チョイワルビッキーと一途な393 (数多 命)
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筆休め的な番外編
やっちまった番外編


本編じゃなくてごめんなさい。
でも『fate』知ってる人なら一度は考えちゃうと思うのです。
ある程度書けてすっきりしたのと、もったいない精神が発動してしまったので曝します。


――――人理焼却。

裏切り者『レフ』こと『レフ・ライノール』が所属する勢力による、まだ解明されていない『悪意』による人類の実質的滅亡。

これを受け、人理継続保障機関『カルデア』は、所長『オルガマリー・アムニスフィア』の指揮の下。

最後のマスターと、彼が召喚した数々の偉人・英雄『サーヴァント』を中心として、事態解決へ向け行動している。

さて、そんな人類の命運を偶然にも背負ってしまった少年『藤丸立香』には、一つ気がかりなことがあった。

 

「んー・・・・!」

 

自室のベッドで伸びをした彼は、まだ目覚めきっていない目をこする。

そして何気なく部屋の隅に目をやれば。

 

「・・・・」

「うっわぁ!?」

 

壁に背中を預け、じぃっとこちらを凝視している少女と目が合った。

彼女は『サーヴァント』。

誰もが耳にしたことがある史実の偉人や神話の英雄を、人間が扱える範囲に押し込めて具現化させた存在だ。

クラスはバーサーカーで、名前は『ファフニール』。

全てが始まった特異点Fにて、立香が初めて召喚したサーヴァントでもある。

驚いて声を上げる立香とは対照的に、ファフニールは沈黙を保っていたが。

やがて静かに立ち上がると、何事もなかったように出て行った。

――――立香が抱えている、悩み事まで届かない気がかり。

それは、ファフニールに関してのことだった。

『バーサーカー』とは、高火力をたたき出す代わりに狂暴なことで有名なクラスだと聞かされ、初めこそ多少警戒していた。

が、いざ付き合ってみれば、むやみやたらと暴れないし、立香以外の頼み事もちゃんと聞き入れてくれるし。

加えて、レフ裏切りのショックから立ち直ったオルガマリーの体調を(やや粗暴な手段だが)気遣った一件が後押しし。

『意外といい子』というのが、立香始めとしたカルデアメンバー共通の認識だった。

 

(そもそも、あのままだったら消えてた所長を助けたのも、切欠はあの子だったもんなぁ)

 

着替えた立香は、朝食を求めて食堂へ向かいながら、感慨深く思い出す。

特異点Fにて、無防備にレフに駆け寄ろうとしたオルガマリーの首根っこを引っつかんで阻止したのは、ファフニールだった。

セイバー(アーサー王)から大怪我を負わされたと思えない万力で引き止められている間に、レフの裏切りが露見。

そして、レイシフトに適正がなかったはずのオルガマリーが特異点にいる真実が語られた。

その時咄嗟に、立香が回収対象であった冬木の聖杯に願い、カルデアに無事帰還している次第である。

腕っ節は言うまでも無く高火力。

諸事情(デミ・サーヴァント)故に経験の乏しいマシュしかいなかった当時から、ずっとレギュラーにい続けるくらいには頼もしい存在。

不器用ながらも仲間への気遣いも文句なし。

そんな『優良物件』のバーサーカーの、何が気になるかと言えば。

 

(言葉が通じないから、ファフニールの人となりが分かりにくい・・・・)

 

それに尽きた。

言葉が通じないといっているのは、単純にファフニールが喋れないことに由来している。

意思疎通自体は可能であり、現にこちらの指示をきちんと聞いてくれるし。

向こうが何か伝えたいときも、身振り手振りで表現するので分からないわけではない。

だが、魔術師としてすら未熟な自分の呼び声に、こうやって答えてくれているのだ。

『力を貸してください』と頭を下げている側としては、その辿ってきた足跡を知りたいところではあるのだが。

肝心の本人が喋れない上、そのことを話題に上げると何となく嫌そうな顔をするために。

第一特異点『オルレアン』を無事攻略した今でも、その正体は分からず仕舞いである。

そもそもファフニールという名前でさえ、オルレアンで出会ったセイバー『ジークフリート』が口走ったから判明したのであって。

それまでは単にバーサーカーとしか呼称されていなかったのだ。

 

――――バーサーカー『ファフニール』は、北欧神話の邪竜の霊格を借りた擬似サーヴァントである。

 

カルデアに数多くある蔵書にも、それらしき記述が見受けられないことが後押しして。

立香や英霊達はもちろんのこと、所長を筆頭にしたバックアップ陣も、今のところはそういう結論に至っている。

 

(結局時間に任せるしかないのかなぁ・・・・ん?)

 

自信なさげにため息をついた立香は、賑やかな声に気付いた。

いや、これは賑やかと言うより、怒鳴りあっているような・・・・?

 

「ぁ、先輩!!」

「マシュ?」

 

随分慌てた様子で食堂から出てきたのは、頼れる『後輩』にして立香最初の相棒(サーヴァント)『マシュ・キリエライト』。

 

「た、大変なんです!とにかく中に!」

「あ、ああ」

 

彼女は言うなり立香の腕を引っつかみ、食堂へ連れ込んだ。

 

「――――ですからッ!!邪魔をするなと言っているのです!!」

 

中へ入ったことで、騒ぎ声がよりはっきり聞こえる。

 

「妻たる私が旦那様の隣にいるのは当然ッ!!貴女がやっているのは単なる妨害であることを理解しているのですかッ!?」

「なあ、おい。ちったあ落ち着けや」

「外野は黙ってくださいッ!」

 

特に大きく喚いているのは、清姫。

日本は和歌山に伝わる昔話『安珍と清姫』に出てくる、悲恋のヒロインだ。

バーサーカーのクラスらしく、立香のことを『安珍』や『旦那様』と慕う愛らしさと裏腹に危険を秘めており。

特に『嘘』に対して過剰すぎるほどの攻撃性を示す。

そんな彼女がキャスター『クーフーリン』に羽交い絞めされながら糾弾しているのは、件のファフニール。

 

「っは、まさか!何も分からぬ畜生の振りして、旦那様の気を引こうと!?」

 

清姫は、天啓のようにひらめき指を突きつける。

 

「グルルルル・・・・!」

「ああんもうッ!嘘ついてないのがまた厄介だことッ!」

「分かるのか・・・・」

 

同じくアーチャー『エミヤ』にホールドされているファフニールは唸るだけだったが、嘘か否かは判別できたらしい。

清姫は実に悔しそうに歯を向き、ファフニールを睨みつけていた。

 

「お二人とも、落ち着いてください!」

「そうだよ、一旦深呼吸しよう」

「旦那様ッ!」

 

言い合いが一段落したのを見計らい、マシュと一緒に間に入って諌めれば。

クーフーリンの拘束を解いた清姫が立香に飛びつき、さめざめと嘆いた。

 

「一体何があったんだ?こんな朝から」

「昨晩そこの龍モドキが邪魔してきたんですうううううう!」

 

誰ともなく聞いた質問に、清姫が泣きながら答えるには。

昨日の夜。

当然のように立香の部屋に侵入し、夜這いをしかけようとしたのだが。

その日に限ってファフニールが部屋にいて、あっという間に追い出されてしまったという。

何度か再侵入を試みたが、ファフニールの守りを中々突破出来ず。

結局、泣く泣く自室へ戻ったのだとか。

 

「だから部屋にいたのか・・・・」

 

立香は清姫の頭を撫でつつ、今朝の理由を密かに納得するのであった。

 

「まあ、嬢ちゃんにゃいい薬じゃねーの?坊主のヤツ、お前が寝床にいる(たんび)に冷や冷やしてるみたいだしな」

「なんですってー!?」

「ああ、ほらほら!キャスニキも煽らない!」

 

クーフーリンのからかいに腕を振り上げる清姫を、何とかなだめて。

次はファフニールのところへ向かった。

 

「清姫の言っていることは本当かい?」

 

問いかければ、こっくり頷く。

睨む清姫に睨み返しながらも、しっかりした返事だった。

 

「・・・・私が思うに」

 

ここで、成り行きを見守っていたエミヤが口を開いた。

 

「この子なりに、マスターを気遣った結果ではなかろうか?」

「ファフニールなりに?」

「ああ」

 

一度頷いて、エミヤは続ける。

 

「君はオルレアンでの激闘を終えたばかり。時間は限られているとは言え、もう少し休まねば次に響くだろう」

 

と、清姫に目をやって、

 

「もちろん、長年待ち望んだ『安珍』に出会えた清姫の気持ちを否定しているわけではない。だが、君は人類の存亡を担う最後のマスター。丁重に扱うくらい当然のことと言えよう」

 

エミヤの冷静な分析を聞いたお陰で、騒いでいた本人達や集まっていた野次馬達も大人しくなった。

みんなが落ち着いたのに安堵しながら、立香は少し考えて。

まずは清姫に歩み寄る。

 

「清姫、エミヤが言ってくれているとおり、君が来てくれて嬉しいのは間違いない。俺の呼び声に答えて、力になってくれて、すごく頼もしいと思っている」

「・・・・はい」

 

当然ながら、嘘を言っていないのは分かるらしい。

清姫は小さく頷く。

 

「俺が、清姫が一緒の布団にいて驚くのは、寝ぼけてとんでもない事をしていないか心配になるからだ。清姫は嫌がらないだろうけど、やっぱり男としてはその辺しっかりしたいしね」

 

だけど、と。

清姫の頭を撫でる。

 

「本当に一緒に寝るくらいならいいよ、その方が俺も安心できるから」

「・・・・旦那様(ますたぁ)がそうおっしゃるのでしたら」

 

安珍と慕っているだけあって、立香の言うことは素直に聞いてくれる。

この健気さもまた、立香が清姫を好ましく思う要因の一つだった。

『ありがとう』ともう一度頭を撫でてから、再びファフニールの下へ。

 

「というわけで、清姫もこう言ってくれている事だし。次からは追い返したりせずに、部屋に入れてあげてくれるかな?」

「ウゥ・・・・」

 

立香の言い分も分かるらしいが、やはり清姫への警戒は解けないらしい。

手出しこそしないものの、疑惑の目を向けている。

そんな彼女を見て、立香は苦笑い。

 

「大丈夫、清姫は約束を守ってくれるし。何より俺が仲良くしたいと思っているんだ」

 

もちろん、ファフニールとも。

笑いかけながら、今度はファフニールの頭を撫でてやった。

始めこそ不服そうにしていた彼女だったが、ほどなく立香の案が妥当だとでも思ったのか。

小さく頷いて、了承を伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

「――――なるほど、それで今朝騒がしかったのね」

 

諍いをどうにか収めて、朝食を取った後。

立香はまだ食堂に来ていないというカルデアの首脳陣達へ食事を届けがてら、今朝の話をした。

話を聞き終えたオルガマリーは、野菜スープ(エミヤお手製)を飲みながらどこか納得している。

食堂の喧騒は、この執務室にまで聞こえていたらしい。

 

「それにしても、バーサーカー同士の諍いなんて。よく収められたねぇ」

「そんな、俺はエミヤに乗っかっただけですよ」

 

感心して同じく野菜スープを啜るのは、カルデア医療部門のトップ『ロマニ・アーキマン』。

『ドクター・ロマン』の通称で親しまれている、ゆるふわ系のちょっとダメなエリートさんである。

 

「それにしてもファフニール、か」

「おや、やっぱり気になる?」

 

どこか感慨深く呟くオルガマリーへ、気さくに話しかけるのは『レオナルド・ダ・ヴィンチ』。

カルデアに召喚されたサーヴァントの一人で、普段はオルガマリーやロマニと一緒にサポートへ回ってくれている。

なお、一応男性なのだが。

『モナリザが好きだから』という分かるような分からないような理由で、女性の姿をとっている。

もちろん顔はモナリザ似なので、『ダ・ヴィンチちゃん』と呼んでいる。

 

「そりゃあ、ね。ほら、所長たる私を救助した功労者なわけだし?多少は気にかけてあげないと」

「素直に感謝してるって言えばいいのにー」

「あのねぇ・・・・!」

 

いつものように、ダ・ヴィンチがからかい始めたのを苦笑いで見ていると。

 

「藤丸君は、ファフニールをどう思う?」

「どうって・・・・」

 

ふと、ロマニに問いかけられて。

立香は少し考える。

が、あまり悩むことなく答えは出た。

 

「・・・・狂化で上手く話せないだけで、根はいい子だって思っています」

「実はとんでもない大量殺人犯でもかい?」

「それを言うなら清姫だって危ない子ですよ」

 

オルガマリーを一通りからかったのか、今度はこちらへ身を乗り出してくるダ・ヴィンチ。

立香は苦笑いで首を横に振った。

 

「これからもあの子達みたいな、ちょっと癖のあるサーヴァントが来るかもしれないし。だったら俺にできることは、その人達を理解して、分かり合うことだと思うんです」

「・・・・そっか」

 

立香自身からすれば穴だらけな答えだったが、ロマニにとっては好ましい答えだったらしい。

ロールパンを頬張りながら、満足そうに頷いていた。

 

「まあ、腹パンはもう勘弁願いたいところね・・・・」

「だったらキリのいいところで休んだりしないとね、あの子意外と見てるんだよ」

「ボクも気をつけないとなぁ」

 

笑い出した大人達に釣られ、立香もまた笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス:バーサーカー

真名:ファフニール《???》

年齢:16

性別:女

身長:157

体重:データが破損しています

属性:秩序・悪

詳細:人理焼却に伴い生まれたらしい擬似サーヴァント。

言語能力は乏しいが、身振り手振りなんかでコミュニケーションは可能。

ちゃんとお願いすれば、荷物運びなんかの雑用も手伝ってくれる。

 

 

ステータス

筋力 B

耐久 A++

敏捷 C

魔力 E

幸運 E

 

 

宝具

唱えど届かぬ微かな祈り(デザイアー・オブ・ファフニール)

対軍宝具 A

敵全体に大ダメージ&確率で呪い付与&自身に呪い付与(デメリット)(3ターン)

 

 

クラススキル

狂化 B

気配遮断 A

 

保有スキル

怪力 A

自身の攻撃力をアップ(3ターン)

 

無辜の怪物 A

自身に毎ターンスター発生効果(3ターン)&ターゲット集中(1ターン)

 

感覚遮断 C

弱体解除&クリティカル威力ダウン(デメリット)(3ターン)

 

 

霊基

第一段階:黒いコートに龍の手足を模した籠手具足、頭のヘッドギアは角っぽい。顔には左目と口元を隠す仮面。

第二段階:上着が脱げ、籠手具足から龍っぽさがなくなる。左目の仮面が外れ、呪いか何かで真っ黒になった肌が露出する。

第三段階:服装が体に密着したスーツに変わり、マフラーが靡く。口元の仮面は付いたまま、真っ赤に染まった左目が爛々と光っている。

最終段階:周囲の黒い手を警戒するように咆える茶髪の少女。その後ろから黒髪の少女が抱きしめ、肩に顔を埋めている。

 

 

台詞

戦闘開始

「ウウゥゥゥウウウゥゥ・・・・!」

「ドケェッ!!!」

 

スキル使用

「グヮウッ!」

「ガルル」

 

カード選択

「ウ」

「グルル・・・・」

「ウウゥ!」

 

宝具カード

「コロ、ス・・・・!」

 

攻撃時

「ゥオオオオオ――――ッ!!!」

「ガアアアアア!ガアアアアアっ!!」

 

EXアタック

「ッガアアアアアア!!」

 

宝具

「壊レロ、砕ケロォ・・・・消エロオオオオオォォォォ――――!唱えど届かぬ微かな祈り(デザイアー・オブ・ファフニール)ッッ!!!」




と、いうわけで。
サーヴァントネタでした。
続きはないのでご了承ください。
ではでは。


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やらかしちまった番外編

FGO続いてしまった(
本編はもうちょいお待ちを・・・・。


『聖晶石』というアイテムがある。

一つ一つは大した力を持ってはいないが、複数集まると英霊召喚の触媒として使用できる。

人理が焼却され、外部からの供給が絶望的となった今では、貴重な資源の一つだ。

レイシフト先のそこかしこに落ちており、見つけたそれらを持ち帰ることもまた、立香達のノルマだった。

 

「よし」

 

さて。

そんな聖晶石がある程度溜まったこともあり、今日は何度目かの召喚を行うことになった。

もちろん英霊が来てくれることに越したことはないが。

『概念礼装』というサーヴァントを強化してくれるカードも、需要があることにはある。

捧げた聖晶石は三十個、一度に十回サークルを起動できる数だ。

 

「先輩、リラックスですよ」

「ありがとう、マシュ」

 

召喚サークルの前で意気込む立香は、マシュの声援を受けながら手をかざした。

令呪が赤く輝き、呼応するように聖晶石も点滅する。

やがて石の表面に皹が入り、次々割れていく。

 

「来るわよ!」

 

付き添っていたオルガマリーの声を合図にするように、サークルから光があふれ出す。

まず来たのはやはり概念礼装。

『黒鍵』や『ルーの車輪』などの見慣れたものが出てくる。

と、金色の礼装が現れた。

 

「プリズマコスモス!当たりだよ藤丸君、こいつは頼りに成る礼装だ!」

 

同じく一緒にいたロマニが顔をほころばせたことから、いいものが来たらしい。

まだ召喚が続いているので、解説は後回しになってしまうが。

と、今度は打って変わって激しい魔力の奔流。

何度も感じたからこそ分かる。

 

「サーヴァントが来る・・・・!」

 

光の色は金色。

霊格は期待していいだろう。

金色が爆ぜて、サークルの中央にカードが現れる。

裏地から読み取れるクラスは、セイバー。

やがてカードが裏返ると同時に、英霊がその姿を現した。

 

「・・・・ぁ」

 

まず目を引いたのは、流れるような長い髪。

腰にはセイバーらしく刀を携えている。

纏った衣服は、和風のような洋装のような、不思議な印象を受けた。

目蓋をあけ、凛とした目元を見せた彼女は、立香を見つめて口を開く。

 

「セイバー『スサノオ』、貴殿の呼び声に応じ参上した。人類守護は我が努め、この刃存分に使ってくれ」

 

はきはきと自信に溢れた声を聞いて、改めて悟る。

このサーヴァントが秘めた力を。

 

「スサノオって確か、日本の神霊じゃなかったかしら」

「ステンノさんやエウリュアレさんといい、やはり人理焼却が関係して・・・・?」

 

真面目に考察するオルガマリーやマシュの隣で、立香とロマニは口をぱくぱくさせていた。

 

「せ、先輩?」

「ロマニもどうしたのよ」

 

怪訝な顔で問いかける女性陣を他所に、二人は目の前のサーヴァントへ指を突きつけて。

 

「「風鳴翼さん!?」」

 

心底驚いた顔をしていた。

苦笑いを浮かべたセイバーは、ワケが分からず首をかしげるオルガマリー達へ目を向ける。

 

「分かっている方もいるようなので白状しますが、私はかの三貴神の一柱の霊格を賜った擬似サーヴァントです。仔細は後ほど説明しますので、今はそれだけ留意していただけると」

「え、ええ、分かったわ」

 

擬似サーヴァントといわれ、一瞬カルデアの古参の一人が頭を過ぎったが。

召喚はまだ続いているので、サークルの上から降りてもらって。

ひとまず後ろの方で待機してもらう。

サークルは再び金色に輝く。

今度のクラスはランサーのようだ。

 

「すごい、高位のサーヴァントが二体も・・・・!?」

 

興奮冷めやらぬロマニの声を聞きながら、立香は光から目を庇った。

 

「・・・・?」

 

光が収まったのを確認し、恐る恐る目を開ければ。

 

「――――ランサー『ヴァルキリー』、召喚に応じて来たぜ」

 

まず目を引いたのは、燃えるような赤い髪。

一見鳥のようにも見える前髪の間から、力強い瞳が見える。

 

「まあ、正確には殻を借りたパチモンだけどな。腕っ節は期待していいぞ?マスターさん」

 

オレンジと黒を基調とした、密着したスーツを纏った彼女は。

大振りの突撃槍をかついで、不敵な笑みを浮かべた。

 

「また擬似サーヴァント・・・・」

「また?あたしの他に誰か・・・・」

 

二回続けての擬似サーヴァント。

驚くマシュの言にひっかかりを覚えたらしいランサーが、視線を動かせば。

静かに微笑を称えるセイバーと目が合った。

 

「おおおおおおお!翼じゃんか!なんだ、お前も来てたのか!」

「・・・・ええ、会えて嬉しいよ」

 

急に弾ける様な笑顔になったかと思うと、まるで旧友に会った様な態度で近寄る。

そして力強く握手を交わした。

・・・・どうやら、霊格を借りている彼女達は知り合いのようだ。

 

「一つ追加だ、マスター」

 

ランサーは言うなり、セイバーと肩を組む。

 

「あたしと翼、両翼そろったあたし達なら、千人どころか万人力だ!大いに頼ってくれや!!」

 

そして、自信たっぷりにそういうのだった。

実際二人が並んでいると、何ともいえないフィット感を感じて仕方が無い。

きっと生前は自他共に認めるコンビだったのだろうと、マシュが頼もしく見つめていると。

 

「嘘、だろ?こんなことってあるのかよ・・・・!?」

「ううううぅぅぅぅぅ・・・・・・!」

「ドクター?」

「藤丸もどうしたのよ?」

 

立香は乾いた笑みを浮かべながら嬉しそうに震え、ロマニにいたってはボロボロ涙を零している。

どういうわけだか、二人の様子が先ほどからおかしい。

マシュが首をかしげ、オルガマリーが怪訝な顔で問いかけた直後。

 

「「―――つ」」

「つ?」

「「ツヴァイウィングだああああああああああああ!!!!」」

 

ひゃっほーう!だなんて、文字通り飛び上がって喜ぶ二人。

始めはそれぞれ飛び跳ねるだけだったが、最終的には互いの手を取って踊りだしてしまう。

何が何だか分からないマシュはおろおろし、オルガマリーはどこか冷めた目で身を引いた。

 

「まあ、まずは説明だよな」

「ご両人も、どうか落ち着いて欲しい」

 

いよいよ騒がしくなった面々へ、原因である二人がなだめにかかる。

 

 

 

 

少女説明中・・・。

 

 

 

 

「なるほど、これが噂のシンフォギアなのね」

 

スサノオとヴァルキリー改め、翼と奏の話を聞き終えたオルガマリーは、二人をまじまじと見つめた。

翼の格好はかけ離れてしまっているらしいので、奏の方を主に観察している。

 

「聖遺物のほんの小さな欠片から、歌を介して力を引き出す・・・・先輩の故郷で、そんな技術が生まれていただなんて」

 

マシュもかなり驚いているようだ。

 

「あたしからすれば、二課が国連所属になってんのにびっくりだよ。弦十郎の旦那も大変だなぁ」

「司令だけではないよ、仲間たちも一緒になって戦った結果さ」

「へぇ?」

 

感慨深く零された言葉に、翼はどこか誇らしげに返す。

 

「まあ、この話は後でゆっくり」

「ははっ。おう、楽しみにしてるぜ」

 

翼が興味を持った奏をなだめて、話は一段落した。

 

「あ、あの!」

 

次に前に出たのは立香。

 

「俺、お二人のファンで!だから、一緒に頑張ってもらえるのは本当にありがたいです!」

 

喜色満面ではあったが、どうにか押さえ込んで背筋を正す。

 

「どうしても未熟者ですが、俺も精一杯頑張ります!どうか、よろしくお願いしますッ!!」

「おう!未熟だろうがベテランだろうが、やる気無ぇよりゃ何倍もマシだ!頑張ろうな!」

「こちらこそよろしく頼むよ」

 

頭を下げた立香へ、好反応を見せた二人は。

それぞれ手を差し出して、硬い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて。

 

 

 

 

 

 

 

 

早速二人の実力を測るべく、手ごろな難易度の特異点へレイシフトすることになった。

ボロ泣きから復帰したロマニも加えて話し合った結果、第二特異点であるローマへ行こうと言う話しに。

そこで、パーティ編成はどうするかという話になったが。

これはあまり悩むことはなく、すぐに決まった。

今回は単なる腕試しの面が強いため、あまり力まなくともよかったからだ。

と言うわけで、レイシフトルーム。

 

「よろしくな、センパイさん?」

「はい、頑張りましょうね」

 

準備を終えた各々が、出発前にわずかばかりの談笑を楽しんでいた。

連れて行くのは、翼と奏にマシュ、それから・・・・。

 

「マスター、一人足りないようだが・・・・?」

「ああ、さっきスタッフさんから連絡があって、ちょっと遅れるって」

 

『多分そろそろ・・・・』と言いかけた時、扉が開く。

 

「ああ、ファフニール。来てくれて・・・・?」

 

最後のメンバーである彼女に声をかけようとして、ふと気付く。

この前霊基再臨して露になった両目が、仰天に見開かれていた。

視線を先を追ってみると、同じく驚いているらしい翼の姿。

奏はそんな相棒の様子に怪訝な顔をしていたが、やがて何か思い当たったのか愕然とする。

突然現れた一種の緊張に、立香は首を傾げようとして。

早くも沈黙を破ったのは、翼のほうだった。

 

「立花?立花じゃないか!?」

「えぇっ!?翼さん、この子知っているんですか!?」

 

次いで、立香が驚愕を露にした。

マシュも目を見開いて、翼とファフニールを何度も見比べている。

無理も無い、第三特異点までを攻略した長い間。

正体不明のままだったサーヴァントの正体を、新入りが知っているのだから。

翼の顔は驚いてはいるこそ嬉しそうで、懐かしそうに目を細めていた。

 

「・・・・ウゥ」

 

一方のファフニールは、どこか怯えた様子で後ずさった。

その反応に翼は一瞬眉をひそめたものの、すぐに微笑を湛える。

ゆっくり歩み寄って、頭に手を伸ばす。

 

「大丈夫だよ。見た目こそ変わっているが、お前はお前だろう?」

「・・・・ァゥ」

 

優しく頭を撫でながら、ファフニールに話しかける。

 

「今日から私も、ここで世話になることになった。よろしくな」

「・・・・」

 

最後にそう締めると、ファフニールは黙って頷いた。

 

「翼さん、お知り合いなんですか?」

 

マシュがおずおず話しかけると、翼は晴れやかな笑みを浮かべる。

 

「ああ、誇れる後輩の一人だよ」

 

自信満々に言い切って、またファフニールの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス:セイバー

真名:スサノオ《風鳴翼》

属性:秩序・善

身長:168

体重:情報が公開されていません

詳細:人理焼却に伴い生まれた擬似サーヴァント。

天羽々斬を振るっている縁から、三貴神の一柱『スサノオ』の霊格を借りて召喚されている。

普段は歌姫をやっており、とある『アイドル』とは天と地ほどの差がある。

 

 

ステータス

筋力 B

耐久 C

俊敏 A

魔力 E

幸運 D

 

 

宝具

絶刀・天羽々斬(ゼットウ・アメノハバキリ)

無敵貫通&敵単体に大ダメージ

 

 

クラススキル

対魔力 E

騎乗 C

 

 

保有スキル

防人 B

自身の防御力をアップ&精神弱体耐性アップ(3ターン)

 

歌女 A

味方全体の攻撃力をアップ&味方全体のクリティカル威力をアップ(3ターン)

 

心眼(真) B

自身の防御力をアップ&回避状態付与(2ターン)

 

 

霊基

第一段階:『不死鳥のフランメ』の衣装から、ヒラヒラを取り払った状態。日本刀を携えた姿がカッコイイ。

第二段階:『不死鳥のフランメ』の衣装完全体、刀がアームドギアのそれになる。

第三段階:三期ギアに『不死鳥のフランメ』のひらひらを纏った状態。

最終段階:『逆光のフリューゲル』の衣装で歓声に応える姿、背後に心当たりのある誰かがいる。

 

 

台詞

戦闘開始

「いざ参る・・・・!」

「我が刃、ご覧に入れよう!」

 

スキル使用

「羽ばたき鋭く・・・・!」

「風斬る如く・・・・!」

 

カード選択

「承知!」

「いざ!」

「ええ!」

 

宝具カード

「防人の刃、受けてみよッ!!」

 

攻撃時

「せいやッ!」

「はッ!」

 

EXアタック

(せい)()ッ!(えい)ャッ!!」

 

宝具

「絶なる刀、天を駆け・・・・羽ばたき以って、斬り開くッ・・・・・『絶刀(ゼットウ)天羽々斬(アメノハバキリ)』ッ!!」

 

 

 

 

 

 

クラス:ランサー

真名:ヴァルキリー《天羽奏》

属性:秩序・善

身長:169cm

体重:情報が公開されていません

詳細:人理焼却に伴い生まれた擬似サーヴァント。

グングニル(ガングニール)の担い手だった縁から、北欧神話に出てくるオーディンの娘達『ヴァルキリー』の霊格を借りている状態。

生前は翼とユニットを組んで、歌手活動をしていた。

 

 

ステータス

筋力 B

耐久 A

俊敏 C

魔力 E

幸運 E

 

 

宝具

尽きて繋ぐ明日への奏で(レイクイエム・オブ・ガングニール)

敵全体に大ダメージ&味方のNPを少量チャージ&自身の戦闘不能(デメリット)

 

 

クラススキル

対魔力 E

 

保有スキル

歌女 A

味方全体の攻撃力をアップ&味方全体のクリティカル威力をアップ(3ターン)

 

仕切り直し B

自身の弱体解除&体力を少量回復

 

薬害 B

自身にスター集中状態中を付与(4ターン)

 

 

霊基

第一段階:お馴染みガングニールのギア、から、腰のパーツを取り払ったもの。

第二段階:お馴染みガングニールのギア。

第三段階:『逆光のフリューゲル』の衣装に、ガングニールの装甲を取り付けた姿。

最終段階:『逆光のフリューゲル』の衣装で歓声に応える姿、背後に心当たりのある誰かがいる。

 

 

台詞

戦闘開始

「いいぜ、こいよ」

「あたしの歌を聞けーッ!」

 

スキル使用

「これだな」

「腹いっぱいもっていけ!」

 

カード選択

「ああ」

「いいぜ」

「よっしゃ!」

 

宝具カード

「んじゃあ、ま・・・・派手に行くかァッ!!」

 

攻撃時

「おらァッ!!」

「くらいなッ!!」

 

EXアタック

「そうら遠慮すんなッ!」

 

宝具

「心と体、全部空っぽにした・・・・これがあたしの一切合財ッ!!『尽きて繋ぐ明日への奏で(レイクイエム・オブ・ガングニール)』ッッッ!!!!」

 

戦闘不能時

「ああ、腹減ったぁ・・・・」

「後は任せた・・・・!」




カルデアにきちまいました、ツヴァイウィング。

翼さんは剣士勢と手合わせ三昧もいいけど。
霊基の影響でキャス狐を何度も『姉上』と呼びそうになって『担任をお母さんと呼び間違えちゃうアレ』みたいな羞恥心でもだもだするのもいいと思うのです。

奏さんは兄貴あたりと仲良くなりそう。
お酒が入ったら一緒に肩組んで横に揺れるみたいな。

まあ、仔細はみなさんのたくましい想像力で補ってください(丸投げ


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続いちまった番外編

鯖未来さんのステータスネタを、皿無し河童様から頂いたことで生まれた話。
元ネタより大分乖理してしまいましたが、気に入ってくれると、いいなぁ。←
ステータス提載は次回になってしまいますが、大変参考になりました。
ご協力ありがとうございます。


目を開ければ、一面の荒野。

夜明けとも夕暮れともつかない、橙と藍が混ざる空の下。

どこまでもどこまでも広がっている。

 

「・・・・?」

 

歩き出そうとして、ふと。

足に何か当たる。

何かと見下ろしてみれば、死体が転がっていた。

 

「――――ッ!?」

 

ぎょっと後ずさる。

また足に何かぶつかり、振り向けば。

また別の死体。

頭が混乱する中、周囲が見えるようになる。

死体、死体、死体。

自分の周囲に、所狭しと屍が転がっていた。

 

「・・・・!!」

 

誰か、誰か。

生きている人は。

懇願しながら、駆け出す。

大きく息をしながら、何度も屍を踏み越えながら。

死体以外の、自分以外の人間を。

必死になって探し回った。

と、何かが聞こえる。

 

「―――――」

 

歌だ。

誰かが歌を歌っている。

藁を掴むような思いで、走る。

もう屍を踏むことすら気にしなくなった足取りで、近づいてみれば。

一人の少女が座り込んでいた。

ごろごろ転がっている屍達も、そこだけを避けているように思う。

円形の中央、か細い声で子守唄が送られる先。

膝の上で泥の用に寝入る、別の少女がいた。

座っている方との大きな違いは、とにかくボロボロであること。

服があちこち裂け、見える肌と言う肌に痛々しい傷が刻まれている。

服、肌関係なく、全身に赤黒いシミに塗れていて。

それが彼女の血なのか、返り血なのか、今の自分には判断がつかなかった。

そんな傷だらけで、疲労も限界に達しているだろう少女へ。

座っている少女は、優しく、優しく、穏やかに。

子守唄を紡ぎ続ける。

眠っている彼女が、少しでも安らかであれますように。

聞こえる歌声には、そんな願いが込められているように思えた。

 

「・・・・ッ」

 

目の前の光景に、泣きそうになる。

どうしようもなく胸が締め付けられて。

悲しくて、切なくて。

 

「――――ァア」

 

涙が溢れそうになったとき、また別の声。

子守唄とは違う、危機感を抱く響き。

ぎょっとなって振り向くと。

なんと屍が立ち上がっていた。

一つだけではない、二つ、三つと。

ゆらゆら力なく立ち上がる。

だらしなく開けた口と虚ろな目に、殺意と敵意を込めて。

自分ではなく、少女達を睨んでいた。

 

「オオオォ・・・・!」

 

一体、また一体。

手を伸ばして進み始める。

狙いはもちろん少女達。

両手の指なんてとっくに超えた数が、か弱い彼女達に襲い掛かる。

肩を掴む、腕を掴む。

抵抗むなしく引き剥がされる。

傷だらけの少女はそのままに、座っていた少女は引き離される。

屍が群がる、眠り込んでいる彼女に牙を立てる。

 

「響イイイィ――――ッッッ!!!!」

 

飛び散った鮮血に、悲痛な声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旦那様!?旦那様ァッ!!」

「先輩!どうしたんですか!?先輩!!」

 

目が覚める。

飛び込んできたのは、心配そうな、泣きそうな顔で覗き込んでいる二人。

 

「ま、しゅ?きよひめ・・・・?」

「これ、飲んでください」

「ああ・・・・」

 

手渡された水を一気に煽れば、熱っぽかった喉がすっきりした。

 

「うなされていましたよ。清姫さんが泣きながら駆け込んできたときは何事かと思いました」

「そっか、心配かけたね」

 

はらはらと涙を零す清姫の頭を撫でると、彼女は懺悔するように俯いてしまう。

 

「申し訳ありません・・・・私がついていながら・・・・!」

「いいんだよ、ありがとう」

 

縋りつき泣き出す彼女を慰める方法なんて、寝起きの頭では上手いこと思いつけなかった。

 

「何か良くない夢を見ていたんですか?」

「・・・・多分、そうだと思う」

 

正直覚えていない。

覚えていないけど、一つだけ確かなことがある。

 

「悲しくて、切なくて・・・・残酷で・・・・そんな夢だった気がする」

 

同時に、自分の無力を思い知らされたような気がした。

()()()()のささやかな安らぎすら守れない自分が、とても悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――サーヴァント(だれか)の記憶、ないし心象風景を見たのかもね」

 

朝食後のミーティング。

朝の騒ぎはオルガマリーの耳にも届いていたらしく。

これ幸いと相談してみたところ、そんな答えが返ってきた。

 

「記憶?」

「ええ、英霊と契約している場合、互いの記憶を夢に見ることは話したでしょう?」

 

確認に、立香はこっくり頷く。

 

「肝心の内容を覚えていないっていうから何ともいえないけど、この英霊だらけの状況だもの。そういうことがあってもおかしくないわ」

「なるほど・・・・」

 

頼れる上司の解説に納得しながら、また何度も頷く立香。

そんな彼を見ていたロマニが、親戚の子に話しかけるように提案する。

 

「・・・・レイシフトはお休みにして、今日は召喚だけにしちゃおうか」

「それがいいかもね、ここんとこ働きづめだったし」

 

ダ=ヴィンチちゃんまでもが賛成したとあれば、オルガマリーも頷かざるを得ないようだった。

 

「まあ、たまにはいいかしら。ただし、明日と明後日で遅れを取り戻してもらうから、そのつもりで」

「は、はい・・・・!」

 

聖晶石の在庫や、五日に満たない日数で取り戻せる遅れなど。

様々な要因を吟味して、首脳陣はそう結論付けた。

休みになるのはありがたいが、明日から忙しくなりそうだ。

気合十分に、立香は返事をした。

 

「――――よう、マスター。こっちはいつでもオーケーだぜ」

 

部屋を出るなり待っていたのは、アーチャー『ロビンフッド』。

ただしおなじみの緑のローブ姿ではなく、赤を基調としたカウボーイスタイルの少女だ。

武器も弓ではなく、腰に携えた二丁拳銃。

さらに戦闘では、これらがガトリングやらミサイルやらに変形するもんだから、驚く他ない。

そんな彼女だが、例の如く英霊の霊格を借りた擬似サーヴァントの一人であり、本名は『雪音クリス』というらしい。

翼や奏、ひいてはファフニールの関係者で、『イチイバル』のシンフォギアを纏っている縁から召喚されたとのことだった。

ちょっと素直じゃないツンデレだが、面倒見が良い性格。

信長やビリーと銃火器について話し合う他、ナーサリー・ライムを始めとした子ども達に読み聞かせをする姿を見かける。

ちなみにこのカルデアには本家のロビンフッドもおり、始めこそ『イチイの弓』のあり方について衝突があったものの。

付き合いが長くなった現在では、効率の良い罠の仕掛け方や、狙撃ポイントについての話題で盛り上がる仲だ。

 

「ごめんクリス、今日は俺の調子が悪くって。レイシフトは明日になったんだ」

「何だ?具合でも悪いのか?」

「いや、ちょっと夢見が悪くって・・・・」

 

怪訝な顔をするなり、立香の体調を気遣うクリス。

 

「その代わり、明日と明後日は頑張ってもらうことになるけど・・・・」

「まあ、そんな日もあるか。分かった」

 

申し訳なさそうな立香に向け、クリスは人懐っこく笑うのだった。

 

「これから召喚だけど、よかったらどう?」

「おう、来たのがあぶねーのだったら困るもんな」

「あはは」

 

笑いあった二人は、そのまま連れ立って歩き出す。

しばらく行くと、翼に出くわした。

 

「雪音と、マスターか。レイシフトは中止のはずだったが・・・・?」

「召喚だけはやるんだと、センパイも来るか?」

「迷惑でなければ、ご一緒させてもらおう」

「どーぞどーぞ!」

 

ちなみに奏はランサーのクー・フーリンと手合わせ中らしい。

最終的に三人で召喚へ向かうことになった。

サークルの中央に聖晶石を置き、手を掲げる。

いつもどおり令呪が輝き、サークルが起動。

霊力の奔流が巻き起こる。

 

「『激辛麻婆豆腐』・・・・何に使うんだ」

「腹ごしらえじゃないっすかね」

 

妙な礼装に首をかしげる一幕もありつつ、召喚は続く。

 

(九回目、魔術礼装・・・・・今日もサーヴァントはなしかな)

 

概念礼装のカードを手に、一人ごちた時だった。

サークルが金色に輝く。

礼装とは違う魔力の流れに、立香は目を見開く。

 

(あ、来るんだ。サーヴァント)

 

間抜けにそう思った瞬間、現れるサーヴァントカード。

絵柄はキャスター。

カードが裏返り、輝きが増す。

思わず瞑った目を開けてみれば、サークルに立つ人影。

 

「・・・・?」

 

体に張り付くスーツ、脚部に備わった物々しい装甲。

見覚えのある装いに、立香が指を指しながら二人を見る。

目をぎょっとさせていた翼とクリスは、ゆっくり頷く。

・・・・・お仲間、ということでいいらしい。

 

「あの・・・・?」

「あ、ゴメンゴメン。ちょっとびっくりしただけ、どうぞ?」

「あ、はい」

 

置いてけぼりにした所為で、キャスターが戸惑っている。

立香が促すと、小さく顎を引いて答えた。

 

「キャスター『卑弥呼』、呼び声に答えて参りました。戦いは得意じゃないですけど、頑張ります」

「うん、よろしく。俺がマスターの藤丸立香だよ」

「はい」

 

差し出された手を握り返して、契約は完了した。

 

「で、君もやっぱり擬似サーヴァント?」

「はい、本当は小日向未来って言うんです。このギアが、卑弥呼が使っていた鏡だったって話があるらしくて、それで・・・・というか、何で分かるんですか?」

「それはな、小日向」

「あたしらもそうだからだ」

 

少し驚いた顔で立香を見上げるキャスターに答えたのは、翼とクリス。

 

「翼さん、クリス!同じサーヴァントだったんですね!」

「あたしらだけじゃねぇ、カナデさんもいるぜ」

「もちろん・・・・・立花もいる」

「響も!?」

 

卑弥呼改め未来は、ファフニールの本名を聞くなり顔をほころばせる。

隣に居た立香が、思わずドキっとするくらいの、華やかな笑顔だ。

 

「ファフニールはうちの最古参でね。今までずっと頑張ってくれたんだ」

「そうなんですか・・・・!」

 

気を取り直してファフニールについて教えてやれば、心底感激した様子で見上げてくる未来。

もしかすると、翼や奏、クリスよりもファフニールに近い人物なのかもしれない。

 

「ファフニール・・・・響と仲良いの?」

「はい、幼馴染なんです」

 

一応聞いてみれば、しっかりした肯定。

予想はあっていたらしい。

 

「よかったら会ってみる?今の時間なら、倉庫で手伝いしてると思うから」

「いやマスター、待った」

 

知り合いと言うなら、是非会うべきだと思ったのだが。

何故かクリスが制止してきた。

未来とそろって振り向けば、なんだか複雑な表情をしている。

 

「雪音、ちょっと」

 

同じく微妙な顔になっていた翼がクリスをひっぱり、二人でこそこそ相談を始めてしまった。

 

「――――あぶねーと思うんだけど。あいつって、あの頃のあいつだろ?」

「ああ、だが会わせるべきというのには賛成だ。なんだかんだ言いながら、あの子には小日向が必要なんだよ」

「けど、生身だったらいざ知らず、今はサーヴァントだぜ?被害が想像つかねぇって」

 

・・・・時折聞こえてくる物騒な単語が、立香の第六感に警鐘をならした。

 

「えっと、俺なんかまずいことしようとしてる?」

 

話し合う二人にそう聞いてみると。

同時にこちらを見た彼女達は、少し困った顔で互いを見合う。

が、何かしらの結論は出たのか、小さくため息をついた。

 

「マスター、サーヴァントはそのクラスにおける全盛期が召喚されるのはご存知ですね?」

「ああ、所長にならったけど、それが・・・・?」

「ここにバーサーカーとして召喚されてるあいつは、なんつーか・・・・ちょっとめんどくせー時期のが呼ばれててさ。何の気なしにその子を引き合わせたら、多分・・・・」

 

翼の説明を引き継いだクリスは、少し躊躇って、

 

「多分、その子を傷つける。最悪殺すかもしんない」

「・・・・・え、ええッ!!?」

 

『殺す』だなんて物騒極まりないワードに、立香はぎょっとなった。

次いで、何か地雷を踏んでしまったのではと、隣を見やる。

未来は何かを決意した顔で、口元を結んでいた。

 

「・・・・・会うな、と言っても、小日向は会いに行くでしょう。どうしてもとおっしゃるなら、我々も同伴させてください」

 

言うまでも無く、ファフニールを止める役としてだろう。

クリスも同意するように頷いており、いざとなれば戦闘も辞さない腹積もりらしい。

 

「二人はこう言ってるけど、どうする?俺は、君にあったばかりだからよく分からないし、ファフニールがそうなっちゃうのなら、会わない方がいいのかもしれない。それでも会うかい?」

 

そんな二人の心情を汲み取って、立香は未来に問いかける。

・・・・本音を言うのなら、傷ついて欲しくない。

活躍を聞いて、自分のことのように喜ぶほど親しい相手なら、なお更。

だが、未来の決意は、立香の予想を上回っていたようだ。

 

「――――会います」

 

多少間はあったものの、確かな声で『是』を告げた。

 

「響は、わたしを信じてくれましたから、わたしも、響を信じたいです」

「・・・・・そっか」

 

翼が指摘したとおり、決意は硬いらしい。

止める方が無粋だと悟った立香も、腹を決める。

 

「じゃあ、いってみようか。最悪ちょっと散らかるかもだけど!」

「散らかる程度で済みゃあいいんだけどな」

 

プレッシャーを払拭するように冗談を言いながら、そろって廊下に出る。

そのときだった。

 

「――――」

 

誰かが、息を呑む音。

そちらを見れば、霊基を最大まで解放したファフニールが突っ立っている。

 

「響!」

 

立香や翼達が身構える前に、未来が嬉しそうな声を上げて。

駆け寄ろうとして、

 

「――――ッ!!」

「っきゃ!」

 

思いっきり突き飛ばされる未来。

尻餅をつき、痛みに顔を歪める彼女を見下ろしたファフニールは。

立香達に目もくれず、廊下を疾走して去っていく。

未来が翼に助け起こされる様を見ていると、ロマニから通信が入った。

 

『い、今、ファフニールがすごい勢いで駆け込んできて、レイシフトしてったけど。何かあったの?』

「えっと、実は・・・・」

 

経緯を説明する傍ら。

ファフニールが走り去った方向を、未来が切なげに見つめている。

 

「・・・・・響」

 

呟いた声は、寂しさに溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス:アーチャー

真名:ロビンフッド《雪音クリス》

属性:秩序・善

身長:153

体重:データが破損しています

 

 

ステータス

筋力 E

耐久 D

俊敏 B

魔力 E-

幸運 E

 

 

クラススキル

単独行動 B

対魔力 E

 

 

保有スキル

魅惑の美声 C

敵単体に確率で魅了状態付与(1ターン)

 

射撃 A

自身のクリティカル威力アップ(3ターン)&無敵貫通(3ターン)

 

ガン=カタ B

自身の攻撃力アップ(3ターン)&必中状態付与(3ターン)

 

 

宝具

夢なぞる指で引き金を引く(ソング・オブ・イチイバル)

敵全体に大ダメージ&スター発生アップ

 

 

霊基

第一段階:ウエスタンスタイル、踏まれたい足元してる。

第二段階:二期ギアにウエスタン系の小物がついている姿、たゆん。

第三段階:三期ギアにテンガロンハット、たわわ。

最終段階:戦場でバイオリンを奏でながら歌うクリス、敵味方関係なく聞き入っている。

 

 

台詞

戦闘開始

「群れ雀がうじゃうじゃと・・・・!」

「あたし様のおとーりだッ!!」

 

スキル

「これだな」

「やっさいもっさい!」

 

コマンドカード

「おう」

「分かった」

「いいぜ」

 

宝具カード

「バーゲン開催だ、遠慮すんなって」

 

アタック時

「ちょっせぇ!」

「ぶち抜けッ!」

 

EXアタック時

「もってけ土砂降りだッ!」

 

宝具

「つけるなんちゃらはいらねぇよなァ?『夢なぞる指で引き金を引く(ソング・オブ・イチイバル)』ッッッ!!!閻魔様に土下座しなァッ!!」



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ギャルのホルンがなんだって?

すまない、FGOネタではなくすまない・・・・!

本編が進まないために生まれたネタです。
拙作でXDやるならこんな感じかなと。

追記
後半の本家ビッキーと拙作ビッキーの会話を修正。



執行者団(パニッシャーズ)』も合法ロリ(キャロルちゃん)も、付随してきたトラブルあれこれも。

みーんなまとめてどーにかこーにか吹っ飛ばして、束の間の平穏を取り戻した頃。

露助(ロシア)S.O.N.G.(うち)へSOSを送ってきた。

何でも、向こうさんが保管している聖遺物の一つが異常を示しているらしい。

記録に無い初めてのことのため、専門家であるわたし達に調査を依頼してきたのだ。

で、了子さんと一緒に思わずコサック踊りたくなるほど寒い中を移動して、件の聖遺物の保管場所へ。

そこで見たのは、翡翠色のアンモナイトみたいなオブジェだった。

了子さんを見てみると、案の定心当たりがあった模様で。

頼まなくても説明してくれた。

聖遺物の名前は『ギャラルホルン』、完全聖遺物だそうだ。

第二次大戦時、ドイツにいた了子(フィーネ)さんが発見して確保、研究していたものらしい。

『それが何でロシアにあるの?』と了子さんに聞いてみると。

『アドルフと愉快な仲間達の所為』と、『畜生め』と言い出しそうになった顔で大体察した。

一緒にいたロシア職員さんに聞いてみたところ、やっぱり戦利品として押収されたものだったみたい。

平行世界を観測し、更に干渉する力を持っているらしく。

平行世界で異変が起きて、かつ、その異変がこちら側にも及ぶと判断された場合。

アラートを鳴らして、危険を知らせるらしい。

今回ロシアを困惑させた異変と言うのは、このアラートだったようだ。

了子さん曰く、

 

「異変の詳細が分からない以上、下手に扱う訳にもいかない」

 

とのことで。

収容やら調査やらの準備のため、一度本部へ戻ることになった。

なった、んだけど。

多分、『オイコラ無視すんな』って思ったんだろうね。

帰ろうと背中を向けた瞬間、どっと荒ぶり始めたギャラルホルン。

何が何だか分からないまま、わたしは某扉の色違いみたいな腕にあれよあれよと確保され。

あのクイズ番組の人形よろしく、ボッシュートされてしまったのである。

 

 

 

 

で、今どうなっているのかと言えば。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

国際的救助隊にして、聖遺物や錬金術に起因する『異端技術』を利用した犯罪に対処する国連組織。

『Squad of Nexus Guardians』こと『S.O.N.G.』の本部は、今まさに大騒ぎの真っ只中だった。

『魔法少女事変』を乗り越え、束の間の平穏を噛み締めていた街に。

あろうことか、人間を炭素分解してしまうかつてのノイズが出現していたのだ。

当然装者は全員出撃。

各所に散開し、ノイズの討伐はもちろん、一般人の救助にも尽力していた。

 

『何で今になって・・・・!?』

『無駄口叩くな!とにかくぶっ飛ばせッッ!!』

 

困惑した様子の()()()へ、激を飛ばすクリス。

息のあったコンビは、最前線でノイズを千切っては投げしていた。

他のメンバーも避難活動が終わり次第、順次加勢する手筈になっているが。

いかんせん相手が多すぎる。

まさに無尽とも言うべき数に、苦戦を強いられているのが現状だった。

 

「出現ポイントの割り出しはまだか!?」

「こうもノイズがそろってちゃ反応を絞れませんッ!!」

 

次から次へ出現する敵。

どこかに湧いてくる『通り道』があると踏んだ弦十郎やオペレーター達は、その特定を急いでいるものの。

いかんせん多すぎるノイズが、その特定を邪魔しているのだった。

 

「くっそ!ギャラルホルンの異常だってあるのに・・・・!」

 

藤尭がぼやくのは、S.O.N.G.の格納庫に保管されている完全聖遺物について。

平行世界に異常が起こると、アラートを鳴らしてゲートを開くのだが。

今回は別の反応を示していた。

激しいアラートではなく、まるでビーコンを鳴らすように静かな反応。

それが観測された直後のこれである。

呑気に調査なんてやっている余裕は無かった。

と、司令室にまたアラート。

 

「響ちゃんクリスちゃんの現在地に、ノイズとは異なる高反応のエネルギーを感知ッ!!」

「解析します!」

 

ただでさえ賑やかな部屋が、更に騒がしくなる。

オペレーター達は必死にキーボードを弾き、次々データを参照していく。

 

「これは、アウフヴァッヘン波形・・・・!?」

 

いまは亡き了子に次ぐS.O.N.G.の技術者『エルフナイン』が呆然と呟く。

モニターに、解析結果が表示されて、

 

「――――ガングニールだとぉッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

一方現場では。

響とクリスが驚愕に硬直していた。

たった今現れた増援、響の背後に迫っていた危機を打ち払ってくれたのはいいが。

靡くマフラーと振り向いた顔は、どうしようもなく覚えしかなくて。

 

「――――あなたは、一体?」

「んー、それだけどさ」

 

呆然と投げられた問いに、『彼女』は少し困ったように唸る。

 

「『立花響』って名乗りたいところなんだけど、どうもそうはいかないみたいだし・・・・どうしたらいいと思う?」

「え、えっと・・・・」

「あはは、まあ、聞かれても困るよね」

 

『けど』と、振り向きながら一閃。

迫っていたノイズを()()()()

 

「まずはこれを片付けようか?仕留めない理由はないっしょ?」

「う、うん!」

 

戸惑いながらも頷いた響へ、感謝の意味で笑いかける『彼女』。

右手に加え、左手からも刃を出した『彼女』は、目の前のノイズへ不敵に嗤いかけて。

 

「――――ははッ!Let's rock, baby(おっぱじめようか)ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ『リツ』とでも呼んでくださいな、そっちのとごっちゃになってめんどいっしょ?」

 

現れたのは、『ガングニール』。

『リツ』と名乗る、平行世界の響。

 

 

 

「なぁーに、難しく考えなくたって、根本的な発想は哲学兵装と変わらないよ。『少し厚みのある一枚板』と考えるなら、ビルもマンションも連中にとっちゃ立派なモノリスだ」

「な、なるほど・・・・!」

 

「すっげぇ、馬鹿の顔で小難しいこと喋ってやがる」

「く、クリスちゃぁん?それどーいう意味ッ!?」

「うん、すごい」

「デース」

「調ちゃんと切歌ちゃんまでぇッ!?」

 

大いに頼れる、ひと時の『仲間』。

 

 

 

「わたしは臆病なだけだよ、君みたいな崇高な理由があったわけじゃない。ただ怖くて、寂しくて、寒かったんだ」

「――――それでも、拳を開くのを躊躇わないんだね」

「殴るよりはいいでしょ?」

 

その肩に背負う、大きなもの。

 

 

 

「えっと初めまして!立花響16歳ッ!誕生日は9月13日で血液型はO型、彼氏いない暦は年齢と同じッ!」

「同じく立花響16歳、誕生日は9月13日で血液型はO型。彼氏いない暦は年齢と同じだけど、嫁はいるよ」

「そーなのッ!?」

 

彼女がもたらすのは、果たして・・・・?

 

 

 

 

戦姫絶唱シンフォギアXD

新イベント

 

『翳り握る拳』

 

2180年13月

配信予定

 

 

 

 

 

「・・・・どうしたの?リツ、そんな悟ったような顔をして」

「いえ、平行世界の自分がピュアッピュアすぎて辛くて・・・・浄化されて死んじゃう」

「そこまでか・・・・」




というわけで、思いついたXD編の予告のようなものでした。
実際の内容とは異なる場合がございます(


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IF:もしも転生先が・・・・

すまない、本編ではなく本当にすまない・・・・!


あ、ありのまま起こったことを話すぜ!

いつも通り就寝したと思ったら、『戦姫絶唱シンフォギア』の『天羽奏』になっていた!

な、何を言っているか分からねーと思うが、わたしも何が起こったのか分からなかった。

頭がどうにかなりそうだった・・・・。

ドッキリだとか異端技術だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇッ!

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・・。

 

 

 

と、いうわけで。

 

 

 

死んだ覚えも無いのにいつの間にか憑依転生なんて事態になっていて、絶賛混乱中な自分っす。

いや、本当に何が起こったんかワカンネ。

ああ、でも。

自分に縋っておいおい咽び泣いている翼さんを見てるって状況は、罪悪感しか湧かなかった。

覚えてるって嘘ついてもしょうがなかったんで、正直に『だぁれ?』と聞いたときの翼さんの顔よ・・・・。

何とか口八丁駆使して、記憶喪失ってことで片付くことにはなったものの。

代わりに翼さんがべったりするようになってきて。

あの、分かる?

お風呂もご飯も寝るのも、四六時中一緒なの。

わたしと少しでも一緒にいるために、歌手活動すらやめてしまう始末。

よっぽど例のライブがトラウマになったんだろうなぁ、コレ・・・・。

それでね?

まあ、弦十郎さんも緒川さんも了子さんも、もちろん翼さんだって。

みんながみんな、優しかったわけだけども。

その優しさが、ちょっと重たく感じたというか、なんと言うか。

だって、わたしは『奏』じゃないし、体乗っ取ってる一般人だし。

勝手に死ねないから仕方なく生きてるだけで、何か立派なことが出来るわけでもなし。

もっと言ってしまうと、本来死んでいる人間がこうして生存していることで。

未来に大きな変化が起こることが、とても怖くなってきて。

その責任を負いきる自信が、日に日に薄れて、潰えて。

っていうか、あんな『生きるのを諦めるなッ!』とか、かっこいいこと咄嗟に言えないし(泣

んでも逃げるってわけにもいかないし。

あのね?監視の目っていうのかな?

あれを結構感じるのよ。

なんか、こう、一挙手一投足を見張られてる感じがして、むずむずする。

いや、元シンフォギア装者なわけだし、野放しに出来ないってのもわかるんだけどね?

 

 

ああ、でも。

『奏』であって、よかったなっと思うことはある。

 

 

実は現在、あのライブから二年経っているんだけど。

ええ、そうです。

響ちゃん、合流済みです。

この子がまたワンコみたいでかわいいんだこれが。

こっちを見つけるたびにてけてけ駆け寄ってくる様はまさに子犬。

わしわし撫でてあげるとものすごい喜ぶし、本当に癒し。

千切れんばかりに振られる尻尾を幻視してしまうのは、しょうがないことだと思うの。

で、もちろん翼の方にもそれっぽくフォローを入れている。

『わたしはもう戦えないから、力を引き継いだあの子を気に掛けてあげてほしいな』ってお願いしたら、割とあっさり引き受けてくれた。

現在はちょっと不器用ながらも、頼れる先達として響ちゃんと頑張る日々。

うんうん、その調子で『(わたし)離れ』を成し遂げてくださいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあ。

始まっちまった原作の中、どうにか必死こいて生きているわたしですが。

 

最近、ちょっとした楽しみが出来まして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――すまない、待たせてしまった」

 

とある週末の夕暮れ。

通行人で賑わう繁華街で、電柱に寄りかかっていると。

銀色の綺麗な髪に、まっさらなスーツでびしっと決めたカッコイイ外人女性がやってきた。

 

「いえ、こっちも来たばかりですよ。『エルマさん』」

 

こちら、ヨーロッパの出身らしい『エルマ』さん。

道迷っていたところを、案内したのが切欠で仲良くなった。

多分『友人』と呼んでいい人。

お仕事で、このごろから日本にちょくちょく来ているらしいけど。

なんでも会社の中で重要なポジションにいるだとかで、本名は名乗れないんだとか。

まあ、そういう事情抜きにして、いい人だというのは分かっているので。

暗黙の了解ってことで、こっちもあまり詮索していない。

 

「それでは行くとしようか」

「はーい」

 

最近出来た楽しみとは。

このエルマさんと一緒に、居酒屋に行くことだった。

あの頃より年を食っているとは言え、この身は未だ未成年(19歳)

なので、必然と飲むのはジュース類に限られてくるんだけど。

エルマさんが話してくれる外国の話や豆知識が結構好きなので、あんまり気にならない。

それから、もう一つ。

 

「――――まったく!あの男も日本の厚着文化を見習えばいいのにッ!!何なの会うたびにマッパでいて!!何なの!?私を、私を女としてみてないって事なの!?」

「そんなことないですよ、エルマさんは十分素敵な女性ですから」

「ありがとうだいすきっ!!」

「はいはい、わたしも大好きですよー。ささ、おかわりどーぞ」

 

アルコールが回ってきたエルマさんの愚痴を聞いてあげるという、(個人的に)重要な役目もある。

やっぱり組織で重要な立ち位置にいると、苦労の百個や二百個ボロボロ出てくるみたいで。

特に『アダム』さんという上司についてのアレコレは、相当溜まっているようだった。

 

「ううぅ・・・・もぉー・・・・カリオストロもプレラーティもフリーダムすぎるし、結局後始末はわたしがやるはめになるしいぃ・・・・!」

「それだけ頼られているんですよ。感謝って、普通は照れくさくて言いにくいですから」

 

エルマさんのすごいところは、べろんべろんになっても機密事項を決して漏らさないところ。

名前らしき単語はぽろぽろ零すけど、それくらいだ。

将来的に付き合いで呑むことになるであろう身としては、是非とも見習いたい部分だよ。

 

「そうかなぁ・・・・」

「そうですよ。颯爽とお仕事こなす女の人って、わたし憧れます」

 

・・・・・こうやって愚痴を聞いている時間は、何だか安心する。

『天羽奏』と違って、何も出来ないわたしだけど。

こうやって誰かにしてあげられることが、誰かに頼ってもらえることが出来るんだということが。

わたしは決して、空っぽじゃないんだということを自覚できて、それが何だか嬉しくて。

 

 

閑話休題。

 

 

「――――ううぅ」

 

お手洗いから戻ってみれば、机に突っ伏しているエルマさんが。

表情はよく分からないけど、耳は真っ赤だし。

これはそろそろ帰した方がよさそう?

 

「エルマさん、眠いんですか?」

「んー・・・・」

 

肩を揺らしながら聞いてみると、唸りながら首を縦に振ったのが見えた。

じゃあお会計だなと伝票を取って、さっと計算。

・・・・うん、これならわたしでも払えそう。

一言断って、一旦レジに行ってから。

 

「さ、それじゃあホテルまで送りますから、それまで頑張ってください」

「んんー・・・・」

 

ぐったりしているエルマさんに肩を貸して、立ち上がる。

 

「あの、お客さん。タクシー呼びますけど・・・・?」

「その辺で捉まえるので、お構いなく。ありがとうございます」

 

心配してくれた店員さんにお礼を言ってから、店を出た。

・・・・出て、ちょっと後悔。

まだ終電には早い時間帯、タクシーの一台や二台見つかると思っていたけど、中々思うように行かない。

見つけたと思ったら、反対車線だったりしたしね。

酔っ払い抱えてうろうろしても埒が明かないので、少し遠いけど駅前を目指すことにした。

 

「うぅ・・・・かなでぇ・・・・」

「はーい?」

 

えっちらおっちら歩いていると、エルマさんがうめき声を上げる。

 

「かなでは、やさしいなぁ・・・・・こんな情けない大人に、親切して・・・・・」

「だったらエルマさんの人徳ですよ。偉い人だからってえばらずに頑張っている、素敵な人だから、こうやって呑みにいってますしね」

 

これは本当のことなので、ちょっと素直に吐き出しちゃう。

気恥ずかしさは無くもないけど、エルマさん相当酔ってるからね。

記憶に残らないことでしょう。

 

「うううううう・・・・!」

 

すると、エルマさんがまるで泣いているような声を上げた。

というか、実際泣いていた。

大粒の涙をぽろぽろ流すエルマさんは、縋る子どもみたいな顔をして、

 

「かなでぇ・・・・けっこんしてええぇ・・・・・!」

 

そのままさらに泣き出してしまった。

むむ、困ったぞ。

急なプロポーズ発言もそうだけど、これ相当弱ってるパターン。

わたしが思っている以上に、ここのところはよっぽど大変だったらしい。

 

「んんー・・・・」

 

と、なると。

この酔った勢いの世迷言である『プロポーズ』も、下手に突き放すと傷つける可能性があるわけでして・・・・。

 

「・・・・エルマさんと結婚できたら、それは素敵でしょうけど」

 

遅れ過ぎない程度に、考え込んでから。

 

「日本の法律では、同性婚は認められていないんですよねぇ」

 

遠まわしな『考えておきます』を口にして、うやむやに流してしまうことにした。

この場合、イエスとノーどちらも断言してしまうのは危ないと思ったからだ。

・・・・そうやって、日本人特有のどっちつかずな答えをしてしまったのが、いけなかった。

 

「・・・・じゃあ、連れて帰る」

「へっ?」

 

懐から、何だか覚えのある赤い結晶を取り出したエルマさんは。

それを地面に叩きつけて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――意識が浮上する。

朝の清々しい光が、部屋に満ちている。

 

(そういえば昨日は、どうやって帰ったっけ)

 

柔らかな毛布の感触に、何となく違和感を覚えながら。

ゆっくりゆっくり目蓋を開けると。

知らない天井が、飛び込んできた。

・・・・・・頭がフリーズするって、こういうことなのか。

スゴイナー(棒)

なんてやっとる場合やないですね、ええ。

思いっきり身を起こしてみると、予想以上に寒い。

 

「―――――ッ!!!!?」

 

何事!?と体を見てみれば、下着一つつけていないダイナマイトボデーが飛び込んできた。

・・・・・常々思っていたけど、『奏さん』ってやっぱりスタイルええよなぁ。

――――じゃ!!なくて!!

 

「――――んぅ」

 

なんて混乱し始めたところへ、下から声。

見下ろしてみると、隣にエルマさんが寝ているところだった。

 

「あれ、かなで?」

 

寝ぼけ眼をこすりながら起きた彼女もまた、すっぽんぽん。

同じくぽんぽんすーなわたしを見て、一気に眠気が吹き飛んだようだった。

・・・・・いやぁな沈黙が始まる。

いや、気まずい、むっちゃ気まずい。

何て考えているところへ、

 

「――――サンジェルマーン?起きてるー?」

「戻っているのは分かっているワケだ」

 

何か高級そうな扉の向こうから、声が聞こえてきた。

さんじぇ何とかとは、エルマさんの本名だろうか。

 

「もう昼過ぎよー?」

「いい加減起きないと不健康なワケだ」

 

止める暇すらなく、扉が開かれて。

入ってきたのは、褐色の肌の、これまたないすばでーなおねーさんと。

カエルのぬいぐるみを抱えた、可愛いお嬢さん。

当然っちゃ当然だけど、素っ裸のわたし達を見て硬直していた。

・・・・部屋の中を、ものすごい気まずい雰囲気が支配する。

体全体を圧迫されているような、重苦しい空気。

 

「――――発言いいですか?」

「ど、どうぞ?」

 

耐え切れなくなったので手を上げると、オーケーをもらえたので遠慮なく。

 

「酔った勢いでお持ち帰りされた挙句、ムシャムシャされたわたしに一言」

 

あ、涙我慢できなかった。

 

「ッごめんねえええええええええ!?本ッ当にごめんねええええええええええ!?」

「サンジェルマンは普段こんなことしないワケだ!どうか嫌わないで欲しいワケだ!!」

「すまない!私が不甲斐ないばっかりに本当にすまない!ああああああ、頼む泣かないでくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

送ってくれたカリオストロさんは、とっても優しかった。

お詫びにと貰ったお高そうなワインは、来年の楽しみにとっておこうと思います。




というわけで。
転生(というか憑依)先が奏さんだった場合でした。

あと、隠すことでもないので白状しますが。
ここの奏さんもチョイワル本編のビッキーも、原作知識はGXまでです。


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奏(偽)さん2

奏さん編の補足と言うか、フォローというか。
前回のオチだと、諸々のみなさんが不憫すぎたので。


――――勝ったぞ諸君!この戦い、我々の勝利だッ!!

なんて、某拳王様みたいに天高く右手を突き上げたい気分。

起き抜けにガチ泣きなんてやらかしちゃったけど、落ち着いて思い出してみるとそうでもなかったわ。

いや、服をひん剥かれたのまでは本当だけど。

あちこちがぶがぶされるのを本気で抵抗してたら、相手の方に限界が来て。

ふっつり寝落ちたエルマさんを見て、某狩りゲーで古龍を撃退した気分になったのはしょうがないと思う。

だからわたしがされたのは、『むしゃむしゃ(意味深)』じゃなくて、『むしゃむしゃ(物理)』。

よってエルマさんは情事酌量の余地アリ、執行猶予付きで見逃して良し!

Qッ!!Eッ!!Dッ!!

 

「いや、もう。本当にごめんなさいね、あーし達の割りを食わせちゃって」

「いーえぇ、びっくりしましたけど、エルマさんも大分酔ってらっしゃいましたし」

 

現在、カリオストロさんと郊外の林道を歩いている最中。

あの後二日酔いでダウンしてしまったエルマさんに代わって、送ってもらっているところだ。

ちなみにわたしの手には、『ひとまずのお詫びに』とプレラーティさんがボトルで渡してくれたワインが。

ロマネ・コンティって相当お高い奴じゃなかったっけなぁ・・・・。

 

「それにしても・・・・」

 

と、前を歩いていたカリオストロさんが振り向く。

向けられた目に、何だか鋭い印象を受けて。

思わずこっちも足を止めた。

 

「驚かないのね?あーし達の『コレ』に」

 

誰もいないからだろう。

目の前のカリオストロさんの手に、青い陣が浮かんだ。

・・・・・わたしが特に気にしないのを、警戒されているらしい。

まあ、普通驚くなりのリアクションするよね、こんな種も仕掛けもなさそうな手品。

 

「あー、一応驚いてますよ?でも、なんというか・・・・・」

「なんというか?」

 

カリオストロさんが気にしてるのは、わたしがエルマさんに敵対しないかどうかってところだろう。

色々と苦労を掛けてしまっているみたいだけど、なんだかんだで慕っているのは本当っぽいし。

んー、でもぶっちゃけてしまうとなー。

 

「こうやってエルマさんやらあなたやらが実際に使っているわけですし、もういっそ、一人見かけたらそこらに三十人くらいいてもおかしくなさそうだなっと」

 

というか。

公言できないけど、日常生活からして超常現象に浸りまくってるわけだし。

今更超能力とか出されても、ねぇ?

 

「・・・・想像以上の図太さに突っ込めばいいのか、例えのあんまりさを嗜めればいいのか」

「あはは」

 

一気に脱力したカリオストロさんが面白くて、思わず笑ってしまった。

まあ、一人見かけたら三十人って、生物学的に大先輩な節足動物かよって思うよね。

そいつに抱かれているイメージを知っているなら、なおさら。

 

「それに、エルマさんって悪い人じゃなさそうですから」

「どうしてそう思うのかしら?」

 

また歩き出しつつそう言うと、どこか驚いた顔をするカリオストロさん。

もしかして、意外な感想だったのかな?

 

「だって、いくら愚痴を零したって、『やめる』だなんて一言も言わない人ですから。しっかりした信念を持った、強い人ですから」

 

少なくとも、わたしにとってのエルマさんはそうだ。

アダムさんやらカリオストロさんやらのあれこれは零しても、『やめたい』だの『もういや』だの。

弱音は決して吐かない人だから。

 

「・・・・・隠し事が多いわよ?」

「人間だれしもそんなもんでしょ?エルマさんは人一倍なだけです」

「何その菩薩思考」

「ぼさっ・・・・!?」

 

ぼっ、菩薩に例えられるとは思わなんだ・・・・!

そんなに婆クサイ意見だったかしら・・・・!?

 

「けど、なるほどねぇ・・・・・ふぅーん」

 

こっちが勝手にへこんでいる横で、カリオストロさんはなにやら考え込んでいる。

 

「どうかしたんです?」

「んー?いーえ、ただ・・・・」

 

気になって聞いてみると、カリオストロさんはどこか面白そうに笑って。

 

「さすが、サンジェルマンが友人と言い切るだけはあるわね」

「ありがとうございます・・・・?」

 

よく分からなかったけれど、褒められているのは分かったので。

一応お礼を言っておいた。

カリオストロさんは満足そうに頷いていたので、間違ってはいなかったらしい。

 

「っと、街が見えてきたわね」

「あ、本当だ。ここまで大丈夫です、後は一人で行けます」

 

見えてきた、覚えのある街並み。

これ以上は人目も多くなるだろうし、そうなったらお互いによくないだろうしね。

 

「それじゃあ、あーしは引き返すとするわ。願わくば、今後もサンジェルマンと仲良くしてあげて」

「はい、カリオストロさん達も、どうかエルマさんを支えてあげてください」

「もっちろん、さすがに今回みたいなことがあったらね」

 

笑った後で、ふと何かを思い出したらしい。

カリオストロさんは、首を傾げながらこっちを見て。

 

「そういえば、何で『エルマ』って呼び続けるのかしら?あーしやらプレラーティやら、本名口にしちゃってるし、そっちで呼ばないの?」

 

なんだ、そんなこと?

 

「本人からちゃんと聞きたいので、名前って大事なものでしょう?」

「・・・・・そう」

 

聞きたいことは、それだけらしい。

明るく手を振ってくれるカリオストロさんに見送られながら、帰路へつく。

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

「かなでええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」

「お、っと」

 

びゃああああん!だなんて泣く翼に、もう外聞なんてしったこっちゃないと言わんばかりに飛びつかれた。

監視がついていただけあって、やっぱり急にいなくなったのが騒ぎになっていたらしい。

 

「奏さん!怪我とかはないんですよね!?」

「ないない、このとーりだよ」

「よかったぁ・・・・!」

 

一緒にいたらしい響ちゃんにも、えらく心配させてしまったようで。

ちょっと罪悪感。

 

「無事でよかったです、奏さん」

「まったく、心配かけさせやがって」

「すみません、ちょっと知り合いに連れ込まれちゃって」

「つれこっ・・・・!?」

 

申し訳なさそうな緒川さんや、わしゃわしゃ頭を撫でてきた弦十郎さんに説明すると。

翼がぎょっとした様子で顔を上げる。

 

「ど、どこのどいつだ!?おのれ、よくも奏に・・・・!!」

「と、友達だって!いつも通り愚痴に付き合ってたら、何かあれよあれよと抱き枕にされちゃって・・・・!」

 

色々省いているけど、間違ってはいないはず。

わたしの、純潔は、まだ健在・・・・!!!

そうやってどうにか宥めていると、ふと翼の動きが止まった。

途端に笑顔が消えて、何だか危機感を覚えるオーラを放ち始める翼。

 

「ぁ、あの?翼さん?」

 

威圧感に耐えられなくなって、名前を呼んでみる。

 

「――――本当に?本当に何も無かったの?」

「な、無かったけど?」

「何も無かったの?」

「いや、その、ちょっと危なくはあったかも?」

「何も無かったの?」

「ぼ、防衛には成功したから!」

 

い、い()あーん!

なんだろう。

部屋の温度が低くなってる気がする・・・・!

そんな中で、翼のちょっとひんやりした指先が首筋に伸びてきて。

 

「じゃあ、これは?」

「へっ?」

 

これ、と言われても、自分じゃ見られない。

それを察してか、緒川さんが手鏡をさっと差し出してくれて。

映った首筋に、赤いぽっちがくっきり刻まれていた。

 

「」

「奏」

 

絶句するしかないわたし、据わった目で見てくる翼。

・・・・・・絶体絶命とは、このこと。

 

「奏」

「へいっ!ナンデェ!?」

 

呼ぶ声に、返事する以外の選択肢がない。

 

「――――今夜は覚悟して」

「アイアイマムッ!!」

 

もちろん、告げられた宣告に頷く以外の選択肢もなかった。

・・・・・ヤンデレ怖い(泣)




奏(偽)さんの明日はどっちだ(笑


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IF:戻れなかったら

また息抜きにやっちまいました()
今回も感想欄からネタを拝借しました。
『ビッキーが人間に戻れなかったら』というIFネタです。
書いてる本人も結構キマした・・・・(ヽ´ω`)ゲッソリ


――――結構、長かったわ

 

「・・・・うん」

 

あなたに出会って、あなたと別れて

いろんなことがあって

 

「・・・・うん」

 

それで、最期にまた会えて

 

「・・・・うん」

 

幸せだった、幸せだったの

 

「・・・・うん」

 

わたしは、先にいくけど

 

「・・・・ぅ、ん」

 

待ってるから、遅刻して来てね?

