うちの女子バスケ部がヤバイ (小野芋子)
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うちの女子バスケ部がヤバイ

とあるサイトの画像を見て衝動的に書きました。
反省はしているが後悔はしていませんので悪しからず


帝光中学といえば全国でも有数のバスケット強豪校である。

特に最近ではキセキの世代と呼ばれる10年に1人の逸材が5人集まるという謎の現象を起こしている女子バスケットボール部が有名だ。

それも全員が美人ときたもんだから、そこに目をつけたバスケ雑誌の記者たちがひっきりなしに現れる始末。

おかげで同じく全国優勝を果たしているはずの男子バスケットボール部がまるで目立たないのだから少し面白くない。「え?あ、そう。おめでとう」はもう聞き飽きた。

まあ、うちのキャプテンであり【兄貴と呼びたいランキング2年連続1位】である虹村先輩が気にしていないから俺も特に気にはしないが。

 

少し遅れたが一応自己紹介をしておこう。

俺の名前は白鳥蓮。一応帝光中学男子バスケットボール部の副キャプテン(と言う名の奴隷)をやらせてもらっている。

近くにストリートがあったおかげか幼い頃からバスケをやっていて、自分で言うのもなんだがかなり上手いと思う。

少なくとも男バスで俺に勝てるのは虹村先輩くらいだろう。

灰崎のやつも上手ことは上手いが1on1の勝率はまだ6:4で俺の方が優っている。

 

まあ自己紹介はこれでいいか、あまり長々と話してもつまらないしな。

そんな俺だが、今は灰崎とともに女子バスケ部の体育館に向かっている。

俺の名誉のために言っておくが、別にキセキの世代を見て見たいとかじゃない。来週行われる球技大会のバスケについて打ち合わせたいことがあるから行くだけだ。

じゃなければ、わざわざ『邪な気持ちで覗きに行った男子が赤い髪の少女によって記憶を奪われる』などと言うおっかない噂の立つ女バスになど会いに行くものか。

 

因みにだが帝光中学には体育館が4つあって1つは女バス専用。1つは男バス専用。残りの2つは日によって変わると言った感じで利用されている。金の無駄遣いだと思うが、そのお陰で毎日室内でバスケができるのだから文句はない。

 

話が逸れたな。

そんな感じで俺は今女バス専用の体育館に向かっているのだが隣の灰崎がヤバイ、顔色が死んでいる。

普段ヤンチャ(笑)ぶって彼女取っ替え引っ替えしてますよアピールをしているこいつが、美人で有名なキセキの練習風景を合法的に見るチャンスなのにこれほど顔が死ぬとは何かあったんだろうか?

噂によればキセキにも手を出そうとして壮絶なダメージを負わされたらしいが、この様子を見るにその噂は本当で、尚且つ噂以上のトラウマを植え付けられたのだろうか?

俺は良かれと思って灰崎を連れてきたが、それなら悪いことをしたかもな。

 

まあどうでもいいけど。だって灰崎だし。

 

 

 

ようやくたどり着いた体育館を前に、隣で真っ白になる灰崎を無視して中に入る。

幸いにしてマネージャーらしき桃色の髪の少女が、入り口のすぐ近くにいたので声をかける。

 

「すいません、男子バスケットの白鳥ですけど。今度の球技大会について打ち合わせたいことがあるんで赤司さんを呼んで貰っていいですか?」

「分かった。ちょっと待っててね。ところでそこの入り口で顔色は真っ白になってる人がいるけど」

「気にしないでください。あれが彼の普通です」

「はあ。まあいっか、じゃあ呼んでくるから」

「ありがとうございます」

 

おそらく赤司さんの元へ走っているであろうマネージャーの背中を見送りながら、考えるのはさっき見た彼女の容姿について。

マネージャーも美人とは最近のバスケは見た目も重視されているようだ。そういえば虹村先輩は男前だし灰崎は普段にイケメンだよな。

 

いや別に悔しくないし。高校入ればきっと俺もイケメンになるし。

 

あとどうでもいいが美人を相手にすると敬語になるのは何故だろう?

因みに俺は生存本能的なサムシングだと思う。

 

「やあ待たせてしまってすまないね、白鳥くん」

 

どうでもいい事を考えていると、赤い髪にツインテールの小柄な女の子が俺に声をかけてくる。

いや、中学生にして180後半はある俺の方がおかしいのかもしれないけど。

 

「いえ、用があってきたのは俺の方ですから気にしないでください」

「そうか。ならそう言うことにしておこう。それじゃあ早速だが打ち合わせといこうか」

「分かりました。まず当日の———」

「ああそれなら———」

 

 

「———こんなもんですね。何か今聞きたいことはありますか?」

「そうだね。強いていえば君が敬語を使うことかな?同い年なんだからもっとフランクに会話してもいいと思うけど?」

「……善処します」

 

無理に決まってる。

目の前の彼女は気付いていないかもしれないが、立ち上るラスボス臭が半端ない。

RPGで魔王に挑む勇者の気持ちが今ならよく分かる気がする。まあ彼女なら魔王すら捨て駒として使えそうな気がするが。

 

「……」

「どうしました?」

「…いや、これでも私は男の下衆な視線というものに敏感でね。それがまるでない君を珍しいと思っただけだ」

「…そうですか」

 

これでも、っていうかどう見ても敏感そうですよとは言えない。言ったら最後東京湾あたりに沈められそうな気がするし。

後、俺は別に女子に興味がないわけではない。

ただそっちに向かう矢印を、虹村先輩の手によってへし折られ強制的にバスケと勉強に向けさせられているだけだ。

 

さて、話も終わったしもう帰ろう。

そろそろ灰崎を回収してやらないと真っ白に燃え尽きそうだ。

正直もう手遅れな気もするが()崎だから大丈夫だ。多分、きっと。

 

「あれ?白鳥君じゃないですか?どうしてここに?」

「あれ?黒子さん?」

「はい、黒子は僕です」

 

今俺に話掛けてきたのは黒子さん。敬語がデフォルトのボクっ娘で、水色の髪の儚い系美人な小柄な女の子であり、同じ図書委員で知り合った仲だ。

なんでも兄である黒子テツヤ同様、影が薄くて気づかれにくい体質だからよく俺がよくフォローしている。

 

「意外だな、部活に入っているとは聞いていたがてっきり文化部だと思っていたよ」

「失礼ですね。これでもバスケ部で番号を貰っているんですよ。見てくださいよこの力こぶ」

「ごめん、俺の目には見えないや」

「なん……だと………!?」

 

こんな感じでちょくちょくネタを挟んでくる面白い女の子だ。

ただし手を出せばキセキセコムとシスコンの兄が来るらしいので、絶対にやましい気持ちを持ってはいけない。

まあ30センチ以上ある身長差もあってか、妹のようにしか見えないから俺は大丈夫だけど。

あっ、間違っても妹のようだと口にしたらシスコンの兄に問答無用でイグナイトかまされるから気をつけた方がいい。経験者が言うんだまず間違いない。

 

話が逸れたな。

取り敢えずそろそろ帰ろう。

あまり遅くなったら最悪ロードワークが3倍に増える可能性がある。

朝練の時に今日遅くなることは伝えておいたが、虹村先輩の時間軸はどこかおかしいから練習開始から3分遅れただけでも「遅すぎる。フットワーク3倍な」と言われそうな未来が容易に見える。

 

うんヤバイな、すぐ帰ろう。

 

この際灰崎を捨て置いても……

 

「灰崎遅刻か。連帯責任、お前もフットワーク3倍な」

 

仲間を置いていけるわけないじゃないか!!

 

「それじゃあ俺はここで失礼するよ」

「そうですね、平日の練習時間はそれ程長くは有りませんが、お互い頑張りましょうね!!」

「………そうだなぁ」

 

へえ、平日の練習時間ってそんなに長く無いんだ。

おかしいな、俺は8時までだと聞いていたんだけどな。それも9時までの延長ありで。これって短いのかな?

あれ?帝光中って男バスだけ独立してたっけ?いや違うな。6時以降残ってるの俺と灰崎と虹村先輩、あと黒子くらいだよな。

それに朝は7時開始。もはや軍隊のような鬼の所業。

それを知った日ほどバスケ部に入った自分を呪ったことはない。おかげでバスケが上達しているのだから何も言えないけど。

 

え?勉強ですか?帰宅と同時に先輩から『今勉強してるよな?』ってメッセージが届きますが何か?

 

ちなみに11時になったら『まだ起きてねえよな?』ってメッセージが届く鬼畜っぷり。初めてもらったその日は恐怖で気絶して気づけば朝になっていた。おかげで規則正しい生活リズムが遅れています(血涙)

 

「どうしました白鳥くん?」

「いや、ちょっと人生って何かなって思っただけだ」

「え?本当にどうしたんですか?」

 

黒子さんは優しいなぁ

そら、頭を撫でて……あぶねっ!!死ぬところだった!!

何だこれ!!何でただの学校生活の選択肢にデッドルートが存在してるんだよ!!

 

「あれれ、黒ちんどうしたの?」

「紫原さん。ちょっと知り合いと話をしていただけですよ」

「へぇー。うわぁ、学校で私よりおっきい人初めて見た」

 

紫の肩まで伸びたセミロングにどこかゆるふわな紫原さんと呼ばれた彼女は、珍しいものでも見るようにキラキラしたの瞳で俺を見る。

 

これだけ聞けばさもおモテになりそうな外見だが、いかんせん先ほどの彼女が言った言葉から分かるようにこの少女かなり身長が高い。

俺の方が高いと言っても1、2センチの差。まあ大体185くらいはある。

何を食ったらこんなに大きくなるんだ、と思うが女性にそれを言うのは失礼なので流石に自重する。

 

「ねえねえ、肩車してよ」

 

失礼なのことを考えたバチでも当たったのかとんでもない災難が降りかかって来た。

 

「紫原さん、いきなりそれは白鳥くんも困りますよ」

「ええ、でも久々にやって欲しいし〜」

「はぁ、……白鳥くん」

 

無理です。っと即答できたらどれだけ楽だったか。

期待した眼差しで俺を見る紫原さんを無下にできるほど残念ながら俺の人間性は腐っちゃいない。遠巻きで見ていた女子部員たちも話を聞いていたのか期待半分面白半分といった感じでこちらを見ている。

 

ふっ。

 

思わず笑みが出てしまう。

いくら身長が高かろうが相手は女子だ、体重なんてたかだかしれている。それに毎日何かに理由をつけて筋トレ3倍(の3倍)を行なわされている俺だ。それに比べれば何が185センチ、小さく見えると言うものだ。

 

そうだ俺ならできる出来るに決まってる。あの頭脳は大人な名探偵で警部を務めるあの人と同じ名字をしている俺なんだ!

いける!!やってやる!!俺の本気を!とくとみよ!!

 

「任せろ、肩車してやる」

「わあーい!!」

「白鳥くん、なぜそんな無茶を」

 

おい黒子さん、なぜフラグを立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの警部ってさ、なぜか最後は締まらないよね?

