問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? (ちゃるもん)
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第1話 巻き込まれ

皆さん初めまして。前作を読んでいただいている方はお久しぶり? です。

今まで東方プロジェクトを原作に書かせていただいていたちゃるもんと申します。

今回は原作が違い、色々と勝手が違いますが何とか続けて行けたらなと思います。

それでは、どうぞ!!


午後一時の河川敷を、ヨレヨレのスーツを着た一人の男がフラフラと歩いていた。

こんな真っ昼間から外を彷徨く男に、通りすぎていく人たちは必ずと言って良いほど振り向いていく。それだけ、男は疲労している様子だった。

 

「はぁ……」

 

男は溜め息を吐く。手に持った、妻と娘がプレゼントしてくれた鞄に目をやり、その中に隠れている書類に不安を覚えたからだ。

男の業績は良かった。順調に業績を伸ばしていき、上司からの信頼も厚かった。しかし、今から二年前、ガクンっと地に落ちることになる。

 

別に、男が何かを仕出かしたわけではない。それは、世間も、会社も重々承知で、男自身にも無罪というレッテルが貼り付けられたのだから、疑い用はない。

 

 けれど、男の業績が良くなることはなかった。

 

今回、男が受け持った仕事は、何ら難しくはない仕事。けれど、相手は大手企業で失敗は許されない。故に、今回の仕事が成功すれば、一気に業績を伸ばせる事が出来る。それだけの仕事を、男は上司から任されたのだ。まだ、上司は男のことを見捨ててはおらず、そして、同時に最終通告でもあった。これ以上は守ることは出来ないぞと。

 

 

ドォォォオオオオンッ!!

ドォンドォオンドォオォオンッ!!

 

 

不意に聞こえた爆音に男は顔を上げた。そこには、隕石でも落ちてきたのか?と疑うようなクレーターが数個、反対側の河川敷に出来ており、そして、離れた所で、大笑いをしている金髪の少年の姿があった。

男は、この少年が何かを仕出かしたのだろうと考え、巻き込まれないように見て見ぬふりをする事に決めた。

 

今はそれどころじゃないんだ……

 

そんなことを考えながら、少年の後ろを通った時―――

 

 

 

 

 

―――世界が反転した

 

 

 

 

 

さっきまで歩いていたコンクリートの道は無くなり、足は何かを踏み締めることはない。身に感じる風は、男が重力に従い落下しているのを教えた。

 

「(チクショウ……ッ!!)」

 

男の目からは涙が流れていた。

 

「(なんだって……俺が何をしたって言うんだ……ゴメンな……ゴメンなッ!!こんなダメな父ちゃんでよぉッ!!)」

 

何かに謝り始める男。そして、最後の心の叫びと共に

 

 

 

バシャァアンッ!!

 

 

 

水が破裂する音が響いた。

 

 

□■□■

 

 

逆廻十六夜は突然『降ってきた』手紙に無邪気な笑顔を浮かべる。

そもそも、手紙が降ってくると言う表現事態が可笑しいのだが、それが事実なのだからしょうがない。けれど、逆廻十六夜はその手紙に心当たりがあるのか「漸くか……まったく、待たせすぎだろ」と、少し不満そうに小さく呟いた。

 

「さてさて?それで内容は……『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能 ギフトを試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、我らが箱庭に来られたし』」

 

逆廻十六夜は笑った。これが単なる悪戯ではないと知っていたから。

そして、彼は同意する。

 

「せいぜい楽しませてくれよ?」

 

そう、小さく呟いて。

まさか、そのすぐ後ろを通っていた三十路のおっさんを巻き込むことになったとは露知らずに。

 

 

□■□■

 

 

「(ああ……死ぬんだろうな……俺……ははッ体が痛てぇよ)」

 

男は驚くほど透き通った水の中、自分の体から流れ出す血液を見て、死が近付いているのが分かった。

体は動かない。指先一本動かない。恐らく、水に叩き付けられた衝撃で動かなくなった……或いは、この二年間の疲労が、今になって表立ってきたのか……もしくは、その両方か。

 

「(まあ……娘と妻を見殺しにした俺には…………当然の報い……なのか……も、な……)」

 

そして、男の意識は遠退いていく。視界は黒く染まり、体からすべての感覚が無くなった。

 

 

故に、誰かが自分を助けてくれたことにも気付かず、絶望と納得を心に抱きながら……

 

 

□■□■

 

 

「し、信じられないわ!!まさか問答無用で引き摺り込んだ挙げ句、空に放り出すなんて!!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃあゲームオーバーコースだぞコレ。石の中に呼び出された方がマシじゃねえか」

「……いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう、身勝手ね……ねえ、あれって」

「ん?」

 

さっきまで苛立ちを露にし、顔を赤くしていた少女は一変。顔を真っ青にしながら金髪の少年、逆廻十六夜の後ろ、自分達が落ちた湖を指差していた。

それに釣られ十六夜も後ろを振り向く。そして、その顔には苦虫を噛み潰したような表情が生まれ、更に後から一匹の猫を抱え湖から上がってきた少女もそんな二人のようすに疑問を浮かべ振り返る。そして、彼女もまた二人と同じように顔から血の気が引いて行く。

 

『なあ、お嬢……あの赤いのって……』

 

猫がにゃーと低い声を出す。それはこの場にいる二人を除きただの鳴き声にしか聞こえなかったが、それが引き金となった。

はっとなった十六夜が「クソガッ!!」と悪態を付きながら湖に飛び込む。十六夜は水を掻き分け赤い線を辿りながら湖を潜っていく。十秒程度潜り続け漸く十六夜の右手が溺れている男の腕を掴んだ。両手でしっかりと男の体を抱え、水をかき分け一気に浮上。陸へと上がり男の状態を見る。

 

「おい、おっさん。聞こえるか?」

 

頬をペチペチとしながら呼び掛けるが反応はない。そして、気道の確保を行うも呼吸は止まっている。これは不味いと判断した十六夜は人工呼吸を始めた。

 

「わ、私誰か呼んでくる!!」

 

猫を抱え、おどおどとしながらも何かしらの行動を起こさねばと考えたのだろう。猫を抱えた少女は何の躊躇いもなく茂みの中へと飛び込んでいった。

 

「こ、これって止血した方が……いいのよね?は、ハンカチで押さえるしか出来ないけど」

 

もう一人の少女はハンカチを手に、一番酷い傷口をハンカチで押さえる。しかし、その程度で押さえきれるほど傷口は小さくなく、隙間から血は流れ続けた。

 

「ごホッ」

 

十六夜が人工呼吸を始めたのが早く、水中からすぐに引き上げたのが幸を制したのか、男の口から水が吹き上がってきた。

 

「よしっ……顔を横にして一度水を全部はかせて……後はこれを繰り返せば……大丈夫な筈だ」

「ほ、本当?」

 

十六夜は上着を脱ぎ、男の脇腹を止血する。

 

「ああ、確信は無いがな。溺れた時の対処法はこれで大丈夫なはず。一応だが止血もできたしな。所でアンタ、火は起こせるか?」

「マッチとかは持ってないわ」

「そうか、ならいい。そこの奴、いい加減大人しく出て来いよ」

 

十六夜は猫を抱えた少女が飛び込んだ茂みに向かって声を掛ける。しかし、返事は返ってこない。

 

「?」

 

確かに気配はそこにある。なのに出てこない。そう言えば、飛び込んでいった奴もまだ戻ってきていない。

その事に疑問を持った十六夜は、茂みをかき分け様子を確認した。

 

そして、ポカンと間抜けな表情を浮かべる事になる。

 

「……何やってんだコイツら」

 

そこには、頭同士がぶつかり合った状態で気絶している少女が二人、転がっていたのだから。

 

 

 

 

時は少し遡り、十六夜達が池から這い上がってきたところ。

 

頭にうさぎ耳を生やし、ナイスバディを持つ少女……黒ウサギは頭を抱えていた。

それもそのはず……黒ウサギが召喚した人数は三人(・・・)の筈なのだ。しかし、実際に召喚されたのは四人(・・・)。一人多い。

 

「間違えた?いえ、間違える要素なんて何処にも……」

 

思考をグルグルと巡らせていると ドボンッ と、五度目の着水音が聞こえた。

 

「マジですか……」

 

黒ウサギは諦めの溜息をつき、池へと視線を戻す。そこには一人減った少女二人の姿があった。

 

(一人……いない?…………いや、そんな、まさか)

 

黒ウサギはそこで一つの可能性を思い付いた。

 

(まさか……溺れた……?いや、そんなまさか、ありえません!!)

 

この世界、箱庭と呼ばれる世界には幾つかの制約がある。その中の一つに、箱庭と言う世界そのものから加護を与えられる瞬間が存在する。その瞬間というのが、何者かによって異世界から箱庭に召喚された時だ。そして、異世界から箱庭に来る為には何者からの招待が必要となる。

しかし、今回呼ばれた筈の人数は三人。しかし、現に呼ばれていたのは四人。つまり、一人は正規の方法での召喚ではない事になる。

 

(だとすれば……加護を受けられず、衝撃が吸収されることもなく、陸へと引っ張られることも……)

 

最悪の場合が黒ウサギの脳裏をよぎった。

そして、それと同時に金髪の男、十六夜が水面から顔を出す。その片腕には一人の男がしっかりと抱えられていた。

本当に溺れていた事に驚きを隠せない黒ウサギ。その硬直は十六夜が陸に上がって来るまで続いた。

 

「……あっ、しゅっ、出血が酷い!!」

 

血を見たことよってか、黒ウサギの思考がもう一度働きはじた。

黒ウサギが隠れている茂みから十六夜達のいる所までは結構な距離がある。しかし、それでもなお広がり続ける赤色は目立ちすぎた。

 

「た、確か救急セットがあったはず!!」

 

黒ウサギはスカートのポケットから一枚のカードを取り出し、慌てた様子でカードを凝視する。

そして、そんな事をしていたら慌て過ぎてつまづいている少女。それも、自身の頭に直撃する形で倒れてきていることになんか気付かないわけで……

 

ゴチンッ!!

 

と、まるでアニメの世界のように綺麗に頭同士がぶつかり二人して気を失った。

 

 

 

 

そして、現在に至る。

 

「何処か落ち着けるところを教えて欲しかったんだが、一時は無理そうだな」

 

十六夜が呆れた声で二人を抱え、湖へと戻る。

 

「……何があったの?」

「俺が聞きてぇよ」

 

十六夜はぶっきらぼうに答え、抱えた二人を地面に寝かせた。

 

「はぁ……これじゃあ治療のしようもねぇな。俺は勿論、オマエもコッチに来たばっかりなんだろ?」

「確かにそうだけど、取り敢えずその〝オマエ〟って呼び方は訂正して。私は久遠飛鳥よ」

「さっきまでアワアワしてた奴がよく言うぜ。俺は逆廻十六夜だ。よろしく頼むぜお嬢様」

「それはしょうがないでしょ!!気が付いたら空に放り投げられてて、無事かと思ったら一人溺れてるとか……想像出来る!?」

「そりゃぁ……出来ねえわなぁ」

 

でしょ!?と、軽く十六夜が引くレベルで不満を爆発させる飛鳥。そして、その不満が止まる気配はない。

 

「そもそも問答無用で呼び出しといて此処が何処なのかを説明できそうな存在が呑気に寝てるのもおかしいのよ!! そして、何!?下手したら私達もこの男の人みたいになっていた訳でしょ!?いやむしろ何で死んでないわけ!?巫山戯てるの!?」

「何で死んでない事に対して八つ当たりしてんだよ」

「シャラプ!!」

 

十六夜のツッコミに対し、犬が威嚇する時のようにガルルルルっと聞こえてきても可笑しくない食いつきよう。こりゃ何言っても駄目だな。そう判断されました十六夜は、飛鳥のギャーギャーと五月蝿い文句に何も答えず、ただ黙々と、その文句を聞いているだけだった。

 

(この先……本当にこんなんで大丈夫なのか?)

 

そんな、十六夜の疑問に対する答えなんか帰ってくるはずもなく、十六夜は小さく溜息を付くのだった。




お読みいただきありがとうございます。

補足として二つほど……オッサンは本当に巻き込まれただけです。世界の因果的なものや、何者かの陰謀などは一切ありません。

それと、十六夜君は河川敷から箱庭に行ったんじゃねえ。と、思われる方がいると思いますが、ここではアイツと出会い、その後、河川敷で手紙を受け取った。と言う流れになっています。ご了承ください。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等があれば、よろしくお願いします。

では、また次回お会いしましょう。


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第2話 コミュニティ

投稿です!!

本来なら箱庭についての説明からノーネーム本拠へと続きますが、ここでは、ノーネーム本拠移動後、箱庭やその他諸々の説明となっております。
ご了承ください。

では、どうぞ!!


「……う……う~ん……」

 

 飛鳥の暴走から数分がすぎた頃。黒ウサギが目を覚ました。

 

「あ……あれ……?ここは…………あっ!!4人目!!」

 

 ガバッ!!と、勢いよく起き上がる黒ウサギ。未だボヤける視界を、必死に凝らしながら辺りを見渡す。すると、焚き火の近くで仰向けになっている男を発見した。その事に一先ず安心する黒ウサギに十六夜から声が掛かる。

 

「よお、お目覚めか? お前には聞きたいことが山のようにあるが……取り敢えずは落ち着けるところに案内してくれ」

「そうですね。取り敢えず私達のコミュニティへと案内します。今では寂れたところではありますが、治療器具は豊富です。そちらでこの箱庭についてもお話させていただきます。急ぎましょう」

「分かった。俺はこのオッサンを運ぶから、そっちの猫と女は任せた」

 

 十六夜は規則正しい寝息を立てる男を背中に背負い、焚き火を足でかき消した。

 

「よし、それじゃあ案内は任せた」

「任されました。それでは、付いてきてください」

 

 黒ウサギは少女を抱え歩き始めた。

 

  ※

 

 場所は箱庭に二一○五三八○外門。ペリドット通り・噴水広場前。

 そこに一人黄昏ている少年がいた。

 

「黒ウサギ……遅いな……もう皆帰ったし……もしかして、協力を得られなかった?」

 

 少年独り言が閑散としている通りに響く。

 

(協力を得られなかったら、僕達は箱庭を捨てて外に移住するしかないのかな……)

 

 少年の小さな手のひらが固く握られる。ギュッと瞑られた瞳は少し潤んでいた。

 

「だ、駄目だ。僕がこんなんじゃ。僕は新しいリーダーなんだから」

 

 目を擦り、自分の置ける立場を理由に無理矢理自身を奮い起こす。

 

「ジン坊ちゃーン!!」

 

 はっと顔を上げる。そこには切羽詰まった表情で走ってくる黒ウサギ達の姿。

 

「な、なにがあったの黒ウサギ!?」

「説明は後ほど、今はコミュニティへと急ぎましょう」

「わ、分かった」

 

 ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的な少年、ジン坊ちゃんと呼ばれた少年が今度は先導する形で黒ウサギ一行は箱庭の世界へと足を踏み入れた。

 

  ※

 

 黒ウサギが溺れていた男をベットへと寝かせた。その周囲には点滴のようなスタンドや、包帯等といった医療器具が揃えられていた。

 

「よし、これでもう大丈夫です」

 

 黒ウサギの手には赤く染みた包帯やブレザーが握られている。

 

「リリ、少しの間任せても大丈夫ですか?」

 

 黒ウサギは汚れ物をリリと呼ばれたきつね耳の少女に手渡しながら尋ねる。それに対しリリは緊張した顔で、

 

「は、はい!!任せてください!!」

「頼みましたよ?」

 

 黒ウサギはリリの優しく撫でる。リリは気持ち良さそうに目を細め、看護の準備を進めるために部屋を去っていった。

 

「で?説明はしてくれるんだろ?外の有様も込みで」

「はい。取り敢えず此処ではアレなので、客間で話をしましょう」

 

 黒ウサギは部屋の扉を開き、外に出るように促す。

 十六夜たちはそれに頷き後を追う。

 

「……えっと……どう言う状況?」

「いいから行くぞ、猫娘」

 

  ※

 

 軽く100人は入れるので無いかと思われる大きな部屋。赤を基調とした部屋の壁には装飾用の剣や槍。絵画が飾ってある。しかし、剣を飾る為の起き台は所々不自然に空きがある。更には、絵画飾られていない額縁も目に付いた。

 

「なあ、ここ限定で大災害が連続で起きたのか?」

「あれは……戦いの名残です」

「ただの戦いでこんな惨状なるのか……それで?それは何百年前の話なんだ?」

「わずか三年前の出来事です」

 

 窓の外に広がる景色は、活気賑わう通りでも、自然豊かな森の中でも、美しい湖や海が見れるわけでもない。ただ、一面の砂が地面を覆い尽くしてい。所々に見える風化した建物。砂漠とはまた違った、不気味さを漂わせら外の景色。

 

 五人と一匹の間に沈黙が生まれる。そこに黒ウサギの明るい声が響く。しかし、無理をしているのは誰の目からでも明らかだった。

 

「そ、それじゃあ!!この箱庭について説明させてもらいますね!!あんまり暗い話ばかりだと面白くもありませんし!!いいですか?いいですね!?例えNOと言われても言わせていただきます!!」

 

 黒ウサギは両手を広げて、

 

「ようこそ、箱庭の世界へ!!我々は御三人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうとかと召喚いたしました!!」

「ギフトゲーム?」

「そうです!!既に気づいていらっしゃるでしょうが、御三人様は皆、普通の人間ではありません!!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその〝恩恵〟を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強力な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!!」

 

 両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。

 

「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う〝我々〟とは貴女を含めた誰かなの?」

「YES!!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活をするにあたって、数多とある〝コミュニティ〟に必ず属していただきます」

「なるほどな」

「そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの〝主催者(ホスト)〟が提示した商品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

「……〝主催者〟ってだれ?」

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試す試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが〝主催者〟が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは多いです。〝主催者〟次第ですが、新たな〝恩恵(ギフト)〟を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて〝主催者〟のコミュニティに寄贈されるシステムです」

「後者は結構俗物ね……チップには何を?」

「それも様々ですね。金品・土地・権利・名誉・人間……そしてギフトを掛け合うことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然、ご自身の才能も失われることでしょう」

 

 黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。

 それは挑発と言ったものではなく、不安の様なものに感じられた。

 そして、十六夜の一言により、その表情は悲痛なものと変わった。

 

「だとすれば、あのオッサンは自身の命を掛けて〝恩恵〟とやらを取りにいかねぇとならねぇわけだ。まあ、あのオッサンが恩恵を持っていないとも限らないし、この世界に留まるかも分からない。だが、アンタらの様子を見るに意図して呼ばれた訳じゃないんだろ?あのオッサンは」

「……はい。私たちがお呼びしたのは貴方がた三名。そちらの猫さんのように、小動物で、その方と関わりの深い存在が一緒に紛れてくることは稀にあります。ですが……」

「誰とも関わりを持たず、ましてや小動物ですらない人間が召喚された。前代未聞……という訳だ」

「少なくとも、黒ウサギの知る中では……それに、正規の方法で召喚された存在には箱庭からの加護が付与されます。その加護が付与されている状態では致命傷どころか傷一つ負わせることは叶いません。叶わないはずなんです!!」

「だが、現に一人こうして致命傷を負っている。つまりは、アンタらに何かしらの不手際があった訳だ。もしかしたら、俺達もあのオッサンと同じ状況になっていた可能性もある。そうだろ?」

「それは……ッ」

「まあ、そのことに対して俺は無事だし、これからどうするかはあのオッサンと、アンタら次第だからな。これ以上とやかく言うつもりは無い。そこの二人はしらんがな」

 

 十六夜は顎をクイッと動かし、飛鳥と猫を抱えた少女に話を振る。

 

「こればっかりは私たち部外者の新参者が口を出せないし、私もこうして生きてるから言及は辞めておくわ」

「……よく分かんないけど、私もそうしとく」

「よかったな」

「あ、ありがとうございます」

 

 黒ウサギは頭を下げる。

 

「それじゃあ、話を戻して……ゲームそのものはどうやったら始められるのかしら」

「それは、コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければ大丈夫です。商店街でも、商店が小さなゲームを行っていますので、よかったら参加してみてくださいな。あ、勿論この世界でも強盗や窃盗は禁止です。ギフトを用いた犯罪などもってのほかです」

 

 なら、と猫を抱えた少女が口を開く

 

「……ギフトゲームを用いてこんな惨状を作るのは犯罪には入らないの?」

「時と場合によります。不法侵入をしてギフトゲームも行わず、無理矢理暴れ始めればそれは勿論犯罪です。仮にギフトゲームを開催しようとしても、参加者側が了承しなければ相手は帰るしかありません。しかし、それが両者同意の上で、どちらかの敷地内であれば問題はありません。ですが、前者の方法で、ギフトゲームを提示し、相手の了承を得ることもなく強制的にゲームに参加させる事のできる存在がいます。そして、その存在が我々のコミュニティを破滅に追いやった存在……〝魔王〟と呼ばれる者達です。彼等は〝主催者権限(ホストマスター)〟と言う箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたら最後、誰も断ることは出来ません。私達は〝主催者権限〟を持つ魔王にギフトゲームへと強制参加させられ、、コミュニティは壊滅……地位も名誉も、我らを我らと主張するための旗も名前も……全てを奪われました。かつて居た多くの仲間は散り散りに、何処に居るのかさえ……生きているのかすらも分からない状態。今、このコミュニティにいるのは一二○人の子供達と、このコミュニティ現リーダーであるジン=ラッセル。それと、この黒ウサギのみ。そして、ギフトゲームに参加できるほどのギフトを持つのは私とジン坊ちゃんだけなのです」

 

 黒ウサギは、三人の顔を真っ直ぐと見る事が出来ず軽く顔を逸らしている。ジンに至っては俯き、肩を震わせていた。

 

「……貴女達の現状、そして、この後何が言いたいのかも確信できた。だから、ジン=ラッセル。貴方の口から聞きたいのだけれど?」

 

 飛鳥の言葉にビクリと跳ねるジン。その視線は泳いでいるが、何度かの深呼吸とともに、その口を開いた。その声は震え、掠れているものの……確かにその場の全員の耳へと届く。

 

「……ぼ、僕は……弱いです。このコミュニティを、復興させる程の力も無ければ、コミュニティの皆を養う事も出来ていません。でも、ですが!!もう一度、コミュニティの名と、旗員を取り戻したいです!!コミュニティの再建し、それ等を堂々と掲げたい!!だから、お願いします!!あなた方の力を貸してください!!」

「……そうだなぁ」

 

 深く頭を下げ懇願するジン。しかし必死のお願いに十六夜は気の無い声で返す。

 

「……俺は別に良いんだが、ここに入ればその魔王とやらと戦えそうだし。楽しそうだ」

「私はここでいいわよ?下手に贅沢な所よりもよっぽど楽しそうだわ」

「私も」

「満場一致だな。俺は逆廻十六夜。改めてよろしく頼むぜ」

「私は久遠飛鳥よ。そちらの、猫を抱きかかえている貴女は?」

「春日部耀。よろしく」

 

 物凄い勢いでこの壊滅したコミュニティに属することを決定した三人。それに対し、事が簡単に進み過ぎている事に呆気に取られるジンと黒ウサギ。

 

「おい、アンタらもさっさと自己紹介頼むぜ?これからは仲間なんだ」

「あ、は、はい!!改めて、ノーネームのリーダージン=ラッセルです!!これからよろしくお願いします!!」

「同じくノーネーム所属、黒ウサギと申します。よろしくお願いしますね!!十六夜さん、飛鳥さん、耀さん!!」

 

 

 

 

「あっ、ところでお風呂とか大丈夫なの?そと砂漠みたいだけど……」

 

 

 

 

 その言葉に、ジンと黒ウサギはサッと顔を逸らしたのだった。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

第1話から沢山の指摘を頂き、敷居が高く感じております。ただ、挫けず頑張ります。

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

ここ違うんじゃね?等の間違い等があれば、宜しければご指摘お願いします。

では、また次回。


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第3話 誰かの為にあれ

投稿です。

すいません、風邪気味で多分文章がおかしくなっていると思います。

皆さんも、季節の変わり目は体調に気を付けましょう。

では、どうぞ。


「ひゃぁあああふぅううう!!」

 

 黒ウサギは素敵で自慢のウサギ耳をガッシリと掴まれた状態で、森の中を爆走状態の十六夜に引っ張られていた。

 

 事の発端は一刻ほど前の事。春日部耀の『お風呂とか大丈夫なの?』発言による。

 

 黒ウサギ達のコミュニティは魔王の襲撃により壊滅状態にある。その際に人材、食料、住居、名前、旗等と言った活動に必要な物をほぼ全て奪われてしまっている。そして、そこには水源も含まれていた。

 

 黒ウサギ達のコミュニティは、本来水を売る側として生活していた。それは、先人が手に入れた宝具の効果によって、水を無限に手に入れることが出来た為である。

 

 しかし、それも今となっては昔の事で、かつて水が沢山貯まっていた貯水池には砂埃が立つしまつ。子供たち総出で水を汲んできても、122人分をまかなうには少ない量。耀が言ったお風呂に入る等という贅沢は、夢のまた夢なのだ。

 

 そこで十六夜は黒ウサギにこう聞いた。

 

『その宝具と同じ物、もしくは同じような物を手に入れられるようなギフトゲームは行われていないのか?』

 

 と。これに対し黒ウサギは迂闊にも答えてしまう。とは言え、彼がこんな横暴に出るとは思いもしなかったようだが。

 

『十六夜さん達が落ちてきた所の近くに、蛇神がギフトゲームを行っているはずです。確かその蛇神は水神の筈ですので、もっていてもおかしくはないと思いますが』

 

 その言葉を聞いた十六夜は、口を歪めた。それはもう、最高だと言わんばかりに。これに黒ウサギは止めに入る。

 

『右も左も分からない方を生かせるわけには行きません!!』

 

 しかし十六夜。黒ウサギがそれを言い終わると同時にそのウサギ耳を掴んでいた。その光景に皆が皆、ぽかんと呆けた顔をする。そして、窓を開け……

 

『じゃ、ちょっくら喧嘩売ってくるわ』

 

 〝第三宇宙速度〟等と馬鹿げたスピードで窓から飛び出して行った。

 

 そして、今現在森の中を爆走中なのである。

 

 

  ※

 

 

 一方その頃、飛鳥たちは……

 

「あそこなんてどうです?」

 

 ジンが指差すのは〝六本傷〟の旗を掲げるカフェ。

 

「良い雰囲気のお店ね。私は賛成」

「私も」

「それじゃあ、決まりですね。座りましょうか」

 

 3人と+一匹はカフェテラスへと座った。

 注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出してきた。

 

『いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?』

「えっと……紅茶二つと緑茶を一つ。あと、コレとコレを」

『ネコマンマを!!』

『はいはーい。ティーセット三つにネコマンマですね』

 

 ……ん?と飛鳥とジンは首を傾げる。誰もネコマンマ等頼んだ覚えはないからだ。しかし、耀だけは驚いた様子で猫耳の少女を見つめていた。

 

「……三毛猫の言葉分かるの?」

『そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並な旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー』

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鍵尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

 猫耳の少女は長い鍵尻尾をフリフリと揺らしながら店内に戻る。その後ろ姿を見送った耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。

 

「……箱庭って凄いね、私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいた」

『来てよかったなお嬢』

「……もしかしなくても、春日部さんってその子と話せてるの?」

「……うん」

 

 少しの躊躇いと共に吐き出された言葉。

 

「もしかして、猫以外とも話せたりするのかしら?」

「うん。生きてるなら誰とでも話は出来る」

「もしそれが幻獣等とも会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

「そうなの?」

「はい。幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通が出来ないのが一般です」

「なら、黒ウサギは兎たちと話せるの?」

「そうですね。ですが、黒ウサギは箱庭の創始者の眷属に当たるので、殆どの種とコミュニケーションが取ることが可能です」

「ようするに、素敵能力という事ね。私のとは違ってとても素敵な力だわ」

 

 そう笑いかける飛鳥。困ったように頭を掻く耀。しかし、その笑にはどこか陰りが見えた。それは、会って数時間の耀に、彼女らしくないと思わせるほどだ。

 

「久遠さんは」

「飛鳥でいいわ」

「う、うん。飛鳥はどんな力を持ってるの?」

「私?私の力は醜いものよ。だって」

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 品のない上品ぶった声がジンを呼ぶ。振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。変な男は不覚にも……本当に不覚にも、ジンの知った者の声だ。

 ジンは顔を顰めて男に返事を返そうとするが、その前に飛鳥が口を開いた。

 

「名乗りもせずに私の友人を馬鹿にしないで下さるかしら?謝りなさい(・・・・・・・・・)

「うグッ!?」

 

 2mをも超える巨体がピシッと固まり、ゆっくりとその腰を曲げ始め

 

「す……すいま、せんでした」

 

 謝った。

 

「これが、私の力よ」

 

 飛鳥の表情はとても、暗かった。

 

 

  ※

 

 

「ん……んん……ッ……ここ、は……」

 

 男が目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。体には良く分からない管が繋がれているし、包帯があっちこっちに巻かれていて動きずらい。

 

「あ、気が付かれましたか?」

 

 幼く、明るい声が聞こえる。その声のした方を向くと、そこには桶を持ったリリの姿があった。

 

(最近の仮装道具ってのは進化しているんだな)

 

 リリの頭に付いているきつね耳をマジマジと眺め、それが本物とは1ミリも考えていない男。しかし、それもしょうがない事だろう。なにせ、特別、特殊等の存在とは全く縁のなかった一般人なのだから。

 

「あの……ボーッとしてますけど、大丈夫ですか?」

「あ、いや、ごめんよ。うん、大丈夫みたいだ」

 

 じっと見つめていたからか、リリが不安そうに聞いてきた。それを誤魔化すためか、男はすぐに謝った。

 

「ところで、此処はどこなんだい?」

「ここはノーネーム本拠です」

「ノーネーム?」

「はい!!」

 

 リリは男の質問に元気よく答えた。が、男からすれば、それは答えであっても答えとはなっていなかった。リリの答えが『〜様のお屋敷です』等であれば、男は納得しただろう。しかし、リリの答えは『ノーネームの本拠です』だった。

 

(ノーネーム?人の名前……ではないか。だとすれば、企業や団体の名前?でも、そんな名前聞いたことないしなぁ……)

 

 ノーネーム、名無し等と好んで付けるような人間でもいるのだろうか?

 

(まず……いない、よな?)

 

 自信の無いまま、確定させる。

 

「……いたッ……」

 

 取り敢えず起きようと布団を剥ぐと、腹部が包帯でぐるぐる巻にされていた。無理に体を捻ったためか、その包帯の下から鋭い痛みを感じる。

 

「あ、無理に動いたらだめですよ!!傷口が塞がりきれていないんですからね。木片かなにか、ギザギザした物で切っていたみたいですし……治るまで時間は掛かると思いますが、安静にして下さい」

「うグッ……分かった、そうしておくよ」

 

 リリの忠告に大人しく従う男。まだ、微かに痛みが残っているが、幸いにも傷口が開くことはなかったようだ。

 

「私はリリと申します。何か困った事や、欲しいものがあれば言ってくださいね」

「ああ、そうさせて貰うよ。リリちゃん……で、よかったかな?」

「はい!!」

「早速で悪いんだけど、私の鞄はないかな?あの中には、今度の仕事で使う資料が入っていてね。出来れば直ぐに目を通したいんだが」

 

 正直、今のメンタルでどうこう出来るほどの精神力はない。だが、せめて目を通して、やれる事はやらなければいけない。会社の仲間に迷惑は掛けられないから。

 

「あの……多分ですが……湖の底にあると思います。黒ウサギのお姉ちゃんからは、そう言った物は預けられてないし……ごめんなさい……」

(湖の底?何故そこで湖なんて単語が出て来るんだ?いや、違う。この子は間違っていないんだ。そうだ、落ちてきたんだ。ずっと空高くから)

 

 男の頭の中に、消えていた記憶が蘇る。

 

 気が付けば空にいて、落下していた。そして、水の中に落ちて、赤い線が見えて……

 

(ああ、あの時手から離れていたのか。こりゃあ会社には戻れないな……妻と娘を殺して、両親にも、会社にも迷惑をかけて……挙句は良く分からない所に飛ばされた)

 

「ハハハ……」

 

 男の口から乾いた笑い声が漏れる。その姿は、まるで死人のようで、まだ子供であるリリは、男から無意識に遠ざかっていた。

 

「誰かのためにあれ……折角貰った名前なのに……真逆だな……こんな人生……」

「……あ、名前。お名前はなんて言うんですか」

「……」

 

 リリは少しでも会話をしようと、明るく、積極的に質問してくる。ただ、その腰は引き気味ではあるが。

 

「……俺の名前は、木島 義仁(きじま よしひと)。誰かの為にありなさい。そんな意味を込められて付けられた名前だよ」

「素敵なお名前ですね」

 

 リリは男の、義仁の名前を素敵だと褒める。

 

 しかし、男の表情が明るくなることはなかった。

 

 死人のような、生きている方がおかしいと思えるその表情には、自身を責めるかのような気持ち悪い笑みが張り付いたままだった。

 




お読みいただきありがとうございます。

誰かの為に、誰かを支えられる人になりなさい。そんな意味を込めた名前。これから、誰かを支えられるような人になって欲しいものです。

誤字脱字報告、アドバイス、感想等がございましたら、よろしくお願いします。

うがい手洗い……皆もやりましょうね?

では、また次回。


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第4話 規格外

投稿です。

多分矛盾だとか、そう言ったものは無いはず……無いよね?

今更ですが、この物語は基本的に平和な世界です。

では、どうぞ!!


「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。いきなり耳を掴まれて何も言わずに外に連れ出されるなんて」

「いいからさっさと案内しろ」

 

 自身のうさぎ耳を大事そうに撫でながら、黒ウサギはその場が何処なのかを確認する。

 

 十六夜の目の前には巨大な滝と大河。トリトニス大河と呼ばれる場所。

 

「……確かに、ここはトリトニス大河です。この場所に水神の眷属である蛇神様がおられるはずです。しかし、人間一人の力で神をどうこう出来るはずがございません。さあ、十六夜さんここは大人しく帰りましょう?」

 

 黒ウサギは無理矢理にでも連れ戻したい気持ちを抑え、優しい声色で語りかける。しかし、十六夜は黒ウサギの忠告を無視して、勝手に河岸まで移動し水面を覗き込んでいた。

 

「……出てこねぇな。なあ、黒ウサギ……本当にここなのか?」

「あの、黒ウサギの話し聞いてました?」

「人ひとりがどうこう出来ないから帰ろうってか?ああ、聞いてたぞ」

「なら!!」

「帰らんぞ?それに、漸く神様のお出ましのようだ」

 

 十六夜は悪戯の成功した子供のような、無邪気な笑みを浮かべ、水底から起き上がってくる巨大な影を見ていた。

 

「黒ウサギ、手は出すなよ?出したらコミュニティに入る話は無しだ。分かったな?」

「っ!?」

 

 黒ウサギはこれで何も出来ない。少なくとも邪魔はされないだろう。と、十六夜はほくそ笑む。

 

 そして、巨大な影の主が、その姿を現した。

 十六夜の前に現れたそれは―――身の丈三〇尺強はある巨大な大蛇だった。それが黒ウサギが先程から言っている水神の眷属である蛇神であることは間違いないだろう。

 

『ほう……人間に、箱庭の貴族様ではないか。我に何用だ?』

「なぁに、ちょいと喧嘩を売りに来ただけだ」

『喧嘩……?クククッ……たかが人間がこの私に挑むと言うのか。良いだろう。その挑戦受けて立とうではないか』

 

 蛇神は笑いを噛み殺しながら、楽しそうに答える。そして、十六夜の所に二枚の輝く羊皮紙が現れる。

 

『さあ、選べ。知恵比べか?その勇気を示すか?』

 

 十六夜は二枚の羊皮紙を手に取り、その内容を確認。そして、

 

「つまらん」

 

 一蹴した。

 十六夜の顔には先程と変わらない、無邪気な笑みが張り付いている。

 

『ほう……?我の試練が気に食わない……と?』

「ああ。そもそもの話、俺はアンタに挑戦をしに来たんじゃねぇ」

『では、なんだ?我と決闘でもしに来たと?』

「そうなるな」

『クッ……クククッ……本当に笑わせてくれるな小僧。箱庭の貴族様からの紹介で多少は腕に自身があるのだろうが……』

 

 調子に乗るなよ小童が

 

 十六夜の顔すぐ横に迫った、その巨大な口から囁くように声が漏れる。しかし、そんな状態にあろうとも、十六夜の表情は崩れない。むしろ、笑顔を浮かべたまま脅し返す始末。

 

「そっちこそ調子に乗んじゃねぇぞ?クソ蛇」

 

 正しく一触即発。いつ暴れだしてもおかしくない状況。流石の黒ウサギも、これは不味いと仲介に入ろうとした。その時、十六夜が動いた。

 

「ああ、俺としたことが、一つやる事を忘れてた。まずはアンタが俺を試せるかどうかを……試さないといけないよな?」

『やれるものならやってみるがいいさ。まあ、傷の一つも付けれんだろうがなぁ!!』

 

 高笑いと共に首を戻していく蛇神。しかし、気付けばその視界に十六夜はいなく、その視界には雲が流れる青い空が写っていた。

 

 顎に響く鈍い痛み。殴られたのだと気付くことにそう時間は掛からなかった。

 

 呆気に取られていると、空は遠のき背中に強い衝撃が襲う。しかし、そんなことさえどうだって良くなるほど、蛇神の心は理解が出来ないと訴えかけていた。

 

(我は神である。一人間程度に負けることなどまずない。あの者は英雄だとでも言うのか?否。そんな英雄的な強さを感じなかった。あの者は、箱庭の貴族が連れてきた、一人の男。そのはずだ。では、あの男は何者だ?英雄ですらない、あの男は何者だ?)

 

 蛇神の神としてのプライドが、たかが人間風情に殴られた。そして、その攻撃に気付くことすら出来なかった。その事実を頑なとして受け入れない。受け入れられない。故に

 

『まだ……まだ終わっていないぞ、小僧ォ!!』

「はッ!!動けもしなかった奴がよく言うぜ!!」

『付け上がるな人間!!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

 叩き潰す、と。

 

 蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち上る。十六夜が軽く後ろを振り向けば、更に水柱が二本。

 

「十六夜さん、下がって!!」

 

 黒ウサギは庇おうとするが、十六夜の鋭い視線はそれを阻む。

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。さっきの抜けるどうこうの話じゃねぇ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

 本気の殺意が籠った声音だった。黒ウサギも始まってしまったゲームに手出しは出来ないと気付いて歯噛みする。

 

「さあ、敗者を決めようか。求めるまでもなく、敗者は決まっているんだがな?」

『ほざけ小僧ォ!!』

 

 蛇神の雄叫びに答えて嵐のように川の水が巻き上がる。竜巻のように渦を巻いた水柱は蛇神の丈よりも遥か高く舞い上がり、何百トンもの水を吸い上げる。

 

 竜巻く水柱は計四本。二本は十六夜の後ろに、もう二本は十六夜の前に。それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。

 

 この力こそ時に嵐を呼び、時に生態系さえ崩す〝神格〟のギフトを持つ者の力だった。

 

「十六夜さん!!」

 

 黒ウサギが叫ぶ。しかし、もう遅い。竜巻く水柱は地面を川辺を抉り、木々捩じ切り、十六夜の体を激流に飲み込む―――!!

 

 あの水流に巻き込まれたが最後、人間の胴体など容赦なく千切れ飛ぶのは間違いない。黒ウサギは目を瞑った。そして、謝った。助けられない自分に、コミュニティを、新しい同士を見殺しにしてしまってごめんなさい。

 

 そんな時、その声は聞こえた。その、強気で、絶望も何も感じさせない声に、黒ウサギは閉じた瞼をハッと持ち上げた。

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

 突如発生した、嵐を超える暴力の渦。十六夜は竜巻く激流の中、ただの腕の一振りで嵐を薙ぎ払ったのだ。

 

「嘘……だ、だめです!!油断しては!!」

『遅い!!』

 

 嵐は晴れた。しかし、今度は蛇神の尻尾。その、圧倒的な質量が十六夜を襲う。尻尾が風を切り、十六夜を叩き潰した。その、あまりにも呆気ない終結に黒ウサギは膝から崩れ落ちる。

 

 尻尾の落ちる衝撃で、川の水は雨と化し、木々は倒れる。まるで、隕石でも降ってきたのかと疑いたくなるような光景。尻尾の傍には砂埃が立ち込め、十六夜の安否が確認出来ないが、まず生きてはいないだろう。しかし、黒ウサギと蛇神は認識を改めることとなる。

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

 新たな同士は規格外な存在(この人間は英雄でもない規格外)だと。

 

 蛇神の尻尾は、十六夜に掴まれていた。十六夜はその尻尾を離し、跳躍。大地を砕くような爆音。胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、蛇神の巨軀は空中高く打ち上げられて地面に落下した。

 

 また全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに黒ウサギの元へと戻った。

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

 雨が降る青空を見上げ鬱陶しそうな十六夜の声は黒ウサギには届かない。彼女の頭の中はパニックでそれどころではなかったのだ。

 

(人間が……神格を倒した……?ただの腕力のみで……?)

 

『彼らは間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ』

 

 黒ウサギの頭に過ぎる、彼らを召喚するギフトを与えた〝主催者〟の言葉。黒ウサギはその言葉を、リップサービスか何かだと思っていた。信用できる相手だったが、ジンにそう伝えた黒ウサギ自身も〝主催者〟の言葉を眉唾に思っていた。

 

(信じられない……だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのなら……!!私達のコミュニティ再建も、本当に夢じゃないかもしれない!!)

 

 黒ウサギは内心の興奮を抑えきれず、鼓動が速くなるのを感じ取っていた。

 

「おい、どうした?」

「え、きゃあ!!」

 

 髪をかきあげながら戻ってきた十六夜に、黒ウサギは驚きの声をあげる。その事に対して十六夜は不満の声をあげた。

 

「戻ってきただけなのに随分な歓迎だな?」

「あ、すいません」

「ま、いいさ。んで、結局ギフトゲームだかなんだか分からんくなったが、貰えるもんがあるなら貰っとけ。貰えんのなら、今度は正式にゲームに参加するだけだがな」

「はい。それじゃあ聞いてまいりますね」

 

 黒ウサギはまるで湖のようになったトリトニス大河、その中心でグッタリとしている蛇神の元へ向かう。ついさっきまで水が吹き飛び水底まで見えていたのも、既に水が流れ込み元の水位まで戻ろうとしていた。

 

 一分程して黒ウサギが浮き足立って戻ってくる。どうやら、無事ギフトを手に入れられたようだ。

 

「収穫は……その苗か?」

「はい!!これは水樹の苗と言いまして、文字通り水の樹。水を大量に貯蓄できるものです。これだけの大きさ……かなりの量を貯蓄出来ること間違いなしデスよ!!お風呂問題もこれにて解決です!!」

 

 うキャー!!その場でクルクル回り始める黒ウサギ。そこで十六夜は、ずっと疑問に思っていた事を聞いてみることにした。

 

「なあ、黒ウサギ。お前はギフトゲームには参加しないのか?俺が見たところ、オマエの方がよっぽど強いように見えるが」

「ああ、その事でこざいますか。それはウサギ達が〝箱庭の貴族〟と呼ばれる事に由来します」

 

 十六夜は近場の石に腰を下ろしながら、聞く体制をとる。

 

「ウサギ達は〝主催者権限〟と同じく〝審判権限(ジャッジマスター)〟と呼ばれる権限を所持できるのです。〝審判権限〟を持つものがゲームの審判を務めた場合、両者は絶対にギフトゲームのルールを破ることが出来なくなり……いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します」

「なら、黒ウサギと共謀すれば無敗に……って、そんなうまい話はねえか。ルール違反=敗北なのに、それだと、黒ウサギの中でのルール=判定になっちまう」

「はい。ウサギの目と耳は箱庭の中枢に繋がっております。つまりウサギ達の意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てる事が出来るのですよ。それでも無理に判定を揺るがすと…………」

「揺るがすと?」

「爆死します」

「爆死するのか」

「それはもう、盛大に。〝審判権限〟の所持はその代償として幾つかの〝縛り〟が御座います。

 一つ、ギフトゲームの審判を務めた日より数えて十五日間はゲームに参加できない。

 二つ、〝主催者〟の側からの認可を取らねば参加出来ない。

 三つ、箱庭の外で行われているゲームには参加出来ない。

 ――――とまあ、他にもありますけど、蛇神様のゲームに挑めなかった大きな理由はこの三つですね。それに黒ウサギの審判家業はコミュニティで唯一の稼ぎでしたから、必然的にコミュニティのゲームに参加する機会も少なかったのデスよ」

「なるほどね。実力があってもゲームに使えないカードじゃ仕方ないか」

 

 肩を竦め、立ち上がる。この先の光景も気になるが、ここにいれば見にくる機会はまた来よう。それまでお預けだ。と、自身に言い聞かせ川辺を歩き出す。

 

「その、黒ウサギも一つ十六夜さんにお聞きしたいことがあります」

「却下。嘘。どうぞ」

「え?ああ、はい。十六夜さんはどうして黒ウサギ達に協力してくれるのですか?」

「楽しそうだったから、面白そうだったから」

 

 あまりにも簡単に答えてみせる十六夜に、驚きを隠せない黒ウサギ。まだ、詳しく魔王について話してはいない。しかし、コミュニティのあの惨状をみれば、魔王がどれだけ強大な存在なのかは分かるはずだ。

 

「そ、それだけなのですか?」

「なんだ、不満なのか?そうだな……〝ロマンがあるから〟だな。俺の居た世界は先人様方がロマンというロマンを掘り尽くして、俺の趣向に合うものが殆ど残ってなかったんだよ。だから、ここじゃない世界なら俺並みにすごいものが、俺が本当に満足できるような出来事があるかもしれない。そう思った。その矢先に、黒ウサギ達のコミュニティ。コミュニティを支えてきた奴を前に言う言葉でもないが、面白そうじゃねえか。〇どころか-に行っているコミュニティの復興。更には魔王とか言う素敵ネーミングの化物が相手。上等じゃねえか。やる気が湧いてくるってもんだ。だから、落ちてくる時にチラッと見えた世界の果てに行くのはお預け。今はそれより風呂に入りたいから、さっさと帰るぞ黒ウサギ」

 

 日が暮れ始め、沈む太陽を横目に十六夜は歩く速度を早めた。川辺を歩く速度を変えた十六夜に慌てて追いつく黒ウサギ。

 

(少し……自分語りが過ぎたかッ)

 

 その頬が少し赤く染まっているのは夕日のせいなのか、はたまた別の要因があったのか。それは十六夜にしか分からない。

 

 ただ、黒ウサギの瞳には、しっかりと不自然に赤くなった頬が写っていた。

 

「ふふっ……そうですね。帰りましょうって、ああ、置いていかないでください!!」

 




お読みいただきありがとうございます。

なんか色々原作無視したけど……い、いいよね(震え声)
おっさん(主人公)も出なかったけど……問題なんて無いよね?(開き直り)

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

次回は飛鳥たちの話になると思います。

では、また次回。


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第5話 家族の話

投稿です。

短いですが、ご了承ください。
本来であれば、予告通り飛鳥たちの話でした。しかし、原作1巻が行方不明のため、先におっさんの話です。

では、どうぞ。


 窓から見える風景は砂が広がるばかりの大きな砂漠。さらに、それより遠くに視線を移せば緑豊かな森林。その光景に、ここが自分のいた世界とは違う世界なんだな。と、嫌でも理解をしてしまう。

 

 もはや義仁には笑う気力すらも無かった。

 

 ついさっきまでは、何で俺がこんな事に巻き込まれてるんだ。何で俺だけがこんな目に会わなければいけないんだ。なんて卑屈になっていたが、今では何もかもがどうでも良くなっていた。

 

 そんな状態の義仁に対しても、リリは健気に話しかける。

 

「義仁様は前の世界ではどのような事をなされていたのですか?」

「普通のサラリーマンだよ」

「さらりーまん?」

「あー、知らないのか。えっと、会社や組織に所属し労働する。そして、設定された金額の報酬を定期的に受け取り生計を立てる人のこと……かな」

 

 なるほど? と、リリは分かったような分からないような複雑な表情を浮かべたまま、義仁の寝ているベットの近くに椅子を持ってきて椅子に座った。こころなしか、そのきつね耳も垂れ下がっているように見える。否、垂れ下がっていた。これでは、何処か居心地が悪いと義仁はもっと簡単に言い直した。

 

「簡単に言うなら……なんだ?生活するために働く人。になるのかな?」

 

 リリのきつね耳がピコンッ!!と真っ直ぐに伸びた。どうやら分かってもらえたようだと、安心する義仁。そこで、ふと疑問に思った事を聞いてみることにした。

 

「……その耳や尻尾は本物なのかい?」

「本物ですよ?」

「異世界とやらは、凄いんだな」

 

 人ならざる者。本来受け入れ難い存在ではあるものの、義仁の精神状況に加え、リリが悪い子ではないからか、特にこれと言った嫌悪感などは感じられなかった。

 

「義仁様の世界では珍しいのですか?」

「珍しい以前に存在してないからね。こういった耳を持った人は。リリちゃん以外にもこんな耳を持った子がいるのかな?」

「はい。ノーネームに住む子供の半数が獣人です。猫や犬。蜥蜴の獣人なんかもいますよ」

「そう言えば、大人の方はいられないのかな?」

「はい……リーダーのジン君も、黒ウサギのお姉ちゃんも今は外にいて、ノーネームには居ないんです。多分もう一刻ほどもすれば帰ってくると思います」

 

 君?黒ウサギ?お姉ちゃん?呼び方に違和感は残るものの、その二人がリリの両親だろう。だから、軽い気持ちで確認してみた。

 

「そのジン君と黒ウサギさんが、リリちゃんのお父さんとお母さんなのかな?」

「あ、いえ。私の家族は三年前魔王に連れ去られて行方不明なんです」

「あ、その……ごめんなさい……」

「いえ、気にしないでください。まだ、立ち直ったとは言えないけど、前を向く程度には元気ですから!!」

 

 両手を胸の前で握り、元気アピールをするリリ。そして、家族の話が出たからか、義仁にある質問をする。

 

「義仁さんは間違って召喚されてしまったんですよね?なら、やっぱり前の世界に帰りたいのでしょうか」

 

 その質問に義仁は考える。

 

(帰りたい……帰りたいか……どうなんだろうな。もう、どうでもいいな。帰りを待つ妻も娘もいなくなって、父さんと母さん、妻のご両親にも迷惑をかけ続けてる。会社にもだ。俺があの世界で生きていく価値はあるのだろうか、いやない。なら、ここに残りたい?分からない)

 

 一分程じっくりと考え込んだ末、義仁が出した答えは、

 

「分からない」

 

 だった。

 

 両親や会社には心配されている事だろう。だが、戻っても、最愛の妻と娘はいない。会社も今回の仕事が最後のチャンスで、それを落としてしまったのだ。確実にクビになる事だろう。

 

「分からない……ですか?ご家族の方に会いたいとかは」

「帰っても……おかえりと迎えてくれる家族はもういないからね。二年前に妻も娘も死んだよ」

 

 その時の光景は、今でも義仁の記憶に根付いている。忘れるわけがない。後部座席で潰れた我が子の顔を。ぐチャリと、無残に潰されたザクロのような光景を。そんなことを知らない妻に、ベットに横たわり冷たくなっていく妻に『あの子をお願いね?』と手を握られたことを。

 

「気にかけていた人達には悪いけど……どうせなら、このままひっそりと野垂れ死ぬのが、一番楽なのかもしれないな」

「……ごめんなさい」

「こっちこそごめんね。こんな、暗い話聞きたくなかったよね」

 

 リリは何も答えない。ただ、その瞳は揺れ動き、どう返事すれば分からない。私のせいだ、私が不用心に質問したから。自分で自分を責め続ける。言い知れない恐怖から、その瞳には涙が溜まり今にも決壊しそうだ。

 

 それを、義仁はこんな見ず知らずの人間の為に涙を流してくれている。と、勘違いをしてしまう。

 

「ありがとう。君は、妻と娘の為に泣いてくれるんだね」

「あ、いや、これは……ごめんなさい」

「……うん。もう少し、頑張ってみようかな」

 

 しかし、今回はそれが幸をそうした。

 

「え?」

「理解出来ないことが起こって、少し考える余裕が出来た。それに、このまま野垂れ死んでいたら妻と娘に愛想を尽かされるだろうからね。それと、助けてもらった恩も返さないといけないね。だから、どうにかこうにか生きていくよう努力してみることにするよ」

「???」

「ありがとう。君は私の命の恩人だ」

 

 頭を下げる義仁に、頭の疑問符が取れないリリ。色々と噛み合っていないところばかりではあるが、まあ、これで良かったのだろう。




お読みいただきありがとうございます。

原作1巻が無くなって焦って結果、文字数が少なくなりました。もとより多かったわけでもありませんが。1巻は既に見付けているので、次回は飛鳥たちのお話となります。

誤字脱字報告、アドバイス、感想があれば、よろしくお願いします。

では、また次回。


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第6話 ガルド=ガスパー

投稿です。

変身能力って憧れますよね。

では、どうぞ。


「これが、私の力よ」

 

 飛鳥の表情は暗い。耀は飛鳥を元気づけようと声をかけようとするが、元々人付き合いが苦手なせいか言葉が見つからない。ジンはジンでなんて声を掛けたらいいのか分からないようだ。

 

 そんな二人の様子を見て飛鳥はやっぱりかと言った表示で、謝った。

 

「ごめんなさい。気持ちのいいものでは無かったわね。そちらの方も、宜しかったら座ったらいかが?」

 

 ずっと腰を曲げた状態で微動だにしなかった長身の男は、急に動けるようなった事に困惑と軽い恐怖を覚えながら、その感情を押し殺すようにゆっくりと椅子に座った。その額には大粒の汗が幾つも滲んでいた。

 

「あ、ああ。失礼します」

「それで?私達に何か御用があって?」

 

 飛鳥が長身の男に話すように促す。男は一度深呼吸をした後、口を開いた。

 

「お初にお目にかかります。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ〝六百六十六の獣〟の傘下であるコミュニティ〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパーと申します。この度は、貴方がたをスカウトするためにここまで足を運ばせていただきました」

 

 スカウトするため。この言葉にジンはガルドへ抗議の声を挙げようと、顔をガルドへ向けるも、何かを言う前にガルドが先手を打った。

 

「何も知らない相手を騙そうとしているのを黙って見過ごすと思っていたのか? ジン。俺にも箱庭に住む一住人として通さなきゃならねえ仁義がある。分かってるよな?」

「………………騙してなんか、ない」

「あっ?」

「僕は、僕等は騙してなんかいません。ガルド=ガスパー。彼女達は僕等のコミュニティの現状を知った上で、僕等に協力してくれると言ってくれています」

 

 多少引け腰になりながらも、ガルドの目をしっかりと見据え、自身の意見を言って見せた。

 

「……それは本当ですか?レディ達」

「ええ、本当よ」

「うん」

「お言葉ですがレディ、流石にそれは早計かと。ジンの率いる〝ノーネーム〟はその名の通り、名も旗印もありません。それらは、自分たちの縄張りを主張する大事なもの。この店にも大きな旗が掲げられているでしょう?あれがそうです。名は身分証明書のようなものでしょうか」

「つまり、私達は身分も証明できず、自分たちの住む場所だと主張することが出来ない」

 

 耀が確認のためにガルドの言葉を噛み砕いて復唱した。

 

「そうなります。ただ、ジンのコミュニティには黒ウサギがいる。〝箱庭の貴族〟とまで謳われるほどの強大なギフトを持つ彼女が〝ノーネーム〟に縛られているからこそ、ジンのコミュニティは未だ健在はしているのです」

「その、名や旗印は新しく作れないの?」

「手間は掛かりますが作ることができます。もしも、ジンが名と旗印を一刻も早く作り直していれば、去っていった仲間の一部はコミュニティに残っていたことでしょう。水もまともに確保出来ていない現状とは遠くかけ離れていた結果になっていたはずです。勿論、良い方向で」

 

 ジンは顔を真っ赤にして両手を膝の上で握り締めていた。

 

「さらに言えば、彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりでリーダーとしての活動はしていません。11歳とまだ子供なので、コミュニティの再建は無理でも、小さなゲームには参加できる。それに、黒ウサギと言う最高の指導役もいる。しかし、それをやろうとはしなかった。他にも、コミュニティを大きくしたいと望むのであれば、あの旗印のコミュニティに両者同意でギフトゲームを仕掛ければいいのです。私のコミュニティは実際にそうやって大きくしましたから」

 

 自慢げに語るガルドはピチピチのタキシードに刻まれた旗印を指さす。彼の胸には虎の紋様をモチーフにした刺繍が施されている。耀と飛鳥が辺りを見回すと、広場周辺の商店や建造物には同様の紋が飾られていた。

 

「なるほど、ならこの付近はほぼ貴方達のコミュニティが支配している訳ね。でも、一つだけ分からないことがあるの。聞いてもいいかしら?」

「ええ、勿論」

「貴方はこの地域のコミュニティに〝両者合意〟で勝負を挑み、そして勝利したと言ったわ。だけど、私が聞いたギフトゲームの内容は少し違うわ。コミュニティのゲームとは〝主催者〟とそれに挑戦する者が様々なチップを賭けて行う物のはず。……ねえ、ジン君。コミュニティそのものをチップにゲームをすることは、そうあることなの?」

「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」

「……ああ、だからか」

 

 静かに三人の会話を聞いていた耀が納得したように声を漏らす。

 

「何か分かったの春日部さん?」

「うん。ずっと気になってたんだ。この人から血の匂いがする。それもかなりキツイ」

「あ、朝方に狩りをしてきたので恐らくはそれでしょう。にしても、キチンと臭いも落としてきたはずなのですが、随分と嗅覚が敏感なのですね」

「うん。でもね、獣特有の臭さは感じない。本当に狩りなんてしていたの?」

 

 ガルドは口を閉じたまま動かない。一度引いた汗が再び彼の額に滲んでいる。こういった交渉や口での勝負が苦手なガルドには、切り返す言葉が見つからなかった。

 

 目を泳がせ口を開こうとしないガルドに飛鳥が痺れを切らせた。

 

「私も狩りには興味があるの。今朝狩りをしていたのなら、何が標的だったのかしら?教えてくださる(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 正直なところ、飛鳥も、ジンも、その標的とやらがなんとなく分かっていた。しかし、それが本当にそうなのかはガルド本人から聞くしかない。

 

 ガルドの口が震えながら広がっていく。しかし、その前に立ち上がり逃げようとするガルド。だが、容赦なく飛鳥の口は言葉を紡ぐ。

 

「あら、同席者に何も言わず立ち去るなんてマナーがなっていないんじゃないかしら?座りなさい(・・・・・・・・・)

 

 立ち上がり逃げようとしていたガルドの体が、吸い込まれるように椅子へと戻った。

 しかし、なおも逃げようとしているのか、額には青筋が生まれ、机の上に置いてある手には力が込められ机にはひびが入っていく。

 

 その様子に驚いた猫耳の店員が急いで飛鳥達に駆け寄る。

 

「お、おきゃくさん!!当店でのもめ事は控えてくださ―――」

「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として聞いていって欲しいの。多分、面白いことが聞けるはずよ」

 

 首を傾げる猫耳の店員を制して、飛鳥はガルドに話すよう促した。

 

「さあ、どうぞ?お話を続けましょう?」

「け、今朝は、部下が攫ってきた獣人のガキを殺してきた」

「……そう。予想通りの吐き気がする回答をどうもありがとう。なら、なんで部下に子供を攫わせるような真似をさせたのかしら」

「き、脅迫するためだ。女子供を攫って脅迫すれば、大体のコミュニティが言うことをきく。これに動じない相手は後に回して、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

「まあ、そんなところでしょう。貴方のような小者らしい堅実な手です。どうせ、吸収した後も、従順に働いてもらうため人質を取っているのでしょう?」

「そうだ」

 

 ガルドが口を開く度に、飛鳥を取り巻く雰囲気には嫌悪感が滲み出てくる。コミュニティには無関心な耀でさえ不快そうに目を細めている。

 

「なら、その子達は何処に幽閉されているの?」

「もう殺した。初めてガキ共を連れてきた日、鳴き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい、母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食

 

黙れ(、、)

 

 ガチン!! とガルドの口が勢いよく閉ざされた。

 飛鳥の声は先程以上に凄みを増し、魂ごと鷲掴む勢いでガルドを締め付ける。

 

「素晴らしいわ。私の想像以上の外道ねアナタ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭といったところかしら……ねえジン君?」

 

 飛鳥の冷ややかな視線に慌てて否定する。

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

「そう?それはそれで残念。―――ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことは出来るかしら?」

「できます。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ですから。でも、裁かれるまでに彼が箱庭から逃げ出してしまえば、それまでです」

 

 それはある意味で裁きといえなくもない。リーダーであるガルドがコミュニティを去れば、脅迫でしか成り立っていない〝フォレス・ガロ〟が瓦解するのは目に見えている。

 

 しかし飛鳥はそれでは満足出来なかった。

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

 苛立たしげに指をパチンと鳴らす。それが合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力は霧散し、体に自由が戻る。怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢いよく砕くと、

 

「こ…………この小娘がァァァァァァァァ!!」

 

 雄叫びとともにその体を激変させた。巨躯を包むタキシードは膨張する後背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。

 

 彼のギフトは人狼などに近い系譜を持つ。通称、ワータイガーと呼ばれる混在種だった。

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが…………俺の上に誰がいるか分かってんだろうなァ!? 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!! 俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!! その意味が

黙りなさい(、、、、、)。私の話はまだ終わっていないわ」

 

 ガチン、とまた勢いよく黙る。しかし今の怒りはそれだけでは止まらない。ガルドは丸太のように太い剛腕を振り上げて飛鳥に襲いかかる。それに割って入るように耀が腕を伸ばした。

 

「友達に手を出さないで」

 

 耀が腕を掴む。更に腕を回すようにしてガルドの巨躯を回転させて押さえつけた。

 

「ギッ…………!!」

 

 少女の細腕からは想像もつかない力に目を剥くガルド。飛鳥だけは楽しそうに笑っていた。

 

「ありがとう春日部さん。さて、ガルドさん。私は貴方の上に誰がいようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した〝打倒魔王〟だもの」

 

 その言葉にジンは大きく息を呑む。内心、魔王の名が出た時は恐怖に負けそうになったジンだが、自分達の目標を飛鳥に問われて我に返る。

 

 まだ、手は震えている。けど、進まなければならない。ジンはガルドの前に立った。

 

「……はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません」

「そういうこと。つまり貴方は破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

「く…………くそ……!!」

 

 どういう理屈かは不明だが、耀に組み伏せられたガルドは身動き出来ずに地に伏せている。

 飛鳥は機嫌を少し取り戻し、足先でガルドの顎を持ち上げると悪戯っぽい笑顔で話を切り出す。

 

「だけどね。私はあなたのコミュニティが瓦解する程度の事では満足出来ないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきだと思うの。―――そこで皆に提案なのだけれど」

 

 飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。飛鳥は足先を離し、今度は女性らしい細長い綺麗な指先でガルドの顎を掴み、

 

 

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の〝フォレス・ガロ〟の存続と〝ノーネーム〟の誇りと魂を賭けて、ね」

 

 




お読みいただきありがとうございます。

フォレス・ガロの領地ってギフトゲームの後どうなったのでしょう?
もし、あのままなら話を進める上でかなり有難いのですが……

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

ヒロインっていりますかね?おっさん既婚だし娘もいたから全然考えてなかったのですが……どうなんだろう?

では、また次回〜


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第7話 ノーネームへと

投稿です。

卒検が迫ってなかなか手をつけられない。

では、どうぞ。


 日が暮れ空にはチラホラと星が見え始めた頃に義仁の部屋で合流し、話を聞いた黒ウサギは案の定耳を逆立てて怒っていた。突然の展開に嵐のような説教と質問が飛び交う。

 

「な、なんであの短時間に〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーの内で戦うなんて!!」「準備している時間もお金もありません!!」「一体どういう心算があってのことです!!」「聞いているのですか三人とも!!」

 

「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」

「ご、ごめんなさい」

 

「お二人方は黙らっしゃい!!ジン坊ちゃんは今後このような事になりそうでしたら止めに入るかゲームのルールを有利になるように務めてください。これでは仲間を死地に丸腰で送り出しているに過ぎませんよ」

 

 飛鳥と春日部は、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。

 それをニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩を、、、わけじゃないんだから許してやれよ。それに怪我人のいる部屋で急に大声を出す黒ウサギも大概だと思うが?」

「あ、す、すいません……配慮が足りていませんでした」

 

 さっきまで逆だっていたうさぎ耳はしょんぼりとしおれた。

 

「いえ、気にしないでください。それと、遅れましたが助けていただきありがとうございます。さ、私は大丈夫ですので、話を進めてください。その様子だと時間が無いのですよね?」

「すいません。碌なおもてなしも出来ず……こちらの話が終わりましたらキチンと事情を説明いたしますので」

「はい。その時はお願いします」

 

 黒ウサギはもう一度義仁に謝罪をしたのち、飛鳥たちへと向き直った。そして大きなため息が部屋に響いた。

 

「はあ〜……。 このゲームで得られるものと言えば……自己満足だけですか」

 

 黒ウサギが見ている〝契約書類(ギアスロール)〟を覗き込む十六夜。そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており〝主催者〟のコミュニティのリーダーが著名することで成立する。黒ウサギが指す賞品の内容はこうだ。

 

「〝参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の方の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する〟―――まあ、確かに自己満足だな。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

 ちなみに飛鳥達のチップ〝罪を黙認する〟というものだ。それは今回に限ったことではなく、これいこうもずっと口を閉ざし続けるという意味である。

 

「でも時間さえかければ、彼の罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その、」

 

 黒ウサギが言い淀む。彼女も〝フォレス・ガロ〟の悪評は聞いていたがそこまで酷い状態になっているとは思わなかったのだろう。

 

「そう。人質は既にこの世にはいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出てくるでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間はかけたくないの」

 

 箱庭の法はあくまで箱庭都市内でのみ有効なものだ。外は無法地帯になっており、様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールの下で生活している。

 

 そこに逃げ込まれては、箱庭の法で裁くことはもう不可能だろう。しかし〝契約書類〟による強制執行ならばどれだけ逃げようとも、強力な〝契約〟でガルドを追い詰められる。

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりもあの外道が私の活動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃せば、いつかまた狙いに来るに決まっているもの」

「ま、まあ……逃せば厄介かもしれませんけれど」

「僕としてもガルドを逃がしたくないって思ってる。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

 珍しく強気なジンの同調もあり、黒ウサギは諦めたように頷いた。

 

「はぁ〜……。仕方がない人たちです。まあいいデス。〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いればいれば楽勝でしょう」

 

 それは黒ウサギの正当な評価のつもりだった。しかし十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、

 

「黒ウサギにゃ悪いが、俺は参加しねぇぞ?」

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

 興味なさそうに言い放つ十六夜と、フン、と鼻を鳴らす飛鳥。黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ!! 御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

「そういう事じゃねえんだよ、黒ウサギ」

 

 十六夜が真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。

 

「いいか? この喧嘩は、コイツらが売った(、、、)。そしてヤツらが買った(、、、)。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

「あら、分かってるじゃない」

「そしてぶっちゃけると黒ウサギが俺一人で充分って言った瞬間に興味が失せた」

「……。ああもう、好きにしてください」

 

 たった一日の間に色んなことがあり過ぎて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。

 

 どうせ失うものは無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。

 

 

  ※

 

 

 黒ウサギは、急げばまだ間に合うかもしれません。と十六夜達を連れ部屋を出ていった。一体何に間に合うのかは分からないが、少なくとも分かることは初対面の少年と二人きりになってしまった。ということか。

 

 ジンはジンで初対面の大人の男性にどう接するべきか悩んでいた。だがジンが義仁に何かを言う前に義仁からジンに話かけた。

 

「君がここの、主人……なのかい?」

「あ、は、はい!! 〝ノーネーム〟のリーダーをさせて頂いております。ジン=ラッセルですよろしくお願いします」

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私は木島義仁。よろしくね。ジン君……でいいのかな?」

「は、はい。大丈夫です木島さん」

 

 まだ堅苦しところはあるものの、緊張も少しずつ解けているように見える。

 

 しかしそれでも二人の間が気まずいのには変わらない。ジンは義仁がここまで来た経緯を話すべきなのか、自分がそれを上手く説明できるかを考えた結果、何も話さないよりはマシだろうと考え話すことにした。

 

「あの、木島さんはここに来た経緯、箱庭については何処まで把握していますか?」

「ここに来た経緯? 気が付いたら空にいて、溺れた。それをあの四人に助けられたみたいだね。間違えて召喚されたってリリちゃんから聞いたよ。箱庭については箱庭って名前と人間じゃない獣人って言うんだっけ?が生活していること。後はギフトゲームの存在と、そのギフトゲームとやらで私は賭けられるような物を所持していない。後はリリちゃんからこのノーネームの現状について軽く教えてもらってるよ」

 

 ジンは義仁の言葉を反芻させ、他に何を話さなければいけないかを考える。一分ほど考えた後ジンは口を開く。

 

「義仁さんが召喚された状況については僕も黒ウサギから詳しく聞かされていないのでそれ以上のことは分かりません。ごめんなさい。箱庭についての見方は大体はその通りです。人間とは違う種、神や幻獣、獣人など沢山の種族がいる分、人間と違う文化も勿論あります。なので人間での常識が通じない場合もあるので気を付けて下さい。それと、ギフトゲームでのやり取りもありますが、勿論法も存在しています。店頭から何かを盗んだり、殺人等をした場合箱庭の法の下に裁かれるのでそう言った事はしないようにして下さいね」

 

 その後も箱庭についてやノーネームについての細々とした説明をしたジン。そしてジンは義仁に最後の質問をする。

 

「これで説明は終わりです。それと、最後に一つお聞きしたいのですが……義仁さんは元の世界に戻りたいですか? もし戻りたいのであれば時間は掛かるとは思いますが何とかしてみようとは思いますが」

 

 帰りたいのか。その質問に対する回答は既に決まっていた。とは言えジンは義仁の過去もリリとのやり取りを知らないため、どんな事にも動じない心の強い人なんだ。とちよっとした勘違いが生じてしまっているが問題は無いだろう。

 

「いや、いいよ。私はここでやり直すことにしたんだ。君たちに迷惑は掛けないよう何とか頑張ってみるさ」

「つ、強いんですね義仁さんは。あの、よろしかったら、僕達のコミュニティに来ませんか?」

「その提案は嬉しいのだけど、いいのかい? 私には特別な力のようなものはないよ? それにこのコミュニティは随分追い詰められてるって」

「大丈夫です!! むしろ義仁さんのような大人の方が一人はいた方が良いと思うんです。だから、僕達のコミュニティに入ってくれませんか?」

「それじゃあご好意に甘えて、これからよろしくお願いします。ジン君。出来る限り役に立てるように頑張ってるよ」

 

 義仁はジンに手を差し伸べる。それをジンは力強く握り返してきた。

 

 こうして、 誰かの手を握ったのは何時ぶりだろうか。いや、仕事上握ってはいたのだろうが覚えていない。

 

 少しでも、この恩を返さないとな。

 

 今の自分には何が出来るだろうか?

 

 まずは箱庭についての知識をより詳しいものにしなくちゃな。

 

 なんにせよ、この世界にこれて良かった。今は、そう思えている。

 




お読みいただきありがとうございます。

これからおっさんの活躍(?)の場が増えていく!!
いやー長っかったですね。話数的にはそこまでではないですが約2ヶ月でようやくガルド=ガスパー。原作100ページ行ってるか行ってないかですが、ここからテンポが良くなる!! はず!!

誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたらよろしくお願いします。

では、また次回〜


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第8話 侵入者

投稿です。

結構時間がギリギリに……間に合って良かったです

では、どうぞ。


 黒ウサギ達が部屋を去り、義仁とジンはその後軽い雑談をし、ジンが風呂場の様子を見に行くと部屋を出ていった。

 

 このノーネームで住むことが出来る。だがノーネームの家計は崖っぷち。明日の食料にすら困っている状況。何もしないまま飯だけを喰らうのは流石に気が引ける。自分には何か出来ることがあるだろうか?

