日本帝国 彼の地にて斯く戦えり (神倉棐)
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プロローグ
ようこそ、リアリティワールドウォー・オンラインへ


〈1〉

 

 

いと高き空を戦闘機(鋼の翼)が舞い、

 

暁の浮かぶ水平線には偉大な艦様を晒す戦艦や空母(七つの海の覇者)が白波を立て進む、

 

黄昏の沈む地平線には大地を踏みしめ巨大な戦車(陸の帝王)が行軍する。

 

そしてその全てには赤い日の丸(太陽)が描かれていた。

 

 

♦︎-♢-♦︎-♢-♦︎

 

 

「……ふぅ、これで全国ランク10位圏内。今回の戦争キツかった……」

 

俺は開いてあるノートパソコンから目を離し椅子の背もたれに背を預ける。ノートパソコンの画面には今回の戦争の戦果及び損害報告、それに伴い 変動した全国ランキングの順位が示されていた。

 

旭東帝国 全国ランキング7位

 

大戦用に備蓄していた持ち得る限りの資材全てを動員し当時全国ランク12位で格上であった全国ランク7位の(プレイヤー)に辛勝とはいえ勝利した快挙は自国の損害を考えればあまり喜べないものだ。

 

 

 

損害報告

・消費資材

鉄鋼=4.270.000t/5.000.000t

石油=5.600.000KL/7.000.000KL

 

・戦死者数

陸軍=35.735人/200.000人

海軍=29.458人/600.000人

空軍=11.789人/50.000人

計=76.982人/850.000人

 

・投入艦船損害

戦艦 15隻内 大破 9 中破 5 小破 1

空母 16隻内 大破 6 中破 2 小破 3 沈没 1 損害軽微 3

巡洋艦 38隻内 大破 13 中破 5 小破6 沈没 8 損害軽微 6

駆逐艦 62隻内 大破 22 中破 12 小破 14 沈没 12 損害軽微 2

潜水艦 33隻内 中破 1 小破 3 沈没 7 損害軽微22

揚陸艦 5隻内 中破 1 小破 2 損害軽微 2

艦隊補助艦 9隻内 中破 1 小破 3 損害軽微 5

 

・投入航空及び陸上兵器

【陸軍】

中型戦術輸送機 C-1

試作大型戦術輸送機(C-2)

試作戦闘ヘリ(AH-64)

試作輸送ヘリ(SH-60)

試作垂直離着陸輸送機(V-22)

試作双発輸送ヘリ(AH-47)

試作観測ヘリ(OH-1)

五式中戦車

Ⅴ号中戦車(パンター)

Ⅵ号重戦車(ティーガー)

重戦車ポルシェティーガー

試作戦車(61式戦車)

60式自走無反動砲

試作自走砲(99式150㎜榴弾砲)

試作装甲車(96式装輪装甲車)

高機動車(HNV)

軽装甲車(LAV)

 

【海軍】

零式艦上攻撃機(零戦)六三型

艦上戦闘機紫電二一型(紫電改)

艦上戦闘機烈風二一型(烈風改)

艦上攻撃機流星二一型(流星改)

特殊攻撃機晴嵐二一型(晴嵐改)

双胴型水上爆撃機飛行大帝富士

 

【空軍】

高高度迎撃機震電二二型(震電改ニ)

局地戦闘機烈風二一型(烈風改)

噴進式戦闘機 F-86 セイバー

試作近代型戦闘機 ASF-X1/F-1

試作近代型戦闘機 ASF-X01/F-15

零式対地支援爆撃機三二型 零式

弩級戦略爆撃機 一式

超弩級戦略爆撃機 富獄

 

 

 

今回の戦争の主戦場は海上が主だった為艦艇の損耗率が高く本土上陸は許していないものの本土空襲迎撃や陣地防衛、敵前線基地の占領と陸軍や空軍の被害も大きく復興には時間が掛かるだろう。艦艇も入渠中の一部は数週間で完了し艦隊に戻れるがそれでも被害の少ない小破、中破した艦艇を最優先とした場合で大破、沈没した大半を占める駆逐艦の修復及び再建に掛かる時間と資材はどれだけになるかは余り考えたくはない。……最も最悪はベルガ式国防術(自国核浄化作戦)とかも考えていた為まだマシと言えよう。自国領土を汚染して何の得になる?デメリットしかないわ。

なお、軍の兵器の一部が平成仕様になっているのはただ単に戦争が無くて代わりに内政と開発を進めに進めて進めまくったら出来ちゃったというなんとも言えない残念な理由があったりする。損ではないが、

…………………ああ、そう言えば忘れていたがこのやたらと自由性が高いかつ世知辛い戦略ゲームの名だが『Reality Worldwar Online(リアリティワールドウォー・オンライン)』とまんまである。そして俺はその中にある国のひとつ、大日本帝国をモデルとした旭東帝国を指揮するしがない皇帝(プレイヤー)である。

 

「取り敢えず資源回収と戦後復興、損傷艦の入渠改装に抜けた艦隊の再編、沈没した船舶の再建造に兵器更新もして賠償金の使い道とか考えねば……早く海軍だけでも再建しないと他の(プレイヤー)に狙われたらあっさり本土が侵攻されてマジでベルガ式やる羽目になる」

 

マウスを動かし2人の女性秘書(NPC)の内1人に先ずは軍事関連の艦隊再建と兵器更新を指示、もう1人には復興と資源回収を指示する。ふと見た壁掛け時計の針は0200(午前2時)を示していた。

 

「そういやもう2時か……眠いな……」

 

俺は一度パソコンをスリープモードにし背伸びする、2200(夜の10時)からずっとこのゲームをやり続けていた為身体が固まってガチガチだった。

 

「んー、身体バッキバキだなぁ……寝るか……」

 

俺はベッドに行く余裕すらなく勉強机に突っ伏すようにして目を閉じる。

 

「………1回くらいは俺も現実(リアル)でも旭東帝国を指揮してみたいもんだなぁ………」

 

俺は最後にそう呟き抵抗する事なくその睡魔に身を委ねる。

 

だからこそ気付かない、気付けない。スリープモードにしてあったノートパソコンの画面が独りでに解除されRWOのホーム画面に切り替わり何処からかひとつのメッセージが届いた事に。

 

 

『ようこそ「本当の」リアリティワールドウォー・オンライン(現実の繋がる世界での大戦)へ、運営は貴方の国家に繁栄と祝福のあらん事を願います』

 

 

 

 

 

 

この日、1人の男子高校生(プレイヤー)がこの世界から姿を消した。

 

 

 

 



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第1世界 ヘルダーティア
【Ⅰ】気が付いたら異世界だった


〈2〉

 

 

「……うっ、うう……朝か」

 

ゲームを一旦終えて寝落ちし机に座ったまま寝ていた俺は眼を覚ます。いつの間にかスリープモードが解除されていたノートパソコンの電子時計が0900(午前9時)を表しているのを確認し俺は今日が休みの日である事に感謝し突っ伏していた机から身を起こす。

 

「ふぁあ〜ああ、んーよく寝た……のかな?」

 

椅子に座ったまた固まった身体を伸ばしふと、違和感を感じ周りを見てみる、そこで俺はようやく自分に起きた異変に気付いた。

 

「……んん?ちょっと待て、ここどこだ?」

 

高級そうな木製の机に革張りの椅子、煉瓦造りの暖炉に赤い絨毯が敷かれたお金は掛っていそうな派手過ぎないシンプルな内装、唯一俺の普通の1人部屋と共通するのは目の前にあるこの黒のノートパソコンだけ。しかし俺にはここに見覚えがあった。

 

「……ここリアリティワールドウォー・オンライン(RWO)にある旭東帝国(俺の国)の執務室の内装のそっくりそのまんまじゃないか……どうなってるんだ?」

 

そう、ここはノートパソコンの有無という些細な違いがあるものの完璧にゲームの中の俺の執務室だったのだ。しかも……

 

「って、これ旭東帝国で採用してる第二種軍装じゃん⁉︎俺の寝間着(ジャージ)どこいった⁉︎」

 

いつの間にか着ていた丁度自衛隊の制服と帝国海軍の軍服の間位のデザインの黒の制服に俺は混乱する。よし、俺落ち着け、そう落ち着くんだ。まだ状況がわからないからな……。取り敢えずで現状を把握しようとまず確実に自品であるノートパソコンに手を掛け絶対に関係あるであろうRWO(ゲーム)を再起動しようとするとメッセージボックスが点滅しメッセージの受信を示していた。

 

「うわ……絶対にこれ怪しいな……」

 

このタイミングで届いている運営からのメッセージって怪しくね?ほら、よくあるテンプレ的にもさ。

取り敢えず開けずにずっと画面とにらめっこを続けても事態は好転しない以前に時間の無駄なので意を決して俺はメッセージの開封ボタンわクリックする。そこにはこんな事が書かれていた。

 

 

『ようこそ「本当の」リアリティワールドウォー・オンラインへ、運営は貴方の国家に繁栄と祝福のあらん事を願います。

 

我々運営は貴方の要望にお答えして異世界にて貴方に貴方の国を指揮してもらう事にいたしました。またこれにつきましては運営の都合ではありますが現在このゲーム内の「現状のまま」異世界に転移する事になる為、ご注意下さい。

 

Reality Worldwar Online 運営より』

 

 

「…………はい?」

 

意を決して見てみたらこれだよ。いい加減、いや絶対に認めたくはないんだが誠に遺憾ではあるがこれでようやくある程度状況は理解できた。つまり……

 

 

RWOやってて寝落ちする

なんか俺寝言に『旭東帝国の皇帝になりたい』的な事言ったらしい

運営がそれを聞きつける(え?俺のプライバシーは?てかなんで運営そんな事聞いてんの?神?神様だったりするの?ねえ?)

よっしゃ実現してやろう。但し異世界でな‼︎(今俺の国ぼろぼろです)

ゲームの国ごと異世界転移

俺目を覚ます(ついさっき)

現実の確認←今ココ

 

 

……うん、一応まとめてみたは良いが未だに意味不明だ。誠に理解し難い。そもそもなに?ゲーム上の国ごと異世界転移って⁉︎どこの小説⁈ああ、ここか……って、うっ、変な電波を受信してしまった……

 

「……どうしよう。本格的にどうすれば良いのか見当も付かん……」

 

ぽつりとこんな感じに心の声がダダ漏れになる位に動揺し頭を悩ませる俺はふと更にメッセージの内容はまだ続いている事に気が付いた。

 

「……ああ、碌な気がしないが何か救いよ!来い‼︎」

 

希望を持ち藁を掴む気持ちで俺はメッセージを下にスライドさせた。

 

 

『追伸

尚、他にも貴方の他にその国に転生、転移している、もしくはこれからしてくる方々もいらっしゃる……行かせたりする予定なので頑張ってね〜(はーと)

 

神s……運営より』

 

 

……まあ、世の中そんな上手くはないデスヨネー。

 

「ファァァークッ‼︎やっぱり犯人神様じゃねぇかぁ⁉︎説明くらいしっかりしろこの駄神のバカヤローが‼︎」

 

多分こんな風に叫んでしまった俺は悪くない。そう俺は悪くない、悪くないんだ。……多分、maybe…………

 

とにかく俺は叫ぶ事にした。そう、たっぷり1時間。このクソッタレな現実を現実だと理解する為に……。

 




執務室の内装ですが、艦これの提督の執務室をイメージしていただければ分かりやすいかと……

次、『秘書2人現る』です。


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【Ⅱ】(駄)神からの特典その1

〈3〉

 

このマジで意味不明の異常事態の原因が神様だった事が判明して約1時間が経った現在1000(午前10時)頃、漸くそのクソ駄神に良い子は知らなくていいような罵声を延々と叫び終えてちょっぴりだが冷静になった俺は執務机の椅子に座って息を整えていた。

 

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……この……クソッタレめ」

 

ただ叫んでただけなのだがやたらいい汗掻いた気がする……まあ、冷房が効いてて汗一滴すら出てないんだが。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ、このクソッタレめ……忌々しいわ」

 

比較的余裕が生まれた俺は机にあれから放置してあったノートパソコンを引き寄せ触り始める。まずやる事は現実と化したRWOにある我が国、旭東帝国の現在の状況の確認である。一旦メッセージは閉じて行動決定などのメニューを開こうとするが……開かない。何度か繰り返し試してみるものの操作できたのは一番最初に現れる『メインメニュー』と現在の旭東帝国状況を示す『詳細』の2つだけだった。

 

「おいおい……使えるのがメインメニューとメッセージボックス、詳細と設定の中では今はスゲーどうでもいい部屋の模様替えだけかよ……。メインメニューにある選択の内使えるのが半分以下ってどういう事さ?」

 

因み部屋の模様替えは選択したら全自動で勝手に模様替えしてくれる模様、無駄、マジで無駄、これぞ無駄の極致!あまりの酷さに頭を抱えて発狂でもしてしまいそうだがそれすらする余裕が無い。ああ、胃が痛い。

取り敢えずそれでも何かいいものはないかと(主に俺の胃の為に)手当たり次第ポチポチクリックし続けているとふと、このゲームには2人の『秘書官』が居たはずだと漸くだが思い出した。

 

「……そう言えば旭東帝国が現実としてここにあるんだから秘書官もいるんじゃ?って事はしっかり国民もいるって事なんだよな?」

 

ここで結構と言うかとんでもなく重要な問題が浮上して来た。即ち、『今国民どうしてんの?』である。内政は一応大日本帝国がモデルだから議会があって皇帝承認(ゲーム上選択)で施行される型であるので法案()が上がってこない限り大丈夫なはずだが軍事は違う。軍事関連は特に秘書官に皇帝が指示を出す型で動いているので俺がいても秘書官がいなければ軍事関連は手が出せない。寝落ち(最後)する前に一応軍の再編と資源回収を指示したらしいがそれっきりである、つまりそれ以上を知らない。

 

「ヤバい、秘書官ってどう呼べば良いんだ?ゲームでは常に執務室に居たはずだけど今居ないしそれにあんなに叫びまくったりしてたけど近衛すら確認しに来なかったんだけど……」

 

さっきから頭しか抱えてない気がしないでもない気がする気がするがまあ、是非もないよネ!いや本当、抱えても仕方ない気がするんだ。マジでね。実際こんな事あってみ?パニック起こすよ?俺みたいに。

 

と、その時新たにメッセージが届いたようで本来なら鳴らない「ピロリン」というテンプレ的な着信音が鳴り俺は死んだ目をしながらそれを開封した。

 

『やあやあ、運e……もう身バレしてるしいいか神様ですよ〜。

色々胃が痛たそうな君に朗報だ。今君のいる部屋、執務室は一時的に外とは遮断されている。だから君がこのメッセージを閉じた瞬間から遮断は解除され君の切望する秘書官ちゃん達が入って来てくれるって寸法さ。だから頑張ってね〜。

神様より』

 

正体もう隠す気ねぇなこの駄神……しかもなんかこの文面人をおちょくってる感じがめっちゃするんだが気のせいだろうか?いや多分気のせいではない。しかし……

 

「キタァァァァァァアアア!偶にはまともな事するじゃねぇかあの駄神!いやまともな事したんだからこれは失礼か……良くやったぞ(駄)神!貴様を今確かに俺は神と認めたよ‼︎」

 

今までのストレスが祟ったのか狂喜乱舞し荒ぶる俺はそう叫ぶ。

 

