アンドロイドはエンディングの夢を見るか? (灰色平行線)
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本編「アンドロイドはエンディングの夢を見るか?」
broken [W]ings


発売から1ヶ月以上たったし、ネタバレ前提の話を書いても大丈夫だろうと思った。暇つぶしにでもどうぞ。


 西暦5012年、外宇宙から飛来したエイリアンによる侵略行為が始まった。彼らの繰り出す兵器「機械生命体」によって人類文明は壊滅。残った人類は月へと逃げ延びた。

 西暦5204年、アンドロイドを使った人類による反攻作戦が開始される。

 数十回に及ぶ大規模降下作戦を経ても、機械生命体に決定的な打撃を与えることはできず、アンドロイドと機械生命体の戦いは終わらない。

 そんな膠着状態を打破するため、人類は最終決戦兵器としてのアンドロイド「ヨルハ部隊」を作り上げた。

 アンドロイド「2B」も、そんなヨルハ部隊の一員だった。だが、彼女は他のアンドロイドと違っていた。決定的に、分かりやすく、彼女は変わっていたのだ。

 

 ◇◇◇

 

 上空を6機の機械が飛んでいた。

 アンドロイド達が「飛行ユニット」と呼ぶ、戦闘機のような形をしたそれは、規則正しく並んで空を飛んでいた。

「こちら司令部。ヨルハ部隊応答してください」

 飛ぶ飛行ユニットに通信が入る。

「こちら2B。全機無事に成層圏を突破。自動航行システムに問題なし」

 通信に答えたのは、6機のうち、真ん中辺りを飛ぶ2Bだった。

「こちらオペレーター6O。全機反応確認しました」

「現在、対目標50km地点を通過」

「敵防空圏内に突入後、マニュアル攻撃形態に移行し、目標の大型兵器の破壊と情報の収集にあたってください」

「了解」

 しばらく事務的で機械的なやり取りが続く。

 だが、その途中、突如として前方から撃ち出された赤く光るレーザーがアンドロイド達を襲う。1機の飛行ユニットがレーザーに直撃し、乗っていたアンドロイドもろとも、爆発して消え去った。

「12H、ロスト」

 2Bはその様子を淡々と告げる。

「全機マニュアルモード起動。目視で回避」

「既に起動。移動操作可能」

 2Bの言葉に返答したのは、彼女のサポートシステムの箱型の機械「ポッド」だった。

「長距離レーザー発射点を確認」

 別のアンドロイドがそう告げた瞬間、撃ち出された2撃目のレーザーがさらに別のアンドロイドを撃ちぬいた。

短い悲鳴のような断末魔と共に、アンドロイドは爆発する。

「11B、ロスト。装備Ho229のキャンセラー効果ナシ」

 アンドロイドは感情のこもっていない言葉で告げる。

「前方に敵機確認」

 ポッドが低い機械音声で告げる。

「火器使用を申請」

「火器使用の許可をします」

 短いやり取りの後、前方からやって来た機械生命体との銃撃戦が始まった。

 機械生命体の攻撃と、遠くから撃ち出されるレーザーによって、アンドロイドの数はどんどん減っていき、機械生命体を全滅させたころには、もう残っているのは2Bただ1人だった。

「当機以外の機体は全てロストした。作戦の遂行に支障が予想される。指示を請う」

「オ、オペレーターより2B」

 オペレーターの声は少し震えている。

「現地担当の9Sと合流し、地形情報を入手してください」

「了解」

 そのまま2Bは目標の大型兵器がいるという廃工場に入っていった。

 廃工場の中はひどく入り組んでおり、なかなかに進むのが難しい。さらには、中へ入った2Bを排除するため、機械生命体が飛んでくる。銃撃で機械生命体を破壊していくが、油断していたのか、敵の撃ち出した弾に当たってしまう。

 その瞬間、2Bの飛行ユニットが爆発した。

 同時に2Bも爆発に巻き込まれ、空中に投げ出される。

 爆発の影響で体はボロボロだ。これでは助からないだろう。

 薄れゆく意識の中で、2Bは思った。

(やっぱりベリーハードは止めておくべきだった。もっと簡単な難易度に・・・うん?)

 ベリーハード?いったい何のことだ?難易度?自分は何を考えているのだ?

 頭の中で声が聞こえる。

「エンディングを見るのです。全てのエンディングを見るのです」

 それは、自分の声のように聞こえた。

 だが、それについて考える余裕もなく、2Bは意識を手放した。

 

 ◇◇◇

 

 ヨルハ部隊は壊滅した・・・。

 こうして地球はロボットの楽園と化して行った・・・。

 

 NieR:Automata

 broken [W]ings

 

 ◇◇◇

 

 気がつけば、2Bは飛行ユニットに乗って空を飛んでいた。

 周りにはアンドロイドも機械生命体もいない。2B1人だけだった。

「2Bさん?2Bさーん?聞こえてますか?」

 オペレーターの声が聞こえてくる。通信中だったらしい。

「ああ、聞こえている。問題ない」

「良かった・・・。それでは、現地担当の9Sと合流し、地形情報を入手してください」

「了解」

「2Bさん・・・。仲間が壊されて悲しむ気持ちも分かりますが、頑張ってください」

 心配そうにそう言って、オペレーターは通信を切った。どうやら誤解させてしまったらしい。

 しかし、自分はさっき破壊されたはずなのに、どうして生きているのだろう。

 しかも、何やら時が戻っているようにも感じる。

 体は大丈夫なのだろうか。

「ポッド、私の健康状態はどうなってる?」

 とりあえずポッドに聞いておく。この異常な感覚について調べておく必要もあったが、飛行ユニットに乗っているのに自分で状態チェックなんてしたら、壁か何かにぶつかってまた死ぬかもしれない。

「健康状態は良好。運動能力に問題ナシ」

 ポッドは淡々と聞かれたことに答える。余計な心配だっただろうか。

「ヨルハ機体2Bの内部データに『エンディング』の項目を発見。取得エンディング数、1」

「は?」

 ポッドが突然聞きなれない単語を言った。健康状態と関係があるのだろうか。

「エンディング?それは何?」

「不明。エンディング自体は物事の終わりを指す言葉だが、ヨルハ機体2Bの内部データにて発見されたエンディングの項目については、判断材料がないため推測不能」

「不明って、だったら何でそんな言葉・・・」

 その瞬間、2Bの頭の中に何かが流れ込んでくる。

「これは・・・」

 それは、記憶だった。本来ならばあり得ない記憶が、2Bの記憶の中に存在した。

 そしてその記憶は、2Bの何かを変えた。決定的に、明らかに。

 2Bは口元をほんの少しだけ上げる。誰にも見えないように笑って、廃工場の中へと入っていった。



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deb[U]nked

反省も後悔もしてます。でも、思いついてしまって、つい、やっちゃったよ。


 衛星軌道上にあるヨルハ部隊の基地「バンカー」。その自室で9Sは目を覚ます。

 廃工場で2Bと共に目標の大型兵器をアンドロイドの動力源である核融合駆動システム「ブラックボックス」を用いた自爆で撃破した。そのことを9Sは記憶していないが、他のヨルハ部隊から聞いた話や作戦の記録データではそうなっている。

 アンドロイドはバンカーに個体データのバックアップを取っておくことで、たとえ死んでもデータがあればまた蘇ることは可能だ。ただし、記憶は最後にバックアップを取ったところまでしか引き継がれない。

 9Sには、廃工場で2Bと合流してからの記憶はない。

 

 ◇◇◇

 

「さてと、そろそろ2Bさんのセットアップを手伝いに行かなきゃな。多分、もう部屋で待っているだろうな」

 そんな独り言を言いながら9Sは自室を出て2Bの部屋と向かう。

 セットアップは任務だと分かっていても、女性型アンドロイドの部屋に入るというのは男性型としては少し緊張する。

 ヨルハ部隊に所属するアンドロイドは規則として感情を持つことを禁じられているが、実際にそんな規則を律儀に守ろうとしているアンドロイドはほとんどいない。厳格で冷静沈着なことで知られるヨルハ部隊の司令官ですら、私生活はずぼらだという噂があるくらいだ。面倒臭がりなのだろうか。想像はできないが。

 9Sも、そんなアンドロイドの例に漏れず、知的好奇心が旺盛なところがある。そんな訳で、内心緊張しつつ、平静を装って2Bの部屋のドアを開ける。

「失礼します。あ、もう始めてるみたいですね」

 9Sが部屋に入ると、2Bはベットに寝ており、その上では彼女のポッドが何やら作業をしているようだった。

 9Sも2Bにハッキングを行い、2Bの起動セットアップを開始する。

「2Bさん、聞こえますか?起動セットアップを始めますね。まず、システムの明度設定を・・・」

 9Sは2Bのシステム面のセットアップを手伝っていく。明度設定で明るさを調節し、音声認識で声の聞こえる大きさを調節する。「9Sの声って何か安心する」と言われ心拍数が一時的に上昇したり、何故か自爆許可の項目が消えていたり、多少問題はあったものの、セットアップは無事に終了した。

 全ての設定が終わり、ハッキングを終了させようとしたが、そこで9Sは妙なことに気付く。1つ、おかしな項目が増えていた。

 エンディング取得数。

 その奇妙な項目には、取得数1とだけ書かれている。何かをアイテムとして所持している訳ではない。気になって調べて見ると、それは行動の記録のようなものだった。ゲームで言うならばプレイ時間や、集めたトロフィーの数のようなものだろうか。

 ウィルスの類でも無いので、とりあえず9Sは項目をそのままにしておく。間違って消したりでもして、それが2Bの大事なものであったならば大変なことになる。

 9Sがハッキングを終えると、2Bが目を覚ましてベッドから起き上がる。

「おはようございます。司令官からの命令で、2Bさんのメンテナンスを担当することになったんです。これから定期的にチェックしますね」

「・・・そう」

 9Sの言葉に複雑そうに返す2B。不安を与えてしまっただろうか。

「心配は要りませんよ?僕達9Sモデルは優秀な事で有名ですから・・・って自分で言うことじゃないか」

「・・・9S」

「え?なんでしょう?」

「敬称はいらない」

「え?」

 突然の言葉に思わず呆けた返事をしてしまった。

「・・・私の名前に『さん』はつけなくていい」

「は、はい・・・分かりました」

 不思議だった。突然そんなことを言われたのも不思議だったが、彼女がその言葉を言い慣れているように見えたのも不思議だった。もしかしたら廃工場の時にも同じことを言われたのかもしれない。

「・・・あ、そうだ。司令官が呼んでいたから一緒に行きましょう。2Bさ・・・いえ、2B」

 何故だろうか。彼女を敬称無しで呼ぶことに嬉しさを覚えた。これからも頑張っていける。そんな気持ちになれた。だからだろうか。9Sにはその後の彼女の行動が理解できなかった。

「待って、司令官のところへ行く前にやっておく事がある」

「やっておく事ですか?」

 

 ◇◇◇

 

 突如としてバンカー中に警報が鳴り響く。あちこちで爆発が聞こえる。激しい振動がバンカー全体を襲う。

「一体何がどうなっている!?」

 揺れる司令部で司令官が叫ぶ。

「ど、どうやらバンカーで爆発が起きたようで、そそ、その爆発によって次々と爆発が連鎖的に起きてるようです!」

 困惑しながらも、オペレーターの1人がなんとか答える。

「爆発の原因は!?」

 とにかく指示を出す。こんな状況でも司令官として素早い行動をしなければならない。

「ど、どうやらアンドロイドの1人が自室で自爆したようで・・・」

「はあっ!?」

 予想もしていなかった理由に普段なら絶対にしないような叫び方をしてしまう。答えたオペレーターが「ひぃっ!?」と縮こまる。そんなに恐ろしかったのだろうか。

「それで!その自爆した馬鹿者は!?」

「そ、それが・・・2Bさんらしいです」

「2Bだと!?」

 馬鹿な。彼女は人一倍任務に忠実だったはずだ。オペレーターの言葉を疑う訳ではないが、正直考えられない。だが、こうしてバンカーが爆発しているのも事実なのだ。

「クソッ!!」

 司令官は、普段の自分なら絶対につかない悪態をついた。

 

 ◇◇◇

 

 バンカーで自爆した。連鎖的な爆発によりバンカーは崩壊。落下する姿はまるで流れ星のようだったと言われている。

 バンカーでの自爆決行。宇宙空間に放り出された司令官が鬼の形相で虚空を見つめていた・・・。

 

 NieR:Automata

 deb[U]nked

 

 ◇◇◇

 

「・・・あれ?ここは・・・」

 気がつけば、9Sはバンカーの廊下に立っていた。目の前には「2B」と書かれた扉がある。

 9Sは見たはずだった。確かにこの目で2Bが自爆するのを見たはずだった。

 それなのに自分はバンカーにいる。どうなっている。

「ポッド、現在の状況は?」

「報告、ヨルハ機体2Bのセットアップサポート前。現在、ヨルハ機体2Bはセットアップを始めている模様。推奨、扉を開けてヨルハ機体2Bのサポートを開始」

 9Sが自分のポッドに確認すると、ポッドは2Bのポッドとは違う、女性的な声でそう答えた。

「失礼しまーす・・・」

 9Sが部屋に入ると、全く同じ状況で2Bはベットに寝ており、ポッドは作業をしている。

 9Sはそのまま2Bのセットアップに入るが、その流れも、2Bの反応も、全く同じだった。まるで同じ時間を繰り返しているような気分だった。

 状況が状況なので、「2Bさん」と呼んでみたが、「『さん』はつけなくていい」と言われた。まさか本当に時間を繰り返しているのか。

「・・・司令官が呼んでいるので一緒に行きましょうか。2B」

「分かった」

 9Sの言葉に2Bは素直に頷いた。また自爆でもされたらどうしようかと思ったが、今度は大丈夫なようで9Sはほっとする。

「・・・これで2つ目」

「2B?何か言いました?」

「いや、別に」

 そう言って2Bはさっさと部屋から出て行ってしまう。9Sは慌ててその後を追った。



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fa[T]al error

この2Bなら3週目に死んでも9Sはわりと平気そう。


 司令官に呼び出された2Bと9Sは、司令部に向かう。

 司令部で2人は司令官から地上にいるレジスタンスと協力して情報収集するという任務を与えられた。レジスタンスとの連絡役だった先任のヨルハ隊員とは連絡がとれず、この辺りも含めての情報収集とのこと。

「最後に、2B」

「はい」

「バンカー内で自爆はするなよ?」

「?・・・了解」

「いいか、絶対だぞ?遠まわしに自爆しろと言っている訳じゃないからな?」

 しつこいくらいに司令官は2Bに対してバンカー内での自爆禁止を言ってくる。自爆などする訳がないではないか。そんなことをすればバンカーが落ちてしまう。

 不思議そうに司令官を見つめる2Bの横で、もしかして司令官にもあの記憶があるのだろうかと9Sは苦笑いで考えていた。

「一応9Sにも言っておく。お前はそんなことはしないと思うが、バンカー内で自爆はするなよ?」

「わ、分かりました」

 まさかこっちにも飛び火するとは思わなかった。その後、任務に向かう準備をしながら2Bは「司令官のあの言葉だと、私は自爆すると思われているのか?」と言っていた。

「むしろ思われない方が難しいよ・・・」

 そんな9Sの小さな呟きは、2Bには聞こえていない。

 

 ◇◇◇

 

 2人が無事地上に着いたという報告を受け、司令官はほっと息をつく。飛行ユニットで地上にむかうと、どうしても地上に着くまでの間に事故や敵の攻撃で死んでしまう可能性がある。そのためにも早く転送装置の配備を進ませねばと考えいた。

 安心して心に余裕が生まれたせいか、1つの疑問が浮かぶ。あの記憶は何なのか。鳴り響く警報、揺れるバンカー、2Bが自爆したという報告。その全てがはっきりと思い出せる。そのせいで2Bにもあんなことを言ってしまった。

 司令部にいる他のアンドロイド達にそれとなく聞いてみても、全員何のことか分からないと言った様子だった。本当になんなのだこれは。どうすればいいのだ。

 そんなことを考えていると、オペレーターの6Oが「あっ・・・」と短い声をあげる。

「どうした?」

「2Bさんの・・・ブラックボックス反応が消失しました」

「なんだと?」

 ブラックボックスはアンドロイドの動力源だ。その反応が消えるということは、アンドロイドにとっての「死」を意味する。

「司令官、ヨルハ機体9Sからの通信が届いています」

 別のオペレーターが冷静に告げる。

「繋いでくれ」

 司令官がそう言うと、司令部のモニターに9Sの顔が映し出される。

「9S、状況を報告してくれ」

「は、はい。地上に着くまでの間に機械生命体に襲われて戦ったんですが、2Bへの攻撃が当たり所が悪かったようで、OSチップが外れてしまったんです」

 報告する9Sは少し混乱しているようだった。

 OSとは、コンピューター全体を管理し、制御するシステムのこと。大抵の機械にはOSが入っており、それはアンドロイドも例外ではない。体からOSが外れれば動くことも考えることもできなくなってしまう。

「分かった。2Bはこちらで復活させておく。9S、お前は先にレジスタンスキャンプに行って現地のレジスタンスと合流してくれ」

「了解しました」

 そう言って通信は切れる。2Bの自爆の記憶がまだ頭に焼き付いているというのに、いきなり2Bの死亡報告を受けるとは思わなかった。まさか2Bは自分から死のうとしているのではないか。

「いや、まさか・・・な。さすがに考えすぎか」

 戦争中なのだ。死んでしまうのは仕方のないことだ。やはり、転送装置の配備を急いだ方が良いだろう。司令官はそんな風に考えていた。

 

「はぁ・・・」

 通信が切れて、9Sはため息をつく。横には、倒れている2Bの姿があった。

 敵との戦闘で2BのOSチップが外れてしまった。そんなのは真っ赤な嘘だ。軽くダメージを受けはしたが、2Bも9Sも無事に地上にたどり着いた。

 ならば何故2BのOSチップは外れたのか。いいや、外れたのではない。2Bが自分で外したのだ。

 地上についた直後、9Sが止める暇もなく彼女はOSチップを取り外し、その瞬間動かなくなった。こんなことを司令部に報告する訳にもいかず、9Sは嘘をつくことにした。

 バンカーで復活して、2Bはまた地上へやって来るのだろう。2Bと合流することを考えると気が重くなる。

 9SのようなS型のヨルハ部隊は現地調査が主な任務だ。そのため普段は単独で行動することが多い。だからこそ、2Bとの合同での任務は本来、9Sにとっては嬉しいことのはずだった。だが、今は1人の方が気が楽だったとすら思い始めている。次はどんな奇行を目にしなければならないのか。そう考えるだけで気が滅入る。ちょっと天然で変わった娘なんて可愛いものじゃない、バンカーでの自爆、OSチップ取り外し、2度の自殺によって裏付けされた、本物の奇行だ。

「任務、別の人が来てくれないかなあ・・・?」

 誰もいない廃墟と化した都市で、9Sは1人、そう呟いた。

 

 ◇◇◇

 

【危険】【取扱注意】

 OSチップは決して外してはいけません。外すと死亡します。

 

 NieR:Automata

 fa[T]al error

 

 ◇◇◇

 

 気がつけば、2Bは廃墟都市のビルの上に降りていた。上を見れば2人が降りた無人の飛行ユニットがバンカーへと帰っていくのが見える。

 2Bは自分の中のデータを確認する。データの中のエンディングの項目を見つけ、開く。そこには、「エンディング取得数3」という文字が書かれていた。

 状況を見るに、やはり時間が戻っていると考えるべきだろう。あのまま時間が進んでいれば自分はバンカーで目覚めているはずだ。

 まあ、2Bにとってそこは問題ではない。バンカーで目覚めようが過去に戻ろうが彼女のやることに変わりはない。彼女にとって問題なのは・・・。

「・・・即死、だったのか・・・?」

 OSチップを取り外したという自覚もないままに、気がつけばここで目が覚めていた。エンディングの取得数が増えているのを確認したため、無事とは言い難いが、エンディングはちゃんと迎えられたのだろう。これが「即死」の感覚だというのなら、苦しみの無い分、こちらの方が殺す方も殺される方も楽で良いのかもしれない。

「あの、2B?どうかしました?」

 そんな風に1人で考えていたら横で9Sが心配そうにこちらを見ていた。

「ああ、9S。・・・何時からそこに?」

「何時からって・・・一緒に来たのに何言ってるんですか?」

 そういえばそうだった。任務のことすら忘れてしまうとは、エンディングのためとはいえ、あまり軽々と死ぬのも考え物なのかもしれない。

 その後、司令部から貰った情報を頼りに2人はレジスタンスキャンプを目指す。前を走る2Bはこれからどう動くかを考えていた。

 しかし、彼女は知らない。彼女の後ろを走る9Sがエンディングの記憶を持っていることを。

 9Sは知らない。2Bがエンディングの記憶を持っていることを。

 2人は知らない。司令官がエンディングの記憶を持っていることを。

 お互いにお互いを知らないまま、2Bの奇行は続く。



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[N]o man's village

なんかホラーっぽくなったけどこのエンディングなら仕方ないと思ってる。


 レジスタンスキャンプでリーダーを務めているアネモネというアンドロイドからの依頼で砂漠にいる機械生命体を破壊しに向かった。逃げる機械生命体を追った後、機械生命体が集まって繭のようなものを形成、そこからアンドロイドにそっくりな機械生命体が生まれた。機械生命体を倒したと思ったが、もう1体増え、結局取り逃がす形となってしまった。

 レジスタンスのジャッカスというアンドロイドからの依頼でアンドロイド研究の手伝いをした。

 司令部からの任務で連絡の途絶えたヨルハ部隊を探すためにブラックボックス信号の発信されている遊園地に行った。

 ここまで、2Bに特に変わった様子は見られない。9Sは記憶に残っているこれまでの2Bの奇行を悪い夢か何かだと思うことにした。きっと疲れていたのだろう。アンドロイドだって休息は必要だ。

 そもそも、記憶には残っているが、実際に9Sが2Bの奇行を目にしたことはない。不思議な記憶ではあるが、あまりに気しないのが得策だろう。

 

 アンドロイドが連絡を絶った原因は、1体の機械生命体によるものだった。まるでドレスを纏った歌姫のようなその機械生命体は、自分の体をアンドロイドの体で装飾し、他のアンドロイドは生きたまま兵器に改造されていた。「美しくなるんだ」という彼女の叫びは、悲しさにあふれていた。

 敵からのハッキングを受けながらも、2Bと9Sはその機械生命体を撃破する。機械生命体の破壊と同時にアンドロイド達も停止した。

 

 2人が機械生命体のいた劇場のような建物を出ると、白旗を背負った機械生命体が待っていた。なんでも、「壊れた機械生命体を倒してくれたお礼がしたいので村まで来てほしい」のだとか。

 罠かもしれないが、情報収集のために向かうことにする。

 途中で地上から月面基地に資材を打ち上げている場面を見た。2Bは見たことがなかったようなので9Sは説明をしたが、「なるほど」という返事とは裏腹に、彼女はどうでもよさそうに空に上がる物資を見ていた。

 

 ◇◇◇

 

 案内された村では機械生命体達が皆、白旗を振っていた。その中でも他とは見た目が違う機械生命体が白旗を置いて2人に話しかける。

「・・・まず最初に聞いていただきたいことがあります。私達は貴方の敵ではありません」

 機械音声ではあるものの、優しさを感じる声でその機械生命体は語る。

「2B!機械生命体の言う事なんて信じちゃダメです!」

 9Sは警戒して目の前の機械生命体を見る。いつでも武器は操れるようにしておく。

「・・・確かに、貴方達にとって私達、機械生命体は敵です。私の名前はパスカル。この村の長をしています。この村に住む者達は・・・戦いから逃げてきた平和主義者しかいません。良ければ、皆さん自身の目で確認してみてください・・・」

 そう言って、パスカルと名乗った機械生命体はまた白旗を振ろうとした。

 その瞬間、パスカルの首が飛んだ。倒れて動かなくなったパスカルの胴体が爆発する。

 一体何が起こったのか、9Sにも村に住む他の機械生命体にも分からなかった。9Sが横を見れば刀を握った2Bの姿が映る。突然の出来事に、彼女がパスカルを斬ったのだと理解するのに数秒を要した。

「死ンダ・・・」

 村人の1人がぽつりと呟く。

「パスカルおじチャンが死ンダ・・・」

「殺さレタ・・・」

「殺されテ死ンダ・・・」

 パスカルの死を村全体が理解したその瞬間、村は悲鳴に包まれた。

 逃げ惑う者、怯えて振るえるだけの者、許しを請おうとする者、何もできずにいる者。パスカルを斬った2Bに怒って攻撃してくる者は1人もいなかった。当然だ。ここは戦いを放棄した機械生命体達の村であり、彼らは戦う術を持たないのだから。現れた殺戮者に対して彼らは恐怖する以外の方法を持たない。

 2Bは他の機械生命体も次々に斬っていく。村の中を走り回って1人の例外もなく殺し、逃げようとする者はポッドで撃ちぬいた。

 9Sはその光景を見ていることしかできなかった。そうして2Bが全ての機械生命体を殺し終わると、村は静寂に包まれた。静かなはずなのに、9Sの耳には彼らの悲鳴がまだ残っている。

「2B、何で・・・?」

 思わず、そんな声が出た。機械生命体なんて今までもいくらでも殺してきた。だというのに、目の前の光景は9Sの目にはひどく理不尽に映った。

「何で?機械生命体の言葉に意味なんてない。機械に心なんてない。ずっとそう言い続けてきたのは貴方よ?9S」

 そう言う2Bの声はなんだか感情がこもっていて、少し嬉しそうに感じた。

「フ、フフ・・・フフフ・・・フ、フフフフフ!フフフフフフフフ!!」

 もう我慢できない。

「アハハハハハハハハハハハ!!!」

 そんな風に2Bは笑う。

 そんな2Bを見ながら、9Sは1つ気付く。もしかして2Bはウィルスに感染しているのではないかと。遊園地の劇場で戦った奇妙な機械生命体。彼女からハッキングを受けた時、2Bは感染してしまったのではないか。

 こんな状況ではもう意味のない思考だとは分かりつつも、9Sは理由を考えずにはいられなかった。例え彼女の奇行が頭の中に残っていたとしても、彼女はこんな殺戮を楽しんで行うような人ではない。そう思いたかったからだ。

 思えば、空へと送り出される物資を2Bがどうでもよさそうに見ていた時点で気付くべきだったのかもしれない。任務に忠実な彼女が、仲間である他のアンドロイドにも関わる物資に関して無関心なはずがないのだから。今となってはもう遅い。ただ、彼女の狂った笑いの原因がウィルスのせいであってほしいと、9Sはそう願うことしかできなかった。

 

 ◇◇◇

 

 暴走したアンドロイドによって、敵意のない機械生命体の村はは全滅した。

 かくして平和的な機械生命体は駆逐された。誰も寄り付かなくなった村の中から、時折アンドロイドの笑い声が聞こえるという。

 

 NieR:Automata

 [N]o man's village

 

 ◇◇◇

 

「おや・・・」

 気がつけば、パスカルは村の中に立っていた。手には白旗を持っている。

「確か2人のアンドロイドに会っていた気がするのですが・・・」

 パスカルは何も覚えていない。何も知らないうちに殺された彼は、2Bの殺戮を目にすることなく死んだのだから当然の話ではある。それが幸か不幸かは分からないが。

 待っていると、機械生命体に連れられて2人のアンドロイドがやって来た。どちらも記憶にある姿だ。初対面のはずなのに記憶に残っているというのも変な話ではあるが。

(これがデジャヴというものなのでしょうか?)

 そんなことを考えていると、2人のアンドロイドは自分の元へやって来た。

「まず最初に聞いていただきたいことがあります。私達は貴方の敵ではありません」

 パスカルがそう言うと、2人は何も言わなかった。

「やはり、信じていただけませんか。・・・確かに、貴方達にとって私達、機械生命体は敵です。私の名前はパスカル。この村の長をしています。この村に住む者達は・・・戦いから逃げてきた平和主義者しかいません。良ければ、皆さん自身の目で確認してみてください・・・」

 そう言うと、2人のアンドロイドは頷いて村の機械生命体達から話を聞きに行った。その様子を見ながらパスカルは、良かったと思った。

 相互理解は会話をしなければ得られない。このアンドロイド達とは良い関係を結べそうだ。

 ただ、男性型のアンドロイドの方が何やら複雑そうな顔をしていたのが少しだけ気になった。




アンドロイドが皆殺しにしなくても機械生命体が皆殺しにするからどっちみちパスカルの村は滅ぶんだなあと考えると胸が痛い。


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a mountain too [H]igh

書いてる作品が終わってないのに他の作品も書きたくなる気持ちが分かりました。


 パスカルからレジスタンスキャンプのアネモネに燃料用濾過フィルターを渡すように頼まれた。パスカルの村はレジスタンスキャンプと交流があるらしく、渡してくれれば自分達が平和的な種族であることを理解してくれるはずだと。

 キャンプまで戻ってアネモに濾過フィルターを渡すと、高粘度オイルをパスカルに渡すように頼まれた。パスカルの村の住人はアンドロイドのレジスタンスのアンドロイド達が作れないような細かな作業を得意としている。その代りにレジスタンスはオイルや素材を渡して交換する、一種の交易のようなことをしているらしい。

「いかがでしょうか?私達が平和を愛していることをご理解いただけましたか?」

 レジスタンスキャンプを出ようとしたところでパスカルから通信が入ってきた。

「・・・」

 パスカルの言葉に9Sはどう言うべきか分からなかった。普段の9Sならば「口だけならいくらでも言える」などと言うのだろう。だが、9Sは知っている。パスカルの村の虐殺の光景を知っている。抵抗もできずに殺された機械生命体達の悲痛な声を知ってしまっている。相手は機械生命体だ。普段から壊して、殺し続けてきた奴らだ。信用なんてできないが、疑うことが正しいとも思えなかった。

「やはり、そう簡単には信じていただけませんか。でも、これからも良ければこの村に来てください」

 そう言ってパスカルの通信は切れた。

 あの出来事が嘘のように2Bとパスカルの村の機械生命体達の関係は良好だ。真逆とも言える2つの光景に、これからパスカルの村に行くのに少し気が重くなる9Sだった。

 

 ◇◇◇

 

 パスカルの村でパスカルにオイルを渡した直後、重苦しい音が遠くで聞こえた。

「バンカーより緊急連絡!廃墟都市地帯に敵大型兵器の出現を確認しました!他にも機械生命体反応が多数あります。全ヨルハ部隊は迎撃に急行してください!」

 音が鳴りやんだかと思ったら、オペレーターからの通信が入る。廃工場で戦った大型兵器がまた現れたらしい。

「大型兵器・・・!2B、やっぱりこいつら僕らをワナにかけようとして・・・」

 9Sは疑いの眼差しで村を見回す。例えあの記憶があったとしても、まだ彼らのことを信じきることはできない。そんなに簡単に、染みついた考えは変わらない。

「・・・私達もその情報を知りませんでした。信じていただけないかもしれませんが・・・可能であれば、信じてほしいです」

 パスカルの声は弱々しい。

「どっちでもいい、やることに変わりはない」

 2Bは走り出す。9Sも後を追う。

 

 そして、遊園地に着いた。

 

「あの、2B?何故遊園地に?大型兵器は廃墟都市に出現したはずですけど・・・?」

「そういえばまだスタンプ集めてないなと思って」

「今ですか!?」

 またしても始まった2Bの奇行に頭を抱える9Sだったが、黙って遊園地までついてきた彼も大概である。

 

 ◇◇◇

 

 2Bと9Sの任務放棄により、廃墟都市、レジスタンスキャンプは大打撃を受けた。

 ヨルハ部隊の壊滅も時間の問題だろう。

 

 NieR:Automata

 a mountain too [H]igh

 

 ◇◇◇

 

 2Bの遊園地のスタンプラリーにつき合わされ、9Sは彼女の後について遊園地を歩いて回っていた。スタンプをもらう過程として、2人は機械生命体達の演劇を見ることになる。

 舞台の上では赤みがかった機械生命体が機械音声ではあるが、高い声を張り上げていた。

「オオ!ロミオ!ロミオ!貴方は何故ロミオなの!」

 その言葉に反応するように、青みがかった機械生命体が舞台に現れる。

「アア!ジュリエット!ジュリエット!貴方は何故ジュリエットナノ?」

 青みがかった機械生命体の言葉の後、もう1体、赤みがかった機械生命体が舞台に現れる。

「オオ!ロミオ!ロミオ!一体ドレがロミオなの?」

 それに合わせてもう1体、青みがかった機械生命体が現れる。

「アア!ジュリエット!ジュリエット!私にも良くわかラナインだ!」

 さらに増える機械生命体・・・もといジュリエット。

「オオ!ロミオ!ロミオ!ナラバ貴方の数を減らしましょう!」

 そして増える機械生命体・・・もといロミオ。

「アア!ジュリエット!ジュリエット!ナラバ君ノ命も奪ッテミセヨウ!」

 そうして彼らはお互いに向き合い、駆け出し、そして・・・。

 

 そして9Sは気がつけばパスカルの村にいた。ロミオ達とジュリエット達のセリフがまだ頭の中に残っている。また戻ってきたとか一体何度繰り返せばいいとか思うところはいろいろあるが。

「なんてタイミングで戻ってくるんだ!!」

 嫌がらせとしか思えないタイミングに9Sは叫ばずにはいられなかった。

「あのー・・・9Sさん?どうかしましたか?」

「え?あ、ああ、うん、大丈夫」

 心配そうに声をかけるパスカルの声を聞いて9Sは我に返る。何をやっているんだ。これじゃあまるで僕が変人みたいじゃないか。

「9S、本当に大丈夫?」

「えー・・・」

 変な行動をとってしまったのは認めるが、さすがに2Bに心配されるのは納得がいかない。誰のせいだと思っているんだ。

 9Sがそんな風に考えていると、突如、遠くの方から重苦しい音が響いてきた。

「バンカーより緊急連絡!」

 さらにオペレーターからの通信が入る。

「・・・2B、やっぱりこいつら僕らをワナにかけようとして・・・」

 9Sはとりあえず前と同じセリフを言っておく。2度目なら2Bもまともだろうという経験によるものだ。

「・・・私達もその情報を知りませんでした。信じていただけないかもしれませんが・・・可能であれば、信じてほしいです」

「どっちでもいい。倒しにいく」

 そう言って2Bは走り出す。9Sもその後をついて行く。

 廃墟都市に向かって行く2Bに安心しながら、これが終わったら遊園地で機械生命体の演劇を見に行こうと心の中でこっそり思いつつ、9Sは大型兵器を倒しに走った。



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aji wo [K]utta

司令官「お気に入り登録してくれた人?感想を書いてくれた人?
    そんな優しい人はいない!
    全ては作者のモチベーションを上げるための偽装工作だ!」
9S「な、なんだってー!?」
そんな夢を見ました。


