オーバーロード~死の支配者の娘~ (アークメイツ)
しおりを挟む

1:娘登場

DMMO-RPG「ユグドラシル」。

 

北欧神話を題材にしたファンタジーの仮想現実世界でモンスターを討伐したり冒険をしたりと、幅広い自由度を誇り一世を風靡した大人気オンライゲームだった。

 

ユグドラシルは12年という驚きの稼働年数を叩き出したが、始まりがあれば終わりもある。

 

ユグドラシルは後1時間もしないうちに終わってしまう。

 

廃れていく中でも未だにその名が轟き続けるギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の本拠地。

 

ギルドメンバー以外は知らない地下奥深くの一室。

 

巨大な黒い円卓とそれを囲む41の豪華な椅子が並ぶその部屋には今はそのほとんどが埋まっていなかった。

 

席を埋めているのは、白骨死体に眼窩に真っ赤な光を灯したモンスターでありアンデッドの最高位種である死の支配者オーバーロード。そして常に形を変え続け一度たりとも同じ形をしていない黒いコールタールのようなモンスターであり粘体スライムの中で最高位種である古き漆黒の粘体エルダーブラック・ウーズの2体だ。

 

どちらも最高難度のダンジョンに時折姿を見せる嫌われているモンスターだが、この2体はシステムで動くモンスターではなくプレイヤーだ。

 

異形種。モンスターと同じ外見をした種族を選んだプレイヤーの証である。

 

人間種や亜人種という種族もあるにはあるが、異形種の方がステータスにおいては優れている。その分、種族によってのデメリットもあるが。

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド長であり唯一毎日ログインし続けたモモンガ。

 

彼がかつての仲間たちにメールをだした。

 

それは「ユグドラシル最終日なので集まりませんか?」というものだった。

 

41人の内それに応えたのはわずかに3人。

 

そして最後の1人であるヘロヘロがログアウトした。

 

モモンガはヘロヘロに向けて言えなかった言葉を飲み込み天井を仰ぐ。

 

「かつて1500人の大侵攻を跳ね返したこの場所も・・・仲間たちの思い出も今やただの錆びついて朽ち果てた剣。いや魔力切れの魔法詠唱者(マジックキャスター)か?はははっ」

 

下らない冗談を呟きながら円卓の間と呼ばれる部屋に飾られた黄金の杖を手に取る。

 

ギルド1つにつき1つのみしか持てない最強の武器。ギルド武器「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」。

 

これを作るために仲間たちがどれだけ無茶をしたことか。

 

「・・・行こうか、我がギルドの証よ」

 

それすらももうすぐ消える。

 

思い出も、作り上げたものも、何もかも全て。

 

「ん?」

 

そこで円卓の間の隅に立つNPCに気づいた。

 

「お前は確か・・・」

 

記憶を遡ってそのNPCが誰かを思い出す。

 

「お前も悲しんでくれているのか?リグレット」

 

後悔と名付けられたNPC。

 

かつてのギルド黄金期にモモンガを除くギルドメンバーによって創造されたNPCで設定が特殊なのだ。

 

いやモモンガにとって特殊というべきか。

 

リグレットの設定は単純明快でモモンガの娘という設定なのだ。

 

ギルド拠点であるこの「ナザリック地下大墳墓」の全ての場所に立ち入ることが許可されていて、NPCで唯一ギルドメンバーしか持つことが許されない「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を所持することが許されている。

 

種族は戦士職で性別が女であることが条件の上に課金でなれるアンデッド戦士職最上位種である「死の女神」だ。

 

ぶっちゃけすごく強い。

 

個で最強のルベドと対等にやり合える位に。

 

初めて見たときの事を思い出して懐かしさから設定を見る。

 

「ふむふむ」

 

少し長い程度だったが見る時間はある。

 

軽く流し読み程度で見てから1つだけ娘として足りない点があることに気づいた。

 

「いつもナザリック中を歩いていて見つからなかったからな。全くお転婆な娘だ」

 

足りない点をギルド長特権で書き込んでから満足げにうなずく。

 

「付き従え」

 

リグレットを従えて最深部の玉座の間に向かう。

 

途中で控えていた執事とメイドたちもついでに引き連れていく。

 

ギルド一の問題児が作った悪魔と女神の彫刻が彫られた巨大な両開きの扉を開き、贅の髄を尽くした見事な内装の玉座の間に入る。

 

かつての仲間たちと自分を現す41のサインが描かれた旗。

 

その最奥にある巨大な水晶から切り出したような見事な玉座の上に掲げるようにあるギルドサインの施された巨大な旗。

 

玉座の前の階段まで歩いていきNPCたちに待機を命じる。

 

玉座に座りすぐ隣にいる純白の悪魔とも言うべき女性を眺める。

 

その女性の手には45センチ程の黒い短杖が握られている。

 

200しかない世界級(ワールド)アイテムの1つである「真なる無(ギンヌンガガプ)」だ。

 

もうすぐ消えるそれを持たせたであろう人物を脳裏に浮かべてため息をついた。

 

持たせた真意などわからないが持っていないといけない設定にでもしたのだろうか。

 

そう思うと興味がわいたのでリグレットと同じように設定を閲覧してその量の多さに驚く。

 

これを全て見ている時間はないので流し読み程度であったらいいな的な気分で読み進めて最後の行を見て唖然とする。

 

「ちなみにビッチであるって・・・うわぁ」

 

ガチで引いた。

 

確かにこの女悪魔───アルベドの種族は淫魔(サキュバス)だがこれはひどすぎるだろう。

 

「変えてやるか」

 

リグレットはギルドメンバー全員のNPCだということで変えることに抵抗はなかったが、アルベドは違う。

 

とはいえビッチは酷い。

 

ギルド長特権で最後の一文を消去してから代わりに「モモンガを愛している」と書き込んで閉じる。

 

「最後だから問題ない」

 

どうせ消えるのだから。

 

玉座の間を眺めてギルドメンバーの旗に指を向けてそのサインを持つ者の名を告げる。

 

「俺」

 

ユグドラシル最強の一角である戦士職最強。そしてモモンガが憧れた人。

 

「たっち・みー」

 

ギルド最年長にして現実で大学教授。

 

「死獣天朱雀」

 

3人しかいない女性メンバーの1人。

 

「餡ころもっちもち」

 

淀みなくモモンガは次々とサインの持ち主のギルドメンバーの名を上げる。

 

「ヘロヘロ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、タブラ・スマラグディナ、武人武御雷、ばりあぶる・たりすまん、源次郎───」

 

全員の名を挙げて呟いた。

 

「そうだ、楽しかったんだ・・・・・」

 

そう呟くとモモンガは疲れたように玉座に頭を預ける。

 

時間はもう数秒しか残っていない。

 

「さらばだ・・・ユグドラシルよ」

「嫌だ!」

「え?」

 

そして全ては動き出す。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2:夜空と宣誓

「ごふっ!?」

 

毒々しい紫色の線がモモンガに向かって伸びたと思ったら重い一撃が襲ってきた。

 

何が起きたのかモモンガが理解する前に起こした張本人から声が上がった。

 

「お父さんがどこかに行っちゃうなんて嫌だ!」

 

毒々しい紫の髪を持った少女───リグレットが抱きついていた。

 

ルベドとタイマンを張れる程の近接職の突進を魔法職のモモンガが知覚できるはずがない。

 

先ほど見た線はリグレットのものかと理解して安堵のため息をついた。

 

横を見るとアルベドがワタワタと慌てている。

 

「モ、モモンガ様。リグレット様。あ、えっと。どうすれば・・・引き剥がす?いえそれはモモンガ様の娘であるリグレット様にたいしての不敬・・・」

 

口が動いている。

 

リグレットに関しては仲間たちが作ったことからこの様なAIを組んでいたことも考えられた。

 

だが口が動くなどデータ容量的にユグドラシルではありえないことだ。

 

いやそもそもだ。

 

リグレットから抱きついてきたとしても18禁行為としてアカBANされるはずなのだ。

 

なのに運営からの通知がない。

 

時間も確認すると既に終了の時間を10秒ほど過ぎている。

 

ここはユグドラシルではない?

 

モモンガの体に抱きつくリグレットの体温を感じながら様々な憶測を立てる。

 

その中で1番可能性が高い「ゲームではない」という憶測を確認するために行動を起こす。

 

「・・・・リグレット。私は何処にも行かないから離れなさい」

「やだ」

「・・・・」

 

これも場合によってはAIと言える。

 

規定の言葉以外にはこうして返すと設定すれば可能だ。

 

ならば違う相手に対して曖昧な言葉を告げる。

 

「アルベドよ。私はこのままで構わない。それでだが・・・セバス」

「はっ」

 

リグレットを後回しにして執事であるセバスに命令を下す。

 

「ナザリック地下大墳墓の外を捜索せよ。範囲は1キロメートル。1時間ほどで戻って来い。知的生命体がいた場合はナザリックに連れて来い。その際に相手の要望は可能な限り叶えても構わん」

「畏まりました」

「だが戦闘になった場合は撤退を前提に行動せよ。撤退できない可能性を考慮してプレアデスを1人───ソリュシャンでいいだろう───を連れて行け」

「畏まりました」

 

セバスとメイドのソリュシャンは立ち上がると一礼してから玉座の間を出ていった。

 

割と曖昧な部分があったはずだが真意を理解して行動した。

 

つまりは人に近い思考をしているということ。

 

これを再現するには現代の科学力では不可能だ。

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のみにユグドラシルのリソースを当てれば可能にはなるだろうが、それを行う意味がない。

 

「残りのプレアデスは各階層守護者。第4と第8階層を除く守護者を玉座の間に来るように伝えて守護者たちが戻ってくるまで守護者代行としてその階層で待機せよ。守護者たちには武器の類は一切持ってくるなと伝えるのは忘れるな。行け」

「はっ!」

 

プレアデスたちが玉座の間を出て行くのを見送ってから横にいるアルベドに目を向ける。

 

「アルベドよ」

「はいっ何でしょうか!」

 

アルベドの目が輝くセバスと同じように命令を貰えると思って期待している目だ。

 

「土くれでも武器となり得る物を持って来た者がいた場合はただちに捕縛せよ」

「申し訳ございませんモモンガ様。モモンガ様が命令されたのであればそれに従わないシモベはこのナザリックには存在しないかと愚考いたします」

「私もそう思う。だが何らかの異変が今起きている。幸いとして玉座の間に集っていた者たちには異変は起きていないが他の者にも起きていないと思い行動するは愚か者のすることだ」

「なるほど。愚かな私の意見にお応えくださりありがとうございます。捕縛の件、このアルベドにお任せ下さいませ」

「頼んだぞ」

 

そして最後に抱きついているリグレットに目を向ける。

 

「リグレットよ。いい加減離れたらどうだ」

「・・・・どこにも行かない?」

「少なくともナザリックを捨てては行かん」

「本当?」

 

俯いていた顔を挙げて尋ねるリグレット。

 

その顔は少女と女性の間でありながらアルベドと遜色ない絶世の美女。

 

瞳と髪は同じ毒々しい紫色。

 

その肌は病的なまでに白い。

 

「無論だ。ナザリックは私の全てだ」

 

モモンガの言葉でリグレットは納得したのかようやく離れた。

 

「リグレット。我が娘よ。父の願いを聞いてくれないか」

「うんいいよ。お父さんのお願いならなんでも聞いちゃうよ?」

 

忠誠心というより親子愛だろうか、モモンガこと鈴木悟は幼くして両親を失っている為にリグレットの感情を理解できない。

 

だが敵対することは微塵も考えていないようだ。

 

「アルベドが守護者を捕縛した際は私を守ってほしいのだ。何らかの異変が起きている今、守護者たちにも何らかの変化が起きていると推測できるのでな」

「分かった!」

 

防御特化戦士職のアルベドを捕縛に回してリグレットを守護に回した。

 

普通ならば逆にするだろうが理由はある。

 

正直アルベドも信用できないのだ。

 

設定を見たといっても流し読み程度なのだ。

 

流し読みして飛ばした中に「実はギルメンを嫌っているがそれを完全に隠せる程の演技力がある」とあって殺そうとしてきたらマズイ。

 

守護者も敵対していてリグレットの足止めに徹したらその間にモモンガは間違いなく死ぬ。

 

その点はリグレットは違う。

 

リグレットの設定は隅から隅まで読んでいたのでそのような記述がないのは確認済みだ。

 

その内容はモモンガがいるからギルメンもついでに尊敬しているという節の設定なのだ。

 

簡単に言えばモモンガ命だ。

 

それにリグレットなら守護者と守護者統括であるアルベドたちを一気に相手をしてもモモンガの撤退時間を稼げるだろうし、指輪を使うことでのみ行ける宝物殿に撤退しろとでも言っておけば撤退くらい可能だろう。

 

さて次に確認するべきはスキルと魔法。

 

ここがゲーム内ではないということは確実だ。

 

ナザリックについてはゲームと同じようだがシステムまでもが同じとは限らない。

 

月光の狼の召喚(サモン・ムーン・ウルフ)

 

スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに付いている神器級アーティファクトの力を使用して月光の狼(ムーン・ウルフ)を5匹召喚する。

 

「モモンガ様これは・・・」

 

アルベドの言葉を無視して月光の狼の1匹に指を向ける。

 

火球(ファイヤーボール)

 

巨大な火球がモモンガの指先に出現して月光の狼を中心に爆散した。

 

月光の狼が焼かれて灰となって消え去る。

 

玉座の間が少し焦げてしまったが清浄(クリーン)で元通りにする。

 

そしてアルベドを捕縛しやすいように階段から下ろしてしばらくして。

 

玉座の間の扉が開かれて数人の者たちが入ってきた。

 

まずは漆黒のボールガウンで全身を包み込み、その他にもボレロガーディガンとフィンガーレスグローブを付けてほとんどの肌を隠している銀髪に真紅の瞳の14歳かそれ以下の少女が跪く。

 

「第1、第2、第3階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 

次に2.5メートルはある巨体の二足歩行の昆虫を思わせる悪魔が歪め切った蟷螂と蟻の融合体のような姿で、身長の倍はあるたくましい尾や全身からは氷柱のようなスパイクが無数に飛び出している者が跪く。

 

「第5階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

 

次は上下共に皮鎧に赤黒い竜王鱗を貼り付けた軽装鎧とその上に白いベストに白色の長ズボンを着た、金髪に薄黒い肌に耳が長く尖り青と緑という左右違う瞳の10歳程度の少年の姿をした少女が跪く。

 

「第6階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

 

次もアウラと似た風貌でありながら着ているのは藍色の胴鎧に深い緑色のマントに白いスカートに白いストッキングをはいた10歳程度の少女の姿をした少年が跪く。

 

「お、同じく、第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に」

 

最後に1.8メートル程の日に焼けた肌に顔立ちは東洋系でオールバックに固められた漆黒の髪、丸メガネをかけた赤い三つ揃えのスーツに身を包み後ろからは銀のプレートで包んだ尻尾が伸びている男が跪く。

 

「第7階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

「モモンガ様。第4、第8階層守護者を除く全ての階層守護者が集まりました」

「うむ」

 

モモンガは玉座から立ち上がり跪く守護者たちを睥睨する。

 

アルベドもリグレットも反応しないことから武器を持ってきた者はいないようだ。

 

「よく集まってくれた。階層守護者たちよ」

「至高の御方の命であれば即座に参るのは当たり前でございます」

 

デミウルゴスの言葉に他の守護者たちも同意する。

 

「お前たちの忠誠に感謝しよう」

「勿体無きお言葉です」

 

取り敢えず見た所では反抗の意思を見せる者はいない。

 

「では呼び出した理由を言おう。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明かつ不測の事態に巻き込まれている。私の推測ではゲー・・・別の世界にナザリックが転移してしまったのではないかと思っている」

 

ゲームではないと言いかけてすぐに最もらしいことに変換する。

 

というかこれが一番当たってるのかもしれないな。

 

「なんと・・・そのような事が!即座にそのような行いをした者を捜し出しましょう!」

「待つのだデミウルゴス。お前の忠誠は嬉しいがその前にやるべきことがある。それに犯人がいるかどうかも怪しいものだ」

「はっ!ではやるべきことというのは・・・」

「まずは情報だ。別の世界に転移してしまっているのならばこの世界の情報を集める。どうやら我々が使っていた魔法はこの世界でも使用できるので自衛は出来る様だが・・・この世界の住人の強さはどれほどなのか。問題は始まりのレベルだ。我々はレベル100だがこの世界の住人のレベルの始まりがレベル100なのかもしれん。この場合は我々もさらに強くなれる可能性があるが、その10倍であるレベル1000だった場合は我々は成す術なく滅び去る」

 

モモンガの言葉で全員が信じられないといった顔をする。

 

だが事実だ。

 

レベルが10違うだけで勝つのは困難になるのだ。

 

900も違ったら鎧袖一触も甚だしい。

 

鼻息一つで吹き飛ぶこともありえる。

 

「だが逆に弱い可能性もある。だからこそ情報を集める必要があるのだ」

「ではまずはナザリック地表付近の捜索を」

「それはセバスに既に任せてある。時間通りならばそろそろだが・・・」

 

モモンガの言葉が合図だったかのように玉座の間の扉が開きセバスが入ってくる。

 

「お待たせ致しましたモモンガ様」

 

跪きチラリと守護者たちを見る。

 

「今は非常事態が故に守護者たちにも集まってもらった。セバスよ。お前が見てきたことを全て話せ」

「畏まりました」

 

セバスは跪拝してから報告をはじめる。

 

「まずナザリック地表部の周囲1キロですが───草原です」

「草原だと?沼地ではなくてか」

「はい。人工建築物は一切確認できませんでした。生息している小動物も何匹かは見ましたが、モンスターも含めて人型生物や大型の生物は発見できませんでした。そして小動物は戦闘能力はほぼ皆無と思われます」

「なるほど。では草原というのは草が鋭く凍っており歩くたびに突き刺さるなどもないな?」

「はい。単なる草原です。特別な何かがあるということはありません」

「では空はどうだ。天空城などの姿はあったか?」

「ございません。空にも地上にも人工的な明かりのようなものは一切なく、第6階層のような星空と草原があるのみでした」

「星空だと?それは・・・美しかったか?」

「はっ・・・・・・」

 

セバスはモモンガの問いに答えずに口ごもる。

 

「よい。お前が正直に思ったことを言え」

「はっ・・・では恐れながら。不敬だと重々承知の上で申し上げます。ご不快であった場合はすぐに私を処刑してくださいませ」

 

重いなーと思いながらも顎をしゃくって先を促す。

 

「第6階層の夜空・・・至高の御方であらせられるブルー・プラネット様がお作りになられたものよりも美しいと思っております」

 

瞬間、玉座の間に殺気が満ちる。

 

「皆の者。怒りを収めろ」

「「はっ!」」

 

モモンガの制止で殺気を収める守護者たち。

 

それを見て忠誠心は本物だと感じて満足して頷く。

 

「私が無理に言わせたのだ。お前たちの私を含めたメンバーたちへの忠誠を確かに受け取った」

 

全員が恍惚の表情でモモンガを見る。

 

「しかし、高い忠誠を持つセバスでさえそう思ってしまう夜空か。見てみたいな」

 

第6階層の夜空はとても素晴らしかった。

 

だがそれ以上のものが外にあるという。

 

見てみたいと思うのはおかしいだろうか。

 

いやおかしくない。自然な反応だろう。

 

「そうだな・・・デミウルゴスよ」

「はっ!」

「リグレット」

「なに?お父さん」

「外の星空を見に行こう」

「モモンガ様!なりません!御身にもしもの事があったら!」

 

アルベドが叫ぶかのように言うがモモンガは手でそれを止める。

 

「お前にはこの地を・・・ナザリックで指揮をとってもらいたい。お前を信用してだ」

「私を信用して・・・ですが、デミウルゴスよりも私のほうが護衛として適役かと!」

「そうだな。だがアルベドよ」

「何でしょうか!」

 

興奮するアルベドの頬を撫でてモモンガは過去の仲間に聞いた言葉を告げる。

 

「お前の設定を書き換えたが故の思いだということはわかっている。だがな。男というものは女に家を守っていてもらい、そこへ帰りたいと思うものなのだ。家を守るのが愛するものならばなおさらだ」

「あ、愛する・・・愛する・・・!」

 

徐々に顔が赤くなるアルベドにモモンガは畳み掛ける。

 

私の家(ナザリック)を守ってくれないか?アルベドよ」

「か、畏まりました!モモンガ様!」

「私もいるから安心してね。アルベド!」

「微力ながら私もいますしね」

「えぇ。頼りにしてるわ。リグレット(私の娘)、デミウルゴス」

「他の階層守護者はアルベドの指示に従ってナザリックを守れ」

「「はっ!」」

 

階層守護者たちの返事を聞いてからデミウルゴスを連れて指輪で地表部へと転移した。

 

 

 

「わぁ・・・きれーい」

「これは驚きましたね。モモンガ様」

 

地表部に転移して空を見上げて驚愕から固まる。

 

飛行(フライ)

 

いつの間にか口から漏れたその魔法で重力の縛りを断ち切り浮上する。

 

「あっ待って!」

 

メキメキっと何かが突き破る音がしたが気にせずに上空へと躍り出る。

 

数百メートルほど上りその光景を目に焼き付ける。

 

透き通った夜空。

 

月や星から降り注ぐ大小強弱様々な星々の光。

 

なんと美しいことか。

 

「素晴らしい・・・いや、素晴らしいなどという陳腐な言葉には決して収まらない」

 

第6階層の夜空を作った自然を愛した彼がこの夜空を見たらどう表すのだろうか。

 

彼が言った「自然の美しさは人々を魅了するだけじゃなく感動して涙を流すんですよ」という言葉。

 

その時は理解できなかったが今は理解できる。

 

涙を流せないこの身が妬ましく思うほどに。

 

モモンガの耳にばさりと羽音が飛び込みそちらに目を向ける。

 

そこには形態変化───背中からは濡れたような皮膜の大きな黒翼を生やして顔つきも蛙染みたものになったデミウルゴスがいた。

 

複数の形態を持った異形種がおり、人間形態や半形態時にペナルティを受けるがその分完全異形形態時にはボーナスを得られるように設定できる。

 

そしてもう1人。

 

腐敗したボロボロの翼を生やし両手両足が毒々しい紫色の骨となったリグレットが笑顔でいる。

 

2人から天空に輝く星に目を向けたモモンガは感嘆のため息をついた。

 

「なんと美しいことか・・・セバスが第6階層よりも美しいと言ったことも頷ける」

 

ブルー・プラネットさんが第6階層の夜空を作り出した時に言っていた「本当の夜空はこれと比べ物にならないくらい美しいんですよ。それが出来なくて悔しいな」と呟いていたな。

 

あの時はそんなことないとギルメンたちで慰めたがなるほどな。

 

「相手が悪いですよ、ブルー・プラネットさん」

 

これを相手にするくらいならワールドエネミーを1人で相手にする方がまだ勝算があるだろう。

 

「キラキラと輝いて・・・まるで宝石箱みたいだ」

「そうなのかもしれません。この世界が美しいのはモモンガ様の身を飾るための宝石を宿しているからに違いないかと」

 

デミウルゴスのお世辞に一瞬だけ苛立ちを覚えたが美しい世界を見ているとすぐに霧散する。

 

「本当に美しい。こんな星々が私の身を飾るためか」

 

確かにそうなったら素晴らしいのかもしれない。

 

モモンガは顔のすぐ前に手を翳すと握り締める。

 

天空に輝く星のほとんどがその手の中に収まるが、所詮は手で隠されただけに過ぎない。

 

「私がこの地に来たのは誰も手に入れていない宝石箱を手にするためやも知れないか。・・・いや私1人で独占すべきものではない」

 

モモンガは最も大きな光を放つ月を見上げて告げる。

 

「ナザリック地下大墳墓を───我が友たちアインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれないな」

 

少し考えてあることを決める。

 

「名を変えよう」

「え?」

 

リグレットが声を漏らすがモモンガは気にせずに告げる。

 

「我が名はこれよりアインズ・ウール・ゴウン。今より私はこの月の如き存在となろう」

 

モモンガにとってはちょっとした思いつき。

 

だが、2人にとっては別の意味を持った。

 

「!」

「・・・・」

 

その2人の反応に気付かずモモンガは心ゆくまま星空を堪能した。

 

 

 

玉座の間に戻りアルベドを始めとした守護者と高位のシモベたちを集める。

 

「我が忠実なるシモベたちよ。まずはよく集まってくれた。礼を言おう」

「礼など仰せになられずとも我らシモベは上位も下位も関係なくモモンガ様の忠実なるシモベ。すぐに集いましょう」

 

アルベドの言葉に守護者も含めて全てのシモベがより深く頭を下げる。

 

「そうか。では本題だが・・・至急、この場の者、そしてナザリック地下大墳墓の者たちに伝えるべきことがある。今回はこれからの指標を。最も大事なことを伝える。だがその前にだ」

 

モモンガの言葉を聞いて全てのシモベたちが心を引き締める。

 

絶対支配者であるモモンガの言葉を一言一句聞き漏らす不敬を演じることをしないために。

 

上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)

 

魔法によって天井から垂れていた大きな旗が1つ床に落ちる。

 

その旗のサインはモモンガ。

 

「私は名を変えた」

 

骨でできた指を玉座の上に掲げられる旗に向ける。

 

「今これより我が名はアインズ・ウール・ゴウン」

 

かつてこの地を支配した41人を指し示す名が、今は1人を指す名となる。

 

「アインズと呼ぶがいい。異論がある者はそれを立って示せ」

 

アインズの言葉に何かを言う者はいない。

 

他の40人がこの地を去っても尚、残り続けてくれた慈悲深き御方。

 

最後まで残っていたヘロヘロ様が去った時よりその名を示すのはこの御方のみ。

 

アルベドが満面の笑みで声を上げる。

 

「ご尊名伺いました。アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!いと尊きお方、アインズ・ウール・ゴウン様、ナザリック地下大墳墓全ての者よりの絶対の忠誠を!」