 

 自分にはこれと言った特技なんてものはない。そりゃあ就職時には機械操作が得意だとアピールはしたが、ジンとの雑談の中で携帯もスマートフォンも通じなかった為箱庭の世界では工業はあまり発達していないものと考えられる。勿論義仁に機械を一から作ることなんて出来ない。あくまで機械操作に多少の知識があるだけだ。

 

「役に立てるようなもの……俺に出来ることか」

 

 条件として挙げられるものは三つ―――

  素人にも出来る

  箱庭の世界でも需要がある

  そして、役に立つ

 最低でもこの三つに当てはまるものになるだろう。

 

「……戦闘を覚える? いやいや、これから身体能力が下がっていく一方なのに無理があるだろ」

 

 けど、自己防衛はぐらいは出来るようにならないとな。と、別の形で一度思考をリセット。もう一度役に立てそうな仕事を探す。

 

「他に……他に……釣り? 道具さえあれば何かしらは釣れるだろうし、売り物にはならないが食料確保にはいいかもしれないな」

 

 だが、仕事とは言えるのだろうか? 微妙なところだな。一旦保留で。リセット、再思考。

 

「掃除……洗濯、料理?」

 

 それ等を手伝うのは当たり前。次。

 

「そう言えば、箱庭ってアルバイトの概念はあるのか? あったらアルバイトも一つの手だな。うん。それが一番いいんじゃないか?」

 

 そもそもノーネームと言う身分証明も出来ないコミュニティ出身の男を雇うこと自体がまず有り得ない。

 しかし義仁はコミュニティの名前が無いということをそれほどまでに重いものだとは考えていない。言うなればノーネームの事を、職をなくし新しい仕事を探している状態の人間。と考えているのだ。『仕事が探せる』のと、『試験が受けられない』とでは雲泥の差がある。

 更にはそれを否定できたジンも黒ウサギもここにはいない。思考は加速しアルバイトが一番良い方法だと決定してしまうのも無理は無いだろう。

 

「この世界についてなんの知識、常識を持ってない男を正社員としては絶対に雇ってもらえない。だけど、ある程度の一般常識を持っていればアルバイトとしてぐらいなら雇ってもらえるだろ。一般常識ならジン君か黒ウサギさんに教えてもらうのが一番だろうけど……忙しいだろうし取り敢えず色々と箱庭の本を読むところからだな。そうと決まれば善は急げ。ジン君が戻ってきたら書斎に連れていってもらおう。これだけ大きい屋敷だから書斎の一つぐらいならあるだろ―――」

 

 考えが纏まり、これからの方針も決まった。さあ、次は実行に移すぞ!! そんな時だった。部屋の外からリリのものと思われる怒号が聞こえたのは。

 

「な、何者ですか貴方たち―――ンッ!!」

「静かにしてくれ。何も君を殺したい訳じゃないんだ。頼むから、抵抗せず付いてきてくれ」

 

 後半の声は小さく義仁の耳にまで届かなかったが、最初のリリが放った困惑の混じった怒号はハッキリと聞こえた。勿論、中途半端に途切れたのもしっかりと。

 

 ベットから降り、扉へと近付く。黒ウサギ達の治療のおかげだろう、歩く分には特に痛みは感じられなかった。そして、扉を少し開き外の様子を伺う。そこには、見知らぬ男がリリの喉元にナイフを突き付けていた。

 

 侵入者の手がリリの口を押え、喉元にはナイフ。殺される。死ぬかもしれないと言う現実にリリの肩は震え、押さえられている口からはカチカチと歯と歯がぶつかり合う音が聞こえる。その瞳には大粒の涙が幾つも流れ侵入者の手の甲に落ちていく。

 

 侵入者は手際よく片手でリリの腕を縛り身動きが取れないよう足首も縛っていく。最後に口に縄を咥えさせ、その小さな体を持ち上げた。

 

 そして、横腹に強い衝撃が襲い掛かり、リリを落としてしまう。

 

「ウグゥ」

「ッ!! 誰だ!!」

 

 リリの苦悶の声と侵入者の怒号が響く。そこに居たのは、一人の冴えないオッサンだった。

 

「……チッ まだ一人動ける奴がいたのか。けど、すまないな、この子を渡すわけにはいかないんだ。俺には守らなきゃいけない息子がいる」

「アナタにどう言う事情があるかは知らないが、この娘は私の命の恩人なんだ。渡すわけにはいかない」

 

 侵入者は持っていたナイフを構える。義仁は拳を構えた。プロの構えと、素人の構えにすらなっているか分からない構え。チャンスを伺い一撃与えている状況とはいえ勝敗は火を見るよりも明らかだった。

 

「シッ!!」

 

 義仁の視線から侵入者が消える。(正しくは一瞬にして義仁の懐に潜り込んだだけだが)そして、太ももに焼けるような痛みが襲ってくる。

 

 それは、多少ナイフの扱いに長けたものや殺しや戦いにに長けたものならばすぐに分かるだろう。この侵入者は義仁を殺すつもりはないと。

 

 殺すのならば太ももではなく頭部を狙えばいい。あれだけ隙だらけならば、そんな事いとも容易く行えるだろう。そして、太ももに刺したのならばナイフをそこから横薙に振り払うのも良い手だし、根元付近の血管を切り引き抜けば出血多量で死ぬ。しかし、侵入者はナイフで太ももの骨手前のところまで刺し、抜くこともしなかった。相手がやり手ならば動きを制限する一手だとも取れるが、相手は素人。わざわざ布石を敷く必要も無い。案の定義仁はその痛みに蹲る。

 

「アァぁぁぁぁぁ!?」

「俺も箱庭じゃ弱い部類だが、お前みたいな素人には負けないさ。諦めな」

 

 義仁を通り過ぎ身をよじり逃げようとしているリリへと近付く。

 

「おい、どういうつもりだ?」

「その子は……渡さないッ!!」

 

 リリに近付こうとした侵入者の腰にしがみつく。太ももからは少なくない血が流れ、横腹は傷が開いたのかじんわりと血が広がっている。

 

「いい加減に」

 

 ナイフで刺されたことなんてない。目の前は真っ赤だし、刺されたところは熱くてずっとジンジンしてる。横腹もなんか気持ち悪いし、これは傷が開いたな?

 

「しろッ!!」

 

 侵入者の肘打ちが義仁の脳天に落ちる。一瞬義仁の腕から力が抜けそうになるが、なんとか持ちこたえる。

 侵入者の肘打ちで頭部が切れたのか頭からも血が流れている。

 

「んんーッ!!」

 

 その様子を見ていたリリが泣きながら助けを呼ぶも、口には縄があってその声は侵入者達に届く程度。助けなんて来るはずもなかった。

 

「離れろっていってんだよッ!!」

 

 侵入者はリリが騒ぎ出したのに焦りを感じて何度も何度も義仁の脳天に肘を打ち下ろす。それが十回を超え始め侵入者の腕からも血が流れ始めた頃、義仁の体から力が抜け何も言わず地面へと突っ伏した。辛うじて息はしているようだが出血が酷すぎてもう三分としないうちに息絶えることだろう。

 

 侵入者は一瞬義仁に手を伸ばすが、苦難の表情を浮かべその手を引っ込めた。

 

「チクショウがッ」

 

 悪態を吐きリリへと近付く。リリは意味の無い叫び声を未だに上げていた。縄はほんのりと赤くなっているところからどれだけ必死に声を出していたのかがよく分かるだろう。

 

 しかし、侵入者の足は止まる。足を掴む何者かが居たから。考えるまでもなかった。侵入者の顔は青ざめていく。足元には真っ赤に染まった腕で侵入者の足を掴む義仁。

 

 訳が分からない。自分も我が子をコミュニティを守る為に誘拐をしてはいる。しかし、もし仮にこの男と同じ境遇にあえば、俺は逃げずに戦えるのだろうか? いや、逃げる。逃げて、誰かに助けを求める。あの虎に立てつける事なんて俺にはできない。

 

 腰が引け、尻餅をつく。息が吸えない。地面についた箇所が気持ち悪い。男の血がここまで広がっているからだ。まさしく、血の海。そこに体を浸らせる二人。響くのはリリの縄に遮られた助けを呼ぶ声と、必死に空気を取り込もうとする呼吸音。

 

 

 そして、血の海から義仁を救い出す四人の足音だった。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

オッサンがなんでこれまで執着したのかは次回です。

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあればよろしくお願いします。

今度はもう少し早く投稿できればいいな。

では、また次回。


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第9話 臆病者

投稿です。

誰かの心情を表すのって難しいね。

では、どうぞ。


「…………ぁ」

 

 義仁は目を覚ました。ついこの間いたノーネームの部屋だ。頭が痛い。足が動かない。腕は動く。

 

 取り敢えず起き上がろうと腕を動かす。だが、腕は動くとはいえ妙に動きが鈍い。起き上がろうにも何か掴めるものが必要だ。義仁は何か掴めるものを探そうと腕を動かし、指先に何かがぶつかった。それは細く暖かかった。

 

 

  ※

 

 

「おうリリ。起きてるか?」

 

 ノックも無しにリリのいる部屋へと入ってきたのは逆廻十六夜。現在では木島義仁の病室となっているその部屋は、リリが付きっきりで看病をしているためリリを探している者は取り敢えずこの部屋を訪れるようになっていた。

 

 リリは十六夜が部屋に訪れた事など眼中になく、ただ、慌てた様子で義仁と自分の腕を交互に見つめていた。

 

 流石に付きっきりとはいえ誰かが訪れればこちらに返事を返していたリリの様子に十六夜は疑問符を浮かべる。だが、その理由もその視線を追いかけて行くとすぐに理解出来た。

 

「漸くお目覚めか。リリ、お前は黒ウサギを呼んでこい。この医療器具は黒ウサギにしか扱えないからな」

 

 だが、リリは動かない。この手を振り払ってしまったら本当に義仁が死んでしまうのではないか? そんな一抹の不安がリリを動かせまいと働いているからだ。

 

 しかし、そんなリリの不安なんかお構い無しに十六夜はリリを義仁から引き剥がした。

 

「いいか、このオッサンは重体だったんだ。それをなんとか繋ぎ止めて、丸二日目を覚まさずに今日漸く目を覚ました。リリ、黒ウサギと御チビ様、ジンを呼んでこい。出来ればお嬢様もだ。分かったらいけ!!」

 

 リリは肩をビクッと震わせ急いで黒ウサギ達を呼びに行った。

 

「……たくっ。あいつ自身も消耗してるってのに。これで何か失敗でもしてアンタが死んだら本当にアイツの心が逝っちまうぞ? と、喋れるかオッサン」

「だ……ぃじょ……ぶ」

 

 帰ってきたのは掠れた声。無理をしていることなんて一目瞭然だ。

 

「あー無理はすんな。俺が一方的に話せばいいだけだし、それに時間もないしな」

 

 十六夜は義仁にそれ以上喋るなとジェスチャー込みで伝え、あの夜の一件の顛末を話し始めた。

 

「まず、あの野郎は〝フォレス・ガロ〟に人質を取られて泣く泣く誘拐してた連中だ。今回はリリが標的にされて、それをアンタが守った。屋敷の中に潜入していたのはアイツだけで、外には五人また別に潜んでいた。あと一人でも侵入して一緒に行動されていたらオッサンは何も出来ずにリリを連れ去られてたかもしれねぇな」

 

 ヤハハハハハ 少しの感情もこもっていない笑い声が部屋に響く。

 

「そして、俺達がその五人をぶちのめし、オッサン達の所に辿り着いた時には血の海が広がってた。その惨状を作り出した侵入者を取っ捕まえて〝フォレス・ガロ〟の仕業だと言うことが判明した。オッサンは出血多量の重体。リリは叫びすぎたのか喉から血が出ててな。今でも声を出すのが辛いみたいだな」

 

 一瞬義仁の体が強ばった。

 

「まさか、自分が弱かったからとか思ってないだろうな? だったらその考えは辞めといた方がいいぞ。少なくともアンタがアソコで体を張ってなけりゃリリは連れ去られていた。アンタを救ったのは俺たちかもしれないが、リリを救ったのは他でもないオッサン、アンタだ。まあ、俺からしたらわざわざ助けたやつが死にに行って気持ちのいいものじゃァないがな」

 

 十六夜は椅子を取り出しそこに腰を下ろす。

 

「とまあ、俺がどう思っているかなんかはどうでもよかったな。んでだ、その後〝フォレス・ガロ〟をぶっ飛ばして無事ノーネームは対魔王コミュニティとしての第一歩を踏み出せました。その過程で春日部が怪我をしたがそこまで酷いもんじゃないみたいだ。って、春日部が誰か分からねぇか。自己紹介はオッサンが喋れるようになってからで大丈夫だろ。と、俺はもう行くぜ。バレたら面倒くさそうだしな。オッサンもこの事は黙っとけよ?」

 

 そうして十六夜は立ち上がり、窓を開ける。冷たい夜風が頬を撫でる。首を動かしその様子を見守っていた義仁だが、次の瞬間その目を見開いた。それもそのはず、ここは少なくとも一階ではない。外の景色からして三階ぐらいだろうか? そんな所から飛び降りる男を見て驚かない方がおかしい。とはいえ、十六夜の身体能力は箱庭の貴族ですら舌を巻くレベルなので特に問題は無い。遠くに十六夜と思われる影を見て今度は口が開いたまま閉じなくなっていた。

 

 十六夜と入れ替わるように扉を開けて入ってきたのは黒ウサギとジン。黒ウサギは息を切らし、ジンにいたっては大粒の涙を流していた。

 

「義仁さん……よかった…………本当に、良かったです。喋れますか? どこか痛いところは? 声聞こえますか?」

 

 ジンの質問攻めにこれは一波乱ありそうだ。と、苦笑いを浮かべる義仁。

 

 そして、おずおずと黒ウサギの後ろから姿を表したリリ。リリは顔を俯かせている。

 

 外傷らしきものは見受けられない。俺はこの娘を救えたんだ。そんな実感が胸を支配し、見て見ぬふりをしていた恐怖が湧き出てくる。

 

(ナイフを刺されて、頭を何度も殴られて、ドンドン意識が遠のいて行った。本当に死ぬんじゃないか? 死にたくない、逃げたい、なんで今日あったばかりの女の子の為なんかに命を張ってるんだ俺は……? 馬鹿らしい。ちくしょう、チクショウチクショウチクショウ)

 

 あの時の光景が、痛みが、思考が、鮮明に脳裏へとこびり付いていく。

 

(なんだってそんな必死に叫んでんだよ、痛いんだろ? もう諦めろよ、なぁ? 頼むから、どうせ助かりやしないんだから。あの時みたいに……チクショウ、なんだって動いてくれねぇんだよ。頼むから、せっかく助けられるかもしれないんだから、諦めたくねぇんだよ)

 

 あの時の感情が、今更になって涙として流れ落ちる。諦めたくない。あの時、妻と娘を守れなかった、あんな思いはしたくない。

 

「よ……かっ、た」

 

 義仁の口から零れた小さな声。その声にリリはハッと顔を上げる。二人の視線が重なった。

 

(足を掴んでやったぞ。ははっ……無駄な足掻きだな……俺……どうして、俺は誰も救えないんだろうなぁ……ちくしょう……チクショウ……!!)

 

「ほんとう、に」

 

 リリは義仁に近付く。その腕を握り、啜り泣き始めた。

 

「ごめん、なさい……ッ わたしの、せいで……」

 

 苦しげに声を出すリリを止めようとする黒ウサギ。リリは自然と声が出ているものの、実際はかなり痛いはずだ。喉の奥が切れているのだから治療のしようもない。ノーネームには痛み止めなどもないのだから。しかし、止めようとする黒ウサギをジンが止め、部屋の端へと移動した。

 

『まさか、自分が弱かったからとか思ってないだろうな? だったらその考えは辞めといた方がいいぞ。少なくともアンタがアソコで体を張ってなきゃリリは連れ去られていた。アンタを救ったのは俺たちかもしれないが、リリを救ったのは他でもないオッサン、アンタだ』

 

 先程の十六夜の言葉。

 

(俺は弱い。今でもあの光景が怖い。だが、こんな弱くて臆病者な俺でも、誰かを救うなんて事が出来るんだな……)

 

 

「ほんとう……に、よかっ……た」

 

 

生きていてくれて、本当にありがとう。

 

 私を救ってくれて、本当にありがとう。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

読みづらかったと思います。ちゃるもんの表現力の低さ故です。申し訳ない。
もっと文才が欲しいのう。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等ございしたらお願いします。

フォレス・ガロとの戦闘シーンはカットです。
なぜか?
主人公寝たきりでほとんど出てこなくなるからだよ。

では、また次回。


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第10話 なぜ

投稿です。

私は何を書きたかったんだ……(困惑)

では、どうぞ。


 あれから少しして、リリは泣き疲れたのか義仁の腕を握ったまま眠っていた。それを確認したジンが義仁に声を掛ける。

 

「リリ、眠っちゃいましたね」

「そうですね」

 

 義仁は反対の手でリリの頭を撫でながらジンに返事を返す。あれからそれなりに時間が経ち、かつ喉へのダメージ自体はなかったため最初に比べ声を出す事が苦ではなくなっていた。その姿に黒ウサギが頭を下げた。

 

「義仁さん……で、宜しかったですか?」

「ええ。木島義仁です。黒ウサギさんでいいのかな?」

「はい。黒ウサギは黒ウサギです。そして、この度はノーネームを、リリを救っていただきありがとうございました」

 

 頭が地面に付くのではないのか。そんな錯覚を覚えてしまうほど深く下げられた頭。黒ウサギに続きジンも深く頭を下げる。しかし、困ったのは義仁の方だ。二人がこうして頭を下げている事が何故かを理解できる故にどう対応すべきかを測りかねているのだ。

 

 しかし二人は、義仁が困っていることを見て見ぬふり。そうしなければ謝罪なんて出来るはずもないからだ。頭を下げたまま黒ウサギは言葉を続ける。

 

「義仁さんがいなければリリは連れ去られ、私たちはフォレス・ガロに降伏するしかありませんでした。私たちがこうしてここにいられるのは一重に義仁さんが体を張ってリリを助けてくれたからです。そして、一度ならず二度までも命の危機に晒してしまい、本当に申し訳ありませんでした」

「僕も、リーダーとしてもっと気を付けるべきでした」

 

 ジンと黒ウサギが謝罪の言葉を口にする。その間には義仁の中でどう対応するべきかは決まっていた。

 

「顔を上げてください。気にしていないと言えば嘘になりますが、」

 

 そこで一度言葉を切り、リリの頭を撫でる。そして、顔を上げていた黒ウサギとジンを見る。

 

「こうして生きていられる。謝罪は受け取ります。ですが私がこうして生きていられるのは、あなた達がいたからこそ。なので、私からも助けていただきありがとうございます。そして、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

「わ……私たちは当然のことをしたまでで」

「それを言ったら私も自分の好きでリリちゃんを助けようとしただけですから」

「で、ですが」

「でしたら、お互い様とは違う気がしますが、そんな所で収めませんか? そうした方がお互い楽ですし」

 

 黒ウサギは納得のいかない様子だが、これ以上自分の考えを押し付けようしたら失礼にあたる。義仁が作り出したかったのはこのような、うやむやな状況。仕事相手との間を取り敢えず保つにも、切るのにも使う技術の一つだ。

 

「……分かりました」

 

 渋々と言った様子で黒ウサギが答える。計画通り。とほくそ笑んでいるわけではないが、下手に話が拗れずほっとする。義仁が一人胸を落ち着かせていると、黒ウサギが再び口を開く。

 

「ところで……失礼だとは分かっているのですが、一つお聞きしてもいいですか?」

「なんですか?」

「その、なぜリリを助けたのですか? あ、い、いえ助けなくてよかったと言っているわけではなくてですね、興味本位と言いますか、なんと言いますか……リリとはあの日に初めて会ったはずなのに、どうしてあそこまで出来たのかと思いまして」

 

 黒ウサギは義仁の様子を伺いながら言葉を紡ぐ。そして、黒ウサギが口を閉じた。義仁はリリを撫でていた腕を自身目線まで持ってきて視界を隠す。それは滲み出てきたものを見られたくない故か。

 

「なぜ、か……ですか。一言で言えば、彼女が命の恩人だから……ですかね」

「命の、恩人」

「まともに会話したのはせいぜい二時間あるかないか。彼女はね、泣いてくれたんだ。その涙に何が込められていたのかを私は知らないし、分からない。だけど、確かにその涙で私は救われた。生きる為に足掻くのもいいんじゃないのかと、そう思えた。この子は、私に光をくれたんですよ。だから、助けた。死ぬかと思った、怖かった、悔しかった。ナイフを刺された時には意識が飛びそうになったし、必死に叫んでいるこの子を見て早く諦めてしまえばいいってずっと考えてた」

 

 義仁は腕を退け、視線をジンと黒ウサギに向ける。

 

「リリちゃんを助けたのは、そんな臆病者なんです。それに、理由はただの勘違いかもしれない。少し話が逸れましたが、そんなところです」

「……立派じゃないですか。少なくとも、僕じゃ真似なんてできないと思います。義仁さんが臆病者だろうと、リリを助けたのが勘違いだとしても、その行動は褒められるべきものです。義仁さん。あまり自分のことを蔑まず、もっと胸を張ってください」

「そう……ですか。そう、ですね」

 

 義仁は視線を外し、天井を見上げながら呟いた。そこで、ふと思い出し、話を切り上げるとしても良いタイミング。善は急げの精神で口を開いた。

 

「ところで、話は変わりますが……今度で良いので箱庭の一般常識を教えて貰えませんか?」

「いいですよ。それぐらいお安い御用です!!」

「本当ですか!? ありがとうございます。いえ、正社員にはなれないとふんでアルバイトやパートとして何処かに雇ってもらおうかと思っているのですが、いかんせん箱庭の一般常識を全く知らないものですから。ですが、お二人に教えてもられるのなら百人力ですね」

 

 一人意気揚々と話す義仁に対し、何とも言えない表情でそんな義仁を見る黒ウサギとジン。その二人の表情に義仁は気付き、どうかしたのかと問いかけた。

 

 その結果、義仁の計画は根元から瓦解した。一難去ってまた一難。もう一度何が出来るか考えなければならないと、義仁は肩を落としたのだった。

 




お読みいただきありがとうございます。

えー、なぜここまでひどい駄文ができたかと言いますと……ですね……その……お昼寝しながら書いちゃってました(・ω<) テヘペロ

すいません、次回はちゃんと書きます。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等があればよろしくお願いします。

では、また次回。


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第11話 懐かしい

投稿です。

漸くメインの話に片足を突っ込める。

ではどうぞ。


 義仁のアルバイト計画が根元から崩れ落ちたあの日から五日。義仁はリリから農業についての話を聞いていた。

 

「と、このような現象により同じ野菜を同じ場所で育て続けると生育が悪くなってしまいます……コホッ」

「あんまり無理はしないようにね。頼んでいる私が言えたものではないけど」

 

 リリは喉の調子が良くなっているのか饒舌に話していく。ただ、時折むせたりしていることから本調子出ない事が伺えた。そんなリリに多少の罪悪感を覚えながらも、義仁は先程の話を噛み砕き理解していく。

 

「なるほど、例えばトマトを同じ場所で何度も育てていたら、そのトマトが自分の好きな栄養だけを吸収していって最終的にトマトが好きな栄養だけがなくなり成長が遅くなる。そう言う事であってるかな?」

「はい! その通りです! 他にもその野菜が好きな害虫が集中して集まって病気が発生しやすくなったりします」

「なるほど……それが連作障害(れんさくしょうがい)か」

 

 手に持った専門書へと視線をやり、連作障害について事細かくビッシリと書かれた文字列をなぞっていく。素人の義仁には専門用語ばかりでちんぷんかんぷんだが、隣には物心ついた時から土を扱いながら生活してきた心強い先生がいる。そのおかげか習い始めてたった二日の義仁でも少しは理解できるようにはなっていた。

 

「本当なら実際に育てながらの方が良いのですが、この土地で野菜栽培は出来ませんし、それに怪我もまだ完治していませんから。取り敢えず今は知識を身に付けていきましょう!」

 

 胸の前で両手を握り満面の笑みを浮かべるリリ。そんな姿を見せられてか釣られて笑ってしまう義仁。はたから見れば仲の良い父と娘にしか見えない。そんな時 こんっこんっ とノックの音が二人の間に飛び込んだ。

 

「りりちゃん? いる?」

 

 あくまでこの部屋の主は義仁なのだが、ついこの間まで義仁は寝ていて、半場リリの部屋のようになっていた。なので、訪ね主がリリを呼ぶのも分からない話ではない。しかし、今は義仁が起きている。リリはどうしたら良いのかと軽い困惑を覚えながら見る。義仁はリリに通して貰うよう頼んだ。リリはそれに頷き扉を開いた。

 

「飛鳥様に……耀様ですか? どうかなさいましたか?」

「いえ、ちょっと相談があって……ね」

「相談?」

「ええ、入っても大丈夫かしら?」

 

 リリは飛鳥と耀を部屋へと入れる。そして、二人の視線が起きている義仁を見つけた。

 

 確かに義仁が目を覚ましたとは聞いていた。しかし、二人は半信半疑だったのだ。それだけ、あの時の状態はそれ程までに酷かったのだ。

 

「いらっしゃい。一応初めましてになるのかな? 私は木島義仁」

「あ、え、ええ初めまして。私は久遠飛鳥」

「春日部耀」

 

 義仁は専門書に栞を挟み閉じる。何故かその動きに焦りを感じてしまう飛鳥と耀。そんな二人を見て少し微笑ましくなり笑みを零してしまう。

 

「せっかく来たんだから、ゆっくりして行きなさい。とは言っても禄なもてなしなんて出来ないんだけどね」

「そ、そうさせて貰います」

「……起きてて大丈夫なの?」

 

 耀は義仁の一言でかなり気が楽になったのか、まったりとした雰囲気が戻り、いつの間にか持ってきていた椅子に腰を掛けていた。

 

「あんまり激しく動けはしないけどね。起きて本を読むくらいなら問題ないよ」

「そう……よかった。死んじゃってるって思ってたから。それに、誰かを本気で守れる人ってカッコイイとし、気兼ねなくギフトゲームに参加しに行ける」

「ありがとう。私には特殊な力はないけれど、私には出来ることなら力になるよ。それで、りりちゃんに何か相談事があったんだろう? 私も力になれそうかな?」

 

 そうだったとはっと意識を取り戻した飛鳥がリリに詰め寄った。

 

「黒ウサギに元気を取り戻してほしいんだけど……どうすればいいと思う!?」

 

 急に元気になった飛鳥に手に持っていた紅茶をトレーごと落としそうになるリリ。

 

「うわっとと……ふぅ。もう、危ないですよ飛鳥様!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 リリは何とかバランスを保ったトレーを一度義仁に渡し、部屋の角に置いていたテーブルを耀たちの前まで持ってくる。そこに、先程預けたトレーを置き、ティーカップへ紅茶を注いでいく。

 

「はい。どうぞ」

 

 飛鳥と耀の前にほんのり甘い香りが漂う。その香りのおかげか飛鳥も冷静さを取り戻し、口を開いた。

 

「えっと、今黒ウサギが部屋に引き篭もっているじゃない? どうにか元気なってほしいんだけど」

「黒ウサギさんが引き篭もってる? 何かあったのかい?」

「あ、木島さんは知らなかったのね。このノーネームの仲間が商品としてゲームが開発される予定だったのだけれど、そのゲームが中止になっての。更にはそのゲームの主催者のコミュニティがノーネームへと攻め込んできた。

 私たちはそれに抗議をしたわ。その仲間を返せば許してやる。本当はもっと遠まわしだったけど、そんな感じに。けれど、向こうはそんなこと知ったことではないと言った感じに私たちを突っぱねた。そして、仲間を返す代わりに黒ウサギを寄越せなんて言い出す始末。挙句の果てにはその要求を呑むべきか黒ウサギ自身が悩み始めちゃうし。

 その結果、黒ウサギは絶賛ひきこもり中」

「飛鳥、黒ウサギと喧嘩したこと隠しちゃダメ」

「春日部さんはそんな余計なことを何処で知ったのかしら?」

 

 ぎりぎりと飛鳥が耀の頭を両手でぐりぐりと押さえ付ける。その光景はじゃれ合う妻と娘のよう。イタズラがバレた娘が妻に怒られ、何故か今度は妻と娘が共謀して私にイタズラを仕掛けてくる。あの頃は本当に良かった。

 

「そんな事があったのか。取り敢えず喧嘩の件は置いておいて、要するに引き篭もっちゃった黒ウサギさんと話を出来ればいいんだね。だったら簡単だ」

「……何か良い案があるの?」

「案って程でもないけどね。さっきの話を聞く限りその話を知らなかったのは私だけのようだ。なら、子供たちも黒ウサギさんを元気づけたいはず。だから、子供たちに黒ウサギさんへ何かプレゼントを作ってもらって、それを子供たちの代表として渡す。その時に一緒に部屋へと入ってしまえばいい」

 

 黒ウサギは病的なほどの仲間思いだ。種族の本能と言うのもあるが、それを差し引いても仲間のためにこの身を捧げる事を良しとする。それに加え、黒ウサギは親バカ気質である。つまりは子供たちからのプレゼントを断る事が出来るのかと問われれば否としか言いようがない。仲間思いの親バカ。そんな事を義仁は知らないが、これ以上とない方法だろう。

 

「けど、それは子供たちを利用しているようでなんか嫌なんだけれど」

「確かにそうかもしれないが、やらないで後悔するのは本当に辛いものだ。君たちが思う以上にね。君たちは若いんだ。それに、今日はまだまだ時間がある。色んなことを沢山試してみなさい。ほら、分かったら早く飲んで行動に移すように!!」

「「は、はい!!」」

 

 飛鳥と耀は義仁の急な大声に体が一瞬硬直したが、すぐに返事を返し紅茶を飲み干した。そして、二人して部屋を出ていく。ドタバタと騒がしい音が聞こえるが、そんな音も何処か懐かしく感じられた。

 

「懐かしい……か」

「懐かしかったんですか?」

「……ああ」

「そうですか。私、食器片付けて来ますね」

 

 リリはそう言って早々に義仁に背を向け、食器を洗い始める。

 

「本当に、懐かしい……私も涙もろくなったものだなぁ」

 

 




お読みいただきありがとうございます。

一話に対して一回泣いているシーンがはいっていますが、次回辺りから無くなっていくかな。まあ、シリアスメインだからそこまで気にしなくても良さそうだけど。

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあればよろしくお願いします。

今後は農業についての専門用語が増えてきます。分からなければご気軽にご質問下さい。

では、また次回~


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第12話 お買い物

投稿です

おっさん初めての外出

では、どうぞ


 あれから更に二日。金髪の女の子レティシア=ドラクレアがメイドとしてノーネームへとやってきた。黒ウサギさん達の話を聞く限り彼女は吸血鬼で義仁の何倍と生きているようだが、りりと並ぶ姿はまるで姉妹のよう。義仁にはその姿ゆえに義仁がちゃん付けで呼ぶたびに呆れたように訂正している姿がノーネームでは一つの目玉のようになっていた。

 

 そして、リリから家事を教えてもらうためにレティシアはよくリリの元を訪れていた。そして、リリは特に用事がなければ義仁の部屋に居る。つまりはそう言うことだ。レティシアがリリを訪ね義仁の部屋を訪れる。逆にそこでしかこの二人の接点はないが、二人の仲は良好なようだ。

 

 それは、程よく晴れた青空の下を共に出歩く程に。

 

「義仁殿、そこには段差があるからな、気を付けろ」

「義仁さん、足痛くなったりしていませんか?」

「ああ、大丈夫だよ二人とも」

 

 二人の少女に、松葉杖で歩く男。リリとレティシア。そして義仁だ。道行く通行人はそんな三人を微笑ましく見送っている。それもそのはず、旗から見ればこの三人は怪我をした父と、そんな父を心配する娘達にしか見えないからだ。

 

 そんな三人が向かう先は園芸店。野菜の種や苗を買いに来ているのだ。この世界では野菜の種や苗といった物を売る習慣はあまりないが、園芸店、花や野菜を取り扱うお店では数は少ないが種などは置いてはある。それを買いに来たのだ。

 

「今の気候は暖かいですから……生育が早いミニトマトにしましょうか。管理も簡単ですし」

「私はまだまだ農業について疎いからね。ここはリリちゃんちゃんに任せるよ」

「おや? 私は頼ってくれないのか義仁殿?」

「レティシアちゃんよりも農業に詳しいのはリリちゃんだろう? だったらここはリリちゃんに頼るさ。完全に万能な存在なんていない。レティシアちゃんが得意な事で私が躓いたら遠慮なく頼らせてもらおうかな」

「いや、しっかりとした意思表示を示してくれるのは有難いんだが……何度言えば私の事をちゃん付けで呼ぶ事を辞めてもらえるのかな?」

 

 義仁の予想以上に真面目な返答といつも通りのちゃん付けに反応するレティシア。義仁はレティシアの怒りを華麗にスルーしリリとの話に戻った。

 

「それで、育てるのはこのミニトマトが良いのかな?」

「そうですね……あとここにはキュウリとナスが置いてますが……ナスは管理が少し難しいのでオススメは出来ません。キュウリはナスに比べ管理は簡単ですが、水が命だから、ノーネームの土地じゃ子葉(しよう)が出るかすらも危ういです」

「子葉は……植物の最初に出てくる葉っぱだったかな。それすらもってことは、成長する可能性がほぼ無い。ってことか」

「そうなります。そうですね、プランターを使えば問題ないですが、肥料代とかが結構……今ある分で三つ行けるかどうか……」

 

 リリは顎に手を当て考え込む。ノーネームのプランターにも種類は多くある。その中で今回使うとなると丸型の底が深く幅もそこそこ広いもの。その中に培養土(ばいようど)を入れ、今後使っていく肥料も必要となってくる。趣味の範囲でやる分ならそこまで掛からないが、ノーネームからしたらそのちょっとしたお金すらも惜しいのだ。

 

 うーんうーんと唸っているリリ。こんな様子を見ていて、義仁もノーネームの現状を思い出しやんわりとリリの提案を先延ばしにしようとした。

 

「取り敢えず今ノーネームにある備品を確認してからまた来ようか」

「ご、ごめんなさい……」

「謝る必要はないさ。むしろキチンと確認せず来てしまった私の判断ミスだよ」

 

 リリはしょぼくれ義仁はリリを慰めノーネームへ帰ろうと足を向けるが、レティシアだけ動かなかった。

 

「レティシアちゃん。帰るよ」

「義仁殿よ、ここは一つ箱庭で生きるための方法を見せてやろう」

「えっと、どういう事だい?」

「なあに、そこで見ているがいい」

 

 レティシアは一人店の奥へと入っていき、店主と思わしき人物と言葉を交わす。店主は健康的な肉体で素人が想像するような筋肉質の農家だった。麦わら帽子がよく似合っている。

 

 そんな店主は奥で何かを書き込んでいたようだが、レティシアに話しかけられ愛想よく対応していた。

 

 が、急にテーブルの上に肘を付く。俗に言う腕相撲の体制をとっていた。リリは納得したように義仁を軽く引っ張りながらレティシアの元へと向かう。それに対して義仁は何が何だか。あんな少女相手に腕相撲で勝負を仕掛ける店主も、そもそも何故急に腕相撲? 頭の上には疑問符ばかりだが、表を通った通行人や元々店内にいたお客さんが観客のように集まってきていることから箱庭ではさして珍しいものではないのだろう。と結論付けた。

 

 しかしだ、レティシアちゃんは明らかに十歳程度の少女。対して相手の店主は力自慢の筋肉ダルマ。勝敗は目に見えていた。

 

「店主、先に言っておくが……全力でこい。でないとすぐに終わってしまうぞ?」

「ハッハッハ!! 威勢が良いのは構わんが、お嬢ちゃん。私は喧嘩は苦手だし、謎解きも得意じゃない。だかね、土を耕して鍛えたこの筋肉。つまりは単純な力にはそれなりの自信があるんだ。辞めるならいまのうちだぞ?」

 

 そして、誰かが飲んだ唾の音と共にゲームが始まった。先に動いたのはレティシア。急な攻撃に慌てて店主も応戦。徐々に付けられていた差は戻っていく。店主は余裕そうに。レティシアは切羽詰まった様子。

 

「どうしたお嬢ちゃん。随分とキツそうだが?」

「ああ、これは厳しいな。簡単に終わらせないようにと加減はしているんだが……」

 

 店主の首筋に巨大な尾が巻き付いた。否、店主が勝手にそう思い込んだのだ。店主の額に脂汗が滲み出る。背中はグッちょりと濡れ、息が乱れ始めた。そして、殺される。そう感じた。感じてしまった。

 

「う、うわぁああああアアアア"ア"ア"ア"ア"!!」

 

 絶叫と共に店主が全体重を掛けレティシアを倒しにかかる。しかし、動かない。先程までの切羽詰まった様子はどこへやら。涼しい顔で笑みを浮かべていた。

 

「ふむ。予想よりは力は強い。しかし、私には届かないようだな」

 

 まるで赤子の手をひねるかのように店主の手はテーブルに付いていた。店主は腰を抜かし、観客は静寂を生み出している。レティシアは店主に手を貸し、起き上がらせる。

 

「こんなものか。店主よ、ゲームは私の勝ちだ。景品は貰っていくぞ。そして、励め。貴殿ならより強くなれるはずだ。純潔の吸血鬼からのお墨付きだぞ?」

「吸血鬼……まさかこんな辺鄙な所にそんな……いや、そうだな。折角吸血鬼なんて稀有な方からお墨付きを貰えたんだ。少しはそっち方面でも頑張ってみるよ。景品は好きなのを持っていってくれ。

 さあ皆!! あの吸血鬼様ですらゲームをしてまで欲しがる家の商品はいらんかね!!今なら三割引でご提供させてもらうぞ!!」

 

 喝采。とはまた違った賑わいの声が大通りに響き渡る。そんな輪をそっと抜け出し、義仁とリリの前に姿を現したのはレティシアだった。その手には培養土の入った袋に、野菜の絵が書かれた肥料袋。

 

「待たせたな義仁殿、リリ。後は表にあったミニトマトの苗を取って終わりだ」

「ほ、本当に凄い子だったんだね」

「だから言っただろう? これで私の方が年上だということも分かったはずだ」

「いや、未だに半信半疑ではあるよレティシアちゃん」

「な、なにおう!? なら……これならどうだ?」

 

 突如レティシアの姿が大きくなり、先程までのリリと同じぐらいの大きさだった可愛らしい少女が、美しい美女と化していた。少なくともちゃん付けで呼ぶような容姿ではない。

 

「これなら文句あるまい」

「おお、そんな事も出来るんだねレティシアちゃんは」

「だからちゃん付けはやめろと言っているだろうがー!!」

「ちょっ、レティシア声が大きい!」

 

 レティシアの怒声が大通りに響き渡るが、周りが一種のお祭り状態だったためか変な視線は向けられなかった。二人はほっと安堵するが、

 

「あ、あははは」

 

 リリの呆れた笑い声は二人にはとてもはっきりと聞こえたようで、その頬はほんのりと赤くなっていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

レティシアちゃんがヒロインになるかは分かりません。
箱庭の吸血鬼の知名度と言いますか、強さてき有名度はどの位なのだろうか?
あまり深く考えたら駄目ってことで1つ。

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあればよろしくお願いします。

では、また次回~


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第13話 定植

投稿です。

……問題児要素どこいった?(今更

あと、短めです。
マイクラしてたら時間が飛んでてな?(白目

では、どうぞ。


 ミニトマトの苗の植え方として、種からなら三月から四月、苗からなら五月から六月に植えるのが一般的である。今回は五月下旬。つまりは植え時だ。

 

 義仁の目の前には三つのプランターと培養土。そしてミニトマトの苗が三つ。プランターはノーネームに元々あったもの。培養土とミニトマトの苗はつい先程レティシアがゲームに勝ち手に入れたものだ。

 

 リリの指示に従い義仁は作業を進めていく。レティシアは仕事があると言って屋敷内へと戻っていた。

 

「まずは、プランターの底に土が漏れないよう軽石を詰めて、培養土を八分目位まで入れて下さい。この培養土は元肥(もとごえ)が既に混ぜこまれているみたいなので、そのまま入れて下さい」

 

 元肥とは、植物を育てる前に、事前に畑などへ肥料をやっておくことを指す。この培養土には既に混ぜこまれているので、今回は義仁達が元肥を混ぜ込む必要性はない。

 

 培養土の袋から培養土を取り出しプランターの中へと移していく。それを三回。太陽の光がジリジリと義仁の体力を奪っていく。まだ最初の作業だと言うのに義仁の額には大粒の汗が浮かんでいた。

 

「次に定植(ていしょく)をやります。まずやってみますね。まずは土を掻き分け苗の根鉢、このポッドに植わっていた根の部分が隠れるように植えます。そして覆土(ふくど)、土を上から被せ軽く押さえる。この時あまり強くしすぎないように気を付けて下さい。そして最後にウォータースペースと言う輪っかを土の上に作ります。これは苗の周りを掘り下げるような形で作ってもらえれば大丈夫です。では、やってみましょう!」

「えっと……」

 

 義仁はたどたどしい手つきでリリの行った手順を繰り返していく。土を掘り返し、苗をその中へ。茎の下、根っこの部分が隠れるように覆土。そして最後にウォータースペースを作る。

 

 何とか出来た定植。義仁は自分の作った物と、リリの作った物を交互に見る。リリのものは太陽に届けと言わんばかりにまっすぐと綺麗に伸びているのに対し、義仁のものは少し斜めになってしまっていた。

 

「やっぱり難しいものだね」

 

 笑いながら誤魔化すように言う。すると、リリはこう返した。

 

「当たり前です」

 

 と。

 

「私たちが今相手にしているのは一つの命。見よう見まね、ただの知識だけで農業が上手くいくはずもありません」

「そっか……この子達も、生きるために必死なんだな」

 

 義仁はそこから何も言わずもう一つのプランターに最後のミニトマトを定植し始める。

 

 先程と比べれば手際は多少良くなっている。が、斜めになってしまう。真っ直ぐと太陽目指して伸びてほしい。そんな思いが義仁の技術不足と農業に対する甘い認識を実感させた。

 

「次は支柱(しちゅう)を立てましょう。とは言ってもまだまだ小さいので……このお箸で代用します。苗の近くに箸を刺して……茎の方から入って、茎と支柱の間で一度紐をクロスさせます。そして、支柱側で結ぶ。この時、茎の方は少し余裕を持たせて置いてください。指が一本入れば大丈夫です。植物が成長していくにつれてこの隙間が無かったら成長の妨げになります」

 

 植物側から、支柱との間でクロス……8の字を描くような感じで最後に支柱側で結ぶ。

 

「この結ぶのはどんな結び方でもいいのかな?」

「どんな結び方でもいいですよ。取れなければ大丈夫です。ちなみにこの作業の事を誘引(ゆういん)と言います」

 

 同じようにもう一つの苗にも誘引をしていく。

 

「よし、出来た」

「お疲れ様です。取り敢えず定植作業はこれで終わりです。後は水やりをして……場所はこのまま玄関前の日当たりが良いところでいいでしょうから……壁寄りに少し移動しましょうか」

 

 六リットルのジョウロに水を入れ、先に移動先に置いておく。そして、ミニトマトを移動させるのだが既に二つはリリが移動させており、残り一つをリリと一緒に移動させた。足を怪我している人に対して移動の作業はやはり辛いものがあったため、義仁は素直にお礼を言った。

 

「ありがとう。最後のやつは私が運ぶよ」

「いえ、義仁さんは休んでいて下さい。運ぶことくらいなら私がやっておきますから」

「いや、今日はリリちゃんに色々協力してもらってるからね。私が」

「それじゃあ、一緒に運びましょう?」

「それは……いや、そうだね。そうしようか」

 

 効率が悪い。その気持ちを押し込め、プランターの片側を持ち、リリがその反対側を持つ。こんな期待されたような瞳を見たら断ることも出来まい。現にリリは嬉しそうにプランターを運んでいる。

 

 プランターを運び終え、水をやり今日の作業は全て完了した。

 

「これで本当に作業は終わりですね」

 

 服はしっとりと汗で濡れ、今なお額には大粒の汗が頬を流れる。しかし、不思議と気持ち悪さは感じなかった。

 

「……元気に、育って欲しいな」

「そうですね。ただ、義仁さんがそう思っていればきっとこの子達も元気に育ってくれると思いますよ。さ、部屋に戻りましょう。先にお風呂で軽く汗を流した方がいいかな? その間におにぎりでも作っておけば直ぐに食べれるよね」

 

 リリが一人今後の予定を呟いているのを横目に義仁はもう一度ミニトマトの苗を見ていた。

 

 葉についた水滴が太陽の光を反射しキラキラと輝く。全身で太陽の光を受け、必死に生きていこうとしている。

 

「義仁さん?」

「あ、何かな?」

「先にお風呂に入って汗を流した方が良いと思うと言っていたのですが」

「そうか、そうだね。このままじゃ風邪をひきそうだ」

「……何か気になることでもあったのですか?」

「……いや、何でもないんだ。なんでもない」

 

 だって、言えないじゃないか。何度も、何度も助けられて、今になって漸く生きている事が大変なんだってことを思い出せたなんて。必死に生きている君たちに、面と向かって……言えるわけが、ないじゃないか。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、タグを見ていただいたら分かる通り、この小説は農業が中心です。まともな戦闘は殆どありません。
そして、今回から漸く農業できる……!

誤字脱字報告、感想、アドバイスが等あればよろしくお願いします。

出てきた専門用語で分からない所がございましたら、感想なりメッセージなりを頂ければできる限りわかりやすくお答えします。

では、また次回~


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第14話 爆睡

投稿です。

さあ、漸く2巻目にはいりますよ。

では、どうぞ。


 義仁は今本の虫となっていた。場所はノーネーム本拠の地下三階にある書庫。そこで徹夜をすること五日。彼の突っ伏しているテーブルの上には何十本と本の塔が出来ており、手元の紙の束には本の内容を纏めたであろう資料が几帳面にそれぞれの内容ごとで分けられていた。

 

 その内容は多少の違いはあれど、ほぼ同じ。『魔王に汚染された土地』に関することであった。

 

 この事を調べようと思った切っ掛けはレティシアの一言にあった。

 

 

 ※

 

 

 ミニトマトを植えそれなりに時間が経った。ミニトマトは温度が高すぎたせいか着果(ちゃっか)数が少なく収穫数が少なかった。しかし、子供たちには好評だったらしく、外で遊んだ後の水分補給として食べて良いのかよく聞かれる。今では大元の株から伸びるわき芽を伸ばしそちらに着果しないかを試している。子供たちも管理を手伝ってくれているため、義仁のやることは極端に少なくなった。

 

 そして、今日も子供たちと一緒に作業をし終えた。その頃に一人の来客、レティシアが義仁の元を訪れた。

 

「生育は順調かな?」

「レティシア。うん、出来た個数は少なかったけど、子供たちが喜んでくれてるから大成功って言えるんじゃないかな」

「そうか、それはよかった」

 

 レティシアは口を閉じ、辺りを見渡す。見渡す限り荒廃してる白地の土地に、義仁とレティシアは佇んでいる。

 

「何度見ても、この光景が信じられない。この本拠も、農園区もどこもかしこも石と砂」

 

 レティシアは、悲しげに頭を左右に振ってその場にしゃがみこむ。砂を掬うが砂は隙間から零れ落ちていく。

 

「義仁殿は信じられないかもしれないが、ここは緑豊かで、豊潤な土壌があった土地だったんだ」

「うん」

 

 義仁は静かに頷く。今は聞くべきだと判断した。

 

「もはやこの土地は人の手でどうこうできるような代物じゃない。土地が死んでいる。かといって、私たちにはこの土地を生き返らせるほどの土地神や豊穣神とのつてがある訳でもない。それに、依頼できるほどの金もない…… 一体、この土地を復活させるためにどれだけの時間が必要になるんだろうな」

 

 レティシアは乾いた笑をその顔に貼り付け、立ち上がった。

 

「それじゃあ、失礼するよ。黒ウサギに呼ばれているんだった」

 

 レティシアは小走りでその場を去っていった。

 

 

 ※

 

 

『人の手でどうこうできるものではない』それに対抗心を燃やし今こうしている。と、皆にはそう言っている。

 

 本当のところは、レティシアちゃんのあんな姿を見たくないからなのだが、面と向かってそう言うのは三十代のおっさんでも厳しかったようだ。

 

 義仁はテーブルに突っ伏し爆睡。そして、それとは別に山積みの本の中で十六夜とジンは眠りこけていた。水没して壊れたヘッドホンを付けて寝ていた十六夜は、首をもたげて呟く。

 

「………ん……御チビ、起きてるか?」

「………くー………」

「寝てるか……まあ、俺のペースに合わせて本を読んでたんだから当然だな……。そして、あっちは漸くお休みか」

 

 閑散とした書庫に、ふぁ、と大きな欠伸が響く。

 

 毎日朝早く本拠を出て、帰ってきては未読の書籍を漁る。それが十六夜の生活サイクルだった。ジンは書庫の案内も含め、それに付き合っていた。箱庭に来てから、そんな生活をずっと繰り返していたのだ。人並み外れた体力の十六夜でも眠気に限界が来たのだろう。

 

 しかし、十六夜とて寝る時は寝る。少なくとも五日も六日も薄暗いところに篭もりひたすら文字を追いながら、同時に手を動かし続けるとなると……精神的にヤバそうだ。と、結論づけそのまま十六夜は二度寝をするため瞼を下ろした。

 

 三人が健やかに寝息を立てていると、飛鳥達が慌ただしく階段を下りてきた。

 

「十六夜君! 何処にいるの!?」

「…………うん? ああ、お嬢様か……―――」

 

 と、うつらうつらと頭を揺らして再び眠ろうとする十六夜。飛鳥は散乱した本を踏み台に、十六夜の側頭部へ飛び膝蹴り―――別名シャイニングウィザードで強襲。

 

「起きなさい!」

「させるか!」

「グボハァ!?」

 

 飛鳥の蹴りは、盾にされたジン=ラッセル少年の側頭部を見事強襲。寝起きを襲われたジンは三回転半して見事に吹き飛んだ。追ってきたリリの悲鳴と耀の驚いた声が書庫に響く。

 

「ジ、ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!? 大丈夫!?」

「……。側頭部を膝で蹴られて大丈夫な訳ないと思うな」

 

 突然の事態に混乱しながらも、ジンに駆け寄るリリ。顔色一つ変えずに合掌する耀。そして、そんな事態の中でも寝息を立てながら爆睡している義仁。

 

 ジンを吹っ飛ばした飛鳥は特に気にも留めず、腰に手を当て叫ぶ。

 

「十六夜君、ジン君! 緊急事態よ! 二度寝している場合じゃないわ!!」

「そうかい。 それは嬉しいが、側頭部にシャイニングウィザードは止めておけお嬢様。俺は頑丈だから兎も角、御チビの場合は命に関わ」

「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう!?」

 

 ガバッ!! と本の山から起き上がるジン。どうやら生きていたらしい。

 

「大丈夫よ。だってほら、生きているじゃない」

「デッドオアアライブ!? というか生きていても致命傷です!! 飛鳥さんはもう少しオブラートにと黒ウサギからも義仁さんからも散々」

「御チビも五月蝿い」

 

 スコーン! っと、十六夜が投げた本の角がジンの頭にクリンヒット。ジンは先程以上の速度で後ろに吹き飛び失神。唯一ジンを心配していたリリも既にその場におらず、寝ている義仁に掛ける毛布の代わりになるような物を探し始めていた。

 

 そんなジンを見ていた耀が、再びジンに対して合掌するのも無理はない。

 

 そんな少年少女を余所に、不機嫌な視線を飛鳥に向ける十六夜。

 

「………それで? 人の快眠を邪魔したんだから、相応のプレゼントがあるんだよな?」

 

 彼にしてみれば快眠を邪魔された怒りが強いのだろう。十六夜は壮絶に不機嫌そうな声を飛鳥に返す。わりと本気の殺意が籠もった声だったが、飛鳥は気にしない。人生初の二度寝を決行しようとした決意を、耀の連続ノックにへし折られた時に比べれば軽いもんである。

 

 飛鳥は構わず眠たげな十六夜に招待状を手渡す。

 

「いいからコレを読みなさい。絶対に喜ぶから」

「うん?」

 

 不機嫌な表情のまま、開封された招待状に目を通す十六夜。

 

「双女神の封蝋……? 白夜叉からか? あー何々? 北と東の〝階層支配者(フロアマスター)〟による共同祭典―――〝火龍誕生祭〟の招待状?」

「そう。よく分からないけど、きっとすごいお祭りだわ。十六夜君もワクワクするでしょう?」

 

 何故か自慢げな飛鳥に、プルプルと腕を震わせて叫ぶ十六夜。

 

「オイ、ふざけんなよお嬢様。こんなクソくだらないことで快眠中にも拘らず俺は側頭部をシャイニングウィザードで襲われたのか!? しかもなんだよこの祭典のラインナップは!? 『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の閲覧会および批評会に加え、様々な〝主催者〟がギフトゲームを開催。メインは〝階層支配者〟が主催する大祭を予定しております』だと!?

 クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」

「ノリノリね」

 

 獣のように身体を撓らせて飛び起き、颯爽と制服を着込む十六夜。

 

 唯一止められる(かもしれない)ジンはそのまま担がれ、リリは義仁の横で本の整理。つまり、誰も彼らを止めようとするものは居なかった。

 

「…………おっさんも連れていくか」

 

 十六夜はジンを担いでいる腕とは反対の腕で義仁を担ぐ。

 

「リリ、おっさんを借りてくぞ。ちょっとはおっさんも休むべきだからな。丁度いい息抜きになるだろ」

「確かにそうかもしれないですが……北側に行ける程のお金がないってジン君が言ってましたよ? だから秘密にって言われた―――あっ」

「「「秘密?」」」

 

 重なる三人の疑問符。やってしまったとアハハと硬い笑を浮かべるリリ。失言に気が付いた時にはもう既に手遅れだった。目の前には邪悪な笑と怒りのオーラ。放つ耀・飛鳥・十六夜の三大問題児。

 

「……そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日新聞頑張ってるのに、とっても残念だわ。ぐすん」

「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」

 

 

 ※

 

 

「く、黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁん! あ、大変ーーー!」

「リリ!? どうしたのですか!?」

「じ、実は飛鳥様たちが十六夜様と耀様を連れて……あ、こ、これ、手紙! わ、私が秘密を言っちゃたから!」

 

 リリの目尻には大粒の涙が溜まっている。

 

 黒ウサギはそんなリリを宥めつつ手紙の内容を読んだ。

 

『黒ウサギへ。

 北側の四○○○○○○外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。

 貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

 私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合三人ともコミュニティを脱退します(、、、、、、、、、、、、、、、、)。死ぬ気で捜してね。応援しているわ。

 P/S ジン君は案内役として、義仁さんは観光客として連れていきます』

 

「…………、」

「……………?」

「――――――!?」

 

 たっぷり黙り込むこと三○秒。黒ウサギは手紙を持つ手をワナワナと震わせながら、悲鳴のような声を上げた。

 

「な――……何を言っちゃてんですかあの問題児様方あああ――――!!」

 

 黒ウサギの絶叫が一帯に響き渡った。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

徹夜で作業に慣れているおっさんでした。力尽きてたけどね。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたら、よろしくお願いします。

では、また次回~


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第15話 スポンサー

投稿です。

まあ、無理矢理感あるけど見逃してね。

では、どうぞ。


「やっふぉおおおおおおおお! ようやく来おったか小僧どもおおおおおお!」

 

 どこから叫んだのか、和装で白髪の少女が空の彼方から降って来た。

 

 嬉しそうな声を上げ、空中でスーパーアクセルを見せつけつつ荒々しく着地。

 

 ズドォン!! と地響きと土煙を舞い上がらせて登場した、白い髪の和装少女の名は白夜叉。何を隠そう、今回の招待状の送り主である。

 

 そして、そんなド派手な登場をしてもケロリとしている白夜叉の動きが止まる。その視線の先には十六夜に担がれた男の姿。

 

「……十六夜……お主、そんな趣味があった……のか?」

「何を勘違いしてるのか分からんが、取り敢えず違うとだけ言っとくぞ白夜叉」

 

 

 ※

 

 

 白夜叉のド派手な登場の時にも目を覚まさなかった義仁が目を覚ましたのは、白夜叉がパンパンと柏手を打った直後。

 

「…………ん、んん……寝てたのか……」

 

 寝ぼけた頭を起こすため、一度大きく伸びをする。パキパキと軽快な音が鳴ると共に、少しばかり頭も冴えた。そして、今いる場所がノーネームの書庫ではない事に気が付く。

 

「―――ふむ。これでよし。これでお望み通り、北側に着いたぞ」

「「「―――……は?」」」

「……?」

 

 何故か飛鳥、耀、十六夜の三人から押さえつけられているジン。その三人がポカンと口を開け素っ頓狂な声を上げた。980000㎞と言うお馬鹿な距離を一秒程度で移動したと言われた三人がそうなるのも当然だ。しかし、義仁はそれを知らない。

 

「なにがどうなって―――」

 

 兎に角現状の確認と、目の前の少女は誰なのかを問おうと声を出す。が、十六夜達はそんな事には気付かず店外へ走り出してしまった。

 

 そして、今この場には三度目を回しているジンと、義仁からしたら謎の少女、白夜叉。そして、現状を全く理解出来てはいない義仁の三人だけとなった。

 

 白夜叉は手に持った扇を広げ愉快そうに笑う。

 

「カカカッ。訳が分からんと言う顔をしているな。まあ、無理もない。ワシは小僧たちの様子を見てくる。お主はそこで待っておくといい。説明はその時にするとしようか」

「は、はあ」

 

 そのまま白夜叉は十六夜達を追い掛け店外へと向かった。

 

 

 ※

 

 

 時間にして十分が経過しようとした頃。白夜叉と耀が部屋へと戻ってきた。

 

 その後、二人は北側で行われるゲーム〝造物主達の決闘〟について話し合い、耀がそのゲームへと参加することになった。耀の持つ他の種族の力を得る〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟ならば力試しのゲームでも勝ち抜ける。箱庭でも屈指の実力を持つ白夜叉からの太鼓判付きで。

 

 ただ、その場に居合わせた義仁は何が何だかサッパリ。静かに傍観しながら冷えた緑茶を飲む事に努めていた。

 

 そんな義仁に対し、白夜叉から声が掛かる。その手には見慣れた紙の束が持たれていた。タイトルは『魔王の土地』義仁のレポートだ。

 

「して、そこの。これはお主のでよいのか?」

「……そうですが」

「まず、自己紹介からさせてもらおう。ワシは白夜叉。お主たちノーネームの……まあ、支援のような事をしておったものだ」

「ご丁寧にありがとうございます白夜叉さん。私は木島義仁です。それで? そのレポートがどうかなさいましたか?」

 

 明らかに年下に見える少女。しかし、ノーネームの支援を行ってくれている人物がいる。と言うのは黒ウサギ達から聞いていた。十六夜君が和装ロリと言っていたのは事実だったのか……。

 

 白夜叉はレポートの一枚目を捲り、最初の諸元を読み上げた。

 

『魔王の土地……沼、砂漠、水没、荒地。その他にも様々な状態の汚染された土地がある。このレポートでは、このような魔王の手によって汚染された土地を復活させる事を目的とする』

 

 白夜叉は次のページへと移り、また一ページ一ページと読み進めていく。そして、一冊のレポートを読み終えた。

 

 今、白夜叉の手元にあるのは、全てのメモを要約しまとめあげたレポート。内容も箱庭ではさして珍しくない『魔王の土地』に関するもの。と、義仁は勝手に決め付けていた。

 

 しかし、白夜叉の表情は険しい。そして、その口から出てきた声も重苦しいものだった。

 

「本気か?」

「本気ですが……それほど驚くことでもないのでは?」

「魔王に汚染されたは、それ以上の神霊の手によって浄化させねばならない。それが常識だ。少なくとも、人の手だけでどうこうしようなんて考えたヤツをワシは知らん」

 

 義仁からすれば、むしろそれの方が驚きだった。しかし、今考えれば当然なのかもしれない。なにせ、神という存在が本当にいるのだから。箱庭は神の力を借り、恩恵を駆使して土地を開拓してきた。言わば、恩恵とは機械や科学と同じ。

 

 義仁の世界での先人がその体のみで土地を開拓している頃に、箱庭の先人達はブルドーザーやショベルカー等の恩恵と言う機械に乗って開拓してきた。

 

 つまり、箱庭では恩恵なくして土地を開拓することは出来ない。そんな先入観が存在しているのだ。

 

「そんな世界にお主は、真っ向から喧嘩を吹っ掛けている。今まであった常識を覆す、一種の革命を起こそうとしているのだよ。このレポートは」

「だからなんです?」

「―――ほう?」

 

 一瞬、白夜叉の顔が固まった。

 

 そう、義仁からすれば『だからどうした』なのだ。義仁の目的はノーネームの土地を少しでも改善すること。レポートに書かれているような大それた事ではない。最終的にそう出来たらいいなと言う願望が詰まったものがあのレポートなのだ。

 

 土地が改善されれば神様の位を落として依頼できる。そして、位が低い神や、精通はしてはいないが一応浄化が出来る程度の神様は高額ではあるが上位の神様に比べて格段と安い。

 

 つまりは、足掛かりを作れれば良いのだ。

 

「なるほどの……確かに土地を改善できれば掛かる費用も安くはなる。しかし、そうだとしてもどうする? あの土地は時間操作による土地の自壊。ここまで書いているんだ……方法の検討はついているのだろう?」

「まあ、一応は」

 

 白夜叉の目が見開かれた。まさか本当に浄化する方法を発見しているとは思ってもみなかったのだろう。

 

「とはいっても、まだ確証は持てませんし、見つけたのも偶然なのですが」

「よい! 話してみよ!」

 

 先程とは違った食いつき方をし始めた白夜叉に軽い困惑を覚える。

 

「あの土地を入れ換えるのです」

「入れ換える?」

「はい。確かに、あの土地は死んでいるかも知れません。しかし、追加された土は死ななかった。切っ掛けはプランターから零れた培養土でした。プランターから零れた培養土はノーネームの砂地に落ち、色も食感も変わらなかった。つまりは、魔王の呪いのようなものは残ってはいない。そう判断出来ます。では、魔王の土地に別の場所の土を混ぜこみそこで植物を栽培することが出来たとしたら? 後は人の手と、植物の力で緑化。つまりは、土地の浄化へと繋がっていくはずです」

 

 白夜叉は顎に手を当て考え込む。今なお箱庭には汚染された放置されている土地がごまんとある。しかし、義仁の言っている事が実現したら? その土地を有効利用できる可能性が生まれる。つまりは革命が起きる。一般常識を覆す、歴史に名を残す、英雄の出来上がりだ。

 

 サンプルは多い方が良い。フォレス・ガロの土地は未だ鬼化している。そこを利用できるよう買い取ってやればいい。幸いな事に彼処を買おうとしているものはおらず、かつあんなトラが管理していた為か人気がなく安い。

 

 農業に関するものを集めなくてはならないが、神霊を頼ることはしなくて良い。人間の手だけ、恩恵無しに行わくてはならない。費用も手間も省けるのだ。

 

 結論。援助をしてもダメージはさほど大きくはない。むしろ成功した場合の見返りが大きすぎるくらいだ。そして、こんな面白そうな事をやろうとしているのにワシが黙って見ていられるわけがなかろう!!

 

「よし分かった! その挑戦ワシが援助してやろう!」

「……………本当ですか!?」

「ああ! 存分に頼るが良い! さあ、義仁よ! 共に革命を起こすぞ!」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 棚からぼた餅とはまさにこの事。まさかのスポンサーゲットである。

 

「詳しい話や資材の話については今度するとして、この数日は祭りを楽しむと良い。帰ったら忙しかなるからな。今のうちに楽しむがよいさ」

「はい! よろしくお願いします!」

 




お読みいただきありがとうございます。

という訳で、このお話のメインは、おっさんがノーネーム土地を浄化出来るか試していく。というお話です。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等があれば、よろしくお願いします。

では、また次回~


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第16話 もしもの恐怖

投稿です

短いです。テスト期間だから許してね。

では、どうぞ。


赤い壁と炎、そしてガラス。この街を表すならばこの三つが適切だろう。

 

遠くに見える赤い壁は天を衝くかと言うほど巨大で、街を見下ろせば色彩鮮やかなガラス細工達が光を反射し、私はここだと主張してくる。

 

熱い風は頬を撫で、今まで見た事も、想像すらしたことの無かった世界に年甲斐もなく心が踊る。

 

「すごいな……」

 

単純な言葉しか出てこない。それ程までに心を奪われた。義仁がいる東側もけっして美しくない訳では無い。豊かな自然とほのぼのとした平和。心が落ち着く空間。それが東側だ。

 

しかし、いや、だからこそ、この未知の光景に心を奪われていたのだろう。誰しも慣れてしまったものより、新しいものに目が惹かれるものだ。当然と言えば当然だろう。

 

「ん、ん~~~」

 

大きく伸びをする。鼻から暖かい空気が体全体へと送り込まれていく。

 

「……おじさん、気持ちは分かるけど急がないと」

「おっと、そうだった。それじゃあ行こうか」

 

冒険心が燻られ、あの街の中に飛び出したいのをグッと我慢し、耀が参加するゲーム〝造物主達の決闘〟の会場へと向かう。義仁自身は参加しないが一観客として付いていくことにした。白夜叉から主賓席へと招待されたが、そこまでの度胸はないと遠慮しておいた。

 

 

 

 

ゲーム会場は輪郭を円状に作られており、それを取り囲む形で客席が設けられている。現在は白夜叉の持っていたチラシのギフトゲームが開催されており、その舞台上では最後の決勝枠が争われていた。

 

ノーネーム出身、今回のゲームでのダークホース春日部耀。〝ロックイーター〟のコミュニティに属する自動人形、石垣の巨人。

 

巨人の一撃が耀の体を叩き潰さんと襲い掛かる。しかし耀は軽く跳躍。巨人の一撃は地面を抉る。その腕を鷲獅子から貰った旋風を操る力で駆け登る。一瞬にして巨人の背後をとり、石垣の巨人の後頭部を風を纏った足で蹴り崩す。加えて耀は瞬時に自分の体重を象へと変幻させ、落下の力と共に巨人を押し倒す。石垣の巨人が倒れると同時に、割れるような観衆の声が起こった。

 

箱庭に来て初めて大規模のギフトゲームを見た。痺れた。目の前であれだけの戦闘が繰り広げられているのだ。興奮するなという方が無理がある。

 

しかし、同時に恐ろしかった。怖かった。あの巨人の剛腕で耀の頭がザクロのように砕け散るのではないのか?

 

頭の中で興奮と恐怖が入り交じる。もしもの世界を何度も何度も想像してしまう。

 

頭を振った。恐怖を振り払うように、現実を見逃さないように……。

 

いまはただ、会場の中央でこちらを見ている耀へと手を振るのが最重要行動だ。

 

私はキチンと笑えて入れるか不安になりながら、手を振ったのだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

ギフトに詳しくなく、耀の頑丈さを知らないおっさんはもしもの世界を考えてしまう。
しょうがないことじゃないかな。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたら、よろしくお願いします。

来週はテスト期間内の為投稿が恐らく出来ません。ご了承ください。

では、また次回~


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第17話 自己満足

投稿です。

先週は投稿できなくてすまない……

では、どうぞ。


 耀は勝ち、無事ギフトゲームの決勝へと駒を進めた。その日はそれで祭りはお開き。ジンと北側のフロアマスターであるサンドラの再開。それに牙を見せ獰猛に食らいついたサンドラの兄マンドラが剣を抜きジンに襲い掛かる。それを阻止する十六夜。

 

 双方の仲は険悪なまま白夜叉が間を保ち、話を進める。その話の内容は―――

 

「負けちゃったか」

 

 耀が両手を上げ降参の意思を示した。相手はカボチャのお化けと一人の少女。義仁はよく分からないが、あのカボチャのお化けに耀は勝てないと判断したのだろう。

 

 そして、耀と対戦者が固く手を握り合い、会場から出ようとした時、それはどこからとも無く降り注いできた。

 

『黒い羊皮紙』

 

 それはノーネームの土地を破壊した存在

 それは敵に回してはいけない存在

 それは箱庭の災厄

 

 ―――魔王襲来の兆しあり

 

 魔王のゲームが始まった。

 

 

 ※

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

  ・プレイヤー一覧

  ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

  ・プレイヤー側

  ・ホスト指定ゲームマスター

  ・太陽の運行者・星霊 白夜叉。

  ・ホストマスター側 勝利条件

  ・全プレイヤーの屈服 及び殺害。

  ・プレイヤー側 勝利条件

  一、ゲームマスターを打倒

  二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

  〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印 』

 

 ※

 

 手の中には黒い羊皮紙。話に聞いていた魔王。魔王が現れた。

 

 義仁の頭の中はどうすればいいのか、何が起こっているのかを把握することでいっぱいいっぱいだった。

 

 手元のギアスロールを食い入るように見つめ、頭に入ってこない内容を何度も読み直す。

 

 そして、決まって目に止まるのは一つの文。

 

 ・全プレイヤーの屈服及び、殺害

 

『殺害』

 人を殺すこと。命あるものを殺すこと。

 

 死なない、最低限命を保証する先程のゲームとは訳が違う。

 

 殺せるのだ、誰かを。

 殺されるのだ、自分が。

 殺されるのだ、大事な誰かが。

 

 一瞬の静寂。たった数秒の沈黙がコロシアムを包み、そして、誰かが叫ぶ。助けてくれと言わんばかりに。

 

「ま、魔王が……………魔王が現れたぞォォォォォ!!」

 

 そして、逃げ惑う足音が地鳴りとなって鳴り響く。どこに逃げればいいのかも分からずに、逃げ惑う。

 

 義仁は走った。コロシアムから抜け出すために。自分が生き残るために。

 

 走った、走った走った走った

 

 前を走る人たちの後ろをついていく形で。そして、前を走る人が投げ飛ばされた。そこには、白い巨人。建物はその剛腕で凪払われる。

 

 義仁は物陰に隠れ息を潜める。両手を口に当て、必死に。

 

 視界が揺れる、苦しい、苦しい、怖い、死にたくない、助けて、嫌だ、嫌だ

 

 心を恐怖が支配していく。汗と涙と鼻水がまぜこぜになり気持ち悪い。しかし、それすらも気にならない。足が震え、手が震え、歯と歯がぶつかりガチガチガチツとなり続ける。

 

 落ち着け、落ち着け、落ち着いてくれよォ!!

 死にたくない! 死にたくない!

 

 必死の思いで心を落ち着かせようとする。

 

 ふぅーふぅー……。息を吐き、グッと息を詰める。何で読んだか、戦場での息の整え方だかなんだか。兎に角、死にたくない。その一心で実行した。

 

 そして、心音が幾分か落ち着いた時、見た。見てしまった。

 

 すぐ近く、巨人のすぐ近くの物陰に、自分と同じく恐怖に震える少年が居たのを。

 

 少年の頭上に今にも落ちてきそうな瓦礫の山があって、そこに方向転換をした巨人の肩がぶつかったのを。

 

 そこからは条件反射だった。

 

 この世界に来て、変に自信がついたからか、私は気が付けば壁を乗り越え走り出していた。

 

 足は震えず、一直線に少年の元へと駆けてゆく。

 

 飛び出した

 手を伸ばす

 その肩を掴んだ

 頭を抱える

 瓦礫が落ちてきた

 足にぶつかる

 ごキリッと音が鳴った

 それと同時に地面へと叩きつけられた

 

「グッ……ぅぅぅう」

 

 うめき声が聞こえる。別の誰かのうめき声。腕の中には一人の少年。ひとまず目の前の危険からは救えたようだ。義仁は安堵のため息を漏らす。

 

「君、大丈夫か?」

「あ……し、足、が」

「足?」

 

 少年の足を見る。左足の脛辺りが青白くなっていた。折れている。

 

「少し待ってなさい。応急手当ぐらいならできる」

 

 義仁は上を見上げる。天井には自分たちが落ちてきたであろう大きな穴。手が届きそうにはないし、手が届いたとしても、義仁も足首を痛めてしまっているようで、どちらにせよそこからの脱出は今のところ難しそうだ。と、判断し辺りを見渡す。部屋には大きな樽が並び、瓦礫がぶつかって割れたであろう樽からは赤い液体が漏れ出していた。

 

「ここは……ワインの貯蔵庫か? それよりも使えそうなものを」

 

 瓦礫の山をひっくり返し、手頃な木の板を二つ見つけ出す。その板で少年の左足を挟み込み、自分の来ている上着で固定する。

 

「ないよりはマシだろう。私は出口を探してくるから、ここで待ってなさい」

 

 義仁の言葉に少年は頷いた。だから、義仁は安心して出口を探しに行った。

 

 あの子を助けるんだ

 

 そんな自己満足に囚われながら。




お読みいただきありがとうございます。

急ですが魔王のゲームです。
そして、義人の今回の目的(?)はこの少年を守ることです。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等があればよろしくお願いします。

ではまた次回~


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第18話 希望

投稿です。

光って希望とかに例えられるけど、たまに絶望を直視させるためにも使われますよね。

では、どうぞ。


「僕は〝アンダーウッド〟のコミュニティ所属ロオタス。助けてくれてありがとうございます」

「私は〝ノーネーム〟出身の木島義仁。よろしくねロオタス君」

 

 暗い部屋に二つの影。天井の大穴は瓦礫で塞がり、出口の扉は反対側に重しでもあるのかびくともしなかった。

 

「幸いなことに水と食料はあった。どれ位持つかは分からないけど、二人で頑張ろう」

 

 

 ※

 

 

 敵は四体、笛の音色で相手を操る〝ラッテン〟

 身の丈を超える巨大笛を巧みに操る〝ヴェーザー〟

 ゲーム開始時に街を破壊した〝シュトロム〟

 そして、魔王〝ペスト〟

 

 彼等が敵。たった四人。そのたった四人に北側は壊滅まで追い込まれていた。

 

 うん千といる戦える者の八割近くが魔王の力〝黒死病(ペスト)〟によって倒れ、満身創痍。

 

 それに加えシュトロムの攻撃により行方不明者も百単位で出ている。

 

 なんとかジンたちがもぎ取った準備期間は一週間。それも、決定打を残さぬまま五日の時が過ぎていた。

 

 そして、ペストの放った〝黒死病〟によって、初めての死者が出た報告と共に、六日目の朝が来た。

 

 

 ※

 

 

(大丈夫……だいじょうぶだ。僕が絶望してどうする。僕が立たなくてどうする……)

 

 洗面台にぶちまけられた透明な液体。口に残る嫌な酸っぱさ。目の下には酷い隈が見られ、目は充血していた。

 

(ぼくはリーダーなんだ……黒ウサギの、リリたちの、レティシアの、十六夜さんの、耀さんの、飛鳥さんの、義仁さんの……りーだー、なんだ……)

 

 洗面台の汚れを流し、本の山へと戻る。

 

「もう、こたえはでてるんだ……」

 

 本のページを捲り、頭の中でピースを当てはめていく。

 

 ラッテン=ドイツ語でネズミを意味する。ネズミと人心を操る悪魔の具現

 ヴェーザー=地災や川の氾濫、地盤の陥没などから生まれた悪魔の具現。

 シュトロム=ドイツ語で嵐を意味する。暴風雨などによる悪魔の具現。

 ペスト=斑模様の道化が黒死病の伝染元であったネズミを操ったことから推測。黒死病による悪魔の具現。

 

 偽りの伝承・真実の伝承が示すもの。一二八四年六月二十六日のハーメルンで起きた事実を〝ラッテン〟〝ヴェーザー〟〝シュトロム〟〝ペスト〟の四つから選択するものと推測できる。

 

 そして、これを区別する方法が、殺害方法と殺害された130人の子供に当てはまらないものになる。

 

 そこで、最も怪しいのがペストだ。

 

 ハーメルンの碑文が、一二八四年。

 黒死病の大流行が始まったとされるのが、一三五〇年以降。

 

 つまり、ハーメルンの碑文と、黒死病の最盛期は時代背景が合わないことになる。

 

 そこから推測するとペストとハーメルンの碑文は無関係の時代から来た悪魔と考えられる。

 

 さらに言えば、何故か封印された白夜叉。この謎も直ぐに解ける。黒死病が大流行したのは十四世紀の寒冷期。太陽が氷河期に入ったのが大きな原因と考えられている。つまり、白夜叉は氷河期に入ったとされ封印されているのだ。

 

 この説を提示すると、彼等はグリム童話上の〝ハーメルンの笛吹き〟となる。あくまで、彼等は本物ではないのだ。

 

 本物を〝一二八四年のハーメルンの笛吹き〟だとすると、彼等は〝一五〇〇年代以降のハーメルンの笛吹き〟となる。

 

 ―――一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二十六日

 あらゆる色で着飾った笛吹き男に130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した―――

 

 ハーメルンの伝承の碑文である。一体何処にネズミを操る道化師が存在しているのか。

 

 そして、一五〇〇年の童話にはネズミを操る道化師が描かれている。

 

 この時点で〝ラッテン〟と〝ペスト〟は同じくくりに部類できる。

 

 〝ヴェーザー〟は、丘の近くの処刑場で姿を消した、この〝丘〟とは、ヴェーザー河に繋がる丘を指し、天災で子供達が亡くなった象徴とされる。天災……つまりは〝シュトロム〟も、ヴェーザー河の存在を指す。そして、〝ヴェーザー〟本人がいるから〝シュトロム〟もまた外れ……つまりは偽物。

 

 つまり、〝ヴェーザー〟が真実の伝承となる。

 

 そして、彼等は北側の祭典に美術工芸の出展者として侵入している。それも、100枚を超えるステンドグラスの展示者として。

 

 100枚のステンドグラスから真実の伝承、ヴェーザー河の描かれている物だけを掲げ、それ以外は砕く。たった、それだけの事だ。

 

「僕は、生きる。そして、勝つんだ」

 

 謎は解けた。何十と説を組み立てたが、これ以上このゲームに当てはまるものは無い。

 

(大丈夫……僕は間違ってなんかない……これであっているんだ)

 

 何度も何度も、自分にそう言い聞かせながら、ジンは部屋を出る。ふらふらと、足を動かし、震えながら。何かに縋りたくて、前えと足を進めた。

 

 

 ※

 

 

 一体どれ程の時間が過ぎたのだろうか。出口は塞がれ、食料も刻一刻とその量を減らしていく。

 

(だるい……キツい……熱い……)

 

 隣に寝ているロオタスの手を握る。その手は熱く、汗でグッちょりとしていた。

 

(こんな時に限って風邪でも引いてしまったか?)

