて教会の遣いとリアス達は対面した。

ちなみに一誠が彼女等を見た時に驚愕としたのは、先日の時点で会っていたためだった。どうやら片割れの栗色の髪の少女が一誠の幼馴染だったようで、ついでで会おうとしたために一日早くの邂逅となったらしい。

 

そしてどうでもいいが、この事を報告していなかった一誠はこの後主人から手酷い説教を正座して聞き続ける羽目になったのは、語るまでもないだろう。

 

 

教会の二人とリアス達はテーブル隔てて対面する形でお互いにソファへと腰を降ろし、即興の話し合いの場を設ける。

 

その中で木場は一人、部室の壁に背中を預けるようにして二人組を睨み続けており、ハチマンはソファのすぐ横に立って何時でも戦闘態勢を取れるように警戒していた。

 

 

「この度、会談を了承してもらって感謝する。私はゼノヴィアという者だ。」

 

「紫藤イリナです。」

 

「私はグレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ。それで、悪魔を嫌っている教会側の人達が私達悪魔に何の用かしら?会談を求めてくるぐらいだからそれなりのことがあったのでしょう?」

 

「では簡潔に言おう。······教会側が所有しているエクスカリバーが、堕天使たちによって奪われた。」

 

「······冗談のつもりなら全く面白くないわね。それは本当の事かしら?」

 

「だから我々がここに来たのだ。」

 

悪魔に成りたての、それどころかこちら側の事情を全く知らない一誠以外の面々に緊張が走る。

悪魔にとって忌避すべき聖なる剣、聖剣。

その中でも知らぬ者はいないであろう有名過ぎる代物が盗まれたとなれば、どれほどの事態かは想像に容易い。

 

「あの、部長……エクスカリバーってあのアーサー王伝説で有名な聖剣ですよね? 何でそれが複数あるみたいな言い方されてるんですか?」

「そっか、イッセーは知らなかったわね」

 

いち早く話の続きを聞きたいところだが、悪魔になったばかり、もっと言えばこちら側の事情につい最近関与し始めたばかりのの一誠にリアスはひとまず簡単に、エクスカリバーについて説明することにした。

 

「まず、エクスカリバーについてだけど、そもそもエクスカリバー自体はもう存在しないわ。」

「え? でも盗まれたって······」

「イッセー君、エクスカリバーはね、昔の大戦で折れちゃったんだよ。」

「折れたぁ!?」

「そうですわ。それで、その折れたエクスカリバーの破片を錬金術師が再生させ、7本のエクスカリバーへと生まれ変わらせたのですわ。」

「そう、今はこんな姿だ。」

 

布を取り払って出てきたのは一振りの長剣だが、それが聖剣である以上、当然だがその姿を見た悪魔達は背筋に悪寒が走る。

 

「教会は3つの派閥に分かれていて、所在が不明のエクスカリバーを除いて6本の剣を2つずつ所有していた。その内、3本のエクスカリバーが盗まれた。残っているのは私の持つ《破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)》と。」

 

「私の持っている《擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)》よ。」

 

内心冷や汗を掻きながら、ハチマンはそれらに視線を向けて嫌味ったらしい表情を浮かべながら言葉を返した。

 

「厳重に管理されてあると思っていたが、案外呆気なく盗られたモンだな。」

 

「痛い所を突いてくれるな。確かに我々の非であることは認めるさ。だからこそ、我々がこの地に来たのはエクスカリバーを奪った堕天使がこの町に潜伏しているという情報を掴み、我々はそれを奪取、もしくは破壊するためにここに来た。」

 

「堕天使に奪われるくらいなら、壊した方がマシだもの。」

 

「······それで、下手人は分かってるのか?」

 

そう比企谷が続きを促すと、少し張り詰めたような表情に変わった二人は少しの間沈黙を保ち、

 

 

「《神の子を見張る者(グリゴリ)》の幹部、コカビエル。」

 

 

変えようの無い事実を告げた。

 

 

「······今程嘘だって思いたかった事は無かったわ·········」

 

「おかしい······駒王町の全域を監視しているっていうのに痕跡も見つかっていなんだぞ。何でそんなビッグネームが潜伏してるのに······いや、今はいい。それで、そっちの要求は?この事を警告しに来ただけな訳じゃ無いだろ?」

 

「簡単だ。私達の依頼―――いや、注文は私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに悪魔が介入してこないこと。つまり、今回の事件で悪魔側は関わるなということだ。」

 

「ずいぶんな言い方ね。私達が堕天使と組んで聖剣をどうにかするとでも?」

 

「悪魔にとって聖剣は忌むべき物だ。可能性がないわけではないだろう?」

 

悪魔と敵対する教会勢力として、目標の潜伏先に悪魔が居るのならばまず間違いなくそこを疑ってくる。

一応悪魔勢力は堕天使達とも敵対、もといこの三勢力はお互いに敵対している三つ巴の様相なのだ。

そして堕天使とはいえ聖剣エクスカリバーを盗み出したとなれば、利害の一致による手引きも充分に考えられる。

それでも、当の本人等にしてみればただの厄ネタ以外の何物でもないのだが。

 

 

「もし、そちらが堕天使と手を組んでいるなら、私達はあなた達を完全に消滅させる。たとえ、魔王の妹でもね。」

 

「そう。ならば、言わせてもらうわ。私は堕天使と手を組んだりしない。決してね。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしないわ。」

 

リアスはそう言いきり否定の言葉を述べる。それを聞いたゼノヴィアはフッと笑みを浮かべると立ち上がりつつ返答する。

 

「それが聞けただけで十分だ。私も魔王の妹がそこまで馬鹿だとは思っていない。今のはあくまで上の意向を伝えただけさ。」

 

そう言うや否や、その場を後にしよう扉へと歩き出した。

 

「本日は面会に応じていただき、感謝する。そろそろ御暇(おいとま)させてもらうよ。」

 

「そう。お茶は飲んでいかないの?」

 

「いや、悪魔とそこまでうちとけるわけにもいかなくてね。」

 

「ごめんなさいね。」

 

要件を伝え終えた二人は部屋を後にしようとしとして──

 

 

ふと、アーシアの方へと二人の視線が注がれた。

 

「兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが、アーシア・アルジェントか。こんな極東の地で『魔女』に会うとはな。」

 

ゼノヴィアが口にしたその言葉に反応して、アーシアは体を震わせた。

 

魔女、その単語はアーシアを追放した教会が呼んだ忌み名。

不浄の者である悪魔を癒した事で、異端の烙印を押された彼女にとって、それはとても辛いものだった。

 

「へぇ。あなたが噂になってた元聖女さん?悪魔を癒す力を持っていたから追放されたとは聞いていたけど・・・まさか、悪魔になっていたとはね。」

 

隣で同じようにアーシアを注視していたイリナも、合点がいったとばかりに言った。

 

「あ、あの········私は······」

 

「安心しろ、このことは上には報告しない―――だが、堕ちれば堕ちるものだな。まだ、我らの神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信じているわけないでしょう?」

 

呆れた様子でイリナはゼノヴィアに言った。

不浄である悪魔に転生した者が、未だに信仰を捨てていない訳がないと。

 

「いや、背信行為をする者でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。彼女からもそれと同じものが感じられる。」

 

「そうなの? ねぇ、アーシアさんは今でも主を信じているのかしら?」

 

その問いに、アーシアは悲しそうな表情で答えた。

 

「······捨てきれないだけです。ずっと、信じてきましたから······」

 

それを聞いてゼノヴィアは、背に背負っている布に包まれた聖剣、破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)の切っ先をアーシアへと突き付ける。

 

「そうか。ならば、今すぐ私達に斬られるといい。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「触れんな。」

 

 

アーシアとゼノヴィアの間にはいつの間にか、一誠が突きつけられた聖剣とアーシアを隔てるように立っていた。

口から出た言葉には怒りが滲み出て、眉間に皺を寄せ真正面で相対するゼノヴィアを睨みつけた。

 

「アーシアを魔女と言ったな。」

 

「そうだ。今なら魔女と呼ばれる存在だ。」

 

その言葉は一誠の怒りをさらに助長し、ギリギリと奥歯を鳴らすように噛み締めた。

 

「ふざけるな!アーシアの優しさも理解出来ずに、友達になってくれるやつもいないなんて、そんなの間違ってる!」

 

「聖女に友人が必要だと思うか?友人を求めた時点で最初からアーシア・アルジェントには聖女の資格はなかったのだろう。」

 

「アーシアの苦しみもわからなかったくせに!」

 

「キミはアーシアの何だ?」

 

「家族だ。友達だ。仲間だ。だからアーシアを助ける!俺はお前達全員を敵に回しても戦うぜ!」

 

お互いに一歩も引く気はなく、一誠は今すぐにでも殴りかかろうと神器を顕現させ、拳を構えた。

 

「それは私たちへの挑戦か?グレモリー、教育不足では?」

 

「イッセー!お止め──」

 

「ちょうどいい。僕が相手になろう。」

 

強い殺気を発して、木場は剣を携えていた。光喰剣(ホーリーイレイザー)と呼ばれる、木場にとって使い慣れた魔剣。

 

「誰だ、キミは?」

 

ゼノヴィアの問いに木場は不適に笑って、

 

「キミ達の先輩だよ。──失敗作だったそうだけどね。」

 

直後に、無数の魔剣が室内に現れた。

 

 

 

「ったく、面倒事起こしやがって······」

 

 

 

それらのやり取りを眺め、ハチマンは不機嫌な声色でそう毒づいた。




ちょーっと遅れましたが、投稿完了しました。

別にFGOのぐだぐだイベントに集中しててほったらかしにしてた訳じゃないよホントダヨー。


あ、それと前回登場した国谷誠一というキャラはお察しの通りオリキャラです。
谷口ポジのちょっとおちゃらけた感じのムードメーカー的なキャラです。
キョン達含めて、これからも学園パートにはちょいちょい出てくるので生暖かく見守ってやって下さい。









馬鹿どもの嘆き(答え合わせ)



silver「まさかの星野さんだった·········」

友人A「予測できねぇよ。」

友人B「賭けの内容どうする?」

友人C「もういいんじゃね?べつに。」

友人D「取り敢えずポイント稼ごう。」

S「じゃあ早速回すか。」

B「結果目に見えてんだろ」

友人E「人柱乙。」

S「その本物(ふらぐ)を私が殺す。」

B「今度はJかよ。」

A「そこはそげぶにしとけよ。」

S「ブラックオンスロート!」

友人F「アキラメナーイ」

友人G「イシツカムー」

E「コノメニウー」

B「それ違くね?」

S「ブラックザガム!ナイトメアレイジ!」

C「アオニソマルマデー」

D「ミライー」

F「テーレッテー」

A「それはラオウだ。」

B「メザメタコー」

A「それはマオウだ。」

G「アマクトロー」

A「それはメルブラ。BLAZBLUEですらねえし、コノメニウーじゃねえのかよ。」

E「スサマジイハカイリョクヲモッタロボットノムスカタイサダ!」

A「もう違うやつじゃねえか!」

S「デストラクショオオおおおおおおおおおん!?」

A「どうした?」

B「当たったとか?」

C「そんなまさか───」

「新選組副長、土方歳三だ。クラス? そんなことはどうでもいい。俺がある限り、ここが──新選組だ」

「「「「「「「·········は?」」」」」」」

「うぉおおおおおおおお!うぉおおおおおおおお!(言葉になっていない。)」

A「······ボルテガ、カッシュ。ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ。」

BC「了解。」

S「お、お前ら?」

D「今だ!マクロスアタック!」

EFG「おっしゃー!」

S「ちょっと待って!」

「「「「「「「ここが!」」」」」」」

S「あべし!」

「「「「「「「新!選!!」」」」」」」

S「ひでぶ!!」

「「「「「「「組だあああああ!!!」」」」」」」

S「うわらば!!!」シンリューケーン!





終われ。



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Fallen

1週間遅れての投稿ほんますんまそん。
こうして投稿するのもそろそろ難しくなる頃です(受験もそうだけど今は終局特異点までフルマラソン中な件)。
まあそれでも無計画に突っ走るだけだがな!(まさに阿呆)









囁く天使(こころ)は堕ちて 優しく食むわ、貴方の全てを···



It's my guilty.


教会の遣い二人組とオカルト研究部+αは旧校舎前にある芝生の広場へと場所を移していた。

 

結局あの後、最早正面衝突は避けられず、聖剣使いの二人、ゼノヴィアと祐斗が、イリナと一誠がそれぞれ戦うことになったのだ。勿論殺し合いに発展しないようにルールを設けて。

 

 

 

 

 

「霧幻結界・偽層法陣。」

 

ハチマンがそう呟くと同時に、旧校舎一帯を丸ごと包み込むドーム状の結界が張られる。

 

ハチマンが行使する魔術の中でも最高峰の認識阻害と防護の役目を持つ結界だ。

結界は内側にいるものにしか視認する事が出来ず、結界の外からは例え魔王クラスの力を持った人外でも結界があると知覚すら出来ない。

但し、燃費は悪い。

 

「こんなもんでいいか。」

 

「相変わらず出鱈目ね······」

 

「本当なら使いたくないんだがな。それでも神秘の秘匿は優先するべきだ。一般人に見られでもしたら面倒だ。」

 

リアスは空を、この辺りを包み込んだドーム状の結界を見上げながらそう呟いた。

空には紫色をした半透明の壁のようななにかが確かに存在していて、そのドーム状の結界には不可思議な幾何学模様が浮かんでいる。

 

そして何より、

 

 

 

 

「·········朱乃さん、私こんな結界見た事がありません。」

 

「私もですわ小猫ちゃん。というよりも、前より精度が上がっている気が············」

 

コレを成しやがった幼馴染の引き篭もりは

未だに上限というものを知らず、魔術の精度がエレベーターの如くまだまだ上階へと急上昇しているようだ。そのうち天井をぶち抜いて天元突破しそうで恐ろしい事この上ない。

 

「さてと、それじゃあ確認だ。制限時間は5分。戦闘不能、続行が不可能と判断した場合負けとなる。もしもの時は介入してでも止めるから注意するように。」

 

四人全員が頷き、一誠は神器を顕現させた左腕を前へと構え、祐斗は改めて光喰剣を創りだしてそれを構え、イリナは腰に巻いた紐を引っ張り剣へと姿を変えたそれを手にし、ゼノヴィアは破壊の聖剣を包む布をを取り払い構えた。

 

「では、始めようか」

 

そう言うや否や、イリナとゼノヴィアは白いローブを脱ぎ捨て、戦闘服らしい黒いボンテージのような姿が露わになった。

 

(·········というか、あれが教会の戦闘服なのか·····?)

 

それを目にして、教会の人間は実は変態の集まりなのかと一人戦慄する腐り目と、興奮を顕にしている一人のバカがいた。

 

それはさておき。

 

「はい、始め。」

 

そんな気の抜けた合図の直後、両者は激突した。

 

「ふん!」

 

初撃を仕掛けたのは破壊の聖剣を携えたゼノヴィアだった。

おおよそ人間では出しえない速度で踏み込み祐斗の下へと突撃をしかける。破壊の聖剣を大上段から振り下ろし、祐斗は横へと飛ぶことで回避した。

 

バゴンッ!と、めり込むような破壊音をあげて破壊の聖剣が振り下ろされた。さっきまで祐斗が立っていた場所には小型の隕石が落ちて出来たかのようなクレーターが広がっていた。

 

「ッ!·····」

 

「ほう、初撃で決めるつもりだったが、案外素早いな。」

 

殺し合い無しだって言ってんのに何をしてやがりますかとツッコミたいところであるが、今は決闘の最中である。

初撃を避けた後祐斗はすぐさま光喰剣を横一閃に振るった。

ゼノヴィアはこれを焦らずに破壊の聖剣で受け止め、お互い鍔迫り合いに近い状態で拮抗し、互いに睨みつける。

 

「ぐっ······」

 

「どうした、グレモリーの騎士。剣の振りに精細さが見られないが。」

 

「何を······」

 

「下ががら空きだ!」

 

視界の端で蹴りを繰り出そうと足を伸ばしている様を認めると、すぐさま力任せに光喰剣を横薙に弾き、その場から後ろへと飛び退く事で蹴りを回避した。

 

やりづらい、祐斗は率直にそう思った。

あの破壊の聖剣と打ち合う度に感じる違和感。破壊の聖剣が持つ特殊な権能、『破壊』の力が、祐斗の作り出す魔剣にダメージを与えていく。

それを抜きにしても、ゼノヴィアという少女の剣の腕は確かで、なるほどコカビエルを討伐するために送り込まれた聖剣使いであるだけはあった。

 

そしてなにより、祐斗がやりづらいと感じる原因は、あの聖剣の形状だ。

 

聖剣という割には、しなやかで神聖さを醸し出すような白を基調としたデザインではなく、真逆の黒などの暗色などで彩られた無骨な長剣だった。

鍔にある部分はまるでラブリュスと呼ばれる両刃斧の刀身のような形をしており、切っ先は三叉に分かれている。

 

しかし、破壊と銘打つだけあって文字通り対象を破壊する、叩き潰す事に特化しているのだと言うことが嫌という程に理解できた。

 

それに加え、悪魔であるこの身体に少しでも触れてしまえば、例え柄を触ってしまっただけでもかなりのダメージを負うことは確実だ。

 

「呆けている暇などあるのか!」

 

再び、一度の踏み込みで祐斗の三歩半の場所まで踏み込み、左下から切り上げるようにその無骨な聖剣を振るう。

 

「ッ!······このっ!」

 

それをまた手にする光喰剣でいなし、しばしの間剣戟による鉄同士のぶつかり合う音が、二人の闘志を燃え上がらせる。

そこからは硬直が続いた。

右からの振り下ろしを光喰剣で弾き、聖剣が地面にめり込んだ隙を狙うも、ゼノヴィアは頭を狙った蹴りを繰り出してカバー、それを紙一重で避ければすぐさま聖剣による振り上げが祐斗に襲いかかる。

 

魔剣創造(ソードバース)!」

 

祐斗が叫ぶと同時に、足下から無数の魔剣がその切っ先地面から突き出し、ゼノヴィアに殺到した。

 

「甘いな!」

 

それに対し、ゼノヴィアが執った行動は破壊の聖剣を横薙に振るう事で、地面から顔を出した無数の魔剣を全て破壊した。

 

飛び散る魔剣の破片が魔力に還元され、空気に溶けてゆく。

 

が、それだけでは終わらなかった。

 

「打ち直せ!」

 

その一言で、周囲に飛び散り魔力へと還元していく無数の破片と魔力が、すぐさま再集結、再結晶し幾つもの小さな魔剣へと姿を変えた。

 

「なに!?」

 

宙を舞う無数の魔剣がその矛先を聖剣を携えたゼノヴィアへと向けられ、降り注いだ。

 

一瞬驚愕したものの、ゼノヴィアはすぐさま破壊の聖剣で払いつつ後ろへと後退する事で無傷のまま凌いだ。

 

「くっ······」

 

「少し驚かされたな。だがそれだけだ。それに──」

 

──向こうはもう既に決着が付いたようだ。

 

「······」

 

依然ゼノヴィアを見据えたま、一誠が戦っている隣へと目を向けた。

 

そこには日本刀のような外見をした、歴とした聖剣である擬態の聖剣を突き付けるイリナの姿と、尻餅を着いてイリナを見上げている一誠の姿があった。

 

イッセー君でも無理があったか······そう祐斗は結論付けたが、実際のところ惜敗した訳でも全く適わなかっただけでも無く、彼がフェニックスとのレーティングゲームの際に編み出した洋服破壊(ドレスブレイク)とかいう、本職の魔術師超越者候補(ハチマン・ダンタリオン)や型月のキャスター達、既存の魔術師達からしたら巫山戯た、クソ巫山戯てるとしか思えない外装破壊術式(とかかっこよく分類したが要は女性の服だけ破壊するタチの悪い魔術)を発動しようとして、その隙をやられただけだという事に、幸いにも祐斗は気づかなかった。

 

尚その本人は後輩から現在進行形で侮蔑の視線を投げ掛けられているがそれは又別の話············にしなくてもいいか。

 