 

遅れて守護者たちが声を上げる。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!至高の御方々のまとめ役であられるアインズ・ウール・ゴウン様に私どもの全てを奉ります!」

「アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!恐るべき力の王、アインズ・ウール・ゴウン様、全ての者が御身の偉大さを知るでしょう!」

 

NPCたちが、シモベたちが唱和し万歳の連呼が玉座の間に広がる。

 

友たちよ。この地を去りし我が友たちよ。

 

今だけはこの名を私1人の者とすることを許してくれ。

 

その代わりにこの名に懸けて誓おう。

 

全てを手にして、全てをお前たちに捧げると。

 

「これよりお前たちの指標となる方針を厳命する」

 

シモベたち全てがその言葉を聞いて口を閉ざして顔を引き締める。

 

「我が手に。アインズ・ウール・ゴウンの手に世界を捧げよ」

 

右手に持ったスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを床に突き立てる。

 

その瞬間、呼応するかのようにスタッフにはめ込まれたクリスタルから各種の色が漏れ出して周囲に揺らめいきをもたらす。

 

「英雄が数多くいるのなら全てを塗りつぶせ。アインズ・ウール・ゴウンこそが大英雄だと。生きとし生きる者全てに知らしめよ。より強き者がいたのならば力以外で。数多くの部下を持つ者がいるのならば別の手段で。今はまだその準備段階に過ぎないが、将来の来るべき時のために動け。このアインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大なる者であるということを知らしめるために!」

 

かつての仲間たちの内の何人が言っていただろうか。

 

彼らが言っておきながら実現しなかった夢。

 

それを叶えよう。

 

未だにこの世界がどんな物なのかはわかっていない。

 

だがやろう。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光を」

 

未だに成し遂げた者が居ない偉業を。

 

 

 

アインズが玉座の間を去った後。

 

玉座の間は未だに熱気が渦巻いていた。

 

「皆、面を上げなさい」

 

アルベドの静かな声に惹かれるように頭を下げたままだった全ての者が顔を上げる。

 

「これから重大な話をします」

 

アルベドの視線は偉大なる御方の名を示す旗に注がれ続ける。

 

それは全てのNPCたち、シモベも同じだ。

 

「リグレット様、アインズ様が仰られた事をお聞かせください」

「うん分かった」

 

アルベドの隣で跪いていたリグレットは跪いたまま答える。

 

「お父さんは夜空を眺めていた時にこう言ったんだ。「私がこの地に来たのは誰も手に入れていない宝石箱を手にするためやも知れない」って。その後はこう言ってたね。「私1人で独占すべきものではない。ナザリック地下大墳墓を───我が友たちアインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれない」。それで名前を変えるって言った時には「私は今より月の如き存在になろう」。どう言う意味かは私には分からないけど・・・」

「それについては同じく聞いていたデミウルゴスが気づいたらしいですわ。そうよねデミウルゴス?」

「えぇ」

 

デミウルゴスは微笑む。

 

悪魔の如き笑みで。

 

「宝石箱とは世界のこと。これについてはアインズ様が仰られていましたが、行動方針はその最後。月の如き存在という部分にそれがあります」

 

まるで狂信者のように跪拝すら出来ずに神に祈るがごときの姿勢になる。

 

「月とは夜の象徴!夜とは裏や闇。そして終わり───死の象徴!すなわちアインズ様は世界を裏側から支配し表すら裏にする事!不夜の世界ならぬ明ける事のない不明(ふみょう)の世界を築く事をお望みになっておられるのです!」

「明けぬ世界。夜の世界。死の世界・・・その世界の王こそがあの御方。死の支配者であらせらるアインズ様に相応しい世界」

 

アルベドが呟きゆっくりと立ち上がると全ての者の顔を見回す。

 

「アインズ様の真意を受け止め、準備を行うことこそ忠義の証であり、優秀な臣下の印。各員、ナザリック地下大墳墓の最終的な目的はアインズ様に永久に色あせない宝石箱を───夜の世界をお渡しすることだとしれ」

 

アルベドは満面の笑みを浮かべて振り返る。

 

言葉などという下等なものでは表せられないほどの存在を示す旗に微笑を向ける。

 

「アインズ様。必ずや貴方様の世界を御身の元に」

 

声が続くように響き渡る。

 

「正当なる支配者たるアインズ様の元に、正当なる世界とその全てを」




アインズ様の「月の如き存在」 危ない夜の世界で見守るいい存在。

シモベたちの「月の如き存在」 理すら変えた死の世界の支配者。



アインズ様にとっての仲間たち この世界に居たらいいなとあまり捜索に積極的ではない。でも、貶めたり名を騙ったりするとブチギレる。



ブルー・プラネットさんを貶めるつもりはなかったんです。

ただ第6階層の夜空も見たことのあるアインズが転移後の世界の夜空を見て感動してたから第6階層の夜空よりも凄かったのかな?と思っただけなんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3:息子と感情

ナザリック地下大墳墓・宝物殿。

 

そこへ至る道は存在せず辿り着く方法はただ1つ。

 

ギルドメンバーの証であるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによる転移のみだ。

 

そしてそこへ死の支配者と1人の少女が転移してきた。

 

「相変わらず毒々しい色をしてるね」

「ブラッド・オブ・ヨルムンガンドを使っているからな。毒無効が無い者は3歩と歩かずに死ぬ」

 

至高の御方であるアインズとその娘リグレットだ。

 

アインズと共にリグレットが宝物殿に来たが理由はとあるNPCに会うためだ。

 

そのNPCはアインズが最も危惧する相手───ルベドとタイマンを張れるリグレットがいるのでルベドは問題ない───であり最もダメージを───精神ダメージを───与える存在だ。

 

山のように重なった金貨の山や壁に置かれる様々な宝物に目も暮れずに黒いものが張り付いた扉の前に立つ。

 

「えーと・・・「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ」」

 

湖面に何かが浮かぶように漆黒の扉の上に文字が浮かぶ。

 

「確か───かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう───だったか」

 

その言葉と共に今まで蓋となっていた闇がある一点に吸い込まれて空中にこぶし大の黒い球体が残る。

 

そして闇が消えたことによってその奥───管理が行き届いた博物館の展示室のような部屋───が現れ長くずっと奥まで続いている。

 

アインズは顎をしゃくってリグレットを先に行かせる。

 

リグレットはその部屋に飾られた様々な武器───ほとんどが魔法武器───を一度たりとも目を向けずに前のみを見続ける。

 

100メートル程の距離を歩き終着点である長方形の部屋に出る。

 

待合室なのかがらんとした部屋にソファとテーブルのみが置かれている。

 

そしてふらりと姿を現すある者。

 

その者は人の体に歪んだ蛸にも似た生き物に酷似した頭部に皮膚は水死体の如き白に紫色がわずかに混じり粘液に覆われているようないような光沢を持っている。

 

リグレットが若干腰を落として戦闘態勢を整える。

 

かつての仲間であるタブラ・スマラグディナの姿をしたそれに対してアインズは命令をする。

たそれに対してアインズは命令をする。

 

「パンドラズ・アクター。元に戻れ」

 

姿がぐにゃりと歪み別の姿───元の姿───になった異形の者が現れる。

 

顔は鼻などの隆起を完全にすりおろしたのっぺりとし目と口に該当するところにぽっかりとした穴が開いている軍服と軍帽をまとった存在。

 

名をパンドラズ・アクター。種族は二重の影(ドッペルゲンガー)。45の外装をコピー出来る───性能は8割に落ちるが再現も可能───というアインズが作成したNPCだ。

 

そのコピー能力を使えば相手に対して最適な戦い───今現在はアインズを含めたギルドメンバー41人をコピーしているのでその中から───が出来る。

 

戦法が42もある相手というのは守護者たちを相手にするよりも厄介な相手だ。

 

警戒しているとパンドラはカツンと踵を合わせて鳴らすとオーバーなアクションで右手を帽子に添えて敬礼する。

 

「ようこそおいで下さいました、私の創造主たるモモォンガ様っ!そして我が妹にしてナザリックの姫君・・・リグレット!」

 

どうやら異変は感じられないな。

 

現実逃避気味にアインズはそう思いながらリグレットに警戒を解くように言う。

 

「パンドラズ・アクター。お前は私の命令で・・・そうだな、他のギルメン。お前たちが至高の41人と呼ぶ存在と敵対できるか?」

「もちろんでございます!モモンガ様のご命令であれば例え至高の41人の方々だろうと殺すことも厭いません!」

「そうか」

 

どうやら創造主に対しては他のギルメンよりも高い忠誠心を持っているようだ。

 

アインズが一番知っているNPCでもあるので転移した際に起きる変化がないのであればリグレットと同様に信頼の置けるNPCだろう。

 

「ではパンドラズ・アクター。お前に伝えるべきことを伝える。まずは私は名を変えた。今度はアインズ・ウール・ゴウン。アインズと呼べ」

「おお!承りました。私の創造主、アインズ様!」

 

敬礼するパンドラズ・アクターに今置かれている状況───異世界に転移したと事と世界を手に入れる事を、そして転移したことで生じた可能性がある変化の確認と忠誠を見ている事を伝える。

 

「なるほど・・・私はいかがしましょうか。ナザリック最大の危機だと予想される現在。階層守護者を筆頭とした至高の41人の方々が生み出し配置されたシモベたち全ての忠誠を確認していては数年から数十年はかかってしまうのではと愚考します。主要なシモベ───守護者統括殿や階層守護者殿たち───は既に忠誠を確認なされて居るのでしょうか。私が身代わりとなって確認いたしましょうか?」

「それには及ばない。既に守護者統括アルベドを始めとした第4、第8階層守護者を除く全ての守護者の忠誠は確認した。もちろん演技をしている可能性はあるがとりあえずは信頼する。本当の意味で信頼できるのはこの場に居る者たち───リグレットとパンドラズ・アクターのみだ」

「おお!私を信頼してくださるとは・・・ですがアインズ様。私は御身の手で創造されたが故だと分かるのですがリグレットは何故なのでしょう?他の至高の41人の手によって創造されたというのは信頼できるかというと些か疑問に感じます」

 

パンドラズ・アクターは表面上は取り繕っているがリグレットに向けて敵意を示す。

 

「まぁその通りだよね。私も知らないから分からないけど・・・なんでなの?お父さん」

 

リグレットも疑問に感じていたのかアインズに問いかける。

 

アインズはそれを眺めてから息をつく。

 

「設定・・・お前たちが至高の41人にそうあれと決めたとされるものを私たちはそう呼んでいる。その設定はお前たちを構成する全てだ。それを私はこの世界に転移する前にリグレットのもののみだが全て見たのだ。その上で私は娘として足りぬものを感じてそれを書き加えた。ペロロンチーノが生み出したシャルティアもよく知っているが設定を全て閲覧したわけではない。つまりパンドラよ。お前を除けば設定を全て理解しているのはリグレットのみなのだ。転移による変異も見受けられないから裏切りはない信頼に足る者だと私は判断している」

「なるほど・・・了解しました。私の疑問にお答えいただきありがとうございます!そして妹よ!疑って済まなかった!」

「別に気にしてないよ。私も同じ立場だったら同じことを言っただろうしね」

 

息子ともいうべき存在と娘とされた存在の話を聞きながらアインズはこれからのことを考える。

 

ナザリックの掌握をし終わった後はこの世界の強さを調べるべきだろう。

 

その後は世界に向けて侵攻を始める。

 

この世界にもし仲間たちが来ているのならば示すのだ。

 

永久に消えないアインズ・ウール・ゴウンを。

 

「パンドラズ・アクター」

「はっ」

「お前はアルベド、デミウルゴスと共に情報収集などの政務を任せるつもりだ。無論、最終決定は私が行うが・・・何をすべきかはわかっているな?」

「もちろんでございます。アインズ様。アルベド殿、デミウルゴス殿を間近で監視。可能であれば他の守護者の方々も監視を行う事。そして裏切りの節が見えた場合はすぐに捕縛いたします」

 

パンドラズ・アクターの返事にアインズは満足げに頷く。

 

「任せたぞ」

「お任せを!」

「次にリグレット」

「うんなに?お父さん」

「お前には私の護衛を頼みたい。常に私の傍にいて私の身を守れ」

「分かった!お父さんは私が守るね!」

 

満面の笑みでそう答えるリグレットの頭を撫でる。

 

「えへへ・・・」

 

嬉しそうにするリグレットを見てふと思う。

 

設定とは言え娘がいるのだ、息子のような存在であるパンドラも息子として扱うべきか。

 

そう考えアインズはパンドラズ・アクターに目を向ける。

 

「パンドラズ・アクター」

「はっ!何でございましょうか、んアインズ様!」

「・・・・お前が嫌ではなければ、信頼の証として息子と呼ぼうかと思っているが「ぜひ!」む、そうか。では我が息子よ。お前ならば全てを失態なく行ってくれると期待しているぞ」

「ありがたきお言葉!父上の期待に応えてみせます!」

 

オーバーなアクションで言うパンドラズ・アクターも撫でてやる。

 

「そうだ。これを渡しておこう」

「おお!これはっ・・・ありがとうございます!」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをパンドラズ・アクターに手渡す。

 

パンドラズ・アクターは宝物のように両手で受け取り天高く掲げふるふると小刻みに震えて感動をしている。

 

「有事の際はここに集合するとしよう。いいな」

「承りました。父上!」

「分かったお父さん!」

 

そして指輪で転移してアルベドとデミウルゴスに会わせて「情報収集を含んだ政務等を行うように」と命じた。

 

これで内部掌握に専念できるだろう。

 

見ている限りでは忠誠心MAXだがそれを確かめずに何もかもを任せるというのは考えられない。

 

守護者たちに対しての信頼も・・・少しはあるが設定を確認した上で変化を見なければならない。

 

「しかし妙だな」

「何が?」

 

呟いた言葉にリグレットが反応するがアインズはそれに手で返事をしてから考える。

 

今まではいっぱいいっぱいで考えもしなかったがこんなにも自分は冷静だったのだろうかと。

 

正直に言おう。断じて否だ。

 

であるのならば考えられる可能性としては転移による変化。

 

もしくは体が変化したことによる精神の変化。

 

可能性が高いのは後者だ。

 

アンデッドの精神攻撃無効の範囲が拡大して自分の精神を大幅に抑制しているのではないだろうか。

 

もしそうなら常に感情を持たずに冷静に行動できるだろうが、そうではなかった場合のことを考えると過信するのはダメだろう。

 

「・・・・」

 

何か精神を大きく揺さぶることはないだろうか。

 

かつての仲間のこと・・・そう、ユグドラシルの時のことを考えよう。

 

アインズはかつての仲間たちとの冒険の思い出に浸る。

 

そうそう、ウルベルトさんとたっちさんはいつもいがみ合っていたな。

 

るし☆ふぁーさんは正直好きではなかったしあのゴーレムにバグもわざとだったはずだ。本人はバグだと否定していたが。

 

今思い出したら全てがいい思い出だ。

 

徐々に楽しくなっていき笑い声が口から漏れ出しそうになった時に感情が一気に抑え込まれた。

 

「なるほど」

 

一定ラインを超えた感情は強制的に沈静化される。

 

そして未だに自分は感情を持てるということは完全にアンデッドになってはいないということ。

 

リグレットやパンドラと共にいた時と玉座の間にいる時の安心感の違いも感じる。

 

ならば全ての感情ではなく特定の感情のみが大幅に抑制されているということなのだろうか。

 

例えば冷静の大敵である───

 

「───焦り」

 

焦りが通常よりも大幅に抑制されているのなら冷静でい続けられるというのも納得がいく。

 

焦りがなく常に冷静でいられるのであればどれほどのメリットがあるのかは想像に難くない。

 

もしかしたら怒りや悲しみや憎しみも大幅に抑制される対象なのかもしれない。

 

同じように仲間たちが去っていくのを思い出すが、ほとんど感じない。

 

わずかに悲しみを感じるがただそれだけだ。

 

いや悲しみを感じると同時に感情を沈静化された時の感覚がする。

 

沈静化するラインが他の感情よりも低いというだけか。

 

焦りのラインは悲しみよりも低い───というより感じそうになるのと同時に沈静化されている───可能性が高い。

 

「これはいいな」

 

自分の感情に対する推察を終えてアインズは玉座から立ち上がる。

 

「リグレットよ。第8階層へ向かう。完全武装をしろ」

「分かった」




※作者からの謝罪

前もって原作とは違う設定に対しての私の説明不足のせいで、この小説を読まれてご不快になられた方がいたようです(メッセージで頂きました)。

その件に関しては申し訳ありません。

あらすじか何かに書いておけば良かったのでしょうが「この小説は書きたいから書く」という勢いのみで書いている部分があったためにそこまで頭が回りませんでした。

その部分に関しての加筆はしておきますので、もしよろしければこれからこの小説を読んでいただけると幸いです。

以上。



アインズに冷静さが無いとのご意見でしたが、これはわざとその様に書いています。

その理由については、小説内で軽い感じで発表しますのでそれまでお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4:前哨戦

「パンドラズ・アクター。少しいいかしら」

「なんでしょうか」

 

書類仕事を一旦止めたアルベドはパンドラズ・アクターに対して疑問を問う。

 

「アインズ様は私たちを信頼しておられないの?」

「何故そのようなことを仰られるのでしょうか」

 

アルベドはため息をつきながら悲しそうに言う。

 

「アインズ様がおられる玉座の間に入ることを許されているのはリグレット様と貴方だけ。守護者ならまだしも守護者統括である私も含めるというのは変でしょう?何かしらの発表があるときは入ることは許されるけど階段を上った先にいることを許されているのは同じくリグレット様と貴方のみ。信頼されていないというのはシャルティアでも分かる事よ」

「そのようなことはありませんよ。アインズ様はナザリックに属する者の全てを信頼なされておいでです。ですが、転移による変化がどのように変化しているのかを調べる為にあなた方と距離を置いておられるのです」

「それは信頼していないのと同義ではないかしら」

 

アルベドの言葉にパンドラは頷く。

 

「変化がないと確信なされた時こそアインズ様はあなた方に信頼を寄せられるでしょう!あなた方が出来るのはそれまで忠義を尽くすことのみ!」

「・・・・・」

 

アルベドは眉を顰めてパンドラの言葉の違和感を露わにする。

 

「なにか?」

「・・・・本当にそうなるのかしら」

「聞いてきたのはそちら。信じる信じないもそちらの勝手で・・・あぁ。なるほど」

 

パンドラはあることに気づき頷いた。

 

「あなたは私と妹が何故信頼されているのかを聞きたかったのですね?」

「そうね。そう、その通りよ。何故、私を信頼できる存在の中に入れて下さらないの?どうして?あなたは理解できる。アインズ様が御手で創造なされた存在なのだもの。でもリグレット様はどうしてなの?彼女と私の違いは?強さだというのなら仕方がないけど、リグレット様()がいるのから()は不要なの?」

「・・・・」

 

パンドラは少し考えてアルベドの疑問に対しての答えを告げる。

 

「アインズ様に話しても良いかとお尋ねします。それで許可が出なかったのならその時は諦めて下さい」

「えぇわかったわ。リグレット様と私で決定的な違いがある。それが分かっただけでも十分収穫よ」

「ですが、1つだけ言わせていただけるのでしたら・・・アインズ様は守護者統括殿を嫌っているわけでも、リグレットを生涯のパートナーにするつもりもないようです。私としては守護者統括殿と結ばれてくだされば幸いと思っております」

 

パンドラの言葉を聞いてアルベドは目を見開く。

 

自分の気持ちに気づかれていたことに驚いて。

 

だがすぐに納得する。

 

誰が彼を作ったのかを思い出して。

 

「ありがとうパンドラズ・アクター」

「いえいえ。お気になさらずに・・・全ては我が神の為に(Alle Meines Gottes Auf grnund der)

「?」

 

ドイツ語が分からないアルベドは首をかしげる。

 

「さて私はこの書類をアインズ様にお届けしてまいります。その際にお聞きしましょうか?」

「そうね・・・お願いできるかしら」

「承りました」

 

パンドラは書類を手にして玉座の間へと向かった。

 

 

 

「失礼いたします」

 

パンドラは玉座の間に入りそのまま進み跪く。

 

「父上。守護者統括殿より書類を預かり持って参りました」

「そうか。持って来い」

「承りました」

 

パンドラはそのまま階段を上り、アインズに書類を手渡す。

 

「ご苦労」

 

アインズはその書類に目を通しハンコを押す。

 

「これを進めるように」

「はっ」

 

パンドラは書類を受け取りアインズに尋ねる。

 

「父上」

「なんだ?」

「守護者統括殿がお気づきになっているようです。いえ、守護者統括殿のみではなく全てのシモベが気づいていながら考えないようにしているようです」

「だろうな。お前とリグレット以外の玉座の間の入室を禁じたのだから当たり前だろう」

「その際に私は生涯のパートナーは守護者統括殿をと推しました」

「は?」

 

アインズは驚くがすぐに沈静化されたがそのままパンドラを見つめる。

 

「お兄ちゃんそれって」

「リグレット。私は思うのです。アルベド様は理由は分からないですが父上を愛しておられる。それはもう私たちですら引くほどに」

「あー・・・」

 

リグレットは思い当たる節があるかのように遠い目をする。

 

アインズは少し考えてアルベドの設定を変更したことを思い出して冷や汗が流れるような幻覚を味わう。

 

「それについては私が原因だ」

「え?」

「はっ?」

 

パンドラとリグレットがアインズを見るがアインズは罪悪感から目を合わせられずにそのまま話し出す。

 

「アルベドの設定を変えたのだ。私を───モモンガを愛していると」

「それって」

「それはっ」

 

2人は驚きの声を上げるがアインズはそのまま詳細を説明する。

 

「アルベドの設定を閲覧はしたのだが長くてな。それで流し読みで見た最後の文が酷すぎてな。それを変更したのだ」

「ではアルベド様は」

「お父さんが愛するように命じた公認の人?」

「待て。公認ではない」

「でもお父さんがそう設定を変えたんでしょ?」

「そうだ。だが私にアルベドへの愛情は仲間の娘というのみでそれ以上のものではない」

 

2人は納得していないがとりあえず納得する。

 

「それでだ。パンドラよ。アルベドが気づいたからなんだというのだ?」

「はい。それで信頼されている私たち───正確にはリグレットとアルベド様───との違いはなんなのかと尋ねられました。明言はしておりませんが決定的な何かがあるというのは察せられました」

「ふむ。それで?」

「その違いを話す許可を父上に頂けるかどうかを尋ねると約束いたしましたので、同じく父上のシモベとしての義理だけは果たそうかと」

「なるほど」

 

アインズは少し考えてから頷いた。

 

「アルベドの私への愛は本物だと思うか?」

「私は本物だと思うよ。お父さんの部屋のベッドで全裸になった上でいつ作ったのか知らないけど等身大の抱き枕を抱きながら自分を慰めてたから」

「そうですね。アルベド様にお与えになられた部屋の衣装部屋には父上が様々なポーズをしている抱き枕が所狭しと押し込まれていると聞きましたし、私も本物かと」

「・・・・・そうか」

 

驚きやら焦りやらを感じたがすぐに沈静化する。

 

「パンドラズ・アクター」

「はっ」

「アルベドを呼べ。もちろん忙しいのであればあとでも構わん」

「畏まりました」

 

パンドラは胸に手を当てて一礼すると玉座の間を出て行った。

 

「話すの?」

「その前にいくつか質問をする。その上で判断する。話したとしてもしばらくは警戒は怠るな」

「うん任せて。お父さん」

 

10分も経たずに玉座の間の扉が開かれる。

 

パンドラがその後ろにアルベドが入ってきて階段下で跪く。

 

「守護者統括殿をお連れいたしました」

「守護者統括アルベド。御身の前に」

 

頭を垂れるアルベドを見てすぐに本題に入る。

 

「アルベドよ。私がお前たちシモベを信頼していないのではないかと思っているらしいな」

「はっ・・・不敬ながら申し上げます。アインズ様はパンドラズ・アクターとリグレット様のみを信頼しているご様子。単なるシモベならまだしも階層守護者。そして私をもその末席に加えて下さらない・・・。私たちシモベにはそれが何よりも苦痛なのでございます。何か理由があるのでしたらお教えくださらないでしょうか」

「・・・・」

 

アインズはアルベドの懇願は聞かずにギルド武器である杖を振るう。

 

マスターコンソールを開きそれを閲覧する。

 

「お前は私を愛していると聞いた。それは私が変えてしまった物だ。お前が望むのであれば元のお前に戻すことも可能だがどうする?」

「私のこの想いもアインズ様からの贈り物。それを拒むことはシモベとして失格。なにより私は女としてこの想いを手放したくはございません」

「ふむ・・・ではしばし待て」

「はっ」

 

アルベドの名前は変わらず白。

 

反抗は示してはいないと出ているが生存と状態異常を示すのみで意思を示すものではないので信頼するに足りない。

 

「・・・・アルベドよ。お前に問おう」

「何なりと」

「お前は私のために死ねるのか?」

「もちろんでございます。アインズ様が死ねと仰られるのでしたら即座に死にます。アインズ様が戦えと仰られるのでしたら相手が例え我が創造主タブラ・スマラグディナ様だろうと戦ってみせましょう」

「なるほど。では私がお前に私を愛すなと言ってもその通りにするのか?」

「そ、それは・・・」

 

アルベドの顔が真っ青になり目を伏せる。

 

「それだけは・・・どうかそれだけはお許し下さい!目障りだと仰られるのでしたら私はアインズ様の視界に入らないようにします!不要だと仰られるのでしたらすぐに自害いたします!死すら恐れません!ですがそれだけは!貴方様を愛する事だけはお許しくださいませ!」

「私への愛情。それさえあれば他はいらぬと言うのか?」

「無論でございます!私の全てはモモンガ様の為だけにございます故」

「ふむ・・・」

 

嘘を言っているようには見えない。

 

パンドラとリグレットを見るが2人とも頷いている。

 

2人も嘘を言っていないように見えるのか。

 