っと現在肩で息をしながら体育館と盛大な口づけをしている俺は思う。

取り敢えず言わせてくれ

 

「もう…ゴールしても……いいよね?」

「ダメですね」

 

黒子さんが鬼すぎて全俺が泣いた。

 

 

 

 

あの後全ての力を振り絞って肩車をした俺は、生まれたての子鹿のように震えそうになる足を根性で耐え忍び、何とか立ち上がることに成功した。

巻き起こる拍手。

頑張ったと俺を褒めてくれる黒子さん。

「じゃあ体育館一周して」とのんきに命じる紫原さん。

何だ、彼女はトトロではなく巨神兵の方だったのか。

 

 

 

そのあとはよく覚えていない。

気付けば肩車は終わっており、気付けば灰崎は帰っていた。

 

「白鳥のやつ、マジでやりやがったぞ」「信じられないのだよ」「赤ちん楽しかったよ〜」「そうか、それは良かったね」

 

そんな声が聞こえる気がするが脳がうまく動かず処理できない。

今は顔の近くに座っている黒子さんの言葉すら聞き取りにくい。肩車程度にこう言うのもなんだが、正しく全てを使い果たしたことによる疲労がヤバイ。

 

「大丈夫ですか?」

「……だい…じょうぶ……じゃ……ない」

「そうですか、じゃあ膝枕してあげましょうか?」

「全然大丈夫だから部活戻るよ」

 

いつだって人間の原動力とは恐怖である。それさえあれば疲労困憊のこの体だって案外動くものだ。

 

「流石の僕も傷つきますよ?」

「いや、誘いは嬉しいけどリスクが高すぎる」

 

死ぬか膝枕で膝枕を選ぶのはバカだ。よく美女に膝枕して貰えるなら俺死んでもいいとか言う間抜けがいるが、普通に割りに合わない。

 

時計を見るとすでに最終授業が終わってから30分が経過している。

すでに体力的にはフルゲーム2セットやりきった感はあるが、これ以上遅れたら今日だけで後5セット分の体力もごっそり(虹村先輩によって)もってかれそうなので急いで立ち上がる。

立ち上がったことにより、先程までは光の加減で影が出来ていた黒子さんの顔がよく見える。物凄く不機嫌そうにこちらを見ている。

 

「…………」

「明日マジバのシェイク買ってやるから」

「……しょうがないですね。それで許してあげます」

「じゃあ今度こそ帰るから」

「はい、色々頑張ってください」

「うん、ホント色々ありすぎてそろそろ過労で倒れそうだけどな」

「頑張ってください」

「割と無責任だなおい」

 

軽くを手を振って外に出て、ダッシュで男バス専用の体育館へと向かう。

この学校の見取り図を長方形としたら、ちょうど対角線に男バスと女バスの体育館は存在するため意外に遠いのだ。

せめて灰崎がいい感じに言い訳をしてくれているのを祈るばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません遅れました!!」

「おう、お前フットワーク5倍な」

「何でだ!!」

「灰崎から聞いたぞ、何でも女子を肩車して楽しんでたらしいじゃねえか」

「ある意味事実だから否定できない!!」

「はははははははは!!白鳥ざまああああwww」

「連帯責任で灰崎も5倍な」

「何でだあああああああああ!!」

「バカめ灰崎!!!ざまああああああwwwwww」

「何だ2人とも元気じゃねえか、なら10倍に——」

「「さあ今日も楽しくバスケットボールだ!!」」

「……現金なやつらだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ白鳥くん」

「ん?どうした黒子?」

「さっき妹からメールが来たんですが…」

「ほう、それで?」

「『明日は白鳥くんとマジバに行って来ます』って、コレなんですか?」

「HAHAHAHAHA。……ちょっと外周行ってくるわ」

「逃がしませんよ?」

「俺は無実だああああ!!!」

 

 



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球技大会

前回書き忘れていたので
時系列は中学2年の6月です


『ドキドキ!!恐怖の女バス見学!!』から早くも1週間が経過した今日、待ちに待った球技大会が始まった。こらそこ、待ってないとか言わない。

 

 

そんなわけでクラス対抗の球技大会が始まったのだが、俺と灰崎の顔は優れない。

なぜこんなにも気持ちが沈んでいるのか、その理由を話すには少々時間が遡る必要がある。

 

 

 

あれは今朝の朝練での出来事だった。

 

いつもどおり(3倍になった)メニューをこなし、灰崎と特に中身のない会話をしていたら、突然何をトチ狂ったか灰崎の野郎が『そう言えば今日の球技大会、チーム決めどうする?』などと訳のわからない事をほざきやがってくれたため、耳ざとくもそれを聞き付けた我らがキャプテンであらせられる虹村先輩が

 

『2年は今日球技大会なのか?じゃあアレだな、お前ら2人はアシストだけで優勝な。得点とかとりやがったらペナルティな。勿論連帯責任で』

 

と、なんともありがたいお言葉を頂戴して下さったのだ。

微妙に出来そうで出来なさそうなノルマを課すなんてワー、ナンテヤサシイセンパイナンダ。コレカラモツイテイキマス。トリアエズハイザキクンハくたばれ。

 

マジで灰崎くたばれよ。何してくれちゃってんだよ!みんなで楽しくワイワイやるはずが俺らのチームだけ殺伐とした何かになるじゃねえか!

シュート外して『おいおい何やってんだよ(笑)』とか言って楽しむはずがもう笑えねえよ!!

 

っと言ってやりたいのは山々だが現在隣で

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」

 

こんな感じで壊れたカセットテープよろしくごめんなさいと失敗したを繰り返しているのを見ては流石に追い打ちをかけるのも憚られるため、文句の代わりにため息を一つ吐いて気持ちを落ち着かせる。

 

ってかこいつの中での虹村先輩ってどんな感じになってるんだろ?もはや恐怖を超えた何かだろ。バイブレーション顔負けに震え始めたぞ。

 

 

 

 

 

 

まあ、なんだかんだ言っておいて何だが、普通にイージーモードだった。

 

要は相手に得点を取らせなければ一本だけでもシュートを入れたうちのチームが勝つ訳だし、ボール運びを俺か灰崎で行えば、例えバスケ部が2人でかかって来ようが余裕で躱してゴール下まで持っていけるためむしろ拍子抜けだ。

それに我がチームにはアシストのプロである黒子がいるため、素人であるクラスメイトですら簡単に点を取れている。もちろん百発百中というわけでは無いが、それでも素人にしてはなかなかに高い確率で決めているだろう。

 

いや、マジでチョロいな。シュートを打てないことにはストレスが溜まるが、それもちょっとバスケを齧った経験があるくらいで粋がっているリア充(笑)や、良いところを見せるチャンスだとばかりに張り切っているバスケ部員のシュートを叩き落としたり、ドリブルのフェイントで転かしたりしていたら自然と晴れると言うものだ。

特に『この試合で勝ったら付き合ってくれ』などと観客席で見ていた女子生徒に向かって喚きやがって黄色い歓声を浴びたイケメン君を、灰崎と二人掛かりで叩き潰した時は超スッキリした。

 

そのあとなぜか俺だけが盛大なブーイングを受けたがあれは何故だ?

灰崎も一緒になってやってたよね?これがただイケ(ただしイケメンに限る)ってやつか?そうなるといよいよもって俺は世界に宣戦布告をしなければいけないんだが?

 

「安心…しろよ………ププッ、お前は………男前の部類に……プッ…入る方だから………クハハハハ」

「おぅコラ灰崎、目ぇ見て話せや」

「無理」

「後で体育館裏な?」

『決勝戦を始めるから、該当するクラスの選手はコートに入れ!!』

「チッ、マジで覚えてろよ灰崎」

「え?何だって?」

「叩き潰す♪」

「バカなことやって無いで早くコートに入ってください」

 

黒子に背中を押される形で渋々コートに入る俺と灰崎。

優勝までがノルマのため足の引っ張り合いをするつもりは無いが、何かしてやりたいと思うのが人情だろう。

ってか足かけてやりたい。むしろやる。カッコつけてターンとかしやがったら絶対に足かける。そして転ばす。何ならその後顔面にボールぶつけてやる。その後黒子にイグナイトかまされそうだからやらないけど。

 

そんなことを考えていると、ふと、そう言えば決勝戦の相手って誰だろう?と思い整列している相手チームの顔ぶれを見る。

 

見事に全員が全員バスケ部員だった。それも俺と灰崎を除いた最高戦力のメンツ。

付け加えれば俺と灰崎に課せられたノルマについて知っているメンツでもある。

 

どう足掻いても絶望である。それもそうだろう、ノルマの事を知っている以上こいつらは俺と灰崎を除く素人のみを警戒してくれば良いのだから。本来であればバスケ部である黒子も警戒するだろうが、あいつにシュートが無いことも当然こいつらは知っている。

もちろんなかなかに観客の集まった中で素人相手に2人がかりでマークして俺と灰崎はノーマーク、なんて可笑しな真似はしないだろうが、それでもシュートを打たないことを知っている以上必要以上に警戒することも食らいついてくる理由もない訳で…。

 

あれ?詰んでね?

 

俺と灰崎の二人掛かりで相手のシュート全てを防ぎきる自信は無いため0-0に持ち込める可能性は低いだろうし、仮に持ち込めたとしても、球技大会のルールだと引き分けの場合、最後はフリースロー勝負(メンバー5人がそれぞれフリースローを打ってより多く決めた方の勝ち)であるため勝ち目はより薄くなる。

つまり、こちらが勝利する条件は相手の警戒の僅かな隙をついてドフリーになったチームメイト(素人)に最高のアシストを決め、なおかつチームメイト(素人)がシュートを入れる。だけでなく相手(バスケ部)のシュートは一本でも多く叩き落とさなければならないと言う訳だ。

さらに加えるとディフェンスは実質俺と灰崎のみで、だ。

 

うん無理ゲーだ。

虹村先輩からのペナルティを甘んじて受け入れた方が、よっぽど気が楽だと錯覚してしまうくらいには無理ゲーだ。

 

 

だが俺は知っている、それはただの錯覚でしか無いと。

普段の練習でのペナルティならまだしも、たかだか球技大会で全国優勝を果たした帝光中男子バスケ部レギュラーである俺と灰崎が負けたとあっては、あの人の怒りは天元突破どころか宇宙空間すら突破し、その怒りのままに振るわれたペナルティと言う名の理不尽は、俺と灰崎を原型すら留めないほどの圧倒的質量をもって襲いかかってることだろう。

 

『フッ』

 

思わず溢れた声に別の声が重なる。

誰が出したかなんて顔を見ずともわかる、まず間違いなく俺と同じ結論に至ったであろう灰崎だ。

 

「なあ灰崎、しねぇな?」

「ああ、まるでしねぇな」

『負ける気がしねぇ!!』

 

 

 

 

 

 

っと大見得を切ったは良いがもちろん突然不思議な力に目覚めたり、『バスケって楽しいじゃん』とか言って発光し出したりするようなこともなく試合は拮抗を保っていた。

 

現在得点は6-6

残り時間は5分を切った。

 

隣に立つ灰崎が今日初めて汗を拭う。

これまでの試合では汗どころか息切れ一つしていなかったのに、だ。

そう言う俺も万全の状態とはいかない。一軍レギュラーでは無いとは言えそれも帝光中での話、地方に行けばそれなりの強豪校でもレギュラーを張れるだろうバスケ部員を相手に、隙をついてパスを出すには針の穴を通すような、とまでは言わないがそれでも中々に集中力がいる。

それにパスを受け取る相手は素人だ。常にボールを見ている訳でも無いし、速すぎるパスを出せばキャッチミスだってする。

その中で6点も取れたのだから普通にMVPくらい貰ってもおかしくは無いだろう。

それに、相手の6点は言ってしまえば全てマグレだ。俺と灰崎のプレッシャーで完全に体勢だって崩れていたし、指のかかり具合だって可笑しかった3Pシュートが何の偶然か入ってしまっただけのこと。まあそれも2本も入ってしまえば、流石にくるものがある訳だが。

 

まあ、俺が疲れている一番の理由は相手チームへの歓声が凄いということだろう。

何でも灰崎を含めた6人は帝光2年の中でも群を抜いてかっこいいとか。『その上バスケもうまいし、身長も高いなんてちょー素敵!!』とか言われているらしい。

当然だがそのカッコ良いメンバーの中にも、バスケ上手くて身長高いと言われる中にも俺は入っていない。

ちなみに言っておくが俺はバスケ部、どころか全校生徒を含めた中でも一番背が高いし、何なら3年でセンターのゴリ松(あだ名)先輩のシュートを、ハエ叩きよろしく叩き落としたことだってある。加えれば2年にして既にレギュラーメンバーだし、灰崎相手に負けたことだって一度も無い。

 

そう、身長もバスケも2年では俺が一番なんだ、No. 1だ。それは虹村先輩のお墨付きだし、監督だって言っていることだ。

にもかかわらずこの扱いはなんだ?別にコミュ障を患っている訳でも無ければ、顔だって整っている方だ。先ほどの灰崎の言葉を借りるなら男前(笑)だ。いや、何(笑)付けてんだよクソヤローが。

 

まあそれは置いて、じゃあなぜそんな大活躍中(願望)の俺を無視して歓声が全てあっちにいっているんだ?

いや、チラホラとこちらのチームに対する歓声も聞こえてはくるが、それも8割は灰崎で残り2割は黒子に対してだ。因みにその2割は全て桃色の髪の美人さんだが、まあそれは今はいいだろう。

 

流石に歓声のあるなし程度で実力が出せないほど軟弱なメンタルはしていないが、俺が相手のシュートは叩き落とすたびにちょっと静かにされるのは流石に堪える。

いや、一部男子からは熱烈な歓声が上がるが、お生憎様それでモチベーションが上がるような特殊体質はしていない。

 

まあ何が言いたいかというとだ。

 

ちょっとカッコいいからってチヤホヤされてんじゃねえよクソが!!マグレで3Pシュート入ったくらいで歓声浴びやがって!!こちとら重すぎるリスク背負って戦ってる上に何かするたびに『お前じゃねえよ、ちょっとバスケ齧ってるからって粋がるなよ』と言わんばかりの威圧感浴びせられてんだぞ!!

