空に住む (CRAZYBABY)
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空に住む

 

 

2/10

 

この日は私、松浦果南の26回目の誕生日

いつもならAqoursのみんなと

もう1人私の大切な人がお祝いしてくれるはずだった。

 

でも、1年前の誕生日に私の大切な人『ヒロト』は

交通事故で亡くなってしまった。

 

交通事故にあったと聞いた時は

まだ生きていると信じてた。

とにかく、急いで病院に向かったんだ。

私が病院に着いた時ヒロトは生きてた。

意識がちょうど戻った時だった。

フラフラしながらベットに近づくと

ヒロトも途切れ途切れになりながら

「心配かけてごめんな」って言ってくれた。

私は泣きそうになっていたけど

必死にヒロトの手を握ってた。

 

果南「もう…。心配かけないでよ。バカ。」

 

ヒロトは少しだけ微笑んでくれた。

それだけで私は嬉しかった。

大切な人が無事で本当によかった。

そう思っていた。

 

その日はAqoursのみんなも来てたから

みんなで千歌の家に泊まったんだ。

 

みんな、さっきまで暗かった顔が

生きていると知って安心してた。

 

そう言う私も安心していた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、神さまは残酷だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

私達が帰った後、容態が急変し

その日の夜にヒロトは亡くなった。

 

ヒロトが亡くなったって聞いても涙がでなかった。

みんな泣いているのに私だけ泣かなかった。

今も流れてこないんだ。

ヒロトの事を考えなかった日はないよ。

心臓が張り裂けそうなくらい痛いよ。

なのに、未だに涙が流れてこない。

 

 

現実味がない。

いつもみたいに私だけに見せる笑顔

で名前を呼んでくれる気がする。

そう思い続けている。

 

 

Aqoursのみんなから連絡が来たり

食事に行って、励まされる事もあった。

でも、何も心に響かなかった。

 

 

 

もう、どうでもよかったんだ。

ヒロトがいない世界なんてどうでもいい。

 

そう思い始めていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そんな気持ちの中迎えた26回目の誕生日の前日は

やたらと晴天だった。

私をバカにするかのように晴れていて

少しイラだった。

 

そんな事を思ってもしょうがないから

とりあえずスマホを確認する。

 

するとAqoursのメンバーであり

私の幼馴染の千歌から連絡が来ていた。

 

千歌『果南ちゃんおはよう。明日Aqoursのみんなで果南ちゃんのバースデーパーティーしようと思っています。そんな気持ちじゃないのはわかってるけど、みんなで話し合って果南ちゃんの支えになれたらと思っています。ほんの少しだけでもいいから前を向こうよ。よかったら明日の10時に、沼津駅にみんなで待ってます。』

 

果南「千歌、みんな…。ごめんね。私はまだ、行けないよ。前を向いても、何もないんだ。」

 

誰が聞いてるわけでもなく1人でつぶやいた。

 

果南「どっか行こう。」

 

部屋にいても、嫌な気分にしかならないから

とりあえず、外に出ることにした。

 

行く場所はわからない。

行きたいと思ったところへ行こう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日はとにかく何も考えず色んなところへ行った。

どれも共通してヒロトと2人で行った

思い出の場所だった。

そうすればこれからどうするべきかわかるかと思っていた。

でも、何もわからなかった。

何も心は変わらなかった。

 

ヒロトとの大切な思い出は

今もキラキラしたまま、私の中に残っていて

2人で叶えようとしていた夢は

何も果たせないまま終わってしまった。

 

それがたまらなく辛いのに涙が出てこない。

 

きっと私は心が荒んだヒドイ人間なんだ。

 

 

果南「帰ろ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

自宅に着いたら私宛に手紙が来ていた。

誰からの手紙かわからなかったし

特に興味もなかったので

開けずに部屋へ持ち帰った。

 

部屋に戻って、私はヒロトとの写真を見返していた。

色褪せた写真の2人は行く末も知らずに

笑っている。

 