 

「・・・・んっ」

 

――――ひびき

 

「なぁに?」

 

だいすきよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしも、だいすき、だよっ・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あっつ」

 

八月中旬、いわゆるお盆。

家の前に出て、口をついた感想がそれだった。

昼間であっても、いや、昼間だからだろうか。

充満した湿気がじわじわ肌を浸食し、全身に不快感を与えている。

 

「ほら、そろそろ行くわよ」

「はぁーい」

 

母に促され、車に乗り込む。

ほどなくしてエンジンがかかり、出発した。

今日は、郊外にある墓地への墓参り。

周囲を自然に囲まれているおかげで、虫やら掃除やらが随分大変だ。

同年代なら普通、うだうだと駄々をこねて嫌がるのだろうが。

自分には一つ、楽しみのようなものがあった。

 

「・・・・今年もあるかな」

「バラの花?多分あるんじゃないかなぁ」

 

幼い頃から、必ずと言っていいほど見てきた。

毎年お盆の季節になると、ぽつんと供えられている。

三本の真っ赤なバラ。

両親によれば、曾祖母が入ってから供えられるようになったので。

あれは曾祖母宛てなんじゃないかということだった。

物心付いた頃からずっと見てきた、三本のバラ。

今年もあるのか、来年もあるのか。

それが気になるから、墓参りはそこまで嫌じゃなかった。

 

「誰がお供えしてるんだろうな」

「お寺のご住職も、知らないって言ってたものねぇ」

 

両親のそんな会話を聞きながら、窓の外を見る。

車は、街中を抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――はぁ、は、はっ」

 

駆け抜ける。

草を踏み越え、飛び越え。

背後の追手から逃げようともがく。

ふいに気配。

とっさに飛びのけば、鉛玉が頬をかすめた。

舌を打ってもう一度飛ぶと、雨あられと降り注いだ。

地面をもんどりうって起き上がってから、慌てて手元を見る。

『手土産』は、傷一つついていなかった。

安堵を覚えて、また駆け出す。

思いを込めた『贈り物』が、傷つかないように守りながら。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――あれっ」

「へぇっ?」

 

いつの間にかまどろんでいたらしい。

父の声に、意識が浮上した。

よだれをぬぐいながら顔を上げると、進行方向に検問のようなものがある。

一瞬警察かと思ったが、違う。

緑っぽい装いと、手にした物々しい銃器から。

自衛隊だと分かった。

 

「何かあったんですか?」

「実は、凶悪な犯罪者がこの付近に潜伏しているとの通報がありまして」

 

車をゆっくり近づけて、父が問いかけると。

そんなぎょっとなる答えが返ってきた。

 

「犯罪者って、警察は?」

「その警察では手に負えないため、我々が出動しているのです」

 

思わず口をついて出た疑問にも、丁寧に答えてくれる自衛官。

 

「僕達、この先の墓地に用があるんです。ここからそう遠くありませんし、何とかなりませんか?」

「お気持ちはお察ししますが、我々にも皆さんに危険を及ばせない使命があります。申し訳ありませんが・・・・」

 

同じ日本人として、先祖に挨拶したい思いは理解してくれたものの。

やはり、閉鎖区域に入れてはもらえなさそうだった。

 

「そう、ですか。分かりました」

「ご協力感謝します、今日はなるべく近づかないようにお願いします」

 

ここでゴネてもしょうがないと父は判断したらしい。

誘導に従い、おとなしくUターンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてところで、終わるわきゃねーのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぃよっし!」

 

家に戻ってから。

『愛車』たる自転車の調子を確かめて、ひとつ頷く。

日も傾き、風にも涼しさが混じってきた。

サイクリングにはうってつけだ。

目指す目的地は一つ、今日お参りする予定だった墓地である。

そもそも『ダメ』と言われたらやりたくなるのが人間。

そしてうら若き十代ともなれば、その傾向は顕著だった。

 

(悪い人がいるってんなら、あのバラの花だって危ないじゃないの)

 

命に比べれば軽いものかもしれない。

だけど、誰かを思って贈られたものが、大事じゃないわけがない。

何より、かすかながら覚えているのだ。

うんと小さなころ、自分をかわいがってくれた。

曾祖母の、温かい手を。

件の墓地は、今日見かけた検問のある場所からさほど離れていない。

何かあれば素直に自衛隊に助けを求めればいいだろうし。

無茶がどれほど危ないことか、わからないほど子供でもないつもりだった。

さっと確保して、さっと戻ってくるだけ。

大丈夫なはずだ。

供えるようのお菓子とお線香など、忘れ物がないかをしっかり確認して。

いざ尋常に、と、漕ぎ出した。

途中までは大きな道を、検問が近くなったら整備されていない田舎道を通って。

脇道に自転車を置いてから、道なき道を歩いていく。

草で切ったり、張り付く芋虫に驚きながらも。

『乙女舐めんな』という謎の対抗意識をたぎらせて。

草木をかき分けていく。

 

「――――ぶっは!!」

 

結局、たどり着いたのは。

空が茜色に染まるころだった。

葉っぱや虫を払いながら見渡して、目的地に着いたのを確信する。

・・・・検問の向こう側という意識があるからだろう。

誰もいない空間は、なんとなく重みを感じた。

 

「・・・・っ」

 

自然と背筋を伸ばして、歩き出す。

早いとこ目的を達成して、この場を立ち去らねばならない。

気持ち身をかがめて、慎重に歩を進める。

ゆっくりゆっくり歩いて、自分の家の墓を見つけた。

バッグからお供え用のお菓子を取り出し、そうっとのぞき込んで。

 

「――――ぁ」

 

息をのんだ。

記憶より苔が生した墓。

誰かがぐったり寄りかかっている。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

なるべく声を潜めながら近寄れば、その状態がよく分かった。

あちこちに泥汚れや擦り傷をつくったその人は、自分と同い年くらいに見える。

顔立ちからして、同じ日本人の女の子といったところか。

 

「ねぇ、ちょっと・・・・!」

 

ゆすろうと手を伸ばしたところで、気が付く。

少女の手元、握られたそれは。

幾度となく見てきた、三本のバラ。

 

「――――っ」

「っあ、ねえ、大丈夫?聞こえてる?」

 

淡い茶髪の間から、ぼんやり見上げてくるその人は。

琥珀の瞳を揺らしながら、かすかに口を動かす。

 

「――――みく?」

 

こぼれたのは、曾祖母の名だった。




人間じゃなくなって不老不死になったビッキーが、未来さんの子孫に合う話。


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昔々のバレンタイン

今更感がたっぷりな上に、バレンタインと言い張る勇気()


――――それは、少し昔の話。

彼女達が、今よりも無垢でいられた頃の話。

 

「ぅう・・・・・ぐすっ・・・・」

 

なんでこんなことになったんだろうと。

小日向未来は、涙を抑えられなかった。

この前もその前も、今日だって。

彼らには何もしていなかった、しなかったはずだ。

なのに、なんで。

給食当番を、こなしただけで。

 

――――小日向菌がついてんぞ!

――――みんな!今日のデザート食うなよ!呪われるぞ!

 

また、涙が溢れてくる。

彼らはいつも、未来を汚いもののように扱った。

『ばい菌』『くさい』『呪われる』と、顔を合わせるたびに罵ってきた。

わざとぶつかってきては、『呪われた!』と騒いで。

『呪い』とやらを鬼ごっこのように擦り付け合っていた。

もちろん、未来自身は何もしなかったわけじゃない。

悪口を言われるようになったあたりから、お風呂では念入りに洗うようになったし。

臭いを気にして、お母さんの香水をほんの少しだけつけてみたりもした。

だけど、何をしても変わらなかった。

変わって、終わってくれなかった。

・・・・なんで、なんで、なんで。

そればかりが頭をぐるぐる回る。

心臓が忙しなく動いているのに、冷たくて仕方が無い。

怖い、怖い、怖い。

飛び出したことを後悔する。

誰もが教室で食べている時間。

人の気配が無い雰囲気は、より孤独を感じさせた。

 

「っぁぁぁぁああああ・・・・・!」

 

我慢が出来なくなって、もっと大きな声で泣きかける。

そんなときだった。

 

「――――みーく」

 

足音と、声。

顔を上げると、付き合いが長くなる親友が。

立花響が立っていた。

肩には何故か、家庭科で作ったナップザックが下がっている。

 

「大丈夫?ほら、顔濡れてるよ」

 

そういいながらハンカチを取り出して、優しく涙を拭ってくれる。

気遣いは嬉しいのだが、どうしてここにいるのだろう?

 

「隣のクラスが騒がしかったからさ。覗いてみたら、走ってるのが見えた」

 

疑問が顔に出ていたのか、自分から理由を教えてくれた。

そっか、と短く返しながら、また俯く。

・・・・本当によく分からない。

何故、こんなに嫌なことを言われるのか。

考えても考えても分からなくて、未来はまた涙が溢れそうになった。

堪えようと、目元を拭ったとき。

 

「未来」

 

隣から、優しい声。

 

「つらいならつらいって、言っちゃいなよ。わたしはちゃんと聞いてあげるから」

「・・・・いいの?」

「いーの、あったりまえじゃん」

 

隣に座る、響の笑顔。

見守ってくれるような、包み込むような。

静かな横顔に、絆されて。

 

「・・・・ぃ」

「んー?」

 

声が漏れる。

響は急かすことなく待ってくれる。

 

「・・・・にげたい」

 

だから、抱えた思いを溢れさせる。

 

「もぉ、もう、やだ・・・・ここ、やだぁ・・・・!」

 

耐え切れなくなって、また涙が溢れた。

幾つもの雫がぽろぽろ落ちて、コンクリートを濡らす。

何が悪いのか、誰が悪いのか。

不安と恐怖と悲しみがない交ぜになって、頭がぐちゃぐちゃになる。

熱った頬が冷えた空気に晒されて、更に温かくなった。

 

「――――それじゃあさ」

 

しゃくりあげて嗚咽を漏らす未来を目の当たりにして、何を思ったのか。

目の前、そっと手が差し出されて。

 

「攫われてみない?」

 

まるで王子様のように跪いた響は、明るい声でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――わーはははははは!ぶんぶんぶぶぶーん!」

「ひ、響、これ、大丈夫なの!?」

「へーきへっちゃらー!!あははははははっ!!」

 

全然へっちゃらじゃないと思いながら、未来は流れる景色の中を振り返る。

学校はすっかり遠くなり、建物の影からちらちらと見えるくらいだ。

白昼堂々、自転車に二人乗りしてのエスケープ。

心配になって聞いてみれば、どこかハイテンションな返事に不安を煽られる結果になった。

しかし、だ。

今はすっかり怖い場所になってしまった学校から、少しでも離れられることに。

安堵を覚えているのも事実だった。

一方で、それにしても、と考える。

今乗っている、手を引っ張られて連れて行かれた先にあった自転車。

そこに至るまでのルートも、人に見つかりにくいような物陰が多かったし、もしかしたら兼ねてより計画していたのかもしれない。

家族と同じくらいに信頼している親友なら、やりかねない。

 

「いやぁ、ほんとーは掃除時間あたりに連れ出したかったけどねー!」

 

とか思っていたら、本当にそうだったようだ。

互いの家族に見つかりはしないかとひやひやしながら、二人で風を切る。

途中、コンビニに立ち寄って、給食代わりのおにぎりを購入。

店員にいぶかしまれることもあったが、『創立記念日で休みなので、校区外から来た』と響が言い張ったことで切り抜けた。

コンビニを出てから、また自転車を漕ぎ出す。

坂道ではとても辛そうだったが、何とか昇りきった。

少しの休憩の後、未来は手を引かれて、雑木林の中を抜けて。

 

「――――わ」

 

そこに、広がっていたのは。

まるでパノラマのような景色。

空が晴れ渡っていることも合間って、青空の下の街を一望できる。

至るまでの道が、よく知っているものだっただけに。

驚きも喜びもひとしおだった。

響が取り出したレジャーシートを敷くのを手伝い、並んで座る。

買ったジュースを『かんぱーい』とぶつけ合って、コンビニのおにぎりを食べ始めた。

やはり、何事においてもシチュエーションは重要らしく。

絶景を楽しみながらの食事は、いつもよりおいしく感じた。

 

「ここ、よく見つけたね」

「お父さんに教えてもらったんだ」

 

食べ終えて、一息つく中での会話。

まだ肌寒い季節にしては、心地よい風が吹いていて。

気分だけ春になったような雰囲気で、ゆったり言葉を紡ぐ。

主な内容は昔の話、出会った頃から今までのこと。

現在のことは、何となく触れるのは憚られた。

しかし、まだ小学生である彼女達に、そこまで語れるような話は無い。

やがて口数が少なくなって、束の間の沈黙が降りかけて。

 

「そういえば響、結局何で連れて来てくれたの?」

「おっと!」

 

そんな中、冒険心にかまけて忘れそうになっていた疑問を口にする。

響も響で、危うく忘れそうになっていたらしい。

慌てたようにナップザックをあさると、小さな封筒を取り出して。

 

「はい未来!チョコじゃないけど、ハッピーバレンタイン!」

 

未来の手を取って、握らせた。

突然のプレゼントにきょとんとした未来だったが、続いた『バレンタイン』という言葉に納得して。

何度も封筒と響を見比べる。

 

「・・・・このために?」

「やっぱりやりたいじゃん?ドッキリ!」

 

おずおず問いかけてみれば、そんな快活な返事が。

嬉しさと感慨がこみ上げて来て、胸が熱くなる。

今未来の顔には、自覚できるくらいの笑顔が浮かんでいた。

 

「開けてもいい?」

「どーぞどーぞ!」

 

一言聞いてから封筒を開けてみる。

中に入っていたのは、一枚の栞。

四つ葉のクローバーが、押し花になっていた。

 

「すごい、見つけるの大変だったんじゃない?」

「コツさえ掴めば簡単だよー」

 

それにしたって、四つ葉のクローバーと言えば幸福の象徴。

その謂れに相応しく、見つけることは難しいとされているし。

探した覚えしかない未来も、今まで見つけることが出来なかった代物だ。

笑顔の裏にあるであろう苦労を思えば、嬉しい以外の感想が見当たらなかった。

 

「ありがとう・・・・すっごい嬉しい」

「こっちも頑張った甲斐があったよ」

 

素直にお礼を言えば、響はどこか照れくさそうにはにかんだ。

 

「さって、そろそろ帰ろっか」

「今更だけど、怒られないかなぁ」

「最初からいましたよって顔すればワンチャン・・・・」

「無理だと思う」

 

笑いあいながら手早く片付けて、帰途に就く。

坂道の二人乗りは流石に危ないと判断したので、自転車を押す響と並んでゆっくり下っていく。

 

「・・・・今度逃げるときは、もっと遠くに行ってみようか」

 

途中、響がぽつりと呟いた。

 

「遠くって、どこに?」

「んー・・・・」

 

束の間唸りながら考えた響。

やがて、呟くように零す。

 

「・・・・・外国、とか?いじめっ子達がおっつけ無いような、うんと遠い場所」

「それは遠すぎるんじゃ・・・・?」

「あはは、まあ、例えだよ、例え」

 

言った本人も無理な話であることを自覚していたようで。

苦く乾いた笑みを浮かべた。

 

「けれど」

 

気を取り直して、前を向く響。

歩調で何となくリズムを刻みながら、歩いていく。

 

「わたしはいつだって、未来の味方だよ」

 

『独りじゃない』。

暗にそう告げられて、未来は思わず足を止めた。

嬉しいのもある、だが、同じくらいにズルいとも思う。

助けが欲しいのは事実だし、味方でいてくれることはとってもありがたい。

だけど、響は?

辛いことをよく黙り込む響は、助けて欲しくもないんだろうか。

親友である自分すら、頼ってくれないんだろうか。

 

「――――わ、わたしも!」

 

そんな対抗心が、声を張り上げる。

驚いた響が、未来に振り返った。

 

「わたしだって、響の味方だよ!もし響がいじめられてたら、一緒にいるよ!だから・・・・!」

 

言い切ったはいいものの、言葉が続かない。

だから、響の空いた手を握って、驚いている顔をじいっと見つめた。

響は束の間、ぽかんとしていたが。

やがて、吹き出すように笑みを浮かべる。

 

「うん、そんときは任せた!」

 

バカにするでもなく、受け流すでもなく。

ただただ申し出が嬉しいといわんばかりに、笑ってくれた。

響の反応に達成感を感じて、未来もまた、笑みを浮かべようとして。

 

「こら!そこの二人!」

「見たところ小学生だね、こんな時間に何をしているんだい?」

「「あっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

(――――あの後、ものすごく怒られたんだっけ)

 

特に下手人である響が、響の担任と、母親と、警察の三竦みで。

未来の方は、むしろ自身の担任から謝られた。

当時の彼女はまだまだ新米で、クラスで起こっていたいじめに真剣に取り組んでくれていたものの。

いじめっ子達の方が上手だったばっかりに、大変苦労をかけてしまっていたのだ。

だけども、あの日の連れ出しが切欠で、未来のクラスで起こっていたいじめが公になり。

それまで見ているだけだったクラスメイト達も、段々と味方してくれるようになった。

そうなるといじめっ子達も日に日に大人しくなっていって、気がつけばもうからかわれることはなくなったのだった。

直接的では無いものの、一連の切欠を作ってくれたのは響だ。

そう考えると、やっぱり昔から助けられていたのだなと。

未来は手元のチョコに目を降ろす。

温度を確認して、お湯からボウルを外した。

スプーンの先に少量つけて、白いスジや光沢などをチェック。

上手くいったテンパリングに、思わず息を吐いた。

 

(後は、っと)

 

溶かしたチョコに、予め砕いておいたフルーツシリアルをさっくり混ぜ込んで。

用意したクローバーの型に流し込む。

ちなみに、ちゃんと四つ葉だ。

――――あの日もらった、四つ葉のクローバーの栞。

二年前に出て行った際、置いていってしまったのだが。

宝物だと知っていた両親が、大切に保管してくれていた。

そして今は、再び未来の手元にある。

 

(わたしも、何かあげられているかな)

 

型を冷蔵庫にしまって、ふと思う。

よく自分を削る響が、命以外で、これだけは捨てられないと言えるものを。

一生持ち続けたいと思える、大切なものを。

自室に行き、引き出しから栞を取り出す。

貰ってから出て行くまでの数年間、読書のお供に使っていたお陰で、少し年季が入っているものの。

これからも持ち続けるであろう、大切な品。

 

(・・・・あげられていたら、いいなぁ)

 

祈るように抱き込んで、未来はそっと目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

作ったチョコは、大好評だったそうな。




おまけ『黒幕?』

「入りなさい」

連れ出しがあった夜、立花家。
父の自室に呼び出された響は、硬い面持ちで部屋に入った。
静かな中に、扉が閉まる音が響く。

「今日の騒動については、母さんからある程度聞いてる」

厳かに口を開いて、束の間沈黙を保つ。

「――――こんなに騒ぎになっているということは」

目を細めた洸は、響を真っ直ぐ凝視して。

「――――上手くいったんだな?」

そして次の瞬間には、そんなことを口走っていた。

「うん、抜け出しから渡すのまで完璧に」
「言い訳も通用したろ?」
「魔法の言葉だね校区外って」

こっくり頷いた響と、打てば響くような会話が繰り広げられる。
二人の顔は、段々と明るくなっていった。

「未来ちゃん元気になってよかったな」
「おとーさんのお陰だよ!」
「「「いえーい!!」」

昂ったテンションのまま、お互いに両手を上げて。
スパァン!と、キレの良い音。
ただし鳴ったのは二人の手ではなく、部屋の入り口の方。
親子そろって、錆び付いたブリキのように振り向けば。
不動明王を背負った母が、にっこり笑っていて。
――――この後無茶苦茶怒られた。


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ルナアタック
ひびみく道中


深く考えてはいけません。
暇つぶし程度にさらっと読み流すのを推奨します。


『転生小説』。

もはや今となっては説明不要の、二次創作のジャンルである。

大体のパターンとして、神様がお仕事でミスをやらかし、予定外の死を遂げた主人公が。

お詫びの印としてアニメや漫画の世界に転生させてもらう、というものだ。

奇をてらって、普通に寿命で死んだ後に、頼み込まれてなんてのもある。

転生の際『特典』をもらうというのもお約束だろう。

別のアニメの能力をもらったり、転生先におけるチートを身につけ無双を夢見たり。

転生した後の行動も様々だ。

原作知識をフルに活用して、不憫な結末を覆したり、逆に原作介入を回避したり。

どんな理由で転生して、どんな能力をもらって、どんな行動を取るのか。

作者さんの数だけパターンがあるので、見ていて飽きない。

それが『転生小説』の魅力ではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

さて、何故ここまで熱弁をふるったのかといえば。

 

 

今生名『立花響』であるわたしが、その転生者だからである。

 

 

 

 

 

 

 

いや、神様に会ったわけでもないし、そもそも死んだ自覚も無かったんだけどね?

気がついたら幼稚園生に戻ってたとか、SAN値チェックものですよ・・・・。

しかも『戦姫絶唱シンフォギア』の主人公への転生である。

やる気のある物好きなファンなら、『よっしゃー!』と喜ぶところであるけど。

自覚したわたしが真っ先に抱いた感情は、絶望だった。

だって、そうでしょう?

まず無数の死亡フラグがついて回るし、それ以前に歌って戦うとか無理だし。

『思い付きを数字で語れるものかよッ!』みたいな感情論を実現させるほどの能力なんて持ち合わせていないし。

何より『わたし』はあんなにポジティブじゃないし、なれない。

思考の傾向としては、むしろネガティブよりだ。

そんな立花響(わたし)が、ルナ・アタックやフロンティア事変に対し、立花響(げんさく)のように立ち向かえるか。

 

 

 

結論、無理。

 

 

 

どこかで詰んでゲームオーバーになる末路しか見えなかった。

そんな風に先行きに不安を覚えてビビっていたから、あの『ツヴァイウィングのライブ』を口実に家出。

わたしを知っている人が誰もいないところへ、とにかく遠いところへ逃げたくて。

お隣の半島へ渡る船に忍び込んで、密航したまではよかったんだけど・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

そこは、日本のような手入れの行き届いた国からすれば、『汚い』以外に言いようの無い場所だった。

部屋全体が埃っぽく、窓枠を指でなぞれば白く汚れる。

天上も隅だけに飽き足らず、満遍なく黒いシミがついていた。

床なんて、寝そべるなどもってのほか。

少なくとも、そんな場所に物を保管するべきではないだろう。

貴重な食い扶持である『商品』を置くなど、ありえない。

ありえないのだが、

 

「ははっ、いい『モノ』手に入ったぜ」

「――――!――――!」

 

ここは日本ではないため、そんな理屈はまかり通らなかった。

南米系の男が、下卑た笑みで見下ろす先。

猿轡をされた日系の少女が、目に涙を浮かべて見上げていた。

完全に怯えきっており、体が小刻みに震えている。

周囲には同じように拘束された少年少女たち。

日系の子と違うのは、目から生気が消え去り、人形のようにぐったりして微動だにしないことだろう。

 

「おら、もっと良く見せろ!」

「――――ッ」

 

大事な『商品』なので、手は出さない。

出さないが、触りはさせてもらう。

顎を引っつかんで、こちらに顔を向けさせる。

 

「ここらにしちゃあ状態がいいな、こりゃあ高く売れるぜ!」

「――――そんなにいいの?」

「もちろんだとも!」

 

違和感に気づかず、男は続ける。

 

「身奇麗にしてあるから垢汚れも無い、十分食ってたみたいだから肉付きもいいし!何よりこの髪だ!」

「・・・・ッ」

 

顎の手を頭に移動させて、髪を引っつかむ。

 

「色も艶も申し分なし!こんだけ見てくれが上等なら、百万はくだらねぇぞ!!」

「へぇ、それはいい拾い物したね」

「だろう!?あいつ、餓鬼のくせしてこんな上玉隠し持ってたなんて・・・・かっさらってくるボスも、人が・・・・ぁ?」

 

語りに語って、やっと気がつく。

自分は今、誰と話していた?

急に襲う悪寒。

恐怖に駆られた男は勢い良く振り向く。

 

「だ、誰だ!?」

 

部屋の入り口には誰もいない。

気のせいだったかと、気を緩めた一瞬。

 

「――――ごめんね、おじさん」

 

上から、声。

 

「それ、非売品なんだ」

 

骨が砕ける、鈍い音。

男の視界は暗転する。

 

「・・・・」

 

転がった体を踏みつけ、じぃっと睨みつける。

やがて完全に事切れたと判断し、息を吐き出した。

 

「――――響」

「待たせたね未来、怖かったでしょ」

 

遺体を蹴り付けて退かしながら、日系の少女―――未来の拘束を外す。

響と呼ばれた癖のある淡い茶髪の少女は、安心させるように微笑んだ。

 

「未来、早速で悪いけど逃げるよ。ちょっと暴れすぎちゃったから、敵認識されちゃった」

「ごめん、わたしが捕まったから・・・・」

「大丈夫、いつものこと」

 

落ち込む未来を労わるように、自分の上着を着せる。

長居する理由は無い。

ふと『商品』達の方に目をやれば、何人かがぎらついた視線を向けていた。

大方、『お前だけ逃げて卑怯だ』くらいに思っているんだろう。

とばっちりだと思いながらも、かといって彼らが将来的に襲ってこないとも限らない。

だから響は徐に遺体を漁る。

 

「はい」

 

ベルトから鍵の束を取り外して、彼らに投げつける。

 

「出て行くも行かないも自由・・・・好きにすればいい」

 

そう言い捨てて、今度こそ立ち去る。

道中は案外楽だった。

強いて言うなら、所々に転がっている亡骸が邪魔だったくらいだろうか。

 

「テメェ、この裏切りモンが!!」

「契約を破ったのはそっち」

 

立ちふさがる敵は、響が容赦なく排除していく。

右腕に仕込んだ刺突刃で、あるいは磨き上げた体術で。

時にスマートに、時に派手に立ち回り。

新たな屍を作り上げる。

 

「大丈夫、未来は悪くない」

「手出ししたこいつらが悪いんだ、自業自得だよ」

 

響は安心させるために、しっかり手を握り締めて。

撒き散らされた臓物と肉片に怯える未来に、何度も言い聞かせていた。

そうして二人は、貨物列車が並ぶ車庫に侵入。

ちょうど発車する車両があったので、遠慮なく飛び乗る。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

(何とか逃げられたか)

 

離れていく街並みを眺めながら、ぼんやり思う。

乗員に見つかったら賄賂を渡して黙らせればいい。

こういうところは、日本と違って融通が利いて助かる。

 

「響、疲れてない?」

「へーきへーき、未来こそ怪我はないよね?」

「わたしだって大丈夫だよ、響が助けてくれたから」

 

嬉しいこと言ってくれる幼馴染の頭を撫でてやれば、嬉しそうにはにかんだ。

――――もう一年と・・・・七ヶ月、いや八ヶ月くらい?になるのか。

お隣の半島に無事にたどり着いた矢先。

ひょっこり現れたのが、置いていったとばかり思っていた未来だった。

まさに『えへへ、来ちゃった』と言わんばかりのこの子を置いていくわけにも行かず、一緒に行動をしている。

本当なら半島にいた頃に送り返せたらよかったんだけど、反日感情が強い中に置いてけぼりにするのは心配だったし。

かといってまたこっそり密航させてなかったことにしたくても、『かくれんぼ』が苦手だった当時のわたしのせいで警備が厳重になってしまって。

結局、ユーラシアを横断する大回りルートを行くことになってしまった。

・・・・楽しかったかどうかを聞かれたら、そりゃあ楽しかったよ。

わたしが大怪我をしたり、未来が熱を出したり。

むしろ大変なことが多かったように思えるけど。

かといって、ただ辛いだけじゃない旅だったから。

まあ、それも終わりが見え始めたわけでして。

 

「あ、上着・・・・」

「いーからそのまま着てな、連中に身包み剥がされた所為で薄着でしょ」

 

――――あの時。

未来の熱意に負けて、ライブ会場に向かったこの体には。

原作どおり『ガングニール』が宿っている。

この一年半と少しの間、生きるために力を引き出す方法をどうにか模索して。

今では『歌』で増幅させること無く、丈夫な体と、人間以上の身体能力を手に入れることが出来た。

代償に、大分侵食されていたけど。

 

「そうだけど・・・・」

「ほら、わたしは『風の子』だから。それに一応室内にいるわけだし、ちょっとくらい平気」

 

まず変化が起こったのは味覚。

何を食べても味を感じなくなった。

次に暑さ寒さの感覚が薄れてきて、今じゃ極寒の中でも薄着でいられる。

さらにここのところ、痛覚も鈍り始めた。

このままだと、ほどなく触覚も異常を示しだすだろう。

未来に心配されないよう、今までなんとか誤魔化して来たけど。

これ以上はちょっときついかも。

 

「・・・・未来?」

 

さーてどうしたもんかなと考えていたら、未来が寄り添ってきた。

甘えるように身を摺り寄せて、肩に頭を乗っけてくる。

 

「響が悪いんだもん、寒そうな見た目してるんだから」

「そんなに?」

「そんなに」

 

上目遣いで、ほっぺたを膨らませて抗議してきた未来は、さらに体を押し付けて。

わたしの肩に、幸せそうに顔を埋めてきた。

 

「響、あったかい」

「未来もあったかいよ」

 

頭を傾けて、身を摺り寄せ返して。

未来の好意に応える。

段々人間らしさを失くしていく体を自覚する度、『日常』の中にいられないんだと実感する。

だからこそ、わたしを想って付いて来てくれる優しい未来を、絶対日本に返さなきゃいけないとも。

列車の行き先は乗る直前にちゃんと確認したので、あっているはず。

陸路で行くなら、北米大陸をさらに北上すればいいけど。

アラスカの凍てつく寒さに、わたしはともかく未来が耐えられないだろう。

だから陸路は最終手段にして、当面は海路を目標にする。

気がかりなのは、ここらよりも厳重であろう警備のことだけど・・・・。

 

「次はどんなところかな」

「雨風凌げて、ご飯がおいしかったら文句はないよ」

「もう、響ったら」

 

未来のためなら、何とか出来そうな気がする。

――――お別れが近い。

未来を日本に返したら、わたしは独りになるだろう。

けれど、不思議と怖くないと感じる根拠は、きっと。

一緒に過ごした日々が、わたしの宝物になっているから。

だから。

 

「・・・・このまま一緒に旅が出来たらいいな、ずっと、ずーっと」

 

この手を離す、温もりを手放す、その日までは。

 

「・・・・そうだね」

 

この子の隣にいることを、どうか許してください。




夢の中でビッキーになっている自分。

「こんなハードな役こなしきれるわけないやん(白目」
「よし、逃げよう」
と、トンズラこく。

だけどどこに逃げても、どこまで行っても。
393がどこまでも追っかけてくる。

撒いたと思って一息ついた矢先に、「みーつけた」とひょっこり現れる393。

「どーなってんだあんた!ホーミングってレベルじゃねえぞ!?」
と戦慄する。

という夢を、ちょっと前に見まして。
書いてみたら存外いい出来になったので、ここに上げた次第です。
お目汚し失礼しました。


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旅の終わり

初めての赤評価に舞い上がった結果(
深く考えてはダメです。
ダメったらダメ!


日本、東京都。

春の少し冷たい風が吹く中。

わたし達は船から飛び降りる。

・・・・ああ、よかった。

やっとここまでこれた・・・・!

 

「――――それじゃあ達者でな!お二人さん!」

「うん、おじさんもありがとう」

「お元気で」

 

全身満遍なく日焼けした、まさに船乗りと言った出で立ちのおじさんに見送られて。

わたしと未来は、二年ぶりに日本の地に立っていた。

あの後無事に北米大陸にたどり着いたわたし達は、とあるマフィアにお世話になった。

これがまた『任侠魂』やら『仁義』やらに溢れた人達で、わたし達の里帰りにも快く協力してくれたよ。

お陰でとりあえずの目標を達成できて、ほっとしている。

 

「いい人達でよかったね」

「やってることはあくどいけどねー」

「それは言わない約束だよ」

 

笑い声が響く。

どうやらお互い、故郷に戻ってきたことではしゃいでいるらしい。

 

「はやいとこ宿探して、荷物預けちゃお。そしたら色々見て回ろうよ」

「うん!」

 

嬉しそうに笑って、ぎゅっと手を握り返してくる未来。

・・・・この笑顔を、少しの間曇らせてしまうまで。

もう少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

小日向未来にとって立花響は、掛け替えの無い存在だ。

関係を言い表すのなら、『幼馴染』や『親友』で片付けられるが。

少なくとも今の未来にとっては、その程度で言い表せないほどに大きくなっている。

初めて会ったのは幼稚園のとき。

周りが知らない子ばっかりで、お母さんとも離れなきゃいけないのが怖くって、部屋の隅っこでめそめそ泣いていた。

 

「――――だいじょーぶ?いたいの?」

 

そこに声をかけてくれたのが響だ。

お姉さんみたいな落ち着きと、妹みたいな明るさを持った不思議な子。

変わってるなと思ったけど、何故か怖いとは思わなくて。

気がつけば一緒に帰るくらいの仲になっていた。

小学校に上がって別々のクラスになっても、クラスメイトより響といる時間が多かったくらいだ。

中学に上がって陸上部に入ってからも、それは概ね変わらなかった。

 

――――転機はやっぱり、自分がツヴァイウィングのライブに誘ってからだ。

 

あの頃の響は何かを考え込むことが多くなって、話しかけても気がつかないことがしばしばあった。

悩み事があるのかと聞いても、誤魔化すばっかりだった彼女。

相談してもらえない悔しさと、積もりに積もった心配。

今より子どもだった未来には、『何もしない』なんて選択肢を取れなかった。

だから気分転換になればと、頑張ってライブのチケットを手に入れて、響を誘って。

・・・・今となっては、当時の自分の浅はかさが恨めしい。

何故起こり得る悲劇を予想できなかったのか、考えるたびに自責の念で胸が疼く。

だけど今どれだけ後悔しようが、響があの会場で事故に巻き込まれたのは変えられない。

そして、その後に起こった『迫害』も。

 

「あんなにたくさん死んだから、皆悲しいのをどうにも出来ないんだよ」

 

だから、しょうがない。

『人を殺した』だなんて言いがかりを言われて、始めこそ響は気丈に振舞っていた。

だけど、クラスメイトが敵になり、ご近所さんが敵になり、仕舞いには未来の両親にさえ悪く言われるようになって。

止めになったのは、お父さんが失踪したことだろう。

会社で響の無事を喧伝してしまったことが、同じ事故で家族を亡くした取引先に知れてしまったらしい。

それが原因で、会社をクビになってしまって・・・・。

もう、響は限界だった。

元から責任感が強かった彼女は、『全部自分の所為なんだ』と自分を追い込んでしまった。

一人になるたびに『何でお前が生きているんだ』と、周りの怨念を染み込ませる様に呟いていた。

もちろん響は何も悪くない。

強いて言うのなら、あの日誘っておきながら結局行かず、危ない場所に置き去りにしてしまった未来が悪いのだ。

だから響は何も悪くないし、苦しいのなら今度こそ力になりたいと。

――――二年前のあの夜。

何やら荷物を抱えて走る響を窓から見つけたとき、これは運命だと思った。

きっとこのまま響を行かせてしまえば、小日向未来は一生後悔するとも。

だから行動も速かったと思う。

バッグに入れられるだけの最低限の荷物を入れて(着替えは無し、絆創膏とかライトとか、本当に最低限)、慌てて後を追いかけて。

結局響と合流できたのは、お隣の国についてからだったけど。

そこからの旅は、楽しかったけど過酷でもあった。

何より二人そろって不法入国なんてやらかしている身だから、まともな道をいけるはずも無く。

響は何度も『悪いこと』に手を染めた。

でも未来は責めなかった。

だって大本の原因は自分にあるのだし、自分も響も『そう』しなければ生き残れない環境にいることも十分に理解していた。

 

「お疲れ様、響」

「いつもありがとう」

「気にしないで、大好きよ」

 

だから、響が壊れきってしまわないように、優しい言葉をかけ続けた。

響がこれ以上自分を責めないように、自分に向かって『死ね』だなんて呪いを吐かない様に。

何より、血でふやけてしまった両手を包んであげることが、自分の使命(ばつ)だと思ったから。

実際どれほどの効果があったのかも、本当にこれが使命(ばつ)なのかどうかも分からなかったけれど。

だけど、

 

「――――未来!いこ!」

 

握った手が、暖かい。

久々の日本に浮かれているのか、響の顔はすこぶる明るい。

 

「・・・・うん」

 

この笑顔を支えられるのなら、何時までだって続けようと思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ひっさびさの日本を時間の限り満喫しましたよ。

やっぱり時間が経っているだけあって、新しいもの、無くなっているものがちらほらあったけど。

むしろいい感じのアクセントになってて面白かったし。

・・・・まあ、平日の真昼間だったこともあって、『十代女子がこんなとこで何してんの?』みたいな目で見られたけど。

それ以外は特に問題も無かったので、良しとしよう。

で、今何をしているかと言えば。

 

「シェルターどこおおおおおおおおおッ!?」

 

シェルターを探して全力疾走中です。

後ろにはノイズの団体様。

ええそうです、普通にピンチです。

しかも右手に未来を、左手に女の子を抱えている状態。

両手に花やで!うらやましかろ!?

 

「うっひゃぁ!?」

 

後ろから飛び掛ってきた一体をどうにか回避。

サーセン、調子に乗りましたッス!

ぬぐぐぐ・・・・しっかし、この状況はいただけない。

いくらガングニール先生のお陰で人外に片足突っ込んでいるとは言え、走りっぱなしはさすがにきついべ。

 

「くっお、ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

火事場の馬鹿力で壁を駆け上がり、三角飛びで昇る。

一気に距離が離れるノイズ、飛び回るタイプは見当たらない。

上りきった空中で体勢を立て直して着地。

・・・・しようとして、思いっきり失敗した。

うぅ、かっこ悪い・・・・。

いや、女の子と未来はどうにか庇えたからよしとしよう。

 

「響、大丈夫?」

「おねえちゃん?」

「だいじょぶだいじょぶ、鍛えてますから!」

 

心配そうな二人に大丈夫をアピールしようとして、ふと気付く。

右手が、っていうか、腕全体が動かない。

・・・・ああ、何だ。

肩が外れただけか。

 

「響?」

「なんでもないよ、ちょっと待ってて」

 

どうにか立ち上がって、ちょうどよさそうな壁を発見。

うん、これならいけるね。

不思議そうな未来の視線を受けながら、勢いをつけて。

肩を、壁にぶち当てた。

着いた砂埃を払って動かしてみる。

よしよし、戻った。

 

「もしかして脱臼してたの!?本当に平気なの!?」

「いや、今治したから別に・・・・」

「こっちが良くないの!シェルターついたら、湿布貼ってあげるから!」

「あー、うん」

 

ぷりぷり怒ってた未来だけど、不安げな女の子に気がついてすぐにそっちを見る。

女の子を慰める未来を見ながら、思わず参ったなと頭をかいた。

――――つい二ヶ月前だったか。

とうとう痛覚が無くなった。

戦闘の時は痛みに怯まなくなったので便利だけど、痛みの一種である『辛味』を感じられなくなったのはちょっと寂しい。

真っ先に味覚を失くした身としては、辛いものみたいな刺激のある料理が楽しみだったからなぁ・・・・。

改めて人間やめてる自分にがっくり肩を落としながら、振り向いて。

ご丁寧に待機していたノイズと目が合う。

 

「―――――ッ!!」

 

って、(うせ)やろ!?

もう追いついてきた!?

 

「響!」

「その子と一緒に下がってな!」

 

二人を後ろに押しやりながら構える。

いつの間に『おかわり』がきたのか、さっきよりも数が多い。

・・・・ここはもう、やるしかないか。

息を、吸い込んで、

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron...」

 

胸を中心に『火』が灯る。

肌の下を、筋肉の間を駆け巡る『熱』を御しながら、体を守る『鎧』と、連中を屠る『武器』をイメージして。

光が治まったころには、『ガングニール』を纏ったわたしが立っていた。

右腕の刺突刃を確認・・・・うん、動作不良はなし。

・・・・え?歌わないんじゃなかったかって?

逆に考えたんだ。

『手遅れなとこまで侵食されてんだから、歌っちゃえ』と考えたんだ。

と、ゆーわけで。

 

「さあ行くよ、お仲間はちゃんとそろえてるよね?」

 

挑発的に笑って、突撃ー!

右腕を振るい、左腕を突き出し。

時々連中の突撃が当たるけど、痛みを感じない今は何とも無い。

引っつかんで叩きつけ、真正面から殴り飛ばし、足元を踏みつけて。

蹂躙する側の連中を、逆に蹂躙し返す。

攻撃さえ効かなきゃノイズなんてただの的だよね!

あーはー!たーのしー!

 

「わー!おねーちゃんすごいすごーい!!」

 

うん、声援ありがとうお嬢さん!

だけど良い子は真似しちゃダメだぞー?

なんて呑気に考えている間にも、ノイズは次々塵になっていく。

暴れに暴れて、体感だと五分くらい?

地面を這う小型を踏み潰してあたりを見渡せば、もう敵の姿は見えなかった。

・・・・わーい、我ながらとんでもないジェノサイドっぷり。

とはいえ当面の危機は去ったので、申し訳程度に注意しようと思いながら。

未来達のとこに行こうとして。

 

「――――ッ!」

 

斬撃が振ってきた。

一番始めの感覚はそれだった。

炭を撒き散らしながら後ずさって前を見れば、ありったけの敵意と威圧。

・・・・街中のポスターでも見かけた、人々を魅了する歌姫。

『風鳴翼』その人が、修羅のような顔で睨みつけていた。

・・・・えっ、やだ。

何コレ怖い。

これ、『原作』(ぜんせのきおく)にあるよりヤル気満々じゃないですか。

覚えがあるような無いような、半分ずつの気持ちで構えを取る一方で。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

未来達の方に目をやる。

翼さんと一緒に来たのか、『二課』のエージェントらしきおにーさん達が、二人を連れて行こうとしているのが見えた。

未来はわたしを心配してくれているのか、あっさり連れてかれる女の子と違って、ものすごい抵抗していた。

 

「やめて!その人は助けてくれたんです!何にもやってない!」

「それは私達も分かっているから、まずは一緒に離れよう。ここは危険だから」

「っいやだ!響ッ!!」

 

あんまり暴れるもんだから、おにーさん達が数人掛かりで押さえ込んでいる。

・・・・今までなら、すぐにでも『滅っ』ってやる状況だけど。

今回ばかりは違った。

散々悪い人達と関わってきたお陰で、第六感でも鍛えられたのかな。

目の前の翼さんもおにーさん達も、『裏』に関わっているのは分かったけど。

何ていったらいいのか、マフィアとかヤクザとかに見られる、ドロっとした嫌な感じはしなかった。

澄み渡った夜の空気みたいな、同じ空間にいて心地よくなるような気配。

 

「・・・・ふ」

 

息を吐く。

『ここだ』と思った。

未来と離れるには、絶好の機会だと。

 

「翼さん」

 

名前を呼べば、威圧が濃くなる。

大好きな奏さんのガングニールを扱っているわたしが、とんでもない大悪党に見えて仕方が無いんだろう。

それでもすぐに切りかかってこないのは、『防人』の矜持ゆえか。

 

「わたしには、守りたいものがあるんです。何に代えてもいい、命だって差し出したっていいって思えるものが」

「・・・・何が言いたい」

 

返事代わりに右腕に力を込める。

出てきたのは、一回り大きな腕型のエネルギー。

つい二ヶ月前、痛覚と引き換えに手に入れた。

新しい力。

 

「守るためならわたしは、躊躇い無く手放します」

 

翼さんの返事は待たない。

『爪』を地面に突き立てて、抉るように引っ掻く。

アスファルトが削られて砂利が飛び散り、翼さんやおにーさん達に降り注ぐ。

続けて往復するようにもう一度引っ掻けば、あたりを土煙が覆った。

・・・・今だ。

今なら誰にも邪魔されず、後ろ髪を引かれることなく。

未来をわたしから、解放できる・・・・!

煙幕はほどなく晴れるだろう、グズグズしていられない。

踵を返して、離脱しようとして。

 

「――――響ぃッ!!!!」

 

ありったけの、声。

思わず振り向けば、煙に巻かれて咳き込む未来の姿が。

その目は確実にこっちを見つけている。

 

「・・・・ッ」

 

身を案じて駆け寄りそうになって。

ぐ、と奥歯を噛み締める。

ダメだ。

今のわたしは、もはや人としての機能を手放したわたしは。

あの子の傍に、いちゃいけない・・・・!

 

「げほ、げっほ!・・・・っ響!待って!置いてかないでぇ!!」

 

心も体も鬼にして、背を向ける。

思いっきり走り出す。

 

「いやだ!響いいいいいいいい――――ッ!!!!」

 

ああ、ごめんなさい。

泣かせてしまってごめんなさい。

だけど、もう大丈夫だから。

ここなら、君を守ってくれる人がたくさんいるから。

・・・・もう、わたしは必要ないから。

だから、だから。

どうか、かみさま。

 

「――――ぅ、っぐ」

 

どうしても溢れてしまう涙を、どうかお見逃しください。




実は考えていたお別れシーンでした。
も、もう続かないんだからね!?←


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板場弓美と

続かないはずなのに、ネタが出てくる。
何故だ・・・・!?

※弓美ちゃんの名前を盛大に間違えててorz
報告ありがとうございます。


――――『アニメ的なミステリアス』。

それが『板場弓美』の持つ『小日向未来』へのイメージだった。

邂逅は、学校が始まって間もない頃。

家庭の事情で入学が遅れたとか何とかで、編入生として紹介された時だった。

背中に届くほどの黒い髪、日本人にしては焼けた肌。

そして全身から醸し出す、一種の色気のようなオーラ。

他のクラスメイト達も、何となく近寄りがたい雰囲気を感じていたのだろう。

始めこそ未来の周囲に出来ていた人だかりは、日を追うごとに目に見えて減った。

別に彼女が嫌われているというわけではない。

ただ、なんというか。

下手に手を出せば、一瞬で崩れ落ちてしまうような。

そんな儚さを持ち合わせていた。

なお、オーラの正体については、帰宅した弓美がいつも通りアニメを嗜んでいたとき。

未来と似た雰囲気のキャラクターを見かけたことで察した。

『あ、アレ未亡人だ』と。

 

さて。

そんな『高嶺の花』とお近づきになってしまったのは、やはりあの時だ。

 

学校に慣れてきて、『アニソン同好会』を設立するという野望を抱き始めた頃。

外国人に道端で声をかけられたのだ。

中国系の出身らしいその人は、なれない英語を四苦八苦しながら発音して、どうにか何かを伝えようとしていた。

弓美も弓美で、相手が困っているのが目に見えていたため、意図を読み取ろうと必死に耳を傾けていたのだが。

いかんせん英語が聞き取りにくい。

二人そろって、困ったなとおろおろし始めたとき、

 

是感到为难什么吗?(何かお困りですか?)

 

助け舟を出してくれたのが、通りかかった未来だったのだ。

流暢な母国語に安堵を覚えたらしい相手は、ものすごいスピードで何が知りたいのかをまくしたてた。

あんまりにも早いので、大丈夫だろうかと心配する弓美を他所に。

未来は的確に相槌を打ち、時折ジョークを交えながら、見事対応しきって見せたのだ。

 

「あの人、映画館への道を聞きたかったみたい」

 

去っていく外国人を見送りながら、何事もなかったかのように日本語を話す未来。

 

「・・・・アニメみたい」

「えっ?」

 

ワケありげな帰国子女。

溢れる未亡人オーラ。

そして今見せたバイリンガル。

まるでブラウン管の向こうからやってきたような彼女に対し、弓美は思わずそう言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――思えばあれがきっかけだったのよねぇ)

 

ここ半月を思い出しながら弓美がくつろぐのは、未来が下宿しているアパート。

物が少なく、女子高生の部屋にしては聊か殺風景だが。

何だか未来に似合っているようで、不思議と悪いとは思わなかった。

 

「お待たせ弓美ちゃん」

「おかまいなくー」

 

用意を済ませた未来が、紅茶の入ったマグカップを運んでくる。

弓美が配膳を手伝うと、嬉しそうにはにかんだ。

――――あの日以来、ちょくちょく話をするようになった二人は、気付くと友人のような関係になっていた。

お昼然り、移動教室然り、休み時間然り。

何か余裕が出来ると、自然と二人がそろっていた。

割と遠慮なくものをいう弓美に、聞き上手の未来という組み合わせは、中々に相性が良かったのだ。

 

「そういえばさ」

「うん?」

 

今日もそんな『なんとなく』で始まった勉強会。

シャープペンを止めた弓美が、未来を見る。

 

「未来って海外行ってたって話だけど、どこに行ってたの?」

 

ちょっとした興味から湧いた、取りとめも無い質問。

 

「・・・・んー、何て言ったらいいのか」

「あー、もしかしてあんまり言えない感じ?」

「そうじゃなくて」

 

珍しく歯切れの悪い様子に身を乗り出せば、苦笑が返ってきた。

未来はすっかり温くなった紅茶を口にして、視線を落とす。

どこを見ているというわけではない、何かを思い出している様子だった。

 

「色んなところに行ったから、一概にここって言えないの」

「家族とあっちこっちしてたってこと?」

「ううん」

 

首を横に振られて、弓美はきょとんとなる。

未成年で海外と言われて、真っ先に思い浮かぶのは『親の海外転勤』だ。

だからてっきり、家族一緒だと思っていたのだが。

 

「じゃあ、誰と?」

 

疑問をぶつけると、未来は少し考え込む。

程なく、『弓美ちゃんならいいかな』と呟くのが聞こえた。

 

「友達と、実は家出してたの」

「えっ?・・・・・えぇッ!?」

 

ぎょっと、今度は身を引く。

いや、だって。

そんなアグレッシブな理由で海を渡るなんて、思っても見なかったからだ。

 

「正確には、あの子にわたしが付いてったんだけどね。中国にネパール、スペインにメキシコ・・・・」

 

指折り数えていくのは、国の数だけではないのだろう。

思い出が蘇ったのか、いつになく楽しそうだ。

 

「っていうか、パスポートとかは」

「持ってたと思う?」

 

つまり、不法入国。

開いた口が塞がらないとはこのことだろう。

ここまで聞いたところで、中々デンジャラスな話であることに気付いたのだが。

いつも以上に顔をほころばせている未来を見ると、何となく遮るのは憚られた。

それに、滅多に自分のことを話さない彼女の、貴重な思い出話。

今の弓美は、好奇心の方が強かった。

 

「すっごく大変だったの、わたしが熱出したり、響が、友達が大怪我したり」

 

だけど。

 

「親切にしてくれる人に出会えたり、綺麗な景色を見つけたり・・・・楽しかった・・・・そう、楽しかったの」

 

そう結論付ける顔は晴れやかで、道中にあったであろう苦労を偲ばせないものだった。

だからこそ、弓美は浮かんだ疑問を口にする。

 

「それあたしに話してよかったの?」

「え?」

「いや、だって・・・・」

 

意外にもきょとんとした未来に、何となく怖気づいてしまうが。

吐いた唾は飲み込めないので、続ける。

 

「友達、と思ってるけど、知り合ってまだ一月もないじゃん?そんな大事なこと、簡単に言ってよかったのかなって」

 

言っている途中で段々バツが悪くなってきて、視線が泳いでしまう。

胸の中で気まずさが渦巻いて、もやもやして、嫌な気分。

そんな心情に気付かない未来は、口元に手を当てて呑気に考える。

自分を取り巻く微妙な空気にいたたまれなくなった弓美が、無かったことにしようかと思い立った頃に納得したように頷く。

 

「多分、知って欲しかったんだと思う。友達の、響のことを、一人でも多くの人に」

 

そう言って、また頷く。

 

「無かったことにしたくないの。あの子がいたことを、全部否定させたくないの」

 

――――この話、中々『深そう』だぞ。

微妙な顔になった弓美は、胸中でそんな結論を出す。

 

「で、その友達は?ヒビキ、だっけ?どうしてんのかな」

 

あんまり突っ込んで地雷を踏み抜くのはごめんだったので、在り来たりな質問でもして終わらせようと思った。

部屋を見る限り、住んでいるのは未来一人。

一緒に海外を回るほど仲が良い友人が、訪ねてきている様子も見えなかった。

 

「・・・・さて、ね。今頃どうしているのか」

 

質問をぶつけられた未来は、途端に笑みを浮かべた。

自分自身を軽蔑するような、嘲るような表情。

いっそ綺麗なくらいの笑顔に、弓美は体を強張らせる。

 

「昔からそうなの、気付くとふらっといなくなって、みんなに散々心配かけさせて・・・・けど、最後にはちゃんと帰ってきてくれるの」

 

窓の外に、視線を滑らせる。

日没の近い街並みが、茜に染まっている。

 

「・・・・・うん、そうだよ・・・・きっと帰ってくるよ」

 

それっきり、未来は黙りこくってしまった。

目の前の友達から知れた、思っても見なかった事実の数々。

そのどれもが強烈過ぎて、弓美はもうおなかいっぱいだった。

お昼以外では紅茶しかいれていないはずのおなかをさすりながら、ふと思う。

 

(こんな可愛い子に、こんだけ心配させるなんて・・・・ヒビキって子は果報者ね)

 

何となく、紅茶を一口。

すっかり冷めたそれは、熱った頭によく効いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――へっちゅん!」

 

「あれ?寒くないハズなんだけどなぁ・・・・?」




|←|バビロニアの宝物庫|    ┗(^o^ )┓三<ちょっと頭冷やしつつぶどうさんと戯れてきますね


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翼さんと了子さん

ここのところ、短編の日間ランキングにほぼずっといさせてもらっていますガタガタ
いや、ほんとうにありがたいです。
これからもどうか、暇つぶしにかまってやってくださいませ。


『風鳴翼』。

その名を知らぬ者は、現代日本においていないだろう。

かつて一世を風靡したボーカルユニット『ツヴァイウィング』の片割れにして、今もなお人々を魅了し続ける歌姫。

相方を失ってもなお歌を届ける様に『健気さ』を見出すファンが多く、最近では海外からもオファーがきているとか。

そんな今をときめく歌姫だが。

彼女にもう一つの顔が存在することは、誰にも知られていない。

 

「あーら翼ちゃんお悩み?」

「櫻井女史」

 

ここは特異災害対策機動部二課、その本部。

日本におけるノイズへの最後の砦であり、唯一の対ノイズ武装『シンフォギア』を保有する組織。

翼はそのシンフォギアを扱える、ただ一人の人間だった。

休憩スペースにて何か考え込んでいた翼に、白衣を揺らした女性が人懐っこい笑みを向ける。

『櫻井了子』は、シンフォギアの開発者。

現時点でシンフォギアを新たに製造できる、同じくただ一人の人間だ。

 

「悩み、になるのでしょうか・・・・」

「でも気になることがあるんでしょう?」

 

年上であることと、長年の付き合いであることが効いたのだろう。

翼はもう少し躊躇った後で、とつとつ話出した。

 

「あの、ガングニールの装者についてなんですが」

「ああ、こないだの」

 

半月前の話だ。

二課が元々保有していた聖遺物の一つ『ガングニール』。

『グングニル』とも呼ばれる、北欧神話の槍を加工したシンフォギアがあったのだが。

二年前、翼の相棒でもあった『天羽奏』とともに、その運命を共にしたとされ。

もう二度とみることがないだろうと思われていた。

そんな矢先に、見知らぬ少女が寸分違わぬ反応を示すシンフォギアを纏い、翼の前に現れたのである。

彼女はガングニールを使いこなしていたようで、視界を上手いこと遮られ、あっという間に逃亡されてしまった。

 

「あの子がどうしたの?」

 

了子に問いかけられた翼は少し考えて、言いたいことを纏めて。

 

「彼女が言っていた、『守るために手放す』という言葉が、どうも引っかかっているんです」

 

あの少女が、『立花響』が言っていた『守りたいもの』とは。

現在二課が重要参考人として保護している『小日向未来』のことだろう。

彼女は響に置いていかれたことが堪えているようで、今日学校で見かけたときも、聊か元気が無いように見えた。

『守りたい』という感情は、翼自身もよく分かる。

半身ともいえる相棒を失っても、今の自分には叔父であり上司でもある弦十郎や、隣にいる了子など。

守りたいと思える人は大勢いるのだから。

だが、響がとった行動はどうだろうか。

まるで『お前は足手まといだ』と捉えかねないくらいの突き放しっぷりは、翼にも思うところがある。

 

「んー、そうねぇ」

 

たどたどしくも、しっかりした翼の意見を聞いた了子は、頭を捻って唸る。

 

「荒事は専門外だから、一概にこうとは言えないのだけど」

 

やがて、そう前置きして語りだした。

 

「私は、響ちゃんのとった行動もあながち間違いじゃないと思うわ」

「そうなんですか?」

「ええ、そもそも『力』というのは、色んなものを引き寄せてしまうもの、いいものも悪いものも」

 

本人が望もうが望むまいが、勝手に傍へとやってくる。

 

「だから、自分の大事なものが傷つかないように、そんな危ない元から遠ざけるという点では、別に間違っているというわけではないのよ」

「なるほど・・・・」

 

感心して頷く翼を微笑ましく見つめつつ、了子は続ける。

 

「だけど、正しいかどうかといわれると、この場合は何とも言えないわね。未来ちゃん、一回塞ぎ込んじゃったし・・・・」

 

それに関しては、翼も覚えがあった。

今まで一緒にいた人が、ある日突然いなくなる喪失感。

体の中の、何ともいえない大事な部分が満たされない飢餓状態。

二年たった今でも、あの日を思い出す度に燻っては、翼の胸を苛むのだ。

傷を負ったばかりのあの子は、今の翼以上の痛みを感じているに違いない。

唯一の救いと言えば、離れた相方がまだ生きているということだろう。

 

「・・・・多分、これは翼ちゃんにかかっているかもね」

「私にですか?」

 

きょとんとする翼に、こっくり頷く了子。

 

「そうじゃなくても、私達にとって無関係ではないガングニールの担い手よ?ほっとけるわけないじゃない。そしてあの子に対抗できて、かつ連れて来れそうな人間と言えば・・・・」

「私、ということですか」

「そういうことー」

 

人差し指を立てていた手をぱっと広げておどける了子。

仕草こそ茶目っ気があるが、大事なことを伝えたいのは良く分かった。

 

「未来ちゃんを元気付けるにしても、ガングニールの出所を知るにしても、響ちゃんの確保は不可欠。もちろん私達だって、そのためのバックアップは惜しまないから」

「はい、私も全力を尽くします」

「その意気よん♪」

 

『かわいいやつめ』と翼の頭を撫で回す了子。

髪をかき回され、前が良く見えないのをいいことに。

言葉とは裏腹の、妖しい光を瞳に宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ね

 

 

 

 

 

 

 

 

死ね

 

 

 

 

 

 

 

死ね

 

 

 

 

死ね、死ね、死ね

 

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

 

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!!!」

 

がばっと身を起こす。

息が苦しくて、何度も何度も呼吸する。

ここはどこだっけ。

そうだ、昨日侵入した空き家だ。

鍵を壊して不法侵入したんだっけ・・・・。

袖で顔を拭えば、じゅく、という嫌な音。

うへぇ、汗びっしょりだぁ・・・・。

 

「っはぁー・・・・」

 

っていうか、今の夢なんだ。

物騒すぎるでしょう・・・・。

熱さは感じないとは言え、濡れた感覚が気持ち悪い。

だけどお風呂とか贅沢いってらんないし・・・・。

ぐぬぬ、無法者はこういうとき辛いよ・・・・。

せめてもの抵抗に上着を脱いで、すこしでも湿気から逃げようとする。

傍に放ったとき、ふと未来に上着を貸したときのことを思い出して。

そこから今頃どうしてるかなと気になった。

まあ、あの時読み取った気配からして、二課の方針は原作どおりと見ていいだろう。

多分未来は、わたしとつるんでいたとして、重要参考人として保護されているに違いない。

で、あの司令さんのことだから、学校にもきちんと通わせているだろうし。

っていうかこの間、街でリディアンの制服着てるの見かけたし。

だから、このままで大丈夫のはず。

・・・・一途なあの人とか、野良猫的に可愛いあの子とか。

アレコレ気にならないといったら嘘になるけど。

やっぱり『原作』がハッピーエンドになったのは、『響』が『響』だったからなのであって。

おおよそ『わたし』には成し得ないことだから。

だからこの世界では、翼さんと二課の皆さん(ゆかいななかまたち)に任せることにしよう。

わたしも早いとこ日本を出る算段整えないと、もたもたしてたらOTONA達に確保されちゃう。

せっかく、未来をわたしから解放出来たんだ。

このまま近くにいたんじゃダメだ。

 

「・・・・ッ」

 

・・・・ダメだって、分かっているのに。

感じないはずの痛みで頭が疼いて、寒くないはずの体が凍えた。




これは諦めて連載にでもすべきかしら(白目


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OTONAとOHANASHI

短編の日間ランキング、および週間ランキングにずっといさせてもらいました。
皆々様の評価、大変うれしく、そしてありがたく思っています。
ひびみくが好きすぎる、そんな皆さんが大好きです(


弦十郎がまだ、公安に勤めていたころの話だ。

とある事件を捜査していた際、未成年の関与が明らかになった。

そこで少年課に応援を頼み、やってきたベテランの刑事と組んだのだが。

この刑事と言うのが、どうも子どもに庇護的な人だった。

『決して子どもだけの所為じゃない』と口癖のように呟く彼は、少年達の罪が少しでも軽くなるような証拠集めを心がけ。

さらに立件して逮捕した後も、彼らに対してフランクに接して寄り添い。

しっかり更正出来るように努めていた。

若き弦十郎とて、未成年の更正がいかに重要か理解していたし、必要なことであるとも認識していた。

だが、そのベテラン刑事のやり口は、当時の感覚からして『やりすぎ』な気がしていたのだ。

だから、問いかけた。

どうしてそこまで、子どもに寄り添うのかと。

すると彼は、得意げに笑って教えてくれた。

 

「いいか?子どもってのはな――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去にノイズが闊歩したことにより、無人となったマンション。

一件華やかな東京の街だが、所々にこういった廃墟があちこちにある。

その廊下をゆっくり進むのは、『風鳴弦十郎』。

翼の叔父であり、『特異災害対策機動部二課』の司令官でもある。

やがてとある一室に入った彼は、またゆっくり歩き出した。

この先にいるであろう彼女を刺激しないように、敵意を持つ者ではないと示すために。

余裕を持って、歩を進める。

すると現れた気配。

鋭く尖っている、闘気だ。

警戒されてるとか、しょうがないかとか思いながら、苦笑い。

 

「そう警戒しないでくれ」

「――――な」

 

ひょっこり室内を覗き込めば、迫る一閃。

相手の手首を軽く弾いて掴み取る。

上着の右袖の下。

上手く隠れている手甲から、刺突刃が伸びている。

 

「良く出来ているな、君が作ったのかい?」

「・・・・」

 

なるべくフランクに話しかけてみるものの、少女は絶句するばかりで。

押しても引いても離れない腕に困惑しているようだった。

 

「まあ、答えたくないならそれでいいさ」

 

ぱっと離してやれば、勢い良く後退した。

元気なことだと感心しながら、持っていたコンビニの袋を見せる。

 

「何も盛っちゃいない、俺は君と話がしたいんだ」

 

歩み寄って袋の中身を見せてやる。

あんぱんに牛乳と言う、弦十郎好みのラインナップだったが、成長期の青少女には効いたらしい。

くぅ、と気の抜けた音が聞こえた。

弾けるように我に返って身構える彼女を、思わず微笑ましく見つめながら。

その手を取って、袋を握らせる。

 

「俺の名前は風鳴弦十郎。半月と少し前、君と友達が接触した集団のリーダーだ」

「・・・・ひびき、です。立花響」

 

よろしくと笑いかければ、彼女は小さく顎を引いた。

響は入り口(逃げ道)の近くに陣取り、もすもすとパンを頬張っている。

少し離れた向かい側に座って観察していた弦十郎は、あまり動かない響の表情が心配になった。

 

「・・・・あんぱん、嫌だったか?」

「んぐ?・・・・ああ、いえ・・・・」

 

最後のひとかけらを飲み込んだ彼女は、牛乳に一口つけて呟いた。

 

「・・・・味、分からないんです」

「・・・・元から?」

 

ふるふると、首が横に振られる。

後天的。

ということは、一番考えられる原因は・・・・。

 

(ガングニール、か)

 

彼女が所有しているであろう無双の一振りを思い出し、弦十郎は顔をしかめる。

すぐに、『子どもの前でこんな顔は』と頭を振って切り換えた。

 

「君のことは、調べさせてもらった。二年前に友達と不法に出国・入国してから、ユーラシアを中心にあちこちで目撃されていたようだね」

 

別に止めることなく、響は牛乳をまた飲む。

 

「あちこちの裏組織、秘密結社などで用心棒として雇われていたが。その全てが全滅している」

 

あるいは現地の警察に拿捕されて、あるいは響自身の手で皆殺しにされて。

飲み終えた牛乳パックを潰して、ビニールに入れる響。

否定するつもりも、言い逃れるつもりも無いらしい。

弦十郎の言葉を、ただ聞き入っていた。

 

「・・・・日本を出て行った理由は、だいたい想像がつく。だが、どうして今になって戻ってきたんだ?」

 

二課も関わっていたツヴァイウィングのライブ。

政府が下手に情報を規制した結果混乱を招き、更に多くの人を犠牲にしてしまった。

忘れてはならない事件。

糾弾されるのを覚悟で、弦十郎は問いをぶつける。

響はしばらくの間、沈黙を保っていたが。

やがて、ゆっくり口を開いた。

 

「・・・・あのライブに関しては、誰も悪くないって思っています。強いて言うなら、間が悪かったんです」

 

とつとつ語る言葉を、今度は弦十郎が聞く。

 

「でも、あのまま家にいたらきっと、お母さんやおばあちゃんに迷惑をかけると思ったから・・・・実際、その所為でお父さんが出て行ったわけだし・・・・」

 

一度堰を切った言葉は、止まることを知らない。

そこそこの速さで、思いがあふれ出した。

 

「だから出てったんです。みんなが大好きだから、離れなきゃって思ったんです」

 

大好きな家族や、友人のために。

彼らが笑って暮らせるために。

自分から進んで、孤独になることを選んだ。

少女が抱くには痛ましすぎる決意に、弦十郎がまた顔をしかめている間にも。

『でも』と、言葉は続く。

 

「・・・・でも、そんな我が侭に、未来を巻き込んじゃいました。だから、帰してあげなきゃって思って・・・・それで、戻ってきたんです。大分、時間がかかっちゃいましたけど」

 

そんな『危険物』である自分を思ってくれる人がいた。

どれほど嬉しかっただろうか、どれほど救われただろうか。

響は笑った。

味方がいた嬉しさと、巻き込んだ自分への嘲りで。

 

「・・・・これからは、どうするつもりだ?」

「・・・・一番初めの予定通り、ひとりになれる場所を探そうかなって」

 

誰も傷つけない、誰にも傷つけられない。

どこにあるかも分からない新天地を求めて。

・・・・いや。

そんな大義名分を掲げて、独りぼっちになるために。

 

「それでいいのかい?君は」

「それで、みんなが笑ってくれるのなら」

 

傍にいられなくたっていい。

『みんな』が平穏に暮らせるのなら、それでもいい。

いっそ清々しいまでの笑顔を、どうしても『良い』と感じられなかった。

独りで構わないと笑う彼女。

だがその決意はあまりにも痛ましくて、悲しくて。

 

「――――俺達のところに、こないか」

 

だから弦十郎は歩み寄る、手を伸ばす。

拒むならそれで構わない、だがここで何もしないなんて出来ない。

そして願わくば、この手を取ってほしいと思った。

そんな暗くて寒い場所に、置き去りにしてはダメだからと。

『平気だ』と笑う顔を、どうしても信じられなかった。

 

「・・・・それは、戦力になれってことですか?」

 

一方の響は、少し困った顔をしている。

無理も無いだろう。

本人も自覚しているとおり、彼女は犯罪者だ。

その手にかかった命は数知れず。

例えその殆どが悪人であろうとも、命を奪う凶行に他ならないのだから。

 

「それもある。だが、君をほっとけないのも本音だ」

「・・・・きっと、色んなところから文句を言われますよ」

「構わない」

 

きっぱり言い切れば、響はぽかんと呆けた。

 

「言い方を変えよう。こちら側に来てくれ、君はそっちにいてはいけない人間だ」

 

弦十郎はその隙をついて、無防備になった手を取る。

 

「やったことは消えない、それはそうだ。だが君はまだ間に合う、まだやり直すことが出来る」

 

『手ごたえ』は、あった。

かすかな、神経を尖らせていなければ分からないほど僅かなもの。

だが、確かに感じた。

響が指先にわずかばかりの力をかけ、手を握り返したことを。

 

「俺達がその手伝いをしてやる、だから・・・・!」

 

ダメ押しにと強く握り返す。

思ったとおりだ。

この子は『子ども』で、救われるべきだ。

大層なことができるわけではないと自覚している。

それでも、この子が温かい日向に戻ってこれる手助けは惜しまない。

 

――――いいか?子どもってのはな

――――手を握ってやると、必ず握り返してくるんだ

 

蘇る、かつての言葉。

 

――――どんだけ心がぶっ壊れようが、どんだけ絶望に叩き落されようが

――――そうやって『生きてぇ』『助けてくれ』って思いを伝えて来るんだよ

――――そういう子どもってのは、大体腐った大人に好き勝手されて、散々傷つけられて

――――それでも他に頼るところがない連中だ

 

若き日の弦十郎の胸に深く響き、今では当たり前となった信念の原点。

 

――――だから俺達だけは裏切っちゃなんねぇ

――――救える立場の大人(おれたち)が、諦めちゃいけねぇんだ

 

目の前の響は、確かに手を握り返してきた。

『助けてくれ』と、控えめながらも訴えてきた。

この手を離してはいけない。

この子を孤独にしてはいけない。

この子の本心を、裏切ってはいけない・・・・!

 

「傍にいちゃいけないわけあるか。未来くんだって、きっと・・・・!」

「――――ッ」

 

だが、弦十郎はここで過ちを犯す。

響という少女を、よく知らなかった故の過ち。

『未来』の名前が出た瞬間、強い力で手を振りほどかれた。

飛びのいた彼女を見れば、表に出ていた感情を押し隠すしかめっ面。

 

「何を――――!?」

 

そして徐に刺突刃を振り上げて、

 

「――――未来に、伝えてください」

 

ざっくり、切りつけた。

 

「こうやっても痛みを感じない。痛みだけじゃなくて、味も、暑さ寒さも感じない・・・・!」

 

縦に刻まれた傷口から、痛々しく血が流れ出す。

 

「君の友達は人間じゃなくなった、だから一緒にいられないって!!」

 

言い切るなり、窓へ。

ガラスを突き破り、曇天へと身を躍らせた。

弦十郎が慌てて追いかけるが、その姿はコンクリートジャングルに紛れてもう見えない。

 

「くそ・・・・!」

 

ことを急ぎすぎたと、自身に悪態をつく。

脳裏に焼きつく、去り際の響。

一緒にいられないと断言した、その顔は。

 

(泣きそうな顔で、そんなこと言うんじゃない・・・・!)

 

募った悔しさをどうしようも出来なくなって。

近くの壁に、拳を叩きつけた。




マイペースにさくさく展開できたら、いいな・・・・!(


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会うなよ!?絶対に会うなよ!?

連載に切り替えてから、お気に入り・アクセス数ともにどっと増えた件について。
ランキングにも、週間・日間ともにいさせてもらってしまい。
恐れ多さと感謝で震えが止まりませんガタガタ

何度も申し上げますが、この小説は、いきあたりばったりですッ!!(
どこにいきつくかもわからぬ稚拙な文章を気にかけて下さり、誠にありがとうございます。


あー、ちくしょうめ・・・・。

あ、どうも。

ぼっちを心がけている自分こと、立花響です。

どうにか日本からのエスケープを試みたわけですが。

空港はもちろんのこと、港まで警備が強化されてしまい。

もどかしく二の足を踏んでしまってます。

完全に出遅れた感が半端ないですね!どうぞ大いに笑ってくださいな!

なんてヤケになったところで、状況が好転するわけでもなし。

さーてどうしたもんかなと、頭を抱えている次第でござる。

このままだと二課に確保されるのも時間の問題。

・・・・せっかく、家族や未来から離れられたのに。

もう少しで独りになれるところだったのに。

世の中ままならないもんだよ・・・・。

 

「・・・・ぁぐ」

 

夜の街を見下ろしながら、りんごを一口。

・・・・盗品じゃないよ、ちゃんとお金払って買ったよ。

未来と別れて以来どうも食欲がわかなくて、そのお陰かお金がいくらか浮いてたんだよ。

相変わらず味はしないけど、この瑞々しさは喉にありがたい。

芯・・・・は、その辺の植え込みに埋めればいいかな。

生ゴミだからほっときゃ消えるだろうし、うん。

 

「・・・・ん?」

 

なーんて呑気に考えていると、お空になんかあった気がして見上げてみる。

すると、光の筋がいくつも流れていくのが見える。

・・・・ああ、『流れ星』か。

確かこと座流星群だっけ、『原作』で『響』と『未来』が見ようとしてたのは。

・・・・『(この子)』が『(わたし)』でさえなかったら。

今頃未来に平謝りしながら、ノイズ退治に向かっていたことだろう。

嘘をつくことに胸を痛めながらも、あの子を守る使命に燃えて。

尤も、こうやって生きている(にげられない)以上は、考えたところで無駄なことなんだけど。

そんなことより今後だよ今後。

関東近郊がダメなら、いっそ北上して北海道からロシアに渡るか・・・・?

未来がいない今なら、懸念無しに極寒の地に行けるし。

それにもたもたしていると、そっちにまで手を回されるかも。

・・・・いや、この場合既に回っていると考えた方がいいかもしれない。

だったらなお更だ。

影響がなるべく少ないうちに行動を起こさないと、今度こそとっ捕まる。

そうと決まれば、実行あるのみ。

これまでの旅のお陰で、徹夜なら慣れてるし。

何より侵食されまくってるこの体なら、ちょっとくらい無理したって平気。

ガングニール先生ばんざーい!

 

「――――『ファフニール』だな?」

 

振り向く。

ネオンに照らされた、白銀の鎧が立っている。

・・・・たわわ、いや、たゆん?

ボインでもいいかも。

立派なモノをお持ちですね。

 

「蟻一匹殺せなさそうな、呑気な面だなぁ?」

「むぐ・・・・能ある鷹は爪を隠すっていうじゃない?」

 

りんごを食べきって、芯を放る。

ビルの管理人には申し訳ないけど、こっちは緊急事態なので大目に見てもらいたい。

 

「鷹と思い込んでる鳶じゃなきゃ・・・・いーがよッ!!!」

 

じゃらりと、鞭が鋭く振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「流れ星?」

「そそ!こと座流星群、今度日本で見られるってさ!」

 

『だから一緒に見に行こう』と、弓美に誘われたのが数日前。

いつもの二人組みに、最近仲良くなった『寺島詩織』と『安藤創世』も加えた四人で。

女子高生四人だけの、ちょっとした冒険に出かけることになった。

夕方。

未来はちょっと子どもっぽいイベントに、期待を膨らませていた。

 

(これが寮とかだったら、出かけ難かっただろうな)

 

なんて考えながら、いそいそと出かける準備。

温かい飲み物や防寒具、財布やスマホなどの最低限の貴重品。

他にも軽くつまめるおやつや、防犯ブザーにスタンガン。

それからバタフライナイフ。

・・・・後半は少し物騒な気がしたが、これまでの経験がある以上持っていないと落ち着かない。

 

(わたしって、『普通の女の子』から結構離れてるかも・・・・)

 

防犯アイテムのラインナップを改めて見た未来は、苦笑い。

平和に慣れるには、まだ時間がかかりそうだ。

ふと時計を見れば、待ち合わせの時間が迫っている。

バッグに荷物を放り込み、家を出た。

 

「小日向さーん!」

「こっちこっち!」

 

待ち合わせ場所に駆け寄れば、出迎えてくれる仲間達。

 

「ごめん、お待たせ!」

「きょよーはんい!きょよーはんい!」

「ヒナが最後って珍しいね」

 

それからほどなく歩き出して、バスに乗る。

揺られること十分。

ほどよいくらいに灯りが減った郊外で降りた。

 

「いやぁ、流れる時間がちょうど良くてよかったよ」

「だね、バス少ないけど、無いわけじゃないし」

 

スマホで流れ星についてのアレコレを調べながら、賑やかに目的地の高台についた。

レジャーシートを敷いて、持ち寄った飲み物やおかしを口にしながら。

それとなく夜空を気につつおしゃべりしていると。

 

「あ、来た!」

「え、どこどこ!?」

「あの辺に・・・・ああ、ほらほらほら!」

「見えた!わぁ!」

 

始めに弓美が、次に創世が見つけて。

続けざまに詩織も見つけたようだ。

未来も慌てて見上げると、かすかに、次々空を彩る光。

 

「綺麗ですね」

「うん、でも結構はやいよ」

「これで願いごと三回とか間に合わないって」

 

キラキラ瞬く流星群にはしゃぐ友人達。

年頃の少女らしいワンシーンを感慨深く思いながら、ふと。

未来の脳裏に、いつも見ていた後姿が蘇る。

 

(響と来たかった・・・・なんて、わがままか)

 

こっそり自嘲の笑みを漏らしたときだった。

 

「あ、あれおっきいよ!」

「ほんとだ、っていうかアレ流れ星って呼んでいいの?」

 

弓美と創世が指差す先。

橙と白銀の光が、尾を引いて走っている。

他の星よりもはっきり見える明るさと大きさは、確かに流れ星というより彗星の方が近いかもしれない。

 

「なんて言うんだろうね?ハレー彗星?」

「バキュラ、それしかしらないだけでしょ」

「バレたか」

 

思っても見なかった『大物』にはしゃぐ面々。

未来も内心わくわくしながら食い入るように見つめていると。

 

「・・・・あの」

 

か細い声。

隣を見てみると、詩織の顔が引きつっている。

 

「どうしたの?」

「えっと、気のせいだったら大変申し訳ないんですけど・・・・」

 

そう、震える指で、夜空を指差して。

 

「――――近づいてません?」

「え?」

 

一瞬、呆ける。

膨大な量の思考が一瞬で過ぎ去り、詩織の言葉を飲み込む。

そして弾かれたように、未来が振り向けば。

轟音。

 

「きゃああああああああ!?」

「わあああああああ!?」

 

地面が揺れ、突風に煽られ。

四人は咄嗟に抱き合って身を守る。

目も耳も聞かないかな、ぐっと耐えていた未来の耳へ。

忘れもしない声が聞こえた。

 

「――――ッ!?」

 

顔を跳ね上げれば、もうもうと立つ土煙。

突然の、非日常的な出来事なのに。

何故か怖いとは思わなかった。

()()()()()()()()と感じていた。

だって、そこにいるのは。

 

「・・・・ッ」

 

煙が翻る。

中で発生した風に払われる。

残った砂埃を纏いながら、飛び出してきたのは。

 

「――――ひびき」




本編がシリアスな分、タイトルでふざけるスタイル←


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火事と喧嘩はなんとやら

前回までの閲覧、評価、お気に入り登録。
誠にありがとうございます。


「てめぇ・・・・!」

 

状況は目まぐるしく変わる。

間髪いれずに砂塵が払われ、クレーターの中央に白銀が立っていた。

全身を覆う、薄いスーツ。

しかし要所要所にいかついパーツがあることから、ただの衣服ではないことが分かる。

バイザーの下から、鋭い視線を向けていた。

 

「響・・・・!」

「え、あれが・・・・?」

 

響は動揺する未来に一瞥向けるが、それだけ。

鎧に向けて突撃する。

懐に飛び込み、思いっきり一閃。

大きく仰け反られ、装甲を掠るに留まる。

すかさず体を捻り、蹴り一発。

鳩尾に直撃し、白銀は思いっきり吹き飛ばされた。

 

「響!」

 

右腕の刺突刃を展開したまま、低く構える響。

未来が駆け寄ろうとすると、切っ先を突きつける。

 

「・・・・死にたくないなら、帰れ」

「――――ッ」

 

低く、威圧する声でそれだけ告げると。

白銀を追って走り出す。

 

「このヤロウッ!!!!」

 

じゃらり、と。

鎧と繋がる鞭を振り回す。

不規則な攻撃が次々繰り出される。

一撃一撃は、地面を抉りとる程の威力。

生身で受ければ、当然ただで済まない。

響は慌てることなく体を捻り、その場から飛びのき。

攻撃を確実にかわし続けていた。

埒が明かないと舌打ちした白銀は、腰から何かを取り出す。

反れた形から弓を連想するが、水晶部分から矢の代わりに光が打ち出された。

瞬間、響の気配が研ぎ澄まされる。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron...!!」

 

今度は大きく飛びのきながら夜空に体を躍らせ、ガングニールを纏って着地。

顔を上げれば、目の前にはノイズの群れが。

 

(ソロモンの杖・・・・!)