これで騙されていたらその時はアルベドを褒め称えて潔く死ぬか。

 

そう覚悟を決めてアルベドに告げる。

 

「アルベドよ。お前に厳命する」

「・・・・はっ」

「我が妃となりリグレットと共に我が身を守れ」

「はっ・・・は?」

「聞こえなかったか?我が妃となり我が身を守れ。よいな」

「そ、それはっつまり・・・私を妻に?」

「それ以外の意味があるのだったら教えてくれ」

 

まるで信じられないかのようにアルベドは呆然としている。

 

だが徐々に顔が緩み崩れていく。

 

「く、くふー!で、では!私はアインズ様のご寵愛をっ」

「気が向いたらだがな」

「それでも!それでも満足でございます!」

「では、アルベドよ。私がリグレットとパンドラズ・アクターのみをこの玉座の間に入ることを許していた理由を教えよう」

「はっ!」

 

すぐに元の守護者統括に相応しい顔になり姿勢を正す。

 

「お前たちがそうあれと思っている物。我々はそれを設定と呼んでいる」

「設定・・・」

「そしてお前たちはそれに従い人格───性格といったほうがいいか?───を形成し、趣味嗜好や戦法に思考と知能に至るまで全てが構成されている。つまりはお前たちの全てを文章化したものなのだ。勿論それだけでは足りないのでその部分は創造した者の一部で補われているようだがな」

 

特にセバスにそれを強く感じる。

 

属性が全く同じだからだろうか。

 

「創造した者は私の仲間たちだ。彼らの性格は把握している。そこでお前の疑問に思っていた信頼の話に戻る。信頼するべきだとは思っているが信頼しきれないのはその設定と転移によって起きたかもしれない変化が故だ」

 

アインズがそう言うとアルベドは理解したのかその先の言葉を代弁する。

 

「設定を隅から隅まで知っている者は自らが創造した者。しかしその者すら転移によって変化が起きているかもしれないと。設定の中に実は至高の方々を殺してナザリックの支配者になろうとしているとでも書かれていたら危険。それを傍に置くことなど有り得ないという事ですね」

「その通りだ。パンドラズ・アクターは分かると思うがリグレットは何故なのかがまだ疑問に思っているのだろう?それについても教えよう」

 

リグレットに目を向けてその理由を告げる。

 

リグレットは笑顔で見つめ返してきているがまだアルベドに襲いかかれる態勢を維持している。

 

「答えは簡単だ。この世界に転移する直前に設定を全て確認したからだ。その中に敵対を示す記載はなかった。そして転移の変化が見られなかった。転移後の最初の行動はお前も見ていた通りだ」

「なるほど・・・。アインズ様が我々を玉座の間に入室することを禁じた理由と信頼なされていない理由は理解しました。そこで1つだけお聞きしてもよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「私は・・・アルベドは貴方様の信頼に足る存在でしたでしょうか」

「信頼に足る存在か。そうだな信頼に足る者だ。お前の愛は本物だと確信したが故にお前の愛に応えお前を信頼する。アルベドよ、お前の玉座の間への入室をしよう。以降は自由に出入りせよ。他の者を連れて来たい場合は私の許可を事前に得よ」

「アインズ様・・・ありがとうございます!このアルベドの全てを御身に捧げます!そして御身の敵の攻撃から御身を必ず守り抜いてみせます!」

「頼んだぞ、アルベド」

「はい!」

 

るんるん気分で玉座の間を出ていくアルベドを見送り、アインズは跪くパンドラに告げる。

 

「アルベドの監視の目を強めろ。アルベドの口から今回の情報が語られた場合、忠誠を捧げているシモベは信頼を得るために躍起となるだろう。反乱を企てる者の中でも首謀者となる者もそう演じるだろうがその仲間となるものは少なからずぎこちなさが浮き出る。その傾向がある者はすぐに捕らえて連れて来い」

「承りました父上」

「リグレットは私がいいと言うまでアルベドに警戒しろ。私も警戒はするが前衛の事は前衛の方が分かるだろう」

「任せてお父さん」

 

2人に命令し終えて息を吐く。

 

アルベドの忠誠が本物ならパンドラを外の世界に出して信頼できるこの世界の情報を得ることが出来る。

 

そうしたらデミウルゴスを始めとした守護者たちの報告と照らし合わせる事で懸念事項が大幅に減る可能性も十分にある。

 

アルベドに后になるように命じたのは愛が本物であった場合は縛る枷になるだろうという打算からだ。

 

我ながら酷いとは思ってはいるがしておくべきだろう。

 

「行け我が息子よ」

「はい!父上!」

 

創造主に息子と呼ばれるということはどれほど甘美な響きだろうか。

 

パンドラはそう思いながらも感動に震えるがある事を思い出して懐からあるものを取り出す。

 

「父上これを」

「これは?」

「はい。これは───」

 

 

 

パンドラが玉座の間から出たのを確認してから呼ぶ。

 

「ルベド」

 

玉座の後ろから髪も肌も服も異形の証である翼も全てが純白のアルベドの面影がある女性が現れる。

 

ルベド。

 

ナザリック最強の個と呼ばれるアルベドの妹。

 

世界級(ワールド)アイテムである熱素石(カロリックストーン)を使用して生み出された自動人形(オートマトン)から種族変更されて出来た少々変わった天使だ。

 

種族は機械熾天使(セラフロイド)

 

自動人形と天使の種族レベルを持つことでなる事ができる隠し種族。

 

この種族でも結構強いのにそこに世界級アイテムが加わるのだからもはやチート級だ。

 

起動してわかったが創造したタブラ・スマラグディナが何かをしていたようだ。

 

アインズに凄く懐いていた。

 

何故か分からないが凄く懐いていた。

 

頬ずりまでされた。

 

何度か沈静化されたがすぐに停止させようとしたら雨に濡れた犬を思わせるような目で見てきたので負けて起動したままでいる。

 

もちろんリグレットには警戒するように言ってはある。

 

「お前が私の傍にいるということは私が許可を与えるまで完全に秘匿とする。いいな、私の命令がない時は絶対に動くな。例え私が死んでもだ」

「・・・・」

 

ルベドは金色の瞳を細めると頷いて姿を消した。

 

「リグレット、パンドラ、ルベド、アルベド、そしてオーレオール。まだたったの5人か」

 

味方に付いただろう者たちを挙げてため息をつく。

 

だが戦力としては十分だ。

 

ナザリック二大戦力とギルメン全員の8割の力を使用出来るパンドラズ・アクターにナザリック最硬のアルベドにナザリック唯一の人間。

 

負ける可能性があるとすればアウラかマーレが敵に回った時。

 

特にアウラが敵に回ったときはマズイ。

 

アウラの本領は群なのだからアウラのシモベ全てが襲いかかってきたら死ぬ可能性が一番高いのはアインズ自身。

 

「やはりオーレオールを味方につけたのは大きかったな」

 

ナザリックの階層間を行き来する転移門の管理者。

 

1つの階層を隔離することも可能にするそれは、指輪を持っていなければ階層から永遠に出ることが出来なくする事が出来る。

 

「第2階層から第9階層を塞ぐ事も可能だからもしもの時も安心か」

 

最終手段ではあるがそれも検討しながらアインズは目を細める。

 

2人には警戒するように言ってはあるがアルベドの愛は本物だ。

 

アルベドの設定変更に対しての罪悪感がないわけではないが創造したタブラ・スマラグディナはナザリックを去った。

 

そしてこの世界に転移した。

 

彼もこの世界に転移しているのだとしたら戻ってくるまでは好きにしても許してくれるだろう。

 

もし許してくれなかった場合は素直に身を引こう。

 

だがそれまでは好きなようにしよう。

 

「次はデミウルゴスだな」

 

ナザリック最高の知恵者。

 

反乱の首謀者または参謀になるであろうシモベ。

 

時間をかけてデミウルゴスさえ味方につければ・・・。

 

「いや、時間を掛けるだけ不利になるか」

 

相手は自由に動き回れるが自分は自由に動けない。

 

動いたとしても誰にも知られずにというのは不可能だ。

 

呼ぶべきか?

 

アインズの脳裏にそれが浮かぶがすぐに実行せずに十分に考える。

 

決めるとすぐに行動した。

 

「デミウルゴスを呼ぶ。警戒せよ」

 

 

 

「第7階層守護者デミウルゴス。御身の前に」

 

階段下で跪くデミウルゴスはナザリックの絶対支配者にして唯一残られた至高の御方に対して忠誠の証として跪き頭を垂れる。

 

「面をあげよ」

 

顔を上げ数日振りに見る至高の御方の姿にデミウルゴスは身を震わせる。

 

「それでお前を呼んだのは他でもない。アルベドから聞いたがお前たちを私が信頼していないと感じていると」

「申し訳ございません。恐らく至高の御方であるアインズ様は我々には想像も付かない程の深謀遠慮の計画があるが故に行動しているというのに───」

「その通りだ」

「───我々が・・・え?」

「私はお前たちを信頼していない」

 

デミウルゴスは目を見開き眼光に埋まる宝石を露わにする。

 

「で、では・・・我々は、不要・・・」

 

デミウルゴスは思わず声を震わす。

 

それこそシモベである者たちが裏切り者として死を与えられる事よりも恐れる事。

 

不要だとして去るもしくは処分される事。

 

つまり捨てられる事だ。

 

「それは違うぞデミウルゴス」

「では・・・」

「私は恐ろしいのだ」

「恐ろ、しい」

 

何を恐れているのだろうかと疑問に感じるデミウルゴスにアインズは告げる。

 

「お前たちが私に刃を向けることがだ」

「その様な者がこのナザリックにいるはずがございません!」

 

アインズは興奮するデミウルゴスに手で落ち着くように言いさらに続ける。

 

「仲間が残したお前たちが私に刃を向ける事。それは仲間たちが私に刃を向ける事だと思うのだ。私はそれがたまらなく怖い。故に少しずつその恐怖を取り除こうとしているのだ」

「・・・・まさか。至高の御方々がそうあれとお決めになられた事!その中に反乱を起こすように決められたものがいるかもしれないとお思いなのですか?もしくは転移による変化でそれが起きてしまっている者がいると」

 

アインズはデミウルゴスの言葉に驚きと感心を覚えた。

 

そこまで推察できるとは流石はナザリック最高の知恵者だ。

 

「その通りだ。では次にパンドラとリグレットを信頼する理由を言おう」

 

一瞬疑問を浮かべたデミウルゴスの考えを予測してそれに対しての答えを出す。

 

「アルベドにも言ってはあるが・・・お前たちがそうあれと決められた事というものを我々は設定と呼んでいる」

「設定・・・つまりは文章で我々の全てをお決めになられておいでなのですね」

「そうだ」

 

顔を伏せたデミウルゴスに対して目でリグレットに警戒するように指示する。

 

自分の形成するものがただの文章だと知れば激怒して当たり前だろうと思ったからだ。

 

だがデミウルゴスはアインズの予想の斜め上を行った。

 

「流石は至高の御方々!」

「なに?」

「我々など至高の御方々の前ではどうにでもなる塵芥の如き存在だとは!まさに至高!言葉では表せられない御方達です!」

「それでだ、デミウルゴス」

「はっ!失礼しましたアインズ様」

 

我に返ったデミウルゴスはすぐに跪く。

 

「気にするな。パンドラは私が創造した為に信頼できるというのは理解しているな」

「はい」

「リグレットに関してはこの世界に転移する直前に設定を全て確認したのだ」

「なんと・・・では変化の方も」

「パンドラも含めて変化はないと判断した」

「なるほど。では我々階層守護者がその中に入っていないのは今は設定が閲覧できないまたは変化を確認していないが為なのですね」

「そうだ。お前たちには悲しい思いをさせているだろうが我慢してもらえないだろうか」

「もちろんです!我々シモベは至高の御方の為だけに存在すべき!反乱を企てる愚か者がいる可能性があるのであれば全てのシモベを遠ざけて少しずつ確かめるのが一番安全です!」

「ナザリック最高の知恵者であるお前のお墨付きを貰えたのであれば私も安心だ」

「ナザリック最高の知恵者とはアインズ様の事でございます。私などアインズ様の足元にも及びません」

 

デミウルゴスの言葉にアインズは肩を揺らして笑うとデミウルゴスに告げる。

 

「だが全てのシモベを私だけで調べるのには時間がかかりすぎる。よって階層守護者たちの忠義を確かめた後に各々の高位のシモベたちに対して調べることを命じようと思っている。そして高位のシモベはその配下。その配下はまたその下の配下と徐々に数を増やしてナザリックに反乱を企てる者がいないと判断を───」

 

そこで1人───いや1匹か?───だけ反乱を企てる者がいたのを思いだした。

 

「───エクレア以外の全ての者を調べさせて判断をしようと思っている」

「畏まりました。では私はどうしたら設定に反乱を企てる事がないということ。そして変化もないことを証明できるのでしょうか」

「そうだな・・・あまり使いたくはないがこれを使おう」

 

アインズは1つのアイテムを取り出す。

 

「それは?」

「完全なる狂宴・・・これを使用するとアンデッド、悪魔、インセクト、闇妖精を対象に思ったことをすぐに口にしてしまうようになるというものだ」

 

パンドラズ・アクターが作ったアイテムだ。

 

なんでも完全なる狂騒を元に作り上げたとか。

 

「効果は1時間だが、それだけあれば本音を引き出せるだろう。デミウルゴスよ。全階層守護者とアルベドを玉座の間に集まるように言え」

「はっ!」

 

デミウルゴスは優雅に一礼すると玉座の間を出ようとする。

 

「待て」

「はっ・・・いかがなさいましたでしょうかアインズ様」

伝言(メッセージ)で構わん」

「ああそうでした。私としたことが・・・失礼いたしました」

 

自分が信頼されていないことを思い出して苦笑しながら伝言を使用して守護者たちを呼ぶ。

 

「皆、すぐに集まるそうです」

「そうか」

 

アインズは完全なる狂宴を手の中で転がしながらリグレットに言う。

 

「リグレット。反乱の意を告げた者は全て殺せ。よいな」

「殺していいの?」

「ああ。復活の金額を考えると頭が痛くなるがいつ爆発するか分からない爆弾を抱えておくよりかはいいだろう」

 

リグレットの顔に笑顔が浮かび頷く。

 

「分かった!」

 

死の女神なのだから死を与えるのが好きなのだろう。

 

そう思いながら守護者たちを待つ。

 

しばらくして玉座の間の扉が開き守護者たちが入ってくる。

 

「第1、第2、第3階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

「第5階層守護者コキュートス。御身ノ前ニ」

「第6階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

「お、同じく第6階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に・・・」

「守護者統括アルベド。御身の前に」

 

全員が跪き頭を垂れる。

 

「面をあげよ」

 

アインズの言葉で全員が顔を上げる。

 

「まずはアルベド。何度も呼び出して済まないな」

「勿体無きお言葉ですアインズ様。我々シモベはアインズ様がお呼びであるのならば即座に参りましょう」

 

アルベドの言葉にアインズは頷き手に持ったアイテムを見せる。

 

「私は思う。お前たちは信頼に足るシモベなのかどうか」

 

アインズの言葉に階層守護者たちは戸惑いの表情を浮かべる。

 

デミウルゴスとアルベドの表情は変わらないが。

 

「故に私はお前たちの本音を引きずり出す事にした」

「その御手にあるアイテムを使ってでしょうかえ?」

「その通りだシャルティア」

 

クラッカーの形をしたそれの紐を引っ張る。

 

破裂音と共にヒラヒラと紙吹雪が舞う。

 

「これは使用者以外のアンデッド、悪魔、インセクト、闇妖精・・・そして天使と自動人形の思ったことを口に出させるアイテムだ」




作中のドイツ語は翻訳アプリを使って書きましたので文法としてあってるかどうかは分からないので、もし間違っていたら教えて下されば幸いです。



~前話のあとがきの冷静な理由の発表について~

あの時は謝罪に力を入れていたので気づかなかったのですが、「冷静な理由」ってもうここで発表してない?と思いました。

あとで発表しようとしていた内容とだいぶ被っているので、冷静な理由は3話目の内容という事にします。

楽しみにしていた方は申し訳ありませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5:決着そして胎動

急展開です。


「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。答えよ我がシモベたちよ。お前たちは私に従わず己が王とならんと画策しているのかどうかを!」

 

杖を鳴らし問う。

 

「シャルティア!」

「そのようなことは決してございません!確かにペロロンチーノ様の方が優れているとは思っておりますが貴方様に逆らうなどと一片たりとも思っておりません!」

「コキュートス!」

「私ハ貴方様ノ刃デアリ所有物!刃ガ持チ主ニ逆ラウ事ナドアリエマセヌ!」

「アウラ!」

「ありえません!私の血の一滴残らずアインズ・ウール・ゴウンの物!アインズ様に逆らう物などありません!」

「マーレ!」

「で、出来ません!ボ、ボクはそんな事思ったりしたことありません!あ、あの、ボクは絶対にしません!アインズ様に逆らうなんて絶対に!」

「デミウルゴス!」

「塵程も思ったことはございません!我が命!我が魂!我が全ては至高の御方であらせられるアインズ様の為に!」

「アルベド!」

「私が愛する御方に牙を剥くなどありえません!」

「ではルベド」

 

スゥッとルベドが姿を現す。

 

「:(;゙゚'ω゚'):」

「そうか」

「では・・・そうだなこれで終わらせるのも勿体無い。もののついでだリグレット」

「お父さんに向かってそう思う前に自害するよ」

「そうか」

 

ルベドが姿を消したのを確認したアインズは頭を玉座に預ける。

 

「私の心配は杞憂だったようだな」

「御身に危険が及ぶ可能性が少しでもあったのであれば当然の行いです!」

「そうです!」

「す、少し寂しかったですけど仕方なかったんだと思います!」

「その通りです!」

「皆ノ言ウ通リデス!」

「御身の安全が一番です!」

 

守護者たちが口々に言う。

 

それを見てやはり心配は杞憂だったと実感する。

 

彼らの忠義は本物だ。

 

「守護者たちよ。お前たちに我が命を預けよう」

 

今が始まりだ。

 

「そしてお前たちの全てを私に捧げろ」

 

この世界を捧げろ。

 

「我が名をこの世界に轟かせよ」

 

全ての魂に刻み付けろ。

 

「アインズ・ウール・ゴウンの名を!」

 

永遠に消えないように。

 

「「「我々の全てを持って叶えて見せます!貴方様の名を!願いを!全てを!」」」

 

1つの世界のみならず9つの世界に名が轟いたギルド。

 

その名は永久に消えない。

 

消えるはずも無い。

 

永久不変の伝説として語り継がれるだろう。

 

「この世の全てを我が手に」

 

このアインズ・ウール・ゴウンの名は。

 

 

 

一番危惧していた守護者たちの反乱はないと判断したアインズは玉座の間を出て自室で大きな鏡の前でパントマイムをしていた。

 

「こうか?いやこう・・・」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューシング)の操作に苦戦するアインズを眺めながらリグレットはウィスキーを飲む。

 

ルベドはアインズの首に抱きついて鏡を覗き見ている。

 

「お父さんまだー?」

「ああ。意外と難しくてな・・・こうかっ」

 

四苦八苦するアインズを横目にリグレットはアインズの傍に立つ執事を見る。

 

「いかがいたしましたか?リグレット様」

「ん。なんでもない」

 

セバス・チャンと名付けられたギルド最強の騎士に生み出されたナザリック格闘最強の存在。

 

執事で家令と設定された彼は自分の信じる正義に則り行動する。

 

彼が信じる正義とはもちろんアインズ・ウール・ゴウンである。

 

「おっ」

「出来た」

「おめでとうございます、アインズ様」

「お父さんおめでとう」

「うむ」

 

賛辞の言葉を送るセバスに対して満足げに頷くアインズ。

 

リグレットはウィスキーを置いてアインズの横から鏡を見る。

 

「どうでもいいけどルベドって喋れたんだね」

「・・・・」

「そうだな。ルベドが喋れるとは驚いた」

 

ルベドは今まで一度たりとも声を出さなかったので喋れないと思っていた2人。

 

だがただ単に無口なだけだったようだ。

 

「私はルベドともっとお話したいな」

「・・・・」

 

リグレットの言葉にルベドは少し考えてから頷く。

 

「さて周辺は、と」

 

デミウルゴスからの報告では大きな森があるということと人間がいるであろう場所は3つの城壁がある大きな街だということだが・・・。

 

「ん?これは・・・焼けた村か」

「デミウルゴスからの報告書にもあったけど他にもいくつかあるみたいだよ」

「そうだったな」

 

国同士の諍いか何かか。

 

他にもあるようだが折角だからこの村に行くとしよう。

 

「リグレットと共にこの村に行く。セバスはアルベドに警戒レベルを最大にするように伝えよ。そして周囲警戒をする為に影の悪魔(シャドウデーモン)を配置せよ」

「畏まりました」

 

セバスが一礼したのを確認したアインズは首に抱きついているルベドに告げる。

 

「ルベド。お前は留守番だ」

「!」

 

わずかに目が見開かれる。

 

その目には少量の涙。

 

「・・・・来たいのか?」

「っ!っ!」

 

ブンブンと首を縦に振るルベドを見たリグレットは助け舟を出す。

 

「お父さんルベドも連れて行ってあげてよ」

「む・・・」

 

ルベドとリグレットの2人を連れて行ったらアインズの身は安全だろう。

 

だがナザリックはどうだろうか。

 

そこまで考えてから考えるのをやめた。

 

これが最初の信頼の証としよう。

 

「いいだろう。ルベドよ共に行こう」

 

そう言うとルベドは嬉しそうに抱きついてきた。

 

「セバス。これもアルベドに伝えておけ。私が留守の間はお前たちに全てを一任すると」

「はっ」

転移門(ゲート)

 

最高位の転移魔法を使って遠隔視の鏡が映す廃村へと転移した。

 

 

 

「ふむ・・・」

 

廃村に来たアインズはその惨状を見て顎を撫でる。

 

焼けた家だったものと100以上の焼け焦げた死体たち。

 

それらを見てアインズは感情が全く動かないことに気づき精神もアンデッドにでもなったかと考えて探索に移る。

 

「リグレット。お前はこの村を探索して何か使えそうなもの───貨幣や装備などがあればそれを───探せ。知的生命体と出会ったら交戦せずに連れて来い。もちろん襲いかかってきたら撃退しても構わん」

「殺してもいい?」

「生け捕りが不可能だったらな。負けそうだったらナザリックに帰還しろ」

「はーい」

 

リグレットはつまらなさそうに空返事をすると焼けた家へと入っていった。

 

「ルベド。お前は私を守れ」

「ん」

 

ルベドを傍に置いてアインズはそのまま村の外へと出る。

 

少し歩くと数十の男たちの死体がある場所へとたどり着いた。

 

武装はバラバラだが鎧の紋章は同じことからどこかの国の戦士隊から何かだろうか。

 

「ルベドよ装備を剥ぎ取って集めろ。私はあの死体を調べてみる」

 

ルベドが頷いたのを確認してから1つだけ離れた場所にある死体へと向かう。

 

それだけでも興味が湧いていたがその死体に近づくと焼けた剣で滅多刺しにされたかのように焼けた刺し傷が全身にありさらに興味を惹かれた。

 

残念というべきか首がないのはこの死体だけ特別な人物か何かだったのだろう。

 

鎧を着ているから戦士隊の隊長か何か。

 

そして国でも有名な人物なのだろう。

 

「国で屈指の戦士か有能な将軍か何かか?」

 

鎧に探知魔法である上位道具鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)を使用する。

 

そしてその能力を見て愕然とする。

 

ゴミなのだ。

 

魔化も特別な能力も何もないただのアイアンプレートなのだ。

 

ユグドラシルの初心者ですらもっといい物を持っているだろう。

 

剣、手甲、足甲、服と鑑定していくがその全てが見た目通りのアイアン装備だ。

 

「後は・・・指輪か」

 

左薬指に付けてあるその指輪に全く期待せずに上位道具鑑定をかける。

 

そして目を見開いた。

 

「なんだこれは!」

 

ユグドラシルにあれば世界級アイテムにも匹敵する性能。

 

その指輪を指ごと引きちぎり指を捨ててその指輪を見つめる。

 

「素晴らしい」

 

魔法職であるアインズへの恩恵は少ないが戦士職が使えばその恩恵は凄まじい。

 

ユグドラシル時代では珍しいや欲しいというよりも期間限定というだけでその全てを手に入れるコレクター気質を持っていたアインズは持っていないアイテムを手に入れてご満悦になる。

 

「持って来た」

「ご苦労」

 

ルベドが持って来た装備にこの指輪と同じ物がないか上位道具鑑定をかけながら探す。

 

だがそれらは全てただの魔力もない装備だった。

 

他になかったのは残念だがこの指輪が一般的なものではないという可能性が高くなった。

 

「お父さーん武器はなかったけどお金みたいなのはあったよー」

 

リグレットが革袋片手に歩いてくる。

 

「これこれ」

 

革袋を受け取り中を見ると摩耗した銅の貨幣多数と数枚の銀の貨幣があった。

 

「銀貨と銅貨か」

 

摩耗していない銅貨を抓んで物珍しそうに見つめるアインズ。

 

それには鎧と同じ紋章が刻まれている。

 

「他にはあるのか?」

「うん。とりあえず見つけた革袋に入れるだけ入れてきたよ」

「そうか。よくやった」

 

ご褒美にリグレットの頭を撫でる。

 

リグレットの顔がへにゃっとだらしなく崩れる。

 

ルベドがじーっと見つめてきたのでルベドも撫でる。

 

「ルベド。こいつらは金らしきものを持ってはいなかったのか?」

「ん」

 

ルベドの手には複数の貨幣。

 

銅や銀が大半だが金の物もある。

 

「革袋がなかったのか」

「破れてた」

「そうか」

 

ルベドが持って来た革袋を見ると炎の剣で切ったかのように破れた場所が焼け焦げている。

 