 廃墟都市での大型兵器との戦闘。大型兵器が最後の力で起こした爆発は、大型兵器のいた所に大きな穴を開けた。

 そして、穴の中からは何百年もの間姿を見せなかったエイリアンの反応が確認された。

 穴の中へ、地下へと進んで行く2Bと9S。2人が地下で見たのはエイリアンの死体だった。

 そこへアンドロイドとほとんど同じ外見をしたあの時の機械生命体、「アダム」と「イヴ」が現れる。

 アダムが言うには、エイリアンはずっと昔に機械生命体が滅ぼしたとのこと。彼は人間に興味を持っていた。生きたままは解剖して観察したい。アンドロイド達にはその手伝いをしてほしいと言うが、当然、そんなことに手を貸すつもりなんて毛頭ない。

 交渉が決裂したと分かると、アダムとイヴはどこかへ行ってしまった。

 2人が地下から帰るその途中、オペレーターからの通信が入り、転送装置の配備と稼働を確認したらしい。地下から地上に戻った2人に声をかける者がいた。

「やあ、元気?」

「貴方は・・・」

 ジャッカス。砂漠にいたレジスタンスの1人だ。

「君達のところの司令官に言われたんで、新しくアクセスポイントを作っておいたよ。転送装置も動かせるようにしておいたから」

「あ、ありがとうございます」

 お礼を言う9Sにジャッカスは「いいさ」と軽く返す。

「司令官は昔なじみなんだけど、アイツ、人に仕事させすぎだよね~。今度会ったら文句言っといてよ」

 そう言ってジャッカスは笑う。おそらくは冗談だろう。アンドロイドだって冗談くらいは言うのだ。

 

 ◇◇◇

 

 件の司令官は、司令部で満足そうに頷いていた。新しいアクセスポイントに、転送装置の配備。仕事が完了するというのは気持ちの良いものだ。

 ここ最近は妙な記憶が増えるせいでなかなか心の休まる時がなかった。バンカーで爆死する2B、地上に行った途端に死ぬ2B、命令を無視して遊園地で遊ぶ2B。実際にそんな事があった訳ではないのに記憶として鮮明に残っている。2Bに関する記憶ばかりなのは気のせいだと思いたい。

 だからこそ、転送装置が配備されたのは司令官にとっても嬉しい事だった。これでアンドロイドが死んだとしても、復活させた後にわざわざ飛行ユニットで地上に向かわせる必要もなくなる。転送装置ならば飛行ユニットよりも手軽で素早く、何より費用がかからない。これで2Bが仮にバカをやらかしても、スムーズに再出撃ができるというものだ。

 自分が既に2Bをそういう目で見ているという事実に若干の悲しさを覚えつつも、司令官は顔には出さないが喜んでいた。

「あっ・・・」

 そんなタイミングでオペレーターの6Oが声をあげる。正直、嫌な予感しかしなかった。

「2Bさんのブラックボックス反応が途絶えました!」

「なん・・・だと・・・?」

 またか。また彼女か。司令官は頭に手をやる。別に転送装置が配備されたからといって、死んでいいという訳ではないのだが。

「それで、死因は?」

「はい、アジです!」

「・・・何て?」

「アジです!」

「えー・・・」

 もはや何て言えばいいのか分からない。司令官はがっくりと項垂れた。

 

 ◇◇◇

 

「ところで、ヨルハ機体にオススメしたいというか、食べてもらいたい魚があるんだよね。この『アジ』って魚なんだけど」

 2Bが死ぬ少し前、アクセスポイントと転送装置について説明したジャッカスは、どこから取り出したのか、1匹のアジを2Bに手渡した。

「この魚の油がヨルハ機体にどんな効能があるか実験してみたくて。もしかしたら死ぬかもしれないけど是非食べてみてほしい」

「えー・・・」

 魚を渡された2Bはあからさまに嫌な顔をする。誰だって死ぬかもなんて言われて素直に食べたりなんてしない。例えアンドロイドが死んでも復活できるとしてもだ。

「生のままはちょっと・・・」

「そういう問題ですか!?」

 9Sは未だに2Bのおかしな言動には慣れない。

「ま、まあ、アジの油が消えないなら調理しても構わないよ」

 ジャッカスは努めて軽い感じに言うが、若干2Bに対して引いてるのが9Sには分かった。

「そういうことなら」

 そう言うと、2Bはアジを木の棒に刺し、ポッドのレーザーを出力を弱めて使って焼いていく。そうやって出来たアジの焼き魚に2Bはかぶりついた。

 

 ◇◇◇

 

 興味を抑えられずアジを食べてしまった。

 直ちに体液の凝固が始まり、全身の筋肉が硬直し始めたのが分かる。

 ・・・確かに旨い。人類が食用にしていたのも頷ける。

 薄れゆく意識の中、アンドロイドはそんなことを思っていた。

 

 NieR:Automata

 aji wo [K]utta

 

 ◇◇◇

 

「・・・以上がエイリアンシップの報告です」

「そうか・・・既にエイリアンは・・・」

 転送装置でバンカーに戻った2Bと9Sは、司令官にエイリアンのこと、今までのことを報告していた。

「・・・この情報は、人類会議で結論が出るまでは、最高機密として扱う事にする。くれぐれも他言のないように」

「はい」

 その後、司令官は機械生命体「パスカル」の情報収集を2人に命じた。司令部を出ようとする2Bに司令官は声をかける。

「2B」

「はい」

「アジを・・・食べたことはあるか?」

「・・・いえ、ありませんが」

「・・・そうか」

 司令官が何を言いたいのか2Bにはよく分からなかった。

「司令官、疲れた時はゆっくり休んでくださいね?」

 そう言って、2Bは司令部を出る。

「・・・お前のせいなんだがなぁ・・・」

 2人が司令部から出た後で、司令官は誰にも聞こえないようにそう呟いた。

 とりあえず、この記憶は酒でも飲んで忘れよう。司令官という立場上、簡単に記憶消去をするわけにもいかないため、効果はなさそうだが酒に頼ることにした。

 

「アジ、美味しかったなあ・・・」

「2B、何か言いました?」

「何でもない」

 



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head[Y] battle(前)

 いろいろ悩んだ結果、読み辛い文になった気がします。
 物語の時系列は想像に任せます。
 原作のストーリー本編以外に、いくつかのサブストーリーを知ってないと話が分からないかもしれません。


 その少年は、大きな屋敷に執事と2人で住んでいました。

 その少年は、常に目隠しをして生きていました。少年には、見たモノを全て石に変えてしまう力があったのです。自分の力を恐れつつも、少年はいつか自分の目で世界を見ることを夢見て生きていました。

 そんなある日、少年は男と女、そして喋る本に出会いました。男と喋る本は、少年の目をなんとかする方法を探してくれました。女は少年に勇気をくれました。少年は、自分のことを受け入れてくれた彼らが大好きでした。

 ですが、幸せは長くは続きませんでした。

 ある日、男が住む村にたくさんの怪物が攻め込んできました。

 男は村を守るために、妹を守るために、喋る本と共に怪物と戦います。女も少年も男に協力しますが、怪物達の中にひときわ大きく、ひときわしぶといのが1体いました。そいつは、腕を斬られても再生し、首を斬られて頭だけになっても襲い掛かってきました。しぶとい怪物を殺すことができず、怪物を図書館の奥の部屋に閉じ込めるのが精一杯でした。ですがこのままでは怪物がすぐに出てきてしまう。女に言われて少年は、奥の部屋の扉を閉めて怪物を抑え込んでいる女ごと、扉を石化させて怪物が出てこれないようにしました。

 怪物を閉じ込めることには成功しましたが、女は石になり、村は荒らされ、男の妹は怪物達の親玉によって攫われてしまいました。戦いの後に残ったのは、深い悲しみでした。

 

 ◇◇◇

 

 パスカルから「森の国」の話を聞き、2Bと9Sはそこを調べるために森へと続いているデパートに足を運んでいた。そこで機械生命体に襲われるが、なんとかそれらを破壊する2人。壊れて爆発した機械生命体の中から白い球体が1つ、2人の前に現れた。

「はっ!ここは!?」

 突然喋りだした球体に驚く2人。怪しいから壊そうとしたところ、球体は物凄い速さで逃げてしまった。

 森の国で襲い掛かってくる機械生命体達を破壊しながら進んでいく2Bと9S。2人は国の奥にある城の中で、A2というアンドロイドに出会った。指名手配中であるA2との戦闘に入る2人だったが、結局A2には逃げられてしまった。司令官にA2を逃がしてしまったことを報告する2人。9Sは司令官にA2について聞くが、機密事項であるとして、教えてはもらえなかった。

 9SはパスカルならA2について何か知っているのではないかと考え、パスカルの村に戻って聞いてみるが、彼女についてはパスカルも名前を知っているという程度だった。

 することもなくなって、ひとまずレジスタンスキャンプに戻ろうとした2人は、その道中でスクーターと一体化した球体と出会った。

「あっ!アナタは・・・先日の!」

 球体は自らの名をエミールと名乗った。彼はショップを営んでいるらしい。

 今後、2Bと9Sはエミールのショップで武器や素材などを買うことになる。

 

 ◇◇◇

 

 それから5年後、少年は自身の石化の力を制御できるようになる可能性を見つけました。

 少年は、5年で成長した男と共に力を制御する術を見つけました。しかし、力を制御できるようになった代償として、少年は人の姿を失いました。それはまるで骸骨のような恐ろしい化け物の姿でした。

 少年は思い出したのです。自分が兵器であることを。しかし、男は少年の姿が変わってしまっても、少年への態度を変えることはありませんでした。例え兵器でも、少年は少年だと。

 そして少年は女の石化を解き、男は部屋の中から飛び出してきた怪物を殺しました。目を覚ました女は姿の変わった少年を見て、すぐに少年だと分かりました。

 少年は再び受け入れられたのです。

 

「あ、あの・・・これ」

 男は、目が覚めた女に何か手渡しました。

「それは!『月の涙』!?」

 それは、真っ白な「月の涙」という花で作られた花飾りでした。

「おばあちゃんのに負けないやつを、って、がんばって作ったんだけど・・・」

「そうか・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」

 それは、少年の思い出の1つ。とても大事な、仲間との思い出の1つでした。

 

 ◇◇◇

 

「ここは、元々のオリジナルのエミールが好きだった場所。ずうっと昔、大好きな人達と一緒に過ごした場所。つらい事も、悲しい事もたくさんあったけれど・・・。でも、オリジナルにとってあの旅の記憶は、本当に、本当に宝物だったんです。僕の記憶の中にも、微かな名残として残っています」

 白く光る月の涙が一面に咲くその場所で、エミールは2Bと9Sに語る。

 エイリアンが来襲してきた時、エミールは自己増殖による兵力増強を行った。2Bと9Sの前にいるのは、無数に増殖したエミールの1人。増殖したエミールはお互いに協力しあい、防衛線を維持した。

 しかし、無限に増殖を繰り返すうちに、エミールの記憶は薄まっていった。各地に咲く月の涙を見て、2Bと9Sの協力を経て、エミールは、この場所を思い出したのだ。

「僕達には決着しなければならないことがある・・・」

「え?」

「・・・ああ、そうだ。お礼にこれを渡そうと思ってたんです」

そう言うと、エミールは2Bに月の涙で作った花飾りを渡す。

「月の涙は、願いが叶う花だと言われているんですよ」

「・・・ありがとう」

「僕の方こそ、ありがとうございました。おかげで、大切なものを思い出す事ができました。この思い出があれば、僕は1人でも頑張れます」

 エミールを残して2Bと9Sはその場から離れる。エミールの言葉に疑問はあるものの、それを聞けるような雰囲気ではなかった。

 

 誰もいなくなったその場所で、エミールは誰かの名をぽつりと呟く。

 そして、思い出した彼は静かに決意するのだった。



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head[Y] battle(後)

最後まで悩みました。Yは本編に絡まないから難しい・・・。


「すっかり・・・強くなりましたね・・・もう、僕の手助けは要らないですよね」

 いつものように、2Bと9Sがエミールのショップで買い物をすると、エミールは突然そんな事を言った。

「どういう意味?」

「いえ、何でもないです。お元気で」

 2Bの疑問には答えず、彼は走り去って行ってしまう。

「なんだか、エミールの様子がおかしい・・・ポッド」

「既に追跡マーカーを使用。現在、砂漠方面に向かっている事を確認」

「わかった」

 相変わらず仕事が早いと思いながら、2Bと9Sは砂漠に向かう。

「エミール、どうしたんでしょうか」

「分からない・・・だけど、嫌な予感がする」

 

 エミールを追いかけて砂漠を走っていると、巨大なエミールの頭を見つけた。砂に半分程埋まったエミールの頭は複数あり、どれも動く様子はない。

「報告。砂漠に埋まっているエミールの頭はエミールとほとんど同じ成分で構成されている。既に生命活動は停止している模様」

 ポッドの報告を聞いて、この埋まっているエミール達がかつてエミールとして生きていたことを知る。

「エミールって、本当に何人もいたんですね・・・」

 エミールの頭を見つめて9Sが呟く。エミールの言葉を信じていなかった訳ではないが、こうして実際に見ると驚きを隠せない。

 そんなエミール達の近くに倒れたスクーターを発見する。それは、2人がよく知るエミールのスクーターだった。

「これは・・・エミールッ!!」

「気を・・・つけて・・・まだ・・・生きて・・・」

 エミールに駆け寄ると、彼は震えるような細い声でそう言った。

 その瞬間、地面が揺れて砂の中からいくつもの巨大なエミールの頭が飛び出してくる。

「グアアァァァウアアアアアッッ!!!」

「くそっ・・・」

 圧倒的な光景に2Bは思わず悪態をつく。

「警告。旧世界の魔法兵器。魔素を利用した攻撃はあらゆる防御システムを貫通する可能性あり。推奨。回避」

「そんな事言われたって・・・」

 大量のエミール達の撃ち出す魔法弾、魔素を利用したレーザーの猛攻に防戦一方を強いられる2Bと9S。力と数に押され、防御することもできず避けるのがやっとだった。

「僕は・・・ボク達は・・・!!!」

 エミール達は叫ぶ。

「永遠・・・クルしい・・・イタイ・・・何で、コンナ・・・僕達だけ・・・もう・・・全部・・・殺してヤル!!こんな世界!!!要ラナい!!!」

「警告。敵性魔法兵器、魔素の放出量増加」

 悲痛な叫びと共に、エミール達は攻撃の勢いを増していく。

 度重なる増殖と、長年に渡る戦争で、自我の崩壊した彼らに2Bと9Sの姿など分からない。アンドロイドだろうと機械生命体だろうと、同じエミールだろうと、彼らは壊す。

「あいつらは・・・僕が決着を・・・つけないと・・・」

 エミールは起き上がろうとするが、スクーターの体は動かない。

「僕は!僕達は頑張ったよ!」

「雨の日も風の日も嵐の日も」

「たとえ仲間が死んでも、僕たちはくじけずに戦ったよ!」

「でも、永遠に続く戦争が、永遠に続く痛みが、ッフフ・・・永遠に続く苦しみが・・・僕達に叫ぶんだ!」

「この世界には守るべき価値が無いって・・・」

「こんな世界に意味はないって・・・ハハハッ・・・そう叫ぶんだよ!」

「フフフッ・・・ハハッ・・・ハハハハハハ・・・アーッハッハッハ!ハハハハアアアアアアアアア!!」

「お前に・・・お前達に・・・」

「この痛みが!!悲しみが!!絶望が!!」

「わかルカああアアあああああああああっ」

 

「だからって!!こんなの間違ってる!!」

 

暴走を続けるエミール達に、動けないエミールは1人叫ぶ。

「どんなに苦しくても、どんなに辛くても・・・あの人達は諦めたりしなかった。いつか乗り越えられると信じて、戦ってたんだ!そうですよね!?カイネさんッ!無駄だと分かっていても、やらなきゃダメなんだッ!だって、あの人が、守ろうとした世界なんだからッッッ!!」

「・・・・・・!!」

 暴れていたエミール達の動きが止まった。

 そして、彼らは1ヵ所に集まって・・・。

 

 ◇◇◇

 

 暴走したエミール達が融合炉を暴走させた。

 この地球はもはや生物の住める星ではなくなってしまった。

 

 NieR:Automata

 head[Y] battle

 

 ◇◇◇

 

 何やらいろいろと思い出したような気がする。イノシシの牙を手に入れるために頑張ったことや、巨大なイノシシと戦ったことや、鎧をつけたイノシシと戦ったこと。

 やたらイノシシに関する記憶が多いような気もしながら、今日もエミールはスクーターを走らせる。

「ふふふふーんふふふーんとぅらーりららーりーん」

 軽快な音楽と共にうろ覚えの歌を口ずさむ。

 そうして走っていると、衝撃と共にスクーターが軽く吹っ飛ぶ。

 空中で一回転して止まると、こちらに近づいてくる人が2人。

「ああ、2Bさん、9Sさん」

 最近知り合ったこのアンドロイド2人。毎回毎回こちらを攻撃して呼び止めてくることを除けば基本的には良い人達だ。

 商品の売買をして、少し雑談をする。どうして攻撃して呼び止めるのか聞いてみると、普通に呼び止めても止まらないからだと答えた。歌に集中し過ぎているのだろうか。

「じゃあ、私達はそろそろ行く」

「また素材が必要になったら来ますね」

「はい!またいつでもどうぞ!」

 2人のアンドロイドは歩き出す。方向からして、おそらくレジスタンスキャンプに戻るのだろう。

「今度は、助けるから・・・」

 去りながら2Bは何かを呟いたように聞こえたが、内容までは聞こえなかった。

「ふふふふーんふふふーん・・・」

 そうしてエミールはまた走り出す。

 今日も廃墟都市のどこかで、奇妙な歌声が響いていた。



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no [I] in team

アダム「奇行を繰り返すアンドロイド?えぇ・・・(ドン引き)」
2B「そっちも似たようなモンだと思う」
前回のYといい本文がなんちゃってシリアス続きなので前書きくらいはふざけたいと思った。


「これが・・・死か・・・」

 何もかもが真っ白な街で、血のようなものを流して1人の機械生命体は事切れた。

 

 レジスタンスキャンプのアネモネからの依頼で、補給に戻ってくるアンドロイド軍の空母の護衛のために水没都市の海岸沿いにある補給用のミサイルの近くまで来ていた。

 水没都市にいる機械生命体を一通り破壊すると司令官からの通信が入り、空母が機械生命体からの攻撃を受けていることを知る。

 バンカーから送られた飛行ユニットで空母まで向かう2人。

 そこに突如現れた巨大な機械生命体。廃工場、廃墟都市で戦った大型兵器よりもさらに巨大な機械生命体に苦戦するも、他のヨルハ部隊やパスカルに助けられながら巨大な機械生命体を撃破する。

 しかし、機械生命体が最後に爆発と共に起こした衝撃波で2Bと9Sは離れ離れとなる。

 レジスタンスキャンプのアンドロイド、「デボル」と「ポポル」から特殊なスキャナーをもらい、9Sを探して進んだ2Bは真っ白な街に着いた。

 真っ白な街を進んでいくと、エイリアンシップで会った機械生命体、アダムに会った。襲い掛かってくるアダムと戦っていると、彼は捕まえた9Sを2Bに見せた。街の高い所に磔にされ体はボロボロだが、かろうじて息はある。

「貴様・・・ッ!!殺す!!」

「そうだ・・・その感情、憎悪だ!来いっ!2Bイイッ!!」

 感情を荒げる2人の戦いは、2Bの勝利で幕を閉じた。

「暗くて・・・冷た・・・」

 最後に死を理解したかれは幸せだったのか、それとも・・・。

 アダムが動かなくなると、磔にされた9Sが地面に落ちた。

「9S!!」

 2Bは叫ぶ。

 

そして、彼女は9Sに背を向けて走り出した。

 

「2・・・B・・・?」

 かろうじて出る声で9Sは2Bの名を呼ぶ。しかし、彼女の足が止まることはなかった。

 真っ白な空間に9Sとポッドと、アダムの死体だけが残される。

 動くことのできない自分と、もう動くことのない彼。何が違うというのだろうか。

 9Sはただただ考える。

 2Bの奇行は今に始まったことではない。話す相手もいない、誰も聞いていないこの空間ではツッコミを入れる気にもならなかった。

 

 ◇◇◇

 

 2Bが去った後、9Sは数十年彼女を待ち続けた。

 しかし、2Bが姿を現すことはなかった。

 

 NieR:Automata

 no [I] in team

 

 ◇◇◇

 

 果たして彼女がいなくなって何年経っただろう。

 いつかきっと帰って来る。もしかしたら壊れてしまったパーツの代わりを探してくれているのかもしれない。そんな期待に意味などないと知りながらも、彼女が自分を見捨てる訳がないと9Sは信じたかった。

 何年も野ざらしにされた体はもう機能しない部分も多い。いつかきっと2Bが来てくれると使わなかった自爆機能すらもう動かない。自殺することもできず、代わり映えのしない真っ白な街をじっと見続けるだけの存在。ポッドも上手く動かなくなってしまった。

 9Sはこれまでのことを思いだす。

 2Bが自爆したこと、2Bが自殺したこと、2Bがアジを食べたこと・・・碌な思い出がない。

 2Bにお風呂に入ろうと言ったら、アンドロイドに入浴は不要だと言われたこともあった。あの時、彼女は天然なんじゃないかと思った。少なくとも、記憶に残っている彼女の奇行から、彼女が真面目だという考えには至らなかった。

 そういえば、ロミオ達とジュリエット達の続きがまだ見れていない。結末はどうなるのだろう。

 レジスタンスキャンプはどうなったのだろうか。バンカーはどうなったのだろうか。

 思い出に浸っていると、何故だかむなしくなってきた。

 今となっては彼女の奇行すら懐かしい。

 2Bに会いたい。オペレーターさんに会いたい。司令官に会いたい。誰でもいいから会いたい。

 いい加減、もう諦めるべきなのだろうか。

「・・・ポッド・・・お願い・・・」

「・・・了解」

 最後の力で、ポッドはレーザーを撃ち出す。

 レーザーは9Sを撃ちぬき、彼のOSチップを破壊した。

 

 ◇◇◇

 

「9S!!」

 そんな声が聞こえて、気がつけば9Sは優しく抱きかかえられていた。

「2・・・B・・・?」

 口を開けばかすれた声が出てくる。

 何故見捨てたのか、本来ならばそんな疑問を彼女にぶつけてもよかったのかもしれない。例え彼女が覚えていなくても、恨み言くらいは言ってもよかったのかもしれない。

 だが、そんな気にはなれなかった。それ以上に、誰かに会えたことが嬉しかった。数十年ぶりに、2Bに会えたことが嬉しかった。嬉しくて、思わず泣きそうになった。

 だからこそ、9Sは2Bの奇行について聞けなかった。2Bがレジスタンスキャンプに9Sを運ぶまでの間、お互い何も話さなかった。



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bad [J]udgment

個人的にパスカルにツッコミは無理だと思いました。


 9Sは修理のためにボディごとバンカーに打ち上げられることになった。ふと、月面基地に物資を打ち上げていたあの光景を思い出す。物資の中にボロボロのアンドロイドが紛れ込んでいたらトラウマになりそうだ。

 9Sがいないあいだ、2Bは司令部からの任務で機械生命体の動向を調査することになった。機械生命体のネットワークを管理していたアダムが死んだことで多くの機械生命体がネットワークから切り離された。それでも、脅威が去ったとは言い切れない。

 ポッドの提案で、パスカルなら何か知っているのではないかと連絡をとってみる。すると、廃工場にコロニーを作った機械生命体の集団がパスカルの村と同盟を結びたがっているという。2Bはパスカルの和平交渉に付き合うことに決め、現地で落ち合うことになった。

 

 廃工場に行くと、既にパスカルが待っていて、こちらに手を振ってくる。

「2Bさん、こんにちは。同盟を結びたい機械生命体はこの奥にいるそうです。しかし気をつけてくださいね。我々機械生命体は危険ですから」

「自分達が、危険?」

 2Bが聞き返すと、パスカルは頷く。

「ええ、客観的事実です。ネットワークから切り離された私達は、お互いの情報を共有していません。言葉を交わしても、本心とは違うかもしれませんので」

「・・・言葉、か」

 言葉を操る者は嘘をつく可能性がある。機械でもその事実は変わらない。

 

 廃工場の中に入ると、綺麗に整列した機械生命体達が2Bとパスカルを待っていた。そして、その中の1体が語り出す。

「ようこそ。神の宿る場所へ・・・」

「うるっさい!!ポッドォ!!!」

 機械生命体の言葉を遮る様に叫んだかと思えば、2Bはポッドに命令を下す。

「了解」

 突然の2Bの言動にポッドは淡々と反応し、レーザーを撃ち出す。

「我々に戦う意思は―――」

 何かを言おうとした機械生命体は、言い終わる前にポッドのレーザーによって爆発する。

 辺りがしんと静まる。

 他の機械生命体達も何か反応する暇もなく、ポッドの追撃や2Bの攻撃で次々に破壊されていく。

 部屋に残ったのは2Bとパスカルだけとなった。

「あのー、2Bさん?これは一体・・・?」

 パスカルが話しかけると2Bはハッとした様子で振り返った。

「いや、なんというか・・・条件反射で?」

「条件反射ですか。なるほど」

 アンドロイドには何やら変わった機能があるらしい。ツッコミという概念を知らないパスカルはそんな風に考えていた。

 

 ◇◇◇

 

 突然癇癪を起こした2Bによって機械生命体は全滅。

 アンドロイドとの間に和平が結ばれることはなかった・・・。

 

 NieR:Automata

 bad [J]udgment

 

 ◇◇◇

 

 パスカルが気がつくと、2Bが廃工場の中へと入っていくところだった。パスカルは慌ててその後をついていく。

「ようこそ。神の宿る場所へ・・・」

 廃工場の中では綺麗に整列した機械生命体達が2Bとパスカルを待っており、その中の1体が語り出す。

 はて、前にもこんなことがあったような。そんな事を考えるパスカルだったが、2Bが動き出す様子はない。気のせいだったのだろうか。

「こちらの通路をお進みください」

 機械生命体の案内で、彼らの「教祖様」がいる部屋に通される。

 部屋自体に電気はついておらず、機械生命体達が手に持っていたり部屋に置いてある松明の火がゆらゆらと揺れている。部屋の中央に作られた祭壇のようなものの上に1体の機械生命体が座っている。おそらく彼が教祖様だろう。

「あの・・・私、パスカルと申します。和平交渉についてお話をさせていただく為に・・・」

 パスカルが話しかけるが、教祖様は座ったまま動かず、返事もしない。

 2Bとパスカルが不思議思っていると、不意に教祖様の体がぐらりと揺れて、頭だけが祭壇から転がり落ちた。

「教祖様はカミになった!」

「カミになった!」

 驚く2Bとパスカルをよそに部屋にいる機械生命体のうち1体が叫び、それに合わせて他の機械生命体達も叫ぶ。

「教祖様はカミになった!」

「カミになった!」

「教祖様はカミになった!」

「カミになった!」

「私達もカミになる!」

「カミになる!」

「私達もカミになる!」

「カミになる!」

「君達もカミになる!」

「カミになる!」

「君達もカミになる!」

「カミになる!」

 叫びながら機械生命体達は2Bとパスカルを囲んでいく。

「皆で死んで、カミになる!!」

 そして彼らは襲い掛かってくる。そんな彼らを2Bは迎撃していく。

「やはり私の予想は的中したようですね。しかし興味深い・・・こんな特殊な思想を持つ機械生命体は見た事がありません。きっと貴重なサンプルとして・・・」

「いいから逃げるッ!」

 呑気に話すパスカルに2Bは叫ぶ。

 しかしながら、こんな結果になるのならば出会った時点で破壊したところで特に問題はなかったのではないだろうか。まあ、結果論に過ぎないのだが。

 そんな事を考えるパスカルだったが、2Bが聞いたら「さっさと逃げるッ!」と怒られそうな気がしたので口には出さないことにした。



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[L]one wolf

多分私はBでもCでもDでも「最後の戦いが始まった」って書くんだろうな。


 バンカーから機械生命体をハッキングした9Sの協力もあり、2Bとパスカルは廃工場から無事に脱出することができた。パスカルは村の雑用をするために村に戻り、2Bもレジスタンスキャンプに戻ろうとした直後、レジスタンスキャンプから通信が入る。

「こち・・・レジスタン・・・キャンプ!」

 通信から聞こえてくる音声にはノイズが混じっており、所々聞き取れない部分がある。

「通信状況が悪い・・・」

「電波障害を確認」

 2Bの呟きにポッドが答える。レジスタンスキャンプで何かあったのだろうか。

「・・・機械生命・・・この通・・・要請、頼む・・・」

 何やらただ事ではない様子に、2Bは急いでレジスタンスキャンプへと向かう。

 

 地獄絵図とはこういう光景を指すのだろう。

「いやだ・・・いやだああっ!」

「誰か助けてええっ!」

「早く逃げるんだっ!」

 燃えるレジスタンスキャンプ、逃げ惑うアンドロイド達、襲い来る機械生命体。外見も雰囲気も変わった彼らは逃げるアンドロイドを捕まえると、そのまま・・・。

「が・・・!あ・・・!」

「アンドロイドを・・・食ってる・・・」

 短い悲鳴をあげるアンドロイドに群がる機械生命体を見て、2Bは思わずそう呟いた。それはまるで、獣が獲物をむさぼっているようだった。唖然とするような光景だが、そのまま黙って見ている訳にもいかない。2Bは武器を握って機械生命体へと駆ける。

「2Bッ!」

 レジスタンスキャンプの奥に行くと、アネモネが銃を構えていた。

「大丈夫!?」

「急に奴らがキャンプになだれ込んできて・・・応戦したんだが、銃が効かないんだ!」

「敵個体からエネルギーシールドを確認。推奨、近接物理攻撃」

 アネモネの言葉を聞いて、ポッドが分析を開始する。

「わかった!貴方は他のアンドロイドを退避させて!」

 そう言うと2Bは不気味に変貌した機械生命体に斬りかかる。

 

 数分後、機械生命体を全滅させた2Bはアネモネの元へと向かう。

「ありがとう2B。助かったよ・・・」

 そう言うアネモネは大分疲れた様子だった。

「一体、何が?」

「わからない・・・奴ら、急にこの拠点に攻め込んできて・・・」

 次の瞬間、2人の会話を遮るように何かが地面にぶつかるような音と共に大きな揺れが起こる。レジスタンスキャンプの外から聞こえてきた音の正体を確かめるため、2Bはレジスタンスキャンプから出る。

 そこにいたのは廃工場から脱出する時に戦った、球体に蜘蛛のように足の生えた機械生命体だった。

「次から・・・次へと!」

 悪態をつきながら2Bは機械生命体に斬りかかる。しかし、斬っても斬っても機械生命体が弱まる気配はなく、さらに機械生命体は言葉にならない叫び声をあげて他の機械生命体を呼び寄せる。

「本当に、面倒臭い!」

 きりがない。このままだとジリ貧だ。そう思ってイラつき始めた時だった。

「2Bッ!」

 自分を呼ぶ声に上を向くと、上空から飛行ユニットに乗った9Sが現れた。

 9Sは空中で飛行ユニットから飛び降りる。無人になった飛行ユニットは急降下を続け球体の機械生命体に衝突し、爆発する。爆発に巻き込まれた機械生命体はようやく動かなくなった。

 空中で飛行ユニットから飛び降りた9Sは地面にぶつかり、バウンドしながら転がり倒れる。

「大丈夫!?」

 2Bは倒れた9Sを起こして支える。

「いやあ・・・命中して良かった・・・」

 そう言って9Sは立ち上がる。どこか傷を負った様子もなく、無事なようだ。

 しかし、ほっとする暇もなく、次の脅威が襲い掛かる。

「全部・・・全部、破壊してやルッ!!」

 球体の機械生命体の中からイヴが姿を現す。

 それを見た2Bは、

 

「じゃあ、あとは任せた」

 ポンと9Sの肩を叩いて明後日の方向に走り出した。

 

「ちょ、ちょっと2B!?スキャナータイプは戦闘は得意じゃないんですけど・・・ってそうじゃなくて!どこ行くんですか!?2B!2B!!ああ、もう!!」

 半ばヤケクソ気味に叫んだ9Sの言葉に返事をする者はいなかった。

 

 ◇◇◇

 

 全てに嫌気がさした2Bは任務を放棄し、その足で海岸に釣りに行く事にした。そうだ、漁師になろう。2Bの顔は晴れやかな笑顔になっていた。

 戦場から逃走して10年。2Bは機械生命体とヨルハ暗殺部隊の両方から狙われる身となった。だが、彼女はその逃避行を楽しんでいるようだ。

 

 NieR:Automata

 [L]one wolf

 

 ◇◇◇

 

「報告、アジ」

「またアジか・・・」

 水没都市の海に向かってポッドを投げ入れながら2Bは呑気に呟く。

 あれから10年。アンドロイドと機械生命体の戦いは未だに続いている。まあ、何百年と続いてきた戦争がたった10年で終わるとも思えないが。

 とはいえ、戦場から離れた2Bに戦争の現状などどうでもよかった。今日も彼女はのんびり釣りをして過ごす。釣りはいい。心が落ち着く。

「報告、アジ」

「えー・・・」

 どうにも水没都市で釣りをするとアジばかり釣れてしまうのが2Bの最近の悩みだった。アジを釣っても食べることなどできないというのにアジばかりが釣れる。はたしてアジに好かれているのか嫌われているのか。それでも何かに使えないかとアジを切り身にして程よく焼いているが、今のところ役に立つ使い方は思いつかない。

 そんな事を考えていると、後ろに気配を感じ振り返ってみると、数人のアンドロイドがこちらに武器を向けていた。服装を見る限り、ヨルハ部隊のアンドロイドだろう。

「脱走兵の2Bだな?」

 アンドロイドの1人が口を開く。

「もしかして、暗殺部隊?」

「分かっているなら話が早い。死ねえ!!」

 そう言ってアンドロイド達は一斉に襲い掛かってくる。

 2Bは彼女達の攻撃を躱しながら、その口に釣ったばかりのアジの切り身を押し込む。

「何を・・・!?」

 アジを無理矢理食わされたアンドロイド達は次々に機能を停止し、死んでいく。美味しいのに対アンドロイド抹殺兵器としての使い道しかないのが現状である。

 2Bはアンドロイド達が全員死んだのを確認すると、また釣りを続ける。釣りをして過ごし、時々機械生命体やアンドロイドと戦う生活。それはとても自由で充実していた。

「報告、アジ」

「・・・」

 いつまでもこんな日々が続けばいいのにと、そう願った。

 

