Fate/GrandOrder GhostFriends (beta) (影色の烏)
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車に揺られながら窓の外を見る。そこにはずっと雪景色が見える。
何時間前からだろうか。この風景を眺め続けるのは。こんなことなら請け負うんじゃなかった。
だが悔いても仕方がない。ならば。この変わらない、非常につまらない風景でも眺めることにしよう。
「貴方はそれで良いの?」
どこからともなく、幼い少女の声が聞こえた気がした。
だが、自分にはよくあることなので、いつもどおり気にしないことにした。
「本当に退屈なままで良いの?」
正直、退屈で良い。というか放おって置いてくれ。
少女に心のなかで語りかけた。
届こうが、届かまいが関係ない。そもそもこの少女は絶対的に、死んでいるのだ。相手にする意味も、理由もない。
「貴方は私を否定するの?」
………今は相手にしたくないと思った。鬱陶しい限りだ。
「本当にそれだけ?」
…今気付いたが、これは対話が成立しているらしい。
ならば、言おう。静かにしてくれ。眠れない。
「……分かった。じゃあ、またね。お兄ちゃん」
………やっと消えたらしい。後で、塩でも頭から被らねば。
…お兄ちゃんはもう懲り懲りだ。
―――――――――――――――――――――――
「ようこそ『人理継続保証機関フィニス・カルデア』へ。貴方が一般募集枠の『月宮小詠』さんですね。まずはこちらで待機していてください。後ほどお伺いします」
などと言われ、もう幾分か時間が過ぎた。
いや、実際は何時間も経っているはずだ。ずっとぼうっ、としてるだけだ。
現実逃避を始めたのは二時間ほど前で、既に四時間経ったとか気のせいなのだ。きっと、そうだ。そうなのだ。
忘れ去られたかもとか、全く思ってない。寂しくなんかない。
これっぽっちも思ってないし、考えてすらいない。
と言えばまあ嘘にならなくもない。取り敢えず、今思っていることは、早く来ないか?暇だ。
あーあーあーあーあー。
…ん?人の気配か。
「お待たせしました!!」
……どうやら手遅れになる前に迎えに来てくれたらしい。
「それで、あのー、非常に言いにくいんですが…」
などと渋るスタッフ。特に何か言うことは無いが、まあ、なんでも良い。いいニュースにせよ悪いニュースにせよ。状況が変わってくれることに変わりはない。
「今日予定していた、シミュレーションが明日になりまして。それで今日はこのままお休みしていただくことに…」
……良かった。悪いニュースじゃないらしい。いや、悪いニュースではあるが、今日は少し疲れていたし、休息が挟まるのなら大歓迎だ。え?今の待ち時間?そんなもんは数えん。
「別に構わない」
「そうですか!それは良かった!それで、部屋なのですが…一応空いてるには空いているのですが…」
渋るスタッフに、思わず口を開きそうになったが、別に面倒なので、言ってくれるのを待つ。
「部屋がですね、急遽用意したので、少し他の部屋より狭くなってて…というか、荷物が少し置かれているのですが…。…何か、すみません」
「…要は、あれ?物置がそのまま部屋になってる感じ?」
「はい!そうなんです!」
などと元気良く喋るが、正直たまったもんじゃない。
が、広い部屋など、実家で飽きるほど堪能しているので、少しドキドキしている。
「…別に気にしませんけど」
「そうですか!荷物は明日移動させる予定ですので、今晩だけ我慢して下さいね」
「ああ…」
何だか少し残念だ。まあ、物置だというくらいなのだから、普通の部屋よりかは狭いんだろう。
「荷物は念のため、別のところで預かっていたんですが、それなら部屋の前に手配しときますね」
あまりの待遇の良さに、ここはホテルか?などと思い込まざるを得ないが、そんな気持ちで居るような場所ではないので、改めて、無駄に、気を少し引き詰める。
「取り敢えず先に案内しますね」
「お願いします」
新たな環境での暮らし。これ程胸が踊る事が他に有るだろうか。数えるだけでも指を超える程余裕で有る。
まあ、新しい環境が己に良い影響になる事を祈るまでだ。
……本当は今すぐにでも帰って寝たいという願望はある。頼むので、さっさと寝かせてくれ。体が怠いんだ。
……怠い?なぜ?………不安定なのか?
…まあ、新しい環境というのと、霊体が少ないというのもあるのか?
…まあ、自分の環境じゃないっていうのが、問題か。
所謂工房だとか、そういうの。それが必要なのかもしれない。
……こんな所にそもそも構築できるのだろうか。
…いや、今は聞くのはよしておこう。
明日にでも聞けばいい。
「ここになります。簡易的な寝床は一応準備してありますので、気軽にどうぞ…」
「…ありがとうございます」
寝床と言われると、あまり良い気はしないが、そこは文化の違いとかの話だろう。だから、気にしないべきだ。何なら寝床があるだけでも十分だと考えるべきだ。
「じゃあ、自分、寝てるんで」
「あ、はい。それでは…。今日は失礼しました」
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alpha-2
ここが新しい住まい。そこそこ広いが、ある程度物が置ける程度。しかし、住めなくはない。それどころか何もないから、なんでも置ける。という意味ではとても住み心地が良いだろう。
だが、荷物の殆どが大きめのアタッシュケースで終わってしまうのだから、この広さは意味が無いといえるだろう。
敷いてある、腰ほどの高さのマットに腰掛けてみる。そこそこの柔らかさを持つらしい。寝心地は保証されるだろう。
…他には資料らしきものが入っている箱が幾らか金属製の棚に並べられている程度。足元にも幾らかあるらしい。
適当に退けておくが、別に必要ないと悟り、止めた。
………やることがなくなってしまった。
…大分と体が怠い。長旅で疲れたのだろうか。
取り敢えず寝心地を確認してみることにした。
………………………………………すごく気持ちがいい。心が洗われるようだ。と言うのは半分嘘だ。正直柔らかいだけで、寝心地はあまり良くない。普段から布団で寝ているせいだろうか。
ふと。資料に興味が湧いてきた。少しホコリを被っているこの部屋のものに興味が湧いたのだ。
試しに手に取ってみた。
……幻想種、ドラゴン、燕……色々と訳の分からない事が書いてある。恐らく、紙媒体の資料だろうか。
この世界にはよく分からないことが沢山あるし、これらを読んでも損は無いはずだ。
是非とも読ませてもらおう。
「おーい、もしもーし」
ふと、人に呼ばれ上を向いた。
「あのー、荷物、取りに来たんだけど……」
……そこには、何か頼りなくて胡散臭い変な髪型の変な髪の色をした情けなさそうな男が居た。
「うん、何か言いたそうだけど、別に僕は気にしないぞう」
「それで、何か?」
「あ、いや。うん。荷物をだね、出そうと思ってたんだけどね……まあ、いっか」
なるほど。この頼りなくて情けない男は、ここにある資料を回収しにきたらしい。まあ、一応人が住む訳だし、回収に来るのは当然。というか、言っていたし。
少し、名残り惜しいが、読むのは諦めよう。
取り敢えず、手伝いでもしてやるかな?
