Re:ブラッキーが呼び出されしは本物の異世界!? (煌めきの風)
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第1話「異世界への招待状」
3月は色々と忙しくて書く時間の確保が少々難しかったです(^_^;)ですが、無事にリメイク第1話が投稿できました!
まずは、お待ちかね?の本編です!
『
外では葉っぱが落ちた木が時々風で揺れている。
講義をしていた先生が手元のマイクを通して講義の終了を告げる。すると、ほぼ同時にほとんどの生徒が各々の行動を開始した。机に突っ伏す生徒や背もたれに寄りかかり天井を見上げる生徒、ノート類をカバンにしまって急いで教室を出ていく生徒や友達と話し始める生徒。
「
「
隣の生徒が話しているように、今講義が終わった時間は予定よりも5分経過してから終わった。だけど、いつもは20〜30分過ぎるのだ。
あの先生はいつも時間が過ぎることで有名だ。そんな授業に出ようとする俺たちも物好きだとは思うが。
「……さて、俺も急がないとな」
「
俺の名前を読んで話しかけてきたのは、ケヴィン。この大学に来てからよく遊ぶようになった友達だ。金獅子を思い出させるような彼の金髪は短く整えられ、透き通るような碧眼を持つ彼の顔は文句無しのイケメンだ。
ケヴィンは俺に近寄ってきた。早く明日奈の所に行かなきゃならないのに。
「
「
「
用事の内容を伝えるとケヴィンはその場に崩れ落ちた。『
ケヴィンが言っているとおり、何故かケヴィンには彼女がいない。だが、ラブレターとかも貰っているし告白されたりする。しかし、その大半がタイプでなかったり、こちらから告白しても相手が彼氏持ちの場合が多いらしいのだ。
まだ告白されるだけどっかの赤髪の侍よりはマシだとは思うけど。
「
ケヴィンがああなることは毎回なので放っておいていて、教室を出る。鞄を背負い直しながら、腕時計で時間を確認すると約束の時間から20分が経過していた。
やばいな、明日奈に怒られる……。
とりあえず、鞄からスマホを出して、電話番号を打つ。電話をかけて出たのは、
『はい、もしもし』
「あ、明日奈か?ごめん、講義が長引いっちゃって……今から行くから」
『………』
「あの、明日奈さん?怒っていらっしゃいますか?」
『べっつに〜。ただ和人君は私よりも大学の講義の方が大事なんだな〜って』
「そ、そんな訳ないだろ。明日奈より大事なのは無いって」
『そうやっていつも誤魔化そうとするんだから。本当はまた女の子と遊んでいたんじゃないの〜?和人君モテるから〜』
「だから、大学の講義が……」
『………じゃあ、勝負しようよ和人君』
「勝負?」
『電話を切ってから和人君が待ち合わせ場所まで20分で着いたら許してあげる。間に合わなかったら、1日私の言うことを聞いてね。じゃ、頑張って』
「あっ、おいっ!明日奈!?………切られた」
スマホの画面見ると通話が切られていた。そのままマップを開く。
「20分って、間に合わねえじゃん……」
この場所から30分はかかる場所が待ち合わせ場所だ。勝てない勝負を挑まれたことに半分呆れを覚えた。
「勝っても負けても嬉しい事だけど……勝負で負けるわけにはいかないからな」
俺って負けず嫌いってよく言われるけどその通りだと自分でも思う。勝負という言葉がつくことには昔から負けたくないんだよな。
だから、勝負に負けないために走り出した。
俺たち二人にとって今日ーーーー10月23日はとても重要な日なのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少し昔話をしよう。
2022年11月6日。この日、世界を震撼させた大事件が発生した。
『SAO事件』
人類が仮想世界への完全フルダイブを実現したこの時代。茅場晶彦という一人の天才によって作られた一つのゲームハードとソフトが大ブームを呼んだ。
完全フルダイブ型VRMMORPGーーーー《ソードアート・オンライン》通称、SAO。
そして、民生VRマシン、《ナーヴギア》
これらはあっという間に完売し、約一万人がこれからのゲームを楽しみに正式サービスと同時にログインした。
しかし、製作者茅場晶彦によってただのゲームが、HPゲージの消失と共に現実の体も死亡するデスゲームへと変化した。
このゲームをクリアするためには全100層からなるSAOの舞台である《浮遊城アインクラッド》の完全制覇のみであった。
この事実がプレイヤーに告げられて以降、五つのグループに分かれた。
1、ゲームクリアを目指し、最前線で浮遊城を攻略し続ける『攻略組』
2、最前線へは進まずモンスターのレベルが低い低層から中層にかけて安全に生活する『中層プレイヤー』
3、攻略へ向かわず、第1層の始まりの街でひたすら外部からの救出を待ち続けるプレイヤー。
4、生きることを諦め、自殺するプレイヤー。
5、わざと犯罪行為に手を染めて楽しむ『オレンジプレイヤー』
そして、恐ろしいデスゲームから約二年が経過した時、攻略組のある一人のプレイヤーの英雄的活躍によってゲームクリアとなり、現実世界へと帰還することとなった。
SAO
《神聖剣》
《閃光》
《黒の剣士》ソロプレイヤー・キリト
必ず名前が出るのがこの三人だろう。
それに加え、ゲームクリアされる手前に判明した事実として、《神聖剣》ヒースクリフがSAOを作り出した張本人である茅場晶彦だったのだ。
それを見破ったのは《黒の剣士》キリトである。そして、キリトがヒースクリフに与えられたユニークスキル《神聖剣》と同じユニークスキルである《二刀流》を使いこの浮遊城の第100層ボスヒースクリフを75層で倒した。
お気づきだと思うが、今アメリカの歩道を走っているこの青年こそが《黒の剣士》キリトーーーー本名、桐々谷和人。
そして、和人が電話をして怒っていた女性こそが《閃光》アスナーーー本名、結城明日奈である。
そして、キリトこと桐々谷和人は今アメリカのサンタクララにある大学に次世代のフルダイブ技術を学ぶために留学していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「くそっ、やけに信号に引っかかるなあ」
走り始めて横断歩道を渡ろうとしたら、信号が赤信号で全然進まなかった。というか、全部の信号で止まっていた。
赤信号の点灯し続ける赤色のライトを見て、ふと思った。紅の鎧に身を包んだボスであるヒースクリフ、茅場晶彦は今どうしているのだろうと。
あの時、75層でヒースクリフは俺との決闘に敗れ死んだはずだ。茅場もナーヴギアを装着してログインしていたことが、茅場に脅されて協力していたという神代凛子博士ーーーー実際には茅場晶彦が神代博士が罪に被らないための工作だったらしいーーーーの証言で分かっている。
彼が使用していたナーヴギアも一般なものと同じくHPゲージ全損と同時に高出力マイクロウェーブによって脳が焼かれる設定だった。しかし、茅場のものは脳に大出力のスキャンをかけることで自身の記憶・人格をデジタルな信号としてネットワーク内に遺す試みが追加されていた。脳がその不可に耐えられず焼ききれて死んだらしい。神代博士の証言を元に警察が発見した長野の山奥の山荘では確かに人が生活した跡があり、ナーヴギアもあった。しかし、
だけど、俺は一回仮想世界で茅場に会っている。その茅場の思考模倣プログラムが言うには本体は死んだ、との事。だが、現実の世界では茅場の遺体は
突然、ドンッという衝撃が思考の海に浸かっていた俺を現実の世界へと引き戻した。
その正体は反対側の歩道から歩いてきた人だった。歩きスマホをしていたのからか、前が見えなかったみたいだ。ぶつかってきた中年のおっさんはこちらを一瞥した後、視線を再びスマホに戻した。
信号に視線を戻すと赤ではなく緑であり、渡れるようになっていた。
「あ、やべっ。渡んなきゃ」
ギリギリ渡りきったところで、信号が赤に変わった。
時間を確認すると残り15分を切っていた。ここから奇跡的に信号が全部緑だったとしても、最低でも20分はかかる。
「どっかに近道は………っと、あそこか」
地図で近道を探すと、一箇所だけ時間内にたどり着く所があった。
移動してみて確認すると、そこは普段なら絶対に近づきなくない路地裏だ。あ、今ネズミが横切った。
浮遊城アインクラッドの第50層の主街区《アルゲード》に雰囲気が似ている。
「行くたくないけど…行くか」
覚悟を決めて走り出そうとした瞬間、顔になにかぶつかった。そして、視界は白一色だった。
「いっつ…………なんだこれ?手紙か?」
視界を埋め尽くした白いものの正体は、手紙だった。デジタルな時代で連絡はメールが主流となったこの時代に、アナログな手紙は珍しい。
さっきの風で飛ばされただけなのか、手紙には汚れ一つなく新品同様の白さだった。裏側を見てみると、そこには宛名が書かれており、その名前はーーーー
「宛先は………俺?」
もう一度宛名を見るが底にはやはり『桐々谷和人様』と書いてある。
宛先が俺ということを再び確認して、開封する。宛先が俺なのだから中身を見ても問題は無いだろう。封書の中には一枚の紙が入っていた。
そこにはーーーー
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのなら、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て我ら箱庭に来られたし』
ーーーーそう書かれてあった。
そして、手紙の文の意味を考える暇もなく手紙が白く輝き始めた。
あまりの強さに思わず目を瞑る。そして、急に感じた浮遊感に心の中に不安が広がる。
そして、足が地面に着いている感覚が消える代わりに、自由落下しているかのような感覚。これと似たような体験をしたことがあるような…………?
気がつけば下から吹き上げる強い風が吹いていた。出来ればビルとビルの間であって欲しいという思いを胸に目を開けると、願いは裏切られて視線の先には青空があった。
ああ、これはあれか。
ALOに初めてログインした時も、それぞれの種族の主街区に転送されるはずが、バグのせいでその場からの落下となった。結局、どうすることも出来ずに頭から地面に追突したが、仮想世界なので痛みはなかった。
「嘘だろおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
今は仮想世界ではなく、現実。とても信じられない事だが、この事態が現実である。ともすれば、この速さで地面に衝突すれば死は免れない。
こうしている間にも地面にどんどん近づいている。
ーーーーごめん、アスナ。約束、守れそうに…………
そしてドボンッ、という大きな音を立てて、湖に大きな水柱が三つと小さい水柱ができた。
ーーーーピキッ
突然、左手首に付けていた腕時計にヒビが入った。去年の誕生日に和人からもらった大切なものだ。
今までヒビが入ることは無かったし、そうならないようにしてきた。それだけに心の中に不安が広がる。
「……………和人君?」
腕時計を握りしめながら、こっちに向かっているはずの最愛の人の名を呟いた。
ーーーー赤壁に囲まれた街
この街を一人、異様な姿で歩いていた。いや、以前の世界なら異様ではなかっただろう。白衣を来た成人男性は、赤壁を更に赤く照らしている夕日を浴びながらレンガで舗装された道を歩いている。
路地裏に入り、再び歩き続ける。足元を鼠が駆けているが気にした様子はない。そして、一つの扉がある家のところにたどり着いた。
しかし、すぐには入らず、家屋の間から見える空を見上げた。
「再び会えることを楽しみにしているよ、キリト君」
ーーーー水に囲まれた街
水が綺麗に吹き上げている噴水がある広場は様々な人種で賑やかになっている。そこに、とてもこの場所に合っているとは言いがたい人物が噴水近くのベンチに腰掛けていた。
その姿は、黒いポンチョに濃いグレーのパンツ、黒いブーツという怪しさ満点の服装だった。
その人物は、足を組み空を仰いだ。
「Wow. これはこれは。Big guestのご登場だぜ。なあ、黒の剣士様?」
ーーーー吹雪く雪原
五メートル先も見えないホワイトアウトの状態が続き、何メートルもの雪が積もっている。そんな雪原に一ヶ所だけ雪が積もってなく、岩肌が露になっている場所があった。そこには絶対に溶けることのない氷塊があった。
氷塊の傍に咲こうとしている一輪の花。
茎に棘をあり青い花弁ををもつ花ーーーーーーー青薔薇。
そして、青薔薇が寒さに負けず花開いた時、遠くから竜の鳴き声が轟いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
感想などたくさんお待ちしています!!ジャンジャン書いてくださいねっ!!ヘ(^o^)ノ
活動報告も書いたのでそちらもよければご覧ください
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第2話「呼び出された異世界」
初めまして、またはお久しぶりです。大学一年となった煌めきの風です。
思ったよりもここ一ヶ月が忙しくて書く時間が確保できませんでした。それにしても大学って自由ですよね。講義は高校の時と比べて長くなりましたが、その分寝られるんだもの。講義中は飲み物は飲めるし。ただ私服を考えるのが面倒くさい……(T-T)
こんなどうでもいいことは放っておいて、どうぞ本文へ!!
地上のはるか上空でパラシュート無しスカイダイビングを現在進行形で経験している俺は、途中に何枚かあった膜のようなもので徐々に落下スピードが減速していった。
そして、今回は地面ではなく、ドボンッ!という音をたてながら湖に着水した。
湖は案外綺麗なもので水中でも遠くまで見渡すことが出来た。海底近くまで沈んだので、海底を蹴って上昇して海面から顔を出す。
「ぷはっ!…………やっぱ仮想世界、じゃないよな」
周りを見渡し、水の感触を確かめる。
仮想世界では、液体を本物同様の感触を生み出すことは難しい。それは、2年間過ごしてきたナーヴギアやその後継機のアミュスフィアでもそれは変わらない。仮想世界の液体は皮膚に馴染む感覚や水圧、太陽光の反射光などの違和感が存在する。
だが、この湖の水にはそれが無い。それだけでも、今いるこの世界が現実のものだと認識できる。
このまま水に浸かっていると風邪を引いてしまうので、取り敢えず近くの陸を目指して泳ぐことにした。
陸に近づくにつれて人の姿がくっきりと見え始め、会話している声も聞こえる。
「俺……な…」
「…う、……手ね」
「ここ…ど……」
「……あな。ま…………が見えたし、どこ………背中の……じゃねえか?」
声から察するに陸には三人の人がいるみたいだな。そして、男一人に女が二人って感じか。
「一応、かく……らにも……“手紙”が?」
手紙。あの白い手紙のことだろうか。もしかすると俺と同じで手紙を開けたら空に放り投げ出された仲間、とか?