テンションがMAX状態な俺が沈静化するまで暫くお待ち下さい。

 

 

10分後……

 

 

「こほん……、いや久々にあんなテンションになったよ、うん」

 

漸く沈静化した俺は居住まいと服装を正し席しっかり座る。これからメッセージを閉じて秘書官達と会うのだ、少しくらいはマトモにやりたい。

 

「と言う事でほい、閉じる」

 

カチっ、ガチャ

 

「「失礼します」」

 

メッセージを閉じる為マウスをクリックした瞬間執務室の扉が開き2人の女性が入って来る。うん、間違いない。ゲームの中で良く俺に仕えてくれた秘書官の2人だ。

 

「初めまして、帝国陸軍所属大元帥補佐官である桐咲 深雪(きりさき みゆき)です」

「同じく帝国陸軍所属大元帥補佐官である神ヶ浜 千冬(かみがはま ちふゆ)です。こちらでは初めてましてですね陛下、これからもよろしくお願い致します」

 

そう言って微笑む2人の秘書官(女性)…………そう、そこに天使(マイエンジェル)が居た。

 

 

 




因みに暫くしたらメインメニューすら開けなくなる模様。但し運営()からのメッセージだけはメールとして来る。


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【Ⅲ】方針決め

〈4〉

 

さて、救世主(メシア)たる秘書官2人。桐咲補佐官と神ヶ浜補佐官が来てくれたおかげで漸く俺の胃の危機は過ぎ去った。まあ、問題はまだ山積みであるのだが。

 

「ところで2人はどこまで現状を把握できているんだ?」

「私はこうなった経緯と私が担当している軍事に関してだけですね。神ヶ浜補佐官は?」

「私もそれくらいだな。強いて言うなら私がよく担当していた現在行動中の軍の指揮くらいだ。桐咲補佐官なら情報関連は私より多く把握しているだろう?」

 

初めから現状の説明をするのは大変なので先に2人がこうなった原因についてどこまで知っているのか確認する為にそう質問すると2人は経緯は理解していると答えた。良かった、正直俺自身もまともに説明できそうになかったので変な手間が省けて楽になる。

 

「それじゃあ2人は今この国がどうなっているか、簡単にだけど教えて欲しい」

「勿論です陛下、桐咲補佐官」

「はい、では現状をまとめるとですね。現在我が国は先の戦争の為海軍の艦隊、出撃した178隻の内50隻が大破、28隻が沈没し損害軽微等で現在艦隊として動かせるのは潜水艦のみです。

現在損傷している艦隊は横須賀、呉、佐世保、舞鶴の各軍港にて入渠、ドック入りしており小破や中波している物から順に少なくとも1週間前後で第一陣が終了します」

 

そう言って彼女はどこからか取り出した書類を俺に渡す。

 

「これは?」

「現在回収中の資材状況です。幸い領土北は樺太から南の与那国島まで全てが転移しているので、北樺太で産出される石油に関しては大規模な艦隊行動がない限り数年は持ちます。しかし他の鉄鋼や天然ゴム、希少金属についてはどうにも……」

「それはそうだよな……日本に地下資源殆ど無いもんな」

 

流石秘書官、ゲームしかした事が無いド素人の俺でも分かるように分かりやすく纏めてくれてある。確かに人工石油プラントも大量建造がされている為石油はまだ余裕があるが他に余裕がない、持って10ヶ月程度……と言ったところだろうか?

 

「なので私からは至急『潜水艦隊』による周辺海域の調査を進言します」

「潜水艦隊?」

「ここからは私が変わろう。現在我が国の海軍の艦隊が再建中であると言う話は先程しましたが、現在周辺海域に調査に出せる長距離を行動できる艦は、損害が軽微であり遠洋練習巡洋艦であった香取、鹿島を除けば燃費が良く脚が長い伊号-400型を中心とした潜水空母艦隊しか存在しません。付け加えるならば潜水空母は特殊攻撃機晴嵐を搭載している為、索敵にも丁度良いかと思われます」

 

深雪補佐官から千冬補佐官が説明をバトンタッチし先に準備していた伊号-400型のスペックが書かれた資料を俺に手渡す。

 

伊号-400型

 

3機の特殊攻撃機が搭載可能であり、史実第2次世界大戦中に就航した潜水艦の中で最大で通常動力潜水艦としては、2012年中国にて竣工した03型潜水艦である水上排水量3,797t、水中排水量6,628tに抜かれるまでは世界最大だった。理論的には、地球上を1周半航行可能という長大な航続距離を誇り、日本の内地から地球上のどこへでも任意に攻撃を行いそのまま日本へ帰投可能で、大柄な船体を持つが水中性能は良好、急速潜航に要する時間は僅か1分と当時規格外の性能を誇る。

確かにこれなら資材の節約になるだろうし同系艦に伊号-500型や伊号-600型も存在する為艦隊を組むのは可能だろう。

 

「それでいきましょう。東西南北の四方に往復可能な限り調査を行えばせめて一方だけでも発見できるでしょう」

「了解です。編成はこちらで決めても?」

「お願いするよ、千冬補佐官なら俺が決めるよりずっと良い結果になるだろうし」

「ありがとうございます、陛下」

 

そう言って彼女は嬉しそうに答える。めっちゃ美人じゃないですか……いや元々美人だけどもさ。せめて現状世界でもこんな美人な人が近くにいたら良かったのに……いやもうここも現実であったか。

 

「……陛下、私はどうすれば?」

「深雪補佐官は引き続き情報の収集とあと俺に内政とかを教えて下さい」

「私が、ですか?」

「はい、深雪補佐官は人に物を教えるのが得意そうですし頼りにしてますから」

「……はい、分かりました。お任せ下さい」

 

俺の申し出にきょとんとした後深雪補佐官は少し恥ずかしそうに目を伏せ頷く。いきなり褒められて驚いたのであろうか?それにしても美人である。いや、やっぱりなんで現実世界でこんな人居なかったんだよ……って何度も言うけどここももう現実だったわ……。

 

「とにかく深雪補佐官、千冬補佐官、至らないトップだけどこれからもよろしく頼む」

「「喜んでお伴します」」

 

俺がにわか仕込みではあるが形だけでも敬礼してみると彼女達はきっちりと敬礼で返してくれた。

 

さて、これで漸くまともに活動ができるようになったけどこれからどうしようか……陸が見つからなかったら完全に詰むんだけど……、あと転生者とか転移者探しだけどどうしよう。深雪補佐官に訳を話して手伝って貰うべきかな?

 

始まったばかりの俺の異世界ライフはまだまだ見通しの立たない不確実なものなのであった。

 




2人のモデルだけど分かる人には分かると思う……え?選んだ理由?私の好みですが何か?


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【Ø】第一次状況調査報告書

 

〈4.5〉

 

第一次中間報告

 

▪︎国土(居住人口が千を超えるもののみ)

樺太

北海道

本州

四国

九州

沖縄

 

 

▪︎総人口

約1億3千人(内軍:85万人*)

 

*今後、予備役からの召集及び新兵募集が行われる為これより増える可能性大

 

 

▪︎経済

賠償金を使用した公共事業を受注、火力発電の停止による電力不足解消の為ダム開発等が行われている為そこまで酷くはなっていない模様。詳細は別紙、議会からの報告書を確認して下さい。

 

 

▪︎各種資材

⚪︎石油(人工含む)

樺太北部油田及び人工石油精製機関(プラント)全力稼働中、現在艦隊全力行動を3回行う余裕有があるがなければ5年は保つ。

 

⚪︎石炭

鉱山の採掘再開、しかし備蓄量より保って1年の為現在使用量規制中。

 

⚪︎ガス

地下資源開発計画の計画が開始、備蓄量が保って1年半の為現在使用量規制中。

 

⚪︎一般金属(鉄・銅・アルミなど)

軍民共に使用量が増大、備蓄量より保って1年未満の為現在使用量規制中。

 

⚪︎特殊金属(チタン・ニッケル・希少金属など)

軍民共に使用量が増大、備蓄量より保って1年半の為現在使用量規制中。

 

⚪︎ゴム(天然)

軍民共に使用量が増大、備蓄量より保って1年の為現在使用量規制中。

 

 

▪︎艦隊編成

⚪︎第1戦闘艦隊

〈旗艦〉戦艦 紀伊(入渠中)

戦艦 尾張(第2次入渠予定)

戦艦 大和(入渠中)

戦艦 武蔵(第2次入渠予定)

空母 信濃(入渠中)

 

⚪︎第2戦略機動艦隊

〈旗艦〉空母 赤城(近代化改装中)

空母 加賀(近代化改装中)

空母 飛龍(解体中*)

空母 蒼龍(解体中*)

空母 翔鶴(入渠中)

空母 瑞鶴(入渠中)

戦艦 長門(入渠中)

戦艦 陸奥(第2次入渠予定)

戦艦 ビスマルクⅡ世(入渠中)

 

⚪︎第3高速機動艦隊

〈旗艦〉戦艦 金剛

戦艦 比叡(入渠中)

戦艦 榛名(入渠中)

戦艦 霧島(入渠中)

空母 大鳳(入渠中)

空母 雲龍(入渠中)

空母 天城

空母 葛城(入渠中)

空母 グラーフ・ツッペリン(入渠中)

 

⚪︎第4巡洋艦隊

〈旗艦〉重巡 伊吹(入渠中)

重巡 鞍馬(入渠中)

以外、重巡洋艦及び軽巡洋艦

 

⚪︎第5潜水艦隊

〈旗艦〉潜水 伊-601

潜水母艦 大鯨

潜水母艦 瑞鳳

以外、潜水艦

 

⚪︎第6護衛艦隊

〈旗艦〉軽巡 阿武隈(第2次入渠予定)

ヘリ空母 笠置(沈没)

ヘリ空母 阿蘇(第2次入渠予定)

以外、駆逐艦

 

⚪︎第7支援艦隊

〈旗艦〉軽巡 大淀(第2次入渠予定)

軽巡 仁淀(沈没)

軽巡 夕張

揚陸 あきつ丸(入渠中)

揚陸 春津(入渠中)

揚陸 夏津(入渠中)

揚陸 秋津

揚陸 冬津

以外、工作艦及び輸送艦

 

 

*飛龍型正規空母は損傷及び老朽化が目立つ為解体後再建造、同名をもって新型艦として再就役予定。

 

 

現在は第一次資源統制中でありますが資源について早急に確保すべき物は一般金属、特殊金属、ゴムの3種類となります。なお石油、石炭に関しては国内生産設備を全力稼働させる事である程度規制を緩和する事が可能となり、万が一連合艦隊を召集、出撃させる事となろうとも3度は余裕を持って可能となります。

 

また、現在入渠中の艦隊は電探(レーダー)等の電子機器の更新等部分的近代化改修が行われており、更に新規建造計画については別途、神ヶ浜補佐官が報告します。

 

 

以上

 

 

 

報告者 桐咲 深雪

 




予定外だったんですが一応上げときます。今日中に本編はひとつ上げる予定です……多分。


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【Ⅳ】大陸発見

〈5〉

 

1週間後、執務室には漸く様になってきた内政作業(判子押し)をする俺とそれを補佐している深雪補佐官、そして報告に来た千冬補佐官の3人が揃っていた。勿論その報告とは1週間前に出航していた潜水艦隊からもたらされた『大陸発見』の急報についてである。

 

「『大陸が見つかった』ねぇ……」

「はい、西方に向け進行していた西方調査艦隊旗艦伊-401からの情報です。更に艦載機を持ってして上空調査も試み大陸沿岸に幾つか集落と規模は小さいですが港と軍船らしき船を発見したとの事です」

 

千冬補佐官の報告を聞きながら俺は考える。

 

「動かせる艦は?」

「入渠が完了もしくは近日完了します水上艦の内戦艦では『長門』『金剛』『榛名』、空母では『大鳳』『天城』『葛城』、重巡洋艦では『伊吹』『鈴谷』、軽巡洋艦では『夕張』『鬼怒』『北上』『大井』『木曽』『天龍』『龍田』『香取』『鹿島』、駆逐艦では『菫』『雪風』『島風』『陽炎』『不知火』『黒潮』『初風』『磯風』『浜風』『夕立』『江風』『雷』『電』『Z35』の計31隻です」

「やっぱり駆逐艦が少ないな……」

「はい、駆逐艦は先の戦争で配備艦の約66%が大破もしくは沈没していますし損傷率は98%を超えています。最優先で修復中ですが戦艦や空母などの超大型艦より被害が大きく時間が更に掛かるようです」

 

現在動かせる戦艦や空母達を頭に思い浮かべベストな編成を考える。

 

「なら……編成は金剛を旗艦とし空母2、重巡洋艦2、軽巡洋艦5、駆逐艦10、揚陸艦2、輸送艦3で編成。できるか?」

「すぐに、3日で完了させます」

「頼んだ。他の船は入渠が完了次第臨時艦隊を編成、国土防衛の哨戒任務につけろ」

「了解、失礼します」

 

俺の指示に千冬補佐官は力強く頷く。そのまま執務室を後にしそのあしで軍務省に向かって行った。

俺は一度延々と判子を押し続ける作業の手を止め溜め息を吐く。やっぱり書類めっちゃ多い……厚さにして残り5㎝位、しかしこれでも事前に深雪補佐官が俺が判子を押さ(決済し)ないといけないのと押さ()なくても良いやつとを仕分けしその上大半は彼女が片付けてくれているのだ。本当に深雪補佐官には頭が下がる、普通こういうのは偉い俺がやるべきなのでは?情けない……

 

「はあ……」

「どうしました陛下?」

「あ、いや、なんでもないですよ深雪補佐官」

「……少し休憩にしましょう。陛下もひたすら判子を押し続けていては気が滅入るでしょう」

「面目無い……深雪補佐官には迷惑ばかりを……」

「そんな事ありませんよ、陛下は陛下がせねばならない事は全てこなしていますし私はしたくてしているだけですから」

「しかし……」

 

うう……、この優しさが辛い。いや嬉しいんだよ?嬉しいんだけどさ同時に俺が情けなさ過ぎて辛いんだよなぁ……。

 

なんでやっぱりこんな子アッチに居なかったんだろう……いたら絶対告白してるのに」

「…………こほん、と、とにかくお茶にしましょうか」

 

深雪補佐官はガタンと椅子を勢い良く引いて立ち上がり早足で棚に向かう、ティーセットとポットを持って来た彼女の顔は僅かだかほんのりと赤かった。もしや風邪か?それなら至急休ませねば、さもなけれ俺が死ぬ。書類仕事の量で所為で、

 

「あ、陛下、私は風邪とかひいてないので大丈夫ですよ?」

 

何故分かったし

 

「それは……私と陛下の仲ですし」

 

そんなものだろうか?

 

「そんなものです。それに陛下はこう言った時は顔に出やすいですから」

「本気で?」

「本気です」

 

深雪補佐官の驚きのカミングアウトに文字通り驚きつつも感心する。よくこんな短時間(1週間)でそこまで把握したものだ……流石情報のスペシャリスト、『さすおに』じゃなくて『さすみゆ』と言った所だろうか?