「······あれさえ、」

 

「······木場?」

 

「あれさえ、破壊出来れば······っ。」

 

ハチマンが祐斗の呟きを聞き取ったど同時に、三度両者は激突した。

聖剣と魔剣が打ち合う度に周囲の地形に僅かにだが変化を齎した。

10合以上斬り結び、ひたすらに魔剣を創っては振るい、破壊されまた作り直す。これを何度も繰り返していく内に、遂に祐斗が押されてゆき、

 

「·····フッ!」

 

ガキィン!と大きな金属音が響き、祐斗の手から光喰剣が弾き飛ばされた。

勝者と敗者が決定した瞬間だった。

 

「決着だな。」

 

「──ぁぁ、」

 

「木場?」

 

「────あああああああああああああああ!!!」

 

 

ふたたび、祐斗は魔剣を創造し獣のような雄叫びを上げながら斬りかかった。

血走った目を、心の底から湧き出る憎悪を

顕にして、仇を討たんといわんばかりに憤怒の形相を浮かべて。

 

それは正に、復讐を成そうとする者の目だった。

 

「祐斗!」

 

下僕の愚行を止めようと、死に向かい行く家族を守ろうと、リアスは自分の騎士の名を叫んだ。

 

それでももう止まらない。

もう既に、お互いの間合いに踏み込み、己の武器を上段に振り上げ、最後の1合に臨んだ。

 

片や己の生きる意味(復讐)を為すために。

 

片や不浄なる悪魔を、敗者を裁くために。

 

お互いの剣がぶつかり合うインパクトの瞬間、

 

「なっ!?」

 

 

「これは!?」

 

 

 

 

二人の剣士は、体に絡みついた黄金の鎖に阻まれ、激突まであと数センチの所で静止した。

 

「はい、終了。」

 

やる気のない腐り目悪魔の一声により殺し合いに発展しかかった決闘は幕を閉じた。祐斗とゼノヴィアの背後に突然現れた金色の魔法陣から飛び出した鎖を、二人を雁字搦めになるまで拘束することによって。

 

両者が力を込めて剣を振るおうとしても、抵抗しようと体を無理矢理に動かして足掻こうとするものの、全くビクともせずに黄金の鎖は二人の剣士を縛り上げる。

やがて無駄だと悟ったのか、両者は無理に力を入れて脱しようとするのを諦めた。

 

「勝者、聖剣使い。以上。」

 

淡々と、どこか機械的に勝者を告げると、二人を拘束していた鎖は金色の粒子と化し虚空へと消えていった。

ゼノヴィアは破壊の聖剣をもう一度布で包み直し、脱ぎ捨てた白いローブを着直した。イリナもいつの間にか白のローブを着直しており、その手に握られていた日本刀のような聖剣も姿を消していた。

聖剣を全く連想させない、腰に巻かれている紐と化して。

 

「済まない。思わず燃え上がってしまったものでな、落とし所がなかなかつかなかった。」

 

「そういうのはいい。それより聞きたいんだが、お前達二人でコカビエルを殺れると思ってるのか?」

 

「·········無理かもしれんな。おそらく向こうには協力者が居るはずだ。私とイリナではエクスカリバーを破壊できたとしても、生還できる可能性は少ない。」

 

「·········こっちとしても、出来ればこの件には関わらざるを得ないんだがな。そっちの要請があったとしても、ここは一応グレモリーの管轄、管理する領域で、それ以前に日本神話群から管理権を移譲されている。もし何か問題があれば俺たち冥界、いや、コカビエルの行動によっては堕天使も、お前ら教会勢力も目をつけられるぞ?」

 

手を出すな、と向こうの上層部は言うが、自分達は日本神話の神々達に管理を任されている(という名の領土の分捕りである)のだ。これは後付け、事後交渉という形だが現地勢力の日本神話群から各土地の管理を請け負う変わりに、神への信仰を増やす手伝いをするという取引とも呼べない契約を交わした。

そもそもが人間の住む土地を勝手に管理しようと画策した大局が見えてない上層部の老害共の自業自得なのだが、これに現地勢力の日本神群が異議を唱え、ハチマンの父ガミル・ダンタリオンの交渉により今の管理体制に至ったのだ。

 

その管理を任されている土地に何かしらの異常があれば、まず間違いなく日本神群からの抗議は避けられなくなる。

 

「······それは不味いな。」

 

「だから、こっちはこっちで動かさせてもらうぞ。」

 

「······了解した。では私達はこれで失礼するよ。イリナ、行くぞ。」

 

「はいはーい。じゃあまたねイッセー君。」

 

一応の納得を得て、彼女等は駒王学園より立ち去った。

 

 

その場には、未だに魔剣を握りしめ俯いている祐斗が、歯をギリキリと軋ませる程に噛み締め立ち尽くしていた。

 

「············何で、止めたんですか。」

 

祐斗は己の復讐を止めたハチマンに、そう問いかけた。何故邪魔をしたのかと、あと少しで、仇をとれたのにと。

対してハチマンはあっけらかんに答えた。

 

「あのまま斬りかかってたら、確実にお前は死んでたぞ。」

 

「何を、言って······」

 

「貸してみろ。」

 

祐斗が何かを言い返す間もなく、ハチマンは祐斗の握りしめていた魔剣を奪い取ると、右手で柄を、左手で剣の切っ先に近い辺りを刃を触らないように持ち、そのままの体制で

 

 

 

「フンッ!!」

 

 

 

右膝を思い切り振り上げた。

 

 

 

バギョンッ!と一際甲高い金属音を響かせて、祐斗の創り出した魔剣は半ばから圧し折れた。

 

「───へ。」

 

全員がその光景に呆気を取られる。

祐斗は特に、自分が創り出した魔剣がいとも簡単に圧し折られたことに思考が追い付かず、間の抜けた声を出すのがやっとだった。

 

「······強化もなにも掛けてない俺の生身で圧し折れたこれで、あの聖剣と打ち合ってたらどうなったと思う?」

 

「──ぁ」

 

「魔剣ごと木っ端微塵に吹き飛んでるぞ。」

 

祐斗の視界には呆れた様子でこちらを見る主の幼馴染。その手にあった、少しづつ魔力に還元されていく魔剣の残骸は、ハチマンが止めなかった場合の祐斗の未来を連想させるかのようだった。

 

「お前の神器、魔剣創造は所持者のイメージを元に魔剣を創り出す神器だ。その所持者自身のイメージがしっかりしていないなら、こうやって脆い形だけの剣が出来上がる。俺の勝手な推測だがな。」

 

唖然としている祐斗や周りの面々を置いて、ハチマンは祐斗の敗因をつらつらと述べてゆく。

集中力が足りていなかった事。魔剣の出来があまりにも稚拙だった事。相手の動きに翻弄されつつあった事等々。

だが今の祐斗にはその言葉も聞こえてはいない。ただただ、自分の不甲斐なさと聖剣に対する憎悪が混ざり合い、彼の感情は最早自分自身で制御することすら困難に陥っていた。

 

「それでも·········あの聖剣を······エクスカリバーを破壊できたかもしれないのに······」

 

「無理だ。魔剣ごと消滅させられるのがオチだ。」

 

「それでも!刺し違えてでも、彼らの仇を!取れたかもしれないのに!」

 

「·········七つもあるのにか?」

 

「っ·········」

 

「仮にお前が刺し違えて破壊できたとしても、破壊できたのはそのうちの一つだ。あと六つもあるエクスカリバーはどうするつもりだよ。一つでも破壊できればそれで満足か?」

 

「·········それ、は·····」

 

「それにな────」

 

そんな事、お前の主が認めるわけないだろ。

 

「っ!」

 

ハッとしたのか、祐斗は真後ろへと振り返った。

 

自分を拾ってくれた王が、世話焼きな女王が、芯の強い僧侶が、後輩の戦車が、親友の兵士が、オカルト研究部の皆が祐斗を見ていた。

 

 

 

「·········すみません。」

 

全員の顔を見て、苦虫を噛み潰したように顔を歪めて、やがてその身に溢れんばかりの憎悪を抱えた騎士は、その視線から逃げるようにその場から立ち去った。

 

 

「祐斗······っ、」

 

声を掛けようとして、リアスは祐斗を止めようとする手を伸ばしかけて、止めた。

 

一瞬だけ見えた彼の横顔、その表情を見てリアスは伸ばしかけた手を止めてしまった。

 

その表情はまるで、自身を苛む罪悪感から逃れるように、酷く苦痛に満ちていた。




私の駄文を読んでくれてサンキューベリーハムニダー!
戦闘描写がグダグダに感じた方、それは気の所為ではありません、私もです。

あとイッセーの戦闘描写だけ省いたのは何故かって?
唯でさえ同時進行な上に剣対拳とか書けるわけないだろいい加減にしろ!(無茶苦茶)

まあ私の技術不足ですはい。
あとこの作品においてのイッセーは本赤の方のイッセーと差別化を図っております。
原作通りの力と原作とは違う力を持ったそれぞれのイッセーは、どのような違いが現れるのでしょうか?

ぶっちゃけとある方の作品の影響で、今原作を借りて読み返してみても昔ほどイッセーという主人公を恰好良く見れなくなってしまった作者の頭の中で生まれた想像が形になってしまった感じです。
ですのでこの作品におけるイッセーは、強大な力を持っているのに、その力をただ自分に備わった特別な力とだけ認識しているか、そうでないかを書き出したいと思ってます。今はまだですが少しずつイッセーアンチとは行かなくとも冷遇の片鱗が見え隠れしそうなので、唯でさえ私の趣味で始めたこの小説が割に合わない方は、今のうちに私の存在を脳内から削除した方が良いと思います。私の作品に着いてこれるか?(無理だろ)

あと日常での報い位はしっかりと受けさせますが構わんな?答えは聞いてない!


まあ長々と書きましたが、カッコイイイッセーは本赤の方が復旧でき次第書きますので、それまではこの作者の妄想が拙い形で具現化したこの作品を嘲笑ってやって下さい。これからもよろしくお願いします。



復讐に堕ちたるは、嘗ての信仰と同志のために。


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insight

イベント攻略でこっちにまで手が回らなかったんだ。
本当に済まない。




時刻は既に下校時間を過ぎ、殆ど人気が無くなった駒王学園、その旧校舎のオカルト研究部部室に三人の悪魔がいた。

言わずもがな、オカルト研究部部長ことリアス・グレモリーと副部長の姫島朱乃。そしてハチマン・ダンタリオンの三人だ。

 

その部室内の空気は非常に重苦しい空気で満ちていた。

リアスのいつものような蠱惑的な笑みも陰りを見せ、難しい顔で悩むに悩んでいた。

朱乃はそんな主の機微を悟り、敢えて何も口には出さず、ハチマンもまた沈黙を保っており、二人の様子を見守っていた。

 

そんな状態がかれこれ数分間続いたが、やがてリアスが言の葉を紡ぎ、静寂をやぶった。

 

「あの時、無理にでも祐斗を呼び止めた方が良かったのかしら·········」

 

静寂を破りやっと紡ぎ出せた言葉もその声色も、陰鬱とした、哀しさを孕んだものだった。

 

「······どうだろうな。少なくとも、今は一人にしてやった方がいいのかもしれない。」

 

それに答えたのは幼馴染の少年だった。

その彼の声も、やる気を感じられないいつもの声色よりも一段とまた覇気がなかった。

 

あの後、その場から立ち去った祐斗を見送る事しか出来なかったリアス達は、そのまま今日の活動を終了し、事情を知らなかった一誠達に祐斗の過去を話した後に、眷属達を帰宅させた。

 

その祐斗の過去を同じく聞いていたハチマンも、事の真相を知り容易に考えをいうことが出来なかった。

 

「教会の非人道的計画の被害者、最後の生き残り····か。」

 

リアスが話した祐斗の過去は、想像を絶した。

ハチマンはかつて聖剣によって家族か友人を殺されたのだろうと思っていたが、真実はその遥かに上をいった。

 

 

────聖剣計画。

 

かつて教会によって行われた人道に背く悪魔の実験。

 

聖剣を扱える者を生み出すために、幾人もの子供の命が弄ばれ、そして消えていった。

その計画の、最後の生き残りが木場祐斗。イザイヤという少年だった。

 

あの日、イザイヤという少年が木場祐斗という悪魔の騎士に生まれ変わったあの日から、彼が果たさんと願うのは復讐だった。彼の望む復讐は、同志の無念を晴らす事。

聖剣という本来は象徴としての側面を持つ道具、象徴としてあるべき物を扱う人間を生み出す為に、その尊い命を散らされ、死んでいった同志の無念を、そして祐斗自身が心に刻んだ怨恨を晴らすため、彼は聖剣を破壊せんと奮起した。

 

それこそが、木場祐斗の復讐。

 

「このままだと、木場は確実に死ぬぞ。」

 

それを理解し承知した上で、ハチマンは不動の事実を述べた。

今の祐斗は目の前の仇しか目に映っておらず、ただがむしゃらに聖剣を破壊しようとするだろう。

その結果として、正気を保てていない今の祐斗では余りにも分が悪い。

 

「でも·····今のあの子に何を言っても、あの子の心に私達の声は届かない······」

 

それに答えるリアスの声は、つい先日のフェニックスとの騒動の時と同じ、精神を追い詰められたような声色だった。

 

「なら····どうするの、リアス。」

 

「············」

 

再び、リアスは口を閉ざした。

これ以上何を言っても、現状を変えられる手段が思いつく訳もなく、祐斗の心を救えることも出来ないのだから。

 

 

 

 

 

そんな時だった、またも訪れた静寂を打ち破るケータイの着信音が鳴り響いたのは。

 

「······誰?」

 

部室内を木霊する音楽の発生源は、リアスの制服のポケットからだった。

 

すぐさまリアスはポケットからケータイを取り出すと、画面には親しみ慣れた名前が表示されていた。

 

「······祐斗?」

 

木場祐斗と表情されたケータイの画面を認めると、急ぎ通話ボタンを押しケータイを耳に押し当てた。

 

「祐斗?今どこにいるの?」

 

間髪入れず、リアスは祐斗に詰め寄るように次々と言葉を発した。

少しの間、祐斗の方から応答は返ってこなかったが、やがて意を決したように、言葉を発した。

 

嫌な予感がした。

判断能力すらまともに機能していない今の祐斗ならぱ、ほぼ確実に言うであろう言葉を。

 

「部長。」

 

そんなリアスの心情を知るはずもない祐斗は矢継ぎ早に言葉を切り出した。

 

 

 

「僕を眷属から外してください。ここから先は、僕個人の責任で片をつけます。」

 

 

―――無音。

 

一瞬だけ、世界からあらゆる音が消えたかのように錯覚するほど、当たりは静寂に包まれた。

 

その静寂の終わりは早く、携帯電話越しの祐斗の宣言から3秒ほど経った頃。

 

「──ふ」

 

 

彼の主の怒号が響いた。

 

 

「ふざけないで!!私のもとから離れることは許さないわ。あなたは私の大切な『騎士』なのよ!はぐれになんて絶対にさせないわ!」

 

「······部長、僕を拾っていただいたことにはとても感謝してます。だけど、僕は同志達のおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、僕は彼らの怨みを晴らさないといけないんです······」

 

「ダメよ祐斗!貴方一人で行こうとしないで!」

 

二人の会話はどこまでも平行線で、二人の主張が交わることは有り得なかった。

祐斗としては、聖剣への復讐、エクスカリバーを破壊したいと。願わくば二人の聖剣使い、ゼノヴィアとイリナよりも早く見つけ出し、復讐を成し遂げたかった。

そしてリアスは、祐斗が一人で聖剣を破壊しようと試みるのを止めさせたかった。

たった一人で成せることではない。下手をしなくとも、聖剣によって再起不能な程負傷するか、最悪の場合死ぬことも充分に有り得たからだ。

今の祐斗に何を言ったところで聞く耳も持たないだろう。それでも、自分の騎士がたった一人で、明らかに死に向かおうとするのを止めたかったリアスは携帯電話の向こう側に必死に呼びかける。

 

「祐斗、お願いだから落ち着いて。貴方の気持ちは痛いほどわかるわ。私も同じ事があれば······朱乃やソーナ、イッセーにアーシアに小猫に祐斗、それにハチマンも、皆が誰かのせいで傷付いて、死んでしまったりしたら私も復讐をしようと躍起になるわ。でも落ち着いて頂戴。必ずチャンスは来るから。だから、それまで早まらないで·········」

 

「祐斗君、リアスの言うとおりですわ。

皆貴方を心配してますのよ。だから、もう少し冷静になって、機を窺いましょう?」

 

「······でも僕は。」

 

「リアス、ちょっと貸せ。」

 

「ちょっと、ハチマン?」

 

平行線のまま進んでいた会話を見守ってあたハチマンはリアスから携帯電話を分捕るように手にすると、電話越しに祐斗へと呼びかけた。

 

「木場か?」

 

「ハチマンさん、ですか?」

 

「ああ。そんで、やっぱりやるのか?」

 

「·········その為に、その為だけに今まで生きてきました。勿論、部長への恩は忘れていません。それでも、これだけは譲れないんです。」

 

「そうか······」

 

少し含みを持たせるように間を置いて、再び言葉を切り出した。

 

「なら勝手にやってみろ。復讐は悲しみしか産まない、虚しいだけだなんて言うやつはいるだろうが、そんな事は無い。そいつは人間ってモノを理解していないか、自分自身がそうだと該当する異常者くらいだ。復讐はそいつに残された生きるための手段でもあるからな。お前がそれをしなければ明日を生きられないならやればいい。」

 

「ハチマンさん?」

 

「ちょっとハチマン!?」

 

「だがな、お前が意地でも意思を曲げないなら、これだけは忠告しておくぞ。」

 

隣から聞こえる驚愕の混じった非難を受け流しつつ、続けて祐斗へと言葉を送った。

 

「復讐心には囚われるなよ。」

 

「······それはどういう――」

 

「どういう事かって?それはな、復讐心に呑まれてお前がやらなければならないと決めた事を見誤るなって言いたいんだよ。」

 

「ハチマン君、貴方何を――」

 

「復讐心はあくまで復讐を成す為の原動力に過ぎん。適度な加減をして調整する必要がある。」

 

「······」

 

「例えば、今のお前を評するのなら激しく燃え盛っているキャンプファイヤーだ。持続性が無く、集中力もごっそり持って行かれてるだろ?今のお前は、憎悪の炎を猛々しく燃やして自分の身すら厭わずに玉砕しようとしてる様だ。それは詰まり周りが見えていない。ただひたすらに憎悪し、憤怒し、猛々しく燃え盛る復讐心を当たり散らしている。そんでもって燃え尽きるのが早い。―――ストレートに言うとだな、今のお前は聖剣に復讐する事しか考えず、周りを見渡す視野の広さも、普段ほどの冷静な判断能力も、何もかもが狭まって錆び付いたように機能して無ぇんだよ。」

 

携帯からは何も聞こえなくなっていた。

それは携帯電話が切れたとかではなく、ただ無言に、じっと彼の言葉に耳を傾けているが故の事だ。

 

「復讐を成す為に、あらゆるモノを利用しろ。お前の主を、仲間を、協力者を、何もかもを利用しろ。情報も、感情も、全てを糧に土台を作れ。その為の原動力が、お前の中で滾る復讐心だ。」

 

「だが、復讐心に呑まれるな。目的を履き違えるな。憎悪の余りに、冷静な判断を怠るな。憎悪を捨てろとは言っていない、それすらも勘定にいれて先を見据えろ。」

 

ハチマンの口から飛び出してきた言葉の連続、それはまるで、復讐のために必要な全てを網羅した説明書を音読したかのように正確で、合理的で、そして機械的で完成されたかのような手順だった。そんなアルゴリズムと心理のメカニズムを一気に頭にぶち込まれた祐斗だったが、耳から頭に流れてくる情報をしっかりと脳内で吟味しながら、ふと尋ねてみた。。

 

「······ハチマンさんも、復讐をした事があるんですか?」

 

「なに?」

 

「····ハチマンさんの言葉には説得力があります。それになりよりも、復讐というものを奥深くまで理解しなければ、そんな言葉は出てこないでしょう?」

 