「……だけど、まず…………訂正して。私は久遠飛鳥よ、以後気をつけて。それで、そこの猫を抱えたあなたは?」
そんなことを考えていると岸に着いた。陸に上がっている人らは自己紹介をし始めたところらしい。お陰で陸に上がるタイミングを失ってしまった。
「………春日部耀。以下同文」
「よろしく、春日部さん。次に野蛮で凶暴そうなあなたは?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と容量を守った上で接してくれよ、お嬢様」
「取り扱い説明書をくれたら考えてあげるわ」
「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しておけ」
金髪で学ランを着ているのが逆廻十六夜、黒髪ロングでワイシャツみたいのを着ているのが久遠飛鳥、茶髪ショートで飼い猫と思われる三毛猫を抱いているのが春日部耀。
なんか凄い個性が強いメンバーだなあと、他人事のように思いながら、陸に上がるタイミングを見計らっていると、三人が全員こっちを向いた。
「それで、そこのあなたはいつまで水に浸かっているのかしら?」
「えっ、いや、上がるタイミングを……」
「名前を名乗ってないの、お前だけだぜ」
「…………(じー」
周りからの視線に耐えられなくなって、陸に上がる。目一杯に水を含んだ服を搾りながら名前を告げる。
「……桐々谷和人だ」
「………男なんだ」
ふと、春日部さんが呟いた内容を聞き取った。
いや、昔からよく女顔だとは言われるし、女みたいな格好はしたことはあるけども、それでも女だとは思われたことは無いぞ!……現実では。
「どこからどう見ても男だからな、春日部…さん」
「とても失礼だけれども、私も最初は女性だと思ったわ」
「ヤハハハ。女装したらほんとに分かんないかもな」
ちょっと笑いをこらえながらいう久遠さんとケラケラ笑う十六夜。二人の言葉に軽くショックを受ける。
これでも一応アメリカに行ってから、昔よりも体格も良くなったし筋肉も付いたのだ。テレビ電話とかで妹の直葉に『お兄ちゃん、少し変わったねー』って言われるほどだ。以前のような寝続けるバイトも無いしな。
そして、たまたま周りを見回した時に目に入った茂み。そこに妙な違和感を感じた。
正確には、茂みの上からはみ出てる青色のうさ耳のようなもの。
「…………(じー」
ずっと見つめていたら、ガサッというありきたりな物音を出してきた。
こんなあからさまな事をこの三人が気づいてないわけがない。気づいてないふりをしているのか、はたまた本当に気づいてないのか。
ゲームでは始まる時にチュートリアルが殆どのゲームで存在する。あの夢のようなゲームがデスゲームと化した時でも説明はあった。受け入れられるかどうかは別として。
しかし、実際にゲームの様な展開に巻き込まれてチュートリアルがないわけが無い。こういった場合は近くに呼び出した魔術師的な人物か案内人的な人物が存在しなければならない。
なら、順当に考えてあそこにいるのは十中八九俺たちを呼び出した関係者だろう。だったら、引っ張り出して説明を求めるべきだ。
だけどーーーー
「……………放置しよう」
ーーーー放っておくことにした。
だって死にかけたんだ。これくらい当然だと思うし、許されるはずだ。それに他の三人が何も言わないので、この流れに乗っかっておこう。
十六夜は未だにケラケラ笑ってるし、久遠さんは傲慢そうに顔を背けているし、春日部さんに至っては無関心を貫いている。
だったら、一人増えても関係ないだろうということで、ポケットに入ってた電子機器とカバンに入れていた携帯端末の動作確認を始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「で、いい加減この状況どうすんだよ。普通、手紙に書いてあった箱庭とかいう世界を説明するやつが出てくるんじゃねえのか?」
流石にこのままという訳に行かないと思ったのか、十六夜がイライラしながら言った。
久遠さんも十六夜の意見に同意する。
「そうね、なんの説明も無いままではどうすることも出来ないものね」
「チュートリアルは必須だよな」
「…………この状況に落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」
一番落ち着いている春日部さんがそれを言ったことに苦笑いを浮かべる。
そうしていると例の茂みのあたりが音をたて始めた。出てきて説明を始めようとしているんだろうな。
「………仕方ねえ。そこにいる奴にでも聞いてみるか?」
あ、音が余計に大きくなった。
久遠さんは少し感心したような表情をして十六夜の方を向く。
「あら、あなたも気づいていたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負け無しだぜ。お前達も気づいていたんだろ」
「……風上に立たれたら嫌でも分かる」
「あれって隠れてないだろ」
「…………へえ、面白いなお前ら」
十六夜はこっちの方を向くと軽薄な笑みを浮かべていたが、その目は笑ってはなかった。いや、そんな好奇心旺盛な目つきをされてもあれに気づかない人はいないだろ。
俺を含め、理不尽な招集を受けた腹いせにやや殺気の篭った視線を送る。
その視線に耐えかねたのか、少しの沈黙の後に茂みが大きな音を立てた。
「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいな目で見つめられると黒ウサギは死んじゃいますよ。ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じて、ここは一つ穏便にお話を聞いてくださったら嬉しいのでございますよ」
隠れてた人物がこちらの顔色を伺いながら、慎重に出てきた。
出てきた人物は自分のことをウサギと自称するだけあって、頭には立派なうさ耳が付いていた。そして、服装が痴女とも言えるようなだいぶ露出の多い服装だった。確か、バニーガールみたいな感じであっているはずだ。
そんな彼女の提案に、三人はーーーー
「断る」
「却下」
「お断りします」
ーーーーバッサリと切り捨てた。
この流れを断ち切るのもアレなので、この流れに乗ろう。
「じゃあ、俺も」
「アッハ、取り付く島もないですね♪そして、最後の方、この流れに乗らなくてよろしいのですよ?」
茂みから恐る恐る出てきた彼女の提案を一刀両断した俺達に、バンザーイと両手を挙げたバニーガール。しかし、その目は先ほどの十六夜とどこか似たようなものだった。
そして、気づいた時には春日部さんがバニーガールの背後に立っており、
「…………えい」
「フギャッ!!」
頭に生えているうさ耳を思いっきり引っ張った。
突然の出来事に彼女は涙目になって奇声を挙げた。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れるのですが、まさか初対面で堂々と遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとは一体どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ、このうさ耳って本物なのか?」
春日部さんとのやり取りに興味が引かれる言葉があったのか、十六夜が反応した。そして、今度は十六夜が春日部さんと反対のうさ耳を掴んで引っ張る。
「…………。じゃあ、私も」
「ちょ、ちょっと!?あ、そ、そこの女顔の殿方!!た、助けてください!!」
バニーガールが指さして助けを求めた方向には俺しかいない。後ろを向くが誰もいない。つまり、『女顔の殿方』とは俺のことらしい。
まあ、まだ名乗ってないから仕方の無いことかもしれない。だが、彼女は俺が一応は気にしている女顔のことを指摘してきた。そんな彼女を助ける訳もなく、理不尽な呼び出しの報復も兼ねて、俺は三人に彼女を売った。そして、無視した。
「………」
「な、何で無視するんでsーーーーーーーーー!」
その結果、緑豊かな森林に声にもならないほどの悲鳴が響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか、話を聞いてもらうのに小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこういう状況を言うに違いないのデス」
「いいから、さっさとすすめろ」
問題児三人の手から離れることが出来た黒ウサギーーーーバニーガールの名前らしいーーーーは、がっくりと項垂れる。その彼女の瞳には涙が浮かんでいる。
俺達は近くの切り株に腰掛け、黒ウサギを弄っていた一人である十六夜が早く説明するように求める。一応話を聞くだけ聞こうということだろう。
黒ウサギは気を取り直したのか、両手を広げて、
「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?言いますからね?さぁ、言います!ようこそ゛箱庭の世界″へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』の参加資格をプレゼントさせていただこうかと思い召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです!すでに気付いてらっしゃると思いますが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”をを用いて競いあうためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活してもらうために作られたステージなのでございますよ!」
黒ウサギは説明を始めた。その内容は、
1、箱庭は恩恵を持ってる人が生活する世界
2、世界する上でコミュニティという集団に属さないといけない
3、ギフトゲームは自分の運を試すゲームから、ギフトを賭けるゲームまで多種多様にある。しかし、難易度が高いほど危険が伴う
4、ギフトゲームのチップは土地や金品などを賭けることができる
5、ギフトゲームは箱庭の世界のルールみたいなものだが、強盗や犯罪などはきちんと処罰される。が、ギフトゲームに勝利すれば相手が提示した報酬を全部もらうことが可能
ということだった。
分からないことはその都度、質問していき黒ウサギが答えてくれた。
一通りの説明が終わったのか、黒ウサギは少しあいだを置いて、また話し始めた。
「さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界の全てをお話する義務がございます。が、それら全てを語るには多少お時間がかかるでしょう。そこで新たな同士候補である皆さんをいつまでも野外に出しておくのは忍びない。ここからは我々のコミュニティでお話ししたいのですが……よろしいですか?」
「待てよ、俺がまだ質問してないだろ」
「俺もだ」
黒ウサギの話を静聴していた十六夜も手を挙げた。
黒ウサギには聞かなければならないことがある。この世界に呼ばれた時の手紙には『己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて』と書いてあった。だけど、あの世界を、そして、恋人であるアスナを捨てる気なんてさらさら無い。
「……どういった質問です?ルールですか?それともゲームそのものですか?」
黒ウサギは少し怯んだ表情をしてそう聞いてきた。
「先譲るぜ」
「悪いな。今すぐ元の世界に帰りたいんだけど、今すぐ帰れるか?」
十六夜が譲ってくれたので質問する。
予想外の質問が来たのか、黒ウサギの表情が驚愕と困惑で染まる。
「……ええっと、元の世界に戻りたいんですか?」
「ああ。俺はあの世界を捨てたいと思ったことは一度もない。俺のことを仲間だと認めてくれる奴がいるし、それに最愛の人がいる。そんな世界を捨てることは出来ないし、やりたいことも残っている」
「す、すみません。こちらの世界から呼び出すことは出来ても、こちらから送りだすことは難しいです。ですが、可能性は小さいですが、そのようなことが出来る“恩恵”は存在します」
「…………そうか」
取り敢えず可能性は低いが帰れることが分かった。あまり時間をかけるとすごく怒られる、確実に。
「そちらの殿方は?」
俺の方の質問が終わったので、今度は十六夜が質問することになる。黒ウサギは緊張した面持ちで質問の内容を聞き取る。俺みたいな質問じゃないかと警戒の色を強めている。
「俺が聞きたいのは………たった一つ。手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は座っていた切り株から腰を上げ、大天幕に覆われた都市を見ながら両手を広げて、黒ウサギに質問した。
「この世界は……………
「ーーーーー」
ほかの二人も十六夜の質問の返答に固唾を飲む。『手紙には世界の全てを捨て我ら箱庭に来られたし』そう書いてあった。俺はともかく、この三人は世界を捨てた。それに値するものがこの世界にあるのかと。
十六夜の質問を聞いた黒ウサギは一拍おいて満面の笑みで答えを出した。
「ーーーYES。『ギフトゲーム』は人を越えた者達だけができる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界よりも格段に面白いと、黒ウサギは保証致します♪」
最後まで読んでくれてありがとうございます!
ここまで来たらこのまま感想まで書こう!!どんなものでもウェルカムだぞっ!!……………あ、でもあんまり刺々しいのはやめてね(^∧^)、オ、ネ、ガ、イ。
次話は早ければゴールデンウィーク中に(完成するとは言ってないヨ
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第3話「ギフトゲーム」
読者諸君よ!!私は前にゴールデンウィーク中に投稿するといったな。どうだぁ!投稿してやったぞ!!絶対にできないと思ってただろ?フラグだと思ったろ?残念だったなぁ(ドヤア
そんな旗っきれ、へし折ってやったわぁ!!
……………ごめんなさい、調子乗りました。正直呼んでくれるだけでうれしいです。あ!ヤメテ!ここでブラウザバックしないで!お願いだから読んでください(^∧^)、オ、ネ、ガ、イ。
黒ウサギの説明が終わり、空から落ちてくる時に微かに見えた天幕のある場所へと向かうべく黒ウサギを先頭にして歩いていた。
先頭である黒ウサギは鼻歌混じりで軽くスキップしながら歩いていた。その後ろを俺達は歩いており、春日部さんと久遠さんは歩きながら何かの話題について話している。
「ちょっくら世界の果てに行くけど、桐ヶ谷も来るか?」
「……いや、いいよ」
「そうかよ。じゃあ、黒ウサギには言うなよ」
「分かったわ。行ってらっしゃい」
突然、十六夜は世界の果てに行ってくると言い出して、俺を誘ってきたが断った。
十六夜は黒ウサギに言わないように言って走り出していった。普通の人が現実の世界で出せることが出来ないスピードで。
「はやっ」
俺達が歩いている道は、緑豊かで穏やかな森の中にある。その穏やかさを象徴するかのように鳥のさえずりや動物の鳴き声、葉擦れの音が聞こえてくる。
木の種類とかは違うと思うけど、雰囲気は浮遊城アインクラッド第22層の森に似ている。22層はモンスターが出ない珍しい階層で攻略が早かった。その安全性故にそこを拠点にするプレイヤーも多く、戦闘を苦手とするプレイヤーも沢山いた。アスナと前線を離れた時もこの穏やかさに荒んだ心が癒された気がする。
「……ちょっと散歩してくる」
「そう」
「後で合流するから。じゃ、行ってくる」
春日部さんにそう言うと、小走りで脇道へ入っていく。そこにもどこかで見たことがあるような無いような草木が生い茂っている。森林のいい匂いも漂ってくる。
この光景を見ていると、今いる世界が現実ではなく作られた世界、つまり仮想世界なのではないかと考えてしまう。それほどまでに信じ難い光景なのだ。実は知らないうちに菊岡さんに実験中のVRMMORPGにダイブさせられている状況で、どこかにあるシステムコンソールにアクセスしてログアウトする。そして、目を覚ますと助手の比嘉さんが『お疲れ様っす、桐ヶ谷君』という快調な声をかけてくれるのではないか。
だとしたら、黒ウサギや十六夜、久遠さんや春日部さんは?十六夜達は俺と同じプレイヤーと言われても納得はできる。しかし、黒ウサギは?この世界を説明するNPCの割には受け答えが滑らかすぎる。ユイみたいな特別なNPCでない限りあんな風にはならない。
さっきの湖だってそうだ。あの水の感触は物質をポリゴンで生成している仮想世界ではありえない。
とすると黒ウサギが言っていたとおり、この箱庭という世界は本物の異世界であり、俺がいた世界とは全くの別物なのだろう。
「本当の、異世界……か」
空に浮かぶ鉄の城の空想に取り憑かれた茅場は、あの世界が崩壊する時に言っていた。『私はね、キリト君。まだ、信じているのだよーーーーどこか別の世界には、本当にあの城が存在するのだと』と。そう、どこか遠いものを見る目をしながらそう語っていた。
「案外、茅場もこの世界にいたりしてな……」
そう呟いておきながら、首を左右に振って心の中で否定する。あの男は死んだはずだ。電子世界にコピーされたアイツがそう言っていたのだから。
「冷たっ!」
気がつくと、小川に右足を突っ込んでいた。夏の井戸水ほどに冷えた水は透きとおっていて川底が見える。そして、時折川の中を魚が元気に泳いでいる。
もし、メインメニュー・ウインドウが存在していたら、途中まで上げていた釣りスキルで魚を釣り上げる。そして、アスナに調理してもらった夕食をアスナとユイと俺の三人で楽しく食べるのだろうか。
アスナに数時間会えないだけで、心が辛い。大学の講義とかなら大丈夫だった。空き時間に電話したりして声を聞くことが出来たから。でも、ここは異世界で当然繋がらない。どうやってもアスナに会うことが出来ない。
「アスナ…………」
水面に移った顔は情けないものだった。仮想世界では英雄と謳われ、不屈の精神で強敵に立ち向かった屈強な剣士でも、現実世界ではただの大学生。弱々しい表情が心を締め付ける。
だけど、いつまでもここで自分の顔を見ていてもアスナとは会えない。
「……春日部さん達と合流するか」
さっきの黒ウサギが先頭で歩いていた道に戻ろうと後ろを振り向くと、目の前をポニーテールの女の子が俺の目の前を走り抜けようとしていた。彼女の腰には一降りの抜き身の刀が吊されていた。
「………こ、来ないでっ!!」
「……チィッ、逃げんじゃねえ!!」
女の子が通り過ぎたと思ったら、今度はゴブリン的ななにかが横切って行った。
「?どうしたんだ?」
気になって女の子らの後を追ってみる。
どうやら、女の子は後ろのゴブリン的ななにかーーーーゴブリンでいいかーーーーから逃げている感じだった。
「きゃ……!」
女の子は走ることに夢中で足元の木の根に気づかずに、転んでしまった。そこにも間髪入れず襲いかかる数匹のゴブリン。
「鬼ごっこも終わりだ。観念しなぁ」
「い、痛っ…………い、いや!こ、来ないで!」
女の子は足首をくじいたらしく、立とうとするが再び転ぶ。それでも必死に逃げようと衣服を汚しながら地面を這いつくばって逃げようとしている。
倒木によって塞がれた道に辿り着くと、倒木に背中を預け腰に吊り下げていた一振りの刀を振り回し始めた。ゴブリン達はそんなことに構いもせずにジリジリと距離を詰めていく。
このままじゃやばい。目の前で彼女がいたぶられるのは見たくない。
「頭領、早くヤっちまいましょう!」
「こんな若い女は久しぶりですぜ。しかも
「まあ、そう焦るな。まずはその可愛らしい悲鳴を聞きながら徐々に身ぐるみを剥いでからだ。グヘヘヘヘヘ………ガッ」
このまま走ってたら間に合わないので、近くにあった木の枝をぶん投げた。投げた木の枝はゴブリン的ななにかの中のボスにヒットした。
「その人数で女の子を襲うのは、どうかと思うな」
「ああぁん?なんだオメェは?」
「ただの通りすがりの人間、だよっと!」
再び木の枝を投げる。しかし、先ほどは不意打ちだから成功した。だから、今回は敵が持っている粗悪な斧で弾かれる。そして、ボスに付きまとっていた数体がこっちに向かって近づいてきた。
「男には興味ねえんだよ、すっこんでろ!」
「頭領!アイツムカつくんで殺っちゃっていいですか!?」
「…………少し落ち着け。不意打ちとはいえ、このウガチ様に攻撃してきたんだ。ここは少しばかりチャンスをやろうじゃないか」
こっちに近づいてきた数体をボスらしきゴブリンは制した。その代わりにボス自らがやって来て、俺の目の前に立って俺を見下ろした。
俺の頭が敵の胸あたりにあるほどの身長に、やや猫背気味の体躯はがっしりと横幅がある。何よりも異様なのは長い腕とその先の鋭い爪がついた逞しい腕。胴体には革製の鎧を身につけ、腰周りには何かを入れていると思われる小袋。何よりもーーーー粗悪だが確かな威力を発揮しそうな片手斧。
目の前にいるのは本物だ。仮想世界にいるモンスターじゃない。圧倒的な存在感と威圧感。背中を冷や汗が流れ落ちて心臓の拍動が速くなる。敵に悟られてはいけない。
「……チャンス?」
「そうだ。俺とお前でギフトゲームをする、それだけだ。そして、勝者は敗者に命令できることとする」
敵ーーーー確かウガチって言ってたか?ウガチは片手斧を地面に刺した。
「ルールは?」
「まあ待て。ギフトゲームをやる以上
ウガチがそう言うと俺とウガチの間に光り輝く何かが空中に現れた。それは羊皮紙だった。
「これが契約書類……」
「これは個人と個人の間で使われるやつだな」
羊皮紙の文面を互いに確認する。
『ギフトゲーム名:“人間と小鬼”
・ルール説明 参加者がもう一人の参加者を降参させるか死亡させるかの二通り
・勝者は敗者に命令権を行使することができる
宣誓 上記のルールに則り“桐ヶ谷和人”“ウガチ”の両名はギフトゲームを行います』
文面に書かれていたのはこれだけだった。ルールは定められているが、禁止事項もない。これではゲームというにはあまりにも緩すぎる。
「……スタートの合図はどうする?」
「…………任せる」
「じゃあ、コイントスで」
ポケットの中に小銭が入っているのを確認している。この近い距離でコイントスしても武器を持ってない俺が負ける線が濃厚だ。だから、距離をとるためにウガチに背を向けた。それが悪手だと気づかずに。
ある程度間ができたので、ウガチの方を向きなおそうとした時、
「ガハッ…………!!!」
「ヒャハ、ヒャハハハハッ!馬鹿かオマエは!!何でわざわざルールに書いてないコイントスを待たなきゃならないんだよ!ギフトゲームはなあ、ルールに抵触しなければ何をしてもいいんだよッ!」
普段の生活では絶対に慣れない痛みに頭が真っ白になり、肺の中の酸素が一気に放出される。その原因はーーーー
ーーーー
「ーーーーーー」
あまりの痛さに声が出ない。俺の体を襲う痛さにその場でうずくまる。
思えば俺はリアルな痛みに慣れていない。物心ついた時からは大怪我しなかったし、祖父に無理矢理やらされた剣道も途中で放り出した。リハビリは最先端の機械が助けてくれたのでさして問題はなかった。
三年以上もどっぷり浸かっている仮想世界は、ナーヴギアやアミュスフィアのペインアブソーバ機能によって過保護なまでに痛みというものが除去されていた。俺にとってデスゲームでの痛みは単なるHPの増減でしかなくなった。だからこそ、あの世界で俺は自分よりも大きい凶悪なモンスター達と戦うことが出来た。
そう、
「おらおらァ!!さっきまでの威勢はどうしたんだァ!せめてこのウガチ様を満足させてくれよぉ!!」
「がッ、ぐはっ……」
うずくまっているのを良しとしないウガチは次から次へと殴って蹴るを繰り返す。
現実世界で俺は無力だ。どこにでもいるようなゲーム好きのただの男子大学生でしかない。
ここが現実である以上、HPゲージはない。だから何が原因で死ぬかわからない。
このままうずくまってても状況は変わらない。ウガチが持っている片手斧を振り下ろされればなす術なく俺は死ぬ。
ーーーー死ぬ?