「あ、いいよいいよ。それ、読んでるんだったらさ、別に構わないよ。めんどくさ…じゃなくて、可哀想だからさ」
おい、今この男面倒臭いとか言おうとしたぞ。それに、こんな男に同情される義理はない。
「あっ、自己紹介が遅れたね。僕はロマニ・アーキマン。保険医だ。気軽にDr.ロマンと呼んでくれ」
……なんて、残念な渾名なんだ。いや、外人だからこういうのは普通なのか?いや、でも流石にそこまでセンスは悪くないだろ。
「何か君、毒を吐きたそうな顔をしてるね!僕にはよく分かるぞ!」
「知らないな」
「…………えっと、君は一般枠の月宮小詠くんだよね?」
「違います。人違いです」
「ええっ!?それじゃあ不審者じゃないか!?……って、冗談か」
腕に嵌めてるリングを触ったらと思ったら本人確認されてしまった。何それ便利。
俺にも欲しい位だが、正直ダサい気がする……。
「まあ、取り敢えず、読み終わったら、外に出しといてくれ。こっちで処理するから」
「だとしたら、もう出していいか?」
「あー、うん。いいよ」
「じゃあそこら辺の隅に置いてある奴」
「全体の6割分あるんじゃないか!?これ!!」
「速読は得意なんだ」
「え、でもそれじゃあ頭に入らないんじゃないか?」
「……質問していいか?」
「うん?まあ、僕の知ってることなら大抵答えてあげるよ」
「まあ、素朴な疑問なんだが、何で人類史はヤバいんだ?」
「……まあ、色々と、理由はあるんだけど」
「それと、ソロモン王はどうしたんだ?何故再び呼ばないんだ?」
「……どうして、それを?」
「やったんだろ?聖杯戦争とやらを。前所長は」
「まあ、うん」
「なら、何故ダヴィンチだけ召喚して、ソロモンも呼ばないんだ?システム上可能なんじゃないか?」
「……そうだね、確かに、システム上は可能だね、だけど……。いや、これにはすまないけど答えられないな。それにしても、驚いたな。あの書類にそんな事が書かれていたのか……」
「前所長が聖杯戦争に参加するという記録と、その時の召喚にソロモン王を召喚するつもりだと言うことだけだが。
まず、所長が聖杯戦争後に変わった事、そして施設増設に関する計画書に関する資料。この計画書は見つからなかったが、この研究所に金は余り回ってこないという事は色々な資料に載っていた。頓挫された計画書の多くが予算不足と書かれていたし。
だとしたら、前所長は聖杯戦争に参加し、無事にソロモン王を召喚し、無事に勝利を得て、無事に大金を手に入れるという願いを叶えたということになる。所長が長期休暇を出していた時期がある。ここのスタッフの日記があったから、恐らく長期的に休みを取った、ということは判明している。その間に何をしていたか。そこまでは書かれていなかった。
だが、それらは推理すれば自然と導き出されてしまう。そして、何より。ここに保管されていうということだ。必要そうな書類から、不要そうな書類まである。と言うことは、ここにある資料の殆どは全て事実ということになってしまう。違いますか?」
「………………はっ!凄く長い長文だったから、飛ばしてしまった!何故飛ばしてしまったんだろう!」
「で?」
「あ、ああ。まあ、合ってるよ。僕の口からは大それと言えないけどね。ここのスタッフの末端だからね」
「……そうか、そんな極秘な事だったのか。それは、何か…すみません」
「いやいや、君の様な人なら疑問を持ってしまうのは仕方ないと、僕は思うよ?まあ、きちんと答えてあげれないけど、敢えて言うなら、『それは不可能だった』……だからかな?」
「……ありがとございました」
「ううん、いいよいいよ。じゃあ、まずあれらを処理するから。あと、この事は絶対に他言しない様に。じゃないと……ね?」
「……分かりました」
どうやら、真面目に駄目な奴らしい。
まあ、別に深く追求する気は無いし。ただの好奇心からの質問だったからな。まあ、仕方ない。うん。
「所で、これ全部もう読んだんだよね?」
「まあ、そうだな」
「すごいね、早速タメ口だ!わーい!懐いてくれた!」
……喜ぶ所じゃないだろ。
「大人なんだからシャキッとしろ」
「あ、すみません。シャキッと頑張らせていただきます……」
しゅんっ、と萎えてしまった。まるで植物の様だな。
あっちの方が強いんじゃないか?まあ、観葉植物は弱そうだが。
雑草以下という訳か。ゴミめ。
「ちょっと凄い失礼な事を思ってるよね!?」
「そんな貴方は超能力者」
「魔術師だよ!あっ、いや、まあ、違うんだけども」
どっちだ。
しかし何故だろう。ロマンが相手だと、物凄く強気でいられる。
そうか、ロマンはこんなにも凄いやつだったんだ!!
「何だろう。初対面の人に舐められるって、こんなにも虚しいんだね」
「その感覚はお前限定だろうな」
「こふっ!?」
……倒れてしまった。少々弄りすぎたか。普段ならこんな事はしないが、今日は興が乗ったらしい。
自分で言っててなんだが、物凄くつまらないと思った。
それはともかく、今はこれをどうにかせねば。
取り敢えず他の職員を探せばいいか?