復讐を果たそうと行動する人間。

その結果と有様を理解していなければ、こんな完成された作業手順のような説明などまず普通は無理だ。それが人間ではない異形の存在だとしても。

 

「············厳窟王。」

 

「え?」

 

「そんなタイトルの本がある。鋼の精神と培ってきた知恵を以て、自分を陥れた貴族に復讐を成したっていう、実際にあった事を元にした本だ。」

 

「まあ、そんな事はどうでもいい。事実を元にしていてもあれはフィクション、お話の中でのことだ。それを読んで俺なりに分析しただけだ。兎に角だ、動くにしても何かしらの策を立てろ。冷静な判断と、お前が利用できると思う全てを利用しろ。

 

 

 

そして無事に帰ってやれ、お前が死ぬとアイツが悲しむ。つか泣く。そうなるとやかましい事この上ないんだよ。」

 

こんな事など本来は管轄外だっていうのに······そう心の中で毒を吐きつつも、八幡は言うべき事を全て伝え返答を待つ。それが、今の彼に出来る事なのだ。

 

「······················ありがとうございます。」

 

そして、長い沈黙の後に帰ってきた返答は、極めて暗い声音での感謝だった。

その言葉を最後に、ツーツーという電子音が通話の終了を告げる。

 

「·······世話の焼ける····サンキュな、リアス。」

 

「ちょっと待ってハチマン。貴方何を考えてるの。」

 

「ハチマン君、木場君を焚き付けて良かったの?」

 

「下手に止めようとしても無駄だ。ああいう状態のヤツに下手な正論をかまして思考を説得しても、それを感情が跳ね除けてしまう。だったらいくらか忠告を交えつつ送り出した方がまだ安心だ。ある程度はこっちで手綱を握れる。それよりもだ。さっさとこの件について手当り次第に洗うぞ。勿論手伝って貰うからな居候共。」

 

「居候って·········いえ、今はいいわ。」

 

「異論はありませんわ。それでハチマン君?私達は具体的に何を······」

 

「決まってるだろ。」

 

ハチマンは人差し指をピンと立てて、重要な議題を指し示すように最優先事項を述べる。

 

 

 

 

 

「侵入した下手人の調査と侵入経路、観測機が反応しなかった理由の調査。後は下手人の動きの予測と、教会の遣いが出した情報の裏をとる。もしかしたらそもそもこの話自体が嘘八百で塗り固められたダミーかもしれん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間が知らない怪異の蔓延る町、駒王町。

いまその町で、確実になにかが動き出そうとしていた。

そしてそれを止めようと動き出す者達もまた、存在した。

 

ある者は、聖剣を奪回するために。

 

ある者は、聖剣への復讐を成すために。

 

ある者は、友を助けんがために。

 

そしてある者は、自身の責務を果たすために。

 

 

 

 

 

「·········やっぱり、やられてるな。」

 

そしてここに、責を全うするために動き出した悪魔が一人。いや正確には五人だった。

 

「観測機が一機ほど破壊されてる······他の観測機も無事かと思えば幾つか内部回路を焼き切られてるな。これじゃ正常に作動しない訳だ。」

 

「ハチマン君、せめて私達にも分かるように説明してくれません?」

 

「というか、魔道具というよりほぼ機械ね。」

 

「ハチマン様の作る魔道具は基本的に機械をベースにして魔術式や魔晶石を組み込んでいるタイプか、全て魔に通ずるもので構成されたタイプの二つありますからね。」

 

「·········これ、姉さんの影響ですよね。」

 

「正に、マジカル科学の結晶です!」

 

「否定はしないがな。まあ簡単に説明するとだな、コイツに積んでるアートグラフィックカメラの回路が焼き切られてるな。記録を見る限り不自然な魔力の乱れが一瞬だけ確認できる。なにかがいたのは間違いなさそうだ。」

 

「······私にはよくわかりませんわね。リアス、貴方は?」

 

「私も朱乃と同じよ。口頭で説明されても何が何だか······」

 

人間界、現世活動拠点ダンタリオン家(別荘)の居間に集結した五人の男女(内訳男1女4)がテーブルの上に並べられる写真付きの資料と、4機の破壊された観測機へと視線を投げかけながらお互いに意見を交換していた。

 

テーブル上にある観測機の内一機は完全に破壊されており、フレームがひしゃげレンズはひび割れるどころか欠けており内部構造もぐちゃぐちゃのスクラップと化していた。そして残りの3機はぱっと見外見上の変化は見られないが、フレームに開いた焼け焦げたような跡の残る、まるで剣を突き刺したかのように出来た5cm程の縦長の穴と、見事に内部のアートグラフィックカメラの回路のみがやき切れている。

 

八幡が放った観測機は全部で百以上。

その約半数がこの有様だ。

 

「何にせよ、あの二人組が白なのはこれで確定か。」

 

「ハチマン様?」

 

「どうしてそう言いきれるのよ?」

 

「まずわざわざ観測機を壊す必要性がない。まあこれだけじゃ薄すぎるが、次にこんな器用な壊し方を出来るのかっていうとそれも怪しい。オマケにあの二人が来たのは、兵藤の言ってた通りなら昨日辺りだ。このめちゃくちゃに壊された観測機の最終稼働日は三日前だ。しかもアラートが鳴らないようにと念入りな壊し方と言い、捕捉される事を避けようとしているのが分かる。」

 

「しかもこちらに未機能がバレないように電源だけは繋げているとは·········」

 

「敵ながら天晴れ、と言っておきましょうか。」

 

「それよりもどうしますの?これではコカビエルを追う事すら······」

 

「そこは大丈夫だ。回路の破壊された観測機の多い場所を徹底的に調べれば、行動範囲と潜伏場所くらいは分かるはずだ。」

 

ハチマンはテーブルの上に駒王町全域の地図を広げ、小さな丸を書き込んでいく。

 

「侵入経路は南側のはずだ。徹底的に破壊された観測機が南方面の一番端に配置していたものだからな。恐らくは此処で最初に観測機と鉢合わせて慌てて破壊したんだろう。」

 

「そして次に、中身だけを壊されたものが徐々に西側へと広がっていってますわね。」

 

「あちこちで壊されたのとそうでない物があるので、途中から最小限遭遇しないように通ってますね。壊されたのはやむを得ずに破壊した、こんな感じでしょうか。」

 

「最終的に、破壊された観測機が多いのはこの辺りと、ここですか·········」

 

「·········ハチマン、ここって。」

 

「なるほど、建設途中の工事現場と廃ビルか。確かに、隠れ家には定番な所だ。」

 

地図上には西側の一番端にある廃ビルと駒王町の中心部にある建設途中の工事現場を示す場所に二つの大きな丸が書き込まれた。ここが恐らくは、標的の潜伏場所だと推測される。

 

「これは·····私達の手には負えませんわね。」

 

「教会の遣いの言葉が正しいなら、コカビエルが既に駒王町へと入り込んでいる。だが俺達には到底無理だぞ。」

 

不穏分子が存在するならばこれを排除するに限る。だがその不穏分子が聖書に記される最上級クラスの堕天使でなければだが。

自分達の戦力では到底太刀打ち出来ない。敗北は必至だろう。

 

「一先ず、ソーナにもこの事を知らせるべきね。」

 

「リアス、それもそうだけどまずは魔王様達にこの事を報告する必要があるわ。」

 

「でも朱乃!」

 

「事はもう始まっているのよ。リアスの責任問題どころじゃない、下手をすればこの町もどうなるか······」

 

「ハァ·········取り敢えず今日はもう休め。向こうも姿を見せずに動いているってことは、少なくとも今すぐ事を起こそうとする訳じゃなさそうだ。本格的な対策と行動は明日からでも大丈夫だろ。それに下手人の正体を掴まない限りは、報告しても魔王様方が動くかは正直言って微妙。大規模な救援を依頼するなら、まずは確証を手にするところから始めねぇと。」

 

「それでは後手に回ってしまいますわよ。」

 

「十分に分かってる。

 

だから、先手は打たせてもらう(・・・・・・・・・・)。」

 

話を切り上げると同時に、ハチマンは携帯電話······ではなく、無骨な黒い長方形の物体を取り出した。携帯電話よりも分厚く、簡単な機能しか搭載されていないそれは、無線機と呼称されるものだった。

無線機のスイッチを押しながら、その無骨な機会の向こう側へと呼びかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『統括局』より全部署へ、最低限の装備を整え人界、駒王町へ集結せよ。

これより、特殊作戦の開始を宣言する。」

 

 

 

 

 

かくして、事態の解決を図るために、悪魔達は動き出した。




最近、忙しすぎて余裕でぶっ倒れます事が多くなりだした気がするのでございますことよ。

進学のための下準備に首都圏まで電車でGOし試験勉強突入中。文化祭の準備イベント攻略etc······
ついでに友人がメルトリリス当てやがった······良かったな!念願の初星5出て!祝ってやるよコンチクショウ!





はい、以上駄作者の愚痴とも言えない独り言でした。

実際かなりきつくなってきて執筆の時間が休憩時間にしかありませぬ。テストが終われば少しはマシになるのですが。

それに加え受験生でもあるので······皆さん、受験生の方は特に、頑張って行きましょう。







近況報告(ラストナンバーよ、盛大に殺してあげる!)



S「最近思うんだけどさ、お前の運ってどうなってんの?」

D「なんだよ急に。」

S「いやさ、お前の運ってかなりおかしいって改めて思ってさ。」

D「普通だろ?というかお前らの方がおかしいだろ。」

A「お前、嘗てマリーとエリちゃん同時に当てるまでリセマラ終われま10を自分で宣言して、見事に同時に当てたお前が言えることか?しかもマルタ付きで。」

B「プラス俺達の中で最初にアンリを引いて、今回はメルトリリスを当てて······」

C「お前の運は宣言型なのか?」

D「星5沢山持ってるお前らが言うな!」

SAB「「「だって当たっちゃうもんは仕方ねぇだろ。」」」

C「·········」

D「手前ら殴ってもいいよな?一発だけだか───」

E「おーいやったぜ!ジャック来たよジャック!」

SABCD「「「「「は?」」」」」

E「······あ、なんかヤバイ空気が───」

SABCD「「「「「野郎オブクラッシャァァァァァァァァ!!!」」」」」

「ギャプランッ!!」




終幕


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terminated

今度は羅生門イベか·········。
私はあと何度イバラギンの羅生門大怨起ィィィ!を見ることになるのやら······あそれとみこーん!の玉藻さんが来てくれました!キャットじゃなくてみこーん、コレ重要ネ。



取り敢えず次どうぞ。


駒王町に夜の帳が下りる頃。

 

宵闇に飲まれた町並みは道端に立つ街頭と小さな家々の光がぽつりぽつりと灯り、それはまるでもう一つの夜空を映し出しているかのようだ。

 

時刻で言えば既に二時を過ぎたあたり、丑三つ時と呼ばれる事もある、大体の人間が床につき寝静まった(一部の人間はその限りでは無い)頃。

 

 

 

そんな夜の闇に包まれる家々の一つ、人界拠点ダンタリオン家の居間で、ハチマンは灯りも付けずに机の上で淡い水色の光を放つ円筒状の機械を片目(・・)で見つめていた。

 

 

 

彼が見つめている円筒状の機械、その瓶のような形状のそれは側面がガラス貼り、上下に機械がそれぞれ底と蓋をするように取り付けられており、まるでSFモノに登場しそうな培養ポッドをそのまま小型化したような外見だった。その瓶のような機械の中には、光の届かぬ深海で明かりを灯したような仄暗い光を発する液体と、その中をぷかぷかとさまよう幾何学模様の描かれた球体(・・・・・・・・・・・・)が漂っている。

 

 

 

「······そろそろか。」

 

 

 

ハチマンはポッドのような機械(彼の場合は魔道具)から球体を取り出し、軽くタオルで付着した水を拭き取ると、その球体を瞼を下ろした右目へと宛てがった。

 

 

 

そしてそのまま、左手で下りた瞼を引っ張りながらコンタクトレンズを入れる要領で───

 

 

 

 

 

そのまま球体を押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ───っ痛ェ。」

 

 

 

彼の脳内で火花が散ったかのような鋭い痛みが走り、今まで世界を映していた左目と、たった今納まるべき場所へと納められた右目の視界が明滅する。

 

 

 

右目は徐々に薄暗い居間の景色を脳裏に伝え、ピントの合っていない写真のような光景は少しずつ世界の輪郭を鮮明な物へと修正していく。

 

 

 

右目(・・)の全ての作業が終了すると、今度は左目に指を突っ込み、眼球を引き抜いた。

 

 

 

「ッ痛、――――!!」

 

 

 

血が流れることはなく、若干の生理食塩水で濡れたのか少しの湿り気がするだけだった。

 

 

 

右手に収まっている眼球、の代わりをしている物。それにもまた、先ほど右の眼窩に納めたばかりの球体と同じく、幾何学模様が描かれていた。

 

 

 

「もう何年もの付き合いになるが、未だに慣れないな。コレばっかりは。」

 

 

 

右の掌に納まったままの球体、義眼と呼ぶべきソレを弄びながら、ハチマンは独り言を零す。

 

 

 

時刻は深夜。明日からの本格的な特殊作戦のための布石を打ち、それぞれが休息のために床についたが、この男はその時間帯にこうして義眼のメンテナンスを行っているのだ。自分の眼窩に収まっているものを抜き取ったり嵌め直したりと、唯でさえ常軌を逸したこんな光景を生で見ようものならSANチェックは免れない。

 

 

 

そのような配慮もあって、こんな時間に一人でメンテナンスのために起きていたのだが、そんな気配りも水の泡と化した。

 

 

 

何故ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·······························································」

 

 

 

 

 

ここに控えめに言ってしょぼーんとした、どストレートに言って悲観したかのような沈痛な面持ちで彼の作業を目を逸らさずに、それでいて辛そうにそれを見ている緋色の髪の幼馴染がいるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まり、というか何故こんな状況になったかを簡単に説明するならば真相はこうだ。

 

 

 

00:00~全員就寝。

 

 

 

01:24~ハチマン覚醒(眠気的な意味で)。

 

 

 

01:30~義眼修理開始。

 

 

 

01:54~喉を潤そうとリビングに降りてきたリアスに義眼の事がバレる。

 

 

 

02:01~現在。

 

 

 

 

 

ざっと説明すればこうなり、今に至る。

 

 

 

ちなみに何故わざわざリビングに降りてきたのかと言うと魔道具を満たす液体、水溶液用の水を確保するためである。

 

そんな意味不明な偶然により、現在の状況になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

···················································································································································································································································································································································。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(凄く気まずい···············)

 

 

 

さっきからずっとこんな調子なのだ。

 

半分の作業が終わり、もう片方の義眼のメンテのみなのだが、このまま切り上げてしまうと明日からの活動に支障が出るだろう。何とかしなければと彼は思うが、対人レベルたったの5か······ふっゴミめ。な彼のコミュ力ではこの状況を穏やかなものへと戻す事などまず出来るわけがない。

 

むしろこの状況から笑いに持ってける訳ねぇだろ俺は芸人じゃねえんだよなどと心の中でも荒ぶっており、一向に空気が重たくなっていくばかりなのであった。

 

 

 

そして意外にも、この余りにも気まず過ぎて身動きの取れなくなった空気を打ち破ったのは、対面するように座り腐り目の少年を見る幼馴染だった。

 

 

 

「·········ねえ。その、義眼を、着けるようになったのって·········やっぱりあの時の·········」

 

 

 

そこまで言いかけ、再び俯いた。

 

 

 

この重苦しい空気が打破されることは無く、結局また同じように沈黙の連鎖が続くのみ······と思われたが。

 

向こうから話を切り出してくれたお陰で言い出しやすくなったのだろう。

 

ハチマンはSFポッドのような魔道具からは目を離さずに、リアスが言おうとした言葉にこう返した。

 

 

 

「······そうだな。確かにあの時だが、別にお前らが原因なんかじゃねえから気にすんな。俺の自業自得······いや、自惚れた結果だ。」

 

 

 

今は何も無い、空虚な窪みの存在する左の眼窩へと手を当てながら、自嘲するようにハチマンはそう言葉を零した。

 

 

 

「でも私が、まだ子どもだったからだとしても、私が動かなければ······!」

 

 

 

「だから気にすんなって言ってんだろ。あの時自分に降りかかるリスクすら考え付かなかった俺のミスだ。早くに魔術を扱えるようになったからって、ヒーロー気取って後先考えずに魔術ぶっぱなした俺がアホだったんだよ。」

 

 

 

「·········ごめんなさい。」

 

 

 

「謝る必要は無えって。············それにまあ、アレだ。こういうのは名誉の負傷ってやつだ。実際、あの時に何もせずに全滅エンド迎えるよりは遥かにマシだったし、その·········俺の目が逝かれただけでお前らが無事だっただけでも御の字だよ。」

 

 

 

その負傷は、失った元の眼球は昔の自分の愚かさの象徴であり、戒めであり、そして唯一の誇りでもあった。

 

 

 

ハチマンが過去の自分にこれはと自信を持って誇れる物は、これから先もずっと、この眼だと胸を張ってこたえるだろう。

 

普段言葉には出さないが、というかこれから先も面と向かって言うことはないのだろうが、リアス達三人を助けることが出来て、失わずにすんで良かったとハチマンは心の中で安堵していた。

 

その対価として、たかが目が見えなくなった事くらいハチマンにとっては屁でもなかった。

 

 

 

今はこうして魔道具の義眼を使うことでしっかりと世界を見据えることが出来ているのだが。

 

 

 

「朱乃とソーナは、その、義眼の事は───」

 

 

 

「知ってる。お前には·········敢えて話さなかった。」

 

 

 

「·········やっぱり、私じゃ頼りにならないの?」

 

 

 

「そうじゃねえよ。お前の事だから、自分のせいだって思い詰めちまうだろうから、お前には話さないように言っといただけだ。」

 

 

 

 

 

窓から射し込む月の光と、魔道具の瓶を満たす液体から放たれる淡い光のみが、暗闇の世界に唯一の光を灯す。

 

その暖かいようで、冷たいような水色の淡い光は、今のリアスの心象を表すかのようだった。

 

 

 

想い人の今まで知らなかった秘密。

 

それを聞かされなかったとはいえ、今の今までのうのうと過ごしてきたそれを知った今、彼女心を満たすものは自分のせいだという自身への怒りではなく、それを知らずに、今まで彼の優しさに甘えていた自身への嘆きだった。

 

 

 

今思えば、自分自身で立派な大人になろうと思い始めたのはその事件がきっかけだった。

 

ハチマンが負傷し病院へと運ばれる中、自分達は何もする事が出来なかった。

 

傷を治すことも、自分の身を守ること、ハチマンを助けることも出来なかった。

 

 

 

思い返せばそれからだった。ハチマンと会わなくなり、今よりも立派な大人に、悪魔になろうと。そのために距離を置くようになった事。

 

 

 

そうして、全く追い付けない背中を目指してきたものの、それでも縮まらない決定的な差を見せつけられた。

 

その事実が、何よりも悲しかった。

 

そして彼女の追い付こうとする決意はいつしか彼への嫉妬となり、強くなろうと躍起になるもその根幹を忘れていったのだ。

 

 

そして今回に至っては、自分の大切な眷属が自ら死地に赴こうとしている。

リアスにとって祐斗は眷属の一人であり、それ以上に大切な家族と思っている。それは彼女の眷属全員に対しても同じ様にだ。

 

グレモリーの悪魔は情愛に深いと言われているが、それを抜きにしても彼女のいっそ甘さとも取られかねない優しさを持ち合わせていた。いっそ人々の悪魔像からはかけ離れている位には、だ。

 

そんな彼女が、眷属の暴走とその悲しみに寄り添うことが出来ない不甲斐なさを噛み締めながらも、自分に出来ることをして行こうと奮起した最中に、それは昔の幼馴染みの怪我を、それによって発生した弊害を知ってしまった彼女の心境は、決して穏やかなものではない。

 

 

尚も自己嫌悪に陥り自身を責めるリアスを尻目に、嘆息しながら言った。

 