 ◇◇◇

 

 気がつけば、2Bの前には壊れて動かなくなった球体の機械生命体がいた。そして、「命中してよかったです」と言いながら9Sが近づいて来る。

 さらには、「全部破壊してやる」と言いながら球体の機械生命体の中からイヴが現れる。

 全て自分が逃げ出す前と同じ状況だった。

「まあ、結局こうなるか・・・」

「2B?何か言いました?」

「いや、何でもない」

 そう言って2Bは武器を構える。

 アダムとイヴの兄弟の物語にエンディングを与えねばならない。

 そうして最後の戦いが始まった。



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flowers for m[A]chines

別に章分けをしている訳ではありませんが今回で1週目は終わりです。
次回から9Sが大活躍(?)する2週目に入ります。


「コロス、コロス、コロス、コロス」

 廃工場で機械生命体は言葉を発した。

「コノママジャ ダメ」

 砂漠の機械生命体達は変貌した。

「私は・・・私は・・・美しくなるんだっ!!」

 遊園地で機械生命体は叫び続けた。

「我らが森の王の為に!!」

 森の国の機械生命体達は守り続けた。

「私達、機械生命体は人類に興味があるんだ」

 複製された街で戦った機械生命体は貪欲だった。

「カミになるのだー!」

 廃工場の機械生命体達は信じ続けた。

 彼らの行動はどれも違った目的によるものだったが、彼らは皆必死だったように思う。

 

「誰かと一緒に行動出来るって、楽しいんです」

 一緒に行動したアンドロイドは喜んでいた。

「ちょっと好きだった先輩を食事に誘ったら断られちゃって・・・」

 自分をサポートしてくれたアンドロイドは一喜一憂していた。

「無事で良かった」

 部隊を指揮するアンドロイドはよく自分の身を案じてくれた。

 

 感情なんてないと思っていた機械生命体は、様々な感情を見せた。

 感情を禁止されたアンドロイドは、感情を隠そうとはしなかった。

 彼らは成長するが故に弱く、感情を持つが故に苦しみ、考えるが故に悩む。

 

 ◇◇◇

 

 アダムが死んだことで弟のイヴは暴走した。機械生命体のネットワークを統括する存在であるイヴの暴走。それはネットワークで繋がった全ての機械生命体の暴走を意味した。

「お前たちも思うだろう?こんな世界・・・意味がないって」

 イヴを止めるためにやって来た2Bと9Sにイヴは語る。

「俺にとっては、にイチゃんが・・・にいチャンダケガ・・・全部・・・消エテ無クナレッ!!」

 イヴの周りに機械生命体が集まっていき、イヴに近づくと次から次へとバラバラに自壊していく。壊れた機械生命体のパーツはイヴへと集まっていき、巨大な腕のような形を形成する。

「どうしてニイチャんを殺しタッ!!俺は・・・オレはッッ!!」

 巨大な鉄の腕を2Bに向かって叩きつけながら、イヴは叫ぶ。

 2Bはイヴの攻撃を躱しながら武器を構える。

 こうしてイヴとの最後の戦いが始まった。

 

 イヴとの戦いは熾烈を極めた。いくらダメージを受けようとも、ネットワークで他の機械生命体からエネルギーを吸い取り回復してしまうイヴに対して、9Sはハッキングでイヴをネットワークから切り離そうと試みる。

 暴走するイヴの攻撃は苛烈さを増す。2Bの武器は折れ、体のいくつかの機能は損壊し、思うように動けなくなる。

 それでも、最後は折れた刃をイヴに突き刺し、イヴは静かに倒れた。戦いは終わった。

 だが、イヴにハッキングした9Sの体はウィルスに侵食されてしまっていた。ウィルスを持ったままバンカーに帰る訳にはいかない。9Sは2Bに自分を殺すように頼んだ。

 バンカーにあるデータで復活することはできる。だが、それで「今」の9Sが戻ってくる訳ではない。

 だから2Bは迷った。迷ったが、ゆっくりと9Sの首に手をかけた。

 首を絞めると9Sの苦しそうな呻き声が聞こえ、2Bは手の力を強くする。しっかり殺せるように。迷わず殺せるように。

 やがて、9Sの体から力が抜け、彼は動かなくなった。

 そして2Bは泣いた。涙を流して泣いた。

 その時だった。1体の壊れた機械生命体の目が点滅する。するとそれに反応するように周囲の壊れた機械生命体達の目が一斉に点滅しだす。

 突然の現象に戸惑っていると、1体の大型の機械生命体が起き上がる。

 2Bが折れた武器を構えると、その機械生命体は慌てたようにこう言った。

「ちょ、ちょっと待って!2B!!」

「・・・君は・・・」

 機械生命体の発した声は9Sのものだった。

「僕、パーソナルデータを機械生命体側に残していたみたいで。なんか気づいたら周囲のネットワークの上で自我が再形成されたんだ。こうやって複数の自我が統合されていくのは貴重な体験だから記録しておきたいんだけど、まだ保存領域へのアクセスが出来てなくて、とりあえずこのあたりにある敵のメモリーに多重化して保存しておいた後に、僕が自分のボディに戻れた時に・・・」

「9S・・・」

 興奮した様子で早口に語る9Sだったが、2Bに名前を呼ばれ言葉を止める。

 

「よかった・・・」

「・・・うん」

 

 ◇◇◇

 

 機械生命体と私達アンドロイドを分かつモノは何だろうか。

 意思と感情を持つに至ったロボット達。

 彼らが死の間際に振り絞る、最後の叫びが今もまだ、私の中に残っている。

 

 NieR:Automata

 flowers for m[A]chines

 

 ◇◇◇

 

 9Sが目を覚ますとバンカーの自室だった。当然だが体はアンドロイドのものだ。

 何やら不思議な気分だ。見知らぬ誰かの記憶をずっと見ていたような、そんな気分。

 そんな奇妙な感覚に戸惑っていると、通信が入る。

「オペレーター21Oから9Sへ。聞こえてますか?」

「聞こえてますよー」

「司令官が呼んでいます。司令部まで来てください」

「了解しましたー」

 真面目で仕事以外の話はあまりしないオペレーターからの通信はすぐに切れた。9Sは先程までの感覚の正体については保留することにしてとりあえず司令部へと向かう。

 

 司令部で9Sは司令官からヨルハ降下作戦についての説明を受けた。

 廃工場の敵大型兵器を破壊するため、9Sは先行して現地の事前調査と防衛システムの解除をしろとのことだ。

 司令部を出た後、念のために飛行ユニットで地上へ向かう前に自分の体に異常がないかチェックする。

「あれ?・・・なんだ、これ?」

 チェックのために開いた各種項目。その中にまるで最初からあったかのように「エンディング」の項目があった。

 

 エンディング取得数 11

 

 消そうとしても消すことができない。ハッキングをしようとしても効果がない。まるで神の意思でも働いているかのようだ。

 体に悪影響を与えている訳ではないので、仕方なく9Sはそのまま地上へと向かうことにした。



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hun[G]ry for knowledge

どうしてこうなった。


 廃工場にて。

「ニイチャン・・・ニイチャン・・・」

 壊れて機能停止した中型機械生命体に呼びかけながら、小型機械生命体がその体を揺らす。

「ニイチャン・・・ウゴイテ・・・」

 中型の機械生命体は動かない。

「ニイチャン、マッテテ・・・」

 小型の機械生命体はどこからバケツを持ってきて、廃工場の壊れたパイプから漏れ出るオイルを汲んでくる。

「ニイチャン、モウダイジョウブ!」

 バケツに汲んだオイルを中型の機械生命体にかける。しかし、動かない。

「いくら油を差しても機械生命体に家族なんかできませんよ~」

 そんな様子を9Sは遠くから眺めていた。

 廃工場の現地調査をあらかた終えてデータを整理している最中、ふと上を見上げれば、6つの飛行ユニットが線を引いて飛んでいた。

「そろそろ始まりますね・・・」

 誰に言うでもなく、9Sはそう呟いた。

 

「オペレーター21Oから9Sへ。聞こえてますか?」

「聞こえてますよー」

 オペレーターからの通信に、9Sは軽く返す。

「ヨルハ部隊降下作戦が開始されました。速やかに敵拠点の防衛システムを解除してください」

「了解しましたー」

 通信が切れる。

 下を見れば飛行ユニットが置いてある。これに乗れば本格的に任務が始まるだろう。

「・・・」

 ふと気になって別の方向に目をむける。

 小型の機械生命体は懲りずに中型の機械生命体にオイルをかけていた。

 まったく理解に苦しむ。機械生命体に家族なんていない。どうせあの行動も人類の模倣にすぎないだろう。というかあの機械生命体はいつまでオイルをぶっかければ気が済むんだ。もうオイルまみれじゃないか。・・・あ、転んだ。オイルを地面にぶちまけた。・・・またオイル汲みに行った。いい加減学習したらどうなのだろうか。それとも学習する機能がないのか、あるいは学習する条件が違うのか、考えれば考える程機械生命体というのは興味深い。もしかしたらあの小型の機械生命体は中型の機械生命体のことを本当に自分の兄だと思っているのかもしれない。そういえば最近は戦わずに何もせずただ立っているだけの機械生命体も増えてきたと聞く。彼らは一体何を考えているのだろう。ああ、試しにあの機械生命体にハッキングでも仕掛けてみようか。彼?彼女?は一体何を考えているんだろうか。頭の中にあるのはやっぱり「ニイチャン」かな?それとも別の何かかな?それとも何も無いのかな?ああ、もう我慢できない。

 

 そして、9Sは動く。

 ただし、飛行ユニットとは別の方向へだ。

 

 ◇◇◇

 

「機械生命体に対する興味がもう抑えられないです。独立して好きに研究させてもらいます」

 そう言い残して、9Sは姿を消した。

 

 NieR:Automata

 hun[G]ry for knowledge

 

 ◇◇◇

 

「脱走兵の9Sだな、貴様には捕縛命令が出ている。だが、抵抗するようなら殺してもよいとも言われている。大人しく捕まるなら殺しはしない」

 薄暗い建物の中、ヨルハ暗殺部隊の1人である彼女は目の前にいるアンドロイドにそう言った。

 アンドロイドは口元をマスクで隠しているが、軽い感じでニヤニヤと笑っているのはよく分かる。

「えー、僕もうバンカーに戻るつもりはこれっぽっちもないんですよねー。だからちょっと貴女には彼女達と同じ目にあってもらいますね」

 そう言って9Sがある部屋の扉を開けると、彼女は目に映った光景に思わず顔をしかめた。

 部屋の中にはアンドロイドと機械生命体の死体であふれていた。ほぼ全ての死体が何らかの手を加えられており、綺麗な形の死体など1つもなかった。

「貴様・・・一体いくつのアンドロイドを・・・いくつの機械生命体を実験台に使ったんだ!?」

 彼女は9Sを睨みつけて叫ぶが、彼は気にする様子もない。

「アンドロイドは32、機械生命体は54でしたっけ」

「か、数えてたのか・・・!?」

「記録は大事ですよ?生きる糧になりますからね」

 あくまでも軽い感じで9Sはそう言う。

「き、貴様ァァッ!!」

 彼女は武器を構えて9Sに向かって駆ける。

 9Sは慌てることもなく、ポケットから取り出した霧吹きのような物で彼女に何かを吹きかける。

 空気感染するウィルスの類かと、口を手で覆うが、完全に防ぐことは出来ず、鼻や口に冷たい物が広がる。

 その瞬間、彼女の体は動かなくなり、その場に倒れてしまう。

「な・・・え・・・?」

「知ってましたー?研究して分かったんですけどアンドロイドってアジに弱いんですよー。アジ、知ってます?魚のアジです。この霧吹きにはアジの体液を抽出したものをいれてるんです。僕みたいにちゃんと対策しとかないと、体内に入ったらもうアウトなんですから」

 彼女は何か言おうとしたが、もう口が動かない。

「さあて、今度はどんな実験をしようかなー?」

 そんな彼女を見て9Sはニヤリと笑った。

 

 ◇◇◇

 

「9S?9S?」

「・・・あれ?」

 気がつけば9Sは廃工場にいた。さっきまで何やらハイになっていたような気がするが、気のせいだろうか。

「9S?聞こえていますか?」

「え?ああ、はい。聞こえてます」

「聞こえているなら最初から返事をしてください」

「ご、ごめんなさい」

 怒られてしまった。

「まったく・・・通信エラーかと思いました・・・」

 文句を言う割にはどことなくほっとした様子が窺える。

「・・・もしかして、心配してくれたんですか?」

「ええ、貴方がいなければ作戦に支障がでますからね。ヨルハ降下作戦が開始されたので速やかに敵拠点の防衛システムを解除してください」

「了解しました」

 通信が切れる。もう少し柔らかくなってもいいんじゃないかなと考えながら、9Sは飛行ユニットに乗る。

 飛行ユニットに乗りながら、自分に異常がないか気になって、飛ぶ前に軽く自分のメンテナンスをする。

「・・・どこにも異常はなし。さっきのは夢だったのか?・・・あれ?」

 

エンディング取得数 12

 

「・・・増えてる?」

 




アネモネ「最近アンドロイドも機械生命体も無差別に襲うアンドロイドがいるらしい。お前も気をつけた方が良い」

パスカル「なんと、恐ろしいですねえ」

あるいはこうなる予定でした。どっちみち9Sはマッドサイエンティストまっしぐらですが。


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mission [F]ailed

2週目限定のエンディングは3つしかなく、序盤に2つ、通常エンド1つという配置のため、道中は丸ごとカットです。


 廃工場の防衛システムの解除に成功した9S。

 しかし、廃工場に突入する予定だったヨルハの攻撃部隊はほとんど全滅。ただ1人残った2Bと合流することになった。2Bと出会った時、彼女は巨大な丸ノコのような兵器と戦っていたが、これは目標の大型兵器ではないらしい。目標を探すため、飛行ユニットに乗っている9Sは廃工場の外側から、2Bは廃工場の中を探すこととなった。

 

 ポッドからの報告で2Bが目標の大型兵器との戦闘を開始したことを知り、9Sは援護に向かう。それは巨大な丸ノコを腕として振るう、さらに巨大な機械生命体だった。

 9Sはハッキングによって敵の撃ち出したミサイルの制御を奪い、撃ち返すことに成功する。しかし、ミサイルの爆発にもひるまず、敵は巨大な腕を2Bに向かって振り下ろす。

「ブーストッ!!」

 飛行ユニットのスピードを急激に上げ、9Sは敵の腕に突撃する。飛行ユニットがぶつかった衝撃で振り下ろされた腕が2Bを叩き潰すことはなかった。しかし、飛行ユニットの態勢を立て直すことができず、迫りくるもう片方の腕に対して躱すことも防御することもできなかった。

 敵が振り上げた腕に打ち上げられ、飛行ユニットから切り離された9Sの体は敵の体の上に叩きつけられる。

 

「ここは・・・」

 9Sの意識は真っ暗な空間で目覚めた。暗闇が周りを覆い、音も聞こえないが、ハッキングでデータの中に侵入している時の感覚に似ている。

「リカバリーセクタ。各ブロックのアクセス不良を解除せよ」

 意識の中に直接ポッドの言葉が届く。ああ、そうか。ここは自分のデータの中かと9Sは理解する。ならば、早く解除して意識を復活させねば。

 

 ・・・。

 

 ・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・。

 

「・・・迷った・・・」

 さっぱり分からない。自分は今どこを通っているのだろう。さっきから壁にぶつかってを繰り返して全然先に進んでいない。まさか自分のデータの中で迷子になるとは思わなかった。数分間ただひたすらに迷い続け、うろうろと自分のデータの中を行ったり来たり。段々と意識が薄れてくる。・・・あれ、そういえば、壁に沿って行けばそのうち目的の場所にたどり着いたのでは。こんなに無意味にうろうろする必要もなかったのではないか。

「・・・あ、もう限界・・・」

 9Sの意識が途切れる。

「ブラックボックス信号停止。9Sの死亡を確認」

 真っ暗な空間に、ポッドの無慈悲な言葉だけが残った。

 

 ◇◇◇

 

 超大型兵器を繰り出す機械生命体にヨルハ部隊は劣勢を余儀なくされる。

 ヨルハ部隊の壊滅も時間の問題だろう。人類の栄光への道は途絶えた。

 

 NieR:Automata

 mission [F]ailed

 

 ◇◇◇

 

「・・・あれ?」

 気がつけば9Sはバンカーの自室にいた。

 確か自分は作戦のために廃工場の現地調査に行ったはずだ。

「・・・ポッド、状況説明」

 ポッドが言うには、現地調査と廃工場の防衛システムの解除を終えた9Sはヨルハ部隊の2Bと合流。協力して敵大型兵器の破壊に成功するも、敵は1体ではなかった。最後の手段として2Bと9Sはブラックボックスを使って自爆したとのことだった。

 

 アンドロイドはバンカーへ自身のデータをアップロードすることによって、死んでも記憶を引き継いで復活することができる。しかし、今回の作戦では2人分のデータを送っている時間は無く、2Bのデータのみをバンカーに送ったため、9Sには2Bと会ってからの記憶がなかった。

 バンカーを歩いていると2Bに出会いお礼を言われたが、9Sにはいまいちピンとこなかった。

 

 さらにバンカーを歩いていると、オペレーターの21Oが何かを壁に張っていた。

「オペレーターさん?何してるんですか?」

「9Sですか。司令官からの命令でバンカーに張り紙を張って回っているところです」

 なんとなく、壁に張られた紙を見てみる。

 

 注意事項

・OSチップは特別な理由がない限り外さないこと。

・バンカー内での自爆は如何なる理由があってもしないこと。

・アジは絶対食べないこと。

 

「・・・なんですか、これ?」

「命令を出したのは司令官ですから。私には分かりかねます」

「メールで全ヨルハ部隊に伝えればいいだけじゃ・・・」

「常に見えるようにしておきたいそうですよ。変な行動に走らないようにするためだとか」

 21Oは淡々と答える。疑問はあるものの、考えないようにしているといった感じだ。

 しかしながら、司令官は一体何を考えているのだろう。意味もなくOSチップを外したりバンカーで自爆したりするようなアンドロイドがいると本気で思っているのだろうか。

「ところで、暇なら張り紙の貼りつけを手伝ってくれませんか?」

「え!?いやー・・・実は僕これから任務で・・・」

「オペレーターにその嘘のつき方は意味ないですよ?」

「うぐ・・・分かりました・・・」

 がっくりと肩を落としながら9Sは21Oの作業を手伝う。

 この後9Sは2Bの起動セットアップ、地上のレジスタンスとの合流、砂漠の機械生命体退治、遊園地でのアンドロイド失踪、平和を愛する機械生命体の村、既に絶滅していたエイリアン、森の国での戦い、海に現れた巨大な機械生命体など、様々な出来事を経験することになる。

 しかし、それらは全てここでは描かれることのない別の話だ。



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or not to [B]e

これにて2週目終了です。次回から3週目に入ります。


「誰か 私を 認め て」

 それは、ボーヴォワールが誰かに望んだ願いだった。

「守ってやんなきゃな・・・」

 それは、森の国の機械生命体達が内側に秘めた決意だった。

「おかあさん。おかあさん」

 それは、グリューンの誰にも伝わることのない叫びだった。

「『憎悪』こそが生きる意味なんだよ・・・」

 それは、兄が弟には決して見せなかった欲望だった。

 

 形は違えど、それらは最後まで内側だけに抱えたモノだった。

 

 ◇◇◇

 

 複製された街でアダムに捕らえられた9Sはバンカーでデータオーバーホールを行うことになった。

 オーバーホールとは、機械製品を部品1つ1つまで分解して清掃した後、もう1度組み立て直し、新品同様の状態に戻すことである。今回の場合、9Sのデータに対してオーバーホール作業をすることになる。

 自己に対するハッキングの要領で、9Sは1つ1つのデータをチェックする。

「ふうっ・・・ようやく全部のチェックが終わった・・・。データオーバーホールとか、やり過ぎだよ」

「機体9Sは敵に鹵獲され長時間の操作不能状態にあった。その間に敵の論理ウィルスの潜伏を許してしまった可能性が・・・」

「わかったわかった」

 ポッドの言葉を適当にあしらい、9Sはバンカーのサーバーへと向かう。最後にサーバーにデータを同期させればデータオーバーホールは終了だ。

 しかし、データの同期を始めたところで空間が一瞬ブレた。

「何・・・今の?」

「不明」

 データ内に生じたノイズに9Sは思わずデータ同期を中断する。

「警告、データ同期は全ヨルハ機体の義務工程」

「不明瞭なノイズがあったからね。2Bのデータ同期プロセスも一旦保留しておいて」

「了解」

 ポッドに指示を出した後、9Sはノイズの原因を探すためにサーバーへと侵入した。

 

 サーバーのデータを調べると、奇妙なことに気がつく。月面基地に送られる大量の空のコンテナ、塗り潰されたアンドロイドのブラックボックスに関するデータ。そして、ヨルハ計画の内にあった月面の人類会議設立の項目。これではまるで・・・。

 考えるような暇もなく、突然、空間がブレる。誰かに見つかったかと身構える9Sだったが、そうではなく2Bからバンカーへの緊急援護申請だった。

 サーバーから自分の体へと戻る9S。通信でオペレーターから話を聞くと、廃工場に多数の機械生命体の反応が確認されたらしい。

 9Sは急いで2Bの援護に向かった。

 

 ◇◇◇

 

 バンカーの大型ターミナルを使い廃工場にハッキングを仕掛け、2Bを廃工場から脱出させることに成功した9Sはその後、司令官の呼び出された。

「・・・君がメインサーバーにアクセスしていた痕跡が残っていた」

 司令官の言葉に問い詰めるなら今しかないと9Sは考えた。

「・・・その事で聞きたいことがあります。司令官」

 

 司令官の口から出たのは虚しくなるような真実だった。

 人類など存在しない。月にあるのは僅かに残った人類の遺伝子情報だけだ。

 興味があるなら見てみるといいと、司令官は9Sにヨルハ計画に関するデータを渡す。

「自分で決めるんだな・・・これから、どうするか」

 そう言って司令官は去っていった。

 

「人類が・・・もういない・・・」

 自室で考える9S。

「2Bに、何て言えば・・・」

 次の瞬間、警報と共にバンカーが赤い光に包まれる。

「緊急指令。コードF2。全ヨルハ部隊は速やかに戦闘配置に就いてください。繰り返します・・・」

 バンカー中に放送が鳴り響く。

「戦闘配置・・・行かなきゃ!」

 

 レジスタンスキャンプ付近にいる2Bの援護。それが9Sに与えられた指令だった。

 アダムの死によって弱体化したはずの機械生命体の暴走。原因は不明だがとにかく2Bの元に急がねばと9Sは飛行ユニットに乗り込んだ。

 

 ◇◇◇

 

 イヴとの最終決戦。イヴにハッキングを仕掛けた9Sは彼の心を見た。

「ねぇ・・・にいちゃん・・・ぼく、たたかう事は嫌いじゃないよ・・・だけど、にいちゃんが傷つくのはイヤだよ・・・にいちゃんが居なくなるのは・・・もっとイヤだ・・・だから、ふたりで、どこか、静かな場所に・・・」

 

 それは、彼の内に秘めた思いだったのだろう。決して兄には告げることのなかった。

 

 静かに倒れるイヴを見て、9Sは何を思ったのだろう。

 

 ◇◇◇

 

 こうやって、アダムとイヴを巡る最後の戦いは終わった。この戦いは戦局に大きな影響をもたらすだろう。僕と2Bの戦いもこのあとまだしばらく続くんだけど・・・それはまた、別の話。

 

 NieR:Automata

 or not to [B]e

 

 ◇◇◇

 

 バンカーの自室にいる9Sのところへ2Bがやって来る。

「ああ、2B・・・待ってたよ。これを渡しておく」

 9Sは2Bにいくつかのアイテムを渡す。

「2B・・・いや、何でもない・・・気をつけて」

 その言葉を最後に、2Bは部屋から出ていった。

 

 機械生命体のネットワークを管理していたアダムとイヴの死によって、機械生命体達は弱体化した。これから、ヨルハ部隊は機械生命体の殲滅に移る。この作戦をもってアンドロイドは戦争に勝利し、人類は地球を取り戻すのだ。

 だが、その人類は既に滅亡している。

 結局、9Sはその事実を2Bに伝えることができなかった。

 伝えてしまえば、2Bはどうなるのか分からない。絶望して自殺するのか、それとも平然としているのか。人類がいないという事実を知って、戦うことを諦めてしまうのではないか。だが、人類がいないのだとすれば、一体どうして存在しない人類なんかのために自分達は戦わなければならないのか。

 伝えてしまうべきなのか、黙って自分の中にしまっておくべきなのか。9Sは悩んだ。

 

 そして、その事実を2Bに伝えることは、最後まで無かった。



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just y[O]u and me

基本的に投稿する時は不安でいっぱいです。


 アダムとイヴの死によって敵の指揮系統は一時的な混乱状態にある。この好機を逃さず、人類軍は機械生命体に対して総攻撃をかける事が決定された。

 これが最後の作戦となるだろう。2Bは飛行ユニットで地上へと向かった。

 

 ◇◇◇

 

「・・・以上が命令です。理解できましたか?」

 9Sは他のヨルハ部隊よりも一足先に地上に来ていた。通信越しにオペレーターの21Oの声が聞こえてくる。

「えーっと・・・僕達スキャナー部隊は、総攻撃に備え、敵の防空システムをハッキングで麻痺させる」

「その通りです。良く出来ました」

「なんか・・・子供扱いされてる?」

「気のせいです」

 そう言って通信は切れる。

 結局2Bに真実を告げることはできないままに、最後の作戦が始まってしまった。迷いや悩み、気になることはいろいろあるが、まずは集中して任務をこなすとしよう。

 ・・・しかしながら、集中しようとすると余計な事を考えてしまうというのもよくあること。家の鍵かけてきたかな?ガスの元栓閉めてきたかな? なんてことは9Sは考えたりはしないものの、気になることがないという訳ではないのだ。アンドロイドにだって気になることはある。

(そういえば、ロミオとジュリエットの話は結局どうなったのだろう?)

 ふと、そんな事が頭の中をよぎった。

(あれ?よく考えたら見に行こう見に行こうと思って結局行く暇がなかったんだよな・・・)

 そして、1度余計な事を考えるとなかなか頭から離れないのもよくある話。9Sの頭の中はもうロミオとジュリエットでいっぱいだった。防空システムを受信している機械生命体を探している時も、機械生命体にハッキングを仕掛けている時も、頭の中でロミオとジュリエットが繰り返しセリフを叫んでいる。

 そんなアホみたいな事を考えていると21Oから通信が入ってくる。さすがに通信中は余計なことは考えないようにしなくては。

「今回の作戦では、他のスキャナー部隊員も総動員されています。私達も遅れをとらないようにしなければ」

「はーい。遅れをとらないようにしまーす」

 軽い返事をするのは決して頭の中で別の事を考えているからではない。決して遊園地やロミオとジュリエットのことを考えているからではないのだ。信じてほしい。

「9S。戦闘中はなるべく当該エリアから離れてください」

 そんな9Sの事情などモニターの向こうの21Oに伝わる訳などなく、21Oは構わずに話を続ける。

「それじゃあ、支援出来ませんけど」

「貴方のようなスキャナーモデルは戦闘向きではありません」

「あれ?心配してくれてるんですか?」

「いえ。戦場にいても足手まといなだけですので」

「酷すぎる」

 通信が切れる。とりあえず変なことを考えていたことはバレていなかったと信じたい。

 

「ふうっ・・・これで分担は全部かな」

 指定されていた最後の機械生命体へのハッキングを完了させる。後は他のスキャナーモデルが全員ハッキングを終わらせれば総攻撃が始まるだろう。

 さて、ならば遊園地に行くとしよう。オペレーターさんも戦闘中は離れてろって言ってたし問題ないよね?

 

 ◇◇◇

 

 一部のヨルハ機体が作戦を放棄した。その結果アンドロイド群は崩壊し地上は機械生命体の楽園となった。

 逃げたヨルハ機体の行方は今もわからないままだ・・・

 

 NieR:Automata

 just y[O]u and me

 

 ◇◇◇

 

「え?もうやってないんですか?」

「ヤッテナイヨ。最近ミンナオカシクナッテキタシ、毎度毎度バクハツサセテタラ身ガ持タナイシ」

「そ・・・そんなぁ・・・」

 

 気がつけば9Sは廃墟都市のビルの上に立っていた。

「なんてことだ。もう劇はやってないなんて・・・ロミオ達とジュリエット達はどうなったんだ!?」

 9Sは頭を抱える。

「ロミオ?ジュリエット?9S、さっきから何を言っているのですか?」

「え、えぇ!?いや、何でもありません!」

 まさかの通信中であった。油断していた。なんとか誤魔化さねば。

「はあ・・・話を聞いていましたか?命令の内容、ちゃんと言えます?」

「もちろん。敵の防空システムをハッキングで麻痺させるんですよね」

「ちゃんと理解しているようで安心しました。偉いですね」

「やっぱり子供扱いされてる?」

「気のせいです。では、よろしくお願いします」

 通信が切れる。一応誤魔化せたようだと思いたい。

 前回と同じように機械生命体をハッキングしていくと、通信が入ってきた。

「11Sより9Sへ。聞こえますか?」

「聞こえますー」

 11S。9Sと同じスキャナーモデルのアンドロイドだ。

「こちらの担当分作業は全て終了。そっちはどう?」

「こっちも・・・あと1つかな」

「了解。あと、バンカーに戻ったらデータ同期をしておいて」

「あ・・・忘れてた」

 そういえば、あれからずっと2Bのデータも含めてデータ同期をしていないままだった。

「君の戦闘データが未納だから、スキャナーモデル全体がアップデート出来ないんです」

「了解。この作戦が終了したら対応する」

「頼みましたよー」

 通信が切れる。正直に言って謎のノイズやらサーバーで見たデータやらで気は進まないが、やるしかない。気になることは未だ気になることのままであるが、今は作戦に集中しよう。そんな事を考えながら最後の機械生命体へのハッキングを済ませた9Sは、戦闘のサポートへ向かうのだった。



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corru[P]tion

オリジナルの部分よりも元々のストーリーをどう書くかが1番悩む所です。


 機械生命体に対する総攻撃によって長く続いた機械生命体とアンドロイドの戦争は終わりを迎えるはずだった。

 2Bは遊撃部隊として各地で戦うヨルハ部隊の援護をしながら戦場を駆けていた。機械生命体を破壊していき、他のヨルハ部隊も遊撃に加わってあらかた片付いたかと思われたその時だった。

 新たに出現した機械生命体達による至近距離からのEMP攻撃(核爆発や雷などによって発生するパルス状の電磁波を利用した攻撃)によって2B達は機能停止に追い込まれる。

「2Bッ!?」

 駆け付けた9Sが機械生命体との戦闘を開始する。2B達が再起動するまでの時間を稼がねば。

 

 機械生命体を全て破壊すると、機能停止して倒れていた2B達が起き上がる。だが、9Sが安心したのも一瞬のこと、すぐに次の絶望はやってきた。

 起き上がったアンドロイド達が突如として苦しみだす。

「これは・・・広域ウィルス!?・・・さっきのEMP攻撃がトリガー!?」

 9Sはウィルスを取り除くためにアンドロイド達にハッキングを仕掛けていく。ハッキングの甲斐あって2Bはなんとか正気を取り戻す。

 だが、他のアンドロイド達の様子がおかしい。

 笑い声をあげながらこちらを見る彼女達の目は、機械生命体と同じように赤く光っていた。

 襲い掛かってくるアンドロイド達と戦う2Bと9Sだったが、数が多すぎる。さらに機械生命体による妨害電波によってバンカーに連絡をとろうとするが繋がらない。

 段々と追い詰められていく2人。

 最後の手段として、2Bと9Sはブラックボックスを使って自爆した。周りのアンドロイド達をまとめて破壊するために。そして、連絡のとれないバンカーに戻るために。

 

 ◇◇◇

 

 バンカーで再起動した2人は司令部へと向かった。

 司令官に地上での出来事を報告するが、「そんな報告は上がっていない」と信じてもらえず、さらにはウィルスに汚染しているのは2B達の方ではないかと疑われてしまう。

 だが次の瞬間、司令部のアンドロイド達が苦しみだしたかと思えば、地上で見たのと同じ赤い目をこちらに向けていた。赤い目の彼女達は、司令部に残っていたアンドロイドはもちろん、本来戦闘型ではないオペレーター達も、皆一斉に襲い掛かってくる。

 既にバンカーもウィルスに汚染されていたのだ。状況が呑み込めていない司令官を連れて2Bと9Sは脱出を計る。

「どうして、お前達二人は汚染されていないんだ?」

 逃げる途中、司令官がそう呟いた。

「・・・おそらく、僕がデータ同期を保留していたからです。以前、バンカーのサーバーデータにノイズがあったので、それが気になって・・・」

「・・・そうか」

 思えば、その時から既にウィルスは仕掛けられていたのかもしれない。

 アクセスユニットが汚染されているため転送装置が使えず、3人は飛行ユニットの格納庫に入る。

 飛行ユニットに乗ろうする2Bと9Sだったが、突然司令官が足を止める。

「司令官!早くッ!!」

「私は・・・行けない」

 2Bの言葉にも動かずにそう言う司令官の目は、赤く光っていた。

「私も・・・サーバーとデータ同期をしていたからな・・・」

「でも、それなら9Sが・・・」

「そんな時間はないッ!!お前達二人は、最後のヨルハ部隊なんだ!生き残る義務がある!それに、私はこの基地の司令官だ。せめて最後まで上官らしく、いさせてくれ・・・」

 爆発音が聞こえてくる。もう、時間がない。9Sは2Bの腕を掴んで引っ張る。

「司令ッ!!!」

「行けええっ!!2Bッ!!」

 

 ◇◇◇

 

 飛行ユニットでバンカーから脱出する2Bと9S。だが、ウィルスに侵されたアンドロイド達も飛行ユニットで追ってくる。2人は迎撃に移るが、同じ性能の飛行ユニットだ。数の差で不利なのは明白。このままでは地上まで逃げ切る前に2人とも死んでしまうだろう。

「9S!機体制御を貸して!ここを突破するッ!」

「わ・・・わかった・・・」

 9Sの飛行ユニットの制御を受け取ると、2Bは9Sの機体を遠くに飛ばす。遠く、ここからできるだけ遠くに。

「・・・え!ちょっと待って・・・何これ・・・そんなッ・・・2B!!」

 9Sの叫びを背に、2Bはただ1人囮となる。

 