 

「どうしました白鳥くん?何というか、雰囲気が刺々しいですよ?」

「おう黒子。いや何、粋がっているガキどもにお灸を添えてやろうと思っただけだ」

「え?ほんとにどうしたんですか?それにガキって、同い年ですよね?」

「HAHAHAHAHA、細かいことは気にすんな。それより俺にボールを回せ」

「何か作戦があるんですか?」

「相手の顔面にボールをぶち込んで、跳ね返ったボールがゴールに入るようにする」

「へ?……は、灰崎くん!!白鳥くんの様子がおかしいです!!」

「いつものことだろう?」

「黒子、作戦変更だ。灰崎の顔面にボールをぶち込むことにする」

「どこを変更しているんですか!!先生が見ている前でそんなことしたら生徒指導されますよ!!」

「おいテツヤ、それは先生が見ている前でなければ俺の顔面にぶち込んでもいいように聞こえるし、何ならぶち込まれる俺らのことを一切心配していないようにも聞こえるんだが、気のせいか?」

「気のせいですね」

「テツヤくん、目を見て話そうか?」

「デュエル開始ィィイイイ!!」

「落ち着け白鳥ィィィィ!!」

 

顔面にぶち込んでやろうかと思ったが寸前でボールを奪われてしまった。チッ

 

「まあ冗談はさておき、言うほど勝つことは難しく無いぞ?」

「その冗談で俺は顔面スパーキングされかけたんだが?」

「………相手チームを見てみろ。俺たちのプレッシャーをかけたディフェンスで息も絶え絶えな様子だ。あの感じじゃ、あと一回でもシュートを決めればそのまま逃げ切ることだって容易いだろう」

「味方の2人も、あなたたち2人の無言のプレッシャーで息も絶え絶えな様子ですけどね」

「うぐっ。………まあそれは置いといて、取り敢えず勝ち目ならある。残り時間もそう長くも無いからなるべく早く決めに行くぞ」

「おう」「分かりました」

「まあ決めるのは俺たちじゃ無いんだけどな」

「「おい」」

 

呆れた目を向けられるがだって仕方が無いだろ?虹村先輩にシュートは禁止されているんだもの。

 

 

 

 

黒子からのパスを受け取った俺は周囲に目を向けながらフロントコートに足を入れる。相手が積極的にディフェンスに来ないのも、もはや体力的なものが原因だろう。

本来であれば実質2人でこいつらのディフェンスをこなしていた俺と灰崎が倒れているのだろうが、普段から3倍(の3倍)のトレーニングを積んでいる俺らをあまり舐めてもらっては困る。息切れこそしているが、あとフルゲーム1回はこなせるだけの体力はまだ残っている。

 

まあ、今回に限って言えば俺らの体力があっても余り意味は無いけど。何度も言うようだが、今回俺らはシュートを打つことを禁止されているのだから。

そんなことを考えながらも気を緩めることはしない。

仲間の体力を考えても仕掛けられるのはあと3、4回。その上シュートまで決めるとなれば1回あるか無いかくらいだ。

 

だからこそ、本番の試合の様な集中力を発揮する。

ポイントガード的な仕事は俺本来のポジションでは無いが、そのいいわけで負けを認めてくれる虹村先輩では無い。

それに悪いことばかりでも無い。相手が積極的にディフェンスに来ないおかげで、パスに集中することができるという利点もある。

それに加えパスの中継役である黒子もいる以上、多少は無理なボールになっても修正してくれるだろうと言う信頼もある。仮に相手にボールが移っても自陣に下がらせた灰崎がいるため速攻も無い。我ながらよくもここまで知恵が回るものだ。

まあ、この作戦の核となる部分、責任重大な位置に自分を置くあたりどこか抜けている感はあるけどね。

 

「チッ」

 

リングにボールを当てて手元に返すという荒技を使い、何とか時間を稼いではいるが決定的なチャンスがなかなか来ない。

時間は既に2分を切っており、体育館内の歓声もヒートアップし始めている。

流石に俺1人でボールを所持し続ける訳にもいかず、何度か敢えて相手に渡すこともしたが今の所お互いに点は入っていない。もうこの際プランA(顔面シュート)を発動してやりたいが、やったら最後俺が殺られるので我慢。

 

っと僅かに相手の足並みが乱れる。

 

その瞬間、形だけ俺のディフェンスをしている男子を右側からノーフェイクで抜き去り、そのまま誰もいない右隅の方向に向けてバウンドでパスを放つ。そのままスピードを落とすことなく逆サイドへと向かい、呆然とこちらを見つめる味方に向けて、無言でゴール下を指差す。

それで伝わったのか、少し遅れて走り出したそいつと、それを止めるために動き出した相手選手の間に立ち進行の邪魔——即ちスクリーンをかける。

突然の俺の行動に驚いた顔でこちらを見る相手選手を無視し、今度は残ったもう1人の味方の元へ走る。因みに、最初に抜き去った奴は俺を見失って今も呆然と立ち尽くしている。

仕上げにもう1人の味方のマークについている相手選手にもスクリーンをかけて、囮役として相手チームの目を欺くために適当な方向へと走ってもらい、最後にセンターラインまで下がった俺は

 

「パスよこせ黒子!!」

 

大声を出してこちらに注意を向けさせる。

当然黒子が俺にパスするようなことはなく、ゴール下でフリーになった味方に音もなくパスを出してそのままゴール。

 

まさに完全勝利。

あとは残り時間1分を守り切るだけだ。

 

「なあ白鳥、叩き潰していいよな?」

「ああ、全力で潰すぞ!!」

 

ディフェンスに徹した俺と灰崎を前に、もはや戦意を失ったのか相手から覇気が感じられない。

全く嘆かわしいものだ。最後まで諦めないのが我らがバスケ部の信条なのに。ま、それで勝てるんだから文句はないけどね。

 

奪い、叩き、弾き出す

あいも変わらず俺に対する声援は無いが、もうどうでもいい。

視界に映ったタイマーが10秒を切ったタイミングで目の前でボールを所持する相手からボールを奪い、ストリート顔負けのドリブルテクを決めて、残り1秒のところでコートから出ない様に注意しながら思いっきり投げ上げる。

 

ビー!!

 

ブザーが鳴り響くと同時に俺たちの勝利が決まる。

たかだか球技大会とは言えなかなかに楽しめたものだ。笑いながら拳を差し出してくる黒子と拳を合わせながら、そう思う。まあ、ハイリスクすぎるから手放しでは喜べないけど。

 

パスッ

 

何処からか聞きなれたボールがリングを通る音がする。

恐る恐る出どころを見ると、案の定敵陣のリングの下をボールがバウンドしていた。

 

おや?これはまずいパターンじゃ?

 

得点板を見る

 

11-6

 

あっ(察し)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実はこの小説頭の中では既に落ちとか決まってるんですよね。
ただそのための過程を描くのめんどくゲフンゲフン…文章に表し辛い。

あっ最後の方はシリアスになるのでご注意ください


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みんな大好き宿泊学習!!

月1話更新(1話で一月が経つと言う意)

ってか前回キセキ誰も出てなかったことに今更気づいたんですが。
やっちゃった☆Z☆E☆

それと主人公はキセキと呼ばれる女子がいるのは知っているが顔と名前は知りません。
全員美少女という噂も、ハハッワロスワロスくらいしか信じていません。

あと、名前は適当につけました。どうせ下の名前で呼ぶことなんてないし大丈夫ですよね。

Q:覚醒赤様は下の名前で呼んでたような……

A:あっ


7月

梅雨を抜けジメジメとした暑さから蒸し蒸しとした暑さに変わった訳だが、正直暑いことには変わらないためどうでもいい。

強いて言えば、大量に蚊が繁殖してくる時期だから是非とも明日には終わって欲しい月だといえよう。まあ、最近の蚊はしぶといから10月超えても普通に生きてるけどね。

 

 

そんなことを考えていても当然月日が一瞬で過ぎる様なことも無く、少し効きの悪いクーラに小さく舌打ちをしながらもワーワーと煩いクラスメイトたちに視線を向ける。

現在我がクラスメイト達は夏の暑さにも負けず、来週に迫った宿泊学習の班決めを行なっている。

男子3人女子3人の計6人、と何ともまあありきたりな感じではあるが、男子3人女子2人オカマ1人などと言う訳のわからないことになるよりはマシなので文句は言わない。

 

因みに、俺は既に灰崎と黒子と組んでいるので今もこうしてのんびりとした時間が過ごせているのだ。

いや、マジで2人がいて助かった。いなかったら今頃そわそわして余計距離置かれていた自信があるな。別にコミュ障じゃ無いんだけどなぁ。

 

そんな俺を置いて会議は尚も進む。

既に全員が誰かしらと組んだのか、現在は男子グループと女子グループをどうやってペアにするかを話し合っている。

主に「テツくんと同じグループがいい!!」と騒ぐピンク髪の少女のせいで会議は難航を極めている訳だが。ってあの子何処かで見たような。それとテツくんって誰だよ。

 

まあ、結局はその子の意見は取り入れられず、厳正なる多数決の結果くじ引きで決めることになった。最初からくじでいいだろうと思っていた俺は特に文句もないため、取り敢えず手近(前の席)にいた灰崎を我がグループの代表としてくじに向かわせ、若干蜃気楼の見えるグランドをボンヤリと眺める。

 

どうでもいいが俺の席は窓側の一番後ろだ。その理由が『白鳥くんの背中が邪魔で黒板が見えません』と言うのが悲しいがまあいいだろう。

ただしその後の『じゃあ白鳥は邪魔だから常に後ろの席にするが、みんなそれでいいか?』と言いやがった担任は許さん。

せめて邪魔の前になんかつけろよ!!なんか俺が虐められてるみたいじゃねえか!!

 

「きたああああああああ!!」

「うるせえぞさつき!!」

「静かにするのだよ桃井!!」

 

とても女の子が出していい様な声ではない叫びでもって喜びを顕にするピンク髪の少女と、それを注意する青髪のボーイッシュな少女と緑髪のメガネをかけた文学系少女。

3人ともビックリするくらいの美人で、思わず視線が釘付けになりそうだが、突如として脳内に現れたミニ虹村先輩(なお威圧感は健在の模様)が視認不可能な速度で殴って来たため急ぎ目を背ける。

 

これが教育の賜物か(白目)

 

 

 

 

 

「それじゃあ早速自己紹介しよっか!!と言ってもみんな一応顔見知りっぽいけどね?」

 

え?そうなの?俺、灰崎と黒子以外知らないよ?

 

「じゃあ私からするね!!私は桃井さつき、テツくんの彼女です!!」

 

矢鱈ハイテンションなピンク髪の少女が自己紹介と共に黒子に抱きつく。瞬間周囲の視線(主に男子)が嫉妬を孕んだものに変わり、何なら殺気すら纏った視線が黒子に向かうが、俺と灰崎が軽く睨むとすぐに消える。

誰だって身長の高い人間には萎縮してしまうものだ。その点俺らより背が低いのに奴隷の如く扱う虹村先輩はある意味化け物と言えよう。

 

いや、別に俺は背が高いだけで喧嘩っ早い訳でも血気盛んな訳でも無いけどね?あっ、でも今睨んじゃったから周りはそう認識したかもね。果たして俺がクラスに馴染める日は来るのだろうか?

 

「俺は青峰大輝。こんな名前だが一応は女だ。それより白鳥、お前バスケ強いんだよな!!バスケしようぜ!!」

 

少年の様な笑顔でそう言うのはショートヘアの青い髪にガングロの少女。何処ぞのゴールキーパーの様に『バスケしようぜ!!』と言って来るあたり、よほどのバスケ大好きっ子であることがうかがえる。身長は175くらいと長身で、静かに黒子が睨んでいるのが印象的だ。

いや、お前にもきっと成長期が来るから今は耐えようぜ?黒子。

 

「私は緑間真央。よろしくなのだよ」

 

無愛想に自己紹介をするのは緑髪を肩まで伸ばしたメガネをかけた文学系少女。それだけ見れば地味っ子と言う印象だが、両手に持った熊のぬいぐるみがそんな印象を払拭する。この学校には毎日変わったものを手に持っている不思議っ子がいると聞くが、まさかこの子なのでは?

因みにこの子も170近い長身で露骨に黒子が舌打ちをする。

っておい!!お前キャラはどうした!!いや時々真っ黒になるのは知ってるけど!!