幼稚園、小学校、中学まで一緒で

高校は別々になってしまった。

それでもたまに会っていたし

Aqoursの応援もしてくれていたから

別に寂しいということはなかった。

 

…ちょっとだけ寂しかったのが本音だけど。

 

そして、大学生。

私とヒロトは同じ大学に入学したんだ。

同じ大学に入学が決まった時は

本当に嬉しかった。

心がウキウキしていた。

 

でも、ヒロトは大学3年生の時に退学した。

 

あるボーカルオーディションで3万人の中から

2人の合格者のうちの1人に選ばれたんだ。

 

それから、ヒロトは遠い存在になっちゃった。

どんどんアーティストとしての道を

駆け上がってくヒロトはただ輝いていて

どんどんカッコよくなって

私が手の届かないところに行っちゃった。

 

ヒロトの為に連絡を取るのをやめた。

私なんかのせいでヒロトの人生を

台無しにしたくなかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

連絡を取るのをやめてから1年くらいたった。

 

今日は22歳の誕生日。

みんなで千歌の家で誕生日パーティーしてるんだ!

 

パーティーも終わりにさしかかって来た時

ヒロトから突然連絡が来た。

私はどうしていいかわかんなかったけど

とりあえず電話に出た。

 

果南「…もしもし?」

 

ヒロト「今、どこにいるの?」

 

果南「え?なに?どーゆーこと?」

 

ヒロト「いいから、どこにいるの?」

 

果南「えっと、、、千歌の家でみんなで誕生日パーティーしてるよ?」

 

ヒロト「千歌の家な。そこで待ってて。」

 

果南「え!?ちょっ!ヒロト!」

 

プーップーップーッ

 

千歌「果南ちゃんどうしたの?」

 

果南「あっ。千歌…。今からヒロトがここに来るって。」

 

千歌「え!?ヒロくんが来るの!?」

 

曜「なになにー?どうしたのー?」

 

Aqoursのみんなが様子を見に来た。

 

千歌「ヒロくんがここに来るんだって!」

 

梨子「ヒロトさんが?」

 

ダイヤ「どうされたんですかね?」

 

鞠莉「ヒロが考えてることと言えば…。」

 

善子「十中八九、果南の事ね。」

 

花丸「マルもそう思うずら〜。」

 

ルビィ「ル、ルビィも、、、。」

 

果南「でも、来たところで会えないよ。ヒロトは今、アーティストとしてすごく輝いてる。ヒロトの人生を私なんかが台無しにしていいわけないんだよ。」

 

その時に思っていた事をみんなに打ち明けた。

そしたら、みんなは

 

千歌「こらっ」

 

果南「イテッ」

 

曜「ヨーソロー!」

 

果南「イテッ」

 

梨子「まったく、、、。」

 

果南「梨子ちゃん!?」

 

ダイヤ「やれやれですわ。」

 

果南「ちょっ!ダイヤ!?」

 

鞠莉「本当にガンコなんだから。」

 

果南「イタイよッ」

 

善子「どうしようもないわね。」

 

果南「善子ちゃんまで!?」

 

花丸「ズラッ!」

 

果南「え!?」

 

ルビィ「ごめんなさい!」

 

果南「ルビィちゃんも!?」

 

みんなに1人ずつデコピンやらチョップやら

色々と叩かれた。

でも、痛くはない。

 

果南「…みんな?」

 

千歌「どうしてそんな事言うの!?会いに行きたいなら会いに行けばいいじゃん!それにヒロくんは果南ちゃんに会いたがってるよ!ヒロくんが会いに来てるなら行きなよ!それで何かあってもみんな責めないし、ずっと2人の味方だよ!!!」

 

千歌がそう言ってくれた。

みんなも同じ意見で優しく微笑んでくれていた。

 

ブーッブーッブーッ

 

ダイヤ「ほら、来ましたわよ。お行きなさい。」

 

鞠莉「たまには会ってもいいじゃない。」

 

果南「ダイヤ、鞠莉。…うん。」

 

みんなに励まされて、私は電話に出た。

 

果南「もしもし?」

 

ヒロト「着いた。十千万の前にいる。」

 