ーーーー俺が?
ーーーーアスナと会えずに?
ーーーーそれだけはダメだ!
ーーーーならば抗え!
ーーーーこの状況を変えるには、どうしたらいい!!
ーーーーせめて、せめて武器が、剣があればっ!!
ウガチはうずくまっている俺の首をつかみ持ち上げる。
「おいおい、このウガチ様に攻撃を仕掛けてきたからギフトゲームをしてやったのにこのざまかよ?興ざめだなあ。もっと俺を、楽しませろっ!」
「ぐはっ……!」
そのまま反対側の大木に投げつけられた。
投げつけられている時に、追いかけられていた彼女が視界に入った。涙目で震えながらこっちを見ていた。
刀。つまりは武器。俺がよく仮想世界で使う両刃の剣ではないが、紛れもない武器だ。
ーーーー武器があった。
「ぐっ、ゴホッ、ゴホッ」
「ほぉ、まだ立てるのか。まだまだ楽しめそうだなぁ!」
体が痛い。全身が悲鳴をあげている。だが、それでもゆっくりと立ち上がる。こんな痛み、目の前でアスナを汚されそうになった時に味わった痛みに比べれば、軽い!
「ーー俺は、負け、るわけには、いかない!」
立ち上がると、ウガチが遂に持っていた片手斧で攻撃を始めてきた。力いっぱいに振り上げた片手斧を振り下ろす。
大きな隙ができるのを待っていた俺は、シルフの彼女がいる右手方向に避ける。そして、そのまま彼女の元へ駆ける。目的はーーーー
「ちょっと、借りるぜ」
「え?」
彼女が持っていた刀。
SAOでクラインが使っていた様な鍔付きの緩やかに湾曲した刀身を持つ刀ではない。木製の柄に鍔がない真っ直ぐな刀身を持つ刀。
「たかが刀一本でどうにかなると、思ってんのかッ!!」
「っ!」
今度は横薙ぎに一閃。それをしゃがんで躱す。
思い出せ。あの頃を。常に死と隣合わせだったあのデスゲームを。
感覚を研ぎ澄ませろ。
怯まずに前を向け。
「このっ!」
ウガチが連続で斬りかかってくる。
あの感覚を思い出せ。本能のままに片手斧を振るうこいつは、
「ちょこまかとおッ!!」
「はあッ!」
ウガチが片手斧を高々と振るいあげた瞬間、ウガチの腹に蹴りを入れてバックステップで距離を置く。
「ぐぼっ……!」
ーーーーもっとだ!あの時の俺を、黒の剣士キリトをイメージしろ!
右足を半歩下げて左半身の構えをとり、右手に握った刀は緩めに下げる。SAOの戦闘での構えだ。
蹴られたことによるノックバックから回復したウガチは、走り込んで上段から斬り掛かろうとする。
「このおぉぉぉ!!!」
それに対して、俺がとった行動は下がるでも避けるでもない。走り込んでくるウガチに対しての接近だ。
狙いはウガチ本人ではなく、ウガチが今まさに振り下ろそうとしている片手斧だ。この片手斧はよく見ると、所々に傷が付いており刃こぼれもしている。
ーーーーあの世界の技を思い出せ!
イメージするのは魔法という概念が排除されたSAOの世界で唯一許された必殺技である、ソードスキル。数ある中で俺が主として使っていた片手剣スキルのなかで凡庸性に長けた技。
『片手剣スキル突進技・ソニックリープ』
仮想世界では刀身にライトエフェクトが発生し、システムアシストで体運びを助けてくれる。しかし、現実ではそうもいかない。それでも、二年以上も使っている。だから、システムアシストが無くても何百回、何千回と繰り返したソードスキルは体に染み込んでいる。
「うおおおおぉぉぉ!!!!」
体が重くて動きにくい。そんなことは現実世界だから当たり前だ。ステータスによって支えられて戦うVR戦闘ではなく、数年前の現実世界で行ったAR戦闘を意識しろ。
そして、あの世界の俺をイメージしろ!黒い服を身に纏い、黒の片手剣で数々の敵を葬ってきた黒の剣士を!
ウガチの片手斧が俺めがけて迫ってくる。
ーーーー怯むなっ!集中するんだ!
スローモーションに映った世界で、片手斧と刀は交錯する軌道となる。
ガキィンッ!、という甲高い音を立てて片手斧と刀が互いに相手の武器を弾く。
数秒の間を置いて、片手斧が中心から割れて、破片が地面に崩れ落ちた。
その時、刀の刀身が少しだけ黄緑色に煌めいていることに気づかなかった。
前書きではお見苦しいところをお見せしました(_ _)
リメイクでの戦闘シーンでしたが、一人称の戦闘シーンって難しいですね。
感想くれたらうれしいです!ぜひ書いて!さあ!さあ!さあさあ!!
では、また次の話でノシ
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第4話「シルフの少女」
暑い日が続いてぐったりしてました。先週の土曜日は熱中症になりかけました。皆さん、暑い日は水分と塩分をしっかりととってくださいね。それでも直らなかった作者は、バニラアイスで直りました笑
大学も本格的始まり忙しくて大変です。でも楽しいから許しちゃう♪
……こんな気持ち悪い作者は放っておいて本編読んでください。あ、やっぱり構って(^∧^)、オ、ネ、ガ、イ。
刀と片手斧が甲高い音を立てながら交錯した数秒後、片手斧の刀身がバラバラに砕け落ちた。
ウガチの取り巻きは信じられないような表情をしている。俺とウガチは背中を向けあっているため、ウガチの表情は分からない。
「う、うそだろ……」
「マジかよ、あの斧が折れるなんて……」
「うそ……」
ウガチの方を向くと、ウガチは固まったまま動かない。だけど、よく見ると少しだけ体が震えている。
「………」
ウガチは最初に俺を蹴り飛ばした時、ゲームルールに抵触しなければ何をしてもいい、と言っていた。逆に言えば、書いてあることは絶対に守らなければならないということだ。
このギフトゲームの勝利条件は『相手を降参させるか死亡させるか』だった。
例えこんな奴でも俺は、殺したくない。
「……降参してくれ。アンタみたいなやつでも俺は殺したくない」
「……………ふ、ふざけるなああぁぁぁ!!!!」
突如として、ウガチの叫び声が森林に響いた。あまりの声の大きさに空気が震えていると感じるほどだ。
ウガチは俺に近づいてくるなり、鋭い爪で俺を攻撃するかのように腕を振るってきた。さっきとは違い、スピードが数段速くなっていた。
「っ!!」
慌ててしゃがんで避ける。ギリギリで回避したが、髪が爪によって斬られたのかパラパラと落ちていった。
その後も武器を失ったウガチは自身の両腕を武器としてがむしゃらに振るってきた。体格に比べ幾分か長い両腕はギリギリ視認できる速さで俺を襲う。
「殺したくない、だと?このウガチ様が人間如きに殺されるわけ無いだろうがッ!!」
「くっ……」
上下左右全方向から迫ってくる腕に対処しきれずに、鋭い爪による切り傷がどんどん増えてくる。衣類を切り裂いて切り傷ができるほどにウガチの爪は鋭い。
「人間風情が、調子に乗るなあああぁぁッッ!!」
ウガチの両手を握り合わせるという数秒にも満たない隙をついて、左側にローリングで回避する。
回避して体制を整える前に先程いた場所から轟音が轟いた。両手を握り合わせた拳で俺のいた場所の後ろにあった木を殴り倒した音だった。
木を殴り倒した後にすぐに俺のことを捉えたウガチは、右腕をできる限り引き絞る。そして、その体勢を維持したまま走り込んで急接近してきた。
「オラアアアアァァァッッッ!!!」
放たれた右拳を右側へ体をひねって躱す。そこに間髪入れずに放たれた左拳をしゃがんで躱す。
そして、しゃがんだ体勢からウガチの左脇腹目掛けて一閃。
「はっ!!」
そして、その場には止まらずに刀を振るった勢いをそのままにしてフロントステップをする。
ウガチの方へ視線を向けると、ウガチは左脇腹を抑えていた。その指の間から赤い液体が少しずつ滴る。その液体である血は止まるどころか、次第に流れ出る量を増やしていく。
先程放った一閃は思いのほか深手を与える結果となったようだ。
「ゴフッ……!」
「このままじゃ出血多量で死ぬ。そうなる前に、頼むから降参してくれ」
「ふざ、けるなっ……!!このウガチ様が……人間如きに……負けるなんぞ、あってはならないっ!!」
ウガチは血を流しながらも立った。怪我も相まってか表情が険しい。
流れ続ける血を気にせず、ウガチは再び急接近してきた。
「……っ頼む、降参してくれ!」
「ふざけるなっ!そんな手に引っかかるか!!」
先ほどと同じ両手の鋭い爪での連続攻撃。しかし、怪我のせいもあり、そのスピードはさっきまでと比べて格段に遅い。
躱し続ける間にも血は流れ続けて、地面を赤く染める。それに比例してウガチの動きも鈍くなってくる。
「グフッ……」
ウガチの攻撃を避け続けると、ウガチが吐血した。そして、そのままその場に崩れ落ちた。
周りを見るとウガチの傷口から流れ出た血の跡で埋め尽くされていた。所々変色して黒くなっている。
数拍の感覚を置いて吐血するウガチに近づく。
「お願いだ、降参してくれ……!!このままでは本当に死んでしまう……」
「……ハッ、ここで、死ぬよう…なら……ゴフッ!……俺も、ここまで……ってことだろうな。しかも………来たばっかの人間なんかに、な」
ウガチはゴロン、と体勢を仰向けに変える。その間も血は止まること無く流れ続けている。
ギフトゲームの中で初めて弱気を見せたウガチは、俺よりも大きな体躯のはずなのにその存在感はどこか小さく感じた。
「頭領、死なないでください!」
「俺たちを残していかないでください!」
ギフトゲームが始まってから側で静観していたウガチの部下だと思われるゴブリンが、仰向けに横たわっているウガチの側に駆け寄ってきた。
「そいつらの言うとおりだ。だから、降参してくれ」
「…………」
ウガチは答えない。顔には葛藤の色が出ていた。部下に死んでほしくないと懇願されているが、このギフトゲームは降参するか死なないと終わらない。生きるためには降参するしか無いが、部下の目の前でたかが人間相手に降参したくない。そういった葛藤だろう。
「頭領!」
「……」
「ボス!!」
「………」
「「お願いします!降参してください!」
部下達が降参を促すもウガチの口は動かない。
そして、数十秒後。ついに口が動いた。
「…………チッ。おまえらにここまで、慕われていた…なんてな……オメエの、言うことを聞くのは癪だが…………降参だ」
すると、二人の間に一枚の羊皮紙眩い光と共に現れた。
『プレイヤ-“ウガチ”の降参を確認。以降、この契約書類はプレイヤ-“桐ヶ谷和人”の命令権となります』
契約書類を手に取ると、文面にはそう書いてあった。
命令権。これがあれば本人の意思と関係なく、その対象を思うがままに扱うことができる。
内容を考えている時に、ふとウガチ達の顔が目に入った。彼らの目はこの命令権による命令に対して怯えているような目をしていた。
数秒考えた後、彼らに命令する内容を心の中で決めた。
「………命令権を行使する」
その言葉を合図としたのか、契約書類は白く発光して空中に浮いた。
「た、頼む!俺はどうなってもいい!!だから、頭領だけは助けてくれ!!」
「俺もだ!頭領が助かるなら何でも言うことを聞く!だから、頭領だけは……!!」
ウガチの部下達がそう懇願してくる。だが、それでも命令の内容は揺るがない。
「命令は———————————今すぐここから去ってウガチを治療しろ。そして、もうこういうことをするな」
「「………………え?」」
ゴブリンは目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。
そんな彼らに構う暇が無いまま、手に持ってた羊皮紙は再び空中に浮いて輝き始めた。
『命令を確認。実行します』
その文章が羊皮紙に刻まれた後、無数の光となってウガチ達の頭上で綺麗に散った。
その後、効力が現れてきたのか部下達はテキパキと動き始め、ウガチを担いで森の奥へ消えて行ってしまった。その時の彼らの表情は驚愕に満ちていた。
「ふう、やっと終わt………」
無事にギフトゲームが終わったことで緊張の糸が切れた。そのせいか今まで分泌されていたアドレナリンが切れ、体を襲う痛みで意識を手放した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「………………ん」
「あ、気がつきましたか?」
目を開けると目の前に顔があった。金色の髪と黄緑色の瞳が凄く印象的だった。どうやら俺の顔をのぞき込んでいたようだ。
体を起こそうとすると、彼女が身を引く。
「俺は、確か……」
「あの後、急に倒れたんですよ」
ああ、そうだ。ギフトゲームに勝ってウガチ達に命令権を行使して、この場から去ってウガチの治療をするように命じたんだった。
ギフトゲームで攻撃された時の痛みを一時的に感じない位に集中していたが、張り詰めていた緊張が解けてそのまま気を失った…はず。
恐らく数日は痛みでまともに動けないって、あれ?