炎属性付与の武器かそれとも炎の剣を持つモンスターを召喚したかテイムした者の仕業か。

 

数から見ても複数。

 

一番簡単なのが召喚───その中でも第3位階魔法で召喚出来る炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が簡単───だが一国の有名な人物がそれで殺せるだろうか。

 

答えは否だ。

 

例え数十集めてもすぐに討伐されてしまうだろう。

 

ということは恐らく一国の有名な人物に匹敵する炎の剣を持った戦士か高位の魔法で召喚出来るモンスターか同程度のモンスターをテイムしてあったのだろう。

 

「デミウルゴスからの報告では確か脆弱とあったが、レベル100の言う脆弱は当てにならんな」

 

最悪レベル100がこの世界にいることも考えなければならないな。

 

「貨幣を全て回収したら戻るぞ」

「はーい」

「・・・・」

 

ルベドとリグレットの案内で貨幣を回収し、ナザリックへと帰還する。

 

そしてそのまま影の悪魔(シャドウデーモン)に命じて周辺の村から貨幣を回収させる。

 

「パンドラズ・アクターを呼べ」

「畏まりました」

 

セバスが歩き去り交代にエントマが付き従う。

 

それに大して何も言わずにアインズは自室に戻り執務机に座る。

 

リグレットとルベドは少し離れたテーブルに座りウィスキーを飲みながら話している。

 

デミウルゴスの報告書を眺めているとノックが響きエントマが相手を確認する。

 

「パンドラズ・アクター様です」

「入れよ」

 

エントマは一礼して再度扉が開いた。

 

「失礼いたします!」

 

入ってきたのはパンドラズ・アクターだ。

 

「我が創造主アインズ様!此度はどのようなご用件でしょうか!」

「これを見ろ」

「失礼いたします」

 

3枚の貨幣を差し出しパンドラはそれを恭しく受け取る。

 

「これは・・・随分粗悪な貨幣ですね。含有率は半分以下。金貨は金としての価値ではユグドラシル金貨の半分となりましょう」

「それがこの世界の一国の通貨のようだ」

「これがですか」

 

パンドラは失望したように嘆息する。

 

「この世界には至高の御方々が集めし至宝の数々に連ねられるまだ見ぬ宝物はないようですね」

「そうとも限らん。次はこれだ」

「それはっ!」

 

ぐわっと歩み寄りアインズが手に入れた指輪を震える手で受け取る。

 

「おおっ!おおおっ!これは見たこともない魔法で生み出されております!能力は・・・なんと!これは凄まじい物です!」

「そこまでだ。パンドラズ・アクター」

「はっ!失礼いたしました。つい・・・」

 

頭を下げて謝罪するパンドラにアインズは手で応える。

 

「よい。私もそれを手に入れたときは興奮してしまったからな。それでだ。パンドラズ・アクターよ」

「はっ!」

「貨幣についてはいくらでも手に入れることは可能だ。だがその指輪は違う」

「私はこの指輪を量産すれば良いのでしょうか」

「いや、それほどの物を作るのは不可能だろう」

「では・・・」

「それと同じ外装のものを作れ」

 

アインズの言葉にパンドラはその意図を理解して頭を下げる。

 

「蛇の道は蛇というわけですね。承りました」

「頼んだぞ」

 

パンドラが退室しアインズは一息つく。

 

再びノックが鳴りエントマが相手を確認する。

 

「デミウルゴス様です」

「入れよ」

 

デミウルゴスが入室し一礼する。

 

「アインズ様にご報告致したいことが」

「なんだ」

「様々な街へ影の悪魔を向かわせていましたが3箇所からの定期報告が途絶えました。恐らくは葬られたのかと」

「それはどこだ?」

「はっ。リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、そしてスレイン法国。それぞれの首都です」

「そうか。それはいつのことだ?」

「昨日の定期報告がなかったので昨日かと」

「そうか。それについて話す前にデミウルゴス」

「はっ。何でしょうか」

「お前に確認したいことがある」

「確認したこと・・・でございますか」

 

デミウルゴスは何か報告漏れがあったのかと思案するが何も思いつかない。

 

アインズが告げてその疑問はすぐに消える。

 

「この世界の生物の強さだ」

「はい。その件については脆弱であると報告書に記載した記憶がございますが何か不明な点がありましたでしょうか」

 

アインズはその報告書を見せる。

 

「お前の報告書を読んだがどうだ。脆弱であると書かれている」

「はい。その他にも一般人のレベルは1桁前半。そして王国最強は王国戦士長。帝国最強は第6位階程度しか使えない魔法詠唱者。法国は漆黒聖典と呼ばれる部隊が最強と記載してあります」

「そうだ。漆黒聖典は秘匿性が高い為に完全ではないがその他に関しては完璧に特徴から些細な特徴まで書かれている。素晴らしいことだ」

「ありがとうございます」

 

アインズの褒め言葉にデミウルゴスは恭しく一礼する。

 

「だが、その後の調査には手を抜いたようだな」

「?」

 

デミウルゴスが首を傾げるとアインズは自分が見つけた指輪の話をする。

 

「王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフが持つ指輪を私は手に入れた」

「それは・・・おめでとうございます」

 

指輪がどうしたのだろうかとデミウルゴスは疑問に思うがアインズはそれに気づいているが無視する。

 

「ガゼフが持っていた指輪はユグドラシルでは再現不可能でありかの世界級アイテムに迫るほどの性能を持っていた」

「!?」

 

デミウルゴスはそれを聞き自分の失態を知った。

 

世界級アイテムはデミウルゴスたちにとって神であるギルドメンバーたちが数年かけて200ある内の11しか手に入れられなかった至宝。

 

それに迫るほどのアイテムを人間が持っているなど思わず身体的特徴と強さのみしか調べなかった。

 

それについての叱責かと思い身を固くするデミウルゴスにアインズはさらに告げる。

 

「そしてガゼフは少なくとも数日前に死んでいた」

「そ、それはっ!」

 

本当でしょうか、という言葉を飲み込みデミウルゴスは顔を真っ青にする。

 

周辺国家最強の戦士と言われている男の動向を調べずあまつさえ生死すら知らなかったのだ。

 

その上で先ほど報告した内容。

 

影の悪魔を倒せそうな存在は王国戦士長と冒険者チーム「朱の雫」と「青の薔薇」のみだ。

 

朱の雫は王都を離れて数週間ほど別の国へ行っている。

 

青の薔薇は王都周辺に居るには居るが馬でも数日かかる距離にいると報告があった。

 

そしてガゼフはすでに死んでいる。

 

では誰が影の悪魔を殺したのか。

 

前者の冒険者チームであれば可能だが王都にはどちらもいない。

 

上位転移(グレーター・テレポーテーション)を使えばその限りではないが、あれは人類が使えると言われている第6位階魔法以上の魔法だ。

 

一体誰が。

 

「私はなデミウルゴス」

 

びくりっと肩を震わせデミウルゴスはアインズを見る。

 

「失敗は誰にでもあると理解している。だから叱責はすれど失望などはしない」

 

その言葉にデミウルゴスは安堵の息を吐くがすぐに気を引き締められた。

 

他ならぬアインズの言葉によって。

 

「失敗から学ぶことで飛躍的に成長するからだ。だが失敗を重ねて学ぶことをしない者などただの害にしかならん」

「このデミウルゴス。もう二度と同じような失敗は致しません!我が創造主ウルベルト・アレイン・オードル様に誓って!」

 

デミウルゴスの宣誓にアインズは満足して頷く。

 

「では行け。ガゼフを殺した者たちと影の悪魔の件。そして漆黒聖典についてより詳しく調べよ」

「はっ!失礼いたします」

 

デミウルゴスが退室しアインズはかつりと指で机を叩く。

 

帝国の第6位階魔法を使えるという魔法詠唱者は恐らくレベル40前後。

 

そこからガゼフをレベル40と判断して殺したのはその前後辺り。

 

装備に関してはあの指輪が国に伝わる秘宝か何かと考えれば、失われた技術もしくは王族のみに製法が伝わっているのだろう。

 

製法を知るものを釣るために外見だけ同じ物を作らせるように指示したが問題はそれを釣るための囮だ。

 

周辺国家で敵になりそうな国はスレイン法国くらいか?

 

とはいえ、これらはユグドラシルの常識から考えた結論だ。

 

この世界の常識はユグドラシルの倍のレベルでようやく位階が1つ上がるのかもしれない。

 

となるとレベルの上限もその倍の可能性も出てくる。

 

もし上限が倍だったら今のナザリックでは歯が立たない。

 

情報が不足している。

 

とりあえずは報告書に書かれているアダマンタイト級冒険者とかいうのを指標とするべきだろ。

 

ガゼフもそれくらいと言われているようだからシモベを同数ぶつけてどれほど強いのかを見るべきだ。

 

「となると・・・まずはレベル50を当てるべきか?」

 

だがバレた時のことを考えるともしもの場合はまずいことになる。

 

他に何かないかと報告書を再度見て手頃な存在を見つける。

 

「森の賢王か」

 

実に手頃じゃないか。




あのまま続けると外と関わるのに守護者と同じ数の話数が必要になると思い、このような急展開としました。

最大の理由はリグレットが空気になってしまうからなのですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6:都市蝕む死と白銀の刃

森の中に転移門が開かれそこから黒いローブを纏った死の支配者が現れる。

 

そして毒々しい紫色の髪の少女と純白の女性。

 

金髪の闇妖精と漆黒の巨大な狼と数十の高位のシモベたちが続いて現れる。

 

「中々にいい場所だな」

「そうでしょうか?」

 

アインズがそう呟くとアウラが疑問の声を上げる。

 

見ると少しいじけてる様だ。

 

「もちろん第6階層の方が素晴らしいが、この世界も捨てたものではないぞ?ナザリックとは比べるまでもないがな」

「ですよね!」

 

ぱぁっと明るくなるアウラの頭を軽くなでてから歩き出す。

 

「さてアウラよ。森の賢王というのは何処にいる?」

「こっちです!フェンに乗ったほうが早いですがどうしますか?」

 

連れてきた高位のシモベたちを見てから遅いものはいないと判断して頷いた。

 

「ではフェンに乗らせてもらおう。リグレットとルベドも乗れ。他の者は離れずについて来い」

「分かりました!」

 

アウラが合図をしてフェンに伏せをする。

 

アウラが乗りアインズ、リグレット、ルベドが乗る。

 

リグレットとルベドがアインズの後ろを争ってジャンケンをしたが勝者はリグレットだった。

 

「フェン。アインズ様に失礼がないようにするんだよ」

 

フェンは頷き走り出す。

 

特殊能力の土地渡りによって途中の木の枝などはすり抜けたかのように折れもせずにそのままだ。

 

しばらく行くと洞窟にたどり着いた。

 

「この中です」

「ふむ・・・アウラ、お前のスキルでどれくらいのレベルなんだ?」

「レベル30~35です」

「ふむ。レベル30・・・なに?」

「レベル30~35です。特出したステータスはありません」

「そうか」

 

レベル30が伝説の魔獣か。

 

となるとやはり人類の最高はレベル40が有力か。

 

この心配も杞憂の可能性があるがアダマンタイト級を調べてから判断しても遅くはないだろう。

 

「殺してしまうんですか?」

「いや殺さずにシモベにしようと思っている」

「そうなんですか。出来れば毛皮を剥ぎたいなって思っていたんですけど仕方ないですよね」

「そうだな。すまないが我慢してくれ」

「はい」

 

アウラにそう言ってからルベドを見る。

 

「ルベド。中にいるのをここに連れて来い。殺してはダメだぞ」

「・・・・」

 

ルベドは無言で洞窟の中へと入っていった。

 

そしてすぐに出てきた。

 

巨大なハムスターの首根っこを掴んで。

 

「は?」

「どうかしましたかアインズ様?」

「いやなんでもない」

 

ルベドが乱暴にハムスターを投げる。

 

「なんでござるか!拙者が気持ちよく寝ていたというのに!」

「お前が森の賢王か。我が名はアインズ・ウール・ゴウンという」

「むむっそなたは・・・骸骨(スケルトン)ではないでござるな。アインズ殿か。拙者に何用でござるか」

 

高位のシモベに気づいていないのかアインズだけを見る森の賢王。

 

「ふむ・・・お前にはさほど期待してなどいなかったが構わん。我がシモベになれ。そうすれば生きていることを許可しよう。断れば死を与えてくれよう」

 

アインズの言葉にリグレットの顔に残虐な笑みが浮かぶ。

 

「むう・・・拙者よりも強者の気がするでござる」

「どうする?私はどちらでも構わんが」

「では、手合わせを」

現断(リアリティ・スラッシュ)

 

第10位階魔法で森の賢王のすぐ横の木を縦に真っ二つにする。

 

「ひぃぃっ!降参でござる!」

 

それを見て森の賢王はひっくり返って降参をした。

 

「我がシモベになるか?」

「なるでござる!だから命だけは!」

「ということだ。我がシモベたちよ。今からこの者は我がシモベだ。帰還したらナザリックの者に徹底周知せよ」

「畏まりました。アインズ様」

「分かったお父さん」

「・・・・」

 

3人を筆頭にシモベたちが跪く。

 

「さて心機一転としてお前に名を与えよう。そうだな・・・ハムスケ。お前はこれからハムスケだ。いいなハムスケ」

「分かったでござる殿!」

「分かった?分かりましたでしょうが!生意気な口をきいてるんじゃないよ!」

「ひぃい!」

 

アウラが激怒するがアインズは手でそれを制する。

 

「構わん。少しずつ矯正していけばよかろう。今は帰還することが最優先だ」

「アインズ様がそういうのでしたら・・・」

「では帰還するぞ。転移門」

 

転移門を開きアインズはその中へとはいる。

 

そして続々と入っていき最後にハムスケが恐る恐る中に入っていった。

 

 

 

それから数日後。

 

ハムスケをアウラに任せてありアインズは自室である計画を進めていた。

 

デミウルゴスの報告書では青の薔薇が王都に戻っており今は休暇のように休んでいるらしい。

 

そしてデミウルゴスに調査させていた冒険者についても分かった。

 

よく言えばモンスター専門の傭兵。

 

悪く言えば何でも屋だ。

 

夢のない仕事だ。

 

「死の螺旋とは面白い発想をするな」

 

アンデットが集まればさらに強いアンデッドが生まれる。

 

そしてそれを連鎖させて街を死都へと変える魔法儀式「死の螺旋」。

 

アルベドが放っていたシモベが捕らえた者から得た情報だ。

 

「面白い・・・実に面白い」

 

しかも一番近い街であるエ・ランテルでそれを行おうとしている者がいるというじゃないか。

 

「いいタイミングだ」

 

アインズは笑みを浮かべて命令を下した。

 

 

 

城塞都市エ・ランテル墓地・地下神殿。

 

「なんだ貴様ら」

 

カジット・デイル・バダンテールは闖入者たちを見て警戒の色を見せる。

 

死を隣人とする邪悪な秘密結社「ズーラーノーン」の幹部である十二高弟の1人だ。

 

カジットの他にカジットの弟子である者たちが配置につく。

 

此処はズーラーノーンの活動拠点の1つでありカジットがいる重要拠点でもある。

 

「貴様らねぇ・・・」

 

カジットの弟子たちの全身を包む染めが粗く質の悪い濃淡が浮かぶ黒色のローブではなく闇のように真っ黒なローブで顔すら隠す女性と少女は黒い空間の裂け目から出てきてからずっと立ち尽くしている。

 

ローブの上からでもわかる胸と細い腰から女たちだと判断してカジットは目配せをする。

 

地下神殿を支える柱の影に隠れているもう1人の高弟に合図を送る。

 

「人間風情が我々を貴様ら呼ばわりですか。実に面白いですね」

「っ!?」

 

女たちとは全く別の方向。

 

そこに南方のスーツと呼ばれる服に顔を覆う仮面をつけた男がいた。

 

だがこちらは横を向いておりそのおかげか銀のプレートに包まれた尻尾が生えているのが見えた。

 

「ほんとほんと」

「なっ!?」

 

また別の方向には全身が黒く塗りつぶされたかのように真っ黒な10歳程度の影が瓦礫に腰掛けていた。

 

「カ、カジット様」

 

カジットの弟子たちが狼狽える。

 

カジットはそれを感じながら奥の手を出すべきかどうか迷う。

 

「がっ!」

 

聞き覚えのある声の悲鳴にその出処───もう1人の高弟がいる方───を見て愕然とする。

 

「馬鹿な!」

 

法国最強と言われる漆黒聖典の1人であるクレマンティーヌが地に倒れ伏していた。

 

そのすぐ近くには黒いマントで身を包んだ男が立っていた。

 

「そやつは英雄の領域に踏み込んでいる者!そんな簡単に負けるわけが───」

「全員静かに」

 

少女の静かな声が地下神殿に響き渡る。

 

「偉大なる御方がお出でだよ」

 

少女と女性が横に移動して跪く。

 

それと同時にスーツの男と影とマントの男も跪く。

 

黒い空間の裂け目からそれは現れた。

 

カジットはそれが纏う───いや発する濃密な死を感じ取り目を見開く。

 

闇を切り抜いたかのような漆黒のローブを身に纏い怒っているのか泣いているのかわからない仮面に無骨なガントレットを付けた存在。

 

それが完全に出ると同時に空間の裂け目は完全に消え去る。

 

そして何もないところから見事な真っ黒な玉座が現れてそこへ座った。

 

「我は死の支配者。喜ぶがいい塵芥。お前たちは我が目に留まった」

「な、なんと・・・」

 

カジットは持っていた杖を取り落とし跪く。

 

「わ、我々の名を。名を名乗る許可を頂いても宜しいでしょうか!偉大なる死の支配者様!」

「よかろう。名乗るがいい塵よ」

 

塵などと言われても全く腹が立たない。

 

いや当たり前だ。この御方の前では全てが塵に等しい。

 

「私の名はカジット・デイル・バダンテール!死を隣人とするとのたまう愚かなる邪法の秘密結社「ズーラーノーン」の幹部である十二高弟が1人です!」

「死を隣人とするとは・・・全く偉大なる御方は死そのもの。つまりは偉大なる御方を隣人呼ばわりにするとは人間というのは愚かすぎて愛すら生まれてきそうだよ」

「本当だね。偉大なる御方を勝手に隣人だなんていつからそんなに偉くなったのかな」

「そうだよね。このまま生き地獄を味あわせたらいいんじゃないのかな?」

 

偉大なる御方のシモベらしき5人が静かに殺気を放つ。

 

偉大なる御方が現れる前にこれを言っていたらどうなっていたのかは想像に難くない。

 

「皮を剥いで回復魔法で再生させてからまた剥いであげようか」

「氷結牢獄で拷問フルコースっていうのはどうかな」

「───騒々しい。静かにせよ」

 

偉大なる御方の言葉で全員が黙る。

 

「カジットだったな」

「ははっ!」

 

我が矮小なる身の名を覚えてくださるとはなんと慈悲深い方なのだろうか。

 

カジットはそう思いながら偉大なる御方の言葉を聞き漏らさないように耳を澄ませる。

 

「死の螺旋を行おうとしていると聞いたがその計画の内容を教えよ」

「はっ!まずは骸骨や動死体(ゾンビ)などの低位のアンデッドを作成し続けます。それが数百体というレベルで揃った後にそれを解き放ち都市を負のエネルギーで満たすのです。そうすれば上位のアンデッドが生まれそこから連鎖してより上位のアンデッドが生まれていくという際限なく強力なアンデッドが生まれるという外法です」

「ふむ・・・ではそれを行って何を成すのだ?」

「この身をアンデッドに変えるのです。そして永遠の命を得るというわけなのです」

「なるほど」

 

偉大なる御方は息を吐いた。

 

つまらなそうに、期待外れかのように、大きく息を吐いた。

 

「下らんな・・・いや待て。お前では数百という数は御しきれぬと思うのだがそれはどうするのだ?」

「この至宝である「死の宝珠」を使用して行います」

 

片手に持っていた死の宝珠を恭しく捧げる。

 

近くに歩み寄ってきたローブの男がそれを受け取り偉大なる御方の元で跪いて両手で捧げる。

 

「上位道具鑑定・・・ほう?インテリジェンス・アイテムでレベル40のアイテムか。それでお前は何ができるのだ?」

 

偉大なる御方は死の宝珠に語りかけてまた大きく息を吐いた。

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を4体と骸骨を数十体の支配だと?玩具にもならんな」

 

そう言うと偉大なる御方は死の宝珠をカジットに返すように男に言い死の宝珠はカジットの手に戻る。

 

「せめてこれ位のものを支配出来てから言って欲しいものだ。中位アンデッド創造」

 

黒い靄が現れたと思ったらそれは姿を現した。

 

身長は2.3メートルほどで左手には4分の3は覆えそうな巨大なタワーシールドを持ち、右手には1.3メートル近いフランベルジェを片手で持ち黒色の金属に血管のような真紅の紋様があちこちに走っている全身鎧を身に纏った死の騎士と言うべき存在。

 

「お前たちが述べたアンデッドは全て下位アンデッドだ」

「なっ」

 

カジットの弟子から驚きの声が上がる。

 

骨の竜は魔法に対する絶対耐性を持つ強力なアンデッド。

 

上位のアンデッドと言われていた存在が下位などと夢にも思わなかった。

 

「我が命令に従うのであれば我が叡智を与えよう。叡智ではなく何か願いがあれば・・・可能ならば叶えてやらんでもない」

「で、では。1つ。1つだけお聞かせください!」

 

再び殺気が溢れるがそれでも強く偉大なる御方を見る。

 

「・・・・言ってみろ」

 

偉大なる御方は顎をしゃくりそれを許可してくださった。

 

「死者の復活。通常の蘇生魔法では脆弱な者は耐え切れずに灰になってしまいます。灰にならない蘇生魔法をご存知でしょうか」

 

カジットは数十年もの間霞もしない願いを叶えられるのかどうか尋ねた。

 

偉大なる死の支配者である御方が知らないとなればもう絶望的となる。

 

「ふむ・・・脆弱な者は灰になるか。蘇生によるレベルダウンによっての肉体の消滅ということか。良いことを聞いた」

 

偉大なる御方は頷くとカジットを指さす。

 

「私は恩には恩を、仇には仇を持って返す。お前は今私にとって有益な情報を齎してくれた。そしてこれはお前の質問に対する答えだ。知っているしシモベにはそれを行使できる者がいる」

「で、では」

「私の命令を聞くのであれば使ってやっても構わん」

「おお!」

 

カジットは偉大なる御方───いや神に感謝した。

 

神を捨てた身ではあるが今一度神を信仰しよう。

 

死の神であるこの御方を。

 

「私の全てを尽くして必ずや!」

「わ、私もです!」

「私も!」

 

カジットの弟子たちも声を上げて誓う。

 

神はそれに対して手で鎮める。

 

「まずは私の質問に答えよ。私はまだ目覚めたばかりでこの世界の常識というものがないのだ」

「はっ!」

 

カジットは問われた事に全て自分が知っている限りの情報を話した。

 

そして最後に───。

 

 

 

「クハハハハハハ!」

 

アインズは人目もはばからずに笑う。

 

此処はナザリック地下大墳墓の自室。

 

アインズはそこで椅子に座りながら笑う。

 

「ハハハ・・・抑制されたか。まぁ嬉しいという感情が抑制されるのが遅いと言うことがこれでわかったと思えばいいか」

 

デミウルゴスが作成したカジットから聞いた内容の報告書を見て笑みを浮かべる。

 

「アダマンタイト級がレベル30程度とは・・・やはり心配は杞憂だったな」

「少しでも可能性があったらそれを心配するべきだよ。お父さんが傷ついちゃったら私泣いちゃうよ?」

 

アインズの言葉にリグレットが反応してそう言うとアインズは頷く。

 

「そうだな。可能性があるのにそれに対して何ら対策をしないというのも馬鹿な話だ。だがそれもこれから起きることを見ていれば判断がつく」

 

椅子に背を預けて息を吐く。

 

死都エ・ランテル。

 

「中々いい響きじゃないか」

 

成功しても失敗しても得るものはあれど失うものは全くない。

 

「楽しみだ」

 

 

 

「以上となりますが何かご不明な点はありますか?」

「何もありません」

 

ヤルダバオトと名乗ったスーツを着た悪魔は満足そうに頷く。

 

「偉大なる御方は貴方にご期待なされています。その為にあれらも貴方のような者に下賜なされたのですから」

 

ヤルダバオトの目線の先には死の騎士(デス・ナイト)が12体と死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が20体が並んでいる。

 

「偉大なる御方の期待に必ずや応えてみせます!」

 

カジットはそう誓いを立てる。

 

「その意気はいいですがくれぐれもしくじらないで下さいね」

「もちろんです!」

 

かなり上位のモンスターであり迷宮の主である死者の大魔法使いがこれだけ居るのはありえない事だろう。

 

そしてそれ以上の死の騎士が1体いるだけでも歴史に刻みこまれるほどの惨劇が引き起こされるだろう。

 

「あの御方はこの街を死都エ・ランテルと名付けました。よってこの街は既に死都エ・ランテルなのです」

 

街の名など結果ではなくあの御方が決める事。

 

ヤルダバオトは告げる。

 

間違いは正さなければならないと。

 

「くれぐれも我々のことを口に出さないように。さもなければ死というあの御方の慈悲は永遠に与えられないと知りなさい」

「もちろんでございます!」

 

黒い空間の歪が出現するとヤルダバオトはその中へと入っていく。

 

「あの御方は常に貴方がたを見ておいでです。無様な姿を晒してあの御方をご不快にすることは・・・我々が絶対に許さないと心得なさい」

「ははぁっ!」

 

歪が消えて後には頭を地面にこすりつけたカジットだけとなる。

 

「カジット様」

「うむ」

 

弟子たちが集まり告げる。

 

準備が整ったと。

 

「今夜行う。より多くの死をあの御方に捧げよ!」

 

 

 

時間は過ぎ夜。

 

「今日も静かな夜だなぁ」

 

墓地を囲む壁の上にいる衛兵の1人が横で見張っている同僚に欠伸混じりに声をかける。

 

