シノが死に、その他大勢の人員が負傷、戦死した鉄華団。紆余曲折を経て、彼らはクーデリアの提案を採用し、IDを書き換えて「別人」になって今の逼迫した状況から逃れるべく行動していた。最後に残った僅かな希望。しかしそれ以外に、これ以上死傷者を出さずにラスタル・エリオンから逃れる道はない。
事務方のデクスターとメリビットが予め隠しておいた資金により、全体から見ると五分の一という少なさではあるが、資金もできた。皆が希望に湧いていた。この絶望的な状況から逃れられると。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
オルガ・イツカは倒れた。何者かから銃弾を受けて。
彼は夢を持っていた。目標を持っていた。しかしそれは叶わなかった。
周りの仲間が何やら叫んでいる。聞こえない。血が、命がだらだらと自分の体から流れ出ていくのを感じる。不思議と落ち着いている。自分を客観的に見ることができる。そのことに気づく。案外死ぬには時間がかかるんだなと思った。
「(死ぬのか・・・俺は・・・)」
朦朧とする意識の中、仲間とともに過ごした時間がフラシュバックする。三日月と初めてあったあの日のことを。阿頼耶識の手術を受けたことを。三日月のバルバトスが敵のMSをメイスで行動不能にさせた時のことを。
地球降下作戦での戦闘、その後のビスケットの死、三日月の叱咤、エドモントンでの会話と夕日が。
それだけではない。辛いこともあった。悲しいこともあった。けど、楽しいことも嬉しいことも確かにあったのだ。目標に向かって一生懸命になって動いたと、胸を張って言える。まぁそれもここで終わりだろうが。
「(すまねぇ・・・皆・・・)」
三日月に打ち明けた、「みんなでバカ笑いしてぇ」という夢。自分はそこに混ざることは出来ないのだと考えると。少し寂しい。
「(三日月・・・ユージン・・・昭弘・・・。あいつらは・・・鉄華団はこれからどうするんだろうな・・・その中に俺は・・・)」
そう考えると、胸に穴が空いたような悲しみに襲われる。
「(死にたくねぇ・・・まだ、夢は・・・叶えちゃいねぇ・・・!)」
何を考えても、数発の銃弾が体の重要な箇所を射抜いた後では、生きることなんて無理だ。
思考ができなくなっていく。死がゆっくりと、しかし確実に近づいてきている。
「(生まれ変われるのか・・・?俺は)」
振り絞るように、思考する。
「(もし生まれ変われるなら・・・・・・鉄華団の・・・全員で、夢を・・・)」
願望。しかしそれは叶わない。"今"死のうとしているのは自分ひとりだけなのだ。また寂しさに襲われる。
オルガ・イツカはそれを最後にぼんやりと考え、死んだ。
最初なんでこんなもんで。続けるかどうかすら決めてませんが、「ネタを取られるくらいならいっそ!」って感じで投稿してます。
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探索
目を開けると、そこは森の中だった。吐く息が白い。天候は雪・・・いや、猛烈な吹雪だった。
暫く惚けるオルガ。
彼は自分を疑った。俺は頭がおかしくなったのかと。
それも仕方がないだろう。撃たれて倒れて死ぬ・・・そう思っていた。瞼が重たくなっていくに任せて目を閉じると、何故か体に感覚が戻ってきた。疑問に思い目を開けると上記の通り。
「此処は・・・?俺は撃たれて・・・」
「団長?」
「ライド?」
「だっ・・・だんちょぉおおぉぉ~~~~!」
嬉しさのあまり涙を流すライド。自分がすぐに逃げていればオルガが自分をかばう必要もなく、変わらず生きていたのではないかと自責の念に駆られていたライドにとって、それが拭われたことと、オルガが生存(?)していたことに歓喜する。
「良かった、俺・・・俺・・・!」
「別にいいさ。お前を引っ張って車の影に隠れなかった俺にも非がある。気にすんな」
「・・・団長・・・」
「お前は俺の"家族"だ。守るのは当然さ」
「ありがとう・・・ございます」
少し照れるライド。やはり面と向かって言われると照れてしまう。
「それはそうと、ここはどこか分かるか?」
「いや」
「そりゃそうだよな・・・」
ひととおり会話を済ませたあと、自分達の置かれている状況を把握するため、オルガたちはひとまず歩き始める。どの道(何故か着ていた)防寒着があってもこの寒さならあまり役に立たない。外の気温が低すぎるのだ。民家・・・最低でも廃屋が見つかればそこで風くらいなら凌げるかもしれない。2人は歩き始めた。
数十分経って、彼らは見知った顔の人間を見つけた。
「ミカ?」
「オルガ」
「団長!?」
「チャド・・・皆も・・・」
鉄華団のメンバー・・・三日月やチャド、おやっさん、死んだはずのシノやまでいる。
頬をつねってみる。痛い。夢ではないようだ。
死んだんじゃなかったのか、生きてて良かった、傷はどうだ、これからどうするんだと質問攻めに会う。それから開放されるまで暫し時間を要した。
「で、これからどうすんだ?団長」
シノが能天気に聞いてくる。死んだ後(?)も性格は変わらないようだ。それが鉄華団全体の雰囲気を明るく保つ助けにもなっている。
「まずは民家を・・・いや、この際廃屋でもいい。なるべく沢山の人間が入れるようなやつを探す。いくらこれ着てても、この寒さじゃ凍え死ぬのを先送りにするくらいしかできねぇだろうからな」
「了解!」
「おし、じゃあ部隊毎に・・・」
「いや、待てユージン。通信機持ってるやつは?」
誰も手を挙げない。つまり遠距離通信は出来ない。この吹雪の中、いくら部隊毎に別れるといっても、目印になるようなものも持ち合わせていないのでは死ぬ確率を上げるだけだとオルガは判断した。
「効率は悪いが、分かれてお互いの位置がわからずに凍え死ぬのは避けたい。全員で捜索するぞ。体力がないやつは昭弘に抱えてもらえ」
「2人までな」
「いいのかよ!」
軽口を交えながら指示を出す。
行軍開始だ。
「ん?」
「どうしたミカ」
どれ位だったかわからない。歩いても歩いても変わらない森の中に少し辟易すると共に、このままで大丈夫なのかと一抹の不安を感じ始めた時、三日月が声を上げた。因みに彼は、何故か右足が動くようになっていた。生き返りには何か規則性があるのかもしれない。
声を上げた三日月が目の前の不思議な岩を見て言った。
「あれイサリビじゃない?」
と三日月。たしかにそう見えなくもないが、と言おうとすると、岩に駆け寄っていく団員がちらほら。仕方なく団長であるオルガも向かう。近くで確認してみると、雪の色と同じ白い鉄華団のマークがくっきりと見える。触れる距離まで近づいて、表面を触ってみる。すると雪がぽろぽろと落ち、イサリビの赤い船主装甲が露になる。
「マジかよ」
イサリビがそこに墜ちていた。やはり訳が分からない。それはそうと、三日月の直感は凄まじいなと感心する。
「地面側の装甲板は割れちまってんな。こいつはもう使えねぇかもな」
おやっさんが渋い顔で言う。
確かにイサリビの地面側の装甲板は割れていた。高い所から落とされたコップのように割れている。周囲に散らばった団員達が声をあげる。その足元には赤い何かがあった。恐らく装甲板の破片だろう。
一体何が起こってこうなったのか。行動する度新しい謎が出てきて、流石に嫌になってくる。
「団長、中に入れそうです。横倒しになってるんで、宇宙港から入る時の入口が使えます。あの辺も吹っ飛んでますし」
「頭が痛くなるな・・・この損害は。しかしそのお陰で中に入れるなんて皮肉な」
オルガは頭を抑える。
「さっむ!流石に我慢出来ねぇぞ!俺は入るからな!」
シノが真っ先に突っ走っていく。
「おいお前らも続け!ひとまずイサリビの中へ!」
一呼吸おいて続ける。
「傾いてっからな。気をつけろよ!」
うーす、という年少組のおなじみの返事が返ってくる。
鉄華団はイサリビの中へと進んでいった。
やっぱりほかの人の文と違うなぁ・・・。どこがちがうんだろう?