 

 

「·········忘れろとは言わん。ただ、これ以上自分を貶すのはやめろ。お前のその優しさは最大の美徳だが、今のそれは全く違うものだ。」

 

 

 

魔道具からピーッと小さな電子音が鳴り、義眼の修復を終えた事を告げた。

 

ポッド型の魔道具から義眼を取り出し、付着した液体をしっかりと拭き終え、左の眼窩へと納めた。

 

 

 

さっきと同じような痛みが頭の中を駆け回り小さく表情を歪めつつも、仕方の無いやつと心の隅で思いながら未だチカチカと輪郭の定まらない視界でリアスを見ていた。

 

 

 

さっさと寝るぞ、そう言いながら自室に戻ろうとして、リアスの横を通り抜ける前にその無防備な頭のてっぺんへと──

 

 

 

「────ふみゃっ!?」

 

 

 

ぐわしっ!と勢いよく頭頂部を鷲掴みにした。それと同時に良く分からん悲鳴のような何かがリアスの口から漏れ出たが、少し恥ずかしかったのか顔を赤くするに留まった。大丈夫、損害は軽微だ。

 

 

 

「いきなり何!?突拍子すぎないかしら!?というか幼馴染みとはいえ女の子の頭を鷲掴むとかどういう了見!?」

 

 

 

「ほらほら騒ぐな騒ぐな。上の奴らが起きるだろ。」

 

 

 

「誰のせいよ!」

 

 

 

明らかに雑なようで、しかしその手付きは最初以外優しく繊細なものだった。

 

長い長い緋色の髪を、慣れたように自前の手櫛で優しく梳いて行く。まあ簡単に言って、撫でているのだ。

 

その感覚を、リアスは覚えている。

 

昔の方はおぼつかない手付きで、それでも髪の一本一本を労るかのように丁寧に梳いていたあの懐かしき感触。

 

やはり今は時間が大幅にたったのか、昔よりも確実に上達していたようだ。

 

リアスは幼馴染みの撫で撫でハンドを目を細めて頬を朱に染めながらも、流れに流されるままに受け入れていた。

それでも、自分自身への嫌気が無くならないことには変わりない。

 

 

 

 

──そんな思考に至るのを、彼は許さなかった。

 

 

 

 

「面倒な案件がまだ残ってる。取り敢えず今はそっちに集中すんぞ。それが終わってからなら好きにすればいい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それとも、またただ見てるだけか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·········冗談でしょ。」

 

 

 

その一言が起爆剤となった。

 

 

 

助けられる側に居続けるのは物語の中のお姫様だけで十分だ。

 

ならば、貴族という誇り高き存在であるべき自分は、ソロモン72柱に名を連ねるグレモリーの血を引く者であるならば、そんな情けない醜態を晒すのはごめんだ。

 

ならばこそ。彼女はもう待ち焦がれる姫君(シンデレラ)ではいられない。

 

 そして、自分は主だ。一人の王なのだ。

 

自分を信じてくれる眷属(かぞく)がいる。

 

自分を慕ってくれる家族(けんぞく)がいる。

 

そして、自分をなんだかんだで見てくれている幼馴染み(おもいびと)がいる。

 

 

 

 

 

「分かったわよ。少なくとも今は、コカビエルの件を片付けるのが先。ハチマンに言いたい事とか聞きたい事、謝りたい事ととかは全部終わってからに。それでいいでしょ?」

 

 

 

「だから、お前が気にすることじゃないって言ってるだろ·····」

 

 

 

 

 

 

 

月と星の光のみが輝く宵闇の中、再び少女は決意した。

 

自分の足で立ち、前へと進む。

 

そんな当たり前の事を成すために。

 

そしていつか追いつくのだ。

 

世の女性達が一度は夢見る白馬の王子様には程遠い、灰被りの王様の隣を歩いていくために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうとな、流石に下着くらいは身につけろ。恥じらいがないのかお前は···」

 

 

 

「私の脱ぎ癖知ってるでしょう。元々水を飲もうとして降りてきただけだったのに、まさか幼馴染のとんでもない秘密を目にするなんて誰も予想できないわよ。」

 

 

 

「だからって全部すっぽんぽんなのはマジで勘弁してくださいこっちの精神がマジで持たないから。理性決壊するから。」

 

 

 

 

 

 完全にとは言えないが、リアスも少しずつ調子を取り戻していった。

少なくともさっきまでの必要以上の自己嫌悪の気も薄まり、表情も僅かにではあるが、彼女の持ち前の明るさを取り戻したような気がした。

 

そんな彼女の様子を、呆れながらも彼は見守るように目を細め、微笑をこぼした。

義眼に描かれた幾何学模様が無くなった、いつも通りの腐った目で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖剣使い来襲から翌日。

 

やはりと言うべきか、案の定木場は学校に姿を現さなかった。

 

普段の立ち振る舞いや成績の良さと言い、正に模範的な優等生として学園の教職員生徒一同から認識されている彼が何の連絡もせずに休むという事態に、大半の生徒達は何かあったのかと彼の身を案じていた。

 

その真実を知る極小数の者達もまた、祐斗の先行きの危うさに不安を募らせ、勉学に励む事すら叶わなかった。

 

だが、それと同時になにかしら行動を起こすのも彼ら、祐斗の過去を知って尚も力になりたいと願った少年少女達だった。

 

仲間が死に限りなく近い方へとゆらりゆらりと歩んで行くのを、ただ指を咥えて見ているなんて事など、出来るわけがないのだから。

 

なればこそ、先ず最初に祐斗か昨日の聖剣使いかに接触して、どう協力に持ち込むかが目先の課題である。

もちろん、これは自分達のご主人様には内密に、だ。

 

気取られることなく、また戦闘も視野に入れて出来るだけ多くの戦力が必要になるのは明白であった。

 

 

 

 

 

 

「嫌だぁぁぁぁああ!! 俺は帰るんだぁぁぁぁああ!!」

 

「落ち着け匙! 大丈夫! エクスカリバーをぶっ壊すだけだから! 部長と会長に黙って!」

 

「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇかボケぇぇぇぇ!」

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

「大ありなんだよ!!その台詞自体が!!俺まで巻き込むんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 天下の往来、人々の行き交う駅前で醜態など知った事かと言わんばかりに叫ぶ哀れな男がいた。

 

シトリー眷属の匙 元士郎。

 

兵士の駒を四つ使い転生した、ヴリトラの神器を宿す期待の新人である。

そんな彼は今、駅前で、恥も外聞もなく、嫌がる子供のように叫んでいた。

 

───なかなかにシュールな光景だが、どうか待ってほしい。

彼も一応自らの主からなるべく今回の件には干渉するなときつく言われており、何より匙は今回の事に何も関係がない。

祐斗の過去を知らなければ、今回の事に協力する義理も無いのだが、彼はいつの間にか同期の新人悪魔一誠の策略によって呼び出され、力仕事担当小猫ちゃんによって退路を絶たれた。

そしてこの事が主にバレればお仕置きは確定········うん、実に先行きに幸がない。

 

 

 

「そんなに嫌かよ?」

 

「当たり前だ俺はまだ死にたくない!」

 

「はぁ、しょうがねぇ······」

 

「あ、諦めてくれたか───」

 

「小猫ちゃん、バン○ルビーがラン○ージにやったみたいに腕を背中側に引っ張っちゃって。」

 

「········私が言うのも何ですが、イッセー先輩貴方悪魔ですか。」

 

「小猫ちゃんと匙もな。」

 

「いだだだだだだだだ!?ホントふざけんなよ兵藤お前!?それと塔城さんも結局やるのかよ!腕!腕もげる!!背中に足乗せないでホントにもげる!」

 

「さあ匙君。俺たちに協力するかこのまま肉体的ダメージと近隣の人の哀れみの視線による精神的ダメージを受け続けるか、どちらでも好きなのを選んでくれて構わんよ?」

 

「このド外道!鬼!悪魔!変態三馬鹿!兵藤!」

 

「だから悪魔だって。それと俺の名前を悪口みたいに言うな!」

 

·········この状態である事が既に恥ずかしいと思うの私だけですか?

そう小猫が冷静になるのと匙が「手伝うから離してくれ!」と懇願したのは奇しくも

同時であった。

 

そしてようやく解放された匙はというと、肩の辺りを労わるように擦りながらも何とか復帰を果たし、詳しい話を聞くことにした。無論涙目で。

 

「それで、結局どうするんだよ。手伝うにしても目的が不明瞭な事に首を突っ込むのは勘弁だからな。」

 

「エクスカリバーぶっ壊す。」

 

「すまん。お前に説明を求めた俺が馬鹿だった。」

 

「教会の遣いが来訪。コカビエルがエクスカリバーを盗んで逃走。この町に潜伏しているそうです。教会の遣いの二人が残りのエクスカリバーを持ってとっちめに来ました。木場先輩が教会の遣いの持つエクスカリバーを前にして暴走。エクスカリバー絶対ぶっ壊すマンに変身。現在行方不明。私達教会の二人を探す。協力してエクスカリバーを奪い返す若しくは壊す。以上です。」

 

「ごめん、帰っていい?」

 

「逃がしません。」

 

残念無念。匙君の未来には不安しか見当たらないぞう?

しかしこのまま放っておけば大惨事になる事も確実なのだ。

 

故に、匙は渋々ながらも了承するのだった。

 

「それで、その教会の遣いの奴らを探すのか?」

 

「今はそうだな。」

 

「······それってどんなヤツらだ?」

 

「片方が青髪にメッシュの入ったボーイッシュな感じの人でした。」

 

「おっぱいの付いたイケごふっ!?」

 

「───もう片方はオレンジっぽい色のツインテールの人です。」

 

「············もしかして、それってアレか?」

 

如何にも関わりたくないと言わんばかりに首を明後日の方へと向け、それと真反対の方へと匙が震える指を指し示した。

 

 

 

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私達にお慈悲をぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

聞き覚えのある声と、見覚えのおる白ローブ。

あれが先日、お互いに拳と刃を交えた聖剣使いと思えるだろうか。

 

 

『(関わりたくない······)』

 

 

三人の心の声が見事にハモった。

なにせ傍から見れば明らかな変人なのだから。天下の往来で人目を気にせずに騒いだ彼らにもそれは言えることなのだが。

 

「くそっ、誰も止まらないとはどういうことだ! 日本人は宗教に優しくないと聞いたが、そもそも人へ無償の愛を施そうという精神性すらないんじゃないのか!?」

 

 「駄目よゼノヴィア! いくらホントの事でもそうやって当たり散らしても無駄にお腹が減るだけよ!」

 

 「そもそもお前があんな絵を買うから資金が足りなくなったんだろうがっ!? 人を諌める前に己の行動を鑑みろっ! 大体なんだこの絵は誰が描かれているというんだ!」

 

「え、えーと、多分、ペテロ様······?」

 

ああ、そうこうしている内に向こうは向こうで仲間割れを始めてしまったようだ。

なにせ彼女等の生命線となる活動資金が底をついたのだから。そしてその理由が訳の分からん絵画を購入した事による自業自得とも言えるのであるが。

と言うよりも日本人がというか、その無償の愛を施す相手が如何にも近寄り難い雰囲気を放ってしまっているせいなのではないかとツッコミたいところだ。

とにかく、もうこの時点でさっさと帰りたい。そう思う三人の感性と思考は決して間違いではないだろう。

各々が家で好きなことをして気を紛らわせたいと強く願うのも無理はなかった。

 

しかしあのまま放っておく理由にも行かず、このままだと話が進まないので仕方なく接触を図る三人であった。

 

 

はてさてこれからどうなる事やら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、わざわざ私達に接触した理由をそろそろ聞いても良いだろうか?」

 

人々が行き交う駅前の路上から近くのファミレスに場所は変わり、青髪メッシュの少女、ゼノヴィア・クァルタはそう切り出した。

面倒な事にはならずに何とか話を進められそうなのは願ったり叶ったりだった。

一誠としてはアーシアに対しての罵倒を許したわけではなかったが、今は話し合いの場なので余計な発言は控えることにした。

うむ、多少(・・)のイレギュラーな事態はあったが何とか話し合いにまで漕ぎ着けた。

後は協力の確約さえ出来れば彼らの目標へと大幅に進むだろう。

敵対している協会勢力の者との同盟は少々アレな気もするが、その辺は後でいくらでも理由付けができる。

 

何はともあれ、無事に話を進められそうで良かった、良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーブル一面に広がった多くの空の皿が無ければ、更に良かったのだが······

 

この数日禄なものを食していなかったのかと聞きたくなる位に、気付けば追加注文された品々が次々に彼女等の胃袋へと消えていった。

そしてこの代金の受け持ちは一誠であり、あまりの量に彼の金銭面へのダメージが致命傷レベルで当たってしまった。

そして同時に、彼にとってのライフラインが購入出来なくなったという自体に気づくのはそれから少し後のこと。

 

目の前の惨状に唖然とする二人(小猫からしてみればそれほど驚く事ではない)だが、直ぐに脱線しかけた思考を元の線路に復帰させる。

 

人生何事も切り替えが大事なのだ。

 

「······色々言いたい事はあるけど、さっさと本題に、単刀直入に言わせてもらう。

 

エクスカリバーの破壊に協力させてくれ。」

 

その言葉と同時に、二人の表情から僅かに浮かんでいた笑みが消えた。

 

「······正気か?」

 

「イッセーくん、それってどれだけ危ないことか、わかってる?」

 

「危ない? そりゃ確かに聖剣は俺達悪魔にとっての天敵だけどさ。それ位覚悟の上─」

 

「そうじゃなくて、私が言いたいのはその後の事だよ。」

 

「その後?」

 

イリナの言うその後のことが分からず一誠は首を傾げる。

二人はため息を大きく吐き、

 

 

「つまりだな兵藤一誠、『悪魔』が『聖剣』を破壊する。それが問題なんだ。」

 

「「あっ······」」

 

そうして、転生したばかりのルーキー二人は理解した。

自分たちがやろうとしていることの意味を。

 

「君達悪魔が我々教会、若しくは天界の管轄の聖剣を破壊すれば、それは天界と冥界の確執をより深いものにしてしまう。我々としては余計な火種をわざわざ作り出すつもりは無い。」

 

「それに、今回私達が敵対しているのは堕天使。これがもし堕天使の組織的なものによるなら。」

 

「······私達は二つの勢力を敵に回す。つまりは、もう一度戦争を起こす火種になるかもしれない、という訳ですか。」

 

小猫の補足に二人は頷いた。

今回の事件はかなり複雑な事情が幾つも絡まっており、とてつもなく面倒な事態に成り果てていた。

だがもちろん、それだけ複雑になっているからこそ、突ける穴もあるわけで。

 

「だが、私としては君達の申し出を受けたいと思う。」

 

「ちょっとゼノヴィア!?」

 

「イリナ、どのみち私達だけではコカビエルを打倒するどころか聖剣を破壊する事も叶わないだろう。」

 

「だからって、悪魔の手を借りるのは─」

 

「なら、悪魔としての彼ではなく、赤龍帝としての彼に協力を仰ぐというのはどうだ?」

 

堕天使とも悪魔とも何かしらの関係を持つのは得策とは言えない。ならば、第三者のように見えるグレーゾーンの人物ならば、どうだろうか?

 

たまたま訪れた場所に今代の赤龍帝が居て、共闘の後に彼が悪魔に転生したとしても、問題は無いと言い張ることは出来る。(勢力としては無視出来ないが)

幸い教会には悪魔側に赤龍帝がいるという話は未だに伝わってはいなかった。

そしてたまたま、彼の知り合いの悪魔による助力を得られるという筋書きにさえ出来れば、直ちになにかしらの影響が起きることはそうそう無い、筈だ。

 

「それなら······いいのかな?」

 

「そういう訳だ。こっちは君達の提案を受け入れようと思う。」

 

「あ、ああ。」

 

「本格的に逃げ場が無くなってきたなー·········」

 

「匙先輩、そろそろ覚悟決めてください。」

 

かくして、教会と悪魔による共同戦線が築かれた。

目標は聖剣エクスカリバーの奪還若しくは破壊。

 

ならば、ここにはもう一人の役者いなければならない。

 

 

 

 

「なるほど、それが僕を呼んだ理由かい?イッセー君。」

 

復讐に燃える一人の騎士。

木場祐斗という此度の舞台の主役が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「収穫は今のところ無し、か。」

 

「なるほど、向こうには相当の手練れが居る様ですな。これ程迄に巧妙な隠れ方、我々人狼の嗅覚を持ってしても追う事が難しいとは。」

 

「そう簡単にアタリに辿り着いても、すぐさま乗り込むわけには行かんがな。しかし、こうも上手く隠れられると面倒だな······」

 

「これは長期戦になるやも知れませんな。お茶の準備をしてきましょう。」

 

「アッサムの砂糖増し増しで頼む。」

 

「承知しました。角砂糖二つ分にしておきます。」

 

「俺の話聞いてた?」

 

 

ダンタリオン家人界地のとある部屋で、二人は情報収集に勤しんでいた。

一人は言わずとも分かるよね?なこの物語の主人公、ハチマン・ダンタリオン。

そしてもう一人は彼の、というよりダンタリオン家の執事長。ヴァルケンハイン=R=ヘルシング。

 

以上の二名が居るのは情報統括室。

本来は駒王町管理のための部屋であったが、臨時で司令室としての機能を増設した簡単司令部だ。

 

そして何をしているのかと言うと、駒王町に散らばった眷属達からの情報を総括し、整理する為である。

 

だがこれと言って重要そうな情報は未だに来ていない。

 

 

『こちら覗覚星。東方面の商店街は特に手掛かり無し。足跡どころか痕跡とかすら何も見えない(・・・・)。ホントにコカビエルなんてバケモノが居るのかも怪しいんだけど。』

 

「管制塔より返答。引き続き東方面の捜索を行え。観測所も同様。」

 

『了解。』

 

「──ふう、またハズレでしたな。」

 

「問題無い。少しづつ捜索範囲を狭めていけば自ずと見つかるさ。」

 

「だといいのですが。こちら、アッサムになります。」

 

「おう。···············ヴァルケンハイン、本当に角砂糖二つにしやがったな······」

 

「どうしましたか?ハチマン様。」

 

「いや、何でもない。」

 

このように、今のところめぼしい成果は無し。

なんの痕跡も残さない敵の手腕に脱帽すると共に、ハチマンは思わず頭を抱えた。

 

それ以外にも······

 

 

《溶鉱炉より定時報告。目標の痕跡未だ確認出来ず。》

 

『大尉!向こうのアレがかんらんしゃなのか!?とっても大きいぞ!おお!向こうにあるのは天誅ガールズのDVDだ!?

あ、ハチマン!こっちは何も無かったぞ!そーさくかつどうはちゃんとやっているからな!大尉!次はあっちだ!』

 

《·········報告終了する。》

 

 

 

 

 

 

『こちら防壁堤。こちらも痕跡を発見できません。それと、ファウス······生命院が警察の方に連れていかれました。指示をお願いします。』

 

 

 

 

 

 

『こ、こちら情報室!こちらもハズレでしたわ、引き続き捜索を······待ちなさいな!切り刻んでもいい?じゃありません!お願いですから、私の話を聞いて、コラ!?だからダメと言っているでしょう!?ああ、もう!通信終了しますわ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやー申し訳ありません。私としたことが抜かりました。こちらは隙を見て脱出しますので、ハチマン様はご自分の仕事を。しかし警察の方々も早とちりをしますねぇ。私が身につけている白衣を見れば医者だと言うのは丸わかりでしょうに。え?頭の被り物が原因?そんなまさか。何処にでも売っている紙袋ですよ。マスクとサングラスにニット帽の強盗スタイルよりも簡単に、そして自然な変装を両立し──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだアイツら·········」

 

 

ハチマンは再び頭を抱えた。

大尉とマシュとネイトはまだいい。

延寿も歳相応でまだ許容できる。

だが、だ。

揃いも揃って問題児が多すぎる······

 

「不安しかしなくなってきた······」

 

なまじスペックが高い為、こういう暴走を起こされると実に面倒である。

誰かの上に立つ主という者は、こういう所で面倒くさいのだ。

それは何処ぞの赤龍帝が目指すハーレム王とやらも例外ではない。

 

この先に不安しか感じられないハチマンであったが、そんな時だった。

 

 

プルルルルルルル!