そんな事を考えているといつの間にかお茶の準備ができたらしい、湯気立つ琥珀色の紅茶に満たされたカップが差し出された。

 

「ううん………この渋さと香りからすると今日は……ダージリンですか?」

「正解です。やはり陛下は凄いですね、私より淹れるのが上手いですし」

「妹が紅茶にうるさくてね……、付き合ってたらいつの間にかこうなってたんだよ。おかげでコーヒーはインスタントしか入れられないし」

 

息抜きの遊びとして紅茶当てをしつつ俺は紅茶を飲む。うん、美味しい。やっぱアッチで深雪補佐官がいたら俺絶対に告白してたわ。

 

「そう言えば例の『アレ』、どうなりましたか?」

「ああ、『織音会(しおんかい)』の事ですね。現在は2人程です、今後捜索は続けますが本当にいるとは思いませんでした」

「俺もだよ……まさか本当に『転移者』送り込んでくるとは思わなかった。しかもこんな始まったばっかり(序盤)で」

 

俺と深雪補佐官が話している『アレ』とはあの(駄)神が放り込むとか抜かしていた『転生者』とか『転移者』を集めた寄り合いみたいな会の事だ。俺みたいに(駄神)神から特典を貰ってこちら側にきた奴らは報告にも上がってきてはいるが基本チートである。まあこれについてはおいおい詳しく話そう、これだけで多分1話書けるからな。

……それにしても深雪補佐官マジで優秀過ぎません?頼んでからまだ1週間だよ?極東帝国(日本)って狭いようで案外広いよね?それを1週間で2人も見つけ出したんでしょ?情報網とか凄すぎね?

 

「私は陛下の補佐官ですから」

「あれ?って事はまた顔に出てた?」

「いいえ」

「え?じゃあなんで?」

「私、エスパーですから」

「…………」

 

……あり得そうで否定できねぇ。

 

なんだかんだで少しどころではない執務室での休憩時間だった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

上陸派遣艦隊編成

 

【旗艦】戦艦 金剛

空母 天城、葛城

重巡 伊吹、鈴谷

軽巡 夕張、香取、鹿島、天龍、龍田

駆逐 菫、雪風、島風、陽炎、不知火、黒潮、磯風、浜風、雷、電

揚陸 秋津、冬津

補給 間宮、伊良湖、秋津洲

計.24隻

 

 

西方海域調査艦隊編成(現在大陸内部偵察中)

 

【旗艦】潜水空母 伊-401

潜水空母 伊-501、伊-502

潜水艦 呂-200

計.4隻

 

 

 




織音会の元ネタは紺碧の艦隊の紺碧会からですね。


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【Ⅴ】第1回織音会開催

今回は台本形式でお送りします。


〈6〉

 

さて、別に番外編という訳でもないが現在この国に放り込まれた転移者、転生者諸君の話をしよう。これは大陸発見の報から派遣艦隊出航までの3日間の間のとある昼下がりに行われたとある会合の話である。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

某日、首都近郊にあるとあるファミレス店にて

 

天城(以下天)「え?ファミレス?ファミレスなの?」

深雪(以下深)「はい、某有名チェーン店のファミレスです」

 

特に特徴がない事が特徴である窓際の6人掛けのテーブル席に座るのは天城と深雪を合わせて4人、つまり隣同士で座る天城と深雪の前には(くだん)の2人が座っているのである。

 

??1「確かにまさか……ファミレス集合とは思わなかったな」

⁇2「そうですね、想像では何処ぞの料亭にご案内……とか考えていましたが違いましたね」

 

この苦笑しつつテーブルに置かれたドリンクバーから持って来たコーヒーと麦茶を飲む2人の男、この2人もまたあの(駄)神の被害者なのだ。

 

天「さて、気を改めて自己紹介をしましょう。この極東帝国の皇帝、天城刀夜です」

深「その補佐官をしています。桐咲深雪です」

??1「俺は東堂 祐也(とうどう ゆうや)、アッチ側ではFPSの世界大会で優勝とかしてたガンナー兼平社員だな。あ、ブラックではなかったぞ」

??2「自分は千早郡像(ちはや ぐんぞう)です。アチラ側では某大学の一年生でした。所謂軍オタって所ですね」

天「東堂さんに千早さんですか、……ご不運でしたね……」

東堂(以下東)「あははは……だな、俺もパソコンでやってたFPSで寝落ちしたらこれだからな」

千早(以下千)「私……俺は寝る前に漫画を読んでいたらですよ。寝たらいきなり出てきて主人公の容姿と能力やるから行ってこいですからね」

天「手口が悪辣過ぎね?」

東「同意」

千「激しく同意」

 

同じあの(駄)神に転移させられた者同士同じような感じでここに放り込まれた事を理解して3人は絆を深める。

 

絶対あの(駄)神にまたいつか会ったら一発殴る

 

これがこの3人の共通認識である。なお、こんな感じで放り込まれる被害者がこれからも増え続ける事をこの3人はまだ予想できていない。

 

東「ところで天城の特典っていうのはこの帝国の事なんだよな?それってこの中で1番凄い奴だよな?」

千「確かに、特典が国ってなんですかそれ?」

天「その分仕事が多いんだよ……深雪補佐官と千早補佐官の2人が大半をさばいてくれても書類が山程ある……具体的には毎日5㎝位」

東・千「うわぁ……それはご愁傷様です」

天「ありがとう……本当深雪補佐官と千冬補佐官にはお世話になりっぱなしで……はあ」

深「大丈夫ですよ陛下、私達は陛下に頼られる(を補佐する)のが仕事ですから」

天「ありがとうございます、深雪補佐官」

深「はい」

東・千「なんか違う気もするけど羨ましい(?)気がする。あと甘いな……」

 

東堂と千早は見てて口の中がしゃりしゃりしてくる目の前の君主と補佐官という主従(どっちかというと鈍い彼氏と甘い彼女)関係に密やかに1度ブラックコーヒーを取りに席を立つ。暫しして、

 

天「さて、話戻しまして……本題に入りますが良いですか?」

 

天城の声にブラックコーヒーを飲み終えた2人は頷く。

 

天「おふたりには帝国軍に所属していただきたいのです」

東「……つまり俺達に戦場に立てと?」

天「いつかはそうなるでしょう。それでも所属してもらうだけでも身の回りの護衛は格段にしやすくなります。この世界にて我々の持つ特典は多大な力となりますから」

東・千「…………」

 

天城の特典『国家』は勿論の事、東堂の『FPSでの装備一式及びその扱い方』も千早の『千早群像の容姿、能力』もまた強力な軍事力となる。故に国外に流出されては困るし死なれたりすれば大問題となる為、今の内にそんな人物を国内に止め管轄下に置く為の前例(モデルケース)を作っておきたいのだ。

 

東「……分かった。軍に所属する」

千「東堂さん……なら俺も所属します」

天「ありがとうございます。なら東堂さんは陸軍に、千早さんは海軍に所属してもらいます。階級は追って決定しますが要望はありますか?」

東「確か……大陸が見つかったんだよな?」

天「ええ、数日後派遣艦隊が大陸に向け出航します」

東「なら俺もその中に入れてくれ、軍属に入るとはいえ早めに現場の雰囲気は理解しておきたい。ここがFPS(ゲーム)とは違う事を理解する為に」

 

東堂は手の平に目を落とし、そのあと手を握る。遠からずここがFPS(ゲーム)でなく現実(リアル)だと理解する、理解させられる日が必ず来る。ならばそれは手遅れならないよう早めに済ませた方が良い。

 

天「深雪補佐官、できる?」

深「不可能ではありませんね……、しかし編成に一部変更が必要です。そうですね……司令部付きの副官とすれば問題ないかと」

天「できるそうです」

東「ありがとう」

千「俺は……潜水艦に乗せて下さい。俺が持っている知識は潜水艦のものが多いですから」

天「なら派遣艦隊に同行して西方海域調査艦隊に所属している伊-401に乗艦してもらうのが良いかな?」

深「はい、こちらから連絡を入れれば問題ないかと。司令官が軍学校の同期なのでおそらく了承してくれます」

 

深雪が問題無いと判断した為この後色々あった話し合いもスムーズに進む。こうして第1回織音会は無事終わりを迎えたのだった。

 

なお、全くの余談であるが次回からの織音会開催場所はちゃんと雰囲気を出す為に首都郊外にある趣ある料亭になった事を一応ここに明記しておく。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

織音会(しおんかい)

別名(駄)神被害者の会

天城の補佐官である深雪により転移者、転生者が集められ結成された組織。のちに科学者や発明家、魔法使い等が増え知識、技術等あらゆる面(性格とかも含む)で色々突き抜けてる人間が多くなった為会の存在自体が特SSS級の国家最高機密とされている。転移者、転生者なら入会自由。

 

 




シリアスだけなんて無理だったよ……



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【Ⅵ】演説と出航

〈7〉

 

派遣艦隊出航当日、大陸派遣艦隊旗艦 金剛

 

「全艦総員に告げる。私は旭東帝国皇帝 天城刀夜だ。先の戦争の終結から僅か10日しか経ってはいないが未だこの国は重大な危機に瀕している事は君達も理解できているだろう」

 

金剛の全部甲板に並ぶ多数の将兵、そして途中下船する1人を合わせた転移者2人を前に艦首に仁王立ちし厳かに告げるのはこの帝国の最高意思決定機関、即ち皇帝である。

 

「故に、この派遣任務がどれだけ重要なものがも理解できている筈だ。この派遣を持って新たに発見された大陸に存在する国家と友好関係を得られなければ、遠く無い内にこの国は滅亡する」

 

皇帝からの包み隠さぬ事実の宣言に僅かではない揺らぎが将兵の間に広がる。しかし、

 

「しかし!この派遣任務が成功すればこの国は、国民は救われる‼︎」

 

皇帝たる少年の言葉にその揺らぎを消し去られる。

 

「我々が守るべきは国家であり国家とは民だ。だからこそ私は重ねて派遣艦隊総員に告げる!」

 

迷いはあるか?

 

否、それが我らが為すべき事ならばこの生命、この身が守るべきこの国、この国民、家族の為に捧げよう。

 

僅か時間にして数十秒、ただそれだけで艦首に立つこの皇帝たる少年は全艦の将兵達の心を掴み意思を束ねて見せた。

 

「帝国臣民の命運はこの任にあり。各個。奮励、奮起せよ‼︎」

 

『ハッ‼︎』

 

全将兵がただ1人の少年に敬礼を捧げる、その胸に個々それぞれ守るべきものを抱きながら。

 

「出航‼︎」

 

旗艦である戦艦『金剛』を先頭に大陸派遣艦隊、空母『天城』『葛城』、重巡『伊吹』『鈴谷』、軽巡 『夕張』『香取』『鹿島』『天龍』『龍田』、駆逐『菫』『雪風』『島風』『陽炎』『不知火』『黒潮』『磯風』『浜風』『雷』『電』、揚陸『秋津』『冬津』、艦隊補助 『間宮』『伊良湖』『秋津洲』の24隻が横須賀軍港を出航、旧太平洋の海原をその漆黒の舳先を持って切り裂き進む。

新設航路、九州を周り旧日本海を西進する片道3日の海路に、白波を立て暁の水平線上にもうひとつの太陽(旭日旗)をはためかせ進む艦影を軍港の埠頭で2人の補佐官を従え眺めるのは先程金剛の艦首で演説を行っていた皇帝である少年、天城刀夜である。

 

「陛下、やはり陛下も派遣艦隊に同行したかったのでは?」

 

彼の後ろ姿を見ている情報担当の補佐官、桐咲深雪は自らの君主()にそう尋ねる。何時ものように帝国海軍第二種軍装を着た上に外套と軍帽、短剣の代わりに同じ装飾をした銃剣を剣帯に差した完全な正装に身を包んだ彼は振り返りながら少し笑う。

 

「やはり深雪補佐官にはバレバレですか……流石エスパーですね……」

「え、エスパー?深雪補佐官、なんだそれは?」

「私と陛下の内緒です、千冬補佐官」

「なっ⁉︎」

 

ニヤリとしてやったり顏を見せた深雪に千冬は驚く。

 

「ま、待て、詳しく話せ‼︎いつの間に陛下とそんなに親しくなったんだ⁉︎」

「さて、いつなったんでしょう?分かるかな千冬ちゃん?」

「なんだとっ⁈深雪!」

「まあまあ、そこまでにして下さい2人共。この服装、まだ涼しく朝だからマシだけど日が昇ったらキツイんだよ?だから早く戻ろうか、それにまだ仕事が残ってるし」

 

大分始めの頃からすれば打ち解けてきた2人との間に入りながら刀夜はそう言う。結果的に自分達の王に迷惑をかけた事に気付いた2人は恥ずかしげに目を伏せた。

 

「済みませんでした陛下」

「私もご迷惑をお掛けました陛下」

「お互い様だよ、私……俺だって2人に助けて貰ってるからね」

「「陛下……」」

「さあ、戻ろうか。少しでも早く終わらせたらもしかしたら俺も向こう(大陸)にいけるかもしれないしね?2人と一緒に」

「「はい!喜んでお供させて頂きます‼︎」」

「こちらこそ」

 

3人は踵を返し彼らは彼らの戦場(為すべき事)に向け歩き出す。残された埠頭には朝日を受けるもうひとつの太陽、旭日旗がはためいていた。

 

 

 




あれ?これだけで1話の起承転結の起だけの筈だったのになんか1話になってる?


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【Ⅶ】洋上での転移者達の会話

〈8〉

 

大陸派遣艦隊転移者side

 

艦隊が横須賀軍港を出航して2日、今24隻は対空対潜警戒陣形を取りつつ大陸を目指し西進していた。そしてその艦隊旗艦たる金剛の一室には転移者2人、東堂祐也と千早郡像が簡素な据え付け机を挟んで座っていた。

 

「いよいよだな」

「はい、大陸まで残り1日。俺はその手前で下りて潜水艦隊(伊-401)に乗り換える事になるのでこの艦(金剛)に乗っていられるのも残り数時間です」

 

2人は船室にある小さな覗き窓の外に広がる青い空と青い海、そして白波を立て突き進む黒き巨大な艦影、正規空母天城を見る。金剛の両脇を固める正規空母天城と葛城は定期的に偵察機(景雲改)を上げ対空警戒並びに艦隊の先導を行っていた。

 

「全く……前まではまさか自分がこんな『男の浪漫』の塊な戦艦とか正規空母とかを直に見れるどころか乗れるとは考えもしなかったな」

「ははは、俺もです。未だに信じきれませんよ、俺達が生まれる半世紀も前に沈んだ筈の国家の威信を賭けた大戦艦達が今ここに存在するなんて。でも……皆んな昔の人はこんな艦影を見てきっと誇りに思ったんだってのは分かりますね」

「ああ、こんなのが海に浮いてるなんてきっと誇りになった筈だ。俺だってこいつに乗ってるだけでもかなり心強く思えるんだ、昔の、今この艦に乗る人々だってそう思うだろう」

 

2人は自らの乗る巨大な鋼鉄の城への思いを語りふと、出航時にあの少年が見せたあの演説について話は流れていった。

 

「しかし……あのカリスマは凄いですね……俺もアレを聞いて一瞬確かに胸が熱くなりましたから」

「俺もだ、前に会った(前話)時とは見た目こそあまり変化はなかったが雰囲気がまるっきり違った」

 

僅か数十秒で陸海将兵数千の心を掴み意思を束ねてあげた自分よりも歳下の少年の手腕、しかも技術でなく自然にそれをやってのけたそのチカラは特典か、それとも……?