 

「チッ……僕は黒子テツヤです。どうぞよろしくお願いします」

 

どう見てもよろしく無い様子でよろしくとほざく黒子。

俺は身長が高いために慰めの言葉もかけられないので、今は時間が彼の機嫌を直してくれるのを祈るばかりだ。

 

「は、灰崎しょ、祥吾……です。よろしくお願いしないでください」

 

何があったと思わず突っ込みたくなる謎の挨拶を決めるのは我らが灰崎くん。

普段ならここでチャラい言葉の一つや二つはかけてメアド交換までするのだが、今は美人を前に緊張しまくるウブな少年よろしく噛みまくっている。そのらしくない姿は思わず俺が罵倒の言葉をかけるのを躊躇ってしまう何かがあった。あっ勿論後で弄るけどね☆

 

「白鳥蓮だ。取り敢えずよろしく」

 

 

 

 

その後は青峰さんが積極的にバスケに誘って来ることと、灰崎が今じゃ十八番となったバイブレーション機能を発動させたことを除けば特に何事も無く話し合いは終わった。

主に桃井さんのお陰ではあるが。ってかこの子現地の人よりも詳しくない?どんだけ楽しみにしてたんだよ。

 

「そういえば、向こうには無料で使えるバスケットコートがあってボールもレンタルしてくれるみたいだけど、テツくん達って練習とかあるの?」

「「え?」」

 

俺と灰崎の声が被る。

 

別に宿泊学習だからと言って『練習サボれるぜヒャッホーイ!!』と考えていた訳ではない。それは夏の大会、つまりは3年生最後の大会が迫っている為である。

けどまあ何と言いますか、『バスケットコートは無いだろうから朝と夕方にフットワークなりランニングなりしとけばいいよね!!』っと甘い考えをしていなかった訳でも無く……。

まあ何が言いたいかといえば、だ。

 

「「絶対メニュー組んでるよあの悪魔!!」」

 

因みにこの場合悪魔と書いて虹村先輩、またはキャプテンとルビを振る。

悪魔と言いながらも尊敬の念が抜けないのは、偏にあの人のなせる人徳(物理)によるものだろう。

いやほんと尊敬するわ〜。マジリスペクトっスよ先輩。だから出来れば優しいメニューでお願いします!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間はあっという間に過ぎ去りついにやってきた宿泊学習。近場に海もあるらしいので、思春期真っ盛りの男子達は大盛り上がりの中、俺と灰崎の顔色は優れない。あれ?なんかデジャブ感じる。

 

まあそれも仕方のないことだろう。一応『練習疲れでぶっ倒れてずっと寝てました(テヘッ』はないように調整はしてくださったみたいだが、それを鵜呑みにするほど俺と灰崎は素直な性格はしていないし、その点だけでいえばまるで虹村先輩を信用していない。

それに加えて近場に海があるだと?浜辺使ったメニューが増えるに決まってるじゃないですかやだー。

 

 

 

時刻は11時

『海辺の生物を観察しよう!!』などと言うウィキさんを使えば1発で分かるであろうことを、わざわざ己が肉体をもって成そうと頑張る禿げた理科の先生を尻目に、私は貝になりたいと割と本気で考えながらボーッと海を眺めていると、必死になってザリガニを探している青峰さんと、それを注意する緑間さんの声が聞こえる。ってか海辺でザリガニは無いだろ。

 

同じ班の他のメンツ、黒子と桃井さんは少し離れたところにいる。

黒子が気配を消して捕まえたものを、黒子が支給されてプラスチックに入れて、その横でキャーキャー桃井さんが騒ぐと言う、何ともアレな光景ではあるがまあ楽しんでるようなので良いだろう。

 

因みに灰崎は隣で地平線を死んだ目で眺めている。

まあこの後地獄のメニューが待ち構えていると知っていながらテンションをあげろ、と言う方がおかしいだろうから特に何も言わずに放っておこう。

先輩達の最後の大会。さらに言えば、そんな先輩方を差し置いてレギュラーに選ばれたのだから練習をこなすのは当たり前と言えば当たり前なのだが、理解は出来ても納得はできないと言う奴だ。

 

「まあ諦めろ灰崎」

「知ってたか?メニューこなすのは俺とお前だけなんだぜ?」

 

あっ、ちょっとやる気下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃあ今から2時間は自由時間だ!!各自水着に着替えて来い!!ただし、指定されたエリアからは出るなよ!!あと、熱中症や脱水症状に気をつけてこまめに水分を取るように!!常に誰かとそばにいて30分おきに健康チェックをするように心掛けるよう!!それじゃあ2時間後、つまりは15時にはここにクラスごとに集合だ!!以上、解散!!』

 

強面の学年主任様がそんな指示を出してから一体どれだけの時間が経過したのだろうか?

指定されたエリアの端から端までを何度も往復ダッシュしながらそんなことを考えてみる。初めこそ何事かとこちらを見ていた生徒達は、今では目もくれずに各々好きなように有意義に時間を過ごしている。男女仲睦まじくしている様は、思わず舌打ちをしてしまうくらいには癒される光景である。

 

文句は無い。

どのみち自由時間を2時間も貰ったところで使いどころが分からないし、無意味に海の上でプカプカするくらいなら、フットワークをした方がまだましだと思えるくらいには教育が行き届いている自覚はある。

けど、流石にちょっとキツすぎやしませんかね?それに宿に戻った後も今度はコートを使った練習メニューがびっしりと書かれてあるし、後になって『実はお前達の様子はモニタリングしていた』と言われても納得してしまうくらいには事細かに時間設定までされている。

 

因みに自主的に参加した黒子は気づけばビーチパラソルの下で妹さんにポカリを貰っている。まあ体力のない黒子が参加しようと思うだけでも尊敬に値することだから、休んでいても労いの言葉をかけることはあっても、文句を言う気は無い。

 

例のイケメン(笑)5人のように女子とワイワイ楽しんでいるのに比べれば尚更だ。

あっ、突然足元にビーチボールが転がって来て、思わず蹴ってしまったらボールがあいつらの1人の顔面に飛んで行ってしまった!!うわーやってしまった!!いつか謝らないとね☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ。………ようやく、終わったな」

「あのクソキャプテン、いつかしめる」

「俺にはお前が返り討ちにあっている未来しか見えないんだが?灰崎」

「奇遇だな、俺もどう足掻いても勝てる未来が想像できねえ」

 

軽口を叩きながらも息を整える。こまめに水分補給を行なったりなるべく日陰を利用したりと、気を使っていたため熱中症や脱水症状の類は無いだろうと思う。

さっき聞いた話では残り時間は1時間近く残っているみたいだが、今更ワイワイと騒げる体力もない為、取り敢えず今は黒子が寝込んでいたビーチパラソル目指して歩いている。

 

途中灰崎は声を女子生徒にかけられていたから、無視して先を進んでいたら気づけば隣を歩いていた。

 

「良かったのか?チラッとしか見ていなかったがなかなか可愛かっただろ?」

「冗談だろ?俺の相手をするにはまだまだ足りねえぜ」

「なんだか灰崎割りがしたくなって来たな」

「それただの撲殺宣言じゃねえか!!」

 

どこにそんな体力があるのかギャーギャー喚く灰崎を無視し、漸く目的地にたどり着いた俺は、途中にあった補給所のようなところで貰ったポカリを今もまだぐったりしている黒子に差し出す。

 

「ありがとうございます。すみませんね白鳥くん達のほうが僕より頑張っているのに」

「体力のあるなしは気合でどうこうできるもんでも無いだろ?それに無茶して熱中症だか脱水症状だかになるよりよっぽどマシだ。お前にはお前の強さがあるんだから、そう卑屈になんなよ」

「そうだよテツくん!!今は疲れを癒すことに専念した方がいいよ!!だからハイッ!!レモンの蜂蜜漬け食べて!!」

 

そう言いながら文字通り蜂蜜に入ったレモンを差し出す桃井さんを見て、ああ、黒子がぐったりしている理由の大半はこの子なんだな、と思う。

ってか今時マジでこんな料理作って来る子がいるのか。もはや絶滅したと思っていたぞ。別に絶滅しても誰も困らないけどね。

 

「白鳥くんはポカリ飲まなくて良いんですか?」

 

いつの間にか隣にいた黒子(妹)に声をかけられて、思わず変な声が出そうになったがなんとか堪える。それによく思い返してみればさっき見たときだって兄妹2人で居たんだから、彼女がここにいるのは当たり前だろう。

 

「俺はさっき飲んだから今はいい。『飲みすぎてお腹壊して後の練習が出来ませんでした』なんて言えば後で虹村先輩にぶん殴られるからな」

「あっぶね!!」

 

そう言って急ぎポカリから口を離す灰崎。よく見ればその手には既に空になったがペットボトルが2本も握られている

まあ、灰崎が考えなしのアホであると言うことは知って居たが、そこまで頭が回らないとなるとちょっと虹村先輩に教育(物理)して貰った方がいいかもしれない。むしろして貰おう。テストが近づくたびに泣きついて来るのにはいい加減うんざりしていたところではあるしな。

 

ビーチパラソルの下に敷かれていたレジャーシートに寝転びながらそんなことを考えていたら、突然パラソルとは違う何かの影がさす。

チラリと視線を向ければ太陽にも負けない赤い髪に王者の風格を携えた小柄な少女が、後ろに紫の髪のフワフワとした雰囲気をもつ大柄な少女をまるで従者のように従えて立っている。

 

うわー、何処かで見たことある光景だー。

などと若干の現実逃避をしながら、でかい図体を必死になってパラソルで隠そうとしている灰崎を無視して、上半身を起こす。

 

俺に用件があるとは微塵も思ってはいないが、彼女、赤司征奈を前にして寝転がっていられるほど図太い精神は持ち合わせていない。

白鳥蓮と言う男は何処までも小心者なのだ。

 

「男子バスケ部は随分と張り切っているようだね?」

 

明らかに俺に向かって放たれたそのセリフに胃がキリキリして来るが、残念ながら胃薬を持って来ていないため痛みをなかったことにして口を開く。

そう言えば今日のおは朝占い、俺のラッキーアイテム胃薬だったなと思い出しながら。

 

「正しくはレギュラーメンバーである俺と灰崎、あとは自主的に参加している黒子だけだ、です」

 

わー気づけば敬語になってたよー。まあ最後にですつけただけのこれが敬語だとは思えないけどね

 

「可笑しな言葉遣いだね?まあ先輩方の最後の大会が近いから君たちが頑張っている理由はよく分かるけどね。っと、そんなことより君に提案があるんだ」

「提案?」

「ああ。私たちもこの宿泊学習で練習をする予定だったんだが、どうだい?合同で練習をすると言うのは?コートが一つしか無いんだ、態々時間を決めてコートを譲り合うのも面倒だろ?」

 

まあ言いたいことはよく分かる。実際こちら側としてはまともに練習する気があるのが俺と灰崎と黒子しかいないため、練習メニューもだいぶ限定されたものになってしまうのは辛かったところではあったし、そう言った意味でもその提案は非常に魅力的だと言える。けど、

 

「まあ非常に魅力的な提案ではあるが、そっちは大丈夫なのか?」

 

提案して来た側にこう聞くのも可笑しな話だが男女の差というものは無視できるものでは無い。まだまだ成長途中の男子中学生とは言え、俺と灰崎に限って言えば既に成人男性よりも背は高い上に力だってある。

無理な運動は体を壊すためする気は無いし、常に注意はするが、それでも女バス程度なら吹っ飛ばしてしまう可能性もあるわけだ。

 

が、当の赤司さんはなんだそんなことかと少し笑い

 

「問題はないよ。さっき君が言っただろ?練習しているのは君と灰崎君と黒子君だけだと。君と黒子君が私たちに何か可笑しなことをして来るとも思えないし、灰崎君は既に調きょ、………リスクリターンくらい判断できるだろうしね」

 

おい今なんて言おうとしたこの子、調教って言おうとしなかった?何?うちの灰崎君既に女バスの犬と化してたの?

チラリと隣を見ると新しく【からにこもる】でも覚えたのか、隣にチョコンと座っているヤドカリと似たような姿勢でパラソルに引きこもっている灰崎がいる。

 

もはや何も言うまい。

 

諦めの境地に達した俺は静かに了承するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

宿に戻り、4時〜6時までの自由時間の間バスケ用の運動服に着替えた俺たちは急いでコートに向かう。暫くして辿りついた俺たちの前に立っていたのは、つい最近見た顔触れだった。いや、1人知らない奴いるけど。

 

「よう、白鳥!!やっとバスケできるな!!」

「今日のラッキーアイテムは白と名の付く中学生、仕方がないから合同練習してやるのだよ」

「あ、この前の肩車の人じゃん。ねえ?また肩車してよ?」

「げっ、ショウゴ君いるじゃないっスか」

「今日はよろしく頼むよ、白鳥君、黒子君。……あっ、それに灰崎君」

「今日はよろしくお願いしますね?白鳥君、お兄さん」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」

「白鳥、俺はもうダメかもしれねえ。虹村先輩には今まで生意気言ってすみませんでしたと伝えてくれ。それと遺言は『キセキこわい』で頼む」

「こっちこそよろしく頼む。それと灰崎安心しろ、お前はこれまでろくに生意気なこと言えずに叩きのめされてたから。あと、その遺言が冗談じゃなく本当のことのなりそうだから取り敢えず謝っとけ」

 

取り敢えず一言

 

キャラ濃すぎんだろ!!どうなってんだよこのメンツ!!既にお腹いっぱいですけど!!