 

 ぼんやりとする頭で考えようとするが、頭痛が酷くそれどころではない。

 

 結果論として、二人して風邪をひいてしまった。それで思考を辞めた。今はただキツい。何もしたくない。

 

 もし此処に他の誰かがいれば、蝋燭でもマッチでも良いからその場に光源さえあれば、二人の異変に気が付くことが出来たのだろう。

 

 ふらふらしている義仁。息を荒くし寝込んでいるロオタス。暗闇の中では見つける事が困難な黒い斑点は身体中に湧き出て二人を蝕んでいく。ひっそりと、確実に……。

 

 しかし、二人は気付かない。暗闇の中で見つける事が困難な上に、そこまで意識を持っていけないから。

 

 そして、世界が変わった。

 

 まるで新築かと思うような綺麗な内装には勿論明かりがあり、ずっと暗闇にいた義仁は思わず目を閉じてしまう。

 

 何が何だか分からない。

 

 しかし、一つだけ分かったことが、分かることがある。

 

 助かるかもしれない。

 

 助けられるかもしれない。

 

 そんな希望が義仁の中で生まれた。

 

 そんな希望が―――

 

 

「えっ? なんだ、この、黒いの……?」

 

 

 ―――生まれてしまったのだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

身体中に黒い斑点とか……軽くトラウマものですよね。
それと、ジン君の絶望を書けて個人的に満足。
最後適当になって申し訳ない。眠かったんや……

誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたら、よろしくお願いします。

謎解きに矛盾とか、これ違うぞとかありましたら、教えて頂けるとありがたいです。

では、また次回~


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第19話 奇跡

投稿です。

おっさん頑張ります。そして、奇跡を起こします(盛大なネタバレ)

では、どうぞ!


 明るくなった部屋、明るくなった視界。そして、ロオタスの身体中に浮かび上がっている黒い斑点。ロオタスの体へ手を伸ばす。その手にも黒い斑点が浮かび上がっていた。

 

 黒い斑点、これが一体なんなのか、それは分からない。けれど、このままではマズいと言うことだけは分かった。

 

 外からは叫び声や悲鳴、爆発音のようなものまで聴こえてくる。外に行くのは危険すぎる。だが、かといってこのままここでじっとしているのも安全という訳では無い。時期にここもあの爆発音に吹き飛ばされるかもしれない。それ以前にここで助けを待っていても、助けが来る前に死ぬかもしれない。少なくとも、ロオタスには後がない。助けを呼びに行っている間に息絶えていてもおかしくはない。

 

 方や足の骨折、意識はほぼ無い。方や足を捻り、意識は朦朧。

 

 それでも、生きるために逃げる、逃げねばならない。

 

 この子を助けられるのは私だけなのだから。

 

 近くに寄せていた水の桶から水を掬い喉へと流し込んでいく。そして、顔を洗った。生温い水が義仁の意識を覚ませていく。目を開けば、水面に自分の顔。その顔にも

 チラホラと黒い斑点が見られる。

 

「生きるか、死ぬかだ」

 

 立ち上がれば、捻った足が痛む。だからどうした。と、足を動かし、意識のないロオタスに一応確認をし「動かすよ」と声を掛ける。背中にロオタスの重みが伝わる。まだ、熱い。まだ、生きている。まだ助けられる。私が助ける。私だけしか彼を助けられない。

 

 部屋の出口と思われる扉に手を掛け、押す。驚くほどすんなりと扉は開いた。地下室から出て、リビングのようなところに出る。感傷に浸っているなんて暇はない。リビングを出て廊下に出る。右を向けば無造作に置かれた靴。つまりは玄関。あの扉の先が外だろう。

 

 外から聞こえる轟音が途切れた瞬間、義仁は一気にその扉を開いた。

 

 赤い壁と炎、そしてガラスの街。何処か黄昏時を連想させるあの街並みは無くなり、木造の街並みに姿を変えている。

 

 何が起きているのか、義仁には理解ができない。兎に角人のいるところへ行かなければと、足を踏み出した。瞬間、轟音がすぐ近く、目の前で鳴り響いた。あの白い巨人が何かに吹き飛ばされたのか、義仁達が今さっきまでいた建物を巻き込み、目の前の建物へと激突していた。後ろを振り向けば、丁度脇下の部分だけ建物が残っている。

 

 もし、もう少しでも動くのが早かったら……?

 

 目の前の白い巨人に押し潰され、叩き潰された自分とロオタス。きっと、水風船が破れるかのように簡単に死んでしまうのだろう。

 

「ヒッ」

 

 その事を理解してしまったが故に漏れた恐怖。後はガムシャラだった。死にたくはない。死にたくない。死にたくない。荒れる呼吸、ぼやける視界、流れる涙、いやだいやだ嫌だ……私はまだ、死ねない。この子を助けなきゃならない。

 

 死にたくない。それも、義仁を動かす力にはなっている。だか、それ以上にロオタスを、誰かを救わなければ。その感情が義仁の原動力……生きる意味にさえなっていた。

 

「ハアッ……ハッハッ……ごホッ!」

 

 足は震え、体はガタガタ。呼吸なんてものはろくに行えず、唾液の代わりに生臭く、酷くねっとりとしたものが口内に溜まっていく。吐き出してみるとそれは赤かった。

 

 家と家の隙間、路地裏に一度身を隠し呼吸を整える。流れ出る涙と汗を乱雑に拭い、口の中の血液を吐き出し、代わりに空気を取り入れる。座って、そのまま寝てしまいたい衝動を押さえ込み、正面を向いた。

 

 走る程の体力は残っていない。けれど、背中のロオタスの為に足を動かす。

 

「だい……じょうぶ…………おじさんが、た……けてみせ、るから」

 

 途切れ途切れの自分の声。届いているかも分からない声。その声に応じるかのように、首筋にはねっとりとした液体が掛けられた。

 

 生臭く、酷くねっとりした液体。

 

 義仁の視界に、先程吐き出した自身の血液が映る。元より生気なかった顔が絶望に染まっていく。

 

「お、ねぇ……ちゃ……さむ……い……ょ」

 

 その声に安堵の息が漏れた。まだ、まだ大丈夫。まだ間に合う。けれど、時間はない。

 

 歩くことしか許さなかった足を無理やり動かした。徐々にスピードを上げていき、全速力とまでは行かなくとも走ることが出来た。足から変な音が伝わるが、気にしない。目から涙とは別の何かが流れてきているが、気にしない。

 

 走って、走って、走って、走った。

 

 そうして、見つけた。何人かは分からないが、人影を。義仁には分からなかったが、それは指示を出すジンと、スタンドグラスを見つけた指示を仰ぎに来た者の集団だった。

 

(助かったッ……! これで、助かる!! 私はこの子を救えたんだ!!)

 

「助かった……! 助かったんだよロオタス君!! 君もお姉さんの所に帰れるんだ!! 奇跡だ!! 私たちは生き残ったんだ!!」

 

 最後の力を振り絞り義仁は叫んだ。助かる、助かるんだ。と。

 

 そして、義仁は勢いを緩めずその集団の中へと飛び込んでいく。

 

 集団は焦った。まさか、前線で魔王達と戦っている者がやられ此処に敵の手が!? 集団は距離を取りその人影を確認する。そして、距離を取るなんて、そんな必要は無かった。そこに倒れ込んできたのは一人の男と一人の少年。二人の足は青白く腫れ上がり、身体中には黒死病特有の黒い斑点が浮かび上がっている。特に男は口や足、腕や頭、目からさえも出血していた。

 

「たす……け、て……この子を……」

 

 義仁はロオタスを降ろす。ゆっくりと、その体を傷つけない様に。

 

 しかし、倒れてしまった。足がもつれ、立とうとした瞬間に。ロオタスの体は義仁の少し先に転がる。やってしまったと義仁の顔は青くなっていく。

 

 慌てて立ち上がろうとした。

 

 

 グチャっ

 

 

 目の前でロオタスの体が飛んできた瓦礫に押し潰された。

 

 立とうとしていた体からは力が抜け、その場に倒れ伏す。

 

 義仁の手に何かが当たった。それを握り目の前へと持ってきた。ゆっくりと開く。

 

 目が合った。

 

 手の中には飛び出たロオタスの眼球。

 

 プツンッと、何かが弾けた。

 

 

アハ

アハハ

アヒヒヒ

アハヒヒハははヒヒハ

 

アキキキキハキひひヒきヒききはハハヒきひひははははキキキキキキキはひひひひきキキキキアヒヤあひヤアヒヤフヒひひヒヒクキャキャキャキャキャキャキャキャキャ

 

 

 赤い血だまりに、透明な雫が落ちていく。

 赤い血だまりに、狂った笑いが広がった。

 




お読みいただきありがとうございます。

ええ、奇跡が起きましたね。ピンポイントで落石と言う奇跡が……

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

さてはて、おっさんの心はどうなることやら

では、また次回〜


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第20話 誇り

投稿です

きっと矛盾とかないはず……なんか、解説会とか毎回これ書いてるな……

では、どうぞ


 空を眩い光が埋め尽くす。それは、真実の伝承を掲げるのとほぼ同じ。

 

 光が視界を埋め尽くし、そして開けた視界には魔王によって荒らされた街並み。

 

 そして、魔王の放った呪いは解け、黒い斑点は消え失せた。

 

 失ったものはとても大きい。しかし、助かったものも同じく大きく、多い。

 

 だから、まずは声を上げよう。

 

「か、った」

 

 大きな声で、精一杯。

 

「やった」

 

 今までの不安を、恐怖を全部吐き出すように。

 

「魔王に……魔王に」

 

 祝杯を掲げよう。

 

「「勝ったぞォォおおおおおお!!!!!」」

 

 失くしたモノから、目を、そらすために。

 

 

 ※

 

 

 魔王のゲームに勝利したのち、迅速に後処理が行われた。瓦礫の撤去や、怪我人の治療。そして、勇敢なる死を遂げた者への喝采と黙祷を……。

 

 今回のゲームでの死者数が合計三十七名。特に前線を張っていたサラマンドラからの死者が最も多くその数三十四人。残りの三人は、二人が黒死病による病死。一人が、戦いの最中吹き飛んだ瓦礫が不運にも直撃。そのまま押し潰される形で亡くなった。

 

 重傷者、重態者もかなりの数になっており、重態者として義仁はサラマンドラの医療機関にて治療を受けている。

 

 だが、そんな中でも祭典は続けられる。こんな時にまでとは思われるが、それでも祭典とは大切な行事。それに加え、今の北側の現状は『魔王の毒牙に掛かった街』になっている。時間が過ぎ、冷静になり、失ったものの大きさを知った故の結果である。それを払拭するためには祭典を執り行い『魔王の毒牙に屈せず魔王を打ち破った街』と言う意識を街全体に持たせなければならない。払拭と言うよりはすり替えという方が正しいが、街の秩序等を守る為にも必要なこととなる。

 

 黒ウサギの正式なゲーム終了の宣言。白夜叉の謝罪に加え、誕生祭を続ける事の宣言。及び魔王のゲーム攻略による功績の授与。

 

 窓から見える復興の様子。悲しみに涙するものもいれば、家族との再開に笑顔するもの。汗水流し瓦礫を移動する者もいれば、祭典の準備を進める者もいる。

 

 窓を閉め切り、扉も誰も入れぬよう閉め切る。そして、手に持つ手紙に目を落とし、手紙の内容に目を通す。そして、手紙の内容に一通り目を通したマンドラは、執務机に手紙を置き、一人嘆く。

 

「『全てが万事上手く進行し、魔王を撃退されましたこと、お祝い申し上げます。新生〝サラマンドラ〟が北のフロアマスターとしてご活躍されることを心より期待しております。

  追伸/星海龍王からお預かりした新珍鉄は、例の撒き餌達に送らせていただきました』、か。

 全てが上手く進行? はっ、笑わせる。これだけの犠牲を生み出しておきながら上手くいったなんて言えるわけがないだろう。流石は〝サウザンドアイズ〟。何もかもお見通しの上でこちらの傷に塩を塗ってくるとは。悪い事は出来んな」

「何が?」

 

 ガタンッ!! とマンドラは立ち上がる。周囲には誰もいない。だが聞き覚えのある声だった。

 

「まさか、〝ノーネーム〟の小僧……! 何処にいる!!」

「屋根裏にいるぞ!」

 

 ズドガァン! と天井を破って現れる十六夜。何処から潜り込んだのか、全身蜘蛛の巣だらけである。右腕は包帯を巻かれて固定されているというのに、随分と手の込んだ潜入法だ。

 

 ペッペッと埃を払い、やや侮蔑の嘲笑を交えた表情で、

 

「で、何が悪いことなんだ? まさか、〝サラマンドラ〟が魔王を祭りに招き入れたことか?」

「……なっ、」

「いやいや、驚くところかそこ? 普通に考えれば分かることだろ。連中は出展物に紛れて現れたんだぜ? それも一三〇枚もの笛吹き道化のステンドグラスを出展していた。主催者側が意図的に見落としてない限りは、不審に思うだろ」

 

 違うか? と首を傾げる十六夜。マンドラは冷や汗を背中に流しながら、帯刀していた剣の柄を握っている。十六夜は壮絶に面倒くさそうな顔で頭を掻き、両手を広げた。

 

「アンタがその気なら俺としては有難い。キチンとした正当防衛を持ってアンタを殺せるからな」

「何…………!?」

「今回の件は、サンドラを殺すとか、跡目が欲しいとかじゃない。サンドラがしっかりすることで〝サラマンドラ〟を支えて欲しかったんだろ?」

「…………」

「それは別に悪いことじゃねぇさ。その気持ちは分からんでもないからな。だが、家の仲間が巻き込まれて死に目にあってる。外側も、内側もな。んで? どうしてくれる訳? これって、あれだろ? 〝階層支配者〟として一人前として認められるための通過儀礼みたいなもんなんだろ?」

 

 十六夜は両手を広げたままマンドラへと近付く。程よい、その剣の間合いに。

 

「そんな通過儀礼に家のオッサンは巻き込まれた。ルーキー魔王VSルーキーマスターの壮絶な出来レースに。俺はさ? 別に他のコミュニティがどうなろうが、潰れようが構わないんだわ。ただ、お前らの都合で非戦闘員が死に掛けてるのが気に食わねぇの。だが、現状オッサンはアンタらの医療技術で助かってる。だから、下手に手を出せない。だから、アンタが俺にその刃を向けてくれれば、俺は心置き無くテメェを殺せる」

 

 明らかに肩で息をしているマンドラに十六夜は溜息を漏らし、その広げた両手を戻した。

 

「〝サラマンドラ〟の総意だとか、テメェだけの勝手な偽善なのか、そこは俺には分からん。だが、この事を知っている連中からしたら、テメェらの名誉なんてものはあってないようなものかもしれないがな」

 

 マンドラは言い返したかった。しかし、言い返せなかった。現に〝サラマンドラ〟以外のコミュニティから死者が出てしまっているのだから。自分達のコミュニティを守る為に、自分達が企てた悪事で、自分達以外のコミュニティから犠牲が出てしまっているのだから。

 

「さてと、こんな名誉も誇りも無いような奴を相手にしてるほど俺も暇じゃぁない。それじゃぁな」

 

 十六夜は興味が失せたのか、後ろ手に手を振りながら部屋を出ていこうとする。しかし、それに待ったを掛けたものが居た。他でもないマンドラだ。

 

「ま、待ってくれ!」

「……なんだ? もうアンタの首にも興味なんて無いんだが」

 

 マンドラは思考を巡らせる。どうすれば〝サラマンドラ〟の誇りを、名誉を取り戻せるのか。そして、〝ノーネーム〟風情にあれだけ言われたまま、下に見られてたままで終わって良いのか!? 否! 否!! 否!!!

 

 ならば、どうする!? 私の首に既に価値はない。ならば、恩を買うのだ。彼等のコミュニティは対魔王コミュニティだと小耳に挟んだ。つまり、万が一が常に隣に立っていることになる。そこを付けば……!

 

「確かに、貴方の言う通りだ。だが、それでもなお、我等にも引けぬところはある。我々、〝サラマンドラ〟は〝ノーネーム〟に万が一があった場合、いの一番に駆けつける。我等の御旗に誓おう。その時こそ、〝サラマンドラ〟は秩序の守護者として駆けつけると」

「…………ま、覚えておくわ」

 

 執務室の扉をぶっきらぼうに開け放ち、十六夜は部屋を出る。滑稽だな。と不意に思った。

 

 マンドラは〝ノーネーム〟を下に見ていた。そんなもの態度で分かる。

 

「まずはテメェがその姿勢をどうにかしないと、誇りも糞もねぇんだがなぁ」

 

 そんな事を呟きながら廊下を進み、一つの病室の前でその足を止めた。扉には木島 義仁の文字。

 

「さてと、オッサンは起きてるかなっと」

 

 扉の取っ手に手をやり、開く。そこには―――

 

「はっ……―――?」

 

 ―――ナイフを両手で握り締め、義仁の胸を刺そうとする少女と、それを笑顔で見守る義仁の姿があった。

 




お読みいただきありがとうございます。

十六夜くんブチ切れモード。けど、ここで騒動を起こすとノーネームの皆に迷惑なので我慢しました。
その結果マンドラの価値が下がりました。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたらよろしくお願いします。

最後? さて、どうなることやら。

ではまた次回〜


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第21話 生きた証

投稿です。

いや、その……ね?
本当なら、ね?

では、どうぞ。


 ふらふらと廊下を一人の少女が歩く。髪の毛は無く、その代わりと言わんばかりに緑色の美しい葉と大きな花がその頭を覆っていた。瞳も生物にある黒目と白目のようなものは無く単色。しかし、生物一般に言えば気色悪い筈のその見た目も何処か大木を前にしているかのような力強さと安心感があった。

 

 だが、今は違う。青々とした美しい筈の葉は泥水のような茶緑色をしており、頭の花は萎れていた。

 

 少女には弟がいた。血は繋がってはいなくとも、血よりも固いもので結ばれた弟が。

 

 この箱庭でも孤児はさほど珍しくはない。魔王に殺されたものや、虐待を受け逃げた者。人種を問わず、それぞれの問題を抱え孤児は存在する。

 

 少女の弟はそんな問題を抱えた人間の子だった。

 

 初めて彼と出会ったのは少女が買い物から帰る途中だ。自分の持つお小遣いでお菓子を買って、家に帰る途中、少女は少年とぶつかった。その衝撃で少女は持っていたお菓子を落としてしまう。それの一部を掴んで少年は逃げ出そうとした。結局は、店の目の前でそんな盗み行為を働いた少年は店の店主に捕まってしまったのだが。そんなこんなで、少女と少年は邂逅したのだ。

 

 それから少女と少年は共に過ごすことになる。幸いなことに少女の家族、コミュニティは裕福。今更一人二人人員が増えた程度では傾かない。

 

 少女と少年は仲が良かった。そりゃあもう、少女の姉妹が軽く嫉妬する程度には。少年は両親に捨てられたと少女に告白した。少女はそんな少年とずっと一緒にいた。家族の温もりを教えるんだと子供ながらに奮起して。そうして接して行けば仲が良くなるのも頷けない話ではない。現に少年はそれ以降少女の事を姉としてずっと慕ってきた。

 

 そうして、少年と少女が出会って六年。少年は少女に告白をした。弟としてではなく、一人の男として。両親を自分のこの手で殺したと。

 

 六年を共にした少女も、流石に目を見開いた。少年はそんな少女の顔を見らず、見れずに話を続ける。

 

 少年の両親は人間では無い。獣人だった。だから自分も獣人だと少年は思っていた。信じていた。しかし、少年には、獣人としての耳も尻尾もない。いつか生えるだろうと、少年は信じていた。しかし、とある日両親が口喧嘩をしていたのを少年は聞いてしまった。

 

『あの子を引き取ってからもう五年、流石にもう明かさないといけないだろ』

『ただでさえコンプレックスとして耳と尻尾がないのを悩んでいるのに、まだもう少し時間を置いても大丈夫よ』

『だが……あの子は人間だ。私達獣人とは生きている時間が違う』

 

 まるで自分の全てが否定された気分。裏切られた。両親はそんなつもりはなくとも、当時の少年にはそう感じられた。自分に家族なんていない。なら、あの二人はなんなんだ? そんな思いが積もり積もって憎悪となり、二人が寝静まった夜、寝込みを襲い殺した。

 

(けど、ロオタスはずっと悔やんで…………苦しんできた…………頑張って、罪を償うって…………約束…………したのに…………)

 

 そして、いつの間にか辿り着いていた病室。

 

 Pi――Pi――Pi――

 

 機械的な電子音と連動するかのように規則正しく上下する胸。その胸からは沢山のチューブが繋がれており、そこに寝ている男を生かしているのが分かる。

 

 最期にロオタスが共に居たという男だということも分かった。

 

「どうして…………」

 

 少女は壁を伝うように歩く。つまづき、ベッドの近くのテーブルに倒れ込む。テーブルの上にはお皿の上に置かれた林檎とフルーツナイフ。

 

 少女はそのナイフを手に取った。取るまでに躊躇いなんて無かった。

 

「貴方さえ……貴方さえ居なければッ!! ロオタスは、ロオタスはぁッ!!」

 

 そのナイフ握り締め、少女は男の胸へと突き刺そうと振り下ろそうとするが、目が合った。男と少女の視線が交わった。うっすらと開いた瞼。そして、何かを察したかのように口端が持ち上がった。男は笑顔を浮かべたのだ。

 

 怖かった。ナイフを突き付けられているのに笑っていられるこの男が。

 

 涙が流れる。なんで貴方が笑っているのに、弟は死んでしまったのか。違う。あれは諦めているのだ。受け入れているのだ、私に殺されることを。

 

 ふざけるな

 ふざけるな

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな

 

 ふざけるなッ!!!!!!

 

「弟が生きていた証の貴方がッ!!」

 

 もう一度ナイフを大きく振りかぶり―――

 

「そんな簡単に生きる事を諦めないでよッ!!」

 

 ―――振り下ろす。

 

 突き刺さった箇所からは赤い液体が流れ、ベッドのシーツを赤く汚していく。

 

「うううッ……うわぁぁああああん!!!!」

 

 少女の瞳から止めどめなく涙が溢れてくる。声を押し殺すこともなく、少女は大声で泣き叫ぶ。

 

 ベッドに横たわる義仁の瞳は閉じられていた。

 

 

 ※

 

 

 止めに入ろうとしていた十六夜は目の前に広がる光景に困惑を隠せないでいた。

 

 しかし、そんな十六夜を他所に少女は泣き叫ぶ。義仁は既に目を閉じて、ベッドの上は赤色で染められていた。

 

(どうすればいいんだよこれは……)

「いや、マジでどうすりゃいいんだ? 取り敢えず止血して……話し合えるのかこれ?」

 

 流石の十六夜も、自ら自身の手のひらをナイフで突き刺す者を見たのは初めての事だった。取り敢えず止血はしないとなと、包帯を救急箱から取り出しながら、これからの面倒事を想像し十六夜は大きく、溜息をついたのだった。

 

「厄介事をふやしやがってこのオッサンは…………はぁー…………」

 




お読みいただきありがとうございます。

ええ、ええ。言いたいことは分かりますとも。設定が無理やりな上に雑じゃないか? ええ、書いてる自分が一番分かっておりますとも。本当ならこの少年ことロオタス君とキリノ(作中の少女のこと)ちゃんは無関係だったのです。本来なら適当な家族を出してオッサンにトラウマを植え付けるだけのはずだったのです。
しかしですね? この後キリノちゃんの故郷、南のアンダーウッドにオッサンを連れていきたいのですよ。ですが、ここまで傷付いたオッサンが果たして行くのか? そう疑問になってしまったのですよ。その結果、キリノちゃんと関係を持たせれば自然に出来るのでは? そう思った結果がこれです。

さて、長々と言い訳を書きましたが、要は…………



ネタがなかったから仕方ないね(・ω<) テヘペロ



ではまた次回〜


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第22話 共感

投稿です。

さて、今回もなんだ。
更にいえばクッソ短い。

では、どうぞ。


 十六夜は椅子に座り、腕を組む。その対面には眼を赤く腫らした少女。隣を見ればベッドの上で目を瞑り、規則正しく腹が上下している義仁の姿。

 

 十六夜は一つ溜息を吐き乱雑に頭を掻いた。その行動に少女はビクリッと震える。それもその筈、目の前のちょいワル風の少年こと、十六夜は魔王と素手で殺り合える程の実力者。これと言った強みを持たない少女からしたらその一挙動一挙動が死に直結する。ただ、一々過剰に反応される十六夜からしてみれば鬱陶しいことこの上ないのだが。

 

 んでだ。と、十六夜は少女からの話を纏め再度少女へと確認する。

 

「ようするに、オッサンが居なければ弟は助かったかも

  しれない。のもしもの話がオッサンのせいで弟が死んだになって殺したくなった……と。そう言う事でいいんだな? キリノ」

「はい……」

 

 十六夜は項垂れる少女、キリノを見やる。正直、十六夜はキリノの心情が分からないでもなかった。それもその筈、十六夜も過去に自身の肉親とも言える人を亡くしているからだ。

 

 しかし、キリノに多少なりとも共感出来るとはいえ這いそうですかと殺すのを態々見逃すことも出来ない。未遂に終わったとはいえ、またその手を義仁に向けないと言う保証はない。まずはキリノが義仁を殺したい等と思わせないように意識をすり替えなければならない。ならば、共感させればいい。ある程度落ち着いているキリノに加え何の因果かこの部屋には似た者同士しかいないのだから。

 

「キリノ、俺もお前の気持ちが分からんでもない。俺も家族を亡くした。それはこのオッサンも同じだ。詳しくは知らねえがな」

「この人も……?」

「ああ、なんでも事故で妻と娘を亡くしたとかなんとか」

「え……」

「俺はお前の気持ちがわからんでもない。大切な誰かを亡くした。それが他殺に近いものなら俺自身何を仕出かすかわからん。だが、今の第三者としてならキリノがこれから後悔していくのが手に取るように分かる」

 

 だから、と。十六夜はキリノに一つの提案をした。

 

「だから、逆にオッサンには生きてもらってよその弟が見てきたものを見せ付けてやるのもおもしれぇじゃねぇのか? ただ殺すよりも、勝手に死なれるよりもそっちの方が良いと思うんだが、どうだ?」

「そっちの方が…………良い、かもです」

 

 十六夜は心の中でガッツポーズを取った。

 

「なら、オッサンにその旨を書いた手紙でも書いときな、俺に渡してくれたら後で渡しといてやるよ」

「はい。そうします。ありがとうございました十六夜さん」

「はいよ。いいからちゃちゃっと書いてこい。もう少ししたら祭典も再開するだろうからな。遅れないようにしとけよ」

 

 キリノは最後にもう一度十六夜へとお礼を言った後部屋を後にした。そして、部屋に残ったのは疲れた様子で背もたれに寄りかかる十六夜と、規則正しい寝息を立てる義仁の二人。

 

「このオッサンは……呑気に寝やがって…………」

 

 相手が怪我人で寝ている事が当たり前だとわかっていても悪態の一つも付きたくなるもの。

 

 なんにしても、下手に癇癪でも起こされないで本当に良かった……。と安堵する十六夜であった。

 




お読みいただきありがとうございます。

就活の履歴書書きや、バイトの店内新聞書き等に追われ手がつけられなかった。
決してネロ祭でシェヘラザード(不夜城のキャスター)縛りで時間が取られた訳ではないのです。



一回スランプに陥るとなかなか抜け出せないよね…………



では、また次回〜


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第23話 心の叫び

投稿です。

ああ、またなんだ。短い。スランプなんだ。許してくれ。

では、どうぞ。


 あれから数日が過ぎ、義仁は目を覚ました。霞む視界には見慣れない天井。うっすらと聞こえるのは機械的な電子音。ここまできて、漸くここが病室なのだと悟る。

 

 体に力は入らない。声も出ない。やる事がない。やれる事がない。私はお荷物なのだろう。むしろそっちの方がいいのかもしれない。動けば動くほど誰かの邪魔になる。誰かの命を奪う。ならばいっそ、死んでしまった方がいいのだろう。

 

 しかし死ぬと言ってもどうすれば良いのだろうか? ノーネームの皆にも迷惑にならない死に方……。失踪してからでは駄目だろう。彼らはこんな俺でも心配して探しに来てくれる。そんなお人好し達だ。遺書等を残しても同じ事だ。

 

 ならば、明確に私が死んだという事実が必要となる。だが、私が自殺をすればリリちゃんが思い詰めるのではないだろうか?

 

 義仁の頭は冴えていく。十六夜辺りがこれを見ていたら呆れて頭を叩きその思考を止めていただろう。しかし、悲しいかな。今この場に十六夜はいない。十六夜がいなければ義仁を止める一番の抑止力であろうリリもいない。つまり、自殺願望が変な方向にハッスルしいかにして事故で死ぬか等を考え始めている。

 

 いつの間にやら喉は回復し開かれた口からは今後の予定がダダ漏れ。それは義仁の見舞いに来て、今現在受付を済ませたとても耳の良いとある種族の耳にハッキリと、とまではいかないが大まかな内容がわかる程度にはその声は届いてる。

 

 ピキピキと幻聴が聞こえ始める受付嬢達。対面している者に至っては肩を震わせ軽く泣き始めている。そして、受付が完了した瞬間、風が院内に吹いた。

 

 本来ならば職員が止めなければならない。職員でなかろうとまだ小さい子供だろうと知っているマナーなのだから。病院内では静かにしましょう。 しかし、だれも彼女を止めない。止められない。それは何故か、彼女が放つ怒気や、隠そうとしない強者の威圧感。しかし、扉の前で止まった彼女を注意しようとした者もいた。しかし、それは彼女に声を掛ける前にその手を引いていく。

 

 その瞳から零れ落ちる涙は仲間が起きたことを知った故の嬉しさかはたまた……。

 

 少なくとも、麗しい女性がその瞳から大粒の涙を流し一つの病室の前で息を整えているのは事情を知らないものからすれば勘違いするには十二分なものだった。

 

 

 そして、扉が開かれる―――

 

 

 ―――バァン! と扉が勢いよく開かれ心からの叫びが院内を響かせた。

 

 

「なぁにを考えちゃっているのですか貴方様はァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

 常日頃から三人の問題児に振り回される箱庭の貴族こと黒ウサギ、ここに別ベクトルの問題児が生まれた、生まれてしまったことに対する心の叫びである。

 




お読みいただきありがとうございます。

前回のシリアスはどうしたって? さあ? 旅にでも出たんじゃね?

正直に話すと、最初は十六夜に説得させるつもりだったのです。しかしこう思ったのです『あれ? 黒うさぎとか飛鳥とか耀とかメインキャラ殆ど出てなくね?』と。十六夜くんは普通に仲介役とかでよく出てくる。ジンもオッサンとは似た境遇にあっているため出しやすい。リリとレティシアは良心として出てくる。白夜叉は今後かなり出番が増える予定。

ここで黒ウサギ達を出さないと空気になるのでは?
と、言うわけで黒ウサギを出してみた。そして、何故かギャグぽっく……

是非もないネ!!

あと、関係ないですが最近フレンドのキャスターがマーリンと孔明しかいない。
アタッカー役の単体宝具キャスターがほすぃ

ではまた次回〜


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第24話 痛感

投稿です。

えー、皆さん。風邪の時は大人しく寝ましょう。
でないと、1週間経っても微妙にだるくて頭が痛い状態のちゃるもんみたいになります。
何かをしようとしても、こんなふうによく分からんのが完成してしまいますよ。

気を付けよう!

では、どうぞ。


 怒号と共に黒ウサギが部屋へと入って来たのが十分程前。今では黒ウサギも大分落ち着きを取り戻し、ベッドの傍らに椅子を置いて義仁と対面している。

 

 二人の間に言葉はなく。ただ、重苦しい空気だけが漂っていたが、その空気は黒ウサギに、よって破られ、その言葉に義仁は目を丸くする。

 

「義仁様。貴方様がそう……なんと言いますか、死にたい、そう思うことは黒ウサギは当然の事だと思います」

「自殺をしよう。これが当然の事だと?」

 

 黒ウサギは小さく頷く。最初の怒号からてっきりそんな馬鹿げた考えはやめてください。とでも言われると踏んでいたので、なんだか拍子抜けした気分である。義仁とて自殺が絶対的に良いことだとは考えてはいない。これ以上他人に、ノーネームに迷惑をかけたくない。そして、個人的な理由で一番手っ取り早いのが自殺だっただけだ。

 

 なので、黒ウサギから別の案でもあればそれに乗るのもいいのかも知れないとも考えていたのだが……。黒ウサギはそんなこととはつゆともしらず、自身の過去について語りはじめた。

 

「黒ウサギがまだ小さい頃、その時所属していたコミュニティが魔王に襲撃されました。

 黒ウサギはまだ子供でしたので、何も出来ず、ただ黙ってコミュニティの皆が殺されていくのを見ているしか出来ませんでした。

 そんな時、現在所属しているノーネームの皆さんに助けて頂いたのです。

 その後、無事魔王を封印してみせたノーネームに黒ウサギは引き取られ、そのままノーネームへと所属を移しました。

 しかし、ノーネームも魔王の襲撃を受け、今の有様。

 生き残ったのはジン坊ちゃんと数百人の子供たち。

 そして、戦闘要員の筈なのに見逃された黒ウサギだけでした。

 笑いものですよね。私も戦っていたはずなのに……所詮私はお荷物なんだと、その時は自分自身に嫌気が差して死んでしまいたいと思いました。

 ですが、そんな時に支えてくれたのが、ジン坊ちゃんでした。

 泣きじゃくる私を、助けてくれようとしてくれたのに突き飛ばした私を、あの人は見捨てずに支えてくれたのです。

 だから、私は壊れずに今ここに居られます。

 希望を捨てずに、ここに居られます」

 

 黒ウサギの過去を、その心情を知ってどう反応を取れば良いのかが分からない。

 

 黙ったまま口を開かない義仁に、黒ウサギは話し掛ける。

 

「生き物は、誰かに支えられて生きています。誰かの助けがなく生きている者はいません。まずは、私が義仁様を支えます。頼りないかも知れませんが、支えて見せます」

 

 黒ウサギの決意は固かった。しかし、義仁が求めているのは救いではない。

 

「それと、今言うことではないのですが……もし、心に余裕が生まれたのならば、ジン坊ちゃんを支えて欲しいのです。今回の件もそうですが、三年前からジン坊ちゃんはずっと独りです。私では、ジン坊ちゃんを支えられませんでした。今もいつ折れてしまうか分かりません。今この場でお願いするようなことではない事は重々承知です。ですが、今のノーネームでジン坊ちゃんを支えられるのは、ジン坊ちゃんをリーダーとして見てはいない義仁様だけなのです。どうか、どうか……!」

 

 途中から、内容が変わっていた。しかも、死のうとしていた人間にかけるような言葉ではない。しかし、今の、生きる意味を失っていた義仁とっては、その後半の内容の方が重要だった。

 

「そうですね……少し、少し時間を下さい」

 

 黒ウサギは沈痛した表情で一言謝罪し、部屋を後にした。

 

 義仁はそれを確認し目元を隠した。

 

 結局自分は死ぬのが怖い臆病者だと、痛感したから。

 

 




お読み頂きありがとうございます。

頭痛い。お腹痛い。気持ち悪い。
けど卒検に履歴書に研修旅行の準備などなどやることいっぱい。

短くてごめんよ。内容が分かりづらくてごめんよ……
余裕が出来たら書き直すかもです。

あと、来週研修旅行で沖縄に行ってきます。

では、また次回。


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第25話 視線

投稿です。

原付で転けちゃったぜ(´・∀・`)
皆も雨の日の走行には気を付けよう。

では、どうぞ。


 あれから二日、義仁も車椅子だが退院できるまでには回復し、無事ノーネームへと戻ってくることが出来た。

 

 帰ってきて早々にリリは号泣、どうやらジンが手紙を出していたらしく北側で何があったのか、義仁が意識不明の重体であることを伝えていたようだ。

 

 そのせいもあってか、義仁は小一時間説教された。更にその後、リリが黒ウサギに色々と問い詰め始め、その圧力に負けて黒ウサギが義仁自殺計画を吐露。更に一時間説教が続いた。

 

 そして、その翌日。早速白夜叉と話し合っていた汚染された土地の開拓を進めようとし、リリに見つかりまた説教。開拓する場所の面積を図ろうとしただけだから大丈夫と、リリを説得したがそれなら私がやりますと、義仁はリリが駆け回るのを見ている事しか許されなかった。

 

 流石の義仁もあまりの過保護ぷっりに苦笑いである。

 

「あれぐらいなら、大丈夫だと思うんだけどなぁ」

 

 そして、そんな自身の身体の現状をキチンと理解していない義仁にそれ以外のものは苦笑いであった。

 

 義仁は不幸中の幸いなのか、後遺症と言うものが殆ど残っていなかった。少なくとも、日常生活には支障はない。しかし、過度のストレスや黒死病などの原因から二つのものを失っている。

 

 一つが味覚。

 もう一つが左目の視力であった。

 

 味覚はストレスから来たもので、まだ取り戻せる可能性があるとは医者に言われた。が、視力に関しては眼球が黒く変色したかのような跡が見られると言われ、魔王の強大さという者を嫌という程に叩き付けられた。

 

 本来の黒死病なら眼球までには症状が出ないのかもしれない。しかし、かの魔王はそれをしてみせた。視力を取り戻すのは箱庭の医療技術では難しいだろう。と、医者からは匙を投げられた。

 

 さて、義仁は現在車椅子である。松葉杖があれば辛うじて歩ける程度だ。更には左目の視力がない。

 

 そんな男になにか作業をやらせていいものだろうか? 答えは聞くまでもなく否だ。転けただけでも命に関わるかもしれないのに、忙しなく動かなければならないような作業をやらせる訳にはいかない。そう、義仁から仕事を奪ったリリの判断は間違っていないのだ。

 

 しかし、義仁はそれを理解していない。自分はやれるとリリの手伝いをしようと動こうとしている。その度にリリから叱責されシュンと縮こまる。

 

 ギフトゲームに行こうとしてきた十六夜達からは「何やってんだアイツら……」と呆れられ、黒ウサギからはまるで親子を見るかのように生暖かい視線を送られる。

 レティシアはリリと共に義仁を押さえつけていた。

 

 

 そして、ジンからは微笑ましく、切羽詰まった視線を投げかけられた。

 

 




お読み頂きありがとうございます。

ふぅむ……こう、構想つうか書きたいのは出てくるけど、文字にならない……。
スランプの時は他の作品書いたりとかしてるけど、やっぱりなかなか治りませんな。

取り敢えず、オッサンの味覚と左目の視力がヤバイってのと、ジン君がやぶぁい。
ってのが分かってもらえれば……伝わってるといいなぁ

関係ないけど、FGOのフレンドをTwitterで募集してみようと思います。

では、また次回〜


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第26話 自分がジブンでいるために

投稿です。

スランプだと研修旅行だと言い訳しているが、もう一つ言わせて欲しいんだ……。

就職試験で面接がありました。短いのは俺のせいじゃねぇ!

はい。ごめんなさいm(_ _)m

では、どうぞ。


人人人

 

 たった一人の少年を囲み、人々は騒いでいる。

 

 怒っているのか? 否

 非難しているのか? 否

 虐めているのか? 否

 

 どれもちがう。

 人々は一人の少年に期待し、憧れ、持ち上げているのだ。まだ11歳の少年を信じているのだ。

 

 そんな彼を信じているからこそ、人々は一人、また一人と消えていく。赤黒い何かをまき散らしながら。

 

 

 ※

 

 

 まだ齢11歳のジンは働き者だ。あの年にしてノーネームの備蓄管理や金銭状況を把握しコントロールしている。勿論補佐として黒ウサギやレティシアも手伝ってはいるが根本的な管理はジンが行っている。

 

 一人一人の体調管理も行っているし、南側のギフトゲームの開催状況も把握している。仲間が起こした不祥事には自ら頭を下げ謝罪する。子供に頭を下げられ許さない訳にも行かず、今のところ大事には至っていない。

 

 北側の魔王討伐では何万もの命を背負い、数少なくない命を失いながらも指揮官として立派に役目を果たした。

 

 最近ではまた一つ大きく大切な仕事が増えた。目の前には十数枚程度の手紙。サウザンドアイズのような強大なコミュニティからの手紙もあれば、近くの小さな店から来たゲームへの招待状もある。

 

 これらの手紙に全て目を通し、内容を理解し、安全かどうか、利益となるか不利益となるかを考え、ノーネームを離れた場合のことと、離れなかった場合のことを予測し、今後の予定と参照した上でこれにどう対応するのかを決定する。と言う仕事だ。

 

 ジンを慕っている者は多い。彼に期待しているものもとても多い。彼が思っているよりも、その思いは遥かに大きいものだ。不祥事に許されていたのも、それが大きいのかもしれない。

 

 薄暗い部屋の中、ジンは落ち掛けている瞼を必死に持ち上げる。意識は途切れ、また戻る。ここ数日まともに寝られていない。そして、寝たくない。寝たら、また、皆が、消えていく。

 

 ポトリと小さな水滴が手紙に大きな染みを作り出した。

 

 椅子の上で膝を抱え、顔を埋める。どうしても漏れてしまう声を押し殺す。

 

 

 僕は泣けない

 泣いてはいけない

 皆が頑張っていんだ

 僕が弱音をはいてどうする

 期待されているんだ

 ボクは

 期待されている

 だから泣けない

 泣いちゃダメ

 僕は強くなイ

 弱いんだ

 だから

 対面だけでモ

 強くナイと

 いけないンダ

 キタイにこたえられるように

 ナカマが見くびられないヨウニ

 ボクがしっかりシテ

 イナキャだめナンダ

 

 

 ジンは言い聞かせる。押し潰されないように、自分がジブンでいるために。

 

 顔を上げる。

 

 外は暗くなっていた。外は雨が降っていた。

 

 もはや涙は流れない。

 

 

 

 

 

 

 

「ジンくん? 今、大丈夫かい?」

 

 

 

 

 

 

 そのはずだった―――

 




お読み頂きありがとうございます。

オッサンも大概ですが、ジンくんも大概心が壊れる環境にいるんですよね。
本当にキツい時に大丈夫だと、空元気で笑う人ほどヤバイ。

そんな二人がお互いに支え会えるような存在にならんことを……アンバサ

では、また次回〜


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第27話 リーダー

投稿です。

すっごい中途半端に終わってもうた。
それを覚悟して読んでくだしあ

ごめんて……(;´・ω・)

では、どうぞ。


「ジンくん? 今、大丈夫かい?」

 

 ジンの肩が大きく震えた。しかし、それも一瞬のこと。ジンの顔には笑顔が貼り付けられ義仁を部屋へと招き入れた。

 

「大丈夫です。開いてますのでどうぞ」

「おじゃまします」

 

 扉が開かれ車椅子に座った義仁が部屋へと入ってきた。左の目の眼帯が痛々しい。

 

「夜遅くにごめんねジンくん」

「いえ、まだ起きていましたし、まだ寝る予定でもなかったのでぜんぜん問題ないですよ」

「そうかい? それならよかった」

 

 義仁は車椅子をゆっくりと動かしジンの前へと移動する。その顔は優しげな微笑みを浮かべていた。

 

「それで、今日はどうしたのですか? 義仁さんが僕の部屋に来るなんて珍しいですよね」

「うん。少しジンくんの様子を見ようかなって」

「僕の……様子、ですか?」

 

 そうだよ。と義仁は頷いた。

 

「なんと言うか……生き急いでるというか、切羽詰まってる感じかな。私も同じだからね。そう言ったものには敏感になってるのかな」

「はあ……。それで、心配だから様子を見に来た」

「そういう事かな」

 

 ジンはなるほどと顎に手をやる。どうやら自分が思っていたよりも自分は疲れが溜まっていたようだ。

 

「それは、すいません。体調管理もリーダーの一環。僕自身が一番健康でいないといけないのに。お恥ずかしい所をお見せしました。これからはリーダーとしてキチンと自身の体調も管理していこうと思います。心配していただきありがとうございます」

 

 ジンは笑顔で義仁を見る。

 

 義仁の口から発せられた言葉に、体は硬直した。

 

「ジンくんには悪いけど、僕はジンくんをリーダーだとは思っていないよ」

 

 かつて言われた。十六夜にリーダーとして認めないと。つまりは、ジンでは力不足だと。未熟だと。三年前に急にリーダーとして立つことになり、右も左もわからずままただがむしゃらにリーダーとしてあろうとした。それを、十六夜からぶち壊された。今でも十六夜からリーダーとして認められているかは怪しいところだ。

 

 しかし、どうだ? 戦闘要員で今やノーネームの主戦力である十六夜がジンを認めないのは、実力不足だと言うのはまだ分かる。しかし、戦闘要員ですらない義仁にすら実力不足だと、リーダーに足らないと言われたのだ。

 

 ジンの頭の中には努力不足の四文字が所狭しと押し込められている。

 

 視界が真っ赤に染まり、もはや何を見ているのかすら分からない。

 

 ジンは心の何処かで、自らの命を顧みずリリの命を救って見せた義仁にリーダーとして認められている。それが、今までジンを立たせていた一つの要因だった。

 

「そ、う……です、か。僕はまだ、アナタから見ても力不足でしたか」

 

 壁に背を付け、赤くなった視界の中に人影を見た。椅子に座っている。その影はゆっくりと近付いてきた。

 

 

 ―――じゃな―――ただ――――ジンくん―――

 

 

 なにか喋っているのだろうか? しかし、ジンの耳には届かない。

 

 信じていた。縋っていた。そのありもしなかった妄想に。しかし、その妄想からすらも真っ向から否定された。

 

 

 僕は、何時まで自分を騙し続ければいいのだろう?

 

 

 ギュッと強く握り締めた拳は行き場もなく、ただ我慢する。全て何かにぶちまけてしまいたいと言う気持ちを騙して。

 

 

 僕は、まだ、まだ、大丈夫。

 

 落ち着け、落ち着け。大丈夫。まだ僕はボクだ。心を無くせば、僕はまだボクでいられる。

 

 だから、僕は大丈夫だ。

 

 

 真っ赤な視界は元に戻り、義仁の心配そうな顔もクリアに見えた。

 




お読み頂きありがとうございます。

義仁の心情だとか思惑だとかは次回に。
解決も次回内に纏められればいいなぁ……

では、また次回。


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第28話 また

投稿です。

もう少しでスランプから脱出できそう(な気がする)。

では、どうぞ。


 目が死んでいる。光がない。等といった人が絶望したり、心が壊れた時の表現法があるが、正しくその状態の人間を義仁は見ていた。

 

 ジン=ラッセル。齢11歳にして百数人の命を背負い、幾万の思いを背負い、自らの采配によって少なくない命を失った。

 

 ジンは立派にリーダーとしてやっているのだと、義仁は思う。しかし、どうしてもジンをリーダーとして見ることが出来なかった。

 

 それは、元の世界での常識。家族を守る。言ってしまえば、義仁はジンを守るべき家族として見ているのだ。リーダーではなく、一人の息子として。

 

 だから、それをジンには知っていて欲しかった。一番の頑張り屋で、無茶をして、けど、そうしなければならない。そんな、ジンに知っていて欲しかった。

 

 光を移さない虚ろな目でジンは義仁を見つめる。

 

 

 まだ間にあうだろうか。私はまた、救えず見殺しにしなければならないのか。

 

 違う。今度は見殺しではない。私が、ジンくんにとどめを刺したのだ。この、口で。この、言葉で。ジンくんを殺したのだ。

 

 少なからず、ジンくんはリーダーとして見られているかにコンプレックスを抱えていたのだろう。

 

 ああ、ああもう遅いのだろうか。もう、彼に何を言っても意味は無いのではないのか。

 

 私は、ジンくんをリーダーとして見ていない。だから、ジンくんの抱えている全部を吐き出してもいいんだよ。黒ウサギちゃんにも、十六夜くんにも、飛鳥ちゃんにも、耀ちゃんにも、リリちゃんにもレティシアちゃんにも言えない、吐き出したい辛いことや悲しいこと。苦しいことや投げ出してしまいたいことも……全部、全部私の前でぐらい吐き出してしまってもいいんだよ?

 

 

 自分がどれだけ早計だったのか、馬鹿で浅はかだったのか……。嫌という程に突き付けられる。

 

 もう彼を一人にした方が良いのか、声掛けるべきなのか……それすらも義仁には分からなくなっていた。

 

 一人が、独りがどれだけ寒く、辛い事かはこの身をもって知っているというのに。

 

 ジンの瞳が義仁を写す。青白く額から汗を流し、口半開き。肩で息をしているのが見て取れる。とても、誰かの前に立つような状態ではなかった。

 

 

 ああ……。どちらにせよ、こんな私ではジンくんが安心して話をしてくれるはずもないか……。

 

 

 吹っ切れた。いや、壊れた、の方が正しいかもしれない。

 

 一人の少年を助けたいと、言葉を投げかけ心を壊し、心を殺した。遅れて自分の行った浅はかな行動に気付く。自身は焦るだけで何をする訳でもなく、このままの彼を独りしようとしている。

 

 しかし、私がこのままジンくんと共にいたとしても、良いことなんて何もないのかもしれない。ならば、別の誰かに託すのが一番良いのだろう。

 

 そもそも、私は何故ジンくんの部屋まできたのだったか? …………ああ、そうだ。黒ウサギちゃんに頼まれたんだった。別の人に頼むなら、レティシアちゃん辺りが適任だろうか?

 

 うん。そうしよう。

 

 そもそも、黒ウサギちゃんは何故私を選んだのだろうか。きっと、さして何かをしている訳でもなく、暇な私を選んだろうな。

 

 黒ウサギちゃんも見る目が無い。こんな私に何かを頼んでも、全部悪い方向にしか進まないというのに。

 

 ああ、でも、でも……もし、こんな私でも君の助けになれるというのなら私は喜んで犠牲になろう。

 

「ごめんね。ジンくん。私はリーダーとして君を見ていない。けれど、だからこそ、君がリーダーだから、他の人の前では吐けない辛いことも、悲しいことも投げ出してしまいたいことも、全部全部受けとめるから。何時でも、呼んでくれていいからね」

 

 義仁は車椅子を器用に動かし反転する。きっと、呼ばれることはないだろう。私はまた、間違ったのだ。後悔は涙にすらならず、心の中にすっと溶けて行く。

 

 そして、義仁は動きを止めた。どうしてか……。それは、義仁の服を掴む手があったから。

 

 呼ばれることはないのだろう。またもや彼は間違えたのだ。

 




お読み頂きありがとうございます。

オッサンも心の何処かで焦っていたのでしょう。何時かの自分と重ね合わせていたのかも知れません。はたまた、別の誰かと重ねてしまっていたのかも知れません。

そして、この世は絶望だけではないんやで?

では、また次回〜


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第29話 支える者 支えられる者

投稿です。

ジンくんのパッパとマッマってどうなったの?
教えてエラい人!!

一応、今のところは死んだ体でいきます。

では、どうぞ。


「…………どうしたんだい。ジンくん」

 

 優しい声色で義仁は呼び掛ける。服をつまんだその手に、自分の手を乗せる。その手は氷のように冷たく、そして震えていた。

 

 義仁振り向かない。

 

「大丈夫かい。ジンくん」

 

 服をつまんだその手は服を掴み、義仁の手を握り返した。強く握り締めたかと思えばその力はぱっと抜け、そしてまた握り締められる。

 

 その手を離さなければならない。離したくない。

 

 心の揺らめきが如実に感じ取れた。

 

「いいんだ。いいんだよ。君はまだ子供なんだから、大人を頼ってもいいんだよ」

 

 それは当たり前だったこと。それは、かつてのあの温もりと同じ。父と、母と、同じ温もり。忘れていた。いや、思い出さないようにしていた。あの、温もりと同じ。

 

 

 辛い時は母に縋り、泣き止むまでずっと一緒にいてくれて頭を撫でてくれた。

 

 悔しい事は父が一緒に見返してやろうと支えてくれた。

 

 怖い時は、二人が一緒に寝てくれた。

 

 二人が一緒なら、怖い夢もオバケも怖くなかった。

 

 

 だけど、あの日、魔王が来て、父さんも母さんもいなくなった。ノーネームの全部が僕にのしかかった。子供ながらに夢を見て、沢山の人に迷惑を掛けて、沢山の人に期待されて、それなのに、僕は弱くてちっぽけで、いつか全部が僕を見捨てるんじゃないかって怖くて……

 

「こわ…………くて…………。見捨てられないかが、ずっと、ずっと怖くて」

「うん……。怖かったんだね」

「頑張ったんだ……見捨てられないようにって……」

「うん……。ジンくんは頑張ったんだ。今まで、ずっと。頑張ったんだよね」

 

 そう……頑張ったんだ。みんなを救うために。ノーネームを復興するために。毎日仕事をして、空いた時間は勉強して、体術を覚えようともした。みんなの期待に応える為に休む時間なんて存在しない。僕は強くならなきゃいけないんだ。

 

 ダムが決壊するがのごとく、今まで独りで溜め込んできた感情が濁流となって流れていく。

 

「でも……だけど!! それだけじゃ僕は弱いままだ!! もうどうしていいかもわからなくて!! 頑張ったんだ!!

 悩んで悩んで!! ゲームの謎を解いて!!

 でも!! でも!! 僕が弱いから!! 僕がもっと早く謎を解けなかったから!! 沢山の人が死んだ!! みんなを傷付けた!!

 僕が!!

 僕が……弱かった、から……」

 

 なのに

 だけど

 それでも

 それだけじゃ

 

 結局は僕の努力不足だったんだ。僕が弱いのは、僕の努力が足りなかったからだ。

 

「ジンくん。君は一人じゃない。心配してくれているみんながいる。けど、君はみんなの期待に応えたい。みんなを頼る事が怖い。そんなことも出来ないのかって切り捨てられるのが怖いから」

 

 義仁の手を握る手が強くなる。

 

「なら、みんなの期待に応えなくてもいいじゃないか。

 僕は僕だ。皆の理想図なんてそれこそ一人一人違うんだから、それに応えることの方が無理なんだ。ジンくんだろうと、黒ウサギちゃんだろうと、白夜叉様だろうとね。

 だから、自分で自分のノルマを決めるんだ。今日はここまで。明日はここまでやるぞって。階段を駆け上がるんじゃなくて、一段一段踏み締めるんだ。

 成長が遅い? 失望した? そんなんで離れていく奴は方って置いていい。君は君だ。自分のペースで進んでいけばいい。

 それでも、辛くて、ノーネームの皆にも頼れないなら、私が愚痴を聞こう。全部受け止めよう。

 一緒に、頑張ろう。ジンくん」

 

 僕は頑張らなくちゃいけない。

 けど、一緒に頑張ろうなんて言われたのは何時ぶりだろうか。

 

 黒ウサギにも言われた気がする。いや、言われていた。レティシアさんにも言われたし、十六夜さんにも、飛鳥さんにも耀にも言われた。リリにだって言われた。それどころか子供たちからも言われた。

 

「僕は、本当の意味で、みんなを仲間だと思っていなかったのかな」

「そうじゃないと思うな。みんなが本当に大事だから、ジンくんはみんなを頼れなかったんだ。けど、まだみんなに頼るのが怖いなら、私を頼ってくれて構わないからね」

「なら、早速頼ってもいいですか?」

「なんだい?」

「最近……怖い夢を見るんです。みんなが、居なくなっていく夢を見るんです。だから、そばに居て欲しい、です」

「分かった」

 

 ジンはふらふらとした足取りでベットへと潜り込む。義仁はそんなジンの傍らに車椅子を寄せ、ジンの手を握る。

 

「おやすみジンくん。良い夢を」

 

 ジンは今までの疲れから、直ぐに寝てしまった。彼は信じる者が出来たのだ。大切なもの、守りたいものではなく、信じる者、支えてくれる者が。ジンには出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、義仁はジンの傍らに居続けた。彼のオネガイを叶えるために。朝日が登り、彼が目を覚ますまで。たった一度も欠伸をせず、ジンが起きるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、支える側になってしまった彼を、一体何が支えてくれているのだろうか。

 

 




お読み頂きありがとうございます。

支え、支えられる……そんな存在になれましたね(白目)

後数話、白夜叉との絡みを書いてアンダーウッドへと入る予定です。

出来れば耀と飛鳥との絡みも書きたい。

あ、黒ウサギも書かないと。

メインキャラがモブと化している……どうにかしなきゃな……

では、また次回〜


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第30話 生きている

投稿です。

自分自身に価値を、目的を与えること。それは、とても大切なこと。

では、どうぞ。


 蝋燭の炎が揺らめく部屋にペンの走る音が静かに響く。

 

 

『誰かに何かを遺すとは意外と難しいもので、それが文章となれば尚更のことなのだろう。今日書いていてそんなふうに思った。

 

 いっそのこと何も残さないと言う手もあったが……、せめて生きた証を残しておきたい。なんて思うのは人間故か。

 

 何で急にこんな事を書き始めたのか。一言で言えば、疲れたから……、だろうか。』

 

 

 義仁は手元のメモ帳にサラサラと書いていく。

 

 しかし、それとは別に纏められた羊皮紙の束があった。

 

 

『心の整理をしたかった。だから、こんな事を書いている。

 

 生きる意味を失くした私に何度も火を灯してくれた、生きる意味をくれた箱庭。

 

 だけど、その意味を殺していった。この、私自身の手で。

 

 今思うと、目が見えなくなったのも、味覚を失ったのも、全て当然の報いなのかもしれない。

 

 リリちゃんを救えて舞い上がっていた、3人もの命を奪った私への報い。』

 

 

 メモ帳の中身は、自分自身の事が。

 

 羊皮紙の中には、みんなの事が書かれていた。

 

 

『私は、死ぬのが怖い。死ぬのが、怖い。

 

 けれど、もしも死ねたのなら、それはどれだけ楽だったのだろうか。

 

 リリちゃんを助けた時に、あのまま大量出血で死ねていたのなら。

 

 瓦礫に潰されてしまったロオタスくんの代わりに瓦礫に潰されていたのなら。

 

 病室で、あの少女に胸を貫かれていたのなら。

 

 それこそ、妻と娘と共に死んでいたのなら。妻と娘の代わりに死ねていたのなら。

 

 私は、こんなにも沢山の人を殺さずに済んだ。私自身が苦しまずにも済んだ。』

 

 

 羊皮紙は質素な黒色の箱に入れられ丁寧に包装された。

 

 メモ帳には乱雑な文字が連なっている。

 

 

『生きる意味が亡くなったのだ。大切な人が私の前からは毎回毎回消えていく。

 

 ジンくんの悩みを聞いた。黒ウサギちゃんからの頼み事とは言え、悩みを聞いた。

 

 それが、今私を動かしている原動力だ。

 

 まるで、寄生虫の様だな。

 

 最後には、宿主が死ぬ。他殺であれなんであれ、死ぬ。』

 

 

 義仁は羊皮紙の入った箱を撫でる。それがキチンとジン達に届くのだろうかと一抹の不安を感じて。

 

 

『ジンくんも、死んでしまうのだろうか。わたしが関わったから。

 

 リリちゃんにも、黒ウサギちゃんにも、レティシアちゃんにも、十六夜くんにも、飛鳥ちゃんにも、耀ちゃんにも

 

 私が関わってしまった皆に、本来の目的でもって届いてくれるのだろうか。

 

 いや、それぐらいは成して見せよう。それが、私の生きる意味になる。

 

 それだけが、私を生かしてくれている。

 

 だから、もう少し頑張ってみよう』

 

 

 メモ帳は閉じられた。感情を吐露するかのように書き綴った。これでもう少し頑張れる。心がすっと閉じられる。

 

 

「まだ、私は、生きている」

 

 

 確認するかのように呟いた小さな声は、蝋燭の炎を揺らしながら消えていった。

 

 蝋燭の炎はまだ、消えいくことを許されない。

 




お読み頂きありがとうございます。

一度、義仁の心情と言いますか、縋っているモノを書いておいた方が良いかなと思い書かせていただきました。

何か人じゃなく、物に頼るという事は、傍から見たら滑稽に写っているのかも知れませんが、とても大切で重要な事なんじゃないのかな。と、思います。

では、また次回。


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第31話 亡者

投稿です。

漸く白夜叉様との絡み。
そして、相変わらず白夜叉様の口調が掴めないのであった。

では、どうぞ。


「なるほどのぅ……。して、どうじゃ? 上手くは行きそうか?」

 

 8畳間の部屋に対面して座るのは木島義仁と、ノーネームを支援する東側の〝階層支配者〟であり〝星霊〟である白夜叉。

 

 義仁は業務的と言うべきか、淡々と質疑応答を繰り返しているのに対し、白夜叉は獰猛で楽しげな笑を浮かべながら渡されたレポートを手に質疑応答を繰り返す。

 

 これが、そもそも誰かの気配なんてものを察知出来もしないほどの弱い人間だからこうして居られるが、もしこれが多少なりとも戦いなれしていた者であれば恐怖して逃げ出していても可笑しくはないだろう。

 

 常日頃その力の一端も感じさせないほどに抑えることが出来る白夜叉の存在は大きく、その分恐怖の対象でもあるのだ。

 

 そんな者が今、獰猛な笑を浮かべながらほんのりとその力の一端を漏れ出させ一人の男と対峙している。

 

 傍から見れば、あの男はなんなんだ。どうしたらそこまで白夜叉様を焚き付けられるんだ!? などと勘違いされるかもしれない。いや、された。無表情で有名な女性店員に。

 

 そんな勘違いをされながらも二人は話を進めていく。内容は、義仁の研究である『魔王の土地の浄化』。魔王の力により汚染された土地を恩恵も何も使わず、人の手〝のみ〟で浄化しよう。と言うもの。

 

「今土地の入れ替えが終わりました。今回用意したのは1m×1mの広さ。深さも1mの土地を五つつ。

 一つ目はそのまま汚染された土地。

 二つ目は丸ごと培養土と入れ替え、地面と壁面に木の板を挟み汚染された土とは混ざらないようにしています。

 三つ目は二つ目から木の板を外したもの。

 四つ目は汚染された土と培養土を混ぜこみ、木の板で隔離したもの。

 五つ目は四つ目から木の板を外したもの」

「ふむ。培養土と一緒に木の板をと言われたのはその為じゃったか。その口ぶりだとまだ作物は育ててはおらんのか?」

「はい。ただ、一つ目、二つ目、四つ目をプランターで

 再現したときには二つ目では無事発芽。四つ目では二つ目の一週間後に弱々しいものですが発芽しました。一つ目では発芽せず、種子を確認してみた所ほんのり黒くなっていました。その事については先程お渡ししたレポートの三枚目に書いています」

 

 義仁がそう言うと、白夜叉は義仁から受け取ったレポートを1ページ進めた。

 そこに乗っているのは手書きで描かれた発芽状況の絵と、それに関する説明がビッシリと書き綴られていた。

 

「結果は出ている。後は現場で……。と言ったところか。育てる植物は決まっておるのか?」

「はい。今回は荒地でも育つジャガイモを考えています」

「じゃが、それだけではつまらんだろう。それに、得られる情報も少ない」

「……欲を言えばサボテンなどの乾燥にも強い植物を試してみたいところです」

 

 サボテン。暑さにも寒さにも強い植物。なんとなくのイメージで砂漠にある植物。あからさまに乾燥にも強いであろうサボテンは、取り敢えずで試すのにはうってつけの植物であった。が、東側でサボテンは売られてすらいなく、知名度すら低い。お店に行っても、酷い時にはサボテンとはなんだ? とすら聞き返されるレベルであった。

 

「サボテンか……確かに東側では珍しい植物じゃな。まず売られていると言うのは無いじゃろう

 ふむ……後2ヶ月もすれば南のアンダーウッドで収穫祭が行われる。そこは大きな植物の物品販売の市にもなる。そこでなら、東側では手に入らないサボテンも手に入るじゃろう。なんなら、私からサボテンを仕入れるよう根回しをしておいても良い。まあ、必ず手に入るとは言い難いがの。試さんよりかはマシじゃろうて」

「それでは、お願いしても宜しいですか?」

「ああ。任された」

 

 白夜叉は煙管を一吹きさせ、先程まで出していた気配をその身に閉じ込める。

 そして、さて……。と話を再開させたが、何か言い淀み、うーんうーんと唸る。

 

「さて……。取り敢えず今後の方針はこれで良いじゃろう。にしても……むう……。言っていいものか」

「……どうかされましたか?」

 

 流石に無視もできず、義仁は白夜叉に問う。白夜叉は意を決してずっと感じていたモノを義仁に言った。そして、目の前にいる男が既に壊れているものだと確信してしまった。

 

「なんというかのぅ……。お主は会う度に人間ではなくなっていっているように感じてしまってな。いや、お主が大変なのは分かっておるがどうしても気になっての」

「……ある意味、私は既に死んでいるのかも知れませんね。正しく私は亡者なのでしょう」

 

 それだけなら、私は失礼しますね。と、義仁は出ていった。

 

 白夜叉は煙管を咥える。

 

「自覚している者も、自覚していない者に負けず劣らずめんどくさいのぅ。しかも、それがこれから箱庭の常識を覆すかもしれない存在ときた。

 歴史を動かすのは変人しかおらんのだろうか?

 

 なんにせよ、無理だけはするなよ。義仁。まあ、言っても無駄なんじゃろうがな」

 

 はぁ……。と、白夜叉は大きく溜息を付いたのだった。

 




お読み頂きありがとうございます。

自覚している奴と自覚していない奴
自覚してない奴はウザかったりだけど、自覚している奴はめんどくさかったりする。

それが、個性に転じる場合もありますが。

では、また次回〜


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第32話 招待状

投稿です。

卒検が迫ってくる中、存在を忘れ寝ぼけながら書きました。
つまりは自分でも何を書いたかよく覚えていない(^p^)

すまぬすまぬ……
後からちょこちょこ訂正するかもです。

では、どうぞ。


 北側での魔王の一件から一ヶ月半。十六夜達はジンに呼ばれ大広間へと集まっていた。

 

 大広間の中心に置かれた長机には上座からジン、十六夜、一つ席を開け飛鳥、耀、黒ウサギ、メイドのレティシア、年長組代表としてリリが座っている。

 

 〝ノーネーム〟では会議の際、コミュニティの席次順に上座から並ぶのが礼式である。

 

 リーダーであるジンの次席に十六夜が座っているのは、水源の確保や〝黒死斑の魔王〟での多大なる貢献から。トドメこそ、黒ウサギのギフトを借り飛鳥がさしたものの、十六夜が押しとどめていたからこそ出来たと理解しているため不満そうな顔をしながらも納得はしていた。勿論、十六夜と飛鳥の間に空いた席についても。

 

 耀にいたっては黒ウサギやレティシアより上座で良いのだろうかとカチコチに固まっていた。耀自身、ノーネームに貢献をした覚えはない。強いてあげればレティシアを奪還した際、透明化のギフトを持つ相手を倒したぐらいだ。

 

 と、耀の自己評価は低いが、そんな耀が居なければレティシアは奪還できなかった。ジンは、これは妥当な評価だと考えている。

 

 しかし、十六夜は不満げな顔を浮かべていた。何故自分が一番上ではないのか。ではなく、此処に何故義仁が居ないのか、と言うことに不満を抱いていた。

 

「なあ、御チビ。おっさんが居ねぇのはなんでだ? 家系を支えていると言う点だけで言えば、おっさんが一番だろ? ノーネームの備蓄の半分はおっさん一人で稼いできたものだ。この場の全員で稼いだ金額とほぼ同額。おっさんが呼ばれてねぇのは可笑しいと思うが?」

「十六夜さんの言うことは最もです。勿論、義仁さんにも声はかけたのですが、研究が忙しいようでして……。終わり次第参加するそうですので、それまではここにいる者だけで話を進めたいと思います。それじゃあ、リリ。報告をお願い」

「はい!」

 

 ジンは寂しげな表情をを一転させ、リリに目配せをする。

 

 リリは割烹着の裾を整えて立ち上がり、背筋を伸ばして現状報告を始めた。

 

「えっと、備蓄に関してはしばらく問題ありません。最低限の生活どころか、3分の1程コミュニティの復興に必要な資材を買ってなお生活にはかなり余裕が生まれると思います」

 

 そうだろう。その場にいた全員が心の中で呟く。

 

「全員知ってると思いますが、念の為もう一度話しておきますと、一ヶ月前に十六夜様達が戦った魔王〝黒死斑の魔王〟が、推定五桁の魔王に認定され、かつ、〝階層支配者〟に依頼されたものでもあり、規定の報酬の額が跳ね上がりました。これが現在ノーネームにある備蓄の約半分です。

 そして、備蓄の1割程度が十六夜様達のゲームでの賞金です。

 そして、残りが義仁さんの稼ぎとして、白夜叉様から譲り受けたフォレス・ガロの領地及びフォレス・ガロの持っていた資金全額となります。特殊なギフトについては白夜叉様が持っていかれましたが、お金や宝石等については全て譲っていただけました。

 農場ではディーンと新たな同士である妖精のメルンの働きもあり確実に浄化されて行っています。既に4分の1は使える状態になっています。コミュニティ内の食糧はこれだけの土地があれば賄えるものと思います。葉菜類、根菜類、果菜類を優先して育てる予定なので、数ヵ月後には成果が期待できると思います」

 

 報告は以上です。と、リリは手に持った資料を手に着席した。黒ウサギ、レティシア、飛鳥、耀、十六夜はリリの凛とした態度、淡々と報告を進めていくリリの成長に驚いていた。黒ウサギにいたっては「よくここまで成長しましたね」と涙ぐんでいる。

 

 実の所は、社会人として経験を積んできた義仁に色々と手伝ってもらい、かっこよく見せる練習や原稿の見直し等をしてもらっていたりする。ジンもその事を知っていたため驚いてはいなかったが、黒ウサギが涙ぐむまでとは思っておらずそっちに驚いていた。

 

「ありがとうリリ。と、言うわけです。以前は食べるものにさえ困っていた状況でしたが、皆さんのおかげでかなり余裕が生まれました。ありがとうございます。さて、ここからが今日の本題となります。黒ウサギ」

「はい。〝黒死斑の魔王〟との一件から沢山のギフトゲームへの招待状が届く様になりました!」

 

 ジャジャン! と黒ウサギが取りだしたのは、それぞれ違うコミュニティの封蝋が押されている三枚の招待状。それも、驚くべきことに、うち二枚は参加者ではなく貴賓客としての招待状なのだ。旗印を持たない〝ノーネーム〟にしては破格の待遇である。

 

 黒ウサギは幸せそうにはにかみながら、、三枚の招待状を大事そうに抱きしめた。

 

「苦節三年……とうとう我らのコミュニティにも、招待状が届く様になりました。今回出したのはこの三枚だけですが、大小問わなければより多くの招待状が届いています。それで、今回この三枚を持ち出したのは……」

 

 

 ※

 

 

『アンダーウッド 所属 キリノ』

『サウザンドアイズ 幹部 白夜叉』

 

 そして

 

『一本角 頭首 サラ=ドルトレイク』

 

 義仁の手元には三枚の招待状。これらはすべて義仁個人に当てられたものだ。

 

「白夜叉様は分かる。そして、このキリノと言う子は、ロオタス君のお姉さんだろうけど……一本角頭首? この人とは面識が無いはずなんだけど……サボテンを受け取って直ぐ帰るつもりだったけど……」

 

 どうやらそうもいかなさそうだ。と、不安を感じながら、義仁は封を切る。

 

 そして、また、彼は巻き込まれ、背負っていくこととなるのだ。




お読み頂きありがとうございます。

私は何を書いたのでしょう。
まあ、元からそんな大層なものを書いてる訳でも無いですし気にしないことにします(訂正箇所があればしときます)

取り敢えず、収穫祭にそろそろ入らないとですね。

では、また次回〜



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第33話 アンダーウッド

投稿です。

いやー……、まさか予定していなかった事を中心に話を再構築しなくちゃいけなくなるとは……。

まあ、収穫祭までの流れは決まったので、大丈夫でしょう。

では、どうぞ。


 黒ウサギとジンそれに耀と飛鳥。そして、義仁。彼等は今東の大地を離れ、南のアンダーウッドへと訪れていた。

 

 七七五九一七五外門〝アンダーウッドの大瀑布〟フィル・ボルグの丘陵。

 

「わ、……!」

「きゃ……!」

 

 ビュゥ、と丘陵に吹き込んだ冷たい風に悲鳴を上げる耀と飛鳥。

 

 多分に水を含んだ風に驚きながらも、吹き抜けた先の風景に息を呑んだ。

 

「す……凄い! なんて巨大な水樹……!?」

 

 丘陵に立つ外門を出た耀達は、すぐに眼下を覗き込む。彼女達の瞳に飛び込んだのは、樹の根が網目模様に張り巡らされた地下都市と、清凉とした飛沫の舞う水舞台だった。

 

 遠目でも確認できる程に巨軀の水樹は、トリトニスの滝に通づる河川を跨ぐ形で聳え、数多に枝分かれした太い幹から滝のような水を放出している。

 

 水を生む大樹。〝ノーネーム〟の水樹は此処で生まれた苗木なのだ。

 

「飛鳥、下! 水樹から流れた滝の先に、水晶の水路がある!」

 

 耀は今まで出したことが無い様な歓声で飛鳥の袖を引く。

 

 巨軀の水樹から溢れた水は幹を通して都市へと落下し、水晶で彩られた水路を通過して街中を勢いよく駆け廻っている。大樹の根は地下都市を覆うように網目模様で伸びており、その隙間を縫うようにして作られた翠色の水晶で出来ている。

 

 皆が皆それぞれはしゃいでいる中、義仁は少し離れたところでそんな光景を眺めていた。そんな義仁に一人の女性が近付いてきた。

 

 腰まで伸びた赤髪は炎を連想させ、健康的な褐色の肌を大胆に露出している。その衣装は踊り子と見間違えるほどに軽装だ。

 

 強い意志を感じさせる瞳の頭上には、二本の角が猛々しく並び立っていた。

 

 なんの迷いもなくこちらに近付いて、そして義仁の前で止まった。この女性がサラ=ドルトレイクなのだろうと義仁は決定づける。

 

「貴方が〝ノーネーム〟所属の木島義仁殿で間違いなかっただろうか?」

「そうです。では、貴女がサラ=ドルトレイクさんでしょうか?」

「ああ。私が一本角頭首サラ=ドルトレイク。此度はアンダーウッドまで足を運んでいただいたこと、感謝している」

「いえ、こちらこそ。招待していただきありがとうございます。改めて、木島義仁と申します。以後、お見知りおきを」

 

 ひと通りの挨拶を済ませ、二人は握手を交わした。

 

 お互いの挨拶が終わった頃を見計らって、ジンが二人の間に入ってきた。

 

「お久しぶりです。サラ様」

「おお、久しいなジン。会える日を待っていた」

「いえ、こちらこそお会いできて光栄です。そして、この度は〝ノーネーム〟をアンダーウッドの収穫祭に招いて頂きありがとうございます」

「私も、今話題の下層のコミュニティを招くことが出来て鼻高々といったところだ」

 

 ジンとサラも挨拶を済ませ握手を交わす。

 

「さて、こんな所で話をするのも皆の迷惑となるだろう。君達の連れは空から飛んで行く気のようだが、私達もそうするか?」

 

 そう言いながらサラは耀達を指差す。そこには、嬉々としてグリフォンの背に跨る耀の姿があった。

 

 しかし、黒ウサギと飛鳥が乗った時点で背中にはもう乗れそうもない。

 

「そう、ですね。ですが、後三人も乗れるでしょうか」

「なに、二人程度であれば私が担いで行こう。それで、良いかな?」

 

 ひょいと、自分より背の高い義仁を軽く抱く。いわゆるお姫様抱っこ状態だ。そして、ジンの体を持ち上げ、義仁の上に。

 

「これでどうだ?」

「……恥ずかしいのを除けば、問題ないです」

「まあ、いいんじゃないでしょうか? まさか、この年でお姫様抱っこなんでされるなんてなぁ」

 

 ならば良しと、サラの背中から燃え盛る炎の翼があらわれる。その状態でサラは耀達へと近づき、

 

「君達の仲間は頂いていくよ。アンダーウッドのより大きな成長のためにね」

 

 なんて、茶目っ気ある笑顔でそう言って除け一気に上昇した。

 

 ジンがぎゃあぎゃあとサラに対して文句を言っている。後ろから慌てて追いかけてきた黒ウサギ達の叫び声も聞こえる。そして、それを全て跳ね返すように笑うサラ。

 

 肌の色も髪の色も何もかも違う。けれど、その姿は何処か、少し男勝りな妻の横顔にとてもよく似ていた。

 




お読み頂きありがとうございます。

サラ様は男勝りで誰かをからかうのが好きなお方と勝手な偏見からこうなりまひた。

義仁がサラに何故呼ばれたのかは次回あたりにでも書きますので、もう少し待っていてもらえると幸いです。

では、また次回〜


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第34話 景色

投稿です。

思いの外進まなかった。


……決してセイレムをやってたからじゃないんです許して下さい何でもしますから。

では、どうぞ。


 サラに連れられやってきたのは〝アンダーウッド〟の大樹。樹齢八千年の大樹は、樹霊(こだま)たちの棲み木としても有名であり、2000体以上の精霊が棲んでいる。

 

 黒ウサギたちよりもひと足早く大樹へと到着した義仁たちは、サラに説明を軽く受けながら収穫祭本陣営の貴賓室へと向かっていた。

 

 枝と枝の間に架けられた渡り橋で立ち止まったサラ。そして、不意に義仁たちへと語りかける。

 

「義仁殿、ジンこの景色をどう思う」

 

 先程の無邪気な笑顔とは打って変わって、真面目な表情。3人の間に冷たい風が吹き抜ける。

 

 ジンと義仁はサラから目を離し、外の景色をその瞳に写す。

 

 先程とはさして変わらない。樹の根が網目模様に張り巡らされた地下都市と、清凉とした飛沫の舞う水舞台。どう思うと問われれば、美しい、綺麗、そんな月並みの言葉しか出てこないほどに、その景色は素晴らしい。

 

「そうか……それなら、ここまで頑張った甲斐が有ると言うものだ。さて、黒ウサギ達ももうそろそろ付いている頃だろう。急ぐとしようか」

 

 そう言ってサラ再び歩き始めた。その足取りは軽やかだった。

 

 まるで……写し絵を見ているみたいだな。

 

 その表情はとても優しくて、暖かい。

 

 

 ※

 

 

 黒ウサギたちは多少落ち着いたとは言え、いまだ興奮した状態で本陣入口の両脇にある受付で入場届けを出していた。

 

 かつて北側の〝造物主達の決闘〟において、耀と激戦を繰り広げた〝ウィル・オ・ウィスプ〟のジャックとアーシャ。アーシャは怯えジャックのの陰に隠れ、ジャックはアーシャを守らんとその耳を大きな手で塞いでいたレベルにヤバかった。主に黒ウサギが。

 

 さて、そんな〝ノーネーム〟と〝ウィル・オ・ウィスプ〟の受付も涙目になりながらも何とか作業を進めた樹霊の少年のおかげで、無事終わりを告げようとした。その時、彼等の後方から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「あ、黒ウサギ」

 

 なんとも拍子抜けした声を上げたのはジン。その呼び声にグリンと首が回り、軽く目が据わっている黒ウサギと目が合ったジン。ヒャイなんて可愛らしい悲鳴が出てきてしまうのも致し方ない。

 

 黒ウサギはズカズカと大股で近付いてきて、ジンと義仁をサラから守るように割って入る。

 

 その光景にワタワタと焦り出すジンだが、黒ウサギからしたら目の前の女ことサラはジンと義仁を冗談とは言え頂いてくなんて言い残し勝手に何処かに行った不審な、不審すぎる人物なのである。

 

 この収穫祭本陣営にいる時点である程度は信用出来る相手なのかもしれない。が、それとこれとは話は別。

 

 怪しいと言ったら怪しいのですウキャー!