「そうだな。この前出た骸骨が5体くらいで今までよりも一気に減ったよな」

「ああ。死者の魂も四大神の御許に召されたんじゃ───」

 

雷撃(ライトニング)

 

墓地から一筋の光が走り衛兵の1人を貫いた。

 

衛兵は断末魔の叫びも上げることを許されずに墓地側へと落ちていく。

 

「なっ」

 

近くの衛兵が声を漏らし光の出処へと目を向ける。

 

「恐れ慄け」

 

小気味いい音を響かせながらそれらは闇の中から現れる。

 

「今宵よりこの地は我らの物となる」

 

死者の大魔法使いと数えるのも億劫なほどの骸骨や動死体。

 

その中にちらほら内蔵の卵(オーガン・エッグ)集合する死体の巨人(ネクロスォーム・ジャイアント)が見える。

 

そして空には黄光の屍(ワイト)骨のハゲワシ(ボーン・ヴァルチャー)が飛んでいる。

 

「今これよりアンデッドの時代とならん」

「鐘を鳴らせ!衛兵駐屯所に救援を求めろ!お前たち3人はほかのもんにも至急緊急事態を告げろ!お前たち5人は空を飛ぶアンデッドを追い払え!後の者は死者の大魔法使いの魔法に気をつけながらアンデッドを上から突け!」

 

隊長が我に返り指揮して全員がその指示に従う。

 

「愚かな」

 

死者の大魔法使いは最も愚かな策をした衛兵たちを嘲り笑い指で最も衛兵が集まっている場所を指す。

 

火球(ファイヤーボール)

 

火球が指先に現れたと思ったら放たれ衛兵の1人に直撃すると同時に爆発して近くにいた衛兵たちも火だるまになる。

 

「集合する死体の巨人よ。門を開けよ」

 

集合する死体の巨人が体の底に響くような呻き声を上げながら門へと突撃する。

 

集合する死体の巨人が門に激突すると門は呆気なく倒れる。

 

「進め!この都市を死の都とするのだ!」

 

骸骨や動死体が次々と門を超えて市街地へと出ていく。

 

衛兵はそれを防ごうと槍で突くが焼け石に水。

 

それどころか衛兵へと向かってきて程なくして衛兵はいなくなる。

 

「クハハハハハハハ!行け!蹂躙せよ!」

 

死者の大魔法使いの指示の下に数百にも及ぶアンデッドたちはエ・ランテルに存在する生者へと向かっていった。

 

 

 

ナザリック地下大墳墓第9階層。

 

大広間と呼ばれる寛ぎの場にアインズを始めとしたナザリックの首脳陣が座り複数の水晶の画面(クリスタル・モニター)でエ・ランテルの惨状を見ていた。

 

「素晴らしいでありんす。人間が逃げ惑って死んでいく様は実に滑稽でありんすねぇ」

「まさに蟻ね。ふふっ下等生物にお似合いの姿だわ」

 

低位のアンデッドに対して成す術なく逃げ惑う人間を見て楽しそうに笑い合う妃と妃候補。

 

「やっぱり人間はゴミだね。あんなのも倒せないなんて」

「う、うん。い、いくらなんでも酷すぎるよね」

 

エ・ランテルの住人たちを酷評をする双子。

 

「流石はアインズ様!人間共の欲望を刺激して都市を襲わせてその間に資材等を奪い去る!その上でこの世界の強者を呼び寄せる布石でもあり強者を各都市に釘付けにする布石でもあるとは。一手に複数の意味を持たせる手腕には恐れ入ります」

「ナルホド。ダテニ至高ノ御方々ノマトメ役デアッタダケデハナイトイウコトダナ。サスガハアインズ様デス」

 

感動する悪魔と納得する蟲王。

 

「アハハハハ!死んでいくのを見るのは楽しいね!ルベド!」

「・・・・」

 

愉快に笑う姫君と無言で頷く天使。

 

そして惨状を眺めて無言でいる死の支配者と役者。

 

その周りには一般メイドだけでなく戦闘メイドたちの姿もある。

 

セバスの姿はないがこれはアインズが見るのは酷だろうと配慮した結果なので誰もセバスに対して異を唱える者はいない。

 

「資材の回収には何を向かわせた?」

「同じくアンデッドであり思考能力があるシャルティア配下の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)と影の悪魔を向かわせてありますわ。アインズ様」

 

報告しながらススっと寄りアインズの肩に頭を置くアルベド。

 

それを見てシャルティアが吠える。

 

「何色目使ってやがんだこの大口ゴリラがぁ!」

「あら?外野が何か言ってるわね。言っておくけど私は既に妃の椅子に座っているのよ?」

「はぁ?何言ってやがんだこのアバズレは。アインズ様。迷惑でしたら遠慮なく仰ってくれなんまし。私がすぐにこのオバサンを引っペがして差し上げるでありんす」

 

可愛く微笑むシャルティアにアインズは目を向けてから水晶の画面へと目を戻す。

 

「好きにするがいい。だが騒がしくするならばこの部屋から出て好きなだけ騒げ」

「「も、申し訳ございません!」」

 

シャルティアとアルベドは一瞬で顔を真っ青にして謝罪する。

 

アインズはそれを大雑把に手を振って答えると指を鳴らす。

 

一般メイドと戦闘メイドが一礼してアインズたちが座るテーブルにグラスや摘めるお菓子などを置いていく。

 

「私は飲食ができないがお前たちはできる。惨劇(映画)は飲食しながら見るのが定番らしいから好きに飲食するといい」

「ですがアインズ様を差し置いて・・・」

「わー!じゃあ私はワイン貰うね!」

 

アルベドが守護者たちの言葉を代表して言うがリグレットは気にせずワインをあけさせてグラスに注いでもらう。

 

「ルベドも飲む?」

「ん」

 

注がれていくワインを見ながらパンドラはアインズに尋ねる。

 

「よろしいのでしょうか。至高の御方を差し置いて我々だけで楽しむなど」

「構わん。むしろお前たちが楽しそうにしている様子を見るのも楽しみにしていたことだ。存分に楽しめ」

「おお!流石は我が創造主アインズ様!その慈悲深き御心に感服いたしました!お嬢さん!私にもワインを!」

「で、では。失礼するでありんす。わらわにもワインを」

「畏まりました」

 

パンドラとシャルティアもワインをグラスに注いでもらう。

 

アルベドたちも各々の飲み物をグラスに注いでもらう。

 

アインズは水を注いでもらいグラスを掲げる。

 

「死都エ・ランテルに」

「「「死都エ・ランテルに」」」

 

アインズを除く者たちがグラスを傾けた。

 

 

 

「うわぁあああああ!」

「助けっ」

「ぎゃぁあああああああ!」

 

死屍累々。

 

アンデッドが生者を襲い死体が出来て負のエネルギーが充満していく。

 

それをその身で感じとり死者の大魔法使いたちは腐りかけの顔で笑う。

 

自分たちの創造主である偉大にして至高なる死の王が望む都市へと着々と進んでいる。

 

死の騎士も半分の6体が愚かにも抵抗する人間たちを一刀の元に伏して従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)へと変貌させていく。

 

そして従者の動死体が近くにいた人間を殺しその人間が動死体となる。

 

死の螺旋の逆が起きているが数を増やすのには最適な方法だ。

 

そしてもう半分の死の騎士は墓地の地下神殿で偉大にして至高なる死の王が目をお掛けになられている人間たちを守っている。

 

「クククククッ逃げ惑え。そして死ね。そうすれば我らが悲願は成就する」

 

どこで誰が聴いているのかもわからない為に回りくどい物言いとなるが偉大にして至高なる死の王のご命令なのだから仕方がない。

 

「む?」

 

伝言(メッセージ)を受け取り死者の大魔法使いは外壁の門の方へ目を向ける。

 

「どうしたのじゃ?」

「分からん。何か外の門で問題があったようだ。伝言が途中で途切れた」

「むぅ。それはマズイよのう」

 

3体の死者の大魔法使いは前もって偉大にして至高なる死の王から聞いていた情報と現状を照らし合わせて顔を歪める。

 

この騒ぎをどうにか出来そうな相手はアダマンタイト級冒険者チームという2組の人間共だけ。

 

その2組は集団転移魔法が使えないのでまだ騒ぎを起こしてからさほど時間が経っていない現在では離れた場所にいる2組がこの街へ来ることはできない。

 

ならば情報にない強敵。

 

失敗したとしても最低でも資材の強奪が終わったという合図である骨の竜が現れるまではこの騒ぎを起こし続けなければならない。

 

「死の騎士と連携して事に当たるしかあるまい」

「そうじゃのう」

「それしかないよのう」

「では行くぞ」

 

他の門を担当する死者の大魔法使いに伝言を送り作戦を伝え死の騎士と合流する。

 

「愚かな者よ。来るがいい」

 

その時こそ我らが存在理由が満たされるときだ。

 

 

 

時は遡り1時間前。

 

リ・エスティーゼ王国王都冒険者組合・組合長室。

 

その部屋には女性と白銀の髪の少年と少女がいた。

 

「ミスリル級冒険者チーム「白銀」の君たちを呼んだのは他でもない。緊急の依頼だ」

「緊急?」

 

40ぐらいの年齢の女性───組合長が頷く。

 

「城塞都市エ・ランテルの共同墓地からアンデッドの大群が湧き出したらしい」

「なっ」

 

少女が驚きの声を上げる。

 

それに対し少年は目を細める。

 

「それで俺らってことですか」

「その通り。君たちは一度行った事のある場所なら5人まで転移できるというマジックアイテムを持っている。だから先行して騒動の鎮圧を頼みたい」

「ですがエ・ランテルにもミスリル級冒険者チームはありますよね。私たちが行ってももう必要ありませんってなりませんか?」

 

少女が尋ねると組合長は目を伏せて大きく息を吐いた。

 

「まだ確証はないけど死者の大魔法使いが複数───最低でも6体───いるという連絡があった」

「つまり普通のことじゃないってことですか」

「恐らくはズーラーノーンがかつて行ったという邪法「死の螺旋」だと私は思っている」

「死の螺旋って確か都市をアンデッドが蔓延る死都にして蔓延した負のエネルギーを取り込んで自分をアンデッドにする儀式ですよね」

「そうだ。だからこそ君たちに頼みたい。アダマンタイト級と同等かそれ以上であると思われる君たちに」

 

組合長の目は真剣そのものだ。

 

少女は少年を見る。

 

少年は呆れたように息を吐いて頷いた。

 

「代わりと言っちゃなんだけど最低でもオリハルコンは約束してくれ。一々実力を証明していくのは面倒だからな」

「わかった。約束しよう」

 

組合長が頷くと少年は踵を返す。

 

「そうと決まったらとっとと解決しに行くぞ。ステラ」

「そうだね。アルド」

 

少年と少女は笑みを浮かべながら準備をするために宿へと戻っていった。

 

 

 

少し前。

 

「ぬ?」

「あ」

「む?」

「お」

「ん?」

 

マジックアイテムでエ・ランテルに転移した2人はエ・ランテルの城壁の上に出た。

 

まずは上から見て状況を把握しようとしたからだ。

 

そして目の前には死者の大魔法使いが3体。

 

「「・・・・・」」

「「「・・・・・」」」

 

互いに見つめ合いそして。

 

「「雷撃!」」

 

死者の大魔法使い2体が雷撃を放つ。

 

2人はそれを避けてすれ違いざまに剣を抜いて一刀両断した。

 

「馬鹿、な」

 

塵となっていく死者の大魔法使いたちに目もくれずにステラは街の惨状を見て顔を歪める。

 

「酷い・・・」

「思った以上にヤバイみたいだな。数百じゃきかないぞ」

 

アルドは街を見回してその姿を見つけた。

 

「おいおい。嘘だろ。ステラ!死の騎士だ!」

「嘘!?」

 

アルドが指差す先には見覚えのある黒い甲冑の巨人。

 

「あそこにもいるな。あそこにも。何体いやがんだよ」

「ボヤくのは後!早く助ける!」

「はいはい。お前は左半分で俺は右半分だ。雑魚はできるだけ無視して死者の大魔法使い以上を優先。2時間後に共同墓地の霊廟に集合だ」

「わかった!」

 

ステラが飛び出しアルドはそれを見て呟いた。

 

「白か」

 

その直後に白い光が上空を走ったが誰も気づかなかった。

 

 

 

現在。

 

「オオオオオォォォォ・・・!」

「なんだ・・・これは」

 

カジットはただ呆然と生まれでたソレを見上げる。

 

かつてビーストマンの大都市を蹂躙し10万人の犠牲をたった3体で出したという伝説のアンデッド魂喰らい(ソウルイーター)よりも明らかに上位。

 

死の支配者である偉大なる御方に出会っていなければただ恐怖し殺されていたであろう者。

 

「ワレハセカイヲホロボスモノナリ・・・」

 

この様子では支配など到底できそうにもない。

 

「くっ・・・あの御方に連絡を!」

「は、はい!」

 

弟子がスクロールを開き伝言を発動させる。

 

「ニンゲンヨ。ワレニシヲアタエラレルコトニカンシャスルガイイ」

「・・・・お前ごときに殺されることに感謝するなどありえんな。わしらは貴様よりも死の支配者に相応しい御方を知っておるわ」

「ホォ?ソレハキョウミブカイ」

 

ソレは三本指のカギ爪が着いた触手を動かしながら歩き出す。

 

「ソノオカタトヤラガクルマデウエノニンゲンドモヲコロシテイヨウ」

「そのまま帰ってこないでね」

 

黒い空間の歪が出現してそこから黒いローブの少女が現れる。

 

「ナンダキサマハ」

「確か地獄の帝王(ヘルズ・カイザー)かな。レベルは58だからこの世界では破格だね」

「シニタイノカ?」

「アハハ。これでもまだそれを言うのかな」

 

少女がしていた指輪の1つを取った。

 

カジットと弟子たち。そして地獄の帝王は震えた。

 

濃密な死の気配。

 

カジットは死の支配者と同等に感じるがその圧倒的さ故に漠然とした感覚でしか想像がつかなかった。

 

すぐに指輪が戻されて死の気配は消える。

 

「それじゃあ外の人間を皆殺しにしてくれる?事が終わったらあの御方の機嫌次第でシモベにしてくれるかもね」

「カ、カシコマリマシタ」

 

地獄の帝王は跪き頭をたれてそう答えた。

 

自分との圧倒的差を感じ取ったが故に。

 

少女はそれに満足したのか歪の中へと消えていく。

 

「そうだ。キミはこっちね」

「え」

 

カジットの首根っこを少女がつかみそのまま歪へと消えていった。

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

ステラは3体目の死の騎士を倒して息を吐く。

 

完全に塵になったのを確認してからステラは近くにいた骸骨と動死体を倒して周りにアンデッドがいないことを確認して集合場所の霊廟へと向かう。

 

ステラはズーラーノーンの仕業と聞いていたが今はそれに対して疑問を感じていた。

 

死の騎士は伝説のアンデッドとも言われるほどの存在だ。

 

それが自分が見ただけでも5体はいる。

 

そして今までで遭遇した中でかなり上位のアンデッドでもある死者の大魔法使いが6体。

 

これらのアンデッドが生まれたのだとしてもその間である骨の竜や腐肉漁り(ガスト)崩壊した死体(コラプト・デッド)などは見当たらない。

 

人が出来る範疇を超えていると思う。

 

「召喚したとしても数がありえないんだよね」

 

骸骨や動死体などの下位のアンデッドはズーラーノーンが用意したとしてそれより上位の死の騎士や死者の大魔法使いが他の誰かが用意したものであれば辻褄が合う。

 

先日の王都に忍び込んだ影の悪魔の件もそうだ。

 

倒してすぐにこの事件が起きた。

 

だとしたら2つとも裏で繋がっている?

 

これほどの力を持っている存在なんて1つしかない。

 

「なるほどね」

 

ステラはギリっと歯を鳴らして怒りを表した。

 

「元は人間なのになんでこんな酷いことを・・・!」

 

吐き捨てるようにそう呟いた。

 

「何怒ってるんだよ」

 

隣から声がしてそちらに目を向けるとアルドがいた。

 

「この事件には黒幕がいるのかも」

「下位の中でも下の方のアンデッドからいきなり中位に飛んでるんだからそうだろうな」

「多分だけど私たちと同じ存在だと思う」

「ユグドラシルプレイヤーか」

 

アルドの呟きにステラは頷き見えてきた共同墓地を見て目を細める。

 

「人間種じゃなくて異形種。しかもアンデッドのだと思う。じゃないとこんな酷い事はできないよ」

「となると俺と相性はいいな」

「そうだけど、大丈夫?今はアンデッドでも元は人間だよ?」

「悪いことをしたら倒す。ちゃんと割り切ってるから大丈夫だよ」

「・・・・きつかったらちゃんと言ってよね」

「ああ・・・っと、またか」

「死の騎士って一撃で死なないから厄介だよね」

 

軽くボヤきながらステラとアルドは共同墓地から出てきた死の騎士たちに目を向けて魔法を放った。

 

 

 

カシャンっとグラスが砕ける音と共に水が床に溢れる。

 

ワイワイと話していた者たちは押し黙る。

 

静かに楽しんでいた者たちはグラスを置く。

 

「やはり来ていたか・・・!」

 

アインズは眼窩に宿る光を強くして水晶の画面を睨みつける。

 

「い、偉大なる御方よ。あの者たちは一体・・・?」

 

リグレットに連れてこられたカジットはアインズに勧められて座っていた椅子の上から恐る恐る尋ねる。

 

「少女の方は取るに足らん者だが少年の方は我が天敵とも言うべき存在だ」

 

アインズの言葉に守護者並びにリグレットとルベドが画面の向こうの白銀の髪の少年に殺気を向ける。

 

「アインズ様。ご命令があればこのシャルティアがあの小僧を殺して見せましょう」

「ならん。シャルティアとリグレットがあの少年と戦うことは絶対に許さん」

 

シャルティアの申し出をすぐに却下したアインズは手を握り締める。

 

「奴は対アンデッド最高の魔法職であるホーリー・バニッシャー。白銀の聖剣士アルドだ」

 

すなわちアンデッドの最大の天敵。

 

アンデッドであるシャルティアとリグレットでは負ける可能性が高い。

 

「ではセバスまたはコキュートス。もしくは複数人で事に当たれば問題はないのではないでしょうか」

 

デミウルゴスの言葉にアインズは首を横に振る。

 

「奴のギルド「シルバースター」はアンデッドと属性が悪に偏っている者に対しての特攻を持つ者ばかりが集まった我らの天敵だ。この世界に複数人いるということは他にもいる可能性がある。あの2人だけならばルベドを当てれば問題はないだろうがその確証がない今ではより多くの情報を得るために動かなければなるまい」

「じゃあもっと上位のアンデッドを向かわせたほうがいい?」

「いや今回はこのまま見ているだけでいい。吸血鬼の花嫁と影の悪魔たちを回収しろ。証拠は残すな」

「畏まりました」

 

アルベドが頭を下げるとシャルティアに目配せをしシャルティアはそれに対して頷いて返事をする。

 

アインズはそれに目もくれずに水晶の画面を見つめながら数年前の出来事を思い出して睨みつける。

 

アルドめ。あの時の借りは必ず返してやる。

 

 

 

「うわぁ・・・」

「マジか」

 

共同墓地を突き進んでいった先の霊廟。

 

本来であれば2人の集合場所としていた場所にたどり着いた2人は顔を顰めた。

 

そこには3本指のカギ爪が着いた触手を何本も生やした無数の人骨で体が出来た巨大なアンデッド。

 

地獄の帝王がいた。

 

レベル58でありながら帝王の名を冠するそのアンデッドの特殊能力は複数ある。

 

その内の1つには触手を1本生贄にして同等の個体を生み出すという特殊能力がある。

 

本来であれば本体というべき個体のみが持つ特殊能力であるが目の前の光景はそれを裏切っていた。

 

数十にも及ぶ地獄の帝王がひしめき合っていた。

 

しかも今も絶賛増殖中だ。

 

「コロセ!」

「シネェ!」

「ちょっ一斉に来ないで!あんな大量のなんて無理!こっちは魔法中心の剣士なんだから!」

「お前も特攻あるだろ」

「属性が悪に偏ったのにしか特攻がないの!」

 

一斉に襲い掛かってきた地獄の帝王たちの攻撃を避けてステラは第8位会魔法を放ってダメージを与える。

 

そしてアルドはアンデッドに特攻がある魔法を使用する。

 

この後の黒幕との戦いを考えて全力を出さない2人。

 

だが地獄の帝王たちは着々とその数を減らしていった。

 

 

 

地獄の帝王が全て敗れたのを見てからシャルティアは立ち上がった。

 

「では失礼いたしんす」

 

一礼してから部屋を出ていく。

 

「ではアインズ様。私共も情報収集の案をまとめるために失礼させていただきます」

「頼んだぞ」

「おぉ任せを!」

「はっ」

 

アルベドたちも立ち上がるとそう言い残して去っていった。

 

「失礼イタシマス」

「アインズ様失礼します」

「し、失礼します」

 

コキュートスとアウラとマーレも立ち去る。

 

そして残ったのはリグレットとルベドとアインズとメイドたち。

 

「・・・・・」

 

静寂の中でアインズは天井を見上げると呟いた。

 

「クソが」

 

男女が一緒に転移だと?

 

しかも同じ境遇の上で一緒にゲームをしていた仲だぞ?

 

「リア充が。絶対に許さんぞ」

 

あの時。あの日。あの時間。

 

アイテムボックスからある物を取り出して顔にそれをつける。

 

「我が同胞たちの恨み、憎しみ。その全てをその身に受けるがいい・・・!」




ある年の聖夜(地獄)。

アルド「今日はステラとデートだからクエスト無理だわ」
ステラ「ちょっ全世界に誤爆してる!」



「「「アルドコロス」」」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7:掌握

カツリと硬質なものがテーブルを叩く。

 

音の主はアインズその人だ。

 

「急な呼び出しに集まってくれたことにまずは感謝しよう」

「アインズ様からの呼び出しであれば我らシモベは全てを投げ出してでも優先いたします」

「そうでありんすえ。だから感謝などしてくれなんまし」

「は、はい。アインズ様が及びでしたらすぐに集まるのが当然のことですから」

「そうか。だがそれでも私はお前たちの忠義に感謝をしている。こういったものは口にしないと後の不和に繋がるのだ」

 

その言葉

を聞き守護者たちは感動に打ち震え慈悲深き至高の御方に対する忠誠心をさらに一次元上に高める。

 

「お父さん。今日はなんのお話なの?」

 

リグレットが尋ねるとアインズは頷いて告げる。

 

「エ・ランテルの事だ」

 

 

 

カジットは顔を真っ青にしながらそれを聞いて震えだす。

 

ヤルダバオトが告げたのはある意味夢を叶えられずに死ぬ事よりも恐ろしいこと。

 

「我が主はあの者に対して大変お怒りになっております。ですが貴方の有能さにも同じく喜んでもいらっしゃいます。ですので貴方の願いを叶えた後に貴方の母親の皮を剥いでスクロールの材料になるかどうかの実験を行うことをお決めになられました」

 

それは生き地獄。

 

もしスクロールの材料として有用と判断されれば母親を含めた人間は皮を取る家畜となり果てる。

 

「ああ。そんなに震えないでください。回避する方法はあるのです」

「!そ、それはっ」

「エ・ランテルを再び死の都に変えるべくズーラーノーンのトップにお成りなさい」

「そ、そんなこと出来るはず」

 

いや出来る。

 

偉大なる御方のお力を借りることができれば容易だ。

 

「ええ。もちろん貴方ごときが1人で出来るわけがないと分かっていますとも。ですので私の配下の1人をお貸ししましょう。邪魔をする者は全て殺すのです。ただ忠誠を誓う者は殺さずに従えるのです。いいですね?この世の全ての存在は御方の物なのですから」

 

貴方も御方の物なのですよ?