ってか灰崎今キセキって言わなかった?え?俺の想像ではキングコングが5匹くらい並んでるからキセキと呼ばれてんのかと思ってたけど違ったの?

赤司さんは表のキャプテンで裏ではキングコング養成所が密かにあるとか思ってたのに、ちょっと恥ずかしいじゃねえか。

どおりで学校中を探しても大量にバナナが入荷される場所がないわけだよ。

 

いや、もしかしたら普段は美少女のふりをしているが試合になれば突然変貌を遂げるのかも…

 

「何か失礼なことを考えなかったかい?」

「いえ、特に何も考えてないウホ」

「ウホ?」

「はははははははは、噛みました」

 

小首傾げながらウホって、ちょっと可愛いじゃねえか。

ってか思わず口から出ちゃったよ。なんだよウホって、今時ネクタイつけたゴリラでもそんな鳴き方しねえよ。

 

「君はやっぱり面白いね。それじゃあ早速だが練習を始めようか。指示は私が出すけど、それでいいかな?」

「別に構いませんよ」

 

人に確認を取るときは威圧感を消せって習わなかったんですかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習もひと通り終わりあとは晩飯の時間まで各自好きなことをしろとのこと。

取り敢えずコート上で倒れ込んでいる黒子兄妹を肩に乗せコートの隅にあるベンチまで運ぶ。流石に2人同時はきつくて肩が外れるかと思ったが、なんとかポーカーフェイスを保つ。

ベンチに座った2人に近場にあったポカリを渡し、あらかじめ用意しておいたタオルを被せる。

 

「毎度毎度すみません、白鳥君」

「僕も、態々運んでもらってありがとう御座います」

「問題ねえよ黒子兄妹。困ったときはお互い様って言うだろ?」

 

なお、灰崎とは不幸を分かち合い、幸せは潰し合うのが暗黙のルールだ。

初めこそは『お前の技も幸せも俺が奪ってやるぜ』などと意味のわからないことをほざいていたが、俺の技を奪えないことを思い知り、そもそも幸せなどまるで持ち合わせていないことを知ると現在のようになった。

って憐れんでんじゃねえよ!!幸せじゃ無くても普通の生活送れたらこっちは満足なんだよ!!

 

そう言えば幸せで思い出したが今日の晩飯はなんだっけ?別に前もって知っておく必要はないが、俺にとってこの宿泊学習で唯一の楽しみであるため心の準備はしておきたい。宿泊学習で晩飯が一番楽しみって、我が事ながら涙出てくるな

 

「なあ、黒子」

「「何ですか?」」

「あっ、テツヤの方な」

 

そう言えば兄妹2人とも居たんだった。

 

「そう言えば、白鳥君は僕のことも灰崎君のことも苗字で呼びますよね?もう付き合いも長いんですからそろそろ下の名前で呼んでもいいんじゃないですか?」

「それ、ブーメランだからな?」

「そろそろ下の名前で呼んでもいいんじゃないですか?」

「あれ?今無かったことにしなかった?」

「そろそろ下の名前で呼んでもいいんじゃないですか?」

「あっ、これ『はい』を選択するまで終わらないやつだ」

 

と言っても今更下の名前で呼ぶのも何だかむず痒いものがある。別に嫌なわけじゃ無いんだが、こう、恥ずかしいのだ。

 

「白鳥君?」

「わかった、分かったよ、分かりましたよ。呼ぶよ、呼べばいいんだろ?その代わり交換条件として黒k………テツヤも俺のことを名前で呼べよ?」

「分かりましたよ白鳥君」

「分かってないよね?何?分からないことが分かったの?哲学者なの?」

「冗談ですよ、蓮君」

「ふふ、何だか男の友情って感じで楽しそうですね?」

 

楽しそうに笑う黒子さんにちょっと見ほれかけるが、脳内虹村君がアップを始めた為にすぐに目を逸らす。なんか俺、これから先誰とも付き合えそうに無いんだけど気のせいかな?

 

「ってそうだ、なあテツヤ?今日の晩飯ってなんだ?」

「確か、海の幸を使った和風料理だったと思いますよ?」

 

ほう、それはなかなか分かっているじゃないか。やはり魚と言ったら和風料理、妙な味付けはせずに新鮮な魚を刺身で食べるのが最もうまい食べ方というものだろう。え?違う?まあ個人の好みだよね。

 

「そう言えば黒子さんってどこのクラスなの?」

 

3人居て無言は辛いので何と無く質問をするが、我ながら内容が小学生みたいで笑える。特定のやつとしか話さないからそう言った能力が低下しているのかもしれない。

 

「僕は君と同じクラスじゃ無いですか」

「いや、テツヤには聞いてないんだが?」

「僕も黒子ですよ?」

 

ものっそい悪い笑みを浮かべるあたり、まず間違いなく確信犯だろう。何だよ、今度は愛する妹さんのことも下の名前で呼べとでも言いたいのか?流石に女子を下の名前で呼べるほどのリア充力(笑)は持ち合わせて居ないぞ。

 

「僕は君の隣のクラスですよ?蓮さん」

「ゴフッ!!」

 

黒子さんの名前呼びのあまりの破壊力に、思わず吐血したような錯覚をする。

テツヤの視線が鋭くなったような気がするが無視だ。脳内虹村くんが巨大化を始め、等身大虹村君へと変貌を遂げようとしているが、こちらも強い意志をもって抑え込む。

初めて出来た癒しを潰すわけにはいかないんだ!!

 

「おや?随分とテツナと仲良くしてるね白鳥くん。もしかして君もあっち側の人間だったのかな?」

 

ぞわり、と普通の人生を送っている限りまず間違いなく感じることがないであろう圧倒的な恐怖をもって、ハサミ片手に赤司様が御降臨なされる。

「あっち側」の時にハサミを向けられた灰崎は若干泡を吹いているが気にしている余裕はない。さらに不幸は不幸を呼び、脳内虹村君が抑えを振りほどき今では3m近い大男へと変貌を遂げる。

さらに言えばテツヤはミスディレクションで姿を消しており、いつでも俺を暗殺できるよう準備をしている。

どう足掻いても詰みだ。先ほどまでのほのぼの系RPGは、突如として指一本動かしただけでデッドエンドを迎えるR-18指定のグロゲーに変わってしまった。

 

俺は何を間違えた。いや、まだ終わったわけではない!!諦めたらそこで試合終了だ!!だから俺は!!

 

「青峰さん!!1on1やろうぜ!!」

 

逃げた

作戦はやっぱり『命大事に』だよね

 

 

 

 

 




ここで主人公の説明
今作の主人公は体幹が異常に優れている為、例え空中であろうと滅多なことではバランスを崩すことはありません。
それに加えストリートでの経験もある為原作青峰以上に変人チックなシュートも可能です。ただしその場合シュート成功率は当然下がります。
まあ、それ以前にチームプレイ大好きっ子なので無茶なことはしませんがね。


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夏の暑さにも負けず

8月

夏真っ盛りのこの時期。

街のどこにいても蝉の声が聞こえるのでは、と錯覚するほどにミンミンだのシャーシャーだの煩い中、我らが帝光中学男子バスケットボール部は前大会優勝校とあって地方大会をシードで勝ち上がっていたため、その期間——つまりは他の学校が必死こいて試合を行なっている間、黙々と、まるで試合本番まで熱を保つように練習をこなしていた。

 

 

俺や灰崎、それに虹村先輩は地方大会では出場せずに全国大会からの出場となるため、地方大会のメンバー、言ってしまえば2軍の選手たちとは別の体育館で淡々とフットワークをこなしている。

朝方のこの時間帯は比較的涼しいと聞くが、蝉の声を聞くたび温度が上がっていくように感じるのは果たして錯覚なのだろうか?

お陰で暑さにやられてダレそうになる。最も、イマイチ練習に身が入らないのはやはり宿泊学習での青峰さんとの1on1が原因だろう。

 

 

今でも鮮明に思い出すことができる光景。

勝負は文字通り一瞬でついた。何度かフェイントを挟んだ青峰さんが桁外れのスピードで俺を抜き去ろうとし、そのボールを俺の手が弾き飛ばした。傍目から見ればあるいはそう映ったのかもしれないその勝負。

 

しかし当事者である俺は知っている、あんなのは何十分の一という確率が偶々あの一回で出ただけに過ぎないと。

なんせあの時俺はまるで彼女の姿を捉えられていなかったのだから。

無意識、それこそこれまでに積み上げていたバスケの勘とでもいうものが俺の腕を反射的に動かし、それが偶々ボールを弾いだけに過ぎないのだ。対峙したからこそわかる圧倒的な何か。無冠の五将と呼ばれる彼らでも、虹村先輩でも感じることはなかった、恐怖すら感じるプレッシャー。

 

時間の都合上あの一度しか試合はしていないが、果たしてあのまま続けていたら俺はどうなっていただろうか?想像したくもない。

 

それに何より、アレが彼女の全力だったとは思えないのだ。

手を抜いていたとは思っていない、そんなことが出来るほど器用な性格をしているようには見えないし、何より彼女のあの獰猛な笑みがそれは違うと訴えている。

 

だが俺の中の直感が囁く、彼女にはまだ上がある、と。無意識に封じていたのか、或いは未だ成長段階なのか、細かいことは分からない。けど、一つ分かることはある。

 

負けるわけにはいかない。

 

俺はプライドの高い男ではない。

それで済むなら平気で土下座だってするし、理不尽を受け入れることだって当然のように出来る。それに男女差別だって当たり前だがしない。男が女より優秀なのが当たり前だとか、そんな訳の分からないことは言わないし、思わない。

 

しかし今は思う、負けたくないと。

これはきっと男としてのプライド云々ではなくバスケット選手としてのプライド。ようやく知った選手としての誇り。

 

だから俺は負けたくない。そのために

 

「虹村先輩、後で1on1して貰っていいですか?」

 

俺はこの部で1番になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

10対6

圧倒的とは言えないが俺の勝ちであることに変わりはない。

この一度で虹村先輩の上をいった気にはならないが、これから先何度戦っても負ける気がしないのは、果たして何故だろう?

 

「お前が本気で俺とやるなんて、珍しいな?」

 

ビッショリとかいた汗を大きめのタオルで拭いながら、隣に座った虹村先輩は本当に珍しそうに俺を見る。

 

「俺はいつでも本気ですよ」

「なら言い方を変えよう。お前が全力で俺とやるなんて珍しいな」

 

まるで全てを見透かしたかのようなその言い方に、居心地が悪くなって目を逸らす。そらした先にいた灰崎はいつになく真剣な表情で俺を見ている。

 

「お前は無意識かもしれないが、俺たち、つまりは帝光中バスケ部員を相手にするときは何処か手を抜いている。大方、怪我させたら申し訳ないとか考えてんだろうな」

 

先輩が適当なことを言っているようには見えないが、いかんせん本当に自覚はない。そりゃ、大会を控えた先輩方に怪我をさせちゃ悪いという気持ちがなかった訳では無いが、それで手を抜くなんて舐めた真似を俺がするとは思えないのだ。

けど、確かに今日の勝負、今まで足枷となっていた『何か』が外れたような自覚があるのも確かではある。

 

「お前は気づいて無いかもしれないが、他校との試合の時と練習での試合の時じゃ、顔つきからしてまるで違うぞ?」

 

なんだその主人公設定。俺のキャラじゃ無いでしょ。

 

「敵と見定めれば容赦ないからな、レンは」

「相手の技奪っては指ぺろぺろしてる祥吾にだけは言われたくねえよ」

「それもそうだな。っておい!!指ぺろぺろって何だ!!」

「キャンディみたいに親指舐めてたろうが!!なに?甘い味でもするんですか?」

「そんな必死こいて舐めてねえよ!!ってか別に美味しいから舐めてる訳でもねえよ!!」

「え?うまいから舐めてた訳じゃねえのか灰崎?俺はてっきりそうなんだと思って監督に相談していたぞ」

「何してんスか虹村さん!!通りで最近監督の俺を見る目が生暖かい訳だよ!!」

「あっ、俺この後テツヤとスポーツ用品店に行くから先に上がりますね?」

「ああ、怪我ないようにな」

「ちょっ!!俺を無視すんな!!つーかなんだよそれ!!俺も混ぜろよ!!」

「お前がいると目立つから嫌だ」

「その通りすぎて何も言い返せねえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍しく午後丸々オフとなる今日。

13時にマジバ(マジバーガー)で集合しそこで昼食をとり、そのまま駅近くにある大型デパートでバスケ用品を見て回って気に入ったものがあればいくつか購入しよう、と俺にしては珍しくテンションも上がってこのマジバに来たのはいいのだが、

 

「黒子っちーズって本当にシェイクしか食べないんすね」

 

この蛍光色は何故ここにいる?