 

 流石のジンもこれには苦笑い。もうそろそろ止めなければならないだろうと、義仁が動いた。

 

「あー……。黒ウサギさん。この方はサラ=ドルトレイクさん。私の仕事相手で、〝ノーネーム〟を招待してくれた方だよ」

 

 黒ウサギを宥めるように義仁が語りかける。黒ウサギは義仁の顔を見る。そして、サラの顔を見た。

 

 そして、大きく息を吸い

 

「だったらなおのことタチが悪いじゃないですかぁ!!」

 

 問題児筆頭逆廻十六夜が居なくても、黒ウサギは何処かで誰かに振り回されるのが世の理なのかもしれない。

 

 いきなり耳を掴まれ全力疾走されたり、追いつけなかったら脱退するからなんて脅されるよりはまだマシだと思う黒ウサギの目は死んでいた。

 

 

 ※

 

 

『義仁殿。なに、簡単な事だ。この手を握り、私の元へと来てくれるのか。それとも、この手を振りほどくのか……。私個人としては、貴方には是非ともこの手を掴んでほしい。その……なんだ…………、一人の女としても……な』

 

 そして、歯車は加速する。

 




お読み頂きありがとうございます。

さてと……メインヒロインが決まりました。ええ、あの方です。あの方ですとも。

さてと……落としにかからないと(使命感)

では、また次回〜


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第35話 招待

投稿です。

理由が弱い気がするので、後から付け足していくかもです。

では、どうぞ。


 〝アンダーウッド〟収穫祭本陣営。貴賓室。

 

 義仁達が招かれた貴賓室は大樹の中心に位置する場所にあった。窓から覗くと大河の中心になっており、網目模様の根に覆われた〝アンダーウッド〟の地下都市が見える。

 

 そして、今しがた耀達とサラとの会話が終わった。義仁も端の方に座り耳を傾けていたが

 

 〝蒼炎の悪魔〟と呼ばれるウィラ=ザ=イグ二ファトゥスと言う悪魔がすごく強い。

 

 サラが以前の北側で起きた魔王騒動に対し、礼を言っていたこと。

 

 〝一本角〟などの名前は役割を分けるための名前であり、〝一本角〟〝五爪〟は戦闘。〝二翼〟〝四本足〟〝三本の尾〟は運搬。〝六本傷〟は農業・商業全般。これらを総じて〝龍角を持つ鷲獅子〟同盟と呼ぶこと。そして、その名前に完全に一致しなくてもそのコミュニティに入る事ができること。

 

 後は、サラが茶化すように黒ウサギを煽ったり、十六夜のお遊びでブラックラビットイータなるものが最下層の展示会場にある事を知った黒ウサギがヤケになって飛び出していったり……。

 

 まあ、そんな事があった。

 

 そしていま、貴賓室にはサラと義仁しかいない。さて、と口を開いたのは義仁だった。

 

「それで、サラさんは私に何の話があるのですか?」

「白夜叉殿からサボテンが欲しいと頼まれた。その際に少し義仁殿の話を聞いたのだ。曰く恩恵に頼らず魔王の力を削ぎ落とす事が出来るかもしれない存在だと」

 

 義仁がやろうとしていることは至って簡単。魔王に汚染された土地を人の手で、知恵でどうにか浄化できないものかと試しているだけのこと。箱庭ではなく、元の世界なら砂漠の緑化と似たようなものである。

 

 誰だって一度は思い付くだろうし、やろうと思えばやれることなのだ。

 

 義仁は言いようによってはそうかもしれないが、買い被りすぎだろう。だが、今は違う。まず、そもそもの前提条件が違うのだ。箱庭の住人には恩恵が無ければ開拓することは出来ない。逆に言えば恩恵があれば開拓することが出来る。と言う常識が存在している。そんな常識があるなか、恩恵無しで開拓を、それも魔王に汚染された土地を浄化し開拓する事が出来ると考える者が居るだろうか? まず、いないだろう。つまり、義仁がやろうとしていることは、常識への反逆。

 

 義仁や耀達のように外から来たものであれば、義仁と同じ発想が可能だろうが、馬鹿正直にやろうとした者は、白夜叉の反応を見る限り、義仁が初めてなのだろう。

 

「まあ、言い方次第ではそうとも取れますが」

「正しくは、魔王に汚染された土地を恩恵を無しに浄化する。だったか。正直、その話を白夜叉殿から聞いた時は目からウロコだったよ。想像もしたことがなかった。さらに、それが良い方向に成果を伸ばしていると知った時は開いた口が塞がらなかったよ」

「ありがとうございます。そう言っていただけるとやった甲斐が有ると言うものです。それで? それが私を呼んだ理由なのでしょうか?」

 

 サラは少しの間を起き、席を立った。そのまま義仁へと近づき、通り過ぎ、窓のさんに手を掛ける。

 

「まあ、そうなるな。〝アンダーウッド〟は十年前に巨人族の襲撃を受け、大打撃を受けた。今でこそ、表立った傷跡は無くなったが、町外れに行けば、いまだ手がつけられていない荒れ果てた土地はごまんとある」

「つまりは、私の手を借りてその土地をどうにかしたい……。と?」

「いや、少し違うな。その土地自体は時間を掛ければどうにか出来るものだ。魔王の呪いに掛かっているわけでもないしな。だが、〝アンダーウッド〟において土地に根付く呪いと言ったものは下手をしたら〝アンダーウッド〟を支えるこの大樹をも破壊してしまうものにもなり得る。私が義仁殿に頼みたいのは、技術提供、共同開発…………」

 

 サラは言い淀む。何処と無く居心地の悪そうに、そして、決心したのか義仁に手を伸ばした。

 

「いや、遠回しに言うのもあれだ。率直に言わせてもらうと、私は木島義仁殿を我がコミュニティに招待したい」

 




お読み頂きありがとうございます。

はい。という訳で義仁のやろうとしている事を我がものに! と言うのがサラの狙いでした。

今まで馬鹿みたいに高いお金を払って浄化していたものが、払わないでも浄化出来るかもしれない。現状でている結果は良い方向で進んでいるとなれば、そうなるのかな?

……これ、一部の神霊にもオッサン喧嘩売ってない?

では、また次回〜


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第36話 引き抜き

投稿です。

サラさんが出てきて、オッサンの人間味が強くなった気がする。


「ジン君。さっきサラさんからコミュニティに来ないかって言われたよ」

「は? え、ど、どう言うことですか!?」

 

 コーヒーの入ったカップを手にジンが驚きの声を上げる。それもそのはずで、なんの前置きもなしに引き抜きされたなどと言われれば驚きもする。

 

 さらに言えば、ジンにとって義仁とは心の支え。依存する存在で、父のような存在でもあるのだ。

 

 そんな大切な人が何処かに行ってしまうかもしれないとなれば、戸惑いの声を上げるのも無理はないだろう。

 

「まあまあ、落ち着いて。どうやらサラさんは私がやっている研究に興味があるようでね」

「……恩恵を使わず魔王に汚染された土地を浄化する。確かに、魔王の呪いは凶悪なもの。特に〝アンダーウッド〟なら、最悪この都市を支える大樹が死ぬ可能性もありうる。

 確か、〝アンダーウッド〟で、そういった呪いや毒物が少しでも確認できた場合神霊等に協力を仰いでいるって聞いた気が……。

 神霊を動かすのならそれ相応の金額を要求されるはず……。

 だとすれば、義仁さんの研究が完成すれば、その出費を抑えられる。更に、その技術を浸透させていればそれこそ魔王に強襲され、大樹が汚染されたとしても……住人だけで応急処置程度は出来る。

 成程。なら、投資をしていつ来るか分からない、〝アンダーウッド〟の環境下では通用するかも分からない。それなら、自分たちの手元に置いておけば…………〝アンダーウッド〟に対応した環境下での研究を行える……。

 つまりは、すぐに技術を実戦投入でき、かつ浸透させることもいち早く行うことが出来る。

 白夜叉様は投資されていて、そこでの話はそこまで拗らせずに終わるだろうから……。僕達からの抗議だったりに対応したり、謝礼金を払う価値は十二分ある訳か。

 義仁さん。引き抜きの他にも何かしらの条件を提示されたりはしませんでしたか?」

 

 義仁は急に饒舌となったジンにアハハと苦笑いを浮かべ、ジンからの質問に答えた。

 

「うん。そうだね。技術提供だったりとかは言っていたけど、結局はコミュニティに来て欲しいって言っていたよ。条件はこっちで決めていいって言われたぐらいかな。あんまり度が過ぎてたら飲み込めないとは言われたけど」

 

 んなっ!? と、またもやジン君から驚きの声が上がる。

 

「条件は決めてもいい!? それじゃぁ……」

 

 義仁さんが〝ノーネーム〟から脱退すると言い出しても可笑しくないじゃないですか! なんて、言えなかった。

 

 〝ノーネーム〟での生活は以前に比べかなり安定している。そう『安定』している程度の物なのだ。

 

 貯蓄はあるが、食料の蓄えはない。いつ、なにが、どのようになるかなんて分からない。ちょっとした贅沢すらも自らの首を絞めるような自殺行為となりうるのが現状なのだ。それは、義仁だろうと、十六夜だろうと、ジンだろうと変わらない。

 

 しかし、義仁はどうだろうか? ここでサラの手を取れば、ちょっとした贅沢どころの話ではない。かなりの高待遇が用意され、研究にもより取り組みやすくなることだろう。

 

 天と地。〝龍角を持つ鷲獅子〟の出すであろう待遇と、〝ノーネーム〟の出せる待遇はそれだけの差があった。

 

 ジンは震える体を必死に押さえ、聞きたくなくても、聞かねばならない事実を問うた。

 

「よし、義仁さんは……。どう、返事を返すのです、か?」

「え? いや、断るつもりだけど。今は保留にしてもらってるけど、まあ、受ける事は無いんじゃないかな」

 

 ジンの体から力が抜ける。本当によかったと。

 

「どうしてか、お聞きしても?」

「どうしてか、って聞かれてもなぁ。私の帰る場所は、今は〝ノーネーム〟だからかな。確かにサラさんは似ているよ。見た目とかじゃなくて、そのあり方が。また、彼女に惚れ直した気分だった」

 

 そう言って義仁はカップを傾け微笑む。

 

「似ている?」

「ああ、妻にね。でも、ここで、サラさんをサラさんとしてではなく、妻として見てしまったら……今でも、胸を張れるような人間ではないけれど、笑顔すら見せられなくなるんじゃないかなって思ってね。それに、〝ノーネーム〟の皆と離れるのはちょっと寂しいしね」

 

 義仁は照れくさそうに頬をかきながら、そう告げた。

 

 

 

 

 そして、轟音と共に大地が揺れた。

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございます。

ジン君が依存系ヤンデレみたくなり始めたけどそんなルートは用意されてないです。

ただ、ジン君はかわいい。

今週の木曜日から車の合宿にいくので、来週投稿出来るかが分からないです。
ごめんなさいm(_ _)m

PS.やっぱり投稿出来なさそうです。理由等を活動報告に書いておきます。

では、また次回〜


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第37話 人間の幻獣

投稿です。

先週は投稿出来ず申し訳ありませんでしたm(_ _)m

では、どうぞ。


 轟音と共に天井の一部が崩れジンの頭上に。咄嗟にテーブルを乗り越えジンを庇う義仁。ガツンっと義仁の頭に強い衝撃が走った。

 

 頭から垂れた血がジンの顔に滴り落ちる。

 

 ジンの震える手が、頬に落ちた血に触れる。ねちゃっとした気持ち悪い触感。ジンの顔から血の気が引いていき青くなった。

 

 ジンの口はまるで病人のような青紫色に変色している。その口からゆっくりと義仁の安否を確認するための言葉が紡がれた。

 

「あ……、よ、義仁さん。だい、だいじょうぶ、です……か……」

 

 義仁の体がピクリと震えた。目は閉じられ口は半開き。しかし、義仁の体はジンを庇うように抱き締めたまま動かない。

 

 ジンの頭に死と言う最悪の一文字が浮かび上がる。ジンの瞳には大粒の涙が浮かび流れ落ちた。義仁の服を握り締め、むせび泣く。

 

「また、だ……ぼくが……僕が弱いから……っ!」

 

 悲観する。努力が足りなかった。思考が足りなかった。義仁さんに手を伸ばして貰って、その手を掴んで、救われた。そこで、僕は油断していたんだ。

 

 ジンは義仁の腕を外し、その腕を肩に。大人の義仁と、子供のジンの体格では運ぶ事なんて到底無理だ。

 

「それでもっ」

 

 やりきった。と、言わんばかりに力が抜ける義仁の体。その分だけジンの体に重さが加わる。

 

「僕はやりゃなきゃ、僕が、やるんだ……っ!」

「……ぁ」

 

 小さな声が漏れた。それはジンのものでは無い。ここには義仁と、ジン以外の人はいない。そう。なれば、誰のものかは必然的に定まってくる。

 

「……ぁあ…………。ジン、くん。無事だったんだね」

 

 そう。義仁だ。義仁は目が覚めた瞬間にジンの心配をした。とても暖かくて、嬉しくて……涙がこみ上げる。よかったと。

 

「義仁さんのお陰です。僕には傷一つありません。本当に、義仁さんのお陰ですっ!」

「そうか……よかった……だいじょうぶ。私もそんなに酷くはないから。少しふらふらするけどね。これぐらいならまだ歩けるよ」

 

 義仁はジンから離れ1人で立ってみせる。だが、歩こうとすると足元がおぼ付いている。

 

「酷くないわけがありません! まずは止血をしなくちゃ……」

「それなら、これでだいじょうぶ。兎に角先にここから出よう。まだ、外では何かが起きているみたいだし、早くサラさん達に合流しないと」

 

 そう言う義仁は上着を脱ぎ出血部分に押し付ける。元々藍色だった上着はみるみる内に赤く染まっていく。

 

 外からは轟音が未だ鳴り響き、怒号も聞こえれば、獣の叫び声の様なものも聞こえる。そして、助ける声や、何かが潰される様な音も。

 

 義仁はおぼつかない足取りのまま出口へと向かう。このままでは、この部屋もいつまで無事か分からない。急いで脱出しなくてはと、扉を開ける。その瞬間一際大きな地響きが鳴り響く。まるで、この巨樹そのものに攻撃が入ったかのような轟音と揺れ。義仁とジンはその揺れで部屋から投げ出された。

 

 後には巨大な鎖。

 

 もし、投げ出されていなければ、あの鎖に……想像は容易なものだった。

 

 義仁はジンに支えられ立ち上がる。二人が体制を立て直した頃に黒ウサギが慌てた様子で走ってきた。

 

「大丈夫ですか義仁さん」

「ああ。大丈夫」

「おふた方! 無事でしたか!? っ! 頭に怪我を……良かった。見た目は派手ですが傷自体は深くはないみたいです。ですが、万が一がございます。医療班は既に動いておりますので、早くそちらへ。場所は先程話し合っていた部屋の近くにあるエレベーター付近です。私もついて行きたい所ではありますが、これ以上奴らの好き勝手にはやらせる事は出来ません。ですので、私は外の無法者共を退けてきます。ついていくことは出来ませんが……どうかお二人共お気を付けて!」

 

 そう言い残し黒ウサギはジン達が吹き飛ばされた部屋の鎖を駆け上って行った。

 

「……行きましょう義仁さん」

 

 ジンが呟く。それに力強く頷いた。大樹の中に作られた通路を進み、先程会議を行った部屋の近くまで来れた。そこから見えた景色。

 

 樹の根が網目模様に張り巡らされた地下都市からは煙が上り、美しかった街並みは今では見られない。

 清凉とした飛沫の舞う水舞台なんてものはなくなり、水は混濁とし濁流となって街を呑み込んでいた。

 

「義仁殿! ジン! 無事だったか。今何とか奴らの奇襲から立ち直ったところだ。詳しい話は後ほど。それよりも義仁殿、その頭の傷を見せてくれ」

 

 貴賓室前にて指揮を執っていたサラがジン達に気付き近付いてくる。そして、そのまま義仁の頭を掴み自身の見えやすい位置へ。

 

 傷は黒ウサギが言った様に深くはない。恐らく頭蓋骨にひび等も入っていないだろうと確認したサラはその傷跡に指を這わせ……。

 

「私の治療恩恵を使う。少し熱いと思うが我慢してくれ」

 

 そして、義仁の頭にライターで熱されているような熱さが伝わる。我慢出来ないほどではないと口を噛み締め耐える義仁。

 

「よし。終わったぞ。私のこの恩恵は後遺症になりうるものも一緒に浄化してくれる。だから、これ以上悪くなることはないだろう。少しばかり熱いのが欠点だがな」

「ありがとうございます」

「お話をしている所すいません。一つお聞きしたいことが……敵はアレですか?」

 

 街を壊し、水を穢した無法者達。2本の足で立つその姿は、人間と瓜二つ。しかし、その大きさは人間とは比べ物にはならない。

 

「ああ。敵は奴ら……人類の幻獣――――巨人族だ」

 

 オオオオオオオオッォォォォォォォォ――――――!!!!

 

 街の中で猛々しい声を上げて暴れ回る巨人族。

 

「箱庭の巨人族と言えばその多くが異界での敗残兵です。大体がケルトの者達。代表格としてならフォモール族。ですが、北欧の者達も多い……だが、どちらにせよ、巨人族は穏やかな気性だ。だとすれば、1人の首謀者が居るとは考えにくい……複数の後ろがいるか……〝アンダーウッド〟を襲うだけの価値があるものがあるか……心辺りはありますかサラ様」

「……〝バロールの死眼〟封印はしているが、奴らがそれを解けるとしたら」

「襲う価値は充分にありえる。そして、恐らくあの巨人族はケルトのものでしょう。時間を稼いで下さい。そして情報を出来る限り集めて下さい。奇襲と言うことは、サラ様も気付かなかった。そう……特に巨人族が攻め込んできた時の状況を。敵はアレだけじゃない。恐らく精神干渉系、それに髄する恩恵を使っているはずです。特徴が絞り込めれば対策も取れる……出来る限り急いで! まだ、始まったばかりだ……!」

 

 相手が誰だろうとなんだろうと使いこなして

 

 仲間が最大限動きやすく、そして、生き延びやすい環境を作る

 

「それが、戦えない、自分の身すら守れない僕の出来る全てだからッ!」

 




お読み頂きありがとうございます。

ジンくん覚悟完了。
オッサンは軽傷ですみました(感覚麻痺)

では、また次回〜


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第38話 偽りの勇気

投稿です。

またもや、2週間ぶりです。無事合格してまいりました。これで、また暫くは1週間投稿が出来ると思います。

それと、正直今回何がしたかったのかよく分かっておりません。
原作を読み返すのが面倒くさくて、その部分をハブる事に尽力していた現実なんてありませんとも。ええ、ありませんとも。

では、どうぞ。


「サラ様、恐らくですが〝サウザンドアイズ〟からノーネーム宛に恩恵を預かっていませんか?」

「ああ、確かに預かっているが……それがどうした?」

「そうですか。それまでは予想通り。その恩恵は以前僕達が北側でクリアしたゲーム〝The PIED PIPER of HAMELIN〟のすべての勝利条件を満たした特別報酬でしょう」

「だとすればその報酬は……〝サウザンドアイズ〟から〝ノーネーム〟宛の小箱をここへ! 出来るだけ急ぐんだ!」

「よし……この様子なら小箱の中身はアレで間違いない。だとすれば、バロールの死眼とも相性が良い。これで、十六夜さんがくるまでの時間稼ぎが出来る……だけど、問題なのはそこじゃない……どうやって巨人族達が侵入してきたのかも問題じゃない……」

 

 ジンは顎に手をやり考え込む。幾つか上がってきた情報を当て嵌めていく。

 

 まず、巨人族は〝気が付けば〟壁を越え侵入していた。

 この時点で物体を移動させる恩恵か、一定範囲内の存在に幻覚を見せる毒又は精神干渉系の恩恵が使われたのが分かる。

 

 そして、盗まれたと報告が入った〝黄金の竪琴〟。これは、その音色を聞いた者に強い催眠能力を及ぼす。詳しい情報は知らないのであまり強くは言えないが、少なくとも巨人族に使えるほど大きなものではないらしい。

 

 幸いなのは、それを所持している存在のスペックを考慮しなければ最高と言っていいほどの人材がいる。

 

 そう。だから、問題なのは時間稼ぎでも、彼等の侵入を防ぐ方法でもない。もはや解決したも同然のものいくら考えても意味はないのだ。慢性してはならないが、そこに没頭してもいけない。今考えるべきは……

 

「……どうやっておびき寄せ、奪うかだ」

 

 

 ※

 

 

 義仁はジン達と共に貴賓室にいた。が、そこで話あっているサラとジンの話に付いていけず、途中サラに指示を受け部屋を出ていった獣人に付いていく形で部屋を出た。

 

 外に出ると、先程よりも大きくなった怒号が耳を貫く。さっきよりは巨人達が押し返されているように見えた。

 

 遠目からにも分かる阿鼻叫喚。地獄絵図。

 

 押し返されているように見えても、犠牲者は増えている。少し目を凝らせば……押し潰され、真っ赤な押し花になったのも見えた。数は一つ2つ度頃ではない。体の一部をもがれた者も居れば、今まさに口の中に放り込まれた者もいた。

 

 そして、巨人達も腕、脚、腹、胸、顔を貫かれ、抉られ、切り刻まれなお動き続ける者もいれば、内蔵をぶちまけ動かなくなっている者もいた。

 

 

 自分自身が何度も死に掛けもした。

 目の前で共に死へと立ち向かった者が死んだりもした。

 

 

 しかし、それとはまた別の絶望が目の前には広がっていた。

 

 胃から食道にかけ、食べた物が戻ってくる。それを必死に押しとどめ我慢する。

 

 ジンくんは、十六夜くんは、飛鳥ちゃんは、りりちゃんは、耀ちゃんは、くろうさぎちゃんは、さらさんは、ろおたすくんは、ろおたすくんのおねえさんは、妻と娘は―――

 

 

 ―――苦痛に歪んだ顔が、苦難に歪んだ顔が、泣き崩れる姿が、嘔吐し続ける顔が、怒りに捻れた顔が何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も―――

 

 生まれては消え、消えては生まれていく。

 

 そうだ……この程度の事で私が吐いてはいけない。弱音を吐いてはいけない。膝を付いてはいけない。

 

 

 薄れていたはずの恐怖が顔を出す。

 

 ただの痩せ我慢が偽りの勇気へと書き変わる。

 

 

 

 しかして、それは本当に悪い事なのか。

 

 少なくとも、その偽りの勇気は確かに―――

 

 

 

 

 ―――男を縛る新たな楔となるわけだが

 

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございます。

来週の私がきっと上手いことまとめてくれることでしょう。

まあ、あれだ……がんばります……

では、また次回〜


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第39話 疑問

投稿です。

漸くあの子に出番が!

……あるといいなぁ(遠い目)

ではどうぞ。


 避難所にも伝わる轟音。それが一体どれだけ時間が過ぎたのか……。

 

 気が滅入りそうな真っ暗な空間にぽつんと数本の蝋燭が置いてある。唯一の救いは、それなりに広さはある事ぐらいか。

 

ママ……ぼく達死んじゃうの……?

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

どうして、あの人が……

だいじょうだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ

 

 しかし、その広さ故か、小さな声も大きく響いてしまう。

 

 そして、シン……と、静かになった。

 

 巨人が暴れる轟音も、巨人に立ち向かう雄叫びも、負傷者に声を掛ける呼び声も

 

 全てが止まった。

 

 そして、声が聞こえた。

 

 こんな密閉されたら部屋にまで届く大きな、大きな声が。

 

『………い…さは! われ………りであ…!』

 

 それは最初聞き取りづらいもので、なんて言っているかも分からなかった。だが、それでも、その言葉は弱り、死に掛けていた者達の心にも強く響く、とても力強くかつ暖かいもので

 

『………いくさは! われ………りである!』

 

 部屋全体が段々と暖まり、何時しかそれは声となる。

 

まさか

本当に

 

 言葉は声となり部屋に響く。それが伝播し部屋中がざわざわと騒がしくなる。そして、3度目の放送。

 

『此度の戦は! 我らの勝利である!』

 

 ――――――――!!

 

 部屋が震えるほどの叫び声。泣きながら笑うもの。大切な人を失いながらも笑ってみせるもの。子を抱き母を抱き互いの温もりを噛み締めるもの。それぞれが喜色の色を見せる。

 

 部屋から喜びの色を残したまま、避難者達は避難所から出ていく。どうやら、この後炊き出しがあるらしい。

 

 しかし、義仁は動かなかった。1人ぽつんと部屋の隅に座り、何もしないまま。蝋燭の火は消され、部屋は真っ暗。外からは喜びの声が聞こえ、本当に戦いが終わったのを教えてくれる。

 

「私は……何が出来るのだろう」

 

 ぽつんと呟かれた言葉。それは、喜色にも憂色にも染まっていない。ただ、純粋な疑問だった。

 

 義仁自身、自分が戦闘で役に立てるとは思っていない。せいぜい邪魔をしなかったで済めば良い方だろう。事実、今までがそうだったのだから。

 

 リリを救った時は侵入者にやられ瀕死の状態。

 北側では勝手に1人になった上に、ひとりの男の子を死へと追いやった

 

 ここがノーネーム本拠ならば、研究を進められていた事だろう。だが、今はノーネーム本拠ではない。南の収穫祭は中止となり、戦場と化した。

 

 ジンくんを助けたのだって、あれが十六夜君だったらもっと上手くやれていた事だろう。ジンくんに心配させることもなく、より早くジンくんを避難させ、そして、巨人達を倒していた。

 

 私は役に立っているのだろうか。

 恩が返せる程度には、彼等の役に立っているのだろうか。

 

 私は……

 

「あ、いた」

「あれがそうなの?」

 

 部屋に光が差し込む。その先に立っていたのは二人の少女。1人は義仁もよく知る春日部耀。

 

 そして、もう1人は、白黒のまだら模様のワンピースを着た少女。彼女の名はペスト。黒死病、ペストと呼ばれる病魔の化身。かつて、北側を襲撃した魔王。

 そして、義仁の視力を奪った張本人。

 

義仁は二人を見上げる。

ペストはその顔を見た。

 

 白目に黒目の右目と、ほんのり黒く変色した左目。ペストは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、顔を背けた。

 

「君は……」

「ッ……ペストよ」

「……君が、北側を襲った魔王?」

「ええ、そうよ。なに? 文句があるなら言ってみなさい」

「文句……? どうして?」

「……なんなのよ、どいつもこいつも……私が馬鹿みたいじゃない」

 

 ペストの呟きは、暗い部屋に呑まれて消えた。

 




お読み頂きありがとうございます。

次回は耀とペストととの会話になります。
いやーホンワカしてますねー(白目)

では、また次回〜


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第40話 クッション

投稿です。

もう少し書こうかなー
なんか終わりがしっくりこないなー
結果ずっと書き続けてる

ありません?

では、どうぞ。


「義仁さんはここで何してたの?」

 

 よいしょと隣に座り込む耀。ペストはどうすべきかと悩んでいたが、耀の隣に座った。

 

「んー……何が出来るのかを考えていたかな」

「……金の亡者?」

「そういう事じゃないでしょうよ」

 

 ペストが耀の言葉に反応した。それを見て義仁は笑を零した。それに耀は少し不機嫌そうに疑問を口にする。

 

「……むぅ。義仁さんはたった1人で〝ノーネーム〟の食費を賄ってる。〝ノーネーム〟に一番貢献していると言っても過言じゃない」

「確か〝ノーネーム〟の人数って……」

「……100人くらい。その食費を賄って更に何か出来ないかなんて言ってたら」

「まあ、お金に固執しているようにも感じれないこともないわね」

 

 でも、ド直球に言うのもどうかと思うのだけれど? と、ペストに言わればつの悪い様子で耀は義仁に謝った。

 

「いや、いいよ。私も言葉足らずだったしね。ところで、二人は私を探していたみたいだがどうしたんだい?」

「ジン達が呼んでるのよ。でも、ジンは作戦会議で動けない。飛鳥と黒ウサギはジンの護衛。動けるのは私達だけでね。護衛するのは私でも良かったのだけれど、流石に、隷属させてすぐの元魔王を護衛にするつもりは無かったようね。そして、この子は……」

「……十六夜のヘッドホンが私の鞄に入ってた」

 

 そこで、義仁は十六夜のヘッドホンが無くなっており、急遽収穫祭に耀が参加することになったことを思い出した。

 十六夜もさほど気にしていなかった様子だったので完全に忘れていた。

 

「それは……耀ちゃんがやったのかい?」

 

 義仁の当然の質問にぎゅっとズボンを握り締める耀。ペストはやれやれと言った様子で肩を竦めた。

 耀は怒られた経験がない。今でこそ、父から譲り受けた動物の能力を受け継ぐギフト〝生命の樹(ゲノムツリー)〟のおかげでこうして動けているのだが、それ以前は歩くことさえままならない程の難病を患っていたのだ。

 耀が生まれた時代は義仁よりも未来にあり、その分医療技術も格段に進化していた。それこそ、義仁の時代では治すことが出来ない不治の病と称された奇病難病ですら治すことが出来た。

 

 だが、耀の持つその病はそれでもなお治すことができなかった。

 

 物心のつく頃には病室で1人。見舞いに来ていた父は気が付けば行方不明。お医者様はお手上げだと優しく遠回しに言い続けるだけ。学校? 友達? そんなものはいない、知らない、分からない。

 心配されど、怒られることは無かった。ただ、見放されることの辛さだけを味わい続けた。

 

 心の支えは感情が分からない、ただのお気楽な1匹の猫だけ。

 

 そして、ある時ひょこり戻ってきた父。その父から貰ったペンダント。そのペンダントには、動物と会話できる力があった。そのペンダントには、他の生き物から力を貰う力があった。

 手も、足も全てが快調。お医者様は気絶仕掛ける。しかし、病院の中にはそれを否定する者はいなかった。奇跡だと喜んでくれていた。

 

 そう、病院の中では。

 

 学校に行くと、奇異の目で見られ、動物と意思を疎通させて見せれば気持ち悪いと罵られる。

 どうすれば良かったの? そんなの、人と付き合うことが極端に少なかった彼女には分からなかった。

 だが、そんな中でも分かったことはある。

 

誰かが成功すれば、周りは喜んでくれる。

誰かが失敗すれば、周りは見放していく。

 

 私は失敗したんだ。

 

 彼女は怒られることが無かった。その機会が無かった。だから、馬鹿正直に話せば見放される。

 それは、嫌だ。もう、見放されたくない。

 

 盗まれたヘッドホン。その原因を作ったのは他でもない耀。実行したのは、三毛猫だ。私が弱かったから、三毛猫がそんな私を見かねて……私はどうすればよかったの? 何が成功なの?

 

 耀の頭に巨人族の腕に潰された砕けたヘッドホンが思い浮かぶ。それを見た黒ウサギと飛鳥。彼女たちは私をどんな目で見ていた?

 

 分からない分からない分からない分かりたくない

 

 もう独りはいや

 

 ごめんなさいみはなさないでひとりにしないでごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

 耀の唇が紫に染まり、大粒の油汗が額ににじみ出る。肩は震え、口からは何かを紡ごうと動いていた。

 

 とても正常には見えない様子にペストが声を掛ける。だが、反応はない。

 

「ちょ、ちょっと? 耀? 大丈夫?」

「大丈夫じゃなさそうだね。うん」

 

 ゆっくりと、義仁は耀の手を取る。温もりというのは、そこにあるだけで人を安心させる。そして、ゆっくりと抱き締めた。

 

「よく、頑張った。辛かったんだね。大丈夫。私はここにいるから。どこにも行ったりしない。全部受け止めてみせるよ」

「……ごめん、なさい」

「うん」

「……十六夜のヘッドホン……鞄の中入ってた。三毛猫の臭いがして、私、飼い主だから私が責任とらないと、でも、どうすればいいのか分からなくて」

「なら、まずは三毛猫くんと話してみなきゃね」

「……怖い」

「そうだね。だが、話さなきゃいけない三毛猫くんのためにも。まず、君が勇気を出さないと」

 

 義仁は耀の顔を見て、微笑みかける。それにつられ、耀も少しだけ笑ってみせた。

 

「……話してくれるかな」

「話してくれるさ」

「……十六夜は許してくれる?」

「心から謝ればね」

「……行ってくる」

「付いていかなくてもいいかい?」

「大丈夫。1人でやってみる。だめだったら義仁さんのせい」

「それは困ったな。行ってらしゃい」

 

 行ってきます。と、耀は走り出した。生まれて初めて叱られた。世間的には叱る、怒ると言うよりも諭すと言う方が近いが、耀からすれば、それは初めての経験だった。

 

「案外素直に立ち直るのね」

「耀ちゃんは慣れてないだからね。後は、失敗した時のクッションを用意してあげれば、あの子は1人で歩いて行ける。強い子だよ」

「貴方は随分手慣れている様子だったけど。こういった立ち回りが多いのかしら」

「……むしろ、逆だよ。私が、みんなに助けられている。私は弱い人間だからね。さてと、ジンくんが呼んでいるんだったかな? それじゃあ行こうか」

 

 ペストは、何処か歪なモノを見る目で義仁を見ていた。

 

「……私が言うのもおかしいけれど。押し潰されないように気を付けなさいよ」

「え?」

「何でもないわ」

 

 ペストは義仁に背を向け、歩き始める。義仁は首を傾げながらもその後について行った。

 

 ペストの手は、強く握られていた。そこに、どういった感情がこもっているのか……それは、ペスト自身にも分からなかった……。

 




お読み頂きありがとうございます。

耀ちゃんの立ち直り早すぎね?
元が強いので……経験さえ積めばすぐ立ち直れるのです。ただしくは、向き直って行動出来る子なのです。

では、また次回〜


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第41話 いらない感情

投稿です。

決してテストやワールドに追われていたからクオリティが落ちた訳ではない。
ワールドのラスボスすっごいカッコよかった(*´ω`*)

では、どうぞ。


 ペストは困惑していた。

 

 どうして、コイツらはこうもサックりとしているのだろう。

 

 私は魔王だ。貴様らを殺そうとした魔王だ。街を破壊し、その命を奪った魔王だ。

 

 その視力だって、奪ったのは私だ。

 

 なのにどうして? そんなにも割り切れられる?

 

 いや、そもそも気にしていないのか?

 

 そんな筈は無い! それだと私たちがアホらしく見えるじゃないか!

 

 木島義仁……ジン=ラッセル……貴様たちは一体何を感じているんだ……?

 

 

 ※

 

 

「義仁さん! 無事でよかった」

 

 会議室に入るとともにジンが駆け寄り義仁へと飛びつく。

 

「ジンくんこそ。無事でよかったよ。それよりも、よかったのかい? 会議中だと聞いたんだけど」

「それなら心配いらない。少し前に終わったところだ。それに、ほどよく緊張が解けた。さて、また少し堅苦しい話になるが、今回の功績者も来たことだ。もう1度簡単に説明しよう」

 

 抱きついているジンを下ろし、サラに向き合う。

 

「まず、義仁殿には感謝を。貴方がジンを救っていなければ我々は負けていたことだろう」

 

 むしろ、私が足を引っ張っていた。とは言わなかった。

 

「そして、ペスト。君が巨人を退ける決定打となった。本当にありがとう。春日部殿にも言いたかったのだが、いないみたいだな。

 さて、我々は巨人族に勝利した。街の中に入ってきていない巨人族は全て逃げていった。つまりは……」

「もう1度攻めてくる可能性が?」

「そういう事になる。今回の襲撃の要となっていた〝黄金の堅琴〟は〝ノーネーム〟春日部殿の活躍により取り返すことが出来た。今は封印作業中だろう。ただし、資源が少ないため時間が掛かっている。相手がまた〝黄金の堅琴〟を奪おうとする可能性は大いにある。何か違和感などを感じたらすぐに知らせてくれ。

 それと、分かりきったことではあるが、収穫祭は延期。街の外に出るのは危険な為しばらくは滞在してもらうことになる。勝手だが、許してくれ。

 後は……警戒態勢の配備や攻め込まれた時の対応法だから……特に話すことは無かったか。

 それでは、解散。休めるうちに休んでおいてくれ。まだ何かあるかもしれないからな」

 

 サラが手を叩き解散の意を示す。それに伴い、会議に参加していた獣人や仮面の女性など、重役者であろう者達が部屋を後にした。

 

 部屋に残ったのはジン、ペスト、飛鳥、黒ウサギ、そして義仁とサラ。

 真っ先に声を上げたのは黒ウサギ。義仁を心配する言葉が飛び出した。

 

「義仁様! ご無事で何よりでございます。頭に怪我をしたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」

「ええ。見ての通り」

「それはよかった。ところで……耀様はどちらに?」

「耀ちゃんなら、多分三毛猫くんのところにいるよ。詳しいところまでは分からないけどね」

 

 そうですか……。と、すこし沈んだ様子の黒ウサギ。

 

「……ねえ、義仁さん。春日部さんは、何か言っていたかしら。私……」

 

 おずおずと声を絞り出すように出す飛鳥。恐らく、耀に対して疑惑の目をしてしまったことに後悔しているのだろう。

 

「取り敢えず、耀ちゃんと話してみるといいと思うよ。僕の言葉を聞くよりもね。そうとなれば、探しに行こうか」

「私が連れていくわ。あの子は1度ペストにかかっているみたいだから、何処にいるのか何となく分かる」

 

 その言葉に反応を示すジン達。つまり、彼女はこう言いたいのだ。〝いつでも殺せるぞ〟と。

 実際どうなのかは分からない。出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。だから、警戒する。

 

 しかし、義仁は違った。

 

「それじゃあ、お願いしようかな。よろしくねペストちゃん」

「……ええ。任せておきなさい。行くわよ二人とも」

 

 ペストは黒ウサギと飛鳥を黒い風で急かし部屋を出ていく。

 

 

 チラッと後ろを向く。目が合った。首をかしげながらもほんのり笑を見せる。それがたまらなく胸を締め付ける。

 

 あれは、私達とは根本が違う。

 

 経過がどうあれ、結果がどうあれ、私達とアレは似たもの同士だろう。

 

 しかし、アレは私達とは違う選択をした。ただ、それだけの事。

 

 ああ、これが、そうなのか。この感情は初めて感じるものだ。

 

 まったく……いらない感情を教えられたものだ。

 

 

 ペストは歯噛みしながらも、ニタリと笑って見せた。




お読み頂きありがとうございます。

久しぶり過ぎる飛鳥ちゃんの出番。台詞1個
かなしいなぁ

ペストが落ちたやんけ?
ある意味最初から堕ちてるから問題ない。

では、また次回〜


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第42話 慢心

投稿です。

何も言うな……言うんじゃない……作者が一番分かってるから……『この話必要だった?』ってのは作者が一番分かってるから……!

では、どうぞ。


「義仁殿……あんまり心配をかけるような行動はしないで欲しいのだが……」

「え?」

「気付いていないだけの蛮勇とはな。先程のペストが言った言葉。あれは、何時でもお前達を殺せるぞと言っているようなものだ」

「そうです。今でこそ隷属させ僕の命令には逆らえませんがそれでも危険性が皆無な訳ではありません。危険性が低いだけなんです。それに、忘れた訳では無いでしょう? その目に、あの少年の命を奪った原因が誰なのかを。いつ反旗を翻してもおかしくないんです。無闇矢鱈に接触するのはできる限り控えた方がいい」

 

 ジンとサラが詰め寄るように義仁を叱責する。義仁は後ずさりながら分かったと頷くが、そんな悪い子には見えないんだけどなぁと何処か呑気な様子だった。

 

「はぁ……話を聞いたところによると、義仁殿は直に魔王の脅威は見たことは無いとの事だ。間接的にはかなり痛い目を見ているようだがな。また、納得出来ずとも警戒だけはしておけよ? 寝首を掻かれるような事態になっても知らんからな」

 

 サラは諦めた様子で警告する。義仁もここまで言われているのだからと、返事を返した。

 

「よろしい。二人はどうやら目を付けられている様子だった。護身用の恩恵でも用意しておこうか」

「いえ、そこまでしてもらう必要は……」

 

 それに、それを理由に義仁さんを貸せなんて言われたらたまったものではない。技術流出と言うのは〝ノーネーム〟の利益を根こそぎ奪っていくものなのだから。

 義仁もその事は分かっているためサラからの提案を遠慮していた。

 しかし、サラもそう簡単に引くはずもなかった。

 

「なに、これをやったんだから何かをよこせなんて言わないさ。これは、私個人からの贈り物と言うだけだ。遠慮せず受け取っておけ。さて、そうなると、何を贈るのがよいのだろうか?」

 

 とまあ、無理やり押し付けられる形となった。サラとしては、〝ノーネーム〟との繋がりを持っておきたい。と言うだけの話。事実、この事を後ろ盾に何かを要求するつもりもない。繋がりさえ保っていればチャンスが生まれる確率は格段に上がる。そのチャンスの切っ掛けを作ったに過ぎない。

 

 ジンや義仁達からすれば、いつどんな要求をされるか分からないハラハラした非日常が待っているのだが。せめて、とんでもないものが送られてこないことを切に願うばかりだ。

 

「ところで、ジン。〝ノーネーム〟の最高戦力が着くのはいつ頃になりそうだ?」

「1日もあれば来れると思います。先程手紙を出したので、状況を知り次第飛び出して来ると思いますよ」

「確かに。十六夜くんなら飛び出してきそうだ」

「随分と戦闘狂のようだな……少し不安になってきたぞ」

「確かに彼は強い力を持っていますし、戦う事が好きみたいですが、仲間に手を出すほど狂ってなんかいませんよ」

 

 ジンは笑ってみせる。自慢するように、そして、何処か心配そうに。そう、慢心していたとも言えるだろう。彼がくれば少なくともこれ以上戦線を押し上げられることは無いだろうと。

 

 敵はこちらの事を待つなんて、そんな幻想はあるはずもないのに。

 

 

 

 さあ、第2回戦を始めましょう―――

 

 

 

 その時、アンダーウッドに再び轟音が鳴り響いた。

 




お読み頂きありがとうございます。

義仁は白夜叉とレティシア以外に直で魔王にあった事が事がないので、ペストの脅威をよく理解していないだけです。
まあ、あんだけのことをしでかした張本人がこんな幼女とは思わんよな……

では、また次回〜


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第43話 最高戦力

投稿です

体調不良
取り敢えず書ききりました。
また、ほとんど進んでないけど許してぇや……ごめんよ……

では、どうぞ


「そんな……、あまりにも早すぎる…………」

「ほうけている場合か! 急ぎ避難の準備! 戦える者は迎撃せよ! 無理はするな! 先ずは敵の情報を集めよ!」

 

 呆けるジンに喝を入れ、外に待機していた兵士に命令を下すサラ。だが、あまりにも早すぎる開戦。先の終戦からまだ半日も経っていない。さらには、今回も同じく奇襲されるという失態。

 

 何故? 奇襲の要であった〝黄金の堅琴〟は既にこちらの手にあったはず。なのに何故?

 

 そんな事ばかりがジンの頭の中をグルグル回り続ける。

 

「義仁殿は……相手がどう動くから分からん。済まないが私の側にいてくれ。ジンもそれでいいな」

 

 しかし、ジンからの返事はない。想像していなかった事態に直面し頭がパニックになっているのだろう。

 

 サラが無理も無いと次の行動を決めあぐねている時、慌てた様子で1人の兵士が部屋へと転がり込んできた。その者は上半身が真っ赤に染まっている。が、怪我をしている様子は見受けられない。

 

「さ、サササ、サラ様! 外、外をご覧ください!」

「巨人族以外の敵でも現れたか……くそッ」

 

 サラが部屋を出ていく。それに付いていくジンと義仁。そして、吹き飛ぶ壁。

 

「おっと。なんかの部屋になってたのか」

 

 その声は義仁とジンには馴染みがあるもので、〝ノーネーム〟最大戦力だとジンが胸を張って言ってのけた人物。

 

 箱庭に召喚された当日に蛇神を素手で殴り飛ばし、

 劣化しているとはいえ、魔王と真正面から力比べをした。

 全てを壊すほどの怪力を持ちながら、全てのギフトを壊すと言う矛盾した力を持つ〝ノーネーム〟の問題児。そして、最高戦力。

 

 逆廻十六夜が、巨人族の顔面を蹴り飛ばした態勢でそこにはいた。

 

「あ? オッサンと御チビ様じゃねぇか」

 

 十六夜が義仁達に気付き声を上げる。

 

「随分早かったね十六夜くん」

「特に準備するものが無かったからな。それに、こんな楽しそうな事見逃すわけには行かねぇだろ」

 

 十六夜は獰猛に笑って見せた。

 

「んで、これが敵って事でイイんだよな?」

 

 十六夜は潰れた巨人族を指差し問う。サラは〝ノーネーム〟の仲間だと分かってか黙っており様子を見ている。ジンは相変わらずパニック状態が続いていた。

 

「そうみたいだ。私にはよく分からないが、任せても大丈夫なのかな?」

「ま、誇りもないような奴らだからな。軽く捻り潰してやるよ。今の俺は機嫌が良い。感謝しろよ?」

 

 ヤハハ! 笑い笑って十六夜は戦場へと飛び出す。

 そこで、ずっと黙っていたサラが口を開いた。

 

「嵐のような男だな。しかし、これで希望が持てる。彼が時間を稼いでくれているあいだに態勢を調えるぞ」

 

 反撃の時は近い。

 




お読み頂きありがとうございます。

あーうー……モチベが上がらん
ただ、もう少しすれば書きたいシーンが来るんや……

兎に角、皆さんも体にはお気を付けて

では、また次回


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第44話 魔王ドラキュラ

投稿です。

一気飛ばしてやれ。そう思った。
反省はしている。後悔はしていない。

では、どうぞ。


 巨人族第2陣も無事撃退に成功。第1陣よりも数が少なかったこと、十六夜が最初に殺したのが司令塔だったようで、さして苦労せず撃退することに成功していた。

 それでも、失った命は少なくないのだが。

 

 また、一時の平穏に皆が安堵していた。そして、次襲われるのは何時だろうか。本当にこのまま生き残れるのだろうか? 〝アンダーウッド〟全体をそんな恐怖が包んでいた。

 

 そんな中、義仁は1人レティシアと地下室を訪れていた。特に意味の無い気分転換である。

 

「ふむ……迷ったな」

「迷っちゃったね」

 

 そして、絶賛迷子である。

 

 彼らがいるのは〝アンダーウッド〟の巨大樹。その地下室。

 

 レティシアもサラやジン達に加わり作戦会議に参加しようと来賓室に訪れていたのだが、情報の秘密性の為門前払い。まあ、どちらにせよ、部屋自体に、入れないようにするギフトを掛けられていたので入る事は叶わなかった。

 そこに居合わせたのが義仁。どうせ暇だからとレティシアと共に〝アンダーウッド〟を見て回ろうとなったのだ。

 

 薄暗い木の廊下。聞こえる音は二人の歩く乾いた音だけ。ふと、レティシアが口を開いた。

 

「なあ、義仁殿は……ずっと探し求めていた、助けようとしていた大切な人が、もう既に助けられないと知ったら……どうする」

「また、急な話だね……どうするって……どうも出来ないよ。私には。良い方向に助けられないのなら、祝福するし、悪い方向になら後悔するだけ。だって、私には誰かを守れるような特別な何かはないからね」

「そう、なるか。なら、少しでも、助けられる可能性が残っていたら?」

「血みどろになってでも、この命を投げ売ってでも、助けてみせる。助けられるよう死力を尽くす。と、言葉に出すのは簡単なんだけどね。私には出来なかった。でも、もし、2度目が許されるのなら頑張るんじゃないかな」

「そうか……そうだな。ずっと、下を向いているわけにもいかない。ありがとう義仁殿」

 

 私は正直に答えただけだよ。そう言うと、レティシアはふふと笑った。

 

(十六夜達は確かに私たちの希望ではある。だが、不必要な重圧までかける訳にはいかないな)

 

 決意を胸に、歩を進める。

 ―――不吉な声と音色が響いたのは、その直後だった。

 

 ―――目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ―――

 

 えっ、と呟いたレティシアの体から力が抜ける。同時に琴線を弾く音色が響き、彼女の意識を混濁させていく。

 何が起こっているのかわからない。飛びそうな意識の中、かろうじて背後を見たレティシアは、クスクスと笑うローブの詩人を目撃する。

 

「―――トロイア作戦大成功……とは行きませんでしたが、お久しぶりですね、〝魔王ドラキュラ〟。巨人族の神格を持つ音色は如何ですか?」

「き…………貴様……何者、」

「あらあら、ほんの数カ月前の出会いも忘れちゃうなん、おっと……なんですか貴方は。口上くらい全部言わせてくださいよ」

 

 詩人の声は途切れ、軽く後ずさる。義仁が詩人に覚束無い足取りながらも組み付いたからだ。

 

「にげ……なさいっ……!!」

「義仁どの」

「邪魔しないでもらっていいですかね?」

 

 詩人は力強くでその拘束を解き、義仁を廊下の壁へと叩きつける。不気味な音のせいで混濁した意識、更に体を打ち付けもう動こうとはしてくれない。それでも、足掻く。2度目ではなくとも、大切な人が今まさに危険な目にあっているのだから。

 

「まったく……〝魔王ドラキュラ〟の復活を邪魔するなんて……無粋な。さあ、お待たせしまし、た!!」

「あガァぁぁぁァ!!?!」

「やめろォ!」

 

 必死に伸ばされた手は、詩人の叩き付けられた足によって砕かれる。義仁の叫びとレティシアの叫びが重なった。

 

「それでは、いきましょう。〝魔王ドラキュラ〟」

 

 詩人はレティシアをその腕に捕らえた。

 

 手を伸ばすその姿。しかし、彼女はその腕を伸ばそうとすることは無かった。

 

 

 

 

『ギフトゲーム名〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟

 

 ・プレイヤー一覧

  ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

  ※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。

 

 ・プレイヤー敗北条件

  ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

 ・プレイヤー側禁止事項

  ・なし

 

 ・プレイヤー側ペナルティ条項

  ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

  ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

  ・ペナルティは〝串刺し刑〟〝磔刑〟〝焚刑〟からランダムに選出。

  ・解除方法はゲームクリア及び中断された際に適用。

  ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まれず、永続的にペナルティが課される。

 

 ・ホストマスター側 勝利条件

  ・なし

 

 ・プレイヤー側 勝利条件

  一、ゲームマスター・〝魔王ドラキュラ〟の殺害。

  二、ゲームマスター・〝レティシア=ドラクレア〟の殺害。

  三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

  四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

〝ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ〟印』

 




お読みいただきありがとうございます。

レティシアとの久しぶりの絡み。しかし、また直ぐにどこかに連れ去られる。

そして、オッサンの手の運命やいかに!!

では、また次回〜


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第45話 感情の吐露

投稿です。

誰しも持つ感情です。

では、どうぞ。


 微かなアルコール臭に目が覚めた。ここは、私は一体? ボヤけた視界が徐々に見え始め、それと同時に意識もはっきりとしてくる。

 

 あぁ、そうだ……そうだった……。私は、守れなかったんだ。

 

 レティシアが連れ去られた。守ろうとした、けど、守れなかった。その事実だけが、義仁の胸へと響く。

 言い表せない怒り、悲しみ、無力感、そして、またかという言葉。

 

 「悔しいなぁ……誰も守れないなんて……」

 

 悔しい、なんてものでは無い。もはや、言葉として言い表せないほどにそれ等の気持ちは膨らんでいく。しかし、彼の器から水が零れることは無い。不思議な事に、ボロボロの器には何故か水が溜まっていく。キャパオーバーなんて、既に達しているのだ。限界なんて既に通り過ぎている。けれど、器が壊れることも、高く高くありえない形で溜まっていく水が零れる事は無い。

 

 「手……ボロボロだなぁ」

 

 砕かれた右手には、包帯が薄く巻かれ赤く染まっていた。救命道具にも余裕が無いのだろう。

 

 「私に使うくらいなら、他の人に使ってくれれば良かったんだけど」

 

 辺りを見回す。小さいながらも個室。洗面台に、寝ていたのは上質なベット。手触りの良さそうな木製のテーブルに椅子……戦場でたった1人の怪我人を置いておくにはあまりに贅沢すぎる。

 

 義仁は立ち上がった。安静にしておく事よりも、他の怪我人をこの部屋に回して貰った方が良いと判断したからだ。その時、ふと窓が目に映る。必然的に、透明なガラスの奥……そとの景色が目に入ってきた。

 

 巨人は居なかった。しかし、代わりのように街を蹂躙するのは、異形の怪物達。巨大なカエルのようなものが建物を壊しながら進み、巨大な蜂が子供を攫い、ドロドロとしたヘドロが全てを飲み込む。頭が中途半端に別れた犬の頭がグパッと開き、自分の数倍のものを飲み込む。

 

 極めつけには、龍だ。〝アンダーウッド〟の巨大樹よりも巨大な真っ赤な龍だ。龍が体を震わすだけで地が揺れる。動いたら竜巻を作りだす。

 

 「は、はは……」

 

 乾いた笑いしか出てこない。

 

 ふと、ひとつの心当たりが生まれた。

 

 〝レティシアを守れなかったから?〟

 

 確証なんてない、ただの妄想。分かってはいる、分かってはいるのだが、それすらも、器は受け止めてしまった。器に大きな罅が入る。しかし、直ぐに直って受け止めた。

 

 心を埋め尽くす罪悪感。義仁は窓辺から離れ、ゆっくりと部屋をあとにする。廊下には誰もいない。あの怪物も、何もいない。とぼとぼと、1人歩く。

 

 程なくして、外が見えた。窓から見えたあの地獄が再び視界を埋め尽くす。

 

 機械仕掛けの巨人。飛鳥ちゃんのディーンだったかな。

 

 ディーンは百足のようなものを叩き潰していた。前よりもおっきくなったなー、ドンドン大きくなってるなー。場違いな事を考えてしまう。

 

 ディーンの近くには飛鳥ちゃんもいる。サラさんもいた。サラさんの赤い角は根元から落とされていた。飛鳥ちゃんは、サラさんを支えている。

 

 だから、後ろから近づく蚊のような異形達に気が付いていない。

 

 ピシッと器に罅が入った。

 溜まった水が本来の流れに乗り始める。

 

 限界を超え、感情の吐露なんて忘れていた。無意識のものはあれど、こうして、自ら他者に対して殺意を抱いたのは何時ぶりだろうか。

 

 ああ、家族を殺そうとするあの化物が憎い。殺したい。

 愛しい人を殺そうと動くアイツらが憎い。殺したい。

 そして、守れない自分自身が許せない。

 

 気が付けば走り出していた、俺は今、どんな顔をしているのだろうか? 般若? 笑顔? 歪んでる?

 

 そんな事はどうだっていい。

 

 今は、愛する人を守るべきだろうがァ!

 

 砕けた右手を無理やり動かし、握りしめ、驚く飛鳥ちゃんの横を通り過ぎ、一番前の化物を殴り飛ばした。

 

 「ふざけんなよテメェらァァァあああ!!!」

 




お読みいただきありがとうございます。

強化は入ってないです。人間のリミッターが切れただけです。おっさんはクソザコナメクジのままですのでご安心下さい。

あと、蚊みたいな化物は装甲なし、腕なしのミ=ゴみたいなやつを想像してもらえば。

では、また次回〜


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第46話 炎

投稿です。

人狼ゲーム楽しすぎか。

では、どうぞ。


 芋虫のような下半身に、頭はカタツムリの殻のようなものが横向きに付いている。背中には蚊のような薄い羽、頭には大きな針。大きさは義仁よりも少し小さいくらい。数は5。

 

 義仁の拳が芋虫のような下半身に突き刺さる。確かに化け物は怯んだが、ダメージを負ったようには見えない。むしろ、義仁の右拳は傷が開き薄く巻かれた包帯程度ではどうすることも出来ないほどに出血していた。

 

 けれど、痛みは感じない。

 

 「2人には、触らせねぇぞ」

 

 義仁は再び拳を握る。右拳から血が吹き出した。化け物共の動きは鈍く人間が歩いている程度の速度で近付いてきた。

 

 義仁も近付いてきた化け物を殴るが、化け物は軽く怯むだけ。所詮はなんの力も持たない人間。勝てる筈もなかったのだ。

 

 決着ははやく、時間稼ぎにもならないまま義仁は3匹の化け物に押し潰される。微かに聞こえる呻き声が飛鳥達の耳を燻った。

 

 「義仁さん……」

 

 無意識に義仁へと手を伸ばす飛鳥。飛鳥の力があれば、義仁を強化できる。きっと、義仁でもあの化け物達をどうにかできる程には強化出来るはずだ。だが、そうすれば、巨龍を止める為サラの角を触媒に強化を施しているディーンが間に合うかどうか……。

 

 目の前の仲間を見捨てるか、空で戦う仲間を助ける為に動くか。

 

 義仁へと向けた飛鳥の指が震える。自分の歯と歯がぶつかり、しっかりと噛めない。まだ、彼女には誰かを犠牲にして誰かを選ぶ。その選択は重すぎたのだ。

 

 「だから、こそ……大人の役目……そうだろう? 義仁殿」

 「…………さ、ら?」

 

 飛鳥の手にサラの手が重ねられた。角を失い、力を失った。けれど、その心の強さに曇るものなし。

 

 「飛鳥はディーンの強化を」

 

 フラフラと立ち上がる。しかし、足は産まれたての小鹿の如く震えている。立っているのがやっとにしか見えない。

 

 「はっ……は……義仁殿……まだ、諦めていないんだろう?」

 

 押しつぶそうとしている化け物共の山が少し震えた。

 

 「そうか……済まないが、後は任せるからな」

 

 瞬間、化け物共の山が大きく燃える。そして、立ち上がる男が1人。そして、倒れる女が1人。

 

 「……さら? サラ!」

 

 飛鳥が慌ててサラへと駆け寄る。まだ生きてはいるが、先程のような活力なんてものは見受けられない。

 

 「……君も、俺に頼んで逝ってしまうのか」

 

 さっきの怒号でもなく、何時ものような優しそうな声でもない。悲しみや悔しさが入り交じった小さな声。

 

 「また、訳の分からん奴に……奪われてしまうのか……」

 

 炎に包まれながら、平然と声を出す。熱い? むしろ、心地よい。誰かに包まれているかのような温もりと安心を感じる。

 

 「守ろうとしたのに、守られてるなんて……笑えるよな……」

 

 零れる涙は蒸発し、涙の後すら残さない。

 

 「クソっ……クソっ……」

 

 顔を上げる。化け物がいた。化け物が義仁を敵と認識したのか、さっきの鈍重な動きではなく俊敏に動き出す。人間には捕えられないであろうその速度。今は片目でも十二分に追うことが出来た。

 

 1匹が飛鳥の方へと飛んでいく。踏み込み、駆ける。体は悲鳴を上げてるが、そんなものは気にしない。飛鳥の元へ化け物が辿り着くよりも早く飛鳥の前に立ち、化け物を真正面から叩き潰した。緑色の液体を撒き散らしながら絶命する化け物。

 

 1匹はやれた。だが、それだけで息が上がる。脳が無茶苦茶な筋肉の利用に拒否反応を起こし、動きが止まる。

 

 その隙を縫われ化け物の巨大な針が迫る。咄嗟に反応しその頭を押さえ付けるように力を加えるものの、その巨大な針は義仁の脇腹を貫通した。

 

 「うぐっ……」

 

 痛みを感じにくくなっているのが幸いし、意識が飛ぶような事はないが、体に異物が入り込んでいると言う事実に吐き気を覚える。

 

 「あぁぁァアアア!!!」

 

 そのまま拳を振り下ろした。死なば諸共。その覚悟で。叩き潰される勢いに針は耐えきれず、半ばから折れ、化け物は緑色の液体を撒き散らしながら絶命。それと同時に義仁を覆う炎がゆっくりと霧散していく。

 

 足から力が抜け、地面へと身を投げ出す。視界に写るのは、いっぱいに広がる緑と赤。そして、巨大な影が2つぶつかる姿。

 

 しかし、それよりも……そんな事よりも……目の前でいい笑顔をしたまま目を閉じている愛した人の姿。

 

 「……ご、めん……まもれ……な、く……―――

 

 大きく血を吐き出し、義仁がそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、オッサンはこの程度です。
強化を施されても、この程度が精一杯なわけです。

では、また次回。


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第47話 平和

投稿です。

さぁて、またなんか書きづらくなってきたぞー(白目)

では、どうぞ。


 目の前の車が交差点内で急ブレーキを踏んだ。私はそれにつられてブレーキを強く踏む。体に掛かる圧。鳴り響く心臓。助かったと言う安堵。目の前の車の中には笑い会う青年が3人。酔っているのは一目瞭然だった。

 

 妻の舞が素早く通報を始める。娘の空は急ブレーキに驚きケホケホと咳づいていた。

 

 一向に進もうとしない前の車。クラクションを鳴らしてよかったが、下手に刺激するよりも通り過ぎてしまおうと車を前進させた。

 

 その時、横から強い衝撃を受けた。

 

 衝撃が収まって、舞と空の安否を確認するため振り向いた。

 

 窓の外に見える迫り来るタイヤ。そのタイヤが後部座席を踏み潰すように通り過ぎていく。空の頭は踏み潰され、私の顔には生ぬるい何かが飛んできた。

 

 私はその時妻の事を忘れていたのだ。娘の事で頭がいっぱいだった。けど、娘を助けようと動こうともしていなかった。出来なかった。

 

 妻は頭を打っていたらしく、運ばれた病院で空を追うように静かに息を引き取った。私に守ることの出来ない約束を残して。

 

 私が、あの時動けていたら。妻を助けられたかもしれない。私がもっと早く前の車を追い越していれば、誰も死なずに済んだのかもしれない。

 

 あの平和を壊したのは、他でもない私だった。

 

 

 ※

 

 

 pi-pi-pi-

 

 規則的に鳴る機械音。鼻につくキツいアルコール臭。微かに聞こえる人達の声。

 

 ゆっくりと瞼が上がる。ぼやける視界の目の前に見知った妻の姿があった。

 

「ま……い…………」

 

 ゆっくりとしか動かない右手。なんでもう少し早く動かないんだろう。舞の手を取ることも出来ない……その頬に触れる事も出来ない。

 

 ゆっくりと持ち上げられる右手を掴む。

 

「……ご、めん……。約束……守れな……かっ、た」

 

 舞が何かを叫んでいる。泣いている。俺が約束を守れなかったから? ごめんな……。1人にしてしまって、ごめんなぁ舞。

 

 疲れたなぁ……なにも、できなかったなぁ……

 

 

 ※

 

 

 ポトリ 握っていた手から力が抜ける。身体中の血が抜けていくかのような感覚。

 

 忙しなく動く救護班達。忙しなく鳴り響く機械音。忙しなく鳴り続く心臓。

 

「サラ様! 今から救命へと移行します。部屋の外にてお待ち下さい」

「あっ」

 

 赤黒い服を身に纏った救護班に押され、部屋から追い出される。

 

「サラ様……」

「ジン……」

 

 部屋の外にいた〝ノーネーム〟のメンバー。ペスト、耀、飛鳥、黒ウサギ、十六夜、ジン。私は、彼女達の顔を見れなかった。見れるはずが無かった。ただ、無言で顔を逸らすしかなかった。

 




お読みいただきありがとうございます。

おっさんの過去が出てきましたね。
この先、その過去をおっさんの口から語られることはあるのでしょうか。

では、また次回。


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第48話 微笑み

投稿です。

ネタが出てこなかったぜ……

では、どうぞ。


 生きてるのか。義仁が目を覚ました時、泣き崩れるジン達をみて呑気にそう呟いた。

 

 身体はいつもと変わらない。口の中が少し寂しく、片目が見えない。普段とは特に変わりのない目覚め。記憶もハッキリしているために困惑していたが、そもそも現在生きている世界が違う。瀕死を助けられるなにかがあったのだろう。

 

 泣き止まないジンや黒ウサギ。十六夜は良かったと笑っている。これ以上は義仁の体に障るとお医者様に言われて渋々出ていった。シンっと部屋が静まる。

 

 生きていたことそれは嬉しい。みんなが心配してくれていたことも、心が暖かくなる。けど、話を聞いていたら、かなり高価な霊薬を使用したとのこと。ユニコーンがどうちゃらと言っていた。

 

 なんにせよ、助かってしまった。また、私が助かってしまった。その霊薬とやらも、私以外に使ってくれたのなら、別の誰かを救えたのではないのだろうか。

 

「黒ウサギさんにバレでもしたら……怒られそうだな」

 

 痛みも何も感じない。ここに来る以前の状態を幻視する。そんな体を起こし、地面に立った。

 

「流石に……出ていったらだめだよね。会いたい人がいるんだけどなぁ、3人」

 

 けれど、出るわけにも行かず途方に暮れる。四角の窓を覗いてみれば、荒廃した街並み。しかし、水流は流れを変え茶色の濁流は、綺麗な水流へと姿を戻していた。この部屋は高所にあるらしく、街全体を一望出来た。瓦礫を運び、家を建て直し、活気のあるその動き。いつか見た北側を思い出す。

 

「どれくらい……死んだんだろう」

 

 部屋を1つ使って、多分人以上に手厚く介抱されたであろう自分に呆れる。助かった命を無下にしてしまう、そんな自分自身にも嫌気がさす。

 

「……がんばるか」

 

 もはや、勝手に死ぬことなんて許されない。それに、少しだけ……少しだけだけど、頑張りたいって思えた。

 

「昔を夢見たから……なんて、女々しいかなぁ」

 

 窓の外を見ながら、夢の内容を、昔の事を思い出す。潰れる頭、破られた約束を微笑みを浮かべながら告げるその口。

 

 登ってくるモノを必死にこらえた。

 

 窓を開け、少しでも気分を変える。けれど、気分が変わることなんてなかった。

 

ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと

 

2つの顔が、2人の人間が、最愛の愛娘と、最愛の妻が

 

 

 

 

 

 

 私に向けて微笑みを浮かべているのだ

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、引き伸ばし作戦でさぁ

あ、それと来週は入社式なので投稿は出来ないと思います。ご了承ください。

では、また次回〜


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第49話 小生意気な笑顔

投稿です。

先週は投稿出来ず申し訳ありませんでしたm(_ _)m
そして、例に漏れず引き伸ばし回です。

では、どうぞ。


 特に何もせずぼっーと過ごす。なにも考えず、人々が動くその姿を見つめていた。

 

 気付けば真上にあった太陽は傾き初め、西日が徐々に強まってくる。訪問者はいない。寂しいとは思わなかったが、いささか物足りなく感じた。

 

 1人……誰もいない。きっと、外に行けば皆に会えるのだろう。きっと、外に行けばみんなに会えるのだろう。

 

 いっその事、もう出てしまおうか。1度出てしまえば後は気楽にいけるはずだから。

 

 どうしよう、どうしよう。

 

 義仁の中で選択肢が揺れ動く。しかし、選ぶ事はできなかった。それもそうだ。今まで選ぶことができなかったからこうしてぐだぐだと生き残れているのだから。

 

 空を見上げれば夕焼け空。

 

「何もせずに終わったなぁ。どうしよう……寝ようかな……寝れるかな」

 

 少し贅沢な悩みを呟き、再び視線を下ろす。賑やかな喧騒は静まり、仕事を進める怒号や掛け声が聞こえ始める。手を振り男達に別れを告げる子供たち。そんな子供たちに手を振り返す大柄の男達。

 

「こんなに高いところからなのに、いがいと分かるものなんだなあ」

 

 ゆっくりと空の赤は濃くなっていく。もうすぐ、夜が訪れる。ゆっくり、しかし、確実に。日は落ち、代わりに白銀に輝く月が夜空を照らす。それに応じるように丸い光がぽわぽわと浮かび、街を照らした。

 

 今なお工事を続ける男達は、このぽわぽわ浮かんでいる明かりと、ランプの明かりを頼りに工事を進めているみたいだ。

 

 ランプの優しい赤色と、薄緑色の淡い、しかし力強い光に照らされた世界は幻想的なもので、つい言葉を零す。

 

「なんて言うか……綺麗だ」

 

 寝てしまおうかなんて考えていたけれど、もう少しだけ……もう少しだけ見てようかな。

 

 今更ながら立ちっぱなしだった事を思い出し、備え付けてあった木材の折りたたみ式の椅子を窓辺に持ってきた。

 

 椅子に座り、窓のさんに肘をついて、ぼんやりと外を眺める。たまに薄緑色の明かりがふわりと浮いてきては、丸っこい光の中に、もうひとつ丸い光が居て、こっちに気付くと慌てて下に戻っていく。

 

「私は……そんなに怖いのかな」

 

 しかし、小さな笑が零れてしまう。

 

「どう思う? 二人とも」

 

 誰に問うたか……答えは勿論帰ってこない。

 

「少しは、胸を張れるようになったかな」

 

 それでも、質問を繰り返す。答えは勿論帰ってこない。

 

「私は……、自慢の父親に成れていたのかな」

 

 頬を伝う物と共に質問を繰り返す。答えは勿論帰ってこない。

 

 はずだった

 

 

「私は貴方の様な父がいれば自慢に思うがな」

 

 

 特徴的な腰まで伸びた赤髪は炎の如くその美しさを主張し、強い意志を感じさせる瞳の頭上には、二本の角が猛々しく並び立つことは無く、根元から切り落とされていた。

 

 顔にはしてやったりとでも言いたげに小生意気な笑顔を浮かべていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

次回はサラ様との会話シーンとなります。

それと、就職し、まだ職場に慣れていません。職業柄朝が早く夜は早めに寝るので投稿出来ない場合があります。
出来る限りペースは乱さないようにはしたいのですが、月曜日に投稿されなかった場合は、
「あ、こいつ寝たな 」
と、判断してください。
その場合は、次の日かその次……少なくともその週の間に投稿しようとは考えています。

では、また次回〜


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第50話 イタズラ

投稿です。

低クオリティ注意。
疲れの中で書けるのはこんなもんです
許して(´・ω・`)

では、どうぞ。


「ま……い…………」

 

 咄嗟に出た義仁の呟き。それは、彼が生と死を彷徨っていた時にサラに投げ掛けたものと同じであった。

 

 おそらく……いや、確実に人名である。

 

 まい。木島義仁の何に当たるのか。いや、考えるまでもないか……。

 

「伴侶の名前か?」

 

 しまったと言いたげな義仁に意地悪く笑うサラ。義仁は素直に謝罪したが、サラの追求はここでは止まらなかった。

 

「伴侶……妻は箱庭にいるのか? 確か義仁殿は外から来たと聞いたが……まさかまだ外に? それなら、私にどうこうする力はないが、伝手を使えば多少の可能性は見えるかもしれんぞ?」

 

 ちょっとした仕返しでもあった。そう、いつもの軽い冗談だった。

 

「数年前に娘と妻は亡くなりました」

 

 その言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になって、悲しげな……今にも泣きそうなその顔を見て、漸く自分のした事の重大さに気が付いた。

 

「そ、れは……申し訳ないことを……言ってしまった」

「…………」

 

 サラはどうしたらいいか分からず喋らない。喋れない。義仁はサラに悲しげな笑顔を浮かべたままその口を開かない。

 二人の間に気まずい空気が流れる。1分か、10分か、はたまた数時間か。永遠にも感じられるその空気を壊したのは義仁だった。

 

「妻は木島舞。イタズラとかが好きな愉快な人でした。

 家に帰れば真っ暗な部屋。不審がって部屋の明かりを付ければすぐ後ろのクローゼットから飛び出してきたりされました。

 娘もそんな妻に影響されてか活発な女の子でしたよ。

 名前は木島空。顔にラクガキとかされてたなぁ。

 二人とも、度が過ぎたことをしたりもするんですよ。だから、怒ると……今のサラさんみたいにしょんぼりしたり、気まづそうに下を向くんです。その後、怒って謝られて……その後に外食して笑うのが私の日常。

 あの日も同じで、舞が何かに影響されてか死んだ振りをしてたんです。空は包丁の玩具を赤く塗ってました。後からそれがイタズラだと分かったから良かったですが、流石に看過できない事でしたので、叱って、二人ともしゅんと正座して泣きながら謝って来たんです。

 だから、許していつも通り外食しに車……馬車みたいなものでしょうか。に、乗ったんです。私が運転して助っ席に舞が、後部座席に空。

 いつもの通い慣れた道を何を食べようかと話してました。そして、交差点前で止まらな行けない状況になったとき、隣から無理やり車体を割り込ませてきた他の車がいて、明らかな飲酒運転。交差点を進める状況になり、前の車が前進。交差点真ん中辺りで急停止。

 妻は通報を始め、私は車間距離を開けその後ろで止まりました。後退されても対応出来るようにもしていたんです。

 けど、そこに大型のトラックが横っ腹からぶつかって、私達の車を中心に後輪を浮かせ回転を初め……娘の頭は私が後ろを振り向いたと同時に潰れました。妻は、トラックの前輪に巻き込まれ……病院に運ばれた後死にました。

 居眠り運転だったそうです。トラックはそのまま一回転、飲酒運転をしていた車を巻き込みながら壁にぶつかって停止したそうです」

 

 分からない単語だらけ。それでも、その悲惨さは脳にこびり付くほどに濃厚なものだった。

 




お読みいただきありがとうございます。

やっとこさオッサンの過去が語られました。

……これ通じてるかとても不安なんやけど(´・ω・`)

まあ、分からなかったメッセなり感想なりで聞いてください。なんとか説明は試みてみます。

お仕事少し慣れた気がする。

では、また次回〜


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第51話 似ている

投稿です。

夜の見回りも無事終わり、投稿できた。
しかし、駄文アンドの急展開……許して(´・ω・`)
(そろそろ許しても言えないよなぁ)

では、どうぞ。


 義仁は自らの過去をさらけ出した。それに、どう反応を返せばいいのかがサラには分からない。

 

 謝ればいいのか? 哀れめばいいのか? 貶せばいいのか? 受け入れればいいのか? 抱き締めればいいのか? 突き放せばいいのか? 1人にするべきなのか? 一緒にいるべきなのか?