果南「わかった。」

 

そう言われて、玄関を出ると

バイクに跨っていたヒロトがいた。

 

果南「ヒロト…。」

 

ヒロト「どうして連絡してくれないんだよ。」

 

果南「だって、ヒロトのアーティスト人生を私なんかが壊したくなかったから。私と会う事で変な噂立てられたらやだもん!ヒロトには私以上にふさわしい人がいるし…。」

 

そう言うと、ヒロトは私にハグしてくれた。

 

ヒロト「バーカ。俺のパートナーは俺が決めるし、果南と一緒にいて、俺のアーティスト人生が壊れるわけないだろ。」

 

果南「…ヒロト。」

 

ヒロト「それに、果南がいてくれた方が俺はもっと輝けるんだ。だれかを守る為に歌を歌える。こんな幸せなことはない。その守るべき人が果南であってほしい。そう思ってる。」

 

そう言われて、私は涙が溢れてきていた。

 

ヒロト「別に今すぐじゃなくていい。お前の人生だ。好きなようにすればいい。やりたい事を精一杯やればいい。いつか、俺と一緒にいたいと思ってくれる時が来たら、その時は生涯俺とパートナーを組んでくれ。」

 

私はすぐに返事をした。

 

果南「…うんっ。」

 

泣きながらだったからちゃんと返事できたか

わかんなかったけど

ヒロトは優しく頭をそっと撫でてくれた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

気付いたら寝落ちして夢を見ていた。

懐かしい、私のキラキラした思い出。

忘れたくても忘れられない。

 

果南「ヒロト…。」

 

会いたい。会いたいよ。

 

 

ふと、さっきもらった手紙が目に入った。

 

とりあえず開けてみよう。

宛名もないし誰からなんだろ。

 

 

手紙を見るとこう書いていた。

 

 

『親愛なる果南へ

 

今日の空は晴れてますか?

どんな色をしていますか?

 

もし、晴れていたら今日の23時50分に

星がよく見える場所に来てください。』

 

 

果南「うーん。誰からかわかんないしなぁ。」

 

私はそんなこと言いつつ、

この時間に行けば、何か変わる。

そんな気がした。

 

果南「まぁ久しぶりに星を見に行こ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時間は23:45

 

手紙に書いてあった時間の5分前だ。

 

果南「なんで来たんだろ。」

 

そう言いながら、私は空を見上げた。

 

やっぱり淡島神社は星がよく見えるなぁ。

 

そんな事を思っていたら

23:55になっていた。

 

果南「ははっ。やっぱりイタズラかぁ。」

 

そう思って、帰ろうとしたその時

後ろから声が聞こえた。

Aqoursのみんなじゃない。

 

ここにいるはずのない人の声だった。

 

???「やっぱりここだったか。」

 

果南「…ヒロ、ト?」

 

ヒロト「おう。久しぶりだな。」

 

果南「な、なんで、、、?」

 

ヒロト「そこら辺は詳しく聞かないでくれ。あんまり言えないんだ。」

 

私は思わず、ヒロトの頬っぺたをビンタした。

でも、、、

 

スカッ

 

果南「え?」

 

ヒロト「そりゃそうだ。俺は死んでるんだ。」

 

果南「ちょっと待って。よくわかんないよ。だって、、、だって!ヒロトは目の前にいるじゃん!」

 

ヒロト「果南…。」

 

果南「どうして先にいなくなっちゃったの!交通事故で死ぬなんてバカじゃないの!?なんで死んじゃうの!死んだら私はどうすればいいの!?」

 

私は心の中にあった事を全てさらけ出した。

ヒロトに言いたかった事だ。

 

 

ヒロト「果南。俺はお前に言いたいことがあって来た。」

 

果南「言いたい事?」

 

ヒロト「果南が22歳の誕生日の時に俺は俺の気持ちを果南に伝えた。その時、お前は返事をしてくれた。でも、あの時はなんか照れくさくていえなかったんだ。」

 

果南「…?」

 

ヒロト「果南、ほんの少しだったけど俺のパートナーになってくれてありがとう。」

 