 

 

 

 

俺がマジバに到着したのは大体集合時間の10分前。

テツヤの影の薄さを知っている俺は『待ち合わせしているんです』と言うわけにもいかないため、適当に注文し終え一通り店内を見渡し、テツヤがまだ来ていないことを知るや否や1番目立つであろう窓側の席に荷物を降ろし、ポテトを摘みながらテツヤの到着を待った。

 

 

5分もすればテツヤとその妹がマジバに到着した。

まあこの兄妹が一緒にいるところはよく見ているし、今日来ても不思議では無いとは思っていたため黒子さんがいること自体は特に問題はなく、むしろ男だけで買い物するよりも花があった方がいいため、俺としては大歓迎ではあった。

 

そう、ここまでは嬉しい誤算だ。

 

問題はその後入って来た偏差値低そうな蛍光色女にある。

 

現れるや否や『黒こっちィィィィイイイヤァァァアア!!!』などと奇声を発しながら黒子さんに突撃して来たため、反射的に右手に持っていたポテト(ミニサイズ、カリカリ)を投げつけてしまったが、今思えば不味かっただろう。こんなアホ女を撃退する為にポテトを一個を無駄にしてしまったことは今も後悔している。

割と楽しみにしてたんだよな、あのポテト。ロングサイズのふにゃふにゃも好みだけど。

 

 

話が逸れたな。

 

奇跡的にポテトが鼻に刺さった蛍光色女は、女子がしてはいけない顔で、女子がしてはいけない奇声を発しながら、女子とは思えないのだほどのたうちまわった。

ちなみにこの間黒子兄妹は静かにマックシェイクを飲みながら時々蛍光色女の様子を写真に撮っては悪い笑みを浮かべていた。

 

 

暫くの間のたうちまわっていた蛍光色女だが、いい加減煩かったのか黒子さんが腹にイグナイトをかましたことにより大人しくなった。

ってか生きてるよね?とても人が出すものじゃ無い音が出てたよ?

 

 

まあ結局生き返って回復した蛍光色は素知らぬ顔で席に座り、現在黒子兄妹と談笑(一方通行)している。

 

「いやーそれにしても本当に似てるっすよね。白鳥っちもそう思うっすよね?」

 

何その馬鹿そうなあだ名、是非ともやめていただきたいんですけど。何ならそのままUターンして家まで帰って欲しいんですけど。

 

「ははは、そうだね。っでお前誰?」

 

仲よさそうに話しかけて来るあたりかなりのコミュ力を持っているんだろうが、お生憎様流されて気づけば財布にされる、なんていうことにだけはならないように鋼のように硬い意思を持っているため、引くべき一線は引かせてもらう。

 

「酷いっすよ、一緒に合同練習もやったのにもう忘れたんすか?黄瀬涼子っすよ。ほら、モデルもやってる」

 

そう言ってどこからか取り出した雑誌を見せる黄瀬と名乗る少女、まあ確かに見てくれだけでいえば十分美人だし、モデルをやっていると言われても不思議では無い。

 

が、しかし、美人なはずなのに特に何も感じないのは何故だろう?

脳内虹村くんも顔を顰めるだけで準備運動すらする気配がない。何だったらテレビつけてNBAの好プレー集を見始めたくらいだ。

 

つまり、何が言いたいかといえばこの子は残念なのだ。

『何処が』と聞かれても分からないし、分かりたくもないが、とにかく残念なのだ。それはもう、黒子さんが視線すら向けないレベルでは。

 

「蓮さん、彼女は女子バスケ部が放し飼いしている犬でしかないので、いないものとして扱ってくれて構いませんよ?」

 

さらりと俺のことを名前呼びしながらついでに言葉のガトリングガンを放つ黒子さんは、それはもう綺麗な笑顔で言った。

 

グシャリ

 

どこかの誰かがマックシェイクを握り潰した音が聞こえ、更にさっきまでアホな雰囲気を纏っていたどこかのアホ犬は、俺の必死のBボタン連打も虚しく狂犬へと進化を遂げ、さらにいえば、こちらに背を向けてテレビをみている脳内虹村くんは背中で呪詛を語り出し始めたが、少し待って欲しい。俺は何もしてないよね?

 

いや、或いはこれはモテる男のさがなのか?だとしたらアレだな、何だか周りのこの雰囲気や殺気もモテない人間の醜い嫉妬として寧ろ心地よく感じ……ごめんなさい!!謝るから!!俺が何をしたわけでもないし、何に対して謝ってんのかも分かんないけど謝るから!!取り敢えず『赤司』と表示されたその携帯電話しまって!!警察には通報されてもいいけどそこにだけは通報しないで!!

 

 

 

 

結局黒子さん……テツナの『僕が誰をどう呼ぼうと僕の自由です』というセリフでことなきを得た俺は、現在予定していたデパート内で特にあてもなくぶらついている。

まあ、その代償が『僕のこともお兄さんみたいに名前で呼んでください』というのが辛いところではあるが、それで命が買えるのなら安いものだろう。

そのテツナは現在俺の隣で楽しそうに店内を見渡している。因みにテツヤと黄瀬は大和撫子よろしく数歩後ろを歩いている、のだが。

 

俺は知っている、テツナが俺のことを名前で呼ぶたびにテツヤの右手が徐々にイグナイトの形へと変わっていくことを

 

俺は知っている、テツナが俺のことを名前で呼ぶたびに黄瀬が手にもつご自慢の雑誌に、一つまた一つと切り傷のようなものが入っていることを

 

俺は知っている、テツナが俺のことを名前で呼ぶたびに脳内虹村くんのテレビ画面の中から髪の長い女が飛び出してきていることを。つーかさっきのは呪詛じゃなくて召喚魔術だったんですね。

 

 

とまあ、大和撫子ではなく常に背中を狙う暗殺者がぴったりと後ろをつけている、という何ともデンジャラスな状態で買い物を楽しめるはずも無く、視線こそあちこちに向けているがそれもあくまで鏡を利用して背中の様子を確認するためであり、今日何でここに来たんだっけ?と軽い記憶喪失に陥っている俺ではあるが、辛うじて逃げ出さないのは偏に

 

「蓮さん、あそこにあるバッシュとってください」

 

「はいはい」

 

テツナの雑用が楽しいからなんだろうな

 

「「チッ」」

 

あっやっぱ逃げ出してもいいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2年…夏の大会……青峰 うっ頭が!!
というわけでシリアスパート導入前のほのぼのでした。
なお主人公は殺伐とした空間にいる模様


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とある夏の日の話

大変遅れて申し訳ございません。リアルが夏休みに入って一層忙しくなってしまいまして…
関係ないですけど勉強してるとなぜか作品の構成が思い浮かぶのは一体なぜ?せっかく思いついても書けないから辛い。



「蓮さん、ここの問題ですが……」

 

「ああ、そこならここにある公式そのまま使えば解けるぞ」

 

2人の男女が仲睦まじげに勉強を教え合う。その光景を見てみると、それは正しく青春と呼ばれるものだろう。

場所はマジバ、お昼を少しすぎた時間帯ではあるが、駅から少々離れた立地故か、或いはこの夏の暑さが原因か、客足は少なく勉強を教え合っている中学生を見ても注意の声は無い。

 

だが、この光景を見たからと言って青春だという決めつけは早計であると言わざるを得ないだろう。これはあくまで一部分を切り取った光景に過ぎない。

 

全体像を見てみればこうだ。

俺の正面に座り真剣な表情で夏休みの宿題に手をつける黒子テツナ、その背後、店の奥の奥にはこちら(俺限定)に殺気を飛ばす何やらカラフルな集団が一つ。赤、青、緑、黄、紫、桃、水色、灰色。灰色?え?何で灰色しれっとそっちにいるの?

 

取り敢えずまあ、これで今の状況がテツナと2人っきりでの勉強会、などというお花畑いっぱいの少女漫画的展開ではないということは御察し頂けただろう。どころか、いつも通り一歩踏み違えば即奈落の底に真っ逆さまな命がけの綱渡りを行なっていることまで察していただければ有難い。

この状況がいつも通りとは……慣れとはげに恐ろしいものだ。

 

 

事の始まりは昨日、全中を1週間後に控えているというのに体育館の整備のため今日の練習が一日オフになった俺は、もともと計画していた通りに夏休みの宿題を一気に片付けようと、昨日必死になって勉強していた。

理系科目、その中でも純粋な計算力だけで終わる問題を粗方終えた俺は、そのまま文系科目に手をつけようとし、丁度そのタイミングでメールの着信があったためにその手を止めた。

差出人は知っての通りテツナ、内容は『よければ明日一緒に勉強しませんか?』といった感じのものだ。特に断る理由も無かったために了承の旨を綴ったメールを送り返し、いくつか話し合った後マジバで勉強会を開くことになったのだ…が、今にして思えばもう少し慎重を期すべきだったと後悔している。

『テツヤは絶対に来るだろうし2人っきりってわけじゃ無いな、HAHAHAHAHA』とか思ってた過去の自分を割と全力で殴りたい。まあ実際にテツヤは来てるんだけどね?どういう訳か姿を見せないけど。

ってか今更だけど奥の座席に座っているってことは俺たちより先にマジバに来てたってことだよね?だって俺あんなカラフルな集団が隣通っていくの見た記憶ないし。え?ちょっと怖い。テツナのプライバシーって守られてるよね?そろそろポリスマンに相談した方がいいかな?

 

「どうしたんですか蓮さん?ボーッとして」

「ああ、ちょっと問題に詰まっただけだよ」

 

嘘ではない。ただ問題の内容が宿題には載っていないだけだ。

 

「蓮さんでも分からない問題ってあるんですね」

「俺は万能じゃないからな」

 

いや、ホント万能さが欲しい。それが無理なら世渡りのテクニックが欲しい。じゃないとこんな答えのない問題に立ち向かえる訳がない。だって魔王いるんだよ?問題の中に魔王が御降臨なされているんだよ?

 

「そう言えば蓮さん」

「ん?」

「思春期真っ盛りな中学生として女子と2人での勉強会ってドキドキしないんですか?」

「めっちゃドキドキしてる」

 

主に生命の危機的な意味で。いつ危険物が飛んで来るんだろうと思うとホントドキドキが止まらない。

 

「む、からかってますか?」

「からかってるわけじゃない。本気でドキドキして……なんでもないです」

 

少し冷静になってみて自分が割とやばいことを口走っていることに気付き慌てて止める。セーフだよね?これはセーフでいいよね?