 

「…………」

 

 サラの中で焦りが募ってゆく。何か言わなくては、何かしなくては。そんな思いばかりが山となり、一向にその頂上は見えない。口を開こうにも鉛のように動かない。体に至っては痺れ始めるほどだ。

 

 なんとか開いた口が塞がり、浮き上がったと思った手は、再び地に向かう。そんな動作が無意識に続き、義仁が……少し、笑った。

 

「本当に……妻にそっくりだ。悪かったことをして、私が怒るといつもおどおどし始めて動けなくなる。本当に……妻が目の前に居るかと思ってしまう」

 

 義仁は笑みを浮かべたまま続ける。

 

「貴女と居るだけで、あの日の頃を思い出せます。本当に懐かしい……って言われても、困りますよね。いきなりこんなことを言われても」

 

 恥ずかしそうに頬を掻く義仁。

 

「そんなことはないさ。少なくとも、私といて不愉快という訳では無いのだろう?」

「不愉快なんて、思ったことありませんよ」

「私はついさっき不躾な発言をした……そう思うなという方が無理な話だろ?」

「確かにそうですね。どうですか? 少しは気が紛れました?」

「いきなり妻と似ていると言われてはな。気が動転していたのが1周回って冷静になったぞ」

 

 サラは額に手を当て呆れた様子で言う。しかし、顔を上げてみたらそこにはいつもの笑顔を浮かべていた。

 

「やっぱり、笑顔の方がいいですね。なんか安心しました」

「そうか? そう言うのならそうなのだろうな」

 

 ふふんと言うように、サラは笑って見せた。

 

「流石に長いし過ぎたか。また明日様子を見に来よう。今回は運が良かったが、生きている方がおかしい程の怪我だったんだ。今は安静にしておくように。わかったな?」

「分かりました。また明日」

 

 サラは部屋を後にした。廊下には涼し気な風が流れている。時間も時間の為シンっとした静寂がより一層その涼しさを強めているのだろう。

 

 サラは義仁のいる部屋の扉を閉め切り、その場から動かない。

 

 腕を組み、じっと何かを待っている。

 

「いるのだろう? いい加減姿を現したらどうだ?」

 

 しかし、誰かが出てくる気配はない。

 

 不意にサラはその組んでいる腕を伸ばし、おもむろにその手のひらから炎を生み出し廊下の先に広がる暗闇に投げつけた。

 

 炎は燃え広がることもなく、静かに鎮火した。炎の先には、1枚の半透明な黒い壁が炎の進行を受け止めていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、なんだ……色々とすまない……
ぶっちゃけ話を考えるほど頭が回ってない。それと、考えても忘れる。
1回週を跨いだ方がいいのかしら……

まあ、多分来週も投稿はすると思います。

では、また次回〜


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第52話 理由

投稿です。

なんだかんだでこの話も終盤が近いんだなと今更になって気付きました。

では、どうぞ。


 黒い壁がぐにゃりと変形し霧散する。その先に居たのは白黒のまだら模様が特徴的なワンピースを着た小さな少女。かつて、箱庭の北側を襲い、〝ノーネーム〟によって打倒されたはずの少女。黒死斑の魔王〝ブラック・パーチャー〟。

 

「あら、今回の戦争で前線を押し上げてあげた重役者に向かって随分な挨拶じゃない? それとも、これがこっちでの挨拶の仕方なのかしら?」

 

 クスクスと小馬鹿にするように袖で口元を隠しながら笑う。

 

「あれだけ殺気を出していたのだから当然だろう? なあ、疫病の魔王ペスト」

「あらあら、随分好戦的ね。今の貴女に勝ち目なんてないのに」

 

 ペストの周りに黒い靄が立ち込める。それこそが、彼女を彼女とうなづける力。その靄に触れれば最期。黒い呪いが体を蝕み殺す。

 

「確かに、今の私には勝てないだろう。だが、そうすれば、貴様の目的とやらも実行出来なくなるのではないか? そもそも、なぜ狙う」

 

 ペストは黒い靄の上に腰を降ろし、足をプラプラと揺らしていた。その様子にサラは舌打ちを仕掛けるも何とかこらえる。ここでペストの反感を買えば……2人まとめてお陀仏だからだ。

 

 昔の、角を失う前ならば赤子の手を捻るかのごとくペストを黙らせることが出来たことだろう。しかし、今はどうだ。角はなく力のほぼ全てを失った状態。対してペストは、ジンの保有するギフト〝精霊使役者(ジーニアー)〟の効果で、魔王を名乗っていた時ほどではないがほぼ全力の力を出すことが出来る。現に、サラの放った炎を軽く受け止めたのだから、結果は分かりきったものだった。

 

「そうねぇ……2つ目の質問を答えれば全部解決かしら」

 

 ペストはそれを分かってかニヤニヤといやらしく笑いながら告げる。

 

「私はペスト……簡単に言えば、ペストによって死んだ者達の思念体みたいなものかしら。復讐の塊みたいなものよ。なんの罪もなく、なんの前触れもなく、気が付けば全てが失われた。友人も恋人も家族も……これからの予測不能で楽しみにしていた未来すらも全てね。

 あら? 何処かで聞いたみたいな話しね? んー……何処かしら? ついさっき聞いた気がするけどなー」

 

 クスクスクス ペストは笑う。サラは思う。ああ、確かにそうなのかもしれない。そう言う点でならこの2人は似ているのだろう。だが、それでは答えになっていない。同じ境遇と言うだけだ。似た悲しみを背負うと言うだけだ。それが、義仁を狙う……殺す理由にはならない。

 

「あら? 分からないって顔してるわね。結構わかりやすいと思うのだけど。まあ、いいわ。きちんと声にして教えてあげる」

 

 ペストは黒い靄を動かし、サラの目の前に立つ。そして、理由を言い放った。

 

「ただの同族嫌悪よ」

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、かなり無理矢理ですが、許してください。
ペストの存在もそんな感じやろ多分。的なノリで決めてますので許してね(๑>؂•̀๑)テヘペロ
あ、あとおっさんとペストの甘い展開を期待していた方には申し訳ない事をしてしまいました。
でも、これ決めてた事だから:(´◦ω◦`):ガクブル
少なくとも、そう言う関係になるとは言ってないはずだから((((;゚Д゚))))ガクブル

では、また次回〜


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第53話 仲間

投稿です。

粗捜しが沢山来て軽く心が折れかけましたが私は元気です。
やっぱ、設定がキチンとしているのをどうこうする技量はちゃるもんにはないようです(´・ω・`)

では、どうぞ。


「同族……嫌悪?」

「ええ。同じ復讐の心を持つはずなのに、ただ諦めてうじうじして取り敢えず動いてみる。まるで、私達の事を馬鹿にしているようで……」

「そこまで行くと理不尽どころの話ではないな」

「理不尽結構。こっちは元とは言え魔王よ? 自分の好きに出来ないものは捩じ伏せる。目障りなものは踏み潰す。気に入らない物は叩き壊すだけよ」

 

 ペストはサラの頭を掴み上げる。見た目10歳程度の少女とは思えないその剛力。以前の、竜角を失う前であればどうとでも出来た。そう確信できる。しかし、竜角は既にこの〝アンダーウッド〟を守る為に捧げた。

 

「あははははっ! 竜角を失って腕力すら無くなったのね!」

「私を……殺せば気が済むのか?」

「はぁ?」

「私を、殺せば気が済むのかと聞いている」

「はぁ……つまらないわね貴女」

 

 ギリギリと、ペストの心情を写すが如くその手に掛けられる力が強まる。サラは歯を食いしばり声を上げまいとペストを睨み付け、なんとか言葉を紡ぐ。

 

「つまらない……ああ、つまらなくて結構だ。この命を! 〝アンダーウッド〟を救ってくれた男の為にもう一度死ぬ事が許されるのであればそれは快挙ですらある!」

「……あっそ。なら、お望みどおり……ッチ、勘づかれた」

 

 ペストの腕から力が抜け、ペストを支えていた黒い風も霧散した。先程の台詞から、ペストの使役者であるジンの力が干渉したのだろう。

 

「あーあー……さっさと潰しちゃえばよかったかしら」

「……お前には仲間は居なかったのか」

「なに? また吊るされたいの? もしかしてマゾかしら」

「いやなに、仲間がいればここまでひねくれなかったのかと思ってな」

「嫌味が言える程度にはまだ元気なのね。やっぱり頑丈な種族ね貴女達。

 にしても、仲間……仲間ねぇ……駒なら居たけど、仲間なんて居なかったわ。私達も仲間という訳では無いし。

 はぁ……こんなマゾを悦ばせただけで終わったなんて……今の私だと人間1人も殺せないだろうし。はぁ……無駄な時間だったわ」

 

 ペストは頭を抑え立ち上がるサラを一瞥し、鼻で笑った後にその場を去っていった。

 

「助かった……か……。ここまで弱くなっているとは。一時は装具に頼るしか他無いか」

 

 アイタタと壁に手を当て、ゆっくりと立ち上がる。取り敢えずは撃退出来たようだが、毎度毎度今回のように事が上手く進む訳ではない。

 サラ自身の強化もそうだが、義仁を死なないようにもしなければならない。不死鳥関係の物でも持たせておけばいいのだろうが……等とぶつぶつ頭を悩ませながら、その場を後にするサラだった。

 




お読みいただきありがとうございます。

粗捜しはやめちくり〜(ぶっちゃけ設定ガバガバなんで指摘してくれること自体はとても有難いので今後ともよろしくお願いしますの)

まあ、ちょこちょこ修正して行けたらなと思っとります。

では、また次回〜


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第54話 小競り合い

投稿です。

最近腰がブレイクしそうですが、私はゲンキです。

では、どうぞ。


 逆廻十六夜は困っていた。正直面倒臭いので色々と雰囲気をぶち壊しながら割り込んでも良いものかと真面目に困っていた。

 

 極限まで息を殺し、気配を消しチラリと壁の向こうを覗く。そこには赤と黒が居た。

 

(クッソじゃめぇなアイツら。いっその事吹き飛ばしてやりてぇ)

 

 しかし、〝ノーネーム〟きっての最大問題児も珍しく空気を読む。巻き込まれるのも面倒臭いと天秤に掛けていただけなのは秘密だ。

 

(取り敢えず……待つか……)

 

 ここに黒うさぎでもいたら、そりゃぁ号泣しているであろう光景が続く。

 

(……)

 

 黒と赤の話を音楽代わりに……ならなかったが、取り敢えず聞き流し壁に背を付ける。

 

(…………)

 

 いい加減眠くなってきたのを我慢し、なんと、くだらないと決めつける。死ぬのが快挙とは……もはや笑うのも馬鹿らしい。それなら、やっていることを除けばペストの方が好感が持てるかもな。なんてぼんやり考える。

 

(……………………)

 

 もしここで赤が、サラ・ドルトレイクが死ねばどうなるか? 簡単だ。木島義仁と言う人物が本当の意味で事切れる。今、木島義仁が生きていれるのは、過去の因縁が大きな要素だろう。言い換えれば……身近な人の死、及び自らが死ぬ事による影響だろう。

 

(……おっさんは何処まで……理解出来てるんだろうな)

 

 それが知りたくてここまで来たというのに、目の前では赤と黒の小競り合い。いい加減眠くなってきても仕方が無いというものだ。

 

(今でこそ〝ノーネーム〟と言う存在がおっさんの呪いになって入るみたいだが……それでも、過去に引きづられてる。だが、ただ引きづられてるようにも見えない。

 リリとの関係を見るに、家族が死んだのは分かる。逆に言えばそれしか分からん。人の心ほど読めないものは無い……面倒臭いこって。

 …………こう言うのは金糸雀の専売特許だろうが)

 

 十六夜は大きく溜息を吐こうとし、ああ、そうかと2人の事を思い出して諦めた。

 

 だが、同時にあちらの決着も着いたようで黒、ペストが先にその場から去る。サラは十六夜のいる方へ歩いてきたので、天井を掴み身を隠す。サラは十六夜に気づかぬままその場を去っていく。サラの姿が見えなくなったのと同時に天井から手を離す。

 

「はぁ……なんで俺がこんな事をしなければならないのか……」

 

 ともあれ、漸くこのモヤを消す事が出来る。意気揚々と十六夜は義仁の部屋へと入る。そこには、唯一十六夜のこの疑問を解決出来る存在……木島義仁がベットに寝そべり、目を閉じていた。軽く毛布に触れると、とても柔らかく羽毛で作られているのが分かる。少し耳をすませばスヤスヤと、心地よい音。そう、つまりは寝ていた。

 

「起きろよおっさん」

 

 既に日は落ち、月は真上で輝き続ける。時計を見れば12の地点を過ぎているのは明白。そんな時間までとても、とてもつまらない小競り合いを見せられながらも待ち続けた結果がこれ。問答無用で毛布を剥ぎ取った俺に非は存在しないな! そう開き直る十六夜だった。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、十六夜くん用の軽い導入です。
たまにはホンワカした話も入れないとね?

では、また次回〜


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第55話 酒

投稿です。

これあれだ、スランプだ。今更ながに気付く。
なんか、先の展開が自分でもよく分からんくなっとる。

ま、要するに引き伸ばし会続行ですすいません。

では、どうぞ。


「えっと……何か用かな十六夜くん?」

 

 半目のまま義仁が呟く。0時を回りめずらしく爆睡しているところを叩き起されたのだから仕方ないのだろう。

 

「少し話を聞きたくてな」

 

 悪びれもせずに端的に言葉を発する十六夜。胸の内では軽く後悔していた。

 

「話?」

「おう。アンタが背負ってるものがなんなのかが気になってな。飲むか?」

 

 十六夜はポケットから小さな水筒を2つ取り出した。義仁は水筒の口を開け軽く中を嗅ぐ。ツンとしたアルコールと桃に似た甘めの香りが一度に鼻を突き抜ける。どう考えても果実酒であるそれを十六夜はなんの躊躇いもなく煽る。

 

「結構度数は高いから、それなりに気は楽に話せるんじゃないかってな。話したくないならそれでいい。話してくれるのなら、笑わない。約束は守る男だぜ?」

 

 十六夜はかかかっと刻みよく笑ってみせる。

 

「約束……か」

 

 義仁は呟いた。笑っていた十六夜も真剣な表情になる。義仁は手の中の酒を弄び、どうしようかと悩んだ末ちぴりと口をつけた。

 

「十六夜くんは……多分知ってるのかな。一時期マスコミが家に蔓延ってたし、奇跡の生還とか言われたよ。トラックの居眠り運転と乗用車の飲酒運転に挟まれた車。奇跡の生還を遂げた父の心境……だっけ。あの時は疲弊しきってたから何かを感じることもなかったけど、いま思うと大概馬鹿げてる」

 

 もう一口と水筒へと口を付ける。

 

「確かにあったな。事が事なだけに覚えてる。確かあの後トラック会社がとち狂ってオッサンを訴えたんだっけか」

「ああ、そう言えばそんな事もあった気がするよ。なにも話さないまま終わったけどね」

「あの時は色々と社会が荒れたからな。加害者側が何故か被害者を訴えた。前代未聞だってよ」

「そんな荒れてたのかい? あの頃のことはよく覚えてないからなぁ。それよりも妻との約束がずっと引っかかってたからね」

 

 約束。それがオッサンにとって大切なものなのだろう。という事は思考を巡らせるまでもなく分かった。だが、感じていたモヤ……違和感は拭えない。これからが、この違和感を解消してくれるのだろう。そう願い十六夜は問い返す。

 

「約束? さっきも小さく呟いてたよな」

「……娘はその事故の際に私の目の前で頭が潰れた。妻は病院で静かに息を引き取ったよ」

 

 義仁は水筒を傾け中身を全て流し込む。元々量が少ないとは言え、十六夜は半分も飲んでいない。それだけ、心を許しきれていない……開ききれていない相手に話すのは気が持たないということだろう。

 

 だが、ここを、これを乗り越えなければ、きっとオッサンは進めない。きっと、進めているつもりになっているだけなのだ。まだ、立ち上がって、なんとか前を向けられただけなのだ。だからこそ、歩く為に、最初の1歩を進ませるしかない。

 

 当初の目的とは違ったものが見えてきているが、それはそれで僥倖。十六夜は話を聞き続ける。

 

 夜はまだ長い。

 




お読みいただきありがとうございます。

こんど軽く修正するかもです。
一応予定では、次まで十六夜で、次から原作の収穫祭の続きになるかと思います。

では、また次回〜


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第56話 なまくらの刃

投稿です。

ダークソウルリマスター楽しいです。
決してリマスターをやっていて構想をねり忘れていたとかではありません。

では、どうぞ。


「それで……って聞くのも野暮だが。その後どうしたんだ?」

 

 まあ、聞かなくても分かりきった事なんだけどな……。十六夜は心の中で呟く。

 ただ、同じ屋根の下に住むと言う、寮の様なものでさえあれだけ強い家族愛を見いだせる。見出してしまう人間が、本当に愛した者達が消えればどうなるかなんて……予想できないわけがない。

 

「最初は首を吊ろうとしたかな。ロープなんて無かったし……確か……コードを何重かにしてやったなぁ。けど、結局首を吊るのは出来なかった。

 一時は仕事も行かなくてね。と言うよりは休んどけって言われた。

 2回目は……飛び降りだったかな。住んでたところがマンションだったしね。けど、結局足を前に出すことは出来なかった。

 その次は餓死。山の中に入って、これなら逝ける、今から逝くからなんて思ったよ。けど、気が付けば我が家に帰ってきてた。

 死のうとする時、毎回妻と娘が私の前に出てくるんだ」

「…………幻覚か」

 

 言うか悩んだが、十六夜はその言葉を放つ。それに対し義仁は反応を強くは示さなかった。無反応か、反発してくるか……そう踏んでいた為その返答は予想の斜め上を行く。

 

「そうだね」

 

 あまりにもあっさりとした回答。

 義仁が見たと言う妻と娘。恐らくそれが義仁が死ぬことすら出来ないでいる原因だろう。

 

 だから、十六夜はこの回答に違和感を覚えた。ここまで自らを責める人間がみる幻覚が、まともなものなのだろうか? かつてあった過去を思い出すわけではない。自らがトラウマとする存在を幻視する。

 おぞましいものを見ているのだろうと、勝手に予想つけた。きっと、なぜ1人楽になろうとしているんだ? とでも言いたげなモノを見たのだろうと。

 だから、十六夜はさらに踏み込む。

 

「やけにあっさりしてるな」

「と言うよりは、怖いんだ。死ぬのも勿論だけど、このまま死ねば、家族に愛想尽かされるんじゃないか、尽かされているんじゃないか。って」

「それは……なんというか、どうしようもない事だろう? 確認のしようがないし、なにより自己満足と言えど、家族に会いたい。そう思えば……言っちゃあ悪いがな」

「そうなのかもね。でも、私には出来なかった。だって、私が死のうとすると……妻も娘も悲しそうに笑うんだ。そして、諦めたら嬉しそうに微笑むんだ。どうすれば、最愛の者達を裏切ることが出来る。

 今でも、2人に会いくて……側に行きたくて……自殺を図ろうとしたさ。この世界でも。君たちを理由に何度も……何度も……。けど、実行もできなかったし、計画すらも立てれなかった。けど、けど、2人はそれを嬉しそうに微笑むんだ。だから、これでいいって心は整理を付けたつもりになってしまう。

 リリちゃんを助けたのも、ジンくんの力になったのも、ロオタスくんを助けたのだって……それこそ、ノーネームの力になろうとしたのすら……私が……女々しい臆病な人殺しだからじゃないか。

 何かを理由にしないと、私は生きていけない。その為の勇気も気力もわかない。ノーネームのみんなを家族として見ないと、誰かを支える理由がないと僕はただの動くことすらしない亡者に成り果てる。そんな姿妻と娘には見せたくない。私は2人の誇りでありたい。

 だけど、それの隣に直ぐにでも2人に会いたい欲求が俺にはある。もう、板挟みなんだよ僕は。何をするにしても。

 いっその事、魔王に殺されれば良かった。そんなことすら、沢山の人が死んでる中で思ってしまうほどに、俺は私の心が嫌いになってしまっているんだ。それ以上に妻と娘を愛しているんだ。

 

 だから、私は何とかしてこのまま誰かを支える柱になって行くと思う。

 

 こんな話しか出来なくてごめんね」

 

 静かに、ただ静かに押し寄せる波が引いていった。

 笑顔という物が人によっては暴力となり得ることは知っている。理解している。

 その優しさが、その慈しむ心が最後の一歩を踏み出させる事も。

 愛とは均等になって漸く花を咲かせる。重すぎるだけの愛はやがて黒く霞、軽すぎる愛は軽率に人を傷つける。

 

 だが、笑顔が、優しさが、慈しむ心が、重すぎる愛と、軽すぎる愛、均等に取れていたはずの愛すらも、この男には……なまくらの刃となって襲っていた。

 

 動くに動くとことも出来ず、その手に握られた空の水筒。もっと、持ってきておくべきだったか。と、後悔しながら窓の外を眺める。

 

 そこには、中途半端に欠けた月が、雲に腰掛けるようにして空に浮かんでいた。

 




お読みいただきありがとうございます。

ま、そんなとこです。
毎度思いますが、上手く説明するって難しいですよね。軽く混乱してる感じを加えようとすると尚更。

次回は……原作に入る予定ではあります。原作取り出してないのでまだ分かりませんが。一応引き伸ばし回の可能性もありますのであしからず。

では、また次回〜


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第57話 鎖

投稿です。

先週は投稿できず申し訳ありませんでした。
実家で少しありまして、まあ、無事にもろもろ終わりました。

あと、今回も引き伸ばしになります。
考える余裕が無かった。ゆるして(´・ω・`)

では、どうぞ。


 そう、それは幻覚だった。そんな事、とうの昔から分かっている。こんな、酒に身を任せるように逃げようとも、分かっている。

 

 そう、それは幻聴だった。いつも、いつも、逃げようとする私を繋ぎ止める。楽になりたい私を、何がなんでも繋ぎ止める、自らの甘さだと知っている。

 

 そう、それは妄執だった。あいたい、会いたい、あいたい、アイタイ。刹那に失われた、彼女の胸に飛び込みたい。我が子を天高く持ち上げ歩きたい。

 

 そう、それは願望だった。決して、叶わぬ願いに、託された願いを消してくれと、叫び続ける自らの、諦めるしかない、願望。

 

 終わらない。終わらせてはくれない。たとえ、何があろうとも、それは終わらせようとはさせてくれない。

 

 心が壊れれば、直すように目の前に現れ、忽然と消える。

 

 逃げようとすれば、立ち直らせるために声が聞こえる。

 

 望みこそすれど、飛び込むことも、持ち上げることも出来ない。

 

 忘却は許されず、いつも頭の中心にはかの願いが渦巻く。

 

 終わらせる……そんなことは、許されない。

 

 十六夜は、窓の外を眺めている。何を考えているのだろうか、何を感じたのだろうか。そんな事、分からない。だが、それでいい。わからない方がいいのだろう。

 

 人の心とは、分かったようになれることはあれど、分かり切ることは出来ない。理解できるものでは無い。

 

 話せばスッキリする。そんな事もなかった。それはそうだ。彼に話さずとも、酒の勢いに身を任せるふりをして、何度か話したことなんていくらでもある。

 

 じゃあ、なぜもう一度試したの。

 

 そんなの……自分でも分からない。何となく、楽になれるかなって。そう、思った。もしかしたら、この甘さを彼が切り捨ててくれるかもしれないから。

 

 なぜ、それを甘さだと断定するの。

 

 だって、そうだろう。私は、私の過去と向き合わずに死のうと、楽になろうとしている。けど、結局怖がって逝くことができなかった。今も、今までもこんな風に誰かに思いを、切り捨ててくれと願っているんだ。甘さ以外のなにものでもない。

 

 違うと思うけど。

 

 違わない。きっと、強い人なら、すぐに立ち直るかその足を奈落に落とす。私のようにずっと迷い続けてなんてない。

 

 大切な人が死んで、迷わない人なんていないと思うけど。

 

 だとしても、私ほど迷い続けてなんてないだろう。

 

 相変わらず、貴方は変なひねくれ方をしてるわね。私は……

 

 

 

 

「強いと思うな」

 

 

 

 

「え?」

 

 夢を見ていた。きっと、恐らく、それは夢だった。だから、今の言葉が……信じられない。なぜ? なぜ君まで?

 

 その一言が、思考を乱れさせる。今までの鎖を……繋がれたはずの……自ら縛られていた鎖を問答無用に、引き千切り始めた。

 




お読みいただきありがとうございます。

本当ならまだ先で立たせるつもりだったフラグを今に持ってきました。
つまりは、今後の展開をもう一度練り直さないと行けません。

シヌル(´・ω・`)

では、また次回〜


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第58話 朝日

投稿です。

次回辺りから漸く原作に戻れそう……
長かった……

では、どうぞ!


「あー、なんか予想通りの反応でつまらないな」

 

 さっきまでの暗い雰囲気はどこに消えたか、十六夜は大きく欠伸をする。その反応をみて、義仁は十六夜の発言が冗談のものだと判断した。

 

「……冗談なら勘弁してくれないかな」

「冗談で俺が誰かを強いだなんて評価するとでも? なら何度だった言ってやる。俺はアンタが強いと思う。なんでかって? 誰かのために、愛する人の為にそこまで悩めてるからだ。迷えてるからだ。オッサンが見た幻覚のベクトルが違えばそんな評価出さないさ」

 

 悩むことが強さに繋がる? 迷うことが強さだと? 分からない。

 

「納得してねぇな。たく……まあ、この事は気長に考えていけばいいんじゃねぇノ? 今までも散々考えているみたいだがな」

 

 十六夜は小さく笑いを零す。何がおかしいんだ。君は何故私を認める。そんな万能な力を持つ君が、何故、私なんかを強いと言ってのける。

 

「そもそもの話だが、オッサン。アンタが居なければ俺たち〝ノーネーム〟はここに立つどころか、下手したら北側にすら行けていなかった」

 

 何故?彼ら程の実力があれば、私がいても、いなくても何も変わらない筈だ。

 

「忘れたのか?俺達が箱庭に飛ばされたその日の事を。いやまあ、オッサンも色々混乱してる途中だったようだし無理もないか」

 

 飛ばされたその日? 思考を巡らせる。この世界に来て、濃すぎた日常をかき出しながら思い出して行く。

 

「……あっ」

「その反応……マジで忘れてたのか……どういう思いでリリと接して来たんだか」

「いやでも、そうだとしても……きっと君たちならどうにかして」

「ああ。どうにかしただろうな。消えたリリ。フォレス=ガロの脅迫。アイツは拐った子供は直ぐ食い殺してたんだとさ。俺たちはその事実を知っていた。だから、恐らくフォレス=ガロを完膚なきまでに叩き潰しただろうよ。リリって言う犠牲の対価として。

 そんなコミュニティが上手く回ると思うか? 良くて俺達が抜ける。最悪空中分離。ガキどもは身よりもなく箱庭の外で危険と共に過ごすことになったかもしれない。それを防いだのは他でもないアンタだ。

 似たような話を当時話したと思うんだが?

 ジンの支えに唯一なれたのもアンタだけだしな。俺たちはあくまでジンをリーダーとして支えるしかない。ジンにとってアンタは親父みたいなもんなんだ。

 なんなら、もう1つ。今回の襲撃。最後の最後に大手柄を上げたのが誰だが知ってるか? 巨龍の心臓射止めた俺? 俺を運び、ゲームの謎の大元を解いた春日部? 巨龍を止めるべくディーンに力を注いだお嬢様とサラ?

 誰も違う。ディーンが受け止めなければ俺達は巨龍の心臓を潰すことはできなかった。お嬢様はサラが居なければ巨龍を受け止めることは出来なかった。サラはお嬢様が居なければ打つ手なく潰されていた。そう、役者は揃っていた。勝てるはずだった。だが、土台は泥沼。歩く事ができなきゃ何にもできねぇ。もう、心当たりしかないだろ?

 おっさんは、サラとお嬢様を守った。おっさんがいなければそもそもの土台が無かったんだ。土台が無いのにどうやって花が咲く? つまりは、そういう事だ

 まだ言い足りないが……まあ、夜もふか……明けてきたな。ま、そう言うこった。取り敢えずは、俺がアンタを守ってやる。支えてほしけりゃ支えてやるし、押して欲しけりゃ押してやる。んじゃな」

 

 十六夜は窓から飛び降りた。本来なら慌てるところなのだろうが、彼なら大丈夫だろう。彼が飛び降りた窓からは朝日が射し込む。まだ、理解が追い付かないでいる。追いつかないではいる……が、あれだ。

 

「年下にあそこまで言われて……私は何をしているんだろうな」

 

 乾いた笑み……などではない。穏やかな笑みを浮かべ、義仁は前を向いた。支えてくれる人がいる、押してくれる人がいる、それが、理解出来た。わかってしまったのだから。目を逸らす暇もなく断言されたのだから。

 

 前を向く。

 

 その顔に、朝日が射し込むのに、そう時間は掛からないだろう。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

ケータイ変わって変換しづらい……
誤字脱字等が多いと思いますが……何卒ご容赦を。

では、また次回〜


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第59話 助けて

投稿です。

……す、進んではいるから……原作には入ってるから……:(´◦ω◦`):ガクブル

では、どうぞ。


 巨龍との戦いから半月が経過した。

 〝ノーネーム〟の面々も穏やかな日々の中で個々の活動に専念し始めている。

 

 巨龍の襲撃によって延期となった〝アンダーウッド〟の収穫祭だったが、有志の援助と〝サウザンドアイズ〟の手広い広報により再開の目処も早い目途で立てることが出来た。

 

 南側に新たな〝階層支配者〟が誕生することを正式に発表することで、多くのコミュニティへ集客を図ったのだ。魔王の撃退という実績と功績を得た〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟は、多くのコミュニティに着任を歓迎されるだろう。

 

 それと同時に〝ウィル・オ・ウィスプ〟と〝ノーネーム〟の2つのコミュニティもまた、魔王撃退の名誉と社会的な信頼を得ることに成功していた。

 

(サラさん……感謝はしています。していますよもちろん。組織の存在を記す象徴がない〝名無し〟の私たちに気を遣って、広報に手を貸してくれたのも)

 

 〝ノーネーム〟には組織の存在を記す象徴がない。どんなに大きな功績をあげようとも、その存在が認知されにくい立場にある。連盟の議長であるサラはそれを気遣い、招待状の文明に〝ノーネーム〟の功績を載せてくれたのだ。

 

(収穫祭。それに〝ノーネーム〟全員を招待してくれたのにも感謝してますよ。わざわざ子供たちも来られるように〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟から警備を回してくれることなんか、感謝しきれません。みんなもそれが嬉しくて本拠の大掃除を始める程でしたから)

 

 当然ながら、これは破格の待遇である。名前を失い、象徴もない。そんな有象無象の集まりとさえ言われる〝ノーネーム〟。そんなその他大勢である筈の〝ノーネーム〟が招待される側になったのだ。歴史を変えたと言っても過言ではない。

 

(ええ、ええ……感謝してもしきれませんよ、本当に。だからと言って……なんでこんな事をしたんですか……)

 

 サラがやったのは大きく2つ。1つは〝ノーネーム〟の功績公布。もう1つは〝ノーネーム〟全員の収穫祭への招待。

 

 そして、サラと白夜叉が軽い悪戯で行った……木島義仁の講演会。

 

 場所は〝アンダーウッド〟十六夜達よりも一足先に戻ってきた義仁を待っていたのは広大な荒地。土は硬く、掘り返すのにも一苦労する場所に小さな高台。そこに立つは〝ノーネーム〟の影の立役者である木島義仁。視線を下げれば100は下らない老若男女。遠巻きに笑い合っているはサラ=ドルドレイクと義仁のスポンサーである白夜叉……今しがた白夜叉だけ何処かへと行ってしまった。

 

(仲いいんですね2人とも……)

 

 助けてくれと、念を送ってみるも返ってくるのは意地の悪い笑と振られる手ばかり。

 

 視線をどこかへ逃がそうにも何処を見ても人がいる。キラキラとした羨望の眼差しが義仁を照らしていく。一体どんな宣伝をされてしまったのか。軽い絶望を抱えながら、義仁は心の中で小さく呟いた。

 

(助けて……十六夜くん……)

 




お読み頂きありがとうございます。

進んでないし、原作と関係ないじゃんって?
……ま、まだ微妙に収穫祭前だから:(´◦ω◦`):ガクブル
黒うさぎ拉致前だからセーフセーフ((((;゚Д゚))))
てか、よくよく考えると5巻って導入難しい事に気付く。

FGOでログインしてない人を消したらフレンドが一気に減った……
そのうちFGOの小説も書きたいものです。
あ、フレンドTwitterにて募集してますので、よろしければ。

では、また次回〜


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第60話 土の味

投稿です。

……タグに書いたやつは書かないとだから……許して……許して……
次回はキチンと原作入るんで……

では、どうぞ。


土を掘り、色を確認。ほんのり黒い。粘度は薄く、水分もあまり感じられない。口に含み軽く咀嚼。口の中の水分を土が吸い取り、本来あるべき姿を少しだけ取り戻す。

 

舌に絡み付き、泥のような食感は少ない。砂に近い物が少々。手の平に吐き出し、改めて色を確認。色は黒。触感は予想通り砂。唾は殆ど吸収されず、排水性が良く、吸水性が悪い事が分かる。

 

そして、口に含んでも人体に影響が無いことからこの土地に魔王の呪い等が判明した。

 

「と、このように恩恵に頼らずとも口に含んでみるだけでこれだけの事が分かります」

「いやまて、そもそもなぜ口に入れた」

「それが1番手っ取り早いですから。ただまあ、呪いが残ってるところでは人体に影響もあります。現に1度体が動かなくなったことがありますし」

 

ならやめろよ……。と言った視線が義仁を射抜く。ここは〝アンダーウッド〟の外れ。かつて魔王によって滅ぼされ、手の付ける暇も無かった土地。そこに呼び出されたのは木島義仁。簡単に言えば研究発表の場である。

 

取り敢えず事情を当事者こと愉快犯であるサラに話を聞くべく、集まってくれている人にはある程度話をし、邪魔になる雑多に散らばった木材等をひとまとめに回収してもらうよう指示を出した。

 

さてと、とサラの隣まで進んでいく。サラは呆れたような笑を浮かべ義仁へと近づいてきた。

 

「お前は堂々と危険な行動を取るのだな。どう反応すればよいのか分からんぞ」

「〝ノーネーム〟に戻って白夜叉さんに拉致られて〝フォレス・ガロ〟と言う、以前襲撃されたコミュニティに連れられたんですよ。そこはもうジャングルみたいになってまして、レティシアちゃんの鬼種の呪いが残ってたようで……体が拒絶反応を起こしまして……。あれより酷くはならないかな……と」

「それを聞いてより一層不安になったんだが? まあ、今回は悪戯……もとい講演してもらっている側として目を瞑るが……自分の体は大切にな?」

「気をつけます。それで? もうすぐ収穫祭なのに、どうしてこんな事を?」

「…………農地がな。開場中央は無事だったし、少し外れたところも恩恵を持った者を向かわせた。ただ軽く荒れてるだけの場所だからな。残った害虫駆除程度で終わるはずだ」

 

それなら尚のこと理由が分からない。祭り開場も無事で、残ったのは害虫駆除。講演をこんな急に行う必要は無いはずだ。

 

「それと、確立していない技術を流して良かったのですか? 自分で言うのもなんですが、試した土地は〝ノーネーム〟だけ。無償とはいえこんな簡単に流していいとは思えないのですが」

「あー、そのなー、それなー、白夜叉様がなー」

 

サラの目が泳ぐ。違和感を覚えない筈がない。あぁ、なるほど、そういう事ですか。義仁は納得した。

 

「……今度からはせめて一言下さいね」

「ハイ……」

 




お読み頂きありがとうございます。

農業書いてるのに、農業要素がないのだ。書かないとなのだ。その結果が今回と前回。次回はキチンと原作入るんで……

あと、これから6……7?巻まではおっさんに平和が訪れます。そんなの求めてねぇんだよ!って方はごメーンね。

では、また次回〜


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第61話 渡し船

投稿です。

ま、もうめんどくさいで無理やり原作にはいります。
ごメーンね(・ω<) テヘペロ

では、どうぞ。


 義仁の講演会から三日後。十六夜達と合流。それから2日後の今日義仁は黒ウサギと合流した。

 

「久しぶりだね黒ウサギさん」

「お久しぶりです義仁様。こうして顔を合わせるのは……五日ぶりになりますか。どうですか? 皆様よりも早めにこちらに呼ばれたようですが……体調が悪くなったりとかは……」

 

 黒ウサギとしては、義仁は守らなければいけない対象。〝ノーネーム〟の仲間で家族ではあるが、巻き込んでしまったのもまた事実。客人と似たような感じだ。守らなければいけない、ひとつの使命なのだ。

 だというのに、幾度となくその命を脅かさせてしまった。魔王というひとつの災害に運悪く……と言えば、致し方ないと言う人が大多数だろう。災害をどうやって事前に防ぐと言うのか。しかし、黒ウサギはそれを負い目に感じている。

 条件として……私が側に……最善の方法を取った……心の奥底に根付いているほどではない。が、それでも負い目を感じている事は事実なのだ。、

 

 そんな事はつゆ知らず……どころか、義仁は義仁で黒ウサギに負い目を感じている。黒ウサギは助けていられないつもりだが、義仁は助けてもらって勝手に死にかける……なんともめんどくさい構図となっているのだ。

 ただ、2人ともそれなりに年を重ねている。表面を隠すことには慣れているのだ。さらに、義仁は精神的に余裕が生まれつつある。つまりは、この程度のことなら意識せずに隠し始めてしまうのだ。

 

「大丈夫大丈夫。見ての通りピンピンしてるよ」

 

 腕を軽く振って見せ大丈夫だと表す。だが、黒ウサギはなんとも言えない表情。〝ノーネーム〟のギフトで一命を取り留めたが、死にかけの、後遺症必須。そんな状態だったはずの人間を無理やり治したのだ。そんな軽く言われても反応に困ると言うもの。

 

「大丈夫ならよいのですが……無理だけはしないで下さいね。ところで、先に来ていた筈のお3方は? ジン坊ちゃんは〝六本傷〟との会合で居ないはずなので当然として、 来賓室で待たれているのでしょうか?」

「ああ、3人なら別行動してるよ。十六夜くんが地下書庫で、飛鳥ちゃんと耀ちゃんはえーと……狩猟祭だったかな? それに参加してる筈だよ」

「見事にバラバラですね……。それ以前に病み上がりの義仁様置いていくとは……」

 

 軽く髪を赤く染め、怒りを顕にする黒ウサギ。既に受付を済ませ人目が無いからいいものを、往来でこれをされたらいい見世物になっていた事だろう。

 

「一先ずは1番近い十六夜さんに会いに行きましょうか。ただ、どちらから行けるのでしょう」

「黒ウサギさん髪、髪。道は知ってるから大丈夫だよ。ただ、水路を渡し船で渡らないといけないのと、収穫祭で人が取られてて渡れないみたいだよ」

「うん? おふたりさん地下書庫に行きたいんか? どうせ暇やったことやし、僕がやろか?」

 

 え? と黒ウサギと義仁が後ろを振り返る。

 通路の曲がり角から顔を覗かせたのは―――偶然にも、義仁と同じく左眼に眼帯をした、細身に細目の胡散臭い笑顔とエセっぽい関西弁の男だった。

 




お読みいただきありがとうございます。

無理やりのわりには、まあ、違和感も少なめに出来たんじゃないかなと。
ここから、十六夜くんへと繋げて……上手い具合にリリと合流させれば完璧(出来るとは言っていない)

テラリンク買ったよ!
テラやってないけどね!
ま、小説とか最後から読んだり、1巻2巻同時に読みながらとかするし、ストーリーとか後から繋げていけば問題ないっしょ。

最近フレンドのログインが途切れることが多いなぁ(´・ω・`)

では、また次回〜


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第62話 風来坊

投稿です。

熱中症で部屋のトイレで気絶し、職場の上司から電話を貰い復活しました。
考えるのが辛かったので、殆ど原作挿入となりました。
導入辺りはただでさえ原作挿入増えるからなぁ……次は頑張りまする。

では、どうぞ。


「僕の名前は蛟劉。姓は特にない風来坊なんで、お好きにお呼びくださいな。いやはや暇なんで散歩しとったんよ。お陰で暫くは暇しなくてすみそうやな」

「あ、どうもご丁寧に。木島義仁です」

 

 2人が軽く挨拶を済ませているとき、黒ウサギはふと小首を傾げる。

 

(あれ……この方、)

 

 ―――強いな、と。蛟劉と名乗る男に害意が無いにも拘らず、反射的に身構えていた。

 自然体で振る舞っているにも拘らず、緩やかな足捌きと隙のない立ち姿。何時如何なる時にでも臨戦態勢を取れるようにという心構えから来るものだろう。

 一見華奢な細身の体も、全身が想像を絶する修練で練り上げられている。

 強いて違和感を挙げるならば……覇気らしい物が一切感じられないことだろう。

 

(義仁さんに気を遣って隠しているのなら、大したものです。自然体で此処まで覇気を抑えられるものは少ないでしょうに)

 

 才能ではなく修練によって己を磨く者は、その厳格さが気配として滲み出てしまう。本来なら棒立ちしているだけでも彼の前に立つ義仁を威圧させてしまうだろう。

 しかし目の前の男―――蛟劉は、それだけのポテンシャルを完全に隠し切っていた。

 

「そちらさんは、〝箱庭の貴族〟殿で間違いないかな。さっきも言ったが名が蛟劉。姓はない風来坊。お好きにお呼びくださいな」

 

 義仁から視線を外し、黒ウサギへと移すと、胡散臭い笑顔のまま一礼する。

 全体的に胡散臭い雰囲気の男ではあるが……悪意のようなものは感じられない。信用しても問題はないだろうと黒ウサギは判断した。

 

「YES,よろしくお願いするのですよ!」

「はは、元気やね。それじゃ早速地下水路に向かおか」

 

 3人は地下書庫に向かうための渡し船に同席した。

 向かう先は大樹の根によって支えられる〝アンダーウッド〟の洞穴。道中に地下水路があるため渡し船が必須となる。泳いで渡ることもできなくはないが、もし間違って滝側の断崖に出てしまえばそのまま真っ逆さまである。

 

 やがて岸辺に辿り着く渡し船。河川が近く風通しも悪いこの場所は、湿気がこもりやすい。書庫としては最悪の環境と言っても過言ではないだろう。

 

「こ、こんなところに書庫があるのですか?」

「いやあ僕も初めはそう思ったやけどね。とりあえず扉を開けてみ」

「船の上ってのも案外楽しいものだねぇ」

 

 1人ほっこりしている義仁を置いて、蛟劉に促されるまま扉に手をかける。

 黒ウサギが

 書庫の扉を開くと、中から乾いた空気が溢れた。

 

(わっ……!)

 

 ブワッ、と乾燥した風が頬を撫でる。油断していた黒ウサギは胸一杯に乾燥した空気を吸い込んでしまい、ケホケホとせき込みながら扉を閉めた。

 

「な、なるほど。水樹の根が大気中の水分を吸収して、ドライルームを作り出しているのですね」

「そういうこと。僕は渡し船て義仁はんが落ちないよう見とくから、お友達呼んどいで」

 

 ヒラヒラと手を振り、愛用の煙管に火をつける蛟劉。船に寄り掛かり波に揺れるまったりとした時間に目を細める義仁。

 

 黒ウサギは最後に2人を一瞥し、十六夜を探すために奥へと足を進めた。

 




お読みいただきありがとうございます。

蛟劉とおっさんはすごく気が合うと思う今日この頃。
あと、たまにはおっさんをゲームに参加させてみたいのですが、どうなんでしょ? 嫌って方は感想なりメッセなり下さいな。
無かったらゲーム参加させます。 有ったら吟味した上で決めます。

では、また次回〜


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第63話 世間話

投稿です。

急にアクセス出来ませんなって、書いたデータが吹っ飛びました。自動保存は無事だったので良かったです。

では、どうぞ。


 上流から下流に流れていく川に逆らい、その場に留まる小さな船の上。揺らめく煙は煙管から。こほりとひとつ咳が零れた。

 

「おっと、もしかして苦手やったか?」

「あ、いえ、続けてもらって大丈夫ですよ。煙草の煙は久し振りでして。日頃吸ってる人も、私とは真面目な話になるせいか火を消してしまいますし。むしろ、どこか懐かしく感じてるくらいです」

「それじゃあ、遠慮なく。にしても、義仁殿もえらい方とお知り合いみたいやね」

 

 えらい方とは?義仁は首を傾げた。その様子に蛟劉も小首を傾げる。軽い沈黙が続き、漸く思い至ったのか義仁は声を上げた。

 

「ああ! 黒ウサギさんの事ですか。箱庭の貴族……でしたっけ? 詳しくはないですが、凄いらしいですね」

「おま……似た境遇かと思ったが、ただの無知やったか。後は本当に一般人みたいやな。そうよ、箱庭の貴族。簡単に言えば……そうやなぁ、ゲームに置ける絶対者……審判とか、裁判長とか、そんな感じやな」

 

 へー、間の向けた返事。そうやでー、間の抜けた返事。おっさん2人が集まるとここまでまったりとした空間が発生するものなのだろうか。見てる人によっては軽い誤解を生みそうである。

 

「蛟劉さんもこのお祭りに参加しに?」

「うーん……お祭り3割、お仕事7割ぐらいかね。うちの門下生……ってほど大層なもんじゃないが、弟子が今日とあるコミュニティと会談をするのよ。その付き添い。後は……もう一波乱ありそうな予感があるぐらいかな」

「お弟子さんですか。武道とかやられてるんですか?」

「まあ、そこそこ。姐さん達には敵わんけど、それなりに強いんやで〜。海千山千の修行は伊達じゃないんよ」

「海千山千? 1000日も山篭りとかするんですか?」

「1000日やのうて、千年よ。ま、実際はちょっと工夫……近道して千年で終わらせたんやけど」

「おー、すっごい年上だ」

「せやろ? ま、そこらはあんま気にせんといてな。気にされても窮屈になるだけやから。風来坊にはキツいしおきや」

 

 あっはっは。

 刻みの良い笑いが船の上を満たしていく。軽口が飛び交い、蛟劉の修行内容を理解した者、蛟劉を知っている者がいれば、義仁が蹴り出されても可笑しくない光景が繰り出されていた。

 

「にしても、2人とも遅いですねぇ。船の上が意外と居心地がいいとは言え……おじさんには腰が……」

「そりゃぁ、ずっと同じ体勢ならそうなるわな。少し立ち上がって体を伸ばしな。その間波は止めといちゃる」

「あ、なんかすいません。では、失礼して……」

 

 よっこらしょ。立ち上がり腕を一気に上へ。体の節々から骨が伸びるポキポキとした音が響く。その間、蛟劉はさりげなく船の下だけの水を塞き止め、固定するという高等テクニックを行っていたが、勿論義仁はそんな感知できないし、説明されてもなんかすごいんだなで終わるのだが。

 

「いやあ、歳をとるとこう言った所がキツイですね。運動不足だし……若輩者が出来るような……ゲーム? ってありますかね。できれば、安全なやつがいいんですけど」

「ああ、それなら丁度いいのが―――」

 

 

 ※

 

 

「凄く、入りづらいですね」

「オッサンどうしで意気投合してるだけの筈なんだがな……」

 

 ただのオッサン2人の世間話。しかしそれは、召喚初日にとある神様をぶっ潰し、最強の1人と歌われる白夜の王に喧嘩をふっかけ、仲間を助けるべくひとつのコミュニティを星から引きずり落とし、魔王に奇襲(正面突破)をしかけ、女性の肢体を堂々と評価するような問題児逆廻十六夜ですら乱入する事を躊躇われるものと化していたのは、話に夢中の2人は知る由もなかった。

 




お読みいただきありがとうございます。

たまにはほっこり(*´ω`*)もいいでしょ?
あと、ゲーム参加は無理やりですが、今回ので参加させます。まあ、予想通り奮闘なんてしませんけどね(盛大なネタバレ)

ISの小説書くのたのちい(*´ω`*)
あれ、設定知らなくてもある程度書けるから、東方と同じ匂いを感じる。

では、また次回〜


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第64話 枯れ木の流木

投稿です。

ねぇ知ってる?
この小説って原作5巻の58ページまでしか進んでないんだって。

……来年までかかるかもなぁ(´・ω・`)

では、どうぞ。


「……さっきとは打って変わって、随分と胡散臭い笑顔だな」

「ちょ、」

「いやあ、よく言われるんや。妹からも胡散臭い胡散臭いとよく馬鹿にされたもんや。むしろ、さっきまでは胡散臭くなかったんか。そっちの方が気になるわ」

 

 ケラケラと腹を抱えて笑う蛟劉。本人も自覚があったのだろう。特に気にした様子もなく、自身が胡散臭くない笑顔を浮かべていた事に驚きを隠せないでいた。

 

 まあええか。と、煙管を咥えなおし渡し船を漕ぎ始めた。

 煙管を咥えながらのんびりと漕ぐ蛟劉を見て、十六夜は不思議そうに問う。

 

「……アンタ、収穫祭のゲームには参加しないのか?」

「いまは少し揺ついとるな。ま、マトモには参加せんと思うよ。僕は風来人って奴でな。世情に流されるまま、箱庭をうろついとる流れ者よ」

「ふうん。そりゃ勿体無い話だ。その実力なら引く手数多だろうに」

 

 おっ? と黒ウサギが反応する。十六夜も同じことを思っていたのだろう。しかし蛟劉は苦笑いしながら首を振った。

 

「はは、そりゃ買いかぶりすぎやで。手前の旗本一つも守れんかった男なんて、どのコミュニティもいらんやろさ。だから、精々しがないおっさん同士で仲良うやる位がちょうどええんよ」

 

 ケラケラと笑い煙管を吹かす蛟劉。

 十六夜はそっと眉を顰め、黒ウサギは咄嗟に口を押さえた。義仁は話についていけないことに早々から気付いていたため気配を消し、気楽に短い船旅を楽しんでいた。

 

「……そうかい。野暮なこと聞いたな」

「構わんよ。ガロロ君からは面と向かって〝枯れ木の流木〟とか言われとるしな」

「そりゃいい得てる。その覇気の無さ、正にそれだ」

 

 ヤハハと笑って便乗する十六夜と、苦笑する蛟劉。

 黒ウサギは困惑しながらも、少しだけ納得した。

 

(そっか……覇気を隠しているのではなく、本当に覇気が無かったのですね……)

 

 〝枯れ木の流木〟―――夢破れて世情に流される姿を言い表したのだろう。

 蛟劉が何を理由にコミュニティを失ったのかは三人の与り知らぬことだが、落日の傷はそう容易く癒えるものではない。十六夜は話題を変えようとして黒ウサギに問う。

 

「そう言えば黒ウサギ。拉致られたって言ってたが、何処まで拉致られたんだ?」

「あー……それを話し出すと長いのですが。実は北川の、平天の旗本まで、」

 

 ―――ガコンッ! と、渡し船が大きく揺れた。

 

「わ、きゃ……!?」

「お、おお……!?」

 

 突然の揺れで黒ウサギは体勢を崩し、十六夜の上に覆いかぶさる形で倒れこんだ。義仁は川に身を乗り出しそうになった所を十六夜と蛟劉の腕によって守られていた。

 

「っとと、すまんな! 大丈夫か3人とも!」

 

 蛟劉は慌てて舵を取りなおす。

 同じように面食らった十六夜だったが、此方は対応が早かった。

 

(オッサンに気を取られたが……これまた、役得だな)

 

 黒ウサギの豊満で肉付きの良い身体が船の揺れに応じて全身に押し付けられる感触は悪くない。豊かな胸の柔らかさは勿論のこと、上質な生地の様に手に吸い付く素肌は触れるだけで蠱惑的な甘さを感じられた。並の男だったら太ももに指が触れただけで理性を失い、初雪のような柔肌に爪を立てて押し倒していただろう。

 

 ―――流石は神々の愛玩種。魅了の恩恵がなくとも、触れ合うだけで十分にエロい。

 

「あ、や、す、すいませんっ!」

 

 黒ウサギは思わずウサ耳と髪を緋色に変幻させてしまうほど赤面し、十六夜から距離を取る。純情な黒ウサギには今のハプニングは少々衝撃が強かったのだろう。

 ウサ耳としっぽをパタパタと揺らし、紅潮したまま俯いてしまった。

 

(いやあ……あんなエロい身体で、よくこんな風に育ったもんだな)

 

 心の底から感心したように、しみじみと頷く。

 時間にして十秒にも満たない時間だったが、眠気を払うには十分すぎる衝撃だった。これも日頃の行いがいいからだな、と結論出し。

 先ほど黒ウサギが口にしかけたことを思いだす。

 

「……待て、エ黒ウサギ」

「ちょっとお待ちを。エって言いかけました今? エなんて言おうとしたのですか今!?」

「……待て、エロウサギ」

「だからって言い直さないでくださいお馬鹿様ッ!」

 

 スパァーン! とハリセン一閃。十六夜はむっと顔を顰め、

 

「……〝箱庭の貴族(エ」

「言わせるかこのお馬鹿様ああああああッ!!」

 

 スドパァァォォアンンンンンッ!! と全身全霊の一撃で叩く黒ウサギ。

 渡し船は先程より一層激しく揺れた結果、黒ウサギはまたも十六夜の胸板に倒れこみ、義仁は川へと投げ出されたのだった。

 

 その後、蛟劉に救い出された義仁は黒ウサギと珍しい十六夜の正座からの謝罪を見ることになった。

 




お読みいただきありがとうございます。

うーん……このオッサンの空気感よ。
いや、今更ですな……。

では、また、次回〜


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第65話 主催者

投稿です。

いやー、話数50辺りからですが、本当にサブタイ決めるのがキツい。
私は話を書いた後にサブタイを付けるのですが、基本単語なんで被らないようにってしてるとどうしても……似たようなものばっかりになるんですよねぇ

では、どうぞ。


 水も滴るいい男。そんな言葉を体現するかの如く髪をかきあげる十六夜。上着のボタンは胸板が見えるまで開かれ、水滴が流れていく様は男である義仁ですら感嘆の声が出る。正しく、アイドルを見ているような感覚に陥る。十六夜の整った顔、目を惹きつけるほどの綺麗な金髪だけでなく、堂々たるその立ち姿からそう思えて、見えてしまうのだろう。

 

 つい先程まで正座から誠心誠意の謝罪を行っていた人物とは思えない。黒ウサギはこれほどまでに素直な十六夜が信じられないと、別の意味で感嘆していた。

 

「そういや、オッサンは〝主催者〟としてゲームを開催してたが。ゲームに参加してみたいといい、どう言う風の吹き回しだ?」

「え、そうだったのですか?」

「おや、義仁はんは抜け駆けしてたんかいな」

 

 蛟劉が茶化すように横槍を投げ入れ、黒ウサギが驚きの表情と共に義仁を見る。義仁は愛想笑いをしつつ遠い目で事の発端を説明し始めた。

 

 義仁が開催……と言うよりは一枚噛んでいる、否、利用されたと言った方が表現としては正しいだろうそのゲーム。

 義仁はサラから渡された羊皮紙を3人に見せる。ゲームの名は

 

『ギフトゲーム ― 〝アンダーウッド〟の収穫祭・狩猟部門

  ・参加者

  自由参加(前日までに要申請)

  ・ルール規定

  一、コミュニティごとに戦果を競う(ゲーム内での同盟は可)

  二、亜人含む人類は狩猟用の武具を着用すること

  三、勝敗は獲物の総重量をポイントにして決する

  四、角付きの戦果には加点あり(奉納、祭具の寄付を認めた場合に限り)

  五、期間は前夜祭の正午から夕暮れ迄とする

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。

  〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟 印

 〝ノーネーム〟代表 木島義仁 印』

 

 蛟劉と十六夜は関心の声を、黒ウサギは絶句していた。

 〝ノーネーム〟がすべてを失い、細々と暮らしてきた。今では十六夜達のお陰で一定の生活水準を保てるようになり、多くのゲームへの誘いも寄せられている。だが、それでもゲームを開催する事は夢のまた夢。報酬も満足に用意できる自信もない。宝物庫には多くの財宝が眠っているが、人を選ぶものばかりだ。

 だと言うのに、目の前の男はこんな軽々と黒ウサギ達の、〝ノーネーム〟がずっと待ち望んでいたレベルへといとも簡単に足を踏み入れた。十六夜のような怪力を持つわけでもなく、春日部のように動物と会話する訳でもない。ましてや、飛鳥のように無限の可能性を秘めたる力を持つわけでもなし。

 正真正銘の一般人。黒ウサギには、このゲームに著名されているその名前が、何時か、いつの日か〝ノーネーム〟の土地でも実現出来るものだと確信した。

 なにせ、こんなにも凄い力を持った人達が居るのだから。きっと、この事はかつて〝ノーネーム〟に居た仲間たちにも届く事だろう。知らなかったなら、声高らからに自慢してやろう。

 黒ウサギは1人決意を新たにし義仁を見上げ、会話の輪へと入っていった。

 

「実は、十六夜君たちよりも先に来てたのはこれの資金集めの為なんだ。えーと……ペリィドン……? ペリュドン? とかの殺人種って幻獣が、巨龍との戦いで力が低下している事をいいことに〝アンダーウッド〟の近隣に居座って、人を襲っていたらしくてね。

 復興の為に支援してくれてるコミュニティまで襲い始める見込みが出てきた。けど、そこにまで手を回せる余力はなし。精々牽制してどうにか押しとどめるのが限界だったらしいよ」

「なるほど。そこでオッサンの出番か」

「え? なにか分かったん?」

 

 十六夜と黒ウサギはどこか納得したように強く頷いた。だが、義仁と短い期間で仲良くなった蛟劉は何が何だか。1人だけ頭の上にはてなマークを浮かべていた。

 

「オッサンは恩恵無しで魔王に対抗する手段を模索してる。まー、被害が出た後の話になるから対抗ってのも可笑しいがな」

「え、なにそれ気になるわ。勿体ぶらんで教えてーな」

「正しくそれだ。オッサンは魔王に汚染された土地を恩恵無しで浄化する方法を模索、研究していてな。結果も一応出たんだっけか?」

「一応ね。〝ノーネーム〟の土地の場合だけだけど。時間で瓦解した土地に対してだけじゃ、まだ結果を出したとは言えないからね」

 

 そうして、蛟劉もすべてを理解した。〝アンダーウッド〟は1本の巨大な樹木によって支えられていると言っても過言ではない。土地を維持するだけでもそれなりの費用は掛かるはず。ましてや、魔王に攻め込まれた場合など莫大すぎる金が流れるだろう。だがしかし、そこで義仁の持つ知識が少しでも広まっていれば? 今後の為にもお金を出してでも学んで起きたいという者は多いだろう。

 

「今まで考えたこともなかったわ。恩恵無しで魔王に対抗するなんて。そりゃぁひとつのゲームを支えるぐらいの儲けはでるわ。にしても、随分面白い事してたんやねぇ」

「大変ですけどね」

「そりゃそうよ。魔王どころか、最悪神すらも敵に回す行為やから。けど、その知識、技術は復旧させなあかん。困ったことがあったら相談乗るから……専門家に相談乗るっていのもおかしいか。ま、色々お話ぐらいしようやってことで」

 

 蛟劉はにっと得意気に笑って見せた。

 




お読みいただきありがとうございます。

これで、飛鳥と耀の出番が終わりです。え?出てないだろって? 主人公が出てこないんだよ察しろ(´・ω・`)
いやぁ、最初はそっちで書いてたんですけど、殆ど原文になっちゃうので……流石に数話続けてほぼ原文って言うのもなぁってのが……ユルシテユルシテ
ま、まあ? 出番終わりってのは? 流石に? あれなんで? その内だしますごめんなさい。あ、でも耀ちゃんは割とすぐ出てくると思いますよ。

では、また次回〜


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第66話 煽り

投稿です。

先週は投稿出来ず申し訳ない……
熱中症に久々に掛かったけど、やっぱキツいですわあれ

では、どうぞ。


 あの後、黒ウサギと十六夜と別れた義仁と蛟劉。そんな2人は『焼けた肉を食べる為の肉料理』〝斬る!〟〝焼く!〟〝齧る!〟の三工程で食べる〝六本傷〟の名物料理を食べに向かっていた。

 

「おっさん2人で若者向けの飯屋に行くってのも、なんか楽しいもんやね」

「まだ着いてすらないですけどね」

「そう固いこと言わんといてーな。ええやん、少しくらいワクワクしても」

 

 頬を膨らまし怒ってみせる蛟劉。その姿は年相応の威厳あるようなものではなく、実に子供らしい……まさに童心に帰っている姿だった。

 

 程なくし〝六本傷〟主催の立食会場へ。立食会場では何かのイベントが行われているのか、中央部には大きな人集りが出来ている。

 

「なんや集まっとるな」

「ですねぇ、賑やかでいいじゃないですか」

「それもそうやな。静かな食事より賑やかな食事。僕らはイベントも楽しみ食事も楽しめる。一石二鳥ってやつやな!」

 

 雄叫びや歓声が行き交う中央部を避け、端の席を陣取る。新しく入ってきた客になんの反応もないが、イベントが盛り上がっているようだし仕方ないと2人は笑いあった。

 

 食事も本来は持ってきて貰う筈なのだが、テーブルの上に置かれた大皿には『現在テーブルまでお届けすることが出来ません』と、書かれた札が立て掛けられている。

 2人は各々が食べたいものを皿に移しテーブルへと戻った。その間にもイベントは激励を極め全面戦争等と聞こえ始めた。

 

 義仁達も料理に舌づつみを打ち、参加するゲームについての話や、義仁の行っている研究。なんてことは無い雑談を繰り返していた。

 

 イベントの熱は収まらず、義仁達の口も止まらない中でふと、冷めた声が聞こえた。

 

「……フン。何だ、この馬鹿騒ぎは。〝名無し〟の屑が、意地汚く食事しているだけではないか」

 

 ここに来て漸く義仁はイベントの中心に居る人間が自身が身を置くコミュニティの同士だと気付く。少し広がり隙間が出来た人混みからは春日部の姿が確認できた。

 

「連中はアレですよ。巨龍を倒してもてはやされている猿の一人です」

「ああ、例の小僧のコミュニティか。……なるほど。普段から残飯を漁っていそうな、貧相な身形だ。碌に食事も与えられていないのだろう」

「〝名無し〟である以上、一時の栄光ですからな。収穫祭が終わるころには皆、奴らの事など忘れております」

「違いない。数日後にはまたゴミに塗れた残飯生活に逆戻りです」

「ああ。所詮、屑は屑如何なる功績を積み上げても〝名無し〟の旗に降り注ぐ栄光などありはしないのだから―――」

「―――そんなことはありませんッ!!!」

 

 ああ、あの中には君もいたのか。と、義仁はぼんやりと思う。こう言った事は見に任せ流しすのが1番。そうすれぼ勝手に自滅してくれるのだから。しかし、リリちゃんにはまだ早かったか。

 

 〝ノーネーム〟を蔑んだ男は、有翼人の類なのだろうか。人の姿に鷲と思われる翼を生やしている。細身ながらも鍛え抜かれた体躯を持ち、鬣のような髪と猛禽類のような瞳を持つ凶暴そうな男は、鋭い眼光でリリを睨みつけた。

 

「……なんだ、この狐の娘は」

「私は〝ノーネーム〟の同士です! 貴方の侮蔑の言葉、確かにこの耳で聞きました! 直ちに訂正と謝罪を申し入れます!」

 

 1本と言わず2歩3歩、男の目の前に立ち、見上げ、真っ赤に頬を染めながら、ひょコン! と狐耳を立てて怒るリリ。

 

「なるほど。君が誰かはよく分かった。……でも君は、この御方が誰かわかっていますか? この方は〝二翼〟の長にして幻獣・ヒッポグリフのグリフィス様ですよ?」

 

 取り巻きの男たちの言葉に、今度はリリがたじろいだ。

 

「ヒ、ヒッポグリフ……? でも、ヒッポグリフは鷲獅子と馬の姿を持った幻獣で、」

「阿呆か貴様。人化の術なんぞ珍しくとも無いだろうが。数が多い獣人共の都合で変化してやってるだけだ。……それよりも、先程の発言のツケ。どう払うつもりだ?」

「ど、どうも何もありません! 謝罪を求めているのは此方です!」

「ハッ、分を弁えろ。グリフィス様は次期〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の長になられる御方。南の〝階層守護者〟だぞ。〝ノーネーム〟なんぞに下げる頭は無いわッ!」

「……待って。それ、どういうこと?」

 

 観衆の視線が、一斉に動く。

 取り巻きに強く反応したのはリリではなく会場の中心にいた春日部耀だった。食事の手を止めた耀は訝しげな瞳でグリフィスを睨む。グリフィスは鬣のような髪を掻き揚げ、獰猛に笑った。

 

「何だ、あの女から聞かされてないのか? あの女は龍角を折ったことで霊格が縮小し、力を上手く使いこなすことが出来なくなったのだ。実力を見込まれて議長に推薦されたのだから、失えば退陣するのが道理だろう?」

「……それ、本当?」

「狡い嘘など吐かん。何なら本人にでも聞いてみるといい。龍種としての誇りを無くし、栄光の未来を手折った、愚かな女の子にな」

 

 クックッと喉で笑うグリフィス。取り巻きよりも品無く下卑た声で嘲笑った。彼の話す事実を知った観衆にも動揺が広がり、ちょっとした騒ぎになっている。

 腸が煮えくり返る……正しくその状態の義仁が立ち上がり怒鳴らなかったのは、蛟劉がまだだと優しく諭しているからだ。

 しかし、耀にはそんな余裕はない。無言で立ち、男たちへと近づいていく。鼻先3寸の距離まで迫った耀は普段の口調のまま淡々と、

 

「……訂正して」

「何?」

「サラは〝愚かな女〟なんかじゃない。彼女が龍角を折ったのは、〝アンダーウッド〟を守るためで……私の、友達を守るためだ」

 

 耀は淡々と謝罪を求める。声音の抑揚の無さは普段以上だろう。取り巻きの男たちはそれを鼻で笑い、グリフィスと耀の間に割って入る。

 

「おい小娘。いい加減に、」

 

 離れろ―――という言葉は、その場では響かなかった。

 響いてきたのは全く別の方向。立ち上がり声を出したと思われる男と、頭に手をやり抑えきれなかったと嘆く男の2人。片方は耀もよく知っている人物だった。

 

 立ち上がっていた方の男、義仁はゆっくりと歩き、耀の蹴りあげようとしている脚を降ろすよう促す。

 

「耀ちゃん。暴力はだめだよ。有無を言わさず僕達が悪くなるからね」

「……義仁さん……でも」

「でもも何も無い。こんな道徳心も持ち合わせていないような非常識な獣は無視するに限るよ。それにサラさんは降りられないし、高望みを続けるだけの獣なんだ。哀れな目で見てあげるのが正解じゃないかな?」

 

 そこまで言って、なるほどと何か合点が行ったかのように耀もリリも手を合わせた。耀は優しげな瞳で男達を見た後、その脚を下ろす。

 

「途中から出てきたと思えば、随分な物言いだな。あの女が降りられないとは……余程現実が理解出来ないらしい」

「獣が人の話を理解出来るなんて凄いですね! 立派立派」

「……あくまで愚弄する気か貴様」

「自分たちはあれだけ煽ってたのに……煽られる耐性はないとは、リリちゃんも耀ちゃんもあんな大人になっちゃだめだからね」

 

 観衆からのクスクスと小さく聞こえる笑い声。先程までの驕った顔はどこえやら。顔を真っ赤にしたのはグリフィス達だった。

 取り巻きが義仁の胸倉を掴み上げる。義仁は苦しげな声を出しながらもそれを受け入れた。

 

「話で解決出来ないからって……暴力に走る、それを止めようともしない。やっぱり獣……いや、獣以下かな?」

「貴様……いい加減その口を塞いだらどうだ」

「脅ししか出来ないんですか?」

 

 取り巻きの拳が義仁の腹に刺さる。容赦のない一撃に、体から嫌な音が聞こえた。しかし、取り巻きの行動は止まらない。そのまま義仁の体を持ち上げ投げ飛ばした。リリと耀の叫び声が聞こえ、地面に落ちる筈の体は優しく抱きとめられた。

 

「義仁はん、軽く打ち合わせしたとはいえやりすぎ。さてと、君たち、僕のお友達に手を出したこと……どう責任取って貰おうか」

 




お読みいただきありがとうございます。

最後迷走しましたはい。
おっさんがねぇ、最近血を吐いてないなぁって思って……いや、なんでもないっすすいません。

では、また次回〜


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第67話 足りない

投稿です。

理由がちんけだって!?
時間が無かったんだよ察しろ!(´;ω;`)!

