IS-the garden Of sinners- (御崎マナ)
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プロローグ"裏"

にじファンで見かけたことある方はお久しぶりです。それ以外の方ははじめまして。御崎マナと言います。
リアルに忙殺されIS原作を紛失し、いつの間にかにじファンが閉鎖というデスコンボを受けて約三年。空の境界のアニメ化やISの再出版に再び御崎もやる気メーターが振り切り、こうしてまた書き始めてみした。
にじファンの時とはまた内容も少々変わりますので、初見の方は気にせず、お久しぶりの方は違いを楽しみつつ読んでいただけたらと思います。
では、始まり始まり。


――某年一月――

 

 

「おはようございます。……ってあれ、式だけ?」

 

 

からん。と小さな音を立てて事務所へ入るとソファに座るのはいつもつるむ友人のみ。同僚は休みなのは理解してるけど、所長の姿が見えないのは意外だ。

 

 

「よう。トウコは奥にいるよ。今日はずいぶん早く来たな」

 

 

ハンガーにいつもの赤い革ジャンをかけて、高そうな着物を着た女が僕に気軽に片手をあげた。まだまだ寒くなるってのにどうしてこんな薄着でいられるのか甚だ疑問である。

 

「家にいたら面倒に巻き込まれそうだったからね。キミこそ、今日は幹也もいないってのによく来たじゃないか」

 

 

「面白いニュースを見てな。当の本人とも知り合いだし、その身内は面倒を嫌がって来るだろうと踏んでたからここは是非とも心境を聞いておこうと思ってな。トウコもなんだか電話しっぱなしだし、話ついでに一局付き合え。あとコーヒー、オレの分も頼む」

 

 

コートをハンガーへかける僕へ気の抜けた声が聞こえてきて、パチパチと木のなる音が聞こえてくる。おそらく将棋をしようとの提案なのだろう。

ついでにコーヒーもご所望のようだ。仕方ない、わがまま姫に応えるとしよう。

 

 

「僕のコーヒーは薄いぞ」

 

 

「問題ないよ。それはそれで風情がある」

 

 

「それ、一昨日くらいに幹也から聞いた」

 

 

「だから言ったんだよ」

 

 

ケトルに二人分の水を入れてスイッチオン。あとはコーヒーの準備だけして式の対面に着席する。……こいつ、また勝手に先手選んでるし。

 

 

「で、だ。今ごろお前の家はマスコミだらけか?」

 

 

「だね。千冬姉もわざわざ戻ってくる辺りかなりやばいんだと思うよ。僕は面倒だから早々に逃げたけど」

 

 

パチ、パチと駒が進む音が響く。ケトルも音を鳴らしてこたし、そろそろ沸くころだろう。……む、式め、僕が振り飛車だからって棒銀を被せることはないだろうに。

 

 

「ずいぶん薄情だな。大好きなお兄ちゃんじゃなおのか?」

 

 

「お兄ちゃんより僕の身の方が大事だからね」

 

 

「嘘つくなよ、戦闘狂い」

 

 

「それとこれとは別の話だよ」

 

 

……あ、飛車に成られた。形勢は不利か。

 

 

「僕としてはキミがここまで興味を持ってくれるとは思わなかったけどね」

 

 

「はっ、仮にも友人と、それなりに気に入ってるヤツのことだからな。それに、面白いとは思うぜ? IS(インフィニット・ストラトス)を扱える男。お前はどうなんだ? 使えるのか? ――王手」

 

 

「恐ろしいことを聞くね。僕は残念ながら使えないよ。 一夏くんがやらかした日に一応って形で検索させられたし。――あ、飛車取られた」

 

 

案の定、ピクリとも動かなかった。いや、それが本来当たり前の姿ではあるんだけど。

――僕、織斑春佳(おりむらはるか)の 兄、織斑一夏(おりむらいちか)が女性にしか動かせず、女尊男卑の現代を作り出している兵器、インフィニット・ストラトスを起動させてから早一週間。政府が公式に発表したのが昨日で、今日はマスコミの方々が大忙しというわけだ。もちろん、そんなのに巻き込まれたくなんかないので僕は朝早くからこのオフィス、伽藍の洞(がらんのどう)へと逃げ込んだわけである。