テツナはそんな俺の心情に気づくことなく少し満足げな表情をして薄く微笑みを浮かべている。かわいゲフンゲフン。今店の奥でマックシェイクが宙を舞った気がするが気のせいだ。

 

「時に蓮さん」

「なんだ?」

「今日僕はそれなりにオシャレをしてきたわけですが、どう思いますか?」

 

そう言って徐に立ち上がったテツナがゆっくりと一回転してみせて静かに席に座る。洋服にあまり詳しくない——どころかファッション全般に疎い俺からすれば、テツナの着ているものがワンピースであるということぐらいしか分からないが、テツナの髪色と同じ水色のそれは彼女の雰囲気にはよく似合っている。

 

「似合ってるんじゃねえの?」

「反応がイマイチですね。僕ってそんなに女の子っぽくないですか?」

 

HAHAHAそんなことを思ったら最後、俺の首は胴体と一生さよならしてしまうじゃないか。まあ食い気味に女らしいと言おうものなら、その胴体にもぽっかりと大きな風穴が開きそうなものだからこの場は(腐った)大人な対応をさせてもらおう。

 

「以前祥吾が『黒子テツナって可愛いよな、ちょっと本気出して俺の女にしてやろうか』って言ってたから十分女らしいと思うぞ」

 

あっ、祥吾の霊圧が消えた。いや、大丈夫あいつならきっと生きてるさ。最悪の場合は人造人間祥吾Xにして蘇らせればいいだろ。うん、それがいい。

そういう訳だから今店の奥で特大のケチャップが舞ったような気がしたけど無視だ。あれはきっと触れてはいけない奴だ。間違いない。

 

「………」

 

これ以上考えても不毛だ、と、ある種悟りの境地に到達した俺は諦めて手元の宿題に集中しようとして、テツナがこちらをじっと見ていることに気付いた。

 

「何だよ?」

 

見つめられることへの耐性の無さからか、少々ぶっきらぼうな言い方になってしまったことに多少の罪悪感を感じたが、当のテツナは特に気にしていないのか表情を変えることなく、手に持っていたシャーペンを置いて、ノートを閉じ、雑談の体勢に入っていた。

 

「蓮さんって灰崎くんと一緒にいるときや、バスケをしているときは子供っぽいですけど、今は何だが大人びてますね」

「…勉強中にハイテンションとか頭がおかしいだろ」

「そういうことじゃ無いんですけど」

 

同じく勉強道具を置いて、少し冷めたポテトを口にしながら質問に答えるが、どうやらこの答えはお気に召さなかったご様子で不機嫌そうに唇を尖らせる姿がたいそうかわいゲフンゲフン。

今真横を物凄い速さでポテトが通り過ぎていったが、きっと気のせいだ。

 

「まあ、真面目な話すると家庭の事情だ」

「聞いてもいいですか?」

 

ここでこちらに確認を取って来るあたりテツナの人の良さが伺える。相変わらず人を気遣える優しい子だと思うが、そのまま彼女を褒めそやすと外部の手によって碌でもないことにされることは目に見えているために、深く考えることはせずにある程度言葉を選びながら掻い摘んで話をする。

 

「俺が小学生の時に母さんが亡くなってな、それからは親父との2人暮らし、いやペットを2匹飼ってるから4人暮らし。最も最近親父が海外に転勤したから今じゃ3人だけどな。まあそんな生活してたら嫌でも大人になるってもんだよ」

 

本当ならここにルンバを加えて4人暮らしだと言いたいところだが、冗談でもそんなことを言えば可哀想なものを見る目で見られる可能性があるため自重する。他の誰かならともかくテツナにそんな目で見られたら心がバキバキに折れる自信がある。

 

「寂しくは無いんですか?」

 

躊躇いながら口にしたセリフはどこか弱々しい。

俺自身自分の置かれている状況が普通では無い自覚はあるし、そのセリフも想定の範囲内だ。

 

「寂しくは無い。と言えば嘘になるがもう慣れた。それに悪いことばかりじゃ無い。朝練するために朝早くに目を覚ます時とか、家族に気を使うことが無いのは有難いことだ」

 

逆を言えばメリットはそれくらいしか無いが問題はない。家に帰れば愛犬のチワワとラブラドールが迎えに来てくれる生活を悪いなどというはずもない。

 

どうでもいい話だが、一度ルンバを調節して俺が帰って来る時間にあたかも迎えに来たかのように動くように設定したことがあるが、あれはやめといた方がいい。その日、僅かに帰る時間が遅れて玄関を開けた時、ちょうどそのタイミングで遠ざかり始めたルンバを見た時の喪失感といったらとても形容できるものでは無かった。膝をつく俺の顔を愛犬達が舐めてくれなかったら暫くは学校を休んでいたかもしれない。

 

「…気にすることはない。今じゃ学校で話をする奴も増えたし家に帰ってからもわざわざメールをくれる心優しい誰かさんも居るから、以前よりもずっと楽しい日々を送ってるよ」

 

シュンとした顔を見ていられなくてとっさにフォローを入れたがうまく言葉にできた自信がない。アドリブには強い方だと思っていたが、自分を過大評価していたみたいだ。

けど、そんな俺の不安は杞憂に終わる。

 

「なら、その心優しい誰かさんがこれから毎日メールしてあげますね」

 

どこか誇らしげに、それでいて優しい笑みを浮かべながら胸を張るテツナはとても魅力的で

 

「ところで蓮さん」

「まだ用があるのか?」

 

いい加減勉強を始めた方がいいのではないか?そう言った意味合いも兼ねての言葉だが、おそらくそれに気づいているであろうテツナは分かった上で無視して会話を進める。

 

「僕は今とても眠いです」

「話題転換が半端じゃねえな」

 

別段雑談に興じるのは嫌ではないがここまで一貫性がないと『もしかしたら無理に会話を弾ませようとしているのでは?』と邪推してしまう。もっとも、それもテツナの本当に眠そうな顔をみれば所詮は推測でしかないが。

 

「肩を貸してくれませんか?」

「ちょっと待て、少し考える時間をくれ」

 

気づけば隣に移動していたテツナからの上目遣いありきのその要求にノータイムで承諾してしまいそうになったが、どこまでも理性的な自分が待ったをかける。

おかげで少し冷静さを取り戻したところで考えるべきことはメリットとデメリットについてだ。

まずメリットだがこれは同い年の可愛い女の子との至福の時間といったところだろう。

次にデメリットだが……『へえこれがテツナっちと触れ合った肩っすか、あの、その肩私が貰ってもいいっすかね?』ああこれダメだ。リアルで肩が貸し出されるイメージしか浮かんでこない。

因みにイメージが黄瀬だったことに深い理由はない。無いのだが余りに違和感が無さすぎてこれまでに感じたことのない恐怖を感じるのは一体何故だろう。これってイメージだよね?実際の映像は使われてないよね?

 

取り敢えず祥吾にヘルプのメールを送ろう。こと女子関連のことなら俺よりあいつの方が経験値あるだろうし。

そう思い急ぎメールを送ると以外にも返信は1分と経たずにきた。眠気でフラフラしているテツナをのらりくらりとかわしながら画面を見る。

 

『悪い、俺今少し眠いんだ。ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ寝たらすぐ返事返すから、悪いけど待っててくれないか』

 

祥吾ぉぉぉぉおおおお!!!ダメだ、それ寝たら最後起きれないやつだから!!こことはまた別の世界に旅立つやつだから!!頼むから寝ちゃダメだ!!

 

「おや、こんなところで会うなんて奇遇だね?私もご一緒していいかな?」

 

ま、魔王が御降臨なされたああああああ!!!!!奇遇って何?それって意図的に作り出せるものでしたっけ?この世界って乱数調整可能でしたっけ?

 

「おや?勉強会をしていたのかい?これまた偶然だね、私もちょうど勉強をしようと思っていたところなんだ。ほら、この通り宿題もある」

 

だったら今隣を通り過ぎていったタキシードにサングラスの男と窓の外に見える黒塗りのベンツは一体何なんですかね?明らかにパシリとして使ったよね?テツナと一緒に勉強したいがために権力行使しまくったよね?

 

それと店の奥から負の念がなだれ込んできているんだけど何かあったのか?『あの時グーを出していれば』とか『バカな、私は人事を尽くした筈だ』とか聞こえ……ああ、うん。分かった。ジャンケンで決めたんだな。お前らジャンケンで誰がテツナに声をかけるかを決めたんだな。

 

「アレ?赤司さん?どうしてここに?」

 

だいぶマシになったのか、欠伸を噛み締めながら問いかけるテツナの声は未だに眠たげであるが意識は覚醒し始めたように見える。

取り敢えずチャンスとばかりに隣の席から正面の席に誘導を済ませ、さらにその隣に赤司を座らせることによって蓋をすることに成功させるという荒技をやってのけた俺は、涼しいはずの店内で異様に汗を流した影響か渇きを訴える喉を潤すため飲み物を買いに会話を始めた2人を置いて一先ず席を離れる。

本音を言えば魔王と対峙するために一旦深呼吸の時間が必要なだけだが、まあそれはいいだろう。

 

 

 

 

 

 

っで、流石に炭酸はきついか?いや俺ならいける。っでもここは安全にオレンジを選んだ方が…、男なら度胸か?等々悩んだ挙句結局は無難にコーラを選んで席に帰ってきたはいいが

 

「なあなあ、俺らと一緒にゲーセン行かね?すぐ近くにはこんなしけたところよりうまいクレープ屋もあるんだよ」

「俺らうまい店超知ってんだよ。絶対楽しいからさ、一緒に遊ぼうぜ?」

 

何だこいつら?

 

いや、こいつらが何をしているのかは分かる、所謂ナンパというやつだ。それに野郎に対してこう言うのも変な話だが、こいつらはチャラついてはいるが顔はいい方だ。常日頃からクソみたいにイケメンな灰崎を見ている俺からすれば大してカッコいいとは感じないが、客観的にかつ公平な視点から見ればまあイケメンでいいだろう。そんなやつらがナンパをすると言うのならまあ分からないことはない。

 

じゃあ俺が何に対して疑問を抱いているのか、そう問われた時答えはいくつかある。

一つはあの赤司に声をかけていること。確かに今の赤司、つまりはテツナと一緒にいる時、またはキセキと一緒にいる時の赤司は普段の魔王然とした雰囲気はなく何処と無く優しい雰囲気を醸し出しているかもしれないが、だからと言ってナンパはない。

俺なら声かける寸前に自分が死ぬ未来が見えて躊躇う。そして逃げる。

 

二つ目はさらりとマジバをディスったこと。俺は聞き逃さなかった、マジバのことをしけた店と言ったことを。常識的に考えて現在進行形で入店している店の悪口を言うのはない。

 

三つ目は奥からの殺気にまるで気づいていないこと。これが一番致命的だな。ほんとバカじゃねえのと思う。

だからその殺気を俺にも向けるのやめてくださいお願いします。分かってるよ!!お前らの大切なテツナと赤司には指一本触れさせないから安心しろよ!!

 

「あの、悪いんだけど今一緒に勉強会してるから、諦めてもらえますか?」

 

若干一名呼んでもないのに参加してる魔王様がいらっしゃるけど嘘はついてない。事実テーブルの上に問題集とか広がってるし。

 

「あぁ?………ププッ、アハハハ!!!お前その顔で何彼氏面してんだよ!!なあ釣り合いって知ってる?」

「おいおい!!あんまりいじめてやんなよ、こんな顔でも頑張って生きてんだからさ!!頑張って髪白に染めたりしてんだからさ!!ギャハハハハ!!!」

 

声かけたら顔見て笑われた件について。

 

そんなに俺の顔って酷いの?そりゃ自分のことをイケメンだなんて自惚れる気は無いけど笑われる程か?運動も筋トレもしてるから太ってるわけじゃねえし、いや、確かにオシャレに気を使ってるわけじゃ無いのは事実だが、毎月の仕送りを有効利用しようと思ったらそんなことに回してる金が無いんだから仕方が無いことだろ。犬の餌とか割と金かかるし。バスケット用品も安くは無いし。

 

ってか俺の顔ってどんなだっけ?小学生の時鏡割って以来基本見ないようにしてるから分かんないんだけど。少なくとも最後にまともに見た鏡はスプーンだな。確か理科の実験で凸面鏡だかなんだかでじっくり見たのを覚えてる。灰崎とバカやって笑いあって怒られたんだっけ?

 

後、髪の色は地毛だ。どこの誰の遺伝かは分からないが、生まれ持ったものを笑われるのは流石にムカつくぞ。

 

そこまで考えてふとテツナの手が小刻みに震えていることに気付く。ナンパ野郎共はそれを怯えだと思い優しい言葉を掛け出すが、テツナとの付き合いの長いやつなら分かる。あれは怒りだ。どんな理由で何が引き金となったのかは分からないがテツナは確かに今怒っている。

だとしたらマズイ。今この場でテツナが怒ったら逆上したあいつらが暴力行為に走る可能性もある。面倒だがさっさと凹ませてお帰り願おう。

 

「さっきあんたらは釣り合いがどうとか言ったが、だとしたらあんたら2人が彼女たちに声をかける資格はないんじゃないのか?」

「あぁ?」

 

どうでもいいがナンパ野郎Aの第一声はあぁ?から始まらないといけない法律でもあるのかな。それともあれかな、そう言う自分カッケーって感じなのかな?隣の家の親戚の友達の赤ん坊の頃の体重くらいどうでもいいな。

 

「てめえらじゃその2人に釣り合わねえって言ってんだよ。鏡と現実と身の程を弁えて出直してこい!!」

 

先ほどまでの興味の無いものを見る目ではなく、確かな殺気と怒りを滲ませて睨みつける。

俺のあまりの変貌ゆえか、或いは190近い男に凄まれたからか、漸く自分たちが誰に喧嘩を売ったのかを理解した男2人は脱兎の如く逃げようとして

 

「迷惑料にバニラシェイク2本買って来い。それで見逃してやる」

 

慌ててバニラシェイクを購入して帰っていった。

 

いやあスッキリした。いいことするって気持ちいですね。心なしか店内から拍手が聞こえるような気さえしてきたよ。まあ幻聴なんですけどね。

 

「……凄いね」

 

珍しくも驚きの表情を浮かべながら赤司が言う。俺に言わせりゃ完全におまいう状態だがここは空気を読んで黙っておく。

 

「まるで別人のようだったよ。普段からアレくらい真面目な顔をしていたらモテるんじゃ無いのか?」

 

それはどう言う意味ですかね?もしかして俺がモテないのは普段ボーっとしているのが原因なんですかね?だとしたらちょっと真剣に今後の身の振り方を考えていきたいので是非ともダメな点を教えてくれませんか?え?全部ダメ?デスヨネー。

 

「……」

 

そしてテツナさんは未だに激おこなご様子。もうあいつら追い払ったからいいじゃん。なにがご不満なの?