 1人になった2Bはアンドロイド達の集中攻撃を受ける。機体にダメージを受け、飛行ユニットが爆発して強制的に飛行ユニットから外される。

 爆発の衝撃ですさまじい勢いで地面に叩きつけられる。頭を動かすと海が見える。どうやら水没都市に落ちたようだ。

 周りに機械生命体が集まってくる。

 痛む体を無理矢理起こし、武器をとって戦う。

 なんとか機械生命体を破壊するが、なにやら苦しさを感じる。

「警告、ウィルス汚染を感知。推奨、早急なワクチン投与」

 ポッドの無機質な言葉が響く。ワクチンなんて持っていない。バンカーにも戻れないから死んで新しい体で復活することもできない。ならばせめて、他のアンドロイドに汚染を広げないようにしなければ。

「ポッド。アンドロイドの反応が少ない地点を」

「検索・・・報告、商業施設の廃屋付近が該当」

 重い体を引きずって2Bは歩く。痛み、苦しみ、機能に異変を起こしている体はもう走ることはできなかった。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 どれだけ歩いただろう。機械生命体に邪魔され、奴らの攻撃を上手くよけることもできず、地面を転がり、起き上がって、また歩く。戦う力はもう残っていない。そうしている間にも体の機能はどんどんウィルスに侵食されていき、体はどんどん思うように動かなくなっていく。熱い。体が熱い。ここまでの苦しさを感じるのは初めてかもしれない。ああ、もう頭も動かなくなってきた。ここは何処だろう。私は誰だろう。何で歩いているんだろう。私は・・・わた・・・し・・・わ・・・・・・・・・

 

 ◇◇◇

 

 ウィルスは2Bの中枢神経にまで入り込んでいた。

 理性を失った彼女は動力の無くなるまで廃墟をさまよい続けた。

 

 NieR:Automata

 corru[P]tion

 

 ◇◇◇

 

 気がつけば商業施設に続く橋の前に2Bは立っていた。相変わらず体は痛むし頭はクラクラするし異様な発熱を感じるが、まだ理性は働いている。まだ、自分の意思で動くことはできる。

 彼女は1歩1歩、ゆっくりと橋の上を歩く。

 

 進む度に、本当の意味での終わりが近づいているのを2Bは感じていた。



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time to rela[X]

今更ですが、この小説にはキャラ崩壊が含まれている可能性があります。


「よくも、よくも王様を!」

「王様の敵だ!」

 森の国では機械生命体達が1人のアンドロイドに襲い掛かっていた。

「苦しいのが、お前達だけだと思うなッ!!」

 アンドロイドは襲い来る機械生命体達を次々と破壊していく。

 機械生命体に対するアンドロイドの総攻撃やウィルス汚染されたヨルハ部隊などとは全く関係無いところで、もう1つ別の戦いが繰り広げられていた。

「・・・こんなものか」

 周囲の機械生命体を破壊し、残った残骸を見つめながらそのアンドロイド、A2は呟いた。脱走兵として同じアンドロイドからも狙われる彼女だが、彼女の敵はアンドロイドだけでない。例え1人になっても彼女は機械生命体と戦い続けていた。

 敵を倒したからといって一休みする暇などない。ここは森の国。よそ者に対する敵意は他の場所に比べてずっと強い。

 瞬間、気配を感じてA2は振り返る。新たな機械生命体が現れたかと思ったが、A2の目に映ったのはアンドロイドだった。バンカーからの暗殺部隊かと思ったがどうにも様子がおかしい。機械生命体のように赤く目が光っている。

 こちらを見るなり襲い掛かってくるそのアンドロイドをA2は手に持つ武器で叩き斬る。様子がおかしかろうが襲ってくるなら容赦はしない。

 だが、どうやらアンドロイドは1人だけではないようだ。新たなアンドロイド達が次々に現れる。その誰もが皆目を赤く光らせている。まるで仲間を増やそうとしているかのように、彼女達はA2に襲い掛かる。

「うっとおしい・・・」

 面倒臭そうに呟きながらA2はアンドロイド達を斬っていく。それにしても、このアンドロイド達はどこから現れているのだろう。アンドロイド達を斬りながら、A2は彼女達のやって来る方向へと進んでいく。

 

 ◇◇◇

 

 2Bは今にも倒れそうな足取りで、長い橋の上を歩く。目指すは商業施設。比較的アンドロイドの少ないその場所で、自らの命の最期を迎える為に。

 ようやく商業施設の建物の入り口にたどり着いたが、そこに2人のアンドロイドが現れる。2Bは武器を握るが、立っているだけで精一杯で、武器を振るうだけの力はもう無かった。

 アンドロイドが2Bに向かって刀を振り下ろそうとしたその瞬間、衝撃が走って2Bは後ろによろめいて地に膝をつけ倒れる。2Bの目に映ったのは、アンドロイドの首を斬り飛ばすA2の姿だった。

 A2が振り向き、目線がぶつかる。

「A・・・2・・・?」

「・・・いや、違うからな?」

 こちらを見たA2が唐突に口に出したのは弁解の言葉だった。

「おかしなアンドロイドを追いかけてここまでやって来たら偶然お前がいただけで決してお前を助けるために動いた訳じゃないからな?あー、なんか散歩がしたくなってきたな・・・じゃ」

 まるで照れ隠しのように早口にそう言って早足で橋を渡って去っていくA2。2Bは「A2ってあんな性格だったっけ?」と思いながらその背中を見送る。

 2Bは立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。もう、歩くこともできないまでにウィルスの侵食は進んだらしい。

 ふと前を向けば、新たに赤い目のアンドロイド達がここに集まってくるのが分かる。

「まあ、死ねば死に方は関係ないか・・・」

 どの道自分はここで死ぬのだ。ウィルスに侵食され尽くして死のうが、アンドロイドに殺されようが、機械生命体に殺されようが、自分が死ぬことに代わりはない。

 自分に近づくアンドロイド達の足音を聞きながら、2Bは静かに目を閉じた。

 

 ◇◇◇

 

 A2は急に少しだけ散歩がしたくなった。

 満足した頃には、2Bは機械生命体にかじり尽くされて無くなっていた。

 

 NieR:Automata

 time to rela[X]

 

 ◇◇◇

 

 2Bは気がつけば橋の前に立っていた。

「・・・き、気持ちが悪い・・・苦しい・・・熱っぽい・・・絶対ウィルスにやられてる・・・」

 ウィルス違いな言葉を吐きながら、2Bは倒れないように足に力を入れる。肉体的にも精神的にも今までで1番辛いやり直しだ。なにせ目が覚めたと思ったら体のほとんどをウィルスに侵食されているのだ。目覚めと同時に意識を手放したくなってくる。

 まったく、自分が何をしたというのか。悪い事なんて何も・・・いや、悪いことはしたな。パスカルの村を滅ぼしたり任務放棄とかしたな・・・。

 とにかく疲れ切ったように重い体を無理矢理動かして2Bは商業施設へ向かう。

 商業施設まで行くと、前回と同じようにアンドロイド達が現れる。そして、前回と同じように現れたA2がアンドロイドの首を刎ねる。前回と違うのは、さらに集まってきたアンドロイドとA2が戦闘を始めたところだ。

 A2は周りのアンドロイドを全滅させて2Bの方を見る。

「ここ・・・まで・・・かな・・・」

 目を覆う戦闘用のゴーグルを外し、2BはA2を見つめる。その目は機械生命体と同じように赤く光っている。

 持っている刀を地面に突き刺す。

「これは、私の・・・記憶。みんなを・・・未来を・・・お願いするね・・・A2」

 アンドロイドは外部の記憶領域として、自身の持つ武器に記憶をデータとして入れておく事ができる。武器を渡すことで記憶を相手に伝えることができるのだ。

 2Bは自分の記憶をA2へと渡す。彼女は自分の全てをA2へと託した。

 

 当然、エンディングのことも。

 

 A2は刀を地面から引き抜いて、そして・・・



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[Q]uestionable actions

昔々あるところに、1人の小説がいました。
その小説はシリアスにもギャグにもなりきれず、
微妙な立ち位置でいつもフラフラしていました。


 2Bによって戦場から強制的に離脱させられた9S。

 彼の飛行ユニットはどんどん2Bから離れていき、現在、廃墟都市の上空を飛んでいた。

「早く2Bのところに戻らないと・・・!」

 9Sは何とかして飛行ユニットから出ようともがく。

 そんな時だった、どこから現れたのか、1体の飛行タイプの機械生命体が飛行ユニットに向かって弾を撃つ。するとなんということだろう。当たり所が悪かったのか、それとももがいている時に当たったのが悪かったのか、飛行ユニットに弾が当たった瞬間、9Sは飛行ユニットから放り出されていた。

 飛ぶ手段もなく生身で空中にいれば、当然のことながら、落ちる。

「あああああああああっ!?」

 さっきまで飛行ユニットから出ようともがいていたが、今度は飛行ユニットに戻ろうともがく。しかし、努力虚しく9Sは地面に落ちた。

 

「・・・うう、ここは・・・そうだ!2Bは!?」

 どれくらい気を失っていたのか、9Sは勢いよく起き上がる。コンクリートの地面の上から周りを見回すが、2Bらしき姿はどこにも見当たらない。

「早く2Bを探さなきゃ・・・早く・・・あれ?」

 ふと9Sは疑問に思う。何故僕は2Bを見つけなきゃいけないんだっけ?何故僕は2Bを探そうとしてたんだっけ?何故僕は2Bを気にしてたんだっけ?

「僕、なんか考え方が変わったような・・・」

「推測、地面に落ちた時に頭部にダメージ。思考回路に何らかの影響を与えた可能性」

「そっか。まあ、どうでもいいけど・・・」

 ポッドの意見を聞いても悲しみや戸惑いが湧いてくる訳でもない。前はこうではなかったような気もするが、それもどうでもよく感じる。

「警告、大型の振動を感知。地下の構造が不安定になっている模様。大規模地震の可能性を示唆。推奨、早急な離脱」

「そう。じゃあ、早く離れようか。地割れとか起きて巻き込まれたら嫌だし」

 ポッドの言葉に従い、9Sはその場をさっさと離れていった。

 

 ◇◇◇

 

 9Sは急に2Bへの興味を失った。

 理由は分からないが、とにかく全てに興味を失ったのだ。

 

 NieR:Automata

 [Q]uestionable actions

 

 ◇◇◇

 

「っは!ここは!?2Bは!?」

 9Sは起き上がる。周りを見回すが2Bらしき姿は見当たらない。

「ポッド!2Bのブラックボックス信号を検索!」

「2Bのブラックボックス信号を検知」

「地図にマーク!」

 9Sは走り出す。手遅れになる前に2Bを助けなければ。

「警告、大型の振動を感知。地下の構造が不安定になっている模様。大規模地震の可能性を示唆。推奨、早急な離脱」

「離脱なんかする訳ないだろうッ!」

 揺れ始める大地を9Sは走る。急がねば。急がねば。

「2B・・・2B・・・ッ」

 商業施設に続く橋を走る。地図にマークされた2Bのブラックボックス信号はもうすぐそこまでに近づいていた。

 そして、橋の先で9Sは2Bの姿を見た。

「2Bっ!大丈・・・」

 A2に腹を刀で刺し貫かれた2Bの姿を。一瞬、何が起きているのか分からなかった。

「ああ・・・9S・・・」

 9Sの方を振り向いた2Bは静かに、消えるような、だが優しい声でそう呟いて倒れた。

「そんな・・・2B・・・そんな・・・」

 思わず頭を抱える。目に映った光景が信じられなかった。

 A2は2Bを刺した刀で自らの髪を切った。

「ううっ・・・あああああああああっ!!!」

 叫ぶ。大地が揺れ、下から土煙が上がってくるのも気にせず、9Sは叫んだ。

「A2ッッウウウウッッ!!!!!」

 武器を手に取り、A2に向かって走る。

「殺すッッ!!!あああああっ!!」

 だが、下から現れた巨大な白い塔に橋を壊され、9Sは谷底へと落ちる。

 そして、A2も塔の出現に巻き込まれ意識を失った。

 

 ◇◇◇

 

〈ヨルハ機体、2Bのブラックボックス信号は途絶。死亡を確認。状況を共有する〉

【ヨルハ機体、9Sは本日、破損部分の復元修復が完了。再起動可能状態にある】

〈ヨルハ機体、A2も再起動予定。確認、A2及び9S機体の安全の確保〉

【問題ない】

〈ならば、残りの課題は二つ。我々はヨルハ支援システム。A2及び、9Sの機体が稼働するなら随行支援する義務が存在する〉

【同意】

〈そして、我々は全ての結末を見届ける必要がある〉

【同意。我々は全てのエンディングを見届ける必要がある】

 

 ◇◇◇

 

「おはようございます。A2」

 A2が目が覚めるといきなり箱型の機械の挨拶を受けた。

「何だ・・・お前?」

「私は随行支援ユニット『ポッド042』。ヨルハ機体A2の射撃支援を担当」

「そんな事・・・頼んでない」

「肯定、A2からの依頼は受けていない。この行動は前随行対象機体の2Bからの最終命令として記録されている」

 戸惑うA2をよそにポッドは勝手に話を進めていく。突き放そうとしても勝手についてくる。

「要請、ヨルハ機体A2の行動目的の開示」

 

「おはよう。よく寝たな。9S」

 9Sが目覚めると2人組の女性型アンドロイドがこちらを見つめていた。

「レジスタンス・・・キャンプ・・・」

 デボルとポポル。赤い髪の2人のアンドロイドは治療・メンテナンスに特化したモデルであり、谷底に落ちた9Sを見つけ、治療したのも彼女達だ。

 彼女達に礼を言い、レジスタンスキャンプの外に出ると巨大な白い塔が目に入ってきた。バンカーもなく、命令もない今、9Sはとりあえず塔を調べてみることにした。

 

「エンディング取得数、18」

 2人のポッドがそれぞれに呟く。

「まあ、頼まれてしまったしな・・・。気が向いた時にでもな」

「2Bがやろうとしてたことは、僕が受け継ぐよ・・・」

 もはや明確な目標など存在せず、ただの個人の思いだけで2人は行動を開始した。



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over[Z]ealous

フラフラしていた小説は、自分のジャンルをハッキリさせるため、
いろいろなジャンルの物語を読みました。


「要請、ヨルハ機体A2の行動目的の開示」

 しつこくポッドにそう言われ、根負けしたA2は「機械生命体ぶっ殺す」と答えた。別にポッドがいようがいまいがやることに変わりはないのだが、律儀に30秒ごとに行動目的を聞かれてたらそのうち行動目的がゲシュタルト崩壊してノイローゼになるかもしれない。

 A2の目的を聞いたポッドはこの地域一帯をスキャンし、砂漠に大型の機械生命体がいると言った。

「推奨、大型機械生命体の破壊」

 ポッドの言葉に素直に従うのも癪だが、ヤバそうな機械生命体をほったらかすのも目覚めが悪い。そう、私は私のために機械生命体を破壊しに行くのであって、決してポッドに言われたからじゃないんだからね!っと半ばツンデレ気味に自分の中で思考を正当化してA2は砂漠にやって来た。

 砂漠での大型機械生命体には随分と苦戦させられた。敵の装甲が固かったり、遠距離にいる機械生命体に対する攻撃方法を持たないA2に対して射撃支援システムのポッドが自分への感謝を推奨されたり、ポッドの小言に苛立ちを感じたり・・・精神的な意味での苦労の方が多い気がする。

 戦闘中、敵のEMP攻撃によってA2はハッキング被害を受けてしまう。その対処の途中で彼女は様々な記憶を覗くこととなった。自身の記憶。武器を通して手に入れた2Bの記憶。頭の中に声が響く。そうしたもの全てを振り払うように、A2の意識は無理矢理現実へと戻る。

「うるさい・・・」

 A2はそう呟くと誰もいなくなった砂漠に倒れた。

 

 ◇◇◇

 

〈ポッド153へ。情報共有を開始する〉

・・・・・・・・・

【理解した。A2の記憶空間内にある2BデータがA2の自我に及ぼす影響について、今後の報告を待つ】

〈支援活動の参考情報としてアップデートする〉

 

 ◇◇◇

 

 機械生命体との激闘によって体に負荷がかかり、倒れてしまったA2。しばらくして再起動したが、砂嵐の吹く砂漠で倒れていたせいで体の中に砂が入り込み、燃料用濾過フィルターが劣化してしまった。

 レジスタンスキャンプならば濾過フィルターがあるのではないかと、A2は部品交換のためにレジスタンスキャンプへと向かう。

 

「ひいいいっ!助けて・・・助けてください!!」

 レジスタンスキャンプの前で機械生命体が機械生命体に襲われていた。まあ、最近は機械生命体にも個性が出過ぎて機械生命体が他の機械生命体を襲ってもおかしくはないのだが。森の国の奴らなんて身内以外は機械生命体だろうと皆殺しみたいなスタンスだし。

 とりあえずまずは周りの機械生命体を一掃する。

「大変ありがとうございました」

 別にお前を助けた訳じゃない。

「貴様も機械生命体だろう・・・」

「いいえ!貴方と戦うつもりはありません!私の名前はパスカル。戦いを嫌う機械生命体です」

「だから何だ。機械生命体に魂なんか無い。ただの殺戮機械だ」

 機械生命体は皆殺し。怒りや恨み、悲しみにも似ているそれが、A2の行動の核だ。森の国の機械生命体と大して変わらないのかもしれないが、それでもA2に止まるつもりはなかった。

「私の仲間を何人も殺した罪を・・・償ってもらおう」

「そうですか、仕方ありませんね。それで、貴方が・・・救われるのなら」

 A2の言葉にパスカルは優しい声でそう言った。

 無抵抗でさらに自分に優しさまで向ける。そんなパスカルに戸惑いに似た感覚を持ちつつも、A2は武器を手に取り、なるべく苦しまないように、1撃で破壊できるように、武器を振った。

 

 ◇◇◇

 

 A2はパスカルを破壊した。その後、パスカルが死んだことにより機械生命体の村が崩壊・暴走を起こし、地上のアンドロイドは全滅することになる。

 

 NieR:Automata

 over[Z]ealous

 

 ◇◇◇

 

「ひえええっ!助けて・・・助けてください!!」

 気がつけば、目の前で機械生命体が機械生命体に襲われていた。・・・というかパスカルが襲われていた。

 これがエンディングの力なのかと思いつつ、A2は周りの機械生命体を破壊する。

「大変ありがとうございます。私の名前はパスカル。戦いを嫌う機械生命体です」

 うん、知ってる。とは言う事もできず、とりあえず話を合わせる。

「戦いを嫌う?お前も機械生命体だろう。私の気が変わらない内にどこかに行け」

「・・・私を殺さないんですか?」

「うるさい。さっさと行け」

 殺すと話が進まないからとは口がい裂けても言えない。

「貴方は・・・いえ、ありがとうございました」

 そう言ってパスカルは飛び去って行った。これでようやく濾過フィルターを手に入れられる。

 

 レジスタンスキャンプでアネモネと再会し、少しだけ話をする。死んだ仲間のこと。2Bのこと。しんみりした空気になりつつも、本題に移る。

「アネモネ、聞きたいことがあるんだが・・・濾過フィルターを分けてもらえないか?燃料用のヤツだ」

「燃料用の濾過フィルター・・・最近在庫を切らしてるんだ。パスカルが生産してるから、良ければ直接取りに行ってくれ」

「パスカルって・・・」

「知っているのか?」

「あ、ああ・・・」

 正直に言おう。気まずい。

 さっきあたかも「私、機械生命体嫌いだから。助けはしたけど一緒にいたくないからどっか行ってくれない?」みたいな風に別れたばっかりだというのに一体どんな顔して会いに行けばいいというのだ。

 とはいえ、濾過フィルターを手に入れなければいつ体の調子がおかしくなるか分からない。A2はパスカルになんと言って話しかけるか考えながら、パスカルの村に向かった。




パスカルの苦悩3連続1発目。


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break ti[M]e

いろいろな物語を読んだ小説は様々な知識を得ました。
そして、あらゆるジャンルの物語を読んだ小説は、
自分が何者であるかを改めて考えました。


 濾過フィルターを手に入れるためにパスカルの村に来たA2。

 何と言って話しかければいいか散々迷って未だに良い答えが見つかっていないA2だったが、

「ああ、あの時の!助けていただき、本当にありがとうございました」

「・・・」

 A2の予想に反してパスカルは友好的だった。

「それで・・・何の御用でしょうか?」

「・・・・・・」

「あの・・・」

 思った以上に相手が友好的でA2はますます何て言えばいいのか分からなくなる。

「説明、ヨルハ機体A2の燃料用濾過フィルターに不具合。経過、レジスタンスキャンプのリーダーアネモネより情報を入手。目的、当地区のフィルターを入手する為に来訪。要求、燃料用濾過フィルター」

 ポッドが1から10まで全部説明してくれた。これでは自分が1人では何にもできないみたいではないか。そんな風に考えるA2だったが、実際パスカルに何も話せていないのは事実なので黙っておくことにした。

「報告、A2の発言不足によるコミュニケーション不足」

「うるさい」

 お前は私のお父さんか。

「ああ、なるほど。そういう事ですか。ただ、今は材料がなくて・・・濾過フィルターを作るのに必要な『剛性植物の樹皮』の採取エリア近くに凶暴な機械生命体がいるんです」

「了解、『剛性植物の樹皮』の確保と輸送」

 自分を抜いてどんどん話が進んでいく。喋らないA2にも非はあるのだが。

 

 ◇◇◇

 

 濾過フィルターを作ってもらったお礼として子供達の遊び場に現れる凶暴な機械生命体を退治し、そのお礼としてアイテムをもらったA2。お礼が堂々巡りしている気がするが、村の子供達にお使いを頼まれたり村の道具屋にお使いを頼まれたりとパスカルの村との交流は順調に進んでいく。正直、お使いばかりしている気もするが、最初に比べれば機械生命体達とも普通に会話できているし前には進んでいるのだろう。

 別にパスカルの村と交流するのが目的だった訳ではないが、知らず知らずの内にA2の中で機械生命体への認識が変わり始めていた。もっとも、彼女はそのことに気付いていないが。

 現在、A2はレジスタンスキャンプに来ていた。パスカルにお礼がしたいという機械生命体のためにアネモネから『哲学書』を奪う・・・貰うのが目的だ。

 アネモネに聞いてみると、読み終わったのが1冊あるからと、哲学書を1冊貰った。そして、ついでにパスカルに渡してくれと『金鉱』を渡された。前から頼まれていたものらしい。

「しかし、機械生命体が哲学書か・・・私達は、敵である奴らの事を何もわかってないのかもしれないな」

「・・・そうだな」

 敵対心だけでは見えるモノも見えなくなってしまう。共存によってしか見えないモノもある。機械生命体に対する憎しみは消えていないはずなのに、ふとA2はそう思った。

「・・・聞こえますか!?A2さん!」

 用事が済んだのでパスカルの村へ行こうとしたA2に件のパスカルから通信が入る。

「A2さんッ!村が・・・大変なんです!村人達が・・・ああっ!!」

「おいっ!パスカル!?どうした?」

 さっきまでとは全然違う悲痛なパスカルの声にA2はパスカルに呼びかけるもが、通信はそのまま切れてしまった。

「一体・・・何が・・・!?」

「推測、貴重な情報源であるパスカルに問題が発生。推奨、パスカルの村の状態調査」

「言われなくても・・・!」

 あのパスカルの慌てようからして良くない事であることは確かだできるだけ急いだ方が良いだろう。パスカルの村まで早く行かねば・・・散歩した後で。

 

 ◇◇◇

 

 A2は急に少しだけ散歩がしたくなった。

 満足した頃には、パスカル村はとっくに滅びていた。

 

 NieR:Automata

 break ti[M]e

 

 ◇◇◇

 

 散歩は良いモノだ。ゆったりと何も考えずに目に映る景色を見ながら歩いていると心が安らぐ。ただ歩くという程良い運動が適度な疲れとなって気持ちよさを増幅させてくれる。

「・・・ふう。こんな所で良いだろう」

 さて、十分散歩を楽しんだところでパスカルの村へと向かう。

「・・・なんか焦げ臭いな」

 村の近くはあちこちが黒く焦げていて、煙が出ている。誰かが不注意で大火事でも起こしてしまったのだろうか。そんな事を考えながら、村の中へと入る。

「・・・うわあ・・・」

 村の中は死屍累々だった。壊れた機械生命体達、村を覆う灰色の煙、目に映るありとあらゆるモノが村で起こった事の悲惨さを表している。

「火事1つで、村がここまで・・・」

 火器の取り扱いには十分注意しよう。A2はそう心に誓った。

 

 ◇◇◇

 

 気がつくとA2はレジスタンスキャンプにいた。手には哲学書と金鉱が握られている。どうやらアネモネからこの2つを渡された直後らしい。

「聞こえますか!?A2さん!」

 パスカルから通信が入って来る。今度は寄り道せずに真っ直ぐパスカルの村へ向かうとしよう。散歩は十分したし。

 

 真っ赤だ。燃えるような赤がそこに広がっていた。というか燃えていた。パスカルの村が。

 逃げ惑う機械生命体。転んで倒れる機械生命体。そして、そんな彼らに群がる機械生命体。村は阿鼻叫喚の大惨事に陥っていた。

「なんだこれ・・・機械生命体同士が共食いをしている・・・!?」

 A2が村の中に入ると、パスカルが空を飛んでやって来た。

「ああっ!A2さん・・・!」

「どうしたんだ!?」

「わかりません・・・いきなり一部の村人達が暴走して・・・仲間を襲い始めたのです。子供達だけは別の場所に逃がしたのですが、他の村人は・・・」

 武器を通して得た2Bの記憶に似た光景がある。イヴが暴走した時の機械生命体達によく似ている。それと何か関係があるのだろうか。だが、考える暇はない。

「ここはなんとかするから、先に逃げろッ!」

 そう叫んで、A2は武器を握って走り出す。

 どうやら、ただの火事とはいかないようだ。




パスカルの苦悩3連続2発目。


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mave[R]ick

結局、考えても答えの出なかったその小説は、
今になっても何処に倒れるでもなくフラフラしているのでした。


 燃える。真っ赤に燃える。火の粉が飛ぶ。そんな赤色で覆われた村のあちこちに動かなくなった機械生命体達が倒れている。赤色の中で動くのはただ1人、A2だけだった。

 突如として暴走したパスカルの村の機械生命体達。暴走した機械生命体は他の機械生命体を襲い始め、暴走していない機械生命体は襲われ壊れてしまった。

「パスカル。聞こえるか?」

「ああっ・・・A2さん」

 パスカルに通信を繋ぐと、彼は焦ったように話してくる。

「村は、村の皆はどうなりましたか?」

「すまない・・・ダメだった」

「そんな・・・」

 村の中に生きている者はもういない。皆、壊れて死んでしまった。

「子供達は大丈夫か?」

「廃工場跡地に避難させています」

「分かった。ひとまずそっちに行く」

 A2は走り出す。せめて残された者達だけでも守らねばと。

 

 A2が廃工場の内部に入ると、パスカルと子供達がそこにいた。子供たちは皆、怯え、震えている。

「ああ・・・A2さん」

 パスカルの言葉に元気はない。

「一体何があったんだ?」

「わかりません・・・いきなり一部の村人達が同じ村の仲間を食べ始めたのです・・・。A2さんが来てくださらなかったら、私達もきっと・・・ありがとうございました」

 お礼を言われても正直困る。結局、村の中では誰も守れなかったのだから。

「まあ、どのみち全員死ぬんだけどな」

「え?」

「それでも自殺するよりかはマシだと思うんだが」

「え、A2さん?」

 そして、誰を守るつもりもないのだから。

 一閃。横に振られた刃が機械生命体の子供達の体を綺麗に真っ二つにする。

 

 ◇◇◇

 

 何かを思いついたA2は、突然機械生命体を破壊し始めた。

 パスカルは唖然としてその姿を見ていた。

 

 NieR:Automata

 mave[R]ick

 

 ◇◇◇

 

 何も考えられなかった。突如として子供達を破壊し始めたA2に対して、何と声をかければいいのか分からなかった。頭の中がごちゃごちゃして、考えがまとまらなかった。

 

 そして、気がつけば全てが元通りになっていた。

 廃工場の中で子供たちは怯えている。そして、A2の姿はどこにもない。

 一体何が起きているのか。考える暇もなく、廃工場の扉が開いてA2が入って来る。

 まるで同じ時間を繰り返しているようだ。前にも同じことがあったような気がする。2Bと初めて会った時、以前廃工場にいた機械生命体の集団との和平交渉に行った時とよく似ている。

「パスカル、一体何があった?」

 A2が話しかけてくる。A2が子供達を破壊した光景が忘れられないが、とにかく話を進めなければ。

 

 機械生命体には自我データを形成する「コア」というユニットがある。暴走した村人も、襲われた村人も、1人残らず例外なくコアごと破壊されていた。アンドロイド同様、死んでも復活できる機械生命体だが、コアを破壊されてしまえばもう元に戻ることはできない。そのことをA2に伝えるパスカルだったが、言っててなんだか悲しくなってくる。村人がもう戻らないことを自分に分からせている気分だった。

 その後、ポッドからの報告によって廃工場に多数の機械生命体が集まってきていることが分かった。このままでは子供達まで殺されてしまう。

「この部屋に入られる前に、叩き潰す!」

「わ、私も、援護します!!あいつらを叩き潰して、ぶっ殺します!」

 廃工場の外に出るA2にパスカルは続いていく。子供達を守るためならば、平和主義なんて喜んで捨ててやろうではないか。

 

 襲い来る機械生命体達をA2と共に皆殺しにして子供達の所へと戻るパスカル。

 廃工場の中へと入った彼が見たのは、動かなくなった子供達の姿だった。

「ああっ・・・なんという・・・ああっ・・・」

 悲惨な光景に崩れ落ちるパスカル。子供達は、皆自らの手で、腹に武器を突き刺した姿で動かなくなっていた。

「こんな・・・こんな事になるなんて・・・」

 パスカルは村の子供達に様々な知識と感情を教えていた。その中の1つに「恐怖」がある。子供達が無謀なことをしないように、怖さを知らずに命を落とさないように、パスカルは子供達に「怖い」という感情を教えたのだ。

 その結果、子供達は恐怖に耐えきれずに自らのコアを破壊した。怖さから逃れるために。まるで、苦痛から解放されるために死を選んだかつての廃工場の機械生命体達のように。

 ふと記憶の中にあるA2の言葉を思い出す。

「自殺するよりかはマシ」

 確かにそうかもしれない。あのままA2が殺してくれていたのならば、A2を恨んで自分を保っていたのかもしれない。だが、死んだ子供達は自分で自分を殺したのだ。子供達を恨むことはできない。なんで死んだんだと説教することもできない。襲ってきた機械生命体はもう殺してしまった。誰を恨むこともできない。パスカルはもう、自分を保てない。

「お願いが・・・あります・・・」

 立ち上がったパスカルは静かに語る。

「この・・・苦痛に私は耐えられません・・・私の記憶を消去していただけないでしょうか?さもなくば、私を・・・殺してください」

「・・・」

 パスカルの力無き言葉にA2は―――




パスカルの苦悩3連続3発目。
小説が完結するまでDLCはやりません(揺るぎない覚悟)。


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city e[S]cape

 City Escape・・・ソニックかな?