まず、コイツをおぶって、探し回るか。こいつ、ひょろひょろだし、大丈夫だろ。
「ん?君は……というかその背中に背負っているのは……」
第一職員発見。というかこの人本当に職員?服装違うんだけど。
「初めまして」
「ああ、初めまして。所で、早速質問なんだけが、何故君がロマンを背負っているんだ?」
「こいつ何か、俺の部屋で倒れたんですけど」
「ああ、またか」みたいな顔されてますけど、大丈夫ですかね、この医者。
「どうせ、あれだろう?少し弄ったら、直ぐに倒れた感じの…」
「それです」
「ああ、やっぱりか……。そいつは少しメンタルが弱くてね。硝子のハートとか呼ばれてるんだ」
おっと、心は硝子だったか。
「まあ、どうせ直ぐに復活するさ。それより、自己紹介がまだだったね。私はレフ・ライノール。ここ、人理保障機関カルデアの顧問を務めて貰わせている。君は…」
またその便利腕輪か。ひみつ道具とこっそり呼ぼう。
「一般募集枠の…月宮くんか。今日のシュミレーションはどうだった?」
「いや、今日は、シュミレーションが無かったんです」
「ん?そうだったのか。それじゃあ、今日は待ちぼうけかい?」
「まあ、そんな所でしたね」
「ははっ、それは大変だったね。そして、そこにロマンか。そりゃ弄りたくもなる」
納得してくれたらしい。
「まあ、ロマンに関しては医務室へ連れて行けば良い。医務室へ案内しよう」
やれやれ。やっとこれを置きに行けるらしい。
正直この人は苦手だ。なんというか。人じゃない。
そういう風に感じ取れてしまう。
何がコイツを人間足らしめないのか。その正体は、今は分からないが、何れ確信を持てる時があるだろう。その時までは、この思いは秘めたままだ。
「それじゃあ、こっちだ」
「さあ、ここだ。君もいつか世話になる時が来るだろうし、覚えておくといい」
「そうですね、ありがとうございます」
「いやいや、礼は良いんだよ。ここの一、職員として、君をサポートしたまでだからね」
「そうですか」
「ああ」
ニコニコと笑っているが、その笑みは俺にとっては、ホラーとしか受け取れない。理由の分からない相手。それがこいつだからだ。
まあ、今の所は敵意は無い、という事だけが、今分かることだ。
「帰り道は分かるかい?」
「大丈夫です。問題はありません」
「ははっ、そうかそうか。では気を付けて」
「ライノールさんも」
「レフで良い。又はレフ教授。そう呼んでくれ」
「分かりました。レフ教授、では」
「ああ」
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alpha-3
次回からはきちんと真面目に書きます。
なんとか、迷わずにレフと会った場所に戻ることができた。問題はここからだ。ふらふら歩いていたから、最短ルートの事が気になるし、それに、帰り道をよく覚えていない。
覚えてないが故に、最短ルートが気になる。こちらが正当な理由だ。
さて、ここからどうしたものか。あのひみつ道具でもあれば帰れそうな気がするが、持っていないものは仕方ない。今日は、教授以外と出くわさなかったし、そこら辺に人の気配がする訳でもない。
ふらふら歩いたって、見付からないものは見付からない。本当に困った。
等と悩んでいる所に、誰かがこちら側へ歩いてくるような音がした。
この際誰でもいい。頼れるのならば頼らせて貰う。
その音のする方へ向かう。勿論、待ってても良かったのだが、眠たくなってきた事も相まってつい向かってしまった。
「すいません」
「ん?」
相手は女性で、俺と同じ位の歳だろう。そして、俺と同じような制服を着ていた。それが指すのは、この娘は職員ではなく、いや、正確には職員だが、スタッフではない、俺と同じマスター候補とか言うのだった。
「あれ?初めましてだよね?」
「はい」
「新人さん?」
「はい」
自分でも、信じられない程素直に答えるが、別に緊張している訳ではなく、ただ、早々に事を済ませる事が目的だからだ。単に眠い。
「同じマスターさんなんだよね?」
「はい」
「そうなんだー。私、
「月宮小詠だ。よろしく」
「で、何のよう?」
やっと本題に入れるか……。
「今日来たばっかりだから、部屋の場所が分からなくて……」
「ようは…迷子?」
「そうだな」
「そっかそっか。部屋番号言ってくれたら、一応案内できると思うよ?」
「部屋番号は…」
あれ、 番号あったっけ?あの部屋。
いや、無いな。隣の部屋にはあったが、俺の部屋には無かったはずだ。というか鍵の説明もされてないし、してない。
ヤバい、どうしよう。いや、貴重品は無いし、大丈夫な筈だ。
「どうしたの?」
「いや、部屋番号は無いんだ」
「……じゃあどこなの?」
なるほど、いい奴だ。本来なら、「じゃあ、ここでね」とか言って諦めるもんだが、こういう人間に手を差し伸べようとするのは、簡単に出来ることじゃない。
まあ、ベタ褒めしても、心の中だから、届く訳が無いんだかな。
「そうだね、お兄ちゃん」
また少女の声が聞こえた。
どうやら目の前の橘の後ろに居るらしい。
「そこじゃないよ」
じゃあどこなんだよ。大声を出して、文句を言ってやりたいが、眠い。取り敢えずさっさと、物置だという事を伝えて、何かしらヒントを得たい。
「どうかしたの?」
「…いや、すまん。少し眠くてな」
「あ、そうだよね。今日来たばっかりなら、もう眠いよね。私も廊下で倒れちゃってさー」
「そうか」
「うん、で、どんな部屋なの?」
「元々は物置だったらしいんだが…」
「物置?うーん……多分あそこの部屋かな…?何か、この前段ボール運び込んでたな……。うん、多分知ってるよ!」
多分かい。
「変な娘だねー。私に頼めばいっっっしゅんで着けちゃうのに」
それ絶対裏あるだろ。
「案内頼めるか?」
「うん!いいよ!」
「じゃあ、頼む」
そういえば、不思議な事だが、俺にとっては本来生者の方が不快に感じる。
これは疲労関係なくだ。
死者の方が圧倒的に心地好い。
何故だ。それが疑問で仕方ない。
だが今はそんなことより、無事部屋に戻ることだけを考えよう。考える事などいつだって出来る。暇さえあれば。
「多分こっちだったと思うんだけどな……」
つくづく不安になるな。
「ここ、だったかな?」
「…ああ、ここだな。ありがとうな」
最早限界だ。早々に感謝を告げ、ベッドへと急がなくては。
「うん!また明日起こしに来るね!」
「ああ……おやすみ……」
何かを言っていた様な気がするが、きっと、気のせいだ。
などと特に考え無しにベッドに潜り込んだが、これがちょっとした事故に繋がるとはその時俺は思いもしなかった訳だが。
「…よー…は……お………よー……おはよー!!」
突然耳元で変な声が聞こえたと思えば、突然、大声が聞こえた。耳が痛い。外からの刺激に対してまだ理解しかねる頭は取り敢えず、この障害を跳ね除けようと、手を出した。
それは、何の変哲もない。ただの払いであったが、相手がいけなかった。
相手が誰と、理解していれば、あんな事故は起きなくて済んだのに。ああ、悲しきや。
そう、事故とは。今時こんなベタな展開があってたまるか。
そう、橘の胸に手が思いっ切り刺さってしまったのだ。
お互い不意だったし、何せ俺は寝惚けていた。正直悪くないと思う。
というか何でここに橘が居るかも理解できない中で、更に理解の出来ない事が起こったのだ。当然、思考は完全にフリーズする。
「えっ?」
「……ん?」
お互い気付き始めた頃には内心「しまった」と思っただろう。というか実際思った。
どうすればいいものか、いやいや、まずは離れるべきだろう。離れて謝罪の一つ入れて、事を穏便に済まそう。うん、それがいい。そうしよう。
等と、考えている余裕があったのが俺の失態だった。
「おはよー!月宮くん!ロマンのお兄さんが朝をお知らせに来た──」
そう、まさか、ここに、ロマンが来るとは誰も思わなかった。
「………ごゆっくりー…」
「ち、違うんです!違うんですよ!ロマンさん!」
「いやー、一日でそんな仲にまで発展しちゃうとは思わなかったけど、楽しそうならそれでいいかなって、あはははは!」
「ちょっと話聞いてくださいよ!?」
「それじゃあ僕はこれで失礼するからね!他のスタッフには内緒にしててあげるから!!ちくしょう爆発してろ!」
「だーかーらー違うんですよぉぉぉ!!!!!」
そう言って、足早に部屋を出ていくロマンと、それを追いかける橘。
おのれロマン。許すまじ。
……取り敢えず、顔洗おうか。……あれ?洗面所とかないよな。今思えば、部屋には何も設備無くね?
