おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました (溶けない氷)
しおりを挟む

Hunt 1 城壁

おいでよ獣狩の夜の町 

地球では普通の田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました

普通とは一体・・・いや普通だな!(啓蒙up

 

リ・エスティーゼ王国西部

都市リ・ロベル。

この都市の更に南東の森林地帯がある。

トブの森林ほどは広くなく、重要な交易路に面するでもないためこの森を訪れるのは開拓団の猟師程度である。

森の手前ならともかく、奥はほぼ人跡未踏であり薄暗い。

そんな鬱蒼とした陰気な森の中を5つの人影が進んでいた。

鬱蒼とした木々が陰気に見えるのは元からの環境の悪さに加えて、遠くに見える巨大な建物が落とす影がなんとなしに不気味に見えるからだろう。

美しい黄金の髪を持ち、深い闇色の大剣を背負った少女が遠くに見えながら、一向に近くならない町を見てため息をつく。

「だいぶ近づいた筈なのにまだ着かないなんて呆れた高さね」

 

既に未知の都市の尖塔が見えてからかなりの時間が経っている。

彼女たちが遅いわけではない、アダマンタイト級冒険者チーム”蒼の薔薇"

咄嗟の事態に備えて体力を温存できる速度で歩いているが、その速度は常人のジョギングに匹敵している。

それだけの速さにも関わらず遥か遠くに見える尖塔群が

一向に近くならないのは建築物の常軌を逸した巨大さゆえなのだろう。

 

「リーダー、やはり周囲にはモンスターの存在が見当たらない」

「こっちも。小型、大型を問わずそれどころか生き物の気配すら感じない」

静かすぎる森、"女忍者"のような恰好をした二人の双子の少女が周囲を警戒するが無駄に終わる。

森とは普通は大小問わず生物で溢れかえっている。

それが異常、あの都市が現れてから、この森では一切の生命の存在が感知できないかのようだ。

 

「だからといって、報告のあった町から何かが湧き出てくるわけじゃない。

そんなに心配することでも無いんじゃないか?

単に調査が長引いてるってだけの可能性もあるんだろ。

調査に行ってるのはミスリル級のチームだろ?

そんなに簡単にやられやしないって」

最後尾を警戒しつつ歩く筋骨隆々の女性が声を出す。

無論、自分でもこの意見がかなり希望的観測に過ぎないことはわかっているのだろう。

側を歩く少女が小柄だということを差し引いても女性の存在感は圧倒的だ。

「うむ、それもオリハルコンへの昇格試験を兼ねての中々の実力者揃いだったと聞いている」

 

小柄な少女が答える。

奇妙な仮面を被った少女が森の中を幼さに似つかわしくないしっかりとした足取りで進んでいくのはこの5人の中でも奇妙だ。

 

アダマンタイト級冒険者チーム”蒼の薔薇"

王国でも2組しかいない最高戦力

人類の切り札とでもいうべき彼女らがこの森に分け入り、謎の都市を目指しているのには訳がある。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

冒険者組合の応接間にて

 

「ミスリル級冒険者チームが消滅?」

 

冒険者組合の担当者から告げられた内容にブロンドの少女――ラキュースは目を見開いた。

 

「半月ほど前、リ・ロベル南東の森林地帯で発見された未知の都市。

近隣の開拓村の領主が森の奥深くに分け入った時に発見したそうです

組合も報告を受けて資料を調査しましたが、そのような都市の存在は確認できず

調査のため行政側が依頼を出したのですが・・・」

 

「強力なモンスターが出現したの?周辺の状況は?」

 

「調査の第一陣に金と銀が出動しましたが、彼らによると・・・

ええと、流石に口ではちょっと説明しづらいですのでこの写し絵を見てもらえますか?」

 

そう言われて持ち出されたのは彼らが遠くからの情景を魔法道具で写し取った写真のようなものだった。

「な!こんな・・・!」

ラキュースも仮面の少女も驚きを隠せない。

絵に描かれていたのは天に聳え立つ尖塔群に壮麗な寺院、広大な都市。

どう贔屓目に見ても王都はおろか帝都ですらこの壮大さには及ばないと一目でただの絵だというのにわかるほどの物だった。

 

「・・・・・・ご覧の通り、とてつもない大都市です。

ええ、無論全員に確認をとりましたが彼らの言は一致していました

森の奥深くに人気の無い都市があると」

 

常識はずれにも程がある、未開の森林のど真ん中に大都市を発見しましたなど。

「事態を重く見た行政は王都にも報告。

今度は貴族院からの要望でリ・ロベルのミスリル級冒険者に都市の調査と住人がいるのならばその状況を報告するようにとの要請が来ました

また、可能ならば都市に対して王国に帰属する意思を明確にするようにと」

 

「それは・・・・」

 

言うまでもない、王国の中にこんなどこにも所属していない都市があるなど大問題だ。

王国側に取り込み、あわよくばその利権を握ろうと・・・

今の腐った貴族政治の連中なら考えそうなことだ

 

「それで・・・ミスリル級チーム“剛剣”が都市の外縁部に到着し内部に入ってから既に1週間が過ぎているのですが未だに何の連絡もなく・・・

更に斥候が出されましたが、彼らまで行方不明になってしまったのです・・・」

 

「私たちへの依頼はその都市の調査と行方不明になったチームの安否の確認・・・・イビルアイはどう思う?」

 

「・・・・・あまりにも異常すぎる。これだけの規模の大都市が今まで見つからなかったなんておかしい。

いずれにしろ、何かがいるのは間違いないが

情報はこれ以外には無いのか?」

 

イビルアイと呼ばれた少女が仮面の奥から担当者を睨みつける。

 

「ミスリル級に続き、斥候も行方不明ということでこれ以上の調査は無用な損害を増やすと判断したようです。

それで、こちらの組合長が確実な任務の遂行をということでアダマンタイト級をと・・・」

 

連絡が途絶えて既に1週間、全滅していると考えるべきだろう。

ミスリル級が退却することすらできずに全滅・・・・

安全性を考えればアダマンタイトで今動ける蒼に回ってくるのは当然か。

 

「わかりました、確かにこの件を今受けられるのは私達だけのようですね」

担当が安堵したような顔をして必要書類を出して来た。

 

「誰も見たことがない壮麗な都市・・・ふふっ、わくわくするわね」

そばで見ていたイビルアイはまた始まったと頭が痛くなったような気がした。

 

・・・・・

そして猟師の見たという最終地点まで案内され都市の尖塔が見える位置まで来ていた。

 

それから大分歩き、ようやく日が暮れる頃になって都市の外郭にたどり着いた。

「うわぁ・・・これは・・」

 

「何ていうか・・・たまげたな」

 

彼らの目の前に現れたのはあまりにも高い城壁だった。

王都ですらこの都市の城壁の半分の高さもないだろう。

それほどまでの高さの城壁だというのに積まれた石は剃刀が入る隙間すらないほど精緻に組まれていた。

 

 

王都に居を構えるラキュースですら息を飲まれるほどの見事な城壁であったが不思議と城門には門がなく人の気配はしない。

それが却って更に不気味さを醸し出していた。

 

「人もモンスターも気配はしない」

 

「周辺に罠の類もない」

 

「魔法的な物も全く感じない、これは本当に廃墟なのかもしれん」

 

3人が城門周辺を捜索するが、見張りはおろか人の気配すらしない。

数多くの危険を乗り切って来た

未知の領域に夜踏み込むことは本来避けるべきだが、森の中で過ごすのも都市の中で過ごすのも同様に危険なのだ。

それならば都市の中、撤退可能な領域を調査し門の周辺で今晩は過ごし都市の捜索を夜明けとともに開始しようという結論にでた。

 

「明らかに異常だ。城壁も整い過ぎているし、中からは物音一つしない。

魔法的な反応も皆無

それだというのにここからでは中の様子が霧で全く見えん」

 

イビルアイは今までの自分の知識や経験にない状況に困惑し呟いたが

「確かに異常・・・でもここでこうやってても仕方ない。先に進むわ。

皆、全方位を警戒しつつ前進。少しでも異常があったら戦闘態勢に・・

霧で視界が悪いわ、物音一つ聞き逃さないで」

 

「了解、ボス」

「ニンジャの耳の良さが遂に生かされる時が来た可能性が?」

 

5人は全力で警戒を続けながら進み、城壁の霧の濃くなって来たあたりにまでやって来たところで

真鍮のプレートが道の側に打ち付けられているのを発見した。

 

「何か彫られてるな・・・文字か?」

 

「見たことないわね、わかる?イビルアイは?」

 

「いや・・・だがどこかで見たような・・・」

 

イビルアイは記憶を辿るがここのように頭の中にも霧がかかっているようで思い出せない。

 

「・・・・考えても仕方ないわ、進むわよ」

 

わからない文字を考えてもわからないので5人は進むことにした。

彼女達が日本語を読めたのなら引き返しただろうか?

それはもうわからない。

輝く真鍮のプレートにはこう彫られていた

 

“我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う

知らぬものよ

かねて血を恐れたまえ”



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 2 狩人の夢

どういうこと?
プレーヤー「もっと遊びたい!」
上位者「OK」


狩は尊い。

血を嗜むべし、即ちその遺志を嗜むこと。

獲物の遺志を己が物とし、その足跡を咀嚼すべし。

血、悪夢、その物よりも狩りという行為そのものを狩人は耽溺すべし。

 一心不乱にして繚乱なる殺戮。

獣との一体感すら感じる狩りこそ、獣狩りの愉しむべき狩。

その世界最後の日まで愉しむべし。

・・・・・・

 

今もウェアウルフの鋭い爪がヤーナムの狩人を襲う。

バックステップでギリギリの差で回避、返す刀で一撃の元に獣を狩る。

このヤーナムでどれだけの刻を過ごし、どれだけの獣を狩り狩られたのだろうか?

覚えてはおるまい、君も狩人ならばわかるはずだ。

わかってくれるはずだ、わからない?啓蒙がまだ低いようだね。

 

「セイヤッ!」

仕込み杖を振るうのは黒髪の乙女、名をAngelica・Blutigという

ユグドラシルにおいてその体裁は異様であった。

全身を目立たぬ狩人の装束で包み、右手に仕込み杖を左手に短銃を持つ乙女。

名前からして“血まみれ天使”とは・・・

実際にはただの厨二病である。

まず顔形、それは通常の人間である

だがあろうことか顔貌の作りは人形のそれと瓜二つであった。

いや、考えればアバターなのだから彼女もまた人形の一種だろう。

白亜の如き顔貌に夜より深い濡鴉の黒髪。

大昔のお人形を模した顔は彼女のアバターであった。

今やアバターではなく彼女そのものであるが

 

事の始まりはユグドラシル最終日。

ブラッドボーンとは大昔のゲーム、それもまだコントローラーという原始的な入力機器で画面上のキャラクターを動かす初期の物であった。

とはいえ、版権が失効しかつそれなりにデータが精緻であったことからユグドラシルに今風にアレンジを加えて実装することは難しくなかった。

結果としてダンジョン都市ヤーナムがユグドラシルに出現し、そして有名になった。

ユグドラシル3大魔境として。

『カンストプレイヤーをアヘアヘ言わせたい』by運営

難易度は決まった。

Lv100でようやくスタートラインに立てると言われた難易度。

Lv100だろうがさっくり死ぬ。

このヤーナムの獣の攻撃力は絶大、前衛タンク職と雖も2、3撃で沈む敵は珍しくもない。

ゆえにこの少女の狩人が重視しているのは回避、危険な攻撃も当たらなければどうということはない。

今も目にも止まらぬ爪の攻撃を認識することすらできない体捌きで紙一重の差で躱す。

瞬時、仕込み杖の一閃が獣の腕を切りとばし喉を抉りとる。

それでもまだ戦意の衰えない獣の心臓を次の一撃で貫き、そのまま体の中で杖を鞭へと変形させ内臓をことごとく破壊する。

ここまでやってようやく獣は動きを止め、命を削りきることができるのだ。

 狩りをしている時は、誰にも邪魔されず、

自由で・・・・なんというか救われていないといけないのよ。

独りで静かで豊かでないと。

少女は目の前で動きを止め、血を取り込んだ獣をじっと眺めこう呟いた。

「今日で狩も終いね」

ユグドラシルの運営終了、この現実の前には所詮は作り物の世界は抗えない。

「しっかし、ヤーナムの狩人としては不本意な結果よねぇ・・・」

 

彼女はもはや過疎が進み、人影まばらなヤーナムを離れ彼女の唯一安全な狩人の夢へと入る。

普通ならば他の狩人と顔を合わせるだろう。

と言っても彼らに連帯感は無い、もともとがソロ向きに作られたこのダンジョン。更に人口の減少でもはや教会にいるのは彼女一人になった。

他の上位狩人も次々と引退していく中で自然と彼女が狩人のランキング1位に上り詰めて言った。

「あーあ、次の暇つぶし探さなきゃなー」

地球が汚染され尽くされ、一部の富める人々がアーコロジーに

大多数は野ざらしの世界は少女にとっては退屈極まりないものだった。

世界は狩られる価値も無くしてしまったのだろうか?

 

「もっと存分に狩り、殺したい。」

(それが望みか?)

「え?誰?」

突如として聞こえてきた声に辺りを見渡すがもはや狩人の夢は消えつつある。

ぶっちゃけると皆ログアウトしてチャットもメッセージも知っている人間にはもう届かない。

「あなたじゃないよね・・・」

目の前に立つのは人形、ただのNPC。

(汝の望みは永遠に続く獣狩の夜で良いのだな?

血に飢えた獣狩りの狩人にして、獣よ)

だがそれでも声は聞こえてくる、嗚呼遂に終焉の悲しみからか

はたまた啓蒙が高まりすぎたのか、彼女は正気を失っている!

『うん、そうだよ。もっと狩ってもっと殺したい。

ヤーナムだけじゃない、ユグドラシルよりも、退屈な世界よりもっと広い世界を見て心いくまで血に酔いたいんだ』

 

それに応えるのは果たして上位者なのか

(よかろう、間も無く日が変わる

そして汝の世界も変わるだろう

夢は現に、現は幻に

永遠に覚めない悪夢の中で、そなたの啓蒙を高めるが良かろう)

彼女の望みに応えたのが誰であれ、もはや関係ないはずだった。

午前0時

間も無くユグドラシルは終わる

『あーもう、独り言とか嫌になるね』

5

『まぁ自分なりに楽しめたし、それで良しとしますか』

4・・3・・・2・・

『もう戻ってこられないのが、残念だけどね』

・・・1・・・

そして世界は変わった

 

「Welcome Home ,Good Hunter」

『あれ?』

彼女に語りかけてきたのは瓜二つの容貌を持った人形。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 3 New Nightmare

ブラボチュートリアルがはっじまるよー
なお強さは群衆=デスナイト
薔薇「ファッ!?」


今もアンゲリカの振るった鞭のごとき杖が獣の爪を削ぎ落し

腕を切り刻み、その武器をなくしていく。

現実と化したこの悪夢の中、一体どれだけの時間が経ったのだろうか?

30分?3時間?3日?3年?

永遠の悪夢の中では時間に意味はないのかもしれない。

今もまた、一匹の獣が獣の狩人に狩られる。

体勢を崩されたウェアウルフの急所、心臓に杖を突きたてる。

オオカミは呻くが、残ったもう一本の腕で狩人の心臓を抉り出そうと突き出してくる。

だが、アンゲリカは上体を逸らしそのその勢いのまま獣の体内の杖を変形させ、再び鞭とする。

心臓を抉り出し、胃を、腸を、膵臓、脾臓を、肝臓を

体内の内臓を悉く破壊し止めとばかりに背骨に刃を引っ掛ける。

獲物に足をかけるとそのままの勢いのまま引きずり出し・・・

傷口からは血と内臓と、骨とが勢いよく飛び出し彼女のコートの裾にかかる。

蒼ざめた月が眺める下でなんと陰惨で美しい退廃芸術を見せつけたのだろうか。

彼女の白磁の肌と、黒鴉の絹の髪に血の赤がなんと映えることだろう。

「あーくっそ、こんなんなるならパーティーでバカ騒ぎに参加しとくんだったわ」

口を開けばその蒼褪めた美貌も台無しである。

事の始まりは狩人の夢と呼ばれるヤーナム参加記念に贈られたホームで最期を過ごそうとしていた彼女が、気がつけば啓蒙が高まりすぎたのか、上位者の悪戯。

とにもかくにも悪夢の世界が現実化し、彼女は今やそこに囚われたという事に気が付くまで暫くかかった。

「うわ!?お人形ちゃん、喋って動いてる!?ナンデェ!?」

「それはきっと、貴女の啓蒙が高まったせいでしょう」

人形の説明にいまいち釈然としないアンゲリカは自分の身の回りをペタペタと触って確認する。

(なんか、凄いリアリティある・・触覚も、嗅覚も、熱だって感じる)

試しに松明に火を付けてみると確かに熱を感じ、剣の切っ先に指を付けてみれば

(つっ!)

と指先が僅かに切れ、血が出た。

そしてその血を舐めてみればまごうことなく血の香しく、甘い味がし、頭が心地よく血に酔った感覚をほんの少し示した。

(どれもゲームの中では再現が禁じられてた要素の筈・・・

どういうこと!?ゲームが現実に・・・)

とここまで考えたときに例のあの声の事を思い出した。

(って、上位者!?アタシ上位者と契約しちゃったわけ!?

うっそでしょ!何でゲームしてただけで宇宙悪夢的な血の遺志を得ちゃってるわけ!?

馬鹿なの!?アタシ啓蒙が高まりすぎて一周して思考の次元が逆転してるの!?)

と、そこまで考えてこのユグドラシルの世界の事を思い出した。

(そうだ!メッセージ!他の狩人やプレイヤーも現実化してるかもしれないじゃん!)

そう思い大急ぎでコンソールのメッセージボードを開き、フレンド登録したプレイヤーを捜索しようとする

見立てが正しければプレーヤーの一人や二人はまだヤーナムにいるかもしれない。

コンソールのフレンズ欄に目を通すがすぐに絶望することになった。

そう、彼女のフレンズは誰もいない。

そしてログアウトも出来ない。

(参ったなぁ・・・)

彼女もブラッドボーン世界については知っているが、原作のそれとユグドラシルのそれは違う。

ユグドラシルの悪夢には終わりが無い。

ゲームクリアというものが存在しないMMORPGなのでそこらへんは仕方ないが。

(私は・・・どうすればいいの・・)

試せることは試したの後に彼女は小屋の中の椅子に腰かけて考える。

彼女は今一人だ、そしてこの悪夢は終わらない。

だが彼女の脳裏にいずこの誰とも知れない者の声が響く

「青ざめた血を求めよ、狩りを全うするために」

蒼褪めた血?

いや、やめておこう。

ネタバレになりかねない

 

「今は何も分からないだろうが、難しく考えることはない

君は、ただ、獣を狩ればよい。それが、結局は君の目的にかなう

狩人とはそういうものだよ。直に慣れる…」

獣を狩る・・・・

彼女は考え直す

ここには武器も防具もアイテムも引退した仲間の分まである。

そう、何一つ足りないものはない。

ヤーナムで狩りを全うするのも、外の状況を探るのにも足りないものなどない。

「よし、いくよ!私頑張って狩りまくって・・・思考の次元をガンガンあげるよ!」

彼女はここでうずくまっていても何も始まらないと外の世界に出ることを決意する。

「狩人様、現実がどうとかこの人形にはわかりません・・

ですが・・これだけは言えます

終わらない夜は無いと、昔・・ずっと昔 ある狩人様から聞きました

あなたの目覚めが有意義なものであることを・・」

その言葉を受けて、彼女は初めての現実と化したヤーナム市街地の灯りで目覚めようと墓石に手をかざすと使者達が狩人の帰還を喜び、贈り物を持ってきた。

アイテム「幻の灯」を手に入れました。

彼女はアイテムを鑑定するとその効果は

「何処なるとも、この灯が照るところが狩人が目覚める場所となる

この世界そのものが今や悪夢の中なれば、夢はヤーナムの中でのみ見るものではないのだから」

要するにこれを安全な場所に突き刺して灯せば携帯式の灯になる。

ユグドラシルのどこからでもセーフハウスに入れるのは確かに有難い。

「転移」を使えば済む話だが。

「じゃぁ、行ってくるよ」

そう人形に告げると彼女は悪夢と化したヤーナムの町で目覚める・・・・

 

 

・・・・・・

色の無い霧を抜けて未知の街に入った途端、世界が一変した。

外から見れば霧があるとはいえ、ヤーナムの街はアンデッドすら存在しない完全な静寂の町に

しかみえなかった。

今、霧を抜けたとたんに世界が現実から悪夢へと変わる。

「な!止まって!何・・・何よこれ!?」

街に入って瞬き一つしないうちに街の景色は外からは静かだが、瀟洒で雄大なものにみえていた。

今、彼女たちの目の前に見えているのはまさに獣狩の夜の夕暮れだった。

「リーダー、あっちこっちから血と焦げた匂いがする」

「それに何だか凄く獣臭い」

ティアとティナもクナイを握り、目を凝らしていつも以上に警戒態勢を取った。

「馬鹿な・・・・魔法の反応は何一つ感じなかったぞ!一体どうやればこんなことが出来る!?」

 

ゴミ一つ落ちていなかった街の通りは死体と棺桶、逃げ切れなかった人々が大慌てで逃げようたのか荷物がそこかしこに散乱している。

 

「!!リーダー!あれ!」

彼女たちの目に映ったのは火炙りになっている巨大な獣。

ウェアウルフ

そして・・・・

「なんてこと・・・ひどい」

行方不明になっていた冒険者チーム豪剣の5人の死体だった。

彼らもまたウェアウルフのように磔にされ、焼かれていた。

首元からぶらさがるミスリルのプレートが炎に照らし出され光を反射している。

ガガーランも同じ冒険者仲間をこのように殺され、さらには曝し者にした連中に怒りを覚え

武器を抜き油断せずに構える。

「っ!誰か来るぞ!」

イビルアイが吸血鬼特有の鋭い夜目と耳で足音とぱちぱちという炎がはぜる音が近づいてくるのを確認する。

「みんな、戦闘態勢を取って。この町の住人と話し合えれば一番だけど・・」

だが、浮遊剣を展開し臨戦態勢になったラキュースもスキはない。

彼らが叫ぶ

「Beasts!Beasts!Kill them!Kill Them All!」

 

聞きなれない言葉と共に道の先から群衆が手に手に粗末な武器を持って駆けてきたのを見て

全員が交渉は不可能だと悟った。

道のあちこちであがる炎が彼らの獣そのものの形相を照らし出しその恐ろしい顔に薔薇も驚く。

「けっ、あいつらビーストマンかよ!」

獣人 この世界の竜王国を脅かす人類種の天敵。

実際にはヤーナムの群衆はれっきとした人間だが、もはや獣以外の何物でもない。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 4 Old Hunter

久方ぶりに悪夢に戻ったら人少なすぎ!
絶望した!心が折れそうだ!
戻ってきた君はただしく、そして幸運だ!


「シャァァァァァ!」

蛮声と共に繰り出された鋤の一撃を前衛に立ったガガーランが受け止めようとする。

普通であれば戦闘用の槌と農具でしかない鋤では相手にはならない。

あくまでも普通であれば

(こいつ!早い!)

まともに喰らえば、跳ね飛ばされると判断したガガーランは武技“不落要塞”を発動し更に軸をずらし少々の掠るリスクを冒してでも衝撃を最大限まで逃がすことを選択。

飛びかかってきた獣のスピードと前衛と接触するまでの一瞬の出来事だということを考えれば

超一流の戦士の判断だった。だが・・・・

鋤がガガーランのメイスに当たるとその衝撃を受け流したにもかかわらず体勢を崩される。

イビルアイがクリスタルダガーで

ティアとティナがそれぞれ爆炎陣<大瀑布の術>でこちらに向かってくる敵を迎撃し、足止めする。

ラキュースが敵が足を止めた隙に骨にひびが入ったガガーランの治療を行う。

アダマンタイト級の名は伊達ではない、一流の連携だった。

「つぅ!ただの突きが・・・なんて馬鹿力だ!」

「動かないで!骨にひびが入ってる」

ダメージそのものは大したことはない筈だが、腕の怪我はそのまま戦闘力に響く。

速やかに治療魔法で癒しつつ周囲の警戒をする。

そしてイビルアイの連続クリスタルダガーを受け、怯んだ獣と二人の忍者の水蒸気爆発を受けた群衆は・・・

「嘘でしょ・・・」

「なんて奴らだ、まだ生きてるなんて・・」

確かにダメージは負っている、火傷をして皮膚は焼けただれて皮はずり向け、

腕にも腹にも穴が開いている

普通の獣ならとっくに致命傷になっているはず。

それでも動く、動いて襲い掛かってくる。

「ラキュース!こいつらただのビーストマンじゃない!

難度は下手したら100越えだ!」

100以上の難度とはレベルにして35から40ほどだろう。

一体ずつならレベル50にも相当するイビルアイでも時間はかかるが倒せないこともない。

一体ずつならばの話だが?獣は群れて襲ってくるものだ。

現に目の前の大通りからは30匹以上の獣が喚声を聞きつけてこちらに走ってきている。

そして敵は前からだけではない・・・

「くっ!右の通りからも来る!数およそ20!」

イビルアイの暗視が薄暗く、そして燃え盛る炎が照らし出す右の小道から足音を捉える。

戦闘の音を聞きつけて他の獣が駆けつけつつあるのだ。

手に手に鋤や桑、包丁に見慣れない武器を持った獣が襲い掛かってくる恐怖は歴戦の薔薇といえども中々であった。

包囲されれば最早勝負はつく、薔薇の敗北という形で。

ラキュースは即座に決断する。

「撤退!速やかに街の外まで応戦しつつ後退!」

幸いにして退路は確保できている、霧の向こうまで走ればそこから先は森。

隠れつつ後退するのは可能。

だが・・・・

「か、壁が・・・入り口は?そんな!?入り口が消えた!?」

チュートリアルが始まると、クリアするまでは通常マップには戻れない。

運営の仕様である、仕方ないね。

とはいっても蒼の薔薇はプレーヤーではないのだから死んだらほとんどそれっきりである。

復活しようにも死体があのように真っ黒焦げに焼かれ、蘇生魔法の使えるラキュースまでもが殺されてしまってはそれまでである。

「リーダー、このままじゃ持たない」

ティアとティナ、それにイビルアイの足止めも圧倒的な数と耐久力を持った群衆の前には焼け石に水だった。

唯一イビルアイのファイアボールでようやく獣が一匹倒れたが、あとからあとから湧いてくる獣相手にこれではどうにもならない。

次の瞬間、轟音が響き・・・ラキュースの太ももに激痛が走った。

「ああ!」

「ラキュース!?やられた!?しまった、魔法使いがいたのか?」

違う、ただのマスケット銃だ。だが、この世界には銃火器はまだ存在しない。

「イビルアイ、あなたは飛行で逃げて。

こんな連中がいるなんて王国の危機よ、だから・・・」

脚に治療を施しながら、ラキュースはイビルアイの力ならば高い城壁を超えて逃げおおせることもできると考え、全員が全滅しようともこの危機の情報を伝えることを優先させようとした。

「生憎だがな、さっきからフライが使えん。おまけにメッセージも使えんときた。

どうやら最後までお前たちに付き合うのが私の運命らしい」

ここで一緒に死ぬのなら、それも悪くないと思ってしまったイビルアイだった。

遂に壁際まで追い詰められた蒼の薔薇の面々は壁を背に防御態勢を取る一方向からの攻撃に備えるこの場では最善の選択だが、今となってはこれ以外に選択の余地がないほど追い詰められた。

(まさか・・・こんな場所で死ぬなんてね・・・)

(鬼リーダーにつきあったのが運のつき・・悪くない)

(暗殺稼業よりは・・・こんな風に終わるのも覚悟のうち・・・)

(へっ、来いよ。一匹でも多く地獄への道連れだ)

(皆・・・すまん。だがお前達を死なせはしない・・)

壁際に彼女たちを追い詰めた群衆が武器を手にじりじりと迫ってくる。

その時・・・・

「数を頼んで、女子供を大の男がいたぶる。

所詮は獣、礼儀がなっていないな」

瞬時、一閃。

一瞬にして世界が断ち切られたかの如く、前の前の獣人たちが文字通り上半身と下半身を生き別れにずり落ちていった。

「鐘は・・・ふむ鳴っていないか、だが獲物は早い者勝ち・・・

恨むなよ」

いつの間にか、5人の前に女性が立っていた。

漆黒の奇妙な皮鎧、なぜか剣でも槍でもなく杖。

左手には奇妙な鉄の筒を持っている。

そして・・・美しかった。同性の5人もかなり整った顔立ちだがこの突如として現れた女性のそれは別次元の者だった。

髪は闇夜の色を流し込んだ絹のごとし、白磁のごとき肌は闇夜に浮かび上がるよう。

そしてその黒い瞳は吸い込まれるような深い黒だった。

5人を後ろに無造作に振り返ることもなく群衆の方に歩いていく。

「ま、待って、そいつらは危険よ・・・」

ラキュースが警句を発するが、次の瞬間には狩人に刃を突き立てようとした獣は悉く・・・

悉く、細切れになって道に散らばることになった。

「つまらん、これでは大根を切るのと変わらんではないか。

パリィもステップも必要ない、ポチポチげーでは萎えるわー」

圧倒的強者

いずれも伝説級とすら言える獣人をこうもあっさりと打ち倒す。

イビルアイはあの入り口で見た文字と嘗て共に冒険した者たち、

そして眼前の圧倒的な力を持った狩人

「ぷ、ぷれいやー・・・・」

目の前に降り立った狩人は正に神話の存在なのか・・・

 

「かー萎えるわー!周回カンスト勢に今更チュートリアルとかいらねーっつーの!

闇霊だせや、こらぁ!」

 

・・・・えらくくだけた神話だが

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 5 Good Night


格式ある伝統は守らねばならぬ…
召喚時には、まずはお辞儀をするのだ!


目の前の群衆を一方的に狩っていった、数えきれないほどの夜を過ごしてきた狩人にとってこの程度のただの群衆は実に容易い相手だった。

攻防走、いずれをとっても単に近づいて鞭を振るう。

たったそれだけで事は済む。

(つまらないなぁ・・・・いくら現実化した悪夢がどの程度か試したいだけって言っても)

彼女はかなりのチキンでヘタレでそしてへぼなプレイヤーである。

悪く言えばそうだが、よく言えば慎重で懸命、そして自分の分を知っているとも言える。

戦い方は単純に技量が高いわけでも、攻撃力が高いわけでもない。

常に相手に自分を攻撃するチャンスと回復を潰す事を重視し、奇襲し、裏をかいてちまちま攻める。

ワールドチャンプのように華麗でもディザスターのように派手でもない。

泥臭くて、血なまぐさくて、凡人で・・・そして人間らしい戦い方。

天賦の才ある戦士でも、知識と即応性のある魔術師でもない、狩人の狩りをするしかなかった。

一気に襲い掛かってきた群衆を鞭の一撃で纏めて切り伏せる。

本来ならば、このような派手な動きはするべきではない。

いかなる時も油断せず一度に一体を相手する基本を守るべきだった。

基礎を極めれば奥義に至る、狩りと戦いは違う。

罠、地形、アイテム、心理戦、魔法、どんな汚い手段を使ってでも狩りを全うするのが狩人の本分。

凡人が天才を倒すジャイアントキリングが起こりうるのが狩りの世界だ。

 

弱者でありながら、強者のような戦い方をしたのはそこな5人のプレーヤーだった。

5人もの人間がチュートリアルの市街地に入ってきたのはかなり衝撃だった。

(え?鐘も無しに他のプレーヤーと遭遇できるの?うわーこんなとこは現実なんだ!)

そもそもヤーナムはソロ向きのダンジョン、本来は最大でも4人までと入場制限がかかっているにも関わらず5人ものパーティーを組んでいること自体が異常。

 

(新人狩人のお手並み拝見と行きますか)

現実と化したヤーナム、その壮麗な都市のアパートメントの屋上に腰かけて1km先の新入りの動きを見学する。

チュートリアルなら大したことはない、そう思いながら血酒をアイテムボックスから取り出し、ラッパ飲みする。

五臓六腑を度数の高い酒が焼くがスキルの異常耐性により酔うことはない。

酒は“血より生み出されたる天使”には似合わない、血に酔うべきなのだ。

 

・・・・・・・

暫く謎の新入り達の動きを見ていたが・・・

(ちょっと、連携はいいのに何で一撃で仕留められないわけ!?

ああ、もう防御なんかするよりバックステップで避けるかカウンター狙いなさいよ!

あのちんまい魔法使いだってなんでそんなチマチマしたのしか使わないわけ?)

 

技量は高いのにレベルが低く火力不足なのは一目で明らかだった。

チュートリアルは所詮はお試し、ここで雑魚をいい気になって蹴散らさせて最後ではい死んだという展開なのだ。

運営の狙いは当たり、せいぜい30から50の雑魚を蹴散らしたプレーヤーはチュートリアルのボスでぶっ殺される。

フロム的なお約束展開の筈で初見プレイヤーはごく一部の変態を除いて殺される。

見ていると新入り達はボスにすら到達することなく殺されそうだ。

(見てらんないなぁ・・・)

そう思い立つと、チュートリアルの敵はレベルが低いことを確認するといくつか試したいこともあるし、彼女たちがどこのギルドの者か気にもなったので助け舟を出すことにした。

助けに入るなら劇的なタイミングがいいしね。

 

・・・・・・・・

狩人が鞭を振るう、舞う、そして爆ぜる肉と夥しく流される血。

それでながら彼女の輝く白磁の頬と濡れ烏の黒髪のなんと蒼褪めた月に映えることか。

血と炎を覆う黒が織りなす悪夢の世界でそこだけが神に祝福されたかのようだ。

 

(凄い・・・これよ!こういう体験を待ってたのよ!)

ラキュースは美しい戦い方をする狩人に見惚れていた。

杖に仕込まれた剣、振るわれたかと思えば次の瞬間には関節が伸び変形して鞭となって相手を薙ぐ。

目にも止まらぬ素早さで悉く敵の攻撃をマントに触れさせることすらなく回避し、左手の筒が轟音を上げるたびに血飛沫が上がる。

ぶっちゃけ実に中二病をくすぐる戦い方であった。

こんな状況なのに懐から秘密のラキュースメモを取り出して自分の浮遊剣の戦い方に取り入れようとしている。

両親の反対を押し切って冒険者になったラキュースの理想の形がそこにあった。

多くの人々から羨望され、戦いを町々で吟遊詩人が歌い上げ、英雄譚として後世まで永く残る。

 

(私も、あんな人になりたい)

 

勉強熱心なのは良いことですね、今度啓蒙を一緒に上げましょう。

 

イビルアイにとっても彼女の登場は鮮烈なものだった。

目の前で蹴散らされている獣人は少なく見積もっても難度100以上の精鋭。

あれだけの数がいれば人類の大きな都市でも簡単に滅ぼせるだろう化け物ぞろいだ。

この都市の規模を考えれば十三英雄の物語に加えても・・いやそれ以上の脅威だといって良い。

例え、王国が軍隊を動員したところでなすすべもなくいたずらに死人を出すだけなのは目に見えている。

そんな化け物を一方的に追い詰め、切り刻み、殺戮を恣にし道路に血と肉の華を咲かせる彼女をイビルアイは美しいと思い・・・同時にとてつもなく恐ろしく感じた・・・

(あれが・・・・あんな者が本当に人間なのか!?魔神・・・いやそんなものじゃない・・・)

200年前に共に戦った13英雄、彼らのりーだーは人であったが

相次ぐ戦いの末に常人を遥かに超える力を手に入れた。

 

彼女は神話の域にいる、それは間違いない

だがそこに人の居場所はあるのだろうか?

 

「めんどくさ!なんでこんなにわらわら寄ってくるのよ!」

次から次へと寄ってくる群衆。

チュートリアルの参加者が6人に増えたことで通常の6倍、300の群衆が当初の広場に殺到してきていた。

一体の戦闘力はせいぜい初心者の最初の目標のデスナイト程度の雑魚だがこうも数が多いと鬱陶しい。

「こうなりゃ・・・これでも喰らえ!ヒャッハー!汚物は消毒よー!」

アイテムボックスから火炎放射器をすかさず取り出し右に左に銀の火炎放射を振りかける。

獣相手には炎が一番、お約束の台詞を吐きかけながら迫りくる敵を次々とローストにしていく。

遠くから駆けてきた相手には火炎瓶を投げつけ群衆を一網打尽にする。

だが流石の数の多さにはいい加減辟易してきた。

(血の遺志も大して多くないし・・・あーこりゃ貧乏くじかな)

経験値とは違う、血の遺志。

獣の血を持つプレイヤーは血の遺志による発狂や特定の武器以外が持てなくなるというデメリットと引き換えに、血の遺志を失う以外の死亡時ペナルティが無いという破格の性能を持つ。

しかしながらそのデメリットはそもそもレベルの上がりやすいユグドラシルでは大したペナルティとは言えない上に、わざと死亡してのレベル下げキャラ変更が旺盛なユグドラシルでは滅多にとるものはいなかった。

悪夢に囚われた狩人たちは全て悪夢だった事にしてしまう。

今、この世界ではデスペナルティ無しが破格の性能になってしまったがそれを彼女はまだ知らない。

瞬く間に目の前の群衆を文字通り八つ裂き、火炙り、串刺しにして全滅させた狩人はその杖を下ろさずに蒼の薔薇に視線を向けた。

 

瞬時・・・・凄まじい殺気が彼女たちの全身を舐めまわすように這い上る。

(まずい!)

イビルアイが咄嗟に臨戦態勢に入るが、狩人の醸し出す圧倒的な強者の力関係にアンデッドであるはずの彼女の背が凍り付くような感覚を覚える。

(難度にして200・・・250・・・まさかそれ以上!?なんて化け物だ!)

 

杖を構え、奇妙な鉄の筒をこちらに向けながらこちらに優雅な足並みで歩いてきた狩人は口を開くと・・

「新米さん?助けてあげたんだからお礼の一つくらいあってもいいんじゃないかしら?」

・・・さっきの殺気が嘘のようによく通る氷のような声で話しかけてきてお辞儀をした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 6 Tutorial

ヤーナム実装時に全ての狩人に送られたプレゼント武器
神器級に匹敵するまで強化可能
なお強化するのは神器並みにレアなアイテムが必要
アンゲリカの場合はただひたすらに早く、鋭く強化
技量を上げて、物理で殴れ

狩人の灯火
獣狩りの狩人のみが非戦闘状態で使用可能
どこからでも狩人の夢に戻ることができる
破壊不能・配置した狩人以外には見えない

狩人の夢
獣狩りの狩人にプレゼントされた隠し家



アンゲリカの仕込み杖

アンゲリカが獣狩りに用いる、工房の「仕掛け武器」の1つ
 
刃を仕込んだ硬質の杖は、そのままで十分に武器として機能するが
仕掛けにより刃は分かれ、まるで鞭のように振るうこともできる
 
武器を杖に擬し、獣に対するに鞭を振るう様は、様式美の類である
それは、自ら獣狩りの血に飲まれまいとする意思だったのだろうか

工房の量産品だが、幾千幾万の獣の血を吸った事により
尋常ならざるものすら切り裂く
狩人と同様、武器もまた血によってその本質を変えていくのだ


アンゲリカの獣狩りの短銃
アンゲリカが獣狩りに用いる、工房製の銃
 
獣狩りの銃は特別製で、水銀に自らの血を混ぜ
これを弾丸とすることで、獣への威力を確保している
 
また、短銃は散弾銃に比べ素早い射撃が可能なため
迎撃などに適する

工房の量産品だが、幾千幾万の血の弾丸を放った事により
尋常ならざるものすら打ち砕く
狩人と同様、武器もまた血によってその本質を変えていくのだ

要するに最大限強化した初期装備。


杖と筒をこちらに向け、油断なく伺いながらこちらへと女性が歩いてくる。

なりは人間だろう、だがその本性は?

一応助けてはくれた、だがこの異常な街で正常な人間がこうも都合良く現れるものだろうか?

そんな緊迫した空気の中でラキュースが発言する。

「ご助力感謝いたします、私の名はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ、この蒼の薔薇でリーダーをやっております」

と礼儀正しく応対し実に綺麗なお辞儀を返す。

 

「そしてこちらがガガーラン、そこにいる二人がティナとティア。

あの仮面の魔術師がイビルアイです」

 

「イビルアイ<邪眼>?ふぅん?

私はアンゲリカ・ブリューティヒ・ダ・カインハースト

”カインハーストの血族に連なる、血より生まれたる天使”

コンゴトモヨロシク」

 

ラキュースの長い名前に対抗してちょこっとカインハーストの名前を入れるのであった。

お前はいつの間に悪魔召喚されたんだ。

更にあからさまに英語名のストレートな厨二病がアンゲリカの何かをくすぐる。

「うーん、シンプルに”A”とだけ名乗った方が良かったかな?」

いや、それだけではない。

(ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラって名前長!

貴族!?貴族ロール?あっちの双子も双子でニンジャってことは60以上?

あの戦士は匂いからすると女性?

で、ちっこいのは・・・なんだろ、なんか変な感じ)

とすごい勢いで思考の次元をグルングルン回した。

何を言っているのがわからないと思うが、一般人がいきなり現実化した悪夢に取り込まれて脳に瞳を植えつけられると常に発狂一歩手前に置かれてしまう。

要するにこれが獣狩りの狩人に課せられたデメリットの最たる物

スキル:高まりし啓蒙 が現実化したことによって発動するバッドステータス

発狂:Lv1の前兆である。

ちなみに発狂するとレベルに応じて敵味方無差別攻撃し始めたり、獣になって超位神秘を撒き散らした挙句即死したりする。

狩人は巨大な不発弾、自爆・誘爆ご用心。

これがレベルダウンなしにリスポーンできるにも関わらず

種族:上位者

職業:獣狩りの狩人が不人気だった理由でもある。

ヤーナムで人間種のみがへその緒をゴニョゴニョするとなれる種族だったが・・・

だが頭の中が残念とはいえ、蒼の薔薇にとっては目の前にいるのは圧倒的な力を持った存在である。

下手に気分を害してその刃をこっちに向けられては堪ったものではない。

「まぁ、いいわ。それより貴方達レベルはいくつなわけ?

いくらチュートリアルと雖も新顔がガイドなしじゃきついんじゃない?

もしかしてもう血の洗礼は済ませたの?

もう”悪夢に囚われた”んなら死にゲー上等で来たのもわかるけど・・」

 

全く知らない単語がポンポン出てきて

混乱する蒼の薔薇の面々

 

「いえ、私達はこの都市に調査に来た他の冒険者チームの捜索と探索に来たのですが・・・・」

 

チラと向こう側に晒されているミスリル冒険者チームの遺骸を見てこう応答する。

「もしかして・・・・あの人達?そう・・・死んでるわね・・・」

磔にされて膾切りにされ、ついでに炎にくべられているあの状況で生きているはずも無し。

(おかしい・・・この街で輸血され悪夢に囚われたのなら”死んでもペナルティ無し”になるはず・・プレイヤーなら誰でも・・・)

とそこまで思って口に出す。

「貴方達・・・もしかして輸血されてないの?

あのヤブ医者に輸血されて、悪夢を見たはずよね?」

の言葉に青の薔薇全員が輸血?という言葉すら知らなかった。

「イビルアイ、“ユケツ”って何か知っている?」

ラキュースはイビルアイにまた飛び出た知らない単語について尋ねるが

「いや、全く知らん。医者というからには医療の何かだと思うが?」

 

輸血が人から人へ行われたのは19世紀、血液型が発見されたのはようやく20世紀、血液抗凝固剤が発明され輸血袋が使われたのは1910年。

ヴィクトリア朝をイメージしたヤーナムでの最新の科学治療を中世ファンタジー風世界の彼らが知るはずもない。

遥かに衛生的で面倒の少ないポーションとか回復魔法とかあるので科学は不必要かもしれないが。

 

「?輸血をされてから入ったわけじゃない?

じゃぁ貴方達は悪夢に囚われてるわけじゃない?

どういうことなの?」

 

ウンウンと唸りながら考え込んでしまうが

しばらく考えて、突然キン!と鞭から杖へと形態を特に意味なく変形させると

ティア、ティナ、、ガガーランにイビルアイもビクッとする。

ラキュースは変形する仕込み杖という実に厨二病をくすぐる武器をメモしている。

「まっ、いいわ。ここで考えてても仕方ない。

とりあえず、話は後で聞くとして“ヤーナムのセーフハウス”に行かないことには何も始まらないしね」

 

そういうと踵を返して歩き始める

「ついて来て、質問は安全な場所で受け付けるから」

見知らぬ黒衣の狩人についてくるよう言われた面々は顔を見合わせる。

「どうするリーダー?知らない人についてったら駄目、ただし美形を除く」

そう言いつつもホイホイとついていこうとする同性愛者のティア。

アンゲリカの美貌は中身は残念だが、彼女を引きつけるなら十分な餌だった。

歩き出したアンゲリカのお尻を見つめながらホイホイついていくティアに頭を抱えながらもチームで一番の常識人のガガーランが提言するには。

「ま、外に出ようにもあてはないし。

助けてもらっておいて、罠にかけるってことは無いだろ。

ここでこうしてても何も始まらんのは確かなんだから、とりあえず警戒しながらついてきゃいいんじゃ無いか?」

 

「そうだな、他にあてはないしあの狩人の後ろがここでは一番安全みたいだな」

イビルアイも賛成し、一同はついていくことにした。

 

「そう!やっぱり皆わかってるわよね。あの人はいい人よ!あんなかっこい

んだからきっと良い人よ、うん」

 

 

 

・・・・・・・・・・

外からでは壮麗な都市の摩天楼、華麗な寺院も獣狩りの夜にあっては陰気で覆いかぶさるような圧迫感を齎している。

(アメンボはまだ見えないなぁ・・・)

啓蒙が低いためかアメンドーズは見えない。

もっとも、鐘を鳴らしたとして過疎が凄まじいユグドラシルの他のプレイヤーで更に鐘を鳴らしている者など殆どいないだろうから啓蒙をこれ以上消費する可能性は低い。

いざとなったらアイテムボックスに山ほど積んである叡者の知恵を使えば良い。

自分が脳に瞳を持っているかどうかはイマイチよくわからない。

確かにヘソを使ったが・・・それはゲーム内での事。

自分の種族が上位者なのは確かだが、イマイチ実感もわかない。

(幼年期はまだ始まったばかりって事?)