「身体中が痛…………くない?」
「打撲などの怪我は私の魔法で治療しときました」
「魔法って……ああ、そう言えばウガチの部下が
よく彼女の顔を見ると、殆どが人間と同じだが、耳だけが少し尖っている。ALOの風妖精と似たような感じだ。
「治してくれてありがとう、えぇと……」
「レイナです。レイナ=ヴィエーチル」
「ありがとう、レイナ」
「いいえ、お礼を言うのはこちらの方です。ゴブリンから助けていただいて、本当にありがとうございました」
レイナはこっちを向いて頭を下げた。その際にポニーテールも揺れて背中が見えた。
「いいよ、別に礼なんて。目の前で女の子が乱暴にされるのが嫌だっただけなんだから。それよりもシルフって言ってたけど、翅ってあるのか?」
「はい。今は見えませんが、出そうと思えば………ほらこの通り」
そう言うと彼女は背中をこちらに向けると、その背中にはクリアグリーンに透き通る流線型の四枚の翅があった。まさしくそれは妖精の翅であり、ALOでのシルフの翅に限りなく酷似してた。
「へえ、綺麗なもんだなあ。でも、だったら逃げるときも走らないでその翅で飛んで逃げればよかったんじゃ無いのか?」
「ええと……その、実はあんまり飛ぶのが上手じゃ無くて…………10メートルも飛べないんです」
レイナが俯くときに見えた彼女の表情からは悔しさが感じ取れた。妖精であり翅があるが、飛ぶことができない。そのことが、彼女を苦しめているんだ。
仮想世界で飛ぶ感覚がわかっても、彼女に飛ぶコツを教えることは俺にはできない。俺たちが翅を使って飛ぶことができるのは、フライトエンジンというマシンがALOに搭載されているからであり、現実の翅を持ってない俺たちには現実で実際に飛ぶということが分からない。
「…………」
「……………」
「…………あ、あの」
「ん?」
沈黙が漂い始め空気が気まずくなりかけたときに、レイナが言葉を発しようとしたことで気まずくなることは無かった。
「あ、あの……この後はどうするんですか?」
「そうだな………とりあえず箱庭の中に入らないとな。そろそろ黒ウサギ達と合流しないとまずいし」
「そうですか…………もしよかったら、私も箱庭の中に連れてってくれませんか?」
「それは別にいいけど、いったん家に帰った方がいいんじゃ無いのか?連絡もしないで箱庭の中に行ったらお母さんとかお父さんが心配すると思うけど」
レイナは一瞬だけ悲しげな表情を見せて顔を伏せたが、すぐに笑顔になって顔を上げた。一輪の花が咲いたようなその笑顔の中には、少しばかりの悲哀の感情が交ざっていた。
「……私は以前箱庭の中でコミュニティの一員として活動していました。ですが、ある事情で箱庭の外へ逃亡してきました。そこで、祖父母といえる人に助けてもらえました。ですが、祖父母はかなり高齢だったのもあってついこの前に亡くなってしまいました」
「……辛いことを思い出させてゴメン。何も知らずに踏み込んで……」
「いえ、大丈夫です。もう心に区切りがついてるので………それに私にはやらなければいけないことがあるので、どうしても箱庭の中に行かなきゃならないんです!」
さっきまでの悲しそうな表情は消えて、力のこもった表情に変わっておりその瞳には決意が感じられた。
「…分かった。一緒に箱庭の中に行こうか」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
しびれかかった足を動かしてなんとか立ってズボンについた砂を手で払い、レイナに手を伸ばす。
レイナは手を掴んで少しふらつきながらも立った。しかし、すぐに足を押さえてしゃがんでしまった。
「いっつぅ……」
「だ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……ではないです。結構痛いです」
レイナが押さえている右足首を見てみると、足首が腫れている上に内出血していて紫色に変色していた。
ゴブリンから逃げているときに転んだ拍子にけがをしたようだった。
「俺に使った魔法は使えないのか?」
「魔力が切れてしまって……」
「そうか…じゃあ、早く黒ウサギ達と合流しないとな。ほら、おんぶしていくから背中に乗って」
歩くこともできない。治療することもできない。だったら選択肢は一つしかない。
背中をレイナの方へ向けて、おぶられるように促す。
レイナは数秒考えた後、ゆっくりと背中に近づいて俺に体重を預けてきた。そして、両腕を首の周りで固定させたことを確認すると立ち上がる。
「乗り心地は大丈夫か?」
「………少し冷たいです」
「うっ………それはやむを得ない事情があったので大目に見てもらえるとありがたいです、ハイ」
レイナが少し不満げにそう口にする。が、湖に入ったことに関しては好きでやったわけではないので、少しばかり我慢して欲しい。
「……………………でも、少しだけあったかいです」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、何でもないです。…………ふふっ」
「?じゃあ、行こうか」
箱庭の中に行こうと快調に足を進めていく。が、その速度は次第に落ちていきついには足を止めた。
別に俺が非力で腕が限界を迎えたわけでもなく、足を止めたのには理由がある。
「………」
「……?どうしたんですか?」
「………なあ、レイナ。箱庭の中ってどうやって行くんだ?」
単純に箱庭の中に入る方法が分からないだけなのだ。
レイナをおぶっているので顔を見ることはできないが、おそらく呆れられているだろう。
「……道が分からないのに私を助けたんですか?」
「いや、最初は帰り道が分かっていたんだけど、レイナを助けることに夢中で………」
「意外と抜けているんですね………とりあえずこのまままっすぐ進んでください」
「ん。分かった」
半分呆れられながら道案内してくれるレイナを頼りに歩き始めた。
キリト(!?こ、この背中の柔らかい感触は!?も、もしかしてリーファやアスナよりも大きいんじゃ………………って何を考えているんだ、俺は!?)
レイナ ギュッ
キリト「ふぁっ!?」ムニュ
レイナ「どうしたんですか?」
キリト「な、何でもない……(早く箱庭の中につかないと……!!)」
そういえばおとといはSAOのユウキの誕生日でしたね。皆さんしっかりとお祝いしまいしたか?ユウキは二番目に好きなキャラなのでうれしかったです。え?一番?そんなのシノンに決まってんだろッ!!!!
感想待ってるよーーーノシ
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第5話「箱庭」
「……まぶっ」
薄暗い石造りの通路を通って箱庭の中に入ると、そこにはさっきまでとは全然違う風景が広がっていた。突如として降り注いできたまぶしい光に思わず目を細める。
遠くに見える高い建築物や空を覆う天幕、様々な種族が道を行き交う光景そのものが好奇心を刺激してくる。そして何よりも所々にあるカフェらしきものが、先ほどまで忘れていた空腹感を思い出させる。
「おー、思ってたよりもすごいなー」
「でも、前に私が来たときとは、雰囲気がだいぶ違いますね」
「お、あの売店のやつ、うまそうだな!」
周りを見渡して目に入ったのは、ガタイの良い成人男性が串に刺した肉を炭火で焼いている串焼き店。肉の表面がこんがりと焼けた香ばしい匂いとあふれんばかりの肉汁が空腹のおなかをさらに刺激してくる。
思わず足の向かう先がその売店になりかけた時、レイナが後ろから制してくれた。
「………いてっ」
「だめですよ。黒ウサギさん?っていう人と合流するんですよね?」
「わ、分かってるって」
ジト目で見られているだろうレイナの言うことを聞いて、売店の肉をあきらめる。
足を止めずにそのまま売店の前を通り過ぎる。その際、店主にギロリと睨まれた気がしたが、反応せずに通り過ぎる。
そして、ウサ耳を目印にして黒ウサギのことを探すが見当たらない。もしかして、黒ウサギの所属するコミュニティの本拠に移動してしまった可能性もある。
「見当たらないな……」
「そうですね、聞いていた特徴の人は見かけませんね」
「どーすっかな……」
噴水の近くにたくさんあるカフェテラスの間を歩きながら、今後の予定を考える。
そして“六本傷”の旗印を掲げたカフェテラスの側を通ろうとしたとき、そのカフェからガチン!という音が聞こえた。
「なんだ?」
突然聞こえた大きな音に周囲を歩いていた人らが一斉に、音の発生源に目を向ける。もちろん、俺とレイナも視線を向ける。
目を向けた先には、瞬く間に人だかりができて当事者の顔を見ることはできなかった。しかし、話している声だけは聞こえてきた。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道は、修羅神仏の集う箱庭でしかお目にかかれないわね。………ねえ、ジン君?」
氷のような冷たい声音で問いかけられたジンと呼ばれた者が慌てて否定する。声の感じからするとまだ子供だろう。
というか、最初に聞こえてきた冷たい声音をどこかで聞いたことがある気がする。
「彼のような悪党はこの箱庭でもそうそういません」
「そう?それはそれで残念。………ところで、今の証言でこの外道を箱庭の法の下で裁くことはできるのかしら?」
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質をとることや、身内を殺すことはもちろん違法ですが…………裁かれる前までに箱庭の外に逃げてしまえば、それまでです」
「ちょ、ちょっと、通してください」
群がる人々の間を縫うように歩き、話している人たちが見える場所まで移動する。
そして、視界に入ったこの騒ぎの当事者四人の中には、先ほど一緒に湖に落とされた久遠さんと春日部さんがいた。残りはローブを着た緑髪の少年とタキシードをピチピチに着たガタイのいい男だった。
「久遠さんに春日部さん?」
二人の名前を呟くが、向こうの二人はこっちの様子に気づいていない。
「知り合いですか?」
「ああ。俺と同じでこの箱庭の世界に呼び出されたんだ」
「そうですか……」
背中のほうから聞こえる質問に答える。俺と同じ境遇ということを伝えると、レイナからの答えには少しつまらなそうなことが感じ取れた。
「そう。それなら仕方がないわね」
テーブルに座っている飛鳥は苛ただしげに指を鳴らした。すると、飛鳥の目の前に座っていたガタイのいい男がいきなりテーブルを勢いよく叩いた。
「こ………この小娘がァァァァァァァ!!!」
突然男は雄叫びを上げ、その体を激変させた。巨躯を包むタキシードはふくれあがる広背筋によりはじけ飛び、その下に隠れていた体毛が変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。
周りの野次馬はその姿を見るなり、悲鳴をあげる者や一目散に逃げる者などに別れた。俺はその波に逆らって久遠さんの方へ足を進める。
その間にも男はゲームとかでもよく出てくる人虎――――ワータイガーのそれへと酷似した姿へと変わっていた。そして、鋭い牙の生えている口を開き、怒りの感情をそのままに久遠さん達に言い放った。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが………俺の上に誰がいるのか分かってんだろうなッ!?三桁の外門を守る魔王だぞ!!俺に喧嘩を売ることはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!!その意味が
「
久遠さんが男に黙るように言うと限界まで開かれていた口がガチン、という音を立てて閉じる。突然口が閉じただけでは彼の怒りが収まらないらしく、丸太のように太い豪腕を勢いよく振り上げて襲いかかる。
近くにいた春日部さんも突然のことで少し反応が遅れて動くことができない。
レイナが腰に吊していた刀を抜き、首のところで寸止めにしておく。
「だから、いい大人が女の子を襲うのは感心しないんだけどなあ」
「!?」
突然現れた刀に驚愕の表情をして、体を止める男。体を止めたことにより振りかぶった腕が無防備にさらされ、春日部さんがその腕を掴んだ。
「喧嘩はダメ」
春日部さんはさらに腕を回すようにして男の巨躯を回転させて地面に押さえつけた。
久遠さんは驚いた表情をしてこっちを見ていた。
「和人君!?あなたいつからいたの!?」
「ついさっき戻ってきたところだけど」
「そう……………コホン。さてガルドさん、私たちはあなたの後ろに誰がいようと気にしません。それはジン君も同じでしょう。だって、彼の最終目標はコミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」
消去法でジンと呼ばれた少年の方を見ると、その顔は恐怖で潰れそうになっていた。
しかし、久遠さんに最終目標を問われた彼の顔には先ほどまでの恐怖はなかった。
「………はい。僕たちの最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外の道は残されていないのよ」
「く………くそ……!」
春日部さんの華奢な腕によって押さえつけられているガルド――――久遠さんがそう呼んでいた――――は、悔しそうな声を漏らす。どうやって押さえつけているのか気にはなるが何か特別な力があるのだろう。
ガルドの悔しそうな表情を見て少し機嫌が良くなったように見えた久遠さんは、右足のつま先でガルドの顎を持ち上げると悪戯っぽい笑顔を浮かべて話を切り出した。
「だけど、私としては貴方のような外道はズタボロになって後悔しながら罰せられるべきだと思うの―――――そこで提案なのだけれど」
久遠さんは話をそこで区切ると、周りにまだ残っている野次馬や店員は首をかしげる。飛鳥はガルドの顎を持ち上げていた足を離して、提案の内容を言った。
「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方のコミュニティ“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂をかけてね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
太陽が傾き青空だった空があかね色に染まってきた。小さい頃はこの時間になったら帰るように言われていたことを思い出した。まあ、あまり外で遊ばなかったんだけど。そんな街の噴水広場で声が響く。
「な、なんであの短時間で“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になっているんですか!?」「ゲームの日取りは明日!?」「しかも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備をしている時間もお金もありません!」「いったいどういう心算があってのことです!」「聞いているのですか四人とも!!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!」
まるで打ち合わせをしていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。反省をしていると言った俺以外の三人は何食わぬ顔で聞き流していた。黒ウサギと一緒に帰ってきた十六夜は側でケラケラ笑っている。その光景に苦笑いを浮かべる。
そして、黒いサギは説教する相手を久遠さん達から俺へと変えた。
「和人さんもどうして止めてくれなかったのですか!?」
「な、なんか知らないうちに話が進んでいてだな………」
「だとしても、止めることはできましたよね!?」
「い、いや、俺が行ったときはもうほとんど話がついていたしな」
「そ、そうですか…………」
俺の答えに黒ウサギががっくしと項垂れる。そして、側で笑っていた十六夜が止めに入る。
「別に良いじゃねえか。こいつらも見境無く喧嘩を売ったわけじゃねえんだから許してやれよ」
十六夜の言葉を聞いた黒ウサギは数秒考えた後、少し笑顔を浮かべた。
「…………はあ、まあ良いです。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さん一人でも十分でしょうし」
「は?俺は出ねえぞ」
黒ウサギが笑顔で言った言葉を十六夜が一刀両断した。心の底から本当に十六夜一人で大丈夫だと思っていたのか、突然の言葉に黒ウサギは慌て始める。
「な、何言ってるんですか!?」
「当たり前よ。貴方なんか参加させないわ」
黒ウサギがなんとか十六夜のことを説得しようとしているのをよそに、久遠さんも十六夜の言ったことに賛同した。
そのことにさらに慌て始める黒ウサギ。
「だ、ダメですよ!お二人はコミュニティのお仲間なんですから、ちゃんと協力しないと……」
「たぶんそういうことじゃ無いと思う」
「……え?」
「桐ヶ谷はわかってんな」
俺が呟いた言葉に黒ウサギは首をかしげる。
十六夜は真剣な表情で黒ウサギを右手で制する。
「いいか?この喧嘩はこいつらが
「あら、分かってるじゃない」
「…………もう好きにしてください」
説得することをあきらめたのか黒ウサギは項垂れた。
一通り話が終わったと思って少し安心していると、俺以外のみんながこっちを見ていた。
「……………え?」
「で、桐ヶ谷。ずっと気になっていたんだが……後ろのそいつは誰なんだ?」
十六夜が怪訝な表情で指さしたのは、俺の後ろに隠れているレイナだった。
レイナは黒ウサギ達と合流してから、ずっと俺の後ろに隠れてズボンを掴んでいた。くじいた足は立てるほどにはだいぶ治ったらしい。
「ああ、そういえばまだ紹介してなかったな」
「レイナ=ヴィエーチル、です」
ずっと隠れているレイナを俺の前に立たせて、みんなに挨拶させた。レイナは知らない人の前で緊張しているのか少し震えていた。
レイナの自己紹介が終わったのにみんなの視線がさっきよりも強くなっている気がするんだが。
そんな雰囲気の中、久遠さんが発した言葉は予想の遙か上をいった。
「………………………和人君。いくら箱庭だからって女の子を誘拐してくるのはさすがにダメだと思うのだけれど」
「…………はぁ?」
どっからどう見たら、俺がレイナを誘拐しているように見えるんだ!?