 

ヤルダバオトはそう言い配下として現れたライオンの顔をした───ハオートと名乗る───悪魔を残していった。

 

対峙しているだけであの圧倒的な差を感じ取れる絶対強者とも言うべき存在。

 

これさえ従える者を従える偉大なる御方。

 

まさに偉大。まさに生まれながらの支配者。

 

「ハオート様とお呼びすればよろしいでしょうか」

「ハオートで構わん。敬語もいらんが、これらはあの御方に仕える者がいない前ではという条件付きだ」

「わかった。ではハオート。ズーラーノーンについての説明は?」

「聞いてはいるが教えてくれ。失敗は出来んからな」

 

強者故の驕りを感じない態度。

 

失敗をすればこれほどの存在でさえ命が危ないということか。

 

カジットは息を呑みながら組織について説明をする。

 

その3日後。

 

ズーラーノーンの盟主と呼ばれるトップはアインズのコレクションとして。

 

十二高弟と呼ばれる幹部たちは愚かにもハオートに挑みその半分が殺されて名実ともにカジットを新たな盟主として動き出した。

 

偉大なる御方であらせられる死の支配者のシモベとして。

 

 

 

「あらぁん?もう大人しくなっちゃったのかしらん」

「ゃめて。助けて。許して。助けて。もう嫌ぁ」

 

ナザリック地下大墳墓第5階層・氷結牢獄。

 

真実の部屋にクレマンティーヌはいた。

 

同僚ともなるズーラーノーンの幹部であるカジットへ会いに行ったのが運の尽き。

 

謎の男に気づけば組み伏せられており暴れたり罵詈雑言を言いはなったりして抵抗したがそれがいけなかったようだ。

 

ある言葉を言った途端に男の雰囲気がガラリと代わり意識を奪われた。

 

そして気づけば全裸で全身を拘束されて此処にいた。

 

目の前には6本の触手を持つタコのような頭部を持った膨れ上がった白い体を申し訳程度に革帯で覆った異形がいたのだ。

 

そしてその後ろに1人の毒々しい髪をした少女が立っていた。

 

少女が質問をしたが私が答えないのを見た異形は魔法を使った。

 

魔法をかけられた途端に体を支配されて口が勝手に動く。

 

現状のような状況で質問に3度答えると死ぬ魔法をかけられています。

 

そう答えると少女は眉を顰めると異形に尋ねた。

 

拷問で喋らせられる?と。

 

異形は嬉しそうに頷くと少女は笑顔を浮かべて去っていった。

 

それからどれほどの時間がたったのだろうか。

 

およそ口にも出したくないほどの地獄を味わい私の心はもうズタズタだった。

 

「ニューロニスト」

「!ア、アインズ様」

 

そこへそれは現れた。

 

死の支配者と名乗ったそれと同じ声、同じローブ。

 

違うのは仮面とガントレットをつけていない点。

 

隠されていた白磁の骨が剥き出しとなりさらけ出されている。

 

その姿を見て思わずかの神を思い出しその名を口にした。

 

「スル、シャー、ナ、様」

「スルシャーナか。その名は聞いたことがあるな。確か六大神という600年前に現れた者たちの1人だと聞いてたが」

「全てお話します。だからもう拷問は止めてください。お願いします」

 

もう限界だった。

 

自分が知っている拷問なんて幼稚なお遊びとも言えないほどの凄惨な拷問を休まずに受ける日々はもう送りたくなかった。

 

「いいだろう。ただしお前の持つ情報が私にとって有益なものだった場合のみだ」

 

それを聞いて大いに焦り少しでも情報を伝えようと最重要機密から下らない悩みまで全て曝け出す。

 

荒くなった息を整えながら死の支配者を見る。

 

死の支配者は顎に手をやって考え込んでいたかと思うとおもむろに顔を上げた。

 

「中々に有益な情報だった。感謝しよう」

「じ、じゃあ!」

「まだ喋れる元気があるのならまだ拷問は続けなければならんな」

 

時間が止まった気がした。

 

「やはり漆黒聖典に所属している者は他の者よりも面倒だな。心がまだまだ元気だ」

「も、申し訳ありませんわん。アインズ様。すぐに粉々に砕いて情報を全て吐かせてみせますわん」

「いやそこまではせずとも良い。心が死ぬ寸前までで・・・いや壊れても構わないか。どうせ記憶を見れば質問をする必要もないな」

 

そう言うと死の支配者は私の頭に手を置くと何かの魔法を使用した。

 

しばらくして死の支配者は疲れたかのように息を吐くと踵を返した。

 

「後は好きにせよ」

 

死の支配者が静かに立ち去っていった。

 

異形はそれを頭を下げて見送るとこちらを向いた。

 

その目には明らかに怒りを灯して。

 

「アインズ様ががっかりなさっていたのが分かったかしらん」

 

舌を噛み切って死のうとした時に罰としてやられた磨り降ろし機を手に取る異形。

 

「私の拷問官として力がないと判断されて捨てられたら・・・どうしてくれるのかしらん」

 

あの時は腕をやられた。

 

あの時は怒ってなかった。

 

「とっとと壊れちゃってくれるかしらん」

 

最も敏感な場所に当てられて体が震えだす。

 

「や、やめて。お願い、します」

「殺さずに壊すわん。本当はもっと後でやるつもりだったけどねん」

「ひっ───」

 

水っぽい音と共に女性の苦痛の悲鳴が

響き渡った。

 

それを聞いて助けるものなど皆無。

 

此処は死の支配者が支配する地。

 

死こそが最大の慈悲であるこの地では生きているだけまだマシな方なのだから。

 

 

 

「まだ足りないでありんすね」

「では他の傭兵団を捜して参ります」

 

シャルティアは手を振り自分と同じ真祖(トゥルーヴァンパイア)のシモベを雑に扱う。

 

真祖たちもそれを当たり前のように受け入れて立ち去る。

 

例え同じ種族といえど至高の御方によって創られたNPCとモンスターとは天と地ほどの差がある。

 

しかもシャルティアはNPCの中でも最上位である階層守護者。

 

不満などあるはずもない。

 

「ご、ご主人様。もしよろしければ俺が傭兵どもを」

「黙るなんし。わらわは数を集める為に傭兵たちを吸血鬼に変えているんでありんす。お前が行ったら死体か下位吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)しか出来ないでありんす」

 

シャルティアの椅子になっている青髪の男はその言葉に有無を言わさず従う。

 

シャルティアの周りには吸血鬼の花嫁。

 

その隣にはシャルティア配下の高位のシモベ。

 

そしてそれらを見上げる形で整列している男たちは元傭兵団「死を撒く剣団」であった吸血鬼たち。

 

70弱という数だけでもこの世界では十分な脅威ではあるがシャルティアは満足していない。

 

「少なくともこの10倍は欲しいでありんすねぇ」

 

シャルティアはそう呟きながら爪をヤスリで削る。

 

「あ、あの。シャルティア様」

「なんでありんすか?」

「シャルティア様は。その・・・何をなさるおつもりなんでしょうか」

 

シャルティアは「何でテメェにそれを教えてやらねぇといけねぇんだよ」という言葉を飲み込みその見た目に相応しい少女の顔で答えた。

 

「幸運なことにあの御方に名前を付けられた都市がありんす。その名前に相応しい街に為でありんすよ。だってあの御方が言ったこと全てが───」

 

酷薄な笑みを浮かべて笑う。

 

「───真実なのだから」

 

それを聞いて椅子になっている吸血鬼───ブレイン・アングラウスは息を飲んだ。

 

自分の主が美しすぎて。

 

自分の主よりも上位の存在がおりその存在が名前をつけたというだけで街を1つ変えてしまうということに恐れを抱いて。

 

そしてなにより自分が変えてしまう側にいるという安心故に。

 

 

 

「うーん。やっぱり弱いのしかいないなー」

 

アウラは森の中でフェンに乗りながら周りを見回す。

 

その後ろには大勢のトロールやゴブリン。

 

先頭にはトロールたちよりも体格のいいトロールと胸から上は人間の老人の枯れ細った体でその下は蛇というモンスターのナーガが付いて来ている。

 

「今度はもっと奥に行ってみようかな」

 

アウラはそう決めて中央の方へと向かう。

 

そこでアウラは世界を滅ぼすと言われる存在と対峙する事になる。

 

それによってアインズから褒美として頭ナデナデと創造主ぶくぶく茶釜の声が入った時計を貰うこととなるのは本人もまだ知らない。

 

 

 

「トードマンダト?」

「はい。湖の北に生息する者たちです」

「フム・・・」

 

コキュートスはアウラが見つけた蜥蜴人に興味を抱きいくつもの部族に分かれていたのを全て統合した。

 

強者こそ全てという価値観が功を奏し死者はいない。

 

「強イノカ?」

「トードマン自体はそれほど強くはないのですがモンスターなどを飼育しているので厄介なのです」

「ソウカ。デハソチラニモ行コウ」

 

コキュートスは数人の部下と案内役の蜥蜴人を連れてトードマンがいる北へと向かう。

 

そして数日とかからずにトードマンたちも従えて戻ってくることになる。

 

 

 

「各守護者からの報告は以上となります」

 

アルベドから報告を聞いたアインズは頷いて次の指示を出す。

 

「カシンコジを10体ほど王都に向かわせて情報を集めさせろ。特に白銀の聖剣士の仲間の情報をだ」

「畏まりました。次にナザリックから投入する戦力ですが骸骨2000体、動死体2000体の計4000体ほどでよろしいでしょうか」

「そうだな。そのくらいが丁度よかろう。皆の準備はいつ頃に終わりそうだ?」

「アウラは既に完了しています。シャルティアは数を揃えるだけでさほど時間はかからないでしょう。デミウルゴスとコキュートスはほぼ完了していますが変化による動揺を収めるのを考えますと1ヶ月ほどかかるかと」

「1ヶ月か。思ったよりも長いな」

「お望みでしたら今すぐにでも計画を実行に移します」

 

アルベドの言葉にアインズは首を横に振る。

 

「構わん。急いだ故に失敗しては目も当てられんからな。それに情報も時間をかけたほうがより多く手に入るだろう」

「はっ・・・」

 

アルベドは頭を下げてからさらにいくつかの報告をすると部屋を出て行った。

 

「しかし少し調べただけで名が出てきたな。場所が違うだけだったか」

 

1年前に流星の如く現れた冒険者チーム「白銀」。

 

そのメンバーは人間が2人。

 

白銀の髪を持った少年と同じく白銀の髪を持った少女。

 

冒険者登録をしたのはアーグランド評議国。

 

評議国は複数の亜人が暮らしており人間はほとんどいないらしい。

 

その為に冒険者もほとんどが亜人であり当初は人間などと馬鹿にしていた亜人が多かったが今はその声もほとんど聞かないようだ。

 

まずは白銀が銅になったその日に喧嘩を売ってきた格上───白金級───の冒険者を殴り飛ばして倒した事。

 

そこからは地道に依頼をこなしていっていたようだ。

 

荷運びの依頼で行った評議国の海に面した都市で襲撃してきた巨大烏賊(クラーケン)の群れを殲滅をして飛び級でミスリル級に昇格。

 

この時点で何かしらの問題───恐らくプライドが高い亜人からの文句───が起きたのだろう。

 

拠点をリ・エスティーゼ王国の王都に移して不明瞭だがギガントバジリスクを2人で討伐や未踏地のダンジョンを踏破したなどの偉業───この世界視点では──を成しながらを過ごしていたようだ。

 

そして先日のエ・ランテルの事件でアダマンタイトへと昇格した。

 

アインズは舌打ちをして不快感をあらわにする。

 

白銀の情報はそれなりに集まったがあくまでそれは白銀についてだ。

 

ギルド「シルバースター」の情報は全くない。

 

評議国に影の悪魔を向かわせて捜索させてはいるがナザリックのようにギルド拠点と共に転移してきた可能性を考えていたがそれらは未だに見つかっていない。

 

拠点なしでプレイヤーのみで転移してきたのか?

 

それを考えると白銀の仲間も出会っていないだけでこの世界に転移してきている可能性もある。

 

そしてそれは此方にも言えることだ。

 

たっち・みー。

 

ウルベルト・アレイン・オードル。

 

ぶくぶく茶釜。

 

ペロロンチーノ。

 

ぷにっと萌え。

 

「ん?」

 

ぷにっと萌えとアルド。

 

これで何かあった気がする。

 

確か・・・。

 

アインズは記憶をさかのぼり少し考えて思い出した。

 

「そういえばそうだったか」

 

その時のことを思い出してアルドへの別の借りを思い出す。

 

「私たちが見つけた隠し鉱山を奪ってくれたんだったな」

 

あの時のギルメンの怒りは凄まじかった。

 

ぷにっと萌えさんは「既にあらかた掘り尽くしたからまぁいいんじゃないかな」とは言っていたが悔しそうにしていたのは丸分かりだった。

 

あの後で七色鉱で作ろうと思っていたものを別の素材で代用したこともあった。

 

とある事故によって七色鉱が足りなくなったのに手に入れることもできなくなった。

 

吹き出すようにどんどんと記憶が蘇っていく。

 

それらを思い出してアインズはほくそ笑む。

 

これで借りが2つになったな。

 

「アイテムの恨みはしつこいぞ」

 

お前も奪ったのだからこちらも奪ってもいいよな?

 

「その時が楽しみだ」

 

アインズは楽しそうにそう呟きその時を夢想する。

 

ああ楽しみだ。とても楽しみだ。




ステラ「独り占めはよくないよ!」
アルド「じゃあ永劫の蛇の腕輪を使って鉱山を奪い取って採掘して売るか。運営おねがーい」
運営「はーい」
ステラ「え!?」
アルド「アイツ等十分に持ってるだろうし売る時はアイツ等に売らないように言わないとな」
ステラ「ちょっと待って!?」


アインズ・ウール・ゴウンの面々
「「「シルバースター許すまじ!」」」




鉱山を奪い取ったギルドが彼らというのは完全に捏造です。

アインズと彼らとの確執は本当はこっちにしたかったんです。

でも、リア充死すべしの方が面白いかな?と思いこちらを追加で加えました。

こっちがメインにした方が良かったと後悔しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8:ビーストマンと竜王国の女王

少し残虐描写がありますので、苦手な方はご注意を。


竜王国。

 

スレイン法国の東にある人間の国である。

 

かつて七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)が作った国であり、現在の王は女王ドラウディロン・オーリウクルス。

 

七彩の竜王が人間との間に子供を作った結果の曾孫にあたりドラウディロンは黒鱗の竜王(ブラックスケイル・ドラゴンロード)と呼ばれたり真にして偽りの竜王とも法国では呼ばれている。

 

竜王の血が流れてはいるが戦闘能力は一般人と同じであるが為に戦いには参加していなかった。

 

そして竜王国には国を揺るがすほどの問題があった。

 

それは隣国であるビーストマンの国から侵略だ。

 

ビーストマンは人間を喰う。

 

ビーストマンにとっては人間の国である竜王国は食料が群れている絶好の狩場と言うべき場所なために侵略が行われているのだ。

 

しかも、ビーストマンの最低戦闘力は人間のおよそ10倍であり竜王国のみで対応すると被害は甚大。

 

その為、竜王国は密かに法国から陽光聖典と呼ばれる秘密部隊を派遣してもらい侵略を防いでいるのだ。

 

 

 

「というわけでビーストマンを従えに来たよ」

 

夜。

 

リグレットは寝巻き姿のドラウディロンにそう告げた。

 

「・・・・は?」

 

ドラウディロンは間抜けな顔と声を晒すがリグレットは無視して続ける。

 

「キミはビーストマンが邪魔。私はビーストマンが欲しい。WinWinって奴だね」

 

リグレットは指を2本立てるとピコピコと動かす。

 

「は?」

 

ドラウディロンは全く理解できずに口を開いたまま間抜けな声を出す。

 

「でもこっちはビーストマンじゃなくてもいいんだからビーストマンを貰うっていうだけじゃ割に合わないんだよね。だからお金とか色々貰ってもいいかな」

「お前は何を・・・」

「質問は無し。返答だけ聞くよ」

 

ドラウディロンは今の現状を思い出す。

 

陽光聖典を派遣してもらった事でアダマンタイト級冒険者チーム「クリスタル・ティア」を別の場所へ動かせるようになったために例年通りの対応となっている。

 

だが今年の侵略は例年とは違い様々な部族が別々の場所から侵攻してきているために人手が足りておらず多くの民が犠牲となっている。

 

「色々の中身次第だ」

 

ドラウディロンはリグレットにそう言うとリグレットは目を細めて要求を告げた。

 

「竜王国の全財産の90%と食料80%。後は竜王であるキミかな。お金と食料は無理そうだったら要相談だね」

 

それを聞いてドラウディロンは相手の狙いが自分だと知って笑う。

 

「ハハハハハ!私が狙いか!そうかそうか!」

 

ドラウディロンは大笑いすると大きく息を吐いた。

 

「ビーストマンを何とかしてくれたら私の命だろうとなんだろうとくれてやる」

「契約成立、だね」

 

リグレットは笑いそしてとある物を取り出した。

 

 

 

竜王国・東

 

「えーと。確か魂食い(ソウルイーター)3体で10万人が死んだんだってね」

「そのようです」

 

リグレットは補佐として連れてきた影の悪魔(シャドウ・デーモン)に聞いて肩をすくめた。

 

「あんな雑魚に10万って弱すぎるね。これならどうなっちゃうのかな?」

 

リグレットは後ろに控える面々を見てほくそ笑む。

 

レベル50程度の骨の剣王(ボーン・ソードマスター)50体。

 

それを乗せる同数のレベル40程度の魂食い。

 

「リグレット様。今回は殺戮ではなく征服なのでそのような事は・・・」

「分かってるよ。ちょっと気になっちゃって・・・早く終わらせて帰ろっか」

 

リグレットは魂食いに飛び乗ると骨の剣王を御者代わりにして進みだした。

 

「話し合いをしに行こうか」

 

 

 

ビーストマンの軍勢は今大混乱に陥っていた。

 

例年とは違い部族ごとに別々に行動して人間の村や街を襲って食事をしていた。

 

いつも通り人間を食べていると1つの部隊がこちらへ向かってきていると警戒している部隊から連絡が来た。

 

数は50。

 

少数精鋭できたのかと勘繰り部族全員に臨戦態勢で迎え撃つ様に指示があった。

 

そして万全の状態で迎え撃ったところ。

 

部族全員の体が凍りついた。

 

魂食い。

 

それが50体。

 

その上にスケルトンのようなアンデッドもいるし先頭には黒いローブを来た何かも乗っていた。

 

震えガチガチと歯が鳴り今にも逃げ出さんとばかりの状態。

 

少し離れた場所でその部隊は止まり黒いローブの何かの声を張り上げて告げる。

 

「ちょっとお話があるんだけどー!1番偉い人を出してくれないかなー!」

「お、お前の目的は何だ!」

 

部族の指揮官の1人が怯えを隠さずに叫ぶ。

 

魂食いと言えばかつてビーストマンの大都市に3体だけ出現した。

 

その結果が死亡者10万という大惨事。

 

その都市は今は放棄されて沈黙都市と呼ばれて誰も立ち入っていない。

 

魂食いはビーストマンの恐怖の対象なのだ。

 

それが───少し離れてはいるが───目の前に50体もいるのだ。

 

怖いはずがない。

 

「だからお話するだけだってー!」

 

何かはそう言うと魂食いから降り立つ。

 

「そっちの偉い人とお話したいだけだってー!」

「わ、分かった!少し待て!」

 

指揮官が慌てて踵を返す。

 

その背中に理不尽な言葉が降りかかると全力で走り出した。

 

「分かったー!じゃあ10秒だけねー!じゅーう!」

 

歴戦の猛者ですら震え上がるが逃げない。

 

「きゅーう!」

 

恐ろしすぎて逃げることすら忘れてただただ震える。

 

「はーち!」

 

地獄があれば今まさに目の前にあるのだろう。

 

「・・・・飽きた!ぜろ!全員とっつげ───」

「待ってくれ!」

「───ん?」

「ぶ、部族長・・・」

 

部族長が現れて何かは首を傾げる。

 

「俺は部族長のガイラス!この場にいるビーストマンたちで1番偉い者だ!」

 

何かはじっと部族長を見ると納得したかのように頷いた。

 

「じゃあキミでいいや。はいはい。早くこっちに来て」

 

手招きする何かに部族長は従って歩き出した。

 

そして何かの目の前に行くと何かを話し始めた。

 

 

 

「私たちは死の支配者様の遣いだよ」

「死の支配者・・・なるほど」

 

ガイラスはリグレットの後ろにいる化物たちを見て納得する。

 

「あれが幻覚ではないという証拠はあるのか?」

「触ってみなよ」

 

ガイラスはリグレットの言葉に顔をしかめるがリグレットは気にせずに手招きをして魂食いを呼ぶ。

 

「き、危険はないのか?」

「ハハハ。完全に支配下に置いているから安心だよー」

 

魂食いが目の前に来たガイラスは震えながら意を決して魂食いに触れる。

 

魂食いは不快そうに首を横に振ったのでガイラスはそれ以上触らずに手をおろした。

 

「何が目的だ」

「ビーストマンは死の支配者様の絶対服従すること。竜王国にはもう攻め込まないこと。じゃないと死の支配者様の軍勢がビーストマンの国を攻めることになるよ」

 

ガイラスはリグレットの後ろのアンデッドたちを見てから鼻で笑った。

 

「それが脅しになると思っているのか?我々にはゴーレムがいる。ゴーレムを使えば魂食いどころかその上に乗っているスケルトンも一撃で倒せるんだ。我々を殺してもそちらが負けるという結果は変わらんぞ」

 

ガイラスは一世一代の賭けに出た。

 

魂食い50体など大戦力も甚だしい。

 

恐らくは持てる最大戦力を投じて自分を大きく見せようとする目論見なのだと。

 

ビーストマンが持つゴーレムを使えば魂食いもそれに乗るスケルトンのようなアンデッドも一撃で木っ端微塵となるだろう。

 

だから最大戦力を滅ぼされたくなければ帰れ、と。

 

そう言ったつもりだったがリグレットは呆れたように息を吐いた。

 

「やっぱりこんな雑魚じゃ駄目じゃん」

 

そう言うと刀身も柄も全てが真っ黒な剣を取り出すと自分の影を突き刺した。

 

「ギャアアァァァァ・・・ァ・・・ァ・・・」

 

影から鋭い爪を持った細い腕が2本出現し断末魔の叫びが上がるがすぐに霧となり消え去る。

 

「難度150」

「え?」

 

ガイラスが呆けているとリグレットが呟いた。

 

「魂食いは難度120。それに乗っているのは難度150。伝説と言われているアンデッドはそれくらいなんだよ」

 

難度とは人間が使う強さの指標のようなものだ。

 

人間の大人の男が3でビーストマンの大人の男が30。

 

難度が30違えば絶対に勝てないと言われていると聞く。

 

それを聞いて魂食いは普通のビーストマンでは勝てない理由がわかった。

 

だが魂食いに乗るスケルトンは魂食いでは絶対に勝てない存在だという事実も露見した。

 

「ば、馬鹿な。ありえん。そんな事が・・・」

「そしてあんなのは死の支配者様にとってゴミでしかない。時間と死体があれば幾らでも作れる程度のね」

 

ガイラスは信じたくもないが信じるしかなかった。

 

目の前の光景がそれを事実と語っているのだ。

 

魂食いが50体などという馬鹿げた戦力を誰にも知られずどうやって集めたのか。

 

そしてそれを支配下に置く事。

 

人間が使う召喚という魔法で召喚したモンスターは召喚者に従順らしい。

 

ならば生み出したのであれば従順なのは言うまでもない。

 

何かのマジックアイテムなのかもしれないがそれでも最低でも目の前の光景を再現することが可能だ。

 

「それで。あれがもっと強いのね」

 

リグレットが上空を指差す。

 

ガイラスはその指差す先を見て絶句する。

 

蒼い馬に乗った禍々しい半透明の騎士が空に浮かんでいた。

 

何故今まで気づかなかったのかが分からないほどに圧倒的な存在感と実力を感じる。

 

幻術などというものではありえない。

 

例え幻術だとしてもこれほど現実に近いものを作り出せる存在が相手側には居るということ。

 

勝てるわけがない。

 

「お、俺では決められない。だが国に戻って上層部に議題として提出する。必ず説き伏せてみせる。だから我々の命を取らないこととあの騎士の情報を教えてくれ」

「ふーん・・・まぁいいや。いいよ。教えてあげる」

 

リグレットの口から語られたのはガイラスが絶望するのは早すぎたという事実たち。

 

魂食いは最高位ではなく中位のアンデッド。

 

魂食いに乗るのは中位のアンデッドである骨の剣王。

 

そしてあの騎士は上位のアンデッド。

 

「それじゃあ証明のために魂食いを1体連れて行っていいよ」

「えっ」

 

ガイラスは信じられないかのようにリグレットを見るがリグレットは魂食いに乗っている骨の剣王に降りるように指示して魂食いを残して踵を返す。

 

「死の支配者様は待つのが嫌い。1ヶ月後に返事を聞きに来るよ。その間は竜王国を攻めないこと。約束を破ったり返答次第では・・・ね?」

 

リグレットはそう言い残して走り去っていった。

 

残されたガイラスと魂食いはそのまま動かずに数分間立ち尽くしていた。

 

 

 

そして一ヶ月後。

 

ビーストマンは竜王国から消え去り、女王ドラウディロンも霞のように消え去った。

 

その後の竜王国の指導者には宰相であった男がなることになるのだがそれにはまだまだ時間がかかることになる。

 

 

 

ビーストマンの国の王とドラウディロンは豪華な一室で並んで跪きながら震えていた。

 

黒いローブの少女に連れてこられたこの部屋に来るまでに見た神々が住まう宮殿のような見たこともない素晴らしく美しい廊下だった。

 

そこを行き交うメイドたちも絶世といってもいいほどに美しく所作も素晴らしいものだった。

 

そして案内された一室。

 

見たことも聞いたことのない1体で種族全てを滅ぼせるのではないかと思うほどの屈強なインセクト2体が守る豪華な扉。

 

そこに居る存在を見て2人は震えだした。

 

元は侵略する側とされる側。

 

ドラウディロンはビーストマンの国王───バルトを許さないしバルトも部下を殺されていて許すつもりはない。

 

だが2人はそれすら忘れて震えていた。

 

2人は同じ側に立つ者であり、この地を支配する者はその対岸にいる者なのだ。

 

「面を上げよ」

 

それが口を開いた。

 

だが恐怖で体は動かない。

 

「面を上げよ」

 

2度目。

 

イラついたような声に2人は弾かれた様に顔を上げてその存在を見つめる。

 

闇をそのまま切り取ったような黒いローブ。

 

純白の人間の骨格。

 

何もない眼窩には血の様に真っ赤な光を宿す。

 

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)

 

いやそんな下等な存在ではない。

 

「我は死の支配者。名はアインズ・ウール・ゴウン」

 

重苦しく威厳のある声。

 

人間のような知性ある者の声だがそれ故に恐ろしい。

 

まず間違いなく伝説や有名なアンデッドなど数万いようが滅ぼし尽くせる。

 

いやそれらすら一目見て従うことを願う死そのもの。

 

まさに死の支配者。

 

「私はな。世界が欲しいのだよ」

「世界、ですか」

 

ドラウディロンは声を絞り出す。

 

そうしなければ死を与えられる。

 

そう思ったが故に。

 

死の支配者は頷き頬杖をつく。

 

「お前たちは夜空を見たか?」

「夜空・・・」

「美しいだろう」

 

確かに美しい。

 

だがそれがなんだというのだろうか。

 

バルトとドラウディロンは困惑しているとそれを察したのか死の支配者は語った。

 

「私が生まれた場所では空も海も何もかも全てが見えない。外を出歩くのも専用のアイテムがなければ肺が腐る死の世界だったのだ。だがひょんなことでこの場所に来て驚いた」

 

空も海も見たことがなかったのだ。

 

死の支配者はそう呟くと2人を見る。

 