 

チュートリアルで街の中を進む一行に襲いかかってくる群衆を鞭で切り倒しながら考えるがゲームは所詮ゲームだった。

今の現実化した悪夢とでは何もかも桁違い。

血の匂いも、流れ出す腑の悪臭も全て忌まわしく芳しい事よ。

Lv10の最大限まで強化された仕込み杖はアンゲリカの高い技量もあって群衆を容赦無く細切れにしていく。

時々群衆に混じっている獣人は確かに素早いが所詮は群衆に比べての話でありまっすぐに向かって刃物を振るう間抜けに過ぎない。

(退屈・・・)

チュートリアルの”ヤーナム市街 街角”を抜ければ獣の狩人ならざる狩人にも使える”ヤーナムのセーフハウス”が待っている。

要するにパーティーを組むための待ち合わせ場所である。

一行はさして長いとも思えぬ道を歩いていると狩人が門の前で立ち止まった。

巨大な門、王都の大通りの表門すらこれに比べれば子供に見えるほど壮大。

そして優雅な彫金が施された金と銀の門そのものすら王室の財産全てと比べることができるだろう。

「よく聞いて、ここを抜ければ安全な場所。

でもここには強敵がいるわ」

 

強敵という言葉に5人は背中が冷える。

 

「きょ、強敵ですか!?」

ラキュースが思わず叫ぶように聞き返してしまう

「うん、今までの連中は言ってみればただの前座。

ここを抜けなきゃ安全な場所にも行けないし、そこにある外への脱出路も使えない」

 

「そんな・・・」

イビルアイも仮面の下で蒼くなったかのように震える。

今までの獣人ですら伝説級のデスナイトか・・・あるいは・・・考えたくもなかったが

それ以上の獣人すらいた。

その連中をたやすく屠る狩人の口から発せられる“強敵”という言葉。

どれだけ凄まじい敵なのか想像もつかない。

一行は知らず唾を飲み込んで聞き逃さまいとした。

皆を振り返って狩人は続ける

「いい?倒せない相手じゃない、けど見ればわかるわ。

獣狩りがどういうことか」

そういうと狩人は懐にしまってある手帳を広げ、これから相対する敵の情報を一向に見せた。

文字こそわからないが、精緻な写実の絵で恐ろしい鹿と狼と人を混ぜ合わせたような巨大なモンスターが描かれている。

「敵は”聖職者の獣”と呼ばれてる。

攻撃パターンは主に腕を使っての中距離攻撃で大振り。

弱点は炎で、頭部にダメージを与えると体勢を崩す事が確認されてた」

狩人が絵を触ると、狩人と獣が戦い始める絵が動き始めた。

「これは!?魔法のアイテム!?凄い・・・・こんな物があるなんて」

攻略動画を手帳に貼り付けてあったのが幸いした。

百聞は一見にしかず。

「うん、何度でも見て攻略方法を考えて。

でも今回は私に任せてもらう、単純に私の方が慣れてるからね」

実際問題として聖職者の獣はユグドラシルではレベル100のプレイヤーでも苦戦するようにできている。

蒼の薔薇では単純にゴリ押しで押し切られてしまうだろう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 7 Cleric Beast

アンゲリカ
Lv100の軽装甲・高機動・高火力な軽戦士ビルド
外見は黒髪黒目の時計塔のマリア
悲しいことに所詮Lv100に過ぎずモノホンのマリア様とは
トキとアミバ並みの実力差がある
私は天才だ(ドヤぁ)

ヤーナムダンジョン
ブラボのオリジナルを更に凶悪化
狭い道が多いので人数が多いからと安心したプレーヤーを
奇襲
スクリプト湧き
罠だぁぁぁ!
上から襲ってくるぅぅぅ!
で次々と殺す
狭く、敵の攻撃力が高いのであまり多すぎると回避できず死にまくる
3、4人程度がちょうど良いよう調整


パーティーの合計レベルに応じてボスのステータスが増加する鬼畜仕様
原作同様ソロか、多くとも3人で挑むのがベストになる調整
24人で挑むと全ステータス6倍
マリア様の前にどっかのバードマンのアーチャーは一瞬で微塵切りになった。
『我々の業界ではご褒美です』byイエスロリノータッチ
「さくさく死んでいってね!」by運営(ゲス顔

聖職者の獣
序盤ではマップが狭いこともあって結構苦戦した



ラキュースの建てた作戦は単純であった。

蒼の薔薇が手に入れた火炎瓶やイビルアイの魔法による遠距離攻撃で獣の注意を引いた隙をついて背後からアンゲリカが常に付かず離れずの距離で切り刻んで確実に相手を倒すというもの。

「うん、いいと思うわよ。狙うなら頭を狙って、必ず回避優先を忘れないで」

 

アンゲリカもこの作戦は現状で狩人と薔薇という大幅に違う戦い方をする両者にとって最善だと判断する。

獣の膂力の前にはこのパーティーで前衛のガガーランですら間違いなく一撃で沈む。

他に至っては言うまでもない。

「それにしても遠くからぽいぽい投げるだけなんてな、これなら鎧でも脱ぐかぁ」

ガガーランは不満そうだ、神官職でサブタンクのラキュースは浮遊剣、ティアとティナはクナイに忍法、イビルアイはいうまでもなく魔法職。

この中で唯一効果的な遠距離攻撃手段を持っていないために前衛職の価値はほとんど無くなってしまった。

「いや、投げつけるのも立派な仕事だよ?

下手な魔法より頼りになる。ここの火炎瓶は特製だからね」

火炎瓶自体の歴史は古く、素焼きの壷にナフサや石灰を入れて投げるギリシア以来の古典的発明。

だが、ヤーナムではそれにガソリンと狩人の血と水銀を混ぜた獣相手に有効な投擲アイテムとしてショップでも販売されている。

ちなみにショップは使者達が獣狩りの夜でも休まず営業、ユグドラシル金貨も使えますとの事。

炎の魔法が使えない戦士職やアンデッド系のプレーヤーへの救済措置だ。

ちなみに、アンゲリカは銃を装備してもらえれば一番手っ取り早いとも思ったが彼らに使い慣れてない武器を装備してもらっても命中も期待できずどのみち獣相手に狩人でない彼らの血では大した効果はあるまいと思い、保留した。

「じゃ・・・・行くわよ、心の準備ができたら言って」

レバーに手をかけて門を開く準備をするアンゲリカ

「いつでもどうぞ。こちらも準備できました」

ここでじっとしていても、またあの群衆に追いつかれれば無事では済まない。

それならば目の前の対抗策を知っている女性に賭けるしかない。

蒼の薔薇の面々は武器を構えると、開きつつある門に警戒の目を向ける。

だが、予想とは違い門が開いても何も出てきはしなかった。

「油断しないで、奴を感じる・・・・・こっちが来るのを待ち受けてる」

そう言って狩人は杖と筒を構えながら油断なく門の中に入って言った。

ラキュースを始め一同が薄暗くなりつつある赤い夕日の射す門の向こう側に足を踏み入れると息をのむほど美しかったであろう光景が目に入った。

中央に備え付けられた噴水は彫刻も見事、美しく刈り揃えられた並木も生垣も

そこかしこに置かれた彫刻や街灯も実に見事なものだ。

だが、今やそこかしこに人と獣の死体が散らばり、逃げ出そうとした人々の荷物や馬車の残骸が散乱する様はひたすら陰惨で無残な光景でしかない。

王都の王宮の中庭以上に美しかった公園は今や獣の狩場になっていた。

「酷い・・・一体何でこんな事に」

思わず口に出すラキュースであったが次の瞬間に警告が響く

「散らばれ!来るぞ!」

次の瞬間、建物と建物の間から何か巨大な物が宙に飛び出したかと思うと

6人の目の前に降ってきた。

着地とともに轟音が響き、その恐ろしい形相が嫌でも目に映る。

”聖職者の獣”

Lv100相当でチュートリアルのボス。

攻撃力が高く、”チュートリアルボスなんて楽勝だろ”

と嘗めてかかったプレイヤーが多数殺された。

撃破できたのはナザリックではたっちさんであった。

『攻撃パターンが単純でしたからね、確実に避けて確実に当てれば誰でも時間はかかっても倒せます』

 

狩人がなぜこいつをそう呼ぶのかはわからない。

おおよそ、聖職者とは縁がなさそうな凶暴な面構え

「あ・・・ああぁ」

ここで立っているだけでもわかる、圧倒的な力の差にラキュースも絶望的な死のイメージしか浮かばない。

「馬鹿な・・・・・こんな・・・こんな化け物・・・どうしろというのだ・・」

長い年月を生きてきた、かの十三英雄ともともに戦い、魔神を滅ぼした。

それだからわかる、はっきりとわかってしまう。

格が・・・違う・・・

(難度は・・・馬鹿な!?200以上だと!?)

 

『グオォォォォ!』

獣が吠えるとチームはたちまちパニックに陥り賭けるが

ラキュースが辛うじて『ライオンズハート』をかけ落ち着かせる。

 

「心配しないで!あいつを切り刻むのは私の役目!

さぁ、狩の時間よ!」

パニックに陥りかけた薔薇を尻目に一瞬で獣との合間を詰めると・・・

「しゃあぁぁっぁぁ!」

気合い一戦とともに杖を鞭に変え渾身の一撃を振りかぶった。

あまりの速さと音速を軽々と超えた鞭の先端の鋭い一撃で獣の頭蓋に命中した時にイビルアイの所にまで爆音が響いた。

開幕からの凄まじい衝撃で獣もよろめき、膝を着く。

だが、獣のタフさは凄まじくほんの数秒で回復するはずだった。

数秒、あまりにも長すぎる時間だ。

「脳みそ・・貰ったぁ!」

傷口から右手を獣のそれに変化させて獣の頭蓋に突っ込む。

凄まじい激痛に獣が暴れるのも御構い無しに奥へ奥へと手をツッコミ触れたものすべてを破壊する。

内臓攻撃、獣狩りの狩人が実行可能なほぼ一撃必殺の特殊攻撃。

条件は難しいが、プレイヤーが喰らえばほぼ即死の必殺技。

獣狩りの狩人の職業を取る最大のメリットである。

更にこの一撃で全身に返り血を浴びたアンゲリカのHPが回復する。

スキル:リゲイン

要するにユグドラシルでは相手に接近攻撃を与えるとHPをある程度回復するという

シャルティアのスポイトランスのスキル版である。

もっとも、HP満タンでは意味がないが。

獣が頭痛の原因を取り除こうと巨大な左手を振るった時にはもう狩人は目にも留まらぬ早業で引き抜き回避していた。

公園のオベリスクが爪を食らってたやすく粉微塵になる。

「ちっ!流石に一撃じゃ死なないか」

バックステップでかわすと今度は背後に回ろうとするが、獣も最大の脅威の狩人から目を逸らす愚は犯さない。

だが、どこの世界に脳に直撃を受けて動き回れる怪物がいるというのか。

しばし呆然としていた蒼の薔薇であったがすぐに気を取り直す。

「みんな、援護して!」

ラキュースの指示のもと、各々散開し手持ちの武器や魔法で援護を始める。

浮遊剣、クナイに忍法『影縫い』といった行動阻害忍術。

水晶の散弾と火球、そして火炎瓶。

獣も狩人との戦いに集中すべきであったが、背中や側面からのチマチマと煩い攻撃に集中力が散漫になる。

一瞬、たったそれだけで次の痛みが右足に走った。

「余所見とは感心しないね」

肥大化した左手に対して右手はリーチが短い、そこを弱点と見た狩人は脚を狙って攻撃を始めた。右手の射程に捉えたと思った時にはもういない。

左手でなぎ払おうか捕まえようにも速すぎて捉えられない。

獣はイライラしていた。

一撃、たった一撃が当たればそれでほぼ事は済むはずなのだ。

そう思って、煩い小者を潰そうと目を転じた次の瞬間には今度は左足に激痛が走る。

 

・・・・・・

(しぶといな)

頭、左足、右足と確実に相手にダメージを与えつつあったアンゲリカであったが獣の頑強さは想定以上だった。

(ソロが長かったから、感覚が鈍ったかな)

ヤーナムではチームが大規模になると敵は強くなる。

感覚から言えば相手はもう2回目のダウンをとっていいはずだが、なかなか倒れてくれない。

あと少し、たった一回倒れさえすれば強化された内臓攻撃で今度は確実に仕留められるというのに・・・

 

・・・・・

一方でラキュースたちも焦っていた。

(こんな化け物相手に戦えるなんてね)

もっとも、戦っているのは殆どアンゲリカだけどと自嘲気味な考えが浮かぶ。

アンゲリカにしてみれば、注意を引いてくれる分大胆に攻められるのだからお互い様というだろうが。

ひたすら相手の射程外から遠距離攻撃を放つが、まるで効果があるようには見えない。

相手もそれをわかっているのかもっぱらアンゲリカの方を向いたまま、こちらには時折チラチラとしか目を向けない。

 

「これで・・・どうだぁぁぁぁ!」

そんな獣にイラついたのかイビルアイは魔力を最大限にまで強化した火球をぶつける。

”国堕とし”の異名をもつイビルアイの魔力量は桁違いで、まともに喰らえばこの世界の大抵のモンスターは跡形もなく蒸発するだろう。

「イビルアイ!避けて!」

だが、突然獣はアンゲリカの方を向いたままで飛び上がりそのままイビルアイの方に空中で体勢を捻って爪を向けて跳んできた。

ざっと見ても30m、それだけの距離を一瞬で詰めた。

そのままの勢いで火球を更に体を半回転させて回避、表皮が焦げるのも躊躇わずイビルアイに向かってきた。

目の前に迫る獣の爪を回避しようにも大型の魔法を打った後の硬直時間の関係で回避もままならない。

だが、そんな時突然旋風が巻き起こった。

「目移り?悪手だったね」

上から跳んできた、アンゲリカの杖が脳天ごと獣をイビルアイの目の前で串刺しにする。

「さよなら、堪らない狩りだったよ」

周囲に血を撒き散らすのも構わずに杖を押し込み、暴れる獣の脳天に押し込み続け

更に杖を変化させ傷口を開き、中の組織を徹底的に粉砕する。

そして・・・獣はついに生き絶えた。

 

「かくして獣は死に絶えたり、しかして狩が終わる事なし」

獣の血にまみれながら蒼の薔薇に微笑みかけるアンゲリカは美しく、そして・・・

「あ、ああ。危ないところをありがとう・・ごぜ・・ございました」

イビルアイは震えていた、獣に殺されそうになった恐怖ではなく目の前の女性が今は死んだ獣以上に恐ろしい獣に見えたから。

「どういたしまして」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 8 お茶会の時間



紙装甲のマジックキャスターという職業は、物理攻撃力が高く待ち伏せ・奇襲・接近戦の多いヤーナムとの相性が悪い、一撃死もありうる もう死んでるけど
狭い街路が多いので召喚魔法は使い勝手が限定される
更にアンデッド・獣への攻撃力ボーナスがつく銀属性に炎属性物理攻撃が飛び交うのでアンデッドは非常に不利
あれ?これだとルナティックを超えて難易度MMD(Momonga Must Die)じゃね
「なにここ怖い」by骸骨様

アンゲリカ カレル文字
爪痕 内臓攻撃ダメージを増加
血の歓び 内臓攻撃で、HPを回復
継承 内臓攻撃で、得る遺志(経験値と金)が増える
狩り スタミナ回復速度が上昇
でたー!”妖怪はらわた置いてけ”だぁー!!


スキル
リゲイン:相手を殴って返り血でHP回復
獣狩りの狩人:獣系の相手への攻撃ボーナス
上位者殺し:天使系への攻撃ボーナス
悪夢の囚われ人:復活時のレベルダウンのデスペナルティ無し
水銀の銃弾:アンデッド、獣系への敵への銃攻撃ボーナス
このレベル帯ではデスナイトも散弾銃の多段ヒットで一瞬で溶ける
デスさん「 」

わざと死んでスキル再振りができないという致命的な弱点もある

仕込み杖
ほぼ回復魔法(血塗れ物理)が使えるから魔法少女



神秘は魔法へ統合

神秘 彼方への呼びかけ
第10階位魔法に相当 超位魔法に比べると威力・範囲ともに劣るが連射できる
しかし物理ステ振りだと殴った方が遥かに強いのは秘密だ

エーブリエタースの先触れ 
第6階位魔法に相当
ほぼ回復魔法
低い階位の為MP消費が少なく、よろめき効果が期待できるので最もよく使う
初心者から上級者まで狩人御用達
内臓攻撃に繋げられるので狩人的には回復魔法
そこらの雑魚のはらわたを3、4人も引っこ抜けば全回復という低コストが魅力
美しき星の娘よ、泣いているのだろうか?


ガスコイン大先生
階層守護者でも現状では勝てない。
NPCゆえスペック頼りで、実践経験が追いついていない弊害がモロに出るだろう。
チュートリアルの卒業試験官
よく殺されるといいよ!by運営


レベルやスキルといった要素はゲームだから許される
ユグドラシルというゲーム内でもPKが横行してるシステムを現実に導入すると・・・
後はお察しである
王国が荒んでるのは半分はゲーム風スキルが現実化したせい



聖職者の獣は今や公園の真ん中で死骸を晒していた。

脳味噌を街路上にぶちまけ、流れる血は公園の石畳を覆い尽くしあたりには血臭が色濃く漂っている。

腑をぶちまけられ、辺りには血と内臓と腐臭の匂いが立ち込めあまりの惨状にラキュースも思わず吐きそうになる。

獣の血を全身に浴び、黒の衣装を更にどす黒く染めた狩人はやはり血のように赤い沈みゆく夕日を背に浴びてこちらに向かってきた時には思わず全員後ずさってしまった。

「おっ、まだ全員生きてるのかぁ。

新米狩人にしてはやるじゃん」

だがその声にはこんな死闘の後だというのに高揚さえ見受けられた。

 

「あんた・・・想像以上にとんでもない奴だったんだな・・・」

目の前で繰り広げられた血みどろの闘争を目にして歴戦の勇者ガガーランも

この狩人に賞賛を送った、彼女なりのやり方で。

長年を重戦士として過ごして来た自分のやり方に疑問を持った事はないが、目の前にいる人物がとてつもない修羅場を潜り抜けた歴戦の戦士だということは目の前の出来事を見ればわかる。

 

「素敵、抱いて。血を落としたら」

ティアは平常運転だった

そんな中、イビルアイは震えながら目の前で起こった大惨事の状況をその長い人生の中で目にしてきた事と重ね合わせてある質問をする。

「あ・・アンゲリカ・・どの、あなたは・・その・・”ぷれいやぁ”なのだろうか?」

「うん?そうだけど?」

あまりにも呆気ない感じで返された

「貴方達だってそうでしょ?あ、もしかしてRP?

テーブルトーク?お茶話はとりあえず拠点に入ってからでいいでしょ」

アンゲリカはこのヤーナムが現実化して以来、まだ他のプレイヤーには出会っていない。

それゆえ、蒼の薔薇を新米プレイヤーだと誤認していた。

自分たちを尻目にスタスタと分厚い鋼の門を開けて屋敷に入っていってしまうアンゲリカを呆然と見送るしかなかった

 

「ね、イビルアイ。“ぷれいやぁ”って例の話よね・・・いつか話してくれた」

「ああ、かつての十三英雄達がぷれいやぁ。

六大神や八欲望もまた同様に“ぷれいやぁ”であったとも聞く。

だが、それならばあの圧倒的な力も頷ける」

イビルアイは嘗て共に戦ったことのある仲間達、そして今だに存命の老婆のことを思い出す。

「おいおい、チビさんの昔の仲間達の事なら聞いたことがあるけどよ

あんなとんでもない連中がそんなにいたのか?」

「いや、私も目にしたがあの狩人の力は彼らよりも明らかに上だ。

あの獣にしても嘗ての魔神以上だったのに、ああもあっさりと殺せるなんて規格外なんてものじゃない」

「しかも美形、ますます惚れた。濡れそう」

「弟がいたら紹介してほしい」

二人の忍者はあくまでもマイペースだがイビルアイは深刻に捉えていた。

“ぷれいやぁ”百年周期で降臨すると言われる神々。

善行を為して人々を救う者達もいれば、我欲のまま悪を行う者達もいるという。

(どちらだ!?彼女は?確かに人に仇なす化け物を倒したが、あの戦い方はまるでバーサーカー・・・)

嘗ての六大神は人類が滅亡しかけていたところに降臨し、今の法国を建国した。

人類がこの地方だけとはいえ人らしく生きていられるのも、元を正せば彼らのおかげと言える。

一方で八欲王は欲望のままに世界を汚し、最後はお互いが殺しあって何度も殺された末に消滅したという。

「大丈夫よ、彼女は違うわ」

考え込むイビルアイにラキュースが察したかのように言う。

「だって、あんなにカッコいいんだもの!絶対に正義の味方に決まってるわ!」

・・・・・・あ、うん

 

一同も外にいるのは危険だと判断し、セーフハウスに入った。

門を抜けて入ると、そこには小さな部屋に物が散らばっているだけで何もなかった。

「ああ、すまない。今エレベーターを下げるからね」

上から声が聞こえると目の前に音を立てて天井が外れ、鋼鉄の籠が降りてきたので一行が入ると籠が上に動き始めた。

「成る程、隠れ家ね。こう言う一見ただの物置に見えるところから入るなんて!」

とラキュースは目を輝かせながら熱心にメモを取っている。

「むぅ、ニンジャの隠れ家にも使えそう」

・・・

 

「意外、思ったよりも荒れてないのね」

ラキュースは館に入ると厳つい外から見た目とは違い、優雅な内装に暖炉には火が入り

ソファーもテーブルも上質な絹と黒檀で彩られ、意匠は奇妙だが大貴族の豪邸だと言っても通りそうな豪奢な建物に感嘆を受けた。

「ここがヤーナムの狩人の隠れ家、言って見ればヤーナムの冒険者ギルドってとこかな

尤も、ここを使う狩人は今や私だけだがね・・・」

 

ソファに寝転んで衣装を脱ぎ、ワイングラス片手にくつろぎながらアンゲリカは言う。

ユグドラシルの過疎化に伴ってただでさえ難しく、敬遠されがちだったヤーナムの過疎はもっと先を行っていた。

結果としてあの日にヤーナムにいた狩人は確認できるのは彼女一人である。

 

(あんなに一生懸命狩ってたのにね・・・)

ユグドラシルは所詮はMMOである、もともとソロ向きのヤーナムはその難易度も合わせてイマイチ人気が出なかった。

最終日には他の狩人も他プレイヤーと共に最後を祝うために他の街に行ってしまった。

 

「なんか、変な匂いがする。ちょっときつくてくらくらする」

ティナが微かに香る匂いに気がつく。

「ああ、獣避けの香を焚いているんだよ

隠し家の入り口と合わせて知らない人間と獣は入ってこれないようになってるんだ」

原作では無かったヤーナムの隠し家。

ユグドラシルで言うところのそれぞれの町にある冒険者ギルドであり、ここでヤーナムクエストを受注できた。

クリアできたものは少なかったが。

「まぁ我が家だと思って寛いでっていいよ」

 

「そういえば、いつコートを洗ったの?」

ティアがアンゲリカが掛けた衣装がいつのまにか血糊が落ちて綺麗になっている事に気づいた。

あそこまで血に染まってしまっては洗い流すのも大変だと思うのだが。

「うん?しばらくすれば落ちるものだろう?」

常識はずれの答えが返ってきた。

「ちょっと見せてくれ」

イビルアイが衣装を鑑定し、とてつもない性能に驚いた。

「とんでもないな、不壊・維持不要・軽量・それに強靱化の魔法がかかった防具だったのか。

これ一着で王都に屋敷が立つぞ」

イビルアイの評価を大げさだと感じるアンゲリカ

「馬鹿な、言っては悪いがそいつは拾ったものだよ。

その程度なら誰でも手に入る、優秀なのは認めるが屋敷と交換というのは大げさにすぎるよ」

「ひ、拾ったぁ!?」

あまりにも突飛な入手方法に驚く一同に対して

「ああ、そこの下水道でね・・・そんな顔するなよ、ちゃんと洗ったって」

ちょっとずれた誤解をするアンゲリカであった。

実際には死体から剥ぎ取ったのだが、ゲーム内でのことなので気にしない。

「さて、君たちの事は聞いてなかったけど。

どういう風の吹き回しでこの獣狩りの町へ来たのかな?

連絡が取れなくなって他の街でも大騒ぎだろうに、どうやって?

しかも来るにしてもここにわざわざ来た理由は?

ちゃんと聞きたいものだね」

 

鋭い眼光でラキュースたちを見るアンゲリカ。

質問の幾つかは理解できなかったが

その視線に僅かに身震いしつつもラキュースは

「ええ、前にも言った通り行方不明の冒険者チームと突如として出現した未知の街の調査を依頼されたのです」

「待ってくれよ、行方不明?あのチュートリアルコースで死んでた連中かい?

それに未知の街?ヤーナムは結構有名なダンジョンとして知られてたと思ったけどな・・

君達もプレイヤーならここがどんなに危険か噂くらい知ってるだろ」

 

「いえ、我々は本当に何も知らないために調査に来たのですが」

「アンゲリカ殿!あなたが”ぷれいやぁ”だというのは分かった

そして我々は”ぷれいやぁ”ではなくただの冒険者なのだ。

大変心苦しいのだが、ここがどういう場所なのかご教示願えないだろうか?」

丁寧に自分なりに説明を求めるイビルアイ。

「貴方達は・・プレーヤーじゃない?NPCでもない?」

「かつて世界を破壊せんとした魔神達が”えぬピィシィ”だったと聞いている。

堕ちた神々の眷属だとも」

 

そこまで言って、イビルアイはまだ理解できていないアンゲリカに世界のこれまでのおおまかな歴史を説明する。

「いやいやいや、プレーヤーが神とかどう考えてもオカシイでしょ!?

なんでただの人間が神になれるのよ」

「いえ、彼らの中には半人半魔、エルフ、アンデッドなどもおりましたが」

「ええと、説明すんの難しいな・・・私は頭がそんなに良くないんだ。

ただの狩人ですからー、魔術師じゃないんだぞー」

しきりに悩んだ後、アンゲリカはとりあえず説明を開始した。

「うん、分かった順を追って説明するね。

プレーヤーってのはユグドラシルの住人の事。

彼らは皆、そもそも人間だけど外装はそれぞれ好きなものを選んでた。

だから貴方達が人間じゃないと思ってるプレーヤーも中の人は人間なのよ」

 

「中身が人間?それって・・・ごめんイビルアイ、何言ってるかわからないわ」

「私もわからん、申し訳有りませんが詳しく教えていただけるでしょうか・・」

理解しにくい説明のせいで混乱する一行。

 

「ええとね、つまり貴方達がゾンビやスケルトン、吸血鬼を演じていたら

演じた人物・・・なんでアンデッドばっかなんだろ、死んでるし

とにかく!彼らは肉体や外見は違うけど、記憶や経験は人間のものなの」

 

吸血鬼、と聞いてイビルアイが誰にもわからないほど身を震わせる。

(言うべきか?私が吸血鬼だと?だが・・・彼女が吸血鬼を邪悪な者だと決めつけているなら

不用意に明かすのは、ラキュース達にも累が及びかねん!)

 

「確かに、アンデッドの中には生前の記憶や経験をそのままにした者もおりますが」

ラキュースの考えるには、ぷれいやぁとは強力な戦士や魔法使いが生前の記憶や経験を持ったままアンデッドになったのか!と危機感を持ったが

よく考えたらそれ以外はどうなんだという考えがあり、否定した。

 

「いや、違う。なんか違う気がする。

うーんと、貴方達が魂を取って別の肉体に入れたとする

そのまま事故か何かでその肉体から魂が取れなくなったら、外見はゴーレムでも中身は人間って事・・・無い、ファンタジーだから」

「そのような、魔法は聞いたことがな・・ありません。

第一、魂を取られた人間が抵抗するのでは」

肉体から魂を移し変えるなど、イビルアイも聞いたことがない。

だが・・・それは邪悪な魔法のような気がする。

「ううんと、私たちの世界では魂を一つの器から別の器へ入れ替えるのは別に難しいことでも無かったの

そして本来の自分達では出来なかったことを別の肉体という器に入れて

自分達が作ったユグドラシルという世界で冒険そのものを楽しんでいたのが

貴方達がプレーヤーと呼ぶ人達ってわけ」

 

ラキュースはその説明を聞いてこんな状況にも関わらず目を輝かせている。

メモにペンが止まらないのが見える。

 

「でもよ、楽しむ為だったらなんでこんなおっかないとこを作ったんだ?

いくら俺でも死を覚悟するのが普通なんてとこじゃ楽しめないと思うぜ」

ガガーランは楽しむなら、童貞男だらけの楽園をつくりたいといっていた。

ティアとティナもこれには自分の趣味を盛り付けて理想の世界に入りたいと言っている。

「ガチで可愛いのと綺麗な女の子だらけの楽園に行きたい」

「私は可愛い男の子だらけの王国を築きたい」

これにはイビルアイも呆れ果てて

「そんな世界があってたまるか!」と叫んでいた。

 

「え、私死なないし」

「は?」

「だって悪夢に囚われてるし、死んでもすぐにデスペナ無しでリスポーンするだけだし」

ゲームシステム上、アンゲリカはいくら死んでもすぐに最後の灯火の場所で復活すると説明した。

「死んでも死なないって、マジかよ。はは、不老不死どころじゃねぇな」

「た、確かに八欲王は何度も殺されてようやく消滅したと聞いているが」

「うん、それは聞いた。でも彼らは悪夢に囚われていたわけじゃないから

話を聞く限りでは死んでレベルダウン・・・

死ぬと魂が弱くなって、これ以上弱くなれないまで殺されるともう復活できなくなる。

でも私は死んでも、そのレベルダウンが起きないから多分幾ら殺しても無駄だと思うよ

事実、貴方達が来る前に聖杯ダンジョンでうっかり一回死んだけどなんとも無かったし」

 

蒼の薔薇の一行は唖然とした、殺しても死なずにすぐに蘇る強大な戦士など

規格外どころの話ではないではないか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 9 ユグドラシル

古都ヤーナム

遥か東、人里離れた山間にある忘れられたこの街は、

呪われた街として知られ、

古くから、奇妙な風土病「獣の病」が蔓延っている。

 

「獣の病」の罹患者は、その名の通り獣憑きとなり

人としての理性を失い夜な夜な「狩人」たちが

そうした

もはや人ではない獣を狩っている。

 

だが、呪われた街はまた、古い医療の街でもあり隠された財宝の街でもある

数多くの、救われぬ病み人たちが、この怪しげな医療行為を求め

そしてまた、多くの冒険者達が財宝を求め

長旅の末ヤーナムを訪れる。

 

私もまた

そうした病み人の一人であった・・・

 

「と言うのがこの話の始まり、私はこの街で血を啜り

狩人となり、そして永劫に終わらぬ悪夢の世界に囚われたと言うわけ」

 

「なんと言うか、とんでもない話だな。

待ってく・・ださい、カインハースト殿。それじゃぁあの襲ってきた連中は・・・に、人間なんですか」

イビルアイが慣れない尊敬語で話しかけるが

「うん、そんなに縮こまらなくっていいよ。

私も気にしないし。

アンジェって呼んでくれると嬉しいな」

 

「アンジェ、ガチ惚れした。

好き、結婚して」

ティアは早速呼び捨てて、抱きついていた。

「うん、ティアはもうちょっと縮こまろうね」

とラキュースはティアの首根っこを引っ掴んで放り投げた。

 

「いやん、鬼リーダーのいけずぅ」

「・・・・・ふふっ、楽しい仲間だね。

ああ、彼らは人間だったが、もう気にする事はないよ。

言っただろ、ここは繰り返す悪夢の世界。

時間と空間、意識すら断絶されているから彼らを殺したとしても

それは彼らの悪夢の終わり。

彼らもまた、私同様に終わらない悪夢に囚われ続けた囚人」

 

「それは!!!ええぇと、つまり・・・・イビルアイ、今のわかった?」

「いや、全く想像がつかん」

 

「 ・・・・殺しても時間が経ったら復活するって事さ

君達の話では八欲王のギルド拠点、天空城のモンスターリポップをイメージしてくれればいいよ」

 

「そんな!?じゃぁ連中も不死身って事?」

「うん、でもそんな気にしなくていいと思うよ。

彼らはこの悪夢の街から出られない、悪夢の中でしか存在できないんだ」

この街から出られないと聞いてラキュースは少しホッとした

あんな化け物がぽんぽん外に出られたら王国どころか人類滅亡もあっという間だ。

「だから・・・気の毒だけど、あの冒険者達に関しては全滅という報告をするしかないね。

それと、この街も責任を取れる人間以外は立ち入り禁止にしたほうがいいよ

ここの推奨レベルは最低でも100からという数字だからね

以前は多くのプレーヤーが訪れては屍を晒したものだけど・・」

そう言って少し寂しそうな顔をする

「アンジェ、レベルって何なんだ?」

ガガーランが聞くと

「うん?レベルはレベルだよ、プレーヤーの最高値は100限界だけど

ワールドエネミー級なら200くらいはあるよ」

「いえ、そのレベルというそのものがわからないんですけど」

「ああ、要するに強さの目安って事

といっても同じレベル帯でも戦い方や相性、装備でも大きく変わってくるからまぁこれくらいって大まかに考えていいよ」

 

「冒険者難度みたいなものね。

冒険者難度というのはモンスターの脅威度をおおよそ数値化したものでして

アンデッドのようにムラの少ないものから、バジリスクみたいに成長具合によってバラツキのあるものもいます」

 

「その、難度がわかるモンスターっている?おおよその数字でいいけど」

 

「アンデッドで言えばスケリトル・ドラゴンでおよそ50、スケルトンウォリアーで程度です。

他にはゴブリンで5、オーガで15くらい。

後、イビルアイが言うにはあの獣人達は100程度だったそうです」

 

スケリトル・ドラゴン

「うん、ユグドラシルでの1レベルが3難度程度に相当するのか・・・

このヤーナムは難度300のプレイヤーが多数殺された場所。

24人のアライアンス攻略チームが30分と持たずに全滅した事すらしょっちゅうさ」

 

「な!?難度300ぅ!?」

あまりに桁違いの数値にラキュースの声も裏返る。

「嘘だろ・・・そりゃ神様だーって崇められもするはずだ。

しかもそんなトンデモねぇ連中が24人もいて30分で全滅なんてどんな地獄だよ」

ガガーランも驚きを通り越して呆れ気味だ。

「でも・・・君たちの方だってそれくらいの奴はそこら中にいるだろ?

それに難度300までは結構時間がかかるけどLv80・・・240くらいまで

なら素人でも1週間もあれば到達できるでしょ」

 

「いやいやいやいや!難度300の冒険者がダース単位でいるってどんな世界なんですか!

そんな簡単に英雄の領域も飛び超えて神々の領域に1週間でなれるなんて絶対におかしいですよ!」

ラキュースはもう涙目だ。

「アンジェ、我々の間では大体難度90もあれば英雄級なんだ。

我々の難度がそれくらいで80から90といったところだろう。

我々は王国では最高のアダマンタイト級冒険者チームなんだ

尤も、君の前では霞んでしまうだろうが・・・」

イビルアイはそしてアダマンタイト級とは数百万人に一人の逸材だとも説明した。

それを個人で越えるとなると王国戦士長くらいしか今の所は思いつかない。

 

「えー、でも私それくらいでなったよ。

私達は皆最初からレベ・・難度300だったわけじゃない。

誰もが最初は1から始めたの」

アンゲリカはレベル1からレベル100までのレベルアップの過程を説明する

「プレイヤーは冒険を繰り返して、最初は弱いゴブリンやスライムとか倒して冒険者ギルドからの依頼も薬草採取や荷物の配達といった簡単なものから受けていくの」

「何と・・・神々の世界だと思っていたが、普通の冒険者とそうは変わらないな・・・いや、プレイヤーは皆冒険者なのか?

だがそれだとそれ以外の仕事、鍛冶屋や店番はどうなっているんだ?」

 

イビルアイはぷれいやぁもそういう泥臭い仕事から始めたことに驚いた。

尤も、確かに十三英雄のリーダーも最初はそんなものだったと思い返しもしたが。

 

「うん、そういうプレイヤーがやらない仕事をやるのがNPC

退屈だったり刺激の少ない仕事をやるのが殆どね

NPCの難度は固定されていて成長しないんだ」

 

イビルアイは嘗て戦った魔神が店番やカフェのウェイター、鍛冶屋をやっている様を想像して吹き出してしまった。

 

「無論、そういうNPCは大抵は人型をしてる。

まぁ中にはバモスの親父さんみたいにスケルトンでNPCの鍛治職人もいるけど.

生産職プレイヤー・・・鍛治職人や錬金術師といったアイテムを作るプレイヤーはやっぱり少ないから人気だったな

だからプレイヤーが冒険者だってのは間違ってないよ」

 

「アンデッドの魔神が鍛冶屋をやってるって、今更だけど凄い世界だな」

ガガーランの脳内ではアンデッドがハンマーをとてカンカンと振るって

剣や槍を仕立て上げていく工房が想像して見てしまった。

まるっきり魔王の城の武器屋である。

 

「・・・・そうね・・・言われて見ると確かに変なNPCもいたね。

で、プレイヤーが集まって集団になったのがギルド。

話を聞いた限りでは六大神や八欲王、ってのはどっかのギルドだと思う。

十三英雄の戦ったNPCはその八欲王が産み出した拠点防衛用のNPCだと思う。

城の近衛騎士みたいなもんだね。

規模にもよるけどギルド拠点はある程度の強さの雑魚モンスターを湧き出させる、こっちが一般的な衛兵みたいなもんかな」

 

「成る程、ギルドというのは貴族連合のようなもので

拠点というのは強力な彼らの城のようなものか」

 

「大型ギルドは罠や強力なNPCで武装してるから侵入は単独では難しいって聞いてるから確かに城だね。

そのギルド間でも色々な理由で抗争があって、

レアアイテムや、希少な鉱石が取れる鉱山、貴重な素材のモンスターの狩場を巡ってのギルド間戦争ってのもあったらしいわ」

 

「神様の世界だからもっと華やかだと思ってたけど

私達の世界とやってることは変わらないのね・・・」

 

「そっかぁ、貴方達の世界にもあるのね戦争って。

私はそんな戦争に巻き込まれるのを嫌ってここを中心に活動してたの

ここならモンスターが強力だから無駄に死ぬのを嫌って戦争をしようというやつもいないから」

 

「ギルドは拠点を持って、そこの魔力を供給する大元のギルド武器を破壊すれば拠点は崩壊する。

数だけを頼みにした烏合の衆もいれば、質を求めたのもある。

残念だけど私はどこのギルドにも所属してないわ、面倒なだけだし。

狩りの時には外から来た狩人と組むこともあるけど。

最大級のギルドは最盛期には5000人ものプレイヤーを抱えてたって聞くわ」

「ご!5000にんぅ!」

イビルアイの声が裏返って動揺しているのがバレバレだ。

「そこまでいくと玉石混淆で連携も碌に取れないし、

気ままなギルドだから自由にしてたみたい

でも昔、40人くらいのギルドに多数のギルドから参加した1500人のプレイヤーが攻め込んで全滅したってギルド戦争もあったと聞いてるから

質がやっぱり重要なのは確かね」

 

「あー、王国に属する冒険者としては耳が痛い話だな」

王国が毎年帳尻合わせに農民を兵隊として徴用しては使い捨てる。

その度に国力を減ずる様を見ているガガーランとしては思うところもあった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 10 夜明け前の夜明け

「さてと、これでユグドラシルのことについては大体説明したかな。

それで、君達はどうする?

輸血を受けて私と同じ悪夢の囚われ人になってクリアを目指してみる?

ヤーナムの輸血とは獣の血を体内に入れることによって肉体と魂を悪夢に繋げる事

悪夢に囚われそれでも終わらない獣狩りの夜を駆け抜ける

獣の血を受け入れたものは、この原因となるものを消さない限り夜明けを迎えられない」

 

 

「悪夢の囚われ人・・・アンジェが永久不滅の理由か?

自らの肉体に獣の血を入れることによって永久不滅となる。

話を聞く限りではまるで・・・まるで吸血鬼の逆だな」

吸血鬼として、他人を吸血鬼にする能力を持っているイビルアイとしては思うこともあった。

気分を害しないかとラキュースが止めようとする

「ちょっと!イビルアイ!」

 

「いいんだよ、確かに私も吸血鬼に似た能力だとはわかってる。

それどころか回復に至っては吸血鬼よりドギヅイ方法だしね」

 

「回復能力?私のこの疼きも癒して欲しい」

ティアが空気を読まずにセクハラ発言を連発するがスルーして

「血を浴びるのさ、獲物の新鮮な血を全身に浴びることによって回復できる

ああ、心配しなくても普通にポーションや薬草とかでも回復できるよ」

「・・・・なんていうか、確かにそりゃ吸血鬼より絵柄的にエグイな」

 

「そして、悪夢の囚われ人は常に危険に晒されている

獣人化と発狂、危険な病。

君達も見たろう、あの獣人達を。

あれが獣の血の常習者が暴走した結果

啓蒙の低いものは理性を無くし獣となり周りを傷つける

啓蒙高ければ悪夢に近づき過ぎたために発狂し、周りを傷つけて死ぬ

私が狩ってるのはそういう連中なんだ」

 

「それって・・・恐ろしく危険ね

一歩間違えれば強力なモンスターが作られるってこと」

ラキュースは王都がこんなことになってしまった未来を想像して手を握った。

「ああ、王国でも帝国でもアンデッドになってでも不老不死を願う連中には事欠かない

ましてや、なりそこないでもあんな強力なモンスターを作れるんだ

貴族連中が耳にしたら間違いなく分をわきまえず利用しようとするだろうな

兵器として」

王国でも帝国でも人間の欲望の際限の無さを知るイビルアイは血の医療を恐ろしく危険な邪法同然だと判断し・・・実際にそうなのだろう。

 

「それって戦争の事?

人間同士の戦争に獣の血を利用しようなんて正気の沙汰じゃないね

それに一度獣の血を受け入れれば悪夢から目覚めなければ外には出られない

要するに戦ってこのダンジョンの主を倒さなけりゃフィールドには出られないってこと」

 

「悪夢の原因ってあの獣じゃないの?」

 

「あれは単なるチュートリアルボスの一つ・・・

ああ、言って見れば門番の一人に過ぎない。

この街の最深部の魔物は文字どおり桁違い。

たとえプレイヤーが24人かかっても力押しじゃ絶対に勝てないよ」

 

「そんな!それじゃアンジェは永久にこのまま・・・」

ラキュースはそんな化け物に勝てるわけないと思った。

獣ですら絶対的な魔神だったというのに

 

「いや、普通に出られるよ」

 

「へ?」

 

「だって、幾ら何でもクリアしなきゃ出れないなんて無いし。

まぁクリアはしたけど・・・・

はは、何千、何万回死んだかもう数えるのもバカバカしいくらい死んでようやくだったけどね」

 

アンゲリカは遠い目をしながらギルドの受付カウンターを眺める。

一日に100回以上死ぬことだって別に珍しいことではなかったのだ。

ちなみにクエストを出してくるのは使者たちである。

 

「せっかくの提案だけど、私たちは断るわ」

 

「・・・・そう。そうだね、その方がきっといい。

不老不死なんてきっと八欲王の事もあるし、ロクなもんじゃないだろうからね」

 

「ねぇ、アンジェはなんでこんなに話してくれるの?

だって、獣化や発狂・・・不老不死のことなんて他人に知られたくない事でしょ

ユグドラシル・・・神々の世界のことだって本来なら法国あたりの最高機密に関わることよ」

「ああ、こんな重大な事を知ったとなったら法国が我々を抹殺しに来てもおかしくはないな」

イビルアイもラキュースの意見には賛成だ。

アンゲリカの言ったのは特に機密情報の塊といってもいい。

ただのゲームのルールでも重大事件。

 

 

「さぁて・・・君たちがどこか嘗ての仲間に似ていたからかな」

アンゲリカは自分にも嘗ては攻略仲間がいたことを話し始めた

 

「いつも突っ込んでは殺される怒りっぽい半竜の剣士、なんでもできるが器用貧乏なエルフの弓剣士にスケルトンのレンジャー・・・・

ソロでの活動が長くても、狩場が同じなら自然と仲間になる機会はある」

 

懐かしそうに仲間の事を思い出すと

「スケルトン!?スケルトンのぷれいやぁなんて聞いた事ないわ!」

 

「いや・・・・確か法国の死の神、スルシャーナというぷれいやぁはスケルトンの姿をし強大な魔法を振るっていたと聞いている」

 

 

「スケルトンの魔法詠唱者ねぇ・・・・昔、ここにやって来た攻略チームのギルド長がそんなんだったけど。

名前は違うけど・・・偽名なのかな?

どっちにしろそんな昔じゃ本人かどうかもうわからないね」

 

昔、まだヤーナム攻略がトレンドだった頃。

異形種のみのギルドがここに攻略にやって来たことがあるとアンゲリカは話した。

「い、異形種のみのギルド!?」

「うん、昔は異形種狩り・・・人間種が異形種だという理由だけでぷれいやぁ同士が殺しあう事があったんだ

そういう迫害されたぷれいやぁが集まってできたギルドもあったと聞いている」

 

「そんな嫌なとこまで、アタシらの世界と同じなんてな。

何だか神様も随分と人間らしい連中だったんだな。

って、中身が人間ならそんなもんか」

 

「重要なのは中身だよ。人間だって悪人もいれば善人もいる。

異形種だからって悪事を働いていない者まで殺そうとするのはいただけないね」

 

 

「そうか・・・・・そこまで話してくれたのなら、私もまた信頼を示さなければなるまい」

そう言ってイビルアイは仮面を外そうとする

「おいチビさん!まだ!」

「いいんだ、どの道知っておいてもらわなければこの先不自然に思われるだろう。

それなら、自分から言ったほうがいい」

イビルアイが仮面を外すと、そこには実に美しい少女の顔立ちがあった。

だが、その唇から覗く可愛らしい牙、そして赤い瞳は・・・

 

「・・・・ふぅん、吸血鬼だったのか」

「ああ、私はこれでも三百年以上生きている。

伝説の吸血鬼”国堕とし”とも呼ばれている・・もっとも君の前では赤子同様だろうが・・・」

「あの!イビルアイは吸血鬼でも良い吸血鬼で!」

「わかってるよ、私を信頼して明かしてくれたんでしょ。

その代わり、私が永久不滅だってのも秘密ね。

それにアンデッドの仲間だって確かに珍しいけどいないわけじゃない。

とても紳士でこんな所でもタキシードにシルクハットのスケルトン剣士と共闘した事だってあるよ」

防御力がほぼこのレベル帯では無い。

更に打撃耐性が低いスケルトン種族。

どんな攻撃でも喰らえば一撃即死は間違い無いという構成で

”当たらなければどうということはない!”を地でいくプレイヤーの事を思い出した。

(いや、下手に防御を上げても無駄だから合理的なのかな?)

 

「・・・・なんていうかチビさんが普通に見えてくる仲間の構成だな」

 

「それはそうと、獣の血を受け入れないのなら・・・

君たちは死んでも簡単には蘇れないんだろ」

 

「ええ、私は神官だから蘇生魔法が使える。

けど蘇生時の弱体化・・貴女のいう”れべるだうん”は避けられないし

蘇生そのものにも媒体が必要」

 

「鬼リーダー、実は全然大した事ない?」

「鬼ボスのポンコツ疑惑、ボスの座危うし」

と余計なツッコミを入れたティアとティナの頭をどついて黙らせる。

 

「そうだね・・・そこらへんの獣人を狩ってレベルアップ・・・

魂を喰らって補う方法もあるけど、現状じゃどの程度補えるかわからない

それに簡単に死んだり蘇ったりなんて、この私が言うとおかしいけど

本来はあっていい事じゃないよ」

 

「だが・・・外への出入り口はどこにあるんだ?

あの入口は入った途端に閉まってしまったぞ」

イビルアイがこの街に入って来た時のことを思い出す。

 

「あれは街に入るための一方通行の入り口。

出入りするための門なら、ほらあそこにある銀盆がそうだよ」

とギルド内部にある巨大な銀の水盆に手をかざすと、そこが輝き出す。

直径が2m近くあるそれは見事な銀細工が施され、一見しただけで極めて高価な物だと伺える。

「やっぱり・・・これはユグドラシルでは街の外から転移するための物

転移魔法が使えないヤーナムへの出入り口さ」

 

ラキュースが顔をパッと輝かせて

「じゃぁ!これを使えば出られるのね!」

一同はホッとした顔を見せた。

「うん、そうだね。

じゃぁみんなこの盆の上に立って、出口までは一瞬だから」

そう言われて銀盆の上に蒼の薔薇の一同が立つが・・・

「ええと・・・・何も起こらないわよ」

「あるぇ?ちょ!ちょっと待って考えるから・・・」

 

なぜか起動しない銀盆のゲートの何が悪いのか考える

(ひょっとして・・・・”プレイヤー”にしか反応しない?

いや、でもそれなら傭兵NPCも使えたよね

どういうこと?)

 

(もしかして・・・プレイヤーとパーティーを組んだ傭兵NPCなら使用可能なの?