追記.ルビの振り方間違ってたんで消しました。スマホから書いてるからかな?手順見たんだけどなぁ
11/27 22:50 タイトルを編集しました
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状況整理
「うおっ!」
団員が艦内で滑ったらしい。焦ったような声が上がる。
「大丈夫かよ?」
「な、なんか重力おかしくね?」
「ああ?・・・うお!」
エイハブリアクターはまだ生きているのか、重力が発生しているようだ。本来の重力と合わさって、不自然な重力が発生している。リアクターが発生させている重力の向きを調整するなりオフするなりしなければ、拠点として使えないだろう。
「ダンテ、リアクターの調整頼めるか?」
「ああ」
「頼んだぜ」
ダンテに重力をどうにかしてもらうことにする。彼に任せていれば大丈夫だろう。
「ダンテたちを待って、あいつらが来次第格納庫に全員集合だ!あそこが一番広い。手狭になるが、まぁ何とかなるだろう」
「うす!」
「はい」
「了解です!」
次の支持を出した。すると、丁度重力がオフになったのか、格段に動きやすくなる。それから数分後、ダンテとそのサポートメンバーが戻ってきた。オルガ達は格納庫へ移動する。
「ん?バルバトスが・・・」
「レクスじゃない!」
「どういう事だ・・・?」
何故か格納庫にあったバルバトスーーもう団員たちは矛盾にあまり頓着しなくなったようだーーは、現在のバルバトスルプスレクスではなく、以前のバルバトスルプスだった。グシオンはリベイクではない。フルシティだ。他には数機の獅電、ランドマン・ロディ、流星号(4代目)や雷電号が格納されていた。ヤマギが流星号を見て、顔を歪ませた。シノが生きていることを改めて実感して涙が出そうになったのだろう、袖で目元を擦っている。
「よし、お前らよく集まってくれた」
鉄華団が勢ぞろいしている。
「ちなみに俺は一度死んだ」
「っ」
「は?」
ライドやチャド以外のメンバーは疑問符を浮かべているが、それを説明している時間はない。次にシノに目をやる。
「シノも死んだハズだ。でも今生きてここにいる。なんでこうなったかは分からねぇ。だが、今こうして俺が喋って、シノが聞いているのは確かだ。死んだはずの人間が生き返った。タカキもうちを辞めたはずなのに、ここにいる」
ざわつく団員たち。そこにオルガは、ここに来るまでに考えていたことを打ち明ける。
「蒔苗のじーさんをエドモントンに送り届けて事業を拡大したあとの状況にそっくりだと思わねぇか、お前ら」
「ああ、そういえば」
「たしかに、その時ならシノさんは生きてたし、団長も当然そうだ。MSの状態も・・・」
シノとオルガが生きていて、タカキがまだ鉄華団にいて、バルバトスはルプス、グシオンはフルシティの状態。これはまさしくエドモントンに蒔苗を送り届け、事業を拡大した当時の状態だった。ビスケットがいないのもそれに当てはまる。
「生き返り」に一定の規則性があることは確かなようだ。ひとまずこの謎について悩む必要はあまりないだろう。まだ問題は山積みだが、きっとこいつらとなら乗り越えられる。
オルガは生前の後悔を、この第2の一生に活かすことを決意するのだった。
探索 2は後で・・・。
次はシュヴァルツェスマーケンの世界の説明回になりそうです。原作にオルフェンズキャラを絡ませていく方向に決めました。
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東ドイツ
一つだったドイツが分断されて生まれた国、西側と結びつきを強めた西ドイツと東側と結びつきを強めた東ドイツ。
この二つの国の人々は、それぞれが全く違う境遇に置かれていた。片方は思想の自由を謳い、もう片方は国家保安省による国民の徹底的な監視による思想の統一を行っている。
「総員傾注」
女性の声ーーこの中隊の指揮官の声が響く。BETAに対抗するための人類の刃、戦術機。
この中隊は、東ドイツ第666戦術機中隊という。高練度の衛士で構成された東ドイツの精鋭部隊だが、高練度であるがゆえ激戦区や難度の高い任務に投入されることが多く、一度も中隊に必要な人数を満たしたことがない。
「我々は、これより光線級吶喊を開始する。いつもの仕事だ。ヘマをするなよ?」
中隊指揮官アイリスディーナ・ベルンハルト大尉。この第666戦術機中隊を率いる女性衛士だ。
それだけで彼女が優秀であることは察しがつくだろうが、後暗い噂もある。
曰く、実の兄を国家保安省に密告して現在の立場を手に入れた・・・という噂だ。
真偽の程は確かめようがないが、ほとんどの人間がその噂を信じている。
「各機匍匐飛行で突入。目の前の突撃級を飛び越えた後、その後のBETAを撃破して着地地点を構築するぞ。各機、続け!」
「了解」の声が重なる。
テオドール・エーベルバッハは、その声を聞きつつ、操縦桿を握りしめた。
ところ変わってイサリビ内の鉄華団。
「モビルスーツは全て弾薬、推進剤共に満タン、備蓄もありったけある・・・か」
おやっさんが唸る。
「ほんと、何でこんなことになったんだろ」
タカキが呟く。それは鉄華団全員の総意だ。
「ま、足りねぇよりはマシだろ。何が起こるかわかんねーんだからな」
オルガはおやっさんからその報告を聞いたあと、ろくに散策できなかった周辺をモビルスーツを使って散策することにした。三日月、昭弘、シノの率いる部隊のうち三日月の隊を残し、昭弘とシノの隊が散策に向かう。通信はLCSを使うことに決め、早速中継機の打ち上げとモビルスーツの発進準備に取り掛かっているところだった。
「気ィつけてな」
「おう」
「ああ」
シノの流星号とライドの雷電号、それに団員の獅電が先に出発。次に昭弘のグシオンとアストン、デルマのランドマン・ロディ2機が出発した。
「あとは報告待ちだな」
「だな・・・」
火星は雪が降るような季節ではなかった。つまりここは遠い何処かだろうという検討がつく。
しかしその推測は正しいのだろうか。生き返りなんて非常識なことが起こったのだ。また突飛な信じられない現実が突きつけられる可能性の方が高いと、オルガの直感がそう言っていた。
「何はともあれ無事に全員帰ってきてくれるといいんだが」
ユージンも真剣な表情で頷いた。
「レーダーに何か反応は?」
「相変わらず、エイハブウェーブの反応は無しだ。何も変わらない。艦外カメラも木と吹雪だけ。気が滅入るぜ」
ダンテがため息混じりに言う。
「エイハブウェーブ無し・・・か。ギャラルホルンは今何してんだろうな」