そんな無駄に喧しい電子音が情報統括室の中を響き渡った。

 

 

「······塔城?」

 

 

電子音の源はハチマンの携帯から鳴り響き、画面には塔城の二文字が映し出された。

 

 

「塔城様からの連絡、なにかあったのでしょうか?」

 

「まさかな·········」

 

 

若干の嫌な予感を抱きつつも、ハチマンは少しの間迷った挙句通話ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダンタリオン、聞こえているだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

声の主は小柄な後輩ではなく、先日の厄ネタの片割れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木場祐斗という一人の少年を、匙元士郎は始めて理解した。

 

優等生であり、非常にモテるイケメン。

そして性格も良しと非の打ち所のない人間。そしていけ好かないという個人的な感想。少なくとも、学校での彼を見て、匙はそんな印象を抱いていた。

 

それは間違いなく木場祐斗という少年の人がらである。しかし、それは一側面にしか過ぎないのだ。

 

心の奥で誓った、忘れられる訳の無い感情。復讐という罪。

 

その思考に至るまでの木場祐斗という少年の過去は、普通の人生を送ってきた彼からすればとても想像しえない、重すぎるものだった。

 

そしてこの男、基本的に同級生からも普通だと思われてる割には情に厚い性格をしている。

同時に感情移入しやすく、ちょっとしたドキュメンタリー番組でも涙腺にきてしまうという涙脆い一面もあるのだ。

そんな男が悲しい過去話を耳にすれば

 

 

 

「木場ぁぁぁぁぁ!!」

 

 突然そう叫び声を上げた匙は、ガシッと祐斗の肩を掴むと前後に激しく揺らしながら泣き叫んだ。

涙脆い彼がそんな重たく悲しい過去語りを聞いて、何も思わないわけがない。

 

「辛かったな……っ! 辛かったろう! チクショウ、俺はお前の事を誤解してたぜ! ただのいけすかねぇ爽やかイケメンで、顔で世の中なんだって巧くいってきた甘ちゃんだとばかり……………」

 

 鼻水と涙で顔を汚しながらも、今まで思っていた本音をここぞとばかりに撒き散らす匙。悲しみの涙と同時に何か色々漏れ出しているのであった。

 

「………え? 僕、そんな風に思われてたの?」

「俺は今、モーレツに同情している! そして憤っている! ああ酷い話だ!」

 

そう泣きながら豪語する、ちょっとウザくなりだした匙の勢いに流石の祐斗も困惑の表情、どころか若干引き気味になりだした。

 

「最初俺は、この話を降りようと思ってた! だが気が変わったぜ! 俺はやる! やってやる! ああ、会長の制裁を敢えて受けよう! それでも俺は、お前に協力してやる! 聖剣をぶっ壊す? 上等じゃねぇか!」

 

「あ、ありがとう、匙くん」

 

「礼なんて要らねぇやい! 俺がやりたいからやるんだ! それと、俺の事は元士郎って呼んでくれよな!」

 

「匙先輩、落ち着いてください。」

 

「げぼっ!」

 

そろそろ落ち着いてもらいたく思ったので、腹に拳を打ち込んだ小猫は後にそう語る。

というかいい加減静かにしなければ遠くでとても恐ろしい笑顔を浮かべている店員様から強制退去の死刑宣告が告げられるのが明らかだからだ。

 

「ご、ごめん。」とようやく落ち着きを取り戻した匙を尻目に、ゼノヴィアは本題の確認を行った。

 

「では、これで同盟の締結は完了したと認識していいな?」

 

その言葉に、一同は首を縦に振る。

祐斗自身はあまり肯定的ではなかったが、折角訪れたチャンスを一時の感情で不意にする彼ではない。

 

それに、先日主の幼馴染みはこう言っていたではないか。

 

『利用できるものを全て利用しろ』と。

 

ならば、感情の抑え時は今だ。

耐え忍び、そして目的を果たす。

 

そんな単純な解を手にするために、祐斗はそれを受け入れた。

 

 

 

「しかし、どうせならばもう少し戦力が欲しくはあるな。」

 

「流石にこれ以上誰かを巻き込むのは出来ないからな?部長たちにバレる。」

 

「だけど、実際俺たちだけで勝てるかなんて聞かれたら······なあ。さっきは勢いに任せて言っちまったけど、こっちは間違いなく力が足りない。」

 

そして目先の問題はそれだった。探すのも勿論目先の目標ではあるが、いざ相対した際に今の戦力で戦えるかと聞かれれば、即答でYESとは答えられない。

 

なにせ相手は聖書に名を記した最上級クラスの堕天使であり、恐らく向こうには与していると思われるはぐれ悪魔祓いの存在。

バルパー・ガリレイを戦力に数えなくとも、かなりの厄介な者達が立ちはだかるのだ。

 

そして、だからこそ。

ゼノヴィアはその問題を解消するために、却下される前提である提案を打ち出した。

 

 

 

 

「ダメもとで聞きたいのだが、千の魔術を携えし者(グランドキャスター)······ダンタリオンに協力を仰げないだろうか?」

 

 

 

それから少しして、それを全力で却下しようとした二年生二人は小猫によって力技で抑え込まれ、連絡手段を提示したのだった。

抑え込まれた被告人二人は、ハチマン経由で自分たちの主にバレるのではないかと危惧し止めにかかったが、それも後に意味をなくすことになろうとは、この時はまだ誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······何故塔城の番号からお前の声が聞こえるんだ?」

 

 

部屋の温度が徐々に下がっていく感覚がした。口から飛び出た言葉も、まるで冷えきった鉄のように冷たいものだった。

 

「教えてくれよ。何故お前が塔城の携帯から掛けてきてるんだ?」

 

携帯電話の向こう側から、息を呑む音が聞こえる。

下手なことを言えばその後がどうなるかなど分かったものではない。

 

「お、落ち着いてくれ。私達は彼女達に危害を加えていない。私達は君に話がある。その為に彼女の携帯が必要だったんだ。」

 

だから、極めて慎重に、状況と情報を整理しつつ簡潔に用件を伝えた。

 

「······用件はなんだ?」

 

少しばかり、凍てつくように冷たい声音に幾らかの暖かみが戻った。

最悪の展開は避けれたとゼノヴィアは安堵し、本題を切り出す。

 

「君の力を貸して欲しい。謂わば協力の要請だ。」

 

「協力だと?こっちがそう持ち掛けた話をお前達自身が不要だと断じただろ。それに表立っての協力は互いに不利益が生じるんじゃないのか?」

 

 

「確かにそうだ。だから一度は君の話を断った。だが私達も進んで死にたいとは思わない。こちらは目的を果たせればそれでいいのさ。そして私達は兵藤一誠の協力の申し出を了承し、一時的な同盟を組むことにした。」

 

「だから俺たち『悪魔』が介入する事自体が·········いや、なるほどな。」

 

「流石千の魔術を携えし者(グランドキャスター)と言ったところか。頭の回転も早いと来た。」

 

「その名で呼ぶな。しかし、そうか。『赤龍帝』というグレーゾーンを利用するか。」

 

「どうだ?そちらとしてもやりやすいのではないか?」

 

実際、勢力同士故の確執という枷が無くなれば幾分動きやすくなる。

ただ、その材料が限りなく黒に近い(コチラ寄り)グレーゾーンであることが唯一の懸念ではあるが、それを差し引いてもその選択は今のところ一番の解決法だ。

それに加え、この地は悪魔側が管理しているとはいえ、元々日本神話群の神々により統治されている場所であり、その地で何かが起き、その原因が聖書勢力にあると知られれば実に目も当てられぬ事態になる。

わかりやすく言えば日本神群からの追求により何かしらのダメージを負うことになるのが目に見えてわかるのだ。

だが逆に言えば、問題解決のために動き見事事態を収めさえすれば、他勢力との確執云々の前に日本神群からの追求やらなんやらは回避できる。加えてそもそもが教会の不手際と堕天使勢力の者がこの事態の発端ならば、残りの二勢力は強く出れはしない。

それからのハチマンの脳内リスクリターンシュミレーションは早く、最終結論を出した。

 

 

 

 

「──了解した。ならばこちらも協力を惜しまん。だが、こちらとしては条件というか、今のところ俺を戦力には数えないでおいてくれ。」

 

「······それは何故だ?少なくとも君の力は私達よりも上ではないのか?」

 

「俺は元々ガチの戦闘は専門外なんでな、俺の常套手段は敵の不意を突いてさらに出来た隙を突く。最後に罠に陥れるって言う前準備前提の力なんでな。それにコカビエルを相手にするのなら念入りな準備が必要になる。素の殴り合いだと負ける自信があるぞ。」

 

「なら、君の言う協力とは?」

 

「代わりと言ってはなんだが、今この街には俺の眷属が揃い踏みしていてな。もしも戦闘になったら俺の眷属に協力を仰げ。唯でさえ注目を集めやすいヤツらばかりだからすぐに分かるだろう。」

 

「······こちらから断っておいて今更だが、済まないな。」

 

「じゃあな。こっちはこっちで情報収集に戻る。何かあったらそっちにも情報を送ってやるよ。」

 

「感謝する──「ハチマンさん。イッセー先輩と匙先輩からのお願いがあるそうです。」

 

「ん?」

 

「部長と会長には内緒にしておいてほしいと。」

 

「·········了解了解。んじゃ後はそっちで勝手にやれ。危なくなったら取り敢えず逃げろよ。」

 

「ありがとうございます。では、失礼します。」

 

通話を終えて、ハチマンは一際大きく息を吐いて後ろへと振り返り、一言問いかけた。

 

 

 

 

「んで?お前らのジャッジは?」

 

「「お仕置き(ね/ですね)」」

 

 

彼の後ろに、呆れたように苦笑し有罪判決を下した二人の王がいた。

先ほど黙っていてほしいと言われたが、実に運が悪い。この場にその相手が居合わせているなど、彼らは考えていないだろう。

今回ばかりは見逃しても良いのではないかとも思うが、こちらに決定権は非ず、笑えないレベルで危険な件に頭を突っ込もうとしているのでどうにも出来ない。

ハチマンはそっと心の中で合掌した。

 

「そのお仕置きとやらは少しばかり加減をしてやれよ······?とにかくこっちも本腰を入れていくとするかね。」

 

「考えておくわね。それじゃあ私達も出てくるわ。何かあったら連絡お願いね。」

 

「お二人共、くれぐれも無理をなさらぬようお願いします。」

 

 

 

 

 

 

様々な要因(ファクター)が入り交じり、物語は急激に加速し、本来の形よりも歪なものへと変じてゆく。

その結末として描かれるのは王道の御伽噺(ハッピーエンド)か、それとも悲哀の戯曲(バッドエンド)か。

 

その結末を、今はまだ誰も知りえない。




文章長い割にはそこまで進んでないという罠。
孔明じゃ!孔明の仕業じゃ!

あーもうなー。ホントはフリードと遭遇するところまで書いて後はオリジナル展開を挿もうと思ってたのにこの始末·········自分のダメさ加減がよーく分かりますわ。



そんなこんなで7話、どうでしたでしょうか。
まさかハチマンの目が義眼だったとはなー驚きだなー。
え?じゃあ何で腐り目って表記したのかって?





············そりゃあハッチーのアイデンティティですし。
実際のところカモフラージュの為の偽装魔術を使用すると本人の心象が知らずのうちに浮き出てるとかそんな感じで、ここのハチマンも原作よりは軽いとはいえ捻くれてますし······

ああそれとも一つ。
ここのハチマンは八幡ではなくハチマンである。

本編/原作の八幡らしく、それでいてifの可能性から生まれたハチマンであることをお忘れなく。




それではバイにー!







IT'S SHOWTIME(さあ、制裁の時間だ)!!







S「···············(ニコッ)」←玉藻当てた人

D「································································(ニッコリ)」←玉藻LOVEなみこーん教徒
S「············執行猶予は?」

D「無し。死刑。」

S「優しく殺してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


ざんねん!!しるばーの ぼうけんは これで おわってしまった!!


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Borderland

(暇つぶしの手段は)もう大丈夫だ、何故って?

私が来た!



米津さんのピースサインがマジで神曲過ぎる!
いつかこの話のサブタイトルに使いたい······というかイメージした話を作りたい······どれくらい掛かるかは分からないけどぬえ。

さあ物語的にはそろそろ中盤でっせ。






We have always stood on the borderland(我々は常に境界上に立つ).


放課後の共同戦線締結から少し後、彼等彼女等は山の廃教会に集合していた。

 

時刻は既に11時を過ぎた辺り、仕事帰りのお父さん達が行き交う時間帯に、聖剣破壊同盟は全員がある格好をして夜闇に包まれた駒王町を闊歩していた。

 

それは悪魔である彼等からすればまず触れようとも思わない装い、神の教えを説く神父様の服装に身を包んでいた。

勿論、これにも訳があり、というか作戦の最中である。

 

それはゼノヴィアから齎されたある情報がきっかけだった。

 

 

「コカビエルの側についているはぐれ悪魔祓いは、何故か神父を次々と襲っているらしい。詳しい理由は分からないが、これを逆に利用してヤツを誘き出す。」

 

つまりは囮捜査である。

 

ちなみにこれを下に神父のフリをするといったアイデアの発案者はイリナだ。

悪魔が神父服を身に纏うなど誰も想像する事さえなかっただろう。

 

「悪魔が神父の格好をするなんて、普通なら考えないよな。」

 

「抵抗はあるだろうけど、そこは我慢してね。」

 

捜索は足が命である。そして何より、今回の作戦は例えるなら狩りだ。

多くの罠を仕掛け、引っかかるのを待つ。

つまりは戦力の分散だ。

薄く広く捜索網を張るのなら一人ずつ夜の駒王町を徘徊するのでも構わないのだが、相手の実力は未知数だ。確実を期すのなら戦力を二分にするのが望ましかった。

 

結果、一誠、匙、小猫。

 

そしてゼノヴィア、イリナ、祐斗の二組に別れ、それぞれが手始めにはぐれ悪魔祓い

の捜索を始めたのだった。

 

準備は整い、日がだいぶ落ちてきた夕暮れ時。今宵、この町で何かが起きようとしているのを、現実を生きる人間達は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

段々と夜の帳が落ちてき街灯の明かりがポツポツと照らす夜道を、一誠、匙、小猫の班は神父服で歩いていた。

本格的に暗くなり、敵が奇襲を仕掛ける絶好の隙になりつつあるが、もとよりそれが狙いである。さらに言えば、悪魔である彼らの視界はこの真っ暗になりつつある夜の街でも良く見通せる。

例え襲われたとしても引けは取らないはずだ。

 

「いまさらだけどさ、聖剣を破壊するって言ったって、悪魔の俺達が聖剣で、その、斬られたら······」

 

「洒落にならない痛覚に悶え苦しんで消滅しますね。」

 

「うわーい慈悲がねーや。」

 

「だ、大丈夫だろ。聖剣にさえ気をつければ······」

 

「ハチマンさんの言うフラグにしかなりえないのでやめて下さい。」

 

そんな会話を交わす神父に扮した悪魔組一行だが、彼らが通る道を照らす街灯の光が一瞬途切れた(・・・・・・)

 

それは単なる明滅などではなく、なにかに遮られたような不自然なもので──

 

「っ!上です!」

 

「なっ!?」

 

「クソッ!」

 

各々がその場から四方に散らばるように飛び退き、寸でのところで回避した。

 

それからすぐに、ブオン!と風を切る音が耳に届く。さっきまでいた場所に、何かが居た。

 

一同は道のど真ん中に視線を向けると、一誠と小猫がアーシアの件で知ることになったある人物が立っていた。

 

「いやー失敗失敗。天才秀才フリード君でもミスの一つや二つは日常茶飯事ですわ!だから三回目は無えんだよテメェらの生には。さっさとおっ死んでてめぇの不要さを噛み締めて死ね。」

 

街灯の光に照らされ、鈍い光を放つ歪な剣、そして脱色したかのような白髪の神父。オマケに特徴的すぎる言葉遣い。

 

後者二つの情報だけで、一誠と小猫は一瞬で脳内検索に引っかかり、視認した人影を見て、完全に記憶のものと一致した。

 

 

「フリード、またてめえか!」

 

「あーりゃりゃ?神父一行をチョンパしようと思ったら悪魔の扮装ですかい?それに誰かと思えばこの前のクソ悪魔クンに怪力ロリに·········誰アンタ?」

 

そう、教会から追放された狂人神父、フリード・セルゼン。

かつて相対した狂気の者がそこに居た。

 

「ほうほうほう?ナールほどねぇ?もしかしてもしかしなくても、聖剣(コレ)を狙ってきたのかにゃー?まあ何であろうとどの道ぶっ殺すけどな。」

 

「な、なんか知らねぇけどヤバそうな雰囲気しかしねぇ奴が来た!」

 

「うむうむ。そこの知らねぇクソ悪魔君大正解。まさにヤバくて失禁もののイカレ神父ことフリードさんでっす!どうぞよろヒー──っと危なっ!そこの怪力ロリ!人様が自己紹介してる時に攻撃とか!大体の戦隊モノのルール違反だろコラ!!」

 

「知りません···!あと怪力ロリって何ですか。死んでください···!」

 

若干シリアスが崩れた気がしたが、それでも一瞬でお互いの命をもぎ取ろうとぶつかり合うフリードと聖剣破壊戦線悪魔組。

遅れて一誠も赤龍帝の篭手を顕現させた左腕で殴りかかり、それに追従する形で匙も手甲のような神器を顕現させ、援護を開始した。

 

「うおっと!随分見ねえ間に強くなったじゃねえかよイッセークン?」

 

「ハッ!なめんな!」

 

「いやいや別になめてるつもりなんてねえどすわ!っと、なんだなんだよなんですか?この青白いラインはよぉ!」

 

「そこです。」

 

「あぶっ!お宅らちょっと容赦無くね!?」

 

一誠が真正面から突撃し、匙の神器『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』による援護、そして死角からの小猫の一撃。

即興の連携にしては及第点を付けれるレベルではある。だが逆に、一対三という割と分の悪いどころか不利でしかない状況においても、この三人を同時に相手にしても一歩も引かないでいる。はっきりと言って異常だ。何せまだ未熟とはいえ今代赤龍帝とヴリトラの神器を宿した者、そして力に関しては他の追随を許さない戦車の猛攻を生身の人間がたった一人で凌いでいるのだから。

 

「クッ、攻めきれねぇ!」

 

「ぐっ、このっ!」

 

この異常な攻防も、ようやくの終わりを見せると思われた。だがそれは、外からの要因によって変貌を見せるのだった。

 

「ハッ!」

 

「っとお!?」

 

上方から襲い来る黒き破壊の刃、壊す事に特化した破壊の聖剣がフリード目掛けて牙を向く。破壊の聖剣の振り下ろしには流石のフリードも死を感じ、自身が持つ聖剣の権能を発動させ間一髪で全力回避した。あと数センチズレてただけでトマトをグチャっと潰したようなスプラッタな絵面が広がり、放送禁止待ったナシになっていただろう。

 

「チッ!ハズした!」

 

「あっぶねえことすんな!オイ!そんなもんでやられちゃ放送禁止のミンチよりひでぇになっちゃうでしょうが!」

 

別行動していたゼノヴィアの奇襲は失敗した、だが。

 

「まだまだ!」

 

背後から襲い来る斬撃を、フリードはこれまたしゃがむ事で避けた。正に紙一重。

あとコンマ数秒でも遅ければフリードの胴体が綺麗にスパッと寸断され、フリ/ード

となっていたかもしれない。

 

「隙を生じぬ二段構え!?アンタら飛○御剣流でも会得してんの!?」

 

「さっきからなに言ってるの?」

 

「······何言ってんだオレっちは。」

 