 

「……ここだから得たものか、はたまた元からその素質があったか……後者かもしれんな」

「天性の才、王の資質ですか?」

「だからこそあの(駄)神はあの少年にこの国を与えたのだろうよ、いやはやなかなか、気に食わんが良く見抜いている。あの(駄)神め……一体何をするつもりだ」

 

東堂はあの憎たらしい(駄)神の姿を脳裏に思い浮かべ爪を噛む。アレは聖者ではない、寧ろアレの無垢の善意(悪意)は悪魔に近い。この手の奴は何も考えてなさそうで1番何か目的為に冷酷になれる、しかし反対に寧ろ何もない場合もない訳ではない。簡単に言えばクソ面倒くさい『分からない』なのだ。

 

「失礼します、千早特務大尉。調査艦隊旗艦伊-401との会合点に到達しました。松田艦隊司令官が第1艦橋に来るようにとの事です」

「分かりました」

「あと、東堂特務少佐にも同行して欲しいとの事です」

「了解した、今行く」

「はっ、ご案内します」

 

どうやら時間が来たらしく呼びに来た水兵について2人はこの大陸派遣艦隊の司令官を務める女性、帝国海軍大佐 松田千秋(まつだ ちあき)のいる第1艦橋に向かった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

金剛第1艦橋

エレベーターを使って上がって来た東堂と千早が先ず目にしたのはこちらに背を向窓の外を双眼鏡で見ている身長が大体160㎝くらいの1人の女性とそこから少し離れた位置で同じく双眼鏡を覗いている170㎝後半の男性だった。

 

「司令官、艦長、特務大尉と特務少佐のおふたりをお連れしました」

「ん、ありがと」

「……司令、はぁ」

 

返事はするものの未だ双眼鏡を覗いたままの姿でいる司令官の姿を見て振り返っていた艦長の男性がため息を吐く、上官ではあるので一応注意はしないようだ。

 

「取り敢えず呼び出した張本人(司令官)がアレなので代わりに言うがよく来てくれた」

「いえ、お気にせずに」

「済まないな、来て貰った訳はご存知だろうが千早特務大尉が乗り換える伊-401との会合予定海域に到達したからだ。今潜航中であろう信号ブイを探している最中なのだが……今司令官はこうなっている」

「…………」

「この子……彼女は昔からゲームというか賭け事というか遊ぶものが好きというか傾向があってな……見張り員達と「誰が一番早く伊-401の信号ブイを見つけられるか」と競い合いを始めたらしくさっきからこの調子なんだ」

 

1度彼女に目線を向けて戻した彼、この艦隊旗艦 金剛の艦長をつとめる伊藤 整一(いとう せいいち)海軍大佐は再びため息を吐いた。

 

「伊藤艦長は松田司令とはどういった?」

「昔教官をやっていたのですよ。栄光の新陸海空統合軍学校第1期生、その中でも上位10名は栄冠のエリートと呼ばれもしたがその実態はある意味問題児の集まり、主席の山本は博打好き、同率次席だった桐咲と神ヶ浜は唯一まとも、これから来る調査艦隊司令官は水上艦の上手く操艦できない生粋の潜水艦乗りで、彼女はゲーム好き。他にあと5人については……あまり思い出したくもないですなぁ……」

「「お疲れ様です」」

「分かってくれるか……」

 

やたら苦労をしているような伊藤艦長にシンパシーを感じた2人はガッチリと手を握り合う。……話の中に山本とかいう名が出ていたような気がしないでもないが気にしない、気にしたら負けなんだ!

 

「あ、見つけた。操舵手、取り舵15。両舷減速、50m先で両舷微速。浮上してくるだろうから水面下に注意」

「ヨーソロー」

「は〜い、みんなゲーム終了〜。私の勝ちだね、みんなは普通の仕事に戻って良いよ」

『了解』

「終わったようですな、司令」

「なに?」

「おふたりが来られておられています」

「おお、早いね。じゃあ早速だけど甲板に行こうか」

 

少し袖が余るように作られている海軍第2種軍装に身を包んだ彼女は2人を連れ甲板に向かう。

 

「そろそろ浮上かな?」

 

右舷前部甲板上にて待っていると松田司令がそう呟きその瞬間海面を突き破るようにして1隻の黒い艦影が姿を現した。潮吹雪が3人に降り注ぎ甲板を僅かに濡らす、他の水兵達が待ってましたとばかりに手際良く2つの艦の間にタラップを降ろした。

 

「久しぶり、信乃さん。元気?」

「ええ、元気よ、貴女もね。あと千秋大佐、今は仕事中ですから近藤司令か大佐と呼んで下さい」

「ん、分かった近藤大佐。じゃあ早速用事を済ませよう。潜水艦はあまり海上に出るべきじゃないし」

「違いないわね、って事はこの2人のどちらかが千早特務大尉かしら?」

 

海中から現れた女性、近藤 信乃(こんどう しの)海軍大佐はそう言って甲板に立ち伊-401を見ていた2人を見る。

 

「紹介する、こちらが東堂特務少佐でその隣が今回そちらに乗艦する事になる千早特務大尉」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いするわ。特に乗艦を歓迎するわね千早特務大尉」

「ありがとうございます。知識だけは十分にあると思いますので司令官のお役に立てられれば幸いです」

「期待しているわ」

 

2人と握手した彼女は最後に最初から左手に持っていた黒のトランクを目の前に持ち上げる。

 

「あと松田司令、これを軍令部にお願いします。司令に渡したのと同じ大陸の最新版の簡易地図がはいっていますので」

「確かに受け取った、責任を持って送り届ける」

「では」

 

黒のトランクを手渡した近藤司令官は敬礼し千早特務大尉と共に伊-401に乗り込むと再び潜航を開始する。それを最後まで見届けた松田司令官と東堂特務少佐は艦内に戻る為踵を返す。

 

「さて、いよいよ明日だよ東堂特務少佐。今日は早めに休むようにね」

「了解です司令」

「じゃあね」

 

そして彼女と彼は艦橋と船室の二手に分かれて進んでいったのだった。

 

 

 

大陸上陸まで、あと1日。

 

 

 




松田千秋のモデル、誰かわかりますか?ヒントはゲーマーさんです。(史実において存在する松田千秋は男性です)


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【Ⅷ】上陸

〈9〉

 

港町のとある少年side

 

その日はいつになく晴れた日で船出日和だった。

 

「今日もいい天気……ん?あれはなんだ?」

 

そう、ソレがやって来るまでは。

 

はじめは水平線上に黒い点が幾つかあるようにしか見えなかった。しかしソレらが近付くにつれソレらが船、それもただの船じゃない。この辺りではあり得ない規模の黒い船がこちらに向かっている事が分かった。

 

「あれはなんだ⁉︎」

「分からん、しかし住民に避難を、警備隊は配置につけ!」

 

海賊か、はたまた何処かの国の軍隊か、しかしあんな巨大な船を建造出来る国なんてこの大陸にはなかったはずだが………

 

「おい、ボウズ!お前も避難しろ。連絡用の早馬も街に出したがこの港町がどうなるか見当も付かん、だから逃げろ」

「あ、ああ、分かった」

「不明船との距離2500!なんて速さだ!もう2000を詰めたのか‼︎」

 

発見から僅か数分で2000mを進んで来た驚異の船速に誰もが驚愕し浮き足立つ。帆船ではその半分でればいい程度の風しか吹いていないにも関わらず更にあの巨大な船でどうしてそんな速度が出せるのか全く分からないが更に距離が残り1500を切った時点で誰かが信じられない事を叫んだ。

 

「お、おい!あの船マスト()が無いぞ⁉︎」

「馬鹿な⁉︎ならどうして前に進めているんだ‼︎」

「知るか‼︎あとなんか煙も出てるぞ‼︎火災か?」

「いや、なら炎が見えるはずだ。だがそんなのは確認できんぞ?」

 

目の良い奴が口々にそんな事を言い始めるがどれもこれも到底船を知る者、船乗りとして信じる事など出来ない事しかない。

ならもっと近くで確認してやると俺は漁に出る予定だった船に飛び込み舫綱を放つ。

 

「おいボウズ‼︎何するつもりだ⁉︎やめろ!」

「もっと近くで見る!」

 

制止も聞かず俺は三角帆を張り全速でソレ、漆黒の船達を目指した。

 

「これは……凄い‼︎」

 

丁度深度が浅くなるその手前で停船し錨を投げ込んだその船を見て俺はそう叫んだ。木製でなく鋼鉄により造られたらしい巨大な船体に遥か高い艦上構造物、帆は無いが代わりに天まで届きそうな柱、そして其処にはためく国旗らしき旗には見た事もない『太陽』をあしらわれていた。

 

「こんなの……まるで鋼の城じゃないか、それにこんな旗見た事もないぞ」

 

余りのショックに呆然としているといつの間にか目の前の船を護衛するかのようにそれより幾分か小さいが十分巨大な船が自分を取り巻いていた。

 

「な、なんだこれ⁉︎」

 

「そこの君、動かないように」

「誰だ⁉︎」

 

どこからかかけられた声に反応するが周りには誰もいない、いや、いた。目の前の船、その高い甲板上に白い軍服らしき服に身を包んだ1人の女性が立っていた。

 

「これは忠告だよ、君が我々に向け危害を与えようとした場合周りに展開する駆逐艦もしくは巡洋艦から君に向けられている砲門が火を吹く事になるから」

「駆逐艦?巡洋艦?それに砲門って」

「ん?大砲って分からない?それなら警告に使う意味がなくなっちゃうんだけど?」

「大砲は知ってる、でもこの船は戦列艦じゃないだろ。それに大砲なんてこんな小さな奴には当たらないんじゃないか?」

「当たるよ、駆逐艦に積んでる連装砲でもこの艦の副砲でも、流石に主砲は仰角の問題で狙えないけど」

 

そう言って彼女は周りに展開する駆逐艦と巡洋艦、最後に自分の乗る戦艦の副砲と主砲を見る。取り敢えず抵抗すべきではないという事がありありと分かった。

 

「……分かった。俺はどうすればいい?」

「んー、これから我々が上陸しに港に向かうって事連絡してきて。1時間後にこっちも向かうから」

「それだけで良いのか?」

「それ以上は求めないよ、私達は友好を求めてきたからね」

「友好?あんた達はどこの国の人間なんだ?」

 

俺は興味本意にそう聞く、彼女は少し芝居掛かった台詞(セリフ)でこう答えた。

 

「私達は旭東帝国、ここから2,000Kmは東に離れた所に転移して来た転移国家さ」

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

大陸派遣艦隊side

 

先程まで話をしていた少年が乗った小船が港へ戻って行く姿を暫く見つめ、踵を返した彼女は第1艦橋に戻っていた。そしてそこには転移者の1人である東堂特務少佐とこの戦艦金剛の艦長である伊藤大佐がいた。

 

「さて、これで第一次接触はまずまず成功、なのかな?」

「十分そうでしょう。とにかくすぐに軍事行動には出ない、そういうポーズだけでも取っておけば向こうの混乱は比較的マシに済むでしょう。問題はこれからです」

「ですな、空母天城と葛城は更に後方で駆逐艦 磯風、浜風、雷、電と重巡洋艦 伊吹、鈴谷の護衛の元いつでも艦載機発艦可能状態にて待機中。強襲揚陸艦秋津、冬津では陸軍の大発が緊急時に備え発進準備中です」

 

昨日近藤司令に渡された海図にそれぞれの艦を表す駒を置き3人は考える。基本地図作成に使われたデータは特殊攻撃機晴嵐とそれを偵察用に改造された特殊偵察機雲嵐の航空写真がメインの為内陸部となると尺が微妙になり信頼度は下がる、とはいえ今必要なのは海岸部のみの為そこはあまり気にしなくても良かった。

 

「海域調査も完璧じゃないから安全航路が少ないね、この辺りの調査も完璧とは言えないから暗礁がどこにあるかも殆ど分からないし」

「それとやはり深度がかなり浅い為駆逐艦ですらぎりぎりの為このままだと入港できませんね」

「……やはり上陸には短艇か内火艇しかつかえない、みたいだね」

 

3人の話し合いは続く。

 

「こちらから向こうに出向く者ですが外務省の職員と松田司令官、あと数名の護衛でどうでしょうか?」

「その数名の護衛の中に東堂特務少佐を入れておく訳ですな」

「相手に警戒されない為には軍人は最小限の方が良いだろうし、妥当だね」

「決まりですな」

 

この他にも幾つか些細な決め事を行い必要な物を揃えたりしているといつの間にか約束の1時間が迫っていた。そして甲板、内火艇の吊るされたクレーンの前には港へ向かう人間、松田司令官と外務省職員の男性、東堂特務少佐と操船手兼船番と護衛の水兵が2人が集まる。

 

「では、行こう」

「ハッ、内火艇降ろせ」

「内火艇降ろします」

 

5人の乗った内火艇は海面にゆっくりと降ろされる。エンジンが始動するとそこそこの速さにて港を目指し出発した。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

港町のとある少年side

 

あの鋼鉄の船に乗っていた女性と話した後、俺は言われた通り港に戻り他の人達に彼女が言っていた事を話した。

 

「友好……ねえ、確かにそう言ったんだよな?」

「ああ、そう言ったさ。それに今から1時間後にその連中が来るともな」

「ふむ……」

 

万が一に備え応戦準備を整えていた警備隊の隊長のおっさんはそれを聞き考え込む。確かにアレを実際に見てもない彼には即断できはしない事案ではある。と、そこに町の人が全員避難仕切るまで残っていた街の市長が何事かとやって来た。

 

「何があったんだね?」

「それがですね……かくかくしかじか……という事があったんですよ」

「……ふむ、確かにこれは難しい問題ですな。……取り敢えず今度は王都に早馬を出しましょう。そうすれば国の役人が来てくれるでしょうし、なんとかなるのではと思いますが」

「……それしかありませんか」

 

現状取れる最も正しい最善策を取る事にした市長と警備隊隊長は王都に向け早馬を出し、あの艦隊から来る人々を出迎える為の準備を始める。

 

「来たぞ!あの艦隊からの使節だ‼︎」

 

そして1時間後、またもや帆の無い船でやって来たあの船からの使者はあの時甲板にいた女性軍人だった。

 

「お初にお目にかかります。旭東帝国より派遣されてきました派遣艦隊司令官、松田千秋大佐と申します」

「これはこれは、ご丁寧に。私はこの港町の市長をやっている者です」

「こちらこそ、それで私達がここに来た理由ですが……」

「存じております、只今我が国の王都に向け早馬を送りました。数日もしない内に国からの使者が参られるでしょう」

「ありがとうございます、お手数おかけします」

「いえいえ、将来のご友人となられるかもしれないお方々なのですからこれくらいどうという事ではありません。なのでそれまでは何もありませんがごゆるりとお待ち下さい」

「感謝します」

 

この後2日後飛んでやって来た政府の役人と使節団は会談、その後役人は一時停泊を許可し一度話上を持ち帰った。

また後日事務方で色々オハナシ合いがあったり王国政府中枢の方で一悶着二悶着あったそうだがなんとか友好条約締結の目処が付き、この1ヶ月後アルセルフ王国首都にある王城にて条約締結式に旭東帝国皇帝が招かれる事となった。

 

 




これで一気に1ヶ月進むぞ!
あとなんか転移者が空気な気がする……気のせい?