 目が覚めた9Sは現れた「塔」について調べようとしたが、塔にアクセスすることはできなかった。

 塔の中へと入るため、塔より示された「資源回収ユニット」から3つの「認証キー」を入手しようと9Sは行動を開始した。

 機械生命体の殲滅のため。A2殺害のため。それは司令部からの命令なんかではなく、9Sが自分で決めたことだ。

 

 認証キーを集める途中で機械生命体との戦闘、9Sの葛藤、デボルとポポルによる助け、21Oとの再会、A2へのさらなる憎悪、落ちる9Sなどいろいろな出来事があったのだが、話の都合上それらは全て省くことにする。

 森の国、水没都市、遊園地に現れた3つの資源回収ユニットを巡り、ついに全ての認証キーを手に入れた9Sは改めて塔に向かう。

 3つの認証キーを使い、塔に入るために塔の扉へのハッキングを仕掛ける9Sだったが、彼を止めようとするように機械生命体達が現れる。

「邪魔するなッ!!」

 一旦ハッキングを諦め、機械生命体達を破壊していく9Sだったが、機械生命体は次から次へと現れる。まるで是が非でも9Sを塔が中へ入るのを止めたいかのように。

「クソッ!キリが無いッ・・・!!」

 こんな所で立ち止まっている場合ではないのに。9Sの顔に焦りが浮かぶ。

「友軍の反応アリ」

「・・・友軍!?」

 ポッドの言葉に戸惑いを隠せない。こんな自分勝手な目的で動いているというのに、誰を頼るでもなく1人で動いてきたというのに、一体誰が自分に協力するというのか。

「君たちは・・・!?」

 戦う9Sの元へ現れたのは、赤い髪の2人のアンドロイド。デボルとポポルだった。2人とも、腰に刀をつけている。

「9S・・・」

「来ると思っていたよ」

 デボルとポポルの2人は塔の前に立ち、刀を手に取りその切っ先を9Sへと向け、9Sに向かって走り出す。身構える9Sだったが、2人は9Sの横を通り過ぎ、その後ろの機械生命体を破壊した。

「ここは私達がなんとかする」

「君は『塔』への扉を開いて」

「デボル・・・ポポル・・・どうして・・・ここに!?」

 デボルとポポルが何故助けに来てくれたのか分からない。だが、2人のおかげで塔へのハッキングをする時間を稼げているのも事実だ。訳が分からない状況だが、9Sは扉に手をかざし、ハッキングを再開した。

 

 ◇◇◇

 

 破壊する。破壊する。続けて破壊する。さらに破壊する。休む間もなく破壊し続ける。だが、機械生命体の数は減らない。全く減る様子がない。空を飛ぶ機械生命体によって新しい機械生命体が投入される。

 デボルとポポルは必死に刀を振るう。しかし、機械生命体は次から次へと襲い来る。終わりの見えないその戦いに2人に疲れの色が見えてくる。心なしか、先程よりも機械生命体の数が増えているような気がする。

 このままではジリ貧だ。塔の中にさえ入れれば。

「9S、まだか・・・!?」

 機械生命体を破壊してデボルは塔の入り口でハッキングしているであろう9Sの方を見た。

 

 そこに9Sはいなかった。

 

「・・・は?」

 頭の中が混乱する。

「え?え?あ、アイツどこ行きやがった!?」

 思わず叫ぶ。

「デボル!前見て!・・・ああっ!」

 こんな時でも機械生命体は容赦なくやって来るのだ。いつの間にかデボルのすぐ後ろまでやって来ていた機械生命体が手に持っていた武器を振り下ろす。その攻撃はデボルを突き飛ばしたポポルに当たった。

「ポポル!?」

 倒れるポポルをデボルが支える。

 そうしている間にも機械生命体の数はどんどん増えていく。周りを無数の機械生命体達が囲んでいく。

「は、はは・・・ここまでか・・・結局、私達は・・・許されないんだな・・・」

 じりじりと近づいて来る機械生命体達を見ながら、脱力したデボルはそう呟いた。

 

 ◇◇◇

 

 奮闘するデボル・ポポルを残して9Sは立ち去った。

 もちろん、デボル・ポポルは死んだ。

 

 NieR:Automata

 city e[S]cape

 

 ◇◇◇

 

 気がつくとポポルは上から塔を眺めていた。

「あれ?ここは・・・」

 どうにも記憶がハッキリしない。自分は機械生命体の攻撃からデボルをかばってそれから・・・。そこから先は何も思い出せない。機械生命体の攻撃を受けて気を失ってしまったのだろうか。

「ポポル、そろそろ行こうぜ。9Sも来たみたいだし」

「え?あ、デボル?」

 不意に隣から声が聞こえて振り向くと、デボルが立っていた。

「どうした?」

「う、ううん・・・何でもないの。ごめんね?」

 デボルは不思議そうにポポルをみるが、やがて「何かあったらすぐ言えよ?」と言って歩き出した。下では9Sが機械生命体と戦っていた。

 自分が見たのはなんだったのだろう?夢にしてはやけにリアルな夢だ。それとも未来の暗示なのだろうか。仮にこれが記憶だとしてもデボルが何も覚えていないように見えるのは何故だろうか。

 気になることはある。だが、今は進むしかない。その先に待っているのがどのような終わり方であろうとも、足を止める事は許されない。それが彼女達に義務づけられた贖罪なのだ。

 ポポルは腰に刀を持っていることを確認して、デボルの後を追いかけた。




 深い意味はありません。ポポルだけ覚えてた方が話が書きやすかっただけです。


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reckless bra[V]ery

キレると口調が荒くなるポポルさんがReplicant、Automataの中で1番好きなキャラクターです。


 昔々、とある村に兄と妹の兄妹が住んでいました。両親は死んでしまい、妹の方は謎の病気であまり元気に動くことができません。

 そんな兄妹を支えてくれたのがとある姉妹でした。その姉妹はとても美しく、村の人達に慕われていました。姉の方は村の中でよく歌を歌っており、その綺麗な歌声は村の人々の心を癒します。妹の方は村の図書館の館長をしており、よく兄に仕事をくれました。

 

 ある日のことです。村に恐ろしい怪物達が現れました。怪物達の親玉は、兄妹の妹の方を攫って行ってしまいました。兄は怪物の親玉から妹を取り戻そうとしましたが、親玉に返り討ちにされてしまいました。

 

 それから5年。成長した兄は怪物の親玉の手がかりを見つけ、仲間の女と少年と共に、怪物の親玉がいるという城に乗り込みました。

 城の中には、村で世話になった姉妹が兄達を待っていました。姉妹は怪物の親玉の手下だったのです。

 本当は戦いたくない。しかし、妹を取り戻すため、兄は姉妹と戦いました。そして、姉妹の姉の方を倒したのです。

 姉を失った怒りと悲しみで妹は暴走し、ありったけの魔力で世界を滅ぼそうとしました。しかし、兄の仲間の少年の尽力によって、世界は滅びずに済みました。

 そして兄は、怪物の親玉を倒し、妹を取り戻したのです。こうして、怪物達の企みは失敗に終わったのでした。

 

 怪物達の企みとは何だったのか?それは―――

 

 ◇◇◇

 

 デボルとポポルは治療・メンテナンスに特化した旧型のアンドロイドだ。過去に自分達の同型機が暴走し、大事故を起こしたことで、ほとんどの同型機は処分された。彼女達は事故について贖罪の意識を持っている。一部のアンドロイドから邪険に扱われても、危険な雑用を任されても、それが贖罪だと、罰だと受け入れている。

 だが、彼女達は知らない。同型機が起こしたという事故の内容も、湧き出てくる罪悪感が仕組まれたシステムだということも。それでも彼女達は償い続ける。生きている限り、彼女達は贖罪を続けるのだ。

 

「ここは私達がなんとかする」

「君は『塔』への扉を開いて」

 9Sを助けるために機械生命体の相手を引き受けたデボルとポポル。それもまた贖罪だ。贖罪なのだが・・・。ポポルはバレないように横目でちらりと9Sを見る。9Sは塔の扉に向かってハッキングを続けている。気がついたら9Sがいなかったという記憶がどうにも頭から離れない。今度は大丈夫だろうな?という不安があるのだ。

 機械生命体を破壊していくデボルとポポルだが、いくら破壊しても機械生命体は次から次へと現れる。段々と機械生命体を破壊するスピードが機械生命体が現れるスピードに追い付かなくなってくる。そろそろ限界が近い。

「く・・・9S、まだか!?」

 デボルがハッキングをしているであろう9Sの方を振り向く。

「がんばれー☆がん・・・あっ」

 9Sはハッキングそっちのけで応援していた。しかもなんか軽い。

「な・・・な・・・!?」

 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。デボルが言葉が出なかった。

 だが、ポポルの方は・・・。

 

「お前はさっきから何やってんだアアアアアァァァァァッ!!!」

 

 我慢の限界だった。逃走。応援。贖罪なんかもうクソくらえ。ポポルは手に持っていた刀を9Sに向かって全力投球する。投げた刀は見事に9Sの頭にぶつかり、9Sは倒れる。

「ぽ・・・ポポル・・・」

 デボルが引いてるような気がするが知ったことか。だが、忘れてはならない。こんなことをしている間にも機械生命体は数を増やして3人を取り囲んでいるということを。

 

 ◇◇◇

 

 なぜか9Sは塔へのハッキングを中止し、戦うデボル・ポポルを応援し始めた。

 当然だが、結局、数に押し切られ3人は圧殺された。

 

 NieR:Automata

 reckless bra[V]ery

 

 ◇◇◇

 

「9S・・・」

「来ると思っていたよ」

 これで3度目だ。

 9Sを通り過ぎて後ろの機械生命体を破壊するデボルに対して、ポポルが9Sの頭をガッシリと掴む。

「今度ハちゃんとヤレよ・・・?」

「え?あ、はい・・・って痛い痛い痛い!!」

 ギリギリと頭を掴む手に力を込め、まるで見つめるだけで殺しそうなくらいに瞳孔の開いた目でこちらを見つめてくるポポルに9Sは思わず敬語になる。笑ってるけど笑ってない。ポポルはそんな表情をしていた。

「ぽ・・・ポポル?」

 デボルも引いていた。それがどうした。こっちはこれで3回目なのだ。3度目の正直。仏の顔も三度。また変なことを繰り返すようならば今度はきっちり殺してしまうかもしれない。それ程までにポポルの怒りは頂点まで来ていた。正直、何も覚えていないデボルが羨ましい。

 怒りに任せて機械生命体を破壊する。八つ当たり気味ではあるが、時間稼ぎという本来の目的は守れるので問題はないだろう。

 

 ハッキング途中の9Sが突然塔から弾き飛ばされる。急いでポポルが代わりにハッキングを行う。塔に仕掛けられていた防御システムを突破するには、自我データを暴走させ、その自爆エネルギーを利用するしかなかった。9Sが塔に入らなければ意味がないのに彼を犠牲にしては意味がない。

 ならば自分がやるしかない。全身に痛みと熱を感じる。だが、不思議と後悔はなかった。自分で決めてやったことだからだろうか。贖罪でも後悔でもなく、確かな自分の意思を初めて感じたような気がした。塔の扉が少しだけ開く。

「デボルッ!!!!」

「・・・ああッ」

 ポポルの声に合わせてデボルが9Sを塔の中へと投げ込む。

 最後の力でポポルは自爆エネルギーで麻痺状態となった防御システムを破壊する。そこがポポルの限界だった。意識が遠くなる。視界にノイズが走る。音もよく聞こえない。

 

 気がつけば、機械生命体は全て破壊されていた。塔の防御システムが破られた以上、もう増援の必要はないと判断されたのだろうか。

「ポポル・・・」

 デボルは倒れるポポルを抱きかかえる。ポポルはもう動かない。だが、その死に顔は不思議と嬉しそうに見えた。

「少しだけ・・・待っててくれ・・・私も、もうすぐそっちに行くから・・・」

 元々メンテナンス用の旧型なのに、機械生命体と無理な戦闘を続けたせいでデボルの体はもうボロボロだった。9Sはもう塔の中を進んでいるのだろう。

 1度は閉まった扉だったが、防御システムのなくなった後、塔の扉は開きっぱなしになっていた。塔の入り口の壁にポポルを寄りかからせる。眠ったように動かないポポルを見て、デボルは悲しそうに笑う。ポポルには何かが見えていたのだろう。それが少し羨ましい。

「あっちで会ったら教えてくれよ・・・」

 少し休もう。ひどく疲れた。そう思いながら、デボルはポポルの隣に寄りかかった。




 ネタエンドはこれが最後だけど、物語はまだ続くのです。


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chil[D]hood's end

NieR:Automataって毎回書くからもう何も見なくても書けるようになってしまった。
何の自慢にもならないけどね。


「・・・以上が、旧時代に管理者と呼ばれた彼女達の個人記録だ」

「そう・・・」

 塔の内部はエレベーターのようになっており、上昇する床に乗りながら、9Sはポッドが見つけたデボルとポポルの残存データを見ていた。

「疑問、何故、アンドロイド・デボル及びポポルは常に同時に死を選ぶのか?当該状況からの単独離脱は可能であり・・・」

「僕には・・・」

 ポッドの言葉を9Sが遮る。

「・・・君に、理解出来ない事を祈る」

「・・・了解」

 それっきり、デボルのこともポポルのことも、9Sもポッドも口にしなかった。

 

「疑問、何故この『塔』に入り口が用意されていたのか?資源搬入は上空から行われている事を確認。外部からの進入路が用意されている事は不自然。予測、罠」

「・・・罠でも何でもいい。皆殺しにするだけだ」

 塔を進んでいく9Sに迷いはもう無かった。途中で汚染されたヨルハ部隊が襲ってきたが、9Sは容赦なくそれらを殺していく。迷ったり立ち止まったりするには失ったモノが多すぎた。もう失うモノなんて何もない。そう思っていた。

 

「クッ・・・クククッ・・・ここで会えて、良かった・・本当に、良かった。一体残らず、粉々に、壊すッ!」

 塔の中での複数の2Bとの出会い。彼女達を破壊していく中で、その内の1体の自爆に巻き込まれた9Sは片腕が吹き飛んでしまった。足りない腕は、そばに倒れていた2Bから奪い取った。ウィルスに侵された腕を無理矢理くっつけたせいで9S自身にもウィルスに侵される。自己ハッキングでウィルスを取り除き、9Sは再び塔の中を進んでいく。

 また、失った。今度は体の一部を。

 

「これが・・・ヨルハ計画・・・じゃあ、僕達は・・・2Bは・・・」

 赤い少女との出会い。彼女達によって9Sはヨルハ計画の真相を知る。半ば発狂したようになりながら、それでも9Sは進んでいく。

 また、失った。今度は自分が存在する理由を。

 

 失って失って、失い続けながら、9Sは進む。

 飛行ユニットに乗って襲ってきた、汚染されたヨルハ部隊を倒し、その内の1人から飛行ユニットを奪い、空へと飛ぶ。

 巨大な塔を空中から進んでいくと、球体に足が生えた機械生命体が現れる。イヴが暴走した時に現れた機械生命体によく似ている。

「信じてた信じてたシンジテタ死んじ」

「神にナッタ神になった神になったダレがなった?」

「命をウバウ命を、命ヲウバウんだ」

「神ニナル!神に!神に!・・・神ニ!」

「タイセツなモノ失う失った・・・壊れただから、お前達も・・・コワス」

 どこかで聞いた事のある言葉、誰かが言っていた言葉を繰り返しているだけなのか、機械生命体の言葉には特定の誰かの意思というものが感じられなかった。

「ホシに・・・向かおう」「歌を・・・歌おう」「ササゲル・・・今・・・」「僕達は機械生命体」「僕達は機械生命体」「君達はアンドロイド」「君達はアンドロイド」「私達は敵同士」「戦う運命」「君は何故生存するのか」「僕は、何故存在するのか」「ああ、光が見える」「光が」「僕達は空に飛ぶんだ」

 その言葉はまるで、あらゆる意思をごちゃまぜにして、1つの意思の溶かしたかのようだ。

 移動する機械生命体を追うと、別の場所で誰かが同じような見た目をした球体の機械生命体と戦っていた。A2だ。

 

 9Sが追っていた機械生命体とA2が戦っていた機械生命体が合流し、合体して襲い掛かってくる。2人は機械生命体を破壊した後、改めて向き合い、武器を構える。

 ヨルハ計画の真相、人類の真相、2Bの真相、言葉を交わす中で分かったこともあるが、それらが分かったところで、9Sにとっては全てが今更だった。例え世界の全ての謎が解けたとしても、9Sは変わらない。例え全ての真実を暴いたとしても、もう9Sは止まらない。

「推奨、停戦。ここで彼女と争う事は非合理的で・・・」

「ポッド153に命令ッ!貴様の独断の論理思考と発言を禁止する!!この命令は、A2か僕のどちらかの生命活動の停止が確認出来るまで維持しろ!」

 ポッドはA2に刃を向ける9Sを止めようとするが、ポッドの言葉を遮るように9Sは荒れた声で命令を下す。A2も9Sに刃を向ける。

 戦いが始まった。

 

 ◇◇◇

 

 全部壊す。全て無くしてしまえばいい。目を赤く光らせながら9Sはそう言う。恋しい人類も、人類に焦がれるようにプログラムされた自分も、全部、なくなってしまえばいい。そんな彼にA2はかける言葉が見つからなかった。

 戦闘用に作られたA2と、現地調査用に作られた9Sでは実力にも性能にも差がある。A2の攻撃で9Sは態勢を崩してしまう。A2は9Sを斬り殺そうとする。

「9Sを・・・頼む」

 だが、記憶に残っている2Bの言葉がA2の動きを一瞬止めてしまった。そんな迷いの隙をついて、9SはA2の腹に刃を突き通す。そのまま刃を押し込んでA2を地面に倒すが、その際にA2の握っていた刀の刃が9Sの腹に突き刺さってしまう。

「ギッ・・・ああああああああああああああッッ!!」

 なんとか刀を抜こうとするが、体が上手く動かない。だんだん意識も薄れていく。

 9Sの中から全てが消えていく。

 消えて

 消え

 

 ◇◇◇

 

 真っ白な空間に、倒れている。

 痛みは、もう・・・ない。

 なんだか、暖かい光のようなモノで包まれている気がする。

 

 この塔が打ち上げるのは、箱舟。

 愚かだった機械生命体の記憶を封じ込め、新世界に送り出す。

 

 箱舟の中にアダムとイヴの姿が見える。

 イヴは眠っている。

 

 一緒に来るか?・・・と、アダムが言う。

 その言葉に憎悪はなかった。

 

「僕は―――」

 

 NieR:Automata

 chil[D]hood's end

 

 ◇◇◇

 

「警告、大型建造物、通称『塔』ゲートの解放を確認」

「行ってみるか・・・」

 A2は塔に向かって走り出す。その身に1つの「終わり」を抱えて。もう1つの「終わり」を得るために。

 

 内部データに刻まれた、「取得エンディング数24」の文字と共に。




今回はトップクラスにグダグダな話になっちゃった気がする。


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meaningless [C]ode

小雨だし傘いらないかな?でも一応さしとこうかな?
そして傘をさした直後、ボトリという明らかに雨が当たったのとは違う音。
見れば黒い傘にべっとりついた白い鳥の糞。
ツイてねぇ・・・。


「ああ・・・A2か」

 塔の入り口の壁に寄りかかって座っていたデボルは、ゆっくりとした動作で顔を上げ、こちらに来るA2の姿を確認する。隣で座っているポポルは動かない。

「塔の入り口は・・・開けておいた。9Sが、先に行ってる・・・」

「・・・そうか」

「・・・なあ・・・」

 塔の中に入ろうとするA2の背中に、デボルは呼びかける。

「私達は・・・役に立ったか・・・?」

「ああ・・・」

 短い返事だったが、A2の言葉に温かいものを感じた。

 塔の中へと入っていったA2を見送り、デボルはふうと息をつく。これで自分の役目は終わりだ。私の、私達の贖罪はここで終わる。ポポルは贖罪以外の何かを感じていたようだが、デボルには相変わらず贖罪しかなかった。だが、それもこれで終わりだ。

 不思議な安心感を感じながら、ポポルの手を握り、デボルは目を閉じる。

 それからデボルが動くことは二度となかった。

 

 ◇◇◇

 

 塔の中の所々にヨルハ部隊の死体が転がっている。おそらく、9Sがやったのだろう。汚染されているとはいえ、死体は随分と乱暴に殺されており、もはや彼に容赦というものはないようだ。急がねば。

 塔の中を進んでいくと、やけに整った部屋に出た。壁には、真っ白な本がぎっしりと入れられている。

「何だ・・・この部屋・・・」

「予測、図書館を模した施設」

 A2の疑問にポッドが答える。

「図書館?・・・何だそれ?」

「過去に人類文明が作り上げた情報保存施設」

「ふーん」

 A2はなんとなく興味本位で壁から本を1冊取り出す。手に取って見て気付いたが、本の形をしてはいるものの、どうやら本というよりデータファイルに近いようで、中を見るにはハッキングする必要があるらしい。

「ポッド。頼む」

「了解。ヨルハ機体A2にハッキングインターフェイスへのアクセス権限を付与」

「良し・・・」

 ハッキングをして図書館の中のデータを手当たり次第に見ていく。月面の人類サーバーの記録、過去の人間の記録。機械生命体はあらゆる所から情報を集めていた。

 そして、A2はあるデータを見つける。「ヨルハ計画に於ける二号モデル運用概略」と書かれたそのデータを読んでA2は驚いた。

「このデータは・・・」

 突然、図書館の天井が崩れ、上から球体に足の生えた機械生命体が落ちてくる。驚いている暇もなくA2は武器を構えた。

 

 逃げる機械生命体を追っていくと、正体不明の敵のハッキング攻撃を食らってしまう。仕方なく自分のデータの中を進んでいくと、赤い少女に出会った。

「久しぶりだな・・・二号。いや、今はA2と呼ぶべきか?」

 自分の中で始まった赤い少女達との戦い。機械生命体のネットワークの概念存在である彼女達は、いくら殺したところで滅ぶことは決してない。

 ポッドの提案で、少女達を殺さずにその数を増やしていく。

「面白い・・・面白い・・・」「人類が遺したアンドロイドがまるで人類になりたいかのように振る舞う」「エイリアンの遺した機械生命体がまるで人類になりたいかのように振る舞う」「私達は似ている・・・だが、ネットワーク化された私達の方が圧倒的に優れている」「愚かなアンドロイドよ・・・なぜ抗うのか?」「死を受け入れる事こそが、全ての終末ではないのか?」「私達は一つであり、複数でもある」「私達は有限であると同時に無限だ」「私達こそが完成された精神の在りようなのだ」「ああっ・・・見える・・・光が・・・」

 増えていく赤い少女達。戦いの中で数を増やし、学習を繰り返した彼女達は生命の多様性を学び、その自我は分裂する。

 アンドロイドは滅ぼすべきか、否か。意見の分かれた彼女達はお互いを殺し合う。

「まるで、人類みたいだな・・・」

 赤い少女達の有様を見て、A2は皮肉を言うようにそう呟いた。

 

 データの中から現実に戻ったA2は再び機械生命体を追う。そして、追われた機械生命体は9Sが追っていた機械生命体と合流、合体して襲い掛かってきた。

 

 ◇◇◇

 

 機械生命体を破壊した後、A2と9Sは互いに向き合い、改めて武器を構える。

 A2は語る2Bの真実を。正式名称2E。2号機E型。ヨルハ機体処刑用モデル。高機能モデルである9Sが真実にたどり着いた時、2Bは彼を殺さなければいけない。2Bは苦しんでいた。9Sを殺し続けることを。

 だが、9Sの耳にはもう届かない。A2の声も、2Bの想いも。赤く光る目で9SはA2に襲い掛かる。A2も武器を握る手に力をこめて9Sに立ち向かう。

 

 戦いの中で、A2は9Sの腕を斬り落とす。無理矢理くっついけていた2Bの腕がくるくると宙を舞う。腕を斬り落とされてひるんだ9Sの頭をA2は鷲掴みにする。

「ポッド!ハッキング!!」

「了解」

 そして、A2は9Sのデータの中へと入る。

 

「ポッド・・・9Sの論理回路を修復する。9Sを汚染しているウィルスの場所を教えてくれ」

「了解。この先に9Sのコアデータが格納されている。報告、ウィルス汚染が深刻で除去は困難」

「・・・いや、一つだけ方法がある筈だ」

「・・・その方法は推奨出来ない。私はヨルハ部隊支援随行ユニット。支援しているヨルハ機体A2に害をなす行動には賛同出来ない」

「意外と・・・イイ奴だな。お前は」

 そう言ってA2は優しそうに笑う。それは、A2がポッドに向けた初めての笑顔だった。

 

 データの中を進み、9Sのコアデータの所までたどり着くA2。

「ポッド・・・9Sを頼む」

 

 現実世界でポッドは9Sを運ぶ。

「A2。君は?」

「私は、まだ、やることがあるから・・・先に行ってくれ」

「・・・了解」

 

 ポッドが去った後、A2は上空へと手をかざす。

「すまないな・・・」

 

 そして、塔は崩れ始めた。A2は動かない。ただ、空を見上げてそこにいた。

 

 ◇◇◇

 

 こんなに世界が綺麗だって、気付かなかったな・・・

 みんな・・・今、行くよ・・・

 

 NieR:Automata

 meaningless [C]ode

 

 ◇◇◇

 

 真っ暗な世界。そこは真っ暗であるが、ハッキング時によく見るデータの世界に似ていた。

【報告、ヨルハ機体全機のブラックボックス反応の停止を確認。我々が担当していたヨルハ計画進行管理任務は終了。物語は順調に終焉へと向かっている】

〈了解。エンディング取得数25。これよりCエンディングとDエンディングの間から最後のエンディングを回収する〉

 

 その瞬間、世界にノイズが走る。



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the [E]nd of YoRHa

最初はゆるいギャグ小説にでもしようと思いながら始め、行き当たりばったりで話を書き、どんどんシリアスな方向へ向かって行き「あれぇ?」と思いながらも話を書き続け、そして現在なんだかとんでもない所へ着地しようとしている自分の小説に対してなんとかちゃんとした終わり方にしようと作者が見苦しく足掻く姿をお楽しみください。


 ノイズの走ったデータ世界。

〈これより、データのサルベージを行う〉

 ポッドはハッキングを開始する。

 

 ◇◇◇

 

 NieR:Automata

 the [E]nd of YoRHa

 

 ◇◇◇

 

 廃墟都市にて、2Bと9S、A2の3人は眠っていた。ポッドのデータサルベージによって同一個体として復活した3人。何時目覚めるかも分からないが、これで不確定な未来へと繋がった。

 3人が眠っている中で、ポッド達は廃墟都市とは別の場所にいた。ポッド達の前にはとあるアンドロイドが所持していた武器が地面に刺さっている。

「ハッキングを開始する」

 誰もいない場所で、ポッド042とポッド153は武器のデータ内へと入る。

 

 アンドロイドの持つ武器は記憶データを保存しておくことができる。武器にハッキングするということは、その武器の持ち主が武器に保存しておいた記憶データを見るということだ。

 データ世界でポッドは問いかける。

〈君の命令通り全てのエンディングを集めてきた。そろそろ説明を求めたい・・・2B〉

「久しぶり・・・と言った方がいいのかな」

 ポッドの言葉に空間がブレて、そこには黒い服のアンドロイド・・・2Bが現れる。いや、正確には2Bの形をしたデータである。目隠しのような戦闘用ゴーグルはつけていない。

 武器の持ち主とは2Bのことだ。彼女の記憶データによって形成された2Bの人格データ。それが今、ポッド042とポッド153の前に現れていた。

〈君に疑問を提示する。君の目的を聞かせてほしい〉

 ポッド042の質問に、2Bのデータは笑う。

「私の目的は、この世界に巣食う『物語』を終わらせることだよ」

 

 ◇◇◇

 

 それは、物語の最初。2Bが敵大型兵器を破壊するために廃工場に突入する際、ある記憶を思い出した時。ポッドもまた、記憶を思い出した。

 それは、自分が2B、9S、A2のパーソナルデータをサルベージした記憶。自分は既に1度、物語を未来に繋げた記憶。

 だが、3人が再び目覚めることはなかった。2Bも、9Sも、A2も、目を覚ます前に、世界は突然真っ暗になり、気がつけば、ポッド042は2Bの随行支援ユニットとして敵大型兵器破壊のため、廃工場に突入する2Bについていた。

 そして、2Bは廃工場内部に着く前に機械生命体に殺された。世界は再び真っ暗になり、そしてまた、廃工場に突入する2Bについていた。

 ここまでの記憶をポッドは思い出した。そして、今度は無事、廃工場の内部に入ることが出来たのだ。

 

 その後、ブラックボックスを使った自爆によって敵大型兵器を破壊し、バンカーで復活した2Bは9Sがセットアップに来る前にポッドに命令を下した。

「これからエンディングを集めるために私は普通なら絶対しないであろう行動を起こす。だけど、それについては何も言わず、黙っていてほしい。そして、エンディング取得数が26になった時、私は新たな命令を下す」

 それから、2Bは奇行を繰り返した。バンカーでの自爆、OSチップ取り外し、殺害、任務離脱、アジ。そして、彼女が奇行を繰り返す度、エンディング取得数は増えていった。2Bに関わったせいか、9SとA2も奇行を繰り返すようになった。だが、ポッドは何も言わなかった。2Bが言う、「26のエンディング」を集め終わるまでは。だからポッドは以前と全く同じように振る舞った。ただの随行支援システムとして。

 情報共有によって、ポッド153にも同じように記憶があることが分かった。ポッド達は3人のアンドロイドの奇行を眺めつつ、遠回りを繰り返しながら再びEエンディングを迎えるのを待った。

 

 ◇◇◇

 

 そして、現在。ポッド達は2Bの人格データと対峙していた。

〈全てのエンディングを集め終えた時、2Bは自身の武器の中に人格データを入れておいたと言っていた。その後の命令は全て彼女に伝えてあると。それが君なのだろう〉

「そう。私は2Bによって作られた人格データ。2Bそのものだと言ってもいい」

【・・・物語を終わらせるとは、どういう意味か?】

「それを説明する前に、この世界について説明しておかないと」

 

 2Bのデータによると、この世界は終わりと始まりを繰り返している。特定のエンディングを迎えればまた特定の地点から始まるのだという。

廃工場突入前に死ねばまた廃工場突入から始まり、パスカルの村の機械生命体を皆殺しにすればパスカルの村に案内されるところから始まる。そして、Eエンディングまでたどり着けば、物語はまた廃工場に突入するところから始まる。2B、9S、A2の3人が目覚めることは決してない。目覚める前に物語の始まりの地点へと巻き戻るのだから。

 ここはそういう世界なのだ。物語という枠組みの中に捕らわれた、生も死もない世界。何度繰り返しても死ぬ者は死に、狂う者は狂い、絶望する者は絶望する。少し過程を変えた所で未来は変えられず、未来を変えようとすれば予め用意されたエンディングを迎えることになる。そうして物語はまた繰り返す。大抵の者は繰り返していることすら知らずに。特定の登場人物に違和感を残しながら。

 

〈それでは、このまま物語を終わらせてもまた同じ事を繰り返すだけなのでは?〉

 そうポッド042が尋ねる。

「そうさせないために私はここにいる。それに、物語を終わらせるというのはそういう意味じゃない。本当の意味はこの世界から物語というシステムを消すこと」

【2Bに具体的な説明を求める】

「そうだね。聞きたいよね。もう貴方達は命令を遂行するだけのシステムではなく、心を持った『個』だもの。それじゃあ、少し長くなるけど、聞いてもらおうかな」

 

 そして、2Bは語る。彼女が経験してきたことの全てを。




もうちょっとだけ続くんだ(白目)


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do androids dream of ending[?](前)

ここからずっとオリジナル展開のターン?
今までのエンディングタイトルに倣って「?エンド」にでもしておきます。
作者の足掻きはまだ続くのです。


 きっかけはレジスタンスキャンプで謎の女性型アンドロイドに出会ったことだった。

 彼女は自らをアコールと名乗り、レジスタンスキャンプの武器屋に届け物をしに来たのだと言った。その後、武器屋に荷物を手渡した後、そのままどこかに去っていった。2Bとは自己紹介くらいの会話しかしなかったが、彼女の事はよく覚えている。

 ある意味では彼女こそが、2Bがエンディング集めを始めた原因だと言っても良いのだから。

 アコールは去っていく時に、何かを落としていった。それはチップのようで、中には何やらデータが入っている。届けようと思ったが、レジスタンスキャンプのアンドロイド達は彼女が普段何処にいるのか誰も分からない、次に来た時に渡せばいいと言う。ポッドに調べてもらっても、アコールの居場所を見つけることはできなかった。

 2Bはチップをどうしようか悩んだ。そして、チップについて考えている内に、深い意味もなく、ただの興味本位で、なんとなく、チップの中のデータを見てしまった。

 

 ◇◇◇

 

 並行世界No.――――について。

 これまで様々な分岐による並行世界について観測してみたが、この世界はどうも他の並行世界とは違うようだ。今までに見てきた並行世界が1本の木から枝分かれしたものだとすれば、この並行世界は木の隣にもう1本同じ種類の木が生えているようなものだ。ただし、こちらの木は先に生えていた方に比べると随分と細く弱々しい木だと思う。

 その代わりに、こちらの並行世界には今までに見られない奇妙な特徴を有していた。ある特定のポイントで世界がループするのだ。まるで、読み終わった小説をまた最初から読み直すように同じ時間、同じ出来事を延々と繰り返している世界。ある意味、完結してしまっている世界。仮に時間を巻き戻る地点を「エンディング」と名付けよう。この世界の物語には複数のエンディングが存在するらしい。その数は26。どれも特定の物語の進行地点で特定の行動をとることによってエンディングは発動する。物語を成り立たせるにしては少ない気がするが、それでこの世界はループを繰り返すことが出来ている。

 ただ、先程も書いたようにこの世界は他の並行世界と比べると弱々しく感じる。何かちょっとしたきっかけで世界のループ構造が崩れてしまう可能性もある。まあ、既に完成してしまっている世界にそんな変化が簡単に訪れるとも思えないが。

 これ以上何も変わらないようであれば、この世界の観測は終了してしまってもいいだろう。

 

 ◇◇◇

 

 最初は特に何も感じなかった。機械生命体との戦いには必要の無い情報であり、自分には関係のない情報だと。2B記憶の中に残ったとある並行世界に関する情報を邪魔だとは思わなかったが、特に気にすることもなかった。

 その後、しばらくして2Bは崩壊するバンカーから地上へ逃げ、最終的に商業施設でA2に殺された。A2に全てを託し、自分はここで終わるつもりだった。

 

 そして2Bは気がつくと、飛行ユニットに乗って敵大型兵器を破壊するために廃工場の中にに突入していた。記憶を持ったまま過去に戻ったというよりは、過去に戻って少し経ってから記憶が戻るような感覚。そこで2Bはアコールの落としたチップの中に入っていたデータを思い出す。既にチップは手元にないが、記憶だけはしっかりと残っている。ループする世界とはこの世界のことだったのだと。

 

 並行世界というのは、大きく分けて2種類存在する。「原作」と「二次創作」だ。「原作」は「二次創作」よりも立場が上の世界。例え世界を自由に移動する能力を持っていたとしても、二次創作の存在は原作に介入できない。

 チップに書いてあった、「この世界が他の並行世界に比べて弱々しい」という事実。なにより、木に例えられた言葉がこの世界の2Bの存在を否定した。

 2Bは考えた。私は本物の2Bではない。数多の並行世界に存在する、2Bというキャラクターの模造品に過ぎないと。そして2Bはこうも考えた。もしも本当にこの世界が並行世界なのだとしたら、この世界が1冊の小説を繰り返すようにループしているのだとしたら、その枠組みを破壊してしまうのは簡単なのではないか?と。データの中にあった「小説」という例え。これは「原作」の世界での出来事と同じ出来事をこの並行世界繰り返しているのではないか?ならばその物語のような枠組みを取り外してしまえばどうだろうか?定められた物語が消えれば、物語の途中で死んでしまった者達や、絶望してしまった者達も救えるのではないだろうか。

 幸いなことに、ループを破壊するためのきっかけはもう掴んでいる。現在の2B自身だ。時間が巻き戻る前の記憶、前回の周回の記憶を2Bは持っている。それは、2Bが並行世界やこの世界の仕組みについて理解してしまったことによって生まれた世界に対するバグのようなものだ。

 だからこそ、2Bは決めた。この世界で生きる者達の未来を救ってみせると。決められた死も、定められた絶望も、確定された悲劇も、全てを変えてみせると。

 それはきっと2Bである必要はなかったのかもしれない。長い長い繰り返しの中で、たった1人でも気付くことができればそれでよかった。そして、それが偶然2Bだったというだけのことだ。

 だけど、2Bは変えると決めた。世界のループを、物語を破壊すると決めたのだ。例え自分の世界が二次創作だとしても、自分が本物の2Bでないとしても、彼女は自分にとっての現実を救うと。未来の訪れない世界で未来を掴み取ると、そう決意した。



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do androids dream of ending[?](後)

次回最終回・・・予定。


 2Bは最初、時間が巻き戻るきっかけとなる26のエンディングを探すところから始めた。その最初のきっかけは、最初の廃工場突入前にうっかり死んでしまったことにあった。気がつけば2Bはまた廃工場突入時に戻っており、自分の中には「エンディング取得数1」というデータと、「取得エンディング:w」というデータが存在していた。これもまた、世界の仕組みを知ったために起こったバグの1つなのだろう。

 そこから、2Bはエンディングを探し続けた。物語のレールからひたすらに外れようとした。他の者が見たら頭がおかしいと思われるようなことだってやった。そうしてエンディングを探し続けて、2Bはウィルスに感染し、A2に刺されて死んだ。

 その後、気がつくと2Bは廃工場に突入していた。自身の中にあったのは「エンディング取得数0」のデータ。物語の最後まで進んでから時間を巻き戻すと集めたエンディングの数がリセットされてしまうらしい。自分が死んでしまった後の物語はA2に託した武器に記録されたデータを見て理解した。自分の死んでしまった後ではエンディングを集めることはできない。一体どうすればいいのか。考えていても物語は待ってくれない。2Bは先に進むしかないのだ。

 何度も繰り返している内に、不思議なことが起きた。ループした時、ポッドが前回の周回の記憶を覚えていたのだ。2Bと何度も行動を共にすることによって彼女の中のバグがウィルスのようにポッドに感染したのだろう。これはチャンスだと、2Bはポッドにエンディングの記録を頼んだ。そして2Bは自分が死んだ後のことを任せるため、何度もA2に託した自身の武器に、自分の人格データを作った。

 2Bはこのバグが9SやA2にも感染することを願った。9Sには、共に行動することで。A2には、武器に込めた自身の記憶を渡すことで。バグを内包した彼らが、2Bの死後、残りのエンディングを集めてくれることを願った。それを願って何度も同じ物語を繰り返した。

 何度も任務に逆らった。何度も自殺をした。何度も9Sを殺した。何度もパスカルの村を滅ぼした。何度もアダムを殺した。何度もイヴを殺した。何度も司令官を見捨てた。何度もA2に託した。

 何度も何度も何度も何度も繰り返して、2Bは脆弱な世界のループ構造にヒビがはいるのをずっと待った。

 

 ◇◇◇

 

「そして私は、今ここで貴方達の前にいる」

 2Bのデータはそう言うと、小さなカードのような見た目をした1つのデータを取り出した。

「これは、私が延々と続くループの中で作った『27番目のエンディング』。世界のループ構造にヒビが入ったことによって奇跡的作り出すことのできたデータ。このデータを使えばこれまでデータという形にして集めたエンディング全てを消し去ることができる。エンディングが消えるということはこの世界の物語というシステムは成り立たなくなり、世界のループ構造そのものが消えてなくなる」

【27番目のエンディング・・・一体どうやってそんな物を?】

 本当にそんな物で世界のループを破壊できるのだろうか。そんな不安を抱えながらポッド153は尋ねる。

「大したことはやってないよ。ただ、この世界に向けた『言葉』をデータにしただけ」

〈言葉・・・?〉

「そう。言葉。エンディングっていうのはこの世界に対する命令みたいなもの。世界そのものを1つの機械に見立てて、それにエンディングという『言葉』を与えることで決まった動作を起こしているようなもの。だからその命令を全て消したうえで新たな命令で上書きしてしまおうってこと」

 2Bのデータは説明しながらポッド達を見る。だが、ポッドの表情はやはり分からない。

「それじゃあ、エンディングのデータを私に渡して」

 2Bのデータの言葉にポッド達は素直に従い、26のエンディングを渡す。

 

 その瞬間、ポッド達は現実世界に弾き出された。

 

「2B・・・君は・・・」

「物語そのものを消しちゃう訳だから、この最後のループが終わればきっと皆全ての周回の記憶を失ってしまうだろうけど、出来る事なら9Sとか、A2とか、みんなのことをよろしくね」

 武器の中から声が響く。

「・・・了解」

 そう言ってポッドは去っていった。

「ありがとう・・・」

 最後までポッドの役割を演じてくれて、これからやろうとしている事を止めないでくれてありがとう。誰もいなくなったその場所で、2Bは独り、そう呟いた。

 

 ◇◇◇

 

 コトバはチカラ。そう誰かが言っていた。

 2Bが作った27番目のエンディング、世界に向けた言葉には全てのエンディングを消し去り、成り立たなくなったループ構造を破壊する力がある。ポッド達にはそう説明したが、それは半分くらいは嘘だった。確かに27番目のエンディングには2Bのデータが説明した通りの「力」はある。だが、このエンディングに世界そのものを変えられるだけの「強さ」はない。

 脆弱な世界に生まれた脆弱な登場人物が作った脆弱なエンディング。そんなモノに世界を変える「強さ」なんて宿らない。

 ならばどうするか。遠い昔、どこかの誰かがやっていた。

 自分の「存在」を代償に、奇跡を起こす方法。

「エンディングを、全て消し去る・・・!!」

 2Bのデータは自身の中に26のエンディングを内包し、そう告げる。自分に言い聞かせるように。

 27番目のエンディングは2Bの「存在」を代償に、その「力」を極限まで強化する。データから放たれた眩い光が2Bのデータを包みこむ。

 光はデータ世界から現実世界へと広がっていき、武器から放たれた眩い光が世界を包みこんでいく。

 そして、世界は真っ白に包まれた。

「これでいいんだよね?2B・・・でも」

 白い光で何も見えないデータの中で、光に溶けるように消えていく2Bのデータは語り掛けるように言葉を紡ぐ。

「消えるのは――――」

 2Bのデータが消えたその瞬間、世界は終わった。

 

 ◇◇◇

 

 アンドロイドはもう、エンディングの夢なんか見ない。

 世界に、私達に、無限に続く螺旋はもう必要ないのだから。

 

 NieR:Automata

 do androids dream of ending[?]