 

『シンフォギア』の物語を知っているがゆえに、苦い顔。

もちろん加減はしない。

構えを取って、突撃。

刃を振るい、拳を突き出し、蹴りをお見舞いし。

時には『幻影の手』すら使って。

苛烈に、確実に。

被害しか生み出さない迷惑な連中を屠っていく。

 

「何だよそのスピード!?重戦車か何かか!?」

「人間タンクとでも呼んで!」

「クッソォ!!」

 

最後の一陣を吹き飛ばして、再び肉薄。

白銀は鞭を手に取り迎撃する。

手段が限られた所為か、先ほどよりも鋭く苛烈な猛攻。

時には鞭を固めて槍のように突き出してくるため、より不規則な攻撃が襲い掛かってくる。

さすがの響も次第に対処しきれなくなり、一つ、また一つと傷が増えていった。

 

(やっぱり強いや、これで本来の戦い方じゃないっていうから・・・・強敵だな)

「ここでふんわり考えごとたぁ!頭が高ぇッ!」

「っと・・・・!」

 

『斬り上げ』を紙一重で回避。

肩を掠めたが、大したことは無いと判断。

 

「っはああああああああああ!」

「おおおおおおおおッ!!!」

 

刃がぶつかる、得物同士が迫り合う。

火花が散り、視線が交差する。

 

「だりゃぁッ!!!」

「ッ・・・・!」

 

鍔迫り合いを制したのは、白銀。

響は大きく弾き飛ばされ、地面を削って着地。

『完全聖遺物』の性能に、奥歯を噛んで脂汗を浮かべる。

だが泣き言は言っていられないと、立ち上がって。

 

「響!!!」

「ッお前・・・・!!」

 

振り返る。

即座に最悪だと歯を向く。

自身を案じてきたのだろう未来が、駆け寄ってきていた。

『何でここに来た』と、怒鳴りつけようとして。

 

「そぅら隙アリだッ!!!」

「ッチックショウ!!!」

 

迫るエネルギー弾。

未来を思いっきり突き飛ばし、思いっきり拳を叩きつけた。

 

「そんな、未来・・・・!」

 

刹那、爆発。

未来を案じて追ってきていた弓美は、呆然と目の前を見つめたが。

次の瞬間、響が砂塵を振りほどいて飛び出した。

そのすぐ傍で咳き込む未来を見て、ほっとしてから駆け寄る。

 

「ああああああああああああああああッ!!!!」

 

咆哮を上げながら突撃。

勢いに押されながらも、白銀はすかさず鞭を伸ばす。

 

「舐めるなアアァッ!!!!!!」

 

殺意の乗った一閃に対し、響はあろうことか手を突き出した。

当然切っ先が貫通して、手から夥しい量の血が流れ出す。

そしてあろうことか、そのまま前進してきた。

 

「なぁッ!?」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

白銀が呆ける間に、三度懐へ。

近すぎて防御は間に合わない。

逃げようにも、鎧と繋がった鞭が刺さっているため、手間がかかる。

意識を前に向ければ、敵はもう眼前。

覚悟を決めて、歯を食いしばる。

 

「あああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」

 

雄叫びと共に、一閃。

刃が白銀の体を捉え、深く引き裂く。

裂ける肌、噴き出す鮮血。

トドメだといわんばかりに蹴りを突き刺して、吹き飛ばした。

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・は・・・・・」

 

手に刺さったままの鞭を引き抜いて捨てる。

無理をしてしまったため、傷口、出血量ともにとんでもない事になっていた。

動かすことは当然出来ないが、放っておけば再生するだろう。

現に、見つめている間にも傷は塞がり始めていた。

 

「・・・・」

 

ため息をついていると。

何時の間に来たのか、隣に未来が。

咄嗟に傷口を隠すが、もはや手遅れだった。

 

「・・・・怪我してるじゃない、ちゃんと手当てしないと」

「いい、いらない」

 

そっぽを向いて早々に立ち去ろうとするも、手を取られて引き止められる。

 

「いらないわけないじゃない・・・・!ねえ、せめて包帯くらい・・・・!」

「ッうる、さいな!!!」

 

握った手を、叩き落とす。

心配してくれた未来に対し、鋭い視線を向ける。

 

「いらないって言ってるだろ!!言うことを聞けッ!!!」

「ッ・・・・!」

 

怒鳴りつけた上、拳を当てようとして。

 

「――――丸腰相手に手を上げるのは、感心しないな」

 

スパン、と心気味のいい音。

響の目の前。

駆けつけた翼が拳を受け止めていた。

弦十郎と違うのは、すぐに振りほどけることだったが。

警戒心むき出しで距離を取る響。

今まさに怪我していることも相俟って、その姿が手負いの獣に見える。

意識が向いているのは背後。

逃走を企てているようだ。

 

「逃げるつもりならやめておけ、同じ手が通用すると思わないことだ」

「・・・・そうですね」

 

刃が発光、エネルギーがチャージされる。

 

「じゃあ、こうします」

 

腕を振るう。

風を切って斬撃が飛ばされる。

狙っているのは、翼ではなく。

 

「逃げろ!小日向ッ!!」

 

呆然とする未来の前へ、庇おうとした弓美が両手を広げる。

そのまま強く目を閉じて、痛みに備えて。

 

「ッハァ!!!」

 

その前に更に飛び込む人影。

駆けつけた弦十郎が踏み込むと、地面が隆起して盾となる。

 

「ッ奴は!?」

 

未来の無事に安堵するのも束の間。

一般人へ害意を向けた響への怒りを燃やしながら、翼があたりを見渡せば。

頭上に、気配。

弾かれたように見上げれば、いつかも使って見せた『手』を振り上げる響が。

 

「ふんッ!!!」

 

翼のすぐ足元を攻撃。

飛び散った砂が目を直撃し、翼は視界を奪われる。

弦十郎が駆けつけようにも、飛ばされてきた岩塊が未来達や一緒に来た了子を狙ったために断念。

土煙を振り払ったときにはもう、響の姿は見えず。

結局今回も、まんまと逃げられてしまった。

 

「・・・・ッ」

 

手を握り締める弦十郎。

助けるべき子どもに手を伸ばせないもどかしさが、胸中で渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

これでいい。

これでいいんだ。

ああやればさすがの未来だって、わたしを嫌いになるだろう。

そうでなくても、『危ないから』って、周りが勝手に遠ざけるだろう。

だから、これでいい。

・・・・そういえば、一緒にいたのは友達だろうか。

多分、リディアンで出会ったんだろう。

危ないのが分かってて、未来のところに駆けつけてくれた。

きっといい子なんだろうな。

あんな子が友達なら、きっと大丈夫。

すぐにでもわたしのことを忘れられる。

だから未来、お願い。

そんな泣きそうな顔をしないで。




※このビッキーは中身別人です。


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実際会ったらおっかない

二課本部。

機密を目撃してしまった弓美達は、諸々の注意事項を受けていた。

ようやく解放されたのは、23時を回る頃。

廊下に出たそれぞれが、伸びをしたりため息をついたりして、にごった頭をリセットしていると。

未来が座り込んでいるのを見つけた。

暗い顔で、ここではないどこかを見つめている。

 

「大丈夫?」

「ぇ、あ・・・・うん」

 

見かねた弓美が、代表して声をかけると。

意識をこちらに引き戻した未来は、慌てて笑顔を取り繕った。

 

「・・・・隣、いい?」

「・・・・うん」

 

それじゃあ、と。

それぞれ未来の隣にゆっくり腰を下ろす。

 

「・・・・ちょっと酷いやつよね、響って」

「しょうがないよ・・・・危ないのに首を突っ込んだのは、事実だし」

「だからって叩くこたないじゃない」

 

少しむくれるように弓美が言えば、未来は乾いた笑いを零した。

だが、弓美の不機嫌は治らない。

 

「叩くって?」

「怪我してんのを未来が気遣ったら、『いらない』って突っぱねたのよ」

「まぁ・・・・」

 

身を乗り出した創世にわけを話せば、詩織は口元を手で押さえて痛ましげに眉をひそめた。

 

「時々そういうことをする子なの、多分響なりに『危ないよ』って伝えてくれたんだと思う」

「そうなの?」

「そうなの」

 

叩かれた方の手を見つめて、どこか懐かしそうに語る未来。

 

「気が利くように見えて、変なところで不器用なんだから・・・・」

 

それっきり、黙りこくってしまった。

 

「みんな、送迎の準備が出来たわ。早いとこ帰らないと」

「あ、はい!」

 

そこへ二課の職員の友里がやってきて、四人に帰るよう促した。

特に断る理由も無いため、学生達はそろって立ち上がる。

案内される傍ら、ふと未来が気になった弓美は視線を滑らせる。

何か色んなことを考えすぎている、そんな難しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

風鳴翼は考える。

立花響という少女について。

来歴は、二課の諜報部や未来の語りで大体把握していた。

――――切っ掛けは、二年前。

翼自身も思い出すたびに頭が疼く、忌々しくてたまらない記憶。

あの時、奏が燃え尽きてでも守ろうとした少女が、響だった。

当時の自分は、至らなかった悔しさと、奏を失った喪失感でいっぱいで。

他の事に気が回らなかった。

子どもである、と言ってしまえばそれまでだが。

しかし翼は単なる子どもではない。

シンフォギア装者、ノイズに唯一対抗できるただ一つの剣。

故にそんな甘えは許されないと、二年もの間自責の念に苛まれていた。

・・・・そうやって自分にかまけていたから、響のような存在を生み出してしまったのだ。

あのライブで犠牲になった者の中には、避難経路をめぐる争いのうち殺された人もいた。

多くの人が亡くなったショックと、大切な人を無くした悲しみで歪みきった『正義』は。

虫の息から奇跡の快復を果たした少女にも、容赦なく牙を剥いたのだ。

当然病み上がりのか弱い体が、猛攻に耐えられるわけがない。

結果、『探さないで下さい』というシンプルな置き書きを残して失踪。

未来も付き添う形で一緒に行方不明となり、世間を騒がせた。

そして皮肉にもそれが切っ掛けで、生存者達への迫害は終息することになる。

響と未来の捜索は、懸命に続けられた。

途中、娘の失踪を聞いてとんぼ返りしてきた立花家の父親も加わったが。

結局成果を得られず、現在に至る。

そして、翼も世間も二年前の傷が癒えようかと言うとき。

響は未来と共に、この日本に戻ってきた。

 

『新たなガングニール適合者』として。

 

守るために手放すことを、距離を取ることを選んだ彼女。

その対象者になっている未来は、ここに留まることを選んで待ち続けている。

いつもふらっといなくなる響が、いつも通りふらっと戻ってくることを。

だが今回、明確に拒絶されたことが堪えている様だ。

先ほど見かけたときには、顔は目に見えて陰り、背中も心なしか縮こまっていて。

心に大きなダメージを負っているのが、よく分かった。

 

「ぁ、翼さん・・・・」

 

名前を呼ばれ、目を向ければ。

オペレーターの一人、友里に連れられている未来が。

友人達も一緒らしい。

改めて見た未来の顔はやはり暗く、放っておけば倒れてしまいそうな儚さを感じた。

だから、翼は歩み寄る。

 

「・・・・あまり、落ち込むな」

 

手を伸ばし、頭を撫でる。

人を慰めるという経験がなかったため、奏がしてくれたことをやってみた。

 

「小日向が暗い顔をしていたら、あの子もきっと悲しむ」

「・・・・そうでしょうか」

「そうだろうさ。優しいのでしょう?立花は」

 

笑いかけてやれば、俯いたまま小さく頷いたのが分かった。

夜も遅いため、お礼を言う彼女達を見送る。

・・・・何をするべきなのか、何が出来るのか。

今の翼には、分からないことばかりだ。

 

(それでも)

 

それでも。

人一人を笑顔に出来ず、何が防人か。

未来を撫でた手を握り締めて、響の確保を誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けた。

怪我した左手を動かしてみる。

まだまだ動きはぎこちないけど、傷口は完全に塞がっていた。

頬張った菓子パンを飲み込んで、袋をゴミ箱へ。

血が抜けすぎた所為か少しふらつくけど、今までの経験からしてまだ大丈夫な範囲だし。

んー、でもやっぱり無茶しちゃったかなぁ。

あんな某君が君らしくあるためのRPGみたいな特攻なんて、痛みを感じなくてもやるもんじゃないよ。

っていうか、善人じゃない自覚はあるけど、少なくともあそこまで暴力的じゃないよ?わたし。

必要があったら殴るだけで。

あれ?結局力尽く・・・・?

そういえば長い付き合いになりつつあるこの武器も、よくよく考えたら主人公と一緒だし。

もしかしたらあのオラオラな感じが感染してるのかな?

・・・・・あれ、今更か。

あー、ダメダメ。

考えが脱線してる。

とにかくだ。

昨日は邪魔が入っちゃったから、今日こそ行動開始しないと。

冗談抜きで逃げ道ふさがれちゃう。

そうとなれば、思い立ったが吉日!

というわけで、まずは北陸目指すぞー。

おーっ!

 

「――――見つけたわ」

 

立ち上がったところで、声。

早朝の公園、日の出を背負ってその人は立っていた。

 

「少しお話があるのだけど、いいかしら?」

 

満月みたいな、蛇みたいな目に射抜かれて。

気づくと首を縦に振っていた。




さすがに数千年分のプレッシャーには耐えられなかったよ・・・・。


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蛇さんと蛙ちゃん

いやぁ。
鬱展開は筆が進むなぁ!←


ところで、某方言で『カエル』のことを『ビッキー』と呼びましてね?(


人里離れた山の奥。

意外と手入れが行き届いている館の客間に案内される。

 

「飲むといい、アールグレイだ」

「あ、どうも」

 

紅茶を勧められるけど、口にしない。

や、失礼なのは自覚している。

しているんだけど・・・・。

 

「くくっ、警戒されるのはしょうがないか」

「ぇっと・・・・あははは」

 

笑顔を取り繕うけど、どうしても引きつってしまう。

・・・・だって、だってさ!?

ラスボスに出会うなんて、思いもしませんやん!?

で!そんな二課に隠れてアレコレ画策してる人が勧めるものとか、絶対盛られてますやん!?

万が一!万が一に何も入ってなかったとしても!!

疑うのはしょーもないことやないですかー!ヤダー!

 

「まあ、いい。最初から従順であるのはいささかつまらんからな」

「さいですか・・・・」

 

それって調教のしがいがあるってことですか?

怖えーぜ・・・・。

そう考えると、こっちを見る目がまるで獲物を見つけた目に見えて・・・・。

あ、やばい。

感じないはずなのに、背筋が寒い。

ちょっとー、この人怖すぎんよー(泣

 

「招かれた理由は、分かっているか?」

「・・・・わたしが叩きのめした『飼い犬』ちゃんの代わりに、雇いたいってところですか?」

 

『ついでに実験動物』と内心でつけくわえる。

話した内容は合ってたみたいで、満足そうに口角があがった。

・・・・わぁお。

おっかないけど、綺麗だ。

不覚にも見とれてしまった。

 

「けど、それだけじゃ理由としては不足してますよ。わたしだって暇じゃないんです」

 

いけないいけないと、これまた内心で頭を振りながらジャブ。

昨日といい今日といい、いいところで邪魔が入るんだから・・・・。

もうこれ以上は勘弁願いたいんですけど。

 

「ああそうだな、お前を引き止めるには弱い理由だ」

 

・・・・言ってる割に、笑顔が崩れない。

なんだろう、いやな予感が・・・・。

 

「だが、この子が関わればどうだ?」

 

そう、一枚の写真が取り出される。

カップのソーサーの横、いい感じの位置に置かれたのは。

友達と笑いあっている、未来。

 

「・・・・わたしの渾名知ってるなら、どうなるか分かっていますよね?」

「ああ、知っているとも。お前の守る『宝』に手を出したものには、等しく滅びが待っている」

 

睨みつけても、何食わぬ顔で紅茶を一口。

 

「『ファフニール』だなんて、良く似合っている渾名じゃないか」

「だったら・・・・!」

「しかしだな」

 

徐に、フィーネは写真を取り上げる。

そして、

 

「お前が離れた後なら、どうとでも出来るんだぞ?」

 

これ見よがしに、二つに裂いた。

一気に破くんじゃない。

じっくり、ゆっくり。

獲物の首を締め上げるように。

もがき苦しむ様を愉しむ様に。

彼女の目論見どおり、ビリビリという音が耳にこびりついた。

 

「この子が身を寄せている二課には、私の手のものが潜り込んでいる。私の命令次第では、簡単に刈り取れる」

 

・・・・息が、上手くできない。

心臓の音がうるさい。

 

「このままお前が日本を出れば、あの子の危機に駆けつけることが出来なくなる。優秀なあの連中とて万能ではない、ましてや指揮官がアレでは、身内に敵がいるなどと考えにくいだろう」

「・・・・何が、言いたいんですか?」

 

――――変わった。

品のよさと威厳は保ったままで。

彼女の本性が牙を見せた。

 

「もしそうなったのなら・・・・可哀想に、切に望んだお前との再会が叶わなくなる。いや、それだけで済めばいいのだが」

「・・・・どういう、ことだ」

 

彼女が立ち上がる。

震える頬に手を添えられて、ぱっくり割れた口が耳元に近づいて。

 

「『来てくれなかった』と『裏切られた』と、お前を怨む可能性だってあるのだぞ?」

「――――ッ!!」

 

・・・・ああ、畜生。

そんな言い方しなくたっていいじゃないか。

彼女の声は、ただの声じゃない。

心の奥の奥に、直接響く。

わたしの『本音』の部分を、喰い付く前の味見のように。

かっぷり甘噛みしてくる。

・・・・いや、

 

「どうする?断ったとて構わないが・・・・その場合この子はどうなるだろうなぁ?」

 

甘噛みなんてものじゃない。

わたしは、もう。

彼女の傍に来た時点で。

 

「―――――いい子だ」

 

蛇の腹に、呑み込まれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

初めて少女を知ったのは、去年の暮。

アメリカはサンフランシスコで、ガングニールのアウフヴァッヘン波形が観測されたときだった。

公になっている記録では、有り得るはずのない反応。

当然興味が沸いたので、『器』の中から一つ選んで向かわせた。

そして、完膚なきまでに叩きのめされて戻ってきたのだ。

よこした『器』は聖遺物適合薬『LiNKER』がなければギアを纏えなかったが。

逆に言えばそれ以外の目立った弱点がない、それなりに優秀な個体だったのだ。

それを虫の息になるほどぶちのめすなど、戦慄するとともに好奇心が刺激された。

諸々の事情から、映像記録などの贅沢は言えなかったが。

戻ってきた『器』の証言に寄れば、マイクユニットらしき赤い宝玉は持っていなかったということ。

・・・・自らが生み出した『シンフォギア』は、まず歌えなければ話にならない。

これが他の聖遺物だったのならまた違う可能性を考えなければならなかったが。

自分には一つだけ、心当たりがあった。

もう二年前になる『ツヴァイウィングのライブ』、そこから始まった迫害。

そして怨嗟の激流に飲み込まれ、行方知れずになった少女二人。

数千年もの永き時の中知識を蓄えた頭脳は、ある結論を導き出す。

『立花響』あるいは『小日向未来』のどちらかが、『聖遺物との融合』を果たしている。

融合自体なかったわけではない。

人類が始まって以来、現代まで語られる英傑や偉人の中には、該当者が何人もいるのだから。

だが自分がその存在を知ったときには、既に名を馳せていたり、逆に強固な守りに固められて。

手を出せず仕舞いだったのだ。

・・・・あれから半年がたった今、片割れである未来を検査する機会があった。

結果は、シロ。

消去法でいくなら響が『当たり』ということになる。

果たして、それは予想通りだった。

昨晩目の当たりにした左手の大怪我。

それが先ほど見たときには、既に完治寸前にまで再生していた。

たった数時間で、あれほどの回復力。

『融合症例』と見て、まず間違いないだろう。

 

「――――ふ、っく」

 

・・・・嗚呼、止まらない。

笑みを止められない。

 

「くくくくくくくくく・・・・!」

 

『あの御方』へ至る為の切り札とも言える存在が手に入った今。

湧き上がる愉快な気分を抑えられない。

 

「ふふふふはははははは・・・・・あはははははははははッ」

 

多少はしたなかろうが気にしない。

周りに人はいないのだから、これくらいは許して欲しいものだ。

 

「あははははははははははははははッ!!!!はははははははははははははははははははははッ!!!!!!」

 

笑い声を隠そうともしないまま、廊下を闊歩していく。

赤い絨毯が敷かれていることも合間って、彼女には『あの御方』へのヴァージンロードのように見えた。




(˘ω˘)oO(フィーネが珍しく爆笑してる)

(#˘ω˘)oO(うるせぇ)


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天下の往来独り占め作戦

ご感想ありがとうございます。
楽しく読ませてもらっています。
ただ、一つだけ。
フィーネさんがポンコツっぽく見えるのは、私の文章の拙さが原因でして・・・・。
だからそんなdisらんどいだって・・・・!


わぁ。

わぁー。

わあぁー・・・・(呆)

離れなきゃ離れなきゃ言ってたくせに、未来ちらつかされた途端ホイホイついてっちゃってまぁ・・・・。

ちょっと、わたしってばチョロすぎませんかね。

フィーネさんも呆れてるんじゃないかなぁ、『何この子チョロすぎ』って。

これじゃ威厳もへったくれもないよ。

『賢者』が『賢者(笑)』になっちゃうよ。

一応あの後、報酬として『日本出国の手引き』を約束させた。

当然渋られたけど、こっちも怪我させられたんだし、別に『あの目的』(あいのこくはく)を邪魔する気も無いしで。

どうにかこうにか説得出来た。

出来たんだけど、念の為って受けさせられた身体検査でまた獲物見る目されちゃったし。

ああ、やっぱりとんでもないところに来ちゃったなって。

今更どれだけ後悔したところで遅いけどな!

で、だ。

実はアレから一週間経っているわけだけども。

わたしはずっとこの館でお世話になっている。

で、ここに居座っているということは。

『あの子』にもエンカウントするわけでして。

 

「何でこいつがここにいるんだよッ!!!!」

 

ずどん、なんて音を立ててテーブルが叩かれる。

歯を食いしばるギリギリという音が、かすかに聞こえた。

大ダメージを与えたとばかり思っていた『雪音クリス』ちゃん。

実は『ネフシュタン』の鎧としての機能と、再生能力がお仕事したとか何とかで。

つい昨日には復帰していた。

なお、例のビリビリは施された模様。

 

「契約を結んだの、病み上がりの貴女が快復するまで手伝ってくれるわ」

「だからってこいつじゃなくてもいいだろうッ!?」

「・・・・ぶっちゃけわたしも賛成」

 

思わず呟くと、前と横から睨まれる。

きゃー、怖い。

これ以上突っつくと痛い目を見そうなので、お口をナインチェにしておく。

・・・・・意外とカッコイイ本名なんだよな、あのウサギさん。

 

「まあ、いい・・・・それより今度の仕事よ」

 

フィーネさんが切り換えたので、クリスちゃんも睨むのをやめる。

 

「明後日早朝、二課で大規模な作戦が実行されることとなった。内容は完全聖遺物『デュランダル』の移送だ」

「かっぱらってこいってことか?」

「その通りよ」

 

そういえばこないだ、広木防衛大臣が暗殺されてたね。

あえて厳しく当たって法を尊守させることで、二課を守ってくれてた人なんだっけ。

それを考えると、惜しい人を亡くしたもんだ。

 

「デュランダルは私が運転する車両に乗せる。怪しまれないために、本気で攻撃してきなさい」

「ああ、分かった」

 

意見は特にないので、わたしも頷いておく。

 

「響は風鳴翼の足止めを、必要なら仕留めても構わない」

「はい」

 

まあ、翼さんに死なれちゃこっちも困るので、生かしはするけど。

そういえば、翼さんとガチで立ち会うのはこれが初めてか。

どうやってK.O.するか考えとかないとなぁ・・・・。

 

「では、決行までは好きに過ごせ・・・・ただし」

 

きろり、と。

『満月』がわたし達を捉える。

 

「諍いを起こすのは許さない」

「・・・・分かった」

「承知しました」

 

『余計な面倒増やすな』ってことですね、分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

その日、特異災害対策機動部二課は緊迫していた。

強力な後ろ盾であった広木防衛大臣の急逝。

大臣自体は副大臣が繰り上がるので問題は無いが。

新たに防衛大臣となる石田氏は、国際協力を唱える親米派。

日本の国防に、米国の意見が通りやすくなるのではという懸念があちこちで囁かれている。

二課もまた、もろに影響を受ける部署の一つであるため、人事でいられない。

――――前防衛大臣が暗殺されたその日、面会する予定だった了子は運よくすれ違って難を逃れた。

そんな彼女が持ち帰った資料により、大規模作戦が決行されることになった。

二課が保有する唯一の完全聖遺物『デュランダル』。

度重なる襲撃や、『ネフシュタンの鎧』を纏う何者か。

そして、二課本部のカモフラージュでもあるリディアン音楽院周辺の、ノイズの異常な発生率。

様々な不安要素を考慮し、デュランダルの移送作戦が決行されることとなった。

移送先は永田町にある演算施設『記憶の遺跡』だ。

途中で、ネフシュタンを始めとした第三者の妨害も予測された。

早朝のリディアン音楽院。

太陽も昇っていない中、翼含めた二課エージェント達が並んでいる。

 

「大臣殺害の犯人捜索の為として、検問を張る!その中を、永田町まで一気に駆け抜ける!」

「名付けて、『天下の往来独り占め作戦』よ~」

 

緊張を程よくほぐすためか、了子の呑気な声で作戦はスタートした。

了子は自身の車にデュランダルの入ったケースを乗せ、その周囲をエージェントが乗った護送車と、翼のバイクが護衛する。

車両はリディアンを飛び出し、トップスピードを維持したまま街中を駆け抜ける。

商店街にも人気がないのは、何か理由をつけて住民に退去してもらっているからだろう。

普通なら警察のお世話になりそうな速度だが、この場合そうは言っていられない。

街を抜け、やがて湾内を繋ぐ橋の上へ。

変化は、ここで起きる。

 

「な――――!?」

 

前方の道路が爆発し、黒煙が上がる。

了子の車はギリギリ避けられたが、他の車両が一台海の下へ。

バイクを駆り、瓦礫から瓦礫へ飛び移った翼は、苦い顔でそれを見送りながら。

それでもエージェント達の無事を信じて、向こう側へ渡りきる。

再び街の中へ、ここでも妨害が。

突如マンホールの蓋が飛び上がったと思うと、色とりどりの噴水が湧き上がる。

振ってくる飛沫は全てノイズ。

 

「ッImyuteus Amenohabakiri tron...!!」

 

当然無視する道理は無い。

翼は即座に唱えてギアを纏い、無数の剣を打ち出してノイズを一掃する。

だが、これも当然一度で終わるはずがない。

マンホールと言うマンホールから、次々ノイズが湧き上がってきた。

 

『聞こえるか!?そのまま行けば、薬品の工場地帯がある!了子くんには、そこに行ってもらいたいッ!!』

『そこで爆発でも起きたら、いくらデュランダルでも木っ端微塵よ!?』

 

耳元の通信機から、弦十郎と了子のやり取りが聞こえる。

前日に周辺の地形を叩き込んでいた翼も、会話に入れないなりに怪訝な顔をしていた。

 

『敵の目的がデュランダルの確保なら、あえて危険地帯に飛び込もうって寸法だ!』

『勝算はあるの!?』

 

焦燥と疑問が渦巻く声でまくし立てられた弦十郎は、次の瞬間自信たっぷりに答える。

 

『――――思い付きを数字で語れるものかよッ!!!!』

 

頼もしい返事に、翼も自然と笑みが浮かべる。

即座に了子の車は速度を上げた。

ハリウッドばりの大ジャンプをかまして、件の工場地帯へ飛び込んでいく。

翼もまた、出現したノイズを一掃した上で、追従していこうとして。

 

「――――ッ!?」

 

バイクの前で、爆発。

突然のことで衝撃に備えきれず、翼は放り出されてしまう。

何とか身を翻して体勢を立て直し、着地。

こんな時に横槍を入れる無粋者は、どこのどいつだと。

刀を構え、鋭く睨みつける。

土煙がはれた先、立っていたのは。

 

「お前・・・・・!?」

 

頭がハンマーで殴られたようだ。

 

「どーも、お久しぶりです」

 

ひん剥かんばかりに目を見開いた翼へ、響は達観しきった笑顔を浮かべる。




お口ナインチェ(・x・)


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剣と拳

前回までの閲覧、評価、誤字報告。
ありがとうございます。

多分(?)誰もが(?)夢見た(?)
翼vs響です。


「な、何故・・・・!?」

 

柄にもなくわなわな震えながら。

まるで通せんぼするように立つ響へ、問う。

 

「何故『そちら』にいる!?」

「雇われました」

 

悲痛な叫びにも、あっけらかんと答える響。

気だるげにうなじをかく余裕すら見せている。

妨害があることは予想できていたが、まさか気にかけていた彼女が現れるとは・・・・。

翼は苦い思いを抱くと同時に、納得もしていた。

響にとって自分は、仇のような存在だ。

謂れのない暴力と悪意にさらされ、家族と離れ離れになり。

手にかけた者達の血で汚れた道を歩む、大本の原因なのだから。

 

(いずれ刃を交えるのも、必然と言うことか・・・・!)

 

密かに奥歯を噛んで、構える。

刃を向けられても、響は平然としている。

気楽な様でいて、隙のない佇まい。

元より諜報部の報告で、只者ではないのは分かっていたが。

実際に相対してみれば、それが真実なのだと思い知らされる。

 

(小日向、すまない・・・・!)

 

手を抜けばこちらが刈り取られる相手。

大事な友人に手を上げてしまうことを、彼女の待ち人に謝罪した。

 

「んじゃ、報酬分はお仕事しなきゃなんで――――」

 

尖る、闘気。

地面が強く踏みしめられる。

 

「少しお相手願います」

 

割り込ませた刀身に、重い一撃が叩き込まれた。

吹き飛びそうになるのをどうにか踏ん張って、一閃。

手甲で防いだ響は一歩引く。

そのまま両手を引けば、手甲が変化。

よく見かけた刺突刃とは違う、幅広で力強い刃。

 

(ジャマダハル・・・・!!)

 

その武器は刀剣の類であったため、翼も知っていた。

拳による一撃が、斬撃にも成り得る近接武器。

カタールとも呼ばれ、北インドで使用されていた。

挑発的に微笑んで、響はもう一度突撃してくる。

鋭い突きが、頬を掠めた。

刀を手甲に叩きつけて弾き飛ばし、斬り上げ。

振り上げた勢いで、もう一閃繰り出す。

油断なく開いた片手にもう一本刀を握り、今度はこちらが攻勢に。

一閃、二閃、三閃。

時に同時に斬り付け、時にタイミングをずらして放ち、時に右と左で攻撃防御を使い分け。

全ての技術を注ぎ込み、響へ連撃を叩き込む。

一方の響は、時折危なげな部分を見せながらも喰らいついている。

防御しきれず掠めながらも、攻撃をしっかり捌いていた。

 

「ふっ、はッ!!」

「ッ・・・・!」

 

翼の突き一閃。

ここが好機と眉をひそめた響は、腕を振るった。

目論見どおり弾かれた刀は宙を舞い、彼方へ飛んでいく。

もちろん、翼がこの程度で怯むなんて微塵も思わない。

 

「はぁッ!!」

 

『一本減っただけだ』と、距離を取った翼。

大剣に変化させると、斬撃を放ってくる。

響もまた上等だといわんばかりに刃にエネルギーを溜め、同じく斬撃を飛ばす。

それら二つは両者の相中で接触、爆発。

煙が晴れないうちに、互いに突っ込んでいった。

 

「おおぉッ!!」

「でぇりゃッ!!」

 

叩きつける、火花が散る。

ぎりぎりという音は、両者の食いしばった口元を表現していた。

 

「強いな」

「鍛えてますから」

「小日向の為か?」

「ご想像におまかせします」

 

打てば響くような会話を交わし、弾きあう。

砂利を散らして後退。

気付けば汗だくになっていた。

視界を遮りそうな目元だけを拭い、響は改めて前を見据える。

翼も響ほどではないが、雫が顎を伝うのが見えた。

と、こちらを射抜いていた目が、揺らぐ。

 

「・・・・雇えば、我々の側に来てくれるのか」

 

ぽつっと、呟くような問い。

 

「あ、それはいやです」

 

当然のように、にべもなく断られる。

 

「言ったじゃないですか、守るために手放すって」

「だが!それでは!!」

 

肩をすくめる響に、翼は食って掛かった。

脳裏に、過ぎる。

響を追い詰めたと自責して、怪我してないかと心配して。

隣に居ないのが寂しいと、人目を忍んで涙する。

どこまでも友達思いで、一途で、健気な。

折れそうな心を必死で堪える、一人の少女。

 

「それでは、小日向の心はどうなる・・・・!?」

 

そんな未来を、近くで見守ってきたからこその問い。

生半な回答は許さないと、肩を怒らせる。

響は未来の名前が出てきたところで、苦い顔。

何も思わないわけではないらしい。

 

「大切な人、親しい人の危機が怖いというのなら、私達が協力する!小日向のことも家族のことも!もう独りで悩まなくていい!!」

 

だって、君は。

 

「貴女は許されていい人間だ!!陽だまりにいていい人間だ!だから頼む!こちら側へ・・・・!!」

 

告げる言葉は、もはや懇願のそれだった。

彼女が『あちら側』にいる原因が、自分にあるからなお更だった。

たった一つ、たった一つだけでも。

自分が壊してしまったものを、取り戻したいと願った。

壊れた破片は、目の前にある。

掴み損ねたくなかった。

翼の必死ぶりに驚いたのか、響の目は見開かれていたが。

やがて、静かに、穏やかに笑みを浮かべて。

 

「――――ありがとうございます。でもごめんなさい」

 

口にしたのは、拒絶の言葉。

 

「どうしてもわたしは、傍にいられません」

「――――ッ」

 

その絶句が、勝敗を分ける。

足音三つ、我に返れば目の前に琥珀の瞳。

 

「――――装者(わたしたち)の弱点は、喉か肺です」

 

荒ぶることなく、淡々と告げて。

 

「げぁッ!?」

 

無防備な喉元へ、蹴りを一発。

急所の一つに衝撃を加えられ、血を吐くと錯覚するほどの痛みが走る。

思わず怯んだその隙を、響は見逃さなかった。

即座に鳩尾へ、続けてアッパーカット。

胴をド突かれ、頭を揺さぶられた翼は、木の葉のように吹き飛んだ。

 

「は――――ぁ、ご――――!!」

 

地面に叩きつけられてもなお、意識はあったようだが。

虚ろな目から読み取るに、ギリギリと言ったところだろう。

まあ、動けたとしてもご自慢の歌は封じた。

油断も慢心も抜きに、負けるとは思えなかった。

 

「ったく、勝ってやんの」

 

当初の目的どおり、殺さずに無力化できたことを安堵していると、そんな悪態が聞こえてくる。

振り向けば、面白くなさそうに舌打ちするネフシュタン。

その手には、金属製の無骨なケースが握られていた。

 

「負けたら負けたで面倒だよ?」

「うっせぇ!ブツは回収した、ずらかるぞ!」

「はいはい」

 

響は『おお、怖い怖い』なんて肩をすくめながら。

去り際にふと、振り返る。

翼はこちらを引き止めるように、手を伸ばしていた。

 

「・・・・・未来を、どうかお願いしますね」

 

自分を暗がりから連れ出そうとした、優しい防人へ。

それだけを告げて、踵を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュランダルの移送作戦は失敗に終わった。

薬品工場に逃げ込んだはいいものの、それこそが敵の狙いだったのだ。

ネフシュタンに直接攻撃された車は、耐え切れずに横転。

揺さぶられた了子が気を失ってしまっては、奪われるのは時間の問題だった。

もちろん、そうならないために翼を配置していたのだが。

二課の最大戦力たる彼女の前に立ちふさがったのは、響だった。

互角の戦いを繰り広げた響は、最終的に翼を無力化。

デュランダルを奪ったネフシュタン共々、まんまと逃げおおせたのである。

幸いなのは、了子や翼を含めたエージェント達に、死人が出なかったことだろう。

それでも、翼はしばらくの休業をやむなくされたが。

 

「――――そうか、響くんが」

 

二課の息がかかった病院。

手当てを終えた翼の筆談で報告を聞いた弦十郎は、難しい顔をする。

その胸中は、決して穏やかではなかった。

デュランダルを守りきれなかったという不甲斐なさも当然あるが、何より気になっているのは、やはり響。

守りたいと、助けたいと願っていた彼女が敵対したことに、少しどころではない動揺を覚えていた。

 

『申し訳ありません、私が鈍らだったばかりに』

「バカいうんじゃない。人々の為に戦場(いくさば)を舞うお前は、名刀中の名刀だ」

 

眉をひそめて肩を落とす翼の頭を撫で回しながら、弦十郎はそのネガティブな言葉を否定する。

 

「使い続ければ切れ味だって鈍るさ、今はしっかり治療(手入れ)に専念しろ」

『はい、お気遣い痛み入ります』

 

失態を攻めることなく、むしろ激励を送ってくれた叔父へ。

翼は照れくさそうにはにかむのだった。

 

「それで司令、響さんのことはどうしましょう。こうやってはっきり敵対された以上、放っておくわけにも・・・・」

 

微笑みあいが一段落したのを見計らい、翼のマネージャー兼護衛である『緒川慎二』が神妙に問いかける。

確かに彼の言うとおり、事情があるとは言え、二課の人員に手出しをされたのだ。

私情を抜きにしても、このまま見逃すわけには行かない案件である。

 

「それに、未来さんには・・・・」

 

加えて、二課で保護している未来のこともあった。

響の帰りを待ち続けている彼女とは、何か有力な情報があれば教えると伝えてある。

だがこのことは伝えて良いものか、悩むところだ。

元はと言えば、『響が道を外れたのは自分の所為だ』と追い込みがちな部分がある彼女のことだ。

もし、今回のことを知らせたとして、果たして冷静にいられるのかどうか・・・・。

『風鳴弦十郎』個人として、『特異災害対策機動部二課』の司令官として。

持ち合わせている信念と、冷たい現実を吟味して。

翼と緒川が気遣わしげに見守る中。

腕を組み、黙り込み、眉間に皺を寄せて。

悩みに悩んで、悩みぬいて。

 

「――――」

 

やがて彼は、閉じていた目を開いた。




今の今まで、『歌うこと自体を不可能にする』ような敵って出てきてませんよね。


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フラグ「呼んだ?」

毎度の誤字報告、感謝です。
一応見直しているはずなんですけれど・・・・!


デュランダル移送任務から数日後。

喉のダメージが大分治ってきた翼は、早くも復学していた。

まだ歌手活動(と、防人業)は休養を余儀なくされているが。

本分である学業に専念できるのはありがたいと、どうにか自分を納得させる。

ひとまず精勤賞は取れそうだなんて考えながら廊下を歩いていると、

 

「翼さん」

 

振り向けば、未来が小走りで駆け寄ってきていた。

 

「どうした?小日向?」

「ぁ、あの・・・・」

 

努めて柔和に笑いかければ、どこか尻込みする様子。

聞いていいのかどうかを、迷っているらしい。

しかしすぐ決意したように小さく頷くと、改めて翼と向き合う。

 

「あの、出動ってありましたか?響には、会いませんでしたか?」

「――――」

 

来た、と思った。

未来は一般人だが聡い子だ。

この前の翼の入院も、発表された『過労』以外の原因があると睨んでいるだろう。

その原因に、響が関わっているとも。

 

「――――いや」

 

翼は、首を横に振る。

 

「察しのとおり、まあ、『荒事』はあったが。立花には会っていないよ」

「そう、ですか・・・・」

 

予想通り。

翼の返答に、目に見えて肩を落とした。

 

「・・・・分かりました。すみません、言いにくいことなのに」

「気にするな、立花が心配なんだろう?」

 

年上らしく余裕を持って問いかければ、未来はまた小さく頷いた。

その後同級生らしき生徒に呼ばれ、一礼して去っていく。

背中を見送りながら、翼は控えめになっていた息を、盛大に吐き出した。

 

(慣れているはずなのにな、嘘をつくことは)

 

踵を返しつつ、もう一度ため息。

――――未来には知らせない。

あの日弦十郎が出した結論。

一見堅牢なように見えて、その実砂上の楼閣である彼女の精神を慮っての、苦渋の決断だった。

弦十郎の決意と痛みを理解した翼もこれを了承し、今しがた未来へ嘘をついたのだが。

やはり、秘密を共有している『仲間』なだけあって、偽るのは大変苦労する。

ふと、喉に触れた。

・・・・・響の行動が、読めない。

守りたいというのなら、離れたいというのなら。

何故一月以上もこの近辺に留まっているのだろう。

それこそ、邂逅したあの日にさっさと逃げおおせていればよかったものの。

二課の追っ手を警戒していたとしても、動きが消極的過ぎる。

 

(本心では共にいたいと思っているのか・・・・あるいは)

 

二課以外の『何者か』に、邪魔立てされているのか。

ぱっと思いつくのは、一緒に行動していた『ネフシュタン』だが。

米国の方も不穏な動きが報告されている以上、そちらも無視できない。

どちらにせよ、今考えても詮無いことだと、頭を振って切り換えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、立花響です。

デュランダルをかっぱらってから早二週間。

未だにフィーネさんのお屋敷にいるでござる。

・・・・いや、ね?

何か、手配していた飛行機のチケット(行き先はひとまずロシア)が遅れてるとか何とかで。

でもそれまで手持ち無沙汰にしてるのもなーって思ってたら、フィーネさんはそんな胸中も見透かしてたらしく。

『デュランダル起動させたいけどクリスじゃ足りないなー、誰か手伝ってくれないかなー?』って感じでチラッチラッと催促されまして・・・・。

ええ、例の如く断れなかった自分は、フィーネさんの思惑通り完全聖遺物の起動に駆りだされています。

とはいえ、わたしってば融合症例らしくフォニックゲインがかっとんでるとか何とかで。

クリスちゃんと歌えば歌うほど、デュランダルの反応が荒ぶってくるというか。

こう、『俺の体が真っ赤に燃えるッ!!』みたいに光が強くなっていった。

起動まで割と順調に持っていけてるみたい。

それでも二週間なんてかかったのは、単純な話、わたしがハモるのド下手だったからでして・・・・。

でも、フィーネさんと、それから意外にもクリスちゃんが教えてくれたお陰で、現在どうにか形になっています。

なお、クリスちゃんに何で教えてくれたか聞いてみたところ。

 

「フィーネの要求に応えられないと、あたしだって危ないから」

 

とのこと。

ぶん殴ったこともあって結構毛嫌いされてたけど、こういう大事なときまで持ってこないのはさすがだと思った。

素直に褒めたらド突かれたので、あんまり言わない方がいいみたいだけど。

まあ、ともかく。

今日も今日とてしんがーそんっ。

装置につながれたデュランダルの前で、クリスちゃんとデュエットですよ。

中の人的に言えば、喉からCD音源レベルのプロがリードしてくれてる感じ。

いやぁ、頼もしくていいよね!

なんて考えている前では、いつも以上に荒ぶっているデュランダル。

某大佐になりそうなくらい眩しい光が、さっきからひっきりなしに迸っている。

目が・・・・目がぁ・・・・・。

 

「――――ぁ」

 

光が落ち着くのを感じて、無意識に閉じていた目を開ける。

見ると、糸を束ねるように光が集束していく。

まるで一種の機織りみたいな光景は、ここがラスボスの拠点であることを忘れて見とれるくらい。

やがて最後の一筋が収まって、一度ぼうっと光ったデュランダルは。

やっと大人しくなった。

これは・・・・?

 

「フォニックゲイン充填完了、アウフヴァッヘンも安定・・・・二人ともご苦労、起動実験は成功だ」

 

おおう、それはよかった。

ラスボスの片棒担いでいるけど、とにかくよかった。

よかったったらよかったの!

 

「お前も肩の荷が下りて、安堵しているのではないか?」

「いえ、その・・・・あはははは・・・・・」

 

指摘されて思わず苦笑い。

いや、いくら精神年齢三十路に届きそうだからって。

こんな素人に隠し事とか器用なこと出来るわけないじゃないですかー、やだー。

 

「まあ、いい。十分に役立ってくれたのだからな」

「っけ、足手まといよりはマシだったよ」

「どーも」

 

うう、ラスボスでさえなければ、この褒め言葉も嬉しいのになぁ。

クリスちゃんのツンデレだけが癒しだよ・・・・。

 

「これでお前は晴れて自由の身だ、喜ぶといい」

「・・・・ええ、ありがとうございます」

 

言いながら差し出されたのは、遅れていたらしい飛行機のチケット。

本当に遅れてたのとか突っ込みたいところだけど、あえてスルー。

触らぬ神に祟りなしっていうしね、うん!

遠慮なく受け取って、懐へ。

 

「それじゃあ、短い間ですけど。お世話になりました」

「もう行くのか?」

「とっ捕まりたくないので」

 

だって、ほら。

今まで日本を出ようと行動を起こすたびに、クリスちゃんやらフィーネさんやらに邪魔されてるし・・・・。

っていうか、言ってから不安になってきた。

本当に大丈夫だよね?何も邪魔されないよね?

フラグじゃないことを祈るよぉ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――Target Confirmation」

 

「――――Go」




エキサイト先生に聞きましたが、英語は多分間違っています←


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届かない声へ

響が去った後の館。

フィーネは自室で思考にふける。

起動したデュランダル、完成した『天穿つ塔』。

欲を言うのなら、響をもう少し手元に置いておきたかったが。

『計画』の要が二つもそろっている今は、これで満足しようと自戒した。

区切りをつけたところで、もう一度響のことを考える。

体に天羽奏のガングニールを宿した、貴重な融合症例。

内に秘めた力と可能性はフィーネの想像以上であり、侵食の度合いもまた、愕然とするほど進行していた。

本人の弁に寄れば、既に痛覚、味覚と言った五感の一部と、寒暖の感覚がなくなっているとのこと。

引き換えに、鋭敏になった視覚と聴覚、そして異常なまでの自己再生能力を手に入れていた。

それもこれも、全てはただ一人の親友のためにやったという話だ。

・・・・よくぞここまでと思うし、ここまでやるのかとも思う。

歪んだ正義による制裁と、油断すれば骨ごとしゃぶり尽される環境と言う前後があるとはいえ。

たった一人のためにここまで己を削れるのかと。

彼女にしては珍しい『哀れみ』を覚えると同時に、響の『強さ』にますます興味を抱く。

そもそも、人間と言うのはややこしい存在だ。

ただ見たもの・聞いたものを鵜呑みにし、それこそが真実だと自分で考えない愚か者がいると思えば。

ゆずれぬたった一つのために奮起し、いくつもの壁を乗り越え、世界へ多大な貢献をする英雄が現れる。

幾百、幾千の時を重ねたフィーネが、未だ人間を見限きれない理由の一つだ。

 

(アレのようなものこそが、無辜の者が謳歌する『幸福』を手に入れるべきだろうに)

 

『己ではなく、他者を慮る者こそ善である』。

そう唱える者達が、頭ごなしにいたいけな少女を責め立てるなど、世も末である。

 

(それもこれも・・・・)

 

忌々しく、空を。

正確には、青空に浮く月を睨む。

・・・・計画は最終段階へ向かいつつある。

相互理解を実現させるためにも、慎重かつ迅速にことを進めねばならない。

次の一手を考察しようとしたところで、端末に通信。

 

「はいはーい?」

『了子くんッ!今どこにいるッ!?』

「い、今?自宅だけど・・・・?」

 

『了子』に切り替え出てみれば、弦十郎の切羽詰った声。

 

『市街地にて、響くんが武装集団と戦っているという通報が相次いでいるッ!!』

「ッなんですって!?」

 

その報せは、彼女にとって寝耳に水だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

うぇーい!

本日は晴れときどき鉛玉が降り注ぐでしょーっと!!

地面すれすれを駆け抜けて、おじさんの首によじ登る。

そのままコキャッっと圧し折ってから、蹴り飛ばして次。

銃弾を左腕で受けると、とっておいた右腕を突き出して胸を一突き。

そういえば『ゲイボルグ』ってそういう技術の名前だってする説もあるらしいね?

なんてことを思い出しつつついでに体を引き裂いて、確実に仕留める。

 

「――――ッ!?」

 

コレで終わりかなっと思ったら、別方向から銃声が聞こえて。

頭を掠める。

そのまま腕を交差すれば、横殴りに雨あられとばら撒かれる。

何発か当たったり掠めたりしたけど、へーきへーき。

右腕は仕込みが幸いして、そこまでダメージがない。

なお、左はお察し。

どっちにせよ仕留めるけどね。

撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけなんだよー?

 

「ッMonster !!」

「・・・・ははっ」

 

化け物、バケモノ、ばけもの。

――――上等だ。

 

「いえーい、あーいむもんすたー!」

「アガッ・・・・!!」

 

着地と同時に飛び上がって、腕を振るう。

すぱっと心地いい音がして、血が吹き出た。

刺突刃の血を払って、収める。

うへぇ、返り血とか怪我とかで体中大変なことになってるよ。

でもビデオの巻き戻しみたいに治ってるし、直に五体満足になるだろうし。

 

「ま、マジで死んでる・・・・!?」

「やばいって、ケーサツケーサツ!!」

「いやあれ警察でどうにかできんの!?」

 

人通りの少ない場所でよかったけど、暴れすぎた所為で野次馬が集まってきてるね。

あー、めんどい。

うん、このままエスケープしよ。

壁を蹴って飛び立てば、声が上がる。

見下ろすと、こちらを指差す有象無象。

・・・・本当に、めんどい。

どこまで行っても他人事の癖に、当事者面するんだから。

んむああぁー、ダメダメ。

頭が危ない方にいってる。

それもこれも『さあ日本脱出だ』ってときに横槍入れてきたおっちゃん達が悪いんだ。

顔の形とか喋ってた言葉からして、多分アメちゃんの手先。

巫女より先にどうのとか言ってたから、フィーネさんは関係ないっぽい?

下手したら冤罪かけられるよ、災難ですねー。

わたし知ーらないっ。

パトカーらしき音を見送りつつ、ビルとビルの間をぴょーんぴょーん。

気分としては『イエエエガアアアア∠(°Д°)/』なアレ。

ワイヤーなんて上等なものはないんですけどね。

いい感じな路地裏を見つけたので、配水管を伝って着地。

 

「・・・・ッ?」

 

したら、体から力が抜ける。

顔から突っ込んで、何も出来ないまま倒れて。

腕が動かない、足が動かない。

全身に錘を付けられたみたいに重たくなって、身動きが取れない。

・・・・これはあれかな、血を流しすぎたかな。

あ、目の前が暗くなってきた。

やばい、割とガチでやばい。

ああ、これが『詰み』ってやつか。

ぶちっと音を立ててブラックアウトする視界。

なのに耳だけはやけに鋭くなっていて、遠くではパトカーが未だに騒いでいるのが分かる。

・・・・・『年貢の納め時』ってこういうのを言うんだろうか。

もう見た目からしてアウトだし、こんなんで誰かに見つかったら即行通報ですわな。

さっきの有象無象の中にはスマホ構えてる人もいたから、SNSとかにも上げられてるだろうし。

目覚めたらおまわりさんがいるとか・・・・・ありえる。

やっぱりムショ行きかなぁ、だろうなぁ。

街中で血祭りやらかしたし、見逃してもらえるわけないだろうし。

・・・・まあ、それもいいかもなぁ。

ああ、眠くて頭が回らない。

 

・・・・・・いいや。

 

なんか、もう、眠い。

 

考えるのも疲れてきたし、っていうか眠い。

 

眠い。

 

むっちゃ眠い。

 

 

疲れた、もう眠い。

 

 

 

寝たい。

 

 

 

 

・・・・寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――あたたかい。

 

 

 

 

 

ああ、これは多分夢だ。

 

 

だって、わたしはもう温もりを感じないから。

 

だから、これは夢に間違いない。

目の前が明るくなる。

ぼんやりしている中に、何かが見える。

顔だ。

上から覗き込むように、顔がある。

未来だった。

・・・・ああ、わたしってば。

よっぽど未練があるんだな。

我ながら女々しいにもほどがある。

でも、だけどさ。

やっぱり、忘れられないんだ。

一番一緒にいたから、一番信頼している人だから。

大切で、大好きで、愛しくて。

そうだよ、家族に負けないくらい傍にいたんだもん。

守りたくて当たり前じゃないか。

本当は傍にいたい、一緒にいたい。

だけど、わたしが傍にいたんじゃ、みんなが怖い目に合うから。

何だか世界中の『悪いこと』がわたしに集まっているみたいに、嫌なことばかりが起こるから。

だから、離れた。

台風と一緒だ、離れたら被害は治まる。

わたしは嫌なこと・辛いことに付きまとわれて大変だろうけど、でも。

それでみんなから怖いことが離れて、みんなが守られて、それでみんなが笑っていられるのなら。

わたしは喜んで孤独を選ぶ。

助けてくれるヒーローなんて、現実にはいないんだ。

助けてくれる優しい人も、残念ながら都合よくいるわけがない。

だから、自分でどうにかするしかない。

・・・・・だけど、さ。

やっぱりわたしは、どこまで行っても矮小な(ただの)人間で。

そんな聖人みたいな所業を、さらっとこなせないわけでして。

胸を締め付ける、痛み。

空洞になった体を、冷たい隙間風が吹き抜ける感じ。

・・・・ああ、もう、本当に。

寂しいのは、どうしようも出来ないな。

一緒においしいものを食べたい。

でも、味覚がないから叶わない。

痛いよって泣いているなら、傷口を労わってあげたい。

でも、痛みを感じないから、どれだけ辛いか分かり合えない。

寒いときは思いっきりハグしあって、温かくなりたい。

でも、もう温もりを感じないから、君が寒がっていることすら気付かない。

全部捨てた、全部自分で捨てた。

何もかも、自分で決めて、自分でやったことなのに。

――――つらい、こわい、さみしい。

なんでわたしばっかりって、思わないわけじゃない。

むしろ、常日頃からうっすらと思っている。

だけど、だけど、だけど。

やっぱり、どうしようもないんだ。

誰も、助けてくれないから。

独りで、やるしかないから。

 

「――――未来」

 

――――でも、これが夢なら。

現実でないのなら、言っても構わないかな。

少しくらい、わがまま言ってもいいかな。

 

「ここにいたいよ」

 

未来の瞳が、揺れた気がする。

手を伸ばせば、握ってくれた。

 

「ずっと一緒にいたい」

 

ああ、あたたかい。

現実じゃ叶わないことが出来るのが、夢のいいところだよね。

・・・・・それじゃあ、もう少し。

このまどろみを、堪能するとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱたり、ぱたり。

雫が落ちる。

血の気を失い、力なく呼吸を繰り返す頬へ。

静かに、涙が落ちて行く。

 

「・・・・・だ、ぇか・・・・」

 

夢うつつに、幸せそうに眠る顔が。

どうしようもなく悲しくて。

 

「だれか、たすけて・・・・・」

 

堪えきれなくなった嗚咽が漏れた。

飲み込まざるを得なかった願いが、口をついて出た。

 

「だれか、ひびきを、たすけてぇ・・・・・!」

 

唱えたそれが、叶わないと分かっているから。

涙を止められない。

 

「なんで・・・・なんでぇ・・・・・なんでこんなああぁ・・・・・!」

 

響が何をしたの。

響が誰を殺したって言うの。

みんながそうやって、ありもしないことで責めるから。

この子は本当に人殺しになってしまったじゃないか・・・・!

鬼だっていい、悪魔だっていい。

それらを軽く凌駕するような、恐ろしい存在だって構わない。

要求するなら、お金も純潔も、命だって差し出す。

だから、どうか。

ねえ、聞いて。

 

「たすけて・・・・だれか、たすけて・・・・・!」

 

――――それは、切なる願いだった。

もう引き返せないところまで追い込まれて、追い詰められて。

それでもまだ陽だまりにいたいと、生きていたいと叫ぶ。

頼りない子どもの、癇癪の様な慟哭。

普通の人なら、怪訝な顔で睨んで素通りするこの願いを。

 

「――――ああ、もちろんだとも」

 

彼は、決して見捨てない。



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笑って、そっと

――――目の前が明るくなる。

はじめ何だか分からなかったけれど。

意識がはっきりしてきて、記憶の整理もついて。

そういえばドンパチの後倒れたんだなっていうのを思い出した。

全身が柔らかいものに包まれている。

多分ベッド、病院のものだろう。

手足・・・・は、特に拘束されていないみたいだったけど。

左手が動かないのが少し気になった。

 

「・・・・っ」

 

目が光に慣れてきたので、目蓋を開けてみる。

見えるのは当然知らない天井。

消毒液の臭いがさっきから鼻を突いているので、病院で間違いなさそうだ。

体を起こしてみる。

血が結構流れたにしては、だるさを感じなかった。

いや、むしろ中身が減ったから軽くなってるのかな?

なんてアホなこと考えながら、動かない左手に目をやれば。

 

「――――」

 

未来が、椅子に座った状態で、ベッドに体を預けていた。

わたしの左手をしっかり握って、目元をうっすら腫れさせて。

静かに寝息を立てている。

・・・・泣いてたのかな。

右腕を見てみると、点滴されていた。

中身は赤いので、多分輸血されてたんだろう。

なるほど、道理で体が軽いわけだ。

 

「・・・・ん・・・・・よ、と・・・・」

 

未来を起こさないように、そっと手を離してベッドから降りる。

点滴ももういらないので、ぶちっと引き抜いちゃう。

怪我したとこに包帯巻かれてたけど、こっちも治ってるから解いた。

ここで軽く柔軟。

うん、五体満足。

ちょうど枕元に着替えが置いてあったので、遠慮なくそっちに着替える。

カッターシャツと、ビジネススカート。

・・・・明らかに二課のものだった。

んー、こういうパターンか。

いや、予想できなかったわけじゃないけど、確率は低いと思ってただけに意外。

まあ、警察にとっつかまるよりはいい、かも?

ひとまず長居する理由はないのでとっととエスケープすることに。

愛用の仕込み籠手がないのは不安だけど、また作ればいいし。

日本なら、ちょっと山奥に入れば材料が集まるだろう。

・・・・まさか不法投棄をありがたがる日が来るなんて。

とにかくここからの脱出を優先しなきゃ。

 

「・・・・ばいばい」

 

去り際、小さくそれだけ呟いてから病室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――これほどとは」

 

ミーティングルーム。

モニターを見て、弦十郎は愕然とする。

表示されているのは響のレントゲン。

胴体に映る黒い影は、胸を塗りつぶし、肩を通り越し、顎や腕を侵食していた。

 

「このままだと全身を侵食しかねない勢いよ。既に痛覚や味覚、寒暖に影響が出ているみたいだし・・・・」

 

いずれ、また別の感覚が無くなる可能性もあり得るという。

了子と共に、難しい顔をする。

 

「ここから巻き返すのは、正直骨よ?」

「構わないさ」

 

試すような視線に、臆せず即答する。

 

「助けると約束したんだ、諦めてたまるか」

「・・・・それじゃあ私は、そんな危なっかしい上司に付き合ってあげますよ」

「ああ、頼むよ」

 

肩をすくめる了子へ、快活に微笑む弦十郎。

上司と部下ならではの心地よい信頼に、しばらく笑いあっていると。

 

『大変です!司令!』

「どうした?」

 

通信機に、オペレーターの一人『藤尭朔也』の焦った声が聞こえる。

 

『例の少女が、病室から脱走を・・・・!』

「・・・・やっぱり手だけでも拘束しとけばよかったんじゃない?」

「むぅ・・・・」

 

本日午後、ぼろぼろで倒れているところを保護された響。

咽び泣く未来や、響の境遇に配慮して、あえて拘束具をつけないという選択肢を取っていたのだが。

どうやら裏目に出てしまったようだ。

用意した着替えを着た彼女は、二課からの脱出を図っているらしい。

司令室から転送された映像には、慎重に廊下を進む響が映っていた。

 

「――――ねぇ、ちょーっと思いついたんだけど?」

 

どう引きとめようかと悩み始めた弦十郎に、了子がいたずらっぽく笑いながら提案する。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

曲がり角を警戒しながら、隠れられる場所には身を潜めて。

廊下を進んでいく、んだけど・・・・。

そういえばこの頃の二課って地下にあるんだよね?

となると出口は限られてくるだろうし、慎重にいかないと学校のど真ん中に出ることになる。

今のわたしは完全に不審者扱いだろうし、そんな間抜けな最後はいやだ。

もちろんアニメに出てきたとこ以外にも出入り口はあるだろうけど、国家組織だから簡単に出入り出来るはずがないし・・・・。

あれ?これもこれで意外と詰んでる・・・・?

い、いや!まだだ!まだ終わらんよッ!!

 

「――――でね、それから――――」

「おいおい、そりゃあ――――」

 

・・・・前の方から人の気配。

幸い近くに自販機があったので、その陰に隠れる。

近づく声と足音。

気のあう同僚らしい彼らは、わたしに気付くことなく去っていく。

気配が無くなってから、殺していた息を吐き出して整えた。

そっと顔を出してみれば、遠くに二つの後姿が見える。

ふと、彼らの格好がやけにカジュアルなことに気がついた。

・・・・もしかして、退勤時間だったりする?

二課の特性上、あの制服で通勤ってちょっと考えにくい。

少なくとも施設内に入るまでは、むしろ別の服装でいる可能性が高い。

っていうことは、あの人達についていったら出口にいける?

もちろん気付かれたり、見失ったりするリスクはあるわけだけど。

かといってそう都合よく次の手がかりがやってくるとも考えにくい。

 

「・・・・」

 

ここはついていくのが妥当だと判断して、もう一度顔を出す。

右良し、左良し。

オール良し!いけーっ!

足音を殺して、小走りで駆け抜ける。

壁に張り付いて様子を伺えば、あの二人は次の角を曲がっていくところだった。

曲がりきったのを確認してから、わたしもついていく。

くぅっ、こういうスニーキングミッションってすっごい心臓に悪いよ。

時折後ろも警戒しながら、二人を見失わないように廊下を歩いていって。

 

「――――ッ!?」

 

急に、肩を叩かれた。

振り向けば、ニコニコ笑う緒川さんが。

いつのまに・・・・!?

 

「注意は足りていましたが、まだまだですね」

 

おのれNINJA・・・・!

 

「監視カメラのこと、すっかり忘れていたでしょう?」

「・・・・ぁ」

 

しまったああー!!

そうだよ!政府の重要なお役所だから、監視カメラの百個や二百個あって当然じゃん!!

なぁんで忘れてたかなぁ!?

 

「お、本当に引っかかってた」

 

頭を抱えたくなっていたところへ、さっきまで向いていたほうからも声。

そっちを見れば、わたしが尾行していた二人が・・・・って。

この人ら!オペ子さんとオペ男さんやんけ!

っていうか引っかかったって!?

 

二課(うち)の制服、意外と似合、ぃっで!」

「『通勤するときの格好をすれば、出口があるって思ってついてくるかも』って、了子さん・・・・わたし達の仲間が考えたの」

 

軽口を言うオペ男さんに裏拳を叩き込みながら、オペ子さんが柔和に笑って説明してくれる。

う、ごごごごご・・・・。

これはあれか、この人らの作戦にわたしがまんまと『フィイイイッシュッ!!』されたパターンか。

ちょ、ちょっと。

ちょっと、待って。

これは、だいぶ。

間抜けすぎるううううううううう・・・・。

あれか、やっぱり寝起きの頭で考えたのがダメやったんか。

ちっくしょう、どっちにせよ間抜けさらしてるのに間違いはない。

どうする?どうする?

早くしないと――――

 

「――――響!」

 

体が強張るのが分かる。

緒川さんの方に目を向けると、駆け寄ってきた未来が肩で息をしていた。

その後ろからは、翼さんと弦十郎さんが。

・・・・完全に、囲まれた。

 

「・・・・」

「・・・・ッ」

 

一歩寄られる、一歩下がる。

手を伸ばされて、もっと後ずさる。

・・・・頼む、頼むよ。

ねえ、近づかないで。

だけど未来はお構い無しに歩み寄ってくる。

わたしの手を取ろうとして、わたしを逃がさないようにして。

ゆっくりゆっくり、距離を近づけて。

 

「・・・・ひびき」

「――――」

 

名前を、呼ばれて。

あんまり嬉しそうに、名前を言われて。

頭の中の、何かが弾ける。

 

「未来さん!」

「未来ちゃんッ!」

「小日向!」

 

『手』を出して、未来を引っつかむ。

 

「危ないものに近づくなって、習わなかった?」

 

真綿で首を絞めるように、じわじわ力を込めながら言う。

・・・・お願いだから、怖がって。

怖がって、恐れて、わたしを嫌いになって。

そしたら君は、わたしから離れてくれるでしょう?

ねえ、未来。

もう、これ以上。

怖い目にも、辛い目にも、遭わせたくない。

・・・・なの、に。

なんで。

 

「――――響ならいいよ」

 

なんで、そんな。

綺麗な顔で、笑って。

 

「怖がらなくていいから、ずっと傍にいるから」

 

『手』が、維持できない。

解放された未来が、近づいて。

背中へ、腕を回した。

 

「響の気がすむだけ、好きなだけ。ここにいていいよ」

 

肩口に顔を埋めた未来が、優しく囁いてくれる。

 

「――――大好き」

 

その一言がとどめだと分かったのは、ほっぺたを水滴がつたったから。

胸が苦しくて、息がし辛くて。

でも溢れている感情は、『悲しみ』じゃなくて『安心』で。

 

「・・・・?」

 

頭に何かが乗る。

大きな手だ。

弦十郎さんが、優しい顔して頭を撫でてくれてた。

見れば、周りの人達も。

頷いたり、笑いかけてくれたり。

・・・・誰も、誰も。

わたしに、敵意なんて向けてなくて。

何か害を成そうとしているわけでもなくて。

 

「・・・・ぁ」

 

ああ、何時以来だろう。

こんなに、こんなにあたたかい場所にいられるのは。

 

「ぁぁぁあああああああ・・・・・!」

 

涙なんて、もう出ないと思ってた。




『ツキノワグマ』という素敵すぎる曲に出会ってから、執筆がとんでもなく捗っている件について。
今回のタイトルも、歌詞の一部を拝借しています。


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その平穏を噛みしめる

「は・・・・はあ・・・・はっ・・・・・!」

 

逃げる、逃げる。

夕暮れに染まる街を、小さな手を握り締めて少女は走る。

鳴り響くノイズ警報。

小学生の自分より年下な男の子を連れての逃亡。

 

「・・・・ッ」

「うぅ・・・・おかーさぁん・・・・」

 

怖い。

油断すれば、この子を置いて逃げてしまいそうで。

 

(――――ダメッ!)

 

絶対にダメだと、首を振り回す。

だって、決めたんだ。

春先、お友達のお姉ちゃんと一緒に助けてくれた。

あの人みたいに、かっこよくなりたいって。

 

「だいじょーぶ、こわくない」

「おねーちゃん?」

 

手を握る。

思い出せ。

あのお姉ちゃんは、こんな怖くてたまらない時にだって笑っていられる。

すごい人なんだから・・・・!

 

「――――ぁ」

 

涙をボロボロ零す男の子。

見れば、こっちをじぃっと見つめるノイズの群れ。

引き返そうにも、道をふさぐように別の群れが降ってきた。

前もノイズ、後ろもノイズ。

わき道は見えず、逃げ場はない。

どう見ても十以上はいるノイズ達。

飛び掛られれば、一溜まりもないだろう。

 

(――――やっぱり、無理だったのかな)

 

しがみついてくる男の子を抱き返して、少女は思う。

あの姿に憧れたのは、願いすぎだったかと。

子供の身に余る大願だったのかと。

 

「・・・・ぁ・・・・・ゃ、だ・・・・!」

 

とうとう我慢の限界を迎えた恐怖が、溢れそうになって、

 

 

 

 

「そーぅは問屋が下し金ーッ」

 

 

 

 

降り立った何かに、強引に地面に伏せられる。

頭上を通り過ぎるノイズ達を、呆然と見送るしか出来ない。

立ち上がったその人は、見覚えのある刃物を右腕の鎧から出す。

腕を振るえばノイズが裂けた。

足を突き刺せばノイズが吹き飛んだ。

恐怖でしかない連中をやっつける姿は、あの時見たのと全く同じ。

 

「ん、いっちょあがり」

 

あっと言う間にノイズを倒してしまったその人は、こちらに歩み寄って。

 

「よく頑張った」

 

温かい手のひらを、頭に乗せて来る。

 

「生きるのを諦めなかったね、えらいよ」

 

そして。

いつかと同じように、笑いかけてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば、日本に戻ってから二ヶ月もの時が流れている。

朝身支度をしていた際、ふとカレンダーを見て驚いたものだ。

たかが二ヶ月、されど二ヶ月。

少なくとも一般的な女子高生が体験するには、濃密過ぎる出来事ばかりだった。

 

「未来!ちょっとこっち!」

「へっ?」

 

放課後。

ホームルームが終わるなり、弓美に手を引っ張られた。

 

「どうしたの?」

「いや、見てほしいものがあってさ」

 

人のいないところに連れ込むなりスマホを操作した弓美は、画面を見せ付けた。

 

「ほらこれ、響じゃない?」

 

未来も聞いたことのある大型掲示板。

『【変身ヒロイン】例の少女に出会った件について【実在した?】』というタイトルで、こちらに背を向ける響の写真が上げられていた。

 

「昨日話題になってたの。こういうのってすぐに削除されちゃうから、スクショ間に合ってよかったよ」

「そう、なんだ」

 

画像の中の書き込みには。

先日ノイズに襲われたとき、響が来てくれて助かったこと。

不安な中に駆けつけてくれて、本当にありがたかったことが書かれていた。

 

「・・・・ふふ」

 

もう一度日の目を見ることが難しかっただろうあの子が、賞賛を受けている。

そのことが何だか誇らしくて、笑みがこぼれた。

 

「今日も二課行くんでしょ?褒めてあげなよ」

「うん」

 

画像を見せてくれた弓美にありがとうを告げてから、学校内にある二課の入り口に向かう。

――――今、響は二課でお世話になっている。

少し前の騒ぎが原因で、半ば軟禁状態になってしまっているが。

出動などで外出自体はちょくちょくしているらしい。

・・・・当然その度に、ガングニールは響の体を蝕んでいく。

だが、響はそれで構わないと笑っていた。

本来なら、あのまま襤褸の様に擦り切れ、朽ち果てていたのだからと。

死に体の分際からすれば、十分すぎるハッピーエンドだと。

それに冤罪から始まったとは言え、この身は罪人だ。

幾十、幾百もの人間を屠り、屍を踏みつけてきた咎人だ。

だからこれでいい。

そう言ってどこか照れくさそうに、それでいて嬉しそうに笑った。

未来だって、その辺は一応理解している。

翼は今まで二課の方に出ずっぱりだったお陰で、表の仕事が滞り始めてしまっていて。

そこへ、響が叩き込んだダメージである。

もちろん人類守護も大切だが、だからといって歌姫の役目を疎かにするわけにもいかない。

そんなある種の『責任』を負う為にも、戦わないという選択肢は取れなかった。

しかし、いい加減に荒事から離れて欲しいというのもまた、未来の本音に違いない。

 

「こんにちは」

「ああ、こんにちは」

 

すれ違う職員と何度か挨拶を交わしながら、廊下を進む。

足は自然と、休憩スペースに向いていた。

自販機横のソファ。

背もたれに背中を預けて、気を抜いている姿が見えた。

 

「響」

「未来」

 

こちらを見つけると嬉しそうにはにかんで。

未来もまた、笑顔が浮かぶ。

二課のものとはまた違うカッターシャツとズボン。

どこか野生的だった以前と比べて、パリっとした雰囲気になっている。

未来が通うたびにこの格好なのだが、響曰く『自分なりの正装』らしい。

オフのときはもっと別の格好なんだろうなと思いつつ、その姿を未だ見られていないのがちょっと悔しい。

 

「小日向、来ていたのか」

「翼さん」

 

飲み物片手におしゃべりでもなんて考えているところへ、翼がやってきた。

 

「お仕事まだ残ってるんじゃあ?」

「顔を出しに来ただけだ、お前が気にかかってな」

 

首をかしげる響へ、にやりと笑いかけて、

 

「つい最近まで野犬だったのだしな、誰かに噛み付きでもしたら大変だ」

「ぬ、ぐ・・・・!」

 

さすがに冗談だろうが、図星だったために言葉が詰まってしまう響。

その顔は、まさに悔しそうに歯を見せていた。

 

「はは、冗談さ。抜けた穴を埋めてもらえて助かっているよ」

「わわわっ」

 

大らかに笑いながら翼は響の頭を撫で回した。

髪をくしゃくしゃにされた響は、手ぐしで手早く整えつつはにかむ。

嬉しいのだろう。

気を張らなくていいことが、いざと言うときに刈り取らなくていいことが。

浮かべた笑顔は信頼の証。

自分の命も、未来の命も脅かされないという環境は、確かに響の助けになっていた。

翼も加えた三人で、近況報告なんかの世間話をする傍ら。

未来は生き生きと話す響を、感慨深く見守っている。

――――謂れのない罪を着せられて、ほの暗い道を歩かざるを得なかった響が。

こうやって何気ない笑顔を浮かべて、他愛ない話で盛り上がる。

もはや叶わないと思っていた願いが、こうやって実現する日が来るなんて。

未来はおろか、響だって想像もつかなかっただろう。

誰かを傷つけた分、自分を呪い続けていた響。

身も心も限界以上にぼろぼろになって、それでもなお立ち止まることを許されなかったこの子が。

やっと至れた安息の地がここだ。

全てを疑う必要も、どこかへ逃げる身構えも必要ない場所。

十分、十分だ。

響はもう、十分すぎるくらいに苦しんだ。

悪質な善意に、醜悪な欲望に。

苛まれ、脅かされ、蝕まれて。

もういいだろう。

そろそろ休ませてくれたっていいだろう。

もちろん、いつかは立ち上がって進まないといけないのは分かっている。

立ち止まる怠け者に容赦しないのがこの世界だ。

だけど、だからこそ。

一秒だけでも、なんなら一瞬だけでもいい。

このあたたかい時間を、穏やかな日常を。

 

(ねえ神様、どうかお願い)

 

嗚呼、願わくば。

この誰もが持ちえる当たり前の時間で、響がずっと笑っていられますように。




ここにフラグがあるじゃろ?←


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自覚

熱でダウンしても、ひびみく愛は止められぬッ・・・・!
あ、ちゃんと治ったので、お気になさらず。


「未来って響が好きなの?」

「へっ?」

 

ある日の昼休み。

一緒に昼食を取っていた弓美にそう言われ、未来は間抜けな声を出す。

 

「いや、だから」

 

呆ける未来へ身を乗り出した弓美は、顔を寄せて声を潜める。

 

「未来って響が好きなの?」

「え、あっ!『Like』のほう!?」

「『Love』に決まってんじゃん」

 

突然の質問にすっかり混乱した未来は、名案だとばかりに指を立てるも。

呆れ顔の弓美にあえなく両断された。

 

「ど、どうして?」

「どうしてって・・・・」

 

おにぎりを頬張った弓美は、唸りながら咀嚼。

キチンと飲み込んでから口を開く。

 

「何か、響について話してるときすっごい生き生きしてるっていうか、こう、『乙女ー』なオーラが出てるっていうか」

 

・・・・確かに響のことを話すときは、自分でもテンションが上がっている自覚はあったものの。

まさかそんなになっているとは思わなかった。

 

「そんなに?」

「そんなに」

 

しっかり首肯されて、未来は頬が熱くなるのを感じた。

 

「・・・・もしかして無自覚だった?」

 

きょとんとした弓美に問いかけられ、今度はこっちがしっかり首肯する。

すると弓美は、なんだか申し訳なさそうに『あー』と呟いた。

 

「まあ、ほら。そう見えるってだけで、あたしの勘違いかもしれないから!本当にそうだったとしても、最近そういうカップルとか夫婦とか増えてるわけだし!」

 

だから大丈夫ッ!

親指を立てて笑う弓美に、未来は恥ずかしさが混じった曖昧な笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――なんで、今。思い出すのかな)

 

響の顔を覗きこみながら、未来はぼんやり考えていた。

二課の休憩スペース(いつもの場所)、ソファの上。

どういうわけだか、響を押し倒す形で横たわっている。

・・・・いや、本当は分かっているのだが。

何気ない会話の中で、響が急にくすぐってくるもんだから。

反撃だといわんばかりに押し倒したら、その琥珀の瞳から、目が離せなくなってしまって。

時に優しく、時に鋭くなる目。

見れば見るほど、綺麗だと思う。

 

――――未来って響が好きなの?

「――――ッ」

 

もう一度。

弓美に言われたことが頭で反芻され、昼以来落ち着いていた頬がまた熱くなった。

好き(Love)なのか、そうじゃないの(Like)か。

 

「未来?」

 

その口元が、戸惑いながらも名前を紡いでくれる。

大好きな声で、呼んでくれて。

 

(――――あ)

 

本当に、本当に唐突だった。

背筋が震えて、脳が痺れた。

――――喜んでいる。

響に名前を呼ばれることを、こんなに幸せに感じている。

自覚すれば、次々実感してくる。

温かい手のひらも、抱きしめてくれる腕も、ちょっと危なげな優しさも。

全部響の一部で、いいところで、愛しくてたまらない。

もちろんそれは未来だけじゃなくて、家族に対してもそうなのだけど。

でも、もし。

もし、許されるのなら。

その優しさ、ほんの一部だけでも独占させてくれたらなぁ。

なんて。

 

「未来ー?」

 

また名前を呼ばれて、我に返る。

――――今わたし、何を考えてた?

いや、誰かを好きになること自体は別に悪いことじゃないんだけれど。

何だかこう、大胆なことをたくらんでいた気がしてならない。

 

「どしたの?顔赤いよ?」

「あ、えと・・・・だ、大丈夫!」

 

瞳に全てを見透かされそうな気がして、そっぽを向く。

真面目に心配してくれる響には申し訳ないが、こんな胸中知られたら恥ずかしさで死ぬ自信がある。

 

(ごめん、響・・・・)

 

それでもこの罪悪感はどうしようもなくて。

せめてこっそり謝ることで発散させようとした時。

ふと我に返ると、響の顔が近づいていて。

 

「・・・・やっぱり、分からないや」

「――――ッ!?」

 

すぐ目の前。

困ったような苦笑が浮かんでいた。

 

「ごめん未来。わたしがもうちょっとまともだったら、何か気付けるかもしれないけど」

 

額を指で撫でながら、言葉通り申し訳なさそうに笑う響。

・・・・違う、違う。

お願い、そんな寂しい顔しないで。

あなたはこれから先、ずっと笑っていていいんだから。

幸せになって、いいんだから。

・・・・それとも、足りないの?

辛い思いをした分、何もかも諦めてきた分。

持ち合わせが少ないの?