では、どうぞ。


 〝ノーネーム〟風情の為に我らが謝罪? 頭を下げろ? むしろそちらが下げるべきだろうに。

 

 ギャーギャーワーワーピーピーと、自分たちを正当化するべく驕り続けるグリフィスとその取り巻き。場所は〝アンダーウッド〟収穫祭本陣営。

 経理を管理するものや、受付を担っているもの。その誰もが、時折聞こえてるくる、それなりに有名で権力を持った筈のヒッポグリフ、グリフィスの怒声に顔を赤らめた。

 

 取り巻きに殴られた義仁はあばら骨が数本、折れてはいない為箱庭の恩恵で直ぐに治すことは出来た。それでも過度な運動はするなと念を押してきたのは阿修羅の如きリリである。しかし、義仁も珍しく今回だけは会議に参加したいと無理を言い、耀に介護されながら席に座っている。

 

 テーブルを挟み睨み合う〝二翼〟と〝ノーネーム〟。一触即発の空気が変わる様子はない。唯一冷静なジンは、殴った方の取り巻きをじっと睨み付けていた。

 

 報告書を読み終わったサラは、深い溜息を吐いて義仁をチラリと一瞥したあと、グリフィスを睨みつけた。

 

「……話はよくわかった。〝二翼〟代表のグリフィスとその同士には追って処罰を下す。最低でも今の地位があるとは思わないことだ」

「ふざけるなッ!!!」

 

 怒声と共にテーブルを激しく叩いたのはグリフィスだった。

 しかし、彼に反論の材料などない。手を出したのは此方側、口を出したのも此方側。反論したくても出来ない。だから、声を荒らげて威嚇するしかないのだ。そう、獣のように。それが、どれだけこの場にいる者の神経を逆撫でしているかも判断出来ないほどに。

 

「サラ議長! 貴女は既に力を失っているだろう! 弱者が強者に口出しをするな! 実力で議長へと推薦されたのだ、ならば実力で測れば私が議長を務めるべきだろう!?」

 

 もはや、何を言っているのか自分自身でも分かっていない様子。それに呆れ返る〝ノーネーム〟一同達。馬鹿、阿呆……獣、いや、義仁が言った如く獣以下だろう。

 

 そんな時義仁が静かに手を上げる。その挙動は痛々しげだが、その瞳の奥には静かに怒りが燃えていた。

 

「あの、いいですか? まず、サラさんを議長から降ろすことは私が許しません」

「何の力も持たない雑魚が……」

「ええ、確かに貴方からすれば私は雑魚でしょう。力でも、知恵でも勝てるかどうか。ですが、一つだけ言わせてもらいます。ここに宣言します。

 サラ=ドルトレイクが議長、〝龍角を持つ鷲獅子〟の代表を降りた時点で私からの技術提供を永久停止させていただきます」

「技術……提供?」

 

 グリフィスが頭を捻る。こいつは何を言っているのだ? グリフィスは目の前の男の事を何も知らない。いや、まさか、まさかまさかまさかまさか

 

「えっと、割と有名になったって聞いたんですけど、そこまでじゃないんですかね?」

「そんなはずがあるか。もはや〝アンダーウッド〟の住民で義仁殿の事を知らない者なんぞおら……んでもないか。目の前の男のように」

 

 知っている。キジマと言う人間が魔王の呪い等で破壊された土地を、神に縋る訳でもなく、復活させる事が出来ると。その技術の一端を伝えに来たと。ああ、知っている。

 

 グリフィスの顔が青白く変色していく。

 しかし、それでは終わらない。終わるはずがない。彼は誰に、喧嘩を売ったのか、まだ気付いていないのだから。

 

「おやまあ! それは大変やねぇ、サラちゃん。力なくなって大変やろうけど、困ったことがあればなんでも相談してな? おっちゃん力になるで!」

「その、蛟劉殿? 200歳にもなって、それにこの雰囲気でちゃん呼びはやめて欲しいのですが……」

「あっはっは! そういう小さいことは気にせんでええって。おっと、少し遅れたが自己紹介させてもらおうか」

 

 蛟劉は軽薄な笑のまま、しかし愉快愉快と楽しそうに、袖から蒼海の色を持つギフトカードを取り出してみせた。

 

 そこに記されたギフトカードを見て、皆の顔色が変わる。

 蒼海のギフトカードには―――〝覆海大聖〟の文字が記されていた。

 

「ふ……〝覆海大聖〟蛟魔王だと!?」

「こ、蛟劉さんが七大妖王の1人だと言うのですか!?」

「……?」

「義仁はんにはちと早すぎたか。まあ、簡単に言えば……ここの全員で掛かってきても軽く潰す程度の実力者って感じなんよ。ぼくは」

 

 へぇとそれに反応するのは十六夜。だが、十六夜は動かない。こんな狭い部屋で御教授願うのはめんどくさいことにしかならないからだ。決して空気を読んだ訳では無い。

 

「さて、これで、僕の自己紹介は終わりやね。ああ、あと、僕だけを敵に回したと思うなよ? ひよっこくん。木島義仁も、〝ノーネーム〟も、サラ=ドルトレイクも、既に白夜王と繋がりを持っている。特に義仁はんはアカンかったな。

 最強の〝階層支配者〟にして白夜の星霊。加えて恐ろしいことに、太陽の主権を14もそろえとるお方や。身も蓋もない事を言った自分を恨めよ? ―――14体の巨龍相手に、何処まで持つか……楽しみやねぇ?」

 

 はっ……はっは……

 グリフィスの乾いた声が虚しく響く。取り巻きは放心し、もはや彼らに希望はない。

 

 しかし、それでは足りないだろう?

 十六夜がゆっくりと腰を上げた。

 




お読みいただきありがとうございます。

義仁はんの口攻めもっと書きたかった(´・ω・`)
てか、最近蛟劉さん出番多いね。新人なのにね。飛鳥ちゃんは相変わらずだね。悲しいね。

では、また次回〜


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第68話 懇願

投稿です

ふぅ……(恍惚)
あ、ぶっちゃけ自己満です。

では、どうぞ。


 乾いた笑い、フラフラとその足取りは不確かで、何をすればいい、どうすればいいなんて解決策を思案しようと頭が働く。しかし、頭は動かず、帰ってくるのは何も無い。ゆっくりとした動作で扉に手を掛け、退出しようとするグリフィス。

 

 しかしその背を、納得出来ない者の腕が引き留めた。

 グリフィスの心情を表すが如くよれっとした衣服の襟首を掴みあげ、無理やり元の席へと押し付けた。

 

「なーに、1人で絶望してやがる馬肉。まだ話は終わってないだろう?」

 

 笑顔。誰が見ても、怒っている様子でもない、ただの笑顔。目が笑っていない訳でもなく、ただの、笑顔。子供をあやす様に、泣いている子を泣き止ませる優しい笑顔。

 

 投げ飛ばされた事すらも忘れ、グリフィスはその顔をほんのりと綻ばせ十六夜を見た。

 

 グリフィスはその笑顔に一抹の光を見た。元の地位は無くなるだろう。コミュニティを追放されるかもしれない。だが、それだけで済むかもしれない。

 七大妖王と白夜王を敵に回し、ただ殺されるのであればまだ優しい。死ぬ事も許されず永遠の拷問に会う可能性すらある。むしろ、そちらの方が高いとさえ思える。だが、無くなるかもしれない。その優しげな笑顔にグリフィスは希望を見た。

 

「今話が終わったのはなんだ? まずサラへと侮辱。これは今度処罰が下されるらしいな。次は〝ノーネーム〟への侮辱。これはこっちも煽ったからまー、様子見でいいだろう。

 あとひとつはなんだろうなぁ? 侮辱なんて抽象的なものじゃなく、実害が出てるはずなんだが?

 まー、俺も? 命があったわけだし、オッサンは別のことに頭にきてるみたいだからあんま強くは言わねぇよ」

 

 それは、まさに吉報。希望、救いと言って過言なきもの。グリフィスは救われた。助かったと涙ぐむ。頭を下げた。きっと、いや間違いなくこれでは足りないと分かっている。プライドなんぞ、命に比べれば安いもの。絶望よりも安いものだ。

 

「いやいや、そんな謝らなくていいって。ほんと。だからさ」

 

 この場でお前の誇りである角と翼を切り落とせよ。

 

 にっこりと、十六夜は微笑んで見せた。

 

「これは、うちのチビが受けた心の傷の分だ。心の傷はもう治らねぇ。直すことは出るがな。じゃあ、治らない物をどうやって弁償する? おれは相手の取り返し用が無いものを奪う。

 お前、グリーの兄貴だってな? グリーは俺達が箱庭に呼ばれた時、初めてのゲームで相手取ったグリフォンだ。今回のゲームでも、俺を天空城へと連れて行くために翼を失った。

 そんな弟から聞いたんだが、お前〝龍馬〟と〝鷲獅子〟をも持つ第三幻想種ってのを誇りにしているそうじゃないか。

 なら、角はチビの心。翼はオッサンの受けた傷。良かったなぁ! グリーから聞いたが翼はまだ治る余地があるらしいぜ!」

 

 …………なにをいっている? つのをきりおとせと? つばさをきりおとせと?

 

「おい、だまってんじゃねぇよ。これはお願いじゃねえからな? 命令だ。ああ、それとも怖いか? なら俺がへし折ってやる。さっさと獣に戻れ。ほら。ああ、取り巻きにも同じ苦痛を味合わせろと、そういうことか。確かに、実害を出したのはお前じゃねえもんな。なら、取り巻きからは片脚ずつを貰おうか」

 

 沈黙を保って来た取り巻きも、その発言に大きく身震いした。ガタガタと歯をかき鳴らし、顔は青をおさ通り過ぎ、もはや何色か例えようのない色になっていた。

 

「はいはい。今からグロ注意やからな。義仁はんとか、慣れてない子や見たくない子は早めに出ときなー」

 

 蛟劉が手を数度叩き、ジンや耀、義仁達を追い出した。今この場に居るのはサラ、十六夜、蛟劉、グリフィス、取り巻きの2人。計6人。

 

 蛟劉が今一度人数を確認し、し終わったと同時に部屋は水に覆われた。

 

「これで、声は外に漏れない。血で汚れもしない。なかなか便利やろ? 壁に水這わせただけやけど」

「充分すぎる絶技だと思うがな。そういや、馬肉の角はサラの角の代替品として利用出来ねぇのか?」

「出来んことは無い。以前ほどの力は出せないが、それでも親和性は高いはずだ」

 

 グリフィスは逃げた。この3人は既に決行する気で話を進めている。なにが救いだ、なにが希望だ。待っていたのは絶望ではないか。扉のノブを壊そうと乱雑に扱い開けようとする。しかし扉は開かない。全力で殴ってみても、その薄い水の膜に軽い波が生まれるだけ。逃げ場などなかったと、理解したくなかった事を理解してしまった。

 

「さあ、始めようか」

 

 最後の足掻きだと言わんばかりにグリフィスは獣〝ヒッポグリフ〟の姿へとなる。しかし、何も出来ずに地に打ち付けられた。首元を握り潰すように蛟劉が掴み、押さえ付けていた。

 

「おやまあ、漸くヤル気になってくれたか。それじゃあ、十六夜くん頼んだよ」

 

 刑罰執行。嫌だと頭を振り、十六夜の腕から逃れようとするが、蛟劉に頭を押さえつけられそれは叶わない。人間一人分はあろうかと言う巨大な角。その根元に十六夜の手が宛てがわれる。

 

 ギリギリギリッ

 

 ゆっくりと、その角に力が込められていく。十六夜は軽い表情で、さながら雑巾を絞っているかのよう。グリフィスの声にならないら絶叫が鼓膜を揺さぶるが、途中からはもはや声すらも出ず、気を失いかけていた。が、それを許すほど蛟劉も出来がいい訳では無い。首筋に力を込め無理やり意識を取り戻す。

 

 そして、遂にグリフィスの角が頭からネジ切られた。ゴトリと鈍い音と共に床に落ちる角。即座にサラの炎によって止血が行われた。そして、その止血は同時にもう、角が生えてこられないという事を暗示していた。

 

 絶叫すら上げられず、グリフィスの瞳からは涙が止まる。現実を受け止めきれなくなった弊害だ。しかし、十六夜が今度はその翼へと手を伸ばした。

 

「やめろ! やめてくれ! 頼む……、もうしない、お前達にももうてをださないからもうやめてくれもううしないたくないやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめやめやめやめてやめてややぁァァァァァァァァァァああ

 

 あああああああ

 あああああああ

 アアアアアアア

 アアアアアアア

 

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 グリフィスの懇願虚しく、翼は行きよい良く引き抜かれた。

 




お読みいただきありがとうございます。

ふう……(恍惚)
いやぁ、オッサンは再起不能に基本できないけど、モブ(?)には容赦しなくていいから……タノシイヨネ

ま、これがオッサンを敵に回すということだ。
白夜叉がいないだけマシだと思う。うん。

では、また次回〜


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第69話 哄笑

投稿です。

やっとここまで来た感がすごい。

では、どうぞ。


 深夜を回る頃には地下都市も静まり返り、静寂が包み込んでいる。

 川辺の清涼な風が大樹の歯を揺らし、ザァッと吹き抜けていく。篝火が消され、三日月から零れる星光が水面で揺れていた。

 大樹の天辺に二人、盃を交わす二つの影。

 隻眼に眼帯を付けるという、いとも奇妙な二人。蛟魔王・蛟劉と、木島義仁。二人は静まり返った水の都を見下ろした。

 

「いやあ……昔話を語って聞かせたのは、さて。何年ぶりになるんかな」

「私は蛟劉さんが西遊記に出てきてた方とは思いもしませんでしたけどね」

 

 驚いた? そりゃあもう。いい歳こいた大人が子供のようにケラケラと。

 

「ま、やり過ぎた結果、色々あって魔王の烙印を押されたりしたわけやけど」

「若気の至り……と」

「先読みせんといてーな」

 

 蛟劉の手にある盃にら紅塗に交錯する二匹の蛇が描かれている。かっこええやろ? と、蛟劉はニッと笑ってみせた。

 箱庭の常識に未だ疎い義仁でも、それが蛟劉の持つ……持っていたであろう旗印だと言うことは察しがつく。ユラユラと紅塗の杯を揺らし、酒の水面に写った月を乱し何処か懐かしそうに顔を綻ばせる蛟劉。

 

 紗蘭――――と怜悧な鈴の音に、心底意外そうな顔を浮かべる。

 

「…………なんや。随分と懐かしいお方の登場やね」

「うむ。おんしと会うのは本当に久しいな、蛟劉。この何世紀かで私の気配も読めんほどに気が弱まったのか?」

「さて…………悟空姐さんが仏門に帰依すると決めた、その時以来ちゃいます? あと、今は息抜き中なんで完全に油断しといただけですー。なー義仁はん」

「私に振られても……気配なんて分かりませんよ私」

 

 隻眼でにんまりと笑う蛟劉。

 白夜叉は夜風で靡く銀髪を押さえながら苦笑した。

 

「それは悪い事をしたな。箱庭で楽しむのは最優先事項。色々と変な噂を耳にしたが……その心配も杞憂にすぎんかったようじゃの」

「噂は所詮噂。無理やり消せんこともないけど、面倒くさくてなあ。オッサン同士で酒飲めれば文句はないんよ。あ、そうそう。長兄から頼まれとったんやったわ。ほらこれ」

「牛魔王から?」

「〝階層支配者〟襲撃事件の事で伝えたいことがあると」

 

 白夜叉は表情を強張らせ、蛟劉の隣に座った。話を聞かせろ。そういう事らしい。

 なお、いつものように義仁は早々に空気に徹している。下手に会話に参加しても邪魔になるだけだと理解しているためだ。

 

「……なんの情報だ?」

「北を襲った魔王と、主犯格らしい連中。詳しいことはここに書いてあるそうで」

 

 そう言って懐から一枚の封書を取り出す。

 確かに牛魔王〝平天大聖〟封蝋を押された封書を渡すと、蛟劉は背筋を伸ばした。

 

「いやあ、これで長兄の御遣いもおわりや。これで心置き無く義仁はんとデートができるってもんよ」

「デートですか……いやまあいいですけど」

「なんや? 僕とはデートしてくれへんのー? ウサギさんとはしとったくせに……」

 

 白夜叉は気持ち悪い男二人の絡みを微妙な笑みを浮かべ観察する。蛟劉がこの手紙の重要性を分かっていないはずも無く、ここに来るまでに魔王の襲撃も十二分に有り得たのだ。

 牛魔王も、その可能性を考え、実力共に信頼出来る蛟劉へとこの封書を託したのだろうが……。

 

「あ、そうだそうだ白夜王。僕も今度のレースに参加するわ。義仁はんのサポートとして」

「レース……〝ヒッポカンプの騎手〟の事か?」

「そそ。ルールが変わるんやろ? 個人種目からチーム戦に。サラちゃんから〝契約書類〟を……とと、あったあった」

 

『ギフトゲーム ― ヒッポカンプの騎手 ―

  ・参加資格

  一、水上を駆けることが出来る幻獣と騎手

  二、騎手・騎馬を川辺からサポートする者を三人まで選出可

  三、本部で海馬を貸入れする場合、コミュニティの女性は水着必着

  ・禁止事項

  一、騎馬へ危害を加える行為を全て禁止。

  二、水中に落ちた者は落馬扱いで失格とする。

  ・勝利条件

  一、〝アンダーウッド〟から激流を遡り、海樹の果実を収穫。

  二、最速で駆け抜けた者が優勝。

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。

  〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟 印』

 

「うん、チーム戦になっとるな。まー、流石に僕が出たらゲームが壊れるからな、義仁はんと一緒にゆっくりとゴールを目指しますわ」

「ふむ、義仁は承知しているのか?」

「私ですか? むしろ、私から持ちかけたと言いますか……たまには、私もと言いますか」

「承知しているのならば良い。それに元々蛟劉にはこのゲームに参加させるつもりだったしの」

「え? なんでなん? 言っちゃあ悪いが、僕が出たら本当にゲームが壊れるで?」

「いやなに、焚き付けるために斉天大聖に合わせることも考えたが……それも必要ないじゃろ」

「え? 待って待って。……え?なんの話?」

 

 蛟劉は珍しく慌てた様子。

 

「なに気にするでない。ただ、そうじゃな……このゲームでおんしのその消え去った覇気が戻るじゃろうよ、と宣言でもしとこうか。

 さ、義仁も待たせたの。黒ウサギとのデートの話をこってりと聞かせてもらおうか」

「そんな面白い話でもないですよ?」

 

 しかし、慌てた蛟劉を他所に白夜叉は義仁の隣へと座り直す。後ろでぎゃーぎゃー騒ぐ蛟劉。なんとも、かの七代幼王が一人蛟魔王とは到底思えない。白夜叉はいいんですか? と苦笑いを浮かべる義仁に、いいんじゃよ。愉快で楽しいだろう? と笑ってみせる。 少し間を開け、半泣きになり義仁に擦り寄ってくる蛟劉を見て、確かに面白いものではあるなと、不謹慎ながらも思ってしまうのは致し方ないことだろう。

 

 そんな二人を見てか、誰かから分からず笑いだし酒を交わす。愉快で小さな宴は過去の因縁も何もかも拭いさり、高らかな哄笑は月明かりに消えていくのだった。




お読みいただきありがとうございます。

ようやく次回からヒッポカンプレースに入れます。
うん、多分入る。はいるはいる……

では、また次回〜


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第70話 練習

投稿です。

今日は見回りだから許して……許して……

では、どうぞ。


 蹄に水掻きを持ち、鬣に鰭を持つ幻獣・ヒッポカンプ。

 水上・水中を駆ける彼らの足跡は激しい水飛沫が飛んでいるが、その四足は前進し続けている。

 

 義仁は背を借りたヒッポカンプの首筋を撫でた。

 

「どうや? 僕のヒッポカンプは。日頃好きにさせてるけどそれでもそこらのヒッポカンプよりは長生きしてて、かなり乗りやすいはずやで」

「確かに、乗馬なんて初めてなんですけど、全然難しく感じませんね」

 

 そうやろそうやろ。と、満足げに頷く蛟劉に答えるように勇ましく鳴くヒッポカンプ。こんな時、耀ちゃんみたく動物と話せたらいいんだろうけどな。と、ぼんやり思いひと息入れる為岸へとヒッポカンプを走らせた。

 

「とまあ、基本的に乗馬と似た感じやね。馬乗ったことあるか知らんけど。右に手綱を引けば右に、左に手綱を引けば左に。速度調整は3段階で抑えるよう言っとくからな。両足で腹を軽く叩けば上げていくようにするから。試合前にそれの簡単な調整で終わろうか」

「分かりました」

 

 義仁はヒッポカンプから降り、お疲れ様と軽く撫でる。それに満足したのがヒッポカンプはその場から走り去っていった。

 今回のゲームでは勝ちに行くより、完走を目的とした人も多く。義仁もその1人。やろうと思えば七大妖王である蛟劉からの恩恵を受けたヒッポカンプであれば、義仁だけでも十二分勝ちを狙えたりもする。

 

 練習も終わり、大きく伸びをする義仁。乗馬の経験なんて無いのだが、素人のど素人である義仁ですらなんら問題なく走らせることが出来るのだから、ヒッポカンプも、蛟劉も凄いのだと改めて実感していた。

 

「よし、それじゃデートにでも行きましょか」

「何処に行くんですか?」

「適当に時間までうろつこうや。そういや、義仁はんは水着はきーへんの?」

 

 水辺を離れ、水着の貸出とヒッポカンプの貸出を行っている建物を横目に蛟劉が問い掛けた。今年の〝ヒッポカンプの騎手〟では、公式からヒッポカンプを借りる場合水着の着用が義務付けられた。

 しかし、義仁の場合は蛟劉のヒッポカンプを借りる為水着の着用は義務付けられない。まあ、理由としてはそれだけではないのだが。

 

 義仁は今まで多くの事件に巻き込まれてきた。箱庭に来た当初には侵入者に襲われ、北側の祭りでは黒死病に命を脅かされ、捻った足で無理やり走り続けた。そして、南側では、頭部損傷、腹部貫通etcetc……

 人に見せるには如何せん不愉快にさせてしまう傷が多くできてしまっている。

 

「そこでさせてしまうって言うのが、義仁はんらしいってことなんかね〜。ま、それなら無理強いはせんよ。けど、周りに気を遣いすぎてまた狐ちゃんに怒られても知らんけどなー。義仁さんはもっと我儘を言ってください! もしかしたら、義仁さんの水着姿を期待しとるかもな〜」

「……蛟劉さん、遊んでますよね?」

「さて、なんの事やら」

 

 とぼける蛟劉に、苦笑いを浮かべる義仁。その足は既に水着売り場はへと向いており、義仁はしてやられた。と、自分の分かりやすさに小さく溜息をついた。

 けど、嫌じゃないって思えるから。いい事なんだと思う。

 




お読みいただきありがとうございます。

……一応ヒッポカンプには触れたらかセーフ……セー……フ?

では、また次回〜


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第71話 開会宣言

お読みいただきありがとうございます。

ちゃうねん……ボックスガチャ回したいがために適当になったわけやないねん……

では、どうぞ。


 フェイス・レスは焦っていた。十六夜と互角……否、それ以上の実力を持つ彼女が。クイーン……自身の主から与えられた騎馬に跨りその身が震えるのを必死に抑えていた。幸いなのは、その口と鼻辺り以外を隠す仮面のおかげで表情が読みとりにくい事ぐらいか。

 

 はるか後方、恐らくは最後尾。そこにあるひとつの気配。水の上に立ち、ただ、そこにあるだけでこうも圧迫される。覇気が感じられない分、余計に気味が悪い。

 

 フェイス・レスはその気配を知っていた。それこそ、箱庭の住人なら知らぬものはいない。気配は分からずとも、姿を見たことは無いとしても、名前を聞けばその場で命乞いを始めてもおかしくない。それだけこの事をやってきた巫山戯た存在。

 

(こんなお遊びのようなゲームで、動くのですか!? 〝枯れ木の流木〟と揶揄された、あの男が……! 七大妖王・蛟魔王が!?)

 

 早くなる鼓動と、滲み出る汗。理解をしてしまったがための弊害。白夜叉の開会前の言葉や、観客の大歓声。それらの情報が一切入ってこない。どうしろと言うのだ、どうすれば良いのだ。よりにもよって相手の盤上の上で……。一方的な殺戮を黙って見ていろと言うのか。

 

 そんな事は許さない。これはゲームなのだ。一方的な暴力でも、殺戮でもない。お遊び程度の、レースゲーム。で、あれば。

 

(蛟魔王は水の上に立っている。と言うことはサポートに徹するはず。本命はその隣。騎馬も蛟魔王のものだとしても、乗り手からは重圧は感じない。名もしれない強者では無いことを祈りましょう)

 

 フェイス・レスが1人祈りを捧げる中、件の義仁と蛟劉はルールの確認を行っていた。

 

「水に落ちたら失格だけど、陸に上がったりはおーけー。進路はこの大河やな。僕らは勝ちじゃなくて完走を目的にしてるから気楽に行けるし、この辺り一体は皆そうやから軽く休憩入れながらでもええやろ。アラサノ樹海は分岐になるから、好きな所を進んでええからね。後ろからついて行くし、危なくなったら助けるから。

 んで、目的の物として、山頂に群生する〝海樹〟の実を取ってこなあかん。前の本気組がそこらで戦闘おっぱじめるかもしれんから、最悪此処は僕が前に出る。義仁はんはそのまま下って完走! ってな感じになる筈よ」

「戦闘が起きるのは確定なんですね」

「ある意味醍醐味やからねぇ。トップ3が争ってる中で、最下位組がこっそり取って1位ゲットだぜなんてこともあるくらいやし」

 

 コロコロと笑う蛟劉。その顔には緊張なんてものも無く、ほんの少し、ほんの少しだけ緊張している自分が恥ずかしい。義仁は辺りを見渡し、他の参加者達の様子を伺うが、どうやら同族は最前線を張る者達だけで、後ろは何ともほんわかした雰囲気が漂っていた。

 

「ほら、そろそろ始まるで」

 

 蛟劉がキョロキョロする義仁へと声をかけた。義仁もその声を聞きしっとりとした手綱を握り直す。ほんわかした雰囲気が一瞬途切れ、それと同時に白夜叉が両手を開き、

 

『それでは参加者たちよ。指定された物を手に入れ、誰よりも早く駆け抜けよ! 此処に〝ヒッポカンプの騎手〟の開催を宣言する!』

 

 ―――開会宣言後、刹那の剣閃と剛腕がぶつかり合う。その波動で大きな波が立ち、咄嗟に手綱を握り直せなかった者達が落馬した。

 

「随分な挨拶やねぇ? 仮面ちゃん」

「貴方相手にこの程度、まだ生温いと思いますが?」

 

 フェイス・レスは弾かれた蛇腹剣を腕を振るい柄まで戻す。

 

「あーあーあーあー、半数近くが落馬か。だらしないと言うべきか、仮面ちゃんの腕を褒めるべきか。取り敢えず、山頂までは手を出さんどいてやる。山頂に着いた時に君が居たら、覚悟しときや?」

 

 フェイス・レスの苦悶の声。それと同時に騎馬を翻し我先にと、逃げるかのようにして走り出した。それに慌てて続くように最前線組が走り出す。後衛組はこれからどうするかと、相談を始めた。取り敢えず進むだけ進むかという者もいれば、最悪死ぬぞと自ら落馬する者も。

 

 そんな中で義仁は

 

「これ、私も目を付けられてませんかね?」

「付けられたやろねぇ」

「私は何もしてないはずなんですけどね」

「不思議やねぇ」

 

 なんとも、閉まらない雰囲気のままヒッポカンプの腹を蹴った。

 




お読みいただきありがとうございます。

巷ではクッパ姫が流行っていますね。
僕もそれを見ましたはい。
惚れました。
二次創作を書きたくなる衝動にすら駆られるレベルで惚れましたねええ。
あれはやばい。
マリオ関係の女体化は属性が多すぎて、なにがってもうやばい。

そのうち短編でも書きたいものですな。

では、また次回〜


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第72話 大義名分

投稿です。

眠い……とても、眠い。

では、どうぞ。


 一同は情報を得る為、司会役として状況を報告している黒ウサギの言葉に耳を傾ける。

 

『現在トップ集団は五頭! トップは〝ウィル・オ・ウィスプ〟よりフェイス・レス! 二番手は〝ノーネーム〟より久遠飛鳥! 三番手は同じく〝ノーネーム〟白雪姫! 四番手五番手も猛追している状況です!』

 

 十六夜達はこの情報を噛み砕き、戦略を立てるため思考を凝らす。とは言っても、現状壁となりうるのはトップのフェイス・レスのみ。彼女をどうだし抜くのかを考えているという方が正しいだろう。

 

「……義仁さん。気を付けてね」

「いや、なにしてるの耀ちゃん」

「待ってる。このままだと、流石に可哀想かなって。だから、逃げる理由くらいは、作ってあげないと」

 

 川の上を光の粒子に乗り仁王立ちする耀。その光はペガサスの持つ光で、それを操る耀に蛟劉は感嘆の声を漏らす。

 

「お嬢ちゃん、随分珍しい恩恵持ってるんやね。ペガサスのやつやろ? それ」

「……うん。私は友達から力を貰える。その力を組み合わせて新しい力を作れる」

「生命を司る感じか。生命の樹と関係ありそうやね」

「大正解」

 

 耀は服の中から木彫りのペンダントを取り出した。そのペンダントには、幾つにも組み合わさる幾何学模様。真ん中には丸い模様。

 

「ほおー、こりゃまた……随分珍しい表現の仕方や。専門じゃないからようわからんけど、この幾何学模様が遺伝的な物で、中央が結果……みたいな感じかいな……。よく分からん」

「……私もよく分からない。父さんがくれた、よく分からないペンダント」

 

 ゲーム中だと言うのに、のうのうと会話を続ける三人。さてそろそろ行こうかと、蛟劉が言い出し、義仁ともそれに乗った。

 二人は耀に別れを告げ、コースへと戻る。

 

「ちと、話し過ぎた」

「ですね。まあ、勝ちを狙ってる訳でもないですし」

「けど、もう皆折り返しにおるかもやで? 流石に半周差をぜんたいに付けられたままやと……恥ずかしいやろ」

 

 キャッ、とでも言いたげな仕草と共に蛟劉が言った。しかし、半周差。自分達の次……耀ちゃんの口振りからすると居るのだろうが、それでも最後尾近いのは確かだろう。勝ちを良くしてる訳では無いが、せめて、その後ろぐらいには付いておきたい、と思うのは至極真っ当なことではなかろうか。

 

「……確かに、恥ずかしいと言えば恥ずかしい……ですかね」

「よし来た! んじゃ、ちと、借りるで」

 

 蛟劉が義仁の後ろに跨り、手綱を握る。そして、義仁は後悔する事となった。なんで、蛟劉に手綱を握らせてしまったのだろうか、と。

 

 

 

 

 春日部耀は待っていた。誇りを失い、なおゲーム参加を強要された愚鈍達を。自業自得とは言え、耀にも良心がある。だから、ここで終わらせてあげようと。

 

 と言う建前の元、グリフィスが持つ力を奪っておけと十六夜からのお達しの為ここで待っていた。

 

 いや、本当はこんなことしたくないんだよ? けど、命令だからなー、十六夜怖いから逆らえないなー。

 

 決してあの時の事を未だに根に持っている訳ではない。制裁に私も参加出来なかった鬱憤ばらしを大義名分の元行おうとしている訳では無いのだ。

 

 つまり、悪いのは十六夜であって私に落ち度はないのである。

 

「……と、言うわけで、ここで脱落して。そして、早く連盟から抜けて箱庭から出るなり逃げるといい」

 

 そう、悪いのは私ではないのだ!

 




お読みいただきありがとうございます。

次回! グリフィス、死す。
デュエルスタンバイ!

10月6日追記
急用が発生、イベント参加等があり、8日の投稿が出来なくなりました。
イベント参加までなら前日前々日に書けば良いのですが、原作を家に置いてくるという失態を……
最近こういった急な投稿が出来ない事が多々あり申し訳ないです(´・ω・`)

では、また次回〜


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第73話 勝利宣言

投稿です。

寝たら構想が消えていたでごさる(´・ω・`)
もっとグリフィス君をズタボロにしたかっ……ゲフンゲフン

では、どうぞ。


 義仁達が去った後数組のチームがジョギング程度の速度で通過して行った。しかし、春日部耀の待ち人はまだ来ない。

 もしかしたら逃げたのだろうか? と首を傾げるが、角と翼を失った彼に抵抗するだけの度胸があるのかと考え一蹴した。

 

 最初は仁王立ちで腕を組み、ゲームのラスボス感を漂わせ待っていた耀も何時しか面倒くさくなって、空中に座ったりと中々に器用な真似をしながら暇を持て余している。

 

「……ようやく来た」

 

 軽いストレッチをやり始めていた頃、漸く待ち人の姿が見える。ヒッポカンプに跨る三つの影。グリフィスとその取り巻き達だ。

 グリフィス達は怯え、震え、なお死にたくない……死以上の恐怖から逃れるために進んでいた。しかし、やはりと言うべきか周りへの警戒なんてものはなく上空で三人の様子を伺う耀には気付かない。それほどまでに消耗仕切っているのだろう。

 

 耀は落胆と同情を胸に、彼等の前へ降り立つ。

 

「……よくきた」

「ヒッィ!?」

 

 小さな悲鳴。その声に耀はしてやったりと小さな笑みを浮かべた。耀からすれば悪戯に成功した軽い気持ちなのだが、グリフィスからすれば悪夢以外の何者でもないだろう。

 

「……私は十六夜達みたいに貴方に制裁加えに来たわけじゃない。むしろ助けに来た」

 

 グリフィスはその言葉に返答しようと口を開ける、が。喉からは掠れた音しかでない。耀はそれに気付いてか言葉を続けた。

 

「……私はよく知らないけど、十六夜に出るよう言われたんでしょ? 角と翼を失ったのは聞いてる。流石にこれ以上貴方に何かをするのはやり過ぎ……だと、私は思う。

 ……だから、ここで私が落としてあげる。その後は好きに逃げればいい。

 ……白夜叉は解説席から離れられない。ノーネームの主力達もゲームに集中してるだろうから、今なら逃げれる。なんなら、私も逃げるのを手伝ってもいい。

 どう? このまま進んで潰されるよりもマシだと思うけど?」

 

 久しぶりに随分と喋ったと一息。対してグリフィスは震えながらも何度も頷いていた。

 

「……うん。それじゃ取り敢えず……なんだっけ、人から戻って。負傷しながらも立ち向かうー……的な?」

 

 グリフィスからすれば逃げられるのであればなんでも良かった。だから、大人しくその指示に従い人化を解いた。

 龍馬の象徴である鱗が全身を侵食していき、全身を覆う鎧と成る。一度頭部が鷲のようなら形となり、その頭蓋が変形していき龍の物へと変化していく。

 全身から弱々しくも光る粒子を放ち、片翼と折られた龍角をその頭上に生やす。

 

 その劇的な変化を、耀は無表情のまま見つめ―――

 

(……どうせなら完全な状態で見たかったな)

 

 取り敢えずと、グリフィスに近寄りその体へと触れた。パチリと静電気の様なものがはじけほんのり痛い。うん。満足し、一歩離れる。

 

「……うん、ありがとう。それじゃあさようなら」

 

 もう君の役目は終わったよ。そう言外に付け足し一本のランスを手に取った。

 耀の身長の倍は有ろうかという一本の突撃槍。

 

 それは龍の角。この世界において、最強を誇る生物が一体。その力の象徴。

 

 グリフィスは目を見開く。これが目的だったのだと。我が誇りは本当の意味で奪われたのだと。

 

 しかし、もう遅い。稲妻を携えたランスの先がグリフィスの顎下を捉えた。

 木々は迸る稲妻に焼かれ、運河は割れる。露出した地盤は捲れ上がって溶解を始める。

 

 その勢いのまま耀は突撃槍を振り上げた。何処か遠くで大きな衝撃音が聞こえた。グリフィスはその場にいない。

 

「……死んでは、ないよね?」

 

 少しをやり過ぎたかと反省はするものの、後悔なんて微塵もなかった。

 

「家族に手を出した方が悪い、私だって怒る時は怒る」

 

 ブイ! と。遠くで見ている観戦者に対して、勝利宣言をするのだった。

 




お読みいただきありがとうございます。

次回は観客側でお茶を濁しつつ、次々回でおっさんずに戻ろうかと思案中。
あと、先週は投稿できずすみません(´・ω・`)

合同祭楽しかったよ!
初イベント参加だったけど、めっちゃ楽しいのなイベントって。

では、また次回〜


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第74話 衝撃

投稿です。

眠気が勝ったわ(´・ω・`)
最近午後休憩がないから眠いのん(´・ω・`)

では、どうぞ。


 白夜叉がマイクに向かい一言。くっくっくっと楽しそうに、その笑いを噛み殺す。

 

「皆の者、衝撃に備えよ。先程のより大きな物が来るぞ?」

 

 そう言い残し、会場の数十メートル先にあるゴール地点へと跳躍した。水面が揺らぎ、しかし白夜叉の体は沈まない。急な行動に観客達は困惑するも、言われたとおり椅子にしがみつくなどして衝撃に備えていた。

 

「ラプ子よ、スクリーンの映像を先頭集団から樹海前へと移すのだ。面白いのが見られると思うぞ?」

 

 ラプ子と呼ばれた手のひらサイズの青き小人。その顔にはふたつあるはずの瞳がひとつしかないにしても何処か愛らしさを残していた。この小人はラプラスの悪魔、その分体の1匹。スクリーンに映し出された映像もこの小人の恩恵があってこそだ。

 

 ラプ子が白夜叉の指示に食べ物と引き換えに応じ、スクリーンの映像が樹海の前、すなわち春日部耀と〝二翼〟筆頭グリフィスが対峙している所だ。

 

『……私は十六夜達みたいに貴方に制裁加えに来たわけじゃない。むしろ助けに来た。

 ……私はよく知らないけど、十六夜に出るよう言われたんでしょ? 角と翼を失ったのは聞いてる。流石にこれ以上貴方に何かをするのはやり過ぎ……だと、私は思う。

 ……だから、ここで私が落としてあげる。その後は好きに逃げればいい。

 ……白夜叉は解説席から離れられない。ノーネームの主力達もゲームに集中してるだろうから、今なら逃げれる。なんなら、私も逃げるのを手伝ってもいい。

 どう? このまま進んで潰されるよりもマシだと思うけど?』

 

 耀の提案に何度も頷くグリフィス。〝二翼〟に属する者も、属していない者もその姿には好印象を持つことはまずなかった。

 

 映像は進み、グリフィスが元の龍馬へと姿へと変えていく。しかし、片方の翼は根元から引きちぎられ、あの天を突く巨大な龍角はへし折られている。

 

「巨龍を真っ正面から受け止められるコミュニティと、蛟魔王を敵に回せばああもなろうよ」

 

 小さく呟かれた白夜叉の言葉はマイクを通して観客にも伝わり、同情の念を持ちつつあった者からの視線は呆れへと変わった。その呆れから、グリフィス等が起こした暴力沙汰も明るみになっていく。最早グリフィスを擁護するものはいなかった。

 〝アンダーウッド〟に住む者にとって〝ジン=ラッセル率いるノーネーム〟とは最早英雄的存在。巨人の進行を彼等だけで押し返し、巨龍を真っ正面から受け止め大樹を護り、捩じ伏せる。更には修羅神仏を介入させない……どんな存在であろうと土地を回復させる手段を伝えに来た伝道師。子供達からは憧れの存在。大人からは救世主。特に功績を残していないグリフィスの評価が地に落ちるのは早かった。

 

「さて、来るぞ」

 

 白夜叉は手に持っていた扇を閉じる。スクリーンにはグリフィスから離れた耀が巨大な突撃槍を構えていた。

 

「かっかっかっ! よもや龍角すらも権限させて見せようとは!」

 

 そして、その突撃槍がグリフィスを吹き飛ばす。その衝撃で水が割れ、大地がめくれ騰がる。それは目に見える程の衝撃。常人がどれだけ集まろうが近付くだけで消し飛ばされるその衝撃。

 

 その衝撃を白夜叉は扇で軽く振り払った。

 

 一瞬の間もなく掻き消される衝撃。水を割る鋭さも、大地を翻す力強さも全て白夜叉の前には無意味。衝撃に備えろと言われ備えていたものの訪れたのは力強い風のみ。

 

「いつか儂を超える者があのコミュニティから出てくるかもしれぬな」

 

 そう言う白夜叉の手からは数滴の血が零れ落ちた。

 

 至極楽しそうにスクリーンを睨む白夜叉。観客はその姿に、その言葉に、その血に体を震わせた。

 

 

 

 

 一方義仁と蛟劉は……

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁァァァァァアアア!!!?!???!?!!!」

 

 




お読みいただきありがとうございます。

次回は気分変えて遊ぼうかなと。
なので最後は締まりませんが繋としてさけんで頂きました。

兎に角眠くて……文字数稼ぎで精一杯でしたん(´・ω・`)
ごめんて(´・ω・`)

では、また次回〜


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第75話 水の壁

投稿です。

殺伐とか血みどろないと何処となーく書くことがないような気がしてきてならない。

では、どうぞ。


 蛟劉が義仁の後ろに跨り義仁ごと抱える形で手綱を取る。義仁はほっと肩の力を抜き手綱を軽く握った。慣れない事をすれば緊張するもので、関節からパキパキと小気味の良い音が鳴る。

 一通り関節を鳴らした後蛟劉が声を掛けた。

 

「ほな行くで」

 

 ピッポグリフの水をかく音が徐々に大きくなり、頬に当たる風も強く、冷たくなって行く。体感で3分を過ぎようとしていた頃、樹海がバッと開けた。

 十数キロ先に見える巨大な山。その山頂付近は平になっており、何方向かに向かって滝が形成され川になっている。現在義仁達が進んでいる川もそのひとつのようだ。

 

「ここからじゃ見えんけど、あそこの頂上の中央付近に木があるんよ。割と低い位置にもなっとるからそれを取って帰ればゲームクリアやで」

 

 なんだかんだで数十キロ走らなければならなく、滝のぼりに木登りとハードな内容。それを、助力に頼りきりとはいえ自ら進んでいると思うとなんだか不思議な気分になる。いや、不思議な気分になっているのはそれが原因では無いのかもしれない。

 

「にしても、結構残ってるもんね」

「ですね。てっきり折り返しているものかと。にしても、なんで皆岸辺から動かないのかな」

 

 そう。前を走っていた筈の参加者達が岸辺にピッポカンプを寄せて動かないのだ。

 

「仮面の子と、義仁はんのお仲間かおらんね」

 

 蛟劉の言葉に義仁も辺りを見渡すが、確かにそれらしき姿は見られない。で、あればどこに居るのだろか。彼らに限って途中敗退はそうないだろうし……。と、悩んでいると蛟劉がその悩みをポンっと解決してみせた。

 

「なーに、簡単なことや。あのお山の上で戦っとるんやろ。んで、被害が及ばないここまで逃げてきた……ってところやろ」

 

 ああ、たしかに。彼等なら間違いなく周りへの被害は気にしない。同居人として注意すべきなのだろうが、黒ウサギさんがあれだけ言って変わらないのだから特に意味は無いのだろう。

 

 それに、なんども助けられてるし……強くは言えないよね。

 

「うーん……ゲームやから問題は無いんやけど」

「乱入するんですか?」

「あの程度なら義仁はん守りながらでも余裕あるんやけど……。うん、乱入しよか。なんか白夜王に遊ばれてる気がするのが気に食わないよねえ」

「白夜叉さんですから。私がお邪魔する時なんか未来でも知ってるかのようにその日の仕事終わらせてるみたいですしね。もはや監視されてるとしか」

「うっわ、やってそう……」

 

 さらっと白夜叉の事で小言を言い、さて、とと蛟劉が手綱。握り直す。

 

「さ、今度は全速力や! しっかりはーくいしばっとかんと舌噛むでー!」

「はい!」

 

 義仁は手綱を握り直した。先程よりどれほど早いのだろうかと、少しの期待と共に。ヒッポカンプの蹄が水を蹴る。

 瞬間、背中が蛟劉に叩きつけられる。風が強すぎて体は動かず、動く視線は光景を正しく捉えられていなかった。感覚的には新幹線。いや、それよりも早いかもしれない。そこは詳しくわからないが、新幹線の外に飛び出したらきっと同じ気持ちを味わえるのだろうと強い確信を持てた。

 

 目の前に迫る滝。滝の飛沫が鼻先に当たったと同時に強い浮遊感。手を伸ばせば雲が掴めるのではないかとさえ幻視する高さ。箱庭に呼び出された時と同じ景色が広がり、隣に聳え立つは水の壁。どれだけの勢いで跳べばこんな事になるのだろうか?

 

「加速するでぇぇ!!!」

 

 壁が収束し、落下を後押しするジェットエンジンが如く。みるみる近付く水面。耳につんざく悲鳴が如き風切り音。箱庭に呼び出された時と同じ景色も相まってか、義仁の恐怖は有頂天。

 

「いやぁぁぁぁぁァァァァァアアア!!!?!???!?!!!」

 

 瞳から零れた涙は、着地と共に起きた水飛沫と混ざり合い、彼の悲鳴は津波と共にかき消された。

 




お読みいただきありがとうございます。

これはぁ、蛟劉さんリリさんからの説教ルートですねぇ(確信)

では、また次回〜


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第76話 圧倒的強者

投稿です。

眠い!
血みどろもねぇから、ドキがムネムネしねぇし……低クオリティをどうにかしたいです(´・ω・`)

では、どうぞ。


 蛇腹剣と拳が相見える。その反動に海面が大きく揺れ、二度三度と撃ち合う内に揺れは波へと、濁流へと変化する。

 

「折角の大海原だってのに、少しくらい景色を楽しませてくれてもいいんじゃないか!? なあ騎士様!」

 

 悪態付く十六夜だが、その顔には満面の笑みが浮かべられている。対するフェイス・レスはその言葉を聞いてか否か、容赦なく四度目の斬撃を放つ。

 風を切り、その首をもぎ取らんと蠢く蛇腹の剣が下から拳で叩きあげられ、四度目の邂逅を果たし、濁流の勢いが増す。

 

「チッ……お嬢様。分かってると思うが、抜けれると感じたら走り出せ。コイツぐらいなら幾らでも止められるが……」

 

 十六夜の声が詰まる。それに合わせフェイス・レスの手も柄を握ったまま固まった。

 

 さあさあ、実力はほぼ互角。卓越した技術で責め立てるフェイス・レス。力で捩じ伏せる十六夜。その様子を見守る観客がこの勝負のゆくえは何処へかと唾を飲む。

 

 まさに、それが合図だった。

 

 直線距離にしてうん十キロと離れた客席にまで届く轟音。天高く聳える水の柱。その場に居たもの全てが空を、柱を見上げ、何が起きたのかを推察する。しかし、推察する時間もなく柱は収束し翼へと変わる。その先に居るのは一頭の馬。

 

 空から踏み込めてきた侵入者は十六夜達の作った濁流を叩き割り、津波を引き起こす。十六夜は飛鳥を守る形で津波を拳で割り、フェイス・レスは蛇腹剣で切り裂いた。

 

 もはや豪雨かと錯覚する水飛沫が数秒。雨が止み始め、視界が完全に確保出来た。

 

 

 ああ、そりゃそうだ。

 

 

 十六夜が小さく口にする。

 

「お嬢様! 時間を稼ぐ! 走れぇ!!」

 

 ビリビリと鼓膜を震わせる大声に、飛鳥は一度体を震わせヒッポカンプの腹を蹴る。

 

 何時か感じた。あれは……そう、箱庭に呼び出された日だ。おっさんも目を覚まし、お嬢様達が売ってきた喧嘩の準備に向かった。サウザンドアイズ。白夜叉……。

 

「ほんとうに……箱庭ってところは最っ高に!! 楽しい場所じゃねえか!! そうは思わないか騎士様よお!!」

「残念やけど、仮面の子ならとっくに逃げたで?」

「そいつは僥倖。お前と一騎打ちなんて最高じゃねえか」

「そういってくれるんは嬉しいけど、正直燃え尽きた灰……枯れ木の流木って言われてるんよ? 僕」

「なら、まずはその叩き折れた性根を叩き直さねぇとな」

 

 ああ、コイツが本気をだせばどれ程に強いのだろうか。どれだけ楽しめるのだろうか。圧倒的強者。しかして、白夜叉ほどの絶望は感じないコイツはどれほどに楽しませてくれるのだろう。

 

「随分とヤル気があるね十六夜くん。なら、こっからはゲームは関係ない。そういう事でええとやな? それなら、義仁はんは先に逃がしとかなあかんか。身内がボロボロになるのを黙って見ときたくもないやろ」

「言ってくれるじゃねぇか」

 

 ヒッポカンプから降り、水面に立つ。ヒッポカンプの尻を叩き、義仁を避難させる。そっと木の実を持たせることも忘れない。

 ヒッポカンプが滝から飛び降りたのを確認し、蛟劉は十六夜へと向き直った。

 

「ほなら、かかってこいよ小童」

 

 六度目の衝突。しかし、轟音が鳴り響く訳でもなく、波が経つこともない。星を揺るがすし、神格を持つ魔王の一撃を粉砕する十六夜の腕力。その全力で振り下ろされた拳は―――

 

「こんな程度かいな」

 

 蛟劉の掌に受け止められていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

なんだかんだで100話越えそうな予感。いや超える(確信)
もっと文字数増やせば良いんだろうけど、怠け癖で……(;´∀`)

では、また次回〜


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第77話 反撃

投稿です。

最近BO4に明け暮れています。
はい。関係ないですね(´・ω・`)

では、どうぞ。


 受け止められた拳を勢いよく戻し、その反動を利用して海岸沿いまで後退する。

 

(まだまだお遊びだってか)

 

 余裕の笑みで構えすら取らない蛟魔王。ただ、悠々と歩いてくるのみ。猫か狸で着飾っている状態ですら軽くあしらわれる。なら、その皮を剥がしてやれば一体なにがまち受けていることだろうか。熊か、猪か、はたまた蛇か蠍か……。

 

「どうしたん? たった一撃受け止めただけやん、もっと楽しませてーや。最強種を倒したんやろ? それやったら僕なんぞ相手にもならんはずやけどな」

 

 なんと安い挑発か、胡散臭い笑みで飄々と肩を竦める蛟劉。

 

 それに対し十六夜は嬉嬉として拳を構えた。

 しかし、勝てるビジョンは浮かばない。それほどまでに実力の差がハッキリと伝わってくるのだ。

 

「シッ!」

 

 大地を蹴り、一直線に拳を叩き込む。先程の奇襲モドキとは違う突進。そして、全身全霊の一撃。海水に足を取られ速度こそ落ちているものの、それでも常人を逸脱した速さ。並のものならば知覚すら出来ないだろう。

 

 海を割り、山を砕き、残像を置き去りにした十六夜。その星の揺るがす一撃すらも―――。

 

「……これでもだめか」

 

 蛟魔王は、片腕一本で受け止めた。

 

「十六夜くん、体の使い方がなっとらんで?」

 

 十六夜の拳を握りしめ失笑する蛟魔王。その圧力にかつてない危機感を抱く。

 

「せっかくいいもん持っとるのに、そんなんじゃその天賦泣いとるで? これは授業料や。死んだら義仁はんに顔向けできんし、死なんでくれよ?」

 

 掴んでいた拳を手前に引き込み十六夜の体を近付ける。それと同時に重心を落とし、隻眼の瞳を見開いた蛟魔王は、捻じり込むように心窩を掌底でかち上た。幾星霜の月日を重ねて研鑽された一撃は、十六夜の臓腑にかつてない衝撃を走らせる。

 

「ごフッ…………!!」

 

 血液が逆流するほどの嘔吐感にさいまなれながらも、その激痛を全て噛み殺し。

 十六夜は、体を捻って蛟魔王を蹴り抜いていた。

 

「何…………!?」

 

 予想外の反撃に驚嘆の声を上げる蛟魔王。命を刈り取るつもりで打ったというのに、死なぬどころか反撃までしてきたのだ。彼にしてみればまさに驚天動地だろう。

 二人は互いに吹き飛び、海面を転げながら離れていく。

 先に立ち上がったのは蛟魔王だった。

 

(こ、これは驚いた。まさかの一撃を受けて、反撃までしてくるとは)

 

 蛟魔王は最強種ではないものの、その霊格は並の神霊を遥かに凌駕する。

 海で千年、山で千年を積んだ蛇は仙道を極め、〝仙龍〟という稀有な龍種に転生することができる。

 彼はその過程を半分で済ませるために、海底の深海火山で修行を積んだ。生命が生きられぬ熱さと土石流の中で功績を得た彼は、地母神と海神の双方に匹敵する力を持つ。

 大地と海から吸い上げた気を掌底に込めて打ち出した一撃を、人間が受け止められるはずないのだ。

 

「十六夜くん…………君、どんな体の仕組みしとるんや?」

「それは、こっちの台詞だ、この野郎……!」

 

 口からの吐血を腕で拭い、ようやく立ち上がる十六夜。

 確かに、蛟魔王は十六夜の全身全霊の拳を受け止めた。しかし、反撃の蹴りはモロに食らっていたのだ。だと言うのに、何事もないように立ち上がっている。

 

 今まで二体の神霊と戦った十六夜だが、彼らは決して無傷ではなかった。超常的な回復力で無力化していたに過ぎなかった。

 しかし、この魔王は……明らかに、十六夜の一撃が効いていない。

 星を揺るがすその一撃を前にして、これは今までになかったことだ。

 

(分かっちゃいたが、とうとう現れたってことか)

 

 肩で息をしながら、現状を受け止める。

 いつか現れるだろうと思っていた。最大の難敵。

 十六夜の身体能力を凌駕する魔王が、ついに立ち塞がったのだ。

 

(ハッ…………流石は箱庭の世界。こうでなくちゃ面白くねぇ…………!)

 

 一切の小細工なし。間違いなく、真ん中ド直球に最強の敵だ。

 

(てか、こいつより強いって……白夜叉どんだけやべーんだよ)

 

 だが、今は目の前のことだ。

 十六夜は徐々に熱を帯び、喜色に染まり、勝利を掴むために思考を高速回転させる。

 

 勝てるビジョンが浮かばない?

 ならば、捩じ伏せ勝利をもぎ取るだけの事!!

 

 取り敢えずもう一度突っ込んでみりゃぁなんかわかんだろ!!

 




お読みいただきありがとうございます。

血だ!血だ!ふっふーう!
けど、吐血程度じゃなんだかなぁ……(感覚麻痺)

では、また次回~


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第78話 同じ器

投稿です。

すっげぇ中途半端……いやー、素で忘れて30分の即興で書いたから許して。

では、どうぞ。


―――一打目は、致命傷を与えるつもりで心窩を打った。

―――二打目は、本気で命を奪うつもりで後頭部を叩きつけた。

―――三打目は、敵を打ち抜くことなく避けられてしまった。

 

(…………っつ、この少年…………たった三打で、合わせてくんのか…………!)

 

 反撃を受け、海面を乱しながら離れる蛟魔王。

 しかし彼が気になったのはむしろ、十六夜の身体の頑丈さだった。

 星の地殻から吹き出す灼熱の深海火山で修行を積んだ蛟魔王は、心技体を以てそれを体現できる。妖術では他の七大妖王の中でも劣る部類だが、体術では七大妖王の長〝斉天大聖・美猴王・孫悟空〟、その長に並び立つ〝平天大聖・牛魔王〟にさえ引けを取らない。それは、鍛錬で到達できる霊格の中では、極地の一つだった。

 

 海千山千の霊格を持つ蛟魔王の拳は、海から大地を構成する星の息吹に等しい。

 人間相手に本気で打ち込めば、五臓六腑すら残さず粉砕するだろう。

 

(この少年も、海千山千の修行を…………?)

 

 その疑問を、すぐに拭い去る。この少年の拳には武術の跡や研鑽の後が感じられない。その拳の無骨さは、溢れ出る才能一つで戦ってきた証だ。

 

 気配は紛れもなく人間。しかし、その圧倒的、反則級の才能、天武の才を持つ人間。

 

(…………白夜王がこのゲームに参加させたかったんはそう言うことかいな。武術の鍛錬がなく、この圧倒的才能。恐らくは異世界から召喚されたばっかやろう。元々の箱庭の住人なら僕なんか相手にならん位には強くなってるはずやからな。

 あーくそ。なんで僕の周りには規格外か、変な挑戦しようとする奴らばっかなん?)

 

 軽く悪態を付きながらとある存在を思い浮かべる。

 蛟魔王は知っている。ただ、一人。生まれついて修羅神仏に並び立つと力を有した。存在そのものが反則っぽい天賦の才を持つ者を。

 

(美猴王の姐さんと、同じ器……ねえ)

 

 可能性……いや、確信に近かった。むしろ、そうでなければ本当に手が付けられないとさえ思考してしまう。

 だが、そんな事はどうだっていい。

 

 不可能に立ち向かう…………命を燃やして研鑽し、努力するという行為そのものが、楽しくて楽しくて眩くて尊くて、仕方がなかった。

 

 きっと、目の前の少年もと同じなのだろう。それが、なんだか嬉しくて―――

 

「どうした蛟魔王!!!!」

 

 思考に耽り、十六夜の拳に反応……いや、気付くことなくその拳が顔面を捉えた。

 蛟魔王の身体は勢いよく吹き飛び、海の上を幾度とバウンドしやがて、止まった。

 だが、十六夜の追撃は止まらない。立ち上がろうとする蛟魔王の腹を蹴りあげ、落ちる前にその身体を叩両手で叩き付ける。

 海を割り、その下の地面へとめり込んだ蛟魔王を引き上げ心窩を殴り付けた。

 蛟魔王の身体がくの字に折れ曲がり、その口からは派手に血が吹きでる。

 

 まだ終わらないと、更にその拳をたたき込む。

 しかし、この打ち下ろしは空を切った。

 見事な体捌きで十六夜の拘束から逃れ体勢を整えた蛟魔王は、静かに、十六夜に向けて言い張った。

 

「久しぶりやなこの感覚。お陰で目が覚めたわ」

 




お読みいただきありがとうございます。

あ今日月曜じゃんと気付いたのが9時過ぎ。
大慌てで書いたですはい。
ほとんど引用だけど寛大な心で許してニャン(;´Д`)

では、また次回~


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第79話 蛟魔王

投稿です。

最近マイクラと、モンハンと、BO4と、ダクソ以外のやる気がくっそ下がってる。
たまにやるとハマるゲームって多いよね。

では、どうぞ。



 ゾワリッ

 

 十六夜の体が震える。バクバクと鼓動が早くなり、額には脂汗。より強大な筈の白夜叉と対峙した時も、拳が砕けた時も、かの巨龍の心臓を穿つ時もここまでのものは感じなかった。

 

 白夜叉はそこまでの本気を見せていなかったという事なのだろうが、それにしたって、これはダメだろと脳が警鐘を掻き鳴らす。

 

 白夜叉よりも格下だと言う目の前の男。七大妖王第三位に位置する〝蛟魔王〟が、ゆっくりと口を開く。

 

 星を揺るがす懇親の一撃を三発貰い、口から血反吐を吐き出しながら四発目を圧倒的技量の差を見せ付けながら回避してみせ、ゆっくりと、口を開く。

 

「久しぶりやな、この感覚。僕も随分簡単な方法で……それだけ姐さんの存在がでかいってことなんやろかね。どう思うよ十六夜くん」

「……俺にはなんとも。ただ、分かるのは漸く本番って事ぐらいか」

「ハッハッハっ! そいつが分かれば十分や。

 

 俺は〝七大妖王〟が一人〝蛟魔王〟

 後悔すなよ少年」

 

 瞬間強風が十六夜の顔を撫でる―――よりも先に蛟魔王の拳が十六夜の顔面を捉えた。次いで腹に衝撃。蛟魔王の爪先が十六夜の腹を抉り上げる。くの字に曲がった身体。前面、蛟魔王へと近付くように押し出された頭の後頭部を掴まれそのまま叩き付けられる。

 

 海は割れず、地面の上で戦っているかのように水は動かない。さながら大地の上で起きた出来事のように水面の上には二人を中心にひび割れが起きていた。

 

「まずは挨拶がわりに……って、おーいもうくたばっちまったかー?」

 

 まるで内蔵を直接掻き乱されたかのような気持ち悪さ、受けた衝撃自体は大して変わらなかった。耐えられる威力だった筈だ。だと言うのに、身体が言うことを聞かない。

 

 蛟魔王は未だ立ち上がろうとしない十六夜の頬をペちペちと数度叩く。外部からの接触に脳が危機を察知したのか、反射的にその場から飛び退いた。

 

「お、なんや。まだ動けるやん。んじゃ、続きと行こうか」

 

 蛟魔王は飛び上がった十六夜を見て、獰猛な笑みを浮かべる。〝枯れ木の流木〟と呼ばれていた者と同じ存在だとはとてもではないが見えない。

 

「身体だけは頑丈みたいやし、もう少しエグい方法でも大丈夫か? いや、あの程度で伸びてたんやし、内臓掻き回すんのは辞めた方がええかな? どう思う少年? 僕としてはまだまだ暴れ足りんのやけど。かといって白夜王に挑んでも瞬殺されるし、他の子に手を出したら捻り潰してしまうからなあ」

 

 ペラペラとしゃべり続ける蛟魔王に警戒心なんてものは無い。それだけ十六夜は下に見られているという事だった。

 だが、今の十六夜に再び奇襲を仕掛ける程の余裕はない。危機察知によって固まった水面の上に立つことが出来てはいるが、足どころか満足に腕も動かせない。正しく木偶。

 

 ああ、勝てないだろう。そんな事はとうの昔に気付いていた。

 今の自分がどの程度通用するのかを試したい。その気持ちが強かった。

 

 勝てない、そんな次元の話しではない。敵わない。

 

 だが、絶望感は圧倒的に弱い。アイツのように挑むと言う選択肢を取れないほどではない。

 故に、その技少しでも見させてもらうぞ。

 

「……はっ。ゴフッ……。そのていど、かよ蛟魔王。期待ハズレだな」

「―――へぇ。ええんやなそれで」

 

 返事を返すよりも早く、俺の体は宙に浮かんだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

なんだァ!? このやっつけ感はァ!?
ま、僕の文書力ではこれが限界なんですよ┐(´д`)┌
戦闘シーンとかもっと上手に書けるようになりたいのう(´・ω・`)

では、また次回~


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第80話 一時の主

投稿です。

先週は申し訳ありませんでした。
死んでましたねはい。書こうとしたけど、指が震えてたんでやめときましたはい。

では、どうぞ。


「いや~ひっさしぶりにいい汗かいたわ。あんがとな」

 

 ぽんぽんと、座布団代わりにと座っているものに優しく手で叩く。正しくは少年を守るように包んでいる水の泡にだが。

 

「態々手当までしてるんやし、喧嘩を売ってきたのはそっち。けど、義仁はんに怒られそうやなぁ」

 

 何処から出したか煙管を取り出す。湿気ている為火をつける事が叶わないが、まあ良いだろうとそのまま咥えた。

 

「ま、恨むなら僕をその気にさせた自分を恨めよ。君には感謝しとるし、また手合わせしたいなら受けてやってもええよ」

 

 さてと、と。腰を上げ、水の泡の中で気を失っている十六夜を担いだ。十六夜の体には致命傷になりうる怪我すら見受けられるが、出血している様子はない。

 

「さあーて……義仁はんは頑張ってるかねー」

 

 一つ欠伸をし、蛟劉はのんびりとその歩を進めた。

 

 

 

 

 

 この世界に来て三度目の急落下。必死にヒッポカンプの首にしがみつく。目を閉じ、体に吹き付ける風が落下が続いていることを否応なしに教えてくれた。

 心の中で早く着地してくれと涙ながらに祈り続け、およそ五秒、体感では五分ほど落ち続け着地した。

 

 衝撃は驚く程に少なく、着地したと分かったのも吹き付ける風が消え瞼を上げた時だったほど。

 

 ほう、と大きく息をつく。手が震え、足がふわふわと浮いているような感覚。

 

 正直、怖い。けれど、怖くない。それに、これは義仁が前に進むと言う意思表示でもあった。そうしなければ、あの二人に顔を合わせるには、あまりにも情けなかったから。

 義仁が動かないのを心配してか、ヒッポカンプが首を回し義仁の頬を舐めた。

 

「ブルルッ」

「ごめんごめん。少し考え事してた。表彰台には立てないだろうけど、頑張ろうか。…………うん。どうせならおもいっきし走ろう。私も落ちないように頑張るから。任せられるかな?」

 

 義仁がヒッポカンプの首を撫でる。それに応えるように、大きく前足を上げ水面に叩き付けた。瞬間、爆発音。それがヒッポカンプの振り下ろした足音だと分かるのに時間は掛からなかった。

 不思議とヒッポカンプの体躯が先程よりも大きく見える。さながら、押さえ付けていた楔を取り払ったかのように。

 

 そもそも、蛟魔王と言う箱庭に名を轟かせた魔王が愛馬として駆る馬。少しばかり足が速い……なんてものでは無い。蛟魔王の一撃に耐えられる程にはその肉体も精神も、その霊気すらも底上げされているのだ。

 多少足が速いヒッポカンプには負けられぬ。

 

 やるならば、勝ちを狙う。背に跨る一時の主の為に。

 

 魔王を名乗る者の愛馬がその一歩を踏み出した。

 




お読みいただきありがとうございます。

ヒッポカンプが終わって、閑話を少し挟んで、最終章って感じになるかなぁ。
あと数ヶ月……あと数ヶ月もあるのか。あと、数ヶ月しかないのか……。

ま、もう少しの間よろしくです。

では、また次回~


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第81話 寒い

投稿です。

GE3が予想以上に楽しくて困る

では、どうぞ。


 翔ける 駈ける 駆ける

 

 足を前に、水を掻く。ただ前へ、ひたすら前へと血眼になって。海樹の森の小さな隙間を走り、潜り、想定されていない道なき道を無茶苦茶に突き進む。それは、蛟劉の恩恵を直に受けていた時の走りと謙遜なく、直線で叶うものはまずい無いと確信出来るものだ。

 

 このまま進めば台に上がる事は叶わないとしても、それなりの順位にまで上がる事は可能だろう。

 しかし、樹海には精霊や妖精が住み、見過ごす者もいれば、悪戯好きもいる。そして、その魂を引き摺りだそうとする者も。ゲームのルートがある程度設定されているのも比較的精霊や妖精が通らない、集まりにくい場所を参加者に通らせる為である。

 

 幾度となくその皮膚を裂いていく枝、手綱を引っ張ろうとする小さな手を振り払う。吐き出される息は白くなり、視界もボヤける。妙に寒いのは何故だろう……と、原因が分からない義仁は自身の身体が少しやつれている事には気付くことは出来ない。今はただ落ちないように手綱を握り締めることしか出来ない。

 

 体にぶつかる風が冷たい。裂けた皮膚の下から血が流れる。唇は紫色に変色し、握り締めた拳はむしろ開く事が出来ない。体の芯を握られたかのような寒気。着実に義仁の体力は奪われている。

 

 もう、乗っているのもやっとな状態。誰かが助けに入らねば後遺症が残っても可笑しくない。最悪死も有りうる。

 

 ヒッポカンプはこのまま走り続けてもいいのだろうかと、後ろの小さくなり続ける生気に焦りを感じ始めた。動物故に、その本能が危険信号を出し続ける。だが、戻るにしてもそれなりの距離はある。進む方が安全な所まで進める可能性もあるのだ。

 

 グルグルと、決まらない会議が頭を巡る。そして、パタリと背中の重みが強まった。背を確認しなくても分かる。背に跨る男の体力が限界に近いのだ。

 

 ゆっくりとヒッポカンプの足が遅くなる。昂る気持ちのまま、調子に乗り危険な道を進んだ故の帰結。知識を持つ獣故に、焦りが募る。助けを呼ばなければ、だが、どうやって、そんなことより進む、いや戻って―――

 

「…………だい、じょうぶ……だから」

 

 首筋にあたる冷たい空気。義仁の腕はヒッポカンプの首に回され、無理に開かれた指の関節はパックリと割れ血が流れている。

 

 ―――自分の失態は自分が払拭する。ドンッと、足を踏み出す。木と木の間を駆け巡り、目指すは上。

 木の頂上に辿り着いたと同時に、木の一本を全力で蹴り跳躍。衝撃で海樹がへし折れたが、そんなこと気にしていられる余裕なぞない。

 着地する為に体勢を空中で整え、滝を降りた時とは違い優雅に降りた。

 

 これで、魂を引き摺りだそうとする者はいなくなった。後はゴールにあるであろう医務室に駆け込む。

 

 あと少しの辛抱だと、駆け出そうとする二人の前には、今まさに争い続ける三人の影があった。

 




お読みいただきありがとうございます。

ヒッポカンプが主人公しすぎて困る
喋らない馬の主人公ってどうよ?

では、また次回~


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第82話 ゴール

投稿です。

ゴールはゴールでもゴールしたらあかんタイプではないですよ?

では、どうぞ。


 蛇腹剣と龍角の槍が交わり衝撃波を引き起こす。その衝撃に波が乱れヒッポカンプの歩が止まる。

 ヒッポカンプを落ち着かせ、隙を見いだし走らせるも、蛇腹剣がその行先を妨害する。そこに春日部耀が援護に入りまた衝撃波が発生するの繰り返し。お互いに先に進む事が出来なかった。

 

「くっ……、流石に簡単にはやられてくれないわね。春日部さん!」

 

 飛鳥が春日部に自らのギフトを使用する。飛鳥のギフト『威光』は命令件として対象の霊格を強化することが出来る。成長することのないギフトに対して使えば壊れる事は必須となろうが、人間相手や植物相手になら遠慮する必要も無い。

 

「いい加減に……! 落ちて!」

「しつこいですね……っ!」

 

 再び二人の獲物がぶつかり合う。そしてまた振り出しへ……。耀は技術が足りないと力に任せ、フェイス・レスは圧倒的力の暴力に受け流すしか他ない。

 

 さて、そんな決着のつかない攻防を続けている二人の後方。距離にしておよそ2キロか3キロか……。その地点に静かに降り立つ影が一つ。義仁を乗せたヒッポカンプだ。

 

 着地と同時に走り出す。水掻きが力強く水をかく。目の前に常人では割ってはいることが許されない争いが起こっていようとも関係なぞない。

 ただ、我武者羅に足を動かす。前方で争い続ける三者のぶつかり合いで生まれた波を踏み抜き、ものともしない。

 

 三人との距離が1キロを切ったと言う所で漸く三人の視線が義仁達の方へと向いた。それが引き金となったのか、3人とも一斉に最後の勝負を仕掛けた。

 フェイス・レスは一瞬の隙を付き春日部耀を水面へと叩き付け、飛鳥は『威光』を使い自らのヒッポカンプを強化し最後の追い上げを掛ける。

 

「全力で駆け抜けなさい!!!」

「……シッ!」

「きゃっ!」

 

 一つ水柱が立つ。先頭を走るは飛鳥、続いてフェイスのレス。少し離れた所に義仁。

 

 フェイス・レスのヒッポカンプは彼女が厳選したもの。そこらのヒッポカンプ程度ではまず追い付くことも、前を走っていても追い付かれるのは時間の問題。飛鳥からの支援があるとはいえ徐々にその差は埋められていた。

 

 距離にしておよそのこり300。1キロ近く離されていた義仁達はフェイス・レスのすぐ後ろまで迫っていた。

 

 後ろに迫る二人に飛鳥は焦りを覚えた。たった300。されど300。実質数秒。10秒にすら満たないその時間がとてつもなく長く感じる。

 

 残り200

 100

 50

 5

 

 ゴール

 

 ゴールしてもヒッポカンプを止めることを忘れ、陸に上がろうとしたのかヒッポカンプから振り落とされた。水に落ちた事を理解したと同時に焦りが生まれ、顔を水面から出した後に飛鳥はゴールした事実に気付いた。

 

 フェイス・レスが私の後ろに居た。1番前に居たのは私だった。勝ったのだろうか、負けたのだろうか。

 私の乗っていたヒッポカンプが傍によってきた。心配してくれているのだろうか?

 そう言えば義仁さん達は何処に行ったのだろう。とか、そんな事を考えて……どうでもいいくらいにめんどくさくなって大の字に体を水に預けた。少しだけ体が浮き少しだけ息苦しく感じる。

 

 だけど、きっとその時私は笑っていたんだと思う。

 




お読みいただきありがとうございます。

視点ぐるぐるしてワケワカメ。
この辺の書き換え出来る人達ってホントすごいと思う。

ボックスガチャ50箱いったよー
100とか時間的に(ヾノ・∀・`)ムリムリ

フィム可愛ええなぁ!!
みんなもGE3をやるべき。お母さんになれるよ!!