「我が居城は素晴らしかったか?」

「は、はい!まるで神々の宮殿かのように見事なものでした!」

「我がビーストマンに伝わる伝説の宝物庫をも上回る美しい場所です!」

 

死の支配者は満足そうに頷くと続ける。

 

「お前たちが当たり前と思っている夜空はお前たちが我が居城を美しいと思ったように。私は素晴らしく美しいと思ったのだ。だからこそ欲しい。この世界が。その為に我が名をこの世の全てに刻み込み忘れさせん。この世の所有者は私なのだと思い知らせるのだ」

「だからこそ力が居るんだよ。様々な国や竜王とか知らない事が沢山あるからね。キミたちは情報源であり戦力でもあるんだよ」

 

連れてきた黒いローブの少女はそう言うと近くにあったテーブルに座りローブを脱ぐ。

 

毒々しい紫色の髪の絶世の美少女。

 

そして対面に座るのは全てが白の絶世の美女。

 

「だからこそ。お前たちは実に有用な存在なのだ。人間の国の王と亜人の国の王。人間の世界と亜人の世界の情報が手に入るのだからな」

 

笑った気がした。

 

人間の頭蓋骨で皮も肉もない顔で表情などわからないはずなのに。

 

ドラウディロンは竜の血が入っている為なのか、そう感じた。

 

事実、死の支配者は笑っていたしこれから彼女は特別待遇でシモベとなる。

 

そして今後も彼の役に立つだろう。

 

重要な情報源となり貴重な戦力。

 

始原の魔法(ワイルド・マジック)の使い手として・・・。

 

 

 

ドラウディロンとバルトを下がらせた後、アインズは尋ねる。

 

「どうだった?私の演技は」

「素晴らしかったですわ!アインズ様!」

 

執務室の奥からアルベドが飛び出てきてアインズに抱きつく。

 

「あ!アルベドずるい!私も!」

「・・・!」

 

リグレットとルベドも抱きつきアインズは軽く息を吐く。

 

「8分の1とは言え竜王の血を引く人間とゴミにしか感じないビーストマン共。人間と比べたら圧倒的に強いからビーストマン共は良しとしよう」

 

所詮は捨て駒としか考えていない者たちのことなどこれ以上考えても無駄だ。

 

「コキュートスとデミウルゴスの準備は終わったか」

「既に」

 

アルベドは一瞬で顔を引き締めてアインズから離れると頭を下げて報告する。

 

「そうか。では始めるとしよう」

 

紅い光が強くなり告げる。

 

「私の土地を返しにもらいに行こう」

 

死の支配者には最早慈悲などない。

 

敵は動けずただただ歯を食いしばり、拳を握って眺めているだけしか出来ない。

 

死の支配者を止められる者はいない。

 

全てはアインズの思うがままとなる。




ビーストマンに関しては全て捏造となっております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝:白銀の英雄たち

時系列的には「6:都市蝕む死と白銀の刃」の数日後となります。


リ・エスティーゼ王国王都リ・エスティーゼ。

 

総人口900万人と言われる国の首都であるこの都市は古き都市と言えば聞こえは良く古めかしいだけのしょぼくれた都市と言えばその通りという変化のないつまらない都市だ。

 

古く無骨な家々が並ぶ通りを白銀の髪の少年が歩いていた。

 

先日のエ・ランテルの事件でアダマンタイト級へと昇格を果たした冒険者チーム「白銀」のアルドだ。

 

そんなアルドの周りには老若男女問わず人だかりが出来ていた。

 

「アルド!昨日は荷物持ってくれてありがとよ!」

「気にすんな」

「アルドちゃん。これ持って行きなさい」

「ありがとよ」

 

様々な人が裏のない好意を寄せる人物。

 

それがアルドだった。

 

本人は不器用ながらも優しく、裏通りで死にかけていた少女を救い犯罪組織「八本指」の娼館も潰したことからとても人気である。

 

そしてもう1人。

 

「ステラお姉ちゃん。はいこれ!」

「花冠だね。ありがとう!」

「お姉ちゃんきれー!」

「ありがとう。サーニャも綺麗だよ」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

 

同じく「白銀」であるステラもそうだった。

 

ステラは少々子供っぽい所があるものの裏表がなく正義感溢れる少女だ。

 

弱きを助け強きを挫くを地で行くような性格でありながら彼らを何とか更正させようとする甘さとも言える慈愛を持っている。

 

本人は秘密にしているつもりだが病人や怪我人を無料で治療をしているというのは周知の事実であり教会も彼女の人柄を知っているので黙認しているというほどに人気である。

 

 

 

「2人の都市での評判は以上です。リグレット様」

「・・・・」

 

リグレットはカシンコジの報告を聞いて息を吐いて思う。

 

反吐が出る。

 

人間が人間を助けるのは別に構わない。

 

同族や仲間を助けるのも理解できる。

 

だが思わず体が動いただとか必要であったのならの話だ。

 

仲間を助ける。

 

確かに仲間は助け合わなければならない。

 

同族を助ける。

 

確かに見捨てたら酒がまずくなる。

 

だがあの2人はなんだ?

 

自分たちは正義の味方だとでも言うのか?

 

自分たちは清廉潔白だとでも言うのか?

 

私たち異形種を排斥していたくせに。

 

ああ。殺したい。

 

リグレットはどす黒い殺意を覚えるがそれを酒と共に飲み込む。

 

お父さんの命令がない限り私は動くことはしない。

 

私はナザリック地下大墳墓の支配者の娘なのだから。

 

「それじゃあ。次は交友関係をお願い」

「はっ」

 

 

 

「あーと・・・どこだ?」

「こっちだこっち!」

「アルド。あそこだよ」

 

アルドとステラは王都で最高級の宿に来ていた。

 

かなり高額な滞在費を払えなければ止まることの出来ない宿でここに泊まっているのは上位の冒険者か大商人と呼ばれる裕福な者たちくらいだ。

 

周りの上位の冒険者からは羨望の目で見られている。

 

それもそのはず彼らは最高位であるアダマンタイト級なのだ。

 

そしてそれは2人を呼んだ者たちも同じだ。

 

「まあ座れや」

「やっぱりテーブル1つじゃ7人じゃ手狭だろ。もう1つテーブルを持ってきてもらえよ」

「同意」

「拒否。ステラと自然に触れ合えない」

「すいません!テーブルを1つ貰えますか!?」

 

手をわきわきする女性にステラが大慌てで従業員にお願いする。

 

それを見て女性は謝る。

 

「ごめんなさいねステラちゃん。後できつく、きつーくっ言い聞かせとくから」

「お願いします・・・」

 

持ってきてもらったテーブルを並べて2人はようやく席に着いた。

 

先に居たのは5人の女性たち。

 

アダマンタイト級冒険者チーム「青の薔薇」だ。

 

先ほどステラに謝ったのがリーダーであり神官剣士のラキュース。

 

手をわきわきしていた女性が忍者のティア。

 

それと瓜二つの容姿をしているのが同じく忍者のティナ。

 

最初の方で2人を呼んだ男のような女が戦士のガガーラン。

 

そして最後に一言も発していない小さいのが魔法詠唱者のイビルアイだ。

 

「えーと。まずは呼んでいただきありがとうございます」

「気にすんな。今日はお前らのアダマンタイト昇格のお祝いなんだからな。今日は俺らの奢りだ。好きに飲め!」

「じゃあまずは1番高い酒で」

 

丁寧にお礼を言うステラに豪快に笑うガガーランと遠慮なく一番高い酒を頼むアルド。

 

「ちょっアルド!」

「気にすんなステラ!好きに飲んで食えや」

「そうよステラちゃん。今日は貴方たちが主人公なんだからじゃんじゃん頼んじゃって!」

「そ、それじゃあ・・・遠慮なく」

 

ステラは恐縮しながら料理と飲み物を頼む。

 

青の薔薇の面々も注文してすぐに飲み物が来て全員に行き渡る。

 

「それじゃあ、チーム「白銀」のアダマンタイト級昇格を祝って・・・乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

 

ラキュースの音頭に全員が乗り一斉に飲んで来た料理を食べ始める。

 

途中で雑談や戯れ───主にティアによるセクハラ───などを交えながら祝宴は進み全員の腹が膨れた頃。

 

「それでエ・ランテルでのお前たちの見解はどうなんだ?」

 

イビルアイの言葉で一瞬で表情を切り替えた面々はアルドとステラの言葉に耳を傾ける。

 

「黒幕が居ると思っています」

「黒幕?」

「・・・・死の騎士って知っていますか?」

 

ステラの問いにイビルアイは頷いて答える。

 

「知っている。難度100を超える伝説のアンデッドだ」

「それが12体いました」

「なに?」

 

ステラの言葉にイビルアイは付けている仮面の下で眉をひそめる。

 

「おいおい。そりゃやばいじゃねぇか。それでどうしたんだよ」

「全部倒しました」

「流石ね。でもそれがどうしたの?死の螺旋を使ったというのなら伝説のアンデッドが生まれても不思議はないんじゃないかしら」

 

既に合同で依頼を受けてその実力を目の当たりにしたからこその冷静さ。

 

そしてプレイヤーだと打ち明けた時にイビルアイから語られたプレイヤーの実力を知らなかったら嘘だと思って何かと時間がかかっていただろう。

 

「居たのは骸骨や動死体や集合する死体の巨人とかの下位のアンデッドだ。それ以外では死の大魔法使いと死の騎士だけどよ。その間の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)は一切見当たらなかった」

「つまり?」

「死の大魔法使いと死の騎士は少なくとも自然に生まれたものじゃなくズーラーノーンに与えた奴がいる。しかも死の大魔法使い24体に死の騎士12体をだ」

「・・・・」

 

青の薔薇は驚愕の表情で固まる。

 

死の大魔法使いは迷宮の主と言われる───一般的に知られる中では───最高位のモンスターだ。

 

そして死の騎士は自分たちを超える英雄級の実力を持つ伝説のアンデッド。

 

迷宮の主を24体と伝説のアンデッドを12体与えた存在がいる。

 

一国を滅ぼすのならともかく都市1つ滅ぼそうとするためだけに与えるなど有り得ない。

 

「それでお前たちにはその相手の検討はついているのか?」

「幾つかは検討がついてます。その中でも最悪なのが2つ」

「それは誰?」

「そいつたちの情報を探る」

「それは・・・」

 

ティアとティナの言葉にステラは目を伏せる。

 

アルドはそれを気づきながら無視して告げる。

 

「やめとけ。死ぬだけだ」

「何故?」

「検討が付いてる連中は全員が最低でも難度300。魔法詠唱者なら全員が第10位階のさらに先にある超位魔法を使える連中だ」

「何を言って・・・」

「私でも知らない魔法があります。それに知っているものでも一撃で国を滅ぼせる魔法もあるんです」

「そんなことが・・・」

「あるんだよ」

 

アルドの言葉にラキュースは絶句する。

 

そんなものがあるのなら、そんなものを使える存在が非道の限りを尽くしたら世界はどうなってしまうのか。

 

その中でも最悪と呼ばれるものが2つ。

 

それを尋ねようとイビルアイが口を開いた時にステラは呟くように言った。

 

「・・・・「黄泉」の伊邪那美です」

「よみ・・・」

「いざなみ・・・」

 

アルドは仕方ないといった風に息を吐くとステラの言葉を補足する。

 

「その伊邪那美って言うのは女なんだけどな。マナーが何かと悪い奴らを統率して俺たちの世界を荒らしまわっていたんだ」

「なるほどな。魔法云々は信じられないが・・・いざなみとかいう奴は危ない奴だというのはわかった。それでもう1つはなんだ」

 

イビルアイがそう言うとアルドは眉を潜める。

 

「伊邪那美は危ない奴という意味で最悪だ。だけどなもう1つは敵に回したら最悪も最悪。確実に俺らも含めてこの世の全てを根絶やしにできる奴だ。伊邪那美の奴でさえ手を出さなかった位のな。そいつらの名は「アインズ・ウール・ゴウン」。リーダーの名はモモンガだ」

 

 

 

「へぇ。人間にしてはいい評価をするね」

「まさにその通りかと」

 

リグレットは聞こえのいい───私見が入ってはいるものの───報告を聞いて少し機嫌を直す。

 

「他にはいるのかな?」

「もちろんでございます」

 

 

 

「それでそれで?」

「あ、えーと。じゃあ次はダンジョンに潜った時にですね」

 

リ・エスティーゼ王国王城ロ・レンテ。

 

その城内にあるヴァランシア宮殿の1室。

 

ステラは金髪のとても美しい少女に詰め寄られていた。

 

この少女こそリ・エスティーゼ王国第3王女であるラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフだ。

 

奴隷廃止や冒険者組合の改革などの画期的なアイデアで「黄金」と呼ばれて王国民から絶大な人気がある。

 

今や「白銀」はそれ以上の人気が出てはいるのだが本人たちはそれを知らない。

 

「ごめんねステラちゃん。ラナー。ステラちゃんが困ってるから落ち着きなさい」

「むぅ・・・分かりました」

 

ラナーは膨れっ面になりながら椅子に戻った。

 

 

 

「あ。それはそこで十分だよ」

「はっ・・・」

「自慢話なんて興味ないからね。それで他には?」

「ガゼフという人間とも交流があったようですが既に死亡しているので除外いたしまして・・・多くの人間たちと交流があるようですが特に親しいのは「青の薔薇」と第3王女くらいのものかと」

「そう・・・じゃあ弱点になりそうなのは無かった?」

 

カシンコジは少し考えてから報告する。

 

「アルドの方はステラかと。月に1~3度ほどですが交尾もしているようです」

「へぇ・・・それは面白いことを聞いたね。それでステラの方は?」

「人間かと。人質を取られたら動けなくなったのを見かけましたので。性格から察するに子供の方が効果的かと思います。詳細はこちらに」

「ふむふむ。子供か」

 

リグレットは楽しそうな笑みを浮かべながら報告書を受け取る。

 

「因みに今現在の行動ですが・・・アルドは帝国へ。ステラはトブの大森林へ依頼で赴いています」

「分かった。ありがとう。それじゃあ監視に戻っていいよ。個人的なお願いを聞いてくれてありがとう」

「勿体無きお言葉」

 

カシンコジが去った後でリグレットは楽しそうに報告書を見る。

 

「・・・・はっ全く反吐が出る正義っぷりだね」

 

リグレットは不機嫌そうに呟くと報告書を持って父の元へと向かう。

 

今現在進行している完璧な計画をより完璧にするために。

 

娘は父の為に動くために。




かなり短めにまとめました。

書いていて精神がガリガリ削られるので。



2人は青の薔薇に会った初日に異常な強さを感じ取ったイビルアイに問い詰められてプレイヤーだと明かしました。

そしてイビルアイのプレイヤーの知識を補完しつつ、その知識は青の薔薇と共有されています。

何やかんや合って現地の実力者と仲良くなるのって異世界転移主人公っぽいですもんね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9:支配

少し時間を遡って3週間前。

 

バハルス帝国帝都アーウィンタール。

 

鮮血帝と呼ばれるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスによって統治されているバハルス帝国の首都である。

 

中央に皇城があり放射線状に大学院や帝国魔法学院、各種行政機関などの重要施設が広がっている。

 

そして皇城の執務室でジルクニフは高級な純白の紙に丁寧に封された手紙とも言うべき物を読んで眉を顰めていた。

 

その他にも帝国最強と名高い帝国四騎士や人類最高の魔法詠唱者と名高い第6位階魔法の使い手フールーダ・パラダインやロウネ・ヴァミリネンを含む秘書官たちもいる。

 

「なんだこれは」

「わかりません。冒険者組合に届けるように依頼があったというだけしかわかっていません」

 

ロウネがそう答えるとジルクニフは鼻を鳴らして手紙をテーブルに放り投げる。

 

手紙の内容は要約するとこうだ。

 

エ・ランテル周辺の土地をくれるなら戦争に力を貸す。

 

拒否すれば帝国じゃなく王国に力を貸す。

 

3日後にそちらに使者を送るので回答はそれに。

 

「差出人は・・・「よみ」のいざなみか。聞いたことは?」

「ございませぬな」

「私もです」

 

部屋にいる全員が首を横に振る。

 

「だろうな。恐らくは南方の者だろうが情報が少ないな」

「魔法で見つけ出そうとしましたが何かしらの対策をされているのか見つかりませんでしたぞ。いやはや何者なのやら。もし私を超える魔法詠唱者だった場合は・・・」

「じい。今は抑えろ。それで問題はだ」

 

ジルクニフはこめかみを押しながら呟く。

 

「手紙に3日前の日付が記入されているということだ・・・!」

「冒険者がやろうと思わなかったのでしょうね。相手が皇帝なのに手紙を届けるだけというのはどうにも危険な匂いがしますし」

「だろうな。それで相手がどれほどの存在がわからない今では可能な限り最高級の持て成しをするべき───」

 

ジルクニフの言葉が途中で止まる。

 

他の者が訝しんでいるとジルクニフが何かを見て固まっていると気づき目線の先を追って息を飲んだ。

 

「あ。もう終わった?」

「あまりいいお酒がないですわぁ」

「やはり皇帝でも人間ということだろうね」

 

黒いローブに身を包んだ少女と幼いメイドと南方のスーツを着て顔を覆い隠す仮面をつけた男。

 

その3人がいつの間にかソファに腰掛けて酒を飲んでいた。

 

3人からは全く強さを感じられない。

 

帝国最高位の戦力たちがあるまるこの部屋に誰にも気づかれずに寛いでいたのにも関わらずだ。

 

異様かつ異常。

 

四騎士───1人はジリジリと逃げ出そうとしている───とフールーダが臨戦態勢を取るが3人は関係ないとでも言ったかのように立ち上がると全員が恭しく一礼した。

 

「初めまして。私は「黄泉」所属のヨモツヘグヒと申します。よしなに」

「同じくコシメですぅ」

「ハインドと呼んでください」

 

3人が名乗ったことでジルクニフは我に返ると立ち上がってにこやかに挨拶する。

 

「遠方より来てくださって恐縮だ。私はバハルス帝国皇帝のジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。気軽にジルとでも呼んでくれ。この度はお見苦しい所をお見せした」

 

出方を間違えたら間違いなく国は滅ぶか大打撃を受ける。

 

ジルクニフはそれを瞬時に理解して少しでも対等になろうと明晰と言われる頭脳をフル回転させる。

 

「回答は?」

「え?」

「拒否するの?それとも受け入れるの?」

「ああ。その事なんだが手紙が今朝届いたばかりでね。まだ協議もしてなくてだね」

 

何とか時間を稼ごうとするジルクニフを見て少女はわざとらしく息を吐くとハインドに尋ねる。

 

「時間稼ぎだよね」

「間違いなく」

「じゃああれだね。返事は無し。つまり拒否したってことで」

「ま、待ってくれ!」

 

早々に結論を出そうとする2人に待ったをかけてジルクニフは笑顔で提案する。

 

「どうだろうか。まずは歓待を受けてから話し合うというのは」

「回答を聞きに来ただけだから歓待は不要。話し合い?何をかな。こちらが決めることは何もないはずだが?」

 

ハインドに言われてジルクニフは言葉に詰まる。

 

取り付く島がない。

 

「回答はいかに」

「早くしないと決裂ってことになりますよぉ?」

「あの御方は待たされるのはとてもお嫌いですしね」

 

ジルクニフは頭を人生最高回転数だろうと思うほどに回転させてからフールーダを見る。

 

「そちらの実力が見てみたい。我が国最高戦力であるフールーダ・パラダインに勝てれば受け入れたい」

 

実力が未知数の相手の要求を呑むにはこれが最善手。

 

相手の実力がわかれば───魔力さえ続けば帝国全軍を単騎で滅ぼせる相手を当てて───その後の対応も出来る。

 

そしてその対応は結果として帝国に繁栄を齎らすことになる。

 

フールーダはジルクニフの肩に手を置く。

 

「ジル。私では勝てんよ」

「そうか。やはりそうか」

 

フールーダの言葉にジルクニフは諦めるがフールーダは続けて事実を伝える。

 

「恐らくだが私では1番下の実力と思われるメイドにも勝てんよ。全く勝てる気がせん」

 

実質帝国全軍よりも上の実力者がただのメイド。

 

それなら他の2人はどれほどの実力者なのか。

 

自分の直感は正しかったと笑みを浮かべながらジルクニフは決断した。

 

「いざなみ殿のご提案をお受けしたいと思う」

「えー・・・残念。国を1人で皆殺しに出来ると思って楽しみにしてたのに」

 

少女の心底残念そうな無邪気な声を聞いてジルクニフは苦笑いしか出来なかった。

 

「私も羊皮紙の材料が大量に手に入れられるのではないかと期待していたのですが仕方ありませんね」

「お肉ぅ・・・」

 

他の2人も残念そうにそう言うと男が手を挙げた。

 

すると空間が裂けたような黒い半円が突如として虚空に出現した。

 

「こ、これは・・・フールーダ!これは一体何だ!?」

「わ、分からぬ。伝承にもない・・・お聞かせ願いたい!これはなんという魔法で第何位会魔法なのですか!?」

 

フールーダが焦るように尋ねると少女は呆れたように答えた。

 

「下らない事を聞いてないで早く入ってよ」

「ふ、ふふ、ふはははははははは!聞いたかジル!私が200年以上捧げてもなお知らない魔法を下らないと!下らない!はははははは!よみのいざなみ殿は第何位会魔法まで使用できるのか!楽しみで仕方ない!ふはははははは!」

 

フールーダは笑いながら黒い半球の中へと飛び込もうとして少女に首根っこを掴まれた。

 

「キミはお呼びじゃないの」

 

ポイっと放り投げられて呆然とするフールーダ。

 

「あの御方がお呼びなのは皇帝陛下のみです。その他の有象無象は・・・そうですね。そちらの逃げようとしている方」

 

ビクっと体を震わせて四騎士の紅一点である「重爆」レイナース・ロックブルズは恐る恐る自分を指差す。

 

「えぇ。あなたです。あなたのみ護衛として皇帝陛下と共に来てください」

「ま、待っていただきたい!護衛はフールーダの方が適任だ!」

「これは異な事を仰られる」

 

男は仮面の奥の目を細めで笑う。

 

「別に我々はこの国でなくとも構わないのですよ?」

 

どちらが上かが分かっていないのか?