やってみるしか無いな)

 

「わかった、みんな。

私を貴女達のチームに入れて」

 

「えっ!?どういうこと?」

 

「もしかしたらだけど・・・この水盆はプレイヤーだけに反応する。

貴女達はNPCだと思われてるんだと思う。

それならプレイヤーとNPCがパーテイーを組んでると認識させられたのなら使える可能性がある」

 

「ええ、でも・・・いいの」

「あ、いや。君たちが嫌なら外に出たらすぐに解消すればいいだけだし」

「あ!そうじゃ無いの!私たちの強さは貴女に比べれば全く大したことないのに貴女は嫌じゃないかってこと」

「前にも言ったろ、私たちだって最初から強かったわけじゃない。

それに正直、君たちの事を羨ましいとすら思って来たんだ」

 

「羨ましい?俺たちを?冗談だろ。

だってアンタくらい強けりゃ何も悩むことなんて無いだろうに」

 

「それがあるんだよね・・・

やっぱり単独で冒険なんて限界があるんだよ、それにこの街も長い間過ごして来て飽きたんだ

不安だけど・・・ちょうど外の世界を見て回ろうと思ってたんだ

別れたのなら、私もそのまま外の世界を冒険するつもり」

 

「それなら・・・・そうだわ!蒼の薔薇に入ってそのまま一緒に冒険しない?」

 

「おい!ラキュース!」

 

「いいのよ!それに”ゆぐどらしる”の事ももっと聞いてみたいし

幾ら強くたって外の事を何も知らないんじゃ不便だってあるから

見て回るのなら知った人がいた方がいいでしょ!」

 

「・・・・確かに・・・それに貴女の強さは言ってはなんだが

この世界ではあまりにも強すぎる。

そして貴女も知っての通り、強いということは面倒事に巻き込まれる可能性が高い。

正直に言おう、王国の恥を晒すようだが貴女に無礼を働く貴族が・・・

ハァ・・・正直に言って王国の貴族は貴族と付くだけで馬鹿者の男が多い。

貴女の美しさに懸想した馬鹿が殺されるだけならいいが

その巻き添えで大勢の人間が死ぬだろう。

だが、名の知れた冒険者の一員という事なら貴女の身分の保証も敬意を得る事もできる」

 

(それに獣化や狂化のような明らかに厄介そうな事態も

知っている者が側にいれば対処しやすいしな)

 

「私も賛成、そのまま私と結婚して、グエェ」

「子供は何人?ショタが生まれたら紹介して、グエェ」

相変わらず空気を読まないお馬鹿な発言をしてはラキュースに絞められる二人であった。

 

「ま、私はいいぜ。強いのは確かだし、強い奴から戦い方を盗みたいってのもあるしな」

ガガーランは賛成のようだ。

 

「・・・・・わかった!じゃぁ改めまして

私、アンゲリカ・ブリューティヒ・ド・カインハーストは冒険者チーム

”蒼の薔薇”に加入します。これでどうかな?」

するとアイコンの右上のパーティーメンバーに

五人の名前が表示されたのが感じられた。

「おっ、いけたみたい!

それじゃ外に出ますか」

 

と、アンゲリカも銀盆の上に立つと銀盆は激しく輝き始め・・・・

 

次の瞬間には全員が高い壁を望む固く閉じられた城門の前にいた・・・・

既に夜は明けており、東からは赤く輝く太陽が昇る時間だった。

「夜明け・・・・これが夜明けなんだ」

 

地球は汚染され、太陽は濃い毒の濃霧に覆われ朝も昼も夕刻もヤーナムの赤い夜のように暗かった。

地球もヤーナムも、もはや存在しない夜明けに囚われている。

だからこれは彼女が見た初めての夜明けだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 11 タレント

アンゲリカ
容姿
黒髪黒目の人形、もしくはマリア

種族:上位者Lv1 幼年期の始まり
幼年期の始まりエンディングで転生できる種族
ムービーでは妊娠3週間の胎児?のような姿だが、プレイする分には元の姿
外見も変わらず、ステータスも変わらない
メリットもデメリットも不明なネタ種族らしいが・・・
1とはいえ、しっかりレベルを使うのでガチ勢には不人気

職業:
獣狩りの狩人Lv15
(メリットとデメリットがきっぱり別れるので不人気
いわゆる使いこなせれば強い系)
レンジャー Lv5
ガンナーLv5
(短銃・散弾銃などの近距離系に全振り
シズと違い、狙撃系は全く使えない
あくまでパリィに繋げる牽制と割り切っている)
ファイターLv3
ナイト Lv3
ウェポンマスター Lv5
アサシンLv5
シーフ Lv5
ソードマスターLv15
ソードダンサー Lv12
フェンサー Lv11
神秘主義者 Lv5  
(神秘系魔法が一通り使えるが、牽制と割り切った
彼方への呼びかけでデスナイトを10体ほど消し飛ばせる程度
ガスコイン先生相手では文字どおり豆鉄砲でしかない)
サムライ Lv10


技量系に寄ったビルド
力押しを速さで回避し、パリィからの内臓攻撃を狙って行くタイプ

血の歓び
爪痕
継承
狩り
通称:妖怪はらわた置いてけ

基本装備は仕込み杖と獣狩りの短銃
防具は狩人の装束
ラキュ「目立つ服装はダメよ」
アンジェ「ok」
次の日、カフェで騎士装束に身を包みお茶をしているアンジェが・・・
中身はともかく外見はあれなので皆の注目の的になっている
ラキュ「全く・・・わかってない」

狩人の隠れ家の心折れたスケルトン
ギルメンが次々と引退する中、ギルド運営資金を稼ぎに来たギルド長。
蹲って『心が折れそうだ』のサインを出している
アンデッド召喚が得意らしいので、鐘を鳴らしていたら協力してあげよう。



獣狩りの短銃
設定画から中折れ式単銃身の拳銃だとわかる
でっかいデリンジャーみたいなもん
狩人との比較から並みの散弾銃のスラッグ弾以上の巨大な弾丸だと伺える
人間相手なら完全にオーバーキルだが
獣を相手するには最低限の威力しかない
というかパリィへの繋ぎくらいにしかならない


ガトリング砲
小型化されたガトリング砲を手持ちにした物
とはいえ、人間が片手で撃てる物では無い
気分はシュワちゃん
バックパックからチェーンガンを出しなよ

大砲
手持ちの大砲
人間が片手で撃てるはずないだろ、いい加減にしろ!




連盟の長 
君はこの世界も私も君自身すらも本当では無い
ただの悪夢だと言い張る。
だが、それを誰が証明できる?
では聞こう
君の本当の名は?
生まれた場所は?
両親の名前は?
子供の頃、通った学校の名前は?
仲の良かった友達の名前は?
以前住んでいた住所は?
仕事の内容は?
それらを証明できる客観的証拠は?
ほら、君は何一つ証明できない。
ここが夢か、それとも前が夢か。
私としては君は悪夢を見ていたんだと思うがね
君が夢か、私が夢か。
だがそんなことは、重要では無いのさ。
連盟の誓いを思い出したまえ
獣を狩って狩って狩って
虫を潰して潰して潰して
存分に狩り、殺したまえ


一足先に転移してきたヤーナムという、この緊急事態を知らせるべくイビルアイはリ・ロベル近郊のあらかじめの緊急転移先に転移することにした。

自分だけしか行けないために残りの5人は歩いて行くことになる。

「え?パーティー全員できないの?」

 

「「え?」」

「いやだって、転移って術者とそのパーティーメンバーをテレポートさせるファストトラベル魔法でしょ。

街ごとに転送装置があって、一瞬でテレポートできるから便利だけど旅の醍醐味が薄れるのは・・・・」

 

「・・・・・”ぷれいやぁ”ならともかく、この世界でそんな事ができるのはそれこそ神の御技なんだ」

 

「はは、お嬢にとっちゃ伝説の魔法も駅馬車がわりなんだな・・・」

 

「え、そうなの?ごめん、私ソロが長いからマルチに関してはあまり詳しく無いんだ

軽戦士だし、攻撃ならともかく補助魔法とかあんま知らないから」

 

(こ・・これは予想以上にズレてるわね・・)

とラキュースは内心頭を抱えた。

今までにやってきた”ぷれいやぁ”もこんな感じだったのだろうか?

貴族出身の自分も当初は確かに世間とずれた感覚の持ち主だったが、

この女性のずれ方は文字どおり異次元レベルだ。

お姫様の常識と容姿を持った伝説級のドラゴンが街中を彷徨くようなものだと改めて認識しておいた。

下手に放っておいたら何をしでかすかわからない。

その意味ではイビルアイが蒼の薔薇がお目付役になるという考えは適当だったが、

ラキュースは知らず時限爆弾を腹に抱え込んだ気になった。

 

「けど綺麗な森ね。いいわ歩いて行くから」

とアンゲリカは歩き出した。

「ああ、本来なら別れて行動するのはお勧めできないが・・・

アンジェがいるなら私が一時抜けても平気だろ・・・」

イビルアイが出発しようとしたその時

アンゲリカは歩き出した、時速にしておよそ150km。

速いってレベルでは無い。

「ちょ!はや・・・おーい・・・」

と、ラキュースが呼びかけると思い出したように一瞬で急停止しそのままバックして戻ってきた。

「あ、ごめん。つい、いつもの癖で・・・

ヤーナムじゃどこから敵が飛び出すかわからないから

安全な場所まではいつも加速してた事忘れてた」

常に加速し、敵が気づいて攻撃するより早く安全地帯に逃げ込む。

戦闘を避け、戦力を温存する狩人の常套手段である。

・・・・・

胃が痛くなりそうだ。

「リーダーがんば」「ボス、後は任せた」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!」

 

森の中にラキュースの悲鳴が響くが、唯一の常識人ガガーランは我関せずだ。

道すがら、気を取り直したラキュースはアンゲリカに色々と質問していた。

ヤーナムからの帰途では森は街から発せられる圧力のせいか

ゴブリン、オーガはおろか小鳥一羽の囀りも聞こえない静けさに耐えられなかったからだろう。

「左手の武器は何?魔法のアイテム?」

「これは銃、マジックアイテムなんて大したもんじゃ無い。

ただのナイフや剣と同じ、武器」

「10?」「獣?」

「聞いた事ないな、そんな武器」

 

「硫黄・硝石・木炭の配合物、火薬を筒の中で炸裂させて水銀の銃弾を撃ち出す武器のことだよ

マジックアイテムと違い、誰でも引き金さえ引けば使える」

現実には水銀の銃弾なんてどうなんだろうとも思った。

 

 

実際に間近で見れば、分かるだろうと短銃を折って銃弾を装填。

スラッグ弾より巨大な弾丸を並みの人間が拳銃で撃てば手首が砕けるだろう。

「本当はSAAの方が好みなんだけどね」

 

轟音とともに弾丸が飛び出し、手近な木に命中。

太さ50cmほどの木がメキメキと音を立てて幹をえぐられ倒れて行く。

それだけの威力を持ってしても、獣相手にはパリィに繋げるしかできない。

 

「獣相手に使ってたのは見たけど、こんな凄まじい武器だなんてね

イビルアイが見たら何て言うかしら」

 

「本当にマジックアイテムじゃないの?」

「暗殺には向いてない、派手」

 

「やれやれ、魔法詠唱者じゃなくてもこんな飛び道具が使えるんなら

重戦士は軒並み失業だな」

と思い思いに銃について感想を述べる。

 

「これは獣狩りになら有効だけど、人間相手には明らかに威力過剰だよ。

私なら機関銃や突撃銃・・・ああ、要するに威力は小さいけど人を殺すには十分な威力があって連射できる射程が長い銃を使うよ。

大剣とショートボウのような関係だね」

 

「・・・ぷれいやぁの世界ってとんでもない武器がそこら中に転がってるのね」

 

「よかったら撃ってみる?」

 

「え?いいの!?」

ラキュースはまた目を輝かせながらこちらに近づいてきた。

どの道、イビルアイがヤーナムの危険性を一足先に報告してくれたのだからもう急ぐ必要は無い。

「それじゃ、そう。しっかり両手で構えて、うん、脇は閉めて・・・」

「ええと、アンジェ・・・どうしてそんなにぴったりひっつくのかしら?」

アンジェが短銃を構えたラキュースの体にぴったり密着し、胸といい太ももといい擦り付けて困る。

ティアもそうだがひどいセクハラである。

「何ともいえない香りで誘っちゃって・・・匂い立つなぁ・・・えづくじゃぁないか・・・」

ラキュースの首筋に鼻息も荒くアンジェは髪の匂いを嗅いでいる。

その時になってラキュースは悟った。

(この子・・・・ガチレズだわ!)

変態はティアとティナの2人で十分すぎると言うのに困る。

しかも恐らくは人類史上最強の変態なのだ、要するにあしらうのは不可能。

「ええと、もう撃っていいかしら?」

 

「うん、いいよ。ところで今晩空いてる?女同士なんだから遠慮することないよね・・」

(しかもストレート助平だ!?)

「アンジェ、私はいつでもバッチ来い」

「うん、じゃぁラキュと3人で手取り足取り腰取り夜の親睦会といこうか」

(しかもいつのまにか私参加決定!?)

 

「ハハハハッハハ、ぷれいやぁってのは随分と人間臭い神様だったんだな」

「もしかしてショタなぷれいやぁもいるの?

是非紹介してほしい」

 

「ちょ!ティナもガガーランも笑ってないでよ!

それとアンジェ!私は頷いたつもりはないわよ!」

 

「ごめんごめん、ちょっと揶揄っただけだよ。

9割本気だけど」

「大丈夫。アンジェ、側からわかるほど助平な顔してた。

同じだからわかる。

アンジェはリーダーに欲情してる」

 

「フォローになってないわよ!後、どストレートに欲情とか言うな!」

 

ラキュースも神話の世界に参加して気分上々になっていたところにアンジェの性癖をぶちまけられて、

そっちの神話にまで参加する羽目になるとは思わなかった。

 

アンジェとティアを振り払い、息も荒くラキュースは叫んだ。

「いや、本当にごめん。軽いスキンシップはこれくらいにして

重いスキンシップは後のために取っておこう」

(とっとくんかい)

とラキュースはもう疲れて声に出して突っ込むことも辞めてしまった。

リーダへのセクハラもいい加減にし、改めてラキュースは銃を構える。

両手で言われた通りしっかりと構え、反動を体全体で受け止める体勢。

狩人ならば絶対に取らない隙のある体勢は万が一にも、反動で手首を傷めないためのもの。

そしてラキュースは引き金を引き・・・引いたのだが・・

ガチん

撃鉄が雷管を叩く音こそすれ銃弾は発射されなかった。

「あれ?不発?おかしいな・・・不発なんて今までなかったのに」

 

銃弾を取り替えて、改めてラキュースが再び引き金を引くがやはり不発であった。

「これは・・・どういうこと?」

そこで不発だった銃を受け取り、アンジェが自分で狙いを定めて引き金を引く

轟音と共に銃弾は発射された、何に問題もなく。

 

「・・・・・・ティア、ティナ、ガガーランも試してみてくれる?」

次々と試してみるが彼らが握っても銃弾は発射されない。

そこで、銃の引き金に紐をつけラキュースに引っ張てもらうことにした。

「なぁ、これに何の意味があるんだ?」

「うーん、まだわからない。けど、もしかしたらこの世界でプレイヤーの遺産が極端に少ないことの説明の一助になるかもしれない」

 

木にロープで銃を縛り付け、紐を引き金に結びその一端をラキュースが引く。

言ってみればただそれだけだが・・・銃弾は今度は発射された。

「やっぱり・・・思った通りだ」

「ねぇ、銃って誰でも使えるんじゃなかったの?」

ラキュースが気持ち怒り気味に詰め寄る、どうやら自分も銃と浮遊剣の組み合わせで戦うことを妄想して小っ恥ずかしいセリフをノートに書き留めていたらしい。

 

「そう、本来なら誰でも使える・・・・でもユグドラシルではガンナーのスキルが無ければ銃は装備できない」

(そう、地球でなら銃は物理法則に従い引き金さえ引ければ誰でも撃てる。

引き金を紐で引けば発射されたことから、物理法則は同じ。

でも、ラキュースを初め誰もここでは撃てなかった。

ユグドラシル製だから銃が反応しなかった?

それとも彼女たちはそもそも銃を撃てないようにされている?)

 

「なぁ、もしかして『タレント』が関係してるんじゃないか?」

 

ガガーランが銃に関して意見してきたには

「アンジェが生まれた所では皆がタレントでその銃とか言うアイテムを使えるから、それが普通じゃないのか?」

 

するとアンジェは首を傾げて、言うのだ

「タレント?能力?なにそれ?」

5人は歩きながらこの世界にはタレント{生まれながらの異能}というものがあるらしいが。

アンジェはきっぱりと否定した。

「ううん、ユグドラシルにはそんな能力無かった。

タレントか・・・・・それに銃は物理法則を基にした道具。

マッチを擦れば燃え上がるのと同じで、誰でも使えるのに

なぜかこの世界の住人は使えない・・・」

 

ラキュースがマッチって何?とまた質問が始まってしまった。

ええ、マッチっていうのは小さな棒の先に赤い発火薬が付いててこういう風にシュッてすると燃え上がるんだよ。

それもマジックアイテム?・・・と一行は森の中をそんなに進まないうちにアレヤコレヤと長い間話していた。

 

「それにしてもここからその街までどれくらいかかるの?」

 

「ん?何しろ街道なんて無い獣道だったからな。

大体普通なら歩きで一日はかかるぜ。

ま、俺たちは半日でついたけどな」

 

「モンスターが出なかったのが大きい」

「そう、静かすぎて拍子抜けした・・・あの街に入るまでは」

 

半日も歩き続けるというのは体力的にはアンジェなら多分問題ない。

だが、正直飽きた、行けども行けども似たような木ばかり。

モンスターも出ず、ただ歩くだけでは誰だって、森の連続なぞうんざりする。

「うーん、じゃぁ馬とかは使えないの?」

 

「見ての通り、獣道すらまばらなのに?」

 

実際にはアンジェも馬などという絶滅動物を見たことはない。

ユグドラシルでは確かにフレーバーとして馬車や騎乗用の馬があったが、それらはいうまでもなく生物ではないし。

移動するのにしてもレベルが低すぎるし、街の間の移動なら転送門で事足りる。

恐らくはゲームが始まった頃の名残なのだろう。

ちょうど、今の時代でも地球に残った高速道路の残骸のようなものだ。

 

「じゃぁ、召喚するよ」

 

召喚、という言葉にラキュースがピクと期待半分・心配半分で反応する。

 

アンジェは空間にポシェットに手を突っ込みごそごそとすると、そこから銀色の狼の形を模った鐘を取り出した。

チリィン、チリィンと時間と空間、次元も超えて鐘の音が響くと

彼女たちの目の前に巨大な獣が現れた。

灰色の大狼シフ*Lv100を召喚しました。

 

目の前に大剣を背負った恐ろしく強大な獣を目の前にして一行は竦み上がってしまう。

「やぁ、また会ったね」

「ワフ!」

だがアンジェは別段心配することもなく近づき、さっとその背にまたがった。

「うん、4人くらいどうってことないって。乗ってよ、この子とっても足早いんだ!」




アンジェ「シフも冒険者に登録しようと思う」
蒼「ファッ!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 12 大狼

「では、例の街は危険なダンジョンということで。

永久立ち入り禁止指定・・・だそうだ。

幸いあの街には強力な封印が施されており、モンスターが溢れ出てくる事はない。

残念だが、例のミスリルチームは全滅していた」

 

リ・ロベルの近くまで転移したイビルアイは事の次第を組合に報告。

街の中には強力なモンスターがひしめき合っており、極めて危険。

実際に、協力者の存在がなければアダマンタイト級の自分達ですら危なかったと念には念を入れて警告しておいた。

 

一方でそれが半ば無駄に終わることも。

(報告はすぐに知れ渡るだろう、帝国は当然偵察隊くらいは送るし

何より法国はぷれいやぁ関連だ、噂の漆黒聖典が出て来てもおかしくはないか)

だが一番の問題は王国の貴族だろう。

斜陽の貴族がお宝の匂いを嗅ぎつければ冒険者を送り込み・・・結果は見えている。

無駄死にがこれ以上出ないように手は打ったが、完璧には程遠い。

(だが、依頼内容はこなしたんだ。悪いがこれ以上は手の打ちようが無いな)

 

後はラキュースたちの帰還を宿で待つだけとなったイビルアイは他に用事もないからと

冒険者組合から宿の方へと足を進める。

 

冒険者組合に報告を終えると、イビルアイは街の門の方が騒がしくなっているのを聞きつけた。

吸血鬼としての優れた五感ならではの耳が人々の悲鳴を聞きつける

「巨大な魔物だぁ!」「衛兵!衛兵!」「緊急招集だ!」

「神よ・・神よぉ・・・お助けください!」

 

すぐさま街角から門へととって返すイビルアイ。

(くっ!こんな時に魔物だと!?難度は?ラキュースたちがいない時に・・・)

イビルアイは大抵のモンスターになら負けはしない。

長い時を生きた伝説の吸血鬼国落とし。

そのレベルは約50、この世界では正に規格外と言っていいだろう。

 

イビルアイはすかさず『フライ:飛行魔法』で飛んでいくと

城壁の上に取り付き、そこから弓を構える衛兵に尋ねる

「おい!私は冒険者チーム、蒼の薔薇のイビルアイだ

状況はどうなって・・・」

 

そこから見えたのは灰色の毛並みを持つ一見しただけで凄まじい力を持つ巨大な狼・・・・

(な!なんて奴だ、魔神以上・・・こんな化け物が・・・あれ?)

「あ、イビルアイだ。おーい」

と呑気に手をこちらに振る狩人とぐったりとした蒼の薔薇の残り4人だった。

乗った当初こそラキュースははしゃいでいたが、シフが走り出すと青い顔をして必死にしがみついていた。

本気の走りでは無かったが、やはり狼に乗るというのは慣れていないと難しいのだろうかと

アンゲリカは思った。

「な・・・・何をしとるんだぁぁぁぁ!」

思わず叫び出すイビルアイであった。

 

・・・・・・・

シフを町中に入れるに関してはすったもんだがあった。

確かにテイマーなどが使役するモンスターを冒険者組合で登録する制度はあるが

普通はどんなに高くとも精々難度30程度までを想定している。

強力なアンデッドのリッチが50程度なので30というのはかなりの戦力なのだが

難度がポンと300のシフを冒険者でも無いアンゲリカが登録できるかどうかという点では・・・

「え、シフは冒険者で登録するんでしょ」

「「「「「え?」」」」」

と蒼の薔薇一同が思わず聞き返してしまった。

「えーと、聞き間違いでなければアンジェ?この狼を冒険者に?」

ラキュースは隣に座る見上げるほど巨大な大狼を横目で見る。

街の警備兵も住民も恐れをなして遠巻きに見守っているばかりだ。

「?そうよ。騎乗用NPCならともかく傭兵NPCってそういうもんでしょ?」

一同は呆然とした表情で黙りこくってしまった。

アンゲリカにしてみれば傭兵NPC扱いのシフは形が狼で乗れるとしても

人間NPCと基本的に大差無い。

「いやいやいやいや、確かにこいつがとんでもなく強いのは認めるけどよぉ。

でも冒険者ってのは・・・なんか違う気がするぜ」

シフはわふっとガガーランの”とんでもなく強い”のくだりに喜ぶ。

かの英雄アルトリウスの友なれば、この程度は当然だという風に。

「でもシフは私と対等の友人であっても部下とか手下じゃぁ無いから

私の使役する魔獣なんて事になったら機嫌を損ねる」

シフも首を縦に振って肯定する、更にラキュース達蒼の薔薇が身につけているプレートを見つめて

「プレートに刻む名前は”灰色の大狼シフ”だそうよ」

・・・・

アンゲリカとシフのいきなりの到着と要望に冒険者組合はすったもんだの大騒ぎに包まれた。

強大極まりないモンスター(しかも狼)を冒険者に登録して欲しいという前代未聞の要望に

受付嬢だけでは当然のごとく対処できず、冒険者組合の支部長・更には市長まで巻き込んでの一大事件になった。

「もうどうにでもなあれ」

ラキュースは壊れた

「リーダーしっかり」「ここからがボスの腕の見せ所」

ガガーランは面倒な事態だとは思ったが、命の恩人でもあるアンゲリカの意向をなるべく組んで組合長と都市長に事態を説明しようとしていた。

「冒険者登録って思ったよりも大変なのね」

そんな事になっているとは露知らず、城門を通してもらったアンゲリカとシフは街の屋台で買った

くし焼肉やお菓子などといった、食品を買い食いしていた。

「はい、1G」

金貨で。

「ちょっ!待て!なんでそこで金貨を出す!?」

この件について呼び出されたラキュース達が不在の間、アンゲリカとシフが好き勝手騒ぎを起こさないようにお目付役として

「一枚でしょ?」

「銅貨一枚に決まってるだろ!」

 

するとアンゲリカは「銅貨?」と首をかしげる

「まさか・・・銅貨とか銀貨とかわかるよな?」

「いや?魔除けの銀貨とかならあるけど?でもあれって支払いに使うもんじゃないでしょ」

「いや・・・もういい」

と、イビルアイは店主に先々で支払ってくれた、やっさしー。

「ねぇ銅貨ってどこで買うの?」

「・・・・・・・・」

吸血鬼なのに何故かどっと疲れたイビルアイであった。

ところがこの後、この世界での貨幣制度について説明したら・・・

「いや、それっておかしいでしょ。金貨が銀貨100枚分で銀貨1が銅貨100で固定なんて。

金属価値は変動するのに、貨幣の交換レートが固定なんて」

と訳のわからん質問を返されてしまった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 13 冒険者

一方でリ・ロベルの冒険者組合はアンゲリカが街を見て回る間に大騒ぎになっていた。

ただの期待の新人であれば、組合長や幹部自らがその冒険者のプロフィールに目を通す事も時々とはいえある。

しかしながら今回現れたのは蒼の薔薇の推薦で登場した超強力な魔獣を従える新人。

しかもその魔獣が一騒動を起こしたとあれば、

実際にはシフを見て町の警備兵が勝手に大騒ぎしただけなのだが。

召喚したアンジェから見れば、シフは確かに強力な傭兵NPCだが実際にステージボスとして戦った事のある経験から言えば召喚できる今では普通でしかない。

ボス敵として登場すると強いけど、味方になると普通という事態はよくある。

というか、ゲームバランス上の仕様なので仕方ないが。

だがここはユグドラシルではない、難度300というのはここでは伝説の神々の領域の存在だということをラキュースはよーく説明した。

「わかった、気をつける」

わかってないな、この子と思ったが注意してもどうしようもないため

とりあえずパーティーの中で最もお母さん力が高いイビルアイをお目付役にして

今は冒険者組合長と彼女と狼の冒険者登録を済ませることにした。

「ですから、いくらなんでも魔獣を冒険者というのは無理なんですよ」

「ええ、でもあの狼の希望でして・・」

 

当然のごとく断られてしまったので

「では・・・あの狼の責任者として彼女を登録し

その証明として擬似的に魔獣プレートを発行していただけませんか?」

 

「あの狼の首輪がわりですか?ええ、それなら・・・」

 

・・・・さすがに狼が冒険者というのは無理だったが、プレートを発行すること自体は問題なかった。

問題はアンゲリカの冒険者登録だった。

 

・・・・・・・

 

「ねぇ、まだ終わらないの?」

街をちょっと見て組合に戻って来たアンゲリカは

手持ち無沙汰に杖を変形させ戻すを繰り返している。

だいぶ時間が経っているが、急かすイビルアイがいなければ夜まで遊んでいたろう。

 

ここで重大な問題が発覚した、アンゲリカは自分の名前がかけない。

言葉は通じるのに、文字の読み書きはできないので代筆を頼むことにしたのだが

問題は彼女とシフのランクだった。

普通なら銅から始めるところだが、彼女にしてもシフにしても明らかに銅の冒険者ではありえない実力者だということは蒼の薔薇の一同も認めるところだった。

加えて、シフ自身が冒険者になるというのも前例がなかった。

シフのプレートは実質ただのお飾りなので別に素材が何でもいいらしいが。

 

「?冒険者って誰でもなれるんじゃないの?」

 

「いや、確かに誰でもなろうと思えばなれるが

あくまでも人間が基本だな、亜人のエルフやドワーフならともかく魔獣が冒険者というのは聞いたことがないな」

 

イビルアイが常識を説明するが、アンゲリカからすればユグドラシルでは冒険者というのは別に登録するものでも種族に制限がかかるものでもない。

”ぷれいやぁ”=冒険者だし、銅や金といったランク制もない。

異形だろうと、冒険者であるのは当然だし、傭兵NPCも冒険者として設定しているものが殆ど。

イベントクリアで仲間にできたり、文字どおり雇ったり、リアル課金して雇える。

シフが冒険者だというのはユグドラシルでは誰にとっても当たり前すぎる認識だろう。

 

「ふぅん、その割には、エルフやドワーフ種の冒険者って見ないね」

「まぁな、ぷれいやぁの世界には奴隷制度は無かったんだろう。

人間種が幅を利かせてるところでは亜人は肩身が狭いからな」

 

帝国でも法国でも亜人は奴隷とされている。

王国ではそもそも出会う事自体が稀だろう。

 

「でも、エルフやドワーフのプレイヤーって結構メジャーだったのに不思議ね」

「亜人種のぷれいやぁはそんなにいたのか?」

イビルアイは周りの耳を気にするが、幸いにも通された待合室に他の耳はない。

 

「いたよー。異形の肉体は使いにくいからって、少ないけど

エルフやドワーフ系統は種族ボーナスがあるから特化したビルド作りたい人ならそっちを選ぶことも多かったよ」

 

また訳のわからない単語がポンポン出てきたが、要するに人間より優れた部分もあるので入る肉体として選ぶぷれいやぁも多かったと言うことらしい。

 

「改めてとんでもない世界だったんだな、自分の入る肉体の顔立ちや体つき、性別はおろか種族までもを選べるとは・・・」

 

イビルアイは感心しているが、ゲームの世界と現実は違う。

「いや、そうでもないよ。実際のところは、

自分たちの世界すらうまくコントロールできなくて環境汚染はもう手のつけようがなくなってた。

アーコロジーにしても誰も認めたがらなかったけど、

千年保証の筈が五十年も経ってないのに、手抜き工事がやっと発覚して

あちこちガタが来てもやっつけ仕事で誤魔化してたし」

 

イビルアイには想像もつかない単語の羅列だが。

その事についてはこれ以上は語らないでおこう、とアンゲリカはその時点でやめてしまった。

言いたくないこともあるのだな、と饒舌なアンゲリカの別の面を見た気になったイビルアイは特に質問しなかった。

 

「お待たせしました、ブリューティヒ様。

冒険者登録の件ですが・・・」

受付嬢がなぜか待合室のこちらの方にまで足を運んで来た。

 

「今回は蒼の薔薇の皆様直々の推薦ということでミスリル級への飛び級昇進ということなのですが・・・」

 

 

「いや、私は別に何でもいいけど」

「いや、アンジェ。実際のところアダマンタイトに不釣り合いな銅が入っているというのでは色々と不都合があるんだ」

 

イビルアイ曰く、あまりにも大きく格の違う冒険者同士が入っていると・・・

まぁアンジェの実力は皆が知っているが、この世界では実力はプレートによって示されるので

明らかに実力不足の銅ではアンジェの実力自体疑われる、いちいち証明するのは時間もかかるので王都以外ではミスリルプレートを取得するのが一番だと言った。

前にも貴族のボンボンが箔づけのため、金を出してオリハルコン級に実力不相応に入った

いわば寄生冒険者という悪い例があるため、こういう事はきっちりしていなければいけないのだ。

「ああ、要するにプラチナ身分証明書みたいなものね」

反社会的思想を持たず、身内からも”思想犯”が出ていない裕福で”綺麗”な体制派の身分だということを証明する例のあれと同じ。

俗称だが公然の秘密として存在し、病院・入学・就職で明らかな特権が得られる。

プラチナとなると、かなりの便宜が図られるが実質的特権階級でなければ取得は不可能だった。

 

「それに関して、組合長と市長が面談を要請されておられるのです。

こちらもプレートの準備にミスリルとなると時間がかかりますので。

さすがに今日すぐにとは参りませんので、明日昼頃によろしければ」

 

ミスリル級ともなると昇進しそうな人物が現れてから実際に昇進するまで時間があり、

その間にあらかじめプレートを用意しておくものだが今回は如何せん時間がなさすぎた。

冒険者、中でも銅や鉄くらいならいざ知らず白金以上ともなれば冒険者にもそのランクにふさわしい人格の持ち主であることが求められる。

何しろ、国家権力に介入しないさせずの武力組織の重要な一員なのだ。

当然、実力は無論のこと誰からも信頼される人格者であることも必要とされる。

 

「面談?面倒だなぁ・・・」

 

冒険者の存在が当たり前のユグドラシルではカルマ +500だろうがマイナス500だろうが冒険者は冒険者だ。

 

不味い!とイビルアイは仮面の上からでもわかるぐらいに動揺した。

イビルアイの長い人生?経験からアンジェが正直でまっすぐな子だというのはわかる。

正直でまっすぐで、深窓のお姫様よりも常識がない伝説のドラゴンがどんな面談をするのか?

脳内でシュミレートしてみる。

 

組合長 得意な事は?

アンジェ 敵の内臓引っこ抜く事です!

ええ・・・・・

 

ご出身は?

ゆぐどらしるです!六大神や八欲王と同郷です!

ええと・・・・

 

王国で冒険者をしようとした理由は?

世の中を見て回りたいからです

 

ダメだ!最後はともかく、いや確かに合ってはいるが、それじゃダメなんだ!

「ああああアァー!ちょ、ちょっと思い出した!アンジェ、ちょっといいか!?」

「うん?トイレ?それなら一緒に・・・」

「違うわー!」

 

隙あらばセクハラしてくるアンジェを連れ出し、ヤーナムの一件とアンゲリカ・シフについて報告を終えたラキュース達と宿屋へと戻るイビルアイであった。

シフは冒険者組合の外で待っていたが、あまりの威圧感に組合に誰も表から入ってこれなかった。

アンゲリカがシフに跨り、街中を歩くと誰もが畏敬と称賛、憧憬の視線で彼女を見上げる。

曰くあの麗人は何処のご令嬢か。

あの威風堂々たる獣はいかなる獣の王なのか。

あれほどの魔獣を従えるなど、とてつもない魔獣使いだ。

人々が彼女を見上げる視線は正に英雄を見るそれだ。

あれが蒼の薔薇の期待の新人だと、それならあの大狼も納得だ。

なぜかラキュースはぐったりと疲れた顔をしている、さすがにヤーナムから帰って来たせいだろう。シフにまた乗る?と聞くと遠慮していた。

 

シフには宿へと戻る際には、厩舎に入ってもらうことにしたが明らかに窮屈そうだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt14 試験勉強

私アンゲリカ!冒険者になるって大変なのね!
え?違う?


宿ではラキュースとイビルアイによる

「いい!?組合長と話すときは、絶対に”ぷれいやぁ”だってこと言っちゃダメよ」

「・・・わかった」

「本当に?じゃぁはい、出身は?」

 

「・・・南方の方から旅をして来ました」

「ほら、言い淀まない!背筋伸ばす!ほっぺた膨らませない!」

 

「鬼リーダーの熱血指導」「鬼ボス教師、愛の特別授業」

 

アンゲリカが宿に帰ってくると明日の都市長と組合長との面接対策を受けさせられた。

不満たらたらだが、これを機会に彼女に常識というものを叩き込んでおかなければ

この先何をしでかすかわかったものじゃないという判断から急遽、面接の練習を行うことにした。

アンゲリカとしてはそもそも、冒険者の心得を受講すればいいだけの話ではと思ったが。

あまりにも隔絶しているらしい彼女の実力を考えれば冒険者講座の受講だけで済ませられる話では無いらしい。

「まぁまぁ、ラキュースもアンジェもさ。今日は疲れてるだろ、面接ったってそんな特段厳しいものを求められてるわけじゃ無いんだしテキトーでいいだろ」

 

「甘いなガガーラン、アンジェの人間界の常識の無さは下手をしたらドラゴン以上だ」

 

「・・・えぇ、チビさんよ。それマジか?」

 

「わかるだろ!普通に考えて!あんな大魔獣をポンと呼び出すようなのが普通だったら世の中おかしいのは我々か?

それ以外にも菓子屋を金貨で買い占めるし、

道しるべにと金貨をポンポン街中に置いて回るし・・・

今や町中で色んな意味で噂なんだぞ!」

 

「うむ、私の持ってる金貨が普通の金貨2枚に相当するのは意外だった」

とアンジェは講習を受けながらも大量の飴やケーキをアイテムボックスから取り出して皆に配っていた。

 

「いや、そこかよ・・・・・っていうか今どこから出した!?」

「アイテムボックス」

蒼の薔薇の一同も

「全く、アンジェには驚かされてばかりだな。

その”あいてむぼっくす”だったか?何でも大量の荷物を亜空間に収納しておける魔法のようなもので”ぷれいやぁ”なら誰でも使えるらしい

おまけにアンジェの持っているアイテムはどれもこれも規格外な代物だ」

と言ってイビルアイはポーションの瓶を皆の前に置いた。

「ポーション?」「赤い?』

 

「そう、赤いポーションだ。我々の常識ではポーションは青い。

そしてこの赤いポーションは劣化変質することがない、これだけでも大したものだが

アンジェ曰く、これは”ぷれいやぁ”の間では最も安価で効果の低いものだそうだ」

 

顔を見合わせる面々

アイテムボックスだけでも利用価値は凄まじいが、その中身も問題だった。

どれを取っても今までの世界の常識がひっくり返る代物。

「何ていうかよ・・・・本当にアンジェって別世界の人間だよな・・・

いや、神様なんだっけか」

 

「はは、私ごときで神様だったら薪の王や墓王、

深淵歩きを見たらみんな心臓止まるんじゃ無いかな。

私は何百回も文字通り止められたけど・・・

たかが不死人もどきになった程度で神様なんてお笑い種だよ」

 

ラキュースが文字通り、アンゲリカを何百回も殺した敵がいたことを考えて

どれだけ凄まじい戦いが”ゆぐどらしる”では繰り広げられていたか想像する。

「・・・・なんか名前だけで凄いことがわかるのが怖いわね

ねぇ、何で”ぷれいやぁ”達はそんな世界で楽しめるの?

それとも、殺し殺されるのが趣味なんて・・・そんなわけ無いよね・・」

 

ラキュースが疑問に思う。

客観的に見れば”ぷれいやぁ”とは殺したり殺されたりの世界にわざわざ受肉して降臨したと見られているので、ゲームでない現実の世界を生きる住人にとってはサイコパス以外の何物でもない。

 

「うん?楽しいよ。殺し殺されるの」

 

アンゲリカはあっさり肯定した、ゲームだしね。

 

「マジか・・・って殺されても蘇るのが”ぷれいやぁ”だったな・・・

なら、街中じゃしょっちゅう殺人も起こるんじゃないか?」

ガガーランが”ぷれいやぁ”の血を好む習性に引きつつも興味があるらしい。

強者のみが存在する世界、神話や伝説の存在がどんな風に生きているかに人は惹きつけられるもの。

 

「いや、流石に街中では殺人は取り締まられるね。

でも一歩町の外に出ればPK・・・プレイヤー同士の殺し合いなんてしょっちゅうさ

むしろダンジョンの方が安全かな?」

 

蒼の薔薇の認識では”ぷれいやぁ”の世界”ゆぐどらしる”は凄まじい力を持った

猟奇殺人鬼が無限に蘇って殺し合いを繰り広げる世紀末修羅世界になった。

あながち間違いでもないのだからアンゲリカは言われてみると恐ろしい世界だなとも思った。

「いや、生産職系とか治癒系とかのぷれいやぁもいるし、みんながみんな流血沙汰を好むわけじゃないよ。

PvPにしても基本的に礼儀正しくしないのはごく少数だし」

 

「くうぅぅ!でも羨ましい!気の向くままに好きに冒険できるなんて!

ねぇ!アンジェの冒険のお話ってもっと聞かせてくれる!?」

 

「おい、リーダー。特別講義はどうするんだ?」

「まぁ、何とかなるでしょ」

「おい、それでいいのか?」

 

「イビルアイは心配性だね、でももうほぼ大丈夫だよ。多分」

「不安しか残らないんだが・・・」

「まぁ、冒険者組合の登録ってもよ 面接なんて触りくらいなもんで実技が殆どだろ。

常識なんておいおい覚えてきゃいいさ

冒険者は腕っ節こそ全てだからな!」

 

「アンジェなら絶対大丈夫、麗しの太ももに誓って」「ああ、この柔肌イケない恋に落ちそう」

 

皆が口々にこれまでのアンゲリカにこの世界の最低限の常識を教えた努力に太鼓判を押す。

苦労したのは殆どラキュースとイビルアイという事実はスルーするとして。

 

「そう・・・じゃぁ私が覚えてる限りだけど、ちょっとした昔話をしようか・・・

少し前、だけど実際には遠い遠い昔

それは大地が記憶した都の物語。

古い時代

世界はまだ分かたれず、霧に覆われ

灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった・・・・

だが、いつかはじめての火がおこり

火と共に差異がもたらされた

熱と冷たさと、生と死と、そして光と闇と

 

そして、闇より生まれた幾匹かが

火に惹かれ、王のソウルを見出した」

 

 

アンゲリカはかつて追加されたダンジョン、ロードランの話をした。

それは嘘のような本当の物語。

不死者と狩人が死んで、蘇って、また死んで

”ぷれいやぁ達”が神々に挑み続ける物語。

 

薪の王 グウィン

ソウルも肉体も燃え尽きて 対峙するのは燃え残り

されど刃は空間すら裂き 炎は全てを燃やし尽くす

 

深淵歩きのアルトリウス

その技余すことなく絶技

大地を裂き、天を突く

 

竜狩りのオーンスタイン

雷の力備えた騎士の長

その槍は死なずの竜をも打ち砕く

 

強敵はいっぱいいます、たくさんいます

Lv100でもあっさり殺されること間違いなしです

 

気がつけば夜も更けて、辺りは濃い暗闇に包まれました。

それでも終わらない



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 15 大道芸

思ったこと、あれ?
ブラボよりダクソの方が人気?
まぁ3部作だし、キャラの自由度はダクソの方が高いしね
更に言えばPS4限定だしね、仕方ないね
そしていい加減冒険を始めろ


翌日、アンゲリカは無事に面接を終え今度は実技の運びとなった。

 

「いい?あなたは皆には魔獣使い『テイマー』っていうことで登録してあるから

シフを上手く使いこなせてるって証明して見せてね」

ラキュースが

「えー、私は杖使いなんだけど・・・弓兵いないしアーチャーとかどう?」

そう言って『シモンの弓剣』を取り出して装備する。

仕込み杖、落葉、シモンの弓剣 いずれもブラッドボーン世界においては技量寄りの軽戦士の武器でありいずれも接近して殴る近接武器なので正確にはアーチャー兼セイバーといったところか。

弓で獣に挑むなどと余人は笑えど、水銀の矢は確かに有効である。理屈はともかく

 

アンゲリカとしては蒼の薔薇がスカウト2・タンク1・ヒーラー1・キャスター一の構成で

ここに自分が入るのならアーチャー枠か、それとも無難に前衛のセイバーだと思っていた。

 

「弓兵・・・うーん確かにそれもありっちゃありだけど・・

でも、剣や弓だと実技どうするのって事になるのよ」

 

ラキュースが心配するのはアンゲリカがあまりにも実力を公衆の面前で発揮しすぎる事だった。

過ぎた力は良い結果を生まないと、アンゲリカは前日にイビルアイとも相談した。

 

「いいか、”ぷれいやぁ”の力は嫌な話だが国家間の力関係をも覆しかねないんだ」

 

アンゲリカとしてはたかが個人で引っくり返るほどこの世界の国家の力とは弱いのかとも思ったが思い直す

「確かにそうね、過ぎた力を持てば人は馬鹿をやろうとするわ

イビルアイが長年隠れてたのも、そのせい?」

 

アンゲリカはかつて行われた国家解体戦争について思い出した。

プレイヤーがオリジナルの0.01%の戦闘力しか持たないとしても、

中世レベルのこの世界では相対的に同様かそれ以上の脅威となってもおかしくない。

美味しい目を見たのは企業の幹部連中で、その他の人々にしてみれば奴隷制度の復活だが

そんな事すら歴史からは消され、大衆には知らされない。

企業が支配する以前の歴史が消されれば、それ以外の政体を考えることもできない。

 

「ああ、私はもう利用されるのも危険視されるのも御免だからな。

今あいつらと旅をしているのは約束もあるが・・・それ以上に楽しいからだ。

アンジェにも楽しい思い出を作って欲しいからな・・」

 

と、イビルアイは遠い目をしてあの英雄の一人を思い出す。

「アンジェにも会って欲しいよ、リグリットと言ってな。

私の古い顔なじみで、十三英雄の一人。シフと同じ”えぬぴぃしぃ”らしいんだが」

 

アンジェはNPCがこの世界で自我を持つことを確認した。

宿屋を出てシフと共に組合へ出立するとき、勢いよく立ち上がったシフがうっかり厩舎の天井を突き抜けてしまい倒壊させてしまったのを見て、シュンと反省していた。

ゲームの中では10m近いシフでも犬小屋に入るし、オブジェクトを損壊させても反応はない。

だが現実と化した今では、何をするにも責任を持たなければならない。

物を壊してしまったのなら弁償で済ませられる。

人を傷つけたり殺したりすれば、当たり前だがそれは立派に犯罪だ。

ゲームみたいに衛兵にちょっと罰金を払って済ませられる問題ではない。

というわけで壊した厩舎は金貨を払って弁償した。

 

「というわけでアンジェはテイマー!いい?魔獣使いよ!

これならシフがくるっと回ってワン!と吠えれば合格だと思う!

絶対に街中で血塗れ内臓ぶちまけアクションを披露しなくて済むわ!」

 

ラキュースが心配していたのはアンゲリカの実力を証明するために誰かの・あるいは何かをバラバラ血祭りにあげるのではという事らしい。

確かにパリィ狙いの戦士では地味だから、誰かと対戦する羽目になりかねないが、宿の庭でガガーランと手合わせをした時にそれはやめとけと言われた。

「アタシも相当な力自慢だけどよ、アンジェのそれは桁違いだぜ。

見ろよ、木刀をはたき落とされただけだってのにまだ手が痺れやがる」

 

「ごめん、手加減はしたんだけど」

 

「はは・・自信無くすなぁ・・・でもよ、私だからこれで済んだけどミスリルのやつじゃ試合になったら勢い余って腕を折っちまうんじゃねぇか?」

 

アンジェはガガーランに言われたことを思い出し、自分が剣士として登録するとなったら腕前を証明するためにミスリル級の剣士と木刀とはいえ試合をしなければならないだろう。

そうなれば、嫌でも圧倒的な速さと力を備えた自分の力は注目の的となる。

冒険者の噂の広がりは早く、彼女を引き抜こうという者は国の内外を問わず現れるだろう。

 

「・・・・ん、わかったじゃぁ魔獣使いとして登録する。シフ、みんなの前で一回りしてお座りでもしてあげて」

「わふ!」

 

どうにかアンゲリカを魔獣使いとして認めさせた、これなら彼女自身から目を外らせるだろう。

 

・・・・冒険者組合前の広場にはアンゲリカの噂を聞きつけて大勢の野次馬や冒険者が詰めかけていた。

そもそも娯楽の少ない世界であって、新入りのそれもとびきりの美人で更に強大な魔獣を使役する彼女の噂は町中にあっという間に広まり、その野次馬目当ての露天商も店を開いていた。

 

「ええ、こんな大群衆の中でするの?」

 

「す!すみません!なにぶんお連れの魔獣が大きすぎて中庭に入らないもので・・・」

受付嬢は平謝りに謝っている、それまでは貴族のお嬢様が酔狂で冒険者をやるのだろうと思っていたが、実際に巨獣を連れてくるとその恐ろしさに竦み上がってしまった。

実際にアンゲリカにしても血の匂いが微かに漂う狩人の衣装ではまずいだろうと、カインハーストの騎士の装束に着替えていたのもある。

確かにあの格好でこの美貌では冒険者というよりは馬で遠出する貴族にしか見えないだろう。

 

シフは大きすぎて中庭に入らなかったので冒険者組合前の大広場で彼女が扱えることを証明してくれという要望だった。

「仕方ないなぁ・・・」

 

アンゲリカはシフに跨り、街中の裏通りの狭い袋小路から広場に姿を現す。

群衆のあちこちから『おお!』『なんという・・・』と感嘆の声が聞こえ

『なんて美しいお方なのかしら』『あのご令嬢が魔獣使い?まるでお姫様じゃないかね』

『なんでも遠方の国から来なさった王族のお方だそうだ』『それで蒼の薔薇が・・・』

と勝手な噂で盛り上がっている。

男装の麗人ということで物見高いこの街の民衆が詰めかけているのだ。

のっしのっしとシフが歩いて行き、組合前で待っている組合長や都市長の前にやって来た。

あまりの重量感と威圧感の前に誰もが蒼白になっているが、気を失わないのは大した物だと

アンゲリカは感心した。

その前でシフはお座りをすると、さっと降り立って判定員の前に立つ。

 

「さて?これで私がミスリル級に相応しいとお認めいただけたであろうか?