「取り敢えず、ロマンを問いただせばいいや」
よし、そうしよう。それがいい。そうすれば多少なりともこの気は晴れるのだから。
待っていやがれこの勘違い野郎。
「うん、何か、ごめんね?そのー…僕、何だか、勘違いしてたみたいで」
「分かって頂けたらいいんですよ。分かって頂けたら。ねえ?月宮くん」
「ああ、その通りだ。分かれば良い」
「はい、すみませんでした」
取り敢えず、ロマンくんと少しお話して、誤解を解いていただいた。
「でもやっぱりそこまで言うって事は──」
「おい、ロマニ・アーキマン」
「ひゃ、ひゃいっ!な、何でしょうか!!」
「それ以上、余計な事を言うなよ?」
柄でも無く怒ってしまった。
まあ、橘と、そういう関係だと誤解されるのは不服だからだ。
橘は良い奴の部類に入るのは、恐らく当然なのだが、それでも、俺は受け入れれない。
「あ、あと月宮くん、さっきはごめんね?」
「……別に良い、あれは事故だった。違うか?」
「あっ、うん。そうだよね。……もう起こしに行かないよ」
「ああ。起床時刻は何時だ?」
「うん?ああ、特には決まってないよ。でも、今日は昼からシュミレーションがあるから、なるべく早く起こした方がいいかなって思って、九時位に起こしたんだけど……」
……九時?ああ、そうか、時差ボケか。
普段は、早起きな方だから、一瞬面食らったが、そういう事か。なら大丈夫だな。
「まあ、一応橘、こっちからも詫びをいれる。申し訳なかった」
「ううん、全然構わないよ。だって、事故だったんでしょ?」
「……ああ。そう言ってくれると助かる」
「ん?事後?」
そういう冗談もういいから。
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alpha-4
取り敢えず、ロマンにお詫びとしてプリンをご馳走になる事になった。
ヤバい、カルデアのプリン滅茶苦茶美味い。
「ははは、凄くがっついてるけど、そのプリンは貴重だから、もっと味わいながら──」
「もう一つおかわり」
「やめて」
断られてしまった。流石に5個目は駄目か。
ちなみに、甘い物が特別好きではないが、甘い物でも食べたくなったので、食べている。
「ご馳走様。また頼むわ」
「もうやめてください……」
「もうその辺にしといてあげなよ」
等と橘は言っているが、彼女はプリンを10個程食べている。
俺は優しいので、口に出して文句は言わないが、その何個かを分けて欲しかった。
「コホン。では改めて自己紹介をしよう。僕はロマニ・アー」
「「知ってる」」
「あ、うん」
取り敢えず、変な空気をぶち壊したかったのか、突然自己紹介を始めようとしたので、2人がかりで阻止する。
「じゃあ、月宮くんから。私は一応昨日ちゃんとしたし」
「俺は月宮だ」
「……いや、それは知ってるよ」
ちゃんと自己紹介しているつもりなのだが、何が不服なのだろうか。
「ほら、下の名前とか」
「いや、初対面の人に下の名前名乗るの怖いし…」
「もう初対面じゃないよね!?何なら同僚だよ!?」
「あれ?どちら様ですか?」
「何?君そっち?それ天然?ボケだよね?ボケてるんだよね!?」
「…冗談だ」
これ程のつまらない冗談を真面目に返されるとは思わなかった。
まあ、実際下の名前は余り名乗りたくない。一般的な名前でない事は既に明確だし、もし馬鹿にされる可能性があるなら、それは避けたい。
余り揉め事を起こしたくないからだ。
「何だ、冗談か…なら良かった」
「……小詠だ」
「こえい、って言うんだ。どう書くの?」
「……小さいに、難しい方の詠む。だ」
「へー。…私はね、人に富むと書いて、ひとみって読むの。珍しいでしょ?」
突然どうしたのだろうか。……いや、これは──。
「一緒だねっ」
気を、使われているのか。
とことん良い奴だな。そう思った。
俺よりも遥かに人らしい。人として、素晴らしい。
そう、心の何処かで彼女と線を引いてしまった。
「お兄ちゃんと合わなさそうだね。殺す?」
いや待て、その理屈はおかしい。
……こいつは本当に何者なのか。頭が回れば回るほど、気になってくる。
「今は分からないよ。お兄ちゃんには」
むぅ、そういう事を言われると気になって仕方が無いような気がしてくるが、ここは深く考えすぎても無駄なのだろう。俺は考えるのを止めた。
「あっ、そうそう。今日の月宮くんの予定なんだけど」
「何をさせられるんだ?」
「ははは、そんな身構えなくてもいいよ。昨日延ばしてしまったシュミレーションを今日改めてするよ。それと、健康診断。ああ、魔術方面の方なんだけどね」
シュミレーションの序に、健康診断。それも魔術方面。確か、魔術師には色々なのがあったな。魔術回路という魔術を行使するのに最低限必要不可欠な物とか、魔術属性。起源とかいうのだったか?それもだったか。
「別に痛いことする訳じゃ無いし、大丈夫だよ。多分」
おい待て、今この男多分とか付けやがったぞ。
「大丈夫だよ、月宮くん」
「橘……」
橘が大丈夫だと言うのならきっと、大丈夫なのだろう。
「多分」
「橘、お前もか」
「はい、お疲れ様でした。それでは医務室の方の、Dr.ロマン……ロマニ・アーキマンという方の元へ行ってください。勿論、今日中であれば、休憩を挟んで貰って構いません」
サーヴァントがいかに凄いか。そしてそれを扱う術を教えて貰った。
が、何あれ。滅茶苦茶じゃん。
滅茶苦茶気分悪くなるじゃん。
滅茶苦茶酔うじゃん……。
「ぁぁっ……くそっ…吐き気が……」
「お疲れ様」
「お疲れー」
気分が悪いので、そこら辺にあったベンチに腰掛けて愚痴を零していると、目の前から声がした。
どうやらロマンと橘の様らしい。
「………ああ」
「…その様子だと、相性悪かったみたいだね」
「まあ大丈夫だよ。平気平気」
「…ここで……吐いていい?」
「「待って」」
駄目だ。もう限界かもしれない。
「ちょっ、ちょっと待ってて!今すぐバケツ持ってくるから!」
「ロマン!早めにね!」
「分かってるよ!」
「ウッ」
駄目だ……。
「す、直ぐにロマンが持って来てくれるから!」
「あ、先輩こんにちは」
「ま、マシュちゃん!?」
「……マシュ?」
「えーっと、あの……お邪魔でしょうか?」
「あっ、いや、うん。そのー、何ていうか」
マシュ…確かあの資料の中に載っていたような……。
いや、そんなことより、吐き気が凄い!吐き気が凄すぎて関係ない事が次々と出てくる。
ロマン早く来い。早く来てください。お願いします。何でもしますから。
「おまたせ!バケツ持って来たよ!」
「ホムン…クルス」
「えっ?ど、どうしてそれを──」
「うぉぉぉえ」
「今、お兄ちゃんがとんでもない事になってるから、可愛い可愛い私の姿でも妄想しててね、お兄ちゃんっ」
「だ、大丈夫?」
「……あ、ああ…何とか、何とかな。吐いたらスッキリした……」
途中何か口走ったが、恐らく適当な事でも言ったのだろう。意識朦朧としてたし。
「あ、あの。それでですね……」
「……確か、マシュ・キリエライトだったか?」
「あ、はい。マシュ・キリエライトです。よろしくお願いします」
「……で?」
「いや、あのですね……」
「まあまあ、イライラしてるからって、そんな責めなくても」
……これもイライラに入るのか……。
イライラとか、そういうのは正直良く分からん。
「……そうか」
取り敢えず生返事をしておく。
「カウンセリングとか受けるかい?」
「宛にならないから遠慮しておく」
「いや、僕じゃないんだけどなぁ……」
「……信用にならないから、止めておく」
「ははは、世知辛いなぁ……」
そう、結局の所そこだ。どうしても、信じにくい。本当に大丈夫かと、安全かと、人に投げかけてしまう。
……この性格はそうとう損している。それは分かっている。だが、……怖い。
「大丈夫?」
「え?あ、いや。まあ、大丈夫だ。……部屋に行って落ち着かせて貰う」
……柄でもない。普段の自分ではない、何かが俺の口を通じて喋っている気さえしてきた。
今日の俺は本当に可笑しい。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。貴方はそのままでいいの」
ああ。その甘美な言葉を俺に投げかけるな。
「お兄ちゃんはそのままでいいの。ずぅっと。これからも、これまでも」
やめてくれ。
気が狂ってしまう気さえする。
「お前が怒る度、我の怒りの炎に油が注がれる。お前はそのままでいいのだ」
「やめろッッッッッ!!!!!!!」
…………夢、か?