 

そう言外に男は言っているのだと全員が悟る。

 

ジルクニフとしては何とかレイナース以外の者を護衛としたかったのだ。

 

理由はレイナースとは忠誠ではなく利用し合う関係であるからだ。

 

レイナースは顔に呪いを受けておりその呪いを解く為に四騎士となったのだ。

 

だからこそ皇帝よりも自分の命を優先すると公言している。

 

そんなレイナースしか味方がいない場所に行ってしまえば確実にレイナースは裏切る。

 

呪いを解く方法が見つけられないもしくは見つけても教えてくれない可能性がある国よりも呪いを解く方法を知っているもしくは見つけている可能性がある方へと裏切るだろう。

 

「分かった。レイナース。護衛として付いてこい」

 

自分が死んでも国は滅びない。

 

だがここで我を貫き通せば自分も死んで国も滅びる。

 

ジルクニフは覚悟を決めて振り返る。

 

「後は頼んだぞ」

「陛下・・・はっ」

 

ロウネが頭を下げるのを見てから横を見る。

 

フールーダが未練がましく少女の足に抱きついて自分も連れて行くように頼み込んでいる。

 

少女は迷惑そうに足を振っているのを見て幾らか心がスっとする気持ちになったのを感じてからジルクニフは半球の中に飛び込んだ。

 

 

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスか」

 

アインズは水晶の画面と音声を聞く魔法を組み合わせて執務室のやり取りを見聞き目を細めた。

 

「人間にしては頭が回るようですわ。アインズ様」

「確かにな。もう少し傲慢かと思っていたが違ったようだ」

 

アルベドの言葉にアインズは頷く。

 

「エントマとリグレットはこちらに来るように伝えろ。伊邪那美は位置に付いているか?」

「既に全ての準備は完了しております」

「そうか。ではデミウルゴスの手腕を拝見しようか」

 

水晶の画面が切り替わり廊下が映った事でアインズとアルベド。

 

そしてルベドは水晶の画面に目を向けた。

 

 

 

黒い半球を出てジルクニフは目の前に広がる光景を見て息を飲んだ。

 

帝国の城などと比べ物にならないほどに豪華な廊下。

 

そしてそれに相応しい国宝級の調度品の数々。

 

後ろからも息を飲む声が聞こえて自分の感性が間違っていなかったことを認識する。

 

「それじゃあ私たちはここで失礼するね」

「失礼いたしますわぁ」

「えぇ。ではまた後で」

 

少女とメイドが立ち去るのを男は見送ると振り返る。

 

「では参りましょう」

 

男に言われるがまま歩き出す。

 

「陛下。分かっておりますわよね」

「分かっている」

 

レイナースの耳打ちにジルクニフは苛立たしげに答える。

 

レイナースが裏切っても何も言わないという事だ。

 

いや言えるはずがない。

 

戦力と財力にこれだけの差を見せつけられたのだから何かを言えばただの馬鹿だ。

 

ここが何処かを問いただして───教えるとは思えないが───自国の領地だった場合に税を徴収するとでも言ったら相手は大激怒だろう。

 

そんなことをするのは王国の貴族の馬鹿どもくらいなものだろう。

 

現実逃避も兼ねて王国の貴族が来た場合の事を想像する。

 

財力はそのまま戦力にも繋がる。

 

それが分かっていない王国の貴族は自分の下らない誇りを守る為に税を徴収しようとするだろう。

 

そして相手はそれを聞いて───ここに対して何かしらの執着か誇りがあった場合は───大激怒して自分では到底想像もつかない魔法を使って殺すだろう。

 

いやもしかしたら伝説のモンスターを鼻息だけで殺せる程のモンスターを召喚して恐怖と絶望の中で殺させるのかもしれない。

 

その光景を思い浮かべて思わず笑い声を零してしまった。

 

「何かおかしいことでも?」

 

それを聞かれて立ち止まり怒りを含んだ声を出す男にジルクニフは首を横に振る。

 

「いや何。私はどれほど矮小な存在だったのか思い知らされてね」

「なるほど」

 

男はそれで納得したのか再び歩き出す。

 

「・・・・申し訳ありませんが1つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「無駄口は叩きたくありませんが・・・聞くだけ聞いて差し上げます」

「あなた方はこの呪いを解く方法をご存知でしょうか」

 

レイナースは長い金髪で隠した己の顔の右半分を見せる。

 

呪いによって黄色く腐った膿を分泌するようになった醜い部分を。

 

上位呪詛(グレーター・ワード・オブ・カース)ですか。なるほど。第7位階魔法の呪いですね。それを解くには同じく第7位階魔法である上位解呪(グレーター・キュア・カース)か状態異常回復ポーション。もしくは・・・こほんっ」

 

男は一瞥するとその方法を告げるが途中で咳払いする。

 

「大変珍しい呪いですね。その呪いによってあなたはカースドナイトの職業を得ているようです」

「解けますか?」

「あの御方にとっては蟻を見つけ出して踏み潰すよりも簡単です」

 

その言葉を聞いてレイナースは跪く。

 

「何でもいたします!ですからこの呪いを解いて下さいませんでしょうか!」

「それを決めるのは私ではなくあの御方です」

 

男はそうきっぱりと言い歩き出した。

 

ジルクニフは相手が少なくとも第7位階魔法かそれと同等のポーションを捨てるかのように使える相手なのだという情報を得てレイナースを褒めたい気持ちになるがそのまま足を動かす。

 

レイナースはすぐに立ち上がると真剣な目で歩き出す。

 

しばらく歩き巨大な両開きの扉にたどり着いた。

 

「ここが玉座の間となります」

「ここが・・・」

 

女神と悪魔の見事な彫刻が施された扉。

 

その扉が自動で開いていく。

 

そして玉座の間が姿を現した。

 

「っ」

 

黒で統一された数千人は入れそうな巨大な玉座の間。

 

敷かれている赤絨毯は金色の金属糸で縁どられており踏めば沈みこむほどの柔らかさがある。

 

天井には見たことのないほど豪華なシャンデリアがいくつも吊るされており壁際には何かの紋章なのか旗が掲げられている。

 

その最奥。

 

黒い玉座に座る腐肉の塊。

 

ボロボロの黒いドレスを着ておりその下からところどころ見える青白い肌や胸の膨らみからそれが女だということがわかる。

 

そして分かる。

 

その内包する力は化物にも程がある。

 

男は玉座の前まで進み出したのに気づき慌てて続く。

 

「バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスをお連れしました。伊邪那美様」

 

男が跪いたのを見てからジルクニフは気合を入れる。

 

ここが正念場だ。

 

「ジルクニフだ。気軽にジルとでも呼んでくれ。いざなみ殿」

「ではこちらは伊邪那美で構わぬよ。ジル」

 

伊邪那美は腐った顔を歪ませ───恐らく笑いかけて───そういった。

 

 

 

『そうか。ではいざなみ。今回はそちらの力を借りる事になったわけだがその力というのは何なのかな』

「『そうだな・・・我が配下に強力な魔法詠唱者がいる。そやつを使おう。ハインド』」

 

アインズの言葉と同時に水晶の画面の中の伊邪那美───レベル65のアンデッドである死滅の女帝(グレイブ・エンプレス)───が魔法の効果によって同じ言葉を紡ぐ。

 

『はっ』

「『ヨモツを呼んでこい』」

『畏まりしました』

 

ハインド───デミウルゴスが玉座の間───に似せて造った洞窟の一室───を一礼してから出て行く。

 

「『さて。待っている間に何をしようか』」

『いざなみ様!どうか私の願いを叶えて下さいませんでしょうか!』

『レイナース!』

 

アインズがそう呟くと皇帝の後ろに控えていた女騎士が声を上げた。

 

皇帝が諫めるが女騎士は気にせずにじっと見ている。

 

「『どんな願いだ?』」

『この呪いを解いて下さりませんでしょうか!』

 

バッと自分の顔の右半分を覆っていた金の布───の様に見えた髪───を退けた。

 

その下にあったのは黄色い膿に塗れた醜い顔。

 

左半分がとても整っているが故により一層醜く見える。

 

『すまない。いざなみ殿。この者は後できつく叱っておく』

「『それには及ばん。解く代わりにお前は私に何をしてくれる?』」

 

皇帝の提案を退けて女騎士に問う。

 

『私の全てを捧げます!』

「『ほう?』」

 

これはいい提案だ。

 

この世界の常識は王国か法国寄りのものしか知り得ていない。

 

であれば帝国の常識───似通っている部分は多々あるだろうが───を知り得るチャンスだ。

 

しかも命じれば喜々として話すのだから拷問する手間もない。

 

幸いとして呪いも───アインズたちから見れば───下らないお遊び程度の物。

 

「『よかろう。解いてやる。ジルよ。この女騎士も報酬に加えて貰えるか』」

『それは・・・分かった』

 

皇帝は女騎士の血走った目を見て渋々頷いた。

 

それを確認してアインズは合図を出す。

 

アルベドは頷き伝言を放つ。

 

そして玉座の間の扉が開き死の支配者とデミウルゴスが入ってくる。

 

『お待たせしました。伊邪那美様』

「『待っていたぞ。ジルよ。我が配下のヨモツだ』」

 

皇帝は死の支配者を見て眉をひそめた。

 

『申し訳ない。彼はその・・・死者の大魔法使いではないのかな。確かに強大な戦力だが彼だけというのは些か・・・』

「『ヨモツは死者の大魔法使いの最上位種である死の支配者だ』」

『最上位種・・・死の支配者・・・すまない。一度も聞いたことのない種族だ』

「『そうだろうな。人間・・・いや生者が生きる世界で勝てる者は真なる竜王くらいな者だろう』」

 

それか「白銀」か。

 

アインズはそう思いながら死の支配者───司書長から借りた司書───に命令を下す。

 

「『ヨモツよ。お前はジルと共に帝国へ行け。そして王国と戦争で死を撒き散らせ』」

『畏まりました』

「『女騎士。お前の呪いは戦争を終えたら癒してやろう』」

『ありがとうございます!』

『・・・・ではいざなみ。私たちはこれで失礼するよ』

「『そうだな。ではハインド』」

『はっ』

 

デミウルゴスが頷き手を上げた。

 

それに合わせてアインズは転移門を使用する。

 

転移門が現れると皇帝と女騎士と司書がそこに向かう。

 

「『私はここから見ている事を忘れるな。ジル』」

 

皇帝が入る直前にそう告げた。

 

皇帝たちが転移門に入っていったのを確認して魔法を解く。

 

「アルベド。帝国にシモベを送れ。支配能力を持つ者を中心に選考せよ」

「畏まりました。アインズ様」

 

アルベドは一礼してから部屋を出る。

 

ルベドがぶらりとぶら下がっているが気にせずにアインズは立ち上がる。

 

「お父さんただいまー」

 

リグレットが戻ってきたので手で返事をして歩きだす。

 

リグレットはそのまま後ろから付いてくる。

 

「王国との戦争に行く。その時はお前たちも付いてこい」

「ん」

「分かった!」

 

2人の返事を聞きアインズは戦争で使う魔法を考える。

 

最初の一発は超位魔法で確定だが何にしようかと。

 

ふと横を見るとリグレットが期待に満ちた表情でじっと見ていた。

 

「どうした?」

「いっぱい殺していい?」

「それは・・・そうだな」

 

アインズはリグレットの設定の一部を思い出して頷いた。

 

「いいだろう。ただし変装をすること。そして私が超位魔法を放った後でだ」

「分かった!ありがとうお父さん!」

 

とても嬉しそうなリグレットを一瞥してアインズは引き続き使用する魔法を考え出した。




レイナースの呪いに関しては完全な捏造となっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10:鏖殺

読むと気分が悪くなるかもしれませんので注意を。

もし気分が悪くなった場合はあとがきを読んでくだされば問題なしです。


カッツェ平野。

 

アンデットが跋扈するその場所にはバハルス帝国が長年をかけて作り上げた要塞が存在した。

 

その要塞には今現在───戦争直前なので────帝国の専業軍人である騎士が約6万人いた。

 

帝国騎士団は全8軍で構成されており1軍1万。

 

それぞれの軍の最高責任者は将軍の地位に就いている。

 

つまり要塞には騎士団の殆どが集まっているということだ。

 

そして要塞の最高責任者である第2軍将軍───数字が若い軍の方が指揮権が上であるため───カーベインは他の将軍との会議を終えて要塞内を歩いていた。

 

その隣には帝国騎士最強と名高い帝国四騎士の1人である「重爆」レイナース・ロックブルズがいた。

 

「それでレイナース。そのヨモツ殿はいつ頃来るのだ?」

「すぐと言っていましたわ。カーべイン将軍」

 

レイナースは鉄仮面かのように表情が動かないことで有名であったが、今は楽しそうに笑みを浮かべている。

 

カーベインはそれを見て背中に氷水を掛けられたかのような悪寒を感じた。

 

ヨモツという存在はやばい。

 

そう直感してレイナースから渡された書状の内容を思い返す。

 

遠回りの文章で書かれていたそれを一言で表すならこうだ。

 

『ヨモツと敵対するな』

 

レイナースの表情の変化と皇帝の恐怖。

 

それを齎した存在がもうすぐ来る。

 

カーベインは周りにいる騎士たちに目配せして歓迎の用意を急がせる。

 

カーベイン自身も門───正門と裏門があるがとりあえず正門───へ出迎えに向かっている。

 

ヨモツを帝国の潜在的敵と見たカーベインはその姿を、その力を、少しでも弱点を見つけるために出迎えに向かった。

 

結果的にその行為自体は吉と出た。

 

惜しむべくは相手が想像も出来ない程の上位の存在だったということだ。

 

「これ、は」

 

突如としてカーベインの目の前に黒い半球の空間の歪が出現した。

 

「将軍!」

 

周りの騎士たちが間に入ろうとするがそれよりも前にそれはそこから現れた。

 

圧倒的圧力。

 

黒いローブに全身を───顔すらも───包んだ少女。

 

そしてもう1人。

 

闇を切り抜いたかのような黒いローブを身に纏った死者の大魔法使い。

 

いや違う。

 

それよりも上位の存在。

 

伝説のアンデッドすらもゴミ同然に倒せる名も聞かぬ存在。

 

剥き出しの白磁の頭蓋骨の眼窩には血のような赤黒い光が宿っている。

 

「私がヨモツだ」

 

その言葉を聞いてカーベインはすぐに皇帝に対して行う最敬礼をする。

 

「最敬礼!」

 

カーベインの言葉に騎士たちも慌てて最敬礼を行う。

 

「ようこそいらっしゃいました。ヨモツ様。この方が今回の軍の総指揮官のカーベイン将軍です」

 

レイナースの紹介にカーベインは最敬礼のまま立っていた。

 

「そうか。これは私の部下のヨモツヘグヒだ。私共々今回はよろしく頼む」

「皇帝陛下からお話は伺っております。なんでも開戦後に大魔法を放たれるとか」

「うむ。その後はヨモツヘグヒが暴れる予定だ。そちらも自由に動いてもらって構わない」

「分かりました。ではこれから戦争の手順を軽く説明させていただきます」

 

カーベインはこれから行う手順を簡単に説明する。

 

するとヨモツは頷き確認する。

 

「最終勧告を終えた後に開戦だな。分かった」

「はい。その通りです」

 

カーベインはヨモツが自分勝手に動く相手ではないと少なからず安心した。

 

ヨモツヘグヒも部下だというのだからヨモツの言うことも聞くだろう。

 

カーベインは安堵しながら手を伸ばす。

 

「歓迎の準備は出来ています。開戦までお休みになられていてください」

「申し訳ないがそれは止しておこう」

 

ヨモツはカーベインの言葉には答えずにその場にとどまる。

 

「アンデッドが歩き回っては士気に関わるだろうからな」

「そのような事はっ」

 

カーベインが否定しようとするがヨモツは首を横に振る。

 

「こちらもそちらもただの仕事仲間だ。気を使う必要はない」

 

そう言うと口を閉じた。

 

開戦までは動かないと確信に近い何かを感じたカーベインはもう1度最敬礼をすると騎士たちに指示を出しながら会議場へと戻っていった。

 

そして死の劇は始まる。

 

 

 

 

最終勧告が終わった後。

 

アインズはリグレットと共に軍から少し進み出た場所で王国軍を眺めていた。

 

「ふむ」

 

アインズは視界一杯に群れる人間たちを見て顎に手を当てる。

 

此処はカッツェ平野。

 

アンデッド反応を持つ霧で覆われたアンデッドが支配する平野。

 

そこに訓練された騎士たち───約6万人───を背に控えさせながら

 

それを待つ。

 

蒼白い立体魔方陣は様々な文字を浮かべては消えるを繰り返しており、この場でなければ美しい見世物として話題となっていただろう。

 

「やはり「白銀」以外はいないか」

 

アインズは自分を囮にしてでも確かめたかったことを確かめ終えて笑う。

 

「死は全てに等しく与えられる」

 

紡ぐ。

 

「死から逃れることなど出来ない」

 

告げる。

 

「故に死の支配者からは逃げられない」

 

語る。

 

「すなわち我から逃げることは出来ないのだ」

 

生きとし生ける者全ての結末を。

 

「超位魔法。黒き豊穣への贄(イア・シュブニグラス)

 

黒い風が吹き敵陣に吹き───

 

───7万もの命が奪われた。

 

そして黒いコールタールのようなものが敵陣に落ちる。

 

5体の異形の化け物が生まれると高らかに産声を上げる。

 

「さあ。思う存分暴れるがいい・・・可愛い可愛い私の子山羊たちよ」

 

「「「「「メエエエェェェェエエェェェェェ」」」」」

 

そして蹂躙が始まる。

 

それを見届けアインズは振り返り両手を広げて告げる。

 

「喝采せよ」

 

魔王を。

 

「喝采せよ」

 

死にゆく者を。

 

「ヨモツ様万歳!」

「「「万歳!」」」

 

大歓声が上がりその全てがアインズを賛美する。

 

その中に恐怖など微塵も宿ってはいない。

 

ただただ感嘆の声を上げるのみ。

 

「愚かなる者たちに死を。奴らの死を我に捧げよ」

 

後にカッツェの大虐殺と呼ばれるこの虐殺。

 

それがこれから起きる出来事の発端である。

 

そしてそれを引き起こした者の名をもう誰も忘れることはないだろう。

 

例え忘れ去ったとしても世界は忘れない。

 

「黄泉」のヨモツと名乗る存在を。

 

アインズ・ウール・ゴウンを。

 

今この時より───

 

「さあ。世界を我が手に」

 

───終焉は始まった。

 

 

 

ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃっ。

 

肉を何度も潰すような音が響き渡る。

 

怨嗟や断末魔や悲鳴が響き渡る。

 

濃厚な血の匂いが風に乗って鼻をくすぶる。

 

何度も何度も空間に亀裂が入って消えるを繰り返しているがアインズは気にしなかった。

 

何故なら回数が重なるごとに敵はダメージを受けていくのだから。

 

死んでいればそれでいい。

 

その程度の考えで切り捨ててアインズは王国軍(対岸)を見る。

 

「素晴らしい。素晴らしいぞ。新記録だ」

 

黒い仔山羊が5体。

 

1体でも召喚できればいいという魔法で召喚されたのが5体。

 

ユグドラシルではあり得なかった愉悦。

 

恐らく自分しか成し得なかったであろう偉業。

 

そして死にゆく(生者)たち。

 

「我が愛しい娘よ。子山羊には手を出してはいけないぞ?」

 

横に立つリグレットにそう言うと最後の首輪(理性)を外した。

 

「誰1人として逃すな」

 

ドンッと爆発が起きてリグレットの姿が消え去る。

 

「では行こうか」

 

アインズは満面の笑みを浮かべながら歩き出す。

 

全てに死を与えるために。

 

「鏖殺だ」

 

 

 

「キャハハハハハハハハハ!」

 

目の前のを斬る。

 

死ぬ。

 

目の前のを蹴る。

 

死ぬ。

 

目の前のを殴る。

 

死ぬ。

 

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 

死ぬ死───。

 

「アヒャ?」

 

───ぬ?。

 

震えた手で槍を突き出しているのは年端もいかない少年。

 

「・・・・・キャハッ」

 

握り潰す。

 

死ぬ。

 

踏み潰す。

 

死ぬ。

 

引き千切る。

 

死ぬ。

 

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 

気づくと全身が血まみれ。

 

手についた血を見て笑う。

 

舌で血を舐めとり笑う。

 

「クヒッ」

 

アァ。

 

「クヒャハハハハハハハハハハハハアハハハハハハア!」

 

タノシイィイイイイイ!

 

「もっと!もっとぉ!」

 

コロシタイィイイイ!

 

 

 

「帝国は死そのものを味方にしたか」

 

リ・エスティーゼ王国の国王ランポッサ3世はそう呟く。

 

24万5千もの民たちの中で7万もの民が死んだ。

 

たった1つの魔法でだ。

 

そしてその魔法によって生まれ出た化物によって民たちは殺されていく。

 

「陛下!お逃げください!」

 

ランポッサの娘のラナーの側近であるクライムの声にも反応しない。

 

「死は平等だ」

 

そこへ冷たい声が響き渡る。

 

死が喋るのであればそれであるような冷たく無慈悲な死の声。

 

「民も、貴族も、王族も、弱者も、強者も、亜人も、異形種も。それら全てが死ねば皆平等だ」

 

おぞましい音や守るべき者たちの断末魔。

 

それが爆音となって戦場を包み込んでいるというのにそれの声はまるで戦場が静寂であるかのようによく響き渡る。

 

「アンデッド!」

 

クライムが剣を抜くとそれは歩みを止めた。

 

それは白磁の頭蓋骨のアンデッド。

 

死者の大魔法使いに似ているが別物だろう。

 

圧倒的な力を持つ存在。

 

「喜ぶがいい。死の支配者の手によって殺されることを。誇るがいい。世界最強すらも従えていたこの私に殺されることを」

 

骸骨の顔なのにそれは笑っていた。

 

魔法二重化(ツインマジック)・真なる死(・トゥルーデス)

 

そしてランポッサ3世とクライム。

 

生まれの違いはあれど同じ人はそれだけで死んだ。

 

 

 

カーベインは悔いていた。

 

何故自分は将軍になってしまったのか。

 

何故自分は優秀だったのか。

 

何故自分は長く生きていたのか。

 

何故自分は人間として生まれたのか。

 

「素晴らしい・・・」

 

何という力だ。

 

圧倒的な力。

 

カーベインはその力に魅了された。

 

もっと早くに会いたかった。

 

もっと若い時に出会いたかった。

 

いや、悔いている暇など無い。

 

もう1秒たりとも無駄な時間を過ごせない。

 

「全軍突撃!王国軍を皆殺しにしろ!」

 

少しでもあの御方の力になるのだ。

 

「あの御方に死を捧げろ!」

 

 

 

そして終焉の序章(大虐殺)は終わる。

 

次に始まるのは終焉の第1章(王国の終わり)

 

主役(白銀)の登場はまだ少し先───。




黒い仔山羊5体+アインズ+リグレット+帝国軍6万VS王国軍17万5千。

生き残れるわけが無いので皆殺しになりました。

念の為に戦場の周りを高位の隠密系のシモベで囲んでいたので誰1人逃しません。



帝国軍に関しては、前もって帝国軍の飲み水に軽い洗脳効果のあるポーションを混ぜてあり、その効果によってアインズの所業が神の偉業のように見えた為に呆気なくその力に魅了されました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11:抹殺計画始動

導入部のため、短いです。


カッツェ平野の虐殺から3日。

 

ナザリック地下大墳墓・第10階層。

 

玉座の間。

 

「白銀にバレないように王国軍───24万5千人だったか───を皆殺し程度に収めたわけだが・・・」

 

そのまま勢いに任せてエ・ランテルに侵略したほうがよかっただろうか。

 

一瞬そう思うが、すぐに愚策だと切り捨てる。

 

冒険者は国家間の争いに不介入というルールがある。

 

放っておいても帝国がエ・ランテルを盗ってくれるのだから、それを貰い受ければ問題無い。

 

それなのに異形種が攻めてしまえば冒険者が介入する口実を与えてしまう。

 

次に行うべきなのは簡単な事だ。

 

「冒険者の力を削れ。人間の国を拠点とするアダマンタイト級冒険者チーム───白銀を除く───全てを殲滅せよ。ただし依頼先で死亡したことにしろ」

「はっ。既にデミウルゴス主導で進めております」

 

アルベドの報告を聞いてアインズは目を細める。

 

「実行要員を言え」

「はっ。ハンゾウと八肢刀の暗殺蟲などの隠密に長けたシモベで編成した部隊となっております」

「各部隊に死の騎士を一体加えよ」

 

デミウルゴスの編成した部隊に死の騎士を加えるように指示するとデミウルゴスは納得したように頷いた。

 

「先の戦争を利用するのですね。カッツェ平野でのアインズ様とリグレット様の虐殺によって死の騎士が複数生まれたと誤認させ、その対処に唯一残ったアダマンタイト級である白銀を動かし疲弊させるために」

「そうだ」

「ではそれに沿って計画を再度練り直します」

 

デミウルゴスの返事を聞きアインズは頷くと告げた。

 

「最後にお前たちに厳命する」

 

その言葉の直後、空気が張り詰める。

 

その場にいる全員がアインズの言葉の一遍も漏らすまいと気を引き締める。

 

アインズは虚空に手を伸ばすとそのままアイテムボックスを開き数種類のアイテムを取り出した。

 

その全てが守護者だけでなくアインズの身を飾るマジックアイテムすらも遥か凌駕するマジックアイテムだ。

 

唯一、匹敵するのはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのみ。

 

それらのアイテムをリグレットに手渡すと、リグレットはそれらを持ってシャルティアの前に立つ。

 

「奪われるな」

 

そして順々にそのアイテムたちを各守護者に渡していった。

 

「それらは世界級アイテム。我がナザリックの最至宝だ」

「「「おぉっ!」」」

 

渡された守護者たちはそれを震えながら眺める。

 

「お前たちの命よりも重い物を貸し出すのは信頼の表れでもあり、そしてこの世界にも世界級アイテムがある事を見越しての対策だ。それらを敵に奪われる事は私への裏切りよりも重い大罪と知れ」

「「「はっ!」」」

「お前たちの働きに期待する」

「「「アインズ様のご期待以上の働きをお約束いたします!」」」

 

全員が顔を伏せ、自分たちの主に更なる忠誠を誓った。

 

「「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」」」

 

 

 

アインズの私室。

 

「お父さん!いっぱい殺したよ!」

「あぁ。よくやった。スッキリしたか?」

「うん!」

 

リグレットの頭を軽くなでるとアインズは白銀関連の報告書を見る。

 

戦争の直後に───少々だが───傷ついて王都に戻ったのが確認されている。

 

英雄が傷ついて帰ってきたというのもあるのだろうが、今、王国は大混乱のようだ。

 

何せ戦争に参加した貴族全員が死に絶えたのだ。

 

王族も残るは第2王子と第3王女のみ───第1、第2王女は貴族に嫁入りしているので除外───だという。

 

王都の情報も問題なく集まっている。

 

その為にわざわざ自分が戦場に歩いて何人かの貴族───と思わしきゴミ───を殺して死体を回収したのだから。

 

王国は貴族───ほとんどが無能───が指揮官と領主も兼ねていたようだから今や王国は丸裸同然だ。

 

これならばすぐに帝国は王国を攻め滅ぼせるだろう。

 

そしてその後に帝国と王国の混乱に乗じて法国を滅ぼす。

 

法国という───人間の国の中で───周辺最強国家を排除できる。

 

その後は警戒すべき真なる竜王がいる評議国。

 

そして帝国を始めとした弱小でしかない残りの人間の国が残る。

 

白銀は殺せると判断したときに殺そう。

 

後は他にプレイヤーがいないかどうかを警戒しながら行動すれば───。

 

「クハハッ」

 

今のところ思い通りに進んでいる。

 

だからこそ今は。

 

「待つだけだ」

 

アインズはこれから計画を立てるために資料を目を落とすが、すぐにノックが鳴り中断された。

 

返事をして許可を与えるとアルベドが入ってきた。

 

「アインズ様、バハルス帝国皇帝が白銀へコンタクトを取りました」

「防いだか?」

「はい。ご命令どおりに」

 

これで伊邪那美は白銀を恐れていると知っただろう。

 

アルベドからの報告を聞いたアインズは確認をする。

 

「罠はどうだ」

「正常に作動しております」

「そうか」

 

白銀にたどり着くまでもう少しかかると踏んでいたが・・・皇帝は思った以上に優秀なようだ。

 

ならば次の一手だ。

 

「カッツェ平野にナザリックでPOPする現地と同じ種類のアンデッドを送れ。そこから死の螺旋で上位のアンデッドが生まれるだろうか実験しろ。生まれたらそれらのみを使って帝国を襲え」

「畏まりました」

 

精々、伊邪那美という影武者には大暴れしてもらおう。

 

その対応に白銀が奔走し、手の内を晒し尽くして消耗した所で止めをさす。

 

そうすれば最大の敵は消える。

 

「評議国の情報収集にも力を入れろ。だが、白銀と竜王を同時に相手にするのは面倒だ。感づかれないように気をつけろ」

「畏まりました」

 

その後、幾つかの指示を受けてアルベドが退室する。

 

それを見送ってからアインズは呟いた。

 

「罰として何人か殺しておくか」

 

皇帝への制裁を決めると帝国へ向かわせたシモベへと伝言を飛ばした。




今回の魔王(アインズ様)に違和感を感じますが何が違うのがわかりません。

何が違うんでしょうか・・・。

何かお気づきになられたら、教えてくださると嬉しいです。



今回は短かったですが、その代わりに次回は長いです。

楽しみに待っていてくださると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む