心の中で驚きの声をあげていると、久遠さんに続くように十六夜達も次々と言葉を投げつけてくる。
「おい桐ヶ谷……まさか、元の世界でも女の子を誘拐してたのか?」
「いや、してないから!!」
「まさか、和人さんが…………そんな殿方を私たちのコミュニティに入れるわけには……」
「だから違うって!!」
「和人はロリコン?」
「いや、そっちでもないから!!」
「じゃあ、ホモなの?」
「それでもない!!俺はノーマルだッ!!ていうか、おまえら俺をからかっているだろ!?」
「「「うん」」」
「おまえらなあ………!!」
俺のことをからかっていることがわかると、清々しいほどの笑顔を見せている十六夜達を思わず殴りそうになる。
そんなとき、俺達を止めてくれたのは意外にもレイナだった。
「あ、あの!」
「どうかしましたか?」
「か、和人さんは、ゴブリンに襲われそうになった私を助けてくれたんです!そんな人が誘拐なんてしません!!それに私が和人さんと一緒に来たいって言ったんです。だから、和人さんは誘拐なんてしてません!」
レイナは大きな声でさっき十六夜達が言ってたことを否定する。そして、どういう訳か分からないがレイナの目は潤んでいた。
その勢いの良さに思わず、みんなが驚いた表情をした。
そんな中、久遠さんがレイナの前まで近づいて、腰を下ろして彼女の頭を撫でた。
「大丈夫よ、冗談だから安心して。私たちは和人君がそういうことはしないと分かっているから」
「そうですか、良かった……」
久遠さんにしっかりと冗談と言われたレイナは、安心したのかさっきまでの表情から年相応の可愛らしい笑顔を浮かべた。
「はは………それで、この後はどうする?僕らのコミュニティへ帰る?」
脇の方で見ていたジンがこれからの予定を聞いてきた。その問いには、話に置いてけぼりにされていた黒ウサギが答える。
「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”にギフト鑑定をお願いしないと。十六夜さんが獲得してくれたこの水樹のこともありますし」
「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」
突然出てきたコミュニティの名前に首をかしげる。直訳すると、千の瞳っていうところか。千個も目があったら気持ち悪いな。
十六夜の質問に黒ウサギが答える。
「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つもの達の軍隊コミュニティ。箱庭の全土に精通する超巨大コミュニティです。幸いこの近くにその支店がありますし」
「ギフト鑑定って?」
「その名の通り、ギフトの秘めた力や起源など鑑定することデス。自分の力の正しい形を把握していた方が、ご自身の力を引き出しやすくなると思います。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」
同意を求めてきた黒ウサギに十六夜達三人は複雑な表情で返す。自分の力の正しい形や起源に思うところがあるようだった。
一方で、俺にそういった力があるとは思えない。
そんな疑問を抱きながら、俺たちは“サウザンドアイズ”に向かうために歩き出した。
この小説は遅くなっても完結させるつもりなので、見捨てないください……_(._.)_
感想待ってまーすノシ
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第6話「サウザンドアイズ」
無事に九月以内に書き上げることが出来ました。パチパチ
黒ウサギを先頭に石で舗装された道を歩いて行く。すれ違う人々は何も人間だけではなく、様々な種族が行き交っている。足首の具合が良くなったレイナは俺のすぐ後ろを歩いている。
その道には日本の四季の一つである桜のような花が満開に咲いていた。時折吹く風が、花弁の花びらを散らしている。
その光景が前を歩いている久遠さんの視界に入ったのか、久遠さんは素直な感想を述べる。
「あら、素敵な花ね。でも桜の木………ではないわよね?花弁の形が違うし、何より真夏になっても咲き続いているわけがないもの」
「何言ってんだ、お嬢様?まだ初夏になったばっかだろ、気合いの入った桜が残っててもおかしくはないだろ」
「………?今は秋だったと思うけど」
「そのはず」
久遠さんの疑問に十六夜が答えるが、話がかみ合わない。季節の話になり春日部さんや俺も会話に混ざるが、それぞれが言っていることがかみ合わない。
そのことに首をかしげる。すると、この光景を見ていたのか、黒ウサギは微笑みながら説明し始めた。
「皆さんはそれぞれ違う世界から呼び出されているのです。時間軸以外にも歴史や文化、生態系など違う点があるはずです」
「へえ、パラレルワールドってことか?」
「惜しいですね。正しくは立体交差平行世界論っていうものです。この仕組みを今からお話ししてもよろしいのですが、説明するのに一日二日では終わらないのでまたの機会と言うことで……」
黒ウサギが言ったことから考えると、たくさんの世界が立体的に交差や平行して存在している、ということか。正直、この世界に呼び出されただけでも信じがたいのに、ほかにも似たような世界があるらしい。
こっちを向いて説明していた黒ウサギは、説明を曖昧に濁して振り返る。そして黒ウサギが指差した先の店が歩き始める前に話していた“サウザンドアイズ”という店だろう。
「皆さん!あれが超巨大コミュニティ“サウザンドアイズ”のお店です!!」
「………店を閉めようとしてるんだが」
日が暮れ始めたからか、店の看板を下げようとしている割烹着を着た女性店員。それに気づいた黒ウサギは待ったをかけるべく、走り出して、
「まっ」
「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやっておりません」
ストップをかけることは出来なかった。
やっぱり超巨大なコミュニティだと時間というか規則に厳しいみたいだと、一人で納得する。エギルがゲームでやってる店とはある意味正反対だな。
黒ウサギは女性店員をにらみつけ、久遠さんは女性店員の態度に悪態をつく。まあ、時間ぎりぎりに来る俺たちも悪いと言えば悪いんだけど。
「なんて商売っ気のないお店なのかしら」
「ま、全くです!閉店時間の5分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ他所へ。今後、あなたたちの出入りを禁止します。出禁です」
「出禁!?これだけで出禁とか御客様なめすぎでございますよ!御客様は神様ですよ!!」
神様は言い過ぎなのでは?と危うく言いそうになったがギリギリのところで飲み込む。
女性店員の納得のいかない対応にキャーキャー喚く黒ウサギ。その様子を冷めた目と侮蔑を込めた声で、女性店員はさらに対応を続けていく。
「なるほど。“箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」
「うっ……」
先ほどまでキャーキャー騒いでいた黒ウサギは、女性店員の言葉を聞くと一転して言葉に詰まった。
黒ウサギの隣にいた十六夜は躊躇いもなく答えた。
「俺たちは“ノーネーム”っていうコミュニティなんだが」
「ほほう、ではどこの“ノーネーム”でしょうか?よかったら旗印を確認させていただいても?」
「ぐっ………」
黙り込む黒ウサギ。この様子からして、黒ウサギが言っていた名と旗印がない弊害なのだろう。恐らくコミュニティの名と旗印はこの世界での身分証明書のようなものだろう。
身元の分からない者は店内に入ることが出来ないし、店員も店内に入れない。客を選ぶことが出来るのは力の強い商業組織の証拠だ。
だから俺たちが門前払いされても仕方が無いことだ。無理を言って来てるのはこちら側だから。
とりあえずここから先の対応は黒ウサギに任せておくのが一番だろう。当の黒ウサギは数秒間黙った後、悔しそうな顔をして小声でしゃべりだした。
「その……あの………私達に旗印はありm」
「いぃぃぃぃぃやほおおぉぉぉぉぉぉぉ!!久しぶりだ黒ウサギイイイイィィィィィィ!!!!!」
黒ウサギが出しかけた声は、店から突如として走り出してきた白髪の和服を着た少女に勢いよく抱きつかれたことで消えた。そして、黒ウサギは爆走してきた少女の勢いを殺すことは出来ず、少女と共にクルクルクルクルと空中で回転したまま街道の反対側にある水路まで吹き飛んだ。
「きゃあーーーー…………!」
ボチャン、と水面に落ちる音と共に遠くなる悲鳴。
突然の予測できない事態に目を丸くする十六夜。さっきまで冷たい対応をしていた女性店員は、痛そうな頭を押さえていた。久遠さんも十六夜と同じような感じで、春日部さんは……猫と戯れていた。
「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?もしあるなら俺も別バージョンで」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
飛んでいった黒ウサギを他所に、真剣な表情で女性店員に言い寄るも、彼女も真剣な表情できっぱりと断る。二人の間には真剣な雰囲気が漂い、それがこの二人が真剣だったことを物語っていた。
この真剣な二人から黒ウサギの方に視線を戻すと、そこでは黒ウサギに抱きついた白髪の少女が黒ウサギの胸にスリスリと頭をこすりつけていた。それはもう止まることなく。
「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」
「そんなの黒ウサギが来る予感がしたからに決まっているだろうに!!フフ、フホホフホホ!黒ウサギは触り心地が違うのぅ!ほれ、ここか!それともこっちか!ここが良いか良いか!!」
白夜叉様と呼ばれた白髪の少女はひたすらに頭をこすりつける。
スリスリ。スリスリ。スリスリ。スリスリ。スリスリ。スリスリ。………
「ちょ、ちょっと離れてくださいッ!!」
自分の体に抱きついている白夜叉を引きはがすと、頭を掴んで十六夜が立っている方向へ投げ飛ばした。
クルクルと縦回転している白夜叉は、飛んでいていった着地点にいた十六夜にダイレクトボレーの要領で蹴られて軌道を変えた。
「てい」
「ゴフッ!!」
「え?」
そして、軌道が変わった先には俺がいて、避け————
「あぶなっ!!」
「ガバァ!」
——ることが出来た。
その結果、白夜叉は地面とぶつかり変な声をあげているが、そんなことは気にせずに十六夜に怒る。
「十六夜!いきなり何すんだよ!!」
「ヤハハハ、悪い悪い。避けられたんだから良いじゃねえか」
「当たっていたらどうしていたんだよ!?」
「そん時はそん時だろ」
「お、おんし!!飛んできた美少女をさらに蹴り返すとは何様だ!」
「十六夜様だぜ、以後よろしく和装ロリ」
十六夜の方に詰め寄ると、軽く受け流された。後先考えないでやったのかよ…。
すると、先ほど十六夜に蹴られた白夜叉がこっちの方に走ってきた。その表情には怒りが感じられた。
そして十六夜はヤハハと笑いながら自己紹介をした。
「おんしもだ!!なぜあそこで避けるのだ!!あそこは優しく受け止めるべきであろう!!」
「え?そ、そうなのか。すまん」
他人事だと思って見ていたら、白夜叉はこっちにも言ってきた。いきなり言ってきたので思わず謝る。だけど、あれを避けてしまうのは当たり前だと思うんだけどな。ほぼほぼ条件反射だったし。
ふと、久遠さんの方を見ると一連の流れに呆気にとられていた。こっちの視線に気づいたのか、思い出したように白夜叉に問いかけた。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。依頼ならその発育の良い胸ワンタッチで引き受けるぞ。もしくはそこのシルフの娘でも良いぞ」
「嫌」
「オーナーそれでは売り上げが伸びません。ボスに怒られます」
白夜叉がおそらく冗談で言ったことに女性店員が変わらずの冷静な声で釘を刺す。白夜叉に名指しで言われたレイナは、嫌悪感をむき出しにしてきっぱりと拒絶した。
白夜叉は俺たちのことを一瞥した後、ニヤリと笑った。
「まあいい、話があるなら店内で聞こう」
「良いのですか?規定では“ノーネーム”はお断りでは」
「よいよい。“ノーネーム”と分かっておきながら名前を尋ねる性悪店員に対する詫びじゃよ」
「ですが……」
「身元は私が保証するし、責任も私が負う。いいから入れてやれ」
む、とすねるような素振りを見せる女性店員。彼女にとっては店の規律を守っているだけなのである。それでも上司の言うことに逆らえないのは、元の世界でも箱庭の世界でも共通なようだ。だが、この少女が上司というのだから、相当な実力者なのだろう。
店の暖簾をくぐって店内に入ろうとしたとき、側に立っている女性店員はそれでも自分のしたことは正しいと思っているのか俺たちのことを睨んでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
白夜叉の私室に案内された俺たちは、すでに用意されたいた座布団に腰を下ろす。部屋の中は外観から想像できた通り和で統一された和室だった。入った瞬間に既に焚かれていた香のような物が鼻腔をくすぐる。
上座には既に白夜叉が座っており、大きく背伸びをする。
「さて、もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五に本拠地を構えているコミュニティ“サウザンドアイズ”の幹部、白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな、ちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女だ」
「はいはいお世話になっております本当に」
黒ウサギは投げやりに答える。黒ウサギの隣に座っている春日部さんが疑問の声をあげる。
「その外門って何?」
「箱庭の外層にある門のことですよ。数字が若ければ若いほど街の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者がいます。単純に言うと木の年輪みたいなものですね」
そう言うと黒ウサギは白夜叉から紙とペンを受け取ると簡易的な見取り図を描いた。見取り図を見て確かに年輪みたいだと納得する。だけど、年輪っていうより……
「………超巨大タマネギ?」
「いえ、どちらかというと超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな、バームクーヘンだな」
「…………思い出したら、腹減ってきた」
俺たちにはバームクーヘンに見えた。いや、まあタマネギや木の年輪にも見えないことはない。だけど、バームクーヘンの方がしっくりくるんだよなあ。
俺たちがそんな話をしていると、レイナが黒ウサギの描いた箱庭を上から見た見取り図をのぞいてきた。
「バーム、クーヘン……ですか。どういう物なんですか、そのバームクーヘンって」
「知らないのか?」
「箱庭の中にいた頃の記憶はあまりなくて……」
バームクーヘンを知らないと言ったレイナの顔は少し寂しいというか、実物が分からなくて話についていけないことが悲しいような表情をしていた。
隣に座っていた久遠さんが彼女の表情を読み取ったのか、彼女の頭を静かに撫でた。
「そうなの…でも、大丈夫よ。和人君が手に入れてくれるもの」
「え?」
「そうだな、桐ヶ谷が責任を持って手に入れないとな」
「俺かよ。そもそもどうやって手に入れるんだよ?」
「ギフトゲーム」
「………そういえばそれがあったな…」
「本当ですか!」
「はあ、分かったよ…」
十六夜達に知らないうちにバームクーヘンを手に入れなければならないことになっていた。どうにか断ろうとしたが、レイナの期待が込められた視線に耐えられずに引き受けてしまった。
「ふふ、良いバームクーヘンを商品にしているギフトゲームを今度紹介しよう。して、その例えなら今いる七桁の外門は一番外側の皮の部分になるな。この外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所となっている。そこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持っている者もいるぞ。その水樹の持ち主とか、な」
バームクーヘンの例えのせいか笑顔だった白夜叉は、黒ウサギの方を向いて薄く笑い、彼女が抱えている水樹の苗を指差した。
この苗は街に入る前に世界の果てに行った十六夜と合流したときに、黒ウサギが抱えて持っていた物だ。何でも、十六夜が蛇神とギフトゲームをやって得た戦利品らしい。
「して、誰がどのようなゲームで勝ったのだ?」
「十六夜さんが蛇神様を直接素手で叩きのめしたのですよ」
自慢げに言った黒ウサギの言葉に白夜叉は驚きの声をあげる。黒ウサギが自慢げに言っているけど、実際に手に入れたのは十六夜なんだよなあ。
「なんと!!クリアではなく直接倒したとな!ならば、その童は神格持ちの神童……?いや、それなら一目見れば分かるはずだし…だが、神格を倒すには同じ神格をもつか、よほど崩れた種族のパワーバランスがあるときのだけなはずだし……」
驚きの声をあげたと思ったら、今度は一人でぶつぶつ言い出して、考えにふけってしまった。俺もよく考えに夢中になることがあるけど、こんな感じなのか…。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、あやつに神格を与えたのはこの私だぞ」
エッヘン、と余り主張のない胸を張って黒ウサギの質問に答えた。そして、豪快に笑う。
その言葉を聞いた十六夜が物騒に瞳を光らせたのが、目に入った。彼の目つきは獲物を見つけた動物のような感じがした。
「へぇ?じゃあ、お前はあの蛇より強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の
“最強の主催者”という言葉に、十六夜以外に久遠さんと春日部さんも目が光った。そのことに黒ウサギが気づかない時点で手遅れか。
「そう…ということは貴女のゲームをクリアできれば、私達のコミュニティが東側最強ということになるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた」
白夜叉のゲームをクリアできれば、東側最強のコミュニティになるということが、三人の心に火をつけたらしい。剥き出しの闘争心を視線に込めているのか、三人は白夜叉を見つめる。
その視線に込められた闘争心に気づいたのか、白夜叉は高々と笑い声を上げた。
「抜け目ない童達だ。依頼をしておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」
突然のことに驚いて十六夜達を止めようとするも、白夜叉が右手で制する。
「よいよい、私も遊び相手には常には飢えている」
「ノリが良いわね。そういうの好きよ」
「ふふ、そうか。それでそちらの小僧とシルフの娘も参加するかの?」
十六夜達の提案にのった白夜叉は俺とレイナに聞いてきた。
「……俺は遠慮しとくよ。最強の主催者と呼ばれている白夜叉に、この世界に来た俺たちがそう簡単に勝てると思わない。そもそもギフトに心当たりがないしな」
「私も参加しません」
白夜叉の誘いを俺たちは断った。確かに強い相手とは戦いたい。けど、そう思うのはゲームの中だけだ。ゲームという形をとっていても、この世界ではギフトを所持している必要があり、俺は所持していない。ゲームに参加する以前にスタートラインに並んですらいないのだ。
「そうか…なら、そっちの三人に確認しておくことがある」
「なんだ?」
白夜叉は視線を十六夜達の方に戻し、着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印——向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、
「おんしらが望むのは“挑戦”か————もしくは“決闘”か?」
そういえば今月の27日にオーディナルスケールのBD・DVDが発売されますね。皆さんは買う準備は良いですか?私はもちろん予約済みです!!先にレンタルが始まっているのがなぜか分かりませんけど…
感想待ってまーす(^_^)ノシ
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第7話「白き夜の魔王」
11間に及ぶ長編なので、遅くなってもいいのでじっくりと完成度の高いやつを作って欲しいところです
「おんしらが望むのは“挑戦“か————それとも”
白夜叉がそう言うと袖から出したカードが光り、部屋全体が白い光りに包まれた。あまりのまぶしさに目をつぶり、開けるとそこは、白い雪原と凍る湖畔、そして————太陽が水平に廻る世界だった。
「…なっ………!?」
突然変わった光景に言葉が出ない十六夜達。そんな十六夜達に白夜叉は問う。
「いま一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”————太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは試練へ“挑戦”か、それとも対等な“決闘”か?」
少女とは思えない程の威圧感を出す白夜叉。その威圧感は三人を圧倒していた。
「水平に廻る太陽と………そうか、白夜と夜叉。この世界はお前を表してるってわけか」