「さあなぁ。案外ギャラルホルンはいなかったりして」
「はぁ?」
「もしかしたらここ、"別の世界"かもしんねーぞ?」
かわいそうなヤツを見る目。
「やめろよその目!」
流石に傷つく。
「なんでそんな話になんだよ」
どうやらちゃんと根拠を聞いてくれるようだ。安心するダンテ。
「前にザックがぽろっと言ってたのを聞いたんだよ。チビ達に話してた。平行世界とかなんとか」
「んだそりゃ?学ない俺らには理解出来んな」
「いや、そう難しい話じゃなかったぞ。例えば・・・そうだな、俺の腕が片方無いとか、そんな少しの変化も平行世界だってよ」
「ふぅん・・・てっきり俺はもっと昔の重要な・・・それこそ、モビルアーマーが存在しないとか、そういうでかいことで変わるもんだと思ってたぜ」
「俺もうろ覚えだからなぁ。はっきりと思い出せねーけど」
彼らは話し続ける。しかし、彼らは後で嫌でも気付かされることになる。
ここは「彼らの知った世界」ではないことを。価値観、常識、そして「人対人」のために使われたヒューマンデブリだった彼らにしてみれば想像出来ない「人類の敵」が存在することを。
皆さんが誤字報告や感想で指摘してくださるお陰でミスつぶしができて非常に感謝しています。これからもよろしくお願いします。
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一瞬の邂逅
「中継機が足りない?」
「はい。森が予想以上に広くて、木より高くあげてもどこかで木や枝に遮られて・・・。結局回り込むように配置するハメになってしまうんです」
「そうか・・・」
ここ2週間で判明したことは、自分たちが広い森の中にいるということだけだった。あとは外を見ればわかる「天候が吹雪」ということだけ。何も進展がないに等しい結果に、オルガは苛立ちを募らせる。
「ふぅ・・・」
「何もわからないのと同じですね・・・これじゃ」
「ああ」
報告に来たライドとため息混じりに会話する。話していると余計に気が滅入ってくる気がして、ライドを下がらせた。
これから自分たちはどうなるのだろうか。全く見当がつかない。団長である自分がくよくよしては団員達にも影響が及ぶのは分かっていたが、それでも不安が顔に出てしまいそうだった。エドモントン戦の直後の頃はまだタービンズは損害0だった。負傷者はいたが、死者はいなかった。シノや昭弘が散策しているが、タービンズらしき人影はないそうだ。メリビット、おやっさん、デクスターはいる。当時の状況と同じ。クーデリアがいない事にアトラはガッカリしていたが、確かにその時はクーデリアはアドモス商会を立ち上げていて、以前のように団員の1人のような関係ではなかった。
この調子だと、「鉄華団以外は生き返らない」のかもしれない。もし名瀬さんが・・・兄貴が生きていたら、どんなに楽だっただろう。
オルガはどうしようもないことを考えていた。
その頃。東ドイツの各要塞陣地では、音紋探知によってBETAの進行を予測していた。
いつもの通り準備を整え、いつもの通り犠牲を出し、いつもの通り作戦が成功する・・・はずだった。
確かにいつも通りの成功だった。「彼ら」との遭遇を除けば。
砲兵隊による重金属雲展開後、光線級吶喊を開始する第666戦術機中隊。
「うっ!」
「同志中尉!?」
中隊付政治将校グレーテル・イェッケルンが仕留め損ねた要撃級から前肢による攻撃を受け、跳躍ユニットを両方とも破壊されてしまう。
「しまった、跳躍ユニットが!」
「くそ、08!援護に回れ!」
「了解・・・!」
テオドールは舌打ちをこらえて援護に回る。その間に大尉が策を講じるのだろうが、まさか光線級と会敵する前にトラブルに見舞われるとは思っていなかった。
「(まだ任務は終わってないっていうのに・・・!)」
さっきから撃ちまくっているのにBETAの数は一向に減る気配がない。光線級からの照射が無いのは不幸中の幸いだが、不味い状況に変わりはない。
「く・・・」
一機あたりの弾薬の減りが激しく、弾薬の残量は今後の光線級吶喊に支障が出そうなレベルにまで達している。
「(くそったれ、なんでこんな所でヘマをするんだ!)」
同志中尉は諦めて光線級吶喊に向かいましょう、と叫べたらどれだけ楽なことか。国家保安省の狗を置いていくとことに対して何のためらいもない。テオドールはそれだけの憎しみを国家保安省に対して抱いていた。自分を拾ってくれた優しい家族を奪い、国民が国民を監視し合う狂った体制を作り出した元凶だ。心が痛む筈がない。国家保安省というだけで憎むに値すると、彼は考えている。
しかし、拷問された時の情景がフラッシュバックし、背中に悪寒が走る。
「(くそっ・・・!まだ何とかなっているが、このままじゃ・・・!)」
「仕方がない、私が同志中尉を自機に移す!各機、援護を頼む!1分でいい!」
「了解」
「はい」
「・・・了解・・・!」
ただでさえ厳しいが、政治将校を助けるにはこれしかないと判断したのだろう。危険な賭けに出る大尉。
「っ・・・しまっ!」
アネットが悲鳴をあげる。要撃級の影に隠れた戦車級に取り付かれたのだ。慌ててナイフシースを展開、排除する。精神に疾患を抱えているとはいえこの中隊の衛士だ。片手でしか突撃砲を使えなくとも、状況を瞬時に見極め36mmと120mmを使い分け、自機にこれ以上取り付かれたり接近されることがないよう撃破していく。
が、流石に限度があった。BETAの体液で赤くなり、見づらくなった地面に紛れるように戦車級が射界の限界をつくように進入、隣で応戦していた味方に群がる。
「!」
「くぅ」
シルヴィアとファムの顔が歪む。明らかに状況は悪化していた。
「よし、移乗が完了した!各機、付近の戦車級を片付け次第跳躍開始!急げよ!」
ようやく移乗が完了したらしい。
「(ようやく光線級吶喊に行ける・・・!)」
会いたくもないBETAに会いに行くことを喜ぶのはどうかと思うが、とにかく与えられた本来の任務を終え、シャワーを浴びてさっさと寝たかった。
「掃討完了しました!」
「各機跳躍ガガガ…ガ」
「!?」
急に音声は勿論映像まで途切れた事に焦る。重金属雲下とはいえ、この距離でデータリンクが使えなくなることなど有り得ない。まして、通信まで途切れるなど前代未聞だった。
テオドールは瞬時に外部スピーカーと集音機構を作動させ、怒鳴る。
「中隊長!集音機構と外部スピーカーを使えば、無線が使えなくても一応コミュニケーションは取れます!」
「だな、08の言う通りだ!各機集音機構と外部スピーカーをオンに。これを通信の代わりとする」