……夢だ。そう、これは最近良く見させられる悪夢。
あの悪魔のような少女に見せ続けられている夢。たった二日間の記憶。だが、それを、ここ一ヶ月見せられている。
まるでこれから起こることの予言をしているかのように。
しかし、もう、内容は忘れた。
いや、悪夢を見ていたと、恐ろしい様な何かを見ていたのは分かる。それだけは憶えている。だが、それが誰で、何が起こったのか。それら事象を一切思い出す事が出来ない。
……それだけが辛い。例え、誰かに「悪夢を見てしんどい」と伝えても、すっきりとしない。
結局はどんな悪夢を見たからしんどい。と、相手にしっかりと伝えなければ心の蟠りは解決しない。
「小詠様失礼します」
「……入れ」
既に襖を開け、部屋へ一歩足を踏み入れている家政婦に言う事では無いが、形だけでも言う。
「大丈夫でしょうか?小詠様」
「……ああ。また、悪夢を見ていただけだ」
「……ドリームキャッチャーには反応がありませんね。悪戯というものでは無さそうです。心当たりは?どうでしょう?」
「いや、無い」
そして、誰かにあの悪魔の様な少女の事を告げる事ができない。
「…………そうですか。もしよろしければ、横に居りますが、如何でしょう?」
「……いや、大丈夫だ」
「そうですか。畏まりました。……それでは、失礼します」
「ああ……」
……人理継続保障機関カルデアがこの村に来てから、もう二週間が経った。俺は恐らく、来週にはカルデアに居ることになるだろう。
あの少女の思惑は分からない。
俺がどうすればいいのかも分からない。
ただ、分かるのは、何も考えなければいい。
それだけだ。
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alpha-5
「……ありがとう」
「良かったのですか?このような時間に」
「ああ。今なら皆寝てるだろう。わざわざ俺の為に起こす必要もない」
「皆様起きるのは小詠様の為だからですよ」
「……そうか。では、俺はもう行こう」
「はい、いってらっしゃ──」
「ちょっと待ってぇぇぇぇ!!!!」
「…ん?」
「はぁはぁ、ま、間に合った……。…ふふ、どうやら、私が、一番、ね」
「ま、待ってくださ~い…」
「お前達…どうして」
「どうしたこうしたもないwa…ありませんよ。せっかくの門出くらい見送らせてくださいよ。小詠様」
「そうだよコーちゃん。みんなに黙って行くなんて、コーちゃんらしいけど、それは駄目だよ!!」
「ていうかアンタはもうちょっと小詠様を敬いなさいよ!」
「別に当主様から許可されてるもんねー」
「くぅっ!これが親公認とそうでないかの違いか!!今に見てなさい!コウ君の隣には私が居るんだから!!…って、あ」
「別に構わん。明日からは、月宮小詠というそこいらにでも居るような人間なるからな」
「そうです、それにそれ位の非礼、この村には気にする者は居ません」
「……そ、う。……分かった。それじゃあ、頑張って、コウ君」
「コーちゃん、ファイトォ!」
「……ああ」
「どうかお気をつけて、小詠様」
「…分かった。では土産の一つでも期待していろ」
「コーちゃんそれフラグ」
「それも言っちゃ駄目でしょ!?」
「…ではな。妹を、頼んだぞ」
車に揺られながら窓の外を見る。そこにはずっと雪景色が見える。
何時間前からだろうか。この風景を眺め続けるのは。こんなことなら請け負うんじゃなかった。
だが悔いても仕方がない。ならば。この変わらない、非常につまらない風景でも眺めることにしよう。
などと、まるで神にでも決められたかの様な情景を肴にして、俺はデジャヴュに酔っていた。
「貴方はそれで良いの?」
少女が話しかけてくる。
「それで構わない。俺がそう望んだのだから」
「貴方は私を否定するの?」
否定?違うな。俺はお前をスパイスとしてでしか見ていない。
お前もまた酔っている。
「…違う」
「怯えて欲しかったか?」
「…違う」
「世界はお前の望みを絶対に叶えないようにできている」
「お前は違う。誰だ?お前は…誰なのだ?」
俺か?勿論。お前が知っている月宮小詠だ。
「待て、我が知っているのは…」
ベッドの中で小さく小動物のように蹲っている俺か?
たかだか夢に恐怖を抱く俺か?
「そうだ。お前は小さく弱いはずだ」
何、それはあの部屋での話だ。
あの部屋にいるとまるで自分が小さくなり、だれかに責め立てていられるかのような、そのような感情に苛まれる。
あのように弱い部分にしか付け込まないんだろう?お前は。
「違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。わた、私しししししししは。わたしししししししししししししししししししししははははははははははははは」
「エラーを起こしたか。雑魚め」
「調子に乗るなよ、人間。お前など――」
「すまん。そのセリフは少々聞き飽きた。お前のことを他人に伝えたりできないという正直辛い。だが、お前が雑魚に相違ないというのは、俺でも分かる」
「………私は、ただ。お前を、私の野望のために利用するだけだ」
「ふむ、逃げたか。それに俺を利用する。なるほど。実に面白そうだ。できるものならしてみせろ」
「……後悔するなよ」
ああ、勿論。
そしてそこで俺の意識は途絶えた。
次に目覚めたのはどこかで見たような、知っている気のする白い天井だった。
そして、はたまたどこかで見たような気のする、信用なら無さそうな男の顔であった。
「お、目が覚めたみたいだね。それじゃあ自分が誰か」
「月宮小詠だ」
「……記憶の方には問題なし、っと」
名前を言っただけなのに問題なしと。この医者、どうかしてるんじゃないのか?