取り敢えずその辺りのフォローは赤司様にお任せして俺は俺で別のフォローがある為一旦席を離れ、親切にも奢って貰ったバニラシェイクを奥の席に座るとある2人に渡す。勿論テツナにはバレないようにだ。

 

「取り敢えずこれでチャラだ。あんまり怒るなよ」

 

バニラシェイクを渡しながら言ってみるが、2人ーーテツヤと祥吾の雰囲気はまだ刺々しい。

まあ分からないことはない。俺だってこいつら2人、もしくは虹村先輩の悪口を言われたらブチギレる気しかしないし、こいつらもまた俺のために怒ってくれるくらいには信頼している。が、幾ら何でもキレすぎだ。先ほど俺が早々にあいつらを退場させたのだって主な理由の7割はこの2人が占めている。

全く、仲間意識が高すぎて涙が出てくる。

 

「はぁ、今回は俺に免じて許してやってくれ」

「許す気はねえ」「僕も、許しはしません」

 

やだこいつら頑固すぎ。

 

「じゃあ許さなくていいから怒りを抑えろ」

「チッ、今回だけだぞ」「蓮くんがそこまで言うなら、今は抑えましょう」

 

そう言いながらも不機嫌さは全く変わらないご様子。周りに座っているキセキの面子もこの2人がマジ切れしているのを初めて見るのか随分驚いた顔をしている。

まあ確かに祥吾は兎も角テツヤは絶対に怒りそうにない感じはあるよな。テツナ関連以外では。あれ、それってしょっちゅうキレてるんじゃ……

 

もういいや。取り敢えず祥吾に「宿題はちゃんとやっとけよ」とだけ言って席に戻る。

 

座席に座って正面を見ると未だにテツナは機嫌悪そうにバニラシェイクを啜っていた。兄同様根に持つタイプなのかも知れないな。

 

「………蓮さんは……です」

「ん?」

 

ボソボソと呟かれた声はうまくは聞き取れなかったが、自分の名前が呼ばれたことだけは理解できる。

けど、いかんせん肝心の内容が分からない。

 

「だから、僕は蓮さんはかっこいいと思っています!!」

「お、おう。お世辞でも嬉しいよ」

 

珍しく声を張ったと思ったら内容が内容なだけについどもってしまったが、俺に気を使っての発言だと遅れながら理解する。やっぱテツナは優しいな

 

「僕はお世辞は言いません。本当にそう思ってるんです!」

「はいはい、分かってます分かってます」

 

とは言え、先ほど笑われたばかりで素直にテツナの言葉を信じろと言う方が無理な話だ。勿論あいつらの言葉を受けて卑屈になっているわけでは無い。それならとっくの昔に整形してるか、来世を信じてワンチャンダイブしてる。

 

「頭に来ました。こうなったら蓮さんが認めるか、照れるかするまで言い続けます」

 

鼻先が触れるのでは無いかと言うほど体を乗り出したテツナが俺の目を真っ直ぐに見据えながらそう囁く。普段の俺なら照れてすぐ離れるだろうがこれはゲームだ、逃げる気はない。

 

「蓮さんはかっこいいです」

「はいはい」

「蓮さんは優しいです」

「そうですねー」

「蓮さんは賢いです」

「HAHAHA」

 

勝ってる。俺今勝ってるぞ。これはアレだな、そろそろ攻守交代と洒落込んだ方がいいな。

 

「そう言うテツナは可愛いな」

 

言って、後悔した。やってしまった。俺はバカだ。大間抜けだ。筋金入りのアホだ。なぜ学習しない。なぜ周囲に目を向けられない。なぜこの殺気に気付かない。そうだ、忘れていた。俺は……戦場にいた。

 

「ふ、不意打ちはずるいですよ」

 

若干頰を染めながらテツナは照れたように言う。

 

それをきっかけに世界は暗転した。




主人公の外見全く考えて無いんですけど、白髪でストレートですかね。オシャレしたらかっこいい系です。けど基本寝癖付いてる。休日はジャージ。オシャレ?んなもんに金回すくらいならドックフードちょっと高いやつ買うわ


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うちの男子バスケ部は当然ヤバイ
うちの男子バスケ部は当然ヤバイ


遅れました。
遅れておきながら番外編的なものを投稿します。


言い訳するなら、話自体はこっちの方が先に出来てたんです。けどバットエンドすぎて投げました。けどいつかは書く。ならばハッピーエンドの後にバッドエンドの作品を書くよりバッドエンドの後ハッピーエンドの作品を書いた方が(作者の気持ち的に)良いんじゃないかと思ったんです。

結論、私は悪くない(現実逃避)

っと言うわけで本編ではなくこちらを先に書いていきます。投稿は割とサクサク……サクサク?

走りはしないが早歩きくらいの速度で投稿できると思っております。本編を期待していた方々には深く謝罪を。


リングを揺らすボールの音、シューズのスキール音、飛び交う怒声、歓声。学校の規模からすれば明らかに小さいといえる体育館を包むのは全校生徒の約三分の一かそこら。詳しい数値を取ったわけではないが館内を埋め尽くさんとする熱気が、興奮が、本来館内にいる人数を倍かそれ以上だと誤認させる今、正しい数字には大した価値はないだろうと吐き捨てて、大人しく視線を目の前の青い髪の獣の如きバスケットボールプレイヤーへと移す。一方の相手は僅かとはいえ視線を逸らしたことが気に障ったのか、つい数秒前より鋭くなった視線で射るようにこちらを睨んでいる。

やれやれ全く、油断していたわけではないと言えばこの目は少しはマシになるのだろうか。いや、明らかに愚問だ、無駄といっても良い。そんな言い訳めいたことを言ったところで攻撃が鋭くなるだけ。ならば態々口を開くことは無い。ただでさえ乱れている呼吸を会話によってさらに乱せば目の前の黒豹の顰蹙を買うことは必定。ならば黙って最善を行おう。

 

回ってきたボールを構え油断なく周囲に目を向ける。素人数人の動きが視界に入り些か苛立ちが募るがそう言うものだと自らを納得させて、今度は対峙する獣を見る。互いに油断はない。慢心も怠慢もない。実力が拮抗しているのは過去の経験から知っている。同時に今の俺は一対一に拘るつもりがないことも当然あちらは気付いている。故に相手に油断はない。隙を見せずその目は只管にボールを追っている。

 

 

つまり、俺の勝利だ。

 

「———ッ!」

「——行け!」

 

その言葉が届くと同時、否、届くよりも遥かに速く全てを置き去りにして走り抜ける。目の前の獣に動きを一瞬でも止めてくれた燻んだ灰色の髪を持つ友人への感謝は後でいいだろう。勢いを落とすことはなく、されど前方へと向けていた速度全てを両足をバネのようにして上空へと軌道を変え、小賢しくも伸ばしてきた二本の腕を軽く躱し、重力に逆らうことなく地面へと吸い込まれる寸前に目の前まで迫って来ていたリングに右手に持つボールを叩き込む。

危なげなく着地を終えると、僅かに遅れて聞こえるのはコートを跳ねるボールの音。

 

 

瞬間歓声が湧いた。

 

 

 

 

 

 

「さて、たかだが球技大会でクラスメイトをガン無視して全力で勝負をした白鳥、青峰、灰崎、何か言い訳はあるか?」

「「「こいつが悪い」」」

 

言うと同時にお互いがお互いを指差すアホどもに愛の鉄槌が下される。飛び交う星、迎えに来る天使、なんだエデンをここにあったのか(白目)

そんな思考を悟ったのか、或いは単に殴り足りないのか(恐らく後者だと思われる)再度振るわれた愛(笑)の鉄槌(理不尽)に今度こそ体は限界を迎え、鈍い音を立てながらコートに沈む。三人の大男が同時に倒れ臥す様は側から見ればさぞかしシュールだろうなとは思うが、当事者たるこちらから言わせれば身長など真の強者を前にすれば『何見下してんだ?あ"?』と言われのない言いがかりをつけられるだけでしかない。あとはイケメンな同級生の頭皮が以外にヤバかったという世にも無残な真実を告げられるだけ。

 

「なんだ身長高くても何も良いこと無いじゃないか。その点赤司と黒子はいいよな、身長ひくゴパッ!」

 

地面に伏しているのをいいことに容赦のない蹴りが炸裂する。辛うじて赤司の蹴り(先端にハサミらしき何かがあったがきっと気のせい)は防げたが、そのせいで生まれた隙をついて黒子から容赦のない掌底が放たれる。成る程いいコンビネーションだ。少なくとも同級生に向けるべきものでは無いと思うけれど。

 

「白鳥くんは相変わらずバカですね」

 

無表情でこちらを見下ろす、否、見下すのはバスケ部マネージャーを務める一人の儚げな少女。黒子テツナその人である。無表情は彼女とその兄の専売特許故、別段今のシチュエーションが特別であると言うわけでは無いのだが、何故か体を悪寒とは違う何かが走り抜ける。分かりやすく言い換えればゾクゾクする。成る程これがゾーンか(歓喜)

などとバカなことを考えていたのが悟られたのか、或いは知らず俺と言う人間がサトラレになっていたのか先ほどよりも容赦のない黒子(兄)の一撃が脇腹を襲う。名をイグナイトという必殺の掌底であるが、残念。コンビネーション攻撃ならばまだしも単独での攻撃は当たらない。危なげなく地面を転がり躱しつつ(地面を転がりながら躱すことは危なげなくである、いいね?)すぐ様態勢を立て直そうと腹筋と腕に力を入れ、るがどういうわけか背中に違和感を感じるだけで立ち上がれない。なんだなんだとそちらに目を向ければこちらを見下ろす赤い髪の魔王がそこに。なんだやっぱりコンビネーションアタックじゃないか(歓喜)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チーッス!すんません掃除で遅れました!」

「遅れたのは黄瀬チンがファンの子に囲まれてたからでしょ〜」

「ちょっ!紫原っちアイス奢るから黙っててって言ったじゃないっスか!」

「あれ?そうだっけ?ごめんね〜」

 

少し抜けた間延びした声と、元気だけは伝わる若干イラっとする声が体育館に響き渡るが、いつもなら来る『うるせえぞ黄瀬ェ!』という理不尽な叱責はない。不思議に思いつつ二人が中を覗けばそこには青い髪にガングロの遺体と灰色の髪のDQNの遺体。そして現在文字通り死体蹴りされている純白の髪に運動選手らしからぬ白い肌の優男(自称)の遺体と計三つ。更にその遺体を椅子にして会話をする赤い髪の魔王と水色の髪の悪魔。もはや怒りは冷めたのかメニューの確認をするアヒル口が特徴の主将と、何やら可笑しなものを手に持ちながら、何食わぬ顔で主将と会話する緑髪の美形。

少し離れた所ではドリンクやタオルの準備に勤しむ桃色の髪の長い美人なマネージャーと、パッと見ただけでは見つけられないだろう影の薄い、されどその中身は超絶男前な儚い系の水色の髪のマネージャー。

 

なんだいつもの光景か。

 

初めてそれを目撃したのならば二度見どころか三度、四度と目で追ってしまいそうな光景ではあるが、バスケ部レギュラー陣からすれば最早慣れたもの。中学最強。天才の巣窟。キセキの世代(+α)。彼らを継承する呼び名は多いが、きっと彼らを恐れ、尊敬するバスケ関係者はこんな馬鹿げた光景が日常になっていることは知らない。なんて事はない、なんと言われようと、どれだけ持て囃されようと、結局彼らは単純にバカな事が大好きな中学生でしかない。ただそれだけのこと。

 

そんな彼らに一つ言葉を送るならば

 

「やっぱうちの男子バスケ部はヤバイ」

「「黙れ椅子」」

 

「……………あい」

 



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