何だか思考が揺れに揺れているというか、ごちゃ混ぜに近い事になっているがそれはそれとして、背後には鎌へと姿を変えた擬態の聖剣を構えるイリナが立っていた。

不意打ちの初撃(ファーストコンタクト)が外れると、鎌からまた日本刀のような姿に変化させ構えをとる。これで五対一。四方を囲まれ逃げ場を失いつつあるフリード。だがここにはあと一人足りない。

ここに居るべき、もう一人の騎士が。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

渾身の力を込め、憤怒などの複雑な感情を載せた叫びを上げて、創り出した魔剣で斬り掛かる悪魔の騎士。

 

即ち、復讐者木場祐斗。

復讐に燃える魔剣を振るう騎士が、そこに居た。

 

「またですかい!!ホントに!ホントにうぜえっすわアンタら!」

 

いい加減ヤバそうと感じたフリードは距離を取ろうとして懐から取り出した銃、洗礼銃と呼ばれるその火器を手に取り、牽制としてがむしゃらに発砲した。

乾いた音と共に、その黒鉄の物体の先端に空いている空洞(じゅうこう)から無数の光弾が飛び、突き刺さらんと空を突き進む。

 

だがそれらは、木場の創り出した魔剣、光喰剣(ホーリーイレイザー)によって裂き吸われ、残りの数発もイリナとゼノヴィアにより斬り落とされる。

 

「チッ!こういう時はさっさと退散──」

 

「逃がすか!」

 

「ちょっ待、バランス崩れぶげらっ!」

 

すぐさま回れ右して逃げるんだよー!と走り出そうとすれども、右足を絡め取られすってんころりん顔面強打。

匙の手の甲を覆うトカゲのような手甲から舌のように伸びる青白いラインは、フリードの右足に蛇のように巻き付いて離さない。

 

「な、なんじゃこりゃァァァ!?ちょっと待って、タイムタイモ!ちょっ、全然外れねぇ、うぜえ、うぜえ!ウゼエエエエエ!!」

 

まるでどっかの英国製最高級のり巻きを被った子安ボイスのちんちくりんな変な生き物を相手にしたリアクションのように絶叫するが、それはそれとして、立ち上がって匙の黒い龍脈の解除しようとするも、絡みついて離さないラインを取り外すのに四苦八苦し、天閃の聖剣で切断しようとしてもなかなか斬れない。

 

「コイツから逃れると思うなよ!今だ木場!やっちまえ!」

 

「ありがとう、匙くん!はああああ!」

 

その隙を見逃すはずも無く、祐斗はフリード目掛けて疾走し、魔剣を以て斬り掛かる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

魔剣の一閃がフリードを袈裟に斬り裂き、フリードは力無く地に伏せた。確かに感じた手応えととも。

 

「や、やったか。」

 

「·········。」

 

不安そうに一誠が呟く。

フリードは間違いなく倒した。それは間違いない。今眼前に居る自らの血で広がりつつある血の池に沈み、体はピクリとも動こうとしない。

 

「しまったな。これでは情報が聞く事が出来ない。」

 

「って言ってる場合じゃないよゼノヴィア!このままだと死んじゃうから!」

 

「仕方ない、まずは手当てをしてから情報を聞き出そう。助かるは分からないが。」

 

情報が聞けなければそもそもこの作戦に意味がない、幸いにも天閃の聖剣はこれで回収できるが、他の聖剣の在り処を聞き出し、コカビエルの目的を暴かなくてはならない。一応騙し討ちの可能性も考慮して、警戒しながらフリードに近づこうとした。

 

 

 

 

 

「甘ぇよ。」

 

 

 

 

ザシュッ、と。肉を裂く音が聞こえた。

 

「───え?」

 

その音源は彼らの後方、一番後ろで援護を担当した匙の居る場所からのものだった。

 

今思えば、彼ら彼女らはしっかりと理解出来ていなかったのかもしれない、フリード・セルゼンという狂人の狡猾さ、最も好む戦い方を。

そう、何時から目の前のフリード・セルゼンが本物だと錯覚した?

 

「──カフっ。」

 

恐る恐る、一誠達は真後ろへと首を動かした。

 

 

視界に映ったのは、匙の口から溢れる血が顎を伝いこぼれ落ち、純白の制服の襟を少しづつ紅く、朱く侵食していく光景。

 

 

 

 

 

 

 

 

その真下、腹部からまるで寄生した宇宙人が腹を食い破って出てきたかのように、一本の鋭利な、一目で剣とは呼びづらい歪な剣が匙の腹部を貫き、それを中心に赤い液体が溢れ出す光景。

 

脅威は、彼らの真後ろにいた。

 

 

 

「さ、匙ィィィィィ!!」

 

ズルっ、と、フリードが天閃の聖剣を引き抜くと同時に、匙は膝から崩れ落ちた。

ベチャッ、と水滴の音が聞こえた。

フリードは匙の倒れる姿に目もくれず天閃の聖剣から滴る紅い血液を一瞬見やり、ブンッと振り払う。

 

「はーい、ワンダウーン。ったくよお、お宅ら容赦なさすぎンだろ。」

 

うんざりとした声音と共に、神父服の前部を左右に広げる。まるで見せびらかすように、神父服の裏で眠るそれらを一誠達の眼前に晒した。

 

「バルパーからパク、借りたエクスカリバーちゃん達が無かったらマジで三途リバーに直行してたんスけど?」

 

そこには三本の残りの奪われた聖剣(エクスカリバー)祝福(プレッシング)透明(トランスペアレンシー)夢幻(ナイトメア)、その全てが存在していた。

 

「ま、まさか、途中から入れ替わっていたのか!?」

 

「いやー流石エクスカリバーって所かなぁ!透明と夢幻と天閃の合わせ技で作った分身のジツってヤツだ。正に質量を持った残像、見事に騙されてやんの。まあ、俺様さんは途中からここで透明になって見てたんだけどにゃ。」

 

嗤ってそう言いながら、フリードは手に持つ天閃の聖剣を眺めて、

 

「───まあ、俺にとってのエクスカリバーは、アイツのやつだけだけどな。」

 

一瞬、目を細めてそう呟いた。一誠達には分からなかったが、それはとても、悲しい目だった。

 

「つーかこれ以上油売ってても意味無いんで。僕ちんはここでさいならーっと──」

 

「待て!フリード!」

 

「待たない!二ゲロ!」

 

懐から取り出した円柱状の物を地面に叩き付けて、全力疾走を開始した。直後。

 

耳を劈くような鋭い音と共に、目の前が一瞬で真っ白に塗りつぶされる。

スタングレネードによる閃光爆発だ。

 

耳鳴りがやみ視界が元に戻る頃には、もう既にフリードは姿を消していた。

 

「クソッ、追うぞ!」

 

「絶対に逃がさないんだから!」

 

「次こそ······!」

 

「あっちょ!木場!」

 

「イッセー先輩!今は匙先輩を!」

 

「ああもう、色々訳わかんなくなって来た!」

 

ゼノヴィアとイリナ、そして木場の剣士組はすぐさまフリードを追いかける。

一誠と小猫は負傷した匙の治療を行おうとするが、ここには専用の医療器具も無く、アーシアもいない。

 

「ええっと、どうすりゃいいんだこれ!」

 

「とにかく、まずは止血です。何か布で傷口を覆わないと。」

 

腹部から大量に血を流した人物の介抱など出来るわけがない。

 

 

「何やっているのよ、貴方達。」

 

聞き覚えのある声がした、そして一瞬、心臓を鷲掴まれたような感覚と異様な寒気が全身を走った。

 

くるっと振り返れば、外れて欲しかった予想通りのお人が。

 

「という訳でイッセー?ちゃんと話を聞かせてもらう訳だけど、弁明はあるかしら?」

 

「ゲエッ!?ぶ、部長!?」

 

内緒にしていた対象のご主人様。穏やかすぎて逆に怖い笑顔で眷属兵士のお迎えに。

その隣でこれまた微笑みを浮かべている副部長様。それと倒れている匙の下に向かう会長さんの三段構え。

 

「それでイッセー、弁解は?」

 

 

 

 

 

 

··················ありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠のお仕置きタイムが始まろうとしたその横で、ソーナ・シトリーは深手を負った後輩に歩み寄り、大きなため息をついた。

 

「まったく······匙?私は言ったはずです。この件には干渉しないようにと。」

 

「す、すいません······会長。」

 

「本当に分かって·······いえ、とりあえず死んでいないようで、一応、安心しました。」

 

ソーナはとりあえず幼馴染み印の霊薬水を傷口にドバドバとぶっかける。

そんな事すれば染みて痛みが生じるのも当たり前の事で、

 

「いだだだだだだだた!!?会長!痛いです!!」

 

「痛くしてるんです。少しは反省なさい。」

 

実際、腹部から血を大量に流す匙の姿を見た時は、思考やら何やらが吹き飛び目の前が真っ白になった。

何せ自分の眷属なのだ。

自分の家族なのだ。

 

そんな彼が死を強く認識させる事態に陥った光景を見て、何も思わない主が何処にいる。

 

心配しないわけが無い。

動揺しないわけが無い。

 

「すいません、会長。でも俺、協力出来て良かったです。木場の、アイツのために行動出来たことが。」

 

「匙?」

 

痛みに顔を顰めながらも、謝りながらも、そうして匙は喋り続けていた。

ソーナは傷口の手当をしながら、ただそれを聞いているのみ。

 

「俺、普通の人間から悪魔になって、力を手に入れて、お話の中の主人公になったみたいで、でも、俺にはその行動を起こせるほどの勇気がなかった。」

 

「俺は、なんというか感情移入しやすくて、誰かの悲しみに必要以上に寄り添って、同情して。ドキュメンタリー番組見てるだけでもウルッときちゃって。」

 

 

 

 

 

 

 

「でも、俺はそこ止まりなんです。同情するだけなんですよ。」

 

独白に近い匙の言葉は止まらない。

口を止めることが出来ずに次々と言葉が飛び出していく。

 

「誰かの悲しみに、他人の悲しさに共感出来ても、同情出来ても、そこから先、その人に何かをしようとは思わなかったんです。わざわざ自分から動こうとはしなかった。それが普通の人間何でしょうけど、そうやって同情する癖に自分は何もしない、しようとしない事が嫌だと思いました。」

 

「今回の事も、半ば無理矢理の強制参加でしたよ。でもその後に、木場の話を聞いて思いが変わりました。木場のやろうとしてる事に、手を貸したくなったって。」

 

「·····················」

 

「だから、その······」

 

言葉を止めて、匙はバツの悪い表情を浮かべて視線を逸らす。まるで叱られてる最中に弁明しようとして、逃げ場を失った子供のようだった。

しかし、彼の吐き出した心情は全て紛うことなき真実だ。

ソーナは無言だった。何も言わないが、手だけは休めずに手当を続け、腹部に包帯を巻き終えたあたりで、もう1度ため息をついた。

 

「それで怪我を負ってきたら元も子も無いでしょう。」

 

「うっ、」

 

「それに、一歩間違えれば匙は確実に死んでいました。協力するにしても、なにかしらの保険は用意しておくべき、そうですよね、匙?」

 

「······神器があるからって高くくってました。本当にスミマセン!」

 

まったく······と、思わずこめかみを抑えてしまうソーナ。最初は拒否していたのは分かったが、協力するにしても対抗策を練らずに協力しこの有様。これから先が少し心配になってしまう。

 

まあ、だが。

 

「無事で良かった·········」

 

それだけは確かだ。

生きていてくれて良かった。

死なないでくれて良かった。

 

ただそれだけで、本当に良かった。

 

 

 

 

 

「それはそうと、怪我が治ったら匙にもお仕置きが待っているので、覚悟していてくださいね。」

 

 

 

 

次の瞬間には、生気を無くし燃え尽きたように項垂れる事になる匙だったが、まあ、本人は最初から覚悟していた事なのでまあ大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

·········頑張れ!匙少年!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お仕置きを終えたリアス達は木場の後を追うべく廃教会への道を進んでいた。

ソーナはと言うと負傷した匙を連れて学校へと走っていった。念のための準備に取り掛かるためにだ。

 

余談だが、あとから追いついたアーシアの手によって匙の負傷はほぼ完治したものの、聖剣で刺されたことによる恐怖や脱力感、つまり疲労した体力の回復に務めるべく、匙の休息の意も兼ねての移動だった。

 

「まったく、一通り終わったら祐斗にも説教決定ね!」

 

「ほ、程々にお願いします······」

 

「もちろんイッセーにも説教が待ってるから覚悟するように。」

 

「俺さっきので許されたんじゃないんっすか!?」

 

リアス達は祐斗と聖剣使い達が向かった方角へと走る。

 

彼女達は既に人気の失われた夜の街を駆け抜ける。先を走る騎士に追いつけと願いながら、手遅れなんて最悪の終わりを迎えない為に。

 

そう夜の駒王町を走る事数分、方角的に恐らく祐斗達が居るだろう場所、山の中の廃教会へとたどり着いた。

小猫が中の様子を窺いながら両開きの扉を開ける。

 

中には先を行った三人が居た。

 

「あっ······部長······」

 

一瞬表情を曇らせ、目線を横へと逸らす。

主の命に背いて一人で突っ走った事が尾を引いているのだろう。

 

リアスは祐斗へと歩み寄る。

踵が地面を打ち付ける度にカツカツという音が寂れた教会の中を木霊する。威圧感を孕んだその音が耳を震わせる度に、不思議と体が固まる。

手を伸ばせばすぐに触れれる距離まで詰め寄ると、リアスはその華奢な手を上げて─

 

 

バチンっ!と、瑞々しい音が炸裂した。

 

 

「·········」

 

「······馬鹿なことをしないで頂戴···!」

 

リアスの平手打ちが祐斗の左頬へと吸い込まれるように炸裂した。

声が震えているのは怒りからか、それとも悲しさからか。いや、恐らくはその二つが混じりあった様なものなのかもしれない。

 

「······すみません、部長。」

 

祐斗が返せる言葉は、そう謝罪の言葉を述べる事だけだった。眷属でありながら、自分の感情を優先、いや、爆発させたこの事実を、いまさら覆せなどしない。

 

「·····もう二度と、こんな勝手な事はしないで。そうじゃなきゃ、何のための(わたし)なのよ。眷属(かぞく)を救えない王なんて、必要ないじゃない······」

 

王は自身に仕える臣民を護れてこその王である。国を、人を殺す事を良しとしたした王など、そんなものは必要ない。

 

「······すみませんっ、すみません······!」

 

祐斗は復讐を遂げようとする事を未だに諦めてはいない。だがしかし、自分勝手に暴走して周りの人々を、仲間を心配させた事を、祐斗は心の底から悔いた。

俯いて悔やむ祐斗を抱き寄せて、頭を撫でる。親が子供をあやすように、いつかの日、幼馴染みがしてくれたように優しい手つきで。

 

暫ししてリアスは祐斗を腕の中から解放し、ゼノヴィアに向き直った。

 

 

「······ごめんなさいね、見苦しい所を見せてしまって。それでフリードは何処に?」

 

「······すまない、見失ってしまった。ここに入ったのは確かだが、扉を開けると既に姿を消していた。」

 

恐らくは透明の聖剣を使った透明化による姿の隠蔽、そして天閃の聖剣による高速移動で即座に離脱。

恐らくはこんな所だろうと推測する。

 

「しかし、これでまた振り出しに戻ってしまった。」

 

唯一の手掛かりを見失った以上、次の標を探すしかない。だがそれにもまた時間が掛かるのは事実。情報を提供してくれる協力者(ダンタリオン)に連絡するべきか、ゼノヴィアの思考が次の手を模索する中─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルルルルルルル!と、廃虚とはいえ教会

似つかわしくない電子音が鳴り響いた。

 

 

 

 

「?」

 

音は教会の中心に立つ小猫から聞こえた。

彼女の制服のポケットにある携帯電話から。

取り出し画面を見ると非通知の三文字、番号も知らないものだった。

 

こんな時に誰だと訝しみつつも、小猫は通話ボタンに指を置き、押した。

電子音が止み、向こう側の緩やかな風の音が耳に残る。

 

やがて、携帯電話から声が聞こえる。

 

「こんばんは、グレモリー眷属の(・・・・・・・・)塔城小猫ちゃん。」

 

──自分の体が硬直するのを感じた。

 

「·········どなたですか?お仕事の依頼は召喚用紙からお願いします。今は訳あって応じることができませんが。」

 

動揺から震えそうになる声を押し殺し、いつも通りの対応をする。

電話の向こうの(恐らくは)男性は今自分の事をグレモリーの眷属と前置いて呼称した。仕事の依頼ならば召喚の用紙を用いる筈。ならば電話の向こうの彼は一体何者か?少しずつ、嫌な予感というものが全身を襲い来る。

僅かな可能性ではあるが、小猫は湧き上がる恐怖を抑えていつも通りの依頼だと願いつつ応対する。

それでも押し留められなかったほんの僅かな声の揺れに、比較的近くにいる朱乃にも小猫の異変に気付く。

念のために、小猫は携帯のハンズフリー機能をONにし周囲にも会話が分かるようにする。すると教会内の端にいるリアス達にも届く音量で、男の声が教会の中を木霊した。

 

「ああ、残念だけど俺は君に依頼があるわけじゃない。

 

 

 

 

 

用事があるのはそこの二人が持つエクスカリバーだよ。」

 

 

 

 

瞬間、ヒュン!と空気を裂く音が確かに聞こえた。

 

「───え、」

 

そして、ソレが向かったとされる方角にゆっくりと振り返る──

 

 

 

 

 

 

そこには崩れ落ちる紫藤イリナの姿が映った。

 

 

 

「イ、イリナ!?」

 

ゼノヴィアが声を荒らげて相棒の名を呼ぶも、イリナの体は教会の固い地面へと背中から堕ちた。

 

「狙撃!?リアス!!」

 

「皆伏せて!!」

 

王の言葉に全員がその場で伏せる。

しかし小猫は動けないでいた。

 

「おおっと、下手に動かない方が良いぞ。そうだ。懸命だね塔城小猫ちゃん?」

 

「·········」

 

「下手に動くと、その真っ白で綺麗な銀の髪が君のご主人様と同じ真っ赤な色に変わっちゃうからね?」

 

「っ·········!」

 

突然の襲撃に場の空気が一瞬で変わった。

元々教会という場所は悪魔にとって忌むべきもので、長居するなど考えられない程に嫌悪する場所なのだが、その嫌悪感よりも唐突に訪れた死神の鎌が首に掛けられるような、そう錯覚するほどに濃厚な死の香りが漂う。倒れ伏せるイリナから流れる血の匂いが、そんな感覚を助長する。

 

「クソっ、一体どこの誰だ!」

 

「一旦落ち着きなさい、聖剣使い。いえ、ゼノヴィアだったわね。下手に動くと貴方もそうだけど、向こうのイリナって娘も今度は問答無用で殺されるわよ。」

 

「くっ、悪魔に諭されるとは私もまだまだか······!」

 

「一先ず、状況の整理から始めるわよ。今私達は山の中の廃教会に居て、現在進行で外部から攻撃を受けているわ。敵の素性は不明。声や喋り方からして恐らくは男。攻撃の手段は恐らく狙撃。ここまではいいわね?」

 

「······敵の攻撃によってイリナが負傷。被弾したのは左の脇腹、傷は思ったよりも小さい、少なくとも口径の小さいものを使っている筈だ。対物狙撃銃を持ち出されてたらその時点でアウトだが。そもそもこの国は銃の所持事態が認められていないのではなかったのか?」

 

「本来ならね。でもこうして攻撃してきてる······ダメね、余計にこんがらがってきたわ。」

 

何処から撃たれているかもわからないこの状況で無闇に動くのは悪手である。そして何より、攻撃を行っている者が何者かはこの際置いておくとしても、遠距離の敵に対する攻撃手段は無く、ここから出ることすら叶わない。ならばどうするかだが、現状打開策と言えそうなものもこの監視されている状況ではとても無理だ。こちらの内情を知っていて、尚且つ向こう側にマークされていない自由に動ける者など───

 

 

「·········!そうだ、外にいるダンタリオンの眷属!」

 

「なんですって?」

 

「今この街にはダンタリオンの眷属が揃い踏みしていると聞く。彼等に狙撃手を無力化してもらうのはどうだ?」

 

「······そうね、ハチマンが通信で呼び掛けたのは昨日の夕方······その情報までは流石に掴んでいない筈······いけるかも。」

 

「よし、グレモリー、ダンタリオンに連絡を頼む。こんな所で死ぬつもりは毛頭無い!」

 

突如の襲撃者によって絶体絶命のリアス達、彼女達の生死の如何はハチマンとその眷属達に委ねられた。

時計の長い針と短い針が同じ12を示す頃、コカビエルとの戦いの狼煙が上がる前、謎の襲撃者との静かなる前哨戦が始まろうとしていた。




次の話はオリジナルになるじゃろな。
次の話はまた暫くかかりそうだけど、何とか書き上げますとも。
·········っていうか今回ハチマンの出番が無かったにゃ。
ゴメンネ読者様方。

次こそは、ハチマンとその(一部の)眷属達による作戦じゃ!!心して待つよろし!!