相変わらず切り替えの早い指揮官だ。まぁそうでなくては今日まで生き残っていないだろうが。
了解の声が連鎖する。しかし、やはり通常の通信と比べて聞き取りづらい。
「各機、跳躍開始!」
ロケットを使用しての長距離進出。それ自体は良かった。
しかし、
「?」
訝しげな表情をするファム・ティ・ラン中尉。
「どうした?」
「2時方向距離・・・3000に何か・・・戦術機?」
望遠機構を使って拡大すると、確かにそれらしき機影が複数見えた。
なかなかの多さだ。中隊規模だろうか。それにしても姿形がバラバラで、まるで傭兵のような集団だった。
白とオレンジの機体は突撃砲で戦車級を蹴散らしている。どうやら一機だけでは無い様だ。ベージュ色の期待は背部兵装担架を使用して四門のーーここから見てもわかるほどに長いーー突撃砲で射撃している。吹き飛ぶBETAの様子からすると、恐らく120mmだろうか。そして、一番派手なカラーリング
の機体は、肩の突撃砲を使って要撃級を叩きつつ、小型種を短刀で切り裂いていた。ワインレッドの機体も複数おり、巨大なシールドをうまく使って攻撃をいなしつつ、近接攻撃を的確に当てている。
そして、胸部の青と白い四肢が目立つ機体は、長刀らしきもので要撃級を叩き潰し、振り向きざまに戦車級をーー驚いた事にマニュピレーターでーー切り裂いている。
「すごい・・・」
誰かがそう漏らした。確かにそうだ。
機体の性能という要素もあるだろうが、動きから分かる。彼らは相当腕の立つ衛士なのだろう。
だが、彼らは確かに囲まれていた。このままではジリ貧で、いずれBETAの物量にすり潰されてしまうだろう。
彼らをどうするか尋ねたが、返答は変わらなかった。見捨てて、我々は任務である光線級吶喊を行うと。
テオドールは操縦桿を握りしめる。
「(なんだ・・・この感じ・・・)」
不思議な気分だった。
いつもと違う、何かを自分は感じていた。
正体はわからないが、決して不快ではない、不思議な感じ。一体自分はどうしたのだろうか。
結構悩みました
4/10 19:08 誤字を訂正しました。報告ありがとう御座いました。
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未知との遭遇
「ジュン!?」
「うわぁああぁ!!!」
少年の悲鳴が、また白銀の世界を駆け巡る。
深い森を出てすぐ、そこには平野が広がっていた。
猛吹雪により等しく雪がまぶされたそこは、純白の絨毯のよう。
しかしそれも数時間前までのこと。現在はBETAの侵攻を受け、絨毯には足跡という穴が開けられ、さらに人間の手足やMSのパーツが散乱する地獄と化している。
雪の白さではっきりと血の赤色や色とりどりのMSのパーツ、そしてBETAの体液が際立ち、まるで悪夢のような絵面だ。
「くそっ、なんだこいつらは!?」
団員のひとりが悪態をつく。MSでも人間でもないナニカに襲われている今、それは無理もないことだろう。
鉄華団は拠点である墜落したイサリビを拠点にした探索を続けていた。
また何も変わらない日が来るのかと辟易していた団員のひとりが、異変に気付いた。
イサリビの艦外カメラの最大望遠により見つかったそれは、何かによって雪が巻き上げられている光景だった。
それが何かも知らないまま、団長に報告を上げて捜索隊が組織される。2機の獅電が向かい、不穏な通信を残して連絡が途絶えた。
曰く「なんだあれは」「何か変なものが」「来るな来るな、うわぁぁぁ!」
最初は怪訝な調子で会話していた団員の声が瞬く間に焦りに満ちた声になり、数分後には断末魔の悲鳴をになるという異常な事態。オルガは団員2人の安否を気にしつつ、その「ナニカ」の速度をざっくりと推測していた。通信の声の調子の変わりようを元にすると、それは「かなり速い速度で」「こちらに向かってきている」。
オルガは団員に戦闘準備を通告。
遭遇戦の危険が高まるが、後退の余裕ができる進出してからの迎撃を選択。MSを前進させる。
先頭を進んでいた三日月と昭弘が会敵を伝えるのは早かった。
まずは後退しつつ射撃。敵はMSのように「射撃を無効化もしくは威力を減衰させることが出来ない」ことが判明。ひとまず射撃で減らそうとするが、数が多すぎた。射撃に夢中になるあまり背後の確認が疎かになり木を回避できずぶつかり失速、その機体は瞬く間に赤い蜘蛛のようなものに覆い尽くされてしまう。助けに入ろうとした者も同じ運命を辿る。
LCSの通信により、金属をひしゃげさせる音と団員の悲鳴が聞こえる。
すぐさま三日月がその2機に接近し、超人的な速度で赤蜘蛛を全滅させる。頭部と四肢を胴体から引き剥がして運びやすくした後、後方に向けて蹴り飛ばす。
「そいつ運んでやって」
「はい!」
威勢のいい声が返ってくる。やはり三日月がいるだけで団員達の士気は上がるようだ。それだけのことを成し遂げてきた証でもある。
それから暫く、バルバトスのソードメイスが、フラウロスの短刀が、グシオンのハルバードが乱舞し続る。時間を気にする暇もない死闘の中、団員は死力を尽くして敵を屠り続けた。
「お・・・っ」
団員の誰かが声を上げる。おわったと言いたかったのだろうが、息切れでそれ以上続けられない。
「お前ら・・・無事か?」
昭弘もゼェゼェと荒い息。それだけ長く戦った証拠だ。
「なんとか」
「大丈夫です」
「まだやれます・・・!」
「生きてます・・・」
十人十色の返答の中、まだ余力があるやつ、もう戦闘の続行が不可能なほど疲労しているやつもいるようだ。イサリビからの通信によると、もう「巻き上げられた雪」は見えないそうだ。
補給と負傷者の収容のため三日月は全MSに撤退を命じた。
相変わらず話動いてませんね…。思うように描写できず、こっちも歯がゆい思いをしています。666との本格的な邂逅は、あと少しお待ちください。
4/30 16:00 誤った箇所を修正。報告ありがとうございました
11/27 22:48 誤っていた箇所を修正。指示出してた人間自ら戦闘に出て行っちゃってました
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"転換"のはじまり
殺風景な廊下。灰色の壁と床は、この国の内情を表しているかのように思えてくる。
東ドイツのとある基地。その一角で、テオドールは歩きながら思考していた。
(あの時の戦術機・・・)
彼は光線級吶喊任務中に見た、10機以上の戦術を思い出していた。
(どこの部隊なんだ?いや、そもそもあれはこの国のモノなのか?クソったれの国家保安省が、新型に飽き足らず更に強い戦術機を・・・?)