――――だったら、

 

「み、未来?」

 

だったら、わたしのをあげる。

あなたが身を削って守ってくれた分があるから、あなたに分けるくらい何ともないから。

だから、ねぇ。

もっと笑ってよ、響。

 

「あの、未来さん?」

 

困惑した声が聞こえるが、あえて無視を決め込む。

心なしか強くなった握る力も気にしない振り。

今更怖くなって目を閉じたけれど、動き出した体は止まらない。

見えなくなったから、色んな音が聞こえる。

特に自分の心臓はうるさいくらいにフル稼働していて、耳元に移動してきたんじゃないかって錯覚するくらい。

そんな中でもかすかに分かる、響の困惑した様子。

・・・・困らせてごめんなさい。

だけど、もう止まらないの。

止められないの。

気付けば、響の温もりはもう目の前。

自分でもびっくりするくらい躊躇わず、最後の距離は少し早めに近づけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

唇同士が、触れ合った。

 

 

 

 

 

 

直に感じる温かさに、何ともいえない幸福と満足感を覚える。

ああ、いっそこのまま一つになれたらいいのになんて考えながら。

もう少し強く、唇を重ねようとしたときだった。

 

「・・・・~~ッ!!」

 

鳴り響く警報。

ノイズが出現したのだろう。

けたたましい音で我に返った響に、突き飛ばされた。

抵抗はままならず、やや乱暴に背もたれにぶつかる。

 

「ぁ、ぇと、その・・・・!ご、ごめん!そういうわけだから、ホントにごめんッ!」

 

なおわたわたとした響は、次の瞬間勢い良く立ち上がり。

 

「帰り道!気をつけて!」

 

そう言い残しながら、脱兎の如く走り去っていった。

その背中を見送った未来は、束の間呆然と虚空を見つめて、

 

「――――ッ!!!」

 

やがて一気に赤面し、ソファを思いっきり叩いたのだった。



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『痛み』

それは、何回目かの検査のときだった。

機器から解放された響は、その時に限って何やら考え込んでいて。

検査用の薄着のまま、手のひらをゆっくり閉じたり開いたり。

時折指先や手のひらの縁を摘んだりして、その様子をじぃっと観察していた。

 

「どうしたの?何かお悩み?」

「え、ああ・・・・その」

 

了子が問いかけてみれば、現実に引き戻されたようで。

我に返った彼女は、苦笑いを取り繕う。

 

「愚痴くらいなら聞けるわよ?二課(ここ)って大分ハードな職場だもの」

 

毎日のように出動している観察対象(ひびき)を慮り、人懐っこい笑顔を浮かべる。

実際、彼女は貴重な個体。

だから、簡単に潰れてもらったら困るというのは、紛れもない本音だった。

話しかけられた響は、大分長い間口ごもっていたが。

やがて了子の粘り強さに負けたのか、観念したように小さく息を吐いた。

 

「――――知り合いが言っていたことを、思い出して」

「知り合い?」

「はい」

 

こっくり頷いた響は、再び自分の手に目を落とす。

 

「『痛みだけが、人を繋ぐ』って、その人はそれを信念にしていて」

「・・・・そう」

 

覚えしかないワードに、了子の胸が跳ねた。

声に動揺が出ていないか心配になり、同時にこんな当て付けの様な話題を振る響に恨めしい思いを抱く。

 

「――――確かに一理あるわね」

 

違和感の出ない程度に、一呼吸置いて。

了子は口火を切る。

 

「乱暴な言い方してしまえば、人間だって所詮は獣。言葉で分かり合うのはもちろん人間のいいところだけど、時には暴力で教え込んだ方がいいときもあるもの」

「あはは、それはよく分かります」

 

了子の言葉にしっかり頷く響。

『暗がり』を歩いてきただけあって、『力尽く』には覚えがあるらしい。

 

「それで、響ちゃんはその言葉のどこが気になっているのかしら?」

「いや、そのですね・・・・」

 

『フィーネ』を意識しながら、見下ろす。

監視カメラは天井のみ、この目は見上げる響にしか見えていない。

目の前の少女は、そんな鋭い視線を真っ向から見つめ返しながら、また苦く笑った。

 

「人間が痛みでしか繋がれないのなら、『痛み』を感じないわたしは、誰とも一生分かり合えないのかなって・・・・ふと、そう思っちゃいまして」

「――――」

 

また、胸が跳ねた。

動揺ではない。

試験の答案が帰ってきた時、完璧だと思っていた回答に綻びを見つけたような。

そんな感覚。

 

「さすがに考えすぎですかねぇ?ちょっと前ならともかく、今は違いますし」

「・・・・ええ、そうね」

 

そう呑気に頭に手をやって、誤魔化すように笑う響。

了子もまた、目を伏せて。

努めて柔和に微笑みながら、響の頭を撫でる。

 

「それ、弦十郎君や未来ちゃんの前で言わないようにね?きっと怒られちゃうから」

「わーい、怖い顔が想像出来ちゃうやー」

 

フィーネの基準からすれば。

どこまでも他人を思いやれる、そこそこ好感を持てる連中のことだ。

きっと鬼気迫る顔で、『そんな寂しいこと言うな』と怒鳴りつけることだろう。

響もその様が容易に想像できたらしく、どこか遠い目をしていた。

そんな様子が面白くて、先ほど浮かんだ恨めしい思いに関しては、これで手打ちにしようと結論付けた。

 

「それで、今日この後は?」

「訓練もお手伝い(なんちゃってデスクワーク)も終わってますし、出動まで待機ですね。午後は未来が来てくれるので、多分休憩スペースにいると思います」

「はーい、了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――報いとは、こういうことを言うのだろう。

あちこちで自己主張する鉛玉を感じながら、彼女はほくそ笑む。

血の海に沈むこの身は、すでに満身創痍。

指の一本すら動かせない。

『手前勝手が過ぎたな』と、屈強な男達が乗り込んできたのがほんの十分ほど前。

何も備えていなかった体は、あっというまに蜂の巣にされてしまった。

女性が受ける最大の『暴力』を施されなかっただけマシだが、それでも痛いものは痛い。

飼い猫(クリス)をどうにか逃がせたのは、不幸中の幸いだったろう。

追っ手がかかっていようがいまいが、後は二課の連中が勝手に構って連れて行くに違いない。

そして青二才(アンクルサム)共の企みを、ヒーローよろしく止めてくれるはずだ。

 

(・・・・どう、して)

 

状況を整理した次に思うのは、これまで。

『どうして、何故』という疑問が、頭から離れない。

・・・・ただ一つ。

人間が生きていくうえで、当たり前の感情を。

『あなたが大好き』という想いを抱いただけだ。

相手は余りにも遠い場所にいた、だから至れるように塔を作り上げた。

塔を砕かれ、罰として言語を引き裂かれた時はさすがに参ってしまって。

言葉に頼らぬ意思疎通方法を、いくつも研究して編み出して、人々に提供した。

そうすれば『あの御方』も許してくれると信じていた。

――――なのに人間達は、与えた技術で相手を攻撃(ころ)した。

想いを伝えられたあの頃へ、人々が分かり合えたあの頃へ戻したいだけだったのに。

一度『分からない』という恐怖を覚えた人間達は、当たり前のように戦いを繰り返した。

永い永い年月の中で、『あの御方』に届くのは統一言語のみだと知った。

それでも想いを止められなかった。

 

(どうしてっ・・・・!)

 

ただ一言、たった一言を伝えたいだけなのに。

どうして、こんな。

失敗ばかり。

邪魔、ばかり・・・・!

 

『――――まだ生きていたのか』

 

足音。

目だけで見上げれば、集団のリーダーが誇らしげにデュランダルを担いでいた。

 

『案ずるな。カ=ディンギルに統一言語・・・・世界の統合は我等が果たす』

 

盗品で何をと思いかけたが。

そういえば元々盗品だったなと、場違いなことを考えた。

相当弱っている自分に、内心苦笑を零す。

 

『全ては祖国の恩恵を受け、そして祖国のために動くのだ』

 

実質世界征服じゃないかとか、絶対反乱が起きるなとか。

そんなことが頭を過ぎったが。

黒光りする先端を向けられて、思考が嫌でも区切られた。

 

()()()、ここまでか・・・・)

 

目を伏せる。

次に期待するしかないが、連中の好き勝手が成就していることを考えると、気落ちする一方だ。

 

『さらば、老いさらばえた巫女よ』

 

引き金に、指がかかる。




上げて落とすスタイル。


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ドンパチ二か所

元男性・・・・自分で『取った』のか(AXS公式を見ながら)


うーん、さっきの未来は一体何がしたかったんだ?

・・・・なんてとぼけられたらどんだけよかったか。

アレって、アレですよね?

つまりはそういうことですよね?

にこにこするサイトや某ちゃんねるだったら『えんだあああああ』の弾幕が流れるような事案ですよね。

あ、そういえば元ネタである歌と映画って、どっちも男女が別れているらしい。

それを恋愛成就シーンで使用する日本人ェ。

話がそれた。

っていうか、ここはあれかな。

『ひびみくだぜ、喜べおまいら』なんて言うべきかなー、って・・・・・。

 

「『おまいら』って誰やね、あったぁ!?」

 

自分に突っ込みいれようとしたら、打撃がもろに当たって。

分かるかな、この。

痛くないけど反射で『いたい』って言っちゃう感じ。

すぐに相手の手を引っつかんで、ぽいっ。

ガタイのいいおじちゃんは、仲間を巻き込んで植え込みに突っ込んだ。

 

「立花どうした?動きが鈍いぞ」

「すみません、すぐ戻りますから」

 

戦闘が一段落したのを見て、翼さんが話しかけてくる。

その背中には、ぐったりしたクリスちゃん。

二課がノイズの反応と一緒に、第二号聖遺物『イチイバル』の反応を拾ったのがついさっき。

未来とのアレでまだ動揺が残ったまま、翼さんと一緒に駆けつけてみれば。

既に満身創痍の彼女がいたというわけだ。

さすがにプロの人海戦術には敵わなかったらしく。

あちこちに銃創をこさえたクリスちゃんは、わたし達を見るなり『年貢の納め時』といわんばかりに意識を失った。

で、その直後に『ムキムキマッチョなおじさん部隊~サブマシンガンを沿えて~』に囲まれてしまい。

こうやって交戦している次第。

ちなみに翼さんが背負っているのは、手が塞がっても剣飛ばして攻撃できるから。

暴れるわたしを援護してもらって、少しでも手数を増やそうって魂胆だ。

とにかく、留まる理由はないので移動する。

 

「しかし、何が起こっているんだ?ノイズの群れに、鉛玉の雨あられ・・・・穏やかではないぞ」

「多分ですけど、その子の雇い主が裏切られたとか、そんな感じじゃないですかね」

 

原作でも協力とか言いつつ互いを利用しあっていた両者だ。

この世界でも『ルナアタック』と呼ばれるであろう騒動が終息した後も、ちゃっかりおいしいとこ持ってったし。

うん、割とやりかねない。

 

「翼さん!響さん!」

「こちらへ!早く!」

 

と、話している間にも進んでいたお陰で、味方との合流ポイントについた。

見れば緒川さんや、手配された医療スタッフが手を振っている。

 

「呼吸はありますが出血が多いです、意識もありません」

「ご苦労様です、後はおまかせを」

 

手短にやりとりを済ませた彼らは、救急車に乗り込んで去っていった。

ん、ひとまずクリスちゃんはこれでいいかな。

 

「それじゃあ、っと」

「立花、どこへ?」

 

聞かれたので、振り返る。

 

「特に指示も出ていませんし、自主的に『後片付け』でもと。一般人に被害が出たら目も当てられませんから」

 

仮にもお役所側なわけだし、やっぱり人命は優先すべきだよね。

ん?相手?

街中で銃火器ぶっぱだなんてやんちゃしてるわけだし、ぶちのめすくらいいいんじゃないかな?

大丈夫、死なないから。

死ぬほど痛いだけだから。

 

「・・・・心配だな、私も行こう」

 

何でだろう。

絶対わたしの心配してないよね翼さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄おおおおおおおお―――――ッ!!!!!!」

 

轟、と音。

拳が唸りを上げて迫る。

敵意に気付いた青二才(アンクルサム)はすぐにその場を飛びのいた。

新手の登場に驚いていたようだが、相手の力量を悟り苦い顔で撤退する。

新たに現れた彼は、束の間気配を尖らせていたが。

やがて周囲に誰もいないのを感じて、こちらにしゃがみこむ。

 

「随分やられたな、了子君」

 

追い詰められたこちらを気遣ってか、弦十郎はいつもの調子で語りかけてくる。

いや、助けてくれたのは大変ありがたいのだが。

彼がここにいるということは、自分がやってきた諸々も当然知れているわけで。

だからこそ、分からない。

 

「・・・・ど、ぅ・・・・し・・・・・?」

 

固まりかけた口をどうにか動かして、問いかける。

発音はままならなかったが、言わんとすることは伝わったらしい。

間を置かず、答えは来た。

 

「俺は上司だしなぁ、部下を守るのも仕事のうちだ」

「――――」

 

・・・・呆れると同時に、思い出す。

そうだ、こいつはそういう男だった。

司令官と言う、冷徹な判断が要求される立場にいる癖して。

ちょっと心配になるくらいに甘っちょろい。

だがそれ故に、人類最後の砦たる二課を纏め上げ、部下からの信頼も厚い。

『フィーネ』から見ても悪くないと思える、久方ぶりの人種。

それがこの、『風鳴弦十郎』という男。

 

「君が連れていた少女は、響君達が無事保護したそうだ。後は俺達に任せるといい」

 

ああ、そうさせてもらうとしよう。

少なくとも、あの連中よりはよっぽど信頼できる。

・・・・一安心したら、眠気が襲ってきた。

逆らうことなく目蓋を閉じて、意識を手放した。



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スパートかけにいきます

先日の番外編への様々な反応、ありがとうございます。
FGOベテランな知人にビッキーのステータスを見せたところ、「ゲーム的にははずれ鯖(笑)」なんていいつつ、スキル効果についての訂正やアドバイスをもらえたので、そちらに修正しておきました。
続きを楽しみにしていただいているところ、誠に恐縮なのですが。
残念ながら予定は未定となっておりますので、ご了承ください。


「これはどういうことだ!?何を考えている!?」

「どうも何も、言ったとおりですよ」

 

激昂する相手を、鼻で笑ってやる。

カ=ディンギル、統一言語、バラルの呪詛。

あの女狐が求めていたもの。

これら三つを我が国が掌握すれば、うるさいテロリストや融通の利かない非協力的な国家を黙らせることが出来るというのに。

 

「力任せの支配など!反発どころではすまないぞ!!」

「しかし現状はどうです?潰しても尽きぬテロリスト、我々と友好的であるというだけで他国を攻撃する愚か者!世界は『悪』に溢れすぎている!」

 

なればこそ、世界の先導たる我々が行動を起こすべきだ。

『正義』の権化たる我々が、引導を渡すべきだ。

いい加減分からせるべきなのだ。

世界を脅かす悪人どもに、正しき人々の怒りと力を・・・・!

 

「この時代、もはや対話では解決できないことが多すぎる。ならば、禍根の元を直接叩く・・・・!」

「ま、待て!考え直せッ!!」

 

通信を切る。

彼も今に分かるだろう。

我々が手に入れた力の、すばらしさを・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

翼さんと『後片付け』を終わらせた後。

実は出かけていたらしい弦十郎さんと合流した。

何でも了子(フィーネ)さんのところにいっていたとか何とかで。

向こうも案の定襲撃されていたらしい。

現場に残っていただろう資料やらデータやらがごっそり無くなっていたとかで。

もうしばらく気を抜けない状況が続くだろうとのことだった。

肝心の了子さんは?と聞いてみると、弦十郎さんは残念そうに顔を伏せて横に振った。

マジっすか。

 

 

――――と、なったのが一週間前の話。

 

 

昨日はクリスちゃんの目が覚めたとかなんとかで、ちょっとした騒ぎになっていた。

二課の息がかかった病院で、ものすごく暴れたみたい。

おっかしいなぁ、意識失うくらいには大怪我だったはずなんだけどなぁ。

なお、弦十郎さんの説得で、ひとまず大人しくなりはしたみたい。

多分、皆が大好きな『大人だからこそ夢を見る』が炸裂したんじゃないの?

わたしは相変わらず缶詰だったんで、詳細は知らんけど。

で、今。

スカイタワーにノイズの群れが出現。

でーっかい飛行型が三体、小型をボロボロ吐き出しながらゆっくり旋回していた。

・・・・んー。

もうフィーネさんがいない以上、ソロモンの杖を操っているのは全く別の誰かになる。

全く別の誰かってことは、この先も原作どおりとは限らないわけで・・・・。

とかなんとか悩んだ程度でどうにかなるわけでもなし、いつも通りぶちのめしゃいい話でしょうけどね。

殴っていいのは殴られる覚悟があるヤツだけなんだッ!

というわけで、現在絶賛移動中であります。

何気にヘリコプター乗るの初めてなんだよね、不謹慎だけどちょっとわくわく。

不測の事態に備えて、リディアンもそれっぽい理由をつけて休校にしているから、何も知らない生徒さん達が巻き込まれる心配もナシ。

何よりOTONAが守りを固めているからね、安心して前線で暴れられるってもんですよ。

あとは・・・・あ、そうそう。

 

「あんだよ」

「いや、何も?」

 

今回はクリスちゃんも参戦してまーす。

・・・・いや、寝てろよ。

何でそんな殺る気満々オーラで同乗してんのさ。

なんなの?勇気百倍ならぬ銃器百倍なの?

 

「・・・・悪ぃけど、呑気に寝てるつもりは無ぇ」

 

考えてることが顔に出てたのか、頬杖ついたクリスちゃんは不機嫌なまま外を見る。

 

「今度はフィーネすら奪われたんだ、泣き寝入りなんて出来っかよ」

「・・・・頼むから、ほどほどにしてくれよ?」

 

歯を噛み締める音が、かすかに聞こえた。

これはアレか。

フィーネさんまで理不尽に奪われた所為で、ジェノサイドスイッチがオンしちゃった感じか。

弦十郎さんのお陰で敵意は無くなっても、野良っぽさと言うか、荒々しさは抜けきらないのね。

対比でサキモリッシュな翼さんがいっちゃんマシに見えてくるから不思議。

 

「もちろん立花もだからな」

 

うぇーい、わたしもマークされてーら。

翼さんのジト目から逃げようと目を逸らすと、目的地が近くなってきたらしい。

んー、飛行型が三体で、こっちもちょうど三人だから・・・・。

 

「まずは空の大型を叩く、二人とも抜かるな」

「っは!おめーらこそヘマすんなよ!」

 

二人とも同じ考えだったらしい。

翼さんが操縦士さんに頼んで、ちょうど三体の真ん中らへんに来る様移動してもらう。

 

「んじゃ、一番槍はいただきますね」

 

『ガングニールなだけに』なんてアホなこと考えながら聖詠を唱えれば、準備万端。

開いたハッチからの強風に煽られながら、大空へ体を躍らせる。

両手足を広げてダイビング。

タイミングを見計らって、刺突刃を出して、

 

「―――Scum(クズが)ッ!!」

 

ずどん、と手ごたえ。

ちらっと振り向けば、胸に大穴を明けて落ちる大型の姿が。

他所に視線を移してみると、炎に飲まれていたり、三枚におろされていたりしている。

やだもう、ほどほどにしろとかいいつつ自分もヤル気満々じゃないですか翼さん。

そんな仲間達が頼もしくって、嬉しくて。

着地で地面を揺らして、浮き上がったところにストレート一発。

 

C'mon! babes(おいで、腰抜け)!!」

 

右腕の刃と、左腕の『手』をちらつかせながら、笑ってやる。




このビッキー、だいぶあくどくなって・・・・あれ、今更か(


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避難の基本は『お・か・し』です

過去に類を見ない、大量のノイズの出現に伴い。

リディアン音楽院を中心とした地域の一般人に、避難勧告がなされた。

それは未来も例外ではなく、自宅にて避難の準備を進めていた。

といっても、今までの旅のお陰で逃げる準備をする習慣が出来ていたので。

やることと言えば戸締りくらいだったのだが。

 

「――――よし」

 

鍵はもちろんのこと、ガスの元栓も確かめた未来は、これで終わりだと頷いた。

未来が一人暮らしなのを気遣った弓美の申し出により、板場家と一緒にシェルターへ向かう約束をしている。

早いとこ待ち合わせ場所に向かわねば。

家を出て、扉の鍵を閉めたところで。

バタバタと忙しない足音。

顔を向ければ、白人男性が銃を振り上げて――――

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「弓美の友達、遅いな」

「・・・・うん」

 

シェルターへ急ぐ人々で、街のそこかしこが普段とは違う騒がしさに包まれている。

そんな中、弓美を含めた板場家の面々は人通りを避けて道端に立ち。

一緒に行こうと約束した未来の合流を待っていた。

しかし未来は中々現れず、ただ時間だけが過ぎていく。

正直、待ち人が来ないじれったさはある。

だが未来を、親がいない一人暮らしの学生を置いていくには・・・・という良心が働き。

ギリギリまで待っている次第だった。

されど今は非常事態、板場家の安全確保も重要なこと。

いつまでも待っていられない。

 

「・・・・あたし、未来の家に行って来る」

「弓美?」

「ちょっと!?」

 

大人ではないが、もう子供と言うわけではない。

非常事態なりの難しい事情を理解していた弓美は、それでも友人の無事を取った。

 

「大丈夫!こっから近いし、見るだけだから!ママ達は先に行ってて!」

「弓美!?危ないわ!待ちなさい!!」

 

母親の制止を振り切り、弓美は人ごみの中へ飛び込んだ。

途中焦って走る人にぶつかり、罵声を浴びながらも。

どうにか無事に未来の自宅付近へたどり着く弓美。

 

「未来、どうしちゃったのよ・・・・」

 

友達の安否を気遣いながら、曲がり角に差し掛かった弓美の足は。

 

「――――Hurry!! Make it early!!」

「――――!?」

 

突然聞こえた異国の言葉に止められた。

バタバタと聞こえてくる足音に、何ともいえない危機感を覚えた弓美は。

咄嗟に近くのゴミ収拾スペースに身を隠した。

近づく喧騒。

危ないと分かっていながらも、好奇心を抑えられなかった弓美がそっと顔を出すと。

掘りが深かったり、肌が黒かったり白かったり。

とにかくどう見ても日本人じゃない連中が、騒がしく走り去っていく。

――――未来を、荷物か何かのように、無骨に担いで。

 

「・・・・・ぁッ!」

 

抑えたものの、かすかに声があがった。

間違いない、今連中は未来を攫っていた・・・・!

 

「大変だ・・・・!」

 

一応背後を確認してから、弓美は物陰から立ち上がる。

連中の狙いが何かはっきり見当はつかないが、未来をよからぬことに利用しようとする魂胆は容易に想像できた。

どこかに通報をと考える。

警察はダメだ、二課の事情を話すわけにはいかない。

自衛隊も同様な上に、連絡先を知らない。

一番動いてくれそうな響も、同じくどう連絡すれば言いか分からない。

と、来れば、残っているのは。

 

「・・・・ッ」

 

体が震える、足が笑う。

怖い、怖い、怖い。

だけど。

仲がいい友達がいなくなるのだって、すごく怖い。

だから・・・・!

 

「・・・・行かなきゃ」

 

唇を噛んで、恐怖を押し殺して。

弓美は踵を返して走り出す。

二課本部がある、リディアン音楽院へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「泥まで喰らえッ!!」

 

振り上げた左手を地面に叩きつければ、周囲のノイズが塵になる。

そのままアスファルトを巻き込みつつ振り回せば、暴風で生き残った連中が吹き飛んだ。

 

「それッ!」

 

『手』で引っつかんで手繰り寄せ、思いっきり叩きつける。

周囲が開けたところで、体をちぢ込める。

刺突刃を意識しながら、フォニックゲインを流し込む。

溜めて、溜めて、溜めて・・・・。

――――今ッ!!!

 

「うぉるあぁッ!」

 

交差した斬撃を飛ばせば、前方のノイズが細切れになりながらまた吹き飛んでいった。

んんん~~!一方的ですぞー!

 

「つっかまーえたッ!」

 

人型をまた手繰り寄せて、腰をホールド。

仰け反ってジャーマンスープレックス、一回転してもう一撃。

もう一回転してさらにおかわり。

最後に宙に飛び上がって、脳天を地面に叩きつけてやった。

逆立ちから立ち上がれば、周囲は閑散としていた。

んー、これでこの辺は終わりかな?

 

「そちらも終わったようだな」

「随分派手に暴れたじゃねぇか」

 

翼さんとクリスちゃん、どっちに合流しようか考えていたら向こうからやってきた。

どうやら二人のほうも終わったらしい。

 

「では本部に戻るぞ、先ほどから通信が通じない」

 

翼さんは淡々としているように見えて、その実凄みがあった。

わたしとしても、二課のみなさんにはお世話になっている。

助けになれるのなら、喜んで力になろう。

・・・・・ファフニールの『宝』に手を出したこと。

骨の髄まで後悔させてやろうじゃないか。




今回の文字数、ちょうど2017だったんですよ(


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ピンチに来るのはいつだって

感想お返事できなくてすみません。
いつも励みにさせてもらっており、大変ありがたいです。

それでは、本編をどうぞ。


「こ、これだよね」

 

リディアン音楽院高等科。

幸いにも連中より早く到着した弓美だったが、二課への入り口が分からず少々彷徨ってしまった。

ひとまず、どうにかそれらしき場所を見つけはしたものの。

開ける方法が分からず、結局立ち往生してしまっていた。

ドアの縁に指をかけてみたり、カードキーか何かの読み取り機を叩いたり揺らしたりしてみるが。

当然ながら反応は無し。

 

「どうしよう、未来が危ないのに・・・・!」

 

頭をかきむしって唸ったところで、情況が好転するわけでもない。

ここまで来て手詰まりかと、苦い顔をしたときだった。

 

「――――問題ない、お嬢さん」

 

低い声。

肩を跳ね上げ振り向けば、先ほど見かけた集団。

そのうちの一人が、未だ気絶している未来を抱えている。

 

「案内ご苦労だった」

「――――ッ!!」

 

絶句すると同時に、己の失態を恥じる。

いつからかは分からないが、つけられていた・・・・!

ざり、と靴底を引きずって後ずさる。

もちろんその程度で逃れられるはずも無い。

気付けば連中の一人が背後に回っており、羽交い絞めにされた。

 

「な、何を・・・・!?」

「寝てもらうだけだ、安心しろ」

 

すわ何をされるかと身構えた弓美の脳天に、ライフルが叩きつけられる。

哀れ、避けられなかった弓美はもろに打撃を受け、一瞬で意識を失った。

荒っぽく放られると、額から流れた血が床にこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

――――意識が浮かんでくる。

何か騒がしい。

破裂する音、誰かの大声。

バタバタ駆け回る足音。

何やら揺さぶられている体。

 

「・・・・?」

 

目蓋を開けてみる。

段々明るくなる視界。

蛍光灯の光で目を刺激され、痛みに怯む。

何とか耐え切って、もう一度目を開ける。

 

「未来ちゃんッッ!!!」

 

悲鳴のような声に驚いて、意識が一気に引き上げられる。

目の前には、ロッカーや事務机を積み上げて作られたバリケード。

その間から友里や藤尭と言ったなじみの面々が顔を出し、自分の名前を呼んでいる。

声を聞いた未来の意識は、完全に覚醒した。

動こうと力を入れれば、思うように動かない。

何事かと視線をめぐらせると、周囲を囲む西洋系の屈強な男達。

その誰もがアサルトライフルやらサブマシンガンやら、物騒な物を携えていた。

 

「・・・・ぁ」

 

ようやく思い出す。

避難しようとした矢先、彼らに殴られたことを。

となれば、もはや考えるまでも無く理解する。

こいつらは卑怯にも自分を人質にして、二課の面々を追い詰めている・・・・!!

現に、あっという間に制圧せしめる実力を持っている弦十郎が、攻めあぐねているのがその証拠。

バリケードの隙間からも、負傷した職員達がちらほら見える。

悔しいことに、効果は覿面だった。

 

「は・・・・」

 

久方ぶりに見る凄惨な光景。

 

「離してッ!!」

 

未来は思わず体をよじって暴れ、拘束から逃れようとする。

自分を抱えていた男が『暴れるな』という旨の英語を口走っていたが、言うことを聞いてやる道理は無い。

 

「――――ガッ!」

「ぅ、わ・・・・!」

 

暴れているうちに、膝の一撃が綺麗に決まった。

地面に重々しく落ちてしまったが、背中を押さえ怯む腕から逃げることに成功する。

 

「未来さん!こちらへ!」

 

飛び出してきた緒川に保護されて、バリケードの向こう側へ。

 

「お怪我は?」

「えっと、なんとか。大丈夫です」

「よかった・・・・」

 

どうにか壁の向こうに行けば、二課の職員達が口々に無事を喜んでくれた。

 

「あの人達、どうやってここに・・・・?」

 

自分を人質にしたのは分かる。

だが、『鍵』が無ければ入れないこの場所に、一体どうやって入り込んだのか。

未来にはそれが分からなかった。

 

「未来ちゃんの通信機を使われたんだ、こっちも完全に油断してた・・・・!」

「そ・・・・ん、な・・・・」

 

藤尭が苦い顔で告げた事実に、血の気が引く。

冷たさからどうにか逃れるために、未来は改めて周囲を見渡した。

目覚めるまでの間、連中は相当好き勝手してくれたらしい。

そこかしこに残る血痕に、今まさに運ばれていく者。

心なしか、未来に睨むような目を向ける者もいる。

 

「・・・・ッ」

 

その目は未来の心を大きく揺さぶると同時に、罪悪感を抱かせた。

だって、この光景を作った原因は、間違いなく。

 

「・・・・ぁ」

 

不意に、何かが投げ込まれる。

それが手榴弾と気付いたときには、もう遅く。

間髪いれずに、破裂音。

投げ込まれたのはどうやら閃光弾の類だったらしいが、動きを封じるには十分すぎた。

未来にとっては二度目となる目の痛み。

続けてバリケードが崩れる音が聞こえて。

 

「ッ全員逃げろオォ!!」

「司令ッ!」

 

床を隆起させて弾丸を防いだ弦十郎が、雄叫びを上げて突っ込む。

そのまま一気に三人なぎ倒し、次の相手を目で射抜いた。

・・・・人が倒れている。

怒号が飛び交っている。

換気がやや悪い地下ゆえに、硝煙と血のにおいでむせ返りそうだ。

 

(・・・・おんなじだ)

 

響と一緒に歩いた軌跡と。

びっくりするほど、同じだった。

隣に居る大好きな響ばかりが傷ついて、苦しんで。

なのに、自分だけが無傷でいる。

いつだって命を賭けるのは響、危険に晒されるのも響。

対する自分は守られてばかりで、頼ってばかりで。

あの子が手を汚す様を、ただ見ているしか出来ない。

そんな一種の地獄が、そこにはあった。

 

「――――Don't despise.(舐めるな)ッ!」

「ぐ・・・・!」

 

一発、銃声。

応戦していた一人がハンドガンを撃ち、銃弾が弦十郎の腕を貫く。

傷つき血を流す様が、響とかぶった。

 

「・・・・~~~ッ」

 

いてもたってもいられなくなった未来は、近くに落ちていたハンドガンを手に取る。

セーフティーは外れたままのようで、あとは引き金を引くだけだった。

 

「未来ちゃん!?」

「未来ちゃん!ダメ、っぐ・・・・!」

 

引き止める声なんて聞こえない。

 

「動かないで!!!」

 

今まで出したこと無いような怒鳴り声を上げながら、銃口を向けて。

途端に、手元が震えだした。

どうして、何で。

もう守られてるだけじゃダメだから、だからこうやって行動に移しているのに。

どうしてこんなに震えているの。

 

「ここから、出て行って・・・・!」

 

誤魔化すためにもう一度怒鳴るけど、尻すぼみになってしまった。

多分連中には、未来が怖がっているのがバレバレなんだろう。

案の定、うちの一人がこちらへ銃口を向け返してくる。

小さく真っ暗なそこから飛び出してくるものが何か、容易に想像はついて。

背筋が凍った。

 

「未来く、ッどけェ!!!」

 

止められるだろう弦十郎も、奴等の相手で手一杯。

助けなんて期待しないほうがいい。

元より、これ以上甘えるなんて言語道断だ。

 

「・・・・ッ」

 

意を決する、腹を決める。

いくらか収まったものの、手元の震えがわずらわしい。

だけど、もう後には戻れない。

この状況を作ったのは誰か、二課の人達が傷ついているのは何故か。

どう考えたって、自分のせいじゃないか・・・・!!

緊張で奥歯を噛み締めてしまっている。

ギリギリと嫌な音がはっきり聞こえて、うるさい。

指先が真っ白になるほどに力を込める、グリップを握り締める。

引き金に指をかける。

どこに当たるかは分からなかったが、外れはしなさそうだった。

相手もまた、引き金を引こうとしている。

 

「・・・・ッ!」

 

力むためと言い訳して、怖いことから逃げたい臆病さが勝ってしまって。

目を伏せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱぁん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

硝煙の臭い。

痛みは無い。

だが、手元のありえない温もりに我に返って、目を開ける。

 

「――――ひびき」

 

いつも見てきた、小さくて頼れる背中。

ギアを纏ったまま、未来を守るようにしゃがんでいる。

と、視線を降ろせば。

その左手が、銃を握り締める手元を押さえ込んでいた。

 

「ひ、ひび・・・・!」

「未来」

 

温かくて優しい手が、そっと包み込んでくれる。

 

「未来、大丈夫・・・・大丈夫」

 

指先で撫でながら、銃を手放された。

震える手をしっかり握って、何度も、何度も。

この場に合わぬ穏やかな声が、なだめてくれる。

 

「もう、大丈夫だから」

 

最後に、強く握られたことで。

ざわついていた心が、凪いで行った。

 

「・・・・ひび、き」

「うん」

 

名前を呼べば、振り向いて微笑んでくれた。

すぐさま立ち上がった彼女は、大きく踏み込んで。

未来へ銃口を向けた男へ、肉薄。

 

「――――ッ!!!」

「お、ご・・・・!?」

 

黙したまま、鼻っ柱を殴り飛ばす。

哀れ直撃を受けた相手は、きりもみしながら吹き飛んでいく。

そのまま逆さに壁に激突して、動かなくなった。

 

「――――なーに驚いてんのさ、お前等も散々同じことやってただろうに」

 

仲間の惨状に驚く連中を、嘲笑う。

ついさっき未来をなだめた者と同一と思えない、危機感を抱く笑み。

 

「今度はそっちの番だ、覚悟決める暇はいらんよね?」

 

左肩から、一発銃弾を零しながら。

口元がぱっくり弧を描いた。



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ボス戦開始ってやつです

前回までの閲覧、評価、お気に入り登録。
誠にありがとうございます。
本編お待たせしましたー!


まあ、特筆することもなく。

二課でおいたしたおじさん達は無事制圧。

強いて言うなら、駆けつける途中で気絶した弓美ちゃん拾ったくらいかなぁ。

いや、リディアン側の入り口の前で、ころんって倒れてたもんだから。

頭から血ぃ出てたし、ほっとくわけにもいかずテイクアウト。

騒ぎが一段落した今、簡単な手当てを受けているところだった。

ちなみに今いるのは、二課本部から少し離れたシェルター群。

司令室も大分ボロボロだし、連中の親玉がまだとっ捕まってないしで。

負傷者が多い中留まるのは危ないよねってことで移動した次第だ。

 

「――――ぁ、れ?」

「弓美ちゃん!よかった・・・・!」

 

で、今。

捕まえたおじさん達を、当座の留置所に運び終えて戻ってみれば。

弓美ちゃんが目覚めたところだった。

付き添っていた未来が覗き込んで、無事を喜んでいる。

うむうむ。

まだ油断は出来ないけど、死ななくて良かった。

 

「あたし・・・・そだ、未来大丈夫なの!?へんな外人に連れてかれてたじゃん!!」

「だいじょーぶじゃなきゃここにいないよ」

 

わたしが未来の後ろからひょっこり覗けば、ちょっと驚いていた。

あ、その顔面白い。

 

「未来を心配してくれたのは嬉しいけど、それで自分が怪我しちゃ世話ないよね」

「う、ぐ・・・・!」

 

単純な自分勝手とかじゃなくて、純粋に友達を思っての行動だろうから。

そこは幼馴染として嬉しいし、ありがたい。

でも危ないことは危ないことなので、ちょっと棘のある言い方をする。

案の定、弓美ちゃんは苦い顔で気まずそうに黙り込んだ。

 

「もう、響」

 

たしなめてくる未来に、ぺろっと舌を出して誤魔化したところで。

 

「きゃ!?」

「おっと」

 

突然地面が、っていうか部屋全体が揺れだした。

倒れそうになった未来を支えて、じっと我慢。

揺れがある程度収まったところで、ノーパソ片手にアレコレしてた藤尭さんのとこへ行ってみる。

 

「繋がりそうです?」

「もうちょっと・・・・よしッ」

 

ッターン!とエンターが押されて、画面が切り替わる。

生き残っている外の監視カメラと繋げたらしい。

すっかり日が暮れて夜になった、リディアン校舎の映像が映し出された。

ただ、建物自体は見る影もないくらいぶっ壊れてたけど。

で、そんな瓦礫の山をぼんやり照らすのは、

 

「なん、だ・・・・これは・・・・!?」

 

・・・・ステンドグラスのような幾何学模様で彩られた、巨大な塔。

いんや、『砲塔』が正しいのかな?

 

「・・・・響くん、何か心当たりは?」

「んー、ないですね」

 

いや、一応前世の知識にある(知ってはいる)けど。

特に情報は出ていないので、ノーを答える。

同じ質問をされて首を横に振るクリスちゃんを横目に、改めて画面を観察する。

――――アレはもしかしなくても『カ=ディンギル』だろう。

二課のエレベーターシャフトに偽装して建設され、そして今、デュランダルを動力源に起動している。

仕組みだけなら理解してるし、何も知らないままで聞かされても何となく分かるんだけど。

問題は、どうやって保管場所にたどり着いたか。

二課に入るだけなら未来の端末でも出来たろうけど、そんなディープなところにまで入れる権限はないはず。

次に思い浮かぶのは了子さんの端末。

でもこっちも持ち主が死んでるの分かってるから、機能やら権限やらが止められているはずだ。

普通なら、これで『望みは絶たれたー』的な感じになるけど。

わたしはちゃんと覚えている。

了子さんの館。

襲撃後の調査で、データがいくつも運び出されているのが判明していることを。

手に入れた宝の山をほっとく人なんてゼロに近い。

きっと解析したデータを基に、ハッキングやらなんやらでちょちょいのちょいしたってところだろう。

 

「どっちにしろほっとけないのは事実か・・・・」

「響?」

「んにゃ、なんでもないよぅ」

 

未来が見ているのが分かる。

立ち上がりつつ、笑いかける。

 

「翼さん、呼んでくる」

 

短く告げて、走り出した。

 

「立花!さきほどの揺れは・・・・!?」

 

出てすぐのところで、翼さんと鉢合わせる。

わたしは()()()()()()に、そのまま素通りする。

 

「詳細は仮司令部で!わたし別任務なのでー!」

「立花!?」

 

引き止める声に、努めて明るく手を振っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――素晴らしい」

 

夜闇に浮かび上がるそれを見上げて、男は恍惚と笑う。

人類の言語を引き裂いた悪しき月。

その邪悪な光を打ち抜くに相応しい、荘厳な出で立ち。

既にその一撃を充填し始めており、輝きは刻一刻と増し始めている。

照準は完璧。

全人類の呪いからの解放が、目前に迫ったところで。

 

「――――ッ!?」

「ありゃ、避けたか」

 

咄嗟に飛びのけば、元いた場所が陥没した。

その中心にいたのは、報告にもあった融合症例。

穿った拳から砂埃を零しながら、ゆっくり立ち上がる。

 

「正義感は結構だけど、後先考えないのはどうかと思うよ?」

 

真っ直ぐこちらを見据えながら、やや低い声で威嚇してくる。

 

「月の破壊に伴う重力変動はどーすんのさ。USA万歳だけじゃどうにもならないじゃん」

「だから、止めると?」

「あたぼうよ」

 

再び、肉薄。

鋭く力強い一撃が、体を貫こうとして。

自然と、笑みが浮かんだ。

 

「・・・・ッ」

「くく・・・・!」

 

思ったよりも『硬い』手ごたえだったのか、殴ったほうの手を何度も握ったり開いたりしている。

眉間に皺を寄せたしかめっ面で、まさかと言いたげに睨みつけてきた。

面白い顔を見せてくれた礼に、種明かしをしてやる。

 

「おおおおおおおお・・・・・・!」

 

自らの内、取り込んだ物を意識する。

途端に感じるのは痛み。

しかし今の自分にとって、これは十分耐えられる感覚だった。

衣服が裂け、替わりに纏うのは『鎧』。

 

「・・・・盗品で戦うとか、どうよ?」

 

一度目を見開いた彼女は、先ほどよりも鋭く睨んでくる。

 

「使えるものを使っているだけさ」

 

ネフシュタンの鞭を構えながら、嗤ってやった。



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ヒーロー同士の戦いは燃える(ニチアサ的に)

「これは・・・・!」

 

モニターに写った響の姿。

彼女が独断で単独出撃したというのは、すぐに分かった。

万が一に備えて弦十郎と緒川を仮司令部に残し、クリスを伴った翼が駆けつけてみれば。

大きくひしゃげた無残なシェルター口が行く手を阻んだ。

操作盤には鉄骨が突き刺さっており、システム的には開けられない。

かと言って物理で突破しようにも、みっちり突っ込まれた瓦礫と言う瓦礫が、心理にストップをかけてしまった。

 

「あいつ、まさか独りで・・・・!?」

 

呆然としたクリスの声に、自然と歯軋りしていた。

何度も手を伸ばして、すり抜けて。

近頃やっと心を開いて傍に来てくれた響。

そんな彼女は、傷が癒えきっていないまま。

また新しい痛みを背負おうとしている。

新しい傷を、その身に刻もうとしている。

 

(ふざけるな、ふざけるな・・・・!)

 

剣を握る手が強くなる。

胸で炎が燃え盛る。

 

「ッ足踏みなどしていられるか!!突破するぞ!!」

「あ、ああ!」

 

想いを力に変えて、翼は剣を振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特撮・・・・特撮だッ。

目の前に特撮キャラがいるッ!!

アレだ。

某ライダーに出てきそうな、幹部クラスに強い怪人。

あるいはたまに見かける、ライダーをリデザインして野生的な面を前に押し出したごっつい感じ。

どっちにしろヒーローって雰囲気じゃないよね。

っていうか、でもネフシュタンって男の人が纏うとああなるんだ。

ああいうデザインを『ロマン』っていうんだろーね。

 

「はぁッ!!」

「っと・・・・!」

 

飛び掛ってきたので、こっちも飛びのいて避ける。

体をひねって着地すれば、ロケットスタートで突っ込んでくるおじさん。

そのパンチを蹴り返すけど、競り負けて吹っ飛ばされる。

むむ、腐っても完全聖遺物か。

おじさんの表情は分からないけど、聞こえた息遣いでにやにやしてんのは分かる。

ちょっとむかつく。

 

「・・・・ッ」

 

飛び込んで肉薄。

ぐっと溜めて、顎目掛けて蹴り。

そのまま振り下ろして肩へ打撃。

鞭を振るわれたので一旦離れて、さらに体を仰け反って避ける。

相手は鞭を振るい続ける。

バク転で何度も避けながら、攻撃の隙をうかがう。

今のわたし、多分ハリウッドスターもびっくりな動きをしてる。

途中ちょっと身捌きが間に合わなくて、すれすれに鞭が振ってくる。

でもわたしはこれを好機と取った。

 

「それッ!」

 

戻されていく鞭を引っつかんで、思いっきり引く。

勢い良く引っ張られたおじさんが、こっちに飛んでくる。

怯まずに攻撃態勢取るのはさすが、でもこっちだってやられるわけにはいかない。

 

「おぉッ!」

「だぁッ!」

 

向けられた拳を迎え撃つ。

走った衝撃波が顔にぶつかって、ピリピリした。

そのまま滑らせて腕で迫り合い、弾きあう。

右腕の刃を展開して、また接近。

鞭の連撃を避け続けながら駆け抜ける。

頭上からの一撃を弾いて、胴体へ一閃。

自分でも鋭いと感じる突きが、胸に突き刺さる。

刺したまま、体を引き裂くつもりで振り払った。

 

「ギアアアアアアアア――――ッッッ!!」

 

響く悲鳴、吹き出す鮮血。

・・・・でもこれで死ぬわけが無いでしょう?

 

「あぁ・・・・ぐぅ・・・・・ふふっ、ふふふふ・・・・!」

 

ああほら、やっぱりー。

傷口はジッパーを閉めるみたいに塞がり、流れた血も巻き戻しみたいに戻っていく。

 

「・・・・ネフシュタンの恩恵、か」

「よく分かったな」

「間近で見る機会があったもんで」

 

両手をカタールに変形させて、突撃。

 

「でも負ける気はしないですね」

「言うじゃないか」

「だってあなたは、所詮人間でしょ?」

「・・・・どういうことだ?」

 

んー、やっぱ伝わらないか。

しょーがない。

 

「無限の再生、そりゃ素敵な能力だ。でも傷つくたびに痛みが伴う、致命傷ならなおさら苦しい」

「・・・・・ッ」

 

さすがのおじさんも理解したらしい。

どこか緊張した空気が生まれる。

相手が本気になったのを分かった上で、嗤ってやる。

 

「さて、そんなある種の『呪い』を持ってるメリケンさん?一体何回耐えられるのかなー?」

「――――何回でも、だ」

 

ぶわっと放たれるプレッシャー。

さっきの衝撃波以上に空間を揺らして、肌をビリビリ蝕む。

いや、痛いってわけじゃないんだけども。

何てのんきに考えてたら、おじさんがいなくなってる。

何処いったとキョロキョロしたら、頭上に気配。

見上げると、拳を振り上げているおじさんがいて。

あ、コレ想像以上。

 

「――――ッ」

 

避けられたけど、半ば吹き飛ばされる形。

体勢が崩れて着地どころじゃない。

やっと足が地面に着くってところに、おじさんはまた急接近してきて。

 

「ふんッ!!!!」

「ぁ、が・・・・!」

 

体のど真ん中、まるでハンマーを叩きつけられたみたいだ。

呼吸が叶わないまま、咳き込む暇なくまた吹っ飛ぶ。

瓦礫の中に埋まる形で突っ込む。

砂利が口の中に入ってわずらわしい。

誰も見てないので行儀悪く吐き出して、立ち上がった。

 

「お前こそ痛みを感じぬ体で、何時来るか分からぬ限界と戦うのだろう?小娘がどこまで耐えられるのかな?」

「っは、決まってるじゃん」

 

構えを取って、また嗤う。

 

「――――死ぬまでだ」




おまけ『前回NG』

「おおおおおおおお・・・・・・!」

自らの内、取り込んだ物を意識する。
途端に感じるのは痛み。
しかし今の自分にとって、これは十分耐えられる感覚だった。
衣服が裂け、替わりに纏うのは『鎧』。

「・・・・盗品で戦うとか、どうよ?」

一度目を見開いた彼女は、先ほどよりも鋭く睨んでくる。

「日本ではこの場合、こういうのだろう?」

ネフシュタンの鎧についている鞭を構えて、嗤ってやる。

「――――勝てばよかろうなのだ」



どう考えてもギャグだったので、ボツ。


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おや ? おじさん の ようす が ・・・?

テレテレッ
デッデーデッデーデッデーデッデー・・・・


「――――聖遺物との融合、確かにすばらしい力だ」

 

何度目か分からない剣戟。

相手は何度も再生するし、こっちはいくらでも怯まない。

んー、でもスタミナはこっちが不利かも。

いくらでも再生するあっちと違って、無くした血は戻らないからなぁ。

現にちょっち体が重たくなってきている。

決定打を受けてないとは言え、刻んだ傷は確かにわたしを追い詰めてるってわけだ。

 

「お前のお陰だよ。フィーネの資料にお前と言う成功例があったから、実行に踏み切れた」

「自分から人間やめに行くなんて、斬新だね」

 

何度目か分からない突撃をかます。

足のジャッキを伸ばし、引っ込めた衝撃で突進。

奴の腹に強烈な一撃を叩き込む。

鎧なんて意味が無い威力のはずだけど。

予想通り痛がったおじさんは、次の瞬間にやぁっと嗤ってわたしの腕を引っつかんだ。

振り上げられ、叩き落される前に反撃。

肩を外して自由になり、脳天に踵落としをくらわせてやる。

目論見どおり怯んだのを確認して、首根っこにもう一撃入れてから離れる。

外した肩は着地の時わざとぶつかって無理やりはめた。

っていうか、本当にやばいよ。

忘れそうになってたけど、カ=ディンギルも止めなきゃいけないじゃん。

横目で見てみれば、さっきよりも輝いている砲塔が。

あぁーもー、翼さんとクリスちゃん置いてきたのは失策だったなぁ。

大怪我するの分かってるからやったこととはいえ、入り口を物理で塞ぐのはやりすぎた、うん。

・・・・・でも、まあ。

味方がいないなんて、ちょっと前までの『いつも通り』だし。

それが戻ってきたと思えば、多少はね?

 

「ギブアップか?今ならまだ受け付けるぞ?」

「寝言は寝て言え、ファ●●ンヤロー」

 

中指突き立てて丁重にお断り。

刺突刃を展開して接近、鞭を刀身に絡め取って引っ張る。

おじさんは引っ張られるかと思いきや、身を翻して重く着地。

振り上げた右腕に、本来は鞭の先から放つエネルギーを溜めて、叩きつけ。

亀裂が足元まで走ってきて、衝撃がわたしを吹き飛ばす。

いや、吹き飛ぼうとして、絡まったままの鞭がわたしを引っ張る。

おじさんはお返しといわんばかりに、鞭を掴んでいた。

思いっきり引き寄せられる体。

急接近するおじさんの手には、あのエネルギーが篭っていて。

あ、やばい。

 

「――――ごぼッ」

 

――――一瞬あらゆる感覚が途切れた。

視界が暗転して、音が聞こえなくなって。

意識が戻ったのは、瓦礫の中で血を吐き出している時だった。

痛みは感じない、感じないけど、全身が重い。

二課に保護されたときみたいな、指を動かすことすら億劫なほどの疲労。

・・・・・あー、つらい。

きつい、眠い、寝たい。

 

(―――――だけど)

 

だけど、と。

前を見る。

未だに健在の脅威達が立ちはだかっている。

 

(ここで倒れるのだけは、ダメだ)

 

・・・・さっきの感覚を思い出す。

視覚と聴覚を残して、感覚を遮断する(体の悲鳴を押し殺す)

立ち上がれば、また込み上げた血が顎をつたった。

溜まった血を飲み下して、口を引き締める。

不利?劣勢?逆境?

上等だ。

お前達(じごく)がどれだけ襲い掛かろうが、どれほど蝕もうが。

――――わたしを噛み潰せると思うなッッ!!!

 

「おおおおおおおおおお―――――ッッッ!!!!!」

 

夜空に向かって、大きく咆える。

気のせいかもしれないけど、疲れが無くなった気がした。

もうなりふり構っていられない。

始めっからカ=ディンギル狙いで行かせてもらう。

血と汗を撒き散らしながら駆け抜ける。

おじさんもこちらの狙いに気付いているから、当然邪魔してくる。

エネルギー弾を避ける、牽制の鞭を避ける、飛び散る瓦礫は無視する。

わたしの中の、ありとあらゆる活力を。

全て、一点に!!!

 

「ハァッ!!!」

「オラァッ!!!」

 

背後から。

援護するように飛んでくる、斬撃と鉛玉。

振り向かなくても分かる。

 

「詰め放題にも程があるだろッッ!!どんだけあたしらに来て欲しくなかったんだッッ!!」

「決めろ立花ッッ!!我々を阻むほどの覚悟、見せてみろッッ!!!!」

 

カ=ディンギル発射は目前。

強く、強く、踏み込む。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!」

 

喉が潰れるのもお構い無しに、ありったけの雄叫びを上げて。

拳を、振りかざして。

根元を思いっきり殴り飛ばす。

瓦礫を撒き散らし、大きく傾くカ=ディンギル。

破壊は叶わず、発射を許してしまったけれど。

 

「――――」

 

轟く轟音、塗り潰す閃光。

奪われた視界を取り戻して、空を見上げれば。

一拍沈黙の後、表面が削れる。

一部が剥がれたけれども、月は健在だった。

 

「――――っはぁ!!」

 

いけないと分かっていても、緊張が途切れて倒れこんでしまう。

・・・・・砲身自体をひん曲げたんだ。

これならいくら撃とうとも月は破壊できない。

・・・・翼さんやクリスちゃんが、自爆紛いの特攻をする必要も、ない。

 

「はぁ・・・は・・・・!・・・・はご、ほ・・・・げほげほ・・・・!」

「お、おい、無理すんな」

 

クリスちゃんに向け、大丈夫という意味で首を横に振りながら、立つ。

おじさんはまだいるけど、翼さんとクリスちゃんがいる今。

油断はしてないつもりだけど、それでも負ける気はしなかった。

一方のおじさんは、空とカ=ディンギルを交互に見ながら、ぼんやりしている。

・・・・ように見えて、その目はまだぎらついていた。

まーだ諦めてないんかい。

 

「・・・・砲台の破壊とは、よくやる。だが」

 

ふと、おじさんが徐に取り出したものがあった。

ソロモンの杖だ。

あれまで奪ってたのか・・・・。

 

「砲台が使えないのなら、自らの力でやればよいだけのこと」

「この期に及んで何を・・・・!?」

 

三人分の睨みを受けながら、おじさんはにんまり笑って。

杖を、体に突き刺した。

 

「っふ、ふひ・・・・・きひひひひひひひひひッ」

 

すぐにネフシュタンが、おじさんの体ごと取り付く。

一緒に杖を起動させたのか、次々現れるノイズ。

その全てが、おじさんに飛び込んでいってた。

 

「ノイズに取り込まれている?」

「逆だ、あいつがノイズを取り込もうとしてやがる!?」

 

すっかり赤いドロドロに覆われるおじさん。

未だに笑い声は聞こえるけど・・・・。

 

「ヒャハ、ヒヒャハハハハハハハハアアアアアッッッ!」

 

アカン。

アカン(確信)。

これ取り込もうとして逆に取り潰されてるパターン。

なんて一人で戦慄している間に、再び閃光。

思わず顔を覆った手を、退けてみれば。

 

―――――グルルルルルル

 

がぱりとあいた口から、呼吸と一緒によだれが落ちる。

いかにも狂暴な牙がずらりと並んでいて、わたしみたいな小娘は簡単に食われそうだった。

体に視線を落とせば、鋭い爪を供えた強靭な四肢。

顔に目を戻すと、ぶっとい尻尾が揺れているのが頭越しに見えた。

 

―――――ガアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!

 

気だるさを殺して立ち上がれば、大気が咆哮で揺れるのが分かる。

・・・・・・こういう展開?




テーテーテーン!
テテテテテテテーン!!
おめでとう ! ▼
おじさん は ラスボス に しんか した !! ▼


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ピンチなんてよくある話

実は諸事情によりネットが使えなくなってました。

ネカフェマジ便利(


――――モニターの向こうの響を見たとき。

未来が抱いた感想は『ああ、やっぱり』だった。

『翼を呼んでくる』と飛び出していったあの時、素直に帰ってくる気がしなかったからだ。

案の定少し困惑した様子の翼が一人で戻り、『立花はどこにいった』と聞いてきて。

皆の反応を見るなり、すぐ様クリスを伴って飛び出して行った。

合流が遅れたところを見るに、響が入り口を塞ぐなどして足止めしていたんだろうと推測できた。

・・・・響は昔から、どこか臆病なところがあった。

何かトラブルに見舞われたり、不安を抱えたりすると。

反撃したり立ち向かったりせず、逃げや受けの姿勢を取っていた。

ちょくちょく未来や家族を困らせた、『逃亡癖』がその代表だ。

自分には勇気なんて無いから、力なんて無いから。

いつも困った笑顔で、そんなことを零していた。

一見すれば悪いところに見えるけど、それはちょっと違う。

怖がりで臆病だけど、それ以上に他人思いだ。

『勇気が無い』『力が無い』と卑下するのは、自分より優れている人がいると自制しているから。

ふらっといなくなったり距離を取ったりするのは、抱えている困りごとを他の人に背負わせたくないから。

笑顔を取り繕うのは、大好きな人たちを心配させたくないから。

怖いことや辛いことは、全部自分が抱え込んでいれば。

誰も傷つかない。

そうやって不必要な『痛み』を余計に抱え込んでしまう。

そんな子だった。

その不器用でも優しいあの子に十字架を背負わせたのは、紛れもない自分だ。

 

(・・・・ああ、そうだ)

 

言われるまでも無く分かっていた。

生き残って、生きていることを否定されて。

それでも死にたくないと反抗した結果が、あの夜の家出。

自分なんて、見かけてついてきただけの『おまけ』みたいなものだ。

でも、響にとっては違った。

大好きな友達で、大切な幼馴染で、守りたいものの一つで。

失うなんてとんでもないもので。

だから、奪おうと向かってくる暴力へ、暴力で立ち向かった。

臆病な心に蓋をして、怖いと叫ぶ本音を押し殺して。

たまたまついてきただけの、見捨てたってよかった『おまけ』を。

その身の全てで、守ってくれた。

・・・・当然、その代償はとても大きかった。

血に塗れて、泥で汚れて、相手と同じだけの傷を負って。

限界以上にボロボロになって、それでもなお立ち止まることを許されなくて。

痛みから解放されないまま生きなければいけないという、『呪い』を背負い続けることになった。

 

(分かっている、分かっているから)

 

自分の短慮が原因なのも、自分の弱さが原因なのも。

それ故に、何があっても響の味方で()()()()()()()()ことも。

全部全部分かっている。

分かっているから、どうか。

優しいあの子に、勝利(あした)を。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

巨大化は負けフラグ(笑)

なんて思っていた時期がわたしにもありました。

まず手足の動き一つが鈍器めいた威力だし、鳴き声がうるさいし。

何より時々撃ってくるブレスが厄介!

当たればダメージ受けるのはもちろん、距離によっては光で目が眩んだりするんだよー!

明るさ自体は大したことないけど、夜の今は目が暗がりになれちゃってるから。

むしろそれが余計に辛いいいぃー・・・・。

かといって後ろに回りこんでも、ごんぶとの尻尾が鞭みたいに襲ってくるし。

あの倒せない曲が流れてきそう。

ゲームと違うのは、チャレンジは一回こっきりで、失敗は許されないという点だろう。

ちきしょー。

誰だよ最初に『巨大化は以下略(笑)』なんて言い出したヤローは!?

いっぺんはたいてやるから、前に出なさい!

大丈夫!死にはしないから!

死ぬほど痛いだけだから!

 

「っとぉ!!」

 

叩きつけられた尻尾を避けて後退。

直撃は避けられたけど、飛び散った砂利が当たって鬱陶しい。

視点が高くなったことで、翼さんやクリスちゃんの様子が見える。

何度も斬りつけたり、鉛玉ぶち込んだりしてるけど。

奴さんってば硬ーい硬ーい皮膚を持っているらしく。

有効打っぽいものを叩き込めても、すぐに再生されるし。

あまり効果は出ていないようだった。

 

「くっそ!あの頑丈さ反則じゃねーかァ!?」

「斬っても斬っても再生される・・・・攻めあぐねるとはこのことか・・・・!」

 

一旦引いた二人と合流して、改めて相手を見る。

コモドドラゴンのお化けみたいなビジュアルで、中々強キャラじゃないか・・・・!

理屈はなんとなく分かる。

無限の再生能力を備えたネフシュタンの鎧はもちろんのこと、血肉であるノイズはソロモンの杖で補充し放題。

対してこっちは人間やめてる小娘と、SAKIMOlyshな小娘と、鉛玉ばらまく小娘の生身三人衆。

どうあがいても先にバテるのはわたし達だ。

んにゃーもう!こーいうときに限って役に立たないんだからわたしってば!!

 

――――ガアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

ってアカン!またブレスが!

そろって三方に飛びのく。

もはや役に立たないからか、放たれたブレスはカ=ディンギルをぶち抜いていた。

うっへぇ、例え痛くなくても当たりたくないなぁ。

 

「ッ立花ァ!!!」

 

その時、翼さんの切羽詰った声。

反応する前に、体に衝撃。

わけも分からないまま、また衝撃を感じて。

下へ下へ落ちて行く。

・・・・・あ、これカ=ディンギルの中?

そういえば避けたとき、周りが見えにくくなっていたんだっけ。

まだぼんやり光ってたカ=ディンギルの所為で、明るいとこに目が慣れちゃってたんだろう。

なんて考えた直後。

三度目の衝撃で、今度こそ意識を手放す。



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ヒロインはある種のブースター

予約投稿も便利(


響が、画面からいなくなった。

巨大な尻尾に対応出来なくて、叩きつけられて、建造物の中に消えた。

大丈夫だろうか、怪我はどれくらいだろうか。

・・・・・死んでは、いないだろうか。

 

「・・・・ッ」

 

不安が湧き出す。

僅かだったそれは、あっという間に胸を支配する。

――――どうしよう、どうしよう。

本当に死んじゃったら、どうしよう。

だって、あの子は。

何にも悪くないあの子は。

信じられる人達に出会えて、殺さなくてもいい人達に出会えて。

やっと、やっと。

何も心配せずに、ゆっくり休めるはずだったのに。

なのに、また。

戦いが、危険が、あの子を。

響を、痛めつけて、苦しめて。

なん、で。

何で、こんな。

どうしてみんな、響をいじめようとするのだろう。

だって、おかしい。

そうだ、おかしいじゃないか。

悲しいのも分かる、辛いのも分かる。

だけどそれを全部響の所為にするのは間違っている。

悲しみをぶつけようが無い当事者ならまだ我慢できるが、赤の他人となれば話は別。

そんな有害無害を判別できないくらいなら、黙って傍観される方がまだマシだった。

 

「・・・・・ひびき」

 

ああ、こんなこと考えている場合じゃない。

早く、早く、あの子の元へ。

 

「未来くん!?待て!どこに――――」

 

『痛い』と、『怖い』と。

声無く泣いているだろう。

愛しく優しい、あの子の元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ます。

どのくらい寝てたんだろう。

動こうとして、動けなかった。

はっきりした目で、体を見てみる。

・・・・・何だか、とっても。

大変なことになってるううぅ~・・・・。

破片やら瓦礫やらが突き刺さってて、お茶の間どころか深夜放送でも流せない惨状だべ。

もう例の如く痛くないのが幸いだけど、関節やら何やらを邪魔して動きにくい。

 

「・・・・んっ・・・・と・・・・・」

 

まず脇腹の欠片に触って、抜き取る。

ああー、流れる血がもったいなーい。

痛みは感じなくとも、疲労やら貧血やらのダメージはちゃんと負うんだからねー!

ちくしょーめ!

なんて考えててもしょうがないので、次々抜いていく。

体感からして、一分に満たないくらい。

もしかしたら三十秒かも。

まあ、そんなに手間もかからず、目ぼしい欠片は取り除けた。

立ち上がってみる。

血が抜けまくった所為で、さっきよりも体が重い。

そのうえ取りきれなかった細々したやつが、動くたびにごわごわ違和感主張して・・・・。

ちゃんと取れるんだろうなぁ、これ?

 

「・・・・・ふう」

 

ため息一つ。

切り換えて見回してみる。

傍に目立つものがあって、滑らせた視線はすぐに止まった。

台座に掲げられている、黄金の剣。

どう見てもデュランダルです、本当に(ry

なんてボケとる場合やないですネ、ハイ。

・・・・そっか、今おじさんが使っているのはネフシュタンとソロモンの杖だけなのか。

原作だとここにあるデュランダルも加わるわけだけど。

そう考えると意外とイージーモード・・・・ってわけでもないか。

今のは忘れよう、うん。

でもどっちにしろ完全聖遺物を複数相手取るのに変わりはないよね。

もちろんシンフォギア(欠片ごとき)なんて、出力からまず差があるわけだし。

どうあがいても高難易度だ。

・・・・だけど。

ここにあるデュランダルを使えば、どうだろうか。

『無限』の特性を持っているだけあって、フォニックゲインは使い放題。

わたしを含めた三人分の限定解除なんてわけないだろう。

一つ問題があるとすれば、わたし自身の暴走だろうか。

いや、『かもしれない』可能性に過ぎないけど。

原作での立花響(わたし)は、このデュランダルを握るたび破壊衝動に晒された。

立花響(あの子)以上に侵食している、心の弱い立花響(わたし)が触れたらどうなるか。

・・・・・あんまり想像したくない。

だけど四の五の言ってられないのも事実でして・・・・。

被害を少なく抑えられるであろう現時点で、戦えるのはわたし達だけ。

・・・・ここで、負けたら。

きっと多くの人が傷つくだろう、最悪死ぬかもしれない。

もちろんその中には、未来だっているわけで。

だから本当は。

『やめる』だとか、『逃げる』だとかの選択肢は論外なわけで。

でも、怖い。

怖いんだ。

わたしがわたしでなくなることが、大事なものとそうでないものの区別がつかなくなることが。

何より、結果がどうなるのかが。

怖くて、怖くて、たまらない。

 

(だけど・・・・!)

 

何にも悪くない人達が、優しい人達が傷つくことこそ、何より間違っていることで、許せなくて。

・・・・・ああ、大好きなんだ。

日向に連れ出してくれた『みんな』が、大好きなんだ。

その為に、わたしがわたしでなくなって、味方に討たれることになっても。

『みんな』を、明日へ。

つなげることが出来たなら・・・・!!

 

「・・・・ッ」

 

恐怖を押し込めて、無理やり心を固めて。

その黄金の柄へ、手を伸ばす。

 

「――――響!」

 

伸ばそうとして、引き止められた。

振り向く。

未来がいる。

よっぽど一生懸命だったのか、肩で息をして、あちこち汚したり擦り剥いたりして。

・・・・どうやって来たんだろうって突っ込みは、多分野暮。

何より重要なのは。

せっかくの決心が、未来の登場で揺らいでしまったこと。

 

「・・・・みく」

 

もちろんヘタれている場合じゃない。

気付かれないように息を整えて、まっすぐ見つめる。

 

「もし、わたしがわたしじゃなくなったら、どうする?」

「響?」

「即答はナシだ。あの時とは違う、加減なんて出来ないかもしれない。今度こそ君は、わたしに殺されるかもしれない」

 

本当は、こんな困らせること言いたくないけど。

何か言わないと、何か言ってもらえないと。

今度こそ、逃げ出してしまいそうで。

 

「未来、どうする?」

 

対する未来は、初めは困惑していて。

それから少し俯いて考え始める。

すると、何を思ったのか。

いつかみたいな笑顔を浮かべて、歩み寄ってきて。

同じように、抱きしめてくれた。

 

「――――信じるよ」

 

耳元、囁かれる。

 

「頑張る響を、信じるよ」

 

腕の力が強くなる。

自分が汚れるのなんて、お構いなしに。

優しい声が、断言してくれた。

・・・・・嬉しい。

屍を踏みつける外道を、流れる血を傍観するだけの人でなしを。

何の躊躇いも無く、信じてくれることが。

嬉しくて、たまらない。

だから。

 

「・・・・・そっか」

 

お返しに抱き返してから、これが最後になるかもしれないと考えて。

ふと、思い出す。

少し前、未来にされたこと。

・・・・人の想いを受け止める度胸も、器量もない。

この間の『アレ』だって、なあなあで済ませられたらなんて思うような、ちょっと酷い人間だ。

でも、これで最期になるのなら。

せめて、想いを伝えてくれた君へ。

 

「ひび――――?」

 

これ以上何か言われて揺らいだら溜まったもんじゃないので、先手を打つ。

言いかけた唇を、遠慮なく塞ぐ。

 

「未来」

 

ぽかんと呆けた、ちょっと面白い顔へ。

多分、人生で一番の笑顔を向けながら。

 

「今まで、ありがとう」

 

今度こそ。

デュランダルを掴み、抜き放つ。



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繋ぐ手と手、臆病なわたしのため

AXSはニコニコでぼちぼち見ています。
賢者の石・・・・材料は生きた人間味ですね分かります(ハガレン感


「あああ■■■ああ"あ■■"あ"あ"■■■アア"ア"ア"ア"―――――ッッッッッ!!!!!」

 

濁流が押し込まれる。

身構え何てあっという間に意味が無くなり、意識が持って行かれそうになる。

思考が犯される、心が蹂躙される。

真っ黒く暴力的な流れは、『わたし』という意識を休まず抉り取っていく。

ここまでだなんて正直予想外で、でもやめるわけにも行かなくて。

必死に繋ぎとめる頭の中で。

黒い、シミのような単語が浮かび上がる。

 

 

 

――――憎い。

 

 

 

はっとなったときには、遅かった。

・・・・憎い、憎い。

憎い!憎い!憎い!

何が憎いって、この世のありとあらゆるものが憎いッッ!!

何でわたしなんだ!?どうしてわたしなんだ!?

他でも良かったじゃないか、他にもいたじゃないかッ!!

死ねばよかった!?生きてちゃダメだ!?

神様でも仏様でもないお前らに、そんなこと言う資格ねーよ!!バァーカッ!!!

わたしのせいじゃない!わたしは悪くないッ!!

お前たちだ!お前たちの所為だ!!

わたしが屍を踏むのも、未来が迷惑被ったのも、家族がバラバラになってしまったのもォッ!!!

何もかも!お前たち(せかい)が悪いんだッ!!

あああああああああああああ!壊してやりたい潰してやりたい殺してやりたいッッッ!!

お前たチが、わたシに向けテキた、悪意ノ何もカモッ!!!!

何倍ニモ、何ジュウ倍ニモ、ナンビャク倍ニモシテェ・・・・!!!!!

ワタシタチガウケテキタイタミノ、ナニモカモヲ!!!

オモイシラセテヤルウウウウウウウウウウッッッッ!!!!!!

 

「ヴオオ■■■オオ■■■■■■■―――――ッッッッ!!!!!!」

 

ドウデモイイドウデモイイドウデモイイドウデモイイ!!!!

ナニモカモガドウデモイイ!!

メニウツルナニモカモガメザワリダッッッ!!

マンマエノドダイガメザワリダ、アノブヒンガメザワリダ、シュウイヲカコムコノクウカンガメザワリダ!!!

コワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワコロススコワスコワスコワスコロスコワスコワスコロスコロスコワスコワスコワスコワスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!

アアジャマダジャマダジャマダワタシニフレルナチカヨルナミルナハナレロォ!!!!

 

「――――響ッ!!」

「――――ッ、グアアッ!!」

 

――――その一声に、一瞬引き止められた。

マタ濁流にさらさレルけど、さっキヨりハ余裕だ。

改めて見レバ、未来が手を握ッテくれていタ。

さっきワタしニサれたミタイに、優しく撫でてクレテいる。

ダケド、いつまでモツか。

ちょっトデも気を抜けバ、すぐ仕留メてしまイソウで。

わりとヤバい。

早く、はやく、ハヤク。

コイツをせいギョかにオカナイト・・・・!

みく、ガ・・・・!

 

「あが、グウウウゥ・・・がる、る・・・・!」

 

ダメ、ダ。

ダメダ、ダメダ、ダメダ。

ダメダダメダダメダダメダダメダダメダダメダダメダダメダダメダダメダダメダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ

ミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミクミク―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――アア、コノテデ

 

――――コロシタイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――正念場だァッ!!踏ん張り所だろうがッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ」

 

瞬間。

未来ごとがっしり掴まれる。

何かと思えば、弦十郎さんが大きな手を未来の手に重ねていた。

 

「切り札はあんたなんだから!しっかり決めなさいよねッ!!」

 

弓美ちゃんが。

 

「強く自分を意識してください!」

「怖がらないで、自分を信じて!」

「俺達だってついてるから!」

 

緒川さんが、友里さんが、藤尭さんが。

その時、轟音。

瓦礫と砂埃が舞う。

現れたのは、さっきのトカゲ。

デュランダルをかぎつけてきたらしい。

でもその進撃は、銃声と剣戟に止められる。

トカゲがひるんだ隙に、二つの影が駆け寄ってくる。

 

「屈するな立花ッ!!お前の覚悟はその程度じゃないだろうッ!!」

「今回ばっかりは信じてやるッ!!だからお前も、自分を信じろォッ!!」

 

翼さんと、クリスちゃんが。

みんな、みんな。

わたしを、信じてくれている。

わたしに託してくれている。

――――ああ。

なんて尊いんだろう、なんてありがたいんだろう。

この手を握ってくれる人達が、この身を信じてくれる人達が。

こんなに、たくさん・・・・!!

 

(ダ、からァ・・・・!!)

 

こんなに、こんなに。

信じてもらっている、託してくれている。

お前は元より、守るために生まれたんだろう?

だったら、今力を発揮しなきゃ意味無いだろ・・・・!!

答えろ、答えろ、答えろ・・・・!

手を握ってくれる人達に、信じてくれる人達に。

――――明日を、繋げッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンフォギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッッッッッッ!!!!!!!!!!!」



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これにて決着

「――――ぶっはぁッ!!!」

 

ああああああ!!死ぬかと思った!!

なんか、もう。

これでゴールしてもいいんじゃないかなって思っちゃうけど、そうは行かない。

 

「これは・・・・!?」

「なんだこりゃあ!?」

 

両隣を見てみる。

真っ白なギアを纏った翼さんとクリスちゃんが、珍しくおろおろしながら自分の体を見ていた。

そんな二人を面白く思うわたしの格好も、同じく白。

・・・・デュランダルを利用した限定解除。

ひとまずの賭けには、勝てたみたいだ。

 

――――ギャアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

ほっとするのも束の間、咆哮が耳を衝く。

見下ろせば、まだまだ健在なトカゲさん。

いやぁ、元気なこって。

 

「まあまあ、お二人さん。驚くのはその辺にしといて――――」

 

ほっとく道理は無い。

かける情けも無い。

デュランダルを握り締め、一気に急降下して。

 

「――――まずこの爬虫類を躾けましょうよ」

 

その巨体を、思いっきり跳ね上げる。

上がりきったところに接近して、また打ち上げ。

 

「はあぁッ!!」

「おとなしくしてなァッ!!」

 

翼さんも意図を理解してくれたのか、途中から参加し始める。

クリスちゃんは反撃しようとするトカゲを狙撃して、その動きを封じ込めていた。

そんなこんなで成す術もないトカゲさんは、戦いにくい狭いカ=ディンギル内から。

お空が広がる、外へ。

 

「――――Be goneッッ!!」

 

仕上げに横薙ぎを叩き込めば、トカゲは元の地上をゴロゴロ転がっていった。

 

「力が漲ってしょうがねぇ、お前どんな手品使ったんだよ」

「タネもしかけもあるんだよ~」

「そこは『ございません』じゃないのか・・・・」

 

おどけている間にも、起き上がったトカゲが咆えてくる。

あーも、うるさい。

突進をデュランダルで受け止めて、弾き返す。

奴は傾けた体を上手く回転させて、尻尾を振り下ろしてきたけど。

立ち位置を入れ替わった翼さんにより、切り落とされた。

だーから叫ぶな!痛いのは分かったから!

うるさい!

喉元を殴り飛ばせば、カエルが潰れるような声がして途切れる。

 

「容赦ねぇな・・・・」

「やらなきゃやられる、分かるでしょ?」

「はは、違い無ぇッ!!」

 

クリスちゃんはにんまり笑うと、性懲りも無くビームぶっぱしようとした口へミサイルをぶち込んだ。

そっちも十分容赦ナシじゃないですかー、ヤダー。

んー、それにしてもやっぱアレだなぁ。

道具って担い手次第なんだなって。

アニメと比べて、どうよこのフルボッコ振り。

フィーネさんじゃない分若干ヌルゲーになっているのかな?

あ、翼さんが四肢斬り飛ばした。

なんかツチノコの亜種みたいになってる。

もうそろそろいいかな?

辛かろう?苦しかろう?

楽になりたかろう?

ははは、いい子だ。

語らずとも分かるよ、物欲しそうに手元のデュランダルを見てるもんねぇ?

うんうん、お互い十分暴れたし、っていうかちょっと飽きてきたし。

じゃあ、そういうことで。

再三接近する。

顎の下をよく狙って、デュランダルへ力を充填する。

――――突然だけど。

翼さんの『蒼ノ一閃』を見たとき、みんなは何を思い浮かべただろうか。

定番はやっぱり『約束された勝利の剣』だったり、某大人気RPG歴代技の『魔神剣』だったり。

ちょっとマニアックなのだと、『ソードビーム』とかあるかもしれない。

だけどわたしはやっぱり、一番多く想起されたであろう名前を咆える。

 

「――――月牙天衝ォッ!!!」

 

解き放たれる、黄金の光。

飛び立つ斬撃は獲物の首を撥ねるべく、風を切って駆け抜けて――――

 

(あれ?そういえば・・・・?)

 

デュランダルとネフシュタンって、対消滅してたっけ?

こう、『無限』と『無限』がぶつかり合って、矛盾的な意味で大変なことになって。

なんて呑気に思い出した直後。

相手のどまん前にいたわたしは、閃光に飲み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

とまあ、ほぼほぼワンサイドゲームでトカゲもといアメリカのおっちゃんはオダブツ!したのであります。

デュランダルは流石に消滅してしまったし、ネフシュタンも同じ。

ソロモンの杖は残機(ノイズ)供給以外は特に関係なかったはずだから、多分その辺に落ちてる。

限定解除はしたままだけど、これもほどなく終わるだろう。

周辺への被害も原作に比べて格段に少ないし、まずまずの結果じゃなかろうか。

どっちにしろカ=ディンギルという異端技術の塊はあるんで、周辺の封鎖は不可避だろうけど。

 

「お、日の出」

 

戦闘がそんなに長引かなかったお陰なのか、朝日が顔を出す瞬間を拝めた。

元旦のご来光ほどじゃないけど、なんか、こう。

ありがたみがあるね!