これ以上となりますと模擬戦以外に思いつかないのですが?」

 

全員がそんなとんでもない!ミスリル級でも貴方様には不足ですと口々に言う。

こんな魔獣と模擬戦なんて命が幾つあっても足りないと誰もが逃げ出すだろう。

かくしてアンゲリカのミスリル級冒険者への登録はすったもんだの末に認められ、大急ぎでプレートに名前が彫られた。

シフには冒険者組合の看板を外して作られた銅のプレートが送られた。

小さいのは嫌だったらしい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 16 黄金

強さ換算
竜王<八欲王=わんわん =アンゲリカ<Majestic ミコ★ラーシュ< <<<ガスコイン大先生 <<<<ゲールマンおじいちゃん
あくまでカタログスペック、数や戦術、プレイヤースキルでひっくり返せる。
ジャイアントキリングこそゲームの醍醐味でしょ。



「皆聞いて。一度、リ・エスティーゼにまで戻るわ」

 

ラキュースが現状について説明すると、

メンシスの檻を意味もなく被り、世を俯瞰していたアンジェがこう質問した。

「ねぇ!?アンジェったら聞いてるの!?それとその変な檻かぶるのやめなさい!」

「ああ、すまない。つい世の中から隔絶したくなる日もあるってことさ」

よいしょっと脱いでしまうが、やっぱり鬱陶しいよねという感想以外は特になかった。

これを被りながら超位魔法を連発してくるとかミコラーシュやっぱ変人だなと思った。

更に言えばぷれいやぁとは皆変な奴なのかと思われても困る。

実際、変な奴の方が多いだろうが。

聞けばこの世界では第6位階程度で伝説の魔法使い扱いだという。

その程度なら誰でも普通に使えるでしょ?とエブリエタースの先触れで眼に映るものを片っ端からなぎ倒しても良かったが街並みを文字通りなぎ倒したら・・・なんだその・・困る。

なぜレベルが低いままで留まっているか?

これについては色々と疑問に思っているし、ラキュースの筋力にしても本来ならばあの細腕で大剣を振るうことなど出来ないはずなのに・・

現実をゲーム風スキルが上書きしている?あるいは・・・

考えても仕方ないので、

檻を被って考えたらゴースと交信できてOh Majestic!な考えが浮かんでくるかと思ったがゴースはもう死んでるし

遺子に至っては自分で殺したので意味がないと気づきやめた。

私の思考の次元はまだ低すぎる!もっと見聞を高め、啓蒙を上げなくては!と考えたところでラキュースに注意された。

ついでに今度、一緒に寝るときは一晩中アンアン言わせてラキュの啓蒙も高めてやろう。

 

「わかった、それで王都でどんな要件なんだい?」

 

「ラナー王女からの依頼よ、今日『伝言』が届いた。

『至急、王都にて依頼あり 黄金』

手紙でも使者でもない、つまり伝言では伝えられない重要な案件が緊急であるということよ」

 

黄金という単語で皆が顔を合わせる。

「黄金、この国のラナー姫の依頼だね。

緊急ってのはわからないけど、王都でって事は八本指関連かな?」

 

「!?アンジェ、いつの間にそんな・・」

「おいおい、もう私だって冒険者の一員なんだ。

君達みたいな超有名人なら噂話くらいなら組合でに行けば簡単に聞けるよ

想像以上に凄い冒険者だったんだね」

 

「今の噂話の花形はもっぱらアンジェだけどな」

 

突然現れたミスリル級の魔獣使いアンジェと大狼シフは今や町中の噂話の的。

アダマンタイト級の蒼の薔薇が滞在しているというだけでも今までは噂になったが

ここにきて話題を攫われてしまった。

「リーダー、モブキャラに格下げ?というか実力順でヒラに格下げ?

おい、ラキュ ちょっとパシッてコーヒー買ってこい」

「ボス、遂にボスの座から転落?おいラキュ、肩もめ」

調子にのる二人にゲンコツを食らわすと改めてアンジェに向き直り

「アンジェの言った通り、あらかじめラナーが犯罪組織”八本指”に対する対策が出来次第、私に知らせると伝えてきた。

だからこれは蒼の薔薇への依頼じゃなくて私個人への友達からのお願いになる」

 

「うん?でも冒険者組合を通してじゃなくて?」

 

「・・・恥を晒すようだけど、犯罪組織の腕は長い。

貴族にも冒険者組合の中にも息のかかったものがいる、だから連中はまず間違いなく捕まらない・・」

 

為政者や警察機構とヤクザが密着しているようなものか、別に珍しい話でもないなとアンジェは思った。

 

「なるほど、それで話が漏れにくい"友達"のラキュースに対応してもうつもりなのか・・・

いいよ。それで、その八本指なんていうご大層な名前の連中ってのは強いのかい?」

 

「六腕と噂される暗黒街を仕切っている連中の腕は確からしい。

筆頭を始め、それぞれがオリハルコン級かそれ以上の腕前の凄腕・・・ってアンジェの前ではどんぐりの背比べだろうな」

イビルアイが今までに集めた連中の情報を話すが、実働部隊の腕前は本物だと断言する。

 

「うん・・・単純に1対1でなら問題ないと思う。

でも、そういう犯罪者連中は戦い方が何でもありだからね。

正面から勝てなくとも、そういう奴らは周りを巻き込んででも勝とうとするから苦手かな」

 

「アンジェでも、油断ならないって事?」

 

「勝てない相手は毒を盛ったりや友人・家族を攫って脅迫するくらい平気ですると思う。

それでも駄目なら、追跡できないように足のつく部下を殺して地下に潜るくらいはするだろうね」

正面からのどつきあいなら神経毒・火炎瓶・時限爆弾に罠などなんでもありの狩人も、獲物がいないのでは話にならない。

 

「アンジェもサラリとえげつない事思いつくよな・・・」

真っ向から戦うタイプのガガーランにとて確かに気づかれないうちに毒を盛られでもしたらどうしようもない。

解毒ポーションがあっても即死毒を盛られては意味がない。

死亡すれば大幅に弱くなることはこの世界でも知られているので、その時点でほぼ詰んでしまう。

要は殺せばいいのだ。

 

「支配階級と結びついたロクデナシってのはそれくらいやるから、支配層に重宝されるんだろ?

見栄えを気にする連中が汚れ仕事を任せる連中だ。

そもそも、犯罪者でなくその後援者を叩かないのでは対処療法に過ぎないと思うけどね」

 

「確かに王国の恥を晒すような話だが、私も王国の現状を変えなければ意味はないと思っている。

だが、アンジェ。そんな中でも必死に世界を良くしようと努力している者達がいるということを忘れないでほしい。

・・・・”ぷれいやぁ”から見れば愚かしい人間達だと思われるかもしれないが」

 

「そうだね、でもプレイヤーなんて所詮は旅人。

世界を変えられるのはその世界の住人だけだと思うよ。

勝手に余所者が来て、偉そうにかき乱すなんておこがましいにも程がある」

とはいえ、アンゲリカ自体は名前も知らない六大神のプレイヤーに感謝はしている。

彼らが人間を守ってくれたおかげで、こうして彼女達とも出会えた。

仮定だが、もし人と出会えずに外で過ごしていたらアンゲリカは自分と獣と世界の境目も曖昧になり、やがては世界を呑み込む獣になっていたかもしれない。

 

自分と他者を区別する事に意味がない世界では人は存在できず、獣になってしまう。

 

「それでさ、またシフに皆で乗って行くかい?」

 

「・・・・いえ、私達はここまで来るのに馬で来たからそれに乗って行くわ」

ラキュースはちょっと顔を蒼くした。

森の中でちょっと300km出した程度で危うく戻しかけたのだから、道のひらけた街道ならもっと速度は出るだろう。

「いや・・・あれは悪かったよ。今度はもっとゆっくりにするか『遠慮しておきます!』そ、そう?」

 

残念ながら、最大速度で王都に向かうという案は却下されてしまった。

馬のようにのんびり行くしかないが・・・まぁ散歩がてらという事で同意した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 17 法国

え?法国の情報が早すぎ?
きっと魔法使ってるんだよ


『リ・エスティーゼ王国』

 

帝国・法国、竜王国と言った人類種の国の中にあって最大の人口850万人を誇るこの大陸における人類最大の国家でもある。

ユーラシア大陸並みの広大なこの大陸で850万人、室町時代の日本とどっこいどっこいの国が人類種最大の国の時点で人類という種族がどれだけ雑魚な種族かお分りいただけるだろう。

本来であれば人類という種を守り、導かなければならないのは法国じゃなくて王国では?

ではその王国の現状は?

法国にとってみれば、存在自体が害毒を撒き散らす獅子身中の虫であった。

残念ながら人類という種は獅子ほど強くもないし、害虫にしては王国は大きすぎた。

毎年のように、平均寿命3ヶ月とも揶揄される対ビーストマン戦に莫大な血と汗を流して育て上げた精鋭の陽光聖典隊員を送り出し

一方ではエルフの王国とも戦線を維持するスレイン法国にとってはこちらを盾にして繁栄を謳歌できる立場にありながら、やっていることは帝国とのお遊び同然の戦争ごっこ。

別に法国は人類種の守護者をやりたくてやっているわけではない。

ただ、ビーストマンの進行にさらされる竜王国が倒れれば質量ともに圧倒的な彼らの向く矛先が次は自分たちだからという理由もある。

 

「我々が倒れれば次は自分達だというのにな・・・・」

 

神官長は毎日のように上がってくる周辺国のめぼしい報告書に目を通しながら呟く。

・・・・正確には帝国のめぼしい情報が主だが。

法国の王国に対する不満は今や民間レベルまで鬱積している。

『自分達がお前たちの分まで苦労を追ってやっているのに、お前たちの不甲斐なさは何なんだ!』という不満。

 

これで王国が義勇兵を派遣する、傭兵業が盛ん、物資を援助する。

そこまでいかなくてもまともに繁栄し、後方の補給地として活躍していてくれたなら、後のガゼフ暗殺などという急進的な手段は必要なかったろう。

法国の首脳陣は人類優先の理念が読者にどう映るかは読者の判断としても、

王国の重要な戦力のガゼフ戦士長を抹殺するのは大局的にみれば避けたい事態であるのは明白であった。

だが、現実は無情である。

王国が供給するのは傭兵でも、食料でも、良質な武器・防具のような工業製品でもなくもっぱら黒粉と呼ばれる麻薬であった。

繁栄どころか、まともに国家が運営されている帝国にも麻薬を輸出し内部での腐敗は長年の許容限界をはるかに超える事態であった。

それも支配層の貴族が率先して犯罪組織を庇いだてし、犯罪行為を見逃す見返りに金銭を受け取る始末。

 

法国は決断した、この獅子身中の虫を取り除かなければならないと!

王国が帝国に併呑される事によって人類種の勢力は一時的に100から90程度までには下がるかもしれない。

だが毎年のように1ずつ減らしてくれる王国が存在するよりは

100を130までには増やしてくれる帝国に任せる方が遥かにマシだ。

ただでさえ、激戦に次ぐ激戦で死傷者が続出している法国の軍。

何もわからない・理解しようとする努力すらしない王国の王族貴族よりは

法国が倒れれば次は自国が前線になると理解している

帝国のジルクニフ皇帝の方が交渉する価値がある。

 

『帝国は今年の道路網整備によってますます栄えるでしょう。

既に流通費用の軽減によって市場での商品価格は2割以上低下しています』

『皇帝の施策によって常備軍の兵力が去年より1割り増しになっております。

また質に関しても、魔法効果のある装備の量産体制を整えつつあり

今年度の定期戦争での戦力は実質5割り増しと予想されます』

『帝国は経済規模の拡大による貨幣不足を為替手形制度の導入によって緩和できると想定している模様です』

『冒険者組合の新規加入者は昨年より1割減少、

見込みのある冒険者の軍への組み込みが進んでいる模様です』

 

帝国の報告はこうだった。

翻って王国は?

『王国:特に無し』

この一行だけでどういう状況か理解できるのが悲しい。

 

(あの計画も・・・・もはや止む無しか・・・)

神官長としては心情的には反対だったが、ガゼフ暗殺すべしの声はここ三年で議題に上がっては徐々に強くなってきている。

今年は抑えきれないかもしれないな・・・・と肩をすくめた。

だが、つい今しがた追加の報告に目を通す。

(王国関連?珍しいな・・)

ここ三年ほどは特に無しが常態だったのに

『王国:冒険者*恐ろしく強大な魔獣使いが冒険者組合に加入

魔獣の難度は推定で100以上 巨大な狼

未確認の都市遺跡:極めて危険と報告される』

 

報告にはミスリル級の冒険者が都市遺跡の偵察で全滅した事、内部には強大な魔神が蠢いている事。

そして同じく偵察に訪れた蒼の薔薇は無傷で生還し、同時に強大極まりない魔獣使いが彼女達と行動を共にするようになった。

報告書には冒険者のアンゲリカと大狼シフの似姿も添付されていた。

 

神官長は目を見開く、その女性のこの世とも思えぬ美貌。

そして魔獣の狼王としか形容する他が無い威厳と凛々しさ、知性すら感じさせる瞳。

突然現れる巨大な遺跡、そして時を同じくして現れる強大な力を持った者。

六大神、八欲王、ぷれいやぁ達

(まさか!?破滅の竜王!?予言はやはり真実になったというのか?)

とそこまで考えて頭を振る

(・・・この魔獣が本当に破滅の竜王だとは限らん、事実冒険者組合に問題なく登録できているのだからいきなり町を破壊し始めるわけでも無視・・・

それならばこの女性が破滅の竜王・・・いや・・・それは無いな

竜王が冒険者に・・・無い無い・・・

どちらにせよ一度、こちらの手の者に接触させてみるか?)

 

とそこまで考えて神官長は強大な魔獣使いという事で同じ魔獣使いの

『一人師団』の事を考えた。

(あいつもいい加減子を成していい年だったな)

もしこの二人に子が為されたのならば、とてつもない才能を持った魔獣使いになるかもしれないと思った。

それこそ、単騎でビーストマン千人にも匹敵するような・・・

(いかんな、年をとるとどうも夢見がちになる)

自分も若い頃は、前線で剣を振るいビーストマンを余さず打ち取り人類に希望を齎すと自負していた。

だが現実は非情だった、仲間は次々に奴らの牙にかかり

同期で生き延びたのは今や自分だけ。

人類に明日が来るという夢は夢のまま終わってしまうのではと悲嘆にくれた日々もあった。

それでも人々の希望となる事を神からの使命と信じ、歯を食いしばって堪えてきたのだ。

「どちらにせよ今日の議題に加えなければな・・・」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 18 Gang Hunt

狩猟道は人生の大事な事が全て詰まってるんだよ
でも、大抵の人がそれに気づかないだけ

唐突に思った事
連邦軍のやられメカ61式戦車
■制式名称:M61A5 MBT
■全長:11.6m  ■車体長:9.2m  ■全幅:4.9m  ■全高:3.9m
■乗員:2名 
■主砲:連装式155mm滑腔砲

M1A2はおろか マウスよりでかいぞこれ 
戦前の連邦は一体どんな化け物と戦うつもりだったんだ

現実でもアーコロジーそのもののバイオスフィア2という計画があってな。
150億円を費やして百年がかりの実験の予定が・・・
結果はお察しください。

アーコロジーは電気・水道が内蔵された恐ろしく複雑で繊細な建築
おまけに汚染環境のせいで劣化が早く、浄化装置も想定以上の稼働が常態化
こんなもんメンテしろとか言われたら過労死続出ですよー

鷹木
「だいたい、無理なんだよ・・・・もう俺もあんたもギルメンいないのに
せめてアタッカーがもう一人いればな・・」

「ですよねぇ・・・あ、またみんな亡者になってますよ」
「別にいいよ、どうせみんなすぐ亡者になる」
今日も心折れた亡者達が屯ろする

ダークソウル3のスケルトンって合体してボールになったり、起動時も頭がついてるか確かめたり、車輪でぐるぐるしたりと愛嬌がありますよね
うわぁぁぁぁ!と骨玉に巻き込まれてぐるぐる回る某オーバーロードさんの絵が容易に浮かぶ

個人的には重戦士装束も好みなんですよ
聖戦士ダンバインとか魔装機神サイバスターとか白騎士物語とか
え?もう鎧じゃ無い?


シフならば半日とせずに到着するところをわざわざ馬で移動しなければならないとは、とこぼしたがどうもライダーでも高レベルでも無い蒼の薔薇のメンバーにとって巨大な狼は乗り心地が悪かったらしい。

これでも彼女たちは早馬を宿場町で乗り継いで駆けてきたのだが文字通り疲れ知らずのアンジェにしてみればちょっとした散歩にしかならない。

アンデッドゆえ、疲れないイビルアイ以外はやつれた面々をよそにリ・エスティーゼの街並みを見て物珍しそうにうろうろしていた。

 

 

「へぇ、これが王都

可愛い街ね、気に入りそう」

 

ヤーナムの陰鬱で巨大な影を落とす尖塔群に比べれば、

背伸びしていない玩具のような街並みを可愛いと表現するアンジェ。

アメンドーズも張り付いていないようだし、街からは血と臓物の香りもしない。

亡者や獣ががうろついているわけでもなく、人々にも生気が見られる。

ヤーナムと比較すること自体が間違いだが。

まともな人が住んでいるまともな街というものはリアルではもはや見られないだけにお上りさんのようにキョロキョロしていた。

あまりにも巨大な狼は街の外の厩舎に預けるとしても、アンジェはこの街を見て回りたいと言い出した。

 

「ああ、それなら私が案内しよう。同じ”疲れ知らず”だしな。

どの道リーダーはこれから王宮に行くから今日は他のものは羽を伸ばす予定だったしな」

 

「ねぇ、私の仕事量だけおかしくない!?」

これから王宮に赴くために特徴的な鎧を脱いで、ドレスに着替えて形式張った通過儀礼を受けてようやくラナー姫と会うことができる。

それを思うと、

「それがリーダというもの」「ボスがんば」

 

旅で疲労した体を宿に引きずって行く四人を見送るアンジェとイビルアイ。

これからラキュースだけは宿で着替えて王宮行きという

更に疲労が溜まりそうな任務をこなさなければならないのだ。

アンジェは姫様の友達使いが荒いような気がしたし

 

疲労・睡眠無効の指輪でもあげればよかったかな?と思った。

いわゆる基本的なバッドステータス緩和のアイテムなのだが

現実ではどうかと思う、いわゆる戦闘薬や疲労回復剤のようにどのような副作用が影響するかわからないので使用は控えておいた。

 

ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ

リ・エスティーゼ王国の第三王女であり、知性と美貌を兼ね備え民衆からは黄金の二つ名で知られている。

なぜ、彼女が第一子ではなかったかと悔しがる者も多い。

天はなぜ兄弟にかくも違う才を与えたのかと。

バルブロ王子に彼女の知性と民を思いやる心の1割でもあったらというのがもっぱらの嘆きであった。

 

 

(あーあ、こんなとこにいたら息が詰まっちゃうわよ)

ここは王都の中で間違いなく警戒厳重なヴァランシア宮殿の王族の居住区。

目には鮮やかな白に金地の清楚な印象を与えるドレスに身を包んだ

ラキュースが王の近衛兵のチェックを受け

ラナー姫の部屋へと案内されるところであった。

(ラナーはよくこんな所で我慢できてるわよね

こんな動きにくいドレスより、アンジェの騎士装束でも借りてくればよかったかしら?)

活動的でありながら、気品のある彼女の騎士装束は

ただの服の見た目に反して強力な魔法効果が付与されている。

実際には店売りだとしても、力ある物がこの世界で無意識に

美しいと認識されるらしく、誰もがこれに身を包んだアンジェに振り向いた。

 

部屋に入ると、黄金姫ラナーが彼女を迎え入れた。

その美しさは誰もが認めるもので、お付きの侍女が部屋に紅茶と茶菓子を持ってきた部屋の一箇所だけがまるで輝いているかのように見えた。

「ラキュース、ごめんないね。まだ帰ってきたばかりなのに早速呼び出したりして」

親友との久方ぶりの再会を喜ぶラナー。

彼女達二人は親友、単なる冒険者では幾らアダマンタイト級といえども王家への出入りなどできるはずもない。

 

二人の少女が香り高い紅茶のカップを片手にお喋りを始める。

ラキュースの興味あるラナーのお気に入り

 

「それでラキュース、例の依頼の件はどうだったの?」

ラナーは

「ええ、聞いて。まぁ何ていうか信じられないだろうけど・・」

ラキュースはヤーナムとそこで出会った獣狩りの狩人の事を話した。

「へぇ・・・ぷれいやぁ、神様ね。でも彼女は自分を人間だって言ってたんでしょ」ラナーは神と崇められていた存在が自らを人間だと言うのは意外だという風に首を傾げた。

「そうね、王侯貴族が自分も人間だっていうのとはワケが違うわよね

でもラナーも会ってみれば意外と気さくだから仲良くなれるわよ」

 

一通り、今までに会った大冒険の事をラキュースがラナーに語りかける。

「ふふっ、やっぱり冒険譚を語ってる時の貴女が一番活き活きしてるわ

羨ましい、私は籠の鳥だから」

 

そう言いながらもラナーは早々に今の状況を説明した。

「聞いて、例の八本指の大規模な黒粉生産地が売り手を辿って見つかったの」

ラナーは王都を侵食する麻薬生産拠点を数少ない良心的な衛兵がルートを辿って発見した事、それを壊滅させるための支援を蒼の薔薇のラキュースに依頼したい事を告げた。

 

「問題は、その黒粉農場が暗に六大貴族の後援で運営されてるって事

もちろん、公にじゃない。けど連中のことだから小規模ならもみ消すか、追い返す。

大規模な摘発をしようものなら農民を口封じに皆殺しにして、証拠隠滅。

だから、少数精鋭で素早く、かつ向こうの耳に入らないルートでこれを抑える必要があるの」

 

ラナーはアダマンタイトチームに秘密捜査まがいの事をやってくれと依頼していた。

 

「任せて!そういう事なら戻り次第早速取り掛かるわ」

「ありがとう!それと、今度来るときはそのアンジェと一緒に来てね。

ラキュースだけ、そんな凄い冒険譚を独占するなんてずるいから」

 

と、目の前のおてんばお嬢に影響されたかに頰を膨らませて無邪気にコロコロと笑うのだった。

 

王都に蔓延る悪を討つ、正義の味方の自分の姿にはしゃぐリーダーだった。

だが彼女は気づかない、親友と信じた王女が自分が退出した後に見せる冷たい目の事には。

 

(ぷれいやぁ・・・神の力を得たただの人・・)

だが、ただの人であれば何を望んでいるかは話さえすればわかる。

(迷い込んだイレギュラー、でも計算の内に組み込んでしまえば御するのは容易)

拾ったクライムという少年にのみ妄執のような執着を見せる少女は腐った王国を安楽死させるためならば八本指と手を組むことすら辞さない。

問題は、帝国。

王国が帝国にすんなりと組み込まれるには帝国が勝つには勝つでも王国を完全制圧するほどに勝ってはいけない。

王国の勢力を100とするなら、帝国は120

八本指は麻薬によって王国に-10の被害を与えているとするなら、

帝国にはたった-2程度の被害しか与えいない。

これではバランスを程よく崩してくれない。

帝国150:王国80程度の比率が理想的にあのハゲ皇帝がラナーと書類の上で婚姻して王国の鉄くず同様の王冠を取っていくのにちょうど良い比率。

このペースでいけば間違いなく五年でそうなる。

彼女が八本指を排除するのは自分の都合の為、民のためでも国のためでもない。

(ラキュース、ありがとう。貴女は最高の駒の一つだわ。

アンジェ・・・貴女は私の駒になってくれるかしら?)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 19 ケダモノ狩りの午後

主人公
アンゲリカ・ブリューティヒ・ド・カインハースト
今は滅びたカインハーストの血族の遠い子孫らしい?
時計塔のマリアと髪が黒い以外は瓜二つ
彼女の先祖は顔立ちからもわかるように時計塔のマリアが産み落とした子じゃないかな?
時計塔のマリアは月の魔物を孕む前に何者かと子を成した
カインハーストを特徴付ける穢れた血の銀髪でなく
黒髪なのは人間である事を特徴付ける
以上のことからただの人間との間に生まれた子?
黒髪は東方から来たというカインハーストの人間の騎士に多かった
王族の傍系と仕える従者との間の子であれば忌子であった?
個人的にはマリアとゲールマン(壮年)との間の子供が先祖だったり
そういうことにしよう
ゲールマンはなぜ月の魔物に従うのか?
月の魔物は愛した人の子だから?
月の魔物はゲールマンになぜ狩人を獣の夜に呼び込ませ続けたのか

ここまで考えると、月の魔物(マリアの子)を殺したのが月の香りのする狩人(マリアの子孫)
そしてアンゲリカは上位者が失い求めた赤子の完成形・・・
なのだが、人間形態のまま狩人であり続けるのは獣の血の濃さゆえか
あるいは自我が物凄く強かったか
青ざめた血を求めたが、結局は赤い血の流れる人間であり続けた
こんな考察も面白いね
ビルゲンワースが人造上位者を製造する実験の過程で実験台となったのがあの実験棟の哀れな住人達?
マリアが崇められるのは、彼らの理想の完成形である月の魔物を産み落とした聖母だから?
老いた赤子を崇めるのは、ゴースが死んで蘇る漁村の住民にとっての救世主?なんていうかキリスト教とクトゥルフがごっちゃになってるな
おそらくはゴースが流れ着いた漁村の住民を冒涜的に実験台にしたのだろう
オドンの囁きによってマリアは子を成した
その忌子が月の魔物である
冒涜的な実験の後遺症か、血の聖女の特徴を遺す女性がヤーナムには多い
ヤーナム住民で擬似血族になるか実験した人の子孫?
閉ざされた街ゆえ血が濃くなって血の聖女の遺伝子的特徴が出た?
ヤーナムで上位者にならないか実験する、住民に上位者の血を流し込む
獣の病が大流行、隠蔽、その度に狩人を放り込む
ステージのラスボスにもなりうるメルゴーの乳母が守る赤子を殺させるため
月の魔物にとって疎ましい他の上位者の赤子を殺させるため
月の魔物は上位者としてより純粋な赤子を求め自ら上位者の上へと行こうとしていた?
月の魔物はマリアより生まれた人の子のため、より純粋な赤子の肉体によってより上位のオドンに近い上位者へと自らを昇華させようとしていた?
それをぶち壊したのがアンゲリカ
ヘソによって自ら上位者の赤子になった彼女は、しかし上位者を否定した
結局のところ、人の世をこねまわし利用し赤子を得ようとした上位者は自らを上位者と気取ってみても人と同じエゴに縛られた存在でしかなかった。
上位者も人もお互いを利用しようとした点は同じだった。
どちらも同じく人の世に獣の血の病をもたらした点では同罪
ならば存在すべきではない
アンゲリカは上位者でありながら上位者の性を否定する。

灰血病とは?灰色の血、上位者実験の副作用?
カインハーストの穢れた血と関係があるのか?

ゴースが流れ着く
人々から悩みや苦痛を取り除き、漁村の民が崇める
ビルゲンワースが注目し、ゴースを切り刻んで冒涜
住民で人体実験
カインハースト出の学徒が血を持ち帰る
更にヤーナムの民を使って人体実験 灰血病が蔓延
例えればヘソの緒をまとめて打ち込むような乱暴な実験?
灰血病は啓蒙に耐えられず上位者のなりそこないになる
隠蔽のため灰血病の治療と称して 血の医療を導入
今度は啓蒙低くなり 獣になる?
どちらも原因は人造上位者製造実験の失敗?
輸血袋は上位者の血を獣の血で薄めたのか?
原液の星の娘の血を薄めたのが輸血袋?

最初の狩人、ゲールマン ルードウィク ローレンスなどによる獣狩りが始まる
その目的はより上位者に近づいた人間を選別する医療協会による大規模な実験だった?
時計塔のマリア、ゲールマン 非人道的な実験に耐えられずも獣の病は既にこの時点で誰にもどうしようもなくなっていた。
マリア、実験棟にて獣の病を根本的に廃絶する治療を模索
その方法は人の中から獣の血を廃絶すること?
この時にマリアはオドンによって孕んだ
だが実験は成功せず、これ以上の蔓延を防ぐために実験棟そのものを悪夢の中に封鎖
ゴースの遺子はオドンが人間の肉体から上位者を作るマリアの実験とは逆に
ゴースの肉体から人間もどきを作ろうとした上位者の出来損ないだった
だがゴースは封じられ、上位者への道は絶たれた
後に訪れたマリアとゲールマンの遠い子孫であるアンゲリカによってマリア・ルードウィク・ローレンスは死んでなお囚われていた悪夢から解放される
ゴースとその遺子も海に還り、狩人の悪夢は終わった。

ウィレーム先生は血によるインチキ近道を良しとせず、人間自体の思索の発達によって上位者と伍する道を理想とした。

フロムは想像する楽しさもある。

今回は幻魔サキュロントさんに死んでもらいます
多重残像
本物そっくりの虚像を作り出す
メルゴーの乳母、結晶の古老、法王サリヴァーンといった超絶の業と比べれば児戯と呼ぶのもおこがましい。



「あらー迷っちゃった?イビルアイもいないし・・・どーしよ」

アンゲリカは王都見学をしていたらいつのまにか迷っていた。

店の売り物や町並みをうろうろしながら気の向くままにうろうろしていたらいつの間にやらイビルアイとも逸れてしまったようだ。

原因としてはアンゲリカが興味本位のまま歩いていたらいつのまにか屋根の上に登っていたりそのまま路地に降り立ったりと3次元、所構わずフリーラン状態だったのもあるのだが。

「ま、いいか。上に登って大っきいホテルの方向に歩いて行けばいいのよ」

そう思いながら、後で後でと置いておいたらいつの間にやら、薄汚れた狭い路地に入り込んでしまったようだ。

路地の状態から行ってこういう所は治安が良くないと相場が決まっている。

「君子、危うきに近寄らず・・・さっさと離れますか」

と、漫然と大通りの方へ進もうとしたところ大きな建物からどさっと麻袋が放り出された。

窓もなく、鉄の扉が開け離れていてなんとなしにヤーナムの陰鬱な倉庫街の建物を思い出させた。

 

(ゴミ出しかしら?)

アンゲリカはその麻袋に興味を持った、道端に死体が転がっていたら漁るのはフロム世界の人間の常識である。

それが腐った病気持ちの内臓でも、カビでも目玉でも女王の肉片でもホイホイポケットに入れちゃうのが狩人というものだ。

頭おかしい。

アンゲリカは麻袋にはいい思い出はない、ヤハグルの人攫いのそれを思い出させるからだ。

扉の外からは誰の姿も見えない、ゴミ出ししたらもう後は関係ないと言うのだろうか?

麻袋はわずかにもぞもぞと動いていたので粗末な麻袋に注意して近づいて裂け目を開いて見る。

不注意だろう、どこの宝箱だろうとまずは最大火力で殴るべきだと言うのに。

ホッとしたことに中身はミミックの新種でなく人間だった。

おそらくは半裸の女性だろう、やせ細り、殴打によって無数の痣が全身にあり顔は膨らみどんな面立ちだったのかも不明だ。

アンゲリカがどのような感想を抱いたかは不明だったが、

華やかな王都でゆったりした気分のいい夢を見ていたら

突然腐臭のするローランにワープさせられた気分だろうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おい!何見てやがる!」

扉の奥から出てきた粗野な男が彼女に声をかける。

アンゲリカはその男を見る、どう見ても人間で獣ではないのだろう。

アンゲリカは酷く滑稽な気分になる

(人は獣であり、獣はまた人なのだ・・・だと言うのに・・ああ、どこもかしこも獣だらけだ・・・)

実に醜悪な面構えだ、これならギルバートの方がああなってもまだ人間らしい。

「何見てるって言ってるんだ!さっさと失せやがれ」

すると打ち捨てられた女性の枯れ木のような指が僅に動き、彼女の帽子がなんの弾みか落ちる。

アンゲリカの美貌を目撃した男の顔が好色な色に染まった。

「おい姉ちゃん・・・」

小走りにアンゲリカに駆け寄ろうとし、腕を伸ばそうとした途端、男は気づく。

肩から先を見ると、そこには美女を触ろうとした腕が彼女に逆に捕まっていたのだ。

「お!おい、何するんだ!離しやがれ!」

「ねぇ・・・これ・・あなたがやったの?」

彼女の氷のように美しい囁きに聞き惚れるが、腕は相変わらず全力で振り払おうとしても岩に埋まったかのように動かない。

「・・・・そう、まぁいいわ。どうせ気まぐれだし」

そう言って、アンゲリカは男の腕に軽く力を込めた。

普通の人間がマッチ棒を折るような力加減だが、男の腕はそれだけで軽く握りつぶされた。

ボキッ!ではなくグシャッ!という不気味な音が響き

ついで男の絶叫が通りに響き渡る。

「あぎゃぁぁぁっぁ!いてぇぇぇぁ」

悲鳴を聞きつけて建物の中からまた男が二人駆けつけ、腕を潰された男と美女を見つけわかったように顔を見合わせにやけた笑みを浮かべる。

 

「おいおい姉ちゃん、えらい事してくれたのぅ」

「そいつの治療代と稼ぎの賠償、機会損失で日に100金貨は損しちまうんだぜ。こいつは治るまで弁償してもらわんとなぁ」

二人の頭にはいつものこういう当たり屋的な考えが浮かんでいた。

今回の男の演技は口から泡を吹き、痙攣しているように見えて実に迫真の演技だ。

これなら彼女に言いがかりの借金を負わせて娼館に沈めてやる。

ついでに自分達もおこぼれに預かれるだろうとゲスな獣欲を滾らせる。

 

「どこもかしこも、獣ばかりだ・・・」

アンゲリカが冷酷な目で男たちを見ていることに気がつかない。

「あん?安心しなよ、きっちり体で払えるからy」

男がその先を言うことは永久になかった、

鞭へと変形したアンゲリカの杖が二人の男の頭蓋を綺麗に鼻から上へと真横に切り落とした。

「ひっ・・・ひっ・・」

目の前で繰り広げられた一瞬の殺戮を目にした腕折られた男が恐怖で痛みも忘れて後ずさる。

「貴様らも既にそうだったんだな・・・なら躊躇いはしない」

天使のごとく美しい麗人が杖を振りかぶる、それが男の人生最後の光景だった。

「ああ、そうだ。獣狩りじゃぁない、ケダモノ狩りだ。

ただの気まぐれ、ただの手慰みの暇つぶし。

嬉しいじゃぁないか、こんなエンタテイメントまで用意してくれるなんて

普通の街もなかなか捨てたもんじゃない」

 

・・・・・・

「サッ!サキュロントさん!大変です、助けてください!」

 

店の従業員が突然部屋に飛び込んでくると、男は嬲っていた女性の力加減を間違えて首を折ってしまったところだった。

首を折られて無事でいられるはずもなく、女性は惨めな一生から解放された。

 

「おいおい、いきなりノックもせずに入ってくるなよ。

おかげで・・・あーあ、またやっちまった。でも俺のせいじゃないからな」

 

首を折られた女をゴミのようにぽいと投げ捨てる

 

「わ、わかってます!でもそれどころじゃないんです!力を貸してください!」

 

「ったく、客に問題を押し付けるなよ。今度は何だ?」

 

客のサキュロントは王国を荒らす『八本指』の荒事専門『六腕』の一員。

表の世界で言えばアダマンタイト級冒険者にも匹敵する裏世界の伝説とも言える男だった。

性癖に問題があり、行為の度に相手を壊してしまうためそう言う獣欲を満たせるこういう店の常連でもある。

 

「とんでもなく強い貴族の女が暴れるんです!お代もいりませんし、金も倍払いますんで締めちまってください!」

 

「やれやれ、休日出勤とはね。ま、報酬もあるし腹ごなしの運動といくか」

 

そう言って着替え、余裕たっぷりに店のロビーに出ると

そこは血の海だった。

「こいつぁ・・・」

頭蓋骨を綺麗に切断されたもの、内臓が飛び出て中身が床一面に散らばった者、

脊髄を引っこ抜かれて逆さ吊りにされた者・・・

ロビーには血臭と死臭が充満している。

並みの人間なら光景を見ただけで吐きそうだ。

誰一人まともな死に方をしていない

ブラボ式な殺され方の一覧表の1ページくらいなら埋められるかもしれない

摘発される恐れが殆どない『八本指』の店とは言え、こういう店に付き物の強面の用心棒は皆殺しにされたらしくロビーはシンと静まりかえり、死体から垂れる血のポタポタという音だけが響いている。

 

そんな中で、一人優雅にロビーのソファに腰掛け紅茶のカップを片手に待っていた女がいた。

サキュロントは彼女の輝くような美貌に目をとめると

「こりゃ何とも別嬪さんだ。で、何してるんだい?」

すると女はカップを優雅な手つきでソーサーに置きテーブルに置く。

片手で杖をくるくると回すとこう答えた

「暇つぶし」

サキュロントはふうんと、考え込んだ。

目の前の小娘は最近、麻薬関係を叩いて回っている連中の仲間か?

いや、考えすぎか?

「ひまつぶし・・暇つぶしね・・・だがそれにしちゃやりすぎだ。

“幻魔”のサキュロント様が教えてやるぜ、格の違いってやつをよ・・」

相手がどの程度かはわからないが、それなりのゴロツキを皆殺しにした手腕はある。

そう言うなり前までの慢心を捨て、油断無く構える。

最初から全力を出した動きについてこれたやつはいない。

 

「多重残像!」

魔法の発動とともにサキュロントの姿が6つに増える。

それを呆れたような目で見ていたアンゲリカ。

「くっくっくっ、驚いているようだな。5体は俺の幻術で作り出した虚像。

どれが本物かわかるまい

さぁ、六腕で最も洗練された俺の殺しの腕前に怯えるがいい」

アンゲリカは身動きもしないのを、恐怖ですくんだと勘違いして続ける

「心配するな、殺しはしない。お前ほどの上玉なら客を取らせればすぐに建て替えることだって簡単だろうs」

その瞬間、サキュロントはバランスが崩れ地面に倒れ臥す。

「う!な、何が・・・いデェェェェェェ!俺の!俺の足がぁぁぁぁ!」

したことは簡単、目の前のバカがベラベラとくっちゃべっている間に

椅子から立つ、歩く、仕込み杖を振るう、戻る、座るをしただけだ。

ナメクジのように両足を切り飛ばされて這いずり回る目の前の男に合わせて虚像も這いずり回る。

「本当に・・・本当にくだらないお遊びね。ここまで失望したのは生まれて初めて・・・」

メルゴーの乳母、結晶の古老、法王サリヴァーン

いずれも実体を持った虚像を生み出す事すら易々と行う強敵だった。

幻魔?これで?玄米の間違いだろう。

「さぁさ、六腕とかならそれで終わりじゃないでしょ?

まだ足がちぎれただけでしょ?

かかってきなさい!!

使い魔達を出せ!

体を変化させろ!!

剣を拾って反撃しろ!

さあ狩りはこれからよ!!

お楽しみはこれからよ!!

ハリー!ハリーハリー!ハリーハリーハリー!」

鬼気迫る表情で中々難しい事を平然と要求する。

だがブラッドボーン世界では道端でありふれた事です。

「う、うわぁぁぁぁ!た、助けてくれぇぇぇ!」

 

だが、こいつは彼女の暇つぶしには応えられなかった。

それを見て彼女の顔に心底からの失望が浮かぶ。

「はぁぁぁぁぁ、本当に・・・本当にくだらない、つまらない奴」

そう言うなり彼女は懐から赤い鐘を取り出し鳴らす

チリリリリンと不吉な赤い音が鳴ると、ロビーのそしてサキュロント自身の血が集まり一箇所で形を作る。

『召喚:ブラッドボーン ハウンド』

血を媒介にして召喚されるどす黒い犬。

偵察、側面攻撃に使われるLv30程度の雑魚モンスターだがこの程度なら十分だ。

「お前は犬の糞のような奴だ・・・犬の糞になってしまえ」

心底呆れたアンゲリカが犬に掃除をしろと命令する。

 

「ギャぁぁぁぁ!」

自分と殺された者達の血から生まれた犬に生きたまま齧られるサキュロント。彼は不運だった、強者を自負しながらアンゲリカを一瞬たりとて楽しませられなかったのだから。

「やれやれ、興が冷めた・・・ケーキでも買って帰るか」

 

そして大騒ぎになる前に離れようとしたが少し遅かった。

建物を出るとそこには大勢の野次馬とへっぴり腰の衛兵達がいた。

従業員が通報したらしい。

「ああ、面倒だ。実に面倒極まりない」

やっぱり最初の三人とロビーの何人かを勢いのまま街灯に串刺しにしたのがいけなかったか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 20 ラキュース

アンゲリカ「うーん これ使ったらラキュースに私の赤ちゃん孕ませられるかな?」カレル文字 アンゲリカの蠢き


「アンジェ・・・全くどこに行ったんだ?」

王都の上空に『飛行』の魔法で飛び上がったイビルアイは

アンジェを探して街の建物の上からあたりを見渡していた。

本来なら、王都内での『飛行』魔法を緊急時でもない限り使うことはないが

今がその緊急事態だ。

ドラゴンが監視の目もなく歩き回っている、それくらいの危険度。

(まずい・・・まずいぞ・・・)

時が経つにつれてイビルアイの焦りは募るばかり、

そもそも自分が目を離したのがいけないのだ・・・

なんで、250歳とはいえ見た目幼女の自分が大人の面倒を見なけりゃいかんのだ!

だいたいあいつもあいつだ!

幾ら珍しいからって自分がいることを忘れなけりゃこんな事には・・・

と思いながら辺りを見渡すと、かすかに臭ってきた

吸血鬼としてのイビルアイの鋭い嗅覚に反応する血の匂い、そして人々の騒ぐ声・・・

ああ、遅かったなとイビルアイはどこか達観した気分で現場に駆けつけた。

 

「ぶ、武器を捨てて大人しく縄につけ!」

へっぴり腰の衛兵が尻すぼみの声でアンゲリカに呼びかけるが、

そんなものを気にする様子はなく平然と足を進める。

その度にあちこちからヒッと言う声とともに人垣が割れて道ができあがる。

「あーあ、何なのよこいつら。自分から喧嘩売っといて負けたから通報?

呆れた根性ね」

 

だがそんなところにイビルアイがそれはそれは見事な勢いで駆けつけた。

 

「な・・・何をやっとるんだぁぁ!」

 

「あーイビルアイ?出迎えごくろー。じゃ帰ろっか」

 

「おい!何やってるんだ!あのイカれ女を早く捕まえてくれ!

何のために日頃から高い税金を払ってると思ってるんだ!」

 

店の従業員が叫ぶが、十人以上の80kgはある大の男を街灯のよりも

遥か上まで放り投げて串刺しにするどこぞの始祖もどきを誰が率先して捕まえようと言うのか。

 

「おい!アンジェ!一体なんでこんなことをしたんだ!」

軒先の街灯には死体が突き刺さっているが、それも中に比べれば可愛げがある。

店先も中も死体と内臓がぶち撒けられ凄まじく冒涜的な光景になっている。

自分のはらわたで吊り下げられている肉塊が店の中で

滑稽にぷらぷら揺れている様はてるてる坊主のようだ。

お茶の間にはちょっと放映できない有様だ。

「うーん、成り行き?そこの袋開けたら、いちゃもんつけられて、

ヒデブようこそヤーナムタウンへドッスンバッタン大冒涜になった」

アンゲリカは特に理由もなく殺したが、説明するのも面倒なので麻袋を指した。

「何を言ってるんだお前は・・・この袋が?う・・・」

イビルアイが麻袋の”中身”を見る。

「おい・・・私はアダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”だ。

お前の店の仕業か?これは」

イビルアイは袋の中の女性にポーションを飲ませながら、通報してきた店の従業員に凄む。

イビルアイの気迫に押され、チンピラ上がりの従業員は怯むが

「な・・何だって言うんだよ!そ、その女がうちと関係あるからなんだってんだよ!

今問題にしてんのはそのイかれた女だろ!うちの連中皆殺しにしやがって!」

 

「よく言うわよ、私にいちゃもんつけて借金被せようとしたのは誰かしら?

それに武器を最初に抜いたのはそっちでしょ?私の持ってるのは、ほら護身用の杖だけよ」

血の岩で最大限まで強化した仕込み杖で殴っておいてこの言い草である。

外観こそただの杖だが、血晶石と合わせて破壊力だけなら神器級の杖の前では

人間などという冒涜のナメクジ以下の防御力の物体は何の抵抗もなくすり抜けるだろう。

ガンパリィする必要性すら無かったのは残念だった、もっと血が欲しい。

 

「フゥン、成る程。事情は飲めた、私は彼女”ミスリル級冒険者アンゲリカ”を支持する。

お前たちがやったのは明らかに悪質な奴隷売買だ!この悪党どもめ!

役人に袖の下さえ渡しておけば何とでもなると思ったか!」

イビルアイは事情を察した。

女性として怒りと、同時に心底情けなくもあった。

かつての十三英雄と同じぷれいやぁのアンゲリカに王国の恥を王都に来て早々に見られたことについても。

「ふっ!ふざけるな!こんなイかれ女の肩を持つのか!

冒険者組合は身内の不始末を誤魔化す気か!」

 

「それについては後日、組合の方から説明があるだろう。

だが、今はこの一件が先だ!おい、目の前で違法営業の娼館を放っておくのか!」

 

イビルアイに発破をかけられ、おっかなびっくりしていた衛兵たちはお互いにどうしようかと目を合わせる。

 

「ふぅん・・・衛兵さんはこれを見逃すの?私・・もう一回怒ろうかなぁ・・・」

 

アンゲリカはそっと静かに彼らの勇気を後押ししてあげた。

衛兵たちはこんな化け物を相手するよりは娼館一つで済むのならと目の前で喚き立てる従業員を縛り上げた。

「さぁ立て!違法営業行為・および恐喝、強姦未遂の現行犯で逮捕する!

イビルアイ様、並びにアンゲリカ様!捜査にご協力ありがとうございます」

 

顔を蒼くしながら二人に敬礼し、なお喚き立てる従業員を引っ張っていく衛兵。

力こそ正義である。

 

「ああ、それと・・・建物の中もちゃんと捜査しとくのよ。

被害者女性の救済も忘れないでね。

後で聞きにいくけど、証拠物件が紛失して証拠不十分で釈放なんて・・・ないわよね?」

 

「ひっ、も、勿論です!徹底的に捜査し、関係者には重罰が下されるでしょう!