ではまた次回~


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第83話 救護室

投稿です。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

僕に正月休みなんてありません。
辛いです。

話を考えるのも疲れて、ぶっちゃけ何が書きたいのかよく分かりません。

では、どうぞ。


 救護室は蛟魔王とフェイス・レスの初撃に失神し溺れかけた者達が休憩していた。今年のこのレースでは溺れかけ軽い怪我をした者はいれど、特別な処置が必要な者は出ていない。

 

 救護室の中は雑談する者……、もはや救護室と呼ぶよりは雑談室、休憩室と呼んだ方が正しい部屋。その部屋の扉をぶち破り入って来た客人がいた。義仁を乗せたヒッポカンプだ。

 

 本来であれば水上を走る為の水掻きは無理矢理陸上を走ってきたせいかボロボロに傷付き、身体を壁に沿わせながら走ってきたのだろう。体の側面の皮膚が所々ずるむけていた。

 

 救護室の中に緊張が走る。唐突すぎる、本来来るはずのない水上の生き物。それが陸の上を無理矢理来たとなれば思考が停止するのも無理はないのだろう。

 しかし、それは一瞬の事。背中で浅く呼吸を繰り返す義仁を見つけすぐさま行動を始めた。

 

 既に完治した者達を会場へと戻るよう促し、部屋の中を広くする。ヒッポカンプから義仁を降ろし、義仁の容態を確認する。

 ヒッポカンプは複数人で担ぎ、川へと戻しに向かう。

 

 義仁の容態はこのゲームでは大して珍しいものではない。悪霊等が生きた人間を仲間にしようと引き込もうとした結果、体温が急激に下がり、呼吸が浅くなる。容態は人によって差異はあれど大まかに変わることは無い。

 

 そもそも、ゲーム中は予めルートを運営側が選手に妖精や悪霊の類が集まりにくいよう細工をしている。ルートを離れてもそうそう死に至るまで行くことは大変珍しい。それこそ、自殺志願者でもない限りは引きずり込まれることはない。

 

 悪霊は死の臭いが強い、活力がある者のを好んで集まってくる。活力があるものであれば特に問題は無いが、死の臭いが強い者なら状態によるが酷い場合は数十分と持たない。

 

 なら義仁はどうかと言うと、連れて行かれるまで多少の猶予は見られた。ただ、体温低下や出血等危ない状況にいた。すぐさま止血、増血剤。体を温め、悪霊が嫌がる塩、聖水等で清める。

 

 あのヒッポカンプが身を呈してここまで運んで来なければ危なかっただろう。現場の者が救護班に報告、その間に救命措置。その後救護室から救急医療器具を持った者が駆けつけ、状況により担架で移動……確実に助かるとは言えない状況だった。義仁を助けたのは間違いなくあのヒッポカンプだと言えるだろう。

 

 義仁の呼吸が安定してきたと同時に救護室全体から溜息が出た。ヒッポカンプを川へと連れていった者も戻ってきた。どうやらこの男今回のレースで最後尾から二位を勝ち取った猛者のようだ。

 

 一体どのようなルートを走ってきたのか……まずまともな道は走っていないだろう。なんにせよ、命を賭けなくて良いゲームで死にかけるのは勘弁して欲しいものだ。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

年明け早々明るい話でしたねヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
次回は目が覚めたおっさん&十六夜君と鬼達の会話になるかなー

では、また次回~
皆様、良いお年を~(*´ω`*)~


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第84話 心配事

投稿です

実家に帰ってだから内容うっす
考える暇がなかったや……ユルシテユルシテ

ではどうぞ〜


 手の平で目を隠し、空を仰ぐ。青い空なんて見えないけど、思考を捨て去りたい気持ちで白い天井に涙を浮かべた。

 

 何時になれば私の胃は落ち着くのか。何時になればこの人は無茶をやめてくれるのか。てかなんで毎度の如く死にかけるのか。いい加減自分の不運を理解して欲しい。

 もう一人に関してはアホじゃないかと。格上をその気にさせれば負けることは分かっているし、これがほんとうの敵であれば殺されていたのは目に見えている。助かっているのは相手が手心を加えてくれていたからに過ぎない。

 

 呑気にベットで笑っている二人を伝家の宝刀ハリセンで叩きたい気持ちを抑え、いや一人に関してはべつにやってもいいのではないのかと悩みながらもハリセンを振り下ろすことはなかった。

 

「兎に角……おふた方が無事で良かったです」

「あははは……心配かけてごめんなさい」

「いやぁ、僕もつい熱くなりすぎてもうてな」

「随分と楽しそうで。何時かその鼻へし折ってやるよ」

 

 やれるもんならやってみい童と、一食触発。黒ウサギの胃痛も酷くなっていく。

 

「そう言えば、蛟劉さん。あの子は大丈夫でしたか。大分無茶させてしまったみたいですし」

「大丈夫大丈夫! あれでも僕の愛馬やし、頑丈やから少し休めば傷も治るよ。義仁はんや十六夜くんみたく包帯ぐるぐる巻きにとかにはなってないわ。

 それよりは義仁はんに償いたいみたいで、僕から一時離れてもいいかとすら聞いてきてな。そっちの方が心配やわ僕としては」

「それなら春日部様が説得してくれておりますので大丈夫かと。ジン坊ちゃんと、飛鳥様、リリもそちらに付いておりますし説得自体はスムーズに進むと思いますよ」

「だといいんだけどねぇ……」

 

 蛟劉は黒ウサギの言葉に納得しきれないようで、複雑そうな表情を浮かべる。

 

「アイツ大分頑固者なんよ。僕自身ノーネームに行くの自体は別にかまへんし、ただ、アイツの言う償いが終わるまで僕を乗せてくれるかどうか……。

 簡単に言えばな、しばらくの間、義仁はんの所有物になりたいって言うてんのよ。アイツ僕の加護持ってるし長生きやから数十年単位になるだろうし、その間乗れんくなるのはちょっと……なぁ。駆けつけな行かん時にアイツ居らんと到着に雲泥の差があるし」

「数十年単位だと、困りますね」

「蛟劉自身がこっち、東側に来りゃあいいじゃねぇのか?」

「身寄りのない、名の知れた魔王が街中を歩いてるだけで騒動が起きるで? 言うちゃ悪いが色々やらかしたからなぁ」

 

 昔を思い出し苦い笑いを浮かべる蛟劉。しかし、そんな事をしていても問題は解決しない。

 

「だから、義仁はんに話付けてもらうのが1番なんやけど……出来そうか? 別に直ぐにって訳じゃなくてもええから。せめて、僕が自由に乗れるのを確証してくれれば」

 

 押しに弱い私がそんな事出来るのだろうか。しかし、やるしかあるまい。蛟劉さんにも、ヒッポカンプのあの子にも迷惑を掛けたのだから。義仁微妙に痛む腕を動かし、やるだけやってみかと息を吸い込んだ。

 




お読み頂きありがとうございます

まあ、次は多少濃ゆくなるんじゃないかな?

そういえば、前話火曜日に投稿してましたね。素で間違えました。ごめんなさい。次いでになんですが、来週投稿出来るかが分かりません。理由はその……東方祭行ってきます(๑>؂•̀๑)テヘペロ

IS書くのたのちい

では、また次回〜


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第85話 解決

投稿です。

あんだけ引っ張ってこれだよ(_òωó)_バァン
ごめんて……(´・ω・`)
なんか、ほんと謝ってばっかだなぁ(´・ω・`)

では、どうぞ。


 黒ウサギの肩を借り、レーススタート地点までやってきた義仁達。表彰も閉会式も既に終わり、会場は片付けをしているスタッフばかりがいた。そんな中で水面に座っているヒッポカンプと、それを囲う耀達の姿があった。

 

 耀達も義仁達が来たことに気付きお手上げだと両手を上げた。対するヒッポカンプはと言うと、飼い主を見つけた犬のように眩しい瞳で義仁を見上げていた。一体どっちが本当の主人なのかわかんねぇなこりゃ。とは、十六夜の言葉である。

 

「……義仁さん。怪我、もう大丈夫なの」

「一応はね」

 

 その言葉に取り敢えずはと胸を撫で下ろす耀達。しかし、肩を借り支えられている状態でそのようなことを言われてもただの強がりにしか見えない。だが、それもまたいつもの事かと諦めた。

 

「何が一応はだ。さっきまで死にかけで、今も支えて貰えないと歩けないやつがよく言うぜ」

「それは十六夜くんも言えるんとちゃうんかなー」

「俺は一人で歩けるからいいんだよ」

 

 ひねくれた様に言い放つ十六夜。それは彼なりの小言で、心配している事は容易に想像出来る。

 

 さて、問題は……。と、義仁はヒッポカンプを見る。ジンとリリは軽く放心しているが、それは彼には見えていないようだ。

 ヒッポカンプは義仁が近付くと同時に頭を垂れた。黒ウサギと耀は疲れた顔で、蛟劉は困ったように笑った。義仁はヒッポカンプの言葉が分からないので、三人が何故そのような表情浮かべるのかが分からない。が、珍しく察しは付いており、耀の翻訳で予想が的中した。

 

「……えっ、と。忠誠を……だって」

 

 予想できたとはいえいざ言われてみるとどうすればいいのか分からない物で、困った笑いが浮かんでくる。思わず翻訳してくれた耀に聞き返してしまった。

 

「……どうしよっか」

「……私に聞かれても」

 

 そりゃそうだとヒッポカンプに再び向き合う。取り敢えず素直に言ってみようと口を開く。

 

「あー、えっと……。蛟劉さんが困るみたいだから、一緒には行けない、かな?」

 

 取り敢えず言ってみたが、罪悪感が湧いてきてしまう。それ程にしゅんとしているのが言葉が分からないなりにもひしひしと伝わってくる。

 

「気持ちは嬉しいんだけど。こればっかりはどうしてもね。また、蛟劉さんとお会いする機会があれば背に乗せてくれると嬉しいかな」

 

 すると、耀と黒ウサギが同時に声を上げた。何事かと思ったら、どうやら耀達の説得での頑固さが嘘のように引いたようだ。

 

「……分かったって。私の苦労ってなんだんだったんだろ」

 

 ともあれ、問題は解決した。蛟劉がヒッポカンプとなにやら揉めているもののそれは当人達の問題だろうと見て見ぬふり。

 黒ウサギからレースの結果の話を聞く、義仁は無事ゴールできた上に第二位だと知り驚いたが、これは良い報告ができると笑を零した。

 

「黒ウサギさん。少し連れて行って欲しい所が……」

「はい? どこへでしょう」

「少し、サラさんに聞きたいことが。お願いできますか」

「それぐらいでしたら幾らでも。サラ様は……まあ、適当に居そうな所を合ったって行きましょうか」

 

 お願いしますと、黒ウサギに両手で抱えられる。十六夜に伝言を残し会場から跳び立った。

 




お読み頂きありがとうございます。

名前すら出てこない飛鳥ちゃん……たまげたなぁ
1話だけ飛鳥ちゃんメインのやつ書こうかな……おっさんと関わらない理由みたいな……

あと、地味にお気に入りが増えてきておっさんを虐めにくゲブンゲフン
いやぁ!おっさん頑張るなぁ!!

でほ、また次回〜


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第86話 不死鳥

投稿です。

問題児の不死鳥がどの程度か知らないので、なんか王道っぽい設定にしときました。今後出てくる予定はありません。

では、どうぞ。


 黒ウサギに抱かれサラを探すこと十数分ほど。何度か集まった貴賓室にサラを見つけた。

 

「おお、義仁殿じゃないか。コースから外れ散々な目にあって意識不明と聞いていたが。その運命もさながら、いやだからこそ変に心も体も丈夫になっているんじゃないか?」

「サラ様、その言い方は些か不謹慎ではないですか」

「おっと、ついこの間失敗しているというのに……親しき仲にも礼儀あり。非礼を詫びよう」

「いえいえ、事実ではあるので……。あはは」

 

 サラの指摘に笑うしかない義仁。超人的な身体能力、特異な異能、、応急手当の知識なんて免許を取りに行った時のものしかない。そんな人間が病気で死にかけ、腕が折れるのは優しいレベル。生きている方が可笑しいのだ。変に丈夫と言われても致し方ない。

 

 と、そんな世間話をしに来たのではない。黒ウサギはサラの言葉に軽く流した義仁に不満を抱いているようだが、それはそれ。人なりなのだから許して欲しいと義仁は用事を済ませた。

 

「―――……ああ、それなら昨日ココに行くと言っていたぞ。まだ居るかは分からないが、行ってみる価値はあるとは思うぞ」

「なるほど。ありがとうございます。早速行ってみます」

 

 聞くことも聞いたし早速と、黒ウサギと共に部屋を後にしようとした時。サラから声をかけられた。

 

「ああ、そうだ。義仁殿に渡さねばならないものがあった」

 

 そう言うと机の上に置いてあった木箱を開いた。その中には銀色に輝く小さな杯が入っていた。ヒッポカンプレースの入賞者に送られる銀杯だ。

 

「まったく……生死の境を彷徨いながらゴールし、ヒッポカンプは暴走しながら陸を走り回る状況なんて初めて見たぞ。ともあれ、第二位おめでとう」

「実感は全くないのですが……ありがとうございます」

「それと、これは私からの餞別だ。普通に買おうと思えば軽く屋敷が買える物だ。大切に扱うように」

 

 と、言われ銀杯と共に渡されたのは紅いペンダント。銀の枠に紅い水滴の様な形の宝石がはめ込まれている。ペンダントはほんのり暖かく、宝石の中には炎が閉じ込められているのか、何かが揺らめいていた。

 

 後ろから覗き込んでいた黒ウサギはこのペンダントが何か分かったのか、声を荒らげた。

 

「これは、不死鳥のギフト!?」

「ああ。不死鳥の涙、それが結晶化した珍しい代物をペンダントにしたものだ。所有者の傷を癒す恩恵があるそうだ。後は、涙の質によるそうだが所有者の命を守ることもあるらしい。義仁殿は不運に巻き込まれやすいようなのでな。宝物庫の中に眠っていたものを引っ張り出してきた」

「だ、だからといってこんな貴重な物受け取る訳には」

 

 いいから受け取れとサラに無理やり渡され、部屋から追い出された。

 

「不死鳥って、不死鳥ですよね」

「その不死鳥です。フェニックス、火の鳥とも呼ばれていますね。多分、そのペンダントを市に出そうとしても値段が付かず売れないレベルの代物です。〝ノーネーム〟の宝物庫に眠る武具達にも引けを取らないですよ」

「そうなんですか。実感が湧かないことだらけですもうなんか、考えるのが辛いですね……。取り敢えず、サラさんに教えて貰った場所へと行きましょう」

 

 義仁は再び黒ウサギに抱かれ、サラに教えて貰った場所へと向かうのだった。

 




お読み頂きありがとうございます。

次回か、次々回でようやくアンダーウッドが終わると思いますん。
そしてこの黒ウサギの空気感よ……
ほかのキャラ達も活躍させられる人って凄いなとつくづく感じる今日この頃なのでした。

では、また次回〜


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第87話 生きる

投稿です。

はい。先週はごめんなさいね。
最近物忘れが酷くて、ストレスかしら?(言い訳)

さあ、久々の登場ですよ。

では、どうぞ〜


 地面に墓標となる石が立ち、手前には棺桶を入れる為の石柱が埋まっている。日本生まれの義仁には見慣れない光景だが映画等で見た事があったため、そこまで違和感を感じることは無かった。

 

 その中に、墓標の前に花束を添える少女が一人。人間と変わりない肌色の体に白のワンピース。しかし、風に靡くその髪は樹木の葉と同じものだ。

 

 黒ウサギにその場で待ってもらい、義仁はその少女へと近付いた。

 

「久しぶり。キリノちゃん。こうして面と向かって会うのは……初めてになるのかな」

「そうですね。久しぶりと言うよりは、初めましての方が近いのかな」

 

 それもそうだ。と、義仁は笑った。少女は振り向かない。

 

「知ってるかな。ゲームに出てみたんだ。初めて、自分の意思で。色々死にかけたけど、なんだかんだ二位になれた」

「知っていますよ。私は受付をしていましたから。三つ隣で申請していましたね」

「そうだったんだ。ごめんね、声を掛けられなくて」

 

 バツの悪そうな顔で謝る。許して欲しい……と言うよりは、一方的な懺悔……、だろうか。

 

「謝る必要なんてないじゃないですか。それに、声を掛けられなかったんじゃないですよね? 本当は」

「…………。そうだね。うん、そうだ。私が一方的に避けてただけだった。新しく来た場所だからって、新しい友人が出来たからって……。それを優先しないとって、子供の我儘みたいに視界に入れたくないものを無理やり無視して……」

「そうですか」

 

 キリノは墓標にそっと触れその表面に削られた、血の繋がっていない、されど、最愛の弟の名をなぞる。

 

「だけど、なんて言うのかな……。頑張ってみようと思う。君がくれた手紙に書いてあった通り。必死に足掻いて、足掻いて……生きて、みようと思うんだ」

「だけど、今日だって死にかけてたじゃないですか」

「それを言われると辛いな。確かに、私はそういう運命にあるみたいだ。もしかしたら、明日死ぬかもしれない。だけど、せめて死ぬ時は君たちに誇れる……―――

 

「違うでしょう!」

 

 初めて彼女が振り返った。その瞳には大きな雫が溜まりポロポロと地面へと向けて転がり落ちていく。

 

「わた、私がどんな思いであの手紙を書いたか、あの一言を書くためだけにどれだけ時間をかけたと思っているんですか!!

 わたし、は……っ!! 貴方に、この子に寄り添ってくれていた貴方だからこそ!! 生きて、この子をが見るはずだったものを見て欲しいんです!!

 なのに、なのに!! どうして!! そんな簡単に自分の死を受け入れられるんですか!? さっき自分で言ったじゃないですか、必死に足掻いて、生きてみようと思うって……。だったら!! 自分の死を受け入れるな!! 私たちに誇れる!? ふざけるな!!

 惨めに、カッコ悪く、意地汚くでも、生き抜いてみせろ!! それぐらいの気兼ねをみせてよ!!

 嘘でもいいからッ!! 生きてやるって!! 言ってよォォ!!!!」

 

 こうした方が、こういう言い回しの方が〝キリノを傷付けない〟と信じて発した言葉。それはみな、キリノを傷付ける刃にほかならなかった。なんて浅はかか。どうして、そんな些細なことにも気付けなかった。

 

 泣きじゃくる彼女の肩を掴み、抱き寄せる。強く、強く抱き、声を上げた。

 

 

「絶対に生きる!! 生きてやる!!

 何があっても、どんな極地に立たされても!! 生き抜いてやる!!」

 

 




お読みいただきありがとうございます。

一応キリノちゃんの出番は終わりかしら? 最後にもうちょろっと出るかもー?って感じですかね。

そこ、フラグ建築乙ですとか言わない!

では、また次回〜


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第88話 久遠飛鳥

投稿です。

いやはや、土曜と勘違いしてました┐(´д`)┌ヤレヤレ
休みが日曜固定ではないので月曜が来た実感が湧かないんですよねぇ

あ、それと休み時間を使って投稿してるんで大分わけわかめ状態です。

心して読むのだ!(こうじゃね? って場所あったら指摘して貰えると助かりますん(´・ω・`))

では、どうぞ。


 私の名前は久遠飛鳥。ここ、箱庭に来る前は五大財閥と呼ばれていた金持ちの令嬢。少し盛ったわ……本当は分家。繋がりなんて私は殆どない。十六夜君が言うには五大財閥も、ビッグネームの久遠家もなかったらしいけど、少なくとも私の記憶にはそう残されていた。

 

 私が箱庭に来たのはちょうど夏真っ盛り。セミの鳴き声が五月蝿い時期だ。その時は少しイラついて黙らせたけど……、それもしょうがない事だろう。なぜなら、その日は財閥解体に伴う親族解体する為に呼び出されたのだから。

 

 何が嬉しくて、何が楽しくて、自身の親ならいざ知れず、他人を、それも衰弱し寝たきりの他人を説得せねばならないのか。当主なら当主なりに責任持って欲しいものだ。

 

 だから、私は早くこんな場所から去りたくて当主を説得した。たった一言で。

 

 叔父は二つ返事で了承した。両親は親族共は喜びの仮面で恐怖を隠し私に感謝を述べた。

 

 そんな日に、割り当てられた自室へ届いた一通の密室投書。そりゃ、心が踊ったわよね。

 隠しきれないワクワクに、期待を膨らませて手紙の封を切った。

 

 それが、私の箱庭に来た経緯。大分簡単だけど、そんな感じだったわ。

 

 ええ、箱庭に来た瞬間高度何千メートルから叩き落とされる前の出来事。同時に、『今までの日常』が無くなった日だった。

 

 

 そのはずだった。

 

 

 一緒に落とされた一人……。黒ウサギ曰く、巻き込まれた一般人。木島義仁。春日部さんのように動物と対話できるわけでもなく、十六夜君のような怪力がある訳でもない。ましてや黒ウサギのような特殊な種族でもなく、私のように忌々しい力がある訳でない。少し……いや、かなり暗い過去を背負った、一般人。

 

 〝ノーネーム〟本拠に侵入してきた獣一匹、箱庭では戦うものとして最弱の部類に入る相手に殺され掛ける。正真正銘戦うべきではない一般人。

 

 そんな訳が無い

 

 黒ウサギが、十六夜君が、春日部さんが、ジン君が、レティシアが、リリが、彼を、木島義仁を一般人だと言っても……。私には彼がドロドロとした何か……。少なくとも、一般人には見えなかった。

 

 私がこの力を理解した時の事。それは私が全寮制の学校に入れられた時だ。仲の良かった学友達と離ればなれになる。それに加え寮は簡単に来られるような場所にはなく、言うなれば……森の中にある幽霊屋敷みたいな場所。道を知らない者が来ようと思って来られるような場所ではなかった。

 

 その寮に入って数日。寮母や、他の寮生が騒がしく窓から外を見ていた。私も外を見た。そこにはかつての学友が、傷を負いながら寮の前に立っていた。ある者は頭から血を流し、ある者は腕が曲がるはずのない方向を向いていた。

 

 だと言うのに、私の姿を見ると……ドロドロとした、意思のない不気味な眼で笑ったのだ。

 

 

 なんでここまで、大怪我までして

 

 

 言われたから

 

 

 最早人には見えなかった、見られなかった。あれはなんだ。このぶきみは……形容し難いこれは……。

 この時、私は、私のこの力を理解した。言葉にしたものに強制力を持たせることができる、悪魔のような力を。

 

 だが、逆に言えば彼等は私の力に負けただけになる。

 

 木島義仁はどうだろうか?

 

 何かに縛られるように死を望み、何かに望まれるように生にまとわりつく。周りを巻き込み、一般人と称される。

 自らの意思で動こうとしない、意志を持つように見えるだけの男。

 

 私は彼が一般人には思えない。

 私はそんな彼が……、怖いのだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

次はちゃんと月曜に投稿出来ればいいなぁ(遠い目)

では、また次回〜


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第89話 こんばんは?

投稿です。

この子はもドジっ娘だろうJK

では、どうぞ。


 何やかんやありながらも〝アンダーウッド〟収穫祭が終わり〝ノーネーム〟本拠へと戻ってきた義仁一行。

 そうして帰ってきてすぐ一部の体力おばけを除いた数人は床へ付いた。

 

 そして、その体力おばけも寝静まった夜中。昼間から寝ていた一人、義仁が目を覚ました。帰ってきた時はまだ明るかった青空が満天の星空に移り変わっている事に気付き、感じていなかっただけで疲れは溜まっていたことを実感した。

 

 口の中が渇き切り、微妙に腹も空いている。食堂で水を、食べられるものもあればと床から抜け出す。

 

 部屋には明かりがあれど。一歩廊下へ足を踏み出せば明かりはなく、月の光が窓から射し込むばかり。そんな中を手持ちのランプで、足元を照らしながらゆっくり進んでいく。

 

 義仁の部屋から食堂までは割と距離がある。口の中のパサつきが水分を欲し、喉まで痛くなってきた。あと一つ角を曲がれば食堂は目の前だ。

 

「ぁれ?」

 

 口内が乾燥していたためか上手く声が出せなかったが、無事食堂へと辿り着いた。着いたのだが……。

 

「んっん……。なんで明かりが」

 

 そう、食堂へと入る為への扉から義仁が持っているランプと同じものであろう灯りが漏れ出ていた。

 

「十六夜君かな?」

 

 以前徹夜して本を読み漁っていたという話をジンから聞いたこともあり、当たりを付け、いざ中へと扉を開く。

 

「あれ?」

 

 しかし、部屋の中の灯りは扉を開けると同時に無くなり人影もなかった。義仁は首を傾げるが、きっと片目に慣れていないからそう言う風に見えたのだろうと自己完結する。

 

「やっぱり、呪いみたいなのが残ってたりするのかな……。そう考えると少し怖い……か……」

 

 左目を眼帯の上から軽く撫でる。かつては当然のごとくあったそれは、今ではない事が当然となっていた。人間慣れるものだと、過去を振り返り水を貯めている水瓶へと近付いた。近くの皿を手に取り、水を掬う。軽く口の中に貯め、口内を湿らせ呑み込む。そのままテーブルへ。

 

「パンの一つでもないかな」

 

 食料が貯蓄されている戸棚を開き、大麦で作られたパンを一つ。元が大きい為切り分けねばならないのだが……。

 

「随分と雑な切り口……リリちゃんはこんな汚い切り口じゃないし。やっぱり誰か居たのかな?」

 

 切り口は斜めにギザギザと。少なくとも、家事炊事を預かっているリリが残すような切り口ではなかった。まあ、いいかとその切り口を隠すようにして切り分ける。

 割と大きくなってしまったパンに、暖かい飲み物の一つでも欲しかったと軽く後悔しながらテーブルへと戻った。

 

「食べきれるかな……」

 

 寝起きだからと不安を胸に長椅子に腰掛ける。するとどうだろうか? 足に柔らかい何かがぶつかった。テーブルの下は勿論空洞になっており、日頃は何かにぶつかるようなことは無い。流石に不審に思いテーブルの下を覗き込んだ。

 

「こ、こんばんは……は、はは」

「あー、えっと……こんばんは?」

 

 黒い髪を持った、まさしく美人と言う言葉を体現したような人物。が、何故か両足を抱え込みテーブルの下で縮こまっていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

ま、あれですよ。ネタが……ね?(察しろ)

いや、次は確か北側なんスよ。そこで話が一気に進むんすけど。1回休憩入れないとジャン?(言い訳)

取り敢えず、次回これの続き、次ゝ回で北側に行こうかなとおもいますん。

では、また次回〜

追記
白い髪じゃなくて黒い髪でした(๑>؂•̀๑)テヘペロ


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第90話 料理

投稿です。

1つばかり訂正をば
前回の最後で白い髪と書いたのですが、あれ黒い髪でした。元の見た目や、なまえで勝手に脳内が白い髪に変換してた許してฅ(・ω・ฅ)ニャン♪

(これは許されたな)

では、どうぞ。


「こ、こんばんは……は、はは……」

「あー、えっと……こんばんは?」

 

机の下と上で何故か挨拶。長い黒髪に白夜叉とはまた異なった短めの角。ややつり上がった瞼には、金色の瞳が爛々とランプの灯りを写している。

 

足の場所と、彼女の位置的にぶつかったのは脛の辺りだろうか。いや、そもそも何故机の下に居るのだろう。この人……人? が、部屋に入る前の灯りを付けていた本人だというのは分かるのだけど……。

 

しかし、二人して沈黙し動かないのは話が進む以前の問題である。取り敢えず出て来たらどうですか? と、やんわり義仁は促すと、女性はすんなりと机の下から這い出―――ようとして頭をぶつけた。

 

「―――――ッゥゥ!!!」

 

予想外の痛みというのは妙に痛く感じるもの。それが、別の人に見られていたとなれば尚更だろう。流石に気の毒に思ったのか、義仁は木製の椅子と机をずらし出られやすいように道を開ける。

 

「初めまして……で会ってるよね? 木島義仁です」

「あ、ああ。私は白雪姫。白雪。好きな方で呼ぶといい。あの阿呆……逆廻十六夜に負け隷属した蛇神だ。にしても、木島義仁。その名も、馬鹿な事に挑戦していることも知っている。お前は有名人だからな」

 

と、自己紹介に意気揚々と話し出す白雪姫だが。その瞳には未だ涙が少し溜まっており、照れ隠しで強がっているのはバレバレだった。

 

「こんな所で何を?」

 

しかし、相手はアラフォーのオッサン。デリカシーなんてものは存在しない。相手が隠したいことであろう事を何も考えず取り敢えず聞いてみた。

 

「ウグッ……。早速その話題なのか……。小腹が空いてな……」

 

それと同時にくぎゅぅぅぅ……と、可愛らしい音が部屋に響く。白雪姫は顔を赤くしお腹を押さえた。

 

「食べます? さっき大きく切りすぎてしまって」

「い、いただきます……」

「それで、何故机の下に?」

「以前も似たような事があってな……。私は料理なぞ出来ない。今までやってきたことがないのだからな。パンや米の仕舞ってある場所なんぞ検討もつかん。だから、芋を焼こうとして……その」

 

急に言い籠もる白雪姫に、義仁は焦がしてしまったのだろうかと考えた。事実焦がしたことは本当のようなのだが。

 

「いや、どうしたら天井が燃えるんですか」

「分かっていれば私も苦労はしない……」

 

そう。この女、天井を焼き焦がしたと言うのだ。食堂の天井は凡そ三メートル。いや、もっとあるかもしれない。その天井を焦がしたのだ。言われてみれば調理場の壁面と天井が暗闇でもわかる程度に黒くなっていた。

 

それを呆然と見つめる義仁に、白雪姫は早口で解説と言うなの言い訳を初めた。

 

「こう、な? 火力が足りないと思ったんだ。火は何とか付けれたのに火力が弱くて火が通らんのはダメだというのはさすがに分かる。そこで、リリや他の子が炎に筒のような物で息を吹き掛けていたのを思い出したのだ! 私は風を操れるのでな、子供の息より早く料理が出来ると風を送り込んだら」

「ご覧の有様ですか」

「うむ……。それで、リリとレティシアに叱られ、黒斑には笑われ……」

「また小言を言われるかもしれないから隠れた、と」

 

そうです。と、縮こまりながら白雪姫は肯定する。義仁も得意ではないとはいえ多少なりとも料理は出来るし、箱庭に来てからと言うのもの、白夜叉に連れられることも少なくなく、場所によっては水を煮沸して拵え無ければならない自体があった。それ故に火の起こし方や、調整は出来るようになっていた。

 

「なら、簡単な料理でも教えましょうか? ジャガイモを焼くくらいなら、料理に苦手意識がある白雪姫さんも簡単に出来ると思いますよ?」

「い、いいのか?」

「ええ、それくらいなら。ついでなので私の分も作って下さい」

「だ、誰にも言わないだろうな」

「言いませんよ」

 

やんわりと笑顔を浮かべる。こうして、白雪姫との料理講座初心者編が度々行われているとか……。

 

ちなみに調理場を把握している某狐娘と吸血鬼には次の日にはバレていたそうな。

 




お読みいただきありがとうございます。

多分もう白雪姫の出番はないです。
ちゃるもんにそんな文章力(ヾノ・ω・`)ナイナイ

ま、要望とかあったら、あと1話くらいこの平和な話を続けるor途中で入れるかもです。

では、また次回〜


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第91話 召集会

投稿です。

書く時間がなかったのでやっつけ。
ここ原作設定違うぞーってのがあれば教えて貰えると助かります。

では、どうぞ。


「木島義仁。どうだろか、ちゃんと野菜を切れたぞ!」

「上手上手。うん。美味しいよ」

 

 食堂にて、数人の子供たちと一緒に大人の姿が二つ。木島義仁と白雪姫だ。一週間ほど前に夜食漁りの仲間として仲良くなった二人。傍から見れば仲睦まじい夫婦……いや、ペットと飼い主だろうか。いつの間にか仲良くなっていた二人に驚く者は多かった。

 

「白雪姫。上手に出来たのは結構だが片付けもしっかりと出来ると私が怒る手間も省けるんだが?」

「わ、分かっている! だから髪を引っ張るなレティシア!」

「あ、あはは……頑張って」

 

 レティシアに引き摺られ白雪姫はキッチンへと連れて行かれた。キッチンには白雪姫が散らかしたであろう野菜の残骸が……。これは怒られて当然だなと義仁は手を振り二人を見送った。

 そんな様子を見守っていたリリが義仁の対面へと座った。

 

「あんまり甘やかさないでくださいね?」

「そんなつもりは無いんだけどなぁ」

 

 もうっ、と、小さく頬をふくらまし腕を組むリリ。そんな姿にぷっと吹き出し同時に笑ってしまう。

 

「甘やかしてますよ。十分」

「そうかなぁ」

「別にそれが悪いとは言いませんよ。だから、代わりに自分にも甘くしてあげてください。本当に危ない時は逃げて下さい。何よりも先に、ご自身の身を守ってください」

 

 リリは〝アンダーウッド〟の件依頼、本格的に過保護になった。ことある事に義仁を心配する言葉を投げ掛けている。

 

「分かってる。けど、約束は出来ないかな。ごめんね」

 

 リリはその言葉を聞いて悲しげに笑顔を浮かべた。そう言う答えを聞きたいのではない。と。けど、その言葉をそっと胸に潜める。この人は良くも悪くも、こういう人なのだと。きっと、もう彼は変われないのだろう。

 

「今度開かれる〝階層支配者〟の召集会……に、ついて行くんですよね」

「うん。魔王が下層を襲撃。今は魔王連盟って呼ばれてる団体。それ等に対しての今後の方針を話し合うんだって。僕は白夜叉さんの後継人、蛟劉さんの付き添いって形になるのかな?」

 

 〝アンダーウッド〟が襲われている時、各地域でも魔王との交戦があった。魔王連盟と呼ばれる謎の敵の動きは未だハッキリとしていない。その噂と影だけがチラついてる状態だ、

 そこで各地域の支配者たちが今後の方針を話し合う為に開かれるのが、この召集会である。しかし、その顔触れは以前までのもとは違う。最強の支配者だった白夜叉が退き、〝階層支配者〟代行に蛟劉が座った。そして、東側の代表とし召集会へと向かうのだが……。

 

「……それ、義仁さんが行く意味はないのでは?」

「ヒッポカンプの子が……ね。完全に味方同士とは言えないから、舐められないために連れて行きたいけどそんな非常事態に義仁様を一人にはー……って言って聞かないみたいだから……」

 

 義仁が召集会の会場〝煌焔の都〟に向かうのはジン達より遅く、あと一週間はある。蛟劉はその間に仕事を片付けとくわーと死にそうな顔で受付の人に連れて行かれたのは記憶に新しい。

 白夜叉が退いて二ヶ月。下層では調子に乗った悪鬼羅刹が暴れているようだが、彼の活躍もありまた息を潜めているようだ。

 

「って感じで、仕事が忙しくて説得も出来ないから私を呼んでしまえって事になったみたい」

「話は分かりました。分かりたくはないですけど……。ただ、本当に気を付けて下さいね? いくら不死鳥の恩恵を貰ったからって、安心するのは駄目ですよ?」

「分かってるよ。大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」

 

 義仁はリリの頭を雑に撫で、その場を立ち上がり、食堂を去っていった。

 

「うん。大丈夫。私が信じないと。しっかりしなきゃ! ……プレゼントだって用意してるんだから、帰ってきて貰わないと」

 

 リリも立ち上がり食堂を後にする。最後の言葉は、無意識に出た祈りなのだろうか。

 

 ただ、一つ言えることとすれば……かの〝七大妖王〟は二度と狐耳の少女に逆らえなくなったと言う事実だろうか。

 




お読みいただきまありがとうございます。

魔王連盟の下りがまーじで覚えてねぇ……
かと言って読むほどの時間が最近ねぇ……

まあ、取り敢えず頑張りますん(´・ω・`)

では、また次回〜


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第92話 お仕事

投稿です。

見回りなので引き延ばし回
次回から北側へ。内容がぽっかり抜けてるのでかなり端折ります。

では、どうぞ〜


「呼んだのは他でもない。招集会についてや」

「は、はあ」

「義仁はんは基本的に好きにしてくれといたらええ。あの馬鹿を一度会場に連れて行ってさえくれればあとは自由や。味覚が無いのもリリさんに聞いたから、名所巡りのツアーみたいなのを用意することも出来るから気軽に言ってくれ」

「そ、そうですか。まあ、味はかなり濃く作って貰えれば多少は感じるんのでそこまで悲観してませんし、料理の楽しみ方は他にもあるので特に苦はないのですが……」

「そう言うてくれると少し救われるわ。〝アンダーウッド〟じゃ、僕に付き合ってもらってたから少し負い目を感じてたんよ」

「あの、そろそろ離してあげません?」

「無理や……。あの真っ赤な顔見てみい。離したが最後……説教から始まるお仕事フルコースが来るのは目に見えとるで」

 

義仁が現在居るのは元白夜叉の仕事場。現蛟劉の仕事場である〝サウザンドアイズ〟の支店。その中の客間にいる。上座には蛟劉が座り、その対面に義仁だ。そして、何故か水の玉に閉じ込められた女性店員のがいた。

 

「日程が早まったから……でしたっけ。仕事がふえた、短縮したのは」

「そうや。十六夜君達が先に行ってしもうたみたいやから、僕も早めに行っておこうかなって。ストッパーがいた方がええやろ? だから、な? 仕事なんかしとる暇はない―――」

 

がゴンッ!!!! 蛟劉の言葉に反応するように水の玉から鈍い音が響いた。蛟劉の笑いに陰りが指す。蛟劉は音の発生源から目を逸らし、代わりにと義仁が音の発生源―――閉じ込められた女性店員を見て、小さく悲鳴を上げた。

 

「ヒェッ……。こ、蛟劉さん。早く解放した方が……」

「大丈夫や。音は通らない。だから僕らの会話も聞こえてない。だから、あんな都合よく水面を殴れるはずも無い。つまりはブラフや……」

 

そう言う蛟劉の額には脂汗が滲んでいた。白夜叉の身内というものもあり、蛟劉は彼女にたいして強く出ることが出来ない。さらに言えば、蛟劉が血反吐を吐きながら終わらせる仕事量は白夜叉がなんの苦もなく終わらせ、時間が余ったからと遊びに行く量。一般人には到底体力が持つはずもないそれの手伝いを女性店員はしていたのだから、出来て当然の領域。散々彼女に助けて貰っている蛟劉は尻に敷かれている状態なのだ。

 

がゴンッ!!!! 二度目の衝撃音。流石に観念したのか、蛟劉が錆びたブリキ人形のようにギギギッと、ゆっくり振り返り、小さな悲鳴を漏らした。

 

「ヒェッ……。この世の生き物とは思えへん……、リリさんとはまた違った怖さが……」

「日頃からどれだけやらかしてるんですか蛟劉さん……」

「僕は悪くない。白夜王の方がやらかしてる。仕事はできても問題児なのに変わりはない。僕悪くない」

「言ってることが訳分からない事になってますよ。ほら、私も手伝いますから。早く解放してあげて下さい」

 

そこまでま言ってようやく観念したのか、蛟劉は女性店員を解放した。取り敢えず、義仁の手伝いもあってか仕事は一週間で無事終わった。

 

それと、この一週間で蛟劉は死んだ。丸一日帰ってこなかった義仁を心配したリリからの説教や、女性店員からの怒号。唯一の癒しであるはずの義仁は基本事務作業。会話をするのも大体は女性店員と。

 

仕方ないと言えば仕方ないし、こうなったのも全ては自分の落ち度……。誰かを責めるわけにも行かず蛟劉はそっと、息を引き取るように床に着いた。

 

「義仁様。手伝っていただきありがとうござました。あそこで寝ているのは明日にでも北側に送り届けておきますので、義仁様はどうぞゆっくり準備をしてから来られてください」

 

最後まで慈悲はないんだなと思いながら、義仁は〝サウザンドアイズ〟を後にした。

 




お読みいただきありがとうござます。

蛟劉死す
女性店員さん割と好きなんですが、名前がないのが(´・ω・`)
ちなみに余談ですが、書き始める前のメインヒロインが何も決まってない頃。本当ならこの女性店員さんがメインヒロインでした。
そのうちそーいった話も書いてみたいものです。

では、また次回〜


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第93話 煌焔の都

投稿です。

先週は投稿できず申し訳ない……
にゃんこは急激に悪くなって、急激に良くなりました。今はゆっくり肺に入った水を抜きつつ、お薬飲んでます。
また、同じような状況になりましたら、投稿を休ませていただきますのでその際はご了承ください。できるだけ早く報告はしますので……。

でばどうぞ〜


「いつの間にこの門が〝ノーネーム〟の管理下になってたんだろ……。一時期野菜育てるのに必死だったからなぁ。みんな頑張ってるんだなぁ」

「十六夜くんが〝アンダーウッド〟に来る前に白夜王と色々しとったみたいやで?」

 

 境界門。この箱庭を行き来する為の乗り物のようなもの。左には七大妖王こと蛟劉。反対側には足場に水を貼らせ強引に陸上を歩いている、蛟魔王の愛馬のヒッポカンプ。そして、中央には冴えないおっさん義仁。なんともアンバランスな二人と一頭が、大人しく境界門を通過する為順番を待っていた。

 

「さ、もうすぐ〝煌焔の都〟や。準備はええか?」

「今度は無事帰ることが出来ますように」

「笑えん冗談はやめてーな……」

 

 義仁はアハハと軽く笑ってみせるも、内心冗談なんかではない。箱庭に来てからというもの初めて訪れる場所では何かしらの災難に巻き込まれているのだ。冗談でこんな事を言えるはずもない。

 

「まあ、今回は僕ができるだけそばに居るようにするから。多少は安心してええんやない? この馬鹿も義仁はんに付けとくし――アイタッ!」

 

 蛟劉の横腹にするどい蹴りが入る。ヒッポカンプが馬鹿と呼ばれた事に反応したのだろう。そして、蛟劉との口喧嘩が始まる。周りに迷惑だからと落ち着くように宥め、義仁を挟み睨み合いが続く中ついに義仁達の番が回ってきた。

 

「ほら、順番来ましたよ」

 

 蛟劉が受け付けに何度か言葉をかけ、門が淡く光り出す。ヒッポカンプの手綱を握り、その光へと歩を進める。

 

 箱庭五四五四五外門〝煌焔の都〟

 

 一言で現すなら炎と硝子の街。地上から吹き上げる製鉄場の熱い風を受け、義仁は〝煌焔の都〟の台地を踏み締めた。

 〝アンダーウッド〟とは真逆とさえ言える、炎の世界。

 

「久しぶりに来たけど、相変わらず熱いな。あの壁の外が極寒の大地とは思えんわ」

「極寒?」

「そ。この街を覆う壁を超えれば極寒の大地。防寒具を着込まんとまともに歩くことすら出来ひんよ。だけど、ここは暖かいを通り越して熱いやろ? 製鉄場がぎょうさんあるから……だけやなくてな」

 

 蛟劉は街の中央。その天井にぶら下がる巨大なランプを指さした。

 

「あのランプがこの街全体を暖めてんねん。他にも数箇所にあるけど、あの中央のやつが一番デカいとちゃうんかな?」

「落ちたら危なくないですか? 辺りが火の海とかに……植物も燃えちゃったり」

「落ちたら危ないが、火の海とかにはならんと思うよ。あくまで熱を発する恩恵やから。植物とかも燃えんはず。と、世間話もこんな所で。早めに挨拶回りに行こか。十六夜くんたちとも合流しときたいし」

 

 そう言うと蛟劉はヒッポカンプの背に跨り、義仁を引っ張りあげた。いきなり引っ張りあげられた義仁はもはや慣れたものだとヒッポカンプの手綱を握る。

 

「それじゃあ! おちんごとしっかり掴まっとけよ!」

「分かりましたけどお手柔らかにお願いしますね」

 

 蛟劉がヒッポカンプの腹を蹴る。と、同時にヒッポカンプが走り出した。熱い風が頬に叩き付けられ、熱を帯びる。そして、

 

「結局こうなるんですねェェェェェぇぇええ!!!!」

 

 凡そ高さ百メートルはあるだろうか。街を一望できる展望台からヒッポカンプは勢い良く飛び降りたのだった。

 




お読みいただきありがとうござます。

あのランプって1つだけなんですかね?
街全体となると、4つ5つぐらいはありそうなものですけど。
どうなんだろ(´・ω・`)?

そして、まだ平和……まだ平和……
蛟劉が調子に乗ってヒッポカンプに殺されてそうだけどまだ平和

では、また次回〜


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第94話 よだれ

投稿です。

中途半端だけど、投稿。今更か(´・ω・`)
これ、下手したらあの狂る(ちゃるもんの中で一番長い話数の作品)超えるのでは……?

では、どうぞ〜


 目が覚める。赤い天井が義仁の視界に広がる。少し視線を移せば椅子に座り何かを読んでいる蛟劉の姿と、そんな蛟劉の頭を齧っているヒッポカンプの姿があった。

 

「いや、何がどうなってそうなったんですか」

「お、おはようさん。気分はどうや? まだ気持ち悪いか?」

「いやあのそのまま齧られたままこっちにこられましてもいやほんと涎が垂れてきてるんで覗きこまないでヴえ」

 

 頭をガジガジと齧るヒッポカンプを気にせず義仁の寝るベッドへと近付く。義仁の懇願なんて虚しくベッドを覗き込んだ蛟劉。結果、ヒッポカンプの口から流れた涎は蛟劉の頬を伝い義仁の顔面を覆い尽くした。

 

 涎に塗れ、未だに滴り落ちてくる、そのまとわりつく嫌な感触の中で義仁は記憶を探る。

 

 ここは〝ノーネーム〟がある東側ではなく、〝魔王連盟〟対策を話し合う為に来た北側。〝煌焔の街〟。の、はず……。

 ならなんで自分はここで寝ているのだろうか? ましてやなんで涎をかけ続けられてるのだろうか?

 

 北側に来て、大きいランプを見て……そこから……そこか、ら……話を聞いてもらえずジェットコースターが始まったんだ。それで気絶してここに運び込まれたのかな?

 

「いや、だからなんで涎かけられてるんです」

「何処まで覚えてる?」

「まあ、大体は……。気絶したんですよね? 蛟劉さんのせいで、私」

「ああ、僕のせいやな。うん。そこは反省してる。こうしてるのも八つ当たりみたいなもんだってことも分かってるんや……。けどな、流石に一張羅の勝負服にゲロられるとなぁ。服の中にまで入ってきたし。って言う建前が出来たから悪戯してみようかと。ヒッポカンプの涎はシャンプーとかにも使われてるで!!」

 

 とてもいい笑顔でサムズアップされてしまった。

 

「いや、それ戻したのも私悪くないですよね?」

「そうとも言うな」

「そうとしか言いませんよ……。まったく」

「アッハハハハ!! ここの隣の館に露天風呂があるらしいから入り行こか。もしかしたらまだやってないかもやけど、まあ、一言言えば入れさせてもらえるやろ」

「職権乱用も程々にして下さいね」

 

 はーいと、適当な返事と共に蛟劉の体が義仁の視界から離れていく。顔に付いた涎を拭いながら起き上がる。蛟劉はヒッポカンプに齧られたままだ。義仁から離れたからか、悪戯に使われたからか蛟劉の頭からは血が流れ始めていた。義仁はその事を見て見ぬふりにした。

 

「それじゃ、行こか。廊下抜けて一階に降りればすぐやから」

「分かりました」

 

 二人と一匹は部屋を出て階段を降りる。そして、必然か偶然か。見知った顔を見つけた。

 

「ジンくん?」

「義仁さん!」

 




お読みいただきありがとうございます。

平和だァ平和だなぁ!
いやぁ、平和って素晴らしいデスヨネ!!

では、また次回〜


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第95話 神隠し

投稿です。

眠い(素直)
肩甲骨辺りがクソいてぇし、左腕の肘部分に青アザ出来てるし、腹痛てぇし……訳わかんねぇ……。・゚・(ノД`)・゚・。

取り敢えず頑張って書いたでごさる。くっそ背中いてぇよマジで……

では、どうぞ〜


「ジンくん?」

「義仁さん! ……なんでそんなにベチャベチャなんですか」

 

 軽く呆れ、しかし何処か微笑ましそうに笑いながら近付いて来たジン。その後ろから一人の少年と少女二人、そしてジンの護衛であるペストが付いてきた。そんなジンに義仁は部屋であった事を話した。その時二人の会話を横目にジンの連れをジッと見つめる蛟劉の背中に嫌な悪寒が走った。

 

 そう、これはかの狐の少女と同じ気配だと。

 

「だから、ここのお風呂で綺麗になろうかなって」

「そうだったんですね。あ、紹介します……って言っても僕もさっき会ったばっかりなんですけど。こっちの白髪の男の子が殿下君。こっちの女の子がリンさん。二人ともペストの知り合いだそうです」

 

 そう言って後ろの二人を紹介してくれた。

 

「木島義仁だよ。よろしくね殿下……君? に、リンちゃん。それで、もうひとりの子は?」

「あ、そう言えば直接会うのは初めてでしたっけ? 北側の階層支配者のサンドラ」

「北側の階層支配者がこんな所でなにしとるん? 一応会議の主催みたいなもんやろ。余程な事でもない限りは連れ戻さなあかんのだが?」

 

 その表情には面倒臭いと隠す様子もなくサンドラを睨んだ。

 

「それは……神隠しが」

「神隠し? 北側は悪鬼羅刹の巣窟みたいなもんやろ? その手のエキスパートはどないしたん。悪霊から、風の神格者の悪戯、鬼の人攫いに人身売買まで手広くやっとるんやろ? どんなモンでも二、三日で解決出来るレベルのもんじゃないんか?」

 

 しかし、サンドラは首を振った。そのエキスパート集団ですら、手に余る物だと。

 

「そうか……。なら、何故護衛がいないんや。ただでさえそこの黒白メイドがやらかし、更にはこの会議を開くきっかけになった〝魔王連盟〟。護衛も付けず、子供だけでこんな事をしてるのは正直遊びにしか見えへんぞ?」

「それは、誰も信じてくれなくて」

「信じてくれなくて? それで、はいそうですかってかるんか? お前さんが死ぬって事がどれだけ大事が理解しとるんか?」

「そ、それは……」

 

 サンドラがスカートの裾を握りしめ俯いたのを見かねて、義仁が会話を切った。

 

「まあまあ蛟劉さんそこら辺で。ほら、私達が付いて行けばいいじゃないですか」

「それが出来んから言うてんのよ義仁はん。僕が付いて行ければここまで言わんよ。少なくともここにいる誰よりも強いから。な? 殿下君?」

「……」

「まあ、エキスパートが手を上げてるんや階層支配者が動かな行かんってのも頷ける。うん、多分。だから、義仁はんは彼らについて行ってな。この馬鹿はこのまま無理やり連れて行くから。危なくなったら僕を呼ぶんやで? 多分駆け付ける!」

 

 無駄にいい笑顔でサムズアップした後、スっと義仁に小さく耳打ちする。

 

 

 殿下とリンちゃん、あれ信用しないようにな。殺されるで?

 

 

 返事を返す間もなく蛟劉は義仁から離れ、その顔には変わらない無駄にいい笑顔のままだった。

 

「ま、大丈夫やろ。それじゃ、僕は挨拶回りに行ってくるからみんな気を付けてな〜」

 

 義仁はジン達を見る。そんなに悪い子達には見えないけどなぁと、安直な事を考え、取り敢えず気を付けておこう。と、気持ちを入れ替えた。

 その程度には成長出来ていたという事だろう。

 




お読みいただきありがとうございます。

状況がわかんねぇだって?
今に始まったことじゃないじゃろ?

取り敢えずあれだ、何となく入れたフラグを回収出来ればいいなぁ〜程度で進めていくでござる。

では、また次回〜


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第96話 お風呂

投稿です。

眠いんじやぁ。
ちょっと頭働いてないので引き伸ばし回です。

では、どうぞ。


 ジン達が子供専用の公共浴場に入っている間、義仁は一人スタッフ用の小さな湯船に肩まで浸らせていた。

 足を伸ばしきるほどの広さはないその湯船は昔住んでいた家の風呂に似ていた。

 

「ふぅ……ここ数ヶ月ずっと大きなお風呂にしか入ってなかったから、懐かしいなこの感じ」

 

 足をへの字に曲げ、背中を壁に付ける。そして、ジン君達の言っていた神隠しについてぼんやりと考えてみた。

 とは言っても、神隠しについての知識も情報もゼロに近しいので、なんか生き物が突然居なくなる凄いバージョンとしか分からない。

 

「それと、蛟劉さんは、殿下君に気を付けてって言ってたけど。敵って、事なのかな」

 

 とは言っても、こちらもこちらで戦闘技能皆無のオッサンが警戒したところで焼石に水……。どころか警戒していることがバレて逃げられるのが目に見えてる。

 

「けどこの時点で意識しちゃってるってことだよなぁ。もう流れに身を流せるしかないかな。

 もしくは、頼れそうな人を探すとか?」

 

 頼れそうな人となれば何人でも頭の中に浮かんでくるが……。如何せん居場所が分からない。

 白夜叉は蛟劉に役目を預け何処かへ行った。蛟劉は何となく察しが付いているようにも見えたが、挨拶回りに行った。

 黒ウサギや十六夜も北側に来ているので探せば見つかるかもしれない。が、ジン君達は護衛から逃げてきたみたいだった。そして、十六夜君達がいるのは十中八九ゲームを開催している会場。または、会議が行われる会場。

 

「どっちも護衛がいるよ、ね……うん。本当なら無理にでも護衛の人と合流した方がいいのだけど……。ずっと護衛がいるのもストレスが溜まるものものなのかな。うーん……どうしたものか」

 

 他に頼れる相手として、サンドラや白雪姫もいるのだが、北側に来ているかが分からない。少なくとも白雪姫は〝ノーネーム〟でお留守番しているため助けを乞うことは出来ない。

 

「自分でどうにかするしかないか。多分あの子達の方が強いんだろうけど。都合の悪い所は出ていって、護衛役って言って……も、バレるよなぁ」

 

 多少筋肉は付いてきたとはいえ、それも所詮は手伝いや畑仕事などの副産物。ほんのり脂肪の上から割れてる? と、少し疑問に思える程度の物をぽよんぽよんと叩く。

 

「うん、無理があるな」

 

 ここで一度大きく伸びをする。天井から一滴、ぴちょんとお湯に波を立たせる。そして、はっとした。

 

「そう言えば蛟劉さんお風呂入っていないけど、あのままで行っちゃったのかな」

 




お読みいただきありがとうございます。

オッサンだから、一緒に入ってもいいのかと思ったけど、いやダメだろと我に返りこうなりましたん。
あと、こっちの方が頭使わないで済む。

では、また次回〜


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第97話 混

投稿です。

先週は投稿できずすまないな!

では、どうぞ〜


「さっきも言った通り、〝煌焔の都〟では今、子供の失踪事件が相次いで起こっています。所謂〝神隠し〟と呼ばれるものです」

「お風呂に入る前、蛟劉さんと話してたヤツだね」

 

 本来〝階層支配者〟であるサンドラが動くような案件ではない。そもそも、鬼種や悪魔が多く隠れ住んでいる北側ではこのような失踪事件なと珍しくもなんともない。〝階層支配者〟が単身で動くには在り来りすぎる事件だ。

 

「はい。〝神隠し〟自体は北側では珍しくもなく、専門の機関もあります。本来であれば易々と解決できる事件なんです」

「でも、出来なかった」

 

 サンドラはばつが悪そうに頷いた。

 だが、それだけの理由で〝階層支配者〟が『単独』て動く理由になるのだろうか? 箱庭の知識に未だ疎い義仁でも、〝階層支配者〟がどれだけ重要な存在なのかは理解出来る。

 そんな義仁の意図を汲み取ったのだろう。ジンが説明を始めた。

 

「義仁さん、逆に考えて見てください。〝階層支配者〟がわざわざ単独で行動せざるを得ない。これはそういうものです」

「えーと、魔王が関係しているってこと?」

「そうです。魔王となれば、幾ら〝神隠し〟のエキスパートだろうと手に余ります。さらに言えば、魔王が関係しているということはこの〝神隠し〟は〝ゲーム〟である可能性が高い。そのルールが特定の年齢以下、またそれに類似するものであれば大人の助けを求めることは出来ない。〝階層支配者〟になって日が浅く、歳も十ばかり……、周りには見ることも出来ない何かがいると言えば、悪戯と思われても仕方ないのかもしれないです。自分たちの長を信用出来ないなんて……」

 

 呆れたように説明を終えるジン。確かに魔王が関わってくるとなれば見過ごすことは出来ない。取り分け魔王が関わる〝神隠し〟は強力な呪いや強制力を持つものが多い。

 我関せずと、面倒くさそうにしているペスト。彼女の〝The PIED PIPER ofHAMELIN〟も〝神隠し〟の伝承を模したゲームの一つだった。その恐ろしさは義仁もジンもサンドラも、嫌という程知っている。

 

「まず、情報を纏めよう。そもそも〝契約書類〟は発見されてるのかな?」

「ない。代わりに文のようなものが現場に残されてた」

「文? 内容は?」

 

 問うとサンドラは、現場に残されていた例の三つの文字を空中に炎で書く。

 

「えーと、『遊手好閑』『虚度光陰』『一事無成』……?」

「〝日々を怠惰に過ごし、何も成すことも無い〟って意味ですね」

「物知りだねジン君」

「それともう一つ。現場の壁にでっかく〝混〟の文字が書かれてた」

 

 リンは思い出したように黒髪を掻き上げ、付け加える。

 

「この〝混〟の文字がネックなんなけどね。実は〝階層支配者〟の招集会に、似た様なものが挑戦状として届いてるらしいの」

「挑戦状?」

「うん。随分口汚い内容だったから要約するけど、〝階層支配者〟を襲うといった文面だったらしいよ」

 

 そっと眉を顰めるジン。

 少し考える素振りをしたあと、眉間を軽く揉んだ。

 

「うん。これは魔王関連の問題だね。犯人も凡そ特定出来た。なんでここまでして、サンドラ以外がまともに動こうとしてないのかが不思議なくらい」

「え、っと。もう分かったの?」

「ここまでヒントが出されてるのと、関係者が身近にいるからね。一番はその人を頼ることなんだけど……どこに行ったか分からないから、取り敢えずはこのメンバーで探して行こう。それに、コレの目的も大体予想はついたしね」

 

 ジンは最後に思わせぶりな言葉を残し、会話を切った。ここからは行動せざるを得ない。そう言うように。

 




お読みいただきありがとうございます。

最近なんかあれだな、うん……失踪する人の気持ちがちょっと分かってきがする。
ま、失踪しないけどね!
東方書きたい欲が凄いのだ(´・ω・`)

では、また次回〜


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第98話 お茶会

投稿です。

なんか随分厳しいですが、僕のところのペストちゃんはこれだと割り切ってくださしあ。

では、どうぞ。


 ──―箱庭五四五四五外門舞台区画・〝星海の石碑〟展示回廊入場口。

 

「で? どーゆうつもりなの?」

「ふぇ?」

 

 カフェテラスの端っこで、小さい両頬に黄金芋のタルトを詰め込んでいたリンは、突然の質問に手を止めた。話しかけたペストは、そんなリンの様子に興味が無いのか紅茶の入ったカップを傾けた。

 ペストとリンの二人は今、ジンたちと二手に分かれていた。

 ジン、サンドラ、殿下、義仁の四人は展示回廊の中の現場を確認しに行き、ペストとリンの二人は入口で待機。

 しかしそれでは暇だからと、〝サラマンドラ〟名物の黄金芋のタルトを食べていたのだ。

 

「そうねぇ……取り敢えずそのナイフは仕舞いなさいな。露骨すぎるて笑っちゃいそう」

 

 くすくすと、小馬鹿にするようにペストは笑う。その言葉にリンはおどけたように返した。

 

「──―流石はペストちゃん! 殺気は漏らしてないつもりなのになー」

「ねえ、質問に答える頭もないのかしら?」

 

 ──―ヒュゥ、と首筋を鋭いナイフが撫でた。

 頸動脈の薄皮をそっとなぞるような絶妙な力加減。

 

 知覚すら出来なかった一撃。しかし、危害を加えられたというのに何愚わぬ顔で紅茶を嗜むペスト。実力では、己が上だと分かっていても、その自信は徐々に疑問へと変わって行った。

 

「悲しいわね……。ちょっとした挑発じゃない。 底が知れるわよ? それともあれかしら、自分のペースに持っていけないのが悔しい、とか?」

「そんなわけないじゃーん。いまのは軽い挨拶。それで、私たちの目的、だっけ?」

 

 妙な嫌悪感。リンは魔王であった頃のペストを知っている。右も左も分からない。ただ、殺さんとする具現……とでも言えばいいのか。厄介払いをしたいようにも見えた、ただの格下。

 

「は? え、本当に質問の意図を理解してなかったの? やっぱり、ジンについて行くのが今のところ最適解かしら……」

「え、え」

「目的もなにも、ジンとサンドラを抜きに来たんでしょ。随分回りくどいことしてるみたいだけど。私はおまけって所かしら? はぁ……少し期待してた私が馬鹿みたい。これじゃただの脳筋集団ね」

 

 待て、待ってくれとリンは願う。何がどうなっている。私たちの情報が一体どこから漏れた?

 

「まあそうよねぇ、かの〝ソロモンの霊王〟が恩恵を分け与える為に用意した試練の一つ──―〝アラビアンナイト〟をクリアした血族。その血を受け継いでるのかあの子の頭の回転は下手な魔王なんかじゃ太刀打ちできない。さらには、〝精霊使役者〟なんて化け物恩恵を持ってるんですもの。魔王の使役、封印に特化した恩恵。あなた達からすれば是が非でも手に入れたいわよねぇ。

 

 ね? 魔王連盟さん?」

 

 




お読みいただきありがとうございます。

力関係はペストの方が下ですが、予想のつけようがないナニカって怖いですよねぇ。

では、また次回〜


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第99話 信頼

投稿です。

つい30分くらい前まで、日曜かと勘違いしてた。
やっつけだけど許してね(・ω<)☆

では、どうぞ。


「マンドラ兄様は私を信じてくれなかった」

 

 展示回廊を散策する中、サンドラがポツリと呟いた。

 

「前回の〝神隠し〟の現場で、犯人を見かけたんだ。〝混〟一文字を背負ったフードの人。いや、獣に近かったかな。でも、私にしか〝神隠し〟が見えてなくて……マンドラ兄様も、同士たちも、誰も私の言葉を信用してくれなかった」

「だから、信頼されるために一人で?」

「頭首と参謀が無能なコミュニティに、誰がついていきたいと思う?」

 

 義仁がサンドラを促すように言ったのに対し、殿下が代わりにと容赦のない言の葉を紡いだ。

 

「殿下くん……、流石にその言い方は」

「事実だろう? 別にサンドラと仲違いしたい訳じゃない。だが、犯人の情報を細かく説明していなかった点はマイナスだ。そして、その話を信用しなかったサンドラの兄もな。

 今の話を聞く限り、サンドラの兄はそもそも話を聞くつもりもなかった。餓鬼の戯言として扱っている。頭首の話を聞こうともしない、無能でなければ謀反を起こす前ぶりとすら受け取れるぞ?」

 

 コミュニティの長として、同士の信頼を得られるか否かは死活問題だ。ましてや〝サラマンドラ〟ほどの大組織になると僅かな統率に影響が出る。世襲制のコミュニティの長にとって、この問題は絶対に乗り来なければならない関門なのだ。

 だが、だがもし……兄が、私の事を疎ましく思い、本当に謀反を起こそうとしているのであれば? 

 

 こんな茶番をしている暇は有るのか……? 

 

「殿下。それは〝サラマンドラ〟に対する侮辱にもなる。発言は気をつけた方がいいよ。それと、サンドラはまだ〝階層支配者〟として日が浅い。無能と一言で片付けるのは間違ってるんじゃないかな? 少なくとも、仲違いしたい訳じゃないってのは嘘にしか聞こえないけどね」

「日が浅いからなんでも許すのか? サンドラの情報ひとつで戦況がひっくり返る可能性がある。それだけの影響力を本来持つのが〝階層支配者〟というものだろう?」

「そうだね、その通りだ。日が浅いからは言い訳にはならない。だけど、今は違う。『そうだよね?』殿下」

 

 何か、含みのある言い方で殿下を威嚇するジン。

 

「さてと、謀反ではないにしろサンドラを目の敵にしているのは事実だろう。ところ構わず襲ってくることは警戒しておかないと行けないね」

「……そうだな」

「あのー、白熱してるとこ悪いんだけど。なんか蜥蜴の兵隊さんみたいなのが」

 

「「「えっ?」」」

 

 それだけ会話に集中していたと言うことだろうか、漸く自分たちが囲まれていたことに気付いた様子。

 会話の内容はなんとなくにしか理解できなかったけど、こういった所は子供なんだなぁとしみじみ思う。

 

 あぁ、せめて、何日も寝込むような大怪我をしませんように。

 そう心の中で祈るのだった。




お読みいただきありがとうございます。

次回は黒ウサギと十六夜くんメインの所まで持っていけたらいいなぁ(希望的観測)

では、また次回〜


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第100話 なんで私ばっかり

投稿です。

記念すべき100話目なのに特に話が進んでいないことには触れちゃいけないぞ♡♡

どんなに大人びてる子供でも、それはやっぱり子供で、大人が守ってあげないといけない存在なんだなって。

では、どうぞ。


「漸く見つけましたぞ、サンドラ様」

 

 義仁の忠告遅く、既に憲兵隊達に囲まれていた。彼等は客の迷惑など顧みず、邪魔な者を押し退けながらなお集まってくる。ぱっと見ただけでも20はいるだろうか。

 

「サンドラ様。我々とて頭首と争いたいわけではございません。どうか、本拠にお戻りください」

 

 憲兵隊の一人が一歩前に出て、サンドラを説得する。が、その手は腰に刺さった剣の柄に掛けられていた。

 

「それは出来ません。私は……、私は〝階層守護者〟としてよ責務を真っ当しなければならない!! そこを退いてください。魔王の脅威はすぐそこまで、いや、既にこの北側を犯しています」

「また、そのような戯言を……。であれば、此方も手段は問いません。翼竜隊を放て!!」

「え…………よ、翼竜隊!? この展示回廊の中心で!?」

 

 サンドラは驚愕の声を上げた。今まで自分たちの足元を照らしていたランプの光が遮れる、見上げると体長十尺ほどの翼を持つ火龍が三体。

 炎の吐息を漏らして見下ろす三体の龍は、鋭い双眸を光らせサンドラを睨む。

 

『サンドラ様。どうか本拠にお戻りください』

『我々は頭首と争いたいわけではありません』

『御身は招集会を控えております。此処で何か問題が起きては、他の支援者たちに付け入る隙を作ることとなるでしょう。〝サラマンドラ〟の為にも宮殿でお控え下さい』

 

 嘘だ!! そう叫びたい思いを必死に抑えた。そんなこと欠片も思ってないくせに!! 泣きたい気持ちも押さえ付けた。

 言葉の端々に聞こえてくる彼等の本音。魔王の事なんて知っているはず、少なくともこの〝神隠し〟が普通でないことを理解している。〝階層支配者〟が出なければならない案件だとも。だからこそ、連れ戻して問題に発展させたい。だからこそ、抵抗し暴れる大義名分を持ちながら展示物を破壊し問題を起こしたい。

 

 こんな、十程度の餓鬼が上に立つのがキニクワナイ。

 

 十を超え、〝階層支配者〟となり、甘えることが許されなくなった。兄も姉も私の元から消えていった。仲間だと思っていた者達はみんな私を疎ましく思っていた。

 

 私は、一体なんのために頑張っていたのだろう。

 

 そんなに嫌ならなんで私を頭首にした。マンドラ兄様を頭首にすればよかったじゃないか。

 もう嫌だ。そんなに嫌ならこっちから辞めてやる……。そんなに嫌なら、私なんか居ない方がいいなら、邪魔だと思うなら私から居なくなってやる!! 