そこまで考えて、その思考を否定する。
(いくら連中でも、資源も手間も無いハズだ。そもそも、資源と人手があったとして、あんな高性能な機体を今の技術で作れるのか?)
マニピュレーターは攻撃の手段になりこそすれ、それは突撃砲や短刀、爆発反応装甲を持ち、それを使って攻撃するからである。決してマニピュレーターで攻撃する訳では無い。なのにあの戦術機はそれをやっていた。追い詰められた衛士が死にたくないともがいたという考え方もあるが、それは当てはまらない。きちんと部隊が一丸となってBETAと戦っていた。第666戦術機中隊隊員として、数多の激戦を繰り広げ、生き残っているテオドールの目は確かだ。
ああでもないこうでもないと自問自答しているうち、彼はいつの間にか戦術機格納庫に来ていた。
「・・・」
つい、なんともなしに自機を見上げてしまう。見慣れた機体は今日も整備兵のお陰でピカピカだった。数時間前まで戦闘をしていた後などどこにも見当たらない。
その、いつもと変わらない姿に勇気をもらったような気分になる。
今のままでいい、自分を貫けと言ってくれいているような・・・そんな気分に。
(そうだ・・・今は不確定なことを考える必要も無い・・・。ただ自分が生き残ることだけを考えていれば・・・)
諦観にも似た考え方だった。昔の自分なら反発していたであろうこの方針は、今や自分の行動の基本となっていた。
言論は勿論思想まで弾圧する国家保安省。それに協力し、友人や家族までも売る密告者。そして、絶えず襲いかかってくるBETA。
テオドールの生き方が変わるのも無理はなかった。
拾われ、その家族とともに過ごした楽しい日々。この国に耐えかね、西へ亡命を図ったが国家保安省に捕まり、恩人の両親と妹は殺された。
自分はひとり、取調室で震えていた。その間、絶えず家族の幻影が彼を責め続けた。
彼の人生の転換期は、間違いなくその時だった。もし亡命が成功していたら、今頃自分はどうしていたのだろうか。
取調室で独りで震えていた時、辛く恐ろしい国家保安省職員の取り調べをやり過ごすための材料になると思って思い浮かべていた時期があった。しかし、そう考えることもやめてしまった。国家保安省に殺されなかった家族の事を考えなければならなくなるからだ。彼にとっては辛いことだった。
(どうしちまったんだろうな、俺は。戻るか)
一体何を考えていたのだろうか。急に熱が冷めたような感覚に陥る。格納庫に来てみたはいいもののやる事は無い。自室に戻ろうとした、その時だった。
「緊急。第666戦術機中隊隊員は速やかにブリーフィングルームへ集合せよ。繰り返す、第666戦術機中隊隊員は速やかにブリーフィングルームへ集合せよ」
テオドール・エーベルバッハの、第2の人生の転換期が訪れた瞬間だった。
寝ぼけて書いたので間違ったとこあるかもしれません
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出会い
「以上が、貴様らを集合させた理由だ」
アイリスディーナが言う。
呼び出された理由は「国連軍の戦術機部隊がポーランド領内で救援を要請しており、国連に"貸し"を作るため、戦術機を2機派遣する」というものだった。また下らない。テオドールは嘆息した。
「私が行きます」
ファムが言うが、アイリスディーナはそれを否定した。自分が出るとも言っている。あと1人は誰が指名されるのだろうか?