「えーと、ようこそ。人理継続保障機関カルデアへ。僕の名前はロマニ・アーキマン。カルデアの医療部門のトップを務めてる。もし、何か身体に不調をきたしたら、遠慮なく僕に言ってくれ。何か質問は?」
「……ないな」
「そう?じゃあ僕は少し作業をしているから、もう一眠りでもしといていいよ」
……別に眠気は感じないが、目を閉じる。
部屋には、恐らく二度目の静寂が訪れたのだろう。
そして、その静寂を破ったのは他でもない、ロマニ・アーキマンのパソコンのキーを叩く音だった。
カタカタと小刻みな音が部屋を埋め尽くしていく中、これからどうしたものか、どう切り出せば良いか。踏ん切りの着かない自分がいた。
このまま目を瞑っていても構わないだろう。しかし、ここに来た以上、ある程度の責任が発生する。俺はそれを義務として果たさなければならない。
「あれ?起きるの?まだ寝てても問題ないんだけどなぁ…」
「……別に起きてても、構わんのだろう?」
「え?あ、うん。そうだね」
妙に反応が冷たい。
流石に初対面のこの茶目っ気を出すのは間違っていたか。いや、初対面な気がしないというのが恐らくは問題だが……問題といえば、あの少女はどこだろうか。あの悪魔みたく俺に変な夢ばかりを見せ続けていたあの少女は。
部屋を見渡す限り見えない。
それに対しては安堵しよう。だが、見慣れない部屋のためか、中々落ち着けない。
「ま、まあ、えーと、と、とてもリラックスしてくれてるようだネっ」
無理しなくていいぞロマニ・アーキマン。
「フォローは要らん」
「え?あ、うん」
……寝よう。寝て忘れよう。
「あ、寝るのね。じゃあオリエンテーションの時にでも起こすから、それまでごゆっくりー」
俺は再び眠りについた。
…久々にゆったりと安心して眠りにつけることができた。
とはいっても、オリエンテーションまでだが。
「おーい、月宮くーん。もーすぐ始まるよー」
「…ああ」
「おっはよー」
………待て、誰だ今の。
「あ、ゴメン。びっくりしたよね。私橘人富。月宮くんでしょ?よろしくね」
「待て、一回整理させろ。…まずお前は、橘人富、だな?」
「うん」
「それで、俺と同じ、マスター候補とやらだな?」
「うん」
「でだ。……なんで居るんだ?」
「少し体調悪くなってさ。それでこうして医務室でロマンにお世話になってたの」
「……ロマン?」
誰だそれは。
「ああ、それは僕だよ。ロマニ・アーキマン。人呼んでDr.ロマン」
「…………そう、か」
「あれ?反応薄くない?なんかこう、バカらしいなーくらい有ってもいいよね?」
人の渾名にケチ付ける程小さくはないんだが。この言葉を心の隅に置いといてこう言った。
「興味ない」
「うっ!?」
まあ、これもまた本心であるから、いいだろう。
「あはは……月宮くんって、結構キツいねー」
「ふむ、そういうものか?俺は本心を言っただけだが……」
「あ、これ本気なやつだ」
「……いいもん。僕もうマギ☆マリ見てるもん!うわあああああああん」
そう言って、ノートパソコンを片手に医務室から出ていってしまった。
「……そ、それじゃあ、行く?」
「ああ、案内頼む」
「あ、うん。分かった」
「……あのさ」
「ん?」
突然橘が喋りだした。いや、この沈黙に耐えれなくなったのだろう。歩き始めて一分も経っていないというのに。全く……。まあ、俺の周りに居た人間も似たようなものだったが。
「私達、どっかで会ったことない?」
「それは…逆ナンか…?」
突然そういうことを言われても困るんだが。
「いや、そういうんじゃなくて……なんて言うかな…デジャヴュ?」
……なるほど。言われてみればそういうものを感じるかもしれない。
だが、俺はめったに村の外へ行かない。
だからどこかで会うようなことはないはずだが。
「……まあ、俺もなくはないな。それはそうとあの扉か?」
「あ、うん。そうそう」
「そうか」
「うん」
…やはり、俺にはコミュニケーション能力が欠けているな。
元々の性格からか知らんが、こいつは俺を気にしすぎている。だからさっきのような突拍子もない話題を思いついたのかもしれないな。
―――こういう形でしか己の不安を打ち消せない俺は、弱すぎるかもしれんな。
「じゃあ、私、こっちだから。月宮くんは一番前の席の真ん中の所みたいだから」
「ああ、ありがとう」
前の方に空いている席が二つあり、真ん中の方はど真ん中なので、正直違うと願いたかったが、指さしている方向を確認すると、やはりそのど真ん中だった。
何の嫌がらせだ?これ。
それからしばらく待っていると、偉く高飛車そうな銀髪の女性が出てきた。
が、そのまま、何かを始めるという訳でもなく、そのままあからさまにイライラしながら待っていた。
……そういえば、一つ空いている咳があったが、恐らくそれは遅刻している人間のものなのだろう。
それからしばらくして、ようやく来たらしい。
さて、始めようかと、始まりの挨拶を始めた。
「特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです」
橘さんのアニメのモデルはぐだ子です。
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alpha-6
一連の挨拶を終えようとしたその時、歓迎文句を謳っていた、彼女が、何を思ったか、突然右の方に行った。それを目で追うと、そこには何と明らかに寝ている男が。いやいや、俺でもそんな事はしないぞ?等とつまらない突っ込みを心の奥の方へ仕舞いながら、どうなるのかと見ていた。
最初は勿論声掛けをしていたが、よく分からない腕に着けているブレスレット(?)をかざしたかと思うと、もう一度名前を呼びながら声を掛け始めた。
そして次の時にはそいつはモロに平手打ちを喰らっていた。
その後は訳が分からないという風に、なすがままに部屋を出て行った。
そして軽い咳払いを終えた後、再び話し始めた。こちらの方が、自分には少し興味が湧いた。
内容は大体耳に入れなかったが、俺達を身分に関係なく扱うと言うものだった。
それに対して周りはざわつき始めていたが、鶴の一声でそれは止まった。この雪山を降りろだなんて、所長殿も鬼だな。
それからは非常につまらない説明を聞かされ、半ば真面目に聞きながら、ボケーッとしていた。
そして気がつくともうすでにそれは終わろうとしていた。
「ここまでが以上です。何か質問は?」
当然答えはなし。寧ろ、彼女に質問をしろという方がおかしいのだ。
「それでは班分けを言い渡します。1〜24まではAチーム。それ以降をBチームとします。それではこれよりグランドオーダー作戦を開始します!」
話の後、別室にて戦闘服なるものに着替えさせられた。今度は何をさせるつもりなのだろうか。
少し楽しみである。
「では着替えが済みましたら、あちらのコフィンにお入りください」
などと案内された先には、まさにその名を恥じぬ棺桶のような、所謂カプセルのようなものがあった。
正直、昨今のアメリカンSFに出るかどうかも怪しいものではある。
だが、もしかすればこれが本当に棺になってしまうのでは?などと、不意に考えてしまった。
少しネガティブに考えてしまうが、やはりそこは緊張からなるものだろう。
などと、冷静に自己分析している場合ではない。ここに入って『任務』とやらをこなさなければならないのだから。
「入ってまーす」
しかし、俺のそのような考えを否定するかのように、それは居た。
……なるほど。
『入るな。』
彼女はそう言いたい訳か。
……乗ってやるのもいいが、そう簡単に上手くいくだろうか?