 

 子供ながらの癇癪と言うべきか。自分の心の中だけで呟いていたつもりの感情の波は、とうの昔に漏れ出ていたようで、はっと顔を上げるとポカンと、しかし、ニンマリと黒い笑みを浮かべた大人達の顔がサンドラを見つめていた。

 

 サンドラの額にじっとりと汗が吹き出る。後悔や懺悔等の感情が渦潮のように深く、深く自分の中に根付いていくのが分かる。

 咄嗟に下げた顔はどうなっているんだろう。なんて、よく分からない思考が浮かんでは失せ、まともな思考が出来ない。

 

 もう、ダメだ。

 嫌だ、なんで、なんで私ばっかり。

 

 嗚咽混じりの涙と共に、

 私の頭をそっと暖かい何かが包み込んだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

ま、曲りなりも主人公なんで、多少はね?
あと、問題児の子供たちはもっと泣いたりしていいと思うの。
十六夜君とかは、ちょっと例外感あるけど。

では、また次回〜


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第101話 負け犬

投稿です。

なんか、こーゆーの久しぶりな気がする。

では、どうぞ。


 サンドラの頭をそっと抱え、優しくその頭を撫でる。憲兵達は予想外の行動にどうすべきか足を止めていた。サンドラの責任問題に発展させたいものの、下手に一般市民に手を出しでもすればコミュニティを追い出されるのは自分たちだからと理解しているからだ。

 まあ、展示回廊と言う一つの観光名所でこれだけの騒ぎを起こし、一般市民のいるのかでサンドラ、小さな子供を泣かせているのだ。彼等の地位は既にあってないようなものだろう。

 

 ジンも、殿下もそれを分かって敢えて何も言わなかった。結果サンドラの心を傷付ける結果になったとしても、〝サラマンドラ〟全体の洗い出しや、サンドラ自身の成長になると判断したからだ。

 

 しかし、それは一般的な考えとは言い難い。そして、一般的な思考を持ち合わせ、かつ自らの家族を失った経験を持っていた義仁はどうしても避けられることの出来ないものだった。

 

「さっきから聞いてれば、こんな小さな子のお願いすら聞けない程度のコミュニティなんですか? 〝サラマンドラ〟って言うコミュニティは」

「……なんだ貴様」

「だから、子供のお願いすら聞けないほど畜生の集まりなのかって聞いてるんですが? 答える頭も持ち合わせていないですか? ああ、そうでしょうね、こうして一人の女の子を大人数で取り囲んで責め立てて泣かせてるような集団ですもんね。質問に答えるのは難しすぎるか」

 

 義仁にしては珍しい挑発的な言葉。〝アンダーウッド〟で起きたグリフィスの時と同じ、ブチ切れている。

 

「随分な口を聞いてくれるじゃないか。コミュニティと名を教えろ」

「結局質問には答えないんですね。否定しないってことは事実でーすってことかな? 〝ノーネーム〟所属、木島義仁」

 

 義仁が自らのコミュニティを名乗ったと同時に憲兵隊から笑い声が漏れる。確かに彼等〝ジン・ラッセル率いるノーネーム〟の知名度は上がっている。それでも結局は〝ノーネーム〟なのだ。有象無象、負け犬のひとつでしかない。

 

 ジンはその事に悔しさを滲ませる。所詮、まだここまでなのだと。

 

 そんなジンの様子も知らずか、憲兵隊の視線は義仁に向けられており、リーダー格とおぼしき男が腰にかけた剣を鞘からゆっくりと抜き放つ。

 

「たかが〝ノーネーム〟の負け犬風情が、我ら〝サラマンドラ〟に楯突く、と? 笑わせてくれるじゃないか」

 

 抜いた剣の剣先で義仁の頬を撫でる。それに沿うように傷口から血が滴りサンドラの頭を抱えている手の甲に落ちた。

 

「ではその負け犬以下のそちらは、さながら畜生ですかね? おっと失礼、生きているモノに対して失礼だった」

「まだ吠えるか。負け犬には調教が必要だな。翼龍隊、適当に痛め付けてやれ。ああ、くれぐれもサンドラ様には手を出すなよ?」

 

 そう言うと、頭上を覆っていた三体の龍が義仁と、ジン達を分断させるように地上に降り立った。

 そして、義仁側の翼龍が義仁の腹部を両脇から掴んだ。義仁はサンドラを離さないようにとより一層サンドラを引き寄せた。

 

 メギョッ

 

「ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ギィィィイイイイィ!!!!!!」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと舐る様にその腹部を掴む手に力が込められていく。骨が軋み、内臓が圧迫されていく不快感と共に、巨大なペンチで握り潰されていような感覚。

 喉の奥から血が逆流し、目から血の涙が流れる。穴という穴からじんわりと滲み出てくるのは汗ではなく赤黒い液体だった。

 それでも、サンドラの髪を汚すまいと顔を上げ、サンドラを抱える両の手は一切その拘束を解こうと動く事は無かった。

 

 一度、翼龍の腕から力が抜ける。それと同時に意識が飛びそうになるのを引き止め口の中の血を憲兵隊に向かって吐き出した。飛距離は全く足りず、憲兵隊の靴に跳ねた血が微かに汚す程度ではあったが、何がしたかったのかの意思表明は伝わった。

 

「何時まで持つのか、楽しみだ」

 

 二度目の絶叫が展示回廊内に響き渡る。最早、サンドラを連れ帰るのでは無く、義仁がどれだけ耐え忍び自分たちを楽しませてくれるのか。それが目的にさえなっていた。

 

「もういいです、もういいですから、義仁さん!! だから、私を離して下さい!!」

 

 正気に戻った、と言うよりこの悲惨な光景を終わらせたい。そんな声でサンドラが叫ぶ。だが、義仁はその手を離さない。

 血に阻まれ声を産まない喉で、大丈夫。と、笑ってみせた。

 

 そして、三度目の絶叫。

 

 一般市民は既にその近くに居らず、憲兵隊達はより一層笑みを隠すことが無くなった。

 叫ぶ義仁の目玉でも抉ってやろうか。舌を刻んでやろうか。ああ、イチモツを突き刺してやるのもいいな。

 

 そう思いたって、一歩進んだ憲兵隊の目の前になにかが落ちてきた。

 厚さはそこまでなく、カタカナのへの字のような形。色は朱色をしており、骨が通っていないであろう部分には膜のような物が張ってある。大きさは三メートルはあるだろうか。

 に、しても、いやに、みお、ぼえ、が──―

 

 そう、それは。現在進行形で義仁を殺そうとしていた翼龍達の翼だった。

 




お読みいただきありがとうございます。

楽しかったけど、消化不良感パない。

では、また次回〜


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第102話 兄

投稿です。

月曜って事を忘れてたぜ(・ω<) テヘペロ
休みが日曜確定とかじゃないし、カレンダーを置いてたりする訳でもないので曜日感覚が狂ってるんですよねぇ

ではどうぞ。


 翼を失った翼龍が悲鳴を上げる。堕ちた翼に手を伸ばす。指先に触れた翼の温もりは紛れもなく自身の肉体で、ついさっきまでその背中に猛々しく空を掴んでいた。

 翼龍、種としても、個としても優れた性能を持つ彼等。確かに上には上がいるものではあるが、それでもそこらを歩く有象無象にはまず、負けない。

 

「魔王を捜索する事になった途端これとは。一体、何をしでかした貴様ら」

 

 彼等の鱗は硬い。生半可な剣では、剣の方が折れてしまう程に。しかし、紙切れのように切り落とされた。それをした張本人がその場に姿を現す。

 

「展示回廊に翼龍がと聞いてやってみれば、貴様たち、どれほどの事をしでかしたか……はぁ」

 

 張本人は心底面倒だと深く溜息を付いた。

 

「マンドラ、様」

「そこを退け、木偶」

 

 義仁とジン達を分断していた二体の翼龍に対し言葉を放つ。翼龍二体は何も言わずマンドラに道を譲った。

 

「ジン=ラッセル殿。此度の非礼、なんと詫びればよいか……。サンドラ様、義仁殿を連れて本拠へ、ここから先見るに堪えないでしょうから。それと、信じてやれなくて済まなかった」

 

 サンドラはその言葉を聞いてか、義仁を抱え走り出す。如何に子供とはいえ、その肉体は強靭そのもの。人間の大人一人を抱え走ることは容易だった。

 

 ただ、その心は既に崩れている。部下として、仲間として、そして兄として信じてやれなかった……否、信じようとしてないなかった自分を恥じる。

 

「随分躾がなってない蜥蜴だな。殺していいのか?」

「ちょっ、殿下くん」

「そもそも、ジン。お前がもう少しでも早く俺に言えばあのおっさんはまだ軽傷で済んだはずだ。成すべきことを成す、その姿勢を否定するつもりは無いが、あまり見誤るなよ。それで? 俺の雇い主は何処かに行ってしまった訳だが、ジンどうすればいい」

「……確かに、たまには目先のことに手を出すもの悪くないのかもね。マンドラさん」

「殺すのはよしてくれ。こいつ等の打首は確定的だが、話を聞くなりの建前は用意せねばならん」

 

 死なない程度になら好きなようにやれ。つまりは、そういう事なのだろう。

 

「ひ、ひぃ」

 

 その事実に憲兵隊の一人が逃げ出した。マンドラは手に持った剣を振るう。それと同時に逃げ出した憲兵隊の腕が宙を舞った。

 

「全く、逃げ出すとは。それでも元〝サラマンドラ〟に居たものなのか疑問に思えるな」

「ペスト。逃がさないで」

 

 ジンが名前を呼ぶ。辺りに黒い暗雲が立ち込め、ジンの隣には黒斑のワンピースを来たペストの姿。忘れもしない、北側を襲ったかの魔王〝ブラック・パーチャー〟が居た。

 

「貴方、意外と容赦ないのね。クスクス……」

「これでも、〝サラマンドラ〟の中ではそれなりの実力はある。少なくとも翼龍程度には負けないさ。君には負けるがね」

「あら、身の程を弁えているのね。一緒に殺してあげようと思ってたけど、許してあげようかしら」

「そいつは光栄だ」

 

 あの日、殺しあった者同士とは思えないほど会話出来ている二人に驚きを隠せなかったジン。だが、マンドラの体が小刻みに震えていることから慣れているのではなく、耐えていることに気付く。

 

 そんな事をしていると、翼龍の一体が声を上げた。

 

『こ、コイツがどうなってもいいのか!?』

 

 その腕には殿下がお人形のように抱えられ、鋭い爪が喉元に突き付けられていた。

 

「全く、お前達が無駄話をしているからだぞ」

 

 しかし、捕まった本人はどこ吹く風。その突き付けられた爪を粘土細工よろしくねじ切り、大木のような腕を誇りを払うかのように振り払った。

 

 さあ、始めようか

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、やっつけだしこの後やる事あるんで粗いのは許してあげて。

実際マンドラの実力ってどんなもんなのかね?
まあ、ここでは翼龍程度には勝てるってことで。2体になると厳しいよ!って感じに扱おうかなと。

では、また次回〜


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第103話 素敵耳

投稿です。

スランプですね(確信)
なんて言うか、書く気が起きないって言うか、別のを書きたくなる衝動に駆られる。
ま、そんな時でも蛇足的には続けます
それがちゃるもんの取り柄だもの( ˙꒳˙ )キリッ

では、どうぞ。


 ぼんやりと意識が覚醒する。この箱庭に来てから、幾度も経験したものだ。まだ寝ていたい気持ちを押し退け、ゆっくりとその瞼を開く。目に優しい暖かな光が義仁の視界を照らす。

 木造の天井に小さなランプがぶら下がっているだけ。顔を動かせば赤を基調にした部屋の全貌が顕になる。とは言っても、自身が寝ているベット、腕に繋がっている点滴のようなもの。丸テーブルに椅子が二つ。荷物を入れるためのクローゼット。と、簡素なものだ。

 

 しかし、その中に一つだけ……、否、一人だけ見慣れない人物がいた。少し青みがかった腰まで届く黒髪。胸元を強調するその服は、彼女の美貌と合わされば容易く男を虜にすることだろう。そう確信できるほどの美女。

 見覚えはあるのだが、誰だと確信できない。そんなもどかしい気持ちを抱え声をかけられずにいると、女性の方から近付いてきた。

 

「気が付きました? まったく……。無茶し過ぎですよ。毎度毎度心配する身にもなって下さい」

 

 随分親しげに話しかけて来る女性。しかし、未だ拭えないこの違和感に義仁は首を傾げる。

 そんな義仁を置いて、女性はお茶の準備を始めていた。

 

「事情はジン坊ちゃんから──―聞いてます? まだ、意識がはっきりしてないのでしょうか……」

「いや、そういう訳ではないのですが……えっと?」

「……ああ、そういう事ですか。これで分かりますか?」

 

 そういうと、女性は頭の上に両手を持っていき兎の耳のようなものを作った。

 

「黒ウサギさんですか?」

「そうです。〝疑似神格・梵釈槍(ブラフマーストラ・レプリカ)〟〝疑似叙事詩・日天鎧(マハーバーラタ・カルナ)〟と言う恩恵を同時に使ってしまった弊害と言いますか、ペナルティと言いますか……。簡単に言うと、凄く強い矛と鎧だけれど、一度に発動してはいけないものを発動してしまった。その結果、黒ウサギの素敵耳が無くなってしまったのです」

「そうだったんですね。ですが、どうしてそのような事を?」

「義仁さん。殿下と言う名前に聞き覚えは?」

 

 殿下。ジン君たちと一緒に行動していた少年の1人だ。蛟劉に警告されていたが、やはり敵だったということなのだろうか。

 

「はい。その通りです。飛鳥さんと春日部さんが参加していたゲームに乱入。その場にいた私も迎撃に当たったのですが、あの少年には武具関係は効果がなく。かつ、十六夜さんと同レベルの身体能力を持っているようで……。死なないために致し方なく……」

「そうだったんですね。お疲れ様です? で、いいのかな」

「そうですね……色々と疲れました。お茶、置いておきますね。私は皆さんを呼んできます。ジン坊ちゃんとペストは体裁的に投獄されていますが、一時的にであれば問題ないでしょう。安静にしていてくださいね」

 

 そう言うと黒ウサギは部屋から出ていってしまった。黒ウサギの淹れてくれたお茶を啜りつつ、彼女の帰りを待つことになる。

 そんな中で、今回は比較的無事に済んだなと思う義仁の感覚は既に終わっているのだろう。

 

「ちょっと喉に滲みるな……痛い……」

 




お読みいただきありがとうございます。

漸くこの物語の終わりも見え始めたと同時に、原作7巻に到達。
予定では8巻で終わるかなぁって感じですかね。

あと、来週は東方祭に行くので投稿はしません。
東方をいい加減進めていかないとなので、この間に進めようかなぁと。1話分完成するかは分からん。

では、また次回〜


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第104話 無理

投稿です。

東方祭楽しかった。6万溶けた。けど、楽しかった。

そして今日で7連勤
あと2日頑張れば休み_:(´ω`」 ∠):_

では、どうぞ。


「よーオッサン、怪我の具合はどうだ?」

「……ベット乗っちゃダメ」

「いやはや、随分やられてもうたなぁ。どや? 林檎食うか?」

 

 黒ウサギが部屋を出て十分ほどが過ぎた頃。部屋の扉をノックなしに入ってきたのは十六夜、耀、蛟劉の三人。それと何故か耀に引きずられている黒ウサギだった。

 

「怪我はそこまで酷くはないんじゃないかな? 前よりも酷くはないと思う」

「……よかった」

「あのー、黒ウサギは一体いつになれば解放して頂けるのでしょうかー?」

「いや、よくはねーだろ。落とし前はきっちり付けさせねぇとな」

「落とし前云々は多分晒し首辺りになるだろうなあ。もしくは拷問か……。決めるのは〝ノーネーム〟に引け目を感じとるマンドラ君やろうから、楽には死なせてもらえんのちゃうんやないかな。 ところで春日部君。なしてお見舞いの林檎を勝手に食べてるん?」

「無視はひどいと思うのです……」

「……あったから?」

「あ、はい」

 

 三人は義仁の容体などを確認した後各々話をしやすい位置に座った。その途中も黒ウサギは引きづられていた。

 

「さてと、何から話したもんか。白髪鬼……オッサン達は殿下って呼んでたやつに黒ウサギがやられた話は聞いたか?」

「殿下君が敵だったってやつだよね。うん、聞いてるよ」

「なら黒ウサギがああなったのも知ってるのか」

 

 それは〝どっち〟の事なのだろうか……。義仁は耀に玩具にされてる黒ウサギに哀れみの目を向けた。

 

「そう言えばジン君が捕まったとか何とか聞いたけど」

「ああ、体裁的な処置見たいもんやねそれは」

「……ペストも一緒に入ってる」

「ああでもしてないと俺達にいらぬ疑いがかかるからな。ま、もう遅いんだが。結局クズはクズって訳だ」

 

 義仁は十六夜の言いたい事が分からず首を傾げた。耀も同じく首を傾げていた。黒ウサギは新しく生えた耳を耀に弄られそれどころではなく、蛟劉だけが十六夜の言いたいことを理解していたようだった。

 

「ジンとペストが幽閉された理由は二つ。一つは殿下と共に行動していたこと。これに関しては全くと言っていいほど問題は無い。だが、二つ目、奴らはジンとペストを魔王連盟に勧誘した。まるで入ることが当たり前かのように。となると、この二人は内通者なのでは? って考えるやつが出てきても可笑しくはない。俺たちを裏切り、敵に寝返ったのでは? ってな」

「そんなことはないって、僕等を知ってる人ならそう思うかもしれんけど知らん人からすれば……仕方ないとしかねぇ。

 そこで、この北側では絶対の信頼を持つ〝サラマンドラ〟。ここに幽閉、尋問等をしました、取り敢えず安全だよー。とでも言ってれば二人への疑いもしぜーんに消えるってワケや」

「ま、そんな上手くいくわけもねぇがな」

「二人が本当にねがえ……いや、殿下君達が近々攻めてくるってこと?」

「お、珍しく察しがいいじゃねぇか。それに加え、サンドラ……アレはあのクソ猿に攫われる。こればっかりはどうしようもねぇ。戦闘能力自体は高くないんだろうが、逃げ足なんかに関しては一級品だからな。それに、あいつはガキの心に潜む闇を糧とする。そして、仲間に裏切られたばかりのサンドラ……。まあ、手の打ちようがねぇわな。具体的にどうなるかまでは知らねぇが……、仮死状態に近い形になるのか? どちらにせよまともな未来は待ってねぇよ」

 

 さらりととんでもない事を言い出す十六夜。反射的に蛟劉へと顔を向けた義仁だが、蛟劉はお手上げだと言わんばかりに林檎を齧っていた。嫌な汗が頬を伝う。どうにかできないのかと口を開こうとした時、耀からも容赦のない言葉が紡がれる。

 

「……義仁さん。無理。相手は混成魔王。恩恵も心理学のスペシャリストって訳でもない義仁さんが何かしようとするだけ無駄。私だって辛いよ。けど、ここにいる皆が匙を投げた。それがどういう事か、分かって」

「容赦ないのね春日部ちゃんは……。まあ、そういうことや。恐らく奴は既にサンドラの近くにいる。機を伺ってるに過ぎないだろう。義仁はんがなにかしようとしても表立ってなにかしては来ないだろう。止めはしない。止めはしないが、それでも、わいは行って欲しくない。肉体的にも精神的にも、お互いに傷付く可能性が増えるだけやで」

 

 最後の希望と言わんばかりに黒ウサギを見やる。未だ耀に耳を掴まれているが、決してこちらに顔を向けずじっと黙っていた。

 

「……皆みたいな力があったら助けれたのかな」

「そういう話ではねぇよ。相性、時期、人間関係諸々、全部あっちに軍配が上がっただけの話だ。実際真正面から殴り合えばくそ弱そうだしな」

「そうなんだね。どちらにせよ、助けられなかったんだ。仕方ない、仕方ないんだ……」

 

 何度も何度も、何かを呪うように呟き続ける。

 どんよりとした空気が漂う中、義仁はゆっくりと口を開いた。

 




お読みいただきありがとうございます。

ぶっちゃけ何も考えてなかった。うん。今日日曜かと思ってたうん。
曜日感覚も日付感覚もない今日この頃、目の奥に疲れが溜まってます。

まあ、矛盾とかこれ違うぞってやつがあったら報告して頂ければ助かります。

ではまた次回〜


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第105話 困った笑顔

投稿です。

ぜんぜっん思いつかねぇ!!
てかねみぃ!

では、どうぞ。


 あれから〝サラマンドラ〟から薬等の投与をしてもらい、その日のうちに動ける程度には回復した。部屋に来ていた十六夜たちは明日行なわれる会議の準備があると既に部屋をあとにしていた。

 

 つまるところ、義仁は暇をしていた。

 

 以前のように、動くことすらままならないような大怪我なら大人しくしていたことだろう。しかし、身体の痛みはなく、手足を動かしても違和感がない。せめて話し相手の一人でもいてくれれば助かったのだが、そんな相手も現在いない。

 

「なにかしてないと嫌な事ばかり考えてしまうし……少しぐらい、大丈夫だよね」

 

 などと自分を正当化しつつ、廊下へと繋がる扉にそっと手を付けた。ゆっくりその扉を押し開け、外をうかがう。誰もいない? 誰もいない。よしっ。と黒ウサギにでも見つかれば数時間の説教コースは免れないであろう。多少の冒険心と背徳感は、余計な事を考えなくて済んだ。

 

 しかし、外に出てみたはいいものも行く宛もない。変にウロウロして誰かに見つかれば連れ戻され説教コース。赤と金の豪華な絨毯の上でどうしようかと顎に手をやる。

 

「あら、要安静の怪我人が何をしているのかしら? もしかして殺されたいのかしら?」

「……えっと、何処から出てきたのかな」

 

 気が付けば義仁を見上げる少女が一人。ジンの使役するペストだ。

 

「確か、捕まってるって」

「私は霧状になれるのよ? 鉄格子くらい抜けられるわ。ジンは無理みたいだけど」

 

 とは言ってもほとんどの力は封じられてるのだけど。と、可愛らしく頬を膨らませてみせた。

 

「まあ、そんなことはいいじゃない? 脱走者同士仲良くしましょ?」

 

 クスクスと笑い、小さな手を義仁へと差し出す。その小さな手を笑顔で握り返すとペストはまたクスクスと笑ってみせた。

 

「貴方はほんとう疑うって事を知らないのね。知った方がいいわよ?」

「そうかもしれない。けど、ペストちゃんはしないよね? それに、さっき自分で言ったじゃないか」

「あらやだ、そうだったかしら」

 

 そして三度笑ってみせる。

 

「それでは、案内して下さるかしら?」

「お任せ下さい……って言いたいところだけど、残念ながら私も道が分かるわけではないんですよね」

「あら、いいじゃない。お互い知らない場所。探検しましょ」

 

 そう言うとペストは義仁の手を引っ張り始める。義仁は箱庭に来る前、かつての記憶に残る娘の姿がペストと重なった。

 

 今夜ぐらいは、楽しんでもいいって事なのかな……。

 

 嫌なことから目を背ける。そんな自分を何処かで嫌悪しつつ、手を引っ張る娘にめいいっぱいの困った笑顔を見せてみた。




お読みいただきありがとうございます。

まあ、少し予定を変更してペストに出てきてもらいました。
今更ですが、各々の能力だったりはかなり拡大解釈しています。ご了承しやがれください。

最近クトゥルフ神話TRPGのルールブック買いました。
一緒にやる探索者等は何処で買えるのでしょうか?

では、また次回〜


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第106話 同情

投稿です。

先週は投稿出来なくてすまんな。

PCで書いての初投稿になるぜ。誤字とかありまくる気しかしないから、間違ってたら教えたくらると助かるぜm(_ _)m

では、どうぞ。


 ペストと共に“サラマンドラ”本拠の探検に挑む。土地が変われば文化も変わる。“ノーネーム”とは違う点はいくらでも見つけることができた。

 食堂に忍び込んで、食材や食器を眺めていたら誰かの足音が聞こえ慌てて隠れたり、部屋から部屋へと天井を伝う配管は何だろうと触ってみるとほんのり暖かく暖の取り方も違うのだと感心もした。

 まさしく、おてんばだった娘との日々がそこにはあった。昔に戻ったようだ。ここにサラさんがいれば本当にあの頃と錯覚してまうと確信できた。それだけ楽しかったのだろう。気が付けば部屋の前まで戻ってきてしまっていた。幸い部屋の中にはだれもおらず、ペストが見つかるようなこともないだろう。

 

「今日はありがとう。あの頃に戻ったみたいで楽しかったよ」

「そう。それはよかった」

「良ければお礼がしたいんだけれど」

「あら、いいの?」

「私にできることであれば、だけどね。ペストちゃんのほうができることは多いだろうし……、何ができるかな」

「なら、私の話を聞いてくださらない?」

 

 そのくらいなら喜んで。義仁はペストからのお願いに快く答え、椅子へと誘導した。しかし、ペストは椅子へと座らずベットの上に腰を掛け、隣に座れと義仁を促した。椅子を引きペストを待っていた義仁はしばし呆けたあと、ペストの隣に腰を下ろした。

 ペストは義仁の左手の上に右手を重ねた。その手は震えていた。

 

「私がかつて大流行した病気だってことは知っているかしら」

「それならジン君から聞いたよ。八千万の霊が集まったとかなんとか」

「ええ、そう。厳密にはこの体が八千万の悪霊の代表のもので、今、貴方と話しているのは意思を持ってしまった感染症。私はこの悪霊たちを解放したいと思っているわ。まあ、そうしたら私は消滅するでしょうけどね。だけど、私の平穏はそうしないと訪れない。いついかなる時でも八千万の怨念が私に向けられている。なんで殺した、なんでこの世に生まれてきたっ、てね」

 

 淡々と、自分の願いを口にするペスト。その願いを義仁に止める権利はない。しかし、ペストの右手は震えを増す一方だった。

 

「そう、なんだね」

「別に同情とかが欲しいわけじゃないわ。でも、誰かに話せば多少は気が紛れるかと思っただけなの。こんな暗い話聞きたくなかったわよね。ごめんなさい」

 

 同情はいらないといって見せる少女に、義仁は自分の無力さを痛感する。

 もう何度目だ、目の前の小さな命を助けることも、安らぎも与えられない。呆れられてもいいからと、この少女の、ペストの力になりたいと思った。

 

「肩代わり……、ずっとは無理かもしれないけど、数分だけとか、肩代わりできないかな」

「無理よ、貴方は私とは無関係じゃない。関係があるならまだしも、媒体もなしに引き渡すことなんてできないわ」

「無関係じゃない。この左目、君のペストの浸食で視力がなくなったらしい。なんか呪いのようなものだって。これを通してなら……どうかな?」

「それなら、できるかもしれないけど……、本気なの?」

「本気だよ」

「じゃあ、すこしだけ……お願いしても、いいかしら」

 

 そして、義仁の体に、神経に、脳に、精神に、概念に。義仁という人間そのものをすべて否定するようなどす黒いナニカが這い登ってくる。

 しつこくまとわりつく悪臭が体の中に閉じ込められ、体の内側から食い破られるかのような激痛が走り回る。常人が経験していいものではない。

 

 それもそうだ。

 今義仁を襲っているナニカは、八千万のソレが経験したものなのだから。数分? そんなに耐えられるはずもない。耐えられるのであればそれは文字通り人間ではない。化け物だ。

 

 無理だ。これは間違いなく無理だ。どうあがいても凡人一人が肩代わりできるものではない。

 

 そのことを一秒と経たずに察しペストから反射的に離れようとする。しかし、離れることができない。ペストが義仁の左手をがっしりと掴んでいるからだ。

 

 一秒が過ぎた。

 のたうち回る。左手を握られ、ペストから義仁に向かって経験が押し寄せる。

 

 二秒が過ぎた。

 のたうち回る体力もない。口から涎が垂れ、義仁の体がビクンと大きく跳ねた。

 

 三秒が過ぎた。

 ピクピクと痙攣する以外に動く兆しはない。

 

 結局義仁が解放されたのは、第三者が部屋に駆け込んでくる五秒後だった。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

これで、多少の辻褄合わせできた……のだろうか(´・ω・`)?
まあ、できたってことでひとつよろしく。

では、また次回〜


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第107話 微睡み

投稿です。

先週はすみません。
遠くにいた友人がこっちに来ることになった、というより来たのでそちらに付き合っていました。

では、どうぞ。


勢いよく扉が開く。紅い髪が乱れ、その顔からは血の気が引き真っ青になっていた。部屋に入った少女は探し人の姿を探す。探し人はすぐに見つかった。ベットの上で横になり泡を吹いていた。

ある意味で、自分の命の恩人とも言えるその人が。

 

「義仁さん‼」

 

窓が開いていた。窓から入ってくる風がカーテンを揺らしていた。部屋は荒らされていなかった。たった一人を殺すための襲撃。間に合ってよかったと考えるべきなのか、事前に対応できなかったと後悔するべきなのか。

 

そもそも何故この人がピンポイントで狙われた?

 

考えても、考えても分からない。頭の中の情報が多すぎて、弱い十程度の少女には纏め上げられなかった。

仲間たちからは裏切られ、目の前には魔王の脅威。信頼に値するほどの存在はすでに身近にはいなかった。

それでも、救命活動を行えたのはひとえに彼女の強さなのだろう。

 

「と、兎に角治療をしなきゃ。あ、泡を退ければいいのかな……」

 

義仁の体を仰向けに、顔を横に向け、泡を近くにあったティースプーンで掻き出していく。

泡を掻き出し、気道を確保。そして、義仁の口から大きく息が吐き出され呼吸が安定した。

 

安定して上下する胸元に安堵のため息を吐く。そのことにより余裕が生まれたのか、窓を閉め、義仁の周りに炎の結界を張った。義仁の安全を確保した後、医務室へ。義仁の救護及び〝ノーネーム〟を呼んでくるように指示。また、〝サラマンドラ〟本拠内に敵影あり。厳重警戒をとるように指示。

 

それらを終わらせ、医療班と共に再び義仁の部屋に戻ってきた。

義仁を包む炎の膜を解き、医療班が義仁へと群がっていく。

 

小さくため息をひとつ。医療班が適切な処置を施していく様子を眺めていた。敵襲や今後の方針、考えないけないことは山ほどあるがそれは〝ノーネーム〟の皆が来てからがいいだろう。

 

少し休んでもいいだろうか。

 

すこし甘い考えを振りほどき、再び義仁を見る。口を塞いでいた泡は綺麗に取り除かれ、顔色も悪くない。詳しい症状は聞いてはいなかったが、素人目からでも問題ないことが分かった。

 

義仁を再び炎で包み、自身もその中へと入りベッドへと腰を下ろす。

 

義仁の規則正しい寝息が何処か心地よく聞こえる。少しだけ、少しだけと義仁の腕の中に自身の体を埋める。なぜか落ち着くその場所の温もりに自然と瞼が落ちてくる。

 

少しだけだから、少し瞼を閉じるだけ、とじるだけだから大丈夫。とその微睡みに身を任せサンドラは夢の中に落ちていく。

 




お読みいただきありがとうございます。

ほんわか回は何も考えずにぽわぽわしながらかけるので好きです。
いい加減一気に時間を飛ばそうかなぁ。

まあ、そこらも次回しだいですな。

では、また次回〜


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第108話 資格

投稿です。

い つ も の
見切り発車はあれほどやめろと……

では、どうぞ。


 〝ノーネーム〟が到着する前に義仁が目を覚ます。自分が寝ているベッドを包むように炎の壁があることに若干の戸惑いを見せた。

 はて、自分は何をしていたのだったか。部屋から根け出そうとしたところまでの記憶はあれど、そこから先は思い出せない。と言うよりは思い出してはいけない気がする。

 

 思い出そうとするたび、嫌な痛みが頭を襲う。

 まあ、大方抜け出した後頭でもぶつけたのだろうと、無理やり自身を納得させる。

 

「一日の間に二回も気を失うなんて……って思ったけど、こっちに来てからはそう珍しいことじゃなかった」

 

 しょんぼりと肩を落とすように呟きながら、べっどから起き上がる。

 その時に袖を引っ張られていた事に漸く気が付いた。安心しきった顔で涎を垂らしながら小さな寝息を立てている少女。サンドラだ。

 

「……皆の助言通り、もう会うつもりはなかったんだけどな」

 

 サンドラの頭をそっと撫でる。手の平に伝わる温もりが夢ではないことを嫌でも思い知らされる。

 

「ごめんね」

 

 サンドラの安心しきった寝顔。話を聞く限り、サンドラが奪われるのは必然。あの蛟劉ですら匙を投げたのだから、それは覆しようがないのだろう。

 

「どうして、私はこんな小さな子一人守れないんだろうね……? こんなに近くにあるのに、いつも、いつも手が届かない。指を咥えて見ていることしかできない」

 

 義仁の頬に涙が伝う。それを慌てて腕で拭う。泣く資格なんてないのだからと言わんばかりにサンドラに微笑みかける。

 

 一人で全てを、なんて贅沢は言わない。だけれど、この世界、箱庭に来てリリを助けられた。多分、あれが自信へとつながった。当時は自信ではなくて目的みたいになってたけど。けれど、蓋を開けてみれば助けるどころか、変に希望を見せただけだった。上げて落とす。まさにそれだ。それに加えて、私自身の治療。きっと、この命を救う為に、多くの命が散ったに違いない。

 そもそも、誰かを救いたい、守りたいと言う考え自体が烏滸がましいかったのだろう。妻と娘を見殺しにした私には……きっと……。

 

「だめだな、どうしても悪い考えばかりに気が行ってしまう」

「そう思考できるようになったのなら、少しは成長できたんじゃない?」

 

 炎の壁越しに少しくぐもった声が聞こえた。声の方向を向くと、真紅のドレスを身に纏った久遠飛鳥が居た。

 

「にしても、この壁邪魔ね。サラから貰った不死鳥の恩恵ってやつ? どうにかならないの?」

「不死鳥の恩恵かは分からないけど、少なくとも私の意志で出している物ではないかな。いらっしゃい飛鳥ちゃん。珍しいね君から私のところに来るなんて」

「他の皆が明日の準備で忙しいから私が代表して。何時もなら断ってたけど、たまにはね。それに、最近の義仁さんは人に見えるようになってきたも」

「そ、そんなに酷かったかい?」

「ええ、そりゃあもう」

 

 そういうと、彼女はサンドラをいちべつしにやつきながら椅子に腰を下ろした。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、頑張ってみるようん(´・ω・`)

では、また次回〜


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第109話 分かればよろしい

投稿です。

飛鳥ちゃんを漸く活躍させられた気がする。

では、どうぞ。


「にしても、元気そうね。仮病?」

「さあ? 気が付いたらまたここで寝てたから」

「ふうん。無理やり思い出させたりできるのかしら。駄目ね、義仁さんが持ちそうになさそう」

「なんだか不穏だけど、無理はさせないでくれるとうれしいかな……」

 

 不適に笑う飛鳥にひきつった笑いを隠せない義仁。飛鳥は炎の壁を越えられないようで、触れようとしたものの、炎の壁が退こうとしなかった為伸ばした腕を引っ込めた。

 

「……熱いわねこれ。そっちは熱くないの? 離れていても少し汗をかく程度には暑いのだけれど」

「そうなのかい? こっちは全然そんなことはないけど」

「そう、サンドラが起きるまでの辛抱ってことね。まあいいわ。十六夜くん達は明日、時刻的には今日の午後になるかしら。〝魔王連盟〟に対抗する為の会議の準備をしているわ。まあ、うん、やろうとしていることは弱いから出直して来いってことなのだけれど……、うん。

 まあ、あれよ、順調って事だから気にしなくてもいいわ。

 そう、それと、義仁さんはこの後部屋を移ってもらうことになったらしいわよ。医務室の隣。怪我しすぎってことね。ふふ」

「それは、うれしくはない……かなぁ。けど、事実だし素直に移動しないと」

 

 あまり話したことない者同士と言えど、同じ釜の飯を食ってきたこともあってか不思議と話しにくさというものは感じなかった。飛鳥が気を使っていると言うのもあるのだが。

 壁を感じさせない彼女の話方に義仁は安心して一つの質問を投げかけた。

 

「君は、飛鳥ちゃんは、私が人に見えるようにって言ってたけど……、そんなに酷かったかい?」

「そりゃあもう。私のトラウマを見事に抉ってくれてたわ」

「そ、そんなにかい……。ち、ちなみにどんな風に?」

「そうねえ、一言で言うならヘドロ?」

 

 予想以上の安直で真っすぐ過ぎる回答に愕然とする。

 

「今はドロッとした人間に見えるわ。前に比べれば大分マシになってるから安心しなさい」

「あ、安心はできない、かな」

「そう思うのならもう少し自分の体を大切にしなさいな。自己犠牲は否定しないけれど、貴方のはただの死にたがり。

 何に突き動かされているのかは知らないわ。

 でもね、自分がここで休んでいる間にーだとか考えてるでしょ義仁さん。それも真っ先に。確かにそうかもしれないわ。貴方が部屋をひとつ貸し切っていたから誰かが治療を受けられなかった。ええ、有り得るの事ね。けど、それは箱庭に来る前もそうだった筈よね。何も変わってないのよ、そこは。 だったら。まず、真っ先に私たちが気にして欲しいのは、自分のこと。貴方が死んで悲しむ人もいるのよ。月並みの言葉だけどね」

「ごもっとも……」

 

 しゅんとベッドの上で縮こまる。

 その義仁の姿を見て飛鳥は疲れたように小さく息を吐いた。

 

「分かればよろしい」




お読みいただきありがとうございます。

まあ、うん、これじゃないって言われても目を瞑ってね♡

ではまた次回〜


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第110話 近所の頼れるお兄さん

投稿です。

もうほのぼの書いてればいいんじゃないかな……(迷走)

では、どうぞ。


 飛鳥と会話を続けていると、サンドラがゆっくりと起き上がった。閉じた瞼を眠たげに擦り、ゆっくりとその瞼を開けていく。その瞼から覗く瞳は義仁を認識するとふにゃりと重力に従った。

 安心しきったその顔、枕として使われている手の平の上にはサンドラの口から零れる涎が溜まっていた。

 

 うれしい気持ちも大いにあるが、流石に涎は不愉快に思わざるを得ない。せめてタオルか何かで拭ければよいのだが、あいにく手元にはなく、飛鳥が渡そうにも炎の壁が邪魔をしている。

 少し可哀想だけど、義仁はサンドラの体を揺さぶった。

 

「ん、んん……あ、あれ、私」

「おはようサンドラちゃん。ごめんね寝てたのに」

「あ、いえ……こちらこそすいません」

 

 まだ微妙に寝ぼけているのか返事に覇気がない。つい頬が緩んでしまう。

 

「サンドラちゃん大丈夫?」

「だいじょうぶです」

「明らかに大丈夫じゃないわね。この壁さえどうにかしてもらえればいいのだけど……どうしましょう」

「はい……」

 

 飛鳥の声に反応してかサンドラが炎の壁に手を伸ばす。すると、義仁たちを覆っていた炎の壁はゆっくりと消えていった。

 

「確りしてるのか寝ぼけているのかがよく分からないわねこの子……。まあいいわ。これで移動できるわけだし、医務室に向かいましょ。ほら、サンドラも行くわよ」

 

 飛鳥はサンドラの手を取った。眠り眼のままサンドラは飛鳥に誘導されていく。義仁もその後ろを付いていく。

 

「やっぱり、まだ子供……。ジン君もそうだけど、この世界は子供に厳しすぎる」

「それは義仁さんや私たち、子供は権力を持たない事が常識だっただけの話よ。

 箱庭では、子供が権力を持ち組織のトップに座るのが普通ではないにしろあり得る世界なだけ。文化の違い。ただそれだけ。割り切りなさい」

「……そうだね」

「一児の父として許せない?」

「許せないってよりはやるせない、かな。一人じゃ何もできないってのは散々思い知らされたし」

「そうね。一人じゃ何もできない。それは誰だって一緒。私や春日部さん。十六夜君もね。誰かが魔王の呪いや、部下をせき止めてくれているから魔王との勝負に集中できる。〝アンダーウッド〟でもそうだったでしょう? 

 貴方が蚊の化け物を引き付けてくれていたから私とサラ、〝アンダーウッド〟は助かった。違う?」

「それは、うん。散々言われつづけてたらね。実感がわかないけど」

「それよくサラの前で言わなかったわね……言ってたら多分殴られてたわよ。

 まあ、なんて言うのかしら。貴方はそう、近所の頼れるお兄さんというものなのよ。この間読んだ本にそんなのが書いてあったし多分間違ってないと思うわ」

 

 少し自慢げに笑う飛鳥につられてつい笑顔がこぼれる。何はともあれ、医務室のすぐ隣の部屋へとたどり着いた。

 

「それじゃあ、私は戻るから、何かあったら読んで頂戴。それじゃあまた明日」

「また明日。おやすみ」

「サンドラは置いていくから、ゆっくり休ませてあげなさい」

 

 飛鳥は返答を聞かず部屋を出て行ってしまった。

 

「どうせなら連れて行ってほしいんだけど……、できれば話を……」

 

 漏れた言葉は飛鳥へ届かず、残されたサンドラをベットに運び、自身はソファへと身を沈めた。




お読みいただきありがとうございます。

書くだけ書いて投稿忘れるとこだったセフセフ

では、また次回〜


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第111話 机

投稿です。

サブタイが決まらない今日この頃。

ではどうぞ。


 太陽が昇り始めると同時に目が覚める。ここ最近は気絶、寝るの繰り返しだったこともあり少し困惑する。前日何をしていたのかを思い出しながら、ソファから転がり落ちなかったことに安堵した。

 珍しく飛鳥と対談し、負傷のしすぎと怒られた末に医務室の隣へとお引越ししたことを思い出し、サンドラを部屋のベットに寝かせソファに潜り込んだ。その前のことは結局思い出すことは出来なかったが、それは些細なことだろうと思考を切り替える。

 

「サンドラちゃんは……まだ起きてないか」

 

 ベッドの上にはサンドラがすやすやと寝息を立てている。まる一日近くは寝ているというのに未だ起きる気配はない。それだけ疲れていたということだろう。悪い癖だとは思いながらも少し同情してしまう。

 

「早く起きすぎちゃった……。いや、寝すぎただけかな。昨日もほとんど寝てたみたいだし」

 

 窓から外の様子を見る。太陽だと思っていた物は大きなランプで、街道を行き交うのは人ならざる者。いい加減慣れろと言われそうだが、どうしてもこの感覚は慣れそうにはない。時計を見ると時刻は午前7時。皆仕事に向かっているのだろうか。それとも夜勤明けだろうか。

 

 そんなことを考えながらぼんやりとし続ける。それだけの事なのになぜだか飽きることはなかった。

 時折うとうとしていたら時刻は午前9時過ぎ。どうりで喉が乾くわけだと腰を上げる。それと同時に小さな欠伸も聞こえた。音のした方を向くと、サンドラが瞼を擦りながら大きく伸びをしていた。

 

「おはようサンドラちゃん。よく眠れた?」

「おはよう、ざいます」

「まだすこし眠いかな? 洗面所まで歩けるかい?」

「ん」

 

 小さく返事をし義仁の裾を握る。話によれば今日の午後に〝魔王連盟〟に対する会議が行われるそう。立場的にサンドラが出席しないというのはまずいだろう。義仁的にはサンドラには出てほしくない気持ちの方が大きのだが。

 

 十六夜君達は徹夜明けになるのだろうか? なんて考えサンドラを洗面台まで連れていく。顔を洗わせ、ぼんやりとした目がはっきりと義仁の姿を映した。

 

「……ご、ごめんなさい」

「どうして謝るんだい?」

 

 訳が分からなかった。

 

「私は、義仁さんを守る立場なのに……」

 

 ああ、なるほど。ここでも彼女は責任を感じているのか。感じてしまうのか。

 

「ごはん、食べよっか。食堂がどこか分からないから案内してくれるかな?」

「わかりました」

 

 よそよそしいサンドラの後ろ姿。十六夜達に警告されたのもあってか少し冷たく接してしまう。そんな自分が嫌で嫌で。吐き気がするほどで気持ち悪かった。

 

 結局、食堂についてもサンドラとはまともに話せなかった。側近の人たちがサンドラを会議があるからと迎えに来て、一人になってしまった。机は濡れていた。

 部屋に戻り、また外を眺める。窓の外には多種多様な異種族が集まっていた。

 

 きっともうすぐ、サンドラは連れ去られるのだろう。けれど、平穏な眠りは与えられた。無暗に潜り込んでもいないはずだ。

 

 

「これで…………

 

 …………いいわけないじゃないか」

 

 

 気が付いた時には廊下を走っていた。

 走って、走って、走って、走って、息が切れてへたり込むころに十六夜君が目の前にいた。何も聞かれていないのに、サンドラちゃんにお礼を言えていないと言い訳をして、子供のように慌てて……。

 

 本当はただ、彼女の笑顔が見たかった。それが、自身を、彼女を傷つけるとわかっていても、きっと、それでも今抱いているこの張り裂けそうなこの辛さに比べればきっと、

 

 

 そう、きっと、涙の別れなんかよりきっと

 

 

「サンドラは、もう連れ去られた。諦めな」

 

 

 きっと────

 




お読みいただきありがとうございます。

会議まで書いてるとね……うん……

では、また次回〜


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第112話 絶対

投稿です

十六夜おにいちゅん
まじ 十六夜おにいちゃん

では、どうぞ


「こうでもしないと、きっとまた無茶をする」

「だからペストを使って義仁を襲わせた。そうすればおっさんは部屋を移動させられる。〝サラマンドラ〟としてもおっさんが死ぬのはマズい。医務室の隣、〝魔王連盟〟が攻め込んできたとしても真っ先に避難が完了するだろうな」

「十六夜さん……」

「おっと、別にそれが悪いって言いたいわけじゃないんだゾ? ただ、随分とおっさんにご執心だと思ってな」

 

釈放され、対策会議もサンドラが連れ去られるというハプニングが起きたこと以外は概ね順調に終わった。十六夜達はサンドラが連れ去られるのを想定していたため、どよめきを隠せない参加者たちを無視して会議を進めた。

正直、下手に実力があるものが集まっても邪魔なだけとすら十六夜は考えていた。参加者数人が時計塔に突き刺さったりしていたが、サンドラ誘拐に比べれば些細なことだろう。

 

さて、時刻は深夜手前。大抵の生き物は睡眠をとっているこの時間。ジンがいる部屋に訪れた十六夜はからからと笑いながら対面する。

 

「十六夜さんは義仁さんがどうなってもいいと?」

「別にそんなことは言ってねえよ。俺だって仲間意識ぐらいはある。ジン。お前がおっさんを心配しているのも理解できる。だから、忠告しに来た。あんまり締め付けすぎると、おっさんが壊れちまうぞ? いまでこそ多少はマトモに見える。が、結局はそう見えているだけだ」

「そのくらい僕にもわかります。だからペストに……。ただでさえ色んなことに巻き込まれやすい方なのに、態々自分から踏み込んでいく。今までは最悪のパターンにたどり着かなかっただけです。不死鳥の恩恵で多少なりとも死から遠ざかっているとしても、絶対ではない。そんなものは存在しない」

「だったら、ペストがおっさんを殺しちまう可能性もあったわけだ。ただでさえ、おっさんを毛嫌いしているんだ、ないとは言い切れないだろう?」

 

ジンは押し黙る。否定できないからだ。そう、自分が言った通り、この世に絶対なんてものはない。だから、ジンは少しでも安全な場所に義仁を移動させたかった。

そして、十六夜の言う通りペストが義仁を殺す。いざとなれば自分が止めに入ればいい、なんて言えるわけもない。ジンはその場には居なかったのだから。

義仁の身を案じ行動した。それにしてはおざなりすぎるだろう。

 

「まあ、結果はうまくいった。お嬢様ともそれなりに話せるようになったみたいだしな。ただ、今後は相談しろ。せめて俺だけにでもな」

 

ぐしゃぐしゃとジンの頭を乱雑に撫で、部屋から出ていく。ジンはうつ向いたまま動かなかった。

 

「もう、無理だとはおもうが。少なくとも、目の届く範囲でならどうにかしてみるか」

 

めんどくさいと語末に付け加えながら、ゆっくりと歩みを進めた。

 




お読みいただきありがとうございます

書きたかったんと少し違うけど、まあいいか(思考放棄)
十六夜お兄ちゃんほすい

では、また次回~


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第113話 安堵

投稿です。

まあ、結局ただの愉快犯っていうね。

では、どうぞ。


「分かってた。分かってたんだ。サンドラちゃんが眠っている間に別の誰かに預ければ良かったってことぐらい。

 けど、しょうがないじゃないか。あんなに穏やかな寝顔をしていたら……裏切るなんて」

「けど、結局見捨てたんでしょう?」

 

 くすくすと小ばかにする声。黒い靄とともに現れた小さな少女。黒と白の斑模様が特徴的なワンピースに身を包んだ少女、ペスト。

 

「ちが……」

「違う? あの子の手を振り払ってたじゃない」

 

 ずいっと、ペストが義仁の顔を覗き込む。事実を突きつけられ反論できない義仁。彼女の涙を拭えなかった、彼女の手を取れなかった。

 

 あの日、目の前で息絶えていくわが子を見捨てた時と同じ。

 

「あの子、泣いてたわ。あの子、震えてたわ。貴方が手を伸ばしてたら、助かっていたかもしれないわね~」

「でも、十六夜君たちが関わるなって」

「人の言葉を鵜呑みにして小さな女の子を見捨てたのは気持ちい? 楽しかった? 楽しかったわよね~、気持ちよかったわよね~。大義名分を持っているんですもの」

「違う!」

 

 振り払う。けれどペストは霧散しまた纏わりついてくる。

 

「助けて、きっとこの人ならまた助けてくれる。きっとそう思っていたわ。あら? まるで誰かの最後みたいじゃないかしら?」

「やめろ、やめろ!」

「黒い車輪が身体をメキャメキャって……ふふ、パパ、たすけてだって。聞こえてた?」

「やめてくれ」

 

 聞きたくないと耳を塞ぐ。しかし、ぽかんと抉れた眼球が逃がさないと、許さない、助けてくれなかった、なんでなんでなんでなんで

 

 自分だけが助かって

 自分だけが日常を取り戻して

 自分だけが笑ってて

 

 赤黒いナニカの口がグパッっと開き

 パパが死ねばよかったのに

 

「ヤメロ」

 

 純白のベットにぼとっぼとっ血が滴る。赤く汚れたベットの上には愛している妻の姿。

 ぐにゃりぐちゅりとその顔がゆがみ、赤黒い塊へと変貌する。

 

 どうして

 

 赤黒いミートボールのようなモノから音が漏れた。

 口があったであろう所が上下に裂け、目があった位置はスプーンで抉り取ったかごとく真っ黒な闇を覗かせていた。

 

 どうして

 

 再び音が聞こえた。間違いなく目の前のミートボールからだ。

 避けた口からずるりと何かが這って出てくる、我が子だった。見た目は肉塊。目の前にいるミートボールと同じ。

 

 どうして

 

 三度目。後ずさりするも、足を掴まれる。体を這い登ってくる二つの重さ。

 べたりべたりと体につく血の跡が自身の罪の重さを表しているのかと錯覚させる。

 

 タスケてくレナカったの? 

 

 耳の奥にこびり付くその言葉。

 なぜかその言葉に安堵し、身をゆだねてしまいと思ってしまった。

 二人の重みに抵抗することなく身を沈めていく。きっとこれが、本当に欲していた物なのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら……。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

もうそろそろおわりそうかなーっと。
変に長くなっちゃてるし、サクッと終わらせたいところ(できるとは言ってない)

では、また次回~


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第114話 火蓋

投稿です

ちゃうねん……
書きたいのがこんがらがってん……

では、どうぞ。


 生き生きしていた。この世界に訪れてから初めて。ぱっと見ただけでは至って問題ないように見える。だが、それにしてはあまりにも希薄だった。

 なにが原因で立ち直れたのか、それを知るものは義仁とペストを除いて居なかった。そして、知りたいと思うものも一部、〝ノーネーム〟の面々を除いて、居なかった。

 

 サンドラが連れ去られた後、義仁のメディカルチェックを担当した者がいた。

 よく言えば前向きになった。悪く言えばタガが外れた。何時自殺を図ってもおかしくはない状態。家族が死んだトラウマが何らかの要因で悪い方向に呼び戻されたみたいだと。

 

 配膳や掃除、掃除の手伝いをしている。その顔にはまごうことなき笑顔が浮かんでおり、その周りで同じ仕事をしている〝サラマンドラ〟の者たちにも笑顔が浮かんでいた。その中には、彼を治療した者も含まれている。

 

 誰一人として、義仁が笑顔になった事に触れようとしない。触れてはいけない。触れてはいけないナニカとして扱っていた。下手に手を出さなければ有益だと分かれば、笑顔にもなる。だれも望んで知人の自殺跡なんて見たくはない。だから、笑顔になるのだ。

 

 ジンは気が気ではなかった。義仁がああなってしまった原因に心当たりがありすぎたからだ。

 部屋に戻り怒鳴り散らしたい気持ちを抑え従者を呼ぶ。にじみ出る殺意は齢十程度のものとは思えないほどにドス黒い。そんなジンの様子が面白いのか従者であるペストはいやらしい笑顔を浮かべながら現れた。

 

「あらあらどうしたの? そんなに殺気だって、まるで大切なものが壊れちゃった子供みたい」

 

 くすくすと嘲笑う。

 馬鹿にされている事も腹に立ったが、それ以上に一切悪びれず隠す気もないその姿により一層殺意を覚えた。

 

「なぜ、約束を違えた。僕が協力しなくても良いということか?」

 

 何時もの口調がどんなものだったかが思い出せない。それだけ激怒していた。

 

「別に破ってはないでしょ? むしろきっちり守ったじゃない。私がしたのはその後ですもの。能力を封じ込めていなかった自分の落ち度でしょ。私に当たらないでくれるかしら」

「確かに、それは僕の落ち度だ。だが、だからと言って義仁さんに手を出す必要はなかったはず」

「嫌いなものが苦しむ姿って気持ちいいじゃない?」

 

 ああ、そうだ……こいつは魔王だった。なぜそんな当たり前のことを忘れていたのだろう。

 

「そう、それと。何か勘違いしてるみたいだけど、私は別にこのうるさい奴らから絶対解放されたいとか、解放してあげたいって思ってるわけじゃないの。できればいいなってだけ。わかる?」

 

 本当に、なぜ忘れていたのだろう。此奴は魔王で、快楽主義のクソ野郎だってことを。

 自分の愚かさと無力さを噛みしめ、精一杯の抵抗だと言わんばかりにペストの力を封じようとしたとき北側全体が揺れるほどの大きな地震が発生した。否、引き起こされた。

 

 戦争の火蓋が切って落とされたのだ。




お読みいただきありがとうございます。

ま、まあ引き伸ばし回みたいなものだから……(震え声)
次回か次々回で一気に話し飛ぶと思いますん。

では、また次回~


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第115話 そっちにいくよ

投稿です。

なーんかやる気がガガガ
もうすぐ終わるのにここでやる気がなくなるのはマズいですぞ

では、どうぞ。


 大きな揺れと共に避難所まで連れてこられた義仁。避難所の中にはお年寄りと子供、女性といった戦闘に参加することができない者たちが多く集まっていた。戦いに慣れているものや、防衛に向いている恩恵を持ったものは避難所の入り口に陣取ったり、避難の手伝いをしていた。

 そんな中義仁がじっとしていらるほどの精神はあるはずもなく、先ほどから毛布を配ったり子供たちの遊び相手になったりとせわしなく動いていた。

 

 時計の短針が四度、動いたにもかかわらず外から聞こえる轟音は鳴りやまない。幾度となく鳴り響く轟音と怒号のやり取りに子供たちは怯え、大人たちもまた身を震わせていた。

 

 今なお避難者は後を絶たず避難所も手狭になってきた。怪我人も予想よりは少なかったものの出てきている。それが一層子供たちの不安を煽っているが、大人たちでカバーしあっていた。義仁も子供たちの相手を代わってもらい少しばかり休憩を取っていた。

 そんな時一組の男女が避難してきた。避難所に転がり込むなり子供たちが集まっている所まで走っていき、顔をより一層青ざめさせた。近くにいた者に駆け寄り泣き叫びながら何かを聞いていた。

 

 それがなにか、察してしまった。

 

 もう、動かない。そんな選択肢は考えられない。立ち上がり、その男女に近づく。話を聞けば子供とはぐれてしまった。事前に避難する場所は決めていたから来てみたはいいものの、我が子に似た子は来ていないという。かといって自分が出て行っても、それでも、

 

 ダンっと、外に走り出そうとする男を女が引き留める。あの子に加えて貴方まで死んだらどうすればいいか分からないと。まだ死んだときまったわけじゃない。

 

 お互いが泣き叫びながら動けないでいた。

 

 そこには、昔の私がいた。

 だが、今ここにいる私は昔の私じゃない。何が違う、今の私にはなくてあの頃にあった私。

 

「大丈夫。探してくるよ。だから、その子のが帰ってくるのを待ってて。特徴を教えて貰ってもいいですか?」

 

 困惑する男女に淡々と子供の特量を聞いていく。性別は男で、少し長めの黒髪に赤い瞳。耳は横に長く尖っていて、両耳の先が抉れているそう。昔に火傷して切除したらしい。名前はキト。

 

 そんなところで再び大きな揺れが避難所を襲った。

 

「分かった。ありがとう。必ず見つけてくるよ」

 

 そして避難所を後にする。

 何時もならきっと足がすくんでいただろうし、巻き込まれる側だった。

 だけど、今回は自分から入っていった。きっと、今の私は飛鳥ちゃんが言った昔の自分に戻っていることだろう。だけど、もういいのだ。

 

 

 だって、

 

 死ぬのが怖くないのだから

 

 否

 

 死ぬことが私が助かる唯一の方法だと分かったから

 

 

 だから、いまそっちに行くよ。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、うん。
早ければ3,4話で終わる……といいなぁ

あ、あと来週は東方祭の関係で投稿休みます。
ごめーんね(*^^)v

では、また次回~


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第116話 ランプの光

投稿です。

なんだかんだで二週間開けたのって初めてな気がする。どうもちゃるもんです。
東方祭で風を貰ったのか、はたまた15連勤に心が折れたのか知りませんが頭痛がひどく先週はそれどころじゃなかった。

ユルシテ……ユルシテ……

では、どうぞ。


 本来あったはずの煌びやかな街並みは姿を消し、瓦礫と炎が街を覆っていた。瓦礫に足を潰されたのだろうか、這いずりながらも逃げ出そうとする上半身トカゲの戦士。それを抱え上げ共に逃げ出す。

 

 瓦礫を押しのけ、焼け爛れる手の平をサラから貰った不死鳥の恩恵で無理やり直しながら少年を探す。

 

「男で、少し長めの黒髪に赤い瞳。耳は横に長く尖ってる、けど、その両耳の先が抉れている。名前はキトくん。どっちの方角から来たのかだけでも聞いておくべきだった」

 

 戻ろうと思えば戻れなくもない距離だが、既に後ろは炎の壁に遮られていた。

 歯がゆい思いを残したまま兎に角探すしかないと足を進ませる。腹の底から声を出す。熱い空気が喉の奥に潜り込みむせ返る。

 

 時折大きく揺れる地面に足を取られ、倒れ掛かってくる瓦礫を何とか避ける。空から降りかかってくる火の粉は義仁の体力を確実に奪っていた。

 

 足場の悪い街道、躓きこけた。その先には戦闘に巻き込まれたのだろうか、瓦礫の下、血溜まりの中で助けを求めるかのように手を伸ばす若い女性の姿。確認なんて必要ない。間違いなく死んでいる。

 その女性だけではない。瓦礫に押しつぶされたもの、焼け焦げたもの、四肢を失ったもの……。数え上げればきりがない。

 

 こんな中でたった一人の少年を見つけ出せるのか。目の前の絶望を前に義仁の足が竦む。荒くなる呼吸を誤魔化しながら少年の名前を呼び続ける。

 

 〝サラマンドラ〟本拠からは離れ、街の中心近く。街を照らす巨大なランプの下。空では今だ戦闘している影が見え、街のあちこちからは悲鳴や狂騒が聞こえ続いている。周りの音に掠れた声は掻き消されていく。

 

 だが、だが、確かに聞こえた。耳には届いていなかったかもしれない。だが、義仁には確かに届いていた。

 

 瓦礫の隙間。小さな隙間から助けを呼ぶ声が。

 

「誰かそこにいるのかい!?」

 

 もう叫ぶ気力も残っていないのだろうか、カンカンと甲高い音が隙間から響いてきた。

 

「すぐ助けるからね!!」

 

 瓦礫を押し除けて行く。しかし、瓦礫は義仁の身の丈はどはある。一人で持てるようなものではなかった。だが、何もしないわけにもいかない。

 

「動かせそうな瓦礫から退かしていくしかない!! とにかく急がないと」

 

 瓦礫を動かす。小さな隙間を少しずつ広げていく。他の瓦礫が崩れ落ちなように注意を払いながら。神経がゴリゴリとすり減っていくのを感じ、どうにか腕を通せる程度には隙間を広げることができた。

 そこから中の様子を見る。そこには、仰向けに蹲った一人の少年の姿。

 

 黒髪、耳は横長、先が抉れている。

 

「キト君!!」

 

 その声に少年がゆっくりと顔を上げた。

 

「大丈夫!! もう少しの辛抱だからね!!」

 

 そして、ランプの光が何かに遮られた。

 反射的に後ろを振り返る。それは、ひと際大きい瓦礫。否、壁が義仁を押し潰さんとしていた。




お読みいただきありがとうございます。

まあ、うん。いつものパターンだよね。うん。
病み上がりなんだ許してやってくれ。

では、また次回~


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第117話 胸騒ぎ

投稿です。

まあ、あれですよ、クオリティはお察しですよ。

では、どうぞ。


 壁が迫る。義仁一人であれば、目の前の少年一人を見捨てれば、この手を振り払ってしまえば逃げ出すことは容易い。だが、それでいいのか。本当に、それでいいのか。

 

「大丈夫……一緒に、いるからね……」

 

 きっとその判断自体は間違っている。けれど、この行動は正しかった。でなければ、

 

「何をぼさっとしている!!」

 

 こんな地獄の中で、助けなんてこようはずもないのだから。

 倒れてくる民家の壁を受け止め、押し退けた。

 

「ただでさえ〝ノーネーム〟には貸しがあるのだ。貴様が死んだら余計に面倒になるだろうが」

 

 焦りからか色々と本音が漏れているが、助けられた事に違いはない。また、今義仁が直面している問題を解決できるだけの力を持っているということも。

 

「マンドラさん!!」

「な、なんだ急に大きな声を出して。いいから避難所まで走るぞ。走れるな?」

「違う!! 違うんです!! この瓦礫の中に男の子が!!」

「チッ そう言うことか。なぜこんなところにとは思ったが……。 退いていろ」

 

 瓦礫の山から退く。マンドラは義仁よりも太い程度のその腕で瓦礫を軽々と退かしていった。二個、三個と崩れないように退かしていき、最後の瓦礫を退かしたそこには微かながらも片手で大丈夫だと主張してくる一人の少年に姿があった。

 

「大丈夫キノ君!!」

 

 瓦礫が退かされるや否やキノの元へ走り寄る義仁。親指の立てられたその手を両手で包む。確かに伝わるその温もりに安堵のため息を吐くと、マンドラから声がかかった。

 

「急がぬか馬鹿者。何時ここも敵の攻撃が届くか分からんのだぞ」

「す、すいません」

 

 マンドラの声に返事を返し、キノの体を持ち上げる。どうやら瓦礫の下敷きになっていたらしく両足首が青白くなっていた。折れているのは一目瞭然。

 

「出血していないのが幸いだったか。兎に角避難所までは案内する。これ以上無茶な行動はするなよ」

 

 マンドラに釘を刺され、その後についていく。崩れてくる瓦礫はマンドラの腕に阻まれ義仁たちに降りかかることはなく、行く手を阻む炎の壁はマンドラの一振りで掻き消された。必死に走り回ったことが嘘かのように余裕をもって避難所まで逃げ戻ることができた。

 

 避難所に戻りすぐにキノを医務室まで運び込む。見た目に反しそこまで酷い骨折ではないと説明を受けた。後から来た両親に状況説明をし、命に別条がないことを伝える。父親は義仁に深く頭を下げ、母親は無事だった息子を力強く抱きしめていた。二人とも、実の息子の前で隠すことなく涙を流していた。

 

 安堵する暇なんてなかった。

 

 一際大きな揺れ。次いで何かの叫び声のようなもの。天井の照明がゆらゆらと揺れ、避難所内も今の揺れは何だと騒がしくなっていた。

 

「私は外の様子を見てくる。外に出るんじゃないぞ」

 

 マンドラは走って外に向かっていった。

 明らかに違う、地の底から響いてきた揺れ。妙な胸騒ぎ。確実に良い方向にだけは向っていない。それだけは確信できた。




お読みいただきありがとうございます。

いつも通り助けられましたね!!
さっすがおっさん!!

では、また次回~


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第118話 愚か

投稿です。

おしゃけおいしいのぉぉ!!!

はい、すいません。
お酒飲み言ってました。ワインのおいしいれす。

では、どうぞ。


 予想はあたっていた。と、言うべきなのだろうか。全身の毛が逆立つような悪寒。その場に張り付けられるような重圧。

 今までとは違うナニカ。明らかにレベルが違うその存在感。勝てる勝てないではない。逆らってはいけない、目を合わせてはいけない。否、出会ってしまった時点で全てを諦めなければならない。

 

 避難所内の空気が凍り付く。酷い者は過呼吸になっているほど。

 

 そんな中、義仁は外の様子を見るため避難所の入り口へと竦む足を動かした。

 外の景色はさほど変わらず、荒れ果てた街並みが広がっていた。ただ、そんな荒れ果てた街並みの上空を悠々と飛ぶその姿。

 

 頭部は蛇のそれ。だが、顎から頭蓋を貫通するように悔いが撃ち込まれている。それが三つ。背中に一枚の「Aksara」、「悪」の旗を、双肩にボルトで縫い留めて靡かせている。

 

 三つの頭。その一つがゆっくりと義仁たちの方向を見た。それは路傍の石をふと思い立って眺めてみた程度のもの。だというのに魂ごと引き抜かれたかのような虚無。

 

 あ、死んだ

 

 声に出したか、それとも心の中で呟いただけか。それは分からない。ただ、一つ言えることは

 

「こっちを見やがれクソトカゲぇええええ!!!!」

 

 一人の勇敢な少年の手により、避難所からトカゲの注意はそれたということ。

 ドッと汗が噴き出る。文字通り生きた心地がしなかった。

 

 三頭龍は十六夜の拳を受け止めることもせずその身で受けた。〝ノーネーム〟随一の実力の持ち主。明らかな格上とはいえクリーンヒットしているのだから、一たまりもないだろう。

 

 なんてことはなく、無造作に握られた拳が十六夜を吹き飛ばした。貫通した家屋が十を超えたところでその勢いは衰えた。

 

 蛟劉に敗れたところを見ているとはいえ、その圧倒的な力を目の当たりにした義仁。彼の中で十六夜や蛟劉といった存在は一種の崇拝する存在。絶対に届くことのない高みに鎮座する絶対強者。

 

 だから、彼等の足元にも及ばない義仁が何かをしようとしてもむしろ邪魔になるだけ。だが、それでもどうにかできないかと考える、考えてしまうのが木島義仁という人間だった。

 

 そして、奇しくも彼の首元には授けられた恩恵。所持者の再生能力を高める。義仁の火傷もほんの僅かな時間で完治させて見せたその首飾り。十六夜にどれほどの効果が出るのかなんてわからない。

 

「ないよりは、マシ、だよね」

 

 未だ震える体に活を入れ、立ち上がる。震える足を殴って鎮め、走り出す。目指すは十六夜が吹き飛んだ方向。その胸に灯る仄かな明かりを届けるべく彼は愚直に、愚かな選択を取り始めたのだ。




お読みいただきありがとうございます。

おっさんがクズになってる気が……。
そ、そんなことないよね!!
大丈夫だよね!!

では、また次回~


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第119話 土産話

投稿です。

いやぁ、ここまで来るの長かった。
マックスウェル? 天使? ウィラ? んなもんしらねえよ(開き直り)

では、どうぞ。


 一歩、また一歩足を進める。しかし、走ることは出来ない。上から押さえ付けられているいるかのような重圧が義仁の歩みを遅くしていた。

 

 行くのを辞めろと、その歩みを止めろ、近づくな、何を考えているんだ、行ったところで何かできるわけでもないだろうに。

 

 だが、重圧に耐えながらも義仁の足は止まらない。役に立たないと分かっているというのにその歩みを止めようとはしない。

 きっと自分にも何かできるはずだ。一種の脅迫概念が義仁の足を前に進める。

 

 瓦礫を乗り越え、炎の壁を跳び越える。一人の少年を助けるために。

 それは奇しくもついさっきまでの自分と同じ。一人の少年を救えた時と同じ。だからきっと、今回も。

 

 さっきまで感じていた重圧はどこへやら。徐々に軽くなりつつある足取りはやがて早歩き、駆け足、全力疾走。

 重圧なんてものは最初からなかったかのように、ただ一直線にひた走る。

 

 目的地の家屋の二階。その外にふわりと宙に佇む三つの頭を持つ龍。それに睨みを効かせ血反吐を吐く捨てる十六夜の姿。

 どちらも、走って向かってきている義仁の姿には気が付いていなかった。

 

 真っ白な柱が三頭龍を襲う。その柱を炎の塊が相殺した。

 義仁からすればそれだけのこと。しかし、少なくともあそこに自分が居てはいけない事だけは理解した。しかし、分かりはしなかった。

 

 幸いにも原形を留めている扉をこじ開け、二階への階段を駆け上がる。

 二階からは複数の怒号が聞こえかなり切羽詰まった状況なのが肌を通して伝わってきた。

 

 二階の大部分は吹き飛ばされ、十六夜と三頭龍が対面していた。十六夜の体の至る所から血が噴き出し、立っているのもやっとに見える。対し、十六夜の一撃をものともしなかった三頭龍は、こちらもまた体中から血を噴き出していた。

 

 しかし、劣勢なのが十六夜なのは変わりない。十六夜の後ろには黒ウサギと大きな山羊に跨る飛鳥の姿。退くに引けない状況。

 

 ああ、きっと彼は死ぬつもりなのだろう。後ろの二人を庇い、今ここで死にながらこの化け物を止めるつもりなのだろう。彼にはその力がある。きっと、後ろの二人もそのことを知っている。

 三頭龍の腕が十六夜の体へと延び、泣き叫ぶ黒ウサギは飛鳥に引きずられ山羊へと乗せられる。

 

 

 若い命を、子供を守らなくて何が大人か。

 あの時の自分を繰り返すのか?

 

 否、この足は何のためにある

 否、この腕は何のためにある

 

「我が子を、守るためにある」

 

 

 十六夜の体を引っ掴み後ろに投げ飛ばす。あまりの出来事に何が起こったのか理解できていない様子の十六夜。驚愕の表情を浮かべながら飛鳥にキャッチされた十六夜。その襟首には赤い宝石の首飾りが引っ掛かっていた。

 

 飛鳥は義仁に小さく頷きチリンと鐘を鳴らした。すると、山羊が一瞬にして消え去った。

 

 きっと、私の目では捉えきれないほどに早いだけなんだろうなと小さく笑い。

 自分の腹部を貫いた三頭龍の腕を掴む。振りほどこうと思えば簡単に振りほどけるであろうそれを、三頭龍は振り払おうとはしなかった。

 

「最期に、看取ってくれる相手がトカゲなんて……、ゴホォ……これは、面白い土産話にでき、そう……だ──―

 




お読みいただきありがとうございます。

うんまあ、わりと悩んでるんだよね。
このままさっくり逝っていただくか、なんやんか生き返るか(五体満足とは言っていない)

では、また次回~


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第120話 憎悪

投稿です。

忘年会でした。
前日に急ピッチで書いてて助かりました(なおクオリティ)

では、どうぞ。


 痛みというものは特に感じなかった。ただ、自分というモノ、言葉では表現しづらいナニカが外へと零れ落ちていくような感覚。

 口の奥から湧き出してくるそれが途切れ途切れになっている呼吸を塞ぐ。視界は暗転を繰り返し、やがて腹を貫通している腕からずり落ちて、地面にぼちゃりと落ちた。

 

 精一杯の気力で浮かんでいるその足に手を伸ばすが、届く前に地面へと吸い付けられた。

 

 やってやった。そう言っても大丈夫なのか。不安は募るが、少なくとも昔の自分を、あの時の自分を超えられた。自己満足だと言われても仕方はない。だが、それでいいのだ。

 

 私はずっと前に終わっていたのだから。

 最期くらい、一歩を踏み出してみたって、きっとみんな許してくれるさ。

 

 既に感覚という感覚がすべて死んだ状態。辛うじて聞こえる耳の奥に何かが迫ってくるかのような音が聞こえた。

 

 ありがとう、さようなら。

 

 真っ暗になった視界が不思議と熱く、眩い光のようなものが感じられた。

 

 君たちに出会えて、本当に……良かっ──

 

 

 

 

「離せ!! まだおっさんが!!」

「そうです!! まだ義仁さんがあそこに、早く助けに戻らないと!!」

 

 飛鳥の新たなギフト、アルマティアの城塞。山羊の姿をとるその恩恵の上で二人は暴れていた。理由は明白。義仁の救出させろというもの。

 

「二人して私の腕から抜け出せないくせに馬鹿な事言わないでくれるかしら」

 

 必死にもがく二人。恩恵のペナルティを受けている黒ウサギは兎も角、十六夜までもが飛鳥の腕から抜け出すことができないでいた。それだけ弱っている。少なくともあの大トカゲには到底届きはしない。

 

「追っても来てる。最低十六夜くんだけでも送り届けるから、さっさとその傷を治して万全の状態にしてきなさい。仇、とるんでしょう?」

 

 二人の抵抗は止んだ。自覚しているのだろう二人とも。いま、義仁を助けに行ったところで犬死するのが関の山だと。

 十六夜は潰れた拳を握りしめた。噛みしめた奥歯は砕け、歯茎から血が滲み出る。

 

 守ってやると言った、だが、現実として守られたのは己自身だった。これが、義仁が感じていた無力感。ああ、確かにこれはくるものがある。屈辱、羞恥、そういったもの全てがぐちゃぐちゃに混ざり合って絡み合う。自分自身、逆廻十六夜もかの男に依存していた一人だった事実がひしひしと体を汚染していく。

 

 屈辱、羞恥、それらが混沌としたものはやがて怒りとなり、憎悪となっていく。

 

 やがて、十六夜達は避難所の前まで来ていた。ちらほらと異形のモノと戦っているが避難所自体は無事だった。飛鳥が避難所内に入り話を聞いている間、十六夜はその異形どもを蹴散らしていた。

 

「援軍も来たみたい。リリちゃんたちも〝ノーネーム〟の医療器具を持って医療班の手伝いをしているらしいわ。私は残党をどうにかしてくる。黒ウサギ、春日部さんをよろしく。春日部さんはリリたちの手伝いをしているらしいから。私はトカゲの残党をどうにかしてくる。

 十六夜くん。貴方が立ち直るだけの時間は稼いできてあげる」

 

 そう言って、飛鳥は山羊に飛び乗り鈴を鳴らした。

 恐らく、今の彼に私の声は届いていないだろう。そう、確信しながら。




お読みいただきありがとうございます。

次回最終回になるかなー?
多分なる気がするー
うん、たぶんなるとおもうようん

では、また次回〜


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最終話 ただいま

投稿です。

最終話です。
先に言っておきおきますと、スッキリする終わりではありません。
俺たちの冒険はこれからだ! に似た終わりになりますがあしからず。
前作読んでる人はなんとなく察しがついてたとは思いますが。
もう少し早めに言っておくべだったなと反省しておりますのでどうか平に御容赦を。

では、最終話。どうぞ。


 義仁はあの後蛟劉に助けられ、緊急医療室へと運び込まれリリが〝ノーネーム〟本拠から持ってきた医療器具の助けもあって目を覚ますことになる。

 傷は左わき腹の喪失。十六夜を〝アンダーウッド〟で誇んだ方法と同じ方法で連れ帰ってきた。

 

 多くの管が義仁の体に取り付けられ、これはもう無理だと半ば諦めながら止血、治療を続ける医師。手を握り続けるリリ、それを見守る手伝いに来た年長組に十六夜。

 零れ落ちようとする臓物は無理くり押し込められ、再生の恩恵を用い正常に戻そうとする。今この場、緊急と銘打ってあるこの部屋の中は義仁と似た重症の者も多い。そして、今まさに隣で息絶えるのもまた。

 

 十六夜が義仁に押し付けられた不死鳥の恩恵を握らせる。

 不死鳥の名を冠する恩恵。ゆっくりとだが着実に義仁の傷を癒し始めた。

 

 そして、長い長い格闘の末、義仁は目を覚ました。

 

 腹部の傷は跡こそ目立つものの完全に防がれ、呼吸は正常なもの。まさしく奇跡。脈拍も安定しており、顔色も悪くない。少しばかしやつれたようには見えるが。

 

 義仁は目を覚まし、少し話をした。

 

 

  勝手なことをしてごめんね。

  昔、遺書を書いたことがあったんだ。

 

 

 まだ、目が見えていないのだろうか。義仁は天井を見上げたまま話を続ける。

 

 

  あれは、私の恥というか、なんというか。

  読まないで捨てといてほしい。

 

 

 リリは義仁の名前を呼んだ。鼻声で震えて、小さいけれど、しっかりとその名を呼んだ。

 反応は、あった。

 

 

  リリちゃん。ごめんね。こんな格好で。

  久しぶりに会うんだから、もう少し元気な姿でいたかったなぁ。

 

 

 ははは。小さく笑う。リリはポケットから義仁に渡すつもりだったお守りを取り出した。義仁がこの世界に投げ出された際、なくしたと言っていた鞄。家族からのプレゼントで、とても大切なものだと言っていた鞄。本人は諦めていたその鞄をリリは探しだし、義仁に返すつもりでいた。

 しかし、鞄はかなり長い間水の中に放置されていたため色は落ち、持ち上げればボロボロに崩れ落ちた。形を保っていたのが不思議なほどだった。

 

 崩れ落ちた残骸。元の形に戻すことは出来ないとはいえどうにかできないものかと悩んだ結果が、現在リリの手にしているお守りである。小さなかけらを繋ぎ合わせたお守りをゆっくりと義仁の手に握らせる。

 

 

  これは……ああ、そうか。わざわざありがとう。

 

 

 震えながら伸ばされた手の平がリリの頭をぐしゃぐしゃと撫でる、ことはなく。すぐ隣を掠めた。リリは義仁の手を取り自ら頬を寄せ、頭を撫でさせた。

 ぐしゃぐしゃと、男性特有の雑な撫で方。わっしゃわっしゃとリリの頭を一通り撫でると、ゆっくりとその手からは力が抜けていく。

 

 

  疲れちゃった。ごめんね。

  すこし、ねてもいいかな。

 

 

 その時、気付いた。いや、見て見ぬふりをしていたものに目を向けなければならなくなった。肉体的損傷が癒えても、言葉を交わせていたとしても、

 

 彼の命はすでに此方には、ない。

 

 いっぱい頑張りましたもんね。お疲れさまでした。ゆっくりお休みになってください。

 おやすみなさい。義仁さん……。

 

 

  うん、おやすみ……──

 

 

 脈拍はなく、やがて冷たくなっていくだろうその体を抱きしめる。

 私は幸せ者だ。言葉を交わせた事はまさしく奇跡。本来であれば言葉を交わす事もなく息を引き取るのを見守って終わりだった。少なくとも周りで最期に会話できた者はいなかった。

 

 私は幸せ者だ。

 幸せ者、なんだ……。

 

 

 

 

 十六夜はその後蛟劉たちと合流し、〝アジ・ダカーハ〟と総力戦を開始。怒りに身を任せ、あまたの恩恵を駆使し勝利を収めた。

 三頭龍〝アジ・ダカーハ〟との総力戦の末に出た死傷者数は確認できているだけでも優に二百を超えていた。

 

 義仁の葬儀は〝ノーネーム〟の主要人物と年長組と義仁に縁のある者たちだけで執り行われた。義仁の約束通り部屋に隠されていた遺書と、お守りを共に義仁は永遠の眠りに付いた。

 

 

 ──

 

 

『あれ? ここは……』

 

 目の前には鉄製の扉。何故だか無性に懐かしく感じるその扉が何なのか、心当たりはすぐについた。

 

『そっか……。悪いことしちゃったな』

 

 少しの罪悪感と共に、にじみ出る喜びを隠しきれていない。

 鉄製の扉のドアノブに、プレゼントで貰った鞄から鍵を取り出し手慣れた様子で差し込む。ガチャリと何気ない音に胸が躍った。

 

 一つ深呼吸をして、ドアノブを回す。特有の重みがゆっくりと開き、その先には待ち望んでいた光景が広がっていた。

 で、あれば言うべきことは一つ。

 

 

 

 ただいま──

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

あくまでおっさんの物語なので、ここで終わりとなります。
原作通りか、はたまたまったく違う運命を辿るのか……それは分かりませんが、きっと、この世界線の原作キャラたちは悪い方向には進まないことでしょう。

多く感想及び、お気に入り登録等誠にありがとうございました。
次回は、息抜きで進めていた東方を本格的に進めていくつもりでいますので、宜しければ起こしいただければ。

さて、ここから先は作者の愚痴になりますので回れ右してお帰りください。胸糞になる方もいられると思いますので。







今回、問題児を原作として書かせていただいているのですが、感想ですね。いつ通りの物に加え、アドバイスも沢山頂きました。とても嬉しいことです。
ペストの事でかなり誤解していた部分もあったので本当に助かりました。
ただ、ひとつ言わせてくれ。

wikiの内容をコピーは辞めてくれ。
あれ見た瞬間(なら原作読めや)ってなってやる気が一気に失せたんですよね。
wikiをコピーしてくるなら、貴方の考えも一緒に乗せるとかさ……それ感想じゃなくて所謂原作厨の粗探しみたいなんもんだからなこっちからすれば。

読んでいて感じられた方も多いとは思いますが、まーじで途中から蛇足で書いてるんですよね。やる気が失せて。趣味で書いてはいますが、投稿している以上は感想を頂けるのは嬉しいですし、この方も良かれと思ったやったんだと思います。が、まあ、こう感じる人間も居るというのを理解していただければ。

これにて愚痴は終わりになります。
最後にこんなことを書いてしまった後にあれですが、多くの感想ありがとうございました。このwikiも含め良い思い出ではあるのかな(;・∀・)

それでは、また何処かでお会いしましょう。
バイバイ(ヾ(´・ω・`)


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