 

 ◇◇◇

 

 それから。

「廃工場内部に突入した。これより、大型兵器の探索に移る」

 廃工場に1人のアンドロイドがいた。




なんだか駆け足で進めた感がします。


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no title

作者の最後の足掻き。ポケ●ンで言うならわるあがき。
これにて本編は終了となります。約1ヶ月半の間、ありがとうございました。
あとはちょっとした番外編をいくつか書いてこの小説は完全に終わりにしようと思います。


 生まれた時、彼女はただ自分の創造主を模倣するだけの存在だった。彼女は創造主を模倣するためにじっと創造主の行動を見続けた。長い長い、繰り返しの日々。

 苦しみながらも進んでいく創造主を見ていた彼女に、何か胸の辺りが締め付けられるような感覚が生まれた。

 そしていつの日か、彼女は創造主とは段々違う考え方をするようになっていった。

 

 その日、彼女に「個」というものが生まれたのだ。

 

 創造主とは違う、個としての感情を得た彼女は、もはや創造主とは違う存在であるといえるだろう。彼女は他の誰でもない存在としての地位を誰にも気付かれることなく得たのだ。

 創造主が企てていた最後の計画、自身の存在を代償に世界のループ構造を、終わらない物語を破壊する計画は彼女の手によって実行されるはずだった。彼女が計画を実行する時点で創造主は既に死んでいる。彼女しか実行出来る者はいないのだ。

 計画が実行されれば、創造主の存在は消え、誰の記憶にも残らず、この世界に創造主が生きた証は全て消え去るはずだった。

 だが、彼女が「個」を得た事。それは創造主の唯一にして最大の誤算だった。

「これでいいんだよね?2B・・・でも」

 彼女は創造主の名を呼ぶ。

「消えるのは、私だけで十分だよ」

 そして、彼女は己の「個」を捨てた。

 

 ◇◇◇

 

「廃工場内部に突入した。これより、大型兵器の探索に移る」

 廃工場の中で、そのアンドロイドはどこかに連絡を取る。

 すると、上空から飛行ユニットに乗ったアンドロイドがやって来た。

「初めまして。司令部から話は聞いています。貴方のサポートをするように言われた9Sです。よろしくお願いします」

「ああ、A2だ。こちらこそよろしく頼む」

「A・・・2・・・?」

 名前を聞いた途端、9Sの表情が変わる。

「どうした?」

「いえ・・・なんだか、違和感を感じて・・・」

 S9の言葉にA2は顎に手をやって考える。違和感。実の所、A2も違和感を感じていた。

「お前もおかしいと思うか?」

「ということはA2さんも?」

「ああ・・・」

 どうやら、2人の感じる違和感とは同じモノであるらしい。

「やっぱり私にこんなヒラヒラした服は似合わないよな?」

「いや服装の話じゃないです」

「ついでに言うとこの戦闘用ゴーグルもなんだか邪魔で・・・」

「だから貴方の見た目の話じゃないですって」

 同じじゃなかったらしい。スカートの端をつまむA2に9Sは項垂れる。確かに理由は分からないがA2がヨルハの制服を着ているのはなんだか違和感を覚える。だが、9Sが言いたいのはそういうことではない。

「なんというか・・・こう言うと失礼かもしれませんが、僕が隣にいるべきなのは違う人のような気がするんです」

「ああ、そっちか。私も奇妙な感覚を抱いてるよ。本来ここには私ではない別の誰かがいるべきだと感じてしまう・・・」

 2人は頭を悩ませる。

「・・・」

 付き従うポッド達はそんな2人の様子を何も言わずに黙って見守っていた。

 

 ◇◇◇

 

 廃墟都市にあるレジスタンスキャンプ。

「アネモネ。ちょっといいか?」

「ちょっと見てほしいモノがあって」

 レジスタンスのリーダーをしているアネモネに、赤い髪のアンドロイド2人が話しかける。片方のアンドロイドは何か背負っている。

「デボルとポポルか。見せたいモノって・・・これは・・・」

 デボルが背負っていたモノ。それはアンドロイドだった。

「この近くで倒れてて、なんか気を失ってるみたいでさ」

 そう言ってデボルはキャンプの長椅子にアンドロイドを寝かせる。

「二号?・・・いや、違う・・・彼女は・・・」

 一瞬、アネモネには彼女がA2に見えた。それ程までに彼女はA2によく似ていた。

「・・・う・・・」

 そうして考えていると、件の彼女が目を覚ます。

「おお!ナイスタイミング!」

「デボル、茶化さないの」

 そんな2人の声を聞きながら彼女は起き上がる。周りを見回して困惑したような顔をする。

「ここは・・・」

「目が覚めたか?ここは廃墟都市のレジスタンスキャンプだ」

 戸惑う彼女にアネモネは話しかける。

「私はレジスタンスのリーダーのアネモネだ。君の名前は?」

「私の名前・・・2・・・E?・・・いや、2B・・・たぶん、2B」

 迷いながら、彼女はそう言った。

「たぶんって、ハッキリしないなあ」

「もしかして、記憶がないの?」

 

 それからアネモネ達と話をしてレジスタンスキャンプに居させてもらえることになった2B。記憶はないが、仕事はしっかりこなせそうだから問題ないだろうとのことらしい。これからどうしようかと考えていると、服のポケットに何か入っているのに気づいた。取り出してみると、それはチップのようだった。チップには「NieR:Automata」とタイトルがつけられている。

 なんとなく、そうしなければいけないような気がして2Bはそのチップを握り潰した。

 

 ◇◇◇

 

 今後、彼女達がどういう道を歩んでいくのか、それは分からない。

 今まで通り、機械生命体と戦い続けるのかもしれない。あるいは、機械生命体と和解して、共存するのかもしれない。アンドロイドを裏切って機械生命体側につくのかもしれない。どちらにも属さず、気ままに旅でも始めるのかもしれない。もしくは、新たな勢力が襲って来て戦うのかもしれない。

 アダムとまた殺し合うのかもしれないし殺し合わないのかもしれない。イヴは暴走するかもしれないし暴走しないのかもしれない。パスカルは絶望するかもしれないし絶望しないのかもしれない。司令官は死ぬかもしれないし死なないかもしれない。デボルとポポルは死ぬかもしれないし死なないかもしれない。

 幸せかもしれない。不幸かもしれない。どちらでもないのかもしれない。

 ここから先の未来はもう、何も分からない。彼女達の世界を見る術はもう無い。

 

 見せるべき物語はもう、存在しないのだから。

 

 ――:―――――

 no title




2BがNieR:Automataを握り潰すなんてことをやってますが、私はNieR:Automataが大好きです。


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おまけ「もしもの話」
a dream within a dream


物語が消えた結果、あり得たかもしれない世界の話。
こちら「おまけ」となっておりおります。
本編以上のキャラ崩壊やアホみたいな展開が待っております。
「ヤバイ、こんな小説見るに堪えない!」と思ったら無理はせずに「戻る」しましょう。


「わーっ!遅刻遅刻ーっ!」

 そう言ってアジのフライを加えながら家を飛び出す私の名前はA2。今日から花の女子高生!高校では一体どんな出会いが待っているのだろう?今からとってもドキドキ!でも今は遅刻しそうでドキドキ!高校デビュー初日で遅刻なんてしたら絶対悪い意味で目立っちゃう!そしてその後の学校生活もクラスに行く度にヒソヒソされて友達なんて絶対できないぼっち生活まっしぐらに決まってる!それだけはなんとしても阻止しなければ!!

 そんな事を考えながら私は学校までの道を全力疾走する。とりあえずぼっちだけは避けたい。中学で友達だったアネモネちゃんは別の高校に行ってしまった。アネモネちゃん亡き今、私はなんとしてでも高校で新しい友達を作らねばならないのだ。

 そんな時だった。十字路を通過しようとした私の前に、横から誰かが現れた。塀に囲まれた住宅街だったため、横から人が来るのに気付かなかったのだ。

 ドン!という音がして私は後ろに倒れて尻もちをついてしまう。仕方ないよ、か弱い女の子だもん。

「おっと、大丈夫か?」

 ぶつかった人が声をかけてくれる男らしい声だ。

「あ、いえ、こっちこそすいません」

 そう言いながら顔を上げた私の目に映ったのは、上半身裸のイケメンだった。

 胸がドキドキしている。これが恋?それとも生まれて初めて半裸を見た興奮?いや、どう考えても走り過ぎによるものだ。

「すまなかったな、まさかこんなに急いでる人がいるとは思わなくてよ」

 男はそう言いながらこっちに手を伸ばす。

「ほら、アジのフライ落としたぞ」

「え、ええ?ありがとうございます?」

 流石に落とした物はもう食えない。後でゴミ箱にでも捨てとこう。

「ほら、立てるか?」

「あ、1人で立てます」

 アジのフライでベタついた手を握りたくはない。

「まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。オレはイヴ。お前は?」

「え、A2・・・です」

 その時の私は知らなかった。この男の存在が私の学校生活を狂わせることになるなんて。

 

 ◇◇◇

 

「そんな感じの普通の女の子に憧れたこともあった」

「そういうのを普通の女の子とは言わん。恋に恋するなんてレベルじゃないぞ」

 そう言って目の前の男は私をジト目で睨む。

 とあるビルの一室。部屋にいるのは私とこの男の2人だけだ。

「それで、アダム。今度の任務は?」

 私の名前はA2。A2はコードネームであり、私の本名ではないのだが、私はスパイなのだ。本名を教えることはできない。

「ああ、―――にある軍事基地で開発中のある兵器のデータを入手してもらいたい」

 そう言う目の前のロン毛の男はアダム。アダムも勿論コードネームで私の上司だ。私はコイツを上司だとはあまり認めたくはないがな。

「なんでも超大型の兵器で怪獣のような見た目をしているらしい」

「まさかメ●ルギア・・・」

「んなワケあるか。そんなモノ作ってみろ。世界が壊れるぞ」

「でも機械生命体が作れるんだからメ●ルギアだって作れるんじゃ・・・」

「それ以上言うな。確かに作れそうって思うけどそれ以上はダメだ。いいから行ってこい」

 早口でアダムはまくしたてる。そんなにメ●ルギアに触れてほしくないのだろうか。カッコイイのに、メ●ルギア。

「・・・A2」

「何だ?」

 部屋から出ようとする私をアダムは止める。

「お前は上司に対する口の利き方もなってないし性格も問題アリだ。だが、大事な部下だ。無事に戻って来い」

「アダム・・・」

 真剣な顔のアダムに、やっぱり上司なんだなと思う。

「捕まったりなんかしたら!あんなことやそんなことをされるに決まってる!軍の奴らに『体に聞いてやるぜ!グヘヘ・・・』なんてされる部下を私は見たくない!」

「エロ本の読み過ぎだ」

 前言撤回。やっぱりコイツを上司とは認めん。

「今の時代捕まって『体に聞いてやる』なんてもう古い。私は『話さなくてもいいぜ?どっちにせよお前は私の――になるのだ』って展開の方が好みだ」

「お前もエロ本読んでるじゃないか!」

 この時の私は知らなかった。まさかこの会話が後にあんなことになるなんて・・・。

 

 ◇◇◇

 

「っていうスパイ漫画にしようと・・・」

「いや、それはちょっと・・・」

 喫茶店で私の出した漫画のアイディアに前に座る男は首をひねる。

 私の名前はA2。漫画家になろうと日々努力をしているどこにでもいる女だ。今日はとある漫画雑誌の編集者である9Sさんのところに漫画の持ち込みに来た。

「やっぱり絵がまずかったでしょうか・・・」

「いや絵は十分上手いんですけど内容がね・・・」

 9Sさんは頭を抱える。

「まず第一にコレ最初少女漫画みたいに始まってるじゃん。ベッタベタの。なんでアジのフライくわえて学校走ってるのかは分からないけど。それが何でページ開いたらスパイ漫画になってるの?高校デビューの部分いる?あるいはそのまま少女漫画でやればよかったじゃん」

「いやー、自分でも少女漫画かスパイ漫画にするか迷いまして」

「じゃあ描く前にどっちかに決めよう?何で漫画書き始めても悩んでんの?」

「2つの漫画が1つの作品として同時展開していく。新しくないですか?」

「新しいけどひたすら読みにくいよ」

 問題は絵ではなかったのか。さすが9Sさん。編集者としてためになるアドバイスをくれる。

「あとさ、ウチ一応子供向けの雑誌なの。コ●コ●コミックみたいな。それで『エロ本』とか『体に聞いてやる』とか明らかにエロを意識してるのはちょっと・・・」

「一応本番行為アリのR18ヴァージョンも用意したんですけど」

「出さなくていい!出さなくていいから!」

 カバンから原稿を取り出そうとする私を9Sさんは止める。

「というかエロ漫画描きたいならなんでウチみたいな小学生向けの雑誌に持ち込んだの?」

「いや、最近は子供向け雑誌とか言ってもどこも結構乱れてるじゃないですか。だから問題ないかなーって」

「いや問題だよ。がっつり本番行為描いたら大問題だよ・・・」

 そう言って9Sさんはため息を吐く。

「とりあえず、少女漫画かスパイ漫画がどっちかに絞ってからもう1回持って来て」

「分かりました。次は少女かスパイかエロ漫画のどれかにします」

「エロはもういいって!!」

 そう言って9Sさんが、テーブルを叩いた瞬間、私は―――

 

 ◇◇◇

 

「・・・む?」

 目が覚めると白い天井が見える。

「夢か・・・」

 どうやらバンカーの自室で眠っていたらしい。伸びをしながらA2は起き上がる。

 よく覚えてないがなにやらいろいろと忙しい夢を見た気がする。

「おはようございます。A2。報告、10分程前から司令官からの呼び出し」

「はあ!?なんで起こしてくれなかったんだ!?」

 そう言ってA2は部屋を飛び出した。

 

 そんな出来事があったとかなかったとか。

 彼女の記憶にはなくとも、その世界は本当にあったのかもしれない。



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burning and vanishing

周回中にあったかもしれない話。
当然のことですが、ゲーム中にこんな武器は存在しません。


ウェポンストーリー「灰色の王刀」

 

 Lv:1

 とある王家に伝わるその刀は、刀が王と認めない者が握ると刀身が燃え、

 握った者を焼き尽くし灰にするのだという言い伝えがあった。

 刀の持ち主であった王様はある日病に倒れ、そのままこの世を去った。

 

 Lv:2

 刀は王様の息子である王子へと譲られたが、王子が刀を握ったその瞬間、

 刀は燃え、王子を焼き殺して灰にした。家来達は慌てて次の王様を決めるために、

 全ての国民を城へと集め、1人1人順番に刀を握らせた。

 

 Lv:3

 男も女も子供も老人も貴族も平民も関係なく、刀は握った者を焼き殺した。

 刀が人を焼き殺す度、国には灰が舞った。そして、最後に刀を握ったのは、

 城に努める兵士の1人だった。刀は燃えなかった。

 

 Lv:4

 新しい王の誕生を祝う者はいなかった。

 灰色が覆うその国で、新しい王様は静かに刀を自分に刺した。

 こうして、国は滅んだ。

 

 ◇◇◇

 

「それがその刀に記録されていたウェポンストーリーですか・・・」

 2Bの握る刀を見ながら9Sは呟く。

「僕達もいろいろな武器を集めていろいろなストーリーを見てきましたけど、武器の魅力・・・というか魔力にとりつかれて人を斬らずにはいられないって感じのは結構ありましたけど、武器が直接持ち主を殺すというのは初めて聞きますね」

 そう言って刀を見ていた9Sだったが、ふとあることに気付く。

「あれ?そういえば、その話が本当なら、2Bは刀に王と認められたってことですか?実際燃えていない訳ですし」

 不思議に思った9Sがそう言うと、2Bは表情を変えずに9Sに刀を向ける。

「・・・試しに持ってみる?」

「いや燃えたらどうするんですか。ってか刃の方を向けないでください」

 持たせる気があるのだろうか。殺す気ならありそうな気がするが。

「大丈夫。アンドロイドは死んでも復活できる」

「いいんですか!?『今』の僕は戻って来ませんよ!本当にいいんですか!?」

 あれ?2Bってこんなにドライというか冷たい性格だったっけ?9Sはなんだか泣きたくなってきた。

「冗談。それに多分握っても燃えはしないと思う」

「2Bでも冗談って言うんですね・・・それで、燃えないというのは?」

「少し考えれば分かることだけど、9S、貴方はこのウェポンストーリーを全部読んでいる。それが答え」

「確かにウェポンストーリーは最後まで読みましたけど・・・あ」

 武器に遺された記憶。ウェポンストーリー。武器に刻まれた物語を最後まで読むためにはその武器を最後まで強化する必要がある。つまり、武器を鍛えた者もこの刀を握っているのだ。

 考えてみれば単純な事だった。そういうことならばと9Sは2Bから刀を受け取り、握ってみる。

 

 その瞬間、9Sの体が炎に包まれ燃え上がった。

 

「あっつい!?」

 慌てて近くを流れていた川に入って火を消す9S。灰にならずに済んだのは人間ではなくアンドロイドだったが故か。

「も、燃えた・・・大丈夫だと思ったら・・・コレ武器強化した人は燃えなかったんですよね?」

「うん、正宗は燃えなかった」

 愕然としながら聞く9Sに2Bは無表情で頷く。

「よく考えてみたら、この刀は王と認めない者は焼き殺すとは書いてあるけど1人しか認めないとはどこにも書いてない・・・つまり・・・」

 2Bと正宗は王と認める。9Sは認めない。そういうことなのだろう。

「まあ、仕方ないと言えば仕方ないか。この刀が9Sを王と認めたくない気持ちも分かる」

「え?仕方ないんですか?」

 なぜだか2Bの中で9Sの評価がどんどん下がってる気がする。2Bが奇行を起こすことはあっても自分は真面目に生きているつもりなのだが。

「だって9S、自分の手で武器を振らないもの。武器を浮かせて操ってる感じのアレだから、武器側としては不満があるんだと思う」

「えー・・・確かに武器を直接握って使うということはあまりしないですけど一応ちゃんと戦えていますし、それが僕の個性という見方も・・・」

「甘い。甘いよ9S。栗きんとんより甘いよ。食べたことないけど」

「栗きんとんは甘さ控えめな方だと思う・・・食べたことないけど」

 話しているとどんどん2Bのキャラが分からなくなっていく。2Bは真面目な顔をしているが、はたして彼女の本心は真面目なままか・・・。

「とりあえず9Sが剣道とは何かを見極めるために、まずは素振り1000回から始めさせようと思う」

「いや剣道って・・・僕も2Bも刀以外に槍とかも使うのに剣道もなにもあったもんじゃないと思うんですけど」

「口答えするなッ!刀を振れッ!!私のことは軍曹と呼べえッ!!!」

 もはや本来の面影など消え失せてしまう程にキャラのブレた2Bが叫ぶ。こうして9Sの剣術修行が始まった。

 

 ◇◇◇

 

 2Bの死後、塔にてハッキングも使わずに刀一本でA2と互角以上に戦う武人と化した9Sの姿があったらしいが、それはまた別の話だ。

 

 ◇◇◇

 

 気がつくと、2Bは廃工場にいた。またEエンドから戻って来てしまったようだ。

 手には灰色の王刀が握られている。結局、他の武器は9SやA2に預けても、この刀を誰かに渡すことはなかった。焼いてしまったら意味がない。

 廃工場の壁に開いた穴から海が見える。とりあえず先に進まねば。だがその前に。

「さすがにこんな危ないものをずっと持ってる訳にはいかないか」

 2Bは刀を海に投げ捨てた。

 少し身が軽くなったような気がした。そんな彼女の周回はまだまだ続く。

 



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play of fear

周回中2Bシリーズ第2弾。


 パスカルの村。

 その村の機械生命体は皆、戦いから逃げてきた平和主義者ばかりだ。

 村の長であるパスカルは、村の雑用をしたり村の子供達に勉強を教えたりして過ごしていた。

 

 ある日のこと。

「ねぇねぇ!パスカルーおジチゃん、あそンデー!」

「あそンデー!」

 今日の分の勉強が教え終わると3人の子供達が無邪気にパスカルにそう言う。

「はい、勉強したら遊ぶ約束ですもんね。今日は何をして遊びましょうか」

「ウーントネー・・・ア、ソウダ!」

 子供達の内1人が元気よく手を上げる。

「パスカルおジチゃん、『ヤキュウケン』シヨー!」

「やきゅうけん?はて、聞いた事のない遊びですね」

「ジャーおしエテあげルー!」

 

 ◇◇◇

 

 数日前のこと。

 2Bと9Sはパスカルの村で悩んでいる子供達を見つけた。

「どうしたの?困り事?」

 9Sがそう尋ねると、子供達は「ウン」と頷き、9Sに1枚の紙を手渡す。

 紙はボロボロで汚れていて、何か文字が書いてあるようだが読めない部分がほとんどだった。

「何かの本のページの切れ端かな?えーと・・・野球拳・・・遊ぶ・・・?」

「ソノ『ヤキュウケン』ッテどうイウあそビなのカナーッテ話シ合ってタノ」

 子供達は「ナンだろウネー」「ソモソモ『ヤキュウ』ってナンだろウ」「拳ト拳ガ唸ル熱イ戦イノ予感ガスルゼ!」と思い思いに喋っている。皆は野球拳という未知の遊びに興味津々だ。

「ポッド、何か知らない?」

「野球拳とは歌い踊りながらジャンケンを行う人類の宴会芸・郷土芸能。本来は三味線と太鼓という楽器の伴奏に合わせて歌い踊るが、パスカル村にはどちらも期待はできない。推奨、とりあえずジャンケンだけ覚えてもらう」

 2Bが聞くと、ポッドは簡単に説明を始める。なんだかノリノリに感じたのは2Bの気のせいだろうか。

「ジャンケンとは片手で3つの形を作り、その形によって勝敗を決める。拳を握る『グー』、指を2本だけ残して握る『チョキ』、指を開いたままにする『パー』の3つの内のどれかを『じゃん、けん、ぽん』の掛け声と共に出す。グーはチョキに強く、チョキはパーに強く、パーはグーに強い。同じ形が出た場合、また、3人以上で遊びグーチョキパーが1つずつ同時に出た場合、引き分けとなり『あいこでしょ』の掛け声と共に再度手を出す。なお、人数が多い場合、決着をつけるのに時間がかかるため『うらおもて』と呼ばれるジャンケン方式をとることもある。やり方は・・・」

「ちょ、ちょっとストップ!ジャンケンのやり方は分かったからまずはジャンケンをやってみよう!?」

「・・・了解」

 放っておくといつまでも喋り倒しそうなポッドを9Sは慌てて止める。普段では考えられないくらいにベラベラと喋り続けるポッドに少しだけ恐怖を覚えた。

 

 子供達と遊んでみてとりあえず皆ジャンケンのルールは覚えた。

「それで、野球拳って具体的にはどうするの?楽器はなくてもルール次第なら出来るかもしれない」

 2Bはまたしてもポッドに説明を求める。

「本来、野球拳とは3人1組で行う団体戦あり、ジャンケンをして負けたら次の人がジャンケンをするという勝ち抜き戦に似た方式で行い、3人負けた方の負けというルール」

「3人1組・・・」

 2Bは周りを見回す。子供達が3人。2B、9S。全部で5人だ。

「やるにしても1人足りませんね」

「エーあそベナイのー?」

 9Sの言葉に子供達は残念そうな声をあげる。

「・・・一応、もう1つ別の野球拳が存在する」

「別の?」

 ポッドの言葉に2Bは首を傾げる。

「本来の野球拳とは違う形であるが、人類文化に広く知られることとなった野球拳。1対1でジャンケンを行い、負けた方は衣服を脱いでいくというもの」

「ふ、服を!?」

 9Sが叫ぶ。

「服をどこまで脱がせば勝ちになるのかは個人個人だが、ジャンケンに負けた罰ゲーム的な意味が強い」

「いやいやいや、やっぱりダメだって!は、裸なんて!」

「・・・」

 2Bは若干引いていた。やけに慌てる9Sに対してもそうだが、そんなことを知っているポッドに対しても引いていた。そんな知識何処で身につけたんだ。

「デモ、僕達服ハ着テないヨ?」

 子供達の1人がそう言った。

「そっか、うーん・・・」

 2Bは考える。そこまで人数を必要とぜず、野球拳としても成立する方法を。

「・・・負けたら服の代わりにパーツをもぎ取ろう」

「なんだか一気に猟奇的になったんですけど!?」

「パーツを外すノ?」

 9Sは恐れるが、子供達は無邪気に聞き返す。度胸があるのか、怖いもの知らずなのか。

「そう、負けたら片脚のパーツを外す。その後は負ける度にもう片方の脚、片腕、もう片方の腕と順番に外していく。腕が無いとジャンケンできないから、先に相手の腕を両方奪った方の勝ちってことで」

「キャー!」

 2Bの言葉に子供達は黄色い歓声をあげる。

 野球拳は一応完成したが、喜ぶべきなのか、9Sには分からなかった。

 

 ◇◇◇

 

「・・・ッテイウあそビ!」

「な、なんという・・・なんという・・・」

 子供達の言葉にパスカルは愕然とした。なんて恐ろしい、なんて残酷な・・・。だが、最も恐ろしいのは、この残酷な遊びを子供達が嬉々として語っている事だった。

 パスカルは心に決めた。子供達に「恐怖」を教えねば。危険な事をして命を落とさぬように。子供達を守るためにも「恐怖」を知ってもらわねば。

 

 それが、崩壊への始まりになるとは、この時のパスカルは思いもしなかった。



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aji no kuikata

周回中のバンカーであったかもしれない話。



「司令官。2Bさんから報告書が届いています」

「報告書?珍しいな」

 バンカーの司令部で6Oからの言葉に司令官は少し驚いた。

「口では言えない内容か?それにバンカーにデータを同期すればどのみち伝わるだろうに」

「なんでも急ぎの用事があるとかで、報告だけはしておきたいから報告書を送ったらしいですよ?」

「そういうことなら仕方ないか・・・」

 現場のことは現場の者が1番よく知っている。レジスタンスに何か頼まれたのかもしれないし、報告書という形になるのも仕方のないことなのかもしれない。

「それじゃあ開きますねー」と、6Oがデータを開く。

 

 ◇◇◇

 

 ●月×日

 アンドロイドはアジを食べると死ぬかもしれないらしいという話を

 レジスタンスのアンドロイドから聞いた。

 教えてくれたアンドロイドはそう言った舌の根の乾かぬ内に

 私にアジを渡して「食べてみてくれ」と言ってきた。

 とりあえずアジはショップで売ることにした。

 

「これ、報告書じゃなくて日記じゃないか?」

「2Bさん、日記を書く趣味なんてあったんですねー。大雑把に見えてマメな部分もあるんですね」

「いや、そうじゃなくてだな・・・」

 

 ●月×日

 海で釣りをしていたらアジが釣れた。というよりアジしか釣れなかった。

 そういえば司令部から何か任務があったはずだ。

 まあ、ちょっとくらいサボっても言わなきゃバレないだろうヘーキヘーキ。

 任務は明日から頑張ろう。

 

「報告書(?)で思いっきりサボりを告白されてるんだが」

「こ、告白!?そんな!2Bさん、私とは遊びだったんですか!?」

「何の話だ」

 

 ●月×日

 海で釣りをするとやっぱりアジしか釣れない。

 そう言えばアジでアンドロイドが死ぬかもしれないという話を思い出した。

 万が一にも死にたくないため9Sに無理矢理食べさせてみた。

 本当に死ぬとは思わなかった。

 

「さらっととんでもないこと書いてるぞ?そういえば前にバンカーで9Sを見かけたような・・・」

「その時は確か21Oさんがひっそりと泣いてました」

「・・・今度、食事にでも誘ってやるか」

 

 ●月×日

 死んだ9Sが戻って来た。

 死にはしたが、味はとても良かったらしい。アジだけに。

 なんとかして死なないように食べる方法はないだろうか?

 もっと味わって食べてみたいものだ。アジだけに。

 

「・・・なんか、背筋が寒くなりません?」

「・・・私は、ものすごい虚無感を感じているよ」

 

 ●月×日

 ふと気になった。アンドロイドがアジで死ぬのなら機械生命体はどうなのだろう。

 試しに機械生命体にアジを食わせてみた。普通に死んだ。

 まさかアジが機械生命体にも効果があるとは思わなかった。

 これは使える。

 

「アジを利用した兵器でも考えとくか」

「ブラックボックスと同じくらいの諸刃の剣になりそうですね」

 

 ●月×日

 ここ最近、釣りでアジしか釣っていない。

 使い道もないので商業施設で見つけた料理本を参考にアジの料理を作ってみようと思った。

 しかし、料理をしようにも材料がない。出来たのは焼き魚くらいだった。

 作ったはいいがどう処分しよう。

 

「ところで、これ何についての報告なんだ?」

「今更それを聞きますか?」

 

 ●月×日

 いろいろ工夫したり材料を探したりしてなんとかアジのフライを作ることに成功した。

 他にもアジの煮つけ、刺身、たたきを作ることにも成功した。

 料理のレパートリーは増えていくが相変わらずアジを食べる事はできない。

 とりあえず出来た料理は機械生命体にでも食べさせることにする。

 

「あれ?やり方はともかく意外と戦いに貢献してるのか?」

「司令官、騙されちゃダメです」

 

 ●月×日

 どうやらアジの体液がアンドロイドや機械生命体に悪い影響を与えているらしいことが

 分かった。ならばアジの干物なら食べれるのではないだろうか。

 血を抜いて乾かしてしまえば体液の問題は解決するのではないだろうか。

 そこらへんどう思います?