「すみません…」
「はい?何か問題でも?」
「はい、実は体調が優れなくて…」
「はい…もしかして、月宮さん、ですか?」
「はい。そうですが?」
「あ、いえ。お話は伺っています。なんでも、来られる途中に気を失っていたとか。勿論、今回の任務には不参加でも構いません。医務室で診察を受けた後、自室にて待機しておいてください」
…正直驚いた。こんなにも上手く行くとは。
まあ、話を聞く限り妥当だろう。逆に足を引っ張られても困る。そういう判断をしたのかもしれない。
「分かりました。では医務室で診察を受けてまいります」
「ああ、うん。…報告、要らないから」
「…分かりました」
…さて、誰かの思い通りに成るのは、中々に癪だな。しかし、分かる警告を無視する通りもない。
「ま、待って!!」
入り口まで戻ったところで、後ろから声が聞こえた。その正体を探ろうと、後ろを振り返った時、
真後ろで衝撃的な音がした。
――――――――――――――――
「目が覚めた?お兄ちゃん。朝だよ、起きる時間だよ?起きて、生きなきゃ。お兄ちゃんは生き残らなきゃ。ほら、早く、立ち上がって、息を吸って――」
「鬱陶しいわっ!!!」
…恐らく生涯最悪な目覚めだろう。
………。
そうだ、確か爆発音が聞こえて。いや、その前に何か声が聞こえて…。
確か。そう。少女の。今日会った。そうだ。今日会ったばかりの。少女の声だ。
しかし、目の前には、瓦礫にその華奢な体を貫かれている、赤毛の少女の無惨な姿があった。
「…これは、お前の仕業か?」
「違うよ?」
「……そうか」
…犯人はこの
では、誰か。この目の前に憎たらしく、恐ろしいまでに中傷的な。糞ったれたオブジェクトを創った犯人は。
「お兄ちゃん。怒ってる?」
「ああ、非常に」
「ふーん?」
「…何だ?」
「別にー?」
…どうやら、ただ構って欲しいだけらしい。
全く…。
しかし、俺もこの状況で怪我の一つもしていないでは済まないだろう。昔から怪我が治るのは早かったが、今回ばかりは流石に未だ治ってないらしいな。なぜ分かるか?
体が軋むように痛いからだ。
「っ……」
…いかん。意識すれば、益々痛くなってきた。
まず、どうしたものか。
只々顔も知らぬ犯人に怒っていても時間の無駄だ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「…ん?」
ふと声が聞こえた気がした。だが、今は思う様に声が出ないらしく、声は相手に伝わって無さそうだった。
その証拠に、男は奥の先程の部屋に行ってしまった。
……全く、俺は非力だな。こんな痛みも我慢できず、起き上がることもできないとは。
ははは。笑いが込み上げてくる。
そうだな、今はただ、
『俺はこれ以上の痛みを味わったぞ』という風に。
「それじゃあ起きてみようか、お兄ちゃん」
…一体、どうやって?足だって、瓦礫でも乗ってるのか、重いし。
「大丈夫だよ」
何故そう言い切れる。
「だって。お兄ちゃんはそれをどうにかする方法を知ってるもん」
「正気か?」
「ううん。狂気の沙汰だよ」
「はは、そうかそうか…」
だがな、少女よ。降霊術では幾ら頑張っても生身をどうにかすることはできんのよ。
「耳を澄ませて」
…駄目だ。爆発の衝撃で耳はあまり聞こえない。先ほどだって、男性らしい声だということ以外何も分からなかった。
「違うよ。死者の声を聞くの」
…ああ、なるほど。だがな。そんなもの、今は聞こえない。
「ううん。絶対聞こえるよ。諦めないで」
……残念だな。聞こえんよ。
だがな、俺は未だ諦めん。
すまんな、悪魔の様な少女よ。お前のお陰でほんの少し、抗ってやろうという気になった。
『該当マスターを検索中・・・・発見しました』
『適応番号 48 藤丸立花、49 月宮小詠 をマスターとして再設定します』
『アンサモンプログラム スタート。霊子変換スタート』
「今…のは?」
「貴方を呼ぶ声。世界、そして私が貴様を必要としている」
「…そう、か」
「誠にすまない」
『レイシフト開始まで あと3』
「…お前」
『2』
「何だ?」
『1』
「謝れたのか」
光に包まれて見たのは、少女のピエロのような悪魔的な笑顔であった。
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alpha-7
「っ!」
……俺はどうなった?あの後、ここは…カルデアか?
……違うな。森だ。何故か俺は今、森にいる。
……確か、レイシフト、とかだったか?あの話通りなら、俺は今特異点Fとやらに居ると思うのだが。
特異点Fというのはもしや森なのか?こんな風に考えてしまうことになったのだから、もう少し話を真面目に聞いてても良かったのやもしれない。
兎に角、今は慎重に、隠密行動を行うべきだろう。木々のある所に獣あり。そう教えられてきた。少なくとも、己の経験則にもそうある。獣に襲われるのはごめんだ。
少し歩くて気付いたことがある。
どうやらこの森、所々燃えてるらしい。
どうして燃えてるのかはこの際、置いておくとして、問題は獣が既に居ないのでは?というものだ。
もしそうなら万歳だ。そう思い、気が緩む。
そして後悔した。
「▅▅▅▅▅▅!!!!」
獣の咆哮。すぐさまそれと感知した。
不味い、生き残っていたのが居たのか。それに、この声の大きさ。非常に不味い。
『ドタドタドタ』
更に今、此方に牙を向かんと走ってくる音も聞こえる。
三十六計逃げるに如かず。
その言葉を思い出した俺は、遅くとも逃げ始めた。
走った、何処とも知らぬ出口を探して。
「▅▅▅▅▅▅▅ーーーー!!!!!!!!」
追いつかれた。当然だ。何せ遅かったのだから。手遅れだったから。
だからと言って生きるのを諦める訳では無い。
あのまま死ねばこうして苦しい想いをせずに済んだのに。だが、こうして生きている以上、生き延びようと思えるのは仕方のないこと。
…そういうえば、その張本人の悪魔のような少女、略して悪女と呼ぼうか。彼女はどこだ?少なくとも先程まで声が聞こえていたはずだが。
「▅▅▅ー!!!」
「あ」
少し忘れてしまっていた。少しの間、考え事をしてしまった。
隙きを作ってしまった。
人だった。その獣の形は。
更にそれはとてつもなく大きく、俺にただただ、絶望を与える。
俺には今絶望しか見えなかった。
だからこそ光を求めた。
足掻こうとした。
「▅▅▅▅▅▅▅ーーーーー!!!!!!」
案の定駄目だった。虚しくもそこら辺の枝で殴りつけようとする小さな生存本能は、獣の偉大さにかき消された。
息はあった、だが、もう立ち上がろうとは思えなかった。
だが、体は自然と立ち上がってしまった。
心は半ば折れたが、その半分は未だ諦めていなかった。幸い遠くに飛ばされたらしく、獣の気配は少し遠くに感じる。
天からの恵みだろうか。ふと見た場所に女性の焼死体らしきものが有った。
お得意の降霊術を発揮するところである。幾らの霊で足りるだろうか。
だが、今はそんなに多くは喚べないだろう。せいぜい、多くて三人程度。そしてそれを肉壁にして、俺はのうのうとこの森を抜けて…。
……そんな事を考えている場合ではない。今は行動を起こすのが先だ。
急いでそこらに有った棒を手に取る。