 

 

「例えどれたけ女っぽいと言われようが僕が立派な男子で、一般人かってことが証明されたよね」

 

 

「つまらない冗談だな。ほら王手」

 

 

「……あ、詰んだ。酷いな、式。二重の意味で酷いな」

 

 

「まだまだ練磨が足りないな。ケトル沸いてるぞ」

 

 

「はいはい」

 

 

白純理緒(しらずみりお)の一件以来、どうにも毒気が少し抜けた気がする式はまたいつもの仏頂面で窓の外を眺めていた。

この両儀式(りょうぎしき)との付き合いは実質一年あるかどうかと言ったところだけど、僕が気の置ける数少ない人間であることは間違いない。以前のように、その瞳同様死を連想させる雰囲気の彼女も悪くはなかったけど、こうして幹也と落ち着いていられるようになったってのは間違えようのない答えの一つだったのだろう。

 

 

「そういう意味では、僕はキミがどうしようもなく羨ましいよ。式」

 

 

「なんだよ藪から棒に」

 

 

「僕も幹也が欲しいなって」

 

 

「やらないからな。あいつはオレのだ」

 

 

「わかってるよ。無い物ねだりしてるだけ」

 

 

僕も、僕を(はな)さない人間が欲しいとは思うことがあるけど、無い物ねだりだ。僕は恋愛とかわからないし、壊れてる。って意味じゃ式以上に酷い。それに、あれで式や幹也は僕より五つは上だ。そこら辺の年齢差もあるんだろう。

 

 

「なんだ、ずいぶん感傷的になってるじゃないか、春佳」

 

 

「あぁ橙子さん。おはようございます」

 

 

「おはよう。で、どうしたんだ? らしくもなくそんなことを言って」

 

 

「思うところがいろいろあるんだよ、僕にも」

 

 

「――なるほど。式が目覚めてからこの一年間、君に過干渉を控えさせておいて正解だったと言うことか」

 

 

ポニーテールに結った赤い髪を揺らせて、伽藍の洞の所長――青崎橙子(あおざきとうこ)はタバコに火をつけながら入ってきた。

僕の上司で、そして師匠でもあるこの人は何か満足したように頷いてニヒルな笑みを浮かべている。

 

 

「どういうこと?」

 

 

「君も思春期だと言うことだ。大いに悩め、青少年」

 

 

「……よくわかんないんだけど」

 

 

「そのうちわかるさ。――さて、それでは仕事の話し合いを始めようか」

 

 

紫煙を吐き出して、我らが所長はずいぶん極悪そうな満面の笑みを浮かべそう言い放ったのだった。

っと、コーヒー淹れないと。

 

 

―――――

 

 

「で、だ。仕事の話と言っても内容は至ってシンプルなものでね、私は今年の四月よりIS学園に心理学講師として招かれることとなった」

 

 

「「……は?」」

 

 

コーヒーを飲んでいた僕と式の言葉が重なった。や、だって……ねぇ。

 

 

「年頃の女の子だからな、いろいろケアが必要なんだよ。式も――いや、君に聞くのは間違いか」

 

 

「ずいぶんな言い草だな。否定はできないけどさ」

 

 

そらそうだろうね。と思っても口に出さないでおいてやろう。口は災いの元だ。うちの兄を見てるとよくわかる。

 

 

「まぁ、それはあくまで表向きだがね。本題は雇われ魔術師ってわけさ」

 

 

「――へぇ」

 

 

「そいつはずいぶん穏やかじゃない話だな。年頃の女の子に魔術でも教えるのか?」

 

 

多分に皮肉が利いた式の言葉に橙子さんはバカを言うな。と苦笑した。

まぁ、そんなわけではないだろう。僕も式もそんなのはわかっている。

 

 

「元凶は春佳、君の兄の織斑一夏くんだ。女しか乗れないISに世界で唯一乗れる男、そんなものが明らかになって大人しくしているほど世界はのんびりしていないんだよ」

 