溜まった疲労と終わった高揚感に任せるがまま、何となく手を合わせておいた。

うん、何かご利益もらえた気がする。

 

「立花、少し浮ついているだろう?」

「ありゃ、ばれました?」

 

翼さんにたしなめられて、ぺろっと舌を出して誤魔化す。

 

「敵は倒したが、何が起こるか分からんのだ。緩みすぎるのは感心しないな」

「はい、すみません」

 

言うことはごもっともだし、実際調子乗ってるとこも自覚していたので。

素直に謝っておく。

 

「・・・・まあ、気持ちは分からんでもないが」

 

・・・・訂正。

翼さんもちょっとテンションあがってたみたい。

よくよく見てみると、ほっぺたがほんのり赤かった。

 

「――――お前たち!」

「司令?」

 

先輩の可愛い一面にほっこりしていると、弦十郎さんが駆け寄ってくるのが見える。

そのはるか後方で、ぐったり膝を突いている藤尭さんと、それを支える緒川さんの姿が。

もしかして、あの地下からここまで一気に駆け上がってきたんだろうか。

そりゃ疲れて当然だよ。

むしろふつーに動いている弦十郎さん達がおかしいんだよ。

 

「一仕事終えたところすまないが、厄介ごとはまだ続いている」

「忙しねぇな、今度はなんだ?」

 

合流するなり、抱えていたノートパソコンを見せてくれた。

三人一緒になって画面を覗き込む。

 

「先ほどはがれた月の欠片、現在落下中とのことだ」

「・・・・はぁッ!?」

 

クリスちゃんの素っ頓狂な声と一緒に、空を見上げると。

確かに分かるか分からないか、びみょーな速度で動いているっぽい欠片が見えた。

っていうか欠片って言ってるけど、あのサイズが落ちてきたらやばいって。

 

「あれほどのものを、通常の兵器で破壊しきることは難しい。出来るのは君たちだけだろう」

「はいはい!じゃあ飛べる今のうちに、さっくり壊してきますねー」

 

申し訳なさそうにする弦十郎さんを元気付けるために、わざと大きめの声で明るくお返事。

そんなに気に病まなくても、それがわたし達のお仕事なんですから。

だからそんなしょげた顔しないでくださいなー。

 

「だな。どちらにせよ放っておく理由は無い」

「最後の仕上げか、〆の一暴れにゃちょうどいい!」

 

翼さんとクリスちゃんもヤル気満々。

士気に問題なし、実にいいことだ。

 

「すまない、頼んだぞ」

 

弦十郎さんに向け、力強く頷いて。

地面を踏みしめ、空へ繰り出す。

これが終わったら・・・・そうだなぁ。

まずは未来に褒めてもらいたいな、なんて。

我ながらちょっと子供っぽいかもしれない。

でも飛びついてハグするくらいならしてもいいかな。

・・・・あの優しさに、ほんの一時だけ。

甘えさせて、もらえたら。




ひとまず書き溜めの第一波はここまでです。
間に合えばすぐに第二波を投稿できるかもしれません。


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今度こそ落着

いわゆる「もうちょっとだけ続くんじゃ」です。


また別に特別なことも無く。

月の欠片も完全に破壊。

ただ帰還時の大気圏突入やらなんやらで、わたし達の疲労は限界を超えてしまって。

地上に足をつけるなり、そろって夢の中に入り込んでしまったらしい。

で、寝こけたわたし達を医療班に任せた弦十郎さん達は、早速後始末に奔走することになった。

まず二課スタッフじゃない未来と弓美ちゃんは、相手さんに顔を見られているからと、わたし達と一緒に謹慎状態に。

安全が確保できるまでの間、一緒に過ごすことになった。

リディアンもといカ=ディンギル周辺の地域住民に対しては、テロリストが化学兵器を使い、その残り香が残っていると説明。

拡散する心配は無いと何度も強調した上で、人を立ち入らせるわけには行かないので封鎖すると伝えたらしい。

もちろんリディアンも移転だ。

周辺の商店街なんかは少し寂しくなってしまうだろうけど、ほとんどの人が生活を変えずに済んだ。

で、本命である米国のことだけど。

そもそもの原因は、あちらさんの一部隊『アラン・スミシー(おっちゃんの本名だって)と愉快な仲間達』が暴走したことらしい。

好き勝手してたフィーネさんへの報復まではお偉いさんが決めたことだけど、その後の『二課訪問』やらは完全に独断だったとか。

けれども、自国民が他国に手を上げたのは事実。

さらにシンフォギアという国家機密が関わっていることもあって、事態を重く受け止めていたらしい。

なのでやっこさん方、生まれたての小鹿みたいにガタブルしていたんだとか。

いや、これは流石に比喩表現なんだけど。

でも小耳に挟んだ話によると、今回の件で交渉に来た向こうの外交官が『ハラキリ・・・・?ウチクビ・・・・?』と、いっそ同情を覚えるくらいに縮み上がっていたとか、何とか・・・・。

そんな向こうさんの事情も汲み取って交渉した結果。

 

『俺達はフィーネっつーアマに振り回されてたんだ!うちの政府組織を襲ったのは、奴の息がかかったテロリスト!オーケィ!?』

『イエス!オーライ!そんな感じッ!白人多いのはたまたまSA!』

 

と言った具合にまとまり、他にも櫻井理論の解析やらで協力関係を築くことを約束させた。

まあ、アメちゃんに関しても、やらかしたのはあくまで政府を始めとしたお偉いさん達であって、一般人じゃないものね。

その人達への影響を出来るだけ抑えた結果ともなれば、これくらいが妥当なのは素人にも分かる。

さすがに月の欠片云々は誤魔化せないため、シンフォギアやらの存在は露見することになってしまったけど。

原作であった『日本が兵器を持つだなんて云々』の議論はちょっと抑え目になっており。

むしろ『月をどうこうしちゃうテロリストが相手だから、そんなもん持ち出してもしょうがないよね』という風潮が出来上がっているようだった。

何はともあれ。

『ルナアタック』と呼ばれるようになったこの事件も、今度こそ終息に向かいつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まあ。

ここ一月の出来事をざざざあああああっと振り返ると、だいたいこんな感じ。

原作より謹慎期間が長い以外は、概ね変わらないかな。

で、今現在何をしているかと言えば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えが一段落したところで、一度足を止める。

振り向けば、遠くに見える東京の街。

暗いところもぽつぽつあるけれど、だいたい半分くらいがネオンで輝いていて。

夜空を煌々と照らしていた。

対するわたしの周囲は、と見渡してみる。

都会の街並みとは対照的に、木々で囲まれた真っ暗な場所。

人工物と言えば、足元に敷かれた道路と、ぽつぽつ点在する最低限の街灯といったところか。

目を閉じると、聞こえる風の音。

木の葉と幹が揺れて、何とも心地いいBGMを奏でていた。

・・・・なーんてかっこつけてみたわけですけど。

ここで隣を見る、後ろも見る。

誰もいない。

夜遅く、一人でぽつんと。

東京の郊外の道に、わたしは立っていた。

・・・・うん、『マジかよこいつ』って思うのは当然だと思う。

でもまずは聞いて欲しい。

 

「・・・・」

 

満天の星空を見上げて、右目を手で覆う。

それだけで視界が真っ暗になった。

右目を覆ったまま瞬きをしても、目の前は相変わらず暗いまま。

左目は完全に失明して、もはや役に立たない状態。

残った右目も、油断すると焦点が合わずにぼんやりすることがある。

変化が起こったのは視界だけじゃない。

どうも、わたしの体から。

温もりが消えてしまったらしいのだ。

そういった寒暖が分からなくなった今は、自分では気付くことができなかったけど。

眠っている間手を握ってくれていた未来によれば、まるで死んだように冷たかったとのことだった。

――――理由はいうまでもなく、ガングニールだ。

限定解除を行ったからなのか、『カンッ!』って勢いで侵食率が上がってしまったようで。

月の欠片を壊して気を失った後、目覚めたときにはこうなっていた。

検査に寄れば、体の大部分が侵されきっているらしく。

年が明ける頃には、聴覚や触覚・・・・声すらも失くすだろうと診断された。

・・・・ショックと言えば、ショック。

けどこれくらいなら、今までやってきたことへの罰なんだって思えば、多少は飲み込める。

じゃあ、何でこんなところにいるのかと言えば。

単純な話。

信頼できる仲間や頼もしい大人達を目の当たりにしたことで、わたし一人いなくても大丈夫だろうと思ったからである。

何より、こんな爆弾を抱えた状態で、確実に世話をかける状態で一緒にいるなんて。

今は大丈夫でも、いつか罪悪感でどうにかなってしまいそうだったから。

だからこうして、独りで道を歩いている。

 

「・・・・さよなら」

 

ぽつっと呟いて、また歩き出す。

周囲は相変わらず暗いまま、むしろ闇が濃くなったように錯覚する。

服は今までとがらっと変えたし、街中の監視カメラはむしろ逆手にとってフェイクを仕掛けておいた。

きっと二課の人達は、わたしが北陸方面に向かったと思っていることだろう。

もちろん早めに気付くだろうから、急がなきゃいけないのに変わりはないんだけど。

 

「・・・・――――」

 

ふと、脳内にメロディーが流れて。

何となく歌を口ずさむ。

この曲は確か、そうだ。

猫の男爵さんが初登場した、アニメ映画の主題歌だ。

みんながいる場所に背中を向けて歩いている今のシチュエーションは、まさにぴったりだった。

・・・・何とも思わないわけが無い、寂しくないわけがない。

だけど、わたしの所為でみんなが辛い思いをするのは、何よりも嫌だから。

笑顔を奪ってしまうくらいなら、独りで朽ち果てた方が何倍もマシだ。

あ、やばい。

みんなのこと考えたら、色々思い出してきた。

翼さんのこととか、クリスちゃんのこととか、未来のこととか。

褒められたり、じゃれあったり、抱き合ったりした思い出が。

次々脳裏に浮かんでは消えていく。

あかんあかん、また揺らぎそうになってる。

ちっくしょう。

クリスちゃんと抱き合って『ギャーッ!出たーッ!!』なんて悲鳴を上げたのが昨日の事みたいだよぉ・・・・。

今日起こったことなのにさぁ・・・・。

心なしか、歌のとおり歩調が速くなってきている。

多分、思い出を振り払うため。

『帰れない』を、言い聞かせるように強く歌う。

迷うな、揺らぐな、振り払え。

わたしは、もう。

人間じゃない・・・・!!

 

「――――ッ?」

 

と、後ろから光。

一瞬びっくりしたけど、ただの車だと分かってほっとする。

だけどそのまま通り過ぎると思った車は、少し進んだ先で急ブレーキ。

わたしの進路を塞ぐように、路肩にはみ出して停止した。

何事かと立ち止まってしまった目の前で、ドアが勢いよく開いて。

 

「ゎ、た・・・・!?」

 

飛び出してきたその人を、避けたり拒んだり出来なかった。

倒れそうになるのを何とか堪えて、見下ろす。

未来は顔を埋めたまま、しばらく小刻みに震えていた。

・・・・そうだよね。

今までずっと一緒にいたから、癖やらなんやらはお見通しだもんね。

 

「――――ない」

 

引き剥がすのを諦めて、しばらく未来の好きにさせていると。

何か呟いたのが聞こえる。

 

「かんけい、ない・・・・!」

 

ぎゅう、と。

生地が伸びるくらいに、わたしの服を握り締めて。

 

「関係ない!痛みを感じないのも!あったかくないのも!何も関係ない!!!」

「・・・・君や、みんなはそうでも。周りはそうじゃないよ」

「そんなの知らないッ!!勝手に思っていればいいッ!!」

 

言い聞かせてみるけど、効果は薄いらしい。

向けられた目元には、案の定涙が溢れていた。

 

「だいたい響はどう思っているの!?どこの誰ともつかないような赤の他人ばっかり優先させて!!あなたの願いはどうなるのッ!?」

 

ぼろぼろ零れる雫は、未来が吐き出す言葉のよう。

 

「いつも、いっつもそうじゃない!本音を飲み込んで、痛いのも怖いのも我慢して!独りで抱えてばっかりで、ぜんぜん頼ってくれないじゃないッ!!」

「・・・・ッ」

 

サーセン、耳が痛いっす。

 

「ねぇ、もういいでしょ?もう十分でしょ!?一回くらい頼ってよ!何をしたいかちゃんと言ってよぉ!!」

 

ここで言葉を区切った未来は、震えながら呼吸をして。

また、顔を埋めてきた。

 

「おねがい、だから・・・・しんじてよ・・・・こわがらないでよ・・・・わたしは、ちゃんと、みかただからぁ・・・・!」

 

言いたいことは、粗方言い終えたんだろう。

未来はそのまま泣き出してしまった。

――――本気で。

本心から、よかれと思っていたんだ。

仲良しな誰かが傷つくのが嫌で、泣いてほしくもなくて。

だから、ずっと、距離を取ることを選んできたのに。

そうやって、独りよがりの選択を続けてきたから、こうなっている。

一番笑って欲しい人を傷つけて、泣かせて。

わたしの選択が、考えが、根本からひっくり返された気分だった。

そんなんなっても残っているのは、『優しくしなきゃ』という浅はかさだけ。

染み付いた癖で、未来を抱き返す。

 

「―――――一個だけ」

 

耳元で囁く。

未来が反応したのが分かる。

 

「一個だけ、すっごいこと言っていい?」

「・・・・ぐ、っす・・・・んっ、なぁに?」

 

悲しくて仕方が無いだろうに、甘やかすように返してくれる。

 

「――――死ぬまで、未来の傍にいたい」

「・・・・うん」

 

我が侭を、否定することなく。

未来は静かに頷いてくれる。

 

「やらかしてきたことはちゃんと償う、必要なら泥だってなんだってかぶって、いくらでも汚れる」

「・・・・うん」

「だからせめて、死に場所だけは、自由にさせてほしい・・・・・あったかくて優しい、君の傍で、眠らせてほしい」

 

――――これは、罰だ。

独りよがりに陶酔して、周りの人達の気遣いを無下にし続けて。

その結果、一途で優しいこの子をぶっ壊したわたしが。

地獄に落ちるその瞬間まで、息の続く限り背負っていく。

とてつもなく大きくて重たい、断罪の十字架。

 

「他は何もいらない、何も欲しがらないから・・・・この一個だけは、どうか」

 

断られたって、それもしょうがない。

こんなに重たいもの、背負わされるだけで迷惑なんだから。

未来にはその権利が十分にある。

いい機会だからと、こんな重罪人との縁をすっぱり切ったっていい。

それはそれで、味方がいないという罰になりえるから。

だから、断ったっていいはずなのに。

 

「――――いいよ」

 

未来は嗤いもせず、拒絶もせず。

ただただ静かに、肯定してくれた。

重たい十字架ごと受け入れるように、優しく抱きしめてくれた。

 

「・・・・いいの?」

「いいの。滅多にない我が侭なんだから、特別」

 

・・・・・胸の奥が、暖かい。

きっと、未来が暖めてくれているんだ。

ああ。

とてもほっとして、温かくて、安心できて。

――――守らなきゃ。

人をこんなに癒せる、健気なこの子を。

わたしの全てを賭けてでも、守らなきゃダメだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・」

 

危なっかしいことだと、独りため息をつく。

未来が乗ってきた車を運転していた弦十郎は、縋るように抱き合う少女達を見守っていた。

実に危うく、当たり所が悪ければあっという間に崩壊してしまいそうな彼女達。

当然見捨てるなんて以ての外だし、これからも助力は惜しまないつもりだった。

 

「――――一応確認なのだけど」

 

と、ここで。

一緒にやってきた()()が、じろりと弦十郎を流し見た。

そう。

シンフォギアを製造し、フィーネの魂を宿した今回の下手人。

『櫻井了子』その人である。

彼女の技術の有用性と、弦十郎が持ちえる生来の甘さから、風鳴を始めとした様々なコネを駆使して。

虫の息から一命を取り留めさせたのだった。

先に行われた米国との取引には、彼女の身柄についても含まれており。

『フィーネによって傀儡となっていた被害者』として、書類に記録されることになっている。

 

「ここから巻き返すのは、本当に骨よ?さすがの私にも手に負えない部分が多すぎるわ」

「諦めるのか?」

「まさか」

 

少し意地の悪い返しをすれば、了子は肩をすくめた。

 

「正義の味方なんて柄じゃないけど、拾われた以上義務は果たすわ。安心なさい」

「ああ、こちらもサポートは惜しまん!よろしく頼むよ!」

「はいはい」

 

ある意味厄介な上司だと思いながら、了子は改めて少女達を見る。

一方は相手の涙を拭いながら、もう一方はその手を愛しそうに握り締めながら。

先ほどまでとは打って変わった、穏やかな表情をしている。

――――正義の味方は柄じゃない。

柄じゃないが、悪くはなさそうだ。

密かに息を吐き出した彼女は、しょうがないなと微笑んだ。




死んだなんて、一言も言うてへんで?>了子さん

これにて一期分はおしまい。
このあとは閑話を更新していこうかと思います。


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閑話:ポーカー

仮の小話として投稿していたものを、正式な閑話としてあげることにしました。
内容は変わりませんが、それはそれで何かと思いましたので。
最後に拙作ひびみくの設定のようなものを乗せております。


フィーネの策略から始まった一連の事件。

受けたダメージは大きいものの、二課のメンバーは一丸となってこの危機を乗り越えることが出来た。

情報操作や、それによるシンフォギア装者の一時的な軟禁と言った目下の困りごとや。

シンフォギアの露見による各国からの追求と言った外交の諸問題があるものの。

彼らは今、束の間の平和を謳歌している。

 

「ん?」

 

さて。

軟禁状態と言っても、今二課が滞在している敷地内なら自由に歩きまわれる。

弦十郎を始めとした日本政府のお偉いさん方が、そう手配してくれたらしい。

なので、遠慮なく廊下を歩いていた響と未来だったが。

途中、何やら賑やかな一角を発見した。

 

「レイズ!三枚!」

「ふむ、ここは手堅く降りておこう」

「あたしはレイズ二枚で、勝負!」

「わたしも二枚賭けるわ」

 

見てみると、弓美、友里、翼にクリスの四人がテーブルを囲み。

何やらトランプを手にして盛り上がっている。

 

「何してるんです?これ」

「ポーカーだよ」

「ポーカー?」

「何でまた・・・・」

 

少し離れた場所で盛り上がる面々を見物していた藤尭に聞いてみれば、そんな返事が返ってきた。

装者が軟禁状態にあるとしても、オペレーターを始めとしたスタッフはその限りではない。

シフトが組まれているものの、外出を許されているメンバーがいるのだ。

そんな彼らは響や未来といった未成年を気遣い、お菓子やらの手土産を持って来てくれるのだが。

今日はどういうわけだか、戻っていたメンバー全員がクッキーを持ち帰ってきたとのこと。

人数もいるため、別に消費に困るわけではない。

だが、ここにいるのは暇をもてあましたうら若き少女達。

大量のクッキーを見た弓美が、これをチップに見立ててポーカーをしようと提案したとのことだった。

 

「じゃあ、ショウダウンだ」

 

自信満々にクリスが合図。

それぞれが手札を出す。

 

「スリーカード!友里さんは?」

「やられたわね、ツーペア」

「ふっふーん、もらったぜ。フルハウスだ!」

「うっそぉー!?」

 

勝負に出た三人は、相手の役を見て笑ったり唸ったり。

 

「ちなみに翼さんは?」

「ワンペアです、板場が何やら自信満々でしたので」

「ぐぬぬ・・・・」

 

つまり、被害を抑えるためにあえて退いたという事だろう。

ついでに顔に出過ぎると言外に指摘され、弓美は苦い顔をした。

 

「んむあああ!何でみんな強いのさー!?」

 

興味を持った響と未来がテーブルを覗き込んでみれば。

一番クッキーを確保しているのがクリス、続けて翼、友里と続き。

弓美は大負けしていた。

 

「戦況を読む訓練って、誰かさんに散々仕込まれてなァ?」

「経験はあまりないが、防人たるもの常に平静でいなければ」

「みんなを的確に誘導するのがオペレーターの務めなので」

「しまったガチ勢ばっかりだッ!!」

 

前線で、あるいは後方で。

敵を討ち、味方を導く仕事をしているのだ。

判断一つが命に関わる状況を多く経験している人々に、一介の学生が敵うわけもなかった。

と、

 

「・・・・弓美ちゃん、代わっていい?」

「未来?」

 

惨敗している弓美を見かねたのか、肩に手を置いて笑いかける未来。

 

「わたしもやりたくなっちゃった、ダメかな?」

「・・・・ぃよっし!そーゆーことなら!」

 

やる気満々と言いたげに手を握った未来を見て、弓美は力強く頷く。

 

「選手交代ってか、上等!」

「ふふ、加減はせんぞ小日向」

 

手札を引き継ぎながら席に座る未来へ、翼とクリスが自信ありげに話しかける。

 

「お手柔らかに」

「・・・・」

 

対する未来は、弓美にディーラーを頼みながら微笑んで。

その様子を、響が『やっちまった』と言わんばかりに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(未来無双、はっじまーるよー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――先ほどとは打って変わって、どこか緊張した空気が流れている。

翼は顎に手をあて思案顔、クリスは手札とにらめっこし、友里は難しい顔で黙りこくっている。

余裕を持って微笑んでいるのは、未来だけだ。

弓美から引き継いだ小皿には、山のようなクッキー。

交代前とはえらく違う。

 

「・・・・勝負だ、最大賭けるぜ」

「最後だ、潔く行かせてもらう」

「降りるわ、ここに来て運が無い・・・・」

 

翼とクリスが最大数の十枚を賭け、友里は手札を置いて『お手上げ』と降参する。

晒された手札は役の無いブタだった。

 

「じゃあ、わたしも最大賭けますね」

 

一方の未来は笑みを崩さないまま、同じく十枚を中央の皿へ。

その様子を翼は注意深く、クリスはどこか恨めしげに見ていた。

 

「じゃ、ショウダウン!」

 

弓美の合図で、それぞれが手札を明かす。

 

「フルハウスだ、雪音は?」

「くらえ、フォーカードだッ!」

 

翼は、2のワンペアに7のスリーカードのフルハウス。

対するクリスは9が四つのフォーカード。

ではお前は?と注視される中、未来はにっこり笑う。

 

「ごめんなさい、ロイヤルストレートフラッシュ」

「んなぁッ!?」

「むぅ・・・・」

 

明かされたのは、スペードの10、J、Q、K、Aが揃った脅威の役。

クリスは素っ頓狂な悲鳴を上げ、翼は目を見開いた。

 

「すっごいすっごい!未来ってば大逆転じゃない!!」

「本当、意外な特技ね」

 

弓美は文字通り飛び跳ねながら勝利を祝い、友里は感心した様子で頷いている。

 

「いやはや、完敗だ」

「くっそう、そりゃねーぜ・・・・」

 

翼は清々しそうに負けを認め、クリスも悔しそうにしながら大人しく賭けたクッキーを未来に渡していた。

 

「でもどうせ食べきれないから、みんなで食べようよ」

「そうね。大分開けちゃったし、食べなきゃもったいないわ」

 

小皿の中身を中央の皿に戻しながら、未来が笑いかければ。

タイミングに差はあれど、翼もクリスも頷いた。

 

「あ、弓美ちゃんカード直すよ。みんなもちょうだい」

「はーい。ほら、翼さんとクリスちゃんも」

「じゃ、あたしはお茶でも持ってくる!」

 

弓美や翼達からカードを受け取りながら、未来は何気なくシャッフルしていた。

 

「本当に凄いな未来ちゃん」

「まあ、未来も守られてばっかりじゃないってことですよ」

 

一方。

離れたところで勝負を観戦していた藤尭と響。

感心した様子の彼に、響はこともなげに頷いていた。

 

「わたしが怪我で動けなかったときからかな?ちょくちょくカジノやらで荒稼ぎしてましたし」

「逞しすぎる・・・・」

 

芯が強いもののか弱いと思っていた未来の思わぬ一面に、藤尭は苦笑いした。

・・・・ところで。

離れた位置から見ていたからこそ、分かることもある。

それは、この二人も例外ではなく。

 

「・・・・ところで未来ちゃんって」

 

何かを言いかけた藤尭を、響は首を横に振って制止。

 

「気付かないみんなが悪いです」

「・・・・そっか」

 

きっぱり言い放ちながら、未来の手元で増えていくカードを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立花響

・良心は残っているものの、基本的にはジェノサイド思考。

モットーは『殴られたら殴り返す、その逆もまた然り』。

・未来大好き。

大好きすぎて行動基準になるくらい。

未来を取られたらメンタルが壊れる。

・五感を始めとした身体機能に異常が見られる。

現在確認されているだけでも『味覚』『痛覚』『寒暖』『視覚(左目)』の喪失と、『異常な低体温』が報告されている。

・上記の理由により、学校には行っていない。

非常勤の公務員であると同時に、未成年就労者でもある。

 

 

小日向未来

・原作以上に響にべったり。

心身ともに傷ついた響を癒せるほどの包容力を持つ。

・響大好き。

下手したら原作以上に愛が重たい。

響を失えばメンタルが壊れる。

・響の大怪我を切っ掛けに、自身の生き抜く技としてイカサマを覚える。

時には客として、時にはディーラーとして。

札を自在にコントロールして路銀を稼いでいた。




閑話は時系列順に更新していきます。


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閑話:小ネタ1

しないフォギアのノリでお楽しみください。


『一方その頃』

 

「――――動機はこんなところかしら」

 

二課の息がかかった医療施設の一つ、存在を秘匿された個室。

匿われていた了子は、見舞いに来た弦十郎へ。

永い物語を語ったところだった。

 

「ね?悪役らしい身勝手さでしょう」

「・・・・ああ、確かに身勝手だ」

 

一息置いた彼女は、口元を吊り上げて自嘲する。

対する弦十郎は、数瞬黙ってから口を開いた。

 

「だが、全部悪いとは思わないな」

 

しかし次の瞬間には、そんなことをのたまった。

がしがし頭をかきながら、一度目を伏せる。

 

「始めは私情だったろうが、それでも言語が破壊されたとき、君なりに人が繋がれる方法を模索したんだろう?そこは素直に賞賛すべきだと思う」

「・・・・・けど、人間達が争う原因になったわ」

 

糾弾されなかったことに動揺して、了子は目を逸らす。

実際、人間たちは与えた技術で殺すことを覚えた。

そこから無辜の人々が恩恵を受ける発明も生み出したものの、やはり了子にとっては苦い出来事として記憶されているらしい。

 

「技術も道具も、使う人次第だ」

 

そんな彼女へ、弦十郎はっはっきり断言する。

――――包丁がいい例だろう。

料理はもちろんのこと、『うさぎりんご』をはじめとした飾り切りも出来るが。

ひとたび刃を人間に向ければ、命を奪う凶器へ変貌する。

しかし殺しに使われたからと言って、製造者の罪まで問われるものなのか。

弦十郎はその事柄に対して、はっきり『否』を叩きつけたのだった。

 

「あなた、甘いってよく言われないかしら?」

「ああ!性分だからな!」

 

了子はせめてもの抵抗にねめつけるものの。

当の弦十郎はいつも通り快活に笑うだけで、特に気にした様子も無い。

しかしそんな気の抜けた表情も、すぐなりを潜める。

 

「とはいえ、イチイバルやネフシュタンの強奪を始めとした暗躍は、無視できないものが多い」

「・・・・なるほど、裁きは下すということね」

「ああ、そこでだ」

 

ここで彼は、あるファイルを了子に渡した。

首を傾げながら受け取った彼女は、早速中身に目を通す。

内容は、ここしばらく行われていた米国との交渉結果だったが。

次々読み進めていた了子は、怪訝な顔からどんどん目を見開き。

最終的には驚愕を全面に現す。

それから呆然と弦十郎を見て、恐る恐る口を開く。

 

「・・・・正気?」

「本気だぞ?」

 

にべもなく返ってきた返事に、今度は頭を抱えたくなった。

だがどれだけ唸ろうが、手元の結果は変えられない。

 

「優秀な頭脳を手放す理由はないし、こちらは君の弱みを握っている。有効活用するほかないだろう?」

「・・・・はは、確かにそうね」

 

了子は乾いた笑みを零す。

敵わないと思いながら。

この上司の下で動けることに、喜びながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

『打ち上げ』

 

米国との交渉も一通り纏まり、『ルナアタック』に関する火消しもほぼ終了。

実に一ヶ月と言う時間がかかったものの、二課はやっと一息つける状況になれた。

 

「では、改めて紹介する!」

 

そんな中行われた打ち上げ。

前方に立つ弦十郎の隣に、照れくさそうな響と、恥ずかしげなクリスが並んでいた。

 

「ガングニールの装者、立花響くんと、イチイバルの装者、雪音クリスくんだ!」

「どーもー」

「よ、よろしく・・・・」

 

手馴れた様子で笑う響と、俯いたまま小さく一礼するクリス。

それぞれの反応に、大人達の温かい視線と拍手が送られる。

 

「特に響くんは、うちの正式な職員として迎えることになった。先輩になる連中は、しっかり面倒を見てやってくれ!」

 

――――本来なら学校に通っている響だったが。

ここではガングニールの侵食が進んでおり、発症した障害の数が夥しいことも相俟って。

通学はせずに、二課で職務につくという選択肢を取っていた。

 

「あったり前田のよしこさーん!」

「響ちゃんよろしくー!」

 

弦十郎の言葉に、ノリのいい若手達は威勢よく返事。

彼らの熱意に大いに満足しながら、次へ。

 

「それからもう一つ!入ってくれ!」

 

会場の入り口に向け、一声かければ。

ドアが開けられ、一人の人物が歩いてくる。

誰もが知っていて、だからこそ驚愕した彼らはざわつく。

 

「「・・・・ぎ」」

 

特に、雇われたり飼われていたりした響とクリスは。

わなわな震えながら、口をぱくぱくさせ。

 

「「ギャーッ!出たーッ!!」」

「・・・・言い返せないわね、言い返したいけど」

 

死んだとばかり思っていた彼女を見て、ひしと抱き合った。

 

「うちの技術主任『櫻井了子』くんが、本日付を以って勤務に復帰することになった」

 

白衣を揺らした了子は、視線をものともせず堂々と立っていた。

 

「――――まずは、今まで迷惑をかけてごめんなさい」

 

前に出て、まずは一礼。

 

「恥知らずにも、恩情でどうにか戻ってこれました。この恩に報いるため、精一杯努めて行きたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします」

 

懐疑、警戒、困惑。

様々な感情を真正面から受け止めながら、最後にまた深々と一礼した。

 

「・・・・・思うところもあるやもしれない、だが、これまで培った時間が全て嘘のはずがない!そうだろう!?」

 

頼れる司令官の問いかけに、一人、また一人と。

同僚や先輩と見合いながら、控え目に頷きあう。

と、ここで音。

拍手だ。

皆が目をやると、翼が薄く笑いながら手を叩いている。

その姿を見た職員達も倣って、拍手。

始めこそまばらだった音は、会場中に満ちる。

 

「・・・・ありがとう」

 

喝采溢れる光景を目の当たりにした弦十郎が、了子を見やれば。

いつか自分にも見せた、『敵わない』と言いたげな笑みを浮かべているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『家に帰ったら』

 

旧リディアン周辺の閉鎖。

本来の物語より影響が少ないとはいえ、転居を余儀なくされた人々がいるのもまた事実。

立ち入り禁止区画に定められた円の中には、未来が住んでいたアパートも含まれてしまっていた。

これを受け、未来と、一緒に住むことになった響の住居は移転が決定。

弦十郎が後見人となり、リディアンの新校舎に近いマンションを借りることになった。

 

「おおぅ・・・・」

 

さて。

そんな新居へ、少ない荷物を持って到着した響。

思ったよりも広い部屋と小奇麗な内装に、思わず感嘆の声を上げる。

 

「なんか、ちょっと申し訳ない気分・・・・」

「あはは、分かる分かる」

 

同じく新居に圧倒されていた未来が、どこか不安げにこぼした呟きを。

響は苦笑いで肯定した。

 

「じゃあ、荷解きとか部屋割りとか、ぱぱっと終わらせちゃおう」

「そうだね・・・あ、その前に」

「んん?」

 

提案にこっくり頷いた未来だったが、ふと、何かを思いついたらしい。

どこか得意げな顔で響の前に回りこむと、両手を広げた。

 

「響、おかえりなさい!」

 

何事かと首をかしげる響へ、満面の笑みを向ける未来。

一方の響は少し驚いた顔をしていたが、一瞬泣きそうな顔になってから、穏やかに笑い返す。

 

「・・・・ん、ただいま」

 

抱きしめる。

相変わらず温もりは感じられなかったが。

愛しさが溢れているのは、紛れもない事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『料理』

 

ある日のこと。

未来は難しい顔でテーブルに座っていた。

恨めしく見つめる先には、真っ黒にこげた食材だったもの。

『響のためになるなら』と、苦手な料理に挑戦してみたものの。

結果は惨敗。

小火などのトラブルが起きなかっただけマシだが、それでも悔しいものは悔しい。

 

「・・・はぁ」

 

だが、いつまでもこうしているわけにはいかないと、ため息と共に立ち上がる。

今日も近くのスーパーで、弁当でも買おうと。

まずはこの『おこげ』を処分するべく、皿を手に取ったときだった。

 

「たっだいまー、何か臭うねー?」

「お、おかえりー!」

 

出先から帰ってきた響が、鼻をひくつかせながら入ってきた。

未来が隠す暇もなくリビングにたどり着いた彼女は、テーブルの上の皿を目ざとく見つける。

 

「――――何作ろうとしてたの?」

 

真っ黒な物体を見て、何をしたのか察したのだろう。

どこかあったかい目になった響が問いかける。

 

「・・・・に、にくじゃが・・・」

「ふぅん?」

 

一方の未来は、穴があったら入りたい気分で、俯きながら答えた。

響は特に責めるわけでもなく、ひょっこり皿を覗き込むと。

 

「ひ、響!?ダメ、焦げてるから!」

 

徐におこげを一つ摘み上げて、止める間もなく口の中へ。

あわあわする未来の前で、咀嚼してから飲み込んだ。

 

「うん、香ばしいね」

「そりゃそうでしょ・・・・って、また!?」

 

焦げているのだから、当たり前っちゃ当たり前の感想なのだが。

呆れる未来の前で、響はまた一つ摘んでいた。

 

「ダメダメ!!体に悪いし、おいしくないし!」

「人より頑丈だし、味も関係ないから大丈夫」

 

未来の心配も何のその。

あっという間におこげを平らげた響は、少しはしたなく指先を舐める。

 

「多少不味くたって平気だから、未来が納得できるまで付き合うよ」

「あう・・・・」

 

向けられた微笑みに、何も言えなくなってしまって。

未来は顔を真っ赤にして俯かせた。

 

 

なお、当然足りなかったので買い物には行ったそうな。



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閑話:小日向さん家の事情

皆さんが気になっていてほしい、小日向さんちの事情です。


「――――響ちゃん」

 

ある日のこと。

いつもより早めに帰ってこれた響を待っていたのは、忘れもしない女性だった。

 

「・・・・おば、さん」

 

未来の母親は、懐かしそうな、それでいてどこか泣き出しそうな顔で頷いた。

ひとまず立たせたままというわけにも行かず、部屋に招き入れる。

テーブルにつかせ、茶を出したまではいいものの。

いざ対面すると、何を話せばいいか分からなくなってしまった。

 

「・・・・未来は?」

「あ、えっと、まだ学校かと・・・・」

 

それでも何か話題をと考えていたところ、小日向夫人に先手を打たれた。

緊張を残しながら、響はたどたどしく答える。

 

「響ちゃんも一緒の高校?」

「ぃ、いえ、わたしはそもそも行ってなくて・・・・ぁ」

 

正直に答えてしまってから、やっちまったと我に返る。

前を見れば、眉をひそめた、どこか心配げな小日向夫人。

 

「あ、でも何にもやってないとかそうじゃなくて!仕事!仕事やってます!ああ、でもでも、後ろ暗いことじゃなくて、真っ当なやつっていうか!人助け・・・・そう!ざっくり言うと人助けやってて、それで・・・・ぁ、あはははは・・・・はは・・・・」

 

まくし立てるように言い分を連ねてみたものの、自分でも何を言っているのか分からなくなり。

最終的に愛想笑いで誤魔化すしか出来なかった。

このときばかりは、不器用な自分を恨めしく思う響。

話題が無くなり、妙な沈黙が降りる。

――――本当は分かっている。

怖がるよりも前に、つくろうよりも前に。

言うべき事があるのを分かっている。

 

「――――ぁ、あの!」

 

だから響は背筋を正して、目の前の彼女に向き合って。

 

「未来、さんのこと、すみませんでした!わたしの我が侭につき合わせて、あっちこっち連れ回して!本当にごめんなさいッ!!」

 

罵声も拳も浴びる覚悟で立ち上がり、頭を下げる。

響にとって、自身の行いは誘拐同然だった。

もちろんそんな気はなかったけれど、目の前の母親から子供を奪ったのは揺ぎ無い事実。

だからせめてもの誠意として、出来る限りのしっかりした謝罪を行った。

胸中に渦巻くのは不安。

ちゃんと伝えられているか、何か無作法をしていないか。

知らないうちに目を瞑り、じっと待とうとして。

 

「・・・・いいのよ」

 

あまり間を置かず、夫人は首を横に振った。

 

「いいのよ・・・・私達にも悪いところはあったんだから」

 

『だから、いいの』。

変わらない真っ直ぐさを持っている、娘の友人へ。

そういいながら、肩に手を置いて。

 

「――――ぇ」

「・・・・ッ!」

 

今度は、そのぞっとするほどの冷たさに目を見開く。

触れられたことに気付いた響は咄嗟に身を引いたが、時既に遅し。

明らかに人間の温度ではないものに触れた手を呆然と見つめ、夫人はどういうことか問いかけようとして。

 

「――――何しているの?」

 

かかる第三者の声。

振り向けば、今帰ってきたらしい未来が突っ立っている。

自身を庇う響と、その前に立つ実の母親。

どういう状況なのか、容易に想像してしまった未来は。

次の瞬間、室内にもかかわらず駆け出し、響と母親の間に割って入った。

 

「響に、何をしたの?」

「み、みく・・・・」

 

必死に響を庇うその顔は、実母に向けていいものではない敵意に満ちていて。

それを目の当たりにした小日向夫人は、少し前を想起する。

あれは春先。

『未来が見つかった』と、とある政府組織から連絡があった時。

夫婦そろって駆けつけてみれば、二年ぶりに会った娘はこうやって敵意をぶつけてきた。

 

『響が戻ってくるまで、待ち続ける』

『あの時味方してくれなかったあなた達を、許したくない』

 

そんな三行半紛いの文言を叩きつけられ、それっきりだったのだ。

 

「未来、大丈夫だよ。おばさんは何もしてないから」

「でも・・・・!」

「未来を連れてっちゃったのは事実だし、わたしにも非がある」

 

どこか興奮気味の未来を、何度も首を横に振りながら宥める響。

 

「家族だから心配して当たり前。急にいなくなったりしたら、なおさらだよ」

 

少し強く、それでいて穏やかに言い切れば。

未来はようやく押し黙った。

 

「・・・・だったら」

 

だが、それも長くは続かない。

 

「だったら、わたしのじゃなくて、響のお母さんが来るべきじゃない・・・・!」

「・・・・連絡してないから、しょうがない。それに、今会ったって、どうしようもない」

 

肩を震わせた未来は、どこか泣き出しそうに呟いて。

響はまた、静かに首を横に振っていた。

 

「・・・・それって、冷たいのと関係があるの?」

 

夫人が問いかけたとき、また敵意。

唇を噛み締めた未来が、鋭い目を向けている。

 

「――――未来、ダメだよ」

 

そしてまた、響に宥められた。

 

「わたしはもう、この結果を飲んでいる。痛みも不便も、納得している・・・・だから、いいんだ」

 

何故か。

最後の言葉が、文面とは別の意味を帯びているように思えた。

まるで、未来へ赦しを告げている様に聞こえた。

 

「・・・・ッ」

 

そう感じたからこそ、夫人は息を呑む。

・・・・こうやって、二人支えあっていたのだろうか。

右も左も分からない土地を歩いて、体に異常が起きるほど苦労して。

それでも相手を思いやりながら、味方が一切いない中を。

たった二人で、死に物狂いで。

今日と言う日まで、生き延びて。

 

「ぉ、お母さん?」

 

はっとなったときには、涙が一粒零れていた。

さすがの未来も戸惑っているようだったが、今は構う余裕がない。

悲しくて、悔しくて、情けなくて。

罪悪感はあれど、娘のためだと思っていた。

これが最善なんだと思っていた。

あの時の自分たちの決断が、こんな結果を生み出すなんて。

こんなにやりきれない光景を生み出すなんて。

 

「あの、おばさん?大丈夫?」

 

響が手を伸ばしてくる。

冷たい自身を気にしてか、遠慮がちだったものの。

わき目も振らずに泣いている、情けない大の大人を気遣ってくれて。

もう、限界だった。

 

「わわ!?」

「ちょっ・・・・!?」

 

二人いっぺんに抱き寄せる。

響の冷たさと、未来の温もりを直に感じて、また涙が溢れる。

どれほど怖い目にあったのか、どれほど辛い目にあったのか。

想像すればするほど、心が罪悪感で満たされる。

 

「・・・・じょうぶ・・・・・だいじょうぶ・・・・」

 

『ごめんね』じゃ、安っぽくなってしまう気がして。

だから『大丈夫』を繰り返す。

 

「大丈夫、もう大丈夫だから・・・・!」

 

例え突き放されたって手放さないよう、強く強く抱きしめる。

 

「今度はちゃんと味方になるから、怖かったり辛かったりしたら頼っていいからぁ・・・・!」

「・・・・おばさん」

 

控えめに抱き返してくる腕。

冷たい、響だ。

温もりを分けるように抱きしめ続ける。

これで響の温もりが戻るか分からないけど、奪ってしまったのは他でもない自分達だから。

 

「だから、もういいの。もう二人だけで頑張らなくていいの・・・・助けを求めて、いいのよ」

 

最後に笑いかける。

暗がりにいたであろうこの子達の、命綱になれるように。

今度こそ、日向へと戻る道しるべになるために。

罪人を自称する少女と、家族を敵視してしまった愛娘へ。

涙で情けなくなったなりの、精一杯の笑顔を浮かべて。

 

「・・・・」

 

未来は、少し驚いているようだった。

大方、連れ戻されるとでも思っていたのだろう。

困惑した様子で、響を見やる。

一方の響は、始めこそ同じように戸惑っていたが。

第三者だからか、何かを察したようで。

ただ笑みを浮かべるだけだった。

未来は困惑したまま、肩口でしゃくりあげる母親を見下ろす。

渋い顔をしたり、悲痛な面持ちになったり、口元を結んだり。

そうやってしばらくの間、百面相をしていた。

 

「――――ふうぅ」

 

やがて観念したように、ゆっくりゆっくり息を吐く。

いくら敵視しているとは言え、親の涙には勝てなかったらしい。

 

「・・・・じゃあ、一個だけ」

「うん、なぁに?」

 

おざなりに涙を拭いながら、微笑みかける母へ。

未来はどこか照れくさそうに目を逸らしながら、続けた。

 

「今度でいいから・・・・料理教えて、ください」

「・・・・ええ、いつでも」

 

早速頼ってくれた娘を、母は優しく抱きしめて。

響は一歩離れた位置から、どこか眩しそうに見守っていた。



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閑話:小ネタ2

『とある一日』

 

「――――ん」

 

AM6:00

早番がない日は、だいたいこれくらいに起きる。

カーテンから漏れる朝日に目を細めて、ふと視線を下に落とすと。

先に起きていたらしい未来と、目が合う。

 

「おはよう、響」

「・・・・おはよー」

 

温もりを分けてもらうように抱き合って、挨拶を交わす。

 

 

 

「おいしい?」

「うん」

 

AM7:00

身支度含め、朝食の準備が出来ている。

最近料理を学び始めた、未来お手製の朝ごはん。

味覚は失っているものの、いつも幸せそうに食べてくれるので。

未来もやりがいを感じている。

 

 

 

「今日は夕方頃には帰れるから、そっちはいつも通り?」

「うん、委員会もなかったはずだから」

 

AM7:45

響は学校に通っていないので、必然とこの時点で未来と別行動になる。

互いの帰る時間帯を確認しながら、窓や玄関をしっかり施錠。

 

「それじゃあ」

「「いってきまーす」」

 

ちょっと子供っぽくハイタッチを交わして、それぞれの職場や学び舎へ。

 

 

 

「おはよーございまーす」

「おはよう」

「響ちゃんおはよー」

 

AM7:57

バスに揺られて十分前後の港に停泊している、二課の仮設本部へ出勤。

すれ違う職員と挨拶を交わしつつ、ロッカーで制服に着替える。

そして了子からメディカルチェックを受けた後。

朝礼で連絡事項を聞いて、業務へ。

 

 

 

「――――響ちゃん、向田君のところに行ってくれる?頼んでいた資料が出来上がっているはずだから」

「はーい」

「戻ったら、このデータを日付が新しい順に並べておいて」

「分かりました」

 

AM9:00

響の仕事は、主に了子の助手。

データ整理を始めとした雑用がメインだが、最近は簡単な文書作成も任されるようになっている。

当然ノイズが出現すれば、そちらが優先だ。

 

 

 

「コーヒー飲む人ー」

「くださいなー」

 

AM10:45

ここでちょっと一息。

自販機横の休憩スペースで、了子や友里を始めとした女性職員とおしゃべり。

 

「いつも思うんですけど、了子さんの髪さらっさらですよね」

「あ、同感です。わたしなんて、ちょっとでも湿気ってるとすぐもっさりしちゃって」

「ふふ、秘訣は日頃のお手入れよん」

 

何気ない話を、時間の許す限り展開させていく。

そしてほどよいタイミングでそれぞれの持ち場に戻り、業務を再開するのだ。

 

 

 

「――――いただきます」

 

PM00:00

食堂にて昼食を取る。

今日のランチは、再び登場『未来お手製』のサンドイッチ。

たまごが焦げていたり、形が不ぞろいなのがまた何とも愛らしい。

食べ終われば、一休みしたり、一眠りしたり。

時間まで自由に過ごす。

 

 

 

「そぉいッ!!」

『――――エネミーオールクリア、お疲れ様』

 

PM2:00

この日は、艦内に備えてある戦闘シミュレーターのテスト。

最後のノイズを討ち取れば、了子のアナウンスと共にバーチャル映像が消える。

 

『で、何か不具合とかは無かったかしら?』

「やってみた感じでは、目立つようなのはありませんでした。感触も現実に近いですし、すっごくよくなっています」

『ふむふむ・・・・他は?』

「そうですね、もうちょっと上の難易度が欲しいです。ハード以上の・・・・『装者死すべし』、みたいなノリのやつ」

『物騒すぎる名前ね・・・・けど、検討はしておきましょう』

 

殺風景な中、通信越しに了子とやり取りを繰り返す。

なお後日、『装者死すべし(Diva Must Die)』こと『DMD』は採用されたそうな。

 

 

 

「お疲れ様でしたー」

「はーい、また明日」

「おつかれー」

 

PM6:00

早番や遅番で無い限り、この時間には勤務が終わる。

二課の場合、ここへ更にノイズの出現も加わるが。

幸いなことに、今日の出動は無し。

何事もなく定時で上がることができた。

同じく帰宅する職員や、遅番の人々に挨拶しながら。

ロッカーで通勤服に着替え、帰路へ。

 

 

 

「たっだいまー」

「おかえりなさい」

 

PM6:15

帰宅すれば、笑顔の未来が出迎えてくれた。

ドアを閉めつつ、ハグを受け入れる。

 

「今日のごはんは?」

「カレーだよ」

「わぁお、やったね」

 

心から喜びを口にして、部屋の中へ。

ごはんを食べたり、未来と駄弁ったりして。

明日への英気を養う。

 

 

 

PM9:00

この頃にはそろって布団に入っている。

響の腕の中、未来は甘えるように身を寄せていた。

 

「それじゃあ」

「うん」

 

唇を浅く重ね、互いを抱きしめて。

 

「「――――おやすみなさい」」

 

――――これが、立花響の現在の一日。

日向へ戻って来た日陰者の。

眩しくてあったかい、愛しい日常。

 

 

 

 

 

 

 

 

『海の向こうへ』

 

「海外オファー来てたんですか?」

「ああ、春先にはすでに」

 

ある日の休憩スペース。

本部へ足を運んでいた翼からオファーの話を聞き、響は目を見開く。

 

「ちなみにお返事は?」

「断りはしたのだが、相手方も中々熱心でな・・・・」

 

加えてこのごろは、響やクリスといった新戦力が加わったこともあり。

味方に余裕が出来たこともあって。

つい先日、ころっと折れてしまったらしい。

 

「すまない、特にお前は体のこともあると言うに」

「わたしは別にいいんですよ。それよりもスクープですね!『風鳴翼、海外デビュー!』」

 

申し訳なさそうな翼を元気付けるように、響は人差し指を突き上げて笑った。

 

「それに翼さんって、お仕事抜きに歌うの大好きみたいですし、別に悪くないと思います」

「・・・・は?」

「へ?」

 

思っても見なかった言葉に、翼は間抜けな声。

響も響で気付いていないのが意外だったのか、同じく気の抜けた顔をする。

 

「あれ?違うんですか?営業スマイルって表情でもないし、てっきり・・・・」

「ああ、いや。違うんだ、ただ・・・・」

 

束の間黙りこくる翼。

やがて神妙な面持ちで近寄る。

 

「・・・・そんなに楽しそうなのか?」

「そりゃあ、もう」

「そう、か・・・・」

 

別に否定するようなことでもないので、響が素直に頷けば。

翼は何か考え込んで、また黙ってしまった。

 

「・・・・なんと言うか、個人的な意見ですけど」

 

そんな彼女へ、響はぽつぽつ語りだす。

 

「あのライブで入院してたとき、楽しみは翼さんの曲だったんです。奏さんを失っても、歌を届けているのがかっこいいなって思って」

 

翼の視線を受けながら、続ける。

 

「だから当時の目標は、リハビリ頑張って日常に戻って、また翼さんの歌を聞くことでした」

 

退院後どうなったかは、あえて語らなかったし。

翼も何も追及しなかった。

 

「えっと、だから。翼さんの歌は、ただ敵を倒すだけじゃなくて、誰かを元気にする力も持っているってことです」

「・・・・ッ」

 

その言葉に、今度は面食らった顔。

何か天啓を受けたような、澄み渡った表情をした。

 

「だから、そんな翼さんが海外に羽ばたいたら、きっとすっごいことになるんだろうなって思うんですよ」

 

そんな先輩の変化を知ってか知らずか。

響は人懐こく笑いながら、そう締めくくったのだった。

一方の翼は、また少し考え込んでから。

 

「・・・・立花は、私が海外にいくのに賛成か?」

「一ファンとしては、実にめでたいことだと思います!」

 

問いかけに対し、響はニコニコ笑って答えた。

 

「・・・・そうか」

「そうですとも」

 

その返事を聞いた翼は、どこか吹っ切れた顔で微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『プレゼント』

 

「響くん!誕生日おめでとう!」

 

夕方、二課本部。

帰路についていた響へ、弦十郎は笑顔と共にビニール袋を差し出す。

 

「中は桃だ、傷がつかないよう注意してくれ」

「おお、ありがとうございます」

 

桃と聞いて、心做し慎重に受け取った響は。

嬉しそうにはにかんだ。

 

「響さん、僕と翼さんからも」

 

隣に控えていた緒川も、『温州みかん』とシールが貼られた段ボールをくれた。

 

「わぁ、しばらくおやつに困りませんなぁ。ありがとーございます!」

 

ビニールを乗せた段ボールを抱え、得した気分になる響。

 

「あ、響ちゃん。おめでとー」

「これ、俺と友里さんからね」

「うっわ、ふわっふわ!どーもー!」

 

それから廊下を歩いていると、今度は友里・藤尭のオペレーターコンビが。

鶴のキーホルダーと、亀のぬいぐるみを。

手荷物の整理を手伝いながら手渡してくれた。

 

「ああ、よかった。まだいたわね」

 

そこへ了子もやってきて、響の手に袋をかける。

 

「誕生日おめでとう、千歳飴よ。クリスからは桃味ののど飴ね」

「おぉー!了子さんの千歳飴ってご利益ありそう!クリスちゃんにもよろしく言っといてください!」

 

本人が数千年も生きているので、なお更である。

のど飴も、歌って喉を使用する身としては大変ありがたい。

誕生日とは言え、今日はもらい物が多いなと考えたところで。

はたと気付いたことがあった。

桃。

みかん。

鶴。

亀。

千歳飴。

ここまでそろえば、嫌でも気付く。

 

「・・・・・そんなにころっと逝きそうなんですかね、わたし」

 

呟くように問いかけると、了子達はさっと目を逸らし。

その気付きが的中していることを、雄弁に語ったのだった。




これで今回分のストックはおしまいです。
また次の書き溜めをお待ちくださいませ。


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執行者事変
影と夢


ストックできましたので、投下します。
今回は少ないです。


「思ったより削れたわねー、どうするのこれ?」

 

「問題ない、このまま米国へとどめを仕掛ける」

 

「プランの変更はナシというワケだ」

 

「ふぅーん?あ、『プラン』と言えば・・・・」

 

「何だ?」

 

「じゃーん!新鮮なプラムー!市場でおいしそーなの見付けたから、買っちゃったのよー!」

 

「・・・・Japonai et blagues(ジャパニーズジョーク)というワケだ、センスは別として」

 

「なぁによう!そんな言うならあげないわよ!?せっかくキンッキンに冷やしておいたのにぃ」

 

「まったく・・・・」

 

「さすがの君も頭を痛めるというワケだ」

 

「いや、いただく」

 

「食べるワケかッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――気がつくと、浮かんでいた。

耳を済ますと、水が流れる音。

目が見える。

上から差し込む青い光、どうやら海の中らしい。

不思議と息苦しくない。

体に感触、誰かに抱きしめられている。

響だった。

たった二人で、広い広い海の中を漂っている。

響の温もりを感じる。

少し違和感を持ったが、幸せなので後回しにした。

・・・・このまま。

誰にも邪魔されない、静かな時間を。

ずっと過ごせたら。

 

――――ッ

 

願ったときだった。

急に強い流れがやってきて、ぶち当たる。

あっさり解ける抱擁。

響を引き剥がされる。

 

――――響!

 

手を伸ばす。

だが、響は微動だにしない。

流れに何もかも邪魔される中、はっきり見えた。

虚ろな目で、人形のようにぐったりしている響を。

ぴくりとも動かない彼女は、そのまま海流にさらわれていく。

やがて少し下の位置に落ち着いた響は、そのまま沈み始めた。

 

――――いやだ!響!

 

必死に流れに逆らって、なんとか響の下へ行こうとする。

だけど、いくらもがいてもたどり着けない。

流れが、水が。

嘲笑うように行く手を阻む。

四苦八苦している間にも、響はどんどん沈んでいく。

 

――――響!響!

 

思い出したように、水が性質を取り戻した。

現実と同じ酸素の無い状態になり。

暴れすぎた所為で、思わず息を吐く。

呼吸が泡となり、水中に散っていく。

同時に体が浮かび始めた。

逆へ向かう体をどうにか海中へ戻そうとするも、いかんせん浮かぶ力のほうが強い。

依然響は沈み続けている。

暗い暗い海中へ、更にその下の海底へ。

自分は逆に浮かび続けている。

明るい太陽の下へ、空が見える海面へ。

 

――――いやだ!一緒じゃなきゃいやだ!響ィッ!!

 

息なんてとっくに限界を迎えている。

だけど溺れるよりも、響と離れる方がよっぽど恐ろしい。

もがく、泳ぐ、暴れる。

何とか響の下へ向かおうとして。

水面に突っ込まれた、いくつもの手が引っつかむ。

 

「こっちだ!引き上げるぞーッ!」

「大丈夫かい!?」

 

体が求めてやまなかった空気。

はっと見上げれば、何人もの赤の他人がほっとした顔で見下ろしている。

 

「助けられてよかった」

「さあ、早くこっちへ」

 

引き上げようとする彼らに向け、首を横に振る。

『友達がまだ下にいる』

『自分じゃどうにも出来ない』

『助けて欲しい』

言葉はしっちゃかめっちゃかになったけど、伝わらないはずがない。

だけど、

 

「何を言ってるんだい?」

 

きょとんと、問いかけられた。

 

「今沈んでいるのは人殺しだろう?」

「死んで当然の悪人だ、子供だからって容赦しちゃいけない」

「あんな汚いものには、関わっちゃいけないんだよ」

 

背筋が凍った。

何を言っているのか理解できなかった。

 

――――違う!人殺しじゃない!

――――響はそんな酷い人じゃない!

 

訴える。

響はもう悪いことをしない。

もう誰も傷つけないから、助けて。

 

「聞き分けの無い子だ」

「可哀想に、騙されているんだね」

 

違う、違う、違う。

ねえ、聞いて。

あの子も助けて。

響を助けて。

 

「さあ!早いとこ陸地へ帰ろう!」

「ほら、そこにいちゃ危ないよ」

 

海中へ戻ろうとする。

たくさんの手が阻んで、引き戻す。

 

――――響!いやだ!響!!

 

海へ向けて伸ばした手すら、捕まれて下ろされる。

船が離れる。

響が離れる。

冷たい水の中へ、寂しい海底へ。

響が置き去りにされる。

 

――――響ッ!!響ッ!!響ッ!!

 

もはや声は届かない。

響の姿は、どこにも見えない。

 

「ああ、よかった」

「あいつは死んだ」

「悪は滅びて当然だ」

 

周りの人々は心底安心した顔で、口々に言い合っていて。

誰も、誰も。

響を案じてくれなかった。

助けようとすらしなかった。

死んで当然だと、それが一番なのだと。

何度も何度も、頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――は、は、は、は」

 

一瞬、意識が飛んでいた。

喉がひりひりする、叫んだのだろう。

動かない体が動くようになる。

視線をめぐらせると、見慣れた自室。

真っ暗なので、まだ夜のようだ。

 

「は・・・・はっ・・・・はぁ・・・・・!」

 

呼吸が落ち着いてくる。

喉の引きつりが収まってくる。

無意識に上を仰いで、最後の一呼吸。

ゆっくり、大きく息を吐き出せば。

波打っていた胸中が、やっと凪いでくれた。

ふと見ると、ぐっすり寝入っている響。

隣の騒ぎなんて気付かないまま、ただ寝息を立てていた。

 

「・・・・ッ」

 

過ぎる、悪夢。

暗く冷たい海の底へ、無抵抗のまま沈んでいく姿。

慣れたはずの冷たさが、言いようも無い不安を駆り立てる。

臆する心をどうにか宥めすかして、体を横たえた。

 

「んー・・・・・」

 

呑気な寝言を上に聞きながら、顔を埋める。

しばらくじっとしていれば、やがて聞こえる心臓の音。

 

(・・・・ああ、よかった)

 

規則正しく刻まれるリズムで、やっと安心した。

夢じゃない。

響は生きて、ここにいる。

 

「みくー・・・・」

「ゎ・・・・!?」

 

腕が回ってくる。

名前を呼ばれたので、起こしてしまったかと焦るが。

また聞こえてきた寝息にほっとした。

抱き寄せられて、先ほどよりもはっきり鼓動が聞こえる。

自分のとあわせて、静かなハーモニーを奏でている。

夢が現実にならないように、夢のままで終わってくれるように。

まどろんだ頭で祈りながら、再び眠りについた。




思えばこの作品書き始めたのも『夢』がきっかけでした・・・・(遠い目)


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あっめあっめふっれふっれ英雄がー♪

お前達を忘れない。

お前達の罪を忘れない。

お前達の所業を忘れない。

胸に抱くはただ一つ。

 

『許さない』

 

当たり前の権利を、持ちえて当然の感情を。

無残に傷つけ、血に塗れさせたお前達を。

肉と言う肉を引き裂き、痛みと言う痛みを覚えさせ、泣いて赦しを請わせるその日まで。

決してお前達を忘れない。

 

『許さない』

『許さない』

『許さない』

 

あらゆる想いを傷つけた、あらゆる尊厳を嬲り殺した。

お前達を決して、赦さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒィーハァーッ!

本日の天気は雨時々ノイズの嵐が吹き荒れマースッ!!

三ヶ月前。

アメちゃんとのなんやかんやで決まった、『サクリストS』こと『ソロモンの杖』の引き渡し。

東京から専用車両に揺られまして、山口は岩国の米軍駐屯基地までの長旅。

当然何も起こらないわけがなく。

現在進行形でノイズの団体様に集られている次第ー!

 

「一旦戻るぞ!」

「おーらい」

 

雨粒に打たれながら周囲をざっと確認しおえて。

クリスちゃんと二人して、中に引っ込む。

車両の屋内には、友里さんともう一人。

 

「連中、明らかにこっちを獲物と定めていやがる」

「モテモテですね、『ウェル博士』?」

 

銀色の髪に白衣。

『ウェル博士』こと、『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』さん。

真っ白な見た目とは裏腹に、ススワタリとタメ張れる真っ黒なモツをお持ちのマッド。

その上本当に優秀だってのが、彼の厄介さを際立たせてるよね。

なお、今はまだキレイキレイなイケメンさんなんだけど。

 

「はは、男としては女の子に囲まれてみたいものです」

「現状まさにそのとおりなのに?」

「公私の区別は付ける派でして」

「さっすが、出来る人は違うなぁ~」

 

『HAHAHA!!』なんて笑っている間にも、友里さんは本部と通信を繋げている。

と、こっちを振り返って、手を振った。

移動するらしい。

 

「ノイズに混じって、高速で移動する反応・・・・?」

 

ふと、友里さんのそんな声が聞こえて。

何となく周りを見渡してみる。

でも雨風が顔にぶち当たって、見えるものも見えないので断念。

とっとと次の車両に乗り移る。

 

「はい、はい・・・・分かりました、迎撃します!」

「出番ってわけだな!」

 

屋根の下に入って程なく、本部からのゴーサイン。

クリスちゃんも暴れたくってたまらないのか、ヤル気満々だ。

と、上から物音。

飛行型が次々屋根をぶち破り、友里さんがそこへ何度も発砲している。

ゴーサインも出たことだし、遠慮はしない。

全力全開でいかせてもらおうじゃないか・・・・!

聖詠を唱えながら、再び外へ。

暗がりに慣れた目で見渡せば、もう説明不要のノイズの群れ。

 

「視界は悪い、制空権はあちらが独占。イケる?」

「っは!イケるも何も、余裕が爆発しすぎだぜ!」

 

ごしゃん、と両手にガトリングを構えたクリスちゃんは。

何故かプルプルふるえて。

 

「ああ、そうだとも・・・・」

 

そこへさらに、腰のグレネードと背中のミサイルも追加される。

・・・・んー。

ちょっと盛りすぎじゃあ・・・・?

 

「どっかのバカが提案したッ!!『DMD』に比べたらああああああああッ!!!!」

 

あっ(察し)

クリスちゃんの雄叫びに呼応して、大バーゲンといわんばかりに放出される銃火器達。

まるで鬱憤を晴らすように、鉛玉が次々ノイズをあの世送りにしている。

・・・・あの時提案した『装者死すべし(Diva Must Die)』。

了子さんが珍しく本気出して組んだ、ハード以上の難易度だけど。

結構ガチで仕留めにかかっている内容だからなぁ・・・・。

ちなみにクリア者は未だ無し。

まあ、バーチャルとはいえ、二課最強勢に徒党を組まれたら・・・・ねえ?

 

「そいっ!」

 

ひとまずサボるわけにもいかんので、わたしも千切っては投げ、千切っては投げ。

面倒になって、途中から千切るだけにしたい衝動に駆られるけど。

それはそれで負けた気がするので、黙々と殴り続ける。

殴りつつも、考える。

――――ノイズが古代人が作り出した兵器であることは、了子さん自身から語られている。

統一言語を失い、相互理解を失った彼らは。

分かり合うよりも排除を選んだ。

そのバケモノに対抗しようとして、このガングニールを始めとした聖遺物が作られたわけなんだけど。

これは一旦置いといて。

今回出現しているノイズは、誰かに操られているらしいとのこと。

ノイズは人間を殺戮するようにのみプログラムされていることを考えると。

目的を持って動いているこの状況は、何よりも不自然ってことになる。

んで、普通ならここで『じゃあ誰が?』ってなるんだけど。

原作知識を持っている身としては、既に粗方の検討はついているんだよなぁ。

なお『粗方』と表現しているのは、他に起こりうる様々な要因を踏まえた結果だ。

博士を疑ってたら実はそうじゃなくて、足元すくわれましたとか。

ぶっちゃけワロエナイ。

 

「おっとぉ?」

 

とまあ、なんやかんや考えているうちに。

親玉っぽい個体を発見。

二課の通信でもアレが司令塔だって言っているから、間違いない。

じゃあ、見逃す理由も無いので。

右腕を変形させる。

ジャマダハルにロケットエンジンをつけた、いかにも威力ありそうな形。

ジャッキで足元を固定して、エンジン点火。

気付いた向こうも、こちらに狙いを定めてくる。

引きつける、引きつける。

溜めて、溜めて、溜めて。

―――――今ッ!!

 

「ヒャッハー!ノイズは掃討だァーッ!!」

 

モヒカンが似合いそうな台詞を叫びながら、突進!

携えた刃を、真正面からノイズにぶち当てるッ!

でもでも、やっこさんってば生意気にいっちょ前の装甲を持っているらしい。

ぶつかった箇所で火花を散らしながら、相手を往なすだけに留まった。

クリスちゃんの援護を受けつつ、車両に着地。

 

「くっそ、やっぱ飛べねぇのはきっついな!」

「無いものねだりなんていつものこと!それに今は『アレ』があるっしょ?」

「バァーカ!あのコンビネーションはまだ未完成だろッ!」

「あはは、とっておきたいとっておきだもんね!」

 

接近するノイズも、飛び回るノイズも。

殴って撃ち落しながら軽口を叩き合っている脇。

ふと、後ろに目を向けて。

 

「ッ、ちょっと失礼ッ!!」

「うおッ!?」

 

クリスちゃんをホールドして、足元をぶち抜く。

二人して車内に落ちれば、頭上の穴は一気に暗くなった。

 

「トンネルか・・・・悪い、助かった」

「お互いサマー」

 

とはいえ、未だにノイズはこっちを諦めてない。

車内にいても、連中の無機質な殺意をビンビン感じる。

・・・・そういえば、原作だとここで車両を切り離してたんだっけ。

どっちにしろ制空権取られた所為で苦戦しているわけだし、攻めるなら閉鎖空間にいる今が好機か。

 

「こうなったらアレだね、車両を切り離すか」

「おいおい、おっさんの面白映画(戦術マニュアル)かぁ?どうせ連中にぶつけても意味無ぇぞ?」

「ちっちっちー、ところがそうでもない」

 

予想通り怪訝な顔するクリスちゃんへ、指を振る。

 

「奴さん方、『透過』は出来ても『透視』は出来ないっしょ?」

「ッ、そういうことか・・・・!」

 

こっちの意図は伝わったらしい。

クリスちゃんが頷いてくれたことで、決行が決まった。

早速外に出て連結部分へ。

 

「これでいいか?」

「ぐっじょぶ!後はぁ、っとぉ・・・・!」

 

連結部分を狙撃で壊してもらい、両足で力いっぱい押しのける。

 

「友里さん達は任せた!」

「そっちこそきっちり決めろよ!」

 

ゆっくり動く車両が、ある程度離れてから飛び降りた。

また右腕を引き絞って、構える。

ロケットエンジンを噴かして、ぐっと溜める。

まだ我慢、まだ我慢。

じぃーっと耐えて・・・・・今ッ!

さあ、みなさんご一緒にッ!

 

「スクラップフィストオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

最速で!

最短で!

真っ直ぐに!

一直線にッ!!

握った拳を、叩きつけるッッ!!!

殴られてへこんだ箇所から、爆発。

轟音に紛れてノイズ達の断末魔が聞こえる。

紅蓮の爆弾魔さんなら大喜びしそうな光景だけど、わたしはあそこまで変態じゃないので。

爆風に乗ってとっとと退避。

 

『ノイズの反応、全て消失!』

『お疲れ様、派手にやったわね』

 

二課の通信を聞きながら、右腕から排熱。

背中に浴びる朝焼けが、何とも心地いい眩しさだった。

 

 

 

 

そんなこんなで。

 

 

 

 

あれからは特にトラブルもなく、無事に目的地へ到着。

 

「見せてもらいましたよ、『ルナアタックの英雄』と呼ばれた実力を」

 

友里さんが電子の印鑑を押している隣で、ウェル博士が話しかけてくる。

・・・・英雄。

英雄ねぇ・・・・。

 

「はは、女の子には縁遠いですかね」

「まあ、なりたくてなったわけじゃないので」

 

微妙な表情が出てしまっていたみたいだけど、ウェル博士は戸惑っていると勘違いしてくれたらしい。

大らかに笑って、流してくれた。

 

「混乱に陥っている現在、世界は英雄を求めています」

 

そして始まる、例のあの台詞。

 

「そう!誰もが羨望するッ!英雄の存在をッ!」

 

見開かれた瞳からは、幾ばくかの狂気が読み取れて。

・・・・普通なら、黙ってスルーするべきなんだろうけど。

あえてこう返す。

 

「英雄なんていなくても、世界は回りますよ」

 

某トゥーハンドがお仲間の黒人さんの台詞を、ちょっといじる。

・・・・そうだよ。

誰もが納得できる正義や英雄だなんて、いるわけがないじゃん。

もし、実在していたのなら。

わたしの家族や、未来は。

 

「・・・・ッ」

 

自分の思想を否定されたからだろう。

こっちを見下ろすその顔は、虚を突かれたように見えて。

その実、わずかばかりの敵意を感じさせた。

 

「まあ、いいでしょう」

 

次の瞬間には、元の人畜無害そうなモヤシさんに戻っていたけど。

 

「あなた方に託されたこのソロモンの杖は、僕がきっと役立てて見せます」

「不束なソロモンの杖ですが、よろしくお願いしマース」

「頼んだからな」

 

自分の胸に手を当てて宣言する彼に一礼したことで。

今度こそ今日の任務は終わった。

 

「――――気になる?」

「・・・・まあ、な」

 

米軍基地を出たところで、さっきから浮かない顔をしているクリスちゃんに話しかける。

 

「ソロモンの杖は、簡単に扱っていいものじゃねぇ。あの脅威は身を以って経験しているからな」

 

経験って、アレかな。

ルナアタック最終決戦の、あのトカゲ。

フィーネさんに比べれば雑魚だったけど、限定解除無しなら十分強敵ではあったんだよなぁ。

 

「尤も、目覚めさせたあたしが言うことじゃねぇだろうが・・・・」

「だからこうやってお仕事してんでしょ?」

 

顔を覗きこむと、ちょっと驚いた顔。

面白い。

 

「そうよ。クリスちゃんが真剣なことは、皆分かっているから」

 

友里さんも便乗して、何度も頷いていた。

 

「もちろん響ちゃんのことも」

「いっやぁ、光栄ですなぁ」

 

手を広げておどければ、友里さんは面白そうに笑った。

 

「さて、そんな二人のために、司令が東京までのヘリを手配してくれたわ」

「マジっすか!?」

 

読めていても、これはありがたいッ!

早く未来の膝枕でスヤァしたいよ!

―――――なんて、思った後ろで。

爆発、炎上。

振り向けば、大型ノイズが咆哮を上げているところだった。

・・・・・読めていても。

辛いいぃ~・・・・。

 

「マジっすか・・・・」

「マジだ!行くぞッ!」

 

クリスちゃんに促され、米軍基地へとんぼ返り。

・・・・『フロンティア事変』が始まる。

さてさて、立花響(わたし)はどうなるのやらー。




装者死すべし(Diva Must Die)
響の何気ない提案に、了子がノリノリで開発したシュミレーターの新難易度。
弦十郎(ネフシュタン装備)と緒川(忍者フル装備)が、フィーネ(ソロモンの杖装備)の援護を受けながら攻撃してくる。
当然ヤル気満々で向かってくるため、一瞬でも気を抜けば。
拳で砕かれるか、忍術に翻弄されるか、ノイズの弾幕に飲み込まれる。
クリア者は未だ無し。
挑んだ装者は毎回涙目になって断念する。


『チョイワルビッキー』のストックは、今回でおしまいです。
少なくてすみません(´・ω・`)


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フーアーユー?

毎度の閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告。
大変ありがとうございます。

ごめんなさい、今回も少ないっす・・・・。


「――――さって、行くとするかネェ」

 

ノイズ溢れる岩国基地。

見下ろしていたそいつは、鉄塔の上から飛び降りる。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

オッラ!そこのけそこのけわたしがとぉーるッ!!

なんてテンションで。

逃げ回る米兵とすれ違いながら、ノイズを殴ったり蹴ったり。

 

「こっちだ!早く!」

 

まだ軍人やら職員やらがいる状態なので、クリスちゃんは避難誘導メインで動いている。

喋ってるのはもろ日本語なんだけど、みなさんそこそこ日本で暮らしているお陰か。

割と通じているのは幸いだった。

ノイズの標的が、暴れる私に集中しがちなのもプラスされていると信じたい。

 

「わっしょーい!」

 

ちょっと大き目の奴を引っつかんで、叩きつけ。

衝撃で浮き上がった個体を、クリスちゃんが狙撃していく。

ん、避難は終わったみたいね。

それじゃ、気持ちリミッターを一個解除して・・・・。

 

「さあ、クソ共」

 

――――思い出す。

日陰にいた頃を、一歩(たが)えば死ぬ場所を。

 

「泣け、喚け、そして死ね」

 

低く構えて、突っ込んでいく。

・・・・そこ!『冥王乙』とか言わないの!

先頭にいた個体を殴り、その後ろにいた個体を殴り。

わたしが移動するたびにノイズを次々吹き飛ばしていく。

ほら!あんまり文句言うならこうしちゃうぞ!?オッラァアアン!?

なんて。

どこに届くか分からないツッコミをしながら、いつも通りノイズを葬り去っていく。

――――そう。

予定(いつも)通り』のはずだった。

イレギュラーは起こるだろうと思っていた。

思っていただけで、ただ呑気に構えていた。

ノイズの勢いが収まってくる、その数が少なくなってくる。

そろそろ終わるかなと、思ったときだった。

 

「あああああああああッ!!!」

 

施設の一角。

炎に巻かれながら表れたのは、白衣を着たひょろいイケメン。

ようするに、ウェル博士だった。

・・・・・うん!?

 

「あああああああ痛い痛い痛いいいいいいいい!」

「お、おい!どうした!?」

 

白衣や銀髪が、黒や赤に汚れていて。

ついでにメガネもなくしたウェル博士は、ひたすら痛みに悶えている。

そのあんまりな様子に、クリスちゃんがノイズを片付けながら駆け寄っていた。

・・・・いや、何があった!?

思っても見なかったイレギュラーに動揺するけど、ほっとく道理も無い。

ひとまず怪我人にカテゴライズして、クリスちゃんの援護をしようと。

わたしも傍に、駆けつけて。

 

「――――」

 

――――全身が、総毛立つ。

気温を感じないから、秋の涼しさなんて関係ない。

これはそんなものよりもっと重大で、危険な・・・・!

 

「バカッ!後ろッ!!」

 

振り向き様に払えば、手ごたえ。

見上げる。

手甲が何かと迫り合っている。

これは、武器。

重たい、多分斧。

 

「――――へェ?いーい反応するじゃねェか?」

 

聞こえる、ガラの悪い声。

集中しすぎて白んでいた視界(右目)が、戻ってきて。

目の前の、敵を捉えた。

鍛えられた、随分とガタイのいい体形。

上半身は無骨なジャケット以外何も着てなくて、見えるシックスパックが眩しい。

腰にはソロモンの杖、多分博士からパクったんだろう。

けれど何より目を引くのが、真っ赤なメッシュが入った派手な髪。

その手に握っているのは、巨大な斧剣。

無骨で分厚い刃が、わたしの手甲と迫り合っていた。

・・・・・・いや。

マジで誰よ!?

 

「拾ったら帰るつもりだったけど、面白ェ・・・・!」

 

弾かれて、相手が後退する。

ぶつけられる、敵意。

拭くれ上がった闘気が、大気をびりびり震わせた。

 

「ちょいと付き合ってくれや、ネェちゃん!!」

 

轟、と。

目の前。

振り上げた刃が、ぎらついて。

 

「――――ッ!!」

 

刃面を殴り飛ばして、回避。

がら空きになった胴体へ、蹴りを突き刺す。

 

「ッラァ!!!」

 

見た目どおりの、重い一閃。

しゃがんで前転で避けて、足払い。

体勢を崩したところへ、アッパーを見舞った。

相手は上手く仰け反って避けると、片手を離して殴ってくる。

拳は楽に避けられたけど、直後のヤクザキックは受けてしまった。

柄での打撃から逃げつつ、距離を取る。

 

「そーぅらまだまだぁッ!!」

 

地面を巻き込みながら、ぶんぶん振り回せば。

斬撃が飛ばされてきた。

避けたり防いだりしながら、何とかやり過ごす。

ってか、何だアレ!?

シンフォギアにしちゃぁ、色々突っ込みどころ満載だし!?

 

「ハハハッ!いーぜいーぜ!楽しませてくれ!」

「ッ一人でヤってろ!」

 

もちろんやられっぱなしじゃいられない。

刺突刃を展開して、こっちも斬撃を飛ばす。

威力は劣るけど、その分手数を稼げる・・・・!

相手を観察すれば、思ったとおり小さな傷が出来始めていた。

全身に満遍なく刻まれる痛みは、確かに奴を鈍らせる。

 

「あたしを忘れんなァッ!!」

「うっお!?」

 

これを隙と見たのか。

攻防に入り損ねていたクリスちゃんから、グレネードの援護射撃。

直撃コースでぶち込まれた火炎に、相手が包まれる。

 

「やったと思うか?」

「それフラグ」

 

隣に立ったクリスちゃんと、炎を睨んでいれば。

 

「――――ぶっはぁ!!熱っちィなァ!!オイィ!!」

 

案の定、ピンピンした様子で出てくる敵。

焦げてるんで、無傷ってわけじゃないみたいだけど。

ダメージらしいダメージは、与えきれてなかった。

 

「何?お前?」

「熱っちー熱っちー・・・・あ?俺?」

 

服の所々で燻る火を叩いていた奴は、こっちに目を向ける。

・・・・改めて対面して、感じたのは。

『人間じゃない』という直感だった。

 

「俺ァよ?・・・・あ?」

 

相手が何かを言いかけた時、不自然な形で口が止まった。

そのまま明後日の方を睨むように見た彼は、少し沈黙した後。

 

「・・・・ッチ、わぁーったよ。悪かったって」

 

何だかつまらなさそうに舌打ちして、誰かに了承を答えていた。

・・・・誰かと通信してた?

ってことは、仲間がいる?