次回、皇帝王城にイン


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【Ⅸ】友好条約締結式典

〈10〉

 

大陸歴1315年9月18日───

 

極東帝国という帝政国家がこの世界に転移して来てから今日で約1ヶ月が過ぎようとしていた。

そしてその極東帝国が大陸に初めて上陸し友好関係を持たんとしている国、ここ『アルセルフ王国』では友好条約締結とそれを祝す為極東帝国皇帝を自国に招待、祝賀会が行われやんとしていた。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

祝賀会会場前

 

「調印式前に祝賀会ね……気が早いような気がするけどこれが普通なんですか?」

「国によりけり……です陛下、しかしアルセルフも思い切った行動をするものです。友好条約締結後その場で通商条約の締結と同盟関係の打診とは……想定内の想定外ではあります」

「そうだな、私の方も友好条約から同盟まで少々時間が空くものだと考えていたのだが……見事外れてしまった」

 

祝賀会の行われているのは王城の中、そして国賓であり条約締結の主役ともなる極東帝国皇帝 天城 刀夜は会場の入場を待つ間に己の補佐官である桐咲 深雪、神ヶ浜 千冬の2人と話していた。

 

「確かに、ここまでトントン拍子に事が進むとは考えてなかった。文明レベルが中世で魔法とかのあるファンタジーな世界だとは夢にも思わなかったし……まあ、それでも深雪さん(・・)も千冬さん(・・)も優秀だから俺がする事はあんまりないんだけどね」

「へ、陛下⁈」

「い、今私達を名前で……」

「うん、今は軍の仕事じゃないし普通に呼んでも良いかなって。それに君達は今日のパートナーだから」

 

そう、今2人はいつもと違い皇帝のエスコートする女性パートナーとして軍服ではなくドレスに見を包んでいた。

 

「そ、その陛下、似合ってますか?」

「わ、私もだ。余りこういうのは来た事がなくて自信がないのだが……」

「2人共似合ってるよ。深雪さんの薄桃色のドレスも千冬さんの空色のドレスも」

「本当ですか⁉︎」

「うん」

「本当に本当なのだな⁈」

「本当だよ、そんな事で嘘ついても何にもならないし」

 

詰め寄った2人は刀夜にそう言われて顔を真っ赤に染め上げる、少々顔が暑いようで手で扇いで熱を冷ましていた。

 

『それでは国王陛下御入来』

 

扉の向こうから聞こえてきた声に3人は前を向く。アルセルフ国王が会場に入ったという事は自分達が入るのももうじきであるという事だ。

 

『続きまして我が国と新たに友好関係を築く事になります極東帝国皇帝、トーヤ・アマギ陛下及び側近、ミユキ・キリサキ様、チフユ・カミガハマ様御入来』

 

音楽隊の演奏とともに扉がゆっくりと開く。

 

「さて、行こうか」

「はい」

「喜んで」

 

3人は扉の向こう側へと足を踏み出した。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

国王陛下が祝賀会の行われているこの大広間に入ってから少し、司会の紹介の後大広間の扉が開く。

 

「おお、あれがかの帝国の……」

「随分と若いな……」

 

入って来たのは3人の男女、先頭を歩く黒の軍服を身に纏う少年と青年と間くらいの男とその側に寄り添うように歩く左右の薄桃色と空色のドレスに身を包んだ2人の美しい女性。会場にいる者が拍手を送る中囁かれる囁きの通り皆若い、俺と同じくらいの男女だった。しかしそんな相手に会場に招待されていたかの帝国の軍人は真っ直ぐな敬礼を送り続けている、それはつまりかの皇帝がどれだけ軍の支持を集めているかの証拠でもあった。

 

「極東帝国……か」

「お兄様」

「ユミィ、君がここに来るのはもう少し後のはずじゃ?」

 

軍からの支持を集めマストの無い鋼鉄の城の如き巨船の艦隊を有する強大国、極東帝国。そんな国に思いを馳せているとまだここにいないはずの妹がいつの間にかすぐ側まで来ていた。

 

「私も最近噂のかの帝国の皇帝を姿を早く見て見たかったのです……済みませんお兄様」

「はぁ……あとで父上に怒られるよ?なんで勝手に出てきたんだと」

「ううっ、それは……」

「……しょうがない、父上には多少口引きはしておくよ。でもそろそろユミィも16なんだから自重すべきだよ?」

 

儚そうな見た目でかなりやんちゃというか地位の割に行動力高めな妹を一応フォローする事にしつつ俺はため息を吐く。このやんちゃでいつか大変な目に遭わないといいんだが……。

 

そう思っていると父上に呼ばれたようだ。俺は呼び出しに応える為ユミィの手を引き前へと向かって行った。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

「こうして対面して会うのは初めてですなトーヤ皇帝、私がアルセルフ王国国王ユーサー・アルセルフです」

「こちらこそ国王陛下にお会いできて光栄です。極東帝国皇帝刀夜・天城と申します」

 

2人の国のトップ同士が対面する。にこやかに笑い合い2人は横並びに立ちその手にグラスを手に取った。

 

「我が王国と貴国帝国との間に永遠(とわ)の友好のあらん事を」

「我が帝国と貴国王国との間にの堅き友情のあらん事を」

 

2人はそう宣言しグラスを軽く合わせた。再び会場は万雷の拍手に包まれる。

これで友好条約の締結は確実となりその事実は会場にいる者全てに知れ渡る事となった。

そしてその後政治的な幾つかの会話を刀夜は情報担当の補佐官でありパートナーとして側にいる深雪を交えて行い、内容はいつの間にかユーサー王の息子、娘の話へと変わっていた。

 

「私には2人の子がいましてな、1人は王子で1人は王女なのですが……おお、丁度いい所に2人が来たようです」

 

ユーサー王はタイミング良くやって来た自分の息子と娘だという紫色の髪をした刀夜と同い年くらいの少年と淡い金色(オフゴールド)の髪の少女を呼び寄せる。

 

「では紹介しよう、息子の第一王子のフェリオだ。歳はトーヤ殿と同じ17になる」

「お初にお目にかかりますトーヤ皇帝、第一王子のフェリオ・アルセルフです」

「初めてましてフェリオ殿」

「そしてこちらが娘の第一王女のユミエルだ」

「初めまして皇帝陛下、私が第一王女ユミエル・アルセルフです。ユミィとお呼び下さい」

「こちらこそユミィ殿。私の名は刀夜・天城と申します」

 

紹介された2人に刀夜は会釈しこちらも名を名乗る。一通り自己紹介などを終え話していると唐突にウーサー王はとんでもない事を切り出してきた。

 

「ところで同盟締結を打診するにあたり貴国皇帝であるトーヤ殿には我が娘ユミエルと婚姻関係を結んで欲しいのだが如何かな?」

「「「はい?」」」

 

アルセルフ王、ユーサーの突然の婚姻の申し込みに当事者となる刀夜、深雪、千冬の3人は目を点にする。一瞬の間を空け3人はその提案の意図を読み解き、そして驚きしてやられたのだと理解した。つまりまだこの話は政治的な話の真っ只中でありユーサー王がこの手では刀夜と深雪の上手であったという事であったのだった。

 

つまりこの日、アルセルフ王国と極東帝国には皇帝と姫君の婚姻による同盟成立が周知されそれと同時にほぼ確定してしまったという事だった。

 




やはり年の功には勝てなかった若者3人(刀夜達)、そして唐突にできた刀夜の嫁(深雪達のライバル)、羨ましいだか羨ましくないのか分からない状況になってきた極東帝国上層部だった。

次話、『できてしまった嫁、どうしよう』です。


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【Ⅹ】調印式

翌日になってしまった……。


〈11〉

 

祝賀会が終わり、参加していた極東帝国の軍人や外務省の職員達は馬車に乗り彼らが滞在している迎賓館に向け帰宅の途についていた。そして同じ馬車に乗る東堂と松田大佐、海中から呼び出された千早、近藤大佐の4人は先程刀夜達がアルセルフ国王ウーサーに打診された話について話していた。

 

「……とんでもない札を切ってきたもんだな、あの王様は。まさか婚姻とは……」

「ですが最もよくあり更に分かりやすい手段でもあります。血縁関係になればその相手の国を無下にはできませんし裏切らないという証明の人質みたいなものにもなります。それに現在でも大企業などではそういった事をして会社間の関係を取り持ったり吸収合併が行われたりしており今でも行われる分かりやすく且つ反故にしにくい契約ですね……引き合いにだされる本人の意思を無視すればですが」

 

王族同士の婚姻、言い方を変えればただの政略結婚であるがこれのもたらす利点は大きい。

 

「アルセルフと帝国の結び付きが強くなればこの1ヶ月で極秘にだが調査していた資源の開発と輸入、こちらもインフラや国産製品の輸出が可能になり一先ず最悪の事態は避けられる。ただ問題は……」

「帝国が強過ぎる(・・・・)事だな。まぁ、だからこそあの王様は陛下と第一王女との婚姻によるより強固な同盟を多少強引だが成立させようと画策したようだがな」

 

実際アルセルフに眠る地下資源を開発すればある程度帝国は全力で行動がとれるようになる。つまり下手すればアルセルフは周辺国全てから縁を切られてもおんぶ抱っこになるが存続が可能になるのだ。

 

「それにアルセルフは領土が大きはない割に気候と地質が良く豊穣、北には高い山脈があり西には大河、南にはかなり深い森林があって国土防衛上においては難攻不落。民が飢えにくいから僅かな常備軍でもかなり精強、特に『王宮騎士団』と呼ばれる精鋭部隊は傭兵上がりとか兵隊から『剣聖』と呼ばれる団長に能力を評価され勧誘されてるから群だけでなく個でもかなり強い、らしいよ」

「歩兵は機械化されていない先込め式のマッチロック式ライフルの火打銃兵(マッチロックガナー)が中心なようだがこの世界には魔法とか魔術とかいう摩訶不思議なオカルトチックなものもがある為まだ騎士とかが存在し剣や槍を馬に乗って振り回しているかなり歪な軍隊なようだ」

「よく調べが付きましたね」

「街中の噂と来る前に見た城の詰所、あと貴族と話してたら情報が集まった」

 

防諜意識低すぎね?あ、近藤大佐の情報収集能力が高過ぎるのか。

 

噂と詰所と話だけでそこまでたどり着いた近藤大佐に藤堂と千早は軽く引くがそもそも彼女は調査、情報収集を主任務とする調査艦隊の司令官である。そんな艦隊の司令官であり、常にいる深海において情報が命綱ともなる潜水艦乗り(サブマリナー)彼女の情報収集、整理能力が低い訳がない。故にこれが当たり前ということなのだろう。

 

「そうでもないぞ?私はただ用心深いだけさ。ホントに私より情報関連強いのは今は陛下の補佐官になっている桐咲元陸軍大佐の方だ」

「深雪さん、実家の関係上情報関連の扱いには長けてるからね。帝国内で情報に関しては彼女の右に出る者はいないんじゃないかな?だからこそ補佐官に成れてる訳なんだけど」

「深雪補佐官の実家って一体…………」

「知りたい?」

「……いや、なんだか聞いてはいけない気がするので遠慮します」

「……本当に?」

「本当に」

「…………」

「本当ですよっ⁉︎」

 

じぃーと松田大佐に見つめられた千早は慌ててそう言う。彼の直感が告げていたのだ、『聞いては絶対にいけない』と。

それを見て一応信用したのか彼女は目線を外すがその時ぽつりと零された千早にだけ聞こえた言葉に千早はその直感が間違ってはいなかったのだと知る事になる。

 

「……知りたいと言ってたら多分本国に帰るまでに殉死してるかもしれなかったね……ぽつり」

 

……深雪補佐官、貴女どんなヤバイ秘密持ってるんですか⁉︎

 

そう千早はできれば全力で叫んでやりたかったそうな。

 

そして話の内容は深雪補佐官繋がりで再び今回の婚姻話に戻って来ていた。

 

「今回の件でやはり1番驚いてるのが刀夜皇帝で、焦ってるのがあの補佐官二人組だろうな」

「そうでしょうね……、刀夜陛下はまだ17だった筈だ。いきなり婚約、しかも政略結婚と言われれば驚くだろう……。まだ高校2年生だしな」

 

昔なら17など婚約結婚当たり前の年齢ではあるが、生憎と天城含めて転移者組は現代出身である。よって婚約結婚は20歳以上だと考えている為知識では理解できても納得できるかは別である。更にその相手がひとつ歳下の16と言われれば普通なら婚約とかでなく告白では?と言うレベルである。

つまり断じて婚約結婚とかは考えられないのだ。しかし問題はそこではない、いやそれも問題ではあるのだがもっとヤバイ問題がある。それは、

 

「あの2人、陛下にぞっこんですからね。トチ狂って寝込みを襲ったり(意味深)しなければ良いんですが……」

 

刀夜LOVEの深雪・千冬両名が刀夜を襲わないか(意味深)であった。

 

「「「「(ヤバい、有り得る)」」」」

 

その結構ヤバイ予想の呟きに馬車の中は痛い沈黙に包まれたのだった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

そしてあの4人に心配されていた張本人達、天城、深雪、千冬の3人は沈黙を保ったまま迎賓館に向かう馬車の中で揺られていた。

 

「……………」

「………………」

「…………………」

 

無言、席に着く3人それぞれが互いに後悔を悔やんでいた。

 

天城(ミスった……深雪さん任せにしていたばっかりに……。確かに利は互いにある、だけど……この歳で結婚て……)

 

深雪(私がもっと注意を払っていればいきなりあんな事(婚約話)を持ち出される可能性は減らせたのに……、こんなので何が情報担当の補佐官なのですか!私は……私は……陛下……)

 

千冬(くっ……不覚だ。陛下にドレスを褒められた事で舞い上がっていた所為で私は補佐官の「ほ」の字すら為す事ができなかった!なんの為に私は補佐官になったのだ!私は陛下を……陛下……)

 

天城は自分の慢心を、

深雪は自らの不甲斐無さを、

千冬は自分の無力さを悔やむ。

 

しかし客観的に見れば仕方のない(・・・・・)事である。つい1ヶ月少し前までは一般人だった少年に、経験の少なかった2人の補佐官に長年王宮の混沌とした陰謀を切り抜けてきた百戦錬磨の名王に政治上の駆け引きや策略で勝てる訳がない。しかしそれでも3人は悔しかったのだ。

 

「……深雪さん、千冬さん」

「「っ⁉︎は、はい‼︎」」

 

天城の言葉に深雪と千冬はビクリと身を震わせる。叱責されるのではないか、そう2人は思ってしまったのだ。しかしその先に待っていたのは叱責なのではなく……

 

「済みませんでした……俺は……慢心をしてたんです。だから……済みませんでした」

 

深く頭を下げた自ら達の(愛しき)主君の姿であった。

 

「そんな⁉︎陛下だけの所為では‼︎」

「そうです‼︎補佐官としての役目を果たせなかったのは私達の方です‼︎」

 

2人の心の悲鳴が口からも漏れる。本当に謝らねばならないのは、罰せられねばならないのは自分達であると。しかし刀夜はそうではないと言った。

 

「深雪さんも千冬さんも自分をそんなに責めないで下さい。俺は貴女達に救われた、救われてきた。だから……ありがとう、2人共」

 

救われた、何も知らず放り込まれた勝手の分からぬ地で自分は今までずっと彼女達に救われてき続けたのだ。だからこそ、感謝はすれど責める謂れなど刀夜には全くなかったのだ。

 

「ああ、ああああ、ああぁぁぁっ‼︎」

「ああああ、あうあああぁぁぁっ‼︎」

 