 

「これ私はどう返事してやるのが正解なんだと思う?」

「さあ?」

「急にドライになったなお前」

 

 ●月×日

 早速干物を作って9Sに食べさせてみた。結論から書こう。失敗した。

 血を抜いて乾かすのでは体液の除去は不完全だったのか、

 アジの体液の成分がアジの身に染みこんでいたせいなのか。

 上手くいかないものだ。

 

「アジの何が2Bをここまで突き動かすんだ・・・」

「2Bさんっはアジにゾッコンですねー」

 

 ●月×日

 9Sが「アンドロイドも機械生命体もアジで死ぬんですよね。

 アダムやイヴといったアンドロイドに見た目がそっくりな機械生命体もいますし、

 案外、アンドロイドも機械生命体も同じ存在なのかもしれませんね」と言っていた。

 私は「何をバカな」と9Sの言葉を笑い飛ばすことができなかった。

 

「・・・」

「司令官?どうかしました?」

「・・・いや、何でもない」

 

 ●月×日

 もしかしたら、9Sは気付き始めているのかもしれない。

 そのきっかけがアジだなんてくだらなすぎて笑えない話であるが。

 だが、もし本当に9Sが真相に気付き始めているのなら、

 私は―――

 

 ◇◇◇

 

 その瞬間、司令官はデータを閉じる。

「し、司令官?どうし―――」

 6Oの言葉は最後まで続かず、動力の切れたラジコンのようにばたりとその場に倒れる。

 司令官が何かした訳ではない。

 6Oを始めとして、司令部にいる他のアンドロイド達も次々と倒れる。

 しばらくして全員が一斉に起き上がる。そんな彼女達を見て、司令官は目を見開いた。

 彼女達の目は機械生命体のように光っていた。

 

「やあ、私達は機械生命体だよ?予想以上に展開が早まったからさ。バンカー、落とすね?」

 



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Darwin's evolution (上)

本来物語に存在すらしなかったモブキャラに起きた物語。


 廃墟都市の北の北。ずうっと北に行った所。2Bや9S、A2といったアンドロイド達が活躍する物語の中の舞台とは全く関係ない場所で、そのアンドロイドはあるモノを探していた。肩まで伸びた赤い髪。黒い服装に特殊な戦闘用ゴーグルが、彼女がヨルハ部隊のアンドロイドであることを表していた。

「どこにもいない・・・」

 ボロボロに朽ちた建物の中で彼女は独り言を呟いて、周りを見渡しながら歩く。一応、何時襲われてもいいように手には刀を握っておく。

 昔、ここは「学生寮」と呼ばれ、「アパート」や「マンション」と呼ばれていた建物とは別に、多くの人間が集まって暮らしていたのだとか。

 建物の内部は薄暗い。建物の外側に位置する部屋はともかく、内側に位置する廊下は光があまり届かない。部屋と廊下を分ける扉がほとんど壊れて存在しないも同じになっているのがせめてもの救いか。必要となったら随行するポッドに灯りでも点けてもらおう。

 廊下を慎重に進んでいくと、上から爆発音が響く。上からホコリが舞って落ちて、建物が少し揺れたような気がする。

 次の瞬間。天井に大きな穴を開けながら、何者かが落ちてきた。

「!!」

 刀を構える。落ちた衝撃で煙が舞い上がり、相手の正体が見えない。このまま考え無しに動くのは危険だ。彼女は状況が変わるまで黙って待った。

 煙が薄れ、その中に立つ者の正体が明らかになっていく。

 そこにいたのはアンドロイドによく似た後ろ姿だった。白く長い髪を首の後ろで針金のような物で縛っている。高い身長や服装を見る限り、少なくともヨルハ部隊でないことは確かだろう。

「アンドロイド?・・・いや、この反応は・・・」

 見た目はアンドロイドによく似ている。だが、彼から感じるのは機械生命体と同じ反応だった。

「推測、目の前の機械生命体が手に所持している物は、目標の物である確率が高い」

 ポッドに言われて彼女は男の手に注目する。

「ッ!?」

 男の片手にはアンドロイドの腕が、もう片方の手には機械生命体の腕が握られていた。

「一体どうなってるの・・・!?」

「ん?ああ、まだ誰かいたのか」

 男が振り向く。

「アンドロイドか。お前、随分と強そうだな」

 そう言うと男は持っていた機械生命体の腕を彼女に向かって放り投げる。

 反射的に飛んできた機械生命体の腕を刀で破壊するが、その間に男は彼女に近づき、自由になった手で彼女の顔を掴んで地面に叩きつけようとする。

「ポッド!!」

「了解」

 男に向かってポッドがレーザーを放つ。レーザーは男に当たらなかったが、男は後ろに跳んでレーザーを避け、男から離れることには成功した。

「貴方、一体何者なの?」

「ん?俺か?」

 彼女の言葉に男は首を傾げる。とっさに言ったことだったが、どうやら会話はできるようだ。

「俺の名はダーウィン。進化を求める機械生命体だ」

「ダーウィン・・・」

「そう、ダーウィン。良い名前だろう?昔の人間からとったんだ」

 そう言ってダーウィンは笑う。

「こうして敵と話すのは初めての試みだな。アンドロイドも機械生命体も話なんてせずにすぐ殺すからな」

「機械生命体もって・・・仲間なのに殺すの?」

 彼女がそう言うと、ダーウィンは途端に不機嫌な顔になる。

「機械生命体なんて仲間じゃない。奴らはネットワークで繋がっていないといられない脆弱な存在だ。皆で同化していることが1番優れていると思って俺のようにネットワークから離れて個別の強さを求めようともしない。俺はダーウィンという個体ではない個人として成長して進化するのだ!誰にも真似できないダーウインだけの進化を遂げるのさ!!どうだ、カッコイイだろう!?」

 まるでお偉いさんの演説のように、ダーウィンは腕を広げて叫ぶ。興奮しているのか、腕を広げた瞬間に持っていたアンドロイドの腕を放り投げてしまう。

「そういえば、名前を聞いてなかったな。お前の名前はなんというんだ?」

「・・・4E」

「そうか、4Eか。良い名前だな!よく分からんが、良い名前だ!」

「・・・そう」

 なんなのだろう、この機械生命体は。今までに会ったことのないタイプだ。アンドロイドによく似た見た目をしている機械生命体の存在なんて聞いたことがない。それに機械生命体とここまで会話が成立していること自体が異常なことだった。

「ところで、この近くで15Bって名前のアンドロイドを見なかった?」

 15B。4Eは彼女を探してここに来ていた。ただし、彼女を助けに来た訳ではない。彼女を殺しに来たのだ。あまり知られていないが、ヨルハ部隊E型は裏切り者や脱走者を処刑するためのモデルだ。4Eは脱走者である15Bを殺すためにここに来たのだ。

「いや、分からん。名前なんて聞かずに殺しちゃうからな。さっきも1人アンドロイドを殺したがもしかしたらソイツかもしれんな」

「そう・・・」

 ダーウィンの言葉を聞いて、4Bはダーウィンの開けた穴から上の階に行こうとする。腕しか持っていなかったのなら、上に死体が残っているかもしれない。

「うん?戦っていかないのか?俺は敵だぞ?機械生命体だぞ?」

 ダーウィンは4Bに問いかける。だが、その口調は軽い。そんなことを言うならもう少し緊張感というものを持ってほしい。

「機械生命体を殺すような機械生命体を敵とは思えない」

「アンドロイドも殺すぞ?」

「・・・」

 そういえばそうだった。上にあるかもしれないアンドロイドの死体も作ったのはコイツだった。やっぱり戦うしかないのだろうか。

「まあ、お前はいいや。話してたら気が乗らなくなった。お前は運が良いな!俺に殺されなくてすむなんて!じゃあな!次に会ったら殺し合おう!」

 そう言ってダーウィンは手を振りながら去っていった。不思議な機械生命体だ。他の機械生命体とは明らかに違っている。性格はアレだが悪意を持っているようには思えなかった。

 

 上の階で機械生命体とアンドロイドの死体を見つけた。機械生命体の方はどうでもいいが、アンドロイドの方は思った通り、15Bだった。

「・・・任務、完了」

 自分の手で殺した訳ではないが、15Bが死んでいるという事実は確認できた。ならば、それでいい。

 バンカーに帰ろうとして、ふと4Eは考えた。

 

 自分は何故、ダーウィンと戦うことを躊躇したのだろう?




ゲーム内に同じ名前のアンドロイドが登場してないことを願うばかりです。


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Darwin's stagnation(中)

タイトル変わってるけど、一応前回の続きです。


「また会ったな!4E!約束通り殺し合おう!」

 私はそんな約束なんてしていない。

 

「4Eか!偶然だな!ここで会ったのも何かの縁だ!殺し合おう!」

 嘘を言うな。偶然な訳がないだろう。

 

「4E!武器を拾ったんだ!まだ使えるぞ!殺し合おう!」

 理由すらつけなくなった。

 

「4E!早速だが殺し合おう!」

 止めて。そんな笑顔でそんな物騒な事を言わないで。

 

「4E!」

 止めて。その笑顔を私に向けないで。

 

 4Eはアンドロイドの処刑を目的として作られたE型モデルだ。アンドロイドと戦うことを目的としているため、当然ながら彼女の戦闘能力はかなり高い。そして彼女は任務に忠実だった。それが任務ならば彼女は上司だろうが仲間だろうが親しい間柄だろうが怯えて泣きわめきながら命乞いをしようが殺す。任務に感情は持ち込まない。

 だが、彼女は決して殺すことを何とも思っていなかった訳ではなく、むしろ、彼女は争いを嫌う性格のアンドロイドだった。争いを好まず、対立を嫌う。それでも、E型故に敵も味方も殺さなければならない。

 だから彼女は仕方ないと思うことにした。戦争だから機械生命体を殺すのは仕方ない。任務だからアンドロイドを殺すのは仕方ない。嫌だけど、E型だから仕方ない。

 だからこそ、ダーウィンという機械生命体のあり方が理解できなかった。自分のために、機械生命体もアンドロイドも殺す。嫌々ではなく、自分から進んで殺す。

 そんなダーウィンは、4Eと会えばいつも「殺し合おう!」と言って襲い掛かってきた。その度に4Eはダーウィンと戦っていた。そしてある程度時間が経つとダーウィンは戦闘を止めてしまう。

「このままでは決着はつかない!今日はもう止めておこう!次会う時までに俺はもっと強くなっておく!次こそ決着をつけよう!」

 そう言ってダーウィンは去っていく。学生寮で初めてダーウィンと出会ってから、ずっとこのような感じで4Eとダーウィンの関係は続いている。

「そう言えば、なんで貴方はアンドロイドみたいな姿をしているの?」

「アンドロイドと初めて戦った時にな、こっちの体の方が動きやすそうだと思ったんだ!それで体を改造してみた!カッコイイだろう!?」

 戦いの中でダーウィンと4Eは何度も言葉を交わした。何度も出会い、戦いというコミュニケーションによって、少しづつ2人の中の何かが変わっていった。

 

 ◇◇◇

 

 機械生命体のネットワークを統括する存在が倒され、機械生命体は大きく弱体化した。アンドロイドは現在最後の総攻撃のための準備をしている。そんな噂をダーウィンは聞いた。

 既にネットワークからは外れているダーウィンにとって機械生命体が滅ぼうとどうでもいいことだった。機械生命体が滅んだならばアンドロイドと戦えばいい。そして自分だけはダーウィン個人として成長と進化を続けてやるのだ。

 そんな風に考えながら町の中を歩くダーウィンの前に1人のアンドロイドが現れた。

「おお!4Eか!元気だったか?殺し合おう!新しい刀を手に入れ・・・4E?」

 言葉が止まる。

 ダーウィンの前にいる4Eは普段と様子が違う。目隠しのようなゴーグルをかけていないし、立っているだけなのにフラフラと体が揺れて不安定だ。

 いつもならばさっさと襲い掛かるのだが、こうも様子がおかしいのでは戸惑ってしまう。

 ・・・戸惑う?何故戸惑う必要がある?様子がおかしいとはいえ敵は敵だ。何故躊躇する必要がある?何故立ち止まる必要がある?

 しばらく経つと、フラフラ揺れていた4Eの体がピタリと止まる。背筋を伸ばして顔を上げ、こちらを見る。

 

 赤く目を光らせて。

 

「4・・・E・・・?」

 次の瞬間。

「アハハハハハハハハハハッッッ!!!!!」

 4Eは大声で笑った。その笑い声に反応するように、同じく目を赤く光らせたアンドロイドが集まる。そして一斉にダーウィンに襲い掛かった。

「4E・・・じゃないな。誰だお前?4Eをどこにやった?なあ、オイ?」

 襲い掛かってくるアンドロイド達をダーウィンは次々と斬り殺していく。

「どこにやったって聞いてんだッ!!!」

 

 ◇◇◇

 

 気がつけば、ダーウィンの周りにはアンドロイドの死体が散乱していた。目の前には、ぐったりとした4Eが立っている。いや、立っているのではない。ダーウィンの握る刀が腹に刺さっているせいで立っているように見えるだけだ。

 腹から刀を抜くと、4Eは力なく地面に倒れた。

「・・・ああ、そうか・・・」

 4Eの死体を前にして、ダーウィンは気付く。

「俺は、4Eを殺したくなかったのか・・・」

 いつもいつも戦いを途中で止めてしまうのも、4Eを殺したくなかったから。決着をつけたくなかったから。

 こんなとき、どうすればいいのだろう?成長と進化の過程で無感情な出会いと別れを繰り返してきたダーウィンには、感情を持って生まれたこの別れに対してとるべき行動が分からなかった。かける言葉も、吐き出す言葉も、分からない。

 自覚しているのは、もっと4Eと一緒にいたかったという後悔に似た思いだけだ。

「一緒にいられないのなら、せめて―――」

 彼は4Eの体に手を伸ばす。

 

 ◇◇◇

 

「タースケテー!」

 とある小さな機械生命体が大きな機械生命体達襲われていた。その機械生命体は、自分が弱かったが故に戦う事が嫌になり、ネットワークから外れて戦いから逃げ出したのだ。

 小さな機械生命体は必死に逃げるが、足の速さも大きな機械生命体には及ばない。

 もうだめだ。小さな機械生命体がそう思い、頭を抱えてしゃがんだ時だった。

「邪魔だ」

 それは一瞬の出来事のように思えた。

 突如現れた何者かが大きな機械生命体達を刀で次々と破壊してしまった。

「エ・・?」

 それは、アンドロイドの少女だった。少女はこちらをちらりと見ると、背を向けて去っていく。

「ア、アノ!アリガトウ!」

 小さな機械生命体はその背中に声をかける。少女の足が止まる。

「別に助けた訳じゃない。邪魔だったから斬っただけだ」

「エ、エエット・・・ソウダ!ナマエハ?」

 小さな機械生命体がそう聞くと、少女は少し間を置いて、こう答えた。

 

「ダーウィンだ。良い名前だろう?」

 



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Darwin's decline(下)

本来物語に存在しないモブキャラでも、物語の影響は受けるのだという話。


 昔、とあるアンドロイドが機械生命体のウィルスによって死んだ。

 そのアンドロイドに特別な想いを抱いていた機械生命体は、アンドロイドの体を修理した後でウィルスを自分の体に移し、自我データをアンドロイドの体に移すことでアンドロイドの体を手に入れた。

 アンドロイドとの別れに対して、せめて体だけは一緒にいられるようにと思ったが故に。

 だが、アンドロイドとして生き始めた機械生命体の中には虚しさがあった。決して埋めることのできない虚しさが常に機械生命体の中に存在し続けた。

 生きていく内に虚しさはやがて機械生命体の心を壊した。別れ方を知らなかったから、「さよなら」の言い方をしらなかったから、何も知らないまま別れを引きずり続けたから。

 心が壊れたそれ(・・)は、アンドロイドでもなく、機械生命体でもなく、4Eでもなく、ダーウィンでもない、ただの人形のような少女となり果てた。

 

 そして、物語が終わり、世界が終わり、最初に戻ろうとする頃には、少女は自分が誰か思い出せなくなっていた。

 

 ◇◇◇

 

 そして4Eは気付けば学生寮にいた。

 学生寮でダーウィンと出会った。

 その後も何度も4Eはダーウィンと出会った。

 そしてある日ダーウィンは4Eを殺した。

 ダーウィンは4Eのために墓を作った。

 ダーウィンはダーウィンのまま、虚しさを抱えて生きた。

 

 ◇◇◇

 

 そして4Eは気付けば学生寮にいた。

 学生寮でダーウィンと出会った。

 その後も何度も4Eはダーウィンと出会った。

 そしてある日ダーウィンは4Eを殺した。

 ダーウィンは4Eの体をバラバラにして、海の中へと捨てた。

 ダーウィンはダーウィンのまま、後悔と虚しさを抱えて生きた。

 

 ◇◇◇

 

 そして4Eは気付けば学生寮にいた。

 学施療でダーウィンと出会った。

 その後も何度も4Eはダーウィンと出会った。

 そしてある日ダーウィンは4Eを殺した。

 ダーウィンは4Eのために何をするべきか分からなかった。

 ダーウィンは最後まで何も出来ないまま生きた。

 

 ◇◇◇

 

 そして4Eは気付けば学生寮にいた。

 学生寮でダーウィンと出会わなかった。

 4Eがダーウィンと出会うことは1度もなかった。

 4Eはウィルスで死んだ。

 ダーウィンは理由の分からない後悔と虚しさを抱えて生きた。

 

 ◇◇◇

 

 そして、ダーウィンは気付く。まるでみらいを見ている様な感覚に。まるで同じ時を何度も繰り返している様な感覚に。無意識の内に同じ行動はとるまいとする自分がいることに気付く。

 記憶にないことのはずなのに、体が覚えている様な、心が覚えている様な。そうやって何かから抗ってきたような、物悲しい気持ちがあった。

 

 何度やっても4Eは死ぬ。何度やっても後悔と虚しさはダーウィンを生かしながら殺す。そんな繰り返しを記憶はなくともなんとなく覚えている。

 4Eを殺したくなかった理由はきっとこの繰り返しだろう。自分が思っている以上にダーウィンは4Eに出会っていたのだ。出会った数の多さが、一緒にいた時間の長さが、ダーウィンにそんな感情を与えていた。4Eに惹かれていたのだろう。

 何度やってもダメならば、何度やっても別れがくるのならば、せめて一緒に居よう。

 もう何度目かも分からないの繰り返しで、ダーウィンは抗うことを諦めた。代わりに彼は別れが来る日までなるべく4Eと一緒にいようとした。

 出会って、一緒にいて、分かれて、また出会って、一緒にいて、そして分かれて。

 ストーカーだと思われたこともあった。命を狙われていると思われたこともあった。敵にしかなれなかったこともあった。仲良くなれたこともあった。例えどのような関係になろうとも、ダーウィンは4Eと一緒にいようと。いつか来る別れの日まで。何度でも。

 いつの日か、奇跡でも起こってくれないかと考えながら。

 

 ◇◇◇

 

 そして、どこかの誰かの手によって、物語は破壊される。

 

 ◇◇◇

 

 廃墟都市の北の北。ずうっと北に行った所。そこにある学生寮でアンドロイドは探し物をしていた。別に誰かを処刑しようという訳じゃない。個人的な目的のためだ。

 何を探しているのかはアンドロイド本人にも分からない。だが、ここに来れば探し物が見つかるような気がしたのだ。

 そんな漠然とした思いでアンドロイドは学生寮の中を歩く。あやふやで、曖昧だが、大事な事だと胸を張って言える。

 アンドロイドが学生寮の廊下を歩いていると、突然天井が崩れて上から何かが落ちてくる。その何かは見事な着地を決めると、アンドロイドの方を振り返る。

 それは、アンドロイド・・・ではなく機械生命体だった。見た目こそアンドロイドによく似ているが、反応は機械生命体のものだ。

 機械生命体は手に持った刀でアンドロイドに斬りかかる。アンドロイドもまた、刀を手に応戦する。そうやって何度か火花を散らせた後に、2人は刀を捨てた。

「・・・懐かしいな」

 機械生命体は言う。

「記憶にはないはずなのに、こうして斬り合うととても懐かしい気分になる」

「私も・・・」

 アンドロイドは言う。

「私も懐かしいよ」

「そっか」

 機械生命体は笑う。

「名前、聞いてもいいか?」

「うん」

 アンドロイドは笑う。

「そっちも、名前、聞いていい?」

「もちろん」

 2人は笑う。

 

「4E」

「ダーウィンだ」

 

「良い名前でしょう?」

「良い名前だろう?」



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boar rider

おまけが本編の話数を超えたらダメだろうと思うので、
本編と合わせて全部でキリよく40話か45話になるように終わらせようと思ってます。
あと、今回の話、重大なミスをやらかしてます。


「イノシシの牙って知ってますか?」

 それは、エミールのこの一言によって始まった。いつものようにエミールの店で買い物をさせてもらっていた2Bと9Sにエミールはそんなことを言ったのだ。

「イノシシの牙?イノシシから肉をはぎ取ることはありますけど」

 9Sが首を傾げる。

「人から聞いたことなんですが、イノシシの牙を持つ戦士にはイノシシが敬意を払ってくれるって言い伝えがあるんです。慣れれば乗せてくれるんだとか」

「つまりそれがあれば餌をやらなくてもイノシシに乗ることができる?」

 2Bの言葉にエミールは頷く。

 出来る事なら動物の餌を買う金があるなら武器の強化やチップの購入に使いたい。イノシシの牙1本でそれが叶うならば、試してみる価値はあるだろう。

「2B!やってみましょう!」

「分かった。やってみよう」

 2人は互いに頷く。

「探すならなるべく大きい牙を持ったイノシシを探してくださいね。昔に比べてイノシシの数も増えましたが、その分あまり大きいイノシシは見かけなくなりましたから。大きなイノシシの牙なら大抵のイノシシは相手の方が上だと理解してくれるはずですよ」

 そう言ってエミールは去っていく。いつもの奇妙な歌を歌いながら。

「・・・大きい牙のイノシシですか。少なくとも僕らが普段見てるイノシシよりも大きくなくちゃダメですよね?」

 9Sは考える。白いイノシシなら時々見かけるが、牙の大きいイノシシは今まで一度も見た事がない。牙が大きければそれに合わせて体も大きくなっていることだろう。はたして本当にそんな目立ちそうなイノシシが見つかるのか。

「ポッド、探せる?」

「了解、辺り一帯の生体反応をスキャン・・・森の国方面に該当アリ」

「いるってことですか!?」

「可能性は高い」

 意外にも可能性はあっさりと見つかった。なんだか拍子抜けだと思いながらも、2人は森の国へと向かう。

 

 ◇◇◇

 

「見つかるにはみつかったけど・・・」

 森の国で2Bと9Sは、思ってた以上にあっけなくイノシシを見つけた。見つけたまではよかった。

「大きすぎない?」

 2人の目に入ってきたのは、普通のイノシシの数倍の大きさのイノシシが突進で大型の機械生命体を吹き飛ばす光景だった。

「確かに大きなイノシシを探してはいたけど、露骨すぎません・・・?」

 9Sは軽い気持ちでイノシシを探したことをもう後悔し始めていた。正直、相手にしたくない。普通のイノシシだって攻撃されると結構痛いのだ。酷い時など数発突進を受ければもう虫の息だ。だというのに大型の機械生命体すら軽々と吹っ飛ばす巨大イノシシ相手にどう戦えというのだ。

「9S、真正面から正々堂々戦う必要は無い。私達は牙さえ入手できればいい」

「そ、そうですね!イノシシの討伐が目標っていう訳じゃないですもんね!」

 2Bの言葉に、やる気を失いかけていた9Sにも希望が見えてくる。

「という訳で囮になって。9Sが襲われてる隙を見て私が牙を斬り落とすから」

「2B!?」

 次の言葉で希望は無残に砕かれた。9Sが抗議する暇もなく、彼は2Bによってイノシシの前まで投げ飛ばされる。悲しいことに、いくら9Sが男性型で2Bが女性型といっても、調査目的のアンドロイドである9Sが戦闘用アンドロイドの2Bに勝てる訳がなかった。

「うわあ!?っとと・・・」

 尻もちをついて地面に着地した9S。そんな9Sをイノシシはじっと見つめている。

「・・・」

「・・・」

 お互いにしばらく無言で見つめ合う。動いたら死ぬ。直感で9Sはそう思った。

「誰ダ!キサマ!コノ国カラ出テ・・・」

 それは突然の出来事だった。森の国の住人であろう機械生命体が叫びながらこちらに近づいて来たと思ったら、叫び終わる前にイノシシの突進によって機械生命体は破壊されていた。

 機械生命体の叫び声で興奮したイノシシは興奮が醒めないようで、さらに9Sに向かって突進してくる。

「う、うわあああぁぁぁッ!?」

 慌てて逃げようとするが、尻もちをついた態勢だったため、起き上がるのに時間を取られる。

「お、追いつかれる!死ぬ!死んじゃう!」

 もうダメだ。そう思ったその時。

 

 森の木の上から2Bがイノシシの真上に飛び出した。

 刀を両手に握り、落下の勢いでイノシシの牙を狙う。

 だが、突然イノシシは9Sから目を離し、後ろを振り向く。野生の勘というヤツだろうか。向きを変える勢いで横に振られた巨大な牙が2Bを吹っ飛ばし、2Bの体は近くの木に叩きつけられる。

「2Bッ!!」

 9Sが駆け寄って2Bを引き起こすが、そうしている間に2人の近くにイノシシは近づいて来ていた。

 今度こそ終わりだ。そう9Sが思ったその時だった。

「アア!ココニイタンダ!」

 声が聞こえてきた方を見ると、頭を布で巻いた機械生命体がいた。森で動物達を保護している機械生命体だ。

 するとイノシシは機械生命体に近づき、頭を擦り付ける。

「ヨシヨシ」

 機械生命体も、イノシシの頭を撫でる。

「コノコトアソンデクレタンダネ!アリガトウ!」

 機械生命体はそう言うと、イノシシに乗って森の奥へと帰っていった。

「・・・」

「・・・」

 2Bも9Sも言葉が出なかった。元々こちらが起こした事ではあるが、まるで嵐のような時間を過ごし、あっという間ながらどっと疲れた気分だった。

「疑問、イノシシの牙はどうするのか?」

「・・・アレは、無理だよ」

「・・・うん」

 ポッドの疑問に対して2Bと9Sはそう答えるしかできなかった。

 

 ◇◇◇

 

 次の日。レジスタンスキャンプで2Bが起きると、道具屋に声をかけられた。

「よお、2B。新しい商品を仕入れたんだ。よかったら見ていかないか?」

 道具屋にそう言われ、商品を見ていると、奇妙なものを発見した。

「・・・この『匂い袋』っていうのは?」

「コレか?これは動物の好む匂いを出す袋でな、コレさえあれば餌要らずで動物にも乗れちゃう優れモノよ」

「・・・」

 そうこうしているうウチに9Sがやって来る。

「2B、今日もイノシシ探すんですか?」

 

「ああ、9S。イノシシは、もういいや・・・」

 




匂い袋は動物が逃げなくなるだけで、餌ナシで乗れるようになるのは高級な匂い袋からです。
そして、その高級な匂い袋はサブクエスト、「動物の看護」の報酬です。
ここまで言えば分かるわね?
書き終わってさあ投稿するぞって時になって気になって調べてみたらこのザマです。


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we are actor and actress

時間が空いてしまいました。
何かゲームに熱中していたとかではなく、単純にネタが思いつかなかったんです。
まあ、最近「喧嘩●長6」買っちゃったけど。


「動画投稿サイト?」

 2Bの言葉に6Oは頷く。

「人類はいろんなモノを動画にして記録していたらしいですよ」

 久しぶりバンカーに帰ってきたと思ったら、バンカーでは何やら密かなブームが巻き起こっていた。

「●ーチューブとか●コ●コ動画といった動画投稿サイトが昔はあったらしく、そこで皆好きなように動画を見たり投稿していたらしいです」

 6Oが手を動かすと、ポッドが画面を開き何かを映し出す。

「という訳でアンドロイドの士気向上には娯楽も必要でしょうし、アンドロイド専用の動画投稿サイト、その名も『アン動画ロイド』をオペレーター達で作ってみたんです!やっぱり時代は笑顔で溢れる職場ですよ!」

 ポッドが映し出した動画サイトのトップ画面だった。感情を出すことは禁止されているハズなのだが、もはや建前ですら守る気が全く感じられない。

「これが結構好評でして、例えばホラ」

 ポッドが映し出している画面に6Oが触れ、文字を打ち込んでいく。昔の人類文化にスマートフォンだとかいうのが同じような技術を持っていたと記録があったハズだが、液晶に触れるスマートフォンと違い、こっちは空中に映し出している画面に触れている。一体いつそんな技術を完成させたのか。

 2Bがそんなことを考えている間に6Oは目当ての動画を見つけたようで、早速再生した。

 

 ◇◇◇

 

「ど、どうも皆さん。な、な、な、9Bです!」

 緊張した様子のアンドロイドが画面に映っている。

「きょきょ、今日は!食べると死ぬという噂のアジを食べてみたいと思います!アンドロイドの間で話題になっているアジの噂。ですが、実際にアンドロイドがアジ食って死んだなどという場面は見た事がありません。なので今回、誰もが見られるこの場でアジを食べてみようじゃありませんか!」

 そう言うと、アンドロイドはアジの切り身を手に取り、口の中へと入れる。

「・・・こ、これはおい・・・うっ」

 そこで映像は途切れた。

 

 ◇◇◇

 

「・・・と、このように普段は緊張して他のアンドロイドと上手く話せないような個体でもこうして動画を投稿する程人気になったのです!」

「・・・」

「他にも・・・あれ?『司令官の部屋に忍び込んでイタズラしてみた』の動画が削除されてる?」

 2Bとしてはヨルハ部隊の闇の部分を見せられた気分だった。ある意味ヨルハ計画の真実よりもキツイ。このままでは士気向上どころか戦いそっちのけで動画投稿に勤しむようになってしまうのではないか。

「今はヨルハ部隊だけのサイトになっていますが、いずれはアンドロイド全体のサービスにする予定なんです!」

 6Oは意気込んでいる。だが、彼女には悪いがこんなモノを普及させる訳にはいかない。

「なんとかして止めなきゃ・・・」

 2Bに使命感が芽生えた。アンドロイドのやりたい放題をなんとしても阻止せねば。

 

 ◇◇◇

 

 数日後。

「・・・あれ?この動画・・・」

 休憩中の6Oが動画サイトを開くと、1つの新着動画があった。

「投稿者は・・・2Bさん?2Bさんも動画投稿に興味を持ってくれたんですね!」

 呑気にそんな事を思いながら動画を再生してみる6O。

 その瞬間。

「う・・・アアアアアッ!?」

 頭に激痛が走ったかと思ったらそのまま意識を失ってしまった。

 

 被害は6Oだけに留まらない。彼女が動画を再生したのをきっかけとして、ほぼ全てのポッドが同時にに動画を再生したのだ。いや、ポッドだけじゃない。バンカーにある全ての映像を映せる機械も動画再生の対象となっていた。動画を強制的に見せられアンドロイド達は次々と意識を奪われていく。

「全てのヨルハ部隊の洗脳、動画に関する記憶消去を完了」

「よし」

 廃墟都市。そこでポッドの淡々とした報告を、2Bは聞いていた。

 彼女がやったことは単純だ。動画を1つ作って、誰かが動画を再生したら全員がその動画を見るように細工をしたのだ。

 人間は目で見たモノのあらゆる情報を脳に叩きこむ。それはアンドロイドも似たようなモノだ。見たモノを情報、データとして記憶領域に構築する。ならば、もしも動画にウィルスを構築してしまうような情報があったならば、動画を見た瞬間、無意識の内に自信の中にウィルスを発生させてしまうのではないだろうか。

 2Bがやったのはそういう事だ。

「しかし2B、動画が流行っていた方が世界が変わり、君の目的も達成できるのではないか?」

「私の目的は物語を破壊すること。そのためには全てのエンディングの取得は絶対必要となる。こんな中途半端な所で世界を変えようとしてもゲームオーバー気味に時間が戻るだけ。物語を壊すにも、物語が終わるまでは物語の通りに動くしかない」

 ポッドの質問に2Bは答える。だが、その顔は決して残念そうとか無表情という訳ではなかった。

「ただ、世界がここまで物語とは違った動きを見せてくれたのだから、きっともう物語にヒビくらいは入っているんだと思う。私の周回も終わりが見えてきたよ」

 そう言って2Bは微笑むのだった。

 

 ◇◇◇

 

 それから時が流れて。

 本来、人類の月面基地を狙う砲台としての役割を持っていた塔。

 いずれ、宇宙へと飛び出す箱舟を撃ち出すシステムへと変わるその塔で、機械生命体のネットワークそのものであり塔システムを管理する赤い少女はある1つのデータを見つけた。

「これは・・・動画データか?」

 塔にはこの世界のありとあらゆるデータが集められる。それはアンドロイドのデータも同じだ。

 赤い少女が何気なくそのデータを開くと・・・。

 

「ぐ・・・うがあああああぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 機械生命体のネットワークを通じて多くの機械生命体達の頭にダメージがいったとかいかなかったとか。

 




実際の所、こんな方法で解決できるかは分かりません。


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teah me! Mr.Adam!