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black Bullet

今回のお話は会話のスピーディさを演出するため地の分少なめとなっております。嘘です作者の技量不足による妥協ですあっやめて!石を投げないで!

取り敢えずご笑覧下さいませ


居酒屋から聞こえる喧騒と24時間営業しているコンビニや民家の灯りが照らす薄暗い夜の駒王町。

 

12時という遅い時間にも関わらず活気と喧騒の失われない夜の街の中、彼らは立っていた。

東の商店街から少し離れた場所、駒王町の中でも一際大きな建物が立ち並ぶビル群。

高さはざっと15~25メートルくらいのビルのうちの一つの屋上に、二人の人影が居た。

 

片方は白と黒の二色しか彩りのないゆったりとした服と首に掛けたゴーグル。そして何よりそれ前見えてるのかと聞きたくなるほどの糸目の男。肩には大きめのゴルフバッグをかるっており、一体何しに来てんだよと言いたくなる格好をしている。

もう片方は金糸のようなブラチナブロンドの髪をセミロングにした小柄な少女。

淡い緑のワンピースというこの真夜中の街を出歩くにはあまり似つかわしくない格好をしているが、何より目を引くのはワンピースの裾から覗く素足に巻き付く黒いベルト。そのベルトに掛けられている平べったいそれは、一般的にナイフと呼称されるものだ。

 

そんなアンバランス、尚且つバイオレンスな二人組は夜のカーテンに覆われる駒王町をそこそこの高さのビルから見下ろしている。まるで人を探す探偵のように。

 

 

「何処にも居ない·········さっき神父っぽい人が居たけど、なんか例の聖剣使いの人達が追っかけてったし。コカビエルなんて化け物もまったく見つからない·········本当にいるのかな······」

 

「だからって、仕事をサボるのは良くないです。レオはその辺りしっかりしてると思っていたんですけど。」

 

「別にしっかりしてる訳じゃ、というか、やっぱり夜だと活発になるよね、ティナは。」

 

「だってそう造られた(・・・・・・)んですから。私、いえ私達は。」

 

「······なんかごめん。」

 

「謝らないでください。ハチマンさんに助けられてからは、その、普通の女の子みたいな生き方を、できるようになりましたから。」

 

「えーと······と、とにかく仕事!そうだ仕事!久々の命令(オーダー)なんだし、全力でやりきろう!うん!」

 

 

 

そんな何気無い(とは程遠いかも知れない)会話に唐突に割り込んだ、第三者の声。

 

 

 

 

『こちら『管制塔』。『覗覚星』及び『観測所』へ伝達。速やかに狙撃可能状態へ移行し待機せよ。詳細は追って連絡する。』

 

 

 

「········聞きましたか?レオ。」

 

「うん、早速『仕事』だね。」

 

レオと呼ばれた糸目の男は肩に掛けたゴルフバッグを置き、中身を取り出しティナと呼んだ少女へと渡していく。

それは棒状のパーツや言葉で形容しにくいパーツが入っているのみで、パッと見ても即座にどんな用途に使われるものかは理解できない。

 

それを少女は熟練のベテランの如く慣れた手付きで組み合わせてゆき、それは一つの形を得た。

 

狙撃銃(スナイパーライフル)。しかもそれはとても大きな、小柄な少女が扱うには無理のありすぎる巨銃だった。

 

 

デグチャレフPTRD1941。

狙撃銃(スナイパーライフル)どころか対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)の中でも色物の化け物銃に身を寄せて、狙撃手のように伏せる少女。

 

こんなアンバランス過ぎる異色な光景を演出した二人は夜闇の街を見下ろし、こう言った。

 

「さあ準備はいい?ティナ。」

 

「そっちこそ、しっかりと(ターゲット)を見据えてくださいね、レオ。」

 

 

 

普通の一般人のような雰囲気の二人は、無法者(アウトロー)が持つような銃を構えて、不敵に笑う。

 

本来の仕様(正規品)の枠を外れ改造された黒鉄(くろがね)巨銃(巨獣)は、静かに獲物を見定める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一向に進展がありませんね。」

 

「チッ······そろそろ不味いな、先に動かれるのも癪だし、何より先手は取られたくはない。」

 

「私も出た方が宜しいのでは?」

 

「······そろそろその辺も視野に入れておくか。」

 

深夜のダンタリオン邸人界拠点情報統括室にはハチマンとヴァルケンハインの二人が普段は飲まないブラックコーヒーを片手に情報を整理していた。

 

めぼしい成果は得られず、見つけた僅かな痕跡から場所を割り出してもそこはもぬけの殻。事態は困難を極めていた。

 

もういっその事魔術で探知するために特大の魔法陣でも編もうかと血迷っていると、再び携帯に着信が入った。

 

今度の相手はリアスだった。

 

「こんな時間に······まさか見つけたか?」

 

即座に通話ボタンに手を掛け、迷いもなく押した。

 

「もしもし?聞こえてるハチマン!?」

 

携帯から聞こえてくる幼馴染みの声は素人でもわかるほどの焦りを滲ませている。

それはつまり、良くない知らせ。

 

「落ち着け、何があった?」

 

「聞こえてるのね!良かったわ。えーと、今から簡潔に説明するけど、よく聞いてよ。今私達、敵に狙われてるのよ!」

 

「··················すまん、もう少し分かるように説明してくれ。何がどうなってそうなった?」

 

「だから──「すまない、通話を変わらせてもらった。」

 

落ち着きのない幼馴染みの声の様子と勢いに、ハチマンは何事かと身構える中、いつの間にか幼馴染みの声からつい数時間前に聞いた同盟相手の声へと変わり、比較的落ち着いた声音で語りかけてくる。

 

「ああ、大丈夫だが、一体何があった?」

 

「時間が惜しい。まずは要件を先に伝えさせてもらう。君の力、ひいては君の眷属の力を借りたい。」

 

「·········緊急事態、そう受け取っていいのか?」

 

「そうだ。そして先ほどグレモリーが言ったように、私達は今狙われている。」

 

早急な解決が必要だ。

その一文が脳裏に浮かんだハチマンは直ちに行動を開始する。

 

「ちょっと待ってろ·········『覗覚星』と『観測所』へ通達、狙撃可能状態に移行し待機。情報は追って連絡すると伝えろ。」

 

「かしこまりました。──『管制塔』より『覗覚星』及び『観測所』へ通達。速やかに狙撃可能状態へ移行し待機せよ。詳細は追って伝える。」

 

ハチマンの言葉をヴァルケンハインが要約し、無線機を通じて他の眷属達に情報を送る。その手際はまるで軍隊のように簡潔にされた伝達方法だ。

 

「それで状況は?」

 

「現在私達は外部の敵から攻撃を受けている。手段は遠距離からの狙撃だ。」

 

「なるほどな······それはコカビエルの手の者か?」

 

「それはまだ分からない。だが恐らくは違う。」

 

「そうか······」

 

「改めて頼む。君の持つ力を私達に貸して欲しい。」

 

ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

それは愉快なという意味もあったのだろうが、恐らくは怒りがおおよそ半分以上を占めているだろう。

 

「了解した。それではここに一時的な共同戦線の初の連携作戦を行う。目指すは最高の戦果だ、誰一人欠けさせる事無く作戦を成功させよう。」

 

「······改めて感謝する。」

 

一度目を閉じて、息を薄く吐く。

頭の中のスイッチを切り替える時に行う彼にとってルーティーンを済ませて、

 

面白そうに口を歪めて、彼は言った。

 

「さあて、始めるとするか。

 

 

 

 

 

 

狩りの時間だぞ、お前ら。」

 

 

 

八方塞がりに陥った者達をまるで全てを支配したかのように嗤い、虎視眈々と狙っている狙撃手。

 

こっちの攻撃は届きません、下手に動けば撃たれます。ではこんな時、どうすればいいでしょうか?

 

 

 

 

 

 

答え、第三者が狙撃手を狙撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまず現場に居るお前達には情報収集に当たってもらう。とりあえず今の場所を伝えてくれ、それと詳しい状況を。」

 

「分かった。私達は今山の中の廃教会に居る。今は塔城小猫が敵からの通話に応じているところだ。」

 

「了解、『覗覚星』『観測所』へ通達、救助対象は北にある山の中の廃教会だ。『覗覚星』は距離を測定しろ。」

 

「『管制塔』より『覗覚星』及び『観測所』へ、救助対象は北の山中にある廃教会。現在地からの距離を測定せよ。」

 

無線機を通じての司令に、糸目の男レオはゴーグル越しに山のある方角を見据える。

 

『どうですか?』

 

『うーんと······見つけた、山の中の廃教会。距離は···············多分3kmはあると思う。』

 

『こちら『観測所』、『覗覚星』の見立てでは3kmはあるようです。』

 

「『覗覚星』によると3000mはあるとされるそうです。」

 

「······ヴァルケンハイン、今回の襲撃者はどんなヤツだと推測する?」

 

「敵の素性が不明な以上なにも言えませんが、狙撃手ならば教会から2000m圏内を捜索すれば良いのでは?いずれにせよシモ・ヘイへを超える技量は持ち合わせてはいないはずです。」

 

「よし、その想定で行こう。では『覗覚星』は対象から周囲2000mを500mずつ捜索せよ。『観測所』は合図を出すまで撃つなよ。『溶鉱炉』『情報室』『兵装舍』『廃棄孔』『防壁堤』『補給港』『兵糧庫』は各自の巡回ルートの高所を重点的に捜せ。『生命院』は教会付近で待機、目標制圧後負傷者の治療及び介抱にあたれ。」

 

「こちら『管制塔』。『覗覚星』は対象から周囲2000mを500mずつ捜索、『観測所』はこちらから司令があるまで待機、『溶鉱炉』『情報室』『兵装舍』『廃棄孔』『防壁堤』『補給港』『兵糧庫』は巡回ルートの高所を重点的に捜索、『生命院』は目標制圧後負傷者の治療及び介抱の為教会付近にて待機せよ。」

 

『『覗覚星』了解。』

 

『『観測所』、わかりました。』

 

《『溶鉱炉』、司令確認、行動開始する。》

 

『『情報室』、了解しましたわ。』

 

『『兵装舍』、了解した。』

 

『うん、『廃棄孔』分かった。』

 

『『防壁堤』、了解です。』

 

『うむ、『補給港』了解なのだ!』

 

『『兵糧庫』、了解。』

 

『『生命院』了解しました。』

 

「今のお前達の居場所は把握した。それで状況は?」

 

「グレモリーの戦車(ルーク)がスナイパーに狙われている。今のところ射手の位置も技量も不明、どこの誰かも分からない。下手に動けば彼女の頭に血の花が咲くぞ。」

 

「目的は?」

 

「私の聞き間違いでなければ、ヤツは私達の持つエクスカリバーを手に入れる。そう言っていた。」

 

「なるほど、やはり目的はそれか。ってことは······いや、まだこの時点では判断出来ない。ヤツがコカビエル側なのか、それともまた違った勢力の仕業か·········今その場には誰が居る?」

 

「私とイリナ、それとグレモリーの眷属全員だ。」

 

「明確な位置情報を伝えろ。」

 

「私とグレモリーは教会の角の隅にいる。入口から見て左側のところだ。狙われている戦車(ルーク)は中心に居る、その側にはグレモリーの女王(クイーン)も一緒だ。負傷したイリナは入口から見て右側の場所に倒れている。赤龍帝はイリナから10メートルくらい離れた場所で伏せているが、状況を飲み込めてはいないらしい。······それとアーシア・アルジェントが奥側で伏せているが······イリナを治療しようとしているのか?どのみち下手に動けないのだが。」

 

「······了解した。ならお前らにはこれから目標の位置情報を探ってもらう、敵との会話ができる状態ならそこから情報を拾えるはずだ。」

 

「分かった。しかし情報が増えすぎるとそちらの負担が大きくなりそうだが、大丈夫か?」

 

「さして問題は無い。餅は餅屋にという言葉があるらしいが、まさにその通りだ。こういうのは得意な事を適切に処理する人材が動くのが手っ取り早いし確実だ。例えるなら俺達は操縦手、お前らが動力。重要なのはそっちだ。俺達の方は面倒な事を押し付ける場所程度に認識しておけばいい。細かな指揮はそちらに任せる。いいな?」

 

「·········ああ、分かった。」

 

「ハチマン様、『観測所』が周囲の状況を詳細に伝えて欲しいと強く要請しています。」

 

「そうか······ゼノヴィアと言ったな、事は急を要するからファーストネームで呼ばせてもらう。それで周囲の状況を探れはしないか?」

 

「········難しいな、ターゲットの事が殆ど分からない以上下手に動き回ればグレモリーの戦車(ルーク)を危険に晒すことになる。」

 

「······構わない、深追いはするな。·········『観測所』へ伝達、最善を期すために今は許可できない。」

 

「『観測所』へ通達、救出対象に危険の及ぶ可能性がある、現時点では許可できない。現状で対処せよ。」

 

「ところでゼノヴィア。こうして大手を振って連絡しているのに、向こうはこの事をなんの咎めもしないのか?」

 

「······そう言えばそうだな、まさか。」

 

「多分、向こうからはゼノヴィアの姿が見えてないんだろう。」

 

「ちょっと待って、それなら何で向こうは見えるところまで出ろとか、そういうのを言わないの?」

 

「·········方角がバレるからか?」

 

「やっぱりな、これで敵の方角はお前達の見えない死角、すなわち南西方向に絞られる。·········そういえば窓はいくつある?」

 

「奥側の方には大きなステンドグラスがある。左右にも対になるように窓が三つずつ、どれもひび割れている。

入口側にも扉の上に窓があるが、こちらも割れているようだ。」

 

「絞れるのはここまでか······『観測所』へ通達、狙撃手は南西方向に居ると推測される。南西方向を重点的に捜索しろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は戻ってとあるビルの屋上。

今か今かと獲物を待つ狩人の如く、まず対象を鎮圧するのにはまず使わない対物狙撃銃を抱き寄せるように抱えてスコープを覗き見るスナイパー少女ティナは、トリガーガードをぽんぽんと指で軽く叩き暇を持て余していた。

その横で真っ暗な空の中遠くを見据えて何かを探す相棒レオは、そもそも見えてるのそれ?と同僚からも疑問視される程の糸目を凝らして、目標の狙撃手を探していた。

 

再び、夜風が自然と体から熱を奪う中、無線機から眷属内最強と謳われる女王(クイーン)の役を与えられた執事長により新たな情報が齎された。

 

 

『『管制塔』より『観測所』へ情報の更新、狙撃手は南西方向に居ると推測される。南西方向を重点的に捜索せよ。』

 

「了解しました。レオ、南西方向を探して。」

 

「えーと、南西方向南西方向············あれ?」

 

「······レオ?」

 

「······ねぇティナ、僕の目(・・・)で見る限り銃を持った人(・・・・・・)なんて何処にも居ないんだけど。」

 

「···············『観測所』から『管制塔』へ、目標とされる存在は視認できません。もしかすると屋内に居る可能性も考慮する必要があると進言します。」

 

『······················································『観測所』へ伝達、新たな情報の更新まで待機、いつでも狙撃を行えるよう備えよ。』

 

「『観測所』了解。·········少し長引きそうですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『観測所』から『管制塔』へ、目標とされる存在は視認できません。もしかすると屋内に居る可能性も考慮する必要があると進言します。』

 

「···············如何致しますか?」

 

「不味いな·········すまん、悪い知らせだ。スナイパーが屋内に居る可能性が浮上してきた。」

 

「·········何とかなりそうにないのか?」

 

「現状はどうにも。あとはそっちの会話からの情報が頼りだ。頼むぞ。」

 

彼女等を狙う襲撃者の位置が掴めず、残す情報獲得手段は小猫とスナイパーの会話によるものだけとなった。

見えざる死神の鎌に晒されている小猫も表情こそは無のそれであるが、額に滲む汗と強ばった表情筋が恐怖と焦りを表している。

 

小猫へと照準を定めた襲撃者はその様子を感じたのか、優越に浸った声色で言う。

 

「一体、どこの誰なんですか。」

 

「さあね、別に言う必要は無いと思うけど?」

 

「······コカビエルの協力者、ですか?」

 

「プッ······アハハハハハハハハハハ!!冗談じゃないね!あんな戦争狂の堕天使至上主義につくなんて御免だよ!いやー面白い事言ってくれるね、君!面倒な仕事を押し付けられたもんだと思ってたけど、存外悪くないや。せっかくだから仕事は後回しにして君と話している方がよっぽど有意義に思えるね!」

 

(『仕事』、か。)

 

自分達を襲った犯人、どこかの所属であることは間違いなさそうだが、その全容がまるで掴めない。

実際に目の前に居るのは確かなのだが、触れようとしてもすり抜けてしまうホログラムの虚像のような、そんな不明瞭な感想を抱いた。

 

「······目的は?」

 

「エクスカリバー、そう言った筈だよ?」

 

「それは、コカビエルが奪った物もですか?」

 

「そりゃあそうだ。俺はエクスカリバーを獲りに来たんだから。」

 

「······目的が同じなら、共同戦線を張るというのは─」

 

「いやー駄目でしょ?だって最後にはお互いに争う事が目に見えてるじゃん?だったら俺はまず確実に二つを確保させて貰う。幸いコカビエルを降す下準備も万全だし、先に集団でボコされそうな可能性があるから、先に君たちから奪おうって算段なわけ。」

 

言外にコカビエルくらい簡単に墜せると、電話の向こうの男はそう言っている。

 

「······っ、」

 

体が震える。今になって感じる絶対的な力の差、圧倒的な距離的不利、そして少しずつ炙っていくように煽られる死の恐怖。

閉塞的な教会の中という悪魔にとって最悪な場所である事が、小猫の心をすり減らす恐怖心をさらに助長させる。

 

「うん?怯えてるのかい?やっぱり恐ろしくて仕方ないみたいだね。いくら悪魔とはいえ、手のだしようのない場所から放たれる攻撃には対処のしようがない。だからこそこうやって狙わせてもらった訳だけどね。」

 

「······どうやって、私達のことを調べたんですか?」

 

「うーんとねぇ、それには答えられないかな。とある情報屋を頼ったぐらいだね。なにせ悪魔の巣窟に人間の俺が足を踏み入れなきゃ行けないからさ、事前に情報を揃えておくのは基本中の基本だよ。」

 

「······それで私達の事を。」

 

「そう言うことさ。おかげで教会の聖剣使い、君達グレモリー眷属とシトリー眷属について粗方調べさせてもらったとも。」

 

(······ハチマンさんの名前が無い?)

 

少しずつ気分が良くなってきたのか、やたらと饒舌に喋り始めた襲撃者の言葉の中に、小猫は引っ掛かりを覚えた。彼はグレモリーとシトリーの眷属達を調べたと言っていが、その中に最近になって出てきた腐り目悪魔の名前だけは出ることがなかった。それはつまり

 

「·········私達全員(・・)を調べたんですか?」

 

「そうそう、だからこそこのタイミングを狙わせてもらった。君達グレモリー眷属が勢揃いしてシトリー達は学校へ向かった、それに加えて俺を見つけることも叶わないんだ、もうチェックメイトってやつだよ。」

 

「······まだです、まだ終わってません。」

 

「······クハハッ、そうかいそうかい。よくもそう強気でいられるね。その決意に満ちた綺麗な琥珀色の目、うん素敵だ、そいつは素敵だ、汚したくなるくらいに······」

 

「気持ち悪い·········!」

 

(······待て、今ヤツはなんと言った?)