おい!被害者女性を丁重に保護し、すぐに神殿に運び込むんだ!」

衛兵隊長が部下に指示を出し、娼館に踏み込む。

中の惨状に吐き出した衛兵も、痛ましい女性達の悲惨な状態に

これではあの人がブチ切れるのも無理はないと思いロビーで吐いたことに感謝した。

 

アンゲリカは自分を嵌めようとした連中に呆れたが、

血を大っぴらに楽しめたことには感謝していた。

そのきっかけを作ってくれた女性達にお礼くらいあってしかるべきだろう。

 

このようにしてアンゲリカは王都到着の初日に大虐殺をしたミスリル級冒険者から

王都到着の初日に攫われ陵辱の限りを受けて来た女性達の状況に憤慨してこれを叩き潰した正義の人として世間に知られることになった。

この美談は血なまぐさいところは消して、王都の演劇や吟遊詩人にも歌われるところであった。

美貌の冒険者が悪を討つ、実にわかりやすい勧善懲悪の物語だ。

その一方で『串刺し夫人』『解体屋』といった異名も少し広まってしまった。

・・・・・

 

宿屋に軽い取り調べの後に戻ってくるとそこにはドレスからいつもの冒険者装束に着替えたラキュースが待っていた。

イビルアイが実に言いにくそうに事の顛末を報告すると、ラキュースは持っていた紅茶のカップを落とした。

「そう・・・それで?

王都を観光してたら何で人を串刺しにしてたり、内臓引っこ抜いたりしてるのかしら?

うん?」

 

「・・・・・・・ごめんなさい、はんせーしてます」

アンゲリカは反省する気0なのははっきりとわかった。

ラキュースは王宮から戻って来て事の顛末を聞くと静かにキレた。

瞳から色が失せ、暗黒の殺人者の目をしたラキュースはなぜだかわからないが

とてつもなく悍ましく名状しがたい宇宙的恐怖を連想させた。

輸血したら啓蒙高まりそーと思ったが口には出さないでおいた、余計にキレさせるだけだ。

 

「まぁまぁ、リーダーもそうカッカするなよ。

疲れてるんだろ?もう休みなよ」

 

「鬼リーダーをアンジェと私が楽しませればいい。ベッドでギシギシスッキリs『アベシ!』」

 

「鬼ボスがこんな調子だから嫁の貰い手もない。いっそアンジェと結婚すれば『ヒデブ』」

 

おバカなことを言って囃し立てる姉妹に本気の真拳を叩き込み黙らせると鼻からフーフーと荒い息を出した。

折角の美人もこれでは台無しだろう。

「いい!?もう街中で大虐殺はダメよ!」

「わかった、小虐殺に止める。ついでにベッドで一緒に寝よ、あと処女頂戴」

「ちっがーう!そして隙あらばセクハラしようとするな!」

 

 

「ラキュース・・・アンジェに言っても無駄だ。

それにアンジェの方も正義感からした・・・んだよなぁ。

うん、そういうことにしとこう。

ま、まぁ結果としては大勢の女性が助かって悪党を叩きのめしたんだからいいじゃないか!

それにほら!相手には何とあの八本指の六腕の一人、サキュロントもいたんだぞ!

すごいじゃないか!これから戦う相手の一人をもう倒したなんて!」

イビルアイがフォローに回る。

確かにこれから八本指と戦うに当たって連中の戦力の6分の1を先制して叩けたのだから

棚からぼた餅というべきだろう。

あの戦闘も結局はアンゲリカを手篭めにしようとした連中が襲いかかってきた結果として

正当防衛として認められた。

 

「・・・・はぁぁぁ、まぁいいわ。

とにかく今日は寝るわ、どっと疲れた。

明日には例の件の製造拠点に向かってそこを破壊するから、皆も用意しといて」

 

「寝るの?それなら私も一緒に・・・」

と言ってそそくさと脱ぎ始め、下着姿になるとティアが興奮して飛びついてきた。

これからチュッチュチュパカブラな展開がラキュースと始めようとしたが

「だから隙あらばセクハラすんなつっとるだろーが!」

キレられてしまった。

やはり処女なのが怒りっぽい原因の一つなのだろうか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 21 入団試験

前回までのけもの狩り
 けものはいてものけものはいないよ
アンジェ「すっごーい、君はワンちゃんの餌のフレンズなんだね!」
サキュロント「食われました、ワンちゃんに」


「それで?サキュロントのバカが犬死したのか?

バカだバカだとは思っていたが、ミスリル級に殺されるとはバカここに極まれりだな」

王都のスラム街、そこの目立たない酒場風の建物の特別な一室に怪しげな集団がいた。

スラム街にある建物はどれも薄汚れており、この酒場も一見したところ溶け込んでいるが

この集団のいる部屋は一目見ただけで高価な家財がしつらえており、其の事が彼らの暗黒社会での地位と権力を示している。

八本指の実戦部隊『六腕』

今ここに昨日殺されたサキュロント以外の5名が集まっていた。

死人をバカと言ったのは筋骨たくましく刺青を入れた闘鬼の”ゼロ”

彼らのボスであり、アダマンタイト級冒険者は愚か王国戦士長にも匹敵する実力の持ち主。

 

「ああ、全くこっちの身にもなって欲しいよ。

おかげでこっちにまでとばっちりが飛んできた。上の連中は面子・面子とうるさいからな。

死ぬのならせめてアダマンタイトチームに追い込まれて殺されて欲しかったよ。

そうすれば言い訳もできたものを!」

鎧の男、空間斬のペシュリアン

空間すら断ち切る斬撃を放つ男。

 

「それも正面から喧嘩を売っておいてこのザマだと。

ふん!早くも王都に新しい英雄様のご登場か!其の女もだが、サキュロントの方も俺が殺したいくらいだ」

“千殺”マルムヴィスト、毒剣を使っての暗殺を得意とする超一流の暗殺者。

 

「たかが、落ち目の娼館一つ潰された程度痛くもかゆくも無いけど。

それとこれは別ってワケねぇ、死んでまで同僚に迷惑かけるなんてあのバカらしいっちゃらしいけど」

薄衣の妖艶な女 ”踊るシミター”エドストレーム

五本の刀を自在に操る凄まじい才能の持ち主。

 

「で、問題はこの件をどう落とし前をつけるかだが?

誰かサキュロントの仇を討とうというやつはいるか?」

 

漆黒のローブを纏う不気味な人物が皆に問いかける。

暗い空間にしばし沈黙が走る。

「いるわけはないな・・・所詮は人数合わせのためにとってつけられたような奴。

むしろ感謝すべきだろう、そのウルフテイマーのアンゲリカとやらには。

あの手品師に払う退職金が浮いたわけだからな」

 

他の四人が故人を嘲笑って失笑する。

実際に、幻影を作り出すとは言っても彼自身に卓越した魔法や剣術があるわけではない。

アンゲリカ相手に舐めてかかったが、本来は奇襲で相手を幻影に向かわせて自分は死角から襲いかかるのが最も効率的だったろう。

タネが割れれば対策などどうとでも取れる、初見だけに通じるまさに”手品”。

同僚の死体蹴りはなおも続いたが

ローブの男がおもむろに右手を上げて提案する。

「さて・・・ゼロ、提案がある。

私が調べた限りではそのミスリル級のウルフテイマーのアンゲリカはかなりの実力者だ。

奴の狼は難度100。間違いなくゼロ、お前でも負けかねんよ」

 

皆が目を丸くする、ゼロが負ける?ありえないとでも言うように。

そして難度100?信じられない、それこそ伝説の魔獣ではないかと

それを使いこなすと言うテイマーならアダマンタイト級でもおかしくはあるまい。

 

「確かに・・・俺の戦闘スタイルは対人戦闘に向いている。

大型モンスター相手に不利になるのは否めん、だがデイバーノックよ。

不利だからと言って俺が負けるとは思っておるまい?」

 

不死王デイバーノックは苦笑する。

ローブを払ったその下の顔は生者を憎むアンデッドのそれであった。

この世界では圧倒的強者にちがいないエルダーリッチ、そんなおそるべき者までもこの犯罪組織に加わっている。

「確かに・・お前相手にちょっと大きいだけの獣で勝てるとまでは本気で思っておらんよ。

だがそ奴の実力はわかったろう、我ら六腕といえど油断すれば敗北しかねん。

そこでこの提案だ。その狼使い”アンゲリカ”を六腕に勧誘し、サキュロントの後釜に据えるのは?」

 

不死王の提案には誰もが戸惑いを隠せないと同時に成る程と言う感想もあった。

 

「成る程、それならより前任者を破ったから後任になるという言い訳もたつ。

腕も確かだし、後釜の問題も解決するだろう。

だが?仲間に加わるかな、その女?

聞いた話では正義の味方気取りの蒼の薔薇の後押しを受けてるんだろ?」

マルムヴィストが疑問に思う。

 

「ふむ、確かに世間では正義の為にとなっているな。

だがな、逃げ出した従業員の話を聞いているとその女は正義の味方とも言い切れんようだ」

 

「と言うと?」

 

「その女の殺しの手口は残酷無情、俺も現場を見、従業員の話を纏めたが・・・おお、あそこまで悍ましい殺し方はなまなかなアンデッドでもしはしまい。

そしてわかった、あの女は血に飢えた血狂いよ。

こちらが言いがかりをつけたのをこれ幸いと殺しを楽しむ、ある意味では冒険者連中よりも我々の方に近い感じがするな」

 

場に居合わせたものがしんと静まる。

不死王を持ってして悍ましいとすら形容させるのならば、その性質が善だとは到底思えないだろう。

 

「ほう・・・成る程、つまりそいつが我々に入る可能性は十分にあると言うわけだな・・・

よかろう、で?誰が勧誘する?」

五人が顔を見合わせる、

「それなら俺がやろう、その女ってのは評判の美形なんだろ?

なに、入るならよし、さもなきゃ・・・くっくっくっ。

どっちに転んでも損はない」

空間斬のペシュリアンが名乗りを上げた。

 

「ふむ、まぁいいだろう。

その女はテイマーでもあるが、接近戦もこなせるようだからな。

この中で正面から立ち向かうなら俺かお前が適任だ。

なに、ちょっと脅すか傷でもつけてつけあがった格の違いを教え込んでやるだけだ」

 

そう言ってゼロはペシュリアンに交渉を任せることにした。

 

 

 

翌日、アンゲリカは冒険者組合から呼び出しをくらった。

首都で大立ち回りをした挙句、建物を潰したのだから組合どころか衛兵から呼び出しをくらってもおかしくは無いが。

アダマンタイト級への昇格試験だと言うことだった。

なんでも六腕の撃退とこれまでの実力が認められて王都でのみ登録可能なアダマンタイト級冒険者への昇格が認められたらしい。

「すごいですよ!登録してからあっという間にアダマンタイト級なんて!」

受付嬢ははしゃいでいる。

「うん?でも私これから・・・」

とそこまで言いかけて今回の蒼の薔薇の任務に同行する予定だったのが突然の昇格試験。

これでは彼女たちに同行できないので、後にしてもらおうと思ったが秘密任務ゆえ理由が開かせない。

理由もなしに試験を先延ばしにしてください、では印象が悪い。

それに試験内容にしてもアダマンタイトにふさわしいかどうか見極めるものゆえ、簡単に用意できるものではないらしい。

今回を逃したら次はいつになるやらわからない。

この事をラキュースに話すと

「ええ?もうアダマンタイト!?ってまぁ貴女の実力なら当然か。

うん、もちろん試験受けてきて!大丈夫よ、元々私たちだけでこの任務を受けるつもりだったし!・・・・まぁ不安じゃないかと言われればそうなんだけど・・・」

 

それに蒼の薔薇と行動するなら後々の事を考えればアダマンタイト級の信用を得たほうが良いだろう。

そう言うわけでアンジェは試験を受けることに決定した。

だが・・・彼女が試験を受けるとう報告を受けてほくそ笑むものたちがいるとまでは彼女にもわからなかった。

「ククク・・・ここまで思い通りとはな。

顔と腕はいいが所詮は田舎娘。六腕の真の恐ろしさを教えてやる」

試験自体は正式なもの、だが冒険者組合にも八本指の指は届いていた・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 22 優しい手

グランドマスター 薪の王 グウィン(ワールドボス)
セイバー 狼騎士アルトリウス(ワールドボス)
ランサー 竜狩りのオーンスタイン(ワールドボス)
アーチャー 鷹の目ゴー(ワールドボス)
アサシン 王の刃キアラン(ワールドボス)
バーサーカー 処刑人スモウ(ワールドボス)
キャスター 陰の太陽グウィンドリン(ワールドボス)

・・・・・・ライダー 無名の王(隠しワールドボス)
いずれも英雄の名に恥じぬ強者ばかり
これが復活のアノールロンド必殺の陣イベントか



 

アダマンタイト級への昇進をかけて試験に挑んだアンゲリカ。

だがそれは彼女を六腕に引き込もうと言う罠であった。

試験内容は近隣の森で都市に農作物を卸している農村と都市の通商路に近年出没するバジリスクの討伐である。

(バジリスク・・・Lvで言えば15から20程度といったところか

いや、この世界では成長に爬虫類は限度がないからもっと上に行っている可能性もあるが・・)

大型の爬虫類はかなり長生きするという話を聞いたことがある。

この世界でバジリスクが脅威となっているのはまず第一にその石化の眼を防ぐ方法が極端に少ないため。

アンゲリカからすれば実につまらない性能のマジックアイテムすら高価で貴重とみなされているのだから確かに見られれば防ぐ方法のない石化の魔眼は脅威だろう。

中世レベルの文明世界で携帯可能なレーザーライフルがあるようなものだと言えば読者諸君にもどれだけモンスターが恐ろしいかお分かりいただけるだろうか。

だが、今彼女の前にある洞窟はあまりにも小さい・・・

そう、冒険者組合から渡された資料によればバジリスクが寝ぐらとしている洞窟はここで間違いない。

だが、まるで狩人の悪夢でガトリング砲持ちがを構えて待ち構えているような・・・

(ふぅん・・・・・この血の匂い・・獣じゃない・・息遣い、十人ってところか)

アンゲリカには既に目星がついていた、それなりに頭の回る奴が待ち構えている。

ここまで乗せてきてくれたシフに入り口付近で待機するように命令する。

「ここで待ってて、あなたじゃ中には入れない・・・それに中の連中は私に用があるみたいね」

そういうと、中にザクザクと踏み入って行く。

中からは獣特有の生臭さは感じず、ここがバジリスクの寝ぐらではないのは明白だ。

だが、冒険者組合から渡された地図では間違っていない。

考えをまとめると、彼女はこれが八本指の罠だと直感した。

殺した六腕の意趣返しか、実に仕事が早いとも思った。

中に入って、通路を抜けると・・・なるほど人の気配を感じる。

広場のようにある程度広まった洞窟の中は頭上の亀裂から日光がさしているが連中のいる場所には差さない。

大人数が少人数を待ち伏せするには絶好のポジションだろう。

杖をカンカンと床に打ち付けると

「いつまでも隠れているのはやめにしたら?そっちはこっちに用があるんでしょ?」

 

すると岩や瓦礫の陰から男たちが驚いたような顔を覗かせた。

(Lvにして10から15ってところか、あれは25くらいか?

重戦士にしては剣が細い。ああ、成る程な)

アンゲリカは鎧姿の男のその構えた剣が自分の杖や獣肉断ちと基本的な考えは同じだと一瞬で見抜いた。

顔には出さないが、それがガラクタ同然のゴミだとも気づいた。

「ほう・・・俺たちの気配に気づいたか・・ふっ、流石にサキュロントを倒すだけの事はある。

軽装のビーストテイマー・・レンジャーとしての能力もあるのか?

ああ、自己紹介が遅れたな俺は”空間斬”のペシュリアン。

お前がこの前殺したサキュロントの同僚・・ということになるのかな?」

 

「サキュロント?よく覚えてないわ。敵討ち?仲間思いね」

自分を殺した相手に名前すら覚えてもらっていない。

敵からは無視され、味方からは死体蹴りされる惨めさに少し同情した。

 

「おいおい、誤解しないでくれよ。

俺たちの中の誰一人あいつが死んで悲しんでる奴なんかいない、むしろ殺してくれたあんたには感謝してるくらいだ。」

 

「そう、冷たい同僚を持ってお気の毒ね。

お葬式にくらい行ってあげたら?」

 

「全くだ、この前の事件。世間じゃお前が正義の味方だとチヤホヤしてるが、あれは単なる喧嘩だろう。

従業員の証言や殺し方を見れば、あんたは単に売られた喧嘩を喜んで買っただけ・・・

正義を行う意思なんて最初からなかった・・・どうだ、違うか?」

総合的に判断すれば正義の味方なんてする気は無かった。

要するに酒場の喧嘩で悪党をぶちのめした奴だからと行って善人だとは言えないのと同じだ。

悪党が悪党を殺すのが普通に起きるのがこの世の中だ。

 

「確かにそうね、単に血が見たかっただけと言われればそう。

正義の味方気取りなんて考えても見なかったわ」

 

彼女の物騒な答えに満足したのか続ける。

 

「それなら、話は簡単だ。俺たちの仲間にならないかってのが提案、俺たち八本指は王国を裏から牛耳る闇社会の組織、そしてお前に提供しようって椅子はその組織の実行部隊の六腕の地位だ

考えても見ろ?この先アダマンタイト級に登ったってこの王国に未来があると思おうか?

無いね、王国は遅かれ早かれ帝国にぶっ潰される。

あんたは知らないかもしれないが、冒険者なんてものは帝国ではもう無用の長物に成り下がりつつあるのさ。

王国が潰されたら、冒険者なんて日雇いのワーカーと同じ汚れ仕事を貰ってその日その日を喰い繫ぐだけのつまらん下働きに転落する。

いや、ほとんどの冒険者は今でも食うや食わずだからもっと酷くなるだろうな。

俺たちは違う、俺たちは王国も帝国も関係ない。

時代が変わっても闇がなくなる事はない、この先つまらん下働きになって安い報酬でこき使われたいのか?

俺たちの仲間になれば思いのまま力を振るって大金を稼げるんだ、どうだ悪くない話だろう」

 

「フゥン・・・成る程、冒険者からヤクザへの引き抜き?

いいわね、特に暴力最高ってところが気に入ったわ」

 

「だろう?話がはや「でもねぇ」ん?」

 

アンゲリカはペシュリアンの話の腰を折る。

「あんたらは勘違いしてる、

1つ:私はしたいのは狩りであって、暴力じゃない

2つ:正義の味方気取りはなくても、正義の味方と言う評判は役に立つと知ってる

3つ:私の本性を知ったあんたらを・・・私がここから生かして帰すと思う?」

 

恐ろしく冷たい言葉をかけられ瞬時に右手に構えた剣を振るおうとする

(ヤバい。こいつは悪党じゃない、獣だ)

交渉決裂とみて部下たちは構えたクロスボウを一斉に発射し

ペシュリアンは矢を避けたか、弾き返したアンゲリカに蛇剣の射程まで近づき確実にとどめを刺そうとする。

だが、目の前に現れた光景はあまりにも非現実的だった。

蒼ざめた美貌の女の顔がすぐ目の前に現れた、黒い洞窟の中にあって白く輝く女の顔だけがまるで浮いているようだった。

次の瞬間、耳元に囁きが聞こえる

「地獄に行ったら、悪魔にこう言いなさい。

天使の美しい手で地獄に来れましたってね」

 

瞬時、アンゲリカの右手が分厚いミスリルでできた鎧を紙のように貫きペシュリアンの心臓にまで達する。

 

自らの心臓を掴まれる悍ましい感覚と痛みで全身が硬直したペシュリアンは動くことすらできず直立したままだった。

そして彼はみた、自らのまだ鼓動している心臓が引き抜かれていく様を

 

「あら、綺麗な心臓ね。心は真っ黒なのに・・・」

文字通り息も絶え絶えのペシュリアンは目を最大限まで見開き、口から言葉を絞り出す。

「か・・返せ・・俺の・・俺の心臓・・」

「Non!」

次の瞬間、グチャァ!と言う音とともにアンゲリカは持ち主の目の前で心臓を握りつぶす

 

絶望に目を見開き、倒れこむ。それがペシュリアンの最後だった。

あまりにも呆気ない自分たちの上司の死に様を見てすくんでしまう残りの部下たち。

ペシュリアンは絶対的な強者として自信があり、ここにいるものは精々脅しの飾り程度の役だろうと思っていただけに予想外の事態に頭が追いついていかなかった。

 

「な!何してやがる!撃て!あの女を殺せ!」

部下の中でリーダー格の男が数秒間の沈黙の後にやっとの事で思い出したように号令するが、全て遅かった。

「あら?撃たないのかしら?」

なぜ、後ろから女の声が聞こえるのだ?目の前に・・・いない!あの女はどこに行った?

それに部下たち、なぜ誰も撃たないどころか声も挙げないのだ?

「ふふ、みんな疲れて寝ちゃったみたいね・・・でも大丈夫・・・あなたもいい夢見れるわ。

あるいは・・そう、何が起ころうとも、悪い夢のようなものだから・・・」

ヒュン、という音とともにリーダー格は自分の中にとても優しい手の感覚を覚えた。

「あ・・あああ」

「大丈夫、痛くないわよ。

北斗有情破顔拳!せめて痛みを知らずに逝くがいい・・・なーんちゃって」

 

ペキッ!という音とともに世界が暗くなり、リーダーの命の火もどこかに飛んで行ってしまった。

・・・・・・・・・

「あーあ、全くつまらないオファーだったわね」

 

洞窟から出てきたアンゲリカは死体から防具や武器を剥ぎ取るとアイテムボックスに収納した。

足のつかない武器は現地の現金に換金し小銭稼ぎにぴったりだ。

更に念を入れて洞窟も破砕しておくことにしようとする。

右手と左手でかの聖剣を握る、あの醜い獣のように・・・

「あぁ、我が師・・・導きの月光・・・墓所なき者共に安寧を・・・

ルナティックスレイヴ!」

 

月光の光を帯びた剣が煌くと洞窟に向かって翡翠色の斬撃が飛んでいき・・・

斬撃は大地を剔り、空を割き森を消しとばして洞窟を粉微塵にした挙句にちょっとした谷を作った。

「シフ、帰ろうか。実につまらん連中だった」

当初の目的の月光の聖剣の威力確認もできた、小銭も獲得できた、依頼が嘘っぱちだった件であとは冒険者組合を締め上げてアダマンタイトのプレートを発行させれば万事めでたし。

 

だが、彼女の放った月光の斬撃を遥か遠くで感知したものがいた事にまでは気づかなかった。

 

 

『今の感覚・・・ああ、また世界のどこかが歪められたのか』

今、白金の鎧武者が満月を仰ぎながら彼方で放たれた世界を歪めるものの波動に嘆息した。

『悪しきぷれいやぁか、良きぷれいやぁか・・・傍観者ならまだ良し、だが悪しき世界を歪めるものなら・・・』

アーグランド評議国永久評議員、【白金の竜王/プラチナム・ドラゴンロード】ツァインドルクス=ヴァイシオン

ぷれいやぁを恐れるものの一人・・・いや一柱であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 23 戦士長

もしもここが悪夢の世界と原理的に同じだとしたら
肉体は既にヤハグルのミコラーシュのように滅んでミイラになってると思う。
悪夢から逃れたと思ったアンゲリカを待っていたのは別の悪夢だった
つまりどう足掻いても永遠に悪夢からは出られない、怖すぎる

BGM The Hunter
アンゲリカ

ガゼフ Lv27
アンゲリカ Lv100
シフ Lv100




 

「さて、どういうことか説明してくださるかしら・・・・・」

王都の冒険者組合の受付嬢に詰め寄るアンゲリカ。

そもそもバジリスク討伐が依頼内容だったはずなのに、塒のはずの洞窟で出てきたのは六腕の幹部。

誰が考えたって、冒険者組合が操られたとしか思えない状況。

『おい見ろよ、すげぇ美人だな。依頼に来たどこぞのご令嬢か?』

『ばか、”串刺し姫”だ。死にたいのか』

『あれがか、噂通りの美しさ・・・まるで月の女神・・・』

『俺、ラキュースさんのファンだったけど、アンゲリカさんのファンになったよ』

『いや、一番はやっぱりラナー姫様だろ』

 

組合に入っていくと人で混雑していた中も彼女の前から人が退いていく。

「組合の依頼はバジリスク討伐、にも関わらず私は犯罪組織の襲撃を受けた・・」

 

カンカン・・と杖で床を叩く音が聞こえる。

 

 

「組合が犯罪組織と繋がってた・・・大スキャンダルね、これ」

 

受付嬢はアンゲリカの脅しに蒼くなったり、涙目で『申し訳ありません!ただいま組合長を呼んで参りますので!』と大慌ててでパタパタと受付から事務室の方に飛んで言った。

 

アンゲリカとしては別に大して怒ってもいないが、先日の『串刺し姫』の二つ名をつけられた事件以来別に大したこともしていないのに恐れられるようになってしまった。

恐怖する者とファンとではっきりと区別がつくようになったのは喜ばしいことだろう。

ちなみに受付嬢は恐怖する方であった。

受付の椅子に腰掛け、紅茶を嗜んでいると組合長の方が駆けつけて来た。

「まっことに申し訳ありません!」

と駆けつけるなり南方より伝わる最大級の謝意を表すポーズのドゥゲザァで足元にひれ伏して来た。とはいえ、美女の足元にひれ伏したい男なら世の中にはいくらでもいるのでご褒美かもしれない。「この度の依頼がまさか犯罪者達の罠だったとは知りませんで!」

「いや、私が言ってるのはバジリスクじゃなくて・・・えーと何だっけ?

鎧着てペラい剣持ってた・・・6うでの・・・何だっけ、何でもいいや。

とにかく、そいつを殺したし面倒くさいしアダマンタイトプレートを発行して欲しいのよ。

これ、証明がわりでいい?」

啓蒙の低い連中の名前などいちいち覚えていないのであった。

 

そうやって冒険者組合の受付に袋から血塗れのペシュリアンの空間斬の剣と首であった。

極限まで薄く鍛えた刃を腕の微妙な動きで蛇のようにうねらせて相手の不意を突く剣だったが

ネタを明かせばその程度であり、同レベルあるいはそれ以上の相手には切れ味特化ゆえ重さが足りず二撃目が遅いため接近されたらどうするつもりだったのだろうか?

初見で一撃で相手を確実に仕留める事に特化した剣法を持って、正々堂々と相対するのが間違っている。

不意打ちしようとしてもこの実力差では結果は同じだろうが。

「ひぇ!」

受付嬢は今までにも討伐されたモンスターの一部を換金するくらいは平気で行える。

とはいえ、普通に人の首を野菜でも置くみたいに差し出されたのは初めてだった。

啓蒙の低い連中なら大騒ぎするだろうが、受付嬢や組合長は蒼くなっただけだ。

美女と首というあまりにも凄惨な組み合わせに,勃起した啓蒙の高い連中もいたことを記すこともあるまい。

とはいえ、この世界の住人の啓蒙は低すぎる!

そう、思考の次元が異世界の人間は低すぎるのだ・・・・・

だが、手っ取り早くインスタントで啓蒙を高めようとした連中の末路は知っての通り。

ウィレーム先生のおっしゃる通り、自分の力で成長せねば意味はないのだ

所詮、永劫不滅の存在のアンゲリカは彼らとともに歩むことなどできはしない。

なぜ?自分はこんな事を考えるのだろうか?というかここが悪夢の世界の延長線上なら一つの世界を生み出す儀式には代償が・・・

いや、これ以上啓蒙が高くなりそうな思考はやめよう。

 

目の前に差し出された六腕の一人の頭を見て、啓蒙が高まったのか組合長は大急ぎでプレートを用意させていただきますと言って『君!後は任せたから!』と受付嬢に全てを任せて転がるように事務所の方に

「うん、それじゃぁ私は宿屋の方に戻るから・・・」

と受付嬢の手に首と剣を渡してアンゲリカは出ていってしまった・・・・

「ええぇぇぇぇぇ!?」

涙目で頭を抱えるのだ、今や頭は二つあるが。

 

・・・・

しばらくして、受付嬢が死んだ目をしながら抱える首を受け取りに来たのは王国の戦士団であった。

六大貴族が連んでいる事は言ってみれば公然の秘密であり、その手下の一人の首となると彼らは下手に触れて自分たちまでとばっちりが来ては敵わないと八本指関連は衛兵には無視するように言付けておいた。

そのおかげで取りに来るのは王国の戦士という有様なのだから・・・

そして今ここに犯罪者の首を取りに来たのはガゼフ・ストローノフ王国戦士長。

殺されたペシュリアンは大物であり、報告を受けた戦士長も半信半疑だったのでついて来たのだが。

「ランランラーン、ランランラー・・・」

死んだ目をした受付嬢は発狂でもしたのか歌を歌っていた。

聞くものの啓蒙をあげそうな良い声だと思うのだが、カウンターの上の首を見れば常軌を逸しているのは明白であった。

「おい!君、通報通りあのペシュリアンの首検分に来たのだが・・・」

 

「あ・・・はい・・・どうぞ・・」

とガゼフにぽんと首を渡す、受付嬢。

戦士長に向かってその態度はどうかと思うが、ガゼフにもそのお付きの騎士にもそれを咎める気はなく。

虚ろな目で彼方に何かを呼びかけるような彼女をそっとしておいてあげるくらいの優しさはあった。

「うむ・・・・これがか・・・しかし、モンスターのでもあるまいし幾ら罪人のとはいえ

首を持ち込むなど・・・」

 

「戦士長、これが・・・・あの六腕の空間斬ペシュリアンでしょうか?

偽物という可能性は?」

 

「・・・いや・・この剣、そしてひしゃげたこの鎧に顔。

確かに違法に奴隷を捌いていた八本指の戦闘部隊の一人に相違ない。

お前たちは知らんかもしれんだろうが、私は嘗て六腕と衝突したことがあってな。

その時には結局貴族どもの圧力で連中を殲滅する事は出来なかったのだが・・」

 

「・・ですが戦士長なら勝てたでしょう」

 

「確かに、こいつらの戦い方は言って見れば暗殺者に近いものだった。

最初の一撃を凌ぐか正面から正対すれば勝てるだろう

だが、こいつを倒したのはまだうら若い女性だと聞いているが?

おい、君!」

 

「ああ、ゴース・・・あるいはゴスム・・・・

あれ!?あ!はい!?何のご用でしょうか?」

啓蒙の高い独り言を呟いていた受付嬢に問いただすと正気に戻ったようだ。

 

「大丈夫かね?こいつを打ち取ったのはまだ若い女性だと聞いているが?」

「は、はい。今回の六腕を2名討伐した実力でアダマンタイト級冒険者への昇格が間違いない

”血姫アンジェリカ”様ですね」

血姫、随分と物騒な二つ名だなとガゼフは思う。

戦士長が現れたという事で冒険者組合には冒険者以外にも物見高い庶民が大勢現れた。

『戦士長、まだ噂は聞いてないんですか?

皆その噂で持ちきりですよ、”串刺し姫”アンゲリカ!

今王都で知らない奴はいませんよ』

 

『俺は大狼使いのアンゲリカだって聞いたぜ!門の前に巨大な狼で現れたんだと!』

『強大なビーストテイマーの上に暗黒街に名を轟かせる六腕を二人もやっつけちまうなんて、こりゃとんでもない新人だって持ちきりですよ』

 

噂話を聞いたガゼフは確かに驚いた、王国ではビーストテイマーや魔術師といった自分の手で戦わない者を重視しない風潮がある。

だが、それはガゼフも間違いだと思う。

強力なビーストテイマーなら森や山岳地帯といった人間の不得意な場所を突破することも

人では出来ない速度を活かして偵察、伝令として活躍することもできる。

現に帝国ではビーストテイマーの鷹使いが伝令・偵察として活躍し重視され王国は毎年のように動きを読まれ先手、先手を取られて被害を出している。

数に頼っただけの大軍なだけに素早い命令を行き渡らせることができないのだから

せめて伝令役の魔術師かせめて伝書鷹使いがいればと思うが

王国の偵察・情報伝達軽視はなかなか治りそうにない。

(・・・・迂闊だった、そのような強者が冒険者組合に入ってしまう前に勧誘出来なんだとは・・・)

ガゼフにしても冒険者が王国にとって重要だとはわかっている。

とはいえ、そこまでの才能がある者ならば王国に仕えて王を支えて欲しかったというのが本音だが。

(いや・・・アダマンタイト級とはいえ、なりたて・・・チャンスはあるか?)

ガゼフはこの件を後に王に報告しようと思った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 24 王城

ヤーナムTVで絶賛放送r中、けもの狩りフレンズ!
一話見るごとに啓蒙が7up!

Ooh majestic!(すごーい!)

PPPようこそヤーナムタウン!
今日もドッスンバッタン大冒涜!


アンゲリカは宿屋のベッドにドスッと行儀悪く寝転がる。

「はぁ、やれやれ。普通の冒険よりケダモノ狩りの方が多いんじゃないかな、これ」

ちなみに宿泊しているのは蒼の薔薇と同じ王国の高級宿屋。

本当はラキュースの帰りを彼女のベッドを温めながら待ちたかったが、あまりにもひどいセクハラなので追い出されてしまった。

全ての上位者は赤子を失い、そして求めているのだ。

服をポイポイと脱ぎ散らし、下着姿でベッドに寝転ぶ。

血の宴に酔い、満足ではあるが望んでいた冒険者の姿とは違う気がする・・・

冒険者とは未知の古代遺跡や大自然の神秘を解き明かし

文字通り、とてつもない冒険が始まるものと期待していた。

だが実際には王国の冒険者とは大抵は害獣駆除業者にすぎず、しかも低賃金・高リスクなもので

冒険者組合にしても斡旋こそしているが、冒険者の教育は最低限しか行えず

ユグドラシルならある戦士コース・魔術師コース・盗賊コースといったチュートリアルすら殆どない。

「つまんないなぁ・・・・これならヤーナムで腕を磨いてた方が・・・いや、あそこも飽きたな」

もはや何回死んだり死なせたりしたのかも定かではない。

「っていうか、私って何だっけ?」

今のあなたは本当にあなただろうか?

そもそも人間のあなたの記憶が別の物に移しかえられた場合、あなたを定義づけるものはどこにあるのだろうか?

あなたがリアルでどんな人間だったのか?

リアルがあったという記憶はある、自分が生きていたという記憶もある。

だが、もはや記憶は定かではない。

 

「んー思い出せない・・・まいーか、急ぐもんでもあるまい」

 

アダマンタイトプレートが出来あがるまで暇で暇で仕方ない。

キャンディやアイスといったお菓子でも買いに行くかと思い、普段着の騎士装束に着替えたところ

コンコンとドアをノックする音がした。

「ブリューティヒ様。ロビーにお客様がお見えです。

賞金首の報酬の件でお話があるという事です」

宿のコンシェルジェがアンゲリカに来訪があると伝えた。

すぐに行くと返事し、宿のロビーに行くと場所に似合わぬ軽装の戦士がいた。

若く、まっすぐな瞳をした若者だ。狩人には一目で向いていないことがわかる。

「お初にお目にかかります、私はクライム。

この度はガゼフ戦士長からあなた様に対して、犯罪者討伐の件で報奨金を支払うゆえ

お手数をかけますが、王城の衛兵屯所までご足労いただきたいとのことです

金額が多大なゆえ、本人に直接手渡すのが規則とのことです。」

 

よく鍛えられた若者が伝えたのはこれくらいだった。

「ああ、賞金がかかっていたんだったなそういえば。

ふむ、では行くとしようか」

 

目の前の若者はまた罠の餌だろうか?

いや、餌にするにはまっすぐすぎる。それに流石に城までなら道は覚えているが人通りが多い。

連中もそんなところで仕掛けはしないだろう。

 

アンゲリカは宿を出て、城に向かうことにした。

手持ちの現金が現地の通貨で無い以上、遅かれ早かれ気軽に消費できるそれなりの現金は必要になる。

その意味では獣よりも簡単に狩れる、賞金首狩りは趣味と実益を兼ねた良い副業かもしれないと思った。

比喩でも何でもなく首を狩るのだからモンスターよりも面白い。

城へと歩いて行くまでの間、道ゆく人誰もがアンゲリカに釘付けになる。

見栄えだけはいいからね。

「あなたは、ガゼフ戦士長の従者?」

「いえ、私はラナー姫様の護衛の者です。

戦士長殿は私のような者にも稽古をつけてくださる大変心の広いお方です」

 

「ラナー姫・・・ああ、ラキュが言ってたわねお友達だって

お付きの者ってことは貴方も騎士階級の出身?」

 

「まさか!私はただの平民にすぎません、ですが姫様のおかげで

こうして分不相応な待遇を受けていられるのです」

 

意外だった、王族の従者とは普通は大貴族の子弟が務めるものと相場が決まっているとてっきり思い込んでいた。

もっとも、それならラキュースがあんなお転婆姫な例もあるのだから何事にも例外はあるのだろう。

 

城に着くと、そこにはアンゲリカの騎士ではなく中世の騎士らしい騎士が大勢いた。

(鉄、低グレード。ただの鉄、魔力があるわけでも防弾鋼でも無い。

あれじゃただのクロスボウボルトでも貫通するな)

ここに来るまでに市場でも調べたが、マジックアイテムは高価らしく防弾効果のありそうな物は皆無だった。

初期装備の皮鎧だってもうちょっとマシという代物が騎士の装備なのだから農民兵に至ってはお察しである。

これが軍の主力なのか、軍隊とは到底呼べない・・・・よく今まで滅亡してこなかったなと半ば感心する代物だ。

民兵が哀れだ、彼らは相手の矢を貧相な盾と肉体で受け止める生きた盾がわりであり

決着は貴族の騎馬部隊でつけるつもりなのだろう。

・・・・・・毎回負けてるのによく考えを改めないな、頭おかしい。

・・・・軍隊の構成というものは、その国の政治体制が決めるものだから国が変わらないと軍も変わらないのだろう。

人類史を見るとたいていの場合、手遅れだが。

(ま、所詮流れ者が気にすべきことじゃ無いな)

プレイヤーは所詮は流れ者の余所者、あまり関わり合いになれば誰もが不幸になりかねない。

城というとカインハーストの城を連想したが、さすがに入るなりバケモノが襲って来ることはなかった。

王城を少し中に入った扉を抜けたところに屯所はあり、外からは人目につきにく場所にあった。

こういう軍事力を誇示すべきところでは

『我が国はこんなにも精強な兵士を育成しておりますぞ!』と見せつける目的でもっと目立った中庭に練兵しているかと思ったが、あまり軍事力を重視してはいないのだろうか?

戦時中の筈だよね?

それはともかく、練兵をしている一際目立つガタイの壮年の戦士。

あれが戦士長なのだろう、成る程確かに周りの兵とは訳が違う。

 

「戦士長殿、ブリューティヒ様をお連れいたしました」

 

「おお、クライムか。ご苦労であった、すまんな本来なら私自らが行くべきところであったのを・・・今はかの連中の護衛で手が離せんでな・・

全く、連中はこの王城がドラゴンの群れに襲われるのでは無いかとでも思っているのかね!?」

ガゼフが言うには、今城に滞在している大貴族を警護するように戦士団に命令されたの

理由はわかっている、稼ぎ頭の8本指の事件にガゼフが首を突っ込まないようにさせるためだ。

 

多くの戦士がアンゲリカを見て、その美貌と華美な服装に驚く。

悪名高い六腕を2名も倒した凄腕冒険者というからもっとガガーランのような女性だと思っていたらしい。

「私がガゼフ・ストローノフ。王国戦士長だ。

この度の六腕討伐の件で報奨金が王から支払われることになっているが・・・」

 

チラと戦士長が上の階見ると、そこはどうも大広間らしく大勢の人間の気配がする。

 

「フゥ、情けない話だが。貴女の功績をよく思わないものも大勢いるゆえ・・・

だが、王はかの悪名高い連中が倒されたことをお話しすると殊の外お喜びでな。

王より直接報酬を手渡したいと申されたゆえ、この場にご足労願ったのだ」

 

王から直接報酬を与えるとは、なんとも気安いことだと思った。

 

「大袈裟ね、たかがチンピラ一人やっつけた程度で王様に拝謁?

私は報酬をもらえればそれでいいんだけど?」

 

「ハハッ!ブリューティヒ嬢にかかればかの六腕もチンピラ扱いとは!

いや、恥ずかしいお話だが王には信頼に足る戦士が必要なのだ・・

率直に言おう、ブリューティヒ嬢。

ぜひ国王直属の戦士団の一員となっていただきたいのだ」

 

「あら?知らない訳じゃ無いんでしょ。”冒険者は国事に関わるなかれ”

アダマンタイト級冒険者に向かって臣下になれなんて横紙破りもいいとこよ」

 

「・・・そうか、まぁ無理強いはせぬ」

ガゼフは心底がっかりしたようだが

 

「まぁ、冒険者として依頼を受けるのであれば依頼主が貴方であろうと王様であろうと受けるわよ」

そういうとガゼフはパッと顔を上げて

「成る程、そういう考えもあるか」

と何か納得したようだ。

 

しばらくすると、練兵所に戦士団とは明らかに毛色の違う華美な服装の騎士が入ってきた。

「控えなされぃ!国王陛下の御成であるぞ!」

と騎士が布告すると戦士団の面々はパッと横に別れて跪く。

ガゼフですら横に逸れるがアンゲリカはどうすればいいのかと思ったが、女王アンネローゼの時のように拝謁のポーズを空気を読んで取ることにした。

しばらくすると、枯れ木のような覇気の無い老人が歩いてきた。

豪奢な服装、お付きの従者ですら華美な服装をしている事から国王らしい・・・

だが、あれが王だろうか?

薪の王、四人の公王、墓王、覇王、ネズミの王に巨人の王。

王と名のつくものは何かしらの力強さを感じさせるものだ、それが例え今にも消えそうな燃え残りのルドレスでも。

目の前の老人からは・・・・言っては悪いが何も感じない。

これが王なのだろうか?

「良い、面を上げよ皆の者。

かの悪逆非道の者達を討った勇士を見たいとは余の我儘なのだからな」

 

「ハハッ!者共、面を上げよ。陛下のお計らいである!」

とはお付きの騎士の偉そうな物の言い方である。

「そして、そこのご令嬢がかの悪党どもを討った勇士であると?

なんと・・・・・」

 

アンゲリカの輝く美貌を見た王は思わず微かに震える。

蒼ざめた顔はこの世のものとも思えず、なぜか背筋が凍った・・・

目だ!あの黒水晶のような目が余を不安にさせる!

・・・・余は今何を思っていた?いかんな、王たるものが娘くらいの歳の娘に懸想でもしたのか?

「アンゲリカ・ブリューティヒ・ド・カインハースト嬢。

聞けば異国よりの来訪者にして、華麗なる剣士だとか

この度、王都の平和を乱す極悪人討伐の功績により下賜を与える」

 

と、従者からアンゲリカに金貨を与えさせる。

かなりの大金であり、箱にぎっしり詰まっている。

「ありがたき幸せ、今後とも正義のために剣を振るう所存でございます」

こういう時は常識が幅を利かせるので短めに対応する。

「うむ、今後ともよしなに」

国王は何を平民に言っても貴族にネチネチ嫌味を言われかねないので短めに切り上げた。

王から彼女を勧誘する事すら出来ないあたりが

戦場でガゼフを帝国に勧誘したジルとの国内での立場の違いを示している。

無論、悪い方に。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 25 試合

よく考えたら薪の王とか神代の物語だし。
時間も空間も歪んでいるという設定だから、アンゲリカは神代の世界に入れた。
グウィンに至っては神々の王、比較対象はゼウスやオーディン。

番外席次
この世界では最強の存在、
しかし絶望的な敵(フロムボス)と変態的な敵(ガチプレイヤー)と対峙し続けたわけでは無いのでスペック頼りである。
この世界では強さの差が極端で強者は数が少ない。
スペック頼りのゴリ押しで勝てるし、それがここでは効率的
だが、それが通じる程ふろむ世界は甘く無い


王が去ると、アンゲリカはこう呟いた。

「いい人だったわね、あの王様」

 

無論、褒め言葉では無い。

つまりこの乱世に人の上に立つ資格なしということでもある。

大抵の人は時代に流されるしかない、それはプレイヤーも同じなので人の事は言えないが・・

 

「そうであろう、あのお方は私のような者を信頼し戦士長の地位を授けてくださった」

ガゼフは勘違いして、王が去った後を見つめながら言った。

訂正する必要はあるまい。

実際、彼のような者に忠義を尽くされているのだから、それも実力の内である。

 

「ブリューティヒ嬢、冒険者をやめる気は無いという思いはわかった。

だが、ここでしか言えないのだが。

私と手合わせしてはいただけないだろうか?」

突然のガゼフの提案にきょとんとする

「何で?また急ね。そんなのして私に得があると?

貴方は戦士長で私はただの冒険者、実力にははっきりとした差があるはずだけど?」

 

「いやいや、貴女の活躍は聞いている。

これは戦士としての私の我儘だ、だが貴女は武技について興味があると聞いている」

 

「ああ、そう言えば冒険者組合であれこれ調べたっけ。

国一番の武技使いといえば確かに誰もが貴方だと認めるところだともね」

 

武技、言って見れば戦技であり精神力を消費して発動する技のことである。

武技の習得には熟練の戦士でも数年かかると言われているが、ガガーランのを見せてもらったが

アンゲリカの見た所それはいわゆるコマンド入力された動きの発動であり初見でなければ

容易に対処できる物でしかない。

いわゆる慣れれば容易い攻撃であってレベル差もあり今の所は脅威では無い。

とはいえ、瞬間的にレベルにしておよそ5という攻撃力・俊敏性の上昇は見逃せない。

Lv100同士の戦いで通常技に加えて各種魔法やスキルに武技まで加えれば戦術のパターンは飛躍的に広がるかもしれない。

たとえ5%の戦力上昇でも、それは決定的な差になるだろう。

狩人か不死人か鴉なら分かってくれるはずだ、双方限界を超えた戦いでの5%の重みを。

「確かに・・・私の見た武技を使える戦士は今の所ガガーランのみ。

貴方の技を盗ませてくれるというのなら、確かに手合わせを受けるには十分すぎる報酬ね」

 

アンゲリカは練兵場から木刀を持ってきて構える。

片手に木刀を持ち、杖の要領で構えを取るとガゼフも興味深げに観察する。

「ほう、ブリューティヒ嬢は片手剣か。

盾などは使わないのかね?」

ガゼフは木刀の中でも大型のいわゆる両手剣タイプを持ってきて構えた。

正眼の構えをとるその姿は隙がなく、どんな方向からの攻撃にも素早く対応できるだろう。

「私の相手にするのは獣・・・モンスター相手の剣術。

モンスターの膂力相手に盾は役に立たない、それはご存じでしょう」

 

そう言われてガゼフは成る程と納得する、実際に盾は戦場では矢を防ぐにはよく使われる。

平民が持ってきて帝国兵の放つボルトを防ぐのだが、粗末な盾では鋼鉄製のボルトの鏃は防げない。

ましてやモンスターの膂力は小型のゴブリンや狼ならともかく殆どの場合人間を上回る。

ゆえに大剣や槍など両手持ちの武器で持って攻撃こそ最大の防御を実践するのが冒険者。

あるいは弓など相手の射程外から攻撃するのも正しいし、

片手剣でスピードと身のこなしで相手を翻弄するのも技量は必要で人数も少ないがないことはない。

ガゼフは重戦士であり、アンゲリカは軽戦士。

どちらが優れているというわけではないだろうが、一般的には前者の方が強い事になっている。

 

自然と向かい合い、ガゼフが動いた

それからはガゼフが一方的に押しているかのように周りの兵士にもクライムにもそう映った。

ガゼフの攻撃をアンゲリカがいなし、かわし、あるいは逸らして防戦一方に見える。

だが、当のガゼフからは焦りを止められなかった。

(まるで、攻撃が通じている気配がないとはな・・・)

実際、本気で攻撃していればガゼフは一瞬すら持たなかったろう。

それでもアンゲリカは自らの行動を防御一方にすることによってガゼフの動きを漏らさず観察し取り込めないところがないか体で覚えた。

「お見事・・・まさか私の動きがこうも簡単にいなされるとは・・・・

全く、世界の広さと己の視野の狭さに恥じ入るばかりだ」

 

「謙遜もいいところね、貴方が言ったら嫌味にしか聞こえないわよ」

ここではアンゲリカはガゼフより弱い、そういう事になるのがいいだろう。

 

「成る程、それではお約束通り私の全力を持ってお相手しよう!」

『武技:流水加速!』遂にガゼフがその持つ武技の一つを発動した。

やはり思った通り、今のガゼフの攻撃の速さは明らかにレベル不相応のもの。

と、いっても魔法で強化した方が効果的な気がするが。

アンゲリカは咄嗟に見えるようにギリギリの差で服に剣が掠れる程度の間合いで回避した。

ガゼフにしても本気で打ち込む気はなかったが、それでも剣が絶妙なタイミングで外された事には驚く。

アンゲリカは武技が嬉しかった、あれが自分のものになるかもしれないと思うとわくわくする。

思わずガゼフに打ち込んだ、ただの軽い一撃。

だが、ガゼフは両手剣で受けたその一撃の重さに驚愕する。

(お!重い!なんという剛撃だ!)