 

「一夏くんをどうこうするってこと? それならさすがに黙ってられないんだけど」

 

 

「まだ話の途中だ。で、これがまた面倒な話でね、私の知り合いが言うには魔術師と手を組んだISを持つ組織がいるそうだ。他にも女尊男卑を貫きたい団体や、これが一番の問題だが、男がISを操れるとなってその身体を調べてどうにかしてその技術を得ようとする魔術師集団やらが動きを見せていてね。つまりアレだ、セキュリティをやれって頼まれたんだ」

 

 

「なるほどね。まぁ、僕も一魔術師として気持ちはわからないでもないけど……」

 

 

ISの存在は魔術師に大きな影響を与えたと言っても過言ではない。アレの存在が魔法の数を少なくさせたのは言うまでもないし、僕ら魔術師ですらアレに敵うかと言われれば怪しいものがある。一夏くんを使えば、何か得られるものがありそうという言い分はわかるし、一夏くんが欲しい人が多いのも理解できる。できるけど、

 

 

「それを許容はできないかな」

 

 

「だろうな。だから、私もそんな教え子の気持ちを汲んでやったというわけだ。無論、報酬もいいからいつもより給料も出るだろう。それでなんだが春佳、君は確か藍越学園に進学が決まっていたな?」

 

 

「え? うん、そうだけど」

 

 

そう。僕と一夏くんは藍越学園への受験をするために会場へ行って、そこで学校の名前を間違えたバカ兄がそのままISを動かしてしまったのだ。僕はそのまま普通に受験をクリアして藍越学園へ進学の予定、なんだけど……

 

 

「そのことだが、取り消しにさせてもらう」

 

 

「……ちょっと待て」

 

 

なんて言った? 取り消し、だって?

 

 

「その代わり君もIS学園へ入学するんだ。今年からメカニック枠と言うのが決められてな。男子も募集はするそうだ。まぁ、こんなのを受ける酔狂な男がいるとは思えないが。審査も相当に厳しいそうだが、喜べ、君は全てパスで合格だ」

 

 

「ストップストップ! あまりにも唐突すぎてついていけないよ。つまり、それは――」

 

 

「あぁ、君もIS学園に入学するんだ。安心しろ、君が魔術師であることは学長以外に伝えていない。織斑一夏の弟で私の教え子なら喜んで、とのことだ」

 

 

「それ何の解決にもなってないから! 千冬姉にはなんて説明すればいいのさ」

 

 

「問題ない。IS学園から君の姉上に君をメカニック候補生として迎えると報告するそうだ。君は兄と離れたくないとでも言って受ければいい」

 

簡単そうに言ってくれる……せめて前もって言ってくれれば気の持ちようもあったってのに。

――はぁ、まったくもう。

 

 

「そうげんなりするな。何せ女だらけの学園だ。君の欲しいものがいるかもしれないぞ。それに式にも手伝ってもらうから、と言えばわかるか? 戦う相手には困らないだろう」

 

 

「……前者はともかくとして、後者に釣られたことにしとく。今回は過干渉とか誓約はなし?」

 

 

「当たり前だ。今度は自分のことでもあるんだ、思うがままにやるといい」

 

 

「わかったよ、降参だ。お手伝いさせていただきますよ。師匠(せんせい)

 

 

まぁ、昔からこの人にはいろいろ敵わなかったから、今回もそうだっただけだろう。

――やると決まったらやるしかないか。一夏くんのため、自分のため、精々青春とやらを謳歌してやるさ。




以前の本作との違い。
春佳が以前より精神的に思春期。
式、橙子の口調が以前はあまりにも男らしかったのでより原作らしい口調に(なってるかは不明)
春佳のIS学園入学の理由
記憶にある中の以前の本作でなんか変だな。と自分で疑問に思った所を変えています。
いかがでしたでしょうか。読んだ方の通勤、通学や暇な時間潰しにでもなれれば幸いです。
ではでは、次回でまたお会いしましょう。


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