 

「おい!」

 

斧剣を肩に担いだ相手は、あくどい笑みを向けてくる。

 

「悪ィが今日はここまでだ。また後でナァ?シンフォギアさんよ」

「ッそう簡単に帰れると思ってんのか?」

「帰るんだナァ、これが」

 

ボウガンを突きつけたクリスちゃんが、声にドスを利かせながら問いかける。

対するそいつは小さく鼻を鳴らすと、ソロモンの杖を起動させた。

奴の背後の空間が歪む。

やがて見えてくるサイケなカラーリング。

・・・・初めて生で見た。

アレが、バビロニアの宝物庫・・・・!

 

「心配すんな」

 

こっちの動揺なんてお構いナシに、数歩下がりながら奴は言う。

 

「そのうち嫌でも会うさ」

 

いたずらを仕掛けるように、何やら意味深なことを言うと。

そのまま、体を傾けて。

 

「ちょっ!?待―――!!」

 

止める間もなく。

宝物庫の中へ、身を躍らせた。

連れ戻そうにも、駆けつけた頃には歪みが消えていて。

もう、どうしようもなくなっていた。

 

「何、アレ・・・・」

 

虚しく空を切った手を見つめて、呆然と呟くしか出来なかった。

・・・・・ホントに何が起こってんの?

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

『――――彼との連絡がつきません。情報に寄ればイワクニが襲撃されたとのこと』

 

「・・・・『例の連中』である可能性が高い、ということね」

 

『ええ、幸い起動の準備は整っていますが・・・・』

 

「大丈夫よマム、やるべきことは分かっている」

 

『頼みましたよ』




「このままやとマリアさん達の難易度がDMD、どうすっべ」
考えた結果こうなりました。
ビッキーは生き残れるか・・・・!(


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ダイナミックお邪魔します

今回のストックはここまでです。

ところで『翳り裂く閃光』におけるグレビッキーのパーカー姿が、拙作ルナアタック編ラストのビッキーイメージまんまでしてね?←


「心当たりはあるか?了子くん」

「疑われてもしょうがないのは自覚しているけど、無いわね」

 

二課、仮設本部。

負傷したウェル博士を、在日米軍の医療班に任せた響達が。

帰還用のヘリに乗り込み、飛び立ったのを見送りながら。

弦十郎は了子へ、岩国基地襲撃の下手人と思しき青年について問う。

対する了子は、右手を上げながら首を横に振った。

その上で、『でも』と続ける。

 

「前に米国から送られてきた情報によると、F.I.S.以外にもノイズについて調べていた秘密結社がいたらしいの」

「本当か?」

「ええ、かなりマッドな技術者集団だったって話だけど」

 

了子は一旦区切り、少し声をすごめて。

 

「そこで行われていた実験の一つに、『人とノイズの融合』があったそうよ」

「むぅ・・・・」

 

現れた青年が、ノイズの反応を色濃く発していたこともあり、弦十郎は低く唸る。

藤尭を始めとしたオペレーター達も、息を呑んでいるのが分かった。

 

「正確には、人間を弄くってノイズの特性を持たせようとしたものらしいけど。どちらにせよ正気の沙汰じゃない」

「彼がその成功例である可能性も高い、ということか」

「考え無しに否定するのは危険ね」

 

肩をすくめた了子を横目に、弦十郎は考える。

先ほど了子が挙げたF.I.S.は、彼女自身が関わっていたこともあって、三ヶ月前の交渉対象に入っていた。

『F.I.S.』。

フィーネとして目覚めた了子が、自らの『器』となる条件である、『フィーネの遺伝子を継ぐ子ども達』を集める為に。

米国と手を組んで設立した組織。

了子が没し、新たな『器』が現れるまでの間、シンフォギアやLiNKERを中心とした異端技術を。

子ども達をモルモットとして実験を繰り返していた。

現在は『ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ』を中心としたメンバーにより、収監されていた子ども達の養子先を探しているはずだ。

既にシンフォギアというノイズへの対抗手段を持っていた彼らとしては、貴重な資源であり、『器』である彼らを蔑ろには出来なかったであろうことを考えると。

存在そのものが変質するほど弄くるというのは、考えにくかった。

それは、設立から十年近く経っているはずの組織において、子供の死亡例が極端に少ないことが裏付けている。

実際に子どもを実験動物扱いしていた事実を見れば、十分な根拠だ。

 

(F.I.S.と言えば・・・・)

 

ヒートアップしそうな頭を切り替え、表の仕事でここにいない姪っ子を思い出す。

確か今日コラボする相手が、関係者だったはずだ。

名前は、そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「―――――はい、はい」

 

『QUEEN of MUSIC』。

日本や米国を始めとした複数の国が、共同で開催する音楽の祭典。

メインイベントである、『日米の歌姫、夢のコラボ』を控えた翼の隣で。

緒川は二課からの通信を受け取っている。

 

「では、翼さんにも・・・・」

『いや、今はやめておけ。状況を知れば、今日のライブを放り出しかねん』

 

ソロモンの杖移送作戦の顛末。

外れて欲しかった予想通り、ただで終わらなかったこの事実を伝えてしまえば。

防人としての誇りを持つ翼は、彼女の歌を心待ちにしている人々を放り出しかねない。

もちろん歌姫の役目を蔑ろにしているわけではなく、単純に優先度が高いのだ。

今日はそんな姪っ子の晴れ舞台。

弦十郎は彼女のファン達の為にも、緒川に待ったをかけたのだった。

 

「分かりました、では」

「――――司令からは、何と?」

 

通信が終わったのを見計らい、翼が話しかけてくる。

 

「いえ、今夜のライブを全うするようにと」

 

緒川は何食わぬ顔でメガネを外しつつ、さらりと誤魔化したが。

対する翼はため息を零すと、立ち上がって指を突きつけた。

 

「メガネを外したということは、マネージャーモードの緒川さんではないと言うことです」

 

普段はどこか抜けている彼女のなかなか鋭い発言に、緒川は思わず身を引く。

 

「自分の癖をきちんと把握していないと、ここぞという時に足元を――――」

 

信頼からの心配故に、ちょっとしたお小言を続けようとしたときだった。

 

「翼さん!お時間です!」

「っ、はーい!」

 

タイミング良く(悪く?)運営スタッフから声がかかってしまい、強制終了となってしまった。

 

「傷ついた人々の心を癒すのもまた、風鳴翼のお仕事ですよ」

 

まだ不満げな翼の視線を、緒川はにこやかに受け流すのみ。

やがて観念した翼は、もう一度ため息をついた。

 

「不承不承ながら、了承しましょう」

「はい、頑張ってくださいね」

 

会話が終われば、『日本の歌姫』に切り替わる。

そんな彼女の背中を、緒川が笑顔で見守った。

 

「お待たせしてしまったらしいな」

「――――いいえ、気にするほどじゃないわ」

 

舞台袖。

待機スペースには既に先客がいた。

今回翼がコラボする、米国の歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。

『黒』と『和』が目立つ翼とは対照的に、『白』と『洋』が印象的な衣装を着ていた。

 

「けれど、のんびりしている時でもない」

「ああ、存分にやらせてもらうとしましょう」

 

スタッフの案内に従い、四つの支柱に囲まれた一角へ乗る。

緊張の中、スタッフの一人がスイッチを押す。

かかる音楽、せり上がる奈落。

薄暗い舞台裏から、煌びやかなステージへ。

 

「見せてもらうわよッ!戦場(いくさば)に冴える、抜き身の貴女をッ!!」

 

万雷の歓声に迎えられながら、マリアは力強く声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「あっはは、呑気なもんねぇ」

 

眼下には、ライブ会場。

ヒートアップしきった観客達が、それぞれの『推し』へありったけの声援を送っている。

振り回されるサイリウムの光は、煌びやかな会場に幻想的なアクセントを加えていた。

 

「やったことをたったの二年で忘れた、薄情極まりないクソの分際でさぁ?」

 

ぎらついた目は、そんな煌びやか極まりない光景を睨みつけている。

 

「いい加減自覚させないと。自分たちがどれほど醜悪で、愚かな存在かを」

 

立ち上がる。

そろそろ頃合だ。

 

「それじゃあ、『裁定』を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――みんな!ありがとう!」

 

歌いきった高揚そのまま、翼は声を張り上げる。

 

「私はいつも、みんなから勇気をもらっている!だから今度は!私の歌で、みんなに少しでも勇気を分けられたらと思う!」

 

少し前に、海外デビューを公言したからだろう。

記者会見で、ちょっといじらしい顔で告げられた『我が侭』を知るファン達は、負けないくらいに声を張り上げてサイリウムを振った。

特に『ツヴァイウィング時代』から見守ってきた人々は、ちょっと心配になるくらいのテンションだ。

 

「私の歌を、世界中にくれてあげるッ!」

 

歓声が落ち着く頃合を見計らい、今度はマリアがマイクを握る。

 

「振り向かない!全力疾走だ!ついてこれる奴だけ、ついてこいッ!!」

 

不敵な笑顔に、大胆な台詞。

全世界に向け、臆することなく語りかける。

そんな姿に被虐心をくすぐられたのか、マリアファンのテンションもまた、翼ファンに負けず劣らずだった。

 

「そして今日と言う日に、日本のすばらしいトップアーティストに出会えたことに、感謝を」

「こちらこそ」

 

それから少し穏やかに振り向いたマリアは、翼へ手を差し出した。

翼もまた躊躇い無く握り返したことで、会場のボルテージは最大限に高まる。

 

「私達で、伝えていきましょう。歌の力の素晴らしさを」

「もちろん、歌で世界を繋げよう」

 

にこやかに言葉を交わす二人。

マイクは音を拾わなかったようだったが、彼女達の表情から何となく察したファン達は。

また声を張り上げ、サイリウムを振り回して歓声を上げたのだった。

上げた、ところで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バァーッカみたい。音の羅列と薄っぺらい言葉で、人間が変わるもんですか」

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!?」

 

水を注す声が、響いたと思ったら。

会場中で翻る、翡翠の閃光。

それが何か分かっていたから、翼も()()()()目を見開いて。

瞬間、湧き上がるように悲鳴を上げたオーディエンスの合間にいる、ノイズ達を凝視した。

 

「あはは、楽しく盛り上がってた気分が、恐怖で急降下ってとこ?」

 

呆然としている二人から、少し離れた場所。

同じステージ上に、誰かが降り立った。

 

「いい気味」

「ッ誰だ!?」

 

翼は思わず剣型のマイクを突きつけて、睨みを利かせる。

対する乱入者は、阿鼻叫喚の会場を楽しそうに見渡してから目を向けた。

 

「あたし?リブラ」

「リブラ・・・・天秤?」

 

単語を鸚鵡返しに確認する翼へ、面白そうにいやらしく笑う。

そして徐に手を振った。

手元に光が煌いたと思うと、宙を滑る指の動きに合わせて変化。

次の瞬間には、シンプルなデザインの棍が現れる。

 

「――――全世界へ告発するッ!!」

 

手にした棍を威厳たっぷりにつきたて、開いた片手を広げるリブラ。

 

「この日本には、未だ裁かれぬ罪人が、一億余りも存在することをッ!!」

「――――な」

 

翼も、悲鳴を上げていたオーディエンスも絶句する。

一億余り、即ち、日本そのものが『罪人』であると言い切ったも同然なのだから。

 

「我ら、『執行者団』(パニッシャーズ)ッ!!その全てに裁きを下すことを、ここに宣言するッ!!!!」

 

それが当然であるかのように、真実だと告げるように。

手にした得物を、まるで旗の様に掲げたリブラは。

モニターを通じて、文字通り世界中へ。

声高々に断言したのだった。




「フロンティア事変」と見せかけたオリジナルストーリー。
始まります。


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一難去ってまた一難

ネットが復活イヤッフウウウウウウウウ!!!


「いきなり出てきて、物騒な話ね。何のつもり?」

 

誰もが硬直する中、真っ先に口を開いたのはマリア。

剣型マイクの切っ先を向けながら、怪訝な顔でリブラを睨みつける。

 

「つもりもどもりもないわよ。言ったまま、そのままの意味」

「ッだからとて、この場でやることか!?オーディエンスまで巻き込んで・・・・!」

 

『罪人』だと敵対宣言を受け、元から頭に来ていたのだろう。

辛抱たまらんと踏み出した翼が、片手を広げてオーディエンスを指しながら抗議をすると。

 

「――――あんたがそれを言う?」

 

ぎらりと、鋭利になる瞳。

一瞬で表情が削ぎ落ちた顔に、じんわり狂気的な笑みが浮かぶ。

 

「二年前、一万人と相棒一人をおっ死なせた、あんたがそれを言う?」

「――――」

 

二年前。

心当たりなんて一つしかない。

目を大きく見開いた翼の脳裏に、トラウマとも言うべき記憶がなだれ込む。

何度斬っても届かなかった、何度屠っても至らなかった。

それは偏に、剣たるこの身が――――

 

「それはこの子も同じでしょう?」

 

肩を叩かれる。

マリアだ。

すれ違い様優しげに見下ろした彼女は、凛と前を見据える。

 

「『ツヴァイウィングライブ事件』、この日本の誰も彼もが痛みを覚えた出来事だと聞いているわ。当事者である彼女だって、例外と言いがたいんじゃないかしら?」

「あっはは!あんたもよく言うわ」

 

毅然とした反論すら、リブラは嘲笑して切り捨てる。

 

「今まさにこの場を利用してるくせにさ」

「・・・・何の話を?」

「大事なトレーラーはだいじょーぶかなー?」

 

マリアが問いかけようとしたその時。

遠くで、爆発音。

振り向くと、真っ黒な煙が上がり始めたのが見えた。

何事かと身構える翼の隣で、今度はマリアの顔が蒼白になる。

 

「どれだけ大儀を掲げようと、誰かに犠牲を強いた時点であんたも同罪。我々が手を下すべき罪人よ」

 

リブラは喉を鳴らして嗤うと、また棍を振るった。

それを合図に、上空を覆いつくすノイズの群れ。

 

「さあ、茶番も何もかもここまで!」

 

どこか狂気的な笑みで、リブラはまるで踊るように一回転する。

 

「まずはこの会場の犠牲を以ってして、裁きの前哨といたしましょうッ!!」

 

満ち満ちる悲鳴の数々。

その叫喚に感化されてか、次々突撃体勢を取る飛行型。

 

「――――ッ!!!」

『ダメです!翼さん!翼さんッ!!』

 

もう辛抱溜まらんと、翼は胸元のギアを引っつかんで。

聖詠を、唱えようとして、

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

遮るように聞こえる、歌。

そのメロディーと音程に覚えがあったからこそ、翼は弾かれたように隣を見て。

 

「ッはあああああ!」

「おおおおおおッ!」

 

上空の群れは次の瞬間、レーザーの濁流に蹂躙された。

同時に地上のノイズも、橙の旋風が駆逐していく。

完全に不意を撃たれ、抵抗叶わず炭になるノイズ達。

その残骸はオーディエンスに降り注いだが、誰一人として死ぬことはなかった。

 

「――――っは」

 

いつの間にか止めていた息を吐き出して、翼は前を見る。

翻るマントの隣に、ちょうど見慣れたマフラーが着地したところだった。

 

「・・・・だいじょーぶなんです?全世界生中継ですけど」

「人命は躊躇わない主義なの」

「さいですかー」

 

『黒いガングニール』を携えたマリアへ、響は何故か気楽な様子で話しかけていた。

対するマリアも、まるで知己に話すような口調。

一瞬引っ掛かりを覚えた翼だったが、同時にこれが好機だと判断する。

 

「みんな!今のうちにッ!慌てず!焦らず!会場の外へ!」

 

会場に向け声を張り上げれば、降りかかった炭に悪戦苦闘していた観客達ははっと我に帰る。

すぐさま運営スタッフや出演者達が協力しあい、駆け足になりがちな観客達を避難させる。

 

「――――あたしらも行こう、響ならきっと大丈夫」

「・・・・うん」

 

それは、未来達がいるVIPルームも例外ではない。

弓美に促され、未来は重い腰を上げる。

部屋を出る直前、もう一度振り返った。

 

「・・・・響」

 

ステージ上、闘志を滲ませて立つ響を見つめてから。

後ろ髪を引かれるように踵を返した。

 

「ッちょっとアヴェンジャー!?オーディエンスが逃げるわよ!?」

《イヤ今手が、ってわっちゃぁ!?尻に火ィッ!!》

 

リブラにとっては芳しくない状況のようで、どこかへ怒鳴るように話しかける。

だが直後の表情から、相手方の状況は何となく読み取れた。

そんな中、響はふと、思い出したように相槌を打つ。

 

「そうそう、お仲間はみんな無事ですよ。今味方が確認しました」

「・・・・そう、ありがと」

「いーえー」

 

響の報告を聞いた途端、マリアの雰囲気から剣呑さが失せた。

先ほどリブラが臭わせた『仲間』とやらは、よっぽど大切な人々らしい。

と、ここで会話が一区切りしたのか、響は半歩下がって翼に耳打ちしてくる。

 

「申し訳ないですけど、中継切れるまでは大人しくしててくださいな。アレはわたしらでどーにかするんで」

「ああ・・・・後で聞かせてもらうからな、色々と」

 

響の進言に、翼は一度頷きはしたものの。

すぐに目を細めて、マリアを見やりながら告げる。

対する響は肩をすくめ、『おお、怖い怖い』とおどけて見せてから。

改めて目の前のリブラを見据えた。

 

「・・・・あなたは、そちらにつくのね」

「つくも何も、これがお仕事だからね」

 

どこか達観した様子で投げられた言葉に、響はきょとんと答える。

まるで味方になってくれると期待していたような物言いに、引っ掛かりを覚えたようだ。

 

「君こそやんちゃはほどほどにしないと、痛い目見るよ?」

「それこそ冗談、ここで止まるわけには行かないのよ・・・・!」

 

棍を取り回して、構える。

刃の無い武器に関わらず、ひりつく殺意を感じた。

目の前で、圧がぶわりと膨れ上がる。

強く踏み込んで肉薄してきたリブラ。

飛び出して応戦する響とは対照的に、マリアは大きく飛びのいて翼の傍へ。

棍と拳がぶつかった衝撃から、マントを靡かせて自身と翼を守る。

 

「よりにもよってそっちに着くと言うなら、いくら貴女でも容赦しないッ!!」

「『加減して』ってお願いしてもいないんだけどそれは」

 

突きを弾き飛ばし、払いを飛びのく。

マフラーをなびかせ、軽業師のように動き回る響。

あと一歩が足りないものの、リブラはその動きに確実について来ている。

 

「こんなパフォーマンスして、何が目的なのさ?」

「決まっているでしょう!復讐よッ!!」」

 

渾身の突き、手甲で受け止める。

ギリギリと迫り合わせながら響が問えば、歯を剥いたリブラは怒鳴りつけた。

 

「貴女も知らないとは言わせないッ!どうして連中をのさばらせるのッ!?」

「・・・・ッ」

 

どこか悲痛な想いを伴った声に、響が顔をしかめたときだった。

 

「中継が・・・・!?」

 

翼のそんな声が聞こえる。

響が横目で確認してみれば、次々暗転するモニター達。

 

「遮断されている!?そんな・・・・ッ!」

 

事態に気付いたリブラも、迫り合いを切り上げて見渡す。

すると、

 

「ジャッジマン・・・・!?」

 

すっかり真っ黒になったモニターに愕然とする彼女へ、誰かが話しかけてきたようだ。

突然明後日を見たリブラは、人名らしきものを口にする。

 

「そんな、仇が目の前にいるのにッ・・・・!」

 

奥歯を食いしばったリブラは、翼を射殺さんばかりに睨みつける。

だが、

 

《人目が無くなったと言うことは、彼女達も遠慮しなくなるということだ。悪いことは言わん、退け》

「・・・・~~~ッ」

 

何か決め手となることを言われたらしい。

響達には、やり取りは全く分からなかったが。

リブラの顔にあふれ出る、悔しさだけは読み取ることが出来た。

 

「・・・・次は仕留める、精々首を洗っておくことね」

 

やがて実に忌々しそうに吐き捨てると、言い終えると同時に背後が歪む。

岩国基地を襲った青年も飛び込んだ、サイケなカラーリングの異空間。

リブラは終始翼を睨みつけながら、同じように身を躍らせた。

 

「――――いなくなりましたね」

「ええ」

 

束の間感覚を尖らせていた響は、息を吐き出しながら構えを解く。

マリアもまた同じように警戒を半分解きながら、姿勢を楽にした。

と、

 

「それにしても翼さんファインプレーです!ドンパチにオーディエンス巻き込まずに済みましたッ!」

「言うな、今は自分が不甲斐なくて仕方が無い」

 

軽くなった空気の中、響は嘘のように笑顔を弾けさせて。

親指を両方立てながらおどけてみせる。

対する翼は暗い顔のまま、首を横に振るだけだった。

 

「まぁーたまたぁ!適材適所!防人はノイズを倒すだけじゃないはずですよぅ!」

「そうね、命を明日に繋げる事もまた、守護者の務めのはずよ」

 

そんな先輩を元気付けるように、響は井戸端会議さながらのテンションで手を上下させる。

マリアもまた、響の言葉に頷きながら翼へ笑いかけた。

 

「・・・・そう、だな。今はそれで耐えなければ」

 

二人掛かりでフォローされたとあっては、これ以上の謙遜は無礼と判断したようだ。

翼は観念したように、乾いた笑みを浮かべた。

 

「だが、不甲斐なさと同じくらいに気がかりもある」

「うぇっ?」

 

しかしすぐに消し去ると、今度は響へ怪訝な目を向ける。

 

「お前、知っていたのか?」

「え、えーっと、そのですね・・・・・ふ、ふひゅー・・・・」

 

マリアへ一瞥向けてから、改めて響を凝視する翼。

響は口ごもって、ばつの悪そうに口笛を吹いて。

誤魔化そうとした、その時。

響の背後、降り立つ影二つ。

薄紅と翡翠の刃は、唸りを上げて襲い掛かり。

 

「ッ立花!!」

 

翼の警告と、響が振り返るのはほぼ同時。

直後、交差した手甲に刃がぶち当たる。

火花が照らし出す顔は、意外とあどけない二人の少女。

 

「調!?切歌!?」

「こ、のぉッ!」

 

驚愕したマリアが、二人の名前らしきものを呼べば。

響は渾身の力で彼女等を弾き飛ばした。

大きく飛びのいた二人は、血気迫る形相で響を睨みつける。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

二人を挟んだ向こう側に、クリスが駆けつけたのが見えた。

 

「止めないで、マリア!」

「ウチら、この日をずっと待っていたんデスッ!だからッ!」

 

大鎌が握り締められる、丸鋸が唸りを上げて回転する。

 

「お前だけは、絶対に仕留めてやるデス・・・・!」

「あの日の、仇・・・・!」

 

響以外視界に映っていないらしい二人は、わなわな震えだして。

 

「――――マリアの!仇ッッッ!!!!!」

 

轟、と咆えると同時に。

感情のまま飛び掛る。



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心臓って弱点としては弱いイメージ

返信がおっつかない程のご感想、誠に感謝感謝です。
筆が乗りました故、短いですが投下。

追記:感想見て気付きました。
ビッキーおめでとうございました!!
ここではえらい目に合わせてるけど、大好きだよ!!


ほら見ろおまいら!きりしらちゃんやぞ!

なんて盛り上がれる状況だったらいーんでしょーけどねー!

鎌を引っつかんで、迫ってきた丸鋸にぶち当てる。

ぎりぎり嫌な音を立てて火花を散らす刃。

傍から見てる分には絵になるんだろうけど、当事者としては危なっかしくてしょうがない。

 

「お前だけは・・・・お前だけでもォッ!!」

「許さないッ!絶対に、絶対にッ!!」

 

アニメ何かで見せてくれる、かわゆい顔はどこへやら。

殺る気満々の殺意マシマシな表情は、言いようの無い凄みを見せていた。

 

「ッ仇がどうのとか言うけど・・・・!」

 

・・・・とぼけようがないので、どうにか口を開く。

 

「先に手を出してきたのはあの人だかんね?わたしはただ迎え撃っただけ、正当防衛を主張するよ!」

「ッ言い訳をおおおおおおおおお!!」

 

切歌ちゃんが、手首を捻って拘束を解く。

翻る刃から逃げれば、つい今まで立っていた場所に食い込む丸鋸。

うっへぇ、これ受けたらひとたまりもないべよ。

 

「ッ立花!待ってろ、すぐに・・・・!」

「調と切歌も!落ち着きなさい!」

 

この状況を見かねたのか、ギアを纏った翼さんとマリアさんが加勢しようとしてくれる。

だけど、この場合は・・・・!

 

「いや、やらせてやれ」

「雪音!?」

 

わたしが言う前に、クリスちゃんが止めてくれた。

 

「ああいう感情ってのは、口で言ったところじゃ止まらねぇ」

「黙ってみていろというのか!?」

 

マリアさんは立ち止まったけど、翼さんはなお食って掛かる。

 

「・・・・理屈じゃねぇんだよ、『憎い』って感情は」

 

鬼気迫る翼さんに怯むことなく、クリスちゃんが断言すれば。

やっと踏みとどまってくれた。

・・・・すみません、ありがとうございます。

 

「ああああああああああッ!」

「よっ、と」

 

ばら撒かれる丸鋸を弾き飛ばして、まずは調ちゃんに接近。

おっきな鋸に切り替えた隙をついて背後に回り、手刀で意識を刈り取ろうとする。

 

「させないデスッ!」

「お、とと」

 

だけど手を振り上げたところで、左からの攻撃に気付いて後退。

『当たるかな?危ないかな?』と思ったので、ついでに調ちゃんも突き飛ばして逃がす。

それにしてもやべーな、慣れたと思っていたけど全然そうじゃないや。

左側が完全に死角になっている。

お二人も何度も打ち合えば流石に気付くのか、わたしの左側に回って攻撃してくるようになった。

一方がひきつけている間に、もう一方が死角から襲ってくる。

うん、割と脅威。

 

「正当だろうがッ!なんだろうがッ!」

 

何とか打開策を考えていると、調ちゃんがさっきのお返しとばかりに肉薄してくる。

鋸を何度も避け続ける、攻撃しようにも切歌ちゃんがネックだ。

瞳に映った自分が見えるくらい近づいた調ちゃんは、牙を剥くように怒鳴り上げる。

 

「貴女が!わたし達の家族を傷つけたことに!変わりはないッ!!!!」

 

――――多分、それがスイッチ。

頭の中、砂嵐みたいな雑音と共に。

忘れそうになっていた地獄を、思い出しかけて。

 

「はああああああッ!!」

 

その一瞬を突かれた。

右側が軽くなる。

目を向ければ、切り株からぶしゃぶしゃ零れる鮮血。

刎ね飛ばされた腕は、無残に遠くへ転がった。

 

「ッ立花ァ!!」

 

血を失って、一気に重くなる体。

何とか飛びのいたけど、頭の痛みは治まらない。

呼吸を整えようとすればするほど、足元に転がる死体を幻視してしまう。

 

「――――マストォ!」

 

こんな大きな隙。

誰だって見逃さない。

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアアイッッ!!」

 

我に返れば、翡翠の刃が迫ってきて。

 

「―――――ぁ、が」

 

――――苦しいのは。

肺にも刃が刺さって、息がしにくいから。

さらに込み上げる血が喉を塞いで、息苦しさを助長させる。

 

「ぎ、ぅ・・・・ぐうぅ・・・・!」

 

背後が固い、多分壁に押し当てられてる。

どれほど強い力を込めているのか、貫通した後もなお、体へ侵入して。

空気を求めた喉が、細かく痙攣している。

だけどそれも束の間、血の塊を吐き出すだけに終わった。

ほどなく意識が遠のく、視界が段々暗くなる。

・・・・・ああ、やばい。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「――――はあ、はぁっ・・・・は・・・・!」

 

鎌を突き立てられ、壁に磔られた響。

束の間小刻みに動いていたが、やがて抵抗を試みていた腕が力なく垂れる。

決定打を刻み込んだ切歌は、荒く呼吸を繰り返して。

深く突き刺した鎌を、引き抜いた。

心臓というある種の『タンク』に当たった所為か、思ったより多くの血が零れる。

解放された響は抵抗することなく、膝から崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。

隣に降り立った調と共に、響を注意深く観察する切歌。

五秒、十秒と待って。

完全に、事切れたと判断して。

 

「・・・・や、た?」

「・・・・やった」

 

一歩、二歩と、後ずさる。

血溜まりに沈んだ仇敵は、ぴくりとも動かない。

積年の恨みを、晴らすことが出来た。

 

「やった、やった・・・・はは、勝てたデス」

「仇、取れた・・・・はは、は・・・・」

 

どこか虚ろな目で、乾いた笑いを上げたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――気はすんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想だにしなかった声に、そろってぎょっとする。

目の前、血溜まりに沈んだ死体が。

いや、死んだはずの仇敵が。

どこか気だるげに、いっそリラックスしているような雰囲気で。

ごろんと寝転がったまま、見上げてきていた。

 

「な、な・・・・!?」

「―――――ッ!?」

 

流石の二人も肩を跳ね上げ、大きく飛びのく。

戦いを見守っていた翼にクリス、マリアも驚愕を隠せないようで。

三者三様に目を見開いたり、口をぱくぱくさせたりしていた。

こともなげに上体を起こした響は、切り株になった右腕を上げる。

すぐにメリメリと音がしたと思えば、直後に腕が()()()()()

またぎょっとなる調と切歌。

ここで調が、先ほど斬り飛ばした右腕に目をやれば。

今まさに塵となり、風に乗って消えていくところだった。

 

「・・・・・バケモノ」

「そのバケモノに喧嘩を売ったのは、どこの誰だっけ?」

 

じろりとねめつければ、二人は思わずたじろいだ。

 

「まあ、もろもろ言いたいこととかあるかもだけど」

 

生え変わった右腕の調子を確かめた響は、その手でがしがしと頭をかく。

 

「まずは話でも聞かせてよ、取って食いはしないから」

 

にかっと浮かんだその笑みに、逆らおうだなんて思いつきもしなかった。




気はすんだ?>_(:3 ∠ )_ ゴロゴロ


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おっはなーししーましょっ

またたくさんのご反応ありがとうございます。
みなさんの考察は、にやにやしながら拝見しておりますww


―――――話は、日米のルナアタック関連の交渉が終わった直後に遡る。

お上のやらかし云々を抜きにしても、月が欠けるなんて一大事を楽観できるはずもなく。

国際宇宙開発機構の面々は、欠けた時点からの観測を既に始めていた。

そして案の定、月の軌道データに異常な数値を発見。

最新機器や偉い学者さん達が計算して、『年内に地球に落下する』という結論を導き出し。

大統領を始めとした政府上層部へ報告もされた。

 

問題はここからである。

 

ルナアタックにより信頼失墜の危機に陥っているアメちゃんは、原作のように隠蔽なんてことはせず。

各国の有識者に知恵と助力を求めようと連絡を飛ばした。

ところがだ。

どういうわけか、『月の落下』や『月の軌道』に関する内容のメールを送ろうとすると、エラーが表示されるようになった。

あるいは送ることが出来ても相手側に正しく表示されず、『なんかバグったの?』と聞かれる始末。

何度試みても失敗するのを見て、流石のアメちゃんも誰かの作為があることを察した。

ともなれば、電話なんかも盗聴の危険があるため使えない。

ならばいっそアナログでと、自国のエージェントに文書を持たせて派遣し。

世界に危機が訪れていることを、何とか知らせようとした。

結果は、失敗。

送り出した全てのエージェントが、死亡ないし行方不明となってしまった。

いよいよもって他国に頼れなくなったアメちゃんは、最終手段として自力で解決することを決断する。

そして白羽の矢が立ったのが、異端技術の権威であり、当時F.I.S.のレセプターチルドレンの養子先を探して回っていた『ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ』教授と。

体が不自由な彼女を補助するために残っていたマリアさん、それから調ちゃんと切歌ちゃんだった。

ついでに、聖遺物の研究を続けてたウェル博士。

事情を聞いた皆さんは、レセプターチルドレンの養子先選出と保護を条件に。

政府からの依頼を受けたのである。

 

 

 

 

 

と、言うのが。

保護されたマリアさん一派が話してくれた事情だ。

 

 

 

 

 

 

「――――敵が何者かつかめていない以上、下手に他者を頼るわけには行きませんでした」

 

二課本部のミーティングスペース。

語りを区切ったナスターシャ教授は、目を伏せて重々しく呟く。

傍に控えているマリアさんは、それを気遣わしげに見ていた。

ちなみに調ちゃんと切歌ちゃんは、拘束されるわけでもなく普通に座っている。

わたしが口利きしたって言うのもあるけど、ギアを持たない(念のためにマリアさんの含めて没収中)小娘二人くらい、OTONA達の敵じゃないので。

二人もそれを分かっているのか、今は大人しい。

・・・・代わりにすんごく睨まれているけど。

 

「では、移送作戦でノイズを操っていたのも・・・・?」

「ソロモンの杖の使用を許可していたからです。必要とあらばノイズを戦力として利用することも」

 

弦十郎さんの問いにも、毅然と答えているナスターシャ教授。

こういう女性(ひと)は、ちょっと憧れる。

 

「その割に、人員の死亡者が少ないのは?」

「杖を使用していたドクターの方針です。本人は『制限(しばり)がある方がやりがいがある』と、中々乗り気でした」

 

そうそう。

この世界のウェル博士は、原作と比べるとちょっといい人っぽい。

話を聞く限り、英雄志望なのに変わりはないみたいだけど。

『飽くなき理想を抱きッ!不可能を実現してこその英雄だッ!』とかなんとかのたまっていたそうで。

進んで犠牲を出すようなやり方は、あまり好まないらしい。

実際移送作戦における人員の死亡数も、両手で足りるくらいの数。

むしろ機関部を始めとした、車両のダメージの方が大きかった。

・・・・いや、後者はわたしとクリスちゃんがやらかしたのもあるんだけど。

で、今は医療施設にいる博士曰く『岩国でも上手い具合に施設だけ破壊しようとしたってのに!あのヤロウ!』ということで。

序盤はともかく、途中からはあのヤンキーさんがやっていたことなんだそうな。

 

「あの『リブラ』という少女が口にしていた、『パニッシャーズ』という組織名。そして、『アヴェンジャー』と『ジャッジマン』・・・・」

「月の落下を隠蔽しようとする動きと無関係とは思えない。そういうことね?」

「そのとおりです」

 

『パニッシャー』。

確か英語で『執行者』っていう意味の言葉なんだっけ。

それから、メンバー名らしき『アヴェンジャー』と『ジャッジマン』という言葉。

少なくとも後一人、仲間がいるということだろう。

んーむむむ、これはもしかしなくても原作乖離。

っていうか、ほぼオリジナルストーリーってくらいとんでもな事態になっている。

 

「『虎の子』たる『ネフィリム』を奪われずに済んだのは、もっけの幸いでしたが・・・・」

「だからとて、ソロモンの杖を野放しにしていいわけではない」

 

そう、情けなさそうに俯くナスターシャ教授とマリアさん。

二人の言うとおり、芳しくない状況なのは確かだ。

調ちゃんと切歌ちゃんも、この時ばかりは一緒にしょんぼりしてた。

ちょっと可愛いかも。

 

「これからはどうするつもりで?」

 

弦十郎さんが問いかけると、教授は少し考え込む。

黙っている中、マリアさんと、調ちゃん、切歌ちゃんを見やる。

それからまた目を伏せて、もう少し考えてから。

 

「・・・・・こうやってそちらに明かされた以上、このまま別行動というわけにはいかないでしょう」

「ま、事実だけみたら移送作戦と岩国基地襲撃の関係者だものね」

 

『逃がすわけにはいかない』と了子さんが改めて言うと、関係者だからか。

マリアさんはバツが悪そうに唇を噛んでいた。

いや、あんたがやったワケじゃないでしょうに。

 

「では、これからはご協力いただけるのですね?」

「この子達の手を、汚さずに済むのなら」

 

弦十郎さんの確認に、強く頷くナスターシャ教授。

・・・・F.I.S.お仲間ルートか。

これはこれでいいんじゃないかなー。

 

「お前達もいいか?」

 

オラ、わくわくすっぞ!なんて考えていると、話がわたし達装者に振られた。

いいも何も・・・・。

 

「トップが決めたことなら異存はありませんよ」

「私も同じく、共闘に異存はありません」

「ま、変に動き回られるよりはマシか」

 

良く考えても、特にデメリットは無いように思えるので頷いておく。

翼さんやクリスちゃんも、似たような意見だった。

 

「けど」

 

けれどもここで、クリスちゃんが視線を滑らせる。

その先には、さっきドンパチしたばかりのきりしらちゃんがいた。

 

「そいつらはどうにかしとくべきなんじゃねぇか?フレンドリファイアは洒落になんねぇぞ?」

「・・・・ッ」

 

クリスちゃんに親指で指された二人は、思い出したようにまたこっちを睨み始める。

おお、怖い怖い。

でもクリスちゃんの言うことも一理ある。

・・・・・ぶっちゃけちゃうなら。

わたしはマリアさんに限らず、これまでたくさんの人を殺したり傷つけたりしてきたわけだから。

別に二人に殺されてもそれはそれでしょうがないって思うし、怨もうとも思わない。

けど、今はダメだ。

新たな脅威が出てきて、未来含めた大好きな人達が脅かされている今は、まだダメ。

とはいえ、それを伝えたところで、果たして二人が我慢できるだろうか。

いや、無理っしょ。

要は、二人がわたしに向けている憎悪やらなんやらを、別の形で発散させられればいい話だ。

そうしてこの事態を解決するまでの間、少しでもわたし自身を延命させる。

と、なると・・・・。

・・・・・うん、今のわたし。

すっごく悪い顔してる。

 

「――――まず先に言っておきたいのは、別に復讐をやめろって言いたいわけじゃないことだ」

 

考えを纏めて、二人に話しかける。

物理効果があるなら貫通していそうな視線を受け流しながら、続ける。

 

「マリアさんに手を上げたのは事実だし、わたしも別に逃げも隠れもしない。けど、今はダメ」

「ッどうして!?」

「前ならともかく、今はお役所勤務だよ?福利厚生しっかり保障された上でお給料もらってるんだから、仕事はきっちりこなさないとね」

 

そこでだ、と。

話を区切るために、人差し指を立てる。

 

「うちに戦闘シミュレーターがあってね?そこの最高難易度で、『装者死すべし(Diva Must Die)』ってのがあるんだけど 」

「・・・・それが?」

 

殺意も敵意も変わらないけど、耳は傾けてくれてるみたい。

 

「調ちゃんと切歌ちゃん、二人ともそこまで行けたのなら、事件が解決していなかろうと挑戦を受ける。もちろん仕留めたって構わない」

「「――――ッ!」」

 

お、食いついた。

使用するギアの関係か、はたまた昔なじみだからか。

立ち上がったタイミングはほぼ同じだ。

 

「ちなみにこの難易度、まだ誰もクリアしていないんだよねぇ。もちろんわたしも。だから二人がクリア出来れば、あるいは」

 

思わせぶりににやついてあげれば、二人の表情が引き締まる。

んっふふ、じゃあ、仕上げと行きましょうか。

 

「あー、でもさすがに高望みかなぁー?心臓ぶち抜いた相手が死ななかっただけで、ビビっちゃうような子達だもんなー?」

 

効果は、抜群だった。

狙い通り反応した二人。

調ちゃんが、力任せに机を叩く。

 

「ッやればいいんでしょう!?バーチャルごとき手早く攻略して!貴女を殺せば済む話ッ!」

「やってやるッ!やってやるデスッ!」

「――――その意気だ(Good)

 

口元を吊り上げる。

わたしの笑みを見た二人は、怒りで顔を真っ赤にして。

椅子を蹴散らしながら、やや乱暴にミーティングルームを出て行った。

 

「シミュレーターは右の突き当りを左だよー」

 

出て行く二人の背中に言ったのを最後に、部屋の中に沈黙が降りて。

それをすぐに破ったのは、クリスちゃんだった。

 

「アレに突っ込ませるとか、鬼だろお前。ありゃクリアするまでやめねーぞ?」

「しかもクリアが挑戦する条件だとも明言していないし・・・・意外と策士ね?響ちゃん?」

「二人の発散も出来て、こちら側の戦力増強にもなる。一石二鳥でしょ?」

 

了子さんにまで突っ込まれたけど、わたしだってちゃーんと考えているんですからね。

指を一本ずつ立てて作ったピースサインを振って、笑っておく。

正直、DMDが一日二日で攻略出来ると思えないし。

その間に憎悪やらなんやらが薄れてしまえば儲けもの。

・・・・・うん、割と悪い考えなのは自覚してる。

 

「だが、これではただの先延ばしだ。もし憎しみが燻っている内に目標を遂げてしまえば・・・・」

「その時はその時、八丁駆使してまた逃げますよ」

 

気遣ってくれる翼さんに、笑いかけて誤魔化しておく。

こんな状況だけれど、心配してくれるのが嬉しい。

その気遣いが、優しさが。

ここにいていいんだと実感させてくれる。

 

「というか、貴女はどうなのかしら?当事者の割には、あの二人ほど思っている様子でもないけれど」

「そういえば・・・・ライブ会場でのやり取りを見る限り、むしろ親しい印象を受けた」

 

と、ここで。

友里さんが疑問を口にして、翼さんが頷く。

了子さんも気にしていたのか、ちらりと視線を向けた。

・・・・実は、わたしも気になっていたことだ。

去年の暮れ、サンフランシスコにいたわたしを襲撃してきたのはマリアさん。

シンフォギアをシンフォギアとして使い始めたのもその頃からだったから、恐らく了子(フィーネ)さんの指示を受けてのことだったんだろう。

当然捕まる気は毛頭無かったんで、全力で抵抗させてもらったけど。

その結果、手傷は負ったけど何とか追い返すことに成功して・・・・。

あ、思い出した。

確かそん時、重傷を負ったマリアさんを回収してったのが、ザババコンビだった。

なるほど、だからあんなに怨まれているのか。

 

「・・・・惨敗したことよりも」

 

みんなの視線を一辺に受けて、少したじろいだマリアさんは。

やがてとつとつ語り出す。

 

「あの子達を泣かせてしまったことのショックが強くて・・・・だから、その子を怨んでいるかと言えば、正直微妙ね」

 

・・・・『たやマ』なんてからかわれているけど。

そのとおり、マリアさんの本質は優しさなんだろう。

だから、赤の他人に害されたことよりも。

『家族』が涙して、復讐に燃えてしまったことの方がショックだったんだ。

 

「それに、一度本気で殺しあったからこそ、ある程度の信を置ける部分もある」

「いや、物騒すぎんだろ」

 

最後、マリアさんはちょっと得意げにはにかんだ。

あらやだ、かわゆい笑顔。

ご馳走様です。

それから、信頼してるって言ってくれたのもありがたい。

 

「あ、でもリベンジはしたいかしら。私も『Diva Must Die』とやらをやるべき?」

「いーえー!マリアさんならいつでもウェルカム!後ろから撃たれないだけで儲けもんですよー!」

 

湿っぽくなった空気を払拭すべく、両手の親指を立てて思いっきりスマイル。

効果はあったようで、それぞれ苦笑いしたり、呆れたりしていた。

 

「まあ、勝手に取り決めた響くんには、後で説教するとして」

「なんてこったい」

 

さらっと死刑宣告しながら、弦十郎さんが咳払い。

わざわざ立ち上がって、ナスターシャ教授の対面に移動する。

 

「新たな装者が仲間になると来れば、とても心強い!どうかよろしくお願いするッ!」

「こちらこそ。今はここにいないドクター共々、お世話になります」

 

弦十郎さんの力強い手と、ナスターシャ教授のか細い手がしっかり握られて。

何はともあれ、ここに二課とF.I.S.の同盟は締結された。

不安要素は拭えていないけど、なんか、こう。

ええよな!仲間が増えるって!

 

 

 

 

 

 

なお、この後。

ハードまで順調にクリアしたきりしらちゃんは、案の定DMDで盛大に躓き。

『ばたんきゅー』しているところを二課スタッフに発見されるんだけど。

それはまた、別のお話。




本編内の『殺しあったから~』の台詞。
知り合いがぼやいて、盛大に吹いた思い出があるので。
使ってみたかったものだったりします。
・・・・CCさくらのお兄ちゃんと先生のシーンで言うのは本当に反則(


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インターバル的な

ワンクッション的な回です。


「――――悪かったな」

 

マリア一派との話が終わった後。

弦十郎からのありがたい話を聞くべく立ち上がった響を、クリスの言葉が呼び止める。

 

「何の話?」

「ライブ会場のことだよ。理屈じゃねぇってかっこつけたばっかりに、お前が・・・・」

「私からも、すまなかった立花。雪音の諫言を無視してでも、加勢するべきだった」

「あー、そのことかぁ」

 

クリスと並んだ翼からも、申し訳なさそうに頭を下げられた響。

どこか戸惑った様子で、頭をかいてから。

 

「好きにやらせてくれたし、むしろこっちがお礼言う方だよ。翼さんも、踏みとどまってくれてありがとうございます」

「けどよ・・・・!」

 

話題に似つかわしくないほけほけした笑みへ、クリスはなお食って掛かったが。

 

「理屈じゃないんでしょう?憎いって感情は」

「・・・・ッ」

 

言い聞かせるように諭されては、二の句が咄嗟に出てこなかった。

 

「・・・・だが、あの二人に関しては、何らかの対策を打つべきだ。このままでは、お前が」

 

もう一度、響の命を守るための策を立てることを進言する翼。

理由としてはやはり、ガングニールを扱う仲間であることが大きいのだろう。

かつて天羽奏という半身を失った経験は、たった二年で雪ぎきれるほど軽いものではない。

もちろん付き合いが長くなった今としては、それ以外の根拠もあるにはあるのだろうが。

現時点で響がぱっと思いつく要因といえば、それくらいなものだった。

だから、響も再び首を振る。

 

「いいんです。正当防衛とはいえ、あの子達の大事な『家族』を傷つけたのは、間違いなくわたしですから」

「だから殺されたとて、恨み言を言わないと?立花はそれでいいかもしれないが、小日向は・・・・!?」

 

今度は翼が食って掛かる。

どちらかと言えば、未来との付き合いが長い翼。

特に、響がおらず、寂しい想いをしていた頃の姿を目の当たりにしたからだろう。

後少し枷が外れれば、胸倉を掴んでしまいそうな勢いで詰め寄る。

 

「・・・・わたしと未来だけじゃない。翼さんやクリスちゃんだって、『誰か(みんな)』の『大事な人』です」

 

だが、どこか迫力のあるそんな姿にも、響は『否』を示す。

 

「わたしは今まで、『誰か』の『大事な人』を、傷つけて、殺して、奪ってきましたから。これは正しいことなんです、汚れに汚れた罪人に相応しい災難なんです」

 

過去を想起しているのだろう。

俯いて虚空を見つめる響に、翼もクリスも何も言えなくなってしまった。

そんな、妙な沈黙が降りてきたところで、

 

「こーのー子ーはーもぉー!!」

「ふぁーっ!?ちょっと待ってナニコレ意外と強いぞりょーこさああああああ!?」

「全く油断も隙もありゃしないな、響くん」

 

突然、後ろから響の頭が引っつかまれた。

そのままアイアンクローをかますのは了子。

弦十郎と違って裏方担当(インドア派)な彼女でも、本気で掴みかかれば相応に痛い。

ぎりぎりと手に力を込める了子の隣で、弦十郎が腕を組んで立っていた。

 

「いっぺん、自愛についても説いた方がよさそうだな?」

「あらいいわね。私も一緒させて頂戴、弦十郎くん」

「じーざすッ!」

 

OTONA、いや、大人としてしっかりしている弦十郎に加えて、彼以上に口先に長けている了子も参加するとあってはたまったものじゃない。

しかし、響が悲鳴を上げたところで決定を覆せるはずも無く。

結果、翼とクリスに苦い顔で見送られながら、『ドナドナー』と連行されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

い、いのち、だいじに・・・・!

翌朝。

事前連絡の場で、調ちゃん切歌ちゃんの処分が公表された。

まあ、わたしが死ななかったとは言え、きりしらちゃんがあの程度で許してもらえるはずも無く。

了子さんとの二人掛かりでがっつりお説教を終えた後、弦十郎さんとナスターシャ教授で話し合ったらしい。

結果、以下のような処分が発表された。

 

一つ、大前提として二課の職員には手をかけないこと。

マリアさんやナスターシャ教授だけではなく、大人達の言うことをきちんと聞くこと。

この中には立花響(わたし)も含まれること。

 

一つ、立花響(わたし)に関しては、本人が提示した条件を満たせば順次決闘を申し込んでもいいこと。

ただし殺しはダメゼッタイ。

『被害者』たるマリアさんが生きているので、殺すのはやりすぎだということ。

 

一つ、今日から一週間の間、二人のギアは弦十郎さんが没収すること。

出撃時や訓練時には返すけど、それ以外でのギア使用は全面的に禁止。

生命的な危機に関しては、二課のエージェントでそれとなくカバーするとのこと。

 

以上、三つの処分が二人に課せられた。

 

「響くん本人が気にしていないことと、クリスくんの『憎しみは理屈ではない』という意見に納得が行っているから、あまり責めていないが、それでも仲間に手を出されて思うところがあるのも本音だ」

 

腕を組み、少し怖い顔で二人を見下ろす弦十郎さん。

 

「厳しいことを言うが、協力関係になったとはいえ、君達はあくまで外部組織。していいことと悪いことは、数多く存在する」

 

二人とも、弦十郎さんの話を黙ってきちんと聞いている。

相手がわたしじゃないなら、普通に話を聞けるみたい。

ちょっと感情が優先しちゃうだけで、根はいい子達みたいだしね。

 

「君達の行動が、ナスターシャ教授やマリアくんの信頼失墜に直結することを、肝に良く命じておいて欲しい。分かったな?」

「・・・・はい」

「・・・・デス」

 

弦十郎さんの確認に対し、調ちゃんと切歌ちゃんはしっかり頷いた。

・・・・こうやって皆の目がある場所で処分を下すのは、二課の職員達が、二人と同じように私情でちょっかいを出すのを避けるためだろう。

いくら司令官が出来た人だからと言って、その部下まで綺麗さっぱりな人たちとも限らないしね。

実に残念な話だけど。

いまや調ちゃんと切歌ちゃんは、二課にとって重要な戦力。

その辺も考慮した結果なんだろうと、一人で結論付けておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうのが。

五日くらい前のお話。

 

 

 

 

 

 

 

あのライブ以来『パニッシャーズ』の音沙汰は無く、わたし個人としてはそれが不気味に思えたりする。

緒川さん率いる諜報部の皆さんがあっちこっち駆け回って情報を集めているらしいけど、どの程度集まるのか想像がつかない。

世間があまり混乱していないのは、ある種の救いだったりするけど。

この後どうなるか分からない以上、警戒するに越したことはない。

 

「――――立花響ッ!お前に聞きたいことがあるッ!!」

「なんでしょ」

 

まあ、五日もあれば怪我なんてだいたい治るよね。

と言うわけで、了子さんを筆頭にした技術班に、ウェル博士が合流。

挨拶も済ませた早々に、わたしに向けて指を突きつけてきた。

 

「お前にとっての英雄とはッ!?」

「大衆のおもちゃ」

「ひねくれ過ぎィッ!」

 

文書を作成する傍ら、博士の質問に即答。

いやぁ、前世で必死こいて取得したワープロの知識が、まだ生きてて良かった。

忘れてる部分もあるけど、実際にやってみると次々思い出すし。

うん、これは思ったよりいけるかもしれない。

一方の博士は、まるで昭和のおじさんみたいに『かぁーッ!』と頭を抱えた。

 

「君くらいの青少年なら、もうちょっと夢を見るべきではないか!?」

「夢見てばかりの大人もどうかと思いますけどね。了子さん、実験申請の文書出来ました」

「送ってちょうだい、確認するから」

「はーい」

 

カタカタポチポチとパソコンを操作して、データを了子さんの端末に送る。

 

「だいたい自分が半ば英雄みたいな扱い受けてるくせに!こないだポカしたボクへの嫌味かッ!?」

「まさか、誰が好き好んで毛嫌いしてる存在になるもんですか。わたしの理想は縁側で緑茶を啜ることです」

「渋い、そしてささやか過ぎる・・・・」

 

――――いくら情報を規制しようとも、人の口に戸は立てられない。

ルナアタックの頃から、わたし含めたシンフォギア装者の噂はまことしやかに囁かれていたわけだけど。

あの『QUEENofMUSIC』の会場でわたしとマリアさんが生中継されたことから、実在がほぼ確信されてしまった。

一応『日本とアメリカが共同開発したパワードスーツ、仔細は秘密』と公式発表はしているものの。

たまに街中で、赤の他人から話しかけられるようになった。

その度に『人違いです』と訂正するのは、正直面倒くさい。

中にはしつこい人もいるから、なおさらっすよ・・・・。

で、わたしの持つ将来のヴィジョンの一つをカミングアウトすると、ナスターシャ教授を手伝ってたマリアさんが呟いていた。

 

「しかし、実際に『こいつ』を利用して、月を正常な軌道に戻すとはね」

 

『フロンティア』こと、『鳥之石楠船神』。

正式名称長ったらしすぎて、覚えるのを諦めた人は結構多いはず。

クリスちゃんと緒川さんが駆けつけたことで守られた完全聖遺物『ネフィリム』の力で制御し、月遺跡へアクセスすることで元の位置に戻すという作戦。

そのためのフォニックゲインの用意やら、やることはたくさんあるんだけど。

 

「だがネフィリムはとてつもない『大喰らい』、装者が六人いたとしても、一回の歌では起動しないでしょうね」

「だから早いうちからフォニックゲインをコツコツ溜めて、フロンティア起動に備えておくんでしょ?」

 

もちろん、制御機関(ハンドル)だけ準備したところで、意味は無い。

フロンティアを起こす『鍵』だって必要だ。

 

(――――『鍵』)

 

そこまで考えて、思考が立ち止まる。

・・・・『鍵』、『鍵』かぁ。

・・・・・やっぱり、『そう』するしかないんだろうか。

ああ、いかんいかん。

朝っぱらから思考が欝ってた。

『パニッシャーズ』という不確定要素がある今、足踏みしている暇なんてない。

 

「あ、響ちゃん。そろそろ偵察用の設備が届くはずだから、チェックお願いね」

「りょーかいです」

 

まずは、目の前のお仕事を片付けることにしよう。




ザババコンビに関するアレコレと、ウェル博士ログインの話でした。


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緊張し続けてると疲れる

結局。

あれから一週間が経過しても、連中は動きを見せなかった。

その間こっちは『フロンティア計画』にかかりきりになれたからよかったものの。

そろそろ何らかのアクションがあってもいいと思う。

 

「では、この一週間で判明したことを報告します」

 

さて。

ミーティングスペースに集められた、装者を始めとした主要メンバーズ。

 

「まず、ライブ会場および岩国基地を襲撃したパニッシャーズについてですが」

 

緒川さんに頼まれた友里さんが、モニターに新聞記事を表示した。

――――これは。

 

「日付は二年前・・・・立花達が、行方をくらました時の?」

「はい」

 

『中学生の少女二人、行方不明』『原因は周囲の迫害か』。

そんな見出しと共に、やれ現代の魔女狩りだのなんだのと、まるで自分こそが正義であると言いたげな文章がちらっと見えた。

 

「二年前、お二人の失踪を切欠に、全国で行方をくらませる青少年が続出しました」

 

理由は言うまでも無く、ツヴァイウィングのライブ。

その迫害に嫌気が差していた人々が、わたし達に肖って次々家出したらしい。

この『家出ブーム』が社会現象を引き起こしたことと、日本政府がそれまで伏せていたノイズ出現の現場を公表したことで。

迫害が終息してったんだっけか。

 

「そのほとんどは警察により発見・保護され、家族の下へ帰ることが出来ました。最終的に見つからなかったのは、五人」

 

その五人というのが、と。

続けて表示される顔写真。

当時手がかりとして警察に提出されたものらしい。

そのうち二人は、わたしと未来。

あー、何か。

若い。

たった二年前なのに、やけに子どもっぽく感じる。

この頃の未来、ほっぺがまだふくふくしてたんだよなぁ。

おっと、脱線してた。

気を取り直して、改めて画像を見る。

残りの三人は、ライブ会場や岩国で見かけた顔と。

 

「武永・・・・?」

 

知っている顔に、思わず名前を口走っていた。

緒川さんもそれを分かっていたのか、皆が少なからず驚く中でしっかり頷いていた。

 

「知ってんのか?」

「知ってるも何も、同級生だよ」

 

最も、クラスは違った上に友達ってわけでもないヤツだったけど。

小学校が一緒だったので、顔だけは何となく覚えていたのだ。

多分、誰もがそういう奴の一人や二人いると思う。

 

「ああ、そういえばあいつも会場にいたんだっけ」

 

あの頃は、誰があの現場にいたのかがよく分かった。

皆から迫害されて、良く目立ったもんだから。

・・・・それにしても、行方不明か。

よろしくない連中にとって、『実験動物』を補充するには絶好のチャンスってことか。

 

「二名を除いた三人は、米国の情報にあった組織に誘拐された可能性があるということね」

「そう考えるのが妥当かと」

 

マリアさん含めた何人かも似たような考えだったらしい。

っていうか、実際に顔合わせた奴がいるわけだし。

ほぼ確定したと見ていいだろう。

調査でも、顔の形やらを照合した結果本人と断定されたらしいし。

・・・・にしても。

あいつらの目的は一体なんなんだろうか。

復讐にしたって、どういう手段でそれを成すのか。

相変わらず予想がつかなくて困るし、怖くもある。

 

(けど・・・・)

 

それでも、わたしがやることは。

壊せる危難のこと如くを、砕いて壊して、葬るのみ。

 

「今回の調査により、彼らの潜伏場所らしき建物を発見しました」

 

おっと、いかん。

考えてる間に話は進んだみたい。

いつの間にか俯いてた目を上げれば、山奥らしい場所に佇む廃墟が。

 

「とある反社会的な組織の流通ルートを調べましたところ、架空の企業から備品や食料品の発注が確認されました。その最初の日付は、二ヶ月前」

「なるほど、準備を始めとした行動をするには、十分な期間・・・・そういうことね?」

「はい」

 

早速明日にでも作戦が行われることになって、装者は出撃まで待機を言い渡された。

 

「響ちゃんも、今日はもう帰っちゃいなさい。作戦開始は夜、体力を温存しとくに越したことはないわ」

「そいうことなら、遠慮なくー」

 

了子さんにも言われてしまったので、遠慮なく帰ることにする。

 

 

 

 

 

 

と、言うわけで。

 

 

 

 

 

「たっだいまー」

「おかえりなさい」

 

ちょっと早めに帰宅ですよー。

ぱたぱた出迎えてくれたのは、エプロン姿の未来。

ここんとこ帰りが遅かったから、ひっさびさに見た。

かわゆい(確信)

 

「今日は早いね」

「んー、代わりに明日の夜はいないけど」

「・・・・それって」

「まー、お察しのとーりとだけ」

 

暗に出撃があると言うと、目に見えて心配そうになった。

・・・・ああ、相変わらず。

優しいなあ。

 

「それより、今日のご飯何ー?何かいい匂いするねー?」

「あ、と。響、鮭好きでしょ?ホイル焼きにしてるの」

「大好き!やったね!」

 

とはいえ、あんまり暗い顔はさせたくないので、さっと話題を掏り替える。

味は感じなくとも、嗅覚はまだ生きてるからねー。

バターのいい香りが、空きっ腹にダイレクトアタックしてきとるよ・・・・!

 

「最近、すごく大変そうだから。ちょっとでも元気になれたらって・・・・・全然、大したことじゃないかもしれないけど」

 

そう言って、未来は控えめにはにかんだ。

ちょっと自虐が混じっていても、想ってくれる優しさは十分に伝わって。

・・・・・あー、もー。

この子は、本当に・・・・!

 

「・・・・ッ」

「ひ、響・・・・!?」

 

衝動のまま、抱き寄せる。

逃げないって分かっていても、やっぱり気になったから。

わたしごと壁に押し当てて、逃げられないようにする。

驚いている未来には申し訳ないけど、簡単に離すつもりは無かった。

・・・・温もりは感じないし、わたし自身も物理的に冷たい。

それでも、そんな実感以上の『温もり』は、確かにこの胸を温めていて。

 

「・・・・響、どうしたの?」

 

こんな突発的な行動にも関わらず、未来は律儀に抱き返してくれる。

問いかける声は変わらず、心配してくれているそれで。

 

「・・・・何でも無い、ちょっとだけこのままで」

「・・・・うん、いいよ」

 

――――わたしは、別にいい。

どんなに惨たらしい最期を迎えたって、文句は一切言わないから。

代わりに、優しいこの子へ。

優しくしてくれる仲間たちへ。

明るい未来(みらい)を、どうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――そろそろ、頃合なんじゃねェの?」

 

どことも知れぬ闇の中。

いつか岩国基地で響とぶつかった青年が、気だるげに話しかける。

 

「インターバルは十分取った。世間の気も緩みきってるだろうよ」

「それに、今はもっと別のことに夢中みたいだしね」

 

スマートフォンをいじっていたリブラが示した画面。

かつてネットやSNSに上げられた、響を始めとした装者達の画像が数多く上げられていた。

政府の規制によりページが削除されても、そこに上げられた画像を保存していた者がいたのだろう。

星に届かずとも、それなりに数のそろった彼らは。

一週間前のライブ中継を切欠に、こぞって溜め込んだ『コレクション』を放出しているのだった。

削除されようとも次々アップロードするその根性には、呆れるやら感心するやら。

 

「ドカンと一発かますには、十分でしょ?」

 

そろって笑いかける先。

頬杖をついていたそいつは一度目を伏せて、しばし沈黙。

やがて、醒めるようにゆっくり目蓋を開けた。

 

「・・・・そうだな」

 

静かに口を開いて、立ち上がる。

 

「そろそろ花火を上げるとしよう、秋空を煌々と照らすんだ」

 

ゆっくり歩き出したその姿に、他の二人も待っていたといわんばかりに笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「夜空を彩る、数多の(いのち)・・・・・きっときっと、綺麗だろうよ」

 

握った拳に炎が滾り、その顔をぼんやり照らした。

真っ赤な瞳は、一体何を――――




すみません、鮭好きなのは自分なんす。
塩焼きはジャスティス・・・・!


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閑話:おい鍋食わねぇか

出来るうちにほのぼの補給・・・・。


――――それは。

マリア一派が参入してきた、三日後のこと。

 

「鍋パーティですか?」

 

休憩時間、いつもの談笑タイム。

カフェラテを飲んでいた響は、きょとんと首をかしげる。

 

「そ、弦十郎くんの発案でね。マリア達という味方が増えたのはいいけれど、見逃せない不安要素も多々あるから」

「一回一緒にご飯食べるなりして、ある程度のわだかまりを無くそうって魂胆ですか」

「なるほど・・・・」

「ごめんなさい、うちの調と切歌が・・・・」

 

一緒に話を聞いていたナスターシャとマリアは、納得すると同時に申し訳なさそうに縮こまる。

響個人としては、原作ファンというミーハーな部分を抜きにしても仲良くしたいと思っていたところなので。

『ちょうどいいです』とフォローを入れた。

 

「それにしても『ナベ』ですか・・・・様々な具材を煮込んだ一つの器を、(みな)で分け合うという料理。確かに、親睦を深めるに相応しいでしょうね」

「お、おう・・・・いえ、みんなでわいわい出来るっていうのと、単純にあったかいからじゃないですかね」

「確かにここのところ肌寒いわよねぇ、そろそろこたつ出さなきゃ」

 

真剣に考察するナスターシャだが、日本人としては普段から何気なく食べているものなので。

そう大真面目に考えられると、どこかむずがゆい気分を覚える。

突っ込みを入れた響に、友里はココアを飲みながらのんびりぼやいたのだった。

 

「オーソドックスに寄せ鍋と・・・・トマト鍋?」

「豆乳鍋にキムチ鍋もあるわね。最近は鍋用のつゆも売られているから、家で出来るレパートリーも随分増えたわ」

「パーティーっていうなら、いっそすき焼きなんてどうでしょ。溶き卵につけて食べるとおいしいんですよねぇ」

「〆は麺派ですか?雑炊派ですか?」

「場合によるかしら、私すき焼きはうどんで〆たい派~」

 

日本勢が鍋について熱く語りあっている中。

ふと響が視線をずらすと、何やら目をキラキラさせて乗り出しているマリアが。

 

「あ、えっと・・・・そう、ね。おいしいものを食べれば、さすがの二人も大人しくなるかも」

 

見られていることに気付くと、顔を赤らめながらやや早口でまくし立てながらそっぽを向いた。

ナスターシャはそんな彼女を微笑ましそうに見守っている。

会話していた当事者や、傍から見ていた職員達は同じ感想を抱いた。

『何だこの可愛い生き物』、と。

 

「場所は弦十郎くんの(うち)を使うらしいから、広いわよー?未来ちゃんやお友達も是非誘って頂戴」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて会話がされた、さらに二日後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(白菜、春菊、長ネギ、きのこもある・・・・)

 

旧リディアン近くの商店街。

大きな買い物袋を抱えた未来は、買い忘れが無いかを確認していた。

 

「しらたきもあるし、豆腐も普通のと揚げたのとあるよー」

「鱈とアサリもオッケー」

「すき焼き用のお肉も、ナイスなお値段でゲットです」

 

同じくマイバッグを抱えた弓美、創世、詩織の三人も、それぞれが担当した食材の確保を告げる。

二課に新しいメンバーが参入したことにより、開催が決まった鍋パーティ。

せっかくだからと響に誘われた未来は、訳知りの友人である彼女達も誘ったのである。

 

「ありがとう、急な話なのにごめんね」

「いーってことよ!こっちとしちゃ、歌姫二人とご相伴できるっていう役得な部分もあるしね」

「お誘いいただきありがとうございます」

 

もう秋も半ば。

冬ほどではないにしても、油断すると体を冷やしかねない。

なので、未来達は移動を開始した。

会場である弦十郎邸についた四人は、未来が預かっていた合鍵で中へ。

 

「早いとこ作らないと、ビッキー達帰ってきちゃうよ」

「うん」

 

台所は好きに使っていいといわれている。

普段は緒川あたりが手入れしているのか、思ったより綺麗だった。

 

(申し訳ないけど、翼さんや弦十郎さんがキッチンに立ってるのは想像できない・・・・)

 

内心でこっそり謝りながら、いそいそ準備に取り掛かる。

色々悩んだ結果、寄せ鍋とすき焼きを大きめの鍋で出すことになった。

出されていた鍋は大分大きいサイズだったが、人数もいるためコレくらいがちょうどいいだろう。

 

「水切りした鱈、拭き終わりましたよ」

「白菜、春菊、長ねぎも切れた」

「ありがと」

「ヒナ、お肉の焦げ目ってこれくらい?」

「うん、火止めていいよ」

 

それなりの量だが、人手があるとかなり楽だ。

寄せ鍋用の出汁に醤油やみりんを加えて味を調える。

後はそれぞれの鍋に、火の通りにくいものから順に具材を入れていく。

最後に春菊やアサリといった火の通りやすいものを入れて、蓋をした。

 

「寄せ鍋のアサリが開いたら、いいくらいかなぁ」

「「「わー!」」」

 

メイン料理はこれでいいが、仕事はこれで終わりではない。

協力してテーブルと座布団を並べて、カセットコンロを設置。

箸や取り皿までスタンバイしてから、鍋二つを移動させる。

 

「お邪魔しまーす」

 

と、ここで。

玄関のほうが騒がしくなった。

ざわざわと複数人の声に混じって、知っている声も聞こえる。

未来達の方へ歩いてくる音。

宴の会場へ、一番乗りを決めたのは、

 

「小日向、ご苦労だった」

「おかえりなさい、翼さん」

「おお、うまそー」

 

この家の住人である翼と、ただよういい匂いに鼻をひくつかせるクリス。

 

「みんなは?」

「立花や司令達は最後の方に来る、他は順次・・・・っと」

 

翼が言い終える前に、また次の人物が。

 

「おぉ・・・・!」

「いい匂い・・・・」

 

未来は初めて見る、二人の少女。

一方は金髪のショートヘアで、活発な印象を。

もう一方は、黒い髪を二つ結びにした、大人しい印象を受けた。

正反対だが、ぴったり。

未来はそんな感想を抱く。

 

「自己紹介は後で纏めてやってしまおう」

「そうだな、ほら、好きなとこ座れよ」

「は、はい・・・・」

「デス」

 

翼とクリスに促され、部屋の中に入っていった。

 

「やあ、こんばんはお嬢さん」

「え、ああ、こんばんは」

 

彼女らを見送っていた傍から声をかけてきたのは、白衣を纏った好青年。

メガネの向こうから穏やかな瞳に微笑まれ、未来は慌てて返事をする。

 

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスと言います、長いのでお気軽にウェルとお呼びいただければ。今日はお世話になります」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ウェルさん」

 

弓美達が先ほどの少女達にあれこれ話しかけている部屋の中へ促せば、青年は小さく会釈した。

そして、

 

「未来ー!人ん家だけど、ただいまー!」

「響!・・・・ん?」

 

やはり待っていた、響の声。

目に見えて嬉しそうに反応した未来だったが、振り向いた先の光景に思わず首をかしげた。

その違和感の正体は、滅多に見かけない車椅子を見たからだとすぐに分かったが。

 

「ごめんごめん、ちょっと手伝ってたんだ」

「こんばんは、お世話になりますね」

「はい、じゃ、なくて、えっと・・・・」

 

車椅子の女性に微笑みかけられた未来は、直後に戸惑いの表情を見せた。

学校の授業やなんかで、車椅子の補助の仕方は習ったものの。

和室での対応が分からなかったからだ。

 

「大丈夫よ、私が出来るから。ありがとう」

「あ・・・・はい」

 

そんな未来を見かねてか、マリアが微笑みかける。

礼を言ったのは、未来の気遣いを察したからだった。

 

「これもう出来てんのか?」

「多分、そろそろ煮えてる頃ですよ」

 

『じゃあ、確認のため』とかこつけて、クリスが土鍋の蓋を開ければ。

ふわっとあがった湯気の中から、おいしそうな具材が色鮮やかに並んで、いい匂いを部屋中に運んだ。

 

「おぉー!」

「こっちもいい感じ、食べごろね」

 

了子がちゃっかり開けたすき焼きの方も、いい具合に煮えているようだった。

カセットコンロの火を、熱が維持できるくらいに弱めて。

各々座った面々に、取り皿が配られる。

そして、さあ食べようと行きたいところだったが。

初対面組みの簡単な自己紹介を先に行うことに。

主に弓美達学生メンバーの姦しい名乗りに、マリア達は少し気圧されていたものの。

調と切歌は、彼女達のノリを興味心身に見ていた。

 

「じゃあ、音頭は・・・・響くん、やってくれ」

「おっふ、ちょーっと無茶振りじゃないですかね」

 

気を取り直して、いい加減腹の虫を治めるべく食べることに。

弦十郎に名指しされた響は苦笑い。

だが何かを思いついたのか、ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべて。

徐に、両手を合わせる。

 

「おててをあわせてくださいッ!」

「ッあわせました!」

 

口から出てきたのは、聊か幼い表現。

『ネタ』が分かるのか、弓美を始めとした日本勢がノリノリで合わせてくる。

頭にはてなを浮かべていた面々も、響や弓美達にならい両手を合わせて。

それを確認した響は、更に子どもっぽい声を出す。

 

「いたーだきますッ!」

「「「「いたーだきますッ!」」」」

 

直後に上がる笑い声。

ネタが分からなかった面々も、響達の拙い振る舞いが面白かったのか釣られて笑う。

笑顔もそこそこに、早速それぞれ取り皿に具材やつゆを取っていく。

全員が咀嚼に集中したことで、束の間沈黙が降りて、

 

「うんまー!お出汁が効いててさいこー!」

「すき焼きの甘辛さも絶妙ー!」

 

ほっほと熱さを逃がしながら、幸せそうに顔をほころばせた。

ナスターシャは出汁の香りにほっと一息つき、調は初めて食べる鱈を静かに噛み締めている。

切歌は揚げ豆腐が気に入ったようで、溜まった熱に四苦八苦しながら頬張っていた。

マリアはというと、殻つきのアサリを見様見真似で食べながら舌鼓。

と、何となく視線を滑らせた先。

周りと同じように鍋の具を食べている響が見えて、ふと疑問がわいた。

 

「どうしたの?マリア」

「ああ、えっと・・・・」

 

気付いた了子が話しかければ、首をかしげていたマリアは少しばつの悪そうな表情になって。

 

「・・・・あの子って、その、味は?」

「ああ・・・・話したとおりよ、味覚は失われているらしいわ」

 

マリアの疑問を察した了子は、賑やかな周囲に紛れて、かつ聞こえる声で続ける。

 

「けど、未来ちゃんが作ったもの、ないし一緒に食べるものに関しては、ああやって幸せそうにしているの」

「・・・・そうなの」

 

見てみると、未来に感想を聞かれたらしい響は、にこにこしながら頷いている。

味覚がないと分かっていても、告げているのが世辞なんかではないことは容易に想像がついた。

 

「ところで、ぼぅっとしてると無くなっちゃうわよー?」

「え、あっ!」

 

はっと我に返れば、先ほどよりも減っている中身。

マリアは慌てて、箸を伸ばした。

ウェルはしらたきの感触を何度も噛み締め、弦十郎は卵をつけた肉をうまそうに頬張る。

クリスは食べかすを少々散らしながら、翼は幼少より仕込まれた作法で綺麗に食べていた。

あれだけあった中身も、十数人そろえばあっと言う間になくなる。

 

「さて、お腹にやや余裕を残したところで」

「本日の〆です」

「待ってましたー!」

 

ちょっと物足りなそうにしていた調と切歌を励ますように、詩織と創世がそれぞれうどん麺と米を取り出す。

 

「響、昔よくやってくれた雑炊って、どう作ってたっけ?」

「ああ、ちょっと待って」

 

未来が鍋の灰汁を取りながら問いかけると、響は一度座りなおし、雑炊用の卵を手に取った。

ご飯をくつくつ煮込む横で、割った卵の殻を使いながら器用に黄身と白身を分ける。

 

「まず先に白身をいれるじゃん?で、ちょっと煮る」

 

先にある程度かき混ぜた白身を加え、一回ししてから、蓋をする。

 

「そんで、黄身を加えて、後はオーソドックスに三つ葉を散らせば・・・・完成!」

 

少し待ってからほぐした黄身を入れ、三つ葉と一緒にまた一回しすれば。

黄色と白、そして緑の色合いが実においしそうな雑炊が。

うどんを入れたすき焼きも、また違った見た目で楽しませてくれる。

 

「お鍋の〆って欠かせないよねー、うまー!」

 

ある者はうどんを、ある者は雑炊を。

具材の旨味をたっぷり含んだ〆を、次々かき込んで行った。

 

 

 

 

――――ごちそーさまでした!