かつて、帝国4騎士と相対したこともある。

だが、今の一撃は彼らと比べても全く劣るどころか・・・

アンゲリカは次々と軽いジャブを繰り出すがガゼフはそれを本気でいなさなければならなかった

『武技:不落要塞!』

攻撃を凌ぐガゼフの硬さが変わった、今までの撫でるような感触が急に少ししこりのある硬さに変わったような・・・・

本気を出せば一撃で終わるが、そんな無粋な終わり方なぞ誰も望んではいない。

 

「くっ・・・全く、とんでもないお方ですな貴女は。

軽戦士でありながら重戦士以上の重さの蓮撃を繰り出すとは・・・」

 

「あら、でも貴方は簡単にいなせたじゃない。

結構ショックなのよ、これが捌かれるなんて」

 

嘘だ、アンゲリカの今の攻撃なぞストレッチでしかない。

だがガゼフはその行動を武人の誇りにかけた本気だと勘違いする。

「成る程・・・貴女が相手では出し惜しみしている場合ではなさそうだ

ならば!武技『六光連斬』」

 

 王国、無形の至宝。

 一刀六断の武技が炸裂した。

(へぇ、これが貴方の奥義ってわけ・・・)

目の前に迫る六連撃をまじまじと観察する。

速さ、威力、正確さ、どれを取っても今のガゼフの強さから放たれる程度ではアンゲリカの毛髪一本切りおとせまい。

だが、斬撃がアンゲリカの木刀に当たったその瞬間。

剣が遠くまで弾き飛ばされた・・・・

 

「参ったわ、流石は戦士長・・・

確かに周辺国家最強の戦士と呼ばれるだけはあるわね」

アンゲリカはわざとらしそうに飛ばされた剣を持っていた右手をさする。

0ダメージだが。

 

「そう言われると、私も全力を出した甲斐があったというものだ。

貴女の武には底が見えない、今のが本当に本気なのですかな?」

ガゼフは今の手合わせから何かはわからないが相手の本気を測りかねていた。

「あら?それ嫌味?こっちは戦士長相手に本気を出していっぱいいっぱいだったのよ。

そう、今のは本気。相手を過剰評価するのは心配性な兵隊さんの悪い癖ね」

アンゲリカは汗を拭うような振りをするが、相変わらず涼しげな顔だ。

一方で武技を使ったガゼフはかなり息が上がっていた。

六光連斬、王国の無形の至宝は彼の弛まぬ練達があって初めて放つことができる技。

体力の消耗もかなりのものである。

手合わせが終わると誰もが戦士長と渡り合ったアンゲリカを口々に讃えた。

その場にいたクライムも美しく若い女性でありながら、天才剣士であるアンゲリカを憧憬の視線で見つめていた。

 

(俺にも・・・・あの人の才能の10分の1でもあったなら・・)

 

そしてそれを見ていた女性の色の無い瞳もあった。

 

(ふふ、こんなに早くお目にかかれるなんてね。ぷれいやぁ様・・・)

 

一方で当人は貰った報酬で買うお菓子の事ばかり考えていた。

(また面倒な事になったな、だが試合でおやつの小遣い稼ぎできたと考えるならそれでよしとするか)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 26 The old Blood

それにしても開幕初日から・・・いや?転移してきてから3日か?三年か?三百年ということはないだろう・・・多分な

美少女チームを助け、しかも貴族のご令嬢がいてベッドで愛し合う中になり

今もまた悪党どもを倒して王族と知り合いになるとはまるでラノベの主人公のようだ。

ラノベ主人公が人間を串刺しにしたり、腑を街中でぶちまけたり、皮を剥いだ奴の内蔵で縄跳びして遊んだりするのは・・・どうもイマイチ普通すぎてつまらん。

 

「あの!宜しいでしょうか?」

大金を受け取り、やっと宿に帰ろうかという先に例の案内の兵士のクライムが呼びかけてきた。

「うん?何かな?」

 

「我が主、ラナー姫様が是非とも王国戦士長と見事な立ち回りを演じ

また、かねてより親交の深いラキュース様とも親しいとの事でブリューティヒ嬢と是非とも一度会ってお話ししたいとの事です」

 

クライムがさらさらと伝える。

要するにお姫様の暇つぶしに付き合えということか?

「ええ、是非とも・・・・」

ラキュースの知り合い、なら私がこの世ならざる者であることも知っている筈。

なぜ?わざわざ私に会いたいなどと言い出したのか?

ただの好奇心か?ふむん・・・あれがこうなってああなって、

ほんにゃらほにゃらか一期一会のトゥルットゥー!(啓蒙up

会ってみよう,楽しんでくれるといいが・・・いや!私が楽しむのだ!

「あら、でもこの格好で大丈夫かしら?

芳しき姫君に謁見賜るに、我が血と死臭に彩られたこの装束は不吉の誹りを免れぬ」

ひらひらとしたレースで飾り付けられた騎士装束は実際のところ、冒険者が纏うにしてはあまりにも贅沢だ。

男装の華人、今のアンゲリカの格好はまさにそれだった。

「いえ、その服装であれば姫様の前でも見劣りはしないと存じます」

男装とはいえ、その華美ながら凛々しさを感じさせる格好はむしろ彼女の美貌を際立たせるもの。カインハーストの穢れた血族を特徴付ける銀の髪こそないが

その美貌は間違いなく王族の血を引くものだと言われれば誰もが納得するだろう。

「あら、お上手ね。王族付きの護衛ともなれば口の上手さも選抜基準になるのかしら?

はは、いいのよ。今のは冗談、それに私の事もそんなにお堅く話さなくていいわ。

私もご大層な名前がついていても平民だしね」

クライムは驚いたような顔をしていたが、やはりそこは生来の生真面目さが勝ったのか

結局硬い態度を崩すことはなかった。

 

「ではこちらの方へ、私がご案内致します」

王城の渡り廊下を抜けて、豪奢な鎧に身を包んだ近衛兵のいる大きな扉の前までやってきた。

「姫様への来賓のブリューティヒ嬢をお連れいたしました」

 

誰であろうと、ここより先の宮中に立ち入るには殿中ゆえ白刃を持ち込むこと許されず。

アンゲリカは騎士に武器となりうる杖を渡した。

もっとも、彼女の装備欄には月光の大剣が収納されているので本気を出せばこの程度の小城

5、6秒で消し飛んでしまうだろうが。

 

女性騎士によるボディチェックを受けるとついムラムラしてベッドに引き摺り込んでギシギシアンアン言わせたくなるが我慢した。

この世界は顔面偏差値が非常に高い、現に目の前で待っているクライムですら普通の顔立ちらしいがリアル世界ではかなりのイケメンだ。

これで黄金とまで称されるラナー姫だったらどうなってしまうのだろうか。

期待に胸が弾む。

女性騎士の検査を受けて、宮中に足を踏み入れると豪奢な扉の前に控えていた侍女が

「ブリューティヒ様、どうぞお入りください」

 

と入室を許可する。

実に込み入った手続きが連続するが、入った途端に戦闘が始まり必殺のソウルの矢が飛んでくるわけでもないので安心した。

 

部屋に入ると何とも餌付く芳しい乙女の香りがした、これが正真正銘のお姫様の香りかと内心ドキドキするアンゲリカ。

一方で月の香りのする狩人を自らの居室に迎え入れたラナーは奇妙な感覚を覚えていた・・・

そう、何かあるいは誰かが自らの頭の中に囁きかけてくるような。

ラナー 啓蒙1up

 

「お初にお目にかかりまわ、ブリューティヒ様、私の事はラナーとお気軽にお呼びください。

ラキュースも二人の時はそうお呼びになるんですのよ。

ふふっ、その代わり私もあなたのことをアンジェとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

唐突に美女から親しい間柄になりたいと言われて喜ばないガチレズはいない。

「ええ、無論よ。ラナー・・ラナー・・ふふっいい響きね」

あわよくばもっとお近づきになりたいのが正直なところだ。

ラナーが鈴をチリチリと鳴らすとメイドが銀のカートに香り立つ紅茶と茶菓子を持ってきた。

乙女が二人揃えば話にも華が咲く。

たとえ狂人と狂神であっても外見だけは美女二人だ。

話すことは多々ある、共通の友人とも言えるラキュースの事を軸にした話だが・・・

 

メイドを下がらせ、ラナーの瞳に好奇心が宿る。

「ねぇ、アンジェは四大神と同じって聞いたわ。

正直信じられなかった、でも今なら信じられる。

だってこんなに綺麗なのに、あの怖い六腕を二人もやっつけられたんですもの!」

 

ラナーはアンジェをとことん持ち上げます、その真意がどうであれ・・・・

そしてしゅんと瞳から光を乏しくしてラナーは続けました。

「ああ、私も貴女やラキュースの様にふるまえたらと常々憧れているんですのよ

こんな籠の鳥じゃなくて・・・・

あら、ごめんなさい愚痴を聞かせるなんて嫌な女ね。

ねぇ、貴女の冒険譚やかつての仲間についてもっとお話ししてくださりますか?

貴女の冒険譚を貴女自身の口から是非聞かせていただきたいのです」

 

ラナーの猛烈なアプローチが功を奏したのか、アンゲリカは気を良くして話を始める

 

____

「ええ?それでは貴女たちは最初から強かったわけではないと?」

「ええ、初めは誰もがLv1だった、モンスターを大量に殺して経験値を得て・・・」

経験値・・・なるほど、彼らの強さの根源はそれかとラナーが思考を巡らせ・・・

 

「まぁ、それでは異業種といっても姿形だけで中身は人間だと?」

「うん、魂は紛れもなく人間よ。まぁ信じられないけど・・・」

中身は人間、知能も・・・ならば相手がどれだけ強大でも付け入る隙は十分にある、今の様に・・・

 

 

「大変素晴らしいお話でしたわ、アンジェ。あらまぁ、もうこんな時間なんて。

ふふっ、こんな私の愚痴話に付き合ってくれてありがとう」

 

といってラナー姫はまた鈴を鳴らし、お付きのメイドにアンゲリカを城の外まで見送らせる。

 

(そう、本当に・・・本当にありがとう、アンジェ。

プレイヤー、レベル、ユグドラシル、種族・・・・

本当に知らない世界を知るって素晴らしいわ

アンジェ、でも貴女は強すぎて自由すぎるわ・・・だから今はまだ3番目に良い駒ね)

1番はレエヴン公爵、2番はラキュースらしい

ラナー姫が瞳から光を消して考えるのは何か、今の時点ではまだ誰も知らない。

とはいえ、その目的はペットのクライムと悠々と過ごすことにあるのであって

手段は問わない、たとえそれが斜陽の王国を地獄の業火に投げ込むことになっても。

バルコニーから眼下の美しい庭を散策しながら外に出るところのアンゲリカの後ろ姿をニコニコと眺める。

が、瞬時彼女の脳に再び囁く声が聞こえ・・・

アンゲリカはチラと振り返った、唇が動き聞こえないはずの声

知らないはずの言葉が囁き始める

『L'abîme est là.

Craint l'ancien sang!』

 

「つっ!」

ラナー姫は鋭く、そして鈍い頭痛に美しい顔をしかめ部屋のベッドに倒れこむ。

ラナーの啓蒙が上がった!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 27 夜の狩り

王城から見送られて出ると、時間はすっかり日暮れだった。

実に慌ただしい1日だったが、なかなかに有意義であったとも言える。

何しろ、正義の味方の証拠を提出し受付嬢も感激のあまり啓蒙が上がり

王族にも二人会い、王国戦士長にもあった。

この王国でめぼしい人物にはあらかたもう出会えるとは、流石はラノベ主人公ばりの王道展開ルート。

これも日頃の自分の行いの良さと勤労が認められたためだろうと満足すると、

自らの感知範囲に気配を消したつもりになって入ってきた人間を見つけた。

(1人、2人、3人・・・バカねぇ、バレバレなのに)

一応言っておくと彼らは8本指でも最高のシーフであり、直接戦闘能力こそ前衛に劣るが冒険者で言えばミスリルか中にはオリハルコン級すらいる。

だが、アンゲリカにとってすれば纏めて狩る群衆以下のモブにすぎない。

(とりあえずはらわた引っこ抜くか?・・・

いやいやいや、それはラキュに止められてるんだっけまた怒られちゃう)

街中で人体解体ショーを始めることより愛人に怒られることを恐れるべきなのだ。

狩人とはそういう人種だし、さらに言えばヤーナムでは普通だ。

ごくごく日常的に街角が地下死体溜まりみたいになっていても誰も気にしないくらいの心のおおらかさが異世界の住民にも求められる時代になってしまった。

君達も異世界転移するならフロム世界がいいと思うよ、いろんな意味で自由だし。

話がずれた。

後ろから追尾してきてくる尾行者に対する対応としてはいろいろ考えられるが

 

『頭ねじ切って玩具にしてやる!』

『テメェのはらわたで縄跳びしてやる!』

『お前のはらわたで首くくらせてやる!』

『生皮引っぺがしてランプ傘に仕立ててやる!』

 

などいろいろ考えられるが・・・・何か違う気もするが・・・まぁいいや。

とりあえずは如何にバレないように殺すかにかかっている、死体はワンちゃんに食わせればいいとして・・・

(いやいやいや、なんで殺すこと前提に考えちゃうの!?

うーんでも殺しとけば襲ってこないしなぁ)

尾行してくる連中がどこの誰かは知らない、もしかしたら王宮の連中かもしれないが・・・・

だがコソコソ付いてくる連中が怪しくないはずがなく、怪しいやつは殺されても文句言えないのが世間の常識だ。

 

そこから少し離れた王都の路地の暗がりから更に奥まった家の中で、

ゼロは4人にまで減らされた六腕改め四腕の面々を見渡してしかめっ面をする。

「いい感じじゃないかデイバーノック、お前が言ったのとは違ったな。

上の連中はカンカンだぞ」

ローブの奥に暗い顔を隠したまま、肩をすくめるのはデイバーノック。

エルダーリッチは決めたのはゼロで、勧誘のヘマをしたのはペシュリアンの失態だろと返した

「俺のせいではあるまい、だが言い出しとしては責任を取らんわけにもいかんだろうな」

 

マルムヴィスト、エドストレームも既に武器を用意している。

「もうこれ以上あの女をのさばらせておくわけにもいかん。

今夜、確実に奴を殺す。俺たち4人がかりででもな」

ゼロが目に殺意を込めると暗黒街最強と言われる男の殺気に残りの3人も同じく目に殺気を宿す。彼らは皆一流の殺し屋、狙われたものは生きていない。

 

「問題はどこでやるかだが・・・ここがいいだろう、あの女が通る道で既に人払いも済ませてある」

「ほう、ここは・・・確かに。だが幾ら人通りも少ない場所とは言え、王都でここを人払いさせるのは骨だったろう」

マルムヴィストがゼロが地図上で示した襲撃地点を見て感嘆する。

如何に人通りが少ないとは言え、まさか王都の路地で襲撃するとは大胆極まりない。

 

「私が上に掛け合って、更にここの馬鹿貴族供に鼻薬を嗅がせたのさ。

ゼロ、感謝してほしいね。正直安かなかったよ、

組織が貸してたあいつらの借金をチャラにしなきゃならないのは結構痛いんだよ」

 

地図上の襲撃地点は貴族街の通りで、両端を貴族の王都での屋敷が占めている区画だった。

ここなら屋敷の者さえ目をつむれば、確かに最小限の一目しかつかないだろう。

 

「ふん、そいつらとて俺たちの流す麻薬の上がりがなければ毎日馬鹿騒ぎして暮らせん輩だろう。だがよくやってくれた、あの女と蒼の薔薇が離れ離れでかつ使い魔の狼がいない今が最大のチャンスだ」

 

ゼロは3人を見渡し、決意に満ちた目で続ける。

「いいか、相手を所詮一人でミスリル級だと舐めてかかったのが二人の結果だ。

俺たちは違う、あいつの戦力を過小評価せずに全力で叩き潰す。

たとえ相手が一人だろうとな・・・」

 

・・・・・・

一方でアンゲリカは自分を付かず離れず尾行してくる連中の行動にパターンがあることを見抜いていた。

(私に向かわせたい場所があるみたいね・・・・いや、向かわせるというより・・寄り道しないように見学してるだけか・・・)

こちらが寄り道してほしくないというのなら、別に今のところは同行するつもりはない。

連中は本当に監視役であって、実力の差はわきまえているようだ。

教科書に載るような待ち伏せという奴だろう、やっぱ殺しておこうか。

だが、スタスタと無頓着に王城から少し離れたところにある貴族の屋敷のある通りまでやってくると空気が変わり。

監視の連中が離れていった。

(壁の裏、屋根の上、藪の中、街角の死角・・・・主力が4人に取り巻きが20人ね)

「隠れてないで出てきたら?そんな殺気を撒き散らしてたらバレバレよ」

 

アンゲリカが姿なき刺客に声を出すと途端に街角から強化された火球が飛んできた。

(スピード、威力、効果範囲、精度、お話にならない)

ひょいと体をかがめ最小限の動きで攻撃を回避する。

続けて空中から曲刀が幾筋も闇に紛れて飛んでくるわ、毒塗りのメスっぽいのが飛んできただけだ

いずれも上体と足を

踊るように捻り最小限の動きでスルー。

アンゲリカの騎士装束

騎士の中でも幾たびもの死合いを生き延びた熟練者は紙一重で攻撃を避ける

ゆえにいかなる攻撃もそのレースをかすかに綻ばせるのみである。

奇襲が軽々と躱されたことに驚きを隠せない押し殺した声が夜の町並みに微かに聞こえた気がした。

「退いていろ、どうやら奇襲で片がつくと思い込んでいたのはまだ間違いだったとはな・・・・」

 

暗がりから巨漢が姿を現した、ゼロだ。

その全身の刺青が輝き、既に全力の戦闘体制にあることを示している。

ゼロとしてはここで注意を引きつけ、たとえ卑怯でも確実に殺すつもりだった。

会話をしようと悠然と進み出てきたのも未だに自分が強者だという余裕の表れでもある。

が、そんな馬鹿げた茶番に付き合うほど暇ではない。

(目標順位:1魔法使い 2:毒ナイフ 3:曲芸師 4:モンク

所用撃破時間 推定0.8秒)

ゼロが余裕たっぷりに注意を引くつもりだった次の瞬間には後方へと跳躍

第一目標のエルダーリッチに向かって30mを一瞬で飛んだ。

デイバーノックが反応する時間すら与えずに左手の銃弾を5mの至近距離から発射、一撃で頭から上が消し飛び偽りの生を持った死者は本当の死を迎えた。

咄嗟に攻撃魔法で応戦しようとしたが、既に手遅れだった。

 

次に返す刀で銃弾を装填しつつマルムヴィストに毒メスを投擲

さすがは超一流の暗殺者というべきか、飛んできたメスを手に持つナイフで弾き返そうとする。

だが、メスはナイフの方をやすやすと紙のように切り裂き、マルムヴィストの頭蓋に直撃。

脳髄をぶちまけて毒使いが毒メスで殺された。

別に毒メスである必要はなかった気がするが。

メスを投げて銃弾の装填を終えると、ようやくここでエドストレームが反応を見せ浮遊している曲刀がアンゲリカの方に再び向かってきた、しかしながら彼女が1秒でも長く生き延びたいのならその曲芸で目をくらませつつ逃げの一手を取るべきだった。

持っている杖でその飛んできたシミターをかたっぱしから払うと、それだけで全て粉微塵になった。

一瞬で間に飛んで入ると、銃口を顎に突きつけて発射。

王都に再び轟音が響いた時、そこには妖艶な体を持った美女の無残な首無し死体が転がっているだけになった。

咄嗟に両腕で体をかばうゼロ。『武技:不落要塞!』

この一瞬で杖の一撃を防御したのは流石だと言える。

「うおぉぉぉぉ!」

ただの杖にしか見えないのに、その一撃は剛力のハンマーのように重く名刀のように鋭い。

あまりにも鋭い一撃の前にゼロの武技によって鋼鉄に匹敵する強度まで強化された肉体もボロボロと崩れ去っていく。

両腕は簡単にひしゃげ、衝撃を受け止めた足は膝をついた。

内臓に衝撃が走り、肋骨も5、6本はおれて肺に刺さったのかヒューヒューと風が抜けるような音が息をするたびに鳴る。

全ては1秒以内に起こった出来事、周りを見ていた手下も何が起こったのか全く理解できなかった。

「あら、まだ生きてた」

実にあっさりと、美しい声がなんでもないことのように上から告げる。

「決めたわ、誰か知らないけど・・・あんたの遺志は私のもんよ」

世にも悍ましい笑顔で絶世の美女がそっとゼロの血塗れの胸に触る

(なんだ?これは・・・俺は・・・悪い夢でも見てんのか・・)

「大丈夫、何があっても・・・全部悪い夢のようなものよ」

そっと触れた手はまるで抵抗がないようにゼロの中へと沈んでいく。

ゼロの全身に激痛が走り、叫び出しそうになるが既に肺が潰されているため声も出ない。

メリ・グチャ

という音とともに・・・アンゲリカが手を引き抜くとゼロの中身が勢いよく道端に散らばった。

ゼロだったものもその時にどこかへ行ってしまい、いなくなってしまったのだろう。

 

『う・・うわぁぁぁぁ!!』

遠巻きに人を遠ざけ、アンゲリカの逃亡を阻止するために配置された部下もそれを見てようやく理解した。

六腕が全滅した、まるで道端の石ころでも蹴っ飛ばすようにあっさりと。

「駄目よ、ここの血は私の物。

勝手に持って帰っちゃ駄目」

だが血に酔った狩人は彼らを逃さない、折角の血を無駄に流すことはない

せいぜい有効活用させてもらおう。

王都の深夜、人気のない道に男たちの悲鳴が響き渡る。

悲鳴と、血と、死臭。

何一つヤーナムと変わらない日常だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 28 大冒涜

王都の冒険者組合では一つの話題で持ちきりだった。

貴族街で起きた、大量殺人事件とスラムで起きた建物丸ごとの殺戮事件。

前者では貴族街で明らかに暗黒街の住人とみられる多くの殺し屋があるものは五体をバラバラにされて道の上に投げ出され、ひどいものでは何人かがぐちゃぐちゃに入り混じったゴアバック状態で発見されたがおそらくは10人ほどだろうと推定された。

後者の事件ではスラムにあった割には非常に堅牢な建物で何の前触れもなく血が出口という出口から流れて来た。

現場に駆けつけた衛兵によれば中はあらゆるところに人体と人体だったものの一部が張り付き

それが人間だったと理解するのは難しかったとだけ言える。

この建物は八本指の拠点であり、金庫兼幹部のいわば居城といったところだった。

にもかかわらず詰めていたガードマンのゴロツキ200人以上は一晩のうちに皆殺しにされ

金庫は文字どおり空になっていた。

誰もがわかっているが、何も言わない。

『いやー王都も物騒になったものねぇ、連続大量殺戮なんて時は正に世紀末』

冒険者組合では人間の所業とは思えないが、彼らが王国はおろか帝国にも広く根を伸ばしている金品が強奪されていたことと犯罪組織八本指の拠点であることが明白であったため犯罪者同士の金品を巡っての仁義なき抗争ということで目撃者もおらず、捜査は進展していない。

 

しかし、ある人たちから見れば誰が何をどうやったかは明白であった。

すなわち

「何やっとんじゃ、こらぁぁぁぁ!」

黒粉農場を焼き尽くして八本指の資金源の一つを絶った蒼の薔薇の苦労もよそに

当人は六腕を皆殺しにし、ゼロの脳を文字どおりかち割って情報を吸い出し

八本指の金庫を襲撃して中のけだものは悉く狩尽くし、聖杯を拝領するには遠く及ばなくとも

血と内臓と金品を拝領し、し尽くした。

構うことはない、啓蒙高きものが低いものの資源を無駄なく有効活用するのは常識だ。

それが例え血肉であったとしても、いや血肉だからこそ。

それにしても連中の遺志のなんと薄っぺらかった事か、なんと薄弱な事か。

六腕のうち、最強とされていたあのゼロですらその遺志は薄っぺらい事この上なかった。

犯罪者ならば、いや極悪人だろうと聖人だろうと関係ない。

要は単なる戦闘力の問題ではない、血質と啓蒙なのだ。

いくら狩ってもまるで水のようにこの身に止まらずに流れて行くだけ。

特に啓蒙、そう啓蒙なのだ。夜の世界で忌まわしいと感じられた啓蒙が

思考の次元も低い啓蒙なき者達が蔓延る夜明けの世界でなんと痛切に切望されている事か目覚めてわかるとは。

深宇宙の神秘、冒涜的叡智に触れる事なくしてどうして人が高みに登ることを期待できようか?

なるほど、ウィレーム学長のおっしゃる通り血によらない方法で高みに登ることも可能だろう。

だが少なくともこの王国では誰かが高みに登ろうという運動をまるで見えてこない。

 

ソウルの業を極め、その呪われた仄暗い深淵を覗くのもよし。

あるいは科学によってコジマの業を振るい世界を望むままに改変するのもよし。

どちらを選んでも人類に未来がない気がするのはなぜだろうか?

 

数少ない啓蒙をあげようという機運は僅かに帝国にあるという魔法学園か。

法国についてはまだよくわからない。

 

だからなのか?自らの幼年期を世界の啓蒙運動で過ごすのも悪くはない。

啓蒙がぐるぐる上がって?すっごーい!!ことになったら

世界が悪夢に沈むかもしれないが、それはそれで新しいものが見えてくるのでよしとしよう。

 

危険を冒さずして、どうして何かを得ることなどできようか?

未だに影響力がある貴族やフロント商店、中堅の構成員は無数にあるが、資金・上級人材を大量に失った彼らがもはや王国に悪影響をもたらすことはないだろう。

更に言えばアンゲリカはこの襲撃で金貨にして5000万枚以上の金品を強奪している。

正直アンゲリカにとっては端金だが、血を見れたついでの小遣いがわりだと割り切ればそう悪くもあるまい。

しばらくはこれでのんびりするもよし、今セクハラしているラキュースの一行にフラフラとついて行くのもいいだろう。

ラキュースは宿でアンゲリカを見るなりライダーキックを繰り出してきたが、遅い。

ひょいと避け、後ろに回り込むと鎧の隙間から手を差し込み、羽交い締めにしつつ胸と股間を弄る。

「や、やめ!あ、そんなとこ!あ、や!」

「よかった、まだ処女みたいね。ね、いろいろ考えたけど、ご褒美はあなたの処女でいいわ。

忘れられない夜にしてあげるから!」

 

犯人はここにいる。

更に八本指討伐の報酬をラキュースの身体で払わせようとする始末。

 

「アンジェ、私ならいつでもバッチこい。というかもうイキそう」

そこには変態という名の淑女がいた。

「うん、それじゃぁまずはラキュースを脱がそうか!」

ラキュースとアンゲリカのレベル差は圧倒的であり、がっしりと掴まれた手は万力のようにテコでも動かず無理に動いたら大事なものを突き破ってしまいそうだ。

 

「だから!なんで!そうなるのよ!」

「処女と人間性を(私に)捧げよ!(キリッ」

「するか!それと人前で処女処女言うな!」

 

ただでさえ王都から農場まで往復した上に夜通しでイビルアイの魔法で農場を焼くだの

捉えられていた農奴扱いの人々を救出しいの、護衛役の連中と戦ったのでくたくたに疲れているところにこの騒ぎである。

イビルアイとガガーランは向こうのカフェでなんとも言えない顔をしながら

「あ、ホットレモンティー。チビにはホットミルク」

と我関せずといった表情でウェイターに注文をしていた。

ティナは相変わらずのショタを探していた。

 

 

これが王都の冒険者組合の前の大通りで繰り広げられた痴情のもつれであった。

 

このアダマンタイト級冒険者達が

時折このような痴態を晒すのを

見て見ぬ振りをする情が

王都の市民や冒険者にも存在した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 29 手を繋いで・・・

『うふふふ、そう・・そうなの・・・ほんとの愛はそこにあるのね・・・だから・・

あーははははははははははははははははははは!

いーヒヒヒヒひっひひひひひひ!

アナタと一緒に手を繋いでだいぼうとく・・・』(発狂)

 

『Ooh Majestic!(すごーい!)ラナー姫も上位者の叡智に触れたフレンズなんだね!』

 

『姫様!?』

現時点での啓蒙

 

クライム:0

ラキュース:1

イビルアイ:2

ラナー姫:29

ラナー姫の職業に探索者Lv1を追加

 

 

ここで質問だ。

Lv20から30の信仰系戦士はLv100のカンスト軽戦士に勝てるか?

結論:絶対に無理である。一方的に蹂躙される。

今正にベッドの上では朝を迎えた二人の戦士がそれを証明していた。

『ふんふんふーん、はいお約束の台詞言ってみてー』

「け・・・けだものぉ・・・・ぐすん、もうお嫁にいけない」

王都の高級宿屋のベッドの上で一晩中、一方的に蹂躙、陵辱されたラキュースはシーツのみを身にまとってうずくまっていた。

黒と金の艶やかな絹糸のごとき、髪が絡み合って艶やかだが一方は実に残念である。

蒼の薔薇の残り4人はラキュースを生贄に捧げて見捨てた。

『大丈夫よ!まだ処女膜はギリギリのところで破らなかったし!』

「どこが大丈夫よ!一晩中ねぶられて・・・ああもう!」

そういうとラキュースはアンジェの白い肌をつねって”ヒャン”と言わせる。

なんだかんだで仲のいい二人ははたから見ていると同性愛カップルにしか見えないだろう。

ティアはイかされまくって床の上にナメクジのように転がっている。

イカサレまくってちょっと部屋が生臭い。さらに言えば、ラキュースは全身汗まみれの唾液まみれでヌルヌルだ。

「ふー流石に・・・やりすぎたか」

『うん、ヤリすぎ。アンジェ、まさに絶倫獣。淫獣狩りのフレンズ』

床に亀甲縛りで転がされていたティアが今なお絶頂しながら応えるのでいたずらしてまたイカしてやった。

「んっんっーそういう悪いこというのはこっちのお口かなー?そーれ、お仕置きよー」

『んあぁぁぁっ!いくいくいくーっ』

 

「ティアは放っておいて、食事に行きましょ」

『ま・・・待って・・・股が・・・』

ラキュースは普段使わない部分の筋肉を限界まで一晩中いじられたことによって筋肉痛になった。

これも冒険者の経験の一部と考えれば・・・・

アンジェは後輩冒険者に人生の一部を薫陶したことを我ながら素晴らしいと思った。

これぞ啓蒙運動の一部である、と一人勝手に納得した。

 

ロビーに3人が降りていくると・・・ティアはさすがは忍者というべきかあの程度の縛りでは障害にならずに抜け出していた。

じゃぁなんで縛られていたかというと変態プレイのためである。

 

ガガーランはニヤニヤしながらお約束の言葉を投げかける

『昨晩はお楽しみでしたね・・・・・』

「おう!楽しんだ」

スパァンとラキュースのチョップがアンジェの後頭部に直撃するが全く反省の色はない。

 

「全く・・・・仲のいいのはいいとして程々にしておけよ。

ラキュース、新しい依頼が早速だが入っているんだが・・・」

 

「もう?正直疲れたから暫くは休みたいんだけど・・・」

 

アンジェはそんな様子に目を輝かせて何か期待するようにして

「え?休み?やったー、じゃぁ朝食食べたら早速続きを・・・」

 

またスパァンといい音をしてチョップが炸裂した。

「うわぁ!いタァい!(棒 啓蒙下がったぁ!」

 

「はいはい、それはいいから。で、依頼って?」

 

イビルアイは王国内の森林でのゴブリンを始めとする亜人の調査依頼だと伝えた。

「ふーん、それってヤヴァイの?森の中の人ならざるものって私、めっちゃ嫌な思い出しかないんだけど」

 

アンゲリカはヤーナムの大魔界と化した森を思い出した。

あれはきつい、ゲームをやった人ならわかるよね。

ユグドラシルの森はどこも腐臭と血臭が匂い立ち、常にくり返される死闘と虐殺で屍と血を養分として木々は黒々と昼とてなお暗い地獄の底である。

というふうに説明したらなぜか皆ドン引きしていた。

「・・・・・どんな大魔獣を思い浮かべているかは知らんが、ゴブリンは単体での戦闘力は人間よりは低い。

どうする?正直我々が受けるほどのものでもないとは思うが・・・」

 

「えっ?それって私も行くこと確定なの?」

 

『アンジェ・・・・あなたを放っておいたら大惨劇が繰り広げられるだけだから・・・ね・・』

「あ、はい」

ラキュースの無言の圧力が痛かった。

特に行くあてもないので今回は彼女たちについて行くことにした。

その前に・・・・・・

『ああ、それとアンジェにこれを手渡してくれと受付嬢に頼まれたぞ・・・

なんというか・・・奇抜なというか奇怪なファッションになっていたが』

ことはイビルアイが新しい依頼を受けに冒険者組合に入った時、

イビルアイの仮面も十分に奇抜だと思われるが、受付嬢の今回のファッションはそれよりも更に輪をかけて奇怪だった。

なんというか・・・その・・・籠だった。

『うふふふふ、あらイビルアイさん・・・くっくふふふ・・・

もう来る頃だってわかってましたのよ、ほら・・・蒼への依頼ですわ。

カッツェ平原付近の森における亜人の動態調査。

ああ、それとこのプレート・・・本当なら直接あの白磁のごとき御手に手渡したいところですけど、申し訳有りませんが親しいあなた方の手から渡せと・・・

ええ・・・・ええ・・あぁ・・ゴース・・・聞こえます・・・そうなんですのね

けものはいてものけものはいないと、流石ですわ』

『わ・・・わかった、渡しておこう。うむ』

尋常ではない受付嬢の様子に吸血鬼のイビルアイもさすがに引いてしまい依頼とアダマンタイトのプレートを受け取ってそそくさと組合をでた。

『またのお越しを・・・ええ、もうじきに・・すぐですわ・・』

 

というような様子のことを話した。

アンジェはその檻を被るのって流行ってるのかな?と思った。

さすがは異世界、ファッションも異次元だと感心した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 30 頑張れニグン

アンジェ「ドーモ、ブラドーサン。獣スレイヤーのアンジェデスDEATH!こんばんは死ね!」
ブラドー「ドーモ、アンジェサン。狩人スレイヤーのブラドーDEATH!こんばんは死んでくださーい!」
これこそドーモグリーティング!
狩人の間に伝わる古式ゆかしい由緒ある挨拶!挨拶は大事ってウィレーム先生も言ってるしね。

蒼乃薔薇一行「もうやだこんな奴ら」


森の中、ゴブリンを始めとする亜人の調査にやってきた蒼の薔薇の面々であったが

森の中の惨状に目を思わず背けたくなった。

「こりゃぁ・・・ひでぇな・・」

思わずガガーランの呟くが全員既に臨戦態勢をとっている。

森の中にあったゴブリンの集落は既に壊滅し、粗末な小屋は勢いよく燃え上がり

森の中の木々には串刺しになったゴブリンの残骸が今なお血と臭気を芳しく漂わせている。

 

「なんだこれは?魔獣にでも襲われたというのか?」

 

面々はそれぞれが調査依頼通りに集落を調べようとするが、結果は知れている。

生存者無し。ゴブリンの集落は老いも若きも関係なく無残な惨殺死体へと変わっていた。

まるで削ぎ落とされたかのような死体のむごたらしさに顔を背ける薔薇とは対照的にアンジェリカはその殺し方に見覚えがあった。

見覚え?いや、正確にはその方法で殺し、殺されたというべきだろう。

 

(知っている、私はこの殺し・・・いや狩り方を知っている。

これは・・・狩人のやり方、それも特徴的な”瀉血”を使う奴を知っている)

 

脳裏に浮かぶのはNPCか、それともプレイヤーか

だがどちらにせよ、恐るべき使い手であるのには違いない。

 

「この殺しをした奴は楽しんでる」

「抵抗してきた連中を一挙に殺して、あとは一人一人時間をかけてなぶり殺しにしてる。異常者」

 

ティアとティナの現場検証ではまず最初に集落の戦士たちを一箇所で一瞬にして皆殺しにしたあと、逃げ惑う弱いものたちを一人一人追い詰めながら殺していったという点が死体からわかるのだという。

アンゲリカもわかっている、獣へと堕ちた狩人ならそういう事を間違いなくするだろう。

わかる。

彼らもまた、血に酔った狩人なのだから。

 

・・・・・・・・

 

「これで、終わりかね?くくくっ、それにしても夢から覚めれば又しても夢の中とは・・・

悪夢の作り手もなかなか洒落た真似をしてくれるじゃあないか」

今も逃げ惑うゴブリンの群れを容赦なく削り殺し、おぞましい血と肉と内臓に塗れた瀉血の槌を無造作に担ぎながら異形の面を被った狩人が傍らに立つ男。

ニグンに語りかける。

 

 

「どうかね?なに、大したことはしていない。所詮は手慰み・・・所詮は弱者を嬲って楽しむ外法の一端に過ぎぬ・・・」

「な・・・なんなんだお前は・・・ゴフッ・・・」

ニグンは今や両手両足を叩き潰され、満身創痍で身動きが取れない。

生きているのが不思議なほどだが、彼のレベルの高さが災いした。

 

「何・・・諸君らのいう神の存在とやらに興味が湧いてね・・・ああ、まるで哀れな実験棟の者たちではないか

”ああ、マリア様・・・マリア様、お導きを”ってね」

鹿のような異形の獣の面を被った男は茶化すようにニグンをからかう。

 

「この・・・狂人め・・・なぜその力を人類のために使おうとしない・・・」

 

 

「力・・力か・・力を求め血に酔い、腑に塗れ・・・そしてどんな思考の昇華があるというのか・・」

 

ニグンも最初、森の中で出会ったこの男を獣人かと咄嗟に攻撃したのだ。

普通の人が踏み入らない深い森の中で獣皮を被った男は獣以外の何者でもないように見えた。

そして・・・結果は無残なものだった。

 

20人以上いた陽光聖典隊員のうち半分が一瞬で殺され、残りもニグンの目の前で生きながらミンチにされた。

召喚した天使たちもおぞましい槌の一撃で片っ端からまとめて塵へと帰った。

 

「うん?なんだまやかしの肉か。つまらないなぁあ・・」

あまりの膂力に天使達は一方的に狩られる、ニグンの持つタレント

そして精鋭と呼ばれる陽光聖典の隊員の必死の抵抗も虚しく

一人、また一人とミキサーにかけられた肉のようにぐちゃぐちゃに殺されていった。

 

「はははっはははは!いいなぁ!もっとだ!もっと争ってみせろ!死にたくないんだろ!?」

 

獣の皮を被った男は一人残ったニグンがなおも天使を召喚する様子を見てせせ笑う。

「いいぞ、お前は見込みありだ・・・」

そしてわざとニグンだけは半殺し状態で残し、無造作に槌に引っ掛けてここまで引っ張ってきた。

カッツェ平原

王国と帝国の戦場となり、アンデッド湧き出す不毛の地である。

今、ここにニグンを引っ張ってきた獣面の男はここに湧き出す負の存在に惹かれたのか。

自らも既に死者だというのに・・・あるいは死者だからか。

「ああ、ここはいいな・・・なかなか面白い場所だ」

男の名前はブラドー、既に死者でありそして狩人であり狩人を狩る者であり狩られる者でもある。

カッツェ平原を選んだのはここの陰気な雰囲気が彼の漁村に似ていたからだろうか?

ニグンの弱々しい生命の反応に惹かれ、次々とアンデッドが押し寄せてくる。

「ほら・・・それじゃぁ死ぬなぁ・・ああ、死ぬのが怖いんだな?」

そう言うなりブラどーは手持ちの輸血袋の針をニグンへと近づける

「な・・何を!?やめろぉぉぉぉ!」

「何、礼ならいらんよ。親切心さ、何があっても・・・悪夢みたいなものさ」

 

・・・・

 

「こっち!すごく近い」

 

「今度は人間・・・だと思う」

ティアとティナが死体が点々と続く森をたどっていくと、今度は人間の死体がそこかしこに散らばる場所に出た。

 

「この装備は・・・法国の者か?うっ、だが酷いな。

?なんだこの装備は・・桁違いだぞ?」

 

魔法で死体らしきものの装備を鑑定すると・・いずれもマジックアイテム、それもかなり高価なものだった。

「まさか・・・法国の特殊部隊か?だがどんな奴に出会えばこんなことができるんだ?」

 

その時、突然アンゲリカが口を開く。

「あっこれ多分ヤったのは狩人だわ、私の同業者ね」

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

一同は唖然とした、凄惨さに比べてあまりにも軽いアンゲリカの口調だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt31  vsブラドー

今日もドッタンバッタン大冒涜!

姿形も獣人屠殺 だから(血臭に)魅かれちゃうの!

 

チリンチリンと鐘が響きます、狩人を呼ぶ鐘が響きます。

お前の愛が欲しいと鐘が響きます、ああでもここに愛はありません

子供達が笑います、愛はなくても、恋い焦がれましょう!

 

「こっちこっち、うん匂い立つ。匂ってきたって

ここまで近づくと私にもはっきりと感じられるね」

 

蒼乃薔薇はシフがクンクンと匂いを嗅いで血が点々と続く森の中を抜けると、その、向こうはカッツェ平原が広がっています。

蒼乃薔薇の一行は歩いていますが、その足並みは

 

『ダイジョーブ、ダイジョーブ。幽愚怒羅死流(ユグドラシル)フレンズはみんな友達ダヨー』

そう言いながら銃に装填し、杖を磨き軽く振って切れ味を確認しました。

戦闘に入ったら殺しまくりましょう。

『でも、挨拶がわりにラキュース達をちょっとバラして犯すくらいはするかもしれないから油断しないで』

「全く安心できる言い方じゃないわよそれ!?」

アンジェの恋人のラキュースが玉のような悲鳴をあげます。

ラキュースは怖がらせたり厨二患者が好きそうな話をすると挿れた指を締め付けるので今や必須のテクニックです。

「なぁ、ぷれいやぁとは強大な力を持った存在なのは認める。

だが何故だ?何故、彼らは

(みんなが求めてるのは、ほのぼのメルヘンだから!こんなジュラシックパークじゃないから)

ヤーナムパークからT-REXやヴェロキラプトルよりやばい連中がどうやら少しづつこの世界に逃げ出しているようです。

ちなみに良好な関係を築くことは最初から諦めたほうがいい。

願いを叶えるとか巨万の富とかフロム的に考えると、間違いなく飛んで火に入る夏の虫だzo

 

 

ちなみにニグンは

「イーヒヒッッひひひ、くけけけけあははははっは!

自分は、自分はなんと愚かで矮小だったのかぁ・・・神だと!?

あんな矮小な連中を神と崇めていた自分の愚かさと無知蒙昧が今はただただ滑稽。

ああ、本当の神!我らが崇めるべき上位者であらせられるゴース・・・あるいはゴスムよぉ。

哀れな我らに瞳を与え給え・・・かの白痴の蜘蛛ロマにそうしたように・・・』

 

すごーい!ニグンおにーさん”も”脳に瞳を求めるフレンズなんだね!

 

ニグンはカッツェ平原をふらふらと啓蒙が上がった状態でうろついています。

ちょっと前まで両手両足がミンチ状態だったとは思えない元気さで、群がるアンデッドをかたっぱしから素手で叩き潰し今に頭がキノコになりそうなくらい賢くなりました。

すごーい!ニグンおにーさんは賢いねー!

『いーひっひひひひひ!ひゃーああははははっは!』

そもまま狂ったニグンはカッツェ平原を駆け抜けてどこへなりと行ってしまいました。

 

一方、ニグンに血液を注射したブラドーはうずたかい骨の丘の上で彼女を待っていました。

彼にとってはもうニグンもどうでもいい事、生きようが死のうが狂おうが獣になろうが知ったことではありません。

『・・・来たか・・・遅いじゃないか』

襲いかかって来たスケルトンを5,600体ほど砕いて作った丘の上から降りると

霧の向こう側からシフにまたがったアンジェと蒼の薔薇の一行が現れました。

ブラドーを一目見た、イビルアイは彼を目にするなり目を見開きガタガタと震えます。

(な!?馬鹿な馬鹿な!そんなことがあり得るのか!?アンジェと・・・互角だと!?)

一行の中では最もレベルが高いイビルアイは即座に悟りました。

アンジェは彼に敬意を表してシフを下がらせて会釈します。

彼もまた、医療教会の罪を償うために悪夢に死してなお囚われたのですから。

ブラドーもまた獣狩りの狩人の一人だと、メタ的にいうとLv100の近接ガチビルドです。

『こんばんは、いい夜ね。ねぇ、あなたはブラドーね?