「エーベルバッハ少尉を指名する」
「はぁ?俺が?」
思わず抗議の声を上げてしまう。そりゃ当然だろう。クソの役にも立たない任務だ。わざわざ無駄にBETAに殺される確率を増やす、唾棄すべき任務。
しかし、ここで反抗したところでロクな事にならないのは理解している。大人しく参加するしかなさそうだ。
BETA支配領域のポーランド領内。その上空をテオドール機とアイリスディーナ機が飛んでいた。
「反応ありません。誤報だったんじゃないですか」
さっさと帰りたい。その思いから出た一言に、アイリスディーナは予想外の言葉を返す。
「テオドール・エーベルバッハ少尉。甘ったれるのもい加減にしてくれ」
「甘ったれてるだと?」
「そうだ」
自分の仕事はこなしている、と返すも、その言葉とそれに込められた険は変わらない。
「なぜアネットを見捨てた?」
「・・・。」
「戦争神経症の衛士は邪魔ということか?」
「俺は・・・」
二の句を次ぐ前に、アイリスディーナが続ける。
「その結果、イングヒルトも見捨てた。自分の身しか守れない衛士に、衛士の資格はない」
その言葉は、第三者が聞けばただの説教にも聞こえただろう。
しかし、重い過去を背負っているテオドールにとって、その言葉はただの説教ではなかった。
よりにもよって、お前なんかに。
「資格がないだと!?」
怒鳴る。もちろんそれで済むような生温い怒りではない。
「アンタにそれが言えるのかよ!?アンタがやったことも知ってるんだぞ!?アンタがシュタージの・・・ッ!」
言い切ろうとして、留まる。熱した鉄を氷水に浸したような。一気に冷静さが戻ってくる。
「どうした?続けないのか」
アイリスディーナは盗聴など知らぬ顔で言う。
「私がシュタージの密告者だと言いたいのだろう」
聞いているこっちも肝が冷える。まぁ、たとえ"聞いた"だけでもシュタージは許してはくれないが。
と、そこで電子音。
「私以下の人間になりたくないのなら、衛士としての誇りを胸に、自分の任務を果たせ!」
アイリスディーナは一気呵成に降下していく。先程の会話の中で怒りと恐怖にごちゃごちゃにされた今の精神状態のせいで反応が遅れた。
アイリスディーナ機を目で追うと、その先に単独でBETAと交戦しているF-4が見えた。
「エーベルバッハ少尉。BETAは私が引き受ける。貴様はあの衛士を救え!貴様が衛士だという証拠を見せてみろ!」
「くそぉ!」
わけもわからず、ただ軍人としての本能が機体を動かす。
戦術機のコクピットは、緊急時を考慮し外側からも開けられるようになっている。
しかし、戦術機に乗ったままでは解除できないため、生身でハッチまで取り付き、コードを入力してハッチを吹き飛ばすという手順がいる。
自機から出て救援を要請していたであろう戦術機まで走る。
途中戦車級がにじり寄って来たが、アイリスディーナが当然のように撃破。相変わらず凄い腕だ。
悪態をつきながら走り、F-4の脚をよじ登って胸部までたどり着く。コードを入力してハッチを吹き飛ばし、中をのぞき込む。
中にいたのは、少女だった。テオドールより少し年下だろうか。
その少女に今は亡き妹リィズの面影を見る。
しかしすぐにそれを払い除け、気を失っている彼女を抱えて出来るだけ速く自機に戻る。
来た道を引き返し、基地に戻る。助けた衛士が目を覚ますのは、もう少し先のことだ。
途中、アイリスディーナの発言が頭をよぎる。アイリスディーナに先ほどの発言を咎めた際、彼女は自信満々に言った。その点については任せておけ、と。
なんの根拠もない。しかし、今の自分には彼女に従うほかなかった。
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補充要員カティア・ヴァルトハイム
エンジンの音がする。戦術機の。
けど、聞きなれた音と違う。これはーーーー
目が覚めた。栗色の髪のポニーテールの少女。初めて見る天井だ。ゆっくりと体を起こす。
そこで初めて気付いた。この部屋にいるのは自分だけでなく、2人の女性がいると。
西ドイツのものではない軍服を着ている。
唇を真一文字にし、鋭い視線を向ける眼鏡をかけた少女と、彼女と対照的に穏やかな顔をした金髪の女性。
「目が覚めたか」
「はい。・・・ここは?」
「気付いていると思うが、西ドイツではない。東ドイツの戦術機基地だ」
「助けていただいて、ありがとうございます!」
すぐお礼を言う少女。そこからは純粋さが伝わってくる。
そこまでは良かった。しかし、ここから少女がーーーカティア・ヴァルトハイムが思いもよらぬ発言をすることで、東ドイツの運命は変わる。
ブリーフィングルーム。作戦の説明や部隊の動きを事前に説明し、作戦行動を円滑にするための話をする部屋。そこに、中隊長アイリスディーナによって集められた第666戦術機中隊のメンバーが待機していた。なんでも、補充要員の紹介をするそうだ。
一体どんな経緯で、どんな理由で入ってきたのかは知らないしテオドールにとってはどうでもよかったが、ここは軍隊。逆らうことは出来ない。まして、先日の会話がある。彼女が国家保安省の犬であれば、即密告されてしまいかねない。自分が優秀な衛士だと自惚れるつもりも、だからといって粛清の対象にならないなどど間抜けな考えはしない。そうでなければこの国では生き残れない。
(あいつの正体を見極める必要がある・・・)
テオドールは考え込んでいた。一体何故あのようなことを言ったのか。なぜレコーダーの初期化の方法を知っていたのか。思考は堂々巡りを続け、答えは出ない。
そこで、中隊長であるアイリスディーナと中隊付政治将校のグレーテルが入室してくる。そして、その後には見慣れぬ栗色の髪をポニーテールにした少女が続く。彼女が補充要員なのだろう。
立ち上がって敬礼を交わし、着席。紹介を待つ。
「彼女が、補充要員のカティア・ヴァルトハイム少尉だ」
そう紹介された少女は、気を付けの姿勢で待機している。アイリスディーナの説明が終わると、自己紹介を始める。
中隊の面々の反応は様々だった。テオドールやシルヴィアのような無関心、ヴァルターの無表情、アネットのような少し明るさを帯びた表情・・・。
補充要員の紹介が終わった。解散し、自由時間なので各々がバラバラに解散する。
「あの、すみません」
「・・・なんだ」
考え事をしていて、テオドールはその場に残っていた。そこに、補充要員であるカティアが話しかけてきたのだ。
「あなたが、私を救助してくださったんですよね」
「ああ」
「ありがとうございました!」
勢いよく頭を下げるカティア。しかし、テオドールの反応は冷たい。
「ああ」
そう短く返すと、立ち上がって部屋を出ていった。カティアに、彼に話しかける勇気はなかった。
あまりにも、はっきりと拒絶の意志があったからだ。
悲しげに目を伏せるカティア。
そんな彼女を、アイリスディーナが静かに見ていた。
11/27 22:50 誤字の修正