 

 

 

「美味かったか?」

 

片付けの時間。

『余計に散らかるから』と強く待機を言い渡された翼は、ナスターシャと話していた調と切歌に話しかけた。

 

「・・・・すっごく、おいしかった」

「デス、食べ物に罪はないのデス」

 

やはり響と同じ席というのが気にかかるようだったが、しっかり頷く二人。

 

「今度はうちらだけでやってみたいデス」

「うん、マリアにもうちょっと食べさせてあげたい」

「そうか」

 

翼はナスターシャと一緒に、同じく微笑ましげに頷いている。

 

「お前達は、マリアが大切なんだな」

「当たり前」

「大好きデスから」

 

零した言葉に、勢い良く食いついて即答。

それを受けた翼は、やや真面目な顔と口調に切り替えた。

 

「だがな、それは小日向も同じなんだ。立花を好いていて、とても大切に思っている」

「・・・・ぁ」

「・・・・っ」

 

自分達よりも『立花響』を知っている人物だからか、それとも今日話すことが出来て、少し距離が縮まったからか。

気がついた顔で、二人は同時に未来を見た。

机の片づけを手伝っていた彼女は、視線を一遍に受けて。

最初こそ戸惑っていたものの、すぐに『どうしたの?』と笑みを浮かべる。

そこへまた別の机を片付け終えた響が戻ってきて、話しかけると。

未来は顔をほころばせながら答えていた。

 

「・・・・立花は、お前達の感情と向き合うつもりのようだし、私達が言ったところで止まる奴でもあるまい」

 

戸惑い互いを見合う切歌達へ、翼は目を伏せて続ける。

 

「だが、あの子にも、あの子を大切に想っている人がいて、守りたいと想っている人がいる」

 

どこか不安げに見上げてくる彼女等の頭を撫でて、笑みを浮かべる。

 

「どうか一度立ち止まって考えて欲しい、『仇敵を討つ』というその意味を」

 

言葉が出ない代わりに、二人はまた頷いた。

・・・・考えもしなかったのだろう。

憎くてたまらない相手にも、自分達の家族のように。

大切だと想い合う人がいるだなんて。

 

「案ずるな、立花は逃げも隠れもしないから」

 

最後にそう締めくくって、翼はまた微笑んだ。




さって、どシリアスの制作に戻らなきゃ(白目


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牙剥く『痛み』

正直やりすぎた←


「こんにちは」

「あら、未来ちゃんいらっしゃい」

 

放課後、旧リディアン近くの商店街。

新設された校舎からは少し距離があるものの、やはり通いなれた場所ということもあって。

未来はよくここで買い物をする。

いつもの八百屋に行ってみれば、すっかり顔馴染みとなった妙齢の女性が出迎えてくれた。

 

「今日は『旦那様』いないの?」

「あはは、今晩は泊りがけだそうです」

「あら、大変ね」

 

ごく稀にだが、休日なんかには響とも買い物に来たりする。

その際のやり取りが、『夫婦』だなんて茶化されるくらいにぴったりらしく。

この女性含めた数人には、すっかり『旦那様』なんて認識されている響だった。

 

「じゃあ、今日は未来ちゃん一人なんだ?戸締りはしっかりね」

「はい、ありがとうございます」

 

会話しながらも、あれこれ野菜を選んだ未来。

会計を済ませて、帰路に就こうとして。

 

「――――ッ」

 

突如として街中に響く、低く唸るような音。

それがノイズの出現を知らせるアラートだったからこそ、未来は体を強張らせた。

 

「未来ちゃんこっち!一緒にシェルター行こ!」

 

すぐに反応した八百屋の女性は、鋭く声をかける。

未来は戸惑いながらも頷き、せめてもの礼にと店じまいを手伝う。

 

 

 

 

 

 

「――――なんだ、これは」

 

一方、二課本部。

その光景に、誰もが愕然となる。

司令室モニターが映し出したのは、首都圏にある人口三十万ほどの都市。

そこをぐるりと囲むように立ちはだかっているのは、色とりどりのノイズ達。

市内へ進撃するでもなく、周辺へ散らばるでもなく。

ただ、そう。

まるで通せんぼをするように突っ立っていた。

積極的に人を襲う様子は無いが、動かない分警察や自衛隊などの一般的な組織の足止めに効果を発揮していた。

 

「一体、何を・・・・!?」

「どちらにせよ、放っておく道理は無い!全員出撃だ!」

「ッ了解!」

 

装者全員に号令がかけられ、響達は駆け足で司令室を後にする。

 

「市内の監視カメラとの同期、完了しました!」

「映像出ます!」

 

モニターが切り替わる。

映し出されたのは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物が燃えている。

道路が燃えている。

人間が燃えている。

火の手はあちこちに上がり、生きているもの全てを飲み込まんとする。

万一炎から逃げることが出来ても、そこらじゅうを闊歩するノイズの群れがやはり生きるのを許さない。

少しでも鼓動を続けさせようなら、一瞬で刈り取られた。

建物が崩れている。

道路が割れている。

生き物が死に絶えている。

ノイズか人か分からない黒い塊を踏みつけながら、まだ生きている人々は逃げ惑った。

 

「逃げろ!とにかく走り続けるんだ!」

 

彼らもまた、そんな一人だった。

痩せ型の中年サラリーマンとその妻、そしてその娘らしき三人が。

炎とノイズを何とか避けながら逃げる。

娘の腕には生まれたばかりの赤ん坊が抱かれており、この緊迫した状況が分かるのか、終始泣き叫んでいた。

その父親がどうなったのかは・・・・語らずとも分かることであろう。

 

「何で、何でこんな・・・・!」

「誰だって同じだ!どこかに、絶対どこかに安全な場所が・・・・ッ!」

 

そんな一家の目の前に、降り立ったものがいた。

リブラだ。

彼女は意味深ににやつきながら、通せんぼするように立つ。

ウェーブがかった癖っ毛から覗く瞳は、どこか鋭く一家を睨んでいた。

彼らは呆然としながらも、しかし心当たりのある顔をする。

 

「理沙・・・・やっぱりお前なんだな?」

「あーら、覚えていたの?意外」

 

父親が一歩前に出れば、リブラは嘲りながら鼻で笑う。

 

「『家族じゃない』っていうくらいなんだから、もうとっくに忘れてると思ったわ。すごいじゃない」

「・・・・ッ」

 

完全に小馬鹿にした態度。

父親は大声で反論しそうになるが、ぐっと堪える。

堪えた上で、口を開いた。

 

「・・・・このノイズ達は、お前が操っているのか」

「そうよ、言うことをきちんと聞いてくれるの。どっかの誰かさん達みたいに、無視や否定なんてしないいい子達なんだから」

 

そう、リブラが指先を動かせば、周囲にいたらしい個体が寄ってくる。

手がアイロンのようになっている個体の頭を撫でて、おたまじゃくし型に腰を下ろす。

一家はそれだけで、目の前の彼女が異常な存在であることを悟った。

 

「・・・・だったら」

 

しかし父親は、この事実を好機と見込む。

地面にひれ伏し、すっかり熱せられたアスファルトへ額をこすりつけた。

 

「だったら頼む!母さんと真子だけは逃がしてやってくれないか!?」

「お父さん!?」

「お父さん、何を!?」

 

妻と娘のぎょっとした視線を受けながらも、しかし彼は土下座をやめない。

 

「後悔しているんだ!こんなことになって!本当に!だからッ・・・・・!」

「・・・・そう」

 

――――自分を担保にして、家族を助ける。

実に麗しい行為だったが。

 

「残念だわ、本当に。()()()()()にならなきゃ、自分の仕出かしたことを自覚しないなんて」

「理沙・・・・!」

 

次の瞬間、リブラははっきりと顔に怒りを刻んだ。

 

「こんなアホ共と十年以上家族してたなんて、反吐が出る!!」

「理沙!お願い、やめて・・・・!」

「わたしが『やめて』と言って、あなた達はやめたかしら!?やめてないわよね!?ねぇ!?」

「理沙、理沙、理沙・・・・・!」

「軽々しく名前を呼ぶなッ!!」

 

絶望する夫にすがりながら、母親は懇願する。

だが、彼らの発するいかような言葉も、もうリブラには届かない。

 

「やっぱり死んでよ。死んで地獄に落ちて、ずっとずっと苦しみ続けてよ!!」

 

そしてとうとう怒りのまま、棍を突きつけて号令を出した。

飛び出すノイズ達。

両親は悲鳴を上げる間もなく、避ける暇もなく。

絶望をはっきり顔に出して、黒い塵に変わった。

 

「は・・・・はぁ・・・・・はっ・・・・!」

 

咄嗟に身を捻った娘は、呆然と両親だった塵を見つめる。

錯乱しかけた心を繋ぎとめたのは、腕の中で泣き喚く赤子。

 

「ね、ねぇ、理沙?」

 

わなわな震える唇を、何とか動かす。

 

「ゎ、私は、ダメ、でも、この子はいいでしょ?何にもしてないもの、何にも悪いことしてないもの、見逃してくれたっていいでしょ?ねぇ?理沙?」

 

早口になってしまったが、言いたいことは言えた。

未だ泣き叫ぶ我が子の声は、母親としての本能を刺激して。

命乞いをするだけの理性を繋ぎ止めてくれている。

降りる沈黙、両親の塵が風に散り始めた頃。

 

「――――その子にとっての不幸は」

 

しかして、無情にも。

棍の切っ先は突きつけられる。

 

「あんたみたいな親のとこに生まれたことよ、姉さん」

 

ぞっとするほどの、淡々とした無表情。

まるで無機物を見るような、廃棄物を見るような。

少なくとも生き物に向けていい目じゃなかった。

 

「ぁぁ・・・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」

 

逃げなきゃという一心で、抜けた腰を取り戻して立ち上がる。

みっともない声を上げながら来た道を引き返し、少しでも背後の『脅威』から距離を置こうとして。

間もなく、赤ん坊の泣き声と共に途切れた。

呆気なく散った、家族だったモノ達。

吹いてきた強風にさらわれ、跡形も無く消えていく。

 

「――――ざまぁみーろ」

 

子どもっぽく『あっかんべぇ』をして、移動する。

足りない、まだ足りない。

この町の人間を一人残らず始末しなければ、この怒りは収まらない。

歩みを進めるその姿には、罪悪感など欠片もなく。




『災害ってこんな感じかな』ってノリで書いてました。


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地獄の中で

前回までの閲覧、評価、感想、誤字報告。
誠にありがとうございます。


街の惨事は、空の上からなおよく見えた。

あちこちにあがる火の手。

目を凝らせば、ノイズから逃げ惑う人々が見えた。

 

「くそっ・・・・!降下ポイントはまだか・・・・!?」

「おちつけ雪音・・・・急いては事を仕損じる、だ」

「んなこた分かってんだよ!」

 

翼が苛立ちを隠しきれないクリスを宥めるも、今の彼女には逆効果だった。

もっとも、翼の方も悔しさを堪え切れないらしいが。

と、ここで。

注意深く地上を見下ろしていた響は、弾かれたように顔を上げた。

 

「ッここで降りましょう!!」

「何?」

「貴女までどうしたの・・・・?」

 

クリスに続き、響までも焦燥を抑えきれないかと、年長者組みが案じる。

装者が乗っているヘリコプターの現在地は、街を囲むノイズの中間地点上空。

弦十郎が『バリケードを突破するのは困難』と判断した為、降下ポイントは群れを超えた先に指定されたのだが。

 

「いいから早く!このままだと・・・・!」

 

言い切る前に衝撃。

大きく揺れる機内で、何事かと翼が視線を巡らせれば。

今まさに運転席で飛び散る、炭の粉。

 

「――――こうなるからですよッッ!!」

 

もとよりノイズとは、人間を殺戮する存在。

更に制御されているともなれば、パイロットを狙い撃たれるのは必然だということだろう。

響とマリア、更に翼が咄嗟にギアを纏い、それぞれの得物をぶち当てる。

斬り裂かれ、貫かれ、全力で殴打され、内側から破裂するように壊れるヘリ。

黒煙を振り払って飛び出した装者達は、残りの者もギアを纏った。

 

(どうあがいても分散するか・・・・!)

 

パラシュート無しでのスカイダイビング。

休み無い強風で眼球を乾かされ、涙をボロボロ流す響は、周囲を見渡してそう判断。

ならばと一度加速して、近くにいた調を抱きとめる。

他の仲間たちも同じように判断したようで、マリアが切歌を、翼がクリスを確保しているのが見えた。

高速で迫る地面。

響は調を片手に抱えなおし、『手』を出現させて。

思いっきり、地面にぶち当てる。

大きく陥没する地面。

瓦礫と共に大量のノイズが吹き飛び、周囲にボトボト落ちて行く。

無事だった個体達が突撃しようとすれば、土煙から飛び出してきた無数の丸鋸に切り刻まれた。

 

「・・・・お礼は言う、上手く着地する手段が無いから」

「どーいたしまして」

 

薄くなった煙を払えば、二人を取り囲む予想以上のノイズ。

 

「マリアや切ちゃん達と離れちゃった」

「マリアさんなら、この数を馬鹿正直に相手しないっしょ」

 

LiNKERの効果時間も無限ではない。

突破のために相手はしても、大真面目に殲滅するとは思えなかった。

二課からの通信に寄れば、思ったとおり真っ直ぐ市内を目指しているとの事だ。

翼・クリスペアも同じ場所に向かっているらしい。

 

「わたし達も市内を目指そう、人命を優先させなきゃ」

「・・・・了解」

 

・・・・つい数日前に行った、夕食会が功を奏したらしい。

提案に変に噛み付くことなく、調は首を縦に振ってくれた。

響は手甲を変形させる。

市街地の方向は、落下中に確認済みだ。

 

「――――ほら、どけよ」

 

獰猛に笑って、突撃する。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

ノイズの群れを最初に突破したのは、翼・クリスペアだった。

ミサイルに飛び乗った二人は、ノイズを轢殺しながら進撃。

数の暴力から、現世に顕現した地獄へと、一番乗りを果たした。

刃を振るい、鉛玉をばら撒き。

煤と熱が蔓延する中を、ノイズを駆逐しながら駆け出す。

 

「くっそ!予想通りの地獄かよ!!」

「口より手を動かせッ!一匹でも多く閻魔殿へ突き出すんだッ!!」

「わぁーってらぁッ!!」

 

一気に飛び出した翼が、一閃を叩きつける。

一体を斬れば次を、次を斬ればそのまた次を。

すれ違うと同時に動きを止めるノイズ達。

そんな神速とも言うべき動きに合わせ、クリスはボウガンの矢を次々突き刺す。

瓦礫を撒き散らしクリスの隣に戻ってきた翼は、刀身についた炭を振り払った。

刹那、体を二つにずらすノイズ。

刺さった矢が爆ぜることで追い撃ちをくらい、次々爆散していく。

瓦礫を掻き分け、ノイズを殲滅し。

時には生存者を探しながら、二人は熱気の中を突き進む。

 

「――――きゃあああああああ!!」

 

そんな折聞こえた悲鳴。

一度足を止めた翼は、周囲を見渡す。

そして一点を見つけて、突撃。

間一髪の所で、腰を抜かした男女とノイズの間に割って入り、両断した。

 

「大丈夫か!?」

 

後からついてきたクリスが安否を確かめるも、呆然とした男女は翼に釘付けになっていた。

 

「・・・・お怪我は?」

「あ、その、大丈夫です」

「ありがとうございます・・・・風鳴翼、さん」

 

座り込んだままの女性に手を貸し、起こしてやる。

男性は自力で立っていた。

 

「あの、私達はどうなるんでしょうか?今、何が起こっているんでしょうか?」

 

テレビでよく見る、ある種の『偶像』が目の前にいるからだろう。

拠り所を求め、女性は矢継ぎ早に質問する。

 

「私達は、助かるんでしょうか・・・・!?」

「・・・・ッ」

 

どこか縋るような視線に、一種の『重たさ』を感じてしまって。

翼は思わず目を伏せて逸らす。

・・・・この地獄を作り出しているのは、十中八九パニッシャーズだろう。

彼らは二年前の迫害を切欠に行方を暗ました。

ではその大元である迫害の原因を生み出したのは、誰か。

間違いなく己自身であることを、翼は自覚していた。

 

「それ、は・・・・・」

 

だからこそ、普段は即答できる『大丈夫』を簡単に言えなくなってしまっていた。

どう答えるべきか、悩んでしまったが故に言いよどみ、その様が彼らの不安を助長させる。

自分の至らなさに嫌気が刺しながら、それでも何とか言わねばと顔を上げて。

 

「――――今、いい情報が入った」

 

本部と通信を取っていたらしいクリスが、口を開いた。

 

「さっきまでこの街全体を、ノイズの団体がぐるっと囲んでいたわけだが、その包囲網に綻びが出来たらしい」

「ほ、本当ですか!?」

「仲間が派手に暴れてくれたお陰でな」

 

詰め寄った男性に、クリスはどこか得意げに笑いかける。

 

「場所はここから南西にまっすぐ行ったところだ。うちのスタッフがいるはずだから、保護してもらえ」

「ッ分かりました・・・・それで、その、お二人は?」

 

不安が残った中、どこか期待するように問いかけてくる男性。

ノイズを倒せる二人、あるいはどちらかについてきて欲しいようだ。

もちろんクリスも、当然翼だって、つきっきりで守ってやりたいのは山々だが。

クリスは申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「悪いが一緒に行ってやれねぇ。こんな大騒ぎを起こした元凶を、とっちめなきゃなんないんでね」

「・・・・・申し訳ございません、期待させておきながら」

 

翼も一緒になって頭を下げると、男女はあたふたしながら『しょうがない』と許してくれる。

 

「ちょっと、希望が見えてきました。もうちょっと頑張ってみます」

「ありがとうございます!」

 

逆に感謝した二人は一礼すると、足早にクリスが示した場所を目指し始めた。

 

「らしくねーな、いつもなら声かける奴がさ」

「・・・・すまない」

 

クリスに肩を叩かれる。

対する翼は、蚊の鳴くような声で返事をした。

普段滅多に見せないしおらしい姿に、クリスは内心で『重傷だ』と呟く。

うなじに手をあて、少し考えて。

 

「・・・・別に、あんたの所為ってわけでもないだろーに。仮にそうだとしても、真面目に防人やってんだ。償いも十分してると思うけど?」

 

翼は顔を上げる。

目には未だ罪悪感やら自嘲やらがたっぷり宿っていたが。

口元に浮かべた笑みから、ちょっとは持ち直したとクリスは判断した。

 

「しっかりしろよ、センパイさん?」

「・・・・ああ、すまない」

 

クリスへ、不甲斐なさいっぱいに感謝を伝える。

と、女性の方がこちらを振り返る。

 

「翼さーん!頑張ってくださいねー!」

 

そうどこか無邪気に手を振って、声援を送ってくれた。

 

「――――ッ」

 

その姿を見て、翼はどこかはっとなったようだった。

心に巣食っていた、鬱屈とした思いが。

全快とは言い難くも、晴れたことに気がついた。

知らないということもあるだろう。

だがこの地獄の元凶に、彼らは笑ってくれた。

感謝してくれた。

 

 

 

――――あたしらでさ、歌手やらねーか?

 

 

 

奏から歌手活動に誘われた日の事を思い出す。

理由として彼女は、『《歌に元気を貰った》と言ってもらえて、嬉しかった』と話していた。

聞けば、話を持ち出される前にあった出撃で、自衛隊員にそう言われたらしい。

 

(・・・・奏も、こんな気持ちだったのかな)

 

宿った清々しさを守るように、胸元を握り締めた。

その時、

 

「――――あら、奇遇ねぇ?」

 

挑発的な、嘲る声。

クリスと共に振り向けば、忘れもしないにやけ顔。

 

「自分から殺されに来るなんて、殊勝だこと」

 

嘲笑う声に対し、翼は剣を突きつけることで応えた。




この頃圧倒的なひびみく不足・・・・!


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ボスキャラってでっかくなるの好きだよね

更新がまま成らないにもかかわらず、日間ランキング七位・・・・。
ただただ感謝感謝です(土下座ァ


「・・・・リブラ、いや、『後藤理沙』だったか」

「あっはは、何でもお見通しってワケ?その上から目線、ムカツク」

 

言葉で牽制しあう中、ふと、翼はリブラの体に付着したものに気付いた。

暗い色の中でもはっきり分かる、その赤は。

 

「貴様、まさか・・・・!?」

「なぁによ?別にいいじゃない?人の尊厳いたぶって、へーきでいるようなクソじゃない?」

 

煽るためか、リブラが振り回した棍からは数滴の血が飛び散った。

 

「・・・・両手や足の指じゃ足らねぇ数ってことか」

 

『何を』『どうした』とは言わない。

油断無く銃口を向けるクリスは、怒りを押し込めた声を出す。

 

「しでかしたことは、ぜーんぶ自分に返ってくるって聞いたことあるでしょう?この街の奴等も、それに当てはまっただけ」

 

両手を広げたリブラはくるくるステップを踏む。

『だから悲しむ必要は無い』と、欠片も悪びれていない笑みを向けた。

 

「だからとて!完全に関係の無い者まで巻き込むのか!?」

「ちょっと道を聞いたくらいの他人にすら、石を投げるような連中よ?同じ目に遭えばいい」

 

道中には、ノイズ以外の要因で亡くなっている人もいた。

崩れた瓦礫の下で事切れていた親子を想起し、翼が咆えるものの。

リブラは一向に取り合わず、切り捨てるようにきっぱり言い放つ。

 

「ああ、そもそも『善良な市民』を極悪人に変えた元凶がいたわねぇー?だーれだっけー?」

 

そして責める様な視線を向けられて、翼の心がまた揺れた。

 

「あんただけは逃がさない。徹底的に、惨たらしく、殺してやるんだから・・・・!」

「言うじゃねぇか、二人相手によ?」

「当然、ただで倒せるとは思わない・・・・だから」

 

クリスがどこか挑発的に嗤えば、リブラもまた、応える様にいやらしい笑み。

 

「――――最初から、本気で挑むわ」

 

徐に棍を捨てると、ぐ、と体をちぢ込ませる。

力を溜めるように、痛みに耐えるように。

しばらく唸っていると、変化。

めきり、と。

肉体が悲鳴を上げる。

 

「初めはただの家出だったの、でもわけのわからない連中に連れて行かれて、体を薬漬けにされて」

 

胸元に灯るは翡翠の光。

 

「けれど、今はそれでよかったと思っている。妙な女が片付けたマッドには、多少お礼しなきゃ」

 

粘性の液体のようにあふれ出た翡翠は、リブラに纏わりつき、その体を肥大化させる。

 

「・・・・そーいうのアリかよ」

『――――言ったでしょう?本気でいくと』

 

さほど待つことなく終わる『変身』。

二人の目の前に現れたのは、巨大な『龍』。

頭部にあたる部分。

甲殻が花弁のように開き、中から人型の本体が現れる。

 

『『執行者団(パニッシャーズ)』が一人、天秤(リブラ)。正義の味方気取りのお前達に、鉄槌を下してあげるッ!!!』

 

閉じた甲殻は『龍』の顔となり、その鋭利な牙を除かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

両手から刺突刃を出したまま、飛び上がってグルグルルーッ!!

気分は心臓を捧げる最強の兵長。

着地した後もスッパスッパノイズを切り裂き続け、次々片付けていく。

翼さんとクリスちゃん、マリアさんに切歌ちゃんが市内に突入した今。

わたしと調ちゃんはノイズの団体様を相手にしているところだった。

『パニッシャーズ』を倒すのももちろん大事だけど、人命だって大事だもんね。

街全体がノイズに囲まれている今、いい加減逃げ道も確保しとかないと。

というわけで、また次の個体を千切っては投げる次第ー!!

 

「ひゃっはあぁー!」

 

固まっている一団の前に立ち、突撃。

両手の刃を振り回せば、面白いくらいに炭が舞う。

ふははははッ!見ろォ!ノイズがゴミのようだぁッ!

 

「おっと」

 

調ちゃんの背後に迫る固体を発見。

当の本人は前方の群れで手一杯みたいだから、加勢に。

足のジャッキを打ち込んで、一気に跳ぶ。

両手を振り上げて、またジャッキの衝撃で加速して。

 

「イエエエェェェガアアアアァァァッッッ!!」

「・・・・ッ」

 

頭上から急襲すれば、オタマジャクシは薄切りになって散った。

 

「・・・・さっきから、助けられてばかり」

 

だいじょーぶだったかなっと振り返ると、調ちゃんが怪訝な顔でこっちを見ている。

 

「一度、殺して・・・・日が経っていないのに。どうしてそう簡単に・・・・」

 

んー、どうやら前向きに連携してるのを疑問に思われてるっぽい?

まあ、ヤル気満々に伐り刻んだ相手がニコニコ笑って歩み寄ってきたら、驚くよね。

とはいっても、

 

「そういう趣味だから。気色悪いかもだけど、多少は堪えてくださいなー」

「趣味ってそんな・・・・・ッ!」

 

今は敵のど真ん中。

時間が惜しかったので、そうお茶を濁しておく。

調ちゃんは案の定納得いっていない様子だったけど、敵が詰め寄ってきたことで断念しちゃったみたい。

・・・・・度重なるアレコレで風化しちゃったわたしと違って、君と切歌ちゃんの胸に灯った『炎』はまだ健在。

燃え盛っているうちに決着をつけられるよう、大いに悩みたまえー、若人ー。

なーんて、ちょっとセンチな気分になっていると。

 

「・・・・?」

 

耳が音を拾う。

始めは断続的な殴打、それは近づいてくるたびに瓦礫を散らして引きずる音に変わる。

方向は・・・・・ッ!!

 

「ちょっとしつれー!」

「へっ?なっ!?」

 

規模からして巻き込まれかねないと判断して、調ちゃんをホールド。

その場を思いっきり飛びのけば、次の瞬間。

逆さになった視界、地面の上を、巨大な『何か』が通り過ぎる。

体勢を立て直して着地すれば、その大きな尻尾に弾き飛ばされた。

 

「翼さん!?クリスちゃん!?」

 

まるで木の葉のように宙へ放り出された二人は、無抵抗のまま地面に転がった。

ちょっと大丈夫なん!?アレ確実に何本かイってるっしょ!?

 

「・・・・ッ!?」

『――――余計な茶々は入れないで頂戴』

 

調ちゃんを降ろして駆けつけようとした矢先。

邪魔をするなといわんばかりに、あの尻尾が叩きつけられる。

そっちこそ邪魔だと振り向けば、目の前に巨大な『龍』がいた。

警戒するようにちろちろ舌を出していたそいつは、徐に頭を上げる。

すると顎が花びらみたいに開いて、中の人型を露にした。

もはや人のそれではない肌と瞳の、そいつは、

 

「リブラ・・・・!?」

『ふふ、ライブ会場ぶりね』

 

妖艶な笑みを浮かべて、リブラは笑いかけてきた。

・・・・・これは、ちょーっと。

予想外かなぁ・・・・。




AXZ最終話。
訃堂おじじの発言と言い、あの子に盛大に立ったフラグと言い。
いやぁ、五期が待ち遠しいですなぁ!(愉悦)


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間違いじゃない

先日投げた、ギャラルホルン案件へのご反応。
誠にありがとうございました。


「いや、ダメって言われて『はいそーですか』って従えないお年頃なんで」

『くっ・・・・!』

 

間髪いれず、響は拳を突き出す。

エネルギー弾が飛び、リブラの顔面へぶち当たった。

相手の視界が煙に阻まれたのを確認して、響はリブラの胴体を飛び越える。

駆けつけてみれば、翼もクリスも酷くボロボロだった。

 

「随分やられてるね、だいじょーぶ?」

「・・・・強がり言えねぇ時点で察し・・・・ッぐ」

「あぁー、はいはい。無理させてゴメンって」

 

やや威勢よく言い返すクリスと違い、翼はただ黙って痛みに耐えるのみ。

いや、己を抱いて震える様から見るに、きっと。

何となく察した響はあえて追及せず、まずは負傷者である二人を逃がそうとする。

しかし、そうは問屋が卸さない。

 

『させるかッ!!』

「ち・・・・!」

 

立て直したリブラが、鱗をあたりにばら撒く。

すると着弾した場所からノイズが生まれた。

『生まれた』と思って、いいやと響は否定する。

翡翠の閃光から察するに、ソロモンの杖が絡んでいるだろうとあたりをつける。

 

「ゴメン調ちゃん!二人をお願い!」

 

返事を待たず手短にそう告げて、響はリブラへ立ち向かう。

『花弁』を閉じ、完全な『龍』へとなったリブラ。

なお鱗をばら撒いて、次々ノイズを呼び出し続ける。

戦いが少なからず長引くと読んだ響は、自らの進路を邪魔する個体のみを駆逐。

悠然と空を泳ぎだしたリブラに飛び掛かる。

 

『ッ降りなさい!!』

 

飛び乗ったお邪魔虫を振り払おうと、空のあちこちを猛然と飛び回るリブラ。

 

「ッ、おおおおおおおおおッ!!」

 

その勢いと風圧に振り落とされそうになりながらも、響はリブラの胴体を駆け上がる。

 

「だあぁッ!!」

 

ジャッキの衝撃も利用して、とうとう頭部へ。

一層飛び上がった響は、拳を振りかざして。

 

「ぐがッ!?」

 

横合いから飛んで来た鱗に直撃した。

一瞬怯むも、すぐに身を翻して立て直す。

ノイズを踏み潰しながら着地すれば、弾丸として迫り来る鱗の数々。

歯を剥き目を細めた響は、それでも落ち着き払って構えを取る。

 

「ふっ!はっ!せいっ!」

 

次々飛んでくる鱗を、次々蹴りつける。

蹴り飛ばされた鱗達は、ノイズにぶつかり、反射しながら飛び回る。

 

「そぉりゃっ!!」

 

最後の仕上げに、一発。

度重なるバウンドの末、一箇所に纏まった鱗達を、まるでビリヤードのように弾いた。

弾かれた鱗達は一転、今度はリブラへ向かって飛んでいく。

 

『なっ、いった、たっ、てっ、ちょっと!あったぁっ!!』

 

巨体故、咄嗟に対処できなかったのだろう。

全弾の直撃を受けて、苦い顔をしていた。

その様を見て、響は確信する。

ライブ会場、果ては岩国基地で『パニッシャーズ』と接触して以来。

響は一つの仮説を立てていた。

曰く、『力はあるにはあるが、経験はまったくと言っていいほどのド素人ではないか?』。

そして今、仮説はリブラの情けない様を以て、現実のものとなったのだ。

 

「イメチェンってレベルじゃないね。あ、もちろん悪い意味で」

 

そんなリブラへ、響はにやつきながら手を広げる。

 

『・・・・・本当に、こちら側に来る気はないのね』

「一昨日きやがれ、ばぁーか」

 

響が中指を立てた瞬間。

リブラは『花弁』の中に引っ込み、『龍』の牙を剥く。

豪速で空を翔けると、響のすぐ頭上で大口を開けて。

 

「――――ぁ」

 

調が声を上げたときには、ばっくり口の中へ。

哀れ飲み込まれてしまったかと考えた調は、咄嗟に戦闘態勢を取ったが。

ふと、違和感に気付いた。

口を閉じたままえづいている『龍』。

しゃっくりをするように痙攣した後、その顎が()()()()

 

「――――腹立つやつぶちのめして、治まるもんじゃないっしょ」

 

響は閉じようとする顎を体全体で押し返しながら、力んだ声で反論。

ここで一旦力を溜めて、顎をこじ開け脱出する。

 

「連中と同じように、無差別に傷つけた時点でどっちもどっちだ。お前らがやってんのは正当な復讐じゃない、単なる八つ当たりだよ」

 

マフラーを靡かせて着地。

『花弁』を開いて睨みつけてくるリブラへ、語りかける。

 

『ッ、お前えええええええッ!!』

 

響の語り口が癪に障ったらしい。

激昂したリブラは、響へ標的を変える。

マシンガンのように撃ち出される鱗を、走り回って避ける。

翼達から離すことが先決と考え、移動を開始。

散々煽ったお陰か、リブラのターゲットは完全に響に向いている。

調に二人を押し付ける形になってしまうのは少し心苦しかったが、今は堪えることに。

ノイズを蹴散らしながらひとっ飛び。

リブラが翼達を背中にする形で向き合い、対峙する。

戦いの素人と判明したとは言え、その力が強大であることに変わりはない。

油断無く構えを取り、静かに睨む。

と、舞い上がったリブラは地面に胴体を沈めた。

すると足元が揺れて、無数の蔦がアスファルトを割って出現。

鋭い無数の先端が、響へ襲い掛かる。

地面を突き刺す連撃をステップで避けた響は、そのいくつかを斬り払いながら接近。

距離を取ろうと舞い上がる胴体へ刃を引っ掛け、かすかながらもダメージを与える。

リブラはノイズへ号令をかけ、自らの体に取り込む。

すると響に付けられた傷跡が見る見る再生していった。

 

『ッ何故!?どうして味方をするのッ!?』

 

そんなことも出来るのかと響が感心していると、『花弁』から現れたリブラが問いかけてくる。

 

『だってあいつは原因じゃない!わたし達がこんなことになった、元凶じゃないッ!!どうして怨まないの!?どうして憎まないの!?』

 

またその質問かと、響は隠そうともせずげんなりして。

いつも通りあしらおうとして、

 

『あなただって、生き残った人間じゃない!?仇をとろうとは思わないのッ!?』

「・・・・ッ」

 

その言葉に、一瞬動きを止める。

すぐ我に返り、攻撃されるかと身構えたが、リブラは何もしてこなかった。

響の答えを、律儀に待っているようだ。

生半可な答えは良くないと判断して、響は参ったなと頭をかいた。

いつの間にか背後に回っていた翼達を振り向く。

調とクリスに支えられて立っている翼と、目が合った。

生真面目だが頼りがいのある先輩は、何時に無く憔悴しきった様子だ。

きっとリブラから向けられた恨み言を真剣に受け止めて、その重みに参っているのだろう。

どこか怯えが見える瞳へ、ふと、笑いかけて。

 

「――――確かに、何でわたしがって思ったよ」

 

とつとつ、語りだす。

 

「友達も家族もとばっちり受けてさ、理不尽だって感じた。怒りも覚えた」

 

『だけど』と、響は俯いてしまった顔を上げる。

 

「見てしまった、覚えていたんだ。あの日戦っていた、翼さんと奏さんを。わたし達を逃がそうと死に物狂いな姿を!」

 

それを聞いた翼は思い出す。

そもそも響が融合症例となったのは、あの日奏のガングニールを胸に受けたから。

それ即ち、砕けた破片が直撃するような至近距離にいたということで。

 

「確かにあの日、たくさんの人が亡くなった!あまりの悲しさに、生き残ったわたし達が責められるほどに・・・・だけど!」

 

響の言葉、力が宿る。

 

「だけどッ、あの日の二人は!全部救えなかったけど、誰一人見捨ててなんかいなかったッ!!」

「――――」

 

その圧に、リブラが押されたように見えた。

 

「バカだっていい!無法でたくさんだ!わたしは、これが正しいって思っているから、お前と戦っている!!」

 

拳が、より強く握られる。

響の肩が怒り、足が一歩踏み出された。

そして彼女は、その決定的な言葉を。

借り物であるものの、この場に相応しい言葉を口にする。

 

「――――間違いなんかじゃない」

 

風の音、ノイズが蠢く音で騒がしい戦場に。

やけにはっきり響いた。

 

「翼さんがやってきたことは絶対に、例え世界中が悪だと断定したって、絶対に・・・・・!!!」

 

っぐ、と溜め込んで。

爆ぜるように、咆える。

 

「間違いなんかじゃ!なぁいッ!!!」

 

目に見えて、リブラが身を退いた。

だが、惨劇を起こしたものとして譲れないものがあるのか。

すぐに乗り出すと髪を振り乱し、鞭のように伸ばす。

明らかに胴体や頭へ直撃するような攻撃を、響は避けない。

いや、避ける必要は無かった。

先端が貫こうとした刹那、一陣の風が割り込んで。

前に躍り出た翼は、攻撃の全てを一太刀の下に斬り捨てる。

 

「・・・・・だいじょぶそーですね」

「ああ、世話をかけた」

 

響が笑いかければ、どこか吹っ切れた様子の翼も笑い返す。

 

『お前・・・・!』

「お前の境遇には、同情しよう。私が不甲斐なかったばかりに、辛い思いをさせた」

『何を今更!』

「だがッ!」

 

毅然とリブラに向き合い、静かに語る翼。

怒鳴るリブラの声を掻き消すように、語気を強める。

 

「あの日、私も奏も!お前達を見捨てた覚えなど無かった!確かにこの身は未だ未熟、しかし、だからこそ守ろうと死に物狂いだったッ!!」

 

一歩、踏み出す。

先ほどまでの弱りきった姿など、幻であったかのよう。

実際、翼の胸中は燃え盛っていた。

響の叫びを切欠に、思い出したのだ。

奏と歌ったあの日々が、誇りであったことを。

剣と鍛えた歌が、ただ戦うだけではないことを実感できた、あの日々を。

 

「――――馬鹿にするな」

 

目が、ぎらつく。

 

「奏が命を燃やして守ったものをッ!馬鹿にするなッ!!」

 

轟、と雄叫びを上げた様を見て、響は完全に下がる。

(つるぎ)を握り締め、低く構える翼。

邪魔するのは無粋だと結論付けたのだ。

 

『――――お前こそ、邪魔をするな』

 

一方。

リブラもまた、『龍』の姿を取って牙を剥く。

 

『私の復讐をッ!邪魔するなアァッ!!!』

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

御伽噺が実在したら、こんな感じだろうって光景が、わたしの前にある。

縦横無尽にぐりんぐりん動き回るリブラの巨体へ、互角以上に喰い付く翼さん。

まるで古事記なんかに出てくる、化け物退治を見ている気分だった。

いやぁ、さすがセンパイっす。

と、見ほれてる場合じゃねーや。

翼さんへ飛びかかろうとするノイズ達を吹っ飛ばす。

ぎゅっと溜め込んで、拳に全てを乗せてぶち込む。

乾いた音がして、ノイズが一気に消し飛べば。

目の前がすっきりした。

負傷したクリスちゃんは、調ちゃんが運んで行ってくれた。

翼さんは、もうちょっとだけ頑張れそうだ。

だったらわたしは、翼さんの戦いに邪魔が入らないようにしましょっかね。

 

「ふすうぅぅぅぅぅぅ・・・・・」

 

歯の間にしみこむように、息を吐き出す。

腰を落として左腕を引き絞り、右腕を突き出す。

迫ってくるノイズの団体様。

まだ殴らない、殴りたくなるけど殴らない。

ひきつけて、ひきつけて。

――――今。

 

「ふんッ!」

 

右手を握りこみ、衝撃波をぶち込んであげる。

狙い通り吹き飛んでいくノイズ達。

浮き上がった連中に、アッパーを叩き込んで粉砕。

身を翻して、次々蹴りを突き刺していく。

仕上げに回し蹴りをして地上を見下ろすと、翼さんが戦っているのが見えた。

 

「はあああああああッ!」

 

ヘタレていたさっきまでとは大違い。

リブラの攻撃の尽くを斬り伏せて、その巨体にいくつもの斬り傷を刻み付けている。

・・・・すっげ。

改めて思うけど、翼さんってば強いわ。

なんてのんびり眺めている間にも落下し続けているので、自分の方に集中する。

背後の個体に肘鉄、足元狙いは踏みつけて潰す。

真正面はもちろん殴り飛ばす。

向かってきた群れにボディーブローをぶち込んで浮かばせる。

 

「おおおおおおおおおお・・・・・!」

 

また溜め込む後ろ、ノイズが折り重なるのが分かる。

ちょっと思いついたので、親指で鼻を掠めてかっこつけて。

 

「ほわたぁッ!!!」

 

飛び掛って、瓦割り。

纏めて片付けるところを見せ付ければ、さすがのノイズ達もやばいと悟ったらしい。

あからさまに距離を取って、近寄ってこなくなった。

 

『あああああああッ!!!』

 

余裕が出来たので、翼さんの方を見てみる。

リブラの薙ぎ払いを飛びのき、胴体に飛び乗った翼さん。

体を駆け上がると、本体へ一閃を繰り出す。

もちろんリブラも黙ってやられない。

硬質化した髪で受け止めて弾き飛ばすと、槍に変形させた腕を伸ばす。

刀身で往なした翼さんは、刃を滑らせて肉薄。

 

『舐めるナァッ!!』

 

掻っ捌こうとしたその横合いから、撓った髪が弾き飛ばした。

翼さんが剣を手放してしまったことから、よっぽど強い打撃だったらしい。

無手になってしまった翼さんへ、『龍』に切り替わったリブラが噛み付こうとして。

 

「――――そちらこそ、舐めるな」

 

それに対して翼さんは、あろうことか拳を握り締めて。

『龍』の横っ面へ、叩き込んだ。

・・・・そういえば翼さん、弦十郎さんの親戚だったっすね。

だったら多少手ほどき受けててもおかしくないか、うん(白目)

リブラが怯んだ隙に、新たに剣を手にした翼さん。

まるで抜刀のような構えを取って、息を吸い込んで。

 

「――――Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

鳴り渡る、甘く切ない旋律。

 

「Emustolonzen fine el baral zizzl」

 

言うまでも無く絶唱。

翼さん、決めるつもりだ・・・・!

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

『こ、の!させる・・・・ッ!?』

 

当然妨害しようとしたリブラだったけど、何かに引っかかったように体が動かなくなる。

リブラと一緒に視線を滑らせると、さっき弾き飛ばされた剣が、影に深く突き刺さっていた。

なるほど、さっき手放したのはわざとだったのか・・・・!

 

「Emustolonzen fine el zizzl...」

 

翼さんの全身、主に足元を中心にエネルギーが高まっていく。

迸るその揺らめきは、いっそ幻想的なほど綺麗で。

そして翼さんは、その刃を解き放つ。

駆け抜ける『風』。

吹き荒れるそれには、ありったけの闘志が込められていて。

 

「――――せめてもの手向けだ」

 

『風』が止んだ頃に、消えていた翼さんはまたわたしの視界に戻ってきた。

・・・・リブラは。

目の前で消えた翼さんに驚いた顔のまま、固まっている。

 

「美しく地獄へ、逝くがいい」

 

あの子に背を向けたままの翼さんは、ただ静かに剣を鞘に収めて。

刹那、『龍』の巨体が斬り刻まれた。

ぶつ切りにした鯉のようになった『龍』は、ぼとぼと地面に落ちて行く。

ってか、ぼさっとしてる場合じゃねーや!

 

「翼さん!!」

 

膝をついた翼さんの口元からは、案の定大量の血。

 

「かっこつけちゃって!『無茶すんな』だなんて、人のこと言えないじゃないですか!」

「はは、面目ない」

 

ノイズはまだまだいるけど、もうボロボロに成り果てた翼さんをほっとくなんてできっこない。

リブラは決定的な大ダメージを打ち込まれたわけだから、負傷者を味方に引き渡す暇くらいはあるはずだ。

善は急げってことで、翼さんに肩を貸して立ち上がったときだった。

 

「――――ぁぁ」

 

瓦礫が崩れる音。

振り向くと、地面に這い蹲っているリブラが見えた。

 

「・・・・・ゃ」

 

下半身を失った胴体の切り口は、今この瞬間にも炭化していっている。

翼さんの絶唱が決定打になったのは、言うまでもなさそうだった。

 

「・・・・や・・・だ・・・・いやだ、ぃゃだ・・・・」

 

狂気的に笑ったり、爆発した様に怒ったりしてたさっきまでとは一転。

泣き出しそうな顔で、焦点があっていないだろう目で、手を伸ばしてくる。

 

「ぃにた、く・・・・な・・・・死にたく・・・・!」

 

唇から漏れるのは、思ったとおりの弱々しい声。

 

「――――死にたく、ないよぉ」

 

それが、遺言になった。

伸ばした指先から、あっという間に黒くなる。

黒くなった傍から、ぐずぐず崩れていく。

わたしも、翼さんも、何も言えずに見つめる中。

あっという間に炭化したリブラは、一瞬人型を保っていたけど。

やがてやってきた強風に、呆気なくさらわれていった。

・・・・・最期の言葉をバカに出来ない。

する資格がない。

だって、それはわたしも同じで。

ちょっと路線が違うだけで、リブラと同じ様に、たくさんの命を奪ってきたわけで。

それはきっと、翼さんも似たようなことを考えていて。

だからだろう。

ほぼ同時に目を伏せて、黙祷を捧げたのは。

偶然なんかじゃないと確信していた。




何気に『絶唱・真打』を使用したズバババンです。






こんなシリアスやってる平行世界で、ヒロインとヤってる主人公がいるらしい(爆


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再会

「――――リブラは逝ったか」

「おう。打ち負かされたが、復讐はきっちり果たしてた」

 

どことも知れぬ暗所。

椅子につく人物へ、岩国を襲った青年が話しかける。

 

「順番どおりなら次は俺ってことになるけど・・・・おめーはいいのかよ?」

 

問いの真意は、『先に想いを遂げていいのか』。

リブラも含め、同じ痛みを知る同士だからこそだった。

それに対し、首が横に振られる。

 

「構わない・・・・お前達に比べて、俺は少々欲を張ってしまった。だから順番くらい譲るさ」

「・・・・そうかい」

 

ふと、笑い声が響く。

悪意に満ちたものでも、自嘲交じりでもない。

穏やかで、どこにでもあるような友人同士の笑いあい。

ぽつんと開いた空席をはさんで、しばらく止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

リブラが首都圏の都市を蹂躙して、既に三日。

日に日に更新されていく死亡者数には気が滅入るばかりだけど、だからって俯く暇はない。

一つでも、一人でも多くの人命を救い上げるために。

自衛隊と二課は協力して、災害救助にいそしんでいた。

ちなみに翼さんとクリスちゃんは、怪我はもちろんのこと。

学業やらネフィリムの起動実験やら、もろもろの事情が重なった所為で一旦二課に戻ることになってしまった。

日常がある二人は、そっちを疎かに出来ないもんね。

 

「252ィーッ!252、発見ぇーん!!」

「・・・・ッ」

 

瓦礫が散乱する中を走り回っていたら、その声が聞こえた。

急ブレーキをかけて方向転換。

一直線に駆けつけてみれば、崩れた住宅に自衛隊が何人も集まっているのが見える。

 

「どうしたんですか!?」

「ああ、よかった。生存者が下敷きになっているんです!今手持ちの機材では、救出が難しく・・・・!」

 

苦い顔の自衛官と一緒に見てみれば、お母さんと娘さんの親子が、肩から上だけ出している状態でいるのが分かった。

 

「お願いします!この子だけでも!今朝から意識がないんです!」

 

お母さんの懇願する声が痛々しくて、だからこそ助けると決意を固める。

 

「こじあけましょう。立花響、手伝って!」

「はい!」

 

わたしとタッチの差で駆けつけたマリアさんが、アームドギアを展開しながら提案。

即行で頷いて、手ごろな瓦礫を支点に利用する。

マリアさんはガングニールの切っ先を、わたしはその辺で見つけた鉄骨を。

住宅と地面の間に上手く割り込ませて、そのまま一気に力を込めた。

一瞬微動だにしなかった住宅だけど、すぐに重々しい音を立てて持ち上がり始める。

 

「はや、く。抜き取って・・・・!」

「あ、ああ!」

 

目の前で女子どもが怪力発揮してるのに驚いてたみたいだけど、切り替えの早さはさすが。

隙間が開いてるうちに、自衛官さん達はさっと親子を瓦礫の外へ。

 

『そこからだと、第三避難所が一番近くです』

『医療設備も整っている、お子さんを早く連れて行ってやれ!』

「はいっ!」

 

オペレーターさんと弦十郎さんの通信に頷きながら、子どもを抱えてひとっ飛び。

障害物だらけの中を一気に駆け抜けて、目的地へ。

ちょっと着地が派手になってしまったけれど、近くにいた医療スタッフが即座に飛んでくる。

 

「倒れた家の下敷きになっていました、今朝から意識がないそうです!」

「分かりました、後は任せてください!」

 

子どもを預ければ、とりあえず一安心。

後は彼らに任せるとしますか。

 

『親御さんには、マリアさんが伝えました。直にそちらへ運び込まれるそうです』

「了解っ」

 

ちょっとした気がかりもなくなったので、さっさと現場へとんぼ返り。

・・・・まだまだ救助を求めている人がいる。

のんびりしている暇はないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは・・・・響?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あの」

「はい?」

 

瓦礫をひっくり返して、救助者運んで。

避難所と現場を何往復したか、数えるのが億劫になってきた頃。

避難所に詰めていたらしい、女性の自衛官さんに話しかけられた。

 

「そろそろお休みになられてはいかがでしょう?司令部より、我々だけで対応できる分の装備は届きました。それにみなさん、明け方からずっと動きっぱなしじゃないですか」

「それは自衛隊も同じですよ、わたし達だけ何ていうのは・・・・」

 

気持ちも優しさも嬉しいけど、今は有事。

もうちょっと位の無理はしたいところだった。

だった、けど。

 

「いいから、ここは休みなさい」

 

横合いからやってきたのは、友里さん。

後ろには調ちゃんと切歌ちゃんもいて、二人の手にはおいしそうなお味噌汁とおにぎりが乗っている。

 

「勤続10時間超え。一息くらい入れないと、後が持たないわ」

 

友里さんを援護するように、自衛官さんは何度も頷いている。

・・・・・ここは素直に従うが吉、か。

 

「・・・・分かりました」

 

ギアを解除して、頭のスイッチをオンとオフの真ん中に切り替える。

真ん中なのは、不測の事態に備えてのことだ。

避難所の一角に集まって座る。

途中マリアさんも合流してきたので、そっちにも食べ物を配って。

早速、お味噌汁を一口。

 

「――――ふわああぁ~」

 

自分で思っているより、よっぽど疲れていたらしい。

味噌汁を飲み込んだ瞬間、そんな気の抜けた声が出てしまった。

っていうかコレ、お味噌汁じゃなくてけんちん汁だ。

どーりで具沢山だと思った。

・・・・いつもの料理(未来の手料理)とは、当然全く違うんだけど。

なんか、こう。

いいなぁ、あったまる。

いや、あったかさは感じないんだけども。

 

「これは、ゴボウ?初めて食べるわね・・・・」

「味気が無い分、食感が楽しい」

「シャキシャキしてるデース」

 

そういえば、わたし除いたみんなはアメリカに住んでたんだっけ。

そりゃ、けんちん汁しらなくて当然か。

ゴボウは思ったよりウケてるみたいだけど。

 

豚汁(トンジル)、とはまた違うみたいね」

「けんちん汁っていうんですよ。元はお坊さんが食べてた精進料理で、具材やお出汁に肉・魚を使わないお料理ですねー」

「・・・・変わった名前」

「それは発祥の地である『建長寺』っていうお寺の名前が訛ったからだよ」

「何で知ってるデスか・・・・」

「なんでもは知らないよー」

 

感心した様子でまたけんちん汁を飲むマリアさん達に、ほっこり。

味は感じなくとも、匂いやらで料理は楽しめる。

・・・・この後も、どうにか頑張れそうだ。

おにぎりも一緒に頬張りながら、舌鼓を打っていると。

 

「響ちゃん、ちょっといいかしら?」

「ふい?」

 

何だか戸惑った様子の友里さんが話しかけてくる。

 

「あなたに話があるって人がいるんだけど・・・・」

「話?」

 

はて、誰だろう?

この辺に知り合いなんていなかったはずだけど。

首を傾げながらおにぎりを飲み込んだとき、友里さんに付いてきてたらしい人が前に出てくる。

・・・・・忘れもしない、その顔は。

 

「――――お父さん」

「・・・・やあ、元気そうだな」

 

空になったお椀をひっくり返しながら立ち上がれば、記憶どおりの気の抜けた笑顔を見せてくれた。

・・・・・ここで話すのは憚られたから、場所を移動する。

 

「・・・・少し前、ライブ会場に変な子が出てきて、ノイズと一緒に暴れたってのがあったろ?」

 

人気の無い場所、口火を切ったのはお父さん。

とりあえずこっくり頷いておく。

 

「そこで、歌姫マリアと一緒に戦っていた子が、お前に似ている気がしてさ。ネットにもたくさん画像が上がって、それでそうじゃないかって思い始めて」

 

そういえばそうだった。

ネット以前に、わたし全国生中継されているんだった。

 

「今日、ここにはボランティアで来ていたんだけど。怪我人や被災者を次々運び込んでる子達がいるって聞いて、見に行ってみたらお前がいた」

 

・・・・・そっか。

だからお父さんはここにいるんだ。

納得していると、お父さんは急に黙り込んでしまう。

わたしを凝視したり、俯いて目を反らしたり。

けど、

 

「・・・・・口にしたら、安っぽくなってしまうけど」

 

まごついた後には、ちゃんと真っ直ぐ目を向けてきて。

 

「あの日、出て行ったことを後悔しなかった日はない。お前までいなくなったって聞いたら、いてもたってもいられなくなって」

 

だけど、どこか泣き出しそうな情けない顔で。

 

「母さん達にはこっぴどく怒られたさ。けど、お前が安心して帰れる場所に戻したいって説得して、どうにか一緒に暮らしてる」

「・・・・みんなは、元気?」

「ああ、元気さ」

 

話を遮る形になった疑問にも、ちゃんと答えてくれた。

 

「仕事も、まだ派遣だけど上手くやっているし。それに最近、友人と一緒にNPOも立ち上げてさ。お前や、今のこの街みたいな、傷ついた人達の手助けもやってる」

 

『今日のボランティアも、うちの連中なんだぞ?』と、どこか自慢げに笑うお父さん。

 

「・・・・響」

 

来る、と思った。

お父さんが一番言いたいことが。

わたしに伝えたいだろうことが。

 

「響、ごめんな。逃げたばっかりに、お前まで逃げるような状況にして・・・・・ほん、とうに・・・・」

 

零れる。

俯いた顔から、我慢出来なかった涙が。

だけどまだ言い終えていないからか、どこか乱暴に顔を拭って。

 

「こんな俺だけどさ、まだお前の親父やってたいんだ。だから」

 

手が、差し出される。

 

「――――戻っておいで。やり直そう、家族に戻ろう」

 

記憶より、少し皺が増えた手。

良く見ると、肉刺の痕が見える。

苦労を重ねてきたのは、決して嘘ではないらしい。

・・・・・戻りたい。

ああ、そうだ。

例え前世の記憶があったって、今の家族はこの人達だ。

手を取りたい、帰りたい。

多分、今が最大のチャンスだ。

あの暖かい場所へ戻れる、逃したら次がいつか分からない絶好の機会。

分かっている、分かっている。

 

「・・・・・ッ」

 

分かって、いるけれど。

 

「・・・・・ごめん、今はまだ無理」

 

首を横に振る。

前を見れば、残念そうに眉を顰めるお父さん。

 

「・・・・・お父さんが逃げたことは、もう責めるつもりは無いんだ」

 

そう告げると、意外そうな顔をした。

・・・・まあ、普通なら罵倒されるようなことだもんね。

 

「あの状況は、逃げたってしょうがなかった。それに、お父さんはちゃんと戻ってきた。家族のために、駆けつけた」

 

そうだ。

お父さんは確かに逃げた。

だけどそれは、家族の無事を否定されるような。

普通の人なら死ぬことを選んでしまうような、耐え難い環境に浸かっていたからで。

その後すぐ、とんぼ返りして、みんなを支え続けた。

 

「それにくらべてわたしは、逃げたまんま、ほっといたまんまだったから・・・・・だから」

「・・・・そっか」

 

負い目からか、それとも察してくれたからか。

お父さんはそれ以上何も言ってこなかった。

・・・・沈黙が痛い。

こういうとき、咄嗟に上手いことをいえない自分が恨めしい。

嗚呼、どれだけ命を救おうが、誰かを守ろうが。

結局それは、赤の他人だ。

一番守りたい人達を、大切な人達を。

笑顔に出来ない、わたしなんて。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――嘆かわしい、それでも風鳴の血を引く防人か」

「力及ばず、申し訳ありません」

 

鎌倉、風鳴宗家。

事を重く受け止めた現当主『風鳴訃堂』は、弦十郎を呼びつけていた。

息子である自身に浴びせられる厳しい言葉に、彼はただ平伏するしかない。

目の前の老人は、老いているからこそ重々しい気配を圧力を放つ人物だった。

 

「パニッシャーズの目的を見る限り、今後もこのような襲撃が起こることは明白。現存の戦力で対抗するプランを――――」

 

解決策を述べている最中に盛大にため息をつき、横槍を入れる訃堂。

 

「現在の戦力でこの状況なのだろうが」

「しかし、ノイズが使われることを考えるに・・・・」

「だからお前は阿呆なのだ、たわけめ」

 

『鈍い』息子へ、鋭く睨みを利かせる。

 

「――――何のためのリディアンだ」




ちょっとフライングですが、パッパ登場でした。


あと、マリアさんって難民生活で根っことか食べてそうですよね(偏見


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あーいー!

了子「ものすっごい久しぶりの出番な気がする。具体的には、一月くらい」



今回LiNKERに関する独自解釈・設定が山盛りです。
苦手な方はご注意を。


――――その話を聞いたとき、頭が真っ白になった。

目の前が何も見えなくなって、周りの音が遠くに聞こえて。

なのに自分の呼吸だけは、やけにはっきり感じていた。

 

『響?どうしたの?大丈夫?』

「ぇ、ぁ・・・・うん、平気。正直ちょっとびっくりしたけど、うん、へーき・・・・へーき」

 

未来の不思議そうな声で、すぐ意識を取り戻して。

どうにか取り繕うことに成功した。

 

「・・・・未来は、いいの?」

 

・・・・どうにか気を取り直した上で、聞いてみる。

電話の向こう、出来ればネガティブな言葉を聴きたいと期待して。

 

『うん、いいの。わたしに出来ることなら頑張りたいし、響に甘えてばかりじゃいられないもの』

「・・・・・そっか」

 

その明るい声に、あっさり裏切られた。

すぐに『裏切られた』なんて感じた自分がいやになって、体が重たくなる。

 

「・・・・LiNKERは、本当に大変らしいから。無茶だけはしないでね」

『うん、気をつける。了子さん達が視てくれるから、大丈夫だとは思うけど』

 

顔が見えない受話器越しでよかった。

だって今のわたし、全然大丈夫じゃない顔をしている。

 

『あ、そろそろいかなきゃ。響も頑張って、ちゃんと休憩もしてね?』

「うん、ありがとう」

 

それじゃあ、と。

通話を切った。

・・・・・この胸のもやもやも、ぶっつり切れればいいのにと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

二課、仮説本部。

その実験室では、新たな装者を生み出す準備が着々と進められていた。

 

「・・・・ッ」

 

入院患者のような衣服を着て待機しているのは、未来。

今回了子から話を受け、二つ返事で了承した彼女。

自ら望んだこととは言え、これから行うことへの緊張感までは拭いきれなかったらしい。

どこか堅い面持ちで、目の前に準備された新たなシンフォギア『神獣鏡』を見つめていた。

 

「未来ちゃん、お待たせ」

「は、はい」

 

やがて、スタッフ達が位置につき始める。

準備が終わったらしい。

音が大人しくなった中へ、了子とウェルがやってきた。

 

「今回は本当にありがとう、頼みを聞いてくれて助かるわ」

「そんなこと、ないです。わたしも、何か出来ることは無いかなって思っていたから」

「素敵なお気遣いありがとうございます、僕達も尽力しますので」

「はい、よろしくお願いします」

 

一礼した未来は、促されてベッドへ。

そんな彼女の視界に、了子はあるものを持ち出す。

まるで拳銃のような形をした、投薬器だった。

 

「それが・・・・?」

「ええ、今回あなたに使用するLiNKERよ」

 

度々話に聞いていた、適合係数を上げるための薬。

かつて奏の命を奪う要因の一つにもなったそれを、未来は固唾を呑んで見つめた。

 

「と言っても、これは私が作ったモノではなくて」

「この僕が調合・製作したものですッ!」

 

了子の説明を引き継ぐように、ウェルが未来の視界へさっと入り込んできた。

 

「・・・・そもそもの話、フォニックゲインと聞くと(ここ)をイメージしがちだけど」

 

ため息をつきながら、了子は自らの胸元を指す。

その指を、未来が目で追っているのを確認しながら、ゆっくり上に滑らせて。

 

「実際は、ここ。脳の中で作り出されるものなのよ」

 

頭を指でつついて、未来が頷いたのを確認して続ける。

 

「正確には脳の『ある分野』を刺激して、フォニックゲインを高める。それがLiNKERの仕組みで、効力なの」

 

だけど、と。

了子は頭にやっていた指を立てて。

 

「調合に使う薬品はどれも副作用が強いものばかり。少しでも匙加減を間違えれば、投薬しただけで人を殺せる劇物に変わる」

「なので、その『ある分野』に効果範囲を絞ることが極めて難しく、その結果要らぬ部分まで活性化させてしまっていたのです」

 

投薬をするたび、重ねるたびに。

脳全体がオーバーヒートのような状態になってしまう。

それが副作用の正体であり、LiNKERの弱点であると。

了子とウェルは説明した。

・・・・彼らの専売特許であるからか、その『ある分野』については終始ぼかされてしまったが。

 

「しかぁーし!それも今日までのことッ!!」

 

二人掛かりの解説により、概要を飲み込んだ未来。

理解した旨を伝えるためにまたこっくり頷くと、突然ウェルが両手を広げた。

 

「天才たるボクが、研究に研究を重ねた結果ッ!!従来のLiNKERよりもはるかに軽い負担となる比率を見つけたのですッ!!!」

「・・・・・大丈夫よ、効力は保障するから」

 

豹変したウェルにぎょっとなった未来は、これから投薬されることもあってか。

何ともいえない不安を覚えた。

助けを求めるように了子を見やれば、盛大なため息があったものの、お墨付きを下してくれる。

 

「それから、これは理論を抜きにしたアドバイスなのだけれど」

 

最後に、気を取り直した了子が付け加える。

 

「未来ちゃんが守りたい人の顔を思い浮かべると、上手くいくかもよ?」

「守りたい、人・・・・」

 

未来は促されてベッドに横たわる。

暴れて怪我しないようにベルトで固定された彼女の脳裏は、先ほどのアドバイスに関する思考が巡っていた。

守りたい人、大切な人。

 

(そんなの、一人しかいない)

 

話を持ち出された時、未来が真っ先に思い浮かんだのは。

気の抜ける笑顔の裏に、悲痛な慟哭を隠した『あの子』。

傷つき続けるあの子を、泣き続けるあの子を。

守れやしないかと、力になれないのかと。

悩み続けていたこれまでが、走馬灯のように駆け抜ける。

 

「――――それでは、実験を開始します」

「――――お願いします」

 

首筋に、小さな痛み。

注射針が離れた後も、束の間は何も起こらなかったが。

 

「・・・・ッ」

 

やがて胸と頭、両方に熱が灯る。

風邪を引いた時のような体を蝕む熱さは、じっくりゆっくり未来を侵し始めた。

 

「ぁ、ぐ・・・・!」

 

耐えられたのは最初だけ。

熱はあっというまに全身へ行き渡り、あちこちで暴れ始める。

 

「あああぁ・・・・!」

 

痛い、怖い、熱い。

喉は枯れ、眼球が沸騰しそうなほどに熱い。

食いしばった口からは、濁りくぐもった声しか出ず。

ただただ苦しみに悶えるしかない。

苦しい、苦しい、苦しい。

今すぐにでもやめてしまいたい。

 

(だけ、ど・・・・!)

 

だけど。

響のほうが、もっと痛い。

もっと怖い、もっと辛い。

もっともっと、苦しい。

だから、だから。

 

(響の、力に・・・・!)

 

泣いているあの子へ、手を差し出せる強さを。

どうか・・・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――Rei shen shou jing rei zizzl(愛してる、光も闇も何もかも)

 

 

 

 

 

 

 

一瞬ブラックアウトする意識。

眠りに落ちる寸前のような感覚から、意識が一気に急上昇する。

急速な変化に眩暈を覚えながら、額を押さえようとした未来は。

ふと、その手に変化が起こっていることに気付いた。

手全体を包むスーツ、着物のようなアームカバー。

さらに視線を下げれば、足全体を物々しい紫の装甲が覆っていて。

顔を上げる、大きな窓ガラス。

了子達が記録を取っているであろう場所は照明が落とされ、ちょうどマジックミラーのようになっている。

その『鏡面』に映し出されたのは、紫を基調としたシンフォギアを纏った少女。

他でもない、未来自身。

 

(―――――ああ)

 

自然と、笑顔が浮かぶ。

安堵と希望に満ち溢れ、どこか疲れきっている笑顔。

少し情けない姿だけれど。

あの子と、立花響と。

支えあえることを、ただただ喜んで。




サーセン。
393聖詠のタイトルは、完全に提造っす。
拙作の393ならこんな感じかなっと。


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そのケが無くてもロリショタはかわいい

毎度の閲覧、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
誤字報告も、とてもお世話になっております・・・・!


未来が、無事に適合したらしい。

昨日電話で聞いた、嬉しそうな声が耳にこびりついている。

・・・・未来、は。

未来だけには、戦って欲しくなかった。

わたしと同じ、汚れてしまう場所に来て欲しくなかった。

なのにあの子は、嬉々としてこちら側へ踏み込んだ。

この汚れた手を握り続けようと、刻まれた傷を癒そうと。

わたしの、為に。

わたしの、所為で。

 

「・・・・・ッ」

 

思わず奥歯を噛み締める。

ぎり、と嫌な音がする。

・・・・わたしの所為だ。

わたしが弱い所為だ。

わたしがしっかりしていないから、未来を不安にさせたんだ。

いつもいつも心配かけてるけど、迷惑かけてるけど。

変わらない笑顔でいてくれるから、大丈夫だと思っていた。

思い込んでしまっていたんだ。

その結果がこれだ、その代償(ツケ)がこれだ。

守りたい人を、大切な人を。

何よりも遠ざけるべき死地へと、赴かせてしまった。

・・・・・寒い。

寒い、寒い、寒い。

胸にぽっかり穴が開いたような、血管と言う血管を心臓ごと縛り上げられたような。

そんな感覚に苛まれる。

・・・・ああ、なんでこんなに空回る。

ただ、わたしは。

失くしたくない人を、主張しているだけなのに。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

(――――重症ね)

 

装者達に与えられたテントの中。

目に見えて暗く重たい気配を醸し出す響を目の当たりにし、マリアはひっそりため息。

これが漫画(カートゥーン)ならきのこの一つや二つ生えていそうなほど、すっかり意気消沈していた。

 

(『戦った時』もそうだったのだけど、よっぽど入れ込んでいるらしい)

 

想起するは、そろそろ一年に届くかという昔のこと。

何度貫いても斬りつけても立ち上がる響は、しきりに『ミク』の名前を口にしていた。

あの子を残して死ねないと、ここで倒れるわけにはいかないと。

だからお前をここで倒すと。

あの気迫は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 

(少し、依存が過ぎるとは思うけれど)

 

疲弊し、傷つき果てたその心の支えであることも理解している。

今更外野が口出ししたところで、簡単に変えられるとは到底思えなかった。

難儀なものを抱えていることだと、マリアはまたため息をつく。

と、

 

「マリア、マリア」

「お客さんデス」

「お客さん?」

 

調と切歌が、ひょっこり顔を出した。

二人が口にした『お客さん』という言葉に、マリアは首をかしげる。

はて、自分達を訪ねてくるような人などいただろうか。

自衛隊員や、二課のスタッフならそういうだろうし。

心当たりの無さに首を傾げ続けながら、テントの外を見たマリアは。

一瞬目を見開くものの、すぐに微笑みをたたえて。

 

「響、ちょっと」

「ぇ、はい・・・・?」

 

未だ落ち込む響に声をかける。

外に連れ出された響の目の前に現れたのは、

 

「あっ」

「きた!」

「やっぱりあのおねーちゃんだ!」

「わぁー!」

 

四人の小さな子ども。

身奇麗になっていたり、包帯を巻かれていたりして一瞬分からなかったが。

この救助活動の中で助けた子ども達であることを思い出した。

 

「ふふ、何のご用?」

 

キラキラした目を向ける子ども達へ、マリアはしゃがんで視線を合わせながら問いかける。

すると、彼らは持っていた折り紙や花を差し出して、

 

「「「「ありがとーございますッ!」」」」

 

賑やかに笑ったのだった。

 

「どういたしまして、可愛いオリガミね」

 

マリアは手馴れた様子で、小さな手から折り紙を受け取っていた。

子ども達に笑いかけながら話す様からは、何故だか『達人』のオーラが溢れている。

 

「おぉ!力作デース!」

「この花も・・・・見つけるの、大変だったんじゃない?」

「がんばったよー」

「まだだいじょーぶなとこから取ったのー」

 

切歌と調も、それぞれ贈り物を貰っている。

折り紙や花を受け取り、感嘆の声を上げている。

 

「おねーちゃんも」

「えっ」

 

その様子を一歩離れて見ていた響の下へも、子どもがやってきた。

やや困惑した顔で見下ろした彼女へ、一輪の花が差し出される。

 

「あ、う、うん。ありがと」

 

すぐに笑顔を取り繕った響は、受け取ろうとして。

その指先が、子どもの手に触れた。

 

「わ!つめたい!」

「・・・・ッ」

 

何気ない、純粋な感想。

だが、響の心を痛ませるには、十分な一撃(ことば)

響は辛うじて花を取り落とさないようにしながら、身を退いた。

 

(ど、どうしよう・・・・)

 

この無垢な存在を、汚してしまったのではないか。

そんな杞憂とも言うべき心配が、響の胸を埋め尽くす。

 

「だいじょーぶなの?おねーちゃん、かぜひいてるの?」

「う、ううん。違う違う・・・・ちょっと冷え性でね」

 

荒れた胸中に気付かないまま、子どもは心配そうに見上げてきた。

笑顔を曇らせてしまったことに、また罪悪感を覚えながら。

響は咄嗟に言い逃れた。

 

「そっかぁ」

「そーなの」

 

子どもの方も納得しているようだし、何とか乗り切れたと一息つく。

すると、ほっとした視界に、小さな両手が差し出されて。

 

「じゃあ、あっためてあげる!」

「えっ」

「さむいのいやでしょ?」

「いや、まあ、そうだけど・・・・」

 

まさか寒暖を感じられないとは口が裂けても言えず。

ばつ悪くそっぽを向くしかできない響。

 

「おねーちゃん、たっくさんたすけてくれたから、ごほーび!」

 

そんな彼女の手を包み込んで、また無邪気な笑顔を向けて。

 

「・・・・・ッ」

 

その尊い光景に、響の頭は真っ白になった。

飛びそうになった意識を繋ぎとめて、前を見る。

 

「えへへー、あったかいー?」

 

子どもは相変わらずニコニコ笑いながら、時折さすったり、息を吹きかけたりして。

響の手を、決して温まらないその手を。

握り続けてくれた。

 

「・・・・ん、あったかいよ」

 

溢れそうな涙を、必死に堪えながら。

響は、弱々しく握り返す。




「んじゃあ、ま」

「ぶちかましますかねぇ・・・・!」



そして、『痛み』も動き出す。


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ドキッ、硝煙煙る初出動!

『――――いいか!?再確認だッ!!』

 

二課が保有するヘリの中。

未来はクリスと共に現場へ向かっていた。

翼は絶唱のダメージがまだ残っているため、今回は待機を言い渡されている。

 

『未来君は初陣、クリス君は未だ手負いの域を出ない。よって二人には、響君達が到着するまでの時間稼ぎと人命救助を行ってもらう!』

「わかった!」

「は、はいッ!」

 

前回の反省を踏まえ、やや離れた場所に降り立った二人。

ビルからビルへ、家から家へ。

未来は少し遅れながら、クリスの後ろをついていっていた。

 

「ひとまず今回は、おっさんの言うとおりに動くぞ!あのバカに出来るとこ見せたいってんなら、まずは怪我しねぇことだな!」

「う、うん!」

 

そんな未来へ激励を飛ばしながら、クリスは速度を上げた。

一際大きく飛び立てば、現場が見えた。

リブラのときほどではないものの、あちこちで黒い煙が上がっている。

 

「・・・・ッ」

 

一瞬鼻を掠めた、生き物の焼ける臭い。

未来は思わず一歩下がる。

 

「怯んでる場合じゃねぇ、いくぞッ!」

「ッ分かった!」

 

だがクリスの激でなんとか持ち直し、共に現場へ降り立つ。

崩れたブロック塀に倒れた電柱など、真新しい破壊跡がそこかしこに見受けられた。

案の定ノイズもいるらしく、事切れた黒い人型もあった。

 

「あッ・・・・!」

 

苦い顔をしながら駆け抜けていれば、今まさにノイズに追われている民間人が。

先に見つけた未来はすぐに方向転換。

神獣鏡のホバリングで瓦礫をものともせず駆けつけると、手元の鉄扇を開いてノイズを受け止める。

押し返そうとすると、もう一体が突撃してくる。

 

「わ、っぐ・・・・!」

「そのままだッ!」

 

不意に加わった重みに、未来は一瞬退きそうになったが。

クリスが即座に打ち抜いたことで解放された。

前を見据える、片手で足りる数の敵。

一番前の個体は、近づいて鉄扇で殴る。

飛び掛ってきたおたまじゃくし型は、鉄扇に仕込まれた銃で一撃。

その炭に紛れて後ろに回り、もう一体も狙撃する。

と、背後で風を切る音。

振り向けば、複数体が飛び掛ってきている。

しかし、届く前に全て撃ち抜かれた。

未来が別方向へもう一度振り向けば、銃口を向けたクリスが一息ついているところだった。

同じくほっと安堵の息をついた未来は、庇った民間人へ駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?」

「は、はい、ありがとうございます」

 

さっと確認してみても、擦り傷以外の目立った怪我は見受けられない。

 

「失礼します!」

「大丈夫ですか!?」

 

そこへ、自衛隊員が駆けつけた。

前回のように、ノイズに道を遮断されていないからだろう。

命を賭して、人命救助に励んでいるようだった。

 

「後はおまかせください!」

「こちらへ、一緒にいきましょう」

 

速やかに怪我人を背負った彼らは、直ちにその場から撤退していった。

 

「ま、及第点だな」

「わっ、あ、うん・・・・ありがとう」

「ぅっせ、次行くぞ」

「うん」

 

その様子を感心してみていた未来の背中を叩き、クリスはさきほどの戦闘について、簡単な評価を下す。

未来が素直に礼を告げれば、どこか照れくさそうに悪態をついて誤魔化したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――なんで、ころすの?」

 

亡骸の横に座り込んで、呆然と問いかければ。

母の返り血を浴びたそいつは、ゆっくり振り返った。

 

「・・・・おめーのかーちゃん、おめーを守ってたろ?」

「う、うん」

 

意外にも応じてくれたのに驚いて、少し躊躇いがちに頷く。

 

「かーちゃんとしちゃ、すっげえいいことだし、正しいことだろ?ここまでは分かるか?」

「うん・・・・」

 

見下ろす。

胸を一突きされた母は、ぴくりとも動かない。

 

「俺のかーちゃんも昔そうだった。けど、どういうわけかそれを『よくねーことだ』っていちゃもんつけた連中がいてよ」

「・・・・お母さんも?」

「ああ、残念ながらな」

 

その時を思い出しているのか、そいつはとても苦い顔をしていた。

 

「で、なまじっか真面目だったもんで、いつしか『自分が間違っているんだ』って、責任感じちまってさ。ある日首を吊って自殺したんだ」

 

頼れる母が、大好きな母が死んでしまって、悲しい。

悲しいけれども。

自殺に追い込んでしまうような、酷いことをしたのなら。

仕方が無いかもしれないと、納得できてしまう自分がいた。

 

「・・・・ぼくもころす?」

「んにゃ、俺はリブラ・・・・前に暴れた奴とは違うんでね」

 

思い切って聞いてみると、意外な答え。

思わずぽかんと口を開けてしまう。

 

「・・・・逃げていいの?」

「逃げられるもんならな」

 

・・・・どうやらこの場で仕留められることは無いらしかった。

それならばと、まずは離れることにする。

母はいなくなったが、まだ父がどこかで生きているはずだ。

 

(ごめんね、後でお墓作ってあげるから)

 

一度母を振り返り、心でそう告げてから。

逃げ出そうとして、

 

「――――まあ」

 

横から、何かが飛んでくる。

体を貫いた、それは、

 

「――――ノイズが見逃すかどうかは、分からんけどな」




393が割と戦えている件についてはアレです。
ポ〇モンにおける、『レベルの高い奴と一緒にいると~』ってアレと似たニュアンス的な・・・・その・・・・な!?(


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ジャイアントキリングなんて、そう都合よく起こらない

ご感想お返事できずすみません。
きちんと目を通してます、通知が来るたび「わーい!やったー!」とどったんばったん大騒ぎしております(


――――旅の中で見慣れてしまった所為(おかげ)か。

今更死体を見ても吐くことは無くなった。

それでも、まかり間違ってもいい気分にはなれない。

過ぎるたびに舞う炭を目の当たりにして、未来は苦い顔を隠しきれなかった。

現在未来は、クリスと分かれて単独行動中である。

生存者の救出は、以前と違って自衛隊が動けていることもあり。

結果、ノイズの討伐に専念することが出来ていた。

 

「やぁッ!」

 

もう何度目か分からない掛け声と攻撃。

体の火照りが、炎の所為か動いた所為か分からないくらいになった頃には、戦い方も大分様になってきていた。

伝う汗を拭いながら、一息。

油断などするつもりはないが、自身の向上を実感できる今は、少し気分が高揚してもしょうがないと自己完結する。

 

『響ちゃん達が現場に入ったと連絡があったわ、そろそろ撤退の準備を』

「はい!」

 

とはいえ、今の自分はひよっこになれているかどうかも怪しい新米。

下手な自己判断で、足を引っ張ることだけはしたくない。

耳元で聞こえた声に了解を告げ、来た道を引き返そうとして。

 

『ッ未来ちゃんの近辺に、高速で接近する反応!』

『これは・・・・ッ離脱急いで!未来ちゃんッ!!』

 

焦るオペレーター達に、どういうことか聞き返そうとして。

瞬間、背後に何かが転がってきた。

 

「――――――!―――――ッ!!」

 

何事かと振り向けば、瓦礫に埋もれてもがく人間。

土と血に汚れている上、上げている悲鳴が甲高い所為で男女の区別がつかない。

だが、生存者であるのなら、見捨てる道理は無かった。

 

「ッ今行き――――!!」

 

瓦礫を避けるために浮遊し、駆けつけようとした目の前で。

飛来した凶器が、その命を刈り取った。

体は瓦礫に沈んで見えなくなったが、飛び散った血が末路を物語っていて。

 

「――――ッ!!」

 

珍しく頭に血が上った未来は、凶器が飛んで来た方向を睨みつけた。

 

「――――ありゃ、いたのか」

 

悠然と歩いてきたのは、二課の資料映像でも見た青年。

確か、一番最初に接触した『執行者団(パニッシャーズ)』だったはずだ。

こちらを気に掛けつつ余裕の態度を見せ付ける彼は、突き刺さった得物を回収した。

抜き取ったときにまた血が飛び散り、それが未来の警戒心をさらに引き上げる。

簡単に逃げられるとは思えないが、勝てるとも思えない。

鉄扇を握り締めて、身構えた。

 

「ヤル気・・・・ってわけでもネェか。ま、普通逃げられるとは思わんわな」

 

気だるげに大剣を肩に担いで、ため息。

思わずこちらの戦意がそがれそうになるが、未来は何とか崩れかけた構えを立て直した。

 

「一応、名乗っとくかイ?俺ァ、『アヴェンジャー』。『執行者団(パニッシャーズ)』の一人だ」

 

そう、青年改めアヴェンジャーは、にやっと笑いかけてきた。

それでもなお警戒を解かない未来に、今度は参ったなと言いたげにため息。

乱暴に頭をかいて、向き直った。

 

「まあいいや、ちょうどお前さんとは話してみたいって思ってたんだ。この際ちょうどいい」

「話?」

「おうよ」

 

言うなり、アヴェンジャーは手ごろな瓦礫に座る。

その様子を見た未来も、今すぐ戦闘にはならないと判断して武器を下ろした。

 

「聞きたいのは他でも無ェ、迫害した連中についてだ」

「・・・・ッ」

 

いきなり核心に触れるような話題に、顔をしかめてしまう未来。

それを知ってか知らずか、アヴェンジャーはかまわず続ける。

 

「正直なところ、どう思ってんだよ?」

「・・・・どう、って?」

 

未来は、一応警戒を続けたまま聞き返す。

 

「おめーさんも、被害にあった張本人である立花も、連中に対して何か動いたわけでもない。それどころか、こうやって俺達と敵対して、守ろうとすらしている」

 

そこまで言われて、未来は納得がいった。

要するに、彼らにとって怨敵と言うべき『加害者達』を、何故野放しにするかと言うことだろう。

先日リブラを討ち取ったことから、こちらが彼らを敵と見なしているのは明白。

だからこそ、聞きたいのだ。

仲間であるはずの我々が、何故敵対しているのかと。

 

「・・・・わたしは」

 

未来はまず口火を切って、それっきり考え込んでしまう。

アヴェンジャーも特に急かすことなく、ただ黙して言葉を待つ。

束の間、風と熱気が吹き抜けて。

 

「・・・・わたしは、響がもう傷つかないのなら、何でもいい」

 

いつの間にか俯いていた顔を上げて、未来はアヴェンジャーを見据える。

 

「そもそも、響が責められることになった原因は、わたしにあるから、わたしがあの日、響を置いてけぼりにしたから、だから」

 

胸のうちを吐き出す、言葉を紡ぐ。

一歩間違えば、支離滅裂になりそうだ。

 

「・・・・わたしに、こんな仕返しをする資格なんて、ない」

 

首を振りながら、半ば無理やりに締めくくった。

アヴェンジャーは束の間黙して、未来を凝視する。

が、やがて口を開いた。

 

「じゃあ、立花は?あいつはどうなんだ?」

「・・・・ッ」

 

まるで、メンタルに決定打を加えられたような感覚。

未来と違う、被害者本人である響が。

本当に想っている事。

 

「――――わからない」

 

同じ質問をしてみても、響はただ笑って誤魔化すだけ。

露骨に話題をそらされたり、タイミング悪く横槍が入ったり。

・・・・・響の本音が分かるわけじゃない。

落ち込んでいたり、嬉しそうにしているのは分かっても。

根っこの部分でどう思っているか、読み取れるわけじゃない。

――――それでも。

 

「わからない、けど」

 

それでも、何故だか断言できた。

 

「響は、ここまで、望んでない」

 

見渡す。

あちこちで上がる火の手、壊された家屋。

煤けた風に乗ってかすかに聞こえるのは、人々の悲鳴と呻き声。

こんな、こんな地獄だけは。

絶対に望んでいないと、確信していた。

 

「―――――本当にか?」

 

だけど。

その鋭い目に圧されて、思わず後ずさった。

 

「・・・・本当にって、疑うの?」

「疑うしかネェな」

 

どこか吐き捨てるような否定に、心が揺さぶられる。

 

「確かにやりすぎてる自覚はあるけどヨォ?程度は違えど、復讐してぇって思いは同じだろ」

「そ、れは・・・・」

「人の腹のうちってナァ、見えないからこそおっかない。あいつだって、実際は俺達と同じか、もしかしたらそれ以上のモツを抱えてるってこともある」

 

人の悪意にさらされたが故の言葉。

親しいと、味方だと信じていたから。

邪見にされ、煙たがられ、爪弾きにされたときの絶望と失望は。

きっと誰よりも、濃く、深く。

未来には、心当たりや覚えしかなかった。

だからこそ、アヴェンジャーの言葉はずっしりとのしかかってきた。

 

「お前、分かってんのか?」

 

そんな心情を知ってか知らずか。

アヴェンジャーは、とどめとも言うべき言葉を放つ。

 

「立花の腹ん中、本当に分かってんのかよ?」

「―――――」

 

――――燻っていた不安を、焚きつけられた。

慌てて消し止めようにも、もう遅かった。

燃え上がった感情は、留まるところを知らない。

アヴェンジャーの言うとおり、本当は分かっていない。

恐れていたとも言うべきか。

いつも気の抜けた笑みを浮かべる響が、本当は何を考えているのかなんて。

そして、それを知るのが怖いとも思っていた。

もし、隠れているものが、今周囲にある光景よりも、もっともっとおぞましいものだとしたら。

きっと、それを生み出す原因になったのは、自分だから。

大切な響を、大好きな響を。

そんなバケモノに変貌させてしまったことに、きっと耐えられなくなる。

 

「――――ところで、お前さんの前にいるんは敵なんだけど。ぼうっとしてていいんかい?」

 

そして、それが仇になった。

前が陰る。

見上げると、振り上げられた刃。

咄嗟に構えたときには、既に衝撃が。

左肩、鈍い痛み。

目をずらせば、受けきれなかった刃が食い込んでいた。

裂けた肌のあちこちで、赤い雫がぷつぷつ膨らんで。

次の瞬間、勢い良く噴き出した。

 

「ああああああ・・・・!」

 

痛みに思わず悲鳴を上げる。

その間にも刃は、更に食らいつこうと食い込んでくる。

視界が赤く染まる、脳内でアラートが騒ぐ。

――――死ぬ。

これ以上ここにいたら、間違いなく、死ぬ・・・・!