深雪と千冬は刀夜の胸の中で耐えきれなくなった涙を流す。きっとこの涙はこれから先の大切な糧となる、だから今は、今だけは泣いて欲しい。2人が明日を真っ直ぐに迎える為に。

 

涙流す2人の大切な女性を抱えた少年(皇帝)はそう願う。今はただ、彼女達を抱き締める事しかできなかった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

翌日、国王と皇帝の立会いの元無事友好条約は締結され、アルセルフ王国・極東帝国間には正式に国交が樹立されたのであった。

 

 




タイトルの割に関係ない事しか書いてないな……(調印式ついては僅か3行しかない)。まあ、いっか。調印式描写してもつまらないだけだろうし(多分)……。

次回、『同盟交渉、彼女達のリベンジ』です。


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【Ⅺ】同盟交渉会議

 

〈12〉

 

友好条約締結後、アルセルフは締結前の祝宴会にて宣言した通り帝国皇帝天城 刀夜と王国第一王女ユミエル・アルセルフの婚姻を前提とした同盟交渉へと乗り出してきていた。そしてここはそれについて話を進める為の交渉会議、帝国側は皇帝補佐官である桐咲 深雪と神ヶ浜 千冬、他には本国から新たに来た外務大臣吉田 茂(よしだしげる)が、アルセルフ側の外務卿ラシアン・ロームと内務卿ダグラス・カール、他数人の文官が席に着いていた。

今回の交渉はあくまで事務方がつけるもの、故に当事者と発案者である皇帝と国王の姿はここにない。

 

「ではこれより『旭ア同盟』交渉会議を開始します」

 

交渉の始まらんとする部屋の空気が一気に引き締まった。

 

「本日の交渉の進行は私、ラシアン・ロームが務めさせて頂きます故ご容赦を」

 

ラシアン卿がそう言い一礼したのに揃え帝国側も礼を返す。

 

「では早速ですが同盟内容のすり合わせを行いましょう。我が国、アルセルフが貴国、旭東帝国に求める条件は以下の通りです」

 

 

 

 

同盟締結条件(アルセルフ側)

 

1つ、軍事同盟の締結

 

1つ、通過為替の設定

 

1つ、通商条約の締結

 

1つ、関税同盟の締結

 

1つ、両国大使館の設置

 

1つ、以上の条件の無事締結を保証する為旭東帝国皇帝とアルセルフ王国第一王女との婚姻を行う

また結婚式典は条約締結より3ヶ月後に開催するとする

 

 

 

 

渡された羊皮紙に書かれ掲示された条件に深雪達は目を通す。大体は予想通りの内容でありこちらも願ったり叶ったりのものが多いが唯一、最後の項目については旭東帝国側全員が若干眉をひそめるものだった。

 

『条約締結より3ヶ月後に結婚』

 

決定から実行まで僅か3ヶ月、というのは明らかにおかしい。どう考えても早過ぎる(・・・・)。いつの時代であろうが結婚、特に式を行うにはには時間がかかる。場の準備、料理の食材の準備、人の手配、式の準備、花嫁の準備……etc、とにかく時間がかかるのだ。現代ならばネットを見て電話をするだけで済む事もここ(中世)では馬を出したり鳩を飛ばしたり人を使ったりと手間暇がずっとかかる、それに王族同士の結婚式ならば国中の貴族に招待を送らねばならない為普通なら1年以上前から通知せねばならないのだ。

 

何かきっと裏がある

 

そこからそう読み取った深雪は隣に座る千冬と吉田に目配せし唾を飲む。2人も同意見のようだ。

 

「……ではこちらが我々旭東帝国が掲示する条件です」

 

 

 

 

同盟締結条件(旭東帝国側)

 

1つ、軍事同盟の締結

 

1つ、通商条約の締結(為替の設定含む)

 

1つ、一部資源開発権の購入

 

1つ、関税同盟の締結(関税自主権を認める)

 

1つ、両国大使館の設置

 

1つ、婚姻はするものの結婚を行うのは我が国皇帝が満20歳となってからとする

 

 

 

 

目配せののち深雪は手元にあったファイルから条件の書かれた紙を取り出し机の上を滑らすようにして渡す。それを受け取ったラシアン卿は目を通し、隣に座るダグラス卿に渡した。

 

「……では帝国は我が国(第一王女)との婚姻を了承との事ですな?」

「はい、後は本国にある貴族及び衆議院の議会の承認を待つのみとなります」

「なるほど」

 

どれだけ吉田達外務省の人間と話し合ってもこの『皇帝と第一王女の結婚(政略結婚)』だけはアルセルフの条約締結条件からは外せない事が分かった深雪と千冬はせめて、皇帝である刀夜が王女との婚姻を受け入れられるよう時間を稼ぐ事に決めていた。それ故に現代にて結婚がまだあり得ると認識できる3年後の20歳を目処としていた訳だが、今回はそれが功を奏したらしい。この彼女2人の僅かばかりの足掻きがこの場に来て生きてきていた。

 

「しかし……この満20歳とは?これはつまり結婚を行うのは『3年後』、という事ですかな?」

「その通りです。我が国がこの世界に転移して未だ1ヶ月、皇帝たる陛下は未だ忙しく議会もまた早急に解決すべき事案も多くあります。そんな中国家最高意思決定機関である陛下が結婚を行うとなるとそれらが全てストップしてしまいます、それは現在の我が国にとって大変由々しき問題ともなってしまうのです」

「ふむ、それで」

「更に我が国において男女間の結婚に関しては明確に法によって定められており結婚が可能になるのは男女共(・・・)に満18歳となっています。これは我が国に属する者、また属する事てなる者もまた法律の対象となり、これには王侯貴族つまり皇帝(陛下)や婚姻関係を結ぶ事となる貴国の第一王女殿下もまた同じ事です(・・・・・)

「ほう、王が法に縛られる……と?」

「いいえ、王は法の元で民を治め導くのです。我が国に『立憲君主制』を国家体制としておりますので」

 

ダグラス卿の言葉に深雪は不敵にも微笑みつつそう答える。しかし実際は内心かなり冷や汗を流している。責任然り、経験不足然り、今の彼女にはかなり重い問題でもある。しかし今彼女は笑う事が出来ていた。

 

陛下……私は……貴方には支えらればかりだと言われますが私からすれば私の方こそ支えられてばかりですね

 

あの夜、泣いた彼女達を最後まで抱きしめてくれたのは彼だった。それがどれだけ嬉しく、恥ずかしく、そして愛おしかった事か、おそらく今までで一番だっただろう。そして彼は彼女達を信じてくれているのだ、彼女達の手腕を、強さを、ならばそんな自分が信じてくれる人に応えずしてどうするというのか。

無条件の信頼であるがそれは根拠の無い都合の良い信頼ではない、彼女達なら必ずできるという確かな根拠があるからこその無条件の信頼である。伊達にゲームが始まってからずっと(長年)付き合っている訳ではないのだ。

 

「……ふむ、分かりました」

「ラシアン卿、もしやこの条件を飲むので?」

「その通りです、この同盟(婚姻)はこちらが持ち掛けたものであり旭東帝国にはこれを拒否する権利がある。帝国が同盟(婚姻)を承認したということだけでも有り難いことですからな」

 

ラシアン卿は1度目を瞑りそれからそう言って深雪達の事を見る。

 

「ではよろしくお願い致します、キリサキ補佐官殿」

「こちらこそありがとうございます。ラシアン卿」

 

2人は立ち上がり握手を結ぶ。同盟締結の前段階、内容交渉が成立した瞬間であった。

 

 

 

こうして同盟交渉会議は無事終了し、深雪達のリベンジは成功したのだった。

 




学校が始まるとやはり前までのようにはいかないなぁ……。


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【Ⅻ】アルセルフの思惑そして動き出す闇

 

〈13〉

 

 

「ふむ……、飲んだか」

「はっ、条件付きではありますが旭東帝国側はこちら側の要求を飲みました」

 

交渉会議終了後、アルセルフ側で会議に出席していた外務卿ラシアン・ロームと内務卿ダグラス・カールの2人は文官達を下がらせ王の執務室にてその結果について国王(ユーサー王)に報告していた。

 

「これで我が国の安寧はほぼ確実と言えよう……ユミエル()には悪いとは思うがこれも政治、割り切らねばならないな……」

「はい、陛下が御子息達を大切に思われている事は民までも知る周知の事実ではありますがこれは今後の国運を左右する一大転換点、ここは私情をお捨てになり王として決断して頂きたい」

「無論だ、それにユミィ……いやユミエルもまた否定的ではないようでな。「王家に生まれた娘として役目を果たします」と言われてしまった……その後「優しそうですしそれにイケメンですから」と言われねばあのお転婆姫がと感動の涙も出そうだったのだがな……」

「ユミエル様らしいですな……その優しさもまた」

「うむ……明るく振舞ってはいるがいきなりの婚約に確かにショックは受けておる。それに“例”の組織……だからこそ婚姻を早く済ませ帝国本国に連れて行って(保護して)貰いたかったのだが………無理だったな」

 

アルセルフが皇帝と第一王女の婚姻を急いだ理由、それは彼女が持つ事情(特異性)が理由であった。せめて彼女の身柄だけでも預ける事ができたなら彼女はこの世界で最も安全な場所(旭東帝国本国)にいる事が出来たのだがこの案は帝国の法律により失敗してしまった。

しかしまだ重要な事はある。

 

「しかしトウヤ皇帝はあの様子では女性には余り慣れておらんようだな」

 

そう、婿の女性関係についてだ。

 

「はい、諜報兼監視者(メイド)からの報告ではわざと美人の女性を配置し少々大胆に誘ってみたところ恥ずかしそうにしながらもしっかりと断ったそうです」

初心(ウブ)だな」

初心(ウブ)ですね」

 

報告を聞いた王と内務卿は思わずそう呟く。王族かつ思春期であり更に顔も良い方の彼ならば1人2人女性と関係を持ったりして“色”を知っていたりするものかと考えていたが、予想外にもそんな事は全くなかったらしい。

 

「反応から見て女性に興味がない訳ではないようですが、勇気がない(ヘタレ)のかはたまた恥ずかしがり屋なのかもしくはその両方か、女性に手当たり次第手を出すつもりはないようです」

「ではあの2人、補佐官のあの2人の女性とはどうなのだ?傍目に見て明らかにあの2人は皇帝に思慕しているようであったが……」

「それについては皇帝本人がそれを感じ取れていないようで……まるでフェリオ殿下レベルの鈍感さだとか」

「あ〜〜、うん、成る程」

「それは……気の毒ですな」

 

ならば見ているだけで口の中がジャリジャリして甘くなってくるあの2人組(補佐官)との関係は?と尋ねてみるものの、その答えは向けられている本人が好意に気付かず無自覚にあんな風にしているのだと聞いてしまった(ユーサー)内務卿(ダグラス)は例えられた昔からの悩みの種の顔を思い浮かべそれ程鈍感なのかと思わず同情してしまったくらいである。更には、

 

「それに諜報兼監視者(メイド)の内何人かが既に被害に遭い骨抜きにされています。誑し度合いで言えばその辺りは殿下より上手ですな……」

「それはかなり不味いのではないか?万が一諜報員から我が国の機密が漏れれば……」

「落とされた諜報員の大半は重要な機密までは知らされていない一般隊員で、その中で重要機密を知る隊員は2人しか居ません。それに万が一彼女達から機密が漏れようと向こうとて彼女達がこちらから諜報兼監視者だと理解しているでしょうからそれを簡単に信じたりしないでしょう。それにもし彼女達が「行きたい」もしくは向こう(旭東帝国)が彼女達を「連れて行きたい」と言うなら連れて行かせましょう……旭東帝国本国に合法的に諜報員を送り込む良い機会です……まあ内容は期待できませんが」

「それは……そうだな」

「多少我が国の機密が漏れようとも帝国本国の情報を得られるなら安いもの……ですか、理解は出来ますが内政者としてはやるせないものですな」

「それを言うなら私は外交官として諜報部隊がまともに機能していない時点で泣きたいくらいですよ……。それに帝国の防諜能力が高過ぎて余り情報が手に入れられませんし」

 

諜報活動が全く活躍しておらず寧ろ逆に仕掛けている自分達の方が苦しめられている事に彼らの胃は痛い。

 

「唯一手に入れられた情報は帝国が極秘裏に資源調査団を派遣している事と簡易的ではあるが王国全土に及ぶ地図をほぼ完成させている事だけとは……重要な情報ではあるものの1ヶ月掛けて手に入れることができたのがこれだけとはなんとも……はぁ」

「……この後の進行に注意を払うべきであろうが……先に外務卿の胃に穴が空きそうだな……」

「帝国から良い胃薬を融通して貰いますかな?」

「……頼んでおこう。私も必要になりそうであるし他の大臣達も胃が痛いであろう……」

「私も頼んでおきます」

「うむ……」

 

なんだかじんわりと胃が痛くなってきた3人であるが後日、外務卿(ラシアン)の予想通り諜報兼監視役であった諜報員(メイド)5名(機密持ち2名含む)が帝国に引き抜かれ(引き抜かれる条件に諜報員達に報告を義務化)皇帝帰還時に本国まで同行、その後皇帝付きの従者になるが彼女達は帝国の機密事項には一切触れず帝国のごく普通な様子を逐次報告し王国は念願の帝国本国の情報を手に入れる事となったがその自国との圧倒的差(それでも一般公開されている国力、軍事、医療など)についての内容に外務卿と内務卿の胃が更に痛くなり帝国産胃薬が手放せなくなったりと色々あったのだが、後年人々が当時のこのときの事をアルセルフ最大の成功でありそして歴史上最も大臣や役人達の胃に大ダメージ()を与えた『旭ア同盟が生んだ悲劇(笑)』と呼ばれる一大転換点となる事を今はまだこの3人は露程にも思ってはいなかった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

アルセルフ王国某貴族邸宅、夜半、カーテンが引かれ月明かりすら入らぬとある部屋にある1つの蝋燭の灯った燭台が置かれる円卓には幾人かの人間が席に着いていた。

 

「……旭東帝国との友好……これはまだ良い」

「左様、我々が関与すべきは彼の(・・)国との取引内容の遂行について、それと彼の『血』を手にする事のみ」

「しかし同盟、第一王女との婚約は認める事はできぬ」

 

光源が円卓の中心にある蝋燭の明かりのみの為顔は見えず唯一見えるのは光の届く卓上に乗せられた手の甲のみ、他に判別できそうなものなど声くらいしかないそんな暗闇に会合が始まってからずっと沈黙を続けていたその中の中心人物が口を開く。

 

「我々の目指す(願う)目的は血族の継承し利益を得、そして我等が悲願を達成する事にある。それが例え我が手で祖国を売り払う事となろうとも」

『然り』

「今のこの国では我等が悲願は達成できぬ、しかし彼の(・・)国の協力(援助)とチカラさえあれば悲願達成にまた一歩と近付くであろう。故に我々は彼の(・・)国との取引通りこの国の弱体化及び『第一王女』暗殺の遂行に障害となりうる帝国との同盟はなんとしても排除せねばならぬ」

『然り、然り』

 

部屋に揃えられた賛同の声が響く。彼らはアルセルフ(この国)、いやヘルダーティア大陸に潜む闇、悲願達成の為ならばどんな犠牲をも厭わぬ欲深き(欲亡き)モノ、太古の亡者。いつから存在したかなど誰ひとりとして知らぬ巨大なその闇は、僅かでも闇に通ずる者達の間ではこう呼ばれている。

 

 

亡国饗団(ファントムタクス)

 

 

無辜の民(人々)を踏み潰し、国を売り滅ぼして尚悲願を追う狂気(無垢)の集団、そんな闇は数少ない平和を手にしているアルセルフを掻き乱し戦火の火種を燃え上がらせる為に動き出す。

 

 

 

 

 

その先に帝国の逆鱗を叩き割る事となる事すら気付かぬまま

 

 

 

 

 

数多もの想い(欲望)を巻き込んだ戦乱の時は近い、大陸全土(平穏)を焼き尽くす事になるかもしれない火種が、確かにアルセルフ(そこ)にて燻り始めていた………………

 

 

 

 

 

 

 




ユミエルについて

ユーサー王は親バカ
外務卿(ラシアン)は親(?)バカ
内務卿(ダグラス)は親(?)バカ

結論

アルセルフ王国政府はユミエルに甘い、つまりユミエル可愛い








……なんでさ?それにフェリオは?