 

琥珀色の目、塔城小猫の目。

決意に満ちていると言った『目』。

彼は今そう言った。そう評した。ならば、だ。

 

 

今襲撃者は、塔城小猫の顔をしっかりと見ている?それも現在系で?

 

 

ゼノヴィアは全員の位置を改めて見渡し、方角を確認する。入口から見て一番奥、すなわち山に面している側が北であり、自分達は南西側の角の隅に居る。小猫は教会の中心に居てその隣には朱乃がついていて、教会の東側には倒れ伏したイリナと動けずにいる一誠とアーシア居る。

 

そして小猫がむいている方角は───

 

 

 

 

(───西か!!)

 

ようやくもって、正確な方角を割り出せた。

 

「あとは正確な距離ね。運良く犯人が口走ってくれたらいいんだけど。」

 

思い掛けない場所から落ちてきた手掛かりにより、遠くから覗き見ている襲撃者の方角は分かった。だがまだ足りない。欲を言えば敵の正確な位置を知りたい。

 

 

 

 

「強気だねぇ、それでも口答えは良くないな。なにせこっちは君達の明日(いのち)をどうこうできる立場にいる事を忘れてないかな?いわばもう君は俺の管理する所有物と言っても過言じゃ──」

 

「·····気に入りません。」

 

「······はい?」

 

「小猫······?」

 

「そうやって自分は安全だと思い込んで見下ろして、悠々と死を突きつけて優越に浸っている。恐らく人間な貴方ならそうするのが確実だというのは分かっています。それに、誰が貴方の所有物ですか?」

 

自分達に死を突きつけるスナイパーの居るだろう方向を琥珀色の双眸で睨みつけて、手元の携帯電話へと吼えた。

 

「私達は貴方の所有物なんかじゃありません!!例え貴方の掌で踊らされているとしても、必要なら引っ掻いて噛み付いて足掻いて足掻いて、壇上をひっくり返します!!エクスカリバーが欲しいのならこっちへ来たらどうですか!!その時は真正面からぶっ飛ばします!!!」

 

 

 

 

 

「············アハハ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

狙撃手が嗤う。

 

「面白い!手も足も出ないのにそうやって啖呵を切れるなんて、自分の頭が吹き飛ぶって事分かってるのかな?それにさ、わざわざ自分の有利性を手放すなんて阿呆な真似する訳がないだろ?」

 

死神が嗤う。

 

「本当にさ、馬鹿みたいだよ。やっぱりお前ら聖書の連中はさ。戦争狂のコカビエルもそうだけど、お前ら人外は先見の明の欠片も無いのか?

 

 

 

 

こうして3000メートルも先から狙っているって言うのに、手も足も出ないはずなのにさ!よくもまあそんな啖呵をきれるもんだよねぇ!?」

 

 

 

 

 

白猫が笑った。

 

 

 

 

 

 

「······!ゼノヴィア!」

 

「ダンタリオン!敵の位置が分かった!西の方角、距離はおよそ3000mだ!」

 

小猫の放った挑発に等しい言葉に、向こうはうまく乗ってくれた。主の内心としてはあまり危ない橋を渡って欲しくはなかったのだが、これは後に回す事にした。

兎も角、これで敵の正確な位置をようやく掴むことが出来た。この短くも長く感じられた数分の攻防にようやく終止符が打たれようとしている。あとは全て彼の眷属が上手くやってくれる。無力化してくれるとゼノヴィアは確信した。

 

その電話の向こう側にいる頼みの綱、知識の悪魔の納得いかないような声が聞こえた。

 

「·········ゼノヴィア、そいつは本当にスナイパーなのか?」

 

「どういう事だ?」

 

「お前は『突きつけられた銃口』を見たのかと聞いている。」

 

「············まさか、いやだが、 そんなはずは。」

 

「考えてみろ、弾丸を飛ばすには射出機(じゅう)が必要だが、それは必ずしも銃じゃなくてもいい。それにスナイパーの中でもそんな距離まで弾丸(たま)を届かせることが出来るのは本の一握りの奴しかいない。それこそ片手で数えれるくらいだ。そして俺達が知る技術なら使い手によってはそれが可能だ。なら詰まりは──」

 

現代の暗殺者(スナイパー)ではなく、魔術師だというのか!?」

 

今までスナイパーと仮定していた襲撃者は人類の科学文明から生まれた銃火器ではなく、自分達がよく知る太古の術を行使していた事に、ゼノヴィアは動揺を露わにした。

 

「だが、魔術を使ったとして、一体どうやって······」

 

「不可能じゃない。ただ余りにも面倒な方法ではあるが、超人クラスのスナイパーでなければ当てられないような距離でも術式によっては狙撃は可能だし、何より銃を忍ばせて持ち歩くよりも遥かに動きやすい。······見事に深読みしすぎた。」

 

だが、これでどの道チェックメイトだ。そう言い最後の締めに取り掛かる。

 

「ヴァルケンハイン。」

 

「『管制塔』より観測所へ情報の更新。目標の所在地は西方面の対象から3000m離れた場所と判明。目標はスナイパーでは無く魔術師だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レオ、西方面の3000m先、確認してください。」

 

「3000m···············見つけた!」

 

ゴーグルをフィルターのように挿んで指定された場所を映すレオの視界に、ローブを纏い杖の先端を教会の方へと向ける人影が映る。

ティナも続いて相棒の見据える先へと視線を映すものの、ティナの反応は微妙なものだった。

 

「·········アレ、ですか。靄がかっていて見え辛いです。」

 

ティナの視界には人の形を象った黒い靄のようなものが映るだけだった。

輪郭がブレていて、正確に狙い撃つには条件が難しい。なにせ一発で無力化しなければ意味がない。無力化しきれず意識が残っている状態で、もしもう一度目標の魔術師が弾丸を放ってしまえば、その時点で作戦は失敗する。

 

 

 

だから、もっと良く見える『眼』が必要だ。

 

 

「ってことは認識阻害?」

 

「だと思います。という訳で、レオの出番です。」

 

「あー······了解、それじゃあ、視覚同調(コンタクト)、ティナ・スプラウト。」

 

何かを設定するように相棒の名前を呼び、瞼の下りた糸目を、開眼させた。

 

それは確かに眼だった。

ただ普通の目と違いを挙げるとすれば、それはまず天然ではありえない色をしていた。青く、蒼く光を発する双眸。

理解し難い幾何学模様の(えが)かれたソレは、人によっては魔法陣や術の構成陣を連想させ、まるでこの偽りと欺瞞が溢れ、幻想の存在が跋扈する歪な世界を覗き見るための空洞であるかのように。

 

神々の義眼。

 

例え世界を欺くほどの隠蔽能力を持っていようとも、その眼は一切合切の虚偽を見破り、真実だけを写し取る。

認識阻害と隠蔽の同時併用により他社の認識から完全に外れた魔術師であっても、神々の義眼を押し付けられた男、レオナルド・ウォッチの()る世界からは逃れる事など不可能だ。

 

そして、いつの間にか紅い色を灯したティナの双眸に、レオの義眼と全く同じ色と模様を模した魔法陣が表れ、二人の見る景色はいる一つのものへと集約される。

 

「······捉えました。」

 

ようやく、ティナの脳にもレオが見たモノと全く同じ、魔術師然としたローブを羽織り魔法使いが持っているような木の杖の先端を協会の方向へと向けている人物をようやく認識し、相棒はと追加注文する。

 

「レオ、こっちに来てください。そのまま後ろから覆いかぶさるように。」

 

「·········やっぱそうしなきゃダメかな?」

 

「ダメです。じゃないと狙えません。」

 

うん、相手は子供、子供だから······と渋々ながらティナの言う通りに動き、後ろから覆いかぶさる。最初の呟きが聞こえていたらしく軽く髪を引っ張られつつも、本来その巨銃の主が覗き見るスコープを外して、レオは目の位置を丁度スコープを覗き見るような場所に固定する。

 

早い話が対物狙撃銃をうつ伏せの状態で構える幼女に上から覆いかぶさりスコープを覗き見る男という非常に密着した体制でいる訳だが、傍から人が見ればカオス以前に男がいたいけな少女を襲ってるとも取れなくもなくア●ネス通報待ったなし案件な事は間違い無い。

心なしかティナの頬が少し朱くなっているが、それをレオが知るはずもなく、あっという間に狙撃可能体制へと移行した。

 

「苦しくないかな?」

 

「これくらい大丈夫です。」

 

思考を切り替え、送られてくる視界情報を頼りに目標を狙う。携帯電話を片手に持っているようで、目標であることはまず間違いない。

 

ティナは魔術師の頭へと銃口をを定めて───

 

 

通信がはいる。

 

 

『『管制塔』より『観測所』へ伝達。目標の魔術媒体を破壊し無力化せよ。最悪腕ごと吹き飛ばしても構わない。魔力路(M)暴走(S)誘発(D)弾の使用を許可、及び魔弾の射手(ポゼッション・ザミエル)の使用を許可する。』

 

「『観測所』了解。それじゃあ、始めます。」

 

通信からの命令(オーダー)通りに頭から手に持っている杖へと照準を改める。

 

そして、こう呟いた。

 

 

 

 

形態移行(モードチェンジ)必中呪印・魔弾の射手(ポゼッション・ザミエル)

 

 

 

その一言で、少女の手の中にある巨銃(巨獣)は姿を変えた。

 

長い砲身(バレル)の表面がパカっと拓き、握るグリップを含めた銃の至る所のフレームがガシャガシャと蠢くように動き出し、もう既に既存の銃とは似ても似つかないモノへと変貌を遂げた。

 

銃が変形をし終わると、すぐさま弾丸を装填する横空きの銃身の中へと直接押し込み、準備を終える。

 

後は、もう大丈夫だ。

撃つべき場所に目星を付けて、手元の引き金を引く。その簡易な動作のみで作戦は遂行される。

 

「すぅ·········はぁ·········」

 

一度、深く息を吸いんで、ゆっくりと吐き出す。一発で仕留める。失敗など引き起こしてたまるものか。そうして己の心を鼓舞する。外して救助対象を危険に晒すなど以ての外であるし、主に面目が立たない。

 

なにより、相棒の前でそんな無様な真似が出来るものか。

 

 

 

「·········」

 

息を止める。無呼吸の状態に晒すことで極限までブレを抑える。すぐ隣で『目』の役割を担う相棒も、ティナに合わせるように呼吸を止める。

 

「────発射(シュート)。」

 

鋼鉄の引き金をまだ小さな少女の指が引き絞る。

ボンッ!!と。大きな炸裂音を響かせて、勝負を決するたった一発の弾丸が巨銃の無機質な銃口から放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽な仕事だ。

そう魔術師の男は内心ほくそ笑んでいた。

 

自らが所属するある組織において、複数ある派閥の一つの『魔術の派』に身を置いていた彼は、一つの命令を下される。

エクスカリバーの強奪、それもコカビエルが奪取したものと、教会から派遣された二人の戦士が持つ二振りを手に入れることがこの男に与えられた任務だ。

 

男としてはハッキリと言って面倒な仕事を押し付けてくれたと内心愚痴っていた。

 

男は自分の魔術の腕を相当なものだと自負しており、実際彼の力は『魔術の派』の中でも特に優れていると言えた。

 

持ちうる魔力はそう多くはないものの、今まで培ったきた魔の知識と技術を使いこなし、限定的な状況下であれば強大な力を持つ最上級悪魔やコカビエル等の聖書に名を刻まれた堕天使すらも降すことが出来る。

 

しかしそれも理論上の話で、実際に行った事など無ければ、そもそも試す機会がなかった。さらには同じ派閥の魔術師達は彼のことを下に見ており、つまりは、彼は非常にストレスの溜まる現状に鬱屈とした日々を送っていた。

 

そんな彼だったが、今はとても気分が良く、高揚としていた。何故なら、今彼の紡ぐ言葉一つで、教会の中で立ち往生している悪魔達の命をどうにでもできる立場にいるのだから。

最初は面倒でとても意義の見いだせない最悪な任務と考えていたが、自分の手のひらで踊り狂う愚者達を嘲笑い、強大な力を持つ悪魔や堕天使すら屠れる魔術を行使し、己の理論を証明できる。そして命令を遂行すれば、向こうの目の色も変わるというものだ。

 

先ほど歯向かうように叫んでいた悪魔の啖呵も水に流そう。そう余裕綽々でいられるくらいには。

 

そんな考えすらも、無意味になる。

 

 

 

 

教会を映す彼の視界の端、正確には手元の杖へと何かが刺さるのが見え、軽く杖を持つ手が横へとブレた。

 

刹那────

 

 

杖を持つ己の右手を中心に、魔術師の視界は白い光で塗り潰された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「············やりました。」

 

スナイパー少女はそう呟き、大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·········対象の沈黙を確認 。無力化に成功したようです。」

 

「ふぅ························状況終了。」

 

主の腐り目悪魔もまたため息を吐いて、作戦の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······終わったようだ。」

 

携帯電話に耳を押し当てて、情報のやりとりをしていたゼノヴィアから発せられた一言で、ようやくその場の全員が脱力し、死神の鎌から解放された。

狙われていた小猫に至ってはすっかり腰が抜けており、その場でへたり込んでしまう。

 

その中で、ゼノヴィアの言葉を聞くや否や、アーシアはすぐさま負傷したイリナへと駆け寄り傷を癒そうと手を翳す。その素早さにはゼノヴィアも思わず目を丸くしてしまった。つい先日彼女を異端であるとして魔女と呼んだにも関わらず、なんの迷いもなく助けに向かった事に唖然とする。

例え身体が悪魔になろうとも、他者へ向ける慈しみが変わることは無い。そんな本当の意味での聖女というものを、ゼノヴィアは目の当たりにした気がした。

 

「な·····何で?」

 

そんな彼女が持つ癒しの力も、意味を成さなかった。

 

「傷が治りません······!どうして······」

 

「これは······」

 

近くに居た朱乃もアーシアの傍へと駆け寄り、イリナの傷の具合を覗き見る。

 

脇腹に受けた銃創にアーシアが手を翳し淡い光が優しく傷口を包み込むが、一向に傷が塞がる様子はなかった。

 

「これは、魔術?」

 

朱乃の目には傷口を蝕むように暗い紫の何かが一瞬見えた気がした。それは恐らく魔術の何かである事は確かだが、これをどうこうできる術を彼女達は持ち合わせていなかった。

 

「しっかりしろイリナ!」

 

イリナの傍へと駆け寄り叱咤激励するように相棒へと強く呼びかけるゼノヴィア。

アーシアの神器が効かず手の施しようがない状況に一同は歯噛みする。

 

その時だった。

 

「患者は何処ですか!?」

 

教会の入口から唐突に聞こえてきた男の声に全員が振り返る。そこに居たのは──

 

 

 

 

 

 

 

3mに届くだろう長身に白衣を纏った、紙袋をかぶった謎の男が居た。というか不審者が居た。

 

「なっ、何者だ貴様は!」

 

「待って待って!その如何にも物騒な物を納めて!私は医者です!!というか何故リアスさんと朱乃さんのお二人はお気付きにならないのですか!?」

 

「医者だと······?」

 

突然の不審者にしか見えない男の乱入に一同が訝しむ。何故か憤慨というか忘れられていることへの正当な(?)怒りを抱いているようではある。しかし、ここに来たということで何人かが彼が何処のものかを察した。というか約二名がようやく気付いた。

 

「······まさか、ファウストさんですか?」

 

「あ······」

 

「やっぱり忘れていましたか·········いえいえ今はそれよりも、皆さん退いてください。」

 

倒れ伏したイリナへと駆け寄り、傷の具合を見る紙袋を被った男、ファウスト。

何度か傷口に灯った紫の光を認めると、何処からか取り出した紙と傷を見比べて、

 

「これは·········回復阻害の術式······?いや、違うな······どちらかと言うと状態保存の術式に似ている······」

 

「治るのか?」

 

「この術式を解除しなければどうにも·········少々お待ちください。こちら『生命院』、患者の傷口に状態保存の術式を確認しました。術式を解除しなければ治療にあたれません。応援を要請します。」

 

『············『統括局』より『生命院』へ返答、要請を受理する。今すぐ『管制塔』を向かわせる、それまで暫定的な処置でも構わない、その少女の命を繋げ。』

 

「了解です·········」

 

聞くが早いか、『生命院』の呼称を賜った紙袋医師ファウストは手持ちの救急キットを広げて、処置の準備に取り掛かる。

 

「皆さんはコカビエルを追ってください。私は彼女の傷の手当てをします。」

 

「いや、というかアンタ誰なんだよ!?」

 

「説明している時間が惜しいです。私はしがない医者、ということでご納得ください。もちろんワケありの、ですが。」

 

でも······と吃る一誠の言葉に被せるようにファウストは「それに、」と強調して、

 

「躊躇している時間はもう余りないようです。」

 

その言葉と同時に、リアスの携帯に再び着信が入った。

 

「もしもしハチマン?今度はどうしたの?」

 

「すまん、最悪な知らせだ。コカビエルが駒王学園に姿を現した。しかもでっかい術式を携えてな。」

 

「·····その術式って?」

 

「詳しく調べてはいないが、あれは恐らく循環系の術式だ。それも加速式をいくつもつぎ込んでる。あのままだの暴走して自壊するのは間違いないが······」

 

「······っ!?」

 

循環系の術式、プラスの加速式の連続投入。そして自壊の可能性。そんな失敗前提の術式を組んだ意味。リアスはようやく事態の深刻さに気付いた。

 

「分かったわ。今すぐにコカビエルの所に向かうから、ハチマンも準備して。」

 

「といってもな······分かった、なるべく急がせる。ただこっちはこっちで先にやる事がある。悪いが先に行っていてくれ。」

 

通話はそこで切れた。

状況をしっかりと認識したリアス達は次の行動に移るべく走り出す。

 

「みんな、行くわよ!」

 

「面倒事を持ってきてくれましたわね······!」

 

「······みんな、待っていて。後、もう少しだから。」

 

「あーもう!さっきから何が何だか!」

 

「ともかく、これで最後ですから。ぶっ飛ばせば勝ちです。」

 

廃教会を後にするグレモリー一行。

 

──の中から、ゼノヴィアとアーシアは足を止めて、ファウストへと振り返る。

 

「······大丈夫なのだな。」

 

「もちろんです。私は医者ですから。」

 

「えっと······イリナさんをお願いします!」

 

「任せてください。それよりも皆さんは、今回の傍迷惑な事件を起こした犯人をシバキ倒してに行ってください。」

 

私は、彼女の命を絶対に救いあげます。

 

 

「········イリナを頼んだ。」

 

ゼノヴィアとアーシアも駆け出した。向かう先は堕天使コカビエルが現れた駒王学園。目的は奪われた聖剣を奪取、もしくは破壊する事。

この事件もいよいよ終盤を迎え、最後の正念場へと舞台を変える。

人外が蔓延る町、駒王町。

悪意ある者が企てたこの事件の舞台となった、ある意味で世界の在り方を決める戦いが、この町に住まう人間達の知らぬ所で今その幕を上げようとしていた。

 

 

 

「さあ、私も始めましょう。

 

 

 

必ず、貴方をこの世界へと引っ張りあげます。」

 

 

 

いつかの日、救えたものを救えずに狂い果てた心優しき医者(せんせい)は、もう取りこぼさないと決めた己の建てた誓いを胸に、明確な死へと近付きつつある少女を救うべく、彼は道具を手に取った。




お楽しみいただけたでしょうか?
今回はハチマンの眷属たちの一部、及びコールサイン的なもののお披露目回でした。
一話と前話の描写からハチマンの眷属はだいたいわかると思います。勿論まだ出ていない人もいるけどね☆
ただあっと驚く人選であることは間違いないのでご期待ください。

それではまた次の話までバイにー!



多分次は番外編を挿むと思います。


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