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」
白夜叉が両手を拡げると、空の雲海が裂け、薄明に照らす太陽が姿を表した。
「この莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」
「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば手慰み程度に遊んでやる。————だが、“決闘”を望むなら話は別。魔王として命と誇りの限り戦おうではないか」
「……っ」
蛇神を倒すほどの実力を持っていた十六夜までもが白夜叉の問いに返答することを躊躇っていた。
十六夜は明らかに自分の力に自信を持っていて、なおかつプライドも高いだろう。だからか、自分が言ったことを取り消すのは自身のプライドが邪魔しているのだろう。
暫しの静寂の後————十六夜が諦めたように笑いながら言った。
「……参った、参ったよ白夜叉。こんだけのもんを見させてくれたんだ。今回は
プライドが許す最低限の言葉で言っただろう十六夜に、白夜叉は高らかに笑った。笑いを噛み締めた後、後の二人にも問う。
「く、くく……して、他の童も同じか?」
「…ええ。試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ここまでの流れがいったん止まったところで三人の方へ近づいていった。
「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!“階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う“階層支配者”なんて冗談にしても寒すぎます!それに、白夜叉様が魔王だったのは何千年も前じゃないですか!」
「何?今は元・魔王様ってことか?」
「はてさて、どうじゃったかな?」
ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉。肩を落とす黒ウサギと白夜叉が魔王だったのがとうの昔ということを聞いて少し驚く十六夜。何千年も前に魔王だった白夜叉でさえ、この威圧感。いまも魔王と呼ばれ、人々に恐れられている魔王はどれほどなのか計り知れない。
おそらく黒ウサギはこれからもこういう感じでこの三人を中心に振り回されるんだろうな。
そのとき、彼方にある山脈から甲高い声が聞こえた。その声にいち早く気づいたのは春日部さんだった。
「何、今の声?初めて聞いた」
「ふむ、おんしらを試すにはうってつけかもしれんの」
白夜叉は山脈の方へチョイチョイと手招きをした。すると、山脈から体長5メートルはあると思われる獣が翼を広げて滑空し、四人の前に降り立った。
「あれは.....まさかグリフォン!?」
上半身が鷲、下半身が獅子の体を持つグリフォンはよくゲームの中のモンスターとしても登場することが多い。それはSAOでも同じで何度も戦った。鷲の鋭いくちばしの攻撃と翼による突風、獅子の足の鋭い爪による攻撃など色々と苦労させられたことを思い出す。
だが、今はゲームの世界の中の世界ではない。襲われればひとたまりも無いだろう。
「グリフォン……嘘、本物!?」
「フフン、如何にも。あやつこそが鳥の王にして獣の王。“力”“勇気”“知恵”のすべてを備えるギフトゲームを代表する獣だ」
「……襲ってこないのか?」
「大丈夫だ。コミュニティに所属している幻獣は礼節をわきまえておる。さて、肝心の試練だが、このグリフォンで“力”“勇気”“知恵”の何れを試させてもらおうかの」
言い終わると、白夜叉は双女神の紋が入ったカードを出す。すると、虚空から“
『ギフトゲーム名:鷲獅子の手綱
・プレイヤー一覧 逆廻十六夜
久遠飛鳥
春日部耀
・クリア条件 グリフォンの背に股がり、湖畔を舞う
・クリア方法 ゛力″゛勇気″゛知恵″の何れかでグリフォンに認められる
・敗北条件 プレイヤーが降参、または上記の条件を満たせなくなった場合
宣誓 上記のことを尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します
“サウザンドアイズ”印』
「私がやる」
ゲーム内容を確認するなり、いつも主張が少ない春日部さんにしては珍しく自分から挑戦すると言った。それを十六夜達がオーケーしたことで挑戦するのは春日部さんに決まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ギフトゲーム:鷲獅子の手綱 勝者 春日部耀』
結果から言うと、ギフトゲームは春日部さんが無事に勝利を収めた。
ゲーム内容はグリフォンの背にまたがり、湖畔を一周する。しかし、白夜の世界であるこの世界は先ほどまでいた箱庭に比べると寒い。普通に立っているだけでも寒いのに湖畔を疾走するグリフォンにまたがっている春日部さんは俺たちよりも寒かったはずだ。
寒さと衝撃に耐えきった春日部さんの勝利が確定した瞬間、春日部さんがグリフォンから落ちて宙を舞ってしまった。そして、春日部さんは重力に従って落ちるはずだったんだが————
「…………なっ」
————風をまとって浮いていたのだ。驚くのも無理はない。
ふわふわと慣れない様子で着陸した春日部さんに十六夜が近づいていった。
「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類のものだったんだな」
十六夜の言葉に春日部さんはむっとした表情で返す。
「……違う。これは友達になった証。けど、いつから知っていたの?」
「ただの推測。はじめに会ったときの“風上に立たれたら嫌でも分かる”っていう言葉は人間には到底出来ないことだからな。だから、春日部の能力はコミュニケーション能力じゃないだろうと」
十六夜の興味津々な視線に耐えきれなくなったのか、春日部さんはそんな彼から顔を背ける。
「いやはや、大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。……ところでそのギフトは先天性のものか?」
「違う、父さんに貰った木彫りのおかげ」
「木彫り?」
首をかしげる白夜叉に、いつの間にか春日部さんの隣に移動していた三毛猫が説明?していた。動物とコミュニケーションがとれる恩恵を持ってないので分からないが。
「にゃーにゃにゃーにゃにゃにゃー、にゃーにゃーにゃー」
「ほほぅ…彫刻家の父か。よかったらその木彫りというものを見せてくれぬか?」
恐らく三毛猫の説明で出てきた彫刻家の父親手作りの木彫りが気になったらしく、春日部さんに頼んでいた。
春日部さんは、自分が身につけていた木彫りのペンダントを白夜叉に渡す。白夜叉がペンダントを見て顔が険しくなったので、気になって俺ものぞき込む。俺以外にも久遠さんと十六夜ものぞき込んできた。
「複雑な模様ね。何か意味があるのかしら?」
「意味はあるけど知らない。昔教えて貰ったけど忘れた」
「前にネットで似たやつを見たことがあった気がするんだけどな…」
「………。これは」
白夜叉だけでなく十六夜や黒ウサギも鑑定に参加する。木彫りの表や裏を何度も見たり、幾何学線をなぞり黒ウサギは首を傾げる。
「材質は楠の神木…?神格は残っていないようですが……この中心を目指す幾何学線……そして中心に円上の空白………もしかしてお父様の知り合いに生物学者がおられたのでは?」
「うん。母さんがそうだった」
「生物学者ってことはやっぱりこの図形は系統樹を表しているのか、白夜叉?」
「おそらくの…ならこの図形はこうで…そして収束するは…いや、これは…これは、すごい!!すごいぞ、娘!!これが本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ!!まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!!これは正真正銘“生命の目録”として称しても過言のない名品だ!!」
「それってかなりすごいんじゃ…?」
俺のつぶやきに白夜叉はカッと目を見開いて、俺に詰め寄ってきた。そして、春日部さんの木彫りを持って解説し始めた。何を言っているか余り分からないけど。
「当たり前じゃ!普通の系統樹はもっと樹の形を成すのものだが、円形になっているのは恩師の父のセンスが成すものだ。中心が空白なのは、世界の流転を表しているからか、生命の完成が未だ見えぬからか、それともこの作品自体が未完成だからか。―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ!実にアーティスティックだ!おんしが良ければ私が買い取りたいぐらいだの!」
「ダメ」
あっさり断る春日部さん。そして自分の玩具を取り上げられたように落ち込む白夜叉。そんな二人のやりとりを見ていると苦笑いが出てくる。
「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」
「それは分からん。今わかっとるのは異種族と会話ができること、友になった種族から特有のギフトを貰えるということだけだ。これ以上詳しく知りたいなら店の鑑定士に頼むしかないの。それも上層に住む者にしか鑑定は不可能だろう」
「え、白夜叉様でも鑑定出来ないのですか?今日は鑑定をお願いしようと思っていたのですが」
黒ウサギの言葉を聞くなり、げっ、と気まずそうな顔をする白夜叉。ひょっとしたら専門外なのだろうか?
「よ、よりによってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなんだがの…どれどれ……ふむふむ……うむ。四人とも素養が高いのは分かる。しかしこれでは何とも言えんな。おんしらは自分のギフトをどのくらい把握している?」
俺たちのことをじっと見つめてきた白夜叉。その目は品定めをしているようだった。
白夜叉に自分の能力のことを聞かれたが、俺はまず“恩恵”について心当たりが無い。それに俺以外は心当たりがあっても恐らく言わないだろう。
自分の力のことを会ってすぐの人物に話すことをするのはよほどの馬鹿がすることか自分の力によっぽどの自信を持っている奴だけがすることだ。こういうことは、
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「心当たり無し」
「うおおおい?いやまあ、最後はまだしもそれじゃあ話が進まんだろうに」
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札を張られるのは好きじゃない」
きっぱりと断る十六夜に同調するように頷く二人。思った通り、三人は言わなかった。そのことに白夜叉は呆れた顔をした。
「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“ギフト”を与えなければならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」
白夜叉が柏手をパンパンと打つ。すると、俺達の頭上が白く輝く。光の中には一枚のカードらしきものが現れて、白い光が収まると共にそれぞれの手の中に収まった。
コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム“正体不明”
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”
パールエラメルドのカードに春日部耀・ギフトネーム“
ミッドナイトブルーのカードに桐ケ谷和人・ギフトネーム“黒の剣士”“
ライムグリーンのカードにレイナ・ギフトネーム“
「ギフトカード!!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
黒ウサギが歓喜半分、驚き半分といった声を挙げた。白夜叉が贅沢な代物と言っていたから、便利なものだろう。自分たちが渡されたものが分からないからか、もしくは黒ウサギをからかっているのか分からないが十六夜達は明らかに違うことを口にしていた。
「……クレジットカード?」
少しばかり考えてこの流れに乗ってみることにした。
「ち、違います!何で皆様そんなに息が合っているのです!?というか考えてからこの流れに乗らないでください和人さん!!このギフトカードは顕現しているギフトをしまうことができるのです!耀さんの“生命の目録”だっていつでも収納できる凄く高価なカードなんですよ!」
「つまり超素敵アイテムってことで良いのか?」
「重要なことなんですからそんな簡単に聞き流さないでください!あーもう、そうです!超素敵アイテムなんです!」
黒ウサギに何か言われながらも、三人は物珍しいそうにカードを見る。俺もカードに書かれていることを見る。
「…………っ!」
カードに書かれていることに多少驚いていると、レイナが申し訳なさそうに白夜叉に尋ねていた。
「私たちまで貰って良かったのですか?私たちは白夜叉さんの試練に参加していないんですけど」
「良い良い。さっきも言ったように復興の前祝いだ」
レイナが試練に参加していない自分達までギフトカードを貰っていいのかを聞いていた。白夜叉は復興の前祝いだから良いと言った。
タダでくれると言ってくれるのだから、もらっといて損はないはずなのでありがたくもらっておこう。
「我らの双女神の紋のように所属するコミュニティの名と旗印が刻まれるのだが、おんしらは“ノーネーム”だからの。少々味気無いが文句は黒ウサギに言ってくれ」
「あの、この刀もギフトカードに収納することって可能なんですか?」
レイナが自分の腰に吊していた“絶刀・鉋”を指差した。
「ああ、出来るとも。ギフトカードはギフトなら何でも収納可能だ。しかし、切刃造の直刀で鍔や鞘がなく、綾杉肌に二筋桶が彫られている刀ということはその刀は“絶刀・鉋”じゃな。これまた珍しいギフトを有しておるな、シルフの少女よ」
「これは、おじいさんとおばあさんの形見なんです」
レイナはそう言うと、絶刀・鉋にカードを向けると絶刀・鉋は光の粒子となってカードの中に吸い込まれた。そして、レイナのギフトカードに“絶刀・鉋”の文字が追加された。
レイナの隣で十六夜も持っていた水樹を収納していた。
「おお、面白いなコレ。もしかしてこのまま水も出せたりするするのか?」
「ああ、出せるとも。なんなら試してみるか?」
「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティのために使ってください!」
興味本位で水樹の水を出そうとする十六夜は慌てる黒ウサギに注意されて、イラついたように舌打ちをする。
「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”即ち全知の一端だ。そこに刻まれているギフトネームとはおんしの魂と繋る“恩恵”の名称。鑑定はできずとも名前を見れば大体のギフトが分かるというもの」
「へぇ、じゃあ、俺のはレアケースなわけだ?」
ん、という感じで白夜叉が十六夜のカードを除き込む。俺も気になり、白夜叉に続いて十六夜の後ろから覗く。十六夜のギフトカードには“正体不明”と書かれていた。それを見た白夜叉は驚愕の表現をした。
「“正体不明”だと??いいやありえん。全知であるラプラスの紙片がエラーを起こすなど」
「まあ、何にせよ俺にとったらこっちの方がありがたいさ」
白夜叉がさっき言ったとおりにこのカードが全知全能だとすると、正体不明ということはあり得ないはず。可能性としたらこのカードのギフトを無効化するギフトということだけ。しかし、このぐらいなら少し考えれば分かること。ならば、白夜叉があそこまで驚くはずがない。つまり、十六夜のギフトは分からないということだな。
カードを白夜叉から取り上げて黒ウサギ達がいるところに歩く十六夜。白夜叉は十六夜を怪訝な表情で睨んでいた。
その後、“サウザンドアイズ”を後にした俺たちは黒ウサギに案内されて、コミュニティの本拠地へと向かった。
今日から大学が始まってしまいました……なるべく早く書き上げられればと思います。
まあ、期待せずに待っていててください(待ってる人いるよね?
感想待ってマース(・ω・)ノシ
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第8話「恩恵」
無事何とか生きてました。そして、だいぶ遅くなってしまいましたが何とか書き上げたのでよかったら読んでください……
“ノーネーム”本拠地・貯水地広場。
噴水広場にはジンとジンよりも幼い子供達が清掃道具を持っており、水路を掃除していた。水路は元の世界の地元で見られるような畑の側を流れるようなものではなく、中世風のゲームなんかによく出る石で囲まれた立派な水路だ。
「あ、皆さん!水路と貯水地の準備は出来ていますよ!」
「ご苦労様ですジン坊っちゃん♪皆も掃除をきちんと手伝っていましたか?」
ジンが俺たちに気づくと、掃除していた手をいったん止めてこちらに駆け寄ってきた。ジンが手を止めたことによって、周りの子供達も手を止め始めて黒ウサギに駆け寄ってくる。
「黒ウサのねーちゃんお帰り!」
「眠いけどしっかり手伝ったよ!」
「ねえねえ、新しい人たちって誰!?」
「強いの!?カッコいいの!?」
「YES!とても強くて可愛い方達ばっかりですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」
子供達に黒ウサギが一列に並ぶように言うと、子供達は一列に並ぶ。一列に並んだ子供達を見ると半分以上が猫耳や狐耳の子供達だったことが分かった。
その光景を見ていると、SAOでユイと会って間もない時の光景が思い浮かんだ。記憶がないユイを連れて、サーシャというプレイヤ-がゲームに適応できない子供達を保護しているアインクラッド第一層の教会に行ったことがある。そこにはデスゲームの中で子供達と必死に力を合わせて生きている姿があった。
この子供達もそうなのだろうか?コミュニティの名前と旗印を魔王によって奪われて、互いに寄り添い、協力し合って生きているんだろう。そんな現状から脱するために黒ウサギは俺たちを呼び出したんだ。子供達が気になるのも無理はないと思う。
………けど、これで六分の一?俺、話すのあんまり得意じゃないんだけどなー、と思いつつ紹介されるのを待つ。
コホン、と仰々しく咳き込んだ黒ウサギは十六夜から順番に紹介する。
「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、桐ケ谷和人さん、レイナ=ヴィエーチルさんです。皆も知っている通り、コミュニティの中核を担うのはギフトを持っているプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はプレイヤーの私生活を支え、励まし、時には身を粉にして尽くさなければなりません」
「あら、そんなのは必要ないわよ。もっとフランクにしてくれても」
「駄目です。それでは組織が成り立ちません」
黒ウサギは飛鳥の提案に対して厳しい声音で言った。
まあ、確かに上下関係がちゃんと出来てない組織は崩壊するのも早い。黒ウサギの言うことは最もなんだけど、こんな幼い頃から教え込まなくてもいい気がする、と思ったけど今は言わないでおこう。
「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加して、彼らの恩恵のおかげで初めて生活出来るのです。これは避けることの出来ない、箱庭の掟。子供のうちから甘やかせば子供のために成りません」
「……そう」
“ノーネーム”となってから三年間コミュニティを一人で支えてきた厳しさを知っている黒ウサギの雰囲気が飛鳥を黙らせた。
「ここにいる子供達は年長組です。ギフトゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っています。何かあるときはこの子らに言ってください。皆、いいですね?」
「「「「「「「「「「よろしくお願いします!!!!!」」」」」」」」」」
キーン、と耳がなる音量で挨拶をする子供達。思わず耳を塞ぐ。
「ハハ、元気がいいじゃねえか」
「……そ、そうね」
十六夜は子供達の元気の良すぎる挨拶を前にしても笑っていた。女性陣はこれからのことを心配しているのか複雑な顔をしていた。
「ねえねえ、黒ウサのねーちゃん」
「はい、何ですか?」
「あの黒い服を着ている人って男の人?」
「?そうですが…それがどうかしましたかか?」
「だって肌が色白でー」グサッ
「髪も長くてー」グサッ
「金髪の兄ちゃんより背が低くてー」グサッ
「女の人みたいなんだもん!」グサグサグサッ
グサグサと自分でも気にしているところを問答無用に攻撃を仕掛けてくる子供達。無邪気ゆえの子供たちからの予想外の精神攻撃に思わずよろめく。
確かに、今日初対面の時の十六夜達にも間違えられたけど、あのときは水に濡れていたからまだ、納得は出来た。うん。よく風呂に入って髪を乾かさない状態でアスナに会ったら、「なんだ和人君かー。知らない女の人かと思ったよー」と笑ってそう言っていた。それ以外にも外で急に雨が降ってきたときに、近くの店に避難したら外国人にナンパされるし。
だけど、今は髪も乾いているし、普通の状態なんですけど!?これで間違われたことは今まで一回もないんですけど!?