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【Ⅷ】暗殺

遅くなりました…………その分長いです。あと説明多くて読みにくいです。


〈14〉

 

 

アルセルフ王国貧民街(スラム)某所、とある建物の一室には刀を抱いてソファーに身を預けている1人の女性……いや少女が居た。長い腰まで伸びた黒髪を後頭部付近で赤い紐で結び垂らしたポニーテールに白磁の様な病的ではない白さの肌の上には右目の下に泣き黒子がひとつある、そしてその少女の顔立ちは東洋風でありそして所謂美人と呼ばれるものである。

 

コンコン

 

目を閉じていた彼女の部屋の扉がノックされそれに反応した彼女は目を開く。

 

「……どうぞ」

「ユキノ、依頼(仕事)だ」

 

入って来たのはスキンヘッドのゴツい漢、所謂裏の人間だった。

 

「……内容」

「内々から依頼されている例の『アレ』だ」

「……パスしたい」

「駄目だ」

「え〜」

「「え〜」じゃない、お前しかあの警備網を突破して暗殺出来ないだろう」

 

身を起こし男が持って来た依頼の内容を尋ねるとその答えに彼女は「え〜」と難色を示す。ついこの間(1ヵ月前)からこの組織に身を一時的に置く事になった彼女は自らその組織の暗部にその技術を売り込みに殴りこんで来た存在であり、僅か1ヵ月の活動期間ではあるがその成果から既に組織の信頼を得ている凄腕の諜報(スパイ)及び()暗殺者(アサシン)である。

 

「じゃあ引き込むまで、それ以上はヤダ」

「なんでだ、前までは出来ると言っていただろう」

「最近この国と同盟を結んだ国、知ってるよね?」

「ああ、確か『旭東帝国』……だったな。それがどうした?」

 

男は城下や国内に宣伝されている情報と彼女自身(・・)がアルセルフ王城の従者(メイド)として潜入して入手して来た情報の大部分を占めていたその国の名前を口に出す。それに彼女はコクリと頷いた。

 

「そう、私はその『旭東帝国』の皇帝をもてなす為のメイドに化けてた(潜入してた)訳だけど彼らが来てから城の警備レベル、桁違いに上がったの」

「は?そりゃ当たり前だろ?他国の皇帝が来てんだからそれ位……」

「警備のレベルが上がったのは王国のじゃなくて帝国側による所為(・・・・・・・・・・・・・・・・)で」

「なに?」

「具体的に数字で表したら以前が20なら今の帝国が王城に張ってる警備レベルは100とか200くらい……、そんな中じゃ私でも流石に暗殺はムリ」

「………」

 

彼女の口から語られる話に男は腕を組む。しかし既に前金が実行員に渡されている上に幹部である男より更に組織の上層部から『確実に実行せよ』とお達しが来ているのだから今更辞められない、男自身初めからキナ臭い依頼だと思ってはいたが大手顧客からであり上からきたこの暗殺依頼は彼にとって最早ヤバいと理解していてもやるしか道が残されていないのだ。

 

「分かった、引き込むだけでいい。どうせ使うのは“駒”の予定だしな」

「“駒”……ね、それはどっちの駒?手下?それとも……」

「両方だ、じゃなきゃ潜入させにくいだろう?」

 

“駒”という単語に彼女は反応する。彼女の知る限り駒には2種類存在した。目の前の男のような幹部級の人間が切り捨て可能な手下の事を言う場合、そして特殊な薬物や魔法を使って仕立て上げられたまるで生きる屍の人形のような自由意志の無い裏の人間や元貧民等である。

そしてどうやら今回の暗殺ではその両方を使うらしかった。

 

「ともかく、こればかりは確実に受けて貰うぞ。流石に適任者が居ないからな」

「りょーかい、仕方ないね」

「頼んだぞ」

 

男は彼女にそう伝え、彼自身も駒の準備をせねばならない為に部屋を後にする。残された彼女は扉がぱたんと閉まる音を聞きながら手元の刀の鍔を弄る、すると柄からぽろりと鍔が外れソレを彼女はその口元に添えそして、息を吹いた。

 

───────………

 

音は鳴らない、しかししばらくすると代わりに何処からか何かが羽ばたく様な音が聞こえて、いつの間にか窓の傍にあるこのソファーの背もたれには一羽の烏が止まっていた。

 

「おいで、フウガ」

 

クルクルと鳴きながら寄って来たその烏の脚に小さな筒を取り付けると彼女は餌を遣り再び空に放つ。

 

「頼んだよ」

 

フウガと呼ばれた烏を見送った彼女は立ち上がる。そして彼女もまた遣るべき事を為すためにその部屋を後にした。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

「……ヤ…ま、…ーヤ……、トーヤ様!」

「うぇ⁉︎あ、はい」

「もう、先程からお呼びしていたんですよ?」

 

少し考え事をしていた刀夜はずっと話しかけてきていたユミィの話を聞いいていなかったらしく、それ気付いたユミィが若干頬を膨らませながら注意してきた事によって漸く刀夜の意識はこちら側へと(執務の事から)戻ってきていた。

 

「済みません、ユミィさん。折角魔法を教えて貰っているのに」

「もう、ですがトーヤ様もお忙しく考える事も多い事は知っていますが大切な事なので今だけは私の話をしっかりと聞いていて下さい」

「分かりました、ユミィ先生」

 

ユミィの言葉に刀夜は真面目な態度に戻り今日も彼女から魔法についての手解きを受け始める。何故刀夜が彼女に魔法について習っているのかというと、つい先日婚約したのだからと開かれた正式な顔合わせを兼ねたお茶会の最中に彼女が刀夜が魔力を持つ事に気付き、それを知った刀夜自身が教えて欲しいとユミィに頼み込んだからだ。因みにこの魔法教室(個別授業)第一王女(ユミィ)の私室である、王女の部屋なだけあって広く彼女の趣味であり特技でもある魔法を使う様に結界やら魔法陣やらが敷かれた万が一魔法が暴発しても問題無い安全第一な彼女の工房(研究室)で行われている。

 

「ではまず今日は復習からです。先日解説した魔法とは何を意味するのか、答えてみて下さい」

「魔法とは魔力と呼ばれる体内で生成される謎エネルギーを対価に等価交換の法則に則って式を世界に書き込む事によって世界の理を一時的に歪めて術者の望んだ現象を現実に反映させる術の事。体内で生成される魔力量、純度や色には個人差があり更に個々それぞれが違う『起源』をその身に宿しているからこそ、人が使う魔法には適正が存在して人によっては全く使えない魔法系統だってある……って感じだったかな?」

「はい、テストならほぼ満点の回答です。更にそれに付け加えるとすれば魔法とは世界をカタチ創る人や動物、植物等の生命や世界そのものの無意識に働きかけ本来ならば『あり得ない』事をそこに『あり得る』と誤認させそれを意識上に認識(発現)させる事を言います。簡単に言えば他の人やモノに強力な暗示を掛けて対象に嘘を信じ込ませるようなものですね」

「まるで詐欺ですね………にしては話の規模とレベルが大き過ぎます(世界規模です)が」

 

ユミィの解説する魔法の原理、いや神秘や世界の真理とも言えるものの例え話に思わず刀夜はそう思い浮かべてしまっていた。確かに聞いていてとても興味深い話ではあるのだが彼女の教え方や例え方の上手さも相まって色々な事と話を結び付けてしまいよく話が脇道に逸れてしまうのだ。

 

「そう言えば話の中で起源と適正についてがありましたが確か俺は……」

「以前調べたトーヤ様の起源は『(カラ)』、全系統に適正がありますが中でも『空間系』の系統は特に飛び抜けて高いです」

「空間系ですか……という事は、異空間に物を出し入れしたりとか転移とかができたりするんですか?」

「はい、異空間に物を収納する『空間収納(マジックボックス)』は中級、転移系は上級からそれ以上でその分難しいですよ。私でも上級までしか使えませんし」

「へぇ、凄いですね」

「そんな事ありませんよ。頑張ればトーヤ様も直ぐに上達します、私は昔から魔法書ばかり読んでただけですから」

 

ユミィはそう言って微笑む。大陸大魔法士第3位の位を与えられている彼女は正しく天才であり誇るべき存在なのであるが彼女からすれば自分はそんな特別な存在ではないとの事だとか。自分より上位の者達のレベルが高過ぎるのもあるが彼女自身王国の王女の為他人より魔法書に触れる機会が多かったからだと彼女は言う。

 

「では初歩から少しずつ試していきましょう。まずは簡単な結界からです」

 

まずは初歩からと彼女は刀夜に簡易的な結界の張り方を教える。侵入者探知用や対転移阻止結界等、知っていて損の無い物を教わり適正の高い刀夜はすぐにとは言わないが着実に物にしていき3時間程で遂に中級、『空間収納(マジックボックス)』にまで成功した。

 

「凄いですね、トーヤ様のマジックボックスにはどれだけ容量があるか私でも想像がつきません……」

「うーん……、今まで数十個と魔宝石放り込んでみたけどまだまだ入るみたいだ、何処ぞの王様の宝物庫みたいになってるな……波紋とか出てこないけど」

 

が刀夜は適正が高過ぎたのかユミィですら分からない位馬鹿みたいに広いマジックボックスを持つ事が判明し当に刀夜がぼやいた通りその領域はそんな宝物庫と同等レベルの広さを持っているらしい。

 

「なんと言うか……無駄な広さ?」

「あー、コメントに困りますね……」

「そうでしょうね……ってこれは⁉︎」

「っ‼︎誰ですか!」

 

刀夜とユミィがそんな話をしてると唐突に部屋に魔法陣が現れる、その数7。そして次の瞬間そこには7つの影が立っていた。そしてその姿からして……

 

「暗殺者……か、しかしどうやって」

「……おそらく空間系魔法最高峰『空間転移』です。使える魔法使いは私を含めて数少なく彼らの大半は国が直接雇っていますが私達が作っている『空間転移』の使えない人も使える一回切りの魔宝石に転移の魔法を封じ込めた『転移石』は少し値が張りますが一般の方でも購入でき使用もできます。ですがそれ対策に特に王城全体には私が張った不可結界があってその中に転移する事なんてできない筈なんです……まさか結界の起点を壊した?いえでも結界はしっかり存在して……嘘、結界を書き換えたって言うの⁉︎」

「当に絶体絶命ってところか……」

 

ユミィの驚愕はさておき刀夜は本棚を背に彼女を庇うようにして前に立つ。しかし魔法が使えるとはいえ丸腰のお姫様(ユミィ)と空間系の中級までしか使えない上城内である為銃剣1本しか所持していない刀夜には小型ボウガンや短刀(ダーカー)を持つ暗殺者7人というのはいかにも荷が重い。多分刀夜達が行動するよりも暗殺者の方が早く、しかもその得物達にはおそらく毒が塗られているだろう。

 

「くっ……助けを求めようにもこれでは……、せめて小銃でなくとも拳銃さえあれば……ん?待てよ、そういえばさっき……」

 

銃が欲しい、そう思った刀夜だがふと、とある閃きが浮かぶ。さっき自分は何を思い浮かべた?

 

「……できるか?いや、やるしかない。即興だけどついさっきまで習ってた事を応用すればできる」

 

 

───門解放(ゲートオープン)

─────結界構築(レディ)

───────装填開始(ロード)

─────────目標標準(ロック)

 

 

狙うは先ず飛び道具を持った目の前の3人から。相手より先に撃たねば確実に自分達は詰む、ならばこそ外せない外す事など出来はしない。

 

「1撃で決める……発砲(ファイヤ)!」

 

開かれた3つの門から撃ち出されたのは先程練習していた『空間収納(マジックボックス)』の中にまだ入れられたままだった拳大の純度の低い魔宝石だ。それを空間系魔法の初歩である結界で門内部から外に掛け銃身を創りそこに装填された先程の魔宝石と違う石を後部で起爆する事によって簡易的であるが擬似的な銃の完成させたのである。

 

「ぐあぁあっ⁉︎なんだこの魔法は⁉︎」

「……構造的には火縄銃(マッチロックガン)と似たような物だけど発想は『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』なんだよなぁ、余裕があったら剣を撃ったりして『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』とか撃った後に起爆とかして『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』とかもして見たいけどね……」

 

そんな事をぼやきながら刀夜は次に標準を合わせるが実際には言葉程今の彼には余裕は無い。そもそも刀夜が現在解放可能な門は4つ、更に銃身や起爆等の細かい操作をするとなれば今の3つが限界である。しかも思い付きの即興での実行の為魔力の無駄(ロス)が多く斉射可能なのは先程のと合わせて計3回、なんとか全員を倒せるがコストパフォーマンスは最悪である。しかも相手が馬鹿正直に立ち止まってくれているとは限らない。

 

「吹っ飛べ!」

 

2射目、未だ立っている4人の内3人に向け放つが相手も学習したのか回避行動に移る、しかし銃口が見えない為に何処を狙っているのか分からない為にその内の1人が刀夜の思わぬ行動に出た。

 

「なっ!味方を盾にしたのか‼︎」

 

2人には命中したがその内の1人が先に倒れた1人を盾に身を守ったのだ。

 

「くっ、間に合わないっ!」

 

3射目の前に肉薄して来た男の短刀を銃剣で受け目の前に門を展開、発砲しそれと同時に蹴り飛ばす。あと2人、いや1人はユミィが背後から放った雷に撃たれ黒焦げになり倒れる。

 

「最後、ユミィさん!」

「は、はい!」

 

そして最後の1人にユミィが速さを重視した足止めの魔法を放ったところで刀夜が魔宝石をその土手っ腹にブチ込んで沈める。だが倒したその中の3人は1度沈められたにも関わらずまるでそんな事を気にも留めていないかのように再び手に短刀を握り立ち上がる。それには流石の刀夜でも驚いた。

 

「んな馬鹿な……あのダメージでまだ立ち上がれるって、本当に真面な人間か?」

「あり得ません……魔法防御もない人間があれだけの攻撃を受けて立てる筈が……」

 

どう見ても骨が何本か逝っているようだが彼らは呻き声1つ上げない、不味い、室内ではユミィも殆ど攻撃魔法は撃てない為これでは刀夜達の打てる手立てはもう殆ど残っていない。

 

「せめてユミィさんだけでも……」

 

最後の足掻きとユミィを逃がす為彼女を抱えて近くの窓から飛び降りようと考えたその時、間一髪で扉が斬り飛ばされ刀夜が最も信頼する2人が部下を引き連れて突入して来た。

 