姿似じゃない、私が4度狩って悪夢の中で確かに死んだと思ったけど?』

 

『こんばんは、月の香りのする狩人の”一人”。

夢の中で私を殺しきった狩人は多い。そして君も永遠に続く獣狩りの夜の中で確かに私が殺し殺された中にいた。

だから・・・・』

 

「「夢でまた会おう」」

そういうなりブラドーは槌を構えて突進し、アンジェも杖を構え銃を撃ちながら突進しました。

銃弾が脳天に当たるのもかまわずに突撃したブラドーが槌を振りかぶるが、アンジェが一歩下がってギリギリで回避。

ギリギリでしか避けられない、半歩多ければ返す刀でバッサリやられていたでしょう。

アンジェの意匠を凝らした服のレースが引き裂かれますが、それだけに留めたのが達人の領域の所以です。

そしてブラドーが返す刀を振り上げる前に杖で喉元を狙い、確実に殺せる攻撃を繰り出すが

ブラドーは逆に勢いよく突っ込んで腹で攻撃が出来上がる前に受け止める。

当然のように杖とは名ばかりの剣に腹が食い込むがそれで十分。

槌を今度は至近で振り上げるが、アンジェも一瞬の攻防の先を読み銃で彼の攻撃の起点の腕を撃ち逸らす。

それでもふり上がった槌の威力は凄まじく、アンジェの左腕に直撃した槌の威力もあって一撃で腕をズタズタのゴミ切れのようにしてしまった。

ラキュースが思わず悲鳴をあげるが、当の本人は気にした様子もない。

アンゲリカは左腕を損傷し、ブラドーは内臓破裂。

両者、痛み分けのように見えるが確実にブラドーが有利だ、痛みがないなら戦闘能力に直接響く腕は痛い。

あまりにも一瞬の攻防に蒼の薔薇は遠巻きに見守ることしかできない。

なぜなら、あの戦いに自分たちが割って入っても足をひっぱるだけ。

それが今の一瞬ではっきり分かるほどの超高速での展開だった。

だが、案ずるには及ばない。

狩人の決闘が長引くことはない、なぜなら大抵は一撃でケリがつくからだ。

「銃でのパリィを警戒して、あえて撃たせるなんて性格悪くなったんじゃない?」

「それはお互い様だろう、分かった上で撃ってるんだろ?」

 

お互い睨み合う二人、左手をなくしたぶんアンゲリカが不利なように見えるがこの程度の怪我は

内臓攻撃で治る。

攻防一体の大技である内臓攻撃を決めればこの程度は一瞬でひっくり返るのだ。

加えて、槌は大ぶりゆえ攻撃力と引き換えに躱されれば回り込むのも容易。

『ふむん・・・・実に不本意な結果ではあるが、どうやら邪魔が入ったようだ』

すると突然上空から名状しがたき物が降って来てアンゲリカとブラドーは瞬時に100mは飛び退くと同時に”それ”は降って来た。

巨大な幽霊船の残骸・・そう、カッツェ平原に出没すると言われる伝説のアンデッドだ。

だがその表面は元々ボロボロだったのが切り裂かれたかのようにズタズタとなり中の幽霊船長の姿も見えない。

すると、飛びのいていつのまにか姿の見えないブラドーの声が霧の奥深くから響いて来た。

『どうやら新米君は獣に落ちたようだな・・・・興が冷めた

まぁ、いい。

せっかく悪夢の続きを見ているんだ、今日の所は君と挨拶できただけで良しとしよう。

まだ物見遊山も済んでいないしな』

そう残して急激に彼の気配が引いていく。

 蒼の薔薇一同は慌ててアンゲリカに駆け寄るが彼女は真っ青だ。

『アンジェ!?大丈夫!?』

ラキュースが抱え込むが、返事がない。

「強い・・・あいつ・・・強くなってる・・」

アンゲリカは薄れいく意識の中で狩人が体感したかつてよりも遥かに強くなったと感じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hunt 32 デュラ

『パーク暫定園長ニ成人の”モモンガ”ヲ登録スルヨ』
『私がジャパリ園長のモモンガだ!』
「すごーい!かっこいー」

『ふふふ、モモンガ様の偉大さを理解するとは、なかなか見込みのある幼子ですね』
「イダイってなにー?」
「なんなんでしょうね?」
『・・・モモンガ様は”すごい”ということです』
「知ってるよー、ももんちゃんはすごいもん。ねー」
「ねー」

『サモン!デスナイト』(しかしセルリアンに死体はない)
「かっこいー!」
『グラスブハート!』(しかしセルリアンに心臓はない)
「すごーい!」

ナザリック は 優しい世界 世界に移転した。

タブラさん、脳みそ吸うのやめちくりー(啓蒙down
えっ、別人?じゃぁ殺してもいいね。動くやつは誰でも殺しにいくけどな!(正にヤーナム野郎!


昔、私は戦士だった。武器を取り、正義を信じ…悪を倒していった。

 

だが世界は企業のため、権力者のため、利益のためにと戦争を続けた。

その結果がこれだ。

 

 まるで世紀末だ

 

  地球は荒廃した

 

環境は汚染され、水や食料は枯渇した。

 

 人類は緑色の粒子や放射線、有機物質に汚染された

  寿命は半分になった

 

少数の権力者は自らが撒いた結果を皆に押し付けてアーコロジーという砦に引き篭もった

 水を巡っての争いが今日も続く

  水をよこせ!殺してやる!

  

 

人類の遺伝子は汚染され肉塊のような赤子しか産まれなくなった

 

世界は壊れ、そして…人々も壊れていった。

 

 

誰か・・・教えて…

イかれちまったのは…

 

私か…

 

 

世界か…?

 

背後にあるAC、だが光り輝く騎士を思わせた5m程の巨人は

酸性雨と乾いた大地から捲き上る放射性物質を含んだ土に晒され錆び汚れくすんでいる。

 武器もなく装甲も欠落した部分が多い、センサーに至っては完全にお釈迦だ…

  私はこれで逃げ続ける…

   まただ…あの声だ…頭の中を虫みたいにはい回ってる。

 

だが奴らは私に手出しはできない…ただの亡霊だ…

 

”希望に満ち溢れたリアル世界についての乏しい記憶の断片”

 

 

「あっ、目が覚めた」

「おい、大丈夫かアンジェ?とりあえずポーションで回復したみたいだがひどい怪我だったぞ」

 

アンゲリカは昔のことを考えてこう言った。

「ねぇ、やっぱラキュースは30前にサッキュバスかディラハンにクラスチェンジしておくべきだと思うのよねー

淫乱堕ちとか若いうちにアンデッド化とか萌えない?

イビルアイはメイド服で吸血鬼、最高の組み合わせだと思うんだけど」

ギターに火炎放射、可愛い女の子にメイド服は嗜好の…至高の組み合わせだと言ったのは誰だったか。

目覚めるなり頭のおかしい事を言い出す神に蒼の薔薇の面々はいつものことだと呆れ返った。

 

『あ、まだ痛い。いたいー。痛いよー。というわけでラキュ、チューで移して。口移し』

 

と、寝言を抜かしたアンジェをラキュースはゴンとはたいた。

傷口はえぐり取られた次の瞬間にブラドーの心臓を抉って浴びた血で回復している。

 

『いたっ!イタタタた!なんて乱暴な・・・くそう、全快したら宿屋で寝てるところを夜這いしてあーんなことやこーんなことでまた一晩中アンアン言わしてやる』

 

「はいはい、お脳の方は相変わらずピンク色で安心したわ」

 

 

灰狼の古狩人デュラ

言動も装備もかっこいい

話し合って和解できるというフロム世界では稀な人

元は人である獣を狩ることはできないという

落下死が多い かっこ悪い

 

 

 

彼が目覚めたのは何処かの森の中だった。

右手を見る、パイルハンマーはある。

左手を見る、獣狩りの散弾銃はある。

『そうか、彼女か・・・あるいは彼が遂にやったんだな』

 

悪夢の世界は遂に終わりを告げたのだろう、自らがヤーナムではないかの場所で目覚めたのは死んでは必ず目覚めるあの時計塔の上でないことがそれを証明している。

『どの狩人だろうか?』

彼は多くの狩人をそのガトリング砲で撃ち殺してきた。

何万?何億?もはや数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの狩人を数えるのも馬鹿馬鹿しいほど繰り返される悪夢の中で狩ってきた。

今、唐突に悪夢は終わりを告げた。

澄み渡る空気と温かな日差しは夜明けの世界であることを示している。

『ここでこうしていても仕方あるまい』

 

狩人は歩き出す、森の中を夜明けの世界を

そしてやがて気がつくのだ

『血臭、そして獣の匂いか』 

無限の悪夢は空けた、だがその先に待つのが天国とは限らない。

悪夢を抜けた狩人達を待っていたのは、また悪夢だった。

悪夢は終わらない、ただ形を変えて繰り返すだけだ。

夢はもう見ることなくとも悪夢は終わらない、終わらないのだ。

 

やがて老いた狩人は懐かしい慣れ親しんだ匂いの元へと足を運んでいた。

そこはかつては竜王国と呼ばれるだろう土地、今はビーストマンの狩場。

今は打ち捨てられた村々を通りかかると、その陰惨な光景には彼も顔をしかめる。

焼け落ちた家々に、薪として使われた家。そしてなぜ薪が必要なのかも獣の食い残しでわかった。ヤーナムでは別に珍しい光景ではなかったが。

ああ、竜王国。現在絶賛滅亡中

『獣の足跡か、獣の癖に火を恐れぬとは。くくっ、人の方がよほど獣らしいな』

ディラハまた歩き出すと、今度はこれこそ彼が求めていた本当の獣に出会う。

「人間だ!まだいやがったか」

「なんだ、老いぼれじゃないか。まずそうだな」

猫顔の獣がディラを遠くから見つけると口々にがっかりしたような言い方で揶揄する。

ビーストマンで斥候の後に前衛を務められるほどの”高貴”な生まれの方々に対し、

ここにいるのは山猫種族。

人間から見れば、山猫種もライオン種も同じようなものだがビーストマン種族の国家では個人の白兵戦の強さがそのまま地位に直結する。

ゆえに大柄なライオン種や虎種が生まれながらの支配者階級として君臨し、特権階級を形成している。

生まれで階級が決まるのは人間社会も同じだが、生まれが戦闘力に直結するこの国では身分の壁は人間社会以上に固定化されている。

後から続いておこぼれを預かる連中には到底珍味である人間の若いメスなどは回って来ず

まずくて硬い老人の肉などで我慢するしかない。

 

『ウワァァァッァ!助けてくれ!』

『いやぁぁぁぁ!』

『ママーッ!助けて!』

今もビーストマンの後ろの方では捕らえられた人々が腹ごなしに生きたまま捌かれていた。

 

それを目の当たりにし、怒りの表情を出したディラはこう呟いた。

『獣ども、いいだろう。ディラの狩りを知るがいい』

 

・・・・・・

 

ちなみにニグン=サンは・・・・

『Agghhhhh』

きみもっ!せいしょくしゃのけものなんだね!

聖職者なので案の定、聖職者の獣になりカッツェ平原で暴れまわっていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33 帝国

アンジーではなくアンゲリカ
君はっ!人類種の天敵なフレンズなんだね!すっごーい!
君もっ!人の言葉も解せぬ首輪付きのフレンズなんだね!すごーい!

解除されなかった実績
ヤーナムの新しい女王
幼年期を終えた月の狩人に与えられる称号、明けぬ夜のヤーナムがあなたのギルド拠点になります
もてなされる客人はその一端とはいえ宇宙悪夢の叡智の深淵に見える
それは天啓にも似て、だが到底理解できぬもの
可愛いほおずきヴィクトリアンメイド服仕様があなたのお家のメイドに追加されます ランランラーン(発狂)
可愛いメイドだぞ、脳汁垂らして喜べよ(啓蒙99


「ふむん、それで爺。その”やーなむ”とかいう街に対する情報収集は失敗したというわけだな?」

 

「面目ございません。何らかの結界かあるいは防御魔法が施されておるのか占術による遠隔視はことごとく失敗しております」

フールダーの弟子達、第3位階の魔法す使える人類最高峰のマジックキャスター達が王国に出現したと言われる未知の都市に対して遠隔視を行った。

結果は無残なものだった。

遠隔の魔法を行使した者は実行した直後に『フアァァァァsだfd』『ンぁぁぁsfsんs』

などという訳のわからない奇声を発して発狂し、最高級の精神回復ポーションを投与しても今尚発狂し続けたまま。

『これが・・これが深淵、おおおおぉ師よ。見える…見えますぞ…Ooh Majestic!」

と唯一かろうじて意味のある言葉を発した弟子は直後に脳みそを爆裂させて即死した。

大失敗だと言えるのか、或いは

(いや…大成功とも言えるのぅ)

発狂した弟子達は魔力が上昇し、信じ難いことに今よりも強力な魔法を行使するまでに成長した。

具体的にいうとゲームボーナス”ゴース、或いはゴスムの加護”である。

これはヤーナムでは不利な戦いを強いられる魔法職系への救済措置で、ヤーナムを認識しクエストを受注すると自動的に啓蒙が高まり魔法攻撃・ MPにブーストがかかるというものであったが

それが現実に反映されてしまったために弟子が発狂してしまったのだ。

Lv100程度ならドラゴンロードの霜降りステーキ程度のバフしかかからないくせに

発狂耐性が大幅に下がるということで非常に評判が悪い呪い系だったのも頷ける悪質な効果である。

やっぱ運営はクソだ。

無論、彼らにそんなことがわかるはずもなく強力な探知阻害魔法の一種とみなされていた。

「まぁいいだろう、これ以上無理をして人員を減らされても敵わんからな。

それよりもだ、ワーカーは全滅したんだな?」

 

「陛下、送り込んだ+A級ワーカーは一人も戻りません、。

全滅と推定されます」

お付きの騎士が報告しますが、もとより予想されたことです。

冒険者組合に蒼の薔薇が提出した”超危険遺跡!立ち入り禁止”という報告をわざわざ大金を出して再確認しましただけでは何とも間抜けです。

 

「それくらいはわかっている、だが中に超強力なモンスターがいますだけで成果無しでは冒険者組合の報告書と変わらんぞ?

全く、一体全体どういう理屈で巨大都市がポンと現れるんだ?

この世界は余が思っている以上に狂ってるらしいな」

 

「古代遺跡の中には人が近づけぬように強力な結界がかけられたものもあると聞きます。

現れたのではなく、結界が何らかの原因で切れて目視できるようになったと考えるのが妥当でしょう」

フールーダの予想は常識的に考えても桁違いの魔法の存在を前提に考えれば妥当だろう。

まさかゲームの世界から転移してきたなど、どんな狂った人間でも考えつかない。

「なるほどな、肉眼でも見えないほどの強力な探知阻害魔法が切れたのか。

だが、入っていった王国の冒険者チームはどうやって出てきた?

それが全く不明だ」

 

「それこそかの八欲王の空中都市の伝説のように十三英雄でもなければ出て行く事を許さぬのでしょう」

実際には動く者は何でも殺しにかかるので十三英雄でも1時間とは持たないだろう。

フールーダは勘違いをしているが、蒼が出てこられた原因はかの有名なマジックキャスターのイビルアイだと踏んでいる。

またも他人に魔法の深淵に触れる機会を先を越されたと内心では妬みを感じていた。

イビルアイは10歳そこそこ、大して魔法によって寿命を伸ばしているとはいえ自分自身が魔法使いとして現役でいられる時間は?

弟子たちと同じ場所に達するのに間違いなく彼らよりも時間がかかった。

自分が魔法の深淵の最も深いところにいるという自負はある。

そして自らを導く者がいないことに対する苛立ちも感じていた。

それだけに自分自らがヤーナムに行こうかとも考えたが、冒険者でない自分では予想される市街戦には向いていないと苛立ちは募るばかりだった。

 

「それにしても+A級ワーカーチームが使えなくなったのは痛いな、治安維持の騎士にはまた苦労をかけることになる…

だが…」

 

皇帝は報告書にある新しい王国のアダマンタイト級冒険者

”アンゲリカ・ブリューティヒ・ド・カインハースト”に関する報告書を指差した。

 

「南方から流れてきた難度100相当の大魔獣を使いこなすビーストテイマーだそうだ。

おまけに自信も相当な杖術の使い手だそうだ、テイマーらしく杖での護身とは顔同様に可愛らしいお嬢さんだ」

ジルの冗談に、騎士も苦笑いをする。

難度100の魔獣は確かに脅威だろう、恐らくは人類最強剣士のガゼフとも互角に近い戦いをするのかもしれない。

だが騎士からすれば戦術を理解しない魔獣は個としては脅威でも使い手を倒してしまえばいいという理屈もたつ。

魔術こそ最強の力だと信じているフールーダからすれば『フライ:飛行』からの『ファイヤーボール:火球』などで倒してしまえる。

いくら手強くとも人間の技と知恵には生半可な魔獣で対抗することはできないという自信があった。

 

「私は彼女を帝国に誘致しようと思う。

ガゼフは残念だったが、優秀な人材が野にはまだまだいることがわかって嬉しいぞ」

 

「別に構わんでしょう、それより”やーなむ”での調査は許可されるのですかな?」

 

「おい、爺。お前がいなくなったら誰が魔法省を運営するんだ?

心配するな、ワーカーならまだいくらでもいる。

それに王国を滅ぼしてからじっくり腰を据えて調査すればいいだろう?」

ジルクニフは王国を滅ぼすのはもはや確定している路線らしい。

「やれやれ、魔法の深淵を覗くのに必要とはいえ世俗に関わらんといかんのは気が乗らん」

フールーダは自室兼研究室にヤーナムの調査資料を持って来させたが、殆ど未知の魔法に関しては頼りにならなかった。

「せめて…儂にも師匠と呼べるお方がおればなぁ…」

自分では既に御伽噺の十三英雄を超えたという自負はある、だが彼らは八欲王の天空城からなにがしかのマジックアイテムを持ちけることを許され、自分はできない。

それが彼に嫉妬の念を掻き立てる、考えてもせんなきこととはいえ…

『Ooh!Majestic!You、Dreamer of Goth …or Gothm!(素晴らしい!ここにもゴース…あるいはゴスムを夢見る者が!)』

 

ゾッとするような狂気を孕んだ声が研究室の陰から聞こえる。

「な!何者!?」

ここは魔法省の中でも最重要な自室。

どんな者であろうと数々の防御魔法をすり抜けて気付かれずに入ることなど不可能!

陰から出てきたのは…奇怪な鳥の籠を被った奇妙な学生服(?)を着た中年の冴えない男だった。だがその目は明らかに狂気を宿している。

そして…

「な!?そんな馬鹿な!き…あなた…あなた様はどれだけの魔法を!?」

自らのタレントでわかってしまった、魔法使いとしての格が…違いすぎる。

このお方に比べれば自分の才能なぞ太陽を前にした蝋燭の灯り同然

今までの魔法の先駆者という自分の自負が崩れ去り、同時に喜びが湧き上がる。

 

『叡智を求める者、脳に瞳を望む者…祈れ、祈るのだ。

君はまだ思考の次元が低すぎるのか…』

すると謎の男はどこからともなく奇怪にして冒涜的な頭蓋骨を差し出してきた。

『このような安易な方法で啓蒙を得るのは薦められないが、まぁ初心者にはちょうどいいだろう。砕くのだ、そして真の啓蒙を授かる呼び水とするのだ』

凄まじい魔力を秘めた頭蓋骨!手にしただけでわかる、伝説級のマジックアイテム!

 

フールダーは躊躇うことなくマジックアイテム”狂人の智慧”を砕いた!

「お、おおおぉっさkぐさgんcvんb!見える!見えますぞ!これが啓蒙!これが思考の飛躍!

Oooooohhhhhhhhhhhhh!Majestic!(すごーい)」

 

これを機会に謎の籠の男をフールーダは師匠と仰ぐことになる。

ジルクニフは”魔法キチの爺がとうとう本物のキチになったか…”と胃を痛め髪がさらりと抜けたのを感じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34 法国

アンゲリカ
くだらんなあ~~競い合いなんて
このアンゲリカの目的はあくまでレア素材!あくまで攻略! 
どんな手をつかおうが……最終的に…勝てばよかろうなのだァァァァッ!
ほしーもの 叡者の赤石 石仮面

ヤーナム 悪夢の狩人達
上位者の幼子の悪夢の中で生きる獣の狩人達
ヤーナムの過去・現在・未来の記憶から再現された存在
殺すことはできても死ぬことはなく、また悪夢より現れる
上位者が夢を見るたびに現れてはまた夢のごとく消えるという

ユグドラシルでの効果
ユグドラシルのMAP上にランダムに敵対NPCの狩人がポップします
”初めまして!君のこと(解剖して)知りたいな!!”
”狩りごっこだね!たーの死ーねー!”
”やっと見つけたのだ!この儀式素材め!”
”はっぴー、うれぴー、よろぴくねー!”
殺しにかかって来るので
ヤーナムアイサツと共に殺しましょう
倒すとレアアイテムドロップ&大量の経験値&大量の金
Lv100ガチビルドプレイヤーでも死闘になる程度には強い

現実での効果
アンゲリカが眠るたびに狩人が現れ24時間経過か倒すと消える
わかりやすくいうと日本のどこかに毎日核爆弾がランダムポップするようなもの
デュラさんは24時間で2万程度のビーストマンを一匹一匹殴り潰した
それは銃でウシガエルを撃つようなものに似てめんどい



陽光聖典のニグン隊長が発見された、状態は以下の通り

『肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ、イーひヒッヒッヒ!ああ、なんと悍ましき冒涜。我々こそは皆生きながらに腐り腐臭を放つ悍ましき者 救済を救済を救済を救済を!

偉大なるゴースよお導きをぉぉぉぉ!あああああああああぁぁぁぁぁ!ghgxfgndirsanguines!』

などと訳のわからない言動を見せており、スレイン法国の中でも最高級の第4位階の精神治療ポーションを投与しても回復の見込みなし。

更に常に自分の手で体をかきむしり、皮はそげ、肉が露出し、骨に達するまで掻き毟ってもなお掻くのをやめないため止む無く鎖で拘束し縛り上げている。

監視していた巫女が発見したカッツェ平原からスレイン法国まで護送してきた最中には回収チームに殴りかかったためやむなく殴打して両手両足を折らざるを得なかった。

それほどまでの暴れぶりだった。

その他の隊員の残骸を回収したものの、蘇生はいかなる理由か第6位階の蘇生第魔法を持ってしても蘇生が不十分だったためか虚ろな表情で呻き声を出し、見たものを嚙み殺そうとする

まるで亡者のようになってしまったため幽閉している。

陽光聖典の主要戦力の大打撃に伴い計画中だったガゼフ暗殺計画は無期限延期となっている。

とはいえ、永遠に発狂したまま不老不死になったニグンはいくら叩いても潰しても瞬時に再生するためこのおぞましい再生を繰り返すかつての隊長を法国は開錠不可能な地下牢に閉じ込めて監視するしかなくなった。

ニグンは未来永劫に発狂したまま不滅の存在となった。

ゲームフレーバーテキストが現実化した結果、蘇生しても発狂だけで死ぬことができる隊員の方が遥かに幸福だと言えるだろう。

 

「しかしニグンにかけられた謎の呪い…一体どのような系統の魔法によるものか…見当はついたのか?」

 

神官長が蘇生を行なった水の神殿の神官に問いかけるが

 

「今までに例のない呪いということだけしか分かっておりません…

治癒に当たった信仰系スペルキャスターによると、まるで底の見えない泥沼にも終わりのない空のようだとも理解しにくい呪いだと…」

 

「それは…」

 

深宇宙の神秘、深き叡智の一端に触れてしまった人間は幸福である。

だが準備なしに触れてしまった者は…もはや死んでも死にきれない

医療協会の鎮静剤の助けなしには彼らが正気へと戻ることはない。

 

「分かった、研究は続けよう。

しかし”100年”のタイミングで謎の呪いか…まさかとは思うが”破滅の竜王”か?」

 

「状況から考えて十分に考えられるかと、これが監視の<次元の目>及び彼らの記憶から抽出した”敵”の姿です」

 

法国の情報機関は既にこの悍ましい攻撃を仕掛けた者の姿形を魔法の写し絵に捉えていた。

「これは…獣人なのか?」

「いえ、獣人の皮を剥いで被った人間のようなのですが…」

ブラドーの異様な姿は見るものに原始的な恐怖を引き起こす。

狩人でありながら獣に近いその姿はあえて外面は獣を模倣することによって

内なる本当の獣の病を誤魔化しているようにも見える。

だがスレイン法国がそのことについて理解することはない。

啓蒙低きものたちに冒涜的に悍ましいヤーナムの神秘が理解できようはずもない。

「人間だと?バカな、陽光聖典の精鋭部隊を一瞬きの間に全滅させるなど人間業であろうはずがない。

アダマンタイト級の冒険者チームにすら勝利しうる連中だぞ!?」

 

陽光聖典、それは表向きの仕事をこなせる精鋭部隊。

国を滅ぼすことすら容易な強大な人類の敵とすら戦えるまさに人類の守り手。

それがあっさりと全滅させられるなどあり得ない、相手が神人でもない限り…

「いいや、違うな。人間らしいというだけで亜人ではないとは言い切れん…

だが、これだけの事をやってのけたとなると難度は120…いや140はあると覚悟したほうがいいだろう」

 

神官長の判断はかなり甘いとはいえ、妥当な者だった。

通常のドラゴンですら80程度のこの世界では140はまさに神話級の魔人!

実際には300オーバーがそこらへんの街角で殺し合っているのがヤーナムなのだが、そんな大魔境を想像しろというのがおかしい。

 

「とにかく周辺への警戒は怠るな、漆黒聖典に”遺産”を装備させることも…事と次第によっては番外席次の出番すらあるやもしれん」

 

「それは盟約違反では?」

 

「最悪の状況は、”獣の魔人”と忌々しい竜王が手を組む事だ。

人間種と亜人の軍事バランスが完全に崩れる。

それを防ぐためなら盟約違反にこだわっている場合では無い。無いに越したことはないが」

 

水の神官は予想異様の状況の悪さに顔色を悪くする。

だが、次の火の神官の報告はまだ救いのある者だった。

 

「こちらが、例の”灰の老人”に関する報告です。

未だに混乱の続く竜王国からの報告なので信頼性にはかけるのですが、ええ信じられないことはわかります。

ですが、少なくともビーストマンの軍団を”単独”で退けたという男がいるということだけは事実のようです」

 

そこには”デュラ”と名乗る奇怪なハンマー?のような武器と轟音を発射する筒?のような武器を持った男が竜王国に侵攻してきた推定2万のビーストマンを”殴り殺した”という到底信じられない報告があった。

男の似姿、破壊されたビーストマンの残骸などの写し絵が届くが

正直、誰も信じてはいなかった。だが、例の獣の魔人がいるのならばそれに対抗する灰の老人がいてもおかしくはないという希望から調査された。

「2万以上のビーストマンを単独で撃破して、何の見返りも求めずまた何処かへと立ち去ったか…」

この大損害によりビーストマンは一時撤退、女王セラブレイドは彼を召し抱えて竜王国の守りのかなめにしようとしただけに大いに落胆したという。

この時の自棄酒でまた酒臭くなったが、それはこの際追求しないで欲しい。

 

「神人だと?」

「間違いなく、ですがこの年までどこにも現れずに突然現れたなど…まるで“ぷれいやぁ”」

 

「そうであれば良いのだがな」

 

そして最後に現時点で確認が取れている有力候補の一人の報告

 

「アンゲリカ・ブリューティヒ・ド・カインハースト か

奇妙な名前のビーストテイマー、なるほど獣の魔人を蒼の薔薇とで協力して戦って退けたのもそのモンスターの力か」

 

冒険者組合にはシフと共同でブラドーを撃退したと報告してある。

実際には単独でやり合って相打ちになってしまったが。

法国では蒼の薔薇のモンスターとも分かり合えるなら共存したいという考え方は受け入れられていない。

当然だろう、共存とは要するに必要な資源を平等に分かち合うということ。

繁殖力に劣る人間とゴブリンとではそもそも”平等”にの前提が違う。

とはいえ、それを説明してもあの近視眼的なお嬢様がたは理解しないしできないだろう。

人類の事を問題があるとはいえ大局的に考えられる唯一の存在の法国の上層部と所詮は一介の冒険者では価値観が違うのが当然。

「その点では、こちらのカインハースト嬢はまだ見込みはあるな」

 

アンゲリカの言動は冒険者組合や諜報員の耳目に嫌でも入る。

彼女の性格は直接的で直情型だが、モンスターを容赦なく”狩る”という点ではむしろ法国の陽光聖典に近いということも。

蒼の薔薇と行動を共にすることが多くとも、それは彼女がレズビアンだからということも。

それらを考えれば法国側に引き込むことは不可能ではない…

そう思っていた、彼が知らないことだが

アンゲリカは制御不能な核爆弾のようなものだという事実を除けば



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

モモンガさん、ヤーナムぶらり旅紀行

栄光ある大型ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”

しかしながらゲームの流行り廃りはショッギョムジョ。

過疎化によって41人のギルメンは櫛の歯が欠けるように一人また一人と卒業して言った。

そんな中、ユグドラシルに再びテコ入れが入れられた。

既存の問題点、遊びつくしてしまったら?

運営の答えはこうだ、それなら新しいエリアを入れてカムバックプレイヤーを誘えばいい。

かくして設置された新しいダンジョン、

狂気冒涜都市ヤーナム

神影残光都市アノールロンド

濃霧侵食都市ボレタリア

この3つが追加ダンジョンとして実装された、お値段7980円

値段に文句を垂れるプレイヤーが多かったことでブチ切れた運営がプレイヤーをゴミクズのように殺しまくって

その動画でスッキリする為に作られたステージだと言われるほど酷かった。

やっぱ運営はクソだな。

とはいえ、久々のギルメンとの冒険は日々のルーチーンワークとなった運営費用稼ぎと違って新鮮味があった。

 

『いやー久々ですねぇ、こうやってモモンガさんと遊ぶのも』

 

『そうですねー、こうやって新しい機会でもなけりゃなかなか来ませんから』

 

久々にやって来たウルベルト、タッチ、ペロロンチーの、モモンガの4人はパーティーを組んでヤーナムにやって来ました。

入り口には血文字で

『危険!入るな!』

『ようsasこolそぉぉぉ!あyfs酵素ぃ!ヤagggナムへぇ!』

『この先、人形に気をつけろ』

などと書いています。不吉な気配がビンビンしますね。

腐った夕日にヤーナムのどこまでも伸びる尖塔が突き刺さり、不吉な影を4人の上に落としています。

 

『ではみなさん、いつも通りのフォーメーションで行きますよ!』

門を開け、霧を抜けると…そこにあったのは

 

 

『ふあぁぁぁっぁあぁ!よう↑こそぁお!よぅ↓うこぉそヤーアナムへぇ!』

『肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ』

『悍ましい、冒涜的叡智。悍ましき肉の祝福、大宇宙の神秘。

お前達もこの啓蒙のsdkdsld thbcnvkv ;oxicv 』

 

なんと!そこにはモモンガさんと同じくヤーナムのロールプレイヤー達がいました。

死体を貪り、冒涜し続ける狩人達。つまりガチ狂人達です。

お互いに殺しあったのか町中の壁や屋根のそこかしこにプレイヤーだった物が飛び散っています

「ひえっ」

モモンガさんはあまりにも悍ましい光景にまだ実装されていないはずの精神抑制があればいいと思ってしまいます。ピカー

 

新しいゲームを始めたら最初の光景がスプラッター映画とはやっぱり運営はクソでしたね。

プレイヤーのはずなのに狂人達が襲いかかって来た!

 

 FirstBattle

チーム AOG vsヤーナムの影(プレイヤー)

数では4対3で有利です。

しかしながら接近戦に向いたプレイヤーがタッチさんだけのこの状況でガチインファイター3人の影達と

近距離でエンカウントは実に不味い。

影の一人が血まみれの鋸でタッチさんに襲いかかりました!

『ふgぁあああああああつぁあああ!ようコソォ!』

ガチんという音とともにタッチさんの聖剣と鋸が鍔迫り合いを始めます。

どうやら典型的な脳筋タイプで理性も良識も全て筋力に全振りしたプレイヤーのようです。

人間プレイヤーのようですが世にも悍ましい表情のアヴァターからは理性のカケラも見出せません。

更にいえば脳に獣のカレル文字でも刻んだのか獣面です、人間種って奥が深いなぁ。

きっと獣性が高まりすぎたんでしょう。

力押しでタッチさんを押しまくりますが、その間にも残りの二人が襲いかかっって来ます。

『肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ肉の穢れ

削ぎ取って、炙って、清めてあげる!清める…清めを!清め清め清め清め清め清め清め清め清め清め清め清め清め清め清め』

 

肉の穢れを連呼する悍ましい人間種プレイヤーが襲いかかって来ました。

こちらの方は貴族のドレスに苗床の頭という実に悍ましい姿です、ペロロンチーのさんはマジで吐きそうになりました。

おかしいですね、男の娘だというのに。

ゲイ・ボウで応戦しつつ交戦していると、向こうもシモンの弓剣で応戦して来ました。

かなりの手練れなのか接近戦では向こうに分があるようです。

 

『アーハハハハはっはあ、フレンズ!フレンズ!

フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!フレンズ!!!

フレンズゥゥゥゥ!!!!!Ogghhhhhhhhh,MAJESTICcccccugggh!』

モモンガさんとウルベルトさんにはフレンズを連呼する鳥籠頭の中年男が襲いかかって来ました。

きっと、たつき監督が降板してしまったことで発狂したファンの方でしょう。

「くっ!変態のくせに早い!モモンガさん、サポート!」

ウルベルトさんがカタストロフィック・ノヴァの炎系大魔法で応戦し、モモンガさんがサモンアンデッドで壁役のデスナイトを召喚し、皆のサポートに回ります。

 

『みなさん、気を付けてください!変な格好ですが、かなりの手練れですよ!』

4対3の戦闘は8分ほどで終わりました。

ナザリックの皆もかなりのHPとMPを消費する大接戦でしたが

結局は4人のチームワークがヤーナムのイかれたプレーヤーを退けたのです!

これぞ友情の勝利!

 

『ふがへへへへっへへへハァ!どうぞぉ!どうぞゆっくりして逝ってねぇ!』

『痒い、痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒いああ!この痒みこそ穢れ!』

『Oohhhh,awoooowadsf!本当の愛はここにあるぅぅぅ!』

それぞれが死ぬ時には特徴ある断絶魔を叫んで消えて行きました。

またこんな連中で埋まったイかれた街に入っていくかと思うとモモンガさんはかなりSAN値を削られてしまいました。

しかし4人のヤーナムでの冒険は始まったばかりです、頑張れ異業種社会人チーム!

『あーははははっははは!』

と思ったら早速次の狩人達がモモンガさん達を見つけて追いかけて来ました。

疲労した状態で戦闘するのは危険と判断したので逃げ出しました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話

前回のブラッドボーンから十年後

 

19XX年 地球は世界大戦の炎に包まれた!

地は死体で埋まり 海は血に染まり 空は燃える

大地に鋼鉄の獣 空に鋼鉄の鳥 海に鋼鉄の海獣

しかしヤーナムで獣狩りの夜が絶えることは無い

ヤーナムの悪夢も人間の合理性が作り出した悪夢の世界に比べれば児戯に等しい

 

町中のあっちこっちから銃声が聞こえる。

パンパンという乾いた単発の音から連続した機関銃の音まで様々な銃声が交響曲をなし、

その間に聞こえる叫び声、断末魔の呻き、血の喜びに浸る狩人のケタケタという笑い声。

交響曲“ヤーナム 獣狩りの夜”

全てが変わった赤い月の夜から十年、獣狩りの夜は未だに続いていた。

悪夢は繰り返し現れる、姿を変えても悪夢は消えない。

それでもなお、血の医療を求めてヤーナムを訪れる者が絶えることは無い。

ここはヤーナム、外来狩人のギルド兼待合所

水盆では死者たちが新規入荷した武器を掲げている

版権が切れたWW1の銃器に獣狩りの頭文字つけただけでヤーナム課金装備にするのはよせ。

やっぱ運営はクソだな。

 

“獣狩りのシャベル

おおよそ、武器とは呼べぬはずのシャベルを獣狩りの武器としたもの

大戦での経験から、元軍人の狩人が好んで使うという”

 

“獣狩りのM1911

人に対しては有効な連発拳銃

しかしながら獣はもはや人でなく、それゆえ威力は見劣りする

大戦での経験から、元軍人の狩人が好んで使うという”

 

“獣狩りのモーゼルC96

人に対しては有効な連発拳銃

しかしながら獣はもはや人でなく、それゆえ威力は頼りない

大戦での経験から、元軍人の狩人が好んで使うという”

 

”獣狩りの短銃

極めて簡素な構造の単発の短銃

簡素ゆえ至近での一発の威力は極めて威力が高く、常人では扱えない

獣に対しては牽制以上ではあるまい”

 

 

“獣狩りのMG08/15

重機関銃を水銀の銃弾を使用できるように改造したもの

獣はもはや人ではないが、機関銃が相手を選ぶはずもない

大戦での経験から、元軍人の狩人が好んで使うという”

 

ヤーナムでの狩り2日目

今回はモモンガさんはソロプレイでしたが、最悪なことにプレイヤー狩人同士の殺し合いに巻き込まれてしまった。

低レベル帯での銃弾ならモモンガさんの物理無効で問題なしですが

今回飛び交っているのはカンスト勢の水銀の銃弾”アンデッド・獣系敵への攻撃力ボーナス”なので

かすっただけで “YOU DIED”になりかねません。

 

”ベイカー、右に回れ!あいつを殺してレアアイテムを奪うぞ!”

3人の狩人同士が殺し合っているところに出くわすとは運のない骸骨だ。

離脱しようにも通路が塞がっていて下手に動こう者なら銃弾が飛んできて即死です。

(やばい、やばいよ)

ここはデスナイトを召喚して盾にすべきか?

いや、連射銃の多段ヒットではこのレベル帯ではデスナイトも二発かすったら蒸発する。

つまりほとんど盾の役割を果たせていない。

”おい、あっちにアンデッドのプレイヤーがいたぞ!”

”構わねぇ!ついでに殺しちまえ!動くものはみんな殺せ!”

なんという世紀末状態。

近くのプレイヤーが次々と寄ってきては手当たり次第に殺し合いを始めます。

運のないことにソロのモモンガさんは両方からボス、ではなくてボーナスとして認識されてしまった。

逃げていく結晶トカゲとか悪夢ちゃんとかと同じ扱いです。

「くそっ!こんな連中と付き合ってられるか!私は安全地帯に逃げる!」

死亡フラグを立てたモモンガさんは直後に三角帽子の他の狩人が飛びかかってきて…

『Japari Frieeeeeeeends!』

という掛け声とともに振り下ろされた聖剣の槌のクリティカルヒットを食らって一撃死してしまいました。

聖属性・打撃属性の弱点ダブルコンボだからね、仕方ないね。

ゴウランガ!スケルトンマジックキャスターのなんたるペーパーアーマー!

“YOU DIED”

『Ooh,Majestic!(すごーい!)君は聖者の遺骨なフレンズなんだね!あーはっははははっはあ!

冒涜聖杯儀式につかせてもらうよ!』

 

Killログに残る相手の声にげんなりするモモンガさん。

ヤーナムに来てからというもの殺されっぱなしでヤーナムの狩人ギルドに再転送されました。

「はぁ…」

心が折れ、焚き火の近くに丸くなって恒例の青ニートならぬ青ニト様状態となったモモンガさんは出会ってしまった。

 

「あのーよかったら臨時パーティー組んでくれませんか?」

 

狩人の一人が話しかけてきた。黒い髪に高貴な上品な装束の美人アバターにドキッとする・

「え?いいんですか?本当に?っていうか“騙して悪いが”オチじゃありませんよね?」

これまでのヤーナムの世紀末ぶりから疑心暗鬼へと落ち込んでしまったモモンガさんであった。

パーティーを組んでいる間はフレンドリーファイア禁止でも、ここはヤーナム。

3秒前まで仲良く談笑しあっていた仲間と次の瞬間には殺し合いが始まることなどチャメシインシデントである。

それもこれも上位報酬とランキング実装という運営の外道の極みでデスマッチでバトルロワイヤルな蠱毒めいたシティへと魔界造されてしまったヤーナムの狂気のせいだろう。

やっぱ運営は外道だな。

「いや、私は冒涜聖杯素材探しにダンジョンに潜りたいだけですから

ランキングはあんま興味ないし、”遺志”狙いならあげますから協力しません?」

 

モモンガさんは感動した、この街の住人は動くものなら自分の親兄弟でも躍起になって殺そうという連中ばっかりでうんざりしてきた所だった。

「あ、はい。ネクロマンサー系オーバーロードのモモンガデス、ドウモよろしく」

「狩人のアンゲリカです、よろしくね。それとパーティーならもう一人いますよ」

 

するとギルドからもう一人の人間が現れた。

苗床頭の筋血マン、ボロボロの装束を装備した変態だった。

「おお、魔法使いが確保できたんかいな?こいつは幸先いいな!

あ、私はキノコ頭のメリッサ、よろしくね」

 

あまりにも異様な風貌からこれは異業種なのでは?と思ったので

「え、それって異業種アバターですか?」

「うん?、違う違う。これはあくまでもカレル文字刻んだ影響なだけでれっきとした人間種扱いよ。普通の街にも入れるし」

 

なにそれ、人間種怖い。

運営の異業と人間の区分がガバガバすぎる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる廃人プレイヤー

11月26日までBloodborne The old hunters edition 大セール中!
Fallout4、GravityDazeシリーズもおすすめ
お前もフレンズだ
貴公の啓蒙も限界と見える

魔術礼装
ヤーナムの狩人シリーズ
獣狩りの斧
獣狩りの散弾銃

リ・ヨグ・ダコ
百戦錬磨のプレイヤー マスター達の化身 
カルマがバグって表示されない
見かけたら逃げるか殺せ
ヤーナムの名状しがたき狩人100選


「さーて、今日も死ぬ程度に殺してジャックちゃんをお迎えするかぁ」

 

ヤーナムでも悪名高きガチャ廃人狩人、リ・ヨグ・ダコのヤーナムの夜は早い。

“それ”は名状するも悍ましき存在、肉の穢れを穢れとも思わぬほどに凝縮された人類悪。

狂気と強欲とうどん生地を混ぜあわされた結果存在するようになった概念。

星すら喰い潰す人の欲望の権化であった。

まこと、人の権化ほど悍ましき物なし。

PKで上位ランキングを取ると星6限定鯖が貰えますと宣伝したところ、あっちこっちから物欲しそうなプレイヤーがやってきて常に殺し合いを繰り広げる修羅場となった。

つまり何時もと全く変わらないから問題はない。

やっぱ運営はクソだということが証明されたな、クソが。

「おっ、ソロだな。殺しておくか」

地下室で獣人だか人間だかをぶちぶちと斧で解体していたら外に気配を感じる。

よくガチャに酔った人間は素材の匂いに敏感になる、あれである。

バンと勢いよく地下室から壁を突き破って奇襲する

「すいませーん、ちょっと殺されてくださーい!」

「えっ!?」

おお何というマッポー世界!アスク・ロード感覚で殺人が横行する!

哀れ!アンデッドのネクロマンサーは奇襲で一撃死してしまった。

今日も無謀にも一人で入り込んできた他のプレイヤーを殺して回っている。

 

「チッ、キングハサンみてぇな面しやがってるのにショボいドロップだな。

まぁ冒涜聖杯の呼び腑がわりにはなるだろ」

呼び符ではなく呼び腑、聖者の遺体や腐った目玉でもガチャは回る。回るのだ。

らんらんるーと殺した相手のドロップを漁り、ガチャのある冒涜聖杯までやってくる道すがら

ついでに色々な世界観からやってきた他のプレイヤーも殺して回る。

遺体は切り刻んで隅から隅まで冒涜の限りを尽くして冒涜素材になるように殺す。

「うひょー!今日こそ引くぞージャックちゃん!

こんだけありゃ確実にお迎えできるのぉ!」

そこには大勢のプレイヤーを殺して奪った内臓がたんまりとあった、何人の腑を抜いたのか。

「お前は今までにガチャ爆死した回数を覚えているのか?」

誰かこいつを殺してくれ、無駄だけど。

「マスターは鯖をprprして絆を高める、常識だよなぁ」

 

今日もヤーナムの獣狩の夜は更けていく。

そして…

「くそったれ、何が運営の都合だ。課金返せコラァ!」

 

『えーお集まりの皆様、今日はユグドラシル運営最後の日。

後腐れのないように不屍人、狩人、レイブンといったふろむ野郎ども。

ユグドラシルの嫌われ者のみなさま。

今日はもう最後の日ということでちょっと談笑ついでに殺し合いしましょう』

 

 

「お、お久死ぶり」

「や、どうも死んでください」

 

集まった数少ないフロム民はを挨拶を殺りながら和やかに殺し合います。

『じゃっぱり♪Japari♪じゃっぱりふれんず♪』

斧で挨殺しながらストレスを解消しているんのがヨグでしたが、楽死い時間はすぐに過ぎてしまいます。

「せっかくジャックちゃんをお迎えできたのに終了とか、クソだなクソ」

 

カンストプレイヤーを200人ほど殺し続けるとあっという間に終了間際の24時になってしまいました。

「あーくそ、これからどうすっかなー」

「せめてprprしたかった」

「リア充殺す」

「みなさーん、この子がうちの子のジャックちゃんでーす。

ジャックちゃん、みんな殺してあげなさい」(親切)

「わーい!“解体”が得意なフレンズなんて!解体してほしーなー!」

 

そして迎えるのは多くの人が最後の時だと思った瞬間。

「ランランランラーん、ラーんララーン」

人がいなくなった聖杯ダンジョンの奥深くで一人、トゥメルの女王を殺し続けていたヨグはこれで終わりかとしみじみとする。

そして24時を迎えたその瞬間にそれは起こった

“鐘の音に誘われて、異世界に侵入しています”

「おかーさん、また沢山狩ができるね♪」

何だろう?ついに幻聴が聞こえるようになったか…

それを最後にヨグ・そ…ではなくてヨグ・ダコは仮想世界から永遠に姿を消した。

『お前も、フレンズだ』

 

数日後、ビーストマンの侵攻軍は一匹も残さずに狩り尽くされた。

デュラによって弱ったところに先の狩人以上の敵が現れたために。

『石だ、石をよこせ。一つや二つじゃない、全部だ…』

竜王国の兵士は戦場から響いてくる悍ましい声が城壁の外から聞こえたという。

『ガチャ、ガチャ。くそ、また爆死かよ。まぁいい、素材はまだまだあるんだ。

お前らがガチャ素材になるんだよぉぉぉ!』

 

『GachariFrieeeeends!』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話

獣狩りの短銃 
象ではなく獣を撃て 600 Nitro Express 
頑強な獣相手には牽制にしかならない
獣の頑強さは人間の比ではない
至近距離から対戦車ライフル弾を叩き込んでようやく動きを止められるのが獣なのだ

ヨグ「お前も一度は感じたはずだ!
”あの時、ガチャに回した金でもっと有意義なことができたのになぁ”
とか
”こんだけ注ぎ込んで、爆死とか俺は何をやっているんだ…”
とか!
絶対にお前はガチャで後悔したはずだ!さぁ後悔し、苦悩するがいい!
ガチャの暗黒面に堕ちるがいい!」

モモンガ
「グググ…私は…私は後悔していない!
爆死があったから、今の私がいる!私はガチャのオーバーロードだ!」

「バカな!あれだけガチャ爆死して後悔していないだと!?グワァァァ!
まさかここまでのガチャ廃人がいるとわぁぁぁぁ!」

ガチャ廃人同士、仲良さそうだな

狩人・不死人・レイヴンといったフロム脳が先に召喚された世界

もも「さて、この世界を見てみるか…遠隔視の鏡で…と」

「はっ!血塗れ…」
「うわぁぁぁ!カンストプレイヤー同士が意味もなく殺しあってる!」ピカー
「うわぁぁぁぁ!なんか変な獣を火炙りにして拝んでるぅぅ!」ピカー
「うわぁぁぁ!なんか変な膿ナメクジがうろついてるぅぅ!」ピカー
「街角で変な儀式してたら、住人が悍ましい神話生物に変わってるぅぅ!」ピカー
「もうやだこの世界」


リ・ヨグ・ダァコ
Class :The old one
カルマ:æ–‡å—化ã

たまには最初から”悪”に触れ切ったキャラもいいと思う。

エンリの過去は平凡で故に幸せだった
すべての能力値が平均的


『ああ、ガチャ。ガチャ。宇宙に境目はなく、故にガチャは巡り巡る

夜を徹してガチャろう、超次元的ピックアップ!』

 

目がさめると、いつのまにかリ・ヨグ・ダコは草原にいた。

そして嗅ぐのだ、血と臓物と腐敗した芳しく悍ましく懐かしい匂い。

そう

『おっ、これは…ガチャ素材の匂い』

異世界転生したのに考えることはまずガチャ。

 

「ねぇ、お母さん。いつまでも寝てちゃ駄目だよ?風邪ひいちゃうよ」

ああ、この子は

1:自分の娘だ

2:誰だろう…

 

1:自分の娘だ

そうこの子は自分の子供のジャック・ざ・リッパーだ

娘にジャックというのも妙だが、世の中には実に男らしい男が女性の名前だという例もある。

その逆もまた、然りである。

 

そして自分は…

1:ガチャを回すものだ

2:重度のガチャ中毒だ

 

両方だな、何が何だかわからないがゴーストが囁く。

『ガチャを回せ。冒涜聖杯星5鯖』

自分はガチャを回さねばならない、常識がインプットされる。

「おお、Majestic!悪夢の中でもガチャとは!でもね、でもね。

イベントはめぐり、終わらないものだろう?」

サァ!思いっきり殺したり殺されたりしてガチャを回そう。

「おかーさん、あっちの方でなんか殺ってるよ」

『あら、お祭りかしら。しっちゃかめっちゃかしっちゃかめっちゃか、うーがおー』

そして数km先の村のようだった所にあったのは中心部で食い散らされた人間の残骸。

『やっぱりただのドッタンバッタン大騒ぎね。

でも魔力供給はできそうにないな、ちょっとそこらへんの新鮮な奴を解体してみるか』

ボリボリとビーストマンの食いさしの“不思議なお肉”を齧って吐き出す。

補充MP0という数字が頭の中にぼんやりと浮かぶ、つまり栄養素0。

 

「ん、あれは…」

一方で巡回していたビーストマンの歩兵は放棄された餌場の一つで動きを完治した、

その直後…

『おい、心臓だけで勘弁してやる』

バコン!という盛大な音とともに兵士の頭蓋骨が弾けとび、背後から腕を突っ込まれると心臓を抉り出された。

これぞケモノスレイヤーである狩人の奥義、『撃って死なない程度に殺してから挨殺』である。

死んだら獣、死ななかったらフレンズという判別方法はヤーナムにおいて最も安全で信頼できる獣の判別方法である。

このビーストマンは水銀弾が直撃した程度で死んだので獣決定。

「ほら、ジャックちゃん。あったかい新鮮な心臓よ」

ぐしゃぐしゃになったビーストマンの残骸からホカホカのドロップアイテムである心臓を娘にあげる。

蕩けた目玉や腐った脊髄といった冒涜聖杯ガチャに必要な素材アイテムを探したが何もない。

「しけてるな、殺してやったのにこれっぽっちかよ」

「ほんと、おかーさんが殺してあげたのに何もくれないなんてケチだよね」

もぐもぐと新鮮な心臓を食べながら

「どう?美味しい?」

「うーん、これあんまり美味しくないね。魔力もちょびっとしかないよ」

 

ビーストマンはキャラメイクが脳筋よりなのかMPストックが少なかったらしい、

「あらごめんなさい、いいわ。お母さんが腕によりをかけて殺してきてあげるから」

と、歩き出すと炎が見える。

「お、篝火かよ。”Bonfire Lit”ますますテンプレだな、殺してあれを灯して進むんだな」

それはまた違うゲームだが、思考を”殺す”から遠ざけてほしい。

そして始まるフロム感覚ドッタンバッタン大騒ぎ。

「ネコ科のみなさーん、ちょっと死んでくださいーい」

ヨグが斧を振り回すたびに焚き火の近くで休息をとっていたビーストマンの兵士たちがミンチになって血肉を大地に撒き散らして死んで行く。

「何だドロップなしかよ」

大虐殺してこれだ

「まぁいい。これでもガチャが引けそうな気がするからな」

 

冒涜聖杯にてガチャを引く場合のやり方は簡単

冒涜聖杯に血肉、腐った脊髄、墓所カビ、血走った目玉、うどん生地を練りこんだものを放り込んで周りでなんか小難しい呪文を唱えるだけ!