子供達が純粋に聞いてくる分、怒れない。なんか、純粋なところがユイにそっくりだな。と思ってると黒ウサギがフォローしてくれた。
「な、なんてことを言っているのですか!?和人さんも立派な男性です!例え色白で背が低くて非力に見えて女性と間違うかもしれませんが、立派な男性なのですヨ!!」
が、子供達よりもはるかに強く攻撃されたのを感じた。これも、当人はフォローしているように感じても、実際には心を抉りに来ていることを知らないからタチが悪い。
「……黒ウサギ、それフォローじゃない…」
その後、黒ウサギやレイナが必死に励ましてくれる中、水樹を貯水地に植えたら勢いよく水が飛び出して十六夜がまたずぶ濡れになったりと色々なことがあった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
水樹の一件の後、俺は自室に選んだ屋敷の一室の椅子に座っていた。部屋には机と椅子、クローゼットにベッド、収納、そして、ちゃぶ台ぐらいの大きさのテーブルという簡易的なものしかなかった。黒ウサギは自分の部屋は自分好みに模様替えしてもいいと言っていた。
とりあえず、テーブルのところにある座布団に座って、今日のことを振り返る。
今日は色々なことがあった。珍しい紙媒体の手紙から始まり、異世界への呼び出し、パラシュートなしのスカイダイビング、そこで告げられた自分がギフトという特別な力を持った普通の人間ではないことなど現実にはあり得ないようなことばかりを体験した。いっそ、新しいVRMMOといわれた方が納得がいくようなことばかりだった。だけど、仮想世界では説明仕切れない技術力の問題が多すぎた。だから、ここは現実なのだと自分自身を納得させた。
ただ、それでも頭の片隅でずっと引っかかっていることがある。
「……………」
服の内側のポケットから一枚のカードを取り出して机の上に置く。それは数時間ほど前に白夜叉に渡された一枚のカード。名前はギフトカード――正式名称はラプラスの紙片と言うらしいが――は部屋の照明に照らされて暗い青色に輝いていた。そこに書いてある文字は、俺の名前と俺の
ギフトカードは所有者の名前とその人物の恩恵か書いてあるのだ。
俺は当初、恩恵に心当たりが無かった。無くて当たり前だ。現実の俺は、ゲーム好きなただの男子大学生なのだから。しかし、このギフトカードには恩恵の名前が書いてあった。それも一つではなく二つ書いてあった。
“黒の剣士”と“スプリガン”だ。
「……………黒の剣士、か」
黒の剣士――――この名前は、SAO時代の俺の二つ名だった。気づいたら、こんな二つ名がついていた。エギルに聞いたところ、黒い髪、黒い瞳、黒の服、そして、黒い片手剣という上から下まで黒ずくめなことから付いたらしい。他にも
スプリガン―――――これはALOでプレイするために選ぶ種族の一つの名前だ。影妖精とも書く。トレジャーハント関連と幻惑魔法が得意な種族で、どちらかというと戦闘には不向きで不人気ナンバーワンの種族だったらしい。これも黒を基調としている。
箱庭の世界に呼び出されたときに黒ウサギは『その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます』と言っていた。さらにギフトカードを白夜叉から渡されたとき、『そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”即ち全知の一端だ。そこに刻まれているギフトネームとはおんしらの魂と繋る“恩恵”の名称』とも言っていた。
この二人の言葉から考えると、
なら俺のギフトは?
“黒の剣士”と“スプリガン”。この二つは仮想世界での名前や種族であって、修羅神仏や悪魔、精霊、星から与えられたものでもなく、生まれる前から決められているものでもない。他人に付けられた名前や、人の手で作られたゲームの中での設定であり、ゲームに関わる以前は普通の子供だったのだ。自分に特別な力があることを感じることも実感することも出来ないただの子供だった
それなのにこの二つが俺のギフト?
百歩譲ってスプリガンはまだ良いとしよう。シルフもいるしな。黒ウサギにさっき確認したら、シルフやスプリガン以外にも
問題はもう一つの方、黒の剣士だ。
「なんで…これが俺のギフトなんだ……?」
これは確実に十六夜や春日部さん達のギフトとは違う。服装や見た目からそう付けられた名前。黒い服装をして剣で戦う人物が居ればそいつも黒の剣士である。
そう。“黒の剣士”という言葉はSAO事件を知っている人が聞けば、俺のことを指しているということが分かるはずだ。直接的にSAO事件を知らなくてもSAO事件が解決した後に発行された『SAO事件記録全集』を読んでいれば、黒の剣士がある一人のプレイヤーを指していることが分かる。
だが、この箱庭の世界は俺が元いた世界とは違う時間軸の人もいる。その中で『黒の剣士=俺』とはならないはずだ。
そもそもとして、仮想世界の設定された力が現実で使えるということが本当に出来るのだろうか?
ゲームにフルダイブしているときは現実の体を動かしたり出来ない。SAOのハードであるナーヴギアが延髄部で肉体への命令信号を回収し、アバターを動かすためのデジタル信号に変えているために仮想世界にフルダイブしている間は何があっても現実の体を動かすことは出来ない。
「だあーッ!分からん!!白夜叉も剣を使うギフトということしか分からないらし……使い方も漠然としないし」
一応、白夜叉に使い方を聞いてみたけど、帰ってきた言葉は余り納得できないものだった。曰く、「恐らく、その“黒の剣士”が意味することを想像すれば良いのではないか?最も、私にはこの言葉が指す意味があまり分からないがの。それよりも私としては“スプリガン”の方が興味深いの。人でありながら妖精のギフトを持つ奴なんぞ初めてじゃ」ということらしい。
「あー、風呂に入って汗を流したい…けど、今は女性陣が使ってるから入れないしな…。とりあえずベッドで横になるか……」
ギフトカードを服の内側のポケットにしまって、ベッドにダイブする。長年使ってないということだったが、臭いにおいはせずむしろ新品といわれてもなっとく出来るくらいにベッドは気持ちよかった。そういえば、この屋敷はほとんどが使ってないと言っていたが、その割にはカビくさい臭いやほこりなどは全くと言っていいほどになかった。
「少しだけ寝るか…」
ベッドの気持ちいい触り心地に誘われたのか急に睡魔が襲ってきた。三十分ぐらい仮眠をとれば女性陣も風呂から上がってるだろう。
俺は体勢を横向けに変えて目を瞑った。
はい、ということで次回からギフトゲームに入れたらと思います。
GWまでに書き上げられたらいいなぁ……
感想待ってまーすノシ
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第9話「初陣」
……
…………サッ(しれっと
昨日の夜は仮眠のつもりだったのだが、目が覚めたら窓の外は既に明るくなっていた。どうやらあのまま朝までぐっすり寝ていたらしい。黒ウサギが風呂が空いたと言いに来てくれたらしいが、ぐっすり寝ていたのでそのままにしていたとのこと。起こしてくれよ…。まあ目が覚めてから、風呂に入ったんだけどさ。
本当なら、少し仮眠をとった後にギフトの確認をする予定だった。理由はどうあれ、戦う力を手に入れることが出来たからな。今日のガルド?とかいう奴とやるギフトゲームに備えようと思ったんだが、結局準備も出来ないままに当日を迎えてしまった。
本拠地を出発した俺たちは、今日ギフトゲームを行う場所――――ジャングルのような居住区に着いた。
「……ジャングル?」
「虎なんだから、おかしくはない…よな?」
「いえ、おかしいです。“フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず……それにこの木々はまさか」
想像していた居住区とは全く違っていたが、それでも虎が率いるコミュニティなのだから問題は無いと納得しようとすると、ジンが否定する。
ジンは居住区を覆っている木々に手を伸ばす。すると、木々はまるで生きているかのように動き始めた。
「やっぱり……“鬼化”している。まさか、彼女が……?」
「ジン、あれが“契約書類”か?」
ジンが周りの木々に気をとられている中、周りを見渡すと木に貼り付けられた一枚の紙、いや羊皮紙を見つけた。ジンがうなずくのを確認してから“契約書類”を手に取り、文面を確認する。
『ギフトゲーム名:ハンティング
・プレイヤー一覧 ジン=ラッセル
久遠飛鳥
春日部耀
桐ケ谷和人
レイナ=ヴィエーチル
・クリア条件 ホストの本拠地内に潜むガルド=ガスパーの討伐。
・クリア方法 ホスト側が指定した武具にのみ討伐可能。指定武具以外の攻撃は“
・敗北条件 敗北、またはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリー内にて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します
“フォレス・ガロ”印』
「ガルドの身をクリア条件に………指定武具で打倒!?」
「こ、これはまずいです!」
“契約書類”に書いてあることを読み終わると、ジンと黒ウサギが焦ったような声を出した。
俺たちはジン達の言っている意味が分からず、疑問符を浮かべる。そうした中、久遠さんがジンに質問した。
「このゲームはそんなに危険なの?」
「いえ、ゲーム自体はそんなに危険ではありません。しかし、ルールが問題です。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操ったり、耀さんのギフトやレイナさんの持っている刀で傷つけたりできなくなります」
ジンの答えを聞いても久遠さんはまだ解らないという表情で今度は黒ウサギに問う。
「……?どういうこと?」
「“恩恵”ではなく“契約”で守られているということです。これでは神格保持者でも全く歯が立ちません!ガルドは自身を勝利条件にする代わりに勝負を互角にまで持ち込んだのです」
「すいません。僕の落ち度でした。始めに“契約書類”を作った時にルール決めていれば良かったのに」
なるほど。ということはガルドが指定した指定武具以外の攻撃は、破壊不能の【Immortal Object】を攻撃しているみたいな感じか。それで、ガルドを指定武具で倒さなきゃならなくなった、ということか。
俺たちはガルドにゲームをしようということしか決めていなかった。それは主催者である“フォレス・ガロ”が“契約書類”を自由に作成できるということになり、参加者である“ノーネーム”は何も言うことが出来ない。
今までの流れを静かに見ていた十六夜が、少しばかり楽しそうに呟いた。
「敵は命がけで勝負を五分五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白い展開だけどな」
「お前は参加しないから良いけど、ちょっとはこっちの身にもなれよな」
「その通りよ。これじゃあ指定武具が何かも分からないわ。このまま戦ったら厳しいでしょうね」
「だ、大丈夫ですよ!“契約書類”にはしっかりと『指定』武具と書いてあります!つまり何らかのヒントがあるはずです!もしヒントが提示されなければ、ルール違反となって“フォレス・ガロ”の敗北は決定!この黒ウサギがいる限り、ルール違反はさせませんとも!」
ルール違反があった方が問答無用でこっちが勝てるから有利なのでは?と思ったが口には出さないでおく。もし、言ったとすれば主に十六夜あたりが何か言ってきそうだし。
“契約書類”をのぞき込んだ久遠さんの顔つきが厳しくなったことに気づいた黒ウサギは、彼女の手を握って励ます。黒ウサギに続いて春日部さんやレイナも励ます。
「大丈夫。黒ウサギもこう言っているし、私も頑張る」
「私も微力ながら頑張ります!」
“フォレス・ガロ”と“ノーネーム”でギフトゲームをしようと言い出したのは久遠さんだ。彼女とは少しの時間しかいないが、プライドが高いということだけは明らかだ。そんな彼女が挑んだゲームで、彼女が負ければ恐らくプライドがズタズタになり、どうなるか分からない。
だけど、久遠さんには仲間がいる。だから、彼女のことを支えなければならない。
「俺も頑張るよ」
「.......ええ、そうね。むしろ、このくらいのハンデがなければあの外道のプライドを粉砕出来ないわ」
黒ウサギ達の励ましのおかげか、久遠さんも奮起した。ルール上で勝機があるならば――――ルール上で勝機がなくても――――諦めてはいけない。
そして、ギフトゲームを始めるため俺たちは門をくぐった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
門をくぐったことが合図となったのか、俺たちの手によって開かれた門が閉ざされて樹木によって覆われた。
門を超えた先は普通ならレンガで舗装されているはずの道が樹木の根によってバラバラに砕かれていた。道から外れた森も暗く闇に包まれていて、森の中から奇襲されたらひとたまりもない。
「大丈夫。近くには誰もいない。匂いで分かる」
「あら、犬にもお友達が?」
「うん。20匹ぐらい」
「20匹ってすごい多いですね…」
予想よりも多い犬の友達の数にレイナが驚きの声をあげる。
おそらく、グリフォンからもらったギフトと同じような感じで犬の友達からも嗅覚に関するギフトをもらったのだろう。そういえばグリフォンのギフトはあのグリフォンからしかもらえなかったけど、普通の接する機会が多い動物の場合はどうなるのだろうか?単純に考えればもらえないか、武器を強化するみたいに性能が良くなっていくのだろうか?まあ、今ここで聞くような内容じゃないし、帰ってから聞こう。
「詳しい位置は分かりますか?」
「そこまでは分からない。けど、どこかの家の中にいる可能性が高いと思う」
「それじゃあ、外から探しましょうか」
久遠さんがまず敷地の中を探索しようと提案し、その提案にジン達が首を縦に振った。
だが、探索を始めようとする彼女らを俺は止めた。
「なあ」
「?どうしたんですか」
「ジン。このギフトゲームは時間制限とかってあるのか?」
「いえ、“契約書類”にはそのようなことは書いてありませんでしたので、ないと思われますが……それがどうかしましたか?」
ジンが体の向きを変えて、こっちを向いてそう言った。他の三人も似たように疑問があるような顔をしていた。
「いやー、その、少し俺に時間がほしいなーって」
「どうして?」
制限時間が設定されているのか、とか時間をくれって言った俺に対して、久遠さんが訝し気にその理由を尋ねてきた。
そんなにたいそうな理由じゃないし、むしろすごい個人的なことなんだけどな…。でも、理由を言わないと納得しないだろうから言うしかないか。
「俺は久遠さんや春日部さんと違って自分のギフトの能力を把握していないんだ。この世界に来て、ギフトカードを手にするまで自分にそんな能力が存在しているなんて思わなかったからなんだ。だから、俺のギフトを確認する時間が欲しいんだ」
「そう、なら確認してもらわないと大変なことになるわね。春日部さん達もそれでいいかしら?」
久遠さんに聞かれた春日部さん達は全員首を縦に振った。
脇で俺の用事が終わるのを待っている久遠さん達を脇目に、俺は内ポケットから自分のギフトカードを取り出す。そこに書かれているのは、昨日の夜確認したとおり“黒の剣士”と“スプリガン”の二つだ。
この二つを使うには、この言葉が意味する姿を想像すれば良いのではないのか、と白夜叉が言っていた。
ならば、想像するのはあの世界で戦っていた、黒衣に包まれ黒白の二本の剣を手にした剣士の姿。両の手に握った剣で数多の敵を葬った強い剣士であり、魔王を倒した英雄の姿。
――もう一度なるんだ、剣士に。
――想像しろ。
俺はゲーム好きのただの男子大学生。だけど、今の俺の中には間違いなく剣士としての俺が存在している。結局のところ、俺はどこまで行っても剣士というものから離れられないのだ。
「あ…」
誰が呟いたのかは分からない。けど、そのつぶやきを境にして俺の服装が変化した。
俺が確認できる範囲では今まで身に付けていた服が、黒い指貫きのグローブと黒いロングコートと黒いブーツに変化していた。そして背中に感じるずっしりとした重み。それの正体は、俺が最後に使用していた二本の愛剣。
そして、視界の左上には緑色の細長いゲージみたいのがあった。これは、HPゲージなのだろうか?