そしてそれを死体に刺し、唱える。
「我、願わくば汝の力を借りんとする。
汝これに応えよ。
我、善を傍観する者。
我、悪を咎めぬ者。
されど、今ここに真理は問わず。
汝に再び目覚める時を告げよう。
覚醒せよ。
そしてその力を我に貸せ」
そう唱え終わった時、突如風が吹き荒れた。
おかしい。ここに来て失敗したのか?ああ、俺の人生はもう終わったか。
そう悲観し、風から目を守るために閉じられていたまぶたを持ち上げると、そこには人が居た。
「なっ…」
何だ?そう言おうとした次の瞬間。その人が口を開いた。
「問おう、お前が私の主で良いな?」
開いた口が塞がらない。まさにその通りだった。
分かるのは、俺の儀式は失敗し、替わりに何かしらの儀式が成功してしまったということだ。
「おい、早くうん、とでも言わんか」
「え?あ、はい…」
「…よし、それで良い。これで契約完了だ」
契約?どうやら俺はヤバイものに手を出したらしい。
「…おい、主。もしや今危機的状況ではないか?」
「え?あっ…」
そうだ。すっかり忘れていたが、俺はあのよく分からないのに追いかけられ、逃げている途中だった。
このよく分からない状況に混乱したせいですっかり忘れてしまった。
「やはりそうか。空気が違う。今のここは戦場のそれと同じだからな。まあ、私の初陣くらい、マトモに相手してやるか」
「お前、戦えるのか?」
「ん?ああ、まあな。故郷では負け知らずだったからな」
…よく見ると、槍のようなモノを持っているが…。
「黒いローブか。それで動きにくくないのか?」
「む、よくそんなことが気になるな」
「あ、いや、今のは侮辱ではなく…」
「いや、違う。よくもまあ私の言った事が信じれたなと―――退け、主よ。話はこの後だ」
そう言って、俺の前に出る彼女の背中のそれは歴戦の戦士のそれであるのだ。
「▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
やはり、先程の獣のデカさは尋常ではない。だが、今気付いたが、彼女もまた、大きかった。相手をするのに無理のない大きさだ。
「ああ、これは…思ったより……。弱そうだな」
待て、彼女は今なんと言った?弱い?あれが?
まさか。贔屓目に見ても、お世辞だったとしても。強がったとしても。
俺は、アレを『弱い』だなんて言わないし、思わない。
「………」
「…ん?」
「▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅ーーーーーーーーー!!!!!」
あ、怒ってる。激おことかいうやつだ。今にも食ってかからんばかりの怒りがこちらに伝わってくる。
そして当事者は変なことでも言ったか?とでも言いたげな、疑心的な顔をしている。
「おっと、ようやく強く見えてきおったな。獣を相手にするのは、ちと酷ではあるがなあ」
などと言いながら、その顔は実に面白そうだと笑っている。
「▅▅▅▅!!!!」
振り下ろされたその一撃、俺なら避けることも叶わず、ただただ、天国か地獄。どちらに落ちるかなどと考えさせられるだろう。
だが彼女は違った。
それをまず、持ち前の槍で横に逸らした上でその槍を心臓に一突きにした。
そうなのだと、仮定するまでにかなりの時間を要した。
それ程呆気なかったのだ。そして、早すぎたのだ。
「…おい、もう終わったぞ」
「…………」
まだ、現実を飲み込めていなかった。受け入れきれなかった。
俺の許容範囲を大いに越している。
彼女は何者なのか。そもそも、声で女だと判断しただけで、男かもしれない。なんなら性がないのかもしれないし、両性なのかもしれない。
はたまた――
「おい!!」
「っ!?……あ、ああ。すまん。受け入れきれなくてな…」
「まあ、無理もない。それはそうと、次が来るぞ」
「何――」
「▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅ーーーーーーー!!!!!!!!!」
先程殺されたはずなのに、何故か再び起き上がろうと、こちらを殺しかかろうと、倒れていたながらも、その赤い野獣の目はこちらを睨んでいた。
「ば、馬鹿な…自己蘇生だと…!?」
つい零れる本音。俺の常識を初めて超えた。
降霊術の派生の様なものであれば。死にたてホヤホヤの死者を生き返らせる事は可能だ。だが、それは術者の力があっての事。そして、どんなに頑張っても術者は己を生き返らす事は不可能である。
しかし、世界は広かった。こんなことも可能なのだな。
「んーむ、なるほど。そういう感じの仕掛けか」
そして彼女は何やら一人で納得している様子だ。
「どういう事だ?」
「さあな」
「おい」
「まあ、そう慌てるな。これが終わったら説明してやる。さあて、もう起き上がる頃だ。寝起きはさぞ悪いだろうな」
「▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅ーーーーーー!!!!!!」
「安心しろ、主。コイツを殺し切るまで仕事をしてやる」
「…………なあ」
「ん?」
「名は?」
「んー。それも後で構わないか?今からこいつの遊び相手をしなければならんからな」
「▅▅▅」
「おう、どうした?遅いぞ」
獣が殴り掛かるより先に、彼女は刺し終えていた。
「▅▅▅▅……」
「…む、まだ死んでいないな」
まだ、死んでいないのか。それを俺が言う暇も与えず彼女は獣の首を刎ねていた。
「……まだ死なぬ、か」
槍の矛先に着いた血を振って払い落とした彼女は悪態をついていた。
「まだ死なないのか…?」
「ああ、どうもそうらしい。こいつは恐らく幾つもの命を持っているのだろう」
「▅▅▅▅……」
「ではもう一度、死ね」
彼女はもう一度喉元目掛けて槍を穿った。
が、それは何かによって弾かれた。
「なっ…」
勿論獣はそれを好機と見て、彼女を跳ね飛ばした。
そして殺しにかかろうと彼女に飛びついた。
が、それを間一髪な所で回避した。
「………なるほどな。どんどん分かってきたぞ、お前の事が」
どうやら先程のからくりについて思う所があるらしい。
「主、魔力を使わせてもらうぞ」
「……」
正直何の事か検討がつかない。だが、それに身を任せればいいと、心では分かっていた。
「分からんか、主。ならば少しばかり目を閉じていてくれ。安心しろ。今度はきっかり殺す。例え不死だろうがなんだろうが殺す。何回でも。何世紀かかろうとも」
「……分かった」
そう返事した瞬間、段々と意識が薄れていく。
「…ありがとう主、私を信じてくれて。今後はマスターと、真面目に呼ばせて貰うぞ」
「▅▅▅▅!!!!!」
「…すまんな、今の私ではお前の言語を解することはできん。今の私に出来ることはマスターの信頼に十二分に応えてやることのみ」
………何か言っている気がするが、眠気で理解できない…。
「主、少しばかり辛抱していてくれ……。
さて我が名を名乗ろう!聞け!かつての英雄よ!!
この名を聞いて恐れ慄くが良い!!今はそれを許そう。
我が名は――――」
「■■■■■!!!!!」
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