「面倒クセェ、呪文とか覚えてねぇし”旧支配者たちのキャロル”でいいか」

ビーストマンに次々と襲い掛かり、冒涜聖杯の儀式によりて世界を悍ましい肉の穢れによって穢す冒涜フレンズでもある“マスター達の化身”

このような大冒涜存在が世界を守る白金の竜王の感覚に止まらぬ道理はない。

 

ヤーナムは生きた町である。

山間のどこにもあって、どこにも無い。

あなたの隣町であり、また世界の果てにある。

 

「ここ…どこ…」

エンリ・エモットは普通の村娘である、であった。

「おや、目覚めたかい…」

そして目の前にいる老人はどう見ても怪しい。

なぜ自分が見たこともない診療所のベッドの上に縛り付けられているのか。

「あ、あなた誰?」

「私が誰かなんてどうでもいいのさ、さぁ契約を。ヤーナムの血を受け入れたまえ」

「私!家に帰りたいんです!」

「皆そういうのさ、だが君は病なのだろう?病を癒さなくては帰れるものも帰れんよ」

病気…自分が?

「それはそうさ、ここは診療所だからね」

あちこちから血の匂いが漂い、田舎の村娘の自分の感覚からしても気味が悪い。

「その…私、字が書けないんです」

「問題はない、名前は?」

 

エンリ・エモットという名前が契約書に記された。

「ああ、これでよし。なに、何が起ころうとも…全て悪い夢のようなものさね」

エンリ・エモットはヤーナムに召喚された!

エンリ・エモットはレベルが上がった!

職業:獣の狩人を習得した!

 

…眼が覚めると、視界の端に何か蠢くものが写った

「ひぃ!」

ワーウルフ、巨大な狼人間。

エンリは話しか知らないが、知らなくともその巨大な体躯には並みの人間は絶対に勝てない。

「こ…来ないで・」

だが狼男はゆっくりと近づき、こちらに爪を向ける…

そして突然燃え上がり、消し炭となった

「な…何!」

するとまたも視界の端に赤ん坊のように小さな不気味なミイラが映る。

しかも複数が自分の動けない体の上に這い上がってくる。

エンリはあまりの恐怖に叫ぼうとした、だが逆に声が出ない。

視界一杯にミイラたちが蠢く中、エンリは気を失った。

失う一瞬前に何か暖かい声を聞いたような気がした。

「Ah,You found yourself a Hunter」

 

 

「今は何もわからないだろうが、今はただ獣を狩ればいい」

どうしてこうなったんだろう…

あれからどれだけの時が経ったんだろう…

家族…もはや顔も思い出せない…そもそも自分に家族などいたのだろうか?

 

右手にノコギリ鉈、左手に獣狩りの短銃を手にした狩人。

エンリ・エモットと呼ばれていた少女はもはやどこにもいなかった。

“血まみれ”長く、そしてただ一夜のヤーナムの獣狩りの夜を駆け抜けた数多の狩人の一人。

永遠に繰り返すような悪夢もすぐに終わるだろう。

「狩人よ、君はよくやった。長い夜は、もう終わる

さあ、私の介錯に身を任せたまえ

君は死に、そして夢を忘れ、朝に目覚める。

解放されるのだ

この忌々しい、狩人の悪夢から

さらばだ、優秀な狩人

血を恐れたまえよ」

 

ああ、そうだ…私は、目覚めるのか…思い出してきた

 

「さらばだ、優秀な狩人

血を恐れたまえよ」

ザンッ!葬送の刃の冷たい感覚…

 

「はっ!」

エンリ・エモットは自宅のベッドで目覚めた。

「お姉ちゃん?まだ寝てるの?もう朝だよ」

妹のネムよりも遅く起きるなんてと、寝ぼけた自分の頭を振る。

ああ、そうだ。自分は…今日は麦畑の手入れをしないと…

右手を藁のベッドに当てるとそこにはあった。

綺麗に磨かれていても拭えない、血臭。

銃身から香る硝煙の香り。

狩人の香り、獣狩の夜の香り。

「何…これ…」

何だろう?とても嫌な夢を見ていたような気がする。

でもあれはただの夢のはずだ…

「ツッ!?」

首の後ろにチクリとした感覚を覚える。

敵の気配、血を纏った獣の匂い。

エンリは感じ取った、敵が来る!獣狩りは終わらない!

「ネム…みんなに伝えて、早く家の中に入ってて」

「お…お姉ちゃん?」

 

いつのまにか姉が不気味な革装束に身を包み、大工が持つよりも大きなノコギリを持っていることに気がついた妹は、怯えて後ずさる。

「獣め、ああ。あなたの言った通りです、長。

穢れた獣、気色悪いナメクジ、頭のイカれた医療者、みんなうんざりです」

やがて聞こえてくる、ドカドカという馬の蹄の足音と帯剣し、鎧をガチャガチャと云わせる兵士たちの足音。

ジャカンと右手に持った鉈を振るい、狩へと臨むエンリ。

「エンリの狩を知るがいい」

 

…『お、お金あげまsybv』

エンリの周りで血飛沫をあげて汚らしい粘膜を外側に曝け出した帝国に扮した法国の兵士たちを遠隔視の鏡で見ていたアインズ様はペカーと光りながら思った。

(異世界怖えぇ!)

最初は粗末な装備の兵士が虐殺しているのかとも思ったが、違った。

途中から黒づくめの小柄な狩人が現れるとそこからはただただ一方的な虐殺になった。

あまりの事態にポカーンとしたアインズ様であったが、アンデッドの特性により精神が冷静となり今起こった事態をセバスに聞く。

「ど、どう思うセバス」

 

「は、恐れながらかなりの手練れです。恐れながら、あれがこの世界の人間の平均的な戦闘力だとしたら私が本気で戦っても勝率は7割と言ったところかと…」

 

「そ、そうか…ふむ、セバスでも二の足を踏むとはな…」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話

 

あの後、モモンガさんはやっぱこの異世界とのコンタクトやめよっかなーと、うんうん悩んだが

何事もヤってみなければわからない。

とりあえずちょこっと転移し、カルネ村にコンタクトを取った。

「グラスブ・ハート!ふむ、こいつらには普通に効くようだな。

となるとあの狩人がここいらでは特別に強いボスキャラといったところか?」

 

仮面を被り、周辺からわらわらと群がってきた雑魚兵士たちをなぎ倒しながらカルネ村に近づいていったモモンガ御一行。

それもこれも『お金あげましゅ』ことベリュース隊長が戻ってこないことに焦った他の法国の隊員がカルネ村に集まっていたところをモモンガとアルベド+セバス+シャルティアといったLv100の戦闘職で警戒しながら接近した。

哀れ、法国の下っ端。

まさに諸行無常である。

(はー、とはいえ気が向かないんだよなぁ)

この世界の住人の平均レベルがどれほどのものかは相変わらず不明だが

小さな村の用心棒(?)の人間がセバスより少し劣る程度か同程度のカンストプレイヤーならばもっと大きな町や都の衛兵はそれ以上ということも考えられる。

とはいえ、それを確認しないことには何も始まらず

これから始める冒険、さらにいえばナザリックの防衛も不安になる。

敵を知り、己を知れば百戦危うからず。

今の所は全身武装したアルベドのみが近くに侍り、他の護衛はしばらく離れたところで待機している。

「と、いうわけなのですよ」

ほぼ原作通りに村長に説明しこの世界のおおよその見当をつけたモモンガ。

このあたりはアニメ版か小説版かでよくわかるので省略。

(なるほど、普通の人間はせいぜいLv5までと言ったところか

してみるとユグドラシルの通常NPCと変わらないな)

問題はあの小柄な狩人だ。

「そういえば、この村でも戦闘があったようですが…

この辺りの事を教えてくださったお礼ですが、どうぞ…」

と言ってポーションを差し出しながら、村長にあの狩人の事を聞く

「ああ、あの兵士たちですか…我々も何が何だかわからないのですよ。

突然エモットのところのエンリちゃんがあんなノコギリを持ち出して暴れ出して…」

 

「おかげで我々の村は守られましたが、村の外の畑で働いていた男手が大勢殺されたせいでこの冬を越せるかどうか…」

「そ、そうですか」

(やばいよ、この村。村の女の子が突然スプラッター殺人を始めるって普通じゃない)

と考えながら、この村の価値を考える。

結局のところ、カルネ村をこの世界を知るためのフロント企業的ポジションに置こうと考えエンリに接触した。

今はもう、血塗れの装束を洗っている事以外は普通の女の子にしか見えない。

目がポカーンとしてレイプ目で血塗れ衣装を洗っている図はシュール。

エンリは手を洗い、武器と装束についた血を洗い流しているが心ここにあらず。

 

と、そこへ到着したガゼフだったが村を救ってくれたエンリは自分が現実世界で人殺しした事を認めたがらなかったのでモモンガに村を救ったのはモモンガだということにしてくれと頼んだ。

「すみません、私も突然、朝起きたらこうなってて…何が何だか…

大変失礼ですが、あの兵士たちをやっつけたのもあなた様ということにしてはいただけませんか…」

 

「う、うむ。君がそういうのなら…」

モモンガは少女と打ち解けようとしたが、なぜかひどく落ち込んでいたのでお近づきの印にと“ゴブリンの角笛”を渡した。

モモンガは実に低姿勢な少女の願いを聞き届けた、そしてアルベドがイラっとした。

と、いうわけで怪しい仮面に怪しい格好の魔術師のふりをしたモモンガに頭を深々と下げたガゼフがあーだこーだというやり取りの末に対峙したのはいつのまにかすっかり元気になったニグンくんでした。

『腐った脊髄、蕩けた目玉、聖者の腐臭…

ひひひひひひひひ…臭う、臭うなぁ…死者の匂いがプンプンするぞ』

すっかり元気になったニグンは相変わらず蕩けた目をしながら意味不明な独り言をブツブツつぶやき、周りの陽光聖典隊員をドン引きさせていた。

啓蒙が上がり、言動はおかしくなったがLvは上がったから問題なしというガバガバな人選である。

 

「ニグン隊長!ガゼフが来ます!」

『憐れむべきかな、その穢れを知らぬもの。無知、大宇宙の神秘に触れざるものは無知のなんたるかすら知らぬ…』

ニグンはLvアップしたおかげか天使をじゃかじゃか召喚し、一瞬でガゼフとその部下たちをボコって殺した。

「くっ、まさかスレイン法国の特殊部隊の力がここまでとは!

圧倒的、まさにその一言に尽きる、ガゼフの命もここまでと思われた時…

これを遠隔視の鏡で見ていたモモンガは感嘆した。

(あの人間、ユグドラシルで言うところのLv50相当のマジックキャスターか)

そして原作通り転移しニグンと対峙する。

その瞬間、今まで狂っただけのニグンの蕩けた瞳に変化が生じた!

『おおお!わかる!わかるぞ、これは!この匂い立つ香り。

腐臭の聖者、叡智の血臭!aagagagsg!』

悍ましい冒涜的な言葉を尽くすとニグンの体が腐り落ちながら弾け飛ぶように膨れ上がり、ゴキュゴキュという音とともに一瞬にして聖職者の獣へと姿を変えた。

「う、ウワァァァッァ!前々から思ってたけど!やっぱりニグン隊長がとうとう獣憑きになったぁぁぁ!」

悲鳴をあげながら天使たちにニグンを攻撃させる隊員たちを左腕の人はらいでなぎ倒し、もろともに圧殺する。

 

(は!早い)

「モモンガ様!お下がりを」

一瞬のうちに隊員たちを皆殺しにしてのけると今度は獣はモモンガの方に跳んで殴りかかって来た。

アルベドが咄嗟にモモンガを庇うが、正直冷や汗をかいた。

とはいえ、所詮はインスタントの獣に過ぎずLvにして80程度という弱さのため

アルベドとセバスが10発ほど殴ると息絶えた。

これで終わりってニグンさんの扱いひどくないですかね?

(うーん、いきなりカンストプレイヤー級の少女にレイドボス級の獣か。

この世界も結構物騒みたいだな…)

 

一方で遠く離れた場所からこの戦いを監視していた水の巫女姫が啓蒙アップで脳汁プシャーと発狂死した。

これもそれもヤーナムの真理、大宇宙の神秘の一端に備えなしに触れてしまったが故の犠牲者である。




ちょっと早足すぎたかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話

上位者「あーつーまれ、ともーだちー(狩人)」
狩人達「ヒャッハー!」
ヒエッ


 

 

モモンガ、冒険者になる

待ち受けるは、ぶっちぎりでイかれた狩人達

 

一方その頃、城塞都市ラ・エンテルでは早足で駆け抜けていった大型新人の噂で持ちきりだった。

奇妙な車輪の武器を使うのが変わっているが、育ちの良さそうな青年というだけあって女性陣からの期待もいや高い。

一見するとまとも、つまり怪しい。

そして案の定がフロム的テンプレ。

 

「あ、アルフレートさん。おはようございます」

冒険者チーム”漆黒の剣”の魔術師のニニャが同じ安宿に泊まっている青年が裏の井戸で顔を洗っている

「おお、あなた。お世話になりました。その後、皆様のおかげんはいかがですか?」

 

「はい、この間は危ないところを助けていただいて皆感謝しております」

アルフレートは一昨日モンスターに襲われ危険な状態であった彼らをその処刑の車輪によって

襲ってきたモンスター達を彼曰く

『潰して潰して潰して!貴様らは内側の汚らしいピンク色の粘膜を外にさらけ出すのがお似合いだ!わっはっはッッハは!』

(すごーい!アルフレート君はミンチを作るのが得意な獣狩りフレンズなんだね!)

 

と倒して彼らを助けていた。

言動が完全に危ない人だということに誰も突っ込まないのか。

 

 

「それにしても凄いですよ!皆さんも噂してますよ。

たった10日しかしてないのにもう金級冒険者だなんて」

 

「いえ、私など我が師ローゲリウスに比べれば名前を出すのもおこがましい未熟者にすぎません」

アルフレートは突然ラ・エンテルに身元不明の冒険者として現れてからわずか10日間程度でゴールドプレートにまで上り詰めていた。

具体的にいうと、ゴブリンやオーガをことごとくミンチにしたり、そこらへんの盗賊団をミンチよりひでぇや状態にして。

『痛いじゃないですかぁぁぁッァァ!血が出たでしょぉぉぉ!

人に暴力を振るっちゃいけないって教わらなかったんですかぁぁぁぁぁぁ!?(ダメージ0への反応)』

金色の由緒ただしき三角帽を被り、車輪にて愚者を磨り潰す。

グシャァグシャァと全身の血肉をことごとくすりつぶして血と骨と肉のすり身にし粘膜を執拗に外側に持ってくるミンチメーカー。

哀れ、ありふれた盗賊団は全員ミンチよりひでぇや状態になった。

ミスリル級への昇進が見送られているのはきっとこのせい。

ヤーナムちほー出身のフレンズは普通にしていても、何かにつけて殺りすぎらしい。

 

「そういえばご存知ですか?この前の全身鎧の人、銅プレートなのにかなり強そうでしたよ。

あの人もアルフレートさんのように外国から来たんでしょうか?」

 

『さて外国といってもいろいろありますから

ああ、私は依頼を受けていたので今日あたり出発させていただきますよ』

 

「あっ、それでしたら!

私たちも

そう言ってアルフレートは輝かしい車輪を装備して宿屋を出ていった。

血と臓物がへばりついた武器は幾ら何でも生々しすぎるとのことで流石に洗わなければならなかったが、彼がどのようにしてモンスターや盗賊を倒したかは既にエ・ランテルの冒険者組合に知れ渡っている。

『ミンチメーカー』それが彼の今の通り名、どっかの銀河帝国の石器時代の勇者ではない。

遠からずリ・エスティーゼの『血姫・アンゲリカ』に並ぶ期待のホープになるだろうともっぱらの噂だ。

悪い意味でも。

アルフレートが宿屋を出て、冒険者組合に依頼を確認するためにやってくるとそこには漆黒の全身鎧のモモンがいた。

「おや、あなたは…」

ピクッと後ろの美女が汚物を見るような目で睨んでくるが、彼は気にも留めない。

そもそもヤーナムにおいて狩人同士が出会った時の反応は殺しあうか、ちょっと話し合ってから殺しあうかなのだから。

(ふむ、こいつが現地で言うところの強者か。だが戦っていないところを見ても強さは具体的にはわからんな…)

モモンガは警戒する、目の前の男は明らかに現地で言うところの強者だと言う情報が入ってきているが実際に戦ってもらわなければどの程度か判断しようがない。

 

『どうも、この前登録したばかりのモモンとナーベです』

ナーベラルはイヤイヤながらも挨拶する。

『どうも…ナーベです』

 

「おお、あなた方がやはり…お噂は耳にしましたよ。

宿場では派手にやらかしたとか…」

 

『いやぁ、ゴールドプレートの方にそう言われると…

少々大人気なかったかなと』

モモンはあくまでも新人としてへり下るが、ナーベはますます不機嫌そうになる。

モモンに口を出すなと釘を刺されているから無言だが、本来なら至高のお方とミジンコ風情が口をきくなどーと例の毒舌が炸裂するところだ。

もっとも、毒舌どころか毒刃が飛び交うヤーナムの挨殺に比べれば何とお淑やかで優雅なことか。

「私はこれから別の依頼があるのでこれで失礼しますよ。

ともにこの世界を清潔にいたしましょう」

『は、はぁ』

どことなしに不気味な迫力のある挨拶とともに去っていくアルフレートを目で追いながら何となしに不安を感じるモモンガであった。

(ムゥ、やっぱり読めん…)

そしてモモンガはやっぱり文字が読めないので漆黒の剣と共同作業を取った。

 

一方

『イヒィ、げひひひひぃ…ああ、ゴース…あるいは…ゴスム…我らの祈りを聞き届けたまえ…我らに瞳を…白痴の蜘蛛のごとく脳に瞳を与えたまえ!超次元的思索を!

オオおおおおオォォォ!ああああアオーーーーーン!』

 

「おーい、カジッチャーン。聞いてるー?」

 

一心不乱に変てこな鳥籠(?)を被ったかと思うと何もない虚空に向かって奇怪なポーズをとり続けるカジートを白い目で見ながらクレマンティーヌはこりゃ駄目だと思った。

「ありゃー、前からおかしいとは思ってたけど…うーん、とうとう逝っちゃったかー」

 

「案ずるな白痴の者よ、そなたの望み通りの結果はかわらぬ…」

「何だ聞いてるじゃん」

「ただ、過程が少々異なるだけだ…くっくクククくけー!

アンデッド?ハハは、何と愚かしい…まるで痴呆を崇める塵芥のごとき思想…

ああ、ゴースよ!私はあなたの叡智に近づきたい!」

 

と言うと『交信』のポーズをとってピタァ!と微動だにしないカジート。

「再誕の日は近い…赤い月が神秘を隠す、ああ脳の震えが止まらない…」

傍目には完全な狂人である、神秘を隔てる大量の水を抜きに上位者の叡智に触れんとする者はそのもたらす真理に耐えられず発狂する。

発狂は探索者にはよくある病気だ、どれ治療しよう(鎮静剤)

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

モモンガの長期計画 

久しぶりにダクソ3へ帰ったら感覚が違い過ぎてエルドリッチが倒せない
ボイポス・カタストロフ連射やめろ


 

 

モモンガが薬草を取り、漆黒の剣がテンプレ通り皆殺しにされたラ・エンテルに帰ってくると

大騒ぎになっていた。

具体的にいうと墓地の周りの住人や番兵がかたっぱしからヤハグルの如く冒涜的な彫像として床や壁と一体化し

狂った住民が『見よ!蒼ざめた空だ!』などと訳のわからないたわごとを繰り返しながら熱心に交信のポーズを取っていたかと思うと突然脳汁を垂らし発狂して襲いかかってきた。

 

「ふんっ!なんだ?随分騒がしいが新手のイベントか?」

グレートソードを振るって襲いかかってきたニョロニョロ頭を叩き潰す。

衛兵はとっくに死ぬか悍ましい生き物になってしまった。

市民の目からはナメクジが飛び出すわ、脳髄から蛇がこんにちはなど皆楽しそうな異形になった。

更に馬車から死体の集合体が飛び出したり馬や豚が目玉お化けになるなど、普通すぎて見飽きた光景になってプレイヤーならむしろ心和むホッとする光景が広がっていた。

ついでにアメンドーズがあちこちにいたが背景同然なので気にしないでほしい。

ひどいことだ。頭の震えがとまらない

 

チリィン、チリィンと不吉な鐘の音がそこかしこから不吉な女の手によって鳴らされると

別次元で冒涜の限りを尽くしていた悍ましい不死人達と狩人達が召喚される。

「な!これはいかん!ナーベラル、直ちにナザリックに帰還する!」

するとそれを見計らったかのように町のあちこちにずっと遠くにいるのにぼやけずにはっきりとした存在として感じられる赤い悪霊達が現れた。

遠い存在は普通はぼんやりとしか見えないが、なぜか悪霊達ははっきりと見える。

更にその存在達は次々と手近なお互いを殺しながら墓地の方へと向かってきた。

プレイヤーと呼ばれていたもの達の単なるアバターに過ぎない、

ただの空っぽの時間制限NPCだが戦闘力だけは階層守護者級だ。

『死ねぇ!死んでソウルを寄越せ!』

『遺志を寄越せ!全部だ!全部!』

(ええぇ!?なんでこの連中まずお互いを殺しあってるの)

普通は異世界召喚された日本人なら俺tueeeハーレムを築くが、悪霊の不屍人あるいは狩人として異世界に召喚された物は理性のない闇霊として当然のようにお互いをまず憎み合い、戦えるものを殺し、おまけに動く者も皆殺しにするようになる。

ゲームシステム上の仕様なのでどうしようもない。

ちなみに魔術師系も含めて全員カンストソロ接近戦闘ガチビルドなので制限時間いっぱいに暴れられると王国が滅びる。

理性も何もかも全てが闘争本能に全振りした結果が彼らなのだから。

モモンガとナーベラルは転移の魔法でさっさとナザリックの安全地帯へと転移し逃れた。

この日、ラ・エンテルは動くもの尽く皆殺しにされるか悍ましい怪異へと変貌、後に王国のバルブロ王子が出兵したところ五千人の兵士が一人残らず死ぬか、もっと悪いことに人ならざるものへと変貌した。

そしてクレマンティーヌは帰ってきたアルフレートに襲いかかったら

「痛いじゃないですかぁぁぁぁっぁ!血が出たでしょぉぉぉ!(ダメージ0.01)嫉妬!?嫉妬なんですかぁぁぁぁっぁぁ!?」

 

すっといってドスのつもりがグシャァ!といってメキャぁにされネチャネチャにされてしまいましたとさ、チャンチャン

「この阿婆擦れがあ!貴様にはその内側のピンク色の粘膜さらけ出した姿がお似合いだ!あーははははっははははは!」

 

やっぱりこの人たちみんな頭おかしい。

ラ・エンテルはほぼ隠し町ヤハグルと化して滅んだ、めでたしめでたし。

 

一方、帰還したモモンガはナザリっくの自室で思考を纏めていた。

(うーむ、危なかったな。あれは噂に聞く儀式イベントの赤い月…

かつて参加したフロムちほーで週1で発生する強敵召喚イベントか…

例のカンストプレイヤーといい、やはりこの世界にはユグドラシルの要素が流れ込んでいるようだな…)

 

モモンガはこれまでに起こったイベントの事などを考えた上でナザリックの今後の行く末を考えた…

そしておもむろに立ち上がり、参謀とも言えるデミウルゴスを呼び出した」

 

「デミウルゴス、私の考えがようやくにして纏まった。

何か思う事あれば

 

「いや、そうではない。自身の目で直接見て確認し、考えた上での今後のこの世界での我々の行動指針を決めたのだ…が、お前の意見も聞きたくてこうやって来てもらったわけだ」

 

「は、モモンガ様のご指針とあれば我ら異論などあるはずも御座いません」

 

「うむ…だが事はナザリックの将来に関する重大事…

我らナザリックは一時的に世界から一歩離れた位置に立つという事だ。

既に報告にあると思うが、外の世界にはユグドラシルの形跡が多々見られた。

我ら異形種のギルドであるナザリックと彼らとの摩擦を避けるためにワンクッション置くことにした。

例のカルネ村を覚えているな?

あの村のエンリ・エモットなる娘を冒険者として雇い、ナザリックのいわばフロント企業とする」

「フロント企業でございますか?」

 

「彼女との話はついている。つまり人間との無用な摩擦によってプレイヤーに介入の口実を与え不必要な消耗を抑えるという役割だ」

 

モモンガは現地住民のエンリを前に出す事でナザリックの存在を隠し、予想されるプレイヤーによるギルドレイドを避ける計画を大まかに話した。

ナザリックにしてみれば死んでもデメリットが低い不死人などと殺しあって貴重な財貨や人員を消耗するなど愚の骨頂である。

「これよりナザリックは対外的には秘密裏に情報を集め、内にあっては長期的に戦力を充実させる!」

さすがは至高のお方モモンガ様ですとデミウルゴスは賞賛一方だった。

モモンガが三日三晩考え続け、机の上で計画書をあーでもない、こーでもないと大量に書きなぐった成果である。

 

エンリちゃん、やっぱり覇王ルート

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

かじっちゃんの大冒険

やったね!死の螺旋(ブラボ版)大成功!
PSフリープレイでブラッドボーンも今なら無料!
なおThe old huntersは無い模様

もしもモモンガ様が狩人になっていたら
カルネ村の大虐殺を見て
「うわーい!たのしそー!混ぜて混ぜてー!
狩りごっこだねー!たーの死ー!」(パリイからの内臓攻撃
ブラッドボーンの殺り過ぎでアニメ版のカルネ村の血塗れ描写を見てこう思い始めたら貴公も良い狩人になりつつある。

こんなユグドラシルは嫌だ
プレイヤーがみんなFrom脳、騙し裏切りは日常茶飯事
もっと嫌なのはリアルがACV世界




エ・ランテル、秘密結社ズーラーノーンによる邪法の儀式によりアンデッド、および奇怪なモンスターの蔓延る魔界へと変貌。

この前代未聞の事件に真っ先に反応したのは監視中のナザリックを除けば人類側では帝国であった。

 

「…では爺、”あれ”は帝国にとっても脅威となると言うのか?」

「左様、あれは間違いなく”プレイヤー”すなわち夢を見るものの悪夢。

救世主でもあり、冒涜的殺戮者でもある者達の理想の一つ。

だが我ら今だに啓蒙低き者達のとってはもはや上位者の悪夢は呪いへの道。

人間性の暴走によってもたらされる形のみが先行した啓蒙など啓蒙とは言えず単なる…」

 

フールーダーは最近、鳥籠をかぶるようになり魔法キチから啓蒙神秘キチへと進化した。

具体的に言うと鳥かごを被ったまま、魔法省を駆け回ったり城の中をうろついてい不気味がられていた。

『ゴース…あるいは…ゴスム…我らの祈りを聞き届けたまへ…』

 

『白痴のロマのごとく、我らに瞳を授けたまえ…』

 

『アメンドーズ…アメンドーズ…ああ、哀れなる落とし子に慈悲を』

 

『ああああああああああああぅ!MAJESTIC(SUGOOOOOOOI!)!』

なる奇怪な行動を行いながら益々多大な迷惑を周囲にかけ続けていた。

完全にミコラーシュの互換になっている、実に変態である。

今は比較的啓蒙が落ち着いたのか、有益な助言をしてくれるが、一歩間違うと脳汁を垂らしかねない。

「ああ、もういい。それで、例の師匠とやらは?」

「我が師、メンシス学派のミコラーシュ様は悪夢の中に…ああ、目覚めが…」

「あ、わかった。もういい(爺も耄碌したな」

 

王国は例によってあーでもないこーでもないと会議を行ったが結論は出なかったため、

結局、レエブン候が自前で冒険者組合に調査を依頼したがミスリル級3チームは一瞬で全滅した。

その結果、これを緊急事態と(思っていないのが王国のすごいところだが)みなした冒険者組合は王都のアダマンタイト級である蒼の薔薇、そして新たにアダマンタイトとして認可されたアンゲリカとシフ、通称”血姫”に依頼を行った。

 

「そんな…エ・ランテルが…」

王国にとって重要な都市があっさりと崩壊。

更に冒涜的悪夢の魔境となったとあってはもはやその被害は神話級のそれである。

この報告には流石のラキュースも動揺している。

 

 

冒険者組合からの情報では緊急事態につき救助に向かった軍隊が城壁の前に展開したところ一瞬で壊滅。

空から降り注ぐ腐食性の液体が兵士達に降り注ぐと、盾も鎧も全く効果を発せず兵士達全員が一瞬のうちに蕩けた肉塊へと変貌したという。

ごく僅かな生き残りは城壁の上から響いてくる不気味な声をこう聞いている。

「貴様ら、定命の者に告げる!今や我が主人、エルドリッチ様は復活された!

貴様らの命をあの御方に捧げるのだ!全て!全てを!

その時を楽しみに待っているがいい!いーひひひひひぅっひ!」

 

 

「エルドリッチだと!?」

エルドリッチという名前に瞳を見開くアンゲリカ。

 

「知っているの?アンジェ?」

これにはラキュースも驚いて問う。

 

「はっきり言っておこう、あなた達には無理だ。

深みの聖者エルドリッチ、もしも奴が本物だとしたらもはやただの”ぷれいやー”程度で相手になる存在ではない」

 

「おいおい…神様みてぇな”ぷれいやー”が程度になっちまうってどんな相手だよ」

ガガーランもアンゲリカの強さは身にしみているが、彼女が恐れるとなればもはや相手が更なるとんでもない奴だとはわかる。

 

「まるで見て来たような言い方だな、アンジェ」

イビルアイは入ってきた情報から相手を間違いなくアンデッド系のモンスターだとは予想しているが、ぷれいやぁでもあるアンゲリカですら恐れるとは予想だにしていなかった。

 

「ええ、実際に戦ったんだから確信できる。奴は間違いなく超ド級の怪物だったわ。

不死身、10位階相当の魔法を五月雨のように打ち込んでもビクともしない魔法耐性、

そして桁違いの魔力量に任せた超位攻撃魔法の連射。

幾千万もの”ぷれいやぁ”が塵芥のようになぎ倒されたわ」

 

その情報にその場にいた蒼の面々も顔を流石に蒼ざめる。

 

「それって神話の時代じゃ…ああ、お前さんなら何でもありだったな」

太古の存在のはずの神話の敵を見てきたかのように説明を不思議に思う。

「あの世界では時間軸が歪んでた、過去と現在と未来と別次元が集合し同時に存在するなんてのはありふれた現象だったのよ」

 

「…つくづくとんでもない世界だったんだな。

だがよ!それでも倒せたんだろ!?」

 

「延々と24人の連盟の精鋭が揃って殴り続けてね…それでも殺され過ぎて心折られた者が続出…

エルドリッチは悍ましいぷれいやぁ喰いによって神をも超えた神理救済の英雄

“薪の王”たる資格を得た。

ただ力のみが王に求められる世界で、万物の王たる地位を得る意味。

神殺しすら殺してその力を奪う…それが薪の王。

最初の火の為に燃え続ける神理人柱

だが、その薪の王の玉座に絶望した奴は遂に神をも喰らって己が身とした。

ゆえに奴は神喰らいと呼ばれた」

 

「神喰らい!?つまり…神様みてぇにとんでもなく強ぇ”ぷれいやぁ”の神様を食っちまったのか?

どんなバケモンだよ…」

 

「不死とは?単なるアンデッドというわけではなさそうだが…」

 

「不死とアンデッドは厳密には違う。

アンデッドは死後も動くだけだから滅びもある、でも“灰”は“狩人”同様に正真正銘の不死。

死や消滅という概念が消し去られた存在。

例え燃えカスの灰になろうが首だけになろうが死ぬことはできない。

その…ズーラーノーンとやらが何をしたいのかはわからないけど、奴の灰に命を注ぎ込んでるんだとしたらそれは擬似的に残り火を注ぐも同然。

アンデッドではない、完全なる永劫不滅の存在」

 

「そんな相手に…勝ち目はあるの?」

「…すまないが、こればかりは何とも言えない。

私が勝てたのは連盟の同志達と火の無い灰達との共闘によってだ。

私とシフとでは奴の力が全盛期同様なら勝てる見込みは殆どない、だが奴がまだ本調子では無いのなら見込みはある」

 

蒼の薔薇達は決死の覚悟でエ・ランテルへの偵察任務を了解した…

その果てにあるのは…

 

 

 

なおフールーダーは啓蒙によってその瞳を増やし、上位者との交信によって大幅にレベルアップした。

これにより監視魔法によってエ・ランテルを覗いてもどこかの巫女姫のように発狂することは大体無くなった。

 

 

 

「おお、我らが救世主…深海の時代齎すもの…啓蒙高き王」

 

目の前に禿げ上がった男がいる、もとより目など最早ない蕩けきった汚泥ではあったが。喰らう、喰らう、喰らう。

男も女も老人も赤子も最早彼女にとっては肉でしかない。

カジットは…もはや人ではなかった。

人間性の暴走によってその脳髄は恐ろしく肥大化し、頭蓋骨を突き破って常に脳液を垂らしながら周囲に瞳を常に凝らす。

今や彼は脳に瞳を持ち、以前ならば見えなかった真理に容易く触れることができる。

エ・ランテルに召喚されたあのお方に仕えるに相応しい姿へと一歩近づくことすら大抵の人間には出来なかった事を考えれば偉大な進歩である。

だが禿げは治らなかった、そして重要なことに殺すと湿った音がする膨らんだ頭をドロップするようになった。

それでも禿げは治らなかった。

 

”なり損ないの再誕者(くそ雑魚ナメクジ)”さんがログインしました。

再誕者、それは遥か太古の英雄を模した贋作。

世界がまだ火の時代にあって人理救済を人喰いの業によって成し遂げた薪の王の一柱。

人柄や善悪など全く関係無い、ただ力のみが薪の王の条件である。

だが、彼は玉座に絶望し遂には神喰らいの業により暗月の神を取り込んだという。

彼が夢に見え、絶望した深海の時代がなんであったかを知るすべは最早無い。

あるいはリアルの地球が迎えた滅びが深海であったかもしれぬ。

その王を再現しようとして…そして失敗した比べようもないほど矮小で弱々しい哀れな出来損ないである。

分かりやすく言うとザイトルクワイエ程度でしかない。

 

「あーダメだー、ちょっとー。

なんでアタシがこんなんなってるんですかー?

かじっちゃーん、アタシをスライムにするってちょっとひどくなーい?」

 

エ・ランテルの要塞内部、かつては兵士の練兵場でもあったそこは今や地面という地面が悍ましい腐臭を放つ人間だったものの食べ散らかしであふれていた。

そこに佇むのは人骨と蕩けた汚泥の巨大なスライムのようなモンスター。

なり損ないの再誕者の上に女型の肉塊が突き出ている。

あれはアルフレートに挑みかかって2秒でグチャグチャのピンク色の粘膜内側全てさらけ出した姿にされたはずのクレマンティーヌの真っ裸の上半身だ。

エロいね(下半身は見なければ

 

「啓蒙低き女だ、救い難いな。

お前の一部などではなく、お前がその御方の一部なのだ。光栄に思うがいい。

お前の遺志から御方が再現したのがお前なのだ。

お前はクレマンティーヌのつもりだろうが、実際には本人は死んでいる」

 

「え、なにそれ。アタシは要するにただの触手ってわけ?

ちょっと…幾ら何でもレディーをスライムのち○こ扱いって、

かじっちゃんデリカシー無さすぎじゃ無い?あとその頭ますますツルツルに禿げてるよ」

 

「やかましい!ハゲではない!これこそ啓蒙なのだ!

ああ、嘆かわしい。偉大な死の支配者の一部でありながらこのような啓蒙低き物言いとは…」

 

実際には、偉大なお方と言われるほどの知性はない。

エルドリッチとは比べ物にならない程お粗末な単なる死体の寄せ集めでできたスライム、それ以上の価値はない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43話

ちなみにモモンガさんのいたリアルはACV世界でACfAの大虐殺ルート後の世界
鈴木悟のゲーミングVRナノマシンは民用で負担が少ない
軍用は寿命も精神もゴリゴリ削るが反応速度が超速
もっとも軍用でゲームをするような奴がいるはずもないが…


クレイドルが落ちた虐殺事件。

1億人の死を皮切りに、世界は奴によって破壊され尽くした。

「人は滅びる、なぜならば人であるゆえに」

「見ろ、この腐りきった星を。人は滅びつつあるのではない。滅んだのだ」

「2000万、4000万…1億。どうだ?1億人殺した気分は?なんとまぁ殺しに殺したものだ。

終わりを始めよう、これが人類への手向けだ。なぁイレギュラー」

「見ろよ!人がゴミみたいだ!ボーン!綺麗な花火だなぁ」

「連中は感謝すべきだろう、ゴミみたいな人生をダラダラと送る代わりに一瞬とはいえ綺麗な花火になれたんだから」

「見捨てられた者たちの怨念が、どう世界に復讐できるかの良い例だな。

人の揺り篭から棺桶が燃えて落ちる」

 

アンゲリカは奇妙な夢を見た…

腐った世界を蝕む者たちを燃やして落とす者たちの夢…

凄まじかった、空から揺籠が燃えて落ちる。

それを皮切りに世界中のアーコロジーが燃えた。

燃える、燃える、人類史そのものが燃えて落ちる。

逃げ出すことも出来ずに燃え上がる人々、壁にほんの少しの穴が開いただけで猛毒の大気が流れ込む。

なんて脆い殻なんだろうか…

男も女も老人も子供も、富める者も…そもそもアーコロジーには富めるものしか住めなかったが…富こそが正義の世界、だが真理は違った。

世界の真理は相変わらず一つ、すなわち暴力こそが正義だった。

首輪を千切ったあの獣こそが最強、故に唯一無二の絶対的正義。

破壊され、燃え上がるアーコロジーを見て貧民街の人々が巣穴から飛び出して来る。

人から人扱いされなかった者達があげるのは嘆きの声でなく、歓声。

破壊されたアーコロジーの秩序に乗じての暴行・略奪・殺人。

最早止める人間はいない、絶望しか無い世界では人は皆獣なのだ。

世界中で繰り返される悪夢…今わかった、ヤーナムの悪夢は上品過ぎた。

悪夢があろうとなかろうと…人は皆、獣なのだ…

 

一方 モモンガはというと…

(うーん、やっぱナザリックの今後の運営資金の事を考えると慎重に動きつつも

やはりモモン・ザ・ダークウォリアーとしての活動は続けざるを得ないか…」

正直なところ、僕に冒険者として活動してもらった方がいいきが…

やっぱダメだ、人間蔑視しまくりで最悪戦争になる未来しか見えない。

ただ引きこもるにしても、ナザリックは維持費がかかる、外から補給を受けれないとじり貧だ。

 

(よし…ナザリックの事は秘匿しつつも、情報収集と資金集め!

それには変わらないか!)

モモンガは最大限の秘匿をしつつも活動する事を決意した。

そばに仕えるナーベラルなどは

「流石はモモンガ様です。あの時一時撤退したのは、騒動を更に大きくし

モモン・ザ・ダークウォリアーの武功を最大限に知らしめるタイミングを図っていたのですね!」

などと相変わらずのさすモモ賛美を繰り返していた。

「その通り!まさにモモンガ様がお望みの通りの展開だというわけだよ!

愚かな人間が招いた騒乱の種が最大限にまで育ちきったところを美味しく頂く!

このデミウルゴス、モモンガ様の叡智に感服の極み!」

 

「ああ、流石は至高のお方!一瞬でここまでの展開をお読みになられていたとは…」

 

部下からの厚いモモンガ賛美が苦しい。

すまない!本当は冒涜召喚イベントにびっくりしてつい撤退してしまっただけなんだ!

しかし遠隔の鏡での偵察と偵察として先行させたエイトエッジアサシンの情報によれば

悍ましい外見のモンスターは(主に目玉一杯のでかい豚)

レベルにしてせいぜい5から10程度であり、最も強力な奥地のぐちょゲロ巨大スライムですらせいぜいがLv30程度であった。

これならば数こそ無駄に多いが戦士体系のモモン・ザ・ダークウォリアーでも楽勝である。

(っていうかこれって外見だけはヤーナムダンジョンのモンスターじゃないか

あのダンジョンのモンスターが現れたからビビって撤退しちゃったんだよな)

ヤーナムダンジョンは狂った運営の狂ったダンジョンであり、通称カンストプレイヤー大量虐殺都市である。

雑魚エネミーですら防御耐性スキル無視の攻撃を繰り出してくる狂ったモンスター揃いのためにマジックキャスターのモモンガとナーベラルでは相性が悪いと瞬時に撤退を決断した。

そしてその決断は間違っておらず、もしもオリジナルの強さ通りだったならばナーベラルが危険に晒されていたろう。

もちろん、この数日というものモモンガはぼーっとしていただけではない。

カルネ村フロント企業化計画の一環としてゴーレムを村の防備と建設作業の為に貸し出したり

マーレのドルイドのスキルを利用しての作物をエクスチェンジボックスに入れて資金が稼げるかどうか試行錯誤してみたりとなかなかナザリックの内政者として忙しくしていた。

 

 

そしてモモンガは相変わらず遠隔の鏡の前でエ・ランテル近郊の様子を見ていた。

エ・ランテルに突入した王国の軍隊が一瞬で蹴散らされ食い殺されたりする様子を見るが

今のモモンガはアンデッド、特に思うところはない。

蟻同士の喧嘩で弱いなこいつら程度でしかない。

 

「モモンガ様、デミウルゴス参りました」

「うむ、そろそろ時期だと思ってな。お前をこうして読んだ次第だ。

お前の提出したリ・エスティーゼ王国に関する情報を吟味した。

見事なものだ」

「恐れ入ります」

モモンガ様はこの数日不眠不休で情報を収集し吟味していた。

「そして、この世界における強者の情報。

さしあたっては王国の最強戦力、王国戦士長。朱の雫、蒼の薔薇、そして血姫。

結論を言おう、私が予想していた通りユグドラシルプレイヤーがいた」

 

「何ですと!了解致しました!すぐさま戦闘体制『慌てるな!』」

 

モモンガがプレイヤーを全力で排除しようとするデミウルゴスを制止する。

 

「そもそも、ユグドラシルプレイヤーだからといって必ずしも敵とは限らん。

それに例えナザリックが勝利する事は確実としても、強力なプレイヤーと戦えば少なからぬ損害がこちらにも出る。

それは私としても歓迎することではない」

 

「申し訳ありません、私めの浅慮をお許しください」

 

「良い。さて、彼女の名前はアンゲリカ・ブリューティヒ・ド・カインハースト。

私がかつてユグドラシル時代にナザリックの運営費用を稼ぐ場所として使っていたヤーナムを拠点とするプレイヤーだ。

タイプは弐式炎雷さんに似た近距離軽戦士タイプ、そして傭兵モンスターのグレートウルフのシフ。

むしろこれは好機とすら言える、彼女は幸いにして人間種に非常に近い上に

私自身も彼女とは何度か共闘体制を築いたことがある。

あのエンリ・エモットと同じく我々ナザリックが外の勢力と無用の衝突をしないためのクッションになってくれる可能性は高い」

「!至高のお方と共闘とは…申し訳ありません、まさかそれほどのお方とは思わず…」

「いや、あくまでも協力者だ。至高の41人とは言わないが、少なくとも敬意は払え。

これから先、客人をもてなす際にはナザリックのホストとしての品格が問われるのだからな

(実際あの人かなり強いんだよなー)」

 

モモンガは典型的な紙装甲の魔法詠唱者タイプだ。

しかもアンデッドの使役による魔王RPとして純粋な魔法詠唱者タイプに比べると瞬間火力では劣る。

彼女は基本的にシングルプレイだが相手のヘイトを集めつつ回避する回避タンク兼アタッカーとして非常に優秀だった。

「モモンガ様、お客人とおっしゃられましたが?」

「うむ、彼女は言っての通りナザリックの運営費用を稼ぐ時に協力体制にあった。

私は恩には恩で、仇には仇で報いる。

ゆえに彼女が我々と敵対関係にならない限りは敬意を持って接するべきだと考えている…

とはいえ、この世界における彼女の立ち位置と考えが本人から確認できない現状では迂闊に接触することも望ましくない…」

 

そう、彼女も既に冒険者として(モモンガと同じ考えかどうかはわからないが)既に身分や世間体というものがある。

悲しいかな、鈴木悟もかつてはサラリマンとして世間体の重要さを叩き込まれただけによくわかる!

挨拶が出来ないものはサラリマン失格!ハラキリは免れ得ぬ!ナムアミダブツ!

…なんか違う気がする…

「まぁ良い、現状では王国軍のエ・ランテルの奪還失敗につきアダマンタイト級冒険者を主体とする討伐チームが編成されていると聞く。

そこでだ…私は彼らと合流し、英雄としての実力を見せつけるつもりだ」

モモンガはエ・ランテル壊滅に止まらず溢れ出す冒涜的アンデッド討伐の任務に合流することでますます英勇としての賞賛を得ようとしていた…

(あれ?別にパンドラズアクターにやらせても…ま、いっか。それに改めて冒険してみたいしな)




ちなみに覇王炎莉は村に攻めてきたオーガに内臓攻撃を食らわせて文字通り血塗れになっていた


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。