「和人、君?」
「なんか、違う……?」
「雰囲気が変わった……」
自分の体に起きた様々な変化がひとまず落ち着くと、手を握ったり、開いたりして感触を確かめる。今確かめた感触は、仮想世界でポリゴンが生成したものではなく、しっかりとした生身の感覚。自分がいつも慣れているポリゴンの感覚とは差異を少々感じる。その感触に少し疑問を覚えながらも次の行動に移る。
そして、背中に背負っている剣を抜いて、それぞれ片手で握る。右手には、柄から刀身までもが黒い片手剣――“エリュシデータ”左手には、刀身は眩いほどの白で柄は青みを帯びた銀色のやや華奢な片手剣――“ダークリパルサー”両方の剣は手にずっしりと重みが伝わるほどに重い。軽すぎることもなく、かつ重すぎることもない、ちょうどいい重さだ。
手に感じた感触を確かめた後、数回左右の剣を振ってみる。前に使用していた時の感触がそのまま手に残っている感じだ。
問題はこの後だ。魔法という概念をなくし、剣の世界とも呼ばれたSAOでの唯一の必殺技と呼べるもの――“ソードスキル”
普段剣を扱うことがない現代人がいきなり自分よりも大きいモンスターを自分の力だけで倒せ、というのは到底無理な話だ。そこで、運営が用意したものが、ソードスキルだ。特定のモーションをとるとソードスキルが発動するのだが、その際に剣の刀身が光る“ライトエフェクト”、剣の動きを助けてくれる“システムアシスト”の二つが特徴といえる。
仮想世界でなくなったこの箱庭の世界でもソードスキルが使えるのか、確認しないといけない。普通の現実ならばもちろんだが使うことは不可能だ。しかし、この姿になることができたならば……と思い、数あるソードスキルのうちの一つの発動モーションを取る。
『二刀流スキル二連撃技・シグナスオンスロート』
敵に飛び込んで十字に激しい斬撃を繰り出すソードスキルで、奇襲の際によく使えるスキルである。しかし、敵のヘイト値を集めやすいので普通の戦闘の際は戦いに向いていないのだが、撤退する際の殿を務めるには便利なのだ。あんまり使う機会は少なかったけど。
「………ッ!」
ソードスキルによって繰り出された斬撃の風圧で、周囲の木々が揺れる。木々が揺れた影響か、数枚の葉っぱがひらひらと落ちてきた。
少しの静寂の後、俺は息を長めに漏らす。ソードスキルを放つために全身に力が入っていたので、力を抜く。
「ふぅー……ん?どうした?」
剣を背中の鞘にしまって、ジンたちの方を向くと四人は見るからに固まっていた。春日部さんはすこし分からないけど。
「…驚いたわ。ただの女顔の男性だと思っていたのだけれど、違ったみたいね」
「……何者?」
久遠さんは、先ほどのことに驚いていた。まあ、普通の人間にあんなことができるわけないんだから、俺はギフトを持っているということになるんだろうな。なんか、すごく癇に障るようなことも言われたけど。
「す、すごいです!まさか、和人さんがこれほどのギフトを持っているなんて!和人さんは箱庭に来る前の世界で先ほどのような剣技を扱うようなことをしていたのですか?」
ジンに言われてあの世界での出来事がフラッシュバックした。デスゲームと告げられたあの日、守ると誓った人を目の前で見殺しにしてしまったこと、最愛の人に出会えたこと。そして、
「…まあ、そうだな。さ、それよりも俺の用事は済んだから探索を再開しようぜ」
ジンの質問を曖昧に答え、俺が止めてしまった探索を行うように促した。俺の言葉に頷いた春日部さん達は、ガルドと指定武具の探索を再開した。
そんな彼女らの後ろ姿を見て、一つ疑問が出てきた。“契約書類”の勝利条件に書いてあったことだ。このギフトゲームの勝利条件は『ガルド=ガスパーの討伐』だ。つまり、ガルドを殺さなければならないということだ。いざ指定武具を見つけて、ガルドと対峙したときに俺はこのことに臆することなく剣を向けることができるだろうか。おそらく、俺の前を歩いている四人は殺しをしたことはないだろう。そんな彼女たちが躊躇いもなく指定武具をふるえることができるとは思えない。それならば、いざというときは俺が――――
「和人さーん!はぐれちゃいますよー!」
「あ、ああ!今行く!」
そこまで考えているうちに、だいぶ距離が開いていたのだろう。レイナが呼んでいたので先行している彼女たちに追いつくために、少し早めに歩き出した。
前回の投稿から一年もたってしまって申し訳ございません。大学の課題とバイトに追われる日々で執筆する時間を確保できませんでした。
これからは本当に不定期ですが少しずつでも続きを投稿したいと考えております。待って欲しいとは言いませんが、気が向いたら投稿されていないか見てほしいです、ハイ。
それでは次話でお会いしましょうノシ
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第10話「対峙」
(。゚ω゚) ハッ!これがブランクというやつか………!
俺の恩恵を確認した後、ガルドは屋敷の中にいるのではないか、という結論に至りその屋敷の玄関に俺たちはいた。ガルドの屋敷の中は、どれも高そうな家具が壊れていて散乱している。さながら、大きな屋敷がダンジョンのようになったものだろう。そういう場合は、領主が何らかの形で敵になっている場合がほとんどだが。
屋敷に敵が侵入したことで、いきなり奇襲される可能性がある。なので、警戒を怠らないように周囲を首を振って確認する。
「……敵は、いないのか?」
「ガルドは二階にいた。だから、周囲に敵はいない」
「そ、そうか…」
俺が周囲を確認していたことに春日部さんが、敵がいないことを俺たちに告げた。おそらく、犬の友達からもらった嗅覚で分かったのだろう。そのことに安堵したのか、久遠さんが肩に入れていた力を抜いた。それと同様にレイナとジンも力を抜いた。
「じゃあ、これからのことを少し話しましょ。春日部さんの言う通り、ガルドが二階にいるのならその内に方針を決めましょう」
「まずは指定武具の確保が最優先ですよね。森の中にはなかったのですから、ここまで来たらガルド本人が守っていると考えた方がいいでしょう」
久遠さんの提案にみんなが首を縦に振る。これから、ガルドと戦うのだ。作戦はあった方がいい。レイナがまず指定武具の確保を促す。この屋敷に来る前に指定武具が森の中に隠されている可能性を考慮し、みんなで探した。結果は、森の中には指定武具といえるようなものはなかった。
この屋敷の中にも指定武具がある可能性があるが、レイナの意見に納得する。ガルドにしたら、背水の陣でのギフトゲーム。そして、指定武具という分かりやすい攻略のヒント。そのヒントを野放しにしておくのは危険だ。自分を殺すことができるものを簡単にプレイヤーに渡してしまうのは、どうぞ殺してくださいと言っているようなものだ。
だとすると、その指定武具を自分で守るのが一番安全なのだ。
「そうだな。だとすると指定武具を確保して一時撤退した方がいいかもな。指定武具がどういう武器かわからないから、確認して作戦を再度立て直した方がいいかもしれない。それに狭い部屋の中で戦うのはきついだろうしな」
「そうですね。ガルドが人間のままの姿で戦うとは考えにくいです。高い確率でワータイガーになっているでしょう」
人間のままでも十分迫力のあるガルドだったが、自分のコミュニティの存続がかかったギフトゲームだ。手を抜くということはいないはずだ。そして、ガルドはワータイガーの姿で迎え撃ってくるだろうとジンが予想する。
「じゃあ、ガルドのいる部屋に入ったら、指定武具を確保して撤退でいいかしら?」
久遠さんのその提案にみんなが了承したのを確認すると、彼女はジンに向かってあることを言った。
「じゃあ、部屋に行く前にジン君。貴方は此処で待っていなさい」
「ッ!…どうしてですか?僕だってギフトを持っています。足手まといには」
「そうじゃないわよ。先ほどの話で私たちは指定武具を確保したら、撤退することを決めたわ。あの外道に知恵があったら、先回りされる可能性がある。そうなった場合、私たちの作戦はダメになってしまう。だからジン君には一番大事な退路を守っていて欲しいの」
その言葉はジンにとっては、自分が必要ないと言われたも同然のように感じられたのだろう。彼の表情からは自分も一緒に行く!という気概が感じ取れた。
そのために反論しようとした人の言葉を久遠さんは遮り、自分の考えを伝えた。久遠さんの考えを聞いたジンは、しばし考えた後、その役割を引き受けた。
だが、退路を守るのがジン一人では少々心許ない。それに見たところジンの持っている恩恵は戦う系ではないだろう。だったら、もう一人戦えるような人がいた方がいいな。
「レイナ」
「はい?」
「ジンと一緒に残ってくれないか?退路を守る重要性はさっき久遠さんが言ったけど、ジンだけでは心配なんだ」
「………本当は一緒に行きたいのですが、分かりました。お気をつけてください」
これで退路を守るのがジンとレイナの二人、指定武具の確保が俺と春日部さんと久遠さんの三人、とそれぞれの役割が決まった。
そして俺たちは物音を立てないように慎重に階段を上り、正面にある普通よりも少し大きい扉の前に立つ。
「指定武具を確保したら、急いで撤退だからな。俺がガルドを引き付けるから、確保は任せた」
突入した後のことを二人に言うと、納得したのか首を縦に振った。
これからガルドと戦い、ガルドを……殺さなければならない。俺に殺すことができるか?いや、やらなきゃこっちがやられるんだ。覚悟を決めろ。
意を決して扉を開けるとそこには、
「……ギ…………GEEEEEEYAAAaaaaa!!!!」
言葉を失ったガルドが知性も理性もない、本能だけの野生の虎となって、後方の白銀の十字剣を守るように立っていた。
本物のホワイトタイガーとなったガルドの咆哮を正面から受けてしまい、思わず体が強張る。仮想世界のモンスターの咆哮とは格が違った。自分の縄張りへ侵入した外部者を排除するための咆哮からは、ガルドの怒りを感じることができた。
俺たちを確実に敵と判断したのか、ガルドは目にも留まらぬ速さで突進を仕掛けてきた。
「…っ!!」
ガルドが獲物と定めたのは、久遠さんだった。
久遠さんは、とっさのことに反応できていない。このままだと、彼女はガルドの鋭利な爪で切り裂かれ…………死ぬ。
分かっている。ガルドの動きは直線的で、しかも、俺が手を伸ばせば久遠さんに届く距離に俺はいる。
でも、体が、本能が、SAOで培ってきた経験が今すぐこの部屋から逃げろと懸命に伝えてくる。誰よりも早くこの屋敷から出ろと言ってくる。生きるために逃げろと。
頭では分かっているのに、体が動かない。
こうしている間にも、ガルドは久遠さんを殺せる距離にまで距離を詰め、自身の爪で久遠さんを襲おうとしてその爪が――――
「逃げて!」
―――――当たらなかった。
春日部さんが久遠さんを階段に突き飛ばしたのだ。そして、春日部さんも突き飛ばした勢いのまま転がり、かろうじて攻撃を避ける。
しかし、ガルドは攻撃の手を弱めることなく、次の獲物を春日部さんと定めて追撃しようとする。ここにきてようやく体が思うように動き、追撃を防ぐために剣を抜きでガルドに斬りかかる。
「春日部さんは先にあの白銀の剣を!あれが多分指定武具だ!!ガルドは俺が引き付けるからそのうちに!」
「分かった」
俺が春日部さんに促すと、春日部さんはすぐに剣を取るために走り出した。春日部さんが剣を取るためには、ガルドのすぐそばを通らなければならない。だからこそ、ガルドの注意を引き付けないと春日部さんが危険にさらされてしまう。
――――バチッ!!
「……くっ!」
ガルドに斬りかかったが、やはりギアスで体が守られているらしく攻撃は通らない。感覚的は【Immortal Object】を斬った感覚と似ている。それでも攻撃は通らないが衝撃は伝わってくる。思い切り振りかぶって斬りかかったために体がのけぞる。
「GEEEYAAAaaa……!」
「……ッつ」
だが、この隙にガルドが攻撃をしてこなかったことが幸いし、体勢を治すことができた。しかし、先ほど斬りかかったことでガルドのヘイトが俺に集まっている。その証拠にガルドは俺を中心にゆっくりと歩いている。獲物、つまりは俺の様子を見ているのだろう。
冷や汗がゆっくりと頬を伝う。ガルドの呼吸が俺の緊張をより強くさせていく。SAOがデスゲームになった時のモンスターと対峙したときはレベルを上げなきゃならない一心で無我夢中だった。今になって思う。自分よりも大きい動物と対峙することがこんなにも怖いなんて。
「GEEYAAaa……!」
「…………いつまでもこうしてるわけにはいかないよな」
このままガルドににらまれていても状況は好転しない。この様子だと俺が何もしないとガルドも行動を起こさないだろう。ならば、自分から攻撃するしかない。
ソードスキルの構えをとろうと大勢を変える。俺が動いたことでガルドは歩きを止め俺のことをじっと睨んでくる。
『二刀流スキル突進系二連撃技・ダブルサーキュラー』
剣を握る手が微かに震える。これは、おそらく恐怖だろうか。しかし、恐怖なら今までに――それがたとえ仮想のものだとしても――多くを乗り越えてきた。
狙う場所は、ガルドの前足の鋭利な爪の届きづらい後ろ足の付け根だ。このソードスキルは外すことはできない。ガルドの動きを注視しながら狙いを絞り……ソードスキルを、
「GEYA!?」
「……え?」
突然ガルドが悲鳴のような鳴き声を上げながら、俺の後方へ大きくジャンプした。さっきまでガルドがいたところを見ると、そこには白銀の十字剣をもった春日部さんがいた。そして、彼女の持っている剣には鮮血がついていた。
まだスキルが発動する前だったのでキャンセルによるペナルティは受けていない。
「ガルドは私が倒す」
「GEEYAAAAaa!!」
春日部さんに攻撃されたことで、獲物の対象を変えたのか春日部さんの方を向く。春日部さんに斬られたところはあまり深くなく、あまり出血していない。
春日部さんは白銀の十字剣を正眼に構えて対峙する。その当人である彼女も多少の恐怖を感じているのか顔が強張っている。
「待つんだ!指定武具を手に入れたから一旦撤退を…!!」
「GEYA!!」
数の差で考えると2人いるこちらの方が有利だが、この状態はあまり良くない。今いる部屋は狭くガルドの速さで動かれたら目で追うのは至難だ。クリア条件に必須な指定武具を手に入れたから撤退を促すも、ガルドが動く方が早かった。
ガルドは春日部さんに先ほどまでと同じように突進する。春日部さんは突進を右側に回避して、ガルドに斬りかかろうとするが、
「ガハッ……!ガッ……」
剣の攻撃が当たる直前に春日部さんがなぜか壁まで吹き飛ばされる。そして、間髪入れずにガルドが壁から完全にずり落ちる前に爪で春日部さんを攻撃する。春日部さんは何とか回避したが、それでも攻撃を脇腹に食らってしまい、白い洋服に血があっという間ににじむ。
「春日部さん!!」
ガルドがそんな状態の春日部さんを見逃すわけがなく、とどめを刺そうとしていた。彼女が吹き飛ばされてから、すぐに駆け出していた俺は春日部さんを守るために前に立つ。そして、ガルドから振り下ろされる爪を受けるために無意識にソードスキルを発動させる。
『二刀流スキル防御技・クロスブロック』
両手に握る剣を交差させて爪を受ける。
「こん、のおおお!!!!」
ガルドの爪は重かった。相手も真剣に来ているのだから手加減しないということは頭に入っていたつもりだった。そう、つもりだった。至近距離でより強く感じることができるようになったガルドの獣としての生への執着。邪魔者を排除しようとする本能。仮想世界では感じることのできないものが確実に俺の予想を超えていた。
それでも、ここで負けるわけにはいかない。負けたら、最悪の場合死ぬのだから。それも春日部さんも巻き込む形で。それだけは避けなければならない。だから、今の力をすべて振り絞ってガルドの攻撃を受け切り、前方に強くはじく。
ガルドがのけぞった隙に、二刀を手放して春日部さんの持つ十字剣を手に取る。そして、ガルドに対して横なぎに切り払う。今度はギアスによって防がれることなく、ガルドの白い毛並みの体に赤い横一線の傷口をつける。そして、わずかにできたこの隙に春日部さんを抱えて屋敷から一時撤退する。
「…ゴメン。躱し、きれ、なかった……」
「いや、あれをかわすのは無理だ。
「それに……さっきまで使ってた…剣を置いていかせちゃって…」
「どうせ、あの剣じゃガルドに衝撃を与えることはできても致命傷を与えることもできない。ガルドを倒した後にでも回収するさ」
俺は先に撤退した久遠さん達と合流するために、森の中を走った。
きりが悪かったので今回は短めです。次回でガルド戦が終わるといいですねー。
p.s.ロニエ可愛いhshsしたい
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