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ファーストコンタクト
ところ変わって鉄華団の本拠地イサリビ。
傾斜した艦内で、オルガの命で作業が進められていた。
それは「敵からの逃走」にほかならない。
モビルスーツではなく、かといって見たこともないナニカ。それが敵であることは自明だ。団員が数名殺されている。敵で間違いないし、もし敵対の意思がなくとも、落とし前を付けさせなければならない。
この場所の地図などあるはずも無く、とりあえずナニカに遭遇したのと反対方向に行こうという、ざっくりとしたもの。不安がない訳では無いが、ここに留まっていても襲われるだけなのは全員が理解している。疑義を挟むものは居なかった。
数十分後準備が整う。持てるだけの物資をコンテナに詰め込み、ランドマン・ロディに持たせる。その護衛は昭弘や三日月などの阿頼耶識使いのガンダムフレームパイロットが担う。
イサリビから数10キロの戦術機基地。
そこでは、レーダーの異状が観測され、担当の者が原因究明に駆けずり回っていた。
怒号や冷静な報告の声が指揮所に満ちている。無理もない。BETAの進行を察知するためのレーダーや観測機との通信が全て途絶したのだ。原因は不明。いきなり、なんの前触れもなく通信が途絶えた。分かるのはそれだけだ。
しかし、その状況に対応できる策がある。目視確認だ。この場合、BETAが原因であることも考えられるため、戦術機での偵察による状況調査が命じられた。BETAとの遭遇や不測の事態に対応できるようなベテランの部隊・・・つまり、第666戦術機中隊がその任を負うことになった。
ブリーフィングを終え、出撃準備に取り掛かる。ベテランらしく、特に問題なく全機が出撃準備を完了。
滑走路から順次発進していく。
(クソッタレ・・・次から次に面倒なことを)
心中で悪態をつくテオドール。表情は無表情のまま、黙って編隊を維持して飛行している。
補充要員の技量向上のための訓練をする前にこの特別任務が当てられた。まだ実際の操縦を見ていないため憶測に過ぎないが、元西ドイツの衛士カティア・ヴァルトハイムの技量は期待しない方がいいだろう。むしろ、この任務で死んでもおかしくないと思っていた。アイリスディーナと政治将校のグレーテルが、なぜ新参であり西ドイツ出身でスパイの可能性もある彼女を中隊に編入させ、いきなり任務に参加させたのかは分からない。アイリスディーナの事だ、おそらくなにか考えがあるのだろう。政治将校を諌める場面は何度も見てきたが、ここまでリスクの高いことを押し通すのはテオドールも初めて見る。
(どうなることやら)
相変わらずの吹雪だ。雪の白色と鬱蒼と生い茂る木とその葉が眼下に見える。代わり映えしない景色ではあるが、今飛んでいる空はやつらの支配下である。
レーダーや音紋センサーの不可解な一斉停止の原因を探るためのこの作戦。アイリスディーナに言われるまでもなく気を引き締める隊員達。
「総員傾注」
アイリスディーナの声。
「ブリーフィングで聞いての通り、我々はこれよりセンサー類の不可解な一斉停止の原因究明のための行動に入る。既にここはBETAの支配領域だ。本部もセンサー類の停止の影響で、周囲の状況を把握出来ていない。」
しばしの間。
「先ほどの飛行中に試したが、こちらから本部への長距離通信も使えない。電子機器が使えない以上、各々の状況確認が肝となる・・・気を引き締めろ」
連鎖する了解の応答。
「よし、中隊各機・・・」
「01!待ってください!」
中隊の次席指揮官ファム・ティ・ランが声を上げる。
因みにテオドールの評価はお人好し、である。物腰は柔らかく、アイリスディーナは勿論グレーテルやシルヴィアなどとも積極的に会話するあたり、その性格が滲み出ている。まぁそんな人間が国家保安省側の人間でも驚かないが。
「0時方向距離4000に何か見えます!数は複数!」
「なに・・・?」
アイリスディーナが怪訝な声を上げる。
それに釣られたテオドールも、飛行中の高度を活かして望遠機能を使い、その辺を注意深く観察する。
すると吹雪の合間に、戦術機にしては派手なカラーリングの機体が10機以上こちらに向かってきているのが見て取れた。
「あれは・・・!」
グレーテルが呟く。無理もない。その機影は間違いなく、以前BETAとの交戦中に見た奇妙な機体だったのだ。
「止まれ!我々は東ドイツ所属第666戦術機中隊である!貴官らの所属と部隊名を名乗れ!」
アイリスディーナの誰何。通信機能が使えないため、スピーカーを使っている。吹雪の中であるが、しっかりと聞こえたはず。
これで不審な動きをするようであれば、恐らく・・・。
と、向こうからの返答が返ってくる。
「あ?え、えーと・・・」
「こっちは鉄華団だ。火星の。あー・・・」
若い声。最初に答えた人物よりも、その後に発言した人物の方がしっかりとした物言いをしている。その発言の内容を入れなければだが。
「・・・鉄華団?なんだ、それは」
「ふざけるな!」
聞き返そうとするアイリスディーナの発言を遮りグレーテルが激高する。気持ちはわからないでもないが、またかという呆れの気持ちが勝る。もちろん顔には出さない。面倒ごとになるのは分かっている。
「ふざけるなったってよ、そうとしかえいえねぇし・・・つか、俺らのこと知らないのか?」
戸惑っているようだ。それどころかこちらに知らないのかなどとのたまってきた。
痺れを切らしたテオドールは、アイリスディーナに攻撃を具申しようとした。
結果的にいえば、それは中断せざるを得なかった。先頭の長刀を持った機体が急に真後ろを向き、身構えたのだ。
「ミカ?」
「何か来る・・・。たぶんさっきの奴らだ」
「さっきのやつら?」
拡声器を介しての会話。
「ああ、なんか気持ちの悪い生き物がわんさかとこっちに来てよ。仲間も数人殺られちまった。あんたらも逃げた方がいい」
気持ちの悪い生物。この地で、この状況でそれは一つしかいない。
「君たちが目にしたその生物を、我々はBETAと読んでいる」
「べーた?」
「ああ」
「それって、何?」
問いかけ。
その短い言葉の無効に、澄んだふたつの瞳が見えた気がした。
「敵だよ。我々の・・・人類の」
「同志大尉?!いったい何を言っているの?!」
グレーテルの叱責が聞こえていないかのように続ける。
「奴らは我々の故郷を、家族を、友を、恋人を、踏み潰し、喰らい尽くし、滅ぼした。我々の、敵だ」
アイリスディーナらしくない、詩的な発言。
しばしの間があった。両者の間に沈黙が流れる。
「わかった。じゃあそいつを殺せばいいんだ」
穏やかでいて、荒んだような、敵対したくないと思わせる声だった。
「邪魔するやつは全部潰す。それが何であろうと、誰であろうと。全て」
また思い沈黙が流れる。
その両者を分け隔てなく食らいつくさんと、BETAが迫っていた。
やっと会わせることができました。ここから本格的に柴犬キャラと鉄血キャラを絡めていきたいなーと思ってます。