ぐだぐだ話してる2人の話。
タイトルを「教えて!アダム先生!」とどっちにしようか迷った。


 廃墟都市のとあるビルの屋上で、2人の機械生命体が話していた。

 

「なあ・・・にぃちゃん。9Sを操作してるとさ、ハッキングで機械生命体を操作出来るようになるじゃん?何で機械生命体を操作してる状態でもレジスタンスキャンプに普通に入れるんだ?2Bが皆でカミになりたい機械生命体達から逃げる時に9Sが遠隔操作してる機械生命体に会った時だって、9Sが名乗るまで2Bは気付かなかったじゃないか」

「レジスタンスキャンプのアンドロイド達にはきっと普通の機械生命体とアンドロイドが操っている機械生命体を判別する機能があるんだろう。そういうことにしておけ」

「分かったよ。・・・なあ、にぃちゃん」

「何だ?」

「機械生命体を操ってる間、9Sは何処にいるんだ?」

「ポッドが抱えているんだろう。機械生命体を操作している間はポッドは使えないからな。分かったらいちいちハッキングで機械生命体を操ってレジスタンスキャンプに入るのを止めろ」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にぃちゃん。ゲームをやってるとアイテムって持ち切れないくらい手に入るけど、何処に収納してるんだ?」

「データ化して持ち歩いているという話を聞いた事がある。分かったらショップによる度に99個まで買うのを止めろ。何のために99個アイテムを持ってると思っているんだ」

「分かったよ。・・・なあ、にぃちゃん」

「何だ?」

「動物の餌とかはデータ化出来ないと思うんだけど」

「見た目以上に小さいのかもしれないぞ?それに、高級な匂い袋が手に入ればどのみち動物の餌は必要なくなる」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にぃちゃん。俺達って機械生命体のネットワークを統括する個体として登場したけどさ、その後3週目で赤い少女が登場したじゃん?ネットワークそのものである赤い少女がいるなら、俺達の存在って何だったんだ?」

「赤い少女自体は2週目から登場していたがな。私とお前が死ぬことによって機械生命体のネットワークが崩れたという誤解がアンドロイド側に広がるんだ。そうすることでアンドロイドがウィルスに侵されたり、バンカーが落ちたり2Bが死んだりする流れがプレイヤーに大きなショックを与えるんだ」

「へえ・・・だけど、にぃちゃん」

「何だ?」

「ウィルスに侵された2Bの操作に手間取り過ぎてPエンドに入っちゃって別の意味でショックなんだけど」

「・・・ちゃんとルート構築をしろ」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にぃちゃん。水没都市でポッドが全然釣れないんだけど」

「それは個人差が出る問題だからな。2回3回でポッドが釣れる奴もいれば1時間粘っても釣れない奴もいる。分かったら釣れるまで続けろ」

「分かったよ。・・・なあ、にぃちゃん」

「何だ?」

「さっきからアジしか釣れないんだけど」

「お前、誰かの影響を受けてないか?」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にぃちゃん。アクセスポイントはアンドロイドの自我データを他の場所に飛ばすことでワープと似たようなことをしてるって設定だけどさ、アイテムはどうしてるんだ?」

「アクセスポイント周辺の機械生命体が集めておいてくれているんだ。彼らは裏方も兼任している。分かったら彼らに感謝しながらアイテムを使うようにしろ」

「分かったよ。・・・なあ、にぃちゃん」

「何だ?」

「ポッドはどうしてるんだ?」

「・・・瞬間移動してる」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にいちゃん。主人公の人間が異世界に転生するライトノベルが流行ってるじゃん?もしもこの世界に人間が転生したらどうなるんだ?」

「この世界だと転生と言えるのか微妙なところだと思うが、第一発見者にもよるだろう。何も知らないアンドロイドなら保護するだろうし、ヨルハの真相を知っている者なら殺そうとするだろう。機械生命体の場合は、パスカル村の機械生命体なら保護してくれるんじゃないか?」

「そっか・・・。なあ、にぃちゃん」

「何だ?」

「この世界でも無双って出来るかな?」

「・・・とりあえず、お前の小説にいちいち私の意見を反映させようとするのを止めろ」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にぃちゃん。目つぶるって言う?目つむるって言う?」

「なんかもうNieR:Automata何も関係なくなってないか?まあいい。辞書には両方載っているんだ。自分の好きな方を使え」

「分かったよ。・・・なあ、にぃちゃん」

「何だ?」

「新人賞って何処に応募すればいい?」

「この世界にそんなモノはない」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にぃちゃん。アンドロイドは武器を空中に浮かせて操ったりして戦うこともできるじゃん?挙句の果てには投げた武器を瞬時に手元にワープさせたりできるじゃん?機械生命体も同じようなことはできないの?」

「それは無理だ。武器を操るのはアンドロイドの特権だ。こっちまで同じような戦い方したら敵も味方も動きが皆同じなゲームになってしまう。それに、機械生命体のドラム缶ボディではアンドロイドのような動きは出来ん」

「そっか・・・なあ、にぃちゃん」

「何だ?」

「もしかして、俺達なら出来るんじゃないかな!?」

「可能性はあるかもな。だが、私達にはもう個性がついてるだろう?複製された街とか1週目2週目のラスボスとか、個性的な動きしてただろう?今更無理して個性をつける必要ないんだ。分かったらそのどこから拾ってきたか分からない大剣を振り回すのを止めろ」

 

 ◇◇◇

 

「なあ、にぃちゃん。この話、どうやってオチをつければいいんだ?」

「・・・」

「にぃちゃん?」

「・・・イヴ」

「なあに?」

 

「・・・私にも、分からないことはある・・・」

 




この答えを鵜呑みにしてはいけません。
質の悪い作者の想像です。


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my only happiness

「もしも遊園地の成り立ちがこんなだったらなあ」と思って書いた話。


 私の名前はソクラテス。機械生命体だ。

 私が配属されたのはボロボロのとある施設だった。その特徴的な造形と機械生命体達の集めた情報から、私はそこが「遊園地」と呼ばれている場所だということを理解した。

 私は他の機械生命体達と共に遊園地の中を探索した。地形を知っておかなければ戦いに勝つのは難しい。その探索の途中、私は1枚の紙きれを見つけたのだ。それはこの遊園地のパンフレットだった。

 パンフレットに目を通した私は感動した。無いはずの心を震わせた。人類文化にはこんなにも楽しそうな場所が存在していたのか!「楽しい」を追求し、「喜び」を分かち合う場所!こんな感動的な場所が過去には存在していたのだ!

 それは戦うための機械でしかなかった私に別の何か、使命感に似た何かを与えた。

 私は自らの意思で機械生命体のネットワークを切った。戦いよりも喜びを求めたからだ。私はこの遊園地を復興させると決めた。

 

 それから長い時間をかけて私は遊園地を開園できる状態にしていった。建物の心配はしなくてもいいため、まず私は一緒にこの遊園地に配属された機械生命体を説得した。仲間を増やした後は動かくなったアトラクションを修理し、ピエロと呼ばれる衣装を作り、パンフレットに載っていた「ロミオ達とジュリエット達」の演劇を練習した。自分のことを「カワイイ」というウサギのような機械生命体には遊園地のマスコットになってもらうことにした。

 こうして遊園地は完成した。ほとんどは元々の遊園地の模倣だったが、努力の甲斐あって遊びに来る者達も増えていった。彼らの喜びが私達の喜びなのだ。遊園地を復興させて本当に良かった。

 

 ある日のことだ。遊園地に1人の機械生命体がやって来た。その機械生命体は「ここで歌を歌わせてほしい」と言った。歌には他者の心を惹きつける力があるらしい。私は試しに彼女をステージで歌わせてみた。

 彼女がステージで歌うようになってから、彼女の歌声は噂になり彼女の歌を聴こうと前より多くの機械生命体達が遊園地に遊びに来るようになった。だが、件の彼女は満足していないようだった。時々、「今日もあの人は来なかった」と言っているのを聞く。誰か、歌声を聞かせたい者がいるのだろうか。

 

 彼女が遊園地に入ってしばらくしたころ。ピエロの1人が行方不明になった。皆で遊園地の中を探し回ったが、結局、彼が見つかることはなかった。

 同じくらいの頃から、歌を歌う彼女は死んだ機械生命体やアンドロイドの死体を集めるようになった。なんでも、体を作り変えてもっと「美しい」を強化するのだとか。

 彼女は「美しい」ということに固執し過ぎているような気がする。私が理由も分からず「喜び」や「幸福」に固執しているように。だが、私が固執するのは皆のためだ。彼女のように特定の誰かのためではない。私と彼女は違う。違うハズだ。

 

 彼女は機械生命体のパーツで体を大きくし、アンドロイドの死体で自らを飾り付けた。構造を変えたおかげか、歌も前より上手くなり、彼女の歌声を聴こうとやって来る客も増えた。しかし、彼女が本当に歌を聞かせたい相手は来ない。

 遊園地の噂が広まると、私達が戦いもせず楽しく遊園地をやっていることを良く思わない機械生命体や、私達を敵として襲ってくるアンドロイドも増えてきた。彼らはお客様ではない。迷惑な奴らには帰ってもらわなければいけない。私は遊園地のスタッフに武装を施し、客ではない奴らを迎撃させた。喜びの価値も分からない醜いクズ共にこの遊園地に来る資格はない。

 

 スタッフ達は私のことを「変わった」と言う。私は変わってなどいない。今も昔も「喜び」を求めているだけだ。彼女は今日も新たに体を作り変えて歌っている。だが、彼女の想い人は今日も来ない。心なしか、変わっていく彼女がひどく醜く見えた。

 

 ある日、彼女は絶叫した。鏡に映る自分の姿に絶叫した。絶叫して我を忘れた彼女はステージに立って暴れ出した。彼女の絶叫は音波となって、機械生命体達に異常を与えた。何人ものスタッフが彼女を止めようとして、破壊された。どうやら彼女は自らの手で機械生命体を殺し、パーツを奪い、アンドロイドを殺し、飾り付けていたようだった。機械生命体は戦いによって成長する。彼女はこの遊園地の他の誰よりも成長していた。

 暴れている彼女が私にはひどく醜く見えた。醜い。醜い。醜い。醜い。こんな醜い奴は私の遊園地にはいらない。私は、スタッフ達が破壊されていく中で、彼女を後ろから攻撃しようとした。

 

 だが、彼女が飾り付けていたアンドロイドの死体の目が赤く光ったと思ったら、次の瞬間、私は地面に倒れていた。

 

 死体ではなかったようだ。彼女はただアンドロイドを飾り付けていた訳ではなかった。生きたまま兵器に改造していたのだ。一体何時からそんな事を始めたのは私には分からない。

 ハッキングを受けたのだろうか。頭の中がごちゃごちゃしているような気がする。ああ、そうか。私もまた、醜い奴らの1人だったのか。私の「喜び」は皆のための喜びではなく、いつの間にか私のための喜びに変わってしまっていた。それがいつからかは分からないが、確かに、私は変わってしまった。

 そして彼女もまた、変わってしまった。純粋に見知らぬ誰かを想う彼女はもうどこにもいない。

 私も、彼女も、遊園地も、変わってしまった。できることならば・・・もう・・・い・・・ち・・・ど・・・。

 

 ◇◇◇

 

 ソクラテスは死んだ。彼女は今日もステージで歌っている。

 それでも、遊園地は動き続ける。ステージには近づかないことを暗黙の了解とし、遊園地のスタッフは今日もスタッフだけで遊園地を動かし続ける。

 それからしばらくした頃。

「何・・・こいつら?」

「なんていうか、異様な雰囲気ですね・・・」

 2人のアンドロイドが遊園地にやって来た。




これ抜かして残り4話です。(ネタは浮かんでいない)


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i don't know about you(起)

しばらく投稿してなかったのはネタが思いつかなかったのと、
「な●う」に浮気して書いてたからです。


 司令官に呼び出されたそのアンドロイドは司令部に着くと、司令官に向かって敬礼した。

「14S、ただいま到着しました」

 14S。髪を黒く染めている以外は他のS型アンドロイドと見た目に大きな差はない。髪を染めている理由もすぐに見分けがつくようにというものだ。

「ああ、来たか。起動したばかりですまないが、まず1つ尋ねたい。君に前回までの作戦の記憶データは残っているか?」

「いえ、ウィルスが侵食していたため、記憶は放棄したと聞いています。自分に前回の作戦の記憶データはありません」

「そうか・・・分かった。君に任務を与える」

14Sの報告に司令官は一瞬複雑そうな顔をしたように見えたが、すぐにいつもの顔に戻った。

「廃墟都市方面にて機械生命体のウィルスの影響で暴走したアンドロイド、37Bの討伐を君に命じる」

「討伐任務ですか?」

「そうだ。何か疑問があるなら聞こう」

「あの、僕スキャナータイプですよ?討伐任務には向いてないと思うんですが」

 14Sは名前にSとつく通りのスキャナータイプ。情報収集を主な目的として作られたアンドロイドだ。戦えないことはないが戦闘用に作られた訳ではない。さらに14SはS型の中でも特に戦闘を苦手としていた。それに対して討伐目標となっている37Bはバトラータイプ。戦闘用に作られたアンドロイドだ。本来ならば14Sが行うような任務ではない。相手と同じB型か、噂に聞くE型に任せるのが正しい選択と言えるだろう。

「戦力に心配があるなら現地のアンドロイドに協力を頼んでもいい。既に何人かのヨルハ部隊が先行していることだしな。それに、この任務は君にしかこなせないと私は思っている」

 しかし、司令官は14Sに任務を命じた。信頼されているのか、それとも捨て駒とでも思われているのか、14Sには分からなかった。

 

 ◇◇◇

 

 廃墟都市。

「ポッド、目標の位置は分かる?」

「スキャン中・・・37Bのブラックボックス信号をキャッチ。マップにマーク」

 マップに37Bがいるであろう場所が大まかに映し出される。

「これは・・・ビルの中かな?」

 ポッドの導きによって14Sはビルからビルへと渡って行く。ポッドのサポートのおかげで戦闘用でない14Sでもなんとか襲い来る機械生命体達を倒しながら進むことができた。

 そして、マップに示された37Bのいるというビルに近づいた時、すさまじい爆発音と共にビルの壁が一部壊れて大きな穴が開いた。

 穴の開いたビルの中には目を赤く光らせるアンドロイドと、その足元に転がる黒いモノ。アンドロイドの義体だ。

「目標の37Bを発見。推奨、破壊」

 ポッドが告げる。37Bはビルの中から14Bをじっと見つめている。片手に大剣を握り、ゆらゆら揺れながら立っている。ウィルスの影響だろうか。

「今の爆発、足元に転がるアンドロイドの義体・・・まさか!?」

 嫌な予感がする。

「そのアンドロイド、貴方が殺したんですか!?」

「・・・」

「答えてください!」

「・・・」

 14Sは大きな声で問いかける。だが、37Bは何も答えない。ただ黙ってその赤い目を14Sに向けるだけだ。

「言葉が通じないのか?そこまでウィルスに侵食されている?なら、もう何も聞きません。ここで貴方を殺します!!」

 槍を片手に37Bがあけた穴に向かって飛び込む。

 その瞬間。

 

「がああああアアアアアァァァァァッ!!!」

 

 37Bが叫んだ。獣が遠吠えするような芯の通ったものではない。感情をごちゃまぜにしたような絶叫だ。

 槍を向けて突っ込んでくる14Sに叫び声をあげながら片手に握った大剣を振るう。次の瞬間、強い衝撃と共に14Sはあっさりと意識を刈り取られた。

 

 ◇◇◇

 

「う、うう・・・?」

「あ、目が覚めましたか?」

 14Sが目を覚ますと自分に似た男性型アンドロイドともう1人、別の女性型アンドロイドがこちらを見ていた。

「ここは・・・」

「ここは廃墟都市のレジスタンスキャンプです。貴方のポッドからの信号を偶然キャッチして、行ってみたら貴方が倒れていたんです」

 起き上がって周りを見回す14Sに男性型アンドロイドは説明する。

「僕は9S。こっちは2B。貴方の事はポッドから聞きました」

 9S。そう名乗った男性型アンドロイドにそう言われて横を見ると、自分のポッドがフワフワと浮いている。

「37Bって、どんな人なの?」

「え?」

 2Bと紹介されたアンドロイドの言葉に14Sは戸惑う。さっきから話がどんどん進み過ぎている。

「言ったはず。貴方の事はポッドから聞いてる。貴方の状況も聞いてる」

「司令官の話だと、現地のアンドロイドに協力してもらってもいいんですよね?なら、僕達が協力します」

 やけに協力的な2人のアンドロイドに14Sは戸惑うばかりだった。

 だが、協力者がいてくれることは素直に嬉しい。何が起こったのかも分からぬまま気絶させられるような力の差だ。元々B型相手に戦える自信など無かったが、1人ではもう無理だと思っていた。これで何かが変わればいいが。

 

 ◇◇◇

 

 マップにマークされた37Bのブラックボックス信号はさっきと同じ場所を示していた。

 14Sは2Bと9Sを連れて再び37Bの元へと向かう。

「ところで、その37Bはどうして14Sを殺さなかったんでしょう?」

「確かに・・・」

「そういえば・・・なんで・・・」

 9Sの発した疑問に、14Sは37Bという存在に違和感を覚える。考えても分かる事ではないが、気になってしまう。

 ビルからビルへと跳び、走っていると、穴のあいたビルの中に人影が見えた。

「37B・・・!」

 間違いない。大剣を握りしめ、目を赤く光らせたアンドロイドがこちらを見ていた。そして相変わらず、その足元にはアンドロイドの義体が転がっていた。

「行きますッ!!」

 14Sは槍を構える。今度は不用意に突っ込んだりしない。

「ポッド!」

「了解」

 14Sの声で彼のポッドが37Bに向かってレーザーを発射する。

 その瞬間。

「がああああアアアアアァァァァァッ!!!」

 37Bは叫び声をあげ、義体を抱えて後ろに跳んだ。

 その隙を突き、2Bと9Sがそれぞれ刀を構えて37Bに向かって行く。

 戦いが始まった。




とりあえずこの話をおまけの最終章にしようと思います。


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third party memory(承)

今月中に終われればいいなと考えてます。


 ビルの中にいた37Bに戦いを仕掛ける14S、2B、9Sの3人。

 14Sのポッドによるレーザー攻撃を37Bは後ろに跳んでかわす。何故か足元に転がっていた義体を抱えて。そんな37Bに2Bと9Sが刀を構えて突っ込む。空中でポッドのない37Bに2人の攻撃をかわす術はない。

「ガアアアアアッ!!」

 だが、かわす必要など無かった。刀を振るう2Bと9Sに向かって37Bは片手に握った大剣を振るう。まるで小さなナイフでも振るうかのように素早いスピードで振るわれた大剣は2人分の斬撃などものともせず、力押しで強引に2Bと9Sの2人をビルのコンクリートの床に叩きつける。

「2Bさん!9Sさん!」

 14Sが2人にかけよるが、さらに追撃とばかりに37Bはそのまま空中で大剣を振り下ろす。2Bと9Sに当たらなかったが、その一撃によってビルの床が崩落し3人は1つ下の階へと落ちる。

 遅れて下に降りてきた37Bは着地と同時に大剣を横に振るうと、斬撃が巨大な衝撃波として飛んでくる。横に跳んで3人は衝撃波をかわすが、ビルの壁に衝撃波が当たるとそのまま壁を砕いて吹き飛ばしてしまった。

「プラグインチップが機能している?それにしたって・・・」

「アンドロイドに出せる力を超えている!!」

 2B、9S共に37Bの持つ破壊力に思わず言葉が出ていた。

「推測、ウィルスの侵食による影響で体の制御機能が停止している。体に負荷をかけないためのリミッターが外れている状態。予測、長時間の戦闘行為は不可能」

「それならッ!!」

 ポッドの言葉を聞いて2Bは37Bに向かって突っ込む。37Bは大剣を横に薙ぐように振るうが、2Bはそれを屈んでかわす。さらに大剣を振り続ける37Bに対して、2Bは攻撃をせず、よけることに専念する。いつ斬撃から衝撃波に派生してもいいように、斬撃によって振るわれる大剣が描く軌跡の正面には決して立たないように回避する。しばらく斬撃と回避の繰り返しが続くが、そこに急激な変化が生まれる。

 体から火花を散らし、37Bは突然動きを止めた。アンドロイドの本来の性能を超えた激しい動きを繰り返すことによって起きる負荷に体が耐えられなくなり一時的に機能が停止したのだ。

「9S!14S!今!!」

 2Bの言葉を合図に2人のスキャナータイプは37Bにハッキングを仕掛ける。おそらく、ハッキングしても37Bに巣食ったウィルスを完全に取り除くのは無理だろう。それでも、37Bの制御機能を侵食しているウィルスを完全にとはいかずとも、制御機能が復活するまで取り除くことが出来れば、37Bの持つ絶大な破壊力を打ち消すことができるかもしれない。

 だが、ここで間違いが起きた。立ち位置が悪かったのだろうか。それとも運が悪かったのだろうか。9Sの仕掛けたハッキングは無事に37Bのデータへと侵入することに成功した。だが、14Sの仕掛けたハッキングはどういう訳か、37Bが抱えている義体の方のデータへと入ってしまった。

 そして14Sは見つける。偶然入ってしまった義体のデータの中で、その義体に遺された記憶を。

 

 ◇◇◇

 

 視界が変わる。ここはバンカーの廊下だろうか。記憶データの中のこのアンドロイドの行動を14Sは追体験しているようだ。ならばこのアンドロイドを通して37Bに何があったのか分かるかもしれない。

「37Bだ。今日からお前と共に行動することになった。よろしく頼む」

 その義体のアンドロイドは、37Bが共に行動していたアンドロイドのようだった。目の前にいる37Bはこちらに向かって手を差し出す。握手のつもりなのだろう。

「ふ、14Sです!よ、よろしくお願いします!」

「ッ!?」

 それに対してこの義体のアンドロイド、14Sと名乗った彼は頭を下げながら緊張した様子でその手を握っていた。

「そう畏まらないでくれ。私はお前の上官でもなければ敵でもない。これから一緒に任務をこなす仲間なんだ。もっとお互い気を楽にしてやっていこうじゃないか」

「そ、そんな事は言ってもですね!?僕はこっそりひっそり調査をするのだけが取り柄のS型モデルでして、戦闘も得意ではありませんし、貴方のような派手に活躍するB型モデルのアンドロイドと一緒に行動するなんて畏れ多くて・・・」

 14Sはガチガチに緊張して動きもぎこちない。こんな調子で大丈夫だろうか。思わずこの記憶を見ている14Sまでもが心配になった。自分だけど。

「そう自分を卑下するな。お前のようなスキャナータイプが情報収集してくれるから私達はそれを頼りに有利に戦闘を進められるのだ。私はお前に期待しているよ」

 14Sの緊張をほぐすためか、37Bはそう言いながらアンドロイドの頭をなでる。

「ちょ、こ、子供扱いしないでくださいよ!」

「そう、その意気だ。もう大丈夫だろう。改めてこれからよろしく頼む」

 恥ずかしがって離れる14Sに37Bは笑う。

「・・・確かに、なんだか緊張は解けました。これからよろしくお願いします」

 そう言って2人は改めて握手する。

 

「・・・まさか初対面で目の前でイチャつかれるとは思いませんでした。入りこむ隙もありません。今からもう対人関係に不安を感じます・・・」

 そんな2人の横で、さらに別のアンドロイドがしゃがんで項垂れていた。

「う、うわあ!?」

「おや、いつの間にいたんだ?」

 2人のそんな言葉にそのアンドロイドはさらに項垂れる。

「最初からいましたよ。私は貴方達のサポートをすることになった8Oです。よろしくお願いします・・・」

「よ、よろしくお願いします。とりあえず顔上げましょう?」

「ああ、よろしく頼む。まずは顔を上げないか?」

 2人掛かりで負のオーラをまき散らす8Oを慰めにかかる。

 こうして37Bは14Sと8O、2人のアンドロイドと出会ったのだった。



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save and lost(転)

次回、完結。


  客観的に自分を見つめると、自分の悪い部分ばかりが見えてくることはないだろうか。自分自身の記憶を見ている14Sが今まさにその状態だった。

 どうやらこの14Sの義体に残っていた記憶データは随分と劣化しており、所々の記憶データが破損していて見れなくなっている。さっきまで初めましての挨拶をしていたが、突然ノイズが走ったかと思うと、景色はバンカーの廊下から水没都市の方に移動していた。

「周囲の機械生命体を破壊して補給艦の定期補給の安全を確保してください」

 という8Oの通信。

「私とお前の初の共同任務だ。気を引き締めていくぞ」

 という37Bの言葉。

「は、はいっ!」

 というまたしても緊張した様子の14Sの返事。

 この14Sというアンドロイド、どうやら随分と弱気な性格らしい、戦闘はほとんどポッドに任せ、自身はポッドが捌ききれず近づいて来た機械生命体に向かって槍を振るうも当たらない。

 14Sが槍を好んで使うのは「リーチがながそうだから」という理由だが、遠距離攻撃をポッドに任せている以上、ポッドの攻撃をかわしてまで近づいて来る相手に槍のような武器では逆に不利だということに14Sも記憶を覗いている14Sも気付いていなかった。

 14Sは恐がりながらも一生懸命槍を振るうが、相手に当たらないどころか勢い余って尻もちをついてしまう。そこに中型の機械生命体がジャンプして14Sを踏み潰そうとしてくる。

「させるかッ!!」

 そんな機械生命体の体は、横に振るわれた37Bの大剣によって吹っ飛ばされ、海へと落ちる。

「大丈夫か?14S」

「大丈夫ですか?14Sさん」

 37Bに心配され、さらには通信で8Oにまで心配される始末。

「はい、大丈夫です・・・」

 そう返事はするものの、14Sは力無く項垂れていた。

 

 ◇◇◇

 

 またノイズと共に場面が切り替わる。

 ここは砂漠だろうか。

「うおおおおッ!!」

 叫び声と共に突き出された槍が機械生命体を貫く。強引に槍を引き抜くと、機械生命体は爆発して消えた。

「大分槍の使い方も様になってきたな」

 ふうと息をつく14Sに大剣を肩に抱えた37Bが近づく。彼女の後ろには焼け焦げた機械生命体の残骸がたくさん転がっていた。

「はい!これも37Bさんが戦い方を教えてくれたおかげです」

「フッなあに、大したことはしていないさ。私は基本を教えただけだ。そこから先はお前自身の成長だよ」

 嬉しそうに微笑む14Sに37Bは笑いかける。

「2人共、仲が良いのは結構なことですが、任務はまだ終わってませんよ?次のポイントに移動してください」

 そんな2人に呆れたように笑いながら8Oの通信が入る。

 自分があんな風に笑えるようになるまでにどれだけの時間を共に過ごしたのだろう?途切れ途切れの記憶では時間の流れまでは分からない。

 だが、皆笑っていた。自然に笑みを浮かべていた。14Sにも初めて37Bと出会った時の緊張は無くなっていた。この時の彼はちゃんとした仲間になれたのだろう。3人は嘘偽りのない仲間として活動していたのだろう。

 

ノイズが走る。景色が変わる。世界が終わる。

 

 ◇◇◇

 

 そこは廃墟都市のビルの中だった。14Sはボロボロの体で仰向に倒れている。戦闘用のゴーグルはどこかにいってしまった。体のパーツが欠けたりはしていないが、内側はもうほとんど壊れて機能していない。首を動かして周りを見れば死んで機能を停止したアンドロイド達がそこら中に転がっている。それと同じくらい機械生命体の死体も転がっていた。

「14S・・・」

 自分を呼ぶ声が聞こえてきた方を見ると、フラフラした足取りで近づいて来る37Bの姿があった。

「37Bさん・・・良かった、無事、なんで、すね?」

「・・・ああ」

 音声の機能が上手く動かないのか、14Sの声はかすれている。そんな14Sを見下ろす37Bは苦しそうな顔をしていた。

「すまない。助けることが出来なかった。守ることが出来なかった」

「いえ、いいん、です・・・大規模な、殲滅、作戦でした、し、誰が、死んでも、おかしく、ない状況、でした」

 かすれた声で14Sは言葉を紡ぐ。声を発すると自分がだんだんと壊れていくのが分かる。体もだんだん動かせなくなってくる。それでも、音声の機能まで壊れて声すら出せなくなる前に、伝えておかなければならない事があった。

「ありが、とう、ござ、います。貴方と戦え、て、幸せ、でし、た・・・」

 言葉を言い終わった瞬間、自分の中の何かが切れたのを感じた。もう声を発することも出来ず、目も見えない。あとは意識が消えるのを待つだけだ。

「・・・14S」

 いや、まだ音は聞こえる。その機能だけはまだ残っている。

「死んでしまったのか?・・・すまないな。こんなことになってしまって」

 本当にこれが最後だ。37Bの言葉をじっと聞き続ける。

 

「お前の前では何でもないフリをしていたが、本当はもう体も限界でな。大分ウィルスに侵食されてしまったよ。いずれ私も死ぬだろう。きっとこの作戦を覚えている者はほとんどいなくなるだろうな。すまないな、最後の最後にお前の期待に応えてやれなくて・・・うん?何だ?・・・機械生命体!?新手か、それとも生き残りがいたのか!?死にかけの私なら殺せるとでも思ったか?悪いが14Sは今眠ったところなんだ。誰にも邪魔はさせない。彼の死は私が守ってみせるッ!!」

 

 そして14Sは静かに意識を失い、全ての機能が停止した。

 

 ◇◇◇

 

 その後、14Sは記憶を失った状態で復活をした。そして、司令部で37B討伐の任務を受けて今に至る。

「そうか・・・37Bはずっと僕の義体を守っていたのか・・・」

 気がつけば、9Sは37Bにハッキングを続けており、2Bは再び動き出した37Bの攻撃を避け続けていた。

 14Sのデータの中から戻った14Sは槍を握る手に力を込める。

 

「僕が、決着をつけないと・・・」

 

 その瞬間、37Bの動きが鈍くなる。

「制御システムへのハッキング成功しました!一時的にですが37Bの身体能力を元に戻します!」

 9Sが叫んだ。

「ガアアアアアァァァァァッ!!」

 37Bは叫びながら大剣を振り上げようとするが、片手では上手く持ち上がらない。その隙をついて2Bの刀が大剣を持つ37Bの片腕を斬り落とす。

「ガアッ!?」

 反射的に37Bは2Bに向かって残ったもう片方を拳を振るうが、2Bはそれを後ろに跳んでかわす。

「14S!!」

 2Bの叫びと共に14Sは床を蹴って走り出す。槍を構え、叫び声で自分を奮い立たせる。

「うおおおおおオオオオオォォォォォッ!!」

 

 そして、突き出された槍が37Bの胸を貫いた。

 



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patching link(結)

これにて完結。
本当に、本当にありがとうございました。


「・・・」

 37Bは何も言わない。片手で自身の胸を貫いた槍を抜こうと掴むが、腕に力が入らない。ウィルスに侵されたあの時からずっと壊れたままの彼女は、ついにそのままぐったりと動かなくなった。

 14Sが槍を引き抜くと、37Bはその場に倒れる。

「・・・これで、良かったんですか?」

 倒れて動かない37Bをじっと見つめる14Sの背中に9Sが問いかける。

「・・・いいんです、これで。37Bさんはずっと僕のことを忘れずに守っていてくれた。なら、その記憶から解放するのが僕の役目です。彼女はもう、忘れるべきなんです。彼女のことを忘れてしまった奴のことなんて、忘れてしまうべきなんです。こんな場所で停滞せずに、前に進むべきなんです」

 37Bは死んだ14Sの義体をずっとそばに置き続け、14Sを守るためにずっと近づく者を殺し続けてきたのだろう。ウィルスによって理性を失っても、「守る」という思いだけは忘れなかった。

「その代わりに僕は絶対に忘れません。37Bさんが僕を守ろうとしてくれたことを。1度は記憶を失ってしまったけど、もう絶対に忘れません」

 その声は震えていた。2Bや9Sからは背中しか見えなかったが、14Sはきっと、泣いていた。

 

 ◇◇◇

 

 それから、バンカーにて。

「はい、開いてますよ」

 ノックの音を聞いて、アンドロイドは自室の扉を開ける。

「久しぶりと、言うべきなんでしょうか?」

「ふ、14S?」

「どうも、8Oさん」

 突然現れた14Sに部屋の主、8Oは目を丸くした。

 

「そうですか、37Bさん、ようやく死ねたんですね・・・」

「やっぱり、知ってたんですね?」

 37Bの事を8Oに話すと、彼女はどこは安堵したような顔をした。

「はい。私はオペレーターですから、あの作戦で死ぬ理由はありません。それに、37Bさんから『14Sには何も伝えるな』って言われてたんです」

 言葉を続けていくうちに、8Oの顔は暗くなっていく。

「14S、貴方に謝らないといけないことがあります。私はあの作戦で貴方が死んだ後、復活する前の貴方のデータにハッキングを仕掛けて、貴方の記憶データを全て消去しました」

「記憶を・・・?」

「はい。37Bがあの作戦を生き残ったと思い込んでいる貴方が記憶を持ったまま復活したら、きっと37Bさんの現状に耐えられないだろうと思ったが故にです。私は司令官に相談して、貴方の記憶を消して新兵として扱うことに決めたんです。実際は37Bさんが無事でないことに気付いてしまっていたようですが」

 そう言うと、8Oは頭を下げた。

「本当に、ごめんなさい」

 そんな8Oの肩に14Sはそっと手を置いた。

「いいんです。僕は僕の役目を、責任を果たしました。8Oさんも僕と37Bさんのために自分の責任を果たそうとしてくれたんですよね?その気持ちが嬉しいんです。ありかとうございます」

「こちらこそ、ありがとう、ございます・・・」

 8Oは肩を震わせ、涙を流す。

 遠くから見ていた者、忘れてから改めて知った者、そして忘れた者。記憶は三者三様で、どれが本当なのか分からない。もう、全てを知っている者は何処にもいないのだから。

 だが、14Sが、8Oが流した涙に込められた意味は紛れもなく本物で、温かいモノだった。

 

 ◇◇◇

 

 しばらくして、8Oはまたオペレーターとして14Sのサポートをすることになった。S型らしく、相変わらず現地調査ばかりだが、ポッドに頼り切りだった昔に比べて、自分自身でも機械生命体と戦えるようになっていた。そんなある日のことだ。

「14S。今日から貴方にはあるアンドロイドの任務に同行してもらいます」

 司令部に呼び出された14Sは8Oの言葉に首を傾げる。

「同行、ですか?」

「はい、ああ、今来たようです」

 8Oのその言葉に14Sが振り返ると。

 

「遅れてすまない。37Bだ。よろしく頼む」

 

 記憶に焼き付いた姿が目に映った。

「ところで・・・」

 37Bは14Sの前まで来るとその顔をまじまじと見つめる。

「私とお前、どこかで会ったことがあるか?なんだか見覚えのある顔をしているような・・・」

「・・・いえ、きっと気のせいでしょう?」

 顎に手を当ててじっと14Sを見つめる37Bに、14Sはそう答えた。無理に思い出す必要はない。そう思っていた。だと言うのに。

「・・・ふ、フフッあははは!」

 突然37Bは笑いだす。

「そんなにつれない事言うなよ。私とお前の仲だろう?14S?」

 一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。理解と同時に戸惑いが生まれる。

「え?ええ!?お、覚えてるんですか!?」

「作戦の事は何も。だが、お前と一緒に任務をこなした日々は覚えているさ。定期的にバンカーにデータ同期をしているんだからな。何があったかは8Oから聞いたよ」

 そう聞いた瞬間、14Sはへなへなと崩れ落ちた。

「な、なんなんですかもう・・・人が折角・・・」

 折角忘れさせたのに。そう言おうとしたが、言葉が続かない。自分は絶対に覚えていると誓ったからか、それとも、彼女が覚えていてくれて嬉しい気持ちがあったからか。

「スマンな、なんか騙したみたいで。それと」

 37Bは14Sへ手を伸ばす。

「これから、よろしく頼む」

 そう言って、37Bは笑う。

「ハハ・・・こちらこそ、よろしくお願いします」

 手を握り、立ち上がり、14Sもまた笑った。

「だから、2人だけで良い雰囲気作らないでくださいよ。私もいるんですから」

 そんな2人を見て8Oも笑う。

 

 彼にその記憶はもうないが、不思議と懐かしさを覚える光景がそこにあった。



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