果南「ッ!」

 

ヒロト「そして、先に死んじまってごめんな。」

 

果南「ヒ、ヒロト…。」

 

ポツポツと涙が溢れて来た。

1年間一度も流していない涙。

1年分かと思うくらいに零れた。

 

果南「うっ。ううっ。…グスッ。」

 

泣いている私を触れられないのに、

ヒロトは後ろから優しく抱きしめてくれた。

 

ヒロト「泣くなよ。」

 

果南「だ、だって、だって。本当に寂しかった。もう会えないって受け入れられなくてずっとずっと苦しかった。」

 

ヒロト「果南、いいか。よく聞け。この世界は優しさで溢れている。たとえ、どんなに未来を遠く感じたって負けるな。果南なら大丈夫だ。Aqoursのみんながいる。そして、果南にふさわしい人がもう1人現れる。幸せになるんだ。」

 

果南「やだよ…。私、ヒロトじゃないと幸せになれないよ!ヒロトがいない世界なんてどうでもいい!」

 

ヒロト「バーカ。俺はずっとお前のそばにいてやるから。果南を初めて抱きしめた時の暖かさはまだ胸に残ってるだろ。それが俺が近くにいる証拠だ。」

 

果南「で、でも…。」

 

ヒロト「それにこの空に俺はいる。」

 

果南「え?」

 

ヒロト「俺はもうすぐこの空に帰る。だから、何かあったとき辛くなったとき空を見上げてくれ。そうすれば答えられたら答える。今度は夢にでも現れてやるさ。」

 

果南「ヒロト…。」

 

ヒロトの体がキラキラ光り出して

足から消えていく。

 

ヒロト「おっと。もうお別れの時間だ。最後に一つだけ言葉を残す。ちゃんと聞いてくれ。」

 

果南「う、ん…。わかっ、た…。」

 

ヒロト「これから数えきれないくらいの夢が果南を待っている。だから、うつむかずに笑って前を向いてくれ。笑ってる果南が1番似合ってるぞ。」

 

果南「グスッ…。」

 

ヒロト「ありがとうって言えないまま果南に逢えなくなってしまったけれど、この空に俺はいる。誰よりも愛してた。晴れた日も雨の日もいつまでも愛してる。」

 

果南「ヒロト。やだよ。行かないで。」

 

 

 

ヒロト「果南じゃあな。誕生日おめでとう。」

 

 

そう言って、ヒロトは消えた。

 

 

果南「ヒ、ヒロトォ…。

う、うぅっ。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

私は泣いた。声が枯れるまで泣いた。

 

 

Aqoursのみんなが近くにいた事を知らずに

泣き叫んだ。

いつの間にか、後ろからみんなに抱きしめられて

気づいた。

 

 

あったかい。ヒロトと同じあったかさだ。

ヒロトが言いたいことはこう言う事だったんだね。

 

 

 

 

ヒロト、ありがとう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日の朝、私は26回目の誕生日を迎えた。

 

今日も空は晴れていた。

でも、私の心はスッキリしていた。

 

これからは前を向いて歩く。

 

そう心に決めて、私は沼津駅に向かった。

Aqoursのみんなに会いにいくために。

 

昨日の夜、あの後みんなは解散して

それぞれの家に帰宅した。

なんでみんなが来ていたんだろうって

思って聞いたら

みんなに同じ手紙が来ていた。

 

 

『今日の空は晴れていますか?

どんな色をしていますか?

 

もし晴れていたら

星がよく見える場所に

今日の23:50に来てください。』

 

って内容だったらしい。

それで不思議なことに誰が決めたわけでもなく

淡島神社に集まったんだって。

そのみんなの手紙はいつの間にか

光になって空に帰っていったそうだ。

 

 

 

沼津駅に向かってる途中に

私は空を見上げて、こう呟いた。

 

 

「今日の空は晴れていますか?

どんな色をしていますか?」

 

 

 

そう呟くと、空が少しだけキラキラと輝いた。

 

 

 

 

fin

 

 

 



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