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急変(仮サブタイ)
待ってくれた人達に感謝を。
前話で次話BETAvs第666&鉄華団みたいにてたのにできませんでした。ごめんなさい。
BETA。英語で「人類に敵対的な地球外起源種」という文の頭文字を取った生命体。
中国新疆ウイグル自治区カシュガルに降着したユニット「ハイヴ」から無限に湧き出てくるその生命体は、あっという間に人類の生存圏を狭めていった。圧倒的な物量、死を恐れず緩むことのない攻勢、個々の特性。
それらを組み合わせ、数年で総人口を冗談のように減らした生命体。
人類は絶滅の危機に瀕し、それに対処するべく行動した。それが今の世界情勢であり、技術として現在に受け継がれいる。今この瞬間も最前線の国・地域は戦術機とそれを操る兵士である衛士やその他の軍人・武装組織が自らを人類の盾として、人類の滅亡の瞬間を遠ざけよう、BETAに負けてなるものかと死に物狂いで戦っている。
それは東ドイツも例外ではない。
いつもなら、BETAの攻勢を感知した東ドイツ軍は即座に戦闘態勢に移行するだろう。対BETA最前線の国として、その動きに淀みも迷いもない。
前線の要塞陣地群で戦闘準備が進められる中、そこから離れた戦術機基地も、戦術機の出撃準備が進められている筈だ。
しかし、今は状況が違った。原因不明のレーダー・振動センサーからの通信途絶と各基地との無線連絡が使用不可になっているのだ。その為に精鋭第666戦術機中隊を含む戦術機部隊を原因究明のため向かわせている最中だ。各要塞陣地のオペレーターもそのせいでBETA出現を通達することが出来ずにいた。
そんな要塞陣地群から遠く離れた地点で、この世界の軍人、第666戦術機中隊の面々と、火星から来たと言う「鉄華団」なる集団。
そのうちの一人である三日月・オーガスが、BETAの接近を勘で感知していた。切った貼ったの世界で磨かれてきた第六感は、極めて高い精度を誇る。
「な、間違いないのか!?ミカ!?」
「ああ」
「くっ、戦闘準備だ!」
オルガが素早く指示を下す。長年一緒にいた2人の信頼関係は高い。すぐさま部下達に戦闘準備をさせる。
団員たちも異存はない。自分達をここまで引っ張って来た信頼のおける団長の言葉に即座に反応する。軍人であるアイリスディーナ達から見てもその動きはよく訓練されたといえるだろう、統率の取れた素早い動き。
「・・・まさか」
その不穏な挙動を見、何もせずにいる愚鈍な指揮官ではないアイリスディーナは半信半疑ながらも確認することにした。
簡単だ。戦術機にはコックピットに伝わる振動を打ち消す機能がある。それをオフにする。
BETAは必ず大軍でやってくる。奴らの進軍による振動は、距離にもよるが地面に接していて感じられないような小さいものではない。
「この振動・・・BETAか」
苦い顔をするアイリスディーナ。こちらは謎の集団の取った戦闘準備でもしやと思いこうしたが、他の部隊はどうだろう。十中八九そんなことはしないだろう。直にBETA接近を感じることが出来るということは、身をもって自分達を害そうとする者の接近を体で感じるということだ。勿論目視やセンサーで探知するのとは違った緊張や恐怖があるだろう。振動がコックピットにいる衛士の操作に与える影響も無視出来ない。操縦桿の操作を誤ったり、フットペダルを踏む力にムラが出たりすれば、危うい状況になるのは誰でもわかるだろう。
「現在も要塞陣地への通信は不可能・・・。彼らはBETA接近を知らないようだな」
空を見上げればすぐに分かる。航空機やミサイル、砲弾を飛行中や着弾前に撃墜・迎撃する光線級への対策として、戦術機部隊の援護の為に撃ち出されるAL砲弾が見当たらないからだ。ここは人の住む地域ではないので、協議中のため射撃していないという可能性はない。
通信障害のため音紋解析やレーダー、移動速度による種別の解析は不可能。これは要塞陣地も各戦術機部隊も変わらない。通常なら
要塞陣地がBETAの接近を探知→各要塞陣地・各部隊に通告→各要塞陣地・各部隊が交戦
という段取りで動くが、それが出来ない。通信もできず、AL砲弾による援護と光線級による迎撃がされていないため、光線級がいるかどうかも不明。
極めて難しい状況だ。
「仕方ない。これより我々はBETA群に接近し、その種別を確認する。」
淀みなくアイリスディーナが説明。
「なるべく交戦を避けてBETA群の奥へ進入し、漏れが無いように、な。もし光線級が存在すればそれが分かった時点で1機を要塞陣地へと報告に向かわせる」
「「「「「了解」」」」」
と、その大事な場面で声が掛けられた。鉄華団なる集団の1人からだ。
「通信障害とかなんとか言ってたけど、それの原因俺たちかも知れません」
同志中尉の目が釣り上がる。それは当然だろう。自分たちが危機的な状況に置かれたのは自分たちのせいですと言われれば誰だって似たような反応をするに違いない。
そんな政治将校殿を遮り、副官のファム中尉が尋ねた。
「どういう事?」
その質問に、すぐさま答えるリーダー格らしき青年の声。こちらの切羽詰まった事情を察してか、簡単な説明を早口でしてくれる。
「俺たちの使ってるモビルスーツ・・・人形のでかいヤツの動力は、ほかの電子機器に影響を及ぼすんだ。あんたらの無線やレーダーが使えないのもそのせいだろう」
説明し終えると同時に振り向き、モビルスーツを操縦している部下に言った。
「モビルスーツに乗ってるやつは今すぐ動力を切れ!その後1分数えたらまた起動だ!」
「おう」「わかった」「ええ・・・?おう、分かったよ」
と様々な答え。数秒後、機械の巨人は動きを止める。それと同時に通信、データリンクが回復。遠く離れた要塞陣地と司令部は、いきなり元通りに機能するレーダースクリーンや音紋探知機に表示された輝点と急になり始めた警報音にしばし呆然となるがすぐさま行動を開始。前述の手順とは異なるが、BETAの接近を感知したならすべきことはひとつ。
「緊急!BETAだ!BETA群が迫って来ている!進出中の各部隊は交戦を開始してくれ!!」
オペレーターからの報告を聞いた司令官は、次のように続けた。
「光線級の存在は確認されていないが、砲爆撃をするには時間がいる!遅滞戦闘を・・・!」
突然の事態に戸惑う者もいたが、そこは軍人。戸惑いながらも上の指示に従って交戦を開始した。幸いにも光線級の存在は確認されていない。これならミサイルや砲弾・爆撃による効率的かつ効果的な排除が可能だ。もっとも準備に時間がかかる。
戦術機部隊を前に出していたのは不幸中の幸いだった。彼らなら歩兵や戦車よりも効果的に戦える。
第666戦術機中隊と鉄華団は、共にBETAと戦うことになった。
なんか説明が我ながらくどいような気がする
2018/3/31 08:05 誤字訂正。報告ありがとうございます。
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