「ご無事ですか刀夜様!」

「曲者だ。近衛兵、撃て!」

 

扉を破壊して突入して来た深雪と千冬の号令で部下達が銃剣を付けた小銃を発砲し未だ立っていた3人の頭を1撃で撃ち抜く。流石に脳を破壊されればもう動けないのか今度こそ誰ひとりとして立ち上がってくる者はいなかった。

 

「陛下、お怪我は」

「大丈夫です、深雪補佐官。それよりユミエル王女を頼みます」

「分かりました。この場は千冬補佐官に任せ陛下も一時部屋までお戻り下さい。すぐに王国側の衛兵も来るでしょう」

 

倒れている暗殺者達を細心の注意の元拘束する帝国兵達の中から深雪補佐官が刀夜の前まで走ってき、指揮を取る千冬の代わりに刀夜達の状態を確認する。なんとか無傷で切り抜ける事ができたがこれは奇跡、どう考えても無傷な済んだ事が信じられない事である。

 

「……さて、これで終われば良いのだが……」

 

去り際に部屋を眺めた刀夜はそう呟く。こうしてアルセイフ王国を揺るがした『皇帝及び第1王女暗殺未遂事件』は一応幕を下ろした。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

夜、満月ではあるがが雲が多く星の光さえも遮られた薄暗いその王城の一角、それも皇帝刀夜達にあてがわれている塔のバルコニーには1つの“影”が存在した。同盟国のしかもその皇帝が使う塔でありその分厳重な警備網(特に帝国により)が敷かれている筈のその場所は、本来ならばそんな事があれば直ぐに誰かの目に留まり気付かれる筈であったが不思議と誰ひとりとしてそれに気付く事はない。

 

それもその筈、これはこの塔を護衛する旭東帝国の方が意図的に開けたとある目的の為の穴なのだから

 

チンッ──

 

と、その時そのバルコニーの手摺に何か金属のような物が引っ掛かる様な微かな音が鳴りいつの間にかそこにはもう1つの影が立っていた。手摺から飛び降りた影がそしてそのもう1つの影と丁度向かい合った時、今まで雲に隠れていた月がその影達を照らし出す。

 

1人は黒い軍服を纏う黒髪の女性

1人は腰に刀を差した黒髪の少女

 

どこか顔立ちの似た2人が互いに顔を合わせる形でそこに立っていた。

そして黒い軍服を纏う黒髪の女性、皇帝補佐官である桐咲深雪が口を開く。

 

「ご苦労様、雪乃(・・)

「ふう……そちらこそ、深雪姉さん(・・・)

 

2人は互いに微笑み合い言葉を交わす。

 

帝国暗部『桐咲』当主、桐咲家長女、桐咲 深雪(きりさき みゆき)

帝国暗部『桐咲』副当主、桐咲家次女、桐咲 雪乃(きりさき ゆきの)

 

帝国の暗部()を統括し束ねる一族の当主たる深雪は仕えるべき帝国の皇帝の補佐官として軍部に入り情報を操作・活用し、副当主たる雪乃は実働部隊総指揮官として実際に現場で暗躍・暗殺を行う。個々それぞれが突出した才能を活かし帝国だけでなく大陸でも暗躍を始めた日陰で帝国を支える立役者姉妹、これがこの2人の真の正体である。そして、同じ意中の相手を想う恋敵(ライバル)同士でもある。

 

「貴女が集めてくれた情報のおかげで今回の第一王女暗殺未遂事件は想定通りの結末を迎えられたわ。ありがとう」

「陛下が王女様を無事守り切るのも計算済みっていうのは、姉さんも策士が板に付いてきたね」

「……もう私は、刀夜陛下の前で負ける訳にはいかないから……」

「姉さんらしい、まあ私も負けられないんだけど」

「それに……前の報告に載ってた例の『組織』についてだけど」

「それについては余り詳しくは分からなかった。分かったのは組織名とその目的くらい」

 

「組織名は『亡国饗団(ファントムタクス)』、そしてその目的は………」

 

「『───』」

 

一瞬、2人の間に強い風が吹く。風が途切れた時、それを聞いた深雪はいつも以上に緊張した顔だった。

 

「……それは、事実なの?」

「うん、確定情報……かな」

「そう……なら厄介ね、軍事力ではどうともできないもの……」

 

少し沈黙に包まれた2人であったが何時までもそうしている暇はない為次の話題へと移る。

 

「取り敢えず、今回の暗殺を実行した闇組織のアジト及び本部には明朝近衛師団が踏み込むわ。貴女は部下を纏めて討ち漏らしがない様に裏から援護を」

「了解、短い間だけどお世話になったからね。“立つ鳥跡を濁さず”、綺麗さっぱり『掃除』しておこうか」

「ええ、『刀夜陛下に手を出そうとした』という丁度良い建前も得ましたし王国に貸しを作っておくのに丁度良いですから」

 

2人は笑う。

 

 

翌日、王国各所につい先日駐屯を果たした筈の帝国陸軍近衛師団精鋭各部隊が強襲、高機動車だけでなく航空機までもを動員した電撃的軍事行動により王国の闇組織の98%が検挙もしくは殲滅され、それにより帝国に『借り』を作った事になった王国の高官達はより胃を痛める結果になったのだがそれはまた別の話である。そしてその裏で黒衣に身を包んだ集団が暗躍、影で殲滅を行っていたというのは王国では知る人ぞ知る『噂』となった事もまた、別の話である。

 

 

 





下手に知れば消される深雪補佐官の実家が判明、ある意味最強(凶?」の姉妹爆誕。

雪乃のモデルは一応アカメとクロメを足して2で割ってみた容姿を想像していただければ……、泣き黒子はなんか付けたくなった。反省はしている、でも後悔はしていない。


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【XVI】動き出す各国(アルセルフ編)

ブランクが……


〈15〉

 

旭東帝国皇帝天城刀夜とアルセルフ王国第1王女ユミエル・アルセルフを狙った暗殺未遂事件の報復措置として帝国軍により行われたアルセルフ王国内部に潜んでいた闇組織の一斉摘発、通称『アルセルフ事変』から数日、王城では各大臣だけでなく国王までも参加する御前会議が開かれていた。

 

「では軍務卿、旭東帝国軍の情報を」

「はっ、先日10月1日付けで軍事同盟の下彼らが初めてこちらと接触した港町『ハーフェンシュダッド』に陸軍派遣師団約6,300と海軍派遣艦隊が進駐、条約に基づきハーフンシュダッド近くに軍港及び基地設営を開始した……ところまでこちらは確認しておりましたが設営を行っていたはずの帝国軍は夜陰に紛れて移動を開始、夜明けまでに王国各所に点在していた我々でも把握し切れていない闇組織拠点に同時に強襲、その構成員の9割を捕縛もしくは殲滅しました」

「……事実上の『壊滅』だな。しかも制圧に掛かった時間は凡そ1時間、更に残りを拘束して撤退まで行って尚夜明けまでに全ての部隊が駐屯基地までの帰投を完了とは……帝国(彼ら)には相当高位な空間魔法の使い手でもいるのか?」

 

軍務卿の報告に陸軍大臣が頭を抱えるようにしてそう呟く、だが頭を抱えていたのは陸軍大臣だけでなく同じく軍を束ねる海軍大臣もだった。つまりそんな相手に自分達()はどうしろと?である。

そしてその呟きに答えたのは外交を担当する外務大臣だった。

 

「いえ、居ない筈です。いや、居ない……とは言い切れませんが彼らが言うには彼らは魔法の無い世界から現れたとの事で実際彼の国の皇帝も魔法が使えずユミエル王女に習っている最中です」

「しかしそれが演技という事もあるのではないか?事実先日刺客を魔法で迎撃したのであろう?」

「それに関してはユミエル王女からほぼが全て初級魔法を組み合わせて発動されていたもので魔力的なロスも多く即興で行った事だと報告も受けています。なので演技という線は薄いでしょう」

 

魔法大臣の言葉に会議に参加する各大臣達は安心するどころか寧ろ頭が痛くなってきていた。魔法無しでそこまでやれる国相手に自分達はどうしろと?といった感じである。そして彼らの頭を痛くしているのはそれだけではない。

 

「更に市井で最近噂になっておる暗躍部隊の存在……諜報機関が何処まで洗ってもあくまでそれは『噂』でしかなく、だがそれが『事実ではない』とは言い切れん。恐ろしい部隊が居るもんじゃな……」

 

法務大臣の老人が零したその言葉はその場にいる全ての大臣や卿、王の心の声を代弁したものである。平時有事を問わず国を運営する者達にとって最も恐ろしいものは軍事力でも経済でも世論でもない、いや間違ってはいないが何より怖いのはそれらを裏で掻き乱す(暗躍する)間諜(スパイ)である。優秀な間諜を持つ国は表向きどれだけ小国であろうとも裏では並の大国を簡単に滅ぼす事のできるそれだけの力を持つのだ、それも相手を自滅させると言う最も自国に被害が及び難いモノを。

 

「これはこの国だけにでなく他国への『警告』、帝国に手を出せばタダでは済まないと言う意思表示だろう」

 

国王ユーサーは帝国の行ったこの軍事行動の意味する目的を読み取り口にする。彼ら旭東帝国がこの大陸に現れてまだ僅か1ヶ月、しかしその僅か1ヶ月という期間だけで旭東帝国は今まで数十年と時を掛けて探り続け未だに壊滅させる事の出来ていなかった闇組織を特定し、更には僅か数時間で壊滅させた恐ろしくも美しい手腕をこの国にだけでなく周りの他国にさえそれを見せつけたのである。

 

我ら帝国に仇為せば例えどんな組織、どんな国家であろうともこんな目に合わせてやろう、と

 

そしてその言外の言葉はハッタリでも虚勢でもない、明確な実績と自信を持った事実であるからそこタチが悪い。

 

「……我々の帝国への態度は十二分に気を付けるべきだな。各貴族へ通達、帝国に対する意識と態度に気を付けるよう指示せよ」

「左様ですな、我が国では帝国の逆鱗どころか足をちょっと踏み付けた程度でも吹き飛ばされ無くなってしまいそうですからな」

「ラシアン卿が言う位であれば洒落になりませんな」

「全くです、万が一にも帝国と一戦交えるとなった時どうすれば良いのか最早我々にはさっぱり分かりませんよ……どう頑張っても逆立ちしても帝国に一矢報いる事すら出来るかどうか怪しい所ですからな……」

 

一見すれば絶望的なまでの差が存在する現実を知る王国を支え守っている男達の乾いた笑い声が会議室に響く、もう笑ってでもいなければやっていけない。既に大臣の半数が胃を蹂躙され帝国製の胃薬に治安維持協力を受けている真っ最中なのだ、このままいけば下手すれば帝国に本格的な治療をお願いしに行かなくてはなりそうな程でもある。

 

「……ところでだが、我が国はまだいい。だが周辺国の方はどうなっている?」

 

アルセルフは大陸の東岸の平野に位置し、その四方は()山脈()大河(西)大森林()に囲まれ自然の要塞と化しており、そのそれぞれを挟んで計5つもの国と国境を接している。そしてその詳細は、

 

アルセルフ北西、ステラス山脈の反対側に位置し豊富な資源と巨大な永久凍土、常緑森林地帯(タイガ)を有する神聖グランツィーソ帝国

 

アルセルフ北、ステラス山脈の東端にある海岸平野に首都を置き強力な海軍力を保有するディルジェ皇国

 

アルセルフ西前、大陸平野に存在する幾つかの城塞都市を纏める多民族国家であり大陸で唯一共和制をとる自由都市群スフィア

 

アルセルフ南西、大森林に接する大陸平野に首都を置く獣王が治めるフランタル王国

 

アルセルフ南、大森林の更に奥に存在する世界樹(ユグドラシル)の下に存在するハイ・エルフ(王族)を頂点としたエルフ達の国であるアレグリア王国

 

の、人族、獣人族、エルフ族の単一国家が3ヶ国、多種族国家が2ヶ国の計5ヶ国である。因みにアルセルフは多種族国家であり政治形態は絶対王政を採用、文明レベルは凡そ中世、16世紀に相当する。(魔法がある為一部では18世紀レベルに達している部分もある)

 

「友好関係のある『レヴェリア』『スフィア』『フランタル』『アレグリア』には外務省が使節を派遣して帝国との仲介を行っておりますが長年敵対関係にある『グランツィーソ』と大陸西方にある国々にはどうにも……」

「ふむ……だがどうにかならんか?近年グランツィーソの動きが活発化し怪しいと報告は受けておるが」

 

アルセルフ王国と神聖グランツィーソ帝国との関係は悪い、それには訳がありその理由のひとつとして『グランツィーソが大陸北方に存在するから』と言うものがある。つまり大陸北方にあるグランツィーソは年間を通して気温が低く更には永久凍土に大地のその7割が閉ざされている為その食糧事情はあまり芳しくなく、その上国土に面する海の大半が夏場以外は港が氷に覆われてしまう為に彼らは遥か昔から『豊かな土壌(豊穣の大地)』と『凍らない海(不凍港)』を持つアルセルフの土地を狙ってきているのだ。その証拠に過去に幾度となく彼らは南下政策を推し進める為アルセルフ遠征を繰り返しておりその都度アルセルフは防衛になんとか成功しているものの毎回数多くの犠牲者が生み出されている。

 

「……難しいでしょう。そもそもかの国とはあのステラス山脈を間を挟んでおり山越えが必須、一部比較的なだらかな経路はありますがディルジェとの国境にも近く緩衝地帯として三国が常に目を光らせておりますし情報の伝達はどうしても時間が掛かります」

「ふむ……」

 

ラシアン卿と外務大臣がそう言うがユーサーは何処か不安気に相槌を打つ。今長年王宮の混沌とした陰謀を切り抜けてきた百戦錬磨の名王の胸中にはなんとも言えぬ不吉な予感が漂っており、更にその予感により彼の半生は生きてこられたのだと本人も自覚している為その予感を否定する事も出来ない。だがどうしても現実的解決策は見つからなかった。

 

「如何致しますか?」

「北部前線基地と周辺の北方貴族達に注意の呼び掛けを布告しておこう。せめて即応できるように、な。外務省はできるだけ早く友好国への仲介を進めよ、……最悪、グランツィーソとの戦争もあり得る」

Yes,Your Majesty(御意、承りました陛下)

 

ユーサーは現在打てる最善の手を打つ、だがこの時王の、王国の懸念は決して間違ってはいなかったのは確かであった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

  【アルセルフ王国の権力構造】

 

        国王

        |

      宰相(宰相府)

        |

  ┌─────+─────┐      

  |      |     |  

外務卿   内務卿   軍務卿

外務大臣  内務大臣  陸軍大臣

 |    財務大臣  海軍大臣

外務省   法務大臣   |

        |    軍務省   

        |    警務省

      内務省

      大蔵省

      法務省

      

                                    




『ハーフェンシュダッド』は『ハーフェン』がドイツ語で『港』を表し直訳すると『シュダッドの港』となります。
神聖グランツィーソ帝国のモデルはロシア帝国です。ただこの国はロシア帝国ほど畑で人は取れないですね。あとグランツィーソからして東にあるディルジェより隣国であるアルセルフが狙われる理由は山脈の僅かな切れ目が丁度アルセルフ側にありグランツィーソが求めた条件全てを満たしているからでもあります。あと(帝国には)何かと因縁もあったそうです。


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