 

「あああああ、っぐ・・・・くうううううううううう・・・・!」

 

せめて相手を引き離そうと、割り込ませた鉄扇で押し返そうとする。

しかし、痛みの所為で上手く力が入らない。

刃が動く、引かれている。

このままでは、斬られる・・・・!

 

「・・・・ッ」

 

痛みに怯える一方で、腹を決めるしかないかと覚悟を決めて。

 

「――――はぁッ!!!」

 

敵との隙間に、割り込む『黒』。

柔く撓ったそれは、アヴェンジャーを大きく弾き飛ばした。

力が抜けて傾いた体を、いつもの優しい腕が受け止めてくれる。

 

「怪我は?」

「・・・・ッ・・・・ぅん」

 

ああ、やっぱり。

どれほどの不安を抱いていようとも。

響の笑顔を見てしまうと、どうしようもなく安心を覚えたのだった。

前を見てみると、相手を退けるように立ちはだかるマリアが。

なびくマントが、彼女の猛りを表しているようだった。

と、響の手にも力が篭ったのが分かる。

もしかしなくても、未来を傷つけたことを怒っているのだろう。

心配させてしまった罪悪感半分、大切に思われている嬉しさ半分の気持ちで見上げていると。

 

「・・・・ここは任せてもらえないかしら」

 

マリアが、不意にそう提案してきた。

 

「マリアさん?」

「お願い、こいつには諸々物申したいことが出来たの。叶うなら、一対一で」

 

首を傾けて向けられた目には、何か強いものが宿っていて。

束の間渋っていた響も、それを感じ取ったのだろう。

 

「・・・・・気を付けて下さいね」

 

やがて小さく頷くと、未来を抱えなおして大きく跳躍。

一気にその場を離脱した。

 

「――――随分大きく出たじゃネェか、歌姫さんヨォ?」

 

獰猛な笑みへ、マリアは烈槍の切っ先を向ける。




消化するようで消化しない、少し消化する試合にするためには・・・・・。
どうしたらいいんでしょ?(


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燻る憎悪

先日なんとなーくツイッターを覗いたところ、なんと拙作をイラスト化してくださってる方がいらっしゃいました。
詳細は活動報告にて触れておりますので、こちらでは一つだけ。

も っ と 好 き に 描 け く だ さ い ! !

物書きとして、やはり好反応をいただけるのは大変ありがたいです。

もちろん、毎度閲覧、評価、お気に入り登録してくださる諸々の皆様にも、日頃よりお世話になっております。
今後とも、拙作『チョイワルビッキーと一途な393』を、どうぞよろしくお願いいたします。


火の手が上がる中を、駆け抜ける。

腕に抱えるは、決して軽くない傷を負った大切な人。

間に合わなかったことが悔しくて、こんな戦地においやった自分が恨めしくて。

顔が歪むのが分かった。

 

「響・・・・」

 

名前を呼ばれて、我に返る。

見下ろせば、未来が荒い呼吸でこちらを見上げていた。

 

「未来?」

「ごめんなさい・・・・!」

 

何事かと一度立ち止まると、未来は震えながら顔を埋めてきた。

 

「あんなに大丈夫って言っておいて、結局心配かけた・・・・!」

 

心底悔いているらしい未来の顔は、今にも泣き出しそうで。

束の間それを見下ろした響は、なお黙りこくっていたが。

ふと、未来の肩。

未だに血を流す傷口へ、唇を落とした。

 

「ひびっ!?ぃった!」

 

キスだけでなく、滲んだ血も舐め取られて。

未来は体を跳ね上げた。

勢いで、出そうになっていた涙がほろっと頬を伝う。

 

「ひびきぃ・・・・?」

「・・・・もう、いいから」

 

涙目で見上げると、何だか難しい顔をしている響が見えた。

絞り出すような声で告げると、今度は彼女が顔を埋めてくる。

 

「分かったから、今は治すことに専念して」

 

懇願するその想いに準じて、抱きとめている腕が震える。

・・・・未来には、それ以上何も言えなかった。

だって、今響が感じているものは、いつも自分が感じている怖さであって。

 

(――――ああ、そうか)

 

不意に、悟った。

未来自身が強くなるということは、『帰ってこないかもしれない』という恐怖を、響にも植え付けることでもあって。

だから、震えている彼女を、責める気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「そんで?歌姫サンは何を聞きたいってんだ?」

 

響達が去った後。

マリアを睨みつけながら、アヴェンジャーは問いかける。

対するマリアはもう少しだけ沈黙を保って、口を開いた。

 

「――――復讐を果たして、その後はどうしようというの?」

 

在り来たりで、しかし核心に踏み込むような問い。

目に見えてアヴェンジャーの顔が歪む。

すぐに元に戻ったものの、誤魔化すにはとっくに手遅れだった。

 

「アヴェンジャー、いえ、『阿賀野(あがの)孝仁(たかひと)』。悪いけれど、あなたの来歴はある程度調べさせてもらった」

 

手ごたえを感じながら、マリアは言葉を続ける。

 

「お母様の死が、あなたに計り知れない傷を与えたのは確かでしょう。下手な同情は不要であることも、同じく家族を失った身としては十分に共感できる、けれど」

 

マリアの手、ガングニールを握る力が強まる。

 

「こんな方法で、お母様が報われるとでも言うの?」

 

開いた片手を振り払う。

周囲の光景を見るように促す。

上がる黒煙、ちらつく炎、鼻をくすぐる生き物が焼ける臭い。

よっぽどの変わり者で無い限り、喜ぶことなど不可能な光景。

 

「暴力を以て報復することが、お母様の望みだとでも?」

 

アヴェンジャーは黙するだけだが、その顔は目に見えて険しくなっていく。

何も思わないわけではないらしい。

 

「絶対に違うわ、赤の他人だけど言い切れる。あなたは間違っている!」

「・・・・ッハ」

 

だが、そんなマリアへ、アヴェンジャーは嘲笑を向けた。

 

「よく言うぜ、いい子ぶりがヨォ?」

「・・・・どういうこと?」

 

アヴェンジャーは小高い瓦礫の上にしゃがみ込み、意地悪くマリアを見下ろす。

 

「お前さんだっているはずだろ?俺みたいに、復讐したい相手が」

「・・・・一体なんの」

「例えば、そう!立花響とかナァ?」

 

その時、アヴェンジャーは見た。

マリアの顔に、目に見えて動揺が走ったことを。

 

「相手のこと調べたのは、自分たちだけだと思わネェこった」

 

自陣の人間が他にいないこともあったのだろう。

すぐに平静を取り戻したが、十分な手ごたえだった。

 

「去年の暮れだったか、あいつにボロ負けしたんだろ?で、妹分二人がブチ切れて、復讐の鬼になったと来た!」

 

入れ替わるように険しい顔をしたマリアへ、にやにや笑いかけながら。

アヴェンジャーは止めを刺す。

 

「優等生ぶって目立った波は立ててないようだが、腹に何も燻らせてないたぁ言わせネェぞ。てめーも所詮は人間だ」

『マリア、しっかりなさい。今ここで狼狽しては、相手の思う壺です・・・・!』

 

愕然としたマリアは俯いてしまい、それっきり黙りこくった。

心配げに名前を呼んでくれるナスターシャの声を耳に聞きながら、なお沈黙を貫いて。

それでも、熱を燈した感情を、抑えきることは叶わず。

 

「・・・・なに、も」

 

マリアの口が開く。

おっ、っと興味深げに目を開いたアヴェンジャーを、勢い良く睨みつけて。

 

「何も思わないわけ・・・・ないじゃないっ!!!」

 

彼女にしては珍しい、感情をむき出しにした顔。

 

「言うとおり原因は立花響よッ!!あの子に負けたばかりに、切歌と調が憎しみに囚われたッ!悪魔になりかけた、立花響が融合症例でなかったら、今頃殺していたッ、あの子達が人殺しになってしまっていたッ!!」

 

轟々と、その心をぶちまける。

 

「だけどそれはッ!私が弱かったことにも原因があって、あの時勝てなかった私にも非があって!だから何よりも自分が情けなくて、悔しくてぇッ!!」

 

マリアが抱えていたものは、周囲の予想よりもはるかに『重く』、そして『大きい』ものらしい。

半年と少しという期間は、それだけ膨らませるのに十分すぎたのだろう。

 

「でもッ、そうやって折れてしまったら、屈してしまったらッ・・・・今度、こそ・・・・今度こそ、あの子達は、私の家族が、悪魔になってしまうッ、人間に戻れなくなってしまうッ・・・・!!だから、だから、だからァッ・・・・・!!!」

 

だから、ずっと耐えてきた。

罪悪感と後悔で、泣き喚きそうになるのを。

家族の為、ただそれだけの為に。

一年に届きそうな間、憎しみに溺れそうになる家族を目の当たりにしながら。

ずっと、ずっと、ずっと。

 

「だから、あなたを認めるわけには、いかない・・・・!!」

 

呼吸が整う。

腕を握り締めた手をゆっくり解いて、いつの間にか俯いていた顔を上げて。

涙に濡れながら、強い意志を秘めた瞳で。

まっすぐアヴェンジャーを見据える。

 

「感情のままに報復する悪魔を、放置するわけには、いかない!!」

 

毅然と突きつける、ガングニールの切っ先。

笑みを消し、眉をひくつかせるアヴェンジャーの心臓を意識しながら、目を逸らさない。

 

「・・・・憎しみを認めてもなお、戦うってか」

 

目を伏せたアヴェンジャーは、ぬらりと立ち上がる。

担いだ大剣を地面に振り下ろして、敵意と殺意をマリアへぶつける。

 

「あなたと、あなたのお母様は、私達によく似ている。少しでもどこかを違えていたら、私も同じように死んでいた、そして、切歌達があなたと同じように悪魔になっていた・・・・!」

「だから止めるってか?ッハ!」

 

重々しく、力強く振りかざされる刃。

戦意が、最高潮に達する。

 

「余計なお世話だッ!クソアマアアアアアァッ!!!」

 

土煙が吹き上げるほど、強く、強く、踏み込む。

マリアもまた、ガングニールを防御の形に構えて。

 

「シィアアアアアアアアアアアッ!!」

「ぐうぅ・・・・!」

 

接触、衝撃。

マリアの足元が大きく陥没し、より多くの瓦礫が舞い上がる。

歯を食いしばって耐え抜いたマリアは、マントを飛ばして牽制。

アヴェンジャーを弾いて宙に放り出し、無防備な土手っ腹へ一閃。

大剣で受け止めたアヴェンジャーは、着地と同時に再び飛び掛る。

豪快な縦一閃へ、ガングニールの切っ先を突きつけて迎撃。

数瞬火花を散らした後、数度打ち合う。

刃同士が衝突し、迫り合い。

一瞬の隙を見出したマリアが、ガングニールを上に滑らせると。

つられてアヴェンジャーの大剣も持ち上げられ、体勢が大きく崩れる。

間髪いれず手首を捻って突き放すと、がら空きの胴体へ蹴りを突き刺した。

防御もままならず、吹っ飛ぶアヴェンジャー。

瓦礫に埋もれて、土煙の中で沈黙するも。

 

『グオゥワアアアアアアアアアアッッ!!』

 

今度は巨大な『虎』となって牙を剥き、マリアへ飛び掛る。

 

「っ・・・・!」

 

直撃は避けたものの、恐竜のように全身から生えた刃が引っかかり。

その思ったよりも深い傷に、マリアは顔をしかめる。

怯んでいる暇はもらえない。

痛みを耐えながら、前足の一撃を回避。

続く牙も弾き飛ばして、跳躍する。

 

「はぁっ!」

 

背中の上、すれ違い様に一閃。

刻まれた決定打にもがく『虎』を後ろに、マリアは瓦礫を散らして着地した。

 

『ガアアアアアアアアアッ!!』

 

もちろん『虎』も、この程度で怯まない。

足を踏ん張って溜め込むと、再び飛び掛る。

振りかざした前足を力めば、爪が伸びて複数の『剣』へ。

マリアが大振りの薙ぎ払いを避けたところへ、もう片方の爪を伸ばす。

まんまとはめられたマリアは咄嗟に身をよじり、爪と爪の間に体を滑らせて回避。

だが無傷というわけにも行かず、腹と背中を掠めた。

そうやって捉えたところで、叩きつけ。

マリアは一度しゃがんで抜け出し、飛び出す。

それを追いかけるように、また叩きつけを繰り出す。

地面が揺れるたびに瓦礫も飛んでくる。

 

「ッはぁ!!」

 

どうやら意図的に飛ばしているらしく、マリアは迫るそれらを斬り伏せていった。

しかし微かでも気をとられたことにより、『虎』の接近に対応できなかった。

マリアの死角、その巨体を瓦礫に隠しながら突撃する。

 

「っな、っぐ!」

 

両手の爪をガングニールで受け止めるものの、動けなくなったところをこれ幸いといわんばかりに。

『虎』が牙を剥いたのが見えて。

 

「あああああああああッ!」

 

左肩、牙が深く食い込む。

血が噴き出し、マリアは苦悶の声を上げる。

膝を折って地面に着き、屈してしまいそうになる痛み。

血を大量に失い、眩暈がする。

意識を手放しそうになって、

 

(それ、でも・・・・!)

 

それでも、彼女は耐え抜く。

切歌と調(いもうとたち)が、悪魔になってしまわないよう。

見守る義務が、自分にはあるのだから・・・・!

 

「っだあああああああああああ!」

『ゴル・・・・!?』

 

肩を食わせたまま爪を弾く。

自由になったガングニールを、その喉元へ、突きつけて。

刀身が割れる、エネルギーが充填される。

『虎』が意図に気付いたときには、もう遅く。

 

 

――――HORAIZON†SPEAR !!!

 

 

瞬間。

極太の極光が、空へ向かって伸びていった。

閃光の発射点にいたマリアは、いよいよ以て意識が暗転しそうになる。

明らかな直撃とは言え、敵がコレで倒れてくれたとは限らない。

 

「――――分かってんだよ」

 

何とか気力で持ちこたえていると、声が聞こえた。

回復した視界で見ると、胸に大穴を明けたアヴェンジャーが。

地面にへたり込むようにして、項垂れている。

 

「こんなんじゃ弔いにならないことくらい、分かってんだよ」

 

荒々しい先ほどまでとは打って変わって、どこか弱い声。

 

「だけど、じゃあ、どうすりゃよかったんだよ・・・・!」

 

泣きそうな声で、縋るように。

それでいて、節々に恨みを滲ませて。

 

「どうすりゃよかったんだよ・・・・なぁ・・・・!?」

 

ぐずり、と。

大穴から侵食するように、黒が広がっていく。

その体が、塵へ変わっていく。

 

「母さん・・・・どうしたら・・・・つぐない、が―――――」

 

そこから先は、言えなかった。

炭と崩れたことで、叶わなかった。

吹いていた風に尽くさらわれ、跡形もなく消え去る。

 

「っはあ!は・・・・は・・・・・は・・・・!」

 

緊張の糸が途切れ、マリアもまた膝を突いた。

肩を押さえ、地面に崩れ落ちる。

 

「・・・・は・・・・はぁ・・・・は・・・・は・・・・・っく・・・・!」

 

敵は消えた。

だけど。

胸に燻ってしまった思いは、消えてくれなかった。




前書きでふれたとおり、思わぬところから燃料をいただいたので。
後半は割とサクサク仕上がりました。


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消失へのカウントダウン

だから頭の中のぞいてるでしょ・・・・!?(ツイッター覗きながら)
あれからちょくちょくツイッターも覗いてます。
いやはや、色んなチョイワルビッキー見れて幸せです(笑

毎度の閲覧や評価、お気に入り登録も本当にありがとうございます。
とてもよく効く励みです。

―追記-
出勤前の寝ぼけた頭で書いたせいか、ツイッターについてのコメントが少しおかしくなっていました。
普通に右腕装備と書けばいいのに、なにやってんですかね、この物書きは(
今後このようなことがないように努めて参ります。
申し訳ございませんでした。


「ちはーっす」

「・・・・あら、いらっしゃい」

 

アヴェンジャーの騒動が終息してから、数日。

負傷で寝込んだマリアが、目を覚ましたところへ。

人懐こい笑みを浮かべて、響は病室へ入ってきた。

まだ寝ぼけ眼のマリアは、薄く微笑みを湛えて迎え入れる。

 

「りんご持って来ましたけど、食べれそうです?」

「ありがとう、けどごめんなさい、今はちょっと・・・・でも、切歌達が食べるかも、そこに置いてくれる?」

「はーい」

 

ビニール袋をがさがさまさぐって、スーパーで買ってきたらしいりんごを取り出す。

マリアがりんご好きだと聞きかじって持ってきたものだったが、今回はあまり意味が無かったようだった。

 

「聞きましたよ?めずらしく怒ったって」

「ふふ・・・・ええ、そうね」

 

『どかーん!がおー!』と両手を挙げておどける響を、マリアは愛想笑い。

しかし長くは持たず、やがて暗い顔になる。

響もまた、口を閉じたマリアへ何か問うわけでもなく。

ただ薄く笑ったまま、見つめるだけだった。

 

「・・・・ごめんなさい」

 

束の間静寂が流れて、マリアはぽつりとこぼす。

 

「調と切歌のことでも苦労をかけているのに、私は・・・・」

「ああ、別にいいですよそんなこと」

「けど・・・・!」

 

重々しく告げられた謝罪をあっけらかんと許す響へ、マリアはなお食って掛かったが。

響は首を横に振って制した。

 

「何か勘違いしてるっぽいんで、言っておきますけど」

 

それから背筋を正して、真っ向からマリアを見つめる。

 

「マリアさんは、強い人ですよ」

 

何事かと身構えるマリアへ、はっきり言い切った。

 

「そうやってどうしようもない感情を抱えてるのに、調ちゃんや切歌ちゃんみたいな、家族の為に耐えているじゃないですか」

 

お世辞でも取り繕いでもない。

本気で感じて、その上で受け入れている声。

 

「そんな人を悪く言えません、言いたくありません。他人にだって、言わせたくないです」

 

言い切られてしまったマリアは、病み上がりであることもあったのだろう。

何か悟ったような顔で目を伏せて、また黙り込んだ。

また沈黙が流れる。

窓の外、自衛隊や被災者の声のさざめきが聞こえ始めた頃。

 

「・・・・それで」

 

ふと、マリアはまた口を開いた。

 

「用事はそれだけ?お見舞いと言うなら、あの子の方にはいかなくていいの?」

「未来のほうにはこれから行きますよ、ただその前に」

 

響は参ったなという笑みから一転。

今まで以上に、真剣な顔つきになって。

 

「マリアさんに、お願いがありまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さーてさてさて。

リブラ、アヴェンジャーと続いた『執行者団(パニッシャーズ)』の襲撃でてんてこまいして、うっかり忘れそうになっていたんだけど。

わたし達、月の落下も止めなきゃいけないんだよ(白目)

実際、今回の騒動も含めて近隣の国々にはダダ漏れらしく。

ロシアをはじめとした先進国の後ろから、『はよ、月の軌道修正はよ』と、なんとなーくじーわじーわと催促が来ているとか。

自分らで言ってくるならともかく、虎の威を借る狐みたいに大国の後ろからっていうのはちょっとずるいと思わない?

とはいえ、年末に迫る世界滅亡をほっとけないのもまた事実。

というわけで、誰もがなんとなーく『次の襲撃がありませんよーに』とお祈りしながらの、ネフィリム起動実験ですよ。

関東地方の、某山奥。

万一事故が起きても被害を留められるよう、人気?何それおいしいの?何て田舎を選んだ。

ギアペンダントをいじりながら、慌しく動き回るスタッフさん達を眺めてみる。

ふと技術者陣に目をやると、未だ包帯をこさえたマリアさんの姿も見えた。

・・・・・あのお願いを実行してくれるのか、それとも心配してくれてるのか。

どっちにせよ、心強いことに変わりはないんだけど。

 

「立花?何故櫻井女史達を見てにやついている?何かあるのか?」

「いーえ、なーんにも」

 

めでたく復帰した翼さんに返しながら、勢いつけて立ち上がる。

改めて見てみると、粗方の準備は終えているらしい。

頃合かと思ったので、所定の位置についておく。

ほどなくして、続々集まる装者達。

特筆することは、その中に未来もいること、病み上がりのマリアさんは今回お休みなことだろうか。

 

「では、これよりネフィリム起動実験を行う」

「当然ながら危険も伴います、命を落とす危険も十分に存在するので、どうか、決して、油断をしないように」

 

弦十郎さんに続いて、重々しく語るナスターシャ教授。

・・・・・F.I.S.での実験については、ざっくりだけど聞いている。

()()()のその時、亡くなった人がいることも。

調ちゃんや切歌ちゃんも思い出したのか、どこか険しい表情になって。

現場を、重い空気が支配した。

 

「脅すようでなんですが、今回起こそうとしている聖遺物はそれほど危険な代物でもあります。十分やってくれることは、こちらも重々承知していますが、改めてお願いしますね」

「はい」

 

眼鏡を直すウェル博士に、翼さんが代表して返事。

全員でギアを纏って並ぶ。

目の前には、何重ものセーフティを掛けられた、休眠状態のネフィリム。

 

『――――それじゃあ、始めてちょうだい』

 

了子さんの声を合図に、わたしは両脇のクリスちゃんと翼さんに手を伸ばす。

差し出された手を、二人が握り返してくれた。

そしてそこから更に隣の人へ手を繋ぐのが見える。

――――前提として。

完全聖遺物を励起させるためには、大量のフォニックゲインが要る。

ものによって必要量は違うみたいだけど、個人でやるにはまず無理だ。

だから二年前の二課は、ライブ会場と言う大きな場所に人を集めたわけで。

だけど今回は、ひたすら危険なことに定評のあるネフィリム。

一般人を至近距離に近づかせるわけには行かない。

じゃあ、どうするか?

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

個人でやるのが難しいなら、みんなで。

 

「Emustolonzen fine el baral zizzl」

 

シンフォギアを扱える装者全員で、

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

歌い上げた絶唱を、

 

「Emustolonzen fine el zizzl...」

 

束ねて、ぶつければいい。

 

「――――が」

 

膨れ上がる『歌』、溢れかえる『熱』。

感じる。

繋いだ手を伝って、わたしへ五人の歌が流れてくる。

 

「耐えろ、立花!」

「まだ正気かぁ!?しっかりしろ!!」

「響!わたしもいる!頑張って!」

 

仲間達の声に押されながら、暴れる流れを何とか制する。

――――奇しくも発現した、『立花響(げんさく)』と同じ力。

傷つけるのが怖いくせに、ひとりぼっちを嫌がる。

浅ましい力。

 

「グ、ウウウウゥゥゥゥッ・・・・!」

 

役に立てるというのなら・・・・!

 

「ッおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

手を離す。

腕を重ねて、装甲を一つにする。

狙いは一点。

ネフィリムただ一つ。

間合いは三歩、駆け出す。

飛び出し、踏み込み、近づいて。

束ねた歌を、明日への音色を。

力の限り、叩き込むッッ!

 

「だあああああああああああああああああああッ!!」

 

感じる、固い手ごたえ。

設置された注入部から、フォニックゲインが流れ込むのが分かる。

一歩飛びのいて後退。

みんなとの中間地点に立ち、様子を見る。

荒れ狂う嵐は、七色に煌いていて。

だけどやがて、食われるように吸い込まれていく。

風が強い、油断すると塵が目に入りそう。

腕で顔を庇いながら、最後の一筋が飲み込まれていくのを確認して。

 

「・・・・」

 

沈黙。

警戒は解かない。

それは後ろのみんなも同じこと。

未来がちょっと揺れてるかな?初心者らしい可愛らしさだ。

感じる気配に、少し微笑ましさを覚えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――ダメ、セーフティが持たない!!』

『響ちゃんッッ!離れてッッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

瓦礫が顔面に飛んでくる。



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限界

「んぉがッ!?」

「響!?」

 

瓦礫が額にクリーンヒットし、大きく仰け反る響。

皮膚を破ったのか、顔の片面が一気に赤く濡れる。

衝撃で頭がくらくら揺れ、きちんと立てているかおぼつかなくなる。

そんな隙だらけの『獲物』を、『奴』は見逃さなかった。

 

「――――ッ!?」

 

揺れる土煙。

飛び出してきたのは太く頑強な腕。

避けること叶わない響は、その一撃をまともに受けた。

 

「響!!」

 

吹っ飛んでいく大切な人を、悲鳴のような声で呼びながら手を伸ばす未来。

当然間に合うはずもなく、結局見送る形になる。

伸ばした手も、無駄になった。

 

「こいつ、またデスか・・・・!」

「性懲りも無く・・・・!」

 

切歌と調が気配を尖らせる。

邂逅したライブ会場で、響に向けたものと同等かそれ以上の敵意。

二人に釣られて、翼とクリスも元の方を向く。

そしてほどなく、『そいつ』は現れた。

 

「グオオオオオォォォォォォッ!!!!」

 

引き裂かれるように震える大気。

陽光を受けて滑らかに光る表皮。

体のあちこちは、脈打つように点滅している。

 

『ネフィリム起動!同時に暴走を開始!』

『束ねた絶唱の威力が、こっちの予想を軽く超えてしまうなんて・・・・!』

 

オペレーターや学者達の緊迫した声の中から、一際強く語りかけるのはウェル。

 

『聞こえますか!?ご覧のとおり緊急事態です!心臓さえ残っていればどうとでも出来るので、遠慮なく排除してくださいッ!!』

「言われなくともッ!!」

 

その言葉に、いの一番に反応したのはクリス。

ガトリングを重々しく構え、引き金を全開に引く。

ネフィリムへ喰らいつく無数の鉛玉、だがその分厚い皮膚の前では牽制になれているかどうかも怪しい。

しかしそうやって標的が注意を逸らしているところへ、翼が一飛びで背後に。

刃と瞳をぎらつかせ、その太い首を刈り取らんと太刀を振るう。

だがまたしても皮膚に阻まれ、刃を埋めるのみに留まった。

 

「・・・・ッ」

 

翼は舌を打ちながら刀を手繰り寄せ、振り向き様に襲い掛かってくる腕を回避。

闘志を滾らせたまま着地した敵を、ネフィリムは唸りながら睨む。

と、そうやってまた注意を逸らしているところへ、また別の銃撃。

上手く首の傷に当てられ、痛みに咆えながらギロリと目を向ければ。

少し怖気ながらも鉄扇から銃撃する未来が。

次から次へ来る邪魔者達に苛立ったネフィリムが咆哮を上げれば、

 

「いや、うるさいって」

 

先ほど吹き飛ばした響が、瞬く間に懐へ接近。

がら空きの胴体へ、重厚な一撃を打ち込んだ。

 

「こればっかりは褒めてやるデスッ!!」

「やああああああッ!!」

 

怯んだネフィリムが大きな隙を見せれば、すかさず切歌と調が連携で攻める。

比較的細く、斬り易い四肢を重点的に攻め、ネフィリムの動きを鈍らせていく。

 

「これでッ、刈り取るッ!」

「マストッ!ッダアアァーイッ!!」

 

上と下から、刈り取る刃が唸りを上げて。

その首へ、直撃を叩き込んだ。

潰れるような悲鳴を上げ、首から血液らしき液体を噴き出しながら倒れるネフィリム。

体液を払いながら着地した切歌、調も交えて、装者達は身を固める。

緊迫した空気、一分とも十分とも取れる、濃密な時間の流れ。

そんな中で、低く細く鳴き声を上げていたネフィリムは。

やがて、サイレンが治まる様に静かになり、沈黙したのだった。

 

――――鎮まったか?

 

ふと、誰かが一抹の期待を抱いて。

 

『――――ダメ、まだ終わってないッ!!』

 

友里の、悲鳴のような声がして。

瞬間、轟音。

 

「ぐぁっ!?」

「わあああっ!!」

 

熱気と共に、少女達は木の葉のように吹っ飛ぶ。

再び土煙に包まれる現場。

文字通り首の皮一枚繋がったネフィリムは、忌々しそうに痛みに悶えていた。

 

――――この疼きを治めるには、どうすべきか

 

考えるまでもない。

一番の特効薬は、幸い()()()()()

最初はどいつからだと、獲物を探すネフィリムのすぐ足元。

かすかな物音が聞こえた。

 

「――――ひ」

 

ゆらりと見下ろせば、未来が絞るような短い悲鳴を上げる。

機材の一部が左腕に突き刺さり、隆起した岩盤に縫いとめていた。

 

「あ、あぁ・・・・いっづ・・・・!」

 

逃げようともがくも、いたずらに血を流して痛みに怯むだけ。

だが、動かなければ死ぬ。

掴んで引き抜こうとするが、残酷にもネフィリムはこれ見よがしに大口を開ける。

 

「・・・・ぃ、ぃゃ」

 

口内に備えたご自慢の牙が、その柔肌を引き裂こうとして。

 

 

 

 

 

 

阻むように、割り込む人影。

 

 

 

 

 

「――――ぁ」

 

肉が裂ける音、骨が圧し折れる音。

噴き出した血が鉄の臭いを撒き散らしながら、地面を赤黒く濡らす。

目の前の光景を呆然と見つめる未来は、ただ。

 

「響いぃッ!!!!!」

 

喉が破れるほどの大声で、大切な人を呼ぶしか出来なくて。

響の右肩に喰らいついたネフィリムは、なお口を閉じ続ける。

 

「ぁ、ぐ・・・・!」

 

肉が切られ、骨が断たれ、さらに血が流れて。

ネフィリムは欲張りにも、肩ごと右腕を持っていった。

瞳から光を失った響は、頭から倒れこむ。

そんな彼女の体は、溢れた自らの血に沈んでいく。

 

「響!!響!!響!!そんな!!やだ!!響!!ねぇ!!」

 

左腕の痛みなんてすっかり彼方へ吹き飛んだ未来。

半ば狂乱したように響の名前を呼びながら、届かない手をめいいっぱい伸ばす。

その目の前で、右腕を飲み込んだネフィリムがまた喰らいつく。

牙を突きたて、今度は背中側から胴体を齧った。

 

「いやあぁ!!もう止めて!!響!!響!!響!!」

 

未来がどれだけ叫ぼうとも、捕食は無情に続く。

肉を齧り裂き、髄を呑み啜り、人体と齧った聖遺物を己の中に吸収していくネフィリム。

響が物理的に小さくなる度、代わりに巨大化する。

 

「やめて!!死んじゃう!!響が死んじゃう!!」

 

いやだ、いやだ、いやだ。

未来の頭の中は、その言葉で溢れ返っていた。

もはや出来ることは、泣き叫びながら無意味な制止を吐くことだけ。

 

「響!!響いいぃ――――ッ!!!」

 

伸ばした手のひらにすっぽり治まる響。

ネフィリムはなお『食事』を続けようとして、

 

「ぅ雄おおおおおおおおおおおおお―――――ッッッッ!!!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!?」

 

飛び込んできた弦十郎に、力の限り殴り飛ばされた。

響の血と自らの涎を撒き散らし、悲鳴を上げながらきりもみして吹っ飛んでいく。

 

「ッ立花ァ!!小日向ァッ!!」

「しっかりしろッ!!おいッ!!」

 

気絶から復帰した翼とクリスが駆けつけ、未来を磔から解放する。

 

「響ッ!!」

 

怪我なんてお構いなしに未来が縋り寄れば、体の半分近くを失った、無残な姿の響が。

あんまりな光景に、呆然とした未来は顔を歪めて新たな涙を溢れさせた。

 

「ガルルルアァァッッ!!」

 

一方のネフィリムが、たかが人間が与えた予想以上のダメージに怒りを覚えながら身を起こせば。

次の瞬間には地面に叩きつけられていた。

翼が後ろを見れば、了子が一切の表情をそぎ落として手を翳している。

ネフィリムを、まるで尽くの価値が無いようなものを見る目で凝視し続けて。

徐に空いた片手に橙の陣を展開して、ネフィリムを押さえつけている障壁に付与させて。

 

「―――――ひれ伏せ、畜生」

 

一拍の間を置いた、刹那。

スイカか何かが潰れるように、ネフィリムの頭部がひしゃげて爆ぜた。

胴体を一瞬跳ね上げたっきり、沈黙するネフィリム。

さすがに頭を失えば、大人しくなるようだった。

 

「医療班収容急げッッ!!響くんを運ぶんだッッ!!」

 

危機は去ったが、問題がなくなったわけではない。

闘志を滾らせ昂った状態のまま、弦十郎は次々スタッフへ指示を飛ばす。

――――今回の起動実験。

要となるネフィリムの心臓は手に入れることはできたものの、決して僥倖とはいえない結果だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――意識がはっきりしてくる。

頭がぼんやりして、整理がつかなかったけれど。

そういえば、起動実験中にネフィリムが暴走したことを思い出して。

 

「――――、ッ!?」

 

がばっと身を起こして、違和感。

世界が、暗い。

 

「・・・・ひびき」

 

横から、未来の声。

振り向くけど、何も見えない。

 

「ひびき、ひびき、ひびき・・・・ああ、よかった・・・・ひびき、ひびきぃ・・・・!」

 

泣きながら無事を喜んでくれる未来に、何とか返事をしようと口を開く。

 

「――――」

 

喉は震えず、言葉が出なかった。




Q.ガングニールさん暴走しなかったね?

A.ガングニール「だってこの娘、死にかけるとか日常茶飯事ですしおすし」


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砂の上のインターバル

わたくし、いたって平凡な人間であると思っておりましたが。
感想欄の阿鼻叫喚に喜んでしまうあたり、どうやら愉悦部員らしいぞと思い始めた今日この頃ですwww(
いえ、好きなのはハッピーエンドですよ?本当ですよ?(


誰もがまさかと愕然とし、同時についに来たかとも思った。

先日行われたネフィリムの起動実験。

結果だけ見れば成功に思えた。

・・・・響の一時離脱と言う、最悪すぎる犠牲を払うことで。

ネフィリムに体の六割半を貪られた響は、また当然のように体を再生させた。

そして、新たな障害を発症させたのだ。

完全な失明と、失声症。

響はもう、一切の景色を見ることも、誰かと言葉を交わして笑いあうことも叶わない。

これがまだ喉だけだったのなら、筆談などでコミュニケーションを取れたのだが。

今となっては後の祭りだった。

 

「・・・・ひび、き」

 

診断を聞き終えてからずっと、どこか難しい顔をして俯いた響へ。

未来は震える手を伸ばす。

気付いてこちらに目を向けた響は、束の間きょとんとしていたが。

未来のおぼつかない指先が触れたことで、何となく察したらしい。

安心させるように柔和な笑みを浮かべながら、そっと握り返した。

 

「――――ぁ」

 

相変わらず体温の無い冷たい手。

代わりに握ってくれている力加減から、その優しさが伝わってきて。

 

「ぁ・・・・ああ・・・・!」

 

だからこそ未来は、大粒の涙を流す。

嘆きと共に、がっくり項垂れる。

自身が情けなくてたまらない。

ただ響の力になりたくて、だからギアを纏ったのに。

それがどうだ。

大して役に立てないどころか、こうやって足を引っ張って。

 

「ご、めんなさぃ・・・・!」

 

いや、障害程度で済んでいる今ならまだいい。

実験のときなんか、自分がもたついてしまったばっかりに、響に大怪我を負わせて。

そのツケが、響を苦しめていて。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・!!」

 

未来は、悔しかった。

悔しくて悔しくて、後悔で身が張り裂けそうで。

同時に、罪悪感にも押しつぶされそうになって。

 

「はぁ、はぁ、は・・・・っは、ひゅ・・・・・」

 

その心が、体を侵し始める。

喉が引きつる、呼吸がままならなくなる。

半開きの口元からは、笛のような情けない音が連続して鳴る。

 

「ひゅぅ・・・・ご、ほ・・・・ぇふ・・・・ひゅぅ、ひゅ・・・・!」

 

目の前が濁って、喉がからからになる。

なのに、空気を求めずにいられない。

 

「――――?――――!」

 

響が、声はなくとも、息遣いで案じてくれるのが分かる。

答えようと口を動かせば、なお空気が大量に入り込んでくる。

頭が働かない、響が悲しそうな顔をしているのに。

今の未来には、何も出来ない。

それがまた悔しさを助長させて、さらに多くの酸素を取り込もうとして。

 

「――――小日向」

 

その呼吸を止めたのは、見舞いに来てくれていた翼だった。

 

「小日向、落ち着け、大丈夫、大丈夫だから・・・・立花」

 

さっと手を割り込ませ、未来の口を一旦遮断した彼女は。

未来の頭を優しく撫でながら、響へ一声。

意図を読み取った響は、未来を柔く抱き寄せる。

 

「小日向、返事はなくともいい。立花の鼓動は聞こえるな?」

「はぁ、は、は・・・・ひゅ・・・・ふっ・・・・」

 

響の胸に顔を押し当てられた未来は、目を閉じる。

額に意識を集中させれば、確かに感じる脈動。

 

「そのまま、呼吸をゆっくり、鼓動のテンポに合わせるんだ。深くは吸わなくていい、浅いままでいいから」

 

なお未来の頭を撫で続けながら語りかける、翼の声に従って。

響の鼓動を必死に聞き取りながら、テンポを下げようとする。

 

「ひゅ、げほ・・・・!」

 

と、唾液が喉に入り込んで咽た。

乾いていたことも相俟って、かなり痛い。

だが、今は咳き込んでいる余裕なんて、

 

「焦るな、焦らなくていい、時間を掛けていい」

 

そんな不安を、翼は見透かしてくれていた。

響と一緒に背中をさすりながら、粘り強く話しかける。

 

「ゆっくり、ゆっくりでいい・・・・そう、小日向のペースでいい、私も立花も待っててやるから」

「――――ッ」

 

翼の言葉を、響は力強く頷いて肯定する。

二人の優しさに少しの安堵を覚えた未来は、見開いていた目を一度閉じて、呼吸に集中する。

一分、二分と時間が過ぎる。

秒針が周回を重ねるたび、未来の呼吸は落ち着いてきた。

 

「――――」

 

ふと、響がさらに強く抱きすくめてくる。

密着したことで、先ほどよりもはっきり鼓動が聞こえる。

たまらず未来も抱き返しながら、息を吸って、吐く。

 

「・・・・・はああぁ」

 

そうして、長針が次の数字にたどり着いた頃。

未来は大きく息を吐いて、ようやく落ち着いたのだった。

一息ついた未来の頭を、響は優しい手つきで撫で続けていた。

 

「――――慣れているのね」

「マリア。ああ、そうだな・・・・」

 

いつの間に来ていたマリアに、少し驚いた翼は。

過去を想起するように、足元へ目をやって。

 

「私も、覚えがあるからな」

「・・・・そう」

 

どこか感慨深げに呟いた翼に、マリアはそれ以上追及しなかった。

ふと目を向ければ、未だ響に縋りつく未来が。

 

「・・・・見舞いとは言え、これは邪魔するものではないわね」

「だな、馬に蹴られてはたまらん・・・・立花、私達はこれで失礼する」

 

立ち上がりつつ、翼がそう言うと。

響は呑気に手を振って見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、マリアは何用で立花の下へ?」

「あら、見舞いに理由がなきゃダメ?」

 

二課の息がかかった病院。

マリアと連れ立って歩く翼は、ふと隣へ目をやる。

対するマリアは、どこかからかうように笑みを浮かべたが。

それを受けた翼は、即座に目を細めて。

 

「誤魔化せたと思ったか?立花達は気付いていないようだったが・・・・入ってきたときのお前、とても見舞いに来たような顔ではなかったぞ」

「・・・・・気付いていたのね」

 

指摘に驚き、立ち止まるマリア。

数歩先へ行った翼を凝視してから、参りましたといわんばかりに両手を上げた。

 

「お前と立花の間、浅からぬ因縁があることは重々承知している。だが、これ以上あの子に・・・・」

「そうじゃないわよ」

 

どこか威圧的になってきた翼を宥めるように、呆れた声で制止するマリア。

 

「そうじゃないけど・・・・そうね」

 

いくばくか落ち着きを取り戻す翼の前で、マリアはしばし考え込む。

やがて結論が出たのか一つ頷いて、完全に平静になった翼へ向き直った。

 

「少し、付き合ってくれない?」

 

真剣な顔つきになったマリアに、十中八九何かあると読んだ翼は。

ただ一つ頷いた。

一言礼を述べたマリアは、早速移動を開始。

 

「――――実は」

 

人気の無い一角のベンチに一緒になって腰を下ろすと、マリアは早速語り出した。

内容はつい数日前、自分が入院していたときに、響が見舞いに来てくれたときの会話。

そこで取り交わされた、ある『約束』。

話を聞いていた翼の顔は、目が見る見る見開かれていく。

歌手としての彼女だけ知る者からすれば珍しい、驚愕を全面に押し出した顔になった翼は。

ただただその信じられなさに、首を横に振るしか出来なくて、

 

「いや、待て」

 

自分を落ち着かせるために、顔を手で覆って項垂れる。

 

「仮にそうする必要が出てきたとして、果たして達成出来るのか?アレを見る限り、どうも不可能なような気がするんだが」

「私もそう言ったのよ。そしたらあの子ったら、ニコニコ笑って・・・・『続けたら、出来るかもしれませんよ』って」

「あの大馬鹿者・・・・!」

 

その時していたであろう、満面の笑みが容易に想像できて。

翼はとうとう項垂れてしまった。

 

「・・・・ただ、気持ちは分からないでもないけれど」

 

そんな翼へ少し面白そうに微笑んだマリアは、そう零す。

 

「だって、あなた達に出会うまで、味方なんてあの子くらいしかいなかったのでしょう?だからこそ、あの時私を全力で叩きのめしたのだし・・・・」

 

疑問を持って見上げてきた翼に、とつとつ語りかける。

 

「『あの子を守る』・・・・その行動理念が、今でも濯ぎきれていないのよ」

「・・・・小日向を害するものは、尽くを蹂躙する、か」

「例えそれが、自分自身であったとしても、ね」

 

マリアが付け加えた一文に、翼はまた頭を抱えた。

 

「私も、F.I.S.で、マムや切歌達と出会うまではそうだったから・・・・誰もが何時死ぬか分からない中、足手まといの子どもなんて、守る余裕ないもの」

 

そしてその中を、当時存命だった妹と一緒に生き延びた。

誰も守ってくれない、誰も助けてくれない。

似たような状況に身を置いていたからこそ、響の必死さも分からないわけではないのだ。

 

「というか、この話は司令達には?」

「まだよ・・・・この約束が、どうも生命線のようになっている節があるから」

 

ふと疑問に思った翼が、一度顔を上げて問いかけるものの。

マリアの返事に、また頭を押さえた。

 

「確かに、司令達なら全力で止めにかかるな」

「だけどあの子にとって耐え難いのは、他ならぬ自分が手にかけること。ならばいっそ、ということでしょう」

 

当然、翼達だってそんな結果にならないよう全力を尽くす。

だがここの所を鑑みるに、万が一が無いなんてとても言い切れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とうとう一人になった彼。

目を閉じ、頬杖を突いてなにやら考え込んでいると。

ふいに、その目が開いた。

 

「――――おや、貴女でしたか」

「ハァイ、お久しぶり」

 

その背後。

椅子の背もたれに腰掛けてくる、エキゾチックな女性。

 

「随分大暴れしてるみたいね」

「申し訳ありません、もう少し抑えた方がよかったですかな?」

「あはは、逆よ逆!世界中の目が日本に向いてるから、動きやすくって。あーし達助かっているわ」

「それはよかった」

 

テンション高く褒め言葉を告げた女性だったが、ふと周囲を見渡す。

 

「それにしても、ここも大分静かになったわね。あんたはまだ暴れないの?」

「そうしたいのは山々ではありますが、私の場合『アレ』が起きないことにはどうにも・・・・」

「あらら、じゃあそれまで大人しくしているの?」

「ええ、そのつもりではありますが・・・・しかし・・・・」

 

どこか歯切れ悪く答えた彼。

女性は急かしはしないが、どこか興味深そうに覗き込んでいる。

 

「そうですね・・・・『事』を起こす前に、確かめたいことはあります」

「へぇ?」

 

他の二人とは違い、どこか大人しい性格の彼。

そんな彼が積極的に確かめたい事柄に、女性の目は興味に細められた。




梶浦由紀さんの魔力にはめられた所為か、自作で悪役をしゃべらせると、『ship of fools』が自動的に流れるようになりました。
・・・・ツバサのアニメ、原作沿いで見たいっすわぁ(


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砕ける安寧

シリアスが続きすぎた所為で、日常の書き方を忘れかけてました。
あまあま出来てるかしら・・・・!


「おでかけ、しない?」

 

さーて。

わたしが視力と声を失くしてから、数日が経った。

真っ暗な世界と喋れない不便に何となく慣れてきた頃。

いつも通りお見舞いに来てくれた未来が、そう提案してきた。

『どういうこと?』と、首を傾げてみる。

 

「ほら、ここのところ。大変なことがずっと続いたじゃない?もう少ししたら、フロンティアの起動もあるし」

 

そう。

失明したり失声したりしたとはいえ、ネフィリムの起動自体は成功していたんだ。

それに日本が大変な状態になっているとはいえ、月の落下も懸念されている中。

一国の事情にかかりきりと言うわけにも行かない。

だから、次の作戦はわたし抜きでやるとのことだった。

まあ、当たり前っちゃ当たり前だから、受け入れはしてるんだけどね?

 

「弦十郎さんにも許可は貰ってるし、後は響の返事次第なんだけど・・・・どうかなぁ?」

 

どう、と言われても。

絶賛お休みなわたしと違って、未来はこの後大仕事を控えている。

目が見えない上に喋れないわたしでも、英気を養う一助が出来るなら。

断る方がとんでもなかった。

なので、こっくり頷いて肯定を伝える。

 

「本当?やった!」

 

わたしの手を握って、嬉しそうに笑う未来。

・・・・よかった。

こんなになっても、まだ未来を笑わせることはできるんだ。

 

 

 

それでまあ、次の日。

 

 

 

外の空気って、こんなにおいしかったっけ・・・・!?

いや、都会なんだけど!びみょーに排ガス臭いけどね!?

やっぱあれだね、室内にいるよりずっとマシだね!

 

「響、浮かれてる?」

 

ありゃ、バレたか。

隠してもしょうがないので、ちろっとベロを出す。

すると、未来がくすくす微笑んでいるのが聞こえた。

 

「それじゃあ、行こうか。しっかり掴まっててね」

 

腕を組んでくる未来にこっくり頷いて、歩き出した。

バスに揺られて行く先は、近くの臨海公園。

病院からもほど近い、ちょうどいい場所にあるんだよね。

いざ着いてみれば、街中以上に澄んだ空気。

吹いてくる風には海の香りも混ざっている。

シーズンはとっくに過ぎてる所為か、未来がちょっと寒そうにしてたけど。

バスから降りたばかりの茹だった体には、ちょうどいいみたいだった。

 

「――――?」

「大丈夫、響がいるんだもん」

 

とはいえ。

付き合わせて風邪を引かせてしまったら大変なので、未来の方を見て首を傾げてみる。

こっちの思惑が分かりやすかったからか、未来は元気に答えてくれた。

 

「あ、あそこカモメがいるよ。鳴き声聞こえる?」

「――――」

 

確かにそれっぽい声が聞こえるので、こっくり頷く。

それからも未来は、見えたことを中心に色々教えてくれた。

お日様が暖かくて、絶好のお出かけ日和だということ。

意外と家族連れもいること。

対岸の港に、大きな貨物船が入ってきていること。

例え見えなくても、同じ景色を共有できるのに安心できて。

わたしは首が痛くなるくらい何度も頷きながら、未来の話を聞いていた。

 

「・・・・?」

 

と、そんなこんなでお散歩を楽しんでいると。

未来がふと立ち止まった。

しっかり腕を組まれているので、自然とわたしも立ち止まる形になる。

何があったんだろ。

 

「おっ、お嬢さん興味持ってくれた?よかったら見てってよ」

 

浮かんだ疑問は、気のよさそうなおにーさんの声で何となく解決した。

露店かな?

気になるものでもあったんだろうか。

 

「ぁ、ぃえ、その・・・・ご、ごめんなさいッ!」

 

だけど未来はどこかあたふたすると、そのまま全力疾走を始めてしまった。

わたしも引っ張られて、『あらら、またねー』なんておにーさんの声が、ドップラーで去っていく。

ど、どうしたの?

 

「ぁ、ご、ごめん!大丈夫だった?」

「――――」

 

ある程度走ったところで、未来はやっと我に返ったらしい。

いや、走ったこと自体は別にいいんだよ。

首を横に振ってから、『何かあったの?』というニュアンスで首を傾げてみる。

 

「な、なんでもないよ?」

 

えぇ~?ほんとにござるか~?

 

「ほ、ほんとだってば」

 

ちょっとからかうように前かがみになってみると、そんな可愛い反応が帰ってくる。

うむ、そのかわゆさに免じて見逃そうではないか。

 

「なんか、納得いかないこと思われた気がする・・・・」

 

きのせいですよ~、と。

かるーく口笛を吹いて、誤魔化しておいた。

 

「もう、響ったら・・・・」

 

口調こそ呆れていたけど、聞こえた息遣いはなんだか楽しそうで。

だからわたしも、思わず笑顔が浮かんだ。

それからちょっと先へ出て、未来の手を引っ張る。

もーちょっと歩いてみよ?

 

「ふふ、うん」

 

手を握り返した未来は、また腕を組んでくれた。

そのあとも、海で魚が跳ねたのが見えたとか、咲いてる花が何の種類か考えたり。

そうこう歩き回ってるうちに、すっかりお昼時に。

未来がお弁当を持ってきてたので、広げたレジャーシートの上で食べる。

ふと、『わたしどうやって食べたらいいんだろ』とか考えたんだけど。

疑問はすぐに解決した。

 

「はい、あーん」

 

まあ、そうなりますよね。

家とか仲間内でやるのは別にいいんだけど、こう。

外でするのは、まだ気恥ずかしい部分がありましてな?

いや、どっちにしろ食べるんだけど。

未来からもらった食べ物を、ひな鳥みたいに受け取ってもぐもぐ。

食感からしてハンバーグかな?

 

「おいしい?」

「――――」

 

言われるまでも無いので、頷く。

味覚は無くても、未来と一緒に食べるものならなんでもおいしい。

フシギダネー。

 

「おにぎりもあるよ?」

「――――」

 

ください!と口を開けると、未来がまた楽しそうに笑ったのが分かった。

――――お昼を食べ終わった後は、ちょっと一休み。

レジャーシートに座ったまま、なんとなーくうとうと。

潮風が気持ちよくて、このままだと眠っちゃいそう。

 

「ひーびき」

 

なんて考えていると、未来が頭に手を回してきた。

何々?と思っていると、横に倒される。

頭の下には、柔らかい感触。

これは・・・・膝枕ッ!?

い、いいんすか!?こんな役得なことしてもらっちゃって!?

 

「寝てていいよ」

 

優しい手のひらが、頭を撫でてくれる。

見えなくても、未来がどんな顔してるか簡単に想像できて。

・・・・そういえば。

こんなにゆっくり出来たのって、何時以来だろうか。

今年は特にバタバタしてたから、こうやって休むことはあんまり記憶に残ってない。

そうなると・・・・うん。

障害を背負ってしまったこと、そこまでネガティブに捉えなくてもいいかもしれない。

手を握り返せば、また未来が笑った。

・・・・ああ、いいなぁ。

あったかいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

そんな平穏をぶち壊す、ぐぅんという音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!」

 

現れた気配に飛び起きる。

未来も一緒に身構えたのが分かる。

 

「――――立花に小日向か、ちょうどいい」

 

一緒になって睨んだ先から、久しぶりに聞く声。

記憶とはちょっと違っているけど、間違いない。

 

「武永くん・・・・!」

「確かめたいことがある、手伝え」

 

目の前で、敵意が膨れ上がった。




今回、目が見えない描写をしましたが。
極力同じ症状の方に不快な思いをさせないよう配慮したつもりでしたが、もし気になり所がございましたら。

「ちげーぞオラアアアン!?」

と、遠慮なくご指摘ください。


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慟哭

現れた同級生は、未来の記憶と比べて変わり果てた姿だった。

白く脱色した髪、血の色に染まった瞳。

上半身にはタートルネックの黒いへそ出しルックを、下半身には無骨なズボンと腰布を揺らしている。

 

「響、ごめん。下がってて・・・・!」

 

即座にギアを纏い臨戦態勢となった未来は、響に一言告げてから前に出る。

硬直していた周囲の人々は、噂されている装者の格好が、未来のそれと該当しているのに気がついて。

連鎖的に突然現れた不審者の正体にも見当がつき、段々と恐怖におののく。

 

「に、逃げろッ!!街を二つも壊滅させやがった連中だ!!」

「まだ捕まってなかったの!?」

「こわいよぉ!おかーさん!」

 

パニックはじわじわ広範囲に広がり、人々は我先にと逃げ出した。

とにかく走るもの、我が子を抱えて駆けるもの。

様々な逃げ方で、人がどんどんまばらになっていく。

一般人がどうにか逃げていることにほっとしながら、未来ははっとなる。

 

(響は?響も逃がさなきゃ・・・・!)

 

首だけで振り向けば、先ほどから変わらない位置に座り込んでいる響の姿。

目が見えない上、声も失っている彼女は。

自分で逃げることはおろか、助けを呼ぶことすら出来ない。

発症から日が浅いことが災いし、未来はすっかり失念してしまっていた。

だが、増援が来るまでの間、目の前に現れた敵も放っておけない。

苦い顔で、向き直ったその時。

 

「君ッ、大丈夫かい!?」

 

後ろで、声。

思わず振り向けば、先ほど通りかかった露店商の青年が。

響の手を取り、立ち上がらせていた。

 

「ッすみません!その子をお願いします!目が見えないんですッ!!」

「お嬢ちゃん、さっきの!?ぁ、ああ、分かった!」

 

青年は未来の姿に驚いているようだったが、対峙している敵に気付いてからの行動は早かった。

しっかり頷くと、響の背中へ誘導するように手を回し、一緒になって逃げていく。

響は途中何度も振り返っていたようだが、急かされたこともあり、最終的に大きく離れていった。

 

「・・・・・さて、その仮初の善意が、どこまで保つのやら」

 

その様子を、敵はどこか軽蔑するように吐き捨てて。

未来は思わず視線を鋭くした。

 

「・・・・・ひとまず、名乗るか。知ってのとおり、本名は『武永鐘太(たけながしょうた)』だが、現在は『ジャッジマン』を名乗っている」

「どうして、こんな・・・・あなただけじゃない、リブラやアヴェンジャーも・・・・どうして人を傷つけるの!?」

 

せっかくのデートへ水を注されたこともあるのだろう。

しかし、これまでに傷つき、失い、涙する人々を目の当たりにしたこともあり。

それを上回る義憤を滾らせてもいた。

肩を怒らせて、未来は問いかける。

 

「語ったところで、理解されるのか?」

 

だが、ジャッジマンは回答拒否を答えて、徐に拳を握った。

間髪入れずに迸る殺意。

大気を揺さぶり、未来へ叩きつけられる。

肌がひりつくような気配に、未来は顔を歪めたものの。

それでも目だけは逸らさずに、鉄扇を握り締める。

じゃっ、と、砂がすれる音。

姿が消えたと思ったら、迫る拳が見えて。

 

「――――ッ!?」

 

間一髪。

未来は柄を割り込ませることで、顔への直撃を往なす。

が、直後、腹に衝撃。

痛みに怯みそうになるが、何とか追撃を避けるべく後退する。

距離を取れば案の定、ブーツの底がギリギリのところで止まった。

 

「・・・・ッ」

 

舐めてくれるなと、顔を引き締めた未来は打って出る。

喉を狙っていた足を鉄扇で打ち、また距離を取る。

接近しようとしたジャッジマンの足元へ、弾丸を撃ち込んで牽制。

 

――――閃光ッ!

 

鉄扇を展開して、無数の光を放つ。

避けられるのは想定内、接近されるのも想定内。

鉄扇を引き寄せて、拳を受け止める。

 

「・・・・はっ」

 

いつか翼に習った体捌きで、身を翻して流す。

無防備になった背中へ発砲。

ジャッジマンもまた身を翻して回避し、お返しといわんばかりに蹴り上げを放った。

未来は鉄扇を跳ね上げられた挙句、つま先が頬を掠める。

頬に砂汚れと擦り傷をつけてしまったが、怯まずまた発砲。

放った弾丸は、ジャッジマンの腕を掠めた。

・・・・アヴェンジャー戦にて、醜態をさらしたあの頃よりは動けている。

もとより、響が倒れて以来一層訓練に打ち込んだのだ。

成果が出てくれなければ困る。

しかしその一方で、懸念していることもあった。

 

――――忘れないで欲しいのは、神獣鏡は最弱のギアであるということ

 

――――聖遺物相手なら、絶大な切り札ともなりうるけど

 

――――それでも、ガングニールや天ノ羽々斬に比べると、スペックはどうしても劣ってしまうわ

 

――――だから、決して無茶をしないで

 

脳裏。

ギアに適合したあの日、了子から告げられた忠告が蘇る。

 

「・・・・ふぅっ」

 

一呼吸。

濁りかけていた頭がクリアになる。

――――確かに、この身に纏うシンフォギアは。

二課が保有する中では最弱だろう。

それでも、退く気は毛頭無かった。

だってここで退いたら、今度は響に襲い掛かるだろう。

根拠は無いが、何故だかそう確信出来た。

それに、響はいつも傷つきながら守ってくれた。

命がけで、戦ってくれていた。

 

(だから、わたしだって・・・・!!)

 

最弱だからなんだ、スペックが劣るからなんだ。

それよりもずっとずっと酷い環境で、響は戦ってきたんだ・・・・!!!

 

「・・・・正直、予想外だな」

 

一方のジャッジマンは、何やら考え事。

険しい顔をする未来と対照的に、余裕すら見せている。

 

「では、こうしよう」

 

結論が出たらしい次の瞬間。

大気を引き裂く轟音と、まばゆい光が炸裂して。

 

「――――ッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーちょいだ、がんばれ!」

 

露店のおにーさんに手を引かれながら、わたしはまだ逃げ続けていた。

目が見えないばっかりに、数え切れないくらい転んで。

何度も何度も、おにーさんを足止めしてしまった。

 

「――――」

 

もう構わない、置いてってほしい。

そう伝えたいのに、声が出なくてもどかしい。

その一方で、わたしを決して見捨てないおにーさんの優しさが嬉しくて。

・・・・わたしは、まだ。

赤の他人に、優しくしてもらえる価値が、あるんだなって。

何となく、嬉しくて。

 

「――――ッ」

 

その過ぎった考えを、振り払う。

違う、油断しちゃいけない。

確かに親切はありがたいけど。

何かあれば、この人だって・・・・!

胸で燻る二つの感情が重たくて、気が滅入ってしまったところへ。

何か、聞こえた。

――――音。

何かがぶつかって、木が圧し折れる音。

いや、それだけじゃない。

誰かの短い悲鳴、何かがバリバリ避ける音。

 

「な、何だ!?」

 

防風林の中だからか、おにーさんの視界も悪いらしい。

一緒になってきょろきょろする中、音は段々近づいて。

 

 

 

 

 

 

 

意識が、飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ」

 

ブラックアウトから起き上がる。

何が起こっていると、意識を外に向ければ。

 

「きゃあああああああああああ!!」

「何でこっちに来るんだよ!?」

「何をしているの!?早く倒してよぉ!!」

 

周囲が、阿鼻叫喚だった。

悲鳴、怒鳴り声、泣き喚く声。

色んな音が一気に押し寄せてきて、耳が痛くて、頭がパンクしそうだ。

くらくらする頭を思わず抑える。

この騒音から逃げ出したくて、意味がないと分かっていても目を閉じる。

 

「・・・・・ぁ、ぐ」

 

その中でも、未来の声ははっきり聞こえた。

顔を跳ね上げる、耳を済ませる。

間違いない、未来の声だ。

どうして、何で。

こんな、人の多いところで・・・・!?

 

「――――さて、では見せてもらおう」

 

武永の声が聞こえる。

続けて、何か固いものが切れる音。

それから、多分切ったそれを掴み取る音が聞こえる。

何だ、何をして・・・・。

 

「ッ響!!!!!」

 

未来の声がした、次の瞬間に突き飛ばされて。

間を置かずに、何かが生ものに突き刺さる、鈍い音。

――――音が、無くなった。

比喩じゃなくて、本当に静まり返った。

さっきまでとのギャップに、戸惑うことしか出来ない。

どうしたの?何があったの?

未来は?

未来はどうなったの?

どこにいるの?

 

「――――げ、ほ」

 

目の前、咳き込む声。

未来だ。

だけど、様子がおかしい。

まるで何かを吐き出しているような、液体が零れる音がして。

 

「――――」

 

――――不意に。

鼻を、鉄の臭いがくすぐった。

 

「~~~~~~~~きゃあああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!」

「人が、ひとが、ひとがああああああああ!?」

 

さっき以上の勢いで、また阿鼻叫喚が始まる。

人?人がどうしたの?

 

「――――ひびき」

 

未来が名前を呼んでくれる。

ああ、未来。

大丈夫なの?

手を、伸ばして。

――――ぬるりとした感触で、全てを察してしまった。

 

「・・・・・ッ!?」

 

背筋が凍る。

胸がざわつく。

まさか、そんな。

だって、嘘だ。

 

「――――ああ」

 

そんなわたしに、とどめを刺すように。

 

「よかったぁ・・・・」

 

重たいものが、倒れる音がした。

・・・・恐る恐る、触る。

未来の体に、ありえない無機物の感触を感じる。

ぬめりの主な出所もそこで。

・・・・未来。

未来、未来、未来。

ああ、大変だ。

未来が大怪我してる・・・・!!

助けなきゃ、早くどうにかしなきゃ死んじゃう。

わたしじゃ、無理だ。

目が見えないんじゃ、どうしようもない。

・・・・・誰か。

そうだ、誰か。

これだけの大騒ぎだ、人がいるのは確実だ。

騒ぎが大きいほうを振り向く、多分人がいるのはこっち。

誰か、誰か。

未来を、助けて・・・・!!

 

「ぎゃああああああ!血ィ!血いいいいい!!」

「こわいよぉ、こわいよぉ、こわいよおおおおお!」

 

耳を済ませる。

大騒ぎしている中から、どうにか助けてくれる人を探し出そうとする。

 

「何こっちむいてんだよ!?お前の所為だろう!?」

「何してんだ!?早く何とかしろよッ!!」

 

なのに。

返ってくるのは、悲鳴と罵倒だけだった。

・・・・いないの?

未来を助けてくれる人、誰もいないの?

 

「――――ッ」

 

なん、で。

なんで。

だって、おかしいじゃないか。

わたしと違って、未来は何もしてないじゃないか。

それどころか、お前達を守ろうとして、だからこんなにボロボロになって・・・・!

なんで、そんな。

冷たい言葉を、吐けるんだ!!?

わたしはまだいい、散々殺してきたわたしならまだいい!!

だけど、だけど未来はッ!

ずっとずっと、味方でいてくれた未来はッ!

こんな罵詈雑言を浴びていい存在じゃないッ!!

未来がどれだけ優しいか!未来がどれほど尽くしてくれたか!

知らないくせにッ、知ろうともしないくせにッ!

未来がどれだけ辛い目にあってきたか、何にも分からないくせにッ!!

 

「――――ぁあ」

 

・・・・そんな。

そんな、ひどいことしか言えないのなら。

こんな、ひどいことしか起きないのなら。

 

「――――あああああ」

 

罵る奴も、見捨てる奴も。

何もかも。

 

「■ ■ ■ あ あ あ ■ ■ ■ ■ あ あ ■ ■ あ あ ア ア ■ ■ ■ ア ア ■ ■ ■ ■ あ" あ" あ" あ" あ" あ" ッ ッ ッ !!!!!」

 

砕けて、壊れて。

―――――消えてしまえばいいんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――二課の面々が、何もしていないわけが無かった。

むしろ反応が出た直後から、行動を開始していた。

だが現場に着いた装者達が見たのは、いつかリブラがやっていたような、ノイズの防衛ライン。

数が少ない分、大型を中心に構成された群れは、装者達を効果的に足止めしてしまった。

埒が明かないと判断した彼女達は、トップクラスである翼とマリアを優先的に突破させることを決定。

即座に実行された作戦により、翼とマリアは風のように響達の下へと駆けつけた。

 

「立花・・・・!!」

 

直前に聞こえたのは、傷つき果てた仲間の悲痛な叫び。

両者ともに苦い顔をしながら、人垣を飛び越えてみれば。

目と、口と、胸から、黒い泥のようなものを零す響が見えて。

直後、爆発。

雷が落ちたように地面が揺れ、響が土煙に包まれる。

マリアが現れた敵を、翼が仲間の安否を確認しようと、それぞれ視線をめぐらせていると。

 

―――――グルルル

 

唸り声。

耳が捉えた、刹那。

両翼が広がる、砂埃が張れる。

歌姫二人と、有象無象を見下ろす。

涙のような赤い液体を零しながら、爛々と輝く双眸。

口元から湯気を発し、人から大きくかけ離れた姿のそいつは。

ただただ殺気を滾らせて、足元の虫けら共を見下ろしていて。

 

「――――こうなることを、予見していたというのなら」

 

呆然から復帰したマリアが、徐に前に出る。

 

「嫌な的中率ね」

 

マントを靡かせ、アームドギアを握り締めた彼女は、毅然と『竜』と向き合った。

 

「いいでしょう、約束は果たすわ」

 

切っ先を突きつける。

宣戦布告と受け取った『竜』は、まずマリアを獲物に定める。

 

「貴女は、私が

 

 

 

――――殺してあげる」

 

 

 

上がる、咆哮。

大気どころか、空間そのものを揺さぶるその声は。

しかしてどこか、泣き叫んでいるようにも聞こえて。




>闇落ちしない
暴走しないとは言ってない。


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おやすみ

ああ、ぼかぁ、今日が命日なんだなぁ・・・・(ツイッターのイケメン、男前、かわいこちゃんを見ながら)

毎度の閲覧、評価、ご感想も大変ありがとうございます。
誤字報告も感謝感謝です。


「――――正気?」

「本気ですよ」

 

『頼み事』をされたとき、思わずそう口走ったのを思い出す。

なのにあの子ったら、相変わらずのニコニコ顔で即答するんだもの。

 

「大事な人のために強くなれる、マリアさんだからお願いするんです」

 

それから笑顔に真面目さを付け加えて、そんなことをのたまって。

 

「調ちゃんや切歌ちゃんを、危ない目に遭わせたくないでしょ?」

「・・・・その言い方は、ずるいんじゃない?」

 

ねめつけてもなお、あの子は笑顔を崩さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう、ことだよ」

 

ふるふると、クリスが震える。

ノイズは未だ健在、民間人の避難もせねばならない。

分かっている。

分かって、いても。

立ち止まって震えずには、いられなかった。

 

「殺すって、どういうことだよッ!?」

「そのままの意味だ」

 

『竜』へ応戦し始めたマリアに代わり、翼が答えた。

 

「ネフィリム起動実験の直前、立花自身が頼み込んだらしい。『もし我を失い、小日向さえも危険に晒しかけたら、始末してくれ』と」

「何時の間に・・・・?」

「なんでそんな・・・・!」

 

響に思うところのある切歌と調も、動揺を隠すことは出来ず。

雄叫びを上げて立ち向かうマリアを、ただ見つめるしか出来なかった。

 

「小日向を守るという信念、マリアとの因縁。それをあの大馬鹿者なりに考えた結果なのだろう・・・・!」

 

翼も淡々と語っているように見えて、その実語気に力が篭る。

柄を握り締めた手が、やり場の無い感情を如実に表していた。

 

「それに、今は嘆いている場合ではない」

 

翼はまず、切歌が抱えている未来を見た。

わざわざ切り取られた街灯を、深々と腹に突き刺された彼女は、案の定虫の息。

そして、それをやってのけたジャッジマンに目をやる。

 

「――――あれは私が相手しよう。月読と雪音は残りの露払いを、暁は小日向を頼む」

「分かり、ました」

「ッ待ってろ、手っ取り早く終わらせるッ!!」

「任されたデス!」

 

それぞれの反応を受け取った翼は、一つ頷いて数歩前へ。

挑発するように両手を帯電させる、ジャッジマンと向き合った。

不敵に笑う彼を、翼は一切警戒を解かずに睨む。

未来との交戦中に見せた、風と雷を操る能力。

突き立てた街灯を切り取ったのも、この能力だ。

司令室にいる了子の見立てに寄れば、『大気に関係するものを操れるかもしれない』とのこと。

風や雷に限らず、雨や雪も扱ってくるやも知れぬと、静かに憶測を立てる。

 

「歴戦の防人が相手か・・・・是非も無し」

 

そして、彼は期待を裏切らなかった。

雷を治めるや否や、両手を互い違いに打ち合わせる。

ゆっくり広げる手の間で、まっさらな冷気が渦を巻き。

氷の剣を生み出した。

まるで決闘を申し込むように切っ先を向けて、翼を煽りにかかる。

一方の翼は、その程度で激情するような柔な精神ではない。

柔な精神ではないのだが、あわよくばここで決着をつける腹積りではあった。

故に刀を構え、戦意に応じる。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「――――ぅ」

「気がついたデスか?」

 

未来を託された切歌。

傷の具合と戦場の状況から考え、近くの防風林へ運び込んだところだった。

突き刺さった街灯に気をつけながらゆっくり横たえさせると、未来がうっすら目を開ける。

 

「こ、こは・・・・?」

「近くの林デス。動かないでください、傷が大変なことになるデス」

「きず・・・・?・・・・・ぁ、っぐ・・・・!」

 

呆然として、頭が追いついていない様子だったが。

自らの腹に突き刺さった物を見て、思い出したらしい。

痛みに顔を歪め、横になったままうずくまる。

身を案じる切歌の目下で、脂汗を浮かべて荒く呼吸を繰り返した。

少し落ち着いた頃、未来はもう一つ思い出して顔を上げる。

 

「ひびき、は?」

「ッ・・・・」

 

当然の問い。

しかし切歌は一瞬言葉を詰まらせる。

状況から考えても仕方の無いことだったが、未来が見せた不安な顔に罪悪感を抱いた。

 

「・・・・あいつ、は・・・・暴走してるデス。今、マリアが戦ってます」

「・・・・そ、か」

 

心当たりはあったのだろう。

未来は暴走の言葉を聞いて、一度顔を伏せる。

束の間沈黙を保ち、苦悶の呼吸を続けて。

やがて、身を起こした。

 

「・・・・・ッ」

「な、何してるデスか!?」

 

傷口から、僅かながらも新しい血が噴き出す。

切歌はぎょっとしながらも未来を支えて、動かないように押さえようとした。

 

「ひびきのとこ、いかなきゃ・・・・きっと、ないてる、から」

「いいから大人しくしてるデス!!死にますよ!?」

「このままじゃ、ひびきがしんじゃう・・・・!」

 

痛みを堪えるように、自らに言い聞かせるように。

無意味と分かっていても、溢れる血を押さえる未来は、なお立ち上がろうとした。

その様に唖然とした切歌は、しかし何度も首を横に振りながら、

 

「なんで・・・・!」

 

険しい顔をして、声を荒げる。

 

「なんで、あんなやつの為に!!そこまで出来るデスか!?」

 

大声に、単純に驚いたのだろう。

体を跳ね上げた未来は、ぽかんと切歌を見つめて。

ふと、笑みをたたえた。

 

「・・・・・小学生のころにね、いじめられてたことがあるの」

 

そして、視線を下に落としてとつとつ語り出す。

 

「単なる子どもの悪ふざけだったとしても、すごく怖かった。誰も助けてくれなくて、誰も味方になんてなってくれなくて」

 

その口調は、とても穏やかで。

一見、致命傷を負っているとは思えなくて。

 

「だけど、響だけは違った・・・・そもそもクラスが別だったのに、わざわざわたしのところに来てくれて」

 

傷口からは、未だに血が流れている。

砂時計の砂のように、ゆっくりゆっくり、下へ落ちて行く。

 

「ずっと、ずっと傍にいてくれた。一緒にからかわれたって、『へいき、へっちゃら』って、笑ってくれた」

 

震えながら、息を吐く。

呼吸の一つ一つでも、命を削っているような気がした。

 

「――――うれしかった」

 

眼を閉じる。

目蓋の間から、雫が零れる。

 

「わたしなんかにも、一緒にいたいって言ってくれる人がいるって、要らない子なんかじゃないって・・・・・すごく、すごく・・・・うれしかったの」

 

だから、と。

足に力を込める。

切歌の手を借りながら、満身の力で立ち上がる。

 

「だから・・・・今度はわたしの番だって、響が独りぼっちになりそうになったら、絶対に傍にいるんだって・・・・そう、決めたの、決めていたの」

 

そして、困った顔で切歌へ笑いかけた。

 

「あなたにとっては、マリアさんの仇かもしれない。だけどわたしにとっての響は、お日様なの・・・・・隣に寄り添って、元気をくれる・・・・大好きな人なの・・・・っぐ、ぶ」

 

咳き込む。

血反吐が地面に零れる。

 

「未来さん・・・・!」

「げほ、ぇほっ・・・・だから、響の傍にいたい、響のお願いを、叶えてあげたい・・・・」

 

口元の血を拭いながら、なお笑う。

 

「あの子ったら、我が侭らしい我が侭なんて言わないもの・・・・こういうときは、ちょっと助かるかな」

「ッ・・・・!」

 

笑みを目の当たりにした、切歌の胸はざわついた。

あまりにも無垢な献身が、とても眩しいものに思えた。

それが仇敵に向けられていることにも、どうしようもない何かを感じた。

しかしそのざわつきは、心に確かな変化をもたらして。

 

「・・・・大切、デスか」

「うん」

「死ぬかもしれないデスよ」

「大丈夫よ」

 

支えたまま問いかけても、未来の決意は変わらないようだった。

 

「・・・・・無理だけは、ダメデス。司令さん達に、怒られるデス」

「あはは・・・・うん」

 

ため息一つ、切歌の負けだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「ぐ・・・・!」

 

迫る牙。

烈槍を盾にして受け止めれば、ずしんと重みがのしかかってくる。

陥没する足元。

マリアは歯を食いしばる。

響との約束を実行に移すと宣言したものの、一抹の希望を抱いて様子見をしていたが。

相変わらず暴走したままの『竜』(ひびき)は、一向に戻る気配が無い。

 

(呑気に戻るのを待っていられないか・・・・!)

 

額と頬を伝う汗が、戦いの激しさと、マリアの余裕の無さを物語っていた。

 

「ゴルルァッ!!!」

「なっ、きゃあッ!?」

 

痺れを切らした『竜』(ひびき)は、諦めてガングニールへ喰らいつく。

そのまま首をもたげて思いっきり振れば、マリアごと投げ飛ばされる。

身を翻して着地したところへ、息を吸い込んで吐き出せば。

熱気と呪いを帯びたブレスが襲い掛かった。

マリアは咄嗟にマントで防ぐものの、じわじわと侵食してくる熱と瘴気に押されそうになる。

半歩、また半歩と後退していくマリア。

効いていると気付くや否や、『竜』(ひびき)はブレスを押し込むように前進し始めた。

思惑通り、勢いを増して肉薄するブレス。

呼吸すれば喉がひりついた。

眼球もあっという間に乾き、マリアは溜まらず目を閉じる。

一瞬真っ暗になった後、炎に照らされて赤くなる視界。

何も見えない中、耳がふと、音を拾った。

何かが射出される音。

クリスかと思ったが、それにしては音の質が火薬のものと違う。

続けて、レーザーが放たれる音。

それだけで誰が何をしているのか理解したマリアは、思わず目を見開いて。

ブレスをやめた『竜』(ひびき)と同じタイミングで、振り向く。